問題児と時空間の支配者が異世界から来るそうですよ? (ふわにゃんちゃん)
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YES!ウサギが呼びました!
手紙には御注意を


内容は少しずつ変わっていきます。


四月某日、つい先日TVで開花を宣言された桜の木は煽られるかのように次々に花を開き、その鮮やかな桃色の花は青空との対比は万人の心を掴むものであった。

「くあっ………こんな真っ昼間から人の眠気を誘うなんて、春の陽気は罪深いやつだな」

そんな事を桜の下で微睡ながら、桃色のポニーテールの少年、二宮蘭丸(にのみやらんまる)は欠伸とともに呟いた。頭上の桜とよく似た桃色のポニーテールが風に揺れる。初めに断っておくが彼は男、男である。大事なことなので二回言った。

「………にしても暇だな。高校卒業してからいろいろ遊び倒したが、春休み長すぎじゃないか?」

高校を卒業して来週にはイギリスの大学への入学が決まっていた蘭丸は、いろいろと遊び倒していたがいよいよやることが無くなりコンビニでどら焼きとお茶を買って桜が咲き並ぶ河川敷で一人花見と洒落込んでいたところであった。

「あぁ………並行世界とかパラレルワールドとかがあるなら面白そうなんだろうがな………つっても俺じゃあ並行世界に干渉できない(・・・・・・・・・・)しな」

ハハッと笑いながらどら焼きを食べ終わると蘭丸は立ち上がり軽く背伸びを………

「危なーい‼︎」

しようとした時に何処からか、蘭丸に向けてこえをかけられている。声のした方を振り向くと、野球のユニフォームを着た、蘭丸の見たところ中学生くらいの少年と野球ボールが蘭丸の方向へと飛んできていたのだった。

ボール方角は確実に蘭丸に直撃する角度であった。

(ったくここまで予知通りに進むのは面倒過ぎるが………)

「仕方ない………なぁ」

面倒臭そうにに自分に向かってくるボールを眺めていた蘭丸はパチンと指を鳴らした。するとボールは蘭丸の頭に当たる寸前の所で止まっていたのだった。

蘭丸は少し右に避けると再び指を鳴らした。するとボールは再び動き出し、土手に直撃した。バウンドしたボールを蘭丸はキャッチして野球少年に投げ返した。

「すいません!大丈夫でしたか⁉︎」

「いんや、気にしなくていい。当たってないからな」

そう言うと野球少年は帽子を取り一礼し戻っていった。蘭丸はその後ろ姿を眺めていた。

(まったく、楽しそうにやるな。俺も草野球でも………ってなんだありゃ?)

その場を後にしようとした蘭丸の頭上から一枚の便箋が落ちてきた。蘭丸はそれを手に取った。そこには『二宮蘭丸殿へ』と書かれていた。

「俺宛?なんだ何処の誰だ?宛名も書いてないし………遡って見てみるか」

蘭丸はその封書に触れると目を閉じて瞑想する。手紙が蘭丸の手に入るまでの過程を遡って見ているのである。所謂残留思念であるがしかし、

「………どう言う事だ?この手紙の情報途中から出てこない………」

蘭丸の頭上から何処となく現れたところまで遡れだがそれ以降は見ることが出来なかった。

(どんなものにも作られる過程があるはずだが………いや、意図的に隠されてる感じだな………)

その封書は送り主を特定できないような細工がされていた。しかも相当な高次元の力で。怪しさMAXであった。

「開けてみるしかないか………ったく面白そうなことに………」

笑みを浮かべた蘭丸はそれがどの様にして届けられたのかは考えるのをやめて中身を確認することにした。

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。そのを才能(ギフト)試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの"箱庭"に来られたし』

「は?ギフト?箱庭?一体なんのこと…」

その瞬間、蘭丸は世界から姿を消した。

 

 

 

 

(どうしてこうなった…)

現在蘭丸は遥か高い上空に来ていた。そして同時に落下。

彼らが見たものは地平線と世界の果てを彷彿させる断崖絶壁。

そう、完全無欠の異世界だった。

 

 

箱庭二一〇五三八〇外門居住区画、第三六〇工房………

「上手く呼び出せたかな、黒ウサギ」

「ですねぇ。ジン坊ちゃん」

黒ウサギと呼ばれる、ウサ耳を着けている少女とジン坊ちゃんと呼ばれるダボダボのローブを来た少年はそれぞれ違う表情を浮かべていた。

「何から何まで任せて悪いけど…彼らの迎えをお願いできる?」

「承りましたのですよ!」

「本当に彼らの来訪は、僕らのコミュニティを救ってくれるのかな…」

ジンは不安な表情で黒ウサギに問う。

「さあ。ですが主催者曰く彼らは…

 

 

 

 

 

人類最高峰のギフトの保持者だと」

 

黒ウサギとジンがそんな話をしている時に彼らは落下中であった。

「「「ど、何処だ⁈此処」」」

突然のことに蘭丸以外の三人もそれぞれ個人差はあれど、驚きを述べていた。

(下は湖か………俺は大丈夫だが普通の人なら下手しなくても死ぬな)

落下中のさなか、蘭丸は現状の把握をしていた。

(他にも三人いるな、見た感じ空を飛べそうにもなさそうだしな…)

蘭丸は他の三人を見て空中を飛翔したり浮遊したりできないと考える。

「……仕方ない…むん!」

蘭丸が三人に向けて集中を高める。そうすると三人の体は空中で止まった。

「え⁈」

「こりゃあ…」

「どうなってるの?」

三人は自分が空中で体が止まってる事に驚きを隠せないでいた。

三人はおそらくだろうと思われる落下中の少年を見ていた。

そう…落下中である。

「ふう…なんとか間に合っ…ぶぶっ⁉︎」

他の三人に気を取られすぎた蘭丸、自分の身の心配をすっかり忘れていてそのまま大きな水柱を立てた。

「「「あ…」」」

『ぎにゃああああああああ‼︎お、お嬢おおおおおおおお‼︎』

彼が水に落ちたのを境に他の三人と一匹ももそれぞれ水に落ちた。

 

 

「し、信じられないわ!いきなり呼びたしといた挙句、空に放り出すなんて」

福を絞りながら不満をこぼす、お嬢様風の少女。

「右に同じだクソッタレ。下手すりゃその場でゲームオーバーだぜコレ!これなら石の中に呼び出された方が親切だ!」

金髪の学ラン姿の少年も同じ様に文句を言っている。

「いえ、石の中に呼び出されたら動けないでしょう?」

「俺は問題ない」

「そう…身勝手ね」

 互いにフン、と鼻を鳴らし不満げに服を絞る。三毛猫を抱き抱えている少女は辺りを見回し

「此処…何処だろう」

「さあな、世界の果てっぽいのが見えたし、何処ぞの大亀の背中なんじゃねえの?」

四人は少し黙った後に金髪の少年が見回しながら話し始めた。

「一応確認しておくが、お前らにもあの変な手紙が?」

「ええ。それと、そのお前って呼び方訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後気をつけて、そしてそこの猫を抱えている貴女は?」

「…春日部耀。以下同文」

お嬢様風の少女、久遠飛鳥の呼ばれ方に不満があるのか少しムッとした顔で簡潔に自己紹介を済ませるとまた猫の方を向く。

「そう、よろしく春日部さん。そしてそこの野蛮で凶暴そうな貴方は?」

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪、快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用量と用法を守った上で適正な態度で接してくれよ、お嬢様」

金髪の少年、逆廻十六夜は飛鳥に明らかに喧嘩を売る様な物言いであった。

「そう、取り扱い説明書を用意してくれたら、考えてあげてもいいわ十六夜君」

「ヤハハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しておけよ」

流石はお嬢様と言ったところだろうか、十六夜の言葉を簡単に受け流した。しかし互いに火花を散らしていた。

 

「それとそこの奇妙な髪色の貴方は?」

飛鳥はジャケットを絞りながら湖を観察していた蘭丸に声をかけた。

「奇妙って………まあ初めてじゃないが………俺は二宮蘭丸、よろしく、飛鳥さん」

「そう…よろしく」

飛鳥は初対面でいきなり名前を覚えられたことに少し驚くがすぐに落ち着きを取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

(うわあなんだか問題児ばかりですねえ)

黒ウサギは物陰から四人を眺めていた。

心からケラケラと笑う逆廻十六夜

傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。

我関せずと無関心を続ける春日部耀

何処からともなく出したお茶を飲んで地面に寛いでいる二宮蘭丸

彼らが協力するとは到底思えなかった黒ウサギは静かにため息をした。

「んで呼び出されたのはいいけど、なんで誰もいないんだ?そろそろ説明役が出て来てもいい頃だろうが」

「そうね、説明なしじゃ動き用がないものね」

「…この状況で落ち着きすぎているのもどうかと思う」

「その言葉そっくりそのまま君に返すよ」

(ごもっともです‼︎もう少し慌ててくれないと黒ウサギが出辛いではありませんか)

