送る旅 (しぃ君)
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残り四十二日(part1)「終わりと始まりは表裏一体」

 この話は、私が百合の三題噺で書いたものを長編に改造したものです。
 誤字脱字など有りましたら、笑いながら報告してやってください。
 オリジナルを完結させたことがない系投稿主なので、投稿が遅くなったら催促メッセージでも送って下さると幸いです。



 眠りから目が覚めた少女の目には、見知らぬ天井が広がっていた。

 いや、見知らぬ天井と言う言葉は相応しくない。

 本来見知らぬまま生涯を終えるはずだった天井、と言った方が正しい。

 

 

 少女の名前は春華(はるばな)(はるか)

 先天盲と言う障害を持って生まれた、『視る』と言う行動を奪われた筈の少女。

 彼女の世界は暗闇に閉ざされたまま、終わる筈だった。

 

 

 だが、今の遥には色彩のある世界が見えている。

 驚きを通り越して、一周回って落ち着いた遥は、未だぼやける視界で慣れない『視る』と言う行為を行う。

 辺りを見渡すと、ベットの脇で椅子に座る女性が居ることに気付いた。

 

 

 薄茶色の髪は肩ほどに整えられており、藍色の瞳は酷く充血している。

 綺麗だったであろう肌もカサついて、目の周りには隈が見えた。

 病院と言う場所に居ながら、ベットで横になっている遥より体調が悪く見える。

 

 

 うつらうつらと言った様子でありながらも、彼女──春華恵子(めぐこ)は母として遥を見守っていた。

 初めて見る母の姿に、遥は戸惑いつつ、いつものように声を掛ける。

 

 

「…母さん?」

 

「はるか? …うそ……はるか? 私が、見えるの?」

 

「うん。ベットで寝てる私より、不健康そうな顔付きの母さんが見えてるよ」

 

「一言余計よ!! …待ってて、今すぐナースコールするから!」

 

 

 ベットに備え付けられているナースコールを押してから数分も経たずに、遥の主治医でもある初老の眼科医が現れた。

 ツルッとした頭に、白い顎髭を生やした男性だ。

 

 

 穏やかな目で、遥かに幾つか質問をしたあと、触診をして目の検査をし始めた。

 

 

「うむ。問題はなさそうですね。角膜の移植手術は完璧に成功したようだ。…これなら、他の検査が終わり次第、すぐにでも家に帰れるでしょう」

 

「ありがとうございます! ありがとうございます! …本当に、ありがとうございます! 浅川(あさかわ)先生!」

 

「良いんだよ。手術で頑張ったのは彼女でもある。一ヶ月は週一回のペースで通院してもらうが、構わないかね? 遥君」

 

「…問題ないです。ありがとうございます、浅川先生」

 

 

 軽くぺこりとお礼をする遥と、深々とお礼をする恵子。

 対象的な二人だが、れっきとした家族だ。

 先生が去って数分、若い女性の看護婦が来て、遥は内臓器官にも異常がないかの検査に連れて行かれる。

 

 

 遥は、その検査の間ずっと、一人の少女の事を考えていた。

 幼馴染として、遥の目として何時も傍に居てくれた少女──名前は八橋(やつはし)(はる)

 

 

 目が見えていない頃の最後の記憶で、彼女は──晴は遥を庇ってトラックに……

 思い出そうとしても、思い出せない。

 晴が今、生きているのか。

 晴が今、生きていないのか。

 

 

 一刻も早く知りたい。

 …だが、遥は気付いていた。

 自分が世界を『視る』事が出来る意味を。

 気付いていて、気付かないフリをした。

 

 

 最後の記憶は約一週間前だ。

 どちらにせよ、二つに一つの結果は出ている。

 …分かり切った結果だが。

 

 ──────────

 

 検査が一通り終わると、遥は元いた病室に戻された。

 母が諸々の手続きをするのを待ちながら、窓から外の景色を眺める。

 見る筈のなかった景色。

 暗闇に葬られたままになる筈だった景色。

 それを彼女は、今見ている。

 

 

 これが何よりの証拠だと気付いたまま。

 そのままずっと眺めていると、ふと後ろから声を掛けられた。

 聞き慣れた声で、安心する声で……若干苛立ちが募る声。

 

 

