ようこそ実力主義者の教室へ。元脳筋は苦労する。 (赤山大和)
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1話

――――四月。

 

 

新しい出会いの季節であり。

始まりの季節。

 

 

入学式。

 

俺、月村司(つきむらつかさ)は学校へと向かうバスの中でため息をつきながら緊張から落ち着かない気持ちを静める。

 

 

身長が180cmを越え今までの鍛えてきたお陰で無駄に体格が良く、やや強面の俺が目の前に立っていてるせいか目の前に座っている女生徒が怯えているように見えるのは少しショックだ。

 

 

これで、俺が中学の時代に暴力事件を起こしている事が知られれば逃げ出されるかもしれない。

 

 

何故、暴力事件を起こした俺がこれから入学する名門校、

高度育成高等学校に入学出来たのかは未だに謎ではある。

 

普通は札付きの不良の入学を許可する名門校など無いと思うのだが。

 

それとも中学の頃に幾つかの大会で結果を残した事が評価されたのか?

 

だとすれば微妙な気分だ。

俺としては高校生活ではこう、なんと言うか普通の青春というものを送りたい。

 

 

中学の頃のように脇目も振らずに己を鍛え続けた挙げ句に暴力事件を起こして倦厭されるような日々から脱却したいと望んでいるのだしな。

 

 

この学校は地元からも遠く、しかも外部からも隔離されているという新しい生活を送る上では理想的な学校なのだから。

 

 

そんな益体の無いことを考えている間に目的地に着く。

 

バスから降りた制服に身を包んだ少年、少女達と同じ方向へと歩めば天然石を加工した門が待ち構える。

 

 

東京都高度育成高等学校。

 

門をくぐり抜け、今日から俺の新しい学校生活が始まる。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

さて、門をくぐり抜け、案内板を確認しながら自分のクラスへと向かう。

 

1学年4クラス。40名。1学年で160名というのは多いのか少ないのか? 学校の規模にしては少ないと見るべきか?

 

 

まぁ、そんな事よりも自分のクラスは1-Cか。

仲良く出来そうな相手がいると良いのだが。

 

 

ガラリと教室の扉を開くと既にクラスの半数以上の生徒がいるのだがややガラの悪い生徒が目につく。その中で目を引いたのは3人。

 

1人は巨漢の外国人。俺よりもガタイが良い。

戦えば負けるとは思わないが苦戦するだろう。

 

 

もう1人やや長めのヘアースタイルの男。

妙な雰囲気のある男だ。特に何かがあるわけでもないのに少し気になる。

 

 

そして最後の1人は長い銀髪の美少女。

周りとは雰囲気の違う大人しそうな少女だからか目を引くものがある。本を読んでいて此方には何の注意も払っていないのだがその横顔に少し見惚れた。

 

 

少し呆けてしまったが自分の名前のあるネームプレートを確認して席に座る。

 

 

廊下側の後ろの席。

 

俺としては人と話すのが得意という訳ではないのでとりあえず時間を潰す為に文庫本を取り出す。

 

読む本はライトノベルが多いが高校では推理小説や歴史小説等にも手を出して見たい。

 

コナン・ドイルとか江戸川乱歩とか興味があっても手を出してないからな。なんと言うか敷居が高いというか。

 

ん? 視線を感じてそちらを見ると先ほどの少女が此方を見ている。

あれ? 本を読んでいるので興味を持たれたとか?

 

ごめんなさい。

俺が読んでいるのはライトノベルなんです。

読書家としての俺のレベルは低いのです。

 

 

せっかく興味を持たれたっぽいのに本のタイトルとか聞かれたら不味いな。クソっ!

 

幸いにも声をかけられる事もなく数分ほど立ってから始業を告げるチャイムがなった。

 

ほぼ同時にスーツを着た30代後半のメガネの男性が教室に入ってくる。

 

「新入生諸君、入学おめでとう。私はCクラスを担当する事になった坂上数馬だ。普段は数学を担当している。この学校では学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの3年間、私が担任として君たちを指導する事になるがよろしくたのむ。今から1時間後に入学式が体育館で行われるが、その前にこの学校の特殊なルールについて書かれた資料を配布させてもらう」

 

前の席から見覚えのある資料が回ってきた。

合格発表の時に貰ったものだ。

この学校が外部との連絡を禁止していること等の特異な部分の説明がされている。

 

 

「次に学生証カードを配らせて貰う。これを使い敷地内にあるすべての施設を利用したり売店で商品を購入する事が出来るようになっている。クレジットカードのようなものだ。ただし、ポイントを消費する事が出来るようになっているので注意が必要だ。学校内においてこのポイントで買えないものはない。学校の敷地内にあるものなら、何でも購入する事が可能だ」

 

何でも購入可能か。

何でもの範囲が気になるな。

 

 

「施設では機械にこの学生証を通すか、提示する事で使用可能だ。使い方はシンプルだから迷う事はないだろう。それからポイントは毎月1日に自動的に振り込まれる事になっている。お前たち全員、平等に10万ポイントが既に支給されているはずだ。なお、1ポイントにつき1円の価値がある。それ以上の説明は不要だろう」

 

その説明に教室内がざわついた。

 

10万ポイントは10万円ってことで大金だ。

やっぱ入学祝いみたいなものがあるんだろうな。

 

それに入学して実際に寮生活を始めて必要になった物とかを揃える為にかかる費用を考えて多く貰えたのだろう。

それでも多いが。

祝儀って考えると来月からはもっと少ないのだろうな。

 

 

「ポイントの支給額が多い事に驚いたか。この学校は実力で生徒を測る。入学した君たちにそれだけの価値と可能性がある。その事に対する評価みたいなものだ。遠慮することなく使いたまえ。ただし、このポイントは卒業後には全て学校側が回収する事になっている。現金化する事は出来ないからポイントを貯めても得はないぞ。振り込まれた後、ポイントをどう使うかは君たちの自由だ。好きに使いたまえ。仮にポイントを使う必要が無いと思った者は誰かに譲渡しても構わない。だか、無理やりカツアゲするような真似だけはしないように? 学校はいじめ問題にだけは敏感だからね」

 

 

あれ? 来月からの支給額について触れないのか?

毎月10万も貰えるって事は無いと思うのだが。

てか、毎月10万だと1月だけで40人×10万×4クラスで1600万。これを3学年に12ヶ月。

 

それを3年間とかありえないよな。

何億になるんだよ。

 

「何か質問のある生徒はいるかな?」

 

質問した方がいいだろうし手を上げる。

 

 

「おや月村君か。何かわからない事があるのかな?」

 

 

「はい。来月に支給されるポイントは幾らなのか教えて欲しいのですが」

 

これがわからないとどれ位のポイントを残した方がいいとかわからないからな。

 

「先ほど伝えたように学校は実力で君たちを評価する。つまりはそういう事だ」

 

 

実力で此方を評価かいまいちわからない。

そう言えば、この教室とかもだけど監視カメラがついているし普段の授業態度とかか?

それとも月末にテストがあってその結果がポイントに影響するとか?

 

 

「他に質問はないようだね。では良い学生ライフを送ってくれたまえ」

 

 

 

先生が出て行った教室。

俺の質問のせいか少し戸惑った雰囲気があるか。

そんな空気の中で、

 

 

「よう、ちょっと話に付き合え」

 

 

俺が少し気になったクラスメイトの男が声をかけてきた。

 



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2話

HRが終わった後に声をかけてきたクラスメイトに誘われてクラスを出る。

 

ふむ。これは高校生活初めてのお友達フラグか?

さすがに入学初日から不良生徒の顔をかせではないと思うが。

 

「月村司って言ったな。お前はSシステムについてどう思う」

 

 

予測はしたがそれの事か。

俺が先生に質問したようにこの男も気になったのだろう。

 

 

「まぁ、毎月10万を全クラスの生徒に振り込むとかは無いだろうな。俺達の実力を見るというのなら普段の授業態度とかテストとかで増減するという事だとは思うがそれだけでは無いと思った」

 

 

そもそもの話、俺は勉強関連ならば劣等生とまでは言わないが低い方だ。ならば勉強だけで評価された場合に10万を払う価値等ないだろう。

それは俺だけではないだろうが。

 

 

「なるほど。他の浮かれている馬鹿どもよりは使えそうだ」

 

ずいぶんと上から目線。

それよりも問題は。

 

 

「……今更で悪いが名前を聞いてもいいか?うちのクラスはまだ自己紹介すらしてないからな。俺はお前の名前を覚えていない」

 

 

「くはっ。そうだったな俺の名前は龍園翔だ。まぁ、よろしく頼む」

 

 

「改めて名乗るが月村司だ。こちらこそよろしく頼む」

 

 

なんとなくだが中学の時にいた不良達のボスを思い出すな。龍園も人の上に立とうとするタイプか?

