幻想の退魔録〜幻想郷の世界へと誘われて 外伝〜 ( 白黒魂粉)
しおりを挟む

誓いの剣士
1話


1話目、恐らく長編になると思われ、良ければ最後まで読んでみて下さい


人間の里から少し離れた所にたつ一軒の木造建築。

 

それはお世辞にも人間の里の家と同じ造りとは言えなかった。

 

なぜならそれは…ここに住む住人というのは、日々妖怪や悪霊の類いを清める……のではなく滅ぼすことを生業として生きる職業である…

 

いわゆる『退魔師』と呼ばれるものだからだ。

 

退魔師はまず家に帰ってこない。と言ってもたった1週間ほど仕事で留守にするだけなのだが。

それ故か家にあるものも質素なもので、料理等も味を気にしない雑なものばかり食していたという。

 

退魔師は代々引き継がれてきた。

 

今の退魔師の名前は久國(ひさく)。

 

彼は幼い頃に両親を妖怪に殺され、身寄りが居なかったため、寺に預けられた。

 

寺で生活をして数年たった頃…12になった彼の元へ幻想郷の管理者を名乗る妖怪が現れる。

 

「貴方……両親の仇を討ちたくはない?」

 

その言葉に久國は少し躊躇った。

そしてその答えに拒否を表したのだ。

「今はもうここの生活で十分だ。」と。

だが、現実は無情であり、時に残酷なもので…

 

「もっとも、貴方の答えなど興味もありませんけどね?それに……寺の連中もこの案には賛成していましたし♪」

 

次の瞬間久國はスキマに引きずり込まれる。

 

突然すぎることに彼は声にならない悲鳴を上げて、彼は寺の平和で退屈な生活から退魔師という血塗られた運命へと落ちていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それから幻想郷の管理者を名乗る妖怪こと八雲紫によって迷い家へと連れ去られた彼は、妖怪を殺すためだけに剣の修業をさせられることとなる…。

 

しかし、寺での鍛錬の成果あってか、彼の剣の業は日を増すたびに上達していくのだった。

 

そして3年の月日が流れ、彼はその身につけた剣技と寺での生活の中で奇跡的に発現したとされる特殊的な能力を持ち、退魔師になるには十分と見なされた彼は、たった1本の刀を担がされ、人間の里の近くの森へと落とされた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……痛ぃつーの……」

 

急に落とされたものだから対応が出来ん。

加減ってものを知らないのか妖怪というものは……

 

などと毒を吐きながらゆっくりと立ち上がる。

 

ここは恐らく妖怪の山のふもとらへんか……ここらで留まるのはいささか不味いことになりそうだな。

 

等と思案していると後ろの方から物音がした。

 

「何者だ」

居場所は分かっているが、とりあえずは言っておく。

 

「ケケケケッニンゲンカァ……喰うのは何時ぶりかなぁ?」

 

近くの物陰からそんなことを言いながら姿を見せる妖怪。

……なるほどな、とりあえずはこいつを始末してから人里へ行けと言うことか。

 

「ふむ……日没まで間に合うか…?」

 

「何ヲイッテルノカよく分からんが…貴様はここで俺様の食事になってもらうんだ!俺様に喰われるのを喜んで死ねぇ!!!」

 

等とそんな戯言を述べ、そいつは襲いかかってきた。

 

俺はそれを反射的に横に躱して、背中に担いだ刀の鞘に手をかける。

 

(こいつを人里に近寄らせるのはまずいか?ならここで……こいつを……)

 

「お前、不幸だったな。」

 

「はァ?」

 

不思議そうに首を傾げながら此方を見るソレに俺はこう言い放った。

 

「お前を今から完全に殺してやるよ。」

 

刃を鞘から引き抜く……バカにされたと理解し激昂したソレが再度俺へ向かってくる……

 

「お披露目と行こうか……

『斬撃 魍魎徹刃』!」

 

線を描くように軌道を描いた一筋の斬撃がその妖怪の首を切り落とした。

 

「ナッーーーーー?!クビを……?!」

 

「……っ!?」

 

首を斬った感覚がひどく生々しかった。

 

これが妖怪を斬る感覚……?!斬り心地は最悪で、調理するために肉を捌くのとはまた違う。なにか別なブヨブヨとした生ものを骨ごと斬り落とす感覚は……?!

そしてそれを初めて味わったその日のことを俺は決して忘れることはないだろう…。

 

ーーー結局。

その妖怪は首を正確に落とせておらず、その首が再生するようで、その首をまた切れるほどの霊力が残っていないことを悟り、ひどく焦った俺はその場にあった岩や鈍器等で、その妖怪を何度も何度も殴りつけて無力化した後に土に埋めた。

……結果俺の体にはその妖怪の返り血やら土やらがベッタリと付着してしまった。

 

それからしばらく歩いたら人里には辿り着いたのだが、俺を見た村人から受けた眼差しは…心配等ではなく、今代はどうなるだとか、自分達には関わらないでほしいな…等という俺のことを遠ざけるような眼差しだった。

 

そうして、その村での退魔師としての継承式を終わらせ、里の守護者である上白沢慧音という女性に俺の家まで案内してもらった。

 

「ここがこれから君の家になる。」

 

「あぁ、助かる。ありがとう。」

 

「衣類はまた取りに来るから畳んでおいてくれ。」

 

「分かった。それじゃああんたも夜道には気をつけてくれ。」

 

「あぁ、それじゃあ。」

 

「……あ、なあ」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「もしもの話さ……もしも……」

 

「……わかった。その時は私の所へこい。……またな。」

 

そうして慧音さんは里へ戻って行った。

 

1人家に残された俺は改めて妖怪を殺したのだと血だらけの衣類などを見て再度認識した。

 

(視線とか……感覚とか……とにかく色々とはやくなれないとな……)

 

そんなことを考えながら、俺は刀の手入れをするのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

あの日から8年の月日が流れた。

 

場面は戻り、ここは里から離れた魔法の森。

 

今日も彼は八雲からの依頼を受け、里に危害を加える可能性のある低級妖怪を始末し終え、帰路に着いていた時のことだった。

 

「……?」

 

暗闇の中で何かがうごく音がした。すこし気になったのでその正体を探りに木々の中へと入っていく。

 

「おい、何かいるのか?」

 

先は闇に覆われており、進むことは困難とみた俺はそこで声をかけることにした。

すると少し先の方から消え入りそうな声で

「助けて……」

という声がする。

 

何事かと其方へ向かうとそこにはボロボロの服装で至る所に擦り傷などが付いた金髪の女がいた。

 

「……?!なんでこんなとこに……?おい、あんたしっかりしろ!」

俺はそう呼びかけたがその女は俺が視認できる所に来た時には既に気を失っていて、反応がなかった。

 

「……。しょうがねぇな…」

少し厄介だが仕方ない。里の連中に突き出すのも一つの手だが、こいつから何故こんなとこに居たのかも訪ねたいと思ったので、俺はその女を自分の家に連れ帰ることにした。

 

血まみれの体でこいつを担ぐのもどうかと思ったが、仕方ないか、と楽に考えてその女を米俵を担ぐようにして抱えあげる。

そしてまた来た道に戻り、里へと向かうのだった。

 

……しかし、彼女との出会いは俺にとって、これからの俺の運命を大きく変えるものとなるのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

~妖怪の山~

 

隙間から体を出して、作業中の河童に声をかける。

 

「調子はどうかしら?」

「ヒュイ?!……あぁ、あんたか、結構完成に近付いて来たよ。」

「それは良かったですわ。……すこし確認してもいいかしら?」

「あぁ、それは別に構わないよ。はい。」

 

紫は河童…河城にとりから赤い装着品を受け取る。

それは赤をベースとして中心部分には煌々と輝きを帯びた紅の球状体の物体が埋め込まれていた。

 

「これが……動力源の赤石……」

「あぁ、それを埋めるだけだと思ったらそれに耐えられる殻が必要なもんだからそれを作ってたのさ。まぁ、先程完成したがね。それが一応の完成版だよ。まぁ……まだまだ【試作品】には変わりないけどね。」

 

全く……と、にとりは一息ついて紫の方へ視線をやる。

 

「いきなり押しかけてきて「これをつくれ」なんて言うもんだから何の話かと思ったんだぞ?しかもよく分からん構造のものだし……なんだってこんなものなんだ…迷彩服の方が幾分もましだね。」

 

紫は少し微笑を浮かべながらにとりにこう返す。

 

「でも私はあなたに…河童の技術力には期待してたんですわよ?それにあなたもしっかりとその役目を果たしてくれましたし…感謝していますわ。」

 

「へいへい、ありがとさん。それで?そろそろ教えてくれてもいいんじゃないのかい?」

 

「?」

 

紫はわざとらしく首を傾げる。それをみてにとりは苦笑いしながらこう言った。

 

「だから、なんでこんな大掛かりな装置の作成を依頼に来たのかというその理由だよ。

これに携わった妖怪の数が多すぎるんだよ。これはなんなんだい?!こんな大量の妖怪のデータを収集しないとダメなのかい?これは幻想郷の有力な妖怪の鬼、天狗、それにこれの大技は、その人間の霊力に依存する!

それでいてこれの動力源は人の生命力だ。つまりこの装置は人間専用……!