「やっほー。目が覚めた見たいだね、はるはる?」

 

「はるはるはやめてって何時も言ってるでしょう? は……る…?」

 

 

 感動の対面になる筈だった。

 明るい茶髪のポニーテールを揺らして、キラキラとした栗色の瞳で見つめる彼女の体が……半透明でなければ。

 

 

「…何よそれ、タチの悪い冗談のつもり?」

 

「あぁ、これの事? …う〜んとね、簡単に言うと……私死んじゃった。トラックに引かれてそのまま」

 

「…うそ」

 

「じゃあさ、何ではるはるは角膜の移植手術なんて受けられたの? 拒絶反応が起きるかもしれなくて、散々できなくて泣いてたじゃん? 適合してるの、この街で私だけだよ?」

 

「嘘よ!!」

 

「……そこの新聞、見てみなよ?」

 

 

 晴の言葉に従い、遥は恐る恐るその新聞をめくる。

 地方新聞だからか、この街のニュースが主に書かれているので、その記事を見つける事はそう難しくなかった。

 見出しにはこう書かれている、「心優しき少女、視覚障害を持つ同い年の少女を間一髪で救う」と。

 

 

 名誉の死に祭り上げるように、その記事は書かれていた。

 つらつらと並べられた言葉は、脚色されて嘘にまみれた駄文に変わり果てている。

 

 

「…晴? 貴女は、本当に死んだの?」

 

「まぁね。…でも、安心してよ! 四十九日の間だけ、まだ現世に居て良いんだって!」

 

「どういう事? 四十九日って……」

 

「詳しい事は分かんないんだけど、偉そうな角が生えたオジサンがそう言ってた」

 

「…………………はぁ。何がなんだかわからないわ」

 

「私だって、そうだよ? …残り四十二日しかないけど…私はこの時間をはるはるの為に使いたい。良いよね?」

 

 

 有無を言わせぬ気迫があった。

 顔が見えると言うのは、こういう意味で嫌な事なのかもしれない。

 遥はそんな事を考えながら、少し俯いて答えた。

 

 

「好きにしたら。自分の時間をどう使おうが、自分の勝手なんだから」

 

「じゃあ、好きに使うねっ!」

 

 

 半透明な彼女がしがみついてくる。

 そこにはしっかりと温かさがあって、死んでいるとは到底思えない。

 けれど、真っ黒なテレビに反射して映るのは遥一人で、夕焼けに照らされて浮かぶ影も遥の分一つだけだ。

 

 

 まだ、まともに自分の顔すら見ていないのに、彼女は半透明な幼馴染の顔を脳に焼き付けようと見続ける。

 自分が想像していた顔と引くほど似ていたので、嬉しかったが同時に悲しかった。

 

 

(…どうせなら、生きてる間にこうして見たかった)

 

 

 彼女は、この世の理不尽や不条理を知っている。

 神が居ないことを確信している。

 だってそうだろう? 

 生まれた時に『視る』事を奪われて、今度は『視る』事を与えられたが幼馴染を奪われた。

 

 

 自分の過ちを分かっていても、それでもここまでする事ない筈だ。

 奪われて、与えられて、また奪われて。

 神の不在証明に、これ以上の証拠はない。

 

 

(晴が消えるまで残り四十二日。晴が居なくなったら、私は…どう生きていけば良いんだろう)

 

 

 探さなければいけない。

 彼女が繋いだ命を無駄にしたくないのなら。

 探さなければいけない。

 彼女が存在した意味を証明したいのなら。

 

 

 この日、二人の少女は旅を始める。

 一人は、心残りを無くすため。

 一人は、未来を生きるため。

 終わりの為の旅であり、始まりの為の旅。

 暦では七月半ば、二人で過ごす最後の夏休みが始まる。

 




 次回もお楽しみに!

 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!

 感想もお待ちしております!