それだけの雰囲気はあるが。

 

 

「しかし、お前はクラスメイトに興味がなかったのか」

 

 

「いや、そういう訳ではないぞ。それに3人程気になる相手はいる」

 

 

「へぇ、誰だ?」

 

 

「龍園と巨漢の外国人。それと銀髪の文芸少女」

 

 

「――ああ、山田アルベルトと椎名ひよりか。お前も目をつけたか」

 

 

龍園もチェック済みか。

あの美少女は椎名ひよりというのか。

覚えておこう。

 

 

「山田の方は俺だけじゃなくてクラスの全員が気になったと思うがな。椎名さんについてはあれだけの美少女だ、他にも目をつけた男子生徒がいるだろう」

 

 

あれだけの美少女ならばモテるだろうし。

俺としても仲良くしておきたい。

 

 

「なんだ。ああいうのが好みなのか」

 

龍園は愉しげに笑う。

 

 

「否定はしないさ。外見的にはストライクだしな。後は実際に話して性格とかを知れれば。まぁ、それ以前に俺が怖がられなければの話だが」

 

 

暴力的な人間ってのは嫌われやすいだろうからな。

体格が良いというのも怖がる要素にもなるだろう。

 

 

「へぇ…………怖がられるね。確かに良い体格をしている。何か格闘技でもやっていた口か」

 

 

龍園の俺を見る目が鋭くなる。

龍園は喧嘩とか強そうだ。そういうのでのし上がってきた手合いっぽいか。

場合によっては殴り合う事になったりするかもな。

同じクラスメイトとして無駄に争うつもりはないが。

こちらが観察するように龍園からも観察されているというのはわかる。

 

 

「まぁな。家の近所にあった道場に通っていたし、中学時代はこれでも全国大会に出場したんだぜ」

 

暴力事件を起こして失格になったけどな。

部活も辞めたし。

虚勢を張らせてもらうよ。

 

 

「なるほどな。確かに鍛えてるみたいだ………なぁ、月村」

 

 

「ん、なんだ」

 

 

「お前はなかなか使えそうだ。俺の下につけ」

 

 

ああ、そういう勧誘か。

中学の時も何度かあったな。

特に暴力事件を起こした後は不良と呼ばれる集団とイロイロとな。

 

 

「…………今は、断る」

 

 

「………今は、か。まぁ、俺も初日から焦るつもりはないが理由を聞いとこうか」

 

 

 

「そりゃ、Sシステムについても龍園がどんな人間かもわからないからな。下に付くか判断に困る。まずは情報を集めるてからにしたい」

 

 

軽々しく不良達の仲間になったせいで迷惑かけた相手とかもいるし。

考えて動く事。

それができなけりゃ俺は成長をしてないことになる。

 

 

「ククッ、確かにな。ならSシステムの概要がはっきりしてから改めて声をかけるとするか」

 

 

「そうしてくれ。まぁ、友人としてならば今からでもいいのだが」

 

 

友人ならば歓迎。

この男と対等な立場ってのは難しいかも知れないが。

 

 

「そうか。これは俺の連絡先だ。何か有益な情報が入ったら教えろ。報酬は出す」

 

 

「了解だ」

 

とりあえず連絡先をゲットだぜってな。

高校生活初めての友人?友人ができたのか?下につけとか言われているし友人枠に入れていいのか?

まぁ、初めての友人ゲットだぜ。

 

 

そろそろチャイムがなるだろうし、まずはクラスに戻って入学式だ。

他にも友人ができると良いのだが難しいかもな。

 

 

 

 

 

 



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3話

入学式は無事に終了。

 

お昼の前に一通り敷地内の説明を受けた後に解散となったわけだが見事に1人だ。

 

 

早くもグループを作って仲良くしている中で入学早々にボッチと確定してしまった。

というか、回りのクラスメイトから避けられている気がしたのだが。

 

まぁ、これからだ。

 

とりあえず近くの自動販売機で飲み物を買おうと思うのだが無料となっている水が目に入る。

 

水だから無料なのか?

少し気になるのでそちらを購入。

飲んでみても普通に水だ。

 

 

引っ掛かるものを覚えつつ近くのコンビニの中に。

そしてその中にも無料と書かれたワゴンが。

 

ポイントを使いすぎた人への救済措置と考えるには違和感が。

上級生と思える生徒がワゴンから商品を持っていってるから余計に。

もしも毎月10万ポイントを貰い続けているのならば余裕をもって普通に商品を買うだろうしな。

 

とりあえず、歯ブラシやタオルは貰うとしよう。

後は日用品を買い足してと。

 

やはり、来月からも10万ポイントが貰えると考えるのは間違いだよな。

そもそも、いきなり得た大金で浪費癖とかがつくと困るし。

 

買い足した日用品を持って寮の自室に。

 

電気、ガス、水道代も無料か。

 

ここまで至れり尽くせりだと普通に怖い。

 

時間はまだお昼。

 

少し、探索するか。

 

先ずお腹を満たす為に食堂にいくのだがやはりというか無料の山菜定食が。

 

つまり、少ないポイントで遣り繰りする事になるのが確定しているという事だよな。

 

節約を考えるべきか。

 

んー、となるとこれからどうするか。

必要な物を購入するとして娯楽の類いは運動か読書くらいか。

ゲームとかを買えば数万が飛ぶから論外。

運動は部活に入る事を考えるとしてだ。

 

読書は本を買うお金を節約するとなると図書館で本を借りるのが良いかもな。

 

うん。行こう。

 

 

そんな訳で向かった図書館なのだがデカイな。

これならば俺が読めるような本もあるだろう。

 

そんな訳で図書館内を探索するのだがやはり漫画の類いはないな。

 

小説はラノベなんかも普通にある。

うん、これは朗報。

 

毎月新刊を買ってたらお金がな。

後は有名な推理小説やらに手を出して見るか。

 

………………………………。

 

……………………………………。

 

…………………………………………どれが面白いんだ?

 

 

本の著者が外国人というだけで躊躇いを覚える俺はなんと情けないのだろうか。コナン・ドイルくらいは手を出せるはずだろうに。

 

ミステリーのコーナーで本を前に固まる俺は周りから奇異に見えるだろうがな。

 

本を手に取ってはあらすじなどをみて戻してを繰り返してしまう。

 

どうしたものか。

 

 

「………どうかしたのですか?」

 

悩んでいる俺に救いの手。

司書の方かと思って声の方を見ればクラスメイトの椎名さんの姿が。

偶然でも出会えたのは嬉しい。

 

 

「………えーと、クラスメイトの椎名さんでいいのだよな」

 

 

「はい。………確か貴方は月村くんでしたか」

 

 

うん。覚えてもらえていたとは。

地味に嬉しい。

 

 

「ああ。偶然だな」

 

 

「ええ。それでどうしたのですか?何か探している本でも?」

 

 

「いや、そういう訳では。………その、情けない話しだが今まで小説はライトノベルの類いや漫画化したような物しか読んだ事が無いんだ。それでまぁ、高校生になったのだし有名な文学史に手を出してみようと考えたのだけど中々選べなくてな」

 

 

王様ゲームとか漫画とかドラマから小説に入った物なら分厚い文学史を読めるのだけどな。こういうのはどう手を出せば良いのか。

有名な著者の名前をなんとなく覚えていたりはするのだけど。

 

「まぁ。それでしたら幾つかオススメの小説をお教えしましょうか?」

 

 

「お願いする。正直、助かる」

 

 

「いえいえ、私としても読書仲間が出来るのは嬉しいですから」

 

 

この子は天使か!

 

薦められる小説の幾つかを借りて図書館を出る。

彼女と別れたときに連絡先も交換する。

 

 

うん。素直に嬉しい。

だが、これで勘違いしたら普通に痛い奴になるから気をつけないとな。

 

向こうは読書の仲間が出来て嬉しいというだけなのだからな。

 

借りた本はちゃんと読むけど。

……………読めるよな。借りた本だから積み本は出来ないし、せっかく椎名さんとの話題のネタができたのだし。

 

 

あとやることはこの学校の情報集めだよな。

 

明日あたり龍園と話してみるか。

 

 

 

 

 

 

 



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4話

学校2日目。

 

 

授業初日なのだが大半は勉強方針の説明だけだった。

しかし、授業中の私語くらいならばともかく携帯をいじっている生徒への注意すらないのはどうかと思うのだが。

教師も気付いているのに無視している。

これは変だろ。

何かあると考えるべきだよな。

疑問に思いながら昼休みになった時に龍園の元に。

 

 

「どうした月村?」

 

訝しげな龍園に対して昨日と今日の時点での疑問を話す。商品や食品の無料販売。初日とはいえ教師のこちらへの態度。

違和感を覚える事を一通り話すと龍園は面白そうにしている。

 

 

「疑問に思うだけ他の奴等よりマシだな。ククッ。やはりこの学校は一筋縄ではいかなそうだ」

 

ふむ。

何らかの答えが龍園の中にはありそうだが。

 

 

「クラスメイトに授業の態度なんかを注意しておいた方が良いと思うか?」

 

 

減点の対象となれば困る事になるだろう。

 

 

「まだ必要ない。それに今は推測の段階だ。なーに焦る事はないさ」

 

「そうか。………俺もしばらくは何もしないでおこう。推測がある程度固まったら周りには話す事にする」

 

 

