バーンの娘(仮タイトル) (筆先文十郎)
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復活

 大魔王バーンが勇者ダイに破れた一年後。世界に平和が訪れ、人々は失われたモノを取り戻そうと各々が協力し合って動き出していた。

 だが動き出していたのは人間や人間に友好的な魔物だけではなかった。

 

 

 ??? 

 壁に備え付けられた小さなロウソクが、そこが洞窟だと知らしめる。

 暑くも寒くもない洞窟には赤黒く光る4つの六芒星が描かれていた。その上には4つの棺おけ。

「……………………」

 4つの棺おけの前で光すらも飲み込んでしまいそうな真っ黒なローブに身を包んだ人物がこの世のものとは思えない言葉を唱える。

「……………………ッ!」

 呪文を唱えていた者がニヤリと笑う。

「目覚める、目覚めるぞ!」

 凛とした女性の声で、フードの人物は天井を見上げる。

 彼女が行っていたこと。それは死んだ者を復活させる『反魂(はんこん)の法』と呼ばれる邪法だった。

 

 ガタガタ、ガタガタ! 

 

 4つの棺おけの中で一番小さな棺おけが動き出す。

 棺おけの蓋を開けて起き上がった者を見て、フードの女は視線を移す。

「やはりお前が一番最初に目覚めたか。頭脳と魔力で妖魔士団の団長を務めた老将、妖魔司教ザボエラ」

 それに続くように二番目に大きな棺おけの蓋が開く。

「お次は『魔王軍の切り込み隊長」』も呼ばれ、炎のような暴力性と氷のような冷徹さを兼ね備えた氷炎魔団、氷炎将軍フレイザードか」

 

 ガタンッ! 

 

 4つの棺おけの中で一番大きな棺おけの蓋が大きな音を立てたかと思うと、その棺おけに入っていた巨体がゆっくりと起き上がる。

「大魔宮の最大最強の守護神、マキシマム」

 

 カタッ

 

 残された最後の棺おけが静かに開けられる。

「妖魔司教ザボエラの息子にして妖魔士団の幹部、妖魔学士ザムザ」

 棺おけから出た四人はフードの女性の前に立つと膝を折って頭を垂れる。

「この度は我々を蘇らせてくださり真にありがとうございます」

 フレイザードと共に中央に並ぶザボエラが感謝の意を述べる。

「うむ。我が呼びかけに応えて復活してくれたことは本当に感謝する」

 頭を下げたままの四人にフードの女は自分が上かのように偉そうに言う。

「ところで。一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「何だ?」

 顔を上げよと言われたザボエラは顔が半分隠れるほど深くフードを被った女に尋ねる。

「お名前を伺ってもよろしいでしょうか、大魔王バーン様に代わる新たな主の名を」

「……」

 女はすぐには答えなかった。それは言われて困ったからではない。

 

 これから言う言葉を一字一句聞き逃すな

 

 そう強調するために。

「バンパブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ子だ」

 

「「「…………」」」

 

 あまりの長さにフレイザードとマキシマム、ザムザの三人は固まる。ただ一人、

(かし)まりました、バンパブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ子様」

 一回で名前を覚えた老将、ザボエラは新たな主に対して再び頭を下げた。

 ポカーンとする三人に苦笑しながらフードの女は言った。

「まあ私の名前は長いから一々フルネームで言っていたらキリがない。バン子と呼ぶがいい」

 

 

 

 

 




今年のネタは今年のうちに出しておこう。という見切り発車作品。
はっきり言って真面目な作品だと思って読むと痛い目見ます。

ダイの大冒険のアニメ、楽しみです!

