クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 Another Story (クロスボーンズ)
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第1章 動きだした運命
第1話 名もなき島の名も無い少女


【ザザーン ザザーン】

 

海からの波が砂浜に打ち寄せては引いていく。

ヤドカリ達は波に揺れると貝から顔を出し、何処かへと歩いてゆく。

 

ここは名も無き島。その名の通り名前のない島だ。そしてこの島の海に面した岩場付近にて。

 

「っぷふぁ」

 

その近くの海面に、1人の少女が浮かび上がった。その手には魚が握られていた。

 

少女は岩場へと向かい泳ぎ始めた。岩場に上がると近くに置いてあったボロボロの布切れを掴み、それを自身の胸部と下半身に巻きつけた。

 

彼女は今日の夕食の為に、魚などを獲っていたのだ。そして魚が獲れた。だが彼女はどこか浮かない面持ちをしている。

 

(今日の魚は少ないわね・・・)

 

そうなのだ。ここら辺は普段からスズキやらアジやらが豊富に獲れるのだ。だが、今日は珍しく魚が二尾しか取れなかったのだ。

 

決して少女の魚獲の得技術が低いからではない。今日は根本的に海にいる魚が少ないのだ。

 

まるで何かに驚いて魚が逃げだしたかの様に。

 

彼女の生活は森で木のみを取り、そして海で魚や貝などを取って暮らしている。たまに獣などを狩る狩猟生活をしていた。

 

突然だが、ここで少女と島について軽く説明しよう。

 

まず始めに、服やズボンなどそんなものはこの島にない。

 

そしてここには少女以外、誰も住んでいない。

いや、初めから人など住んでいなかったのかも知れない。島中くまなく探しても、廃屋もなければ人の住んでいた形跡すらない。

 

少女の一番の特徴となるのは白い髪だ。長く特徴的なロングヘアーは余りにも長すぎである。その長さはなんと歩く時に地面を引き摺っているレベルである。ついでに言うと瞳の色はエメラルドグリーンであり、そして裸足だ。

 

この島には、我々の知る様な文明的なものなど何一つないのだ。外部からの交流も当然ない。まさに

孤島である。

 

余談だが名もなき島という名前は少女が付けた名だ。

 

そして少女の右腕には・・・おっと、これ以上はまだ言うべき時ではないな。本編に戻ろう。

 

少女は魚を枝で作った籠に水と共に入れると、近くの森へと入り木の枝や葉っぱなどを集め始めた。

今日手に入れた魚を焼く為には燃やすものが必要だからだ。

 

それなりの燃やすものが集まり、少女の家となっている洞穴を目指し、歩みを進めていた。

 

暫く歩いていると、ある場所でその歩みを止めた。上から鳴き声が聞こえている。空を見上げると、

渡り鳥達が島から飛び立つ姿が見えた。

 

その鳥は群れを成しながら、島を離れていった。

 

(・・・鳥は島の外に何を求めているんだろう・・・)

 

不意にこんな考えが彼女に襲いかかった。彼女はこの島で一人育っている。そして島の外の事など殆ど考えた事がない。しかし何故か今日は、そんな事を考えてみたくなった様だ。

 

(・・・変ね私。突然こんな事を考えて・・・)

 

そう思い歩こうとした時である。不意に鳴き声が聞こえた。見てみるとある場所で先程の渡り鳥達が

旋回している。

 

(どうしたの!?一体・・・)

 

妙な胸騒ぎを感じ、彼女はその場所へと歩みを進めた。そしてその場所の近くに辿り着いた時である。

 

「・・・!?」

 

少女の視界にあるものが写り込んだ。

 

「なに・・・あれ・・・」

 

少女の目に一つの塊が映され

た。その塊は砂浜に座礁していた。塊の色は白色を基調としていた。少なくてもそれは天然のものではなく、誰かによって作られた人工物である。

 

この島は色々なものがたまに流れ着いてくる。

錆びた鉈。白い骨。何かの服の布切れ。

 

普段なら放っておくのだが、今回流れ着いたそれは、完全に何か訳ありのものである。これまでの

大きさの基準を大幅にオーバーしている。

 

「・・・・・・」

 

少しの間考えていたが、やがて少女は警戒しながらもその塊へと近づいていった。

 

上空を旋回していた渡り鳥は彼女の姿を見ると、

一鳴きしてから島を離れていった。

 

その塊は傷や焦げ跡などがついていた。まるで何かと戦い、そして敗れたみたいに。

 

「これに驚いて魚達はいなくなったのか?・・・」

 

「それにしても・・・魚にやられたの・・・

いや違う。これより大きい魚なんて・・・」

 

その時だ。少女はあるものも目撃した。それは少女がこれまで島で見た事のないものだった。それは

その塊の先端部分にあった。

 

「・・・!?これって!!」

 

そこには少女が一人いた。顔にはバイザーが付けられており、瞳は閉ざされていた。髪は濃いピンク色を基調としていた癖っ毛である。

 

身体の一部からは血が流れていた。それによって

彼女が着ている服の一部が赤黒く染まっていた。

 

それは少女が始めて見た、自分以外の人間である。

 

「うっ・・・ううっ」

 

少女は唸っていた。痛みが激しいのか、顔を歪ませている。

 

「これは、血・・・生きてるの?」

 

やがて少女はその塊からその少女を出すと背負い、その場を後にした。

 

「ココ・・・ミランダ・・・帰らなきゃ、アルゼナルに・・・」

 

背中に背負った少女は譫言のようにその言葉を呟いていた。

 

 

 

 

この少女はなぜこうなったのか。それを語る為には少し前の時間に遡ろう。

 

とある空中で、少女がパラメイルに乗って飛行をしていた。

 

彼女の名はナオミ。アルゼナルのパラメイルの

メイルライダーだ。

 

簡単に説明すると、ナオミはメイルライダーになる為に、パラメイルに乗り、実機テストをしていたところだ。

 

丁度模擬戦用の敵を倒す段階が終わった。これで

テストは終了したのだ。

 

「テスト終了。お疲れさま、ナオミ。そのままアルゼナルに帰投して」

 

パラメイルの通信越しにアルゼナルの整備士であるメイが指示をだす。

 

「了解・・・あれ?」

 

帰ろうとした矢先に、異変は発生した。なんと目の前の空間に穴が空いたのだ。

 

「な、なにこれ?これもテストなの?」

 

戸惑いながらもナオミは自分を落ち着かせる為テストだと言い聞かせる。だがそれは直ぐに通信越しの会話内容で否定された。

 

「テスト空域にシンギュラー反応を確認!!」

 

「なんだと!?予兆はなかったはずだ!!」

 

通信越しに物騒な単語が飛んできた。

 

そして次の瞬間、穴の空いた空間からあるものが

現れた。

 

ドラゴンだ。

 

ドラゴン。空想上の生き物として皆が知っているあのドラゴンである。そのドラゴンがナオミの目の前に現れたのだ。

 

しかも1匹ではなくそれなりの数である。更にだ、周囲に比べて巨大なドラゴンが1匹存在している。

 

パラメイルとは、このドラゴンと戦う為の兵器である。そして、その乗り手の事をメイルライダーと呼ぶのだ。

 

「絶対に戦闘はしちゃダメ!!ナオミ!全速力でで

アルゼナルに帰還して!!」

 

「でも・・・」

 

「そのパラメイルには、模擬戦用の弾薬しか搭載

されてないんだよ!?」

 

その通りなのだ。今のナオミのパラメイルには

模擬戦用の弾薬しか搭載されていない。

 

模擬戦と実戦は砂糖と塩くらいの違いがある。

 

ドラゴン達が攻撃の為に魔法陣を展開した。それらは空中に現れ、次の瞬間には、ナオミのパラメイル目掛けて火球などが放たれた。

 

「キャァァァッ!!」

 

機体に火球などが命中した。衝撃で機体が大きく揺れる。

 

「第一中隊にスクランブルを!」

 

「間に合いません!ナオミ機!落下します!」

 

ナオミは必死になってハンドルを操作している。

しかし機体は言う事を聞かない。

 

「これ以上機体を保てない・・・ココ、ミランダ、ごめん。私、ここまで見たい・・・」

 

その言葉と共に、ナオミは機体と共に海へと落下した。次の瞬間、ナオミの意識は閉ざされた。

 

ナオミが墜落した付近の潮の流れは激しいのだ。

機体はみるみるうちに流されていった。そして長い間流され続け、そして最終的に流れ着いたのがこの名もなき島である。

 

そして意識を失ったナオミを少女が見つけたのだ。

 

少女はナオミを洞穴へと連れ帰った。そして彼女の身体を色々と触って状態を確かめる。

 

(まず身体を綺麗にしないと・・・)

 

少女は近くの水桶から水を掬うと、水をゆっくりとナオミにかけた。暫くはその行為を繰り返していた。

 

(身体の血の汚れとかは落とした。次は傷の手当てをしないと)

 

少女はナオミの身体に布を被せると、薬草を取りに森へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃ナオミは夢を見ていた。何処か不思議な夢である。身体が深く深く沈んでいく風な感覚である。周りは無音状態だ。

 

(私・・・死んじゃったの・・・)

 

この時ナオミは、自分が死んだと理解した。そして何故か恐怖などは全く感じなかった。それどころか何処か安心できる雰囲気もあった。

 

すると突然声が響いた。

 

「人は誰しも最後は土に還る。人の辿り着く最期の場所が地面なのだ。生きとし生けるもの全て、最後は大地で安らかに眠りにつく」

 

「それらは皆、生きて生きて生きぬいて、そして

散っていった者達だ。最後の最後まで・・・」

 

見ると目の前に黒いローブを身に纏った存在が突然現れた。顔はフードによって隠れておりよく見えない。

 

「君は今、死の瀬戸際に立たされている。このまま行けば君は死ぬ。だが君の死を望まぬ者が君を助けようとしている」

 

ナオミは少し考えた。だが直ぐに考えるのをやめた。考えるまでもないという事だ。

 

「私、アルゼナルに帰らなきゃ・・・私、まだなにもしてないから・・・」

 

「ならば君にチャンスを与えよう」

 

そう言うと男はどこから取り出したのか、謎のカードを三枚持ち出した。

 

「この三枚のカードのうち、ジョーカーを引き当てる事が出来たら君を助けよう」

 

「アルゼナルに帰れるの?」

 

「それは君次第だ。だが今、君の命を助ける事は約束しよう」

 

ナオミは慎重に選んだ。

 

しかし実はその3枚のカードはどれも白紙なのだ。そうとは知らずナオミは目を閉じて、勢いよく真ん中のカードを引いた。

 

そのカードには記号も数字も描かれてはいない。

しかし、そのカードにはある文字が記されていた。

 

【JOKER】

 

「ジョーカーだ!」

 

実はナオミがカードを引いた瞬間、何も描かれていない白紙のカードに突然ジョーカーの文字が浮かび上がったのだ。

 

「おめでとう!・・・君は運命を変える切り札なのかもしれんな・・・」

 

そう言うと男の背後に道が開かれた。しかしそれは道というよりはジャンプ台と言った方が正しいものであった。

 

「勢いよく飛び込むがよい。己の手でその先の道を切り拓く為に!」

 

ナオミは助走をつけ走りだした。そしてジャンプすると、彼女の姿はそこから消えた。その場には男だけが残された。

 

「人の運命は人の手によって決まる・・・そして

それは変えられる・・・」

 

そう言うと男はその場から姿を消した。

 

 

 

 

洞穴にて。

 

【ピチャ・・・ピチャ】

 

「んんっ・・・んっ?」

 

頬に冷たいものが触れた。雫である。それによってナオミは目を覚ました。彼女の目に映ったのは岩の天井である。

 

「私・・・一体・・・そうだ、ドラゴンに襲われて・・・じゃあ私、死んじゃったの?」

 

彼女は先程の夢の出来事を覚えていない。

 

「あ、気がついた?」

 

不意に声がした。声の方角を見る。するとナオミの目にある少女が映った。

 

「貴女は天使なの・・・私は天国に来たの?」

 

「・・・は?」

 

少女はナオミの言った言葉が理解できないでいた。この少女は一体何を言っているのか?

 

「・・・貴女・・・大丈夫?」

 

その言葉にナオミは少し冷静になった。まず自分の頬を抓った。痛い、痛いということは夢ではない。現実である。つまり自分は生きている。

 

「生きてる・・・私生きてる!」

 

ナオミは自分の生存を喜んだ。喜びで立ち上がろうとしたが、その瞬間身体に痛みが走った。どうやら怪我などは酷いらしい。

 

「怪我が激しいわ。じっとしていなさい」

 

少女はこちらを見ずにそう告げた。今、彼女は石の器で石を使い何かを磨り潰す作業をしていた。やがで作業が終わるとその器をナオミに差し出してきた。

 

中には葉っぱを擦り潰したかの様な状態となっていた。葉っぱの残骸に、緑の何かがジェル状になっていた。

 

「痛み止めと傷薬を作ったけど、塗る?」

 

彼女は島で育ってきた。その為野草などのサバイバル知識などは自然と身に付いていくのだ。

 

「え・・・じゃあ、お言葉に甘えて・・・」

 

最初、ナオミは目の前のそれを警戒したが、作ってもらって無下に扱う事は失礼だと思い、その器を受け取った。

 

人差し指でそのジェル状のものを救うと、恐る恐る自身の傷口に塗った。傷口に触れた事により、少し沁みた。それから少しして痛みが引いていくのが感じ取れた。

 

「あの。貴女が私を助けてくれたの?」

 

「えぇ」

 

「助けてくれてありがとう。私はナオミ。貴女は?」

 

その質問に少女は答えなかった。代わりにナオミに質問を投げかけた。

 

「・・・ナオミは島の外から来たの?」

 

「島の外?・・・そう言えば、ここはどこなの?」

 

ここでナオミは、自分が何処にいるのかわからない事に気がついた。少なくてもアルゼナルではない。

 

「名もなき島」

 

「名もなき島?」

 

ナオミの質問に少女は素っ気なく返した。

 

ナオミは身体をゆっくりと起こし、光が差し込んでいる洞穴の外へと出た。ナオミの目の前に広がる光景。それは砂浜が広がる綺麗な海岸であった。

 

「綺麗・・・」

 

ナオミは目の前の幻想的なその風景に心奪われていた。

 

「ねぇ。他に住んでる人はいないの?」

 

「ここには私一人だけで住んでる」

 

少女はそう言うとナオミを追うよう洞穴を出た。

 

そしてこの時、ナオミはアルゼナルの事を思い出した。

 

「ねぇ!私を見つけた場所の近くでパラメイルを

見なかった!?」

 

「パラメイル?」

 

「えーっと、なんていうか、私が乗ってた機械で・・・」

 

「あれのこと?付いてきて」

 

そう言うと少女は砂浜を歩き出した。ナオミもそれに付いて行く。

 

やがて二人はナオミのパラメイルの場所へとたどり着いた。

 

「あった!パラメイルだ!」

 

ナオミは夢中で駆け出した。その一方で少女は歩いていた。

 

コックピットに入りアルゼナルとコンタクトを取ろうとする。

 

「アルゼナル、こちらナオミ。応答してください。アルゼナル。応答してください」

 

「・・・」

 

しかし返答はなかった。どうやら通信機は故障している様だ。

 

「そんな・・・そうだ!飛べれば!」

 

パラメイルが動けるなら、アルゼナルに帰れるのでは!?そう思い、機体のエンジンをかける。

 

だがエンジンは動かなかった。この機体は機体として完全に死んでいる。

 

「そんな・・・どうしよう」

 

ナオミはコックピットの外に出ると海岸にへたり込んだ。アルゼナルに帰る希望であったパラメイル。それが全くの使い物にならない。

 

もうアルゼナルに帰る事は出来ないのだろうか。そんな深い絶望がナオミに襲いかかった。

 

「うっ・・・うっ・・・」

 

ショックのあまり、ナオミは遂に泣き出した。

 

「どうしたの?」

 

少女は、突然泣き出したナオミに困惑していた。

何故泣くのか。それが理解できないでいた。

 

だが、今のナオミにはそんな言葉届いていなかった。

 

「・・・一旦あの洞穴に帰らせて」

 

沈んだ思いのなか、ナオミは洞穴へと戻っていった。少女もナオミに続いた。

 

洞穴へと帰り、その中を一通り見回した。そこには色々なものが置かれている。少女は棚のような所から石を取り出した。外へ出ると石同士をぶつけあわせる作業を始めた。

 

「・・・何をしているの?」

 

ナオミが疑問に思い、尋ねた。

 

次の瞬間、石から僅かながら火が出た。すぐに近くの砂浜に集めた木の枝に放り込む。焚き火の完成だ。

 

少女は今日とってきた魚をその火で焼き始めた。やがて煙が立ち始めた。その煙と共に良い匂いが鼻腔をくすぐった。暫くは魚を焼いていた。

 

「食べる?」

 

少女はナオミに今日漁獲した魚のうちの一尾を差し出した。

 

「いいの?ありがとう」

 

礼を言うと、ナオミはその魚を受け取った。

 

「あちちっ」

 

持ち手の木の枝の部分が多少の熱がこもっていた。

 

「いただきます」

 

そう言い食べ始めた。焼きたて故に中身の熱さが

激しいが、その分美味しさが際立っていた。

 

それが食べ終わるとナオミはあるものに目がいった。それは食卓にある石の器。その中には野草や木の実などがある。

 

これも食事なのだ。だがその場にはあれがなかった。

 

「ねぇ。スプーンやフォークってない?」

 

「スプーン?フォーク?なにそれ?」

 

見ると少女はそれらを手で持ち、食らいついていた。スプーンはない。フォークもない。お箸もない。だがお腹は空いている。最早とるべき手段は

一つだけだ。

 

少女は思うところもなく、それらを手掴みで食べている。ナオミもそれに続く。

 

「あっ、これ、美味しい」

 

ナオミの中で、率直に出た感想だ。お腹が空いていたのか、ナオミはそれらを口に頬張った。

 

やがて一通りの食事が終わった。既に日は沈み、

月が夜空に浮かんでいた。

 

「ねぇ・・・お願いがあるんだけど・・・」

 

ナオミは気まずそうに少女に話しかけた。

 

「何?」

 

「・・・ここで寝ていいかな?」

 

ナオミにとってこの島はまだ未知の領域だ。こんな中パラメイルのコックピットで寝るのは幾ら何でも怖いものだ。

 

「いいよ」

 

意外な返事にナオミは驚く。まさか承諾してくれるとは。

 

「ありがとう!」

 

少女は横になった。ナオミもその隣で横になる。

 

だがどちらとも直ぐには眠れなかった。

 

ナオミの方は、記念すべきメイルライダーになったはずが、まさかの遭難。しかもアルゼナルに帰れる希望が見出せない。

 

(私、どうなっちゃうんだろ・・・)

 

その様な考えがナオミを苦しめた。

 

そして同じ頃、少女の方もある事を考えていた。

 

(あの塊。確かパラメイルだっけ・・・)

 

(・・・似てた。揺りかごに・・・ナオミ・・・か)

 

しかしそれも、やがて強烈疲れや眠気などが襲いかかると、それには勝てずに二人とも眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が寝静まった洞穴。

 

この島には、人間は二人しかいない。

 

だがそれとは別に、ここに一人いるのだ。その洞穴の中を遠くから眺めている人物がここに一人。

 

「遂に点と点が出会ったか・・・」

 

黒のローブを身に纏った男は一人呟いた。この男こそ、ナオミの夢に現れた人物だ。男はフードを外した。その男の右目付近には、深い傷が付いていた。

 

「点同士が出会い、線を結び、新たな線を引く為に新たな点を探す事となる」

 

「どうやら、平穏の終わりの時が訪れた様だな・・・」

 

男はそう呟くとその場から姿を消えた。

 

 




記念すべき二作目の第1話です。
(甘い快楽に酔いしれてはノーカン)

まだまだ作品は駆け出しですけどこれもちゃんと完結を目指して走って行きます。

感想などもお待ちしております!


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第2話 旅立ちの時

 

誰にでも、そしてどんな場所にも朝は平等に訪れる。たとえそれが見ず知らずの島だとしても。

 

外からの光によって、ナオミは目を覚ました。ふと隣を見てみるとあの少女がいない事に気がついた。

 

外へと出てみるとちょうど彼女が帰ってきたところだ。手には魚などの魚介類が入った網を握っている。

 

「起きた?食事にするよ」

 

彼女は魚を焼いた。今日は貝のダシ汁つきである。

 

一通りの食事をすませるとナオミはずっと疑問に

思っていた事を聞いた。

 

「ねぇ、貴女はずっとここで暮らしていたの?」

 

「えぇ。そうよ」

 

「寂しかったりとかしないの?」

 

「・・・ずっと一人だったから」

 

彼女はずっとここで生きてきた。島の外の事など殆ど考えた事がない。彼女にとってナオミは外から

現れた、初めて見る人なのだ。

 

ナオミの質問が終わると、今度は少女がナオミに

質問した。

 

「で、貴女はどうするの?」

 

「え?何が?」

 

「アルゼナルだっけ。そこが貴女の島なんでしょ?」

 

「・・・」

 

その言葉にナオミは黙ってしまった。

 

「ここはアルゼナルじゃない。貴女の望んでいる

居場所じゃないわよ」

 

少女はナオミの寝言を聞いていたのだ。アルゼナルに帰らなくちゃならない。待ってる人がいるから。ナオミはそれを譫言の様に繰り返していた。

 

「別に島から出て行けとは言わないわ。でも、帰りたいなら別に気を使わなくていいのよ。待ってる人がいるんでしょ」

 

「私・・・アルゼナルに帰りたい。ココとミランダが待ってるから。でも・・・帰れないの・・・」

 

通信機も使えず、パラメイルもお釈迦となっている。正に手詰まりだ。

 

「私・・・一体・・・どうしたら・・・」

 

「それは貴女が決める事よ」

 

少女はナオミに告げた。

 

「もしここで暮らして行くのなら私は止めないわ。でも、そのアルゼナルって所に帰りたいのなら、

最後の最後まで帰る方法を考えなさい。勿論できる限りの手は貸すし、面倒も少しは見るわ」

 

「でもね。最後にどうするか、最後に何をするか。それを決めるのは自分自身にしか出来ない事よ」

 

そう言うと少女は森に昼食確保のため入っていった。その場にはナオミだけが残された。

 

「私自身が決める・・・」

 

そう呟きながら、ナオミは自分のパラメイルへと向かった。何か出来る事があるはず。そう思い機体を色々と操作していた。

 

彼女はメイルライダーだ。技術士ではない。その様な知識は専門外である。何より知識があったとしても、パラメイルにはそれを直せるような応急修理が出来る備品など積まれていない。

 

だがそれでも、彼女は色々と操作した。最後まで

諦めたくない。その思いで必死に作業を続けた。

 

「私は諦めない。絶対に・・・」

 

そう思い機体に様々な手を加えてみる。

 

「ナオミ。食事よ」

 

不意に声がした。振り返ると少女がいた。その手には木のみやキノコなどがあった。

 

実は作業に集中していたせいか、時間が立つのも

忘れていた様だ。既に時刻は2時を回っている。

 

二人は森に入り、少し遅い昼食を摂る事にした。今回の食事はキノコのスープと野草サラダである。

 

食事中。ナオミは少女にアルゼナルについて軽く話した。

 

「成る程ね。そこには沢山の人がいると・・・」

 

そう言うと少女は右手に待っていた器を口元に寄せると、一気にスープを飲み干した。

 

「あっ、それなに?」

 

この時ナオミは、少女の右腕に注目した。少女の右肩と右腕関節の中間くらいのところには腕輪が付けられていた。

 

その腕輪は、普通の腕輪と大差ない見た目をしている。しかし何処か特徴的な雰囲気を醸し出している。特に印象深いのは鉄製の羽が付いていた事だ。

 

それは言葉では言い表せない様な、何処か神秘的な雰囲気を纏っていた。

 

「それ、手作り?」

 

「・・・・・・さぁね。産まれた時から付いてたわ」

 

ナオミの質問に少女は答えた。少女自身、特に痛かったり痒かったりしない為、特に気にした事がなかった。

 

その時だった。

 

【グラグラグラグラグラグラグラグラグラ】

 

突然激しい揺れが二人に襲いかかった。

 

「何事!?」

 

これには少女も驚いた。この島では地震など特に珍しい事ではない。だが今回の揺れは過去に例のないくらい激しい揺れである。

 

「ねぇ!あれを見て!」

 

ナオミの指差す方を少女は見た。それを見た瞬間、地震の原因が判明した。そこには山が佇んでいた。その山の頂上から煙が上がっているのだ。

 

先ほどの揺れは火山が噴火した為に発生したものだ。頂上からは火山岩や火山灰などが降り注いできた。

 

すると何かがこちら目掛けて飛んできた。

 

「危ない!!!」

 

間一髪のところで火山岩を避けた二人。だが森には火山岩などが直撃した。森はたちまち火の海へと

変わり果てた。

 

「ここは危ないよ!!」

 

そう言うとナオミは少女の手を掴み、急いで砂浜に打ち上げられたパラメイルへの元へと駆け付けた。

 

「お願い!動いて!!」

 

必死に色々な操作をする。機体を一発叩いたりもした。

 

だが機体はそんなナオミを馬鹿にするかの様にウンともスンとも言わなかった。

 

「・・・ねぇ。これでどうするの?」

 

「これを使って飛んで避難するんだよ!」

 

「これ、飛べるの!?」

 

「・・・駄目だった。今のこれじゃあ飛べないよ・・・」

 

すると外にいた少女は何かを考えていた。

 

(飛べる・・・もしかしたら・・・)

 

「付いてきて!!」

 

少女はそう言うと駆け出した。

 

「えっ?ちょっと待ってよ!」

 

ナオミもコックピットから降りると、慌てて追いかけた。

 

二人は、この島の寝床となっている洞穴へと入っていった。そしてその足で、洞穴の奥地へと進んで行った。

 

少し走っただろうか。やがてある一つの塊が目に留まった。それに被さっていたシーツを剥ぎ取る。

 

「ねぇ。これって使えない?」

 

その塊は白色を基調としていた。そしてボディの所々に赤いラインが薄っすらと色づいている。翼の様なものが4つ付けられている。それはこの島に

おいて、少女が知っている唯一の人工物である。

 

「これは・・・パラメイル?」

 

その機体はパラメイルに酷似していた。だが、その機体はナオミの知っているどのパラメイルの型にも当てはまらなかった。

 

「グレイブ?ハウザー?アーキバス?・・・いや、この際なんでもいい。お願いだから動いてよ」

 

ナオミはコックピット部分に乗り込んだ。動くという希望を信じて。

 

だが次の瞬間、それは絶望へと変わった。この機体も墜落したナオミのパラメイルと同じ様に一切の操作を受け付けないでいた。

 

「そんな・・・なんで動かないの!?」

 

慌ててコックピットから降りて機体を確認する。だが特に異常や異変などは確認できなかった。しかし動かない。

 

再びコックピットに目を向けた。そこで更に絶望する事態が判明した。あのコックピットには機体を操作するためのハンドルなどが見受けられなかった。

 

「そんな・・・」

 

ナオミは膝をついて崩れ落ちた。やっと見つけた希望の糸が目の前でプチンと音を立てて切られたのが感じ取れた。

 

「ごめんね。ココ、ミランダ。私、ここでお終いみたい・・・」

 

「やっと・・・夢が叶ったのに・・・メイルライダーになるって夢が・・・でも、ここまで見たい・・・」

 

自分の死を悟り、目から涙がボロボロと零れ落ちていった。先程、最後まで諦めないと決めたはずなのに、既に心は諦めていた。頭では諦めたくないのに、心が、そして身体がそれを受け付けないでいた。

 

 

 

 

その時である。

 

「人は矛盾を抱えて生きている」

 

「えっ?」

 

突然、ナオミの耳にその声は届いた。

 

「頭で理解していても、理解した事を実際の行動に移すのは難しい。それは誰しもが持つ感覚だ。決して恥じる事ではない」

 

謎の声は続けた。

 

「人の夢と書いて【儚い】と読む。人の持つ夢とはそれ程までに脆く、そして崩れやすいものだ。だからこそ夢とは人が持つべき価値があるものだ」

 

その様な声がした。ふと奥を見た。この時ナオミは、一瞬だが暗がりの奥に誰かの人影を見た。

 

涙を手で拭い、もう一度確認してみる。

 

そこには誰もいなかった。涙によって反射で見えた虚像だったのだろうか。

 

(今のは・・・一体・・・)

 

 

すると先程までの外にいた少女が、突然その機体に乗り込んだ。そして何かを探すようにしている。

 

「機体操作に必要なのは・・・これか!?」

 

少女は機体のボックスから何かを取り出した。それはその機体を操作するためのコントロールユニットであった。

 

「それって・・・機体のコントロールユニット?」

 

「えっと、ここか!!」

 

少女はその機体の差込口にも似た所に、そのコントロールユニットを差し込んだ。するとそのユニットからコックピットの機器が一瞬だけ光った。

 

その時だった。突然少女に目眩が襲いかかった。

 

「くっ・・・」

 

激しい目眩に少女は目を閉じた。そして次の瞬間、目を開けると辺りの様子が一変していた。

 

「何・・・ここ・・・」

 

先程までいたコックピットではない。彼女の目の前に広がる光景。それは焼け野原であった。あたり一帯には、破壊された風な光景が広がっていた。何よりその場の空気は完全に死んでいた。凍りつくような、まるで全てが死に絶えた様な世界であった。

 

この時少女は、底知れぬ絶望を感じ取った。

 

「うっ・・・」

 

突然少女が倒れた。息が苦しい。いや、そもそも呼吸さえままならない状態になっていた。

 

「・・・何で・・・何で私は・・・」

 

掠れる声で少女は呟いた。何か言葉を紡ぎだそうとするが、何を言えばいいのか全くわからない。何より、何故この様な事を言おうとしたのかさえ、彼女には分からなかった。

 

この時少女は死を覚悟した。

 

その時だった。

 

「〜〜♪♪」

 

突然歌が聞こえた。優しい歌であった。すると地面に倒れて伏していた彼女のの身体が持ち上げられた。そして何かが少女を優しく包み込んだ。すると先程までの息苦しさが嘘の様に消え去った。

 

歌は囁くように続けられた。

 

「〜〜♪♪」

 

(この歌は・・・)

 

彼女にとってそれは、幼い赤子をあやす子守唄であった。少女の意識が朦朧とし始めた。いや、眠くなってきたと言うべきか。その眠気は、安心できる場所がそこにある為の安心感から来ていた。

 

(・・・あれ・・・今・・・)

 

少女の瞳が閉じる瞬間、少女には、自分の腕輪が光った様に見えた。そして瞳を閉じた次の瞬間、少女の意識は優しく溶けていった。

 

 

 

「・・・はっ!」

 

気がつくと少女はあの島へと戻っていた。いや、実は初めからそこにいたのだ。先ほどの出来事、それはほんの一瞬の出来事だった。時間にして1秒もたっていない。

 

「え・・・何・・・今の・・・」

 

少女は先程までの光景を覚えている。優しい歌も覚えている。一体あれは何なのか。

 

すると先程までウンともスンともいわなかった機体が突然稼働し始めた。ボディには紅いラインの色が浮かび上がる様に光だした。4つの翼から熱が放出され始める。

 

「動いた!?」

 

外にいたナオミは驚いた。機体は僅かながら前進をしていた。

 

「ナオミ!乗って!」

 

「うっ、うん!」

 

コックピットから出された手を掴みナオミはコックピットに乗り込んだ。少女の髪の毛が気になったが、そんな事を言っている場合ではない。

 

少女は機体の操作を難なくこなしている。

 

「分かる・・・機体の動かし方が!」

 

それは知ったと言うより、流れ込んで来たと言った方が良いのかも知らない。機体は徐々にだが前進し続けた。途中岩などで痞えるかと思いきや、それらを蹴散らして機体は加速し続けた。

 

そして洞穴の出口へと辿り着いた。

 

出口から飛び出した直後、マグマが洞穴を飲み込んだ。

 

間一髪のところで二人は島を脱出したのだ。

 

二人とも呆然としていた。ナオミは命からがらだったからだ。だが少女が呆然としているのは、別の理由だ。

 

「今のは・・・一体・・・」

 

実は彼女には、洞穴から飛び出す直前この時、

一瞬だけ外の光を受けたあるものが目に入った。

 

それは男である。一瞬とはいえ、右目に傷を負った、黒ローブ姿の男が少女の目には映った。そしてその男は確かにこう言った。

 

「行け!アルゼナルへ!!」

 

その言葉を最後に、次の瞬間マグマは男諸共洞穴を飲み込んだ。

 

あれはなんだったのだろうか。気のせいなのか、見間違いなのか。彼女は再び底知れぬ不安を感じたのだ。

 

「見て!島が!!」

 

ナオミの声で、少女は我に帰る。振り返って見てみた。そしたらなんと島が徐々にだが海へと沈んでいるではないか。

 

数分後には、先ほどあった島はその姿を海中へと消した。

 

その付近には少女とナオミ。そして機体だけが残された。

 

「私達も危なかったね」

 

もし、あと少し遅ければ、二人は火山流に飲み込まれ、マグマの餌食となっていただろう。

 

「・・・アルゼナルだっけ?」

 

「え?」

 

突然少女がナオミに問いかけてきた。

 

「アルゼナルって所に帰りたいんだっけ?」

 

「うん」

 

「・・・送るよ」

 

「え!いいの!?」

 

「ええ。名もなき島が沈んだ以上、私は新しく生活できる場所を探す。そのついでよ」

 

「ありがとう!!」

 

ナオミは少女に感謝した。アルゼナルへの帰還の

目処が立ったのだ。

 

最後に、少女は島のあった方を振り向いた。

 

「・・・・・・」

 

少女は何も言わず前を向き直し、機体を加速させその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかここにいたとは・・・」

 

とある場所で、ある男が一人いた。

 

その姿は、スーツ姿の金髪男である。手には先程

まで読んでいたのか、本が開きっぱなしである。

 

スーツの男は、モニターに映し出されている少女の姿を見ていた。

 

「これまでどうやって隠れていたかはわからない。だが腕輪もちゃんと所持している」

 

「・・・多少の手を検討するべきか」

 

そう言うと男は手にしていた本を閉じ、静かに立ち上がった。

 

そしてほくそ笑みながら一言呟いた。

 

「待っているがいい。・・・運命の子よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同じ頃、海の底沈もうとしている名もなき島。

 

そこにはあの男がいた。右目に傷のある、黒のローブを身に纏った男だ。身体には特に火傷などで苦しんでいる様子も跡も見受けられない。

 

「島よ。暫しのお別れだ。来たるべき時、再びここに来るだろう。だからそれまで【アレ】を守る為に、安らかなる眠りにつきたまえ」

 

そう言うと男は海の中から空を見上げた。

 

「・・・アルゼナル。虚無の楽園。果たしてそこに意味はあるのか・・・」

 

そう言い男は姿を消した。島は尚も海底深くへと沈んでいった。

 

 

 

 

 

そして少女とナオミには、ある問題が起きていた。

 

「ナオミ。そのアルゼナルって後どれくらい?」

 

「えっ?知らないよ?知ってるんじゃないの?」

 

「え?でも、そこから来たなら帰り道もわかるんじゃ・・・」

 

「私、墜落しちゃったから。その後は流されてあの島に着いたの。だからアルゼナルが何処にあるのかなんてわからないよ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

お互いが黙りあった。そしてナオミが仮説を立てた。

 

「もしかして私達・・・迷子!?」




少女の名前が決まるのはおそらく第5話になると思います。機体名は更に遅くに決定します。


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第3話 遭遇/ENCOUNT

 

「ねぇ。私達、いったいどれくらい飛んだんだろう・・・」

 

「知らない」

 

ナオミの力無き言葉に、少女は素っ気なく返事をした。日は高く上っている。

 

実はあの後、名もなき島を飛び立ってから既に一夜が経過している。その間ずっと飛びながら過ごしてた。因みにナオミは寝る事が出来たが少女の方は

機体の操縦の為に眠っていなかった。

 

アルゼナルがどこにあるのか、二人にはわからない。さらに二人は、今自分達がどこにいるのかさえわからなかった。

 

このままいけば良いのか、それとも右に行くべきか、それとも左に曲がるべきか、もしかしたら、今進んでいる方とはの反対側にアルゼナルがあるのかもしれない。

 

とりあえず、少女は一度進んだ方角から特に曲がったりなどはしなかった。

 

二人とも当初は外の風景を見ていたが、やがて海や雲しか見えないその光景には流石に飽きた様だ。

 

なんか気分を紛らわせるものがないか。それを考えていた。

 

「何か気でも紛らわせられない?」

 

「・・・〜〜♪♪」

 

すると突然ナオミが歌を歌い始めた。

 

「ナオミ?」

 

「あっ、これは・・・あれだよ。気を紛らわそうと思って。私の知ってる歌を歌ってみたんだ。うるさかった?」

 

「いえ、別に」

 

「よかった・・・貴女も何か歌う?」

 

ナオミが少女に話を振った。

 

(歌か・・・)

 

少女の中にある一つの歌が浮かび上がった。

 

「風に飛ばん el ragna 運命と契り交わして」

 

「風に行かん el ragna 轟きし翼」

 

少女は唯一と言える、自分の知っている歌を歌い始めた。

 

「ねぇ。その歌は?」

 

「・・・わからない。でも、何処か懐かしい歌だから」

 

少女がこの歌を知ったのは、島での事だ。あの時、あの光景を見た時、誰かに抱かれた際に聞いた歌。少女はその歌を歌い続けた。何もしないでただ飛んでいるよりは、気分が晴れるものだ。

 

少女はその歌を歌っていた。やがてナオミも歌の一部を覚えたらしく、少女と共に歌う。コックピット内で二人だけのミニ合唱が始まった。

 

暫くして少女は歌うのをやめた。そして名もなき島での出来事。あの時見た光景を考えていた。

 

あの時見た光景。あれは一体何だったのか。夢か現実か。よくわからないのだ。

 

だが彼女は、あれが気のせいや見間違いで放り出す事がどうしても出来なかった。

 

それはもう一つ気になることがあったからだ。

 

洞穴から出た際に、一瞬だけ見えた人物。右目に傷のある、黒装束の男。彼女は島で長い間暮らしていた。だから自分以外の人間がいない事は理解していた。

 

ならばあれは一体何だったのだろうか。

 

(・・・あれは一体・・・なんだったの・・・)

 

「?どうしたの?体調でも悪いの?」

 

突然黙り込んだ少女に何か不安を感じ、ナオミが声をかけた。

 

「・・・別に、ただ少しね、考え事をしてただけだから・・・」

 

少女は、はぐらかす風に言った。

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。突然目の前の空間に穴が開かれた。

 

「え?なにあれ・・・」

 

突然空間に開かれた穴。少女は目の前の光景が理解できないでいた。しかしナオミは目の前の光景が理解できていた。

 

そして次の瞬間、穴からそいつらは現れた。トカゲに翼の生えた様な姿をしている。

 

少女は島であのような生き物を見た事がない。だがナオミはその正体を知っている。

 

「ドラゴン・・・」

 

ドラゴン。次元を超えて現れる謎の巨大生物。

 

Dimensional

Rift

Attuned

Gargantuan

Organic

Neototypes

 

これらの頭文字をとってドラゴンと名付けられた。行動原理など一切が不明なその存在である。何故この世界に現れるのか、何が目的なのか。その他殆どが不明である。

 

唯一わかる事。いや、理解できる事がある。それはこいつらが、こちらに敵意を持って襲いかかるという事だ。

 

現に次の瞬間には、ドラゴン達はこちらに狙いを定めたようで、二人めがけて襲いかかってきた。

 

「危ない!!」

 

ギリギリの所で上昇する。何とかしてドラゴンと距離をとろうとするものの、ドラゴン達はこちらにぴったりとくっついてくる。

 

「こんなところで死んでたまるか!」

 

少女は必死になって逃げ出した。しかしその背後をドラゴン達が追いかけてくる。ナオミは頭を抱えて震えていた。テストの時、墜落した時の事を思い出す。ナオミの頭の中にはあの時の記憶がフラッシュバックした。

 

「あ・・・あぁ・・・」

 

身体の震えが止まらない。ドラゴンの尻尾が機体にぶつかった時のあの衝撃。ドラゴンの荒い息づかい。それらが全身に纏わりつく様な感覚が襲っている。

 

ドラゴンはこちらを捕食しようと機体に喰らいつこうとしている。

 

ドラゴンの咆哮が直ぐ背後に聞こえた気がした。

 

 

 

その時だった。

 

突然背後から銃声などが鳴り響いた。それによってドラゴン達は数匹倒された。

 

「なに。今の・・・」

 

「まさか・・・」

 

ナオミは振り返ってみてみた。そこには希望があると予想して。そしてその予想は当たった。

 

そこにはグレイブとハウザー。レイザー。そして

アーキバスの合計7機のパラメイルがいた。

 

「間違いない!あれは第一中隊だ!!」

 

ナオミが喜びながら叫ぶ。

 

「ナオミ!あれを知ってるの!?」

 

喜ぶナオミとは対照的に少女の方は動揺していた。突然また謎の何かが現れたのだ。驚くなと言う方が無理であろう。

 

「うん!あれはアルゼナルか来たんだよ!」

 

「じゃあアルゼナルの場所は・・・って危ない!」

 

少女はドラゴンの放つ火球を避けた。とにかく避けた。

 

一部ドラゴン達は、そちらのパラメイルの方へと進軍して行った。そのパラメイル達は散開して、戦闘態勢に入った。

 

第一中隊の皆はその光景に多少唖然としていた。ドラゴンが現れたから倒しに来たら、そこに謎の機体が飛んでいるではないか。

 

「ねぇ。なにあのパラメイル?」

 

「友軍・・・にしては妙ね」

 

「あんなパラメイル。見た事ないな」

 

皆口々に謎の機体について話している。

 

「司令。戦闘空域に謎のパラメイルが存在しています。あれは援軍か何かですか?」

 

第一中隊隊長のゾーラが司令室に通信を送った。

 

「なんだと?映像を回せ!」

 

アルゼナルの司令室。その司令室のモニターには、その謎の機体の映像が映し出された。

 

「あれが謎の機体か・・・」

 

アルゼナル総司令官のジルがタバコに火をつけながら呟いた。

 

「一体誰なんだろうねぇ。こんな所を飛んでいるだなんて」

 

バンダナを頭に巻いた女性。ジャスミンが言う。

 

「それにしてもなんだい、あの動き。基本がまるでなってない。ただ逃げてるだけじゃないか」

 

アルゼナルの医者であるマギーが呆れた風に戦闘について解析していた。

 

「司令。あれは一体なんですか!?」

 

ジル司令の隣にいた女性。エマ監察官がジル司令に問いかけた。

 

「・・・さぁ。まぁこんなところを飛んでるんです。少なくてもまともな存在ではないでしょう」

 

そう言うとジル司令は第一中隊に連絡を送った。

 

「第一中隊。その機体に関してはこちらに仕掛けてこない限りは放っておけ。その機体をどうするかに関しては後に指示を出す事とする」

 

ジル司令は第一中隊にそう命じた。

 

「聞いたな。全機、攻撃目標はドラゴンだ!あの謎のパラメイルについては今は放置しろ!」

 

「イエス・マム!」

 

第一中隊の皆はそれぞれドラゴンの迎撃に当たった。

 

ライフルやブレードなど、それぞれのパラメイルが持つ装備でドラゴン達を蹴散らしてゆく。

 

やがて第一中隊に向かっていったドラゴン達は全て殲滅された。

 

「よし!残りのドラゴンはあの謎の機体の後ろにいるはずだ。全機、あの機体の目的がわからない以上、不用意な真似はするなよ!狙いはドラゴンだ!」

 

「イエス・マム!」

 

そう言い皆があの機体の後を追いかけて行った。

 

 

 

一方少女とナオミは相変わらずドラゴン達と追いかけっこをしていた。しかし距離は中々離すことが出来ずにいた。背後からは魔法陣などが展開される。そこから色々な攻撃が飛んできた。

 

ナオミは震えているが、それとは対照的に少女は

冷静であった。彼女はある事を考えていた。

 

(・・・同じだ。島と・・・)

 

昔、島の森で狩りをした時を思い出していた。熊がこちらの手に入れた魚を強奪したのだ。それを熊から奪い返した。すると熊は怒り狂って襲いかかってきた。

 

彼女は最初は逃げた。その背後から熊がピッタリとくっついて迫ってきたが、やがて熊がバテてきた頃、少女は熊に体当たりをした。疲れてフラフラだった熊はものの見事に後ろへと倒れこんだ。そして背後にあった岩に頭を強く打ち付けて動かなくなったのだ。

 

「・・・やるしかないか・・・」

 

第一中隊が謎の機体を捉えた頃、少女はある覚悟を決めた。相手を熊だと思う事にした。無意識にスティック型のコントロールユニットを握る手が強くなる。

 

「ナオミ!目を閉じて!」

 

そう言った次の瞬間、少女は機体を180度回転させた。そして機体を加速させた。

 

「え!?なにするの!?」

 

最初ナオミは困惑していた。彼女は更に機体を加速させる。やがて彼女の狙いがわかり、再び困惑した。

 

「え?ちょっ、ちょっと!!落ち着いて!!!」

 

目前にはドラゴンが迫ってきていた。

 

「ここからいなくなれぇぇぇっ!!!」

 

次の瞬間、二人の乗る機体はドラゴンの身体へと突っ込んだ。そしてドラゴンの身体を貫いた。コックピット部分が剥き出しなため、ドラゴンの血が二人に飛び散った。

 

驚いた事に機体の方は無傷に近い。本来あのような事をすれば爆発してもおかしくないはずなのに、機体はそんな気配を微塵も感じさせなかった。

 

これには流石に驚いたのか、ドラゴン達はその場で大きな咆哮を上げていた。少女はなおもドラゴンの群れに機体を突っ込ませる事によりドラゴン達を倒していった。

 

普段の彼女は比較的冷静だが、仮に打つ手がなくなると、直感で何かをするようだ。金庫の中身を頂く為に、ダイヤルを回したりテコなど道具を使ったりするが、それらがダメだと判断すると、金庫を拳で壊そうとしたり、挙げ句の果てに金庫ごと盗んでいくタイプの様だ。

 

「おい!!あんなのありかよ!!!」

 

あまりにも予想外の事態の為にその場に居合わせた機体のパイロット達は驚いていた。まさか武器を使わずに機体を突っ込ませる事によってドラゴン達を撃退するとは・・・あまりにも予想外であった。

 

彼女達にとってその戦い方はまさに無茶苦茶である。訓練を受けた人間の戦術とは程遠い。

 

そしてそれを見ていた司令室はまさに開いた口が

塞がらなくなっていた。

 

「おいおいおい!!機体で突っ込むって、あんなのありかい!?」

 

「思い切りはいい様だね。あの機体のパイロットさんは」

 

「あの機体・・・本当にこの世のものか・・・?」

 

ジャスミン以外、皆が驚愕していた。オペレーターの3人などあまりの衝撃的な戦い方を見たせいで意識が吹き飛んでいる。

 

戦闘において、教本通りの戦闘をするものは弱い。だがこれは予想を180度どころか540度反対側である。武器が機体そのものとなっているのだ。

 

「と、とにかく!私達も残りのドラゴン達を倒すぞ!!全機!とにかくあいつの事は今は全力で無視するんだ!!」

 

「イ、イエス・マム!」

 

第一中隊の皆は明らかに動揺しつつも、何とかドラゴン達を倒していった。意図せずともお互いがドラゴンと戦っていた為、協力関係が自然と発生したようだ。

 

「ラスト!」

 

最後に、周りのドラゴンよりちょっと大きいドラゴンに少女は突っ込んだ。機体はそのドラゴンの身体を難なく貫いた。そのドラゴンは断末魔とともに海へと落下していった。

 

こうして全てのドラゴンが殲滅された。

 

「ふうっ〜〜」

 

命のやりとりを終えた後の安心からか、少女もナオミも胸をなでおろし、安息の息が漏れた。

 

そんな謎の機体を第一中隊は只々見ていた。

 

「ゾーラ。その所属不明機を鹵獲しろ」

 

ジル司令から連絡が来た。

 

「了解。さてサリア。あんたがあの機体に通信を送りな」

 

「ええっ!私がですか!?」

 

「あぁ。隊長命令だ」

 

「・・・イエス・マム」

 

渋々だがサリアはこれを承諾した。

 

「・・・え!?」

 

二人が外を見た。するとこの機体を包囲するかの様に他の機体が囲んでいた。更にその機体の武器の銃口は全てこちらに向いていた。

 

「そこの所属不明機に告げる。私はアルゼナル第一中隊副長のサリアよ。まずドラゴンの撃退協力には感謝する。だが今からはこちらの指示に従ってもらう。拒否権などそちらにはない」

 

音声だけの通信越しに、命令するかの様な口調で

内容が告げられた。

 

「サリア!サリアなの!?」

 

通信相手を知っているナオミが通信に出た。

 

「えっ・・・ナオミ!?貴女、無事だったの!?」

 

サリアの言葉に第一中隊の皆が驚いた。

 

「ナオミだって!?」

 

「えっ!?ナオミちゃん!本当にナオミちゃんなの!?無事だったのね!よかった!」

 

「あんた。てっきり死んだと思ってたけど・・・

生きてたんだな」

 

「いきてる!私生きてるよ!全部この人のおかげだよ!」

 

ナオミは少女に通信させた。

 

「彼女を保護した。だからアルゼナルに用事がある。よかったら案内してほしい」

 

「・・・わかったわ。付いてきなさい」

 

そう言うとサリアは通信を切った。

 

「よかったわねナオミ。アルゼナルに帰れるようで」

 

「うん!」

 

(元気な様ね。さっきまでドラゴンに震えてたのが嘘みたい・・・)

 

少女はナオミの元気な様子に胸をなでおろした。

 

「・・・ってウォ!」

 

お互いの姿を見て驚いた。なんと互いに血塗れ状態であった。

 

もっとも、この血は全部、ドラゴン達の血なのだが。なんせドラゴン達に機体を突っ込ませたのだ。さらにコックピットは剥き出し状態である。

 

その血が命のやり取りをしていたと強調している。

 

「とにかく一度アルゼナルに帰還するわ。二人とも付いてきなさい。・・・言っておくけど、変な事をしたら直ぐに撃ち落とすから」

 

前後左右にグレイブとハウザーが回り込んだ。絶対に逃がさない様に包囲されたというわけだ。

 

こうして二人は第一中隊に半ば連行される形で

アルゼナルへと進路を進めた。




次回からアルゼナルが舞台になります。

とりあえずアニメ本編はもう2.3話後に突入予定となります。


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第4話 辿り着いた地獄

 

第一中隊に半ば連行される形で二人は飛行していた。やがて、とある人工物が見え始めた。

 

「アルゼナル。アルゼナルだ!」

 

ナオミが喜びながら言う。

 

「え?あれがアルゼナルなの・・・」

 

少女の方はその見た目に戸惑っていた。アルゼナル。【兵器工廠】の名を持つ施設。その見た目を一言で言うならば無骨だ。岩礁の上に無理矢理基地を建てたみたいである。はみ出ている滑走路に滑り込むと、そのまま発着デッキに機体は滑り込んだ。

 

「アルゼナルに着いた様ね。降りなさい」

 

少女に言われ、ナオミは機体から飛び降りた。

 

「ナオミ!」

 

「ナオミだ・・・本当にナオミだ!」

 

降りた次の瞬間、二つの声がナオミを呼んだ。声の主達の方を向いた。そこにはナオミが会いたかった人物がいた。

 

「ココ!ミランダ!」

 

お互いがそれぞれに向かい走り出した。

 

「よかった・・・ナオミが、生きてた」

 

「本当に・・・本当に心配したんだよ・・・」

 

二人とも泣いていた。ナオミも泣いていた。

 

「ただいまココ。ただいまミランダ」

 

「お帰り。ナオミ」

 

「ねぇ。確かテスト中にドラゴンに襲われたんだよね!?」

 

「うん。でもあの後流れ着いた島で、あの子に助けられた。そしてあの機体で私をここまで送ってくれたんだよ」

 

そう言い後ろを振り返った。そしたらあの機体はバックしていた。少女からすればアルゼナルに来た理由はナオミを送り届ける為である。送った以上ここに用事はない。

 

しかしそうは問屋が卸さないものである。

 

「ヒルダ!ロザリー!取り押さえろ!!」

 

ゾーラ隊長の指示の元、まだ機体に乗っていたヒルダとロザリー。二人のパラメイルのグレイブが人型へと姿を変え、その機体を取り押さえた。

 

「野郎!降りてこいってんだ!」

 

ロザリーが勇んでその機体のコックピットに乗り込んだ。次の瞬間、その機体のコックピットからロザリーと少々が放り投げ出された。

 

ロザリーの上に乗っかっていた少女は慌てて距離をとった。保安部達は彼女を囲むように展開した。

 

「グルルルルルル」

 

少女は身を屈めながら低く唸り声をあげて相手を威嚇している。それは狩りをする野生の獣の姿に似ていた。先程までの理性的は部分が鳴りを潜めている。

 

「銃は使うな。警棒で取り押さえろ!」

 

保安部達が総出でジリジリと少女に迫っていった。全員の手には特殊警棒が握られていた。

 

「ガウゥッ!!」

 

次の瞬間、彼女は保安部の一人に飛びかかり腕に噛み付いた。一瞬にして発着デッキが戦場へと変貌を遂げた。

 

保安部総出でその少女の取り押さえ様とするが、彼女は保安部達が言葉通り束になってかかっても、全く寄せ付けない強さを持っていた。

 

「こいつ!大人しく・・・」

 

【ドスッ!】

 

「グェッー!!」

 

「こら!暴れるんじゃ・・・」

 

【ボキッ!】

 

「ギャッー!!」

 

「大人しくなさい!さもないと・・・」

 

【ドガ!バギ!ベギ!ボガ!】

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!ビギャー!!」

 

嫌な音と共に、保安部達の断末魔が虚しくその場に響いた。

 

やがて辺りはシーンと静まり返った。

 

そして第一中隊のメンバーは全員が呆然としていた。目の前の光景がとても受け入れられなかった。

 

そこにジル司令とエマ監察官が駆けつけて来た。

 

「おい!!一体何事だ!!!」

 

「な、な、な・・・何ですか!?この惨状は!!!」

 

ジル司令とエマ監察官が見た光景。

それはたった一人の少女によって全員ダウンした保安部達の屍(生きてます)の山であった。そしてその山の上に血塗れの少女が一人佇んでいた。驚かない方が異常である。

 

「お前があの機体のもう一人の乗り手か」

 

「ガルルルルル」

 

少女はジル司令にも低く唸り声をあげながら睨みつけている。今にもジル司令に飛び掛かりそうだ。

 

この時ナオミは少女の行動理由を理解した。

 

(そうか。彼女はたった一人島で育った。だからいきなり沢山の人が現れた事に驚いてるんだ!それで

警戒して・・・)

 

「大丈夫だよ!びっくりしたと思うけど、この人達は信頼できる安全な人なんだよ!」

 

ナオミが少女に抱きつき、宥めるように言う。

 

「・・・わかった」

 

そう言うと少女は警戒を解いた。少なくても今は

もう戦う意思はないという事である。

 

「ナオミ。そいつは一体何者だ。説明しろ」

 

「ジル司令。彼女について説明する為に、場所を変更する事を望みます。後、人も少ない方がいいと思います」

 

「・・・よかろう。付いてこい」

 

ジル司令はそう言うと踵を返していった。

 

「大丈夫、付いてきて」

 

ナオミは少女の手を引っ張っりながらジル司令の後をついていった。

 

その場には第一中隊の皆が取り残された。

 

「あの子。髪ちょーなげぇー!」

 

「にしてもすげぇなぁ。まさか一人で保安部全員を半殺しにするだなんて」

 

「ぼやくなお前達。こいつらを運び出すのを手伝え」

 

そう言うと第一中隊はその場に散らかる保安部達の屍(生きてます)を集めると、医務室へと運び始めた。

 

 

 

ナオミ達はある部屋へと入っていった。エマ監察官は外で待機となった。そこには少女とナオミ。そしてジル司令の三人だけである。

 

部屋に入るなら少女とナオミにタオルが渡された。二人はドラゴンの血に塗れていた。それを拭けという事だ。

 

そして拭いた後、少女にはマントの様なものが渡された。少女の身体はボロボロの布切れを胸と下半身に纏っているだけの姿だった。しかもそれが先程の保安部との戦闘で全て破けたのだ。つまり全裸である。

 

床屋などで髪を切る際につけられるのマントを想像してほしい。少女の見た目は見事なてるてる坊主となった。

 

「さてと。まずナオミ。その少女は何者だ」

 

「はい。彼女は私がパラメイルの実機テストで墜落した後、流れ着いた島に住んでいてそこで出会いました」

 

ナオミはジル司令に少女について簡単に説明した。彼女が一人で生きてきた事。彼女があの機体の所持者であるという事。彼女は名前が無いという事。彼女のお陰で私は助かったという事。それらの全てをありのままに話した。

 

「大体の話は理解した」

 

ジル司令はそう言うとポケットからタバコを取り出し、一服した。

 

「まず君。手荒な真似をしてすまなかったな。許してくれたまえ。まさかその様な事が起きているとは予想外だった」

 

ジル司令は少女に謝罪した。

 

「それで君は、その名もなき島と言う所から来たのだな」

 

「・・・えぇ」

 

「色々と聞きたい事がある。順番に聞いていこう」

 

ジル司令は咳払いをすると聞き始めた。

 

「まず最初に、あの機体を一体どうやって手に入れた。まさか作り出した訳ではあるまい」

 

「・・・揺りかごの事?」

 

「揺りかご?」

 

皆が首を傾げた。

 

「・・・その揺りかごをどうやって入手した」

 

おそらく少女の言う揺りかごはあの機体の事であると判断し、揺りかごで聞いてみる事にした。

 

「・・・あそこで私は産まれた」

 

「・・・はい?」

 

再び首を皆が傾げた。

 

「つまり君は気がついたらそこにいたという事か?」

 

「・・・はい」

 

「すまんが一名この部屋に追加させて貰う」

 

そう言うとジル司令は部屋の外へと出た。そこでエマ監察官と何かを話していた様だ。やがてエマ監察官が何処かへと走っていった。そして戻ってきた。一名追加して。

 

「その子かい?例のパイロットは」

 

そこにはアルゼナルの医者であるマギーがやってきた。

 

「あぁ。その通りだ。彼女の言う事は私の常識の外にありすぎる。こういうのは私よりお前の方が向いているだろう」

 

「それで私を頼ったのか。任せな。それじゃあ診断してやるよ」

 

そう言うとマギーは少女の目の前に座った。

 

「・・・」

 

少女は目の前のマギーを睨みつけた。

 

「そう警戒しなさんな。リラックスして答えりゃいい」

 

その後マギーはカウンセリングの様なのものを少女に行った。暫くしてマギーは黙り込んでしまった。

 

「・・・こりゃあ手を焼くなぁ」

 

「おっおい。マギー!」

 

そう言うとマギーは勝手に部屋から出て行った。

それを追いかける様にジル司令も部屋を後にした。

 

 

 

部屋の外にて。

 

「どうだったんだ。あの少女は」

 

ジル司令が単刀直入に聞いている。

 

「まぁ大体聞き出せたね。まずあの子が所持する

記憶は今から約十年前のものまで所持している」

 

十年前と言う言葉にジル司令の顔色が一瞬険しくなった。だが直ぐに元の面持ちを取り戻した。

 

「だけど。その十年より前は一切記憶を持ってない。いや、正確に言うなら、シャットダウンしてるね」

 

「シャットダウン?どういう事だ」

 

「あんただってわかるだろ?機体が子供を産むわけない。そしてあの子の言う十年間の記憶に偽りはない。ならその十年以上前に誰かがあの子を機体に入れた事になる。そしてその事を少女は無意識の内に遠ざけようとしている。つまり記憶として思い出さないように自然とロックしているってわけさ」

 

「なるほど・・・ご苦労だった。マギー」

 

そう言いジル司令は部屋へと戻った。そこで少女の措置について決定した。

 

「とにかくこの少女については、現段階ではまだどうするかその処置が決まっていない。よって安全性も考慮して別室へ隔離する事にする」

 

そう言うとジル司令は少女の手を引いてこの部屋を去った。ナオミはマギーによって医務室へと連れ込まれた。

 

 

 

やがて彼女は部屋とは名ばかりの反省房へと入れられた。特に少女は抵抗せず、すんなりと入った。

 

「窮屈だと思うが、今日一日だけ我慢してくれ。食べ物なら机の上に置いてあるし飲み物なら蛇口を捻れば出てくる。朝になったら起こしにくる。その時に処遇を伝える」

 

そう言うとジル司令はその場を後にした。少女だけがその場に残された。

 

「ドサッ」

 

少女は床にバッタリと倒れ込んだ。様々な出来事が起きて疲れていたのだろう。そのまま床に死んだ風に眠りついた。

 

 

 

「エマ監察官。どうでした?彼女は?期待通りノーマでしたか?」

 

外で待機していたエマ監察官に、何処か皮肉めいた口調でジル司令が尋ねる。

 

「ええ。ノーマでした。安心しましたよ。人間ではなくて」

 

そう。このアルゼナルはとある事情により、世界においてはトップシークレットクラスの秘密の場所なのだ。そんな場所にマナの人間がやってくれば機密保持の為に口封じをするしかない。

 

簡単に言えば殺さなければならないのだ。

 

「・・・ジル司令。なぜ彼女は島で一人生きてきたのでしょう」

 

エマ監察官の一言にジル司令は驚いた様な顔をした。

 

「意外ですね、エマ監察官。貴女がノーマを気にかけるとは」

 

「そういう訳ではありません。ただ気になっただけです。捨てたにしては随分と手が凝っていますし。何よりアルゼナル以外でパラメイルなどを装備している組織があると言うのでしょうか?」

 

「・・・さぁ。私にはわかりませんね」

 

パラメイルを所持している組織。ジル司令には一つだけ予想があった。そして彼女が何故島で一人暮らしていたのか。それも予想がついた。しかしそれを表面には出さず、タバコを吸い始めた。

 

(あいつ・・・彼等の生き残りか?)

 

「エマ監察官。手続きの方はよろしくお願いします」

 

そう言うとジル司令はその場を後にした。

 

 

 

アルゼナルの食堂。ここでは第一中隊のメンバー達が集まって食事をしていた。ナオミの生還祝いである。

 

「じゃあココとミランダのパラメイルも届いたんだね」

 

ナオミが言う。そう。今日の戦闘でココとミランダの二人がいなかったのは、二人の機体がまだ届いていなかったからである。そして二人の機体は今日

ロールアウトされたのだ。

 

「うん。これでやっとメイルライダーだよ!」

 

「メイルライダーになっても、ナオミとココのお守りをしないといけないのかぁ」

 

「またぁ、ミランダはそんな事を言って」

 

皆で軽く談笑していた。

 

「そう言えばナオミ。マギーの検査はどうだったんだい?」

 

「うん。そっちの方は大丈夫だったよ」

 

あの後ナオミは医務室のマギーの元で様々な検査を受けたのだ。墜落した際にメイルライダーとしての適性が損なわれていないかを検査するためである。

 

幸いな事に検査に問題はなく、メイルライダーの

資格を剥奪される事はなかった。

 

「それにしてもあの女。随分と強いじゃないか」

 

ヒルダ達が発着デッキでの出来事に話を移す。

 

「なぁナオミ。あいつは一体何者なんだ?」

 

「あの子は、島で一人育ったらしいよ」

 

「島で一人暮らしねぇ。そりゃあたくましく育つわけだ」

 

「ここにいたか、ナオミ」

 

不意に名前を呼ぶ声がした。振り返ってみるとそこにはジル司令がいた。

 

「ナオミ。お前には明日から彼女の教育係を務めてもらう」

 

突然告げられた内容に、ナオミは直ぐに反応することが出来なかった。

 

「・・・えっ?私がですが?」

 

「ジル司令。教育係なら私が」

 

ゾーラ隊長が我こそはと立候補した。

 

「何を教える気だ?ベットで女を喘がせるテクニックか?それとも必ず相手をイかせるやり方か?」

 

「見抜かれてましたか・・・」

 

実はゾーラ隊長はレズビアンなのだ。その為に彼女の事も襲おうと考えていたようだ。

 

「あの、よろしいのですか?彼女は島が沈んで、

新たに住む島を探していましたけど・・・」

 

「検査の結果、あいつはノーマだと判明した。知っているだろう。ノーマの居場所はここしかない。そしてあいつは、今の段階ではおそらくお前にしか心を開いていない。下手な奴をぶつければ今日の乱闘の繰り返しになるだけだ」

 

「なに。教えろと言っても必要最低限の一般常識程度で十分だ。成功報酬は今回の借金の全額免除だ」

 

「え?・・・借金?」

 

ナオミは当初言葉の意味が理解できなかった。

 

「知らんのか?ナオミ。お前はテスト用のグレイブを損失した。その分の借金だ。言っておくが額は1000万キャッシュだ」

 

「・・・・・・・・・イッセンマンンンンンッ!?

 

「ひっ!」

 

ナオミが普段出さないような変な声を出した。その声には第一中隊の皆が驚いた。

 

「そうだ。1000万だ。新兵のお前に返せるアテがあるのか?」

 

「ア・・・アイアウエア、ウアアオウオア・・・」

 

開いた口が塞がらなくなっていた。さらに目が虚になっている。やがてナオミは力なく椅子ごと後ろにばったりと倒れこんだ。

 

「ナオミ!?大丈夫!?しっかりして!」

 

「ほら!深呼吸して、深呼吸!後せめて股だけでも閉じて!」

 

皆でナオミを介抱する。

 

「これは命令であり訓練だ。断れば100万キャッシュの罰金では済まさんぞ」

 

「・・・・・・イエス・マム」

 

長い沈黙の後、ナオミは力無く返事をした。

 

「そうか、では明日から頼むぞ」

 

そう言うとジル司令は食堂を後にした。

 

「お前、いきなり借金スタートじゃないか」

 

「まぁナオミちゃん。頑張ってね。手伝える事があったら手伝うから」

 

様々な視線がナオミに向けられた。憐れみの視線。温かな視線。興味の視線。少なくても三つとも気持ちの良いものではなかった。

 

 

 

 

食堂でそんな事が起きてるとはつゆ知らず、反省房の中で少女は一人静かに夢を見ていた。

 

(ここ・・・どこ・・・)

 

そこは外であった。空を見上げてみると月が顔を出している。少女は自分が外にいる事を理解した。そして同時に、自分が夢を見ている事も理解した。

 

そこは森のようだ。近くの木に寄りかかるように座る。そこで彼女はこれまでの事を考えていた。疲れで直ぐに眠ってしまったが、考えればかなり驚かされる事の連続であった。

 

(突然現れたナオミ。見たことのない大きな生き物。沢山の揺りかごに沢山の人との出会い・・・そして何より、コックピットで見たあの光景。そして歌)

 

一体何がどうなっているのか。それらがわからないでいた。しかし強烈な眠気と疲れが少女に襲いかかってくると、彼女はうつらうつらし始めた。

 

(変なの・・・夢の中でも眠ろうとするだなんて・・・それにしてもこの森・・・何処か懐かしい・・・)

 

そう思いながら、再び彼女は眠りについた。眠りに着く直前、少女の耳にある言葉が聞こえた。

 

「アルゼナルで生きるんだ」と。

 

そして少女が眠る木の背後からある男が現れた。右目に傷のある、ローブ姿の男である。その男は少女の寝顔を覗き込んだ。きっと他人には見せないだろう、可愛らしい無防備な寝顔であった。

 

「それで良い。眠りは誰にでも平等に与えられる安心と安らぎの時間。たとえそこが、皆が言う地獄であっても、寝ている時だけは安らげるというものだ」

 

そう言うと男はその場から姿を消した。

 

その場には、木に寄りかかりながら寝る彼女だけが残された。

 

 





次回で主人公の名前が決定します。

正月三が日も今日でおしまいか。皆様はどのように過ごしましたか?

私は主人公の名前を考えて過ごしましたね。


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第5話 初めての勉強

 

「んんっ」

 

眠りから少女は目覚めた。

 

鉄格子越しに窓の外を見て見ると、海の奥がほんのりとだが赤くなっている。そろそろ太陽が顔を出す頃だ。

 

「・・・そうだ。私、今アルゼナルにいるんだ」

 

昨日は疲れていたから考えなかったが、彼女はアルゼナルにいる事を思い出した。そして現在、見事に閉じ込められていた。

 

試しに鉄格子を押してみた。当然ながら鍵がかかっており開くはずもない。今度は思いっきり力を入れて折ろうとする。しかしそんな事で鉄が折れるはずもない。

 

少女はやがて床に大の字になって寝転がった。今出来ることは何も無い。ならばじっとして転機が訪れるのを待つ。島での教訓の一つ。台風などが迫ってきたら洞穴に潜みじっとしている。それと同じだ。

 

彼女は天井を眺めていた。何か変化などが起きる事も少し期待したが何の変化も見られなかった。

 

「早いな。もう起きていたのか」

 

しばらくして不意に声がした。振り向くと鉄格子越しにジル司令が立っていた。

 

「・・・」

 

少女は身を低く屈めた。いつでもジル司令に飛び掛かれる様に構えている。

 

「そう警戒するな。別に私は何もするつもりはない」

 

そう言うとジル司令が扉を開かた。

 

「出ろ。お前の処遇について教えてやる」

 

そう言うと少女はある部屋へと招かれた。ジル司令と机越しに顔を見合う形で椅子に座る。

 

「さて。本題に入る前に一つ聞いておく。マナと

ノーマを知っているか?」

 

「・・・なにそれ」

 

「やはり知らないか。まぁ島で一人で暮らしていたら仕方ないのかもしれないがな」

 

ジル司令は一つ溜息を吐くと本題を切り出した。

 

「単刀直入に言おう。ここに住め。生きていくにはそれしか道はない」

 

「どういう事?」

 

「お前はノーマだ。ノーマの居場所はここにしかない」

 

「・・・わかった」

 

それは意外な答えであった。彼女はジルの命令とも言える理不尽な内容を承諾したのだ。

 

「ほう。意外に素直じゃないか」

 

「別に。ただ闇雲に島を探すよりは、ここに住めるならここに住んだ方が良いと判断しただけよ」

 

「ナオミから聞いた。ドラゴンを倒して生きる。

それがアルゼナルの生き方だって。島でしてた狩り生活と殆ど変わりないわ。周りが賑やかになるだけ。慣れれば平気でしょうね」

 

少女は毅然とした態度で答えた。

 

「まぁいい。それではまず名前を決めるとするか」

 

そう言うとジル司令は黙り込んだ。そしてしばらくの間、少女を眺めていた。

 

(そう言えばこいつ、今は布切れ一枚だったな。その布は確か生糸で作られてたな)

 

(生糸・・・シルク・・・)

 

ジルがタバコを口から話した。口からは見事な輪の形をした煙をフィーと吐き出した。

 

(シルク・・・フィー・・・)

 

やがてジル司令は何かを思いついた様に立ち上った。

 

「よし、今からお前は【シルフィー】だ」

 

「シルフィー?」

 

「そうだ。シルフィーだ。不満か?」

 

「別に・・・」

 

少女からすれば名前など意味のないものに等しい。これまで誰にも呼ばれる事もなかったからだ。

 

「ではまず手始めに、その腕輪を渡してもらう」

 

「えっ?」

 

不意に言われた言葉に、彼女は反射的に右腕の腕輪を抑えた。

 

「悪いがアルゼナルに来たノーマの所持品は全て

没収する。それがここでのルールだ」

 

は最初は嫌そうな顔をしていたがやがて諦めた風にシルフィーは右腕にある腕輪をガチャガチャし始めた。

 

「・・・あれ?」

 

腕輪を外そうとしたシルフィーは異変に気がついた。

 

「どうした?」

 

「取れない」

 

「何だと?」

 

試しにジル司令が腕輪を取ろうとした。だが腕輪はビクともしなかった。まるでコンクリートを引っ張ってる様な感覚である。動く気配、いや、それ以前に手応えさえ感じなかった。

 

数分後。

 

「はぁっ。はあっ。はあっ。はあっ」

 

ジル司令が息を荒くしている。あの後、必至に腕輪を外そうと努力したらしい。最も、それらは全くの徒労に終わったようだ。

 

「なぁ、今までも腕輪が外れなくなる事があったのか?」

 

「・・・そもそも腕輪を外そうなんて、考えた事なかった」

 

「仕方ない。腕輪はつけててよろしい」

 

ジル司令はタバコを取り出し一服した。疲れたから休憩のつもりなのだろう。

 

「では次に髪を切らせろ。あまりにも長すぎる」

 

シルフィーの髪は現在床にまで垂れている。そして歩くたびに床を引きずっている。

 

彼女を立たせると背後に回り込んだ。ポケットからハサミを取り出すと長い髪の一部を鷲掴みにした。

 

「・・・腰まであれば十分だろ」

 

【チョキチョキチョキ】

 

背後から金属の擦れる音がする。それと同時に徐々にだが後頭部が軽くなっている様な気もする。

 

「これくらいでいいだろう」

 

ジル司令が髪の毛の入った袋を目の前に見せつけてきた。かなりの量が入っている。これでまだ腰まで残っているのだ。どれだけ長かったのかがはっきりとわかるレベルだ。

 

「さて、まずここで住む以上、お前は常識などを知らなければならない。そこでだ、入れ」

 

すると背後の扉が開いた。振り返って見るとそこにはナオミがいた。

 

「シルフィー。こいつがお前の教育係だ」

 

「シルフィーだっけ。改めて紹介するね。私はナオミ。アルゼナル第一中隊のメイルライダー。よろしくね」

 

そう言うとナオミは右手を差し出してきた。

 

「よろしく」

 

少女はナオミの手を握ると握手した。

 

「ナオミ。最低限で大丈夫だ。だからきっちりと頼むぞ」

 

そう言うとジル司令は大量の髪の毛の入った袋を持って部屋を後にした。その場にはシルフィーとナオミだけが残された。

 

「まず朝食。まだ食べてないでしょ?食堂行こう」

 

そう言うとナオミは部屋を出た。シルフィーもそれに続いた。

 

やがて人の多い所へと出た。

 

「ここが食堂。まぁ簡単に言えば食べるところだね。シルフィーはここで座ってて」

 

そう言うとナオミは列に並んだ。シルフィーは座っている間、周りからの視線を感じていた。それらの殆どが物珍しさ故の視線である。そしてシルフィーも周りをキョロキョロしている。島で一人生きてきた彼女にとっても、沢山の人というのは物珍しいのだ。

 

やがてナオミが戻ってきた。両腕にはプレートを持っている。

 

「これがここでの食事。所謂ノーマ飯」

 

ナオミはプレートの一枚を差し出してきた。そこにはパンとサラダ。そしてスープなどが置かれていた。

 

それらはシルフィーにとっては未知の食材だ。だが彼女もそれらが食べ物である事は理解できているようだ。

 

「・・・食べていいの?」

 

「もちろん」

 

その言葉に少女の顔が少し明るくなった。少女の手がサラダへと向かって伸びる。それを慌ててナオミが止めた。

 

「違う違う違う!!これ!スプーン!これを使って!!」

 

シルフィーの前にスプーンが差し出された。

 

彼女はしばらくそれを眺めていたが、やがて周りをキョロキョロ見回し始めた。そしてスプーンの使い方を真似し始めた。

 

(ううっ。これは一苦労するなぁ・・・)

 

ナオミは心の中でぼやいていた。

 

「よぉナオミ。例の新入りの教育かい?」

 

すると背後から声がした。振り返って見てみると、そこにはヒルダとロザリーとクリスの三人がいた。

 

「よぉ。新入り。昨日は見事な暴れっぷりだったなぁ」

 

ヒルダ達三人は少女の前に腰掛けた。彼女は三人の顔を一通り見ると食事を続けた。

 

「おいおい。人見知りか?良くないぜ。そういうのは」

 

そう言うとロザリーは少女の皿からパンを取り上げた。

 

「これもーらい」

 

「やめなよロザリー。かっこ悪いよ」

 

「なんだよクリス。自分だけいい子ぶるのか?」

 

「いや、そういう訳じゃないけど・・・」

 

茶髪の少女がロザリーで、大人しそうな水色の髪の少女がクリスである。シルフィーは右手をロザリーの前に出した。

 

「・・・返して」

 

「へっ!ここではな、欲しいものは力づくで奪うんだ。だから返して欲しけりゃ力づくで奪い返して・・・」

 

言い終わる前に、見事な右ストレートがロザリーに襲いかかった。その時衝撃でロザリーが軽く吹き飛んだ。シルフィーがロザリーにパンチをかました。その光景に食堂にいた人達の空気が一瞬で凍りついた。

 

「ちょっと!シルフィー!」

 

「て、テメェ!やりやがったな!」

 

「力づくで奪うのは島での暮らしと同じだから」

 

そう言うと少女は奪い返したパンを食べ始めた。

 

「テメェ!!」

 

ロザリーは殴りかかろうとする。それを見たシルフィーは警戒心をより強めた。

 

「ロザリー落ち着いて!それに今回はロザリーが

原因だよ!」

 

「うっ!それは・・・」

 

ナオミに正論を言われ、ロザリーはグウの根も出なくなった。

 

「シルフィーも!ちゃんとロザリーに謝って!ごめんなさいって」

 

「・・・ごめんなさい」

 

この時シルフィー、意外に素直であった。

 

「へぇ。ナオミの言うことなら聞くってわけか」

 

後ろで眺めてたヒルダが口を開いた。特にシルフィーは特に反応を示さない。

 

「新入り。一つだけ教えてやるよ。ここはアンタのいた島じゃない。その事を自覚しないと、いつか痛い目見るよ。それだけは覚えておきな」

 

そう言うとヒルダとロザリーとクリスはその場を後にした。シルフィーは特になにも思うところもなく食事を続けた。

 

「ねぇシルフィー。直ぐに手を出しちゃダメ。まず話し合って、わかった?」

 

「・・・」

 

シルフィーはそれには何も返事をせずに、ただ食事を食べ続けた。

 

「あらあら。ヒルダちゃん達ったら。ごめんなさいね」

 

「あー!昨日の人!アルゼナルに住むの!?」

 

今度は二人の目の前にピンク髪の巨乳の人と棒付きキャンディーを加えたピンクと赤の混じった色をした髪の少女が二人の目の前に座った。会話から察するに先程の光景を見ていたようだ。

 

「あっ、エルシャ。それにヴィヴィアン」

 

ナオミはこの二人を知っているらしい。どうやら

彼女達も第一中隊の様だ。

 

「ねぇねぇ君!名前なんて言うの!?」

 

棒付きキャンディーを加えた少女ヴィヴィアンが

元気よく尋ねてきた。

 

「・・・シルフィー」

 

彼女は素っ気なく答えた。

 

「いい名前ね。私はエルシャ。第一中隊のメイルライダーよ。よろしくね、シルフィーちゃん」

 

「私ヴィヴィアン!エルシャと同じ第一中隊だよ!よろしく!シルフィー!」

 

「あっ!ナオミ!それにナオミを助けてくれた人だ!」

 

「ココ。ミランダも」

 

その場にココとミランダも集まり、6人で食事が始まった。

 

「へぇ。じゃあシルフィーはその名もなき島から

やって来たんだね!」

 

ヴィヴィアンはシルフィーの島での暮らしに興味津々の様だ。ココも島での暮らしを聞きたがっていた。

 

「外の世界は、魔法の国って聞いたよ!」

 

ココは自分の思う外の世界について話した。ピカピカした建物が並び立つ摩天楼。皆が社交ダンスに

洒落込んでいるそんな魔法の世界。

 

当然そんなものが孤島である名もなき島にあるけない。

 

「・・・別に。多分ここでの生活と大差ないわ。島の動物を狩って食料にする生活をしてたし」

 

「言っておくけど、ドラゴンは倒すけどその肉は

食べないからね」

 

ナオミが念押ししてきた。ドラゴンを倒すが食料はそれではないという事を教えておかないと、彼女は本当にドラゴンの肉を食べそうだからだ。

 

「あら貴女達。まだ食事中だったのね」

 

するとそこにサリアがやって来た。その手にはからの食器などが置かれたプレートを持っている。

 

「貴女達。そろそろ午前の訓練が始まるわ。早く来なさい。ナオミ。貴女はこの子にちゃんと常識とかを教えなさい。それが貴女の訓練よ」

 

「イエス・マム」

 

そう言うとサリアとエルシャとヴィヴィアン。そしてココとミランダは食堂を後にした。

 

食事が終わるとシルフィーはある部屋へと連れられた。ドアプレートには特別教育室とだけ書かれていた。

 

「来たか。待っていたぞ」

 

そこには椅子に座っているジル司令がいた。手には吸いかけのタバコが握られている。それを右手で握りつぶした。ジル司令の右腕は義手なのだ。本物の右腕ではない。

 

「さてと、シルフィー。まずお前にはこれをやってもらう」

 

そう言うとジル司令は何かの入った袋を渡してきた。中身を確認してみると色々な教材が入っている。

 

「まずは読み書きを覚えてもらう」

 

そう言うと猫の描かれたドリルなど様々な教材が

シルフィーの目の前に置かれた。

 

「まずは書いて文字を覚える事だ。上の文字を見ながら同じ文字を下に5回書いてみろ」

 

「ほら。ペンはこう持ってね。それでこうして・・・」

 

ナオミがシルフィーに手本を見せた。シルフィーもそれを真似して書いた。しばらくはそれの繰り返しであった。

 

 

 

 

 

それから時間は流れた。

 

(成る程。知識がなかっただけで知恵はあるようだな)

 

ジル司令が感心していた。シルフィーは字の読み書きを僅か二時間で覚えた。

 

「では最後だ。教科書34ページの第2段落の文を読んでみろ」

 

シルフィーは立ち上がり、手に持った本を読み始めた。

 

「マナとは人類に与えられた幸福の光である。マナによって世界から争いや貧困などの問題、更には環境問題なども解決した。マナは様々な用途に使うことも出来る。こうしてマナによって、人々は幸せな世界を築き上げてきました」

 

「ところが、極稀にマナの使えないノーマと呼ばれる存在が誕生する事が判明した。ノーマはマナの光を拒絶し、マナを破壊する事から、文明の破壊者とされる。その為ノーマは法律によって厳しく管理されなければならない。なお、ノーマは女性にしかならないがその理由は定かではない。ここアルゼナルでは、そんな人間のなり損ないであるノーマ達を、世界の役に立てるように育てていく場所である」

 

ノーマ管理委員会という組織が作り上げた教材だ。ここまで酷い内容だと洗脳教育も真っ青である。

 

「わかったか?マナとノーマ。そしてアルゼナルについて」

 

ジル司令の問いにシルフィーは何処か浮かない面持ちをしていた。何故かこの文を読むと悲しくなるというか。

 

(人間じゃないって・・・そんなこと・・・)

 

「ここにいる人間はただ一人。アルゼナルの監察官であるエマ・ブロンソンだけだ。それ以外はみんなノーマだ。私も、そしてお前もな」

 

少女はその事に何もいわなかったが、不快なものが腹に残る感覚を覚えた。

 

ジル司令が時計を見た。針は短長どちらも12時を

指し示していた。

 

「どれ、ここで昼食休憩を挟むか。一時間後にアルゼナル付近の森に来い」

 

そう言うとジル司令は部屋を後にした。

 

「昼食かぁ。とりあえず食堂に行こう」

 

ナオミに言われ、シルフィーも部屋を後にした。

 

余談だが昼食の際、シルフィーが魚を獲ろうと食堂から海に飛び込もうとしており、それをナオミが必死で止めたのはここだけの話である。

 

昼食が終わると、二人は森へと向かった。既にそこにはジル司令が待機していた。

 

「来たな。午後は野外訓練だ。お前の体力などを

見せてもらうぞ」

 

「まず布を取ってこれをつけろ。いつまでもてるてる坊主姿では不便だろう」

 

そう言うと胸当てと布が渡された。服はサイズなどがわからない為まだ支給されない様だ。少女はそれら掴むとを身に巻きつけた。

 

「ではお前には彼女達の相手をしてもらう」

 

指差す方を見た。そこには知っている顔ぶれが並んでいた。

 

「あー!アイツ!」

 

「あら。シルフィーちゃんが相手なのね」

 

そこにはナオミを除いた第一中隊のメンバーがいた。どうやら彼女達がシルフィーの相手らしい。

 

「ルールは簡単だ。シルフィーは彼女達全員にペイント弾を一発ずつ当てれば良い。そして第一中隊はメンバーの全員が彼女にペイント弾を一発ずつ当てれば勝利とする。なお、勝利者チームには50万キャッシュの賞金を与える」

 

賞金が出ると知り第一中隊がざわつき始めた。

 

「なお、以下の行為は禁止とする。相手を殴る、相手を蹴飛ばす、相手に掴みかかる、相手に噛み付く。とにかく相手に直接触れる事は禁止とする」

 

そう言うとジル司令はシルフィーに銃を投げ渡した。

 

「これを使え。ナオミ。使い方をレクチャーしてやれ」

 

「イエス・マム」

 

そう言うとナオミはシルフィーの方を向いた。するとシルフィーはその銃を様々な角度で見ていた。

しかも引き金には指が添えられている。

 

「ちょ、ちょっと!銃口を覗いちゃダメ!!」

 

【ベチャ!】

 

ナオミが止めようとした次の瞬間、シルフィーの顔にオレンジ色のペイント弾が直撃した。

 

「・・・・・・訓練は30分後に開始とする。それまで各自身体を慣らしておけ!」

 

ジル司令はそう言うとその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ジル司令はアルゼナルの司令室へと帰った。部屋に入るなりタバコで一服し始めた。

 

「ジル。どうだい?例の新入りは」

 

室内にいたジャスミンがジル司令に尋ねる。その側にはジャスミンの愛犬であるバルカンがいた。尻尾を振っている事から上機嫌なのが伺える。

 

「シルフィーの事か。学ぶ機会がなかっただけで

学習能力などは高い。それに島育ちならおそらく

身体能力もかなり高いだろうな」

 

するとそこにエマ監察官がやって来た。

 

「エマ観察官。これから例の新入りと第一中隊の

訓練が始まります。よければご一緒に見ませんか?」

 

「結構です。私はこれからミスルギ皇国、第一皇女アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの洗礼の儀を見るんです」

 

そう言うとエマ監察官は空中に何かを出した。これがマナ。人間が人間である為の絶対条件。マナには大勢の人間が映し出されている。どうやらマナは

テレビの役割も担ってるらしい。

 

そして洗礼の儀が始まった。エマ監察官は喰い入る様にそれを見ていた。

 

しかし暫くして、その顔が突然青ざめた。まるで

信じられない出来事を見ているかの様に。

 

「どうかしましたか?監察官殿」

 

ジル司令が何気なく聞いた。それにエマ監察官は

震えた様な声で答える。

 

「・・・ミスルギ皇国第一皇女・・・アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギが・・・ノーマだと告発されました・・・」

 

「・・・なんだって!?」

 

エマ監察官の情報は司令室を騒然とさせた。

 

(皇室からノーマ・・・これは面白くなるぞ・・・)

 

ただ一人、ジル司令を除いて・・・





主人公の名前はシルフィーとしました。

特に名前に深い意味はない!

次回!遂に彼女の前世?が登場します!!


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第6話 悪夢の夜

 

訓練が始まってそれなりの時間が経過していた。

 

「ああっ!また外した!」

 

クリスが走りながら嘆いていた。その視線の先には木々を飛び移りながら移動するシルフィーの姿があった。彼女からしたら森は生活の場でもあった。木々の飛び移りなど造作もない事だ。

 

「落ち着いて狙え!動いた先を読むんじゃなくて

着地する瞬間を狙うんだ!」

 

ゾーラ隊長が皆に指示を出していた。

 

現在シルフィーVS第一中隊の模擬戦が実行されている。現段階ではまだ誰もペイント弾の餌食にはなってはいない。

 

「ちきしょう!!葉っぱや枝とかが邪魔して狙いにくい!」

 

やはり高低差というのは僅かでも高い方が有利なものである。彼女は急に止まっては振り返り銃口を第一中隊に向けている。しかも足元を狙っているため避けるのもかなり際どいのだ。

 

やがてシルフィーは木々が生い茂る深い場所へと入っていった。流石にあそこまで深いと視界的には第一中隊が圧倒的に不利である。

 

「全員!この周辺を包囲するぞ!」

 

ゾーラ隊長の掛け声の元、第一中隊で付近を円を張り巡らせたさ。そしてジワジワと円を狭めながら

迫って行った。

 

【バキューン!!】

 

【バキューン!!】

 

「ウッホォー!!」

 

銃声と共に驚きにも似たヴィヴィアンの悲鳴が響いた。ヴィヴィアンの両隣のヒルダとエルシャが駆けつけた。見て見るとヴィヴィアンにはペイント弾が付着していた。

 

「おいヴィヴィアン。あいつはどこに行った!」

 

「スッゲー!シルフィーってば、すれ違いざまに私を撃って!で、そのまま向こうを突っ切って逃げてった!スッゲー!」

 

ヴィヴィアンは何処か興奮していた。そこに他の

第一中隊メンバーも集まった。

 

「やられたな。多分あのままじゃ負けると判断して一発受ける代わりに奴は逃げ出したんだ。しかも見ての通りヴィヴィアン相手に一発お返しも出来てる」

 

なにやらゾーラ隊長が戦闘について解析している。

 

「・・・成る程。あいつは肉を切らせて骨を断つ奴だ。戦う上でリスクを犯すことに対する恐怖がほとんどない」

 

肉を切らせて骨を断つ。自分が傷付く覚悟で相手に致命傷を与えるためにぶつかる。これが出来る者はそうそういない。何故なら、普通は自分が傷つく事を恐れるのが人情というものだ。

 

シルフィーはそれが薄いようだ。

 

「とにかく、あの子を見失った以上、私達は不利です。ここは・・・」

 

【バン!】

 

「・・・へっ?」

 

突然の事で対応が出来なかった。見てみるとサリアの服にはペイント弾が付着していた。

 

皆で銃声のした場所を見た。するとそこにはシルフィーがいた。

 

「なっ!あいつ!」

 

すでに次のターゲットへの照準合わせの段階に移行している。

 

「撃て!撃てぇ!!」

 

誰が言い出したか、その場でシルフィーと第一中隊の激しい撃ち合いが始まった。

 

しかしそれも1分後には収束した。

 

「そこまで。第一中隊全員がペイント弾を受けた。これによって訓練は終了とする」

 

ジル司令が全員に通達した。この通達によって皆が最初に集まった場所へと集まる。結果的にシルフィーには4発のペイント弾が命中していた。

 

「訓練は終了。勝者はシルフィーだ。これが約束の50万キャッシュだ。配当はナオミと二人で決めろ」

 

そう言うと二人めがけて50万キャッシュの束が投げ渡された。

 

「そしてナオミ。現時刻を持って、シルフィーの

教育担当の任を解く。よくやったと褒めておこう。成功報酬は、分かっているな」

 

そう言うとジル司令は踵を返すようにその場を去った。

 

とりあえずキャッシュはシルフィーの提案で五分五分に分けられた。シルフィーは初めて見るキャッシュを様々な方角で見ていた。

 

【モニュ】

 

「!!??」

 

「シルフィーとか言ったな。さっきは見事な闘いぶりだ」

 

突然ゾーラ隊長が褒めながら、シルフィーの胸を背後から揉みしだいた。

 

「・・・」

 

彼女はその場で硬直していた。突然身体を襲った

未知なる感覚に動揺もしている。

 

「おやおや。緊張してるのか?意外に可愛いところもあるんだなぁ」

 

尚もゾーラ隊長は胸を揉んでいる。

 

「隊長!スキンシップは程々にしてください!」

 

副長であるサリアがゾーラ隊長に注意する。彼女のスキンシップは激しく、新兵からは揉み方が痛いという苦情も出ているのだ。

 

「はいはい。気をつけますよ〜サリア副長」

 

そんなサリアの注意などゾーラ隊長には蚊ほどにも効かないようだ。

 

「なぁシルフィー。シャワーを浴びたら第二試合をしないか?勿論ベットの上で・・・」

 

「まだここにいたか 」

 

そこにジル司令が戻ってきた。

 

「シルフィー。用事がある。シャワーを浴びたら司令室に来い。ゾーラ。スキンシップのやり過ぎには気をつけておけ」

 

「わかりました」

 

流石にジル司令からの注意なら聞くらしく、渋々シルフィーを解放する。サリアが注意した時とはえらい違いだ。

 

言いたい事を言い終わると、ジル司令は再び踵を返していった。

 

「ちぇっ。司令に言われちゃ仕方ないなぁ。まぁいい。これからシャワーを浴びる。お前も来い」

 

そう言われ、ナオミを除いた第一中隊はシャワー室に足を運んだ。

 

 

 

シャワー室にて。

 

「ふぃーっ。一汗掻いた後のシャワーはほんといいもんだなぁ。そう思わないか?シルフィーか」

 

「はい」

 

第一中隊の面々に混じり、シルフィーもシャワーを浴びていた。特に思うところもなく、シャワーから流れ出るお湯をその身に浴びていた。

 

ふと右腕を見た。そこには腕輪があった。

 

「・・・・・・」

 

彼女は島で一人育った。だから自分以外の人間も皆腕輪をつけているものだと勝手に想像していた。

だが、誰も腕輪など付けてはいなかった。

 

ではこれはなんなのか・・・

 

(・・・自分以外の人間なんて、名もなき島では見たことなかった・・・なのにこれは・・・私は誰かと会った事があるのか?)

 

不意にある人物の顔が脳裏に浮かび上がった。

 

島が沈むあの日。揺りかごに乗って洞穴を脱出する瞬間に見えたあの人物。右目に傷のついた黒装束の男。

 

(あいつ・・・一体何者だったの・・・)

 

その様な考えを浮かばせつつ、他の人より一足先に、彼女はその場を離れた。

 

脱衣所にて、近くにあった適当なタオルを使い身体を拭くと、再びてるてる坊主の姿となってシャワー室を出た。

 

外に出るとナオミが待っていた。

 

「訓練お疲れ様。どうだった?シルフィー?」

 

「どうもしないわ。それよりナオミ。何か用?」

 

「その様子だとここでの生活に慣れたようだね」

 

「・・・別に。で、なんか用でもあるの?」

 

「今日の訓練でさ、キャッシュ分けたよね。それでプレゼント買ったんだ。あげるね」

 

そう言うとナオミはシルフィーに茶色い紙袋を差し出した。彼女はそれを受け取ってその場で開けた。

 

袋の中には黒い輪っかのようなものが入っていた。

 

「なにこれ」

 

「ヘアゴム。似合うかなと思って。試しにつけてみてよ」

 

そう言われ、シルフィーは髪を束ね、ヘアゴムで縛った。白馬の尻尾と言っても差し支えない、見事なポニーテールの出来上がりだ。

 

「うん。よく似合ってるよ」

 

「・・・ありがとう」

 

「そういえば、まだお礼言ってなかったね。ここまで連れてきてくれてありがとう」

 

「別に気にする事じゃない。私からしたら貴女はついでだったし」

 

「・・・ねぇ。ひとつだけ聞かせて」

 

ナオミの口調が重くなった。それにシルフィーは

なんの返事もしなかった。

 

「シルフィーは・・・ここに来た事を、後悔してる?」

 

「・・・別に。私がここに残ったのは私の意思だから。ノーマってのだからここにしか居場所がない。そんな理由なんかじゃない。だから貴女が気にする事なんてないのよ」

 

「シルフィー・・・」

 

「私、ジル司令に呼ばれてるから行かなきゃ。またね、ナオミ」

 

そう言うとシルフィーはその場を後にした。

 

 

 

 

そしてその頃、ジル司令は発着デッキに来ていた。そしてメイの元にいた。

 

「あっ、ジル」

 

背後の人物に気づいたらしく、メイが声をかけた。

 

「メイ。調査の方はどうだ?」

 

メイが調査しているもの。それはシルフィーが乗ってきたパラメイルである。こういうのはアルゼナル一の整備士であるメイに任せた方が良い。

 

「それが・・・」

 

何やら言いづらい事があるのか、メイが口ごもる。

 

「どうした?手詰まりか?」

 

「・・・はっきり言うとこの機体。全く動かないんだ」

 

「動かない?」

 

予想の斜め上を行く答えに、ジル司令は驚いた。

 

「コックピット部分のどのボタンを押しても、全く反応しないんだよ。燃料切れとかの可能性もあるけど・・・内部構造を調べようにも機体の開け方がわからない。下手に力づくでこじ開けるわけにもいかないし・・・」

 

「成る程。【アイツ】より人を選ぶと言うわけか・・・」

 

ジル司令は格納庫の片隅の暗がりを眺めた。そこには【アイツ】がひっそりといた。

 

「ここにおられましたか、ジル司令」

 

名前を呼ばれたので振り返ると、エマ監察官かいた。手には複数の書類を持っている。

 

「エマ監察官。どうされました?」

 

「先程ミスルギ皇国よりノーマの引き渡しが通達されました。後数時間でこちらに引き渡されるでしょう」

 

「そのノーマは例の皇女か?」

 

ジル司令には心当たりがあった。なんせそいつは今日、国民の前で大々的にノーマであると告発された存在だ。しかもマナを使った中継により、全世界にノーマだと知られているのだ。

 

「そうです。もっとも、ノーマである以上、もう

皇女でもなんでもないですけどね」

 

「わざわざ報告ありがとうございますね。エマ監察官」

 

そう言うとジル司令はエマ監察官の用意した資料に目を通した。そして最後に、【アイツ】のいる方を向くと、ジル司令はその場を後にした。

 

 

 

 

 

それから時間は流れた。

 

外は夜となっている。月明かりの一つも感じられない程、雲はどす黒く広がっている。時折雷の轟音が、響き渡っていた。

 

そしてそんな嵐の中、アルゼナルでの一室では今日送られてきた廃棄物の取り調べが行われていた。

 

「1203ー77号ノーマ。アンジュリーゼ・斑鳩・

ミスルギ。出身はミスルギ皇国。年齢は16歳。16・・・ねぇ」

 

エマ監察官がマナを使い、目の前の存在の様々な情報を引き出していた。

 

「何処なのですかここは・・・私に・・・何が起きているのですか・・・!?」

 

震えた声で彼女はエマ監察官に尋ねる。彼女の首には首輪の様なものがつけられており、それが手錠と繋げられている。そして首輪からは紐が垂れていた。

 

「1203ー77号。貴女は今日からここ【アルゼナル】で兵士として戦うことが義務付けられます。

16歳であるあなたは特例として教育課程に・・・」

 

「そんなことは聞いてません!母に、母に合わせてください!!今すぐに!!」

 

彼女は母に合わせろと言い出した。彼女の母、ソフィア・斑鳩・ミスルギは洗礼の儀の際、彼女を庇い、撃たれたのだ。気にするなという方が無理だろう。

 

しかしエマ監察官はその質問には答えず、彼女に近づくと、ピヤスを取った。

 

「所持品は没収します」

 

そういうと彼女の所持品を剥ぎ取っていった。

 

「その指輪もだ」

 

その後ろ、机の上に足を組んで偉そうに座っていたジル司令はそう命令した。

エマ監察官は指輪を取ろうとした。

 

「触るな!」

 

アンジュリーゼはそう怒鳴るとエマ監察官の手を払いのけた。

 

「これは我がミスルギ皇国斑鳩家に代々伝わるもの!お前のような下級役人が触れて良いものではない!」

 

「このっ!ノーマの分際で!」

 

「私がやろう、エマ・ブロンソン監察官殿。ノーマの相手は同じノーマでなくてはな」

 

興奮するエマ監察官を宥める風に言うとジル司令は立ち上がった。

 

「さて、手荒な真似をしてすまなかったな。私は

ここ、アルゼナルの総司令、ジルだ」

 

そう言ってジル司令はアンジュリーゼの例の首輪手錠を外した。

 

「・・・私はノーマなどではありません。きっと何かの間違いです。すぐにミスルギ皇国から・・・」

 

次の瞬間、アンジュリーゼの腹部にジル司令の見事な蹴りが入った。その衝撃で彼女の身体は壁に叩きつけられた。

 

口からは多少の血が出ていた。

 

「なにを・・・」

 

「いやはや恐れ入ったよ。16歳までマナを使わずに生きて来る事が出来たとはな。おかしいとは思わなかったのか?一度も?」

 

「マナを使う専属の侍女がいたようです」

 

エマ監察官がジル司令の疑問に答える。

 

「なるほどなぁ、みんなで隠してきたのか・・・

16年も」

 

「!?」

 

ジル司令とエマ監察官の会話を彼女は半ば受け止められないでいた。そしてジル司令は彼女の顔に近づき、耳元で囁くように言った。

 

「お前の母親も、結局無駄死にだなぁ」

 

「えっ?死・・・死ん・・だ?えっ・・・」

 

彼女現実を受け止められないでいた。そんな彼女など御構い無しにジル司令は彼女の指から指輪を奪い取った。

 

「やれやれ。指輪も取れなかったらどうしようかと思ったよ」

 

「返して!返しなさい!!」

 

「取り返してみたらどうだ?【マナの光】で」

 

その言葉に彼女は手を前に出した。

 

「マナの光よ!」

 

しかしなにもおこらない。

 

「光よ!マナの光よ!」

 

しかしなにもおこらない。

 

「光!マナの光よお願い!出て!」

 

いい加減にしろ!なにもおこらないと言っているだろう!はねるしか覚えてないヒンバスかお前は!!!

 

ジル司令もあまりの滑稽ぶりに半ば呆れていた。

 

「もうお前には何もない。皇女としての権限も、

人としての尊厳も、何もな!!」

 

そう言うとジル司令はナイフを取り出し、彼女の服を切り裂いた。

 

「きっきゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

驚くなという方が無理な話だが、ジル司令は間髪入れずに彼女の服だったものを剥ぎ取った。そして彼女を拘束台へと押し付ける。

 

「はっ放せ!」

 

「エマ監察官、お手伝い願えますかな?」

 

彼女の言葉など無視して、エマ監察官に協力を求める

 

「何故・・・私が・・・」

 

エマ監察官は不服らしい。

 

「早く終わらせたいでしょう?汚れ仕事なんてものは」

 

その言葉に、エマ監察官も渋々納得したらしい。

エマ監察官の手が光る。すると拘束具が勝手に動き始めた。それらは彼女を、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの手足を拘束した。

 

アンジュリーゼはまな板の上の魚の状態となっている。

 

「なっ!なにを・・・!?」

 

「身体検査だ」

 

そう言うとジル司令は彼女の下着に手をかけ、一気にずり下ろした。 そして義手である右腕の指などを調節しはじめた。

 

「やめてっ!やめなさい!私はミスルギ皇国!第一皇女!アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギなるぞ!」

 

「いや、今からお前は【アンジュ】だ」

 

次の瞬間、義手である右指がアンジュのあそこに突き刺さった。

 

「キャァァァァァァァァ!!!!」

 

轟く雷と共にアンジュの悲鳴だけが、室内に響いた。

 

やがてその場には、糸の切れた人形の様な状態のアンジュが残された。

 

ジル司令はアンジュの耳元で囁くように言った。

 

「ようこそ。地獄へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその隣では、シルフィーが何事もなく寝ていた。彼女はアンジュの取り調べ前に、服のサイズなどを測るために呼ばれていたのだ。そしてまだ部屋がない為、ここで寝る事にしたのだ。

 

彼女は先程までの隣の惨状など御構い無しに眠り、夢を見ていた。悪夢という悪い夢を。

 

夢とは楽しいだけのものではない。時に悲しい夢や怖い夢。そして辛い夢など、それらが容赦無く襲いかかってくる時もある。そして彼女も現在、それに魘されていた。

 

今の彼女は一人だ。辺り一帯は真っ暗である。更に周囲からは様々な言葉が聞こえてきた。

 

それは一人対複数での口論の様だ。

 

複数の人が自分に対して罵声などを浴びせていると予想できた。その複数の声のどれも自分の知らない声である。

 

「おいおい。大の大人が子供相手に寄ってたかって、みっともないと思わないのか?」

 

今度は聞いたことのある声がした。島で聞いた声だ。右目に傷のある黒装束の男の声だと理解できた。

 

「ごにょごにょ!しかしごにょごにょ!この子は!」

 

怒鳴り声にも似た声で一人が何やら言っている。しかしごにょごにょしていて、一部が聞き取れなかった。

 

「そちらの言いたい事も理解出来る。だが、相手は子供なんだぞ。やり方というものがあるだろう」

 

「それに彼女は、ピーッなんだ」

 

ピーッの部分がうまく聞き取れなかった。だがシルフィーの耳にはこの様に聞こえた気がした。

 

「それに彼女は、運命の子なんだ」

 

そしてその言葉を最後に、シルフィーの意識は失われていった。

 

 






第1章はこれでおしまいです!次回は第2章です。

やっと本格的にアニメのメインキャラクター達を登場させられます。


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第2章 まつろわぬ魂
第7話 ようこそ、死の第一中隊へ


 

ここは幼年部の教室。ここでは幼女達が楽しそうに授業を受けていた。

 

先生と思わしき女性がスライドショーを始めた。

 

「マナの光。それは人類に与えられた幸福の光でした。マナの光により、世界から争いはなくなり人々は平和を築き上げてきました。

 

「しかしそんな中、この平和を脅かす存在が現れました。ドラゴンです。ドラゴンは次元の壁を超えてこの世界に侵攻してきます。そして極稀に、マナの光を拒絶する存在が世界に現れました」

 

「それがノーマ。つまり私達です。マナの光を拒絶する私達は、法律によって厳しく管理されなければなりません。そして、私達はドラゴンを倒す為に、ライダーや整備士などを目指しいます。それが人間として出来損なった私達ノーマの唯一つの許された生き方だからです」

 

「ここアルゼナルでは、マナの光を持たないノーマたちを教育し、世界の役に立てるように育成します。いいですね皆さん?」

 

「イエス・マム!」

 

幼年部の子供達が元気よく返事をした。

 

ノーマと判明した者の殆どが赤ん坊である。流石に子供のうちから銃などを持ったりドラゴンと戦う訓練はさせないようだ。

 

まずここで自分達ノーマの生き方について教わるらしい。

 

そして幼女達の後ろでは、一際目立つ存在が二人いた。シルフィーとアンジュだ。更にその背後にはジル司令とエマ監察官もいた。

 

シルフィーはスライド写真に写されたドラゴンを見ていた。そしてアンジュはというと、黙って下に俯いていた。

 

 

 

 

二人が目覚めたのはほぼ同時であった。

 

取調室にて。

 

「いつまで寝ている。起きろ!」

 

ジル司令によって二人とも叩き起こされた。まずシルフィーが目覚めた。そして目覚めた先にはボロボロになっている少女の顔があった。アンジュの顔だ。

 

「誰!?」

 

朝起きたら目の前に知らない顔があれば動揺の一つもするものだ。その声に反応してアンジュも目覚めた。そしてアンジュも同じ様な反応をしていた。

 

「ばっ!バケモノ!!」

 

お互いが慌てて距離をとった。

 

そしてお互いが身体の違和感に気がついた。何かが身体に触れている。自分の身体を見てみると、服を着ていた。どうやら寝ている間に着せられた様だ。

 

「それがお前達の制服だ。それよりさっさと来い」

 

腕を引っ張られ、二人とも取り調べ室を後にした。

 

こうして二人は幼年部の子供達に混じって授業を

受けていたわけだ。

 

「さて、シルフィーはさておき、アンジュ。わかったか?」

 

「もうすぐ・・・ミスルギ皇国から解放命令が届くはずです!」

 

アンジュが必死に絶望の中から希望を見出そうとしている。しかしそんなアンジュの言葉をジル司令は無視する。

 

「監察官。現時刻を持ってアンジュ。並びにシルフィーの教育課程を終了。両者共に第一中隊に配属させる」

 

「第一中隊に!?二人ともですか!?」

 

ジルの放った単語にエマ監察官が反応する。

 

「既にゾーラに話は通してある。ほら、いくぞアンジュ」

 

「はっ、離してください!!」

 

そう言うとジル司令はアンジュの腕を掴んで、幼年部の教室を後にした。無論、アンジュの戯言などジル司令は聞く耳を持たなかった。シルフィーとエマ監察官もそれに続いた。

 

 

 

そんな二人を双眼鏡を使って遠くから眺めている

存在がいた。ゾーラ隊長だ。

 

「ほう。あれが噂の皇女殿下か。いいねぇ、やんごとなき御方の穢れを知らない身体。甘くて美味しそうじゃないか」

 

「しかも確かシルフィーとか言ったな。あいつも第一中隊に配属されるとは。これは退屈しなさそうだなぁ」

 

そういうとゾーラは隣にいたヒルダの胸を揉んだ。

 

「あっ・・・」

 

ヒルダの口から甘い声が漏れる。

 

「新しく入った娘なら誰でもいいんでしょ・・・」

 

現に昨日、ゾーラ隊長はシルフィーをベットの上に誘おうとしていた。そう思うのが当たり前である。その意見に隣にいたロザリーとクリスも頷いた。

 

「なんだ〜?妬いてるのかぁ?可愛いなぁお前達は!!」

 

「隊長!だからスキンシップは程々にお願いします!新兵から揉み方が痛いと苦情も出ています!!」

 

「はいはい、だから気を付けますよ〜サリア副長〜」

 

昨日と同じで、サリアの注意などゾーラ隊長には蚊ほどにも効かないようだ。それにサリアは頬を膨らませる事しか出来なかった。

 

「サリアちゃん。ちょっと借りるわね」

 

そう言うとエルシャはサリアの手元から資料を拝借した。

 

「ココちゃん、ミランダちゃん。この二人が新たに入る子よ。一人は既に昨日会ったわね。二人とも歳上だけど仲良くしてあげてねぇ」

 

「はっはい!」

 

二人は元気よく返事をした。

 

(そうか。シルフィーもメイルライダーになるんだ)

 

(じゃあ、シルフィーもドラゴンと戦うんだ・・・)

 

「ナオミ?何ぼーっとしてるの?」

 

ぼーっと外を眺めていたナオミにミランダが話しかけた。

 

「あっ、ごめん。ちょっと考え事してた」

 

「ねぇねぇ!シルフィーがメイルライダーになるって事は、あの戦い方がまた見れるの!?」

 

ヴィヴィアンが興奮しながら皆に尋ねる。おそらくドラゴンに機体を突っ込み、そして貫通させたあの戦い方の事を言っているのだろう。

 

「残念だけど、シルフィーには新兵用のグレイブが与えられるわ。残念だけど、あのパラメイルは没収らしいわ」

 

新兵用のグレイブ。所謂ノーメイクだ。あの様な得体の知れない型破りな機体を使わせる訳にはいかない。もっとも、あの機体は未だに動かないらしいが。

 

「なーんだ。つまらーん」

 

「そもそもあんな戦い方・・・無茶苦茶よ。駆逐形態や武器を使わないばかりか、機体を突っ込ませてドラゴンと戦うだなんて。もしグレイブであんな戦い方をしたら、いつか・・・」

 

「ねぇねぇサリア。クイズ!」

 

サリアの言葉を遮る様にヴィヴィアンが話しかけてきた。

 

「誰が一番最初に死ぬかな?」

 

「えええっ!?」

 

物騒な単語にココとミランダとナオミが驚く。

 

「死なないように教育するのが私たちの役目でしょうがぁ!!」

 

そう言いながらサリアはヴィヴィアンの頭をグリグリした。結構痛いやつだ。

 

「痛い痛い痛い!死ぬ!!死ぬって!!」

 

「あらあら。今日も仲がいいわねぇ」

 

・・・仲が良いと言うのかこれは?

 

 

 

そしてアンジュとシルフィーはジル司令に連れられ、第一中隊の面々の前に来ていた。

 

「司令官に敬礼!」

 

ゾーラ隊長の掛け声のもと、第一中隊の皆がジル司令に敬礼した。

 

「後は頼むぞ。ゾーラ」

 

そう言うとジル司令は来た道を帰っていった。

 

「死の第一中隊へようこそ生娘共。私が隊長の

ゾーラだ」

 

そう言うとゾーラ隊長は二人の尻を揉み、前に押し出した。

 

「サリア。早速だが紹介してやれ」

 

「イエス・マム。第一中隊副長のサリアよ。こちらから突撃兵のヴィヴィアンとヒルダ。軽砲兵のロザリーと重砲兵のクリス。そして・・・」

 

「これ全部・・・ノーマなんですか」

 

俯いたままアンジュが放った一言。そのたった一言はその場を凍りつかせるのには十分であった。

 

「これって・・・」

 

「私達はノーマはモノ扱いか?」

 

「このアマ・・・」

 

ヒルダとロザリーがアンジュを睨む。

 

「そうだよ!私もアンジュもシルフィーもみんな

ノーマだよ。よろしくねー!」

 

「・・・よろしく」

 

ヴィヴィアンの言葉にシルフィーは返事をするが、アンジュは頑なにその事実を否定する。

 

「ちっ、違います!!私はミスルギ皇国!第一皇女!!アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギです!!!断じてノーマなどではありません!」

 

「でも使えないんでしょ?マナ」

 

ヴィヴィアンの言葉にアンジュは狼狽える。

 

「こ、ここはマナの光が届いていないだけです!ミスルギ皇国に帰ればきっと!」

 

「・・・はぁ」

 

シルフィーが呆れて溜息をついた。この世界はマナの光で溢れている。シルフィーでさえ昨日、教科書で学んだ事だ。

 

「あーっはっはっは!ったく司令め。とんでもないやつを 回してきたぞ。状況認識もロクにできない

不良品が紛れてるじゃないか」

 

あまりの滑稽ぶりにゾーラ隊長が大爆笑した。

 

「不良品が上から偉そーにほざいてるんですか」

 

「痛すぎ・・・」

 

「ふっ、不良品は貴女達の方で・・・」

 

次の瞬間、見事な足払いがアンジュに襲いかかった。仕掛けたのはヒルダだ。

 

「身の程を弁えな!イタ姫様!」

 

「まぁまぁみんな。そのくらいにしておきましょうよ」

 

エルシャが事態を収拾しようとする。

 

「ああっ!?こう言う勘違い女は最初の内にシメとくべきなんだよ!」

 

「そうなの?」

 

「まぁそうなんだけど」

 

いやそこは否定しろよ。

 

「それとお前!シルフィーとか言ったな」

 

ヒルダがシルフィーを指差した。

 

「何?」

 

「いいか!一つ教えてやるよ!ここはあんたのいた島じゃない。その事を自覚しないと、こいつみたいに痛い目見るよ」

 

「それ昨日聞いた」

 

「ちっ!どうやら今痛い目に遭わないと分からないらしいな」

 

「殺る気?」

 

ヒルダの言動にシルフィーも身構える。いつでもヒルダに襲いかかれる様に準備をしている。ヒルダの方も、いつでも迎え撃てるように構えていた。両者共に殺気にも似た雰囲気を全開にしている。事態はまさに一触即発となっていた。

 

そしてこの事態を収めたのはゾーラ隊長だった。

 

「まぁまぁヒルダ。それにシルフィーも。同じノーマ同士仲良くやろうぜ。無論、そこのお姫様もな」

 

そう言うとゾーラ隊長はヒルダとシルフィーの頭の上に手を乗せた。

 

アンジュは何処か不服そうで、そして悔しそうであった。

 

「それでは訓練を始める!ロザリー!クリス!エルシャ!あんたらは一緒に来な!遠距離砲撃戦のパターンを試す!!サリアとヒルダとヴィヴィアンは

新兵の訓練だ!しっかりやんな!それじゃ各自持ち場につけ!」

 

「イエス・マム!」

 

そう言うと皆がそれぞれの行動に移った。

 

「ヴィヴィアンはココを、ヒルダはミランダをお願い。シルフィー。ナオミ。アンジュ。三人は私と来なさい」

 

「わかった」

 

「シルフィー。ここでは上官に対しての返事はイエス・マムよ。覚えておきなさい」

 

「イエス・マム」

 

そうして四人はその場を後にしようとした。ふと

背後を見てみるとアンジュが来ていない事に気がついた。アンジュはその場で立ち止まっていた。

 

「アンジュ?どうしたの?」

 

ナオミが疑問に思い尋ねた。

 

「私は・・・アンジュリーゼ。何人たりとも、私に命令をすることなど出来ません!」

 

次の瞬間、アンジュの背後にサリアが回り込む。その手にはナイフわ持っており、それをアンジュの

喉元数センチのところに突きたてている。

 

「覚えておきなさい。ここでは上官の命令は絶対よ。良いわね?」

 

流石に命の危険を感じたのか、アンジュは小刻みに頷いた。頷いたのを確認するとサリアはナイフを喉元から離した。

 

「さてと。じゃあ三人とも、付いて来なさい」

 

そう言うとサリアは再び歩き出した。シルフィーとナオミもそれに続いた。今度はアンジュも大人しく付いてきている。

 

 

 

ロッカールームにて。

 

「いったい何ですかこれは!?」

 

アンジュは渡されたものに動揺していた。それは服の様なものであったが、妙に露出部分が多い。特に胴体の前面と臀部が露出していた。

 

長時間行動と排泄の問題を解決する為に、この様な造形となったらしいが、はっきり言ってエロい。

 

「ライダースーツ。それに着替えて。シルフィー。貴女のライダースーツはこれ」

 

シルフィーに黒いライダースーツを渡しサリア自身も着替え始めた。因みにナオミは白のライダースーツに着替えている。

 

「こんな破廉恥なものを・・・ん?」

 

アンジュは渡されたライダースーツに奇妙なものを見つけた。それはどす黒さを秘めた赤い液体のシミ。もう乾いていたそれは血であった。

 

「前の人の血ね。持ち主は死んだわ」

 

「死んだ・・・こんなもの着るくらいなら、裸でいた方がマシです!!」

 

「そう」

 

次の瞬間、サリアはアンジュの腕を掴み、廊下へと追い出した。すぐさまドアに鍵をかけアンジュを閉め出す。

 

「ちょっと!開けて!開けなさい!!」

 

ドアを叩く音がロッカールームに聞こえるがサリアはそれを無視した。

 

「あの、開けなくていいんですか?」

 

ナオミが疑問に思いサリアに尋ねる。

 

「いいのよ。少し頭を冷やさせるべきね。それよりナオミ。シルフィー。二人は着替え終わったの」

 

ナオミは着替え終わっており、シルフィーももう少しで着替え終わるところであった。やがてサリア自身も着替えが終わった。そしてドアノブの鍵を開けた。

 

開けた途端、アンジュが転がり込んできた。

 

「着替える気になった?それともまだ裸でいる?」

 

(学園で教わった通りです!!下品で野蛮で暴力的で・・・)

 

そう思いながら、アンジュはサリアを睨み付けると憎々しげにライダースーツを受け取った。だが受け取ったはいいものの、何故か着替えようとしなかった。

 

「貴女待ちなんだけど。早く着替えて」

 

「・・・あの、手伝ってください」

 

恥ずかしそうにアンジュがサリアに頼んだ。その言葉にサリアが驚いた。

 

「貴女一人で服も着た事ないの!?子供以下ね」

 

アンジュの顔が赤くなった。

 

その後シルフィーとナオミはアンジュが着替え終わるまでその場で待機していた。

 

 





物語はアニメ本編に突入しました!

理想としては、メビウスの時とは違ってシルフィーは隊のメンバーと最初はうまくいかない風に描きたいですね。


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第8話 シュミーレーター訓練

 

アンジュの着替えが終わり、四人はある場所へと辿り着いた。

 

それは数字の書かれた謎の箱であった。

 

それはパラメイルのシュミレーターボックスだ。既にココとミランダは中に入っており、ヒルダとヴィヴィアンの指導を受けている。

 

「三人とも、右から順に入って行って」

 

そう言いシルフィー達は箱へと入って行った。サリアはパソコンで、シュミレーターのレベルを調整し始めた。

 

(ナオミは少しだけレベルを上げてみるか。問題は

シルフィーとアンジュね。果たしてどれ程できるか・・・)

 

(・・・初めから出来るなんて思ってない。まずは

飛ぶ感覚を体に馴染ませないと)

 

そう思いながら、調整が終わったサリアは、まずアンジュに目の前の機械などについての説明をし始めた。

 

「これがメインスロットル。これはインジケーター。これはプリナムチャンバーの加圧の測定器。

それでこれが・・・」

 

「なんなのですか?これは?」

 

アンジュが疑問を投げかける。彼女からしたら一方的に色々な事を言われているため、情報の整理がついていないのだ。

 

「パラメイル。私達ノーマの棺桶よ」

 

そう言うとサリアはアンジュのシュミレーターの扉を閉めた。

 

「さて。次はシルフィーね。準備は・・・」

 

見るとシルフィーは既に準備が完了していた。

 

「貴女。使い方がわかるの?」

 

「なんとなく」

 

「・・・まぁいいわ。問題なさそうだし。それじゃあ始めるわよ」

 

そう言うとシルフィーのシュミレーターの扉も閉めた。

 

「さて、ナオミは大丈夫だと思うけど、復習のつもりで聞いて。3人とも、まずは飛ぶ感覚を身体に叩き込みなさい。パラメイルで飛ぶという事はこんな感覚が身体に襲い掛かる。だからその感覚に慣れなさい」

 

「ナオミ機。コンフォームド」

 

「・・・シルフィー機。コンフォームド」

 

ナオミの言葉をシルフィーも真似した。だがアンジュだけは未だに理解が追いついていなかった。

 

「なっ、何を・・・」

 

「訓練開始!」

 

サリアの宣言と共に次の瞬間、三人に激しいGが襲いかかった。シュミレーターとはいえそれはまるで、本当にパラメイルに乗っている様な感覚である。

 

サリアはアンジュのモニターに集中する事にした。

 

「キャァァァ!!」

 

「アンジュ!操縦桿から手を離さない!次!

加速!」

 

先程までの速度より更に加速した。

 

「キャァァァァ!!!」

 

「前を見なさい!実戦はこんなものじゃないわよ!!」

 

そんなサリアの言葉などアンジュには届いていなかった。悲鳴をあげ、ただ動揺している。

 

「次は上昇!その後急降下!!」

 

シュミレーター用のパラメイルが上昇した。その

瞬間、アンジュの中にある感覚が湧き上がった。

 

(今の感覚。これって・・・)

 

だが次の瞬間、機体は急降下を始めた。これによって先程の考えは悲鳴に上塗りされた。

 

「キャァァァ!!」

 

「地面に激突するわ!機首をあげなさい!」

 

万が一に備え、シュミレーターの緊急停止装置に指を伸ばした。シュミレーターとはいえ、墜落などの衝撃もかなり激しいらいし。

 

そしてアンジュの中に先程の感覚が再び湧いてきた。

 

(この感覚・・・間違いない。これは・・・)

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アルゼナルの医務室にて。ここでは医者であるマギーがジル司令の身体のメンテナンスをしていた。

 

「あ〜あ。こんなに真っ赤に腫れあがっちゃって・・・ジュクジュクになってるじゃない〜」

 

ジル司令の義手の外れた所をマギーが消毒している。傷口に傷薬は染みるらしく、ジル司令は目を瞑ってきた。その動作がマギーの中の何かを興奮させていた。

 

マギーは血を見ると興奮するタイプの様だ。

 

「痛い?痛いよね!もっと痛めつけてあげようか!?」

 

「酒臭いよマギー!」

 

「痛っ」

 

マギーの脳天にチョップした。どうやら酒で酔っていたようだ。因みに現在の時刻は真昼間である。

 

そんな様子をジャスミンは椅子に座りながら眺めていた。その手には、ジル司令の義手を持っており、そのメンテナンスをしていた。

 

「こりゃあダメだねぇ。外側のボトルは全部おしゃかになっちまってる」

 

「そこでだ!今回新たに仕入れたこのミスルギ皇国製の新ボトル!これをつければ元気百倍!!ち〜とばかし値がが品質は折り紙三枚付きだよ!!!」

 

ジャスミンが元気よく宣伝をしている。ジャスミンはアルゼナルにある、ジャスミンモールの店主なのだ。

 

ジャスミンモールは後に訪れるため、今は特に深い追求はやめておこう。とにかくジャスミンはお金儲けなどの商売根性が強いのだ。

 

「司令部のツケで頼む」

 

慣れた口調でジル司令が言う。さぞツケは溜まっているのだろう。

 

「あいよ、これでもう平気だろ」

 

そう言うとジャスミンは義手をジル司令に渡した。

 

「ふむ、なかなかの良さだな」

 

ジルはその義手を装着し、評価する。

 

「しかしもう少しデリケートに扱って欲しいもんだねぇ。そいつはお前さんほど丈夫にはできてないんだよ」

 

「暴れ馬がいるんじゃしょうがないだろ?」

 

そう言うとジル司令はタバコを取り出し、一服し

始めた。

 

「でもいいのかい?例の皇女殿下。第一中隊なんかに放り込んで」

 

「ダメなら死ぬ。それだけさ」

 

ジルはそう言うと煙を吐き出した。

 

 

 

「そう言えばもう一名いたね。シルフィーとか言ったっけ。あの娘も入れてよかったのかい?」

 

するとジル司令の顔色が曇った。

 

「あいつは不審な点が多い。とりあえず過去の航空事故やアルゼナルでのM・I・Aなども調べてみたが、航空事故の線はゼロ。M・I・Aの該当データもなしだ。それに」

 

「それに?」

 

「・・・あいつは島が沈んだと言った。だがナオミの証言から日付を特定したところ、その日は島が沈んだという事実は愚か、海には大きな地震一つなかった」

 

「なんだって!?」

 

ジル司令が放った一言に二人は驚いた。島が沈んだとなれば、被害などの関係ないとはいえ流石に世間が騒ぐものである。

 

しかしエマ監察官によると、そんな情報はマナには記載されていないらしい。

 

「あいつを信用するにはまだ早い。どうせならナオミがあのパラメイルで帰還してくれればよかったものを・・・危険ならいっそ・・・」

 

「ジル。私はあの娘のライダーとしてのセンスは高いと思う。だから第一中隊でも戦っていけると私は思うね。でもねジル。バカな事だけは考えるんじゃないよ」

 

ジャスミンが釘をさすかの様にジル司令に念押しした。

 

「・・・どんな奴でもダメなら死ぬ。それだけさ」

 

そうジル司令は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(この感覚は・・・エアリア!)

 

エアリア。それはかつてアンジュのしていたスポーツの一種である。簡単に説明するならそれは、空中バイクでぶつかり合うスポーツだ。それはラクロスに似ている。二人組を組んで、選手はスティックを振り回し、ボールを奪う。そして相手チームのサークル内に入れてポイントを稼ぐ。

 

最終的にポイントの高い方が勝者となる。紳士淑女の嗜みとして行われるスポーツである。そしてアンジュはかつて、エアリア部だったのだ。

 

地面に激突する瞬間、アンジュはハンドルを切り、機体を上昇させた。

 

(持ち直した!?あの状況で!?)

