音楽少年は文学少女に恋をする (おこたのみりん)
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#1 最初で最後の登校

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆さん、いきなりですがボクから質問です。人は平等だと思いますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月、ボクは三年の間お世話になる「高度育成高等学校」の入学式に出席するするために高校生活において最初で最後の自宅からの登校をする。何故最初で最後なのかというと、この学校は外部との連絡を一切禁じているからだ。そこまでして隠したいものがあるのか、それとも成長を促したいのか色々疑問に思うこともあるが、学校の方針なら逆らう気はない。校則は守らないとね。

 

「じゃあそろそろボク出発するよ」

「待て、俺も一緒に行く」

 

ボクの兄、遊真がボクを引き留める。彼も昔、この高校に通っていた。成績優秀だった彼は学校の推薦で第一志望の大学に進学し大学生として過ごしている。ボクがこの学校に興味を持ったのは兄さんが勧めてくれたのが大きい。兄さん曰く、この学校はボクにピッタリとのこと。何を根拠に断言するのか分からなかったので問い詰めようとしたら、「外部にそれ以上は俺から話すことは出来ないことになっている。すまない」と兄は口を割ることはなかった。あ、けど「卒業生は希望する進路をほぼ100%認められる」とは言ってた気がする。でも学校の説明会で聞いたことそのままだったのであまり参考にならなかった。謎が多い学校だなぁ……

 

「いってきます」

「いってらっしゃい。お兄ちゃん頑張ってね。優兄も気を付けて」

 

妹の音羽にお別れを言って兄さんとバス停まで歩く。兄が通っている大学はボクがこれから通う高度育成高等学校経由のバスで行けるらしい。ただ今日だけは別の目的もあるらしいけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

数分歩くとバス停に着いた。程なくして高度育成高等学校経由のバスが来たのでそれに乗る。幸いバスの中にはあまり人はいないようだ。近くの席に腰がける。ボクに続いて兄さんもとなりに座る。

 

「いよいよだな。新しい制服の感想とかでも聞こうか」

「うーん、なんか制服を着てるというより、着せられてる感じ?」

「それはいけないな。その制服を着ている以上、常に強者であることを心掛けないと今後やっていけないぞ。特にお前は決定的な弱点があるんだからな」

「え、兄さん……それ、どういうこと?」

「いや、何でもない。少し言い過ぎたようだ。くれぐれもあの学校で今の話をするんじゃないぞ。下手したら退学だ」

「ええ! なら話さないでよ……」

「それでもお前にはためになる話だ。覚えておいて損はない。ただ口外はするな」

「はぁ……分かったよ」

 

それからしばらく会話することなくバスに揺られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからどれくらい時間が過ぎただろうか。春の日差しが暖かい。眠気がボクを襲おうとした時、ふと若い女の子の会話が聞こえてきた。

 

「あの男子可愛くない?」

「ホントだ。本人には悪いけど女子の制服着てても違和感ない気がする」

「小顔だし、肌も綺麗だし、髪も見た感じサラサラでツヤツヤだし…羨ましい……」

「あの少しだけ藤色を帯びた銀髪はズルいよねぇ……しかもあの大きくて綺麗な瞳!」

「あの赤紫っぽい色、苺色っていうんだっけ? お人形みたい……」

「私もあのくらい可愛かったらなぁ…」

「それ、すごく分かる」

 

と、ボクと同年代くらいの女性の声が聞こえてきた。勿論ボクは正真正銘男だが、体も大きくないし、その上髪もショートボブくらいはある。兄さんも「女の子みたいな弟」と言っているので周りから女性と勘違いされても仕方ないのかもしれない。ただ、本人に悪いと思うなら周りに聞こえる声で話さないでほしいとは思う。可愛いと言われることに抵抗はない…というか、慣れてしまったが、女の子と思われるのは自分が頼りない人間なのかと思ってしまうので好きではない。あと女装とかしたら絶対黒歴史になる。き、着ないからな! 絶対スカート履かないからな!

