やはり俺のGBNはまちがっている。 (八重垣八雲)
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本編
prologue



初投稿です。


GBNー

 

正式名称 ガンプラバトル・ネクサスオンラインと呼ばれるそれは、電脳仮想空間を舞台としたオンラインゲームである。

世界的な人気を誇るガンダムのプラモデル。それをスキャンすることにより、 電脳空間上とはいえ実際にMSが操縦できる。ぼくのかんがえたさいきょうのガンダムが動かせる。

そんなある種の人類の夢を叶えた本作は、瞬くの間に世界中で話題の中心となった。

 

老若男女、猫も杓子もGBN。

 

それは俺、比企谷 八幡も例に漏れず、GBNのダイバーである。

 

 

幼少よりひとりでいることが多かった俺は、趣味であるガンプラ作りにのめり込んだ。

その甲斐あってか、ガンプラ作りに関してはそれなりの腕と自負している。ガンプラはぼっちに優しいホビーです。

 

自分が作ったガンプラが動かせる。当時中学生だった俺のクラスでも話題に上がった。話し相手がいたのかって、言わせんなよ恥ずかしい。寝たふりして聞き耳たててただけだよ。

何にせよガンプラ作りは俺の得意分野である。 それをメインに据えたゲームならば、大活躍をして目立つことが出来るかもしれない。もしかしたら友達も出来るかもしれない…

 

 

 

 

そう思ってた頃が俺にもありました。

 

クラス連中にいいとこ見せようと空回りしたあげく、まわりがドン引き。余計にぼっちになっただけだった。認めたくないものだな。自分自身の若さゆえの過ちというものを。

 

 

それ以来、俺はソロでプレイをしている。

ミッションは充実しているため、ソロであっても困ることはない。人手が足りなくとも、いざとなったらNPDをりようすればいい。運営様々である。

 

 

ソロは強い。繋がりを持たないという事は守るべき者を持たないということだ。

守るべきもの、言い換えれば弱点が存在しない。かのニュータイプ ララァ・スンも、シュラク隊のケイト・ブッシュも守ろうとして破れた。

したがって弱点のない、守るべきもののない、繋がりのないものが最強である。

 

つまり、俺、さい…「せ~んぱ~い」

 

繋がりのない…「ヤバイです。ヤバイです~」

 

守るべきもののない…「助けてくださ~い!なんかいっぱい囲まれています~」

 

 

 

弱点のない俺、最強!の筈だったんだが…

 

「ハッ!なんですかもしかして囲まれて痛め付けられている私を見て興奮していますかどんな性癖でも受け入れたい所存ですが先輩以外には触れられたくないのでご期待に添えられませんごめんなさい」

 

「あぁ、分かったからそこから動くな、一色」

 

この一色いろはという一人の少女によって、俺の平穏なぼっちプレイは脅かされつつある。

どうしてこうなった…



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なんだかんだ言いつつ比企谷八幡は面倒見がいい

二話目です。


3月下旬

 

世間一般の学生からしてみれば、春休みの真っ最中である。そこから外れているとはいえ、高校2年への進級を控えている身の俺も例外ではない。

 

春眠暁を覚えず。例のごとく惰眠を貪っていた俺は、鳴り響くスマホの着信音により意識を浮上させるはめになった。未だ襲いかかる睡魔に抗いつつ電話に出る。

 

「もしもーし、先輩?」

 

スピーカーから聴こえる間延びした声。

 

「……一色か」

 

「はい、先輩唯一の可愛い後輩、いろはちゃんでーす」

 

電話越しに、ウィンクして敬礼している姿が目に浮かぶ。うん、いろはすあざとい。

 

「……で、何のよう」

 

「ほらー、わたしって、受験を頑張ったんじゃないですかー?先輩と同じ学校に合格した健気な後輩を少しは労ってもいいと思うんですよー」

 

確かに一色の頑張りは眼を見張るものがあった。稀に家庭教師の真似事をしたとはいえ、あいつ自身も頑張っていた。暫くはGBNにダイブするのを封印してたし……

そう言われると、少しは労ってやってもいいかもしれない。了承の意を伝えて電話を切る。

さて、ダイブの準備をするか……

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

「すいません、お待たせしました、ちょっと準備に手間取っちゃいまして……」

 

にこぱっ、とした表情で駆け寄ってくる。高校受験という重荷をおろせたからか、久しぶりに見る笑顔は幾分か柔らかく感じる。

 

「それで、どこに連れていってくれるんですか?」

 

「え、なに、ダイブするんじゃないの」

 

そう、問いかけると笑顔が一転、真顔になり胡乱な目で見てきた。やだ、いろはちゃん怖い。

 

「はぁ……、まぁ、先輩だし……」

 

まだぶつぶつ言ってる一色と連れ立ち、馴染みのホビーショップへ向かう。

 

 

 

 

目的地に到着する頃には、一色の機嫌も直っていた。

それぞれダイバーギアとガンプラをセットしログインする。

一色は久しぶりのダイブということで、NPD相手のミッションで肩慣らしをするようだ。肩慣らしというにはそこそこの難易度ですけど……

 

「大丈夫ですよ。あれくらい楽勝です」

 

先輩はそこで見ててくださいねー、と言いながら突貫していったが、はてさて………

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

結論:やっぱ駄目でした

 

通信越しに延々と垂れ流されている文句を無視しつつ、一色のいるポイントへと向かう。

とはいえ、ばか正直にその場に行けば、ボコられ仲間が一機増えるだけだ。そんな仲間ならいらない。やはりぼっちが最(略)

 

さてここで、俺のガンプラを紹介しようと思う。その名も、AGE-2ステルス。ガンダムAGE アセム編の主役機であるAGE-2のカスタム機である。どこぞのチャンピオンと被っているが、断じてパクリではない。

第一にコンセプトが違う。俺の存在感の薄さを逆手にとったステルス性に、限界まで調整した狙撃能力。そこにAGE-2本来の特性であるストライダー形態による機動性が加わる。これにより、見えなく素早いスナイパーが出来上がった。暗殺者・八幡、有りだと思います。

 

そうこういっているうちに狙撃ポイントに着いた。こちらの有効射程距離でありつつ、向こうからは気付かれにくい。まさにベストプレイス。

 

「おぉ、ボコられてる、ボコられてる」

 

拡大されたモニター越しに様子を確認する。何体かは倒していたようだが、一色の駆るGNアーチャーが、リーオーNPDに四方八方から撃たれている。原典そのままの機体であるが、俺が丁寧に作ったこともありそれなりの出来を誇っている。GNフィールドもあるし、相手方もただのマシンガンだから暫くは持ちそうだ。

 

「かと言って、あまり放っておくと後が怖い……」

 

標的は4体。ライフルを構え、狙いを付ける。マシンガンでは効果が薄いことに業を煮やしたか、その内の1体がビームサーベルを抜刀する―――今

 

「狙い撃つぜ」

 

軽く息を吐き、レバーのトリガーを引く。命令を受けた機体は引き金を絞る。銃口からピンクの粒子が螺旋を描き、標的へと吸い込まれ―――爆発

 

突然の狙撃により、包囲が緩む。その隙をついて一色が反撃…って、ライフルで殴ったよ、あの娘!

今までの恨みを晴らすかのようにボコボコにされるNPD。あまりの絵面にAIの処理が追い付かないのか、残った2体の動きが止まっている。お主、隙だらけだ!

 

 

さくっと2体を落としてミッション終了。なんか疲れたから、今日はこれでログアウトしよう………

 

 

× × ×

 

 

 

 

「もぅ、どうしてすぐ助けてくれなかったんですか~」

 

ログアウトしてみれば、わざとらしく頬を膨らます一色が隣にいた。

 

あれくらい楽勝です。と宣ったのは一色自身だ。戦術もへったくれもなく敵陣に突っ込めば、囲まれて叩かれるのは火を見るにあきらかである。なんなの、イオク様なの?

 

「ぶ~ そんなの言われなくてもすぐ助けるのが先輩のつとめじゃないですか」

 

「いや、知らんし」

 

それ何処ルール?俺の地元じゃ無効だぜ。

 

「だいたい、わたしの合格のお祝いに来たんじゃないですかー 。もう少し優しくしてくれたっていいんじゃないですか……」

 

そう言えばそうだった。ふむ……

 

「なぁ、一色。お前の専用機欲しくないか?」

 

と、問いかければ、目をぱちくりしつつ、

 

「ふぇっ?」

 

と、答えた。なにそれかわいい。

 

 




オリジナルガンプラ解説

機体名:ガンダムAGE-2ステルス

ガンダムAGE-2をベースに改造したガンプラ。
ミラージュコロイド散布装置を搭載し、その名の通りステルス性に特化している。ミラージュコロイドによる秘匿、ドッズスナイパーライフルによる狙撃、ストライダー形態での離脱を戦法としている。
丁寧に作り込まれているため基本性能は高い。但し近接特化の機体との相性は悪い。
胸部のデザインはAではなく8になっている。


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当たり前の様に、一色いろはのガンプラはプラスチックとエポパテと素敵な何かでできている。

お読みいただきありがとうございます。
3話目投稿します。


一色はぽかんと口を開き呆けていた。ちょっといろはちゃん、口を閉じなさい。アホの子に見えるわよ。

 

やがて立ち直ると、

 

「や、先輩に頂いたこれがありますし。」

 

と、手にしてたGNアーチャーを見せてくる。確かに俺なりに手をいれてある分、そこいらの素組よりは出来がいいとは思う。劇中に迫った動きが出来る。しかし……

 

「あくまで組んだだけだ。お前の為の機体じゃない」

 

そう、いくら出来が良くても、機体は劇中そのままである。性能を忠実に再現しているに過ぎない。原作を知っていれば簡単に手が読めてしまう。

作中の設定に囚われず、自分の世界観で作り上げたガンプラを動かせる。それがGBNの醍醐味だ。

一見なんの変哲もないGMでも、中身がフル・サイコフレーム構造で伝説の巨神ばりの活躍をするかもしれない。はたまた2機のムサイが合体し、全身に武器を仕込んだザクの化け物になることもある。

劇中では味わえない無茶も楽しむことが出来る。だからこそGBNの人気は高いといえる。 それに……

 

「それに、ってなんですか」

 

「いや、なんでもねぇよ」

 

まとわりつきながら「えー、なんですかー」と言う一色をあしらいつつ、販売コーナーへと向かう。

言えるわけないだろ。お前の楽しむ顔が見たい、なんて……

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

あの後一色と連れ立ってガンプラのコーナーに来た。棚一面ところ狭しとガンプラが並んでいるのは壮観である。

 

「それで、どうすればいいですか? 先輩みたいにガンダムに詳しいわけではないですしー」

 

と、一色が問いかけてくるが、難しく考える必要はない。

 

「気に入ったものがあったら言ってくれ」

 

これにつきる。

 

暫くの間、「むー」と目を細めて棚を眺めていた一色だったが、

 

「なんとなく、これがいいかもです。」

 

そう言い、1つの箱を持ってくる。オレンジのボディに巨大な翼、所々のクリアーパーツが映える機体は、

 

「スクランブルガンダム」

 

である。知名度はそんなに高くない。ガンプラアニメの続編の、しかも特別編で出ただけだからな。……中の人的なチョイスを感じる。いや中の人って誰だよ。

だが、性能面からしてみれば、決して悪くはない。二丁のライフルに可変機能、今使用しているGNアーチャーに近いものがある。

 

「まぁ、いいんじゃないの。」

 

何よりも自分で選んだガンプラだ。その分愛着も湧く。

 

今日はこれだけを買い、上がることにした。

本気で組むには微妙な時間だし、改造するにもコンセプトは決めておいた方がいい。それに春休み中だから、十分に時間がある。始めから一色と一緒に組み立てるのもいいかもしれない。

一色を家まで送り帰路についた俺は、これからの事に柄にもなくワクワクし出した。

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

翌日、一色には俺の家まで来てもらった。道具も一通り揃っているし作業するには最適である。

何度も来ているからか一色も慣れたもので、今も妹の小町とキャイキャイ話しながら上がってくる。小町も一色の事をお姉ちゃんと慕っており、一色も妹の様に可愛がっている。だが小町は俺の妹だ小町が天使だから仕方がないが小町は誰にも渡さんでもこれからも小町と仲良くしてあげてね

 

「先輩、キモいです」

「このごみィちゃんは……」

 

解せぬ……

 

 

「ではでは、小町は出掛けて来ます。お姉ちゃんはゆっくりしていってください。いっそこのまま住んで本当のお義姉ちゃんになっても… あ、今の小町的にポイント高い。」

 

と、抜かして出掛けて行った。こら、余計な事を言うんじゃありません。一色も赤くなるな。

 

 

事前に、一色にはどんなガンプラにしたいかを書き出してもらっていた。

いろはすメモ曰く、

 

・かわいい

・つよい

・空をとべる

・わたしっぽい

・先輩といっしょ ←これ重要‼️

 

うん、具体例が空をとべるしかない。かわいい、つよいは兎も角、なんだよわたしっぽいって。あざとさ全開にでもすればいいのか。最後に関してはノーコメントで。

 

だが、依頼者のオーダーに対してはビルダーの腕の見せ所。どんな無茶振りでも答えたくなる。

でも、いろはちゃん、これあなたのガンプラだからね。ベッドに転がらない脚もバタバタしない見えちゃうでしょ。………ちっ、見えない!

 

 

小町により変になった空気を払拭して、肝心のガンプラ作りを始める。先ずは本体となるスクランブルガンダムの組み立てだ。まだ素体の為、そこまでガッツリ作り込まなくてもいい。後からバラしやすいようにダボを切り、仮組をしていく。一色と手分けをして1時間ほどで組み上げる。

 

あとはジャンク箱や今まで組んできたものから、コンセプトにあったパーツを探していく。実物を見ることにより考えが纏まってきたのか、 W0EWを手に取り「この羽かわいいですねー」「空から地べたを這いず…、地上にいる敵を狙えたら楽じゃないですかー」とか「もっと本物の鳥に近い変形がいいかもです」など、アイデアが出てくる。こうして、大まかではあるが一色のガンプラの形が見えてきた。

あとはパーツを組み込んで形にしていくだけである。

だがここが一番難しいところである。本来なら違うものを組み込むという作業であり、相応のセンスがいる。それでも、一色はお菓子作りが得意というだけあり中々器用な手先をしていた。工程1つを取っても丁寧である。慣れていないからか、作業スピードはそこまででない。だが、将来はいいモデラーになる―――

 

「なんですかもしかして口説いてますかこのガンプラの様にお前との未来を組み立てていこうなんて実に先輩らしいプロポーズですがお互いまだ未成年なんで先輩が18歳になったら改めてしてくださいごめんなさい」

 

「なんで腕を誉めただけで断られるの」

 

そんな軽口を叩きあいながら、俺たちの時間は過ぎていった―――

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

一色とガンプラを作り始めてそれなりの日数がたった。早いもので、明日には一色の入学式を控えている。入学準備もあり最近は一色を呼んでいない。

 

「なんとか間に合ったか」

 

机の上には組み上げられたガンプラが佇んでいる。原型機よりも薄いオレンジの塗装に、細身になり女性的なシルエット。特徴的な天使の翼と、えげつないまでの重火器。可憐な見た目と裏腹にスパイスが効きまくりな、実に一色いろはらしい仕上がりになった。

 

壊れないように丁重に梱包し、小箱へ入れる。準備は整った。一呼吸し、登録されている一色の番号を呼び出した。

 

 

 

 

「珍しいですね、先輩からいらっしゃるなんて」

 

あれから慎重に自転車を運転して訪ねると、一色は開口一番にのたまった。普段は送っていくぐらいだもんね。上がるのはまだ勘弁してください。

 

「出来たからには、早いうちに渡したかったんだよ」

 

綺麗にラッピングされた箱を取り出し、

 

「まぁ、なんだ、入学おめでとさん」

 

そう言って差し出す。

 

一色はくすり、と微笑み

 

「入学のお祝いがガンプラなんて、先輩らしいですねー」

 

わたし以外なら減点ものですよー、と言いながら受け取った。悪かったな、センスなくて。

 

ガシガシと頭をかき、話題を変えるように、

 

「名前は決めたのか?」

 

そう問いかければ、一色は頷き、

 

「インセパラブルガンダム。切り離せない先輩との愛の結晶です」

 

と、ウィンクひとつ、満足げな笑顔で答えた。

 

……まったく、あざといんだよ。

 

 




次回バトルとGBD側のキャラが出る予定です。


オリジナルガンプラ解説

機体名:インセパラブルガンダム

スクランブルガンダムをベースに改造したガンプラ。
背部をWゼロのウィングバインダーに変更し、見た目も女性的なものになっている。フェイスのへの字スリットは、八幡のAGE-2ステルスとお揃いがいいと埋められフラットになっている。
翼と相まって、飛行形態もより鳥に近くなっている。機動力もさることながら、原型機よりも武装が強化されている。本人曰くかわいい小鳥だが、どう考えても猛禽類である。

名前の由来は比翼連理から連想。inseparable:離れられない


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だから、マギーは立派な大人である。

お待たせしました。4話目を更新します。

1月10日追記:後書きにオリジナルフォースの詳細をのせました。


一色にガンプラを渡してから半月がたった。

 

その間、俺たちはGBNにログイン出来ずにいた。

想定外に俺のリアルが忙しく、それどころではなかったのだ。

課題の作文を提出したら、担当の平塚先生に奉仕部なる部活にぶちこまれ。そこの部長である雪ノ下から、毒舌のジェットストリームアタックを食らい。依頼に来た由比ヶ浜に、固まったポリパテ状クッキーで毒殺されたり。この世界の扮装を根絶するために舞い降りた天使・戸塚と友達になったり。材木座?知らない子ですね。

 

一色だけなら十分ダイブ出来そうだったが、「それじゃ意味がないんですー」と言い、ずっと俺と行動を共にしていた。さながらハシュマルに付き従うプルーマの如く。

 

それを見た平塚先生が

「裏切りもの~―――――――――――――――!!!!!!」と泣きながら走っていった。だれかもらってあげて。

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

ようやくの休日、俺たちは連れ立っていつもの店に行く。新しいガンプラを動かすのが楽しみなのか、隣を歩く一色は始終にこにこしていた。

 

ログインして、ロビーで一色を待つ。

「せーんぱい!お待たせしました」

 

リアルより長い亜麻色の髪にエルフ耳。動きやすさガン無視のゆるふわファッション。あざとさ絶好調な一色のアバターである。

 

「おう、待った」

 

と、いつも通りに返す。

さて、どのミッションにしようかしらん。考えていると、

 

「あら、ヤハタくんにトリナちゃんじゃない~」

背後から俺たちのアバター名を呼ぶ声が聞こえた。俺がヤハタで一色がトリナである。

振り返れば、ピッチリとした服を纏った偉丈夫が手を振っている。

 

「っス。マギーさん」

 

「お久しぶりですー。マギーさん」

 

と、挨拶をする。俺とトリナ共通の知人のマギーさんである。いわゆるオネエな方だがとても面倒見が良く、俺もトリナも色々世話になった。また、ワールドランク23位の凄腕ダイバーである。まさにオネエは強いを体現した人である。

 

「トリナちゃんはホントお久しぶりね~」

 

「ですです。ようやく受験が終わりましたよー。ばっちり合格しました!」

 

「おめでとう。これでまたヤハタくんと一緒ね」

 

リアルでも知人のため、俺とトリナの関係も知っている。GBNの外でも世話になった。ほんと、この人には頭が上がらない。

 

「今日も二人でミッションを受けるのかしら?」

 

「えぇ、コイツの新型組んだんで。その試運転に…」

 

話しながら、連れ立って格納庫に移動する。ハンガーには俺のAGE-2ステルスの隣に、トリナのインセパラブルガンダムが並んでいる。マギーさんはじっくり眺め「愛が詰まってる。妬けちゃうわ~」と感想を表した。トリナさん、そのどや顔やめなさい。

 

そういえば、とマギーさんは、先日知り合ったという二人のダイバーについて語りだした。話を聞く限り、まだ始めたばかりの新人なのだろう。「好奇心に輝いた目を見ると、ついお世話したくなっちゃうの」と嬉しそうに語る。死んだ目の持ち主としては羨ましい限りである。

 

「とーってもいい子達。二人にも紹介するわね」

 

「いやアレがアレな―」「是非お願いします」

 

俺を押し退け、トリナが答える。おい、ボッチは人見知りなんだ。知らない人と会うのはハードルが高いんだよ…

 

そんな俺たちを見てくすり、と笑い「またね」そう手を振り去っていった。

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

マギーさんと別れたあとバトルフィールドに移動する。

 

「今日は慣らしだからな。簡単なミッションにしておけ」

 

そう言い、初心者向けの低難易度ミッションを選択する。

 

「まっ、これなら前みたいに突っ込んでも痛い目はみないだろ」

 

「ぶーぶー!」

 

あざとく膨れているが相手にしない。すると諦めたのか、インセパラブルを飛行形態にし飛んでいく。俺も付かず離れずの位置を取る。見せてもらおうか!新しいガンプラの性能とやらを!