登場人物紹介
バン子
死亡した魔王軍重鎮を復活させた自称バーンの娘。大魔王バーンに及ばないものの超魔生物化したハドラーと同等、もしくはそれ以上の魔力と強さを持つ。
本名が長い。本編とは関係ないがゲロニカなど数々の名作をこの世に残したパブロ・ピカソの本名も『パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ』と滅茶苦茶長い。
魔王軍を再興した理由、そして目的は不明。
(関係ない話ですが。筆先文十郎はこの世に生まれて30年以上たちますが藤崎竜先生の『封神演義』に登場する妲己がやりたかったことが未だにわからない)

反魂(はんこん)の法
バン子がザボエラたちを復活させた邪法。復活させられた者はある点を除いて生前と同じ状態になる。
復活の条件として
①バン子よりも魔力に劣る者(大魔王バーンははるかに上なので不可能)
②魂が存在すること(魂が消滅したミストバーン、そもそも最初からないキルバーンは復活できない)
③復活の呼びかけに応じること(バランは拒否)

また魔力や強さがバン子に近ければ近いほどとあるデメリットが強くなる。


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再編成

 ??? 

 自称、大魔王バーンのバン子は自らの魔力で鬼岩城よりも一回り小さい新鬼岩城を作り上げた。

 その後バン子は新鬼岩城で復活したサボエラ、フレイザード、マクシマム、ザムザと共に円卓を囲っていた。

「本来ならばここで魔王軍の再興を祝って宴の一つでもするところであろうが。これからの新魔王軍にはやらなくてはならないことが山積みだからな。その代わりにはならないが、これで勘弁してほしい」

 そう言うとバン子はパチンッと指を鳴らす。次の瞬間、彼女が着ていたローブがフッと消えた。

 

 ……ッ!! 

 

 その姿に四人はハッと息をのむ。

 まず見る者の印象に残るのは切れ長の瞳。その目は研ぎ澄まされたナイフのようで尖った顎の細面がちょうど彫像めいた怜悧な美貌を際立たせいた。

 腰まで届く銀色の長い髪は(きらめ)いており、滑らかな色白の肌と引き立てあっていた。人間の平均よりも背が高く、漆黒の鎧からは手足がすらっと美しく伸びていた。胸元は砲弾を抱えているのではないかと疑いたくなるような成熟ぶり。腰も細く長い手足のしなやかさは野暮ったい鎧越しでも伺えた。

 胸の部分は、こんもりと丸みを帯びた膨らみを敢えて見せつけるかのようなひし形状に開いたデザインで、彼女の若さとセクシーさを象徴していた。太ももの半分くらいを隠し。脚線美にフィットした黒の革のブーツ姿は、まさに王の風格すら感じさせる高貴な王女の姿そのものだ。

 

「私が魔軍司令として指揮する。ザボエラ、フレイザード。お前たちは生前と同じ妖魔師団兼司令補佐と氷炎軍団に任命する」

「ハハッ!」

「了解ですぜ!」

 頭を下げる老人と半炎半氷の男を頼もしそうに見た後、バン子は残った二人に視線を合わせる。

「マキシマム、お前は百獣軍団を。ザムザは死霊軍団を指揮してもらいたい。なれないとは思うが、頑張ってほしい」

「ハッ!」

「了解しました」

 初めて担う重責にも怖気づく様子もなく受け入れる部下にバン子は満足そうに頷く。

「これより我らは人間どもに宣戦布告をするものとする。狙いは、ここだ」

 そう言ってバン子は指をパチンッと鳴らす。

 すると???に一番近い大陸の先端部分に当たる町が赤く点滅した。

「この戦いでは我らの力を人間どもに知らしめるために無血で、かつ電撃的に陥落させるものとする。こちらに大々的な被害が出なければいかなる被害は問わん」

「バン子様。よろしいでしょうか」

「なんだ、ザボエラ?」

「その侵攻戦の全権を、このザボエラに任せてもらえないでしょうか?」

「……。いいだろう」

 少し考えた後にバン子は了承する。

「あとバン子様。バン子様にも出陣をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「私に?」

 顎に手を置き、再び考えるバン子。

「わかった、私も出陣しよう」

(私の姿を見せて支配者としての恐怖を植え付けるのも一興か)

 そう自分に言い聞かせるとバン子は新生魔王軍に出撃するように号令を発した。

 

 数日後。

 ザボエラの策は見事に成功し魔王軍は一時間にも満たない時間で、無血で町を陥落。

 その後新生魔王軍が始めて占拠した町はバン子によって焦土と化すのであった。

 



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