黒ウサギはこっそりとツッコミを入れた。少しでも慌ててくれていた方が黒ウサギとしても出ていきやすかったが、落ち着きすぎていてしかも召喚方法がアレだった為、鬱憤も溜まっている。黒ウサギは完全に出るタイミングを失っていたのだ。

(悩んでいても仕方ないデス。これ以上不満が噴出する前にお腹を括りますか)

「仕方がねえ。こうなったらそこに隠れてる奴にでも聞くか」

覚悟を決めて出ようとした、黒ウサギは心臓を掴まれた様にビクッと驚いて再び木に隠れた。

「あら、貴方も気づいていたの?」

「当然、かくれんぼじゃ負けなしだぜ。そこの猫を抱えた奴も、本気に茶を飲んでる奴も気づいてるんだろ」

「…風上に立たれたら嫌でもわかる」

「普通に見えるさ」

「へえ?お前ら面白いな」

どんどん四人の機嫌は悪くなり、空気も悪くなっている。そんな殺気を向けられた黒ウサギはオドオドとしながらそーっと顔を出した。

「や、やだなあ皆様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたらうれしいでございますヨ?」

「断る」

「却下」

「お断りします」

「どの口が言ってんだ?」

「あっは、取り付くシマも無いですね♪」

黒ウサギはバンザーイ、降参のポーズをとっていた。

(どうやら肝っ玉と勝ち気だけは及第点ですね。この状況でNOと言えるとは…扱いずらいのが難点ですね)

黒ウサギが冷静に四人を値踏みをしていると、黒ウサギの後ろを耀がとって

「えい」

「ふぎゃ⁉︎」

思いっきり耳を引っ張った。

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますがいきなり黒ウサギの素敵耳を引っこ抜きにかかるとはどの様な了見ですか?」

「好奇心の為せる技」

「自由すぎるのにも程があります‼︎」

黒ウサギは耀から離れるが

「へえ、このウサ耳本物なのか」

右耳を十六夜が

「じゃあ私も」

左耳を飛鳥が

「ちょ、ちょっと」

黒ウサギは涙目で蘭丸を見る。

すると黒ウサギは十六夜と飛鳥のところから消えて、黒ウサギは蘭丸のいたところにいた。

「あ、ありがとうござ…ひゃん⁉︎」

黒ウサギが感謝を述べようとしたら蘭丸は黒ウサギの耳を撫でていた。

「おお、このウサ耳凄い触り心地いいな」

蘭丸は目を爛々とさせながら黒ウサギの耳を撫でる。

「あは…ちょ、ちょっと……」

黒ウサギの壊れた様な笑い声は森に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
取り敢えず一話書けました。リメイク前を参考にしながら少しずつ書いていきます。どうぞよろしく


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ようこそ箱庭へ

「ーーーーあ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況に違いないのデス」

「いいからさっさと進めろ」

「いや、すまんちょっとやり過ぎた………」

半ば本気の涙を浮かべている黒ウサギ。蘭丸が暫くウサ耳を弄り倒した後解放された黒ウサギは、再び十六夜と飛鳥にウサ耳を引っ張られ、蘭丸が止めに入るまで続いた。流石に黒ウサギを哀れんだ蘭丸は彼女を救出し謝罪した。

他の三人はは黒ウサギの前の岸辺に腰掛け『聞くだけ聞こう』と言うスタンスである。ここまでくると黒ウサギが哀れである。

「それではいいですか、定例文で言いますよ? 言いますよ? さあ、言います! ようこそ、“箱庭の世界”へ! 我々は皆様をギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうかと召喚しました!」

「ギフトゲーム?」

「そうです。既に気付いていらっしゃるでしょうが皆様は、普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその“恩恵”を用いて競い合うためのゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に作られたステージなのでございますよ!」

両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギ。質問の為に飛鳥は挙手した。

「まず初歩的な質問をいいかしら。貴女の言う“我々”とは貴女を含めた誰かなの?」

「YES! 異世界から召喚されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多となる“コミュニティに必ず属していただきます」

「嫌だね」

「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの“主催者(ホスト)”が提示した商品を手に入るシンプルな構造になっています」

「………主催者って誰?」

耀はすっと手を挙げる。

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が試練と称したギフトゲームを主催している場合やコミュニティが力の誇示のために展開しているギフトゲームなどがあります。前者の場合は凶悪な難題で命を落とす危険もあります。その分見返りは大きく新たな“恩恵(ギフト)を手に入れることも夢ではありません。

後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればすべて“主催者”のコミュニティに寄贈されるシステムです」

「前者はともかく後者はカジノとかに近いシステムだな………それでチップはどう言うものが対象になるんだ?」

「それも様々ですね。金品の他にも土地、利権、名誉、人間………そして己のギフトを掛け合うことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームを挑むことが可能です。ただしギフトゲームに敗北すればご自身のギフトを失うことになりますので悪しからず」

黒ウサギは笑顔の裏に黒い影を見せる。

「まあ当然だよな。リスクとリターンは公平にあるべきだしな、双方の合意があるゲームならその公平性は保証されてるんだよな」

「そうね…ゲームそのものはどうやって始められるの?」

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければ!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加してみてください」

黒ウサギの言葉に飛鳥が反応する。

「…つまりギフトゲームはこの世界の法そのものと捉えてもいいのかしら?」

「鋭いですね。しかしそれは八割正解二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか! そんな不逞の輩は悉く処罰しますが、先ほどそちらの方がおっしゃった様に、ギフトゲームの本質は勝者が得をするもの! 例えば店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればただで入手することも可能だと言うことですね」

「なかなか野蛮ね」

「ごもっともしかし全て主催者の自己責任でゲームが開催されております。つまり奪われたくない腰抜けは始めからゲームに参加しなければいい話のです」

一通り説明し終わったと思ったのか黒ウサギは一枚の封書を取り出した。

「さて、皆さんを召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それらをすべてを語るには少々お時間がかかるでしょう。ここから先は我らのコミュニティでお話しさせていただきたいのですが………よろしいですか?」

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ?」

ここまで静観していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。先ほどまでの軽薄そうな笑顔がなくなっていることに気づいた黒ウサギは構えるようにして聞き返す。

「………どういった質問です? ルールですか? ゲームそのものですか?」

「そんなのはどうでもいい?腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただした所で何が変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは………たった一つだ」

十六夜は黒ウサギから視線を外すと他の三人、そして辺りを見回した。そして一言、

「この世界は………面白いか?」

他の三人も無言で返事を待つ。

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と、手紙には書いてあった。それら全てを捨てるに値するものなのかそれが一番重要だった。

黒ウサギは安心したような笑みを浮かべて

「YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者達だけが参加できる神魔の遊戯。箱庭世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 




黒ウサギって弄ると光る存在だよなー(棒)


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世界の果てまで行って………

ちゃんと書いたつもりですが大きな力が働いたのかこの先の文字は掠れて読めないですね。
かゆ………うま的な?


 

 

 

二一〇五三八〇外門。ペリベッド通り・噴水広場前。

「ジン〜ジン〜ジン〜! 黒ウサの姉ちゃんまだ箱庭に戻ってこねえの〜」

「もう2時間近く待ちぼうけでわたし疲れたー」

箱庭の外壁と内側を繋ぐ階段の前で戯れる子供達が次々に不満を漏らす。「………そうだね。みんなは先に帰ってていいよ。僕は黒ウサギと新しい仲間をここでまっているから」

ダボダボのローブに跳ねた髪が特徴的な少年、ジンは取り巻きの子供たちに帰るように指示を出す。

「じゃあ先に帰ってるなー。 ジンもリーダーで大変だけど頑張れよなー」

ワイワイと騒ぎながら帰路につく少年少女たちと別れたジンは石造りの階段に腰を下ろし座り込む。

(もし黒ウサギが連れてくる新しい人たちが使えない人達なら僕らは箱庭を捨てて外に移住するしかないのかな)

ジンはまだ見ぬ新しい同士に期待を寄せずにはいられなかった。ジンのコミュニティはとある事情がありジンと黒ウサギを除いて幼い子供たちばかりだ。力のないコミュニティは衰退し、やがては消滅の道を辿ることになるのだ。