 

標的は例のごとくリーオーNPD。射程距離に入ったインセパラブルはウェポンコンテナを開く。 頭上から爆弾の雨を降らせ、ガウの様に絨毯爆撃をしていく。跡には沢山の躯と数体の生き残りだけ。

旋回してくるとMS形態になり、落下しながら両腕のビームライフルで危なげなく撃ち抜いていく。どうやら今回は援護の必要はなさそうだ。

 

トリナは通信越しに「どうですか先輩」と、胸を張る。労おうと機体を寄せるが―――

 

「ヒャッハー!!リア充は消毒だ―――ッ!!!!」

 

そんな切実な叫びと共に、俺たちの間に砲弾が撃ち込まれた。咄嗟にスラスターを拭かせて飛びしさる。直ぐ様攻撃体制に切り替え、弾が来た方向を睨む。砲口から煙を上らせつつドムが3機連なってやって来た。

 

「カップルでログインしやがって!!」

 

「ここは戦場だ!!テメーらみたいなのがいていい場所じゃねぇんだよ!!」

 

「我らアロンズの名のもとに!!」

 

「「「リア充滅ぶべし!!!!!!」」」

 

何やら悲しい漢の慟哭が聞こえてくるが、つまりは―――

 

「初心者狩りか……」

 

こういった輩が湧いてくるのは、どのゲームも同じである。こいつらは大分毛色が違うが…

大方、初心者な彼女とログインして、いいとこを見せようとするにわか男をボコってカッコ悪いところを見せて気不味くしよう、という魂胆だろう。だが甘い。千葉のソウルドリンク・マッ缶並みに甘い。彼奴らはそんなんじゃ潰せんわ!どうせログアウトしたあと、慰めるとかいって余計いちゃつきだす。爆発シネェカナ「ちっ!先輩との時間邪魔しやがって……」

 

地のそこから響くような声で我に返る。普段のあざとさ全快な甘ったるさは微塵もない。モニターの先には、「ま、いいか、こいつは死んでいいやつらだから」という顔をした少女がいた……

 

ま、まぁ、そもそもコイツは初心者ではない。あれぐらいの輩なら任せてもいいだろう。下手に手を出したら飛び火しかねん……

いけるか?と視線で問いか来れば、

 

「大丈夫です。この子の動きは掴みました。先輩はそこで見ていてください」

 

と、頼もしい声が返ってくる。トリナは視線を

 

「先輩のお手を煩わせる程じゃありません。あなたたちはわたしが駆ち…もとい殲滅します」と、笑みを浮かべながら言う。

 

「ヒャッハー!」「威勢がいいねぇ」「相手してやるぜ、嬢ちゃん」とか、呑気に言ってるが。ねぇ、知ってる?笑顔は威嚇の意味もあると言うことを。

 

相手のドムに目を向ける。基本のジャイアントバズ持ちに、ラケーテンバズとシュツルムファウストを装備したもの、両手にMMP-90マシンガンを構えたドムキャノンもいる。火力で畳み掛けるタイプか。

 

確かに初心者には、この火力は驚異に映るだろう。だが、相手にしているのは俺の相棒を務めているトリナだ。 飛び交う砲弾の雨を、背中の翼をはためかせひらりひらりと躱していく。トリナに合わせて調整しただけあり、その姿は危なげない。今も相手の砲撃の合間を縫い、両のビームライフルを構えて、「死ね!!」と発砲。「ひ、火がぁぁぁ」の叫びと共にドムキャノンは爆炎に消えた。

 

「やられたのか!」「この女、初心者じゃねぇ!?」

 

と、驚愕の声を上げるが今更である。そもそもが、ここまでガチガチに改造されたガンプラに乗っている時点で初心者な訳がない。それにすら気付かず散る。嫉妬の炎は人をここまで狂わせるのか。ふと脳裏に、「生きるのは難しいね」という雪ノ下が浮かんだ。

 

トリナは一機落としたことでクールダウンしたのか、ふんす、と息をはく。しかし、

 

「なんですかやる気あるんですかその程度の腕で先輩とのラブラブタイムを邪魔したなら馬に蹴られて地獄に落ちてくださいごめんなさい」

と、一息に捲し立てた。全然クールダウンしてねぇ。余程、腹に据えかねていたのか、その後も、

 

「大体、そんなことしているからモテないんです」やら、

 

「まずは初心者カップルばかり狙うのがマイナス50点。アウトロー気取りの外した格好がマイナス50点。言動が偉そうなの割りに大した腕をしていないのがマイナス50点。零点どころかマイナスですねー。恥ずかしくないんですかー」

 

と、けちょんけちょんにした。

 

「そのぐらいにしとけ」

 

止めると、トリナのやつは「だってー」と言う。一部は俺に刺さるんだよ。

それにこういう輩は…「ふざけんなこのアマ!!容赦しねぇ!!」ほらな、やっぱり。

 

言うや否や、やつらのガンプラは独特の紫のオーラに包まれた。

 

「ちっ!コイツら、マスダイバーか!」

 

最近話題のブレイクデカールと呼ばれる違法ツールを使う集団である。どんなに拙い腕でできの悪いガンプラでも、たちまち強力な機体に早変わりする。ボールがガンダムになるようなものである。

修正パッチ等の対応のなさに運営仕事しろし、と言いたくなる。しかし、GBN関連の仕事をしている両親の、普段の社畜っぷりを知っている身としてはあまり声を上げられない。本当にご苦労様である。

 

へっぽこな奴等だったが、ブレイクデカールで強化されると厄介だ。流石にトリナだけでは厳しい。一体はバズーカを捨て、ヒートサーベルを抜きインセパラブルに向かおうとしている。

 

「援護する」

 

そう言い、ウイング基部に装填されているマイクロミサイルを撃ち込む。

 

「へっ!そんなへなちょこ食らうかよ」

 

そう言って、エリート兵ばりに切り払う。だが、残念。そいつは……

 

「スモークか!」

 

吹き出た煙が一瞬にして視界を奪う。さらに、

 

「レーダーも効かねぇ!?」

 

……どうだ、俺特性の粒子撹乱ミサイルの味は。劇場版00の冒頭で刹那の乗るフラッグが使った手である。ビームを無効するほど効果はないが、通信やレーダーの阻害には十分である。 異なる作品の特性でも組み込める。それがGBNだ。

やつらがごたついている間に次の手を打つ。

煙が晴れる頃には、やつらの機体しか残っていない。トリナはとっくの昔に上空へ離脱している。

 

「逃げやがったか」

 

と、サーベル片手に周りを見渡している。ところがぎっちょん―――

 

「ぐわぁぁぁ―――!!!!」

 

俺の機体から放たれたビームが貫く。流石にコクピットを貫けば、ブレイクデカールとて復活出来ない。十分狙いをつけさせて貰ったから、当てるのは楽である。

 

相手からすれば何もない場所からの攻撃だ。

 

「ミラージュコロイドだと!?」

 

流石に気づくか… 搭載されたミラージュコロイド・ステルスで姿を消していた。さっきいた場所からほぼ移動していない。さて次は、

「なぁ、あんたブレイクデカール使っている割には大したことないな」

 

トラッシュトークタイムである。

 

「そもそも作りが甘い。そんなんじゃいくら強化しても意味がない。あえて言おうカスであると!」

 

トリナと違い、ビルダーとしてのプライドを標的にして、一気に捲し立てる。そうすれば、

 

「バカにしやがって!!」

 

あっという間に血が上り、俺目掛けて攻撃をしてくる。目に見えた敵がいることにより、全ての意識がこちらに向かう。かかった!

 

「俺ばかりに気を取られていいんかね」

 

そう、いなくなったのは俺だけではない。

 

「トリナちゃんアターック!!」

 

掛け声と共にトリナのインセパラブルが強襲する。上空から加速して一気に距離を詰める様は猛禽類の狩りである。

憐れ獲物となったドムは脚部クローでがっちりホールドされ、そのままスラスター全快で地面にすりおろされている。エグい……

 

「リア充どもに…災いあれ…」

 

呪いを込めた断末魔を残し爆散する。こんな出会いでなければ友達になれたかもしれない。知らんけど。

 

「愛の勝利です!!」

 

ぶいっ!と満面の笑顔でのたまう。爆風を背にしたら猟奇的にしか見えん。こわいよ、つーかこわい。

 




アバター名由来

八幡→ヤハタ:はちまんを訓読みしただけ。捻くれ者なのに捻ってない。
いろは→トリナ:いろはうたに"ん"の字を追加し鳥啼歌より。いろはに足りなかったはちま「ん」がいる的なニュアンス。


オリジナルフォース

フォース名:アロンズ(ALONE's)

GBN黎明期か存在する謎のフォース。その正体は彼女なし子(みなしご)たちの悲しき集い。
「リア充滅ぶべし」を合言葉に日々カップルでログインする初心者を狩っている。
入団条件は彼女がいないこと。彼女もち(うらぎりもの)は即、処断。
夢は広大なフォースネストを手に入れ、GBNに彼女なし子(みなしご)の楽園を作ること。

いろはと組む前の八幡も密かに入団しようと考えていた。

名前の由来はアロウズとALONEをかけて。


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比企谷小町も一緒に遊びたい。

多くの方にお読み頂き、ありがとうございます。
お陰様で評価バーに色がつきました。
これからも拙作を宜しくお願いします。



ゴールデンウィーク―――

 

4月下旬から5月初頭の大型連休を指す言葉である。今では幅広く使われているこの名称。もとの語源は、戦後の映画業界がこの時期の劇場動員数を活性化するために作った宣伝用語にすぎなかった。要するに、長い休みがあるから映画見に来てくださいねー、という業界の陰謀である。近年では、振替休日も加わりより長い休日になったことに、さらには百貨店や遊園地など様々な施設が増えたことにより、行楽目的の人間が爆発的に増えたのである。

つまり何処もかしこも人だらけだ。何が悲しくて、休みの日まで人混みに揉まれて疲れなければならないのか。長い休みだからこそ、日々の疲れを癒す時ではないのか。故に、俺は断言する。

 

家で、寝る。これ最強。

 

―――と、連休初日から優堕な微睡みに浸っていると、不意に人の気配。小町かな?と寝ぼけ頭に浮かんだ次の瞬間、

 

「ねーお兄ちゃーん」の声と共に腹にどすんとした衝撃が。思わず「グェッ!」と声が出る。

 

「どしたのお兄ちゃん?死にかけのヒキガエルみたいな声を出して」

 

人の腹にニー・ドロップをかけておいて、小町はいけしゃあしゃあと言う。あと、人の中学の時のあだ名を言うな。死にたくなる。

流石に肉体・精神の両面に致命傷を与えられれば目が覚める。致命傷なのに起きるって、ゾンビかよ。自分で言ってて悲しくなってきた……

「で、小町さんや」

 

「何だい、お兄ちゃんや」

 

「人を叩き起こしたからには用があんだろ」

 

と、腹の上に座っている小町を睨む。これで大したことじゃなけりゃどうしてくれようか。つーか、早く退きなさい。

 

体を起こし改めて向き合うと、

 

「小町もGBNをしたいと思います」

 

と、言う。俺たちがプレイしているのを見て、自分もやってみたくなったそうだ。だが、

 

「お前、今年受験生だろ。勉強は大丈夫なのか?」

 

そう、現在小町は中学3年生。バリバリの受験生である。俺たちと同じ総武高校を狙っているが、若干おバカなところのある小町だ。兄としては心配である。

 

「塾も増やしたし、夏までにするから」

 

お父さんお母さんにも許可は貰ったから、と伏し目がちに言う。

まぁ、勉強ばかりじゃモチベーションも落ちるし、息抜きがてらならいいだろう。親父と母ちゃんが許可してるなら俺が言うことではない。あの二人は家の天使に甘いからな。俺? 言うまでもないだろ。ダダ甘だよ。

 

「なら、いいんじゃねーの」

 

そう言えば、たちまち破顔する。

 

「それでー、お兄ちゃんにお願いがあります」

 

と、胸の前で手を組んで上目遣いで迫ってくる。そのあざとい仕草に覚えがありすぎる。

天使が小悪魔に誑かされた――― 内心で驚愕する俺を知らず、瞳を潤ませ、

 

「小町にー、ガンプラ作って」

 

きゃるん、と可愛くおねだりをした。光と闇が合わさり最強に見えます。

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

善は急げとばかり小町は外出を促してくる。 仕方なくいつもの店に行こうとするが、「えー、ららぽに行きたい」という小町の一言により、ららぽーとまで出向く羽目になった。ガンプラ買うだけじゃないの?

 

到着すれば人、人、人の人だらけである。やだなー、かえりたいなー。そんな気分で眺めていると、

 

「あれ、先輩?」

 

聞き覚えのある声。出やがったな、家の天使を堕天させた諸悪の根元が!そう思い、声が聞こえる方を睨むが、

 

「…あら、商業施設にゾンビが紛れ混んでるわ」「ヒッキー、なんでいんの!?てか、目がキモいよ!?」

 

……君たちも来てたのね。

 

一色から話を聞くに、由比ヶ浜の発案で奉仕部女子部員でショッピングに来ていたようだ。初対面の小町と雪ノ下たちが自己紹介をしている。小町はにしし、と気持ち悪い笑みを浮かべながら戻ってくると、

 

「お兄ちゃんもすみにおけませんなー。小町にナイショでこーんな可愛い人を二人もお知り合いになっているなんて。浮気はダメだよ、お兄ちゃん」

 

と、小突いてくる。なんだよ浮気って、そもそも相手がいな、って冗談ですから一色さん笑顔で腕を締めつけないで折れる折れる折れる―――――

 

 

 

「先輩がららぽに来るなんて珍しいですね」

 

気を取り直して、そう尋ねてくる。人がいっぱいいますよー、という一色は俺の事がよく分かっている。流石、八幡検定2級の持ち主。

 

「小町がGBNをやると言い出してな」

 

「GBN?小町さんは野球をするのかしら」

 

雪ノ下が軽く首を傾げた。

 

「いや、草野球のことじゃない」

 

ガンダムのゲームの事だ、とざっくりに説明する。

 

「知ってる!隼人くんたちもやってるんだって!!」

 

リア王のイケメン野郎もプレイしてるのか。っべぇー、トップカースト集団すらプレイするGBN、マジっべぇーわー

 

「一色さんもそのゲームをしているのかしら、比企谷くんはともかく」

 

「はい。女性のプレイヤーの方も沢山いらっしゃいますよ。かわいいアバターとかいっぱいありますし」

 

と、女性目線で補足して説明していく。由比ヶ浜は、「ほへー」と感心しながら、

 

「へー、そんなに面白いのならちょっとやってみたいかも」

 

と、言う。

 

「雪ノ下ならともかく、由比ヶ浜は向いてないな」

 

「どういう意味だし!」

 

ガンプラ作りはそれなりに細かい作業が多い。クッキー作りでポリパテを錬成するガハマさんに荷が重い。いや、ポリパテなら逆に向いているのか?

 

何時までも喧々囂々と話していても拉致があかない。会話を切り上げると、一色たちと別れ施設内のホビーショップへ向かう。別れ際の一色はこちらを見てニヨニヨした笑みを浮かべていた。なにか良からぬことを企んでそうだ。まさか、俺と小町のデートを邪魔する気か!?

 

彼奴の動向を訝しみながらも、俺は小町を連れてガンプラコーナーへ移動する。

 

「んで、どうするよ」

 

気になるものがないか小町を促す。小町は、むむむと棚を眺めていたが、

 

「あ、なんかかわいいのがある。こーゆーので作ってくれれば、小町的にポイント高い!」

 

頭身が低くデフォルメされたキャラが描かれた箱を指す。模型というよりおもちゃと称した方が相応しいそれは、低年齢をターゲットにした入門編とも呼ぶべきガンプラ・BB戦士である。

ふむ、シンプルな造りで頑丈なBB戦士なら、初心者が扱うのに問題はなさそうだ。それなら女性キャラがいる三国伝とかいいかもしれん。だったら、コイツをベースにしたら面白い。小町にも喜んでもらいたい。

頭の中で設計図を描く。いけそうだ。

 

「なぁ、小町。こんなガンプラはどうだ」

 

提案してみると、

 

「いいよ、お兄ちゃん!すっごくいい!お兄ちゃん株がストップ高だよ!!」

 

何やら分からない称賛を戴いたが、高評価である。孟獲ガンダム祝融ガンダムセットを手にレジに向かった。

 

目的の物を買い店を出ようとすれば、奉仕部三人娘が出入口のショーケース前に固まっていた。君たち、どっか入ったんじゃないの?

どうやら、中に飾られている作例を見ているようだが……ゲ!あそこには

 

「あ、せんぱーい!」

 

子憎たらしい笑みを浮かべた一色が手を振る。その声で一緒にいた二人もこちらを向いた。

 

コンテストの作品が並ぶその中には、俺の作ったものも展示されている。他にも作品が並んでいるからそこまで目立つことはないが、どうやら一色のやつがバッチリ説明したようだ。謀ったな!?いろは!

いかん、ガンプラに興味のない知り合いに見られると、なんかこう、恥ずかしい。つーか、恥ずかしい。やだ、もう……

 

内心羞恥に悶えていると、目をキラキラさせた由比ヶ浜がやって来て、

 

「なんかすごいじゃん!!うんすごい!!」

 

と、喧しく話しかけてきた。興奮し大絶賛だが、いかせん語彙が小町レベルである。

「えぇ、そうね。良くできてると思うわ。がんぷら?のことは、よく分からないのだけれど、非常に丁寧に作られているわ。誰しも1つは特技はあるものね」

 

珍しく雪ノ下が褒める。最後は余計だが…

 

つーか、一色はどんな説明したんだよ。知り合いの、しかも女子にここまで誉められるとは……

俺は頬を掻き、「あぁ、まぁ、ありがとうよ」だけ答えた。くそっ、目が合わせられん!