 

機体を持ち直したアンジュにサリアは驚いた。

 

しかし更に驚く事態に直面した。シュミレーター中の五人のモニターの内、一人だけ場違いなモニターの状態になっている。

 

シルフィーだ。彼女だけ既に飛行訓練を終え、なんとドラゴンとの模擬戦に突入していた。しかもかなりレベルの高いドラゴンの様だ。

 

シルフィーはそれらのシュミレータードラゴンと戦っていた。引けを取らない、良い戦い方である。

 

「なんなの・・・この娘達・・・」

 

サリアは呆然とする事しか出来なかった。因みにナオミは、現在機体を上昇させようと努力している所だ。

 

 

 

 

訓練が終わりシャワー室にて。

 

「うっぷ。オエェェー」

 

「ココ。大丈夫?」

 

「少しは楽になった?」

 

シュミレーター訓練の反動かココが青い顔をしてバケツに向かって嘔吐している。その背中をナオミとミランダが優しく摩っていた。

 

皆が訓練でかいた汗などを洗い流していた。

 

「いやぁ。大したものだな。皇女殿下は。それにシルフィーも。初めてのシュミレーターで漏らさないだなんて。しかもシルフィーに関してはドラゴンとの模擬戦まで辿り着くとは」

 

ゾーラ隊長が純粋に二人の腕前を賞賛している。

 

「そういやロザリー、あんたの初めてのシュミレーターの時はどうだった?」

 

自分の身体を拭かせていたロザリーに話を振った。

 

「あ、いや、私の初めては、そうですね・・・」

 

ロザリーが顔を赤らめた。おそらくあまり人には言えない様な過去なのだろう。

 

「気に入ったみたいね。あの娘達の事」

 

隣でシャワーを浴びていたヒルダが呟く。

 

「あぁ。悪くない」

 

ゾーラ隊長は色々な意味で二人を気に入っているようだ。

 

「ねぇねぇサリア!アンジュとシルフィーって何!?ちょー面白いんだけど! !」

 

サリアの隣でシャワーを浴びていたヴィヴィアンが身体を乗り出して聞いてきた。その目はキラキラと輝いていた。

 

「・・・そうね。二人とも、凄いとしか言いようがないわね」

 

サリアは、自分の背後でシャワーを浴びているアンジュを見た。アンジュは他人とは関わろうとせずに黙々とシャワーを浴びている。

 

「そういやシルフィーの奴。どこ行きやがった?」

 

この時ヒルダは、シャワー室にシルフィーがいない事に気がついた。

 

「あぁ。確か居残りで訓練してるはずよ」

 

「まじで!?あんないい成績叩き出したのに、更に自主練してんのかあいつ!?」

 

アンジュ以外の皆が驚いた。あれほどの好成績を叩き出しておいてまだ足りないのか。

 

「そんな長い訓練じゃないわ。機体が動かなくなるまでどれだけドラゴンを倒せるか。所謂スコアアタックよ」

 

「ヴィヴィアン。もしかしたら第一中隊のエースの座、シルフィーに奪われちゃうかもな」

 

「うっひょー!これは負けてられないねぇ!」

 

【ガチャ】

 

噂をすればなんとやらだ。シャワー室の扉が開いた。そこからシルフィーがやって来た。

 

「あっ。シルフィー。自主訓練終わったの?」

 

「ええ。所でナオミ。何してるの?」

 

シルフィーはナオミ達の所へ行くと、大体の事情を察しココの背中を摩り始めた。

 

「あっ、ありがとう」

 

「気にしないで」

 

3人で摩った影響か、だいぶココの調子も良くなった様だ。

 

 

 

 

シャワーが終わり、シルフィーはアンジュと共にサリアに連れられていた。サリアによって、二人はある扉の前に来ていた。

 

「ここが貴女達の部屋。二人で使いなさい」

 

そう言うとシルフィーに部屋の鍵を渡した。

 

「待ってください!こんな野蛮なノーマと同じ部屋を使えと言うのですか!?」

 

アンジュの失礼な発言も、シルフィーは特に気にすることもなかった。

 

「じゃあ廊下で寝泊まりする??」

 

「そっ、それは・・・」

 

サリアの発言にアンジュはロッカールームでの出来事を思い出す。

 

「はいこれ。足りないものがあるならこの範囲内で揃えて。朝5時に点呼だから、くれぐれも寝坊しないように」

 

そう言うとサリアは、二人に多少のキャッシュを渡しその場を後にした。余談だがキャッシュとはこのアルゼナルで使う金額の単位である。

 

部屋の前にはアンジュとシルフィーが残された。

 

「ノーマと同じ部屋を使えと言うのですか」

 

「そんなに嫌なら廊下で寝たら?別に部屋にいようなんて無理強いするつもりもないし」

 

そう言うとシルフィーは部屋に入って行った。部屋の中は左右対称に近いものだった。ベットにタンス

とこざっぱりとした部屋であった。

 

彼女は右側スペースを使う事にした。とりあえず渡された荷物などをベットの脇に置くと、ベットに倒れこんだ。安物の固いベットだが、彼女は特に思うところはないようだ。

 

(疲れた。寝よう・・・)

 

そのまま眠ろうとして目を閉じる。数分の静寂が訪れた。

 

【カチャ】

 

しばらくしてアンジュが扉を開けて入ってきた。

左側のスペースしか残されていない為、左側のベットに足を進める。

 

「なんで私がこんな目に・・・」

 

アンジュは現在の自分の境遇を嘆いていた。

 

「なんで野蛮なノーマと一緒に寝泊まりしなければいけないのですか・・・」

 

「 私はノーマじゃない。ノーマなんかじゃないのに!なのになんで!!」

 

「うるさいんだけど」

 

流石に寝ようとしている所に独り言をうるさく言われてはイラッとくるものである。

 

「うるさいのは貴女です!私はアンジュリーゼ・

斑鳩・ミスルギです!不敬なるぞ!」

 

「寝ようとしているの。邪魔しないで」

 

「やはりノーマは野蛮で身勝手な非人です!マナ

社会の廃棄物です!」

 

「・・・貴女もそのノーマなんでしょ」

 

シルフィーのこの一言でアンジュがさらにヒートアップした。

 

「違います!私は貴女と違って人間です!!この人間ならざる化け物!!」

 

「いい加減に寝たいから静かにして」

 

「貴女は化け物ですね!いえ貴女だけじゃありません!あの者達も。ノーマはみんな化け物で・・・」

 

「黙れ」

 

シルフィーの有無を言わせぬ一言にアンジュは怯む。先程までの言葉と違い今の言葉は静かに、されど何処か怒りにも似た感情が込められていた。

 

「貴女が私をどう見ようと知った事じゃない。でもね、ナオミ達も化け物って言うのは許せない。

ナオミは・・・友達だから。だから黙れ」

 

これによってアンジュは何も言えなくなった。やがてシルフィーの横たわるベットからは、微かな寝息が聞こえ始めた。

 

(化け物が友情ごっこですか!!)

 

憎々しげにシルフィーを睨みつける。

 

そんななか、ふとアンジュの目にタンスが映った。タンスの扉を開ける。そこには沢山のドレスがあった。自分のベットに目を移す。するとそこにはメイドがベットメイクをしていた。

 

「お姉様ぁ」

 

自分を呼ぶ声がした。窓の側により開ける。外には皇室のアンジュの自室の部屋の風景が見えた。そしてそこには両親と、馬に乗った兄と妹がいた。

 

「お母様。シルヴィア。モモカ。馬を用意して」

 

アンジュが振り返り呼んだ。

 

だがそこには先程までの幻想の世界ではない。暗いアルゼナルの一室が目の前には広がっていた。

 

アンジュは何かが崩れ落ちた気分となった。ベットに座り、壁に寄りかかる。部屋にある唯一の窓から月光が差し込んでいる。

 

「寒いわ。モモカ」

 

アンジュは小声で一言、かつて世話をしてくれた侍女の名を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シルフィーとアンジュの部屋の窓の下は断崖絶壁である。そしてこの断崖絶壁に男が一人いた。右目に傷のある黒装束の男だ。

 

「・・・・・・」

 

男は目を閉じていた。それは寝ているかの様にも

見えた。だが実際は瞑想をしているに近い状態らしい。やがて口を開いた。

 

「アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ。皇室から生まれしノーマ」

 

「そして・・・歌を継ぎし者・・・」

 

そう言うと男はその場から姿を消した。

 

 





シルフィーの性格は、仲間思いだが不器用というか素直になりきれないところがあり、それが原因で
周囲と衝突してしまうキャラ設定にしようと思います。

基本はクール系で行きたいなぁ。


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第9話 嵐の前の静けさ

 

アンジュがアルゼナルに来てから数日が過ぎた。

 

ジル司令は新兵達の訓練データを見ていた。激しい訓練だが、新兵全員なんとかついていけていた。勿論アンジュもついていけている。

 

エマ監察官が報告書を読み上げる。

 

「例の二人の新兵ですが。基礎体力に反射神経。格闘対応能力に野外戦。更には戦術論の理解度。全てにおいて平均値を上回っています」

 

「優秀じゃないか」

 

「ノーマの中ではですが」

 

ジル司令の発言に、エマ監察官が付け足すように

言ってきた。

 

「アンジュ、並びにシルフィーはパラメイルの操縦に特筆すべきものがあり・・・か」

 

ジル司令は格納庫の隅を見つめた。そしてその後、アンジュの指輪を取り出し眺めた。

 

やがて指輪をしまうと、例の機体を調査している

メイの元に足を進めた。

 

「メイ。例のパラメイルの調査はどうだ。何か進展はあったか?」

 

「全然ダメ。動く気配を微塵も感じ取れない」

 

「そうか・・・」

 

ジルはその機体を眺めた後、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台は食堂にて。現在ここでは食事が配られている。

 

「うわぁ。やったあ」

 

ココが喜んでいるもの。それはプリンだ。ここアルゼナルではこの様なデザートは滅多に出ないのだ。ココはプリンを自分のポーチに入れた。

 

「またとっておくの?」

 

「だって、今食べるのは勿体ないじゃん」

 

「たかがプリンで。ココはお子様だなぁ」

 

ミランダがそう言うと二人は席を探し始めた。するとそこに二人と同じ様に席を探す存在と出会った。

 

「あっ、ナオミにシルフィー」

 

「ココ。それにミランダも」

 

自然と四人で食べる流れとなった。その為席を探した。

 

すると四人の視界にある人物が映った。アンジュだ。テーブルの隅に一人だけでいる。そしてその周りには誰もいない。

 

アンジュは一口食べるとスプーンを置いた。そして顔をしかめている。どうやらアンジュにとってアルゼナルでの食事は不味いようだ。

 

「よぉイタ姫様。好き嫌いは良くないぜ」

 

そこにヒルダとロザリーとクリスがやって来た。

アンジュが気に入らないらしくちょっかいを出したりして絡んでいる。

 

「しっかり食べないと、いざって時に戦えないぞ」

 

そう言いつつロザリーはアンジュのトレーを取り上げ、料理を奪い取った。そして奪い取った料理を口に入れようとした。

 

「よくそんなモノが食べられますね」

 

「!!!」

 

アンジュのその発言がロザリーの中の何かに触れた。

 

「おやおや。イタ姫様のお口には会いませんか」

 

「テメェ!なめてんじゃ・・・」

 

ロザリーは手元に持っていたプレートを投げつようとした。その手を誰かに強く掴まれた。驚いて見て見るとそれはシルフィーであった。

 

「なにしやがる!」

 

「食べ物を粗末にするな」

 

「やめなロザリー。今回はシルフィーの言ってる事は正論だ」

 

ヒルダにいわれロザリーは渋々だが落ち着いた。

 

「イタ姫様よ。一つ忠告してあげる。ここはもうあんたのいた世界じゃない。その事に気がつかないと。死ぬよ?」

 

「それとシルフィー。こいつの肩を持つとあんたも

同類だよ」

 

「別に持つわけじゃない。ただ食べ物を粗末にする事が許せないだけ。ただそれだけよ」

 

そう言うとシルフィーはアンジュも軽く睨んだ。

 

「・・・」

 

アンジュは何を言わずに席を離れた。シルフィーもテーブルに置いたプレートを持ち上げると、その場を離れた。

 

「ナオミ達。ココ。ミランダ。席が空いたわよ」

 

見るとココとミランダがアンジュと会話をしていた。

 

「あの。よかったらこれを」

 

ココがアンジュにプリンを差し出した。暫くアンジュは惚けていたが、やがてそのプリンを受け取った。

 

「分からない事があったら、是非聞いてください!」

 

「・・・では、連れて行って欲しい所があるのですが」

 

アンジュとココとミランダの三人は何処かへと歩いて行った。

 

「ナオミ。シルフィー。私達を待たなくていいよ。先に食べてて」

 

廊下の角を曲がる際、ミランダのその様な声が聞こえた。

 

とりあえず二人とも空いた席に座ると食事を摂り始めた。

 

「それにしてもシルフィーは凄いよね。真っ先に

仲裁に向かって」

 

「言った通りよ。食べ物を粗末にされるのは我慢できないだけ」

 

「島ではどうだったの?食べ物とか」

 

ナオミの一言にシルフィーの顔色が曇る。

 

「・・・正に運次第だったわ。魚とかが獲れる日もあれば、何も取れずに数日我慢した日もある。まぁ基本は食べ物を探そうと海や森を駆け回って探してたし」

 

「じゃあ島での生活が、ここでの訓練に活かされてるんだね」

 

「そう言えばナオミ。貴女はシュミレーター訓練。まだガレオン級を突破してないの?」

 

「ううっ。スパッと聞くなぁ」

 

シルフィーはナオミの訓練を見ていて気づいていた。ナオミはスクーナー級などは問題なく倒しているが、ガレオン級には未だ白星が付いていないのだ。

 

その理由は簡単。ガレオン級と対峙した時ナオミの身体は硬直しているのだ。彼女自身、墜落した時の原因がガレオン級なのだ。その事に無意識の内に

恐怖を感じているのだろう、あれでは戦う事が難しいだろう。

 

「大丈夫なの?実戦で出会ったら」

 

「大丈夫だよ」」

 

そんなナオミだが、本人の気づかないうちに恐怖という感情は芽生えるものだ。そしてその事にナオミ自身はまだ気がついていない・・・

 

「そう言えばシルフィー。今後の出撃の時の機体はグレイブだって」

 

「グレイブ?」

 

「うん。新兵用の。そう言えばシルフィーの機体。あの後どうなったんだろ?」

 

不意に湧き出た疑問。ナオミもあの機体に乗った事のある存在だ。それ故にどうなったのか、興味があるのだろう。

 

「ジル司令が知ってるんじゃないかしら」

 

そう言うとシルフィーはコップの水を飲み干した。

 

 

 

やがて食事が終わり、二人は部屋へと帰った。

 

シルフィーは窓の外を見てみた。そこは海が果てしなく広がっている。それは名もなき島で見てきた

風景となんら変わりはなかった。見ている場所以外は。

 

(・・・変わったわね。私は)

 

海で魚を捕り、森で木の実などを集める。決して楽な生活ではない。悪い時には何も手に入らずお腹を空かす日もあった。

 

それが今では沢山の人と出会った。食事においても、最低限出される以上、餓死する事はない。何より、自分が何も知らなかった事を知れている。少なくてもここでの生活に今は満足である。

 

「風に飛ばん el ragna〜♪」

 

シルフィーはあの歌を歌い始めた。コックピットで見たあの風景。そしてそこで何者かに抱かれる形で聞いた優しい歌。あれを歌うと、気分が落ち着くものである。

 

(そういえばこの歌。歌だけじゃない。あの光景も・・・確かコックピットで見たんだっけ・・・あれは一体・・・)

 

【カチャ】

 

扉が開いた。その事にシルフィーは気がつかずに歌い続けた。

 

「なっ!貴女・・・」

 

背後から呼ばれたので振り返る。するとそこにはアンジュがいた。手にはプリンと紙。そしてペンなどを持っていた。

 

「今の歌は・・・」

 

「知ってるの!?」

 

シルフィーからしたらこの歌は謎なのだ。その為、何なのか知りたいものだ

 

「・・・いえ、知りませんね。ただうるさいので、静かにしてもらえます?」

 

「・・・」

 

このまま歌い続ければ争いに発展するのは目に見えた。シルフィーは黙ってベットに横になり、壁の方を向いた。

 

アンジュは窓際に座り込むと何かを書き始めた。シルフィーは気にする事もなく壁を見続けている。

 

【ゴト。コロコロ】

 

不意に何かが落ちて転がってくる音がした。見てみるとプリンが自分のベットの下へと転がって来るではないか。

 

「落としたわよ」

 

シルフィーはプリンを拾い上げるとアンジュの側に置いた。

 

「落としましたか。すいません」

 

【ゴト】

 

次の瞬間、アンジュはプリンを側にあったゴミ箱へと捨てた。どうやら先程落としたのもゴミ箱に捨て様として落としたのだ。しかも捨てたプリン。それはココのあげたプリンだ。

 

「・・・何してんのよ」

 

流石に異常を感じとりシルフィーが尋ねた。

 

「ゴミをゴミ箱に捨てたのです」

 

「それ、食べ物よ」

 

「こんなのは食べ物ではありません。仮に食べ物だとしても、穢らわしいノーマの触れた食べ物など、口にしたと想像しただけで・・・」

 

【パチン!】

 

乾いた音が部屋に響いた。無意識に手が出たと言っていい。シルフィーがアンジュにビンタした。

 

「なっ、何をする!」

 

「・・・粗末にするな」

 

そう言うとシルフィーは部屋を出て行った。食べ物を粗末にした事以外の不愉快さも湧いている。一緒にいたくなくなった。おそらくこの現場にココがいない事は良かったと言える。

 

アンジュは引っ叩かれた頬を擦りながら、何かを書き続けた。

 

(こんな所とも、これでおさらばです!!)

 

その思いを目の前の紙に文章として書き出した。

 

(それにしてもさっきの歌・・・似てた・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

行くあてのなかったシルフィーは司令部に来ていた。どうせ暇なのだし、あの機体がどうなったか知ろうというわけだ。

 

「何の用だシルフィー。ルームメイトの苦情か?」

 

ジル司令がタバコをふかしながら聞いてきた。アンジュのノーマの偏見の目に対してはかなりの苦情が来ている。それがルームメイトともなれば毎日誹謗中傷されるものだ。

 

もっともシルフィー自身はさっきの件を除いて、そんなもの気にしていないが。

 

「別に。それより私の乗ってきた揺り・・・パラメイルだけど、あれって結局どうなったの」

 

「あぁ。以前言ったと思うが、ノーマである以上

お前の所持品は全て没収だ。あの機体とて例外ではない。腕輪に関しては、外すとしたらお前の腕を斬り落とすしか方法がないから諦めただけだ」

 

シルフィーは自分の右腕を見た。アルゼナルの制服はノースリーブに近いので、腕が全部露出している。腕輪は右腕に装備されていた。

 

「まさかお前。機体を返せとでも言う気か?」

 

「返せと言ったら返すの?」

 

「まさか。まぁ機体がお前を選んだのなら話は別だかな。で、話はそれだけか?」

 

「まぁあの機体がどうなったか、少し気になっただけだから。それでは失礼します」

 

そう言い帰ろとした時、司令部の扉が開いた。そこにはアンジュがいた。アンジュはシルフィーの横を素通りしてジル司令の元に行った。

 

「これを」

 

そう言いアンジュは手にしていた紙をジル司令に渡した。ジル司令はじっとそれを眺めていたがやがて口を開いた。

 

「・・・なんだこれは?」

 

ジル司令の言葉にオペレーター達も振り返る。一体何が起きているのか。興味が湧いたのだろう。エマ監察官も何事もかと思いその紙を見ていた。シルフィーも足を止めて振り返った。

 

「嘆願書です。私の皇室特権の適用と即時解放を求めた内容です。これを各国元首に届けてください。今すぐに」

 

どうやら先程の窓際での作業は嘆願書の制作だったようだ。

 

「貴女まだ解ってないの?」

 

エマ監察官など呆れ返っている。

 

「いやはや困りましたよそいつの頭の固さには」

 

また扉が開いた。そこには赤のバスローブに身を包んだゾーラ隊長がいた。

 

「教育がなってないぞ。ゾーラ」

 

「はっ!申し訳ありません!」

 

ゾーラ隊長がアンジュとシルフィーをジロジロ吟味している。その目はまさに獲物を狙う野獣の目であった。ゾーラ隊長がライオンなら、さしずめ二人は小動物と言った具合である。

 

「お前達でいいや。部屋をお借りしますね」

 

「許可する」

 

ジル司令からの許可が降りた途端。ゾーラ隊長は

二人の手を掴んだ。

 

「はっ離してください!」

 

「なっ何を・・・」

 

戸惑う二人を無視してゾーラ隊長は二人を連れ司令部を後にした。

 

「・・・・・・」

 

エマ監察官が黙ってジル司令を見つめていた。

 

しかし次の瞬間。

 

【ジリリリリリリリ!!】

 

「!!」

 

司令部の電話が鳴った。その場にいた皆がそれに

反応した。

 

エマ監察官が慌てて電話を取った。

 

「はい!アルゼナル司令部!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

電話が鳴る数分前。ゾーラ隊長に強引に連れられる形で、アンジュとシルフィーは取り調べ室へと入れられた。取り調べ室に入るなり、二人とも机の上に押し倒された。慣れた手つきで二人の手を枷で簡単に拘束する。

 

「状況認識が甘いと戦場では生き残れんぞ。シルフィーもだ。同じノーマ同士、仲良く手を取り合わないと戦場では戦えんぞ」

 

「私は皇国に帰るのです!!」

 

「べっ、別にそんなつもりは」

 

二人とも枷をを外そうとガチャガチャしている。

アンジュの方はもうひと頑張りすれば枷は外れそうである。

 

「言ってわからないなら身体に教え込むしかないな」

 

次の瞬間、ゾーラが二人にキスをした。しかも舌を絡めるタイプのキスである。

 

舌同士を繋ぐかの様に、細い糸が引かれている。

 

「素直になれば、お前達の知らない快楽を教えてやるぞ」

 

耳元で囁く様にゾーラ隊長が言う。そしてゾーラ

隊長がシルフィーの胸を揉み始めた。

 

「あっ。あっ・・・」

 

「おやおや。随分と可愛らしい声を出すじゃないか。期待のスーパールーキーもこっちの方はまだまだお子様なんだな」

 

「ちっ、ちが・・・」

 

シルフィー自身、未知の感覚に戸惑っている。

 

「さてと。平等にしてやらないとな」

 

すると今度はアンジュの胸を揉み始めた。

 

「!!」

 

指が胸の先端に触れた瞬間、アンジュの手枷が外れた。

 

【パチン!】

 

反射的にアンジュはゾーラ隊長の頬にビンタした。

 

すると床に何かが落ちた。見てみると、なんとそれは目玉であった。

 

「いいねいいねぇ。やっぱノーマはそうでなくっちゃ」

 

ゾーラ隊長が興奮した目でこちらを見た。そのうち右目は空洞となっている。

 

「わっ、私は・・・ノーマでは・・・」

 

アンジュは目の前の存在に怯えている。

 

「目玉が吹っ飛ぼうが片腕捥げようが闘う本能に血が滾る!!それが私達ノーマだ!!」

 

そう言うとゾーラ隊長は床に落ちた義眼を拾い上げ、一舐めすると右目に入れた。

 

「昂ぶってんじゃねぇか。私を吹っ飛ばして」

 

「ちっ、違・・・」

 

「お前も不満だったんだろ?偽善に塗れたあの世界が・・・」

 

ゾーラがアンジュの首筋を舐める。

 

【ガチャガチャガチャ】

 

シルフィーの方はなんとか手枷を外そうとする。しかしそれは音を立てるだけで外れる様子が見られない。アンジュの手枷が偶然ボロボロだったから外れただけの様だ。

 

「落ち着けシルフィー。お前にもちゃんとしてやるよ」

 

ゾーラが平等に両者の首筋を舐めた。身体が軽く跳ねた。

 

「さてと。両者共そろそろ身体がほぐれてきたろ?いっちょやるか」

 

ゾーラ隊長の指が二人の秘部に迫ってきた。遂に禁断の扉のドアノブに手を掛けている。後はドアノブを回し引くだけである。

 

 

 

しかし、その時である!

 

【ビービービービー】

 

突然警報が室内に鳴り響いた。赤ランプが煌々と点灯している。

 

突然の大きな音にアンジュはシルフィーは驚いた。

 

「まさか・・・来たってのか。ちっ!これからだってのに!」

 

そう言うとゾーラ隊長は二人の手枷をきちんと外した。

 

「アンジュ!シルフィー!出撃だ!ドラゴンが来たんだよ!」

 

そう言うとゾーラ隊長は走って部屋を後にした。

シルフィーもそれに続く。

 

アンジュは唾を吐き捨て、腕で口を拭うと後に続いた。

 

 




今回色々とフラグが乱立してる様な気がしなくもない。後久し振りにエッチな描写を書いた気がする。

本編ではゾーラ隊長は最初はヒルダとしてましたね。

なお、メビウスの方は書くネタが現段階ではまだ
確立してない為、当分こちらの話が進行するかな。



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第10話 死神の舞う戦場



お気に入り10人突破!そして第10話突破しました!

基本前書きはこの様なお祝いの言葉の為に使わせていただきます。


「アーキバス!グレイブ!各機エンジン始動!ハウザーは弾薬装填を急げ!」

 

発着デッキではメイが各員に指示を出していた。

機体を発進させる為の準備が急ピッチで進められている。

 

そしてそこにライダースーツに着替えた第一中隊のメンバーが集まった。

 

「シルフィー。ナオミ。アンジュ。三人はグレイブ。ココとミランダはハウザーに乗って」

 

五人の目の前には白色の機体が置かれていた。新兵用の機体である。自分の機体の場所を指差し、

それぞれ機体に乗り込む。

 

「これって、あの時の」

 

アンジュは例のシュミレーター訓練を思い出した。

 

そこにゾーラ隊長が激励の言葉を送った。

 

「生娘ども初陣だ!お前達は最後列から援護!隊列を乱さず落ち着いて状況に対処しろ!訓練どうりにやれば死ぬことはない!!」

 

「イエス・マム!」

 

やがて発進準備が完了したらしい。全員が風防の為にバイザーを装着する。

 

「よし!ゾーラ隊!発進するぞ!!」

 

次の瞬間、それぞれの機体は発進した。機体は隊列を組んで、空を飛行をしている。

 

「シンギュラーまでの距離!一万!」

 

「よし。各機戦闘態勢!フォーメーションを組め!」

 

そう言うと各機はそれぞれの相手とフォーメーションを組んだ。

 

「アンジュ。シルフィー。二人は私と組むわよ」

 

サリアの機体が二人に寄ってきた。だが次の瞬間、突然アンジュが隊列から外れた。

 

「アンジュ機、離脱!」

 

「離脱ゥ!?」

 

オペレーターからの通信に皆が驚く。直ぐにサリアがその後を追いかけた。少ししてシルフィーもその後を追いかける。

 

「アンジュ。そろそろ戦闘空域よ。戻りなさい」

 

サリアが警告を送る。しかしアンジュは止まらない。機体は尚も加速を続けている。

 

「アンジュ!戻りなさい!!」

 

「私の名はアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギです!私は私のいるべき世界、ミスルギ皇国帰ります!!」

 

「二人とも。戦闘空域に戻らなくていいの!?」

 

二人を追いかける形でシルフィーがやって来た。

 

「シルフィー。貴女まで来なくていいのに!それよりアンジュ!止まりなさい!さもないとこの場で

貴女を射殺するわ!!」

 

サリアが銃を取り出しアンジュに向けた。メイルライダーの中で、戦う前から敵に恐れを為して逃げる。またはアンジュの様に逃亡を図るものがいる。それらに対してはまず説得をする。しかし説得が

失敗した場合は味方が射殺する。それが決まりとなっているらしい。

 

「・・・」

 

サリアが照準を合わせようとする。一度だけ頭に

照準が合ったがやめた。出来るだけ急所を外すように調整している。狙いは脚だ。

 

「アンジュリーゼ様ぁ!」

 

突然背後から声が聞こえた。振り返るとそこには

ココがいた。

 

「私も連れて行ってください。魔法の国に!」

 

「何言ってるのココ!」

 

「ダメだよココ!戻って!」

 

ココの後ろにミランダとナオミが来ている。どうやら二人はココを連れ戻そうとしている様だ。

 

魔法の国。前回アンジュはレターセットを買うため、二人にジャスミンモールの使い方を尋ねた。

そしてその時にミスルギ皇国について話したのだ。

 

望めば何でも手に入る。美味しいものが食べられる。ココからしたら正にそれは魔法の国の世界である。

 

こうして六機が一箇所に纏まっている。そして最悪のタイミングで最悪の出来事がついに発生した。

 

「シンギュラー!開きます!」

 

次の瞬間、六人の頭上に穴が開かれた。皆が上を向いた。するとレーザーが上空から降り注いできた。

 

そしてそれはココの機体に直撃した。直撃した

瞬間、ココの身体から鮮血が流れ、そして宙に飛び散った。鮮血の一部が近くにいた機体に付着する。

 

ココの機体は海面へと落下した。海に沈んでから数秒後、沈んだ付近が光った。機体に搭載された燃料が爆発したのだろう。

 

「嘘・・・だよね・・・」

 

「ココ?・・・ココ!?ココ!!」

 

当初ナオミとミランダは事態が飲み込めなかった。ついさっきまで普通に会話をしていた存在。友達。それが目の前から突然消え去った。

 

そして上空に開かれた穴からそいつらは現れた。

 

「なに・・・あれ・・・」

 

巨大なトカゲに翼が生えた存在。次元を超えてこの世界に進行する存在。

 

それは次元を超えてこの世界に進行してくる敵、

ドラゴンだ。それなりの数が揃っている。ドラゴンはまずその場にいた五人目掛けて突っ込んできた。

 

「全員散開するわよ!」

 

サリアの掛け声がなくとも皆が反射的にドラゴンと距離を取っていた。しかし直後に、オペレーターから恐るべき内容の通信が送られてきた。

 

「シンギュラーが二箇所に開かれました!」

 

「何ですって!?」

 

シンギュラーが二箇所同時に開かれた。普段なら

こんな事は滅多に起こらない。今回その普段滅多に起きない出来事が起きてしまったのだ。

 

更に最悪な事に開かれたもう一つは、サリア達の

現在位置真逆のゾーラ隊長の現在位置付近なのだ。

 

言うなればこれは、戦力を分散されたと言える。

 

「サリア!聞こえるか!」

 

サリア宛にゾーラ隊長から通信が入った。

 

「なんでしょう隊長!?」

 

「こっちにもドラゴンの大群が現れた。悪いがそちらの救援に回せる戦略がない!そっちのメンバーの指揮はお前に任せる!」

 

「アンジュの罰は?」

 

「後にしろ!今は生き残る事を考えろ!!」

 

「了解」

 

サリアは銃をしまった。

 

「総員聞け。ゾーラだ。新兵教育は中止する!まずはカトンボどもを蹴散らし、制空権の確保に努める!」

 

「イエス・マム!」

 

そういうとゾーラ隊長。そしてヒルダとロザリーとクリス。エルシャとヴィヴィアンは機体を駆逐形態へと変形。ドラゴン達をライフルで撃ち落としていった。

 

 

 

こちらはシルフィー達。

 

「四人とも!駆逐形態に変形して!隊長達が来るまでの間、私達で生き残る為に戦うわよ!」

 

サリアとシルフィーは機体を変形させた。しかしサリアの言葉も、今のミランダとナオミには届いていなかった。

 

「ココ!!ココ!!ココォ!!」

 

「嘘だよね・・・ココ!返事してよ!!」

 

「ミランダ!ナオミ!ココの事は今は忘れなさい!でないと次に死ぬのは貴女達になるのよ!!」

 

「サリア・・・」

 

彼女の言っている事は最もだ。戦場での迷いは死に直結する。

 

二人はバイザーを上にあげ、目に溜まっていた涙を拭うと、直ぐにバイザーを降ろした。そして駆逐形態に変形しようとした矢先、再びアンジュが戦線を離脱した。

 

「アンジュ!何処に行くの!?」

 

機体を変形させようとしていたミランダだが、中止し、慌ててアンジュの後を追いかけた。

 

「私は!ミスルギ皇国に帰ります!!」

 

「何を言っているの!?機体の燃料は一回の戦闘分しか搭載されていないんだよ!?」

 

そうなのだ。パラメイルは基本燃料を満タンに搭載することなどない。理由は簡単、アンジュの様な

脱走防止だ。アンジュの様な新兵の機体では精々十分が限界だろう。このまま飛んでいけば間違いなく燃料切れで海に墜落するのが目に見えている。

 

「構いません!あのような場所に戻らないで済むなら!後は自力でなんとかします!!」

 

なんと身勝手な理屈だろうか。

 

そんな中ミランダはココの事を考えていた。ついさっきまで平然といた友達。それが今はもういない。この空で、その命が簡単に消えてしまった。

 

(ココの馬鹿・・・何夢見たんだよ・・・何が魔法の国だよ・・・)

 

(私達は、ノーマなんだぞ・・・!)

 

「ミランダ!上!!」

 

ナオミの通信でミランダは我に帰った。上を見る。するとドラゴンが目前にまで機体に接近していた。

 

「ひっ!」

 

次の瞬間、ミランダの身体はパラメイルから放り投げ出された。パラメイルとは飛翔形態時はコックピットが剥き出しなのだ。そしてコックピットに体を繋ぐシートベルトなどはない。

 

「助け・・・」

 

【ガブッ】

 

放り投げ出されたミランダの身体。次の瞬間、その身体を餌とするかの様にドラゴン達が集まってきた。ミランダはドラゴン達によって喰われた。そしてその光景を四人は見ていた。

 

「そんな・・・ミランダ・・・ミランダ!!」

 

ナオミは必至に友の名前を叫ぶ。しかし友からは何一つの返事は返ってこない。

 

ドラゴンはナオミ目掛けて襲いかかってきた。サリアとシルフィーの機体が、ライフルを使いドラゴンを撃ち落とした。

 

「ナオミ!貴女まで死ぬ気!?」

 

「!!」

 

「今は戦いなさいナオミ!生き延びる為に!!」

 

ナオミは機体を変形させた。今すぐ泣き出したい気持ちを必死に押し殺して。涙目でよく見えないながらも、頑張ってドラゴン達を撃ち墜とそうと狙った。

 

こうしてシルフィー達もドラゴンと戦いだした。

 

だがアンジュだけは違っていた。

 

「いや・・・いやぁぁぁぁぁ!!」

 

アンジュは悲鳴をあげ、その場から離れた。向かった先はゾーラ隊長達のいるエリアだ。そのエリアのドラゴンがアンジュに迫って来た。

 

それらをアンジュは滅茶苦茶な動きで避ける。途中で駆逐形態にも変形したが攻撃はしない。ただ恐怖から逃げ、そして避けるだけだ。

 

追いかけようにも、こちらもドラゴンの掃討で精一杯でそれどころではない。

 

こちらのシンギュラーに現れたドラゴンの殲滅が終わった頃。既にアンジュの姿は目視では捉えられなかった。

 

「ナオミ!シルフィー!急いでアンジュの後を追うわよ!あのままじゃアンジュが危険よ!」

 

「イエス・マム!」

 

そうして三人はアンジュの後を追いかけた。

 

 

 

その頃ゾーラ隊長達の所に現れたドラゴンは残り

一匹となっていた。しかしそのドラゴンは大きい。

ガレオン級だ。

 

「後はあんただけだよ!デカブツ!各機、凍結バレット装填!」

 

凍結バレット。パラメイルの両腕部に装備される

切り札の武器だ。主に大型ドラゴンの撃退用に使われる。

 

その凍結力はかなりのもので放った凍結弾が海面に命中しようものなら辺り一帯の水が凍りつき、氷原へと変わり果ててしまう程だ。

 

「こいつでカチンコチンだ!!」

 

凍結バレットがドラゴンに命中した。命中部分から氷の柱が生えてきた。だがその氷の柱はものの見事に砕け散った。どうやら傷口や急所などに当てないと本来の破壊力を出す事は出来ないらしい。

 

他の機体も凍結バレットを撃ち込む。致命傷とまでは行っていないが決してノーダメージという訳ではない。

 

「よし!こいつでトドメだ!」

 

ゾーラ隊長が凍結バレットを撃ち込もうとした。

 

その時だった。

 

「イヤァァァァァァ!!」

 

アンジュの機体がゾーラ隊長の機体に組みついた。

 

「何をするアンジュ!離れないか!」

 

「助けてください!助けてください!!」

 

しかしアンジュは完全に周りが見えていない。皇室にいた時には一切感じる事のなかった感覚。死と隣り合わせという恐怖。それらの感覚が、今のアンジュを支配していた。

 

「ゾーラ!」

 

ヒルダが叫ぶ。大型ドラゴンが二人の機体目掛けて迫ってきた。ガレオン級の尻尾が振り下ろされる。

 

「キャァァァ!!」

 

次の瞬間、二人の機体はドラゴンによって、海面目指して叩きつけられた。

 

「おい!あいつやってくるぞ!」

 

皆で凍結バレットを放とうとした。しかし全員の

凍結バレットの残弾はゼロであった。

 

ドラゴンは尚も迫ってきている。そのドラゴンは

ナオミのグレイブ目掛けて突き進んだ。

 

「ナオミ!凍結バレットの装填を!!」

 

しかしナオミの機体は動こうとしなかった。

 

「ナオミ!何やってるの!?早く用意しなさい!」

 

しかしナオミは動かないでいた。いや、動けないでいた。あの時の記憶がフラッシュバックしている。

 

実機テストの際、ガレオン級に叩き落とされた記憶。それらが今恐怖として蘇り、それによってナオミの体は硬直していた。

 

「駄目だ・・・倒さないと、戦わないと・・・じゃないと今度こそ・・・」

 

必死に心を奮い立たせ、体を動かそうとする。だが身体は脳の発する命令を聞こうとしなかった。

 

「ナオミ!避けなさい!!」

 

サリアが叫んだ。既にドラゴンが目前へと迫っている。するとドラゴンの前にグレイブが一機、割り込む風に現れた。それはシルフィーのグレイブだった。

 

「シルフィー!?」

 

「はぁぁぁっ!!」

 

彼女のグレイブがブレードを取り出し、ドラゴンの目らしき部位の間目掛けて突き刺した。飛び散った血が白い機体に赤い斑点を付けた。だがドラゴンは痛みで怯むこともなく、翼をシルフィーの機体に叩きつけた。

 

グレイブは大きく揺れ、下へと落ちていった。

 

「シルフィー!?シルフィー!!」

 

今度も返事は返ってこなかった。

 

ドラゴンはこちらを睨む風に見た後、咆哮をあげ何処かへと去って行った。先程受けた攻撃の傷は少なからずドラゴンを苦しめているようだ。

 

「あいつ!逃すか!!」

 

ヒルダ達がライフルを構える。しかしそこから弾が放たれる事は無かった。ライフルの方も弾切れだ。

 

「やろぉ!待ちやがれ!!」

 

「落ち着きなさい!ヒルダ!」

 

追いかけようとするヒルダの機体をサリアが止めた。

 

「なんで止めやがる!サリア!!」

 

「凍結バレット無しでどうしろっていうの!?第一今深追いすれば、機体の燃料が尽きるわ!!」

 

その通り。既に機体の燃料は危険ゾーンへと到達している。しかも大型ドラゴンには凍結バレットが

有効だがこれも残弾数の方はゼロ。

 

相手が手負いとはいえ、今追撃に行くのはあまりに無謀である。

 

「全機、一度アルゼナルへ帰投しろ」

 

ジル司令から帰還命令が出た。

 

「アンジュ達三人はどうします?」

 

「既に回収班を回してある。お前達は一度、アルゼナルへ帰投しろ」

 

「イエス・マム。全機、アルゼナルへ帰投するわよ」

 

副隊長であるサリアの指示の元、残されたメンバーは皆機体を変形させ、アルゼナルへと帰っていった。

 

「・・・・・・」

 

勝利と言えない戦いを終えた彼女達の目に、喜びなど一欠片もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、墜落した三つの機体。

 

幸か不幸か、三人の機体はどれも、たまたま下にあった岩礁に落ちていた。パラメイルは機密性が無いに等しい為、海に墜落していれば、そちらの方が

危険だっただろう。

 

「ううっ・・・んっ」

 

アンジュの頬に何かが触れた。生温かい液体だ。色は赤色。恐る恐る上を見た。

 

「!!!」

 

そこには義眼が外れた、血塗れのゾーラ隊長の姿があった。既にそれは骸へと成り果てている。

 

「いっ・・・いやぁぁぁ!!」

 

アンジュは悲鳴をあげると、再び意識を失った。

 

シルフィーに関しては、身体がコックピットを突き破り外へと投げ出されていた。身体の一部からは血が流れ出ており、その場を中心に血の水溜りが広がってゆく。

 

「・・・」

 

彼女からはうめき声も、身体が動く気配も何一つ感じさせなかった。

 

そんなシルフィーの元に、ある人物がいた。例の如く右目に傷のある黒装束の男だ。

 

「・・・・・・・・・・」

 

男はじっとシルフィーを見つめた後、その場から姿を消した。




やはりあの戦闘は何回見ても悔やまれる。ココの件に関しては、自業自得と言ってしまえばそれまでだが、それで済ましていいのか悩んでしまう。



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第11話 残った生命/散った生命

 

「様・・・アンジュリーゼ様・・・アンジュリーゼ様!!」

 

自分の名前を呼ぶ声に。アンジュは目を覚ます。

そこは自分の皇室ベットであった側には彼女の筆頭侍女であるモモカがいた。

 

「モモ・・・カ?」

 

「どうされましたか?酷くうなされておりましたが?」

 

(夢だったの?そう、夢を見ていたのね・・・酷い夢・・・)

 

「酷い夢を見たわ。私がノーマだったという夢」

「まぁ!何をを仰るのですか!」

 

 

 

 

「アンジュリーゼ様は私たちと同じノーマじゃないですか」

 

その瞬間、モモカの顔がココに変わった。しかも

全身血塗れの状態となっている。

 

「!?モモ・・・カ?」

 

「私も連れて行って下さい・・・魔法の国に・・・」

 

するとアンジュのベットの上に義眼が落ちてきた。

 

「目玉が吹っ飛ぼうが片腕吹っ飛ぼうが、戦う本能に血が滾る・ ・・それが私たちノーマだ」

 

上を向く。そこには血塗れのゾーラ隊長がいた。

あの時の光景がフラッシュバックする。

 

 

 

 

次の瞬間、アンジュの意識は覚醒した。

 

アンジュが目覚めた場所。そこはアルゼナルの医務室だった。そこには第一中隊のメンバーがいた。

ココ、ミランダ。そしてゾーラ隊長を除いて・・・

 

「お目覚めか。皇女殿下」

 

ジル司令が手元の報告書を読み上げる。先の戦闘での戦果らしい。

 

「パラメイル四機大破。一機中破。メイルライダー三名が死亡。新兵の二人に関しては遺体さえ残されていない。そして一名は意識不明の重体で生き残る確率は5%以下だ。仮に生き残ったとしても目覚める確率はまさに天文学的数字だ。そして肝心のドラゴンは取り逃がす始末。全部お前の敵前逃亡が招いた戦果だ。どんな気分だ?皇女殿下?」

 

アンジュはそっぽを向いた。向いた先にはシルフィーがいた。身体の至る所に包帯が巻かれている。口には酸素マスクを装着しておりそれが時々曇っている

 

そしてナオミが泣きながら、そして謝りながらシルフィーの名前を呼んでいた。

 

「人殺し・・・人殺し!!」

 

「お前がいなければお姉様が死ぬ事はなかったんだ!」

 

「手を出すなよ。それでも一応負傷者なんだからな」

 

興奮しているロザリーとクリスを制する様にマギーが言った。二人とも、今にも殴りかかる雰囲気を全開であった。

 

「なんとか言えよ!人殺し!!」

 

「私は国に帰ろうとしただけです。何も悪い事など・・・していません」

 

「わかってんのかよ!お前がお姉様を殺したんだぞ!」

 

あの時、もしアンジュの機体がゾーラ隊長に組みつかなければ、おそらくゾーラ隊長は死ななかっただろう。だがアンジュは組みついた。そしてゾーラ隊長は死んだ。なのにアンジュは生き延びた。

 

彼女を慕っていたロザリーやクリスからしたら、許せるはずがない。

 

「ノーマがどうなろうと、私には関係ありません」

 

「あっ!?」

 

「だってノーマは、人間ではないのですから」

 

場の空気が完全に凍りついた。アンジュの放った

一言はとてもじゃないが受け入れられるものではない。

 

次の瞬間、ヒルダのカカト落としがアンジュの傷口に命中した。

 

「があっ!」

 

「イタすぎだよ。あんた・・・」

 

ヒルダが静かな声で言う。だがその言葉の奥深くには、激しい怒りと不快感で燃えあがっている事が誰の耳にも明らかであった。

 

「サリア。お前を第一中隊の隊長とする。副隊長はヒルダ。各員、厳戒態勢をとれ!」

 

「イエス・マム!」

 

そう言うとアンジュとシルフィーを残し、第一中隊の皆は医務室を後にした。

 

「ねぇねぇサリア。前言ったクイズの答え。生き延びたのはアンジュとナオミだったね。あ、シルフィーも生きてるね」

 

「少し黙ってくれる?」

 

ヴィヴィアンが場を持ち直そうとするが、今のサリアにとってそれは、不快以外の何者でもなかった。

 

 

 

再びナオミが医務室に訪れた。手には水のはられた桶をもっている。ナオミはタオルを絞ると、シルフィーの身体を拭いた。

 

あの後皆がアンジュに対して様々な事を言っていた。だがナオミには何も言う事が出来なかった。

 

(私にアンジュを責める資格はない・・・)

 

あの時の恐怖がナオミの中で蘇る。あの時、もし

凍結バレットを放っていれば、ドラゴンを倒せたのではないか。少なくてもシルフィーは傷つかずに済んだはずだ。

 

(大丈夫なの?実戦で出会ったら)

 

(大丈夫だよ)

 

以前、シルフィーとした会話を思い出す。ちっとも大丈夫ではなかった。あの時の自分に激しい不快感を覚える。

 

(私は弱くて身勝手。友達を失い、傷つけた)

 

その考えがナオミを苦しめた。自分がシルフィーを殺したのだ。まだ死んではいないが生き残る確率が既に5%を切っている。

 

「シルフィー。目を覚ましてよ・・・」

 

シルフィーは何も答えず、ただ酸素マスクの口当て部分を曇らせている。やがて身体が吹き終わるとナオミは医務室を後にしようと扉へと向かった。

 

「・・・?」

 

不意に何かが動いた気配を感じ、背後をその方を向いた。アンジュは動いていなかった。

 

【ゴト】

 

持っていた桶を床に落とした。桶の中の水が床に溢れた。眠っていたシルフィーの目が薄めだが開いていた。その目はナオミを見ていた。

 

「・・・シルフィー・・・シルフィー!」

 

「ナ・・・オミ?」

 

「シルフィー。ごめんなさい!ごめんなさい!!」

 

ナオミは謝った。ひたすら泣いて謝っていた。シルフィーは口に当てた酸素マスクを取り外した。

 

「何泣いてるんだいナオミ。廊下にまでまる聞こえ・・・まじかよ」

 

戻ってきたマギーもシルフィーの姿を見て驚いていた。直ぐにマギーの診察が始まった。

 

しばらくの間、色々な事を聞かれた。それらに彼女は上の空で答えていた。あの時見た風景。一体あれはなんなのか。それについて考えた。

 

 

 

意識を失っている間、彼女は夢を見たのだ。そこである人物と出会った。

 

「・・・?」

 

気がつくとシルフィーはこの場所にいた。辺りには廃墟が立ち並んでいる。暗さからして恐らく時間的には夜更けだろう。

 

この時のシルフィーには何の疑問も持っていなかった。此処が何処なのか。何故ここにいるのか。そんな疑問を一切持っていなかった。

 

近くの廃墟に入って行く。するとそこには何かの骨が散らばっていた。人間の骨とは多少違っているが、根本的な外郭などに大きな違いはない。なんらかの生物の骨だ。

 

これらに対しても、シルフィーは何一つの恐怖も

疑問も抱かなかった。見えてないかの様に無視して、骨の上を歩き廃墟の階段を上っていく。

 

二階三階。そのどの階にも骨は散らばっていた。

 

やがて屋上へと辿り着いた。

 

屋上には骨がなかった。そしてよく見てみると、

地上からは廃墟の陰などで見えなかったが、上から見ると、ボロボロの鉄くずなどが至る所にあった。その鉄くずは人型兵器の名残が残されているものも多くある。

 

まるで戦争のジオラマを見ている気分だ。

 

その光景はまさに、これらの機械を使い戦争が起き、その結果自分以外の全ての人間が、いや、生物が地上から消え去った雰囲気であった。

 

ふと空を見上げた。そこには月が浮かんでいた。綺麗な満月であった。地上の荒廃とはまるで別世界の存在であった。

 

背後に暖かみを感じて振り返った。見てみると太陽が昇って行るではないか。太陽はなおも昇っていった。そしてなんと、空には太陽と月が並びたったのだ。

 

「太陽と月が」

 

「太陽の光。それは皆平等に降り注ぐ光だ」

 

不意に声がした。背後を振り返ると黒装束の男がいた。その右目には傷が付いていた。

 

この時シルフィーは、初めてあらゆる疑問が認知された。

 

「えっ・・・誰!?ここ何処!?なんで私、こんなところに」

 

「誰・・・か・・・黒き魔法使いとでも名乗っておこう」

 

黒き魔法使い。どう考えても本名であるはずがない。

 

「呼びにくければシオンと呼んでくれたまえ」

 

シオン。今度は幾分かマシな名前を出してきた。

黒き魔法使いとの名前の関連性は不明だが。

 

「さて、この様に出会ったのだ。帰る前に少し映像鑑賞でもしようではないか」

 

すると突然あたりの廃墟が騒めき始めた。見てみると鉄くずとなっていた機械が綺麗になっていた。まるで新品の様に。時間が巻き戻った感覚であった。

 

その機械は銃で空を撃ち始めた。すると上空に何かが現れた。

 

「あれはドラゴン!」

 

そこにはスクーナー級やガレオン級など、様々な

ドラゴンがいた。機械はドラゴンを撃ち落とすかの様に手にしたライフルや備え付けのミサイルなどをドラゴンに向けて放つ。

 

それに負けじとドラゴンは機械に、火炎弾や鱗などを飛ばして反撃する。

 

撃っては撃ち返し、撃ち返してはまた撃たれる。まさに泥沼の戦争という言葉が相応しかった。

 

やがて目の前の風景が廃墟に元に戻った。いや、廃墟になったと言うべきか。

 

「お前は死なない。絶対生きる。だから帰りたまえ」

 

「帰る・・・アルゼナル。何処にあるの?結局ここは何処なの?」

 

ここでアルゼナルの事を、先程の戦闘の事を思い出していた。

 

「大丈夫。これが導いてくれるはずだ。お前の行くべき道を」

 

そう言うとシオンは右腕につけられている腕輪をツンツンと突いた。

 

すると腕輪が眩いばかりに光輝いた。あまりの眩しさにシルフィーは目を細めた。

 

「いずれまあ会おう。その時は仲間と共に晩餐でも開こう」

 

その言葉を最後に、シオンの声は聞こえなくなった。腕輪は尚も輝き続け、あまりの眩しさに遂に目を瞑った。

 

そして次の瞬間、シルフィーの意識は覚醒した。

 

 

 

やがてマギーの診察が終わった。

 

検査の結果、失血状態が長く続いておりこのように後遺症もなく目覚めたのはまさに奇跡としか言いようがなかった。

 

「いやはや恐れいったよ。まさかあの土壇場で生き返るとは。まぁ今だけでもゆっくり休みな」

 

そう言うとマギーは部屋を後にした。どうやらジル司令に目覚めた事を報告しに行くようだ。

 

「ごめんシルフィー。私のせいで」

 

「気にしないで。私が好きでやった事だから」

 

「ココもミランダも・・・ゾーラ隊長も・・・三人とも死んじゃった・・・シルフィーまで、死んだら、私・・・」

 

「・・・何も言わないで」

 

シルフィーはナオミに抱き着いた。ナオミの口から出されるであろう言葉。その言葉を聞きたくないし、言わせたくない。そんな思いからきていた。

 

「私は・・・生きてるから」

 

すると扉が開いた。見てみるとジル司令であった。

 

「シルフィー。本当に目覚めたのか。生還おめでとうと言っておこう」

 

ジル司令から簡単な現状を説明された。まだドラゴンが残っている事。その為第一中隊は厳戒態勢を敷いているらしい。

 

「お前の身体に特に異常は見られない。戦線に復帰するかどうかは任せるぞ」

 

「・・・戦います」

 

「そうか。ならば死なない様に頑張るのだな。奇跡は二度も起こらんぞ」

 

「あの、嘆願書はどうなりました?」

 

話が終わったのを見計らうと、アンジュはジル司令に尋ねた。

 

「これの事か」

 

ジル司令は懐から嘆願書を取り出すとアンジュの元に投げ捨てた。全て同じ判子が押されていた。

 

「全て受け取りを拒否されたよ。アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギも、ミスルギ皇国も知らんとな」

 

「どういう事ですか・・・」

 

「エマ監察官に聞いたところ、もうないそうだ。

ミスルギ皇国は」

 

「え・・・ミスルギが・・・ない」

 

ジル司令の一言にアンジュは絶望した。自分が帰るべき場所だと思っていた故郷、ミスルギ皇国がもうない。その事実はアンジュにとって衝撃的な内容であった。

 

「お前がノーマだとバレたんだ。大方、キレた国民が革命でも起こしたのだろうな」

 

「そんな・・・ではお母さまは?お父さまは?お兄様は?シルヴィアは!?」

 

「知らん。それより石の準備が出来た。行くぞ。

ナオミとシルフィー。二人もついてこい」

 

「私達も・・・ですか?」

 

「お前達は知らなければならない。特にナオミ。お前はな」

 

そう言うとジル司令はアンジュを掴み、その場を後にした。ナオミとシルフィーもその後に続いた。

 

 

 

 

やがて四人は外へ続く入り口に辿り着いた。外は雨が降っていた。そしてその入り口にはジャスミンとバルカンがいた。

 

「まさか一日に三つも必要になるだなんてねぇ」

 

「急ですまないなジャスミン」

 

「いいって事よ。それよりアンタが噂の島育ちの

シルフィーかい?」

 

「はい。貴女は?」

 

「私はジャスミン。ジャスミンモールの店主さ。

こっちはバルカンだよ。まぁ今度うちに買い物でもしにおいで」

 

ジャスミンはシルフィーを一通り眺めた。

 

「成る程ねぇ。私の見込み通り、あんたはいい腕を持ってる」

 

「ジャスミン。すまないが早くしてくれ」

 

「おおそうだった。それじゃああんた。これを」

 

そう言うとジャスミンはアンジュにリアカーを渡した。その荷台には大きな石が三つ置かれている。

 

「お前が運ぶんだ。アンジュ」

 

「生き残った人間は死んだ仲間の墓を建ててやるんだよ。自分の金で。その子の人生を忘れないためにね。安心しな。足りない分はツケにしておいてあげるよ」

 

そう言うとアンジュはリアカーを引き始めた。その後ろをシルフィー達が付いて行く。やがてある場所へと辿り着いた。そこは沢山のお墓が並ぶ墓地であった。

 

「ゾーラ・アクスバス。ココ・リーブ 。ミランダ・キャンベル。アルゼナルの子たちはね。死んだ時に初めて名前が戻るのさ。親がくれた本当の名前に」

 

ジャスミンが何処か懐かしむ風に言う。

 

ジル司令はナオミの方を見た。

 

「ナオミ。お前の墓も一度この場所に並んだ事がある」

 

「えっ・・・本当ですか」

 

「お前がパラメイルの実機テストで墜落した時だ。第一中隊が駆けつけた時、お前の手がかりは何処にもなかった。皆が死んだと思ったよ」

 

「だがお前は帰ってきた。お前は自分の意思で帰りたいと願ったそうだな。シルフィーの様に島でひっそりと暮らすのではなく、兵士として戦う道を選んだんだ。ならば逃げるな。恐怖に、ドラゴンに立ち向かえ。でないとこいつが浮かばない」

 

ジル司令の視線の先にはお墓があった。お墓には

シェリー・メールと書かれていた。この下で眠っている人の名前なのだろう。

 

「実機テストの前に言ったはずだ。その命は明日も知れぬ命だと」

 

「・・・じゃあこの人が」

 

「あぁ。こいつが死んだ。だからお前に順番が回ってきた。お前達は死の上で生きる為に戦っている。中途半端な覚悟はやめろ」

 

キツイ一言だが、ジル司令なりに気遣っての発言なのだろう。誰も無駄死にする事など望んでいない。

 

三人でお墓の設置をした。ココとミランダは死体が残されていない為、空のお墓となってしまった。

 

やがてナオミがココとミランダのお墓の前にしゃがみ込む。

 

「なんで・・・私が帰ってきたときは、迎えてくれたのに、なんで、私は二人を迎えられないの・・・なんで・・・側から消えちゃったの・・・」

 

ナオミは泣くのを我慢していた。本当は泣き出したいのに、その気持ちを無理矢理押し込めようとしている。泣いたら、認めてしまいそうだから。二人が死んだという悲しい現実を。

 

「・・・シルフィー。受け止めてやれ」

 

「同期を失ったんだ。今泣かないと、後が辛いだけだよ。受け止めておやり」

 

二人に言われ、シルフィーは黙って背後からナオミに抱きついた。

 

「シルフィー?」

 

「大丈夫。私は死なない。側にいるから・・・」

 

「うっ、ウワァァァァァァァ!!」

 

堪えきれなくなったのか、ナオミは泣きだした。それをシルフィーは何も言わずに黙って抱きしめていた。

 

ジル司令とジャスミンはアンジュの方を向いた。

アンジュは相変わらず下に俯いていた。

 

「これから・・・これから私はどうなるのですか・・・どうすれば・・・」

 

「戦ってドラゴンを倒す。以上だ」

 

アンジュの質問にジル司令が簡潔に答えた。しかしその内容をアンジュは受け入れられないでいた。

 

「何なのですか・・・ドラゴンって、どうして私があんなのと・・・」

 

「授業を聞いてなかったのか?ドラゴンを殺す為の兵器。それが私たちノーマの唯一の生きる理由だ」

 

「皇女様としては本望だろ?世界を護るために戦えるんだからねぇ」

 

「世界を?」

 

ジャスミンの言葉がアンジュには理解できなかった。

 

「ここでノーマの娘たちがドラゴンと戦っているからマナの世界は平和を謳歌できる。平和ボケしたマナの世界は誰にも知られず死んでいったノーマ達が護ってたんだよ。そして今度はお前の番だ」

 

「しっ・・・知りません!!だって私は・・・

ノーマではないのですから」

 

ジル司令は何かを取り出しアンジュの前に突きつけた。

 

「監察官のペンだ。使ってみせろ」

 

アンジュはそれを受け取った。

 

「マナの光よ」

 

しかし何も起こらない。

 

「マナの光よ」

 

しかし何も動かない。

 

「マナの光よ!」

 

・・・しかし何も変わらない。

 

アンジュは地面に倒れこんだ。自身への絶望感。それらの感情に苛まれた。

 

「どうして?どうしてなの?今はほんの少し、マナが使えないだけなのに・・・なのにどうして」

 

「それを決めたのは人間だったお前達だろう?」

 

「マナがほんの少し使えない。そいつがどうなるか決めたのはお前達だろ?そしてそれに従ってお前はここに送られてきたんだ」

 

「だからってこんな・・・マナを使うのがほんの少し下手なだけなのに・・・それだけで、こんな地獄みたいな所に突き落とされるだなんて・・・」

 

「ノーマ。マナの光を拒絶する存在。本能のまま生きる暴力的で野蛮な突然変異。今すぐこの世界から隔離しなければならない」

 

「それがなんだと言うのですか!?それだけでこんな理不尽を受け入れろというのですか!?」

 

ジル司令の一言にアンジュは喰いかかる。すると

ジル司令はアンジュの方を向いた。その視線は明らかに軽蔑の視線であった。

 

「・・・セーラと言う名前を知っているか?」

 

セーラ。アンジュはこの言葉を何処かで聞いた記憶がある。遠い昔などではない。ほんのつい最近に聞いた言葉だ。

 

「セーラ。こいつはお前が送られてくる前日に送られて来たノーマだ。まだ赤ん坊でな。そしてマナで中継されてたよ、その子の確保する瞬間が。私は監察官のマナで見た。そしてお前はその時、その子の母親にさっきの言葉を言っていたな」

 

その言葉にアンジュは思い出した。

 

洗礼の儀の前日、エアリアの大会の帰り道の事だ。道端でノーマの赤ん坊が発見された。ノーマ管理法に基づきノーマは世界から隔離しなければならない。たとえそれが、何も知らぬ赤ん坊だとしても。

 

母親は必死に我が子を守ろうとしていた。

 

「この子はほんの少し、マナを使うのが下手なだけです!」

 

その母親にアンジュ、いや、アンジュリーゼはこう言った。

 

「マナの光を拒絶する存在。本能のまま生きる暴力的で野蛮な突然変異。今すぐこの世界から隔離しなければならない」と

 

その母親はこうも言っていた。

 

「私がきちんと育てる」と。

 

だがアンジュはこう言った。

 

「不可能です。だって【ノーマは人間ではないのです】から。忘れなさい。そして次の子を産むのです。ノーマなどではない【正しい子】を」

 

母親は怒り、アンジュリーゼ目掛けて哺乳瓶を投げつけた。この哺乳瓶はマナの光で塞がれた。正確には、モモカのマナの光で塞がれた。

 

無論、そんな事をしても何のの解決にならない。だが母親は最後の最後まで我が子を守ろうとした。だが現実は残酷だ。セーラはまるで害獣の様にケージに入れられ、連れ去られた。

 

その赤ん坊は母親から引き裂かれた。そして、母親は泣きながら我が子の名前を叫ぶ事しか出来なかった。

 

この時のアンジュリーゼには母と子を引き裂いた罪悪感など微塵もなかった。むしろ清々しさを感じていた。これで理想の世界。マナの光で満たされた素晴らしい世界にまた一歩近づいた。洗礼の儀を終えた暁には、ノーマ根絶を目指すつもりでいた。

 

アンジュリーゼは本気でそう思っていた。それが今ではこうだ。自分の言葉に打ちのめされた感覚だ。

 

ジャスミンが付け加えるかの様に言う。

 

「あぁ。全く理不尽だねぇ。ココなんて12歳なのに」

 

12。その言葉にアンジュが反応する。

 

「12。妹と・・・シルヴィアと同じ」

 

「・・・違う・・・違います!シルヴィアとは違います!だって・・・だって!」

 

「ノーマは人間などではない・・・からか?」

 

次の瞬間、ジル司令はアンジュの髪を掴んだ。

 

「だったらお前は何だ!皇女でもなく!マナもなく!義務も果たさず敵前逃亡し、年端も行かぬ仲間を殺したお前は一体何なんだ!?」

 

「ジル司令!」

 

不意に声がした。振り返ってみるとその場にサリアがいた。

 

「ドラゴンが発見されました。ってシルフィー!?貴女目覚めたの!?」

 

「そうか。立てアンジュ。出撃だ。ナオミ、シルフィー。お前達もだ」

 

「イエス・マム」

 

二人はそう言うと立ち上がり、墓地を後にした。

 

だがアンジュは動こうとしなかった。ジル司令はアンジュの襟を掴み、立ち上がらせた。

 

「この世界は理不尽で不平等だ!だから殺すか死ぬしかない!死んだ仲間の分もドラゴンを殺せ!それが出来なければ死ね!!」

 

「では殺してください。こんなの・・・辛すぎます」

 

「だめだ」

 

ジル司令はアンジュの哀願を一蹴した。

 

「ここで死んだ娘達と同じ様に、戦って死ね」

 

「あの、司令。パラメイルがもうありません」

 

サリアが報告する。アンジュの機体は大破して修復不可能であった。その為アンジュは機体を持っていなかった。

 

それにジル司令はニヤッと答えた。

 

「あるじゃないか。とっておきのが【アイツ】が」

 

その言葉にサリアはハッとする。ジャスミンは何処か笑っていた。

 

「アンジュ。ついてこい」

 

そう言うとジル司令とサリア。そしてジャスミンとバルカンはその場を後にした。だがアンジュは動かなかった。只々その場にへたり込んでいた。

 

あまりにも過酷な現状。アンジュは無意識の内にある言葉を呟いた。

 

「・・・死にたい。誰か、殺してください」

 

次の瞬間、アンジュの身体が蹴り上げられた。

 

突然の事でアンジュは対応が出来なかった。身体が地面に叩きつけられる。その方を見てみるとそこにはある人物がいた。右目に傷のある黒装束の男。

いや、シオンだ。

 

「なっ!何を・・・」

 

シオンは黙って近づいてきた。そして再び蹴りを入れた。

 

「痛っ。やっ、やめてください」

 

するとシオンは蹴りを入れるのをやめた。

 

「蹴られて痛いか?蹴りが止んで安心したか?」

 

「なっ、何を・・・」

 

「死んだ逝った者達は痛みで泣くことも、安心に喜ぶ事も、何も感じる事が出来ないのだぞ」

 

するとシオンはなにかを取り出した。それは血がついた人間の右腕と右足であった。

 

「人が眠る場所は地面だ。例え全てではなくとも、こうして祀られている場所で眠らせた方が良かろう」

 

そういうとシオンはココとミランダの墓を開けた。何もない空っぽのお墓に右腕と右足を大切に閉まった。そして再び墓を閉じ、最後に手を合わせた。

死んだ者達の御冥福を祈るために。

 

「ここに眠る娘達は誰一人として、死のうと思い死んだ者などいない。皆もっと生きたかったはずだ。命を粗末にするな」

 

シオンは睨むかの様な視線をアンジュに向けた。その言葉を最後に、彼はその場から姿を消した。瞬きする間もなく突然消えたのだ。

 

アンジュは呆然としていた。

 

「アンジュ!いつまで倒れてる!早く来い!」

 

ジル司令の催促の声が聞こえた。アンジュは力なく立ち上がると、格納庫の方へと歩いて行った。

 





遂に黒装束の男の名前を明らかに出来た。果たして彼は物語にどのような影響を与える存在になることやら。

見直してみると今回の話ちょっと長いかな?


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第12話 ヴィルキス覚醒

 

アンジュは格納庫へと辿り着いた。

 

「遅いぞアンジュ。グズグズするな」

 

ジル司令はアンジュを連れてある場所へと行った。そこにはメイがいた。その隣にはサリアもいる。

 

「どうだメイ。出せそうか?」

 

「うん!20分もあれば!」

 

そう言うとメイは何処かへと走っていった。おそらく出す為の準備なのだろう。

 

「さてアンジュ。こいつがお前の機体だ」

 

目の前の機体に被されていたシートが剥がされた。そこにはパラメイルが一機、存在していた。女神像などが取り付けられており、グレイブでもハウザーでも、アーキバスでもない機体だ。

 

「かなり古い機体でな。老朽化したエンジン。滅茶苦茶なエネルギー制御。いつ堕ちるか分からないポンコツだ。死にたいお前には打ってつけだろ?名前はヴィルキス」

 

アンジュはヴィルキスへと歩みを進めた。

 

「死ねるのですね。これで・・・戻れるのですね。アンジュリーゼに・・・」

 

「・・・せめてもの情けだ。あの世にこれだけでも持っていけ」

 

ジル司令が懐から何かを取り出した。それはかつてアンジュから没収した指輪であった。

アンジュはそれを受け取ると指にはめた。

 

そんな中、サリアが何処か不服そうにジル司令に

尋ねた。

 

「ねぇジル。どうして?この機体は私が・・・」

 

「サリア。隊長としての初陣、期待しているぞ」

 

そんなサリアの言葉を遮るかの様にジル司令が言った。

 

「イエス・マム」

 

サリアはそう返事した。二人はロッカールームへと足を進めた。

 

 

 

 

 

その頃、シルフィーとナオミはライダースーツに着替え終わり、発着デッキに来ていた。皆が復活したシルフィーの姿に驚いていた、

 

「シルフィー!本当に目覚めたんだね!」

 

「へぇ。運がいいんだね、あんた」

 

「シルフィーちゃん。あまり無理しちゃダメよ」

 

皆が思い思いの言葉を投げかけた。そんな中、ヒルダがナオミに話しかけてきた。

 

「なぁナオミ。あんた、戦えるのかよ」

 

「戦うよ。私は逃げない」

 

ナオミはかつて、島でのシルフィーの言葉を思い出す。

 

(最後にどうするか。最後に何をするか。それを決めるのは私自身にしか出来ない事。私はドラゴンと戦う。同じ悲しみを繰り返さない為に)

 

ナオミは決意を固めた。ドラゴンと戦うと。それは他の誰でもない、彼女自身が決めた事である。

 

(へぇ。ナオミの奴。一皮剥けてんな)

 

ヒルダがナオミの目を見て感じた。その目は前をしっかりと見据えていた。

 

やがてアンジュの機体の準備も整った。皆の機体がカタパルトへ送られる。

 

「サリア隊。発信します」

 

サリアの掛け声のもと、新たなる第一中隊はドラゴンの待つ戦場を目指して飛び立った。

 

「なんでアイツも来たんだよ!?お姉様をあんな風にした奴と出撃だなんて!」

 

「殺す・・・殺す・・・ぶち殺す」

 

アイツとはアンジュの事だ。ロザリーは愚痴を零す。クリスなど殺害予告宣言までしている始末である。

 

「死にに行くんだってよ、アイツ」

 

「へっ!?」

 

ヒルダのその言葉にロザリーとクリスは驚く。

 

「見せてもらおうじゃないか。イタ姫様の死にっぷりをさ!!」

 

「わー!なんじゃあの機体!?ねぇねぇサリア〜!あのパラメイル見ててドキドキしない?」

 

ヴィヴィアンがアンジュのパラメイルを見て興奮している。

 

「作戦中よ!ヴィヴィアン!」

 

やがて皆の視界に、例のガレオン級が現れた。先の戦闘での傷は完全に癒えていないらしく、身体の一部が凍っている。

 

「奴は瀕死よ。全機!凍結バレット装填!一気に奴を殲滅する!!」

 

皆が機体を駆逐形態へと変形させた。だが何故かアンジュだけ変形させなかった。いや、変形できなかったと言うべきか。

 

(ジル。やっぱり無理なのよ。あの娘には・・・)

 

サリアが内心でそう思う。するとドラゴンの前面に魔法陣が出た。

 

(あの鱗攻撃か来る!)

 

皆が警戒した。だが次の瞬間、海面に同じ模様の魔法陣が現れた。鱗はそこから放たれた。前の魔法陣にだけ警戒していた為、完全に不意を突かれた形になる。

 

「ワナを仕掛けてたのか!?こしゃくなぁーっ!!」

 

ヴィヴィアンが驚きながら避ける。しかしサリアの方はもっと驚いていた。

 

「海面からウロコ!?こんな攻撃は過去のデータにない!」

 

ウロコの攻撃は尚を続く。ロザリーとクリスが被弾した。

 

「二人とも下がれ!」

 

ヒルダはそう言うと二人のそばに駆け寄り、ウロコを撃ち落としていった。

 

鱗はなんと彼女達めがけて追尾してくる。避けるのが無意味に近い為、皆が鱗をひたすらに撃ち落とす。

 

不意打ちともいえるその攻撃は、こちらの有利不利を一気に覆した。

 

(くっ動きが悪い!このままじゃみんなが!)

 

「ゾーラ隊長。私どうすれば・・・」

 

「しっかりして、サリアちゃん!今の隊長はあなたよ!」

 

弱音を呟くサリアをエルシャが激励する。

 

「サリア!前!前!」

 

ヴィヴィアンに言われ前を見る。するとガレオン級が迫ってきていた。ガレオン級に機体が捕縛された。

 

コックピットから出て、サリアが自前のライフルでドラゴンを撃つ。しかしドラゴンには蚊ほどにも効かないようだ。

 

「サリア!待ってて!」

 

ナオミのグレイブが凍結バレットを放つ。それらはドラゴンを怯ませる事には成功した。

 

だがドラゴンはまだ健在であった。魔法陣を展開して火球が放たれた。ナオミはそれらを避けるのに必死であった。

 

ドラゴンは再びサリアの機体の方を向いた。サリア目掛けて一咆哮する。

 

(喰われる!)

 

そう直感し、反射的に目を瞑った。

 

その時だった。急にガレオン級が振り返った。その先にはアンジュとヴィルキスがいた。

 

「アンジュ!?」

 

「もうすぐ、もうすぐよ・・・もうすぐサヨナラ出来る」

 

「アンジュ!避けなさい!」

 

サリアがそう言う。次の瞬間、ドラゴンの尻尾がヴィルキス目掛けて振り下ろされた。

 

「!」

 

反射的にアンジュは機体を横にずらした。これによって尻尾には命中したが、直撃だけは避けれた。

 

「も・・・もう一度」

 

ドラゴンの周りに魔法陣が展開された。今度は魔法陣から火炎弾がヴィルキス目掛けて飛んできた。

 

「!きゃあ!!」

 

また反射的に機体を動かす。今度は機体に当てることなく、全て避け切った。

 

「何してんだよアイツ・・・自分から突っ込んだり、かわしたり・・・」

 

その行動はヒルダだけでなく全員が理解できないでいた。何よりアンジュも自分の行動が理解できていなかった。

 

「ダメじゃない・・・ちゃんと・・・ちゃんと死ななきゃ」

 

ドラゴンがヴィルキスに組みついてきた。

 

「ガン!」

 

組みつかれた衝撃で顔をモニターにぶつける。額からは血が流れる。

 

目の前にドラゴンの顔が映る。ドラゴンは咆哮を上げた。

 

ドラゴンの顔が目前に迫る。

 

「ひっ!」

 

アンジュは反射的に目を瞑る。その刹那、アンジュの脳裏に様々なものが浮かぶ。

 

レーザーが命中したココ。ドラゴンに身体を喰われたミランダ。コックピットで見た血塗れのゾーラ隊長。

 

様々な出来事が脳裏をよぎった。これが走馬灯というやつの中。

 

「いっ・・・いや・・・いや・・・」

 

母ソフィアの最後の言葉が脳裏をよぎる。

 

(生きなさい・・・アンジュリーゼ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヤァァァァァァ!」

 

額から流れた血が指輪に付着した。するとアンジュの指輪が光った。

 

そしてヴィルキスもそれに応えるかの様に光りだした。それに驚いたドラゴンはアンジュとサリアの機体を放した。

 

ヴィルキスは空中に舞い、その姿を駆逐形態へと姿を変えた。

 

「!?」

 

サリア達が驚いている。そしてジル司令は司令部から黙ってそれを見ていた。

 

「死にたくない・・・死にたくない・・・死にたくない!!」

 

アンジュはそう言うとライフルをドラゴンに向けて発射した。

 

それらは魔法陣で防がれた。反撃として、ドラゴンはウロコをヴィルキスに向けて放つ。

 

しかし、それらは斬り落とされた。次の瞬間には、ヴィルキスはドラゴン目がけて加速した。鱗などをブレードで斬り落として行く。

 

「おっ・・・お前が・・・お前が!!」

 

ヴィルキスはドラゴンの喉元に剣を突き刺した。ドラゴンは唸り声を上げる。

 

「お前が死ねぇぇ!!!」

 

ヴィルキスは凍結バレットを傷口に打ち込んだ。すると傷口から氷の柱が現れた。

 

それは瞬く間にドラゴンの身体に広がっていった。ドラゴンは海面へと落ちていった。落ちた場所を中心に海面が氷原に変わっていった。

 

「はっはは・・・あはっ・・・・あははは・・・」

 

涙を流しながら、アンジュはなぜか笑い出した。アンジュにはその理由がわからない。

 

「こんな感じ・・・知らない・・・」

 

(昂ぶってんじゃねぇか)

 

ゾーラ隊長の言葉を思い出す。

 

「違う・・・!こんなの私じゃない!殺してでも生きたいだなんて・・・そんな・・・汚くて!・・・浅ましくて!・・・身勝手な!・・・」

 

「それがノーマだ・・・」

 

アンジュの耳にゾーラ隊長の声が聞こえた。それは幻聴だったのかもしれないが、アンジュの耳にはたしかに聞こえた。

 

「うっ・・・うっ・・・くっ・・・うっ・・・あっ・・・うあああああああ・・・ああっ・・・うああああ!」

 

アンジュは泣いた。それを彼女達はただただ黙って見ていた。

 

ジル司令は上を向いた。その表情には満足な笑みが浮かんでいた。

 

 

 

やがてジル司令が帰還命令を第一中隊に伝えようとする。

 

「全機、アルゼナルへ帰・・・」

 

【バババババ】

 

すると突然、第一中隊に銃撃と鉛弾が襲いかかって来た。

 

「なっ!なんだ!?」

 

慌てて機体を操作してそれらを避けた。皆が銃撃された場所を見る。そこにはグレイブとハウザーがいた。見た目は新兵用の機体だ。

 

「パラメイル!?一体何処の中隊だ!?」

 

だが直ぐに中隊だという考えは消えた。何故ならそのパラメイル達は、明らかに中隊の数より多く存在している。

 

グレイブとハウザー。合わせて60機は存在している。

 

次の瞬間、それらの機体の銃口は第一中隊の機体へと向けられた。そしてそこから銃弾が放たれた。皆が緊急回避する。

 

「なっ!?なんだ!」

 

こちらへの銃撃、明らかに敵意を持った攻撃だ。

 

「やめろ!模擬戦にしては悪ふざけが過ぎるぞ!」

 

しかしオペレーターの通信に全員が耳を疑った。

 

「どうなってるの!?ライダーの反応無し!あれは全部無人機です!!」

 

通信越しにオペレーター達の慌てふためく声がした。

 

無人機。その名の通り人の乗らない兵器だ。だが

そんな兵器がアルゼナルにあるなど聞いた事がない。

 

無人機達は第一中隊に襲いかかっている。人がいなければコミュニケーションもとれない。向かってくる以上、倒すしかない。

 

しかし先程の戦闘での傷などがある。万全の体制で臨むには無理があった。しかし相手は無人機だ。逃げれば間違いなく背中から撃たれる。皆が腹を括って撃ち合う覚悟をした。

 

しかし撃ち合って直ぐに相手のの異常性が明らかになった。性能がダンチすぎである。パラメイルはカスタムが出来る為、機体には個別に差が出るものだ。

 

だが、目の前の無人のパラメイル達は、全て同じレベルだ。それも最高クラスの。全ての部品や装甲が最高値まで強化されている。

 

「あんな硬い装甲。どうやって砕くんだよ!」

 

「泣き言を言わないで!殺されたくなかったら、戦うしかないわ!」

 

皆が必死に撃ち合っているなか、事態は静かに変わっていった。無人機の内、シルフィーの元に何機も纏わり付いてくる。

 

(この機体。私を狙ってる!?)

 

それらの無人機は、シルフィーに狙いを定めている様に見える。それはシルフィーを他のメンバーと分断させ、孤立させる様にも見えた。

 

ブレードを取り出し、関節部を狙った。だが無人機は避ける。ブレードは勢いのまま、虚空を切り裂いた。

 

次の瞬間、無人機のパラメイル四機がワイヤーを射出した。それらはシルフィーのグレイブの手足へと巻きつき、拘束した。

 

「シルフィー機。捕縛されました!」

 

腕や足などを操作するが、ワイヤーによって全く動く気配がない。次の瞬間、ワイヤーからは高圧電流が流された。目に見えるほどであり、それらはパラメイルの計器類などをショートさせた。

 

「グァァァァァァァッ!!!」

 

そしてシルフィー自身にも、かなりのダメージを与えた。電流が止んだ頃、機体は黒焦げとなっていた。そしてシルフィーの意識はかなり朦朧としていた。薄ら薄ら煙が出ている。

 

「シルフィー!」

 

通信越しにナオミの声が聞こえたが、シルフィーには答える力すら残っていなかった。

 

「待ってて!今助けるから!」

 

ナオミのグレイブが、ライフルを捕縛している無人機へと放つ。だがそれはものの見事に避けられた。

 

(意識が・・・持たない・・・)

 

彼女はコックピットにもたれかかる様に倒れこんだ。次の瞬間、シルフィーの意識は闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、格納庫の奥深くに眠る、シルフィーが

アルゼナルに来た際に乗っていた謎のパラメイル。

 

この機体は待っていた。目覚めの時を・・

 




次回、遂にシルフィーの機体が目覚めます。お楽しみに。

因みに武装と名前はまだ考えていない!



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第13話 Ω(オメガ)

 

「・・・ゲホッゲホッ、ゲホッ」

 

息苦しさを覚え、シルフィーは目を覚ました。周りを確認する。するとそこはパラメイルのコックピットではなかった。島で機体に乗り込んだ際に、

コックピット内で垣間見た風景であった。

 

「ここ、あの時来た。うっ・・・」

 

突然、激しい絶望感に襲われる。身体の震えが止まらない。

 

「なんで・・・なんで・・・」

 

「なんで、私は生きてるの・・・なんで、こんなに悲しいの・・・」

 

突然湧き上がった不安。自分という存在が大嫌いになる。まるで、自分が生きていてはいけない存在の様に感じられる。何か、とんでも無い事を忘れてしまっているのではないか。そんな気分に襲われた。

 

(・・・いだ)

 

「えっ?」

 

不意に声がした。何処からかは分からない。いや、わかる必要がない。声は全方位からしているのだ。

 

(お前のせいだ・・・お前の)

 

(なんで生きてるのかなぁ・・・)

 

(死ね。死んでつぐなぇ・・・)

 

姿なき声が辺りから響き渡る様に聞こえる。その声の全てが呪詛の言葉を呟きながらシルフィーへと迫っていた。

 

「償わなきゃ。死んで・・・償わなきゃ・・・」

 

【カラン】

 

不意に何かが落ちた音がした。見てみるとそれはナイフであった。

 

(ほら、これで死ねるよ)

 

不意に男の声がした。だが彼女は気にせず、無意識の内にナイフを手にした。刃先に指を当ててみる。切れ味は良いらしく、人差し指から一筋の血が流れた。

 

(そうか。私・・・死にたいんだ・・・)

 

自分の中で芽生えた一つの答え。何故かその様な考えが浮かび上がった。ナイフを首元に向けた。後は勢いよく掻っ捌くだけだ。

 

【ドガッ!】

 

次の瞬間、シルフィーの身体が宙を舞いそして地面に叩きつけられた。何者かに身体を強く蹴りとばされたのだ。身体は数メートル飛ばされ、その衝撃でナイフも何処かへと吹き飛んだ。

 

「今日一日で自殺願望者を二人も見る事になるとは」

 

声がした方を向く。そこにはシオンがいた。すると辺りから煩いほど響いていた声がピタリと止んだ。

 

「生きる事が罪だとしたら、その罪を償う事は死ぬ事だけなのか?」

 

シオンはシルフィーの元へと歩みを進めた。しゃがみこみ、シルフィーの顔を覗き込む。

 

「その目から流れ出るものはなんだ?」

 

「え・・・」

 

シルフィーが自分の頬を触った。何かで濡れていた。見てみるとそれは涙であった。無意識の内に泣いていた様だ。

 

「私の、涙・・・?」

 

「死ぬ事が怖くない人間などいない。お前は自分を偽っているだけだ。それに以前言っただろう。お前は死なない。絶対に生きる」

 

シオンはシルフィーの肩を掴んだ。すると震えが止まった。

 

「お前を待つ存在がお前の元にやってくる。信じるんだ」

 

そう言うとシオンは上を指差した。それにつられて上を見る。すると太陽の光が差し込んできた。

 

眩しさのあまり目を瞑った。次の瞬間、シルフィーの意識は失われていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ここは!?」

 

シルフィーが目覚めた場所、そこはコックピット内であった。意識を失っていたらしいが、時間にして10秒も立っていない。

 

(なんなの、さっきの・・・なんであんな事を・・・)

 

先程までのやりとりをシルフィーははっきりと覚えていた。

 

「・・・信じてみる・・・か」

 

モニターを操作するが反応がない。シルフィーは

ある決心をし、色々と機体そのものを弄り回し始めた。

 

その頃、司令部は大騒ぎであった。

 

「シルフィーの生命反応が復活しました!」

 

「なに!あいつ、また生き返ったのか!?」

 

なんせ生命反応が途切れていたのが、電気ショックもなければ、蘇生術もせず、突然復活したのだから。驚くなと言う方が無理であろう。

 

しかし、さらに驚く事態が襲いかかってきた。

 

「ジル!大変だよ!!」

 

突然発着デッキからメイの慌てふためく声で通信が入った。

 

「どうした、メイ?」

 

「それが、シルフィーが乗って来た機体が発進準備にかかってる!」

 

その一言に司令部が騒然とした。

 

「なんだと!?誰が動かしている!?」

 

「それが無人なんだよ!」

 

メイが慌てた口調で言う。発着デッキでは例の機体はカタパルトへと乗せられた。必死にメイ達が止めようとするが、機体は止まらない。カタパルトの

射出準備が完了したとランプを点灯させた。

 

「全員退避ィ!!」

 

メイの叫びが聞こえた瞬間、機体は射出された。

無人機のそれは、まるで目指す場所でもあるかの様に、速い速度で飛び去って行った。

 

「何が起きたんだ・・・」

 

「主を迎えに行ったのだ」

 

不意に声がした。驚いてその声の方角を向いた。

そこにはなんと、右目に傷のある黒装束の男がいた。シオンだ。

 

「なっ!貴様!何者だ!?」

 

ジル司令が拳銃を取り出しシオンに向ける。絶海の孤島、世界の果てに突如、謎の存在が現れたのだ。当然の反応であろう。エマ監察官とオペレーター達は背後へと後ずさっている。

 

「一体どこから入った!それ以前に、どうやってここに!?」

 

「これは失礼。女性のいる部屋に入る時にはノックの一つでもするべきだったか」

 

そういうと薔薇を取り出し、ジル司令に投げつけた。

 

「貴女は薔薇のような美しき人だ。綺麗で、そして何処か棘のある、素晴らしい人だ」

 

「ふざけるな!」

 

【バァン!】

 

【パシ!】

 

ジル司令が銃弾を放つ。だがその弾はなんと人差し指と中指の二本指で挟むかの様に止められた。

 

「なっ!銃弾を指で止めただと!」

 

「別に驚く事ではない」

 

「さて。美しき薔薇よ。その名をなんと言う?」

 

「・・・ジル。アルゼナル総司令官のジルだ」

 

「ジルか。良い名だ」

 

「私の名前は名乗ったぞ。さて、貴様の名はなんと言う!?」

 

「黒き魔法使いだ」

 

当たり前の様に放たれた一言。この一言にジル司令は更に憤慨する。

 

「ふざけてるのか貴様!それが本当の名なわけないだろう!?」

 

「・・・自分の事は棚上げかい?」

 

不意に男の声色が変わった。そして放たれた一言にジル司令の表情が強張る。

 

(こいつ!私の本当の名を知っているのか!?)

 

「・・・では黒き魔法使い!貴様があの機体を勝手に動かしたのか!?」

 

動揺を隠し、銃口をシオンに向けて尋ねた。するとシオンは、なんと銃口に指を突っ込んだ。

 

「あの機体が動いたのだ。ビルキスと同じ様に」

 

シオンが指先を下に降ろす。すると指先がはまっている拳銃も、下へと向けられる。動かそうにも、拳銃はウンともスンとも言わなかった。引き金を引こうにも、何故か硬くて引けない。

 

やがて残された左腕で何かを取り出した。それは

水槽であった。中には水が張られ、鯉が一匹泳いでいる。一体どこにこんなものをしまっていたのか。

 

「鯉の滝登り伝説を知っているか?」

 

鯉の滝登り伝説。黄河の上流にある滝、竜門を登ることのできた鯉は、強き竜になるという伝説だ。

 

「何を言っている!」

 

「だが、どんなに強き竜も、初めは未熟な鯉。滝登りに挑んでは、打ち負けるのが当たり前。それでも鯉は竜を目指し、滝を登ろうとする」

 

鯉が水槽から飛び出した。蛍光灯の光を浴びたその鯉は、何処か幻想的だ。次の瞬間、鯉と水槽が突然消えた。

 

「そして今、滝に挑む鯉がいる。共に見届けよう。鯉が滝を登り、竜に変わる瞬間を」

 

シオンは銃口から指を抜き、モニターを指差した。皆がその方角を向く。するとそこでは目を疑う光景が映し出されていた。

 

黒焦げのグレイブのコックピットがこじ開けられた。そこからシルフィーが身体を半分を出している。真下は海であり、かなりの高度もある中でだ。

 

「シルフィー!!何やってるの!!?」

 

次の瞬間、シルフィーは海めがけて勢いよく飛び降りた。このままいけば海面衝突。間違いなく死ぬだろう。

 

突然シルフィーの身体が消えた。いや、正確に言うなら、何かに持って行かれた。

 

そしてその場に一陣の風が吹いた。

 

突如、その場に謎の機体が現れた。そしてなんと、シルフィーは機体の翼を掴んでいた。その機体とは、アルゼナルを飛び出した機体である。

 

「あの速度の機体に乗り込んだのか!?」

 

「うっひょー!シルフィー、すっげー!!」

 

「あの機体。確か島にあった・・・」

 

機体は急上昇している。シルフィーは機体にまたがった。直ぐにコントロールユニットを握った。

 

「動けえぇぇ!!」

 

次の瞬間、機体は動き出した。コックピット部分は内部に収容される。四つの翼が背部へと回り込む。その翼はX字となった。機体の紅いラインが光る。顔と思わしき部分にはバイザーがつけられており、それが赤く一光りした。

 

その姿は、正に駆逐形態と同じ、人型兵器である。

 

目の前のモニターにはとある文字が表示されていた。

 

【DEM・type・Ω】

 

 

 

「あの機体。変形した・・・」

 

司令部の皆が呆けていた。これまで何をしても何一つ反応のなかった謎の機体。それが突然動き出し、そして人型兵器に変形した。

 

「だが、まだ仮免許だな」

 

「なんだと?どういう事だ」

 

ジル司令が振り返り尋ねる。だが既にそこにはシオンの姿はなかった。

 

「なっ、あの男!何処に行った!?」

 

ジル司令が司令部の面子の顔を見た。皆が首を横に振っている。知らないというわけだ。

 

「・・・何者だったんだ。奴は・・・」

 

 

 

 

 

戦場では、第一中隊が変形したその機体に注目していた。

 

「あれが、あの機体の変形した姿」

 

無人のグレイブとハウザーがライフルを向けて放つ。だが、ライフルを向けた瞬間、無人機の目前にオメガは来ていた。グレイブの腕を掴むと、そのまま捩じ切った。

 

次にハウザーに蹴りを入れる。するとハウザーの

身体が上下に分断された。どう見ても普通の機体よりも馬力などが桁違いである。

 

「あの機体、格闘戦が出来るのか!?」

 

皆が驚いた。パラメイルという鉄の塊が、同じ鉄の塊に素手で戦えるのだから。だが何より驚いたのはその動きだ。

 

まるで人間のような、機体が生きているかの様な

動きを見せた。

 

「凄い・・・」

 

オメガの戦闘に呆けていたが、それ以前に自分達も戦闘中だったのだ。そして皆がその機体に反応する事が出来なかった。

 

「危ない!」

 

しかし分断されていた為、シルフィーは直ぐに援護には向かうことが出来なかった。

 

【バキューン!】

 

しかし突然横殴りの銃撃が起きた。それによって

向かってきた無人機は蹴散らされていった。

 

「なっ!あれは!」

 

銃撃のした方を向く。するとそこには謎の機体が

二機、空中に佇んでいた。その機体はラインの色こそ違うが、それ以外の見た目はオメガに酷似していた。

 

「司令!また謎の機体が!」

 

「無人機の援軍か!?」

 

しかし謎の機体は第一中隊を無視して、無人機の相手に回った。手に持ったライフルが無人機達の頭部などに命中する。第一中隊の全員は事態が全く飲み込めてなかった。通信越しでオペレーターの声が聞こえる。

 

「待って!今現れたあの機体。生命反応がある!」

 

生命反応。そのの一言に皆が再び驚いた。

 

「何ですって!?じゃああれは有人機。中に人がいるの!?」

 

あらゆるチャンネルでコンタクトを取ろうとする。だが謎の機体達は何一つの返答を返さなかった。

 

突如現れた謎の機体は、相変わらず無人機である

グレイブとハウザーだけを狙っている。

 

「第一中隊!全機無人機が攻撃対象だ!今現れた謎の機体は無視しろ!!」

 

「イエス・マム!」

 

謎の機体を含めた大乱闘が開かれた。オメガは脚部から武装を取り出した。それはナイフの様なものであった。それは無人パラメイルの装甲を易々と切り裂いた。

 

更にオメガは銃も所持していたらしい。何処からかガトリングガンを取り出すと無人機目掛けて乱射した。鉛弾の雨はものの見事に無人機達の群れを蹴散らした。

 

こうして60機の群れは、乱入した三機体によってその全てが狩りとられた。全ての無人機は蹴散らされた。

 

その場には残骸がボチャボチャと海面に落ちている音だけが聞こえた。

 

「終わったのね」

 

シルフィーは安心からか胸を撫で下ろす。心臓の

鼓動がバクバクと伝わってくる感覚がはっきりとわかる。

 

すると謎の二機の内、一機がオメガの元へとやってきた。やって来るなりオメガを一通り眺めた。

 

「シルフィー!」

 

「待ってナオミ!」

 

ナオミが武器を構えようとするが、それをサリアが制する。まだあの機体はこちらに何もしていない。もしこちらから仕掛ければ、間違いなく交戦状態に陥り、こちらが全滅するからだ。

 

「・・・」

 

一通り眺めたのか、やがて謎の機体はその場を去ろうと振り返った。

 

「待って」

 

通信でのシルフィーの声に反応したのか、機体が

動きを止めた。

 

「・・・助けてくれてありがとう」

 

「・・・」

 

機体は何も言わずに去っていった。

 

「すごい速度ね。もうレーダーに感知されないわ」

 

皆が謎の機体について感心していると、ジル司令からオープンチャンネルで通信が来た。

 

「戦闘ご苦労だったな。全機、アルゼナルへ帰投しろ」

 

「了解。全機、アルゼナルへ帰還するわよ」

 

サリアの掛け声の元、皆がアルゼナルの帰路に着いた。

 

「シルフィー。お前には戻ったら色々と聞きたい事がある」

 

帰り道、ジル司令から通信が来ていたが、シルフィーはそれどころではなかった。何故なら自分の人差し指、そこからは何かで斬られた様な傷口があったからだ。そしてそこからは血が流れ出ていた。

 

怨念にも似た声。それらの出来事を思い出す。

 

(・・・あれは、現実だったの・・・)

 

(だとしたら、なんであんな事を思ったの・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ。まさか失敗してしまうとは」

 

先程の戦闘を、ある男が見ていた。その男は金髪でスーツを着ていた。

 

「君だってこうなる事は予想していたろ?」

 

スーツ男の背後から声がした。振り返るとそこには女性が一人いた。妖艶な雰囲気を醸し出している。上着の胸元は大きくはだけており、セクシーな印象を受ける美女だ。

 

「全く。無人のおもちゃなんか駆り出して。えっと、シルフィーだっけ。あの娘を捕まえたいなら

君が乗り込めばいいのに。僕にはわからないなぁ」

 

「あれが一番最善の策だと思ったのだよ。シルフィーを捕らえ、邪魔する者の口封じの為にあれほど用意した機体。まさかそれが撃墜されるとは」

 

「それだけじゃない。DEMまで目覚めさせられちゃって。しかもtypn・Ω。最も厄介な奴じゃないか。ここまでしてくれちゃって。どうするんだい?彼女にまた精神攻撃でもするかい?」

 

「いや、どうやら捕獲する時期が早すぎた様だ。

それにDEMもあくまで仮覚醒だ。完全には目覚めていない。しばらくの間は静観しよう。そして熟れた所を狙う」

 

「固執するねぇ。運命の子だからかな?それとも

腕輪が狙いかな?」

 

「運命の子・・・か」

 

その言葉を聞いた途端、スーツ姿の金髪男は失笑した。

 

「あの呼び名にあまり意味はないのは君も知っているだろう?私の狙いは腕輪と言っておこう。彼女はおまけさ」

 

「腕輪狙いねぇ。なら僕からとってみたらどうだい?」

 

女が左腕を捲り上げた。そこにはシルフィーが右腕につけているものと酷似した腕輪がされていた。

 

男はそれをじーっと眺めていた。

 

「・・・やめておくよ。君からは奪うつもりはない」

 

「まぁ僕もタダであげるつもりはないしね」

 

どうやら女の方は男をからかったらしい。

 

「まぁいい。それよりまさかあの連中が生きていたとは。さてどうしてくれようか・・・」

 

モニターには謎の二機が映し出された。

 

「やれやれ。敵に回したくない、こわ〜い連中だこと」

 

そう言うと女はその場から姿を消した。

 





突然自分の背後に(しかも絶海の孤島で)見知らぬ存在がいたらそりゃビビりますよね。

あれ?君。なんで背中に血塗れの女の人を背負ってるんだい?

次回の話の製作後、オリキャラ図鑑制作を決定しました。


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第14話 新たなる決意

 

アルゼナルへと帰ったアンジュはある場所へと向かった。そこはアルゼナルで散っていった者達の墓地であった。

 

「さようなら。お父さま・・・お母さま・・・お兄さま・・・シルヴィア・・・」

 

そう言うとアンジュは自分の髪を掴むと根元部分をナイフで切り落とした。切った髪は宙に舞い、空へ、そして海へ散っていった。

 

「私にはもう何も無い。何も要らない。過去も・・・名前も・・・何もかも。あなたたちの様に簡単には死なない。生きる為なら地面を這いずり、泥水を啜り、血反吐を吐くわ」

 

「私は生きる。殺して、生きる!!」

 

アンジュリーゼは死んだ。今ここにいるのはアルゼナルの一兵士、アンジュだ。そんな眼をしていた。

 

決意を新たに、アンジュはその場所を去った。

 

 

 

 

 

 

その頃シルフィーは取調室に来ていた。机を挟んだ向かい側にはジル司令がいる。戦闘後。アルゼナルに帰るなり整備士達に囲まれながらジル司令が迫って来た。

 

「さぁシルフィー。医務室に行った後は取り調べ室に行こう」

 

そう告げられてシルフィーは半ば連行される形で

医務室で検査を。それが終わると取り調べ室へと入れられた。

 

「さて。聞きたい事は3つある。手っ取り早く順番に行こう。まず最初に。あの機体はなんだ」

 

あの機体。シルフィーがアルゼナルに来る際に乗っていた、つまりはシルフィー個人の所有物であるあの機体。どう考えても民間人。それも島で人と出会わずに生活していたシルフィーの持つ様な代物ではない。

 

「DEM・type・Ω」

 

「・・・なんだって?」

 

「あの機体のコード番号だと思う」

 

そう言うとシルフィーは紙とペンを貰い、モニターで見た文字をそのまま書き写した。

 

「成る程。DEM。何を表しているのかはわからんが、今後あの機体の名称はオメガとする」

 

「それでお前はどうやってオメガを手に入れた。

流れ着いて来たとか人と出会ったとか。それらの

理由はあるか?」

 

「以前言ったはず。あそこで私は産まれた。あれは私にとって揺りかご」

 

以前の話と進展無し。ジル司令は顔に手を当てて

困り果てていた。

 

「・・・二つ教えてやろう。お前の年齢は大体16だ。そして二つ目。お前の持つ記憶は十年前のものだけ。つまりお前の中には産まれてから空白の6年間が存在するんだ」

 

その言葉にシルフィーはあの光景を思い出した。

あの風景。何処かで見た事がある。それだけではない。初めてオメガに乗った際に聞いたあの歌。あれも何処かで聞いたことがある歌だった。

 

「まぁ覚えてないなら仕方ない。次に二つ目。あの時あの場に現れた機体。あれはオメガに酷似していた。あの機体を知っているか?そして中に乗っていた人物が誰か、知っているか?」

 

「いえ、初めて見た。誰が乗ってるかも知らない」

 

「そうか。最後に三つ目。くろ・・・いや。なんでもない。忘れてくれ」

 

最後の質問をしようとした所で、ジル司令はその

質問をするのをやめた。

 

(あの男。どう見ても普通ではなかった。エマ監察官とオペレーター達にもあの男の事は口外にするなと命令してある。こいつに教える事はそれが無意味になる事だ。危ない危ない)

 

「とにかく。今回の戦闘。お前はあの機体を使いこなせていたな」

 

「以前言ったな。機体がお前を選んだら話は別だと。そしてこのケース。お前はそいつに選ばれたのかもな。お前のグレイブは今回の戦闘で完全に大破している。よって今後はあの機体で戦闘を行え」

 

「イエス・マム」

 

「よろしい。では話は終わりだ」

 

やっと話が終わった。解放されたシルフィーは部屋を後にした。シルフィーが部屋を出て数分後。今度はマギーが取り調べ室にやって来た。

 

「マギー。シルフィーの身体の検査データはどうだった?」

 

するとマギーは真剣な面持ちとなった。

 

「はっきり言う。あの娘、異常だよ」

 

そう言うとマギーがシルフィーの診察データを見せて来た。

 

「これは!?」

 

「普通の人間なら間違いなく死んでるレベルの怪我や傷だ。気楽に考えたとしても、あそこまで普通に生活できるはずがない」

 

「つまりあいつは何処かで特殊訓練を受けたということか?」

 

「そう考えるのがベターだろうが、どうしても腑に落ちない。あの子の記憶に偽りがないのは断言できる。医者としての生命も張れる。となると鍵は十年以上前の記憶になる」

 

「そうか、なら・・・」

 

「記憶をこじ開けようなんて考えない方がいい。

そんな事したら、最悪あの娘の精神は崩壊する。

きっと、それほど忘れたい過去なんだよ。あの娘の記憶は」

 

マギーは相変わらず真剣であった。その眼は間違いなく医者として、ドクターとしての眼だった。

 

「まぁいい。今のあいつとあの機体。利用するだけの価値がある。ならば利用してやる。全ては、

【リベルタス】の為に・・・」

 

独り言の様にジル司令が呟いた。

 

タバコの煙を眺めながらジル司令はある事を思い出した。

 

(あっ、グレイブを損失した分の借金伝達するの忘れてた)

 

そう思いながら、吸ったタバコを灰皿に押し付けた。

 

シルフィーは何処か浮かない面持ちをしている。

 

(私には空白の記憶が存在する。じゃあ、あの光景を私は見たの?)

 

「・・・私の知らない記憶。私の過去・・・」

 

そう呟くと、シルフィーは一人、暗い廊下の奥へと消えていった。

 

 

 

そしてその頃アンジュは自室へと帰った。ふとゴミ箱を見ると、ココがくれたプリンが捨てられてあった。

 

(粗末にするな)

 

シルフィーの言葉が脳裏をよぎった。

 

(・・・)

 

やがてアンジュはプリンを拾い上げると表面のビニールを剥がした。一緒に捨てたプラスチックスプーンのビニールも剥がす。

 

プリンを一口サイズすくうと口元に持ってきて、そのまま口に放り込んだ。

 

しばらくして涙が流れ出だ。身体がピクピク震えている。手で口を押さえながらアンジュは一言呟いた。

 

「・・・まずい・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある場所。火が暗い洞窟を照らしていた。そしてそこには、シオンを含めた男女4人がいた。全員が黒装束を身に纏っている。

 

「あの時は援護に来てくれてありがとう」

 

シオンが二人に礼を言っている。

 

「気にする事ではない。寧ろ満足な援護が出来なかった事、すまないな」

 

「でも良かったのかい?あの娘を連れ帰らなくて。あの場にいた連中と敵対したとしても、あの程度の戦力なら私とフリードで蹴散らせたのに」

 

「いいんだエセル。あの娘、シルフィーは俺たちと違って側にいる人がいる。ならば側にいさせてやるべきだ。その方があの娘の為だ」

 

「ねぇシオン。一つ聞かせて」

 

「なんだドミニク」

 

「シルフィー。問題ないの?」

 

「大丈夫だ。アルゼナルなら安心だ。腕輪もある」

 

「いいの?あの娘達のいる所。シルフィーにとって悪いところじゃない。安心。だけど安全じゃない。特に腕輪について知られたら」

 

「まぁいざとなったら私一人で乗り込んで邪魔者みんな蹴散らしてやるよ」

 

「そうやって命を軽く考えるのはやめて。エセルの悪いところ」

 

「はぁっ!?また説教かよ!聞き飽きたね!」

 

「zzzスピー、スピー」

 

「寝るなぁ!起きろぉ!!」

 

「むにゃむにゃ。エセルのデベソ男ォ・・・」

 

「女だよ!ピチピチの!デベソでもない!てかあんた起きてるよな!?起きててわざと言ってるよな!?」

 

「やめとけ。知ってるだろ?ドミニクがこういう

性格だってのは。それに俺たちの目的は人殺ではない。わかるな?」

 

「まぁ、わかってるつもりだよ・・・」

 

「そう言えばカリスとミリィはどうした?」

 

「あの二人なら情報集めの為に外に出た。まぁミリィがちゃんとやるかわからないが。ちょうどすれ違いのタイミングだったんだろうな」

 

「そうか。まぁカリスも一緒なら少しは安心か」

 

「それにしてもシオン。あんたもガンガン表に出たなぁ。あんな目立つ行動してよ。もう少しリーダーらしく背後で司令を下してほしいもんだね」

 

「あぁ。今回は前に出過ぎた。今後は他人の前に姿を表す事は自粛しよう」

 

「・・・・・・」

 

やがてその場に沈黙が流れた。

 

「みんな。わかってるよな」

 

シオンが三人を見回した。

 

「わかってる。俺たちの願いは一つ」

 

すると皆が声を合わせて、とある文を詠唱した。

 

「自分達に居場所はない。ならば自分の手で手に入れる。居場所も、未来も」

 

言い終わると、シオンは手の上で佇んでいた火を吹き消した。灯が消え、辺りは闇に包まれた。

 





第2章はこれでおしまいです。第3章に突入する前に、現段階で公開できるオリキャラ図鑑を製作中で、今日の内に投稿できます。

手から火や炎の一つでも出してみたい。

「今のはメラゾーマではない。メラだ」

第3章からは本格的にアニメ本編に突入ですね!


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第14.5話 オリジナル図鑑①

現段階で開示できるオリキャラの情報。そしてオリジナル機体を簡単にだけど教えるコーナー。(パチパチパチ)

なお、CVは人によっては、「この声優はこんなセリフ言わない!」などの怒りにも似た感情が湧き上がる危険がありますので、ご注意ください。



 

オリジナルキャラクター

 

シルフィー

 

本作の主人公

 

年齢16歳程度

 

身長 165cm

 

B 84 W 63 H 81

 

ライダースーツ 黒色

 

CV 高垣彩陽

 

白い髪をポニーテールにしている。最初は貞子も

びっくりの髪の長さでありなんと床を引きずるレベル。おそらく前に髪を垂らしたら間違いなく髪色

以外は貞子と同じになれる。

 

無人島でたった一人育った所謂野生児。偶然、名もなき島に漂流してきたナオミを保護。その後、島が沈んだ際オメガでナオミと脱出。ナオミをアルゼナルに送る際、彼女自身もノーマだと判明してそのままアルゼナルに住むことに。

 

基本はクールで周りとあまり親しくなろうとしないが、これは島で一人育った為、他者との接し方が分からず、不器用なだけである。

 

学ぶ機会がなかっただけで知恵なども高い方。身体能力も高く、特殊警棒を持った保安部全員を半殺しにした事もある。

 

現段階では初めて見た人間であるナオミ以外には

心を開いていないが、決して人が嫌いなわけではなく、寧ろ仲間意識はそれなりに持ってる方。

 

右腕には謎の腕輪が嵌めてあり、外す事は出来ない。本人曰く産まれた時からついていた。

(ここでの産まれたは、彼女の記憶の一番古い10年前の事を指す)

 

マギー曰く、それ以前の記憶を自然とロックしているとの事。

 

時折垣間見える謎の光景に疑問を抱きながらも、

アルゼナルが自分の住む場所と捉えて、今日も生きて行く。

 

因みに好きな事は第2話で、誰かに優しく抱かれた際に聞いた歌を歌う事。

 

ナオミ

 

CV 原紗友里

 

身長159cm

 

B 82 W 59 H 82

 

ライダースーツ 白色

 

基本設定はゲーム同様。現段階でシルフィーが言う事を聞く唯一の存在。

 

パラメイルの実機テストの際、ガレオン級によって撃墜した事がトラウマとなっていた。その為アンジュの初出撃の際、ガレオン級に怯えてしまい、結果的にシルフィーが死にかけた事で戦意がかなり喪失したが、ジル司令なりの励ましによってドラゴンと戦う決意を強く固めトラウマを克服。

 

その後は第一中隊になかなか馴染めないシルフィーとアンジュと、第一中隊のパイプ役を務める為に

奔走する。

 

尚、次の回で不名誉な称号を与えられる。

 

シオン

 

CV 藤原啓治

 

推定年齢29歳

 

男。黒髪。自身のことを黒き魔法使いと呼ぶ。謎の存在のリーダー的存在。右目に深い傷のある、黒装束を身に纏った男。

 

本作屈指のチートキャラ予定。(挫折しました)

 

意味深な事を言って消える謎の存在。死にかけの

シルフィーやナオミの夢に現れては二人の命を救ったり(ナオミ自身は覚えていない)アルゼナル司令部に乗り込んでは突然消えたりと謎の行動をしている。どういう理屈か手の平から火が出せる。

 

フリード

 

CV 鈴置洋孝

 

推定年齢25歳

 

男。銀髪。オメガの戦闘の際に援護に駆けつけた機体のパイロットの1人。作品内において謎の集団のサブリーダー的存在。

 

エセル

 

CV 根谷美智子

 

推定年齢21歳

 

女。紫髪。オメガの戦闘の際に援護に駆けつけた機体のパイロットの1人。好戦的で命を軽く見る言動が多く、それをよくドミニクに咎められている。因みにCカップ。

(余談だが中の人はゾーラ隊長と同じ)

 

ドミニク

 

CV 名塚佳織

 

推定年齢27歳

 

女。茶髪。不思議ちゃん。寝ぼけ眼でよくうつらうつらしているが、周囲の人の本心などを見抜く目は本物。寝ている間も外の風景が見えるとの事。因みにEカップ。

 

カリス

 

現段階では名前だけ。

 

ミリィ

 

現段階では名前だけ。

 

 

 

オリジナル機体。

 

オメガ【DEM・type・Ω】

 

シルフィーが揺りかごと呼ぶ謎の機体。外部構造などはパラメイルに似ているが翼と言える部分が4つあったりと能力値は桁違い。シルフィーは本編の10年前にこのコックピット内で目覚めた。

 

馬力などはかなりあり更に人間の様な動きが出来る為、武器無しの格闘戦などにも向いている。

 

尚、他のパラメイルと違い専用のコントロールユニットを差し込む必要があり、これがないと起動すらしない。あったとしても当初は起動しなかったが。

 

コントロールユニットの設定は、今後パラメイルと同じハンドルとする為、車のキー的扱いとする。

 

現在装備している武装。

 

クリムゾンナイフ

 

普段は脚部に収納されている。かなりの鋼鉄製で

パラメイル程度の装甲なら余裕で斬り裂ける。

 

ガトリングガン

 

実弾を放つタイプ。使われている弾は貫通性が高いもの。飛翔形態の際には主な武装として扱われる。

 

凍結バレット弾

 

本編未使用武器。アルゼナルで支給された弾丸。凍結バレットが手から放つものなら、この機体は弾丸として放つ設定とする。

 

制作秘話(くだらないので見たい人だけでいいです)

 

謎の二機。

 

オメガがに酷似した見た目をしている。名前が判明した後にオリジナル図鑑に載せる予定。

 

制作秘話(とてもくだらないので見たい方だけどうぞ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当初、初投稿作品は男主人公か女主人公かで悩んでいた。この時の女主人公がこの作品。

(この時点では両作品共に第1章までしか製作されていない)

 

その後最終的に男主人公のメビウスで進めることになり、女主人公の方は没となり、フォルダの海に埋もれていった。

 

それから時間は流れ、大掃除の最中に第1章の原稿用紙をフォルダの海から発見。初心者感丸出しの作品が懐かしく感じた。(今も初心から全く成長していない作者)

 

そして投稿する事に。

 

因みに当初はR-18作品で投稿する予定だった。




この様な下らない茶番に御付き合いいただき、ありがとうございます!因みに金髪のスーツ男とグルっぽい女の方はあえて今載せまさんでした。


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第3章 共に生きる者達
第15話 不協和音 前編


 

夜も更けた頃のアルゼナル。司令室ではジル司令、サリア、メイ、マギー、ジャスミン、そしてバルカンが集まっていた。

 

「三度の戦闘でこの撃墜数。結構結構」

 

ジル司令の手元には戦闘報告書が握られていた。

 

「今まで誰も動かさなかったあの機体をねぇ」

 

「多分。ヴィルキスがアンジュを選んだんだと思う」

 

「ヴィルキスが?」

 

「なら始めるとするか。リベルタスを・・・」

 

リベルタス。その言葉を聞いた皆の表情は緊張した。

 

「不満か?サリア」

 

「・・・すぐに死ぬわ。あの娘。不協和音だし」

 

3回目の出撃の際、アンジュは一人でドラゴンの

大半を狩りとった。時には他のメンバーが狙っていたドラゴンを横取り。時には他人の機体を押しのけて。時には命令を無視して。

 

「みんなの隊長と、可愛い新兵二人を殺した大悪党だ。怨まれて当然だろうね」

 

「私なら上手くやれる!私なら!もっとヴィルキスも乗りこなせて見せる!なのになんで!?」

 

「適才適性ってやつだ」

 

ジルがタバコを吸いながら答えた。

 

「それでもし、ヴィルキスに何かあったら!」

 

「その時はメイが直す!命をかけて!それが私達の一族の使命だから」

 

メイが明るく、だけど何処か決意を秘めた表情で

答える。その表情にサリアは何も言えなくなる。

 

「お前はお前の役割を果たすんだ。いいね、サリア」

 

ジル司令がが優しく語りかけた。それにサリアは

静かに頷いた。

 

「いい子だ」

 

そう言うとジル司令はサリアの頭を撫でた。

 

「それとサリア。シルフィーの様子はどうだ」

 

「あまり自分から他のメンバーと馴れ合おうとしないだけね。戦闘の際も、基本的に人のいないところでドラゴンを狩ってるし。多分ナオミだけだと思う。今の彼女が心を許してるのは」

 

「でもあの娘。ちょっと変な所があるよ。機体の整備も【自分の機体は自分で整備する。他人には触って欲しくない】って言って、全然触らせてくれないし」

 

メイが付け加える風に言う。あの機体は専用のコントロールユニットがないと一切の動きが停止される。その為内部構造などを知る機会がない。燃料

なども自分自身で注入している。

 

「あの年齢で何処かの組織のスパイ。昔の映画も

ビックリだねぇ」

 

「まぁいい。デメリットの危険を犯さずメリットは得られない。あいつの機体とあいつの腕。利用価値はある。ならば多少の危険は犯す覚悟がないとな」

 

そういうとジル司令はタバコに火をつけ、一服した。

 

「これから忙しくなるねぇ」

 

「くれぐれも気取られるな。特に監察官殿には、

では解散とする」

 

そう言うと解散となり、サリアとメイとマギーは慎重に扉を開け辺りを警戒しながら部屋を後にした。

 

「いい子だ・・・か。全くずるい女だねぇ」

 

部屋に残っていたジャスミンがバルカンの頭を撫でた。その仕草は先程ジル司令がサリアの頭を撫でた時と同じであった。

 

「なんだって利用してやるさ。気持ちも、命も、何だって。地獄になら、とっくに落ちているんだからな・・・」

 

そう言うと吸っていたタバコを義手で握りつぶした。

 

 

 

 

 

 

次の日。本日はアルゼナルでのキャッシュの受取日である。第一中隊のメンバーが皆キャッシュを受け取りに窓口にまで足を運んでいる。

 

「撃破、スクーナー級3、ガレオン級へのアンカー打ち込み。そこから弾薬、燃料、装甲消費を差し引いて、ロザリー様の今週分のキャッシュは18万です」

 

キャッシュの受け取り皿が窓口の隙間から滑り込んできた。

 

「ちっ!これっぽっちかよ」

 

「十分だよ。私なんて一桁なんだし」

 

ここアルゼナルのメイルライダー達は、自分の乗るパラメイルの費用は自分で負担する。弾薬。燃料。装甲の修復。それら全て実費である。

 

基本的に突撃兵は危険ながらドラゴンと多く会敵できるハイリスクハイリターン。砲兵は背後で突撃兵よりは安全。その分ドラゴンはおこぼれ狙いのローリスクローリターンである。こうなるとライダー自身の腕も問われてくる。

 

「ヒルダはどうだった?」

 

ヒルダは二人に自分の報酬を見せつけた。その厚さはそれなりにあった。少なくても3桁はある。

 

「おおっ!」

 

ロザリーとクリスも、驚きの声をあげた。

 

「今週分のキャッシュ550万キャッシュです」

 

550万。その金額のデカさに皆の視線が注目した。金額の受取人はアンジュである。

 

「アンジュやるぅ」

 

「大活躍だったものね」

 

ヴィヴィアンとエルシャは褒めるが、それに対してクリスとロザリー。そしてヒルダは憎々しげに見ていた。

 

「今週のキャッシュは、借金の10分の9を差し引いて、19万キャッシュです」

 

借金。その言葉に皆の視線が注目した。受け取り主はシルフィーだ。理由は簡単。シルフィーはアンジュの二度目の戦闘でグレイブを大破させている。

その分の借金だ。

 

「シルフィー。お前借金持ちになっちまったな!」

 

「大丈夫だよシルフィー。きっと返せるよ・・・

多分」

 

ロザリーの嘲笑も、ナオミの励ましも特に気にせず、キャッシュを取ろうとする。すると突然受け取り皿が窓口の奥へと戻された。

 

「申し訳ありませんシルフィー様!少々お待ちください!!」

 

やがて窓口からそれなりのキャッシュの束が置かれた。

 

「シルフィー様の借金は臨時ボーナスで全額返済されておりました。改めてシルフィー様の今週のキャッシュは、190万キャッシュです」

 

「ボーナス!?」

 

その場にいた皆が疑問に思っていた。それに答えるかの様に窓口は語り始めた。

 

「シルフィー様が撃墜されたパラメイル。あれの

ボーナス分です。それによって全額返済されております」

 

あの時、突然襲いかかってきた無人パラメイル。

それらを倒したのはシルフィーと謎の二機だけである。その為ボーナスがシルフィーだけなのも皆が納得した。

 

「なんだよ。面白いと思ったのになぁ」

 

ロザリーが愚痴る。

 

「次は私の番だね」

 

そう言うとナオミは窓口の受け取り口へと歩いた。

 

「今週のキャッシュは。借金の10分の9を差し引いて、8万キャッシュです」

 

そう言われると窓口からは薄っぺらな紙が8枚出された。

 

「・・・借金?ええっ!?どういう事ですか!?」

 

「ナオミ様のパラメイルの修理費です。尚、借金は残り428万キャッシュです」

 

「・・・ヨンヒャクニジュウハチ

マンキャッシュゥゥゥッッ!!?」

 

普段の彼女からは予想も出来ない声でナオミはその場にへたり込んだ。

 

「はい。こちらが明細となっております。どうぞお受け取りください」

 

受付の人の明るい声も、今のナオミには届いていなかった。彼女は虚空を只々眺めていた。その目の

焦点は定まっていない。

 

「まぁ借金王。本来の総額なら私より稼いでるんだ。きっとなんとかなるだろ」

 

「大丈夫よナオミちゃん!きっと全額返せるわ!!・・・多分」

 

余りにも可哀想すぎて、皆が憐れみの視線をナオミに向けた。彼女は以前にも借金を背負った事がある。その時はシルフィーの教育係となる事でなんとか全額免除されたが、流石に今回無理だろう。

 

ナオミはこれから、借金を返すまで報酬の9割を

持っていかれるのだ。

 

「私のライダー人生、お先真っ暗だよぉ〜」

 

金切り声にも似た叫びで、ナオミは叫んだ

 

 

 

 

こうして皆がキャッシュを受け取り、ロッカールームを目指した。そしてロッカールームにて。皆がライダースーツからアルゼナルの制服へと着替えようとする。

 

「!」

 

アンジュが自分のロッカーを開ける。するとそこにはボロボロに引き裂かれたアルゼナルの制服があった。

 

「うっわぁ。ヒッデェ」

 

「また貴女達の仕業ね」

 

一体誰がやったのか。サリアには大方検討はついていた。アンジュの背後でロザリーが笑いを堪えている。

 

「さぁ。なんのことやら」

 

アンジュはその制服に着替えた。次の瞬間、ナイフを取り出しロザリーのライダースーツに斬りかかった。結果、ロザリーのライダースーツは胸のところがこんにちは状態となった。

 

「なっ!このアマ!!」

 

ロザリーがアンジュに掴みかかる。しかしアンジュはそれを払いのけると、ロッカールームを後にした。

 

 

 

食堂にて。エマ監察官がマナを使いある人物と会話していた。

 

「本当に大丈夫なのか?

 

「もう、パパは心配性なんだから。仕事も覚えたし、ノーマ達の扱いにも慣れたわ」

 

「だけどなぁ」

 

「大丈夫よ。私が目を光らせてる限り、変な事をするノーマなんて1匹たりとも・・・」

 

いました。目の前に。アンジュである。例のボロボロに切り裂かれた制服を着て、周囲の視線を一切気にせず普通に歩いている。

 

【ブーー!!!】

 

古典的な漫画の様に勢いよく飲んでいた紅茶が吐き出され、マナのスクリーン越しに父親が少し引いていた。

 

「ちょっと貴女!何その格好!?」

 

「制服ですが」

 

当たり前の事の様にアンジュは答えた。

 

「基地内の秩序を乱す様な服装は認めません!今すぐ直すか、新しいのを買いなさい!大体恥ずかしくないの!?」

 

「監察官殿は虫に裸を見られて恥ずかしいと思われるのですか?」

 

そう言うとアンジュは廊下の奥へと歩いて行った。

 

 

 

 

ロッカールーム。既にシルフィー達は着替え終わっており、その場にはいなかった。現在ロッカールームにいるのはロザリーとクリス。そしてヒルダだ。

 

「・・・痛っ!」

 

絶賛ロザリーを痛めているもの。それは縫い針だ。現在アンジュに切断されたライダースーツの修復作業に取り組んでいる。普段裁縫などをしない為か、かなりの苦戦を強いられているみたいだ。

 

「新しいの買う?」

 

「そんな金ねぇよ!」

 

クリスの提案をロザリーは一蹴した。

 

「それにしてもあのアマ!もっと徹底的に痛めつけないといけねぇな!・・・後シルフィーも!」

 

「えっ?シルフィーも?」

 

クリスが困惑する。シルフィー自身ロザリーには特に何もしていないからだ。唯一した事と言えば、以前ロザリーがちょっかいを出した結果、グーパンした事だけだ。

 

「だって新人のくせに私より多く稼いでるんだぜ!信じられるか!?ナオミは仕方ないとして・・・」

 

「でもそれはロザリーの腕の問題だと思うけどな」

 

「うっ、うるせぇ!とにかくシルフィーも対象だ!だがあくまでメインはあのアマだ!シルフィーはついでだ!」

 

「わかった。泣いて許しを乞うまで、徹底的にやろうね。ヒルダもやろうよ」

 

「・・・ああ」

 

素っ気ない返事をした後、ヒルダはロッカールームを後にした。

 

「・・・そっとしておくか。ゾーラお姉様が死んで、一番悲しんでるのはヒルダだもんな。私達の

手で、お姉様の仇を討つんだ。ヒルダの分もな!」

 

「うんうん!」

 

結局クリスも乗せられた。

 

 

 

次の日。第一中隊のメンバーはパラメイルのシュミレーター訓練をしていた。

 

ロザリーは強力な下剤入りのボトルをアンジュのボトルとすり替えると、物陰に隠れて様子を探った。因みにシルフィーのボトルにもアンジュ程ではないが下剤を仕込んだ。ちょっとした嫌がらせのつもりなのだろう。

 

やがてアンジュがシュミレーターを終え、出てきた。側に置いてあるボトルに手を伸ばす。

 

そのボトルの水を口に入れた瞬間、アンジュの動きが止まった。物陰に隠れていたロザリーを発見する。

 

次の瞬間、アンジュがロザリーにキスをした。口の中の水を移す様にだ。

 

【ゴクン】

 

「てっテメエ!何しやが・・・」

 

次の瞬間、強烈な腹痛がロザリーに襲いかかった。顔色を変え慌てて脱衣所のトイレへと駆け込む。

 

暫くして、出すものを出したロザリーが個室から出てきた。

 

「ちきしょう。あのアマ。まじで許さねぇ・・・」

 

「ねぇロザリー、シルフィーの事だけど」

 

「おっ!あいつも飲んだのか!?下剤」

 

「それが・・・」

 

再びシュミレーター場へと足を運ぶ。するとそこにはシルフィーがいた。今はタオルで汗を拭いている。

 

「おっ!あいつ飲むぞ!」

 

ロザリーが期待の眼差しでシルフィーを見ている。やがて彼女はボトルの水を飲み込んだ。

 

「飲んだ!あいつも飲んだ!さてどんな風に慌てるかな!?」

 

「・・・」

 

だがそんな期待と裏腹に、シルフィーはそれを少し飲むと何事も無くシュミレーターを再開させた。

 

「・・・えっ?あいつなんで効かないの?」

 

あまりにも意外な事にロザリーはあっけに取られた。

 

「ロザリーがトイレにいた時、既に一度飲んでたけど、特になんの異変も見えないよ」

 

「あっれ?おかしいな。下剤入れ忘れたかな?」

 

そう言うとシルフィーのボトルの元に駆け寄り、

ボトルを持ち上げた。

 

「確かに入れたと思うんだけどな」

 

試しにロザリーはそのボトルの水を少し飲んだ。

 

「・・・」

 

飲んでみたが、特になんの変化もなかった。

 

「あれ?おかし・・・」

 

次の瞬間、ロザリーの顔色が一気に悪化した。

 

「ロザリー?どうしたの?」

 

疑問に思い尋ねるクリスを他所に、ロザリーは再びトイレへとダッシュで駆け込んだ。

 

暫くして、再びロザリーがトイレから出てきた。

出すものを出し尽くして疲れきった顔である。

 

「はあっ。はあっ。はあっ。なんであいつは下剤を飲んでも平気なんだ?」

 

「鈍いんじゃないかな?」

 

「そんなのありかよ」

 

「ねぇ。ロザリー。やっぱりシルフィーはやめようよ。なんか罪悪感が激しいよ」

 

二人が気に入らないのはアンジュである。シルフィーは特に二人に何かをしたわけではない。なのにこの様な事をする。まるでいじめっ子の気分だ。

 

「そうだな。まずはアンジュをやる。シルフィーは一旦保留だ」

 

そう言うとロザリーは憎々しげに扉の先を睨んだ。その先にはシャワー室がある。現在アンジュはシャワーを浴びてる最中だ。

 

「あの腐れアマ。まじでどうしてやろうか」

 

「ん?これって・・・」

 

クリスがあるものを見つけた。それは下着であった。

 

「おい!これって!」

 

しかもただの下着ではない。布地の面積が少ない。これを勝負下着と言わずなんと言えばよいのだろうか。

 

「まじかよ!あいつこんなもん履いてやがんのか!とんだアバズレじゃねぇか!そうだ!これを廊下に張り出して、生き恥晒してやろうぜ」

 

不意にシャワー室の扉が開かれた。そこにはその下着の所有者がいた。しかし二人はそれに気がついていない。

 

「いいね。ブスブス雌豚の色ボケビッチパンツ。晒し物にしてやろう」

 

「おおクリス!いいセンスしてんな!脳内ピンクなブス雌豚の色ボケビッチパンツ。晒し物にしてやる!」

 

「もう一度言ってくれる?」

 

「脳内ピンクなブス雌豚の色ボケビッチパ・・・」

 

二人が声の主に驚くが時すでに遅し。皆の者!退散だ!荷物は捨てていけ!