宛のない旅路となるのは何としても避けたかった。

「ジン坊ちゃーん!新しい方を連れて来ましたよー‼︎」

ピョンピョン跳ねながら黒ウサギはジンに呼びかける。ジンはその呼びかけに応じて立ち上がる。

「おかえり黒ウサギ。そちらの女性二人が?」

「はい。この御四人様が……」

途中まで言いかけた黒ウサギは固まった。

女性二人、つまり十六夜と蘭丸が着いて来ていないのだ。

「え?あの〜もう二人いませんでしたっけ?全身から“俺問題児”ってオーラを出しているヘッドフォンをつけた方と、何処か不思議なオーラを出している方は?」

「ああ、十六夜君なら『ちょっと世界の果てを見に行って来るぜ!』って走って行ったわ」

飛鳥が指差す方向には断崖絶壁があった。

「な、なんで止めてくれなかったんですか?」

「止めるなよって言われたのだもの」

「ならせめて黒ウサギに行ってくれても‼︎」

「黒ウサギには言うなよって言われたから」

「絶対嘘です。本当は面倒臭かっただけでしょう⁈」

「「うん!」」

なんの悪びれもせずにどうどうと言ってのけた飛鳥と耀。やはりこの二人も相当な問題児であると思う黒ウサギであった。

だが直ぐに次の疑問が黒ウサギの頭の中に浮かび上がり顔を上げる。

「そ、そういえば蘭丸さんは?蘭丸さんも十六夜さんについて行ったのですか 」

四人の中では一番の良心と思っていた蘭丸の不在に黒ウサギは涙を浮かべながら二人に詰め寄った。

「ううん、蘭丸は『ちょっと急用できたから先に行ってくれ』って言ってた」

「『ついでに十六夜も連れ帰ってくるから安心しろ』って言ってもいたわ』

「あーそうですか!それなら安心……な訳ないでしょう、このお馬鹿様‼︎」

黒ウサギのノリツッコミで頭を叩かれた二人は「理不尽」とむつけた。

「た、大変です!世界の果ての付近にはギフトゲームの為野放しにされている幻獣達が‼︎」

「幻獣?」

「はい、強力なギフトを持った獣で、“世界の果て”には特に強力なギフトを持った種もいます。普通の人間では太刀打ちできません」

「あら、それじゃあ彼等はもう既にゲームオーバーって事かしら」

「ゲーム前にゲームオーバーって…斬新」

「何だよその玄人向けのゲームみたいなノリ」

「冗談を言っている場合じゃありません‼︎……って、え?」

「「え?」」

「?」

黒ウサギ、飛鳥、耀は驚きの表情を浮かべ、ジンは何が起きてるのかが分からないでいた。

「ら、蘭丸さん?戻って来ていたのですか?」

「いや、これは俺の分身だ」

「ぶ、分身ですって?」

「身体を分裂させるギフト?そんなことより…」

「まあ詳しいことは機会があったら話すからさ。勝手に飛び出した手前、黒ウサギに伝え忘れたことがあってな」

何か大切な事なのかと思い黒ウサギは耳を傾ける。

 

 

 

 

 

「『晩御飯までには帰る』って」

…とてつもなく下らない事を伝えて分身は消滅する様な形で消えて行った。

「あ、あの問題児様方はー‼︎」

叫んだ後、黒ウサギは地面にへにょりと座った。

「ジン坊ちゃん…お二人の案内をお願いします。黒ウサギはあの問題児様達を捕まえに行きます。“箱庭の貴族”と謳われる黒ウサギを愚弄したことを骨の髄まで後悔させます‼︎」

黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、艶のある黒い髪を淡い緋色に染めていく。

「半刻程で戻ります‼︎お二人はしばらく箱庭ライフをご堪能下さい」

黒ウサギは弾丸の様な速さで跳躍し森へと消えて行った。

「……箱庭のウサギは随分早く飛べるのね、素直に感心するわ」

風でなびく髪を抑えながら飛鳥が素直な感想を述べる。

「ウサギたちは箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが……」

ジンは心配そうな顔をしている。

「そう、なら此処はお言葉に甘えて、箱庭を堪能しましょう。貴方がエスコートしてくださるの?」

「は、はい。僕はジン=ラッセルです。十一歳の若輩者ですがコミュニティのリーダーをしています。」

「よろしく私は久遠飛鳥よ。そちらの猫を抱えているのが」

「春日部耀」

「ではこちらへ、軽いお食事でもしながらでもお話を」

ジンはそう言いながら飛鳥と耀を箱庭の外門にくぐらせる。

 

 

 

 

 

 



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ギフトゲーム

かなり久しぶりの投稿になりました。
感覚が空きすぎて同じ作品を書いてるとは思えなかったですが興味のある方は是非!


時間は十六夜が離脱する前に遡る。性格は兎も角、強力な同士を迎え入れることが出来た黒ウサギはウサ耳をウサウサ揺らしながら先頭を進んでいた。

一番後ろを歩いていた十六夜は暇そうな顔をしていた。

(あぁ、暇だな………ただ歩いてるだけってのも退屈だな)

先頭の黒ウサギを見ると明らかに浮かれている。こっそりと、そして一瞬で離れれば気付かれないだろう。そう思った十六夜は踵を返し………

「おい待てコラ! エスケープには早過ぎんぞ」

「っうお!」

面倒臭そうな顔をした蘭丸に肩を掴まれ走り出すことは叶わなかった。

驚き声を上げた十六夜。勘付かれたとこは然程驚きはしなかった。十六夜は直感で自分以外の3人の中では恐らく自分と対等な実力があると感じていたが、それでも走り出す前に捕まるとは思っても見なかった。

「なんだよ、なかなかやる奴だとはおもっていたが、まさか俺が捕まるなんて思っても見なかったぜ」

「馬鹿野郎がこんな早さで逃げ出す奴なんて………そこいらのヤンキーでも修学旅行くらいは真面目に参加してるわ」

「安心しな、俺は修学旅行は単独行動の方が得意なんだよ」

「その発言の何処に安心する要素があるんだよ」

十六夜は掴まれた刹那こそ驚きはしたが直ぐにいつもの調子に戻りヤハハと笑う。蘭丸は心底面倒くせぇと思いつつ十六夜を逃すつもりはなかった。

「なんだよ、ちょいと世界の果てを見に行こうってだけだ。なんの問題もねえだろ?」

「大有りだ、そんな便所行くノリで行かせられるか」

世界の果てを見に行くと言う十六夜、先程の黒ウサギの説明から箱庭は人外魔境の世界、この世界のことを理解しない中での行動としては絶対に面倒臭そうになると蘭丸の勘が警鐘を鳴らしていた。

(コイツが今何処かに行ったら確実に面倒臭い。………まあ後は黒ウサギに適当に………)

押し付けてしまおうと蘭丸は何故か未だに気付かない先頭の黒ウサギの方を向こうと振り返ったその瞬間

 

『ーーー、ーーーGaーーー』

「ッ⁉︎」

蘭丸は突如頭の中に聞こえた声・・・・・・・・・に反応してしまい十六夜から意識が離れてしまった。

「ヤハハハ!じゃあまた後でな!」

「は⁉︎ オイ‼︎」

その僅かな隙を見逃さなかった十六夜は途轍もない速さで消えて行った。直ぐに追いかければ捕まえるのは訳がない速度だとは思ったが蘭丸はその前に感じた謎の声の存在を思い出した。

(………まあアレを調べてから十六夜連れ戻すか………)

とりあえず蘭丸は黒ウサギを呼び止めようとしたが先程のやりとりの中黒ウサギは今も全く気づかずに呑気にウサ耳を揺らしていた。

「………まあ後で謝ればいいか」

一気に面倒臭くなった蘭丸は一応気づいていつつ無視していた飛鳥らに伝言だけを残してちょっとした寄り道に向かった。

 

 

 

 

「っかしーな。この辺りのはずなんだがな………」

黒ウサギが十六夜と蘭丸がいないことに気づき項垂れている頃蘭丸は独特の気配を頼りに森の中を疾走していた。

(あの気配………まさかだとは思うが………)

十六夜を逃がす原因となった謎の気配、実は蘭丸には身に覚えのあるものであることは未だ先の話ではあるが………

「………黒ウサギにはちょっと悪い事をしちまったが………」

黒ウサギの下に残した己の分身から共有された黒ウサギの姿を見た蘭丸は流石に伝えればとは思ったがあの場で黒ウサギが十六夜を追いかけるのは飛鳥と耀の事を考えると黒ウサギには案内を続けてもらう方が良いと考えての判断だった。

(まあ黒ウサギも俺たちに秘密にしてる事があるみたいだしそれに関しては後から聞き出してやるか)

『ーーーGaaーーーaaaaーーー』

「っとここの辺りか」

どうやら気配を見つけたような蘭丸は何もない空中に両手を伸ばし、何も無いはずの空中を掴むように握る。すると何も無いはずの空間が歪み始めた。

「っとビンゴだな、こいつを………フンッ!」

歪んだ空間を掴みそのまま広げる。その歪みは何者にも例え難い禍々しさを放っていた。

「こいつは………やっぱりか、ったくどんな因果だよ」

「なっ………なんでございますかこれは⁉︎」

「お、黒ウサギか?」

やっとの思いで蘭丸に追いついた黒ウサギは目の前の光景に理解が追いつかない様子であった。

「思った以上に早かったな、ものの1時間で追いつくなんて」

「む、それは当然です!黒ウサギは“箱庭の貴族"と謳われる優秀な貴種です。その黒ウサギが」

アレ?と黒ウサギは首を傾げる。

(黒ウサギが半刻もの間追いつけなかった………?)