 

「先輩照れてますー?」「お兄ちゃんがデレたー。捻デレだー!」 ……このガキどもはあとで泣かす。

 

いつまでも入口に陣取るのは店に迷惑がかかる。渾身のデコピンをくらい悶絶するアホ姉妹(仮)を引きずり離れる。雪ノ下は頭痛がするのかこめかみを抑え、由比ヶ浜はたははと力なく笑った。ほんと、スマン。

 

 

 

あのあと、場所を喫茶店にかえ駄弁り続けていた。雪ノ下も由比ヶ浜も、GBNについて本格的に興味を持ったようで、色々と質問をしてきた。規約やら細かい説明で由比ヶ浜のオツムは煙を出していたが、隣に雪ノ下がいるから問題はないだろう。

 

どうやら、またGBNの人口は増えそうだ。

 

「良かったね、お兄ちゃん」

 

……あぁ、そうだな。

 

 

 




小町のガンプラは次回持ち越しです。


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こうして、俺たちのGBNが始まる。

二日連続更新です。

お気に入りが100件突破しました。ありがとうございます。



ゴールデンウィーク最終日

 

俺は今、いつもの模型屋に来ている。

 

お一人様でと言うわけではない。オプションみたいな一色は別として、小町に、雪ノ下、由比ヶ浜も一緒である。

 

小町のガンプラが完成し、一息ついていた俺に一色からの呼び出しがかかった。やはり雪ノ下と由比ヶ浜もGBNを始めることになり、休みの間にガンプラを作っていたそうだ。完璧主義の雪ノ下のことだから問題はなさそうだ。由比ヶ浜は……大丈夫、ガンプラに大切なのは愛よ。

完成したのでお披露目+初ダイブをするそうだ。小町にはとっくの昔に話を通していたらしい。通りで完成してもダイブに行こうと言わなかったわけだ。

女性陣からのお達しに俺が拒否権を発動出来る筈もなく、小町に引き摺られ千葉駅に向かう羽目になった。

 

 

 

「やー、みんなの後に出すのは勇気がいるから、あたしから見せるね」

 

どこか自信なさ気に由比ヶ浜が取り出した。

特徴的な四足歩行のシルエット。ファンからはガンダムのZOIDSと呼ばれるMS・バクゥである。青紫だったカラーが褐色になり、由比ヶ浜の飼い犬を連想させる。なんつー名前だったっけ……クッキー?クラッカ?

 

「どうかな?あたしのモビルサブレは」

 

あぁ、そうだサブレだ。

武装は背中の旋回式のビーム砲一門に連装ミサイルと、口部のビームサーベルか。使い勝手のいいスタンダードな組み合わせになっている。

 

「まぁ、初めてにしては悪くないんじゃねーの?」

 

そう評価すると、

 

「あたしもみんなとじーびーえぬやりたかったもん。ゆきのんといろはちゃんにはいっぱい手伝って貰ったけど…」

 

「でも、ありがと。ヒッキー」と、由比ヶ浜ははにかみながら答えた。

 

さてお次は、

 

「次は私の番ね」

 

どこか自信あり気に、雪ノ下が取り出す。

ずんぐりむっくりとしたボディーに白黒カラー。鋭い目付きに凶悪な爪。オイ、コイツは……

 

「パンダッガイさんよ」

 

と、得意気な顔をし控え目な胸をそらしながら答えた。

ベアッガイⅡをリデコしたそれは、我らが千葉の東京ディスティニーランドマスコットにそっくりである。

 

「や、最初はもっと本物に近かったんですけど、なんとかここまで抑えて貰えました……」

 

と、疲れ気味に一色が答えた。よく見れば特徴的だった星形の隈は通常のパンダのものになり、マフラーもしていない。いくらガンプラは自由だといえ、流石に他社の著作物は不味い。最強のディスティニー法務部が来てしまう。これぐらいならまだ誤魔化せる。一色、G.J.である。

労いを込めて一色の頭を撫でながら、改めて雪ノ下のガンプラを見る。丁寧に塗装され、はみ出しも塗りむらもない。

 

「流石、雪ノ下だな」

 

そう言うと、由比ヶ浜とともに微妙そうな顔でこちらを見ている。えっ、なんで?

 

「いつまで一色さんの頭を撫でてるのかしら、セクハラ谷くん」

 

おっと、スマン……

 

「最後は小町ですね」

 

ふっふっふっ、と不敵に笑う。なんでお前が自信あり気なんだよ。

取り出したのは、2体のガンプラ。

 

「小町ガンダムとダイアモンドカー君です!」

 

ネーミングセンスぅ――――――

 

 

気を取り直して、小町のガンプラを紹介しよう。

祝融ガンダムをベースにした小町ガンダム(笑)自体はそこまでカスタムはされていない。精々、塗装と可動域の調整ぐらいである。

だが、このガンプラの本領は別にある。ダイアモンドカー君(笑)である。金剛夜迦をベース――我が家の飼い猫・カマクラっぽく――にしたそれは、小町ガンダムの武器であり強化パーツである。普段はMDの如くオートに動くが、合体することにより小町ガンダム自体をパワーアップさせる。浪漫に満ちた期待である。ぶっちゃけ、こいつの調整に一番時間がかかった。いくら可愛い小町のためとはいえ、もう二度とやりたくない……

 

これを見せた反応はというと、雪ノ下は目をキラキラさせてダイアモンドカー君を手に取り、由比ヶ浜は「ふわー」と口を半開きにしてアホの子になっている。

 

「なんかわたしのより手が込んでません?」

 

……気のせいだよ。

 

 

 

× × ×

 

 

 

お披露目も終わり、本来の目的であるGBNへとダイブする。

 

アバターの設定もあることだし、俺は一色――

トリナとひと足お先にロビーで待っていた。俺たちの特徴は伝えてあるから大丈夫だろう。

 

しばらくすると、一人の少女が近付いてくる。

 

「およ?もしかして一番乗り?」

 

この口調は、

 

「もしかして小町ちゃん?」

 

「はい、お姉ちゃんと、ついでにお兄ちゃんの妹の小町あらためリトル・マチです!」

 

ねぇ、小町ちゃん。お兄ちゃんの方が本当のお兄ちゃんだからね……

 

リトル・マチ、長いからリマチでいいか――の姿は小さなシルクハットをちょこんと頭に乗せ、どことなくサーカスの猛獣使いを思わせる格好である。また、特徴的なアホ毛も健在だ。俺のアバターにもついているからお揃いだ。

 

残りの二人はと思っていると、また一人近づいてくる少女が。さて、どちらが―――

 

「やっはろー!」

 

あっ、ガハマさんでしたか。

 

「って!ヒッキーの目が腐っていないし!」

 

「来て早々失礼なやつだ」

 

あと、ダイバーネームで呼べ。

 

ごめんごめんと言いつつ、俺とリマチを見比べると、

 

「やー、こうやって見るとそっくりだね」

 

ウンウンと大きく頷く。それに連動して、二つの立派なものが…… おぅ、電脳空間でも健在でしたか。

 

「先輩、目」「ヒッキーマジキモい!」

 

ごめんなさい。

 

由比ヶ浜の姿は「あ、名前はユイユイにしたよ」、ユイユイの姿は犬の特徴を持つ獣人の姿である。といっても、ふさふさな耳と尻尾だけだから人間成分は高めだ。ケモノレベル1というところか。

 

 

あとは雪ノ下だけかと思っていると、

 

「お待たせしたわね」

 

という声が聞こえた。しかし、まわりを見てもそれらしき人物はいない。はて?

 

「ここよ」と、低い位置から声が聞こえ視線を下げてみると―――

 

二つの足で立つ猫がいた。人間に猫の特徴があるだけなんてものではない。飼い猫に服を着せた様なものだ。ケモノレベル4である。

 

「もしかして、ゆきのん?」

 

恐る恐るユイユイが問うと、

 

「ええ、そうよ。今はネコノだけれども」

 

と、得意気に猫背を反らし答えた。

 

動物のアバターを使う人はそれなりにいる。有名どころでは、第七機甲師団のロンメル隊長がフェレットの姿をしている。しかし

 

「まさか知り合いが選ぶとは……」

 

当の本人?は女性陣に撫でられ、ゴロゴロ喉を鳴らしご満悦である。ユイユイは「うぅ…猫だ…でも、ゆきのんだし…」と尻込みをしていたが、今ではおっかなびっくりながらも撫でている。

 

「あら?ずいぶん賑やかね」

 

いつの間にか近付いて来たのか、マギーさんから声がかかった。見た目がリマチと同じ年頃の少年少女を連れている。

 

「約束通り紹介するわ。といってもはじめましての人が多いから、自己紹介の方がいいかしら?」

 

マギーさんの一言により、自己紹介が始まった。俺が噛んで微妙な空気になったりしたが、おおむね順調に終わった。

少年のうちなんとなく主人公ぽい方がリク、眼鏡を掛けた方がユッキーと名乗った。リクは運動センスが良く、ユッキーは近所の模型店で賞をとったことがあるらしい。ああ宜しく。だが、リマチに近づくなら容赦はしん―――

箱入りお嬢様な雰囲気を持つ少女はサラ、リトルガハマさんな感じの少女はモモと名乗った。サラはガンプラなし、モモは今日から本登録だそうだ。

話した限り年齢は見た目通りか。リアルの小町と同じか下ぐらいか。

 

同年代が増えて一気に華やかになったためか、今も女性陣(マギーさん含む)できゃいきゃいと盛り上がっている。かわいいが正義と言うが、ネコノを代わる代わるだっこしご満悦そうだ。

男性陣?こういうときは苦笑いして見守るしかないだろ……

 

マギーさんに別れを告げたあと、格納庫へ移動する。お互いのガンプラを見るためだ。ガンプラに込められたビルダーのこだわりを感じとる、それだけで勉強になる。

先ずはリクからか。

 

「これが俺のダブルオーダイバーです」

 

そう紹介されたのはダブルオーガンダムをカスタムしたガンプラであった。見た限りでは大掛かりな改造は施されていないが、両肩のGNドライブ基部に追加されたウィングにより機動力が上がっていそうだ。何より、

 

「このガンプラへの強いこだわりを感じるな」

 

一緒に強くなる相棒的な?そんなことを言えば、リクは「ありがとうございます」と元気良く返事をした。意外と礼儀ただしいね、きみ。

 

お次はユッキーか、

 

「次は僕のジムⅢビームマスターです」

 

控え目にだが、どこか自信あり気に紹介された

ガンプラ。コンテストで賞を取っただけあり非常に出来がいい。ジムⅢという渋いチョイスながら、名前の通り追加されたビーム兵器と足回りの安定感により、機体の堅実さが現れている。

 

「やるなユッキー」

 

その年齢でこの技量は大したものだ。

 

「最後はモモのか」

 

さて現役JC(推定)の腕はどんなものかしら―――って

「クォリティー高っ!?」

 

え、何?このカプル出来が良すぎない?下手したらどころか、確実に俺より上だよ!?腕はどんなものかしら、とか言ってた俺が恥ずかしいんですけれど!今時のJC(推定)ってこんなレベル高いのん?今のトレンドはガンプラなのん?

 

想定外の事態に若干挙動不審になっていると、

 

「あー、わたしが作ったんじゃなくて、レンタルなんですよ」と気まずそうに言う。お兄さん早く言って欲しかったな。

 

まぁ、誰が作ったかは別として、古いキットしかないカプルをここまで作り込むのは並大抵の腕ではない。いつか現物を見たいものだ。

 

 

マギーさんの知り合いを訪ねるというリク達に別れを告げ、ミッションエリアに移動する。「あたしたちも負けてられないよー」と気合い十分なユイユイを先頭に新人組は飛んでいく。

「元気がいいな」俺が始めた頃はどうだったか…ふと、そんな事を思う。ちらりと横を見れば、トリナはそんな俺を見つめふわりと微笑んだ。

「ま、まぁ、肩肘張らず、この世界を楽しむことが先決だな」上擦る声を誤魔化しつつ、俺はトリナとともに後を追いかけた。

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

ゴールデンウィークが開けても、俺たちは部活終わりや休日にちょくちょく集まりミッションをこなしていった。

 

数をこなしていくうちに、動きにぎこちなさも消えていく。操作になれる頃には、役割分担みたいなものが出来上がっていた。リマチ&ユイユイの四足コンビが機動力で翻弄し追い込む、そこにネコノがステゴロで突貫する。後者にツッコミどころ満載であるが、本人が楽しんでいるから良しとしよう。

 

俺とトリナは最初はアドバイスや援護に徹していたが、次第に同じミッションを一緒にするようになった。 ソロか、精々トリナとのタッグだけだった俺にとって、ここまでチームを組んでゲームをするのは初めてのことだった。

 

3人が着実に力を付けていき、個人ランクがDになる頃、

 

「ねぇ!みんなでフォースっていうのを組まないかな?」と、ユイユイが言い出した。どうかな?と各々に問う。

 

「はい、リトル・マチは賛成です!」真っ先に答えるリマチに、

 

「えぇ、いいんじゃないかしら」なんだかんだでユイユイに甘いネコノ、

 

「わたしも賛成です。フォースを結成すれば専用の部屋も手に入りますし」即物的なことを抜かすトリナ、

 

最後に俺に視線が集まる。どうせ今更なに言っても決まってんだろ。ため息ひとつをつき、了承の意を伝える。

 

たちまちにわぁ―――!!と上がる歓声。たかだかフォースひとつでここまで喜ぶか?そう思いつつも、微かに口角が上がる俺がいた。

 

 

 

――― こうして、俺たちのフォースが結成された。

 

 

 

 

 

 

ところで、フォース名はどうするんだ?




オリジナルガンプラ解説

機体名:小町ガンダム&ダイアモンドカー君

比企谷小町のガンプラ。
祝融ガンダムを改造している。
いろは直伝のおねだりにより、兄・八幡に作らせた。SD故に初心者の小町にも扱いやすい。バーサーカーモードはオミットしている。
金剛夜迦を改造した猫型のダイアモンドカー君を装備している。むしろそちらが本体。普段はMDの如く自立稼働しているが、変形し小町ガンダムに装着することにより戦闘能力を引き上げる。



機体名:パンダッガイさん

雪ノ下雪乃のガンプラ。
ベアッガイⅡを改造している。
当初は雪乃の好きなパンダのパンさんその物な見た目であったが、版権云々等の度重なる説得により普通のパンダの塗装に変更された。せめてもの抵抗か、腕部はゴックのアイアンネイルになっている。
なんでも高水準でこなせる雪乃の腕もありかなりの出来を誇る。ファンシーな見た目と裏腹にステゴロ仕様。水陸両用機故の重装甲を生かした突貫には目を見張るものがある。



機体名:モビルサブレ

由比ヶ浜結衣のガンプラ。
MSバクゥを改造している。
自宅で飼っている愛犬のサブレをモデルにしている。カラーリングと背部の武装以外特に改造はされていない。
チームの他の機体に比べて特徴となるものはないが、犬の飼い主の観察力による実際の獣じみた動きによるトリッキーさで翻弄するため意外と勝率は高い。
拙いながらもガンプラへの想いは込められている。


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シャフリヤールはガンプラに愛を込める。

7話投稿します。

※あらすじを変更しました。


―――あの後、フォース名を決めるのは困窮を極めた。

 

「パンダズガーデンはどうかしら」「ジービーエヌズがいいと思うな」「トリナちゃん親衛隊がいいんじゃないですかー」「お姉ちゃん候補の集いがいいと思います」「もう奉仕部でいいんじゃねーの」「「「「却下」」」」と各々勝手に言い出す始末。さっきまでの一体感は既に消え失せていた。気のせいだったのかなー……

 

次第に舌戦は苛烈になっていく。

 

「このままでは埒が明かないわ」

 

の、一言により一時中断。

 

休憩がてら場所をサイゼにかえ、仕切り直す。腹が膨れたことで多少は落ち着いたからか、少しは周りを見る余裕が出来た。ふと窓の外を見れば、歩道脇の花壇に薄紅色の花が。

 

「なぁ、あの花ってなんだっけ?」

 

隣にいる一色に問いかける。不言な顔をしながらも「アザレアじゃないんですか」と答える。

 

「これでいいんじゃねぇの?」

 

揃いも揃って、なに言ってるんだコイツ って顔をするんじゃない。

 

「だから、フォース名。アザレアでいいんじゃねぇの」

 

俺からの提案に一斉に思案顔になる。

 

「比企谷くんにしては、まともな意見ね」

 

異論はないわ、と雪ノ下は答えた。他の連中も問題はなさそうだ。

 

こうして、紆余曲折を経てフォース名は『アザレア』へと決まった。

花の名前を冠したガンダムがあるくらいだし、そこまでおかしくはないだろう。

 

 

……少なくとも『アロンズ(独り身たち)』よりはマシなはずだ。

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

フォースを組んだことにより、GBNで受けられる恩恵が一気に増えた。専用ミッションに、限定イベント、時間がいくらあっても足りないくらいだ。

 

現在、屯しているこの部屋も、結成時に支給される個室・フォースネストである。 以前トリナが言っていたのは、これのことである。

支給時には最低限の家具しかない殺風景さであるが、ミッションポイントで新たな家具が購入できる。または、別の土地や建物を購入しそこを拠点にすることも可能だ。文字通り一国一城の主にだってなれる。現に最上位フォースのアヴァロンのフォースネストは巨大な城である。

こういったオマケ要素でも力を入れているのが人気の秘訣かもしれない。

 

ところで、我らがフォースネストであるが、奉仕部の部室みたいになっている。タイル張りの床に長机とスクールチェア。The 教室という佇まいである。よくこんなアイテムがあったな……

ホースネストのレイアウトは女性陣の一存で作り替えられていった。まぁ、いいんだけどね………

ミッションで稼いだポイントが、あれよあれよという間に家具アイテムへと変わっていく。

ゲーム内なのに稼いだ金を遣われていく旦那の気分を味わった。だから働きたくないんだよ。やはり、専業主夫が一番である、まる

 

そんな感傷を抱きながら、ふと室内を眺める。

窓際に座り静にデータベースを読むネコノ。その隣ではユイユイが何やら画面をいじってる。すぐ傍ではトリナとリマチが一緒になってカタログを眺めている。

いつもの放課後の風景。そこにリマチが加わっているが、違和感はない。

小町が入学したら、こんな風景になるのだろうか。無理矢理入れられた部活だったが、こういうのも悪くないか……

 

「あー、お兄ちゃんが変な目をして見てますよー!」

 

…… アホ毛抜くぞ、こんガキ。

 

 

 

 

 

「なぁ、ペリシア・エリアに行ってみないか」

 

気を取り直して、そう提案する。

 

「ぺりしあえりあ?」

 

聞き覚えのない単語が出たからか、ユイユイがはてなと首を傾げる。

 

「砂漠の中にある中立エリアのことよ。ガンプラビルダーの聖地とも呼ばれるわ。そこには世界中のビルダーが集い、自分の作品を展示しているの。ランクによってガンプラの乗り入れが制限されている分、そこで展示が出来るということはかなりの腕よ」

 

この世界でもYukipediaは絶好調である。いや、今はネコノだからNekopediaか。何それ、ひたすら猫情報が載ってそう。雪ノ下がネットの海から帰ってこられなくなるな。

 

「珍しいわね。ヒキコモリ谷くんが自分から外に出ようとするなんて」

 

脇道に逸れていた思考を、ネコノの問いかけにより戻す。

 

「新作が出来たからな。それを見てもらいたいんだよ」

以前からコツコツ作っていたが、この間見たカプルで火が付き一気に組み上げた。普段は目立つのが嫌いな俺ではあるが、曲がりなりにもビルダーだ。自分の作品を見てもらいたい。この気持ちに嘘はない。

 

「でも、ランクによって入れないんじゃないの?」

 

ユイユイが尤もな質問をする。

 

「俺とトリナが規定ランクを突破している。相乗りすりゃ行けるだろ」

 

これでも長いことGBNをやっているからな。それぐらいは突破している。俺に付き合っていたトリナも同じだ。

 

「世界中から凄腕のビルダーが集まるんだ。見るだけでも違う」

 

それに、ペリシア・エリアはあの人がよくいる場所でもある。もしかしたら、会えるかもしれない。

 

「あの人ってなんですか。もしかして浮気ですか」

 

目のハイライトが消えたトリナが詰め寄ってくる。流石、GBN。そんな機能まであるのか。

 

「そんなんじゃねぇから」

 

一応、弁解はしておく。

 

膨れっ面のトリナ以外は、ペリシアに行くのは異論無さそうだ。そうと決まれば、さっさと格納庫に行くぞ。

 

「お兄ちゃんのガンプラ、いつもと違くない?」

「なんか悪そー」と、リマチが影のように佇む機体を見上げながら言う。

 

「新作だって言っただろ」

 

そう、俺の機体は何時ものAGE-2ステルスではなく、別のものを持ってきている。

 

「というわけだから、いつもみたいな速度は出ん。トリナはリマチ達を連れて先行してくれ」

 

いくら狭いコックピットとはいえ、小柄な少女3人と猫1匹ぐらいなら大丈夫だろう。

 

「頼む」と軽く頭を下げながら言うと、「了解しました…」と、ご機嫌ななめながらも承諾してくれた。トリナたちと別れ自分の機体へと向かう。

 

ここ最近、付きっきりだった機体に乗り込む。起動と共に頭部に4つの光が点る。

 

「ヤハタ、スペルビアジンクス行きます!」

 

掛け声と共に飛び出す。オレンジ色の粒子を撒き散らしながら、機体は飛翔する。

目指すは、ペリシア・エリア。

さて、どんなガンプラがあるか楽しみだ。

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

果てなく拡がる砂色にオレンジの光を振り撒きながら、ただ一機、ペリシアへと向かう。

トリナたちのインセパラブルは既に遥か彼方だ。もとより高機動型なものに、トリナ自身の腕も加わりあっという間に空を駆けていった。この分だと、俺より大分先に到着するだろう。

 

 

 

変わらぬ景色に迷いそうになりながらも、マップを頼りにペリシアへ到着した。

 

展示スペースに機体を置き、さてあいつらは?、と探す。しばらくすると、「せーんぱーい」といつものあざと甘いボイスが聞こえてきた。

 

「おぅ、ここだ」

 

返事をすると、近寄ってくる面々。すると、あいつらは見覚えのある少年少女を引き連れていた。リクたちご一行である。

 

 

 

「ほほう、スペルビアジンクスですね」

 

合流するや否や、メガネを光らせ、機体の蘊蓄を語りだすユッキー。00Vまで押さえているとは、やるな!