 

「はーい。脳内ピンクなブス雌豚の色ボケビッチでーす」

 

ロザリーとクリスの背後にエルシャがいた。腕をパキパキと鳴らしている。口調は普段と表面状は変わりないが、その言葉の奥深くからは鬼神にも勝る怒りが込められていた。

 

「ウフフフフフフフフ」

 

決して笑顔を絶やさず、一歩、また一歩とロザリーとクリスの元へと近づいて行く。

 

「いや、これは、その・・・」

 

後ずさる二人の背中に何かが触れた。それは壁で

あった。

 

「あらあら。もう逃げられないわねぇ」

 

「そ・れ・じ・ゃ・あ」

 

エルシャが二人のライダースーツを掴んだ。

 

「エルシャラリアット!!」

 

【ボキボキ!!】

 

「ギャッー!!」

 

「エルシャパイルドライバー!!」

 

【バリバリバリ!!】

 

「痛い痛い痛い!!」

 

「エルシャスペシャル!!!」

 

【ドガ!バギ!ベギ!ボガ!ブゴ!】

 

「ギブギブギブギブ!!もう許してぇ!!!」

 

「あらぁ。まだまだゆっくりしていいのよ?ウフフフフ」

 

二人が泣きながら許しを乞うが、今のエルシャにそんなもの通じはしなかった。おそらく今のエルシャならアルゼナル全員が束になってかかっても皆返り討ちだろう。逃げようとした二人の足を掴むと、奥へと向かった。

 

【ガリガリガリガリガリガリ!!!】

 

やがて脱衣所からは、破壊音にも似た音だけが響き渡っていた。

 

「ねぇナオミ。なんだが物騒な音がするんだけど」

 

「・・・何も聞かない。何も聞こえない」

 

「ねぇねぇ二人とも!この後ジャスミンモール行こー!」

 

突然ヴィヴィアンが二人を買い物に誘った。こうして連られる形でシルフィーもシャワー室を出た。脱衣所は書くのも躊躇われる酷い惨状となっていた。

 

「あらぁ。汗でびっちょり。もう一度洗い流さないと。ヴィヴィちゃんにシルフィーちゃんにナオミちゃん。三人共、ちゃんと身体を吹くのよ。じゃないと湯冷めしちゃうわよ」

 

そう言うとエルシャは上機嫌でシャワーを浴びに

入って行った。

 

我々は忘れない!ロザリーとクリスという尊い犠牲を!(生きてます)

 

「まぁ二人とも!早くジャスミンモールに行こうよ!」

 

ヴィヴィアンに急かされる形で、二人は着替えを済ませた。ナオミが二人の心臓と脈を確かめた。

幸な事に二人ともまだ息があった。

 

二人をベンチの上に寝かせると、三人は脱衣所を後にした。

 

暫くしてアンジュがシャワー室から出てきた。隣の惨状など御構い無しに例のぼろぼろの制服を着込む。すると服の胸部分が破れた。

 

「はぁっ・・・」

 

アンジュは一つ溜息をすると、その場を後にした。

 





ナオミ=クロウ・ブルーストだと私の中で決めています。

以前言ったかも知れませんが1億キャッシュは流石に御都合主義を使わざるを得ない。

にしても、普段穏やかな人ほど怒らせると怖いとはよく言ったものですね。

皆さんも相手が穏やかだらけといって調子にのり
すぎない様にしましょう。


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第16話 不協和音 後編

ヴィヴィアンに連れられる形で、二人はジャスミンモールへと足を運んでいた。

 

「シルフィーは始めて来る所だったね。ここはジャスミンモール。日用雑貨や武器とかが売ってるお店だよ。買うにはキャッシュが必要だけどね」

 

ナオミがご丁寧に解説する。辺りには買い物などを楽しんでいる客の姿が見える。

 

「おおっ!新しいの入ってる!!」

 

ヴィヴィアンは駆け出した。その先にはパラメイル用の武装があった。見た目を言うならば弓矢での弓の部分に似ていた。

 

「ねぇねぇおばちゃん!これいくら?」

 

ヴィヴィアンが後ろでキセルを吸っているジャスミンに尋ねた。

 

「お姉さんだろ!ったく。超硬クロム製ブーメランブレードね。1800万キャッシュってところだね」

 

「1800万キャッシュ!?私の総合借金の三倍以上もあるの!?」

 

ナオミが金額を聞いて驚いていた。ナオミだけではなく買い物客なども金額の大きさに騒ついている。

 

「喜んで!」

 

そう言うとヴィヴィアンが満面の笑みでキャッシュの入った袋をジャスミンに渡した。これも第一中隊のエース故の稼ぎなのだろう。

 

「どれどれ。丁度だね。毎度あり」

 

すると突然バルカンが低く唸り声を上げ始めた。

ジャスミンモールの入り口でワンワンと吠えている。

 

四人とも入り口を見た。するとそこにはアンジュがいた。制服は以前見た時よりもボロボロになっている。

 

「・・・制服ありますか?」

 

そう言うとポケットからキャッシュを取り出して投げ渡した。

 

「ありますかだって?うちはブラジャーから列車砲まで、なんでも揃うジャスミンモールだよ。待ってな」

 

そう言うとジャスミンは奥へと足を進めた。しばらくして、制服を持って戻ってきた。

 

「大体サイズはこれくらいかね?」

 

そう言うとアンジュに投げ渡した。

 

「試着室借ります」

 

やがて試着室からは新品の制服を着込んだアンジュが出てきた。サイズ的にはぴったりの様だ。

 

「では」

 

「もう行っちゃうの?アンジュも武器買おうよ」

 

「いっぱい稼いでるんだろ?」

 

その言葉にアンジュの足は止まった。 こうして五人は武器コーナーへと足を運んだ。

 

「これなんてどう!?アンジュの機体にぴったりだと思うけどなぁ」

 

目の前に巨大な剣が飾られていた。プレートには【天空剣】と書かれていた。

 

「パラメイルはノーマの棺桶。自分の死に場所だから、自分の好きな風にできるのさ。強力な武器、分厚い装甲、派手なデコレーション。ノーマに許された数少ない自由さ」

 

ジャスミンが説明する。

 

「・・・くだらない」

 

そう言ってアンジュはジャスミンモールを去ろうとする。

 

「そんなんじゃあ仲間に狙われても仕方ないねぇ」

 

アンジュが立ち止まり振り返った。

 

「しかし・・・だ。そんな問題も金が解決する。

安心安全、それに命。買えるのはなにも物だけじゃない」

 

「・・・買収ですか?」

 

「流石皇女様。話が早いねぇ」

 

ジャスミンはどこからか算盤を持ち出すとそれを

使い計算をし始めた。

 

「手数料込みで、一人当たり1000万キャッシュでどうだい?」

 

「ほんと、ノーマらしくて浅ましい。一人で大丈夫です・・・わたしは」

 

アンジュは失笑した後、ジャスミンモールを後にした。

 

「さて、あんたはどうする?あのパラメイルに何か付け加えるかい?」

 

ジャスミンがシルフィーに話を振った。

 

「・・・私、死ぬつもりはありません」

 

そう言うとシルフィーもジャスミンモールを後にした。死ぬつもりはない。だから棺桶を好きな風に

する必要もない。そういうつもりなのだろう。

 

「まぁ、誰も死ぬつもりで戦場に出るなんて事はしないだろうねぇ。でもあの二人。中隊に馴染めてないねぇ。・・・なぁナオミ。一つ取り引きをしないか?」

 

「取り引き?」

 

「あんたが今後、アンジュとシルフィーの助けになるんなら、パラメイルの燃料や弾薬を安く譲るよ」

 

「えっーー!!あのケチなジャスミンが値下げするの!?熱でもあるの!?」

 

隣で話を聞いていたヴィヴィアンが驚きの声をあげる。ジャスミンはケチというイメージを持っているらしい。

 

「実はあの時現れたパラメイルの残骸。あれがまたかなりの上物でね。懐が温かいのさ・・・って、

ヴィヴィアン!ケチとはなんだい!ケチとは!?」

 

「助けに・・・でもなんで私が?」

 

「あんたの中に何かを感じとったんだよ。それに、あんたらが潰しあって困るのは私なんだよ」

 

アルゼナル内で稼ぎが一番良いのはメイルライダーだ。しかしメイルライダーなどは資格やパラメイルの数などで決して多くない。現在アルゼナルにいるメイルライダーは総勢29人だ。

 

彼女達が一人でも減るとその分ジャスミンモールも繁盛しにくくなるのだ?

 

「・・・私も、もう誰にも死んで欲しくない」

 

「じゃあ取り引き成立だね。二人の事を頼むよ」

 

「うっほー!ナオミは二人のお母さんになるんだね!」

 

「そうだよヴィヴィアン。ナオミは二人のお母さんになるんだ」

 

「誤解を生みそうな発言はやめて!」

 

ナオミが赤面しながら叫んだ。

 

 

 

 

「ガス抜きと思って見逃してたけど、流石に目に余るわね」

 

ブリーフィングルームにて。ここには現在アンジュ。ヒルダ。シルフィーを除いた第一中隊のメンバーが集められていた。

 

状況説明を簡単にしよう。ロザリーとクリスの二人は相変わらずアンジュへの嫌がらせをしようとした。その結果、全て失敗している。遂にはアルゼナルの備品にまで落書きしようとした為、流石に見逃せなくなった様だ。

 

因みにヴィヴィアンとナオミの二人は帰り際に捕まったらしい。

 

「お前達は何とも思わねぇのか!隊長と新兵二人を殺したあいつをよ!」

 

「でも、アンジュちゃんは三人のお墓をちゃんと建てた。戦場にだって戻ってきた。贖罪はもう果たしたんじゃないかしら?」

 

「うっ。それは・・・ナオミ!お前はどうなんだよ!?ココとミランダは同期だったんだろ?二人が死んで悲しいよな!?」

 

「うん。二人が死んだ事はとても悲しいよ。だけど、いつまでも悲しんでいられない。もう誰も死なせたくない。アンジュの事だって」

 

「だそうよ。二人とも」

 

二人にとって賛同すると思っていたナオミがアンジュを許していたという事実に二人はぐうの音も出なくなった。

 

「・・・でっでも!」

 

「それだけであいつを仲間として認めろってのかよ」

 

ブリーフィングルームの扉が開いた。そこにはヒルダがいた。

 

「少なくても、あいつの方は私達のことを仲間なんて思ってない。そんな奴を仲間として認めろっていうのかよ。あんたらみたいな優等生には出来るとしても、あたしらみたいな凡人には無理だね」

 

「にしても司令は何考えてんだか。あいつにポンコツ機を与えただけで特にお咎め無し。しかもグレイブの損失の借金もちゃらにしちゃって」

 

「おまけに、シルフィーの奴も、第一中隊に残しやがって」

 

その言葉に皆の表情が少し変わった。

 

「なんでそこでシルフィーがでてくるの」

 

「やれやれ、本当におめでたい連中だな。何仲間だと思ってんだよ。普通に考えて異常だろ。あいつ」

 

「島で一人暮らししてた。ならあの機体。確かオメガとか言ったな。それはあいつが作ったって言うのかよ。ありえないだろ。しかもあの時現れた謎の

機体。オメガにそっくりだったじゃねえか。偶然の一致ってやつなのかねぇ」

 

「何が言いたいの?」

 

「原の底で何考えてるかわからない女。そしてうちらを仲間だと思ってないイタ姫様。そんな奴らと

一緒に戦えるかよ」

 

「あぁそうか!分かったよ!司令は二人の事を気に入ったんだな!あの司令を垂らし込むだなんて。

ベットの上で仲良く3P。一体司令は責めか受けか、どちらだろうねぇ」

 

「!!上官侮辱罪よ!!!」

 

「だったらどうするよ」

 

サリアがナイフを、ヒルダが銃を取り出しお互いに向け合う。

 

「駄目だよ二人とも!落ち着いて!」

 

ナオミが場を鎮めようとする。アンジュとシルフィーと第一中隊の中を取り持つ前に、第一中隊の隊長と副隊長が殺し合いの一歩手前にまで辿り着いてしまった。

 

「これ以上、同じ隊のメンバーを侮辱する事は許さないわ」

 

「まだあいつらを庇うとはなぁ」

 

【ゴン!】

 

とつぜ鈍い音が響いた。壁をグーで叩く音のようである皆が音の方を向いた。そこにはシルフィーがいた。冷ややかな目をしている。

 

「シルフィー!まさか聞いてたの!?」

 

「聞いた。全部ね」

 

「ならはっきり言ってやるよ。私はあんたを仲間だなんて思ってない。精々戦闘中は背後を気をつける事だな」

 

「別に、貴女が私をどう思おうと知った事じゃない」

 

「けっ!親に捨てられた子が!」

 

「!!!」

 

次の瞬間、シルフィーがナイフを抜いた。それはヒルダの喉元数センチの所で止められていた。ヒルダの方も拳銃をシルフィーの腹部へと当てていた。

 

「私の歩く道に入るな」

 

感情の一切込められていない声でシルフィーは言い放った。

 

「やめなさい二人とも!それ以上は認めないわ!」

 

少しの硬直の後に、サリアが二人の間に割って入った

 

「シルフィー。手を出そうとするのは感心しないわ。ヒルダも。これ以上隊の仲間を侮辱する事は許さないわ」

 

「はいはい。よくわかりましたよ。隊長様。行くぞ、二人とも」

 

そう言うとヒルダは部屋を後にした。その後ろをロザリーとクリスが付いて行く。

 

部屋には五人のうち、四人が安堵の息を漏らす。

 

「シルフィー。貴女も第一中隊のメンバーなのよ。だから隊のメンバーを刺激させる発言は控えなさい。わかったわね」

 

「・・・」

 

サリアの言葉に何も返さず、シルフィーは部屋を後にした。

 

「あらあら。前途多難ねぇ」

 

エルシャがため息混じりに一言呟いた。

 

 

現在ヒルダ達は廊下を歩いている。

 

「あの時のあいつ。怖かったな」

 

「うん。一瞬、目が本気になってたよ」

 

ロザリーとクリスが先程のシルフィーについて話し合っていた。

 

「二人とも。この後時間あるよな?」

 

「ん?あるけど」

 

「ならちょっと付き合って欲しいんだけど」

 

そう言うとヒルダはとある部屋の鍵を取り出した。そしてとある部屋の扉を開けた。

 

その部屋はゾーラ隊長の部屋だ。

 

「なぁ。なんでヒルダがここの部屋の鍵持ってるんだ?」

 

「買い取ったのさ。この部屋のものを丸ごと。全部キャッシュで」

 

「それって・・・んん!?」

 

ヒルダはロザリーにキスをした。

 

「この部屋、それだけじゃない。あんたらも全部あたしのモノ。だから全部あたしに任せな。隊長の

敵討ちも。いいね?」

 

「はっ・・・はい」

 

「いい子ね」

 

ヒルダはクリスにキスをする。こうして三人はそのままお楽しみへと移行する事にした。

 

 

 

 

 

そしてその頃ブリーフィングルームを出たシルフィーは格納庫に来ていた。自分の機体の整備をする為だ。オメガにコントロールユニットを差し込み、機体を稼働させる。機体の回路などの連結を確認している。だがその間、ヒルダの言葉が頭から離れなかった。

 

(親に捨てられた子が!)

 

「・・・そう。私は一人。ナオミと出会うまで誰とも出会った事なんてない」

 

(空白の6年間が存在するんだ)

 

ジル司令の言葉と、色々と垣間見た光景などが蘇る。

 

(じゃああれが、私の中にある空白の記憶だと言うの・・・)

 

何故この機体の整備の仕方がわかる。何故私は腕輪などをつけているのか。何故シオンという男は私の前に現れたのか。

 

(考えれば私、何も知らないのね。あの時聞いた歌の事も・・・)

 

「〜♪♪」

 

例の歌を口ずさみ始めた。この歌を歌っている時だけ、嫌な事や不安な事などから解放される。

 

この歌はなんなのか、そんなものは分からない。

だがこの歌は安心できる。それだけは分かっていた。

 

「ねぇ。私にも整備を手伝わせて」

 

不意に声がした。下を見るとメイがいた。

 

「私の機体は私が整備する。他人の手を借りたくない」

 

そう言うと歌をやめ、シルフィーは内部構造部分の蓋を閉めた。そしてコントロールユニットを取り外すと、そのまま機体デッキを後にした。





今回は少し短めでしたね。

本編のアルゼナルでは赤ちゃんの産まれ方も教えられてないみたいですね。
(ナオミとアンジュのラジオ第二回参照)

そろそろシルフィーとオリキャラの絡みを作ろう。


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第17話 喪失者達

 

さて、シルフィーが機体整備をしていた時のサリア達の様子を見てみよう。

 

現在サリアとヴィヴィアンは自室でくつろいでいた。サリアは読者用の眼鏡をかけて何かを読んでいる。

 

「ここでクイズです!サリアは何の本を読んでいるのでしょうか!?」

 

ヴィヴィアンがクイズを繰り出した。

 

「教本よ。今後、いかに部隊を統率していくか。

それの参考になる手がかりを探しているのよ」

 

「なーんだ。あの本じゃないのか」

 

「あの本?」

 

「ほら。あれだよ。男と女がイチャイチャチュッ

チュする本」

 

「!!!??」

 

人というのは、他人には知られたくない秘密の一つや二つあるものだ。サリアの人には知られたくない秘密の一つ。それは恋愛小説の閲覧者という事だ。

 

しかしその秘密はヴィヴィアンに発覚していたようだ。

 

「ああ!私こわい!・・・これからどうなっちゃうの?」

 

「大丈夫だよ。ボクにその体を委ねて全てを見せてごらん?」

 

一人二役で行われるヴィヴィアン劇場が開幕した。その瞬間、ヴィヴィアン目掛けて何かが高速で投げられた。それはナイフであった。

 

「ウォッ!?」

 

ヴィヴィアンは間一髪でそれを避けた。

 

「見たの?」

 

サリアがドスの効いた声で言っている。

 

「えっ・・・ウッ・・・エェ」

 

「次勝手に漁ったら・・・刺すわよ」

 

果たして脅しなのか、本気なのか。それはサリアにしか分からない。

 

「・・・ごめんちゃい!」

 

【ぐ〜〜〜】

 

するとヴィヴィアンの腹が鳴った。彼女の腹時計は正確である。

 

「おおっ!ご飯タイムだ!サリアもどう?」

 

「悪いけど遠慮しておくわ。先に食べてなさい」

 

「んじゃ!」

 

そう言うとヴィヴィアンは部屋を後にした。

 

サリアは再び教本に目を通した。

 

(今のままじゃいつか隊はバラバラになってしまう。そしたらアンジュは死ぬ。それにあの様子だと、

シルフィーも・・・例えアンジュが仲間と見てなくても、例えシルフィーの正体が不明でも、二人とも第一中隊のメンバー。死なせない!私の隊では誰一人!)

 

サリアが隊長としての決心を固めた。

 

そしてその頃、ヴィヴィアンが食堂へと向かう最中ある人物と出くわした。

 

「あっ、シルフィー!そうだ!一緒にご飯食べよー!」

 

「・・・」

 

彼女は頷いてそれを了承した。特に断る理由がないからだ。食堂ではいい匂いが漂っていた。スパイスの効いたいい香りだ。

 

「おおっ!今日の食事はエルシャカレー!!」

 

ヴィヴィアンが何か興奮している。名前からしてエルシャが調理したカレーなのだろう。カレー皿を受け取った二人は席を探していた。するとそこでとある二人を見つけた。

 

「あっ!アンジュにナオミ!一緒に食べよ!」

 

「ヴィヴィアン。それにシルフィー。いいよ。食べよう」

 

こうして四人の食事が始まった。カレーを一口食べるなり四人が同じ事を口走った。

 

「美味しい」

 

そう。美味しいのだ。皇室育ちで美味しい物を食べてきたアンジュでさえ、目の前のカレーの美味しさを素直に表した。他のアルゼナルの飯が不味いだけなのかも知れないが・・・

 

「エルシャのカレーは世界一だからね!」

 

まるで自分事の様にヴィヴィアンが胸を張った。

だがそこまでだった。

 

「・・・」

 

その会話が終わると皆が黙ってしまった。話そうにも話を切り出せる空気ではない感じがする。

 

特にアンジュとシルフィーなど、目の前に座りながら互いの存在を無視しているかの様に、ひたすらにスプーンにカレーを乗せ口の中に放り込んでいる。何やら独特な壁と言うか、隔たりを感じさせる。

 

「二人とも。何か話さない?」

 

我慢できなくなったのか、ナオミが提案した。だがアンジュは無視、シルフィーは首を横に振った。

そして再び黙々と食事を摂る風景が続いた。

 

(何か共通の話題を見つけないと・・・)

 

「そうだ!3人とも!これあげる!!」

 

ナオミが考えを巡らせている間に、ヴィヴィアンが元気よく切り出した。彼女のこのような所は他の何よりも勝るものなのだ。そしてヴィヴィアンがポケットから何かを取り出した。それは奇怪な形をしていた。熊だろうか?いや、熊にしては妙に歪だ。

 

「・・・なにそれ」

 

「ペロリーナだよ!知らないの!?」

 

「ペロリーナ?」

 

「・・・懐かしいわね」

 

ナオミは知らないらしいが、口調からしてアンジュは知っているようだ。

 

「アンジュ。知ってるの?」

 

「外の世界で一時期流行ったキャラクターよ。まあブームは去ったけど」

 

「へぇ。アンジュって物知りなんだねぇ」

 

「別に」

 

「ほら!私とヒルダ。アンジュとシルフィーでフォワードを組めばきっと今より強くなれると思ってさ」

 

「えっ。私は?」

 

「ナオミはついで!」

 

元気よく言われた一言にナオミは苦笑した。

 

「くれるってことは、好きにしていいのよね?」

 

「もっちろん!」

 

【ボチャ】

 

次の瞬間、アンジュは受け取ったペロリーナをカレーの上に落とした後、席を立った。

 

「アンジュ・・・」

 

ヴィヴィアンはそれを拾い上げた。

 

「・・・貰う。勿体ない」

 

そう言うとシルフィーはペロリーナとアンジュの残したカレーを受け取った。

 

「ねぇシルフィー」

 

「何?」

 

「もう少し、皆んなと馴染む事は出来ないかな?」

 

「馴染んでるつもりだけど」

 

「じゃあ、笑顔とか周囲の人に見せてみたら?」

 

「・・・笑顔・・・か」

 

やがてカレーを食べ終わり、三人が帰ろうとした時だ。厨房からコック姿のエルシャがやってきた。

 

「ねぇナオミちゃん。人手が足りないの。よかったら手伝ってくれない?」

 

「えっ?でも私・・・」

 

「心ばかりの日当を出すわよ」

 

「喜んでやらせて頂きます!!」

 

そう言うとナオミは満面の笑みで、エルシャとともに厨房へと入っていった。

 

(あれが笑顔か・・・)

 

そう思い二人は食堂を後にした。

 

 

 

シルフィーは部屋へと帰った。そこにアンジュはいなかった。だが何処にいるのか気にもせず、ペロリーナをタンスにしまうと、そのままベットへと潜り込む。シーツを身体に巻きつけると、直ぐに眠りに落ちた。

 

その頃、ヒルダ達三人の内、ロザリーとクリスは

お楽しみの疲れでそのまま眠りについていた。

 

ヒルダは懐からあるものを取り出した。それはゾーラ隊長の義眼であった。窓際により、窓を開け放った。

 

「好きだったよ。ゾーラ・・・」

 

次の瞬間、大きく振りかぶって義眼を投げた。少しして【ポチャ】という音が小さく聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・んんっ」

 

不意にシルフィーが目覚めた。時計を見ると時刻はまだ午前3時半を少し過ぎた程度であった。何気なく隣を見るとアンジュが眠っている。

 

「・・・」

 

やがてシルフィーは部屋を出た。特に点呼時間までは部屋にいろという規則はない為に問題行動ではない。廊下は静まり返っていた。皆が安眠を満喫しているのだろう。

 

いや、シルフィー以外にもいたのだ。一人だけ。

 

(あれは・・・ヒルダ?)

 

廊下の奥深く、コソコソと辺りを警戒しながらヒルダが歩いていた。こちらには気がついていない様だ。やがてヒルダは機体デッキへと足を進めた。

 

(何してるのかな・・・)

 

少し気にしたが、シルフィーは気にせず歩き続ける。その足で砂浜の広がる外へと出た。月明かりによって光は灯されている。潮の香りが鼻腔をくすぐった。

 

「・・・・・・」

 

やがてシルフィーは制服を脱ぎ出した。全裸になると、そのまま夜の海に身体を浸らせた。しばらくして泳ぎ始めた。泳いでる最中に息継ぎする時に海水が口に入る。塩っぱい。

 

「この感じ、久しぶり・・・」

 

海を泳ぐ。これはアルゼナルに来てから一度もした事がなかった。少し魚などを探して泳いだが、海中の暗さも相まって魚は1匹も捕まえる事は出来なかった。

 

やがて泳ぎ疲れたのか、陸に上がると砂浜に大の字になって寝転がった。夜空には瞬く星と綺麗な満月が浮かんでいた。その光景は島で見た光景となんら変わりなかった。

 

「それに比べて、変わったわね。私も・・・周囲も」

 

彼女は名もなき島で一人育った。腹が減ったら魚を取りに海へ、木の実を取りに森へ。喉が乾けば島を流れる川へ、そして滝へ。たまに食材の取り合いで熊や猪と奪い合った事もある。自分以外の話し相手などいなかった。シルフィーと呼ばれる事もなかった。それ以前に、シルフィーという言葉もなかった。

 

それが今では違う。腹が減っても飢え死ぬ心配はとりあえずない。喉が渇いたなら蛇口を捻ればいい。それにあったかい水も出る。寝床も暖かい。なによりここで過ごす事で、島ではなかった何かを得ている。まるで欠けていた何かが満たされている。その様な気分になれた。

 

やがて朝陽が昇って来た頃。そろそろ戻ろうと身体を乾かしていた時だ。

 

「ビービービービー!!」

 

突然基地内に警報が鳴り響いた。オペレーターの声が響く。

 

「シンギュラー反応確認!第一種遭遇警報発令!パラメイル第一中達は出撃準備へ」

 

ドラゴンが来た。シルフィーは制服を着込むと、駆け足で基地内へと戻っていった。ロッカールームでは既に何名かがライダースーツへの着替えをしていた。

 

ライダースーツに着替え終わると、皆が発着デッキ目指して駆け出した。

 

「シルフィー。早くオメガ起動させて!」

 

メイの催促する声を聞き、シルフィーが機体に乗り込みコントロールユニットを差し込む。するとオメガにエンジンがかかる。モニターなどの様々な動力源も起動し始めた。ふと隣を見るとアンジュがいた。手に何かを持っていたが、それを投げ捨てていた。

 

「全機!発進どうぞ!」

 

発進許可が降りたと同時に、第一中隊の機体はその身を戦場に向かうため、空を舞った。

 

「シルフィー。機体の速度を少し落としなさい。

隊列を乱しているわ」

 

「・・・イエス・マム」

 

モニターに表示されている速度メーターはかなり低い。それでも他のパラメイルとの速度の違いが露わになっている。

 

(やっぱりあの機体。普通じゃないのかしら)

 

そう思っている第一中隊の前に、ドラゴン達が現れた。するとヴィルキスが隊列を離れた。向かう先はドラゴン達の大量にいるシンギュラーポイント、

つまりは敵の溜まり場だ。

 

「アンジュ!勝手な行動はやめなさい!」

 

しかしサリアの注意もアンジュは聞かなかった。

 

「くっ!各機散開!駆逐形態でドラゴンを殲滅する!!」

 

サリアの指示の元、皆が機体を駆逐形態へと変形させた。

 

アンジュは一人でドラゴンの群れと張り合っていた。このままの勢いなら今回も一人でドラゴンの大半を狩り尽くすだろう。

 

その時、突然ヴィルキスの先端が爆発を起こした。先端部分からは黒い煙が吹き上がっている。敵の

攻撃による被弾ではない。

 

「アンジュ!早く機体を立て直しなさい!」

 

アンジュは必死に機体を立て直そうとしている。

だが機体は尚も降下をし続けている。

 

そこにスクーナー級ドラゴンが一体組みついてきた。

 

ヴィルキスはドラゴンと共に海面へと落下した。

見る見るうちにヴィルキスの姿は遠のいた。

 

「サリアちゃん!大きいのが来るわ!」

 

シンギュラーからドラゴン。ブリック級が現れた。ご丁寧に子分の様なスクーナー級もそれなりに現れた。

 

(ここでヴィルキスを失うわけには・・・

でも・・・)

 

「・・・各機。ブリック級の殲滅にあたる!」

 

苦虫を噛み潰したような表情と口調でサリアが言った。

 

「全機!凍結バレット装填!一気に仕留める!」

 

皆が凍結バレットを装填する。シルフィーも凍結バレット弾を装填する。そしてブリック級へと狙いを定めていた。

 

その時である!

 

【ガタン!】

 

妙な音が響いた。すると突然全員の機体が落下をし始めた。特に下降する操作をしているわけではない。むしろ、機体が自然落下していると言うべきか。立て直そうにも機体は操作不能に陥った。

 

「なにこれ!?一体どうなってるの!?」

 

「なんで動かないの!?」

 

皆が必死になって機体を動かそうとする。しかし機体は動かない。まるで何かに機能が阻害されているかの様だ。計器類などは滅茶苦茶な数字の羅列を並べる。通信なども完全に使えなくなっていた。何よりエンジンも停止している。

 

【バシャン!】

 

海面に一番近くで戦っていたオメガが、最初に落下した。

 

「シルフィー!」

 

ナオミが叫ぶ。オメガは海流に流されていった。

そんな最中も他の機体も落下しそうになる。すると突然機体のコントロールが戻されたのだ。サリア達は慌てて機体を上空へと持ち直す。

 

何とか機体は安定させる事が出来た。だが次の瞬間にはブリック級達が襲いかかってきた。あの影響はドラゴンにはなかったようだ。ドラゴン達の仕業なのだろうか?

 

何とか態勢を立て直し、ブリック級達を殲滅する事に成功した。

 

「シルフィーは!?」

 

ナオミが慌てて落下ポイントを見てみる。だがそこにオメガの姿も、シルフィーの姿もなかった。アンジュの時もそうだが、ここら辺の海域は潮の流れが複雑で激しい。その為もう機体は目に見えない所まで流されていた。

 

「そんな・・・アンジュだけじゃなくて、シルフィーも・・・」

 

するとアルゼナルから通信が送られてきた。相手はジル司令であった。

 

「全機。一度帰還しろ」

 

「二人はどうします?」

 

「それらを決定する為に一度帰還しろ」

 

「イエス・マム。ナオミ、一度帰還するわよ。このままじゃ燃料がなくなって貴女まで帰れなくなるわ」

 

「・・・イエス・マム」

 

そう言うとサリアは現在地にマーカーポイントを付けると、中隊メンバーを引き連れその場を後にした。

 

(二人とも。無事だよね・・・)

 

今のナオミには、二人の無事を祈る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰って行く第一中隊。それらを遠くから眺めている存在がいた。

 

「ふぅ。帰ったようだね。あの人達」

 

「あの。よろしかったのでしょうか?」

 

「ん?何が?」

 

「私達はドラゴンとの戦闘を避けるためにステルスを使うはずでした。それなのに間違ってジャミングを使うだなんて・・・」

 

「まぁ誰にでもミスはあるよ!気にしない!気にしない!」

 

「少しは気にされた方が・・・まぁいいです。それで方角はどちらでしょうか?」

 

「んー・・・現在地から南南西ね!」

 

機体の操作不能の原因を作ったと思わしき二人は、このようなやり取りの後、ステルス迷彩の施された機体ごと何処かへと飛び立って行った。

 

 

 

 

 

とある島にて。

 

「いゃ〜大漁大漁。これで当分食うに困らないぞ〜」

 

その島で男は歩いていた。手にはそれなりの魚が握られていた。

 

(・・・・・・何やってんだ俺・・・他の生き物の命を奪って・・・生きて・・・一体なんのために?)

 

「んっ?」

 

男の視界の端にとある物が映り込んだ。それは砂浜に乗り上げていたヴィルキスであった。

 

(あれは・・・ヴィルキス!?)

 

男は慌ててヴィルキスに駆け寄る。そしてコックピット部分を見た。そこには意識を失ったアンジュがいた。

 

「女の子!?この子がヴィルキスを・・・」

 

男はアンジュを背負うと、その場を離れた。

 

 

そしてその頃、それとはかけ離れたもう一つの島では。

 

「あーあ。暇だ暇だ。暇で暇人になりそうだ!」

 

エセルが海で水切り遊びに励んでいる。その背後にはドミニクが呑気に眠っている。

 

「暇なら寝ればいい。気がつけば夜になる」

 

「私はあんたみたいにしょっちゅう寝むれねえんだよ!」

 

「・・・?」

 

突然ドミニクが立ち上がった。

 

「どうしたドミニク?」

 

「・・・何か来た」

 

そう言うと彼女は砂浜を歩いて行った。その後をエセルも付いて行く。やがて砂浜に座礁するとある機体を見つけた。

 

「おい!あれってオメガじゃねぇか!なんでここに流れついでんだよ!」

 

「シルフィー」

 

「えっ?」

 

「乗ってる人。シルフィー。意識を失ってる」

 

「なんだって!じゃあ早く・・・」

 

「介抱するには体力が必要」

 

そう言うとドミニクは砂浜の上に横になった

 

「寝溜めしないと」

 

「だぁぁ!!だから寝ようとすんじゃねぇ!!」

 

「後五分。後五分で体力満タンになるから・・・」

 

「お前の五分は五時間だろうがぁ!!」

 

そう言うとエセルは、一人コックピットへと駆け寄った。そこには意識を失っているシルフィーがいた。

 

(ちっ!シオンがいない今、まさかこの娘と出会うとはな・・・)

 

そう思いながらシルフィーを背にかつぎ、寝ているドミニクを引きずりながら、エセルはその場を後にした。





最近周回などが忙しくてなかなか書く暇がない。

島の話を1話で終わらせるか2話で終わらせるかは
悩みどころです。


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第18話 孤島での出会い

 

「ヴィルキスが堕ちた!?」

 

アルゼナルの司令室では、サリア、メイ、ジャスミン、マギー。そしてジル司令がいた。

 

「やっと乗りこなせる奴が現れたのにねぇ」

 

「恐らく、ドラゴンに襲われたのではなく機体のトラブルが原因と思われます」

 

「どうして・・・整備したときは機体の調子は良かったのに!?」

 

メイが疑問に思う。しかしサリアには原因に目星がついていた。

 

(ヒルダ達だ)

 

物証はない。けど、メイの言うことが本当ならば

誰かがヴィルキスに何かをした事になる。そんな事をする人間は限られてくる。

 

(私の責任だ・・・隊長の私の・・・)

 

「とにかく!機体は壊れてはいないんでしょ!?

直ぐに回収班を編成しないと!」

 

メイが慌てた口調で言う。

 

「そうね。今はヴィルキスの回収を優先すべきね」

 

「アンジュもだ」

 

ジル司令が付け加えるかの様に言う。

 

「アンジュも必ず回収しろ・・・最悪、死体でも

構わん」

 

ジル司令の放った言葉に皆が押し黙る。

 

「あの。シルフィーはどうします?」

 

「どうするとは?」

 

「シルフィーも行方不明になっています。ですから」

 

「サリア。分かっているな?」

 

ジル司令が睨むかの様な視線をサリアに向けた。

 

「リベルタスにはヴィルキスは必須だ。不安定な

リスクの危険分子一名のMIAを探す為に割ける人員がいるなら、ヴィルキスを優先させるべきだという事は・・・」

 

「・・・分かっています」

 

「先程の発言は、隊長としての発言か?」

 

「はい」

 

「ならばお前に任せる。確かに二人行方不明のうち、一人だけ探させるのは不自然だからな。だが、優先目標はヴィルキスとアンジュだ。これらを見つけ次第、シルフィーの捜索は中止とする。それでいいな」

 

「わかりました」

 

「よろしい。では直ぐに回収メンバーの編成にあたれ!」

 

ジル司令の言葉を受け、皆は司令室を後にした。

直ぐに捜索メンバーの編成が組み込まれた。ヴィルキスも回収する為、輸送機での捜索となった。

 

「いい!必ずアンジュとシルフィーを見つけるわよ!!」

 

サリアがメンバーに言った。なお、このメンバーにはサリアだけではなく、ヴィヴィアンとエルシャ。そしてナオミが参加していた。三人とも有志である。

 

「アンジュはまだ生きてるよ!私わかるもん!」

 

「そうね!きっとお腹空かせてるわよね!」

 

「怪我してるかもしれないし、治療セットも持ってきたよ」

 

こうして輸送機は飛び立った。アンジュとヴィルキス。そしてシルフィーを探すために・・・

 

 

 

 

 

 

その頃、アンジュは。

 

「んんっ。ん?」

 

アンジュは目を覚ました。そして覚ますなり違和感を感じた。手が不自然な状態になっている。まるで拘束されているかの様に。

 

現在アンジュはベットに拘束されている。

 

(なんでこんな・・・寒っ)

 

不意に寒さも感じた。見てみるとアンジュは一糸

まとわぬ裸体となっていた。それだけではない。なんと隣には男の人がいるのだ。

 

「あっ、目が覚めた?」

 

「・・・・・・え?」

 

(ええええええっっ!!!??)

 

次の瞬間、アンジュは現状を飲み込んだ。そして、飲み込んだ現状の結果に錯乱した。

 

「あっ・・・これは!その・・・海水で塗られて体がすごく冷えてたから・・・も、勿論何もしてないよ!」

 

(何!?誰!?裸!?何故!?縛られてる!?なんで!?どうして!?)

 

男は説明しているがアンジュの混乱は収まらない。

 

「とりあえず何か飲もう。落ち着いて、君の話を聞かせてくれないか?」

 

男が飲み物を持ちながらアンジュに迫って来た。

 

その時である!男の足元に転がって瓶に脚を乗せてしまった。

 

【ズルッ!】

 

「ウワァァッ!?」

 

男はアンジュめがけて倒れ込んできた。顔に飲み物がかかった。さらに、胸に違和感を覚えた。何かが乗っかっているみたいな。

 

「・・・・・・!!!??」

 

何と男の手はアンジュの両胸の上にのせられているではないか。しかも顔はアンジュの股間。つまりは秘部へと埋められていた。

 

アンジュの顔が茹でダコの如く赤くなった。

 

「ごっ!ごめん!!そんなつもりじゃ!?」

 

「イヤァァァァァッ!!!」

 

見事な膝蹴りが男の顔へと決まった。男の体は見事に吹き飛んだ。

 

アンジュは力任せに拘束を引きちぎり、側に置かれていたライダスーツと拳銃を回収すると、全速力で小屋を後にしたわ、

 

(なにあの男!?なんで私はこんな所に!?)

 

行く当てもなく、ただあの男から離れたい。その

思いだけでアンジュは森を駆け抜けた。やがて森を抜けると、砂浜へと出た。

 

そこでアンジュはあるものを見つけた。

 

「あれは、ヴィルキス・・・」

 

ライダースーツを着込み、ヴィルキスへと接近する。試しに電源ボタンを押してみるが機体は動かなかった。

 

(なんで?・・・フィンが焦げてる?)

 

アンジュがフィンを調べ始めた。そしてフィンの中からあるものが発見された。それは焦げた下着の様なものだった。

 

「!この下着・・・あいつだ!」

 

アンジュの脳裏にはヒルダが浮かび上がった。

 

「このっ!このっ!この!この!」

 

アンジュは下着を引き裂くと、砂浜に叩きつける。そしてそれを憎々しげに踏みつけた。

 

「酷いじゃないか、君は命の恩人になんて事を」

 

不意に声がした。後ろを振り向くとあの男がいた。アンジュに蹴られた影響か、顔の一部が赤く腫れている。

 

アンジュは反射的に銃を取り出し男の足元に向けて撃った。

 

「うわっ!!わぁぁぁ!」

 

「それ以上近づいたら撃つわ!」

 

「わぁぁっ!落ち着け!俺は君に危害を加えるつもりはない!てかもう撃ってるし!!」

 

アンジュは興奮気味言う。

 

「縛って脱がせて抱きついて!私が目覚めなければもっと卑猥で破廉恥な事をするつもりだったんでしょ!」

 

「もっと卑猥でハレンチって・・・例えば」

 

①「君が気を失ってる間にその豊満な形のいい胸の感触を楽しんだり」

 

②「無防備な肉体を隅々まで味わおうとしたり、

その大きなお尻を撫でまわそうとしたり」

 

③「女体の神秘を存分に観察して、それを記録するとか」

 

「そんなことする人間に俺が見えるのか?」

 

・・・変態かなこいつ。私だったら①を・・・

ゲフンゲフン。話を戻そう。

 

無論、今のアンジュがそんな事を言われて黙って

いるはずがない。

 

「そんな事をするつもりだったの!?この

変態!!」

 

アンジュは男に発砲した。

 

「ウワァァァッ!!落ち着け落ち着け!!話せば

わかる!!」

 

そのときだった。男の足にカニのハサミが近づいてきた。自慢のハサミが男の小指をはさむ。

 

「痛ってぇぇぇ!!!」

 

男は痛みで前に倒れこむ。そしてアンジュの体にぶつかった。アンジュも巻き込まれ、倒れ込んだ。

 

「・・・!!!??」

 

男の顔がアンジュの秘部に埋める。それどころかパイロットスーツの隙間から再び直接胸を触った。

一体何をどうすればこの様な状態になるのだろう。

 

アンジュの顔の赤さが最高潮へと達した。

 

「ちっ!違うんだ!これは!!」

 

「死ねぇ!!!」

 

拳銃の発砲音、そして男の悲鳴が砂浜に鳴り響いた。

 

「一度ならず二度までも!変態!ケダモノ!!発情期!!!」

 

アンジュは命からがら生きている男を森の木に、蔓で縛り付けるとその場を離れた。男は弾などを避けた為、ダメージはないがアンジュは心理的ダメージで既にボロボロである。

 

「おーい!ちがうんだー!あれは事故なんだぁー!!」

 

男の弁明をアンジュはスルーする。あんな事をしておいて良くもこんなセリフを言えたものだ。この男の名誉の為に言うが、男の行為は悪意ゼロである。全て不可抗力の事故なのだ。もっとも、気をつければ起きなかったと言えばそれまでだが。

 

アンジュはヴィルキスを色々と弄っていた。だが

あらゆる機能が落ちていた。

 

(通信機は故障・・・非常食も積んでないなんて・・・)

 

(私達ノーマの棺桶よ)

 

以前サリアが言っていた言葉を思い出す。

 

(そうよね・・・死人は食べる事も飲む事もしないわよね・・・)

 

【ポタ】

 

何かが降ってきた。水だ。雨が降ってきたのだ。周りを見ると機体の下半身は既に海に浸かっており、コックピットにも少しずつ流し込まれている。

 

(いつのまに!こんなに潮がみちて)

 

このままではここも安全ではなくなるかもしれない。アンジュは急いでヴィルキスから離れた。雨をしのぐために森へと入っていった。そして歩きながら考える。

 

(自分はこれからどうすればいいのだろう。機体は

動かず通信機も使えない)

 

すると突然雷が落ちてきた。それは目の前の木に

落ちると木は燃え始めた。

 

「ひっ!?」

 

急な事でアンジュは頭を抱えうずくまる。すると近くに木の空洞を見つける。そこに避難する。そこで雨を凌ぐ考えだ。

 

※なお実際には落雷がある時に木に避難するのはかなり危険なので、絶対に真似をしないでください。

落雷があった場合、近くの鉄製の頑丈な建物などにお逃げください。

 

(・・・!?)

 

不意に足に痛みを感じた。見てみると足の付け根の所に何かが噛み付いていた。それは蛇だった。 

 

「このっ!」

 

蛇を引き剥がすと、そこらへんに投げ捨てその場所を駆け足で離れた。

 

しばらくして、意識が朦朧としてきた。先程の蛇は毒蛇だったようだ。目眩によって地面に倒れこむ。血清や解毒薬などをアンジュが持ち合わせている筈がない。

 

「たす・・・け・・・て」

 

アンジュはそう呟くとその意識を閉ざした。誰も

助けになどはこないはずの島で、一人孤独に死んでしまうのか・・・

 

いや、一人だけいた。木に吊るされている変態男だ。

 

「おっ、おい!君!」

 

目の前の木に吊るされていた男はアンジュに気づくと、蔓を引き千切り、アンジュの元に駆け寄った。

 

「おい君!大丈夫か!?」

 

心臓と脈に触れた。どちらとも明らかに弱くなっている。

 

(まさか毒蛇に!?)

 

男は噛まれた跡を探す。足の付け根部分にそれはあった。

 

男は口を近づけ毒を吸い出す。そして毒を吐き出す。そして再び毒を吸い出そうと口を近づける。

 

しばらくはこれの繰り返しであった。やがて男は

アンジュを背負い、小屋へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

さえ、それとは別にシルフィーの方は一体どうなっているだろうか。

 

「・・・んっ。んんっ」

 

シルフィーは目覚めた。目覚めるなり今いる場所に違和感を覚えた。

 

「ここは・・・森?でも潮の香りも仄かにする・・・」

 

その時だった。

 

「あっ!目覚めた!?」

 

ふと声がした。声の方角を見る。すると目の前に

逆さの女の子の顔があった。

 

「誰!?」

 

慌てて飛び起き距離を取る。それと同時に身体に痛みが走ったが今は無視した。そしてよく見るとその女の子は枝に縛られ、なんと逆さ宙づりをしているではないか。そして身体には【私は皆に迷惑をかけた悪い子です】と書かれた張り紙を貼っている。

 

「私ミリィ!いきなりで悪いけど、このロープ切ってくれないかな・・・頭に、血が・・・」

 

後半息切れしたかの様にミリィが頼み込む。言葉通りに頭に血が上っているらしくかなり苦しそうだ。とりあえず言われた通りロープを引き千切った。

すると彼女は頭から地面に落っこちた。

 

「いたたた。助けてくれてありがとぉ」

 

「ミリィ。よかったな。目覚めてもらって」

 

茂みの向こうからある人物が歩いてきた。

 

「私はエセル。あんたはこの島に流れ着いてきたんだよ」

 

「・・・」

 

シルフィーは身を低く屈めた。いつでもとびかかれる様にしている。

 

「落ち着けって。別にあんたをとって食おうだなんて考えてねぇよ。まぁ暫くはそこで横になってな。その方が身体の為だ」

 

「じゃあね。また後で!」

 

そう言うとエセルとミリィはその場を後にした。

 

シルフィーも身体を動かそうとしたが、突如として身体に痛みを感じ動きが止まった。見てみると身体には包帯が巻かれている。どうやら意識を失っている間に手当てをしてもらった様だ。痛みには勝てず、大人しく横になる。

 

(島・・・名もなき島・・・)

 

しばらくはぼーっとしていたが、やがて痛みが引いてくると動き始めた。

 

 

時を同じくし、砂浜ではフリードを中心にエセル、ドミニク、カリス。そしてミリィが集まっていた。現在五人で円陣を組んで会議をしている。

 

「カリス。お前が付いていながら何をやっている。よりにもよって方向音痴のミリィに水先案内を頼むなどと」

 

「ごめんなさいフリードさん。ミリィさんが絶対的な確証を持っていると断言されたので・・・つい」

 

「そうだよ、あの時私の第六感がね。ピッカーって光ったんだよ!!」

 

「その結果が迷子か。本来ならあんたらが帰ってくる予定日は数日前だ。シオンの奴は調査ついでに

あんたら探しにも行ったんだよ。帰ってくるまで逆さ吊りの刑に処しとくかい?」

 

「ねぇ。それよりあの子と機体。どうするの?」

 

「ミリィのしでかしたジャミングの影響か、はたまた整備した人の腕の問題か、とにかくあの機体は

ボロボロだ。内部構造なんて目もあてられない。そう簡単には直らないな」

 

「まぁとりあえず、機体が直すまでは、あの子は

ここにいるだろうな。そして直った後どうするか、それを決めるのはあの子だ」

 

「一応シオンさんにも連絡を入れてはいますが、

今のところ返事はありません」

 

【ガサガサ】

 

不意に森から音がした。皆が見てみるとそこには

シルフィーがいた。

 

「もう動ける程回復されたのですね。よかったです」

 

「まぁそんな大怪我じゃなかったしな。そんで、

なんか用事でもあるのか?」

 

「機体は何処にあるの」

 

「・・・知りたければ付いて来なさい」

 

そう言うとフリードは歩き始めた。シルフィーは

それに続く。エセル達も続いた。

 

やがて一つの洞窟に入り込んだ。少しばかり歩くと、広いところに辿り着いた。そしてそこで、オメガは横たわっていた。

 

「ざっと見させてもらったが機体の内臓パーツに

かなりのガタがきている。新しいのに取り替えるべきだ」

 

「これ、飛べるの?」

 

「飛べるがそこまでだ。飛んだ後に内部の回路が

爆発。間違いなく墜落する。飛ぶにしても何処か

行くあてがあるのか?」

 

その言葉にシルフィーはハッとなる。

 

(そうか、ここは島。島なんだ・・・)

 

アルゼナルにいた理由。それはナオミを送り届ける為であり、その後は住む島を探す旅に出る予定であった。シルフィーは成り行きに近い形でアルゼナルには住んでいた。

 

その為何もアルゼナルが特別というわけではない。こうして住める場所があるのだからここに住めば

良いのだ。何故この様な考えが浮かばなかったのか・・・

 

「・・・とにかく、整備は私がやります」

 

「では俺たちは外で夕飯の用意をしている。飯の

時間になったら呼ぶ」

 

「zzzスピーーーッ。スピーーーッ」

 

皆が音のする方角を見た。するとドニミクが壁に

寄りかかりながら眠っていた。

 

「・・・まぁ放置しておくか」

 

こうしてフリード達は外へと出た。その場にはシルフィーとドミニクだけが残された、

 

機体の修理作業は難航していた。必要なパーツは

揃えられていた。だがあまりにも複雑で作業の方が中々進まないのだ。

 

「手伝うよ」

 

ふと背後から声がした。振り返るとドミニクがいた。どうやら起きた様だ。

 

「私の機体は私で整備する。他の人には触れて欲しくない」

 

「・・・本当に?」

 

「本当に」

 

「嘘」

 

「えっ?」

 

突然言われた言葉にシルフィーは動揺した。

 

「私には分かる。今の貴女は自分を守る為に強がっているだけ。周りに馴染めず、意地を張っているだけ。本当の貴女は仲間思いの優しい子」

 

「・・・・・・」

 

「これ以上、自分を曲げるべきじゃない」

 

そう言うとドミニクは勝手に整備の手伝いをし始めた。シルフィーは何も言えずに、隣で作業を続けた。二人でも作業は難航した。だが一人の時に

比べ、作業効率は確実に上がっていた。

 

やがて日が暮れて夜となった。月が夜空に浮かんでいる。

 

「今日はここまで。もう夕食。貴女も食べよう」

 

二人は洞窟を出た。砂浜には火が焚かれていた。

そして焚き火の周りには魚が焼かれていた。

 

「来たか。とりあえず食べろ」

 

そう言うと焼きたての魚を渡してきた。食事中は皆が楽しそうに話し合っていた。たまにシルフィーにも話を振ってくる時があった。

 

シルフィーに話の番が回ってきた。思い切って聞きたい事を尋ねた。

 

「なんで私を助けたの」

 

「別に。ただ困ってそうな人がいた。だから助けた。それだけだ。きっと立場が逆なら、お前も同じ事をしたはずだ」

 

その言葉にシルフィーはナオミの事を思い出す。

思えばあの時、ナオミを助けなければ、今、ここに私はいないだろう。

 

やがて食事が終わった。

 

「俺たちはあの洞窟の中で寝る。無理強いはせん。だが雨風を凌ぎたいならそこで寝るのがベストだ」

 

そう言うと皆は洞窟へと入っていった。だがシルフィーは一人、砂浜に佇んでいた。特に何かしようとか、そんなものはない。寧ろ何もしたくない。強いて言うならぼーっとしていたい。その様な感覚の方が近い

 

空を眺めた。すると今日の朝早くに見た夜空の風景が広がっていた。

 

「ここでもアルゼナルでも、空は一緒か」

 

不意にある疑問が湧き上がった。彼女自身、なぜ湧き上がったのか、それが分からない疑問である。

 

(みんな、今頃どうしてるのかな・・・・・・)





アニメの5話が序盤においてオリジナルの方を進める場面には最適だと思っている。

余談ですがオリキャラ図鑑②の製作を決めました。おそらく第3章終了時に作るつもりです。


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第19話 夜空の激闘

 

アルゼナルでは捜索班の補給作業が行われていた。アンジュにヴィルキス。そしてシルフィーの手がかりは今のところ何一つとして掴めていない中、時間だけが過ぎていった。

 

「補給完了まで後30分です」

 

「遅い!15分でやれ!」

 

様々な人が動いていた。サリア達四人は補給作業が終わるまでの間、水分補給をしていた。

 

「日も暮れたってのにまた捜索かい?精が出るねぇ」

 

ヒルダが水分補給中のエルシャに話しかける。

 

「わっかんないねぇ。生きてるかどうか判んない

奴等を探すだなんて。時間の無駄だと思うけどなぁ」

 

「生きてるかどうか判らないから探すのよ」

 

「ヒルダちゃん達がアンジュちゃんを許せないのも分かる。シルフィーちゃんの事が気に入らないのも分かる。でも二人共、同じ中隊の仲間なのよ?探さないわけにはいかないでしょう」

 

「イタ姫様はともかく、シルフィーの方は今頃、昔みたいに野蛮に戻ってるんじゃないか?」

 

「そんな事ないわよ。シルフィーちゃんは、不器用なだけなのよ」

 

「あの子は島で一人生きてきた。辛い時に誰か甘える事も、苦しい時も誰にも頼る事なく、なんでも

一人でやって生きてきた。だから、人に甘えたり

頼ったりする事が分からないだけなのよ。

本当はみんなといたいはず」

 

「だから私達から歩み寄れば、きっと相手も同じ様に応えるわ」

 

「何より、アンジュちゃん達って似てるのよ。昔のヒルダちゃんに」

 

その言葉にヒルダの顔が曇る。

 

「あまり周囲と関わろうとせずに、只々一人で道を歩いている。そんなところが昔のヒルダちゃんそっくりなのよ。だから放っておけなくて」

 

「似てる?あんなクソ女共と・・・?そんな事言ってると・・・落としちゃうよ?アンタも」

 

エルシャを軽く睨みつけた後、ヒルダはその場を

離れた。彼女の脳裏にはシルフィーに言った言葉が浮かび上がっていた。

 

(親に捨てられた子が!)

 

(似てるだと・・・違う!私は捨てられてなんかない!絶対に!)

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アンジュは。

 

現在アンジュは例の男によって介抱されている。

 

(毒は吸い出したし薬も飲ませた。あとは本人の生命力次第か)

 

ふと砂浜に座礁していた機体の事を思い出す。

 

(・・・ヴィルキス・・・か)

 

彼は昔の、十年前の出来事を思い出す。

 

「父さん!母さん!!」

 

彼は父と母の死体に泣きすがっていた。足音がした。後ろを振り返るとそこには女の人がいた。その人の後ろにはヴィルキスがあった。

 

 

 

 

 

 

「・・・はっ!」

 

アンジュは目を覚ました。体を動こかそうとするが、まだ体に痺れが残っているのか動きがぎこちない。

 

「無理しないほうがいいよ。毒は吸い出したけど、

まだ痺れは残っているはずだよ」

 

「!」

 

目の前には自分の貞操を二度も危険に晒した男がいる。アンジュは彼を睨みつけた。

 

「言っとくけど、動けない女の子にエッチなことなんてしてないからね」

 

彼はアンジュの気持ちを察したのか、そう言う。

 

「まずは食べて休んで回復しないと。話はそれからだよ。はい食事。君、何も食べてないだろ?」

 

「いらないわよ。そんなわけのわからないもの」

 

【グ〜〜〜】

 

アンジュの腹が鳴った。

 

思えば彼女は丸一日程度、何も食事を摂っていないのだ。

 

「変なものなんて入ってないよ」

 

空腹には勝てず、やがてアンジュは口を開く」

 

「・・・不味い」

 

「え?」

 

しかしアンジュはまた口を開いた。どうやら気に入ったらしい。

 

「気に入って貰えて良かったよ。ウミヘビの

スープ」

 

「!?」

 

「少しは信用してくれた?君に危害を加えるつもりは無いんだ」

 

「あんなことしといて、よく言えるわね」

 

「それは事故だって。だからもう、蹴ったり撃ったり吊るしたいはしないで欲しいな」

 

「・・・考えておく」

 

その時アンジュはあることに気がついた。

 

「ねぇ?さっき毒を吸い出したって言ったわよね?」

 

「言ったよ?」

 

「ここから?」

 

アンジュは自分の傷口を見せた。傷口は足の付け根部分。つまりはそういう事だ。

 

「あっいや!その・・・!それは!」

 

「!!!ガブ!」

 

「わーっ噛んだ!痛い痛い痛い痛い!」

 

「噛まないとは言ってない!」

 

次の日、アンジュはヴィルキスの元へと行った。

するとそこに彼がいた。手には工具などが握られていた。

 

「やぁ、もう起きて平気なのかい?」

 

「ええ・・・ねぇ?何をしてるの?」

 

「修理・・・のマネゴトかな?」

 

「出来るの!?」

 

「ここは時々海流に乗ってパラメイルの残骸が流れ着くことがあって。それを調べてたらなんとなく・・・ね・・・」

 

「・・・なんで手で修理を・・・?マナを使えばいいじゃない。パラメイルの事も知ってたり・・・

あなた・・・何者なの?」

 

「タスク・・・俺はただのタスクだよ」

 

少しの間考えた後、その男はタスクと名乗った。

 

「いや、そういうことじゃなくて」

 

「あーやっぱり。出力系の回路がダメになってるのか。でも、これさえ直せば、無線が使えるようになるはずだよ。そうすれば仲間が助けに来るはずだよ」

 

アンジュの質問を遮るかの様にタスクが言った。そしてアンジュの顔色は曇った。

 

「・・・仲間なんていないわ」

 

「え?」

 

「連絡してもきっと誰も来ないし、帰っても誰も

待ってないもの」

 

お互いしばらく黙っていた。

 

「ならさ、しばらくはここにいないか?どうせこの回路を直すには、少し時間がかかる。もちろん、

変なことはしないよ」

 

「・・・そうさせてもらうわ」

 

「そうだ、そこのHEX【ヘキサゴン】レンチを取ってくれる?」

 

「これ?」

 

「!?」

 

この時アンジュはいやらしい視線を感じた。視線の主はタスクだった。直ぐに手に持っていたレンチをタスクに向かってぶん投げた。

 

「痛!」

 

「今なんかいやらしいオーラが出てた!」

 

それから時間は流れた。最初はタスクを木に縛り付けて寝ていたアンジュも、数日経つと、部屋を分けてアンジュと寝るようになった。食料は釣りなどで魚を確保していた。

 

そうして7日が経った。

 

「明日になると無線機が直ると思うよ。そうすれば連絡も取れるようになるはずさ」

 

「ありがとう、でも連絡しても、誰も来ないわ。

あそこに私を探してくれるような人はいない」

 

「それはきっと違うよ。仲間なんだろ?ならきっと必死になって探しているはずだよ」

 

「・・・仲間・・・ね」

 

「まぁ、もしそれでもダメだとした、ここで暮らせばいい。その・・・変なことはもうしないから」

 

そう言うがタスクはこれまで一日最低でも一回は

事故でアンジュの体にダイブしてきたため、あまり

説得力がない。

 

「・・・そうね、それもいいのかもね」

 

そう言うとアンジュは空を眺めた。夜空には星が光輝いていた。

 

「キレイな星空・・・星なんて・・・最近ずっと見てなかった」

 

「君の方が綺麗だよ」

 

その言葉にアンジュは驚く。

 

「タスク・・・」

 

次の瞬間、突然タスクはアンジャに覆い被さった。

 

「ちょっと!どうしたのいきなり!?」

 

「何か来る!」

 

タスクの目線の先を見る。そこには目を疑う光景が映し出された。

 

なんとドラゴンがいた。一体や二体などという生易しい数ではない。ざっと100は超えていた。

 

「ドラゴン!?こんなに!?急いでヴィルキスを・・・」

 

突然鉛玉の雨がドラゴン達に襲いかかった。攻撃の主はそこへと駆けつけていた。

 

それはオメガとそれに酷似した5つの機体であった。

 

「オメガ!?なんでこんなところに・・・」

 

「知っているのかい!?」

 

島の上空は激戦区域へと早変わりした。ドラゴンの死体が海めがけてバタバタと落ちて行く。

 

「なにこれ・・・何が起きてるの・・・」

 

何故この様な事態になったのか、それを説明する

為にはシルフィー側へと話を移す必要がある。

 

 

 

 

 

 

一週間前の話。

 

あの後シルフィーは洞窟へと寝に入った。

 

「・・・?」

 

ふと身体に違和感を覚え、シルフィーは目を覚ました。起きて一番最初に映し出されたもの。それは

ミリィの寝顔であった。

 

「ウォッ!?」

 

離れようとしたが、身体が動かなかった。見ると

ミリィの両腕がシルフィーをガッチリと捕まえていた。抱き枕と間違っているのだろうか。

 

動かそうとした振動でミリィは目覚めた。

 

「ふぁ〜おはようシルフィー。さて朝食集め。一緒に行こ」

 

そう言うとミリィは手を離し、近くに置かれていた麻袋を渡してきた。そしてシルフィーをぐんぐんと引っ張る形で森へと足を進めた。

 

「・・・」

 

シルフィーは仏頂面で黙々と山菜集めに勤しんでいる。隣では既にへばっている、だけど笑顔を絶やしていないミリィがいる。

 

「ねぇねぇ。もう少し笑ったほうがいいよ」

 

「・・・なんで」

 

「だって笑うのって楽しいじゃん!」

 

(笑顔とか周囲の人にみせたら?)

 

「・・・笑う・・・か」

 

この出来事以来、シルフィーは徐々にだがフリード達に心を開き始めた。最初は料理なども自分の分は自分で作るなどしていたが、やがて人に作って貰ったり作ってあげたりと、隔たりは確実に薄くなっていった。

 

数日経てばシルフィーから話しかける程にまで成長していった。やがてシルフィーは五人と楽しく話し合える仲にまで発展した。

 

それは彼女自身にとって、今までの強がりが外れ、彼女本来の素直な姿の現れなのかもしれない。

 

 

 

そんな彼女は現在、夕食の材料集めに島の森へと

入っていった。

 

「えっと、リンゴが必要と・・・」

 

辺りを見回しながら森の奥へと進んでいった。

 

その時である!

 

「リンゴねぇ・・・禁断の果実って知ってるかい?」

 

「えっ?」

 

突然声が響いた。森全体に響き渡るかの様な声である。

 

「むかーしむかし。とある楽園にアダムとイブ。そして神様がいました。神様はアダムとイブにある事を言いつけました。【この木になっている果実を食べてはならん。もし食べれば、この楽園から永久に追放されてしまうぞ】」

 

「誰・・・誰なの!?」

 

シルフィーは必死に辺りを見回した。だが声の主は近づいている事はわかるが、その所在は一向に掴めない。まるで全方位から迫っている様な感覚さえ覚えた。声は尚を話しを続けた。

 

「ところがある日、一匹の野良蛇に唆されてアダムとイブはその果実を食べてしまいました。怒った

神様は二人を楽園から追放しましたとさ。めでたしめでたし」

 

やがて声の主が茂みの奥の方から現れた。シルフィーは身構えたが、直ぐに激しい動揺が襲いかかってきた。

 

「なっ!貴女は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・私?」

 

そう。シルフィーの前に現れた女性。その顔はなんとシルフィーそっくりだ。違う所と言えば精々髪と瞳の色くらいである。

 

シルフィーの髪が雪の様に白色なにの対し、目の前の女性はまるで墨を流したかの様な黒色をしていた。更に瞳の色も違い、紅色の瞳をしていた。

 

だがそれ以外の外観はまさにシルフィーそのものであった。

 

「こんばんは、お人形さん。僕はリラ」

 

「お人形・・・あ、貴女は何を言ってるの?」

 

震えた声でシルフィーは言う。目の前の存在に何故か強く反抗できない。恐怖にも似た感覚に襲われた。

 

「別に、ちょっとした昔話を語ってあげただけだよ。それにしても・・・僕そっくりだねぇ。そうだ!良いもの見せてあげるよ」

 

そう言うと目の前の女性は自分の胸元を少しだけずらした。元からかなり際どい服装をしていた為、

完全にこんにちわとなった。

 

「あっ、ごめーん。間違えちゃった。君はこんなものよりこっちの方が興味あるよね?」

 

ワザとらしく胸を隠すと、目の前の女性は自分の左腕を見せてきた。そう。そこにはシルフィーの右腕にあるものと同じ物がつけられていた。

 

「腕輪!?私と同じ・・・」

 

その腕輪はシルフィーが右腕につけている腕輪と酷似していた。何かが違うのだが、その何かが言葉では言い表せない。それ程までに酷似していた。

 

「この腕輪はねぇ。月の腕輪って言われてるんだよ。君のつけてる腕輪は太陽の腕輪。そしてね、なんとこの二つを合わせると理想の世界が作れるほどの力を得ることが出来るんだ」

 

「理想の世界・・・貴女は一体」

 

「鏡だよ。鏡には自分の姿が写る。君は僕の写し身なんだよ。空っぽの器とでも言えばいいのかなぁ」

 

「・・・ところでさっきの話だけど、なんでアダムとイブは楽園を追放されたのか解る?」

 

何故追放された。それは神様の言いつけを破ったから。普通に考えた場合の答えはこうなる。

 

「答えはね。果実を食べた事で知識と知恵を手に入れたからだよ。アダムとイブは普段から全裸なんだ。でも果実を食べた事で知識と知恵を得た。そしたら自分が全裸な事を恥じて、慌てて葉っぱで秘部を隠したんだよ。神様にもそれでバレちゃったんだ」

 

「じゃあなんで、知識と知恵を手に入れたら楽園を追放されたんだろうねぇ・・・」

 

今度は、少女は勿体つける風に辺りをぐるぐる回り始めた。一周した後、シルフィーの顔に急接近した。そして耳元で囁いた。

 

「答えはね。邪魔だから」

 

「神からしたら、アダムとイブはお人形なんだ。お人形に自分で考える力なんて不必要だよね?だってお人形なんだもの」

 

話している口調は基本的に明るく振る舞われている。だが言葉の一つ一つに、相手を凍りつかせるには十分な冷たさが含まれている。

 

「さてと。お話はこれくらいにして、お人形さんは不必要なものを手に入れてしまったね。知った以上は楽園から追放しないと」

 

次の瞬間、リラはシルフィーの右腕を狙って襲ってきた。狙いは腕輪だと理解した為、間一髪だが避けることに成功した。

 

「甘い!!」

 

リラは尚も襲いかかってくる。右腕の腕輪を掴まれた。腕を振り払い、即座に反撃のパンチを繰り出す。するとリラの体が軽く吹き飛んだ。

 

「もぉ、余計な手間とらせないで。しょうがないなぁ」

 

【パチン】

 

彼女が指を鳴らした。すると島の上空に突如としてシンギュラーが展開された。そこからはドラゴンの群れが現れた。

 

「あのドラゴン。体色が違う!」

 

普段戦っているスクーナー級は赤っぽい色を基調としている。だが今回現れたドラゴンは、見た目こそスクーナー級だがその体色は黒色である。ブリック級やガレオン級。そしてフリゲート級までもが、

黒色であった。

 

まるで何かの部隊かの様に、統率されていた。

 

「精々喰い殺されない様に頑張ってね。活躍は彼に報告する予定だし。それじゃバイバーイ」

 

そういうと目の前の少女は姿を消した。

 

シルフィーは慌てて洞窟を目覚し駆け出した。

入り口ではフリード達五人が身を隠していた。

 

「シルフィー!ドラゴンが来た!ここに隠れてるんだ!」

 

しかしシルフィーはそんな事を聞かず、夢中で奥へと駆け出した。少しして、既に整備が完了しているオメガの元へと辿り着いた。

 

オメガへと乗り込む。機体を稼働させる為のコントロールユニットを差し込む。四つの翼からは放熱が開始された。

 

「おい!一人で戦うつもりか!?よせ!」

 

「どいて!」

 

フリード達の制止を振り切り、オメガは戦場の空へと舞った。

 

直ぐにガトリングを持ち、引き金を引く。

 

「・・・」

 

そこからは何も出なかった。ガトリングなどの弾薬は一切補充されていないのだ。こうなると武装は接近戦用のナイフか格闘戦だけどなる。

 

「はあっ。はあっ」

 

数の暴力は確実に病み上がりに近いシルフィーを

追い詰めていった。五人はその戦闘を見ていた。

 

やがてフリードはある決心をする。

 

「・・・機体の用意を」

 

「フリードさん!?」

 

「・・・本気なの」

 

「あぁ。あのままでは彼女が危険だ。手を貸すぞ」

 

「ったく。しゃあねぇなぁ」

 

そう言うと全員、黒装束からとあるものを取り出した。それは機体のコントロールユニットであった。洞窟の奥へと足を進めた。やがてオメガがあった広い場所へと辿り着く。そのさらに奥地へと足を運んだ。

 

そこにはオメガと酷似した機体が5つ並べられてあった。

 

「バレるだろうな。私達がこいつの乗り手だって事」

 

「それでもだ。行けるとこまで行くしかないだろ」

 

皆がコントロールユニットを差し込む。モニターなどがつき始めた。各モニターには機体の名称の様なものが映し出される。

 

【DEM・type・α】(アルファ)(搭乗者、フリード)

 

【DEM・type・β】(ベータ)(搭乗者、エセル)

 

【DEM・type・γ】(ガンマ)(搭乗者、ドミニク)

 

【DEM・type・Δ】(デルタ)(搭乗者、カリス)

 

【DEM・type・Ζ】(ゼータ)(搭乗者、ミリィ)

 

《STANDING BY COMPLETE》

 

モニターには完全起動された事を表す文字が映し出された。機体のラインが光る。

 

「よし!出るぞ!!」

 

次の瞬間、5つの機体は洞窟の天井を突き破り戦場の空へと舞った。戦闘中のシルフィーにもその機体の姿、そして出た瞬間は映っていた。

 

「あの機体!?洞窟から出た!?フリード達がその乗り手だったの!?」

 

「シルフィー!今は敵を倒す事を考えるんだ!」

 

各DEMはそれぞれ武装を取り出すと、群がるドラゴン達を蹴散らしていった。やがてドラゴン達は移動を始めた。六人はそれを追いかけた。

 

 

 

こうしてアンジュ達のいる島の上空へと辿り着いた。

 

六機のDEMはドラゴン達をひたすらに切り刻み、撃ち落としていく。そんな中、翼にクリムゾンナイフを刺したが倒すには至っていないドラゴンが下の島めがけて落下していった。

 

「皆さん!下の島から人間の生命反応が二つ確認されてます!」

 

「嘘でしょ!?島に人が住んでるの!?」

 

「モニターに写します!!」

 

写されたモニターには、男女二人がそこにいた。その内女性はシルフィーが知っている人間であった。

 

「アンジュ!?なんでこんな所に!?」

 

「知り合いなのか!?」

 

驚く6人の前にガレオン級が3体立ち塞がった。

 

「邪魔だぁぁ!!」

 

ナイフを持ち、接近戦を挑む。まだアンジュの所へは行けないらしい。

 

そしてアンジュ達の前には、ドラゴンが一体落ちてきた。翼を負傷しながらも、起き上がったドラゴンは目の前の二人を標的とした。

 

「くっ!この死に損ない!」

 

そう言いアンジュはナイフを構える。タスクはヴィルキスの側で回路の接続に取り掛かっていた。この回路さえ繋ぎ終えればヴィルキスは動かせるようになるのだ。早くしないと。その焦りが作業を手間取らせた。

 

その間にアンジュがドラゴンと戦闘していた。ドラゴンの翼がアンジュに直撃し、倒れこむ。

 

「逃げろ!」

 

しかし体を強くうち、直ぐには動かないでいた。

ドラゴンの顔がアンジュに迫る。

 

(喰われる!)

 

そう思い目を閉じた時だ。

 

突然ドラゴンが顔を引っ込めた。まるで何かに驚いた風に。そしてドラゴンの前にある男が立ち塞がっていた。黒装束の男であり、右目に傷のある男だ。その男の名はシオン。

 

ドラゴンが怯えた風に一咆哮あげた。口から火球を放ち、シオンを焼き払おうとした。

 

「どうやらお前は、年寄りに対しての敬意が足りん様だな」

 

シオンはその場から一歩も動かず腕を組み、ただ

ドラゴンの放つ火球を上半身だけで避けている。

 

「なんだあの人・・・本当に人間か?」

 

アンジュとタスクは目の前の光景に唖然としていた。次の瞬間、シオンはジャンプした。そしてドラゴンの頭の上に着地した。

 

「攻撃とはこういうものだ」

 

シオンの右手人差し指がドラゴンの頭の一部に突き刺さった。するとドラゴンは一咆哮あげると、力無くアンジュ達の前に倒れ伏した。

 

「いかに巨大な肉体とて、必ず急所というものはある。そこを正確につけば、例え頑丈な肉体だろうと指一本で簡単に破壊できるもの」

 

男は解説しながらアンジュ達の前に歩み寄った。

 

「こうして会うのは二度目かな?」

 

「貴方。あの時アルゼナルで私を蹴り飛ばした人ね」※第11話参照

 

やがて戦闘を終えたシルフィー達もその島へと降下する。

 

「アンジュ!?なんでここにいるの!?その人は?」

 

「貴女こそ。その人達は一体何者なの!?」

 

お互いが無意識の内に、ただ思った内容を口にした。

 

フリード達もシオンの姿を見て驚いた。

 

「シオン!なんでこんな所に!?」

 

「何、帰りにちょっとした寄り道だよ」

 

(なんだこの人達は・・・何が起きてるんだ?)

 

唯一タスクが蚊帳の外となってしまった。目の前に現れたメンバー7人の内、6人は同じ服を着ている。何処かの組織の人間と言われれば間違いなく信用されるだろう。

 

とりあえずお互いが情報を交換しあった。

 

「成る程。つまり君はアンジュの仲間で、アンジュと同じ様に墜落した。そしてこの人達のいる島へと流れ着いたんだね」

 

「まぁそうなるわね」

 

「そういえばフリード。あの機・・・」

 

「とにかく今日はもう遅い。まずは食事にするべきだな」

 

シルフィーの言葉を遮るかの様にシオンが言う。そして何処かから何かを取り出した。それはジョッキと酒。そしてこどものビール。おつまみであった。それらは十分な量が揃えられていた。

 

「おおっ!待ってました!」

 

エセル達は乗り気であった。

 

「君達はいける口かね?」

 

アンジュとシルフィーとタスクは首を横に振った。

 

「そうか。では仕方ないな」

 

やがてこの場にいる全員にグラスが渡った。中には泡立つ金の麦茶が注ぎ込まれる。

 

「二人もどうかな?」

 

アンジュとタスクは顔を見合わせた後、それらを受け取った。

 

「それでは偶然のこの出合いを祝して、乾杯!!」

 

「乾杯!!!」

 

こうしてシオン達大人組は酒を。シルフィー。アンジュ。ミリィ。タスクの四名はこどものビールで

乾杯となった。

 

数時間後には、大人達は完全に出来上がっていた。エセルとフリードは酔い潰れ、ドミニクに至っては、にゃははと笑い上戸となり、カリスは酔っ払っていた。ミリィも酒を奪い、飲み始めると物凄い勢いでそれらを飲み干した。将来は立派な酒豪、又はうわばみになるだろう。

※(お酒は二十歳から飲みましょう)

 

唯一シオンだけが酔わずに尚も酒を自分のジョッキに注いでいた。タスクが皆の介抱に当たっていた。

 

そんな中、シルフィーは一人砂浜にいた。少し後ろからは尚も笑い声が聞こえてきた。一人砂浜に座り、海を眺めていた。

 

「風に飛ばん el ragna 運命と契り交わして♪」

 

「風に行かん el ragna 轟きし翼♪」

 

彼女は歌を歌い始めた。島での不安。あの時現れた自分そっくりな顔をしたリラと名乗る少女。彼女の言った言葉、お人形さん。それらの不安から心を落ち着かせる為に、歌い続けた。

 

「・・・いい歌ね」

 

不意に声がした。振り返るとアンジュがいた。アンジュはシルフィーの隣に座った。

 

「始まりの光 kilari・・・kirali」

 

「終わりの光 lulala・・・lila」

 

アンジュが歌を歌い始めた。その歌はシルフィーの歌う歌と酷似していた。

 

「アンジュ。その歌・・・」

 

「永遠語り。お母さまが私に教えてくれた大切な歌よ」

 

「永遠語り・・・」

 

「貴女の歌を前に聞いた時に聞きたかったけど、貴女はその歌を何処で知ったの?」

 

「・・・覚えてない。気がついたらこの歌を知っていた」

 

「そう」

 

やがてお互いがそれぞれの歌を歌い始めた。すると見事なものとして完成した。

 

「ちょっと見ない間に、お互い変わったわね」

 

「そうみたいね」

 

「・・・あの時はいきなり殴りかかって悪かったわ」※第9話参照

 

「まだ気にしてたの?貴女って意外にマメね。別にいいわよ。過ぎた事だし。それより、貴女はアルゼナルに帰りたい?」

 

「・・・分からない」

 

この答えに一番驚いたのはシルフィー自身だ。フリード達との生活は悪くない。ならば何故一緒にいようとしないのか。

 

「誰も待ってくれてなんていないのかもね・・・」

 

お互い何も言わずにじっと海を眺め続けた。やがて水平線から太陽が昇り始めた。綺麗な景色だ。

 

「アンジュ!シルフィー!」

 

突然タスクが二人の元へと走ってきた。

 

その時だった。砂に足をとられタスクは転倒した。

 

「タスク!?うわっ!!」

 

アンジュとシルフィーはタスクにぶつかり倒れ込んだ。するとお互い胸に何かの違和感を感じ取った。まるで何かに押し潰されてるかの様な感覚である。

 

「!!!??」

 

見てみると、なんとタスクの片腕がそれぞれの胸の上へと置かれていた。しかも顔面に至ってはアンジュの股間へとダイブしていた。またこの展開か。

 

「ごっ、ごめん!今すぐ離れるから!!」

 

慌てて手を離そうとした結果、なんと二人の胸を

揉み始めた。最早事故では言い訳が効かないレベルだが、タスクの為に言おう。これも事故である。

 

「なっ!なにすんのよこのド変態!!!」

 

「・・・」

 

アンジュはそう叫び、シルフィーは無言でタスクに殴りかかった。女としてはあの様な事をされてはたまらないらしい。この時二人の考えがベストマッチした。

 

やがてタスクは砂浜に顔だけ出す形で生き埋めとなった。

 

「酷いよアンジュ!それにシルフィーも!別にわざとじゃなくて」

 

「だとしても多い!!」

 

「それよりタスク。何か要でもあるの?」

 

シルフィーが本題を切り出した。

 

「そうだ!二人とも!ヴィルキスに通信が入ったんだ!!」

 

「なんですって!?」

 

その言葉を聞き、二人は駆け足でヴィルキスへと向かった。

 

「おーい!俺を抜いてから行ってくれぇ!」

 

砂浜には生き埋めのタスクだけが残された。





課題が中々終わらないから更新ペースが遅くなります。

そのくせ課題をやらずに昔のゲームで遊んでいる堕落している作者。皆さんはこんな人間に育ってはいけませんよ。


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第20話 帰る場所

 

「おーい!だれか聞こえてますかー?死んでいますかー?死んでいるなら死んでいるって言って下さーい」

 

ヴィルキスの通信機越しに、無邪気な声が聞こえてきた。その声を二人とも知っている。一週間ぶりの懐かしい声だ。

 

(この声、ヴィヴィアン!)

 

「こちらアンジュ!生きてます!救助を要請します!」

 

「アンジュ!無事なのね!」

 

通信機越しにサリアの安堵した声が聞こえてきた。

 

「サリア。アンジュのいる場所を特定したよ。後

40分程度でたどり着くから、待ってて!」

 

ナオミがそう言うと、通信は切れた。

 

「私、帰るわ」

 

アンジュが砂浜からタスクを引っこ抜き、そう言った。

 

「今はあそこが、私の帰る場所の様な気がしたから。それに・・・やり返さないといけない奴がいるし」

 

アンジュの脳内にヒルダが浮かんだ。

 

「さて、シルフィー。貴女はどうするの?」

 

隣で何も言わずに聞いていたシルフィーに話を振った。それにシルフィーは何も答えなかった。

 

「悩んでるなら、一緒に来ないか?」

 

後ろから足音が聞こえてきた。振り返るとシオン達がいた。どうやらさっきまでドラゴンの死体の処理をしていた様だ。

 

「俺達と来ないか?別段変わった事は無いぜ」

 

「・・・帰るわ。私も」

 

今まで黙っていたシルフィーが口を開いた。

 

「・・・そうか。アルゼナルに帰るんだな」

 

「ええ。島で過ごした時間はとても楽しかった。でも、私もアンジュと同じ考え。今の私には、あそこが帰る場所の様に思えたから」

 

「良い事です。帰る場所で待ってる人がいる人は

幸せ者です」

 

「幸せ者・・・か」

 

「・・・そうか。まぁそれがあんたの選んだ道なら、私達は止めない」

 

隣で話を黙って聞いていたエセルが口を開いた。

 

「だけど、これだけは覚えておきな。道ってのは

基本二つに分かれている。だからどちらかの道を進むには、選ばなかった道を切り捨てるって事になる。いずれ、大事な決断をする時が来るかもしれない」

 

彼女の瞳は真剣な眼差しでシルフィーを見つめていた。

 

その時不意に昨日の戦闘を思い出す。そしてあの時現れたオメガに酷似した機体。それらも思い出す。

 

「そう言えばあの機体。オメガと酷似してたけど、一体あの機体はなんなの?貴方達は一体?」

 

するとシオンは懐から何かを取り出した。それは砂時計であった。手の上の砂時計をひっくり返すと、砂が下へと零れ落ちて行く。

 

【サラサラサラ】

 

「この砂時計は三分で砂が落ちきる。それ以上でも、それ以下でもない。きっちり三分だ」

 

やがて砂は全て下へと落ちていった。三分経ったというわけだ。

 

「この砂時計は三分という時間をかけて、今の状態となった」

 

シオンが再びひっくり返す。砂は再び零れ落ち始めた。

 

「答えを急ぐ必要はない。今はこの様に、ゆっくりと砂が落ちている状態だ。それに近道も遠回りもない」

 

「いずれ道が交わった時、その疑問に答えを出そう」

 

様は今は答えるつもりはないというわけだ。だが、シオンはとあるノートをシルフィーに渡してきた。それにはオメガの整備方法が詳しく記されていた。

 

「ねぇねぇ二人とも!手を出して!」

 

言われた通りに二人が手を出した。するとミリィは二人の手の甲に指で何かをなぞる風に書いた。そして書き終わると目を閉じて手をお祈りの形にした。

 

「たとえ何処にいても、ささやかな幸せが貴女と共にあらん事を」

 

どうやらおまじないの類の様だ。

 

「では我々はこの辺で。もし道が交わったら再び会おう」

 

そう言うとシオン達が機体に乗り込んだ。次の瞬間、機体は空を飛び、直ぐにはるか彼方へと飛び立って行った。

 

「タスク!いい事!?貴方と私はなにもなかった!何も見られてない!何も触られてない!何も吸われてない!いいわね!」

 

「はいっ!」

 

「貴女もよ!この男の事は黙ってなさい!」

 

「いいわよ。その代わりシオン達の事も、貴女は黙ってなさい」

 

「いいわよ。お互いに弱みを握った買収成立ね」

 

そう言うとお互いが握手をした。それを見届けた後、タスクは森へと入っていった。

 

 

 

やがて輸送機が島へと降り立った。

 

「アンジュ!無事だったんだね!よかったぁ!!・・・シルフィー!シルフィーも無事だったんだね!」

 

ナオミが泣きながらアンジュに抱きついてきた。

やがてシルフィーに気がつくと同じ事をした。二人ともそれを拒まずわ黙って受け止めた。

 

(あらあら、二人とも少し見ない間に、ちょっと変わったかしら?)

 

エルシャがそう思っている中、輸送機に機体を入れる作業が始まった。輸送機は二機とも収納する事が出来た。

 

やがて輸送機はアルゼナルを目指し、飛び立った。輸送機内ではアンジュとシルフィーが暖かい飲み物を飲んでいる。

 

「その、ナオミ。エルシャ。ヴィヴィアン。サリア。四人とも、助けに来てくれて、ありがとう」

 

「ありがとう」

 

アンジュが礼を言った。シルフィーもそれに続いた。

 

「アンジュ、名前・・・」

 

「・・・ねぇヴィヴィアン。ペロリーナだけどまだある?私のコックピット、何にもないから」

 

「うん!」

 

するとヴィヴィアンはポケットからペロリーナを取り出した。

 

「ちょっとカレー臭いけどいい?」

 

「・・・やだ」

 

その言葉に皆が笑った。そんな中、ヴィルキス達の所にいたメイがやってきた。そしてシルフィーの前に来た。

 

「シルフィー。お願い!機体を私に整備させて!

一度でいい、整備士としの私の腕を信じて!!」

 

メイが深く頭を下げた。

 

「・・・」

 

(本当の貴女は、仲間想いの優しい子。これ以上、

自分を曲げるべきではない)

 

島でのドミニクの言葉が蘇る。

 

やがてシルフィーは黙って立ち上がると、機体の元へと歩いていった。コントロールユニットを差し込み、機体を起動させる。内部構造などの蓋部分を取り外した。

 

「・・・なにこれ」

 

オメガの内部構造は他のパラメイルと比にならない程複雑なものであった。何のパーツなのか、よくわからない部品などが拵えられていた。

 

「これに整備方法や必要なパーツとかについて簡単に記されている。必要なら使いなさい」

 

「えっ?」

 

驚くメイを他所にシルフィーは機体の整備マニュアルをメイに手渡した。

 

「信じるって事よ。メイ」

 

サリアが補足するかの様に説明する。そして補足を聞きメイの顔が笑顔になる。

 

「よし!アルゼナルに戻ったら!分解して調査だ!!」

 

「・・・」

 

その言葉を聞き、奥からシルフィーが睨みつけている。

 

「・・・・・・分解せずに整備だ!」

 

言い直したメイの言葉に輸送機にいた皆が笑った。今この瞬間、隔たりの壁がかなり薄くなったのを皆は感じ取れた。

 

 

 

時を同じくして、タスクは島のある所にいた。そこは銃にヘルメットで作られた彼の仲間の墓であった。

 

しばらく彼はそこにいた。やがてタスクは洞窟の中に入っていった。シーツを剥がす。そこにはパラメイルがあった。

 

(父さん・・・母さん・・・やっと見つけたよ・・・)

 

(父さんと母さんが死んで・・・仲間を失って・・・ヴィルキスを守るという自分の使命に向き合うことから逃げていた)

 

(この森で・・・一人死ぬことも出来ずにその日暮らしを送っていた)

 

(そこにヴィルキスと共にアンジュが現れた。凶暴で、人の話を聞かなかって、まるで野獣で、本当に彼女を選んだのか疑わしかった・・・)

 

(でも・・・たとえ不利な相手とも戦い、生きようとする姿は・・・美しく・・・眩しかった)

 

パラメイルに乗り込み、エンジンをかける。

 

(俺も生きよう・・・!!彼女の様に!自分の手と足で!)

 

(ただのタスクは今はいない)

 

(ここにいるのはタスク。ヴィルキスの騎士、イシュトヴァーン。メイルライダーバネッサの子、タスク!)

 

(そして・・・アンジュの騎士だ!)

 

決意を新たにタスクは島を後にした。その目は、

前を見据えて生きる者の目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのドラゴンども。どういう事か説明してくれるかな?」

 

とある場所でスーツ姿の金髪男が言った。目の前にはリラがいる。

 

「別に。私には私の協力者がいるってとこかな?」

 

リラはくつろいだ体制のまま答えた。

 

「君があの子と接触した事はわかってる。腕輪が

狙いなのかな?」

 

「さぁね、腕輪が欲しいのは君の方じゃないの?」

 

リラが目の前の人物を睨みつけるかの様に見た。

 

「とにかく、あの子に対しては手出しを禁止とする」

 

「言うねえ。美味しい七面鳥を食べたいならまずは太らせるって判断なのかな?・・・忘れないで、

僕達はあくまで利害の一致で成り立ってるだけ。

利にならないなら僕は君を切り捨てるつもりだよ」

 

「それは私とて同じ事だ」

 

「言ってくれるじゃない。エンブリヲ・・・」

 

そう言うとお互いがグラスを手に取り、中の水を

飲み干した。

 

(ま、タネの仕込みは終わってる。後は水を与えて芽が出るのを待つか・・・)

 

水を飲みながら、リラは不気味にほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらは現在飛行中のシオン達。シオン自身はアルファの機体先端に突っ立っている。

 

「・・・本当によかったのか?シオン」

 

「・・・あいつはあいつで道を選んだ。ならば今は道が分かれているだけ、このまま平行に進むのか、それとも何処かで交わるのか、それはまだわからん」

 

「でも残念だなぁ。また昔みたいに戻れると思ったのに」

 

「シルフィーさん。あの様子じゃ何も覚えてないみたいです・・・でも、その方が彼女の為ですよ」

 

「カリス。少し違うぞ。あの子は覚えてないわけじゃない。おそらく断片的に色々なビジョンを見てる。ただそれらを理解してないだけだ」

 

「では、もし彼女が全てを思い出したら・・・」

 

「その時はその時だ」

 

そう言うとシオンは自分の右目辺りを摩った。彼の言葉には、決意の様なものが強く秘めていた。

 

「じゃあシオン。本題に移ろう。調査の方はどうだったんだい?奴等の居場所を探りにいったんだろ?」

 

するとシオンが急に重い面持ちとなった。

 

「見当はついた。あいつらがいる場所はおそら

くミスルギ皇国だ」

 

「ミスルギ皇国って、確かあのアンジュって子が

ノーマだとばれて、滅びた国だよな」

 

「その事なんだが、少し言いにくい事になった」

 

「なんだよ。勿体ぶらずに言ってみろよ」

 

「・・・」

 

最初は黙っていたが、やがてシオンは前を見据えながら、その口を開いた。

 

「あの国は異常だ」

 

苦々しく、そして重々しくただ一言、そう呟いた。





前回が長かった分、今回は短めでしたね。

今更ながら言っておきますが、この作品は原作にはあったシーンがオリジナル部分や容量の都合上、
変化したりカットされたりしている箇所もあります。


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第21話 モモカが来た!

 

 

ある日のアルゼナル。今日はアルゼナルにとって

大切な日だ。外からの補給物資が輸送機で送られてくるのだ。

 

アルゼナルの生命線。ノーマ達にとっても生活必需品から娯楽品などが新たにアルゼナルに送られてくるのだ。

 

「食料4医療1医薬品1」

 

「ブラジャー入りのコンテナはうちのもん。後で

下に回しといてくれ」

 

エマ監察官とジャスミンがコンテナの分別をしていた。アルゼナルがギリギリの状態であった為、この補給によって彼女達は心に余裕を取り戻し浮かれていたのだ。

 

だからこそ気がつかなかった。その後ろの物陰で、何かが動いた事に。

 

「総員かかれ!チンタラしてると晩御飯に遅れるぞ!」

 

メイが整備士達に指示を出していた。そんな中、

作業デッキの暗がりの中を謎の影は走っていた。

 

 

 

その頃第一中隊は、先程の出撃が終わり皆がアルゼナルに帰還した直後であった。島での出来事の後、

アンジュもシルフィーも二人なりに他のメンバーと距離を縮めようとしていた。

 

その為、とりあえず表立っての衝突は起こらなくなった。また、シルフィーからも話しかけたりと、

アルゼナル内での不穏な空気はかなり薄れていった。

 

しかしヒルダ、ロザリー、クリスの三名に関しては相変わらずだ。

 

ドラゴンとの戦いも、これまでと違いシルフィーが積極的になった為、戦場ではアンジュと競争しているかの様な具合でドラゴン達を狩っている。その為他のメンバーの稼ぎも以前よりも減っているのだ。

 

「あいつら!自分たちだけ荒稼ぎしやがって!」

 

「なんで戻ってきたの?」

 

「まるでゴキブリだな」

 

「よし。こうなったら」

 

そう言うとロザリーはなにかを取り出した。

 

「どたまにネジ穴開けてやる」

 

ロザリーの手にはネジが握られていた。

 

「やめなよ。司令に怒られるよ?」

 

「まぁバレなきゃいいじゃん」

 

「・・・それもそうか」

 

クリスは止めようとしたが、ヒルダに押される。

 

「よーし。見てろよ」

 

ロザリーが狙いを定める。アンジュの方を狙っているらしい。

 

すると突然シルフィーが背後を振り返った。バレたのではないかと、ロザリーは慌てふためく。

 

「ちっ!違う!違うぞ!今のはお前を狙ったんじゃなくて・・・」

 

しかしシルフィーはそんなロザリーの横を通り、交差点の様なポイント。その右側の通路を睨みつける風に見ていた。やがて大声で叫び始めた。

 

「誰だ!?そこにいるのは!?隠れてないで出てきたら!?」

 

「何言ってんだ?」

 

全員がキョトンとした。皆がシルフィーの見ている先を見る。そこには通路が続いており、あまり先が見えなくなっていた。

 

「シルフィー。一体どうしたの?」

 

ナオミが心配そうに声をかけるが、シルフィーは

通路の先を睨みつけている。

 

すると突然アルゼナル内部に警報音が鳴り響いた。

 

「各員に告ぐ!アルゼナル内部に侵入者あり!」

 

意外な言葉だった。この絶海の孤島アルゼナルに侵入する者がいるとは誰が予想していただろうか?

 

「対象は整備デッキを通り居住区に侵入した!付近のものは直ちに確保に協力せよ!」

 

するとシルフィーの睨んでいた通路で何かが動く

気配を感じ取った。その気配は他の第一中隊のメンバーも感じ取ったようだ。

 

次の瞬間には、シルフィーは暗がりへと走り出した。

 

「ちょ、ちょっと!シルフィー!?」

 

「もしかして例の侵入者か!?ならうちらで捕まえてキャッシュにしてやる!」

 

ロザリー達もシルフィーに負けまいと後に続いた。

 

やがて広い直線の道に出た。シルフィーは逃げているその人物に跳びかかった。島で培った狩のノウハウだ。

 

その人物は女性の様だ。メイド服を着ており頭のリボンがトレードマークというべきだろう。

 

「貴女はあの時の!?」

 

その子はシルフィーを見て驚いていた。するとそこに保安部達も駆けつけてきた。全員の手には特殊警棒が握られていた。

 

「やめてください!私はただ!アンジュリーゼ様に会いにきただけなんです!?」

 

アンジュリーゼ。その子は確かにそう言った。その名前を第一中隊の皆が知っている。

 

「え?今の声・・・」

 

後ろからアンジュの声がした。彼女はシルフィーがのしかかっている人物を見て驚いた顔をしていた。

 

「もも・・・か?」

 

「もしかして・・・アンジュリーゼ様?・・・アンジュリーゼ様ぁ!」

 

そう言うとその子はシルフィーをはねのけ、泣きながらアンジュに抱きついた。

 

「アンジュ。知り合いなのか?」

 

シルフィーが驚きながら尋ねた。

 

「え、ええ。知り合いよ。でもなんでここに・・・」

 

その子はアンジュの胸の中でなおも喜びの涙を流していた。

 

 

 

 

司令部ではエマ監察官が電話口で誰かと話していた。

 

「モモカ荻野目。皇女アンジュリーゼの筆頭侍女です」

 

「はい、元皇女の・・・ええっ!・・・わかりました」

 

そう言うとエマ監察官は受話器を置いた。

 

「委員会はなんと?」

 

隣にいたジル司令がタバコを吸いながらエマ監察官に問いかける。その問いにエマ監察官はため息を

ついただけで答えない。

 

「やはり、予想通りですか」

 

「ええ、あの娘を国に帰したら、ドラゴンやそれと戦うノーマ。最高機密が世界に流れる恐れがある・・・と」

 

エマ監察官は続ける。

 

「何とかならないのですか?モモカさんはここに来ただけなのに・・・」

 

「ただ来ただけ・・・ね」

 

「ノーマである私に人間の決めたルールを変える力なんてありませんよ。せめて一緒にいさせてあげようじゃありませんか」

 

「・・・今だけは」

 

そう呟くとジル司令はタバコを灰皿に押し当てた。

 

 

 

 

 

モモカさんは現在アンジュの部屋にいる。そこにはアンジュとシルフィーの二人もいた。

 

「貴女はアンジュの知り合いだったの。いきなり

掴みかかって悪かったわ」

 

シルフィーがモモカさんに謝っていた。

 

「いえ、そんな、お気になさらず」

 

そう言うモモカさんは、アンジュの髪をチラチラと見ている。

 

「あの、御髪、短くされたのですね・・・」

 

「ええ」

 

「いいと思いますよ!大人の雰囲気というか、これまでの姫様の雰囲気から脱皮されたような・・・」

 

「アンジュ。この人は・・・」

 

「モモカ。幼い頃から私の世話をしてくれた人よ」

 

素っ気なく答えると、アンジュが制服を床に投げ捨てる。

 

「お着替えですね!お手伝いします!マナの光よ!」

 

モモカさんの手が光った。するとアンジュの投げ

捨てた制服も突然光だし、宙に浮いた。

 

(あれがマナの光なのか・・・)

 

シルフィーは物珍しくそれを見ていた。一方アンジュは何処か冷めた様な、冷ややかな目でマナの光を見ていた。

 

「そう使うんだ。マナの光って」

 

ぼそっと呟いたアンジュの言葉にモモカさんがハッとした。手から出された光が消えて、制服が床に落ちる。

 

「ジル司令の命令で、明後日まであなたの世話を

する事になったわ」

 

「お世話だなんて!私がアンジュリーゼ様のお世話をしに!」

 

「誰それ?私はアンジュ。ノーマのアンジュよ」

 

アンジュの放った言葉にモモカの顔が曇る。

 

「聞いたわ。滅んだんですってね。ミスルギ皇国。私がノーマだとバレたから。あなたの帰る場所も

ないんでしょ?」

 

「アンジュリーゼ様・・・」

 

「・・・最初から知っていたのよね。私がノーマ

だって・・・よくもまぁ騙し続けてくれたものだわ。何年もの間・・・」

 

皇女時代、アンジュはマナを使わなかった。皇族たる者、自らマナを使う必要はない。アンジュはアンジュの父親、ジュライ・飛鳥・ミスルギに幼い頃からこう教えられた。

 

アンジュの代わりにモモカさんがマナを使う。こうする事でアンジュは自分がノーマだと知る事なく16年間生きてきたのだ。

 

自分だけが何も知らなかった。考えてみると滑稽で笑いが込み上げてきそうだ。

 

「まぁ、今となってはどうでもいいけど」

 

「・・・」

 

その言葉にモモカは何も答える事が出来なくなった。

 

「私はもう寝る。ベットは隣を使いな・・・」

 

そう言いかけたところでアンジュはシルフィーの顔を見た。ベットは小さく、二人で寝るのはあまり

お勧めできないからだ。

 

「私が離れるわ」

 

シルフィーが一つタメ息をついた後、簡単な荷造りをした。

 

「いいの?別に無理しなくていいのよ」

 

「貴女の為にわざわざ来たんでしょ?ならその間

だけでも一緒にいてあげなさい」

 

そう言いシルフィーは部屋を出た。

 

「じゃあ貴女はここにいる間、隣のベッドを好きに使いなさい」

 

そういうとアンジュはベットに横になった。

 

「私は、ずっとアンジュリーゼ様のお側にいたいのです・・・お願いします。アンジュリーゼ様・・・」

 

モモカさんはその場に跪き、泣きながら懇願した。リアクションこそ起こさなかったものの、その言葉をアンジュは聞いていた。

 

(ここは人間の住むべきところじゃないのよ。

モモカ・・・)

 

 

 

 

部屋を出たシルフィーはオメガの前に来ていた。

ここが一番寝るには最適な場所だと思ったからだ。

 

コックピット部分に乗り込む。島から帰ってきた後、彼女はコントロールユニットをメイ達が整備

できる様に挿しっぱなしにする事にしたが、今は

安全の為それを抜いた。

 

オメガの中でシルフィーは丸くなり、眠りについた。その姿はまさに、揺りかごに眠る幼子とでも言うべきか。

 

そこで見た夢が楽しい夢なら、どれ程良かった事か。

 

 

 

彼女は夢を見ていた。そこは以前見た廃墟の様な所であった。だが空には太陽も月も浮かんでいなかった。

 

目の前に突如機体が現れた。黒色を基調としている機体だ。だがその機体をシルフィーは知っている。

 

「黒い、ヴィルキス?」

 

目の前にはヴィルキスがいた。一機だけではない。カラーリングが違う機体が合わせて7機、目の前に存在していた。七機の両肩が開かれ、何かをチャージしているようだ。

 

次の瞬間には、両肩から光が放たれた。それらは目の前にあった島を、街を、大地を破壊しつくした。

 

目の前の機体の強さは正に圧倒的な強さであった。

 

すると突如として辺りが暗闇に包まれた。そして目の前の七機全てに赤い円錐状の物が突き刺さった。粒子が一箇所に集まり、機体を抉ぐるかの様にガリガリと突き刺さっている。次の瞬間には、ヴィルキス達は大爆発を起こした。

 

彼女には機体が爆発する瞬間、銀色の閃光の様な

ものが見えた気がした。

 

やがて目の前に一つの機体が現れた。辺りの暗さで全体の姿は全く見えなかった。だが暗闇の中で光る赤いラインに彼女は目の前の機体の名前を知って

いた。

 

「オメガ・・・なの?」

 

シルフィーが尋ねる。返事は返ってこない。

 

目の前の機体は、彼女が知らないオメガとでも言うのだろうか。するとオメガの中から何かが落ちてきた。シルフィーがそれを拾い上げた。機体の紅ラインの光にそれは映し出された。

 

 

 

 

 

人間の生首であった。首の辺りからは血が流れ落ちていて、それが手に付着している感触が嫌でも伝わる。驚きのあまりその生首を手放し、後退りする。一瞬だが生首と視線が合った気がした。

 

次の瞬間、彼女は転落した。そして彼女の意識は

闇へと閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・んんっ?」

 

不意にシルフィーが目覚めた。目覚めるなり、彼女は辺りの異常性に気がついた。潮の匂いがする。そればかりか身体がびしょ濡れであり服が身体に密着している。今いる場所がオメガのコックピット内でない事がわかった。

 

そこは海中であった。いや、正確に言えば、アルゼナルにある砂浜が海に沈み、そこでシルフィーが目覚めた。

 

(なんで水の中に!?)

 

最初は慌てたが直ぐに落ち着いた。水の中ながら息が全く苦しくないのだ。

 

(・・・これ、あの夢の続きだというの・・・)

 

背後を見てみるとアルゼナルがあった。アルゼナルは全身が水に浸っている。海の中に水没しているという訳だ。泳ぎながらアルゼナル内部へと進んで行く。夢だからか、泳いでいても全く疲れない。

 

とりあえず自室へと泳いでいった。海水のせいか、錆びついた扉に手をかける。何故かは扉はすんなりと空いた。そこにはアンジュとモモカさんの姿はなかった。

 

他の部屋の扉も開けた。だが第一中隊はおろか、

アルゼナルにいる人全員の姿がそこにはなかった。それなのに服や本など、まるで生活していた跡だけを残し、人だけが消え去ったかの様な雰囲気だ。

 

(なんで・・・みんなどこに・・・)

 

シルフィーは困惑していたが、やがてある場所を目

指して泳ぎ始めた。

 

整備デッキには機体が並べてあった。普段見ているアルゼナルでの光景。そこに自分以外の人間、

いや、生物が消え去ったかの様な雰囲気である。

 

妙な胸騒ぎを感じ、ある機体の前に泳いでいた。

オメガだ。何故か人型兵器の姿になっており、コックピット部分が開かれている。

 

胸騒ぎが更に激しくなった。恐る恐るコックピット内を覗き込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、自分がいた。正確に言うなら、自分と

思しき遺体が丸まっていた。顔は皮膚が削ぎ落とされ、既に骨となっていた。

 

自分だとわかる決めて。それは何故か唯一腐敗していない右腕に、自分のつけているのと同じ腕輪がつけられていたからだ。

 

(何よこれ・・・なんでこんな)

 

そう考えた瞬間、白骨死体がシルフィーめがけて

突然動き出した。

 

そして再びシルフィーの意識は闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・フィー。シルフィー!シルフィー!」

 

誰かが自分を呼んでいる。目を開けると心配そうなナオミの顔が目に入った。

 

「ナオミ?」

 

「大丈夫?酷く魘されてたよ?」

 

これも夢なのか。だがこれは現実だと何故か理解できた。そして現実であると理解した途端、彼女は安心感に包まれた。誰も生きてる人が居なかった夢のアルゼナルより、こうして目の前に人がいる。その安心感で彼女は落ち着いた。

 

「なんでここに?」

 

「一緒に朝食を食べようと思って部屋に行ったんだけど、そこにはいなくて。アンジュからオメガの所にいるんじゃないかって聞いたんだけど」

 

「・・・全身汗まみれだよ。シャワー室で流してから食堂に行こ」

 

そう言うとナオミはオメガから降りた。シルフィーもシャワーを浴びようとナオミに続いて降りようとした時。

 

【ピチャ】

 

身体に異変を感じた。重いのだ。見てみると服が身体に密着していた。私服で水に飛び込んだ時の感覚に似ている。これは流石に汗では片付けられない量だ。

 

(じゃあこれは汗じゃなくて海水・・・)

 

あの時と同じ光景が思い出される。初めてオメガが人型兵器となった際、自分は夢で負った怪我をしていた。あの時と同じだ。夢で見た様な出来事が、

現実世界の自分の身に起きている。

 

(・・・考えすぎか?でも・・・)

 

一抹の不安が残る中、シルフィーはオメガを降りて、シャワー室を目指した。シャワーで身体を洗い流し、予備の制服に着替えると食堂へと向かい歩き始めた。

 

食堂の入り口にたどり着いた時、何やら食堂内が

騒がしくなっているのに気がついた。

 

「騒々しいね。何かあったのかな?」

 

「・・・どうやらその原因はあれのようね」

 

二人の視線はある人物に向けられていた。その人物はアンジュである。その背中にはモモカさんを背負っている。

 

「アンジュ!それに・・・」

 

「アンジュ。モモカさん、一体どうしたの?」

 

まだ名前を覚えていないナオミに代わりに、シルフィーが率直にアンジュに尋ねた。

 

「丁度いいわ。二人共、モモカを運ぶの手伝って」

 

アンジュに言われ、二人はモモカさんの脚をそれぞれ持ち上げた。アンジュが向かった場所。それはハンバーガーの自販機であった。

 

アンジュはモモカにハンバーガーを買った。ついでに自分の分と二人の分も買った。

 

「じゃあモモカさん。3日間も飲まず食わずでここに来たって事!?」

 

ナオミがその事に驚いていた。シルフィーは気に

せずハンバーガーに喰らい付いている。

 

「ええ。そうらしいわ。全く聞いてなかった」

 

「申し訳ありません。アンジュリーゼ様にお会いする事だけを考えて、頭がいっぱいで」

 

「・・・ねぇ。モモカさん。聞きたい事があるんだけど」

 

ハンバーガーを食べ終わったシルフィーがモモカ

さんの方を向いた。その目は真剣な眼差しであった。

 

「なんでしょう」

 

「昨日、貴女は言った。【あの時】あれはどういう意味?貴女は私と会った事があるの?」

 

「えっと、それはですね・・・」

 

モモカさんが言葉を詰まらせたが、やがて口を開いた。

 

「実は空港において、貴女とそっくりの人物に手助けをしてもらったのです。アルゼナルに行く為に

輸送機の入り口まで案内してもらって」

 

【ガシッ】

 

突然シルフィーがモモカさんの両肩を掴んだ。突然の出来事に三人が驚く。そんな中、シルフィーが

彼女の目を見ながら聞いてきた。

 

「本当にそっくりだった?なにか違う所はなかった?」

 

「そういえば、確か髪は黒色でした。そして瞳の色も紅い色でした。声も違ってましたが、それ以外はそっくりでした」

 

「・・・そう」

 

そう言うとシルフィーはモモカさんの両肩から手を離した。

 

「シルフィー?一体どうしたの?」

 

彼女の声色が変わった事にナオミが驚きながら尋ねた。

 

(あいつだ・・・)

 

シルフィーが心中である人物を当てはめた。島で出会った自分そっくりな謎の少女。考えてみれば彼女は何者なのか。何故自分とそっくりなのか。何故、腕輪について知っているのか。疑問は絶える事なく襲いかかってくる。

 

「・・・なんでもない。疲れてるんだ、少しの間

寝てる」

 

本心を隠しそう言うとシルフィーはその場を離れた。ナオミも不安そうにその後に続いた。

 

「あの方は双子なのでしょうか?」

 

「さぁね。それよりモモカ。これがキャッシュよ」

 

アンジュは心ばかりのキャッシュをモモカに手渡した。彼女は初めてみるキャッシュに興味津々の様だ。

 

「これがお金というものですか。貨幣経済なんて

不安定なシステムだと思ってましたが、これはこれで楽しそうですね」

 

「ここでの必要なものはそれで買いなさい」

 

その時である!

 

「ギャァァァァ!!!」

 

突然叫び声が聞こえ、モモカは驚く。見るとそこには負傷したメイルライダーが運ばれて行た。

 

「痛いっ・・・痛いよっ・・・」

 

「ほらほら暴れんな。腕がくっつかなくなっても

知らんぞ・・・あれっ?腕は?」

 

「こちらです」

 

助手のような人が腕をマギーに渡す。

 

モモカは手にしたハンバーガーを見た。ケチャップを血と連想してしまい、吐き出しそうになる。

 

「・・・何なのですか、ここは?一体何をする所なのですか?」

 

「狩りよ」

 

アンジュはそう答えるとハンバーガーを一気に食べた。ハンバーガーの包み紙をゴミ箱に投げ捨てる。

 

「私も、いつああなることか・・・」

 

「アンジュリーゼ様・・・」

 

(傷ついておいでなのですね・・・お労わしや・・・私がお救いしなければ・・・私が・・・アンジュ

リーゼ様を!!)

 

モモカさんが心の中で、静かな決意を固めた。

 




書くネタが思いついたのにそれを書く時間がないって話、よくありますよね。今だけ精神と時の部屋に引き篭もりたい・・・

余談ですがメビウスの方もやっと手がつけられる様になりました。本来あっちの作品を完結させてからこっちの作品を執筆したかったなぁ・・・


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第22話 昔の記憶/今の私



お気に入りが20人を突破いたしました。皆さま、誠にありがとうございます!今後もこの調子で頑張っていきます!




あの後、一通りの今日の訓練が終わった。現在シルフィーとナオミは廊下を歩いている。

 

「ねぇシルフィー。隈が出来てるよ。寝不足?」

 

ナオミの心配する声がしたが彼女は反応を示さなかった。心の内に抱えた疑問。それと向き合っているからだ。

 

(あの夢。一体なんだって言うの・・・)

 

あの時見た二つの夢。ヴィルキスに似た機体。そしてそれらを破壊した謎の機体。もう一つ、アルゼナルが水没した夢。

 

どちらも一つだけ共通点と思わしきものがあった。オメガだ。あの機体には人が乗っている。正確に言うならば乗っていた。どちらも人の骸があった。あれの意味はなんなのか。彼女には分からなかった。

 

「ねぇシルフィー。今日もオメガで寝るの?」

 

ナオミが不安そうに尋ねる。しかし、流石にあんな夢を見ておいて、今日もオメガで寝る度胸は今の彼女には無い。

 

「・・・今日は部屋の床で寝るわ」

 

そう言いシルフィーが部屋の扉を開けた。すると

開けたドアの隙間から妙な匂いが漂ってきた。

 

「?」

 

不思議に思い、ドアを全開にする。臭いが更に強まった。

 

「・・・なんじゃこりゃ・・・」

 

二人が素で目の前の光景に驚いている。二人の目の前に広がる部屋の光景が異常だからだ。

 

「この部屋。ココが持ってた絵本の世界みたい」

 

「臭いのもとはあれか」

 

テーブルの上にはお香の様なものが焚かれていた。シルフィーが排除しようと部屋へと入ろうとする。すると部屋の中にいたモモカさんが両手を広げ、

二人を部屋の外へと押し出してきた。

 

「ダメです!ここはアンジュリーゼ様のお部屋です!部外者は立ち入り禁止です!」

 

どうやらこの部屋の飾り付けはももかさんが行ったらしい。

 

「この部屋の飾り付け、モモカさん一人でしたの!?」

 

「そうです!アンジュリーゼ様はアンジュリーゼ様。ならば筆頭侍女としてそれに相応しい部屋として飾り付けるのは当然のことです!」

 

「そう。貴女がしたの」

 

背後から声がした。振り返るとそこにはアンジュがいた。その目は、目の前の光景に一切笑っていない。

 

「アンジュリーゼ様!アンジュリーゼ様には皇女の時の感覚を思い出して貰わないと!」

 

「戻しなさい。今すぐに」

 

喜びながら言うモモカさんに一言冷たく呟くと、

アンジュは部屋の入り口を後にした。彼女の方はあっけにとられていた。

 

「・・・ナオミ。今日貴女の部屋で寝かせてもらうわ」

 

「・・・いいよ」

 

目の前の光景に呆気にとられつつ、二人も部屋の入り口を後にした。

 

因みにこの後、モモカさんがしでかした色々な事が露見したらしい。ロッカールームのロッカーをドレス入れにしたり、厨房の食材でアンジュ専用の料理を作ったり、踏んだり蹴ったりである。

 

これ程の資材をどうやって手に入れたのか。それは最大の謎だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在シルフィーはナオミの部屋にいる。とは言え

部屋自体は特に変わった所のない、普通の部屋である。

 

「じゃあ、シルフィー。おやすみ」

 

「おやすみ」

 

部屋の電気を消し、ナオミはベットに潜り込む。

シルフィーも隣の地面に横たわる。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・えっ?ちょっ、ちょっと!シルフィー!?」

 

なんとシルフィーはナオミのベットに潜り込んで来た。床は冷たくて眠るのには適さないらしい。これはこれで夜這いとはまた違った面白さである。

 

流石に顔を間近で見合わせるのは恥ずかしいのか、お互いが背を向けている。

 

「・・・シルフィー。まだ起きてる?」

 

暫くして、ナオミが話しかけてきた。

 

「起きてる」

 

「こうして寝るのって、島で初めてシルフィーと出会った時以来だね」

 

「そう。あの時は驚いたわ。自分以外の人間に・・・ありがとう」

 

「えっ?何が?」

 

「あの時、私の前に現れてくれて、ありがとう」

 

「島での暮らし・・・本当は寂しかった。何をしてもずっと一人。同じ事を繰り返すだけの日々が」

 

「そんな時にナオミが現れた。嬉しかった。新しい出来事が自分に訪れた事が。もしナオミが現れなかったら、きっと私はあの島と一緒に沈んでた。誰とも出会う事もなく、たった一人で。だから私は、

貴女に感謝してるのよ」

 

ナオミは黙ってそれを聞いていた。

 

「・・・柄にも無いわね。私はもう寝る」

 

そう言いシルフィーは会話を終了させた。

 

(シルフィー。私だって、貴女がいなかったらきっと死んでた。生きていても、きっと手詰まりで私自身が自暴自棄になってた。シルフィーがいたから、今の私がいる。感謝するのは私の方なんだよ・・・)

 

やがて二人の瞼が静かに降りた。この日シルフィーが見た夢は、悪夢ではなく、優しい夢である事を願おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、第一中隊は射撃訓練中だった。

 

「知ってるかい?あの侍女、殺されるんだってよ?」

 

「マジで!?」

 

「アルゼナルやドラゴンは一部の人間しか知らない極秘事項。そんな所に来た人間を生きて返すわけがない」

 

「あいつに関わった奴はみんな死ぬ。ココやミランダもそれで死んだ。あの子もだ。慕ってくれる奴をみんな地獄に叩き落とす」

 

「あいつに関わった奴はみんな死ぬ」

 

「酷い女だよ。ホント」

 

ヒルダ達三人がいつものようにアンジュの悪口を言う。当のアンジュ本人は全く気にしていない様子だが。

 

訓練が終わり、アンジュが食事をとっているとモモカさんが隣に座った。手にはノーマ飯のプレートを持っていた。

 

「なにそれ・・・?」

 

「多分ここでの最後のお食事になると思いますので、きちんと頂こうと思いまして。あっ、勿論お金も払いましたよ。」

 

「それでは、いただきます。!?これは・・・なかなか個性的な味ですね・・・」

 

不味い様だ。するとアンジュが突然立ち上がった。

 

「アンジュリーゼ様?」

 

「お風呂よ」

 

「あの・・・お背中をお流ししてもよろしいでしょうか?」

 

「・・・好きにしなさい」

 

「はっはい!」

 

 

 

お風呂場にて。野外風呂には先客にシルフィーがいた。

 

「二人ともお風呂?」

 

「当たり前でしょ。他になんの用事があるのよ」

 

半ば呆れながらアンジュが隣の椅子に座る。

 

「懐かしいです。こうしてお背中を流させて頂くのは・・・」

 

「・・・モモカ。シルフィーの背中も流してあげなさい。貴女の為にわざわざ部屋を開けてくれたのよ」

 

「アンジュリーゼ様のご命令とあらば」

 

そう言うとモモカさんは彼女の背中を流し始めた。

 

「シルフィーさん。部屋を開けてくださりありがとうございます」

 

「気にしないで、私が好きでやった事だから」

 

するとモモカさんがシルフィーの右腕を見た。そこには腕輪がつけられている。

 

「シルフィーさん。お風呂の最中も腕輪は外されないのですか?」

 

「あぁ、これか。ちょっと訳ありと言うか、なんというか・・・まぁ大切な物だとは思うし、肌身離さずつけてるだけよ」

 

「・・・実は私にも右腕にあります。決して色褪せない。大切な物が」

 

そう言うとモモカさんは二人に自分の右腕を見せた。するとそこには何かでついた傷があった。

 

「その傷、まだつけてたの?」

 

アンジュが驚いた風に言う。

 

「はい。マナを使えば元どおりになると言われたのですが・・・思い出の傷なので」

 

そう言うとモモカさんは語り始めた。

 

昔の記憶。大切な思い出を・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだアンジュが幼かったころのお話。

 

【ガッシャーン!】

 

部屋から大きな音がした。それに驚いたアンジュは慌てて駆け付ける。

 

「何ごと!?」

 

「も、申し訳ありません・・アンジュリーゼ様。大事なお人形を」

 

その手には壊れた人形が握られていた。しかしアンジュの目にはそれ以上にある物が強調されていた。

 

「あなた・・・怪我してるじゃない」

 

モモカさんの右腕からは血が流れていた。するとアンジュは自分の着ていたドレスを破り、その切れ端でモモカの手当てをした。

 

「アンジュリーゼ様・・・そのドレスは」

 

「バカ!人形やドレスはまた作ればいい!でもあなたはたった一人なのよ!」

 

「アンジュリーゼ様・・・」

 

「これで大丈夫ね。割れ物は裏の木の下に埋めるといいわ」

 

「え?」

 

「ナイショよ?」

 

「アンジュリーゼ様・・・」

 

 

 

 

モモカが話し終わる。

 

「そんな昔の事・・・」

 

「私は決して忘れません。今の私がいるのも、アンジュリーゼ様がいたからです」

 

「これからも・・・ずっとお慕いしております。アンジュリーゼ様」

 

その言葉にアンジュは動揺する。射撃訓練中にヒルダ達の会話が脳裏をよぎった。やがて絞る様な声でアンジュが言い出した。

 

「出て行け・・・」

 

「え?」

 

「出て行くのよ」

 

「はい。明日には。だから今は」

 

「違う!今すぐよ!マナを使えば海を渡ったり潜ったりくらいは出来るんでしょ!?今すぐ逃げない!モモカ!」

 

当初モモカさんはあっけにとられていたが、やがて笑いながら一言だけ呟いた。

 

「・・・やっと呼んでくれました。モモカって」

 

その事にアンジュ自身が一番驚く。

 

「ですが・・・時間のある限り、アンジュリーゼ様のお側に居させてください。私モモカ荻野目は・・・アンジュリーゼ様の筆頭侍女なのですから」

 

「・・・バカ」

 

(昔の大切な思い出・・・か。私には何も残っていない)

 

シルフィーはその話を聞いていた。何も言わずに、何も聞かずに、ただ目の前の鏡を見つめていた。湯煙と泡でよく見えなかったが、彼女には一瞬だけ、鏡の中の自分が黒髪をしている風に見えた。

 

【ビーッビーッビーッビッ!!!】

 

風呂場に警報が鳴り響いた。シンギュラーが開かれ、ドラゴンが現れた。遂に狩の時間である。

 

「行くわよシルフィー」

 

二人が泡をざっと流すと風呂場を離れようとした。

 

「あの、アンジュリーゼ様!どうかご無事で」

 

モモカの声にアンジュが一瞬立ち止まった。だが

直ぐにその場から駆け出した。

 

発着デッキでは機体の発進作業が急ピッチで進められている。

 

「頑張って稼ぎなよ〜?あの子の墓石の分も。」

 

「うっわぁ悪趣味〜」

 

出撃準備中、いつもの様にロザリーとクリスが言う。そんな中、ジル司令がアンジュの側に寄ってきた。

 

「アンジュ。夜明けに輸送機が到着する。元侍女の世話は現時刻をもって終了とする。ご苦労だった」

 

ただそれを告げると、ジル司令はその場をそそくさと去っていった。やがて発進準備が整い、第一中隊の機体はその身を夜空へと向かわせた。

 

そんな中、戦闘中域に向かうアンジュはアルゼナルで見たモモカさんの出来事が脳裏をよぎっている。

 

(騙していたくせに!ずっと!・・・騙していたくせに!)

 

風呂場で見たモモカさんの顔が脳裏をよぎる。

無意識の内にアンジュはヴィルキスを加速していく。

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴンとの戦闘が終わり、第一中隊が帰還した。皆が様々な表情を浮かべている。

 

「あいつ!私の機体を蹴飛ばしやがって!」

 

「私なんて邪魔者扱いされたよ」

 

この様に不快感を示す者もいれば、感嘆の声を上げる者もいた。

 

「いやぁ!今日のアンジュ超キレッキレだったにゃぁ〜」

 

「何言ってるの!重大な命令違反よ!」

 

ヴィヴィアンの言葉にサリアが怒る。

 

「それにしても・・・一人でドラゴンを全部狩るなんて、聞いた事がないわ!」

 

そう、今回の出撃。なんとアンジュは一人でドラゴンを全部倒したのだ。メイルライダーにとってドラゴンを倒す事はキャッシュを稼ぐ一番の方法だ。パラメイルの燃料や弾薬などもドラゴンを倒して稼ぐものである。貯金のある者はともかく、貯金のない者には今回の出撃は大赤字なのだ。

 

「そういえば、アンジュはどうしたの?」

 

「確か今日の報酬を貰いに行ったはずよ」

 

「・・・成る程。保険は貼っておくべきね」

 

そう言うとシルフィーもその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜明けとなった。モモカがアルゼナルを去る日だ。

 

「ではお世話になりました。僅かな時間でしたが、とっても幸せでした。アンジュリーゼ様にもそうお伝え頂けますでしょうか?」

 

「わかったわ」

 

エマ監察官がそう答える。

 

「ではこちらに」

 

「・・・!?」

 

エマ監察官は彼女の持つ銃剣に目が行った。とてもじゃないが移動用の輸送機の人が持つ代物ではない。この人達はモモカさんを輸送機内で始末して、遺体を海に放棄する魂胆らしい。

 

「わかりました」

 

しかしモモカさんは特に気にする様子も見せず、輸送機に向かって足を進める。

 

「待ちなさい!!」

 

その言葉に皆足を止めた。振り返るとアンジュがいた。両手にはキャッシュの入った袋を持っていた。

 

「その子!私が買います!」

 

「は?・・・はぁぁぁぁぁッ!?」

 

エマ監察官が驚きの悲鳴をあげる。

 

「ノーマが人間を買う!?こんなボロボロの紙屑で!?そんな事が許されるわけないでしょ!」

 

「人身売買かい。だとしたらもう少しばかり値を

貼らせてもらいたいねぇ・・・」

 

【ポン】

 

エマ監察官とジャスミンの前に袋が投げられた。中にはそれなりのキャッシュの束が含まれていた。投げた主はシルフィーである。

 

「これ使えば?」

 

「シルフィー。貴女・・・」

 

「モモカさんには背中を流してもらったし。その分のお礼よ」

 

そう言うとシルフィーはその場を後にした。

 

「うーんなるほど。この額なら問題ないね」

 

「額の問題じゃありません!いいですか!!ノーマと言うのは不潔で野蛮で交戦的で!!!」

 

「良いだろう」

 

エマ監察官の話を遮るかの様にジル司令が言う。

 

「ジル司令!?」

 

「金さえ積めば何でも手に入る。それがここ、アルゼナルのルールですので」

 

そう言うとジル司令はその場を立ち去る。

 

「いや・・・そのちょっと・・・司令〜」

 

後ろからエマ監察官がジル司令の後を追いかけ、ジャスミンは満面の笑みでキャッシュを数えながらその場を離れた。

 

銃剣持った人も最初は動揺していたが、やがて諦めて、輸送機に乗り込む。そして輸送機は離陸した。

 

その場にはアンジュとモモカさんだけが残された。彼女は状況が理解できないでいたが、やがて事態を飲み込んだ。

 

「ここにいても良いのですか・・・?アンジュリーゼ様のお側にいても・・・良いのですか・・・?」

 

「・・・アンジュ。私はアンジュよ!」

 

「はい!アンジュリーゼ様ぁ!」

 

そう言うとモモカさんはアンジュに抱きついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらは、現在海の上を飛んでいる輸送機にて。

 

「まさかノーマが人間を買うだなんて・・・」

 

「委員会から始末を命令されてたのに。私達、きっと大目玉を喰らいますよ。どうします?」

 

【ビーッ!ビーッ!】

 

「おい、通信が入ったぞ」

 

「あーあ。噂をすればなんとやら。だりぃ」

 

愚痴りながら通信機を取った。するとそこからは怒鳴り声はしなかった。そのかわり、無邪気な子供の様な明るい声で、二言だけ通信が送られてきた。

 

「邪魔。死んで」

 

次の瞬間。突如として機体が爆発を起こした。原因は不明であるが、輸送機は木っ端微塵となった。機体の残骸や人間の身体の一部などが海めがけて降り注いで行く。

 

そんな中、海の上に一人佇む少女がいた。リラだ。彼女は上での出来事を見ていた。

 

「・・・汚ねぇ花火だ」

 

彼女はつまらなそうに、だが何処か気取った風に

一言呟いた。

 

(仕込んだ種は未だ目覚めない。まぁ焦っていても

仕方ない。作戦とは常に二手三手先を読むものか・・・いい機会だ。保険ついでにあいつらの所にでも行くか)

 

次の瞬間、リラの姿がその場から消えた。リラのいた場所には、輸送機や人間の残骸などが散らばるだけだった。




アニメの第6話が完結しました。

最近、自分が燃え尽き症候群になったと自覚してしまった。このままではサティスファクション出来ない。

何か新しい目標を見つけなけれ・・・


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第23話 サリアの憂鬱

 

アンジュがモモカさんを買い取ってからしばらくが経過した。

 

第一中隊は相変わらずアンジュが報酬を独占していた。そして残された少ない取り分もシルフィーが占める形となった。

 

その為、それを快く思わないヒルダ達によって、先の戦闘では遂にフレンドリーファイアまで発生しかけた。

 

今回の出撃帰還後も、ロザリーは二人に突っかかっていた。

 

「いい加減にしろ!この銭ゲバ共!!テメェが報酬独り占めしてるせいでこっちはおまんまの食い上げだ!」

 

決して稼ぎが無い訳ではないが、それでも差は歴然としていた。するとアンジュはキャッシュを取り出した。

 

「な?なんだ!?」

 

「迷惑料。足りない?」

 

「ふっ・・・ふざけんな!」

 

「だめだよロザリー!落ち着いて」

 

今にも掴みかかりそうなんロザリーをナオミが止める。

 

「お前だってこいつに報酬とられてちゃいつまでも借金生活だぞ!」

 

「ううっ。痛いところを突くなぁ」

 

「いい加減にしなさいアンジュ!何故命令が聞けないの!?」

 

サリアも我慢の限界なのかアンジュに詰め寄よった。

まだシルフィーの方は命令は聞くが、アンジュに

関しては完全にサリアの命令など無視している。

 

「ドラゴンなら倒してるじゃない」

 

「そんなんじゃない!これ以上、隊の連携を乱すなら!」

 

「罰金でも処刑でもお好きに」

 

そう言うとアンジュは黙って去っていった。サリアが悔しそうに歯ぎしりする。

 

一方、シルフィーの方はメンバーの話など御構い無しに、黙ってオメガをじっと見つめていた。

 

「・・・シルフィー?どうしたの?」

 

ナオミが不思議に思い尋ねる。不意に話しかけられた事に驚いたのか、シルフィーは少し驚いた顔をしていたが、直ぐに穏やかな顔で笑みを浮かべると、その場を離れた。

 

 

 

 

その夜の事だ。ジル司令の部屋ではジル司令、サリア、メイ、マギー、ジャスミン、バルカンと、以前集まったメンバーが集まっていた。

 

「ガリアの南端に到達。しかし仲間の痕跡なし。

今後はミスルギ方面で仲間の捜索にあたる・・・か」

 

「生きてたんだね。あのハナタレ小僧」

 

ジャスミンがどこか懐かしそうに言う。

 

「タスクのことか」

 

「タスク・・・」

 

サリアが昔の記憶を呼び起こす。最も、まだ本当に子供の頃だった為、あまり記憶にはないが。

 

「じゃあヴィルキスを直したのも!」

 

「タスクだろうな。ジャスミン。タスクとの連絡は任せる。いずれは彼等の力が必要になる」

 

そう言うとジル司令は手元の資料に目をやる。

 

「さて、本題に入るか。アンジュをヴィルキスから降ろせと」

 

「アンジュはヴィルキスになれた事で増長してきてます!このままいけば、いつか部隊を危機に陥れる!!そうなる前に・・・!」

 

「そうなる前にどうにかするのが隊長の務めだろ?」

 

ジル司令の一言にサリアがハッとする。

 

「お前ならうまくやれる。期待しているよ、サリア」

 

そう言うとジル司令はサリアの頭を撫でる。その

光景に、ジルとマギーが無言で顔を見合す。

 

「それはそうと、二つほど聞いてほしい事がある。まず一つ目だ。このデータと共にタスクから写真が送られてきた。これを見てほしい」

 

そう言いジル司令は数枚の写真を机の上に並べた。男二人に女四人が映し出されている。シオン達だ。更にはDEMが写されてる写真もあった。

 

「以前アンジュが行方不明になった時、シルフィーも同じく行方不明になった事がある。そしてこいつらは、シルフィーと一緒にタスクの前へと現れたらしい」

 

「あれ?でも聞いた話だとシルフィーはアンジュと同じ島に流れ着いたって」

 

「騙されてたんだよ。私達は」

 

「この機体。間違いない。以前私達の前に現れた

機体だ。この人達の誰かが機体の乗り手だというの・・・」

 

「タスクに聞いたところ、一名を除き、残りの全員が機体に乗って来たらしい。少なくても、シルフィーとこいつらには何らかの接点がある事が判明した。タスクの反応を見る限り、彼等との関係の線は0だ・・・サリア。あいつの行動はどうだ」

 

「特に怪しい点は見受けられません。隊になれた事で増長してる部分は見受けられますが、隊のメンバーとも自分から歩み寄ろうとはしています」

 

「ジル。まだシルフィーの事を疑ってるのかい?」

 

ジャスミンが呆れた風に言う。

 

「当たり前だ。あいつもオメガもあまりに謎な部分が多い。もしリスクがリターンを上回ったら、私としては然るべき処置をするだけだ」

 

その一言で場の空気が重くなってしまった。数秒の沈黙が場を包み込む

 

「では次に二つ目。これはタスクからの情報だ。

こいつらが現れた時、シルフィーはドラゴンと戦闘をしていたと報告を受けた。その時のドラゴンは、黒い体色をしていたらしい」

 

「黒いドラゴン?データにないはずです。初物ですか?」

 

「初物という点だけなら私とてこの場で言う事は

せん。問題はこのドラゴンが出現した際、一切の

シンギュラー反応が確認されなかった事だ」

 

「何だって!?」

 

皆が驚いた。シンギュラー反応。それはドラゴンが現れる際に必ず反応する信号の様なもの。それらを感知し、アルゼナルはメイルライダーを送り出す。これが普通の戦いだ。

 

だが仮にシンギュラー反応の起こらないドラゴンの進軍があるとする場合、それはこちらにとってかなりの危険である。

 

「ドラゴン達が進化してるとでも言うの・・・」

 

今度はジル司令とマギーとジャスミンが顔を見合わせた。

 

「まぁこのドラゴンはあいつらが報告してこなかった以上初物として扱う事にする。とにかくサリア、隊長のお前には期待してるよ。今後も頑張るんだ」

 

そう言ってジル司令はサリアを見た。それにサリアは何も言わずに黙って頷いた。

 

 

 

 

次の日、食堂ではエマ監察官が目の前の光景を否定していた。眉間にシワを寄せ、眉毛はピクピクと震えている。

 

「ありえない!!ありえないわ!!人間がノーマの使用人になるなんて!ノーマは反社会的で好戦的で無教養で不潔でマナの使えない文明社会の不良品なのよ!」

 

「はいはい。モモカ、おかわり」

 

エマ監察官の小言などに耳を貸さず、アンジュは

モモカさんにスープのお代わりを要求する。

 

「はい!アンジュリーゼ様!」

 

笑顔で空皿にスープを流し込む。豪勢な食事だが、その全てはアンジュの自腹だ。作ったのはモモカさんだが。

 

「モモカさん!貴女は自分が何をしているかわかっているの!?」

 

「はい!私、幸せです!」

 

人に尽くす事に喜びを感じる。彼女はなんて幸せ者なのだろう。こうも笑顔で言われてはエマ監察官は何も言う事が出来なくなってしまった。

 

「よかったねモモカ!アンジュと一緒に入れて」

 

「はぁ」

 

「?どったのエルシャ?」

 

通帳を見ていたエルシャが、普段見せないため息をついた事にヴィヴィアンが疑問に思い尋ねてきた。

 

「もうすぐフェスタの時期でしょ?少ない予算で、幼年部の子供達に何をプレゼントしようか悩んじゃって」

 

「そうか。今の報酬はアンジュとシルフィーの二人が取り合う形なのよね・・・なんとかしないと」

 

「どうなんとかしてくれるんだ?」

 

サリアの独り言にヒルダ達がつっかかる。

 

「どんな罰も金でなんとかするぜ。あいつらは。

第一聞きやしないだろうねぇ。あんたみたいなやつの言うことなんて」

 

「・・・何が言いたいの」

 

「舐められてるんだよ、アンタ・・・隊長、かわってあげようか?」

 

ヒルダの言葉に、サリアは黙って席を立った。彼女の向かった先はジャスミンモールだ。

 

(みんな好き勝手ばっか・・・私だって、好きで隊長をやってるんじゃないのに・・・)

 

店番のジャスミンにキャッシュを投げ渡す。

 

「・・・いつもの」

 

「一番奥を使いな」

 

慣れた口調でそう言うと、ジャスミンはサリアに紙袋を手渡した。それを受け取ると、サリアは試着室へと慎重に足を進めた。

 

 

 

数分後。今度はシルフィーとナオミがジャスミン

モールにやって来た。

 

「そろそろフェスタだからさ。シルフィーも水着を選ばないと」

 

「水着ねえ。適当にこれでいいよ」

 

水着のバーゲンセールの陳列棚のうち、ろくに見ずに適当に一つの水着を手に取った。彼女はあまり着飾る事は好きではなさそうだ。

 

だがそのみずきを見た途端、ナオミの顔が赤く染まった。

 

「ダメダメ!絶対それやめた方がいいよ!!」

 

「何がダメなのよ」

 

彼女が手にしている物。それは水着とは名ばかりな紐である。胸と秘部に申し分程度の布地があるだけで、残りは紐である。

 

「もうこれ水着じゃなくて紐じゃん!これは!?

