合衆国召喚~星条旗異世界にはためく~ (アスタラビスタ)
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~プロローグ~

初投稿です。
温かく見守っていただけると幸いです。
誤字脱字報告や、感想も是非是非お願い致します。


20XX年 7月13日

ワシントンD.C. ホワイトハウス

 

ワシントンは雲一つない青空であった。

気温は上昇を続け外にいればサウナ気分が味わえるだろう。

一方空調で適切な温度管理がなされた大統領執務室の中ではこの白亜の宮殿の主たる、

合衆国大統領モーガン・オブライエンがソファに腰かけ、モーニングコーヒーを手にワシントンタイムス紙の記事に目を通していた。

モーガン・オブライエンは壮年の白人男性で適度についた筋肉とガッシリとした体躯は彼が空軍パイロットであった頃からの日々のトレーニングを欠かしていない証左であった。

オブライエンがコーヒーカップをテーブルへと置くと同時に執務室の扉が開かれ金縁眼鏡を掛けた黒人男性が執務室へと入室してくる。

 

「おはよう、ハリス」

 

「おはようございます。大統領」

 

ハリスと呼ばれた彼、ベニート・ハリス首席補佐官は扉を閉めながら挨拶を返す。

手にはいくつかの書類とタブレット端末を持っていた。

 

「コーヒーは?」

 

「いただきます」

 

オブライエンは手ずからコーヒーポットからカップへと注ぎ入れた。

ハリスは向かい側のソファに腰を掛けると書類をテーブルへと置く。

 

「本日のスケジュールですが、この後9時15分から国防総省と国務省から前方展開再開に関するブリーフィングを、昼食をはさんで頂きまして午後からは国立小児医療センターへの表敬訪問を予定しております」

 

タブレット端末を見ながらスケジュールを説明したハリスはタブレット端末を書類の上へと置き、コーヒーに口をつける。

 

「ようやく前任の尻拭いを終えられるな」

 

スケジュールを聞いたオブライエンは読んでいた新聞をテーブルの上に放ればそう言い溜息をつく。

前政権は極端な親中・親露派であった為に欧州及び極東地域から殆どの戦闘部隊を引き上げてしまったのだ。

 

「まったくです、彼らの誤った選択で欧州・極東地域でのプレゼンスが大幅に低下してしまいました」

 

そう言ったところで、ハリスは胸ポケットから携帯電話を取り出し耳に当てる。

二言三言言葉を交わせばポケットにしまい込む。

 

「大統領、国防長官と国務長官が到着しました」

 

「分かった、では行こうか――――」

 

ソファから腰を上げ、掛けていたジャケットを羽織り足を踏み出した瞬間、執務室を眩いばかりの純白の閃光が満たした。

 

 

同時刻

軌道上 ISS-国際宇宙ステーション-

 

「ヒロシ、今日の様子はどうだい?」

 

今年で35歳を迎えるアメリカ人宇宙飛行士である、ベネットは観測窓から地球を眺める人物に声を掛ける。

 

「いつ見ても飽きないよ、なにせ30年来の夢だったからね」

 

ヒロシと呼ばれた日本人男性はそう言いながらパック飲料のお茶を口にする。

ベネットも観測窓に寄ってくれば同じように地球を見る。

ちょうど北米大陸上空に差し掛かったところでそれは起きた。

北米大陸の丁度アメリカ合衆国がある部分がまるで発光するかの如く輝き、強烈な光が放たれる。

二人は咄嗟に顔を背けた、数秒後二人は顔を再び観測窓へと向けた。

 

「おお、神よ――」

 

「そんな――」

 

眼下の北米大陸からアメリカ合衆国が忽然と姿を消していたのだ。

 




なるべく早い投稿を心がけていきますが、長い目で見て頂けると幸いです。


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ロデニウス大陸編
1話


中央歴1639年 1月24日

洋上

 

雲ひとつない澄み渡った空を1匹の大きな生物が悠々と飛んでいた。

その生物は全長にして約20mはあり、一対の翼をはためかせ飛行していた。

生物の背には鐙が着けられ、それに鎧を着こんだ人間が騎乗していた。

 

『こちら第6飛竜隊、マールパティマ。哨戒空域に到着した、哨戒を実施する』

 

『司令部了解』

 

クワ・トイネ公国 第6飛竜隊に所属する騎士マールパティマは通信用魔法具…通称魔信を用いて司令部に報告を行う。

マールパティマは愛騎である生物、飛竜に対して指示を出し海岸線に沿う様に東へと飛行していく。

哨戒を開始して10分程経過したとき、マールパティマは北東方向から接近する影に気が付いた。

 

「あれは?」

 

 

 

中央歴1639年 1月24日

洋上 P-8A-ウィスキー4-

 

広大な海原の上空、13,000ft(約4000m)を1機の飛行機が飛行していた。

ボーイング社製の旅客機B737-800を元に制作されたP-8ポセイドン対潜哨戒機だった。

サンディエゴを発進したこの哨戒機「ウィスキー4」はかれこれ2時間程飛行を続けていた。

そして高度を維持しながら対水上レーダー並びにESM(電子戦支援)を使用して情報を集めようとしていた。

 

「SS-3、4、コンタクトは?」

 

「ネガティブコンタクト、なにも映っていません」

 

「EWも同じく」

 

「と、レーダーコンタクト!方位2-2-5、距離150nm(約280km)。・・・陸地です!」

 

TACCO(戦術航空士)、アイ。EW、電波発信はないのか?」

 

「ネガティブ」

 

「パイロット。針路2-2-5に変針、陸地から13nm(約24km)で陸地に沿って飛行してくれ。SS-3、陸地に寄ったらSAR(合成開口レーダー)モードで陸地を記録するんだ。それとEO/IR(電子光学/赤外線)カメラで映像も撮ってくれ」

 

TACCO(戦術航空士)は口元にヘッドセットのマイクを寄せればそう指示を出す。

 

「変針、針路2-2-5、アイ」

 

パイロットは機体を左にバンクさせ、指定された針路に機首を向けた。

そのままの針路で20分程飛行を続けると進行方向に陸地を目視する事が出来た。

 

「本当に陸地だぜ」

 

パイロットは驚きの声を上げる。

本来であればこのような場所に陸地などなく太平洋の大海原が続いている筈だったからだ。

ここに来てブリーフィングで説明された荒唐無稽な話が真実である事を認識したのだ。

そして陸地に向いていた視線を戻すと進行方向に何かを発見した。

 

「なんだ・・あれは?」

 

近づくにつれて大きくなっていく事で姿かたちがハッキリと認識できた。

それは時折羽ばたきながら飛行し、長い胴体と尾を持ったそれこそ映画やビデオゲームでしか見たことのない生物であったのだ。

 

「マイガッ!信じられねえ、ドラゴンだぜ!。TACCO(戦術航空士)! 12時方向にドラゴンだ!」

 

パイロットからの報告にTACCO(戦術航空士)は自席を離れ、コクピットに向かい風防越しにその姿を確認した。

 

「なんてこった・・・、接触にだけ気を付けてくれ。SS-4、カメラで対象を撮影するんだ」

 

ウィスキー4はドラゴンと220yd(約200m)という至近距離ですれ違った。

そのままウィスキー4は陸地にそって西に飛行を続ける。

 

 

 

中央歴1639年 1月24日

洋上 第6飛竜隊 マールパティマ騎

 

接近し次第に大きくなる飛行物体を確認し、それが味方のワイバーンではない事を確認する。

 

「驚いた、羽ばたいてないぞ」

 

マールパティマは魔信を使い司令部に報告を入れる。

 

『こちら第6飛竜隊 マールパティマ。未確認騎を発見。接近し確認を実施する。高度4000m、現在地は…』

 

高度差はなかった為、一度未確認騎の右舷をすれ違い後方から接近する腹積もりであった。

未確認騎はワイバーンと比べて2回りは大きく、爆音とも言える音を響かせていた。

 

「大きい!そしてなんて音だ!」

 

爆音に顔をしかめながらも愛騎を反転させ、その姿を記憶すべく、未確認騎を見る。

大きな白色の胴体を持ち、羽ばたかない大きな翼にはなにか二つの樽型の物体を付けている。

翼の後ろの胴体には星を模した図形が描かれている。

そして再び距離を詰めるべく、速度を上げワイバーンの最高速度235km/hにまで加速するが、未確認騎は既に1kmは先を飛行していた。

空の覇者たる、ワイバーンが追い付けない事に驚愕を隠せないマールパティマであったが、すぐさま司令部へとこの緊急事態を報告する。

 

『緊急!司令部!!未確認騎を要撃するも未確認騎が優速の為追い付けない!対象は『マイハーク』方面に進行中!繰り返す、対象は『マイハーク』方面に進行中!』

 

 

 

中央歴1639年 1月24日

クワ・トイネ公国 第6飛竜隊基地

 

基地の中央にそびえる塔の中程にある魔信室で当直についていた通信員のカルミアはマールパティマからの報告に耳を疑った。

すぐさま基地司令を呼び、司令が詳細を伝える様にマールパティマに命令する。

 

『未確認騎は現在、基地から北東約150kmを高度4000mで飛行中!未確認騎はこちらの倍近い大きさで、羽ばたいていない、速度は目算でもこちらの倍は出ている!』

 

『国籍は!ロウリア王国か?』

 

『国籍不明!至急増援が欲しい!』

 

『了解した、追尾を継続してくれ』

 

司令官は魔信を切ると、基地内通信用魔法具に持ち替え指示を出す。

 

『第6飛竜隊は全騎緊急発進!現在未確認騎が北東よりマイハーク向け侵攻中。発見次第攻撃し撃墜せよ。繰り返す発見次第攻撃し撃墜せよ。』

 

一息にそこまで言い切ると通信員に向き直り指示を出す。

 

「未確認騎が接近していると、マイハーク守備隊にも連絡をするんだ!」

 

通信が基地全体に伝われば基地は蜂の巣をつついた様な騒ぎとなる。

第6飛竜隊の竜騎士たちは宿舎から馬を駆り大急ぎで滑走路に併設されたワイバーンが待機している厩舎へ向かい、愛騎に飛び乗った。

そして準備が出来たワイバーンから次々と飛び上がっていった。

飛び上がった第6飛竜隊所属のワイバーン 12騎は高度4000mへと駆け上がる。

そして全騎が4000mに上がりきった直後に北東の空から報告にあった未確認騎が接近してくるのを確認した。

全騎が横一列に並んだところで未確認騎に対して正対する、既に未確認騎は点ほどの大きさからこぶし大の大きさになるまで接近していた。

 

「なんだあれは!」

 

「古龍とも違うぞ!」

 

さしもの竜騎士達も動揺を隠せないでいた。

部隊長も未確認騎の姿を確認すると一瞬驚くが頭を振って気を落ち着ける。

 

『狼狽えるな!未確認騎が射程に入り次第、導力火炎弾の一斉射撃を実施する。機会は一瞬しかない。各員日頃の訓練成果を見せよ』

 

各ワイバーンの口腔に魔力が集中し火球が形成されている。

一定の大きさまで形成された火球は口腔内で発射される瞬間を待っていた。

しかし未確認騎が距離2kmを切った位置で腹を見せ上昇を始めた、その行動に隊員たちはおろか部隊長でさえも驚きを禁じ得なかった。

既にワイバーンの高度は上昇限度の4000mであり高度を上げていく未確認騎を追尾する事はできなかったからだ。

 

『第6飛竜隊より、司令部。未確認騎を発見するも迎撃に失敗。未確認騎は超高高度に上昇しマイハーク方面に侵攻した。繰り返す未確認騎はマイハーク方面に侵攻した。』

 

 

 

中央歴1639年 1月24日

海岸線 P-8A-ウィスキー4-

 

12騎のワイバーンを高度を上げて躱したウィスキー4は針路をそのままに飛行していた。

その間にもSAR(合成開口レーダー)レーダとEO/IRカメラで海岸線から内陸にかけての地形情報を収集していた。

 

「さっきは驚いたな、なにせドラゴンが10匹は居たもんな」

 

パイロットはそう言いながら、背後に立ったままのTACCO(戦術航空士)に言う。

TACCO(戦術航空士)は先ほど遭遇したドラゴンの集団と最初に遭遇したドラゴンをカメラで撮影した画像を見比べていた。

 

「まったくだ、とはいえあのドラゴン達は統率が取れている様に見えたし、装備も統一されている様だ。おそらく国軍やそれに準ずるものかも知れないな」

 

「そういう分析は本土の情報屋に任せとけば良い、俺たちゃ黙って情報収集に勤しんでましょうや」

 

「それもそうだな…と前方20nm(約38km)、街の様なものが見えるな」

 

TACCO(戦術航空士)は双眼鏡を取ると前方を見る。

海岸線に港湾の様な場所とそれに隣接された城砦と街らしき建造物群が見えて来た。

上空には先ほどのドラゴンの姿は見受けられない様だった。

 

「よし、高度1,300ftまで降下して確認する。一度航過した後反転して再度確認する。そうしたらサンディエゴに引き返そう。SS-4、カメラ頼んだぞ」

 

「高度1,300ft(約400m)、アイ」

 

「SS-4、アイ」

 

TACCO(戦術航空士)の指示でパイロットはスティックを倒し、高度を落とし始める。

そして高度1,300ft(約400m)まで降下すれば海岸線を掠める様に飛行する。

TACCO(戦術航空士)は一旦自席に戻ると、コンソールの画面を切り替えEO/IR(電子光学/赤外線)カメラの映像を確認する。

港湾に隣接した市街地は周囲を高い城壁で囲まれている中世から近世の城郭都市を思わせる。

カメラが市街地から城郭に視線を移すと四隅に建設された塔の屋上や城郭の上に人員を確認する事が出来た。

どの人員も甲冑を身に着け手には弓を持っていた。

そして一様にこの機を見上げている様だった。

 

「ワーオ、本当に中世みたいだ」

 

一度目の航過を終えたウィスキー4は旋回を実施し、二度目の航過で港湾や停泊している船舶の撮影を実施したウィスキー4はサンディエゴへと帰投すべく、北東へと針路を取った。

 

 

 

中央歴1639年 1月24日

クワ・トイネ公国 マイハーク

 

クワ・トイネ公国北東に位置するここマイハークは港湾と各地から延びる街道の結節点という立地から作物や交易品の売買が非常に盛んであり、古くから経済都市として名を轟かせていた。

マイハークの中央部を通るメインストリートには各種問屋や商店、数多くの人や商家の荷馬車が行き交い大変な賑わいを見せていた。

そんな市街地を囲む城郭上を鎧を着こみ、腰には剣と矢筒を携え背中には弓を背負った一団が走っていた。

一団の先頭、齢は20代半ば腰まで伸びる黒髪を一つに纏めた女性、マイハーク防衛騎士団団長 騎士イーネであった。

彼女は第6飛竜隊からの魔信を受け、当直・非番問わず全ての人員を招集し配置につけていた。

配置に着いたイーネは息を整え、肉声と魔信で指示を出す。

 

「間もなく未確認騎がここ、マイハークに飛来する!第6飛竜隊からの報告では未確認騎はワイバーンを遥に凌ぐ速度だ!各員心して掛かれ!」

 

指示を聞いた騎士団員達は弓を持ち矢筒から矢を取り出し、番え北東の空を見上げる。

イーネは城郭と四隅の監視塔に目を向け準備が整った事を確認すると思考を巡らす。

 

(精鋭の第6飛竜隊を躱した未確認騎…北東から飛来したとなれば列強パーパルディアか…それにしても1騎だけとは攻撃か?いや1騎だけとなれば偵察か?)

 

そんな彼女の思考は東側を監視していた騎士団員の声で中断された。

 

「来たぞっ!!!」

 

豆粒ほどの大きさであったそれは瞬く間にこぶし大となりその姿を現していく。

そして接近するにつれまるで威嚇するかの如き爆音を轟かせていく。

爆音に新入りの騎士団員は顔を蒼白にし、他の騎士団員も額に汗を浮かべる。

未確認騎は高度を落としている様であったが、弓の届く距離ではなかった。

 

「早いっ!」

 

ワイバーンよりも更に巨大な白い胴体と羽ばたかない翼を持った未確認騎は、爆音を轟かせ公国の精鋭竜騎士が駆るワイバーンよりも更に早く空を飛んでいる。

そしてマイハークを掠める様にその飛び去っていく。

 

「攻撃はなし…やはり偵察か?」

 

イーネは飛び去っていく未確認騎を目で追いながらそう呟く。

未確認騎はしばらく飛行すると反転し先ほど飛行した経路をなぞる様に元来た方角へと飛び去っていった。

 

「アレは一体なんだったのだ…」

 

イーネのつぶやきは爆音にかき消され本人以外には聞こえる事はなかった。

 

 




誤字脱字のご連絡、感想などあればお待ちしております。


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2話

三毛猫@読み専様 誤字報告ありがとうございました。


????年 ?月??日 20時33分

ワシントンD.C. ホワイトハウス

 

ワシントンは季節外れの降雪に見舞わていた。

事の起こりは1日前に発生した謎の発光現象からであった。

発光現象自体は一瞬の事であったが、現象以降ワシントンD.C.は7月のうだるような暑さから一変し1月の凍えるような寒さへと変わってしまったのだ。

そんなワシントンD.C.はホワイトハウスの保安ゲートを国務省のナンバーを付けた黒塗りのリンカーン・ナビゲーターが通過した。

車はそのままホワイトハウス南玄関の湾曲したドライブウェイを上っていった。

車の後部座席には国務省トップであるシドニー・アントニオ・レンツ国務長官が乗り込んでいた。

レンツがブリーフィングの要綱を纏めたタブレット端末から目を上げれば、前方で光るブレーキランプを見ることが出来た。

それが危機対策チームの他のメンバーの到着を告げていた。

レンツの車がその車の後方に止まったとき、前方の車からニコール・フラワーズ国家安全保障局(NSA)長官が降り立つのを見た。

片手にブリーフケースを持ったフラワーズはそこで立ち止まり、レンツが降りるのを待った。

 

「幸運をお祈りします、長官」

 

レンツの運転手を務めるシークレットサービスの警護官が後部座席を振り返りながら言う。

 

「ありがとう、フランク」

 

「昨日は何をしている時に連絡を受けたの?」

 

玄関口でコートの雪を払い落としながらフラワーズが訪ねた。

 

「ドイツ首相との長い一日の準備していたところさ、彼は西ヨーロッパでもっとも退屈な10人のうちの1人なんだ」

 

「運が良かったわね」

 

ブロンドの髪が白くなりかけている長身の女性長官は溜息をついた。

 

「わたしはジョーと一緒に娘の結婚式に参加する為に西海岸に行くところだったのよ」

 

「今、運がいい人間は合衆国にはいやしないよ、フラワーズ。全くもって厄介なことにね!」

 

二人はホワイトハウスのカーペット敷きの静かな廊下を足早に歩きながら言い合った。

ホワイトハウス地下に存在するブリーフィングルームに通じるエレベーターの左右の固める警備チームに近づくと二人は会話を止めた。

この政権発足以来幾度となくここに通っているがそれでもシークレットサービスの警護官は、いかにもアメリカ人らしいレンツの彫が深い顔と身分証明書の写真を見比べた。

そして証明書のICチップをスキャナーにかざし、国務長官が名乗った通りの人物である事を確認する。

NSA長官にも同様の保安手順が繰り返えされ、二人はエレベーターに乗ってホワイトハウスの地下2階へと降りていった。

 

「なにかしら纏められた?」

 

エレベーターが動き出すとフラワーズはたずねた。

 

「なにかしらは。ボスが満足するかはわからないがね」

 

レンツがそう言ったところで、エレベーターのドアが開き目的地に着いた事を知らせる。

 

 

 

????年 ?月??日 20時40分

ワシントンD.C. ホワイトハウス地下2階 大統領要旨説明室(ブリーフィングルーム)

 

「それで紳士淑女諸君、今回の…特異現象に関して現時点での状況報告を実施して欲しい」

 

しばらく前に改装された大統領要旨説明室(ブリーフィングルーム)は壁も、楕円形の大きな会議用テーブルもその周りに置かれた椅子も焦茶色に統一されていた。

カーペットは青色のビロード製だ。

四方の壁には大型の有機ELディスプレイが埋め込まれている。

優秀な空調のおかげで地下130ftとはとても感じられない空間に大統領の声が響いた。

オブライエンの声に、ブリーフィングルームに静けさが訪れる。

誰しもが互いの様子を伺っている様であった、そんな中大統領の斜め右に座っていた白人男性が立ちあがった。

スーツ越しでもわかる筋肉質の肉体と髪を刈り上げたスタイルの男性、国防長官のジェラルド・W・ボーウェンであった。

 

「国防総省からですが、NORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)からの報告によれば観測していた軌道上の衛星すべてがロストしている事を確認しております。これは我が国および同盟国、ロシア、中国すべての衛星です。これにより全てのNAVSTAR衛星(GPS衛星)SATCOM(衛星通信)、偵察衛星、早期警戒衛星に至るまでありとあらゆる軌道資産が壊滅状態になっています」

 

「復旧にはどれ程かかる?」

 

「各衛星本体に関しては地上予備機を使用できます。打ち上げロケットに関しては現在予定されていた軍・民間問わずスケジュールを変更しかき集めています。ただ問題があり、これに関しては後程NASA(アメリカ航空宇宙局)の方からご報告します」

 

ボーウェンはそこで一度間を開けてつぎの話題に移る。

 

「そして…核抑止体制については本土のICBM(大陸間弾道ミサイル)部隊と爆撃飛行隊との連絡はついておりますが、任務中であったオハイオ級SSBN(戦略ミサイル原潜)2隻との連絡が途絶しています」

 

国防長官の報告に室内が騒めいた。

オブライエンはこめかみを押さえる様にしながら続きを促す。

 

「ティンカー空軍基地よりE-6 TACAMO機(通信中継機)を飛ばしていますが全くもって連絡が付きません…恐らくですが…元の…地球に残されていると思われます。」

 

ボーウェンは恐らくこの室内の誰しもが言う事を躊躇っていたであろう単語を口にする。

 

「ボーウェン…その言葉を口にするからにはなんらかの確証を持っているのだな?」

 

オブライエンの言葉にボーウェンは「もちろんです」と答えるとディスプレイを操作する職員に合図を出す。

四方のディスプレイが大統領府のロゴマークから切り替わり、なんらかの空撮映像に切り替わった。

 

「これは?」

 

「いまから12時間前にサンディエゴを発進した海軍の哨戒機が撮影した映像です。」

 

そう言うと映像にオーバーレイされるように地図が映し出された。

地図上にはサンディエゴの場所を示す光点と哨戒機を示す三角形のマークが記されていた。

 

「サンディエゴを発進した哨戒機は針路を南西に取りました。そして南西約1200mi(約1900km)の地点でこれを確認しました」

 

地図上の三角形が左下に動きある一点で停止すると再び空撮映像へと切り替わった。

映像には海岸線がハッキリとみてとれ海岸線から続く内陸がこれが岩礁や島嶼ではない事を物語っていた。

その映像に室内はざわつきはじめた、ボーウェンは一度言葉を区切ると再び説明を始める。

 

「ご存じの通り、本来であれば太平洋上のこの様な場所に陸地は存在しません。そしてこちらをご覧ください」

 

再び映像が切り替わった、先ほどまでは正対して接近していく映像であったがこんどの映像は平行に飛行しながら撮影した映像の様であった。

しばらくすると映像が進行方向にパンする、そこには都市らしきものが写し出されていた。

無段階ズームで映像がよるとデジタル処理された鮮明な都市の姿が露になった。

16世紀ごろのヨーロッパを思わせる街並みが広がっており、市街地を囲む様に城郭が聳え港湾の様な場所には帆船の姿が確認できた。

 

「これは…」

 

「お分かりいただけると思いますが、この映像は本物です。そしてこちらを」

 

映像のなかの都市が更に鮮明になったところでカメラがパンし、城郭上を映し出す、そこには甲冑を着込み弓を装備した幾人もの人間がカメラの方を見上げていた。

カメラは次第に遠ざかっていきそこで映像がストップした。

 

「哨戒機はこの陸地でご覧いただいた都市を確認しました、詳細な分析についてはNRO(アメリカ国家偵察局)が実施しておりますが、おそらくは15~16世紀程度の文明かと思われます」

 