黒ウサギは箱庭創造主の眷属として強力なギフトと権限を有しており並修羅神仏では手を出せない程である。

十六夜と蘭丸、二人の身体能力は人間とは思えないものであった。何より、蘭丸が作り出した時空の歪み、ギフトとしても破格のものである。

「そ、そんな事よりこれは一体なんなのですか⁉︎」

「見ての通り時空の歪みだ。まさかこの世界にまであるとは思わなかったが………」

「蘭丸さんはご存知なのですか?蘭丸さんはいったい………」

「まあその辺りは追々話すさ。黒ウサギのコミュニティの話を聞いた後にさ」

「えっ…」

「俺はこいつを処理してから行く。黒ウサギは十六夜の方に行ってきてくれ」

「あ! 蘭丸さん!」

蘭丸が時空の歪みに入って行った後を黒ウサギも慌ててついて行く。孔に入り込むと視界は闇に覆われており、気味の悪さのみが視界を覆っていた。それでも歩を進めていくと一筋の光が差し込み、闇の中から抜けた先にあるのは、先程の森の中ではあったがその情景は先程のモノとは全くの別の世界であった。木々や空、目に映る全てが灰色に染まっていた。

「な………ッ!」

黒ウサギは目の前に広がる光景に目を奪われた。黒ウサギも長年箱庭に身を置いていたがこんな世界があるとは思っても見なかった。

「ここは世界の裏側だ。現実の世界の狭間にある世界を維持する空間で並行世界とを繋がる役割を持つ空間だ………つーかなんで黒ウサギついてきたんだよ」

「と、当然です!蘭丸さんをお一人には出来ません!」

「なんか悪いな………っとこの紙は………」

突如目の前に落ちてきた羊皮紙を蘭丸は手に取った。

【ギフトゲーム“世界の楔”

 ・勝利条件

ホストの打倒

 隠された宝玉を掲げ世界を繋げよ

 ・敗北条件

プレイヤーの死亡

 ・ゲーム概要

  このゲーム盤に入った者はプレイヤーとしてギフトゲームを了承したものとし途中棄権は認められていません。

 

“???”印】

「これがギフトゲームか?」

「はい、この“契約書類”ギアスロールはギフトゲームとして成立したことを意味します。多少強引ではありますがギフトゲームとしては問題はありません」

「なら、クリアも出来るって事だな。それじゃあ十六夜も連れ戻さなきゃだし、さっさとクリアするか」

「あ! 待ってください蘭丸さん! まだどんな罠があるか………」

迷いなく疾走する蘭丸を今度は見失わない為に黒ウサギも慌てて駆け出した。

 

 

「さて、着いてこれてるか、黒ウサギ」

「はいここまで来るのは大変でしたが………」

ゲーム開始から黒ウサギはゲーム盤であるこの世界に翻弄されていた。

「重力が変わったり、歪んだり………法則がめちゃくちゃです!」

「十六夜辺りだと逆に楽しみそうだな」

「もうっ!笑い事じゃありません!」

ウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギにカラカラと笑う蘭丸。

「それにしても、蘭丸さんはこの世界に着いて知ってるようですが」

「ああ、後このゲームの勝利条件だけどな………」

「蘭丸さん!!!」

黒ウサギの声と同時、蘭丸は頭上から落ちてきた何かによって押しつぶされていた。

「GYAaaaaaaaaa!!」

「な………ッ⁉︎」

蘭丸を押し潰したものは十五寸はあるだろう巨大な黒龍であった。

「な、竜種⁉︎最強種の一角がこんな所に⁉︎」

「違う。 あいつは見た目だけ龍を真似た別モンだ」

押し潰されたと思っていた蘭丸は黒ウサギのはるか頭上にいた。その身には傷一つ負っておらず寸前で躱していたようだ。

「蘭丸さんッ‼︎」

「見てな、このゲームのクリアの仕方を………ハアッ!」

「GOAaaaaaaaa!!!!!!!」

空中を蹴り途轍もない速さで竜に突撃する蘭丸に対して黒龍も雄叫びを上げると眩い光を口に束ね始めた。黒龍は目の前の人間を脅威と捉え己の最大の火力で迎え撃つつもりであった。

「あの威力では………ッ! 蘭丸さん!」

「へぇ、確かに強力な光線なんだろうが………」

蘭丸はニヤリと笑うとその姿を消し、一瞬の間に間合いを詰め黒龍の大顎に蹴りを入れた。光線を溜めに溜めていた黒龍は自身の光線で暴発し、頭が消し飛び力無く倒れた。

『GI…GA………』

「嘘………ッ⁉︎」

目の前の奇跡に黒ウサギは目を疑った。目の前の敵は竜種では無かったが霊格の質はとても人間の打倒出来る存在では無かった。

(主催者の言う通り………本当に人類最高クラスのギフトを所持しているのなら………!私達のコミュニティの再建も夢じゃないかもしれません!)

黒ウサギは目の前の蘭丸を見て内情を抑えられずにいた。

「黒ウサギ! ボーッとしてんな。さっさとクリアして帰るぞ」

「え?あ、ハイ!ですが敵は蘭丸さんが倒して………」

「まだだ、勝利条件はもう一つあっただろ? “宝玉を掲げ世界を繋げよ”って」

「あ、そうでした、ですが宝玉とは………蘭丸さんは何かわかったのですか?」

「ああ、さっきも言ったがこいつは見た目だけ竜を形どった別モンだって」

蘭丸は倒れた龍の胸部分に黒く輝く宝玉を抜き取る。宝玉を抜き取られた龍は朽ちるようにその身体を維持できず崩れ落ちていった。

「もしかして………宝玉が本体だったのですか⁉︎」

「ああ、そしてこれを掲げれば………」

蘭丸がその宝玉を空に掲げると灰色に染まっていた世界が色を取り戻して行くかのように光を浴びていった。

「さて、ゲームクリアだ。早く十六夜を探しに行こうぜ」

 

 




リメイク版とはさらに違う内容とはなっていますが大筋は変わらなくなるかと思います。どうぞよろしくお願いします!


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魔王とは

黒ウサギって弄られる呪いでもかかってるのかな(すっとぼけ)
(2022/09/0823:02頃加筆修正しました)


 突然のギフトゲームではあったが蘭丸が難なくクリアしゲーム盤からも脱出した黒ウサギは急いで十六夜のの向かった“世界の果て”のあるトリトニスの大滝に向かった。十六夜はそこに住む水神にギフトゲームを挑んでいた。

身の丈三○尺超の“神格”と呼ばれるギフトを保有する蛇神を相手に力で捩じ伏せてしまったのだった。

(蘭丸さんも凄まじい力の持ち主ですが十六夜さんもデタラメな力の持ち主です………!)