 

「凄い。武器まで作り込んである」

 

「ヤハタさんが作ったんですか?」

 

「このガンプラ、嬉しそう」

 

と、年少組は目をキラキラさせながら話し掛けてくる。あ、そう? もっと誉めてもいいのよ?

うちの女性陣は興味がないのか、黙々と屋台の料理を平らげていた。この差ァーーー

 

 

もっと色んなガンプラを見てきます、そう言うリクたちと別れ、俺たちは腹ごしらえに屋台へと向かう。というか、君たち、さっきから散々食べていたでしょ?

 

 

その後、腹ごなしに露天を冷やかしたり、他のビルダーの作品を見学したりしていた。

それにしても、あのジーさん凄かったな。旧キットのガンダムをあそこまで丁寧に作り込むとは…… 素材への愛を感じる。

 

そんな事を思いながら散策していると、何やら辺りが騒がしくなっていく。

 

「なんか、シャフリヤール?って人が来るみたいだって」

道行く人に話を聞いてきたユイユイが答えた。

 

「このGBNで間違いなくトップクラスのビルダーだよ」

 

そもそも、フォースネストでの話は、彼の事だ。そう言うと、トリナは疑念が晴れたからか多少は機嫌が戻り、

 

「捻くれ者の先輩が誰かを誉めるなんて珍しいですね」

 

と、悪戯そうな笑みを浮かべ言ってくる。

 

「ばっかお前!俺だってリスペクトする心は持ってるんだよ」

 

しかし、あの人が珍しい。そんな疑問が頭を過る。

 

「なんでもいいから行ってみようよー」のユイユイの声に引き摺られ、一同、新作がお披露目されるという広場へと向かった。

 

 

広場は既に多くの人で溢れ帰っていた。普段の俺ならすぐにでも帰るところだが、シャフリさんの新作が見られるのならば話が違う。いかん…ドキがムネムネしてきた……

 

「来たぞ!シャフリヤールさんだ!」

 

そんな声とともに、ワッと上がる歓声。

急いで声のする方を向く。そこには中東風の衣装に身を包んだおっさんが二人いた。

 

あぁ、そういうことか……

 

「あの人がシャフリヤールさん、ですか?失礼ですけど、とても先輩が尊敬するような人に思えません」

 

不可解に思ったトリナが小声で尋ねてくる。

 

「違ぇよ。俺の知ってるシャフリさんじゃねぇ。つまりは」

 

偽物、である。声を上げそうになる面々を制す。ここで騒いだら、確実に面倒なことになるからだ。ヤハタは空気が読める子。

 

「あんまり公の場に出ない人だからな。こういった輩も湧いてくる」

 

さて、曲がりなりにも、シャフリヤールの名を騙ったんだ。オッサンたちのお手並みを拝見しようではないかーーーフヒヒ、とニヒルな笑みを溢していると、隣にいたトリナたちはうわァ…という顔をして離れていった。ヤハタ、泣かない……

 

そうこうしている内にオッサンの作品がお披露目される。満を持して登場したのは……ザムドラーグに……武器を盛り付けただけ……?

 

なんとも言えない空気が辺りに漂う。うん、俺もこれは予想外だわ……

 

いたたまれない空気になりながらも、「シャフリヤールさんの作品だろ」「むしろ前衛芸術だ」の声が出てくる。あんたら、マジか……

 

だが、そんな空気をぶち壊すかのように、

 

「なんか、ピンと来ないな…」

 

の声が。って、マジかよ、リク!?そこで言っちゃうか!俺たちに出来ないことを平然とやってのけるッ そこにシビれる!あこがれるゥ!

 

と、アホなことを考えていると、オッサンのツレがリクに詰め寄り出した。

 

「おにーちゃん、なんかヤバそうだよ」

 

リクたちは今にもオッサンに連れていかれそうだ。「ねぇ、お兄ちゃん!」

 

……妹に言われれば仕方がない。まったく俺のキャラではないんだが…そう思いながら騒ぎの中心に向かおうとする。

 

しかし、オッサンの行く手を遮るように、空から1つの影が躍り出た。

 

そこには見たまんまくノ一という格好をした少女がいた。

 

「あのガンプラは、シャフリヤールが作ったものじゃないわ」

 

その後、少女の言葉により偽物とバレたオッサンズはそそくさと逃げていった。まぁ、一件落着である。

 

 

 

先程までの騒ぎが嘘の様で、広場には落ち着きが戻った。俺もガンプラの展示に戻る。

 

「やぁ、ヤハタくん」

 

そんな時、物陰より現れた人狐姿の青年が話しかけてきた。

 

「っす。来てたんですね」

 

軽く頭を下げ挨拶をする。

 

「先輩のお知り合いですか?」

 

俺に知り合いがいるのが珍しいのか、疑問に思ったトリナが話し掛けてくる。

 

「あぁ、この人が本物のシャフリさんだよ」

 

いきなり登場した話題の人物に、一同は驚きの表情を浮かべる。当の本人は「やぁ」と軽い調子で手を振っているが。

 

「あなたがそんな有名な方と本当にお知り合いだとはね」

 

普段の俺を知っているネコノからは、尤もな疑問である。

 

「マギーさんだよ。あの人は色々と顔が広いから」

 

ホント、あの人の人脈の広さは謎である。

 

「トリナちゃんは知ってたの?」

 

トリナは大袈裟にぶんぶんと手を振りながら「初耳ですー」と答えた。その頃は受験勉強してログインしてなかったからな。

 

一通り自己紹介が済んだ後、折角来ていただいたからと、俺のガンプラを見ていただくようお願いする。彼は「勿論」と、快く答えた。

 

 

感想を聞きながら、シャフリさんと二人正門へと向かう。真のトップビルダーからの貴重な意見だ。作品への励みになる。

 

ふと、視線を前に戻すと、門の外にはリクたちがいた。シャフリさんは彼らの方に向かっている。また、マギーさん経由で知り合ったのか?とおもっていると、次の瞬間ーーー

 

砂煙を巻き上げながらゼムドラーグが飛び立った。

 

何事かと思えば、どうやら偽物のオッサンどもが、リクたちに逆恨みをしくノ一の少女を拐ったらしい。ガンプラがなく手をこまねくリクたちに、シャフリさんは、

 

「君たち、もし良かったら私のガンプラを貸そうか」

 

そう言って、一機のガンプラを取り出す。

あれはプトレマイオスアームズ!?それに乗れるとは羨ましいぞ、リク、ユッキー。

 

救出に向かった彼らを見送ると、

 

「さて、ヤハタくん。手出しは無用だよ」

 

と、俺に釘を指した。

 

「私の偽物だ。私が相手をするのがスジというものだろう?」

 

どうやらこの人自ら鉄槌を下しに赴くようだ。まぁ、この人に任せれば間違いない。俺なんかより余程上手くやるだろう。エアバイクに跨がり、颯爽と駆けていくシャフリさんに別れを告げる。

 

俺はと言えば、自業自得とはいえ酷い目にあうだろうオッサンたちの冥福を祈った。合掌。

 

 

 

さて、俺も帰ろうかしら、とトリナたちのもとに戻れば、

 

「おう!ヤハタじゃねぇか」

 

そんな威勢のいい声と共に、狼人の青年がやって来た。

 

「またお兄ちゃんのお知り合い?」

 

さっきから現れる俺の知り合いに、流石のリマチも驚いているようだ。

 

「タイガーウルフさん。フォースランク5位の武闘派フォース『虎武龍』のリーダーだよ」

 

だが、普段はエスタニアにいる人がここに来るとは珍しい。

 

「あぁ、俺だってシャフリの野郎がいる場所になんか来たくねぇよ」

 

そう吐き捨てる。しょっちゅう言い争っていますもんね、あなたたち。

 

「こないだマギーに紹介された連中がここに来るって聞いてな」

 

どうやら、以前リクたちが会うと言っていたのはタイガーさんのことらしい。というか、またマギーさんか。

 

改めて、自己紹介をする。タイガーさんは女子の間でしどろもどろしている。特に、犬好きのユイユイに寄られ完全に挙動不審である。材木座かよ!

 

大の男がこれでは、その手の女子にはいいカモである。うちで一番のその手の女子といえば、

 

「何ふくれてんの?」

 

普段なら嬉々としてちょっかいを掛けに行こうものだが、1人輪を外れてぶっすぅーと頬を膨らませていた。

 

「べっつに~ ボッチとか言いながら意外とオトモダチの多い誰かさんのことなんて何とも思ってませんよ~」

 

何とも思っていないという態度ではない。どうやら、自分の知らないところで交流があり、少し妬いてるようだ。

 

「知り合いってだけだ」

 

そう言いながら、頭に手を乗せる。

 

「それに、俺とここまで長く組んでるのはお前ぐらいなもんだろ」

 

そうして、軽くぽんぽんと撫でた。「先輩のがあざといです…」モニョモニョと呟く。どうやら機嫌は戻ったようだ。

 

「それにしてもヤッキーの知り合いって、スゴい人たちばかりなんだね」

 

うんうん、と感心しながら言うユイユイ。あと、ヤハタ+ヒッキーでヤッキーである。もう、諦めた…

 

「えぇ、そうね。普段のあなたからは想像もつかないわ」

 

と、ネコノも追従する。リマチもうんうん、と横で頷いている。

 

そんな女性陣の反応を不審に思ったのか、

 

「なんだ、嬢ちゃんたちは知らないのか?」と、前置きしながら、

 

「コイツはワールドランク88位。十分にトップランカーだ」

 

と、言った。

えぇ!!と驚く一同。言ってないからな。

 

「って、トリナちゃんは知ってたの?」

 

そう、問いかけるユイユイに、

 

「えぇ、まぁ。なんたって、わたしは先輩の相棒ですから!」むふん、と胸を張り、トリナは自信満々に宣った。

 

そこまで言ってねぇよ。

 

 

 

× × ×

 

 

空が赤く染まる頃に、シャフリさんたちは戻ってきた。リクたちも無事のようだ。

シャフリさんとタイガーさんは顔を会わせるなり言い争いを始める。

ドン引きである。放っとけばいいぞ。ト◯とジェ◯ーみたいなもんだ。

言い争いはやがて、リクとユッキーがどちらのフォースに入るかという話になっていた。

 

急な勧誘に驚いていたリクだったが、自分たちのスタイルを見つけたいと、丁重に断る。

 

「だから俺は、俺たちのフォースを立ち上げます」

 

そう強く宣言をした。その希望に溢れた言葉に、トップフォースの二人も納得する。うちの女性陣も賛同の声を上げた。

 

新人ばかりのフォースだと色々大変だろう。だが、初心者3人を抱えているうちも人のことは言えない。

 

 

とりあえず、適当な言葉だけでも掛けておくかーーー




オリジナルフォース

フォース名:アザレア

八幡たちが所属するフォース。

結成されたばかりなので、フォースランクは低い。
メンバーが奉仕部中心なので、完全に身内の集い。
リーダーは八幡。本人は雪乃に押し付けたがったが、現時点ではダイバー・ビルダーの力量が両面ともに勝っているので就任する羽目になった。

エンブレムは薄紅いろのアザレアの花。後日ピンクのアザレアの花言葉が青春の喜びと知り、悶絶する羽目になる。


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またひとつ比企谷八幡の黒歴史は積み重なる。

なんとか書き上がりました。
8話目投稿します。


必殺技ーーーそう聞いて、諸兄はどういった物を思い浮かべるのだろうか。

 

飛蝗の改造人間が繰り出す飛び蹴りだろうか。それとも、光の国から来た宇宙人が放つ光線だろうか。将又、プリティでキュアキュアな邪悪を浄化する光だろうか。

 

いや、最後のものは正確に言えば必殺技ではなく決め技だが…

 

 

軽く例を挙げただけでも、スラスラと思い浮かぶ。彼、若しくは彼女といえばこの技というように、最早、その人物を表すシンボルとなっていると言っても良い。

 

そんな必殺技であるが、このGBNにもそのシステムがある。

 

諸兄の中には、ガンダムのゲームなのに必殺技?と疑問に思う人もいるだろう。リアルロボットものの先駆けと呼ばれた機動戦士ガンダムである。その戦い方は現実のそれと近いものがあった。

目標を照準にいれ引き金を引く。あとはプログラムに従い機体が攻撃をする。

主役機だろうが量産機だろうがやっていることは同じである。そこに特別性はない。

 

しかし、機動武闘伝Gガンダムという存在により、この定石は壊された。

今までのストーリーとは売って変わって、ガンダムでプロレスをするというスポ根熱血ものに近い作りになっている。ーーー話の本筋や世界設定自体は従来と、もしくはそれ以上に重いものだったが、ここでは割愛するーーー

そんな毛色の違う作品であるから、必殺技などガンガン出てくる。それも一個や二個ではない。ガンダムの数だけ必殺技が存在するぐらいだ。

 

こういった前例があるからか、GBNの必殺技というシステムはすんなりと受け入れられた。

 

しかも、他のゲームの様にただ定められた技を出すというものではない。ダイバー各々の特性にあった必殺技を覚えるのだ。

知人で例を挙げよう。肉弾戦主体のタイガーさんはまるで格ゲー主人公の様な気功波のような技を使う 。反対に、高火力を用いた砲撃を主体とするシャフリさんはエネルギーを収束した強力な砲撃が必殺技になっている。

今まで自分が積み重ねた戦闘スタイルによって変わってくる。まさに自分だけの切り札というものである。

 

 

確かに覚えるのは容易ではない。しかし必殺技を開眼した際には、今までの自分のやり方は間違いではなかった、と言われた気分になる。その感動も一入である。

 

そう、例えそれがどんなに地味であろうとも……

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

その日、俺たちは珍しく採集ミッションを選択していた。

 

ことの発端は、トリナが森林浴をしてみたいと言い出したことからだ。昨日読んだ偏差値低そうな雑誌で特集されていたらしい。

 

「ほら、リアルの森だと虫とかいるんじゃないですかー。でも、GBNならそーゆーのはなさそうじゃないですしー」

 

とか嘗めたことを抜かした。森林浴をしている人に謝れ。

 

ミッションリストを見ていたら、いい感じの森が舞台のものがあったので提案したそうだ。 それに我が妹と、ユイユイも追従する。ネコノもユイユイに押しきられ参加する運びとなった。毎度のことながら、俺に拒否権はないらしい。

 

着いてみると、なんかファンタジー世界の森だった。高さがMSの倍はありそうな木々が立ち並び、深い森を作っていた。メガロフォビアがいたら、失神ものだな。

 

想像していたものとは違っていたが、神秘的な雰囲気を持つ森の姿に女性陣は満更でもないようだ。ミッションの傍ら、木洩れ日の中を歩いたり、深呼吸をしたりする。

 

言い出しっぺのトリナもご満悦のようだ。今も木々の間から生まれる風を浴び、気持ち良さそうに目を細めている。

アバターと相まって、本物の森の妖精(エルフ)に見えてきた。いつもと違う儚げな横顔に、不覚にも胸が高鳴る。ぼぅっと見ていたのに気づいたのか、笑みを浮かべてこちらにやってくる。

 

「なんですか、先輩? はっ!もしかして見惚れていましたか愛しい後輩の姿を目に焼き付けようとしてるんですかそんなことをしなくてもずっと隣にいますから先ずは書類にはんこをしてくださいごめんなさい」

 

……うん、いつものコイツだ。神秘的な美少女などいなかった。

 

思い思いに過ごし満足したところで、フォースネストに帰還しようかと話していると、

 

「いやがったな!」

 

そんな叫びと共に、 清らかな森に似つかわしくないゴロツキ3人組。オークかな?

 

「ヤッキーの知り合い?」

 

ユイユイが俺の耳元に顔を寄せ聞いてくる。近い近いすごく柔らかいーーー

 

「以前、わたしと先輩のイチャイチャタイムを邪魔したゴミムシどもです」

 

ムッと顔をしかめて俺の腕を引っ張り、がっちりホールドしながらトリナが答える。痛い痛いそれなりに柔らかい!

 

「畜生いちゃつきやがって!」

「リア充滅ぶべし!」

「爆発しろ!」

 

悲痛な叫びで思い出す。そういや、いたね。そんな人たち。ていうか、一回限りの 出落ち要員じゃなかったのん?

 

 

「それで、貴方たちはいったい何をしたいのかしら?」

 

頭が痛いのか、こめかみを肉球で抑えながらネコノが尋ねる。

 

「この間は不覚を取ったが!」

「今日はそう簡単にはいかねぇ!」

「とっておきの助っ人をお呼びしたからな!」

「ハーレム主人公気取りの!」

「不埒な野郎に!」

「鉄槌を下す!」

 

一々交互に言うな鬱陶しい。喚く阿呆どもを女性陣が極寒の目で見ている。その様子にビビりながらも、連中の内の一人が「お願いしやす、兄貴」と呼んだ。

 

離れた木の陰からふらりと1人の男が現れた。俯き表情が読めず、どこか不気味である。

 

「兄貴さえいればお前たちなんて敵じゃねぇ!」

 

がなりながら呼び出したドムに乗り込む。こちらも応戦する為に、機体を呼び出し乗り込む。

 

「やっちまいましょう、兄貴!」

 

と、威勢良く言うが、返事はない。

 

「兄貴?」

 

顔を俯かせたままで、機体を出すそぶりもない。他の連中も想定外なのか、兄貴兄貴言うだけでまったく動かない。その隙、うかつだぞ!