オブライエンは顔を両の手で覆う様にしてから小さな声で「なんということだ…」とつぶやく。

そして暫くの間をおいてボーウェンに続きを促した。

 

「そしてですが…私も正直信じられない画像でしたがこちらを」

 

ディスプレイに一枚の静止画が映し出された、瞬間室内にどよめきが広がった。

そこには空想の産物とされ映画やビデオゲームの中の存在であるはずのドラゴンが映し出されていたのだ。

そして驚くべき事にドラゴンの背には甲冑を着込んだ人間の姿と尾の付け根にはなんらかの意匠を施した旗がなびいていた。

そしてどよめく各員を他所に更にもう一枚の画像が映し出される。

そこには先ほどと同じドラゴンが12体映っており、横一列にカメラの方を向いて口を大きく開けている画像であった。

 

「こちらも同じ哨戒機が撮影した画像になります。一枚目は陸地から14mi(約24km)の地点で、二枚目は最初の接触地点から約90mi(約150km)の地点です。最初の都市に居た兵員とこのドラゴンに乗っていた兵員の甲冑と旗の意匠が似通っている事から同一の軍組織かそれに準ずるものと思われます」

 

「つまりはこの…未知の陸地には国家かそれに準ずるものが存在する訳だな?」

 

「私はそう確信しております」

 

「そうか…レンツ、君はどう思う?」

 

話を振られたレンツはネクタイを一度緩めると手元の資料に目を落としてから発言する。

 

「国務省としては、もし仮に国家やそれに準ずる組織があるのであればコンタクトを取るべきと申し上げます。…ですがまず最重要問題として言語があります。元の世界…地球では約7000種、主要な言語でも30種以上の言語がありました。これらは長い年月と専門家の手によって翻訳され我々の言語に落とし込む事が出来ました。ですがこの世界…新世界とでも申し上げましょうか、この世界の言語に関して全くサンプルがないのです。」

 

レンツはそこまで言うと一度手元のペットボトルから水を口に含む。

 

「現在、大学・研究機関の言語学の専門家を招集し特別チームを編成する様に指示を出しております。仮にコンタクトを取るのであればこれら特別チームを同行させ意思疎通を図りたいです。またこの国家の反応が分からない事も不安要素です。私としましては万が一に備え軍…海兵隊を帯同させるべきだと考えます」

 

オブライエンはレンツの言葉を聞けば、数舜考えこみ口を開く。

 

「私も同意見だ、国務省と国防総省はその方向で動いてくれ…次は――」

 

対策会議は日を跨ぐまで行われた。

そして2日後、サンディエゴから国務省職員、専門家チームを乗せたワスプ級強襲揚陸艦 USSボノム・リシャールを中核としたボノム・リシャール遠征打撃群(ESG)が合衆国北西に位置する未知の陸地に向け出港した。

 

 

 

中央歴1639年 1月30日

クワ・トイネ公国 マイハーク沖合 60km

 

マイハーク港を母港にするクワ・トイネ公国海軍 第2艦隊に属するガレー船ピーマを旗艦とする4隻の小艦隊は穏やかな海を帆に風を受け進んでいた。

彼らの任務は洋上から侵攻してくる敵国海軍の早期発見と増援が来援するまでの時間稼ぎであった。

そしてこの小艦隊を指揮する旗艦ピーマ 船長ミドリは一段高く作られた船尾に立ち望遠鏡を片手に周囲を見回していた。

彼は出港時に艦隊司令官ノウカからの言葉を思い出していた。

曰く、6日前に未確認騎がワイバーンを凌ぐ速度でマイハーク上空に飛来し、なにをするでもなく去っていったという物であった。

国籍こそ不明であったとの事だが関係が悪化している西のロウリア王国か海の向こうの列強国パーパルディア皇国の偵察ではないかと上層部は考えている様だった。

そして偵察があったという事は侵攻も考えられる状況であった為、第2艦隊は持てる戦力で周辺海域の哨戒活動を実施していたのだ。

ミドリのそんな思考はマスト上から見張りを行っていた水兵の声で途切れた。

 

「右舷水平線上!距離約26km!船影!!」

 

「なに!?」

 

ミドリはその報告に望遠鏡を覗き込み右舷に目をやる。

しかしミドリの位置からではまだ水平線の下の為か確認する事が出来ない。

 

「何隻だ!」

 

「1隻です!」

 

見張りに発見した船の数を問えばそう答えがかえってきた。

 

「艦隊ではないのか…全艦戦闘準備!。通信士!マイハークの艦隊司令部に連絡をするんだ!」

 

ミドリの指示で、水兵達が慌ただしく動き出す。

白兵戦要員は鎧を着込み、甲板上に設置されたバリスタにも人員が配置される。

漕ぎ手達も海面へと櫂を下ろし、太鼓の音に合わせ漕ぎ始める。

ミドリも自身の鎧を着込めば、ようやく水平線上に姿を現した不明船を睨みつけた。

 




誤字脱字報告ありましたらよろしくお願いいたします。
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3話

中央歴1639年 1月30日

クワ・トイネ公国 マイハーク 第2艦隊司令部

 

マイハーク港に併設されたクワ・トイネ公国 第2艦隊司令部はここ数日間緊張に包まれていた。

事の起こりは6日前に発生したマイハークへの未確認騎侵入であった。

未確認騎は飛竜隊の防空網を歯牙にもかけずマイハークに侵入した事が原因であった。

攻撃こそなかった為、偵察であったと考えられているが、問題なのはロウリア王国でも、列強国であるパーパルディア皇国でさえもあの様なものは保有していないという点であった。

正体不明の存在が公国に侵入したという事実が軍上層部を一種の恐慌状態にさせていた。

それ以来クワ・トイネ公国軍は無期限の警戒態勢を取っており飛竜隊も空中哨戒を増やし、海軍も平時の倍以上の数で哨戒を実施していた。

そしてここ第2艦隊司令部では作戦室に大勢の人員が詰め、各哨戒区域からの定時連絡を受けていた。

そんな作戦室の後方、幕僚達が詰める一角で葉巻を吸っている人物がいた、顎髭を伸ばし前髪を右へと流した面長の男性、第2艦隊司令ノウカであった。

そんなノウカの右後ろに立っていた若い副官が声を掛ける。

 

「司令、いつまでこの警戒態勢を維持するのでしょうか?」

 

「わからん。だがまあ、少なくとも上の連中の不安が解消されるまでという事は間違いない」

 

そこまで言うとノウカは再度葉巻に口をつけ、紫煙を吐き出す。

 

「しっかしまあ、未確認騎がどこから来たのかが全く分からん。少なくとも東方には海が広がるだけ、北東には少しは島嶼があるがそんな所にワイバーンを凌ぐほどの騎を持てるはずもない。残るのは西のロウリアと北の海向こうの列強パーパルディア皇国くらいだ…しかし伝え聞いたところと記録でも彼の国もそんなものは持っている筈もない…」

 

再度葉巻を吸おうとしたところで作戦室内の通信士が声を上げた。

 

「ノウカ司令!」

 

その言葉にノウカは葉巻を灰皿に叩きつけ、通信士に視線を向けた。

通信士は手元の羊皮紙に通信内容を書き取ると足早にノウカの目の前にやってくる。

 

「ピーマ小艦隊からの緊急通信です。『我、未確認の船影を捕捉せり。現在地、マイハーク北方 60km。これより接近し臨検を実施す』以上です!」

 

「船影…未確認騎ではないのか?」

 

報告にノウカは怪訝な表情を浮かべるが6日前の未確認騎の事を考え、この不明船も同じものもではと考えた。

 

「わかった。ピーマ小艦隊であれば司令はミドリであったな、識別ができ次第報告する様に。臨検にあたっては事故や突発戦闘に十二分に配慮する様に、そして不審な点は塵一つ残さない様に指示せよ」

 

「了解致しました!」

 

通信士はノウカからの指示を書き留め、復唱を実施してからピーマへ適切に指示を伝達した。

 

 

 

????年 ?月??日

洋上 USSボノム・リシャール

 

サンディエゴを出港したボノム・リシャールESGは通常の編成よりも極めて軽い編成であり、

強襲揚陸艦USSボノム・リシャールを中心に護衛艦艇として巡洋艦USS ケープ・セント・ジョージ以下駆逐艦USS デューイ、USS ジョン・フィンを加えた 4隻の艦隊であった。

ESGは20kt(約37km/h)の巡航速度で航行を続け、未知の陸地の北方53nm(約98km)の地点まで進んでいた。

そんな艦隊の中心に位置するボノム・リシャール、通称ボニーの艦内通路を一つ星の徽章を付けた男性、ESG司令のブラウン准将が足早に移動していた。

ブラウンはハッチの縁材を跨ぎ、CIC(戦闘指揮所)に入室する。

ブラウンに気付いた先任士官が敬礼を取り、ブラウンも返礼する。

 

「司令官、CIC(戦闘指揮所)!」

 

「ご苦労、状況は?」

 

「サー、5分前に前衛の駆逐艦デューイより複数のスカンク(未確認水上目標)コンタクトを受領しました」

 

先任士官はそう言いながら指揮所正面の大型ディスプレイに目をやる。

ブラウンもディスプレイに目をやる、ディスプレイにはLink16/22を通して得られた僚艦を示す青色の円と艦隊の南方22ni(約44km)の地点に存在する4つの水上目標を示す黄色の四角形が映し出されていた。

スカンク1から4の艦隊は13kt(約24km/h)程でこちらの艦隊に接近を続けていた。

ブラウンは艦隊にかなり近接している事に舌打ちした。

 

「識別は?」

 

「デューイのLAMPS(軽空中多目的システム)が15分待機ですが、それよりも先に目視圏内に入ります。」

 

丁度その時、デューイから映像が届いた事を知らせる通知が来る。

すぐさま映像はディスプレイに回される。

そこには4隻のガレー船が帆を張り、櫂も使いこちらにむけ航行してくる様子が克明に映し出されていた。

事前ブリーフィングで行先の未知の国家が中世レベルの文明であると説明を受けていたブラウンも驚きを隠せないでいた。

 

「驚いたな…ブリーフィングで聞いてはいたが現実に見るとな…」

 

「私は以前第6艦隊に勤務していた際にギリシャ海軍の観艦式で記念艦を見た事がありますが…まさか現役で艦隊を組んでいる様を見るとは思いませんでした」

 

「まったくだ…では諸君、大統領からの命令は現地住民との平和的な接触だそうだ、僚艦に連絡しろ接触は当艦のみで実施すると、僚艦は後方で待機。国務省の連中と学者先生達にも連絡するんだ。一応全艦配置に着かせろ。海兵連中にも武装させるんだ」

 

「イエス、サー!」

 

総員配置を命じる警笛の鈍い金属音が鳴り響き、1-MC*1スピーカーからも全艦放送が鳴り響く。

 

総員配置(GQ)総員配置(GQ)。全員、各自の戦闘配置に就け。これは訓練ではない。繰り返す、これは訓練ではない」

 

警笛と放送と同時に艦内のいたるところから駆け足の音や、水密扉を閉鎖する音が聞こえて来た。

他にも乗り組んでいた海兵隊員達が装備を手に格納庫に集合し、個人装具のチェックを実施していた。

 

「いよいよファーストコンタクトだぞ」

 

そんな海兵の一団から離れた場所に今回の任務のメインである外交団と意思疎通を行う為の情報を収集する研究・分析チームが居た。

そして外交団のトップである国務省東アジア・太平洋局 国務次官補 チップ・ウィンターズが周りの外交・調査団に対して言う。

 

「相手を招き入れるのはウェルドックで行う。こちらのボートで先導し相手に短艇があればそれで、なければこちらのボートで招き入れる予定だ」

 

そこで一度言葉を区切る。

 

「この接触如何でこの世界での合衆国の身の振り方が変わる、全員それを意識する様に」

 

そこまで言ったところで1-MCスピーカーから再度全艦放送が流れる。

 

「接触まであと5分、接触まであと5分。要員はウェルドックに集合せよ、繰り返す、要員はウェルドックに集合せよ」

 

放送を聞けばチームの全員が立ち上がり、海兵の先導の元2階層下のウェルドックへと向かった。

 

 

 

中央歴1639年 1月30日

クワ・トイネ公国 マイハーク沖合 60km

 

「以上が艦隊司令部からの指示となります」

 

「わかった、副船長聞いた通りだ、未確認船と接触次第臨検を実施する」

 

「了解しました、船長」

 

第2艦隊司令部からの指示を受けたミドリは副船長にそう指示を出す。

指示を出すミドリの顔色は船影発見時に比べ些か悪くなっている様に見受けられた。

それは未確認船に近づくほど悪くなっていった。

それは未確認船を見る者に共通している事であった。

 

「副船長…臨検は私が先陣を切ろう…万が一の事があれば君に指揮を一任する」

 

ミドリのただならぬ様子に副船長は首を傾げていたが、ミドリの視線の先、未確認船を見て理解した。

そう余りにも巨大なのであった、彼らが乗船する軍船ピーマが全長35mそこそこに対して接近している未確認船はまるで城か小島を思わせるほど巨大だったのだ。

ここまで接近するのに予想以上の時間がかかったのは未確認船が余りにも巨大な為に見張りが目測を誤っていたからであった。

 

「副船長、私は夢を見ているのだろうか…」

 

「船長、私にも見えます、間違いなく現実であります」

 

ミドリは気合を入れる様に一度自らの頬を手で叩く。

再度未確認船を見て国籍を示すものがないかを探した。

そして未確認船の甲板上の構造物上に右上が紺色に染められ白色の無数の星、残された部分には赤と白の横縞模様が描かれた大きな旗が翻っているのが見えた。

 

「副船長、あの旗に見覚えはあるか?」

 

「いえ、船長。事前に学んでいる周辺国のどの旗にも一致しません」

 

「ではアレほど巨大な船を持っている国では?」

 

「数年前に海軍の研修でパーパルディア皇国に赴いた際に「100門級戦列艦」と呼ばれる物を見た事がありますが、あの船はそれよりもなお大きいです」

 

ピーマ船員一同と随伴船の乗組員がその巨大さに圧倒されている中、甲高い音が鳴り響いた、ミドリがその音の方を見れば帆も張らずかと言って櫂も使わない小舟が波を切ってこちらに接近していたそしてピーマからある程度距離を置いて旋回し、小舟にのった人間がまるでついてこいと言わんばかりの身振り手振りをしていた。

 

「ついて来いと言ってるのか…副船長、かの小舟について行くんだ」

 

ミドリの指示でピーマは帆を畳むと櫂のみで進み始める。

そして小舟について巨大船の後方に回り込むとそこには巨大な穴があいていた、穴はなんらかの魔術か道具で煌々と明るく照らされており、幾人かの人間も確認出来た。

先導していた小舟はそのまま穴の中へと入っていく。

 

「あそこから入れという事か…副船長、小舟の用意をしてくれ、それと4名ほどつけてくれ」

 

「わかりました船長、お気を付けて」

 

「うむ、これより巨大船の臨検を実施する!私の指示がないかぎり決して攻撃をしないように!所属こそ不明であるがもしやすれば新興国の可能性もある、国同士のやり取りになる可能性もある!高圧的な態度をとる事を厳に禁ずる!」

 

「「了解!」」

 

そう同行する兵士とピーマの乗組員に命じ、用意された小舟に乗り込むと櫂を使い巨大船へと向かっていく。

 

「さて…どうなることか…」

 

*1
戦闘配置・総員配置用の艦内通信網




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4話

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????年 ?月??日

洋上 USSボノム・リシャール

 

「来たぞ…」

 

ガレー船から出発した手漕ぎの小舟がゆっくりとボニーのウェルドックに入ってくる。

小舟には5人の人影が確認出来た、2人は水夫の様で小舟の後ろに座り櫂を使っており、

その前には革製と思われる鎧と兜を装備し、腰に帯剣した2名の海兵が、そして小舟の舳先に近いところにいる人物は後ろの海兵と違い金属製の鎧を身に着け三角帽子を被っている。

服の装飾からしても士官かそれに準ずる階級を持っている事が伺えた。

遂に小舟がスロープに乗り上げる様にして到着する。

まず先頭の士官とみられる男性が降り立ち、2名の海兵が続いた。

3人はスロープを上り切るとウィンターズら外交・調査団から5yd(約5m)ほど離れた場所で立ち止まった。

相手が立ち止まった事を確認すれば、ウィンターズが一歩足を踏み出す。

このファーストコンタクトを調査団は録画・録音を実施しており、言語研究などの学術研究や政府に対する説明に使用される予定であった。

そしてウィンターズが動いた事で相手の海兵が一瞬身構えるが、士官らしき男性が諌める様に手を上げた。

海兵を諌めた相手の士官も一歩を踏み出し、一度咳払いをすると言葉を発した。

 

「私は、クワ・トイネ公国海軍 第2艦隊所属船、ピーマ船長のミドリです。貴船は現在クワ・トイネ公国の領海に接近しています。貴船の所属並びに航行目的を教えて頂きたい。」

 

相手の言葉にウィンターズら外交・調査団は驚きに包まれていた。

言語学者等は信じられないといった表情を浮かべ、国務省職員も同様であった。

ウィンターズも驚きを隠せないでいたがそれを飲み込み、職務を果たすべく口を開く。

 

「私はアメリカ合衆国国務省 東アジア・太平洋局のウィンターズです。この度は合衆国を代表し貴国と外交関係を樹立する為に派遣されました。貴国外交関係者との対談を希望します」

 

「では貴君は使者という訳ですね」

 

「そのとおりです」

 

「承知致しました…ですが申し訳ない、アメリカ合衆国という国名を私は寡聞にして存じ上げないのですが」

 

ウィンターズの名乗りにミドリはそう言い怪訝な表情を浮かべる。

 

「それに関しましては…信じられないかも知れませんが…我が国は約1週間程前に突然この世界に転移して来たのです。勿論最初は我が国も信じられない状況でありましたが情報収集を実施し客観的に分析した結果として認めざるをえない事なのです」

 

ウィンターズの言葉にミドリは驚きと困惑が混じった表情を浮かべ、後ろの海兵2人も互いに顔を見合わせているのが見えた。

 

「情報収集…では先日我が国のマイハークに飛来した騎は貴国の騎士という事でしょうか?」

 

「騎士…あぁ、我が国の哨戒機の事ですね、それでしたらその通りです。要らぬ困惑を与えてしまい大変申し訳ない」

 

ミドリはしばし考えこむ様にしてから口を開く。

 

「委細承知いたしました。その旨を本国に報告致しますので、しばらくお待ちください。」

 

ミドリの返答にウィンターズら外交・調査団一行は第一関門を突破した事を感じ、安堵の溜息をもらす。

 

「ありがとうございます。それで返答を頂くのに何日ほど掛かりますか?」

 

重要な事であった、文明レベルが15~16世紀と同程度であれば政府中央に情報が渡り、協議が行われ再度こちらに返答が来るまで少なくない日数が掛かるであろう事は想像がついた。

しかしミドリの返答はそれを大きく裏切るものであった。

 

「いえ、本船に戻り次第魔信で艦隊司令部に判断を仰ぎますので、少々お待ち頂ければと」

 

その言葉にウィンターズは何度目かの驚きの声を上げる。

 

「通信手段があるのですね、わかりましたお待ち致します。」

 

 

 

中央歴1639年 1月30日

クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ

 

マイハークから西に400kmほどの距離にある国名を関する公都クワ・トイネ。

その一角、クワ・トイネ首相官邸に隣接された建物内に通称 蓮の庭園と呼ばれる場所はあった。

ここは建物内にもかかわらず正しく庭園といった様相であった。

四方を木々に囲まれ一角にある岩場には水が懇々と涌きだし小さな滝を形成していた。

そして滝から落ちる水は泉へと注がれ、泉にはこの場所の名を現す様に蓮が浮かんでいる。

泉の中央には小島があり、外周とは石橋で繋がれていた。

小島には中央に円卓が鎮座し6脚の椅子が置かれていた。

全ての椅子にはクワ・トイネ公国の国政に係わる者が座っており、会議を行っていた。

議題は数日前にマイハークに飛来した未確認騎に関するものであった。

そして上座に座るクワ・トイネ公国首相であるカナタは報告書を読み終えると口を開いた。

 

「ではこれより政治部会を開始する」

 

その声で隣席と会話していた者は会話を止め、資料に目を落としていた者は視線を上げる。

 

「皆も知っての通り、6日前マイハークに未確認の騎が飛来した、そして皆にも配布されている資料にある件について忌憚ない意見を聞きたい」

 

カナタの左前に座る情報分析部長が挙手し、カナタが促すと発言する。

 

「当、情報分析局の分析担当官によれば、この報告にある未確認騎は西方の大国ムーが開発・保有している飛行機械に類するものではないかとの事です。…しかしムーが保有する飛行機械は最新鋭の物でも最高速度で350km/hほど…今回の未確認騎は報告と飛竜隊の接敵タイミングから計算したところ700~800km/hは超えています。なのでムーの騎ではないと思われます…ただ…」

 

情報分析部長が一度声を区切り再度口を開こうとしたところで橋を駆け足で渡りこちらに来る者が見えた。

外交部の若手幹部であった、彼は息を切らしながらもカナタに寄れば礼を取り、手にした羊皮紙を手渡す。

カナタは若手幹部の息が整うのを待ち、報告を求めた。

 

「はっ、報告します!現在マイハーク北方洋上にアメリカ合衆国を名乗る国家の大型船が到来しました。警戒していた第2艦隊と接触し臨検を実施したところ、かの国の外交官と接触しました。そして現在我が国外交担当者との対談を求めております」

 

若手幹部の報告にカナタは頷けば手渡された報告書に目を通す。

そこには今の報告に加えて、6日前の未確認騎の所属がアメリカ合衆国である事や俄かに信じがたいが転移国家であると自称しているなどという事が記載されていた。

その事をカナタが部会メンバーに伝えると外務卿のリンスイが声を荒げて言う。

 

「アメリカ合衆国ぅ?知らんなそのような国! 転移国家などと嘯く連中など!首相!!会う必要などありません!」

 

他のメンバーにしても怪訝や何を言っているのだという顔をしていた。

カナタはそんな面々の中顎に手を当て考えこんでいた。

現在クワ・トイネは西のロウリア王国から軍事的な圧力を受けており軍の殆どを西へ振り向けていた。

そんな中、東から新たな国が現れた、状況は好ましいものではなかった。

二正面に張り付ける戦力などない。

報告を聞く限り確かに突拍子もない事を言っている、だが現実として超高速で飛行する飛行機械や大型船は存在し、それがかの国の力を示していた。

うまく事を運び友好関係を構築出来ればと考えた。

 

「…わかりました。会談を持ちましょう」

 




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5話

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????年 ?月??日

洋上 USSボノム・リシャール

 

ボニーの飛行甲板上ではVMM-161所属のMV-22オスプレイ垂直離着陸輸送機が発艦準備を進めていた。

クワ・トイネ公国側との会談を持てる事が決まった後、数回の連絡を挟み首都近郊の軍の駐屯地までこちらの輸送機にて移動する許可を得られた為だった。

人員としてウィンターズら外交・調査団に護衛として2個ファイアチームを加えた20人となっている。

他にも不測の事態に備え1個中隊と航空戦闘部隊(ACE)のF-35BライトニングⅡ戦闘攻撃機が待機していた。

そんなせわしない飛行甲板をブラウンは艦橋の航空指揮所から見ていた。

見ればウィンターズがちょうど輸送機へ乗り込むところだった。

 

「何事もなければいいがな」

 

そんな呟きは回転数を上げていくエンジン音でかき消された。

 

『ボニー、こちらグレイホークス2、スポット7にて発艦準備完了』

 

『グレイホークス2、風は左舷から微風。スポット7からの発艦許可』

 

『グレイホークス2、発艦します』

 

発艦したMV-22はボニーから500yd(約450m)ほど離れるとエンジンナセルを水平飛行位置に遷移させクワ・トイネ公国へと向かっていった。

 

 

 

中央歴1639年 1月30日

クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ近郊

 

 

 

公都クワ・トイネから西に4kmほどの平原に公都守備隊の駐屯地はあった。

公都守備隊といっても昨今のロウリア王国との緊張状態により殆どが国境に張り付いている状態で現在残存しているのは300名ほどであった。

そんな駐屯地に外務局の一団が馬車で隊列を組みやって来たのだった。

当然そんな連絡は受けていなかった為、残留守備隊の隊長タハタは困惑していた。

タハタは外務局団に訪問理由を問いただそうとする。

 