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残り四十二日(part2)「旅に向けての準備」

 話数の見ずらさがあったので、少し修正しました。


 病院から家への帰り道。

 歩き慣れた道を、少女は──春華遥はどこか物珍しそうな、好奇心に満ちた目で見ていた。

 肩ほどまでに整えられた、濃く鮮やかな茶色の髪。

『視る』ことが許された事で、ようやく仕事を得た純黒の瞳。

 

 

 最後に、通り過ぎる誰もが二度見する程の、整った顔と体付き。

 いつもと違う年相応の少女の顔は、新鮮味があるがミスマッチな雰囲気が漂っている。

 そんな遥の隣を浮いて付き添う晴は、少し苦笑しながら彼女を急かす。

 

 

「はるはる〜。ゆっくり歩くのは良いけど、遅すぎるとオバサン心配しちゃうよ?」

 

「……それもそうね。ペースを上げましょうか」

 

 

 ハッと我に返った遥は、いつも通りの無表情に戻る。

 不機嫌そうにも見えるが、晴からしたら随分機嫌が良さそうに見えた。

 周りに聞かれない程度の小さい声で会話をしながら、帰り道を歩く。

 

 

 元々無かった視力を補う為に、常人より優れた他の五感が遥に帰り道を教えてくれる。

 見慣れぬ景色でも、歩いた感覚はそうそう変わらない。

 自分の感覚だよりに、遥は家と言うゴールまで自力で完走した。

 

 

 最初は、母親である恵子が一人で帰るのを反対したが、主治医である浅川が「いずれはやらなければいけないのだから、早めにやらせても損はない」と言ったので渋々の了承を得たのだ。

 

 

 見慣れぬ家のドアを、慣れた手つきで開けて中に入る。

 すると、入った途端に恵子が玄関に飛んできた。

 

 

「大丈夫!? 怪我とかしてない?」

 

「心配し過ぎよ、母さん。歩き慣れた道で転ぶほど、私は終わってない」

 

「そう……。ご飯が出来るまで少し待っててちょうだい。自分の部屋、分かる?」

 

「二階の奥でしょ? それぐらい分かるよ」

 

 

 恵子の心配の言葉を、遥は辟易とした様子で聞き流し階段を上がっていく。

 優しくしてくれるのは嬉しいが、恵子は過保護が過ぎるのだ。

 …過保護過ぎる割には、遥の部屋を二階にして、日頃から階段の昇り降りの練習をさせているのだが……

 

 

「お邪魔しま〜す」

 

「邪魔するなら帰っていいわよ?」

 

「揚げ足取りしないでよ〜!」

 

 

 階段を昇り、二階の奥にある自室の前まで辿り着く。

 中に誰かが居る訳でもないのに、遥はそっと、初めて見る自室のドアを開けた。

 そこには………………驚く程に何も無かった。

 壁に一定の高さで設置された手すり、寝る為のベット、盲学校の宿題や勉強をするための机、服を入れる為のタンス、最後に唯一の娯楽であるテレビ。

 

 

 殺風景も良い所だ。

 とても、華の女子高校生には見えない。

 …それもその筈だ。

 彼女が『視る』と言う行為を出来ない以上、視覚を必要とする物や、見て癒される物は必要ない。

 

 

 故に、少女らしいぬいぐるみやファッション誌、アイドルの写真集等は存在しない。

 ……いや、ぬいぐるみは触感を味わう為に有っても良いのだが、視力を補う為に中途半端に優れてしまった触感は、並のもふもふ柔らか具合では満足出来ないのだ。

 

 

「何時見ても、殺風景な部屋だね〜。この際、買い物にでも行って、何か買ってくれば?」

 

「…そうしたいのはやまやまだけど、やる事があるからそれは全部が終わってから一人で行くわ」

 

「?? …まぁ、別にはるはるがそれでいいなら良いと思うけど。やる事って?」

 

 

 外に出る事に、遥は不安がない。

 盲学校で一般教養自体は習っているので、外に出ても、周りから見れば、少し世間知らずな女の子…と言った反応で済むだろう。

 バリアフリーが進んでいるこの時代、例え前の状態でも晴が隣に居れば、遥は外に出る事を怖く思うことはなかった。

 

 

 だが、遥のやる事は──やりたい事は、ただ外に出る程度の事でなはい。

 旅だ、旅に出るのだ。

 今まで出た事の無い、自分たちが住んでいる街、埼玉の越谷から旅に出る。

 宛のない旅路ではあるが、目的は有る。

 

 

 ……晴が居なくなった未来で、どうやって生きていくかを見つける旅だ。

 その為には、自分の知らない世界を知らなければならない。

 ようやく仕事が出来るようになった目で、何時も支えてくれた五感たちで、多くのものを知らなければいけない。

 

