長谷君の格闘ロード (神無鴇人)
しおりを挟む

プロローグ 守護神の誕生

プロローグ 守護神の誕生

 

 あれは、もう十年近く前の話だ……

 

 

 

 

「間違えただとぉ!?何やってんだこの馬鹿がぁ!!」

 

「す、すいません!命だけは、命だけはぁ!!」

 

 目の前には土下座している男とその男の頭を踏みつけて怒鳴り散らす男、そして傍らには手足を縛られた俺の身体を足で転がす三人目の男がいる。

 

数時間前、俺、長谷大はこの男たちに誘拐された。

俺が預けられる寺院『極楽院』……その一人息子を狙ったものだったが、あろう事か俺はそいつに間違われ、この有様だった。

当時6歳の俺にはそれに抗う力なんてあるはずも無く、ガタガタと無様に震えることしか出来なかった。

 

「どうします?このガキは……」

 

 俺を足で弄る男が俺を見下ろしながらリーダー格の男に問う。

リーダーの男は数秒ほど沈黙した後、俺を見てニヤリと下卑た笑みを浮かべた。

 

「俺の知り合いによぉ、ショタコンで男色の変態ジジィがいるんだよ。コイツの面と歳なら高く売れそうだよなぁ」

 

「ッ!?……ンン゛ッ゛ーーーーーー!!」

 

 男の言葉は子供だった俺でも理解できた。この男は俺を人身売買にかけようというのだ。

それを理解した時、俺は絶望に震え、無駄な抵抗と解ってはいてもジタバタと暴れずにはいられなかった。

 

「暴れんなクソガキ!」

 

「ゲホォッ!!」

 

 暴れる俺の腹を男の一人が蹴り上げ、俺は痛みで呼吸が出来ずに悶える。

 

「おい、あんまり傷付けんなよ。そいつはもう大事な商品なんだぜ」

 

(い、嫌だ……!!だ、誰か……助けて!!)

 

 苦しむ俺を無視して今後のことを話し合う男たちを見ながら、俺は心の中で必死に叫んだ。

 

 

“ドガァァァッ!!”

 

 その時だった……俺の願いが届いたのか、突然轟音を立ててドアが吹っ飛んだ。

 

「Hey!ちょっと邪魔するぜ」

 

 ドアの先から現れたのは一人の男。

赤のジャケットに赤い帽子から覗く金髪と碧い瞳のその姿に、外国人だという事だけは解った。

だけどその姿はまるで餓えた狼のような闘志を感じさせていた。

 

「な、何だテメェは!?」

 

「見られたからには死んでもらうぜ!!」

 

 男達は懐から銃を取り出して赤い帽子の男を殺そうと引き金に指をかけるが……。

 

「《パワー・ウェーブ!!》」

 

 帽子の男の拳が発光したと同時に光は床を裂くように走り、誘拐犯達をふっ飛ばしてしまった。

 

「「ぎゃあああ!!」」

 

「グガァァ!!な、何なんだ……テメェは?」

 

「……俺か?」

 

 誘拐犯のリーダーの問いの答えながら帽子の男はリーダーに近づいて胸倉を掴み上げる。

 

「ただの、餓狼(ファイター)だ!!」

 

 そして帽子の男の鉄拳は誘拐犯の顔面に叩き込まれ、男の身体は壁にめり込むほどに吹っ飛ばされたのだった。

 

(す、凄い……凄く強い、凄く格好良い……!!)

 

  心が躍った。目の前にいるヒーローのようもに颯爽と現れ悪人どもをなぎ倒す男の姿に俺は痺れた。

 

(俺も…あんな風に、なりたい!!)

 

 こんな風に心が熱く踊ったのは初めてだった。

喧嘩なんて嫌いで、格闘技なんて全く興味も無かった俺が……。

 

「よぉ、大丈夫か坊主?」

 

 快活な笑みを浮かべて俺に手を差し出す帽子の男。

俺はその手を掴んで男を真っ直ぐに見つめ、そしてこう言った……。

 

「俺を、俺を弟子にしてください!!」

 

 これが、俺と俺の師匠、テリー・ボガードの出会いだった。

 

 

 

 それから、本当に色々な事があった……。

テリーさんに拝み倒して弟子入りした俺は、彼に師事して格闘の『か』の字も無かった身体を一から鍛え、技術や筋力を徹底的に身体に刻み込んだ。

死に物狂いで英会話をマスターし、アメリカへ修行旅行も経験した。

テリーさんの師匠であるタン・フー・ルー老師にも教えを請い、八極聖拳をベースとした気功を学んだ。

 

 

 

そして、現在……

 

「ハァ、ハァ……つ、強ぇ……」

 

 俺の目の前で息切れしながら膝をつく男が数人……最近カツアゲだの万引きだの、出さなくても良い精を出している性質の悪い種類の不良達だ。

 

「ま、まさか……あ、兄貴!コイツ『稲村の守護神』じゃ!?」

 

「喧嘩と暴力にしか力を使えない……お前ら、今の自分を誇れるか?」

 

 俺の異名(別に欲しくは無いけど)に気づいて驚く不良達に一言問い、俺は静かに不良達全員に当身を喰らわせ、気絶させる。

 

「…………誇りの無い力は、弱いんだよ」

 

 誰に言うわけでもなくそう呟き、俺懐から携帯を取り出してある人物へ電話を掛ける。

 

『もしもし、長谷?』

 

「片瀬さん?今、例の連中のカツアゲと万引きの裏付けと鎮圧を完了。場所を教えるから、あとは頼むよ」

 

『了解。いつも悪いわね、今度美味い食事でも奢るわ。じゃあね、名誉風紀長殿』

 

 俺の言葉に快活に返しながら片瀬さんは電話を切った。

 

「さて、帰りますか……」

 

 いつも通りの日常を終え、俺は家路を歩き始めた。




次の更新はいつになることやら……。

感想待ってます!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。