私は教えて欲しいかな?あんたは人間が使う人間を殺す装置を盟友達に使わせるのかい?これは妖怪に対抗するために作られた人間を殺す装置と言っても過言ではないぞ…」

 

紫は面倒くさそうにして

「その質問は今は答えませんわ。それでもあなたの言う【人間を殺す装置】と言う点では間違っていないわ。だってあれは博麗の巫女の対の存在である退魔師のために作った…人里の……人間の戦力を拡大するために作ったものですから。」

 

それを聞いたにとりは納得したのかそのまま次の質問を紫に訪ねる。

「それで?このデータは収集してるんだよね?」

「え?何言ってますの?」

「え?」

紫はニコリと笑って

「そんなもの更新よ更新。これから一緒に行くに決まってるでしょ?ほらすぐ準備しなさい。旧地獄の鬼、山の天狗、人里の守護者………これらからデータを取らないといけないのですからね?」

「えぇ……ちょっ…?!やめ……」

 

紫はそのままにとりの返答を聞くこともせず、にとりを自身の隙間に放り込んだ。

 

そうして…

「それで……あの妖怪についてはまた今度でもいいとして……。まぁ、これからしなければならないことをさっさとやってしまって、はやく完成させないといけないですわね。」……そう呟いて、そのまま自身の隙間に入り込み、妖怪の山にいる天狗の元へと向かうのだった。




お読み頂きありがとうございました。

きっとこれからも週一では投稿しますので、良ければご覧になって頂きたいです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

二話目です


「さて……と」

 

女を担いで家まで到着した。

夜だったこともあり、人目にはつかなかったことが幸いした。もし見つかっていたら何を言われるか分かったものではなかったからな。

 

そう思いながら女を介抱するため、救急箱をとりに行き、それをもって戻ってきた所でどうやらその女が目覚めたらしい。

 

「どうやら目が覚めたようだな。調子はどうだ?お嬢さん。」

 

「え……?あ、きみが私を助けてくれたのか?」

 

「あぁ……あんたが助けを求めていたからな、だが、出血が酷かったから俺の家まで運んで診た。

大した怪我はないから明日には里に帰ってもいいぞ。

えぇっと……名前はなんだっけか…教えてくれるか?」

 

するとその子は少し悩んで、こう言った。

「名前……?すまないが、私の名前……名前か…」

 

「なんだ?どうしたんだ?」

様子がおかしいとおもい、俺は彼女に尋ねる。

 

すると彼女は困った顔をしながら俺に向かってこう言った。

 

「名前も……私がどこに住んでいたかも…全く思い出せないんだ。」

 

「まじか。なら……とりあえずあんたが名前を思い出すまでなんて呼ぶか……」

 

そう言って部屋の外を見渡す。

そうして1つの花が俺の目に止まる。

 

「よし、決めた。お嬢さん、あんたはしばらくの間、

【蘭】っていう名前で呼ぶぞ。」

 

「蘭……?」

 

「不満かい?」

 

「いや、そんなことはないよ……いい名前だ。

それよりも……私は君の名前を知らないんだが…何時になれば教えてくれるんだ?君と呼ぶのもあまりいい思いはしないんだ……」

 

そう言われ、俺は笑って

「それはすまなかった。俺の名前は久國だよ。

ここら辺で一人暮らしをしている。蘭のことについてだが、とりあえず明日人里におりて蘭のことを知っている人を探そう。とりあえずそれでいいな?」

 

そう言うと蘭は頷いて、

「あぁ、それで構わないよ。」

とだけ言った。

 

それを確認した俺は明日に備えるため、

「それなら明日は早くからここを出発する。とりあえずは寝るぞ。……布団は……俺のを使え。」

 

「わかった……でも久國はどこで寝るんだ?」

 

「布団はひとつしかないからな、俺は床でねる。蘭は俺の布団を使ってもいいからとにかく早く寝るぞ。おやすみ。」

 

早々とそう言い切って、俺は眠る。

 

蘭は嬉しそうに

「ありがとう……おやすみ…久國。」

と言っていた。

 

それを聞いた俺はまた、「おやすみ」とだけ返すのだった……。

 

そして俺と蘭の奇妙な生活が始まるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日。俺は蘭を連れて、人里へと向かうことにした。

 

しかし、朝は寺子屋があったので、昼になってから出かけることにした。

昼までの間、することが全くなかったので、適当に薪を割ったりして時間を潰した。

 

そして昼頃になったので軽い食事をとり、俺たちは慧音のいる人里にむかうのだった。

 

道中ですれ違った里の連中に物珍しげな視線を飛ばされていたが、興味はないので無視することにした。

 

「ここが寺子屋だ。ちょっとまってろ…」

そう蘭に言って俺は寺子屋の引き戸を叩いた。

 

「おーーい!慧音ー?いるかーー?」

ドンドンと叩いていると、やがてバタバタと足音がして引き戸が開いた。

 

「なんだっ!!……ってなんだ久國か…久しいな。何の用だ?」

 

そう聞かれたので蘭のことを聞きにきたんだと告げたら、

「すまないな、能力を使っても、彼女の記憶がないのなら彼女のことを調べることはできない…だから私に彼女のことはわからない。」

 

「そうなのか……いや、ならいいんだ。それと、最近変わったこととかはないのか?」

 

俺がそう訪ねると、慧音はより深刻な顔になり、

「久國、これから言う話…他言無用にしてくれるか」

 

「あぁ……別に他人に話す内容でもないだろ。それで?あんたがそんなに真剣になるということは相当なことなんだな?」

 

「あぁ……実はな…博麗の巫女の霊力が著しく低下している。」

 

「なに?」

 

博麗の巫女と言えば全てにおいて最強といわれたあの博麗か?

 

……そんなやつの力が失われれば妖怪達がより活発になってしまう。

 

「それで?その事は里の連中には言ったのか」

 

「いや、混乱を避ける為にも未だ……このことを知っているのも私を含め極わずかだ。」

 

「それにしてもどうして博麗の巫女の霊力が低下するんだ?霊力の低下なんて妊娠による譲渡か精神的負担によるもんだろ」

 

そう聞いたらその通りなのか、慧音はこう返す

「実はな……今代の巫女は霊力とセンスこそ過去最高と言われていたのだが、精神的な部分ではまだまだ幼稚なことがあってな……起こり続ける異変のせいで、精神をやってしまったらしい。」

 

確かに今代の巫女はまだまだ子供っぽい所はあった。

それに何かしら詰めが甘いせいで様々なあらが生まれ、そこから普段なら聞かないであろうヤツらの声がきこえてしまったのだ。

しかし、これに関しては彼女がどうにかするしかない。

こちらにとっては迷惑であれど、関わることがある事例など過去に数回しかないからだ。

まぁ、そんな面倒なことは考えたくないので、頭から切り捨てる。

 

「まぁ、ためになる話だった。感謝する。」

 

「いや、気にしないでくれ…恐らくこれからそっちに行く依頼は相当増えるだろうから身体には気をつけてくれ。」

 

「そう言ってくれて助かる。それじゃあそろそろ」

 

そう言って立ち上がり、蘭を呼んで帰ることにした。

 

「あぁ、また何時でもこい。」

 

「うん、じゃあまた」

 

そう言って寺子屋を後にする。今日は1日暇だったので夕暮れ時に家に着くようにここら辺で時間でも潰すか……と思いながら蘭に里を紹介するのだった。




お読みいただきありがとうございます。

次の話は近いうちに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

はい。

お読みいただきありがとうございます!


今回も楽しんでお読みください!


蘭との生活が始まって数週間がたった。

もともと寒い気温だったが、最近はよけいに風が寒いように感じる。

 

「じゃあそろそろ行ってくる。帰ってくるのは多分夜だから何かあったら慧音の所へ言ってくれ。」

 

「あぁ、分かった。行ってらっしゃい。気をつけてな」

 

そう伝えて俺は刀を背中にかけて、家をでる。

 

あれからずっと蘭と暮らしていたのだが、まだ蘭の記憶が治ってはいなかった。

記憶が治るのには時間がかかるのだろうと考え、俺はそのままずっと蘭と暮らしている。

しかし仕事はやってくるわけで、俺は蘭を引き取ってすぐに退魔師の仕事を再開した。

最悪とられて困るものもないので蘭には家に居てもらっている。

 

ーーーしかし、俺は未だに自分が退魔師であることを蘭に伝えてはいなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ここは妖怪の山、なんでも今回の依頼は山の見回り時に見つけたゴブリン達が里に降りようとしているのでそれを阻止して欲しいとの天狗からの依頼だった。

 

普段から良くしてもらっている天狗からの依頼だったので断るのもできず、それを受けてまった。

 

「さて……文屋からのリークだとそろそろ……おっ」

 

目を凝らして見てみると、上の方から確かにゴブリンが4匹ほど降りてきていた。

方角的にも里に向かっているのだろう。

ゴブリンの習性的にはもっと大群をくんで行動するので、恐らくは群れから追い出されたりしたのだろう。

 

等という考察をたてていると、やがてゴブリンがかなり近くまでやって来ていた。

 

「とまれ。この先は人間の里だ。」

 

そう言うとゴブリンたちは足をとめた。そして

 

「ソレは把握シテイル。ダカラムカウノダ。」

 

と返してきた。

 

「ほう?それはどういう要件だ?」

 

「我々は食料デある人間を食いに人里へオリルノダ。

ジャマをスるノナラお前からコロスぞ?」

 

「……フッ。やってみろ。」

 

そう言うと1匹のゴブリンが手に持った棍棒をかざしながら俺の方へと走ってきた。

 

俺は瞬時に肩にかけた刀を抜き、棍棒ごとゴブリンの胴体を切断した。

 

「ガ……ァァ……?」

 

一瞬で仲間の身体を斬られたのが衝撃だったのか、他のゴブリンが続けて襲ってくることはなかった。

 

ゴブリンというのは非常にしぶとい。戦況が不利と悟ればすぐに撤退をするので、この一連の動きで俺には勝てないと悟ったのだろう。

 

それならば話は早い。

 

「おい。」

 

ゴブリンたちの身体がビクリと揺れる。

 

「今回は見逃してやる。だが……次は容赦なく全員斬る……。分かったら早く森へ帰れ!」

 

そう叫ぶと奴らはそそくさと仲間を放って森の方へと逃げて行った。

 

「……さて」

能力で奴らが完全に森の奥へ行ったのを確認したし、そろそろ俺も家へかえ…………

 

「…………!!」

 

突然人間の悲鳴が森の中で響いた。

 

なんだ?今の悲鳴は?