こういうのなんていいと思うなぁ、」

 

その後、シルフィーはナオミに勧められて、適当な水着を持たされていた。

 

「全部試すの・・・ジャスミン試着室借りるわ」

 

「一番奥を使いな」

 

ながら作業中、キャッシュの勘定をしながらジャスミンが呟いた。やがて思い出したかのようにたった一言呟いた。

 

「・・・あっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試着室内にて。

 

「愛の光を集めてキュン♪恋のパワーでハートにキュン♪」

 

「美少女聖騎士プリティ・サリアン!!」

 

「あなたの隣に突撃よ♡」

 

・・・この作品は

【クロスアンジュ Another story】である。

 

間違っても、プリ●キュアでも、リリ●ルなのはでも、ましてや美少女聖騎士プリティ・サリアンでもない。

 

ではなぜこのような事態に陥っているかについて話そう。

 

彼女、プリティ・サリアンことサリアは人に言えない趣味が二つある。その内の一つは恋愛小説朗読者だ。

 

そしてもう一つの趣味、それが今閲覧者の方が目撃しているこのコスプレである。

 

試着室には元ネタと思われるマンガもおいてあった。

 

彼女の為に言うが、今の彼女は過度なストレスにより精神的なメンテナンスを実行しているのだ。

 

プリティ・サリアンでいる時間だけは任務やストレスから解放されている。

 

彼女はこれをいつか一つの部屋でやりたいと願っている。その日が来るまでは狭い試着室の中でなりきっているのだ。

 

そして今彼女は鏡に写った自分にうっとりしている。

 

彼女のテンションボルテージが最高潮に達する。

 

手に持ったおもちゃの杖を高らかに振り上げると、それを前に振りかざす。

 

「シャイニング・ラブエナジーで私を大好きに

なぁ〜〜〜れっ♡」

 

 

 

 

 

【しゃっ】

 

不意にカーテンが開かれた。鏡の端の部分には、

シルフィーが写っていた。鏡を経由する形で、お互いの視線がぶつかり合い、そして固まった。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・プッ」

 

【しゃっ】

 

カーテンが閉ざされた。

 

「シルフィー?」

 

ナオミが尋ねてきた。彼女はどうやら試着室内での光景を見ていないらしい。

 

「これ全部買います」

 

そう言うとキャッシュを投げ渡し、二人はジャスミンモールを後にした。

 

こちらは試着室内でのサリアンではなくサリア。

 

「♨︎卍∞@VII!!!!!!」

 

現在言葉にならない悲鳴を口から発する事なく試着室の床をのたうちまわっている。既にテンションボルテージは地の底を貫く程に落ちている。

 

(見られた!知られた!!笑われた!!!)

 

彼女からしたら既に知られたくない秘密の一つをヴィヴィアンに知られている。それなのにコスプレの趣味まで他人に知られてしまったのだ。

 

(こんな事・・・みんなに知られたら)

 

(へぇ〜私達の隊長にこんな趣味があったとわねぇ〜)

 

(・・・はぁっ)

 

ヒルダ達の嘲笑う視線とジル司令の失望の眼差しが彼女にははっきりと感じられた。

 

他のメンバーも例外ではない。おそらくサリアに

生暖かい視線を送りつけるだろう。

 

なにより彼女の中では、扱いづらい部隊メンバー

リストのトップスリーに名を連ねるシルフィーに

知られた事が一番嫌な事であった。

 

こんな事が知られたら、おそらく自分の隊長としての僅かに残された威厳も、隊長としての生命も、何もかも終わりだとを感じ取れた。

 

しばらくサリアは脳内で苦闘していた。

 

「・・・こうなったら」

 

やがてサリアはある決意を固めた。そしてその目は親の敵でも見ているような目であった。

 

 

 

風呂場にて。

 

現在アンジュ、モモカさん、シルフィー、ナオミの四人が入浴中であった。

 

【ガラッ】

 

風呂場の扉が開かれた。何気なく見てみるとサリアがいた。何故か制服を着たままだった。サリアは何も言わずにシルフィーの元へと大股で接近してきた。

 

「・・・殺す!」

 

突然サリアがシルフィーに向けてナイフを突き刺してきた。刺さる直前、彼女は手で何とかそれを受け止めた。

 

「何するの!?」

 

「見られた以上は生かしておけない!」

 

「見られた!?何を!?」

 

「しらばっくれる気!?」

 

実はシルフィーは既にプリティ・サリアンの事などすっかり忘れていたのだ。しかしそれで引き下がるサリアではない。何よりコスプレを笑われたのが

一番気に喰わない点らしい。

 

「落ち着いてサリア!とりあえず落ち着こう!」

 

ナオミが背後から羽交い締めにする。

 

「離しなさいナオミ!離せぇ!」

 

サリアが動けないこの隙にシルフィーは風呂場から脱出していた。

 

「煩いわよサリア。少しは静かにしなさい」

 

隣でモモカさんと流し合いをしていたアンジュが言う。

 

「アンジュ!貴女のせいでもあるのよ!」

 

「何よそれ。私には関係ない事でしょ」

 

「!!関係・・・ないですって!?」

 

何故こうなったのか。精神的メンテナンスをしたからだ。では何故精神的メンテナンスをしたのか。それはアンジュのせいでもある。サリアの怒りの矛先が今度はアンジュに向けられた。

 

「こっちはアンタにも迷惑かけられてばかりなのに!関係ないですって!私達はチームなのよ!なのにあんたの方は一人だけ好き勝手やって・・・!」

 

ナオミを振りほどき、サリアがアンジュに掴みかかる。

 

「後ろから狙ってきたり!機体を堕とそうとするやつの何がチームよ!」

 

アンジュがサリアを背負い投げした。サリアの身体は湯船の中へと叩きつけられた。制服の上が脱げた事に気がつき、慌てて手で胸を隠す。

 

「連中を止めないって事は、あなたも私に堕ちて欲しいんでしょ!あなた達に殺されるなんて真っ平!だから私は一人で戦うだけよ!」

 

「・・・好き勝手なことばっかり!いい加減にして!」

 

「そっちこそ!何がチームよ!」

 

湯船が二人の戦場へと変わった。モモカさんとナオミは止めるに止められず、二人の戦闘を見守っていた。

 

「私が隊長にされたのも!みんなが好き勝手言うのも!シルフィーに秘密を見られたのも!それを笑われたのも!ヴィルキスを取られたのも!」

 

サリアはアンジュの胸を揉んだ。それに負けじとサリアの胸を揉もうと手を伸ばす。

 

しかしそこには手応えがなかった。

 

「・・・あれ?」

 

全てを察し、サリアの顔の赤さが最高潮に達した。

 

「全部アンタのせいよぉ!!!」

 

「はぁ!?」

 

ここまでいくと八つ当たりもいいところだ。すると後ろにある扉の開く音が聞こえた。振り返るとエルシャとヴィヴィアンがいた。

 

「だから、カレーにはカツよりメンチの方が、

て、なんじゃ!?」

 

「あら、大変ねぇ」

 

二人は直ぐに現状が理解できたらしい。

 

「お願いです!アンジュリーゼ様を止めてください!」

 

「二人とも!アンジュとサリアを止めるのを手伝って!」

 

モモカとナオミがエルシャ達に頼む。

 

「・・・ここはお風呂場だもの。溜まってた汚れは先に洗い落とさないとね」

 

するとエルシャはデッキブラシをアンジュ達に投げ渡した。

 

二人はそれをキャッチすると直ぐに戦闘が始まった。今度はデッキブラシを使いながらだ。明らかに先程より悪化している。

 

「後は若い人たちでごゆっくり〜」

 

そう言うとエルシャ達は二人の手を引っ張りながら中風呂へと戻っていった。

 

「このド貧乳がぁ!!」

 

「黙れ筋肉豚ぁ!!」

 

外の風呂場では、二人の互いに罵り合う声だけが木霊し続けた。

 

ナオミ達が風呂を上がった際も、まだ争いは続いていた。一体あの場所では、どの様な事が繰り広げられているのか、あまり想像したくない。

 

ナオミが部屋へと帰ると、先に帰っていたであろうシルフィーの姿がなかった。

 

「あれ?シルフィー。どこ行ったんだろ?」

 

疑問に思いつつベットへと入る。疲れからか、直ぐに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「基地の中でも争わなければ気がすまないわけ!?」

 

司令部ではエマ監察官が二人に呆れていた。あの後二人の争いは一時間ほど続いたらしい。全身傷まみれだった。

 

「もー!これだからノーマは!!非社会的で好戦的で無教養で不潔で野蛮で!」

 

今回のアンジュはとばっちりであるが。

 

「らしくないな、サリア」

 

「別に・・・」

 

「始末書50枚!明日の朝までに提出!」

 

エマ監察官はそう言うと二人に50枚の紙を渡した。

 

「はっ!」

 

サリアは直ぐに返事をした。

 

「・・・なんで私まで・・・ハックシュン!」

 

アンジュは愚痴をこぼしながらくしゃみをした。

それぞれが部屋へと戻る。

 

「お帰りなさいませ、アンジュリーゼ様」

 

「モモカ、始末書代わりにやって、私はもう寝る」

 

「喜んで!アンジュリーゼ様!」

 

アンジュはそう言って紙をモモカに渡すと、ベットに倒れ込み、暫くして眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンジュとサリアが風呂場で争っている間。シルフィーはある機体の前に来ていた。オメガだ。

 

「・・・あの夢がただの偶然とは思えない。教えて。貴方は何者なの。何で名もなき島で私といたの。貴方は、私を知っているの?」

 

彼女の中に芽生えた疑問。それらと向き合うためにここにいる。これまでの夢を思い出し、少し身体が強張ったが、直ぐに腕を枕にうつらうつらし始め、やがて彼女の意識は深い闇に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ここは」

 

シルフィーが目を覚ました。覚ますなり辺りの異変に気がつく。今現在、彼女のいる場所がオメガのコックピットではない。再び見ているのだ。夢と自覚している夢を。

 

辺りの様子は薄暗い。されど見えない程の暗闇ではない。近くに太い枝が落ちていた。少し先には火が灯されていた。枝を拾いあげ、その火につける。

 

見事な松明の出来上がりだ。これによって辺りが見渡せる程度の明るさが保てた。

 

周囲には石の様な物が並び立っている。

 

それらの中の一番奥の文字を見てみる。見たことのない文字だ。習った記憶がない。それなのに、何故か書いてある文字が読めてしまうのだ。

 

【あなをほれ】

 

壁に記された通り、片手で穴を掘ってみる。すると突然、目の前の壁が崩れ落ちた。

 

その奥へと進んで行く。するとそこにも石の様な並びはあった。今度は数がおおいが、その石全てに掘って書いたと思わしき跡がある。だが、その全てが上から何かを上書きしたかの様に、文字として読めなかった。

 

唯一、この部屋の一番奥の壁にのみ読める文字があった。それは文字というよりは文であった。

 

【真実を受け止める勇気がある者よ。嘘に挑む覚悟に満ちたものよ。汝望むならば、この扉をあけてみせよ。そこに永遠の希望が眠っている。扉を開くには●●●●●●・・・】

 

最後ら辺の文は全く読めなかった。まるで何かの汚れの様なものが上から被さっているみたいだ。

 

「ん?」

 

ふと、文字の横を見た。そこにも文字が彫られていた。だがその内容は明らかにこれまでの内容とは違う変化があった。

 

【きょうからここがわたしのおへや。ひんやりしていてどこかきもちいい】

 

【パパがおともだちをつれてきた。わたしとおないどしくらいのこ。にたものどうし、ともだちともだちー】

 

【きょう、みんなとおちゃかいをひらいた。わたしのいれたこうちゃにみんながわらってのんでくれた】

 

【パパがどこかにおでかけしたみたい。むかったばしょはわかる。パパだけずるい。わたしもついていくんだい】

 

ここで終わっている。この内容。先程までのとは

明らかに違う。走り書きの様な執筆で日記の様な内容が記されていた。雰囲気としては、まるで覚えたての知識を自慢している子供の様な内容であった。

 

【カッ!】

 

突如として背後が眩しくなった。それと同時に熱気も立ち込めてきた。来た入り口を大急ぎで戻る。するとその場所は先程までの洞窟とは違っていた。

 

外だ。先程までいた洞窟の部屋とは違っている。外である事だけが判明していた。

 

外は黒煙と爆炎が辺り一帯に立ち込めていた。黒煙がシルフィー目掛けて吹きかかってきた。黒煙を思いっきり吸ってしまい、呼吸困難に陥った。

 

(ゲボッ、ゲホッ。ダメ。意識が・・・あれ?)

 

意識を失う直前、シルフィーはあるものを見た。

 

黒煙と爆炎が吹き荒れる中、そこに佇む黒き謎の姿を・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ガバッ】

 

夢から目覚めた。全身が汗まみれであり妙な匂いを放っていた。時刻は午前4時過ぎであった。

 

「はあっ。はあっ。はあっ。はあっ。」

 

肩で息をしていた。身体を流れる汗を手で軽く拭こうとする。その時、汗とは違う感覚を皮膚に感じた。ザラザラと粉っぽい。

 

シャワー室へと駆け込む。朝早いため誰もいない。一人、脱衣所の電気をつける。蛍光灯が二、三度点滅をした後、安定した光を放ち始めた。

 

「!!!」

 

目の前の光景に二、三歩程度後ずさる。鏡に写された自分。その全身は煤まみれであった。黒い粉のプールにその身をダイブしたかの様に。更に煤にだけ注意が行っていたが、手を見てみると、何と泥と砂が付いていた。

 

彼女は衣類を簡単に手洗い、その身の汚れもシャワーで流し落とした。髪に付着した煤が流れ落ちる。その光景を見ながら彼女は確信した。

 

(間違いない。オメガは何かを伝えようとしている。私の知らない、私に関する何かを・・・)

 

暫くの間、シャワー室には湯の流れでる音だけが響き渡った。




どうしてもオリジナルシナリオ要素は夢とかで出すことしかできないなぁ。

なお、シルフィーはモモカさんが部屋に来た事でナオミの部屋に住み着いている設定にしています。

今回は話を詰め込みすぎた感があるけど
KI☆NI☆SU☆RU☆NA☆!!


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第24話 初物激戦

 

アンジュとサリアの風呂場での騒動から一夜が

明けた。

 

モモカさんがアンジュのキャッシュで作った朝食を持って、アンジュを起こしに向かっていた。

 

「おはようございます!アンジュリーゼ様。朝食をお持ちになりました」

 

当のアンジュはシーツにくるまっていた。

 

「反省文でしたら私が夜の内に書き終えましたのでご安心ください」

 

モモカさんは夜の内に始末書を仕上げていたのだ。

 

因みに始末書の内容だが、簡単に書くとこのような内容である。

 

【わたくし、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギは

落ち度は一切無く、何かを改める事は出来ませんがわたしの存在そのものが完璧すぎるのであるなら

それなりの落ち度は感じています】

 

・・・もはや始末者ではなく自慢書である。こんな物をエマ監察官が見たら、間違いなく眉間のシワ数が今の三倍に増えるだろう。

 

「アンジュリーゼ様?」

 

モモカはアンジュの異変に気がついた。何故か全くの無反応に近かったのだ。不思議に思い、アンジュの顔を覗き込む。すると頬の辺りが若干赤くなっていた。

 

「アンジュリーゼ様!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風邪ェ!?」

 

ブリーフィングルームでは、アンジュ以外の第一

中隊の皆が集まってアンジュが風邪をひいたと連絡を受けていた。

 

「湯冷めしたらしいわ。アンジュの風邪が治るまでの間、アンジュ抜きで第一中隊は動きます」

 

「休んだら罰金幾らだっけ?」

 

「一日100万キャッシュ」

 

「破産しちゃえ」

 

ヒルダ達がいつものように悪口を言う。

 

「さて、それじゃあ訓練を開始するわよ」

 

そう言うと皆ロッカールームへと足を進めた。

 

その後は普段通りの訓練をしていた。アンジュが

いない点を除くと何も普段と大差はないものだ。

 

 

 

 

アンジュが倒れてから数日が経過した。サリアが

隊長となってから毎日欠かさずつけている日誌を書いていた。

 

【隊長日誌、3月6日。今日も滞りなく訓練を進める。アンジュがいない事で部隊に規律が戻ってきた気がする。アンジュが戻ってきても、この現状を

維持するため、復帰後のアンジュの扱いには十分な注意を払おうと思う】

 

サリアは隊長日誌を書いていた。因みに規律が戻ったと思っているが実はゾーラ隊長の部屋ではヒルダ達がレズプレイをしている事に、サリアは気づいていない。

 

サリアは付け加える風に、シメの文を書いた。

 

【本日の死亡者・・・0】

 

サリアは格納庫へと来ていた。そしてヴィルキスを見ていた。

 

するとそこにメイがいた。どうやらヴィルキスの

整備をしているみたいだった。

 

「ヴィルキス・・・どう?」

 

「アンジュが使うとボロボロになるからメンテナンスが大変!でも仕方ないか。稼ぎも危険も独り占めしてるんだから」

 

「え?」

 

「整備してるとね・・・感じるんだよ。

【ライダーの気持ち】が」

 

「もう誰も死なせない。ドラゴンの攻撃は全部一人で受ける。そんな気持ちが伝わるんだよ」

 

「・・・考えすぎじゃない」

 

「そうかもね。でも、アンジュもシルフィーも少しずつだけと、私達に歩み寄って来てるよ。オメガを整備してて、シルフィーの気持ち、少しわかる様になってきたんだ」

 

「ほら。シルフィーって、最初にここに来た時、近寄りがたい感じだったじゃん。何処かお互いに他人行儀だった。でもそれが今では私達と同じ道を歩いている感じがするんだ。きっと、シルフィーが遠慮しないのは、私達の事を認めてくれたからじゃないかな・・・仲間として」

 

「・・・考えすぎよ」

 

今度は上の空で返事をした。

 

「でも、二人が専用機に乗るようになってから、誰も死んでないよね。第一中隊は」

 

その言葉にサリアが驚く。そして自室に戻ると隊長日誌で調べた。第二第三中隊は疎らながらも死者が出ている中、第一中隊だけ、二人が専用機に乗り出してからの死亡者は常に0だった。

 

「・・・ベテラン揃いだからでしょ。考えすぎね」

 

するとそこに警報が鳴った。ドラゴンが出現したのだ。直ぐに皆がパイロットスーツへと着替え、それぞれのパラメイルへと乗り込む。

 

「隊長より各員へ。今回アンジュは休み。今回の

戦闘は八機で編隊を組む。戦闘空域に入り次第

全機密集陣形!戦力不足は火力の集中で補う!」

 

「イエス・マム!」

 

「全機出撃!!」

 

その掛け声のもと、アンジュを除いた第一中隊の

全機体が射出された。因みにアンジュは今、部屋の扉の前のモモカさんとにらめっこをしていた。

 

「どいて・・・いかなきゃ・・・」

 

「ダメです!お通し出来ません!」

 

「あんたを養うのにも・・・金がかかるのよ」

 

そう言うとアンジュはその場に倒れこんだ。

 

「アンジュリーゼ様ぁ〜」

 

 

 

 

こちらは戦闘中域に向かう第一中隊。

 

「シンギュラーまでの距離!2800!」

 

「了解。全機セーフティ解除!」

 

オペレーターの通信後、サリア達は全機戦闘態勢をとる。

 

「シンギュラー、開きます!」

 

すると空間からドラゴンの群れが現れた。その内の一匹のドラゴンは巨大の一にに尽きた。近くの孤島に着地したそれの大きさは、恐らくガレオン級以上だろう。

 

「でかっ!!」

 

「サリア、あのデカブツはどんなやつ?」

 

「あんなの・・・見たことない」

 

ヒルダの質問にサリアが答える。

 

「見た事ない?」

 

(サリアが見たことないドラゴン・・・)

 

皆の中で目の前のドラゴンに対する回答が出た。

 

「あのドラゴン!初物か!!」

 

「初物?」

 

ヒルダ達が興奮する中、シルフィーだけがその意味を理解できないでいた。

 

「過去に遭遇例のないドラゴンの事だよ」

 

シルフィーの疑問にナオミが答える。

 

「こいつの情報持って帰るだけでも大金持ちだぜ!ついてきなロザリー!クリス!報酬はあたしらだけで山分けだ!」

 

ヒルダが二人を連れて隊列を離れる。

 

「待ちなさいヒルダ!勝手な行動はやめなさい!」

 

サリアの注意をヒルダ達は無視した。

 

「なんか髪の毛がピリピリする」

 

「え?」

 

ヴィヴィアンが謎の言動を放つ。

 

(動きは鈍重。背中は重装甲って事は・・・)

 

ヒルダが腹部に回り込む。そのドラゴンの腹は決して固いとは言えなかった。

 

「ビンゴ!!ぷよぷよじゃないか!狙いは腹だ!

一気に決めるよ!!」

 

「っしゃぁ!」

 

三人が腹部を目指す。

 

「ぴりぴりぴりぴりぴりぴり」

 

ヴィヴィアンがつぶやき続けていたがやがて何かに気がつく。

 

「ヒルダ!もどれぇ!!」

 

「え!?」

 

次の瞬間、大型ドラゴンのツノが光った。 その

途端、大型ドラゴンを中心に魔法陣が展開された。

 

そしてその中にいたヒルダ達の機体が急に落下した。

 

「な!?何だこりゃ!?」

 

「うっ動けねぇ・・・」

 

「一体・・・なんなのこれぇ」

 

三人の疑問に、オペレーターが答えを出した。

 

「大型ドラゴンの周囲に高重力反応!!」

 

「重力!?」

 

巨大ドラゴンを中心に、重力空間が広がる。サリア達のパラメイルも重力に捕まり、機体が地面に叩きつけられた。ハウザー二機がライフルを構えるが、重力の影響で照準が全く定まらない。

 

こうしている間にも、重量負荷がパラメイルに襲いかかっていた。遂に、ロザリーとクリスの機体が嫌な音をたて始めた。

 

(死ぬ!)

 

二人とも直感的にその事を感じ取った。

 

「ちっ!おい!なんとかしろ、サリア!!」

 

「だから待てと言ったのよ!!」

 

「二人とも!今は通信で争ってる場合じゃないよ!」

 

ヒルダとサリアの通信にナオミが割り込む。その通信に更に割り込む者もいた。

 

「サリア達!何してるの!?早く起き上がりなさい!」

 

通信越しにシルフィーの怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「それを今考えてるところ!重力から抜け出す方法を!」

 

「重力!?何を言ってるの!?今止まる余裕があるのか!」

 

何やら会話が噛み合っていない。何かが変だ。外部カメラを起動させてみる。

 

「・・・・・・え?」

 

皆が目の前の光景に呆気にとられていた。自分達の機体が動けない中、何故かオメガだけは何の問題も無く、高重力空間で活動していた。

 

「シルフィー!貴女の機体は動けるの!?」

 

「何言ってんの!?そっちは動けないの!?」

 

シルフィーも驚いていた。彼女からしたら、突然

サリア達が動かなくなった事が不思議でたまらないらしい。

 

「ちっ!仕方ない!!」

 

次の瞬間、シルフィーはサリア達の機体の手足を掴むと、魔法陣の外に放り投げた。魔法陣の外ということで高重力から解放された。

 

「あいつ・・・」

 

魔法陣内では、シルフィー対ドラゴンの戦闘が繰り広げられていた。高重力を放つドラゴンは、それ以外の攻撃方法を持たないのか、取り巻きのドラゴンどもが援護していた。

 

(重力発生源はツノか?とにかく、ツノを破壊すればそれで・・・)

 

シルフィーがガトリングを持ち出し、簡単な標準を定める。

 

その時だった。突如として空間が歪み始めた。歪みの向こうからはドラゴンの増援が送り込まれてきた。弾はそこから現れたドラゴンを貫くも、本命のツノを狙う事は出来なかった。

 

「援軍!?」

 

「そんな!シンギュラー反応は確認されていません!!」

 

「じゃあ目の前のアレは何なんだよ!!」

 

オペレーター達とサリア達が慌てふためく中、目の前のシンギュラーから、奴等は現れた。シルフィーはその存在を知っていた。以前交戦した黒い体色のドラゴン。それらが目の前にいるのだ。

 

「こいつら、あの時現れたタイプか!!」

 

黒いドラゴンは総合スペックが他のドラゴンより遥かに高くなっている。その事は誰の目にも明らかであった。普通のドラゴンを猫で考えるなら黒いドラゴンは最低でも虎である。

 

(こいつら!以前より強くなってる!?)

 

黒いドラゴンの何匹かは魔法陣外にいるサリア達の方にも迫ってきた。皆がライフルを構え放つ。だが、その鉛玉はスクーナー級でさえ、掠りもしない。

 

「!伏せろ!」

 

声と共にドラゴンの背後からガトリングの弾丸が飛んできた。凍結バレット弾も含まれており、ドラゴンの数体は凍りついていた。

 

サリア達はすんでの所で伏せた為、流れ弾に当たる事はなかった。

 

「戦えないなら下がってて!こいつら、普通の

ドラゴンじゃない!」

 

「何言ってるの!?大体貴女一人でどうにか出来ると思ってるの!?」

 

「じゃあその状態の貴女達が加わればどうにかなるの!?」

 

「あーもー!だから言い争ってる場合じゃないってば!!」

 

シルフィーとサリアの言い合いも、ナオミが止めに入った。

 

雄叫びと共に巨大ドラゴンのツノが更に光輝いた。それに応えるかの様に、地面に展開されていた魔法陣が更に広がった。それは魔法陣の外にいたサリア達にも襲いかかって来た。

 

【ベキベキベキベキ】

 

再びパラメイルが嫌な音を立て始めた。

 

(部隊の全滅だけは避けなければ・・・最悪の

場合・・・機体を捨ててでも・・・)

 

「ゴホッゲホッ」

 

すると通信から咳が聞こえてきた。その咳の主と、その主の機体の名を、皆は知っていた。

 

「ヴィルキス!?アンジュなの!?」

 

何故アンジュがいるか、話は少し前に遡る。

 

「どうしても行くとおっしゃるなら!この格好で

行ってください!」

 

モモカが用意した格好。どてらにマフラーとマスクをしていた。

 

「あ〜ふらふらする・・・とっとと終わらせよ」

 

「行くなアンジュ!重力に捕まるだけよ!」

 

「大丈夫よ〜いつも通り私一人で十分・・・」

 

(くっ・・・!どいつもこいつも・・・!)

 

「いい加減にしろ!このバカ女ァ!!」

 

「!?」

 

「あんた一人で何とか出来るほどこのドラゴンは

甘くない!死にたくなければ隊長の命令を聞きなさい!」

 

「はっはい」

 

あのサリアがこんな迫力を出すとは、風呂場での

揉め事の時のよりも強気な声だった。

その勢いにアンジュは押された。

 

「そのまま上昇して!シルフィーはアンジュに向かってくるドラゴンを撃破して!」

 

お互いが言われた通りの行動をする。

 

「修正!右3度!前方20!」

 

「右ってどっちだっけ?」

 

「逆!!」

 

(サリアちゃん・・・まさか!)

 

エルシャはサリアの思惑を理解した。

 

「・・・なんか落ちてない?」

 

「そのままでいいわ!」

 

しかし実際ヴィルキスは落ちている。

 

「・・・やっぱり落ちてる!」

 

「熱でそう感じるだけ!」

 

だがヴィルキスは落ちている。巨大ドラゴンが目前まで迫ってきていた。

 

「今よアンジュ!蹴れぇぇぇ!!」

 

「け・・・蹴るうぅぅぅ!?」

 

次の瞬間、ヴィルキスの蹴りは、ドラゴンの左ツノをへし折った。それと同時に地面に展開されていた魔法陣が消滅した。

 

「機体が自由に動く!」

 

「よっしゃ!少し遅れたけど今から稼ぎまくるぜ!」

 

重力から解放され、皆が意気揚々としていた。

 

すると次の瞬間、黒いドラゴン達の動きが止まった。そしてシンギュラーが開かれた。そこから黒のドラゴン達は撤退を開始した。

 

「あいつら!逃げやがった!」

 

「ちっ!稼ぎが減っちまった!」

 

(逃げた?あれ程の戦闘力を持ってる個体が?群れごと?)

 

「サリア!敵は残ってるぞ!」

 

シルフィーの言葉に現状を思い出す。高重力場を発生させるツノがへし折られたうえ、弱点まで知られている以上、もはや例の巨大ドラゴンに怖さなど微塵も感じなかった。

 

第一中隊が総出となり、残ったドラゴンの殲滅に当たった。

 

 

戦闘が終わり、第一中隊全員が帰還した。帰還するなり皆が今日の報酬を受け取りに行った。

 

「こんな大金。夢見てぇだ!」

 

「夢じゃないよ!」

 

皆が大金を手にはしゃいでいた。今回は初物のバーゲンセールに近い形だった為、機体の修理費や借金を差っ引いても溢れんばかりの大金を手にできたのだ。

 

ただ一人、アンジュを除いて。

 

「少ない・・・」

 

「ツノを折っただけでしょ」

 

今回一番稼ぎが悪かったのはアンジュだ。

 

サリアの言う事は正論であった。すると突然アンジュは右手を出してきた。

 

「迷惑料・・・あなたの命令に従ったせいで取り分が減ったのよ」

 

「・・・さっきの言葉取り消すわ」

 

そして今回一番の功績者。一番稼ぎが良かったのはシルフィーだ。

 

「・・・シルフィー。今回は助かったわ。ありがとう」

 

サリアが言い終わると、ヒルダとロザリーとクリスの方を向いた。

 

「どう?これだけの大金よ。満足した?」

 

「あっ、ああ」

 

「こうして大金を手にしたのは、アンジュのおかげよね?」

 

「まぁ・・・そうだな」

 

「こうして生きているのは、シルフィーのおかげよね?」

 

「・・・うん」

 

「戦闘中にアンジュを狙ったり、シルフィーに難癖つけたりするの、もうやめなさい。二人とも、同じ第一中隊のメンバーなのよ」

 

「アンジュも。ドラゴン達を必要以上に多く狩るのはやめなさい。シルフィーだって。親しき中にも礼儀ありって言葉があるわ。少しは遠慮ってものを知りなさい」

 

お互いが顔を見合わせていた。

 

「私は・・・いいよ」

 

最初に切り出したのはクリスだった。

 

「確かに、二人がいなかったら、間違いなく私は死んでたし」

 

「まぁ・・・確かにな・・・わかったよ」

 

ロザリーも続けて言う。二人はシルフィー達を認めたのだ。そんな中、ヒルダだけが不満を露わにしていた。

 

「あんたら何言いくるめられてるんだ!?」

 

「別にそう言うわけじゃ・・・」

 

「でも・・・今回は流石に二人のおかげだし・・・」

 

「ちっ!裏切り者どもめ・・・」

 

そう言うとヒルダは一人、不機嫌にその場を離れた。

 

「大丈夫。いつかきっとヒルダちゃんも二人を認めてくれるわよ。それじゃあみんな!風呂場に行きましょうか!」

 

エルシャが言うとヒルダを除いた全員が風呂へと足を進めた。

 

 

 

風呂場にて。

 

「いーち、にーの!さーん!」

 

次の瞬間、アンジュとシルフィーの身体は浴槽へと投げられた。

 

「なっ何すんのよ!」

 

「なによいきなり」

 

「ふふっ、今までの事、お湯に流すのよ」

 

エルシャがそう言うと、皆が風呂へと飛び込んだ。

 

 

【隊長日誌、3月7日。こうして今回もドラゴンを

倒す事ができた。ヴィルキスにはアンジュが乗る。思うところもあるが、今はそれでいい。シルフィーの事も、彼女が何者なのか。そんなものは今はいい。二人とも、今は第一中隊のメンバーなのだから。だから私は隊長として、やるべき事をやるだけ。リベルタスのその日まで。隊長日誌終わり】

 

【・・・追記、本日も死亡者は0】

 

そう記すと彼女は立ち上がった。このままいけば、9人の内誰も死なない。部隊が上手く回っていける。そう信じていた。

 

あの事件が起きるまでは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある部屋にて。

 

「リラ!いるか!?」

 

大声と共に部屋の扉が蹴破られた。そこには一人の女性がいた。その女性はテーブルに足をのせて寛ぐリラを睨みつけていた。

 

「これはこれは隊長様。一体どうされたのかな?

そんなにプンスカしちゃって」

 

「しらばっくれるな!どういう事だ!?我が黒の

部隊が撤退したとは!?仮に全滅間際ならばまだしも、兵力はまだ75%以上も残されていたではないか!!」

 

「確かにあのまま戦えば奴等は皆倒せたのかもしれない。だけどご自慢の黒の部隊がたった一機の機体で4分の1近くの被害を被ったと考えると、戦いに勝利しても部隊の損失は80%を大きく超えるだろうね。そうなると後々響くよ」

 

「・・・・・・」

 

「現に重力操作を可能とするドラゴンは別の一機の機体の蹴りで物の見事に無力化されたじゃないか。あの時点で撤退しないと、こちらの被害が増えるだけだ」

 

「・・・よかろう。今回の事は初の合同演習であるが故に、我が部隊の連携に失敗がついてしまったという形で大目に見よう。だが忘れるな。我ら黒の部隊は、そこらの部隊とは違うということを。今度はこの様な無様な結果にはならん」

 

「それは大変楽しみな事で」

 

「・・・ところで、例の計画はどうなっている」

 

「ああ。あの計画の方ね。既に三機の試作機が作られている。君の部隊に回す分もじきに完成するだろう。さて、今日の設計は終了。早く向こうに戻らなきゃ」

 

「なんだ?もう行くのか」

 

「おや?知らなかったのかい?僕はこう見えて多忙な人間なんだよ。色々とやる事が多くて。僕自身が動く方が向いてるんだよ」

 

不気味な笑みを浮かべ、リラはその部屋から立ち去った。

 

 

 

一夜があけて朝となった。アンジュの部屋では、

あの事件を引き起こす起爆剤が今、投げ込まれようとしていた。

 

「まったく。昨日は散々な目にあったわ」

 

「でも良かったです。こうして熱も下がって・・・え!?」

 

モモカさんはアンジュの身支度の手伝いをしていたが、突然立ち上がり、マナのウインドを開いた。

 

「どうしたの?」

 

「マナから通信です!ってこれ!皇室の極秘回線からです!!」

 

「なんですって!?」

 

「とにかく出てみます!」

 

マナのウインドからはsound onlyとモニターに表示されている。そしてそこから、悲痛な叫びが聞こえてきた。

 

「モモカ聞こえる!?モモカ!?」

 

通信を開くと、そこにはアンジュの妹、シルヴィアからの通信であった。

 

「シルヴィア様!?」

 

「シルヴィア!」

 

「アンジュリーゼお姉さまとは会えた!?そこに

お姉さまはいるの!?」

 

通信から聞こえてくる声は、どう聞いても異常事態である事がうかがえた。彼女の身に何らかの危機が迫っているかの様に。

 

「ひっ!嫌!離して!離してよ!助けてお姉様!

アンジュリーゼお姉様ぁ!」

 

すると通信は切られた。モモカさんが折り返しで

通信を試みるが、一向に繋がる気配はない。二人とも、ただ呆然と虚空を見つめる事しか出来なかった。

 

(そんな・・・シルヴィア。あなたの身に一体何が

あったの!?)




アニメの8話終了で第3章は終了の予定です。

次の回は原作一番の和み回と思うので可能な限り和ませた雰囲気を出したいなぁ・・・

余談ですが私は現在花粉症です。

鼻のかみすぎで鼻の下がヒリヒリする。目も痒い。なぜこんなに花粉症は辛いのだ!!


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第25話 たった1日の休日

 

今日のアルゼナルは妙に慌ただしい雰囲気であった。皆がそわそわとせわしなく動いている。まるで何かが来るのを心待ちにしているかの様に。

 

そんな中、アンジュだけは気分が上の空であった。

 

(お姉さま!アンジュリーゼお姉さまぁ!!)

 

目を閉じると、妹シルヴィアの叫びが今も耳鳴りとして痛いほど響いてくる。

 

(シルヴィア。貴女に一体何が・・・)

 

すると突然ヴィルキスが射出された。突然のことにアンジュは驚く。

 

「ウワァァァ!なっ、何するのよ!」

 

「ぼさっとしてるからよ!」

 

アンジュは気づいてなかったが、実はすでに発信命令が何度も出されていた。アンジュはそれに気づいていなかったのだ。それゆえ緊急発進ブースターを使われたというわけだ。

 

「慰問船団、まもなく第一中隊と接触します」

 

オペレーターの子、今まで名前をほとんど呼んでいなかったが、オリビエがそう言う。

 

「くれぐれも粗相の無いように!」

 

エマ監察官の声が響いた。妙にカリカリしている。

 

目の前には輸送機が一機いた。それを取り囲む様に各機体が配置に着く。

 

「ウォォー!フェスタだフェスタだ!」

 

ヴィヴィアンが興奮気味に言う。シルフィーには何の事だかさっぱりである。

 

(フェスタ?そういえばナオミがそんな事言ってた様な・・・)

 

【ズキン!】

 

シルフィーに突然頭痛と目眩が襲いかかった。その痛みからかハンドルから手が離れる。オメガが若干ブレた。

 

「シルフィー!ちゃんとしなさい!」

 

「っ了解」

 

痛みは直ぐにひいた。ハンドルを握りなおし、再び配置に着く。

 

(変ね。昨日はちゃんと寝たはず何だけど・・・)

 

痛みが消えた為、その後特に気にする事はなかった。

 

 

 

 

その頃、輸送機内にて。

 

「あれで戦うのですか?ドラゴンと」

 

「作用でございます。お嬢様。こちらが写真です」

 

今回の慰問船団の代表と言えるミスティ・ローゼンブルムがパラメイルに対して質問してきた。そしてそれを彼女の護衛の一人が答える。マナのウインドにグレイブとハウザーの姿が載せられている。

 

ローゼンブルムとは、アルゼナルを管理している

国の名前、ローゼン・ブルム王国の事である。

 

ふと窓を見た。窓には一機の機体が映し出されていた。その人物の顔を見た途端、ミスティの顔色が変わった。

 

(あれは!アンジュリーゼ様!?)

 

窓に映る機体のライダーはアンジュであった。少し腰を浮かせたが、直ぐに窓からヴィルキスは離れたため、ちゃんと確認することは出来なかった。

 

「まもなく着艦コースに入ります!」

 

操縦者の言葉を聞き、ミスティは腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

慰問船団がたどり着くと遂にフェスタの始まりで

あった。

 

「これが・・・フェスタ?」

 

「随分と楽しそうね」

 

アンジュとシルフィーの中で出た率直な感想で

ある。

 

「そうよ。人間が私達に休む事を許してくれた日。それがフェスタ」

 

サリアが二人に解説する。

 

「明日までは全ての訓練が免除。ノーマにとっては、たった1日だけのお祭り。過酷なノーマ達が、明日を生きる唯一の理由のなの」

 

「ペロペロ〜良い子のみんなには、ペロリーナからプレゼントペロ〜」

 

少し奥ではペロリーナが幼年部の子供達に風船を配っていた。そしてその声は何処か聞き覚えがあった。

 

「サリア。あれの中にはエル・・・」

 

「中に誰もいないわよ」

 

「・・・悪かったわね」

 

自分の聞こうとした質問が凄く浅ましく感じられた。

 

「ようは奴隷のガス抜きってことね」

 

アンジュがスパッと言った。

 

「確かにそうだけど、言い方ってものがあるでしょ!」

 

「まぁまぁ二人とも、今日はフェスタなんだよ。

楽しまなきゃ!」

 

二人を止めるようにナオミが言う。

 

「まぁそれはまだいいわ。それよりもこの格好は何なのよ」

 

二人は自分の身体を見た。普段着ている制服ではなく、水着姿なのだ。

 

「伝統よ。制服やライダースーツじゃ息がつまるでしょ?」

 

「恥ずかしくないの?」

 

そう言われるとサリアは胸を隠した。

 

「水着でいることよ!」

 

「ところでナオミ。借金はまだあるの?」

 

「うん。でも後10万キャッシュだよ!きっと直ぐに返せるよ」

 

「へぇ。凄いじゃない。後少しで完済出来るのね・・・ナオミ。どうせなら一緒にフェスタ巡らない?完済の前祝いで簡単な食べ物なら奢るわよ」

 

そう言いシルフィーはナオミの手を引いて、人混みへと紛れ込んで行った。

 

(シルフィー・・・随分と変わったわね)

 

「それじゃアンジュ。今日という日を楽しみなさい。これから映画見るの」

 

そう言うとサリアも人混みの中へと紛れ混んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

その頃離れにて。こちらでは今回の慰問船団の代表であるミスティ・ローゼンブルムの接待をエマ監察官が行なっていた。

 

「よくおいでくださいました。ミスティ・ローゼンブルム妃殿下」

 

「いえ、アルゼナルを管理するのは、我がローゼンブルム家の責務ですから」

 

「無事に終えられたのですね、洗礼の儀。これで

ミスティ様も皇室の仲間入りですね」

 

「・・・あの、一つお伺いしたいのですが」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

「ミスルギ皇国第一皇女、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ様がこちらにいると思われるのですが?」

 

「・・・確かにその者はいましたが、今ではアンジュです」

 

「構いません。お会いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「・・・わかりました。少しお待ちください」

 

そう言うとエマ監察官は部屋を離れた。

 

 

 

こちらはロザリーとクリス。クリスはヒルダの件で悩んでいた。あの一件以来、何処か疎遠な感じになってしまったのだ。

 

「ヒルダってば、一体どうしちゃったんだろう。

ねぇロザリー。私達ヒルダに避けられてるのかな?」

 

今日の輸送機護衛の際も、ヒルダは何処か深刻な面持ちをしていた。クリスにはそれが心配でたまらないらしい。

 

「いっけぇ!豚骨インパクト!私のキャッシュを307・2倍にできるのはお前だけなんだ!」

 

しかしロザリーは、そんなクリスをほっぽってすっかり競豚競争に夢中であった。今行われてるレースは彼女にとって一番の本命故に、仕方ない部分もあるが。

 

「ロザリー!」

 

「うぉっ!なんだよクリス」

 

「ヒルダの事!心配じゃないの!?」

 

「向こうが会いたくないんだ。今こちらから会いに行っても意味ないだろ?ヒルダが昔から何考えてんのかよく分からないのは今に始まったことじゃないじゃないか」

 

「それは・・・そうだけど」

 

【ワァァァァァ!!!】

 

周囲から歓声や哀声が響き渡った。レースに変化が起きたのだ。何とトップを独走していた豚骨インパクトが横転!最下位に落ちてしまったのだ!!

 

「うわぁぁ!何してるんだよ!豚骨インパクトォ!!!」

 

ロザリーの豚券はものの数秒で何の価値もない紙切れへと早替りした。

 

エルシャはオイル・マッサージを堪能していた。

因みになぜか外にはペロリーナ人形の着ぐるみがあった。

 

ヴィヴィアンはメイとイカ焼きを食べていた。

 

サリアは恋愛映画のワンシーンでハンカチ片手に泣いていた。

 

シルフィーとナオミは射的で生活用品を可能な限り狙っていた。

 

それぞれが今日という日を楽しんでいたのだ。

 

 

 

 

 

アンジュとヒルダを除いて・・・

 

アンジュはパラソルの下にいた。その後ろにはヒルダもいた。しかし、アンジュ達はヒルダには気がついていない。

 

当然、アンジュが考えているのはシルヴィアの事だ。

 

「・・・!マナから通信です!」

 

「シルヴィアから!?」

 

「いえ。これはエマ監察官です」

 

「そう」

 

アンジュが落ち込む。やっとシルヴィアと連絡がとれたのではないか?そう期待していた分、落胆も激しかった。

 

とりあえずモモカさんはその通信に出る。

 

「あの、アンジュリーゼ様にお会いしたいと言う方がおりまして」

 

「私に?一体誰よ?」

 

「ミスティ様です」

 

「ミスティ・・・ミスティ・ローゼンブルム!?」

 

その名をアンジュは知っていた。

 

まだアンジュが皇族だった頃、ミスティとは同じエアリアで勝負した事があるのだ。洗礼の儀を受ける前日にあったエアリアの対戦相手もミスティ達の所だったのだ。

 

「どうします?アンジュリーゼ様」

 

「・・・会ってどうするの?笑い者にでもしたいわけ?」

 

アンジュはもはや皇室の人間ではない。ノーマなのだ。そんなアンジュに会いたいなど、変わり者としか思えない行為だ。だがエマ監察官がこのまま引き下がるとは思えない。

 

「・・・しばらくの間、消えるわ」

 

そういうとアンジュは、側に置いてあったペロリーナの着ぐるみへと手を伸ばす。少しすると、そこにはアンジュではなく、ペロリーナがいた。

 

「ほら、モモカは離れて。あなたと一緒だと私だってバレるでしょ?」

 

「ですが。アンジュリーゼ様ぁ」

 

「私はペロリーナペロ〜」

 

既にアンジュはペロリーナになりきっていた。少しだけノっている気がしなくもない。

 

「アン・・・ペロリーナ様ぁ〜」

 

モモカはそう言いながら手を伸ばすことしか出来なかった。

 

そしてその後ろではヒルダが笑みを浮かべていた。まるで絶好のタイミングが来たでも言わんばかりの笑みを・・・

 

アンジュはペロリーナの着ぐるみに入って、一人になれる場所を探した。すれ違う形で、エマ監察官がアンジュを探していた。

 

エマ監察官は先程、ジル司令、マギー、ジャスミンの着替えを除いてしまった。その時「いや〜ん」とコテコテの反応をされたため、多少不機嫌でもあった。

 

そしてアンジュは、ある事に苦しんでいた。

 

「・・・暑い・・・蒸れる・・・臭い・・・」

 

着ぐるみの中は他の例に漏れず、快適ではないらしい。

 

その時だった。隣にあったメリーゴーランドの手すりが突然破損した。そのメリーゴーランドに乗っていた女の子が悲鳴をあげる。

 

「キャァァァァァ!」

 

その時アンジュの脳裏にかつての記憶が呼び覚まされた。馬に乗っていた妹が、馬から落馬した事を。

 

アンジュは体が勝手に動いた。ペロリーナ姿でその子を助けていた。

 

「はぁ、はぁ、大丈夫・・・ぺろ〜!?」

 

「うっうん!ありがとう!ペロリーナ」

 

その少女はペロリーナにお礼を言った。アンジュにはその顔がシルヴィアのものに思えた。

 

(・・・シルヴィア・・・)

 

ペロリーナことアンジュは格納庫へと来ていた。

 

つい先程までそこでいかがわしい事をしていた二人がいたが、人が来たと分かると慌てて何処かへと退散していった。

 

アンジュはペロリーナの頭部を脱ぎ捨て、ベンチに横になる。

 

やっと一人になれた。そんな中、アンジュは先程のメリーゴーランドの件を考えていた。

 

(・・・シルヴィア。私は・・・)

 

 

 

アンジュがまだ幼かった頃。アンジュは妹のシルヴィアと一者に馬に乗っていた。原っぱを駆け抜ける馬とそれに乗る姉妹はまさに絵になる構図であった。

 

しかし、その時だった。シルヴィアが馬から落馬

したのだ。

 

「シルヴィア!」

 

アンジュは馬から降りて彼女に駆け寄った。直ぐに家へと連れ帰った。

 

直ぐにモモカがマナで治療を施した。しかし、マナとはいえ、治せないものもあるのだ。彼女の足は

それ以来、動かなくなってしまった。

 

「ごめんなさいシルヴィア・・・わたくしのせいで・・・」

 

「お姉さまのせいじゃありませんわ。また遠乗りに連れて行ってくださいね」

 

歩けなくなったシルヴィアは、アンジュを許したのだ。

 

 

 

アンジュはしばらく考えていたが、やがて目の前の輸送機に目をやった。それはローゼンブルム王家の家紋が描かれていた。

 

(・・・・・・)

 

黙って眺めていたが、やがてアンジュは立ち上がりペロリーナの頭部を装着すると、離れを目指して歩き始めた。その目には決意が込められていた。

 

 

 

 

 

 

「ペロリーナ様ぁ〜一体何処ですかぁ〜?」

 

こちらではモモカがアンジ・・・ではなくペロリーナを探していたその両手には、オレンジジュースを持っていた。

 

「ペロリーナ様。脱水症状になってなければよろしいのですが」

 

「やっと一人になったね」

 

「はい?」

 

不意に声がした。自分の事かと思い、モモカは後ろを振り返った。

 

そこにはヒルダがいた。

 

次の瞬間、ヒルダはモモカに銃を向けた。驚きで

手に持っていたジュースを床に落とす。床にはジュースのシミがついた。

 

「ひっ!?」

 

「ちょっとつきあってもらうよ」

 

ヒルダはそう言うと銃をつきつけながら、黙って距離を詰めてきた。

 

 

 

 

「何よ・・・これ」

 

アンジュは目の前の光景に呆然としていた。離れの廊下にてペロリーナの頭部マスク越しに見える薄暗い光景。

 

何とボディガードが全員倒れているではないか。

 

全員の身体には暴行を受けた痕が見受けられた。生半可なものではない。完全に相手を痛めつけるレベルで行われた痕跡である。

 

「これって・・・一体・・・」

 

「やぁ、アンジュリーゼ様、お目にかかれて光栄だよ」

 

暗い廊下に、どこか明るい無邪気な声が響いた。

その声は四方八方から響く様な声であった。

 

「誰!?何処にいるの!?」

 

「あれ?分からないのかな?君の頭の上だよ」

 

その言葉とともに、突然頭に重みが増した。何かが体重をかけるかの様に増した。だが直ぐに頭は軽くなった。そして目の前に、黒髪で紅眼の少女が降り立った。

 

その顔はシルフィーそっくりであった。

 

「シルフィー?貴女一体・・・」

 

「ちょっと。僕をあんなお人形と一緒にしないで。僕はリラ。君の熱狂的なファンだよ。あぁ。お会いできて光栄だなぁ。アンジュリーゼ様」

 

そう言うとリラはペロリーナの頭部を外した。そして品定めでもするかの様にアンジュをジロジロと眺めていた。

 

「・・・この連中。全員貴女が倒したの?」

 

「まぁね。最も、全然張り合いがなかったけど。それに、今の君が何を考えてるかなんて、胸に書いてあるし。可愛い妹を助けに行かなきゃ・・・健気だねぇ。美しいねぇ。つい手を貸したくなっちゃった」

 

「どいて。邪魔をするなら、貴女を排除してでも行くわよ」

 

アンジュがナイフをリラに向ける。しかし彼女は、微動打もせず、顔色一つ変えなかった。

 

「落ち着いてよ。邪魔だなんてとんでもない。言っただろ?アンジュリーゼ様の手助けをしに来たんだよ。現にこうして邪魔な連中を蹴散らしたじゃないか」

 

「じゃあどいて。ミスティに会わなきゃ」

 

「ああ。今どくよ」

 

あっさりと扉の横へと逸れた。アンジュはリラを出来るだけ無視して進んだ。そしてリラの背後にある扉のドアノブに手をかける。

 

その時である。

 

「せいぜい頑張りな。堕ちた皇女様」

 

その言葉にアンジュが振り返る。だが、既にそこには誰の人影もなく、ただ意識を失っているボディーガードだけが無造作に散乱していた。




次回で第3章は終了です。第4章ではとあるアンケートを実施する予定です。

尚、第4章はアニメで言うあの回なのであまり楽しい内容にはなれません。今のうちに言わせてもらいます。

第4章はオリジナル要素も絡める関係でかなり鬱くさくなるかもしれません。その点をご了承ください。


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第26話 ビキニ・エスケイプ

 

 

アンジュは離れの扉を開いた。そこにはミスティがいた。様子を見る限り、リラに何かされた感じはない。その事にまず安心した。

 

「久しぶりね、ミスティ」

 

「あっ、アンジュリーゼ様!」

 

「かつてはね。今はただのアンジュよ。それより、私に何か用があるの?」

 

「未だに信じられません・・・私の永遠の憧れで

あったアンジュリーゼ様が・・・ノーマだったなんて・・・」

 

「・・・ミスティ、あなたは優しすぎるわ。私は

ノーマだった。それが現実なのよ」

 

「・・・」

 

その言葉にミスティは押し黙ってしまった。

 

「さてと、これで満足よね。それじゃあ今度は私の番ね。頼みたい事があるの」

 

「なんですか!?私に出来る事なら手伝います!

何でも言ってください!」

 

「そう。それは良かったわ」

 

するとアンジュはナイフを抜いた。そして満面の

笑みで尋ねた。

 

「手伝ってくれる?脱走」

 

 

 

 

 

 

こちらはシルフィーとナオミ。二人は現在とある会場に来ていた。何やら長蛇の列が作られており、おそらくアルゼナル殆どのメンバーはここに集まっているのだろう。

 

「ねぇ。これから何が始まるの?」

 

「大運動会。フェスタの二代名物の一つだよ。賞金も出るからみんなが意気込んで参加するんだ。

シルフィーも参加する?」

 

「遠慮しておく。今の手元のキャッシュでもやっていけるし」

 

「そう。じゃあシルフィー。私は行ってくるね」

 

そう言うとナオミは参加希望者の列へと並んだ。

 

こうして参加する者と観戦する者とでの境界線が

引かれた。尚、司会はジャスミンが務めている。

 

「さぁ!さぁ!!さぁ!!!賞金100万キャッシュの大運動会の始まりだぁ!みんな賞金目指して頑張りなぁ!」

 

「イエェェェェェイ!!!!!」

 

次の瞬間彼女達のテンションボルテージが一気に

最高潮に達した。

 

「元気がいいなぁ!それじゃあ最初の競技に行ってみよう!最初の競技は!恐怖!溶ける水着でパン食い競争だ!」

 

何やらユニークな名前の競技である。その後も挟んで運べ!おっぱいたまごなどユニークだが、競技者は大真面目な何処か可笑しい大運動会は繰り広げられた。

 

 

 

 

そんな中、アンジュとミスティはジャスミンモールへと来ていた。水着を着用していたバルカンがいたが、皿いっぱいのハンバーガーであっさり餌付けに成功した。銃やグレネードなど、様々な武器を

カートに乗せていた。

 

「処刑!?」

 

アンジュはミスティから聞かされた言葉に驚いていた」

 

「はい。アンジュリーゼ様がノーマであることを隠していた。国民を欺いたため、ミスルギ皇室の人達はいずれ・・・」

 

「そんな・・・シルヴィア・・・」

 

アンジュは武器を入れたカートを押しながら店を出た。キャッシュの入った袋をバルカンの横に投げ捨てる。一応人質的に扱うため、ミスティの腕は縛っていた。

 

そしてこちらはヒルダとモモカさんであった。

 

「マナを使えるあんたなら、これ、動かせるよな?」

 

それはローゼンブルム家の紋章付きの輸送機だった。

 

「できますが・・・何のために?」

 

「決まってるだろ?脱走だよ」

 

その言葉にモモカは驚く。

 

「・・・お断りいたします。私が従うのはアンジュリーゼ様だけです」

 

「だったら死ぬかい?いいのかい?だ〜い好きな

アンジュリーゼ様のお世話ができなくなっちまうよ?」

 

ヒルダが拳銃を突きつける。するとそこにアンジュとミスティがやってきた。

 

「・・・モモカ!?」

 

「アンジュリーゼ様。それにミスティ様!」

 

「これはこれは・・・イタ姫様」

 

「モモカ!なんであなたがヒルダと一緒にここにいるの!?」

 

「この方が、脱走するから輸送機を飛ばせと!」

 

「脱走!?・・・どうしてなの?」

 

「あんたには関係ないだろ?」

 

そう言うとヒルダはアンジュ達に銃を向けた。咄嗟にアンジュもカートの中からアサルトライフルを手に取り、ヒルダに向ける。

 

「させないわそんな事。これは私が使うから」

 

「はぁ!?」

 

ヒルダは驚いた。まさか自分以外にも脱走を企てる存在がいた事に驚いた。するとモモカが驚きながらたずねる。

 

「もしかして!シルヴィア様の為にですか!?」

 

「私はあの子から自由を奪ってしまった。だから私が守る!私が・・・。モモカ!あなたもついてきてくれるわよね!?」

 

「もちろんです!アンジュリーゼ様のためなら!

シルヴィア様のためにも!」

 

「へぇ〜利害の一致ってやつか。なら話は早い。

一時休戦ってやつでいこうぜ」

 

「断るわ。あなたは信用できないから」

 

「いいのかい?それじゃあ誰が輸送機の拘束を外すんだい?」

 

「拘束?」

 

「そうだよ。この輸送機は整備のために色々と拘束してある。警報システムを解除せずに外せば警報装置が作動するよ。かといって無理に飛べば機体損傷。これ、あんたに解除できるのかい?」

 

「・・・」

 

アンジュは黙り込んでしまった。

 

「あたしはできる。なんてったってこの日のためにずっと準備してきたんだから。どう?協力しない?」

 

暫く考えていたがアンジュはやがて武器を下ろした。

 

「わかったわ。一時休戦ね」

 

 

 

 

こちらは大運動会組。こちらでは今年の優勝が決定したらしい。

 

「さぁ今年の大運動会!優勝はなんと!意外も

意外!大穴中の大穴!サリア隊のクリスだぁ!」

 

今年の大運動会の優勝者、それはクリスであったのだ。普段、影が薄い分、周囲の驚きも大きいらしい。

 

(これで、ヒルダとも仲直りできるかな?)

 

クリスのこの心が、今回の優勝へと繋がる動力となったのだ。

 

「さぁさぁさぁ!30分後には花火の時間だ!最後の締めだ!!トイレとかは今のうちに行っトイレ!」

 

ジャスミンがそう言うと皆が散り散りにその場を離れた。フェスタ最後のイベント。それを万全の体制で迎えたい者もいるのだ。

 

「ナオミ。私トイレ行ってくる」

 

そう言いシルフィーはその場を離れた。だが、何処のトイレも混んでいた。並ぶにしてもそれなりの時間がかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、司令室ではオリビエが一人、ガラスに顔をくっつけていた。フェスタの時とはいえドラゴンが現れない保障などない。その為オペレーターや

保安部の数名は、普段と同じ様に作業をしていたのだ。

 

「あーもー。折角の花火なのに、ここから見えるかなぁ。・・・?」

 

不意に背後に気配を感じた。振り返り確認しようとする。

 

【ドスッ!】

 

彼女の意識は闇に閉ざされた。そこにはヒルダがいた。司令部のパソコンをいじり、準備をしていた。

 

「例のシステム解除キーは・・・バッチリ。これで拘束具を解除しても警報はならないな。早いとも戻らねぇと・・・」

 

「ヒルダ。何してんのよ」

 

背後からの声に心臓が飛び出るくらい驚いた。咄嗟に拳銃を引き抜き、振り返りざまに発砲した。

 

そこにはシルフィーがいた。弾丸はどうやら外れたらしい。

 

「危ない!いきなり何すんのよ!」

 

「な!何でここにいやがる!!」

 

「トイレよ。何処も混んでたから、ここの近くのトイレを使ったの。そしたら司令部から音が聞こえたから来たわけ。それよりヒルダ。あんた何してんのよ」

 

彼女の目には、うつ伏せで倒れるオリビエも写っていた。ヒルダの手には拳銃が握られている。何があったかを想像するのは容易いことであった。

 

「こんなところとはおさらばすんだよ。あたしは

ここを出て行くんだ。さて。聞いた以上、あんたには眠ってもらうよ」

 

ヒルダが拳銃を突きつけてきた。

 

その時であった。

 

「おい!お前何をしている!!」

 

先程の銃声を聞きつけ、保安部の係の人が駆けつけてきた。ヒルダは再び、条件反射的に撃ってしまった。幸い弾は逸れたらしく、保安部の身体に命中はしなかった。

 

「貴様!何をする!こい!」

 

今日が仕事の保安部は、ヒルダやシルフィーの様に水着ではなく、ちゃんとした装備であった。銃弾の尽きたヒルダが敵う相手ではなかった。

 

「離せ!離せよ!!今日しかないんだ!チャンスは!ママが!ママが待ってるんだ!!」

 

その言葉にシルフィーの表情が少し変わった。

 

「!・・・ママだって・・・」

 

「何をわけのわからない事を!取調室に来い!何があ・・・」

 

【ドスッ】

 

「うっ・・・」

 

保安部の裏首筋に手刀が入り込む。保安部の女性は顔を歪めその場に倒れ伏した。シルフィーが保安部を倒したのだ。

 

「・・・行きなさい」

 

「あんた。何で」

 

「・・・カリスが言ってた。帰る場所で待ってる人がいる人は幸せ者だって」

 

「誰だよそいつ・・・まぁいい。時間がないから。

礼は言わないぜ。あばよ」

 

そう言うとヒルダは司令室から駆け出して行った。

 

「・・・」

 

シルフィーは何も言わずに、気絶しているオリビエと保安部の女性の介抱をした。

 

(ママ・・・か)

 

シルフィーの心の中に何かが突っかかっている。

 

人間とは母親の母体から産まれる。そうアルゼナルで学んだ。彼女は、自分がオメガから産まれた思っていた。それ以外は知らなかっただけだ。そう信じて疑わなかった。

 

(私が生きてる。じゃあ私にもお母さんがいたってこと・・・じゃあ私のお母さんは、何で私をあの島に・・・らしくないな。こんな事考えて。早いとこ戻るか。花火ってのを見逃したくないし)

 

やがて考えるをやめ、シルフィーもその場を離れ

ナオミ達の所へと戻った。

 

会場では既に花火を見る為の席取りが繰り広げられていた。

 

「シルフィーちゃん。こっちこっち」

 

呼ばれた方を向く。そこにはアンジュとヒルダを除いた第一中隊が集まっていた。集まっている場所へと向かう。隣には第二、第三中隊のメンバーもいた。

 

「全く。ヒルダってば何処に行ったんだろ」

 

クリスが愚痴る風に言った。それにシルフィーは何も答えなかった。

 

「さぁ!それじゃあフェスタ恒例!最後のシメ!!打ち上げ花火だぁ!!!」

 

ジャスミンのシャウトに合わせ、空めがけて無数の花火が打ち上がった。しばらくするとそれは空中し、夜空に綺麗な模様を浮かび上がらせた。

 

「わぁぁぁぁ!!!」

 

「綺麗」

 

「やっぱフェスタのシメはこれでなくっちゃ!」

 

皆がその花火を目に焼き付けていた。

 

(みんな満足してるみたいだね。今年のフェスタも

大成功か)

 

「おいジャスミン!」

 

ジャスミンの所にエマ監察官とジル司令。そしてマギーが来た。その背後からはバルカンもくっついて来ている。

 

「どうしたんだい?みんな大慌てで?」

 

「それが、ミスティ・ローゼンブルム様がどこにもいないのよ!」

 

「何だって!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前。

 

発着デッキではアンジュとモモカが輸送機へ、荷物の運搬をしていた。そこにヒルダも戻ってきた。

 

「運搬を急げ!フェスタが終わっちまう!」

 

彼女は針金を取り出した。そしてそれをある所に

差し込んだ。しばらくかちゃかちゃしていたが、

やがて近くにあった蓋が開かれた。

 

そこにはさまざまな装置などがあった。彼女の狙いは拘束具の解除システムと緊急射出システムだ。

 

ヒルダはタイミングを見計らっていた。狙いは花火が打ち上がる時。モモカさんはマナを使い、輸送機の機能を作動させていた。

 

「・・・・・・今だ!」

 

そう言うとヒルダはその装置のスイッチを切った。これによりタイヤを固定していた拘束具が外れる。

 

「よし!成功だ!」

 

すると輸送機が少しずつ進んでいく。

 

「おい!待てよ!」

 

ヒルダが走りながら言う。しかし輸送機は加速を続けた。そしてアンジュがヒルダに向かって言い始めた。

 

「ブラジャーの恨み、忘れてないから。あのせいで大変な目にあったのよ!」

 

「そんな昔の事!」

 

「それだけじゃないわ!散々後ろから狙ってきた事!手下を使った嫌がらせ!ペロリーナの着ぐるみの臭さ!」

 

「最後の何だよ!」

 

「とにかくあなたは信用できない!せいぜいお友達と仲良く暮らしてなさい。モモカ!後部ハッチ閉めて!」

 

「でっ・・・ですが・・・」

 

「ふざけんなぁ!!」

 

そう言うとヒルダはスロープに飛び移り、そしてしがみついた。

 

「ふっざけんな!このために!何年も何年も待ったんだ!生き残るためなら、ゾーラのおもちゃにもなった!面倒な奴とも友達になってやった!なんだってやってきたんだ!」

 

その迫力はアンジュを驚かせた。

 

そこにジル司令達も駆けつけてきた。だが、時既に遅しである。

 

「ずっとこの日を待ってたんだ!・・・絶対に!

ママのところに帰るんだ!!!」

 

「!ママ・・・」

 

すると輸送機が遂に離陸を始めた。ヒルダが

バランスを崩す。

 

「ウワァァ!」

 

落ちそうになったヒルダが手を伸ばした。ヒルダの手をアンジュの手が握っていた。何故そのような事をしたのかはアンジュ自身にも分からなかった。

 

「・・・モモカ!一人追加するわ!」

 

「!はい!アンジュリーゼ様!」

 

そうしてアンジュ達を乗せた輸送機はアルゼナルを離陸した。

 

その場には、ジル司令、エマ監察官、マギー。ジャスミン。そしてバルカンだけが残された。

 

「なんて事なの!!ノーマの脱走を許したばかりか、ミスティ様も誘拐されるだなんて!!」

 

あまりの出来事に、エマ監察官が倒れてしまった。

 

「簡単に買収されちまいやがって!何のための番犬だい!全く!」

 

ジャスミンはバルカンを睨みつけている。バルカンは小さく縮こまる。

 

「ジャスミン。坊やに連絡を。あと、第一中隊のメンバーを全員集めてくれ」

 

ジル司令がそう言うと、駆け足でその場を離れた。

 

 

 

ノーマの脱走。アルゼナル創設以来、初の出来事である。

 

そしてこの出来事が、アンジュとヒルダ。更には第一中隊。何より、シルフィーに深い爪痕を残すことになる事を、この時はまだ誰も知りはしなかった。




第3章はこれでおしまいです。次回から第4章へと移行します。

なお、第4章開始前にオリキャラ図鑑②を製作してからです。多分今日中に投稿できますのでそのつもりで。

次の章から、オリキャラ達もそれなりに絡んでいかせる予定です。


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第26.5話 オリジナル図鑑②

①の時点では本編に登場していなかったオリキャラの紹介タイム〜(パチパチパチ)

今回はDEMについても多少の解説などを入れました。まぁ朗読中のイメージ想像程度の足しにはなると思うので是非ご活用ください。



 

 

オリジナルキャラクター

 

カリス

 

CV 高口幸子

 

推定年齢20歳

 

女。クリーム色髪。清楚な雰囲気の漂うお姉さん。歳下相手でも基本丁寧語で話すなど、いい人の模範である。その為に一見控えめで大人しく見られがちだが、芯は強く気丈な一面も兼ね備えている。

 

関係ないがスリーサイズはB107、W57、H89

 

(本来このスリーサイズはシルフィーに使われる予定であったが何故か使わなかった。別に深い意味はない)

 

 

 

ミリィ

 

CV かないみか

 

推定年齢17歳

 

女。ピンク色髪。明るい性格で喜怒哀楽が激しく、感じた事をはっきりと顔に出す。その明るさがシルフィーの心を動かす要因にもなった。

 

極度の方向音痴であり彼女の選んだ道に進むとロクな事にならない。彼女の発言を聞く限り、かつて

シルフィーと関係が深かったらしい。未成年の設定であるが、かなりのうわばみ。

 

因みに、お胸についてはぺったんこ。後の事はお察しください。

 

 

 

リラ

 

CV 折笠愛

 

推定年齢17歳

 

女。黒髪。ボクっ娘。シルフィーと瓜二つの容姿をしており、その違いは髪色と紅眼だけである。

 

シルフィーの事をお人形だの空っぽの器だの鏡写しで呼ぶなど、彼女の事を明らかに侮蔑している。

そして左腕にはシルフィーが付けてる腕輪と同じ

腕輪が付けられている。

 

シルフィーの持つ腕輪を狙っており、エンブリヲという男とグルになっているが、モモカさんやアンジュに接触するなど、独自の思惑も持ち合わせており、腹の底が一切読めない。

 

(彼女によると、シルフィーの付けてる腕輪は太陽の腕輪。自分が付けてるのは月の腕輪らしい。なお、この腕輪を二つ揃えると理想の世界が作れるほどの力を得ることが出来るらしい)

 

※古代インカ帝国の秘宝である腕輪とは一切関係はありません。不思議な事が起こる王の石とも関係はありません・・・多分。

 

 

これらのオリキャラがシルフィーにどの様な影響を与えるのか。温かい目で見守ってあげてください。

 

 

 

オリジナル機体。

 

DEMについて/平均能力値。

 

全高8.1m/重力5.3t/推力171kN

 

共通装備。

 

サーベル。クリムゾンナイフと同じ素材で作られている。

 

連射式ライフル。殺傷力は高く、パラメイルのライフルを拳銃で考えた場合、この装備はアーマーマグナムクラスの破壊力を備えている。

 

ステルスシステム。本編ではデルタとゼータが使用した装備。周囲の色と同調する事が可能な保護色。この状態だと肉眼は愚か、レーダーでさえその存在をキャッチできない。ミラージュコロイドと思えば当たっている。

 

 

 

各DEMの固有兵装。(まだ未使用の方が多いです。一つなんてまだ秘密だし)

 

【DEM・tyep・α】

 

フリードが操縦するDEM。ボディラインは水色。

 

ヴァスターという高粒子破壊砲を装備しており、

エネルギーパックが必要だがそれ一つで最大三発

ぶっ放す事が可能。

 

更にエネルギー調整次第では山を吹き飛ばす程の

破壊力から、一点に絞った高エネルギー圧縮の

狙撃も可能。

 

【DEM・tyep・β】

 

エセルが操縦するDEM。ボディラインは黄色。

 

リフレクターフィールドなる兵装を備えており相手の銃弾の軌道を逸らす事なく反射する事が可能な

攻守共に使える有難い武器。機体の全面に貼る事も出来るがその場合、エネルギー消費がシャレにならない為、基本は前面にだけ必要な時に展開している。

 

【DEM・tyep・γ】

 

ドミニクが操縦する機体。ボディラインは紫。

 

飛翔するために必要なX字型の翼の他にエアキャリバーなる加速装置を左右に備えている。使用する事によって機体の活動領域が他のDEMより増す。

 

また、αのヴァスターのエネルギーパックが無い際は、エアキャリバーからエネルギーを貰うことも出来る。

 

【DEM・tyep・Δ】

 

カリスが操縦する機体。ボディラインは白。

 

熱源遠隔移動砲(ビット)を6個ずつ片方の脚部に備えており、出し入れ自由。 味方識別信号を出している機体には攻撃しない反面、識別信号を出していない機体に関しては。消し炭になるまでオールレンジ攻撃を仕掛ける。

 

(流石に脳波にしたファンネルになってしまう為、

熱源反応にしています)

 

【DEM・tyep・Ζ】

 

ミリィが操縦する機体。ボディラインはピンク色。

 

ジャミングシステムを備えており、敵機のコンピューターに潜り込み、システムやOSなどを滅茶苦茶にする事が出来る。

 

やろうと思えばハッキングなどで機体の遠隔操作も可能。望むなら敵機のエンジンを暴走させて勝手に自爆させる事だって出来る。

 

【DEM・tyep・Ω】

 

シルフィーが操縦する機体。ボディラインは赤。

 

固有能力はまだ秘密。何処か他のDEMとは違う雰囲気がある。

 

 

 

 

果たしてDEMとは何なのか。それらが判明するのは、まだ先のお話。それまで是非、様々な予想を立ててみてください。

 




この様なくだらない茶番にお付き合いいただき、誠にありがとうございます。

次回から第4章です。かなりぶっ飛んだ内容になるかもしれませんが、一所懸命にこれからも執筆させていただきます。


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第4章 パラダイス・ロスト
第27話 外の世界へ


 

 

「ええっ!?本当なんですか!?」

 

フェスタ終了後、アルゼナルの司令部に第一中隊が急遽集められた。そしてジル司令から放たれた一言に皆が動揺していた。

 

「ああ、本当だ。アンジュとヒルダが、アルゼナルを脱走した」

 

「嘘だろおい。脱走って」

 

「しかもヒルダまで・・・」

 

「・・・」

 

唯一、シルフィーだけはヒルダの脱走を知っていた為、驚きは薄かった。

 

(そうか。ヒルダはお母さんの所に帰ったのか・・・それにしてもアンジュが脱走するとは)

 

「明日、第一中隊のメンバーから特別任務を与える者を選定する。各員。自分がそれに選出されるか可能性がある。それを心に留めておけ」

 

緊急の集まりは、その一言で解散となった。

 

風呂場にて。

 

野外風呂では解放された第一中隊全員がお湯に浸かっていた。今日のフェスタで手に入れた入浴剤を巻いて極楽中である。しかし、周りのメンバーの雰囲気から、極楽感は一切感じ取れない。

 

「・・・」

 

普段なら談笑も出来る場所なだけに、この沈黙を

痛いほど感じていた。

 

それに耐えきれなくなったのか、一人、また一人と無言で風呂から上がって行く。

 

シルフィーも風呂場から出て、脱衣所で髪を乾かしていた。普段はヘアゴムで束ねている事が多いが、こうして髪を下ろした自分を見てると、リラを連想してしまう。まるで自分自身を見ているみたいで

不愉快だ。

 

何故彼女は自分と酷似した容姿をしているのか。

何故私と同じ腕輪をつけているのか。

 

鏡の中の自分を睨みつける。鏡の中の自分も同じ風に睨みつけていた。

 

「・・・ねぇ。シルフィー。どうしたの?怖い顔

して」

 

背後からの声に驚く。鏡の自分ばかり見ていたが、右端にナオミの心配する顔が写り込んでいたのだ。

 

「なっ、なんでもない。早く部屋に戻るか」

 

ドライヤーを切り上げ、二人は部屋に帰る。唯一の窓から月明かりが部屋を淡く照らしている。昼間の騒ぎが嘘の様に外は静まり返っていた。

 

まずナオミがベットに潜り込む。同じ様にベットの

半分にシルフィーが潜り込む。

 

「それじゃあおやすみ」

 

「おやすみ」

 

「・・・」

 

「・・・スッー」

 

今日の大運動会で疲れたのか、ナオミは直ぐに眠りに落ちた。だが、シルフィーだけが中々寝付く事が出来なかった。

 

一時間程度経っただろうか。

 

(全然眠れない・・・水でも飲むか)

 

シルフィーがベットを出ようとした時。不意に背後からナオミが抱きついてきた。その手は小刻みに震えていた。

 

「どうしたの?突然」

 

「・・・夢を見たの。シルフィーがアルゼナルから出て行く夢を。それだけじゃない。その後、皆んながアルゼナルから出て行って・・・私一人だけが、アルゼナルに残されて・・・」

 

ナオミの声は何処か泣き声混じりであった。

 

「目が覚めたら、ベットから出ようとしてた。だから、このままシルフィーが戻ってこないんじゃないかって。アンジュ達みたいに、脱走しちゃうんじゃないかって・・・」

 

「・・・」

 

やがてシルフィーはナオミの抱きしめに対して、

抱きしめ返した。

 

「バカね。私は二人と違って脱走なんて事しないわよ。二人は外に島を求めたのかもしれない。けどね、私にとっては、ここが私の居場所なのよ」

 

「シルフィー・・・」

 

「ナオミはあったかいね・・・今だけ、このまま

抱きしめていたい」

 

その夜。いつもの様に一つのベットを二人で分け合う形で寝ていた二人は、お互いが向かい合う様に抱きしめながら眠りに入った。その顔には、安らぎの表情が浮かべられていた。

 

 

 

 

 

朝となった。ブリーフィングルームにはジル司令の招集の元、第一中隊のメンバーが集まっていた。

 

「全員集まったな」

 

「イエス・マム・・・もちろん、脱走した二人はいませんが」

 

「まずはじめに、二人が脱走に使用した輸送機が

発見され、その中からミスティ・ローゼンブルムが見つかった」

 

「・・・誰ですか?」

 

「まぁ偉い人だ。とりあえず彼女が無事発見された事を、エマ監察官に後で報告するか」

 

「あの、二人はどうなんですか?」

 

ナオミが質問を切り出した。

 

「実はあの後、アンジュの姿が目撃されたとの情報があった。向かった先の方角。そしてアンジュの

過去を考えると、おそらく行き先はミスルギ皇国だ」

 

「そこで極秘任務だ。それはミスルギ皇国に潜入し、アンジュを連れ戻すことだ。そしてこの任務

だが、ナオミ。お前に与える事とする」

 

「わ、私にですか!?」

 

「ナオミが?すげぇな」

 

「おめでとう。ナオミちゃん」

 

「ナオミってばスッゲェー!」

 

ジル司令の決定に周囲が騒めいた。ナオミが選ばれた事に周囲が様々な反応をする。

 

そんな中、一人だけこの決定に納得できない者がいた。サリアだ。

 

「待ってください!どうしてナオミなんですか!

納得のいく説明をしたください!!」

 

「言った通りだ。今回のこの任務。これにはナオミが一番の適任だと判断したまでだ」

 

「それなら私も行きます!二人で行った方が効率

だって・・・」

 

「サリア。お前は隊長だ。お前がいない間にドラゴンどもが現れない保証はどこにもない。お前が隊を纏めずにどうする」

 

「でも!」

 

「サリア!わかってくれ・・・」

 

ジル司令のその言葉にサリアは何も言えなくなってしまった。

 

「この任務について。何か質問はあるか?」

 

「あの、ヒルダはどうなんですか?アンジュと一緒にいるんですか?」

 

「ヒルダを発見したという情報は入っていない。

捜索は進めているが、今はアンジュの方が優先だ。他に質問は?」

 

今度は誰も何も聞かなかった。

 

「よし!確実解散!ナオミ。パラメイルの増槽処置が終わり次第、作戦行動に当たれ。なお、極秘任務の為、こちらからの通信はない。そちらも通信を控えろ」

 

「イエス・マム!」

 

こうして各自解散となった。

 

第一中隊は皆で朝食をとっていた。普段ならヒルダとロザリー。そしてクリスの三名は分かれている。だがヒルダはいない。その為二人とも、今回は食事の輪に混ざっていた。

 

「ねぇ聞いた。第一中隊のメンバーが昨日。アルゼナルから脱走したんですって」

 

「マジで?」

 

「マジマジ。大マジよ。大マジ」

 

「しかも二人も脱走したらしいよ」

 

「どうなるんだろうね。第一中隊」

 

食堂内では、既に二人が脱走したという噂話で持ちきりであった。こういうのは、誰が言わずとも噂話として知られ渡るものらしい。

 

この様な会話に第一中隊のメンバーは、皆が口に出さずとも、肩幅の狭い思いをしているのは明らかであった。

 

「今日は射撃訓練から始めるわ。各自定刻までに

集まっている様に。それまでは自由時間よ」

 

そうサリアが言うと、各自が食堂を後にした。シルフィーも時間まで寛ごうと部屋へ戻る道を歩いていた。

 

その時だった。

 

「あの、シルフィーさんですか?」

 

不意に声をかけられた。振り返るとそこには一人の少女がいた。恥ずかしがり屋なのか下を俯いており、顔はよく見えなかった。

 

「そうだけど。貴女は?」

 

「これを司令から預かりました」

 

シルフィーの質問に答えず、少女は一通の封筒を

差し出してきた。中には手紙が入っているらしい。

 

「あのっ!確かに渡しましたから!」

 

そう言い残し、少女は駆け足で廊下の曲がり角へと去っていった。訝しげにその場で開封してみると、そこには命令文章がつづられていた。

 

【シルフィー。お前にもアンジュ奪還の命を与える。速やかに行動に移れ】

 

「・・・」

 

内容に暫くは呆然としていたが、やがてため息が

一つ出た。

 

「何よ。どうせならあの場で言えばいいのに」

 

愚痴を零しつつ、手紙を持ちロッカールームへと向かった。そこでライダースーツを着込み。バイザーを装備し、発着デッキへと向かう。

 

発着デッキではナオミとメイが話し合いをしていた。ミスルギ皇国に辿り着く為の道のりでも話し合っているのだろう。二人は向かってくるシルフィーに気がついた。

 

「あれ?シルフィー。何でライダースーツ来てるの?」

 

「なんか私もナオミと同じ様に命令を受けたわけ。これがその文章」

 

「どれどれ・・・この字。確かにジルの字だ。判子だって司令の物だし。わかった。それじゃあオメガに増槽処置を施すから発進が遅れる。その事をジルに伝えてくるよ」

 

そう言いメイは近くの通信機を取った。二、三コールの後、アルゼナル司令部へと繋がった。

 

「どうしたメイ。何かあったのか?」

 

相手はジル司令であった。

 

「ああジル。シルフィーにもナオミと同じ命令を与えたんでしょ。だからオメガへの増槽作業で予定の発進時刻より少し遅れるよ」

 

「そうか。あまり遅くなるなよ」

 

そう言うと通信は切られた。

 

「二人とも少し待ってて。直ぐに終わらせるから。お前たち!朝飯の前にもう一作業するぞ!」

 

「は、はい!」

 

整備士達の作業が終わるまで、二人は地図のレクチャーなど様々な知識を叩き込まれた。

 

「ちょっと安心したよ。シルフィーも来る事になって」

 

「私としては驚いたわ。なんせ突然文書で突然来るんだし」

 

「・・・本当は心細かった。一人まだ見知らぬ場所に行く事が。でも、もう心細くないね」

 

そう言いナオミは笑った。オメガへの増槽処置は

予定の30分もかからずに終わった。

 

「よーし。増槽処置作業完了!ニ機をエレベーターに乗せて!」

 

グレイブ。そしてオメガは発進エレベーターへと

乗せられ、着々と発進準備に取り掛かっていた。

 

「ナオミ!発進します!」

 

「シルフィー!発進する!」

 

二人の機体はアルゼナルから射出され、空を舞った。

 

(待っててアンジュ。必ず迎えに行くから・・・)

 

整備士達は射出された二つの機影が見えなくなるまで見届けた。

 

「さーて。それじゃあ朝飯でも食べる・・・」

 

【ジリリリリ!ジリリリリ!!】

 

突然に発着デッキの通信機がけたたましく鳴り響いた。慌てて取ると、電話口の相手はジル司令であった。

 

「メイ!今すぐ司令部に来い!」

 

その一言で通信は叩き切られた。慌ててメイが司令部へと入っていく。すると突然ジル司令が目の前まで迫ってきた。

 

「おい!何でオメガが発進した!!」

 

「え?だってジルが命令したじゃん。シルフィーにもアンジュを連れ戻して来いって」

 

「バカを言うな。何故私がそんな事をしなければいけないんだ」

 

「だってシルフィーから命令書を受け取ったよ。それに電話越しでだって答えてたし」

 

「命令書だと!?電話だと!?バカを言うな!」

 

「何言ってるのジル!確かに通信越しで聞いた際は、シルフィーにも命令を送っている雰囲気だったよ!ほら!これが命令書!」

 

メイが慌ててポケットから受け取った命令書を取り出した。それを直ぐにひったくる。そこには確かに、シルフィー宛の命令文章の内容が書かれていた。ダメ押しとばかりに、通信履歴にも、ジル司令とメイとの先程のやり取りが記録されていた。

 

「バカな!身に覚えがないぞ!この通信内容だって知らん!」

 

「でもこの字。あんたのだろ。紙と判子だってちゃんと命令書専用の物を使用されているし。第一この声。どう聞いてもあんたの声だろ」

 

どう見ても、どう聞いてもそれはジル司令のそれである。だが、当のジル本人が全く記憶にない。

 

寝ぼけて書いたり話したりする様な内容でもない。

 

「一体何がどうなっている・・・」

 

司令室に痛い沈黙が広まった。得体の知れない

恐怖。それがこの場を支配しようとしていた。

 

「・・・とにかく。あの子はジルの命令だと思って行ったんだ。二人と違って脱走じゃない。きっと

戻ってくるだろうさ」

 

ジャスミンが落ち着いた風に言った。この一言で何とか場の空気は持ち直された。

 

「今は信じておやり。きっと帰って来るって」

 

ジャスミンが司令の肩に手を乗せ言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼女達を物陰から伺う存在が一人いた。シルフィーに手紙を渡した少女である。

 

「仕込みは完璧。さて、アンジュ。彼女にはもう

一働きしてもらおうか」

 

そう言うと次の瞬間、少女はリラの姿となり、煙の如くその場から消え失せた。




今回はこの場を借りて、実施するアンケートの簡単なご説明をさせていただきます。

まず、アンケートは三択となっています。そしてゲーム、クロスアンジュ・天使と竜の輪舞trでの出来事を元として、一部手を加え変えさせていただきました。

肝心のアンケート内容。それは!

ナオミの今後について!以下の三択から選ぶがよい!(何故か上から目線)

まず①。これはドラゴンルートです。このルートの特徴はアニメの第14話がオリジナルへと変化される点です。

次に②。これはエンブリヲルートです。このルートの特徴はゲームをプレイしている方ならわかる通りです。ナオミがあぁなります。

最後に③。これはオリジナルルートです。これはこの作品のオリキャラのシオン達と共に歩くルートです。それ以外の事は伏せさせていただきます。

もし、アンケートについてのご質問がある場合、
感想欄に書くなどでご質問ください。ただし、
ネタバレになる様なご回答は出来ませんので
ご了承ください。

追記。アンケートの期間は第4章の最終話投稿後の24時間後です。その為早めの投票を済ませる事を推奨します。


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第28話 裏切りの故郷

 

 

シルフィーとナオミがアルゼナルを出てからそれなりの時間が経過した。陸地が見えてきたその時には、すでに陽は沈みかけていた。

 

やがて夜になると、二人は人気の少ない廃れた森の適当な場所に機体を降ろすと、現在位置を地図で

確認した。

 

「ええと。今いるのがここで。こうやって行くと・・・明日の朝にはミスルギに行けるんだね」

 

「なら今日はもう寝よう。一日中飛びっぱなしで

疲れた」

 

そう言うとシルフィーは横になった。しばらくしてそこからは寝息が聞こえてきた。

 

何気なくシルフィーを見ると、例の腕輪が目に入った。試しにそれに触れてみる。特に何の変化もない、ありふれた腕輪に見える。

 

しかし以前見た時と違い、何処か変な雰囲気であった。以前見た時と同じだが、何かが違う。その何かが解らないのだ。

 

(・・・気のせいかな?)

 

ナオミは特に気にせず横になる。

 

(それにしても、アンジュとヒルダ。今頃何してるのかな・・・)

 

そう思いつつ、ナオミは意識を闇に閉ざしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アンジュはアルゼナルを脱走した後、とあるガソリンスタンドでヒルダと別れ、現在ミスルギ皇国に来ていた。追放された身である為、堂々と

街中は歩けず、裏路地を使っていた。

 

そんな彼女はある場所を目指していた。とある扉の前に辿り着く。

 

ドアを開ける。そこはかつてアンジュが所属して

いたエアリア部の部室であった。

 

「誰?忘れ物でもしたの?」

 

「久しぶりね・・・アキホ」

 

その声に慌てて振り返った。彼女の名はアキホ。

彼女はアンジュと同じエアリア部のメンバーだった。

 

「ア、アンジュリーゼ様・・・」

 

「元気そうね」

 

「か・・・髪、切られたんですね・・・に、似合ってますよ・・・」

 

アキホは震えていた。彼女からしたら追放された

はずのアンジュが目の前にいるのだ。

手に持っていたマナランプを落とす。するとそれはマナを失い、光は儚く消え去った。

 

「ご、ごめんなさい!助けて!あれはその・・・

つい!!許して!」

 

アキホは蹲り、怯えていた。あの日、洗礼の儀で彼女はアンジュに対して化け物だの怪物だの散々な事を言っていた。その仕返しが来ると思っていたのだ。

 

だが、アンジュは違っていた。

 

「私が何かすると思ったの?」

 

アンジュはそう言った。彼女からしたらここにきた理由はエアリアを使うためである。そもそもアキホがいる事自体が予想外でもあった。

 

「安心して、何もする気は無いわ。ただ、エアリアのバイク借りるわ。それとここに来たことは、誰にも言わないでね」

 

「はっはい!言いません!」

 

「そう。そっちはどう?モモカ?」

 

アンジュはモモカの近くにあったエアリアに駆け寄る。

 

その時である!

 

アキホは後ろ手でマナを使った。それはエマージェンシーコール。言うなれば110番通報の様なものだ。

 

そして、それをアンジュが見逃すわけがなかった。

 

「そう・・・やっぱり、あなたもそうなのね」

 

「来ないで!化け物!」

 

遂に醜い本性を表した。アキホは逃亡しようとしたが、アンジュに足払いされる。アキホはバランスを崩して倒れた。

 

直ぐにアンジュはアキホを拘束する。手足を縛り、ついでに口にガムテープを貼り付ける。

 

「行くわよ。皇宮へ!」

 

「はい!」

 

モモカがマナを使い、バイクを起動させた。ガレージの扉が開き、そこから発進する。バイクは道の横にある排水溝を移動していた。

 

「アンジュリーゼ様・・・」

 

「大丈夫・・・わかってたから」

 

アキホのあの態度。我が身可愛さ故の態度であった。アンジュの事はノーマ。ただの化け物と捉えていたのだろう。

 

自分自身がノーマだと知らない頃だったら、間違いなくアキホと同じ態度をとっただろう。

 

「ありがとうモモカ。貴女は貴女ね」

 

彼女はこんな私に付いてきてくれた。それだけで嬉しかった。彼女だけは信頼できる。そんな人が側にいるだけで、アンジュにとって、本当に嬉しかった。

 

そしてアンジュはシルヴィアの事を考えた。こんな私に助けを求めてきた大切な妹。見捨てられるはずがない。

 

(待っててシルヴィア。必ず助けるから!)

 

 

 

 

 

 

街中は警官のパトカーが走り回っていた。あの後、アキホが拘束を自力で解き、通報したからだ。

 

アンジュは排水溝から出ると、物陰に身を隠し、

様子を伺った。しばらく経ってパトカーが通り過ぎるのを確認した。

 

「飛ばしますよ!アンジュリーゼ様!」

 

一気に物陰から外へと飛び出した。近くにいた男と女が驚いていた。宙に舞ったエアリアから、とある建造物が見えた。

 

(暁ノ御柱・・・)

 

アンジュの視界の片隅に暁ノ御柱が見えた。あそこで起きた出来事がアンジュの中でフラッシュバックする。

 

自分の事をノーマだと公表した兄ジュリオのことを。自分の目の前でマナが砕け散った事を。自分を庇い銃で撃たれた母ソフィアの事を。

 

アンジュにとって、あそこは今のアンジュの始まりの場所のようにも思えた。

 

「左!」

 

アンジュがモモカに指示を飛ばす。

 

「よろしいのですか?どんどん皇宮から離れていますが・・・」

 

「ええ!このまま進んで!」

 

すると目のが突然眩しくなった。よくみると前にはパトカーが並んでいた。

 

「待ち伏せ!?」

 

アンジュが驚き、バイクを止めた。すると上空から輸送機がライトでアンジュを照らした。

 

「どうします!?アンジュリーゼ様!?」

 

「決まってる!強行突破よ!!」

 

アンジュは銃を目の前のパトカーに向けて乱射した。警官達はマナで自分の身を守る。

その間にアンジュは横道へとバイクを進めた。

 

数台のパトカーは銃弾の雨を浴び、次の瞬間爆発した。

 

「お願いです!絶対捕まえてください!」

 

最後尾のパトカーに乗っていたアキホが警官に泣いてすがる。

 

「ご安心ください!穢らわしいノーマに逃げ場所などありません!」

 

そう言うとそのパトカーは前のパトカー達の後を

追っていった。

 

アンジュと警官達によるデットチェイスが始まった。

 

アンジュは時折銃でパトカーを攻撃するが、マナの光によってそれらは防がれてしまった。

 

すると最も距離的に近いパトカーから警官が身体を乗り出した。手は謎のポーズを取っていた。

 

「捕縛結界!?」

 

次の瞬間、その警官の手から、マナで作られたネットが出された。それはモモカを包むと、捕縛した。ノーマであるアンジュはモモカがいなくなると、

エアリアのバイクは使えなくなってしまうのだ。

それが狙いなのだろう。

 

「モモカ!」

 

アンジュがそのネットに触る。ノーマである彼女はマナの光を破壊する事ができる。そのためネットも彼女が触れた途端に粉々に砕け散った。

 

「モモカ!弾倉!」

 

アンジュは今持っている銃の弾倉をモモカに頼んだ。

 

「えーい!マナではなくネットガンを使え!」

 

警官の一人が周りに指示を飛ばす。彼らはネットガンを装備して、再びアンジュ達を狙った。

 

そうしている間にアンジュは銃の弾倉交換を済ませていた。

 

後ろを振り返り、銃を撃つ。しかしマナの光で防がれる。相手側はネットガンを放った。それらを全て避ける。現段階ではアンジュ達は防戦一方であった。

 

さらに空からは輸送機がゆっくり降下してきた。後ろのハッチは空いており、そこから兵士達がネットガンを放つ。しかしそれらもアンジュは避け切った。

 

「私を・・・舐めるなぁっ!!」

 

アンジュはそう言うとモモカから手榴弾を受け取った。ピンを口で外すと、輸送機めがけて投げつけた。

 

ネットガンを使うために、高度を落としていた事が仇となり、その手榴弾は輸送機のエンジン部分に

入った。次の瞬間、エンジンは大爆発を起こした。

 

機体制御が取れない輸送機は、隣を飛んでいた輸送機に突っ込むと、二機ともまとめて森の中へと落ちていった。

 

次の瞬間、二機の輸送機は大爆発を起こした。これに驚いたのか、パトカーの速度が少し遅くなる。

 

アンジュは加速して、パトカーとの距離を出来るだけ離していく。

 

しばらく走っているとアンジュの目的の場所が見えてきた。それは小さな小川のような用水路であった。

 

「モモカ!突っ込んで!」

 

「ええ!?はい!わかりました!」

 

最初はモモカも驚いていたが、直ぐに意を決して

用水路の上にバイクを走らせる。

 

小さな滝の部分にアンジュ達は突っ込んだ。するとアンジュ達が消えた。

 

後ろを追跡していたパトカー達も突っ込む。しかしその穴は小さく、パトカーのような車では入る事が出来なかったその突っ込んだパトカーの後ろから一台、もう一台と突っ込んでいく。

 

こうしてパトカー達は次々と玉突き事故を起こし、爆発していった。アキホの乗っていたパトカーだけが一番最後尾だったこともあり、事故にならずに

済んだ。

 

アンジュ達はその道を進んでいた。

 

「後は道なりに進むだけ!そうすれば皇宮の正面に出れるはずよ!」

 

「知りませんでした。このような道があったとは・・・」

 

モモカは驚いていた。一体この道はなんなのか?

疑問を感じずにはいられなかった。

 

「皇族だけが知っている秘密の抜け道よ。昔はよく、夜はここから皇宮の外に遊びに行っていたわ」

 

「まぁ!そんな事してたんですか!アンジュリーゼ様!」

 

モモカは頬を膨らませていた。

 

しばらくすると出口が見えてきた。皇宮を流れる川へとでた。川岸にたどり着くと、バイクを乗り捨てた。皇宮内の探索にはバイクは向いていないのだ。

 

入り口に向かって進んでいると、突然目の前が明るくなった。見てみると、そこには武装した兵士達がいた。

 

「お姉さま!?アンジュリーゼお姉さま!」

 

上のバルコニーから声がした。見てみるとそこにはシルヴィアの姿があった。

 

「シルヴィア!」

 

「助けて!アンジュリーゼお姉さま!」

 

「待っててシルヴィア!直ぐに助けるから!」

 

何名かの兵士がアンジュを捕まえようと襲ってきたが、アンジュは全て返り討ちにした。途中モモカも兵士に襲われていたが、それも難なく助け出す。

 

そしてアンジュは残りの兵士達に銃弾を放った。

まさか撃ってくるとは予想外だったのか、兵士達は皆散り散りとなって逃げていった。

 

妹のいるバルコニーの兵士達も怖気付いたのかシルヴィアをそのままにして皆一目散に建物の中へと

逃げていった。

 

「シルヴィア!もう大丈夫よ!降りて来て!」

 

「アンジュリーゼお姉さまぁ!」

 

シルヴィアはマナの力で車椅子を浮遊させた。

 

「シルヴィア!」

 

アンジュがシルヴィアへと駆け寄った。姉妹の素晴らしい再開の時である・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ザク!】

 

突然アンジュの左腕に冷たい何かが刺さった。鋭利な物であり、鉄製であった。傷口から赤い液体が

一線流れ落ちる。それはナイフであった。

 

そのナイフの持ち主を見た。そのナイフの持ち主はシルヴィアであった。

 

「アンジュリーゼ様!大丈夫ですか!?」

 

モモカの心配する声も、今のアンジュには届かないでいた。現状が理解できないでいた。

なぜシルヴィアが私にナイフを刺しているのか?

何故?アンジュの思考が追いつかない。

 

「シル・・・ヴィア・・・?」

 

「馴れ馴れしく呼ばないで!あなたなんて姉でも

なんでもありません!この化け物!!」

 

その言葉にアンジュの表情が絶望に染まる。

 

「どうして?どうしてなの!?どうして生まれてきたの!?」

 

そんなアンジュなど御構い無しにシルヴィアがまくしたてる。

 

「あなたさえ生まれて来なければ!お父さまが処刑される事も!お母さまが死ぬ事も!私が歩けなくなる事も!全部!全部なかったのよ!!」

 

「これらの事全て!なかったはずなのよ!あなたさえいなければ!みんなみんな!幸せだったのよ!お母さまを返して!返してよ!この化け物!この化け物!!化け物!!!大っ嫌い!!!!」

 

シルヴィアは泣いていた。だがその涙の奥には、

アンジュに対しての明らかな憎悪と憎しみ。そして怒りが込められていた。

 

「シルヴィア様・・・」

 

モモカはただその言葉を呆然と聞いていた。それはアンジュも同じだった。アンジュが膝をつく。

 

「そん・・・な・・・」

 

この時アンジュは自分が騙されていた事に気がついた。全てが嘘だったのだ。初めから全てが。

 

兵士達もグルだったらしい。再び一箇所に集まり

アンジュ達にネットガンを放つ。アンジュには、

もはや避ける気力すらなくなっていた。側にいた

モモカもネットガンの餌食となった。

 

「無様な姿だな。アンジュリーゼ。堕ちぶれ果てた皇女殿下。その末路に相応しい」

 

シルヴィアとは違う声がした。その声の方を見る。

 

するとそこにはジュリオ・飛鳥・ミスルギがいた。アンジュをノーマだと暴露し、アンジュを陥れた

張本人がそこにいた。

 

「ジュリオ・・・お兄さま?」

 

「そうそう。その間抜け面が見たかった。これで

誘き出した甲斐があったというものだ」

 

「え・・・?」

 

「言ってくれるじゃないか。殆ど僕が手引きしてあげたのにねぇ」

 

アンジュの前にある人物が降り立った。リラだ。

 

「本当。惨めで滑稽だよね。いい様におびき出されちゃってさぁ」

 

リラが二人を見下し、嘲笑しながら蔑む。

 

「そんな・・・そんな・・・」

 

「さぁ、断罪を始めよう。アンジュリーゼ。お前という罪のな・・・」

 

ジュリオの言葉など、今のアンジュの耳には入らなかった。兵士達がアンジュ達を連れて行く。

 

「クックックッ。はーっはっはっは!」

 

皇宮の庭には、ジュリオの高らかな笑い声が響いた。

 

やがて笑い終わるとジュリオはリラの方を向いた。

 

「リラとか言ったな。貴様の言う通り、アンジュリーゼの処刑は明日の夜とする。これでいいな」

 

「あぁ。もちろんさ。協力した甲斐があったよ。

あぁ今から明日の夜が楽しみだなぁ」

 

そう言うとリラはその場をゆっくりと離れていった。

 

(舞台の土台は出来上がった。後はそこに役者が昇り始めて舞台は完成する。差し詰め、囚われの姫を救う為に勇者が来るとでもなっているのか・・・笑止とはこの事か)

 

リラはそう思いつつ歩いていた。

 

「見たかシルヴィア。アンジュリーゼのあの間抜け面。本当に惨めだな。我々に利用されていたと知らずに」

 

「そうですねお兄さま。利用されてたのに気づかず。本当に無様で滑稽ですこと」

 

背後から聞こえたその声に足を止める。

 

(ふっ。本当に惨めで無様で滑稽なのは、今も利用されている事に気づけない、本当の間抜けの方だけどね。明日の夜が楽しみだよ。果たしてその間抜けな薄ら笑いが続けられるかどうか・・・)

 

左腕の腕輪をさすりながら不気味にほくそ笑んだかと思うと、ゆっくりと歩き出した。




アニメではヒルダ関連の話もありましたが、向こうは私自身が書くのに心を痛めてしまう為誠に勝手ながら省略させていただきました。

この作品では何があったのかは省略的に書きますが、もし気になる方は本編を見る事を推奨します。


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第29話 ミスルギの実態

 

 

「うわぁ。凄い」

 

ナオミがこの台詞を言うのは今日で7回目だ。

 

「ねぇシルフィー!凄いよこれ!」

 

こちらに関しては今日で13回目だ。

 

「ねぇナオミ。さっきからそればっかりよ」

 

当のシルフィーはどこか怠そうであった。

 

「だって凄いじゃん!」

 

「私、煩いのは好きじゃないのよ。辺り一帯雑音ばっか」

 

「でも凄いよこれ。みんな空中にウインドを出してるよ。エマ監察官が使ってるところを見ただけだったのに」

 

ナオミが周囲を物珍しくキョロキョロ見回している。現在二人はミスルギ皇国に来ていた。無論、

観光目的などではなくアンジュ奪還が目的である。しかしナオミは初めて見る外の世界にご満悦の様だ。

 

「こんな光景。夢にも見たことないよ」

 

ドラゴンと戦うアルゼナルでの日常。今いるこの

世界はそんな日常とはかけ離れた、正に夢の世界

と呼ぶに値する場所であった。

 

「私達は、この世界を守る為に戦ってるんだね・・・ふふっ」

 

「何笑ってんのよ」

 

「ちょっと嬉しくて。この世界を守る為に私達が

戦ってるって思うと、達成感に満たされない?」

 

「・・・・・・ゴボッ」

 

「シルフィー?」

 

突然シルフィーが黙り込んだ。不思議に思い、見てみると彼女は手で口を押さえていた。

 

「どうしたの!?大丈夫!?」

 

「・・・ああ。大丈夫。ちょっとね」

 

ナオミが背を向けた瞬間、シルフィーは自分の手を見た。そこには先程の吐血で吐き出された血がべっとりとこびりついていた。

 

慌ててそれを拭い取る。ナオミは気づいていない。

 

(身体の調子が変ね。アルゼナルに帰ったらマギーにでも診てもらうか・・・)

 

「ねぇシルフィー!凄いよ!モニターにアンジュが写ってる」

 

これで14回目だ。やれやれと思いそちらの方を向く。すると空中モニターにはアンジュの写真が映し出されていた。

 

「お姫様だったから。帰ってきたお祝いでもするのかな?」

 

「だとしたら私達が連れて帰る目的がしづらいじゃない」

 

しかし、 次のナレーターの言葉に二人は軽口を

閉ざし、そして絶句する事となった。

 

「本日、我々を欺いてきた忌むべきノーマ。元皇女のアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの処刑が実行されます。会場には観客10万人を収容できる他、マナネットによる生中継も行われ・・・」

 

驚きのあまり、お互いが顔を見合わせていた。

 

アンジュが処刑される。何故か?理由がわからない。とにかく奪還を命令されている以上、殺され

てはたまらない。

 

そんな時だった。突然シルフィーが頭を抑えて唸り始めた。

 

「うっ、ううっ。うう」

 

「シルフィー!?だ、大丈夫!?」

 

まるで頭の中で蛇がのたうちまわっているかの様な痛みであった。

 

「これは大丈夫じゃないかも。とにかく、近くの

建物に入るよ」

 

そう言い二人はとある建物へと入っていく。中は買い物客などで賑わっていた。ショッピングモールと言う奴だ。近くのベンチに横になり、その隣にナオミが腰を下ろした。

 

ここでも空中にはモニターなどが浮かんでおり、色々なテレビ番組の様なものが放映されていた。

 

「ねぇシルフィー。あれ見てよ」

 

ナオミの指差すモニターの方を向く。そこにはニュースが流されていた。

 

「まず、先日発見されたノーマとそれを擁護していた両親についてですが・・・」

 

ノーマが発見された。アルゼナルに新入りとしてくるのかと二人ともその画面を見ていた。

 

「我がミスルギ皇国で取り組んでいるノーマ根絶法に基づき、このノーマとその両親の処刑映像をご覧いただきましょう」

 

「!!??」

 

再び二人が驚きで一度顔を見合わせた。そして直ぐにモニターに顔を戻す。

 

画面には3歳くらいの女の子。そして両親が映し出された。どちらも手脚を拘束されていた。3歳くらいの女の子は泣いていた。

 

そして死刑執行人の兵士達が銃を構え、集まっていた。

 

「神聖ミスルギ皇国が取り組んでいるノーマ根絶法第1条!ノーマは生まれたその場で殺処分!

第2条!ノーマを擁護する者はノーマと同罪とみなし処刑する!

第3条!ノーマを産んだ場合、夫妻は強制離婚!

ノーマを産んだ穢らわしい母親は神聖ミスルギ皇国から永久追放!!」

 

「これらの法を破るとは!この非国民の化け物め!!」

 

「頼む!私はどうなってもいい!!だからお願いだ!妻と娘だけは助けてくれ!!」

 

「お願いです!!私はどうなってもいい!だから主人と娘の命だけは!」

 

両親と思われる二人が必死になって懇願する。

しかし兵士達はそれを一蹴した、

 

「黙れ黙れ黙れ!!!この神聖ミスルギ皇国には!ノーマに吸わせる空気もノーマに踏ませる大地もない!死ね!!!」

 

【バババババ!】

 

乾いたマシンガンの銃声が鳴り響いた。

 

二人とも画面から目を背けた為どうなったかは詳しくはわからない。だが一つだけわかる事があった。

 

あの家族は死んだという事だ。

 

人が死んだ。こうもあっさりと、道端のアリンコを踏み潰す感覚で、人が・・・。

 

「万歳!万歳!!ノーマ根絶万歳!!」

 

周りでモニターを見ていた人が口々に叫んでいる。中には手を挙げて喜んでいる者までいた。

 

「我らが皇帝、ジュリオ・飛鳥・ミスルギ一世はこの法案を全国的に拡めようと日々努力されています。そして本日のアンジュリーゼ処刑の際は、特等席でご覧になられる・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

そこから先の会話など頭に入らなかった。二人とも黙り込んでいる。人の死を見世物に、そしてそれを喜んで見ているミスルギ国民。

 

こいつらは狂っている。

 

以前ココが言っていたピカピカ光る魔法の国。二人の中にあったそのイメージとはあまりにもかけ離れすぎていた。もはや別物だ。

 

ナオミの顔は青ざめ、身体は震えていた。先程までの興奮は完全に恐怖へと塗り変わっていた。恐らくシルフィーも顔は青ざめているのだろう。もしこの場でノーマである事がバレたら間違いなく殺される。二人ともそれを確信した。

 

「・・・人の少ないところに行こう。アンジュが

ここにいるのはわかった。こうなったら処刑会場

で助ける事を・・・」

 

その時であった。

 

突然ショッピングモール入口の扉が蹴破られた。

そして銃を持った兵士達がゾロゾロと室内へと

入ってきた、

 

「ここにノーマが潜伏しているという通報を受けた!各自マナを展開!己が身元を明らかにせよ!」

 

(不味い!!)

 

最悪のタイミングで最悪の事態が発生した。ノーマ根絶法なる物。それを考えればここで捕まるわけにはいかなかった。

 

咄嗟に二人とも奥の通路へと駆け込んでいた。

 

やがて倉庫の様な場所へと辿り着いた。

 

「ここなら一安心かな?シルフィー。早く出よう・・・」

 

そう言い振り返った時、シルフィーは蹲っていた。

 

「ちょっと!シルフィー!本当に大丈夫!?」

 

そう言いシルフィーの身体を触った時、ナオミは

反射的に手を引っ込めた。

 

「冷たい・・・」

 

今のシルフィーの身体は体温が一切感じられなかった。まるで氷で作られた氷像の様だ。

 

「シルフィー!体調が悪いの!?何で教えてくれなかったの!?」

 

「こんな筈じゃなかった。朝起きた時は健康だった。それなのに突然。ゴホッ!ゴホッ!」

 

咳が出ている。唾と一緒に血液が床に飛沫する。

 

「おい!いたぞ!」

 

先程兵士達が倉庫内へとやってきた。

 

「まずい!逃げるぞ!」

 

言ったのが先が行動したのが先か、二人は裏口から飛び出し、裏路地を走っていた。

 

「逃がすな!捕まえろ!」

 

背後から物騒な単語が聞こえてきた。後ろを振り返る余裕なんて一切ない。時々銃弾の様なものが身体の横を通り抜ける時もあった。

 

ひたすらに走った。無我夢中で走った。先回りされていた時もあった。それらを避けながら走り続けた。

 

気がつくと廃屋の様な所へと迷い込んでいた。背後から足音などは聞こえない。

 

「とりあえず追っ手はまけたみたい。シルフィー。大丈夫?」

 

不安そうにシルフィーの顔を覗き込む。明らかに顔色は悪くなっていた。手で額に触れてみる。すると手のひらに生暖かい液体が付着した。血だ。額から血が少しだけだが垂れ流れてきた。

 

「ちょっとの間横になってて。包帯がないか探してくるから」

 

そう言うとナオミは、廃屋の二階へと登っていった。シルフィーは一人壁にもたれかかっていた。

身体中が痛い。息苦しさも感じる。

 

とてもじゃないがただの体調不良ではなかった。

 

何気なく割れている鏡を見た。鏡には顔色の悪い

自分自身の姿が映し出されていた。

 

「・・・え?・・・え?」

 

鏡の中の自分の目が紅眼をしていた。目を擦り、

もう一度確認する。今度は鏡の中の、自分の眼は

エメラルドグリーン。つまり元に戻っていた。

 

「見間違い?でも今確かに・・・」

 

疑問に思っていたが、ナオミが降りてきた為考えるをやめる。

 

「ごめん。ここには包帯も何もなかった」

 

「いいって。とにかく一度機体のある場所に戻ろう。アンジュを奪還するなら機体を使った方がいい」

 

「そうだね。一度ここを出よう。シルフィー、立てる?辛いなら肩を貸すよ」

 

その時である。

 

二人の首筋に何が掠めた。すると突然二人の身体の力が抜けてその場へと倒れこむ。

 

「なに、これ・・・」

 

「意識が・・・」

 

すると二人の身体は地面へと組み伏せられた。そして二人の後頭部に銃口が突きつけられた。残された僅かな意識が、鉄の冷たい感触を後頭部から全身へと伝えた。

 

どうやら追っ手をまいてた訳ではなかったらしい。正確に言うなら、この廃屋へと誘い込まれていたのだ。

 

「隊長。この二人、この場で殺しますか?手順通りやるなんて面倒だ。ノーマなら幾ら殺しても平気ですよね?」

 

「馬鹿!何のための麻酔針だ。ジュリオ様の命令を忘れたか。今日はアンジュリーゼ処刑記念日となる祝い日だ。今日発見されたノーマがいた場合、アンジュリーゼ処刑の前祝いとせよとのご命令だ。」

 

「そうでしたね。喜べ下劣なノーマ共。貴様らは今日という特別な日に処刑されるのだからな」

 

麻酔針の影響を直接受けた二人に、その声は届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

牢屋にて。シルフィーとナオミの現在宙吊り状態であった。

 

先程まで二人とも抵抗できない様に拘束されての

暴行を受けており、身体の至る所に青痣が出来て

いた。

 

「はぁ。はぁ。ナオミ。大丈夫?」

 

「何とか。シルフィーこそ・・・身体、大丈夫なの?」

 

「・・・何とかね」

 

お互いが疲労困憊仕切っていた。完全にミイラ取りがミイラになってしまった。宙吊りになっている際もシルフィーの体調は悪化の一途を辿っていた。

 

「私達、これからどうなるんだろう・・・」

 

「・・・」

 

シルフィーは何も答えなかった。ナオミにも予測はついているのだろう。ノーマ根絶法なる物が制定されている国。そこにノーマがいる。

 

結果は火を見るより明らかだ。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

二人とも、何も言うことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、アンジュリーゼの処刑会場では、近衛

長官のリィザが取材陣のインタビューに応答して

いた。

 

「はい。今回アンジュリーゼを処刑する為にこの様な専用のドームを建造されました。なお、アンジュリーゼ処刑後は、即撤去されます」

 

「それはそうでしょう。皇室に巣くっていたノーマの処刑跡地などこの世に不要ですから」

 

「今回の処刑の特徴として、このドームは外部から完全に遮断されます。ノーマの悪い空気を外に散布させてはなりませんからね」

 

「成る程。16年間も我々を騙していた悪しきノーマです。空気もきっと悪いのでしょう。ですがそれではドーム内の人が悪い空気を吸ってしまうのでは?」

 

「ご安心ください。今回はノーマの悪い空気を吸わない為に希望者には酸素マスクを与えています。

これによってノーマの悪い空気を吸わなくて済むのです」

 

「それは素晴らしい考えですね」

 

「それだけではありません。会場の至る所にアルコール消毒などが備えられています。これで感染症の予防にもなるでしょう」

 

「そうですね。感染症などは現在マナではまだ治せません。本来人が集まる所は避けるべきなのでしょうが、これは話は別なのです。ご覧ください。この長蛇の列!アンジュリーゼの処刑を見ようと、10万人もの方が列を作り並んでいます」

 

「ところでリィザさん。本日はアンジュリーゼ処刑の前祝いなる物が行われると風の噂でお伺いしたのですが」

 

「ええ。本日捕獲したノーマに対しての投票です」

 

「投票ですか?それは何故」

 

「本日はミスルギ皇国にアンジュリーゼ処刑記念日という名で新たな休日として制定される日です。

その為本日捕まえたノーマに対して皆で投票を行うのです。もし、助ける意見が過半数を占めた場合、そのノーマに恩赦を与えます」

 

「な!なんと!ノーマごときにあのジュリオ・

飛鳥・ミスルギ一世様が恩赦を与えるとは!

何という素晴らしい御心なのでしょうか!」

 

「投票には名前とマナIDを書く必要があります。

その点の御注意を会場に入る10万人の観客には

伝えています。では、私は準備があるのでこれで」

 

そう言うとリィザはその場を離れていった。

 

「全く。なんで私がこんな事を」

 

「それが君の役割だからだろ?」

 

背後から声がした。振り返るとそこにはリラがいた。

 

「リラか。何の用だ」

 

「今日、ノーマが二人捕まったらしいね」

 

「ええ。確か貴女の通報でしたね」

 

「実はあの二人、アンジュを助ける為にアルゼナルから来たんだって。それがこうして捕まったと。怖いねぇ。ミイラ取りがミイラになるって。くくっ」

 

「・・・私は仕事があるので。与太話なら後で」

 

そう言い再び歩き出す。

 

その時であった。

 

「お互いにお仕事頑張ろうね・・・リザーディア」

 

リラのその言葉に急いで振り返った。しかしそこにリラの姿はもうなかった。

 

「なんなんだあいつは・・・一体」

 

妙な気持ち悪さと不安を抱えつつ、リィザは仕事に戻った。




ノーマ根絶法ですが、最初はゲルショッカーの掟
みたいな法にしようと思いましたがあそこまで殺す
殺す連呼されてはどうしようもない為、そちらは
挫折しました。

果たして3人は助かるのか!?

なお、次回あたりからオリジナルの方もかなり動き出す予定です。


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第30話 人ならざる化け物

 

 

夜となった。アンジュリーゼの処刑会場ではアンジュが罪人の服で晒

し者にされていた。両腕には手枷がつけられており、アンジュを拘束していた。

 

そしてその隣にはノーマ根絶法に基づき、モモカさん。シルフィー。そしてナオミが晒し者となっていた。

 

アンジュの体にはシルフィー以上の傷跡が付いており、それが生々しくアンジュの受けた暴行について語っていた。

 

「これは私を馬から落とした罪!」

 

「ぐうっ!」

 

「これは私を歩けなくした罪!!」

 

「ああっ!」

 

「そしてこれが生まれてきた罪!!!」

 

「がはっ!」

 

シルヴィアはアンジュに対してのみ暴行を加えていた。これは処刑執行ではなく、完全に私念によるものであった。

 

「シルヴィア様!もうやめてください!こんな酷い事は!」

 

モモカさんが必死に頼む。しかしシルヴィアはそんなモモカさんを睨みつけながらまくし立てた。

 

「酷いこと?このノーマが!汚らわしくて暴力的で反社会的な化け物が!私のお姉さまだったのよ!これ以上に酷い事がこの世にあると言うの!?謝りなさい!私がノーマだから悪いんです!ごめんなさいって!」

 

「シルヴィア様の言う通りだ!」

 

「私達の人生を返せ!」

 

アキホ達を中心に会場からアンジュに対しての罵声が響いた。

 

「モモカ。君には感謝している。我々に断罪の機会を与えてくれた事に」

 

「えっ・・・」

 

ジュリオの言葉はモモカには意味がわからなかった。

 

「アンジュリーゼをアルゼナルに送り込んだまでは良かった。後は勝手に死ぬはずだった。私達はその報告を待つだけだった。なのにこいつは死ななかった!生きていてはいけない存在なのに!そのためにわざわざ芝居までうたなければならなかった」

 

「一介の侍女が世界の果てに追放された存在にこうも簡単に会えるわけがないだろう?モモカ。お前は利用されたんだよ。私達にな。お前達のシルヴィアのために戦ってきた姿は、実に滑稽だったぞ」

 

「そっ・・・そんな・・・」

 

モモカさんは、自分のせいでアンジュがこんな目にあっている現実に絶望した。

 

「このノーマのせいで私達の母ソフィアは死んだ!諸君!このような穢らわしいノーマの存在を、許してはいけない!!アンジュリーゼ。かつてお前が

言っていたノーマの根絶された素晴らしき世界。

それを実現する法に従って、お前を処刑しよう!」

 

「ははっ。惨めね!」

 

「私達を騙していた罰よ!」

 

アンジュのクラスメイトが罵倒する。

 

「なんで・・・なんで私が処刑されなければならないのよ!何の罪で!」

 

するとアンジュに生卵が投げられた。投げた主は

アキホであった。

 

「黙れノーマ!私に何をしたのか!忘れたとは言わせないわ!」

 

「ちょっと足払いして笹巻きにしただけでしょ!」

 

「そんな・・・酷い・・・」

 

「別に死刑されるような罪じゃないわ!」

 

「それは人間の場合だ!お前はノーマだろ!」

 

「そうだ!お前は人間じゃない!」

 

「アンタらはノーマ!それだけで死ぬ理由は十分

なのよ!」

 

「そうだ!ノーマを殺せ!」

 

「殺すんだ!1秒たりとも生かしておくな!!」

 

「そんな!アンジュリーゼ様のおかげで、私は幸せになれたんです!なのに!なんで・・・この様な事が!」

 

モモカさんがただ一人、アンジュを弁護するが民衆はそんな事は御構い無しだった。

 

「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!我々を騙してきたアンジュリーゼを殺せ!そして

ノーマは皆殺しにしろ!」

 

遂に会場からは殺せコールがかかった。

 

「そんな!アンジュリーゼ様は何も悪くありません!なのにどうして!・・・どうしてアンジュリーゼ様だけがこんな酷い目に・・・!」

 

「モモカ・・・それにシルフィー。ナオミ。貴女達と・・・あそこにいた人達だけね。ノーマだとか

人間だとか関係なく、私を認めてくれたのは・・・」

 

アルゼナルの第一中隊を思い出す。サリアを。ヒルダとロザリーとクリスを。ヴィヴィアンとエルシャを思い出す。

 

「三人とも・・・ごめんなさい。私のせいでこんな事に」

 

「アンジュリーゼ様・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

3人とも何も言えなかった。気にしないで、大丈夫。そう言おうにも、状況はあまりにも絶望的で

あった。

 

「さて。ここでアンジュリーゼ処刑の前祝いとして、本日見つかったノーマに対しての投票結果を発表しよう。投票は・・・全会一致による、この者たちの処刑だ!」

 

「イエエェェイ!!」

 

観客達が騒めき始めた。何が投票だ。始めから仕込みは万全であったのだろう。

 

「初めにその白髪からにしよう。先程からこちらを睨みつける様なその目つき。気に入らん!」

 

シルフィーが選ばれた。首輪を引っ張られ、ステージへと放り出される。

 

「どうしたノーマ?目だけか?ほら。抵抗や命乞いの一つでもしてみせ・・・」

 

兵士が頭を脚でぐりぐりし始めたその瞬間、シルフィーは突然頭を持ち上げた。頭の上に脚を乗せていた兵士は横転する。

 

「痛てて。この化け物がぁ!!」

 

シルフィーの腹部に蹴りが入る。彼女はその場に

蹲る。直ぐに二発目が放たれ、彼女は床へと倒れ込んだ。そして兵士数名よるリンチが始まった。

 

「この化け物が!!人間様に歯向かおうなど!浅ましいんだよ!」

 

「とっとと死ね!死んでしまえ!!」

 

「こんな奴は早く殺してしまえ!!」

 

【ザクッ!】

 

銃剣がシルフィーの右肩に突き刺された。傷口からは赤い液体が流れてていた。会場からは色々なものが投げつけられてきた。空き缶。空き瓶。お菓子の残骸など、色々と投げつけていた。

 

「やめて!やめて!!」

 

「貴女達!やめなさい!」

 

ナオミやアンジュが必死に叫ぶが誰もやめようとはしない。観客の中には、マナを使った写真撮影などを行なっている者さえもいた。

 

(これが平和と正義を愛するミスルギ皇国の人間だと言うの?豚よ!こんなの!言葉の通じない豚以下の存在よ!!)