なんて恐ろしいことを想像しててふと気付く。乗客が増えたのだろう、若干車内の空気が淀んでいる。

 

「楓、大丈夫か?」

「大丈夫だよ、兄さん。心配ないよ」

 

少し空気は淀んでいるけどこのくらいならそんなに大したことはない。少し顔に出てたのだろうか? 兄さんが心配してきたので笑顔で返す。そしてこれ以上心配をかけまいと前向きになれるようなことを考えようと試みる。今後の楽しくなるであろう高校生活はどのようなものになるだろうか妄想でもしてようかな――と思った矢先、その思いは消し飛ばされてしまう。

 

「席を譲ってあげようと思わないの?」

 

若い、しかしボクよりも年上くらいの女性だろうか、誰かに対して注意していた。

 

「そこの君、お婆さんが困っているのが見えないの?」

 

どうやらお年寄りのお婆さんが立っているようだ。若い女性は、席をお婆さんに譲ってやって欲しいと思っているようだ。静かな車内で若い女性の声が響く。

 

「実にクレイジーな質問だね、レディー」

 

ボクと歳が近そうな少年の声がする。少年は怒りや無視、素直に従うのどれでもない言動をとった。

 

「何故この私が、老婆に席を譲らなければならないんだい?どこにも理由はないが」

「君が座っている席は優先席よ。お年寄りに譲るのは当然でしょう?」

 

どうやら少年はボクと同じ優先席に座っているようだ。

 

「理解できないねぇ。優先席は優先席であって、法的な義務は存在しない。この場を動くかどうか、それは今現在この席を有している私が判断することなのだよ。若者だから譲る?ハハハ、実にナンセンスな考え方だ」

 

優先席を譲らない理由を聞いてボクは驚く。こんな考え方をする人もいるんだ…

 

「私は健全な若者だ。確かに、立つことにさほどの不自由は感じない。しかし、座っている時よりも体力を消耗することは明らかだ。意味もなく無益なことをするつもりにはなれないねぇ。それとも、チップを弾んでくれるとでもいうのかな?」

「それが目上の人に対する態度⁉」

「目上?君や老婆が私よりも長い人生を送っているのは一目瞭然だ。疑問の余地もない。だが、目上とは立場が上の人間を指して言うのだよ。それに君にも問題がある。歳の差があるにしても、生意気極まりない実にふてぶてしい態度ではないか」

「なっ……!あなたは高校生でしょう⁉ 大人の言うことを素直に聞きなさい!」

「も、もういいですから……」

 

若い女性はムキになっていたが、老婆はこれ以上騒ぎを大きくしたくないのか、若い女性を高校生に侮辱され彼女は怒り心頭なのかな。

 

「どうやら君よりも老婆の方が物分かりがいいようだ。いやはや、まだまだ日本社会もまだ捨てたものじゃないね。残りの余生を存分に謳歌したまえ」

 

どうやら言い争いは少年が勝ったらしい。若い女性は何も言わない。年下に半ば強引に言いくるめられた上、偉そうな態度は癪に障るだろう。それでも言い返せなかった。少年の言い分にも納得せざるを得なかったから。

道徳的な問題を除いてしまえば、席を譲る義務は存在しない。

 

「すみません……」

 

若い女性は老婆へと小さな謝罪の言葉を口にする。と、その時、

 

「あの……私も、お姉さんの言う通りだと思うな」

 

思いがけない救いの手が差し伸べられた。

 

「今度はプリティーガールか。どうやら今日の私は思いのほか女性運があるらしい」

「お婆さん、さっきからずっと辛そうにしているみたいなの。席を譲ってあげてもらえないかな? その、余計なお世話かもしれないけれど、社会貢献にもなると思うの」

「社会貢献度か。なるほど、中々面白い意見だ。確かにお年寄りに席を譲ることは、社会貢献の一環かも知れない」

「なら――」

「しかし残念ながら私は社会貢献に興味がないんだ。私はただ自分が満足できていればそれでいいと思っている。それともう一つ。このように混雑した車内で、優先席に座っている私をやり玉にあげているが、他にも我関せずと居座り黙り込んでいる者たちは放っておいていいのかい?お年寄りを大切に思う心があるのなら、そこには優先席、優先席でないなど、些細な問題でしかないと思うがね」