 

俺はその悲鳴の方へと向かった。距離的にそう遠くはないだろう……。

 

地面を駆け悲鳴がしたであろう場所につき、俺は直ぐにその場にいた人に話しかけた。

 

「おい!大丈夫か?!」

 

「い、いま…みえ、みえみえ……ば、化……!

化け物がァァ……!」

 

後ろを振り向くとそこには異形の狼がいた。

 

狼はガルルル……と牙をたてながらこちらを睨みつけていた。

 

「おい狗。悪いことはいわない、ここはこのまま森へ行け。」

そう狼に俺は告げてやるが、狼は今にもこちらに襲いかからんとする視線を飛ばしていたので、諦めて刀を抜いた。

 

それをみて、狼は俺の所に飛び掛ってきた。

 

「……?!おい!隠れてろ!!」

 

「はっ?!はぁいいい!!!」

 

俺は咄嗟に後ろの男にそう叫び、そのまま刀を眼前のモノに構える。

 

異形の狼の攻撃手段は大きくわけて2つあり、ひとつは何も考えずに突っ込んでくるもの。

2つ目はその地形を利用して、相手の意識を散乱させてから攻撃してくるものだ。

この個体はどうやら2つ目の用で、直ぐにこちらに攻撃するのではなく、こちらの隙を作るかのように飛び回っていた。

 

「…………。」

ーーーー精神を統一させる。

 

こういう厄介な方法を使うやつにはさっさと蹴りをつけた方が早い。

 

俺は刀の剣先を前にして、霊力を流す。

すると刀は白いオーラのようなものに包まれ、やがて刀の色が変化した。

 

紅く輝く刀を持ち、狼が襲ってくるのを待つ。

 

そして数秒後……ついに狼が俺の背後から俺に襲いかかってきた…!

 

「残念だったな。『桜の太刀 居合い 島桜 』」

直ぐに後ろに振り向き、その振り向きざまに刀を振るう。

すると狼の体は空中で真っ二つに別れた。

 

「……?一体何が……??」

俺の技を見ていた男が咄嗟にそんなことを呟いた。

 

「お前には関係の無いことだ。それじゃあどうする?

お前は人里の人間なのか?」

 

「分からない、ここは日本じゃないのか?」

 

等と謎の地名を言うこの男。

「何言ってるんだ?ここは幻想郷だ。日本とかいう場所ではない。」

 

「えぇ?!じゃあ僕は何をしたらいいんだよ?!」

と、取り乱すこの男。外来人のようだな……相手するのも面倒だし慧音に全部任せるか……

そう決めた俺はそのまま眼前の男に話しかけた。

 

「うるさい落ち着け。まぁ、お前は外から来たということになるな。とりあえずは人里に連れていくから…着いてこい。」

 

「ここだ。あとはここにいる女性に頼め。じゃあな。」

 

……そしてその男を慧音に預け、蘭が待つ自宅へと帰るのだった。




既に蘭にぞっこんな久國くん。

次回の予告なんてものはしないです。

それでは


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

4話目です。

お待たせしました。


「蘭。ただいま。」

 

俺が玄関のドアを開けると、蘭がこちらの方へとやってきて、

「おかえり、夕食の準備は出来ているぞ。早く食べよう。」

 

「あぁ、分かった。」

 

一緒にテーブルを囲み、俺は蘭の作った料理をみて、「美味そうだな……」

と呟く。

すると蘭は微笑を浮かべて

「沢山あるんだから遠慮するんじゃないぞ?いっぱい食べてくれ。」

と言ってくれた。

 

「あぁ、そうさせてもらうよ。それじゃあ……」

いただきます。と二人で合掌して、俺たちは夕食を食べ始めるのだった。

 

 

蘭と暮らして改善されたことがある。

 

それは…料理の質が上がったのと、孤独を感じなくなった事だ。

 

料理に関しては、引き取ったその日になにかお礼がしたいとのことなので作ってもらったのだが、思いの外美味しくて、そのまま継続して作ってもらうことにした。

 

もうひとつの方は、退魔師という職業なので、誰も妖怪の血を浴びてくる俺のことを良しとはみない。

それのせいで俺は里に行っても一人の時では結構煙たがられるのだ。

それでも1部の店では良くしてもらっているのだが、それでも良くないと思っている人の方が多いので、寂しさを感じでいた。

それに家に来る人なんて、慧音くらいしかいないから

家ではもっと独りだった。

そういう面では、蘭がここに来てくれたということは俺にとって良かったことなんだな。とつくづく思った。

 

「あ、そうだ蘭。」

「どうしたんだ?」

そう蘭が聞いてくる。なので俺も続けるようにこう答えた。

「明日は空いているか?」

 

「あぁ、私はいつでも構わないが……何かあるのか?」

 

「実は明日、少し家具とかを一新したいんだが……良かったら一緒に来て選んではくれないか?」

 

「あぁ、そういう事か、構わないよ。」

 

と、こんなやり取りを週に2回はしているのだが、毎回付き合ってくれる蘭には感謝している。

 

(なんでかな……蘭を誘う時、何故か無茶苦茶緊張した……)

 

そんなことを考えて俺は風呂に入り、そのまま布団を敷いた後に眠りに着くのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

蘭が寝る場所は久國の部屋とはまた別室…とは行かないのだが、久國は女の子と男が一緒に寝るべきではない、と言って仕切りを作ってしまったので、別々に寝ることになっていた。

 

……彼女の名前は蘭。分かっているのはこの久國によって付けられた名前だけで、他のことは殆ど忘れてしまっていた。

 

しかし、何故か私の体は料理や家事を覚えており、世話になったお礼として、毎日家の家事をやっている。

久國も喜んでくれているからよかったとおもう。

 

私が久國の家にいることになった経緯はトントン拍子のように進んで行った。

あの後、引き取り手がないと知った彼はそのまま私を家においてくれたのだ。

見ず知らずの私のためにここまでしてくれる彼に…いつしか私は惹かれていた。

しかし、そんな私を見せるのは恥ずかしいので、私は彼の前ではポーカーフェイスをしているのだが、よく遊びに行く慧音ちゃんには私が彼を好いているということはよく分かるらしい。

 

……でも、最近久國がよく外にフラーっと行ってしまうのは怖い。

その時だけは何故だか彼がどこか遠くに行ってしまいそうで恐怖感を覚えるのだ。

だからか、彼が人里に行くのを誘ってくれるのは凄く嬉しい。少しでも彼と一緒にいたいから……

 

まぁでも明日は一日中彼と一緒にいられる…!

その事を改めて再認識した蘭は嬉しそうに頬を赤らめながら、両手で頬を覆った。

 

それじゃあ……そろそろ明日に備えて…おやすみ、久國。

 

そうして蘭も眠りについた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝、楽しみだったのか何時もより早く起きた2人は何時もよりも早くにやることを済まし、里の方へ向かった。

 

それから二人は様々な所へ周り、生活に必要なものを購入した。

家にある家具などがボロボロだったので、蘭はそれらを一新したかったそうだ。

別にそれらを買っても財布が痩せることはないほどに稼いではいるので、蘭のオススメするものは買うことにした。

 

そして……

 

大体のものを買い終えたので、俺と蘭は近くの団子屋に訪れていた。

 

「まぁ、こんな所か……!」

 

「結構買い込んだな…また家に持ってきてくれるとの話だったが…これからどうする?」

 

「そうだな……。……あ、それじゃあいきたいところがあるんだがいいか?」

 

「別に大丈夫だよ。それじゃあそこに行こうか。」

 

そうして俺は蘭に連れられ、とある出店に訪れた。

 

「あら、蘭。いらっしゃい。そこの彼は?」

 

「蘭、この人は?」

 

「この人は最近人里で自作の服を売っているアリスという方だ。」

 

「へぇ、あ、俺は久國。よろしくアリスさん。」

 

「アリスでいいわよ。よろしくね久國くん。」

 

そう手短に挨拶をすまして、蘭の買いたいものというのを彼女に訪ねる。

 

「それで、何が欲しいんだ?」

 

「えっとな…………あ、あった。これだ。」

 

そうして一つの金髪の人形を渡された。

 

「これは?」

思わず蘭にそう尋ねる。この人形がなんなのかが全く分からなかったからだ。

すると彼女は少し微笑してこう言った。

 

「なに、これはおまもりみたいなものだよ。いざって時に役にたつんだ。ずっと持っててくれよ?」

 

「俺が持つのか?蘭じゃなくて?」

 

「私は基本家にいるから大丈夫だ。でもお前はいつもどこかへ行っているからな。危険だと感じるんだよ。だからこれを持っていてくれ。」

 

そう念を押されたので、そのまま購入することにし、それを服の中に入れておく。

 

(まぁ、動きに支障はないから…別にいいか。)

 

と考え直し、俺はまた蘭と一緒に里を適当にぶらつくのであった。

 