 

(こんな・・・こんな人達の世界をを守るために、

私達は戦ってるって言うの!?)

 

「早く殺せよ!」

 

「マナッターやマナスタグラムに載せて拡散して

やるよ」

 

ノーマを殺す事にこいつら豚以下の連中はなんとも思っていないらしい。アンジュとナオミが同じ考えに辿り着いた。

 

(こいつらは狂っている!)

 

「アンジュリーゼ!見ているがいい。お前と同じ

ノーマの殺される様をな」

 

シルフィーは引きずられる形で断頭台へと向かわされていた。全身ボロボロになり、更にミスルギに来てからの体調不良も重なり、身体は最早限界であった。

 

(駄目だ。私はここで、死ぬのか・・・)

 

首を固定される。するとこれに何処か違和感を感じた。

 

(何だ、この感じ・・・そうだ、確か前にも同じ様な事が・・・)

 

何故か彼女の中に、この仕打ちを昔受けた記憶が

湧き上がった。それだけではない。何故か脳裏にシオン達の顔が浮かんだ。フリードが。エセルが。ドミニクが。カリスが。そしてミリィが浮かんだ。

 

それだけでは無い。フードに隠れて見えないが、

謎の男の顔も脳裏に浮かんでいた。

 

(なんだこれ・・・走馬灯?でもこの人はいったい・・・いや、どうでもいい。私はここまでか。ここで・・・)

 

(ははっ。もし、もしあの島でシオン達と一緒に行っていたら、こうなる事はなかったのか・・・別の道があったのかもしれない・・・)

 

(もし、エセルの誘いを受けていたら、違う人生が

そこには広がっていたのかもしれない・・・もし、

こんな結末だと知っていたら・・・)

 

(私は、少しだけ後悔している・・・)

 

薄れゆく意識の中、ナオミが自分の名を叫んでいる声が響いた。断頭台の刃が振り下ろされようとしている。

 

そしてこの時、シルフィーの心の中で、何かが溢れた。コップに入りきらない水が溢れるのと同じ感覚で・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ヒューーーーポキッ】

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

観客達が皆言葉を失った。シルフィーの首めがけて下された刃は、シルフィーの首に触れた途端、ガラスの様に砕け散った。

 

次の瞬間、シルフィーがギロチン拘束を引きちぎった。

 

その目は紅色に染まっていた。更にその背中からは黒い翼と白い翼が生えてきた。

 

片方は天使の羽の様な純白の翼。そしてもう片方は、悪魔の羽の様な漆黒の翼であった。更には龍の尾の様なものもそこには存在していた。その皮膚は鱗の様なものが敷き詰められていた。

 

その見た目は、少なくても人間ならざる歪な姿であった。

 

「死ね」

 

シルフィーがそう言うと、近くにいた兵士の一人に右手を翳した。次の瞬間、兵士の身体は突然燃え上がった。

 

「あーっ!あーっ!熱い!熱いぃ!!誰か!誰か!!!」

 

兵士は床にのたうち回っていた。必死に火を消そうともがくが、火は意思を持っているかの様に消える気配は一切ない。

 

「誰か、助け・・・て」

 

兵士は息を引き取った。生きたまま焼かれる想像をはるかに超える苦痛を受けながら、一分ほど床でのたうち回っていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

皆が呆気にとられていた。目の前で起きた現状に

思考が理解に追いついていなかった。

 

「ぎゃああああぁ!!!」

 

「あああっ!!ああっ!!」

 

再び絶叫が聞こえた。今度は一人ではない。複数人であった。その後再び絶叫が響いた。今度は2回目よりもさらに数が多い。

 

「き・・・キャアアアァァ!!!」

 

誰かの叫びを皮切り、観客達は我先にと出口目掛けて逃げ出した。

 

「おい!どけ!俺が先だ!」

 

「黙れ!俺の方が先だ!」

 

「ちょっと!私が先よ!」

 

会場は、ノーマの悪い空気を外に出さない建前で、出入り口などの扉が鍵をかけられ、固く閉ざされていたのだ。

 

ステージからは兵士達の断末魔と絶叫が聞こえてくる。

 

「おい!鍵は誰が持ってる!早くよこ・・・」

 

逃げ出そうとしていた連中の内、先陣を走っていた連中の身体が突然燃え始めた。ステージを見ると、シルフィーが彼等に右手を向けていた。

 

その口元は笑っているかの様に見えた。

 

「熱い!熱いぃ!誰かぁ!助けてくれぇ!」

 

「こっち来んな!あっち行け!!」

 

会場は大混乱であった。そんな中、リィザは物陰へと隠れていた。

 

(・・・!!あの子!まさか!!・・・急いで確認

せねば!)

 

リィザは何かを思い出したみたいな表情を浮かべた。シルフィーに存在を認知されない様に奥深くへと隠れる。

 

「な、何だこれは・・・」

 

マナネットを通して見ていた人々も絶句する。目の前の光景は正に地獄絵図であった。会場は黒煙と炎と悲鳴に包まれていた。

 

一人、また一人と、生きたまま焼かれる人間が画面に映り込んだ。立ち込める黒い煙。そしてそんな中を、シルフィーが佇んでいた。その姿は黒煙を浴びた為に、真っ黒であった。

 

この光景をマナで見ていたエンブリヲはら珍しく

感情を剥き出しにしていた。マナのモニターに

拳を叩きつける。

 

「くっ!リラめ!まさかここまでの勝手をするとは!!」

 

 

 

 

 

「モモカ!ナオミ!目を閉じて!見ちゃダメよ!」

 

吊るされている3人は必至に眼を閉じていた。

 

悲痛な断末魔が絶える事なく聞こえてくる。一人、また一人と人が死んでいく。先程まで散々好き勝手言ってた連中であり、正直殺意も感じていた。

 

それがこうも簡単に。見えない力によってあっさりと。見てて嬉しいものではなかった。

 

「アンジュ!」

 

突然声をかけられた。その方角を向き、目を開けた。何とそこにはタスクがいた。

 

「タスク!?何でここに!?」

 

「話は後だ!隣の二人はアンジュの知り合いなんだろ。待ってて。今助けるから!」

 

そう言うとタスクは鎖を溶かす為に、持ってきた

硫酸を少量垂らした。しかし鎖はなかなか溶けなかった。

 

するとシルフィーがアンジュ達の方を向いた。

 

「くっ!化け物め!」

 

タスクが銃を放った。しかし弾丸はハエをはたき

落とすのと同じ感覚で落とされた。

 

「やめてタスク!彼女はシルフィーよ!」

 

タスクは銃を構えて威嚇する。意味の無い行為であるにしても、抵抗せずにはいられないのだ。するとシルフィーが右手をタスク達に翳した。

 

(!殺される!!)

 

四人とも咄嗟に目を瞑った。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・・・・?」

 

しかしいつまで経っても熱が来なかった。恐る恐る目を開けてみる。

 

すると三人を拘束していた枷が焼かれていた。熱による熱さも痛さを感じなかった。やがて鎖は熱によって溶け、三人は自由となった。

 

「シルフィー。貴女・・・」

 

「・・・」

 

彼女は何も言わずにある方角を向いた。そこには

自分一人では何もできない兄妹同士が寄り添い、

失禁していた。

 

「やっ、やめろ!私達は皇族だぞ!私達を殺すと

いうことは・・・」

 

ゆっくりと垂れ下げていた右腕を再び持ち上げる。

 

「やめて!助けて!!お姉さま!!」

 

「た、助けてくれぇ!!」

 

最早二人にプライドなど、残ってはいなかった。

助かる為なら先程まであれ程侮蔑していた存在に縋ってくる。無様で滑稽で惨めでしかない。

 

躊躇いもなく腕をあげる。

 

その時であった。突然天井が崩れ落ち、そこから

6つの黒い人影が降り立った。シオン達だ。6人は

脇目もふらずにシルフィーを取り押さえている。

 

「やめろシルフィー!これ以上はやめるんだ!!」

 

しかし彼女は躊躇いもなく尾で払いのけると、シオンに殴りかかった。シオンの身体が軽く吹き飛ぶ。なんとか受け身を取り、衝撃を和らげる。

 

「間違いない。暴走状態だ」

 

「みんな。下がって。私がやる」

 

そう言うとドミニクは指をクイっと上に持ち上げた。

 

その途端、シルフィーを中心とした地面が隆起を起こし始めた。周りの地面が高く聳え立った。それは瞬く間に彼女を閉じ込める檻へと変化した。

 

「・・・」

 

シルフィーが檻に右手を翳す。すると彼女を閉じ込めた檻は瞬く間に火の海への変化した。土は乾き、脆くなった箇所から崩壊を始めた。

 

「駄目。あのままだと多分。全部燃やし尽くす」

 

「・・・仕方ない。私がやろう」

 

シオンが腰の鞘から刀を抜いた。模造刀なんかでは無く、本物の居合刀であった。

 

「シルフィー!せめて安らかに・・・」

 

その時であった。

 

【ヒュン!】

 

何処からか突然、矢の様なものがシルフィー目掛けて放たれた。それはシルフィーの身体を斜めに貫いた。その矢は溶ける様に消滅した。

 

矢の直撃を受けたシルフィーはその場へと倒れこむ。するとその身体が元のシルフィーの姿へと戻っていった。

 

「今の矢は一体・・・いや、それより、リラを

探せ!まだ近くにいる可能性がある!」

 

五人が散らばった。そしてシオンは振り返り、ジュリオを首ねっこを力強く掴んだ。

 

「貴様が首謀者か!質問には直ぐに答えろ!リラは何処だ!!」

 

その手はジュリオの首を力強く締め上げていた。

答えなければ首の骨をへし折ると言うわけだ。

 

「ぐ、ぐるじい・・・し、知らない!私は知らない!!リラと名乗る女とは確かに面識があった。

だが私は今彼女のいる場所を本当に知らないんだ!信じてくれ!頼む!命だけは!!」

 

ジュリオが必死になって叫ぶ。

 

「・・・そうか。一つ教えてやる。撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるやつだけだ。殺される覚悟もない貴様が、殺すという言葉を・・・軽々しく使うな!!!」

 

そう言うとジュリオの身体をシルヴィア目掛けて放り投げた。シルヴィアが横転し、車椅子から投げ出される。そんな二人の前にアンジュが立ちはだかる。

 

「ひっ!アンジュリーゼ!」

 

「お、お、お姉さま・・・」

 

「ありがとうシルヴィア!醜い人間の本性を現してくれて!ありがとうお兄さま!私の正体を暴いてくれて!」

 

そう言うと、アンジュはシルヴィアのつけていた母の形見である指輪を奪い取った。今のシルヴィアに取り返す度胸も、吠える勇気もなかった。

 

「君達はシルフィーの仲間だな。時間がない。ひとまずここを離れる。全員私の周辺に集まってくれ」

 

そう言うと付近を探索していたフリード達もシオンの付近に集まった。

 

次の瞬間、11人はその場から突然消え失せた。天井が崩れた事で煙は空いた穴から排出され始めた。

 

その場には無能な兄妹が残された。

 

「な、何が起きた。一体何が・・・」

 

「何ですの・・・あれは、本当の化け物なのですか?」

 

そんな二人の前に一人の女性が現れた。リラだ。

 

彼女は上機嫌であり、二人の事など眼中にないらしい。

 

「ふふっ。ふっふっふ。はーっはっはっは!遂に動いたか!!これでこの国を利用した甲斐があったよ」

 

「なっ!き、貴様!まさか知っていたのか!こうなる事を、初めから!」

 

「当たり前だろ。でなければあんたらゴミムシに

協力する道理もクソもないんだしさ」

 

「ゴ、ゴミムシですって!?」

 

「嫌なら粗大ゴミムシに変えてやるよ。さてと。

もう君達に用はない。それじゃあ無様なお二人さん。これに懲りたらノーマ根絶法なんて止めた方がいいよ。それじゃあねぇ」

 

次の瞬間、リラの姿もその場から消え失せた。会場では、ただひたす黒煙と弱い残り火。そして肉の焼ける悪臭だけが立ち込めていた




補足として書かせていただきます。今回のシルフィーの一件。被害者数の規模としては、コードギアスの、ユーフェミア時の行政特区日本クラスの被害が起きたと思って頂きたいです。

具体的な数字などは後々考えるつもりです。


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第31話 温もり

 

 

「ここは?」

 

気がつくとナオミ達は何処かの洞窟にいた。隣にはシオン達もいる。その隣を見るとオメガとグレイブが隠れるようにひっそりと置かれていた。

 

「ここ、私達の機体の隠し場所だよ・・・って

痛っ!」

 

身体を動かそうとした瞬間に激痛が走った。拷問

まがいの暴行の跡。身体には痣が複数箇所できていた。

 

「見せてください。・・・成る程。骨折数カ所。

でも、これなら直ぐに治せますよ」

 

カリスが怪我の部分に優しく触れる。そして彼女は目を瞑った。

 

「え?痛みが・・・」

 

「驚きましたか?」

 

今は全く痛くない。先程まであれほど痛かったのに。まるで魔法だ。呆然としているナオミ達に、

彼女は笑って洞窟の奥へと入っていった。

シオン達もそれに続く。

 

その場にはアンジュとナオミ。タスクとモモカさんの四人と寝ているドミニクだけが残された。少しの沈黙が場を包んだ。気まずくなったのか、モモカさんが話題を振った。

 

「あの、アンジュリーゼ様?こちらのお方とはどのような関係で?」

 

「えっ!?それは・・・」

 

「実は私も気になってた。貴方は一体・・・」

 

「・・・一週間、寝泊りを一緒にした関係だよ」

 

タスクの発言にモモカさんの顔が赤く染まった。

 

「やっぱり!でなければ命懸けでアンジュリーゼ様を助けになんて来られませんよね!男勝りなアンジュリーゼ様にも・・・ようやく春がやってきました・・・筆頭侍女として、嬉しく思います!」

 

「いやぁ。それほどでも・・・」

 

「あんたは黙ってなさい!!」

 

【ドガバギベギボガ!!】

 

「ギャーッ!!」

 

数分かけて、タスクはアンジュにボコボコにされた。

 

「はあっ。はあっ。ところでタスク。貴方は何者

なの?何であんなところにいたの?」

 

それはナオミ達も思っていた事だ。あの様な場所に何故いたのか。偶然などでは片付けられない。するとタスクの表情が真剣なものへと変化した。

 

「・・・ジルから言われたんだよ。アンジュを死なすなって」

 

「ジル?それってジル司令のこと?」

 

「それだけじゃない。俺はヴィルキスの・・・

アンジュの騎士だよ」

 

「騎士・・・」

 

しばらくの間沈黙が続いた。その為、洞窟の奥からの足音の響きがかなり反響していた。シオン達がその場へと戻ってきた。カリスの背にはシルフィーが負ぶさっており、意識の方はないらしい。

 

「どうなんですか。シルフィーは」

 

「・・・」

 

ナオミの質問にカリスは黙って首を横に振ると、

シルフィーを床に寝かした。そしてナオミ達に

した事を同じ事をした。すると彼女の身体の傷は

ものの数分で完治した。

 

「・・・ねぇ。貴方達は知ってるの?一体・・・

シルフィーに何が起きたの?」

 

「・・・持病の発作だ」

 

シオンが素っ気なく答える。

 

「そんな答え、納得できない!」

 

持病。人が人ならざる姿へと変化した。そんな病気がこの世界に存在するとは思えない。

 

「・・・タスクさん。銃から手を離してください」

 

その一言に皆がタスクの手元に注目する。その手には銃が握られており、シルフィーへと向けられていた。

 

「タスク!何をする気!?」

 

「・・・ジルから言われたんだ。彼女に不審な点が見られたら・・・その場で抹殺せよと」

 

「私達は彼女のおかげで助かったのよ!それなのに!」

 

「俺だって感謝している!でも、彼女の正体は・・・いくらなんでも、このまま放置しておく訳には・・・」

 

「どういう意味だ」

 

フリードが睨む様な視線をタスクへと向けた。

 

「・・・ジルは彼女を君達の組織の一員と考えている。そしてシルフィーのあの変化。どう見ても生物兵器の類だ。あまりに危険すぎる。だから・・・」

 

【ドゴッ!】

 

言い終わる前に、タスクの身体が吹き飛んだ。頬にグーパンチが飛んできたのだ。殴った主はエセルであり、その瞳はタスクに対する激しい怒りと軽蔑が込められていた。

 

「殺すってのか!?人と姿が違うから、お前は彼女を撃つのか!?殺すのか!?生きる権利を奪うのか!?この子があんたに何をしたんだ!!なのに・・・そんな理屈。この子にしてみれば、そんな理屈で殺そうとするあんたの方が、よっぽど化け物だ!!!」

 

「やめろエセル!」

 

大きく振りかぶっていたエセルの拳を、シオンが止めた。

 

「シオン!いいのか!こんな奴に好き勝手言われて!こんな奴!あの国の人間と同レベルの存在に!」

 

「・・・事情を知らなければ無理もない。それに、力を持たない者が力を持つ者を恐れる気持ちも分かる。だから・・・」

 

「・・・ちっ!」

 

舌打ちをした後、エセルは拳を下ろした。勝手に話を完結された為、アンジュ達からすれば全く事態が飲み込めていない。

 

「貴方達は一体何者なの!?前にもシルフィーと

現れたわよね!?シルフィーとどういう関係なの!?」

 

「それは・・・」

 

「・・・うっ」

 

突如聞こえた微かな呻き声に皆が一点を注目する。見るとシルフィーの眼が開かれていた。

 

「シルフィー!その眼・・・」

 

異変は直ぐに見られた。彼女の目は紅色へと変色していた。翼や尾なども生えておらず、皮膚だって鱗なんかではない。なのに瞳だけは紅色のままであった。

 

シオンが慌てて側へと駆け寄った。

 

「シルフィー!一度でもいい。自分そっくりな人間に一度でも出会ったか!?そいつに何かされなかったか!?」

 

「あ、ああっ・・・ああああぁっ!!」

 

しかしシルフィーは突然絶叫をあげると、跳ね起きて洞窟を飛び出し、ゲリラ豪雨の降りしきる森の方へと逃げる様に飛び出していった。

 

「シルフィー!」

 

呼びかけるも帰っては来なかった。数分の間、誰も動く事が出来なかった。

 

「・・・私が行く」

 

ついさっきまで寝ていたドミニクが目を開けた。そして辺りを見回すとその視線をナオミの前で止めた。

 

「貴女も来て。きっとその方がいい」

 

そう言うとナオミの手を引き、ランタン片手に洞窟の外へと出て行った。外は先程まで降っていた雨が止んでおり、地面がぬかるんでいた。

 

「シルフィー!どこにいるのー!?」

 

森にはナオミの呼ぶ声が反響する。

 

「・・・あっち」

 

ドミニクの指差す方向。手元のランタンの照らす先に探していた存在はいた。シルフィーは木の幹の所にうずくまっていた。頭を抱えて何かに怯えているみたいであった。そこに普段見てきた彼女の面影はなかった。

 

「シルフィー!大丈夫!?・・・!!」

 

シルフィーの肩に触れた手が反射的に引っ込む。雨に濡れた影響か、はたまた今朝の体調不良の影響か、彼女の身体は明らかに冷たくなっていた。これではまるで死体だ。

 

「シルフィー。これ飲む?」

 

ドミニクは何かのカップを差し出してきた。中からは湯気の様なものが沸き立っていた。それを受け取る。カップ内の水面は揺らいでいる。その手は目に見えるほど、酷く震えていた。

 

「落ち着いて。ゆっくり。ゆっくり飲めばいい。

貴女も飲む?」

 

ナオミもそのカップを受け取り、恐る恐る口をつける。甘い。中身はホットココアであった。

 

三人ともそれを少しずつ飲み続けた。

 

三人が飲み終わるとドミニクは黒のローブを取り出し、シルフィーにかけた。

 

「・・・暖かい」

 

「話して。今、心の中に溜まっているの。何か思い出した事。あるんじゃないの?」

 

やがてシルフィーは震える声で話し始めた。

 

「・・・同じ」

 

「同じ?」

 

「あれが初めてじゃない。私は、以前もああなった。間違いない。夢の中で一度だけ見た黒い人影。あれは私なんだ・・・あの夢は、私の記憶を表してるんだ・・・でも何で。何であんな記憶が・・・」

 

シルフィーは震える自分の右手を見た。その手は

人間の手の姿をしている。今の彼女にはそれさえ

気に食わなかった。

 

「こんなの・・・人の形をしたただの化け物じゃない!!」

 

「・・・大丈夫。シルフィーはシルフィーだから。化け物なんかじゃ無い。確かに見た目は人間じゃないのかも知れない。あの魔法みたいな炎だって、私にはよくわからない」

 

そう言いナオミはシルフィーに抱きついた。

 

「・・・でも、シルフィーのあの炎は、決して私達には牙を剥かなかった。少なくても、あの人達に比べてシルフィーは人間だよ。だって、人間じゃない人がこんなに暖かいわけがないよ」

 

シルフィーの身体は相変わらず冷たかった。だが、全体にほんのりとした温もりが広がっているのも、確かに感じた。

 

「ナオミ・・・私・・・わたし・・・」

 

啜り泣きにも似た声が聞こえる。やがて啜り泣きの声は安堵の寝息へと変わった。するとドミニクは

ナオミにも黒のローブをマントの様にかけた。

 

「今だけはいっしょにいてあげて。お願い」

 

「うん。わかった」

 

そう言うとドミニクは来た道を帰っていった。洞窟内では相変わらずの雰囲気であった。

 

「ドミニク。シルフィーは?」

 

「大丈夫。あの子がついてる。ほんの少し。そっとしておいてあげて。お願い」

 

「・・・分かった。彼女の事は俺の心の奥にしまっておくよ」

 

そう言うとタスクは銃をホルダー内へとしまった。

 

「先程はすまなかった。そちらの事情も考えずに。でも、ならばせめて教えてくれないか?君達が何者なのか。それだけでも!」

 

「・・・」

 

「君達だってあそこに来た理由があるんだろ?それにはシルフィーが関係してるのかい?せめて、それだけでも」

 

「アンジュ。モモカ。君達は席を外してくれ。奥の開けた場所に掘り風呂がある。よければ使いたまえ」

 

シオンの言葉は静かなものだった。しかしその奥深くには有無を言わせぬ強さが込められていた。それに気圧され二人は黙って奥へと進んで行った。

 

この場はシオン達六人とタスクだけとなった。

 

「君は何も感じなかったのか。圧倒的な威圧感に」

 

「威圧感?」

 

「何もする事が出来ない。ただ突っ立ってるだけ。そんな雰囲気を感じなかったか?」

 

タスクには心当たりがあった。シルフィーの姿が変わったあの時、兵士達や観客達が何故か直ぐに逃げ出さなかった事だ。何か見えない力によって全ての行動をするのを忘れたかの様に。

 

「・・・あれが持病なのは本当の事だ。彼女は我々とは違う。そして我々の目的の一つはあの子を守る事だ。これで満足かな?古の民最後の生き残り、

タスクよ」

 

「!!どうしてそれを・・・」

 

「何故なのか。それを知るのは今ではない。もし、道が交わる時が来ればその疑問に答えよう。さて、そろそろシルフィー達を洞窟内に戻すか。外で寝ては風邪を引いてしまう」

 

そう言うとシオン達は外へと出て行った。やがて

二人をオンブすら用に戻ってきた。

 

「二人とも死んだように寝ているよ。きっと疲れたんだろう。今日起きた出来事を考えれば、疲れるのも無理はない」

 

「あの、俺が二人を運びます」

 

タスクが二人を背負い、洞窟の奥へと歩いて行った。

 

「奥地はここか・・・!!」

 

「!!」

 

少し開けた場所。そこでは正にこの世の神秘が広がっていた。風呂上がりの二人の裸体がそこにはあった。アンジュの顔が一気に赤く染まった。

 

「あっ!いや!その!これは!」

 

「この変態!!死ねぇ!!」

 

「ギャーッ!!」

 

洞窟の奥地で、タスクの悲鳴が響き渡った。こんな惨劇の中でも、二人は目覚めなかったあたり、余程疲れていたのだろう。こうして雑魚寝の形で四人は眠りについた。なお、タスクは安全の為、アンジュによって洞窟の岩に括りつけられた。

 

朝となった。アンジュ達が目覚めるとそこにはシルフィーがいた。

 

「起きたか。朝食食べたらアルゼナルに帰るよ。今暖めるから。少し待ってて」

 

周りを見渡して

 

「ねぇ。黒装束の集団は??」

 

「シオン達の事?さぁ。起きた時にはもうどこにもいなかった。朝食だけ置いてったけど」

 

「ねぇシルフィー。眼は大丈夫?」

 

「これ?問題ない。これまで通りちゃんと見えてる。ほら、早く食べなさい」

 

シルフィーの様子は普段アルゼナルで見てきたものと何ら変わりないものだった。簡素なパンにスープをつけた朝食を五人がとった。そして食事が終わると、いよいよアルゼナルに帰る時がやってきた。

 

「三人とも、アンジュの事を頼んだよ。ジルにもなるべく穏便に済ませる様に頼んでおいたから」

 

「ねぇ。タスク。また・・・会えるわよね?」

 

「・・・ああ。必ず会える・・・そうだ。もう一つあった。君の髪って綺麗な金色だよね」

 

「えっ!?そっそれが・・・?」

 

アンジュが顔を赤らめた。褒められて嬉しいのだろう。

 

「下の方も金色なんだね」

 

「死ね!この変態騎士!!」

 

この変態は何故このような発言が出てくるのだろうか。この後タスクが今回三度目のフルボッコにされた事は言うまでもなかろう。

 

二人は自分のライダースーツを着込み、アンジュには黒ローブを渡す。アンジュはオメガに。モモカさんがグレイブに搭乗する。機体で飛び立つ直前、

アンジュはミスルギ皇国の方を振り返った。

 

「さようならミスルギ皇国・・・さようなら・・・腐った国の家畜ども・・・シルヴィア・・・お兄さま・・・さようなら」

 

アンジュは呟いた。過去の自分と・・・自分の中のアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギと決別するために。

 

「帰ろう。アルゼナルへ」

 

そして二つの機体は自分達の帰る場所。アルゼナルを目指して飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前、夜も更けて皆が眠りについていた時、

六人は洞窟の奥に集まっていた。

 

「まさか症状が出るとは」

 

「今のところ、腕輪は何とか機能してる。だがもう

焼け石に水もいいところだ。今のうちにあの子を連れて・・・」

 

「いや、彼女は我々とは別にした方がいい」

 

「シオン!確かにあの子と私達が一緒にいたら不味いのは解る!でも、末期症状が出てるんだぞ!これ以上は!」

 

「だからこそだ。せめて彼女にはこれまで通りの生活を送らせてやりたいんだ。今のうちに、今の幸せを満喫させてやりたいんだ・・・」

 

「シオン・・・」

 

「わかりました。でも、シルフィーさんには見守りが必要です。だから私が彼女を見守ります。それなら問題ないでしょう」

 

「ありがとうカリス」

 

「シオン。シルフィーだけど。記憶の封印。かなり解けかけてる。多分。いつか全てを思い出す。きっと」

 

「・・・そうか。残された時間は少ないって事か。

 

そう言い隣で寝ているシルフィーと腕輪を一撫でした。そしてその側に置かれているオメガへと歩み寄った。

 

「お前も頼む。あの子がこのまま永遠に発症しないのかもしれなければ、明日目覚めれば即座に発症するのかもしれない。だから、それまでの間だけでも側にいてやってくれ。何たってお前は、あの子のたった一人の友達なんだからよ」

 

「・・・」

 

「って。今のお前にそんな事言っても意味ないか。さて。簡単な朝食を作っておいた。火で温めれば食べれる料理だ。これを置いて、我々は早くこの場から去ろう」

 

六人が洞窟を出た数メートル先で、シオンは一度だけ洞窟の入り口の方を振り返った。

 

(・・・そろそろ動き出す頃か。待っていろリラ!

必ず腕輪は取り返す!取り返してみせる!)

 

そう思い、再び前を向き歩き始めた。こうして六人の姿は夜の深い闇へと溶けていった。

 

 




エンブリヲの声を聞くたびに脳内でこれ→⊃天⊂が
浮かんできます。

俺もこれくらいの頭脳か力(次元連結システム)が
欲しいなぁ。世界征服したいなぁ。

次回で第4章は最終話です。アンケートがまだの方はお早めに。なおもし一位が二つ並んだ場合はアンケート期間を1話延ばすつもりです。


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第32話 パラダイス・ロスト

 

 

アルゼナルを目指し飛んでいた二人プラス二人。彼女達は特に何かを話すわけでもなく、只々海の上を飛び続けた。途中、雨が降り始めた。四人とも濡れていった。

 

やがて見慣れた島が視界に映った。アルゼナルが見えてきたのだ。勢いよく機体を発着デッキへと滑り込ませ、四人とも機体から降りた。

 

「帰ってきたのね。私達」

 

すると奥の方から人の気配を感じた。一人二人などではない。見るとアルゼナルにいるであろうメンバーのほとんどが集結していた。そしてそれらの群れを掻き分けながら、ジル司令が前へと現れた。

 

「任務ご苦労だったな」

 

「ジル司令。アンジュを連れて帰りました」

 

「貴女には色々聞きたいことがあるの」

 

アンジュが睨みならが一歩前に出る。

 

「ああ。構わん。だがその前に・・・」

 

ジル指令が右手を上げた。すると辺りのメンバー達が一斉に銃口をある一人へと向けた。シルフィーだ。

 

「何故帰ってきた」

 

「えっ?」

 

「何故帰ってきたかと聞いている」

 

「何故って、命令通りアンジュを連れて帰って・・・」

 

「私はそんな命令を出した覚えはない。まぁそんな事はこの際どうでもいい。全員知っているんだぞ。お前の正体を」

 

「!!!!」

 

その言葉に四人の表情が一気に険しくなった。更にジル司令は写真を一枚突きつけた。それはシルフィーがミスルギ皇国で鳴った怪物の姿であった。

 

「見せてもらったよ。ミスルギ皇国での一件。随分と派手にやってくれたな。あの一件で何人死んだか知りたいか?」

 

「・・・」

 

「78585人だ。まぁこんな事だけなら私とてとやかく言うつもりはない。だが、お前は人という存在ですらない。ここは化け物の居ていい場所ではない。今すぐアルゼナルから出て行け」

 

鉄槌の様なシルフィーに振り下ろされた。それにナオミが反発した。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!そんな・・・ジル司令!以前言ったではないですか!外にノーマの

居場所はない。それなのに・・・そんな・・・」

 

外の世界に居場所はない。あんな光景を見た以上それはノーマであるナオミ達も理解できた。

 

「私はアルゼナルとここに住む彼女達の為を思って言ってるんだぞ」

 

「でも!!それじゃぁ・・・」

 

「一つだけ教えてやる。これは何も私の独断では

ない。ここにいる者全員の意見だ」

 

四人が驚いた顔で人混みを見た。するとその場で銃口を向けたまま押し黙っていたメンバー達が口々に罵声を飛ばし始めた。

 

「ずっと、ずっと騙してきたんだな!

 

「身ぐるみ剝がせ!正体を表せ!」

 

「存在が迷惑なんだよ!」

 

「よく帰ってこれたわね!」

 

「怪しいと思ってたんだ!あんたのこと!」

 

「あの機体だって、怪しいもんだ!」

 

「早く出てけよ!」

 

「失せろ!」

 

「いっそこの場で撃ち殺せ!」

 

「ダメ!あの姿になってカウンターされたらこっちが!」

 

「悩みの種はごめんなのよ!」

 

「出てって!」

 

「消えろよ!」

 

口々に飛んでくる罵声。それらに我慢出来なくなったのかナオミが遂に声を上げた。

 

「酷いよみんな!!私達がどんな目にあったのかも知らないで、寄ってたかって!!!」

 

「ナオミ・・・」

 

「外の世界がどんな所かも知らないで!私達がどんな思いをしてきたのか。どんな思いで帰ってきたのかも知らないで!!一方的に!!」

 

その言葉の迫力に皆が尻すぼみする。ここまでの迫力があるとは思ってなかったらしい。数秒の沈黙の後、震える幼い声が聞こえた。

 

「お姉様。何で・・・さっきから何で黙ってるの?」

 

声の主は幼年部の子供であり、エルシャのスカートの裾を引っ張り、怯えていた。

 

「だって、あの人。ドラゴンと同じ化け物なんだよね・・・私、怖いよ。追い払ってよ。エルシャお姉様」

 

幼年部の子供の懇願に対し、エルシャは苦虫を噛み潰したような表情で、視線を逸らす事しか出来なかった。他の第一中隊のメンバーも、銃こそ構えなかったものの、顔を背ける事しかできなかった。

 

そしてトドメとばかりにジル司令が言い放つ。

 

「どうだ。これでもまだここに残るつもりか!?

化け物!」

 

「!!そんな言い方!!!」

 

前に出ようとしたアンジュ達の身体に腕がぶつかる。シルフィーが二人を抑えていた。

 

「・・・・・・」

 

顔は下を向いており、その表情は一切読めなかった。外したバイザーを目深に被り、今来た道を黙って戻っていった。歩くペースは一切変えずに。

 

「シルフィー・・・」

 

彼女はオメガのコックピットに乗り込むと、機体を急発進させた。一切振り返る事もせず、機体はフルブーストで雨の降りしきる空を貫いていった。

 

やがて緊張の糸が解けたのか、一人、また一人と銃を下ろしていった。

 

「さて。それじゃ次だ」

 

ジル司令はアンジュの元に駆け寄るとその腹部にパンチを入れた。注意が他所へと向いていた為、完全な不意打ちとなりアンジュは意識を失い、その場へ倒れこむ。

 

「アンジュを拘禁しろ!!反省房に叩き込め!!」

 

「そんな!どうしてです!?せっかく帰ってきたのに!そんな!」

 

「こうでもせねば、他の者への示しがつかん。それとナオミ。外での出来事は一切口外にするな。以上だ。各自解散!持ち場に戻れ!」

 

ジル司令の鶴の一声によってその場に集まっていたメンバーは散り散りになっていった。なお、モモカさんは人間という事もあり、反省房送りは免れたらしい。

 

その場にはただ一人、ナオミだけが残された。

 

「そんな・・・シルフィー・・・」

 

彼女は振り返り、未だ雨の降りしきる空の方を向いた。そこは暗雲が立ち込めるだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃司令室ではジル司令とマギー。そしてジャスミンが集まっていた。

 

「それにしても、一体何者なんだろうね。あの子が化け物の姿に変化する映像をアルゼナルの全域に流した奴は」

 

「それについては現在捜索中だが、これをやった奴はかなりの手腕だ。マナを使っておおっぴらに公開したが、少なくても監察官殿ではないだろうな」

 

「私としては興味があったね。彼女の変化。どういう理屈なのか。知的好奇心を掻き立てられる」

 

「・・・いいのかい。あんな事して。私らの抱えてる秘密。それを教えてやれば、とりあえずあの場は収められたんじゃないか?」

 

ジャスミンの視線を受けながら、ジル司令はタバコを取り出し、一服し始めた。

 

「秘密か。それを彼女達に教えることは出来ん。それは二人とも知っている筈だ。この秘密が知られれば、このアルゼナルの存続に関わるのだからな」

 

その言葉に二人は押し黙ってしまった。やがてマギーが口を開いた。

 

「まぁいい。それじゃあ私はこれで。プラントにちょっと用事があってね」

 

「プラントか。どうなんだ。最近の研究は」

 

「思うようには進んでないのが現状かね。前より悪化はしてない分、マシだろうけど」

 

そう言うとマギーはその場を離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は反省房へ。

 

「起きろアンジュ」

 

その声と同時に身体にかけられた水によってアンジュは目覚めた。

 

「処分を伝える。反省房での一週間の謹慎。所持品。資産、財産は全て没収。無論、ヴィルキスもよ」

 

「・・・ねぇ。どうして?どうして脱走なんてしたの?」

 

「私達は赤ん坊の頃からここにいるわ。だから外の世界を知らない。待って人なんていない。ここから出て行く理由もない。外にノーマの居場所なんてないのよ・・・」

 

「結局違うのよ。こいつらは・・・信じるんじゃなかった」

 

サリアはそう言うとその場を後にしようと数歩歩いたところでその足を止めた。

 

「でも、貴女は一つだけいい事をしたわ。シルフィーの正体を暴いてくれた事よ。 これでアルゼナルの不安要素が取り除かれたわ」

 

「・・・あんた、シルフィーは同じ中隊仲間なんじゃないの?」

 

アンジュの言葉にサリアの表情が一気に険しくなった。

 

「・・・私だって信じたくなかった。あんな事・・・あんたのせいよ」

 

そう言い今度こそ反省房を後にした。エルシャも

サリアを追いかけてその場を後にした。

 

「相変わらずうるせぇなぁ。あの隊長は」

 

ふと隣から声がした。隣のベッドを見ると、そこには何とヒルダがいたのだ。

 

「ヒルダ・・・貴女も帰ってきてたのね」

 

「それ以上近づくな」

 

数歩歩いた所で数歩後ずさる。ヒルダの顔にはボコボコにされた後が凄惨にあった。見てるこちらも痛いほどに。

 

「あんた。一体何があったのよ」

 

「そっちが先に答えな。話はそれからだ」

 

「・・・死刑。殺されかけた。人間共の前に晒されて、鞭を打たれて、死にかけたわ」

 

「はっはっは!そいつは災難だったなぁ」

 

「私は話したわ。次は貴女の番よ」

 

「50人にぼこされた。全員再起不能にさせてやったけど」

 

「貴女も随分とやられたのね」

 

「それより随分な歓迎を受けてたな。ここの連中の罵声、ここにまで聞こえてきたぞ。後さっきのサリアの話。シルフィーの奴に何かあったのか?」

 

「・・・シルフィーがアルゼナルを追放された」

 

その言葉にヒルダは驚きを隠せなかった。

 

「・・・まじかよ」

 

「・・・私のせいよ」

 

行動には結果という答えが付いてくる。例外は一切ない。アンジュはアルゼナルを脱走した。この行動の結果、外の世界の人間の迫害によってアンジュとモモカさん。シルフィーとナオミは殺されかけた。

 

そしてシルフィーは人で無い事が発覚。アルゼナルのメンバー達からも迫害され、追放された。ノーマに外の世界で居場所はない。ならば彼女の辿る末路は・・・

 

しばらくの間、お互い何も話さなかった。

 

(追放か。もし、昔の私だったら喜んで追放されたかったろうな。それなら合法的に全てを捨てられた。ここでの思い出も・・・友達も)

 

実は今朝、ヒルダがアルゼナルへと強制送還された際、反省房にロザリーとクリスが来たのだ。

 

「なんで脱走なんかしたんだよ。なんで相談してくれなかったんだよ。うちら、友達だろ?」

 

「友達なんて思ってなかったんでしょ?」

 

クリスの発言にヒルダはただ一言呟いた。

 

「・・・ああ。思ってねーよ」

 

【ペッ!】

 

その言葉に、クリスがヒルダに唾を吐きかけた。

 

「死ねばよかったのに」

 

吐き捨てる様に言うとクリスはその場を後にした。ロザリーもそれに続いてその場を離れた。

 

そして暫くした後、アンジュがここにぶち込まれたというわけだ。

 

 

 

 

「あーあ。なーんもなくなっちゃったな。部屋もクリスの奴が買い取ったって聞いたし。キャッシュも全額没収。生きてる理由もない。・・・いっそ殺してくんないかな」

 

「死ぬのはダメ」

 

「アッハハハ!流石は元皇女様、言うことが違うね。希望は捨てずにってか?」

 

「違うわよ。匂うでしょ?死んだら。止めてよ、こんな狭いとこで」

 

「・・・はぁ?」

 

あまりにも突拍子な発言に唖然とした。

 

「希望?大体そんなもの本当にあると思ってるの!?」

 

ヒルダの愚痴にアンジュが怒った風に言う。

 

「あるのは迫害される現実とドラゴンとの殺し合いの毎日だけよ。全く、馬鹿馬鹿しくて笑っちゃうわ」

 

「偏見と差別に塗り固められた愚民ども。ノーマってだけで一方的に否定するやつら。マナを使う奴はそんなに偉いの?全部が嘘だった。友情とか家族とか絆とか・・・」

 

不意にアンジュが叫んだ。

 

「あー!友情こそ大事とか!絆こそ素晴らしいとか!平気で口にしてた自分を殴りたくなってきた!どいつもこいつもバカばっか!こんな世界!腐ってるわ!いっそ壊してやりたい!」

 

「世界を壊すねぇ・・・どうやってだよ?」

 

ヒルダが当然の疑問を聞いてくる。

 

「できるんじゃない?パラメイルと武器があれば」

 

「陸までどんくらいあると思ってんだよ」

 

「長距離移動が可能な機体を作ればいいじゃない」

 

「食料や資材はどうすんだよ」

 

「魚なら取れるし、最悪人間達から奪い取ればいい」

 

そう言うとアンジュは鉄格子を忌々しげに掴んだ。

 

「私を虐げ!辱め!貶めることしかできない世界なんて!私から拒否してやる!こんな腹立たしくて!頭にくる!ムカつく世界!全部壊してやる!」

 

「・・・ハッハッハッハッハ!」

 

ヒルダが突然笑い始めた。

 

「何がおかしいの?」

 

「ムカつくな。そういうの。よし!あたしも協力してやるよ。ムカつく世界をぶっ壊すのに」

 

そういうとお互いが堅く強く握手をした。

 

その日の夜、アルゼナルにアンジュの

歌う永遠語りが響いた。

 

それは自室にいたサリアに。

 

野外風呂にいたエルシャとヴィヴィアンに。

 

ゾーラの部屋でお楽しみをしていたロザリーとクリスに。

 

食堂で手伝いをしていたモモカに。

 

一人ベットに腰掛けていたナオミに。

 

反省房の隣のベッドで横になっていたヒルダに。

 

司令室でタバコをふかしていたジル司に。

 

アルゼナルにいた全員に、その歌は響き渡った。

 

やがてその歌は何の脈絡もなく、突然途絶えた。

アンジュが歌うのをやめたからだ。

 

「どうしたんだよ。急に歌うのやめちまって」

 

「・・・ちょっとね。今日見た出来事で、昔の事を思い出したわ。私がアルゼナルに来る前。私がノーマだと判明したあの日の出来事をね。どいつもこいつも、私の事を期待と尊敬の眼差しで見てた。それがノーマだとわかった途端掌返し。罵声を浴びせて。ほんとあいつら、胸糞悪い」

 

「それをシルフィーのやつが受けたって事か」

 

その言葉を最後に、二人とも、それ以上何も話さなかった。ただベットに横になり、一つだけある事を考えた。

 

(シルフィー。今頃どうしているのかしら・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在シルフィーは一人、オメガと共に夜空を飛び続けていた。

 

(昔に戻るだけだ。昔に・・・)

 

彼女にとって一人で生きる。それは昔の自分に戻る事を意味していた。それは何も難しいことではない。

 

(・・・あそこでの生活。少しだけ楽しかったけどね・・・)

 

下まぶたに何かの液体が溜まっている。バイザーによって外へと排出されないそれは徐々にだが溜まっていった。

 

(・・・夢を見てたんだ。ほんの少しの間、楽しい夢を。でも、夢はいつか覚めて終わるものだし・・・)

 

無意識の内にバイザーを取り外す。液体は頬を辿り流れ落ちた。

 

(昔に戻るだけ。戻るだけなのに・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・何で涙が止まらないの・・・)

 

泣きながら彼女とオメガは行く当てもなく、夜空を飛び続けた。やがて涙も枯れ果てた頃、彼女は墜落に近い形で近くの島へと落ちていった。




今回で第4章はおしまいです。アンケートは数日の間は解禁しておきます。

シルフィーには絶望のどん底に叩き落ちて、そこから這い上がってきてもらいましょう。

第5章からかなり物語が動きます!果たしてシルフィーの運命はいかに!


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第5章 破滅へのカウントダウン
第33話 失意の底で


 

ミスルギ皇国。あの事件から2日が経過したこの国は、現在も得体の知れない恐怖に怯えていた。崩壊した処刑場では焼死体か幾多も発見され、それらが今回の事件の残虐性を示していた。

 

そんな夜。シルヴィアが突然ベットから跳ね起きた。どうやら悪夢に魘されていたようだ。目覚めた彼女の身体はバケツをひっくり返したかの様に、全身が汗まみれであった。

 

(あれで、あれでよかったんですよね!?お兄さま!もう、もうここには来ませんよね!?)

 

マナの力で車椅子を寄せる。震える手で枕を握りしめ、ジュリオの部屋を目指した。

 

やがてジュリオの部屋の前に辿り着くと、扉が数センチ空いている事に気がついた。何気なくその隙間から部屋の中の様子を探った。部屋の中にはジュリオとリィザがいた。

 

「大丈夫よ。ジュリオ。貴女はよくやったは

 

「本当に!?僕よくやれた!?嬉しいなぁ。母上は僕の事全然褒めてくれなかったんだよ。

いっつもアンジュリーゼの事ばっかりエコヒイキしてたんだ」

 

するとリィザは爪から何かを垂らした。ジュリオの口にその液体が入る。

 

「ふふっそれじゃ今度はママのお願い聞いてくれる?」

 

「わかってるよ。シンギュラーポイントを開けば

いいんだよね?」

 

「そうよ。いい子ね」

 

窓に雷の光が入り込む。壁に映し出されたシルエットには、リィザの背中から翼が生えていたのだ。

 

「ひっ!」

 

ついあげてしまった声にリィザがこちらを向く。するとリィザは邪悪な笑みを浮かべた。

 

「あらあら。シルヴィア様」

 

「近衛長官・・・あなた・・・一体」

 

「どうやら悪い夢を見てらっしゃるのですね」

 

リィザが近づいて来た。シルヴィアは慌てて車椅子でその場を離れる。しかし後ろからリィザの尻尾がシルヴィアの首に巻きついた。

 

「ぐっ・・・たす・・・けて。助けて!アンジュリーゼお姉様!」

 

シルヴィアの助けを求める悲鳴が、皇宮内に虚しく響く。その悲鳴を抑えるかな様に、何かの薬品が染み込んだ布を嗅がされ、彼女の意識は閉ざされた。リィザは尻尾を首から離す。

 

「貴女ね。出てきなさい」

 

リィザが暗がりを睨んでいる。その暗がりの奥にはリラがいた。

 

「やぁリザーディア。ごめんね。ちょっとこっちに用事があってね。そしたらピーピーうるさいから、黙らせてもらったよ」

 

「リラ。まさか貴女が黒の部隊の協力者とは」

 

「まぁね。で、どう?そっちはうまく行ったの?」

 

「ええ。シンギュラーは抑えた。後は決行の時を待つだけ」

 

「ふーん。それじゃあせいぜい頑張りな。バイビー」

 

それだけ言うと、リラはシルヴィアをリィザの方に放り投げ、自身は今きた道を笑いながら戻っていった。しかしそれをリィザが呼び止めた。その顔には焦燥が見られた。

 

「待て!」

 

「なんだい?僕はこう見えて忙しいんだよ」

 

「・・・知っていたのか。アンジュリーゼの処刑のおまけが・・・あいつらの仲間だという事を」

 

「イグザクトリー!もちろんだよ」

 

「初めから分かっていたのか!こうなることが!!」

 

「・・・一つだけ教えてあげるね」

 

そう言うとリラは一気にリィザの背後へと回り込んだ。次の瞬間、背筋に悪寒が走る。リィザの頬を何かの尻尾のようなものが冷たく愛撫する。

 

「君は何も知らなくていい。黒の部隊の命令系統は君達とは違うんだから。僕はそれの協力者。下手な探りをいれると・・・食べちゃうよ?指を一本ずつ、ゆっくりと痛めて、苦しめながら・・・」

 

それだけ言うと、リィザの背後に蠢いていた殺気はリラごと、一気に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンジュ達が帰ってきてから一日が経過したアルゼナルでは、現在ミスルギ皇国。いや、神聖ミスルギ皇国からの使者とジル司令が対談していた。

 

「つまり、ここにこの人物はいないという事ですね?」

 

テーブルの上に置かれた写真。それはシルフィーの写真であった。そしてもう一枚、ミスルギ皇国で

起きた謎の変化後の写真も置かれていた。

 

「ええ。この様な化け物。私は見た事もありません」

 

追放したシルフィーに関する全てのデータは抹消していた。エマ監察官も寝込んでいて応対どころではない。

 

「では、今回の事件に関する重要参考人として、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの身柄を引き渡してもらいたい」

 

「ここはアルゼナルです。アルゼナルはローゼンブルム王国の管理下にあります。ノーマ根絶法をなんかを使うつもりでしたら、ローゼンブルム王国を説き伏せる事ですね」

 

ミスルギ皇国がアンジュ達にした仕打ちはジル司令も知っている。みすみす殺させる為に送り渡すはずなかろう。すると使者の表情が一気に険しくなる。

 

「ノーマ風情が。調子にのるなよ」

 

「すみませんね。ノーマなもので」

 

「・・・ローゼンブルムを説き伏せろと言ったな。その言葉、忘れるなよ」

 

そう吐き捨てると、ミスルギ皇国の使者は唾を床に吐き捨て部屋を出て行った。

 

「下衆が」

 

「ったく。なんなんだい一体。傲慢と言うか何と言うか」

 

背後で対談を見守っていたジャスミンとマギーが愚痴を零す。あの使者の態度を一言で言うならば、こちらを見下す、傲慢の一言に尽きた。

 

「だからこそ、我々は行わなければならないんだ。リベルタスをな」

 

そう言うとジル司令は、手元のタバコに火をつけ一服した。

 

 

 

その頃、ナオミは発着デッキでグレイブに搭乗していだ。そして無線機で必死にオメガとコンタクトを取ろうとしていた。

 

「シルフィー!応答して!シルフィー!」

 

「・・・」

 

無線機からは物音一つ聴こえてこない。それでも

ナオミは諦めずに通信を送り続ける。

 

(お願い。出て、シルフィー!)

 

「・・・・・・・・・ナオミ」

 

やがて通信機からは、今にも消えてしまいそうなか細いシルフィー声が聞こえた。

 

「シルフィー!シルフィー!!お願い!帰ってきて!ちゃんと話せば、みんなだって分かってくれるよ!!だから!」

 

「もう連絡するな」

 

「えっ?」

 

「私は・・・もう私じゃない・・・」

 

その言葉を最後に、通信は断絶した。通信機からはもう何も聞こえてこなくなった。

 

気がつくとナオミは一人、部屋へと戻っていた。そこには数日前までは確かにあった色が完全に消え失せている。ベットに横たわり、そこで違和感を覚えた。妙に広いのだ。その違和感の答えは直ぐに判明する。

 

(そうか。確かこれまで、シルフィーと一つのベットを共有してたんだ。だからこんなににも広く・・・もう、会えないのかな・・・)

 

「・・・食堂に行こう。何か、食べないと」

 

重い身体を引きずり、彼女は部屋を後にした。

 

食堂内。ここは普段人が一番集まる場所と言ってもいい。だからここの人達の雰囲気がアルゼナルでの雰囲気となる。はっきり言って雰囲気は最悪である。

 

特に第一中隊の立場はかなり危うくなっていた。

二人がアルゼナルを脱走。一人はアルゼナルを追放。

これらの問題によってかなり肩身の狭い状態になってしまったのだ。

 

一人テーブルの外れで食事をしていたナオミ。それらも終わりプレートを片付けるためとあるテーブルを通った際、第二中隊と第三中隊の隊長同士の会話が聞こえてきた。

 

「第一中隊も大変だな。二人も脱走兵を出したばかりかあんな化け物がいただなんて」

 

「あぁ。全く怖いな。化け物と同じ屋根の下で寝食を共にしてただなんて。考えただけで背筋が冷たくなるよ」

 

「・・・うるさいよ。少し静かにして」

 

「ん?あんたは確か第一中隊のメンバーか。あんたらも大変だったな。脱走者は出るは化け物がいたはで」

 

その発言がナオミの中の何かのスイッチ押した。

感情が理性を押しのけた。

 

「化け物化け物って、シルフィーが・・・シルフィーが一体何をしたっていうの!?」

 

大声によって食堂中の視線がナオミへと向けられる。

 

「彼女は私達と戦ってきた!信頼できるのに!それを化け物化け物って!」

 

「それは解ってる。でもな。一緒に戦ってきたとか、信頼できるとか。それはあんたらの理屈だ。

こっちからしたらあいつは化け物。それで十分なんだよ」

 

「!!」

 

「何処に行くんだい?」

 

「一人になりたい。少なくても今、私は貴女達と居たくない」

 

「じゃあ早く消えてくれ」

 

「この際はっきりと言おう。死の第一中隊。普段の態度から薄れがちだが、そんな物騒な呼び名のついてる部隊のメンバーと一緒にいたら、こっちに死が移りそうで迷惑なんだよ」

 

二人に睨むような視線を向けた後、ナオミは黙って食堂を出て行った。そしてその様子を遠目から見ていた第一中隊。

 

「荒れてるわね。ナオミちゃん」

 

「無理もないわ。ココとミランダが死んでからは、彼女と一番仲が良かったんだし・・・」

 

「大体あいつのあの変化。一体何なんだよ。ヒルダや痛姫サマの件で叩かれるならまだしも、うちらだって知らないっての。あんな変化」

 

「そいつらの名前。口にしないで」

 

「わ、悪ぃ」

 

「でもナオミの言い分もわかるなぁ。だってシルフィー。現に私達に何もしてないじゃん」

 

「・・・何かあってからじゃ遅いのよ。それじゃあ手遅れなのよ・・・」

 

そう言うとサリアは立ち上がり、食事プレートを

片付けて食堂を後にした。

 

「今日の隊長。どこか元気がなかったな」

 

第一中隊のメンバーが思い思いの中、食事を続けた。

 

 

 

 

 

その頃サリアはアルゼナルの外へと出た。そこで野に咲く花を摘んでいた。するとそこに幼年部の幼女達と先生がやってきた。

 

「あーサリアお姉さまだ。サリアお姉さまに敬礼」

 

幼年部の子達とその先生がサリアに敬礼する。サリアもそれに敬礼し返す。すると幼年部の子供達ははしゃぎ始めた。

 

綺麗とかかっこいいとか色々だった。その中でサリアが一番心に響いた言葉があった。

 

「私も将来、サリアお姉さまみたいになるんだ」

 

この言葉であった。サリアはその言葉に昔を思い出す。

 

「私もお姉さまみたいになる」

 

まだサリアが幼年部にいた頃。ある人物に憧れての言葉だった。

 

サリアは先程摘んだ花を持ってある人のお墓へと向かう。そこにはメイもいた。

 

「これ。お姉さんに」

 

「毎年ありがとう。サリア」

 

二人でお墓に手を合わせる。

 

「・・・ねぇメイ。さっきサリアお姉さまって言われちゃったよ。私。もうそんな歳かな?」

 

「まだ17じゃん」

 

「もう17よ。同い年になっちゃった・・・

アレクトラと」

 

サリアは十年前の事を思い出す。

 

十年前、アレクトラの乗ったヴィルキスが帰還した。煙が吹き出ておりどう見ても死にかけの危険な状態であった。

 

「マギー鎮痛剤だ!あとありったけの包帯も持ってきな!」

 

当時総司令だったジャスミンが手当てのために

それらをマギーに要求する。

 

「あれ・・・お姉さまの機体」

 

サリアは窓からそれを見ていた。

 

「アレクトラ!?一体何があった!?」

 

「みんな・・・みんなが・・・そうだ。フェイリンから、メイに伝言が・・・三番目の引き出しの二重底に、一族の伝承が・・・」

 

「馬鹿!そんな話は後にしろ!」

 

「ごめんジャスミン。みんな・・・死んじゃった。フェイリンも、バネッサも、騎士の一族も・・・

私じゃ使えなかった・・・ヴィルキスを・・・

私じゃ・・・ダメだった」

 

「そんな事ないよ!!」

 

寝間着姿のまま、サリアとメイが降りてきて、アレクトラの前に立つ。

 

「お姉さまは強くて綺麗でかっこいいもん!ダメなんかじゃないもん!」

 

「サリ・・・ア」

 

「一体どんなドラゴンだったの?大きさは!?硬さは!?私!許さない!お姉さまをこんな風にして!私が仇をとってみせるよ!」

 

最初こそ驚いた顔をしていたアレクトラだが、やがてやがて優しい笑顔となり、残された左手でサリアの頭を撫でた。そして一言。

 

「期待してるわよ・・・サリア」

 

これが十年前に起きた出来事である。

 

 

 

「・・・覚えてないや」

 

「無理ないわ。まだ三歳だったもの」

 

「でも、一族の・・・お姉のの意思は受け継いだよ。ヴィルキスと共に世界を解放する。お姉の分

まで・・・」

 

自分の姉の眠る墓。それを眺めた後、メイは隣にいるサリアの方を向いた。

 

「サリアはライダーとしてアレク・・・じゃなかった、ジルの分まで戦うんだよね?」

 

サリアは思い出していた。今日、アンジュがヴィルキスを没収された以上、自分がヴィルキスを使うべきだと進言した時の事を。ジル司令はその進言を

一蹴した。

 

「なんで!?私はヴィルキスを使えるように頑張ってきたのに・・・なのになんで!?」

 

その時のジル司令の言葉が鮮明に脳裏をよぎる。

 

「どんなに頑張っても、できない奴には出来ないんだ。それがわからないやつは・・・こうなるぞ」

 

ジル司令は右腕を見せた。義手である右手を。

 

「私に・・・私になにが足りないの!?」

 

サリアがそう言う。それにジル司令はタバコの煙を出すとこう言った。

 

「私達・・・にだ」

 

(じゃあ、アンジュには何があるの?)

 

サリアは発着デッキに置かれたヴィルキスをじっと見つめていた。ジル司令の態度を見るに、いずれ

アンジュに再びヴィルキスを託すつもりなのだろう。

 

(アンジュにヴィルキスは渡さない・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、シルフィーが墜落した島。ナオミとの通信が終わったシルフィーの手には、オメガのコントロールユニットが握られていた。

 

【ポチャ】

 

大きく振りかぶり、投げ捨てたそれは海水面に波紋をつくり、海の底へと沈んでいった。これでオメガはただの鉄屑へと成り果てる。次に自分の着ていたライダースーツを手で引きちぎった。それらは風に乗り宙に舞い散った。

 

(これで昔に戻った。シルフィーになる前の自分に・・・)

 

彼女は全裸となった状態で、行く当てもなく島を彷徨い続けた。やがて小山の様な場所の頂上倒れ込む。すぐ側には崖と谷があるなど本来なら直ぐにでも離れたい場所である。

 

だが彼女は動かない。黙ってそこに倒れこんだままである。その瞳からは一度は尽きたはずの涙が溢れていた。

 

(全部、勝手に期待してたんだ、私。みんなは私を受け入れてくれると思って、勝手に・・・こんな事なら、初めからアルゼナルなんか、行くんじゃなかった・・・初めから誰とも、出会うんじゃなかった)

 

不意に背後から足音がした。シルフィーは何一つの反応を示さない。

 

足音の主は横たわるシルフィーの隣に佇んだ後、その身をしゃがめた。そこにはシオンが現れた。彼は倒れ伏しているシルフィーの顔を覗き込んだ。

 

「いいのか?こんな所でふて寝なんかしてて」

 

「・・・」

 

「仲間を失った事がそんなに辛いのか?」

 

「・・・」

 

「別に何も失っていないと思うけどな。俺は」

 

「・・・」

 

「・・・はぁ。ここでリタイアしちまうのか。お前は」

 

「・・・」

 

「・・・ならばこれもお前には不要だな」

 

そう言うとシオンはシルフィーの髪を鷲掴みにした。そこにはナオミがシルフィーにあげたヘアゴムであった。

 

次の瞬間、シオンはそれを側にあった谷底へと投げ捨てる。ヘアゴムはゆっくりと暗く深い谷底へと落ちていった。

 

「今のお前とはもう出会う事はないだろう。じゃあな、負け犬」

 

そう言い残し、シオンはその場から姿を消した。シルフィーは一切の反応を示さずに黙って虚空を見つめていた。

 

その頃、浜辺ではオメガを囲むようにフリード達が集まっていた。シオンは彼等の前に姿を現わす。

 

「やり過ぎだぞ、シオン」

 

「・・・仕方ないんだ。身体の怪我や傷ならカリスの力とかで治す事が出来る。でも、心だけは、自分自身でしか治せないんだ」

 

「シルフィー。ここで終わっちゃうのかな・・・」

 

ミリィの一言に皆がやがてシオンがフードを目深に被り、その場から背を向けた。

 

「何処に行くんですか?」

 

「用意だけはしておく」

 

「何のだ?」

 

「・・・あいつは絶対立ち上がる。こんな所で終わるような奴じゃない。だからその時、戻るにしろ、合流するにしろ、きっとオメガが必要になる。だから行ってくる・・・名もなき島に」

 

そう言い残し、シオンはその場から消えた。フリード達は黙って彼の消えた場所を眺めていた。残された五人は同じ事を考えていた。

 

(・・・戻すのだな。オメガを)




アンケートの結果、ドラゴンルートが一番多かったのでそれを採用することにしました。アンケートにご協力いただき、誠にありがとうございました。

第5章から本格的にオリジナルな部分が原作に絡んできます。ぶっ飛んだ設定も出てきます。より一層、楽しめる作品を手がけていきたいと思いますので、今後とも、この作品をよろしくお願いします!


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第34話 竜の歌

 

 

反省房。ここにアンジュとヒルダが収監されてから今日で7日目である。現在二人は、とある事に苦しんでいた。体臭である。はっきり言って二人とも

洗っていない野良犬の匂いである。

 

「贅沢言わないから、せめて水浴びさせて・・・」

 

アンジュが独り言を呟く。

 

その頃、司令部ではジル司令がある人物と話していた。

 

「エマ監察官。職場復帰おめでとうございます」

 

「ええ。お陰で体調は万全になりました」

 

エマ監察官は、アンジュが脱走した日から今日までなんとずっと寝込んでいたのだ。その為第4章から今回までの出来事は一切知らない。

 

そんな時であった。突然司令部に警報が鳴り響いた。オペレーターの三人が事態を確認する。

 

「シンギュラー反応です!」

 

「何ですって!?電話は来てないのに!」

 

普段はシンギュラーの反応が起きた場合、電話がアルゼナルへとかけられる。しかし今回はその電話なくシンギュラー反応が発生したのだ。

 

「シンギュラーポイントの場所は!?」

 

「それが・・・アルゼナル上空です!!」

 

次の瞬間、アルゼナル上空にシンギュラーが開かれた。

 

「数確認!スクーナー級!37!84!258!!

敵多数により計測不能です!」

 

ジル司令が基地の無線を全て開いた。

 

「総員聞け!第一種戦闘態勢を発令する!シンギュラーが基地上空に展開した。大量のドラゴンが現在降下中だ!パラメイル第二第三中隊は全機発進!」

 

「アルゼナル内部の者は白兵戦用意!対空火器、

銃火器の使用を許可する!総力を持ってドラゴンを殲滅せよ!これは、ドラゴン最大の侵略だ!!」

 

慌てて全員が備えられていた銃などを装備する。

基地の設備などで弾幕を張れる機銃なども展開された。

 

エマ監察官も動揺しながらもオペレーターから銃を受け取る。

 

するとスクーナー級の一体が司令室へと突っ込んできた。オペレーターの三人は退避する。

ドラゴンが威嚇のつもりか咆哮をあげる。

 

その時だった。

 

「悪い奴!死んじゃえ!」

 

次の瞬間、エマ監察官は手にした銃をドラゴンに

向けて乱射する。オペレーター達はその場に伏せた。エマ監察官は錯乱状態であった。ジル司令が義手の方でエマ監察官の首をチョップする。エマ監察官は気を失った。

 

その後ジル司令がドラゴンにとどめの一撃を撃つ。ドラゴンは動かなくなった。

 

しかし先程のドラゴンが突っ込んできた影響で、

通信機とレーダーが働かなくなってしまった。

 

「現時刻を持って司令部を破棄する!以降、通信は臨時司令部で行う」

 

「イエス!マム!」

 

 

 

 

発着デッキでは、第一中隊は戦力の都合上、後方待機となっていた。皆がアサルトライフルなどを手にし、内部に侵入しようとするドラゴンを撃っていた。

 

「だいぶ数は減ったんじゃないかしら?」

 

「エレノア隊とベティ隊に感謝ね」

 

「ちっきしょう。折角の稼ぎ時だってのに」

 

その時であった。彼女達の耳に信じられないものが聞こえてきた。

 

「〜♪」

 

「なにこれ・・・歌?」

 

そう。歌である、こんな戦場で歌が聞こえてきたのだ。ドラゴン達はその歌を聴くと突然撤退を開始したのだ。何の歌か、全くわからない。しかし、ナオミにだけは心当たりがあった。

 

「この歌。確か前にシルフィーが歌ってた・・・」

 

「・・・!おい!あれは!?」

 

第二第三中隊の視線の先。シンギュラーの穴からそれは降りてきた。その見た目はどう見てもドラゴンなどではなかった。赤いボディのそれの見た目は

パラメイルだ。パラメイルが三機いたのだ。

 

「何あれ・・・」

 

「何処の機体だ!?」

 

第二第三中隊のライダー達は皆動揺していた。パラメイルがシンギュラーから現れたのだ。しかも歌を歌って。

 

するとそのパラメイルのボディが金色に輝きだし、両肩の部分が開かれた。金色へと変わったパラメイルの両肩から放たれた光は、第二第三中隊のパラメイルを巻き込み、アルゼナルへと直撃した。

 

発着デッキが激しく揺れる。

 

「・・・・・・!!これは!?」

 

サリアが外を見た。なんとアルゼナルは先程の攻撃でその面積の半分近くが破壊されたのだ。

 

「おっおい。今の・・・なんだよ」

 

「嘘・・・アルゼナルが・・・」

 

皆がその目を疑った。つい先ほどまでそこにあったはずの施設が一瞬にして吹き飛んだのだ。臨時司令部もこれには動揺を隠す事が出来なかった。

 

「先程の攻撃で第二中隊、全機ロスト!!第三中隊は隊長含む四名がロスト・・・アルゼナルにも被害が!!」

 

しかし絶望はこれだけではなかった。

 

「これは!?ドラゴンの増援反応を確認!モニターに写します!!」

 

モニターに映し出されたドラゴン達。それらの体色は皆黒色であった。それだけではない。黒のドラゴンの先頭には、こちらも謎のパラメイルが存在していた。その数なんと四機。

 

黒いドラゴン達の数も先程のスクーナー級の比ではない。さらにブリック級にガレオン級。フリゲート級までもがいた。

 

普段のスクーナー級も再び降下してきた。おそらくあれの巻き添えを喰らわないためにあえて一旦下がっていたのだろう。残された第三中隊の数機が迎撃にあたるが、最早戦いにならず、弱腰であった。

 

 

 

その頃、アルゼナルの反省房では。

 

「何よ今の光!それにさっきの揺れは!?」

 

「!!伏せろ!」

 

反省房の外壁を突き破り、スクーナー級のドラゴンが入ってきた。衝突した影響か、そのドラゴンは既に生き絶えていた。

 

「アンジュリーゼ様!ご無事ですか!?」

 

入り口にモモカさんがやってきた。鉄格子は先程

ドラゴンが突き破り、自由に出入り出来る様に

なっていた。

 

「モモカ!?」

 

「うっ!」

 

二人を見たモモカさんが顔を顰め、鼻をつまんだ。かなり臭いらしい。

 

「モモカ!一体何が起きたの!?」

 

「わかりません!ですが、ドラゴンが攻めてきたと・・・」

 

「とりあえず発着デッキだ!そこに行けばなんかわかるだろ!」

 

「そうね。早く行きましょう」

 

「ああっ!その前にお風呂に!」

 

「・・・それもそうね」

 

モモカの提案にアンジュがのった。

 

「そんな事してる場合じゃないだろ!」

 

そしてすぐにヒルダにつっこまれた。こうして三人は発着デッキを目指して走り出した。

 

その頃、臨時司令部ではジル司令がサリアに通信を送っていた。

 

「サリア。現時刻を持って、残されたパラメイルの指揮系統をお前に集める。残存する勢力を纏め上げ、ドラゴン共を殲滅せよ!そして現時刻をもってアンジュ、ヒルダのニ名を機体と共に第一中隊に

復帰させる」

 

「なんでアンジュを復帰させるんですか!」

 

「ヴィルキス無しでこの状況の打開は不可能だ。

お前達も早く出撃しろ」

 

「だったら!私がヴィルキスで出るわ!それなら!」

 

「黙れ。今は命令を実行しろ」

 

「・・・私じゃ・・・ダメなの?・・・」

 

サリアが呟く。

 

「ずっと・・・貴女の力になりたいと思ってたのに・・・なのにアンジュなの・・・アンジュなんて!ちょっと操縦が上手くて器用なだけじゃない!命令違反して!脱走して!!反省房送りなのに!!!なのに!それなのにアンジュなの!?」

 

「そうだ」

 

何の躊躇いも戸惑いもなく放たれた一言。その一言によって、サリアの中にあった何かが粉々に砕け散るのを感じた。

 

「・・・馬鹿にして!」

 

そう言うとサリアがアーキバスを降りた。ある機体へと向かうため・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルゼナルがドラゴンの侵略を受けた時と同じく、こちらはシルフィー。この数日のうちに彼女の身体はやせ細っていた。その見た目は骨と皮だけと言っても差し支えないほどに衰えていた。

 

「・・・これは?・・・」

 

横たわる彼女の頭に何かが浮かび上がってきた。それはこれまでのアルゼナルでの生活場面であった。

 

(これが走馬灯か・・・えっ!?)

 

走馬灯を見ているうちに、彼女はその異変に気がついた。初めてナオミとあった時のこと。皆で風呂に入った事。フェスタでの出来事。それらが鮮明に思い出された。

 

ある一点を除いて。

 

(おかしい!おかしい!!おかしい!!!だって・・・だって、数日前まで、確かに一緒に生活してた!してたはず!なのに・・・なのに!)

 

「みんなの顔が・・・思い出せない・・・」

 

彼女の脳裏に浮かんだシーン。それらの顔には全て靄がかかったかのように顔が一切思い出せなかった。まるで、思い出が無くなったかのように。

 

ふと髪を触る。そこには普段あったものが無くなっていた。ナオミがくれた大切なものが。

 

(ヘアゴム。似合うかなと思って)

 

(ならばこれもお前には不要だな)

 

「・・・嫌だ・・・嫌だ。嫌だ!お願いだ!失くならないでくれ!大切な物なんだ!友達がくれた、とても大切な!」

 

重い身体を引きずり、這うように谷底へと転がり落ちてゆく。数十メートル程転がり落ちただろう。全身傷だらけとなりながらも、決して動きを止めなかった。地面に這いつくばりながら、必死に宝物を探し続けた。

 

「探し物はこれか?」

 

背後から声がした。振り返るとそこにはシオンがいた。その手にはヘアゴムが握られていた。

 

「大切なものなら、もう失くすんじゃないぞ」

 

そう言うとシオンは彼女の髪を縛った。縛り終えると今度は何かを手渡した。それは黒装束であった。

 

「まずは着替えろ。背後を向いててやる」

 

数分後。

 

「結構似合うじゃないか」

 

「下がスースーするんだけど」

 

「我慢しろ。その服は正装だぞ。まず初めに飲め。

そして食え。もう一週間も飲まず食わずだろ?」

 

そう言うと水と骨つき肉を手渡した。彼女にとっては数日ぶりの飲食であだだ。彼女は腹を空かせた野良犬の様に喰いついた。シオンは何も言わずに、食べ終わるまで見守っていた。

 

「エセルが島で言った事。覚えているか?あの時お前は、俺たちと一緒に歩く道を蹴飛ばしやがった。なんでだ?」

 

「それは・・・」

 

「名もなき島で俺はお前を見てた。はっきり言って、ケツの青い三流以下だった。ただ腹が膨れて、喉が潤せて、そして寝床があれば他の事はどうでもいい。そんな人間だった」

 

「そんなお前が、あの時、俺たちと行く道ではなくアルゼナルの道を選んだ。理由は俺たちの事が信用できない。それだけじゃないはずだ。お前の中の大切な何かが、お前を動かしたんじゃないのか?」

 

「・・・」

 

「本当に大切なものは、自分から捨てない限り失くなったりはしない。かつて、俺の先生が教えてくれた言葉だ」

 

「お前は捨てたのか?自分の大切なものを。失いたくないものを全部・・・その手で」

 

(ちゃんと話せば、みんなだってわかってくれるよ!!だから!)

 

最後に話したナオミとの会話が言った言葉が脳裏をよぎる。

 

「・・・・・・私、話し合ってみるよ。自分の事」

 

その言葉を聞いたシオンの顔には安堵の笑みが浮かんでいた。

 

「仮免は卒業だ。これを持っていけ」

 

そう言いながらシオンは右手首に何かを装着させた。それは一見デジタル腕時計の様にも見えた。

表面には何かのプレートが差し込まれていた。

 

「スマッシュメモリー。もし有事の際にはこのプレートをコントロールユニットの蓋を外した箇所に

差し込め。そうすれば使い方は理解できる。ただし本当に有事の際限定だ。普段は差し込むのを控えろ」

 

「それとこれ。もう失くすんじゃないぞ」

 

そういうと左手に、オメガのコントロールユニットをしっかりと握らせた。

 

「それじゃあついて来い」

 

谷底の奥をしばらく歩いていると、砂浜へと辿り着いた。フリード達がいた。その背後にはオメガがあった。だが、それは彼女の知るオメガではなかった。しかし、それでいてどこか懐かしさも感じた。

 

「これは?」

 

「お前が自暴自棄になっていた間にこちらで一通りの改修作業を行った。基本装備はナイフとガトリングからビーム兵器に変更。主な武装はムラマサブラスター。平たく言えば銃剣だ。他にも様々な兵装を搭載している。これなら今後の戦いも渡り合っていけるはずだ」

 

「・・・貴方達。一体何者・・・なの?」

 

「以前言っただろ?答えを急ぐ必要はない。いずれ、全てがわかる時がくる。それより早く乗り込め。相棒が待ってるぞ」

 

「相棒?それって一体・・・」

 

「行けばわかる」

 

言われた通りコックピットに乗り込み、オメガのコントロールユニットを差し込む。モニターなどに光がともった。

 

その時である。

 

「久しぶりだな」

 

「!!誰!?」

 

突然謎の聞こえてきた。辺りを見回すが声の主が何処にいるかが分からない。シオン達を見たが首を横に振っている。

 

「誰!?一体何処にいるの!?」

 

「お前の尻の下だ」

 

慌てて飛び起き確認する。そこにはシートが敷かれているだけで特に人の気配は感じ取れなかった。

 

「言い方が悪かったな。私は今、お前が乗っている存在だ」

 

その言葉に一つの結論へと辿り着いた。

 

「まさか・・・オメガ!?」

 

「そうだ。デウス・エクス・マキナ・タイプ・オメガ。正式名称は機械生命体第一号。

DEUS EX MACHINA tyep Ωだ」

 

数秒の沈黙がその場を包んだ。

 

「・・・オメガが喋ったぁッ!!!??」

 

「何を驚く事がある。お前だって普通に喋っているではないか」

 

「え・・・で、でも!なんで!?話して、て、鉄が、鉄の塊が」

 

「何がおかしい。お前だって水とタンパク質の塊のくせに話せているだろう。何も驚く事はない。そんな事より、こんな所で油を売っている暇があるのか?現在アルゼナルは、ドラゴンに襲われているぞ」

 

「なんだって!?」

 

その言葉に動揺した思考を落ち着け、整理する。

一呼吸置いて、ハンドルを握りしめる。

 

「アルゼナルの道順を私は覚えている。お前は私の指示したルート通りに私を動かせ」

 

「・・・なんか妙に偉そうね」

 

「一つだけ言っておく。お前は私をより正確に動かす為の生体パーツだ。もし不甲斐ない動きを一瞬でも見せたら戦場だろうと空中だろうとコックピットから放り出す。本来私が乗せるべき相手はマスターなのだからな」

 

「そのマスターって誰の事?」

 

「その質問には答えん。では行くぞ」

 

そう言うとオメガは飛翔ではなく、地面を走行し始めた。砂浜を抜け、海の中へと潜り、数秒後に浮上した。

 

「少しは臭いはマシになったな」

 

次の瞬間、オメガは飛び立った。その速度はこれまでのオメガと比較しても、かなりのものであった。機体はアルゼナルを目指し、飛び立った。

 

シオン達は機影が消えるその時まで、黙ってオメガを見続けた。機影が消えた頃、六人はその場にしゃがみ込んだ。やがてフリードがシオンに話を振る。

 

「後悔しているのか?オメガを起動させたことに」

 

「・・・」

 

「それとも、自分の言った言葉に後悔してるのか?自分自身を騙すために」

 

「・・・そうなのかも・・・な」

 

「あの様子だと、時期に記憶を思い出すだろう。どうする?また封印するつもりか?あの子の記憶を」

 

「・・・そのつもりはない。そのつもりは・・・」

 

「・・・シオン。アルゼナルを襲撃してるドラゴンだけど、その中に黒の部隊が現れたらしい。しかも、例の機体も連れて・・・」

 

「龍神器・・・か」

 

シオンは暫くの間何かを考えていたが、やがて意を決した風に立ち上がった。

 

「私も出よう」

 

そう言うとシオンは右手を宙にかざした。次の瞬間、突然シオンの目の前に巨体が現れ、降り立った。それをシオンはじっと眺め、一言呟いた。

 

「久しぶりに力を貸してもらうぞ。DEM・tyep・ν(ニュー)




機械生命体第一号のオメガに関してはTFの様な自ら考え行動する超ロボット生命体として捉えてください。そして遂にシオンのDEMも登場だけはさせれました。

尚、ドラゴン側の機体についてはこの段階ではまだ秘密にしておきます。次回辺り少し辺り特徴を出す程度です。

この回の時点では、敵の正体がまだ不明な為、どう書くか悩むんだよなぁ。


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第35話 二つの永遠語り

 

 

アンジュとヒルダがパイロットスーツに着替え発着デッキにたどり着いた。そしてそこで、アンジュはある事に気がつく。

 

「ない!ヴィルキスがない!」

 

そう。ヴィルキスの姿がどこにも無いのだ。

 

「まさか吹っ飛んじまったのか?」

 

「違う!サリアが!」

 

メイが銃を持ちながら指差した。

 

実はサリアはあの後アーキバスからヴィルキスに乗り換えて、発進したのだ。それも第一中隊の戦うドラゴン達ではなく、謎の機体の方へと向かって行ったのだ。

 

「おいサリア!何をしている!!降りろ!命令違反だぞ!!」

 

「黙ってて!わかってないなら見せてあげる!」

 

サリアは10年前を思い出す。アレクトラの仇を討つといった自分を。その言葉で自信を奮い立たせる。

 

「私が使う・・・アレクトラの代わりに!!」

 

「・・・馬鹿が」

 

ジル司令は吐き捨てる様に呟いた。

 

 

 

サリアは例の機体へとヴィルキスを駆る。しかし今のヴィルキスは、素人目にもわかるくらい、動きが悪かった。

 

「なんで!?アンジュが乗ってた時の性能はこんなものじゃなかったはずよ!もっと!もっと早く動けるでしょ!?ヴィルキス!」

 

しかしそんなサリアを嘲笑うかの様に、ヴィルキスの速度は一向に上がらない。

 

「どうして!?アンジュが乗ってた時はもっとあったはず!なのになんで!?」

 

「サリア!!」

 

そこにアンジュ達がやってきた。現在アンジュは、ヒルダのグレイブに相乗りする形となっている。

 

「サリア!私の機体を返して!あいつらの相手は私がする!」

 

「ふざけないで!これは私のヴィルキスよ!」

 

「サリア!」

 

サリアは頑なにヴィルキスで戦おうとしている。

そこにスクーナー級ドラゴンが一体現れた。

 

今のヴィルキスではスクーナー級にさえ敵わない。ヒルダがサリアを助けるために援護射撃をする。ドラゴンに命中すると、海へと落ちていった。機体を上昇させようにも、一向に上昇しない。その事にサリアは余計困惑する。

 

「なんで!?私は誰よりも頑張ってきたのに!なのになんで!?」

 

(どんなに頑張っても、できない奴には出来ないんだ)

 

ジル司令の言葉が頭をよぎった。頭を振り、必死でそれを否定する。そうしている間も、ヴィルキスは海面めがけて落ちていく。

 

その時、意を決した風にアンジュがヒルダに頼み込んだ。

 

「ヒルダ!機体を寄せて!飛び移る!」

 

「はぁ!?・・・まぁ、あんたらしいか」

 

アンジュの考えにヒルダが驚くが、すぐに機体を

ヴィルキスの方へと寄せる。

 

サリアは機体を上昇させようとするが、機体は上がらない。

 

「どうして!?どうして動いてくれないの!?ヴィルキス!動かないと・・・大好きなアレクトラの役に・・・立てなくなっちゃう・・・」

 

その時、アンジュがヴィルキスに飛び移った。サリアの背後に座り、機体を立て直そうとハンドルを

上昇させる。

 

「無理よ・・・落下限界点を超えてるわ・・・後は落ちるだけ」

 

「無理じゃないわ!この機体なら!」

 

するとヴィルキスのモニターの数値が急上昇した。それはまるで今まで寝ていたヴィルキスが、アンジュの操作で覚醒した風にも見えた。ヴィルキスは海中へと落下した。だが次の瞬間、ヴィルキスは浮上した。

 

「さっぱりしたわ。さて」

 

アンジュはサリアの体を持ちあげた。

 

「ひゃっ!何する気!?」

 

「ヒルダ!落とすから受け取って!」

 

次の瞬間、サリアの体は空中に投げ出された。

 

「はぁっ!?ちっ。別料金だぞ!バカ姫!」

 

そう言いながら、ヒルダがサリアを回収する。

 

「さてと、あとはあの機体ね!」

 

アンジュの視線の先には、アルゼナルを破壊した

機体。そしてそれを守るかのように佇む二つの機体。すると先程までシンギュラーポイント付近で

傍観していた黒いドラゴン達が、戦闘に加わった。

 

第一中隊もアンジュと合流し、戦闘を開始する。

 

「こいつら!うじゃうじゃと湧いて出て!!」

 

その時、一筋の赤い粒子がドラゴンの身体を貫いた。そして、第一中隊に通信が送られてきた。

 

「すまない。遅くなった」

 

「!!」

 

この声の主を皆は知っていた。少し奥に、ある機体が見える。背中にX字の四枚羽がついている。白いボディが皮膚に。そして赤いボディラインが人間の血管の様に見える機体。オメガだ。

 

「シルフィー!?シルフィーなの!?」

 

「えぇ。これより戦線に参加する」

 

すると第一中隊を襲っていた黒いドラゴン達が急に踵を返し始めた。そして一目散にオメガへと向かって行った。まるで誘蛾灯に集まる蛾の様に。

 

「成る程。お前はトカゲの害虫に愛されてるらしいな」

 

オメガが皮肉を言い出した。

 

「あまり嬉しくない事ね」

 

「来るぞ!ムラマサブラスターの全セーフティを

解除しろ!」

 

「了解!」

 

するとムラマサブラスターの刀身全体が紅く輝いた。高粒子の集合体が集まり、一つの刃を複数個

形成される。

 

「これでぇぇぇッ!!!」

 

その刀身での一薙ぎは、囲んでいた大量のドラゴンの身体にいとも簡単に喰い込み、そして切り裂いた。

 

「よし!この勢いに乗るぞ!!」

 

このチャンスに乗じ、ヒルダ達第一中隊のメンバーも、ドラゴン達を押し返し始めた。しかし、開始時点での物量の差が出ていた為、残されたドラゴン達も、今の彼女達にはあまりにも巨大な数であった。

 

【ビーッ!】

 

オメガのコックピットに警告音が鳴り響いた。それはメイン武装である、ムラマサブラスターのエネルギー残量の低下を意味していた。

 

(有事の際にだけ使え)

 

シオンの言葉が脳裏をよぎる。左手首を見ると、

シオンから受け取ったプレートはそこにあった

 

彼女はプレートを取り出し、コントロールユニットの蓋を取り外した。そこには何かを差し込む溝があった。

 

それを差し込んだ瞬間、彼女の頭に何かがフラッシュバックした。まるで、昔の友達と出会った時の様な、懐かしい感覚が。

 

「この感覚・・・」

 

するとオメガが冷淡な口調で話しかけてきた。

 

「戦い方を思い出したか?人間」

 

「・・・オメガ」

 

「なんだ?」

 

「後であんたには聞きたいことがある。だから、

それを聞く為に・・・」

 

「今は私に、力を貸せ!」

 

そう言う彼女の瞳には、火が灯されていた。二つの紅色の瞳の奥で、一つに合わさった炎が揺らめいている。

 

「ふっ、よかろう!」

 

《COMPLETE》

 

無機質な機械音声がコックピットに響いた。邪魔となるムラマサを投げ捨てる。すると背中の四枚羽が突然パージされた。その内二つは両腕に。残りの

二つは両足へと装備された。

 

そして、白いボディは黒色へ、ボディラインの赤は銀へと変化した。

 

すると両手と両足を包む様に、高粒子が形成された。これらの指し示す事は一つ。肉弾戦である。

 

「色が変わった!?」

 

驚く第一中隊を他所に、シルフィーは目を閉じて何かを感じていたが、カッとやがて目を見開いた。

 

「行くぞ」

 

プレートをより深く差し込む。すると無機質な音声と共にモニターにある文字が表示された。

 

《START UP》

 

そして次の瞬間、オメガの姿はその場から消えた。

 

消えた次の瞬間、突然数十体のドラゴンが爆発を起こした。それに続くかの様に、次々とドラゴン達は爆発を起こし始めた。

 

「な、なんだ・・・何が起きてんだ」

 

第一中隊もこれには動揺を隠せなかった。そしてその時、彼女達は見た。ガレオン級の身体全体に、

紅い円錐体の様な物が突き刺さった姿を。そして、その中目掛けて突き進む黒銀の残像を確かに見た。

 

「黒銀の、閃光・・・」

 

《THREE・・・TWO・・・ONE・・・》

 

《TIME,OUT》

 

十秒後、消えた姿のオメガは再び現れた。いや、

消えてなどいない。速すぎで見えなかったのだ。

 

ほんの十秒間の間に、先程まで空を埋め尽くすと

言っても過言ではないドラゴンの総数は、その半分以下まで減っていた。

 

《REFORMATION》

 

その無機質な音声と共にメモリーは弾き出された。オメガの体色は元に戻り、そしてオメガの変化した部品もパージされ、四枚羽へと戻った。

 

「少しだが無駄な動きが多い。次に行う時には精進する事だ」

 

「言われるまでもない」

 

あまりの出来事に焦ったのか、残されたドラゴン達が、一斉に第一中隊へと向かってきた。第一中隊もそれらとぶつかり合うとした。

 

その時であった。突然ドラゴンと第一中隊の間に、一つの機体が割り込んできた。お互いが急ブレーキをかける。

 

「なんだ!?この機体!?」

 

「で、デカイ・・・」

 

すると目の前のそれは変形した。巨大な見た目の

機体は、間違いなくパラメイルの一種であった。

 

だが、その見た目は普通をパラメイルを遥かに超えていた。ざっと見積もっても80mはある。

 

「ドラゴン達に告げる。これ以上の戦闘行為は無意味である。直ぐにシンギュラーから自分達の住処に帰りたまえ。それとも実力の差も理解できずに向かってくる程、知能が衰えてしまったのかな?」

 

「この声、シオンなの!?」

 

声の主であるシオンは拡声器を使い堂々と宣言している。あまりに突然の出来事に、皆が呆然とそれを眺める事しか出来なかった。

 

「賢き者なら帰りたまえ。愚かしき者ならば向かってきたまえ」

 

するとその言葉に反応したのか、一体の黒いガレオン級がν目掛けて突っ込んできた。

 

「成る程。それがお前の返答か!」

 

次の瞬間、νはガレオン級の前から姿を消した。

一瞬にしてガレオン級の背後に回り込むと、両手がビームソードに変化した。その内の片手のソードで、黒いガレオン級の身体を真一文字に切り裂いた。ガレオン級は、ゴミの様に海面へと落ちてゆく。

 

「まじかよ・・・」

 

「ガレオン級を一撃で」

 

「さて、次は誰だ?前に出ろ!」

 

シオンが高らかに宣言した。するとドラゴン達は

そそくさと撤退を開始し始めた。

 

その中で、アルゼナルを破壊した謎の機体は再び歌を歌い始めた。その時、二人は気がついた。謎の

機体の歌う歌に。

 

「この歌・・・永遠語り!?」

 

永遠語り。それはアンジュがかつて母から教えられた歌。そして、シルフィーが垣間見た記憶の中にある歌。

 

「始まりの光 kilari・kirali。終わりの光 lulala・lila」

 

「星に飛ばん el ragna。万里を超えて彼方へ」

 

二人はそれぞれの永遠語りを歌い出す。なぜかは

分からない。だが、二人は歌い続けた。

 

するとアンジュのつけている指輪が突然光り出した。そして指輪が光ると同時に、突然ヴィルキスが金色に輝きだした。まるで歌に。永遠語りに反応

するかの用に。

 

そして、それはアンジュの指輪と同じ様に、シルフィーのつけている腕輪も同じ反応を示していた。

 

それらを第一中隊の皆が見ていた。無論、臨時司令部のジル司令も。

 

「あれは・・・」

 

ヴィルキスの両肩が開かれた。そこには目の前の

機体と同じ物が装備されていた。

 

「なぜ偽りの民が・・・」

 

二人の耳にその様な言葉が響いた。次の瞬間、二機の両肩から放たれたものは光はぶつかり、辺りを光で包み込んだ。

 

 

 

気がつくと二人は未知の空間にいた。ヴィルキスとオメガ。そして謎の機体が向かいあっている。

 

謎の機体のコックピットが開かれる。するとそこから謎の女が現れた。

 

「何故、偽りの民が誠なる星歌を知っている」

 

二人もコックピットを開ける。

 

「あなたこそ何者!?その歌はなに!?」

 

すると周りに様々な映像が映し出された。その映像はアンジュ達が知らないものだった。だが何故か

無関係の映像だとは思えなかった。

 

「時は満ちた・・・」

 

謎の女がそう言う。そして謎の女はシルフィーの方を向いた。

 

「貴女が、リィザーディアの言っていた存在・・・魔の再来だというのか・・・」

 

「魔の再来?なんのこと?」

 

「・・・真実は、アウラと共に」

 

謎の女の言葉と共に、アンジュ達は再び光に包まれた。

 

 

気がつくと二人は、元の空間に戻っていた。

 

ドラゴンと謎のパラメイルはシンギュラーの向こうに帰っていった。

 

そんな中、黒いドラゴン達の方にいた四機は、一度だけこちらを振り返った。そしてオメガとνをじっと眺めたかと思うと、シンギュラーの奥へと消えていった。

 

νもドラゴン達が消えた途端、飛翔形態へと姿を

変え、戦闘中域から即座に撤退した。

 

「なんだったんだよ。今回の戦闘・・・一体、何がどうなってんだよ・・・」

 

皆が呆然と立ち尽くしていた。今回の戦いは、彼女達にとって衝撃が強く、まだ理解が追いついていなかったが、やがてある実感が湧き上がった。

 

戦い抜いた。生き残ったという、確かな実感が。

 

そんな中、オメガがシルフィーに語りかけてきた。

 

「・・・人間。シオンからの通信文書だ」

 

「シオンから?」

 

モニターには、以下の文が表示された。

 

(シルフィー。生きろ。例え今を流れるこの時間が、うたかたの空夢になるとしても、後悔せずに幸せに生きろ)

 

その文章を、シルフィーは黙って見ていた。やがて意を決した風にオメガが語りかけてきた。

 

「・・・人間。あの空間で、一体何を見た?」

 

「・・・」

 

「質問を変えよう。あの空間で、何を思い出した?」

 

「・・・・・・ガハッ!」

 

「!?おい!!人間!!!」

 

突然モニター画面に汚れが付着した。モニター画面の一部が赤く染まる。

 

「シルフィー!?シルフィー!!」

 

慌ててナオミのグレイブが駆け寄った。見ると彼女は意識を失っており、その口からは血が溢れんばかりに流れ、噴き出ていた。口元から垂れ流れる血が、身に纏っている黒装束が赤黒く染めてゆく。

 

「シルフィー!大丈夫!?しっかり!!」

 

「人間!こいつを頼む。私はムラマサブラスターを拾ってくる!直ぐに戻るが、それまでの間、こいつを頼むぞ!」

 

「えっ!?今の誰!?」

 

「オメガだ!」

 

そう言うとオメガはシルフィーを引き渡し、物凄い勢いで海中へと沈んでいった。

 

再び呆然とするナオミ達であったが、シルフィーの再度の吐血によって慌てて発着デッキへと戻っていった。そして、そこには先客がいた。ジル司令が。

 

「そいつをこちらに引き渡せ」

 

「どうするつもり。せっかく帰って来たのに、またアルゼナルから追い出すの」

 

アンジュが睨む様な視線を向けた。

 

「お前達には関係ない」

 

ジル司令は銃口をシルフィーへと向けた。すると

突然オメガが発着デッキに強引に入り込んできた。

その手にはムラマサが握られており、ジル司令へと向けられていた。

 

「彼女は私の生体パーツだ。彼女に危害を加える

存在は私に危害を加える存在と同じだ。手を出した瞬間、お前を全力で破壊する」

 

「貴様。いったい何様のつもりだ?」

 

「オメガ。人は私を機械仕掛けの神と呼んだ事も

あったな」

 

「神・・・だと」

 

その言葉を聞いた途端、ジル司令が露骨に不愉快さを露わにした。

 

「悪いな。私は神を自称する奴が大っ嫌いなんだ」

 

ジル司令の引き金を引く指が強くなる。それに応じるかの様に、オメガも武器のセーフティを解除する。

 

「やめな、ジル」

 

突然後ろにいたマギーがジル司令の銃口を降ろさせた。

 

「私は医者だ。医者として、負傷兵は手当てしようと思ってね。それにこの子。結構な血を流しているじゃないか。実に興奮するよ」

 

そう言うとマギーは担架にシルフィーを乗せ、その場を離れていった。第一中隊もその後に続いていった。その場にはジル司令とオメガだけが残された。オメガはその姿を飛翔形態へと戻した

 

「何も変わってなどいない。私は新たな武装を手にし、彼女は瞳の色が紅色に変色しただけだ。それで良いではないか」

 

「・・・・・・よかろう。アルゼナルも現在かなりの被害を被っている。少しのリスクには目を瞑ろう。だが忘れるな。少しでも不審な行動を見せたその時はお前も、そしてあいつも、覚悟してもらうぞ」

 

会話が終了すると、ジル司令は発着デッキを後にした。発着デッキを、静寂が包み込む。

 

(そうだ。今はこれでいい。今はまだ・・・)

 

オメガはそう言うと、意識ユニットを一時的に閉ざした。

 

ジル司令はその足で外へと出た。彼女の視線の先には、崩壊した施設などが眼に焼き付いていた。今日の戦闘でのヴィルキスの事を思い出す。永遠語りに反応し、金色に輝いたヴィルキスを。

 

(それにしても、最後の鍵が歌とはな・・・)

 

「全く、散々たる有様とはこの事だね」

 

背後から声がした。振り返るとマギーがこちらへと歩いてきた。

 

「マギー。あいつの検査は出来そうか?」

 

「悪いけど、検査はできないね」

 

マギーが真剣な表情で一言だけ呟いた。

 

「・・・プラントがやられた」

 

「!なんだと!?」

 

 

 

その頃、ヴィヴィアンは、一人で部屋へと戻っていた。

 

「うっわぁ!これはひどい!」

 

部屋の入り口は扉ごと抜かれていた。室内も酷いものだ。床には瓦礫の他に、サリアの本やヴィヴィアンの愛用棒突きキャンディーなどが散らばっていたのだ。

 

「まぁ、いっか!」

 

普段から部屋をよく散らかすヴィヴィアンにとって、もはやこの部屋の荒れようなど気にするに値

しなかった様だ。

 

残されたハンモックに横になる。

 

「それにしても、二人の歌。綺麗だった・・・

にゃぁ・・・」

 

そう呟くと、ヴィヴィアンは死んだ様に眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃のローゼンブルム王国。ここはアルゼナルを管理する国だ。現在この国の国王。つまりはミスティ・ローゼンブルムの父親はマナでとある人物と通信をしていた。

 

「一体この様な時間になんのお話ですか?ジュリオ・飛鳥・ミスルギ殿?」

 

「何。少し国王に見て頂きたいものがありまして」

 

「見て頂きたいもの?」

 

「こちらです」

 

ジュリオがマナを展開した。そしてそこに映し出された映像にローゼンブルムは絶句した。

 

映像には、縛られて囚われているミスティの姿が

映し出されていた。

 

「ミスティ!?ジュリオ・飛鳥・ミスルギ!これはどういうことだ!?」

 

「わかりませんか?脅迫ですよ。娘さんの命が惜しかったら、私に従っていただきたい」

 

「・・・何が望みだ」

 

「なに。簡単なことですよ。我が国が行なっている素晴らしい法律。それを一時的にローゼンブルム王国にも取り組んで貰いたいのです」

 

「ふざけているのか!?この行為は我が国への政治介入だぞ!内政干渉も甚い!第一あの様な狂った法律を行うなど、幾ら何でも馬鹿げている!!」

 

「嫌なら別に構いませんよ。その時は娘さんの命はないものと思ってください」

 

「・・・」

 

「一つだけ教えてあげます。兵器を持っているのはアルゼナルだけだとは思わない事ですね」

 

「どういう事だ!?」

 

「今の神聖ミスルギ皇国には、ローゼンブルムを亡き者に出来る力があるという事ですよ。では、明日の開かれる各国マナ会議終了後に、良い返事が聞ける事を願っています。分かっているとは思いますが、この事は他言無用で。もし他人に話したら、

娘さんの命は保証できませんよ。それでは」

 

そう言うとジュリオはマナの通信を一方的に切った。部屋の窓にジュリオの不気味な笑みが映る。

 

「待っていろアンジュリーゼ。直ぐにお前を殺してやる。そして行く行くは、私が世界の長となりこの世界を管理してくれる。ふっふっふ。はーっはっはっはっ!!」

 

ジュリオの高らかな笑い声が、ミスルギ皇宮に響き渡った。




ちょっとジュリオを暴走させすぎた感があるなぁ。これじゃあ何処ぞの大使だよ。

大使「そして私はその世界を・・・私色に染め上げる!!」

数少ないジュリオファンの皆さん。ごめんなさい。まぁ小物という点では似た様なものものか。

「ジュリオ・飛鳥・ミスルギ。貴方はとても良い
道化でしたよ」

大使「リィボォンズゥゥゥゥッッッ!!!!!」


余談

シルフィーに関してはアニメで言う第13話の途中でアルゼナルへと戻る予定を考えてもいましたが、
それだと話し的には遅すぎる為アニメの11話で戻る事にしました。第5章はアニメでも展開的に急だから仕方ないね。

そして本来なら、この時点で黒いドラゴン側の機体とシオン達のDEMが交戦し、シオン達がアルゼナルのメンバーと顔を合わせる予定もありましたが、
私の書く力不足の為断念しました。



さて。ここで一度この世界の機体とかの大きさに
ついて、おさらいしておきましょう。

パラメイル(νを除くDEMも含む)約7.3m〜10.1m

(7.3mはノーメイクのグレイブ、10.1mはロザリーのグレイブカスタム参照)

DEM・tyep・ν 約80m以上。

ドラゴン(ガレオン級) 100m以上

改めて思うと10mにも満たないパラメイルが100mクラスのガレオン級に襲われるって絶対怖いよな。


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第36話 右腕の過去

 

 

ドラゴンの大襲撃を受けた次の日。各国マナ会議では、例のミスルギ虐殺事件での援助会議をそっちのけで、この議題についての会議を始めていた。

 

「まさかドラゴンの方から攻めてくるとは」

 

「このパラメイル・・・まさかドラゴンが?」

 

それぞれの首脳が見ている映像。それは昨日のアルゼナルの襲撃映像だ。

 

マナのモニターにはドラゴン達と共に映されている七機の謎の機体が映し出されていた。

 

「たしかシンギュラーの管理はミスルギ皇国の仕事でしたよね?なにか弁明でもありますか?」

 

「それが。暁ノ御柱にはなんの反応もなかったのです」

 

「ふん。言い訳にはぴったりだな」

 

ジュリオの答えに、皮肉を返す首脳達。

 

「とにかく今は、アルゼナルの再建を進めて、戦力の増強を図るべきでは?」

 

「そうも言えない理由があるんだ」

 

そういうとマナの光はある機体を映し出した。

 

「これは・・・ヴィルキスか!?」

 

「あの時の反乱の際に、破壊されたと思っていたが・・・」

 

「アルゼナルの管理はローゼンブルム家の仕事のはずでは?」

 

「監察官からの報告では・・・問題ないと」

 

「ノーマに出し抜かれたわけか。無様な」

 

「それだけではない。もう一つ重大な問題が浮き彫りとなった」

 

モニターにはニ機のDEM、Ωとνの機体写真が写し出された。

 

「何だこの機体は。これもドラゴン共のパラメイルか?」

 

「それが昨日の戦闘を見る限り、この謎のパラメイルとドラゴンは交戦した。つまりは敵対関係にあるものと思われるのだ」

 

「つまりドラゴン共の機体ではない!?だとしたら、この機体は一体なんだと言うのだ!?」

 

「まさか、アルゼナルが独自に新たなパラメイルを製造しているとでも言うのか!?」

 

「だとしたら一大事ですぞ!これでは十年前の反乱が再び起きる可能性だってある!」

 

「これも全てはローゼンブルム家の失態だ!親がこれじゃあ娘さんがノーマに誘拐されても仕方ないですな!」

 

「なっ!ミスティは今は関係ないはずです!娘を

侮辱する事は許しません!」

 

「そんなことより、今はこれからどうするかを考えましょう」

 

場を嗜める声など誰も、聞いてはいなかった。責任のなすり付け合いが繰り広げられていた。ある人物が口を開くまでは。

 

「全く。どうしようもないな」

 

その声を聞いた途端、罵り合っていた各国首脳が

ピタリと口を閉ざし、その声の主を見た。先程まで木陰で本を読んでいた青年。エンブリヲだ。

 

「え、エンブリヲ様・・・」

 

「我々に選択肢は二つ。ドラゴンに全面降伏するか、全滅させるか」

 

「そんな・・・」

 

「そこで三つめだ。世界を創り直す」

 

「世界を?」

 

皆が口を揃えて尋ねる。

 

「その通り、一度世界をリセットしてしまうのだ。害虫を殺し、土を入れ替える。正常な世界を作り出す

 

「その様な事が可能なのですか!?」

 

「全てのラグナメイル。そしてメイルライダーが

集まればね」

 

「・・・素晴らしい!素晴らしいですよエンブリヲ様!創り変えましょう!そもそも初めから間違っていたのです!ノーマという存在も!ノーマに頼らなければならないこの世界も!」

 

少しの沈黙の後、ジュリオが喜んだ口調で賛同した。

 

「馬鹿な。ここまで発展した世界を捨てろと言うのか?」

 

「では他に方法がありますか?」

 

ジュリオの放ったその一言で皆が黙る。それは他に方法を知らないと言う事を表していた。

 

「じゃあジュリオ君。この件は君に任るとしよう。

私の持ってるおもちゃを少し貸してあげよう。有意義に使いたまえ。では本日の会議はこれで」

 

その声と共に、各国首脳は続々と会議場からログアウトした。ジュリオとミスティパパを除いて。

 

「ジュリオ・飛鳥・ミスルギ。娘は無事なのだろうな」

 

「安心したまえ、ローゼンブルム。心配せずとも娘さんはお返ししましょう。何せ、エンブリヲ様からのお許しをいただけたのですから」

 

「・・・一体、何を考えている」

 

「先程のエンブリヲ様のお言葉を聞いていなかったのですか?この世界にノーマの存在など、不要なのですよ」

 

そう言いジュリオは、マナの通信を遮断した。通信会場にはミスティパパ一人だけが残された。

 

ジュリオの行おうとしている事は彼には予想がついた。

 

「・・・ミスルギで虐殺を行った化け物とお前のやろうとしていること。一体何が・・・何処が違うというんだ・・・」

 

その呟きに答えるものは、誰もいなかった。

 

その頃ジュリオは、リィザに指示を出していた。

 

「リィザ。支度を頼む」

 

「御意」

 

「フッフッフ。今に世界は変わる。異物の排除された、青き清浄なる世界へと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夜明けたアルゼナル。現在彼女達は、底の見えない絶望感に襲われていた。

 

昨日の戦闘。ドラゴンの大進撃は、様々なイレギュラー要素が重なり、生き残ることが出来た。

 

ただ、それだけである。

 

アルゼナルは半壊。死傷者もかなりの数が出ており、医務室などではベットが足りなくなっている。メイルライダー達も第二中隊が全滅し、第三中隊も半滅。戦力は激減している。

 

何より、謎のパラメイルに関しては一機も撃破する事が出来なかった。結果として脅威は何一つ去っていない。普段なら大量のキャッシュ確定などで浮かれる雰囲気など、微塵も感じ取れなくなっていた。

 

発着デッキでは、サリアとヴィヴィアン。そして

シルフィーを除いた生き残りのメイルライダー達が集まっていた。その数、たったの11である。

 

「これだけか・・・確認するが指揮経験者はいるか?」

 

ジル司令の質問にのヒルダが小さく手を挙げた。

 

「よし。全てのパラメイル中隊を統合。再編成する。暫定隊長にヒルダを任命。その補佐にエルシャとヴィヴィアンを任命する」

 

するとこの決定にロザリーとクリスが異議を唱える。

 

「こいつは脱走犯なんですよ!脱走犯を隊長にするんですか!?サリアでいいじゃないですか!」

 

「あいつは命令違反で反省房送りだ」

 

その言葉にその場の皆が動揺を隠せなかった。あの生真面目で融通の利かなそうなサリアが命令違反。誰が予想出来たであろうか。

 

「でっ!でも・・・」

 

「文句あるならあんたがやりな」

 

ヒルダがロザリーとクリスに言う。

 

「いっいや。指令が任命したんだ。仕方ねぇから認めてやるよ。なぁクリス?」

 

「わっ、私も認めるよ」

 

これで少しは昔のように戻ればいいのだが。

 

「では、全メイルライダーは再編成の後に警戒態勢にあたれ!」

 

「イエス!マム!」

 

その掛け声と共に、彼女達は散り散りとなった。

ジル司令が一息つこうとタバコを取り出した。

 

「ねぇ」

 

タバコを吸った直後、呼ばれたので振り返る。そこにはアンジュがいた。

 

「私の謹慎期間。終わったんですよね」

 

「あぁ」

 

「じゃあ、全部話して。約束したはずよ」

 

「このクソ忙しいときにか?」

 

「誰のおかげでみんな助かったと思ってるの?」

 

「・・・帰ってきた化け物と突然現れた正体不明の正義の見方気取りのおかげ・・・かな?」

 

「・・・それだけ?」

 

睨む様な視線をジル司令に向ける。

 

「いいだろう。ついてこい。ただし侍女はダメだ」

 

そう言うとジル司令は歩き出した。その後ろから

アンジュが付いていく。そうして辿りついた先は、なんと風呂場であった。お互いが全裸となり、湯船に浸かっている。

 

「なんで風呂場なの?」

 

「秘密の話は曝け出して話すものだろ?さてアンジュ。なにから話す?」

 

「全部よ。最初っからね。ドラゴンにあの女。ヴィルキスにお母さまの歌。タスクと貴女の関係。その全てをね」

 

「いいだろう」

 

「むかーしむかし、ある所に神様がいました。繰り返される戦争とボロボロの地球に神様はうんざりしました」

 

「・・・突然何を言い出すの?」

 

「黙って聞いてろ。平和に平等。そして友愛。口先だけなら美辞麗句を皆言ったが、人間の歴史は戦争に憎悪に差別。神様は悩みました。このまま人類は滅んでしまうと」

 

「そこで神様は作る事にしました。新しい人類を。争いを好まない穏やかで賢い人類。あらゆるものを思考で操作できる、高度情報化テクノロジー

【マナ】」

 

「あらゆる争いが消えて、あらゆる望みが叶い、

あらゆる物を手に入れる理想郷が完成した。

後は人類の進化を見守るだけでした」

 

「だけど生まれてくるのです。何度システムを組み直しても、マナの使えない女性の赤ん坊が。古い遺伝子を持つ突然変異体が。突然変異の発生は、人々を不安にさせました。だけど神様は逆にこれを利用する事にしました」

 

「彼女達は、世界を拒絶し破壊しようとする反社会的な化け物。ノーマであるという情報を植え付けたのです。世界はノーマに対処するために、結束を強めました。人々も差別できる存在に安堵し安定しました」

 

「生贄。犠牲。必要悪。言い方はなんだって構わない。私達も作られたのです。世界を安定させるため、差別されるために」

 

「・・・」

 

「どうだ?驚きで声も出ないか?」

 

その言葉に、アンジュがため息混じりに呟いた。

 

「よくそんな作り話が出るものね」

 

「聞いたからな。神様本人からなもっとも、そいつは神と呼ばれる事を嫌がってたけどな。さて、話を続けるぞ」

 

「こうしてマナの世界は安定し、今度こそ繁栄の歴史が訪れるはずでした。ですが、それを許さない者が現れました。古の民。彼らは突然世界から追放された、マナが使えない古い人類の生き残りです」

 

「彼等は自分達の居場所を取り戻すために、何度も神様に挑みました。仲間達の死を乗り越え、遂に彼等は手に入れたのです。神の兵器。

【ラグナメイル】を。破壊と創造を司る機械の天使。パラメイルの原型となった絶対兵器だ」

 

「それが・・・ヴィルキス?」

 

「これで神様と同等に戦える。古の民は勇んで

ヴィルキスに乗り込んだ。だが、彼等にヴィルキスは使えなかった。鍵がかけられてたのさ。虫ケラごときが使えないように」

 

「古の民は絶望した。生き残った仲間はあと僅か。古の民達は滅びを待つしかなかった。その時古の民は知ったのさ。世界の果てに追放されたノーマ達がパラメイルに乗って戦っていることにな。彼等はアルゼナルを目指した」

 

「古の民達とノーマ。世界に捨てられた者達。彼等は手を取り、その時に備えた。鍵を開く者が現れるその時を」

 

「そして遂に現れたのさ。アレクトラ・マリア・

フォン・レーベンヘルツ。王族から産まれた初めてのノーマだ」

 

「アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツ。その名前聞いたことあるわ。確か、ガリア帝国の第一皇女のはず。だけど10歳で病死したはずよ?」

 

「バレたのさ。ノーマだとな。アルゼナルに放り込まれ、自暴自棄になっていたアレクトラだが、彼女の高貴な血と皇族の指輪が、ヴィルキスの鍵を開いた」

 

「彼女の元に多くの仲間が集まった。ヴィルキスを守る騎士。ヴィルキスを直す甲冑師。医者に武器屋。そして犬」

 

「ヴィルキスを・・・守る騎士?」

 

「アンジュ。お前が考えてる事はあたっているぞ。タスクは古の民の末裔だ」

 

「タスクが・・・」

 

「そして始まったんだ。捨てられた者達の逆襲。

リベルタスが。地獄のどん底で私は仲間と使命をえた。このクソッタレな造り物の世界をぶっ壊す使命をな」

 

「だが・・・私には足りなかったんだ。ヴィルキスを使いこなすための何かが・・・」

 

十年前を思い出す。右腕を失い、パラメイル隊の中で、ただ一人生き残った自分の事を。

 

「全部吹き飛んだよ。指輪も仲間も右腕も名前も。だが、リベルタスを終わらせる訳には行かなかった。死んでいった仲間の為にも」

 

「そこにアンジュ。お前が現れた。そして今。ヴィルキスの最期の鍵が開かれた」

 

ジル司令の顔は、これまで見たことないくらいの

真剣な表情をした。

 

「お前が壊すんだアンジュ。あの歌でこの世界を」

 

「私を生かしておいたのは、そのリベルタスって事の為?」

 

「そうだ。お前には強くなって貰わなければならなかったからな」

 

「・・・」

 

沈黙が場を支配した。それはほんの数秒だったのだろうが、何時間にも感じ取れた。やがてアンジュが沈黙を破る。

 

「皇女アレクトラ・・・か。あなたには感謝してるわ」

 

「あなたのおかげで自分がどれほどの世間知らずで、甘ったれで、人生を舐めていたがよく分かったわ。だから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから答えはノーよ」

 

「・・・ほう」

 

「神様とかリベルタスとか百歩譲って、これまでの話が全て本当だとしても、私の道は私が決める。たとえそれが、どんなに崇高な目的だとしても。私の目で見て考えて私が決める。誰かにやらされるのは御免なのよ」

 

「では、リベルタスには参加しないと?」

 

「・・・嫌いじゃないの。ドラゴンを殺して、お金を稼いで、好きな物を買う。そんな今の暮らしが・・・」

 

そこまで言って、アンジュはとある事実に気がついた。ドラゴンについてだ。

 

「そういえば、さっきの話。ドラゴンが出てきてない」

 

その時であった!

 

【ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!】

 

突然警報が鳴り響いた。そしてオペレーターの叫びにも似た声で一言だけ、現状が告げられた。

 

「アルゼナル総員に告げます!ドラゴンです!!

基地内にドラゴンの生き残りが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前。医務室ではマギーがとある資料データを見ていた。それはシルフィーの血液や細胞などのデータなどであった。

 

「なんだい、これ!!遺伝子レベルに、何らかの

人為的な細工が施されてるじゃないか!?しかも

なんだい!この見たことのない細胞は!?」

 

詳しい事は不明だが、彼女の身体は異常という事だけは明らかである。それはまるで、今まで隠されてきた古傷などが突然現れた、そう表現せざるを得なかった。

 

「・・・流石にここでは調べるのは限度があるか」

 

そこに先程の警報が鳴り響いた。

 

【ガッシャーン!!】

 

すると突然、背後から激しい音がした。見るとベットがひっくり返されているではないか。そして次の瞬間、シルフィーが台の拘束を引きちぎった。

 

「なっ!シルフィー!?」

 

(あの怪我がもう治ったのか!?幾ら何でも異常過ぎる!)

 

驚く彼女を他所に、シルフィーはおぼつかない足取りで歩き出した。

 

「おっ、おい!」

 

「呼んでる・・・行かなきゃ・・・」

 

マギーの呼び止める声も聞こえないのか、彼女はふらつきながら、着てきた黒装束を羽織り、医務室を出て行った。そこに皆は唖然とする事しか出来なかった。

 

やがてマギーが一言だけ呟いた。

 

「拘束を引きちぎった・・・鋼鉄製だぞ。あれ」



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第37話 ドラゴンの真実

 

 

アンジュは風呂場から出ると、すぐにヒルダ達の元へと向かった。既に他のメンバーは集まっていた。

 

「遅いぞアンジュ!」

 

そう言いながらヒルダは銃を手渡した。

 

「私とアンジュで発着デッキを探す。ロザリーとクリスは居住区を。ナオミとエルシャはサリアを反省房から出して、ジャスミンモールを頼む。残りはここで待機だ」

 

ここでヒルダはある事に気がついた。この場にヴィヴィアンがいないのだ。

 

「おい。ヴィヴィアンはどうした?」

 

「それが、部屋を探したけど、何処にもいないのよ。ヴィヴィちゃん」

 

「まさか、もうドラゴンに・・・」

 

皆の中で嫌な想像が膨らむ。

 

「今はドラゴンの排除が優先事項だ!ヴィヴィアンの方は後回しだ!喰われたからじゃ手遅れだ!」

 

「イエス・マム!!」

 

銃を持ち、アンジュ達は散らばった。

 

その頃、ジル司令はマギーのところへ来ていた。

そして囁く様に言った。

 

「マギー。ありったけの抑制剤を用意しておけ」

 

それにマギーは黙って頷いた。

 

アンジュ達はドラゴンを探す為にアルゼナルをくまなく捜索していた。やがて通信機にエルシャからの通信が入った。

 

「食堂でドラゴンを発見!」

 

「今ドラゴンは外へと逃げた!これから追いかける!捜索班は外に集合だ!」

 

最初に外に出たのはアンジュと途中で合流したナオミであった。二人は銃を構えながら、アルゼナルの外部分へと出る。そこにドラゴンはいた。今はアルゼナル上空をぐるぐる飛んでいる。

 

そしてドラゴンの旋回する下には先客がいた。

シルフィーだ。

 

「シルフィー!?」

 

「危ないわよ!離れて!!」

 

しかし彼女はアンジュ達の言葉など聞こえていないのか、おぼつかない足取りでドラゴンの飛ぶ方へと歩いて行った。やがて立ち止まると、ドラゴンに向かって手を伸ばした。

 

「おいで。いい子だから。ね?」

 

するとドラゴンはシルフィーの元へと降りてきた。二人が慌てて銃を構えるがドラゴンの様子がどうもおかしい。攻撃性がないどころか、彼女に懐いている風にも見えた。

 

そしてシルフィーの様子も何処か変であった。普段見てきた彼女とはまるで違う。言うなれば、身体はシルフィーだが中身は別人という言葉がぴったりであった。

 

「おい!何やってんだあいつ!?」

 

背後からヒルダが来た。その背後にはロザリーと

クリス。エルシャとサリア。そしてモモカさんがいた。今来たメンバーも銃を構えるが、それをアンジュとナオミが降ろさせる。

 

「何するんだ!?」

 

「銃を下ろして!ドラゴンとシルフィーの様子が!」

 

ドラゴンがシルフィーと向かいっていると、ドラゴンは何かを口ずさみ始めた。そのメロディーをアンジュは知っていた。

 

「これは、永遠語り!?」

 

「・・・」

 

やがてシルフィーはその歌に答える様に、永遠語りを歌い返した。しばらくして歌が終わると、ドラゴンはその身をシルフィーに寄せてきた。

 

「そう。貴女は戻りたいのね」

 

「キュー」

 

「何も言わなくていい。大丈夫。今、戻してあげるから」

 

彼女はそう言うと右腕をドラゴンの首筋へと当て、静かに目を閉じた。すると彼女の腕輪が突然光り輝いたかと思うと、次の瞬間、煙が発生した。

 

そして。その煙の中から、聞き慣れた声がした。

 

「ここでクイズです!人間なのにドラゴンなのってなーんだ?」

 

「!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煙から現れた人影はなんとヴィヴィアンであった。

 

「ヴィヴィアン!?」

 

皆が驚きの声を上げる。

 

「あっ、違うか!ドラゴンなのに人間?あれれ?

あれれ?意味・・・わかんないよ・・・」

 

「私は分かった。ヴィヴィアンはヴィヴィアンって事でしょ?私が私であるのと同じで。お帰り、

ヴィヴィアン」

 

ヴィヴィアンはシルフィーに抱きついた。それを

彼女は優しく受け止めた。そこにマギーがやってくると何かをヴィヴィアンに注射した。するとヴィヴィアンは眠り始めた。

 

【ガシッ!】

 

突然シルフィーがマギーの空いている片手を掴んだ。掴んだ手には注射器が握られており、その針先は真っ直ぐにシルフィーへと向けられている。

 

「それよりヴィヴィアンの方を」

 

彼女は普段の彼女に戻っていた。マギーは残念そうな顔をした後ヴィヴィアンを連れ、そそくさとその場を離れていった。

 

「お、おい、どーなってんだ、今の・・・」

 

「ドラゴンの中からヴィヴィアンが出てきた様に

見えたけど・・・」

 

ロザリーとクリスは困惑している。おそらく皆が同じ気持ちなのだろう。

 

「ねぇ。今のって・・・」

 

ナオミは疑問に思いシルフィーに尋ねた。

 

「・・・確か、近くにドラゴンの死体処理場があったわね」

 

「シルフィー?」

 

「・・・辛い現実を見るかも知れないわね。私達」

 

それだけ言うとシルフィーは近くの焼却場を目指して歩いて行った。第一中隊のメンバー達は顔を見合わせた後、シルフィーについていった。

 

 

 

死体の焼却場ではジャスミンがせっせとドラゴンの死体を穴へと入れていた。バルカンが吠えたことでジャスミンはシルフィー達の存在に気がついた。

 

「あんた達!来るんじゃないよ!!」

 

そう言いながら、手にしたジッポライターを穴の中へと放り込む。ガソリンに引火し、穴の中から火柱が噴き上がった。シルフィーが穴の中を覗き込むと、一言だけ呟いた。

 

「・・・・・・・・・やっぱり」

 

「おい。一体こんなところに何が・・・!?」

 

「・・・嘘でしょ」

 

皆が穴の中の光景に絶句する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴン達の死体。その中には、【人間】の死体も混ざっていた。

 

「なに・・・これ・・・」

 

「なんで・・・なんで人の死体があるの?」

 

エルシャとクリスが当たり前の疑問を聞いてきた。それに答えるものは第一中隊のメンバーにはいなかった。焼かれているその人間は、アルゼナルの人員の者ではなかった。

 

「この人達は・・・一体誰なの!?」

 

誰かの叫ぶ様な声がその場に響いた。皆、その答えに予想がついていたが、それを否定したくて、別の可能性を考えたくて、必死に目の前の現実の意味する答えを否定した。頭では理解しているにも関わらず。

 

そして、鉄槌の様な言葉が彼女達に振り下ろされた。

 

「よくある話だろう。化け物の正体が実は人間でしたなんて話」

 

後ろを振り返る。そこにはジル司令がいた。手にはタバコを握っており、当たり前の様にふかしている。

 

「現にそこに生きた実例がいるじゃないか」

 

ジル司令は顎でシルフィーを指した。それが指し示す答えは一つであった。

 

「ヴィヴィアンがドラゴン。シルフィーもドラゴン。じゃあドラゴンの正体は・・・」

 

「ご名答。人間だ」

 

「ドラゴンの正体が・・・人間・・・そんな、私達、これまで何体もドラゴンを・・・」

 

皆がこれまでの戦いを振り返った。ドラゴンと対峙し、パラメイルの武器などでドラゴン達を殺してきた自分達の姿を。ドラゴンを殺して、キャッシュを稼いで喜ぶ自分達の姿を。

 

そして・・・ドラゴンは人間であった・・・

 

「ウップ!!」

 

アンジュの胃から何かがこみ上げてきた。アンジュは手で口を抑える。手の隙間から多少嘔吐物が漏れる。その背中をモモカが優しく摩る。

 

「気に入ってたんだろ?ドラゴンを殺して、お金を稼ぎ、好きな物を買う生活が」

 

「!くたばれクソ女!!」

 

アンジュがジルを睨みつける。しかしジル司令は気にもせずシルフィーの方を向いた。

 

「正直そいつには驚いたよ。もしこいつがスクーナー級の見た目をしたら間違いなくドラゴンの正体が発覚したんだしな。運良くこれまで遭遇例の無い初物タイプだったからよかったものを。これで追い出した意味もなくなったな」

 

「じゃあ!司令は全てを知っていて、シルフィーをアルゼナルから追い出したんですか!?」

 

「あぁ。真実を知れば、戦えなくなるだろ?ドラゴンと」

 

その言葉にシルフィーは何の反応も示さなかった。黙って軽蔑の視線をジル司令へと向けていた。

 

少しの時間の後、アンジュが憤慨した。

 

「ふざけるな!もういい!もうたくさんよ!!もうヴィルキスには乗らない!!ドラゴンも殺さない!!リベルタスなんて糞食らえよ!!」

 

「私はもう、戦わない!!」

 

「それもよかろう。このまま神様に飼い殺しにされるのがお望みならな。言っておくが全てを知った

以上、こいつもヴィヴィアンも追放するつもりはない。まぁ精々喰い殺されない様に気をつけるんだな」

 

その時であった。

 

「普通の人間の肉は生だとあまり美味しくないよ。食べるなら焼く事をお勧めするよ。ミスルギの豚達みたいに」

 

この場の暗い雰囲気とは無縁な、明るい声が響き渡った。この声の主をシルフィーは知っていた。

 

(この声!?まさか!?)

 

辺りを見渡し、そしてある人物を発見した。その人物は木に逆さでぶら下がっていた。自分と同じくらいの毛量が地面へと垂れ下がっている。その隙間から紅色の瞳がこちらを見ていた。リラだ。

 

「リラ!」

 

「久しぶりだね、お人形さん。それと堕ちた皇女様。とりあえずミスルギから無事に生還出来た事を褒めてあげるよ。すごいすごーい。パチパチー」

 

「それにしても、まさかアルゼナルに帰って来るだなんて。せっかくアルゼナルから追い出す為に色々と手回ししたのに。残念」

 

そう言いリラは目の前にジャンプしてきた。反射的に皆が数歩程度後ずさる。そしてナオミ達は困惑した。目の前にシルフィーと同じ顔の存在が現れた事に。

 

「し、シルフィーが・・・二人?」

 

するとリラは穴の方へと歩いてきた。そして穴の中からドラゴン。いや、人間を取り出し、それをかじった。

 

「あーだめだめ。こんな焼き加減じゃレアの印は

あげられない。炭を食べた方が美味しいね」

 

【バァン!】

 

警告なしに発砲音が響いた。ジル司令の手にした

拳銃の銃口は煙を上げていた。そしてその銃弾の行き先は・・・

 

ジル司令の右肩であった。激痛がジル司令を襲う。

 

「司令!?」

 

「ジル!大丈夫かい!?」

 

慌ててサリアが駆け寄る。バルカンがリラに飛びかかるが思いっきり地面に蹴り伏せられた。項垂れるバルカンをリラは蹴飛ばした。まるで道端の石ころを蹴る感覚で。

 

「道具は人間の持つ総合身体能力を底上げする名目で使うものだ。初めから道具に頼って勝負を挑んだ時点で負けなんだよ。ん?ジル司令」

 

すると突然リラは何かを考え込んだ。手にしたかじりかけの人間の頭部を穴の中へと放り投げる。

 

「ジル・・・あぁ!思い出したよ!確か・・・」

 

「10年前、世界を壊そうなんて勇みよく世界に喧嘩売って、結局ボロボロにされて泣いて逃げた負け犬だっけ?」

 

「!ジルを侮辱するなぁぁっ!!!」

 

「青いんだよ!!」

 

サリアが手にしたマシンガンを放つ。しかし放たれた弾丸は全て、彼女の手の中に簡単に収められていた。

 

「なっ!?銃弾を手で止めた!?」

 

「あのさぁ。そんなポンコツで僕に傷をつけられるわけないじゃん。相手を痛める銃弾ってのは確か」

 

「こんぐらいの速さだろぉ!!?」

 

「ガアッ!?」

 

次の瞬間、彼女の手にあった弾丸はサリアの手の甲を貫いた。指で弾いただけの弾丸が。サリアの手から銃が落ち、手の甲からは血が流れる。

 

「道具に頼ってもこんな体たらくしか出来ないお前は負け犬の中の負け犬だ」

 

すると彼女は後ろを振り返った。

 

「どうだい?誰か撃ってみるかい?背中に眼はないから怪我の一つ。いや、上手くいけば致命傷を与えられるかもな」

 

「・・・」

 

誰一人として、撃つ者はいなかった。リラは再びこちらを振り返った。その顔は不気味なまでに満面の笑みを浮かべていた。

 

「君達って暇なのかな?早くこの場から消えなよ。僕がここに来たのはここに来るであろうある人物達と出会う為だよ。君達に用はないね。ここで何かするつもりはない。どの道する必要がないしね」

 

「さてと。そろそろ奴等もやって来る頃だろう。いや、もうやって来ているか」

 

「そうだろ?さっきから背後の木陰で隠れて様子を伺っている君達?」

 

少しの間、場が固まった。すると木の陰から何人かが出てきた。その総数は六人。シオン達だ。

 

「シオン!?」

 

「久しぶりだねシオン。それに他のみんなも。それとも、黒き魔法使いとでも言うべきかな?」

 

「肩書きなどどうでも良い。何故お前がここにいる」

 

「嬉しくないのかい?この10年間、君達は僕を必死になって探してたじゃないか。その僕がわざわざ君達に会いに来たのに」

 

(なっ!?シオン達はリラと知り合いなのか!?)