「おい、どうした黒ウサギ。ボーッとしてると胸とか脚とか揉むぞ?」

「え、きゃあ!」

黒ウサギが惚けている隙に背後に移動した十六夜は黒ウサギの脇下から豊満な胸に、ミニスカートとガーターの間から脚の内股に手を伸ばしていた。驚いて押し退けた黒ウサギは遠くに離れていた蘭丸の影に隠れる。

「な、ば、おば、貴方はお馬鹿です⁉︎ 二百年守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけるつもりですか⁉︎」

「二百年守った貞操? うわ、超傷付けたい!」

「お馬鹿様⁉︎いえお馬鹿‼︎」

「さっきまでの感動してたっぽい黒ウサギの感情返してやれよ………流石に気の毒だ」

 疑問形から確定形に言い換えて罵る。蘭丸も黒ウサギが不憫に思い溜息を漏らす。当の本人は何の悪びれもせずにヤハハと笑うだけであった。

 黒ウサギの嗜虐心を擽る愛らしさ故に今まで彼女を狙う賊は数えきれないほどであった。

 しかし今まで彼女の身体を触れることの出来る相手などいなかった。蘭丸といいこの十六夜の二人の保有するギフトとその実力の底は黒ウサギでも測ることが出来なかった。

「にしても大したモンだな十六夜、そこで伸びてる蛇それなりな感じだったが」

「まあそれなりに楽しめたが大して本気じゃない。つーかオマエの方があの蛇より強いだろ?」

「まあ、そのうち見せてやるよ。因みに多分俺の方がちょっと強いぞ?」

「へぇ………チープだが嬉しい挑発してくれるじゃねえか」

互いに笑みを浮かべる二人だがそれは微笑ましい部類に入るものでは無く、火花を散らしていた。

「と、とにかく十六夜さんは神仏のギフトゲームに勝利しました! ギフトを戴きましょう!」

穏やかではないムードを振り払おうと明るく二人の間に割って入った黒ウサギ。十六夜は怪訝な顔で黒ウサギを見つめ返す。

「神仏の用意するギフトゲームでは“力”と“知恵”と“勇気”を試す物が最もポピュラーで本来力を示すギフトゲームは相応の相手を用意されますが、十六夜さんは神仏本人を倒したので相当な物が貰えると思います。これで黒ウサギのコミュニティは更に力を付けることが出来ます♪」

ウキウキで伸びている蛇神の元へ行こうとする黒ウサギだが前後を十六夜と蘭丸に挟まれていた。

「「─────」」

「な、何ですかお二人とも。何か黒ウサギが気に触ることを言いましたか?」

「あぁいや、ソッチのことじゃない。敵を倒してレアアイテムゲットってなる前に一つハッキリさせておきたかったことがあってな」

「奇遇だな、俺も同じだぜ。なあ黒ウサギ」

蘭丸は兎も角先程まで軽薄そうな顔で笑っていた十六夜さえも笑みを無くし黒ウサギも自然と表情が固くなる。

「────オマエ、俺達になにか決定的な事をずっと隠してるよな?」

「………何のことです?ギフトゲームについてのことならなんでも答えると」

「いや、俺が聞いてるのはそんなことじゃない。はっきり言うがなんで黒ウサギ達は俺達を呼んだんだ?」

黒ウサギは表情は懸命に取り繕ってはいるが内心は動揺していた。

「………それは十六夜さんたちに箱庭でオモシロオカシク過ごしてもらおうと」

「まあ、それも嘘ではないんだろうな。だけど黒ウサギの態度を見てるとなんかちょっと必死さを感じるって言うかな」

「ああ、俺の予想を言わせてもらうが黒ウサギのコミュニティは弱小コミュニティか、衰退したコミュニティなんじゃないのか?」

「………ッ‼︎」

 黒ウサギは心で舌打ちをした。まさかコミュニティ加入前に知られてしまった。コミュニティに所属さえしてしまえばコミュニティの再建を手伝わざるを得ないからだ。

 知られてしまった以上その計画も頓挫するだけでなくそれに怒って他のコミュニティに加入されてしまっては元も子もない。

(せめてコミュニティ加入後であったのなら………!)

「さて黒ウサギ。ちゃんとお前の口から説明ぐらいしてもらわないと俺も十六夜もお前のコミュニティに入ることは出来ないぜ?」

蘭丸は濡れたシャツの袖を捲りながら

「ああ、まだ俺たちは所属してないしな、ここから他所のコミュニティに行っても良さそうだ」

「だ、駄目ですッ! おふたりが居なければ………分かりました、お話ししましょう………黒ウサギ達のコミュニティの現状を!」

他所のコミュニティに行かれてしまうのならと覚悟を決めた黒ウサギに二人は岩に腰を掛けた。生唾を呑み込むと黒ウサギは話し始めた。

「まず私達のコミュニティには名乗るべき名がありません。よって呼ばれるときは名前の無いその他大勢“ノーネーム”と蔑称で呼ばれます。さらにコミュニティの誇りでもある旗印もありません」

「成程、“ノーネーム”(名無し)ってことかそれでコミュニティのメンバーはどのくらいいるんだ?」

「………コミュニティの中核を為すメンバーは一人も残っていません。ギフトゲームに参加できるギフトを持っているのは黒ウサギとリーダーのジン坊ちゃんだけで、後はギフトゲームに参加できない子供が百二十人なのですよ」

「もう崖っぷちだな!」

「本当ですね♪」

 ウフフと笑いながら項垂れる黒ウサギ。改めて自身のコミュニティの現状を自身の口で語って返って笑えて来たのであった。

「だがなんでそうなったんだ、黒ウサギのコミュニティは。最初から名前が無いってことはなかったんだろ?」

「YES、私達のコミュニティはかつてはこの箱庭において栄華を極めたコミュニティでそれこそギフトゲームでも連戦連勝でした。ですが箱庭を襲う最大の天災───“魔王”によって全てを奪われたのです」

「「ま………魔王⁉︎」」

その単語を聞いた十六夜は目を輝かせ、蘭丸は驚愕で目を開いた。

「なんだよそれ、箱庭にはそんな素敵ネーミングなヤツがいるのか⁉︎」

「ええ、でも十六夜さんが思い浮かべている魔王とは少し違うと思いますが」

「魔王に奪われたって………ギフトゲームでなのか?それは俺や十六夜の受けたギフトゲームとは何が違うんだ?」

「ええ、そもそも箱庭においての魔王とは“主催者権限”(ホストマスター)という特権階級を持つ修羅神仏のことで、普通のギフトゲームが両者の合意の元に行われるのに対して魔王にギフトゲームを挑まれたら最後、誰も逃げることが出来ません。そして負ければ全てを奪われるのです」

全てとは比喩表現では無い。文字通り黒ウサギのコミュニティは魔王のギフトゲームに敗北し小さな子供達と荒廃した土地を残して全てを奪われたのであった。

「質問なんだがコミュニティって一度解散してまた作り直すって出来ないのか?新しく名前と旗印が有れば出来ることも増えると思うんだが」

「そうだな、自分達の縄張りを主張出来ないのは痛すぎるな」

蘭丸の質問に十六夜も同調したが黒ウサギは言い淀む。蘭丸の言っていることは正論であり彼等が来なければ組織として認められず、ギリギリで生きていくことになるのであった。

「か、可能ではありますがそれでは駄目なのです! 改名はコミュニティの完全解散を意味します、ですが私たちは仲間たちの帰ってくるこの場所を守りたいのです………」

「黒ウサギ………」

蘭丸は黒ウサギの本心で訴えかけてくる目を見る。確かになし崩し的な方法でコミュニティの実状を隠しておりそれ自体は思うところがあったが根底にあった攫われた仲間達を想いその返ってくる場所を守る為の覚悟が彼女にはあった。

「茨の道である事は承知です。コミュニティを再建しつつ仲間たちの帰ってこれる為にも十六夜さんや蘭丸さん達のような強いプレイヤーの力が不可欠です。どうかその強大な力を黒ウサギ達に貸してください!」

黒ウサギは恥や外聞といった物を捨てての懇願だった。此処で断られたらコミュニティの再建は夢のまた夢となってしまう。

 十六夜達は少し考える素振りを見せ───

「いいなそれ」

「───え?」

「え?じゃねえよ協力してやるってんだよ、もっと喜べよ。んで、蘭丸はどうするだよ」

「ああ、俺もいいぜ。お前の本音も聞けたからな、なら俺もそれに応えてやるとするさ」

「十六夜さん………蘭丸さん………ありがとうございます!」

心からの謝罪と懇願が届いた、黒ウサギは感激の余り2人に駆け寄り───

「「だがそれはそれ、これはこれだ」」

「えっ………」

スルーされ顔面から川へとダイブした。

「ヤハハ! 今のはかなり面白かったぜ黒ウサギ!」

「悪いが………コレで………だま…ぶんはチャラに………ブハッ!」

十六夜腹を捩り大爆笑しており、比較的優等生だと思っていた蘭丸からの裏切りに黒ウサギは今度は違う意味で涙を流し、

「こ、この問題児様方ー‼︎黒ウサギの感動を返してください───!!!!」




この話を書くまでだけでかなり時間を用してしまいました。マジで勘が鈍ってるなと


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サウザンドアイズ~和装ロリを添えて

感覚を取り戻せる様に少しずつがんばっていきます。


 十六夜と蘭丸を連れ戻した黒ウサギは噴水広場で飛鳥らと合流したのだが、彼女たちの説明を聞いた途端ウサ耳を逆立てておこっていた。興奮の冷めやらぬままにまくし立てるように問い詰めた。

「な、何でもあの短時間で“フォレス・ガロ”のリーダーと接触して、しかも喧嘩を売る状況になったんですか‼」「しかもゲームの日時は明日⁉」「準備をする時間もお金もありません‼」「どういう心算があってのことなんですか⁉」「聞いているのですか三人とも」

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」

 