場面転換しまくってて読みずらいでしょう。

ごめんね。

また次の話もお楽しみに

近日「幻想郷に誘われて」も投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

新展開です。

話は重くなります。(急展開)


夜ーー。今日も俺は夜な夜な刀を担いでいた。

 

「これが今回、あなたに頼む依頼ですわ。」

 

「それで?今日はやけに依頼の数がおおいな…」

 

俺はいつも通り八雲紫から退魔師の仕事をつたえられたのだが、その内容はいつもの内容よりも多く、おそらく過去1番の大仕事になるだろうと予想できた。

 

妖精の湖と迷いの竹林…それに妖怪の森の山道から外れた奥地と来た。

これは1日で終わる内容ではないだろう…そのことは八雲自身がよく知っているはずなので、そこの所を尋ねることにする。

 

「こんな量、1日では無理だ。これはまずどこから対処すればいい?」

 

「あら?それなら大丈夫ですわ。移動のことを行っているのなら、今回はこれをあなたにお渡しするから…」

そう言って紫は隙間の中から謎の紙切れのようなものを3つ取り出し、俺に渡した。

 

「なんだこれは?」

受けっとって見てみるが、それは全くと言っていいほど使い道のわからない代物だった。

 

「その紙には私の能力が封じ込めてあって、それに霊力を流せば、行きたい所へと行ける…秘密の便利アイテムですわ。」

 

「ほーん。そっか…有難く頂戴する。」

 

そして俺はそれを懐にしまい、刀を担ぐ。

 

「それじゃあ……行くか…」

 

蘭は既に眠っているため、あまり音を立てないようにして、俺は玄関まで移動した。

 

そしてドアを開け、外へとでる。

 

そういえば……とおそらくまだ俺の近くにいるであろう八雲紫に尋ねる。

 

「八雲紫。」

 

「?何かしら?」

 

「聞き忘れていたが、どこから行けばいい?」

 

「それならまずは妖精の湖から頼めるかしら?まぁ、死なないように気をつけて。」

 

「わかった。まぁ…死なないだろうよ。俺は運だけはいいから」

 

なんてジョークを飛ばす。……そう死ぬわけにはいかないのだ。俺には待ってくれる人がいるのだから…

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

〜妖精の湖〜

 

「ここが……前に来た時には妖怪なんていなかったんだがな…」

 

等と呟きながら、俺は近くを散策する。

 

……そうして、俺は怪しい影を発見した。

 

「……?おまえは……」

それは俺に気が付いたのか、そう尋ねてきた。

 

「誰だ。等と聞くつもりだろうが、それは俺のセリフだぞ。おまえ、こんな所で一体何をしているんだ?」

 

俺は冷静にそう返した。

夜にこんな所にいるという時点で只者ではない。

そう確信していたからだ。

 

やがて、黙っていたそいつは口をひらいて…

 

「俺は退魔師だ…。……貴様こそこんな所で一体何をしているんだ。」

 

「な……?!退魔師…だと……?」

 

こいつは一体何を言っているんだ?退魔師は死んだ後にようやく次の代に引き継がれるのだ。

なのでこいつが言っていることはハッタリのはずなのだが…

 

「信用していないな……なら証明してやろう。」

 

そいつは腰に掛けた刀を抜き、近くの木に向かって構えをとった。

そして……退魔師のみに伝承される技を魅せた。

 

「【桜の太刀 下の段 下桜】」

 

小さく呟き、そいつはその木を一瞬で3度斬り裂いた。

斬られた箇所は年輪の部分が綺麗に切れており、それがその技の完成度を表してした……。

 

「どうだ……これでわかっただろう…?俺はここの近くを調査に来ていた退魔師だ。お前こそいい加減に里に戻れ。」

 

等と吐かすそいつはどうやら本当に退魔師だったようだ。だが、退魔師は代々一人なのだ。のでこいつがここにいるはずがない。

だからこそ俺はそいつに教えてやることにした。

 

「そうか……だが、俺がその退魔師なんだよ。だからそんな嘘に騙されはしないぞ。お前の話が本当なのだとするのなら……!

お前は妖怪になった先代の退魔師ということだ……。」

 

するとずっとこちらに顔を向けなかったそいつは驚いたようにこちらの方を向いて…

その顔を見た俺はさらに衝撃を受けた。

 

なんとその退魔師を名乗る男の顔は、熱か何かで焼けただれており、既に人の形ではなかったからだ。

それを確認した俺は、焦りをやつに悟られることの無いようにゆっくりと肩に担いだ刀を抜き、戦闘態勢に入った。

 

「その顔……!やはり妖怪…!!悪いがここにいる妖怪はすべて討伐せよとのことなんでな…。もう1度ここで死んでもらう……!!」

 

「笑わせるなよ…!だれが貴様ごときに殺られるか!かかってこい!」

 

そうして、刀を握る。

 

二人の間合いは一瞬で埋められる程しかなく、二人は息を呑む。一瞬でも気を抜けば、その一瞬で殺されてしまうからだ…。

緊迫した空気の中で、二人は互いを睨み合う。

 

そして、妖怪側が動いた。

それに反応するかのように退魔師も動く。

 

「【桜の太刀 中段 波桜】!」

 

「【桜の太刀 中段 波桜】!」

 

両者の刃がぶつかり合う。

 

全く同じ動きで互いの刃が拮抗する。

 

しかし……その刃は互いの剣劇を突き抜け、見事に久國の身体を引き裂いた。

 

その後も流れる斬撃は3度続き、それら全てを俺はなすすべ無く身体で受けた。

 

「グッ……はァ………」

 

ボロボロの体は、既に立ち上がることも出来ず、その場で倒れる。

 

体中から出血しており、恐らく過去一の大怪我だ。

 

普通の人間なら即死している程の。

 

「……この程度か…」

 

「ま……て…」

 

力ない声で妖怪を止める。

なんとしても人里には近付けさせない…

 

……最も、生きていたところでまともに動くことは出来ないので、刀を握ることもできないのだが。

 

「……生きているのか、タフなやつ…だな。

まぁいい、ここのはしっかりと解けたな。」

 

等と訳の分からないことを呟き、そいつはどこかへ行こうとした。

 

「待っ……て…とまれ……!」

 

「だまれ。今は生かしておいてやるのだから、俺の前に立とうとするな。……命の無駄だ。」

 

そう言われ、俺の身体はダメージの限界を迎えたのか、力尽きるように意識を失った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

全く……桜の剣技など…随分となつかしい技を使ったものだ。

ただの人間ではないと思ってはいたが……やつが今の退魔師だったとはな…

 

まぁ、どうであっても……

 

「俺の目的を……彼岸を阻止するなんてことは絶対にできまい。」

 




いきなり出てくる強キャラ。

久國は角妖怪に勝てるのか?

次回も1週間後に!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

久しぶりの投稿。

暫くはこっちあげるかも


………ここは…?

 

辺りを見渡す。そこは何もない空白の【白の】空間。

 

しかし、その空白はだんだんと薄れていき、自身がどこにいるかが分かってきた。

 

「ここは……。」

 

そこは幻想郷では存在しない、外から、流れてきたものが行き着く場所……そこにあるのは……

 

「封印札……か。」

 

そして、その近くに……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そこで目がさめた。

 

俺は…確か……湖で倒れていたはずなんだが……

 

「私が運んだの。湖の近くで倒れているあなたをね。」

 

近くから八雲紫の声がした。おそらく彼女の隙間で自宅まで飛ばされていたらしい。

 

「なるほどな、それは助かった。あそこには悪戯好きな妖精が多くいる。」

 

……しかし、どうして八雲紫は俺がやられていたのをこれほど早くに察知したのか…

 

そう考え、1つの結論に至った。

 

「おまえ……俺のことを監視していたな?」

 

「あら?どうして?」

 

「理由として的確なのは……さっき俺と対峙した妖怪のことを探っていた…位のことだろどうせ。」

 

すると八雲は少し笑って、

 

「まぁ、当たりと言えば当たり。彼の目的地と正体は既に分かっているけど……何より彼の居場所が掴めない。」

 

「なるほど……それで?やつの目的ってなんなんだよ。」

 

「それはーーー」

 

そこまで言って、八雲は自身の隙間に入り込んだ。

 

「あ!……おい…」

 

すると、家の扉が開いた。

 

「久國…?帰ってきてたのか?」

 

どうやら蘭が起きてきたらしく、少し寝ぼけながら、俺の名前を呼んだ。

 

「あぁ、ただいま。帰ってきたよ。」

 

さぁ、中に入ろう。とだけ彼女に伝え、俺たちは家の中に戻る。

 

その時、俺の中でひとつの決心がついた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その夜、月が真上に上った頃……俺は蘭と山道を下り、人里の方へと向かっていた。

 

「久國?一体どこへ行くんだ?」

 

「今から……訪ねたい所があってな。」

 

「そうなのか……どこなのか教えてくれてもいいじゃないか。」

 

「サプライズ……ってやつさ。」

 

そうして俺たちは寺子屋の前で止まった。

 

「ここは……寺子屋じゃないか。どうしてここに?」

 

「なに、簡単な話さ…おーい、慧音!」

 

扉を開ける。どうやら鍵は開いていたらしい。

 

そうして中に入り、俺は慧音の所へと向かった。

 

「慧音。邪魔するぜ。」

 

「あぁ、遂に……ということだな。」

 

慧音の部屋に入ると彼女は準備が出来ていたのか、その場に立っていた。

 

「久國、蘭のことは私に任せろ。だが、お前はなんとしても生きて帰るんだ……分かっているな?」

 

「あぁ……とにかく、蘭のことは任せたぞ。」

 