 

「「はい、Hitー」」

 

俺とトリナが同時に一体ずつ撃つ。すぐさま爆散し、ポリゴンとなり消えて行く。ごちゃごちゃ言っているが、合意した以上とっくにゴングは鳴っている。ぼぉっとしてるから墜とされる。悲しいけどこれ戦争なのよね。

 

一仕事やり終えたとばかりに軽くため息をつき、口角を歪める。

ちらりと、モニターに映るトリナの顔を見る。 彼女もまた、似たようなふてぶてしい顔を浮かべていた。

長いこと組んでいるから同じような行動をとる。汚い、流石トリナ汚い。

 

「先輩のせいですからね。わたしがこうなったの…」

 

なんか神妙な顔をしてるけど。君、割りと最初から素質あったよ。

 

「責任、とってくださいね」

 

使いどころ間違ってない?その台詞。

 

と、じゃれあっていると、

 

「行くよ!ネコのん、マチちゃん!」

 

いち早くユイユイが行動に移る。普段はアホの子だが、咄嗟の事態でのリカバリーは早い。今も二人を促して攻撃を開始している。

 

木々の合間を駆けながら、ユイユイのモビルサブレがビームを撃ち込んで行く。 漸く我に帰ったドムが打ち返すが、巨大な木が遮蔽物となり有効打を与えられない。

 

「マチもいっくよー」

 

と、金剛カー君に乗った小町ガンダムが樹の上から攻撃を始める。器用にバランスをとり、危なげなく撃ち続けている。

 

ユイユイを狙えばリマチが、リマチを狙えばユイユイが仕掛けてくる。巧みに位置を変えながら、代わる代わる仕掛け追い詰めていく様は、狩を見ているようである。

 

だが、犬や猫ばかり気にしてていいのか?森には怖ーい熊さんも出るぞ。

 

「くらいなさい!」

 

後ろからネコノのパンダッガイさんが距離を詰める。鋭く伸びた爪がそのままドムを貫いた。

腹に穴を開けながらも、まだ消える様子はない。このままではブレイクデカールを使われるーーー

 

しかし、やらせわせんぞ!!とばかりに、上からリマチが、横からユイユイが飛び掛かる。地面へとひき倒し止めとばかりに、牙で、爪でめった刺しにする。

 

いかん…ミューディーの最期を思い出した……

 

哀れな獲物は、絶叫を響かせながら機能停止。ポリゴンとなり消えていった。

 

トラウマにならなきゃいいけど……

 

「あとは貴方だけよ」

 

と、ネコノは黙りを決め込んでいた兄貴とやらに言放つ。やつらがやられている間でも、MSを出す気配はなかった。すると奴は、

 

「ふふふふふ………」

 

と、顔をうつむかせたまま不気味に笑い出す。

 

「何がおかしいのかしら」

 

訝しげにネコノが問いかける。

 

「ふふふふふ……ハハハハハハ………」

 

段々と勢いを増してくる笑い声。この笑い方、どこか聞き覚えがあるーーー

 

「退避しろ!」「ハッハッハッハッハッハーーーーーーーー!!!!」

 

声をあげると同時に、爆発が広がる。

 

「うっわ…目がチカチカします」「一体なんなのかしら」「うぅ…頭うったぁ……」「危なかったよー」

 

……どうやら皆無事のようだ。

 

爆心地を睨み付ける。そこにはブレイクデカールを使用したのか、紫色のエフェクトが立ち上っている。

 

その中心に奴はいた。肥大化した肩より伸びる副腕。ガンダムの顔のような下半身。そして何よりも、その身を包む禍々しいオーラーーー

 

「デビルガンダム…」

 

ガンダムの姿をした化物と名高い機体がいた。

 

全身の突起から触手を伸ばし、あらゆる方向へと向ける。 先端のガンダムヘッドの口腔からビームが照射される。あれだけ雄大に聳え立っていた木も、強化されたビームには耐えられないのか意図も簡単に吹き飛んでいった。厳かな空気に包まれていた森が瞬く間に焼けていった。

 

「ハハハハーーーーーーー!!リア充は世界諸とも滅びろーーーーーーーーーーー!!!!」

 

本家の兄さん張りに高笑いを上げつつも、何か悲しいことを叫んでいる。阿呆なことを言ってるが、しっちゃかめっちゃかにばら蒔かれるビームは脅威である。直撃をくらえば、一溜りもない。

 

奴の攻撃をしのぎながらも、ダメ押しとばかりに反撃をするが、たいした効果はない。当たったとしても、DG細胞の効果で修復されてしまう。

 

「ひどい……」

 

蹂躙されていく森を前に、トリナが悲痛な声を漏らす。デビルガンダムのいる一角は、既に焦土と化していた。

 

…ったく、そんな顔をするんじゃねーよ。

 

「何時までもこうしてたってジリ貧だ。さっさと仕留めるぞ」

 

さも自信があるかのように答える。

 

「しとめるたって… お兄ちゃん、どーすんの?」

「こういった輩の攻略方法は二つある。高火力で一気に焼くか、弱点をピンポイントで衝くか」

 

不安そうに問いかけてきたリマチにそう答える。

 

「それだと、前者は現実的ではないわ」

 

と、ネコノが答える。バスターライフルやサテライトキャノンぐらいの火力があれば可能だが、生憎とこのフォースにはない。それにそんな攻撃をすれば、余波で森が消し飛ぶ。それでは意味がない。

 

「でも、あんなかいじゅーみたいなのに弱点なんかあんの?」

「コックピットを潰す。パイロットがいなけりゃ鉄屑も同然だ」

 

原典でもそうやって倒してたからな。デビルガンダムを止めるためとはいえ、兄ごと討つ。いかん、思い出したら泣けてきた。

 

カッシュ兄弟の最期のやり取りを思い出し感涙していると、女性陣は気持ちが悪いとばかり見ていた。「お兄ちゃん気持ち悪い」違う涙が出てきた。

 

「大丈夫ですか、先輩?」

 

確かに、ここまでビームをばら蒔かれれば、隠れて狙撃するのは難しい。隠れて近づくにも、無数のガンダムヘッドで見付けられるのが関の山だろう。

 

 

 

ーーー普通ならば、だが。

 

これでもワールドランカーである。流石に最上位ランカーとは比べ物にはならないが、それでも相応の腕は持ち合わせているつもりだ。

 

「任せろ。我に策あり、だ」

と、不敵な笑みを浮かべて答えてやる。そんな俺を見て、「似合ってませんよ」へにょりと相好を崩した。

 

俺の策には若干ながら仕込みが必要である。確実性を上げるために、彼女たちには援護を頼んだ。やつの目を逸らすように、四方からビームが飛ぶ。

 

それを合図に機体を疾走らせる。

 

先ずは、粒子撹乱ミサイル。なるべく高い位置を狙い放つ。迎撃しようとガンダムヘッドを向けるが、トリナたちからの援護射撃により阻まれる。

 

ミサイルは空中で炸裂。辺り一面にスモークと粒子をばらまいた。

 

「第1段階完了」

 

ミラージュコロイドシステムを選択する。起動に伴いコロイド粒子が放出される。しかし、機体の透明化はしない。

 

「第2段階完了」

 

これで準備は整った。メインバーニアを全開にふかし、一気にデビルガンダムへと詰め寄る。狙いは奴のコックピット。

 

だが、そんな狙いなど素人でもお見通しである。砲口が俺へと向けられる。

 

狂ったかの様に吐き出されるビーム。援護により僅かだが、数を減らしている。今はそれだけでもありがたい。

 

神経を尖らせ荒れ狂う光の奔流を躱し前へと進む。数十秒程の攻防であるが、俺には遥かに長く感じている。逸る気持ちを抑えつけ、ただその瞬間を待つ。

 

業を煮やしたか、両肩の副腕から特大の粒子弾が放たれるーーーこの瞬間を待っていたんだーっ!

 

ビームが当たる刹那、俺の機体が揺らいだ。まるで幻かの様に消えて行く。

本来、ミラージュコロイドステルスとは、光学迷彩により姿を見えなくするだけであり、MS自体ははそこにいる。端から見れば跡形もなく消し飛んだ様に見えるだろう。現にフォースメンバーからも悲鳴が上がる。

 

目の前でうろちょろしていた蝿が消えたからか、奴は別の標的に目を付ける。

 

「ーーーさせるかよ」

 

呟くと同時にゆらりと姿を表す。場所はデビルガンダムのコックピットの真下。奴からすれば、幽霊でも見た気分だろう。

 

こちらへと手を伸ばすが、今さら慌てても遅い。手にしたシグルダガー、突き刺すことに特化はさたそれを、コックピットへ突き立てる。

 

少しの抵抗の後に、クリアグリーンの刃は装甲を貫いた。激しく降り注いでいたビームの雨が止む。少しの沈黙の後に、機体から爆発が起きる。やがてポリゴンになり消えていった。

 

 

デビルガンダムが消えてもしばらくは呆けていたが、

 

「「「「やったーーーーーーーー!!」」」」

 

と、歓声が上がる。リマチとユイユイは手を取り合い喜び、ネコノですら淡い笑みを浮かべている。笑顔で駆け寄ってくるトリナに、機体をサムズアップさせ呟く。

 

あぁ、やっぱお前は、笑っているほうがいいーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーバッチリ皆に聞かれていた。

 

リマチは「お兄ちゃんやりますなぁ」とニヤニヤしながら囃し立てる。あとでしばく。 ユイユイもきゃーきゃー言いながら手に持ったネコノをぱしぱし叩いている。かわいそうだからやめてあげなよ。迷惑そうな顔をしたネコノは、何をしてるのかしらとばかりに睨んでくる。ほんと、ごめんなさい。

 

言われた本人のトリナは、頬に手を当て赤くなりながらも、時折にへらと相好を崩している。なにそれかわいい。

 

 

と、現実逃避気味に眺めていたが、だんだんと羞恥心が戻ってくる。

 

つーか、何やってんだよ俺… あんなのが許されるのはイケメンだけだ。俺だぞ、俺!俺が言っても気持ち悪いだけだ。何が、お前は笑ってるほうがいい、っだ!あ…思い出したら死にたくなってきた… うぁぁぁ!死にたい!死にたいよぉぉぉぉ!コックピットから出たくないよぉぉぉぉぉぉ!ばかじゃねぇの!ばかじゃねぇの!ぶぁぁぁか!!!!

 

 

はぁ……死にたい………

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

羞恥心に悶えコックピットにこもっていたらリマチに引き摺りだされ、フォースネストへと戻ってきた。

いまだかつてないほど超ご機嫌なトリナは、満面の笑みを浮かべ俺に引っ付いて座っている。近い近い近い温かい柔らかいーーー

 

「そんで、お兄ちゃんは何をやったのさ」

 

若干白けた目をしながらリマチは尋ねてきた。お前も一緒になって散々騒いでただろ。

 

「必殺技を使ったんだ」

「必殺技?」

 

聞き覚えがないからか、ユイユイははてなと首を傾げる。

 

「ダイバー固有の技のことね。Cランクから覚えるのだったかしら」

 

流石はネコペディアさんである。

 

「あぁ、俺の場合は、擬似的に00の量子化を引き起こすものだ」

 

粒子撹乱ミサイルによりばら蒔かれたGN粒子と、ミラージュコロイドの粒子操作が合わさったと言うべきか。

面倒な準備はあるが、数秒間存在があやふやになる。00の量子化により、ミラージュコロイドテレポートが真の意味で成功したといえる技術。俺のステルス性が昇華された必殺技である。

 

「なんかすっごく地味」

「や、実際にやられてみると、かなりえげつないですよ。地味ですけど」

「確かに、いるのにいないという特性は厄介ね。地味だけれども」

「まるでお兄ちゃんみたいだね。地味だけど」

 

「君たち、地味地味言いすぎだからね」

 

便利なんだよ、これ。地味だけど。あ、自分で言っちゃった。

 

「トリナさんも必殺技を持っているのかしら」

 

ネコノがトリナに問い掛ける。

 

「ありますよー。先輩と違って派手なのが」

 

然り気無くdisらないで。いい加減泣くよ。

トリナの必殺技は、超高速で突っ込んで、すれ違い様に爆撃を叩き込んで行くものである。すり抜けてポーズを決めると、背後でド派手な連鎖爆発が起きる、居合い抜きみたいな技である。端から見るとチョーカッコいい。

 

「いいなー。あたしもカッコいい必殺技覚えたいなー」

「まぁ、こればかりは普段の積み重ねで決まるからな」

 

例え地味でも愛着は湧いてくる、筈だ。必殺技習得に燃える彼女たちにそう送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、その後無事習得した3人の必殺技はどれも派手なエフェクトが伴うものだった。

 

 

ははっ、泣けてきた……




オリジナル必殺技

技名:ファントムレイド

八幡の必殺技。
ばら蒔かれたGN粒子を、ミラージュコロイドの粒子操作で制御をし、機体の存在自体をあやふやにする。 00の量子化により、ミラージュコロイドテレポートが真の意味で発動したといえる技。
この技自体にはダメージを与える効果はない。八幡はこれを利用して一気に懐に飛び込み、シグルダガーを突き立てることで必殺の一撃へと昇華している。


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しかし、黒歴史もやがて正暦になる。

お久しぶりです。
更新が遅くなり申し訳ありません。約一ヶ月ぶりになりますが投稿します。
前回の続きというか後編になります。


最近、一色のアプローチが露骨になってきた。

 

いや、元からだと言いたいだろうが、普段のあれはGBN内や身内だけだからである。

学校など他人の目があるところでは、弁えてるのか最低限の接触しかしない。それでもかなり気安いが……

 

だが、ここ数日で彼女の対応は劇的に変化した。

 

朝、学校に着けば「せーんぱーい」と駆け寄ってくる。昼休みになれば弁当を持参して突撃してくる。放課後になると教室まで迎えに来る。

人が居ようがお構い無し。先輩センパイせんぱいと突撃してくる。当初は不特定多数の男子が反応していた。なんかスマン…

 

 

俺が原因と分かってからは、変に注目されることになった。

一色いろはは自他共に認める美少女である。これが葉山隼人の様な完璧超人相手なら、ここまで騒がれることもなかっただろう。

……葉山に猛アタックを掛ける一色の姿を想像したら腹立ってきた。奴の名前を絶対許さないリストの最上段に書いてやる。

しかし、現実、一色はそんなリア王をスルーして、陰の薄いどこぞの馬の骨とも知らない男に御執心なのだ。悪目立ちもする。

 

野郎からの恨みがましい目線や舌打ちやらが心臓に悪い。すれ違う度に爆発しろだの、もげろの声が聞こえる。アロンズかな?

 

だが、そんなのはまだいい。いや、良くはないが、俺に対しての悪意である。このくらいなら、小中の頃と比べたら温い。

 

問題は一色に向けられる視線である。明らかに嘲笑が含まれたものが存在する。中には微笑ましいものを見るようなものもある。しかし、悪意のある輩には、カースト上位な一色が最下部のボッチに構うのは滑稽なのだろう。リア充にとって連れている男子もステータスなのは、一色も分かっている筈だ。

 

一色いろはは元来賢い子である。

 

賢いといっても勉学のことではない。損得勘定の出来るクレバーな思考を持っている。外面の重要性を理解しており、未熟ながらもそれなりに使い分けていた。自分の言動がもたらす影響を計算している。

また、自分磨きに余念がない。可愛いわたしを魅せる為の努力を惜しまない姿には、正直尊敬出来る。

 

そんな一色が脇目を降らず、俺相手にぐいぐい来る。なんてことはない俺が甘く見ていただけだ。彼女の感情というものを。

 

現実はGBNとは違う。NPDみたく単純なルーチンで動いているだけではない。各々の性質というものに感情が上乗せされている。そして人間は感情に引きずられる。いくら外面を取り繕っているとはいえ、それは一色とて例外ではない。

 

彼女なら大丈夫だと勝手に理解した気になっていた。俺の中で一色いろはという少女はこういうものだと定義していただけだ。そんなもの、身勝手な押し付けに過ぎないというのに。

以前の俺なら一色を拒絶していただろう。煩わしいと切り捨てて、人間関係をリセットする。晴れて俺はボッチへと戻れる。それで良かった筈なんだが……

 

だが、今では一色が傍に居るのを心地好く感じている。孤独でいることに慣れているのに、揺らいでいる自分がいる。

 

俺といることで一色が傷付くのは嫌だ。それでも一色と離れたくないと思う俺の浅ましい願い。

 

俺は人の感情が理解出来ない。それは自分のことさえ含む。だから間違える。

 

思考が袋小路に陥りそうになるが、ふと過去に掛けられた言葉を思いだした。以前もお世話になり、また手間を掛けてしまうのは心苦しい。

まぁ、あの人なら何でもないように笑顔で受け答えそうだが……

暇潰し機能付目覚まし時計を本来の用途で使用する。

 

「もしもし、比企谷です。相談したいことがあるんですが…」

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

約束の場所の喫茶店に入る。落ち着いた雰囲気の店内には、ゆったりとした時間が流れている。こういった所でゆっくりと本を読むのもいいかもしれない。

しかし、今日は待ち合わせである。無理を聞いて来て貰っている以上、いつまでも待たせるわけにはいかない。目的の人物を探すため視線を辺りに這わせる。

 

「こっちよ、八幡くん」

 

声の聞こえる方へ顔を向けると、柔和な笑顔で手を振る男性がいた。

 

「すいません、マギーさん。お呼び立てして」

 

派手なドレスシャツにジャケットを着こなした人物は、マギーさんのリアルでの姿である。傍から見ればホストクラブに勤めていそうな見た目ではあるが、ご本人はバーのママである。

やや垂れ目気味の瞳には優しさに溢れており、死んだ魚の目の俺とは大違いである。

 

「いいのよ。誰でもない、八幡くんからの相談だもの。頼りにされて、おねえさん嬉しいわ」

 

俺と一色の共通の知人で、信頼できる大人はマギーさんしか思いつかない。

えっ、平塚先生?あの人にこの手の相談なんて、そんな残酷な事出来るかよ。怒りのスーパーモードになった平塚先生から愛と怒りと悲しみのシャイニングフィンガーソードをくらい、俺が泣くまである。誰も幸せにならない結末しか見えない。先生が希望の未来へレディー・ゴー!出来るよう、誰か貰ってあげて。

 

と、独りの教師の未来を祈りつつ、ここに来た本来の目的を果たしに行く。席に着き注文をすると、話題を切り出す。

 

「そう、いろはちゃんとのことね」

 

「はい……」

 

ここ数日での一色の行動、それに伴う影響。そして背反する俺の感情。

 

マギーさんは俺の話を一通り聞き、「成る程ね」と呟きと、

 

「それで、八幡くんはいろはちゃんにどんなものを求めていたのかしら?」

 

と、問いかけてきた。

 

俺が一色に求めていたもの……

 

「俺は…ただ、わかりたいだけなのかもしれません……」

 

一色いろはのことを。知っていれば安心出来る。わからないことは怖いから。完全に理解したいという、独善的で傲慢な悍ましい願望。

 

だが、お互いがそう思えるのなら。

 

「その傲慢さを許容出来る関係性が欲しかった」

 

甘い嘘など欲しくない。上辺だけの理解や紛い物の関係などいらない。苦くてもいい。本物と呼べる存在が欲しかった。それだけで良かった。それを一色に求めていた。

 

「あなたは純粋すぎるわ」

 

俺の話に静かに耳を傾けてくれていたマギーさんはぽつり呟いた。

俺が純粋?捻くれてるや腐っているなどは数えきれないほど言われてきたが、そんなことを言われるのは初めてだ。家族にすら言われたことがない。

 

「はぁ…そんなん初めて言われました」

 

あまりにも予想外の返答に、思わず気の抜けた返事をしてしまう。

 

「アタシがそう思ってるだけよ。あなた風に言わせて貰えば、勝手に定義して押し付けているだけね」

 

茶目っ気を込めたウィンクをし、マギーさんは飄々と言う。しかし、ふと表情を真剣なものに戻す。

 

「あなたの想いは決して浅ましいものではないわ。いえ、純粋だからこそ願ってしまうのね」

 

俺を見つめながらそう切り出した。

 

「人は神様じゃないから簡単には分かり合えない。言葉にしなければ伝わらないこともあるわ。」

「それでも拗れちゃうこともあるけどね。拗れて、疑って、傷つけ合う。それが嫌で臆病になってしまうわ」

 

「勿論、あたしもね」と付け足しながら、寂しそうに笑う。

 

「大切だから傷つけたくない。貴方のいろはちゃんを想う気持ちは大切」

 

「そして、傷つくことを怖れず行動するいろはちゃんの勇気も大切」

 

マギーさんは俺の目を真っ直ぐ見ながら語る。

 

「確かにいろはちゃんは変わったわ。でも、それは悪いことばかりじゃないの。貴方に出会ったことでいろはちゃんは強くなったわ」

 

出会った頃の一色はその容姿と仕草を武器に、適当な男子をとっつかまえてはジャグリングするような清楚系ビッチのようや奴だった。ぶっちゃけ近づきたくないタイプの筆頭である。しかし、いまでは鳴りを潜めている。

まぁそれでも、元来の甘え上手で強かな所に俺の悪辣さや搦め手が加わり、知れず人を扱き使うのは手慣れたものになったが……

あれ、もしかして俺はとんでもない存在を作ってしまった?