「だまらっしゃい‼」

 三人の息の合ったチームプレイ(言い訳)を一喝する黒ウサギ。その様子を見た蘭丸は「俺こっちに残ったほうが良かったか……」と後悔した。十六夜はその様子をニヤニヤとしながら止めに入る。

「まあいいじゃねえか。見境なく喧嘩を売ったわけじゃねぇんだし、許してやれよ」

「そのセリフ多分今の俺たちが世界一言っちゃいけない言葉だと思うぜ……」

「い…十六夜さんは面白ければいいかもしれませんがこのゲームで得られる物は自己満足だけです、この“契約書類”(ギアスロール)を見てください」

 黒ウサギが見せた“契約書類”は“主催者権限”(ホストマスター)を持たないものが“主催者”としてゲームを執り行う為に必要なギフトである。

そこに書かれている内容にはこう記されていた。

“参加者(プレイヤー)が勝利した場合、主催者(ホスト)は参加者の言及する罪を認め箱庭の法の下正しい裁きを受けた後にコミュニティを解散する”か……まあ確かに自己満足だよな。時間をかければ立証出来るものだろうに」

「対してこっち側が差し出すチップは“全ての罪を黙認すること”だからなぁ、しかも今後一切……かなりリスク高いと思うぞ?ちょっと軽率だったかもな」

蘭丸も「気持ちはわかるけどな」と苦笑いを浮かべる。

 “フォレス・ガロ”は二一〇五三八〇外門の一帯を支配するコミュニティでありそのリーダーであるガルド=ガスパーはコミュニティを広げるために相手コミュニティの子供を人質に取り、コミュニティどうしを賭けさせてそれを繰り返してコミュニティを大きくさせていったのだった。

 黒ウサギも“フォレスガロ”の悪評は聞いており今回の件も時間をかければ罪を暴くことができるのだが──

「黒ウサギ、私はただ道徳云々よりあの外道が野放しにはしたくないの。ここで逃せばいずれまた狙ってくるわよ」

 飛鳥は己矜持からもガルドのような悪は許しておけないのだろう。

「ごめん黒ウサギ……僕もガルドのような悪人は逃がしたくない」

「ジン坊ちゃん……」

 ジンも同調する様子をみせ黒ウサギも少し困惑しつつあきらめるように溜息を吐く。

「はぁ~………仕方ない人達です。でもまあいいでしょう。“フォレス・ガロ”くらい十六夜さんと蘭丸さんがいれば楽勝です」

どちらか一人でも楽勝でしょうと思いつつ言った黒ウサギに対して十六夜と飛鳥は怪訝な顔をして

「何言ってんだ、俺は参加しねぇぞ」

「当たり前でしょう貴方たちなんか参加させないわよ」

 フンと鼻を鳴らす二人に黒ウサギは食って掛かる。

「だ、駄目ですよ!お二人はコミュニティの一員なのですからちゃんと協力しないと)

「それは違うぞ黒ウサギ」

十六夜は黒ウサギを右手で制すると真剣な表情で

「いいかこいつはこいつらが売った喧嘩だ。だから俺たちが手を出すのは不粋ってことだ」

「あら、わかってるじゃない」

「ら…蘭丸さん!蘭丸さんは出でくれますよね⁉」

 黒ウサギは蘭丸に最後の望みをかける。比較的優等生な彼なら助け舟を出してくれると……しかし

「悪い黒ウサギ、今回は俺も不参加で」

「ら…蘭丸さ~ん」

黒ウサギは膝から崩れ落ちた。もうどうにでもなれと肩を落とす。幸い今回のゲームで敗北しても失うものは無いのが救いであった。

 

 

”フォレス・ガロ”とのギフトゲーム関しては飛鳥、耀、ジンの三人が出ることになり一先ず話を終わらせることにした。

「らそれじゃあ今日はコミュニティに帰る?」

「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰りください。“サウザンドアイズ”にギフト鑑定をお願いしに行ってきます」

「“サウザンドアイズ”?コミュニティの名前か?」

「YES。サウザンドアイズは特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

「ギフト鑑定って必要か?」

「自分のギフトを把握しておけば引き出せる力は大きくなります。皆さんも自分の力の出所は知りたいでしょう?」

 黒ウサギは同意を求めるが十六夜、飛鳥、耀、蘭丸の四人は少し複雑な表情を浮かべていたがそれぞれ思うところがあるのだろう何も言わず黒ウサギについていくことにした。辺りは日が暮れて、街灯が灯り始めていた。街路の脇に生えている桜の様な木を眺めていた。

「桜の木……ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

「いや、まだ初夏に入ったばかりだぞ?気合の入った桜が咲いててもおかしくないぞ」

「……今は秋だと思うけど」

「俺らは異世界から来たんだから時間軸とかがずれてるんだろ?ちなみに俺の世界では春で桜が咲き始めた頃だぞ」

 三人が「ん?」と疑問になった所に蘭丸が助言を入れた。黒ウサギは「お?」という顔で蘭丸を見る。

「蘭丸さんの言う通りです。皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているので時間軸の他にも歴史や文化、生態系など違う箇所がある筈です」

「へえ、パラレルワールドってやつか?」

「近いですね。正しくは立体交差並行世界論というのですが………今からコレの説明をすると一日二日では足りないのでこの話はまたの機会にということで」

黒ウサギが言葉を濁す。どうやら店に着いたようだった。商店の旗には蒼い生地に互いを向かい合う二人の女神が記されていた。あれが“サウザンドアイズ”の旗印だろう。

店の前では割烹着姿の女性店員が看板を下ろそうとしていた。黒ウサギが慌てて止めにいく。

「待っ………」

「待ったはなしですお客様。ウチは営業時間以外営業していませんので」

黒ウサギは待ったをかけられなかった。流石は超大型商業コミュニティと言った対応である。飛び入りの客の拒み方にも隙がない。

「な、なんて商売っ気のない店なのかしら!」

「全くです!閉店時間の五分前に締め出すなんて!」

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

「出禁?これだけで出禁とはお客様舐めすぎでございますよ⁉︎」

黒ウサギはギャーギャーと喚くが女性店員も冷めた目で黒ウサギを軽蔑するかの様に見る。

「なるほど、確かに“箱庭の貴族”である兎のお客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますのでコミュニティの名前をよろしいですか?」

「……!」

黒ウサギは答えられなかった。黒ウサギに変わってか十六夜が躊躇いなく答える。

「俺たちは“ノーネーム”ていうコミュニティなんだが?」

「ほほう、ではどの“ノーネーム”様でしょうか?できれば旗印を確認させてもらってもよろしいでしょうか?」

(……これがさっき言ってた“ノーネーム”の対応か?確かに名もないコミュニティは信用されないわな)

 蘭丸は女性店員の態度見ながら黒ウサギの説明を思い出していた。しかも最悪なことに“サウザンド”は“ノーネーム”お断りであった。

 黒ウサギは悔しそうに小さな声で言葉をひねり出す。

「そ………あの………私達に、旗はありま」

「いぃぃぃやっほぉぉぉぉ!久しぶりだな黒ウサギィィィィィ‼︎」

「きゃあぁぁぁ……!」

突然現れた着物を来た白髪の少女がフライングボディアタックを決めて黒ウサギと共に街路脇の水路に落ちた。

「…おい店員。この店にはドッキリサービスもあるのか?あるなら俺も是非別バージョンで」

「ありません」

「なんなら有料で」

「やりません」

二人はなんとも馬鹿らしい会話であるがその顔は本気である。

「し、白夜叉様?どうして貴方がこんな下層に?」

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしてたに決まっておろう。フホ、フホホホホホホ!やはりウサギは触り心地が違うのう。ほれ、ここが良いか、ここが良いか?」

白夜叉と呼ばれた少女は黒ウサギの胸に顔を擦り付けていた。見た目とは裏腹にその様子は悪代官のソレであった。

「白夜叉様……取り敢えず離れて下さい‼︎」

 黒ウサギは白夜叉を引き剥がすと、店の方に投げつける。クルクルと縦回転で迫ってくる白夜叉を十六夜が足で受け止める。

「てい」

「ゴハァ!お、おんし飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様じゃ‼︎」

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

「うう……どうしてまた濡れなきゃいけないのですか?」

泣きながら黒ウサギが水から上がってきた。

「因果応報…かな?」

「貴方、この店の人?」

「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉さまだ。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

「オーナー、それでは売り上げが伸びません。ボスに怒られますよ」

白夜叉のセクハラを女性店員が冷静に釘を刺す。

「ふふん。おんしらが異世界から来た新しい同士か。ということは…」

白夜叉は不敵な笑みを浮かべていた。

「ついに黒ウサギが私のペットに!」

「なりません‼︎どういう起承転結があってそうなるんですか⁈」

黒ウサギが耳を逆立てて怒る。

「さて、冗談はこれまでにして、話があるのだろう?話なら店内で聞こう」

「よろしいのですか?彼らは名も旗もない“ノーネーム”のはず。規定では」

「“ノーネーム”だとわかっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する侘びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