考えると、真面目に授業を受けろと言った所で周りが此方の注意を聞き入れるとは限らないしな。

システムのわからない内に無駄に騒ぐのは悪手かもしれないか。

 

 

龍園と軽く話して食堂に向かう。

食堂の中ではポイントを支給されたばかりである筈なのに山菜定食を食べている生徒がそれなりにいる。

 

 

試しに俺も山菜定食を食べてみるがあまり美味しいとは思えないか。これを当たり前のように頼む生徒が多いという事はだ。

やはり、来月から貰えるポイントは減少すると考えるべきだよな。

 

 

食事を終えて教室に戻れば椎名さんと話す事が出来た。

昨日借りた本についての話し。

まだ読んでいる途中ではあるがちょっとした感想や作品の意見を交わすが椎名さんは本当に本が好きなのだとわかる。

 

 

俺としても読んでいて面白かったのでごく自然に話せたと思う。

まぁ、美少女との会話で舞い上がる自分の単純さには少々呆れるが。

 

因みにこの2日が会話したクラスメイトは龍園と椎名さんと石崎だけだ。かろうじてボッチではないという事を喜ぼう。

 

 

 

『本日、午後5時より、第一体育館の方にて、部活動の説明会を開催いたします。部活動に興味のある生徒は、第一体育館の方に集合してください。繰り返します、本日――』

 

音楽と共に流れるアナウンス。

この放送に一部の生徒がざわつく。

放課後に第一体育館か。

まぁ、行ってみるか。

 

 

 

そして、放課後。

 

 

第一体育館にて部活動の説明会が行われる。

しかし、部活動か。

色々な部活があるわけだが中学時代に問題を起こした事を考えると空手や柔道の格闘技系は却下だよな。

それ以前に空手部は無いようだが。

 

 

となると球技系か水泳や陸上等の運動系か。

それか文化系の部活。

 

 

多分だが部活動で結果を出せばポイントの増加が有りそうなんだよな。生徒の実力を評価するそうだし。

 

 

経験が有るスポーツとなると体育の授業でやった野球かサッカー、バスケットってところか。

 

特に野球は中学3年の頃に近所の草野球チームの助っ人で経験したからボールの投げ方は教わっている。

バットもそれなりに振った。この学校の野球部はそれなりに強いらしい。

 

だけど、バットやグローブ等の道具にかかるポイントを考えると軽い気持ちでやるべきではないか。

バスケットのバッシュもかなり高いだろう。

となるとサッカーか?

スパイクやすね当て等を購入するとしても一万以内に済ませられるだろう。

 

 

だけどそこまで払ってやるのかと考えるとな。

う~む。

こんな考えの時点で入部すべきではないよな。

真面目に部活をやろうとしているならばポイントを気にして控えるなんて事はしないだろう。

 

部活に入って道具を揃えて途中で辞めましたなんて事をしたら道具が無駄になるし、部活を途中で辞めるという行為は学校からの評価に影響するかも知れない。

3年間続けるつもりでないなら手を出せないか。

文化部も色々とあるがピンと来ないし。

 

 

 

うん?

最後は生徒会か。

 

暫くは沈黙していたがそれに騒いだ生徒が黙ると明らかに空気が変わる。

 

会長さんの威圧感はハンパないな。

堀北学か。顔と名前は覚えた。

学年が違うから関わる事はないだろうが。

 

生徒会の話しが終わると解散となる。

 

部活動の申し込みをしているCクラスの生徒もちらほらと。

俺はどうするか。

ここまで来て悩んでいる時点でダメなのだろうな。

部活動は止めておくか。

鈍らない程度に運動はするつもりではあるが。

 

 

優柔不断な自分が情けない。

中学の頃ならば考えずに柔道部とか、もしくは適当に運動系の部活に入部したのだろうな。

 

考えて行動するようにしたと言えるが決断力を失ったともとれる現状には情けなさがある。

 

 

はぁ~気分転換に帰りは少し良いものを食べて帰るか。

 

 

 

 



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5話

入学から数日。

 

今の俺はプールサイドにいる。

 

この学校ではこの時期から水泳の授業がある。

設備が整っているとは言えこの時期からのプールの授業というのは珍しいのか?

 

まぁ、それはともかく水着となると俺たち男子生徒の体格がよくわかる。

 

俺もだが龍園に石崎という生徒は中々良い体をしている。他にも運動系の部活動に入部した奴等の体つきは悪くない。

 

もっとも、山田アルベルトの体つきは圧巻の一言だが。

 

そこらの生徒とは一回りは体が違うから。

いや、凄いわ。

 

因みにこの山田と石崎は何時の間にか龍園の部下になっている。

 

石崎はともかく山田を従えるとか凄いな。

これと喧嘩したんだろ。

 

あぁ、俺も戦ってみたかった。

って、ダメだろその考え。

 

まぁ、それはそれとしてだ。

 

水着となって体を晒すのはなにも男子だけではない。

そう、女子の水着姿も見れるのだ。

 

俺を含めて一部の男子の気迫が凄い。

ここまでクラスの男子がやる気をだす授業は他にないだろうな。

 

うんうん。

 

 

気になる事といえば授業を見学する女子も多い事か10人前後か。

授業の見学がサボり扱いでポイントが減るとかは勘弁なのだがね。

 

それよりも気になるのは椎名さんのスクール水着姿。

やはり、良い目の保養だ。

ついつい目を向けてしまう。

 

他にも目を引く女子が何人も。

何気にこの学校は美人や美少女が多いと思う。

 

「くくっ、お前ら女子の事を見すぎだろ」

 

そんな俺達を笑う龍園。

 

「いや、これは仕方ないだろ」

 

俺の言葉に同意する周りの男子生徒。

 

 

 

 

「よーしお前ら集合しろー」

 

体育の教師声がかかったのでそちらに向かう。

 

「見学者は10人か。随分と多いようだが、まぁいいだろう」

 

 

明らかにサボりでも咎められないと。

予想の範囲だがやはりおかしいよな。何か有りますと言っているようなものだ。

 

「早速だが、準備体操をしたら泳いでもらうぞ」

 

何人かの生徒は自信がなさそうな発言をしている。

俺はそれなりに泳げるつもりだから不安はないが。

先生の次の言葉には警戒心が起こる。

 

「俺が担当するからには必ずし夏までには泳げるようにしてやるから安心しろ。泳げるようになっておけば、必ず後で役に立つ。必ず、な」

 

先生が『必ず』役に立つと断言する。

これは夏に何かがあるという事だよな。

それも泳ぎに関わるようなものが。

 

あーでもこの学校がそんな簡単なヒントを出すか?

泳ぐ必要があるということは海とかプールが関わる課題があるとか?

水上体育祭見たいなものがあるのか?

………ダメだ。憶測をいくらしても答えはでない。

その時が来るまでは気にしてもしょうがないだろう。

 

 

近くにいた龍園も今の発言を吟味しているようだし。

この学校は先生の発言によく注意する必要がありそうだ。

 

全員で準備体操を始め、それから50mほど流して泳ぐように指示される。

 

泳ぐなど去年の夏以来で少しぎこちないが泳ぎ方は忘れてない。

問題ないな。

 

50mを泳いだ後はプールから上がり全員が終わるのをまつ。

 

「とりあえずほとんどの者が泳げるようだな。では早速だがこれから競争をする。男女別50M自由形だ」

 

いきなりだな。

 

「1位になった生徒には、俺から特別ボーナス、5000ポイントを支給しよう。一番遅かった奴には、逆に補習を受けさせるから覚悟しろよ」

 

泳ぎに自信がある生徒から歓声が上がるがこれは水泳部の人間が有利だよな。

 

しかし、学校側がポイントを景品にしてくることがあるとは。

今後もポイントを手にする手段の一つになるか?

いや、いくらなんでも不確定要素が多すぎるか。

 

 

たまたまのボーナス。

もしくは学校側からの今後への布石とかか。

授業で結果を出すことでポイントを得られる事もあるという前例。

授業や試験でポイントを得る事が出来ると生徒達に教えるのが目的とか。

 

考え過ぎか?