 

「旅に出るのよ。…私は世界を知らない、井の中の蛙で終わるなんて真っ平よ。……折角貰ったものがあるんだもの、活用しないなんて失礼だし──可笑しいでしょ?」

 

「……ふふ。そうだね。人がどういうものか、社会がどういうものか、自然がどういうものか。色々知らなくちゃいけないね」

 

 

 遥の言葉を、晴はバカっぽい笑顔で返事をした。

 その言葉が嬉しかったから笑って、彼女の口元が少しだけ緩んでいたから、苦しんだ。

 

 

(あぁ〜あ。もっと早く、その顔が見たかったなぁ)

 

 

 過ぎた時は戻らない。

 時間と言う概念は不可逆で、進む事はあれど戻ることは無い。

 ……遥を救う選択に後悔はない、ない筈なのに。

 胸が苦しくなってしまうのは何故なのか、晴はそんな心の内を誤魔化してバカみたいな笑顔を続ける。

 

 

 きっと彼女は、自分のこういう笑顔を望んでいるから。

 

 ──────────

 

「どう? 美味しい?」

 

「いつもと変わらない。美味しいよ」

 

「そう……」

 

 

 安堵したのか、恵子は手を付けていなかった夕食を食べ始める。

 煮魚、きんぴらごぼう、沢庵、豆腐とワカメの味噌汁にご飯。

 味がしっかりと染みた煮魚は甘塩っぱくご飯に合うし、きんぴらごぼうに沢庵もご飯との相性は最高。

 豆腐とワカメの味噌汁は白味噌だけで作られており、食べ慣れた甘い味と温かさが心地良い。

 

 

 

(……違う! 料理を楽しむのは間違ってないけど、言わなくちゃいけない事が…!)

 

「…母さん。私、突然だけど旅に出ようと思うの」

 

「た、旅!? ど、どこに!? と言うか、そんなのダメに決まってるでしょ! 通院の約束も有るし、まだあなたを外に出す訳には……」

 

「…だよね。あっ、そうだ。母さんさぁ、私に黙ってる事有るでしょ? すっごく大事な事。…ううん、大事な人の事」

 

 

 遥の言葉に、隣に浮いていた晴と、正面に座って食事を取っていた恵子が同時に凍りついた。

 恵子に至っては、さっきまでの心配や怒りの表情がなりを潜めて、段々と血の気が引いたような青白い顔になっていく。

 明らかな動揺だった。

 

 

 言葉で言うよりも雄弁に、顔が──雰囲気が語っていた。

 

 

「…ご、ごめんなさい。私、悪気があって黙ってたんじゃ──」

 

「知ってる。母さんが優しいのなんて、昔から知ってるよ。黙ってたのも、術後すぐの私を不安にさせないためでしょ?」

 

「……………………」

 

「無言は肯定って事よね? ……私も、晴の死を知って、まだ時間が経ってないから、全然整理が着いてないんだ。…でも、これだけは分かる。私は、晴の死を悲しんでる…。だけど、私は晴の死を悲しみだけで終わらせたくない。晴から貰った目で、色々なものを見たいし、知りたい」

 

 

 演技ではない。

 本当に悲しいし、本当に苦しい。

 死ぬのは自分の方が良かったと言いたい。

 でも、それは冒涜だ。

 今、隣に居る、自分を命懸けで助けて、色彩のある世界を与えてくれた彼女への……冒涜だ。

 

 

 だから、言えない。

 言ってはならない。

 本当に彼女の事を大切だと思うのなら。

 その言葉を口にしてはいけない。

 

 

「…幾ら欲しいの?」

 

「貰えるだけ」

 

「…はぁ。待ってなさい」

 

 

 恵子はそう言うと、イスから立ち上がり、近くにあったタンスの中をゴソゴソと漁る。

 漁ること数分、分厚い茶封筒を持った恵子が帰ってくる。

 晴が目光らせてそれに手を伸ばそうとするが、遥は睨んでそれを阻止した。

 

 

 その行動の所為で若干違和感を持たれるかと思ったが、恵子は特に気にせず遥の前に茶封筒を置く。

 

 