「一体全体外務局の皆様が駐屯地にどういった用であるか」

 

その質問に外務局団のリーダーヤゴウが答えた。

 

「お疲れ様です。外務局のヤゴウです。突然の来訪申し訳ない。この後こちらに外国の外交担当者が到着致します。我々はその出迎えになります」

 

「外交担当者?一体どこからの?」

 

「私もあまり詳しくは説明を受けておりませんが、相手の国名はアメリカ合衆国という国だそうで、いまマイハークに船でやって来ているそうです」

 

「マイハーク?反対方向じゃないか。なんだってこんなところに出迎えなんだ?」

 

タハタの言う事はもっともであった、マイハークに船で来ているのであればマイハーク港に船を停泊させ陸路で公都に向かえば良い筈であり、公都を通り過ぎるこの場所で出迎えというのは些か奇妙な話であった。

ヤゴウも困り顔を浮かべつつも事情を説明する。

 

「なんでも空路で向かうので開けた場所はないかとの事でして、公都近郊で開けた場所を持った国の施設といいますとこちらの駐屯地が都合がよく」

 

「空路だと?ワイバーンで乗り付けるつもりか」

 

「詳しくは分かりませんが類するものかと」

 

そんな話をしていると東の空になにかが見えた。

しばらく見ていると接近している様で段々と大きくなっていき姿かたちがハッキリと認識出来るほどになった。

太い胴体に羽ばたかない翼があり両端でなにかが回転している様であった。

 

 

「なんだあれは!」

 

「おお!?」

 

謎の騎は接近するまでは音はわずかであったが駐屯地上空を轟音を轟かせ通過する、そしてあろうことか両端に付いている部分が回転し、前を向いて回転していたものが上を向いて回転する様になっていた。

騎は速度を落とすと駐屯地で最も広い演習場に着地しようとしていた、ワイバーンの羽ばたきより何倍も強い風が吹きつけ辺りに砂煙をまき散らしタハタら守備隊やヤゴウら外務局一行は顔を庇いながら見ていた。

そして着地した騎を見れば回転していた部分が次第に遅くなり風も弱まっていった。

そして回転が止まり、砂煙が落ち着くと謎の騎の胴体の後ろと思われる部位が開く。

中から数人の人間が出て来くると周囲を見回してからこちらを向いた。

ヤゴウは一度唾を飲み込んでから意を決して近づいていき、先頭の男に声を掛けた。

 

「アメリカ合衆国の皆様でお間違いなかったでしょうか」

 

ヤゴウの言葉に声を掛けた男はヤゴウに向き直る。

 

「ええ、私はアメリカ合衆国国務省 ウィンターズです」

 

ウィンターズと名乗った男はそう言いながら手を差しだしてきた、ヤゴウは手を取り握手する。

 

「私はクワ・トイネ公国外務局のヤゴウと申します。遠いところをようこそいらっしゃいました」

 

「こちらこそ突然の来訪申し訳ありません」

 

「いえいえ、それではさっそく移動しましょう、人数の方は20人とお伺いしておりますがよろしいでしょうか」

 

「間違いありません。ただお伺いするのはこちらの私を含めた外交担当6名、加えて念のため護衛を4名同行させたいのですがよろしいでしょうか」

 

ウィンターズはそう言いながら後ろを向く、ヤゴウも視線を向ければ斑模様の服を着用し同じ模様の兜を被った兵士と思われる男たちが8人ほど見えた。

剣や弓を持っていない様であったがどの兵士も黒色の棒なのか分からないものを持ち周囲を見回していた。

 

「構いません、ただ会談場所への入室は出来かねますそこだけはご理解下さい」

 

「ありがとうございます」

 

ウィンターズはそう言うと彼と同じ様な服を着た11人と斑模様の服を着た兵士4人がやってくる。

 

「では公都へ向かいますので馬車に分乗して下さい」

 

ヤゴウがそう言えばウィンターズら外交団は3~4人で馬車に分かれ乗っていく。

移動する全員が乗り込んだところで馬車は公都へ向け出発する。

 

 

 

中央歴1639年 1月30日

クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ

 

 

 

クワ・トイネ公国首相カナタは首相官邸内の執務室から正門をくぐる馬車の車列を見下ろしていた。

最後の馬車が正門を潜ったところで執務室の扉がノックされる。

入室を許可すれば秘書官のトワが入室してくる。

 

「首相、アメリカ合衆国の外交団の方々が到着しました。第一応接室にお通しております」

 

「わかった、すぐに向かう」

 

カナタは柄にもなく緊張していた、通常のクワ・トイネの外交手順であればカナタが使節団と会談を持つことなどはありえない事であったがロウリア王国との緊張状態にあり余力がない事に加え、軍務局からの報告にある超高速の未確認騎やマイハーク沖合に来航している超大型船などクワ・トイネとは隔絶した技術力を持っている事を示していた。

北の列強国パーパルディア皇国の様な覇権主義国家であった場合機嫌を損ねればどういた事態になるか分からなかった。

現状幸い軍事力を盾にした恫喝外交を行ってくるようではなかった為、なんとか友好的な関係を構築しておきたい思いがあった。

そんな考えを浮かべながら歩いていたカナタだったがすぐに第一応接室前に到着する、部屋の前には外務卿のリンスイと外務局員数名が待っていた。

 

「首相、お疲れ様です。」

 

「ああ、ご苦労」

 

「しかし態々、首相自ら会談など」

 

「くどいぞ、リンスイ」

 

カナタはそう言ってリンスイに厳しい視線を向ければリンスイはバツの悪そうな顔をする。

 

「…申し訳ございません」

 

「行くぞ」

 

カナタがそう言えば扉の前に居た外務局員が扉を開ける。

入室すればテーブルの向こうに座っていたアメリカ合衆国の外交官らが立ちあがる。

カナタらクワ・トイネの面々がそれぞれの席に着いたところで相手に着席を促す。

そして双方が腰を下ろした所でアメリカ合衆国の外交官が口を開く。

 

「この度は急な訪問にもかかわらず会談をお受けして頂きありがとうございます。私はアメリカ合衆国 国務省 東アジア・太平洋局 次官補代理代行 チップ・ウィンターズです」

 

「私はクワ・トイネ公国首相カナタです。この度は遠い所をようこそいらっしゃいました」

 

「私はクワ・トイネ公国外務卿リンスイと申します。今会談での司会進行役を務めさせて頂きます」

 

そう言いながらリンスイはウィンターズらアメリカ合衆国外交団を見る、クワ・トイネ公国側と比べ装飾などはない装いであるが作りや材質は悪くない事を確認する。

そしてリンスイは早速本題に入る。

 

「それでは会談に入らせて頂きます。この度の貴国の来訪目的をお伺いしたい」

 

「承知しました。では資料をご用意しておりますので資料を基に説明を行わせて頂きます」

 

ウィンターズがそう言うと隣に座っていた国務省のスタッフがケースから資料を取り出し受け取りに来たクワ・トイネ側の外務局員に手渡し、外務局員がカナタとリンスイに配布する。

資料を手にしたカナタとリンスイは渡された紙の白さと薄さに驚く、クワ・トイネ公国では通常羊皮紙を使用しており、この様なものは使用していなかった。

リンスイは驚きを飲み込み資料に目を落とすがすぐに怪訝な顔をする。

 

「申し訳ないが、この文字は貴国の文字ですかな?我々ではこのような文字は読めません」

 

その言葉にアメリカ側外交団に驚きが広がる、ウィンターズは驚きを飲み込み口を開く。

 

「なんと…英語を話されていますので文字も問題なく読めるものかと…」

 

「我々からすれば貴殿方が世界共通語をはなしている様に聞こえますが」

 

困惑していたカナタがそう言うとウィンターズは国務省スタッフと顔を見合わせる。

 

「不思議な事ですね…では口頭で説明いたします。資料の2ページ目の図をご覧ください」

 

ウィンターズがそう言えばカナタ、リンスイは資料を捲り該当ページの図を見る。

そこには彼らの母国であろう大陸とロデニウス大陸北部の精巧な図が描かれていた。

 

「では…我がアメリカ合衆国は貴国クワ・トイネ公国の北東約2000kmに位置致します…単位は大丈夫でしょうか?」

 

アメリカ合衆国はヤード・ポンド法を使用しているが、今回念のためにメートル法に置換した資料を使用していた。

クワ・トイネ側は問題ないという表情をしていた。

 

「問題ないが、あの海域にこのような大陸が存在するなど聞いたことがないですぞ」

 

リンスイは資料の図の部分を叩きながら言う。

クワ・トイネ側の認識ではクワ・トイネから北東の海域には無人・有人の群島がいくつかあるのみであった。

 

「それに関してですが…我々は客観的事実としてこの世界に国土ごと転移してしまったのです」

 

説明にリンスイは鼻で笑えば強めの語彙で言う。

 

「はッ!そのようなホラ話を信じろと?馬鹿にするのも大概にして欲しいものですな」

 

「確かに、我々も元の世界で国ごと転移してきた等と言われれば何をバカな事を思ったでしょう。ですが我々は客観的証拠を集めた上で申し上げております」

 

そこまで言うとウィンターズは一度言葉を区切る。

 

「我が国と貴国はまだお互いの国をよく知りません。相互理解を深める為にもどうでしょうか、貴国から使節団を我が国に派遣して頂くというのはどうでしょう?私の百の言葉よりも貴国が信頼して派遣した者が直接見る方が信じていただけるでしょう、もちろん移動手段や滞在に掛かる部分は我が国が責任をもって行わせて頂きます」

 

ウィンターズの提案にリンスイが更に噛みつこうとしたが、カナタの発言がそれを遮る。

 

「外務卿。私はこの提案を受けるべきと思います」

 

「首相…」

 

「卿も本当は理解しているでしょう。いくら北東の群島群が集まったところで超高速の騎や超大型船など作れない事を。我が国の知りえぬ技術を持つ国が招いて下さるのだ。それにその様な力を持ってして高圧的な態度を取る事なく礼節を持って接しているのだ。私は勿論条件次第ではあるが国交締結も良いと考えている」

 

カナタはそう言えばウィンターズに問いかける。

 

「して貴国は国交締結にあたり何か希望事項があるのではないか?」

 

「まずはこの世界についての情報が欲しいです。我々も手を講じていますが何分転移してきたばかりです。地理情報や把握してる限りの国家に関する情報などです。こちらとしましてはある程度の物品や技術の輸出を考えております…それに希望があれば安全保障に関する条約もです」

 

物品・技術輸出そして安全保障という言葉にカナタ、リンスイは目の色を変えた。

カナタは確認する様に聞く

 

「ウィンターズ殿、それは本当ですか?」

 

「はい、ですが詳細に関しては議会での審議によりますが地球…前世界と同じ事であれば反対は少ないものと思っております」

 

その言葉にカナタとリンスイは喜色の表情を浮かべる。

クワ・トイネにとってロウリア王国との緊張状態に光明が見えた瞬間であった。

カナタの心はこの瞬間に決まったのであった。

 

「…ウィンターズ殿、国交締結を前提に使節団の派遣をお受けいたします。リンスイ。早急に使節団の編成をしなさい。大使には全権を委任します」

 

「はっ。早急に準備致します」

 

「ウィンターズ殿。よろしくお願い申し上げる」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。カナタ首相」

 

そう言って二人は固い握手を交わしあった。

 




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6話

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中央歴1639年 4月4日

ロデニウス大陸

 

 

 

古来から空を飛ぶという事は人類にとっての夢であった、しかし翼を持たない人類には到底叶えられない夢であった。

人は自らでは叶えられない夢を、翼を持つ生物を使役する事によってなしとげた。

彼らはワイバーンと呼ばれる生物を駆り上空13,000ft(約4000m)までを掛ける事が出来ていた。

しかし空はまだ遥か高く存在し、その終わりを見た者は居なかった。

そんな遥か高い空、成層圏と呼ばれる高度120,000ft(約37,000m)を音速の8倍で飛行する物が居た。

それは二等辺三角形の主翼に楕円の胴体を持ちステルス塗料を微妙な濃淡に塗り分けた特徴的な塗装を施され標章はなかった。

それはSR-91オーロラと呼ばれる機体であった。

オーロラは人の手の届かない遥かな高みから機体の偵察機器ベイに格納された偵察機材を用いて地上のありとあらゆる記録を取っていった。

偵察記録の電子データは地上もしくは空中の中継装置を経由しアメリカ合衆国本土の国防総省(DoD)国家偵察局(NRO)国家安全保障局(NSA)中央情報局(CIA)といった複数個所に送信され各分野の専門チームによる分析が行われ合衆国もしくは同盟国への脅威となりえるものがないかを確認される。

 

 

 

中央歴1639年 4月5日

アメリカ合衆国 ワシントンD.C.

 

 

 

ホワイトハウス地下 2階の大統領要旨説明室(ブリーフィングルーム)ではここ2か月間に於ける各省の活動に関する報告が行われていた。

 

「―――以上が過去2 か月での経過になります」

 

2か月前に合衆国はこの世界に転移後初の国交を樹立し、国交を結んだクワ・トイネ公国の仲介でクワ・トイネ隣国のクイラ王国とも間を置かずに国交を結んでいた。

両国とも地質調査で膨大な地下資源が確認された事と隣国のロウリア王国との関係から採掘権の会得を条件に安全保障条約を締結していた。

そんな国務省からの現状説明が終了すると国防総省からの説明に移っていく。

レンツ国務長官が着席すると変わってボーウェン国防長官が立ちあがる。

大型ディスプレイの画面が切り替わり国防総省(DoD)のシンボルが表示される。

 

「まずですが懸念事項であった、衛星資産に関する報告です」

 

画面が切り替わり、軌道表示の画面に切り替わった。

衛星の軌道を示す波線とそれをなぞる光点が数組確認出来た。

 

「現在USA-292レーダー(Topaz)偵察衛星及びUSA-293光学(KH-13)偵察衛星各1基並びにこれを支援する為のUSA-294、295衛星データシステム(Quasar)衛星 2基の軌道上への投入に成功しています」

 

ボーウェンが読み上げる事に各衛星がハイライトされていく。

 

「これにより最低限でありますが衛星偵察資産が復旧しましたが、依然監視覆域には大幅な穴が開いたままになっています。SATCOM(衛星通信)に関しましてはUSA-296から297までのWGS(広帯域グローバル通信衛星)の軌道投入に成功しています。NAVSTAR(GPS衛星)に関しては来週に初号機の打ち上げを予定しております。…次にですがこちらを」

 

ボーウェンがそこまで説明し画面の切り替えを促すと画面が切り替わり高度330ft(約100m)ほどで撮影した様な鮮明な空撮画像が表示される。

オブライエン大統領はミネラルウォーターを一度口に含んでから質問を投げ掛ける。

 

「これは一体どういった映像だ?」

 

「この映像は偵察衛星の監視覆域を補う為にトウノパから交代で飛ばしているオーロラ戦略偵察機が昨日ロデニウス大陸上空から撮影したものになります。この映像が撮影された時偵察機はロウリア、クワ・トイネ国境上空120,000ft(約37,000m)にいました」

 

ボーウェンはそう説明しながら胸ポケットからレーザーポインタを取り出しディスプレイへと向ける。

 

映像が動き出し森林地帯と草原が画面の上から下へと流れていく。

森林地帯が見なくなってから暫くするとなにか白色をした円形もしくは長方形の何かが無数に映り始めた。

その何かがちょうど画面を埋め尽くす所で一度映像が止まる。

 

「ここはロウリア、クワ・トイネ国境から西に約31mi(約50km)の地点になります。この映像に映っている白色の物は天幕と思われます。」

 

そう言いながら無数の白色の円形・長方形をレーザーポインタの赤い星でなぞっていく。

天幕の周りには人影と思われるものは無数におり数万は下らない事は分かった。

 

「これは全てロウリア王国軍の兵士です。数はおおよそ35~40万と思われます」

 

ボーウェンの説明にオブライエンは眉をひそめた。

 

「40万?確かか?」

 

「はい大統領。これはロウリア王国軍の動員可能戦力の8割にあたります」

 

「これは大規模な演習か?」

 

「いいえ、大統領。これは明確な侵攻準備です。ロウリア王国は国軍として約30万を保有し。他に各所領がそれぞれ領軍として兵力を保有しており。確認出来た兵力から考えて各所領からも兵員をかき集めています、そして…ここです」

 

映像が進み天幕が途切れた一角を映し出す。

そこには四足歩行で大地に立つ恐竜の様な生物が最低でも十数匹は居た。

 

「情報がないのでクワ・トイネ公国軍務局にも照会を実施していますが所謂ドラゴンの一種とみられます。そしてこの一角も興味深いものがあります」

 

レーザーポインタが移動し、開けた場所の一角を指す、そこには車輪付きの台座に乗せられた前装式大砲と思われるものがこれもまた十数門あった。

 

「これは我々の事前情報に全くなかったものです。自国開発したのか供与されたかは分かりませんが、この準備からしても兼ねてから懸念されていたクワ・トイネ、クイラ両国への侵攻作戦が進行中である事は確実と考えています」

 

ボーウェンからの説明を聞き、オブライエンはこめかみを数回叩いてから口を開く。

 

「状況は理解した。我が国が取るべきオプションは?」

 

「プランAは空軍による先制攻撃です。幸いロウリア王国軍はまだ国境まで距離があり民間人居住区もない事から最も確実かつ大打撃を与えられます。プランBは越境を待ってからの防御戦闘からの逆侵攻作戦です。これは敵軍が侵攻ルート毎に分散してしまう点とクワ・トイネ公国領内である事から緒戦での民間人への被害が懸念される事です。クワ・トイネ公国との安全保障条約に正確に則るのであればプランBが議会からの反発も低いでしょう。プランCは外交交渉による解決を模索です」

 

ボーウェンから3つのプランを提示され、オブライエンはしばし考えこむ。

 

「…プランB、Cでいこう。レンツ、至急両国にこの件を伝えるんだ。ヨムキプールと湾岸の二の舞はご免被るからな、それとロウリアには我が国の方針と意思を間違いなく分からせるんだ。ボーウェン、部隊の編制と移動を進めてくれ、それと戦闘計画の立案もだ」

 

「わかりました、大統領」

 

「承りました」

 




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7話

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中央歴1639年 4月6日

アメリカ合衆国 ワシントンD.C.

 

 

 

ウエストウイング地下に存在するシチュエーションルームにはオブライエン大統領以下国家安全保障会議のメンバーが揃い、統合参謀本部議長ティモシー・S・シュナイダー陸軍大将が状況説明を行う所であった。

照明が暗くなり、シチュエーションルーム正面の大型ディスプレイに状況図が表示される。

 

「状況に関してですが、現在、陸軍緊急展開部隊として第82空挺師団の進発準備を開始しており、24時間以内にクワ・トイネ公国へ展開可能です。空軍は第366戦闘航空団(366th FW)並びに第51戦闘航空団(51st FW)のクサナイ基地への前進配備を進めています、必要であればグアムから第9爆撃飛行隊(9th BS)も作戦参加します。最後に海軍についてはパールハーバーから第5空母打撃群(CSG-5)及び第7遠征打撃群(ESG-7)が出撃準備を行っており48時間以内に出港できます」

 

ディスプレイの地図上に各部隊を示す光点が表示され、それぞれの光点に部隊名が併記される。

 

 

【挿絵表示】

※大まかな位置関係

 

「攻撃計画に関してですが、我が軍はロウリア王国軍が越境した事を確認次第これを第82空挺師団の装甲部隊と砲兵、海軍機及び空軍機による航空攻撃で叩きます。それと並行し第82空挺師団のヘリボーン部隊が越境し敵侵攻軍の後背を遮断します」

 

画面がロデニウス大陸の地図へと切り替わり侵攻軍を示す赤い四角が移動し、国境線を越えた段階で待ち構えている地上部隊の青い四角と海軍機、空軍機を示す青色の矢印が赤い四角へ殺到する。

その最中に味方地上軍を示す青い四角が迂回し赤い四角の後背に回り込んでいた。

 

「敵の航空戦力に関しては航空偵察にて配備基地を確認していますので、離陸前にこれを撃滅します」

 

シュナイダーの説明に合わせて表示されたロウリア王国領内に示された複数の光点に幾つもの光点が向かっていく。

 

「この攻撃の後、海軍は敵海軍の撃破に移行します。現在判明しているロウリア王国海軍の戦力はキャラック船、ガレー船を中心として総数で約4000隻が確認されています」

 

4000隻という言葉に一瞬どよめきが生まれる。

 

「4000隻とは凄まじい数だが大丈夫なのかね?」

 

「問題ありません、大統領。攻撃に相応の時間はかかりますが問題なく撃滅可能です」

 

オブライエンはその言葉を聞けば一度頷いて続きを促す。

 

「海兵隊に関しては地上戦の推移にもよりますが、ロウリア沿岸への強襲上陸も検討しています。その場合は敵首都にほど近いこの海岸線を確保し、しかる後に敵首都への攻撃を実施します」

 

そこまで説明すると照明が再び明るく灯る。

 

「ありがとう、議長。作戦計画は今の通り進めてくれ。レンツ、ロウリアにはこちらの意思を伝えたか?」

 

オブライエンは議長にそう言えば、シュナイダーは自席に戻る。

そしてレンツへと視線を向けながら問う。

 

「は、知っての通りロウリアと我が国には国交がありません。現在駐クワ・トイネ大使館から書状を持たせた外交官を向かわせておりますが、どうなるかは検討もつきません」

 

合衆国も当初ロウリアとの国交締結を考えていたがクワ・トイネ、クイラ両国との国交を理由に門前払いを受けていた。

当然その報告はオブライエンにまで来ていた為レンツの言葉に溜息をついた。

 

 

 

中央歴1639年 4月7日

クワ・トイネ公国 クサナイ空軍基地

 

 

 

駐クワ・トイネ アメリカ軍の基地であるクサナイ空軍基地はクワ・トイネ公国公都から西に90mi(約150km)ほどの所にあった。

クサナイは元々畜産を主産業とした小規模で長閑な街であったが、アメリカ軍基地が出来てからはアメリカ軍人を顧客に考えた商店や飲食店などが増え賑わいを増していた。

そんなクサナイの街に隣接するクサナイ空軍基地は喧騒に包まれていた。

早朝からアメリカ本土より緊急展開部隊を積載した数十機に及ぶC-5Mスーパーギャラクシー戦略輸送機やC-17BグローブマスターⅢ大型輸送機が飛来していた。

輸送機は兵員や資材、装甲車両などありとあらゆる物資を詰め込んでおり、それら物資をエプロンで吐き出すと着陸機の合間を縫って離陸していく。

またそれらの輸送機の合間に本土から前進配備された、空軍の第366戦闘航空団(366th FW)および第51戦闘航空団(51st FW)所属のF-15Eストライクイーグル戦闘攻撃機、F-16CMファイティングファルコン戦闘攻撃機、A-10CサンダーボルトⅡ攻撃機やこれらを支援する為のE-3Cセントリー早期警戒管制機(AWACS)とKC-46ペガサス空中給油機が続々とクサナイに飛来する。

そんなクサナイ空軍基地には連絡将校としてクワ・トイネ公国軍から騎士ボンタと騎士ケタハが派遣されていた。

ボンタはひっきりなしに飛来するアメリカ軍機を茫然とした表情で見ていた。

 

「すごいぞあの巨大な鉄竜、腹の中にあんなに沢山の兵を詰め込んでるぞ」

 

そう言いながらエプロンに駐機され後部ランプを開きそこから次々とアメリカ軍兵士を降ろしていくC-17を指さす。

隣に立つケタハもまた驚きの表情を浮かべていた。

 

「いやボンタ、あのもっと大きな鉄竜なんて鉄の地龍を吐き出してるぞ」

 

視線の先には前部カーゴドアを開き、M8 サンダーボルト空挺戦車を降ろすC-5の姿があった。

 

「ロウリアが遂に攻めてくると聞いた時は正直ダメかと思っていたが、これなら勝てるかも知れんな」

 

「ああ、まったくだ」

 

 

 

中央歴1639年 4月9日

ロウリア王国 王都ジン・ハーク

 

 

 