でも、多分だが他のクラスでも同じ事をしていそうなんだよな。というかしているだろう。

 

 

っと、俺の番か。

 

 

補習は嫌なので全力で泳ぐ。

龍園達と同じ組だがまぁ、勝てるだろう。

 

実際、多少なりとも龍園達に差をつけて50mを泳ぎきればタイムは25秒は切っての勝利。

 

先生も感心しているが次の組にいた水泳部のやつが同じ位のタイムを出していた。

 

現役の水泳部員と同じ程度のタイムが出せたなら満足だ。

 

 

それぞれのグループのトップを集めた決勝では惜しくも2位。ポイントを得ることは出来なかったのは残念だが。

 

 

気持ちを切り替えて今度は女子の泳ぎを観察。

椎名さんについ視線をやってしまう事は許してほしいが。

泳いでいる時に見えるお尻の動きが。

 

こちらの競争の結果は伊吹という女子や木下という女子が頭一つ上だった。

 

椎名さんは泳ぎというか運動が苦手なのか最下位にこそならなかったようだが下位の争いで辛うじて補習を免れた様だ。

 

うん。

よかった。

 

 

 

 

 



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6話

学校が始まってから三週間が立つ。

 

授業中にも関わらず私語やスマホをいじる生徒は少しはいるが龍園を中心としたグループでは真面目に授業を受けているし、それに合わせて他のクラスメイトも授業中は静かになった。

 

 

この辺に関しては俺や椎名さんが動いている。

龍園は現時点でも放置するつもりのようだったので、俺は授業の態度がポイントに影響する可能性を含めて学校のシステムに対する推測や考えを椎名さんに相談した。

 

 

実際の話だが授業に大きな笑い声を上げた生徒を先生は注意するどころか目もくれずに授業を続けているし、居眠りはもちろん遅刻や早退、欠席も黙認。

 

さすがにおかしいと思うクラスメイトも出てきている。

 

 

その話を俺や椎名さんの席の側にいるクラスメイトには話しているし、一度HRの時に担任の先生にも聞いてみた。

 

 

先生からはあくまでも生徒の自由ということだったが『自由』には『責任』がついてくる。

それに初日に俺は振り込まれるポイントが幾らになるかを聞いている。

 

 

楽観的に考えているクラスメイトもいるためクラスメイト全員に影響を及ぼす程では無かったが授業中の私語や携帯を触るクラスメイトは少なくなったと思う。

 

 

少なくとも遅刻をするクラスメイトは明らかに減った。

それに来月に貰えるポイントが10万よりも少なくなるという推測を語った事で節約を始めた人もいるらしい。

 

これが来月のポイントにどれだけ影響するのか。

 

 

正直、こういう風にクラスメイトに呼び掛けるとか俺のようなボッチのやることではないし龍園辺りが命令したほうが効果的なはずなんだが。

考えがあって動かないのだろうけどな。

 

というか俺みたいのが気付けた事を何故クラスメイト達が気付かないのか。

無料の水とかコンビニである無料の商品はともかく食堂で無料の山菜定食を食べている生徒の多さには気付いてもいいだろうに。

 

 

5月貰えるポイントによっては俺や椎名さんの影響力は増えるだろうしそうすれば意見も通り易くなる。

更に言えば龍園も動く。

今でもアルベルトや石崎等を部下にして影響力を強めてる訳だしな。

 

こちらの予想通りならば龍園をリーダーとしてクラスをまとめる必要が出てくるだろう。

 

 

そんな事を考えながらも今日の放課後は椎名さんと共に図書館に。

 

目的は椎名さんに勉強を教えて貰うのと新しく本を借りるためだ。

 

椎名さんに薦められた本は自分に合っていて2巻、3巻と読み進めている物もあるが残念ながら途中で読むのを止めてしまった物もある。

 

そこら辺から俺に合う本の方向性を探っているらしい。

本当にお世話になっております。

 

教わっている勉強については俺達の実力を見るためのテストが月末に有るのではないかという推測と中間テストに向けてのものだ。

 

俺の場合、中学の頃のテストでは四十点~七十点の間位で一部の教科は赤点を取ってもおかしくない。

 

普通の高校の赤点補習などでは夏休みが潰れる事があると聞いているので頑張る必要がある。

この学校で赤点等取ったらポイントが没収されるとかの罰が有りそうだしな。

今の内から必死になっておいた方が良いだろう。

 

 

それに椎名さんと一緒に居られる時間が出来るし。

まぁ、教えて貰う立場で下心を持つのは間違っているのだろうから真面目にやらないとな。

 

 

そうして勉強を教わった数日後。

 

担任の坂上先生の授業の時に小テストが実施された。

先生が言うには今後の参考程度で成績表には反映されないというものだ。

 

成績表『には』反映されない。

 

妙に含みのある言い方をされる。

 

テストの内容はまぁ、比較的に簡単なものだった。

受験の時の問題よりも簡単に思う。最後の3問を除けばだが。

 

この3問には何か有るのではと思う。

テストが終わり次第椎名さんの元に向かう。

 

「月村くんは最後の3問は解けましたか?」

 

テストの後に椎名さんと話しても最後の問題は解けなかったと言っている。

 

「俺には全くわからなかった。他の問題と難易度に差がありすぎて何かあるのかと疑う」

 

これは何かあるのか?

 

「そうですね。他の問題が簡単だっただけによけいに最後の3問が際立ちます。学校側の意図がわかりません」

 

考えても答えはでないな。

 

とりあえずは椎名さんとの勉強会だな。

うん。読者仲間というだけで面倒をみてくれる椎名さんはやはり優しい。

 

これだけ世話になっているのだから何かお返しを考えなければ。

 

椎名さんが苦手とするのは運動方面で俺が運動が得意としても彼女の為に何かが出来るというわけではないしな。

 

う~ん。

どうするべきか。

 

俺が無駄に鍛えた力が彼女の為になる事があるのだろうか?

 

あれば嬉しいのだが。



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7話

5月の初日。

 

ある意味で待ちに待った日が来たと言えるだろう。

 

早速、振り込まれたポイントを確認する。

 

126370ポイント。

 

これが俺のポイントか。

先月の残りのポイントが7万は有ったから55000ポイント位が振り込まれた訳か。

 

貰えるポイントが半分近く無くなった事について半分も無くなったと考えるべきか半分も残ったと考えるべきか。忠告をもう少し早くしていればもっと多くのポイントが残ったと思えばもったいなかったな。

 

 

まぁ、確信が持てなかったから仕方ない面もあるが。

 

 

教室に入るとクラスの中がざわついている。

やはり貰えるポイントが減少した事についてだろう。

 

「おはようございます月村くん。予想通りにポイントは減っていますね」

 

「おはよう椎名さん。やはり警戒して正解だった。まぁ、5万も残ったと考えるべきだろうな」

 

「そうですね。………しかし、Dクラスは大丈夫なのでしょうか?ポイントが振り込まれていなかったと騒いでいる声が聞こえたのですが」

 

マジか。一月でポイントを全部吐き出したのか?

あ、廊下の側だからかDクラスの会話が聞こえたが本当に言ってる。

 

 

「まぁ、10万も有ったのだからある程度は残っているだろうししばらくは大丈夫じゃないか?後は来月迄にポイントを増やす方法が見つかればだが」

 

多分だか中間テストの結果次第で増えるとは思うのだが。

 

 

「おい月村、お前の言う通りにポイント減ってたぞ」

「月村君の言うこと聞いてて助かったよ」

「椎名さんもありがとう」

「Dクラス、ポイントが振り込まれなかったらしい」

「それは最悪だな。そうならなくてよかった」

 

 

俺の元に集まって礼を言うクラスメイト。

事前に警告をした事に感謝された。

お礼を言われるのは少し照れる。

今回の事から評価がクラス単位という事がわかったから気を引き締める必要があるが。

 

一人の失敗が全員の首を絞めるとか最悪だろう。

ましてうちのクラスは暴力というか喧嘩慣れしてそうなのがちらほらといる訳だし。

 

始業のチャイムがなり手にポスターの筒を持った担任の坂上先生が入ってくる。

その顔は何時もより険しい。

 

「これから朝のHRを始めるがその前に質問はあるかな。あるなら今聞いておいた方がいいぞ」

 

質問されるのが当たり前という口調だな。

俺が事前に質問していなければポイントの事についての質問をされていただろう。

 

とはいえ、質問はしておいた方がいいだろう。

 

「先生、質問があります。ポイントが減る事は予想していましたがポイントが減った詳細は教えて頂きたいのですが後、予想はしていますがポイントが減った理由もお願いします」

 

どうしてポイントが減ったかは解る。だけど何をすれば何れくらい減るというのは出来るだけ知っておきたい。

それとポイントが減った理由もおそらくこれが理由だというのではなく明確にしておきたい。

 

「例年ならば何故、10万ポイントが振り込まれてないかという質問をされるのだが今年のCクラスは優秀なようだ」

 

坂上先生と何人かのクラスメイトの視線を感じる。

 

 

「詳しい内容については人事考課、この学校の決まりで教えられないことになっている。ポイントが減った理由を私から伝えるならば学校に遅刻するな、授業中に居眠りや私語、携帯に触るな等の小学校や中学校で習った当たり前の事を当たり前に出来ていなかった生徒がいたからと答えよう」

 

 

俺が警告した通りか俺

クラスメイトの視線が警告をされたにも関わらずに態度を改めてなかった生徒達に向かう。

それを面白そうに見ている龍園。

俺が質問してなければ龍園がそういった生徒たちを揶揄

したかもな。

 

 

「では改めてポイントについて説明をする」

 

坂上先生は手にした筒から厚手の紙を取り出して黒板へと貼り付ける。

 

 

Aクラス 940

Bクラス 650

Cクラス 550

Dクラス 0

 

 

Cクラスは550。振り込まれたポイントから考えればこのポイントの100倍の数字が振り込まれるのか。

しかし、Dクラスの0という数字が目立つな。

 