「…親戚の人達から貰っていたお金よ。あなたの為にって。…最も、あなたは全然物を欲しがら無かったし、私もこのお金に手を出す気は無かったから使ってなかったの。…中には三十万くらい入ってる筈よ、好きに使いなさい」

 

「ありがとう、母さん」

 

「但し、道中お金が無くなったらその時はその時よ。バイトでもしなさい、良い経験になるわ。……どうせ、夏休み丸々使う気でしょ? 普通科高校への転入手続きは勝手に済ませておくわ。晴ちゃんが行っていた所で良いでしょ?」

 

「母さんって、本当は結構サバサバしてるよね。凄く優しいけど、相手と自分でちゃんと境界線を決めてる」

 

「…あなたのやりたい事は、なるべくやらせてあげたいのよ。それと、これ」

 

 

 差し出されるのはスマホ。

 見た事のない遥にとっては、ただの薄い板であり。

 見た事のある──と言うより自分のスマホである晴にとっては、慣れ親しんだ相棒。

 

 

「…はるはる、これ私のスマホだよ!」

 

「母さん、これって?」

 

「スマホよ。聞いた事はあるでしょ? 今時の必須アイテム。…これは晴ちゃんのよ。親御さんたちが、あなたに使って欲しいって。少しでもいいから、あの子のことを覚えていてやって欲しいってさ……。開いて、写真のフォルダ見てみなさい」

 

 

 遥は恐る恐ると言った手つきで慣れないスマホの電源を入れて、事故で奇跡的に助かったスマホを開く。

 パスワードの必要はなく、画面は勝手にホームへと移動する。

 数あるアプリの中から、遥は写真を見つけて、年代別に別れているフォルダからテキトーなものを選ぶ。

 

 

 そこには────

 

 

「私と、晴?」

 

 

 優に数百を超える写真の数。

 全てが全て、遥と晴のツーショット写真だ。

 一枚たりとも、片方で写っている写真はない。

 不気味だと思うより先に、疑問が思い浮かぶ。

 何故、一枚も一人だけで写っているものがないのか。

 

 

「母さん? 何で、私と晴の写真しか無いの? 晴一人とか、私一人とかの写真が無いんだけど。……あと、私の許可無く撮ったであろう写真が何枚もあるんだけど?」

 

「後半は知らないけど。前半の理由は知ってるは。……確か──」

 

「あぁぁぁぁあああ!!! 言っちゃダメ、言っちゃダメだからオバサン!!!」

 

「一人だと寂しそうに見えるから、だったかしら。あとは……そうそう、ずっと一緒に居るって事の証明だって言ってたわ。…直接言うのは、恥ずかしかったみたいだから、私にだけ言っていたは」

 

「へぇ、そうなんだ……」

 

 

 嬉しそうに微笑む遥だが、晴と恵子とで見方が違う。

 恵子の場合は、大切にされている事を喜んでいるんだと思う。

 だが、晴の場合は、新しいオモチャを見つけて喜んでいるだと思う。

 

 

 実際、どっちも正解なのだが、二人は知る由もないだろう。

 

 ──────────

 

「ねぇ、晴? 私の事、凄く大切に思ってくれてたのね。嬉しいわ」

 

「ぅぅぅぅぅう。もうやめてぇ……」

 

「…冗談よ。ほら、旅の支度があるんだから手伝ってちょうだい。まず、タンスから下着を三セット」

 

「……はい」

 

 

 大人しく従う晴。

 遥は機嫌良さそうに、晴から貰った下着やらを、旅行用のスーツケースに詰め込んでいく。

 そこでふと、遥は思い出したように晴に聞いた。

 

 

「晴、少しいいかしら?」

 

「なに〜?」

 

「あなた、スマホにパスワード付けてなかったの? 勝手にホーム画面に飛んだけど」

 

「……私、忘れっぽいからなぁ、付けてなかったよ」

 

「そう。ごめんなさい、変な質問して。さて、準備に戻りましょうか」

 

 

 晴は出来るだけ自然な口調で嘘を吐いた。

 バレたくない一心だったのだ。

 彼女だってパスワードは勿論付けていた、誕生日で。

 

 

(はるはるの誕生日にしてたって言ったら……)

 

 

 弄られることは確定だし、何より……恥ずかしい。

 晴はこの事実を、あの世まで持っていく事を決めたのだった。

 

 

 




 次回もお楽しみに!

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