 

シオンは気まずそうに、驚くシルフィーの方を一度だけ見た後、その視線を目の前のリラへと戻した。

 

「・・・何が狙いだ」

 

「なぁに。君達がここに来た理由は大体予想がついてる。でもね、それだとこっちが困るんだよ。だからちょっと僕とお茶の一つでもしないかな?ちょうど僕以外の相手もいる事だし」

 

「相手?」

 

「エンブリヲだよ」

 

その言葉を聞いた途端、シオン達とジル司令の表情が一気に変化した。それを見てリラはほくそ笑んだ。

 

「さぁ。お誘いを受けるかい?」

 

「・・・分かった。受けよう」

 

「待て!貴様ら!エンブリヲを知っているのか!?」

 

ジル司令の呼び止めなどをガン無視し、七人はその場から姿を消した。

 

「なんなのよ一体・・・」

 

呆然としていたアンジュ達であったが、慌てて現状を理解すると、ジル司令とサリアとバルカンを連れて、医務室へと駆け足で向かった。

 

だが、運んでいる最中の彼女達の表情は、重く暗い物であった。自分達のしてきた戦いの真実。その

重さに。これまでの自分に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくし、ミスルギ皇国では今日の夜出る艦隊の編成が行われていた。その艦隊に、猛毒なる牙を搭載して、アルゼナルを目指す為に・・




久しぶりにリラが出ましたね。何故彼女はシルフィーとほぼ同じ姿なのでしょうか。それらの疑問もいずれ答えが出るでしょう。その時まで、様々な推測などをしていただければ、幸いです。

第5章は後3話を予定としています。オリジナル
シナリオをいつ挿入するかに悩んでいます。


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第38話 滅びの時

 

あの後もアルゼナルの復旧作業は夜通し続いた。

流石に丸一日近くも働くとなると、疲れというものは襲ってくるらしく、休む為に抜けるものと、その穴を埋める為に先に休んでいた。こうして誤魔化しながら復旧作業は続いていった。

 

ナオミとシルフィーはジャスミンの手伝いで、 物資などの運搬を行なっていた。

 

「ねぇジャスミン。ジャスミンや司令はドラゴンが人間だって事を知っても戦ってたんだよね?」

 

ナオミがジャスミンに尋ねる。

 

「・・・知らない方が幸せなこともある。戦場での迷いは死に繋がるだけだよ」

 

「でも知っちゃったんだね。私達も」

 

「なら考えな。ただし仕事の手は止めずにね」

 

「難しいことを言うなぁ」

 

「まぁね、悩みなんてものは仲間同士で共有するもんさ。あたし達だって昔はそうしたよ」

 

ジャスミンが昔を懐かしむ用に言う。人に歴史ありなどだ。その時、シルフィーが医務室から戻ってきた。

 

「ジャスミン。医務室に荷物を届けてきた」

 

「あっ、シルフィー。ヴィヴィアンの様子はどうだった?」

 

「昨日からずっと寝てるらしい。マギーが言うには、多量の抑制剤故の副作用だって。普段はキャンディーに抑制剤を混ぜる事で、ドラゴン化を抑えてたらしい」

 

「・・・いい機会だね。二人とも、ちょっと早いけど食料を配ってきな。配り終えたら各自休憩で構わないよ。少しみんなと話してきな」

 

「ありがとう。ジャスミン」

 

そう言い二人は配給品を持つと、その場を離れた。

 

 

 

その後は二人は第一中隊のメンバーと色々話した。サリアとヒルダに。アンジュに。エルシャとロザリーとクリスに。第一中隊の色々なメンバーと話し合った。無論、配給もちゃんと行った。

 

配給が終わると二人は自分達の部屋へと戻った。二人の部屋はドラゴンとの戦いの影響で酷いものであった。部屋の壁は壊れており、そこから風が室内に吹きすさんで来る。

 

それを気にせずベットに腰掛けると、お互いに弁当を食べ始めた。やがて弁当も食べ終わり、壁の時計を見た。休憩時間はまだ残っており、二人ともベットに横になった。狭いベットゆえに、身体が密着する。

 

「久しぶりだね。この感覚。一つのベットを二人で共有してた生活」

 

「ほんの一週間程度違っただけでしょ・・・」

 

「この一週間で、色々と変わったね」

 

これまで何の考えも起きず、ただ当たり前の様にドラゴンと戦う日々。何故か?それが人間になり損ねた私達ノーマの生き方だと信じて来たから。自分達ノーマが、人間達を守る為に命がけで戦う。

 

だが、実際はどうだろうか?

 

人間達はノーマを害虫の様に駆除し、殺そうとした。あんな連中を守る為に、ノーマはドラゴンと戦わなければならない。しかもそのドラゴンの正体は人間であった。

 

これまでの全てが崩れ去った様な気分とは、まさにこの様な気分の事なのだろう。

 

「・・・それでも、ナオミは変わらないわね。私と違って」

 

シルフィーもまた変わってしまった。己の事を人間だと思っていた。むしろ、人間じゃないと思ったことすらなかった。

 

だがその正体は人間ではなくドラゴン・・・それもバケモノであった。

 

「・・・正直なところ、私もまだみんなと同じで心の整理はついてない。まさかドラゴン達が人間で、シルフィーやヴィヴィアンがドラゴンだったなんて・・・」

 

「で、でも!そのドラゴンの力があったから、私達はあの国から生きて帰れたんだし!そんな悲観する事じゃないよ」

 

「・・・・・・」

 

「ごめん。今のは失言だったね」

 

言った後に後悔した。確かにミスルギでの土壇場を乗り切ったのはあの力のお陰だ。それは紛れもない事実である。だが、あの力でアルゼナルのメンバーの間に深い溝が出来たのも、また紛れもない事実であった。

 

気まずさ故の沈黙が場を包んだ。やがて耐えきれなくなったのか、シルフィーから話を切り出した。

 

「ねぇナオミ。もしこのままアルゼナルがなくなったら、貴女はどうする?」

 

その質問は、配給配りの際、エルシャに聞かれた

質問でもあった。

 

「アルゼナルがなくなる。私、そんな事考えた事なかったよ。でも・・・」

 

「でも?」

 

「もし、アルゼナルが無くなる事になったら、私は世界を旅して周りたい」

 

「世界を旅するの?」

 

「うん。山とか海とか。私は色々な所を見て周りたいと思ってる」

 

そしてナオミは、意を決した風に口を開いた。

 

「・・・ねぇシルフィー。もし、もしもだけど!!」

 

そう言いかけたその時である。突然空中に多数の

マナのウインドが展開された。そこには一人の

女性が映し出されていた。

 

「こちらはミスルギ皇国、ノーマ管理委員会直属の国際救助艦隊です。ノーマの皆さん。ドラゴンとの戦闘、ご苦労様でした。これより、皆さんの救助を開始します。水、衣料品、温かい食料も十分に用意されています。今すぐ全ての武器を捨て、脱出準備をしてください。繰り返します。こちらはミスルギ皇国・・・」

 

「やった!ノーマ管理委員会だ!」

 

「助けが来たんだ!」

 

その通信を聞いたアルゼナル人員の殆どが浮き足立った。この状態が打開される。プラス方面で。そう信じていた。

 

数名を除いて。

 

「ねぇシルフィー。これって」

 

「ええ。幾ら何でもきな臭すぎる」

 

ミスルギ皇国の実態を知っているシルフィー達からすれば、それは余りにも不自然な内容であった。

ノーマ根絶法。ノーマの命を露程にも思っていない連中が助けに来た。こんな世界の果てまで。それも輸送機ではなく雁首そろえて艦隊で。

 

「・・・嫌な予感がする。とても嫌な・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前に遡る。ジル司令はタバコを吸うために外へと出ていた。

 

(リベルタスについてアンジュには話した。後はあいつが計画に参加させる様に動かし、決行する時を狙うだけ)

 

(問題はシルフィーだ。ヴィヴィアンの方ならまだどうにかなるが、奴はあまりにもハイリスクハイリターンすぎる。オメガについてもだ。話す機体など

聞いたことがないぞ)

 

一人、思案にふけていた時である。

 

「シルフィー。今の彼女はかなり不安定で危険だよ。利用しようとは思わない事だ」

 

背後から声がした。慌てて振り向くとそこにはある男がいた。金髪でスーツ姿の男。ジル司令はその男知っていた。

 

「エンブリヲ!」

 

ジル司令は拳銃を取り出すとエンブリヲを撃った。しかしエンブリヲはそこに実体がないのか。弾が

身体を通り抜けた。しかしジル司令は銃を向けながらエンブリヲを睨む。

 

「怒った顔も素敵だよアレクトラ。いや、今は司令官のジルか」

 

「何をしに来た!」

 

「何、先日はリラが君に無礼を働いたそうで、その事について謝りに来たんだ。すまなかったね」

 

「ふざけるな!」

 

「まぁいい。それより後のことはジュリオ君に任せよう」

 

それだけ言うと、エンブリヲはその場から姿を消した。ジル司令は周囲を見渡した後、駆け足で臨時司令部へと向かっていった。

 

臨時司令部では例の放送に、オペレーター達は動揺していた。あの放送は一方的に流されているものらしい。

 

「ジル司令、救助艦隊が・・・」

 

「耳を貸すな、戯言だ。対空防御態勢!」

 

「ジル司令!?」

 

オペレーター達が驚きの声をあげる。ジル司令の言葉の意味する内容は明白であった。人間相手に銃を向けろ。

 

「対空防御態勢と言った!」

 

「いっ、イエス・マム!」

 

動揺しつつも、アルゼナルは対空兵器などを起動

させた。そしてそれを艦隊は確認した。

 

「アルゼナル!対空兵器の起動を確認!」

 

「やれやれ。こちらとしては平和的にに事を進めたかったというのに」

 

ジュリオが残念そうに、だけどどこかでは予定通りとも取れる笑みを浮かべた。

 

「旗艦エンペラージュリオ一世より全艦隊へ。たった今ノーマ達はこちらの救援を拒んだ!これは我々、嫌、全人類に対する明確な叛意である!断じて見過ごすわけにはいかん!」

 

「これよりアルゼナルに対する総攻撃。並びに穢らわしいノーマどもの殲滅作戦を開始する!今この時から、我が覇道は開かれた!!戦うのだ!この世界に巣食う巨悪を!!我等の手で!!」

 

ジュリオ艦隊から放たれたミサイルがアルゼナルめがけて飛んできた。対空兵器で迎撃するがドラゴンとの戦闘の傷も癒えていないため、焼け石に水であった。

 

ミサイルの何発かはアルゼナルに命中した。ミサイルの命中により基地内は大きく揺れる。

 

「なんで!?なんで私達は攻撃されてるの!?」

 

「なんだよこれ!救援なんかじゃねぇじゃねえか!」

 

基地内は混乱していた。幼年部の子達はその身を寄せ合い、震えていた。エルシャはオルゴールを取り出し、その子達を落ち着かせる。

 

その時、全施設にジル司令からの通信が入った。

 

「諸君。わかったか?これが人間だ。奴らは我々を助ける気など毛頭ない。我々を物のように回収して、別の場所で別の戦いに従事させる気なのだ」

 

「それを望む者は投降しろ。だが、抵抗する者は共に来い!」

 

「これよりアルゼナル司令部は人間の管理下より離脱!反攻作戦を開始する!志を同じにする者は武器を持ちアルゼナル最下層に来い!」

 

「作戦名は・・・リベルタス!!!」

 

リベルタス。ラテン語で自由を意味する言葉。人間からの解放。それを願う彼女達の反逆が、今始まろうとしていた!

 

 

 

そしてこの襲撃の裏に、ある人物の思惑がある事には、誰一人として、気づいてはいなかった。




今回は少し短めでしたね。遂に次回からアニメ13話を本格的に執筆するのかぁ。正直あれだけは見てて鬱になる。

無抵抗な少女に火炎放射ってお前・・・どこぞの
大人相手に破壊光線ぶっ放すあの人が可愛く思えた。


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第39話 武器工蔽(アルゼナル)炎上

 

 

リベルタス。ジル司令達が密かに計画していた人間達への反逆。その計画が遂に実行へと移される。

サリアの元にジル司令からの通信が入った。

 

「サリア。アンジュを必ず連れてこい」

 

「イエス・マム」

 

サリアとの通信が終わるとジル司令はオペレーター達とある場所に来ていた。それは極秘裏に作られていた潜水空母【アウローラ】であった。

 

「各員持ち場につけ!」

 

「イエス!マム!」

 

発着デッキでは、準備を整えたヒルダ達がいた。

 

「出撃します!」

 

かつての第三中隊が出撃する。その直後のことだ。発着デッキ入り口に何かがやってきた。それは鉄の円盤であった。次の瞬間には円盤達は周りに刃を

展開し。発着デッキをガリガリと削りながらやってきた。

 

「総員退避!」

 

ヒルダの掛け声のもと皆奥へと逃げる。地面を削りながら進む円盤突如として爆発した。

 

「なっこれは!?」

 

爆風が引き、ヒルダ達が見たもの。それは発着デッキ入り口を瓦礫で塞いでいる光景であった。さらに先程の爆発で、エレベーターシャフトまで破壊されていた。

 

「ヒルダ隊長!空中に未確認円盤が!」

 

アルゼナル外では第三中隊のメンバー達が謎の円盤。ピレスロイドと戦っていた。ピレスロイドから鹵獲ワイヤーが放たれる。

 

「隊長!ターニャとイルマが連れていかれた!」

 

「連れていかれた!?どういうことだ!?」

 

空一面に大量のピレスロイドが展開された。発着

デッキではピレスロイドの攻撃が終わると、兵隊達が乗り込んできた。狙いはヴィルキスらしい。

 

「整備班集まれ!敵の狙いはヴィルキスだ!各員!最重要事項をヴィルキスの地下への搬入とする!

手動でやるんだ!」

 

メイが激励の言葉をかける。そうしている間も銃撃戦は続いていた。

 

そして人間達は至る所にはいりこんだ。

 

ある箇所では一箇所無理矢理集められ、必要な素材で判ると問答無用で殺す。そして医務室ではマギーとエマ監察官がいた。人間達はエマ監察官も殺そうとしていた。ノーマじゃないと叫ぶ彼女をマギーが助ける。

 

マギーがヴィヴィアンを連れ出すため、医務室に入る。するとそこには人間達がいた。ヴィヴィアンを確保していた。

 

「第二目標であるメイルライダーを発見」

 

「その子をどうする気!?」

 

マギーが銃を向ける。人間達はマギーを狙いながらヴィヴィアンを連れて外へと出ていった。

 

発着デッキでは、銃撃戦が尚も続いている。

 

「もうだめだ・・・私達死ぬんだ」

 

「死の第一中隊がこんな事で死んでたまるかよ!」

 

「今更隊長面しないで!」

 

諦め掛けていたクリスをヒルダが激励する。しかしクリスはそれに怒る。その時だ。クリスを狙っている兵士がヒルダに見えた。

 

「クリス!」

 

クリスを庇い、銃弾を受ける。しかしヒルダは怯むことなく銃で兵士を撃つ。兵士に命中し海へと落ちていった。

 

「なんで・・・助けたの?」

 

「誰も死なないし死なせない。それがあたしら死の第一中隊だろ?」

 

ヒルダが傷口を抑えながら言う。

 

(アンジュ、あんたも戦ってるんだろ?)

 

 

 

 

 

こちらはサリアとアンジュ。現在二人は今最下層を目指していた。正確に言うなら、アンジュは最下層へと無理矢理連れて行かれていた。

 

人質のつもりなのか、モモカはジャスミンによってマナが使えないようにされていた。

 

「ヴィルキスがまだ降ろされてない!?わかった。アンジュを届けたら私も発着デッキに向かう」

 

サリアは通信でメイと話していた。

 

「ここ。危ないんでしょ。避難準備なんてしてる場合なの?」

 

アンジュがサリアを睨む。サリアの手には銃が握られており、銃口はアンジュに向いていた。

 

「・・・あんたには大事な使命があるの。だから無傷でジルの元に送り届ける」

 

「その過程で仲間が何人死のうと知ったこっちゃないって言う気?」

 

アンジュが睨みつけながら言う。

 

「・・・仕方ないのよ。これが私の・・・最期の

使命だから・・・」

 

「くだらない。あんたもあの女と同じね。つまらない使命感に囚われてるだけの変人。巻き込まれる者達はいい迷惑ね」

 

【パチン!】

 

サリアがアンジュにビンタする。

 

「何もわかってないくせに!!自分がいかに特別な存在なのか!わかっているの!?」

 

「わかりたくもないわ!」

 

「てはアンジュリーゼ様!息を止めてください!」

 

その時、モモカさんの意識が覚醒した。そしてエプロンから何かを取り出した。それは胡椒であった。それを床に叩きつける。胡椒が空中に散布される。

 

「くっしょん!待ちなさいアンジュ!くっしょん!」

 

サリアが叫ぶがそれはアンジュ達には既に届いていなかった。

 

「サリア!どうした!?」

 

「アンジュに逃げられた!!」

 

「必ず連れもどせ!」

 

そういいジル司令は通信を切った。するとジル司令の元に外部から通信が来た。繋げるとタスクであった。

 

「アレクトラ!アンジュはどうした!?」

 

「逃げられた。お前もアンジュの拿捕に協力してくれ」

 

「・・・わかったよ・・・」

 

そう言うとタスクは通信を切った。

 

 

 

 

 

「いつでもお料理するために持ってて良かったです」

 

「大胆な事をするわね!」

 

「アンジュリーゼ様の影響です!くっしゅ」

 

すると通路を不気味に照らしていた赤ランプも消えた。電源盤が落とされたらしい。アンジュとモモカはマナを灯として走っていた。

 

すると曲がり角から何かとぶつかった。それはシルフィーとナオミであった。

 

「アンジュ!それにモモカさん!」

 

「ナオミ!?それにシルフィー!?貴女達、何処に向かってるの!?」

 

「発着デッキ。パラメイルが必要だと思うから」

 

「奇遇ね。私もよ。それじゃあ早く行きましょう!」

 

こうして四人は合流した。しばらく通路を走っていると、食堂へとたどり着いた。

 

マナの光で映し出された食堂の光景に四人は唖然とした。目の前には真っ黒に焦げた死体がそこらじゅうに転がっている。

 

ミスルギ皇国で焼け死んでいった人間達の死体。そしてつい先日見たドラゴン、いや、人間達の死体。これらの光景がフラッシュバックする。

 

「うっぷ!」

 

「オエッ!」

 

「アンジュリーゼ様!ナオミさん!待ってて下さい。直ぐにお水を!!」

 

モモカさんが水を汲みにシンクの方へと駆けてゆく。アンジュ達は蹲っている。そんな中ただ一人、シルフィーだけは違っていた。黙ってその光景を眼に焼き付けていた。そしてその時であった。

 

「大切な物は失ってから初めてその価値がわかる。いつの時代も変わらないな」

 

「!?誰だ!!?」

 

背後から男の声がした。三人が振り返る。するとそこには兵士とは思えない人間が立っていた。スーツ姿の金髪男である。

 

「それにしても酷い事をするものだ。こんな事を許した覚えはないのだがな・・・この虐殺を命じたのはジュリオ君だ。ここから北北東14kmの所に彼はいる。アンジュ。君を八つ裂きにする為にね。この子達はその巻き添えに近い形だ」

 

するとスーツの男はシルフィーの方を向いた。

 

「成る程。君が人間の心を持つ怪物だとしたら、

ジュリオ君は怪物の心を持つ人間と言ったところか・・・これを見たまえ」

 

男は何かを投げてきた。白い紙である。そこにはとある文字が黒く書かれていた。

 

【ZERO計画・・・】

 

その文字を見た途端。彼女の心に何かが引っかかった。ZERO計画。何処か遠い昔に聞いたことのある、その言葉に・・・

 

「キャァァァ!」

 

突然聞こえた悲鳴がシルフィーを現実へと引き戻した。すでにスーツ姿の男はいなかった。

 

先程、モモカさんの悲鳴が聞こえた。振り返るとそこにはモモカさんに銃を向けている兵士がた。モモカさんはマナのバリアでなんとか自分の身を守っている。

 

「モモカ!」

 

咄嗟にアンジュが銃で兵士を狙い撃つ。

 

「ぐぁぁ!貴様はアンジュリーゼ!」

 

「答えなさい!この虐殺を命令したのはお兄様なの!?」

 

アンジュが銃口を向ける。

 

「まっ待ってくれ!俺は隊長とジュリオ陛下の命令に従っただ・・・」

 

その言葉を聞いた次の瞬間。アンジュは兵士を撃った。兵士は死んだ。しかしアンジュは撃つのをやめない。

 

「アンジュリーゼ様!もう大丈夫です!モモカはここにいます!」

 

モモカがアンジュに必死に抱きつく。この時アンジュはやっと落ち着いた。慌ててその場から離れようとした。しかしシルフィーはその場から動こうとはしなかった。

 

「シルフィー?」

 

不安そうにナオミが声をかける。その時突然壁が

崩れ落ちた。そしてそこにはオメガがいた。

 

「遂にそこまで思い出したか」

 

「オメガ・・・」

 

「来い、人間。シオン達が待っている。話す時がきたんだ。何故お前があの島にいたのか。何故お前の右腕に腕輪がついているのか。何故お前の中に空白の記憶が存在するのか。その答えを教える時がきた」

 

「それとシオン達からの謝罪伝言だ。こうなったのはミスルギであいつを殺さなかったのこちらのミスだ。申し訳ない事をした、と」

 

「・・・確か、北北東14kmだったよね?」

 

「シルフィー?」

 

「・・・シオン達のせいじゃない。あの時、最初に殺さなかった私の・・・だからオメガ。少し付き合ってくれる?」

 

「よかろう」

 

オメガはシルフィーを乗せ、人型へとその身を変えた。

 

「人間達。発着デッキの瓦礫とゴミを少しだけ掃除したが、まだ大量にいる。加勢してやれ」

 

それだけ言うと、オメガはアルゼナルから離れていった。

 

「私達も行くわよ!!」

 

そしてアンジュ達は発着デッキへと辿り着いた。発着デッキではまだ銃撃戦が繰り広げられていた。アンジュは人間達の銃弾を掻い潜り、ヴィルキスへの乗り込む。

 

「邪魔!」

 

ヴィルキスで人間達を轢き殺しながら、アルゼナルの外へと飛び立つ。ナオミの機体もそれに続いた。時を同じく、外ではタスクが人間達に攫われたヴィヴィアンを助けていた。

 

そんなタスクの視界にヴィルキスが写る。

 

「何!?あのじゃじゃ馬め!」

 

「ポテチ・・・」

 

タスクを他所にヴィヴィアンは寝言を呟いた。タスクがヴィヴィアンを見た。

 

外に出てピレスロイドを片っ端から撃墜していくアンジュ。すると後ろからアンジュを追いかけて、アーキバスに搭乗したサリアがやって来た。

 

「戻りなさいアンジュ!戻って使命を!」

 

しかしアンジュは戻らない。ピレスロイドを相手に尚も前進し続けて行く。サリアもピレスロイドを撃墜する。

 

「一体何が不満なのよ!貴方はアレクトラに選ばれたのに!私の居場所も・・・役目も!全部奪ったのよ!それくらい!」

 

「・・・好きだったのよ。私、ここでの生活が好きだった。最低で最悪で劣悪で。何食べてもクソ不味かったけど・・・ここでの暮らしが好きだった。

それを壊された!あいつに!」

 

ヴィルキスはアーキバスに斬りかかった。簡単にアーキバスの腕が斬り落とされる。

 

「邪魔をするなら・・・殺すわ!」

 

その時アンジュの指輪が光った。ヴィルキスが赤く光り輝く。そしてアーキバスのもう片方の腕も斬り落とす。

 

「アンジュ!許さない!勝ち逃げなんて絶対に許さない!アンジュの下半身デブ!!」

 

サリアは呪詛の言葉を言いながら、機体とともに海へと落ちていった。 アンジュはそれを見た後、ジュリオの元目掛けて突き進んでゆく。

 

 

 

 

その頃発着デッキではヒルダ達が発進しようとしていた。

 

「よし!出るぞ!」

 

ヒルダとロザリーが発進した。クリスもそれに続く。その時だ。生き残っていた兵士がいた。その兵士は銃口をクリスに向けた。

 

クリスの頭に銃弾が命中する。機体がが大きく横に逸れ、壁に衝突する。機体から激しく火花と煙が上がる。

 

「クリス!」

 

ヒルダとロザリーが同時に叫ぶ。しかしクリスからの返答は返ってこなかった。

 

「待ってろクリス!今助けてやるからな!」

 

「ありがとう・・・ロザ・・・」

 

絞り出す様な声を出した次の瞬間、ハウザーは大爆発を起こした。兵士もその爆発に巻き込まれ死んだ。

 

「クリスゥ!!!」

 

「チキショウ!・・・テメェら全員ぶっ殺す!!!」

 

ロザリーが泣きながら、しかしその瞳には確かな

怒りが込められていた。ピレスロイドにその怒りをぶつける。

 

ヒルダもピレスロイドを撃ち落としていく。そしてその頃、エルシャは幼年部の子供達の所に辿り着いた。だがそこに、既に生きていた頃の幼年部の子供達はいなかった。

 

その場にいるのは骸と成り果てた子供達。皆が無抵抗に殺された事がわかる。

 

「そんな・・・・・・」

 

床に転がっているオルゴールが虚しく鳴り響いていた。

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

 

エルシャが子供達の亡骸の前で泣き崩れる。

 

その時エルシャは気がついてなかった。背後にスーツ姿の男か近づいてきたことを。そしてその男は時を同じくして、既に動かなくなっていたクリスの所にも現れた。

 

 

 

 

「・・・これは!?」

 

しばらく飛んでいて、アンジュとナオミが見た光景。それはミスルギの艦隊が跡形もなく破壊されている残骸であった。唯一半壊状態で健在している艦。エンペラージュリオ一世。その付近にはオメガがホバリングをしていた。

 

機体越しに二人が艦内を覗き込む。そこには目も当てられない光景が広がっていた・・・

 

 

 

 

 

 

時間的に少し前に遡る。

 

「全ての巡洋艦とイージス艦との交信途絶!」

 

「どうなっている!?つい先程までは沢山いただろうが!」

 

「謎の高熱源反応が本艦めがけて接近!!」

 

すると突然オペレーターの頭を銃弾が貫いた。そしてブリッジの外装が剥がされ、ある人物がそこへと舞い降りた。

 

「き、きっ、きっ!貴様は!」

 

ジュリオのシルフィーが立った。彼女が床に落ちていた鉄パイプを拾い上げた。次の瞬間、それは突然剣へと形状変化した。

 

「ひっ、ひぃぃぃ!!!来るな化け物!来るなぁ!!」

 

手に持った銃をデタラメ放つ。弾丸の一つが彼女の頬を掠める。赤色の血が一筋流れ落ちる。今の彼女はそんなものでは怯みはしない。

 

「ひぃ!ひぃ!!ひぃぃ!!!」

 

最早逃げる事も碌な命乞いも出来ない。無様に右手で払いのける動作だけをしている。その様は彼が命じたノーマ虐殺と同じ。確実に迫っている死の恐怖に怯えるというものであった。

 

彼女の眼には、一欠片の容赦も情けもなかった。

 

【ザクッ】

 

まず右腕が斬り落とされた。痛みに叫ぶ間もなく左腕を斬り落とす。両手を捥がれたジュオリは激痛に這いつくばる。直ぐに両脚を叩き斬る。

 

物陰でその様子を伺う者がいた。リィザだ。

 

(なんて事だ。早く姫様達に報告しなければ)

 

リィザは翼を生やしたかと思うと、急いでその場から飛び立った。

 

 

 

 

 

そしてアンジュ達が見た光景。それはすでに生き絶えたジュリオの胴体。死んだ骸。それを滅多刺しにするシルフィーの姿であった。

 

「・・・シルフィー・・・」

 

二人の眼には一瞬だけ、彼女の姿がミスルギで見せたあの状態になっている錯覚を覚えた。

 

その時である!

 

「おめでとう。その様子だと記憶の方は戻りかけてるみたいだね」

 

場違いな明るい声が響いた。彼女の眼前に一人の女の顔が入る。そのそっくり具合は相変わらず、一瞬鏡と見間違う程であった。

 

「リラ」

 

「安心しなよ。指揮官は見ての通り潰された。ピレスロイドも時期に燃料不足でただの鉄くずになる。この様子だと後数分でこの戦闘は終わるかな。だから・・・ちょっと僕に付き合ってよ」

 

彼女が手にしたカードを上空へ投げ飛ばす。すると待機していたオメガが突然叫びだした。

 

「その艦から飛び降りろ!!急げ!!」

 

オメガの言葉が先か、身体が先か。反射的に海面目掛けて飛び込んだ。海面スレスレの箇所でオメガに回収してもらった。

 

そして次の瞬間、エンペラージュリオ一世は大爆発を引き起こした。

 

「何が起きたの!?」

 

「上を見てみろ!」

 

三人が空を見上げた。すると突然空が裂け、そこから一つのロボットが降臨した。その姿はボディラインが黒く塗られてる以外はオメガそっくりであった。その手のひらにはリラが乗っている。

 

「オメガ!?」

 

「忘れているだろうから紹介するよ。僕のDEM・tyep・ZERO」

 

「久しぶりだな。オメガ。いや、機械生命体

第1号。私は機械生命体第25号。ゼロ」

 

「リラが生きていた事から薄々予想はしていたが。貴様も健在だったか!」

 

「まぁね。君達のせいで死にかけたけど、僕もこいつもなんとか生き延びたよ。そんな事より始めようじゃないか。君が僕。勝った奴が負けた奴の腕輪を手に入れる戦いを」

 

「・・・分かった。応じるわ」

 

こうして二つのDEMは目にも止まらぬ速さで何処かを目指し飛び立って行った。ナオミが慌てて二人の後を追いかける。アンジュも後を追いかけようとした。

 

その時であった!

 

「やぁ。アンジュ」

 

突然自分を呼ぶ声がした。振り返るとそこにはとある機体がいた。そしてその人物はそのコックピットの箇所にいた。

 

「貴方は、さっきの!?」

 

「私の名はエンブリヲ。そしてこれは私のラグナメイル。ヒステリカ」

 

ラグナメイル。ヴィルキスと同じ神の兵器。

 

「それにしてもアンジュ、君は美しい。君の怒りは純粋で白く、何よりも熱い。理不尽や不条理に立ち向かい焼き尽くす炎のように。気高く美しい炎だ」

 

「な、何を言っているの!?」

 

「アンジュ!そいつは危険だ!今すぐ離れるんだ!」

 

振り返るとそこにはアーキバスに搭乗しているタスクがいた。その背にはヴィヴィアンを背負っている。

 

「無粋な・・・」

 

すると突然エンブリヲが歌を歌い始めた。それに応えるかの様にヒステリカの両肩が開かれた。

 

「この歌は、永遠語り!まさかあの兵器!?」

 

ヴィルキスに備わる兵器。ディスコードフェザー。それをヒステリカも備えている。両肩から光が放たれ、アーキバス目掛けて突き進んだ。

 

ヴィルキスがアーキバスを庇うように割り込む。

 

「アンジュ!」

 

その時、アンジュの指輪が光った。

 

次の瞬間、エンブリヲの機体から光が飛んできた。その光が機体に命中する直前、ヴィルキスとアーキバスの二機が突然消えた。放たれた光は、その場に残る虚空を切り裂いた。

 

「・・・ほう。つまらない筋書きだが、悪くない・・・ん?・・・成る程。彼女達も飛んだか。

勝手にZEROまで持ち出したか。助けた恩を忘れて・・・」

 

「だがこちらは面白い展開になりそうだな」

 

それだけ言うと、エンブリヲとヒステリカはその場から姿を避けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前、時間にしてアンジュがエンブリヲと対面していた頃。

 

(こいつ、強い!)

 

先程から繰り広げられる戦闘は、オメガの攻撃が

命中しない。全て避けられている。

 

「人間。よく聞け。この戦闘から離脱するぞ」

 

遂にオメガが警告を発した。

 

「まだ。もう一回アクセルモードを使えば」

 

「馬鹿者!アクセルモードはそう易々と使える形態ではない!もしまた使えば、お前の身体はGの負担に耐えられずバラバラになるぞ!」

 

そんな言葉を無視し、彼女はメモリーを差し込んだ。オメガの体色が黒に。ボディラインが銀色へと変色する。

 

《START UP》

 

撹乱のために上下左右に激しく動き続ける。するとゼロは突然動かなくなった。

 

「チャンス!これでぇぇぇ!!!」

 

オメガの渾身の一撃。その一撃はゼロの必要最低限の移動であっさりと受け流された。機体は海面へと叩きつけられ、元の形態へと戻る。

 

(まさか!?あの攻撃を避けたのか!?)

 

「それぞれのDEMには特徴がある。オメガの特徴がアクセルモードへの変化の様に。ゼロにも特徴があるんだよ。ゼロの特徴。それは未来予測システム。対象物の十秒間の行動を予想するシステムさ」

 

「さて、以前は横槍が入り煮え湯を飲んだがこれでもう貴様に勝ち目はない。ここで死ね」

 

ゼロが一気に接近してきた。するとそこにナオミのグレイブが間へと割り込んだ。ブレードを持ち出して鍔迫り合いを行う。

 

「ナオミ!?」

 

「シルフィー!今のうちに下がって!」

 

「ったく。割り込みは良くないよ?」

 

ゼロはグレイブをあっさりと圧する。機体性能の差ではない。乗り手の腕の差が顕著に表れていた。

 

「キャァァッ!」

 

「君達が僕に勝てるわけないだろ?とりあえず目障りだから君から潰す事にするよ」

 

ゼロのサーベルがナオミのグレイブへと向けられる。たが、その隙をオメガは見逃さなかった。

 

「チャンス!跳ぶぞ人間!!」

 

すると突然オメガのボディラインが紅く光輝いた。そして次の瞬間、辺りの空間が捻れたかと思うと、オメガとグレイブの姿は何処にもなかった。

 

「・・・向こうに跳んだか。ならこっちもそれなりの用意をしないとな」

 

空が再び裂けた。リラはゼロと共にその裂け目へと入って行った。その裂け目は直ぐに閉じ、何事もない空が続いていった。

 

 

 

アルゼナルの最下層の潜水艦内ではオペレーター達の準備も終了間際であった。

 

「注水開始!」

 

その言葉と共に注水作業が始まる。

 

「アルゼナル内部に生命反応無し。生存者の収容。完了しました」

 

オペレーターのヒカルがジル司令に報告する。

 

「メインエンジン臨界まで残り10秒。注水率80%を突破。注水隔壁閉鎖完了」

 

「交戦中のパラメイルには、集合座標を暗号で送信しろ」

 

「了解!」

 

「拘束アーム解除。ゲート開け!微速前進!アウローラ発進!」

 

その掛け声のもと、アルゼナルの生存者を乗せた

アウローラは発進した。

リベルタスという反逆を始める為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在シルフィーは高速で飛翔しているオメガの翼にぶら下がっていた。辺りを見渡してもそこには一面の暗闇が広がるだけであった。

 

「いいか!絶対に手を離すな!!」

 

オメガが激励の言葉をかける。しかし彼女の身体にかかる負荷は相当なものである。アクセルモードの時の負担など、これに比べれば屁でもない。それでも必死に落ちない様に機体の翼を掴み続けていた。

 

「踏ん張れ!何とか耐えろ!」

 

しかし、彼女の疲労などは遂に限界を迎えた。体と機体を繋ぐ右腕がついに機体から離れた。

 

シルフィーの身体は宙へと浮かんだ。自身とオメガを繋いでいた最後の糸。その糸が切れたのを両者は確認した。直ぐにオメガの姿は闇で見えなくなった。

 

そしてシルフィーの意識は、底知れぬ暗闇の奥へと堕ちていった。




二話に分けずに一話に纏めようとした結果、詰め込み過ぎた感がありますね。反省しよう。

遂に第5章が終了です。次回からは第6章です!そして6章の終盤から7章はオリジナルシナリオが展開されます。その点を予めご了承ください。

なお、オリジナル図鑑3は本編の都合上、第6章終了時に製作します。

追記。第40話は以前のアンケート結果でドラゴンルートになった為、アニメの14話を省略する形になります。その点もご了承ください。


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第6章 もう一つの地球
第40話 シルフィーとナオミ


 

 

(私・・・どうなったんだっけ)

 

オメガから落ちたシルフィーは現在、地面に突っ伏している。重い身体を起き上がらせると、辺りの光景がぼんやりとだが見えてきた。

 

「ここ。また来たのね」

 

彼女の今いる場所。それは自身の夢の中だと自覚できた。辺りには瓦礫の山が散乱しており、激しい

戦闘の後爪痕を思わせる。

 

「・・・この場所を、私は知ってる」

 

【バサっ】

 

地面にある資料が落ちていた。手に取る資料の表面は赤黒いシミが付着していた。

 

【ZERO計画】

 

【コツ、コツ、コツ、コツ】

 

拾い上げた背後から音がした。振り返って見る。

すると目の前にはある人間がいた。自分と同じ様に

黒装束を纏い、フードを目深に被って顔が見えない。だが男である事は予想がついた。

 

「貴方はシオンなの?それともフリード?」

 

すると目の前の人間はフードをゆっくり外した。外した顔を見た途端、手にした資料を見事に床にぶちまけた。目の前の人間は二人のうちどちらでもなかった。簡単に説明するならこうなる。骸骨男。

 

「貴方、人間じゃない!・・・ははっ」

 

自分で言ったその言葉に自嘲気味に笑う。自分だって人間ではないじゃないか。たかが骸骨男一人、

別に驚く事ではない。

 

骸骨男は再びこちらに近づいてきた。そして彼女の頭を優しく撫でた。

 

その手は血が通ってないのか、冷たく、されど何処か温もりが籠っていた。そして撫でられた途端、

夢の中での彼女の意識は溶けていった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

再び意識が覚醒した時、彼女は広大な大地に大の字で倒れ伏していた。今度は現実世界の様だ。

 

「あれ?私、確か夢の世界で・・・その前は確か・・・」

 

彼女の脳が覚醒し、今に至るまでの経緯が細かく蘇る。

 

「そうだ!アルゼナルが人間の襲撃を受けて、確か親玉を討ち取って、そしたらそこにリラが現れて、それでDEMと戦って、そしたらオメガに飛ばされて・・・オメガ!オメガは!?」

 

慌てて辺りを見渡した。だが周囲にはオメガの姿は何処にもなかった。やがて自分のいる場所の異常性にも感づいた。

 

「あれ?私、確か海の上で戦ってたはず。なんで陸地にいるの?」

 

とりあえず自分の身の回りを確認する。服と腕輪はある。メモリーもある。彼女はオメガを探す為に

付近を散策し始めた。

 

「なんだここ・・・一体何があったんだ・・・」

 

辺りには廃墟の様な建物が立ち並んでいた。人の

気配が一切しない。死の大地とでも言うべきか。

 

やがて妙な影を見つけた大きさで言うならパラメイルクラスの大きさである。

 

「オメガか!?」

 

慌ててその影に近寄った。だがそれはオメガではなくグレイブであった。そしてコックピットには意識を失ったナオミがいた。

 

「ナオミ?ナオミ!」

 

胴体を軽く揺さぶる。すると彼女の意識は簡単に覚醒した。

 

「シルフィー・・・私。どうなったの?」

 

「分からない。そもそもここが何処なのかさえ」

 

「へ?そう言えばここって・・・どこ!?」

 

ナオミも今の現状を把握したらしい。慌ててパラメイルの通信機をとった。

 

「アルゼナル!応答してください!アルゼナル!

応答して!アンジュ!ヒルダ!ジル司令!ジャスミン!だれか応答して!」

 

しかし通信機からは誰の応答も返ってはこない。

試しに飛ばそうとエンジンを入れる。しかしかからない。機体としては整備しないと飛べないみたいだ。

 

「駄目。オメガは愚か、人影すら何処にもない。

だいたい個々が何処なのかすら分からない。

 

「私達、どうな・・・」

 

会話の途中で、突然シルフィーがナオミを引っ張り、グレイブの機体の影に蹲る。

 

「ど、どうしたの!?」

 

「何か来る」

 

その時奥から何か音が聞こえた。二人とも直ぐに

交戦状態に入れるように銃を構える。やがて何かがこちらへと接近してきた。

 

それには二人とも目を疑った。なんと人間ではなく小型の全自動移動ロボットが来たではないか。

 

「こちらは地方防衛機構です。生存者の方はいらっしゃいますか?生存者の方はいらっしゃいますか?地方第七シェルターは現在稼働中。生存者の方を受け入れています。生存者は第13公園までお越しください。繰り返します。こちらは・・・」

 

ロボットはこちらに気づく事なく通り過ぎていった。

 

「第13公園。そこに行けば誰かに会えるんじゃないか!?」

 

「きっと会える!行ってみよう!」

 

二人とも慎重にロボットの跡をついていった。

 

やがて二人はある場所にたどり着いた。そこはドームのような場所である。

 

「ここに生存者が?」

 

辺りを見渡してみるが、それらしき影はない。だとすると生存者は中にいることになる。

 

「この中に生存者が・・・」

 

すると扉のようなものからセンサーのビームがこちらに向けられた。センサーは身体を一通りスキャンした。

 

「生体反応を確認。収容を開始します」

 

機械の音声で言葉を放った。すると目の前の扉が

自動で開かれた。

 

「ようこそ。地方第七シェルターへ。地方防衛機構はあなた様を歓迎します」

 

二人は顔を見合わせた。そして銃を構えながら奥へと進んでいった。

 

「現在、当シェルターは6.5%の余剰スペースがあります。それでは快適な生活を」

 

周りの扉が一斉に開いた。中を覗いてみるとそこには人が沢山横になっていた。厳密に言うならかつて人だったと思われる者が横になっていた。

 

シェルター内部の部屋には白骨死体が大量に転がっていた。きっと長い年月をかけて白骨化したのだろう。

 

驚きのあまり二人とも悲鳴は愚か声すら出なかった。やがて絞り出す様にナオミが声を出した。

 

「な・・・なに、これ・・・なんで、こんな事が・・・!」

 

すると目の前のモニターに突然電源が付いた。そこには女性の姿が映し出されていた。

 

「私は防衛機構の共有管理コンピューターのひまわりです。ご質問をどうぞ」

 

「これ。コンピューターなの・・・」

 

「ひまわり?と、とにかく教えて、これは一体なんなの!?一体、何が起きたの!?」

 

「質問を受け付けました。回答シークエンスに入ります」

 

その言葉と共に照明が落ちた。一瞬の暗闇が場を支配する。しかし次の瞬間には灯りがついた。どうやら映像を投影する為の用意らしい。

 

映像にはビル街が映し出された。次の瞬間、ビル街にミサイルの雨が降り注いだ。上空では空を埋め尽くさんばかり戦闘機が飛んでおり、陸には地面を埋め尽くすほどの戦車が走っていた。そのどちらとも何かとの戦闘中である事がわかる。

 

「なにこれ・・・バトル映画?」

 

「実際の映像です。統合経済連合と反大陸同盟機構による大規模な国家間戦争。第7次大戦やラグナレク。D.WARなどと呼ばれる戦争が起こりました。

この戦争により地球人口は11%まで減少しました。膠着状態を打開すべく、連合側が絶対兵器【ラグナメイル】を投入」

 

その映像に映し出されたそれに二人は言葉を失った。映像に映し出されたその機体は彼女達も知っているものだった。

 

「あれは、黒いヴィルキス?」

 

「何を・・・する気・・・」

 

映像に映されたそれは、ヴィルキスに搭載されている両肩部分から光を放った。それらは街を一瞬で薙ぎ払った。艦隊を、街を、海を、その光が全てをなぎ払う光景が映し出された。

 

「こうして戦争は終結しました。しかしラグナメイルの次元共有兵器により地球上全てのドラグニウム反応炉が共鳴爆発を起こし、地球は壊滅的なダメージを受けました」

 

「こうして地球は生存困難な汚染環境となり、全ての文明は崩壊しました。以上です。他にご質問はありますか?」

 

「世界が・・・滅んだ・・・」

 

二人とも唖然となっていた。いきなり突きつけられた情報がこれであるため無理もない。

 

(この映像。確か以前見た・・・)※第24話参照

 

それだけではない。辺りに散らばるこの人骨。これもシルフィーはかつて見た事がある。※11話参照

 

デジャブ感とはこの事を言うのだろう。やがてナオミが慌てて尋ねた。

 

「ねぇ!これっていつの話なの!?」

 

「538年193日前です。現在世界各地、20976箇所のシェルターの中に熱、動体、生命反応は殆どありません。現在地球上に生存する人間は、あなた方を含めて三人だけです」

 

女性の顔が笑っていた。満面の笑みで。それはとても不気味であった。だがその言葉には少しの希望も含まれていた。

 

「三人・・・私達二人の他に、誰か生きてるの!?」

 

そう。自分達以外の人間がいるという事実に二人の顔は少し明るくなった。

 

だからこそ、次の言葉がその分衝撃を含んでいた。

 

「はい。首都第三防衛シェルター。そこに二人の

人間の生命反応が確認されました」

 

「へっ?」

 

二人が拍子抜けした声を出す。現在ここに居るのが二人。そしてその第三シェルターにいる生存者が二人。2+2=4。幼年部で習う計算だ。それなのに、このコンピューターの言っている事は数が合わないのだ。

 

「ねぇ。そのシェルターには本当に二人の生存者がいるの?」

 

「はい。先日、第三シェルターのひまわりにアクセスした者は二人です」

 

「これって壊れてるんじゃないの?ねぇ。今このシェルターに何人の人間がいるの?」

 

「私は正常です。現在このシェルターの生存者は

一人だけです」

 

「やっぱり壊れてるのかな?」

 

「とにかく外に出よう。こんなとこ居たくない。」

 

こうして二人はシェルターを後にした。既に外は

夕陽に照らされていた。歩く二人は終始無言であった。

 

シルフィーはオメガを探しながら食料を集めるのに精を出した。

 

ナオミは暫くの間、パラメイルの修理に取り組んでいたが、その作業は困難を極めていた。

 

「駄目、このグレイブ。飛べないし動かない」

 

グレイブは動かずオメガは行方不明。生存者のいるとされる場所は600km離れた東京とやら。とても

じゃないが歩いて行くのは不可能な距離である。

 

一体どうするべきか、その思考に老けていた。

 

「ナオミ。ちょっと来て」

 

背後からシルフィーが声をかける。そこは廃れた館であった。その館の食堂の様な部屋に入った。そこには焼き魚が並べられていた。

 

「これは?」

 

「近くに川が流れてた。そこで釣ってきた。私達、何も食べてないから、食べよう」

 

しかし、こんな状況では食事などほとんど喉を通らないものである。

 

「ちゃんと食べないと、直ぐに倒れるわよ」

 

「私はダメだよ。頭の中がぐちゃぐちゃになって。一体何をすればいいのか、全く分からない。初めてシルフィーとあった時と、全く同じ気分だよ・・・」

 

「私も、シルフィーみたいに強ければ、こんな時にも平気でいられるのかな。少しも怖くないのかな・・・」

 

「・・・私だってすごく怖いよ」

 

「えっ?」

 

「でもね、それだけじゃない。安心感もある・・・ミスルギ皇国での出来事を覚えてる?」

 

二人の脳裏に嫌な記憶が思い出される。

 

「気がつけばいきなり見た目が人外になったばかりか変な能力までついてきた。いざ帰る場所だと思ってたアルゼナルに帰れば周りからは批判とブーイングの殺到。まるで自分一人だけが、別の世界に放り出された感じがしたわ」

 

「でも、ナオミは躊躇わずに手を差し伸べてくれた。ねぇ、自分が人間じゃなくて、人を沢山殺して、帰る場所をなくした私にとって、その行為がどれほど嬉しくて、暖かい言葉だったか・・・そんな人が側にいるだけで、どれ程救われる事か・・・」

 

「シルフィー・・・」

 

「それにね。実の所、私もどうすればいいのか全く分からない。でも、今私は生きている。たとえ五百年近く眠っていたとしても、私は生きてる。だから私は生き続ける。きっと明日が来るから」

 

「・・・そうだね。今私は生きてる。なら明日も

生きないとね」

 

そう言うナオミの目には、生きる希望が戻った。

 

「でも、まさか本当にアルゼナルが無くなることになるなんて。でも、グレイブが飛べる様になったら、この世界を見て回れば、きっとなんとかなる!」

 

(こんな世界でも、ナオミは世界を見て回りたいんだな・・・私には、彼女のやりたい事を止める権利はない・・・)

 

(また、一人に戻るのか・・・)

 

そう思うと少し悲しい感情が込み上げてきた。だが、次のナオミの言葉にシルフィーは驚きを隠せなかった。

 

「ねぇシルフィー。アルゼナルで言いかけたけど、もしこのまま誰も見つからなかったら・・・ここでこのまま二人で世界を見て回らない?もしくは、

このまま静かに暮らさない?」

 

その言葉にシルフィーは目を丸くした。一瞬ナオミが何を言っているのか理解が出来なかった。

 

「なっ、わ、私は化け物なんだぞ!」

 

「そんなの関係ないよ。シルフィーはシルフィーだよ。たとえシルフィーが人間だとしても、ドラゴンだとしても、これまでのシルフィーが否定されるわけじゃない」

 

「私はシルフィーの事は怖くないし一緒にいたい。シルフィーは私と一緒にいたくないの?」

 

【ガシッ!】

 

突然シルフィーがナオミの手を強く握った。

 

「・・・嫌なわけ、ないでしょ・・・ずっと、ずっと一緒だぞ」

 

この時ナオミは、初めて彼女が泣く姿を見た。その涙は温かく、優しい涙であった。

 

「私は、幸せ者だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人のいる部屋のベランダ。そこにはシオン達が居た。皆が眼を閉じ、黙って先程の会話を全て聞いていた。

 

(・・・ナオミ。君みたいな優しい人がシルフィーと出会う事になって、本当に良かった・・・本当に)

 

「真実を告げなくていいのかい?とても薄情な人達だなぁ」

 

「!!!」

 

「あの子はこのままだと、きっと死ぬほど後悔する事になるだろうねぇ。それは君も知ってるんだろう?それともまだ、中途半端に真実から目を背け、勝手な想像に甘え続けるつもりかい?」

 

「・・・・・・黙れよ」

 

絞り出す声で背後の存在を睨みつけた。そこには

リラがニタニタと満面の笑みを浮かべていた。

 

「それとも、贖罪のつもりかい?」

 

「余計なお世話だ」

 

次の瞬間、シオンは居合刀を引き抜き、リラの左腕目掛けて斬りかかった。しかしその一撃は容易く避けられた。

 

「腕輪を返せ!それはお前には不必要なはずだ!」

 

「悪いけど、腕輪を揃えるためにも必要だよ。欲しければ力強くで奪い取るかい?」

 

「言ってくれるじゃないか。その挑発のった」

 

フリードを筆頭に皆がが構えた。するとリラが突然構えをといた。

 

「でも残念。ここで戦うつもりはないよ。それに、そろそろ奴等が来るだろう。今は君達も身を引いた方が賢明だよ」

 

それだけ言うとリラは森の奥へと走っていった。

 

「奴等が来るか。こちらも準備に取り掛かるか」

 

それだけ言うとシオン達もその場から姿を消した。

 

 

 

 

その頃食堂でも、異変が起きていた。突然シルフィーの付けている腕輪が輝きだしたのだ。

 

「!腕輪が!!」

 

「ど、どうしたの!?」

 

彼女は腕輪に触れ、静かに目を閉じたかと思うと、一気に目を見開かせた。

 

「何かくる!」

 

すると突然部屋の窓ガラスが砕けたった。ガラスの先にはドラゴンが数匹いた。そしてドラゴンの目の前には、二人の女性がいた。

 

「救難信号出していたのはお前達か?」

 

それを見た二人は目の前の人物がドラゴンの人間態だと理解できた。

 

「灯りが見えてな、まさかと思い来てみたら案の定いたか。おい、コンテナを持ってこい」

 

一つのコンテナが投下された。コンテナの入り口部分が開く。そこには二人が知っている人物がいた。

 

「ナオミ!?それにシルフィー!?」

 

「アンジュ!タスク!それに・・・もしかして、

ヴィヴィアン!?」

 

コンテナの中にはアンジュとタスク。そしてドラゴンになったヴィヴィアンが搭載されていた。

 

「まさか第三シェルターにいたのは、アンジュ達なの!?」

 

「貴女達こそ!あのシェルターで聞いた生存者は私達の他に一人って聞いたけど、まさか二人もいたとは」

 

「再開の挨拶は中でしろ。お前達もこの中に入れ。悪いが来てもらう場所がある」

 

青い服の女が手にした二本の刀をこちらへと向けてきた。

 

「安心してください。そちらに危害を加えるつもりはありません。それにそちらの機体はこちらで回収させてもらいました」

 

「二人とも、今は言う通りにした方が良いわ。私達も聞きたいことがあるし」

 

アンジュが付け足す風にいう。奥を見るとガレオン級はヴィルキスとアーキバス。そしてグレイブを運んでいる。おそらく機体を人質ならぬ物質にとられてるのだろう。

 

(オメガはないのか)

 

「わかった。そっちに移るよ」

 

ナオミが素直にコンテナ内に入る。シルフィーも後に続いて入ろうとする。

 

「ん?お前。ちょっと待て」

 

シルフィーが入ろうとした途端、二人の女はシルフィーを止めた。そしてシルフィーの身体をペタペタ触り始めた。

 

「何?」

 

「・・・お前はこっちに乗れ」

 

すると女達はシルフィーをコンテナには乗せず、

コンテナを吊り下げたドラゴンの上へと乗らせた。

 

「命が惜しければ落ちない様に気をつけるのだな。では行くぞ」

 

ドラゴンは荒っぽく、何処かを目指して高く飛び立って行った。




今回の話は本編にはありません。アニメの第14話ではアンジュとタスクの回でした。その為その部分が描かれていません。

もし知りたい方がいましたら是非ともアニメを視聴する事をお勧めします。

簡単かつ簡潔なアニメでの展開を説明すると。

アンジュとタスクが喧嘩して仲直りです。


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第41話 竜の世界 前編

 

 

「じゃあアンジュ達は二日前に目覚めたんだね」

 

コンテナ内にて。現在アンジュ達はナオミと情報を共有をしあっていた。

 

「ええっ。それにしてもここ、狭いわね。しかも時々激しく揺れるし」

 

現在コンテナ内にはアンジュ、タスク、ナオミ。そしてドラゴンとなったヴィヴィアンの四名でぎゅうぎゅう詰めとなっていた。それにさっきから激しい揺れが続いている。お陰で肘とかが他人にぶつかってしまう。

 

「こっちには女の子も乗ってるんだ!もっと丁寧に運んでくれ!」

 

タスクが外に聞こえるように叫ぶ。しかしあまり改善されている感じはない。

 

「全く。なんでこうなったんだろう。もしあのままドラゴン達さえ来なかったら・・・」

 

「なによ。やらなくて要求不満なの?」

 

タスクの言葉にアンジュが反応する。

 

「え!?や、ヤルって・・・」

 

「そうよナオミ。私襲われそうになったのよ」

 

ナオミの顔が赤く染まった。何を想像しているのか、容易に想像できる。

 

「ええっ!?あれは君から誘って・・・」

 

「本当にあなたって年柄年中発情期なのね」

 

「違うって!うわっと!」

 

またコンテナが大きく揺れた。中にいるアンジュ達も態勢をくずす。そして今回もまた、タスクの顔がアンジュの股間へとダイブされていた。

 

「どこに顔を埋めてるのよ!」

 

「仕方ないだろ!不可抗力なんだし!」

 

「いつまで発情してるのよ!」

 

「だから違うって!」

 

「た、タスク!タスクの手が私のお尻触ってるんだけど・・・」

 

「ちょっとタスク!!あんた何してんのよ!!」

 

「これも不可抗力だ!わざとじゃないよ!」

 

「そ、そうだよ。不可抗力なら仕方ないよ。わざとじゃないし、それに狭いし我慢するよ」

 

「えっ!?じゃあ・・・このまま触ってていいかな?」

 

「・・・やっぱりやだ。顔がエッチなんだもん!!」

 

「ええっ!!?」

 

「ナオミ!浴びせる蹴りを入れるわよ!」

 

「離してよタスク!えい!えい!!」

 

「痛い痛い痛い!骨が折れる!だれかーたすけてー!!!」

 

この後タスクが二人にボコボコにされた事は言うまでもなかろう。

 

このような会話がコンテナ内に響いていた。しばらくするとコンテナの揺れが収まった。揺れが収まる直前に床が何かにぶつかった感覚があったため、地面にコンテナが降ろされたのだろう。

 

コンテナの扉が重く開かれた。開かれた入り口には例の女の門番達がいた。その二人の手には相変わらず武器が握られてもいた。

 

「出ろ」

 

四人は外へと出た。シルフィーもドラゴンから降りる。するとそこは先程までいた廃墟ではなかった。なんというか、どこが神秘的な場所であった。

 

「大巫女様がお会いになられる。こちらへ」

 

「きゅー」

 

突然ヴィヴィアンが倒れこむ。その首筋には針が刺さっており、それを取り囲む様に女性達が集まってきた。

 

「ヴィヴィアン!?ヴィヴィアンに何をしたの!?」

 

四人が問いかけるが、それに対して二人は武器を構えた。答えるつもりはないという事だろう。ヴィヴィアンには医者らしき人物達がやってきた。彼女達がヴィヴィゴンを何処かへと運んでいった。

 

「あの子に手荒な真似はしません。それは保証します」

 

緑服の女がそう言う。そして三人は案内され奥へと進んでいった。部屋に入った途端、辺りの雰囲気が変わった事に皆が気づく。部屋中に威厳が溢れかえっている。

 

「連れてまいりました」

 

その部屋の一番高い所。部屋にいた者達は皆仕切りの裏におり、その姿は確認できなかった。

 

「異界の女達。それに男・・・」

 

仕切りの裏側にいる人物が呟く。

 

「名は何と申す」

 

「人に名前を聞くなら自分から名乗りなさいよ!」

 

「貴様!大巫女様になんたる無礼!」

 

例の二人が武器をアンジュに向ける。話し合いの場がいきなり戦闘場に成りかけた。声の主は余程偉い地位にいる存在らしい。タスクが小声で嗜める。

 

「特異点は開かれていない。どうやってこの世界に来た」

 

四人は顔を見合わせて黙り込んだ。気づいたら此方にいたなど言える訳がない。しかし仕切りの背後の存在は質問を畳みかける。

 

「大巫女様の御前なるぞ!答えよ!」

 

「あの機体。あれはお前が乗ってきたのか?」

 

「そこにいるのは本物の男か?」

 

「何故シルフィスの娘と一緒にいた」

 

「うるさーい!聞くなら一つずつにして!第一ここはどこなのよ!?今はいつ!?あなた達は何者なの!?」

 

遂にアンジュがブチ切れだ。一方的な質問責めをされれば怒りたくもなるだろう。

 

「貴様!!なんたる無礼!」

 

二人の女性ががまた武器を抜いた。今の状態では、間違いなく血が流れる雰囲気となった。

 

「威勢の良いことで」

 

突然仕切りの後ろからある人物が姿を現した。

 

「貴女!・・・あの時の!」

 

「あの時、謎の兵器に乗ってた!」

 

アンジュとシルフィーは思い出していた。あの時、アルゼナルがドラゴンの大襲撃にあった際、謎の空間で出会った女の事を。目の前の人物はその時の女であった。

 

「真祖アウラの一族にしてフレイヤが姫。近衛中将サラマンディーネ。ようこそ、誠なる地球へ。偽りの星の者達」

 

「サラマンディーネ。知っておるのか?この者達を?」

 

仕切り越しに大巫女と呼ばれた存在がサラマンディーネに尋ねる。

 

「ええ。先の戦闘で、我が機体と互角に渡り合えたビルキスの乗り手。歌を知る者達です」

 

そう言いサラマンディーネは二人を指差した。

 

「ビルキスの・・・乗り手」

 

「この者達は危険です!生かしておいてはなりません!」

 

「処分しなさい!今すぐに!」

 

仕切りの後ろから物騒な言葉が聞こえてくる。

 

「やれば?死刑にされる事には慣れてるわ。でもね・・・ただで済むとは思わないことね・・・」

 

アンジュは臨戦態勢に入っていた。既にシルフィーも襲いかかる算段をしていた。

 

「お待ちください皆さま。この者はビルキスを動かせる特別な存在です。あの機体の秘密を聞き出すまで生かしておく方が得策かと存じます」

 

サラマンディーネの発言に、仕切りの後ろでざわめき合っている。恐らくどうするかの相談でもしているのだろう。

 

「よかろう

 

サラマンディーネを先頭に、部屋を出ようとしたその時である。

 

「ちょっと待て!!!!!」

 

突然仕切りの背後からハモった怒声にも似た大声が響き渡る。しかもこれまでの威厳溢れる言葉遣いではない。余りに予想外の出来事にシルフィー達だけでなくサラマンディーネ達まで驚いた。

 

「そなた!!その右手の腕輪は何か!?」

 

シルフィーのつけている腕輪を一斉に指差している。

 

「これ?これは太陽の腕輪。これがどうしたの?」

 

「・・・・・・いや。良い腕輪だと思っただけだ」

 

いきなり偉そうな連中の口調が元に戻った。余りに変であった。

 

「は?何を言って・・・」

 

「早く行け!!!」

 

有無を言わせぬ大声が響く。サラマンディーネ達がアンジュ達を引き連れて慌てて部屋を出て行った。

 

「・・・・・・」

 

部屋に残った者達は無言であった。何か言いたいが言い出せない様な雰囲気が、その場を支配した。やがてその場に乾いた笑いがした。

 

「ははっ。ま、まさか・・・な」

 

 

 

 

 

 

一方アンジュ達はサラマンディーネによって客間の様な一室へと入っていた。

 

「ご苦労。ナーガ。カナメ。二人はお下がりください」

 

そう言われると、ナーガとカナメは部屋の外で待機した。

 

「まず言っておきます。あなた方を捕虜として扱うつもりはありません。シルフィスの娘も、治療が終われば直ぐにでも会えますよ。あなた方の機体も、我々が責任を持って修理します。とりあえずこちらへどうぞ」

 

そう言われて四人は部屋のある場所へと来た。そこは茶室であった。サラマンディーネが茶道で茶を淹れる。そしてそれを四人の前にだす。

 

「なんのつもりよ」

 

「長旅でお疲れでしょう。まずは一息つきませんか?」

 

考えてみればシルフィーとナオミは食事中にドラゴン達がやって来た為ロクに飲食をしていなかった。その為出された茶を何の躊躇いもなく飲みほした。

 

一息ついたのち、タスクが話を切り出した。

 

「俺はタスク。アンジュの騎士だ。質問してもいいかな?サラマンディーネさん」

 

「なんなりと。タスク殿」

 

「ここは・・・本当に地球なのか?」

 

「ええ」

 

タスクの質問にサラマンディーネは当たり前の様に答える。

 

「じゃあ君達は・・・」

 

「人間です」

 

こちらも当たり前の様に答える。

 

「だけど、地球は俺たちの星で、人間は俺たちだ。だとしたらここは・・・」

 

「・・・もし、地球が二つあるとしたら?」

 

その言葉に四人が驚く。地球が二つあるなど想像したこともなかった。

 

「並行世界に存在したもう一つの地球。一部の人間達がこの星を捨てて移り住んだ、それがあなた達の地球です」

 

「地球を捨てた?一体なんのために?」

 

タスクが疑問に思う。しかしその答えはアンジュやシルフィー。ナオミ。そしてタスクにも予想がついていた。

 

「あなた方もあの廃墟で見たのではないのですか?この地球に何が起きたのか・・・」

 

「戦争と汚染・・・そして文明の崩壊・・・」

 

その言葉にタスクの顔が曇る。タスクはその言葉の重さに。アンジュが湯呑みを

 

「つまりこういう事でしょ?あんたがいて、地球が二つあるってことは・・・」

 

次の瞬間、アンジュは飲んでいた湯呑みを割った。湯呑みは見事に砕けた。その中の破片を一つ取りサラマンディーネの背後に回り込む。サラマンディーネの首に破片を突きつける。

 

「お、おいっ!アンジュ!!」

 

三人が慌てて止めようとする。

 

「私達を元の世界に戻す事も出来るのよね!?」

 

「サラマンディーネ様!」

 

外で待機していたナーガとカナメが駆けつけた。

 

「来るな!近づいたら殺すわよ!」

 

「野蛮人め!やはり早々に処分するべきだったか!」

 

「姫様を解放しろ!さもなくばこの者達の命はないぞ!」

 

カナメがタスクを人質に取る。例の薙刀で今アンジュがサラマンディーネにしている事と同じ事をする。人質の取り合いという事だ。ナーガもシルフィーとナオミに二本の刀を向ける。

 

「タスクなら殺しても構わないわ!」

 

「ええっ!?」

 

「タスクは私の騎士だもの!私を守る為なら喜んで死んでくれるわ!ねっ?タスク」

 

遂にアンジュがとんでもないことを言い始めた。しかし、こんな中でも、サラマンディーネは冷静であった。

 

「・・・帰ってどうするのですか?待っているのは機械に乗って私達を殺す日々。それがそんなに恋しいのですか?」

 

「だっ!黙りなさい!!」

 

破片をより強く突きつける。だが痛いところをつかれたのか、アンジュの言葉には若干の焦りが見えた。

 

「偽りの地球。偽りの世界。偽りの戦い。あなたは知らなさすぎる。付いて来なさい。貴方に真実をお見せします」

 

そう言いサラマンディーネが立ち上がろうとしたその時である。

 

「あんたらが偽りの地球の来訪者?

 

突然開きっぱなしの扉から三人の女性がズカズカと入り込んできた。そしてシルフィー達を品定めするかの様に見てきた。

 

「へー貴女達が来訪者か。それに男が一人」

 

「お前達!無礼だぞ!姫さまが応対中の客間にノックもせずに入るとは!!」

 

「これは失礼しましたね。ですがノックをしたくともノックする扉がなかったもので・・・」

 

一人が皮肉めいた口調で口答えをする。二人は慌てて入ってきた為、扉は全開であった。するとサラマンディーネが三人を睨みつけた。

 

「口論は結構です。それで貴女方は何の御用で来たのですか?」

 

「何、総帥から御命令を受けて来ました。確かえっと・・・君だ。ちょっと気になることがあるので少し来てもらえますか?」

 

女達は同時にシルフィーを指差した。

 

「私に?何よ?」

 

「それを検査するために呼び来たんだよ。ほら、

早く来な」

 

「ちょ、引っ張るなっ」

 

「では姫さま。失礼しますね。どうぞ先程の騒ぎの続きでもなさって下さい」

 

そう言うと女達は乱暴に扉を閉め、出て行った。

 

「何よあいつら!感じ悪いわね!特にあの態度!!あれが客に対する態度なの!?」

 

「君が言うんだ・・・」

 

今もアンジュはサラマンディーネの首元に湯飲みの破片を押し付けている。これが客のとる態度なのかと皆に問えば絶対違うと返ってくるだろう。

 

【コンコン】

 

客間に丁寧なノックが響いた。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

すると一人の女性が部屋へと入ってきた。威厳溢れる厳かな雰囲気を醸し出している。

 

「姫さま。先程部下達の無礼をお許しいただきたい」

 

そう言うと一人の女性が深々と頭を下げた。

 

「貴女は確か・・・」

 

「私は、黒の部隊の行動隊長を務めさせていただくアスカと申します。改めて姫さま。先程は私の部下達が非礼を働き、誠に申し訳ございませんでした!」

 

そう言うとアスカは扉を丁寧に閉めて出て行った。

 

「とにかく付いて来なさい。真実をお見せしましょう。ナーガ。カナメ。留守を頼みますよ」

 

そう言うとサラマンディーネは近くに置いてあった刀を取ると立ち上がり、出口へと向かった。その態度は人質にされている感じを全く出していない。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!人質にしてるのは私の方よ!」

 

アンジュが慌てて後を追いかける。

 

 

 

部屋を出たアンジュとサラマンディーネはドラゴンに乗りある場所へと目指していた。相変わらずアンジュは破片を向けて人質扱いの様にしているがサラマンディーネの方は全く気にしていないらしい。

 

ドラゴンはしばらく飛び続けた後、ある場所へと

降り立った。そこにはある壊れかけの柱があった。

それをアンジュは知っていた。

 

「ここにも・・・暁ノ御柱が」

 

「我々はアウラの塔と呼んでいます」

 

そう言うとサラマンディーネはアンジュを連れて、柱の中へと入っていった。柱の中は外見と同じでボロボロであった。

 

「ここはかつて、ドラグニウムの制御装置の役割を担っていました」

 

「ドラグニウム?」

 

「ドラグニウム。それは22世紀末に発見された、

大きなエネルギーを持つ超対象整流子の一種」

 

サラマンディーネは何かを操作していた。それはエレベーターらしくアンジュを乗せてエレベーターは降りていった。

 

「世界を照らすはずだったその光は、直ぐに戦争に投入されました。その結果、環境汚染や民族対立。貧困や格差。これらのうち、何一つ解決することなく人類社会は滅んでいきました」

 

「そんな地球に見切りをつけた一部の人間は、新天地を求めて旅だって行きました。そして残された人類は環境汚染された地球で生きていくために、ある一つの決断を下しました」

 

エレベーターが目的地にたどり着く。そこから降りる二人。

 

「自らの体を作り替え、環境に適応すること」

 

「作り替える・・・?」

 

「そうです。遺伝子操作によって、生態系ごと作り替えたのです。その先陣を切ったのがアウラです」

 

「アウラ?何よそれ」

 

「アウラ。汚染された世界に適応するために、自らの体を遺伝子操作した偉大なる祖先。あなた達の言葉で言うなら、最初のドラゴンです」

 

目の前には映像が出されていた。これまでアンジュが戦ってきたどのドラゴンでもなかった。その姿はアンジュにも神々しいと感じ取れた。映像が切り替わった。そこにはドラゴン達が現れた。

 

「私達は罪深き人類の歴史を受け入れ、贖罪と浄化の為に生きていくことを決めたのです。アウラとともに」

 

サラマンディーネが翼を広げる。そしてアンジュの腕を掴むと空中へと飛び上がった。そこからは様々なものが見えた。

 

「男達はその身を巨大なドラゴンへと変え、その身を世界の浄化の為に捧げました」

 

「浄化?」

 

「ドラグニウムを取り込み、体内で安定化した結晶にしているのです」

 

映像には巨大なドラゴンが何かを取り込んでいるシーンが映し出された。

 

「女達は時に姿を変えて男達と働き、時が来れば子を宿し、育てる。アウラとともに、私達は浄化と再生の道を歩み始めたのです」

 

「そんな事があったの・・・」

 

「驚かれるのも無理はないでしょう。ですが・・・アウラはもういません」

 

「どうして?」

 

「拐われたのです。ドラグニウムを見つけ、ラグナメイルを創り出し、世界を破壊し、そして捨てた

エンブリヲによって・・・」

 

「なっ!エンブリヲですって!?」

 

アンジュの中であの男の姿が映る。そして映像にはアウラを拐うエンブリヲの姿が映し出されていた。更にそのエンブリヲの付近では黒いラグナメイルがエンブリヲを守る様に身を寄せ合っていた。

 

その中には、ヴィルキスも含まれていた。

 

「あなた達の世界は、どんな力で動いているか知っていますか?」

 

「マナの力よ」

 

「そのエネルギー源は?」

 

「マナの光は無限に生み出されるものよ・・・まさか!?」

 

アンジュが嫌な予想をする。ここまで来た以上、

その予想は半ば確信めいていた。

 

「そうです。マナの光。理想郷。魔法の世界。それらの全てを支えているのはアウラの持つドラグニウムなのです」

 

「しかしエネルギーはいつかなくなります。補充する必要がある。一体どうやってアウラはドラグニウムを補給していたと思いますか?」

 

「・・・まさか!」

 

再び嫌な予想がついた。

 

「ドラゴンを殺し、体内にある浄化し、結晶化したドラグニウムを取り出しアウラに与える。それがあなた達が命懸けでしてきた戦いの本当の意味なのです」

 

「エネルギーを維持するために、私達の仲間は殺されて、その心臓をえぐられ、結晶化したドラグニウムを取り出された。これが貴女達のしてきた戦いの真実です」

 

「・・・」

 

「わかっていただけましたか?偽りの地球。偽りの世界。そして偽りの戦い。その言葉の意味が。それでも、偽りの世界へ帰りますか?」

 

「当然でしょ。たとえあなたの言った話が全て本当だったとしても、私の世界はあっちよ!」

 

アンジュは即答した。

 

「仕方ありませんね。では、貴女を拘束させてもらいます。これ以上私達の仲間を殺させる訳にはまいりません」

 

次の瞬間、サラマンディーネは尻尾を使い、アンジュの持っていた破片を叩き落とした。これでアンジュは丸腰だ。

 

「くっ!」

 

「ご安心を。殺しはしませんよ。貴女方と違って残虐で暴力的ではありませんから」

 

「アルゼナルぶっ壊しといて、何を!」

 

アンジュが慌てて距離を取る。

 

「あれは龍神器のテスト実験です。アウラ奪還に、貴女達の存在は障害になると判断しての行動です」

 

「それで何人死んだと思ってるの!」

 

「赦しはこいません。私達の世界を護る為に。それに、貴女も同じ立場なら、同じ事をしたのでは?皇女アンジュリーゼ」

 

「!!なぜ私の名前を!?」

 

「そちらの世界に、私達アウラの民に情報を与えている内通者がいるのです。その名はリィザ・ランドッグ」

 

アンジュは思い出す。ジュリアの近衛長官を務めている女を。あの女もアウラ側の人間であったのだ。

 

「心当たりがあるみたいですね。あなたが考えているその人物も私達と同じアウラの民です。さて・・・」

 

サラマンディーネは一気に近づき、アンジュに固め技を放つ。

 

「しばらくの間、眠ってもらいますよ」

 

こうしてアンジュは意識を失った。




本編中に現れた女三人組はカリン、エマ、アクアと名付けます。基本的にこの作品のオリキャラの名前に特に深い意味はありませんけどね。せめて呼ぶ名前くらいないとつまらないと思ったので。

まぁモブだったら名前もないけどねw


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第42話 竜の世界 後編

 

 

「ううっ・・・ここは?」

 

アンジュの意識が戻る。彼女の目前にはとある顔があった。最初はぼやけて見えていた顔がはっきりと映し出されていく。

 

「おいーっす、アンジュ」

 

「ヴィ、ヴィヴィアン!?」

 

そう。ヴィヴィアンだった。そこにはドラゴン姿ではなく、アンジュ達のよく知る姿のヴィヴィアンがいた。服装はドラゴン達の服を着ていた。

 

「ヴィヴィアン。元に戻れたのね。良かった・・・でも、どうやって?」

 

「ここでクイズです!なぜ人間の姿に戻れたのか、分かりますか!?

 

「分からない。答えは?」

 

「それはね・・・えっと・・・なんだっけ?」

 

「D型因子の配分を調整しました。これでもう、

外部からの投薬なしでも人の姿を保てるはずです」

 

「ということでした!」

 

「・・・あの。貴女は?」

 

アンジュは突然現れたその人物に多少驚く。

 

「私はドクター・ゲッコー。医者です。ねぇ貴女?どこか痛いところはない?」

 

「別に。何処も痛くないわ」

 

「そう。サラマンディーネ様が手加減してくれたのですね」

 

その言葉にアンジュはどこか悔しそうだった。全力を出さずとも倒せるとでも言いたいのだろうか。

 

「でもよかったねアンジュ。タスクはとっても心配してたよ」

 

隣のベットに座っていたナオミが一言付け加えた。

 

「タスク・・・そういえばタスクは?」

 

アンジュが気になりそう呟く。

 

次の瞬間である。

 

「たすけてぇー!」

 

医務室にタスクの悲鳴が響き渡った。それは隣の部屋からした。アンジュ達は急いで隣の部屋へと駆けつけた。

 

「!!?」

 

・・・そこにはタスクが全裸でベットに縛り付けられていた。しかもその周りには女性が沢山いた。

一言で言うならハーレム状態だ。皆タスクのあるものを見ていた。

 

「ちょっと!タスク!何やってるのよ!」

 

アンジュはタスクを助けようと近づいた。その時だった。アンジュが機材につまづいた。前に倒れこむ。その時タスクの顔がだいぶ緩んだ。

 

賢者タイムの様な時間が流れた。それは実際は数秒であるがアンジュとタスクにとっては何時間にも

感じられた。

 

・・・普段タスクにされていた事を今度はアンジュがしたと思って貰いたい。しかもアンジュは口を開いて股間に埋め込んだ。

 

アンジュの口の中にあるものが咥え込まれた。白い白濁液が口の中に出された。

 

周りの女性達が歓喜の声を上げていた。アンジュが慌てて起き上がる。

 

「なによこれ・・・嘘・・・なんで全裸なの!?私・・・一体!」

 

アンジュが口元を触る。そこには・・・白い・・・液体が付いていた。それは口の・・・中にも・・・あった・・・

 

【ゴクン】

 

アンジュの耳に嫌な音が聞こえた。その音はまるで液体を飲み込んだときのような音である。アンジュは条件反射的にそれを飲み込んでしまったのだ。

 

「おおっ!グゥレイトォ!」

 

ヴィヴィアンが歓声の声を上げた。ナオミに至っては手で顔を覆いつつも指の隙間からチラ見している。

 

「ちっ違うんだアンジュ!これは!」

 

「ご協力感謝しています、ミスタータスク。人型の成人男性の体なんて珍しいですから。勉強になりましたわ。【性教育】の」

 

「せ・・・性教育!!?」

 

「はい」

 

「へぇ・・・人が大変な目に遭っているのに・・・そう」

 

アンジュがつまずいた際に床に落とした機材のうち、ピンセットと羽箒を拾い上げた。一体これで

何をどうする気なのだろうか?

 

「やっやめろ・・・アンジュ落ち着いて・・・」

 

「このケダモノォォォ!!!!」

 

その部屋には、タスクの悲鳴が響き渡った。

 

少しして、ナオミが医務室へと戻る。そこのベットにはシルフィーが腰掛けていた。

 

「あっ、シルフィー。検査はどうだぅた?」

 

「それが何かよくわからないのよ。息を吸って吐いてその息を検査したって。結果は問題なしだけど」

 

「あっ、ゲッコーさん。あの・・・あっちの部屋。大丈夫です?」

 

今も向こうの部屋ではタスクの悲鳴と女性の歓喜の声が響き渡っていた。

 

「ええ。あの子達には自習をさせていますのでご安心を」

 

その時ナオミはある事を思い出した。

 

「そう言えば、ゲッコーさん。シルフィーの事なんですけど」

 

「どうかされましたか?」

 

「実はシルフィーも、ドラゴンだと思うんです」

 

「本当ですか?羽も尻尾も生えてませんよね?ですが分かりました。でしたら少し血液を頂いて遺伝子

照合検査をさせてください」

 

注射針が左腕に刺される。そこから血液を少し抜き取る。

 

「では、この血液を検査をします。多分明日には出てると思いますで」

 

それだけ言うと彼女は、医務室を出て行った。

 

 

 

 

その少し後、アンジュはある場所で手を洗っていた。そしてその後そこでうがいもした。まるで

ばっちいものを洗い流す様に。

 

「アンジュ、落ち着いた?」

 

ヴィヴィアンがタオルを差し出した。それを受け取る。

 

「私汚れちゃった・・・男って欲求不満ならトカゲでもなんでもいいのね!」

 

憎々しげにタオルを地面に叩きつけた。あの後もタスクは解放されずに同じ目に遭っているのを見ていたからこう思うの仕方ない。

 

「その様子では、もう平気なようですね」

 

背後から声がした。振り返るとサラマンディーネがいた。その後ろにはナーガとカナメがいた。そしてもう一名もいた。

 

「ラミア。あの子です。遺伝子照合で確認しました。あなたの娘に間違いありません。行方不明になったシルフィスの一族。あなたの子

 

「ミィ・・・本当にミィなの!?良かった!」

 

するとラミアと言われた女性が泣きながらヴィヴィアンに抱きついた。ヴィヴィアン本人は困惑していた。

 

「だっ!誰!?私はヴィヴィアンだよ」

 

「この匂い・・・懐かしい、ミィの匂い・・・」

 

「いや、だから、私はヴィヴィア・・・ん?くんくん?」

 

ヴィヴィアンはその女性の匂いを嗅ぎ始めた。それは優しい優しい匂いである。

 

「なんだろうこの匂い・・・私知ってる!エルシャみたいな匂いがする!あんた誰?」

 

「あなたの・・・お母さんよ・・・」

 

「お母さん!!お母さんって何?」

 

「あなたを産んでくれた人よ」

 

ヴィヴィアンの質問にサラマンディーネが答える。

 

「ヴィヴィアンの・・・お母さん」

 

「そうです。彼女は十年前に母を追って、向こうの世界へ迷い込んでしまったのでしょう」

 

「皆、祭りの用意を。祝いましょう。仲間が十年

ぶりに帰って来たのですから」

 

そう言うとサラマンディーネは手を合わせた。神にこの幸福を祈る様に・・・

 

こうして夜となった。皆の手には行灯が保たれていた。

 

「殺戮と試練の中、この娘を彼岸より連れ戻して

くれた事に感謝します」

 

サラマンディーネは一礼した。そのあと手に持ったその行灯を空へと放った。それに続き皆が行灯を空へと放つ。サラマンディーネの言葉を皆が復唱する。

 

「アウラよ」

 

「アウラよ!」

 

アンジュ達もこの祭りを見ていた。これを見ているとフェスタを思い出す。花火は激しい音もあったが、夜空に広がった花火の美しさ。心を打たれた点では同じであった。

 

「不思議な光景だね」

 

後ろを振り返ると性教育を終えたタスクと検査を終えたシルフィーがが来ていた。タスクはちゃんと服を着ていた。

 

「機嫌直しよ。本当に何もしてないんだし・・・俺の心は君だけのものだ」

 

「体は違うんでしょ?ばーか」

 

アンジュはそう言うが顔ではどこか照れていた。アンジュが笑う。それにつられてタスクも笑う。

 

四人は空を見上げた。空には行灯が無数にあった。

 

「同じ月だ」

 

タスクは月を見ていた。

 

「星もね」

 

シルフィーは星を眺めている。

 

「・・・もう一つの地球・・・か」

 

「未だに夢なのか現実なのかよくわからない。でも一つだけ良かった事がある。ヴィヴィアンが人間で」

 

「これからどうなるの・・・私達・・・こんなもの見せて」

 

「知って欲しかったのです。私達の事を」

 

後ろを振り返る。そこにはナーガとカナメがいた。

 

「そしてあなた達の事を知りたい。それがサラマンディーネ様の願いです」

 

「知ってどうするの?・・・私達はあなた達の仲間をいっぱい殺した・・・あなた達も私達の仲間をいっぱい殺した・・・」

 

「かつて、アウラは言いました。人間は罪を赦し、相手を許せると。そして、許し合った先に進む事も出来ると。きっと姫さまも、アウラと同じ事を言われると思います」

 

「姫様からの伝言です。どうぞごゆるりとご滞在ください」

 

そう言うとナーガとカナメの二人は軽く会釈をして、その場を後にした。

 

「ごゆるりと・・・か」

 

「信じるの?」

 

「どうかしら?でもヴィヴィアンは楽しんでるわよ」

 

少し離れた場所では、ヴィヴィアンが母親と夜空を眺めていた。

 

「・・・帰るべきだろうか・・・アルゼナル。リベルタス。エンブリヲ。・・・もしもう戦わなくてもいいのなら・・・」

 

タスクのその問いかけに三人は何も答えられず、ただ空を見上げていた。

 

「すいません。少しお時間よろしいですか?」

 

不意に背後から声がした。振り返るとそこには一人の女性がいた。

 

「初めまして。貴女方が向こうの世界の来訪者ですか?」

 

「はい。あのっ。誰ですか?」

 

「これは失礼しました。私はロシェン。かつてはアウラの助手をしていましたが、今は黒の部隊の総帥をしています」

 

総帥。言ってしまえば軍隊の中で一番偉い人だ。

 

「総帥!?そんなに偉い人が一体何の様です?」

 

「何。大したことではあらません。皆さんの回収した機体の修理が完了したので、それのご報告に来ました。それに、貴女方がどの様な人なのか、少し見たくなりましてね。少しお話しをしませんか?」

 

「ロシェン様!」

 

突然ロシェンさんの背後で声が聞こえた。見るとそこにはアスカがいた。

 

「アスカ。何事ですか?」

 

「大巫女様達がお呼びです。その事を伝えに来ました」

 

「わかりました・・・アスカ。この人達をあの場所へと案内しなさい」

 

「あの場所といいますと?」

 

「レーテの土地です」

 

「なっ!レーテ!?」

 

驚きのあまり大声を上げる。すると付近にいたドラゴン達も妙にざわつき始めた。アスカは慌てて平静を装った。

 

「はっ!わ、わかりました!」

 

「では皆さん。私は大巫女様に呼ばれているのでこれで。今度はそちらの世界について、少し話をしたいですね。最後にシルフィーさん。少しお耳を拝借します」

 

ロシェンさんはシルフィーの耳元へと寄った。そしてシルフィーにだけ聞こえるくらいの声でこう呟いた。

 

「ファイル」

 

「えっ?何ですって?」

 

「いえ、なんでもありません。忘れてください」

 

そう言うとロシェンさんは大巫女様のいる場所へと歩いてった。その場に残ったアンジュが呟く。

 

「レーテって何よ?」

 

するとアスカはアンジュの口を慌てて塞いだ。

 

「バカ!軽々しく口にするな!説明する。だから付いて来い」

 

するとアスカは辺りを伺いながら、こっそりと近くの茂みへと入っていった。シルフィー達は顔を見合わせた後、その茂みにこっそりと入って行く。

 

そこは自然の道が続いていた。目の前で先導する

アスカは足音さえ立てない様に慎重に歩みを進める。

 

やがてある場所へとたどり着いた。そこには一つの民家があった。しかしそこは既に崩れた廃屋でもあった。そしてそこには一つの石碑が建てられており、こう記されていた。

 

【レーテの悲劇跡地】

 

「レーテの悲劇。それはここで起きたいたたまれない事故の事だ」

 

「事故?」

 

「・・・かつて。まだアウラがこの世界にいた頃、この場所で起きた事故の事だ。その事故の起きた場所がこのアウラの家、そして土地の名はレーテ。だからレーテの悲劇と呼ばれている」

 

そしてアスカは皆の顔を一通り見た。

 

「・・・これから話す事はむやみに口外するな」

 

アスカはそう注意すると一つ咳払いをした後、語り始めた。

 

「レーテの悲劇。それはアウラの住む家が火事によって全焼。そしてアウラはレーテの悲劇の唯一の生存者なのです。この事故は民だけではなく、アウラにも深い悲しいを与えました」

 

「何故ならばアウラは、レーテの悲劇で大切な我が子を失ったのです」

 

「ええっ!?子供を!?」

 

「そうです。その子は生まれつきの光線過敏症で苦しんでいました」

 

「光線過敏症って?」

 

「主に太陽などの日光の影響で皮膚がただれる病気の事だ」

 

「よく知っているな。その為写真は愚か、人目に触れる事もありませんでした。そしてこの事故によって子供とベビーシッター数名が死亡。アウラは全身を火傷する大怪我を負ってしまった・・・」

 

「なんでこんな場所に連れてきたの」

 

しかしシルフィーの質問をアスカは無視する。

 

「・・・どうか彼女達の魂に安らぎが訪れんことを」

 

アスカはその場のお墓に手を合わせると静かに冥福を祈った。シルフィー達も何も言わずに冥福を祈る。燃え盛る炎に包まれ、苦しんで死んでいった彼女達の為に・・・

 

そんな中、アスカは一つの疑問を抱いていた。先程のシルフィーの言葉は、彼女にとっても気になっているのだ。

 

(何故だ?何故ロシェン様はこの者達をここに?)




我が事ながらこの章だけでも結構オリキャラ増えるなぁ。まぁ黒の部隊とかわざわざ分かるくらいだし、こうなる事はかくごしてましたけどね。

後何気に今日一日で二話投稿できたんだな。


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第43話 共鳴戦線

 

 

「集まったか」

 

夜も更けた頃、とある集会所には大巫女達を始め、アウラの民が集まっていた。その中には、サラマンディーネ。ナーガにカナメ。そしてラミアもいた。他にも、ロシェンやアスカ。カリン。エマ。アクアなども集まっていた。

 

「皆の者。本日集まってもらったのは他でもない。我々の意思を伝る・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ。んん?」

 

朝となりシルフィーが眼を覚ます。周りを見渡すとアンジュやナオミはまだ眠っていた。取り敢えず

近くの塊に腰を下ろす。

 

「ギャッ!」

 

「何!?」

 

自分の尻辺りから声がした。驚いて座ったものを

見てみる。それは簀巻きにされたタスクであった。

 

「た、タスク!?・・・一体どうしたの!?」

 

「アンジュに簀巻きにされた!助けて!!」

 

どうやらアンジュが夜襲われない為にタスクを縛りあげたらしい。アンジュ曰く。

 

「だってドラゴンでも欲求する様な、欲求不満のケダモノと寝るのはねぇ」らしい。とりあえずタスクを縛ってる縄を解く。まず上の部分が解けた。真ん中の部分も解こうとする。

 

「うわっ!シルフィー!もうちょっと丁寧に!」

 

【バタン】

 

タスクが倒れこんできた。その音にアンジュとナオミが目を覚ます。さらにそこへサラマンディーネがナーガとカナメを連れて部屋へとやってきた。

 

「おはようございま・・・」

 

皆が見たもの。それは下着姿のタスクが同じく下着姿のシルフィーに覆い被さる図である。最早それをしていると思われても致し方ない。

 

ナーガとカナメは顔を赤らめていたがサラマンディーネだけは冷静であった。

 

「あら?朝の交尾ですか?どうぞごゆっくり」

 

「な、な、な、何やってんのよタスク!!!!」

 

「ちっ!違うんだアンジュ!俺は別に彼女を襲おうとしている訳ではない!これは事故で」

 

「弁明は後にして、早くその体制をやめなさい!!!」

 

「ウワァァッ!!」

 

この後タスクはアンジュに背負い投げされ、その後徹底的にボコボコにされた事は、言うまでもなかろう。

 

タスクをボコボコにし終えた後、アンジュ達はサラマンディーネの方を向いた。

 

「それで貴女達。一体何の様なの」

 

「食事の用意が出来たのでどうぞ」

 

食堂らしき所にたどり着く。そこにはヴィヴィアンとラミアがいた。二人とも元気に食事をとっていた。

 

「お二人共、昨日はよく眠れましたか」

 

「いえ。昨日はあまり寝ておりません」

 

どうやら昨日はヴィヴィアンに色々と話を聞かせて貰っていたらしい。

 

「でね!でね!でね!」

 

「大丈夫よミィ。ゆっくり話しても」

 

「だって私、昨日途中で寝落ちしちゃったし!本来夜通し話すつもりだったのに!だから寝落ちした分いっぱいお話ししたい!」

 

「はいはい。いっぱい思い出を聞かせてくださいね」

 

その微笑ましいやりとりを聴きながら、隣のテーブルに三人ずつ向かい合う様に座る。目の前には食事があった。

 

「昨日は何も食べてないでしょう?どうぞ」

 

どうやら食事のお誘いらしい。アンジュとタスクとナオミが顔を見合わせた。食べて良いのか迷っているらしい。だがシルフィーは迷わなかった。

 

「いただきます」

 

シルフィーはそう言うと、箸を進めた。何の迷いも躊躇いもなく食べ物を口へと運んだ。それを見た後、アンジュ達も食事を始めた。

 

「ほんとだ。すごく美味しい!!」

 

「本当だ。美味しい!美味しいですよ!この料理!ほら、アンジュも」

 

「・・・ふん。まあまぁね」

 

タスクとナオミは料理の味の良さに満足している。アンジュも口では小言を言いつつも、別に悪くない表情で食べていた。

 

こうして一通り食事が済んだ七人は外へと出た。外へと出るなりアンジュがサラマンディーネを睨みつけた。

 

「さて。もう茶番はいいでしょ?そろそろ貴女達の目的を教えて・・・」

 

「・・・腹が減っては戦はできぬと申します。お腹は膨れましたか?」

 

「ええ。まぁ」

 

「では参りましょう」

 

七人はある場所へと来ていた。そこはみんな大好きラ●ンドワンである。

 

「ここどこ?」

 

「ここは、古代の決闘場です」

 

「決闘場?」

 

いえ、この場所はラ●ンドワンです。

 

「かつてここでは、数多の武士達がその身で競い合ったとされています。その身から血を流しながら闘ったとされています」

 

いやだからラ●ンドワンですから。武士もいなければ血だって流れません。

 

「まさか500年以上前の施設なのか!?すごい保存状態じゃないか」

 

「姫様自らの手で、この決闘場を復元されたのだ」

 

・・・もう決闘場でいいです。(あれ?このくだり別世界でやった様な・・・)

 

「で?ここで何をしようっていうの?」

 

アンジュが本題を聞く。

 

「・・・私達と共に戦いませんか?」

 

「ハァ!?」

 

あまりに藪から棒なその言葉に皆が気の抜けた返事をした。

 

「私達の目的。それは攫われたアウラを助け出し、この世界に安定と調和を取り戻すことです。アウラを拐い、我らの仲間をたくさん殺し、あなた方を

戦わせてきた元凶。エンブリヲを倒すことです」

 

「この者を打倒すれば、戦いは終わります。私達はアウラを。あなた方は自由を手に入れる事ができます。望みは違えど、目的は同じはずです」

 

突然アンジュが笑い出す。

 

「・・・あはははは!何よ。結局あなたも私達を利用しようとしているのね。戦力として。知って欲しかったとか、分かり合いたいとか・・・所詮は全部打算だったのね」

 

「そうです。貴方達は戦力として有能です」

 

「ふざけないで!私はもう誰かに・・・」

 

「誰かに利用されるのはうんざり。そう言うのですね。そこでこの決闘場に来た訳です」

 

「アンジュ。勝負しませんか?私が勝ったら、四人は私達の所有物となってもらいます。ですがもしあなたが勝ったらあなた達を解放します。それこそ、偽りの世界へ帰すことも」

 

「上等じゃない!やってやるわよ!」

 

こうしてアンジュとサラマンディーネの決闘が始まった。

 

・・・が。場所が場所である。決闘内容はテニスに野球。ゴーカートにゴルフ。卓球にクレーンゲーム。遂には床に描かれた模様を指定された手でペタペタ触るなど、とてもじゃないが血など流れる決闘はなかった。

 

しかし、アンジュのサラマンディーネの二人は本気でぶつかり合い、決闘していた。

 

一通りの決闘が終わり、現在アンジュとサラマンディーネはシャワーを浴びていた。

 

「感服しましたわアンジュ。まさかここまでやるとは」

 

「あなたも結構やるじゃない。サラマンデ」

 

「サラマンディーネです」

 

「それにしても・・・あの決闘の最中。昔を思い出せたわ。エアリアをやっていた頃の昔を」

 

アンジュがまだノーマだと発覚する前、ミスルギ皇国で流行ったスポーツ。アンジュはエアリア部に所属していた頃を懐かしんでいた。

 

「でしたら次はそのエアリアという競技で勝負します?」

 

「・・・無理よ。エアリアは・・・ノーマには出来ないから・・・」

 

エアリアはマナを使う競技である。アンジュはエアリア部にいた頃はモモカさんの手助けがあってエアリアをしていたのだ。もっとも、その頃のアンジュは、自分がノーマなど夢にも思っていなかったが。

 

「ノーマ。マナを持たない、人ならざる者。・・・なんて歪なんでしょう」

 

サラマンディーネがどこか悲しそうに言う。

 

「・・・本来なら、力を持つ者は力を持たざる者を守るべきはずなのに・・・我々はこれまでどんなに苦しい時もアウラと共に学び、考え、そして助け合ってを育ててきました」

 

「・・・あなたはなにも思わないのですか?そんな歪んだ世界を知りながら。知っていますよ。あなたはかつて皇女として、人々を導く立場にいた事を。世界の歪みを直すのも、本来なら指導者の使命なのでは・・・」

 

「勝手な事を言うわね。私は皇女じゃない。指導者とか姉妹とか、そんなものはもう関係ない。大体、歪んだ世界でも満足してる奴がいるんだからいいんじゃない?」

 

「結局の所。世界を変えたいのはあなた達。アウラとかエンブリヲとか、そんなものは私には関係ないわ」

 

「・・・」

 

その時だった。地震のようなものが発生した。

 

「サラマンディーネ様!大変です!」

 

シャワー室にナーガとカナメが入ってきた。慌ててシャワー室から出て服を着た。七人が屋上へと上がり出た。

 

「なに・・・あれ」

 

七人の目にはあるものに釘付けとなった。アウラの塔に謎の竜巻が発生していた。都ではヴィヴィアン達住民もそれを見ていた。

 

「あれは!エアリアのスタジアム!?」

 

その竜巻の様なものはエアリアのスタジアムであったのだ。アンジュは理解が追いつかない。

 

竜巻の様なものは徐々にだが広がっていった。それに何名かが飲み込まれていった。すると飲み込まれたものが瓦礫に取り込まれた。物理法則などあったものではない。

 

「焔龍號!」

 

サラマンディーネがそう呼ぶと額の宝石が光った。すると焔龍號がその場へと駆けつけた。どうやらあれば機体の遠隔操作可能な装置らしい。

 

「ナーガは四人を安全な場所へ!カナメは大巫女様にこの事をご報告して!アンジュ!勝負の続きはいずれ!」

 

そう言うと焔龍號は飛び立っていった。

 

残った六人はガレオン級に乗り込む。そして宮殿近くへと降り立った。

 

「カナメ!この事を大巫女様へ報告後我々も出るぞ!お前達はこちらに・・・おい!あいつらはどこへ行ったら?」

 

ナーガが少し目を離した隙に既にアンジュとタスク。ナオミとシルフィーはいなくなっていた。

 

三人は格納庫へと向かっていた。それぞれの機体へと乗り込む。

 

(そうだ。オメガはないんだった)

 

一人、機体を所持していないシルフィーだけが、

入り口に立ち止まっている。

 

「おい貴様ら!何をしている!?」

 

「あの竜巻を止めるのよ!」

 

「食い止めるって・・・どうやって!?」

 

「それを今から探しにいくのよ!!」

 

そうして三人は機体を飛ばした。竜巻は尚を勢力を広げていっている。そして時々だが、ミスルギ皇国の風景が見える。一体何故なのか理由はわからない。

 

「ここは危険です!皆は早く神殿へ!」

 

サラマンディーネが皆に避難を促す。皆神殿へと走っていく。

 

後ろからは竜巻も迫ってきていた。途中で竜巻に飲み込まれた者は例外なく瓦礫の中に身体が埋まっていた。瓦礫の下敷きなどではなく、身体が瓦礫に埋もれていた。ある人物は瓦礫から手が伸びてる状態だ。理解が追いつかない。

 

一つ、確実にわかることはそれらに巻き込まれた

人達は皆既に生きていないという事だ。

 

サラマンディーネは竜巻に攻撃を加える。しかしその攻撃は竜巻には届いていなかった。

 

「そんな・・・どうすれば・・・」

 

「サラマンディーネ。撤退するのじゃ」

 

「大巫女様!?」

 

焔龍號のコックピットに入った大巫女からの通信に驚く。

 

「龍神器はアウラ奪還の中心戦力。万一があってはならぬ」

 

「ですが・・・」

 

「既にリーブの民がそちらに向かっている。後は

彼らに任せるのじゃ」

 

「それでは間に合いません!それに!黒の部隊は!?今は一つでも多くの力が必要なのです!!」

 

「黒の部隊は例の作戦の為に出る事は出来ん。撤退せよ」

 

「ですが!民を見捨てて逃げることなど!私には!」

 

「これは命令じゃ」

 

大巫女はそう言うと通信を切った。大を活かすために小を切り捨てる。それは戦略的には正しい。だからといってそれで納得するなどサラマンディーネには出来ることではない。

 

その時サラマンディーネ目掛けて瓦礫が飛んできた。

 

だが、瓦礫が目の前で粉々に砕けちった。ヴィルキスのライフルが瓦礫を砕いたのだ。

 

「何をぼーっとしてるのよ!サラマンドリル!」

 

「アンジュ!?」

 

その後ろにはアーキバスとグレイブもいた。

 

「一体なんなの!?あれ!」

 

「エンブリヲの仕業だ!」

 

アンジュの質問にタスクが答える。

 

「エンブリヲは、時間と空間を自由に操る事ができる。俺の父さんも仲間も、あれで瓦礫や石に埋められて死んだんだ!あんな風に!」

 

「そんな事が・・・」

 

目の前の竜巻は勢力をドンドン広げていった。

 

「ねぇアンジュ!あれ!」

 

ナオミが下を指差す。そこには瓦礫の下敷きになっている人と、それを助けようとする人が見えた。

 

「ヴィヴィアン!?」

 

彼女は瓦礫の下敷きになっているラミアを助けようとしていた。

 

「どうしてこんな危ない事を!?私なら大丈夫なのに」

 

「子供を守るのが・・・母親の役目よ。貴女は逃げて」

 

「逃げない!お母さんと一緒じゃなきゃ逃げない!」

 

竜巻がすぐ近くまで迫ってきていた。

 

「私!助けに行ってくる!」

 

ナオミがグレイブで降下しようとしたその時である。

 

「ヴィヴィアン!ラミアさん!」

 

シルフィーが慌てて二人に駆け寄った。瓦礫をどかそうと触れる。すると突然瓦礫が脆く、まるで豆腐の様に崩れていった。ラミアを瓦礫の山から引きずり出す。

 

「ラミアさん!走れます!?」

 

しかし彼女は脚をやられている。とてもじゃないが歩けない。

 

「・・・背中に乗って」

 

「えっ?」

 

「おんぶするって言ってるの!!早く逃げるわよ!!」

 

彼女はラミアをおんぶし、ヴィヴィアンを抱っこすると大急ぎで来た道を引き返して来た。

 

だが、竜巻は徐々に彼女の背後へと迫ってくる。

一度振り返ったその時、彼女は足元につまづき、転びかけた。

 

(死ぬ!)

 

三人共直感でそう思い、目を閉じた。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・!?」

 

気がつくとシルフィーは宙を浮きながら前に進んでいた。

 

「シルフィーさん!その背中・・・」

 

「シルフィー!スゲー!」

 

二人の視線の先には二つの翼があった。片方は天使の様な純白の翼。もう片方は悪魔の様な漆黒の翼。それはシルフィーの背中から生えており、二人を守っていた。

 

それは紛れもなく、ミスルギで見たあの翼であった。

 

「なんでこれが・・・いえ、今は有難く使わせて貰うわ!二人とも!しっかり捕まってて!!」

 

(理由はわからない!でも私は知ってる!飛べる!)

 

彼女は宮殿めがけて一直線に飛んで行った。

 

「シルフィーに、あの翼が・・・」

 

「どうなってるんだ・・・」

 

皆がその変化に戸惑った。だが直ぐに目の前の脅威があると言う事実を思い出し、その対策を練る。

 

「なんとかあの竜巻を掻消せ内の!?」

 

皆がその方法を考えていた。

 

「・・・そうだ!あれがあるじゃない!アルゼナルをぶっ飛ばしたあれが!」

 

収斂時空砲。アルゼナルの半分を消しとばした焔龍號の切り札兵器だ。

 

「無理です!都はおろか、神殿もろとも消し飛んでしまいます!」

 

「3割引とかで撃てばいいじゃない!」

 

「そんな調整はできません!」

 

「・・・そうだ!3割引とかで撃たなくてもいい!私があなたの撃ったそれを私ので打ち消せばいいんだわ!あの時みたいに!」

 

「打ち消しあう!?確かにあの時は出来ましたが

今回もできるかどうか!?」

 

「あなたお姫様なんでしょ!危機を止めて民を救う!それが人の上に立つものの使命よ!こうして兵士が頑張ってるのに、いつまであなたがうじうじとしてるのよ!」

 

「アンジュ・・・」

 

この世界の人間ではない。それなのにこの世界の為に今危機と立ち向かっているアンジュの姿。それが彼女の中の何かを後押しした。

 

「・・・わかりました!アンジュ!行きますよ!

 

ヴィルキスと焔龍號が向かい合う。竜巻は尚も巨大な渦を巻き続けている。

 

「風に飛ばん el ragna 運命と契り交わして」

 

「風に行かん el ragna 轟きし翼」

 

サラマンディーネが歌い始めた。

 

「始まりの光 kilari・・・kirali」

 

「終わりの光 lulala・・・lila」

 

アンジュも同じく歌う。光の歌と風の歌。

 

「今よ!」

 

二人の機体からそれぞれから光が放たれた。そして竜巻の所で衝突した。出力の差とでも言うのか、若干ヴィルキスが押されている。

 

「ヴィルキス!押されてるわよ!あなた世界を滅ぼした機体なんでしょ!気合い入れなさい!」

 

その言葉に反応するかの様に、アンジュの指輪が光った。先ほどまで押され気味だったのが直ぐに同等の力配分となった。

 

「いっけぇぇ!!!」

 

光は同じ量の力を増し、竜巻を打ち消した。

 

 

 

都はそれなりの被害を受けた。だが全滅は免れたのだ。アンジュとサラマンディーネが向かい合っている。

 

「アンジュ。あなたの協力で民は救われました。

民を代表して感謝します」

 

「別に、友達を助けただけよ」

 

「アンジュ。あなたはあの歌をどこで」

 

「・・・お母さまが教えてくれたのよ。どんな時でも、進むべき道を照らすようにって」

 

「・・・私達と同じですね。私達の歌はアウラによって教えられました・・・なんと愚かだったのでしょう・・・あなた達を私の所有物にだなんて・・・教えられました。自分の未熟さを。皆を護って危機も止める・・・指導者とは、そうあらねばならないのだと」

 

「私も貴女の友達になりたい。共に学び、共に歩く友人に」

 

「・・・長いのよね。サラマンデンデンって。私はあなたの事をサラコって呼ぶわ」

 

「でしたら貴女の事はアンコと・・・」

 

「それはダメ」

 

サラマンディーネの提案をアンジュは即座に却下した。そのやりとりに皆が笑っていた。そんな皆が笑っているサラマンディーネの元にある人物がやって来た。

 

「サラマンディーネ様。お話があります」

 

ラミアであった。

 

「・・・何でしょう」

 

「ここでは言えません。どうか裏手へ」

 

サラマンディーネとラミアは人目を気にしつつ、

人のいない箇所へと歩いって言った。

 

崩壊した瓦礫の山の裏手に、サラマンディーネとラミアの二人は来た。

 

「今日の会議ですけど、やはり私には納得できません」

 

「ラミア・・・そうですね。確かあなた達親子は・・・」

 

「私もミィも彼女に救われました。だからこそ言えます。あの者は我々の憎んでいる存在とは違うと。命の危険を顧みずに、私達を救ってくれたのです・・・やはりあの様な決定は取り下げるべきだと思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大巫女様達が何をお考えなのかはわかりませんが、シルフィーさんの命を奪うなど、助けられた私には出来ません」

 

「!!!!」

 

アンジュ、タスク、ナオミ、ヴィヴィアンはその話を聞いていた。

 

「ちょ・・・ちょっと、サラ子。今の話・・・

一体・・・どういう事よ・・・」

 

「!!!聞いたのですか!!?・・・今の話を」

 

「アンジュ。ここにいたの」

 

そこへ何も知らないシルフィーがやって来た。

 

「シルフィー!来ちゃダメ!」

 

【ザクッ】

 

・・・何が起きたのか、直ぐには理解が出来なかった。アンジュの言葉より先に、自分の胸に冷たい感覚が襲い、その直後に焼ける様な激痛が襲いかかる。見ると自分の胸部から何かが突き出ていた。

 

冷たいそれは鉄の刀であり、サラマンディーネの剣である。

 

その剣は彼女の身体を貫いていた。そしてサラマンディーネの顔はまるで能面のように無表情であった。

 

「魔の再来を呼ぶ者よ。大巫女の命により、その命をいただきます」

 

そう言うとサラマンディーネは刀を引き抜いた。刀を抜くと同時に血が噴き出る。

 

「ガハッ!」

 

激痛によってその場に跪く。胸を手で押さえるが、それでも溢れんばかりの鮮血が流れ出てくる。

 

「シルフィー!?」

 

「心臓を外しましたか。ですが次は外しません」

 

するとサラマンディーネは刀で斬りつけて来た。

 

突然現れたナーガとカナメをも加わった。彼女はろくな抵抗も出来ずに傷ついて行く。

 

「これでトドメです」

 

「やめなさい!!サラ子」

 

遂にアンジュがサラマンディーネに飛びかかった。飛びかかった衝撃で二人が地面に倒れこむ。

 

「離しなさいアンジュ!!」

 

「離してたまるもんですか!!離したらまた斬りかかるんでしょ!!」

 

すると彼女達の上空が突然曇った。上を見ると黒いガレオン級が数匹。そこにはいた。そしてそこから何かが降下して来た。

 

黒の部隊の女性達だ。彼女は皆、手に銃を持っており、それをシルフィーへと照準合わせをしていた。

 

「ダメー!!」

 

「ウォォッ!ヤメロォォー!!」

 

ナオミとヴィヴィアンが火縄銃の所持者にタックルする。ぶつかった事により照準はぶれ、シルフィーに弾が命中することはなかった。

 

「シルフィー!逃げて!」

 

シルフィーは胸を押さえながら、背中の翼を弱くはためかせ、何処かへと飛んで行った。その時、サラマンディーネの元に大巫女からの通信が届いた。

 

「サラマンディーネよ。対象はどうした」

 

「対象は逃走しました!ですが相当の手傷を負わせる事には成功」

 

「わかった。後の事はロシェン達黒の部隊に任せよう」

 

それを聞いた黒の部隊のメンバー達はガレオン級に戻ると、その場を後にし、シルフィーの飛んで行った方角へと進んでいった。

 

「どう言うつもりサラ子!!いきなりあんな事をするだなんて!!」

 

「・・・いいでしょう。貴女方に話します。彼女は、我々にとって脅威なのです!」

 

「どう言う事よ!なんでシルフィーが脅威なのよ!」

 

「落ち着くんだアンジュ」

 

興奮するアンジュをタスクがなだめる。

 

「サラマンディーネさん。お願いだ。ちゃんと話してほしい。何故シルフィーを襲ったのか。一体シルフィーの何が脅威なのか」

 

すると彼女はその重い口を開いた。

 

「シルフィー・・・彼女は魔人族です」

 

「魔人・・・族?」

 

聞きなれない言葉に首をかしげる。しかし次のサラマンディーネの言葉に皆が驚愕する。

 

「そして彼女は・・・第一、第二のレーテの悲劇の実行犯。つまりは、大量殺人の犯人です!!」

 

「第二のレーテの悲劇?」

 

「口で説明するより映像で見てもらった方が早いですね」

 

するとサラマンディーネの額の宝石が光り輝いた。すると空中にある映像が映し出された。

 

その映像は、ドラゴン達が一人、又一人と突然燃え上がる謎の現象を映し出していた。そしてその奥には、一人の存在がいた。背中からは白と黒の羽根の生えた一人の少女の様な存在。

 

「!!!!」

 

四人。特にアンジュとナオミ。そしてタスクには心あたりがあった。ミスルギ皇国で起きたあの出来事。あの出来事と同じなのだ。

 

映像が切り替わる。そこには再び目を疑う光景が映し出されていた。

 

とある機体がドラゴン達と戦っている映像である。それは一方的な虐殺でもあった。その機体についても、彼女達は知っていた。

 

「オメガ・・・」

 

その機体はオメガであった。いや、Ωだけではない。α、β、γ。ΔにΖ。そしてν。アンジュ達の知るZERO以外のDEMが映し出されていた。他にも、見たことのないDEMも数機映し出されている。

 

「なに・・・これ。一体、どうゆう事よ・・・」

 

だが、何より驚いたのはその映像の撮影された日付などだ。

 

これらの映像すべてが、数百年前に記録された映像であるのだ。そしてその映像にシルフィーやΩ。そしてシオン達も映し出されている。

 

「・・・とにかく今はシルフィーを追おう。彼女のあの傷口。相当深い。早く手当てしないと死んでしまう」

 

「そうだよ!その黒の部隊に発見されたら、きっと殺されちゃうよ」

 

「・・・サラ子。貴女にも来てもらうわ。言って

おくけど、ふざけた真似はしないで」

 

「・・・分かりました。今はとにかく、彼女を発見する事に専念します。ナーガ。カナメ。ついて来なさい」

 

「分かりました!姫さま」

 

「カナメ。お供します」

 

こうして七人は、シルフィーの飛び立っていった

方角、ドラゴンの里の外。荒廃した世界へと走り

出して行った。




遂に次回から本編にはオリジナルシナリオ編へと移行します。一体魔人族とは何なのか、第二レーテの悲劇とは何か。

何故Ωやシオン達の姿が数百年前の映像に残されていたのか。

何故シルフィーはは脅威と見なされたのか。

何故変身後に頭が痛むのくわぁ!(それ以上言うなぁー)

まだまだ謎は深まるばかりですねぇ。


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第44話 魔人族



警告!今回からのお話には以下の要素が含まれていく可能性があります。

1つ。唐突に現れる謎設定。

2つ。一歩間違うと原作レイプになりかねないシナリオ設定やキャラ設定。

3つ。キャラ崩壊や露骨なキャラびいき

4つ。近年稀に見るクソゴミ駄文(いつもの事です)

5つ。「あれこれどっかで見た事あるぞ?」なキャラの見た目。

6つ。困ったらメタ発言に頼るかもしれない。

その他にも様々な悪的要素が含まれています。それらが苦手な方はこの画面を閉じる事をオススメします。

もし、それらが平気な方は、この先へとお進みください。どうなっても私は知りませんよ。


 

 

現在アンジュ達はシルフィーの後を追って里の外へと出向いていた。おそらく黒の部隊より先に見つけなければ彼女は殺される。あまり時間的猶予は残されていない。

 

「で、何なの?その魔人族ってのは」

 

走りながらアンジュはサラマンディーネに聞いた。最初は渋っていたが、事態な事態為にその重い口を開いた。

 

「魔人族。それはこの地球でも、貴女方のいる地球でもない。第三の地球からこの世界にやって来た

侵略者なのです」

 

「第三の地球・・・」

 

決しておかしな話ではない。現にこうして自分達とは別の地球が存在している。ならばそれがもう一つくらい多くたってなにもおかしくはない事だ。

 

「そうです。彼等はあの戦争で世界が滅びる前から侵略行為を行って来ました。それは世界が滅びた後も、代わりはありませんでした。お互いが睨み合い、そして遂に戦いが起こりました。龍魔大戦。我々はそう呼んでいます」

 

「戦争、起きたの?」

 

「ええ。戦争の火種となった出来事。それは魔人族がエンブリヲと協力し、アウラを拐ったという事実です」

 

「魔人族はその奇怪な妖術や武器を頼りに、生身で我々と戦うと思われていましたが、初の戦闘となった戦いにおいて、魔人族はたった一機の戦闘兵器で、私達ドラゴンの部隊を壊滅させたのです」

 

戦闘兵器。皆の脳裏にあの映像が映し出される。

ΩなどのDEM。あれらが昔の戦争で使われた兵器だとは。

 

「魔人族とドラゴンとの戦いはそれぞれの局地的に見れば我々が有利でした。ですが魔人族には重要な戦闘区域などの盤面などは必ず抑えられ、徐々に

戦況は押し返されて行きました」

 

「・・・ですが、ある日突然、魔人族が突然この世界から姿を消したのです。しかし、死体は確認されていない。その為にロシェン達は黒の部隊の継続をしました。魔人族が再びこの世界に訪れるその時に備えて。アウラを奪還する為に戦う私達とは違い、黒の部隊はこちらの世界の平和の安定に務めていました」

 

黒の部隊。それはアウラ奪還とは違い、こちらの

世界の安全などを担当する特殊部隊の様なもので

あるのだ。

 

「・・・で。その平和は破られたと。シルフィーの登場によって」

 

「・・・はい。薄々ですが、嫌な予感はしていました。リザーディアからあの子の情報が送られてきた時は、私自身はまだ半信半疑でした。何せもう数百年前の話、最早杞憂でしかないと。ですがあの空間で彼女とで出会い、それは半ば確信に変わりました」

 

「そしてトドメが、昨日ドクターゲッコーが採取した彼女の血液です。その血の99%は魔人族の反応を示していました」

 

「そして大巫女様の命は、魔人族を打ち倒し、右腕につけられている腕輪を奪ってこいと」

 

「えっ?なんでそこで腕輪が出てくるのよ」

 

「それは私にもわかりません。大巫女様は何も聞かずに協力せよとのことでしたし」

 

「みんな!これを見てくれ!」

 

タスクの呼び止めで皆が一箇所に注目する。そこにはまだ乾き切っていない血の跡が付着していた。それは負傷した者がここを通った印である。

 

「きっとシルフィーだ!」

 

血の跡は木々の間の道無き道の方へと続いていった。ここまで来る途中、ドラゴンらしき姿はなかった。つまりドラゴンは先の方を進んでいるというわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、シルフィーはようやく追っ手を撒き、一呼吸をつこうとしていた。だが呼吸を整え様にも喉にはタンや血などが絡まり、整えることも苦であった。

 

「水、水が欲しい・・・」

 

痛む身体を引きずり、彼女は這い蹲りながら進んでいった。やがて川が彼女の目に入った。

 

「水だ!!」

 

水の中に顔を突っ込み、バカみたいに水を飲み続けた。水を飲んだ途端、安心感によってこれまでの疲れが一気に押し寄せて来た。とりあえず事態を整理する。自分は何故こうなったのか。サラマンディーネ達ドラゴンに襲われたからだ。

 

では何故襲われたのか、それは彼女には分からない。

 

「なんで。なんでこんなことに・・・」

 

考えても答えは出ない。

 

ふと下半身に生暖かく湿った感触が押し寄せた。見てみると彼女の黒装束は赤黒く血まみれであった。サラマンディーネに受けた跡は深く、血は尚も流れ続けていた。

 

近くの森で薬草などを採取し、簡単な傷薬を作り上げる。長い間、人間の手が加わってないのか、それらの元となる草花などは余る程に生えていた。

 

(あれ?そういえば身体。全く痛くない・・・なんで?)

 

「見つけたぞ!!!」

 

不意に茂みの陰から一斉に黒の部隊が現れた。更に上空からはガレオン級が移送戦艦の役割を果たしつつ、火球を放って来た。

 

今現在、DEMやパラメイルを持たない彼女にとって、唯一の選択肢は逃げる事だけである。

 

背後からは怒声と銃弾。そして火球などが飛びかい、数発程身体を掠めた。痛みはある。だが止まるわけには行かない。止まったら最後、本当に死んでしまう気がしてならないから・・・

 

そして事態は最悪な展開を迎えた。彼女は川に沿って走り続けて来た。森などには黒の部隊がおり、敵に突っ込む様なものである。これまで道なりに沿って来た川は途切れ、そこには滝が激しく流れ落ちていた。

 

後一歩でも踏み込めば滝壺へと真っ逆さまだ。

 

「ガハッ!」

 

飛び立とうとしたその時、片方の翼に銃弾が命中する。痛みによって遂に地面に倒れこんだ。

 

「死ねぇ!」

 

間髪入れずに黒いガレオン級がシルフィー目掛けて突っ込んできた。

 

(死ぬ!)

 

この時、顔を守る為に、反射的に目を瞑り手で顔を庇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【パチッパチッ】

 

「・・・?」

 

いつまで経っても身体に何の衝撃も痛みも来なかった。そして手が少し熱い。恐る恐る手を退かして見てたら。何と、目の前で黒いドラゴンの身体は激しく燃え上がっていた。

 

「ギャオーーーーーン」

 

ドラゴンは悲鳴の様な咆哮を挙げると、火を消そうと奥の滝壺目掛けて落ちていった。少しの時間の後、滝壺には今も身体が燃え上がっているドラゴンの骸が浮かんできた。

 

「そ、それ以上近づいたら!燃やす!!」

 

無論、彼女には相手を燃やす方法などわからない。だが今は藁にもすがる思いでハッタリなどをかますしかない。

 

すると黒いドラゴン達が距離を取った。こちらが離れれば向こうは近づき、こちらが近づけば向こうは離れる。一定の距離を保って来た。 どうやらかなり警戒しているらしい。

 

「魔人族め!その力を使い世界を支配する気か!?」

 

「まじんぞく?なんの話?」

 

だかその質問に彼女達は答えなかった。

 

「大人しくしろ!さもないと、貴様はこの世界全てを敵に回す事になるぞ!私達を全部を敵に回して、勝つ気か!?」

 

「そんなつもりはない。私は静かに生きて行きたいだけだ」

 

「静かに生きていくですって・・・はっはっはっは!」

 

突然彼女達が笑い出した。やがて笑いを抑えながら語り出した。

 

「魔人族が静かに生きていくですって?それは無理な話ね。貴女達の身体はドラグニウムに適していない。このまま行けば貴女は死ぬだけよ」

 

「な、何を言っている!私は現にこうして生きているぞ!」

 

「まさかここまで無知だとは・・・あなた、記憶にある中で最初に人と出会ったのはいつ?」

 

それは、最近の出来事でもあった。ナオミだ。記憶にある中では、ナオミとの出会いが他人との初めて出会ったのだ。

 

「それまではドラグニウム。つまりはマナを使う

存在が極端に付近にいなかったから。だから体組織が崩壊する事もなく、平和に生きてこれただけよ」

 

「嘘!そんな話、信じられる訳でしょ!」

 

「だけど貴女には心当たりがあるはずだ。その筆頭例がミスルギ皇国で貴女が起こしたあの変化。あれも魔人族特有の能力の一つだ」

 

「魔人族はその命が危険だと判断すると、体組織を構成する細胞などが変化、異形の姿になる。あの姿は危険が排除されるか、命の安全が確保されるその時まで継続される。今の貴女なら、あの姿のままでい続ける事になるわよ」

 

「今、あなたの背中に生えてるその翼。人の物でない翼。それが示す意味はただ一つ。貴女に命に危険が迫っているサインよ」

 

「では、あの姿のままでいればよいのか?それは違うな。あの状態になると脳に多大な負担をかける事になり、いずれ脳が刺激に耐えきれずに暴走。その果てに死ぬ事になる」

 

「生きたければ方法は一つしかない。この世界からドラグニウムを消し去る事。だが、それにはドラゴンを皆殺しにする必要がある」

 

「結局魔人族であるあんたに、生きていく方法なんてないのよ」

 

「・・・生きて、いけない・・・」

 

シルフィーは呆然となっていた。相手の放つ言葉の重さに。それらを裏付ける証拠も彼女には多すぎるほどに心当たりがある。突然ミスルギで起きた体調不良。そして今も起きてる身体の変化。そしてジュリオに対する異常なまでの殺し方。様々な要素が

彼女には含まれていた。

 

(だとしたら私は、どうすれば・・・)

 

「よし、奴の動きが止まったぞ」

 

「銃を構えろ。奴を仕留める」

 

そんな彼女を仕留めようと、皆が銃に手をかける。後は引き金を引くだけだ。その時、彼女達の身体に異変が起きた。

 

「なっ!?か、身体が!動かない!!」

 

突然彼女達の身体が動かなくなった。まるでコンクリートに包み込まれたかの様に、引き金を引く指

一本さえ動かさずにいた。

 

【パカラッ、パカラッ、パカラッ】

 

するとシルフィーの背後から馬の走る足音が聞こえて来た。やがて彼女の隣を一陣の風が通り過ぎる。

 

背後から来た存在は手にした剣で、動けないドラゴンの女達を一人、又一人とバラバラにしていった。そして最後の一人は前脚で蹴倒し、頭に脚を乗せた。

 

「見ただろうシルフィー。これがドラゴンどもの

醜い本性だ」

 

「お、お前は・・・魔人族だな・・・」

 

「だったら何だ」

 

その声は恐ろしいほど、なんの感情も込められていなかった。

 

「この世界に仇なす化け物め! !お前達はどうせ、長くはない。ドラグニウムによってお前達は、死の階段を上っている。おまえたちは・・・」

 

「もう黙れ」

 

【グシャ】

 

少し力を入れ、踏みにじられた頭部は鈍い音を立てて潰れた。まるでトマトでも潰したかの様に。

 

「下衆が」

 

そう吐き捨てた後、その化け物はこちらを向いたその姿にもが、ある人物へと変化した。

 

「し、シオン・・・どうしてここに」

 

「お前を助けに来たに決まってるだろ?他の奴らも来た」

 

すると彼女の背後から複数の気配を感じ取った。振り返るとそこには彼女の知る顔が並んでいた。

 

「フリード!それにエセル!ドミニク!カリス!

ミリィも!?」

 

「ったく。心配かけさせやがって!オメガに誰も

乗ってないから結構焦ったぞ」

 

「聞いたところ、落ちたらしいからさ、必死になって探したよ」

 

「オメガ!?オメガもいるの!?」

 

その時であった。

 

「シルフィー!そいつらから離れて!」

 

背後から声がした。振り返るそこにはアンジュや

ナオミ。そしてサラマンディーネ達もいた。

 

「ドラゴンどもの新手か!!」

 

フリード達がそれぞれ武器を持ち、身構える。

 

「間違いない!あの者達は魔人族!!」

 

サラマンディーネ達も武器を構える。正に一触即発状態となっていた。武器を手にし互いに睨み合う中で、エセルがシルフィーの方を向いた。

 

「さてシルフィー。島で初めて会った時に言ったよな、道ってのは基本二つに分かれている。だからどちらかの道を進むには、選ばなかった道を切り捨てるって事になるって」

 

「あんた【が】仲間だと勝手に思ってる連中と、

あんた【を】仲間だと勝手に思ってる私達。どちらの道を進む為に、どちらの道を切り捨てるのか、

決断の時だ!!」




今回から第7章終了時までオリジナルシナリオの突入です。

こんなことするから、ヒルダやロザリーとか向こうの世界の出来事が疎かになりかねないんだよ。

でもこういうのを入れないと何のためにオリキャラ出したんだって話になってしまうし。難しいなぁ。


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第45話 決断

投稿が遅れたことへの弁明。

①大学生活を舐め過ぎてた。新型コロナだから仕方ないとは言え課題レポートが多すぎ。

②個人的にドタバタが多すぎた。

こんな作品を待ってくれていたであろう少数の読者の皆様、投稿が遅れて、申し訳ありませんでした!半分やっつけ内容ですが、寛容かつ寛大な心で、閲覧に臨んでください。

そしてお気に入り30人突破!皆さん!本当にありがとうございます!




