もしもISが上達するのに代償が必要だったら (orotida )
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1話
俺の原点、戦う理由を思い出す。
「約束する、いつか誰よりも強くなって箒を守り抜く」
「待っている。一夏」
さて、皆さんがよくご存じのIS、インフィニット・ストラトスには大きな欠点があることはご存じだろうか。
女性しか乗れない。いや違う
500機も無い、ノンノン。
上達していくと何か一つ感情かISに乗る以外の技能が奪われるということだ。そしてそれの進行を止めるにはISから一生降りるしかない。治療は不可能。そしてISに初めて乗るときにそれは決定される。
それは篠ノ之束博士でも改善が不可能な欠陥だった。
それでも白騎士事変、突発的な流星群の地球への降下を始めてのISである白騎士が撃すべて粉みじんに破壊したというものを契機に対人使用が不可能な形で広まっている。
世界が女尊男卑に染まってないのは幸いだ。支援が欠かせないからだ。
そう、つまりこの俺織斑一夏の目の前にある作り立てのIS、白式に乗るという事は家事の技能を差し出すという事だ。
初恋の相手である篠ノ之箒に美味しいご飯を食べてもらいたいと磨いてきたこの技能を捨てるという事だ。
俺の自慢の姉さんである千冬姉も同じ代償だった。今では箸を持つことさえおぼつかない。スプーンはやっと持てる程度だ。
「本当にいいの、今ならまだ引き返せるよ。ISが起動しないような外付けデバイス作れるよ」
あくまで束さんが千冬姉と飲んだ時にテストした束さんが検査して分かったのは幸いだ。モルモットというか解剖エンドは避けられそうだ。IS学園に入学することで箒に会えるのだから寧ろ感謝している。
ここは束さんのラボである。忙しい中俺の専用機を作ってくれただけで感謝しかない。まだ三月の始め習熟訓練に入学前の時間全てを費やすつもりだ。
「大丈夫です束さん。箒は俺が守ります。そう誓いました。それにそうしても遅かれ早かればれます。それに箒を守るために少しでも社会的地位は欲しいですし」
「分かった。もう止めないよ。ISの開発者としてもお姉ちゃんとしても精一杯サポートするね」
「あと束さん、お願いが」
「なんだい」
「かくかくしかじか」
「織斑君、自己紹介をお願いします」
「はい。織斑一夏17歳。代償は家事能力。趣味は受けませんがオヤジギャグと自己鍛錬、史上初めてISに乗れる男として恥ずかしくない振る舞いをしたいです。以上です」
クラスから控えめな黄色い声が上がる。掴みはまあOKか。まあ箒以外の女に興味は無いけどな。
「皆静かに、授業中だ」
ピシッとスーツを着こなした千冬姉が注意するとみんな静かになる。そして全員終わった後に訓示を垂れた。
「ISに乗るという事は自分の身を犠牲にするという事だ。その覚悟をこの年で持った諸君らの担任となれた事を誇りに思う。もちろん途中で投げ出しても構わない。それでも出来たら自分なりに答えを見つけて続けてくれると嬉しい。
そしてクラス委員を決める。自薦他薦は問わない」
俺を推す声が圧倒的な中で金髪の女性がおずおずと手を挙げた。
「あの皆さん、織斑さんはISにさっき乗った初心者ですのでまだ代表は無理があるのではないでしょうか。と言うわけで自薦します」
確かセシリア・オルコットさんだっけ。
「でもセシリアさんの代償は男性恐怖症じゃなかったっけ~、それで大分苦労してるんじゃないの~」
のほほんとした萌袖の女の子、のほほんさんがそう言う。
「ふむ、織斑、意見は無いか」
「篠ノ之さんを推薦します。転校を繰り返しても歪まなかった彼女の人格とそれにより培われた人付き合いと真面目さ、そして剣の腕を見れば彼女も十分候補かと。それでも他薦された以上は皆の期待に応えたく思います。そしてなにより第四世代の愛機を持ってますし」
みんなからどよめきが起こる。世界が実用化したのは第二世代機だからだ。
「そうだな、篠ノ之も問題ないか」
「ええ、問題ありません」
そうだまだ納得しきれてないが箒の髪の毛は真っ白だ。そして化粧も出来てないみたいだ。
「よし、軽く戦うか。どうせ山田先生と私とエキシビションを行うつもりだったからな。アリーナは空いてる」
「では戦いますか」
慣熟訓練は十分こなせた。機体制御には問題ない。
「それではISファイト、レディ、ゴー」
のほほんさんそれはまずい。色々拙い。
昼休みを告げるチャイムが鳴る。同時に思いきり伸びをする。
なんて思ってたことが俺にもありました。セシリアさんには射撃で滅多打ちにされて箒には切り刻まれた。正直生き残り用が無かった。やっぱりこの間動かしたばかりでは無理だったんだ。
そして白式は紅椿とセット運用が前提の燃費極悪仕様。紅椿はエネルギーが切れないチート。よってセシリアさんが代表になった。
箒が話しかけてくる。変わらないその笑顔に癒される。
「それでも一夏、かなり練習したんだな。とてもよかったぞ」
「止してくれ箒、全然だめさ。もっと強くならなきゃ箒はおろか自分も守れない」
「ふふ。一夏は頑張り屋さんだなあ」
うん昔と変わってお淑やかだ。これはこれでどきどきする。元気な箒もとてもいいが。だが少し聞きづらい事も聞かないといけない。
「箒、聞きそびれたがその髪は」
「代償だ。化粧関連らしい」
「らしいって、分からないのか」
「ああ、姉さんでもな」
「成るほど、大変なんだな」
「そうでもないさ。一夏が好きだった料理を捨てたのに比べたら楽な物さ。私は男女だからな」
「いや、箒は素敵な女性だよ。それは幾ら箒相手でも譲らない。あと食べてほしいものがあるんだ」
そう言ってタッパーを取り出した。
「束さんに頼んでISに乗る前の俺の料理を保存して貰ったんだ。箒に食べてほしくて磨いた料理なんだ」
箒は目を見開いた後満面の笑みを浮かべた。けどそれは無理して浮かべたものであることが俺にはすぐわかった。泣きたいのだ。そんな顔させたくて作ったわけでないのに。
「箒、冷める前に食べてくれ」
箒が勿体無いとばかりにぱくりと食べる。
「ああ、美味しい。美味しいぞ一夏」
この笑顔を守り抜くと誓う。今でも簡単な料理なら出来るはずだ。
さあ実はもう一つISには論理的に致命的な欠陥がある。制御系にとある少女の脳みそを内蔵しているのだ。その少女の名前は篠ノ之箒、開発者の妹である。運動神経はいずれ天災を凌駕しうるものを抱えているのである。
それを二人が気付くのはいつの日か
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