「ま、まってくれよ…私にも分かるように説明してくれよ。」

 

すると蘭がこの状況の説明を求めてきた。

 

そういえば蘭に何も伝えていなかったな…と考えて俺は蘭の方に向き直り、蘭に説明する。

 

「数年前の夜だ。俺が初めて退魔師になった時、ある妖怪と対峙したんだ…そしてその時、そいつはこんなことを言っていた。『おまえの幸福は必ず報復として壊される。』とな。だからその夜のうちに俺は慧音にとあるお願いごとをしたんだ。俺の守りたい人が危険な目に晒されようとする前にその人を保護して欲しいとな。」

 

そして……と一拍開けて、俺は更にこう続ける。

 

「丁度今日、その危ないやつと出会ってしまってな、俺はそいつに斬られた。そしてやつは必ず俺の前に現れる。

だからその時、蘭が近くにいたら、絶対に巻き添えをくらう…だからその前に慧音の所で保護してもらおうってことだ。」

 

そこまで言って、俺は蘭の方を見る。

彼女は驚いたような顔でこちらを凝視していた。

 

「久國が……退魔師…?うそ……だろ?」

 

「事実だ。俺は今までに何人もの妖怪たちをこの手にかけてきた。」

 

蘭は慧音の方へと目線をやる。信じたくないのだろう。しかし、慧音も彼女の目を見ることはせずに俯いた。

 

「そ……そんな…何故…?何故何も言ってくれなかったんだ?……私は……その程度だったということなのか……?」

 

「違う。」

 

泣きながらそう言う彼女の言葉に被せてそう言う。

違うのだ。

そんな理由で彼女を遠ざけたかったのではないんだ。

 

「何がちがうんだ?!現に今!お前は私をお前から遠ざけようとしてるじゃないか!」

 

「当たり前だ。俺とこれ以上一緒にいたら、それこそ何が起こるか分かったものじゃない……。だからこそ今はここにいて欲しいんだ!……おれが…全てを終わらせるその時まで……」

 

「そんな……もし、それでお前が死んだらどうするんだ!久國だって人間なんだ!その退魔師という名前に縛られて、自身の命を投げ売ってまで戦う必要はないんだ!!」

 

「それは違う。」

 

俺は彼女を諭すように言葉を繋ぐ。

 

「俺は……退魔師は…その身朽ちるその時まで人として、妖怪と戦うことが何よりの生きがいなんだ。

だからこそ、俺は…俺を倒したあの妖怪をこの手で倒さなければならない。…蘭、これは俺のわがままだ。

必ずまたお前の前に戻ってくる。だから今は……おれのこの身勝手を許してくれ。」

 

「そんなこと…!…ウッ…」

 

俺は手刀で彼女を気絶させた。

 

「これでいいのか?久國。」

 

慧音がそう尋ねてくる。

 

俺はそれに苦笑しながら

 

「最悪……だが、及第点でもある。……あとは任せたぜ…先生」

 

そして俺は寺子屋を飛び出した。

 

そして懐から隙間の紙を取り出してそれを使用する。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あら、もう帰ってきたの?」

 

家に着けば、そこには八雲紫が居た。

 

「あぁ、別れは済ませた。あとは……」

 

「あいつを倒すだけ……とでも言いたいのでしょうけど、それは違いますわよ?」

 

「……?どういうことだ」

 

「あの妖怪が立ち去った後、あの湖の底に封印されていた結界が破られたの。」

 

「それはまたどういうことだ?」

 

俺がやられた時に封印も一緒に破られた?

そんな芸当が出来るわけがない…だいたいあんな深い湖、潜るなんてことは不可能だ。

 

「まぁ、さっきあなたに伝え損ねたこととして、あの妖怪の目的について……なのですけど……彼の目的はこの幻想郷の崩壊。」

 

なんだこいつ…と思いながら返事を返す

 

「自分が死んでもいいってのか?あいつも妖怪なら、外の世界では絶対に生きてはいけないだろう。」

 

「そう。でも彼はそんなことも超越させれる能力を持っているの。」

 

「どんな……?」

 

「それは【自身を空白にする程度の能力】。つまるところ彼はここが消えても影響をうけない。」

 

「なっ……」

思わず声が漏れた。八雲紫の能力と瓜二つだ。そんなやつが幻想郷の崩壊を目論む必要がどこに…………

 

「……あっ…」

 

そうか、やつは……元は人間だった……つまり……

 

「何か分かりましたの?」

 

八雲紫が尋ねてきたが、俺はそれに答えることはせず、そのまま武器を取り出す。

 

「俺は行くぞ。八雲紫。決着を付けてくる。」

 

「わかりましたわ……なら…これを付けて行きなさい。」

 

そう言って、俺の右腕に独特な形のした装備が取り付けられた。

 

「これは?」

 

「それは輝石紅魂(レッドソウル)……あなたが本当に力を欲した時、それはあなたの望むものを授けるでしょう。使い方は……全て

あなたの記憶の中に既に存在しているわ……。」

 

「なるほど……わからんが……まぁその時になればわかるだろ!有難く受け取っておく…!」

 

そして俺は家を後にした。行くべき場所は既に決まっていた。

そうして俺は夜の森をただひたすらに駆け抜けるのだった……。

 




読んでいただきありがとうございました!


今はだいたい中盤ら辺のとこです。

次の更新はかなり早くなると思います。

それでは次回も楽しみに



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話

結構早い……はず!

このシリーズは1話が長いから作るのが大変だぁ!!

って言うときます。



ここは無縁塚。かつては外の世界で使用されていたものが時代と共に忘れ去られ、挙句に流れ着く地。

ソレは外の人間からすればガラクタ同然のものであり、それは人里の人間にも当てはまる。なぜなら用途が不明なのである。

それにここには外から来た人間の死体なども埋葬(放棄)されるので人など寄り付かないし、来るとしても河童のエンジニア位であろう。

 

そんな瓦礫の山でソレはそこに立っていた。

 

外から流れてきたモノたちの上で何かを探していた。

 

その行為は、それら全ての行為の動機は…彼自身の復讐心。人の醜さへの嫌悪、裏切りへの憎しみ。

それらの感情がソレをつき動かしていた。

 

そして今日……長かったその一人のヒトだったものは

彼の後継者の手によって完全な妖怪への扉を開かれようとしていた。

 

「あれから……どれだけの月日が流れただろうか。

遂に……俺は成し遂げるぞ……見ていてくれ……」

 

「見つけた。」

 

ソレは声のする方へ振り返る。

 

そこにいるのは先日自身の手で切り伏せた退魔師。

 

「早すぎる回復だな。またのこのこと斬られにきたのか。」

 

「間抜けなことを言うな。次は……俺が勝つ番だ。」

 

等と言い合う。

 

その間にも、二人は殺気を剥き出しにしていて、それを受けても動じない強い精神が両者にあった。

 

幻想郷の人の技最強の剣技である桜の太刀を操る退魔師

 

かつて人の身だった幻想郷の桜の剣技を扱う妖怪

 

今再び両者は交わった。

 

「死んで後悔しろ……そして恨め!!自身をこんな道に引きずり込んだあの隙間妖怪のことを!!!そしてその道を影で嘲笑い、蔑み、利用し、ゴミのように捨てる最悪な人間に!!」

 

「なんのことか分からないが……それでもお前のしようとしていることは見逃せない!幻想郷は必要なんだ!

だからこそ俺は全力でお前を止める!!」

 

俺は何をしたら目の前の妖怪に勝てる?

 

身体能力では負けているし、ましては剣技でも敗北している。

 

やつの剣技を上回る技を使わなければ勝てない……!

 

俺は手にした刀をより強く握った。確実にやつを倒すために……。

 

そして目の前の妖怪は刀を構えて、そのまま剣技を発動させた。

「『桜の太刀 中段 波桜』」

 

それに合わせるようにこちらも剣技を発動させる。

 

「桜の太刀 中段 上波桜」

 

そうして俺は妖怪の攻撃を超える技でそれをうけ、その技を全て受け流した。

 

「な……なぜ…?!」

 

「分からないのか?」

 

「な……にぃ…?」

 

「確かにお前の剣技は完璧に近い……。だが、それは秘伝書を真似ただけだ!!俺の放つオリジナルこえた技には通用しない!!」

 

そして手に持った刀をやつの胴体に突き刺した。

 

「ぐっ………」

 

と、その場に倒れる妖怪。

 

「これで……終わった……」

 

「残念ながら終わりはないぞ?」

 

やつがニヤリとした表情で立ち上がる。

そしてそのまま一言。

 

「俺を倒す?残念ながら俺はそう簡単に死なないんだよ!