ロデニウス大陸の西半分を支配するロウリア王国。

その王都であるジン・ハークは丘に築かれており周囲を三重の重厚な城壁に囲まれた堅牢な城郭都市であった。

その中央にそびえ立つのがロウリア国王の居城であるジン・ハーク城であった。

そんなジン・ハーク城の天守塔に存在する大部屋にて開戦の最終判断を下すための御前会議が執り行われていた。

室内で一段高い位置にある一際豪奢な椅子に腰かけているのはロウリア王国大王 ハーク・ロウリア34世であった。

他にもロウリア王国の宰相オマス、近衛騎士団長兼王都防衛騎士団将軍パタジン。

三大将軍と呼ばれるパンドール将軍、ミミネル将軍、スマーク将軍などを始めとしたロウリア王国を担う重鎮が勢ぞろいしていた。

沈黙が満ちている空間に宰相オマスの声が響く。

 

「これより御前会議を執り行います。まず大王様よりお言葉を頂きます」

 

会議の開始を告げるとオマスは脇に下がり、ロウリア国王 ハーク・ロウリア34世が口を開く。

 

「皆の者この10余年の時、大儀であった。遂に我々はこのロデニウス大陸から害獣どもを駆逐し我々ヒト種の統一国家を築き上げる時がきたのだ。その為の諸君らの働きに余は礼を言おう」

 

その言葉に臣下達は頭を下げた。

ハーク・ロウリア34世は立ちあがるとこぶしを振り上げ宣言する

 

「余はここに!クワ・トイネ、クイラ両国への開戦を宣言する!!」

 

その力強い言葉に臣下達は静かに歓喜の声を上げる。

部屋の熱気が高まっていくなかハーク・ロウリア34世が腰を下ろすとマオスが再び会議を進行させる。

 

「パタジン将軍、現在の軍の状況を」

 

ロデニウス大陸統一軍の総司令官であるパタジンはその言葉で立ち上がり説明を行う。

 

「現在統一軍はクワ・トイネ国境まで残り30kmの地点におります。予定通り4月12日にクワ・トイネ国境を越えます。相手は所詮農民の亜人と不毛の大地の貧民に過ぎません、ひと月と掛からず征服してご覧にいれます」

 

パタジンの言葉にハーク・ロウリア34世は満足げに頷く。

そして続ける様にとパタジンに促す。

 

「宰相殿にお尋ね申し上げる。1か月程前に接触してきたアメリカ合衆国という国に関して何か情報はありますでしょうか」

 

パタジンの言葉に宰相オマスは不敵な笑みを浮かべ答える。

 

「かの国はロデニウス大陸から遥か北東に離れた蛮族の新興国家であります。此度の戦には全く影響しないでしょう…それとこちらを」

 

オマスはそう言うと懐から何らかの書状を取り出しハーク・ロウリア34世に差し出す。

ハーク・ロウリア34世は書状を受け取れば怪訝な顔をし、これは何かをオマスに問いかける。

 

「これはそのアメリカ合衆国とやらの使者が昨日持参した物であります。内容に関してはとんだ荒唐無稽なもので、なんとクワ・トイネの安全を保障すると書いてあります」

 

その言葉に室内は失笑が響く。

それもその筈であり数千kmも離れた蛮族の新興国家が栄えあるロウリア王国に歯向かうと言っている様なものであったからだ。

ハーク・ロウリア34世は書状に一通り目を通せば書状を粉々に破り投げ捨てる。

 

「新興国家如きが我がロウリアに歯向かうとは、笑止千万!ロデニウス大陸を統一した後、同じように攻め滅ぼしてくれるわ!」

 




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8話

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中央歴1639年 4月11日

ロウリア王国 国境地帯

 

 

 

クワ・トイネとの国境まで約3kmの地点でロデニウス大陸統一軍の先遣隊は開戦前の最後の野営を行っていた。

野営地のそこかしこで焚火が炊かれ野営地全体を明るく染め上げていた。

全ての将兵に十二分な食事と酒が配給され、明日の戦いに向けて士気を高めていた。

そんな野営地を見下ろす小高い丘の上に先遣隊の将校用の天幕はあった。

その天幕の一つで先遣隊の副将を務めるアデムは酒瓶を傾け笑みを浮かべながら伝令に明日の指示を伝えていた。

既にアデムの頭の中には勝った後の事しかなかった。

アデムが任されている先遣隊は軽装歩兵、重装歩兵をはじめ、騎兵や魔導士を含めた地上部隊3万余であった。

加えてこの日の為に用意したと聞いている地龍も4頭配備され、竜騎兵に至っては150騎もの数が割り振られていた。。

 

「明日ギムを落とした後は好きにしなさい」

 

「好きに…ですか」

 

「ええ。女子供を犯し、嬲るも。男は腹を掻っ捌いて首を落としも構いません…あぁ、ワイバーンや地龍そして魔獣の餌にするのもいいかもしれませんねえ、餌代もタダではないですから亜人共を餌にすれば一石二鳥でしょう」

 

アデムが嬉々として語り、それを聞く伝令は顔を蒼白にしていた。

 

「住民は皆殺し…いや…幾らかは嬲った後に解放しろ。クワ・トイネ中に恐怖を伝播させるのです」

 

「はっ!」

 

その命令を聞けば伝令は一目散に天幕を出ていく。

アデムはその背中を見送れば酒瓶を煽り一層笑みを深くした。

 

 

 

中央歴1639年 4月11日

クワ・トイネ公国 クサナイ空軍基地

 

 

 

クサナイ空軍基地に設置されたアメリカ・クワ・トイネ軍合同司令部にはアメリカ陸海空軍の将校やクワ・トイネ公国軍から派遣された将官が詰めていた。

指揮所では数十人の要員が動き回り各部隊からの連絡や補給の手配などに追われていた。

そんな指揮所後方にある幕僚席ではクワ・トイネ派遣軍司令官であるベンジャミン・ローマー少将が報告を聞いていた。

 

「現在ロウリア王国軍先遣隊は国境まで1.8mi(約3km)の地点で野営を実施しています。明朝には国境を越えるものと思われます」

 

「こちらの部隊の展開状況は?」

 

「は、第68装甲連隊第4大隊A(アルファ)中隊はすでに予定通り、ギムに到着し現地のクワ・トイネ公国軍と共に防御配置についております。第319砲兵連隊第3大隊もギム後方に展開完了しております。第82航空連隊第1、2大隊はFOB(前方作戦基地)ゼブラにて待機しており、明朝 FARP(前進燃料補給点)ヤンキーに進出し攻勢開始まで待機します」

 

 

【挿絵表示】

 

 

参謀の報告にローマーは頷く。

 

「海軍連中はどうだ?」

 

第5空母打撃群(CSG-5)はクワ・トイネ沖合100nm(約180km)を遊弋中です。要請があり次第何時でも攻撃を行えます。第7遠征打撃群(ESG-7)第5空母打撃群(CSG-5)の後方30nm(約55km)に位置しています」

 

「わかった、ありがとう。少尉。さて諸君、明日は忙しくなるぞ」

 

 

 

中央歴1639年 4月12日

クワ・トイネ公国 国境地帯

 

 

 

薄く朝靄が掛かる中、ロウリア王国軍は満を持して国境を越えるべく進撃を開始した。

ロウリア王国軍はパイク部隊を第1戦列として第2列に重装歩兵を中心とした近接部隊、第3列に弓兵や魔導師、魔獣使いなどを配し、第4列にはカタパルトや破城槌に加え地龍などの特殊な物を配置した陣形を組んでいた。

野営地から出発し約1時間後、ロウリア王国軍はクワ・トイネ国境を越えた。

国境を越えたにも関わらずクワ・トイネ公国軍がなにもしてこない事に兵士達はもとより将校でさえも「亜人共は我らに怖気づいて逃げたのだ」という嘲笑が広がっていた。

そんなロウリア王国軍を遥かな高みから監視する目があるとも知らずに。

ロウリア王国軍の上空19,000ft(約6000m)をレース・トラック・パターンで飛行するのはアメリカ陸軍所属のMQ-1CグレイイーグルER無人偵察機(UAV)であった。

MQ-1Cは12時間前に監視任務を開始してから夜通しロウリア王国軍の動向を機体下部の第3世代赤外線監視装置(Gen.3 FLIR)とAN/ZPY-1 STARLiteレーダーの合成開口(SAR)モードで絶えず監視し、その全てを中継機を通してクサナイ空軍基地の統合司令部へと送り続けていた。

 

 

 

中央歴1639年 4月12日

クワ・トイネ公国 クサナイ空軍基地

 

 

 

クサナイ空軍基地の駐機場は慌ただしさに包まれていた。

グレイイーグルによってロウリア王国軍の越境を確認した司令部は攻撃機隊の発進を命じていた。

駐機場では既に兵装の搭載を終えていた第36戦闘飛行隊(36th FS)のF-16CM全20機はタキシー・ウェイ(誘導路)を滑走路へ向け進んでいた。

F-16CMは全機がAIM-9Mサイドワインダー短距離空対空ミサイル(SRAAM)2発とAIM-120C-7 AMRAAM中距離空対空ミサイル(BVRAAM) 4発に加え、 AGR-20A(APKWS)を装填したLAU-131 ロケット弾ポッド 2個と誘導の為のAN/AAQ-33 スナイパーXR目標指示・照準器(TGP)そして300ガロン増槽を装備していた。

F-16CMは各飛行隊事に滑走路に進入しアフターバーナーの炎を煌めかせ離陸していく。

そんなF-16を愛機であるF-15Eストライクイーグルのコックピットから見るのは第391戦闘飛行隊(391th FS)隊長レックス・チャーロ少佐だった。

チャーロ少佐は機付き整備士が最後の点検を終え、兵装係が搭載兵装から安全ピンを抜き活性化状態にするのを待っていた。

乗機のF-15Eは兵装としてAIM-9M サイドワインダーSRAAM 4発に加え、地上攻撃用にMk.82バリュート付高抵抗爆弾 26発を満載していた。

すると後席から兵装システム士官(WSO)のリック・オコンネル中尉がチェックリストを片づけながら声を掛けてくる。

 

「まさかアフガンのテロリスト共の次に戦うことになるのが異世界なんて思ってもみませんでしたよ、少佐殿」

 

「ああ、全くだよリック。俺は今度の休暇でキョウトに旅行に行く予定だったんだ。」

 

「それは災難でしたね…チェックリスト全項目OKです、少佐」

 

「了解した」

 

オコンネルからチェックリスト完了の報告を聞くと同時に機付き整備士が準備完了を知らせてくる。

タラップが外され、必要な要員以外が機から離れた事を確認するとエンジン始動手順を進める。

まず左のプラット&ホイットニー製F100 -PW-229ターボ・ファン・エンジンが甲高いファンの回転を響かせ回転数が必要数に達した事を確認すれば右も同じように始動する。

左右のエンジンが問題なく始動した事を確認すれば外部電源から機内電源へ切り替えを行い、ハンドサインで機外のAPU操作員に知らせ機材と人員が離れた事を確認する。

 

「TEWSモードチェックOK、INS整合完了、航法・照準ポッドOK、兵装チェック…OK」

 

チャーロはシステムチェックを実施し問題ない事を確認すれば管制にコンタクトを取る。

 

『クサナイ・タワー、こちらゴーストライダー1、タキシング許可を求む』

 

『ゴーストライダー1、滑走路18までE3、E1経由でのタキシングを許可します』

 

『ゴーストライダー6、滑走路18までE3、E1経由でタキシングする』

 

タワーからタキシング許可を得るとスロットルを僅かに開けF-15Eを進ませる。

F-15Eが誘導路を進み滑走路が近くなった所で管制塔から指示が来る。

 

『ゴーストライダー1、滑走路18への進入後、離陸を許可。風は方位1-8-0から2kt』

 

『ゴーストライダー1、滑走路18から離陸する』

 

滑走路に進入すればチャーロはスロットルをアフターバーナー位置に叩き込み、機体を加速させる。

兵装を満載したF-15Eはアフターバーナーの凄まじい力でぐんぐんと速度を上げ、速度が200kt(約370km/h)を過ぎた所で機首を上げ離陸していく。

完全に脚が離れた所でギアアップし、着陸脚が振動と共に格納される。

高度が1500ft(約460m)を越えた所で後ろを振り返れば後続の僚機が続々と離陸してきていた。

第391戦闘飛行隊(391th FS)はクサナイ空軍基地上空で編隊を組み、待機していたKC-46空中給油機から給油を受けた後、国境沿いの街ギムへと針路を取った。

 




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9話

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中央歴1639年 4月12日

クワ・トイネ公国 国境地帯

 

 

 

クサナイ空軍基地を発進した第36戦闘飛行隊(36th FS)のF-16CM 20機は各小隊事に編隊を組み高度16,000ft(約5000m)380kt(約700km/h)で一路国境沿いの街ギムへと飛行していたが、そこへE-3Cセントリー早期警戒管制機(AWACS)から通信が入る。

 

『ローニンよりフィーンド各機、方位2-1-0 距離80nm(約150km) 高度1,000(約300m)に空中目標を確認 機数75 敵航空戦力と思われる。味方地上部隊に接近している、割り当てを送る。迎撃せよ』

 

AWACSからの指示に第36戦闘飛行隊(36th FS)の隊長であるニコラス・ヘニー少佐が答える。

 

『フィーンド1、了解。フィーンド各機、割り当ての目標に対して射程に入り次第スラマー(AIM-120)を発射しろ』

 

飛行隊各機から了解した旨の無線が入る。

ヘニー少佐は目標までの距離が50nm(約90km)を切ると攻撃の為の準備を進める。

Link 16(データリンク)を通じてAWACSから割り当てが送られ、目標情報がカラー多機能ディスプレイ(CMFD)に表示される。

マスターアームスイッチを確認しON位置にある事を確認する。

スティックのボタンを押し込み A/A(空対空)モードを選択し翼端のAMRAAMを選択する。

レーダーをRWS(レンジ・ワイル・スキャン)モードからRWS-SAMモードに切り替え、割り当て目標に対するロックを実施する。

そこまでの一連の操作を終えればヘッドアップディスプレイ(HUD)に視線を戻し、ターゲットボックスをASEサークルに捉え、更にステアリング・キューをASEサークルに収める様に機体を操る。

全ての操作を終えヘニー少佐は無線のプレストーク(PTT)スイッチを押し込み僚機に警告を出す。

 

『フィーンド1、FOX3!』

 

そうコールし、スティックの発射スイッチを押し込む。

回路を通じてAMRAAMに対して点火信号が送られ、固定装置が外されると同時に低排煙ロケットモーターに点火される。

AMRAAMはロケットモーターの力によりマッハ4まで加速し目標に対して飛翔していく。

編隊各機も同様の手順で攻撃を実施し初弾合計20発のAMRAAMが発射された。

HUDの残り飛翔時間が減っていきカウントが0になるとレーダー画面からきっちり20機分のシンボルが消失する。

第36戦闘飛行隊(36th FS)の各機は自機に割り当てられた目標がなくなるまでこの一連の動作を繰り返した。

最後のシンボルが消失した事を確認すればヘニー少佐はAWACSへ通信を行う。

 

『フィーンド1よりローニン。目標空域はクリア、繰り返す目標空域はクリア』

 

『ローニン了解。まもなくゴーストライダーが攻撃を実施する。フィーンド各機所定のポイントで待機せよ』

 

『フィーンド1、了解』

 

通信を終えればF-16CMをバンクさせ事前に設定されていた待機ポイントへと針路を取った。

 

 

一方のロウリア王国軍先遣隊は恐慌状態に陥っていた。

事の起こりは僅かに数分前、クワ・トイネ公国軍の抵抗もなく国境沿いの街ギムへと悠々と進軍を続けている先遣隊の上空を飛んでいた75騎に及ぶワイバーンが轟音と爆発によって次々に墜とされていったのだ。

爆発が上空で起こる度にワイバーンと竜騎士であった物がロウリア王国軍先遣隊の頭上に降り注ぎそれが一層の恐怖と混乱を誘発していた。

段列の最後尾の騎乗でそれを見ていた将アデムは信じられないといった表情を浮かべ墜ちゆくワイバーンを見ていた。

周りでは参謀達が混乱を収めるべく段列へ向け伝令を走らせるなど対応に追われていた。

 

「い、一体なにが起きたというのだ…」

 

狼狽するアデムに参謀の1人が慌てた声で報告を上げる。

 

「申し上げます!上空警戒に当たっていたワイバーン全てが墜とされました!」

 

「ぜ、全騎だと。クワ・トイネの魔導攻撃か?」

 

「それはまだ分かりません」

 

「えぇい!まだワイバーンは代わりがいる!一刻も早くギムへ向かい攻め落とせ!」

 

怒気を浮かべ言うアデムはそう言いながらギムがある東を指さす。

そして気付く、指さした先の空に点の様な物が幾つかあった事に、点は徐々に大きくなっていきそれにつれまるで雷鳴の如き音が響き始めた。

その謎の物体が段列の先頭を飛び越える時にはアデムにもその姿がハッキリと確認できた。

ワイバーンを2回りは大きくした黒色の鉄竜だった。

鉄竜が腹から何か小さい物体を次々と落としていく。

その物体が地面に落ちる度に大魔導を凌駕する爆発が起き兵たちをなぎ倒していく。

現実離れしたその光景にアデムの脳裏に御伽噺に語り継がれる国が過った。

 

「まさか古の魔法帝国――」

 

アデムの意識はそこで途切れた。

 

 

チャーロ少佐率いる第391戦闘飛行隊(391th FS)所属のF-15E攻撃隊の第1波 5機は高度650ft(約200m)270kt(約500km/h)でロウリア王国軍へと進入していた。

チャーロ少佐は多機能ディスプレイ(MFD)を操作しシステムをA/G(空対地)モードに切り替える。

兵装選択でMk.82バリュート付高抵抗爆弾を選択。

投弾モードをシングルに設定し凡そ1秒間隔で投下される様に設定を行う。

次に後席にいる兵装システム士官(WSO)のオコンネル中尉がAN/AAQ-33スナイパーXRポッドを操作し赤外線映像でロウリア王国軍を確認しシステムに目標情報を入力する。

 

『少佐、目標ロックしました』

 

『確認した、爆撃行程に入る』

 

HUD上にTDダイヤモンドのアイコンとそれを切り裂く様に縦線が表示さた事を確認し、縦線がアイコンに沿う様に機体を調整する。

HUD上に投下開始までの残り時間が表示され、カウントが10秒を切った時点でスティックの発射スイッチを押し込み続ける、

カウントが0になった瞬間、爆撃コンピュータが投弾の指示を送りMk.82 500lb(約225kg)爆弾がパイロンから切り離された。

Mk.82は投下された瞬間、尾部からエアバッグ状の減速器を膨らませ機体が安全な距離まで離れる為の時間を稼ぐ。

5機合計65,000lb(約30t)の高性能爆薬がロウリア王国軍に死と破壊を振りまいた。

Mk.82は地面に落下した瞬間に着発信管が起爆信号を送信し爆薬を炸裂させる。

1回爆発が起きるたびに数百人の兵士が爆圧もしくは破片で物言わぬ肉片へと変わっていく。

チャーロ少佐は投弾の度に軽くなる機体を水平に保ちながらMFDの残弾表示を見る、残弾が0になった事を確認すれば、スロットルをミリタリーからアフターバーナー位置に叩き込み、スティックを引き寄せ身軽になったF-15Eをハイレート・クライム(急上昇)させる。

HUDのデジタル高度計が3,000ft(約1,000m)になった所で後ろを振り返れば無数の黒煙が立ち上り数十に及ぶクレーターが見えた。

そして第2波攻撃隊がその隙間を埋める様に同じ量の爆弾を投下していった。

チャーロ少佐はPTTスイッチを押し、報告する。

 

『ゴーストライダー1より司令部。ジャックポット、繰り返すジャックポット』

 

 

 

中央歴1639年 4月12日

クワ・トイネ公国 ギム

 

 

 

ロウリア王国軍が目指していた国境沿いの街ギムの郊外にはアメリカ陸軍の第68装甲連隊第4大隊アルファ(A)中隊に所属するM8 サンダーボルト空挺戦車 13両が出撃の時を今か今かと待っていた。

彼らは空軍がロウリア王国軍に痛撃を加えたのち、クワ・トイネ公国軍と協力し残敵の掃討を実施する手はずになっていた。

中隊を指揮するエディー・バノン大尉は中隊長車のキューポラから上半身を出し、西の方角を見ていた。

そんなバノン大尉に声を掛ける人物がいた。

 

「バノン大尉殿」

 

褐色肌の筋肉質の肉体を鎧に包み、頭頂部に獣の耳を生やした獣人。

クワ・トイネ公国軍西部方面騎士団団長 モイジであった。

バノン大尉はモイジの方に向けば敬礼をし、モイジもクワ・トイネ式の礼を返す。

 

「我が西部方面騎士団は出撃準備を完了した、あとはそちらの合図次第だ」

 

「ええ、もう間もなくかと――」

 

モイジの問いに答えようとした瞬間、頭上をF-15Eの編隊が轟音と共に飛び去っていった。

数十秒後同じようにF-15Eの編隊が飛び越えていき、数舜後地平線の向こうに爆炎が見え、爆発音がギムの街まで届いてきた。

モイジは余りの轟音に耳を押さえ顔をゆがめた。

 

「なんという音だ!これはアメリカの攻撃か!」

 

「その通りです。モイジ団長」

 

爆発音が収まった時、砲手ハッチが開き、砲手が顔を出す。

 

「大尉!司令部からです、ジャックポットだそうです!」

 

その言葉を聞いたバノン大尉は口角を上げ笑った。

 

「モイジ団長、攻撃開始です」

 

「よし、わかった!」

 

バノン大尉からその言葉を聞けばモイジは表情を引き締め、自らの騎士団へと足早に戻る。

その後ろ姿を見送れば、胸元のPTTスイッチを押し込み中隊全車に指示を出す。

 

『全員聞いたな!身の程知らずを国境の向こうに押し返すぞ!全車前進!』

 

 

デトロイト・ディーゼル製ディーゼルエンジンの咆哮と騎馬の嘶きを響かせアメリカ・クワ・トイネ軍は前進を開始した。

 




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10話

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中央歴1639年 4月12日

クワ・トイネ公国 国境地帯

 

 

 

進撃を開始したアメリカ・クワ・トイネ陸軍は、アメリカ陸軍 第68装甲連隊第4大隊アルファ(A)中隊を先頭に、クワ・トイネ公国軍西部方面騎士団の騎兵、その後ろに歩兵隊は続く陣形を取っていた。

A中隊はM8 サンダーボルト空挺戦車を駆り、平原をロウリア王国軍へと突き進んでいた。

中隊は中隊長車を先頭に楔型陣形を取っていた。

中隊長であるバノン大尉は車長用キューポラから身を乗り出し、マウントされたブローニングM2重機関銃(HMG)に肘を置き前方を見ていた。

すると装着しているヘッドセットに通信が入る。

 

『ライオン6、こちらパパ・デビル(旅団本部)、送れ』

 

『パパ・デビル、こちらライオン6、送れ』

 

爆撃効果判定(BDA)の結果、現在敵の残存兵力は約5000程度と思われる。また大型の生物と牽引野砲が幾つか残存している事も確認している』

 

『大型の生物ってのは例のトカゲですか?』

 

『その通りだ。現在空軍の近接航空支援(CAS)機が向かっている。ETAまで20分だ。コールサインはホグ。支援が必要であれば規定の周波数でコンタクトを実施せよ』

 

『ライオン6、了解』

 

旅団本部との通信を切ると指揮下の各車に指示を出す。

 

『全車、AMP(先進多目的榴弾)装填』

 

『ロード、AMP、アイ、サー!』

 

指示を受け砲手がコントロールパネルを操作し、AMPを選択する。

砲塔バスケットに沿う様に設置された即応弾薬庫の弾薬がベルトコンベアによって回転させられM1147 AMP砲弾が装填位置に送られる。

弾薬を装填アームが掴み持ち上げ、薬室に押し込み尾栓が閉じられる。

砲手の目の前のランプの一つが緑色に点灯し装填完了を知らせる。

 

『装填完了!』

 

『ようし。全車軽歩兵に構うな、我々の主目標は後続のクワ・トイネ騎兵隊の脅威になるトカゲ共と野砲だ!障害物は踏み越えて行け!』

 