女性店員は不満そうに眉を寄せる。それをよそに白夜叉は黒ウサギ達を店内に引き入れる。



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最強の魔王⁉

【お詫び】
「問題児と時空間の支配者が異世界から来るそうですよ?」を読んでいただいて誠にありがとうございます。
二度のリメイクをしているこの二次創作小説ですが構成上リメイク前に登場していたキャラクターをカットすることになってしまいました。その影響でこの先の展開が大きく変わる箇所が多々あります。
リメイク前のストーリーを読んでくださった方もいる中で申し訳ない思いではありますが私が二次創作として初めての作品になるのでどれだけの時間をかけるかは分かりませんが完結させ読んでくださる方に楽しんでもらえるストーリーにしたいと思っています。
今回は私の物書きとしての技量不足の為にこのようなご報告となってしまい申し訳ありませんでした。


「生憎店は閉めてしまってな。私の私室で勘弁してくれ」

五人は白夜叉の私室に通された。部屋に入ると香の様なものが焚かれており、鼻を擽る。

個室としてはやや広い部屋の上座に腰をかけて白夜叉は六人を見渡す

「もう一度自己紹介をしておこうかの。私は四桁の三三四五外門に本拠を構える、“サウザンドアイズ”の幹部の白夜叉だ。そこの黒ウサギとは少々縁があってな、コミュニティが崩壊した後にもちょいちょい手を貸してやってる器の大きい美少女と認識してくれ」

(こいつ自分のことを美少女と…まあ確かに顔立ちはいいけどさ)

蘭丸は心の中で突っ込んだが話がややこしくなるためスルーすることにした。

「その外門って何?」

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心に近く、同時に強力な修羅神仏が住んでいるのです。箱庭の都市は上層から下層まで七つの支配層に分かれており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられています」

「そして私のいる四桁から上が上層と言われる場所だ」

「つまり、上層は修羅神仏が集う人外魔境と言ったもんなのか?」

「まあそんなところかの」

黒ウサギが紙に箱庭を上空から見た簡単な図を書いた。

それを見て四人は

「超巨大タマネギ?」

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

「そうだな、どちらかといえばバームクーヘンだな」

「俺はタマネギに一票かな?」

口をそろえたような身もふたもない感想に黒ウサギはガクリと肩を落とす。

「ふふ、うまいこと例えるの。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番皮の薄い部分にあたるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに属してはいないものの、強力なギフトを持ったもの達が住んでおるぞ………その水樹の持ち主などな」

白夜叉は笑みを浮かべながら黒ウサギの持つ水樹の苗木を指差す。

「して、その水樹は誰がどのようなゲームで手に入れたのだ?知恵比べか?それとも…」

「いえ、この水樹はここにいる十六夜さんが素手で叩きのめしたのですよ」

 

「なんと⁉ 知恵や勇気ではなく、直接倒したとな⁉ その童は神格持ちの神童か?」

「いえ、そうは見えません。もしそうなら黒ウサギは見ればわかりますし」

「ふむ、しかし神格を倒すには同じ神格を持つ者か、あるいは種族のパワーバランスが大きく崩れた時だ。ちなみに人間と蛇はドングリの背比べだぞ」

訝しげに考え込む白夜叉に対して蘭丸が声をかける。

「その神格ってなんだ?」

「神格とは生来の神そのものではなく種の最高のランクに体を変幻させるギフトのことだ。例えば蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。人に神格を与えれば現人神や神童に。鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。多くのコミュニティは神格を手に入れるために上層を目指すのだ」

「なるほどな…あぁそれとこいつなんだが………」

蘭丸はポケットから先にクリアしたギフトゲームの“契約書類”と手に入れた宝玉を白夜叉の前に出した。

「おんし! これは………⁉」

「こっちに来てある時空の歪みを見つけてなよくわからなかったがクリアして手に入れたのがその玉だ一応黒ウサギも証人だ」

「は、はい。不明な点の多いギフトゲームでしたがこの蘭丸さんも十六夜と同じく凄い力を持っているかと)

白夜叉は目を丸くした。蛇神を倒した十六夜に関しても不可解な事はあるが蘭丸も謎が深まった。実を言うと白夜叉は蘭丸のギフトゲームをことをある筋からの情報で知ってはいたのだが

(………まさかあやつの言っていたことがのう………)

白夜叉は最初こそ驚いたが、不敵な笑みに表情を変える。黒ウサギや十六夜達も驚きや好奇の目で蘭丸を見ている。蘭丸は大袈裟に咳き込んで白夜叉を見る。

「話を戻すが…白夜叉はあの蛇と知り合いなのか?」

「知り合いも何もあの蛇に神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年前の話だがな」

「へえ、じゃあお前はあの蛇より強いのか?」

「当然だ。私は東側の“階層支配者”だぞ。この東側の四桁より下のコミュニティで右に出るものがいない最強の主催者だぞ」

“最強の主催者”その言葉に十六夜、飛鳥、耀の三人は目を輝かせる

「そう。では貴女のゲームをクリア出来れば私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティということになるのね?」

「無論、そうなるの」

「ちょうどいい探す手間が省けたぜ」

十六夜、飛鳥、耀の三人は闘争心を剥き出しに白夜叉を見る。

「抜け目のない童達だ。私にギフトゲームで挑むと?」

「み、皆さん?」

「よいよい黒ウサギ。私も遊び相手ちは常に飢えている」

「ノリがいいわねそういうの好きよ」

「後悔すんなよ」

「お前ら元気だな」

クスリと笑う蘭丸の他の三人は嬉々として白夜叉を睨む。

「そうそう、ゲームの前に一つ確認しておく」

白夜叉は着物の裾から“サウザンドアイズ”の旗印―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し笑みを浮かべている。

「おんしらが望むのは“挑戦”かそれとも“決闘”か?」

刹那、五人の視界は意味を無くし、脳裏を様々な情景が過ぎる。

黄金色の穂波が揺れる草原、白い地平線を覗く丘、森林の湖畔。

五人が投げ出されたのは、白い雪原と湖畔……そして、水平に太陽が廻る世界だった。

「なっ………⁉」

黒ウサギを除く四人はあまりの光景に言葉を失った。

「今一度名乗り直そうかの。私は“白き夜の魔王”太陽と白夜の星霊、白夜叉。おんしらが望むのは試練への“挑戦”か?それとも対等な“決闘”か?」

白夜叉は先程の笑みとは違う圧倒的な実力を裏付ける笑みを浮かべている。

「水平に廻る太陽と……そうか白夜と夜叉。そうかあの太陽とこの土地はお前を意味しているのか?」

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそが私が持つゲーム版の一つだ」

「これだけ莫大な土地がただのゲーム盤⁈」

「如何にも。して、おんしらの返答は?“挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。だがしかし“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

「………」

五人は言葉を失った。白夜叉はこの箱庭でも最強クラスの魔王である。十六夜達問題児四人がまとめてかかってもかなわない程に。

「降参だ白夜叉」

十六夜が降参のポーズを取るかのように両手を上げる。

「ふむ、では試練を受けると?」

「ああ、これだけのゲーム盤を用意できるんだ。あんたにはその資格がある。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

プライドの高い十六夜らしい可愛らしい意地の張り方だと思い白夜叉は笑った。

「くく…して、他の童達も同じか?」

「ええ、私も試されてあげるわ」

「右に同じ」

飛鳥と耀も同じ様に試練を選んだ。黒ウサギはホッと胸を撫で下ろす。

「して、そこの童はどうするのだ。おんしの返答を受け取ってないが」

白夜叉はこのゲーム盤に来てからずっと黙っている蘭丸が気になっていた。蘭丸はふと笑みをこぼし、

「俺は…決闘だ」

黒ウサギとピシッと体を固めた。問題児の中で一番冷静に分析できそうな蘭丸が白夜叉との決闘を選ぶとは思っていなかった。それほど白夜叉は強いのである。

「おんし…本気か…」

「ああ、正直勝てるかはかなりキツイが面白くはできるぜ?最悪、遊び相手位にはな」

蘭丸は絶対な自信と言った顔で白夜叉を睨む。

(こやつの目…なるほど面白い)