「入学式の日に説明をしたはずだがこの学校は実力で生徒を測る。そしてこの学校ではクラスの成績がポイントに反映される。その結果とし君たちは550という評価を受けたのだ。そして与えられるポイントもこの学校からの評価点、クラスポイント1点につき100のプライベートポイントが与えられる事になっている」

 

550か。その評価は良いのか悪いのか。

それにポイントが、評価がABCDとクラスの順番通りになっている。

 

「それと気付いた者もいると思うがこの学校では優秀な者からAクラスBクラスと振り分けられている。君たちはCクラス。平均よりもやや劣るという評価だ。Dクラスについてはそれよりも下。いわゆる落ちこぼれという評価になるな」

 

 

平均よりも下か。まぁ、俺に対する評価としては高いと思うべきか。しかし、Dクラスは落ちこぼれか。辛辣な評価だが0という評価をされたという事はそれだけ問題が有ったという事だからな。

 

 

それなりに遅刻や私語の目立った生徒がいるうちのクラスですら500ポイントは残ったのにそれを下回るとは本当に何をやらかしたんだか。

 

 

「Cクラス、平均よりも下という評価に納得の出来ない者もいるだろうがこれからAクラス、Bクラスに上がる目はある。クラスポイントはそのままクラスのランクに反映されるのだ。今回、君たちが651ポイント以上であれば君たちはBクラスに昇格、今のBクラスがCクラスに降格していたのだからね」

 

 

下剋上制度ってことか。

クラス間の対立を促す。いや、クラス同士を争わせるつもりという事か。

これはまた面倒な。

 

しかし、クラスを上げるメリットはなんだ?

メリットがないのならば無理に争ってクラスを上げる意味はないだろう。

 

「そして、これは重要な事なのだが、国の管理下にあるこの学校は高い進学率と就職率を誇っている。それは周知の事実でありこのクラスの殆どの者も、目標とする進学先や就職先を持っていることだろう」

 

今の話しの流れ的に嫌な予感はするな。

 

 

「しかし、希望の進学、就職先が叶うのはAクラスに上がるしかない。それ以外の生徒には、この学校は何一つ保証する事はない」

 

 

……………そうくるか。

クラス間を対立させてしかも争う理由もバッチリと。

これはまた大変な事になるな。

 

「更にもう一つお前たちに伝える残念な知らせがある」

 

そう言って新しく黒板に貼り出される一枚の紙。

クラスメイト全員の名前と数字が記載されている。

ふむ。

俺の点数は70点前後か。

勉強の結果は出ているな。

椎名さんに感謝だ。

 

「これは先日やった小テストの結果だ。もしこれが本番だったら入学早々に2人が退学になっていたな」

 

 

「た、退学」

「え、マジ?」

 

「説明していなかったが、この学校では中間テスト、期末テストで1科目でも赤点を取ったら退学になることが決まっている。今回のテストで言えば35点未満の生徒は全員対象ということだ」

 

貼り出された紙に石崎33点の上に赤いラインが引かれている。

 

龍園の部下が早々に退学ってなるのは厳しいだろう。

 

 

「これは脅しでもなんでもなく学校のルールだ。中間テストまでは後3週間ある。じっくりと熟考して退学を回避してくれ。君たちが赤点を取らずに乗り切れる方法は

あると確信している。出来ることなら実力者に相応しい振る舞いを持って挑んでくれ」

 

 

そう言ってクラスを出ていく坂上先生。

 

『じっくりと熟考』、『赤点を乗り切れる方法はあると確信している』、『実力者に相応しい振る舞い』。

 

明らかにおかしい発言をしているよな。これは何かあると考えべきか。

 

赤点を取って項垂れる石崎を見ながら考えをまとめていく。

 

とりあえず、龍園と椎名さんに相談だな。

 

 

 




主人公の助言で原作よりもポイントが多く残っています。

また、助言の影響で主人公のクラスの立ち位置は向上。
クラスのリーダーになるつもりの龍園の邪魔な存在になりかねない状況だったり。


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8話

学校の仕組みについて発表された昼休み。

 

龍園から声がかかる。

 

「よう月村、少しいいか。一緒にメシを食いにいこうぜ」

 

こちらから相談する手間が省けたか。

 

「ああ、構わない」

 

周りというかクラスの注目が集まる。

龍園はアルベルトを始めとして部下を集めていたのは皆が知ってる事だし俺は全員にした警告やSシステムについての見解を話したことで注目を集める事になっていた。

 

今後のクラスの中心となりかねない2人の話し合いということだ。

 

龍園にアルベルト、石崎と共に食堂に。

 

席についてまず話すのは今後のCクラスについてだ。

 

 

「今日、学校の仕組みがハッキリとしたがその特性上、他のクラスとやり合う事になる」

 

「そうだな。その場合にはクラスをまとめるリーダーが必要となるな」

 

他のクラスと争うのだ。

クラスをまとめる強いリーダーは必要だ。

争いの最中にクラスの意見がまとまらないなんて事になれば他のクラスに遅れをとる事もあり得る。

 

 

「ああ、俺は今日の放課後にリーダーとなる事を宣言するつもりだ」

 

 

「俺は良いと思うぞ。まぁ、不満に思う奴もいるだろうが」

 

 

 

「そりゃそうだ。アルベルトや石崎を始め傘下にした奴はいるがいきなりリーダーと宣言しても納得はしないだろうな」

 

 

アルベルトや石崎を始めとして暴力、いやこの場合は武力というべきか。

龍園のグループの武力に対して納得はしなくても従う奴はそれなりにいるだろうがな。

武力を背景にした支配の場合は心から従う訳ではないし反乱の芽は残る。

 

「実績があれば別だろうがな」

 

そう言う意味では龍園は俺のようにクラスに対して警告をしておくべきだったと思うがな。

いち早くシステムに気付いて忠告したという実績があれば従う材料になっただろうに。

 

「くくっ、そうだな。お前のようにシステムに気付いて忠告をしたという実績があれば従う奴もいるだろうな。そう言う意味でいやぁ、クラスを従える上で一番の障害はお前になるな」

 

それは不審な点が有ったのにクラスメイトに忠告しなった龍園のせいでは?

いや、龍園のせいというのは言い過ぎだが忠告しておけば一目は置かれただろう。

それに加えて龍園達の武力があればスムーズに従えられたと思うのだが。

 

「俺は人の上に立つような人間じゃない。お前がリーダーになるというならばよほどの理不尽や気に入らない事がなければ従う」

 

中学の頃に起こした暴力事件じゃ部を一つ廃部に追い込んだからな。中学の頃の失敗を今だに引きずっているのは問題か。

 

とはいえ上に立とうとは思えないな。

 

 

「ふーん、理不尽ねぇ。因みに、俺が椎名を従える為に多少、脅すような事をしたら「バキッ」」

 

ん、俺の手にしていた割り箸が折れてる。

ふむ。ずいぶんと脆いようだな。

 

「くくくっ、怖いねぇ。安心しろCクラスの一員として協力は求めるが無理矢理何かをさせるような事はしねぇよ」

 

 

「そうか」

 

 

「まぁ、今後は俺がCクラスを従える。その為に実績をつくる訳だが、一番は今度の中間テストだな」

 

チラリと石崎の方を見る。

赤点候補なだけあってこちらを伺うような表情だ。

 

 

「坂上先生の言葉にはおかしな所が有ったからな。多分、攻略法があるんだろう」

 

 

「気付いていたか」

 

「え、攻略法なんてあるですか?」

 

「石崎、お前みたいな赤点候補がいるのに関わらず坂上は赤点を回避する方法はあると確信していると言っていただろう」

 

「しっかりと熟考してとか、実力者に相応しい振る舞いなんて発言もあったな」

 

赤点を取る人間の実力者に相応しい振る舞いってなんだろなって話だ。

 

 

「月村は何か思いついたのか」

 

 

「いや、まだ思いついてはいない。ただ、」

 

 

「ただ、なんだ?」

 

 

「中間テストや期末テストの過去問が欲しいと思った

。問題を作る教師が同じならば似たような問題が出たりするだろうし頭の良い奴らなら問題の傾向を掴めるかも知れない」

 

 

有名な大学の受験勉強の時には参考にやるらしいからな。

中間テストや期末テストの対策になるだろう。

いっそ先生に頼んでみるか?

 

 

「………過去問か」

 

 

ん?

龍園が黙りこんだ。

何でだ?俺としては中間テストまでの3週間のうち2週間は普通に勉強。

最後の1週間に過去問をやった上で出来なかった所を重点的に勉強できればと思ったのだが。

まぁ、過去問は参考程度だろう。

 

 

「くくっ、多分それが正解だ。合っていたら報酬は払うから安心しろ」

 

 

正解?

過去問が攻略法という事か?