そう言い終わると2km程先に攻撃機隊により吹き飛ばされたロウリア王国軍が見えてくる。

大方は爆撃によって片が付いているが運よく爆撃コースから外れていた部隊などは何とか陣形を組もうとしている所だった。

ロウリア王国軍残存部隊は土煙を上げ接近するA中隊を見れば密集隊形(ファランクス)を組み待ち構える腹積もりの様だった。

バノン大尉はそれを見て号令を掛ける。

 

『全車、攻撃開始!ファイア!』

 

中隊長車のM291 120mmATAC砲が凄まじい砲声と砲煙と共に発砲し、M1147 AMP砲弾が3,600ft/s(1,100m/s)の速度でロウリア王国兵に向け飛翔する。

AMP砲弾は発射前に設定された距離を飛翔するとファランクス隊形を取っていたロウリア王国兵の頭上で炸裂する。

炸裂したAMP砲弾は数千の調整破片を敵兵に浴びせ掛け、盾や鎧を物ともせず十数人をズタズタに引き裂いた。

僚車の砲弾も次々と着弾し、その度に同じ位の敵兵を殺傷していく。

 

『操縦手!そのまま敵歩兵を突破しろ!』

 

バノンの指示で操縦手はギアを更に上げ、敵歩兵に突っ込んでいく。

砲手は同軸機銃を使用し、針路上の歩兵を更になぎ倒していく。

敵歩兵部隊に接近していくと生き残っていた弓兵が矢を射かけてくるがM8空挺戦車の塗装に僅かに傷を付けるにとどまりお返しとばかりに放たれた7.62mm弾を受け倒れる。

A中隊全車は先ほどまでファランクス隊形を取っていた部隊を踏み越え敵陣後方を攻撃すべく前進を続けた。

ロウリア王国兵は突破したA中隊に追いすがろうとするが、それは更に接近してきたクワ・トイネ公国軍騎兵隊によって封じられた。

騎兵隊は西部方面騎士団団長モイジが先陣を切り残存するロウリア王国兵に襲い掛かる。

 

「私はクワ・トイネ公国軍西部方面騎士団が騎士モイジ!!腕に覚えのあるものは掛かってこい!」

 

モイジはそう名乗りを上げれば馬上槍で手近にいたロウリア王国兵を串刺しにし、騎馬でもって敵兵を蹴り飛ばす。

そこへ後続のクワ・トイネ騎兵隊が加わり白兵戦が繰り広げられる。

一方のA中隊は敵陣後方に迫り、地龍と牽引砲を視界に捉えていた。

 

『砲手!弾種AMP!目標敵ランド・ドラゴン(地龍)!』

 

『アイ、サー!』

 

装填完了を確認し、砲手は目の前の ガンナー・プライマリー・サイト(GPS)を覗き込む。

その中に巨大な影が居た、四本の脚を持って大地に立ち、鋭い牙と眼を持った地龍であった。

砲手は目標を照準の中央に捉え、レーザー・レンジファインダー(LRF)を持って測距を行う。

エラーなく測距出来た事を確認すればバノンに対して報告を行う。

 

『装填完了!照準完了!』

 

『ファイア!』

 

バノンはすぐさま発射の号令を掛ける。

砲手がコントローラーの発射トリガーを引き絞ると同時にAMP弾が目標に向けて放たれる。

彼我の移動速度、風向き、大気温度、装薬温度、コリオリ力などを考慮された上で放たれたAMP弾は正確に地龍の頭部へと吸い込まれる様に命中する。

目標に命中した瞬間、信管が作動し均質圧延鋼(RHA)換算で23in(約600mm)を貫通するメタルジェットが地龍の頭を吹き飛ばす。

頭部を丸ごと失った地龍は糸が切れた人形の様に崩れ落ちる。

 

『目標撃破!』

 

照準器越しにそれを見た砲手がそう声を上げる。

しかし撃破した地龍の横に要員が取り付いた牽引砲を発見し、しまったといった声を張り上げた。

 

『前方、対戦車砲!』

 

『攻撃しろ!』

 

バノンがすかさず指示を出すが、敵牽引砲の尾部で円形で幾何学模様が描かれた物が浮かび上がるのが見えた。

 

『操縦手!回避!』

 

バノンがそう声を張り上げ、車内に身体を引っ込めた瞬間、空気を切り裂く音と爆音が轟いた。

何事かと見れば敵牽引砲があった場所が爆炎に包まれていた。

僚車の援護かと周りを見回すと無線から声が聞こえて来た。

 

『ライオン6、こちらホグ 1、大丈夫だったか?』

 

『ハレルヤ!ナイスだホグ1!見事なホール・イン・ワン・ショットだったぞ!』

 

バノンが無線から聞こえた声に返すと同時に頭上を2機のA-10CサンダーボルトⅡ攻撃機が低空を切り裂くように旋回しながら飛び抜けていった。

その姿を見送り、バノンは一息ついた。

既に残りの地龍や牽引砲は僚車が撃破し、残余の敵歩兵もクワ・トイネ公国軍が撃滅し僅かばかりの捕虜を確保していた。

 

ロウリア王国軍先遣隊3万はクワ・トイネ国境越境後僅か2時間にして壊滅したのだった。

 

 

 

中央歴1639年 4月12日

クワ・トイネ公国 沖合

 

 

 

クワ・トイネ沖合 100nm(約180km)をアメリカ合衆国海軍第5空母打撃群(CSG-5)、通称ロナルド・レーガンCSGが20kt(約37km/h)で航行していた。

ロナルド・レーガンCSGは中央にCSG旗艦たるUSS ロナルド・レーガンを配し、周囲をタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦 USSアンティータムを防空指揮艦としたタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦 2隻、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦 4隻の合計6隻の護衛艦艇が堂々たる輪形陣を組んでいた。

そんなUSSロナルド・レーガンの艦橋内にあるブリーフィングルームでは第5空母航空団隷下の第102戦闘攻撃飛行隊(VFA-102)所属パイロット達が集まっていた。

パイロット達はロウリア王国本土にある航空施設及び指揮統制施設に対する精密打撃を行う手はずになっていた。

そんなブリーフィングも終わり飛行隊長のノーマン・ラトリフ少佐が立ちあがった所で声を掛ける者がいた。

 

「ノーマン」

 

振り返れば同期であり腐れ縁のカディーム・ハマー少佐が片手を上げこちらを見ていた。

カーディムはノーマンの隣にまでやってくる。

ノーマンは改めて歩きだし、疑問の声を投げ掛ける。

 

「どうした?」

 

「いやなに、さっきのブリーフィングでも言ってた相手さんの航空戦力の話だけどな、ワイバーンって奴を落としたらきちんと撃墜スコアに反映されるのかと気になってな」

 

カーディムの言葉にノーマンは呆れた様に溜息を吐いてから言う。

 

「知らないな、だがまあ敵機である以上は加算されるだろうな」

 

「よっしゃっ、なら俺はこの戦争中にエースになってみせるぜ」

 

飛行服の袖をまくり上げそう宣言する。

アメリカ海軍の歴史上WW2以降にエース・パイロットになったのはかの有名なカニンガム・ドリスコル組のみであった。

その為、もし彼が5機撃墜を達成すれば3人目になるという事であった。

2人がちょうどアイランドから飛行甲板に出るとカーディムがこぶしを胸の高さに向けてくる。

ノーマンは溜息を吐いてから自身のこぶしを合わせる。

 

「グッドラック、ノーマン」

 

「お前こそ」

 

そう言って別れた2人はそれぞれの乗機に向かう。

ノーマンは乗機であるF/A-18Fスーパーホーネット戦闘攻撃機に掛けられたタラップを上る。

後席を見れば既に兵装システム士官(WSO)のエヴァ・ディグビー中尉が乗り込んでおりチェックリストを実施していた。

 

「あら、随分と遅かったですね、少佐」

 

「ああ、またカーディムに捕まってたんだよ」

 

コックピットに座りこみ、ヘルメットを装着しながら答える、

 

「なんだ、いつもの事じゃないですか」

 

「まあな」

 

カラー多機能ディスプレイ(CMFD)に目を向ければ既に外部電源によって起動されておいた。

今回の任務は敵施設に対する精密攻撃であり、兵装は自衛用としてAIM-9Xサイドワインダー短距離空対空ミサイル(SRAAM) 2発にAIM-120C-7AMRAAM中距離空対空ミサイル(BVRAAM) 2発、対地攻撃用にEGBU-16ペイブウェイⅡ 1000lb(454kg)レーザー誘導爆弾(LGP) 4発を搭載し、他にも増槽 2個に加えAN/ASQ-228 ATFLIR目標指示器(TGP)を装備していた。

 

「チェック完了です。少佐」

 

「了解した」

 

『ディーバック、エンジン始動許可を求む』

 

プライマリー・フライト・コントロール(プリ・フライ)に通信を繋ぎ、エンジン始動の許可を求める。

直ぐに返信があり、許可を得ればノーマンは愛機の心臓に火を灯していく。

現在配備が進むF-35Cや空軍機のF-15などよりも数割は大きい音を響かせゼネラル・エレクトリック製F414-GE-400ターボ・ファン・エンジンが始動する。

エンジン始動が終わると同時にプリ・フライから1番カタパルトへのタキシング指示が出る。

腕を振る黄色シャツの誘導員の指示に従い、ノーマンは1番カタパルトの射出準備位置へとゆっくりと機体を進ませる。

射出準備位置に着くと数人の飛行甲板員がF/A-18Fの機首の下で前脚をカタパルトのシャトルへと接続させる。

ノーマンも誘導員の指示の下、折り畳まれていた主翼を展張させる。

主翼が展張された所で火器係が兵装の安全ピンのチェックと主翼の固定を確認する。

続いてノーマンは操縦翼面を順番に動かしていく。

それを航空機操作員が目視で確認していく。

方向舵、昇降舵、補助翼、フラップ、スポイラ、エアブレーキ全てが問題なく操作される事を確認すれば航空機操作員が親指を立て異常なしを伝える。

発艦準備が整った所でキャノピーを閉じ、固定を確認する。

機体の背後ではジェット排気デフレクターが立ちあがる。

蒸気カタパルトに原子炉から送られる高圧蒸気が充填され、機体に力が掛かるのをノーマンは感じる。

発艦士官が親指を立てカタパルト側の準備が整った事を知らせる。

着陸灯を点滅させ合図を送れば、スロットルをアフターバーナー位置に入れる。

アフターバーナーの炎が排気デフレクターにより上方向に逸らされていくなか、ノーマンとディグビーは発艦に備える為に射出座席へと身体を押し付ける。

機体の左右で各係員が片膝を突き、右腕を高く掲げながら親指を立てる。

発艦士官はそれを見れば、大仰に腕を振り回し間もなく発艦される事を知らせる。

そして発艦士官が腕を前に突き出し片膝を付けた瞬間、カタパルト係が射出ボタンを押し込む。

機体、兵装、人間を合わせた65,000lb(約29t)150ft(約45m)のレールを疾走する。

戦闘攻撃機は甲板の先で僅かに落ちこむがノーマンは身に染みついた発艦手順を行いF/A-18Fを発射体から飛行機へと変わらせる。

高度を上げていく中で後席のディグビーがぼやいた。

 

「私、発艦のあの瞬間、大っ嫌い」

 




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11話

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中央歴1639年 4月12日

ロウリア王国

 

 

 

空母ロナルド・レーガンを発艦した攻撃機隊は2機ずつの編隊に分かれ各々の攻撃目標へと飛行していた。

ノーマン少佐率いる攻撃隊はロウリア王国王都近郊にあるワイバーンの発着場並びに王都内にあるロウリア王国軍の指揮所を攻撃する予定になっていた。

編隊はロウリア王国北海岸から内陸に30mi(約50km)の地点を高度16,000ft(約5,000m)、速度270kt(約500km/h)で飛行していた。

ロウリア王国軍には早期警戒レーダーや地対空ミサイル(SAM)といった近代的な装備はない為、悠々とした飛行であった。

 

『そうしたらあの子、「私はベジタリアンなの」って言って勝手にケータリング・サービスの内容を変えてたんですよ!』

 

『そいつは災難だったな』

 

ノーマン機では前席と後席が他愛の無い話を繰り広げていた。

 

『ホントッ信じられないですよ!…あと10秒でウェイ・ポイント(WP)デルタ。マークしたら1-3-5に左旋回。3…2…1…マーク』

 

『WPデルタで慣性航法装置(INS)並びに戦術航法装置(TACAN)にて現在地確認。1-3-5へ旋回。イニシャル・ポイント(IP)エコーのベース・レグに乗る。兵装チェック』

 

『兵装チェック、問題なし。燃料残量1580gal(約6,000L)

 

『ATFLIR、チェック』

 

マスターモードを空対地(A/G)モードに変更後、右側カラー多機能ディスプレイ(CMFD)をFLIRモードに変更し、ATFLIRからの映像を表示される様にする。

暫く待機すると白黒の赤外線映像がCMFDに表示される。

ATFLIRの強力な赤外線映像装置の目が薄くかかる雲を突き抜け、近代建築物の無い長閑な平原を映し出す。

 

『ATFLIR、問題なし』

 

動作チェックを実施すると、兵装システム士官(WSO)のエヴァ中尉がスティックを操作し、カメラの向きを変える。

カメラを前方下方に向けるとなだらかな丘に沿う様に建てられた3重の城壁と市街地、そして中央にそびえ立つ城を確認出来た。

 

『目標を確認』

 

『OK、まず航空施設を攻撃する。1は格納庫をやる。2は滑走路を攻撃』

 

『2、了解』

 

最初の攻撃目標の割り当てを実施し、目標である格納庫をカメラの映像越しに捜索する。

数舜後ブリーフィングで確認した偵察画像通りの位置に格納庫を確認し、ロックする。

 

『目標ロック。レーザー誘導コード1120』

 

ノーマン少佐は投下モードをAUTOに変更し、爆撃コンピュータが指示するコースに乗せる。

投下までの残り時間が10秒を切った所で発射スイッチを押し込み続ける。

投下カウントが0になった瞬間、主翼の2連パイロンからEGBU-16ペイブウェイⅡ 1,000lb(454kg)レーザー誘導爆弾(LGB)が僅かな間をおいて2基投下された。

ペイブウェイⅡは投下されると後部安定板が展張され落下姿勢を安定させる。

CMFDには弾着までの残り時間が表示され、カウントは止まる事なく進行する。

カウントが10秒を切るところでATFLIRから誘導レーザーの照射が始まる。

 

『目標へのレーズ開始。弾着まで10秒』

 

ペイブウェイⅡは指定されたコードのレーザー反射波を先端部レーザーシーカーが感知し、反射波の強い方へと落下コースを修正していく。

ペイブウェイⅡはレーザー照射地点から僅か50cm離れた地点に着弾する。

ペイブウェイⅡは格納庫の木製の屋根を貫通し、格納庫床面のレンガに触れた瞬間に起爆した。

レンガと木で作られたワイバーン格納庫は合計2,000lb(907kg)の爆弾の内側からの強力な爆圧に耐えられる筈もなく、中に居たワイバーン諸共、王都中に響く爆発音と共に木端微塵に吹き飛ばされた。

2番機の投下したペイブウェイⅡも滑走路中央部に着弾し、遅延信管により地面に少し潜り込んだ所で起爆し、埋められていた魔石と土砂を吹き飛ばしクレーターを作り上げた。

 

『着弾確認。目標破壊。目標破壊』

 

『確認した。IPフォックストロットに離脱後、第2目標を攻撃する。』

 

 

 

中央歴1639年 4月12日

ロウリア王国 王都ジン・ハーク

 

 

 

ロウリア王国軍将軍パタジンは国王ハーク・ロウリア34世へ先遣隊が国境を越え進撃を行っている旨を報告すべく王城内の廊下を侍従を従え歩いていた。

今頃先遣隊はクワ・トイネ公国軍と戦闘を行っている最中か打ち破りギムの街に接近しているであろうとパタジンは予想していた。

そんなパタジンの思考は突如響いた轟音によって途切れた。

 

「何事か!!」

 

パタジンは窓を開け放ち外を見やった。

見渡せば王都の城壁外にあるワイバーン発着場から黒々とした煙が立ち昇っていた。

 

「奇襲攻撃か!?監視塔はなにをしているか!」

 

窓枠に拳を打ち付け、パタジンは怒りを隠せずにいた。

 

「これは魔導攻撃に違いない!敵魔導士は近くに居るはずだ!探せ!」

 

侍従にそう怒鳴りつけると侍従は走り出す。

廊下を駆けていく侍従の背を見送ったパタジンは再度外に目を向けた、

瞬間、王城からそう離れていない場所で巨大な爆発が起き、王城をその衝撃波と爆圧によって叩いた。

窓ガラスは爆発の衝撃で粉々に砕け散り、ガラスのシャワーを近くにいた人間に浴びせ掛ける。

固定されていない物品は衝撃で揺さぶられ落ちるものもあった。

パタジンは突然の衝撃によろめき倒れてしまう。

 

「一体…なにが起こったのだ…」

 

倒れた際にぶつけた頭部を押さえつつ、腕を使い身体を起こす。

すると衛兵の1人がパタジンを見つけ走りよってきた。

 

「パタジン将軍!ご無事でしたか!」

 

「あ、あぁ。なんとかな。何処がやられたんだ?」

 

「は。最初の爆発で王都防衛竜騎士団の竜舎と滑走路がやられました!」

 

「なんだと…被害は?」

 

「まだ詳しくは分かりませんが、恐らくはワイバーンは全滅かと…」

 

衛兵からの報告にパタジンは顔を蒼白にし、震える声で言う。

 

「全滅…だと?敵の姿も見ぬうちに我がワイバーン部隊が全滅したというのか…」

 

そんなパタジンに追い打ちを駆ける様に先ほど送り出した侍従が血相を変え、

息も絶え絶えに戻ってきた。

 

「い、一大事です!パタジン将軍!」

 

「今度はどうしたのだ…」

 

「ぼ、防衛騎士団指揮所が攻撃されました…」

 

「なんと…生存者は…」

 

「指揮所と軍議場は完全に破壊されてしまいました。生存者は恐らく……」

 

その報告にパタジンは握り締めた拳を壁に叩きつけ、王城内に響き渡る程の声量で吠えた。

 

「我々は!!一体なにと戦っておるのだ!!」

 

 

 

中央歴1639年 4月13日

ロデニウス大陸

 

 

中央歴1639年 4月12日に攻勢を開始したロウリア王国軍は国内にある凡そ全てのワイバーン発着場をほぼ同時刻に攻撃され、組織的な防空能力を喪失した。

また王都の防衛騎士団指揮所を攻撃された事により軍議の為に集まっていた軍師や参謀などに多大な犠牲が出た事と各地の野戦指揮所も攻撃された事により指揮統制能力にも問題が生じていた。

国境沿いでは早朝に越境を開始したロウリア王国軍先遣隊3万余がアメリカ空軍の空爆ならびにアメリカ・クワ・トイネ合同陸軍の攻撃により壊滅し、後続のパンドール将軍率いる2万の軍勢も側方からアメリカ陸軍第82空挺師団所属の戦闘航空旅団(CAB)所属の攻撃ヘリコプター部隊の攻撃と空軍の空爆により壊滅状態に陥っていた。

オペレーション・ハーベストと命名された一連のロウリア王国地上軍に対する攻撃作戦は全面的に成功していた。

統合参謀本部はロウリア王国地上軍に対する一定の攻撃効果を確認した事から第二段階であるロウリア王国海軍部隊に対する攻撃をロナルド・レーガン打撃群(CSG)に命令した。

 




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12話

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中央歴1639年 4月13日

洋上 ロナルド・レーガン打撃群(CSG)

 

 

 

ロウリア王国海軍部隊への攻撃を命じられたロナルド・レーガンCSGはクワ・トイネ公国沖合に設定された遊弋地点から西に向け航行していた。

偵察によりロウリア艦隊は1日前に泊地を出港している事が確認されており、CSGはロウリア艦隊の針路を塞ぐ様に移動していた。

攻撃計画ではまず戦闘攻撃飛行隊(VFA)各隊による航空攻撃、CSGから分離した駆逐隊による艦砲射撃、駆逐艦搭載の軽空中多目的システム(LAMPS)による攻撃を実施する手はずになっていた。

ただ敵艦の総数が極めて多い為、敵艦隊が撤退を開始した時点で戦闘を停止する予定であった。

 

ロナルド・レーガン甲板上では第5空母航空団所属のF/A-18E/Fスーパーホーネットが兵装の搭載を開始していた。

ロウリア王国海軍の艦艇は近代的な艦艇と異なり木製の帆船であり、通常の艦艇攻撃に使用する高価で威力過多な LRASM(長距離対艦ミサイル)や1000~2000lbクラスのレーザー誘導爆弾ではなく安価で多数が搭載可能なAGR-20A(APKWSⅡ)レーザー誘導ロケットが選択されていた。

スーパーホーネットはこのAGR-20を7発装填するLAU-68Aを12基搭載する事が可能である。

弾薬庫では火器整備員が4.8lb(2.2kg)の弾頭を持つM229 ハイドラ70ロケット弾を分解し、誘導セクションを組み込み、それをランチャーに装填し弾薬エレベーターで甲板に上げるという作業を黙々とこなしており。

飛行甲板では火器係がスーパーホーネットへの装備を順番に行っていく。

 

アイランドの直下に位置する空母戦闘指揮所(CDC)ではロウリア艦隊の追跡を行っているE-2Dアドバンスドホークアイ早期警戒機(AEW)とアンダーセン空軍基地から発進したMQ-4Cトライトン広域海洋監視機からの情報がリアルタイムで入ってきていた。

そんなCDC内の司令官席にはCSG司令官であるハワード・ホワイトヘッド准将が着座しており、4面の大型ディスプレイに映し出される大勢図を見ていた。

大勢図にはCSG及びESG、CSGから分離した駆逐隊の現在地、そしてロウリア艦隊の位置が表示されており、それぞれにまた詳細な情報が付与されていた。

既に敵艦隊はCSGから西に160nm(約300km)の地点まで接近しており、駆逐隊も26nm(約50km)ほどの位置にまで進出していた。

 

「提督。攻撃隊の発艦準備が整いました。ノーマン少佐が発艦許可を求めています」

 

ハワードは制帽を一度整えてから答える

 

「随意に発進してよし、と少佐に伝えろ」

 

そう下命してから数分の間をおいてスーパーホーネット特有のけたたましいエンジン排気音と蒸気カタパルトの轟音がCDCを揺らす。

カタパルトに乗っていた最初の4機の攻撃機が発艦を完了するまで轟音と揺れは続いた。

暫くすれば大勢図上に発艦した攻撃隊のアイコンが表示されロウリア艦隊へと針路を取っていた。

 

統合参謀本部(JCS)宛に攻撃隊発進を知らせろ」

 

「了解しました」

 

 

ノーマン少佐率いる攻撃隊はE-2Dからの誘導に従いロウリア艦隊に向け飛行を続けていた。

30分ほど飛行を続ければ海面を覆いつくしそうな程の船影が確認出来た。

 

『こいつぁ、大量だな』

 

『帆船マニアなら垂涎の光景ですね』

 

『まったくだ、だがアレは敵だ。とっととデイヴィ・ジョーンズ送りにしてやろう。各機ブリーフィング通り敵艦隊の北側からアプローチを開始して任意目標を攻撃しろ。』

 

僚機にそう通信をすればスティックを倒し機体をバンクさせる。

僚機もそれに続き敵艦隊の北側に回りこむ。

敵艦隊を左手に見ながら攻撃機隊は飛行し、十二分に距離を取ってから反転する。

 

『手近な奴から狙っていこう』

 

『了解しました』

 

マスターモードをA/G(空対地)モードに変更しAGR-20レーザー誘導ロケットが装填されたステーションを2つ選択し発射モードをシングルに設定する。

前席のヘッドアップ・ディスプレイ(HUD)上にレティクルが表示される。

後席ではカラー多機能ディスプレイ(CMFD)に表示されるATFLIR目標指示器からの赤外線映像を見ながら艦隊外縁部に位置する帆船の1隻、その喫水線付近をロックする。

レーザー誘導爆弾(LGB)と違い発射前からレーザー照射を開始する。

 

『目標捕捉、レーズ開始』

 

HUD上にレーザー照射された目標を示すダイヤモンドアイコンが表示される。

ノーマンはレティクルをターゲットダイヤモンドに重ねる様に機体を緩降下させながら針路を微修正する。

 