 

「それに、変わったのは貴方もよ」

 

驚愕の事実に戦々恐々としていると、マギーさんは優しい声色で告げる。

 

「出会った頃の貴方なら、アタシに相談なんてしなかったと思うわ」

 

確かに…… それは自分でも思う。当時の俺なら誰にも頼ることなく、自分が取れる手段での最適解を出そうとする。いつかは致命的な間違いをした可能性がある。

そんな俺が人に頼るようになった。これは一色によって俺が変わったということだろう。

 

自分からは変わらないーーーそう考えていたが、既に変わっている俺がいた。それだけ、一色いろはが俺に与えた影響は大きかったということだ。そして、それが悪くないと思える。

 

やはり、俺は一色のことがーーー

 

「そう、答えは出たようね」

 

俺の顔付きが変わったことに気がついたのか、マギーさんは頷き激励する。

 

「行ってきなさい、男の子」

 

……ありがとうございます。行ってきます。

 

 

 

さて、告白すると決めたからにはタイミングとシチュエーションである。

一昔前なら兎も角電話やメールで済まそうものなら、いくら一色といえど激おこ案件である。どうしようもないごみを見るような目で、

 

「は?何ですか口説こうとしてるんですかごめんなさい時間と場所とムードとタイミングを考えて出直してきてください」

 

うん、容易に想像できる。

 

いくら俺でも、それが悪手なのは分かる。

学生にとって一番のシチュエーションは、放課後の屋上や校舎裏での告白だろう。数多の媒体で使い古されている手段ではあるが、それだけに王道とも言える。

だが、学校は不味い。只でさえ悪目立ちしている現状、わざわざ燃料を投下する必要はない。

だから俺は王道ではない(アストレイ)を行く。

 

そうなると、何処か別の場所でするのがいい。それも総武高生の活動範囲外で、だ。俺の心当たりでは、一ヶ所ぐらいしか思い付かん。

それなりに遠出になるから、学校帰りに行くのは向いていない。となると休日に出掛けることになる。休日は休むためにあるから出掛けるのに尻込みしたくなるが、そうは言ってられん。

 

場所は決まった。あとは一色をデートに誘うだけである。

 

あいつと遊びに出掛けたことは何度もある。だから今さら緊張などしていない。噛むことなんて有り得ない。

 

「あー、一色か?今度の休みに、で、デートに行かにゃいきゃ?」

 

結局噛むのかよ…

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

デート当日、小町に頼んで服を見繕って貰う。

妹にコーディネートされるのはどうかと思われるだろうが、俺が選ぶよりは80000倍はマシである。八幡だけに。

「お兄ちゃんが出掛けるのにお洒落するなんて珍しいね」

 

クローゼットの中の服を物色しながら、小町がそう話しかけてきた。

 

「もしかして、いろはお姉ちゃんとデート?」

 

と、ニヨニヨしながら聞いてくる。普段の俺なら何かと屁理屈を捏ねて否定していただろう。だが、今日の俺は一味違う。

 

「あぁ、一色とデートだ」

 

何でもないように答える。あ、吃ることなくちゃんと言えた。八幡やればできる子。

 

「お、お兄ちゃんが、素直、だと……」

 

小町はリックドムが全滅したときのコンスコンばりの顔で驚いている。やだ、かわいいお顔が台無しよ。

 

「まぁ、なんつーの…覚悟を決めたからな…」

 

そう言うと小町は嬉しそうに笑い、

 

「いってらっしゃい、お兄ちゃん」

 

と、送り出してくれた。

 

………ああ、いってくる。

 

 

 

 

 

 

早めに家を出て、駅に向かう。

 

待ち合わせ場所に着き時計を見れば、約束の時間まで30分もある。

早く来すぎたか…… どれだけ楽しみにしてるんだよ、俺。

 

「あ、せんぱい」

「おう」

 

同じタイミングで着いたのか、一色の姿があった。

 

「まだ時間前ですよ。あ、もしかしてデートが楽しみすぎて早く来ちゃったんですかー」

 

と、手を口許に当て悪戯そうな笑みを浮かべる。気付いてないけどそれ、一色にも言えることだからね。マイダスメッサーの様に返ってくる。油断してるとミゲルみたいになるぞ。

「…ああ、そうだ。お前とのデートが楽しみでな」

 

一色はポカンとしていたが、やがてその顔がライデン専用機もかくやという程の深紅に染まる。

 

「な、な、な、な、な、なんですか口説いてるんですかいつも捻くれたことしか言わない癖にいきなり直球ですかまだデート始まってないのにあわわわわ………」

 

手をわたわたしながら慌てふためく。得意の早口言葉もいつもの切れがない。その愛らしい姿に和むが、本日は少々遠出するつもりなので、何時までも眺めているわけにはいかない。

 

「ほら、行くぞ」

 

そう言いながら、手を引く。一色はまだあわあわ言ってるが、こっちだって割といっぱいいっぱいなんだよーーー

 

電車を乗り継ぎお台場まで来た。目的地は実物大ユニコーンガンダムでお馴染み大型施設である。普段からI♥️千葉を唱う俺でも、ここは別である。

 

「あれ?ガンダムベースには行かないんですか?」

「いいんだよ、今日はこっちで」

 

今日みたいな日にガンダムベース行くほど、ガンダムバカじゃないよ。

 

「や、いつもなら直行じゃないですか」

 

普段の行いですか、そうですか。

「……行くぞ」

 

少々ぶっきらぼうになりながら、彼女の手を取り歩く。一色も、「はい」と言い嬉しそうに着いてきた。

カップル向けVRゲームやショッピングなど、普段の俺からすれば寄り付こうとしない場所を回った。不思議と一色といればそれほど苦にはならなかった。 一色も楽しんでくれていたと思う。

 

そうやって、一色と一日中遊び回った。

 

辺りも日がかけてきた。そろそろか………

 

「なぁ、一色。少し寄りたい所があるが、いいか?」

 

そう言って彼女と連れ歩く。目指すは決戦の場所へ。そこが俺にとってのア・バオア・クーである。

 

実物大ユニコーンガンダムの立像の前に来る。

態々こんな目立つところではなく、人の少ないところに行けばいいと思う。いくらガノタの聖地とはいえ、こんな人気の多い所など、長時間居たくない。

 

ここに来たのは願掛けのようなものだ。いくら覚悟を決めたとはいえ、所詮は俺である。人はそう簡単には変われない。変わらないなら、このぬるま湯のような関係のままでいられる。それでも、俺は一色いろはとの間に本物を求めた。

だからこそ、この獣に祈りたくなった。人の想いを受け“変身”する可能性の象徴に……

 

それに、ここも定番のデートスポットになっている。今さらカップルがいるからといって気にする人間などいないだろう。そんなもん見るよりユニコーンを見る。

 

 

……リア充どもが多いな。ユニコーン動かして蹴散らしてぇ……

 

 

いかん。これから告白をするってのに、思考がテロリズムに寄ってしまった。一色を見て心を落ち着けねば……

 

当の一色はといえば「ふへ~、でっかいですね~」とユニコーンを見上げて、手元をガチャガチャと動かしている。

どしたの、いろはす?もしかして操縦しているの?無意識なの?なにそれすっげぇ可愛いんだけど。ドキがムネムネしてきた。

 

やにわに辺りが騒がしくなる。演出時間が来て、ユニコーンの変身が始まる。純白のユニコーンモードから、サイコフレームの赤が目立つデストロイモードへと。

 

傍にいる一色を見る。あざと可愛い後輩。

これから俺がすることは、良かれ悪かれ今の関係を破壊することになる。学年での一色を取り巻く環境も変えてしまうだろう。それでも、変えたいと願ってしまった。だから、ユニコーン。俺に力を貸してくれ。

 

「一色…」

 

ぽつりと、すぐ隣にいる少女に話しかける。俺の声に、ユニコーンをほけーと見上げていた彼女はこちらを向いた。

 

「……少し、話をしてもいいか?」

 

目を逸らさず、一色を真っ直ぐ見る。俺の雰囲気に戸惑ったのか、彼女は居ずまいを正した。その鯱張った姿に思わず笑みが溢れる。

 

「なぁ、一色。初めて会ったときのことを覚えているか」

「もちろん覚えています。GBNで初心者狩り助けてもらいました」

 

懐かしむように、一色は答えた。

 

「だいたい忘れられませんよ。こーんなかわいい女の子がお礼を言ってるのに、先輩ってばあざといって言うんですもん」

 

頬をぷくりと膨らまし、わたし怒ってますのポーズをとる。そういうとこがあざといんだよ。

 

「…悪いな。あの頃の俺にとって、出会った頃のお前は要警戒だったんだよ」

 

我ながら素っ気ない態度を取っていたと思う。トラウマにより、この手のタイプは信用出来なくなってたからな。

それでも、こいつはちょろちょろぐいぐい纏わりついてきた。

 

「意地になってましたからね。わたしに対してあんな態度をするの、先輩だけでしたし」

 

パーソナルスペースをガン無視して来るこいつに、なんだかんだで絆されて現在に至っている。やだ、八幡ったらチョロイン!

 

「何かにつけて振り回してくるが、それも悪くないと思うようになった」

 

それとなく構ってやったり、俺なりに可愛がったりした。何処と無く似ていたからだろうか、小町を相手にするように気安く接するようになっていた。会わない親戚よりも身内と思っていたかもしれない。

 

「俺はそんなお前のこと、妹みたいなもんだと思っていた」

 

年下だから、お兄ちゃんスキルが発動しているだけかもしれない。

 

「だが違った。当たり前だ、一色いろはは妹じゃない。」

 

妹分でなければ何か。あざとい後輩?ヤハタの相棒のトリナ?色々と思い付くが、それではない。相応しいものはーーー

「一人のかわいい女の子だ」

 

改めて言葉にするには恥ずかしい。つーか、俺のキャラじゃねぇ。だが、俺の羞恥心は後回しだ。今はこの想いを一色に伝えるのみ。

 

「正直に言う。そういった意味でお前を意識し出したのは、かなり前のことだ」

 

一色が「は?」とでも言いたそうなジトっとした目付きになる。

落とそうとしてた相手がとっくに落ちていたらこうなる。ごめんな。

 

「気づいてからも、自分の気持ちに蓋をした」

 

ぽつりと、懺悔するように呟く。

 

「どうせ何時もの勘違いかもしれない。俺がお前の隣にいるのは相応しくない。そうやって目を背けてきた」

 

「そんなことないです!」

 

一色が強く否定する。良かった。これで勘違いだったら、部屋の窓からエントリィィィィィィ!しちゃうとこだった。

 

「……サンキューな。だが、俺はそんなお前の気持ちからも逃げていた。変わることが怖かった。ぬるま湯の関係なままで良かった」

 

こんな面倒な奴普通なら願い下げだろう。

 

「でも、お前は違った。なぁ、一色。賢いお前のことだ。教室に来たときに、自分に向けられる視線の意味に気付いていただろ?」

 

こくりと、一色が首肯する。いくらあざとい系したたかガールの一色といえども、年頃の少女である。上級生の、それも下卑た目線にさらされる場所に来るには、どれほど勇気がいるのかわからない。

それでも、こいつは来てくれた。そんな雰囲気などおくびも出さず。あざとい笑顔を全開にして。

 

「そんなお前を見て、俺ももう一度向き合うことにした」

 

ここまでされて漸く動き出せた。それでも暫くはぐだぐだしていたが…

 

「マギーさんにも言われたよ。お前が変わったように、俺も既に変わっている、って」

 

マギーさんに喫茶店で相談した時のことを思い出す。

 

「こんな俺が変われたのは、お前がいたからだ。お前になら変えられてもいいと思った」

 

一息付き、気持ちを落ち着かせる。

 

「今さらこんなことを言うのは、虫が良すぎると分かっている」

 

俺たちはニュータイプやイノベイターじゃない。言わなくても分かるというのは幻想だ。互いの意識を読み取り、許容し、受け入れる。そんな御伽噺のような存在に憧れた。

だが、現実は言葉なくしては伝わらない。いくら傲慢で自己満足なもの過ぎなくとも、言葉に頼るしかない。

 

「俺はお前が好きだ」

 

真っ直ぐな言葉をぶつける。こうして彼女に好意を示すのは初めてかもしれん。俺にしては珍しいストレートな物言いに、一色の息を飲む声が聞こえる。まだだ!まだ終わらんよ!

 

「かわいいを作るあざとい姿も」「その為に自分を磨いていた努力家なところも」「人を惑わす小悪魔なところも」「よく頼るくせに、任されたことはこなそうとする真面目なところも」「気が抜けたときのめんどくさそうな仕草も」「腹黒で計算高くしたたかなところも」「全開で甘えてくるところも」「照れ隠しの早口も」「からかってくるときのいたずらそうな顔も」「怒ったときの膨れっ面も」「不機嫌なときの冷めた顔も」「嬉しそうに笑った顔もーーー」

 

「全部ひっくるめて、いろはが好きだ」

 

一色への想いがマグマのように溢れてくる。理性で押さえ付けていた感情が迸る。既に頭の中は真っ白だ。自分が何を言っているのかさえ定かではない。ただ心のままに言葉の弾幕を浴びせ続ける。

 

「お前の隣にいたい」「誰にも渡したくない」

「対価にやれるのは、俺の残りの人生ぐらいなもんだ」

 

「ーーーだから、お前の、いろはの人生組み立てる権利を俺にくれ」

 

喉がカラカラになる。それでもなんとか、この気持ちを絞り出す様に伝えた。普段は捻くれたことしか言えない俺の、正直な感情。

 

……一気に捲し立てたけど大丈夫だよね。ドン引きしてないよな。いかん、不安になってきた……

内心不安に苛まれていると、不意に暖かな感触が胸に当たる。視界にはきらきらと輝く亜麻色の髪。ほんのりと届くアナスイの香り。

一色が…、いろはが俺を抱き締めていた。

 

「ありがと、です。先輩の気持ち、伝わりました」

 

腕の中に収まる小さな体躯。合わさった胸越しに、トクントクンと鼓動が伝わる。

 

「悪いな… 待たせちまって…」

 

大切な少女を優しく抱きしめる。腕の中のこの熱が何よりも愛おしい。

 

「ほんとですよ… あれだけアプローチしても反応ないんですもん。自信なくしちゃいます」

 

「す、すまん!」

 

「いいですよ。先輩が捻くれ者で、ヘタレで、朴念仁で、卑屈で、下衆なのはよく知ってますから」

 

い、いろはさん… やっぱり怒ってらっしゃる? 気のせいか抱き締める力が強くなってるんだけど。痛い痛い痛いあ、やわらか……

 

「だけど、そんなめんどくさいとこも含めて、先輩が大好きです」

 

顔を綻ばせながら言う。いろはの笑顔。俺の大好きな表情。

 

「好きだ、いろは」

「大好きです、八幡」

 

どちらからともなく近付き、やがて距離はゼロになる。

 

惑星の午後、ぼくらはキスをした。

 

 

 

 

 

「それにしても、先輩。どれだけわたしのこと好きなんですかー」

 

家路についている最中、ふと、いろはがイタズラな表情でーーーそれでも嬉しそうにーーー問いかけてきた。組まれた腕からはいろはの体温が伝わり、否が応にも鼓動か高まる。別に嫌じゃないが…

 

「いや、好きじゃなけりゃ、告白なんかしないってーの」

 

そうでなければ、あんなに散々悩んだりはしない。中学の時みたいに、舞い上がってなにも考えず告白して振られるまである。今回は振られなかったけど。

 

「や、告白すっ飛ばしてプロポーズになってましたよ」

 

は?確かに途中から頭が真っ白になってあんま覚えてないけど、俺そんなこと言ってたの?

 

「ですです。先輩らしからぬ熱い眼差しで、『誰にも渡したくない』とか『いろはの人生組み立てる権利を俺にくれ』なんて情熱的に愛を囁いてくれました」

 

うっとりとした様子でいろはが言う。ところでその作ったような低い声なんなのん?もしかして、俺の真似なのん?

 

「なんだったら録音してますし、聞きます?」

 

 さらりと爆弾発言を打ち込んでくる。え?は?え?

 

「やー、いつもにも増して挙動不審な先輩の様子にスマホの録音入れてたんですけど、いいものが録れました。ここまで想われてたら、先輩のお嫁さんになるしかないじゃないですかー」

 

いろはは嬉しそうにへにゃりと笑い、抱きついた腕にさらに力を込める。やーらかくて、あったかい。

しかし、俺は後回しにしていた羞恥心と判明した恥ずかしい告白の録音(ラプラスの箱)により、コア・ファイターでバイク戦艦に特攻(ぶっこみ)たくなった。

 

「や、死なないでくださいよ。入籍前に未亡人になんかなりたくありません」

 

ご尤もです。

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

いろはと晴れて恋人関係となり、俺たちの共通の知人に報告する運びとなった。

 

マギーさんは俺たちをハグし、

 

「良かったわね。本当に良かった」

 

と、自分の事のように喜んでくれた。

ありがとうございます。貴方には本当にお世話になりました。

 

小町も喜んでくれたが、

 

「いやー、これで比企谷家の将来は安泰だよ。小町は早くかわいい甥っ子か姪っ子を見たいなー。あ、今の小町的にポイント高い」

 

と、おバカな事を宣う始末。低いし、気が早いわ。

それを聞いたいろはなんか、真っ赤になって再びあわわわわと言う機械になってしまった。控えめにいってかわいい。

よくやった小町。八幡的にポイント高い。

 

雪ノ下と由比ヶ浜にも一応報告することにした。まぁ、なに?いろはと小町が仲良くして貰ってるし、同じ部活とフォースのメンバーだからな。

 

「えっ!ヒッキーといろはちゃんってまだ付き合ってなかったの!?」

 

開口一番由比ヶ浜がそんなことを言う。ちょっと、声がでかいんだけど。

 

「あんだけさんざんイチャついてたのに!」

 

信じられないとばかりに騒ぐ。つーか煩ぇ。

 

「待て。こいつは兎も角、俺は断じていちゃついていない」

 

確かにいろはがベッタリしていたのは認めよう。しかし、俺からは一切してはいない。人前でいちゃつくなんてそんな恥ずかしいこと、ボッチに出来るわきゃない。

 

「いやいや、いろはちゃん相手だとめっちゃ甘かったし!ヒッキーがいつも飲んでる変なコーヒーぐらい甘々だよ!」

 

え?マジで。俺、そんなに甘やかしてたのん?精々、小町と同じような扱いのつもりだったけど。あぁ、甘やかしてるわ、これ。

それと、由比ヶ浜。マッ缶は断じて変なコーヒーではない。千葉のソウルドリンクであり、何かと酷使される現代人の脳に速やかに糖分を補給するエナジードリンクだ。

 

「自覚症状無しでこの有り様なのだから、始末に終えないわ。普段から一色さんを舐め回すように卑猥な目で見つめていたもの、ストーカー谷くん」

 

今更の事実からマッ缶の事を考えて逃避していると、雪ノ下が追い討ちをかける。

俺、そんなにヤバイ目付きしていたの?ごめんな、いろは。彼氏が犯罪者スレスレの変態で。

 

「大丈夫ですよ、先輩」

 

そんな俺を安心させるかのように、いろはは優しい声色で話しかけてくる。天使かな?