まぁ、まだ確信までは無いのだろうけど。

 

 

「合っていたらな。自信はない。それに過去問をどう手にいれるつもりなんだ?俺は過去問を坂上先生に貰えないか尋ねるつもりだったが」

 

 

坂上先生が本命だ。

後は1年前の中間テストの問題を持っている先輩がいるかだがそういうツテはない。

俺だったら1年前の中間テストの問題なんて取って置かないからな。

 

坂上先生に聞いて手に入らなければ普通に勉強するつもりだが。

 

「くくっ、坂上に頼るか。そりゃ無理だと思うがな。なーにやりようはある」

 

 

自信ありげに笑う龍園。

 

 

「そうか。正直、それがダメならば成績の上位者が点数を抑えて平均点を下げる方法とかになるのか」

 

赤点が平均点の半分ならば有効な手ではあるが、他のクラスとの争いが前提なら悪手だよな。

 

「そりゃダメだな。他のクラスに遅れをとる。手段としちゃ最悪だろ」

 

 

「だよな」

 

 

 

この手段が取れるとしたらDクラスくらいだろうな。

既に最下位でこちらとの点差も大きいのだ。

クラス間の争いに絡むのは当分無理なはず。

ならばクラスメイトを生き残らせる事を考えるのも悪くないだろうし。

 

と、そろそろ昼休みも終わるか。

教室に戻るとしよう。

 

 

Cクラスは龍園がリーダーとして君臨するとして、他のクラスはどうなる。

 

少し、情報を集めた方がいいのか?

 

 

 

 

 

 



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9話

放課後。

 

 

「全員、少し残れ」

 

Cクラスの教室で龍園が教卓に座りながら呼び掛ける。

 

 

「このCクラスの今後の話をさせてもらうが。俺が王としてお前らを率いる。お前らにはそれに従ってもらう」

 

 

傲慢と言える発言にクラスの一部から不愉快な感情が向けられるが龍園の側にいる俺やアルベルト、石崎の姿を見て反対の声が収まる。

 

 

「わざわざ言うまでもないがこの学校は異質だ。今までの常識は通用しねえ。教師どもはハッキリ説明しねえし、他のクラスとの争いを推奨してやがる。そんな中でAを目指すならばクラスをまとめる絶対的なリーダーの存在は不可欠だ」

 

 

教室にいるクラスメイト達は顔を見合わせる。

龍園の言うこと自体は正しい。

クラスを纏められずに分裂すれば勝てるものも勝てなくなる。

上を目指すならばそれを率いるリーダーの力量が大きく影響する。

 

このクラスでリーダーをするならば龍園が一番の候補だろう。

 

「そして、そのリーダーに相応しいのが俺だ。常識に捕らわれねえ思考力。躊躇わずに敵を潰す胆力。敵対する奴を黙らせる暴力。このCクラスにおいて一番俺がもっている」

 

自信満々だな。

クラスを率いるうえで自信のない人間よりも自信のある人間の方が良いのは確かだしな。

ワンマンになりすぎれば問題だがその時はフォローすればいい。

 

 

「俺の意見に不満がある奴も多いみたいだがそれならば王を決めようぜ。俺は俺が気に食わねぇって奴の挑戦を受けてやる。俺が王を名乗るのが不満ならうだうだ言わずにかかってこい。どんな形でも構わねぇからよ」

 

 

そう言って笑う龍園。

自分に逆らう人間がいれば面白いとか思っているのか?

まぁ、何人か逆らった奴を見せしめにすればクラスを支配しやすくなるってのもありそうだが。

 

どちらにせよ大半のクラスメイトは龍園の雰囲気に呑まれている。何人か抵抗しそうなのもいるが殆どの生徒は従うだろうな。

 

 

「さて、俺の話しは終わりだ。俺が王になるのに不満がないって奴は帰っていいぜ。俺に従えねぇって奴は残れ」

 

 

この言葉で椎名さんが立ち上がり教室を出ていく。

それに続くようにクラスメイトがいなくなっていき残ったのは数人の男女のみ。

 

これなら俺も残る必要はないか。

 

 

 

一言断ってから俺も龍園達を残して教室を出る。

 

向かう場所は職員室。

担任の坂上先生には色々と質問したい事があるからな。

 

 

 

そして向かった職員室。

幸いにも坂上先生は直ぐに見つかった。

 

「坂上先生、少しよろしいでしょうか?」

 

 

「うん?月村か。どうかしたのか」

 

「はい。中間テストに対して質問とお願いがあって来ました」

 

「ほう。中間テストについてか。何かわからない事があったのか」

 

 

「はい。特に知りたいのは赤点の基準です。先生はあの時、今回のテストでは35点未満が赤点とおっしゃていましたので。次回は、中間テストや期末テストでは赤点の基準が変わるのですか?」

 

これは確認が必要となることだ。

中間テストの攻略法が過去問だとしても赤点の基準が変わるのでは安心出来ない。

 

「そう言えば説明をしていなかったな。この学校の赤点の判断基準は各クラス毎に設定されている。そしてその求め方は平均点割る2。その答え以上の点数を取ることだ」

 

 

「なるほど。では、Cクラスの赤点の人数はAクラスが基準ならばもっと多くなりDクラスの基準なら少なくなっていましたね」

 

 

「そうなるな」

 

 

さて、ここからが本題だな。

 

「中間テストを乗り越えるために坂上先生にお願いがあるのですが」

 

 

「なんだね」

 

 

「去年と出来れば一昨年の中間テストの過去問を頂く事はできませんか?」

 

 

俺のお願いに坂上先生と話しが聞こえていた周りの先生が驚いた顔をしている。

 

 

「………過去問をかね」

 

 

 

「はい。中間テストに向けて勉強するに当たり、過去問があれば今回のテストでも参考になると思います。更に言えば出題の傾向が解ればよい点を取れると考えました」

 

言っている事は本心だし、これが攻略法ならば手にいれておきたい。

2年や3年の先輩に頼むよりも先生に頼んだ方が安く済むと思うしな。

 

 

「あら~坂上先生のクラスの子はずいぶんと大胆ね。担任の先生にテストの問題をくださいなんて~」

 

 

「星之宮先生……」

 

うん?

声をかけられた相手を見ればセミロングの若い先生と薄ピンク色の長い髪をした女生徒が立っている。

まぁ、変な誤解をされないようにしないとな。

 

 

「えーと、Bクラスの星之宮先生ですよね。テストと言っても今回のではなく去年や一昨年の物を傾向や対策を練る参考に欲しいと思ったのですが。…………それとも、去年や一昨年の中間テストの過去問を受け取るとマズイ理由でもあるのですか?」

 

 

「ん~別にマズイ事なんてないわよ。ただ、担任の教師から生徒にテストを渡すっていうのがあまりよくないかな~って」

 

 

担任の教師が贔屓をしたと受け取られる可能性があるのか?過去問が攻略法ならばそうとられてもおかしくないのかもな。

 

 

「これが中間テストの目前と言うならばともかくまだ5月になったばかり。今年の中間テストの問題はまだ作られていないのでは?それならばテストを受け取っても今年の中間テストの問題だと邪推する人もいないと思いますが?」

 

 

正直、これまでの会話で今回の中間テストの攻略法が過去問である可能性が高くなったか。

 

「へー、えっと君の名前は?」

 

 

「ん?月村ですが」

 

 

「月村くんかぁ。月村くんはわかっていて(、、、、、、)言っているのかなぁ」

 

こちらに近づいて覗き込むように言われた言葉よりも顔が近い事に動揺する。

 

 

 

 

「さて、なんの事かはわかりませんが自分もクラスメイトが赤点を回避するために頑張ろうとは思っています。過去問を手にいれる事がそこまで問題があるというのならば諦めて帰りますが?」

 

 

先生達から手にいれるのが無理だというならば龍園に任せね自分は大人しく勉強するだけだ。

それと、俺の事よりも後ろにいる生徒の事を気するように。

俺としても過去問が攻略法だという事を後ろにいる女性徒に知られたく無いのだが。

 

「う~ん、別に問題はないと思うかなぁ。月村くんの言うとおりテストって言っても今年のはまだ作っていないし去年のとかだけならね。坂上先生はどう思います?」

 

「ふむ。そうだな。去年の過去問ならば問題はない。直ぐに用意しよう。少し待っていてくれ」

 

 

「はい。ありがとうございます」

 

 

過去問が手に入るか。

まぁ、手に入らない可能性も高いと思ったが。

正解に辿り着いた生徒を邪険にするつもりはないという事か。もしくはここで渡さずにいれば何かあると疑われると考えたのか。

 

まぁ、タダで手に入るならばありがたい。

椎名さんと勉強しよう。

 

クラスにコピーして配るとかは暫く様子見だな。

龍園が過去問を手にいれたら照らし合わせて確認すれば良い。

 

とりあえず、龍園に連絡するか。

 

 

 




龍園がクラスのリーダーになった時期がわからないので本作ではSシステムが判明した直後に動いた事にしてます。

四月から動いたのならばクラスポイントがAクラスはないにしてもBクラスに近いポイントがあってもおかしくないと思いました。

四月のうちに下準備をしてシステムが判明すると即座に動いたという事。


中間テストの攻略法である過去問については主人公は先生から手に入れました。
上級生から交渉してもらうよりも確実だと思います。
それに勉強熱心な生徒が勉強のために過去問を下さいと言ってそれを断る先生ってどれくらいいますかね?