「よかろう!おんしの顔は本気だ!魔王として命と誇りをかけて戦おう‼︎」

白夜叉も本気のオーラを出していた。

だが黒ウサギは大慌てで蘭丸に詰め寄る。

「ちょっ…ちょっと待ってください蘭丸さん‼︎」

「落ち着け、それはわかってる。だが、勝算はあるんだ。心配するな」

蘭丸は笑いながら黒ウサギの頭をポンっと叩く。

「まあ最初はこの者達の試練をやらせてくれ」

「ああ、いいさ。お楽しみは最後にってね」

蘭丸はそう言うと十六夜達の方を見た。

こうして“白き夜の魔王”白夜叉と“時空間の支配者”の異名を持つ蘭丸の戦いが起ころうとしていた。



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最強の魔王への挑戦

【ギフトゲーム名 『鷲獅子の手綱』

・プレイヤー 逆廻 十六夜

 

       久遠 飛鳥

 

       春日部 耀

 

           ・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

 

・勝利条件 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。

 

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

                             “サウザンドアイズ”印】

 

 

 

【ギフトゲーム名 『白き夜の魔王との決闘』

 

・プレイヤー 二宮 蘭丸

 

白夜叉

 

 

 

・勝利条件 相手プレイヤーの降参。

 

相手プレイヤーが戦闘不能になった時。

 

・敗北条件 降参か戦闘不能不能になるか。

 

相手を殺害する。

 

・宣誓上記を尊重し、誇りと旗とホストマスターの名の下ギフトゲームを開催します。

 

 

 

“サウザンドアイズ”印】

 

 

 

「よし、こんなもんかの」

 

 

 

白夜叉は二つの契約書類を作った。一枚は十六夜達“挑戦”のギフトゲーム。もう一つが蘭丸と白夜叉の“決闘”である。

蘭丸のギフトゲームの前に十六夜達の“挑戦”がおこなわれた。ゲームを行ったのは耀。グリフォンは“誇り”を耀は“命”を賭けた。最初は飛鳥、黒ウサギが止めようとしたが十六夜と白夜叉、蘭丸が制し、ゲームがおこなわれた。

 

結果は耀の勝利であった。空中を踏みしめる様に走るグリフォンにしがみつく耀、壮絶なスピードと極寒の山脈に差し掛かり、普通の人間では生きていられないレベルであるが耀はなんとか耐えた。そして耀の勝利が確定したその瞬間、耀はグリフォンの背中から落ちた。慌てて助けようとする黒ウサギだったがそれを十六夜が止め、耀を見ると耀は奇跡を起こした。不慣れながらも空中を踏みしめながら降りてくる耀に全員の視線は釘付けになった。

耀のギフトは彼女の父からもらった木彫りのペンダントで白夜叉も詳しくは分からないらしく現状は異種族と会話ができる事と友達となった種からギフトを譲り受ける事くらいしか分からないらしい。

 

「まあその話の続きはこの後するか………のう小僧」

「ッ………‼ あぁ、さっさと始めるとしますか」

先程の和やかな表情から一変した白夜叉に蘭丸は冷や汗が止まらなかった。少女の見た目からは想像出来ない程の存在感と太陽の星霊として圧倒的とも言える程の格の違い。蘭丸の戦いを唯一見ている黒ウサギでさえ万に一つ勝てると思っていなかった。

「あぁ………どうして蘭丸さんが白夜叉様と戦う事に………」

「これ、蘭丸くんは生きて帰れるのかしら」

「うん、正直私達が束になっても勝てないと思う」

飛鳥と耀も平静を装っているが白夜叉の放つ圧に圧倒されていた。蘭丸の勝敗より生死の心配だった。

「それは違うぜお前ら」

 ただ一人十六夜だけは蘭丸を面白そうに見つめている。

「十六夜さん⁉ それはどういう………」

「確かに白夜叉は化け物レベルに強いだろうな。今の俺たちとは比べ物にならない位にな。だが多分蘭丸は勝つ以外にも何か狙いがありそうだぜ」

 そう言われて黒ウサギは蘭丸に視線を移すと決して白夜叉に対して圧倒されてはおらずどこか楽しげに見えた。彼の実力は先程確認済みでコミュニティを再建するにあたって無くてはならない一人であると確信していたがそれ以上に白夜叉の恐ろしさを知っている黒ウサギは彼がここで命を落としてしまうのではないかという心配がまさってしまうのであった。

「蘭丸さん……」

自身のコミュニティを救うために異世界から召喚し騙すような形でコミュニティに加入させようとしていた自分を許し手助けをしてくれると言ってくれた彼は実は結構なお人好しなのだろう。

「どうかご無事で……」

もはや賽は投げられてしまったこの勝負黒ウサギは、どのような結果であれ無事を祈ることしかできなかった。

「―――シッ!」

 一呼吸着いた刹那、凄まじい爆発音と衝撃が起きた。蘭丸が白夜叉目の前まで接近し、拳を繰り出していた。その威力は凄まじく湖畔の水面が大きく氾濫し二人の周りには隕石が衝突したようなクレーターができでいた。

「ほほう! 大した威力だ。決闘を選ぶだけはあるのう」

「チッ…簡単に受け止めといて何を言ってやがる‼」

 表情を変えずに片手で拳を受け止めた白夜叉に蘭丸は追撃を手を緩めず連撃を繰り出したがその全てを躱し、受け流していた。決闘が開始して十秒足らずの間に辺りが荒廃していた。

「スピードも威力も大したものだがそれだけしか見せぬのなら私を甘く見すぎてるぞ?」

「そうかい…ならちょいと見せてやるよ‼」

「ほう───何ッ⁉」

白夜叉は自身の真横からの衝撃によって吹き飛ばされていた。彼女は油断は一切していなかった。寧ろ一目見たときから只者でないと見抜いており彼の挙動の全てを観察していたが、視界の外からの攻撃は予見できずまともに食らっていた。

「くっ‼」

「まだまだこれからだぜ白夜叉!」

─動揺─時間にすると一秒にも満たない時間であったが蘭丸ははそこを見逃さずに攻勢にでた。白夜叉も咄嗟に防御姿勢をとったが蘭丸もお構いなしと言わんばかりにガードの上から殴りつけた。確実に防御したと思い込んでいた白夜叉だったが違和感と共に先程の不意打ち気味に食らった攻撃とは比べ物にならない衝撃が全身を襲った。

「グヌッ……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ⁉」

「白夜叉様⁉」

「嘘ッ?」

「どうなっているの⁉」

「ハハッ! とんでもねぇ奴だな!」

 四人は目の前の光景に目を奪われていた。白夜叉は“階層支配者”としても破格の実力を持っているだけでなく魔王としての格の違いを目の前で見せつけられた。それ故に十六夜達は決闘を諦めざるをえなかった。その相手に蘭丸が善戦どころか強烈な一撃をいれていたのだった。

「でも、今白夜叉はガードしたように見えたんだけど」

「ガードはしてたさ。だがあいつの攻撃はただのパンチじゃなかったみたいだぜ」

「…! まさか⁉」

十六夜の言葉にハッとした黒ウサギだが、その言葉を聞く前に吹き飛ばされていた白夜叉も戻ってきた。だがその表情は先ほどとは打って変わって真剣そのものであった。

「……おんし、その力まさか……」

「やっぱり知ってるか、俺も聞きたいこともあるしな……終わったら話してやるよ」

「呵々! 面白い!あやつ(・・・)の言う通りのやつだのう!私をもっと楽しませてみろ、“時空間の支配者”よ! ちなみにあの程度の衝撃波では私を倒すことなどできんぞ!」

 白夜叉は威圧感すら覚える笑みを浮かべた。それと同時に霊格が上がっていくのをこの空間にいる全ての者が肌で感じていた。

「…まじでスゲェな、こりゃあ俺も本気でいかないとな」

 もとより蘭丸は手を抜いていたわけではなかった。ただ百パーセントを出せない今の自分の持てるすべてをぶつけなければ第一の壁を超えることは出来ない。

 文字通り全てを出し切る必要があると

「ここからが今の俺の本気だ‼ 行くぜ白夜叉ァ‼」

 その瞬間、蘭丸が一気に三人に増えた。そして目にも見えない速さで間合いを詰めた。

「分身に瞬間移動か! 面白いがまだまだ甘いのう‼」

「グッ! まだまだだ」

 だがそれを白夜叉は難無く一蹴する。吹き飛ばされた蘭丸の分身は陽炎のように消えていった。だが蘭丸も怯むこともなく向かっていき白夜叉の後ろに回り込み、蹴り上げる。蘭丸は蹴りだけで空間を切り裂いていたが紙一重のところで躱されてしまった。

「ふふん、瞬間移動で背後をとるだけではな、それだけ威力の蹴りも通じないというものよ」

白夜叉は躱した勢いのままカウンターのを入れるが攻撃は蘭丸の胴体をすり抜けていた。

 

 

 

 

 



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