 

「確かに先輩の目はクルーゼ隊長もびっくりの澱みっぷりです。あまりの腐りっぷりにたまにドン引きすることもありますけど、わたしはそんな先輩の目も大好きです」

 

フォローしてるのかdisってるのか今一判断しかねるが、大好きと言われてちょっぴり嬉しい俺がいる。サンキューいろは、愛してるぜ。

 

「な、な、な、なんですかもしかして口説いていますかそんな気軽に愛してるなんて言う先輩は気障すぎて似合わないけど素直に嬉しいしわたしも愛してますからもっとぎゅっとしたりあーんしたり遠慮なくイチャイチャしますごめんなさい」

 

真っ赤になりながら相変わらずの早口でとんでもないことをぬかすいろはに、ユキユイコンビが無言になっている。

 

「あ、あれで遠慮してたんだ……」

 

再起動した由比ヶ浜は「たはは」と苦笑いをする。雪ノ下も頭が痛いとばかりこめかみに手を当て、「はぁ…」とあからさまにため息をついた。

 

 

そんな部室を眺めながら、ふと思う。

 

始めは無理矢理入れられた部活だった。何だかんだでサボらずはいたが、その程度の付き合いにしかならないと思っていた。それが、今ではメンバーでフォースを組んでいる。

いろはと出会う前の俺からしたら、信じられない風景である。

 

積み重ねてきた黒歴史も、この景色の礎となっていると思うと悪くないかもしれん。トラウマばかりの過去だが、いろはと出会いここまで来れた。

 

だから、これだけは胸を張って言える。

 

ーーーやはり俺といろはの青春ラブコメはまちがっていない。




ラブコメ成分マシマシ回でした。GBD要素はマギーさんのみ。
次回からまたバトルに戻ります。


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今日、この場よりビルドダイバーズの伝説が始まる。

お待たせしました。
10話目投稿します。


俺といろはが恋人関係になり数日が経った。

 

当初は、危惧した通り好奇の目線に晒されたり嘲笑などがあった。しかし、そんなことは関係ねぇとばかりに突撃してくるいろはと、何だかんだで構っている俺の様子を見てそれも終息していった。下卑た笑いが困惑に、最終的にはハニトーをマッ缶で流し込んだ様な表情になるのは中々の見物である。

 

 

それでもちょっかいを掛けてくる輩はいる。主に男子生徒だが。県内有数の進学校に在籍しているといえども所詮は男子高校生、頭の中は色欲に満ちている。

 

そもそも人の彼女に言い寄ってくるなと言いたい。どうせいろはの容姿に釣られてフラフラと寄ってきたのであろう。男子を惹き付ける様は宛ら誘蛾灯である。怒られるから言わないが…

 

別にいろは以外にも、総武高には容姿に優れた女生徒はいる。

特に2学年は群を抜いてレベルが高い。まぁ、他の学年の事は知らんが。

何て言ったって、雪ノ下と三浦という二大女王が君臨している。それに加えて、由比ヶ浜も人目を惹く容姿をしている。特に一部が。

ただ、高嶺の鳥兜な雪ノ下や気性の荒い三浦が相手だと、普通の男子なら萎縮をしてしまう。

由比ヶ浜ならそんなことはないが、前述の二人がいるので生半可な男子はおいそれと近付けない。なんなの、君たち。普段はいがみ合ってる癖に由比ヶ浜相手だと甘くない?氷と炎が両方そなわり最強に見える。

 

その点、外面のいいいろはは接しやすい。誰にでもニコニコとアザとらしく笑顔を振り撒いているので、与し易く感じるのだろう。隣にいるのが俺みたいなボッチであることが、更に拍車をかけている。

ワンチャンを狙い玉砕する輩もちらほらいた。肩を落としとぼとぼと去っていくなら、まだマシな方である。

 

納得いかないのかしつこく絡む輩もいる。今も俺のことをdisりながらいろはに詰め寄っていく。

いろはに危害が加わらないようにと、念のために持ち前のステルス性を駆使して隠れていた。

雪ノ下にまた過保護谷くんとかストーカー谷くん呼ばわりされそうだが、心配なもんは心配だ。それに、いろはも俺がいることに気付いている。あいつには俺のステルスは効果ないからな。

杞憂で済めばいいと思っていたが、危惧していた流れになった。不逞な輩を止めるべく隠れていた場所から出ていく。だが、その前にいろはが動いた。口元に笑みは浮かべてはいるが、目は笑っていない。あ、これ、いろは怒りのスーパーモードだわ。頭の中で燃え上がれ闘志 忌まわしき宿命を越えてが再生される。

 

……そこからはもう一方的だった。わたしの恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて地獄に落ちろ!!!とばかりの早口お断り芸が相手の男子に突き刺さる。その口撃、まさに疾風怒濤(シュトゥルム・ウント・ドランク)。玉砕どころか爆発四散である。

 

さっきまで威勢の良かった男子も、最早茫然自失としている。

更にトドメとばかりに、俺を見付けると満面な笑みを浮かべて抱きついてきた。ヒートエンドもびっくりのオーバーキル。

 

後に由比ヶ浜から聞いた話では、氷の女王、獄炎の女王に継ぐ第3の女王・暴風の女王とまで呼ばれているらしい。祝え!新たなる女王の誕生を!

 

 

生活指導担当である平塚先生に喚ばれたこともあった。

 

俺たちが付き合っていることにより勉学がうんたらかんたらということらしいが、生憎と成績は下がっていない。長いことボッチでいたから、ガンプラ以外には本を読むか勉強するぐらいしかやることなかったし……

いろはも総武に合格出来たぐらいだから、それほど成績は悪くない。

 

そもそも異性交遊に関する校則などないはずだ。知らんけど。

 

業を煮やしたいろはが、平塚先生に俺たちがいかに健全な付き合いをしているのか話し出した。俺たちの普段のやり取りを聞いているうちに、平塚先生の目に涙が浮かぶ。

もうやめて!いろはす!とっくに静ちゃんのライフは0よ!

トドメとばかりに俺のプロポーズ紛いの告白まで話す始末。おいバカ!マジでやめろ!それは俺にもダメージが来る!

 

最終的に平塚先生は「末永く爆発しろーーーーーーーーーっ!!!!!!」の叫びとともに泣きながら去ってしまった。

いろはは一仕事やり遂げたとばかり、

 

「愛の前に悪は滅びました」

 

とふぃーと一息付きながら宣う。

おい、いろは、平塚先生は別に悪じゃないぞ。生活指導員としての職務を全うしていただけだ。あぁ見えて大変そうだから、少しは労ってやれ。

色々と不遇な平塚先生の幸せを願うばかりである。誰か早く貰ってあげて。俺はもう無理だから。

 

 

 

× × ×

 

 

 

慌ただしいリアルでの反面、GBNでは俺たちアザレアには特に変わりはない。

 

ミッションをこなしたりバトルをしたり。それと話題のスイーツ(笑)を食べたり。いや、確かに美味かったけどさ。

ただ、必殺技を覚えた途端、これ見よがしに使うようになりやがった。わー、エフェクトが派手だねー。いじめですか、そうですか。

 

まぁ、あいつらも何だかんだでGBNを楽しんでいるようだ。だから絶対許さないノートへの記入は勘弁しておく。

 

 

代わりと言ってはなんだが、相変わらずの俺たちと違い、リクたちがフォースを結成した。いつもの4人に、新たに2人を加えた6人体制。

 

新しく加わったメンバーは、エルフ風の男性のコーイチさんに、ダイバ忍ーーーもといくノ一のアヤメさん。

コーイチさんはモモが使用しているカプルのビルダーらしい。あの時に圧倒されたクォリティーからして、俺より遥か高みにいるビルダーだ。

アヤメさんはシャフリさんの偽者の時の人らしい。トリナに言われるまで忘れてた。その時の縁で入ったのだろうか。

 

なんにせよ、ほぼ初対面の人を勧誘するなど、俺には真似できない芸当だ。小町といい、最近の中学生(推定)のコミュ力の高さには目を見張るものがある。

フォース名はビルドダイバーズ。なんか主役みたいな名である。

 

そして、そのデビュー戦を縁あって観戦することになった。

まぁ、マギーさんからのお誘いなんだが……

俺達以外にも、 シャフリさんやタイガーさんも応援に駆けつけるようだ。なんとも豪華な応援団である。

 

折角だからと、フォースメンバー全員で見に行くことになった。俺とトリナ以外はリクたちと同期みたいなもんだし、違うフォースの戦い方

を見れば戦術の幅も広がるだろう。

 

そんなこんなでぞろぞろと来てみれば、

 

「やぁやぁ、初めまして。私がロンメルだ」

 

会場にはGBN動物アバターで最も有名なフェレットがそこにいた。ロンメル大佐!?

 

リクにユッキー、コーイチさんは驚いてしどろもどろとなっている。そりゃいきなり目の前に有名人がいれば、誰だってそうなる。俺もそうなる。

だから、動じることなく佇んでいられるアヤメさんは何だろうか。何、心臓がルナチタニウム合金ででも出来てるの?すぐにキョドる俺からしたら羨ましいんだけど。

サラモモコンビは「かわいいかわいい」と連呼しながら撫でくり回している。君たち、見た目はでかいフェレットだけど、中に人がいるんだからね。…って、リマチちゃん!なに一緒になって撫でてるの!?はしたなくてよ!

 

「やめてー!その人凄いひとー!」

 

「そうだぞ。どうしても撫でたけりゃ、ネコノで我慢なさい」

 

俺とユッキーで慌てて止めに入る。

ユイユイは暢気に「なんかお父さんみたい」とか言ってるが、止めるの手伝いなさいよ。

 

「ハハッ、構わないよ」

 

初対面でいきなり撫でくり回されたらお叱りが入りそうなもんだが、ロンメル大佐は笑って済ませてくれた。大人だ。

 

「よくも私を身代わりに差し出そうとしたわね、クズ谷くん」

 

ヒェ!!

 

 

しかし何故、新人フォース同士の対戦にロンメル大佐が?そう思っていると説明が入る。リクたちの相手はロンメル隊の下部フォースの新人らしい。自分はあくまで応援なのだと。ロンメル大佐の言葉を受け、相手側のフォースメンバーが一斉に敬礼をする。なかなかどうして様になっている。フォースの色と合間って訓練施設を出たばかりの新兵の様だ。

 

フォースランク2位の関係者相手で若干萎縮してしまっているビルドダイバーズを、タイガーさんとシャフリさんがそれぞれの言葉で激励する。途中で何時ものやり取りになっていたが、お陰で彼らの緊張は抜けたようだ。

 

二人のやり取りをぼぉっと聞いていたら、トリナに脇腹をド突かれた。え、俺もなんか言った方がいい流れ?

 

「あー…、多かれ少なかれ相手さんは油断してるだろうし、そこを突きゃなんとかなるんじゃね。知らんけど」

 

我ながらいい加減なアドバイスだが、互いの実力がよーわからんからなんとも言えん。まぁ、初心者とはいえセンスのある3人に、ベテラン勢と思われる2人が加わったことだし、遅れはとらないだろう。

 

ビルドダイバーズは所定の位置に向かう。それを見送り観戦席となっているギャロップのデッキへと移動する。高台に停まっていることもあり、戦場が一望出来る。こんな大人数でいると、少々手狭に感じるが……

 

「遅くなってすまない」

 

どことなく聞き覚えのある声に視線を向ければ、そこには副官の二人を引き連れたチャンピオンがいた。

 

今度はチャンピオンかよ。この場の有名人率高過ぎィ!?俺達の場違い感が半端ない。やだ、すっごく帰りたい。

 

どうやらリクたちは、チャンピオンともフレンドを結んだらしい。チャンピオンと知り合えるなんて、どんな縁だよ。べ、別に羨ましくないんだからね!

 

チャンピオンがこちらに近付いてくる。

 

「君がヤハタくんだね」

 

いきなり話しかけられて「ひゃ、ひゃい!」なんて返事をしてしまうのも仕方がない。だって、チャンピオンだ。現時点、このGBNで最強と言っても過言ではないダイバー。それが彼、クジョウ・キョウヤである。

一応はランカーとはいえ個人ランク88位でしかない俺とは実力、ガンプラ技術、経験ともに高い壁が存在している。スクールカースト上位と下位の差のようなものだ。いや違うか。

だからトリナ、人を指差してケタケタ笑うな。曲がりなりにも恋人だろうが。

 

「メンバーから君の話を聞いて、いつか僕も会いたいと思ってたんだ」

 

チャンピオンからそう言ってもらえるとは、非常に光栄である。

 

しかしはて、俺の知り合いにAVALONのメンバーなんていたかしらん?と記憶を探る。リアルと同じでGBNでの知り合いもそんなにいない。

登録者の少ない脳内名簿に一人該当者がいた。

そう言えば奴もAVALONの制服を着ていたな……

 

「へー、先輩、AVALONみたいなトップフォースにもお知り合いがいたんですねー。女ですか?」

 

と、トリナが聞いてくる。目のハイライトが消えてるけど、なに、妬いてんの?可愛いじゃねぇか。

 

「ちげーよ。俺のひとつしたの順位の奴で、何度か戦ったことがあるってだけだ。それに男だ」

 

ぽんぽんとトリナの頭を撫でながら答える。

 

ふと、脳裏にHi-νガンダム使いの仮面のイケメン野郎が浮かんだ。仮面なのになぜイケメンか分かるかって?ガンダムの仮面キャラはイケメンと相場がきまってるんだよ。

 

俺とトリナのやり取りを見ていたチャンピオンは微笑むと、

 

「彼も君との再戦を心待にしている。近々連絡があると思うから、その時は宜しく頼むよ」

 

そう告げると、俺たちから離れメンバーの方に向かっていった。

奴との対戦か…… チャンピオンには悪いが少し……いや、かなり面倒だ。

 

ランカーとしてそれなりに多くの戦歴を抱えている俺だが、その中でも件の奴との戦いが一番厄介だった。

何が厄介かって、奴さんがびゅんびゅん飛ばしてくるファンネルである。遠距離から狙撃しても盾にして防がれ、隠れて接近しようにも全方位攻撃でビームをばら蒔かれる。

それだけファンネルに集中していると並のダイバーなら本体の挙動が疎かになりそうだが、奴はそんな隙は見せてこない。寧ろファンネルと巧く連携して攻め立てくる。ワールドランカーは伊達じゃない。

今のところは勝ち越しているが、いつ抜かれるんじゃないかと思うと、冷や冷やしてくる。88位というランク、割りと気に入ってるんだよ。本名的に。

 

「その割りには先輩、楽しそうな顔をしていますよ」

 

トリナがニコニコしながら俺の顔を覗き込む。

 

「……まぁ、何だかんだ言ったって、強い奴と戦うのは楽しいしな」

 

自分が作り上げたガンプラの出来、操縦する技量、今までの戦闘経験、持ちうる全てを出しきって勝ちを掴むのは堪らない。

スミルノフ大佐曰く、これが勝利の美酒というものだ。一度味わってしまうと病み付きになってしまう。やだ、ヤハタったらバトルジャンキーみたい。

 

「普段は捻くれてるくせに、こーゆー時は先輩も男の子ですねー。かわいー」

 

俺みたいな男に向かって可愛いとか言うな。それは戸塚に相応しい言葉だ。ええい、頭を撫でるな!ちょっと嬉しくなるだろうが。

 

「おにーちゃん、おねーちゃん、いつまでイチャイチャしてるのさ。モモちゃんたちの試合、始まっちゃうよ!」

 

いつまでもグダグタしている俺たちを見かねたのか、リマチが呼びに来る。ハイ、スイマセン……

 

気を取り直し、デッキから戦場を俯瞰する。ジャブローを舞台にしたそこは、視認性が悪く奇襲には持ってこいの地形だ。実に俺向きである。

 

相手方の第七士官学校はザクベースで組まれたミリタリー色の強い顔触れだ。MSVかな。機体の方向性が統一されている分、統率性・連携力は侮れない。

対するビルドダイバーズは、それぞれの個性がよく出た構成である。機体どころか作品すらも被らない。機体の特色を活かしどんな戦い方をするから見物だ。

 

 

「第七機甲師団が名前を隠して新フォース向けのイベントにエントリーするなんて、ちょっと大人気ないんじゃない?」

 

「新人教育に必要なのはまず勝利だ。私は飴を与えるのが得意な指揮官なのだよ」

 

マギーさんからのチクリとした一言にも、余裕綽々とした態度で答えるロンメル大佐。

あいつらが甘いキャンディとは限りませんよ。トリナばりにスパイスが効きってきまくってますから。

俺の内心を読み取ったのか、トリナがこちらを睨んでくる。そう言うところがスパイス効きまくってるんだよ。

 

 

開幕早々に爆発音が広がる。第七士官学校の仕掛けたトラップの反応のようだ。自分たちの罠に獲物が掛かったとなり、早くも楽勝ムードになりながら確認に急ぐ面々。

おいおい、いきなり油断していいのかね。あいつらはそんなに甘くはないぞ。

 

案の定、罠に掛かったのはフェイクであり、そればかりか地雷の御返しまである。爆煙を切り裂き、ユッキーのGMⅢビームマスターとモモのモモカプルの反撃が開始された。

 

「先手はリクくんたちのようだね」

 

「まだまだ始まったばかりだよ」

 

チャンピオンからの言葉にも、ロンメル大佐の態度は崩れない。デッキチェアに寝そべり優雅にカクテルを飲んでいる。その声と態度が合間って、なんかフラグにしか見えない。

 

リクのダブルオーダイバーが、地形を利用し罠を張り、相手を追い詰めていく。ロンメル隊の得意分野取られちゃってるぜ。

 

撤退する相手にコーイチさんのガルバルディリベイクから追撃弾が飛んでくる。Ζのガルバルディβを、最新の鉄血仕様にするとは。細身だった原型機が、グシオンさながらの堅牢な装甲を身に纏い玄人好みの機体になっている。

 

目まぐるしく変わる戦況、僚機からの報告に浮き立つ指揮官機。そこに突如見えない攻撃が入る。隠形で隠れていたアヤメさんのRX-零丸からのアンブッシュである。アヤメさんの見た目通り忍者をモチーフにした機体は、SDガンダムの小柄な体格による機動性とピッタリの相性である。

 

それにしても、忍者か…… ステルス性を活かした戦法の俺にとって勉強になる機体である。フォースを組んだ今、これから先スナイパー仕様では対応仕切れんことがあるかもしれない。俺自体は不意討ちが特性なだけであって、別に遠距離狙撃に拘る必要もない。これを機に新しいウェアを作るのもいいかもしれん。

あいつらの糧になればと来てみたが、俺にも考えさせられる物がある。これだからGBNは止められない。

 

水辺に追い込むことでモモカプルの本領が発揮される。

 

 

「あらあら、ついに新人部隊の陣形がくずれたわね」

 

「殲滅戦は乱戦になりやすいからね。最後は個人の力量さ」

 

ロンメル大佐はそう言うが、当初の余裕がなくなっている。それに個人の力量なら、あいつらも中々のもんですよ。

 

