レナさんに耳かきして欲しいよなあ! (こっくん)
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レナさんに耳かきして欲しいよなあ!
「今日は寝付きが悪いな......」
深夜のグランサイファー艇内、団長は寝つけずにいた。
「昨日は休みだからってゆっくりしすぎたかな?」
昨日は島に停泊しての休みだったのだ。団長はその先日の戦いもあってぐっすり。夜になってかえって寝られなかったのだ。
「軽く運動したら眠れるかな」
そうして剣を片手に甲板へ出ていくことにした。
甲板に出るとそこには先客が居た。かぐわしい花の香り、扉を開けると船首でレナが花を振りまいていた。
「それぇっ」
杖を振るごとに宙に花が生み出され、はらはらと散っていく。
その花びらは魔力の光を灯し、真っ暗な甲板を彩っていた。
「わあ」
思わず団長も感嘆の声をあげてしまう。
それに気づいたレナは船室の方へ振り向いた。
「あらあら団長さん。こんな遅くにどうしたの?」
そう言って団長へ歩み寄る。
「ああ、レナさん。昨日ゆっくりしててかえって寝付けなかったんだ。だから訓練でもね。」
「あらまあそうなの。休んで寝付けないなんで、働き過ぎじゃないかしら。」
「いやまあ、そんなに働いてばっかりでもないよ。ところでレナさんはなんでこんな夜遅くに?」
「そうねー。夜中にちょっと起きて花を咲かせないと樹木化が進んじゃうの。」
あっけらかんと言うが、団長にとっては重い言葉だった。
今でこそ慣れたふうだが、昔の苦労を思うと少し言葉に詰まってしまうのだった。
「......。」
「あらあら。そんなに心配しないで。もう昔からだから慣れっこよ。」
「でも、うん。」
少しの間見つめ合う。
そこでレナが思い出したかのように切り出した。
「ところで団長さん。ひとつだけお願い聞いて頂けないかしら?」
「あ、ああいいよ。なんでも。」
「ありがとうね。団長さん。......そうね......。」
レナが団長を見つめる。団長は夜風に吹かれて少し震えていた。
訓練するつもりで少し薄着で出てきたからだ。
「ティーカップもいいと思ったのだけど......団長さん、ついてきてくださる?」
そう言って団長の手を取って船室へ戻る。
団長はレナに手を引かれて船室へ戻る。思わぬ力の強さに少しよろけつつ。
レナはスタスタと船室を歩き、男女船室の分かれ道を女性船室側へ曲がった。
「ちょっ!レナさ」
「団長さん。みんな起きちゃうわ。お静かにお願いね。」
驚いた団長の口を手で塞ぎ、指を手に当てていたずらっぽく言う。そしてなお強く団長の手を引いていった。
団長はついにレナの部屋へ入ってしまった。
「キッチンからお湯を貰ってくるから、少し待っててね。」
そう言うとレナは団長を置いて部屋を出ていってしまった。
団長は今更になって驚きから抜け出したのか、冷静さを取り戻していた。
そうして考えてみると、レナさんが悪いことをするとも思えないし、大人しく待っていることにしたのだ。
お茶会用の丸椅子をひとつ取り出して座り、部屋の様子を見る。
レナの部屋は意外にも花いっぱいに飾られているという訳でもなく、花は魔生花でない魔法の花が一輪さしてあるだけだった。
家具はベッドと机とクローゼット、あとはお茶会用の丸机と椅子だけだった。
少しするとレナがお湯ときれいな布を持って戻ってきた。
それを一度机に置くと、丸机をベッドの近くに寄せて、机からいくつかものを取り出して丸机の上に置いた。ついでお湯も丸机の方へ移した。
ベッドの枕を隅へ寄せて、ベッドの端に座る。
「団長さん。こちらへどうぞ?」
そう言ってももを叩く。
団長はまた混乱していた。
「......どういうこと?」