原作で櫛田さんが過去問を貰うなんてずるいと言っていましたが実際のところ過去問ってずるいんですかね?

作者的には事前に頼んでおけば貰えてもおかしくはないと思うのですが?
まぁ、大学の過去問とか入試の過去問とかと同列に考えたらダメなのかもしれないですけど。


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10話

5月の初日から早くも一週間が立った。

その間に龍園はクラスを纏めリーダーとして君臨する。

 

中間テストの攻略法である過去問については龍園が手に入れた物と俺が先生から頂いた物を照合して間違いないと確定。

 

 

この過去問はテストの数日前に龍園が皆に配る予定だ。

中間テストで赤点の生徒を出す事はないだろう。

 

まぁ、赤点を回避する為の勉強に根を詰めすぎないように椎名さんと読書をしたり、夕方や夜に軽いランニングや散歩をして気分転換はしているのだが。

 

後は錆び付かないように習っていた武術の型を鍛練するために人通りの少ない寮の裏手で体を動かしていた。

 

 

だから、これは偶然だったのか、もしくは必然だったのか。

 

夜遅くに寮の裏手で見覚えのある生徒会長が一人の女生徒と言い争い、暴力を振るおうとしている場面を携帯で録画してしまった。

まぁ、現在も録画中なのだが。

 

 

少しばかり危機感を覚えながら生徒会長へと近づく。

いざとなれば力付くでも止めるという思いで。

 

だが、俺は一歩遅れたようだ。

生徒会長の手によって女生徒の体が宙に浮く。

 

危ない!

思わず飛び出したが、俺よりも先に生徒会長の腕を掴み動きを止める男がいた。

 

 

「――――――――何だ?お前は」

 

 

「あ、綾小路くん!?」

 

飛び出した男は女生徒の知り合いらしい。

彼らの会話を盗み聞くと生徒会長と女生徒が兄妹らしい。ずいぶんとバイオレンスな兄妹なんだな。

 

生徒会長と綾小路という男が暫くにらみ会う。

 

女生徒の声で腕を話した綾小路の顔面に生徒会長の裏拳が。

体を半身にしてのけ反るようにして避ける。

どういう反射神経してんだよ。

綾小路に対して追撃の蹴りが放たれるがそれも回避、その後に伸ばされた腕をはたくようにして流す。

 

凄いな。二人とも化け物か天才って奴か。

 

「いい動きだな。立て続けに避けられるとは思わなかった。それに、俺が何をしようとしたのかも、よく理解している。何か習っていたのか?」

 

「ピアノと書道なら。小学生の時、全国音楽コンクールで優勝したことがあるぞ」

 

優勝は凄いな。いや、ボケているだけか?

 

「お前もDクラスか?中々ユニークな男だな。鈴音」

 

「堀北と違って無能なんでね」

 

嫌みか!それだけの動きが出来る奴が無能って!

同年代でそれだけ動ける奴何て初めて見たぞ。

俺のお前たちへの認識は格上だからな!

 

 

「鈴音、お前に友達が居たとはな。正直驚いた」

 

兄、公認のボッチか。

友達がいたというだけで驚かれるのか堀北鈴音。

 

「彼は………友達なんかじゃありません。ただのクラスメイトです」

 

「相変わらず、孤高と孤独を履き違えているようだな。それからお前。綾小路、と呼ばれていたな。お前が居れば、少しは面白くなるかも知れないな…………それと、そこで動画を撮っている男はお前たちの知り合いか?」

 

まぁ、気付かれているよな。

特に隠れてもいないし。

 

「はじめましてですね生徒会長。一応、自己紹介すると1―Cの月村です。クラスが違うからそこの二人の敵となりますね」

 

「―――ほぅ。それで、その動画は敵である二人に対する物か?それとも俺に対する物か?」

 

 

1―Dの生徒と会長の喧嘩の動画の価値は幾らかね?

会長ならば力付くで携帯を奪う事も出来るわけだからな警戒しよう。

 

 

「現状ではポイントの関係で1―Dそのものはすぐに敵対する必要はないと考えてますね。偶然ではありますがこれは会長用になりますね。3―Bの人に売るか生徒会の人に買って貰うか。とりあえず、これで渡すつもりです」

 

片手を広げる。

偶然取った動画で五万も貰えればボロ儲けだ。

それに、今回の件で大切なのは綾小路の実力の一端を知れたこと。

自分たちの敵となるクラスに綾小路?いう規格外が存在している事を知れたという価値に比べれば動画は対して価値がないと思える。

 

 

「ふぅ、良いだろう。払おう。ただし、その動画が流出した場合は相応の罰を受けて貰うぞ」

 

ハハハ、怖いね。

 

 

「取引で下手を打つつもりはないですよ。携帯を渡すのでコピーやバックアップも無いのを確認してから消してください。それを確認したらポイントをお願いします」

 

携帯を渡された生徒会長は眉をしかめる。

 

「データを消した後にポイントを払わないとは考え無いのか。契約を交わしてないのに随分と迂闊な真似をする」

 

 

「生徒会長がそんなセコいことするとは考えられないですから。それに、偶然で手に入れた動画ですからね。ポイントが貰えなくとも諦めはつきます」

 

「そうか」

 

会長の手から戻って来る携帯。

ポイントを確認すると………六十万を超えている。

俺の所持していたポイントは十万よりも少し多いくらいだぞ。

 

…………なるほど。

片手を開いて五万のつもりだったがこの会長は五十万と解釈したのか。

 

しかし、あっさりと五十万を払える会長に内心ではドン引きだ。いや、3年間Aクラスでいれば簡単に払える額なのか?

それとも、3年Bクラスや生徒会にそれだけ払っても渡るのを避けたい相手がいるとか?

 

まあ、いいや。

どれだけ考えても仮定にしかならない。

それに3年である会長はこちらに絡むことなどめったにないだろう。

 

今回は運が良かったとでも思っておこう。

目下の問題は会長ではない。

同じ学年で隣のクラスという激突する可能性の高い場所にいる強敵、綾小路。

 

こいつの情報と能力を探ることだ。

身体能力は化け物で喧嘩が強いとか暴力を主な力とする龍園にとって厄介な相手だろうな。

 

さて、どうするか。

いや、下手に考えないほうがいいか。

軽く試すか。

 

綾小路に向けて拳を振るう。

元々、寸止めするつもりではあったが目の前にある此方の拳を冷静に見詰めている。

 

 

表面上は驚いたような顔をしている。

だが、目だけは違う。

こいつの目だけは違う。

自分の拳が震えている。

ああ、情けない。

俺はこいつを怖いと思っている。

 

なら、やることはと、

 

 

「…………綾小路。俺と手合わせをしてくれないか?」

 

 

 

 



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11話

「は?」

 

手合わせをを願った綾小路の俺への返答は戸惑いの声であった。

 

まぁ、当然か。

いきなり手合わせを、願ったのもそうだがそれをいましがたポイントを巻き上げた生徒会長の前で言うのだから。

 

チラリと会長の方を見れば少しの呆れと興味を感じる。

呆れた感情は俺に興味は綾小路の実力にあるのだろうな。

 

この二人にからすれば俺なんぞ路傍の石。

だからこそ挑みたい。

 

馬鹿な事を言ってるのはわかるのだがな。

まず勝てない相手だ。

それでも負けると思って戦うつもりはないが。

 

 

「すまんな綾小路とやら。今の会長とのやり合いでお前が俺よりも強いと感じた。それこそ俺が勝てないと思ったそこの会長よりもな」

 

あくまでも勘だが、この会長よりも戦えば綾小路の方が強いと思う。

だが、より勝てない相手だと思ったのは会長の方だ。

どちらも俺よりも強い事にはかわりないだろうがな。

 

「ほう」

 

「いやいや、そんなことはないぞ」

 

 

「俺は子供の頃から武術をやっていたし中学の頃に空手で全国大会に出場経験もある。その上での判断だ」

 

興味を持ったらしい会長ととぼける綾小路。

上着を脱いで携帯も隅に置いてと。

 

 

軽く体を解し綾小路を見据えて構えをとる。

 

「さて、じゃあいくぞ!」

 

「ちょ、まっ、」

 

まずは全力の正拳を顔面に。

様子見などはしない。

最初から全力全開。

会長や堀北に止められる前に。

そして、綾小路とまともに戦えるうちに勝つ。

 

 

俺の拳は腕を横から叩かれていなされた。

突き出した腕を引かれてバランスが崩れる。

驚く必要はない。

相手は格上。

この位は当然だろう。

 

崩れたバランスを無理やりに治して下段蹴り。

勢い任せのこれは簡単にかわされる。

 

 

かわされたが勢いはそのままに独楽のように体を廻し上段蹴り。

 

ガードをした綾小路の腕に当たった。

ダメージは無さそうか。

 

 

痛っ!