『確認した。…発射』

 

目標との距離が10,000yd(約9,000m)を切った事を確認してから、スティックの発射スイッチを押し込む。

選択されたステーションからそれぞれ1発ずつのAGR-20が発射される。

ロケットモータが1秒間のみ燃焼し、弾体を148ft/s(約160km/h)まで加速させる。

1940年代に原型が生産されたハイドラ70を母体としたこのAGR-20は所謂”バカな”兵器であったハイドラを”頭のいい(スマート)”な兵器へと生まれ変わらせた物だ。

発射されたと同時に展開された、4つの誘導翼の中程に付けられたレーザーシーカーが、それぞれが受信するレーザー反射波が均等になる様に僅か数ドルのサーボモーターが誘導翼を操舵させる。

これによりレーザー反射波の真ん中へと向かい飛翔していく。

AGR-20は寸分違わず飛翔し、目標の帆船に命中した。

木製の船体を貫通し信管が作動するまでに0.5yd(約50cm)ほど進んでから同時に4.8lb(2.2kg)の高性能炸薬が2発分炸裂する。

爆炎と爆圧、調整破片が船体の天井や床板そして外板を吹き飛ばす。

近くにいた船員は何が起こったかもわからないまま絶命し、離れた場所にいた船員も調整破片によりズタズタに引き裂かれた。

それぞれが爆風半径39ft(約12m)を持つAGR-20 2発の弾頭威力は船体長が僅か161ft(約49m)程しかないロウリア船にとって致命傷であった。

爆炎と共に船体をまさしく”えぐり取られた”ロウリア船はそのまま真っ二つに裂けていった。

上空を飛び抜けながらノーマンとエヴァはそれを確認した。

 

『こちらディーバック1。1隻撃沈した。効果は十二分だ攻撃を続行する』

 

AGR-20の敵艦艇への効果が十二分な事を母艦及び後続へと報告すれば、エンジン出力を上げ、ロウリア艦隊上空を飛び抜けて行く。

 

中央歴1639年 4月13日

洋上 ロウリア艦隊

 

 

 

ロウリア王国海軍東方征伐艦隊を指揮するシャークン将軍は目の前の光景をただ茫然と見ている事しか出来なかった。

出港した際には4,400隻を数える大艦隊であった東方征伐艦隊。

シャークンをもってして列強国パーパルディア皇国を相手にしても負ける筈ないと豪語する大艦隊が敵艦隊を目にする事なく次々と撃沈されていく、そんな光景を目にすればたとえ誰であろうとも同じ事になっていただろう。

悪夢の始まりは1時間ほど前に飛来した4騎の鉄竜であった。

北の方角からやってきた鉄竜はワイバーンよりも遥に速く空を駆け、その両翼が煌めいたかと思えば船が大爆発を起こし沈んでいった。

はじめこそ、たかが4騎と考えていたシャークンであったがその鉄竜が8騎、12騎と増えていくと額には脂汗が浮かび手にも震えが走っていた。

そんなシャークンに追い打ちをかけるような報告がマスト上部に居る見張り員から届く。

 

「東の水平線上に船影!」

 

「なんだと!?」

 

船影との報告にシャークンは震える手でもって持ち上げた望遠鏡を覗き込んだ。

距離がある為詳細は分からなかったが自分達が操る帆船とは全く異なる形である事はわかった。

マストと帆ではなく巨大な構造物が船体の上にあり、更にその上にマストの様な物が見えた。

 

「あれが船なのか…?」

 




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13話

すこし間があいてしまいました。

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中央歴1639年 4月13日

洋上 第15駆逐隊

 

 

 

空母打撃群(CSG)から分離した駆逐隊の臨時旗艦を務めるUSSマスティンの戦闘情報センター(CIC)では艦長(CO)のデイン・バイアー中佐がイージス・ディスプレイ・システム(ADS)に映し出される大勢図を眺めていた。

1時間程前から開始された航空攻撃により敵艦隊は500隻以上が撃沈破されていたがそれでもまだ3000隻以上の艦艇が健在であった。

USSマスティン以下4隻の駆逐隊は現在も実施されている航空攻撃と並行して搭載するMk.45 5in(127mm)速射砲による砲撃、搭載するMH-60R LAMPSⅢヘリコプターによる攻撃等を実施する予定であった。

既に艦橋上部のMk.46 mod.1光学方位盤が敵艦隊をとらえていた。

光学方位盤の熱赤外線映像装置が捉えた映像はADSの片隅に映し出される。

航空攻撃により敵艦隊の至る所で黒煙が立ち上り海面にはかつて船であった木片などの残骸が漂っていた。

 

「艦載機連中が大分撃沈した様ですがまだまだ居るようですね」

 

映像を見た先任士官が隣の艦長へとそう言えば、バイアーも同意の声を上げる。

 

「数が多いだけだ。TAO(戦術行動士官)。敵艦隊までの距離は?」

 

「間もなく5nm(約9km)を切ります」

 

「では3nm(約5.5km)を切ったら攻撃を開始してくれ。LAMPSも発艦させるんだ」

 

「イエス、サー」

 

TAOは天井付近に設置された艦内通信用スピーカーの脇からマイクを掴み取り命令を伝えていく。

 

「火器管制。対水上砲戦用意。目標敵艦隊の任意目標。航空管制。LAMPS発艦準備」

 

「対水上砲戦、アイ」

 

TAOの指示に従い光学方位盤を操作する為のUYQ-70コンソールに付いている火器管制オペレーターがコンソールを操作し、砲の射撃指揮を光学照準に設定する。

設定が終われば前部甲板に搭載されたMk.45 Mod.4 5in(127mm)速射砲が油圧の鈍い音と共に旋回する。

砲塔下部では即応弾薬庫からMk.80榴弾とMk.67装薬が揚弾機を駆け上がり全自動で装填される。

薬室内に砲弾が装填されるとコンソール上の射撃可能ランプが点灯し、画面上に射撃可を表す表示がなされる。

 

「TAO。主砲射撃準備完了」

 

同時に艦内通信用スピーカーから通信が届く。

 

『航空管制より、CIC。LAMPS発艦準備完了』

 

「艦長。全準備完了しました」

 

全準備完了を報告するとレーダーオペレータが3nm(約5.5km)を切った事を知らせる。

 

「よろしい。攻撃を開始してくれ。僚艦にも攻撃開始を伝えろ」

 

「イエス、サー!主砲攻撃始め。航空管制、LAMPS発艦を許可する」

 

攻撃許可が下りるとオペレーターはコンソール上のスティックを使い照準を行う。

火器管制装置(FCS)と連接されたMk.45速射砲は俯仰角や追尾を人力で行っていた古い艦載砲とは異なりオペレーターがカメラを通して目標を捉えればFCSが距離、彼我の移動速度や風向き風速といった複雑な要素を計算し俯仰角やリード角を設定・補正を行ってくれる。

これによりオペレーターは目標をカメラの中央に捉え、スティックのトリガーを引くだけで目標を攻撃出来る。

そして敵艦隊外縁部に位置する一隻の帆船に照準を付けトリガーを引き絞った。

Mk.45の薬室内でMk.67装薬が電気点火され18lb(約8kg)の装薬が爆発的に燃焼する。

その圧力により67lb(約30kg)のMk.80榴弾がコンマ1秒以下で2725ft/s(約830m/s)まで加速され25ft(約7.8m)の砲身を駆け抜け撃ち出された。

Mk.80榴弾はライフリングにより回転し姿勢を安定させながら弧を描き飛翔する。

砲弾はそのままFCSの計算通りに飛翔し目標のマスト基部に着弾する。

砲弾は木製の甲板を突き破り船底にほど近い位置で7.75lb(約3.5kg)の高性能炸薬が

炸裂し、帆船はまるで針で突いた風船の如く弾け飛んだ。

帆船を形作っていた木材や鉄、乗組員だったものが爆炎と爆風と共に全周囲にまき散らされる。

そして砲弾の破片も木製の船体を突き破って終わる事なく周囲の帆船の船体やマスト、帆、船員に少なくない損害をあたえた。

オペレーターはその光景をカメラ越しに確認し、TAOへ報告を上げる。

 

「TAO。敵艦撃沈」

 

「そのまま攻撃を続けろ」

 

 

 

中央歴1639年 4月13日

洋上 ロウリア艦隊

 

 

 

「一体なんなのだ!あの船は!」

 

手にしていた望遠鏡を甲板に叩きつけシャークンは吠えた。

30分程前に水平線上に現れた敵船と思しき船は凄まじい速度で艦隊に接近してきたかと思えば船首が煌めき、次の瞬間にはこちらの船が大爆発と共に撃沈されていた。

その攻撃は一度に留まらず、数秒に一回のペースで閃光と轟音が敵船から発せられる度にこちらの軍船が次々と撃沈されていたのだった。

そしてそんな1隻でも脅威な船が全部で4隻もいるのであった。

更にはその内の3隻から巨大な風車の様な物を上に付けた鉄竜の様な物が飛び立ち、その鉄竜の胴体からも上空を飛び回る鉄竜と同じような光る矢が撃ち出される毎に1隻また1隻と撃沈されていった。

無論シャークンもやられるだけではなく、一矢報いるべく足の速いガレー船や小舟での攻撃を命令したが敵船はガレー船よりもなお早く移動し、小舟ならばあの強力な攻撃の的にならないと考えたが、敵船の中央部から低い連続音と共に赤色の筋が凄まじい速度で撃ち出されズタズタに引き裂かれていく有様であった。

 

「なんという事だ……」

 

攻撃を命じた船が何もせぬままに次々と撃沈される光景を見てシャークンは敗北を悟った。

参謀を通して撤退を命じる。

艦隊全艦がゆっくりと回頭していくなかシャークンは攻撃を続けている敵船を睨みつけた。

その視線の先で敵船の船首にある筒がついた物がこちらに向いているのが見えた。

そしてその筒の先が煌めいたのを見た次の瞬間シャークンは轟音と熱波と共に身体が海に投げ出された事を知覚した所で意識を失った。

 

ロウリア王国海軍東方征伐艦隊 4,400隻はクワ・トイネ公国の陸地にたどり着く前に2,000隻近い船舶と数万人の兵員を失い敗走した。

行方不明となった人員にはシャークン将軍の名前もあり、優秀な指揮官を失ったロウリア王国海軍は王都北の港にまで撤退し、完全に制海権を喪失したのだった。

 

 

 

中央歴1639年 4月14日

ロウリア王国 王都ジン・ハーク

 

 

 

天守塔に存在する大部屋には重苦しい空気が満ちていた。

その理由は大部屋に居る全ての人間が知っている2日前に開始されたクワ・トイネ公国への侵攻作戦であった。

当初の予定では2日前の時点で国境沿いの街であるギムを攻略し、クワ・トイネ公国の奥深くへと進んでいる筈であった。

しかし生き残って戻った者と偵察部隊の報告によれば、突如として現れた謎の鉄竜と鉄の地竜の攻撃により先遣隊は壊滅し、パンドール将軍率いる後詰の部隊も完膚なきまでに叩きつぶされていた。

それだけに留まらず、王都防衛用のワイバーン発着場を始めとした国内全ての発着場がほぼ同時刻に攻撃されほぼ全てのワイバーンが空に上がる事なく撃破されてしまったのだった。

その攻撃では他にも前線司令部やここ王都の、それも王城内にある防衛騎士団指揮所でさえも攻撃され多くの優秀な将や参謀が命を落としていた。

そして1日前には4,400隻の威容を誇る東方征伐艦隊が2,000隻近い軍船を撃沈され敗走したのだった。

そんな信じられない様な報告をパタジン将軍は額に脂汗を浮かべながら、主君であるハーク・ロウリア34世へと報告していた。

ハーク・ロウリア34世はパタジンの報告を聞くたびに眉間の皺を一層深くし、パタジンの目で見てわかる程の青筋を額に浮かべていた。

パタジンが全ての報告を終え、恭しく頭を下げた所で玉座の肘置きを凄まじい勢いで叩きつけながら立ちあがった。

 

「余を謀っておるのか!!」

 

「その様な事は決してございません。全て確実な報告となります」

 

パタジンのその言葉を聞けば王は力なく玉座に座り込んだ。

パタジンはそれを見て改めて報告を続ける。

 

「現在我が軍は一旦工業都市ビーズル近郊にまで後退させ防御陣地を構築すべく移動しております。敵がここ王都を目指すにしても大軍が通行可能な街道はそこにしかありません。したがって敵軍がビールズに接近した所で残存する戦力すべてを持ってこれを撃破し、しかる後に再度の侵攻を行います。海軍に関しましては当面の間出撃を見合わせます。我が軍が再度国境を越えれば、敵艦隊にも付け入る隙が出来る筈ですのでそれに合わせて出撃致します」

 

「よかろう。パタジンよ次の失敗は決して許されぬぞ覚悟せよ」

 

「はっ!!」

 




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14話

また間があいてしまいすみません。

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中央歴1639年 4月15日

アメリカ合衆国 ワシントンD.C.

 

 

 

大統領要旨説明室(ブリーフィングルーム)ではロデニウス大陸で遂行中の「オペレーション・ハーベスト」に関する状況説明が実施されていた。

壁面のディスプレイ前にシュナイダー統合参謀本部議長が立ち、手にしたレーザーポインターを用いて映し出されている地図を指し示しながら説明を行っていた。

 

「オペレーション・ハーベストは順調に推移しております。我が軍は3日前の4月12日に越境を開始したロウリア王国軍 1個師団と後続の2個師団相当も撃破致しました」

 

説明と共に敵地上部隊を示すアイコンが国境線を越えた所で航空部隊を示すアイコンが殺到し地上部隊のアイコンが消失する。

 

「また同日、空母ロナルド・レーガンから発進した攻撃機隊により航空施設及び指揮統制に対する攻撃を実施しました」

 

空母打撃群(CSG)のアイコンから幾つもの航空部隊のアイコンが現れロウリア王国各地に点在する目標に向かい、次々と航空施設を表すアイコンが消失する。

また地図にオーバーレイされる様に目標指示器により録画された空爆時の映像も流される。

 

「これによりロウリア上空の制空権は完全に掌握しました。また司令部攻撃の成果と思われますが一部では戦線離脱する部隊も出ている模様です」

 

空爆映像から画面が切り替わり、偵察機が撮影したと思われるカラー映像が表示される。

映像の中では歩兵や騎兵といった兵士や物資を運搬する為と思われる馬車が列を成して西へと後退していく姿があった。

 

「そして2日前の4月13日にはロウリア艦隊に対する攻撃を実施し、敵船舶2,200隻余りを撃沈しました。残存艦艇は港に撤退した事を確認しております」

 

そこまで説明を終えるとオブライエンが声を掛けた。

 

「ありがとう、議長。で、だ。ロウリアは侵攻を諦めたと思うか?」

 

「残念ながら大統領。その可能性は極めて低いと言わざるをえません。敵地上軍主力は現在このビーズルという都市近郊に集結しております」

 

 

【挿絵表示】

 

 

地図上に新しくアイコンが表示されアイコンの上部にビーズルと表示される。

 

「ここは国境からロウリア王国首都のジン・ハークを結ぶ交通の要所であります。予想される行動としてはこの都市近郊での待ち伏せ攻撃による撃破と追撃及び再侵攻であると考えております。そもそもロウリアの一貫とした政策としてクワ・トイネ公国に多く居住しているエルフや獣人、クイラ王国の獣人といった所謂亜人の根絶を掲げている事から現政権が存続する限りはまず確実です。これは珍しく意見が一致した国防総省(DoD)中央情報局(CIA)国家安全保障局(NSA)そして国務省の統一見解です」

 

シュナイダーの言葉にオブライエンは目頭を押さえてから言う。

 

「つまり本格的な侵攻作戦が必要という事か?」

 

「我々はそう考えております。ですが正面を切ってロウリア王国軍 40万と戦闘する必要はないとも考えております」

 

「その作戦は?」

 

「単純かつ効率的な案です。「衝撃と畏怖」そして「斬首作戦」です」

 

ディスプレイが元の地図画面に戻り、シュナイダーはレーザーポインタとディスプレイをタッチしながら説明を続ける。

 

「まず敵主力に対しては「衝撃と畏怖」戦略で当たります。具体的には空軍が保有する大規模爆風爆弾(MOAB)燃料気化爆弾(FAE)等を使用します。我々からすれば通常兵器の範疇でありますが、中近世の知識しかない彼の国からすれば正に未知の超兵器です。これにより敵部隊の士気崩壊と継戦能力を奪います。次に「斬首作戦」に関してですが」

 

地図がロウリア首都のジン・ハーク周辺と北部の海岸線を映す様にズームアップされる。

 

「現在ロウリア北部洋上にはロナルド・レーガンCSGとワスプ遠征打撃群(ESG)が遊弋中です。北部海岸線から首都ジン・ハークまでは僅か12mi(約20km)程しかありません、ですので海兵遠征部隊(MEU)による強襲上陸を実施し2日以内にジン・ハークを制圧する事を目標とします」

 

シュナイダーの説明を聞いたオブライエンは手にしたボールペンで何度か机を叩きながら思考する。

暫くの思考を挟み、オブライエンは一度ブリーフィングルームに居るメンバーの顔を見回したから言葉を発する。

 

「…その案でやってくれ。必要な資産は何でも使ってくれ。言っておくが私は成功報告しか聞く気はないぞ」

 

「お任せください大統領」

 

 

 

中央歴1639年 4月17日

ロウリア王国 北部海岸

 

 

 

空が曙色に染まり始めた時間帯、海岸線を目指して一艘の複合艇(RHIB)、が波を切る様に疾走していた。

RHIBには操船する者も含めて4人の人員が乗り込んでおり、全員がMARPAT ウッドランド色のバリスティック・コンバットシャツに身を包み、頭には同じ色のブーニーハットを被り、胴体にはタンカラーの第三世代プレートキャリアを身に着けていた。

3人は降ろしている自らのバックパックにそれぞれが持つ銃を依託させ、近づいていく海岸線を睨みつけていた。

RHIBはそのままの速度で海岸に乗り上げるとすぐさま全乗員が下船し、RHIBの両脇についているワイヤーを掴み砂浜へと引き上げていく。

完全に引き上げ終わるとバックパック内に収納していたAN/PRC-160無線機のハンドセットを取り出す。

 

「サーベル2よりサーベル・アクチュアルへ。海岸に到着。周囲はクリア。繰り返す海岸線はクリア」

 

『サーベル・アクチュアルよりサーベル2。了解した。引き続き偵察を続けろ。』

 

「サーベル2了解」

 

通信を終えハンドセットをしまい込むと傍らに置いていたサプレッサー付きのM4A1カービンを取ると弾倉及びチャンバー内のチェックを行ってからチームメイトを見やる。

 

「1と2はこのまま現時点を保持する。3と4は500yd(約500m)前進して偵察を実施。いいか撃たれるまで撃つなよ」

 

「「「了解」」」

 

 

 

中央歴1639年 4月17日

洋上 ワスプESG

 

 

 

海岸線から10nm(約20km)沖合で待機しているUSSワスプ艦上にある上陸部隊作戦センター(LFOC)では間近に迫った上陸作戦を前に人員が引っ切り無しに行き交っていた。

その中でマグカップに注がれたコーヒーを飲みながら大型ディスプレイを見ていたESG司令官に司令部要員の1人が近づき敬礼しながら報告を上げた。

 

「司令。サーベルより通信です。海岸線を確保したとの事です」

 

「ご苦労。では諸君、作戦を開始してくれ」

 

司令官がそう命令を下せば1-MCスピーカーから全艦放送にて作戦開始の号令が鳴り響く。

号令と共にワスプ後部最下層にあるウェルドックから海兵隊員を満載したAAVP7A1水陸両用装甲車 5輌にその後継であるEFV水陸両用装甲車 10輌が続々と出撃していく。

EFVは水上航行の為の変形機構を持っており、ウェルドックから出るとキャタピラを収納し、水切り板を展開する。

そして2基のウォータージェットの推進力によって25kt(約46km/h)の速力を発揮し海岸線目指し突き進む。

一方、甲板上では航空戦闘部隊(ACE)所属のF-35BライトニングⅡ戦闘攻撃機の発艦準備が進んでいた。

F-35は近接航空支援の為に機体下部に25mmガンポッドを装着し翼下と胴体内ウェポンベイにEGBU-12ペイブウェイⅡ 500lb(227kg)を4発に加えAIM-9Xサイドワインダー短距離空対空ミサイル 2発を装備していた。

リフトファンを展開しエンジンノズルを発艦位置に固定し発艦準備を整えたF-35は航空管制から発艦許可が出ると強力なプラット・アンド・ホイットニー製F135ターボ・ファン・エンジンの轟音を轟かせ発艦していく。

 

 

 

中央歴1639年 4月17日

クワ・トイネ公国 クサナイ空軍基地

 

 

 

上陸作戦が開始された同時刻、クサナイ空軍基地も慌ただしさを増していた。

エプロン上では第391戦闘飛行隊(391th FS)のF-15Eストライクイーグル戦闘攻撃機の離陸が進んでいた。

F-15Eは胴体下の4か所のハードポイントにBLU-118 2,0000lb(907kg)サーモバリック爆弾を搭載していた。

391thFS隊長のレックス・チャーロ少佐は最終チェックを終えた機体をタキシー・ウェイを滑走路に向け進ませながらエプロンに駐機されている1機のC-17を見た。

C-17の周囲には火器整備員が取り付き30ft(約9m)もの長さがあるMOABを積載したパレットを後部ランプから積み込んでいる所であった。

そんな光景を見ていると後席の兵装システム士官(WSO)リック・オコンネル中尉が口笛を吹いた音が聞こえてきた。

 

「少佐、MOABですよアレ。実物初めて見ましたよ。あいつを食らう奴らに同情しますね」

 

「ああだが、今回はこの機にもデカいブツを積んでるぞ」

 

「そりゃそうでした」

 

『ゴーストライダー1、滑走路への進入と離陸を許可する。風は方位1-7-0から3kt』

 

軽口を叩いている所に管制から離陸許可が下りる。

チャーロ少佐は会話を切り上げると管制へ返答する。

 

「ゴーストライダー1。離陸許可了解。」

 

左ペダルを踏み込み、機を滑走路に進入させる。

センターラインぴったりに機体を持って行き停止させる。

最終チェックとして航法・兵装システムや燃料系をチェックすればスロットルをアフターバーナー位置に入れ機体を加速させていく。

離陸速度に到達したF-15Eはフワリと浮かびあがればそのままの勢いで高度を上げていった。

 




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15話

30000UAありがとうございます!!