そして……この俺を倒すことはもう不可能となってしまったぞ……

なぜならたった今貴様との剣技のぶつかり合いで……」

 

次の瞬間、突如として空間が歪んだ。

 

「なんだ?!」

 

するとやつは愉快そうにクククと笑い、俺にこう告げた。

 

「この地に封印された妖怪の封印がたった今破れたのさ……そう、今の剣技のぶつかり合いでな。

そしてそれによって……その妖怪は今!!ここに復活する!!!」

 

するとやつの後ろから黒い妖気がドロドロと溢れ出てきて……そのまま、やつの体に覆いかぶさった。

 

そして……

 

「これが…進化だ。」

 

そこには、全身が白い体色になった、1つ目の異形がいた。

頭からは角が2本生えていて、それぞれ目と繋がっている。

 

やつの目が辺りを見渡す……。

 

その妖怪はおれに目線を移し、俺に話しかけた。

 

「そういえば……俺の名を告げていなかったな。……封印を解いた礼だ…特別に教えてやる。」

 

「なに……?」

 

「俺の名は【白式】かつて外の世界で最も力を有した存在だ………だが、そんな存在も1人の人間のせいで力を…実体を失ってしまった……」

 

「実体を失ったからそいつの体に憑依したのか!」

 

「そうだ……と言いたいが俺はこいつの意志を尊重してやったんだよ。」

 

……意味が分からない……こいつが何を言いたいのかが理解できない…だが、こいつの妖力は先程よりも破格のものとなっていることだけは分かったので、警戒は怠ってはいけないと理解した。

 

「……なんでそんなことをベラベラと喋ってくるんだ…?」

 

「簡単な話だ……俺の能力を使えば貴様の存在すらも無かったことにできるのだ……」

 

怪訝そうな表情でそう尋ねると、やつは笑いながらこう答えた。

 

「さぁ、それではさらばだ」

 

やつは妖力をさらに解放した。

 

飛ばされる棘のような殺意がこちらにヒシヒシと伝わり、瞬時に危険を察知した。

 

(なんだ……?!こいつのこの妖力は……?!

いまの状態で戦うのは不味い……!)

 

「……?!!なんだこれは……!?」

 

その時、無縁塚を覆うように隙間が発生して白式を包み込んだ。

 

「何とか間に合いましたわ……」

 

「八雲紫?何故ここに?」

 

「そりゃ……あの大妖怪が復活してしまったら、ここのパワーバランスが完全に崩壊してしまう……。だから真っ先に別の空間に隔離したのよ…。」

 

「だとしてもそれは一時的なのだろう?……あれは確実に何かしらの方法でお前の術を破ってくるぞ…」

 

「えぇ。おそらく……いえ確実に破ってきますわ。」

 

そして一呼吸おいて、こう付け足す。

 

「それも1日も持たないでしょうね。」

 

……1日か…長く感じるが…短いな……

 

「1日か。十分だ。」

 

それだけ言って、俺は無縁塚を後にした。

 

そんな俺を見て、八雲紫はこう言った。

 

「山の河童に会いに行きなさい。必ずあなたの勝利に貢献する情報を持っているわ。それと……」

 

「話をつけるならこれが最後……だろ?分かってる。

俺だって馬鹿じゃない。」

 

それだけ言って、俺は隙間を使って妖怪の山へと飛んだ。




読んで頂きありがとうございます!

とりあえずこのシリーズ(章)が終了したら「幻想郷に誘われて」の話(サイドストーリー)を出そうと思います!

それでは次回もお楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話

続き


それから俺は妖怪の山をすこしいった、河童の集落へと赴いた。

 

そして……

 

「あんたが…これを作った河童か?」

 

「そ、そうだけど……なんでこんな夜遅くに?」

 

遂に八雲の言っていた河童を見つけることができた。

 

「……まぁ、聞きたいことは山ほどあるんだけど……とりあえず上がりなよ。」

 

「すまないな、感謝する。」

 

そして、河童の子(名前はにとりという)に付いていき彼女の工房へと向かう。

 

その間、河童の子は何か考えていてブツブツと何かを唱えていた。

 

そしてついに…

 

「着いたよ。ここが私の工房さ!」

 

そこはとても広いとは言えないが、そこには大量の工具やらがそこらかしこに置いてあった。

 

「普段はここで作業をしているんだね。」

 

「まぁ、そんなとこだよ…それじゃあ早いことそれの説明をしてしまおうか。」

 

「あぁ、よろしく頼む。」

 

「まず……それは人間の力…例えば霊力とかを引き上げる力がある特別な石が埋め込まれている。

そしてそれを持ってきたのは…過去の退魔師と八雲紫の2人さ。」

 

「そうなのか」

 

人間の力を引き出すという事は…おそらくあの時先代の剣術を越えたのはこれの力のお陰だってことだったのか……

 

「でもそれはもうひとつ致命的な欠陥があるんだ。」

 

「欠陥?」

 

俺が尋ねると、彼女はうんと頷き

 

「そう、これは使えば使用者の生命力を大きく消費してしまうということ。つまりは寿命を縮めてしまうんだ。

……過去にこれを使って障害を退けた退魔師はその副作用で長く生きられない体になってしまっていた。」

 

「そんなものなのか……」

 

「君は……」

 

そう言ってジロジロとこちらを見るにとり。そして安心したようにホッと息を着いた。

 

「どうしたんだ?」

 

「いや、君はまだその石の力は使っていないってわかってね。それは使うと使用した後が残るから。」

 

「なるほど。」

 

俺は腕の腕輪を見る。

 

確かにこいつは八雲紫から渡された時のままの姿だった。

 

つまり……

 

「これはまだ使用出来るということだな?」

 

「え?……まぁそうだけど……」

 

何故か濁す感じで言うにとり。そこが気にかかり、俺はにとりに尋ねる。

 

「けど……?何かあるのか?」

 

「いや……それの石が力を発揮する条件があってね……実はその発動条件がハッキリとわかっていないんだよ。」

 

「何……?!じゃあ肝心な時にこいつが使えなければ……」

 

「いや、何とかなるはず……それにこういうことはあの隙間妖怪がよーくしってるはずだからそこは彼女に頼んでみてくれ。」

 

「なるほどな……わかった。有益な情報をありがとう。」

 

「あぁ、気にしないでくれ。それよりも……盟友……」

 

「どうした?」

 

何かを言おうとするにとり。俺はなんの事かと彼女を見る。

 

「……死ぬなよ。退魔師だって人間なんだから。」

 

「…………わかってるよ…。」

 

そうして俺は後ろを向き直し、そのまま八雲紫の隙間を出現させる。

 

「また……会うことができれば…また会おう。お礼がしたい。」

 

「待ってるよ。また……」

 

そうして俺は隙間に入り込み、その場を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

〜自宅〜

 

隙間から出て、足場に着地する。

 

横を見れば懐かしい我が家。

 

ここで俺は彼女と少ない時間だが、共に暮らした家。

 

俺にとってはどうでも良かった家でその内装もまともな物がないような場所だったが、彼女がきたおかげでその生活も劇的に変わったのだ。

 

「……ただいま。」

 

そこには誰もいない。

 

蘭が来る以前の家の風景。

 

俺はそのまま部屋の方へと向かい、そこで彼女との思い出を振り返る。

 

(……思えば、俺の生活が……俺の生きる意味が変わったのは蘭と一緒にいるようになってからだな……。俺はただ妖怪を殺すために生きていて、それだけの存在だった。でも今は……)

 

その時、玄関がバンっと大きな音を立てて開いた。

 

「…………?」

 

何だ……?と思い、玄関へ向かうと、そこには

慧音が居て……その後ろに……蘭がいた。

 

「なっ……なんで…」

 

「1人で寂しく行くつもりか?……ちゃんと私にも訳を話してくれ。」

 

「蘭……。」

 

「……私は席を外そう。2人で話してこい。終わったら言ってくれ。」

 

そして慧音はそのまま外に残り、俺と蘭は部屋へと入る。

 

「……さて、」

 

「どうして私がまたここに戻ることができたのか、と言うとな……八雲紫という妖怪に言われたんだ。」

 

「紫に……?」

 

そう。と肯定して、蘭は続ける。

 

「彼女からは私が久國の力のトリガーになるとだけ言われた。そして次に会う時が久國と話せる最後の時とも。」

 

「…………。」

 

「久國。久國はこの戦いで死ぬのか?」

 

「そうかもしれない。今回の敵は今までとは格が違いすぎる。できて相討ち。出来なければ俺1人死ぬことになる。」

 

それを聞いた蘭は悲しそうな顔をして、「そうか……」とだけ小さく言った。

 

「……それでも、それでも久國は戦うんだろ?……そんな馬鹿みたいに大きな敵にだって、久國は挑み続けてきた。何度も…何度も……。そうして久國はこの幻想郷を守り続けてきたんだ。」

 

「……そうなのかもな。」

 

そう言うと、俺はこれまでの戦いを思い出す。

 

そう、俺は過去に勝てないと確信する程に強い妖怪と何度も対峙している。

 

そしてその度に人の知恵と技で乗り越えたのだ。

 

それは先代から引き継がれてきた退魔師の力。

 

そして今、これまでの歴史を全てぶつけて戦う相手が現れた。こいつから逃げることは出来ないし、そんなことはしない。

 

勝つのだ。 蘭のために。

 

退魔師ではなく、君の明日のために。

 

「蘭。俺は君のことが好きだ。だから君の為に……君と明日を迎える為にに…俺はやつにかつ。」

 

「……私も…私も久國の事が好きだよ…。でも……あなたのいない世界なんて私は考えられない…。

だから約束して……絶対に帰ってくるって。」

 

俺は蘭の手を握り、宣言するかのように彼女に告げた。

 

「……約束する。俺は必ず……君の元へ帰ってくる…!」




中盤の話はおわり。

のこるは次回からの最終パートのみとなりました。

それでは次回もお楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話

お待たせしましたな

それではどうぞ


俺はそれから無縁塚で白式を押さえ込んでいる八雲紫の所に、彼女から受け取った最後の隙間を使って移動した。

 

「八雲紫。少しいいか?」

 

「……どうか…しましたの……?」

 

いつものようだが、やはり八雲紫の方もかなり疲弊しているようで、呼吸が途切れ途切れだ。

 

「中々に早かったじゃない…?もしかして話はしてこなかったの?」

 

「いや……ちゃんと話したさ。約束だってしてきた。」

 

……そう、約束。守れる確率は100パーセントない約束。

 

「……そう、ならいいですわ…。」

 

「あぁ、それと…これが最後になりそうだから言っておいていいか?」

 

「……何かしら?」

 

「俺が死んだ時なんだがな…出来れば……蘭はあんたが預かってほしい。」

 

「どうして?」

 

俺は少しいい悩んで…

 

「だってよ…なんだかんだで……八雲紫。あんたが一番長い付き合いだからさ。」

 

「……任せても、いいか?」

 

これだけを伝える。恐らく俺がこの妖怪と話すのも最後だから。

 

手短に、それでいて的確に…自身の言うべきことを伝えた。俺が居なくても蘭が平穏に暮らせるような状態にしておく為に。

 

その事を了承したかのように、彼女は頷きを俺に返してくれた。

 

(……これで、考えることは…)

 

「八雲紫、俺をやつの所へ飛ばしてくれ!」

 

「分かったわ。……生き延びて来るのよ。久國。」

 

そして出された隙間に入っていく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「待ちくたびれたぞ…」

 

中に入ったらそいつにそう言われた。

 

「こんな所直ぐにでも出てやっても良かったのだが……貴様らのそのくだらん策にまんまとかかってやろうと思ってな。どうだ?家族とのお別れは済ましてきたか?」

 

「また会う約束をしたさ。

…だからこそ…お前をここで絶対に倒す。」

 

「フハハハハ!!倒す?!この俺をか!