 

少女の思いは彼には届かなかった。

 

「皆さん。少しだけで私の話を聞いてください。どなたかお婆さんに席を譲ってあげて貰えないでしょうか? 誰でもいいんです、お願いします」

 

それでも少女は諦めなかった。相当のお人好しなのか、それとも外側だけ完璧な人なのだろうか。ボクは軽く疑った。

少女が呼び掛けてからだいぶ時間が経ったが、それでも誰もアクションを取らない。すると少女はまた新たな行動をとりだした。

 

「ねえ、そこの君。もしよかったら席を譲ってくれないかな?」

 

近くに座っていた人に声をかけ始めた。そこまでするか?と不思議に思ってしまう。

いや、待てよ?近くに座っているのはボクも例外ではないわけで…

 

「ん? もしかしてボクに言ってる?」

「うん! お願いできないかな?」

 

明らかにこちらに向かって話しかけている。困ったな…

ボクは譲る気はないので断りをいれる。

 

「ごめんなさい。ボクは譲れないかな」

「…君もさっきの子と同じ理由?」

「いや、ボクは違うよ?正直譲れるなら譲ってあげたい。でもごめんね」

でもボクは譲る気はない。何故なら――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボクは盲目なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人は平等だと思いますか?」と聞かれたら、ボクはNoと答える。もし平等だとしたら、なぜボクは目が見えていないのだろうか? 10年以上昔に高熱を出し、それ以来ボクには視覚というものがなくなった。スポーツや読書など、好きなことの大半が出来なくなった。みんなが当たり前に出来ることがボクには出来ない、そんな理由で小さい頃にいじめを受けたりもした。そしていつも兄さんと音羽が心配する毎日だった。おかげでボクは家族以外の人間を信頼出来なくなった。ボクはこんな現実を平等だと認めたくない。

ただ、そんな不平等な世界でも自分の才能を見つけて伸ばすことが出来れば、周りも認めてくれる。普通に生きていける。勉強、スポーツ、芸術、何でもいい。幸いボクには音楽の才能があった。その才能を伸ばし実力にし、水篠楓という人間の価値を築き上げた。

 

「楓ってスゲーよな」

「水篠君、次あの曲弾いてよ!」

 

この努力して掴み取った人間関係を無駄にはしない。そして家族以外で信頼できる人をこの学校で作り、普通に近づきたい。そう願いながらボクはここにいる。

 

 

 

 

 

____________この物語はそんな盲目の音楽少年が文学少女に恋をするお話。

 




いかがだったでしょうか。実は私、こうして物語を書くのが初めてなだけでなく、国語は一番の苦手科目なんです。不安要素しかない完全ド素人ですが、温かい目で見守ってくれると嬉しいです。#2のイメージも出来てはいるのですが、文章化するのに時間がかかると思われます。次の更新が何時になるかは分かりませんが、私個人としては週一投稿を目指しております。気長にお待ちください。
最後に、楓の外観は某ゲームに出てくる子をイメージしてます。そして、彼は盛大なフラグを立ててしまった…必ずどこかで回収するので楽しみにしててください。それでは次の#2でお会いしましょう。

誤字や内容の矛盾などが発生しないように確認はしてますが、もし発覚した際は報告していただけるとありがたいです。感想、お待ちしております。

追記:大変申し訳ございません。学校の課題でロボット作らないといけないので2週間ほど更新出来ないかもしれません。その後テストも控えていますが、テスト週間入る前に#2を出すつもりです。逃亡は絶対しないしする気もないので気長にお待ちください。


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