蹴ったほうの足が痛む。

ただガードをしたのではなくて肘での迎撃だったのか。

 

 

だが、まぁ、気にする必要はない。

相手は格上で負ける可能性が高い相手。

勝とうが負けようがボロボロになることは決まっている。

 

ならば後は心の構えを強くするだけだ。

 

綾小路との間合いを詰めて、

 

 

「なぁ、少しいいか?」

 

 

出鼻を挫かれた。

 

 

「ん?何だ?」

 

戦いを止めないかとか言ったら即座に蹴ろう。

 

 

「お前は何でこんな事をするんだ?お前は俺よりも弱いとさっき言っていた。勝てると思っているようにも思えない。負ける為に戦うつもりなのか」

 

 

まぁ、疑問に思うよな。

強制的にだがこうやって、やり合ってもらっているのだし正直に答えるか。

 

「………勘違いしているようだが負けるつもりはないぞ。そもそも戦いは敗北を覚悟していてもそれでも勝つつもりでやるものだ。それと、綾小路に挑んだ理由は『理解』をするためだ」

 

 

「理解?」

 

ふむ?

戸惑った感じがするが綾小路からすれば意味不明だものな。

まぁ、それもそうか。

 

 

「これは俺の恥をさらす事にもなるが、先ほど寸止めの拳で綾小路の反応を見た時に、俺はお前の目を視て恐怖を感じた。………そして、怖いと思ったその理由を俺

は理解しきれていない」

 

 

綾小路の目を視て怖いと思ったが何故、怖いのか。どうして、怖いのかが俺自身、理解できていない。

単純にお前の目を視てビビった。

 

 

「………………」

 

 

「………何かの本で読んだが人は理解の出来ないものを恐怖するらしい。まぁ、恐怖とはそもそも理解出来ないものであるという意見もあるが。手合わせを願った理由は恐怖を乗り越える、恐怖を理解する。そのために綾小路を理解したかった」

 

 

ビビった自分を殴り飛ばせれば早いのだが。

それ以上に綾小路に興味を持った。

 

「あー、この手合わせで理解出来るのか?」

 

 

なんか、呆れられた感じがしているが気のせいと思っておこう。

 

「基本的に無理だな。俺の通っていた道場の師範が言っていたのだが、『人は殴りあって言葉を交わしてぶつかり合うことで相手を理解したつもりになれる』らしいそうだ」

 

 

 

理解したつもり。

『理解した』のではなく『理解したつもり』になる。

 

 

「理解したつもりになるだけか?」

 

 

「そうだ。そもそも、殴りあって言葉を交わしたくらいで理解しあえるならば人と人で争いや戦争はおこったりしないと笑って言ってたな」

 

 

まぁ、自分が理解出来ない人間は本当に理解出来ないからな。

 

 

「いや、それなら何で挑んだんだよ」

 

 

 

「そりゃ、0を1にするためだな。こうやって手合わせをする事で解る事があるのも確かだ。石を投げてそれに対する反応で推測できる事もあるかもしれないだろ」

 

 

例えば綾小路が俺に興味が有るのか無いのか。

俺を対等に見ているのか格下として見ているのか。

推測にしかならなくても解る事もある。

 

 

「………で、何か意味はあったのか?」

 

 

「そうだな。少なくとも、お前が感情のない機械のような人間ではないという事は確かだ。俺に呆れたということは多少は心が揺れて動いたということだしな。まぁ、ほとんど無駄ではあるだろうが無意味ではないな」

 

 

無表情に見えるし此方を見る目も冷たいが俺が綾小路に感じていた恐怖が減ったと思える。

ならばそれは俺にとってプラスだ。

それだけでもこの手合わせには意味があった。

 

 

「…………俺にはお前の考えが理解できない」

 

 

「それは当然。基本的に頭の軽い考えだしな。むしろ何も考えてないに近い。何も考えていない人間に対して考えが理解できないのは仕方ないさ」

 

考えるな感じろといったところだしな。

綾小路が諦めたようにため息をついたタイミングで下段蹴り。

かわされるか。

 

「おい!」

 

苦情が来るが問題ない。

話は戦いながらでもできる。

 

「まだ手合わせをの最中だろ油断する方が悪い」

 

顔をめがけて殴りかかるが受け止めるつもりなのか手を出して………嫌な予感がする。

だが、構わない。

 

ぐぁ。

 

変な声が出そうになった。

殴りかかった拳を受け止められてそれを握り締められただけだというのに。

 

「っ、っ、万力のような握力だな」

 

言いながら綾小路の脇腹を殴る。

効いたようにはみえないが多少は体が揺らいだ。

そのまま追撃で蹴りを出すが拳を掴まれたままの崩れたバランスのせいでいま一つ威力がでない。

少なくとも綾小路には俺の拳を離さないだけの余裕がある。

痛みに耐えながら蹴りを、

 

 

 

「……………何を笑っている」

 

 

うん?

 

 

「笑う?なんの事だ」

 

 

むしろ俺は苦しんでいるぞ。

拳は握り潰されるかと思っているし苦し紛れでだした蹴りも効果が無いのだからな。

脂汗が出るほどだ。

 

不恰好でも構わない。

俺は勝ちたい。

振りほどくために握り締められた拳を大きく振るいながら体当たり。

 

腹に衝撃。

綾小路の膝が腹に刺さった。

 

腹に入れられた膝で吐きそう人間なるが構わずその脚を抱えて押し倒す。

 

 

コンクリートの地面に叩きつけられたのだダメージは入るだろ。

馬乗りになりマウントをとる。

後はマウントを取ったままひたすら殴って…………。

 

 

腹に膝を受けた影響で嘔吐感が。

あ、これはヤバい。

 

馬乗りになった俺が急に動かなくなった事で綾小路が訝しげな表現をしているが、悪い逃げてくれ。

 

思わず口を抑える。

 

綾小路も何かを察したのか焦りが見える。

 

なんというかスマン。

 

引き攣った綾小路の表情。

俺の状態を察したのだろう。

 

今だけは綾小路と目と目で会話ができている。

お互いに理解し合えたと思った瞬間に。

 

 

 

オールリバース!

 

 

「うわあああああああ!!」

 

 

冷静に見えた綾小路は意外な程に驚く声をあげ、一瞬で馬乗りになった俺から逃げ出した。

 

どう逃げられたか理解できない速業だ。

 

マウントを取ったと油断したら逆にやられていたな。

 

 

距離をとってこちらを見る綾小路はどうやら無事に回避したようだな。

こちらとしても回避してくれてありがたいが。

 

とりあえず、リバースを終えて落ち着いてから綾小路に向き直る。

 

「とりあえず、スマン」

 

 

「………ああ、本当にな」

 

 

此方を責めるようにみる綾小路の目が冷たい。

 

「…………さあ、続きをやろう。ただ、腹への攻撃は二発目のオールリバースが発動する危険性があるので注意してくれ」

 

まぁ、道場での訓練では何度かあった事だからな。

 

 

「やれるか!」

 

さっきまでの冷静さを失った綾小路からのツッコミ。

むしろ冷静さを失っている今こそ攻めるチャンスか!

 

 

「………そこまでにしておけ」

 

 

こちらの手合わせを黙ってみていた会長から制止の声がかかる。

 

後ろにいる女性徒が若干引いているのは仕方ないか。

 

 

「……俺としてはもう少しやりたかったがやらかした以上は仕方ないか」

 

 

「そうしてくれ」

 

こちらが構えを解くと綾小路が疲れたような表情をしている。

 

「俺はもう行くぞ。それと鈴音、上のクラスに上がりたかったら、死にもの狂いで足掻け。それしか方法はない」

 

会長が歩み去るとこの場には微妙な雰囲気が残る。

 

とりあえず、上着を着て携帯を取り出す。

 

「んー、ちょっと良いか綾小路」

 

「なんだ。俺はもうやらないぞ」

 

 

「いや、連絡先の交換をしないか。なんとなくだが今後も関わる事になりそうだしな」

 

こちらに対して嫌そうな表情を向けてくる。

そんなにリバースを食らいそうになったのがイヤだったか?

まぁ、俺でもイヤだが。

 

「………わかった。だが、本当に手合わせはもうやらないからな」

 

 

「安心しろ。俺も暫くは鍛え直すつもりだからな。当分は手合わせに誘うつもりはない」

 

 

「当分じゃなくてできれば二度とやりたくないが」

 

連絡先を交換。

これで何かあれば連絡が取れる。

クラス対抗での戦いだから色々と関わる事も多そうだからな。Dクラスの事を知る為の役に立つかもな。

 

 

「じゃあな。綾小路。彼女のこと、ちゃんと送ってやれよ」

 

2人を置いてこの場を離れる。

 

綾小路の事を知れたのは嬉しい収穫だ。

脚は痛いし腹も痛い。

 

リバースした口の中は気持ち悪い。

 

体調は最悪だが、気分は悪くない。

自分よりも強くて怖い相手がいる。

その相手とクラス対抗という形とはいえ競い合える。

 

 

この高校生活に楽しみが出来た。

ああ、いい気分だ。

次は空手だけでなくてちゃんと道場で習った技を使って存分にやりあいたい。

 

 

寮に帰って風呂に入って歯を磨いて眠る。

今日はとてもいい気分でぐっすりと眠りにつく事ができそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、リバースの後始末忘れた。

 

 

 



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