間があいてしまいすみません。
ぜ、全部コ〇ナが悪いんですorz

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中央歴1639年 4月17日

ロウリア王国 北部海岸

 

 

 

ワスプから出撃した水陸両用強襲車両中隊のEFV及びAAVP7は波を切り裂きながら航行し海岸まであと僅かに迫っていた。

EFVは車体上部に搭載されたMk.46砲塔は上陸目標である海岸線に主武装のMk.44ブッシュマスターⅡ 30mmチェーンガンを指向し油断なく警戒していた。

その車内後部の兵員区画では上陸前、最後の確認が行われていた。

 

「良いか!上陸後我々の分隊は内陸部に1mi(約1.6km)にあるこの街道を押さえられる位置にまで移動する!確保完了後は後続と共に更に南に5mi(約8km)にある集落を目指す!集落自体は先行するブロードソードが確保予定だが警戒は怠るな!交戦規定(ROE)は撃つまで撃たれるな、だ。また現地住民には十二分に注意する様に!分かったか!」

 

「「ウーラー!!」」

 

『上陸まであと1分!』

 

海岸線が間近に迫った所でEFVは履帯を展開する。

同時にエンジン排煙装置を起動しスモークを展開する。

炊かれた真っ白なスモークは海風により広く展開され後続のEFVやAAVP7を覆い隠す。

事前に海兵偵察部隊が敵影を確認していない事は知らされているが万が一の事もあるからだ。

EFVは履帯が海底の砂地を捉え車体に前へと進む力を与えられればそのままの勢いで水から上がり砂浜に履帯の跡を刻みながら上陸する。

 

「Go!!Go!!」

 

砂浜の中程まで前進するとEFVは停車し後部ハッチが解放され海兵隊員達が次々と降車し、車両を中心に隊形を形成する。

 

「前進しろ!!」

 

海兵隊員はEFVの援護の下砂浜を駆け、遮蔽を取る為海岸沿いに所々存在する茂みや岩場を目指す。

そんな彼らの頭上をワスプから発艦したUH-1Yヴェノム輸送ヘリコプター 2機とヴェノムよりも更に巨大なCH-53Kキングスタリオン重輸送ヘリコプター 2機、護衛のAH-1Zヴァイパー攻撃ヘリコプター 2機がローター音とエンジン音を轟かせながら通過してゆく。

遮蔽を取った海兵隊員達は周辺への警戒を取った。

分隊長は無線手のバックパックに収納されたAN/PRC-160マンパック無線機のハンドセットを掴みワスプ艦上の上陸部隊作戦センター(LFOC)へ通信を繋げた。

 

「ダガー1よりダガー・アクチュアル!第1波は海岸に到達した!敵の抵抗・障害は無し!海岸は確保した!」

 

分隊長は車両のエンジン音と上空を飛び抜けて行くヘリコプターの騒音に負けない様に声を張り上げハンドセットに叫んだ。

 

『ダガー・アクチュアルよりダガー1。了解した引き続き第2目標にあたれ』

 

「ダガー1了解した!。アウト!」

 

通話を終えハンドセットをバックパックに押し込めば分隊長は遮蔽から立ち上がる。

 

「前進だ!行くぞ!」

 

その号令と共にダガー1分隊とEFV 1輌は前進を開始した。

その他の分隊とEFV、AAVP7も海岸から内陸に向け移動を開始していた。

海岸には2個分隊と各2輌の水陸両用強襲車が残り、後続の上陸まで海岸の確保を行う。

第1波上陸から20分後、上陸部隊第2波となる LCAC揚陸艇(エア・クッション揚陸艇)6隻が海面を滑る様に40kt(約74km/h)の快速で海岸線に到達した。

LCACは砂浜に到達すると船体下部のエア・スカートから圧縮空気を排出し、降車姿勢を取った。

LCACの前部ランプが展開されると海兵隊員の誘導に従い海兵隊第4戦車大隊 A中隊所属の主力戦車であるM1A1 NAPエイブラムス主力戦車(MBT)が1,500馬力を発揮するハネウェル AGT1500ガスタービンエンジンの甲高いエンジン音を響かせロデニウス大陸の大地を踏んだ。

M1A1 NAPは海兵隊向けM1A1戦車の最新型であり、陸軍が導入しているM1A2Cのテクノロジーを適応したものだ。

新世代のヴェトロニクスを装備し、弾薬データリンク(ADL)と新型のM829A4砲弾を装備した事により、一層の射撃性能の向上が図られ、装甲面でも新世代アーマーパッケージ(NGAP)を挿入した事により更なる強化が図られていた。

上陸したM1A1 NAP 1個小隊は海岸を確保していた1個分隊とEFVと共に先行するダガー1分隊を追う様に内陸に向かう。

LCACの内4隻は戦車隊を輸送してきたが、残りの2隻からは海兵隊員やL-ATVといった軽車両、そして本部大隊や兵站大隊所属の人員や機材が続々と下船してゆく。

荷下ろしが済んだLCACから順次、次の部隊を輸送すべく離岸してゆく。

 

 

 

中央歴1639年 4月17日

ロウリア王国 ビーズル

 

 

 

ロウリア王国王都ジン・ハークの南東にある工業都市ビーズルはロウリア王国に於ける軍民を問わず消費されるあらゆる物品の生産拠点である。

ロウリア王国は国策として所領での工業製品の生産は最低限しか許可しておらず、特に武具や防具に関しては全てがビーズルで生産され、その後に各所領に輸送される方式をとっていた。

そんなビーズルの外延部にある防衛騎士団の砦は普段とは異なる様相を呈していた。

普段警邏の兵が詰めている休憩室には諸侯軍の幹部や軍師といった人員であふれかえり、廊下を足早に歩く兵士もまた諸侯軍の兵であった。

そんな砦の一角、 普段は防衛騎士団長が使用する広い執務室は諸侯軍の軍議などを行う為に豪奢な円卓と椅子が設置されていた。

椅子には諸侯軍を指揮する貴族が腰を掛けており、ある者は盃になみなみと注がれた果実酒をあおり、ある者は給仕が取り分けたローストされた肉を果実酒と共に食すなど様々であった。

部屋の奥の壁際ではビーズル防衛騎士団長が指示棒を持ち、壁に貼られたビーズル周辺を描いた巨大な地図の前に立ちながら説明を行っていた。

 

「知ってのとおりかと思われますが、さる5日前に我がロウリアは亜人共をこのロデニウス大陸から駆逐すべくクワ・トイネへの侵攻を開始しました。しかしながら思わぬ邪魔が入った事により先遣隊 5万余が壊滅する事態となりました」

 

団長はそう言うと地図上に針で固定していた先遣隊を示す青い色の印を取り外し、代わりに敵を示す赤い色の印を付けた。

 

「そこで我々は前進を中断し、敵が王都へ向かう為の街道上にあるここビーズルにて全軍を持って迎え撃ち、撃破した後に抵抗のなくなったクワ・トイネを征服します」

 

団長がそう言った所で、食事をしていた貴族の1人がナプキンで口元を拭き取りながら発言する。

 

「相手は所詮は亜人どもであろう?先遣隊がやられたのは、あ奴らが無能であったか、亜人共が卑怯な戦法でも使ったのであろう。恐れる事などない我が領軍だけで蹴散らしてくれようぞ」

 

そう言い切るとグラスになみなみと注がれた果実酒を一息に呷る。

他の貴族も「我々が先陣を」「いや我が軍こそが」といった事を口々に言う。

だがそんな会話は突如として響いた轟音と砦を揺さぶる衝撃によって断たれた。

突然の出来事に貴族達は慌てふためく、それぞれの副官は状況の把握と主人を守るべく動いた。

団長はテラスへと続く扉を開け放ちテラスへと出ると、外を見やった。

視線の先、1kmほど先では黒々とした煙が空高く広がっており、その煙も根本である地面は少なく見積もっても直径百数十mが焼き払われた様に焼け焦げている様であった。

そしてそこにあった筈の諸侯軍の一部隊が丸ごと壊滅している様であった。

 

「い、い、一体なにが起こったのだ!!魔導攻撃か!?」

 

手すりを強く握り締めながら叫ぶ。

団長が敵を見つけようと見回す様に首を振った所で彼はそれに気が付いた。

 

 

 

中央歴1639年 4月17日

ロウリア王国 上空

 

 

 

クサナイ空軍基地を飛び立った、MOABを搭載したC-17は高度16,000ft(約5000m)を白い4本のコントレイルを引きながら飛行していた。

そんなC-17の貨物室ではMOAB投下準備の為、カーゴマスターと火器整備員がパレットの確認と抽出用パラシュートの点検を実施していた。

点検項目をすべて終えたタイミングでロードマスターへ機長からイニシャル・ポイント(IP)を通過した事を伝える通信が入る。

 

「5分前!!」

 

カーゴマスターは広げた手のひらを高くあげそう声を張り上げた。

それを確認した火器整備員も各々が同じように声を上げる。

各員が壁からハーネスに繋がる安全帯を確認したのを見たロードマスターは後部ランプ開閉用ボタンを押す。

油圧により後部ランプが開いていく。

開き切った事を確認すれば、機長に対しその旨を伝える。

 

「後部ハッチ解放!投下準備完了!!」

 

『了解した。投下地点(ドロップ・ポイント)まであと1分』

 

「了解。――あと1分!!」

 

通信を終え、ロードマスターは腕時計を確認しながら人差し指を立て風切り音とエンジン音に負けぬように叫ぶ。

投下まで30秒を切った所で全係員が壁際に退避する。

 

「10秒!!―――5、4、3、2、1、投下(ドロップ)!!投下(ドロップ)!!!」

 

カウントが0になった瞬間、遠隔操作によりパレット最後端部から抽出用パラシュートが引きだされた。

まず本体部分を展張する為の小型パラシュートが機外に飛び出し、その小型パラシュートの力により本体部のパラシュートが勢いよく展開された。

パラシュートによりMOAB本体とパレットを含めた22,000lb(約10t)が機外へと飛び出していった。

投下されると軽量なパレットはパラシュートと共にMOABから離れていく。

MOABはパレットが離れたと同時に尾部に装備された4つの格子状の誘導翼を展開する。

MOABは安定翼と誘導翼により姿勢を安定させ落下していった。

投下されたMOABは本来であればGPSを用いた誘導が可能であるがNAVSTAR(GPS衛星)が稼働体制になっていない事から随伴するF-15Eがデータリンクにより誘導する方式をとっていた。

MOABは誘導翼を時折動かしながら落下コースを修正していく。

そしてそのままビーズルから東に1.8mi(約3km)の位置にあったロウリア王国軍の宿営地に着弾した。

MOABは3ft(約1m)の信管延長プローブにより地面から僅かに上で、18,700lb(約8,500kg)のトリトナール炸薬が炸裂し、半径550yd(約550m)に及ぶ火球を形成する。

これにより着弾点の近傍にいた兵士たちは痛みを感じる間もなく爆圧と爆炎により原型を留めぬほど粉微塵になった。

そしてそれよりも外側にいた者には強烈な爆風が襲い掛かった。

凡そ64lbfの強烈な爆風に曝された者は同じように体が弾け飛び、即死を免れた者も無事では済まなかった。

多くの者が肺などの内蔵破裂や眼球破裂の重傷を負い苦しみながら息絶え、比較的軽傷な者でも鼓膜の破裂や皮下出血を引き起こしており正にこの世に現れた地獄の様相を呈していた。

そして着弾地点には爆発により生じた煙と粉塵が上昇気流により上空に舞い上がりキノコ雲が形成された。

 

この一連の航空攻撃によりビーズルに集結していたロウリア王国軍と諸侯軍は1万人近い死者とそれの倍近い負傷者を出した。

この攻撃を目にしたロウリア王国軍と諸侯軍はまさに恐慌状態に陥り、生き残った諸侯軍は所領へ逃げ帰り、ロウリア王国軍もまた少なくない脱走者を出す事態になり最早軍としての体裁を保てない程になった。

 




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16話

いつの間にか40000UAありがとうございます!!

大分、間があいてしまいすみません。
例のアレのせいで業務が忙しかったり、アレのせいでズレ込んだ業務が多かったのです・・・orz
定期的に投稿出来るよう、鋭意努力しますので、
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中央歴1639年 4月17日

ロウリア王国 ジン・ハーク

 

 

 

ジン・ハーク城天守塔に存在する大部屋の一つに、パタジン将軍を始めとした軍首脳部が集い軍議を行っていた。

本来であれば防衛騎士団指揮所で行われる軍議であったが、5日前に正体不明の攻撃を受け指揮所が完全に破壊された為であった。

 

「して、ヤミレイ殿よ。過日の攻撃の正体は分かったのか?」

 

上座に座っていたパタジン将軍が斜め前の席に居る王宮首席魔導師ヤミレイに尋ねた。

パタジンの問い掛けにヤミレイは頭を振る。

 

「全くもって見当もつかぬ。王都周辺は昼夜を問わず魔力監視哨が目を光らせているが、全く魔力を検知出来ておらなかった」

 

「あれ程の攻撃で魔力を検知出来なかったのか!?」

 

ヤミレイの言葉にパタジンは驚愕の声を上げる。

あの様な強力無比な攻撃は魔導攻撃以外には考えられないだけにであった。

正体不明の攻撃にどう対応すべきかを議論する声がそこかしこから上がる中、軍師の1人が声を上げる。

 

「確かにあの正体不明の攻撃は驚異ではありますが、こちらは未だに40万を号する兵力がおります。王都いえ、ビーズルを落とす為にも敵は軍を進めねばなりません。所詮は亜人どもと蛮族です。鎧袖一触で殲滅してみせるでしょう」

 

軍師の言葉に次々と同意の声が上がる。

パタジンもその言葉に確かにと首肯する。

軍議が防衛計画の立案へと移る中会議室の扉が勢いよく開かれ、騎士が飛び込んできた。

 

「ほ、報告しますっ!ビーズルが攻撃を受けました!」

 

「なんだと!?」

 

騎士の報告にパタジンは声を荒げ、椅子から勢いよく立ちあがった。

 

「敵の規模は!?戦況はどうなっている!?」

 

「報告によれば魔導攻撃と思われる強大な爆裂によって諸侯軍に多大な損失がでたとの事です。また敵の規模は不明との事です!また…」

 

「また?なんだ?」

 

「はっ!また諸侯軍は攻撃を受け、所領に引き上げつつあります。直轄軍も混乱の最中で制止する事もできず…」

 

「なんという事だ……」

 

そう呟いたパタジンは力なく椅子に座り込む。

そんなパタジンに代わりヤミレイが問いかけた。

 

「ビーズルの魔力監視哨は何をしていたのだ?魔力を探知出来ておらなかったのか?」

 

「はっ!一切の魔力を探知出来てなかったとの事です」

 

「今回もか…、しかし魔力を使わずにあの様な攻撃が出来る筈が…」

 

騎士の報告を聞いたヤミレイも考えこむ様に無言になる。

そんな二人とは正反対に会議室は騒がしさを増していった。

軍師達はどの様に防衛するかの議論を始め、部隊長クラスは隷下の部隊へ指示を出すべく副官を走らせていた。

しばらくすると、パタジンが再び椅子から立ち上がり室内を一度見渡してから口を開いた。

 

「諸君、蛮族共は我々が想像もしない様な強力な兵器を持っている様だ。だが我々は王国の悲願の為、そして死んでいった者たちの為にも引くことも負けることも許されない。たった今より王都防衛部隊は即応体制に入る。監視部隊は4交代で昼夜を問わずに監視をせよ。騎兵部隊からも少数を王都周辺の偵察に出すのだ。敵を早期に発見し騎兵による奇襲と離脱を行って敵を消耗させるのだ。しかる後に重装歩兵と魔導師部隊、残った魔導砲と地龍によって攻撃に移る。この方針で行く」

 

パタジンの指示を聞いた部下達は了解の声を上げ、部隊へと向かうべく部屋を出ていった。

 

 

中央歴1639年 4月17日

ロウリア王国 ジン・ハーク 北12km

 

ジン・ハークから北に7mi(約12km)の地点には人口100人ほどの小規模な村落があった。

これといった産業もなく畑仕事や山林での狩猟で生計を立てている村であったが、昼頃から様子は一変していた。

村外れの平原に合衆国海兵隊の前方作戦基地(FOB)が設置された為であった。

FOB”コブラ”と名付けられた此処では明日の王都攻撃に備えて準備が急速に進んでおり、

王都から北の港に通じる街道を使い海兵隊のLVSR大型トラックやMTVR中型トラックが物資を上陸地点からFOBまで輸送を行い、空路でもCH-53Kキングスタリオン重輸送ヘリコプターやMV-22オスプレイ垂直離着陸輸送機が兵員や物資を運びこんでいた。

また臨時のヘリパッドの近くでは海兵戦車隊のM1A1 NAPの周囲に整備員が取り付き整備を実施していた。

そんなFOBの一角に設置された大型テントの中では上陸部隊指揮官の少佐がワスプの上陸部隊作戦センター(LFOC)と明日の作戦について確認を行っていた。

 

「それでは限定占領もなしの、高価値標的(HVT)確保ですか」

 

少佐の問い掛けに画面の向こうのESG司令官は首肯する。

 

『その通りだ少佐。ワシントンはオペレーション・ジャストコーズまでは望んでいない』

 

「確かに、我々としても占領してファルージャの二の舞は勘弁ですからね。となるとダーイッシュども相手にやった作戦ですか?」

 

『概ねその通りだ。ただ違うのは相手が100人規模ではなく、数万人規模という点。そしてビン・ラディンやバグダーディーと違って穴倉に籠っているわけではなく、立派な城砦都市に居るという点だ』

 

画面が切り替わり、ジン・ハーク周辺の航空写真が表示される。

そしてそこに各部隊を表すアイコンが重なる。

 

『主目標はロウリア国王 ハーク・ロウリア34世だ。作戦概要としてはまず海兵戦車隊及び水陸両用強襲車両中隊によって敵主力の誘引を実施する、HVTが居る中央部から十二分に兵力を誘引出来た段階で、航空攻撃によって主要な城門を破壊し敵部隊との切り離しを行う。』

 

装甲部隊を示すアイコンがジン・ハークに接近し、それに対して敵部隊のアイコンが三重の防壁の外側へと移動し、ロウリア軍を示すアイコンが移動した所で航空部隊のアイコンが各城門に殺到する。

 

『この段階でB中隊を城内へ、ヘリボーンさせる。B中隊がHVTを確保するまでLZは攻撃ヘリに確保させる。首尾よくHVTを確保出来れば後は連れて帰るだけだ』

 

「作戦概要は理解しました。HVTは絶対に確保ですか?」

 

『そうだ、まあこれは政治的側面もある。少佐くれぐれも殺すなよ』

 

「イエス、サー。部隊にはよく命じておきます」

 

『よろしい。では少佐、健闘を祈る』

 

 

中央歴1639年 4月18日

ロウリア王国 ジン・ハーク 北12km

 

 

まだ日も上りきらず、気温が低く、朝靄が漂う早朝。

FOB コブラでは海兵戦車隊のM1A1 NAP及び水陸両用強襲車両中隊のEFVやAAV7がエンジンを始動し作戦開始と出撃の刻を待っていた。

各部隊の隊長が指揮下の車長と打ち合わせを実施している中、上陸部隊指揮官の少佐が隊列の前方にやってきた。

少佐を見やれば、敬礼し傾注の姿勢を取った。

 

「諸君、我々はこの異世界での海兵隊としての初戦闘という栄誉を賜った。光栄だろう?」

 

少佐の言葉に幾人から笑い声が漏れる。

 

「異世界人共に我ら合衆国海兵隊の姿を見せつけてやれ!」

 

「「「ウーラー!!!」」」

 

 




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17話

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中央歴1639年 4月18日

ロウリア王国 ジン・ハーク

 

 

王都防衛騎士団に今年から配属されたばかりの新米騎士マルパネウスは城壁監視塔へ続く石畳の道を駆け足で移動していた。

現在王都防衛騎士団は昨日のビーズルへの攻撃を受け24時間の警戒態勢を取っていた。

特に最も外周の城壁に設置された監視塔は敵の早期警戒の為に全ての監視塔へ人員が配置されていた。

マルパネウスは早朝から昼頃までの組み分けとなっていたが、昨晩隊の同僚らと酒場でエールを引っ掛けていたせいで少しばかり寝坊してしまっていたのだった。

決して軽いとは言えないチェインメイルを着込み、左腕で兜を抱え、右手には槍を持っているマルパネウスは息を切らしながらも駆けていた。

 

「ハァッ…! ハァッ…!まずい…まずい!、先輩に怒られる!」

 

監視塔まであと100m程になった瞬間、監視塔が突然爆炎に包まれた。

一瞬遅れて炸裂音が鳴り響き、マルパネウスは思わず倒れこんでしまう。

倒れた際にぶつけた額を右手で押さえながら監視塔を見やる。

そこには上層階部分が吹き飛び、瓦礫と化した監視塔があった。

 

「い、いったいなにが!?」

 

そんな呟きをかき消す様に今度はその右隣りの監視塔が吹き飛ぶ。

再度の爆発にマルパネウスは兜を被り、伏せて縮こまる様に身を守った。

3度目の爆発が起きた時、やっと王都中に緊急事態を告げる鐘の音が響いた。

 

 

 

中央歴1639年 4月18日

ロウリア王国 上空

 

 

日が昇り始め、朝焼けに空が染まる中、高度19,000ft(約6,000m)380kt(約700km/h)で飛行する機影があった。

ややずんぐりむっくりとした胴体にひし形の主翼と水平尾翼を持ち、少し外側に傾斜した2枚の垂直尾翼を持った単発機。

第3海兵航空団所属のF-35B ライトニングⅡ垂直離着陸戦闘機だった。

USSワスプを発艦した、このF-35は胴体内ウェポンベイに8発のGBU-53 ストームブレイカー精密誘導爆弾と2発のAIM-120C-7AMRAAM中距離空対空ミサイル(BVRAAM)を搭載していた。

が、既にGBU-53は2発を投下しており、残弾は6発であった。

またこの機以外にも更に3機のF-35が同様の兵装を搭載し任務についていた。

 

『2よりリード。目標への命中を確認した。』

 

「リードより2。こちらからも確認した、4箇所目をやる」

 

編隊長はそう言えば、旋回待機させていた機を爆撃コースに乗せる為、スティックを倒し針路を変更させた。

そして目の前の大型ディスプレイに表示されている戦術マップから次の標的を選択する。

すると自動的に機首下部に設置されているAN/AAQ-40 EOTS目標捕捉・指示器が標的にキューイングされる。

兵装の選択とウェポンベイが開放された事を確認すれば、スティックの兵装発射スイッチを押し込んだ。

 

「ニトロ1、投下(Bombs away!)

 

GBU-53がラックから切り離される振動が射出座席を僅かに震わせる。

GBU-53は機体から数百フィートほど落下した所で滑空用の主翼を展張させ、シーカーを保護していたカバーが分離される。

まずGBU-53は慣性誘導装置(INS)により目標へ向け針路を取った。

とはいえほぼ直線上での投下であった為、針路調整の必要は殆どなかった。

誘導翼が小刻みに動き針路と姿勢を安定させる、そして命中まであと十数秒となった所で母機のEOTSから誘導用レーザーが照射される。

レーザーの反射波を検知したシーカーはその役目を確実に全うした。

標的となった監視塔に命中したGBU-53はその運動エネルギーにより、外壁の石材を貫通し主翼を吹き飛ばしながら信管が作動するまでに2フィート(約60cm)ほど進んでから起爆した。

100lb(約45kg)の高性能炸薬は、監視塔を構成する石材をいとも簡単に吹き飛ばし、同時に監視塔の中にいた数名のロウリア王国軍騎士を物言わぬ肉片へと変えた。

目標への命中と破壊を確認すれば司令部へと通信を入れる。

 

「ニトロ1より、キャッスル。目標 4箇所を破壊した」

 

『キャッスルよりニトロ。了解した、間もなくアリゲーター及びブルドッグが攻撃に移る、要請があり次第支援するように』

 

「ニトロ1了解した、IP フォックストロットで待機する」

 

 

 

中央歴1639年 4月18日

ロウリア王国 ジン・ハーク

 

 

王城内の廊下をパタジンは足早に移動していた、本来ならばまだ起床する時間ではないのだが、突如鳴り響いた爆音と警報の鐘の音で一瞬にして叩き起こされたからであった。

そして一刻も早く現在の状況を把握すべく臨時指揮所に駆け込む。

 

「状況はどうなっている!」

 

「はっ!現在、第1城壁の第16から19監視塔が攻城魔法と思われる攻撃により完全に破壊されました」

 

「この短時間に4箇所もやられたのか!?敵の規模は?」

 

「まだ敵影は確認出来ていないとの事ですが…」

 

軍師がそう答えた所で、魔信器に着いていた通信兵が声を張り上げた。

 

「第15監視塔から報告!北側の5kmの丘陵に敵影らしきものを確認したとの事です!」

 

「らしきものとはどういう事だ!正確に報告しろ!」

 

通信兵の曖昧な報告にパタジンは声を荒げた。

 

「それがどうも報告が要領を得ないもので…」

 

「…まぁいい、いま動かせる部隊は?」

 

「歩兵部隊および重装歩兵部隊は現在招集中でしばらく時間が掛かります。魔導砲部隊と地竜部隊も同様です。ただ軽騎兵部隊は哨戒予定だった200騎と呼び戻している200騎の計400騎が対応できます」

 

軍師からの報告にパタジンは少し考えてから指示を出す。

 

「よし、騎兵部隊にすぐに出陣を命じろ。まずは敵部隊の正確な規模と装備を知りたい。ただ無理に交戦する必要はないからな、そして軍師はそれを見て策を考えろ、いいか敵の些細な行動も見逃すな、弱点を探し出しそこを突く!」

 

「ははっ!」

 

パタジンの指示を聞いた軍師は周りの騎士や通信兵に指示を出していく。

そんな姿を見ながらパタジンは呟いた。

 

「今日は王国史上もっとも長い一日になるな…」

 

そんな呟きは指揮所の喧騒にかき消され誰にも届くことはなかった。

 




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18話

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中央歴1639年 4月18日

ロウリア王国 ジン・ハーク 北 5km

 

 

欧州を思わせる長閑な丘陵地帯を南へと進む者たちがいた。

それは合衆国海兵隊第4戦車大隊 A中隊所属のM1A1 NAPエイブラムス主力戦車(MBT) 4輌を装備する”アリゲーター”小隊と水陸両用強襲車両中隊に所属するEFV水陸両用装甲車 4輌を装備する”ブルドッグ”小隊であった。

部隊は先頭を”アリゲーター”小隊が突撃隊形を取り、その後方から同じく突撃隊形を取った”ブルドッグ”小隊が続いていた。

そして部隊の最先頭である”アリゲーター”小隊の小隊長車の車長用キューポラから身を乗り出しているのは小隊長のケネス・カーライル少尉であった。

カーライルは前方に見えるジン・ハークを囲む三重の城壁と街並みを双眼鏡越しにみていた。

 

「見えるかウッズ、まさに異世界って風景だ」

 

車内無線を使ってカーライルは砲手であるスティーブ・ウッド曹長に言う。

車内からガンナー・プライマリー・サイト(GPS)の昼間照準器を通して見たウッドは返事を返した。

 

「ええ、全くです少尉、こんな風じゃなくてカミさんと旅行で来たかったです」

 

「私のとこの娘はマサチューセッツの大学で考古学を専攻してるんで、羨ましがられそうです」

 

装填手用ハッチから上半身を出しながら言うのは装填手のジャレット・ロメロ軍曹であった。

 

「写真でも撮っていってやれば喜ばれるんじゃないか?」

 

「名案です少尉…と、キャッスルから通信です」

 

一度車内に引っ込んで私物の携帯電話を取り出そうとした所で、無線が司令部からの通信を知らせた。

カーライルにその旨を伝えれば通信を繋ぐ。

 

「アリゲーター1よりキャッスル、どうぞ」

 

『アリゲーターへ、ニトロが第1目標への攻撃を終了した。予定通り陽動を実施してくれ、またニトロからの報告では敵騎兵部隊が出撃しているとの事だ、任意での攻撃を許可する』

 

「アリゲーター、了解。アウト」

 

「騎兵ですか?少尉」

 

「あぁ、ホンモノの騎兵だそうだ」

 

カーライルの言葉にウッズは一度口笛を吹いた。

 

「小隊全車、攻撃準備」

 

小隊の全車に対してそう命令を出した所でGPSを覗いていたウッズが声を上げた・

 

騎兵隊捕捉。距離2400!(IDENTIFIED, CAVALRY 2400!)