くだらないジョークを言ってくれるじゃないか!!」

 

こいつは大妖怪だろうと人間の体に取り憑いているだけに過ぎない。

 

つまり本調子ではないのだ。

 

ならばこちらにも勝算はある筈だ……!

 

「行くぞ!」

 

肩に担いだ刀を引き抜く。

 

勢いよく引き抜かれた刀の刃をそのまま眼前の標的に向け、技を打つために精神を統一させる。

 

相手はこちらの剣撃のことをよく知っている。

 

だからこそこちらの打つ技はこれまでの代の誰よりも優れた技でなくてはならない。

 

そうでなくては簡単に耐えられてしまうから……。

 

目を開き、身体全体に力を込め…そのまま一気に霊力を解放させる。

 

 

「『桜の太刀 奥義 桜花』」

 

そして白式に自身の刃を振りかざす。

 

「こんなもの……!!」

 

やつは自身の妖力を使ってバリアーを展開させ、こちらの攻撃を流そうとする……が、俺の攻撃を受け止めた瞬間ーーー

無数の剣撃が、白式に襲いかかった。

 

「な…何……?!」

 

無数の剣筋はそのバリアーをいとも容易く打ち破った。

 

「今……だァァ!!!!」

 

俺はそのままやつをその手に持った刀で切り抜いた…!

 

「が、はぁ…………」

 

膝を着く白式。だが、直ぐに立ち上がり斬られた部分を修復させる。

 

「な……何だと…? 」

 

「馬鹿め……!この程度で俺が殺られるか…。」

 

「ならもう一度……」

 

お前を斬るだけ……と言って刀握りなおそうとした時だった……おれの体が膝から崩れる。

 

「え………」

 

「馬鹿め……桜の奥義を使って直ぐに動けるものか。今の貴様は霊力も何もないんだよ。」

 

そんな…………俺の剣ではこいつを殺しきることは不可能なのか……?!

 

だが……それでも……!

 

「まだ……終わってない。」

 

「これから終わらせるんだ。お前も、この幻想郷も。」

 

そして白式は体全体に力を集中させて……

 

「カァ!!!!」

 

と妖力を勢いよく解放させて、この空間そのものを破壊した。

 

そうして俺たちの空間は元の無縁塚へと戻される。

 

「さて……第2ラウンドといこうじゃないか…。」

 

「くっ……そぉ……!!」

 

「なんだ、動けないのなら、俺はこの幻想郷を先に潰してきてやる。」

 

「まっ……ち…やがれ」

 

俺は……こんな所でこいつを野放しにする訳には行かないんだ……!!

 

なんとしても…ここで……!!

 

俺は最後の力を振り絞って霊力を解放させる。

 

それに共鳴してか、腕に付けた輝石も輝きを発す。

 

 

「……!?何をするつもりだ…?!」

 

白式は咄嗟に久國から飛び退き距離を置いた。

 

突然のことに驚きながらも、俺は河童の話のことを思い出し、覚悟を決める。

 

「いくぞ!!!俺はお前をここで殺す!!」

 

俺の霊力は輝石の影響からか、赤色の炎を彷彿とさせていた。

 

(熱い……これが俺の力を表しているのか……!!)

 

燃えさかる炎の中で、俺は溢れ出る力を確認した。

目標は決まった。終わりの時なのだ。

 

そうして……

 

「はぁあぁあああああああぁああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!」

 

全力を出す。炎を……自身の霊力すらをも自身の鎧へと変えるために。己の最期の灯火を今……

 

無縁塚という外の記憶が流れる場所だからなのか…力を得ようとした人と、その形を持った外の記憶が融合する……。

 

そして…霊力と輝石の力からできた鎧を纏った戦士が…この無縁塚に爆現した。




前座の戦いはこれで終わり。

これからが封魔伝説の本当の見せ場ですよ!

次話もなるべく早く更新します!

それでは!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話

早いでしょ……?もう最終回も書けたんだぜ?

てことでどうぞ!


「な、なんだその姿は……!貴様……!まだそんな力を……!」

 

「………………。」

 

自身の姿を確かめる。……赤いオーラを纏った瞬間、俺自身の姿が別のものに変わっていた。

 

そして俺の体からとてつもない力が内側からあふれ出ているような感じだ。

 

「……分からない。」

 

「何?」

 

「まぁ……お前を倒すための鎧を見つけたって訳だ。」

 

そして俺は白式に対して構える。刀は使えないが、俺はこの鎧の使い方を……戦い方を何故か理解しているようだった。それも以前にもこの鎧を使ったような気もしている。

 

それ故か俺は戸惑うことなく白式と対峙した。

 

「俺に勝つつもりか……?たかだか鎧を纏った程度でいい気になるなよ……!!」

 

白式が無数の妖弾をこちらに撃ち込む。

 

俺は空気を抉るようなパンチを繰り出し、その妖弾に触れることなくそれらを打ち消した。

 

「……っは?貴様……!」

 

「それが本気か?」

 

俺は霊力を解放させる。変身する時と同じ様に赤いオーラを吹き出しながら、俺は白式との距離を詰めるように接近する。そのスピードは鎧を纏う前よりも遥かに早く、一瞬の内にやつの間合いに入り込んだ。

 

「ハァ!!」

そしてそのままやつの腹に渾身の殴りをお見舞いする。一瞬のスピードから繰り出されたパンチは吸い込まれるように白式のみぞおちを捉えた。

 

 

「……ッッ?!!」

 

白式のみぞおちに綺麗に当たったのか、白式はその場で倒れ込む。奥義を使ってようやく倒れたやつがたった一撃で膝をつく様を見て、少し驚いたが…すぐに距離をとって次の技を考える。

 

(なんて力だ……これが輝石の鎧の力………でもこの力…使いすぎると霊力が無くなって行っている…気をつけないとな……)

 

「……ガハ…くっ……クソ…!貴様……よくも……」

 

白式はかなり頭にきたのか、血相を変えてこちらを睨んでいる。

だがそんなことに臆することもなく、俺はやつと目線を交える。

 

「さあ……続きを始めようぜ……これからが第二ラウンドなんだからな……!!」

 

「き……貴様ァ!!!」

 

白式の姿が残像のように掻き消える。それと同時に俺も瞬発的に移動する。

 

異次元のスピードで拳同士を交えた。

 

その明らかに人間離れしたスピードは恐らく自身の限界を何度も超えた超人のような気分だ。

 

一撃をお互いにぶつけては、その度に両者距離を離した。そして次の瞬間には再び拳をぶつけていた。

 

このスピードに慣れていない俺はそれに必死に追いつくために微調整をしながら白式の拳を流すと同時にこちらの拳をやつに向けて放っていた。

 

そして痺れを切らしたかのように白式がスピードをあげ、俺の顔面に膝で蹴りを浴びせた。

 

(……?!!なんて衝撃……!だが……!)