人は生きてれば分かれ道に何度も遭遇するものだ。決断と言う名の。

 

歩く道は基本的に真っ暗だ。その先は誰にもわからない。

 

たとえ進んだ道の先が幸せだとしても、本当にそれが幸せな道なのか。それを知るすべは誰にも分からない。誰にも・・・

 

 

 

 

 

 

「あんた達、なんでここにいるのよ」

 

「それはこちらのセリフだ。オメガに巻き込まれたナオミはともかく、何故アンジュ達もこの世界にいる」

 

「ヴィルキスの力よ」

 

その言葉のトゲにシオン達は皆気づいた。相手がこちらに不信感を剥き出しにしている事に。

 

「その様子。こっちの大体の事は知ったらしいな」

 

「・・・一つ教えて。数百年前の映像にΩとかのDEMが映り込んでる事だけど、あれは」

 

「俺たちは数百年前に生きていた。だから当時の映像に残ってる。それだけだ」

 

「じゃあ、シルフィーも・・・」

 

「あぁ。俺たちと同じ様に、数百年前から生きていた。シルフィー。すまない、黙っていて。自分自身につまらない先入観を与えさせない為だったんだ」

 

シオンは驚いてこちらを向いているシルフィーの方を向いて謝った。

 

するとサラマンディーネ達が一歩前へと出た。それに合わせるかのように、シオン達も一歩前に出る。

 

「私は真祖アウラの一族にしてフレイヤが姫。近衛中将サラマンディーネです。貴方方の狙いは我々を滅ぼす事ですか?」

 

「滅ぼす?・・・向こうの連中に何を吹き込まれたのかは知らんが、それは違うな。我々はこの世界のドラゴンを皆殺しにしようなど考えてはいない。ましてやこの世界に長いなどする気もおきん」

 

「では教えていただきたい。貴方方は一体何を狙っているのか」

 

重いため息が聞こえた。その後に、衝撃の言葉も聞こえて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺たちの目的。それは向こうの世界にいるアウラとエンブリヲを抹殺する事だ」

 

その言葉にアンジュ達の間で電流走る。一瞬、その電流によって思考回路がショートしたほどだ。

 

「アウラを、抹殺・・・何故!その様な事を!」

 

「向こうの世界のマナ。即ちドラグニウムの発生源の大元はあいつだ。奴を潰す事は俺たちが生きていく上で必要不可欠だ」

 

「だったら!サラ子達と協力して、奪還するなりして・・・」

 

背後からアンジュが反発した。その時であった。

 

「・・・あいつには、落とし前をつけさせる」

 

(ん?今、一瞬言葉が濁った様な・・・)

 

「アンジュ。お前達はこの問題に関わるな。これは俺たちとドラゴン。この世界の問題だ。他所の世界の部外者がズカズカと首を突っ込んで良い話ではない」

 

そう言われてはアンジュ達も強気な発言は出来なくなる。それを確認するとシオンは視線をサラマンディーネへと戻した。

 

「・・・さて。今度はこちらが聞く番だ。何故ドラゴン共が腕輪を狙う。なんの目的、理由がある」

 

「腕輪を狙うのは大巫女様の御心です。私達はその御心に応えるだけです」

 

「・・・あいつらの傀儡ということか・・・もうこれ以上の話し合いは無意味だな。アンジュ達。最後に言う。今すぐ目の前から失せろ。ここで争うのは本意ではない。もし元の世界に戻りたいならこの場で元の世界送ってやる」

 

「だが、敵対するのなら容赦はせんぞ・・・」

 

「どうしても戦うっていうの・・・」

 

お互いが武器を持ち、睨み合っている。そんな中、中間地点にはシルフィーが立ち竦んでいた。

 

「シルフィー。影から話は全て聞かせてもらった。残念だけどさっきの黒いドラゴンどもの言ってた内容は全て事実だ。私達もあんたも、いずれは・・・お互いここに来た理由はあんただ」

 

「あんたが決めるんだ。その選択でこの場がどうなるかは決まる。真実から目を背けるか、真実と向き合うか」

 

皆の視線がシルフィーへと集まった。

 

(・・・真実・・・先程の黒いドラゴンの語った私の、私達の真実・・・身体の組織崩壊。そしてその先に待つ破滅・・・)

 

手を見た。それは人間の手をしていた。だが彼女には、この手が今にも変化しそうで恐ろしかった。

 

(もし、このまま私が戻ったら・・・ナオミ達が巻き添えに。それだけは嫌だ!なら、私のとるべき道はただ一つ)

 

「・・・シオン。私は私の思うように戦う。そして私の事についても隠さず教える。それが条件だ」

 

「えっ?」

 

「・・・よかろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決めた。私は、シオン達と共に道を歩く・・・

邪魔をするならナオミ達は、私の敵だ」

 

彼女のはシオンの元へと歩いていくと、こちらを振り向いた。その目は目の前の敵を見据えていた。

 

「・・・なっ!何言ってんのよシルフィー!こんな時にふざけるのはやめなさい!」

 

「シルフィー、何を言ってるの?早くこっちに・・・」

 

「この魔人族がぁっ!!!」

 

「やはり敵となったか!!」

 

この選択にナーガとカナメが激昂した。武器を持ち、シルフィーに飛びかかる。するとシルフィーを庇うようにシオンが前に立ちふさがった。

 

「甘い」

 

突然シオンの前に穴が開かれた。刀も薙刀もその穴へと吸い込まれていった。そして吸い込まれた直後、二人の背中に激痛が走る。

 

「なっ、なんで・・・」

 

背中にはナーガとカナメの持つ武器が突き刺さっていた。

 

「ゲート。穴を二つ開き、入り口を目の前に、出口をお前達の背後に設定した。攻撃すればするほど、自分が傷つくだけだぞ」

 

【カキンッ!】

 

直後にサラマンディーネが刀を振り下ろす。だがそれは居合刀でいとも容易く受け止められた。

 

「私の太刀を受け止めた!?」

 

「・・・弱い。数百年前の戦いの際はDEMの力に頼らざるを得なかったが、ここまで弱っていたとは・・・それでは我々を倒す事はできんな」

 

「!!弱いですって!!」

 

「そうだ。弱い。それでは俺たちを倒せない」

 

【ドス、ボキッ】

 

次の瞬間に、シオンはサラマンディーネの腹部を蹴飛ばした。鈍い音と共にサラマンディーネの身体が吹き飛ぶ。

 

「おっ、落ち着きなさい!サラ子!あんなの安い挑発よ!」

 

「アンジュ!貴女は黙ってなさい!!これはドラゴンと魔人族の問題です!!」

 

その態度に普段の冷静さはなく、感情的な激昂が前面に押し出していた。サラマンディーネが翼を大きく広げ、空高く飛び立った。そして急降下して来た。

 

「これでぇ!!」

 

【ザクッ!】

 

サラマンディーネの刀はシオンに届かず、シオンの手に持つ刃が彼女の腹部を貫いていた。そして刃を抜かれ、地面へと踞る。

 

「どうだ?自分が刺された痛みは。他人の痛みを感じて、少しは世界も変わって見えたんじゃないか?」

 

そしてトドメと言わんばかりに両方の翼にも剣を突き立てた。

 

「ガアアアッ!!」

 

声にならない悲鳴をあげた。だがシオンの攻撃は終わらなかった。

 

「空を飛べは俺に有利が取れると思ったのか?・・・舐めるなよ?今のお前ら叩き潰すのに、例の姿になる必要もない」

 

シオンがローブを脱ぎ捨てた。すると背後にはジェットパックの様な物が装着されたており、サラマンディーネを持ち上げ、飛び上がった。先程サラマンディーネが飛び上がった距離の倍はある。

 

「グッバイ」

 

次の瞬間、シオンは急降下した。そして地面にぶつかる直前、サラマンディーネを思い切り叩きつけ、自身はすれすれの箇所で着地した。

 

「サラ子!!」

 

サラマンディーネは全身血塗れ状態となっていた。慌ててアンジュ達が駆け寄るが、そんなサラマンディーネの前に先にシオンが立った。

 

「所詮お前も、ただのドラゴンか・・・」

 

その言葉には失望が入り混じっていた。次の瞬間にはサラマンディーネをアンジュ達めがけて蹴飛ばした。

 

「何。傷自体は浅くしてあるし、まだ生きてる。手当てしてやれ」

 

「あんたって人は!!」

 

アンジュが飛びかかったその瞬間、胸に焼けるような痛みが身体を襲った。

 

「邪魔をするなら、この場で死ね・・・?」

 

振り下ろされそうになったその手を、シルフィーが力強く掴んでいた。

 

「やめてシオン。これ以上は」

 

「・・・そうだな。シルフィーとも合流できた・・・お前ら、一つだけ言っておく。俺たちはただ貴様等の存在に怯えるだけではない。いつまでも自分達こそが絶対的な支配者だと思うなよ・・・行くぞ」

 

すると彼等の背後に突然穴が開かれた。その穴はゲートによって作られた穴だ。その穴に一人、また一人と入っていった。やがてシルフィーが入る番となった。

 

「まっ、待って!」

 

駆け寄ったナオミの首元をシルフィーが力強く握った。

 

「言ったはずよ。立ちはだかるなら容赦はしないと。私は本気よ?」

 

ナオミの首を握る手に力が加わる。首からはミシミシと言う嫌な音がその場に響く。

 

「なんで、こうなるの!一緒に居ようって、約束したじゃん!!私はあの館で、シルフィーが言った言葉も、流した涙も忘れてない!こんな事、本心なはずがない・・・」

 

「話してよ。何がそうさせるのか、ちゃんと説明してよ・・・」

 

「・・・・・・」

 

(・・・ごめん。ナオミ。でも、これしか道は無い。私が望んだ居場所は、ナオミが、みんながいる世界。だからナオミだけは、生きててほしい。全てが終わったその時、私はきっと一人になる。一人は寂しくない。だって、私は初めから一人だった)

 

(だから、だから・・・!)

 

近くの川へとナオミを投げ捨てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで、お別れだ・・・」

 

誰にも聞こえな声で呟き、シルフィーはゲートを通り、何処かへと消えていった。

 

するとカリスがアンジュの元へと歩いてきた。そして右手で傷口に触れると、静かに目を閉じた。するとアンジュの切り傷が塞ぎ始めたではないか。

 

「・・・皆さん。ありがとうございます。あの子の事を、人間として見てくれて・・・でも、ここからは私達の問題です。どうかこれ以上、私達への干渉はやめてください・・・さようなら」

 

カリスはアンジュの傷の手当てをした後、穴へと入っていった。彼女が通った直後、穴は一気に縮小し、まるで何事もなかったかのような空間が目の前には広がっていた。

 

「なんで・・・シルフィー・・・」

 

皆呆然と、その場に佇むしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころ、竜の都、地下深くの研究所では。

 

「そうですか、サラマンディーネ達は失敗したのですね」

 

「はい、今救援隊を送りましたのでもう少しでつくでしょう、治療などの手当ても万全です」

 

「ご苦労アスカ。貴女は黒の部隊全体に緊急招集をかけなさい」

 

それだけを伝えると、ロシェンは通信を切った。一ため息をした後、PCのモニターに目を移す。そこにはある文字が表示されていた。

 

Forbidden File(禁断の記録)

 

「どうやら、あのトカゲ達は失敗したみたいだね」

 

ロシェンの背後にはリラがいた。

 

「まぁあいつらが負けるのは容易に想像できたね。でも少し面倒なんじゃないかい?人形は逃げたし、あんたのお目当ての腕輪も一緒にドロン。もし仮に現れたとして、僕以外に対抗策でもあるのかねぇ」

 

「・・・カーネイジ級を使います」

 

その言葉にリラの顔色が一気に変化した。恐怖とも焦りともとれる、複雑な表情だ。だがそれを悟られまいと、すぐにポーカーフェイスへと変化させた。

 

「・・・へぇ。遂に始めるつもりなんだね」

 

「ええっ。計画を実行しましょう」

 

この時、二人の顔には、この世のものとは思えない、邪悪な笑みが浮かんでいた。

 




投稿が遅れて申し訳ありません。

そしてまだまだ投稿的には遅くなりそうです。隙間時間を縫って何とか続けていける様に努力しますので、何卒よろしくお願いします。

質問や感想など、募集中!


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第46話 戦火は再び・・・



本来二つに分ける予定だ出たシナリオを一つに纏めてみました。

深夜のレポート開けでテンションおかしい時に書いた為、至らない箇所があるかもしれませんが、温かい目でみてくだされば嬉しいです。

なお、予め言っておきます。ここで出てくる言葉のうち、何処かで聞いた事がある単語が出てきたと
しても、それの元ネタとは何の関係もありません。

俗に言う名前が似ているだけです。

それでは本編を、お楽しみください!




まずアンジュ達の目に写り込んだのは天井であった。

 

「ここは・・・?」

 

周りを見渡してみる。自分はベットに寝ており、周囲にはナオミ、ヴィヴィアン。そしてタスクがいた。三人ともアンジュに続く様に目覚めた。

 

「あれ?確か俺たち・・・」

 

「大丈夫ですか?貴方方は黒の部隊に回収された後、直ぐに気を失って眠っていましたよ」

 

心配そうにドクターゲッコーが顔を覗き込んできた。その隣にはサラマンディーネ達もいる。

 

「確か私達・・・そうだ!サラ子!私達をあの場所に連れて行きなさい!」

 

「ええ。私達もあの場所へと行くつもりでしたし」

 

状況を思い出した四人は跳ね起き、サラマンディーネの背中を急かしながらある場所へと進んで行った。

 

「一体どういうつもりよ!説明しなさい!」

 

現在アンジュとナオミ、タスクとヴィヴィアンの四人は黒の部隊の執務室に来ていた。そこにはアスカを除いた黒の部隊のメンバーが集まっていた。内容は無論、シルフィーの暗殺についてだ。

 

しかし先程から部外者に話すことはないの一点張りをされている。

 

「ロシェン様、何故魔人族に対しての作戦が私達に教えてもらえないのですか!?今後の行動のために・・・」

 

【ドスッ!!】

 

次の瞬間、サラマンディーネの身体は扉へとたたきつけられた。ロシェンがサラマンディーネを殴りつけたのだ。

 

「サラ子!?」

 

「放っておけ」

 

ロシェンが殴った手を擦っている。

 

「一般軍人が口を挟まないでもらいたい!ここは

黒の部隊の作戦室だ。正規軍とは、やり方が違う!!」

 

「たとえ対魔人族の為に作り上げた部隊とはいえ、同じ軍隊であることに変わりはないはずです!」

 

「総帥は黙れと言っている!」

 

今度はカリンがサラマンディーネに殴りかかった。これにはナーガとカナメも激怒した。

 

「貴様姫様に向かって!」

 

「忘れたとは言わせないよ。ここでは如何なる階級であろうと、黒の部隊の位が優先される。たとえ相手がお姫様であろうとな」

 

その言葉にサラマンディーネ達は押し黙ってしまった。それはその言葉が真実である事を物語っている。しかしアンジュは黙らなかった。

 

「あんた!一体どういうつもりよ!シルフィーを殺す様に仕向けるなんて!」

 

「・・・いい機会だ。この映像を見てもらおう」

 

室内が暗転したかと思うと、そこには映像が映し出された。避難所で見た映像システムと似ていたが、映像の中身は違っていた。

 

「この映像は・・・」

 

「アカシックレコードを知っているか?」

 

「それなら聞いたことがあるわ。確か地球の全てが、そこには記録されている。でも、その存在は伝説のはずよ」

 

「その伝説の存在が、今君達が見ている映像。フォビドゥン・ファイルだ」

 

フォビドゥン・ファイル。魔人族がこの世界で行った侵略行為がこのファイルには保管されているのだ。

 

「まず魔人族が現れたのは、今よりもっと昔、そう、あのD warsと呼ばれるあの戦争より遥かに昔の事だ。かつて、この世界にいた人間は、時空転移実験を行った」

 

「時空転移実験!?それは確かD warsでこの地球が滅びかけ、それから逃れる為に研究されたのではないのですか?」

 

タスクが口を挟む。

 

「それは少し違う。時空転移の技術はとっくの昔に確立されていた。そしてこの技術の確立直後、かつての人間達はある事を試みた」

 

「ある事?」

 

「別の地球から知的生命体を呼び寄せる計画とされている。言い伝えによれば、その実験で、太平洋に島が転移してきたらしい」

 

「・・・で。その結果、魔人族って呼ばれる団体が来た訳ね」

 

「そうだ。魔人族はこちらの交友の使者を殺した。その為当時は戦争になると誰もが予想したが、ある事実が発覚した為、戦争にはならなかった」

 

「ある事実?」

 

「当時、魔人族には機械文明がなかった。空輸などの技術はなく、船などは良くてイカダであった。だから当時の人間達は、魔人族の転移してきた島を大目に見積もって封鎖し、実質飼い殺しにする事を

決定した」

 

「そして人間でない存在を呼び寄せた為に、時空転移技術は禁忌とされ、封印されていたのだ」

 

「そこから永い刻が流れ・・・D warsが勃発した。その結果は君達も知っているだろう?多量のドラグニウムが地球全土に降り注ぎ、地球は実質崩壊。その地球から逃れる為に時空転移技術もその時に解禁された」

 

「そして長い時は、魔人族に発展の機会を与えてしまった。魔人族は機械文明を手にすると、その力でドラゴン達にケンカを売り付ける時もあった」

 

「こうして徐々に不満が燻っていき、そして遂に第一、第二のレーテの悲劇が引き起こされたのだ」

 

レーテの悲劇。ある日、アウラの家が突然出火。当時病弱だったアウラの娘と、その世話をしていたベビーシッターが死亡。そしてアウラも全身火傷の大怪我を負った事件である。

 

そして第二のレーテの悲劇。魔人族がエンブリヲと共謀しアウラを誘拐。そしてその場にいた市民の殆どが焼き殺された事件である。この二つのレーテを引き起こした存在とされるのが、シルフィーである。

 

「そこから龍魔大戦と呼ばれる戦争が引き起こされだ。その結果として、我々黒の部隊は勝利を収めた。だが終戦にあたり、魔人族の死体を確認出来なかった為、魔人族がまだ生きている可能性を考慮し、黒の部隊は維持されたのだ」

 

映像はここで終了した。電気が再びついた。

 

「これでわかったか。奴らは侵略者の末裔だ。この地球には、この様な言葉がある。何人も、その星に住む者を侵略する事は許されないのだ」

 

タスクの表情が曇った。彼ら古の民は、その侵略行為を受け世界から追放された存在だ。その言葉に何かくるものがあるのだろう。

 

「・・・あの。貴女の話を聞いてて少し疑問に思った点があります」

 

恐る恐るナオミが質問をした。

 

「貴女の言い方、特にDwarsから後の言葉は、まるでその場にいたかの様な言い方でしたので。そんな昔の事を貴女は見ていたのですか?」

 

その質問にロシェンは一つため息をした後、呟いた。

 

「・・・私は始まりの光を浴びた存在だ」

 

「始まりの光?」

 

「それについては私が答えましょう」

 

背後から声がした。振り返るとそこにはドクターゲッコーがいた。

 

「始まりの光とは、私達の中で初期の頃にドラゴンとなった者が浴びた光の事です。この光を浴びた存在は光の作用か副作用かは分かりませんが、寿命が極端に伸びました」

 

「とはいえ、第二のレーテの悲劇でその殆どが焼き殺され、残っているのはロシェン様と大巫女様。

議会の方々。アスカ。そしてアウラだけです」

 

「ゲッコー!その様な事を部外者に伝えるな!」

 

「あら。すいませんね」

 

「とにかく!今後私達は対魔人族の掃討作戦を開かねば成りません。アンジュ達。貴女達にはこの件から退いて貰いたい」

 

「なんですって!?」

 

「これはこの世界の問題だ。他所の世界の人間がとやかく口を挟むべき問題ではない!直ぐに元の世界に・・・」

 

「ビーっ!ビーッ!ビーッ!」

 

突然執務室にけたたましくサイレン音が鳴り響いた。赤ランプもぐるぐると点灯している。

 

「何事だ!」

 

「大変です!現在魔人族の部隊が進行中です!」

 

「なっ、場所は!?」

 

「現在都からはかなり離れた距離ではありますが、このまま進軍が続けば、後18時間後には、都へと侵入されます!それにDEMの反応が7つ程確認されています!」

 

DEMが7つ。皆予想がついた。α、β、γ、Δ、Ζ。ν。そしてΩ。

 

次の瞬間、ナオミは部屋を飛び出した。それに続くかの様にアンジュ、タスク、ヴィヴィアンが飛び出した。

 

「ナオミ!・・・シルフィーを連れ戻すんでしょ」

 

「話を聞きたい。あの時の言葉が本心だと、私は思わない。だから・・・」

 

「私も付き合うわ。首根っこを掴んででも一緒に戻ってやる!」

 

「私も行く!このままお別れなんて嫌だ!」

 

「・・・ミィ」

 

ヴィヴィアンも名乗りを挙げた直後、彼女の本名を呼ぶ声がした。背後には娘を心配する母親がいた。

 

「お母さん」

 

「・・・何も言わなくていい。アンジュさん。娘を、そしてシルフィーさんをお願いします」

 

「そうですか。やはり貴女方は、その道を選ぶのですね」

 

声の方に振り返る。そこにはサラマンディーネ達がいた。

 

「止めても無駄よ。私達は私達の仲間を連れ戻す。それの邪魔をするなら・・・」

 

空気が張り詰めている。このままいけば一悶着起こる雰囲気であった。だがその空気も直ぐに過ぎ去った。

 

「私と行動を共にするのであれば、戦線への参加を認めます」

 

「姫様!?」

 

「ですが、もし彼女達と戦場で対峙する様な事となれば、その時私は迷わず戦います。それを邪魔しない事。それが条件です」

 

「・・・上等よ」

 

「今から一時間後、私達は進軍を止めに戦場に行きます。それまでに用意をし、議会の入口へと機体と共に集まってください」

 

そう言うとサラマンディーネ達は来た道を引き返していった。曲がり角に差し掛かって途端である。

 

「姫様、少しよろしいでしょうか?」

 

不意にドクターゲッコーが話しかけてきた。

 

「例の件ですが・・・ごにょごにょ」

 

「なんですって・・・後で確認をとります」

 

 

 

 

 

あれから一時間後、議会の入り口にはドラゴンの部隊。龍神器3つ。そしてアンジュ達のパラメイルが集っていた。

 

「私達の目的は、現在都に向けて進軍中の魔人族を討伐する事です」

 

「姫様!対魔人族の為に設立された黒の部隊は!?」

 

「それが、黒の部隊はこれまで演習がほとんどであった。故に実戦での部隊などを動かす手続きが全く取れない!許可が取れすぐに援軍として駆けつける予定です。それまでに我々で、いえ、我々の手で魔人族を討伐するのです!」

 

「何よあいつら!偉そうな事言って、結局他人任せじゃない!」

 

「これじゃあ税金泥棒だな」

 

皆が思い思いの愚痴を言う。長い間ある組織ではこの様な不満も溜まるものなのだろう。

 

「ドラゴン軍!進軍せよ!!」

 

ドラゴン達は飛び立った。戦場を目指し・・・

 

そしてそれを参謀室から見つめる者がいた。ロシェンだ。更にその隣にはリラもいる。

 

「例の計画を始めるぞ。リラ」

 

「そっちはどうぞが勝手に。でも、僕の邪魔をしたら許さないからね」

 

そう言うと、二人は参謀室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方こちらは、シルフィーサイド。

 

時間軸は、シルフィーがナオミ達と別れてからすぐ後の事。

 

ゲートを通った先は、何処かの部屋である。その部屋の雰囲気は社長室の様であった。

 

「ここは?」

 

「おいおい忘れたのか?ここはスマートブレイン。俺たちが所属していた軍隊だ」

 

天井の照明が、暗い部屋を明るく照らす。皆、緊張の糸がほどけたのか、思い思いの体制で床やソファーに横になり、寛ぎはじめた。やがてシオンが口を開いた。

 

「さて、シルフィー。お前が聞きたいことは何だ?」

 

「あっ。じゃあ率直に聞くけど、私は人間なの?それとも化け物なの?」

 

「答えを言ってしまえば俺たちは人間じゃない。俺たちは人間の姿を借りてるだけで、化け物の姿が本当の姿なんだ。ちなみにシルフィーの姿はキマイラだな。俺はケンタウロスがもとになってるな」

 

「なんめ私はあの島で目覚めたの?」

 

「かつて俺たちは、竜魔大戦に負けた。その時このまま滅ばぬ様に、俺たちはDEMに備えられたコールドスリープを使う事にした。そしてあの島は時空転移で向こうの世界へと移転した。そして今から10年前、地殻変動の影響で俺たちは目覚めた」

 

「他に魔人族はいないの?」

 

「いない」

 

「ミスルギで私が使ったあの能力。あれは何

なの?」

 

「あの能力は魔人族が持つ標準スキルみたいなものだ。魔人族はそれぞれ何かしらの能力を持つ。俺がゲートの魔術みたいにな。シルフィーのは、自分以外の他者の原子や分子を操作できる。わかりやすく言えば、相手を燃やしたいとき、燃えろと念じれば相手の原子や分子がプラズマとなり、瞬間的に超自然発火を引き起こす。これ以外にも念じればそれなりにできると捉えておけ」

 

最後の質問、黒のドラゴンが言っていた言葉。それはシオン達も聞いていたはずだ。

 

魔人化の発動トリガーは基本自己の任意によるもの。だが例外は存在する。身体が死ぬとき、生き延びようと自然に発症する。そしてこの発症はあくまで肉体を強化しているが、あくまで死への時間が伸びているだけ。

 

その間に原因を取り除かなければ今度こそ死ぬ。シルフィーに生えた翼はまだそのままだ。つまり症状はまだ直っていない。

 

「私には・・・後どれくらいの時間が残されてるの」

 

一瞬にして場の空気が凍りついた。これまでの知らない事を教える簡単な空気ではない。彼女の質問は答えではなく宣告になってしまう。

 

「・・・それは俺達には分からない。このまま何事もなく、数十年間生き続けるのか、それとも一分後には発作が出て即死ぬのか。そしてそれは、俺たちも同じだ・・・」

 

「・・・ねぇみんな!お酒飲まない?せっかくシルフィーと合流できたんだし」

 

場の雰囲気に耐えきれなくなったのか、ミリイが備え付けの冷蔵庫から酒とツマミを取り出した。

 

「そうだな。せっかく昔みたいに揃ったんだ。後の事は今は考えずぱーっといこう!」

 

「ほら、シルフィー。あんたも一応二十歳超えてんだ。鬼殺しの一本くらいのみな」

 

エセルが酒とチーズを投げてきた。慌ててそれを受け止める。

 

周りは何のためらいもなく、酒を口に流し込む。恐る恐るシルフィーもビールに口をつける。

 

「どうだい?初めてのビールの味は?」

 

「・・・変な味・・・」

 

その一言に、皆が大爆笑した。そこからは皆、一気に酒が入ったのか何処か浮き足立ち、されど何処か空元気な雰囲気がその場を支配した

 

「全くシオンはゲートでいいよな!俺の能力なんて重力変化だぜ。いつ使うって能力よ」

 

「それならまだいいじゃないか。私なんて瞬間絶対零度魔術だぜ。寒いったらありゃしねぁ」

 

「私は大地を操る魔術かな?シルフィー覚えてない?貴女を檻に閉じ込めた能力の事」

 

「皆さんは戦闘用向きなんですね。私なんて本来保健の先生ですから能力だっけ外科的治癒能力。戦いには向いてませんよ」

 

「まだいいじゃん!私なんて触れた物体を灰にする魔術だよ。触れなきゃダメなんだよ」

 

その後、思い思いの愚痴を述べ、宴会の様な夕食は自然と、一人、また一人と潰れていく事で、御開きとなっていった。

 

 

 

 

 

 

やがて夜も更けた頃、不意に皆が眼を覚ますと、そこにはシルフィーの姿がなかった。

 

「あいつ、トイレにでも行ってるのか?」

 

ふとエレベーターを見ると、地下一階、DEMが置かれている格納庫を指していた。皆が一度顔を見合わせた後、全員で格納庫へと降りていった。

 

そこにはそしてオメガの前にシルフィーはいた。今まで泣いていたのか、目は泣きはらし、床には軽く水溜りが出来ていた。

 

「オメガ・・・」

 

「・・・泣いてた。ついさっきまで。これから先、辛くて泣かないようにと・・・そしてもう一つ。彼女が私にした質問がある。何でシオンは、十年近く私を放っておいたのか」

 

その言葉に鞘へとシオンの手が伸びた。見れば見るほど今の彼女は無防備。真正面から殴り合えば能力の件もありまず勝てない。だが今なら勝てる・・・殺せる。

 

そんな考えがよぎった。数百年前、かつての龍魔大戦時の記憶が脳裏をよぎる。

 

(私達は!仲間じゃ!友達じゃなかったの!?)

 

(私はこうするしか生きていけなかった!!)

 

(文句あるどっかいけよ!!私を見捨てたあの時みたいに!!)

 

「やめろシオン」

 

顔を上げるとオメガがブラスターを突きつけていた。今にもシオンを叩き潰すかの様な位置に置かれている。気がつくと自分は既に刀を抜いており、それを彼女の手前まで突き付けていた。

 

すると先程まで静観していたドミニクが声をかけた。

 

「シオン。一つだけ答えて。貴方の目にはシルフィーがどう映ってるの?先生を実質殺した忌むべき存在?私達とは別の時間を生きたシルフィー?それとも・・・私達と一緒の時を過ごしたリラ?」

 

「・・・・・・」

 

その質問に、シオンは答える事ができなかった。自然と皆の視線が奥へと集まる。DEMが置かれている格納庫のさらに奥。そこには一つのカプセルが安置されていた。そしてその中には、一人の少女が眠る様に死んでいた。

 

腰まである白い髪、透き通る肌白い肌、少女の容姿はシルフィーと同じであった。だが彼女の周りには生命維持装置が至る所に備えられており、コールドスリープ中とはいえ、余りに厳重すぎである。

 

そして彼女には、決定的に一箇所だけ違っていた。カプセル内の彼女には・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両腕がなかった。

 

 

 

次の日、シオン達は地下格納庫に集合していた。皆の手元には資料と、DEMのコントロールユニットが握られていた。

 

「全員集まったな。これから俺たちは、ドラゴン達に戦争を仕掛ける。狙いはドラゴンの都の心臓部分、特異点発生装置。これの破壊だ。各自の役割は渡した資料に記されている」

 

するとシオンはシルフィーの方を向いた。彼女自身は何も言わずに黙って資料を読んでいた?

 

「シルフィー。お前は今回の目標の切り札だ。だからトレーラーの助手席にいろ。オメガなら自動操縦で動ける・・・なぁ。シルフィー。この戦いが終わったら、名もなき島で俺たち皆んなで過ごそう」

 

「・・・」

 

それに彼女は何の返事もしなかった。

 

「よし。それじゃあトレーラーに荷物は乗せたし、あれをやるか。シルフィーは聞いてるだけでいい」

 

「自分達に居場所はない。ならば自分の手で手に入れる。居場所も、未来も」

 

自分達を奮い立たせる文を詠唱した後、皆がスマートブレインを後にした。

 

 

 

そして現在、ドラゴン軍と魔人族の両軍は、互いに睨み合っていた。一触即発とは正にこの事を言うのだろう。誰もがその場の空気によって、動けない状態であった。

 

気まずいのか、シルフィーはアンジュ達と目を合わせない様にしている。

 

「・・・どけ。俺たちはドラゴンを皆殺しにしようとは思っていない。そしてアンジュ達。言ったはずだぞ。俺たちの前に立ち塞がるなら容赦はしないと」

 

「残念ね。それで黙って引き下がる程、私達は大人しくないわよ」

 

「降伏して頂けませんか?貴方方も七人で我々と戦えば、勝ち目がないのは目に見えているはずです」

 

「・・・そちらの言葉ではないが、そんな言葉で引き下がる様なら、始めなら戦争をするつもりなんかねぇ」

 

その言葉に皆が武器を握り直した。血の雨が降る事は予想できた。

 

「ギャオーーーン!!」

 

遂にドラゴン達が、シオンめがけて突撃してきた。その瞬間であった。

 

「よし!全員俺のそばに集まれ!!」

 

トレーラーから乗り手が飛び出す。その掛け声の次の瞬間、シオン達の足元に大きな穴が出現した。それはシオンを中心にDEMと共に一瞬で消えた。そして穴は直ぐに塞がれた。

 

「きっ、消えた!?」

 

皆が困惑していた。あのゲートは所謂どこでもドアだ。つまり何処かへと移動した訳だ。では何処へ?そう考えた次の瞬間、都から緊急通信が入った。しかも相手は大巫女様である。

 

「サラマンディーネよ!すぐに兵を戻すのだ!」

 

「大巫女様!どうなさったのです!?」

 

「魔人族が、この都に攻め込んできた!」

 

その瞬間、皆が敵の狙いを理解した。

 

「まっ、まさかあいつら。戦力を引きずり出させて、手薄になった都に直接攻め込むつもりだったのか!!」

 

「姫さま!急いで戻らねば!」

 

「そうはさせん!」

 

その直後、トレーラーのコンテナ部分が開かれた。そこには100体を超えるであろう人間の大きさをした、異質な存在がいた。そいつらは銃を持ち、無機質な声でこう告げた。

 

「お前達の相手は、我々ライオトルーパー隊だ」

 

時を同じくし、竜の都にて。

 

「あっ、あれは何だ!!?」

 

都にいる人々は、皆空を見上げていた。それに空いた大きな穴。そしてそこから7つの機影が姿を現した。その手には機体の乗り手を乗せて。

 

「さぁ、戦争の始まりだ」




今回の話は深夜の変なテンションの時に書いた回なので、至らない箇所があるかもしれません。

その為、質問などを受け付けることにしました!ストーリーのネタバレになる様な内容は答えられませんが、もう少し詳しく説明してほしい箇所がありましたら、遠慮せずに質問してきてください、


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第47話 VSデウス・エクス・マキナ 前編

この場を借りて、前回説明し忘れていた所を説明いたします。

各DEMのボディラインに流れているのはフォトンブラッドである。これは魔人族がこの世界で見つけたエネルギーである。主にDEMのエネルギーとして
運用されています。

「あれ?それって555なんz・・・」

それじゃあ本編行ってみよう!(強引な打ち切り)

(※以前にも言いましたが、この世界はどこかで聞いたことある名前がよく出ます。ですがそれはその名が出てくる本編とは何の関係もありません。その点をご留意ください)



突然の奇襲によって、都の防衛はガタガタであった。不幸中の幸いか、都には黒の部隊が残されて

おり市民が蹂躙されることだけは防げていた。

 

だが奇襲に成功し、DEM達は黒いドラゴン達を

次々と叩き潰していった。

 

「辺りの掃除は完了したよ」

 

5機のDEMがフリードの元へと集合していた。しかしフリードは浮かない顔をしていた。

 

(なんだこの感じ。何かがおかしい。何かが・・・)

 

突然エネルギー弾がDEM達に放たれた。そして、一つの機影が降り立った。その龍神器は、右腕に巨大な砲台を携えていた。

 

「私の名はアスカ!黒の部隊の行動隊長にして第二世代型龍神器。核龍號の乗り手!!魔人族!私が相手だ!」

 

懐から剣を取り出し、DEMへと斬り付けてきた。

それをαは受け止める。

 

「ほうっ。いるじゃないか。数百年経とうと、腕の立つ相手ってのは!」

 

両者が距離をとり、砲身を構えた。エネルギー弾が両者の砲身から放たれる。ぶつかり合った結果、

エネルギー弾は中心でぶつかりあい、消滅した。

 

ヴァスターの砲身からエネルギーパックが放出される。

 

「あの砲身から出される砲撃。ヴァスターと同じ火力だと!」

 

「ドミニク!私達でこいつを抑える!フリードと

カリスはミリィの護衛を!」

 

リフレクターフィールドの使えるβ、そしてエネルギー補給のできるγ。この二機が相手の場合、そう簡単には突破はできない。

 

「ミリィさん。ライオトルーパー隊の方はどうです」

 

「大丈夫。ドラゴンと龍神器の足止めには使えてる。損失もまだ何とか」

 

「頼むぜ。Zじゃなければライオトルーパーの遠隔操作はできない。奴らが総力を用いてきたら、俺たちは間違いなく負ける」

 

いくら機体性能が良いとは言え、魔人族である彼らは総数僅か7人である。機体の整備に使う資材。

弾薬に人材。そして7人に残された時間。全てが

ドラゴンに比べ劣っているのだ。

 

「立った一度だけの戦い。時間との勝負」

 

(シオン、シルフィー。二人とも早く頼むぜ)

 

 

 

 

 

 

その頃、アンジュ達。

 

「何よこの人型!人間の大きさしといて、使う武器はパラメイルクラスじゃない!」

 

無機質な小型の機械人形。手に持つ武器は様々である。バズーカなり散弾銃なり手榴弾なり。

 

だが、何より目を引くのはその連携だ。機械だからこそ行える寸分の狂いなき動き。獲物を逃がさずに追い詰め、掃討する狩人の姿がそこにはあった。

 

例え空を飛んだとしても、こいつらはフライングアタッカーを使い追い詰めてくる。

 

数ではドラゴン側が勝っている。だが戦術、武器などでは完全に負けてる。ほんの僅かな隙も見逃してはくれない。無理をすれば、火傷では済まされないクラスだ。

 

だが、ドラゴン達もここで道草を食っている訳にもいかなかった。

 

「姫様達!我々が敵の包囲の一角を崩します!その間に都へ!」

 

スクナー、ブリッツ、フリゲート、そしてガレオン級、ドラゴン達の一斉の火炎弾によりライオトルーパーの一部が崩れ落ちた。

 

そしてそこには一つの道が切り開かれていた。

 

「よし!早く都に戻るわよ!!」

 

全ての起動兵器が、全速でその場から撤収した。数体のライオトルーパーが追いかけてきたが、ドラゴン達の決死の抵抗により深く追いかけてくるのは誰も来なかった。

 

(頼む!間に合って!!)

 

 

都へは数十分で戻ることができた。ぼやのような煙が辺り一帯に立ち込め、嫌な程静けさとなっていた。

 

「市民たちは緊急でシェルターに避難をさせたと連絡がありましたが・・・静かすぎます」

 

「黒いドラゴン達の姿が見えない」

 

「まさか、もうみんな殺られたんじゃ・・・」

 

この静けさだ。それもあり得る。だがサラマンディーネとタスクの二人には、妙な違和感が生まれていた。

 

(何でしょうか。この違和感・・・)

 

(何だこれは・・・何かがおかしい。でも何が・・・)

 

【ドッカーーン!!!】

 

静寂を突き破るかのごとく、爆破音と黒煙と共に、その場に6つの機影が現れた。五機のDEMの攻撃に対し、たった一機の竜神器がそれを受け流していた。

 

熱源遠隔移動砲(ビット)!」

 

Δの脚部から放たれた砲台。それらが核龍號を着々追い詰める。

 

「姫様!魔人族のうち、二人ほどがアウラの塔へと!!」

 

この場にいないDEMは二機。νとΩだ。つまりシオンとシルフィー。

 

「ナーガ!カナメ!アスカの援護を!私達は残りの二人を追います!」

 

残りのメンバーがアウラの塔へと進路を向けた。塔は何者かによって入り口が破壊され、機体が通れる程の穴が広がっていた。

 

数日前にアンジュとサラマンディーネが訪れた、かつてアウラのいた場所。その空洞の下には、大きな穴が地下深くへとづづいていた。そしてそこを守るように、巨大な門番と番兵がいた。

 

「やはりここに来たか」

 

「シオン!」

 

(敵は5人。・・・ドラゴンは二人か)

 

「取り引きだ。そこのドラゴン2人。両者がこの場に残りどちらかが私と一対一で戦ってもらう。この条件が飲めるのなら、残りの三人はここを無条件で通してやろう」

 

「・・・嫌だと言ったら?」

 

「この場で五人纏めて叩き潰す」

 

シオンとνの目が光る。彼らの実力は知っている。パイロットの方は生身でスクナー級を倒し、DEMの方はガレオン級を一撃で葬った強者である」

 

「分かりました。私が戦いましょう」

 

「アンジュ!ナオミ!後タスク!シルフィーをお願い!」

 

二人の竜人が残る意志を示す。残りの三人を先に進ませる為に。

 

「サラ子。負けるんじゃないわよ!」

 

そう言い残し、三人は奥へと続く空洞へと進んでいった。

 

「時間がない。早く始めよう」

 

「ですがその前に、貴方とは龍神器に乗る前にこちらでの闘いを所望します」

 

サラマンディーネが取り出した物。それは日本刀であった。それにシオンも何も言わずに居合刀を鞘から抜いた。両者がお互い地面に着地する。

 

「それは、こちらの要求を飲んだと捉えて良いのですね」

 

「言ったはずだ。あまり時間をかけたくない」

 

「では、覚悟!!」

 

「はあっ!!」

 

 

 

 

 

 

こちらはシルフィー。彼女は長い空洞を今も降下していた。

 

「シオン・・・」

 

(いいかシルフィー。お前は特異点発生装置を見つけ、それを壊す。それがお前の役割だ。お前の能力は細かく言えば他者の原子分子を崩壊させ、それを再構成出来る事だ。オメガで潰すのも良いが、俺たちに武器の補給は限られている。出来るだけ節約してくれ)

 

「何を考えている。人間」

 

突然オメガが話しかけてきた。

 

「別に何も・・・」

 

「後悔しているのか」

 

「・・・この道を歩く事は私自身が決めた。後悔なんて・・・ない」

 

「そうか・・・人間。この戦いが終わったら、お前はどうする」

 

「どうするって。それは・・・」

 

「お前の身体の問題は知っている。一番症状が出ている事もな・・・もし辛い事があり、全てを忘れたいのなら、私がその手を考えよう」

 

「何を?」

 

「辛い事を忘れられるのも、人間の良いところだ」

 

突然、反響の質が変わった。辺りを見渡すと広大な空洞が広がっていた。そして目の前にある黒くて巨大な塊。これが話で聞いた特異点発生装置なのだろう。

 

(・・・燃えろ)

 

試しに念じてみた。ミスルギで殺していった人間と同じ風に。すると目の前にあった塊から突然炎が吹き上がった。装置が中身から燃やされている。

 

「シルフィー!」

 

三人が駆け付けてきたとき、既に装置は破壊されていた。

 

「言ったはずよ。私の邪魔をするなら、容赦はしないって」

 

「上等!たとえ首根っこひっ捕まえてでも、あんたを連れ戻す!私はあんたと一対一で戦う。それに勝ったら、すべて話してもらうわ」

 

「・・・乗った」

 

「人間。この戦い、私の指示に従ってもらう」

 

オメガが再び語りかけてきた。

 

「理由は?」

 

「私には、ラグナメイルとの戦闘経験がある。少なからずサポートはできると思うが?」

 

「的確に頼む」

 

銃の撃ち合い、剣の斬り合いが始まった。鉄を機体の装甲で受け止めることは出来る。だがビーム兵器とされるムラマサをヴィルキスで受ける事は出来ない。

 

「ヴィルキス!あんたの力!もっと出しなさい!!」

 

するとヴィルキスが、紅くなった。手にした剣がビーム状へと変化した。

 

「あれはミカエルモードだ。火力が特化した形態だ」

 

手にしたムラマサとビームサーベルによる激しい鍔迫り合いが繰り広げられる。

 

「これならそっちの兵器とも互角ね!」

 

「互角だと、笑わせる!」

 

ムラマサの出力がまた上昇した。今のムラマサは銃としての役割は捨て、剣としての役割に専念している。

 

「これで!」

 

ムラマサをヴィルキス目掛けて突き刺そうとした。すると一瞬でヴィルキスの色が赤から青へと変化した。目前まで迫っていたムラマサは空を斬った。その背後に蒼いヴィルキスのが佇んでいた。

 

「アリエルモードか・・・速度に特化した姿だ」

 

シルフィーは何も言わずに右腕のアクセルメモリーをとり、それを差し込んだ。

 

【COMPLETE】

 

背中の四枚羽が手足へと装着される。白のボディが黒へ、紅いラインが銀へと変色する。

 

【START UP】

 

今度は投げ捨てずにムラマサを握った。先ほどよりフォトンブラッドの出力は上がっている。銀色の閃光と蒼い閃光が戦場を駆け巡る。時々紅い閃光が空を切る。だが、それも十秒の間であった。

 

【THREE・・・TWO・・・ONE・・・】

 

【TIME,OUT】

 

加速状態の時間切れ。消えていたオメガの姿は再び具現化した。姿は普段のオメガであった。その隙をアンジュが見逃すはずがない。

 

「これでぇ!!」

 

手にした剣で、一気にオメガとの距離を詰める

ヴィルキス。もう目と鼻の先の距離あった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今だ!!」

 

【COMPLETE】

 

【START UP】

 

オメガの姿が一瞬にしてアクセルモードに戻り、

再び消えた。

 

「連続アクセルモード。身体の負荷が半端じゃないな」

 

「だがこれで奴にわずかな隙が生まれた。そしてその隙が狙いだ」

 

複数の紅い円錐体がヴィルキスの身体へと突き刺さる。フォトンブラッドによる拘束状態である。その円錐めがけてオメガは突き進んだ。

 

「まずい!あれはガレオン級でさえ容易く粉砕した。ヴィルキスの装甲で耐えきれるはずがない!」

 

「アンジュ!!」

 

オメガは尚も、突き進んで行く。




そろそろ第六章は終了です。第七章もオリジナルシナリオを進めてゆき、原作の話に戻るのは第九章からです。

皆さん。どうかそれまで、この二束三文の価値もない、オリジナルシナリオで満足してください。
お願いします!


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第48話 VSデウス・エクス・マキナ 後編


この話を読む前に、今一度、44話の前書きを読んでください。

そしてそこに書かれている内容を理解し、それでも良いと言う方はこの先にお進みください。

何故こんな事を書いたかって?この後の展開が私の予想だとトンデモになるからです。特に7章に移行してから、1つ目はまだオリジナルシナリオの設定で弁明できますが、2つ目に関しては原作ファンの神経を逆撫でる危険があります。(特にドラゴンファンの方)

その点をご留意ください。




【ガシっ!】

 

ヴィルキスへと蹴りが入る直前、ヴィルキスは両腕を使いそれを防いだ。真正面から脚部を掴んでいるため、引き剥がすのにも一苦労な状態である。

 

「受け止めたのか!」

 

だがこれに一番驚いたのはアンジュであった。

 

「私、まだ何も操作してない!」

 

【THREE・・・TWO・・・ONE・・・】

 

【TIME,OUT】

 

【REFORMATION】

 

時間切れにより、再びオメガの姿が元へと戻った。すると突然オメガの身体が崩れ落ちた。まるで糸の切れた人形の様に。

 

オメガを放り投げたヴァルキスの身体は金色へと変化した。かつて、サラマンディーネ達がアルゼナルを襲撃に来た際に変化した。

 

ヴァルキスの両肩が開かれた。そこからエネルギーがチャージされてゆく。アルゼナルを半壊させたあの兵器と同等の火力の武器が。

 

「ちょと待ちなさいヴァルキス!こいつ!言うこと聞きなさい!」

 

今回アンジュは永遠語りを歌っていない。だがチャージは止まらない。

 

「あれはミカエルモードだ!時空兵器、ディスコード・フェザーが来るぞ!直ぐに機体を立て直せ」

 

「・・・」

 

「人間!何をしている!!ちぃっ!!」

 

放たれた光は、オメガの判断によりなんとか直撃は免れた。だが機体の左半身の損壊はもはや目も当てられなかった。

 

「人間!なぜ避けようとしなかった!!!」

 

「・・・・・・・・・?」

 

「・・・人間?」

 

この時のシルフィーの表情は恐怖でも怒りでもない。ただ唖然と何かを見つめていた。それは自分の両腕であった。

 

「なに・・・これ・・・感覚が・・・」

 

右腕は動かず、血が吹き出していた。付着したなどのレベルではなく、小さいながらも水溜りを作っていた。

 

そして皮膚は青紫へと変色している箇所もあれば、白すぎる箇所もある。左腕はまだマシであるが、動きがぎこちない。

 

何より恐ろしい事に、何も感じない。痛みも、不快感も。肌や血の温もりも・・・痛くもないのに、目から血は止まらない。

 

「まさかお前!神経が・・・」

 

血は尚も垂れ流れてきた。なのに何の痛みも感じない。オメガは慌ててムラマサを投げ捨てた。

 

「降参だ!この勝負は中止だ!私達の負けでいい!!だから直ぐに中止だ!!」

 

「なっ!いきなり何を?」

 

突然の言葉に、アンジュ達は戸惑った。だがオメガの鬼気迫る言葉は質問を許してはくれなかった。

 

「いいから頼む!もし気に入らないならこの場で俺の首を差し出す!だからお願いだ!頼む!!」

 

コックピットが自動で開かれた。直ぐに血生臭い臭いが辺りに立ち込める。。三人とも直ぐに異常事態だと判断したらしい。タスクは慌てて緊急の医療セットの用意を始めた。

 

だが次の瞬間、ヴィルキスがオメガを襲撃した。

 

「アンジュ!何をしているんだ!」

 

「違う!ヴァルキスが勝手に!」

 

ヴィルキスはアンジュの操縦から離れ、独自の意思を晒け出した。手にした剣で、一方的にオメガを殴り倒している。コックピットからシルフィーが放り出され、地面に激突する。それでも尚、ヴィルキスはオメガに攻撃を加え続けた。

 

「もういいでしょう!これ以上は!」

 

オメガは最早手足も出ない状態であった。ナオミとタスクのパラメイルで強引に動きを静止させる。すると満足でもしたのか、ヴァルキスは元の色へと戻り、コントロールもアンジュの元に戻っていた。

 

パラメイルに乗っていたナオミとタスクの二人が駆けつける。

 

「シルフィー!!・・・!?」

 

彼女の皮膚は、死人の様に冷たかった。血が通ってないかのように。そして元々赤く変色していた眼は今度は白眼部分まで赤く染まっていた。

 

「ちょっと!シルフィー!しっかりしてよ!」

 

ナオミが必死に身体を揺さぶる。そこで三人は、ある疑問点を見つけた。

 

彼女の身体は血塗れであった。だが今の彼女の身体は何処にも出血した箇所が見られなかった。確かに血が大量に腕に付着している。なのに傷口は何処にも見られなかった。

 

だが、身体の冷たさから異常事態は察しがついた。背中に担ぎ、パラメイルの元へと戻ろうとした。

 

その時であった。

 

「魔人族の討伐。ご苦労であった」

 

入り口の方を向く。そこにはロシェンがいた。ロシェンだけでない。小さな子どもと、それを警護する集団もいた。

 

「別にあなた達の為にしたんじゃないわ」

 

「アンジュさん。失礼ですよ。こちらにおられるのは大巫女様なのですよ」

 

もう一度大巫女と呼ばれた方へと目を向ける。以前あったときは仕切りで見えなかったが、これが大巫女なのだろうか。もっとも、周囲の警備を考えるに偉い人なのは確実だろう。

 

「その娘を渡してもらおう」

 

「私達は彼女を連れて私達の世界に戻る!それで

十分でしょ!殺す必要があるの!?」

 

「それがあるのですよ。残念ですが魔人族は皆殺しにしなければなりません。もし抵抗するのなら、あなた達・・・覚悟するんだな」

 

護衛で来ていた竜人達がアンジュ達を包囲する。

 

「それが貴女達のやり方なわけ?上等よ。あなた達、無傷で済むとは思わない事ね」

 

皆が武器を手にした。オメガもムラマサを握っている。ここに来て一番最悪のケースが起きた。ドラゴンとの衝突。一番避けたかった事態が、今まさに始まろうとしていた。

 

「お待ちください!!」

 

衝突直前、ある叫びが両者を静止させる。

 

この場にサラマンディーネとヴィヴィアンが現れた。サラマンディーネは血にまみれ、ヴィヴィアンに肩を借りながらこちらへと歩いてきていた。

 

龍神器もボロボロであり、激戦の後ということを生々しく伝えられた。

 

「サラ子!」

 

「サラマンディーネよ。何用じゃ?」

 

「大巫女様。そしてロシェン様。一つ。一つだけ

教えてください」

 

「何をじゃ」

 

「その魔人族の娘についてです」

 

サラ子はナオミが背負うシルフィーを指さした。

 

「彼女の血液からは、魔人族の細胞が99%発見されました。ですが、1%だけ謎の細胞があったのです」

 

「調べた結果。その血液結果がここにあります。それを今から読み上げます」

 

「この被験体の身体は99%が魔人族の持つ特有の遺伝子である。そして残りの1%がドラゴンの遺伝子であると判明しました」

 

「えっ?」

 

「なっ!!ドラゴン!?」

 

周囲がざわめいた。あまりに予想外の言葉に動揺したのだろう。

 

「そして時間がかかりましたが、データバンクの中からその遺伝子と同じものが発見されました」

 

「一体、何のドラゴンの遺伝子なんだ!?」

 

サラマンディーネが一瞬口ごもるも、覚悟を決めて言い放った。

 

「この遺伝子は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・アウラの遺伝子であると判明した」

 

「えっ?」

 

「あ・・・アウラの遺伝子じゃと!?」

 

アンジュ達は動揺した。大巫女も少なからず動揺している。。突然告げられた言葉。その言葉が指し示す答えはただ一つ。シルファーは、第一のレーテの際に死んだとされる、アウラの娘となるのだ。何よりシルフィーが、声に出さずとも激しく動揺していた。

 

「でも、じゃあ、あいつらの言ってた。魔人族って種族の事は」

 

「違う!それは違う!!」

 

入り口からνに乗ったシオンがやってきた。黒装束は血塗れでボロボロである。それはDEMも同じである。

 

「そいつは俺たちと同じ魔人族だ!ハーフなんかじゃない!ドラゴンの血なんて入ってる訳ねぇ!入ってるわけがないんだ!!」

 

その態度は冷静ではない。例えるならば初期のアンジュと同じ。事実を認めず、否定したがる者の口調であった。

 

そして大巫女達は何も語ろうとしない。いや、語れないのだろう。

 

「お答えください!何故この情報を、貴女達は伏せていたのです!彼女からドラゴンの遺伝子が検出した時点でそれをもみ消そうとしたのですか!?」

 

「・・・そんな些細なこと。ドラゴンにとってどうで良いではないですか」

 

「その様な言い方・・・我々は同族を殺す所だったのですよ!それを何とも思わないのですか!!」

 

場を沈黙が支配した。誰も何も言い出せない状況。そしてその沈黙は、場違いな言葉に破られた破られだ。

 

「ふふっ。ふっふっふっ。あーっはっはっは!!」

 

「ろっ、ロシェル・・・様?」

 

「貴女と言う人間は、本当に・・・馬鹿ですね」

 

「彼女の事をドラゴンと認めればどうなると思います?魔人族との問題が複雑になるだけです。だからこの事実をもみ消したのです。化け物を化け物として処理する為に。その方が、余計な事を考えず、平和を乱す侵略者を叩き潰すという、大義名分として立派ですから」

 

「なっ!?」

 

「なんて言い方よ」

 

その言葉に、その場にいた皆が不快感を覚えた。しかしロシェンは何食わぬ顔をしている。

 

「よかったですよ、サラマンディーネ。貴女の考えを知れて。貴女の様な偽善者的な考えの持ち主が、いずれ私の敵となるのです」

 

【ゴゴゴゴゴ・・・】

 

「何か・・・音がしません?」

 

「どうやら、外の片付けは終わったみたいですね」

 

すると突然天井が崩落し、そこに一つの巨体が現れた。

 

「ウヒヒヒ・・・ウヒャハハハハハハハ・・・ハハハハハハ!! 」

 

その存在は狂気的な笑い声を上げていた。見た目はガレオン級だが、それよりも一回り大きく、何より身体の半分以上が機械で構成されていた。

 

そしてそいつの足元に、5機のDEMと、2機の龍神器がいた。全て、装甲などが酷く消耗し、所々に血の様な跡も見えていた。そしてそこから、七人が放り出された。

 

「フリード!エセル!ドミニク!カリス!ミリィ!」

 

「ナーガ!カナメ!!」

 

「ヒャハハ!まだ生きてるから安心しな。もっとじっくり痛めつけてやるからよ!ヒャハハッ!!」

 

7機全てを同時に壁に叩きつけた。νで何とか受け止める。

 

「ん?ンンンンンッ?」

 

ドラゴンはシオンの顔を吟味していた。それはシオンも同じであった。

 

「その右目の傷・・・覚えてる。お前、あの時の人間か」

 

「!!!」

 

シオンの中にある記憶。数百年前の龍魔大戦。あの事件でボロボロになっていた俺たち。そして、帰るべき場所が完全に破壊されたあの日。

 

この右目に、消えぬ傷跡が付いたあの日の出来事。

 

「貴様ぁ!!!」

 

νで殴りかかったが、直ぐに返り討ちとなった。

 

先の焔龍號との戦いの傷は深い。そして肉体も疲労困憊していたシオンでは、勝ち目などみじんもなかった。

 

「ヒャーッハッハ!やっぱ右側が全然ダメだな!!」

 

この存在にアンジュ達は唖然とするしかなかった。だがサラ子はその正体を知っていた。

 

「カーネイジ級!?馬鹿な!!封印されていたはずでは!!」

 

「サラ子!こいつ一体何者!?」

 

「カーネイジ級。かつての龍魔大戦におけるドラゴン側の勝利の最大貢献人にして、最大級の戦犯ドラゴンです!」

 

「その通り。かつてこいつは魔人族の前線基地を潰す作戦に参加し、多大なる戦果をあげた。だが、以前からの度重なる肉体改造によって精神は破綻。殺す事だけを愉悦の喜びとし、その作戦に参加した味方ドラゴンの99%を殺した。正に狂気のドラゴンよ」

 

このドラゴンの存在には、さすがの大巫女達も戸惑っていた。そして首謀者と思われるロシェンに詰め寄っていた。

 

「どういうことだロシェン!このような内容、聞いていないぞ!!」

 

「当然です。貴女には言っていませんから」

 

「この様な横暴許されると思っているのか!」

 

「ではそれを!一体誰が許さないというのです!?」

 

その直後、突然サラマンディーネの元に通信が送られてきた。その内容に、唖然とするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クーデター!!?」

 

「ええ。黒の部隊が突然議会に。正規軍は殆どが魔人族の撃退に向かい、総数が少なく。黒の部隊によって、議会は占拠され、中に居た議員達が・・・人質となりました」

 

「どうやら私の隊は命令通り行動したらしいですね」

 

「まさか!黒の部隊の出動が遅れたのは・・・」

 

「これでやっとわかったよ。都に入った時に感じた違和感。黒の部隊がいなさ過ぎたことだ。まるで何処か出払ってたみたいに」

 

おそらくクーデターは初めから計画されていたのだろう。黒の部隊にとって嬉しい誤算として、魔人族の進軍が起こった。これによって正規軍をそれの撃退名目で都から追い出す。つまり都は手薄になるのだ。そこを武力で占領。これがシナリオと言ったところだろう。

 

「確かに私の行いはクーデターと呼ばれるものです。ですがご安心を。直ぐに議会で決議が問われるはずです。このクーデターが、果たして本当にクーデターなのか」

 

「どういうことじゃ!」

 

「それはまだ大巫女様が知るべき事実ではありません。そうそう、シルフィー。貴女に会いたい人がいるんでした」

 

次の瞬間、ナオミの背中からシルフィーが消えた。彼女の身体は現在空中にあった。

 

正確に言うなら、空中に浮かんでいる生物に握られていた。白い天使のような翼と、黒い悪魔のような千葉さ。胴体などには獣のライオンに蛇、羊など。ドラゴンとは一線をかけ離れている存在。

 

「キマイラ!?まさかお前!!」

 

彼女の身体は壁に激しく擦りつけられた後、地面へと叩き落とされた。

 

キマイラの姿が人間へと戻る。目の前に現れた存在。会うのはこれで三度目となる。

 

「リラ!!」

 

「君たちか。おやおや。あっちの世界の人間もいるみたいじゃないか。まぁ不思議じゃないか。向こうの連中もしぶとく生き残っているし」

 

「向こうの連中・・・アルゼナル!モモカ達は生きてるのね!!」

 

「ん?まぁね。今もなお、しぶとく生き残ってるけど、まぁそんな事はどうでもいいよね。この後すぐ死んじゃうんだし」

 

「その前に」

 

リラがシルフィーの方を向いた。

 

「教えてあげるよ。なんで僕があなたを人形って呼ぶのか。それはね・・・」

 

その言葉にシオン達の顔色が青ざめる。

 

「やめろ!シルフィー!そんな奴の話聞くな!!全部でっち上げだ!!」

 

リラによって、鉄槌の一言が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

「貴女はもう、死んでいるから。腕輪という電池で仮初の命を得ているだけの人形。それが貴女という存在なんだよ!!!」

 

 




9月10日は苦闘の日!(即興で思いついた)

第6章は後2話程で終了します!

現在の隊長故にモチベーションが上がりにくい状態だけど!がんばっていこう!!


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第49話 砕かれた腕輪

 

 

「私が、死んでる・・・?」

 

「そうだよ。死んでる」

 

あっさりとした答えが返ってきた。

 

「ふ、ふざけたこと言うなよ!じゃあ今この場にいる私は何なんだよ」

 

その焦りにより、普段の面影は何処にもなかった。

 

「その腕輪の力は自己再生能力。だから君は死ぬほどの怪我をしたとしても、何度もそれらを乗り切ってる」

 

「たとえそれが、意識不明の重体で、生存確率が5%を切っていても、たとえ高圧電流の直撃を浴びたとしても、たとえ長時間、水中から出られずに流され続けていたとしても、たとえ一週間飲まず食わずでも、そして体の血液の80%程失っても、そりゃ生きていけるよね」

 

全て心当たりがあった。言われてみれば確かに彼女はあまりに死地を乗り越えすぎである。

 

「自己再生・・・」

 

先ほど戦闘。彼女の出血量に対し、傷口が見当たらなかった点を考えると、アンジュ達も否定できなかった。

 

「・・・論より証拠が必要かな」

 

お互いの腕輪が突然光った。

 

するとこれまでに感じたことのない違和感が右手を襲った。いや、この感じ、数回ほどある。歯が抜けそうなときに感じるぐらぐら感であった。

 

見ると腕輪が少し膨張しており、外そうと思えば外れそうであった。リラが月の腕輪を中央に投げ捨てる。

 

「もし、それを否定するならこの場で腕輪を外してみるといい。もしそれで、私は生きていると言えたなら、この腕輪をくれてやるばかりか、仲間共々この場を見逃してやるよ。まっ、後者に関しては、君に仲間がいればの話だけどね」

 

この言葉に皆が確信した。リラは何一つの嘘もハッタリもついていない。答えを知る者ゆえに出せる

絶対の自信。それが彼女にはあった。

 

「シルフィー!あんな挑発乗るな!」

 

「必死だねぇ。それもそのはずか。だってシオン達は、全てを知ったうえで君を仲間に引き込んだんだからねぇ」

 

魔人族メンバーの顔がこわばった。それをシルフィーは見逃さなかった。

 

「うそ、だよな・・・」

 

「知らないのか?そいつ等、特にシオン。そいつはお前を殺そうと・・・」

 

「お前なんかに聞いてない!」

 

「・・・この写真を見な」

 

リラにより写真が数枚ばらまかれた。アンジュ達もその写真を見た。

 

そこには身体中に生命維持装置の管が繋がっているシルフィーが写っていた。ただ一つ、両腕がないことを除いて、それはリラ以上に、いや、

シルフィーそのものであった。

 

「これって・・・」

 

「そいつが私達の母体となった存在さ・・・シオンにとってあんたは、そいつの代わりなんだよ」

 

「・・・ねぇシオン。正直に答えてよ・・・私は、仲間・・・だよな・・・」

 

(この戦いが終わったら、俺たちみんなで名もなき島で過ごそう)

 

彼女にとって、その言葉は少なからず心の支えにもなっていた。仲間を助ける為に捨て、一人に戻ると決めていた彼女にとって、気休めとはいえ、それは温かい言葉だった。

 

「お前は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失敗作だ」

 

鉄槌の言葉が振り下ろされた。オメガが何かを言っていた。多分シオンを罵っているのだろう。だがシルフィーにとって、そんな事はどうでもよかった。

 

「あ・・・アアアァァァァァ!!!!

 

その絶叫は、永く、されど一瞬で鳴り止んだ。シルフィーが腕輪を外した直後、彼女電池の抜けた玩具の様に、その場に崩れ落ちた。

 

直後、腕輪を回収しようと先に動いたのはリラであった。狙いを同じにしていたシオンと奪い合いになる。

 

「悪いね!こいつはもらってくよ!」

 

一瞬にしてシオンは吹き飛ばされた。手負い故に、まともに張り合う体力すら残されていないらしい。直ぐにドラゴン達に取り押さえられた。

 

「くそ!放しやがれ!」

 

「ちょっと!離しなさいよ!」

 

シオン達だけでなく、アンジュ達も力ずくで組み伏せられた。これにより完全に生命与奪が相手側に奪われた。

 

オメガに関しては、魔人族のメンバーが実質人質となっている為に行動を起こす事が出来ない。

 

「さて、アダムとイブは知恵の果実とされるリンゴを食べ、知恵を得た。故に神から追放された。君達は知りすぎた。だから始末しなきゃねぇ」

 

ナイフを手に、リラがゆっくりと歩みをこちらへと進めている。

 

「待てリラ」

 

突然彼女を制止する声がした。その主はロシェンであった。

 

「ここまでたどり着いた褒美だ。お前たちに死ぬ前に良い物も見せてやろう。リラ。腕輪を渡しなさい」

 

「・・・ふん!シルフィーが死んだ以上、こんな

ものに用はない。好きにしな」

 

太陽と月、二つの腕輪を投げ捨てる。それをロシェンが拾い上げた。直後、満面の笑みを浮かべる。

 

「遂に・・・腕輪がそろった」

 

すると腕輪は共鳴するかのごとく、眩い光を放っている。

 

「真実のアカシックレコードよ!いまこそ姿を現すがよい!!」

 

腕輪が宙に浮かんだ。一体何が起きるのだろうか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【・・・コトン】

 

「・・・・・・は?」

 

「?」

 

腕輪は光が静まると、重力に従い、下へと落ちていった。そこからは、何も出てこないし、何も起きない。

 

「ばっ!馬鹿な!!何故だ!!腕輪は二つそろっている!!物を出し入れするには、腕輪が二つ必要なはずだ!!なのに何故出てこない!!」

 

ロシェンが、普段見ていた態度からは想像でも出来ないほど狼狽している。腕輪をぶんぶん振っているが、何も出てこない。

 

「リラ!!!貴様どういうことだ!!!」

 

「知らない!!僕が誕生したとき、既に腕輪は僕の左腕につけられていた!!今以外で、一度も中身を取り出せる機会はなかったはずだ!!」

 

となると、答えはただ一つしかない。

 

「初めから腕輪は、偽物だったのか!!!」

 

「貴様ぁ!!本物の腕輪は!!アカシックレコードはどこにある!!!」

 

倒れている。シルフィーにつかみかかる。だが彼女の眼にもう光は宿っていない。つい先ほど、その光は完全に消えたのだ。

 

(アカシックレコード?でもそれってあいつが持ってたんじゃ)

 

アンジュ達はそれを見ていた。だから余計にわからない。何故アカシックレコードを狙っているのか。

 

「くそっ!こんな眉唾物!!!何の価値もない!!!!」

 

「よせぇぇぇぇぇ!!!!」

 

シオンの叫びも虚しく、次の瞬間、腕輪はロシェンの手によって、粉々に砕け散った。

 

その時であった。

 

腕輪が砕かれる直前、腕輪から光る玉が浮かび上がった。

 

「なんだこれ!オーブ!?」

 

やがて光の玉がはじけたかと思うと、そこに一人の人間が立っていた。黒装束をまとっているおり、魔人族の関係者なのは理解できた。

 

男はフードを目深にかぶっており、その上に白い帽子も被り、ハードボイルドな雰囲気を醸し出していた。男はゆっくり歩み始めた。

 

「ウワアッ!人間ダァ!殺して・・・」

 

「邪魔」

 

【ドゴッ!】

 

「ギャアァッ!」

 

皆が目を疑った。この男はあの改造ガレオン級、

カーネイジ級をグーパンチで殴り倒したのだ。人間がどうか疑わしくなってきた。その男はリラの前で足を止めた。

 

「なっ!なんだお前は!?」

 

頭に被っていた帽子を外した、次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リラァ!!大きくなったなぁ!!」

 

・・・前言撤回。ハードボイルドの雰囲気は影も形もなかった。その男は突然リラを抱えると、嬉しそうにぐるぐると回り始めた。

 

「なっ!なんだお前!!いきなり何を!!」

 

余りに突然なことに、リラは困惑していた。慌てて男を突き飛ばし、距離を取る。謎の男の方も困惑していた。

 

「?・・・なんだこの匂い。リラだけどリラじゃないみたいだ」

 

「せっ、先生!!!」

 

声の主はシオンである。

 

「おお!おまえら!その恰好・・・」

 

捕らわれている皆を見て、ついに事態を察したようだ。

 

「SMごっこだな。俺も混ぜてくれ」

 

ちっとも分かってなかった。

 

「すいません。昔みたいにツッコミたいんですけど

時間がないんです!ほら、背後見て!」

 

そこにはすでに動かないシルフィーがいた。

 

「リラが二人・・・だと・・・」

 

「・・・先生。これは・・・」

 

唖然としていた男だが、やがて何かひらめいたらしい。

 

「そうか!リラは双子になったのか!で、なんで寝てるんだ?」

 

どう考えても場違い、いや、出てくる作品が違いすぎである。一番部外者が言いたいことを言えたのは、アンジュであった。

 

「だっ!誰よあんた!!!」

 

「なっ!俺様を知らないだと!!ガーン!!」

 

すると男は、いまだノびているカーネイジ級の胴体の上に昇りあがった。

 

「おうおうおう!遠い奴は音に聞け!近ぇやつはその目に刻め!!俺様は神たる存在!!!魔人族、

デルザー軍団の大首領!!!その名も不知火(しらぬい)様だぁ!!世界よ!俺様が帰ってきたぞ!!!」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

多分、この場の全員が思っているだろう。なんて

反応すれば良いのか。いきなり現れ突然変な事を言い出されても困ります。すると当然拘束が緩くなった。見ると見知らむ女性がドラゴン達を倒していた。

 

「あーあ。人柱から解き放たれた直後なのに、相変わらずの俺様ルールね」

 

「!!?誰!?」

 

「あら私?私はデルザー軍団、最高幹部のエリスよ。よろしく、坊や達。いや、男女比率的にお嬢ちゃん達かしら?」

 

「それともう一つ。突然で悪いけど、そこ危ないわよ」

 

また天井が崩れ落ちた。そこにはこれまで見たことのない機体が存在していた。色々と考えるに、恐らくDEMだろう。

 

「またなんか来た!!」

 

「何こいつ!?」

 

「もうどおにでもなれぇ」

 

もはや彼女達のキャラが半分崩壊している。その

機体はオメガと同じ人工知能を備えていた。

 

「長いお勤めご苦労様です!マスター!!」

 

「おお!ファントム!なぁ、さっそくで悪いけど、この状況を分析して説明してくれ。握手会じゃなさそうだし」

 

「答えは単純です!マスター達は敵陣のど真ん中で蘇りました」

 

「あー。なるほど。大体理解した。で、シオン。この男が敵か?」

 

不知火は銃をとりだすとタスクに突き付けた。

 

「先生!違います!この男はドラゴンではありません!!」

 

慌ててシオン達がフォローしている。もう前半部分のシリアスな雰囲気など失せていた。

 

その頃、まだ慌てふためいているロシェン達であったが、ようやく調子を無理矢理取り戻しかけていた。

 

「魔人族の偉い奴か!」

 

「偉いじゃない!超偉いナイスガイだ!!」

 

訂正する必要性を感じない。

 

「魔人族は皆殺しだ!」

 

「敵対するなら相手になってやる!行くぞファントム!戦闘開始だ!」

 

「無理です」

 

対戦するであろう雰囲気にいきなり消火器を吹き付けられた。。

 

「何故だ。理由を30字以内で説明せよ」

 

「ここに移動するまでにディーゼルエンジンが

お釈迦になりました」

 

「でぃ、ディーゼルエンジン・・・」

 

その言葉をアンジュは知っていた。まだアンジュがノーマだと判明する前、歴史の教科で習った事がある。あの機体はそんな過去の遺物が搭載されているのか。

 

「あの機体は使えないらしいな!あいつを倒したらでかい褒美が手に入る!」

 

「悪いが、その首頂くぞ!!」

 

勢い良く、黒の部隊のドラゴン達が飛びかかった。

 

「くそ!こうなったら・・・」

 

【ゴキッ!】

(首の骨の折れる音)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・え?」

 

皆、目の前の光景に再び思考が停止した。こいつは何をしている?

 

血がポタポタと滴る音が聞こえる。それと同時に噴水の様に勢いよく吹き出している血飛沫。手元に自分の首が握られていた。

 

そしてその首が一言。

 

「首ならやるよ。ほれ」

 

「ウゲェェッ!!!」

 

「オロロロロ!!!」

 

「気持ちわるっ!!!」

 

あまりの気持ち悪さに、その場にいたエリス以外の全員が吐いた。胃に物がなくなるまで吐き続けた。恐怖のあまり、黒いドラゴンの半分はその場から

慌てて逃げていった。

 

「ふっ。俺様が神々しすぎたか・・・これは罪だな」

 

男は何事もなかったかのように首を元あった場所へと戻した。すると首の切断面が癒着し、首が再び繋がった。

 

「無理無理!!こっち来んな!!」

 

「いやぁ!来ないで!!」

 

「あっち行って!!」

 

周囲の人間は完全にドン引きしており、彼と物理的に距離を離そうとしている。

 

そこに、シオンの狙っていた隙が生まれた。

 

「今だ!飛び込め!!」

 

掛け声を合図に、DEMに飛び移る。シオン達は皆、開かれた穴へと飛び込んだ。不知火は動かないシルフィーを背負うと、エリスと共に穴へと入っていった。

 

「人間。ゲートを使うなら護衛してやる」

 

オメガがゲートを護るように立ちはだかる。唖然としていたアンジュ達であったが、直ぐに行動を起こした。

 

「とにかく!私達もあの穴を通るわよ!!」

 

「魔人族の元に下れと言うのですか!!」

 

「どのみちこの場にいたら間違い殺されるわよ!

いいから突っ込むわよ!!」

 

残されたメンバーも機体に乗り込む。妨害しようドラゴン達が突っかかってくるも、腐っても鯛(大破してもDEM)らしく、スクーナー級には善戦している。

 

アンジュ達とサラマンディーネ達もゲートを通る道を選んだ。彼女達が通った直後、穴は塞がり、何事も無かったかのように消えていった。

 

「ちっ!!まぁいい。少し計画が狂ったが、大きな修正は必要ない。それにしても・・・あいつら

一体・・・待てよ」

 

「・・・なるほど。どうやらまだ、探し物をあきらめるには早すぎたらしいな」

 

邪悪な笑みを浮かべると、ロシェンは気分の悪そうにしている大巫女の元へと歩み寄った。

 

「安心してください。大巫女様。何も貴女の命をこの場で奪おうとは思ってません。貴女にはまだ利用価値があるので・・・」

 

その時ロシェンは気づいていなかった。彼女の背後にいたリラはとても不服そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、アンジュ達は、ここが何処かわからないでいた、見た感じ、廃れた街中らしい。周囲を見渡し。逃げ遅れたメンバーはいないことが把握された。

 

そしてほんの少し先に、シオン達はいた。

 

「急いでスマートブレインの地下格納庫でDEMのオーバーフォールを!後シルフィーをカプセルの中に・・・って!なんでお前たちが来てる!」

 

魔人族メンバーがアンジュ達の存在に気づき、武器を構えようとした。

 

【パチン!!】

 

武器を構えるより先に、乾いた音がその場に響く。見るとナオミがシオンにビンタをしていた。その様は、普段の彼女からは想像もできなかった。

 

「なっ、ナオミ・・・」

 

「なんで・・・何でシルフィーの事、最初から話してくれなかったの!!」

 

「あなた達。シルフィーがこんな事になった理由も、知ってるんじゃないの・・・」

 

あまりに気まずい雰囲気が場に流れた。

 

すると不知火は帽子を目深にかぶり、シオンをグーで殴った。あまりの強さに、体が壁にめり込んでいる。再び掴みかかりそして殴った。それはシオンは避けようとせず、甘んじて受けた。

 

「おいシオン。俺が人柱になってから、魔人族に、デルザーに。そして娘に何があったのか・・・全て話せ」

 

先ほど見ていたナルシストでちゃらんぽらんな雰囲気は、静かな怒りによってかき消されていた。

 

「・・・わかりました。全てをお話しします」

 

【ポツッ】

 

ふと顔に何かが当たった。雨だ。見ると雨が降りだしていた。しかも強い。

 

「ひとまずあのビルに入りましょう。濡れて風邪をひいてしまいます」

 

「え?全部の雨粒良ければよくない?」

 

見ると不知火とエリスが高速移動をしていた。目に映っているのは全部残像らしい。

 

「すいません。自分そこまで肉体鍛えてません」

 

アンジュ達は改めて思った。

 

(この二人だけ人間じゃねぇ・・・)





今回でようやく、オリキャラ内においての主要人物の登場させる事が出来ました。

(実のところ今回のキャラクター達は、本来登場する予定はない、緊急登板に近いのですが、それはオリジナル図鑑③に載せる予定です)

因みにシルフィーのこれまでの件だが、実は全てこの作品内で実際に負ってたんだ。一体何話で負ったのか、是非探してみよう!

最後に一つ、言っておくべき事がありす。

これはクロスアンジュです!!!(当たり前の事実)


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第50話 懺悔からの再出発



今回で50話突破です!今回の話を読み思ったこと。

理想と現実の差は激しい。

理由づけも少々強引な気もするし・・・

でも、気にしなぁい!(ある一線を超え吹っ切れた)



 

 

外は豪雨が降り続いている。まるで今の自分たちの心境のようだ。いや、それ以上だ。嵐の海など敵ではないほどに、皆の心は荒れ果てていた。

 

スマートブレイン本社内。集まった部屋内でシオン達やアンジュ達、サラマンディーネ達が傷の手当てをしていた。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

皆何も喋ろうとしなかった。パラメイルや龍神器、そしてDEMの緊急メンテを行う為に地下格納庫へと出向いた時、そこで見た物体。写真に写っていた生命維持装置の管が体中に存在するシルフィーである。その体に両腕はなく、隣に入れられ同じように眠るシルフィーとの違いはそこしかなかった。

 

不知火を残し、皆ごその場を後にし、部屋へと戻った。

 

「・・・何も聞かないんだな・・・」

 

長い沈黙の後、シオンが口を開いた。きっと誰かが願っていた話し合いの為の起爆剤。それが今投げ込まれた。

 

「あれは・・・シルフィーは生きているの・・・」

 

アンジュが最もな疑問を呈した。

 

「・・・学問上では生きている。だが・・・」

 

あれで生きているものなら、ゾンビの方が生きているらしさが湧き出ているものだ。

 

「・・・何故、あの娘が、アウラの血を・・・」

 

「その辺りについては、俺から説明しよう」

 

エレベーターの扉が開き、不知火が戻ってきた。

 

「あの娘、お前さん達がシルフィーと呼んでいた

女性。あれはリラ。俺とアウラの間で出来た娘だ」

 

「やはり、この男がアウラの伴侶。ハーフなのですか。あの娘は・・・」

 

「先に言っておく。俺はアウラを愛している。アウラもきっと同じはずだ。邪な考えも思想もない。

ただお互いに愛し合い、そして交わり、あの娘は

産まれた」

 

「・・・少し変だとは感じていました。娘については病気で人前に出られないと理由づけされていたのですが、何故かその父については一向に触れられなかったことに・・・」

 

「そうか。アウラのやつ、リラを守る為に、そんな嘘を・・・俺はあの子が5歳の時、アウラから託された。その時のアウラは、全身大やけどだった。

リラに至っては、見るに堪えない状態だった」

 

「でも、あなた達は、なんで腕輪を砕いた途端に現れたの?腕輪の中にでもいたの?」

 

「それについては、俺が説明しよう」

 

シオン達が口を開いた。

 

「先生とエリスが腕輪内で人柱となった理由。それはシルフィー、いえ、リラを救うためだったんだ」

 

「俺たちの身体にドラグニウムは毒に等しい。たとえ微量とはいえ、それを溜めこめば身体の組織は崩壊して、死を迎える。元々リラはドラゴンと魔人族のハーフだったが、それ故に、少し厄介な点があったんだ」

 

「一つ目は、彼女はドラグニウムを無意識のうちに吸収してしまう事。もう一つ。ドラグニウムは吸収こそできますが浄化はできない事。最後に、普通のドラゴンなら心臓にドラグニウムの結晶があるが、リラの場合はそれが脳にあること・・・」

 

皆が言葉の意味を理解した。体内に自身を蝕む毒をもち、さらに毒を無意識に取り込み、その濃度は上がってゆく。そして解毒は自力では不可。そしてその毒自体が脳に定着していること。

 

つまりドラグニウムを手術で切除するといった手法が使えないのだ。脳を入れ替えるなど、彼女という存在を消すに等しく、まず使えない。

 

彼女は生まれた途端、死へのカウントダウンが始まっていたのだ。

 

「アウラのところにいたときは、アウラが浄化をしていたみたいだから、何とかやっていけたみたいだが・・・こっちにはそんな浄化できる魔術も設備もなかった・・・だがな、あの腕輪は人柱を置くことで装着者の身体の一部として扱われる。俺の魔術は自己再生。要は自分の死んだ細胞を生き返らせることができる」

 

「だから俺は人柱となる道を選んだ。俺が人柱になることで、リラには自己再生が付与される。そうなれば止まった心臓も、組織が崩壊した細胞も修復される。だが、腕輪がその機能を果たすには、もう一人の人柱が必要だった。そこで名乗りを上げたのがエリスだ」

 

「まぁ、私は数合わせみたいなものね」

 

不知火とは別に、エリスはのほほんとしていた。

 

「次の質問、デルザー軍団はどうなった」

 

「結論から言わせてもらいます。スマートブレインに取り込まれました」

 

「先生とエリスが人柱となった後、デルザー軍団は当時№3だったタカ派のゴンドウをリーダーとして、ドラゴンの殲滅を理想に掲げました。シルフィー、いや、リラはドラゴンと魔人族のハーフです。当然彼女も、殺す対象に選ばれましたよ」

 

「でも、一応魔人族でもある為に彼女は処刑ではなく、国から追放されました。当然、必死になって縋り付いてきました。土下座までして・・・」

 

「それをお前は・・・見捨てたのか」

 

「・・・できる限りのことはしました。対ドラグニウムコーティングされたこのローブなど、彼女の存在は魔人族に害はないと説明したのですが、最終的にはゴンドウとの信望の差で惨敗しました。そして追放されてから一か月後、龍魔大戦が勃発しました」

 

「そこでリラは、自分の得た力を見せつけてきましたよ。当時の戦場、オメガだけで劣勢を盛り返しその後に残りの23機のDEMを引き連れて、取引を持ちかけました。自身の元に下るのなら、この23機DEMを貸し与えるという契約を。それは当時、機械文明がない魔人族にとって、まさに喉から手が出るほど欲しい代物でしたよ。こうしてデルザー軍団は軍事組織・・・いえ、傭兵部隊、スマートブレインの傘下に入りました」

 

「なんでそんな周りくどい事を・・・」

 

「リラにとっては、復讐だったんでしょうね。自分を捨てた者達が、自分の足元に跪き、そして頼らざるを得ない事。それが彼女の復讐・・・」

 

「・・・そうか。どのみちもうデルザー軍団は存在しない。それが聞けて十分だ。次だ。カプセル内の両腕の無い娘。あれは間違いなくアウラが産んだリラだ。ではあの黒髪のリラと、両腕のあるリラは何者だ」

 

「・・・ZERO計画。かつてゴンドウが実行した、人間を意図的に作り出す計画。黒髪のリラは当時のリラを母体に創り出された人工人間です」

 

「ZERO計画は聞いたことがある。だが倫理的に問題視され、封印された筈では?」

 

「龍魔大戦の長期化によって、その封印も解かれましたよ」

 

「俺たちと戦ったリラはゴンドウによって産み出された純血な魔人族。そしてそのリラとの戦闘で、偶発的に生まれた存在。それがアンジュ達が知るシルフィー、アウラが産み落としたリラと同じハーフだ」

 

「?どういうことだ?」

 

「詳しいことは後で話す。だからこれ以上、ZERO計画関係は何も聞かないでくれ」

 

「・・・そうか。後でその口から語るのなら、今は何も聞かないでおく」

 

不知火は手元にあった水を一口飲む。

 

「最後だ。一体魔人族は・・・どうなった?」

 

一番の核心に今触れた。恐らくドラゴン達も気になっていた点であろう。突然世界から消えた魔人族。一気にシオン達の顔色が強張る。目に見えるほど体がガタガタ震えている。

 

「すいません。それだけは答えたくないです・・・一つ言えるとしたら、俺たちは本来、この場にいる存在ではなかったということだ」

 

この時のシオン達の表情はとても複雑だった。先程とは違い、後悔、懺悔、無念、怒り。この世のあらゆる負の感情がそこに集結していた。

 

「そろそろ私達の質問もいいかしら?」

 

これまで黙って聞いていたアンジュ達が手を上げる。

 

「シルフィーがそっち側についたのは、例の魔人化が進行した際、私達を巻き込まないため?だとしたら自己再生って効いてないんじゃないの?」

 

「・・・実は二つの出来事が彼女を死へと一気に近づけた。一つ目は彼女がつけていた腕輪が、一時的に機能停止状態となったこと。おそらくリラの仕業だ。これによって細胞は崩壊後、再生することができなくなった。そしてもう一つ、これがまずかった。その機能停止状態で彼女がドラグニウムの溜まり場に行ったことだ。そこでドラグニウムを多量に吸収したこと」

 

「まっ!待って!まさか、そのドラグニウムの溜まり場って・・・」

 

アンジュの中にある想像が浮かび上がる。

 

「お前の考えてる通りだ。ミスルギ皇国の事だよ」

 

アンジュ達の世界のマナはドラグニウムで出来ている。アルゼナルではマナを使う存在は精々エマ監察官くらいである。だが他の場所は違う。マナで溢れ返っている。つまりシルフィーにとっては毒のたまり場なのだ。そして対処法で有った腕輪は機能停止状態。これが彼女を死へと一段と早め、結果、ミスルギでの魔人化が発動。あの惨劇を引き起こしたのだ。

 

「・・・この際だ、正直に言おう。実をいうとアルゼナルが襲撃された件、本当なら止めることだってできた」

 

アルゼナル組が驚愕の表情でシオン達を見た。

 

「襲撃の事実を伝える為と、シルフィーを回収するためにアルゼナルへと足を運んだんだ。そこで、リラと出会った。そこで伝えられたよ。僕はミスルギ艦隊との戦闘の最中、あいつと戦う。邪魔をするなって。あの時、既にシルフィーはもう腕輪の力でも延命がギリギリだった。はっきり言って、匙を投げてたよ。そして俺たちにとって、腕輪が二つ揃わなければ、先生とエリスを解放することは出来ない」

 

「だから無視する事にした。所詮他人だと自分に言い聞かせながら」

 

「あんた達・・・なんて事してくれたのよ・・・」

 

「我ながら最低な決断をしたと思っているよ」

 

「最後の質問。シルフィーを助けることはできるの?」

 

「できる」

 

その質問に答えたのは不知火だった。

 

「方法はあるが手段がない。だが絶対に助ける。一番早い方法が、腕輪を使い、また俺が人柱になることだ」

 

その言葉は決して揺るがない覚悟が秘められていた。

 

「あんたたちの過去やシルフィーについてはよくわかった。結論から言えば、あんた達は最低ね」

 

「自分でも自覚しているさ・・・」

 

「でも、私はあんた達に協力する」

 

皆が驚いてアンジュの方を向いた。

 

「あんた達の為じゃない。シルフィーの為よ。彼女には返さなきゃいけない借りがあるし、それを返すだけよ。第一、元の世界に戻ろうにもヴィルキスは流れでオーバーホール中だし。なら戻れるまでの時間で、やれる事をやるだけよ。サラ子。貴女はどうするの?」

 

「私はドラゴンです。ドラゴンとして、侵略者たる魔人族の味方になることなどできません」

 

ドラゴンとして当然の返答である。

 

「・・・ですが、ロシェンの態度が気になります。彼女は何かを隠している。それは昔の歴史的な史実であると私は思います」

 

「ってことは・・・」

 

「魔人族の味方をするわけではありません。昔の真実を知るために、アンジュ達の味方をするのです」

 

「アンジュ、ドラゴン・・・いや、サラマンディーネ」

 

「手を貸してほしい。魔人族のリラとしてではなく、シルフィーを救うために」

 

「ええ。手を貸してあげるわよ」

 

三人が固い握手をした。ここからが再出発だなのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・とは言ったものの、これからどうするつもり?」

 

その言葉に押し黙る。皆口だけで、ノープランらしい。そんな中、サラマンディーネが口を開く。

 

「私としては一つ、気になることがあります。あの時、アウラの塔でロシェンが言った言葉」

 

「真実のアカシックレコード。それには腕輪が関係していて、あの腕輪は偽物でした。では本物の腕輪が存在するのではないでしょうか?」

 

「だが、恐らく本当の腕輪の在り処を知ってるのはただ一人。シルフィーだけだ。それもリラの頃、数百年前の記憶だぞ」

 

でもこの調子じゃ聞くに聞けない。いきなり躓いた訳だ。するとエリス当たり前のような顔で言った。

 

「あら。簡単じゃない。精神世界でシルフィーの精神体に聞けばいいだけじゃない」

 

アンジュ達は口を揃えていった。

 

「・・・は?せいしんたい?せいしん・・・せかい?」

 

どうやら、まだ魔人族の特徴を、アンジュ達は把握しきれていないみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、竜の都では。ロシェンと大巫女様が話しあっていた。

 

「何故だロシェン!なぜクーデターなぞ!」

 

「知っているのですよ。大巫女様。アウラが何処に囚われているのか。そしてアウラを奪還する手立ては整っていることも。ですが、アウラを奪還されては困るんですよ」

 

「何故だ!何故アウラの助手であるお前が、アウラ奪還の妨害を!一体何故!?」

 

「アウラの・・・助手。ははっ。あーっはっはっはっは!!!」

 

その言葉を聞いた途端、ロシェンが突然狂った様に大爆笑した。

 

「そうさ!所詮私はアウラの助手。アウラという輝かしい存在の影がお似合いな存在さ」

 

ロシェンが自嘲気味に話す。

 

「アウラ。あいつはこどもの頃から大人に混じって研究所で研究をしていた、天才と呼ばれる存在だ」

 

「覚えているか。Dwarsを。あの時私は、新たなエネルギーを研究。開発していた。そしてその研究は軌道に乗り、あと一歩で完成するはずだった。なのに・・・

 

「なのに貴様らは!アウラ達がドラグニウムを発見したことで、私の研究を用済みとばかりに中止にさせた!そればかりか私を除け者にし、不要な研究に時間と予算を食い潰した無能者と烙印を押し、批判した!!」

 

「その時私は決めたんだよ!この力でも届かぬ高見があるのなら、そこにいる存在を引きずり下ろすだけだ!!!」

 

「かといって、アウラをこのまま見捨てるなど、許されるはずが・・・」

 

「それが、私にはできるんですよ。議会を従えることが。そして大巫女様。あなた自身の口から、その議会の決議事項を発表してもらいましょうか!おい!牢に閉じ込めておけ!」

 

黒の部隊の兵が、大巫女を拘束しながら、地下へと降りてゆく。

 

「リラ。何か不服なのかい?」

 

「別に。それよりとっとと僕のドラグニウムを浄化しな。こっちは浄化がないと危険なんだから」

 

「安心しろ。すぐに浄化の用意をしよう。しかしよかったな。お前の目的が果たせて・・・最強のサイボーグ」

 

皮肉めいた口調で肩をたたきながら、ロシェンは議会へと歩いて行った。その場にはリラだけが残された。

 

(そう。僕はシルフィーを・・・リラを倒した。これで僕は最強の力を有していることになる・・・目的は果たされた)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(じゃあ、僕はこれから何をすればいい?リラは僕が殺した。これから僕は、何を目標に生きていけばいい・・・)

 

答えの出ない自問自答をしながら、リラはその場へと佇み続けた。

 

 




これで第六章もおしまいです。一応第二以降の新キャラなどの情報を載せたオリジナル図鑑を作る予定です。

第七章もオリジナルシナリオです。目標としては60話で第八章、つまり原作シナリオに戻りたいです。

そして今後を読んでいくうえで私から一言いいたい。考えるな!感じろ!

・・・ちゃんと理解できるような代物を作っていきます。


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第50.5話 オリジナル図鑑③



はい、やってきましたオリジナル図鑑回!

実は数話前からパソコンを使っての執筆をする時がたまにあります。閲覧する人はスマホ閲覧だと思うので、私としては、最終的にスマホで投稿しています。

今回妙に長いよ!


 

 

オリジナルキャラクター

 

シルフィー

 

CV 高垣彩陽

 

大体のことは①で書いた通り。魔人族と呼ばれる種族であるが、実の所魔人族とドラゴンのハーフである。だがハーフ故に当時対立していたどちらの種族からも実質迫害されながら育った。

 

リラ(両腕の無い母体の方)の残りカスから偶発的に産まれたとされているが、その経緯については第7章で書きたいと思う。

 

不知火。

 

cv 納谷悟朗

 

魔人族の大首領。・・・おい。誰だショッカー首領言ったやつ。

 

一言で言えば生粋の変人。

 

自身を神だと自称するがそれに見合うだけの力や能力は有している。武術などに精通しており、かつては自身の腕だけでドラゴン狩りをしていた。頭脳も高く、娘達の為にフライングアタッカーを自分で作り、プレゼントした。

 

本人曰く、神とは万能の事を指す。俺にできないことはないとのこと。

 

簡単に魔人族内での人物関係を書く場合、シルフィーは彼女の娘にあたり、シオン、フリード、エセル、ドミニクは彼の舎弟にあたる。カリスは彼の親友であり、ミリィは養女。エリスは部下である。(そして妻がアウラにあたる)

 

なお、本来このポジションにはシオンがなる予定であったが、書いてるうちにいつの間にか初期の頃の謎めいた雰囲気が消えてしまった為、代役として登場させた。

 

追記。誤解を招きかねない表現で申し訳ないが、この男(先生)の登場自体は確定していた。ただポジションが違っており、本来、シルフィーの父親の立場はシオンが成る筈だった。

 

エリス。

 

cv 水谷優子

 

魔人族№2。自由気ままな性格であり、何処か人を小馬鹿にした態度をとる。

 

二つ腕輪があるのに、その内の一つだけにしか人が封印されていないは不自然だと直前で感じたために緊急登板させたキャラ。不知火はまだイメージの道標があったが、こっちは本当に慌てて作った為まだろくな設定もない。

 

ロシェン。

 

cv 小松由佳

 

黒の部隊の総帥。かつてはアウラの助手をしていたがその過程でアウラに嫉妬。当時アウラがエンブリヲに拐われ、ドラゴン内が統制を失った際のごたごたに便乗し、実質ドラゴン達の中のリーダーとなり、龍魔大戦時には、実績も叩き出したことで独自の地位を得た。

 

アウラの奪還が大詰めにかかった際、アウラの帰還に伴い自身の地位を失う事を恐れ、クーデターを実行。

 

武力以外で議会を従える力を有しているとか・・・

 

カリン、エマ、アクア

 

名前のあるモブキャラと考えていい。(またノリと勢いだけでこんなの作っちゃったよ)

 

アスカ

 

cv 市道真央

 

黒の部隊の行動隊長。ヤクザで言うところの若頭ポジション。かつてはアウラ親衛隊の隊長も担っていた。

 

オメガ。

 

cv 緑川光

 

Ωの人工ユニットであり機械生命体第一号。リラ(母体)が友達として作り上げたAI的存在。なお、シオン達とは違い今のシルフィーを肯定こそしないものの、決して否定もしない。

 

ゼロ。

 

cv 緑川光

 

ZEROの人工ユニットであり機械生命体第二十五号。リラではなく魔人族が作製した。自身を起動させたリラに付き従っている。

 

ファントム

 

cv 市道真央

 

ファントム(機体)の制御を担当するAI。女性型なのは作った人(不知火)の趣味。オメガは彼女を元に造られた存在である。

 

カーネイジ級

 

cv 伊藤英二

 

オリジナルのドラゴン。元はガレオン級であったが、度重なる肉体改造によって精神が破綻。殺すことだけを楽しみとするサイコキラーで、味方であっても殺そうとするなど筋金入りの狂人である。

 

龍魔大戦最大の活躍者とはいえ、そこで行った味方殺しの件数は千を超し,功績を考慮するにしまくった結果、結果永久冷凍封印刑に処されていたがロシェンが対魔人族戦にと封印から解き放った。

 

ゴンドウ

 

故人。かつての魔人族のNo.3。鷹派の人間であり、ドラゴンの殲滅こそが平和に繫ると考えていた。

 

かなりの過激な思想の持ち主の反面、筋などは通す性格の為、彼を慕っている存在も多くいた。シオン達もリラ(母体)の一件があるとはいえ、彼の思想の根底が、魔人族の平和と繁栄という純粋な願いである事を理解しているなど、ロシェンとは違い私利私欲は殆ど無い人物。

 

 

 

オリジナル機体。

 

オメガ アクセルモード

 

アクセルメモリーによって変化したΩ。この形態時はビームナックルなどによる格闘戦がメインとなる。エンジンなどのリミッターを解除しており、10秒間だけ1000倍の速度で行動できる。

 

無論身体への負担も跳ね上がり、慣れてない人間は1秒も持たず、10秒以上の連続使用は身体がミンチよりひどくなる危険性を持つ。これまでシルフィーは、同化していた不知火の持つ自己再生の力で連続使用時は無理矢理操ってきた。

 

DEM・type・ν

 

シオンの搭乗するDEM。他のDEMより数倍大きく、今のところ、ΩとZEROのムラマサブラスターを除き、唯一のビーム兵器の所持機体である。イメージとして、ガンダム試作三号機の様に大型ユニットを装着してると考えればよい。

 

(補足 ヴァスターはビームでは無くエネルギー弾として捉えてください・・・特に差異が感じられないのは私だけ?)

 

DEM・type・ZERO

 

リラが搭乗している機体。体色とアクセルモードが使えない点以外では、Ωと同じである。

 

アクセルモードの代わりに未来予測システムを搭載しており、アクセルモードの機動すら予測可能。かつてのZERO計画での戦いにおいて、他のDEMを圧倒し、Ωとも実質引き分けとなった機体。

 

核龍號

 

アスカ達が搭乗している機体。黒の部隊の所持する第二世代型龍神器である。試作機である第一世代型の龍神器より全てのステータス、武器の値が底上げされており、右腕には小型の収斂時空法を備えており、威力こそ本家には劣る反面、溜めが容易に行え特殊なスキルも必要ないなど、扱いやすさはかなり上昇している。

 

(補足として、第一世代型はサラマンディーネなど原作に登場するキャラクターの乗る龍神器のことを指す。これらはパラメイルなどをモデルとして造られた機体である。一方黒の部隊の所持する第二世代型はリラが造った機体であり、DEMがモデルとなっている)

 

ファントム

 

DEMシリーズとは違うタイプの機体。複座式。ディーゼルエンジンで動くなど明らかに普通の機体とは常識を凌駕している。なお、DEMが造られる以前に存在した機体だが、これはシオンがデルザー軍団の頃から大首領としての仕事をろくにせず、外の廃れた世界に宝探しに行っていた際に、発見した機体だからである。つまりかつての人間たちが作り上げた兵器である。

 

因みに飛べない。飛べない

 

機体にある武器装備。

 

400mm無反動砲。240mm耐艦砲。水素爆弾

 

 

 

 

オリジナル単語。

 

・魔人族。

 

ラグナレク、Dwarsより遥か昔から真実の地球にやってきた者たちへの俗称。

 

人間の姿はあくまで仮の姿であり、本当の姿は化け物の様な方である。(但しシルフィーはドラゴンの血も引いてる為、これには当てはまらない)

 

なお、この世界にやって来た原因となった出来事は、かつての人間が時空転移実験、つまり自分達の科学の欲望を満たすために望まぬ転移でこちらにやってきたとされている。既に身体が遺伝子改造されている為、ドラゴンの様に遺伝子操作をしてドラグニウムの耐性を得ることはできない。また、魔術と呼ばれる特殊能力を持つ。

 

魔術と呼ぶ理由として、初期構想では機械より魔法が発達した世界を描こうとした為。以下が本編に登場した魔人族の能力で有る。また、登場するかは不明だが、それぞれの魔人体のモチーフも載せておく。

 

シオン→瞬間移動。ケンタウロスがモデル。

 

フリード→重力操作。グレムリンがモデル。

 

エセル→瞬間的絶対零度。ハーピーがモデル。

 

ドミニク→大地の操作。ゴーレムがモデル。

 

カリス→外科的治癒能力。ケット・シーがモデル。

 

ミリィ→触れたものを灰にする。マーメイドがモデル。

 

シルフィー&リラ→他者の原子分子の崩壊、再構築。キマイラがモデル。

 

不知火→自己再生。スカルがモデル。

 

エリス→乙女の秘密だから何も教えない。

 

なお、本来はドラゴンと一時期共存していた設定を考えていたが、ドラグニウムを毒と設定したことにより共存出来る訳ないとしてボツとした。

 

(序盤の運命の子設定は、二つの種族の共存の象徴の意味合いも兼ねて建てたフラグだが、死に設定になってしまった)

 

・龍魔大戦

 

かつて魔人族とドラゴンとの間で起きた戦争。長期化に伴いお互いの軍が暴走しあった。結果として魔人族が破れドラゴン側が勝利したことで、この戦争は終戦したことになっている。この時の手柄と、魔人族の死体が発見されなかったことにより、ロシェン率いる黒の部隊はその維持を認められた。

 

・始まりの光

 

初期の頃にドラゴンとなった者が浴びた光。寿命が極端に伸びた。この光を浴び、現在生きているのはアウラ、ロシェン、アスカ、大巫女様。そして議会の方々である。

 

・レーテの悲劇

 

レーテと呼ばれる土地で起きた事故。この時の第一はアウラの娘とベビーシッターが焼死、アウラも大火傷を負うという結果となった。その後第二のレーテの際、魔人族によってその場のドラゴン達の焼死の仕方がベビーシッターと同じであった事からこの二つの事件は魔人族の仕業と判断。龍魔大戦の火種となった。

 

なお、犯人の目星として挙げられるのが、アウラの娘と判明したシルフィーの事らしいが・・・

 

・アカシックレコード、フォビドゥンファイル

 

魔人族のこの世界で行った侵略行為が記録されている記録装置。

 

・スマートブレイン

 

リラ(母体の方)が国を追放された後に廃ビルを使い立ち上げた傭兵企業。オ○フェノクが所属している会社に似ている名があるがただのそっくりさんである。傭兵企業と名乗っているのは、かつて自身を捨てた魔人族の軍隊への当て擦りのため。

 

・ZERO計画

 

数百年前にゴンドウによって実行された計画。人間のクローンを作り出すという倫理的にアウトな内容であり、データは封印されていたが、戦争の長期化に伴いゴンドウの独断で計画を実行。

 

結果、リラ(本編で敵対していた方)が誕生した。本来リラはゴンドウの指示通りに動くと予想されていたが、リラは母体の感情をストレートに受けた為、力こそ絶対だと考え弱い人間の命令に従う事を拒否。

 

結果として魔人族の滅びの要因の一手を担う計画となってしまった。




ついに大学も後期授業へと突入しました。その為投稿ペースがそれなりに下がると思われますが、長い目で待っていてください。

一時間後くらいに、オリジナル図鑑③を投稿します。良ければそちらもどうぞ。


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第7章 異形の花達
第51話 夢幻へのパスポート


何故、こんな時間に投稿したのか、愚痴ついでに順を追って説明しよう。

①午前2時47分くらい。布団の中で目が覚める。

②スマホを弄りながら水を飲みに水道へ。

③午前2時54分くらい。水飲んでトイレ行って、いざ布団に戻ろう。

④午前2時55分。布団に入る瞬間、耳障りな音が耳のすぐ横を通り過ぎる。寝ぼけ眼を強く擦り、奴の気配を感じ部屋の電気をつける。

⑤午前2時58分。机の上に蚊を発見。しかも二匹。(コンチキが!!ぶち殺してやる!!!)

⑥午前3時25分ごろ。ようやく二匹の蚊を撃破。息が荒くなる。

⑦布団に入るも眠れない。スマホのSafariを立ち上げて適当にいじる。

⑧ハーメルンのサイトのマイページを閲覧。

⑨たまにはこんな時間にも投稿してみる。愚痴を書いたら投稿ボタンをぽちっとな。

⑩予定。このまま寝落ちする。てか眠いことには眠いんだ!投稿ボタン押したら直ぐに電源消して寝てやる。おやすみー

以上。こんな時間に投稿した理由でした。ほんと、夜中に蚊の羽音を耳にすると、蚊を潰すまで眠れなくなるから困るし、潰しても荒い息遣いではぁはぁして眠れなくて、とても困ります。

あの瞬間だけ、蚊が花粉症を起こす存在と同じくらいに嫌いになりました。元々好きではなかったけど・・・奴等仲良く絶滅しないかなー

ここから先は、昨日の内に書いた本編です。上のは多分目覚めたらハイテンションが落ち着いてる頃に見て恥ずかしくなってると思うけど、あえて残しておこう。

さぁ始まりました、第7章!

とりあえずこの章でオリジナルシナリオ関係は完結させたいので多少詰め込みの駆け足気味になります。 

予め言っておきます。不知火が結構ふざけたキャラみたいになっていますが、私の考えとして、普段ふざけてるけどそれは心の中にある何かの傷を隠している。

そんなキャラで作っています。

そしてお気に入りが40人を突破しました!本当にありがとうございます!!

これからもこの様な作品を見てくださる方の為に頑張ります!


 

 

「人間には肉体の他に精神という命があるのは知っているか?人間の脳は産まれた瞬間から記憶を始めているんだ。記憶喪失とかもの忘れというのは記憶が抜け落ちたんじゃなくて、単純に記憶が何かしらのエラーを起こしているんだ」

 

(※この理論はあくまでこの作品にのみ通じる理論です。科学的根拠も多分ありません)

 

「・・・」

 

「・・・」

 

魔人族以外のメンバー全員が困惑していた。いきなり何を言い出すかと思えば謎な事を言い出した。

皆理解できていない。

 

「まぁ平たく言えば俺たちがこれからやる行いは

幽体離脱だ。それと同じだと思えばいい。幽霊に

なって彼女の中に入り込むんだ。そこで精神体に

記憶の情報を聞き出す」

 

するとシオンはナオミの方を向いた。その顔は何処か懐かしそうであった。

 

「因みにナオミ。お前の精神世界に一度、俺が入ってお前が蘇った事があるが、覚えてないか?」

 

「えっ?」

 

「・・・これを見たら思い出すかな」

 

シオンが何かを取り出した。それはトランプであった。フードを目深に被り、顔を隠す。トランプを手にし、そして一言。

 

「さぁ。この中からジョーカーを引きたまえ」

 

「あ・・・ああっ!!」

 

この時、ナオミの中の記憶がすべて戻った。あの夢のような出来事が鮮明によみがえる。これが記憶が蘇るということなのだろうか。

 

「・・・実を言うとあの時。本当なら俺はお前を見殺しにするつもりだった。でもシルフィーはお前を助けようとした。あいつが見ず知らずの他人に興味を示すなんて、数百年前ではあり得なかった。だから俺も助けることにした」

 

「その後、お前たちをアルゼナルに行かせる為に島を沈めたよ。ドラゴンと戦うとはいえ、ドラグニウムの件は腕輪でどうにか出来る」

 

「何より、俺たちみたいな差別意識とか先入観を持たず、何も知らない者同士、自分達と何も変わらない存在。そう受け止めてやれる。そう思って、あいつをアルゼナルに送ったんだけどな。

ああなっちまって、残念だ」

 

「・・・」

 

その結果を知っている者にとって、それは辛くのしかかった。痛い沈黙が場に流れた。するとそこに場ちが・・・魔人族側のリーダーが現れた。

 

「おいお前たち。俺の工具箱知らんか?」

 

「知るわけないじゃない」

 

「知らん」

 

「知りません」

 

「そうか。困ったなぁ。あれがないとファントムの最終的なメンテが出来ないんだよ。こいつの整備も出来ないし」

 

トランクケースの様なものが机の上に置かれた。

タスクが試しに見てみたが、中身は意味がわからない程に複雑であった。

 

何より外装は埃を被っており、ちょっとヒビまで入っていた。長年放置されていた事が窺える。

 

「こいつのメンテをしないとファントムの真価が発揮できねぇんだよな」

 

「それを使うとどうなるの?」

 

素朴な疑問である。すると不知火はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの笑みを浮かべた。

 

「いいかお前たち。よーく聞けよ。ファントムの

強化体。それはなんと・・・」

 

「なんと・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「数分だが空を飛べるようになるのだ!!どーだ!すげーだろ!!」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

一人はしゃぐ不知火以外に、再び痛いほどの沈黙が場に流れる。今度の沈黙は、呆れ果てて言葉も出ないものだ。

 

「・・・え?すげーだろ!!・・・すげーよな!?」

 

憐みの視線を向けつつ、シオンが現実を叩きつける。

 

「先生。今の戦場では機械が空を飛ぶなんて当たり前になっています。彼女達の機体でさえどんなに性能が悪くても空を飛ぶ事が出来るんですよ」

 

「なんだと!?普通に空を飛ぶのはかオメガと

フライングアタッカーだけではないのか!?」

 

「先生とエリスが人柱となった数年後には、魔人族は反重力エンジンの開発にまで着手してましたよ」

 

「・・・なんて事だ!!俺様が眠りについている間に、そこまで文明が発達していたとわぁ!!ここまで人間達が変わっていたのか!まるで浦島太郎ダァ!!」

 

これがジェネレーションギャップという物か。

 

不知火が頭を抱え込んでいる。余程ショックだったのか、地面を死にかけの蛇の様にのたうちまわっている。はっきり言ってキモい。

 

「こ、こんな男がアウラの伴侶・・・」

 

サラマンディーネなど想像と現実の差に失望している。今にも泡を吹いて倒れそうだ。アンジュ達も

おそらく軽蔑の眼差しを向けていると自覚していた。

 

「とにかくアンジュ達!留守を頼む。戻る目途は

ついてないけどなるべく早く戻るつもりだから」

 

するとこれまで黙っていたナオミが口を開いた。

 

「あの!私達もその、精神世界に連れて行ってもらえませんか!?」

 

「・・・えええっ!?」

 

「あんな話聞かされて、ただ待つだけなんて寝覚が悪いわ。とにかく!私達も連れて行きなさい!」

 

アンジュもそれに続いた。

 

「・・・緊急会議だよ!魔人族全員集合!」

 

エリスの掛け声の元、魔人族が集まり円陣を組みながら作戦会議を開いた。

 

「どうする?俺達魔人族は肉体と精神を一時的に

切り離すことは容易だが、違う世界の人間ではかなり難しいぞ。まず精神世界に入れるかどうか。最悪体に戻れなくなって浮遊霊として彷徨う危険もあるし」

 

「でも今の彼女達。テコでも動かない様な眼を向けてるぞ」

 

「いっそゲートの魔術でリラの精神世界の穴を開いちゃえば?それなら入る事は簡単だよ」

 

話し合いは暫く続いた。そして結論が下された。

 

「分かった。ついて来い。だがこれだけは忘れるな。精神世界というのはその人の脳と同じ、非常にデリケートな世界なんだ。単純に言えば人の心に踏み込む事になる。その結果、心が壊れてしまう事もある危険な世界なんだ。こっちの指示に従ってもらうぜ」

 

「でしたら私も、お願いします」

 

サラマンディーネも名乗りを挙げた。

 

「シルフィー、彼女は数百年前から生きていた。そして腕輪をつけていた。ならば本物の腕輪について何か知っているはずです。その記憶を、自分の眼で確かめたいのです!」

 

「姫さま一人では危険です!私達も!」

 

「お取り込み中失礼しまーす!!」

 

突然ファントムから室内通信が入ってきた。

 

「なんだファントム?」

 

「それが先程から、私の通信パルスに妙な通信が入ってきていて、それもサラマンディーネ宛なんですよ。受話器です。どうぞ」

 

「私に?」

 

レトロな通信機を受け取る。すると向こうからある声が響いてきた。

 

「こちらアスカ!サラマンディーネ様!もしご無事でしたら応答してください!サラマンディーネ様!」

 

その通信は必死さを物語っていた。

 

「彼女達を助けに・・・」

 

そこで先程まで馬鹿騒ぎしていた不知火がいないことに気がついた。

 

「あの阿呆は?」

 

「先生ならついさっき、「かわい子ちゃんだと思うから助けに行くぜフォー――!!!」って言って飛び出して行きましたよ」

 

「飛び出したって・・・いる場所わかってるのですか!?」

 

「戻ったぜ」

 

「早っ!」

 

扉の向こう側には負傷したアスカ。外には黒いドラゴン達と核龍號がいた。直ぐにアンジュ達とサラマンディーネ達の手当てが始まった。

 

「アスカ!一体何があったのです!?」

 

「姫さま。都が・・・都が・・・」

 

「都がどうしたのです!?」

 

 

 

回想シーン

 

ロシェンが集会場に皆を集めていた。やがて、大巫女が話を始めた。この大巫女が、ロシェンに脅されているなど、誰も想像もしていないだろう。

 

「皆の者。既に、魔人族が再びこの世界に現れた事は知っていると思う。だが、奴等を全滅させる事は出来なかった。だが、今回の戦いで成果は出た。なんと我々ドラゴンの中に内通者がいたのだ。それがこの者たちだ」

 

顔写真が映し出された。そこにはサラマンディーネ達だけでなく、アンジュ達の顔写真まである。

 

「そんな・・・姫さまが魔人族とグルだったなんて・・・」

 

「そ、そんなの、信じられない!!」

 

「でも!大巫女様が嘘をつくはずが・・・」

 

「じゃあ本当に、姫様が・・・」

 

「偽りの地球から来た人間達も魔人族と繋がってたのか!?」

 

「そう言えば、彼女達はあの魔人族と共に都に来ていたな」

 

市民達は皆この言葉を直ぐには理解できなかった。不安や疑念などが、この場には渦巻いていた。

 

「皆さんが大きな動揺を受けているでしょう。ですが落ち着いて話を聞いてください。この者達は必ず、再びこの都へと進軍してきます。第三のレーテの悲劇を防ぐ為に!もうレーテの悲劇を繰り返さない為に!皆さんの力を借りたいのです!」

 

不安であった市民達にとって、その言葉は正に今後の道を指し示す道標となる物であった。それだけで市民は安心の二文字を実感できる。

 

極め付けとして、大巫女様が号令をかけた。

 

「皆の者。今度こそ長きにわたる因縁、かつての龍魔大戦を終わらすのだ!!侵略者を駆逐し、アウラが戻ってきた時、何の問題もない世界とする為に!!」

 

「ウォォォォッ!!!」

 

この一言で民の士気は高潮に達した。民達は皆信じていた。これが自分達の為、アウラの為であるという事を。これが魔人族との最後の戦いになると。

 

これが私利的なロシェンの企みだとも知らずに。だがその事に唯一気付いた存在がいた。それがアスカだ。

 

「ロシェン様!一体どういうつもりですか!!これでは軍部が政治に干渉する事と同意ではないですか!!!」

 

「そうです。はっきり言いましょう。先程の言葉はあくまで建前です。これからは私がこの世界を管理するのです。最早この世界に、アウラなど不要!!」

 

その言葉に、遂に我慢ができなくなった。この部隊はアウラに対する信教的な物が薄まっていたとはいえ、ここまで軍内部の腐敗が進んでいたのか。

 

「ロシェン様・・・いやロシェン!!アウラを愚弄するその行為!!!その命で償え!!」

 

【カキンッ!】

 

振り下ろされた剣を受け止める存在がいた。自分の部下達の龍神器使い達だ。

 

「お前たち!お前たちはそっち側に!!」

 

「悪いね【元】隊長。強い者には巻かれろ主義なんだよね、おらぁ!」

 

冷たい鉄がアスカの腹部を貫いた。痛みで蹲り、そこから血が流れ出る。

 

「死ねよ」

 

「隊長!!」

 

振り下ろされた剣を、一人の部下が身体で受け止める。

 

「隊長!不満を抱いているものは貴女だけではありません!既に同志たちが機体も回収しています!!ここは撤退しましょう!くらえ!!」

 

その場に閃光弾が投げ込まれる。眩い光が収まった頃、既にアスカ達の姿はなかった。

 

「逃げたか・・・まぁいい。所詮は有象無象の集まりだ。眼前の巨大な力の前には屈するさ」

 

都から脱出したアスカ達。だが、先程の軽い戦闘で既に傷ついた者が多数いる。それは、核龍號を奪還した部隊にも出ていた。

 

「サラマンディーネを、姫様を探すのだ。きっと姫様なら、この現状を嘆き、志を同じにしてくださる筈だ・・・通信で呼びかけるのだ・・・姫様は必ず、生きている・・・」

 

こうして、20%程の黒の部隊は、その組織を離反した。

 

回想終了

 

「今や都は、完全にロシェンの手に落ちました」

 

「今の私達は犯罪者か」

 

「まさか大巫女様までも手中に治るとは・・・」

 

そしてサラマンディーネ達は得た情報をアスカに話した。すると、

 

「お願いです!私達を貴女方の仲間に加えていただきたい!!」

 

突然の申し出である。

 

「おいおい。あんたらにとって、うちらは敵だろ?これ以上、そいつらと手を組めってのか?」

 

エセルが吐き捨てる。だがその言葉は魔人族にとっては正論であった。するとアスカは語り出した。

 

「私は恥ずかしい!!かつて、アウラの親衛隊の隊長を務めていた私にとって、アウラを護衛する事。それは名誉な事だと、胸を張っていました」

 

「なのに私は!あの時、アウラを助ける事ができず!その上、第二のレーテの悲劇すら止める事が止める事が出来なかった。それ以降、私の一家は没落しました。その汚名を返上する為、私は魔人族の討伐を行う黒の部隊へと入隊した」

 

「なのにその部隊は、アウラを愚弄する部隊という事に気づかなかった!」

 

「私は、かつての家の汚名を注ぎたい!!頼みます!!」

 

「よし。わかった」

 

不知火があっさり承諾した。

 

「先生!いくらなんでもあっさり決めすぎでは!?何故了承したのか、理由だけでも」

 

「いいかみんな。特に魔人族側には、数百年前に何度も口酸っぱく言っただろ?」

 

優しく両肩に手を乗せる。そして、

 

「古今東西!俺様がいい女性と見込んだ女性に、悪い奴はいねぇんだ!!」

 

「暴論だぁ!!」

 

「まぁおふざけは置いといて。こいつは信用できるぜ。アスカ?俺の顔に覚えはないか?」

 

アスカがまじまじと不知火の顔を見つめる。すると何かを思い出したらしい。

 

「お前!あの時の!?」

 

「こいつはアスカ。アウラが一番信用していた懐刀だ。俺様も彼女と面識はある。だからこそ言える。彼女は信用できると」

 

あの日。アウラがエンブリヲによって拐われた日。実はあの日、アウラは不知火と出会うはずだった。アスカはアウラに託された伝言を伝えに、不知火の待つ場所へと赴いたのだ。

 

【ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!】

 

その時だった。突然警告音がビル内に鳴り響いた。

 

「これって敵襲警報!?」

 

直ぐにビルの外部モニターを展開する。するとレーダーには巨大な生命反応が多数検知された。

 

「黒いドラゴン達が近づいています!それもこちらを目指して!」

 

「やられたな。アスカとか言ったな。恐らく都を飛び出した時から、後を付けられてたんだろう」

 

アスカ達が反旗したとは言え、黒の部隊との全面衝突となれば離反軍など軍隊の比にならない。ならばどこかしらの戦略と合流するだろう。それが普通の考えである。

 

「敵軍からの通信が来ています!」

 

けたたましく鳴り響く通信機を不知火が取る。

 

「はい。こちらイケメン不知火」

 

突然変なことを言い出した。電話口の相手はそれには何の反応も示さない。

 

「お前たち、魔人族だな」

 

「この通信は現在使われておりません」

 

【ガチャン。ツー、ツー、ツー、】

 

この間、僅か1秒未満。

 

「・・・ええええええっ!!!??」

 

「なんだお前たち、うるさいぞ。少し静かにしろ」

 

「いやいやいや!何サラっと敵の通信切ってるんですか!?」

 

「だって相手男じゃん。女性ならアポなしウェルカムだけど男はなぁ・・・」

 

「そういう問題じゃないでしょ!今頃敵さんカンカンですよ!!」

 

「あのーまた通信が来ましたけど」

 

「おっ。どうやら相手もわかってきたんじゃないか?はい。こちら最高に男前の不知火だ」

 

「・・・先生。昔ながらの事ですが、私は情けないですよ」

 

「お前ふざけるなよ。どこの世界に敵の通信を無視する能無しがいるんだ」

 

敵兵は案の定怒っていた。

 

「男に用はない。女性を出せ。話はそれからだ!」

 

「話が進みません!私が出ます!」

 

我慢しきれなくなり、サラマンディーネが不知火の手から通信機をもぎとった。

 

「・・・ほほう。魔人族と繋がっている逆賊が現れたか」

 

話の通じる相手が出たためか、今度は相手も少し嬉しそうである。

 

「サラマンディーネ達。それに反乱軍のアスカ共。今のお前たちは逆賊だ。だが、もし魔人族の首を持って土下座でもするなら、命だけは助ける様に取り繕ってやるぜ?」

 

「生憎でしたね。外道に落ちた者に下げる頭を、私は持っていません。仮にも、今は仲間となっているの者の首を手土産にするなど尚の事」

 

それだけ言うとサラマンディーネは通信を叩き切った。

 

「サラマンディーネ。あんた・・・」

 

「勘違いなさらないでください。貴方達の首を手土産に今の黒の部隊に降るのが、より屈辱なだけです」

 

「とはいえ奴等はこちらの居場所を把握した。先遣隊とはいえ、全力でこちらを叩き潰すのだろう」

 

「ファントム。あのオメガの亜種の機体内で使えるもんはあるか?」

 

「機体としての活動にはまだメンテが。でも武器なら使えるわ」

 

「固定砲台にはなるか・・・時間がない。エリス。防衛線だ。ここに残る部隊の指揮官をお前に任せる。どうにか奴等を退けてくれ」

 

結論からして、この場に残るのはエリス。ナーガ。カナメ。そしてアスカ率いる黒の部隊である。それに固定砲台としての武器が多数。残りのメンバーは精神世界行きだ。

 

現在の敵の兵力から見て、これならギリギリ互角で撃ち合える戦力だろう。いざとなったら、自分達の身体を機体に入れて逃走しろとの事。

 

 

 

皆がエレベーターで地下へと辿り着いた。地下格納庫。目の前にはシルフィーの眠るカプセルが安置されている。その背後には、機械でこじ開けたかの様な歪な穴が広がっていた。

 

「シオン。頼む」

 

「ああっ」

 

シオンの能力でゲードが開かれた。この穴の向こうに、精神世界があるのだ。

 

「全員近くの魔人族に触れておけ。幽体離脱後、俺たちでお前達の精神体を導く」

 

アンジュ達がシオン達の肩に手を乗せる。すると皆。何かしらの呪文を唱え始めた。それが進むにつれ、アンジュ達に倦怠感と睡魔が襲ってきた。そして意識が途切れる瞬間、不知火が一瞬サラマンディーネの耳元で小声で一言呟いた。

 

「辛い現実を見るかもしれないぞ」

 

次の瞬間、不知火達の身体は糸の切れた人形の様に倒れ伏した。後には、穴がその場にぽっかりと開き続けていた。

 

「姫様たちはその、精神世界とやらには行けたのですか」

 

「ええ。後はあの子の心を呼び戻し、説得するだけね。さて、こっちも歓迎の用意をしておかないとね・・・」

 

黒のドラゴンは数キロメートル先まで来ている。撤退は不可。絶対防衛線がここに引かれたわけだ。

 

そして、オメガはメンテナンス中でも意識ユニットで全てを聴いていた。

 

(マスター。そして人間。見せてもらうぞ。貴女が・・・お前が過去と向き合い、そして乗り越えられるか・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、都にて。

 

「何とかならないのかね?ロシェン」

 

「やはり姫様の処刑はまずいのでは・・・」

 

「姫様は、アウラ奪還の要となる龍神器、焰龍號の乗り手だろう!」

 

議会の中にも、あの決定に不服を持つものはいるらしい。

 

大巫女様が言ったとはいえ、流石に姫様を殺すとなると、アウラ奪還にも大きな影響が出てしまう。とはいえ、ロシェンの本心に気付くものは誰もいなかった。

 

そしてロシェンの放った一言で議会は見えない力で制圧された。

 

「彼女達は、真実のアカシックレコードに触れてしまった危険がある。それが何を指すか、ここにいる殆どの方には理解できる筈です。それでも・・・ですか?」

 

「・・・」

 

その言葉の後に話すものはいなくなった。数分の沈黙の後、ロシェンが口を開く。

 

「沈黙は了承と取る・・・魔人族の討伐。それは我々黒の部隊に与えられた責務です。それを全うしてきます。議会の命令という形で」

 

するとそこに通信が入った。

 

「追跡部隊が奴等の隠れ家を発見しました」

 

「よし、反乱兵をここで一掃するのだ・・・」

 

するとそこに一人の兵士が駆けつけた。

 

「たっ!大変ですロシェン様!」

 

「何事ですか?」

 

「リラが!リラが謀反を!!」

 

「何だと!?モニターに映せ!!」

 

見てみるとZEROが黒の部隊のドラゴン次々を殺しているではないか。

 

「リラ!貴様何をしている!!」

 

「殺す!ドラゴンどもを殺す!!私を産み出す元凶であるドラゴンを殺す!!」

 

「貴様!気でも狂ったか!!」

 

「黙れ!私は全てを殺す!!」

 

「なっ!」

 

その狂気ぶりは、これまで見てきた彼女の余裕の欠片もなかった。余りにも予想外の態度に、ロシェンは戦慄した。何より、ここで自軍の戦力を失う危険が大きすぎる。

 

「まっ!待て!!落ち着け!お前を産み出したのは魔人族だ!!」

 

「魔人族!!」

 

「そうだ!殺すなら、魔人族を殺すのだ!!」

 

「憎い・・・魔人族が憎い!魔人族を殺す!その後でドラゴン共を殺す!全てを殺す!!ZERO!!」

 

壁を突き破り、ZEROは飛び出した。やがて呼吸を整えたロシェンが、兵士に伝達した。

 

「全ての黒の部隊に通達しろ。攻撃目標は反乱兵だけではない、リラとZEROもだ・・・」

 

 

 

何故この様な事が起きたか、遡る事と数十分前。リラはZEROの前で苦しんでいた。あの疑問が、頭から離れない。

 

「僕は・・・私は何だ!!シルフィーは、リラは私が殺した!!リラは死んだ!!私は最強の存在である事が確立された!では私は、これからどう生きていけばいい!!私の目的は何だ!!何を目標に生きていけばいい!!この様な姿でどう生きればいい!!」

 

生きる目標を失い、リラは半ば暴走中であった。

 

「随分と苦しんでいるみたいだね」

 

ある男がリラの前に降り立った。

 

「エンブリヲ・・・」

 

「こちらの世界の反乱軍を排除する。君もこちらに戻りたまえ」

 

「笑わせないで。最強の存在である私が弱いお前の命令を聞くのは、可笑しな話ではないか?」

 

するとエンブリヲが嘲笑した。

 

「その言葉は数百年前の魔人族に言ったのと変わらないね・・・ZERO計画。人工的に最強の兵士を産み出す為の計画。様々な魔人族の細胞を投与し、君は最強の存在として生まれた。だが実態はどうかな?」

 

「君の母体であるリラ相手に横槍入りとは言え、君は敗れた。そして先日の戦闘。既に死にかけのリラを痛ぶる事で、君は倒したと言っている。全く、最強の存在が聞いて呆れる」

 

「・・・もう一度言ってみろ」

 

その声は怒りで震えている。

 

「君は最強なんかじゃない。ただの・・・産業廃棄物だよ」

 

「エンブリヲォォッ!!!!」

 

【バキャーン!】

 

「うっ!」

 

彼女が手にした銃が火を吹いた。弾丸はエンブリヲの頭部目掛けて突き進み、そして貫通した。エンブリヲはその場に倒れ伏し、そこから血の池が辺りに広がり出した。

 

これは誰がどう見ても死んでいる。

 

「憎い!私を蘇らせたエンブリヲが憎い!そしてエンブリヲは殺した!!また私は、どう生きていけばいい!ZERO計画。ドラゴンさえいなければ、私が産まれる事はなかった!!憎い!ドラゴンが憎い!!殺す!ドラゴンを殺す!!」

 

狂った怒りの矛先は、誕生の原因となったドラゴンへと向けられた。こうしてリラはZEROへと乗り込んだ。そして上記の事態に至るのだった。

 

 




◯◯を倒す事が俺の目的だキャラにあるある。実際目標を倒した後、その後をどうするかを困惑し、錯乱するタイプのキャラ。

ドラゴンボールの人造人間とか、この手のキャラって、目標倒した後はどうするつもりだったのか。少し気になります。

(まぁ人造人間の方々はリラの様にはならないでしょうね)

そして次回から遂に、レーテの悲劇。ZERO計画。そして龍魔大戦の真実に触れていきます!是非
お見逃しなく!!
(番宣風)


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第52話 絶望の帝王



さぁ、今回と次回で精神世界編をやっていこう!