 

砲手、AMP-ABで騎兵を距離2000で攻撃しろ(GUNNER,AMP-AB,CAVALRY2000)

 

報告を聞いたカーライルは素早く交戦の指示を出す。

指示を聞いたウッズは砲塔を旋回させ騎兵に照準を付ける、ロメロは車内に戻れば後部即応弾薬庫から素早くM1147 AMP砲弾を取り出し、薬室に装填する。

閉鎖器を閉じ、安全レバーを上げて大声で知らせた。

 

AMP装填!(AMP,LOADED!)UP!」

 

ロメロの合図を聞いたカーライルは更に指示を出していく。

 

「全車停止、隊長車が発砲後任意目標への攻撃を許可する」

 

直後にマイナスGと共にエイブラムスが停車し、小隊の各車も同じく停車する。

停車を確認すると接近する敵騎兵隊を双眼鏡にて確認する。

まだ距離がある為詳細は分からなかったが、少なくとも200騎以上は居る様であった。

 

敵騎兵隊、距離2000!(CAVALRY 2000!)

 

ウッズが敵騎兵が距離2000を切った事を伝える。

 

「FIRE!!」

 

「ON THE WAY!」

 

カーライルの射撃の号令を受け、ウッズは射撃スイッチを押し込んだ。

電気信号が撃発回路を通じ弾底部にあるプライマーを発火させる。

発射装薬が爆発的に燃焼しその圧力によって発射筒(サボ)に覆われたAMPを砲口内にて3,600ft/s(1,100m/s)の超音速にまで加速させ撃ち出した。

AMPは砲口から飛び出してから発射筒(サボ)を分離させ、ロウリア王国軍騎兵隊へと寸分違わず飛翔していった。

そして設定された距離を飛翔した所で信管が作動し、疾走するロウリア王国軍騎兵隊に調整破片を浴びせかけた。

調整破片は騎兵が着用していた鎧を容易く貫通し、彼らが何が起こったかを理解する前に肉塊へと変えた。

騎兵隊の頭上で砲弾が炸裂し数十の騎兵が崩れ落ちたのを確認したカーライルは続けて指示を出す。

 

「|命中!砲手、続けて同軸機銃にて騎兵隊を攻撃しろ《TARGET! GUNNER COAX CAVALRY》」

 

ウッズは手元の切り替えスイッチで主砲から同軸機銃へと切り替えを行う。

自動的に仰俯角が調整される、そして突然の爆発に混乱している騎兵隊を再度捕捉する。

 

目標捕捉!(IDENTIFIED!)

 

「FIRE!」

 

「ON THE WAY!」

 

射撃スイッチを押し込むと、乾いた連続音と共に同軸機銃であるM240 7.62mm機関銃から7.62mm×51 NATO弾が撃ち出される。

銃弾は放物線を描きながら飛翔し騎兵隊に死を振りまいた。

現代の軽装甲程度なら貫徹する威力を持った銃弾は調整破片の時と同じように容易く鎧を撃ち抜き騎兵隊をなぎ倒していく。

ウッズは5発に1発の割合で込められた曳光弾の軌跡を確認しながら照準を微調整する。

その間にも僚車のAMPや機銃弾が敵騎兵に浴びせ掛けられる。

十数秒間の射撃を行ったところで射撃停止の号令がかかった。

 

「TARGET, 撃ち方止め!(CEASE FIRE!)

 

射撃スイッチから指を離し、昼間照準越しに確認を行う。

爆発により巻き上げられた土埃が晴れるとそこにはかつて騎兵だったものがあった。

 

 

中央歴1639年 4月18日

ロウリア王国 ジン・ハーク

 

 

城壁上で騎兵隊の攻撃を見ていたパタジン以下軍師は目の前の光景に言葉をなくしていた。

少なくとも騎兵の機動力によって損失を出しつつも敵に取り付き、幾ばくかの損害を与えられればと考えていた。

しかし蓋を開けてみれば、騎兵隊は敵よりも遥か手前で爆裂魔導と思しき攻撃と謎の攻撃により壊滅してしまった。

誰もが言葉を発せなかったが、暫くするとぽつぽつと言葉が漏れた。

 

「なんという爆裂魔導だ…」

 

「騎兵の機動力では無理か…ワイバーンは…既に全滅していたか…」

 

「まさか伝説の…古の魔法帝国では…」

 

「バカな事を言うな!」

 

「しかしあれ程の魔導攻撃、早晩魔力切れを起こしてもおかしくはない。敵に休む間を与えぬ様に多方向からの波状攻撃で押せば…」

 

そんな軍師達の言葉を傍らで聞きながらパタジンは考えた。

だが先ほどの常軌を逸した攻撃が脳裏から離れず良い策が浮かんではこなかった。

しかし考える事を止める事は敗北へとつながる、額に冷や汗を浮かべながらもパタジンは指示を出す。

 

「…全軍に出撃命令だ。まず全重装歩兵部隊を北門から出撃させ敵の注意と攻撃を引き付ける。そして軽歩兵、弓兵、魔導師は各門から分散して出撃しなるべく地形に隠れながら接近しろ、多方向から接近して間合いに飛び込めばあの魔導も使えない筈だ。そして一度接近戦に持ち込めば後続にも魔導攻撃はできないだろう」

 

パタジンの絞り出した指示に軍師達は頷けば各部隊に指示を出すべく魔信を飛ばした。

そして暫く後、王都中に轟かんばかりの鬨を上げ、ロウリア王国が誇る重装歩兵大隊が鎧の重々しい音と共に出撃していった。

 




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19話

また間が開いてしまい申し訳ありませんでしたorz

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中央歴1639年 4月18日

ロウリア王国 ジン・ハーク 北 3km

 

 

ジン・ハーク北門より出撃した重装歩兵部隊はジン・ハーク北 3kmまで進出する事に成功していた。

ロウリア王国軍最精鋭を誇る重装歩兵部隊は遅々とした歩みながらも、一歩ずつ敵へと迫っていった。

重装歩兵は統一されたプレートアーマーを身に纏い、長さ2m程のランスを装備し更に身の丈程ある大盾を装備していた。

そんな集団の中に一人だけ拵えの異なる盾を装備しているものが居た。

名をスワウロと言い、代々王国軍に従軍する家系であった。

彼は家に代々伝わる盾を不安がる妻に薦められるまま持ってきていたのだった。

彼は銀色に輝く盾を撫でながらそんな妻の顔を思い浮かべていた。

そんな中先頭を行く部隊長の声が聞こえてきた。

 

「間もなく敵魔導攻撃の射程に入るぞ!総員構えろ!」

 

そんな隊長の指示に従い、前列の兵から順繰りに盾を体の前に構え、左右の同僚と密着させ隙を作らない様に隊形を作っていく。

彼らは訓練で身に覚えこませたこの動作を3km余りの行軍による疲れの中でも完璧にやってみせた。

スワウロは盾を構えながらふと横を見た。

そこには先陣を務めた騎兵部隊の無残な姿があった。

彼はその亡骸に数舜後の自分の姿を重ね恐怖したが、愛する妻と子との為とそれを飲み込んだ。

視線を正面に戻した瞬間、爆音と衝撃が身体を揺さぶった。

咄嗟に盾の陰に身を隠した、そして盾が凄まじい威力の礫で打たれたかのような衝撃を受けた。

足に力を込め、倒れそうになるのを必死で堪えた。

爆轟が収まった所で僅かに顔を覗かせると、そこにはかつて戦友であった者たちが無残な姿に変わり果てていた。

剣や矢玉を防ぐ大楯はへしゃげ、無数の穴が開き。

身に纏う鎧も同じように穴だらけになっていた。

 

「これが魔導攻撃…!?」

 

そんな言葉を口にした瞬間、風を切るような甲高い音と鉄同士がぶつかり合う音、そして悲鳴とうめき声、そして地面に倒れゆく音が次々に上がっていった。

自らの盾にも衝撃が連続して奔るが、盾自体はその正体不明の攻撃を防いで見せていた。

スワウロは先祖とこの盾を持たせてくれた妻に感謝した、だが既に部隊の八割は物言わぬ肉塊と成り果てていた。

 

 

中央歴1639年 4月18日

ロウリア王国 ジン・ハーク 北 5km

 

 

「マイ、ガッ!。信じられねぇ!あの歩兵、銃弾を弾いてるぞ!」

 

GPSから目を離しウッドはそう呟いた。

双眼鏡で同じ光景を見ていたカーライルは口笛を一つ吹いて言う。

 

「きっと、あいつは未来の世界から来たターミネーターだな…またトレーサーが飛んでいったぞ」

 

既に敵重装歩兵隊は銃弾を弾いてる1人だけになっていた。

一人相手に砲弾を叩き込むのは無駄が過ぎる為、同軸機銃で攻撃しているが、一向に効果がない様子であった。

距離もある事と一人相手に砲弾も銃弾も無駄である為、カーライルは僚車に向けて攻撃停止を命じた。

そのタイミングで司令部から通信が入る。

 

『キャッスルよりアリゲーター』

 

「アリゲーターよりキャッスル、どうぞ」

 

『ニトロが敵大部隊が出撃した事を確認した、これより敵城門に対する攻撃を実施し、第二段階に入る。貴隊は予定通り行動せよ。キャッスル、アウト』

 

「アリゲーターより、キャッスル了解した。」

 

通信を終えると直ぐに部隊内通信へと切り替え指示を出す。

 

「アリゲーター1より各車。これより第二段階に入る。予定通り行動せよ」

 

通信を終了してから数十秒後、同時に城壁内で複数の爆発が起きた。

黒煙が立ち上るのを見てからカーライルは車内へと戻っていった。

 

 

中央歴1639年 4月18日

ロウリア王国 ジン・ハーク 南 10km

 

ジン・ハークから南に10km程の平原上空を飛ぶ影があった。

ワスプを発艦した中型のUH-1Yヴェノム 輸送ヘリコプター3機とヴェノムより二回りは巨大なCH-53Kキングスタリオン重輸送ヘリコプター 1機、そして護衛のAH-1Zヴァイパー攻撃ヘリコプター 2機の編隊であった。

ヴェノムとキングスタリオンは自衛用にそれぞれGAU-17 ガトリング機銃を装備し、護衛のヴァイパーはそれぞれAPKWS誘導ロケットが装填されたLAU-61 19連装ポッドを左右両翼に2基づつ搭載し、翼端には自衛用のAIM-9Mサイドワインダー空対空ミサイル(AAM)を2発搭載していた。

編隊は高度 330ft(約100m)程を135kt(約250km/h)の速度で北へと向かっていた。

キングスタリオンの機内では強襲部隊指揮官が最後のブリーフィングを行っている所であった。

 

「お前ら!あと5分で、着陸地点(LZ)だ!、予定通りに行動し30分でケリをつけるぞ。建物内は非戦闘員も多い、誤射には気を付けろ!ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズにすっぱ抜かれたくはないからな」

 

最後の一言で機内で笑いが起きる。

 

「情報では目標は建物内上階にある私室もしくは緊急控室と呼ばれる場所に居る可能性が高いとの事だ、見取り図は頭に入ってるな?迷っても迷子センターはないぞ」

 

そう言っている間に編隊はジン・ハーク上空へと差し掛かる。

城壁を2つ越えた所で、複数回の爆発音が機体を揺さぶる。

外縁部に誘引した敵部隊が引き返してくるまでの時間を稼ぐために城門を攻撃した爆音だった。

 

『LZまであと1分!』

 

コックピットのパイロットがそう叫ぶと、指揮官も人差し指を立てながら叫ぶ。

海兵隊隊員達も互いに叫びあう。

LZである王宮の中庭が近づくにつれ機体の速度が落ち、着陸姿勢に入る。

機体両側のドアガンナーはGAU-17を左右に振りながら敵兵を警戒する、時折護衛のヴァイパーの機銃掃射の音が大気を震わせる。

機速が無くなり機体が降下を始めると、強烈なダウンウォッシュが中庭に咲く色取り取りの花びらを巻き上げ幻想的な光景を作り上げた。

そんな中、中庭に通じる扉からロウリア王国軍の兵士達が躍り出てくる。

しかし彼らは次の瞬間にはGAU-17から射撃を受け物言わぬ肉塊へと成り果てた。

重い音と共にキングスタリオンがタッチダウンする。

同時に機体後部ランプから海兵隊隊員達が飛び出し、各ファイアチーム毎に分かれ王宮内に突入していく。

ヴェノムに搭乗していた強襲部隊は城壁上にラぺリングにて降下し、突入していった。

 

 

中央歴1639年 4月18日

ロウリア王国 ジン・ハーク 北門

 

 

突然城壁内から鳴り響いた爆音に城壁外を見ていたパタジンは振り返った。

第二城壁にある4個所の門の場所から黒々とした煙が立ち上る光景と王宮上空に現れた空を飛ぶ何かを見て、敵の目的を悟り叫んだ。

 

「奴らの狙いは大王様か!?」

 

パタジンは直ぐ傍に控えていた魔導通信士を通じて状況を確認させる。

そして返ってきた報告に更に顔を歪ませた。

それは城門を破壊され瓦礫の為に部隊の通行が困難になっている事、そして王宮内に敵兵が侵入しつつある事だった。




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20話

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中央歴1639年 4月18日

ロウリア王国 ジン・ハーク 王宮

 

 

王宮内に突入した海兵隊員達は各所で抵抗を受けつつもそれらを排除しつつ目標を捜索していた。

ロウリア王国軍は近衛騎士団を侵入者排除に差し向けたが、一太刀も浴びせる事の出来ぬままに迅速に排除されていた。

しかしロウリア王国軍も愚かではなかった、剣や槍による戦闘が不可能と判明すると廊下などに家具と大盾を用いた即席の壁を作り上げ、その後ろから弓や魔導師による攻撃による遅滞戦闘へと切り替えていた。

海兵隊員は思わぬ敵の抵抗に一時足止めを余儀なくされた。

矢玉や火炎弾を柱の陰で避けながらファイアチームリーダー(FTL)が叫ぶ。

 

「マーク!あのクソったれ共を吹っ飛ばせ!」

 

FTLに指示を出された海兵隊員が背中に担いでいたMGL-140グレネードランチャーを取り出し、遮蔽物から僅かに身を乗り出してから狙いを付け発砲した。

シャンパンのコルクが抜ける様な大きな音と共にM441 榴弾が撃ち出される。

放物線を描いて飛翔した榴弾はバリケードのやや上側に着弾し、炸裂した。

爆発によりバリケードは破壊され、その後ろに居た騎士や魔導士は調整破片とバリケードの破片によってズタズタに引き裂かれた。

敵の抵抗がなくなった事を確認しFTLは前進を命じる。

 

「火点は沈黙したぞ!Move UP!」

 

この様な戦闘が王宮内の各所で行われ、銃声と爆発音が止めどなく響いていた。

中庭から侵入した部隊は2階までを制圧し、3階へと到達していた。

城壁上通路に降着した部隊は侵入した部隊の掩護と、増援が来た場合の排除を担っていた。

 

 

中央歴1639年 4月18日

ロウリア王国 ジン・ハーク 南の大通り

 

崩れ落ちた南門から王宮へと続く大通りを駆ける集団があった。

彼らは南門を守備する防衛騎士団第3騎兵大隊の騎士達だった。

城門に対する攻撃の際に幾らか損害は出たものの、他の部隊に比べれば殆ど無傷な彼らは敵兵が王宮に侵入したとの報告を受け、王宮へと向かっていた。

城門が破壊され瓦礫で塞がれた結果、重装備や騎馬を放棄せざるを得なかったものの、軽装のおかげか王宮へと続く坂道を速やかに駆ける事が出来た。

そんな部隊の先頭を行くのは特徴的な吊り目がキツネを思わせる知将カルシオと呼ばれる将であった。

カルシオは自らが率いる2000の兵があれば侵入者を撃退する事も、もしそれが困難でも北門の本隊が増援に駆け付けるまでの時間を稼げるだろうとの魂胆であった。

王宮まであと500m程まで来た所でカルシオの耳に数十ものワイバーンが同時に羽ばたくような、しかしそれよりも力強い音が聞こえてきた。

音の方向に視線を向ければワイバーンと似ても似つかなぬ異形の姿があった。

そして、ぐんぐんと近づく異形の口に光が瞬いたかと思えば、隊列の後方で爆炎が上がった。

一瞬にして数十の爆発音が鳴り響き、隊列の後方の兵たちは物言わぬ肉塊と成り果てる。

 

「魔導攻撃か!?隠れろ!」

 

カルシオはそう叫ぶが大通りという遮蔽物のない場所であった事が不幸であった。

身を隠せそうな遮蔽物はなく、敵騎の放つ魔導攻撃により次々に倒れていく。

カルシオもまた至近に着弾した攻撃の衝撃を最後に意識を手放した。

 

 

中央歴1639年 4月18日

ロウリア王国 ジン・ハーク 王宮

 

 

「現在、カタナ2が南側にて敵歩兵部隊を攻撃中との事です」

 

強襲部隊指揮官の傍らでマンパック無線機を背負った副官が言う。

指揮官は腕時計にて時間を確認し、敵の対応が想定よりも早い事に驚く。

 

「敵の対応が想定よりも早いな、こちらも早めにHVTを確保してケツを捲らねばな」

 

そう言いながら腕時計にて時間を確認していると爆発音と銃声が轟く。

先頭を行くファイアチームが4階へ通じる階段のバリケードを破壊した音だった。

 

「ようし、ラスト10ヤードだ。気を抜かずに行くぞ!」

 

「「ウーラー!」」

 

後方を警戒しつつ先行する部隊が制圧した廊下を進み、階段を上っていく踊り場にはバリケードの残骸と破片や銃弾を受け息絶えたロウリア王国軍兵の亡骸があった。

そんな光景を一瞥し、階段を上りきると廊下の先にある大扉の前に到達した部隊が扉にブリーチング用爆薬を設置している所であった。

胸元の硬質ケースに格納されたスマートフォンに視線を落とし、見取り図を確認する。

目の前の扉を抜ければターゲットまでもう少しであった。

 

「大尉!突入準備完しました!」

 

FTLがそう報告を上げる。

頷いて返し、ポイントマンが支えている防弾繊維製の防爆盾の背後に並んで身を隠す。

 

「Bleacher Your Control!!」

 

最後尾に着いたFTLがそう叫ぶ。

 

「Roger! I’m Control!!」

 

ブリーチャーはそう言えば、手元の点火器を再点検しカウントダウンを始める。

 

「Standby!!3…2…1!」

 

点火器のレバーを握り込み、ブリーチング爆薬に点火する。

鍵穴部分と蝶番に仕掛けられた爆薬が炸裂し、それぞれを吹き飛ばす。

 

「Clear!」

 

爆炎が収まった事を確認しブリーチャーが叫ぶ。

そして列から外れながら肩に掛けたバッテリング・ラムを両手に持ち、扉に向かって叩きつけた。

支えを失った扉は鈍い音を立て室内へと倒れる。

同時にM4カービンやM1014散弾銃を構えた海兵隊員が次々にビロード製の深紅の絨毯にブーツの跡を付け突入していく。

少し離れた所には侍女二人が倒れ込んでおり、その後ろには鎧を着た兵士らしき影が見えた。

爆圧でひるんでいる様だったが、腰に帯剣している事を確認すると、ライフルマンの1人がダットサイト越しに照準し発砲した。

胴体を狙って撃ち出されたMk.311 BALL弾が銀製の胸甲を容易く貫通し体内を滅茶苦茶にしながら進み、背中側から飛び抜けた。

兵士は銃創から血をまき散らしながら崩れ落ちる。

同時に部屋の左右に並ぶ柱からプレートアーマーに身を包み片手剣を装備した兵士達が部隊に向かって襲い掛かって来た。

 

「Ambush!!」

 

誰かが叫ぶと同時に無数の銃声と悲鳴が広間に響き渡った。

 

 

中央歴1639年 4月18日

ロウリア王国 ジン・ハーク 王宮

 

 

ロウリア王国国王ハーク・ロウリア34世は暖炉の上に据えられた自らの勇ましい姿を切り取った肖像を見上げながら己の歩んだ道を振り返っていた。

第三文明圏の雄たる列強パーパルディア皇国にそれこそ自らの額を地に着けるかの如く服従の姿勢を見せ、そして無数の屈辱的なまでの条件、そして国庫の数十年分にも及ぶ大金を積み上げ手に入れた物的、教育を含めた援助を10年もの長きにわたって注ぎ込み、更には型落ちとはいえ魔導砲や地竜までをも手に入れた。

そして満を持して臨んだロデニウス大陸統一の戦い。

負ける方が難しいといえる戦力比、忌まわしき亜人どもを根絶やしに出来る筈であった。

しかしどうだ、いざ開戦してみれば精強たるロウリア王国陸軍は国境を越えた時点で壊滅の憂き目に合い、海軍も海の藻屑と消え去った。

そして一週間もしない今日この日、遂に王都にまで侵攻を許し、あまつさえこの王宮にすら敵の侵入を許してしまった。

それもこれも全て、あのアメリカ合衆国とやらの手によるものであった。

統一後に滅ぼしてやるなどという世迷い事をいった自分を恨んだ。

そこでふと先ほどまで聞こえていた轟音と悲鳴が聞こえなくなっている事に気づいた。

遂にここまでかと覚悟を決め、ロウリア王は立てかけていた豪奢な装飾が施された片手剣を手にした。

鞘から抜けば磨き抜かれた刀身に自らの顔が映り込む、その顔は普段の自信に満ち溢れ尊厳に満ちたものではなく、悲壮感に濡れたものだった。

瞬間、爆音が轟き扉が室内に倒れ込んできた。

片手剣を手に入り口に向け振り返った瞬間、腹部に強烈な衝撃を受けた事を脳が認識したと同時に意識は闇へと落ちていった。




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