タダでやられるか……!そう心で叫びその足を掴んだ。そして……

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

雄叫びと共にその足を化け物が獲物を振り回すかのように振り回した。何度も地面や木々に当てるようにして、最後に地面に再び思いっきり叩き込んだ。

 

「……ガァ……!」

 

白式もこれは効いたのか白い体の所々に傷ができており、再び動き出すのに5秒かかった。

 

「何故……!貴様のような人間如きに……!この俺が……?!」

 

「それはお前の体が人間のものだからだろ。」

 

「……?!」

 

「妖力を先代に吸わせて意識を乗っ取って姿を変えただけだろ。お前の体はなにをしようが結局は人間のものってことだ。」

 

「う……うるさい……!黙れぇぇ!!!」

 

やつがまた妖力を解放させる。

 

「俺を完全に怒らせたな。100%だ。この俺も本気で貴様を殺してやる。その後にこの幻想郷に存在する全ての生物を消していってやる……!!」

 

「お前は俺には勝てない!だからその野望を達成することは出来ない!!」

 

「貴様らはよくもまぁそんなことをベラベラと喋れるものだ……!相も変わらず腹立たしい……!」

 

妖力を纏った白式がこちらに突っ込んでくる。

 

即座に応戦しようと構えようとするが、それよりも早くやつの拳が俺の体を捉え、そのまま連打される。

 

「なんだ……?見えない……!」

 

「見えるわけがないだろう!!大妖怪の……この白式様を侮るなよ!!!」

 

ガードを崩され、そのまま蹴りあげられる。

 

空中に放り出された体は完全に無防備で防御をとる事はできない。

 

それを見て、白式は即座に妖弾をこちらに放つ。

 

「がぁあああああぁあああああぁあああああ!!」

 

その攻撃は俺の片腕に被弾し、鎧の防御を貫通して俺の肘を貫いた。

 

そしてバランスもとれずに地面におちる。

 

ドンと大きな音をたて、俺の体は地面に落とされた。

 

(く……そ…)

 

気を抜きすぎた。自身の力以上の力を持っていたんだ……こいつは……

 

そして迫る白式に目線を移して立ち上がろうとした瞬間に、俺の体は再び中に浮いた。

 

「…………?……!」

 

自分の体が蹴りあげられることに気付いたのはそれからすぐの事だ。

フワリと浮いた俺の体を白式は瞬時に蹴り飛ばした。

 

地面を勢いよく転がり、岩に叩きつけられてようやく止まる程の力で蹴り飛ばされ、既に体の骨を何本かやられていたのか……呼吸も上手くできない。

それに……

 

フッと一瞬、変身が解けた。

 

「……?!」

 

「ほぉ……?」

 

幸いすぐに戻ったが、俺はこの変身が解けたら負けなのだ。何とか維持する。

 

負けられないから。

 

「貴様…もうリタイアして殺されろ。」

 

「何言い出すんだ?」

 

「その鎧……貴様の生命力を貪ってるではないか。現に今その鎧は消えかけた。」

 

「まだ消えてない。」

 

「だが直に貴様の生命力が尽きればその鎧もきえる。」

 

「だとしても」

 

だとしても……だ。

 

「俺はお前をこの手で葬る。生命力が尽きるならその前にお前を。」

 

「面白い。」

 

白式が自身の妖力を一点に集中させる。

 

「ならばやってみろ。俺はこの一撃で貴様と……この幻想郷を葬る。それだけの妖力だ。避けたければ避けろ。」

 

ハッーーと小さく嗤い

 

「避けるかよ。お前こそ後悔するなよ?俺の全力の技を受けて……生きてる保証なんてないのだから!!」

 

俺も霊力を……俺自身の生命力をも解放させる。

 

「喰らえ……これが俺の最後の技……!

『炎目 終焉燃焼 』!!」

 

赤い炎弾が白式の放った妖弾とぶつかる。

 

「くっ……ソォ…!負けて……たまるか……!!」

 

「終わりだ人間。俺を本気にさせたことは賞賛に値する……。だが、それだけだ。俺のこの技をくらってこの幻想郷もろとも消えて……なくなれぇ!!!!」

 

「ふざけるな……うおああぁぁあぁああ!!!!」

 

カラッポの体から出てくるのは気迫のみ、だが…その気迫が俺の炎弾の勢いをより一層強くさせる。

 

そして……バシュン!と大きな音をたて、俺の炎弾がやつの技を打ち破った。

 

「何……?!ぐはああああああああ!まさか……こんな…事がァ…!」

 

やつに見事俺の技が命中する。

 

勢いよく燃える炎に包まれた白式は先代の体もろとも塵と化して消えた。




なかなかに長かった。

遂に白式を葬った久國。しかし彼の身体からは既に生命力は残っていない。

次回、序章最終回。

どうぞお楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話 (最終回)

最終回!!

短い物語ですがありがとうございました。


「…終わった……」

 

遂に白式との戦いに決着が着いた。やつは俺の炎をまともに浴び、それこそ塵のように消滅した。

 

能力を使って探知するまでもない。それ程圧倒的な勝利を俺はしてやった。

 

(だが……蘭との約束は守れなかったな……。)

 

変身が解かれる。それと同時に俺の中にあった生命力の線がプツリと音をたてて切れたのを感じた。

 

「ここ……までか…」

 

その場で倒れる。立ち上がろうとする気力すら、起ころうとはしない。

 

いよいよか……と、自身の死期が明らかな速度で近づいていることに気が付く。

 

だからといって今の俺に何かできるわけでもないし、どうしようもなかった。

 

ただ…一人孤独で死ぬってのは……心寂しいものだな…

 

「……!!」

 

遠くで誰かが叫んでいる。そちらに首を向けようとするが……やはり動けなかった。

 

朦朧と意識が遠のいていく。

 

(ここまで……か…)

 

今までに感じたことの無い睡魔に襲われ、俺はその睡魔に逆らうことなく、目をゆっくりを瞑る…。

 

ーー時だった。

 

その時、俺の身体が宙に浮いた。

 

「…………?」

 

俺が誰かに支えられてるのことには直ぐに気が付いた。

 

……だが誰が?八雲紫か……??

 

「久國!しっかりしろ!!久國!」

 

ペチペチと俺の頬をたたく音。それにこの人は……

 

「やめ……ろよ…蘭……。」

 

そうか、彼女は俺の所に来てくれたのか。

 

「そんなこと言って!お前……その身体はなんだ…

全く生気を感じない……これじゃまるで……」

 

「死体みたい……てか?ハハハッ……その通りだ。」

 

「……!どうして……!また私の所に来てくれるんじゃなかったのか……!!」

 

怒りを露わにして俺を怒る蘭。当然だ。誰だって約束を破られたら怒るに決まっている。

 

「すま……ないな…。でも良かった……お前が…来てくれて…………。」

 

「これで寂しくない。とでも言うのか?!ふざけるなよ!残された私のことはどうなるんだ!」

 

「それはすまない……だが…君の安全は八雲紫が保証……してくれる。だから……安心してくれ……」

 

「何……?!なら本当に初めから………。」

 

「蘭。許してくれ……。」

 

俺は多くの妖怪を葬った。だからこそ妖怪達とはよろしくやるつもりなど毛頭なかった。

 

しかし、良い奴もいた。頼れる仲間として見ることができた。それがどれだけ救われたか。

 

人として産まれたのに、人の道を外れ、妖怪達との戦いに身を投じることがどれ程怖かったか……。

 

里の人達とは仲良くなれた。凍った心を……人を思う気持ちを思い出したのは…それを感じられたのは何時だったか……

 

そして……この身体に安らぎを……守りたいと…心の底から思ったのは……君が初めてだったんだ……

 

だからこそ驚異である白式はなんとしても排除したかった。

 

俺の……命に替えても。

 

妖怪を殺す為に刃を振るい続けた俺の体は……

 

今、愛する物の上で静かに朽ち果てた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「久國……?久國!返事をしてくれ!久國!!」

 

私の中で一人の男が死んでしまった。

 

私を置いて、どこか遠くへ……私の手の届かない所に。

 

後ろを振り向くと、そこには彼と何時も何かを話していた女……たしか八雲紫…といったか、その人が姿を表した。

 

「……。蘭、と言ったわね?」

 

「……そう…です。」

 

「彼は……そう……。」

 

分かっているくせに!貴方がこの人をここまで酷使した癖に!!怒りはとっくに爆発していた。

 

何かに当たらないと気が済まない。そんな感情に私の意識は呑まれていた。

 

しかし……

 

「遂に……私との約束は……守らなかったのね…!」

 

彼女もまた彼とまた会おうと、そして裏切られていたのだ。

 

私は怒りを感じたが、彼女に……この人に当たることは出来ない…と思った。何より彼は私たちを守って死んでしまったから。

 

「あの。」

 

「……?どうかしたの?」

 

「彼を…生き返らせる方法って……ありませんか…」

 

「ないわ……だって彼の依り代になる媒体がこの幻想郷には存在しないもの。」

 

「それなら……あります…!」

 

私はアリスさんの店で購入した人形をとりだす。

 

金髪だったその髪色は何時しか彼と同じ黒色に変色していた。

 

「……!それなら…でも私は蘇生術とか…そういった術は使えないわ。精々式を使役するくらい。」

 

「なら……私が…私がこの手で彼を復活させます!」

 

「……それがどういう事かわかっているの?貴方は……」

 

分かってる。それで彼とまた……会えるなら!!

 

「はい……私は人を…辞めます。」

 

「……そう。分かったわ。なら直ぐに貴方を妖怪にしてあげる。そして貴方が……彼を…久國を復活させなさい。」

 

「……はい…!分かりました。」

 

そして私は九尾となった。

 

尻尾が全て生えるまで1000年かかった。

 

その間の時間は全て紫様の隙間の弄られた空間で過ごした。

 

そこで蘇生術とは違うが、彼を復活させるための術を会得した。

 

そして今日、遂に……遂に彼と再開する。

 

「よく頑張ったわね。藍」

 

「はい……紫様…。今日……遂に彼と…久國と再会できる。」

 

「えぇ。それじゃあ早速術を発動して。準備はできているわ…。」

 

「はい!それでは……」

 

式を展開させる。現実ではおよそ20年もたってしまったが……私は彼を…必ず生き返らせるのよ……!

 

そして。

 

「あれ?ここは……」

 

「久國!」

 

彼の名を呼ぶ、彼は驚いたように私の方を見て

 

「な、なんで蘭が……?!」

 

「おかえり!!」

 

「えぇ……?!あぁ…ただいま。蘭」

 

これで……ようやくいつもの日常に戻った。

 

今は紫様と久國の3人で生活している。

 

この日常を…幸せを私は……追い求めていたのだろう。

 

 

剣士は次の代へ移り変わる…その技を、経験を受け継いで。

 




サブストーリー完!

11話という短い物語でしたがありがとうございました!

これからは本編に登場する久國くんの活躍にご期待ください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。