「これが私のお願い。団長さんが私の呪いを解くために頑張ってくれてるから、たまにはお世話したいの。」
「お世話って......」
「団長さん、お願い聞いてくれないの?」
そうレナが残念そうな顔をする。
お願いを聞くと言った手前、団長には断ることができなかった。
「じゃあ団長さん。靴を脱いで横になって?」
言われるまま、体をベッドに預けてレナの膝枕に頭を乗せる。
「今日は寒いからお布団かけてあげるわね。」
レナが団長に布団をかける。布団はレナの香りがして、全身を包まれているようだ。
「あらあら、真っ赤になって。案外団長さんも初心なのね。」
そう言いながらふ布巾を手に取り、水気を切る。
「団長さんは耳かきってされるかしら?カリオストロちゃんから聞いたのだけど、ほかの人にしてもらう耳かきってすごく気持ちいいらしいわね。」
手に取った布巾を耳に当てる。
「まずはお耳と、その周りを拭いて差し上げるわ。」
「耳の溝みたいなところをなぞるように拭いて......」
すっすと布と皮膚の擦れる音をたてながら、耳を拭いていく。
「耳の裏も意外と汚れるらしいわぁ......」
耳をたたみながら、耳の裏を拭く。
「あとは耳穴をちょっと押さえて、耳を蒸らしちゃうわ......」
耳穴を押さえると、レナの血の流れる音が耳に響く。
「うん!いい感じね。じゃあ今度は逆側の耳を見せて頂けるかしら。」
「あらあら、恥ずかしがらなくていいのよ?お腹より木の方が多いわ。」
「こっちも拭いていくわね......」
先程と同じように団長の耳を拭いた。
「よし!じゃあ耳かきをするわよ。」
布巾を机に置くと、代わって耳かきを手に取る。
団長の耳を覗き込むと
「あらあら、随分汚れてるわ。いつもお外で転げ回ってるからかしら。」
丁寧に、奥に落とさないように手前から奥へ少しずつ耳垢を取っていく。
「......よし、取れたわ。梵天で細かいのを取ってしまいましょう?」
耳かきを持ち替えて、梵天にする。
「ほら、ふわっふわ。」
もぞもぞと耳に音が響き、くすぐったくも気持ちいい。
「気持ちいいかしら?......そう!恥を忍んでお願いしてみてよかったわぁ。」
「じゃあ反対側......あら?あらあら団長さんもう眠たいの?少し我慢して、反対側にだけ向いてくれるかしら。」
団長に反対を向くようお願いしようとすると、もう団長は半目で眠たげだった。団長は半分寝ぼけながら反対へ向き直す。
「あらあらまあまあ。こっちも随分......やりがいがあるわね。」
また同じように手前から奥に耳かきをしていく。
「人の耳って、左右で作りが少し違うのね。」
丁寧に、耳穴を撫でる。
「あらまあ、ここが気持ちいいのね。」
レナは耳かき中の団長の反応の機微から、気持ちいいところを的確に見つけた。
そこを重点的に、でも傷つけないように撫でる。
そんなふうにしているうちに、団長の息が規則的になった。
「......もう寝ちゃったかしら?」
そう言いつつ、耳かきを持ち替えて梵天をかまえる。
「梵天で払って、おしまい。」
梵天で耳の外から穴の中まで残りを払い、耳かきを終わりにした。
団長はもうぐっすり眠りについてしまったようだ。
「もうぐっすりみたいね。どうしても起きなさそうだわ。」
団長はレナの膝の上でぐっすりと眠ってしまった。レナは団長を起こさないように枕を元の位置に戻し、布団に潜り込む。そして団長を自分の方へ向ける。
「うふふ。弟も居たことはなかったけど、まるで弟みたいで可愛いわ。」
腕を枕にして胸に抱え込み、レナは目をつぶった。
「おやすみなさい団長さん。今日はありがとうね。」
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