回想シーンについてですが、その人物の記憶と言いつつ、実際にはその場にいない、見てない事が幾つか含まれていますが、なんの問題もありません。温かい目で見守りましょう。

尚、この章だけの取り組みとして、この『』を使っている会話分は、回想など、過去部分の会話だと捉えてください。


 

 

心の傷は肉体の傷とは違う。肉体の傷ならば薬などで癒し、痛みが引いてくる。やがて傷跡も癒えてゆき、少し手を加えれば元に戻る。

 

だが心は違う。薬などなく、例え表面に傷口がなかろうと、どれだけ気高く振る舞おうとも、心にその受けた傷跡と恐怖は、永く残り続けるの。

 

そしてそれは時に、時間の流れでさえ癒せない時もあるのだから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん。んんっ?」

 

アンジュ達が目を覚ました。自分のいる場所は何処かの室内である。すると周囲の人間も、続々と目を覚ました。

 

「ここが、精神世界ってとこなの?」

 

「あぁ。間違いない」

 

室内には棚の様な物が並べられていた。だが全ての棚が空っぽであった。床にはビデオテープの様なものが乱雑に放り出されていた。その全てに日付が刻印されている。

 

「これが、シルフィーの記憶?」

 

不知火は数個のテープを取ると、近くのデッキで

再生し、その映像に喰いついていた。

 

試しにアンジュ達も一つ、手に取ってみた。今から1.2ヶ月程前の日付が刻印されたテープ。近くには再生機の様な物がある。

 

粗い画面の後に、映像が始まった。シルフィー目線なのか、カーテンの様な何かが開かれた。

 

『シャイニング・ラブエナジーで私を大好きになぁ〜〜〜れっ♡』

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

アンジュ達は無言でテープを取り出し、元の場所へと戻す。自分達は何も見ていない。サリアなんて見ていない。いいね?

 

近くのテープを棚に入れてみる。すると棚から入れたテープが射出された。まるで拒絶するかのように。

 

「こいつ!入りなさい!!」

 

「無駄だよ。それは主が望んだ事。楽しかった過去も、楽しい思い出も必要ない。そう言って全てをぶちまけた」

 

不意に声がした。振り返るとそこには見知った顔がいた。

 

「シルフィー!?」

 

「違う。私は貴女達がシルフィーやリラと呼ぶ人間の精神体の切れ端。それともう一つ。ここにあるのはあの子の記憶。リラとして生きてた頃の記憶はないよ」

 

「おお美しい花よ。その名を何という」

 

「先生。自分の娘を口説こうとしないでください」

 

「冗談だ。なぁお嬢さん。貴女の主は何処にいらっしゃる?」

 

すると彼女は奥の扉を指した。

 

「あの扉。あの部屋に、主がリラとして生きてきた頃の記憶がある。その部屋の奥にもう一つ部屋がある。そこに、本当の精神体がいる・・・」

 

慎重にドアノブに手をかけた。ゆっくりと中を開けてみる。まず鼻に不快な異臭が来た。

 

「こ、これって!!」

 

中は凄惨な光景であった。先程は空っぽの棚にばら撒かれたテープであったが、今度のは少し違っていた。

 

今回、床にばら撒かれたテープの殆どが血で赤黒く染まっていた。まるで忌まわしい記憶の様に。その中で数個ほどある、鎖が巻かれたテープ。その内の一つのテープに刻印された日付が一段と目を引いた。

 

「◯◯年12月24日」

 

その日付に魔人族とサラマンディーネが反応した。

 

「先生。これって・・・」

 

「間違いない。これは、あんたらの言う第二の

レーテの悲劇の時の物だ」

 

「なっ!第二のレーテの悲劇・・・」

 

第二のレーテの悲劇。魔人族がエンブリヲと共謀し、アウラを連れ去った。その後魔人族により、

ドラゴンの市民の半分以上が焼き殺されたあの忌まわしき事件。

 

「直ぐに再生を!」

 

デッキに皆が注目する。しばらくして、映像が開始した。

 

『カリス!何とか、何とかならないのか!?』

 

その映像の最初は、隔離室の様な場所でカリスと不知火。そして明らかに体調の悪いシルフィー、いや、リラが映し出されていた。そしてリラの両腕には、腕輪が付けられていた。

 

『・・・無理ですよ。体内組織が完全に崩壊しています。逆になんでこれまで症状が起きずに、普通の暮らしをしてたのか、そして今も生きていられるのか。この状態事態が奇跡です』

 

『何とかならないのか!ドラグニウムを取り出すとか・・・なんか手はねぇのか!!!』

 

『・・・一つだけ。方法があります。不可能に近い方法が一つ』

 

その言葉に不知火の眼に光が戻る。

 

『なんだそれは!教えてくれ!!お願いだ!!どんな不可能だって、俺は乗り越えてきた!今度も乗り越えてみせる!だから教えてくれ!!』

 

『ドラゴンの所に行き、ドラグニウムを浄化するんです。それならドラグニウムを実質無力化できます。そしてそれを通院の様に定期的に通う形で。

それが、この子が助かる唯一の方法です』

 

『ですがその手法は恐らく無理です。実質交流を

絶っているのに、信用できるドラゴンがいるのですか・・・』

 

やがてカリス達が帰った後、不知火はあるものを

取り出した。それはトランシーバーの様な通信機である。

 

『・・・もしもし、俺だ。アウラ、緊急事態だ。

浄化を頼みたい・・・あぁ。今日の19時、場所は初めて俺たちが出会ったあの滝壺・・・え?腕輪?あぁ。娘が二つとも付けてる・・・直接合って話したい事?わかった。こっちも話したい事がある。弟子達は呼ばない。二人と二機だけで行く・・・頼む』

 

そして時間は経過し、二人は外へと出ていた。リラはオメガに、不知火はファントムに乗っていた。とは言え、今のファントムは飛べない為、バイクの様な見た目となっていた。

 

『これから、何処に、いくの・・・』

 

『リラ。これからリラはお母さんと会うんだ』

 

『お母さん・・・私のお母さんって、どんな人なの?』

 

『あいつは、リラと同じくらいのペッピンさんだぞ。きっと男だったら、お前だって惚れてるはずだ。今回は事態が事態だけど、いずれ新しい家族として、ミリィにも合わせてやらないとな・・・にしても』

 

不知火が腕時計を見ている。時刻は既に19時03分となっていた。

 

『遅いな。そろそろ来てもいい頃合いなのに』

 

【ガサガサっ!】

 

すると近くの茂みから物音がした。

 

『アウラか!?』

 

だがそこから現れたのはアウラではなく、全身ボロボロのアスカで有った。

 

『おっ、おい!あんたしっかりしろ!大丈夫か!?』

 

『伝言。不知火に・・・大変だ、都、襲撃・・・』

 

『都が襲撃!?どういう事だ!』

 

『このままでは、アウラが・・・アウラが・・・』

 

『おい!しっかりしろ!アウラがどうした!!』

 

だがアスカはその眼を静かに閉ざした。余りの疲労などで、意識不明の重体である。

 

『ファントム!リラを頼む!!オメガ!力を貸せ!』

 

お互いに機体を乗り換え、不知火は都を目指し飛ばした。竜の都では、至る所から火が噴き出ていた。逃げ惑う民。黒いラグナメイルに立ち向かうドラゴン。

 

そしてそれを蹂躙する黒いラグナメイル達。

 

その奥に一際巨大なドラゴンが囚われていた。そのドラゴンは今にも、空間に開いた穴に向かって放り投げ出され、直ぐに穴は塞がった。

 

『アウラァァ!!!』

 

その大きな叫びに反応してか、ある男が、振り返った。

 

「エンブリヲだ!」

 

タスクが憎々しげに見つめる存在、エンブリヲ。アンジュ達の世界を創り出し、古の民を迫害した全ての元凶。

 

『おや?魔人族とは珍しい。ここになんの様かな?』

 

『てめぇかか。てめぇがこの騒動の首謀者か!!』

 

『だとしたら、何かな?』

 

『妻を返してもらう』

 

『それは出来ない。彼女はいずれ、私の目指す理想の世界の、必要なパーツとなる。やれ』

 

無人のラグナメイルがオメガ目掛けてやってきた。

 

『邪魔すんじゃねぇ!!!』

 

一気にオメガはアクセルモードへと変化し、黒いラグナメイルを次々と叩き潰していく。

 

『機械に負ける俺じゃねぇ!!妻を、アウラを返せぇ!!』

 

遂にエンブリヲのヒステリカと組み合いとなった。

 

『ほうっ。中々の戦闘力を持つ機体だ。だが所詮は猿知恵の集まり。私に勝てると思わない事だ』

 

そこに一つの機体が慌てて駆けつけた。ファントムだ。

 

『ご主人様!大変です!!娘さんが!!』

 

『何!?』

 

リラの意識は朦朧状態である。既に身体からは血が流れ出ている。棺桶に片足を突っ込んでいた。それをエンブリヲは見逃さなかった。

 

『成る程。あのガラクタがウィークポイントか』

 

『!リラ!!!』

 

ディスコードフェザーの直撃からファントムを庇い、オメガは地面へと叩きつけられた。

 

これ以上は時間の無駄と感じ、エンブリヲは破壊されかけたラグナメイルを引き連れ、向こうの世界へと渡っていった。

 

『なんて事だ!アウラが!アウラが連れ去られた!!』

 

『我々はどうすればいい!!』

 

指導者を失い、民は混乱している。不知火は娘を担ぎ、機体を動かそうとする。しかしオメガは起動しなかった。

 

『落ち着くのです!!』

 

騒ぎを咎める様な威厳ある声が響いた。その声の主はロシェンであった。

 

『狼狽た所で何も変わらない!誰がどう見ようと、これは魔人族の侵略行為である事は、明白だ!魔人族はこの世界を棄てた裏切り者、エンブリヲと共謀し、我々を滅ぼすつもりだ!滅ぼされてたまるものか!この魔人族を処刑するのだ!』

 

「なっ!」

 

「馬鹿な!先程の何処に、我々の世界への侵略行為と言える箇所があるのだ!?」

 

だが、既に錯乱していた民にとって、その言葉は次やるべき事を指し示していた。こうして二人がギロチン台へと架けられた。

 

『待て!俺ならどうにでも殺せ!娘に手を出すんじゃねぇ!!』

 

『よかろう。まずは父親の首から斬り落としてやれ』

 

【ザシュッ!】

 

意識が朦朧としていた彼女だが、その瞬間は見てしまった。目の前で首を斬り落とされた父を。赤い血飛沫が飛沫する。

 

『あっ・・・ああっ・・・』

 

『さて。次はお前・・・』

 

『や・・・やっ・・・』

 

『ん?』

 

『やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!』

 

次の瞬間、振り下ろされたギロチンの刃はガラスの様に砕け散った。リラの姿が完全に獣へと、キマイラへと変化した。

 

『お前たち、もう許さないぞ・・・』

 

すぐ近くのドラゴンに右手をかざした。途端にドラゴンは燃えだし、炭となる。

 

そこからは先程よりも大パニックであった。恐怖で足がすくむ者。ヤケになりリラに挑む者。そしてそれを噛み殺して行くリラ。早めにその場を逃げた者達を除き、例外なく次々と殺された。

 

そしてその地獄の終わりは突然であった。突然リラの姿がキマイラから人間へと戻り、倒れ伏した。

 

「何が起きたの・・・」

 

「幾ら魔人の姿となっても、それはあくまで延命の延長線に過ぎない。あの場でキマイラになったら、都から逃げれば良かったが、あいつは逃げなかった。その結果、ドラグニウムの過剰吸収に身体が耐えきれずに心肺停止。あいつはこの時に死んだんだよ」

 

その頃、ようやく自己再生の能力で首と胴体が繋がった不知火が見たのは、この世の地獄であった。

 

『リラ!?おい!リラ!!』

 

『先生!!』

 

その時、チャリオットの様な物に乗ったシオン達が駆けつけてきた。

 

『お前たち!どうしてここに!!』

 

『ミリィが二人がどっか行ったって聞いて、まさかと思って例の場所に行って、そこで倒れてた女から聞きました!!』

 

『何考えてんですか!?こんな毒の溜まり場に来て!ファントムとオメガはフリード達が回収しています!!今すぐにここから撤退しますよ!!!』

 

『見ろ!魔人族だ!やはりこれは、魔人族の侵略行為なんだ!!」

 

生き残ったドラゴン達がシオン達を指差す。魔人族は踵を返し、都から逃げ出す。それにドラゴンは一匹も追いかけて来ようとはしなかった。それだけ、都の被害も出たという事だ。

 

『死ぬなリラ!!死ぬんじゃない!死ぬなぁーー!!』

 

不知火は移動中、必死にリラの心配蘇生を行っていた。意地でも蘇らせる。やがて一同は、住処へと帰還した。

 

『ここなら脅威的な意味では安心できる。待ってろリラ!直ぐに俺の魔術で治してやるからな・・・』

 

そう言う不知火の手は震えていた。彼には分かっていた。自分が無理な事を、馬鹿な事を言っている事に。遂にエリスは宣告した。

 

『不知火。時間がないからはっきりと言うわ。貴方の魔術は自己再生。自分の事ならたとえ首を折られようと平気な程に強い。でも親子間とはいえ、他人であるリラに、貴方の能力は何の意味も持たない』

 

『お、俺は魔人族デルザー軍団大首領、不知火様だぜ。こんな、こんな一人の少女の命くらい、余裕で救える・・・』

 

モニターを見ていた不知火の手が震える。自分の情けなさに、自分への怒りで。モニター内の不知火も同じであった。

 

『・・・何がデルザー軍団大首領だよ・・・何が神に等しい存在だよ!!妻を目の前で拐われて!!しかも目の前で死にかけてる自分の娘一人救えないで!!俺はなんて無力な人間なんだよ!!!』

 

悲痛な叫びが、部屋の中に響いた。

 

『手は、残されてる。彼女の付けている腕輪。これは魔道具ね。人柱を入れる事で魔道具は、人柱となった存在の魔術が使える様になる』

 

『どう言うことだ?』

 

『簡単よ。シオン。あなたがこの子の身体の一部となる事。そうすれば彼女には自己再生が付与される。そうすれば、彼女は再び命を得る。うむ初起動にはもう一人必要ね。私がなるわ』

 

『時間制限はあるのか?』

 

『基本は半永久的ね。私達がいつ目覚めるか、それは分からないわ。これは彼女を健康な体にもどすのではなく、あくまで不知火の力で死なないように維持することが目的。万が一腕輪が身体から外れたら、彼女は確実に死ぬ。それだけじゃ無い。下手したら、私達は永遠に封印され続ける危険もある。それでもやる覚悟はある?』

 

『あぁ。そんなもんデメリットでもねぇ』

 

すると不知火はシオンの方を向いた。

 

『・・・シオン。恐らくこの件で間違いなく軍部はタカ派のゴンドウが実質的な指揮権を得ることになる。簡略的ではあるが、お前を臨時の大幹部に任命する。もしもの時は、ゴンドウの暴走を止めてくれ。ファントム。お前にも迷惑をかけるな』

 

『お気になさらないで下さい。ファントムはご主人様にしか起動できません。だから待ってます。ご主人様が目覚めるその日まで・・・』

 

『じゃあ、始めるわよ・・・』

 

やがて光のようなものが画面を多い、映像はここで途切れた。

 

「これが、第2のレーテの悲劇の真実・・・」

 

ドラゴン達が教わった事。それは魔人族がドラゴンを虐殺した。結論だけを見たらそれは間違いではない。だがこの記憶が真実なら、ドラゴン側にも少なからず非があるのは確かだ。

 

ロシェン達は自分達の都合の悪い部分をぼかしていた訳だ。

 

「・・・この数日後にリラは追放刑となり、その一ヶ月後に龍魔大戦が勃発した。魔人族側には、ドラゴンによって不知火が殺されたと伝えた」

 

「・・・先を急ぐぞ。この扉の先に、お目当てのものが」

 

先程とは違う。ドアノブに触れた途端、拒絶の意思を感じ取った。それを受けつつ重々しい扉を開けた途端、眩しい光が目に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこはミスルギの処刑場の様な、広い会場であった。そして観客席の様な所には、空席のはずなのに、見えない何かが居る気配もする。

 

「オーガ!オーガ!オーガ!!オーガ!!!」

 

突然オーガコールが響いた。それは会場中の見えない客から発せられる様な、歓喜の声であった。やがて通路の向かい側から、一人の少女がゆっくりと歩いてきた。それこそ、彼等の探していた存在である。

 

「シルフィー!」

 

「・・・違う。私はリラよ」

 

その声は、シルフィーとは全くの別物であった。姿も、ミスルギで起きた、例の変化体であった。白かった髪は何かの返り血によって赤黒く染まっていた。それによってシオン達は全てを察した。

 

「まさかお前、記憶が・・・」

 

「戻ったわよ。腕輪を外した瞬間に・・・で、何しに来たの」

 

「何って、お前を助けに来たんだ。聞きたい事もあるし」

 

「助けに・・・今更そんなこと言うなよ」

 

「はっ?」

 

「全部思い出した・・・だからやっと分かったのよ。私には初めから、何もなかったってことが。誰も私を待ってない。誰も私を必要としていない。ならば望まない!戻る場所も!私を待ってくれる存在も!何も!!だだ力だけで組み伏せる!!相手を叩き潰せる!最強の力を!!!」

 

すると彼女の背後に、一機のDEMが降り立った。周囲の見えない声のボルテージも興奮へと変わる。

 

「オメガか!?」

 

「・・・違う。オメガじゃない!」

 

その機体のボディの色はZEROと同じ黒であった。だがそのボディラインは金色であった。何より、オメガ以上の威圧感。それをこの機体は全身に纏っている。

 

【Standing.by・・・complete】

 

シルフィー・・いや、リラが乗り込んだ後、重苦しくら無機質な起動音と共に、 機体は完全に目覚めた。そしてその存在を、シオン達は理解した。

 

「間違いない!DEM・tyep・Ω(オーガ)だ!!」

 

「あの機体を知っているのか!?」

 

「以前、一度だけ聞いた事があります。彼女は追放後、ギリシア文字を利用し24体のDEMを作り上げた。だがオーガは、オメガ内の部品を組み込まなければ完成しない。彼女は、自分に唯一寄り添ってくれたオメガで戦う道を選んだ。だからあの機体は、封印されていたはずです!!」

 

「向かってくる以上仕方ありません!こちらも機体で応戦を・・・」

 

このとき皆が気づいた。機体は向こうの世界にある事に。

 

オーガはバルカンを放った。こればかりは部が悪過ぎる。避けるしか無かった。

 

「気を付けろ!精神が死ねば、その肉体も死ぬ!」

 

「お願いシルフィー!話を聞いて!!」

 

だが彼女は止まらない。信じていた全てに裏切られ、捨てられ、騙され、この世の全てに絶望した。そんな目をしている。操縦にも手加減や容赦はない。こちらを本気で殺しにかかってきていた。

 

「生身で勝てるかバカヤロー!!!」

 

「大変そうね」

 

すると戦場に、彼女の精神の切れ端がやってきた。

 

「あんたあいつの仲間みたいなもんでしょ!何とかできないの!?」

 

「私にはできない。でも力を貸しに来た」

 

すると彼女は皆の頭に手を乗せ、目を瞑った。すると突然攻撃が止んだ。その後、彼女達の背後に、重い何かが降り立った。

 

それはパラメイルなどの機体であった。

 

「これは、ヴィルキス!?」

 

ヴィルキスだけではない。DEMや焔龍號など、自分達の機体がそこには並べられていた。メンテも完璧であった。

 

「あなた達の記憶から読み取り、具現化させました。AI以外は完璧に再現されています」

 

「あなた・・・」

 

「私は切れ端です。切れ端として、主の願いを届けただけです。そして私からの願いです。主を止めて・・・」

 

それだけ言うと、彼女の姿は朝露の様に消えていった。

 

「・・・もう、自分で止める事が出来なくなるとこまで来てしまったか・・・」

 

「なら止めてやる!!話し合う気がないなら、力ずくで話し合いの場に座らせてやるだけよ!!コックピットブロックを引き摺り出してやる!!」

 

「おうっ!!!!!」




という訳で唐突に始まりました精神世界内での戦闘です!

流石に強引すぎだろ的な意見が来そうですが、せめて戦う作品らしく、機械での戦いのシーンも投入しましょう(質の方はお察しください)

どうでもいいけど昨日、大学の授業で小学生と触れ合ったんですよ。殆どが鬼滅の刃好って言ってて話に混ざれなかった。ちきしょう。


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第53話 血の涙が乾く時



今回で精神世界編を終わらせるんだ!と意気込んで書いてた結果まさかの10000文字数超えちゃった。

しかも滅茶苦茶な展開多いし・・・

でもみんな早くヒルダやロザリーとか本編に戻りたがってるだろうし。今回の様な事態が続く可能性があります。その点を御留意下さい。


 

 

「こいつ!強い!!」

 

皆が思う。目の前の相手に長期戦は不利である。アンジュ側が数で有利なのこの盤面をオーガは押されず、むしろ圧倒しているとも言えた。

 

その理由は他にもある。搭乗時に見た燃料タンクはアルゼナルの頃と違い満タンであった。それがこの十分ほどの戦闘で半分を切っている。ヴィルキスなどの燃料の減り具合が明らかに普段より早いのだ。

 

「オーガの固有能力はエネルギー吸収か。それもどこまでも膨大な・・・」

 

エネルギー吸収装置。彼女はこの一機だけで、何処かの国と戦争でも起こすつもりだったのだろうか。

 

(わかりづらい人の為に補足。バルンガというキャラクターを検索してほしい。この機体の固有能力はそれと似ています)

 

やがてアンジュとサラマンディーネがある覚悟をした。

 

「一か八か、行くわよ!サラ子!」

 

「いつでも行けますよ!アンジュ!」

 

「~~♪」

 

二人の永遠語りに応じるように、ヴィルキスと焰龍號が金色へと変化する。両肩が開かれた。そこから時空兵器がオーガ目掛けて放たれ、直撃した。

 

「大丈夫よね・・・」

 

やがて光が収まり、皆の視界が元に戻る。

 

「!!?そ。そんな・・・」

 

「こ、このようなことが・・・」

 

何とオーガは、ディスコードフェザーと収斂時空砲の直撃すらも何事もなく防ぎ切った。ここまでくると怪物クラスである。するとオーガの手にした銃剣が開かれ、そこから何かがチャージされていた。

 

「あれは!?」

 

「この感覚。我々のと同じです!回避を!!」

 

次の瞬間、光は放たれた。ギリギリの所で皆が避ける。

 

火力はこちらの時空兵器と同じ。いやらそれ以上。寧ろ、あの火力を制約無しに放つ点では、純粋な武器として最高クラスで、相手にとってこれ以上ない程に厄介である。

 

やがてオーガはヴィルキス達を無視し、一気に距離を詰めDEMへの攻撃を繰り広げてゆく。

 

最初こそ互角に捌いて来たが、やがて押され気味になってきた。

 

「駄目っ!これ以上捌けられない」

 

「・・・!?」

 

突如オーガめがけて、赤い粒子が飛んできた。それはムラマサブラスターだ。そこにはオメガがいた。

 

「オメガ!?何でここに!!」

 

「向こうの連中をあらかた片付けたからだ。それに私はあの人間を・・・マスターを、見捨てることはできない」

 

「オメガ・・・ならもう一度、お前の力を貸せ!!」

 

「面白い。やるな、人間」

 

次の瞬間、不知火はファントムから飛び出し、ホバリングしていたオメガ内へと転がり込んだ。

 

「貴様の能力は知っている。本物の自己再生。貴様用に全てのリミッターを完全解除してやろう。制限時間はない。全力でぶつかれ!」

 

予備のアクセルメモリーを機体に差し込み、機体をアクセルモードへと変化する。

 

すると機体を流れるフォトンブラッドが溢れんばかりに放出された。量が普段よりオーバーしているのか、その姿はまるで、銀色の炎を纏っているかの如く、存在であった。

 

エネルギー値が満タンの状態で、普段の1000倍の速度で移動できる。しかも無制限で。残像が実像が分からないオメガが、数機がかりで勝負をつける為、突っ込んだ。

 

「これで機体の四肢を捥ぎ落せば!!」

 

【ガシッ!】

 

「おいおい、嘘だろ・・・」

 

何とオーガはオメガのアクセルモードを真正面から受け止めた。エネルギーで有る以上、それを避ける必要などない。真正面から吸収すればよいのだ。

 

脚を掴まれ、地面へとオメガは叩きつけられる。

その上にマウントを取り、オーガは殴ってゆく。

 

「先生!!」

 

νがオーガを握ろうとする。だがその手からすり抜け、一気に距離をつめ、νの巨体を意に介さず、嬲って行く。やがて手にした剣がコックピットの位置へとロックオンされた。間違いない。彼女はシオンを殺そうとしている。

 

「!!やめなさいシルフィー!!!」

 

止めようとしたアンジュ達をオーガは、まるで邪魔感覚で払いのけた。

 

「大丈夫、アンジュ達に用はないから」

 

その声はとても穏やかであった。だがその目は声と同じく穏やかながら、その奥には隠しきれないほどの殺気で溢れ返っていた。

 

「私を軍隊に売り払った。お前らだけは、まとめてぶち殺す・・・」

 

「違う!俺たちはお前を裏切ってなんか!!」

 

「何が違う?あの日、私を捨てたことはまだ許せた。なのにその後、私を始末しようと軍隊を手引きしておいて」

 

「お願いだリラ!昔のお前に戻ってくれ!!お前を戦争に駆り立て、そして見捨た。そんな俺を赦してくれた、あの時のお前に戻ってくれ!!!」

 

「昔?そんなものにもう価値はないよ。何より一番気にいらなかった言葉。【普通じゃない。狂ってる】私は・・・私には!ああやって生きていくしか道はなかった!!!」

 

突然リラの態度が豹変した。情緒不安定なのか。先ほどの瞳とは違い、殺気ではなく、深い悲しみと憎しみが前面に押し出されていた。

 

「魔人族にも、ドラゴンにもなれない!中途半端なハーフ!!他者から唾棄され、存在を疎まれて!!!」

 

怒りまかせでオーガの剣が振り下ろされた。この

速度では、νで避けるのは不可能である。

 

(リラ、やっぱり、あの時お前を・・・)

 

シオン内で、時間の流れがとても遅く感じられた。走馬灯の様な回想が脳裏をよぎる。

 

 

 

龍魔大戦が勃発して6年の月日が流れた。この間に両軍共に疲弊し、泥沼の戦争となっていた。

 

そんな中、兵士補充の為の学徒出陣によりミリィが正式にDEMの乗り手として選ばれたその日、シオン達は軍隊の一部を引き連れ、リラのいるスマートブレインの部屋を目指していた。

 

リラは追放後、周囲に対し異常なまでの敵意を剥き出していた。逆らう者は力づくで黙らせる。自分の力だけを信じていた。だが、かつての面識である

シオン達だけには昔のリラを見せていた。そこに

友情が残されている。そう信じて。

 

護衛を下の階に残し、シオン達はエレベーターへと乗り込んだ。辿り着いた部屋の中では、上機嫌な

リラが回転椅子で遊んでいた。

 

『久しぶりミリィ。学校はどう?旨くやってる?』

 

『旨くやってけてるよ。その・・・地図の見方だけは最下位の成績だけど・・・』

 

『・・・正直、私としてはあなたに戦争に参加してほしくない。でも、貴女が望んだのなら、止める道理はないわね』

 

『リラ。今日はミリィとカリスが正式なDEMの乗り手として選ばれた。その挨拶に来た。最早この戦争は俺たちの勝利だ』

 

この時、魔人族の誰もが勝利を疑っていなかった。ドラゴン側の拠点は尽く潰され、まだ龍神器の開発に着手してなかったドラゴンにDEMが負けるはずがない。

 

後は都にカチコミを入れるだけ。それで戦争が終わると。

 

『・・・なぁリラ。この戦争の最大の功績者は誰が何と言おうとお前だ。だからその成果を手土産として、こっちの世界に戻らないか?』

 

リラは現在、非国民の傭兵の立場としてこの戦争に参加している。父を殺したドラゴンを皆殺しにするという点での利害の一致から、魔人族と協力している。

 

もっとも、ドラゴンの血を引いてる以上リラもドラゴンとみなされらその存在は魔人族からは唾棄されており、その事実を彼女はまだ知らない。

 

利用するされるの関係で成り立っているのだ。

 

『あんな連中の元に戻るつもりはないわ。ドラゴンと共倒れで滅べばいいんだ・・・いっそ、これで滅ぼしてやろうかな・・・』

 

半分冗談で、半分望んでいる事だ。そして彼女の手にしている物。それは全てのDEMに搭載された機械生命体のコントロールを一瞬でこちらへと戻すボタンであった。これを押せばDEMは命令一つでどうにでもなる。それこそ、乗り手を殺すことだって。

 

やがてそれを握る彼女の目は真面の眼へとなった。遂に皆が口を開き、思っていた事を言い出す。

 

『・・・ねぇリラ。もうやめよう?こんな生き方。こんな生き方し続けたら、敵が増えていくだけだよ・・・』

 

その言葉に、彼女の眉が僅かだが吊り上がった。

 

『なら・・・ならその増えた敵も殺せばいい!!』

 

彼女のだんだん態度に落ち着きがなくなってくる。

 

『駄目。そんな考え。普通じゃないよ。狂ってるよ』

 

普通じゃない。狂ってる。その一言がリラの中の何かのスイッチを押した。逆鱗と言う名のスイッチを。

 

『私には、こうするしか生きていく道がなかった!!道を歩けば石を投げられ、外で寝てれば寝込みを襲撃された!軍隊の連中はDEMの権利書を強奪する為にフレンドリーファイアだってしてきた。そいつらを圧倒的な力で捻じ伏せて黙らせる!!そうしなかったら、生きていけなかった!!!』

 

彼女は生粋の狂人である。【普通】の考えを持つ人間にはそう見える。だが彼女にはその【普通】がなかった。異常こそが、彼女の中での【普通】であった。

 

異常と言われる事、それは自身の全てを否定された気分となる。座っていた回転椅子を全力で投げつける。

 

『文句あるならどっか行けよ!!私を見捨てた、

あの時みたいに!!!』

 

『リラ・・・みんな、帰ろう』

 

『えっ、でも』

 

『もう俺達の言葉は、彼女には届かない』

 

シオンが踵を返した。その態度はサジを投げた態度であった。誰も振り返る事をせずにエレベーターへと乗り込ち、止まる事なく降り続けた。

 

『バカ・・・バカァ!!バカッ!!バカッ!!バカァッッ!!』

 

リラは一人、机を叩き泣いていた。そのバカが自分に向けてなのか、シオン達に向けた物なのか、理解出来ぬままに。

 

(俺はリラが心の底では憎かった。こいつさえいなければ、先生が人柱になる必要はなかった。戦争だってきっと止められた。一番憎かったのは、こいつがその事実を知らなかったことだ。何も知らずに、こんな暴君のせいで先生が・・・)

 

(でも。あの時の事は、今でも後悔している。あの時、あの場で諦めて話を切り上げた事を。その直後に起きたZERO計画。その結末を知っていたら、あの時もう少しだけ、リラの傍にいてやれたら・・・)

 

「・・・すまなかった。リラ・・・」

 

自然と脳に浮かんだ言葉を口にする。後1秒もせず、オーガの剣が機体諸共シオンを貫くだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、振り下ろされた剣は割り込んだ機体の寸前で止められていた。不知火の乗るオメガだ。

 

「殺せるもんなら殺してみやがれ!!!」

 

「っ!どけよ!!」

 

「どかねぇ!娘のバカには親が命張って付き合ってやんなきゃならねぇ!!どうした!?殺してみやがれ!!直ぐ蘇るけどな!はっはっは!」

 

うざい。今直ぐ殺してやりたい。なのに・・・

 

「なんで・・・なんで動かないの!?!?」

 

ほんのレバーを少し下げれば、機体もろともこの男を殺せる。これまで自分にとって邪魔な存在は全て潰してきた。それと変わらない。なのに両手が自分がしようとしている動作を拒絶しているかの如く動かない。

 

それだけではない。

 

「なんで!!なんでこんな不快な気分になるの!!邪魔なのに・・・殺せるのに!なのになんで!!」

 

「待ってろ!今そっち行ってやる!!」

 

不知火がオメガから降り、オーガのボディをよじ登り始めた。何と不知火はコックピット部分の外装を引っ剥がし始めた。力を込めるに込め、数発殴ったのち、人一人入れる穴が開いた。その奥にリラはいた。

 

「来るな!来るなぁ!!」

 

「リラァァ!!!」

 

殴りかかったて来たリラの右手を、不知火は受け止めた。掌は先程の無茶振りのせいか血塗れで、生暖かい。だが不知火はその手で強く握りしめてきた。絶対に離さない程の握力で。

 

「昔言ったよな!?どんな事があってもこの手を離すなって!!!」

 

「!!」

 

「この手をお前が離さない限り、俺もお前の手を離さない!!だからお前はこの手を絶対離すな!!傍に居続けてやる!!そう言ったよな!?」

 

「だっ、黙れ!!私は1人だけだ!今更そんなもの!!」

 

「あんたいい加減にしなさいよ!!じゃあ私達はなんなの!!?」

 

堪えきれなくなったのか、アンジュ達が声を上げた。

 

「ここにいる私達はなんだって言うの!?あんたを心配して私達はやって来た!なのに!あんたにとって私達って、唯の置物って訳!?答えなさいよ!!」

 

「アンジュ・・・」

 

「そうだよ!みんなでアルゼナルに戻ろうよ!!

みんな心配してるよ!」

 

「ヴィヴィアン・・・」

 

「シルフィーは一人じゃない!少なくても、ここにいる私達は、そう思ってる」

 

「ナオミ・・・」

 

「私は魔人族じゃない。だからシルフィーがどれほど辛かったのかは分からない・・・きっと、分かるなんて軽はずみに言っちゃ駄目だとも思う。でも、それでも!傍にいる程度なら私でもできる!」

 

「!!」

 

『私に、貴方の悲しみを癒す事も、貴女の悲しみを代わりに受ける事も出来ません。ですが、こうして貴女の側に居続ける事なら、私にも出来ます』

 

かつて魔人族から追放刑を受けた時、オメガは言った。彼女はもう理解していた。だがそれを受け入れられない。認められない。その言葉を受け入れれば、彼女の中のこれまで本当に無駄になってしまいそうだから。

 

「私は!私は!!私はぁ!!!」

 

「もうわかっているのでしょう?だから、やめましょう」

 

突然その場に声が響いた。威厳溢れる、だが何処か優しい声であった。すると皆の前に一本の弓矢が現れた。その矢は光り、人の姿へと変化した。白い長髪。まるでシルフィーを一回り大きくした存在である。

 

「誰、あの人?」

 

その人物を知る者はいなかった。一人を除いて。

 

「アウラ・・・アウラなのか!?」

 

不知火が目も見開いて驚いていた。サラマンディーネも、その名前を聞き、驚きを隠せなかった。

 

「アウラ!アウラなのですか!?」

 

「ええ。まず、初対面なのにこの様な形で会う無礼をお詫びします。サラマンディーネ。そして皆さん」

 

「何故、私の名を?」

 

「エンブリヲの元に囚われてからも、私はずっと、都を見守ってきていました」

 

「・・・そうか。記憶テープで見た、ミスルギって所でリラの暴走を止めたのはお前なんだな」

 

「ええ。私の精神体の一部を切り離し、浄化の力を込めて矢として放ちました」

 

「アウラよ。貴女は一体、何処に囚われているのですか!?」

 

「私の本体はミスルギ皇国、暁の御柱の最深部に、幽閉されています」

 

「暁の御柱ですって!?」

 

暁の御柱。それはミスルギ皇国にある象徴とも言える建造物である。まさかそこにアウラがいようとは」

 

「それと、ロシェンには気をつけてください。彼女はエンブリヲ側が残したスパイです」

 

「スパイだって!?では、ロシェンはエンブリヲ側の存在なのか!?」

 

アウラが誘拐された第二のレーテの悲劇。実はアウラを拐う様に裏で手引きをしたのは、なんとロシェンであったのだ。

 

「まさか、大巫女様や議会の方々も!?」

 

「いえ、彼女達はエンブリヲとは無関係です。ですが彼女達はある種一番手強いでしょう」

 

「どういうことですか」

 

「・・・真実のアカシックレコード。私から言えるのはこれだけです」

 

「またその言葉か」

 

一体真実のアカシックレコードとはなんなのか。

不知火が数歩歩み寄ったが、直ぐにその足を止めた。

 

「貴方、積もる話はありますけど、今は」

 

「ああ。わかってる。お前が今、現れた理由もな」

 

するとアウラはリラの方を向いた。

 

「貴女が、私の・・・お母さん?」

 

「ええ。そうよ。・・・今はリラでしたね。ごめんなさい」

 

「な、何を・・・言って」

 

「貴女の病気を治す。それが貴女の為になると信じて、その結果、貴女の事を他人任せにしていて。それがどれほど孤独で辛かったか。母親面できる事ではないけど、謝らせてほしい」

 

「!?アウラよ!御体が!?」

 

彼女の身体は半分透けていた。残りの半身からは光の様な粒子が溢れ出ていた。

 

「今の私は、精神の切れ端にすぎません。精神世界内で復元した以上、いずれ消滅する覚悟できていました。リラ。これだけは忘れないで。例え貴女が咎人となったとしても、貴女に本当に味方がいなかったとしても、私は、私達だけは絶対に見捨てない。だって・・・」

 

「まっ、待って・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女は私の、大切な娘なんだから・・・」

 

アウラはリラが触れたと同時に、光の粒子態となって、消えていき、その場には、一枚の翅が残されていた。

 

「・・・ずっと、ずっと見守ってくれてたんだ。ずっと・・・」

 

「そうみたいだな」

 

オーガが光となって消えていった。彼女の中の戦う意思がなくなったのだろう。それはアンジュ達の機体も同じであった。眼からは、リラの頃に枯れ果てた、血の涙が流れ落ちてきた。

 

「・・・私は大馬鹿だ。確かに手は差し伸べられていた。なのに私は、その手を見ようとせず、いや・・・見て見ぬふりをしていて、それで独りぼっちだと・・・喚き散らして・・・」

 

「何も言うな・・・リラ、大きくなったな」

 

これを見ていたアンジュ達は何も言わず、不知火を残し部屋の外へと出た。部屋の中からは一人の少女の泣き声が響いていた。長年の憑き物が落ちたかのように泣き続けていた。

 

やがて扉が開き、二人が出てきた。リラの姿は元の人間に戻っていた。そして出てくるなり、アンジュのパンチがシルフィーに襲いかかり、軽く吹き飛んだ。

 

「アンジュ!?」

 

「これは私に迷惑をかけた分よ。これでチャラにしてあげる」

 

「・・・じゃあ俺も」

 

その後、皆から一発ずつグーパンチを貰ったとさ。その直後。

 

「あっ、そうだタスクくん。ちょっと話があるんだ。こっち来なさい」

 

不知火のその言葉は戦闘中のリラ以上に、殺意に満ち溢れていた。

 

「えっ、いや、その、俺は・・・」

 

「いいから、少しお話ししようか」

 

首根っこを掴まれながら、タスクが室内に連行され、扉が閉じる。以下、アンジュ達が聞いた、部屋の中から聞こえた会話。

 

「人様の実の娘の乳を二度も揉むとはどういう了見なんだゴラァァァァッッッ!!(第19話、43話)俺だってまだ揉ませて貰ってねぇんだぞ!!」

 

「ひいっ!ち、違うんだ!あれは事故なんだ!俺はシルフィーの身体に興味なんて!」

 

「なんだと貴様ぁ!!娘の乳を揉んどいてその言い草はぁ!!娘にだって女性としての色気ぐらいちゃんとあるわ!!」

 

「いや、俺は違和感を感じてたんです!アンジュと違って小さいというか、なんというか・・・」

 

「貴様ぁ!!!!もう生かしては帰さんぞぉ!!!!」

 

【ドカッ!バギッ!ベギッ!ボガァ!!!】

 

「ちょっ!まっ!ギブ!ギブ!!!キブキブギブギブ!!!!」

 

一体中で何が行われてるのか、それは想像にお任せしよう。その後、二人とも部屋から出てきた。自業自得の結末とはいえ、タスクが哀れに思えた。そして遂にシオンは話を切り出した。

 

「なあリラ。お前の付けていた腕輪について、何か知らないか?」

 

「あの腕輪はお母さんが私にくれた腕輪を自分の魔術で作った複製品。オリジナルの方は海底洞窟の宝物庫に箱ごとしまってある」

 

「海底洞窟だと!?」

 

魔人族側の顔色が悪くなる。

 

「何そこ、海底洞窟?」

 

「以前リラを引き取った直後、家出をしたことがあってな。半年くらいしてようやくリラを見つけた場所がその海底洞窟だったんだよ。それからは俺たちはそこを家として生活してたんだけど。あそこは自然の大迷宮だ」

 

「とにかく一度、現実世界に戻ろう。向こうの状態を知らなければ・・・あっ」

 

自分達は精神体を肉体に戻せば何の問題もない。だがリラ、いや、シルフィーは違う。彼女の肉体は死んでいる。動かす事は出来ないのだ。

 

「リラ。少し待ってろ。腕輪を手に入れたらすぐにまた人柱になる」

 

「大丈夫、向こうの世界でも生きていけるよ。これ、託されたから」

 

それはアウラが消えた場所に残されていた翅であった。皆が来た入り口へと戻ってゆく。そこには大きなゲートの穴が開かれていた。次の瞬間、勢いよくその穴目掛けて飛び込んでいった。

 

飛び込んだ直後、皆は意識を失った。

 

次に気が付くと無機質な天井が真っ先に目に移った。自分達のいる場所は、地下格納庫である。

 

「私達、戻ってこれたのね」

 

「その様ですね、アンジュ」

 

サラマンディーネにシオン達も続々と目を覚まし始めた。

 

「姫様!!ご無事でしたか!」

 

「あら、みんな戻ってきたのね」

 

ナーガにカナメ。そしてアスカ達とエリスが出迎えた。とりあえずそこで色々と話を聞いていた時だった。

 

【こんっ・・・こんっ】

 

「・・・えっ?まさか・・・」

 

ガラスを叩く音に皆がある一か所を注目する。カプセルの培養液?内のシルフィーの眼がうっすらとだが開いており、こちらを見ていた。

 

「リラ・・・リラ!」

 

不知火達が急いでカプセルを解除する。緑色の液体が隙間から漏れ始める。半分程流れ出てきた頃、リラをカプセルから引き摺り出す。

 

「リラ、リラなのか!?」

 

「ううん。今の私はシルフィー。リラとしての記憶も蘇ったけど、シルフィーで呼んで欲しい」

 

「な、なんで生きていられるんだ。確かに心臓は停止していたはずなのに。先生の力なしで」

 

するとリラは不知火の耳元に口を寄せた。

 

「実は、ごにょごにょ」

 

「はあっ!?嘘だろ!?アウラの心臓と共有してやがるのか!?」

 

「ど、どういう事?」

 

突然の謎の言葉に皆が動揺していた。すると何かを察したカリスが解説を始めた。

 

「つまり一つの心臓で二人の人間を動かしている状態。そういうことになります」

 

「そんなことができるの!?」

 

「一つの電池で二つの前電球を点灯させられますよね?それと同じ理屈と考えれば、理論上は可能です」

 

(より具体的にに言うなら、ワイヤレス充電でスマホを二機同時に充電していると考えてください。今回の場合、アウラの残した翅が受信機となって、心臓を動かしています)

 

だがカリスは、目の前の結果に何処か釈然としていなかった。

 

「リラさん。突然で悪いですが、魔術でこれを修理してみてください」

 

そういうとある物を手渡した。それは不知火が工具箱がないと直せないと言っていたトランクケースである。

 

「簡単なはず。修・・・ら?痛っ!!」

 

能力を使おうとした途端、全身に激痛が走った。肉をナイフでぶっさす感覚である。口からは血か何か分からない液体が漏れ出ている。

 

「おい、水だ!液体もってこい!!」

 

するとエリスは紙パックをシルフィーに投げ渡した。それを開け中身を口に流し込む。

 

「因みにそれ、鬼殺しよ」

 

「何飲ませんだお前は!!・・・え?」

 

魔人族は戦慄した。目の前の少女は鬼殺しをまるで水の様に飲んでいた。しかもビールや酒に不快感を示していた存在がだ。これにはアンジュ達も目を見開いて驚いた。

 

「・・・シルフィー、それお酒だよ」

 

「え?水でしょ。無味無臭なんだし」

 

何かがおかしかった。何かが。だがこれで事態をいち早く理解、いや、確信したのはカリスであった。

 

「やっぱり、何かしらのデメリットはありますよね・・・心臓の共有。理論上では可能ですけど、それはあくまで理論上。心臓は二人の人間を生かす様に造られてはいません。一人の心臓への負担だって倍かかる。そしてその負担を減らすため、おそらく必要最低限な機能以外はオミットされたんでしょ」

 

「つまり、今のシルフィーは魔人族としての能力は簡単に使えない、味覚と嗅覚が損失していると?」

 

(まぁ他者への細胞への干渉が使えたら、話の展開もカタルシスもクソも無くなるので、仕方ないが)

 

「ええ。恐らく魔人化も使えません。それに問題は残されています。脳のドラグニウムも今は無害ですけど、いずれまた危険領域になる可能性だって。先生の助力が得られない現状、そうなれば今度こそ確実に死亡します。何より、今は味覚嗅覚の損失で収まってますがこれから先、この症状がこれ以上酷くなる可能性だって・・・」

 

「・・・」

 

場の雰囲気が完全に沈んだ。何と声をかければいいのか、皆が困惑した。そしてそんな中、さらなる追い討ちが彼女達を襲った。

 

「あのーとても言いにくいのですけど・・・」

 

場の雰囲気的に黙っていたファントムが口を開いた。

 

「なんだファントム?」

 

「それが、もうこの近くに黒の部隊の本体が到着したみたいです」

 

「なっ!?黒の部隊の本隊が!?」

 

皆が慌てて地下格納庫を飛び出した。部屋に戻り、モニターで外の様子を確認する。

 

「これは・・・!」

 

モニターに映し出されたのは絶望であった。核龍號三機。カーネイジ級ドラゴン。そして大量の黒いドラゴンの兵隊。

 

「放てぇ!」

 

その掛け声のもと、何かがこのビルめがけて投げ込まれた。それは床に落ちると煙を吹き出し始めた。すると魔人族メンバーは黒装束を整え、フードを目深に被った。

 

「ドラグニウム弾だ!龍魔大戦終盤で導入された対魔人族用の毒ガス兵器!!その煙は水素より軽いとされる!」

 

煙は既に建物の土台部分を占拠。さらに屋上側のフロアも煙で満たされている。恐らく皆が耐え切れなくなり出てきた所を殺す算段だろう。

 

「ねぇ!ゲート使えないの!?」

 

「無理だ!俺達人間だけならだけならともかく、機体置いていくことになる!それは一番避けなければ!!」

 

口論している間にも煙は充満していく。いずれ自分達の部屋も煙が襲ってくるだろう。すると不知火が立ち上がった。

 

「2.3分だ」

 

「へ?」

 

「その時間内なら持ちこたえさせられる。その間にシオン、手近で広い場所を思い浮かべろ。後これ借りるぜ」

 

不知火の手には二本の刀があった。サラマンディーネの刀とシオンの刀だ。後、シオンのフライングアタッカーも背負っている。すると不知火は、煙で充満した階段を駆け上っていった。

 

屋上にたどり着くなり、声を大にした。

 

「よく聞けドラゴンども!俺は正義の味方ぶるつもりはねぇ!だからはっきりと言ってやる!!俺は娘達を、俺の護りたい者を護る!!それの邪魔するってんなら、覚悟しやがれ!!!」

 

次の瞬間、不知火はドラゴンに乗り移ると、喉元に剣を突き立てた。紅い鮮血が身体に吹き付けてくる。その後は落ちてゆくドラゴンを踏み台に別のドラゴンに飛び移る。これの繰り返しであった。

 

「すっ、すごい。本当に生身に二本の剣だけでドラゴンと戦ってる」

 

己が肉体を限界まで使用する。これが、本来の魔人族の戦い方なのだ。そして遂に時間となった。

 

「今だ!シオン!!」

 

「はい!!」

 

次の瞬間、突然ビルが大きく揺れた。地面へと沈んでいくかの様に。これは攻撃ではない。シオンがビルの土台部分に転移門のゲートを作っていた。ビルごと何処かに転移するわけだ。不知火が屋上へと飛び移り、そのまま建物内に転がり込んだ。

 

「みんな!近くの物を掴んでおけ!!」

 

ビルはみるみる内に地面、いや、ゲートの中へと沈んでいった。

 

「追え!追いかけるのだ!」

 

黒いドラゴンからすればこのまま逃がすわけにはいかない。追撃をかけようとしたその時だった。消えゆくゲート内のビルの屋上から、何かが射出された。それは射出後、はるか上空でUターンして、戻ってきた。

 

「あれは、まさか・・・」

 

「小型水爆!!?全員撤退ィ!!!」

 

先程の倍の速度で踵を返す黒の部隊。その次の瞬間、それは炸裂した。幸い小型故か、その爆弾の被害を受けた黒いドラゴンはいなかった。

 

だがゲートは既にふさがっており、穴の開いていた場所には瓦礫の山が築かれていた。これで完全に糸の切れた凧となったわけだ。黒の部隊も、これにはお手上げらしく、兵を引き上げた。

 

「・・・人形が生きてた。生き返った・・・ハハッ。ハーッハッハッハ!!これで私が、この場にいる意味ができた!!」

 

この様子を陰で見ていたリラは狂った様に笑っていた。するとZEROと共に直ぐにその場を離れていった。

 

その場には、何か重い雰囲気だけが、残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、シルフィー達は。

 

【ドシーン!!】

 

ゲートを潜り抜けた後、ビルは何処かに落ちたらしく揺れの衝撃が激しく伝わってくる。

 

「うわっ!」

 

揺れるビルの窓ガラス部分から、皆の身体が吹き飛ばされる。幸い下が砂浜の為に大怪我にはならなかった。

 

【ザザーン。ザザーン】

 

波の音がする。自分達のいる場所は何処かの島らしい。すると目の前に、一つの鉄屑が飛び込んできた。それはパラメイルであった。

 

「あれはグレイブ?でも、この壊れ具合。まるて長い間整備されずに、放置されてたみたい・・・え?これって」

 

見てみるとそのグレイブは演習用のグレイブであった。武器も模擬戦用の弾薬である。ナオミの中である答えが浮かび上がってきた。それはシルフィーも同じであろう。

 

「まさかここって、名もなき島!?」

 

名もなき島。かつてシルフィーが住んでいた島にして、ナオミと初めて出会った場所。だがこの島は火山の影響か、海底深くに沈んだはずでは・・・

 

「ウオォっ!?なんじゃこりゃあ!?」

 

ヴィヴィアンが上を見ながら興奮していた。つられてアンジュ達も上を見る。そこには予期せぬ光景が広がっていた。

 

なんとある程度の上を魚が泳いでいた。この島は海の底に沈みながら、何かしらの魔術で、沈没とまでは行っていないらしい。

 

「先生、お話が」

 

シオン達魔人族メンバーが真面目な面となった。そして重い口調でこう言った。

 

「魔人族の同胞の事ですが・・・この島に生き残りがいます・・・」

 

 




魔人族の生き残りがこの島にいた!

遂にリラ(黒髪)やシルフィー誕生の原因となったZERO計画について触れてゆこう。

力だけを求めた計画、そしてリラの行きつく先は
勝利か破滅か。

次回、「滅びゆく者達へ 前編」に、続く!!

(次回は出だし部分を除き、基本オリキャラ達の回想シーンです)

余談、リラとシルフィーについて。

シルフィーは多重人格者ではなく、真面目だった頃がシルフィー、荒れてた頃がリラという感覚で見てください。


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第54話 滅びゆく者達 前編



まーた10000字超えちゃったよ。超えない様に前編後編で分けたはずなのに。

心の声「お前こんなぐだぐ駄文章を書いて閲覧者の貴重な時間奪ったんじゃねぇよ!!いつか本当に閲覧者さんがいなくなるぞ!」

作者「すいませんでしたぁ!!」

前回と同じくらいの長さです。本当に申し訳ない事をしました!



 

 

一同が名もなき島で向かっている場所。それは何と火山内部であった。火口の大きさの都合上、そこに向かうのはシルフィー達人間サイズであり、ドラゴンの姿を持つものは先の戦闘で傷ついた身体を休めていた。

 

当然だが火山内は熱気でむせかえっていた。魔人族側はシルフィーを除き平気な顔をしていた。ドラゴンの方はアンジュ達と同じで結構参っていた。

 

やがて最深部にたどり着く。そこには神殿の様な建造物が存在していた。それなりの大きさをしており、皆で中に突入する。

 

意外な事に中は快適であった。まるでここだけ別世界のような。そして神殿の中には様々な機械が置かれており、ここで生活していた感を醸し出している。

 

「俺たちはここを拠点として活動していた。ある物を守る為に」

 

シオンの視線の先には棺の様な物が安置されていた。シオンは重々しい蓋をスライドし、中の物取り出した。

 

棺の中には小箱があり、それを開く。そこには一つのカプセルが安置されていた。リラの母体が眠るカプセルより遥かに小さく、手のひらサイズである。

 

するとシオンが衝撃の一言を言い放った。

 

「龍魔大戦で生き残った魔人族、約10000人分の

遺伝子情報が、この中に収められてる」

 

「・・・え?」

 

言われた内容が理解できない。するとシオンが簡潔に言った。

 

「この中に、10000人分の魔人族の命がある!!」

 

「・・・ええっ!!これに!?」

 

皆が一斉にカプセルに注目する。サイズ的には卵みたいなこのカプセルが、10000人の命を左右するのだ。

 

「でも、どうして!?なんで!?」

 

「・・・遺伝子の分解。ZERO計画の応用ね」

 

エリスが何かを悟った。

 

「でもあの計画は技術に資材、そして倫理観の問題で永久凍結されたはずよ」

 

「ええ。ですが戦争終盤にゴンドウの独断で計画が再開。その結果、最悪の事態が重なり、魔人族は滅びの道を辿りました」

 

「不幸中の幸いだったのが、昔の人間の残したデータ。それにゴンドウの残したZERO計画の資料を得て、魔人族の根絶やしを回避することが出来た事です」

 

「それが、遺伝子を分解し、蘇る時が来るまで、こうして眠り続ける事か」

 

こうしてシオン達はこうなった原因を語り出した。そう、数百年前の、ZERO計画、そして龍魔大戦の最終盤について。

 

ここで閲覧者のみんなに、この時代の魔人族について、軽くおさらいと解説をしておこう。ついでにZERO計画凍結理由も触れておく。

 

まず、魔人族はこの世界に来たときは島ごと転移してきたことになっている。それからは外界との交流を絶って独自の生活を築き上げてきました。

 

事態が変わったのはD.warsによる地球の滅びである。この時地球全土で大規模な地殻変動が発生。

 

その結果島が近くの大陸と地続きで繋がった。当初、魔人族はドラグニウム汚染の影響で地続きになっても外の世界に行く者は誰もいなかった。

 

それから年月は立ち、この間外に出たのは不知火くらいである。そこでアウラと出会い、ハーフであるリラが生まれた。

 

すると両国の偉い人は彼女を穢れた血を引く存在として、特に魔人族はドラグニウムによる体組織崩壊の問題もある為、かなり毛嫌っていた。

 

そしてその怒りの矛先は、徐々にその血を産み出した相手国へとむけられ、両国の間に争いの機運が高まってきていたんだ。

 

この頃はまだ両国のトップのアウラや不知火が軍の暴走を何とか抑えられていられた。

 

だが第二のレーテが引き起こされ、遂に引き金が引かれた。魔人族は不知火とエリスを、ドラゴン側はアウラが実質死んだも同然となった。

 

両方の臨時トップ(ロシェンとゴンドウ)は事実を知りながらも、あえてそれを歪めて言った。

 

「平和を願ったアウラは卑怯な魔人族に嵌められた。謀殺だと。赦される行為ではない!!」

 

「争いを望まなかった不知火とエリスは、野蛮なドラゴンに殺されたのだ!!このまま黙ってる訳にはいかん!!」

 

弔い合戦の如く、こうして龍魔大戦が開かれた。この初戦直後、島に住んでいた魔人族は外の世界へと出ていったのだ。理由は簡単。まず外のドラグニウム汚染が即死では無く、対ドラグニウムコーティングされた黒装束によってそれなりの活動が可能だと判断したから。

 

もう一つ。外に世界には当時の魔人族が喉から手が出るほど欲しがっていた鉄鉱石、つまり鉄資源がゴロゴロ転がっているのだ。それらは高値で売買される。

 

ゴールドラッシュならぬメタルラッシュの幕開けであり、一獲千金を狙い人々は島を出て廃都市や廃工場を見つけては、そこに独自の村や町を作り、そこで生活を営み、時として機械兵器を復元。自警団などを立ち上げる者もいた。こうして、6年の月日が流れたのだ。わかったかな?

 

魔人族は魔術を使える。これは魔人族の先祖たちが遥か昔に自らの身体を遺伝子改造したからだ。それは時に全くの別物になりながらも、親から子へと受け継がれる。

 

この計画が発案されたのもD.warsが原因だ。地球がドラグニウム汚染された際、魔人族の住んでいた島にも少なからずも影響を受けた。魔人族からすれば外の人間の起こした戦争、D.warsなどとばっちりに等しい。

 

そしてある計画が立案された。魔人族として様々な遺伝子を組み合わせ、強い魔術持ちの配合種を造り、やがてはこの世界の人間に復讐を行う計画。

これがZERO計画だ。

 

だが自分の遺伝子に手を加え、自らを強化するならまだしも、ZERO計画は人間を意図的に生み出す計画である。それも子作りとは違い、明らかに人間の領分を超えた禁忌。

 

何より計画に必要な技術が、当時の頃は残ってなかった。この計画は永久凍結。データ資料も厳重に

管理され、禁忌の歴史と悪名だけが残された。

 

(補足。アニメ本編ではドラゴン達は外の世界のドラグニウムを浄化しているが、この作品の設定としてドラゴンの体そのものが浄化されていないドラグニウムを放出しているのだ。ドラゴンにとっては問題ないが、魔人族にとっては汚い足で雑巾がけをしている物であり、結果、脅威に変わりはない)

 

さて、ちょっと長くなったな、それでは本編、いや回想に戻ろう。

 

時間軸にして、前回の回想に続き、皆がビルの外へと出た時である。ふとある事に気がついた。

 

「そういや、連れてきた他の軍隊のメンバーどこ行った?」

 

「まだビルの中なんじゃないかしら?」

 

「・・・なぁ、今のリラと出会ったらあいつら、

逆鱗に触れて殺されるんじゃないかな?」

 

【ドカーーン】

 

一抹の不安を覚えた直後であった。突然、スマートブレインの一部が爆発、黒煙が昇り始めた。そこに二つの機影が飛び立つのが見え、少し遅れて一つの機影が飛び立つ瞬間を見た。

 

「なっ、なんだ!?一体、何が起こって・・・」

 

「人間。オメガから通信。それも緊急通信」

 

この頃、彼等の乗るDEMにはオメガと同じ機会生命体という名の人工知能が備わっていた。通信先の

オーガは慌てていた。

 

「人間、大変だ!!マスターが攫われた!!!」

 

「なんだって!!」

 

オメガから現在追跡中の機体の写真が送られてきた。

 

「これは・・・」

 

「DEM・type・χ(カイ)にDEM・type・ψ(プサイ)!!」

 

「・・・くそっ!放っとけねぇ」

 

この2機はやがて基地のない場所で止まり、動かなくなっていた。シオン達が機体に乗り込み、オメガと合流してそのポイントに辿り着くと、なんとそこには基地が建てられていた。

 

「こんなところに基地を建造するなんて話、聞いてないぞ」

 

DEMをその場に残し、シオン達は基地内へと侵入していった。侵入して直ぐに、この場所の異常性を感じ取った。

 

「おいおいこいつは、結構ヤベェとこなんじゃねえか?」

 

あまりにも厳重な警備体制。おかしな話だが、まるでエリートだけを集めた軍隊だ。彼等を蹴散らし進んでゆくとやがて開けた場所へと辿り着いた。

 

「リラ!それに・・・ゴンドウ参謀!?」

 

リラが捕まっていたが、様子がどうもおかしい。目の前のリラには、生気を感じないのだ。死んだ魚の様な眼をしている。

 

「リラ。一体お前・・・!?お前、左腕の腕輪はどうした!?」

 

見ると隣の空のカプセル内に、リラの付けていた月の腕輪が入れられていた。

 

「私は死んでたの?私が・・・ドラゴン?じゃあ私が、お父さんを・・・私が?」

 

ただひたすらに繰り返す譫言の様なその言葉に皆が察した。そして怒りの視線をゴンドウへと向けた。

 

「ゴンドウ参謀!!まさか話したのか!!彼女の事・・・腕輪の事を!!!」

 

「ああ。全部伝えた。不知火の事、腕輪の事。そして・・・血の出自もな。最初は生意気に否定していたが、斬り落とした左腕が生えてきたのを見てから、ずっとこの調子だ」

 

「ゴンドウ参謀。これはどうみても、虐待としか」

 

「君達は今の軍の現状をどう捉える?」

 

「えっ?」

 

突然の言葉にシオン達が動揺する。

 

「軍人の本職とは、市民を守り、市民の脅威となり得る存在を取り払う。それが軍人の務めであった筈だ。それが今の軍隊はどうだ!?本職を忘れ、肩書に胡坐をかき、あまつさえ非国民たる傭兵に戦いの主導権を任せる始末となった!!!」

 

実は以前、軍団員は大金をリラに支払い、戦線参加を要求。金を貰った以上、協力するのが傭兵のやり方であり、リラもこれを受け協力した。

 

だが軍はその戦線に参加せず、彼女一人でドラゴン軍とドンパチ殺り合ったことがある。狙いはリラの死。当時のリラは彼女が死ねばDEMの貸与契約も

意味がなくなり、金だって実質手元に戻ってくる。正規軍はここまで腐敗していたのだ。

 

「そんな事でいいのか!?化け物の力を借りなければロクに戦えない組織でいいのか!?断じて否だ!!」

 

「そこで私は志を同じにする者で軍団を立ち上げ、腐敗した連中を切り捨てた。そしてこれが成果だ」

 

スポットライトの眩い光に目が眩む。やがて目が慣れた頃、彼等は一つの機体を見た。

 

「これは・・・DEM」

 

「その通り。それも純魔人族製のDEMだ。AIも備え、固有能力は未来予測システム。ZERO計画から文字をとり、DEM.type.ZEROと名付けた」

 

「乗り手をどうするつもりですか?言っておきますが俺は、俺達はこんなやり方をする貴方に、協力するつもりはありません」

 

「ふん。いないのならば創り出せばいい。その為のZERO計画だ。機械文明を取り込んだ事で、その精度はより増した。立派な素材もここにいる。一人でドラゴン軍と殺し合える乗り手がな」

 

「まさか・・・やめろ!!」

 

【ジャキッ!】

 

助けに行こうとするも、超至近距離で銃を突きつけられては避ける手段もない為、大人しくするしかなかった。

 

次の瞬間、突然リラが悶え苦しみ始めた。

 

「ガアッッッッ!!」

 

「リラ!しっかりしろ!リラ!!」

 

「安心しろ。ただの情報スキャンだ。遺伝子をスキャンして、不要な遺伝子情報は捨てている。ただ、スキャンする際に激痛が身体を襲い、十中八九の人間はショック死だろう。だが仮にも先生の自己再生を引き継いだこいつなら、そう死ぬ事はないだろう」

 

そして空のカプセルから、遺伝子情報を元に一人の少女が創り出された。リラと同じ遺伝子。それに他の魔人族の細胞(魔術)を付け加え、最後に左腕に腕輪を移植。こうしてリラを超えたリラが誕生した。

 

「遂に、遂に出来たぞ!!純粋な魔人族としての

リラの誕生だ!」

 

「リラ!おい!しっかりしろ!!」

 

皆が浮かれた一瞬を付き、銃を突きつけていた兵士達を蹴散らし、シオン達はリラの拘束を解く。母体となったリラは昏睡状態であった。

 

「最早そいつは唯の抜け殻だ。お前達が好きにしろ。さぁ目覚めるのだ!最強の戦士、リラよ!!!」

 

すると先ほど誕生したリラの目が見開かれた。そして開口一番、言い放った。

 

「・・・私を起こすのはお前か」

 

「そうだ。私はゴンドウ参謀。魔人族のリーダーだ。お前の力を戦争終結の為に貸してもらう」

 

「貸してもらう・・・か」

 

【ジリリリリリリッ!】

 

すると突然、基地内部に警報がけたたましく鳴り響いた。

 

「参謀!この基地にドラゴンが進撃してきました」

 

モニターにはドラゴンが数十匹ほど写し出されていた。

 

「ふん!面白い。ZEROの性能を試す良い機会だ!リラ!お前は母体の記憶を引き継いでいる。無論、DEMの操縦法も分かるはずだ。ZEROに乗り込み、ドラゴンを皆殺しにせよ!!」

 

「・・・良かろう」

 

ZEROに乗り込み、ムラマサを取り発進する。すると数分で数十といたドラゴンの部隊は簡単に壊滅した。この戦果にゴンドウはご満悦である。

 

「流石は最強の兵士だ。基地に戻れ。データを取る」

 

「・・・」

 

「どうした?基地に戻るんだ!」

 

次の瞬間、ムラサマブラスターは此方へと向けられ、そこから粒子砲が放たれた。あまりに予想外の事態に、皆が唖然とする。

 

「なっ!何をするんだ!!」

 

「何故お前が私に命令する。何故だ?」

 

「なっ、何を!何を言っている!?」

 

「私は最強の兵士リラ。最強の私が、弱い人間の命令に従うのは可笑しな話じゃないか」

 

「何を言って・・・お前は、ドラゴンを皆殺しにするために、魔人族によって産み出された存在だぞ!」

 

「そんなものは関係ない。私にとって、力こそが絶対だ」

 

それは当時のリラの主義を強く象徴していた。それに彼女の中にあった僅かな情という甘さを消し、完全なる生物兵器となっていた。

 

「命令に従え!!お前は魔人族なんだぞ!」

 

「どうやらまだ立場が判っていない様だな。では、最強の証を立てる為、この場の人間を皆殺しにしよう」 

 

次の瞬間、ムラマサブラスターが基地へと乱射された。

 

「ゴンドウ参謀!!」

 

「馬鹿な、最強の兵士が・・・」

 

ゴンドウは完全に放心状態であった。人間のクローンを創り出す禁忌。神の領域に足を踏み込むその行為。人の手に余るが故に封印されし計画。

 

だが、こうしてその封印は解かれてしまった。最早誕生したリラは、魔人族にとって、驚異以外の何者でもない。同時にそれは、リラが歩いてきた道の先にある、成れの果てなのかもしれない。力だけに固執し、追い求める。その末路が、このリラなのかも知れない。

 

「後を頼む!!」

 

そう言い残し、二人のパイロットはχとψに乗り込み迎撃の為に飛び立った。

 

「バーカ」

 

だが次の瞬間、まるで飛び立つタイミングを狙っていたかの如く、ムラマサブラスターによる砲撃が二機に加えられ、二機とも大破した。

 

その頃シオン達は自分達のDEMを回収しに向かっていた。幸い基地の外に置いてあるが故に、離陸直後を狙われる事はなかった。

 

ヴァスターの砲撃を避け、そいつは一気にムラマサでこちらの機体を貫いた。AIのある部分ごと。

 

「こいつ!!」

 

シオン達の攻撃は一向に当たらない。ゲートを生かした不意打ちさえも、ZEROは回避した。

 

「ミリィ!敵機へのジャミングは出来るか!?」

 

「無理よ!あの機体。これまでのDEMとは完全に系統が違う!」

 

「おいβ!しっかりしろ!!ベータ!!」

 

ZEROはDEMの人工知能の破壊を狙っていた。その一撃で分かる。敵との武器の差。そしてリラの殆どを引き継いでるが故に分かる、彼女の戦術。戦い方。その全てが自分達より格上であった。

 

ムラマサによって機体は大破する。ボロボロになりながら、全機荒地へと着陸する。幸い人工知能が破壊されただけで、何とかまだ機体としては生きていた。

 

リラは基地を叩き潰すかの如く、攻撃をやめない。基地の至る箇所から誘爆が引き起こる。

 

ゴンドウが悔しそうに地面に拳をぶつけていた。

 

「こんな、こんなはずでは!!純粋な魔人族となったリラは、最強の兵士として、魔人族の為に戦う筈だった!それなのに・・・我々は、全てを失った」

 

「違う。失ったのは、貴方がこれまで歩いて、築き上げた来た道そのものよ」

 

ドミニクの突き刺さる様な視線が向けられた。

 

「私は貴方を長い間見てきた。だから分かる。貴方の行動は確かに過激で行き過ぎな点が多かった。でも、その根底には魔人族という種を考えての行動だった。その事だけはわかってた」

 

その時、リラが遂に目を覚ました。

 

「私も、まだ終わらない・・・オメガ。来い」

 

その言葉に皆が驚愕する。こいつは戦うつもりだ。

 

「リラ!お前その身体で戦う気か!?死ぬぞ!!」

 

「私は既に死んでるんでしょ?見せつけられたわ。私が生贄の上に立ってるっね事をね・・・でもね、私思うの。道の途中で、倒れる事。それが一番後悔するって、だから・・・来いオメガ!!!」

 

「・・・わかった。いくぞマスター!!」

 

リラを回収し、オメガの手にしたムラマサが紅く輝く。勢いをつけてZEROへと突っ込む。向こうもムラマサでこれを受け止めた。

 

「貴女が私の母体ね。軽く感謝するわ。貴女のお陰で私が最強だという事を証明できる」

 

「貴女は私なのね。私の中にある過激な一面を全面的に押し出した存在。それが貴女」

 

「そうだね。そして最強は二人もいらない。だから死になよ!!!」

 

「そっちこそ!!最強は私一人で十分よ!!!」

 

両者のムラマサが激しく鍔迫り合う。バルカンなどによる簡単な威嚇も行われるも、それには両者共に怯まない。

 

やがて鍔迫り合いを解除し、銃撃戦へと移行した。

 

だが銃撃戦の場合、未来予測システムのあるZEROの方が、遥かにオメガより有利であり、どんどん圧され始めていた。

 

「このままでは負けるぞ!!」

 

「なら、アクセルで!」

 

右腕のアクセルメモリーに手を伸ばした。その瞬間、ムラマサの連射が機体を襲う。

 

アクセルモードを使えれば、まだ挽回できる可能性はある。だが起動するには、差込みの為に一瞬とは言え片腕を封じる事になる。その隙を逃す程、目の前のリラは愚かではなかった。

 

(一瞬、0.1秒でいい。このアクセルメモリーを差し込む時間が欲しい。それさえ自分あれば、この盤面もまだ盛り返せる!)

 

その頃不知火達は必死になって武器庫前の瓦礫を撤去していた。武器庫に残された最後の最終兵器を使う為に。

 

「このミサイル。確か核って呼ばれる兵器よね。

最終計画で竜の都に向けて撃つはずの」

 

「あぁそうだ。だが先程の攻撃で誘導装置が故障した。当てるには手動で操作するしかない!」

 

「ならこのミサイルに俺を乗せろ。ZERO目掛けて撃ち込む。今のZEROはオメガに集中していて、

未来予測システムの不意を突ける」

 

「馬鹿を言え。そんな事をすればお前は死ぬぞ!!」

 

シオンが脅す様にゴンドウに銃を突きつける。

 

「俺は死なない。リラにもう一度会って、謝りたい事があるから」

 

「・・・」

 

その時、基地は大きく揺れた。するとゴンドウはシオンの銃を奪いシオン達の方へと向けながら、ゆっくり後退りを始めた。

 

「何で!!」

 

「私を誰だと思っている!!魔人族、デルザー軍団対ドラゴン攻撃部隊参謀のゴンドウだぞ!!魔人族の民を脅かす存在を、野放しには出来ん!!」

 

「参謀!!」

 

「近づくな!離陸時の炎の噴出でお前達が焼け死ぬぞ!・・・せめて、一つだけ、教えてくれないか」

 

「・・・なんだ」

 

「私は何処で、道を間違えたのか・・・」

 

「参謀・・・」

 

そしてミサイルは飛び立った。人力誘導のそのミサイルをオメガに対し未来予測を集中していたZEROは反応する事ができなかった。

 

「何!?」

 

「魔人族に、栄光と繁栄を!!!」

 

次の瞬間、ミサイルは超至近距離から大爆発を起こした。ZEROは爆風と爆炎をモロに浴びる。オメガも多少離れたとはいえ、その威力を受けた。やがて爆炎の中から、ZEROが姿を見せた。

 

「ふふっ。はっはっは!そんなミサイル如きで私を倒せるとでも思ったか」

 

だが次の瞬間、その余裕は消しとんだ。キノコ雲の中から銀色の閃光がZERO目掛けて突き進んだ。ゴンドウが作った一瞬のチャンス。それを全力で活かしている。図らずも互いが協力した結果、この様になったのだ。

 

「ハアッッッ!!!」

 

「ガハッ!!」

 

ZEROへの蹴りがクリーンヒットした。完全な不意打ちとなったその一打により、戦いの主導権はオメガへと移された。

 

「こいつ!何て速さしてるんだ!」

 

「もっとだ!もっと早く!」

 

未来予測システムによりオメガの攻撃や行動は予測されていた。だが、アクセルモード自慢の速さでゴリ押しされては、対処が出来ない。一方的な滅多打ちとなっていた。

 

しかし、それも10秒の話であった。本当なら。

 

【THREE・・・TWO・・・ONE・・・】

 

「止めるな!続けろ!!」

 

「なっ!マスター!?」

 

「続けろと言った!!」

 

オメガは10秒を経過しながらも、アクセルモードを解除する事なく動き続けた。彼女は止まらない。このままゴリ押し続ける。それが唯一の勝利法である為。

 

「マスター!もうやめてください!!これ以上のアクセルは、貴女の身体にも影響が!!!」

 

「ガッ!ぜっ、絶対止めるな!!絶対に!!」

 

だが、40秒ほど経つと、遂に身体の自己再生が追いつかなくなって来た。肉が削げる嫌な音と共に全身にGと激痛が一気に襲いかかる。特に右腕がひどく痛む。

 

そんな高速移動による虚像と実像の入り乱れる中、遂にフォトンブラッドによる拘束がZEROを襲った。

 

「私が、負ける!?最強の私が!?」

 

「これで、終わりだぁぁ!!!」

 

アクセルモード起動の約1分後、ムラマサがZEROのエンジンを貫いた。遂にZEROを撃破する事に成功した。爆炎の中、それに飲まれる形でオメガも吹き飛ばされた。シオン達が慌ててオメガへと駆け寄る。

 

「リラ!おいリラ・・・!!」

 

コックピット内のリラは両腕が半分以上取れかかっていた。カリスが直ぐに応急手当を行うも、効き目など最早無いに等しい。エセルの瞬間冷却による接合を試すも、これも効果なしである。リラの目は半分閉じかけていた。

 

「・・・お父さん」

 

「!!」

 

「お父さん。私、強くなったよ。誰にも負けないくらい。強く・・・」

 

「・・・そうか。流石は俺の自慢の娘だ。父さんは嬉しく思うぜ」

 

シオンは嘘をついた。せめて最後のいい夢を見せる為の優しい嘘を。

 

「へへっ。お父さん。向こうで今度・・・レースしようよ。ファン・・・トムとオメガ・・・で・・・どっち・・・速い・・・か」

 

【ぼとり。ぼとり】

 

重力に従い、腐った果実の様に両腕が地に落ちた。心臓部分であった右腕が身体から離れた事により、リラの命は再び尽き果てた。

 

「リラ・・・リラァ!!」

 

手にした骸に対し、シオンは号泣した。

 

「リラ・・・赦してくれ!!赦してくれリラ!!お前を戦争に引き込み、周囲から守ってやれなかった自分を、許してくれぇ!!!」

 

その涙を拭う小さな手が、そこにはあった。目の前には、一人の少女がいた。その少女の右腕に、腕輪がはめ込まれていた。

 

「リラ!?」

 

「?」

 

腕輪が自己再生を試みて元のリラに戻ろうとしたのか、それとも本当に奇跡が起きたのか。目の前のリラは、残された生きた細胞を掻き集め長らく集結し、誕生したのだ。

 

(これが、本編に登場したシルフィーである)

 

だがその代償は大きい。記憶の欠損は激しく、右腕の生き残った細胞だけで構成したせいか、見た目も6歳の元へと退化していた。何より、脳のドラグニウムと心肺停止状態すらも、コピーしてしまっていた。

 

「・・・そうだ!もう一つの腕輪!!それを回収しないと!!」

 

その時である。

 

「お探しものは、これかな?」

 

「何者だ!」

 

そこには見慣れない男がいた。スーツ姿の男であり、何処か人を苛立たせる面をしている。

 

「私はエンブリヲ。世界の音を整える調律者だ」

 

「気を付けろ人間!!そいつは6年前、不知火を襲った人間だ!!」

 

オメガの警告に皆が身構える。

 

エンブリヲの手にはリラから斬り落とされた左腕が握られていた。腕輪も装備されている。更にもう片方の手には、ZERO計画の資料が握られていた。

 

「それにしてもZERO計画、人間のクローンを生み出す技術か。君達の技術ではその程度が関の山だろう。だが私が少し手を加えれば、ホムンクルスの製造に役立つだろう。この計画書は頂くとしよう」

 

次の瞬間、シオンはエンブリヲにつかみかかっていた。

 

「腕輪を返せ!!」

 

「悪いが返すわけにはいかないのだよ。これは研究サンプルだ。そんな事より、こんな場所で油を売っていていいのかい?今頃君達の基地は大変だよ」

 

エンブリヲはシオンを払い除けると、腕輪と死体。そしてDEMのZEROを回収し、その姿を消した。

 

そんな中、シオン達の判断が追いつかない。エンブリヲは何が狙いだ?それが理解できない。一番は先程の言葉のせいである。

 

「基地が大変。何が起きたというんだ!?」

 

直ぐに基地内にゲートを開いた。そして開かれると同時に煙が穴から溢れ出てきた。

 

「これは、ドラグニウム!!」

 

直ぐにゲートを閉める。ドラグニウムの煙、一体基地で何が起きているのか。今度はゲートを基地から少し離れた箇所から展開する。

 

「なっ!?これは・・・」

 

シオン達が見た光景。それは地獄であった。基地がドラゴンによって丸ごと襲撃されていた。戦場とは違いそこに抵抗の跡はなく、それは一方的な虐殺とも言えた。

 

基地を覆う様に巨大なドラゴンがいた。身体の半分以上が機械化されたサイボーグドラゴン。

 

「やっ、やめろぉ!!!」

 

νに乗っていたシオンが突撃する。少し考えれば無謀だということは直ぐに気づけただろう。おそらくAIが生きてれば即警告も来たはずだ。

 

だが彼は飛び出した。巨大なドラゴンがこちらを振り返った。右側の光が消えた直後、激痛が身体を襲った。右頬には生暖かい液体が付着している。右目を深くやられた。

 

「がぁぁぁっ!!右目が・・・」

 

「シオン!ここは離脱するぞ!」

 

「離脱してどうすんだよ!!」

 

「いいから離脱するぞ!残ったエンジン全開にしろ!!」

 

こうして皆はこの場から逃げるしかなかった。やがて基地が完全に壊滅した後の事。

 

「カーネイジ級。先程の敗残兵がいるはずだ。追いかけろ!!」

 

「ヒャハハ!!・・・やだねぇ!」

 

「何!?」

 

「さっきの奴等なんていつでも殺せる。そんな奴らより・・・」

 

次の瞬間、そのドラゴンの身体に移植された機関砲は、味方のドラゴンへと向けられた。そこからは何の躊躇いもなく砲弾が飛び出した。

 

「なっ!何をする!!?」

 

「まだまだ殺したりないんだよ!!だから量を取る事にした!精々楽しませてくれよ!!ギャハハハッ!!!」

 

シオン達にとって幸運だったのが、この時の相手がカーネイジ級、殺しを楽しむサイコキラーだったことだ。その為、自らの快楽の為に味方殺しを始めた点であった。

 

(こうして魔人族の軍隊は、ドラゴンの同時拠点潰し作戦の最中の内輪揉めにより壊滅。後で基地のあった場所に戻ったが、DEMを含むすべての兵器に人員が全滅していた)

 

(ゴンドウが直々にスカウトした秘密警察の様な部隊も、ZERO計画の失敗により壊滅。生き残った軍属の戦闘員は、偶然内輪揉めの中にいた俺達だけだった)

 

(ドラゴンの襲撃は村や町にも及んでいたらしい。殆どの町村が壊滅。生き残りも極少数しかいなかった。俺達は外の世界から退き、島まで後退するしかなかった。そして俺の右目に、消えない傷が残った・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの事件から1ヶ月が経過した。戦局は完全にひっくり返り、最早魔人族がこの戦争に勝利するのは絶望的であった。そして最後の手段をシオン達はとる事にした。

 

「魔人族の降伏の元、ドラゴン側と和平交渉を行いたい」

 

通信相手はロシェンである。

 

「・・・ほう、降伏か。我々が数年かけて軍事基地を叩き潰された際は、粘りに粘ってその結果逆転した。君達はしないのかね?」

 

「皮肉なら好きなように言ってくれ。兎に角、俺達軍人と残されたDEMの首を差し出す。それならそちらにとっても、悪い話ではないはずだ」

 

「生贄が必要なのだ」

 

「生贄?」

 

「この6年間の戦争で、民の怒りは爆発寸前だ。もはや軍人を消しただけではその怒りは収まらんのだ。この様な戦争を引き起こした存在である侵略者の魔人族。君達全員の死をもってしか、我々の怒りは収まらないのだよ」

 

「なっ!まっ、待て!!殺すならお前等に手向かった俺たち軍人だけで十分なはずだ!!民は関係ない!!!殺す理由が何処にある!?」

 

「この世界の侵略者たる魔人族。敵国の人間。殺す理由はそれだけで十分さ。精々、無様な命乞いを考えたまえ」

 

こうして通信は切られた。最悪の事態だ。自分達魔人族が生き残るには、ドラゴンを皆殺しにするしかなくなった。

 

現在動かせる機体はDEMが7機のみ。しかもオメガ以外はAIが破壊され、本来の力を発揮できない。この兵力で無数とも言えるドラゴン軍と戦闘しなければならない。

 

「・・・なんてこった」

 

その時であった。

 

「シオンさん!朗報です!例の装置が完成しました!生き延びれるかも知れません!」

 

「何っ!?本当か!」

 

あの事件の後、魔人族内ではある一つの作戦の決行が決定された。

 

「この世界からの転移により、ドラゴンから逃げる計画」が

 

それにはかつて、この世界の人間が行った時空転移実験の資料が必要だった。魔人族はかつての人間達が使っていたコンピュータなどををひたすら調べていた。そして遂に見つけたのだ。時空転移の技術資料について。

 

時空転移装置の資料、設計図。それに当時の魔人族の持てる全ての技術を注ぎ込み、使い捨てだが転移可能な装置が開発され、島そのものに装備された。これでかつての自分達の様に、どこかの地球に転移するはずだ。

 

だが、両腕を失ったリラの方はスマートブレイン地下格納庫内で生命維持装置と共に安置する事になった。彼女の場合、微妙なバランスで生死を漂っている為に動かす事が出来なかった。幸いな事に外見は何処にでもある廃ビルであり、地下に安置している為、そう簡単にはバレないだろう。

 

こうして実験なしのぶっつけ本番で、装置が起動した。すると島を丸ごと覆うほどの広い穴が開かれる。島は徐々にだが沈んでいった。

 

(一番簡単に跳べる場所に転移を・・・やれるだけの事はやった。後は跳んだ先の世界を信じるか・・・)

 

やがて島は、完全に姿を消し、穴もふさがれていった。

 

数時間後、本島襲撃の為にドラゴン軍が見た景色。それは島が丸ごと何処かに消えた跡だけであった。

 

こうして過去の龍魔大戦は、魔人族の絶滅と思われる結果によって終結した。この戦いの戦果が認められ、ロシェンは独自の地位を確立、議会に対しての発言力も高くなった。

 

そしてこの時、魔人族は知らなかった。自分達が飛んだ世界が、ドラグニウムで満たされた事。自分達はその世界ではどう足掻いても生きていけない事。その結果、コールドスリープを使い、身体を維持するしかなかった事に・・・

 

 




最後の部分を強引に持ってき過ぎた感がする。やっぱりシナリオを考える人って本当に凄いんですね。改めて実感しました。

魔人族の民が遺伝子分解する過程とか、何故コールドスリープが解除されたのかとか、書けなかった分は後編で書く予定です。てか今回人によっては元ネタわかるかもしれませんね。

はい、ここで皆さんに、超どうでもいいお知らせがあります、

実は数ヶ月の間更新を停止していた「ノーマの少女達と一人の少年が出会ったを再開、そして次話の投稿日が決まりました。向こうの作品は残り数話で最終回ですので、向こうの話に力を入れる事になりました。

もし、読んで頂けるのなら、是非御閲覧下さい!

(見て欲しいようなみて欲しくない様な・・・いや、是非見て下さい!!)

あっ、因みに投稿日は10月19日です。なんでこの日かって?(聞いてません)

まぁその理由は向こうの前書きで書くつもりなので。分かる方には分かるはずです。


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第55話 滅びゆく者達 後編



注意!今回の話の後半に、不知火とアウラの出会いについて書いていますが、内容が結構危険な線を責めています。

これ原作設定にキャラの改悪だろと思う箇所もあるかも知れません!てか書いてる本人がそれを感じてしまいました。

友人からも「なりダンXの方が原作の扱い(本家のファンタジア)的な意味でまだまし」と真顔で言われました。何より、この危険な綱渡りが確定でもう一度あります。

なので原作(特にアウラ、竜の都の議会メンバー)
ファンの方には、念のために警告しておきます。

この作品はあくまで二次創作であり、原作とは(多少とは言えないが)異なります。そして今後はこの建前でも通じない可能性も含まれます。いや、割とまじで。

もし、不快感を感じるのが嫌な人でしたら、速やかにブラウザバックを推奨します。

それでは、覚悟の出来た猛者から本編へどうぞ・・・



 

 

アンジュ達はシオンの話を黙って聞いていた。

 

「魔人族に、その様な事が・・・」

 

「だが、飛ばされた先の世界もまた、ドラグニウムで溢れていた」

 

「私達の世界のことね」

 

「あぁ。これは予想だが、向こうの地球とこっちの地球は、エンブリヲがよく行き来をしていた。その影響で時空に引っ張られ、辿り着いたと思ってる」

 

「とにかく、向こうのドラグニウムこそこちら程では無いが、いずれは致死量を超える。そこで止むを得ず最終手段として、ZERO計画を応用し自らの身体を遺伝子レベルにまで分解。そしてこのカプセルの中に保存するという手段が取られた。当時戻す技術が無かったが、最早我儘を言っていられる状況ですら無くなった」

 

「そしてこのカプセルを守る為の番人として、俺たちだけは機体と共にコールドスリープについた」

 

「不幸中の幸いか、木を隠すなら森の中らしく、

あの島は他者からすれば唯の島にしか見えなくなった。俺たち自身、島に人が立ち入れば、コールドスリープが解除される。そう設定していた。だから本来なら、俺たちは、ナオミがあの島に流れ着いた時に目覚める筈だった」

 

「筈だったって、どう言う事よ。大体シルフィーは、十年に前にあの島で目覚めたって・・・」

 

「向こうの世界で10年前。ある機体が目覚めた。オメガのメモリー内に交戦記録のある機体。その機体の影響で、これまでの眠りの平穏は一気に崩された。なんせその機体は、ドラゴンとは違い、対緊急迎撃反応の除外対象からは外されていたからな」

 

「第二のレーテ。そして私達の世界で10年前。それってやっぱ・・・」

 

「あぁ。かつて竜の都で交戦した事のあるラグナメイル。ビルキス。それが起動した。その時の反応によって眠っていたオメガも目覚めてしまった。その際に我々のコールドスリープが解除されたんだ。敵が目覚めたと反応してな」

 

「・・・とはいえ、その時は目覚めた敵自体が調査の結果では脅威でないと判断。その後機体の反応がロストした為に、大事とはならなかった」

 

「だが最悪な事に、その間にリラが島での一人の生活に順応してしまった事。そして外の世界が、我々がコールドスリープてま眠りにつくより悪化しているという事実を得た。最早忍耐も限界だったよ」

 

「だから俺たちは生き延びる為に独自で計画を練り、そして開始した。マナをなくし、向こうの世界で生きていける様に。そして、彼等の分解された遺伝子を、元に戻せる様に。・・・あいつの孤独を、10年間無視し続けて」

 

これが、魔人族の辿って来たこれまでの道なのだろう。

 

「・・・そのカプセルを、シードレコードを破壊すれば、魔人族はほぼ絶滅するのですね」

 

「アスカ?」

 

「・・・私達は確かにロシェンの行いに反発しています。ですがそれは、決して魔人族の存在を認めた訳ではありません」

 

【・・・ごくっ】

 

その目は目の前のカプセルを捉えていた。あれを壊せば、あの中の10000人分の魔人族の遺伝子も粉々に消し飛ぶ。生唾を飲んだ音が、周囲にはっきり聞こえた。

 

「まさか、やめなさい!アスカ!」

 

「殺る気か。なら相手になってやる」

 

「よせ!やめろシオン!」

 

アスカとシオンの間で見えない火花がばちばち散っている。既にお互いが武器を手にとりかけている。アンジュ達を含め、何とかこの場を収めようとする。

 

 

 

「zzzスピーッ。zzzスピーッ」

 

すると、その雰囲気に水を刺す寝息が聞こえた。見るとドミニクが呑気に寝ていた。いつから寝ていたのだろうか?

 

「・・・ふっ」

 

そしてその寝息が、この場の雰囲気を変えた。考えてみれば自分達は都での戦闘以降、碌な睡眠をとっていない。そんな中、寝ている人間の姿を見たせいか、一気にこれまでの疲れと眠気が襲ってきた。

 

「とりあえず今は眠ろうぜ。ぶっ通しだもんな」

 

ドミニクを担ぎ外へと出ると、神殿を後にした。どうせならスマートブレインのソファーで寝ようとするも、一度感じ取った睡魔には勝てず、皆、道中で続々に地面に倒れ伏した。直ぐに全員から寝息が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・んんっ?」

 

ふとナオミが目を覚ます。一体時間的にどれくらい経ったのだろうか。空を見上げても暗くてわからない。長いようで短いような・・・だが、疲労などからは回復していた。

 

「ナオミ。貴女も起きたの?」

 

隣を見るとアンジュが起きていた。どうやら同じタイミングで目覚めたらしい。周囲にはいる人といない人とでそれなりに分かれている。

 

二人は眠れない為に、島を散策する事にした。するとある洞窟の前で二人は足を止めた。

 

「ほらこの洞窟。確か初めてシルフィーと出会った場所なんだよ。ほら、この奥にオメガが置かれてた」

 

昔、初めて出会った時の頃を懐かしんでいる。あの時の出来事が鮮明に蘇る。やがて二人は、砂浜に打ち捨てられていたグレイブの元へと出向いた。するとそこには先客がいた。 そこではシオンが刀の素振りしていた。

 

「シオン」

 

「なんだお前達、眠れないのか?」

 

「まぁ、チャット目が覚めたから散策してるだけ。そっちは?」

 

「俺は先生からの稽古も終わったし、自主練してるだけだ」

 

シオンは素振りをやめ、三人がその場に腰を下ろす。何を話すでも無く、時間だけが過ぎていった。やがてそんな雰囲気も、ある一言で掻き消された。

 

「・・・いい機会だ。アンジュ。ナオミ。お前達に聞きたい事がある」

 

シオンの表情はこれまでにない程に真面目なものになっている。あまりの真面目さに少し後退りする。

 

「シルフィーがミスルギで魔人化を発動し、アルゼナルを追放された時、何故シルフィーを庇えた?」

 

「えっ?」

 

「あの場面は普通に考えれば残っていたメンバーの意見が正しい。彼女を追い出そうとするのは妥当な判断だ。なのにお前は、あいつを最後まで庇い続けた。一体何が、お前達をそうさせたんだ?」

 

「そんな、特に理由なんてないよ。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「もし、私とシルフィーの立場が逆だったら、きっと同じ事をしてくれたと思う。だから、私も、それと同じ事をする。ただそれだけだよ」

 

「そんな事で」

 

「正直、私自身も少し驚いてる。でも、仲間を・・・友達を助けるのは当たり前だと思ったから・・・」

 

「・・・そうか。アンジュ。ナオミ。改めて礼を言わせてくれ。あの子の側に居続けてやってくれて、ありがとう。俺たちと違ってあいつも、本当の意味での友人に、仲間に出会えたのはお前達のおかげだ」

 

それだけ言うと、シオンは黙って目を閉じた。すると目の前の空間にゲートが開かれた。

 

「ここを通り抜ければ、アルゼナルに辿り着く」

 

「えっ?」

 

「お前達がこれ以上、俺たちと関わる必要はない。お前達には待っている人が、心配してる人がいるんじゃないか?なら戻って無事を伝えてやれ。機体の方も、直ぐに送り出すつもりだ」

 

「・・・」

 

二人は顔を見合わせた。此処を通れば向こうの世界に、モモカやヒルダ達の元へと戻れるのだ。あの後アルゼナルは、他のみんなはどうしたのか。聞きたい事や疑問は色々と溢れ出てくる。

 

「今すぐに戻るべきなのかしら、私達・・・」

 

その答えに二人は考えていた。そんな時だ。

 

「おっシオン。それにアンジュとナオミ。此処で何してるん?」

 

そこに、不知火達がやってきた。これでシルフィーとカリス。ミリィ以外の魔人族が揃ったのだ。そして不知火達は、ある人物と一緒に来た。

 

「あらサラ子にアスカ。貴女達が彼等といるなんて意外ね」

 

「いえ、私達は向こうで彼の剣を見て、そこで少しばかり手解きを受けていたのですよ」

 

「俺達も同じ理由だ。先生に久しぶりに稽古をつけてもらってたよ」

 

「いやぁ。サラマンディーネは結構いい線いってるぜ。上手く鍛えればシオンを越すんじゃないか」

 

「なっ!?何を言うんです先生!」

 

「ははっ!悔しいかシオン。ならどんどん精進するんだな。それはさておき、アスカ?何か悩み事があるのかか?」

 

「何を言って!私は悩んでなどいない!」

 

「嘘つけ。技にも顔にも出てるぜ。悩み事中って」

 

「・・・本当の事を言うと、少しな。何がなんだかわからなくなってしまって・・・魔人族。別世界よりこの世界を侵略する為に現れた悪魔の集団。エンブリヲと共謀し、始祖たるアウラを拐った邪悪な存在・・・なのに、我々は偽りを教えられてきて・・・」

 

「そもそも悪ってなんだ?」

 

「えっ?」

 

余りにも予想外の質問に皆が間の抜けた声を上げた。不知火は構わず続けた。

 

「悪ってなんだ?自分の中の正義に当て嵌まらない事は全て悪なのか?」

 

「それは・・・」

 

「俺は龍魔大戦の際は腕輪の中で眠りについていた。だからその戦争については口出しをする権利は無いに等しい。でもよ、俺達魔人族を滅ぼそうとするお前達は、俺達からすれば悪に当て嵌まる。自分の行為を悪だと考えた事があるのか?」

 

「そんな事考える訳がない!私達はドラゴンの民に・・・」

 

「きっと、シオン達もほぼ同じ理由で戦ったんじゃないかしら?民の為に。自分達が正義、相手は悪だと決めつけて」

 

「・・・」

 

それにシオン達は何もいえなかった。

 

「一つだけ教えておくわ。自分の中の正義は、絶対の正義じゃない。そしてその反対は悪ではなく、他者の正義。この世に絶対の正義なんて初めから存在しない 」

 

エリスが付け加える風に言う。その言葉に周囲は何も言えなくなってしまった。これまでふざけた雰囲気を出していた二人だが、年長らしくそれなりに考えて生きてきたらしい。

 

「・・・それにしても、まさか数百年経っても、アウラがここまで信奉されてるとは、嬉しい様な哀しいような」

 

「どういう事です?」

 

すると不知火がグレイブに寄りかかり上を見上げた。その表情は何処か昔を懐かしんでいる表情であったが、その表情は時折曇っていた。やがて彼は口を開いた。

 

「俺がアウラと出会った時、あいつは自殺しようとしていた」

 

「なっ!?アウラが!?」

 

その言葉に、ドラゴン側は驚きの表情を浮かべた。

 

「あぁ。アウラと会った第一印象は、上層部の連中に利用され、人間としてボロボロになった神輿。

少なくても俺にはそう見えた・・・」

 

「・・・あの、良ければ聞かせてください。貴方とアウラの出会いについて」

 

「いいぜ、この話は娘達にも話してない話だ。この話を知ってるのは俺とアウラ。それにファントムだけだ。そしてこれから話す事は、この場にいる俺達だけの秘密だ」

 

こうして不知火は、アウラとの出会いについて語り出した。

 

 

 

 

 

今から数百年前。満月が綺麗なある夜、D.warsによって人類が消え、静寂に包まれたこの世界。そんな中を爆走する一台のバイクがあった。

 

『いやぁ、今日も大漁大量。ほんと、外の世界は面白い物で溢れてるぜ。ヒャッハー!!!いいねファントムちゃん!!!もっともっと飛ばせぇ!!』

 

『はい!ご主人様!!』

 

この男、不知火は外の世界の物を物色し、気に入ったものを収集していた。今搭乗しているファントムも、外の世界の軍基地の最深部に捨て置かれた遺物である。それに自分好みのAIを取り付けたのだ。

 

『もっと速くし・・・待て止まれぇ!!あーっ!!!』

 

急ブレーキによって身体は前のめりとなり、機体から放り出される。不知火は地面に寝そべりながら、ある一箇所見上げていた。

 

月明かりに照らされた滝壺付近の高台に、一人の女性がいた。月明かりに映し出されたそれは、透き通る様な白い肌、そしてその肌に負けないほど白くて長い髪。一言で表すなら、美人だ。

 

『やべぇ、めっちゃタイプ』

 

不知火はその女性に見惚れていた。見てると幻想の世界に吸い込まれそうであった。だが次の女性の行動が、不知火を現実へと引き戻す。

 

その女性は、なんと滝壺に身を投げ入れたのだ。

 

『ちょちょちょ、待て待て待て待て待て!!!』

 

慌てて不知火は身体を跳ね起こし、その滝壺目掛けて飛び込んだ。なんとかその女性を手に抱え、滝壺から脱出する。

 

『おいおいあんた大丈夫か?飛び込みの練習ならもっと他所でやれよ』

 

『放っておいてください!!』

 

その女性は不知火の手を跳ね除けた。

 

『私を放っておいてください!!もう私に構わないで!!』

 

『なんだなんだ?悩みか?話してみろよ』

 

『だから放っておいてください!!』

 

『無ー理ー!こんな綺麗な人を放っておくなんて。とりあえず身体暖める為に火を焚くか。何か燃やせるもの・・・ニヤリ』

 

『・・・!?』

 

この時アウラが気がついた。自身の纏っていた服が、水によって透けている事に。そして不知火は食い入る様にそれをガン見していた。

 

『・・・成る程。いい胸だ』

 

『!!!ば・・・バカァ!!!』

 

【パチーン!】

 

水に濡れた手で頬を叩く音と、男の『いいビンタだ』と言う声が、夜空に響いては、掻き消された。

 

数分後、軽く焚き火を囲みながら、二人が向かい合っている。

 

『俺様は不知火。神がこの世に与えた天才さ!』

 

天災の間違いだろう。この男は数百年前から自重という言葉を知らないらしい。

 

『・・・アウラ。私はアウラです・・・一つだけ教えてください。何故私を助けたのです?貴方は、魔人族では・・・』

 

『何言ってんだ。美しい女性を助けるのに、理由がいるか?美しさに、ドラゴンも魔人族も関係ねぇ。今度はこちらの質問だ。なんであんなバカな真似をしたんだ?見るからに発作的行動だとは思うが』

 

『・・・誰も、私を必要となんかしてないんです。だからあのまま放っておいて欲しかった』

 

彼女は幼い頃から、大人達と機械に囲まれて育ってきた。幼い頃から、大人に混じって色々な研究をしていた。

 

でも、それは只々孤独で辛かった。周囲の人達は私を変な人を見る目で見てきた。私の両親も、そんな私を養子に出す形で実質手放した。

 

『だから、最初のドラゴンになる実験の時は、本当に嬉しかった。私を必要としてくれた事に・・・でも、わかったんです。みんなが求めてるのは、私の頭脳と名声だけ。上層部は私の頭脳を天才だと言い、私を象徴的に祭り上げ、そして市民達はそれに乗じる』

 

誰も私自身を見てくれない。じゃあ、私がこの場にいる意味はあるのか?そんな考えが、頭の、思考をドロドロに溶かして行った。

 

そんな中、アウラにある話が舞い込んできた。お見合い?そんな物ではない。アウラの試験官ベビーを作る為の卵子の提供である。

 

そしてこの時の、上層部の言葉が決定打となった。

 

『アウラの子供なら、きっとアウラ以上の素晴らしい天才に育つはずです。素晴らしい頭脳が、きっと産まれるはずです』

 

あくまで上が求めてるのは頭脳だけ。私自身の事はどうでもいい。神輿が彼女から産まれてくる赤子に入れ替わるだけ。

 

『なるほど。それで思い詰めたのか・・・よし分かった!乗りな!』

 

『えっ!ちょっと!』

 

不知火はアウラの手を掴むと、自身の背後に乗せ、ファントムを走り出させていた。

 

『綺麗な女性と走り出すぅ!行き先もぉ、わからぬままぁ!!』

 

謎の歌を歌いながら、不知火はファントムを飛ばし、何処かへと走り出した。歌が終わると、不知火は急に声のトーンを変えた。

 

『なぁアウラ。少し付きあってくれ。俺の与太話にな』

 

突然不知火が語り出した。走りながらの為に顔は見えないが、先程までのふざけた雰囲気でない事は確かであった。

 

『俺がなんであの場所にいたと思う?それはな、

だーれも俺様を必要としてくれないから」

 

『何て言うのかな。周りから見たら、俺の頭のネジは数本外れてんじゃねぇか。時々弟子にまでそんな眼を向けられる時がある。あんた一人で何とかなる。俺たちいらなくね?そんな感じで疎まれちまってさ・・・なぁ、確か誰かにあんた自信を必要とされたかったんだろ?』

 

『・・・えぇっ』

 

『よし!俺はお前が必要だ!今から俺が、お前の友達だ。よろしく!』

 

『・・・風に飛ばん el ragna 運命と契り交わして、風に行かん el ragna 轟きし翼・・・』

 

急にアウラの歌う永遠語りを、不知火は黙って聞いていた。やがてその歌も終わった。

 

『いい歌だな。向こうの国の賛美歌か?』

 

『・・・似たような物ですね』

 

この後、暫くシオンばバイクを飛ばし続けていた。誰もいない外の世界。そこも今だけは、この二人だけの世界であった。やがて月が顔を沈め、太陽が顔を出そうとしていた。

 

『あっ、そろそろ戻らないといけないので』

 

そう言うとアウラは背中の翼を広げ、青空へと飛び立っていった。そしてある程度浮遊したところで、こちらを振り返った。

 

『あのっ!・・・来月の同じ日に、また同じ場所で会えますか?』

 

『・・・あぁ。喜んで』

 

その言葉を聞き届けると、アウラは笑顔を向け、都へと戻っていった。

 

「それが、貴方とアウラの初めての出会い」

 

「あぁ。その後はお互いに夜遅く、こっそり出会う様なったな。国交断絶とかそんなんはなかったし、会うこと自体は違法でもなんでもねぇ」

 

「でもそんなある日。一.二年くらいたった頃、遂にこの事が両方の一部にバレた。そして最悪な事に、その現場に両方ともばったり出会った。あのまま行けばその場で戦争待ったなしだったな」

 

不知火は弟子達を見た。気まずそうに視線を晒す

辺り、事実なのだろう。

 

「でも、ある既成事実がそれを何とか防いでくれた。その時にはな、アウラのお腹の中にはもう新たな命が宿ってたんだよ」

 

「アウラの娘。それが・・・」

 

ある予想がたった。次の言葉はその予想通りであった。

 

「あぁ。リラ・・・シルフィーの事だ。言っておくが強姦なんかしてねぇ。互いの愛の結晶だ。当然ドラゴン側からすれば大パニック。堕ろさせ様としたが、その中の一人がつい本音で語ってしまったんだ」

 

「『偶像の分際で!黙ってこちらの言う通りに従え!!』ってね。その言葉を聞いた途端、アウラの奴、烈火の如く怒ってたよ」

 

「あまりの迫力にドラゴン側は尻すぼみ。俺との駆け落ちまで交渉カードに使ってさ。周囲に散々アウラは偉大なんて吹き込んでそのトップが失踪。上層部的には笑えないな。だからやむを得ずに、この事実を知っているその場のメンバーで密約を結ぶ事にした」

 

「その結果、なんとか産み落とす事が許された。産んだ後、アウラは研究に取り組み子育てはこちらで行う事、そして子供を産み落としたが最後、アウラと俺は二度と会わない事を条件にな」

 

それを言い終わると、不知火は手元にあった水を一気に飲み干した。

 

「そんな事が昔に・・・」

 

「俺はそれを呑んだ。でもそこからも結構荒れたぜ。相変わらずドラゴン側は意地でも胎児を腹の中の内に始末しようとあの手この手を尽くしてきた。ある時は料理に工場廃液を混ぜ込み喰わせようとし、またある時は寝ている最中に強引に人工中絶を狙いにも来た」

 

「あの頃は激しかったな。俺様が24時間、側についていながら毒味なり撃退なり色々してきたな。その後、何とかアウラは無事こどもを出産。女の子ということもあるが、何よりドラグニウムによる対組織崩壊の問題があり、赤子はドラゴンの方で育てられる事になった」

 

そう言うと不知火は腰を上げ、その場を立ち去った。そして姿が見えなくなる寸前、こちらを向き言った。

 

「・・・でもよ、これだけは言っておくぜ、俺はドラゴンだの魔人族だ関係なくアウラを愛してる。それは娘達についても同じだ。あいつらは俺の家族だからな。ドラゴンだの捨て子だの、くだらない色眼鏡なんか掛けて見ねぇよ」

 

「そんな理由で・・・」

 

「親ってのは、我が子が一番可愛いもんなのさ。たとえそれがどんな大問題を抱えてようと、罪人になろうと、親だけは世界を敵に回してでも最後の最後まで、我が子の事を愛してやるもんさ」

 

それだけ言うと不知火の姿は完全に闇に溶けていき、見えなくなった。残されたメンバーは黙って先程の言葉を聞いていた。やがてアンジュが微笑を浮かべた。

 

「あの雰囲気・・・似てたわ。両親に」

 

「アンジュの、お父さんたちの事?」

 

「えぇ。両親は私がノーマだと知りながら、それを隠して育ててきてくれた。私の事を愛してくれてた。あの男からも同じ雰囲気が出てた。立場も生まれも関係なく、純粋に自分の娘を愛し続けている。なのにあんた達は・・・一体何を争っているのか」

 

アンジュがドラゴンと魔人族を一瞥する。

 

「敵を滅ぼすのに理由がいるのか?」

 

「その常識を疑う事を覚えなさい。自分の見ている世界が変わるんじゃないかしら?じゃあ、お休み」

 

アンジュがそう言うと、それから先は誰も何も言わなかった。静な空間に再び、寝息が聞こえてきただけであった。

 

(・・・常識を疑え・・・か・・・確かにドラゴン側の対応は幾らなんでも不自然だ。いくら敵国同然の血を引いてるとはいえ、仮にも自分達の大将のこどもをそこまでして殺そうとするか?)

 

(なんでドラゴン達は、そこまで魔人族を滅ぼそうとするのかしら・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからどれくらい時間が経っただろうか。皆が

スマートブレインの地下格納庫に集まっていた。

 

「アンジュ達。それがお前達の出した答えなんだな」

 

「えぇ。ここまで関わった以上、私はこの結末を最後まで見届ける。中途半端に投げ出すのは好きじゃない。みんなも、同じ覚悟よ」

 

皆の方を一度向く。皆、アンジュと同じ意志の目をしていた。皆が機体に搭乗する。機体のないヴィヴィアンはタスクの後部座席に回った。

 

「それじゃあいくぞ!いざ、海底洞窟へ!!!」

 

機体前方にゲートが開かれ、皆の機体がその中に飛び込んだ。そして穴は塞がってゆき、やがて空間は元に戻っていった。

 

 





今回の話を見ると、なんかドラゴン(議会メンバー)を悪者みたいに書いてる風な気分になってしまいました。

違うんです!私はドラゴンを悪く書きたいんじゃないんです!ただこうでも書かないと不知火とアウラの出会いに話的な印象が持たせられなかったんです!

後アンジュ達の一件に関しても、流石に原作キャラ無しだと、回想場面でも無いのにこれ必要あるの?な事態を避ける為に取った処置です。

全て私の力量不足が原因です!本当に、すいませんでした!

(謝っておいてこれと似た展開が後にもう一度あると言う事実)

なので先にどの様な内容なのか、ある言葉を出し、その意味を理解した上で今後のオリジナルシナリオ回の閲覧に臨んで下さい。そして、以下の事が出来るなら、行ってください。

・【わたしは地球人】これを調べてください。(出来るなら試聴して欲しい)今後の話はこのエピソードに私なりに手を加えた内容になります。

この時点で人によっては今後の話を察した方もいるかもしれませんね。では最後に、7章の今後の展開を知ってる友人からのありがたい言葉。

「うん。作品に君なりの改変を加えた点は良しとしよう。でも、せめてもう少し穏便なシナリオを元にしてくれ(私は地球人視聴直後)」

そして突然で申し訳ありませんが、暫く執筆活動を休ませてもらいます。この作品のモチベーションが中々上がらない為、休養期間とする為です。


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第56話 エクリプスの腕輪



前回暫く休むと言いましたが、何とか1話だけ創り上げました。投稿後は今度こそ暫くの間、モチベーションを取り戻す為に執筆活動を休みます。出来れば、12月の半ばごろに再開させたいですね。

そしてもう一つ、本編に関して皆様に謝らなければならない事があります。

実は23話において、シルフィーの精神世界内の海底洞窟内で存在した謎めいた文なのですが、昔の魔人族とドラゴンの共存不可の設定の変更に伴い、無かった事にしました。

と言うのも、真実のアカシックレコードの内容を魔人族の中で、唯一不知火は知っており、その上で封印したと言うのが初期設定でした。

それが、共存していた時期が無くなったために、こちらも無くさないと、レコード内容的に不自然になってしまう為、この様な処置を取りました。その結果として、色々と無駄になってしまいました。

皆様、誠に申し訳ありませんでした。

それでは、本編へどうぞ。



 

 

「着いたぞ、ここが海底洞窟。俺やリラ。そしてミリィが住んでいた家だ」

 

海底洞窟。かつて不知火がリラを引き取った際、ドラゴンの存在を恐れた一部の魔人族が暴徒化。本来の家は夜に火をつけられ全焼した。その際、リラは家を飛び出し、半年の月日が流れ、辿り着いた先がここである。(細かい説明は後の機会に行いたい)

 

「ほらお前ら、いつまで気分悪くなってんだ?

シャキッとせいシャキッと!」

 

「うげぇ、気持ち悪い・・・」

 

「タスクあんたねぇ。なんで揺れるたびに誰かの

股間にダイブしてんのよ・・・」

 

「しょうがないだろ。不可抗力だし・・・うっぷ」

 

しかし、アンジュ達は全員グロッキー状態であった。

 

機体で水深10000kmを降りるのは流石に不可能だった為、オメガとファントムを機体の番として、人間だけで行く事となった。

 

だが洞窟は遥か海底の底だ。肉体構造が特殊である魔人族とは違い、アンジュ達普通の人間やドラゴンでは体が耐えられない。そこでやむなく、ドミニクの魔術で大地の箱を造り、その中に入れてここまで運搬してきたのだ。無論、箱は激しく揺れる。

空気?水圧?知らんな。

 

そこからの道中もこれまた前途多難であった。蝙蝠に出くわすは落石で閉じ込めかけられるわ。あまつさえパーティが分断で逸れるは。恐らく装備なしで挑むサバイバル生活でもここまで過酷ではないだろう。

 

こうして数時間の探索後、やがて開けた空間が目の前に写し出された。そこにはクリスマスツリーにチキン。スプーンにフォーク、皿にパーティセットなど、楽しい雰囲気が漂う部屋であった。

 

だがそれも数百年前の話。それらは全てが色あせており、まるで時が止まってしまった様であった。あの日から、ずっと。

 

「・・・記憶の通りで何も変わってないのね。あの日から」

 

「・・・うん。あの日、パパが腕輪で自らを封印して、シルフィーが魔人族から追放されたあの日、軍はこの周辺の土地を二束三文の金で買い占め、私有地にした。そうしてシルフィーの帰る家をなくして、外で野垂れ死にさせる為。私やシオン達も学校や軍の寮に入った事で、誰もここには来なかった」

 

ミリィが悔し気に地面に視線をおろす。その肩を、不知火がポンと叩いた。

 

「過去に浸るのは後でも出来る。今は腕輪を探すぞ」

 

不知火が前を見た。それに続き皆も目の前を見る。目の前には重々しく雰囲気が漂う扉が一つ。この先が宝物庫なのだ。

 

「この岩の先が俺たちが大切な物を入れてる宝物庫だ。鍵は・・・まぁいいか。ドリャァァァ!!!」

 

不知火の力任せによって扉はこじ開けられた。扉の隙間からは、眩しい様な光が溢れてきた。これまで洞窟にあった光苔の光の度合いを遥かに超えている。

 

「なっ!なにこれ・・・」

 

「何か、見えるよ・・・」

 

眩い光を放つ物体が、遂にその全貌を表した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう。皆の目に、黄金の不知火の像が映り込んだのだ。

 

「・・・は?なにこれ」

 

「おおっ!この像まだ残ってたか。俺様が以前ギャンブルでバカ勝ちした時、余った金でノリと勢いで作っちゃったんだよ。それにしても、ほんと俺様そっくりな凛々しい黄金像だなぁ。そう思うだろ、なぁ兄弟!ははっ!!」

 

懐かしげに黄金像に話しかけるナルシストが一人。

 

「うっわぁ。趣味悪っ・・・」

 

「ほっときなさい。その人に常識は効果なしよ」

 

「そうだな。先生にはこの世のあらゆる理屈も不条理も、俺ルールで簡単に捻じ伏せてしまうだろうな」

 

周囲には他にも金で作られた像がちらほら散見していた。はっきり言ってこの男の成金的な趣味にみんな軽くではなく引いてた。

 

「さて、ここに来た目的の真の腕輪探し。何処にあるか探したいが、なんでこんなにごちゃごちゃしてるんだ!」

 

そもそも彼女達は真の腕輪の見た目を知らない。唯一知っているのはシルフィーだけだ。皆シルフィーが付けていた物と似ていると勝手に決めつけているだけなのだ。

 

幸い宝物庫の中の物は少ない為、とりあえず皆、目についた物を手当たり次第に物色していった。

 

「こっ!これは!!!」

 

「先生!腕輪が見つかったんですか!?」

 

「俺様の工具箱!!こんな所にあったのか!!」

 

【ズコーッ】

 

「これでファントムを真の姿にしてやれるぜ!それだけじゃない!俺様の愛刀の村正と村雨!!こんな所にしまってたのかぁ!よしっ!刃こぼれしてない。これならまだまだ実戦で使える!」

 

「先生!いい加減に真面目に探して・・・て、ちょ、ちょっと待て!これ、私の日記帳じゃないか!なんでこんなところに!」

 

「あぁ!これ俺のお気に入りだった革ジャン!!」

 

「これ。私の帽子。なんで?こんなところに?」

 

「・・・深く探せば、忘れてただけでもっと面白い物でてくんじゃないか!?」

 

こうなってしまうと、魔人族は腕輪探しをほったらかし宝探しへと移ってしまっていた。今回の騒動で一番行動すべき種族がこれである。多分、一番あかん展開である。

 

「ったく。こいつらときたら・・・シルフィー。あんただけでも・・・」

 

その時、静な音が洞窟に響いた。

 

「〜♪〜♪」

 

「え?このメロディー・・・」

 

「永遠語り!」

 

音の発生源に注目する。地面に置かれたプレゼントボックス。その中からシルフィーがオルゴールの様な小箱を取り出し、そこから永遠語りのメロディーが流れてきている。シルフィーが朧げな目でそれを見ている。

 

「・・・お母さん」

 

その懐かしい音は、彼女を昔の記憶へと誘った。

 

 

 

彼女がドラゴンに育てられていた頃、アウラは仕事で子育てはベビーシッターがしていた。これはあくまで外に向けての言い分である。

 

実際の所、彼女は研究員からモルモット同然の扱いを受けながら育った。ベビーシッターも、あくまで口止め料で色をつけた値段に釣られた者達が育ててきた。

 

そんな連中に愛情などあるわけない。規定の時間に規定の量の餌と薬を与える。そんな風に彼女は物の様に扱われてきた。

 

そんなある日、研究員が普段より劇薬の量を多く注入した。これが悲劇の引き金であった。その薬は致死量に達し、彼女の魔人化が発動。その結果が、第一のレーテの悲劇である。

 

(・・・毎日変な薬を打ち込まれてらよく他人に殴られた。見えない位置を重点的に狙って、とても痛かった・・・でも、お母さんが寝る時に歌ってくれたこの歌だけは、本当に安らいだ。それこそ、本当に、一日の疲れが取れた様に・・・)

 

「◯◯。誕生日おめでとう。これ、私からのお祝いよ」

 

名前を呼ばれた様な気がした。遥か昔に忘れた自分の本当の名前。魔人族の所で育てられた際、不知火は彼女にリラと名付けた。本当の名前は、いつか家族が揃うその時まで自分が預かる。だからここでは、リラとして一から始めればいい。ミリィという新しい家族と共に・・・

 

「シルフィー。大丈夫?」

 

その言葉が彼女を現実へと引き戻す。見るとオルゴールの音色はもう止まっていた。

 

「・・・あっ、ごめん。腕輪探しよね。今見つけた・・・あの日。都で別れる際に、アウラが私にくれた箱」

 

プレゼントボックスの中には、一回り大きめの箱が置かれていた。ガラクタ探しに興じていた魔人族の面々も、その箱に注目する。箱の開錠を行うと、中には二つの腕輪が収められていた。一つは太陽を模した腕輪であり、もう一つは月を模した腕輪である。

 

そして腕輪の上に一つの紙が置かれており、こう書かれていた。

 

「日蝕の腕輪に、月蝕の腕輪・・・」

 

「これが、真実のアカシックレコードなのか?」

 

それは腕輪であった。何処からどう見ても腕輪であった。シルフィーとリラがこれまでつけてきた太陽の腕輪と月の腕輪。それと何ら変わりのない物である。

 

別に何かしらの情報が含まれている様には見えない。側面などにもそれらしきものはない。

 

となると、残された隠し場所は一つしかない。

 

「確か、不知火達は腕輪の中に封印されてたのよね。ならそのアカシックレコードも腕輪の中にあるんじゃないかしら?」

 

「ん?この箱・・・」

 

【ビーっ!ビーッ!ビーッ!】

 

その時、突然不知火の持つ通信機がけたたましく鳴り響いた。洞窟内で反響した後に驚き、腕輪の箱を落とし、慌てて拾い上げた。

 

「どうした!?何事だ!」

 

「黒の部隊だ!奴等がこちらの所在地をかぎつけてきた!!」

 

「嗅ぎつけただと!直ぐに戻らないと!」

 

オメガ側にはオメガとファントムしか残されていない。DEMも龍神器もパラメイル系もあくまで鉄の塊。乗り手がなくてな意味がないのだ。

 

「ゲート!・・・!伏せろ!!」

 

ゲートを開いた直後、流れ弾の様な火炎弾がゲートの向こう側から飛んできた。慌てて皆が回避する。もう戦闘は始まってしまっているのだ。

 

「こっちだ!一番早く外に出られる!」

 

皆が近くの非常口と書かれた穴をくぐり抜けた。そこには何かしらの窪みと、スイッチの様な物が備わっていた。それを勢いよく押し付ける。すると突然地面がぐらぐらと揺れ始めた。

 

「みんな、下半身に力を込めといたほうがいいよ」

 

何故かと尋ねるより早く、全員の下半身に突然熱湯が襲い掛かった。

 

「あちち!!何よこれ!」

 

「あのスイッチは海底火山を噴火させるものだ。その噴火の際に放出するエネルギーで、この間欠泉を噴出させたんだ!」

 

「熱い熱い熱い!!!」

 

「もう少しで海中だ!そしたらすぐに海面に浮上する!それまで耐えろ!我慢しろ!」

 

一瞬、湯気と共に身体に冷たい水が被さるも、直ぐにそれらは空気へと触れる。シルフィー達は全員、勢いよく海面から宙へと放り出された所をオメガによって回収された。

 

「オメガ!戦況は!?」

 

「今はファントムが抑えてるが、時期にドラゴンとの物量差で押し切られる!機体の守りだってしてる!とにかく早く戻るぞ!!」

 

既に砂浜に黒煙が立ち上る激戦区。そこではファントムが一機だけで戦っていた。そしてそいつを集中的に攻撃する、巨大な影。その影から、砲塔が此方へと向けられた直後、鉛玉が放たれた。

 

急降下でなんとかそれを避けてゆく。

 

「カーネイジドラゴン!あいつもいやがる!!」

 

「ヒャハハハッ!!俺様を殴り飛ばした魔人族の人間!!お前殺す!その為に身体を久しぶりに改造した!!殺す!殺す!!コロスゥゥゥ!!!」

 

「俺様を殺すだと?・・・俺様を見下ろすその姿勢、気に入らんな」

 

「先生!睨みあいならファントムに乗ってからお願いします!」

 

「サラ子!私達も早く乗り込むわよ!」

 

「ええっ!」

 

彼女達が機体に乗り込んだ直後、時を同じくして黒の部隊の本体がやってきた。その中には、ロシェンの姿もあった。

 

「これはこれは反逆者ども。その様子だと、お互いに探し物を当てた様だな」

 

「何が反逆者か!ロシェン!ドラゴン側にエンブリヲの内通者がいたとは!」

 

するとロシェンの顔が一瞬動揺するも、直ぐに元に戻った。

 

「ほうっ。何処で知ったのかは聞きませんがこの際です。答えてあげましょう。貴女の言う通り、私はエンブリヲ側に情報をリークする為にこちらの世界に残ったのです」

 

「ついでに教えてあげましょう。私はエンブリヲとある協定を密かに結んでいたのですよ。向こうのドラグニウムを維持する為にドラゴンを生け贄として送り出すと言うね。その代わり、エンブリヲにはこちらの世界を攻撃しないと約束させてね」

 

「生け贄だと!まさかこれまでのドラゴン達は!」

 

「そうです。アウラの救出などではなく、初めからエンブリヲ側に送り出す為の処置に過ぎないのですよ。そしてその最終的な処理をするのが向こうの世界の軍人。アンジュ。貴女達の事ですよ」

 

「では、アウラを救う為に向こうの世界で散ったドラゴン達は、実は全くの無駄死にだったのか!?」

 

「その通りです。そしてそれは、これからも続いて行く事となる。叶わぬ願いを抱きながら、ドラゴン達には死んでもらう」

 

「その清々しいまでの横暴さ。普通なら即死罪となるべき暴挙なのに、隠れる事なく普通にトップで威張り散らして。どうやらロシェンは、議会を含めて完全に国を乗っ取ったらしいわね」

 

「その通りだ、裏切り者のアスカ。お前には少し目をかけてやっていたが・・・まぁその性格でいずれ対立するとは予想してたさ。まぁいい。議会のメンバーもいずれは生贄となってもらう。だが今は議会の権威がまだ必要なんだ。議会の命令という建前で行動する為に」

 

「ですがそれも今だけ。いずれは議会も私の前に跪く。その為にも真実のアカシックレコードを回収しなければな・・・あの日。第一のレーテの悲劇の時、都から消えたものが3つある。人の命と、真実のアカシックレコードが。アウラは火事で燃え尽きたと言っていたが、それは嘘だ。三つ目に消えた物、娘への誕生日プレゼントに用意していた腕輪。その中にあると私は確信している。腕輪を渡せ」

 

「渡すと思うのかしら?」

 

「・・・すんなり渡すとは思いません。なので絡め手を使います。アンジュ達とサラマンディーネ達は、これを見てもそんな偉そうな口が聞けますかな?」

 

すると上空を旋回していたドラゴンから、何かが落とされた。落とされたそれはカーネイジ級の背面にあるローラー部分に挟まった。その部分に挟まった鳥籠の様な檻。その中にある人物をアンジュ達は知っていた。ヴィヴィアンの母であるラミアさんがいた。

 

「らっ、ラミアさん!?」

 

「お母さん!!」

 

「ミィ!サマンディーネ様!それにアンジュさん達!」

 

「娘達はテロリストではないと声高らかに言っていたのでね。本来なら治安を乱す逆賊として即刻処刑だが、利用価値がある為に生かしておいたのだよ」

 

「守るべき民すら、この様に利用するとは!」

 

「連中、本当に軍から私兵に成り下がった見たいね!」

 

「貴様は、何処までも見下げ果てた人間だな」

 

今の状況ではこれすら負け犬の遠吠えに劣る。その事は皆が承知していた。それは魔人族にも同じ事であった。この場の主導権は完全に相手側に持っていかれてるのだ。

 

「さて、このローラーが回り出せば、檻は簡単に砕け散るだろう。当然中にいるラミア諸共ね。これが何を意味するか、言わなくてとわかるよね?」

 

「人質ねぇ。でもあたしらには関係ないね!行くぞ!」

 

「よせエセル!」

 

魔人族で、ライフルを向けるエセルのβをフリードのαで静止させる。

 

「でも!」

 

「ここであの人を見殺しにしたら、アンジュ達やドラゴン達との協力関係は即座に崩壊する。そうなったら仮にこの場を乗り越えても、結果はロシェンの一人勝ちだぞ!」

 

「・・・くそっ!!」

 

忌々しげに手にしていたライフルを叩きつける。他の機体も銃を降ろす。するとシルフィーがコックピットから飛び降りた。その手には腕輪の入った箱がある。中には二つの腕輪も収められている。

 

「・・・この腕輪との交換。それが狙いね」

 

「話が早くて助かる。さぁ、渡してもらおうか。この人質と交換だ」

 

その一言で、皆の視線が腕輪の所持者であるシルフィーへと集まった。相手の性格などを考えても、これはこちら側に悪影響しか生まない。何より、この手のやり方をする悪党で、この交渉が成立した試しなど恐らくないだろう。

 

「やめておきなさい!どうせ腕輪を手に入れたら、皆殺しでラミアさんも殺す気よ!」

 

「そうだ!あいつに心は無い!!そんな約束、守るわけがない!直ぐに無かったことにするぞ!」

 

「・・・でも、アンジュ達は命の危険を冒してまで、私の精神世界に来てくれた。なら今度は、私がその危険を冒す番だよね」

 

「シルフィー・・・」

 

「腕輪はここにある!これとラミアさんとの交換がお望みね!」

 

 





本来ならこの回で第一のレーテの悲劇の回想と、リラの家出、そしてミリィを養女として迎えいる回想を行う予定でしたが、挫折しました。またの機会に、行います。

てか今になって気づいた。これ60話までに終わらないわ。考えてみればメビウスの方は前編後編で分けて、その途中で原作をほぼ消化させてから、後編に移ってたな。

とにかく、長ったらしくなるかもしれませんが、何卒よろしくお願いします!

そして次回からオリジナルシナリオ編終了まで、ここに捕捉的なコーナーを作ります!(予定では後6.7話くらいを目処にしています)没になった設定では、どうなっていたのかなど。そんな簡単な物ですけど。

最後に一言。皆さんはこれまでの魔人族達の設定で、無茶苦茶な箇所が多いと思っている。私はそう思います。(魔人化はドラゴンもしてるまだしも、クラークの三原則っぽさを出す為の、機械文明より魔術文明の発達設定は完全に切り捨てるべきだったと思ってる)

ですが、そこは何とか、広い心で受け止めてあげてください。ていうか次回あたりに設定が固まったエリスが大暴れする予定なので・・・なんとか、受け止めてあげてください。


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