水中でモモに追い詰められていた機体が、勢いよく飛び出す。そんなに慌てて大丈夫かね。急な飛び出しは事故のもとだぞ。迂闊な相手をフォースのスナイパー・ユッキーが狙撃する。強化された粒子の奔流がマツナガザクを貫く。先ずは一機。

 

陸地に上がったモモとアクトザクの一騎討ちが始まる。両の手にビームサーベルを発信し向かってくる相手に、モモカプルが回転しながら突っ込む。単純な挙動ゆえに容易に迎え討たれると思われたそれは、岩にぶつかって動きが変わるというラッキーにより回避。呆気に取られる相手を撃ち落とした。これで二機。

 

「こりゃ態勢決まっちまったかな」

 

「あーもうなにやってるのー。パーフェクト負けなんて絶対許さないんだからー」

 

普段のダンディーな姿とは打って変わり、駄々っ子のような態度になってしまっている。これが普通のおっさんがやってるならドン引きものだが、見た目は愛らしいフェレットの姿なので違和感はない。可愛いは正義とはよく言ったものである。

 

残りの機体をリクとアヤメさんが追い詰めていく。しかし、2対3なので第七士官学校側が数的に有利だ。ドズル中将も戦いは数と言ってたからな。

そこに気付いた相手方は、果敢に攻めてくる。

今のうちに数で囲んで叩いていけば、逆転の目がある。

 

まあ、駆け付けたコーイチさんにより、その差は埋めれるんだかな。

 

仕上げとばかりに、ビルドダイバーズは一気に攻め出した。

 

アヤメさんは、ザクキャノンの弾幕を大型手裏剣をぶつけることで切り払う。トドメは三体に分身し一斉に切り裂く。そして三機目。やはり忍者に忍術は付き物だな。俺もなんとか再現出来ないものかね。

 

コーイチさんは重装甲とパワーを活かしザクを往なしていく。最後は鉄血らしく大型の得物で挟み潰す。顔に似合わずエグい攻撃である。これで四機目。残すところあと一機。

 

リクと指揮官機ーーあ、この機体、よく見たらギャバン用ボルジャーノンだわ。ビルダーの拘りを感じるなーーの一騎討ちとなる。相手からすれば何としてもパーフェクト負けは避けたい。マウントされたガトリングシールド乱射し、必死に攻めている。

対するダブルオーダイバーは新造されたバックパックのウィングを展開し、一気に距離を詰める。凄まじい加速力だ。この速さ、相手の目にはさぞ驚異に映るだろう。

挨拶とばかりにガトリングシールドをひと突き。銃身を縦に割られ破壊される。これで遠距離攻撃を封じた。

しかし相手もさることながら、お返しとばかりにGNソードを弾き飛ばす。この咄嗟の判断力は並の新人では出来ない。下部とはいえ、第七機甲師団所属は伊達じゃないか。

 

だが、リクも負けてはいない。距離を取ると両肩にマウントされていた大型剣を抜き放つ。背部のバーニアを吹かせて飛び出す。煌めく粒子が飛行機雲のように軌跡を描く。スピードの乗った斬撃をすれ違い様に叩き込む。一瞬の静寂の後、相手の機体は爆散した。

全機撃破完了。これにてバトルエンドである。

 

終わってみればビルドダイバーズの大勝利だ。

 

「リクくんの成長が素晴らしい。格段のレベルアップを果たしている」

 

べた褒めだな、チャンピオン。

 

こちらの応援団の和やかな雰囲気に対して、第七機甲師団側は沈痛な面持ちである。ロンメル大佐に至っては魂が抜けかけている。

 

「やはり新人教育に必要なことは、飴ではなく鞭だね」

 

彼等の行く末に合掌。

 

 

バトル終了後、お互いの健闘を称えてリクとロンメル大佐が握手を交わす。戦いから結び付く友情というやつである。友だち少ないからよく知らんけど。

 

 

リクたちは、サラにミッションの報酬であるペンダントをプレゼントしていた。リクとサラのやり取りを、回りの人間は微笑ましそうに見ている。

 

トリナ、羨ましそうにチラチラ見るな。目を潤ませるな。お前がやってもあざといだけなんだよーーーまぁ、そのうち、な。俺だから期待すんなよ。

 

 

「ビルドダイバーズのみなさーん、アザレアのお二人もそろそろ集まってください」

 

AVALONの眼鏡の副官さんの呼び声が掛かる。

え、なに、記念写真撮るの?ビルドダイバーズが主役なんだから俺いなくていいんじゃない?

 

「えー、お兄ちゃんも写ろうよー」

 

「そうですよー」

 

「一緒に撮ろ?」

 

リマチにモモサラが上目遣いでこちらを見てくる。分かったからそんな目で見るな。大人しく写るから。

 

「…ロリコン」

 

低く冷たいトリナの呟きが刺さる。

ロリコン違うわ!お兄ちゃんスキルが発動しただけだ。第一、お前もその恩恵受けまくってただろ。

 

「つべこべ言わずさっさと来てください!」

 

トリナに腕をがっちりホールドされ集合写真に写る。写真慣れしていない、プラス腕に当たる柔らかな感触で変な顔をしていないか心配である。大丈夫だよね?

 

 

 

こうしてビルドダイバーズのデビュー戦が終わった。

 

下部フォースの新人とはいえ、第七機甲師団相手にジャイアントキリングをした彼らのネームバリューは高くなるだろう。ライブ中継されていたから、それを目にしたダイバーも多い。更には、チャンピオンを始めとした高位フォースからも目をかけられている。注目の的というやつだ。

これからは不特定多数のフォースから、対戦依頼やアライアンスなどがじゃんじゃん増えていくことになる。なんか、宝くじ当選後に知らない親戚が増えるみたいだな……

 

この先ビルドダイバーズがどうなっていくかはまだ分からない。この勝利を糧に更に研鑽するか、それとも天狗になり堕落していくのか。

でも、まぁ、彼らなら大丈夫だろう。別段、根拠があるというわけではないが、勝利後の笑顔を見てそう思った。

 

何はともあれ、ビルドダイバーズ、初勝利おめでとさん。




バトル(を観戦する)回でした。
次回はちゃんと八幡がバトルをします。


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彼にも負けたくない相手がいる。

お待たせしました。11話目を投稿します。

※海老名さんなネタがあるので苦手な方は注意して下さい。


ライバルーーー自分と同等、もしくはそれ以上の実力を持つ競争相手のこと。

 

語源はラテン語で“小川の”を意味する“rivalis”にある。これが"水源を巡って争う人々"から"一つのものを求めて争う人々"となりライバルという言葉が生まれた。

 

ちなみに英語のライバルは、常に対立している宿敵という意味である。決して相容れることのない殺伐としたものだ。さながら∀とターンXの関係である。そこにはポジティブな感情はない。

 

それに対し、日本では好敵手の意味合いで書かれている事が多い。敵である筈なのに好ましいという字が当てられる。なんとも矛盾している。

 

日本人にはライバル関係というものが非常に好まれている。バトル、スポ根、ラブコメ、少年漫画、少女漫画、小説、テレビドラマ、分野を問わずあらゆるジャンルにおいて、ライバルキャラというものが登場している。どんだけ好きだよ。

 

そしてそれは、ガンダムという作品においても例外ではない。アムロに対するシャア、アセムにゼハートの様にシリーズを通して数多くの魅力的なライバルが登場している。彼らの行動にファンは一喜一憂し、熱いまなざしを送る。

中には熱くなりすぎたあまりに、俺の目とは違った意味で腐ってしまった女性陣もいたが…… 人類の業は深い。

 

話を戻す。こうしてライバルキャラは大衆娯楽の記号となった。単なる競争相手以外の役割も持っているとも考えられる。

 

主人公の越えるべき壁として立ちふさがる。強大な力と技量を持って圧倒し、主人公のみならず視聴者にすら衝撃を与える。制作者のテコ入れのようなものだが、それでも登場時のインパクトは大きい。

また、主人公の成長を測るバロメーターの役割もこなしている。最初は手も足も出ない状態だったのが、段々と渡り合える様になり、最後に勝利を掴む。努力して強くなり、今まで勝てなかった相手を倒す。非常に分かりやすくて爽快感がある。

 

改めて考えると、ライバルとは主人公を輝かせる為だけに存在していると感じる。自分の輝きすら相手を引き立てる為にある。そのあり方に、俺は敬意を表したい。

 

 

結論:主人公よりライバルが好きです。でも3番目ぐらいのヒロインポジの方がもーっと好きです。

 

 

× × ×

 

 

 

昼休み、いつも通り教室でいろはと一緒に昼食をとる。

 

ここで昼食をとるようになって暫く経つが、この喧騒には慣れない。

昼休みというのは学校という強制集団生活の中で得られる唯一の癒しの時間だ。だからこそ心穏やかに休まるようこそ静かな場所で過ごしたい。

 

特に最近は、AGE-2ステルスの新ウェアの作成とそれの習熟に集中していた分、疲労が溜まっている。お陰でバトルに十分に通用する出来になったが……

 

そういった理由で、俺としてはベストプレイスでひっそりと取りたかった。テニスの練習をする戸塚を眺めながら食べる昼飯は、何物にも代え難い癒しとなる。

 

しかし、いろはの「あそこは机がなくてお弁当食べ辛いです。それにもうこそこそする必要がないので却下です」の声により教室で昼休みを過ごすことになった。俺の意見なんて通りゃしない。結婚していないのに、既に尻に敷かれている。いや、もとからか。

 

脳内で愚痴りながらも、いろは手製の弁当に舌鼓を打つ。お菓子作りが得意と自負するだけあり、料理の腕も中々のものである。特にこの卵焼きが素晴らしい。甘く味付けされたそれは、俺の好みにベストマッチしている。こんな美味いもん食べさせられたら、文句は言えやしない。高校生なのに胃袋を掴むとは。いろは、恐ろしい子ーーー

 

ちらりと向かい合って座っている彼女を見る。俺の前の席の人間から椅子を借り、上級生の教室なのに堂々としている。つーか、よく席なんか借りれるな。俺、前の人となんか話したことないんだけど……

クラスの人間も今更なのか、最早気に止めていない。由比ヶ浜も暢気にやっはろーとか言ってるし。寧ろ俺より馴染んでいる感がある。

 

 

「ねぇ隼人、今週の日曜日どっか出掛けない?」

 

喧騒に紛れて、クラスの女王・三浦優美子のそんな声が聞こえてきた。普段の威圧的な態度と違い、どこか甘えたような雰囲気である。彼女がこんな態度をとるのはただ一人、リア充オブリア充の葉山隼人だけだ。恋する女王は切なくてリア王の前ではしおらしくなっちゃうの。

 

「ごめん、優美子。その日はどうしても外せない用事があるんだ」

 

しかし無情。三浦のアプローチも、済まなそうな声色で断られてしまった。三浦も残念そうにしていたが特にごねることはなく、別の話題へとシフトしていった。

もし、俺がいろはの誘いを予定がアレだからと断ろうものなら、「は?何ですか。先輩の予定って昼寝してだらだらするだけですよね」と底冷え声で言い放ってくる。長年の経験と小町経由での情報提供により、俺の行動パターンや予定など把握済みである。お前は俺の嫁かよ。いや、最有力候補だったわ。

 

「せーんぱーい、聞いてますかー」

 

つらつらとそんなことを考えていると、いろはのそんな声が飛び込んでくる。彼女はぷくぅと頬を膨らませ、こちらを覗き込んでいた。近いから。うっかりキスしちゃうだろ。んで、なによ?

 

「もー。だからー、今度のお休み小町ちゃんたちとお出掛けするって言ったんですー」

 

「おー、小町からも聞いてるわ」

 

女子会だからお兄ちゃんは参加禁止ね、とまで言われている。いや、もとより参加するつもりなんかないんだが。

 

「先輩、わたしや小町ちゃんがいないからってお昼まで寝過ごさないでくださいねー」

 

「お前は俺をなんだと思ってんの」

 

失礼な。そもそも日曜日の朝に限ってはちゃんと起きてる。他の日なら知らんけど。

 

「勿論、世界で一番素敵な彼氏です」

 

ぱちんとウィンクをして答える。あざとい。

 

「それにその日はGBNにダイブする予定だ」

 

「えー、一人でダイブするんですかー」

 

いろはは信じられないことを聞いたかのように言う。全世界のソロプレイヤーに謝れ。そもそも俺も、お前とつるむようになる前はソロだったってーの。

 

「こないだチャンピオンが言ってただろ。対戦の依頼が入ったんだよ」

 

俺個人宛にメッセージが届いてて驚いた。普段使わないから間違いメールかと疑ったぐらいだ。

 

「あぁ、先輩のライバルって人ですね。なんて人ですか?」

 

「ダイバー名はユートって言う仮面のスカしたイケメン野郎だ。頭がおかしいってぐらいにファンネルを撃ってくる」

 

ヤバイ意味で。それと、ライバルじゃねーよ。単なる厄介な相手ってだけだよ。

 

「や、聞いた限り、見た目からして完璧にライバルキャラじゃないですか… 先輩と同じぐらい強いんですよね?」

 

「まぁな。今のところ2勝1敗で俺が勝ち越してはいるが…」

 

それも、どちらに転んでもおかしくないぐらいの戦いだった。

 

「今度先輩が勝ったら、また一歩リードですね」

 

「確実に勝てるとは限らんけどな」

 

ほぼ横並びの相手だから予測がつかん。その日の体調で変わるということもあるだろうし。

 

「ほらそこは『いろはに勝利を捧げるよ』ぐらい言ってくださいよ」

 

何だよそのキャラ… 俺が言ってもキモいだけだろ。

 

「だから、お前は俺をなんだと思ってんの…… まぁ、負けるつもりもないけどな」

 

そうこう駄弁っているうちに、昼休みの終わりのチャイムが鳴る。いろはは「でわでわ、また放課後でーす!」と手をふりふりしながら1年の教室に帰っていった。かわいい。

 

ふと、何処かから視線を感じる。それとなく探ってはみるが出所は見当がつかない。

ただ、以前まで感じていた悪意のあるじっとりとしたような物ではない。なら、そこまで気にすることはないか……

 

 

 

× × ×

 

 

 

バトルの当日になった。例のごとく千葉のいつもの店に向かう。

 

今日は久しぶりのソロダイブだ。いつも隣にいるあざとい笑顔がない分、少々物足りなく感じてしまう。やだ、八幡ってば完全に調教されてる?

 

いつもなら、暫くロビーやフォースネストでグダグダしているのだが、どうせ俺一人だ。さっさと格納庫に向かうことにする。

 

ハンガーの機体を見上げる。そこにはいつもとは違うシルエットのAGE-2ステルスが佇んでいる。AGE系ガンダムの特徴であるウェア交換による換装だ。

 

従来よりも若干太くなった四肢。肩の特徴的な4枚羽はオミットされ、偏向型スラスターが装着された。武装はスナイパーライフルに代わり、両腕にGNクナイに似た装備が固定されている。

 

基本形態であるスナイプと異なり、近接戦闘と隠密に優れた形態、名付けてAGE-2ステルス シノビ。その名の通り忍者をモチーフにしたこのウェアは、忍術を再現するために色々とギミックを仕込んでいる。正に変幻自在な機体へと仕上がった。ワザマエ!

 

手数が増えたことにより、ファンネルへの対策がしやすくなった。いろはにはああ言ったが、今日の勝負は貰うつもりだ。

 

目指すは宇宙(そら)。暗く拡がる空間は、漆黒に染められた俺の機体を視認し辛くなる。まぁ、奴にとってもファンネルを使ったオールレンジ攻撃向きの地形なんだが…… 互いに有利に働く場所だ。あとは自身の腕とガンプラの出来が物を言う。

 

指定された場所には見慣れない機体がいた。

いや、AVALON所属機の特徴である紫系統のカラーリングには覚えがある。特にその淡い紫の機体色には。

 

だが、機体が違う。ガッシリとした体躯のHi-νとは違い、そいつは生物の様なすらりとしたフォルムをしている。ガンダムの特徴を備えながらも異形染みた機体。

 

「よりによってレギルスかよ。まさか機体を変えてくるとはな…」

 

予想外の展開に、思わず愚痴が零れる。ボディーを始め所々オリジナルのカスタマイズがされているが、ガンダムAGEに登場するレギルスである。俺のAGE-2に対峙する機体のチョイスとして、狙ってるとしか思えん。

 

「そう言う君も、新しいウェアじゃないか」

 

レギルスのダイバーは、俺の独り言に律儀に返してきた。いきなり話しかけてくんなよ、友だちと思っちゃうじゃないか。

 

「それにしても驚いたよ。君がフォースを組むなんてね」

「……俺が組んだんじゃない。成り行きだ」

 

以前コイツと戦ったのは、まだソロの時かトリナが受験でダイブしていなかったからな。

けっ、お前にはボッチがお似合いだー、ということかよ。

「んで、いつまでくっちゃべるつもりだ。さっさと始めようぜ」

 

俺たちはフォースメンバーでもなければ、アライアンスを結んでいるわけでもない。馴れ合いなんかいらん。

 

「はは、そうだな」

 

それには奴も同意なのか、にやけ面を引っ込める。

 

バトルモードを起動させる。これから交わすのは言葉ではない。ダイバーとしてのプライドだ。

 

「ヤハタ、ガンダムAGE-2ステルス シノビ」

 

「ユート、ガンダムレギルス インベル」

 

「行くぞ!」

 

「行きます!」

 

開幕早々こちらに橙色の粒子が飛んでくる。合図と同時にぶっ放したようだ。おいおい、お行儀が悪いんじゃねぇの?

 

だが、今更この程度の単調な射撃に当たる訳がない。あっさりと回避してやる。

 

相手も、俺の回避行動は織り込み済みなのだろう。橙色の流星が回避地点に一条、また一条と迫ってくる。正確な射撃だ。だがーーー

 

「それゆえ俺には(・・・)予測しやすい」

 

そんな狙ってますとばかりの射撃は、俺には通用しない。視線に敏感なボッチの危機回避能力を舐めんなよ。

肩のスラスターを駆使し、ひらりひらりと舞うように機体を動かす。最小限の挙動だが、ビームは掠りもせず機体横を抜けていった。ビームマグナムみたいな威力だったらヤバかったが、いくら通常よりは強化されているとはいえ、レギルスライフル程度なら充分である。

 

お返しとばかりに、両手のビームマシンガンから弾をばら蒔く。威力はないが、弾数と弾速は段違いだ。あっという間にレギルスに迫る。

 

しかし、すでに展開していたビットのバリアーにより防がれる。

この程度の威力じゃ突き抜けんか…… 威力を下げたことが裏目に出たかもしれん。

 

だが、そうでなくては。自然と口角がつり上がる。

 

いろはに見られたら「先輩、にやにやしてキモいです」とか言われそうだ。だが、全力で渡り合える相手なんだ。これで楽しめなければ何処で楽しむというのだ。

 

奴も同じ気分なのか、何時もの爽やかさは鳴りを潜め、不敵な笑みを浮かべている。

 

「どうしたんだい?君の攻撃は効かないみたいだが」

 

「抜かせ。ただの挨拶だ」

 

ビームだけでなく、口でも応酬をする。軽口を叩きながらの攻撃。実にガンダム世界のパイロットっぽいやり取りである。それにしても性格悪いな、コイツ。ブーメラン?知ってるよ。

 

軽いジャブを打ちつつ、次の手を考える。流石にマシンガンの連射で落とせるほど甘い相手とは思っていない。

 

阿呆みたいに飛んでくるビットを撃ち落とし、または回避しながら、リアスカートに増設されたウェポンラックに手を伸ばす。ここには忍術を再現するにあたり作られた忍具が収納されている。

その中から球体の手投げ弾を取り出す。所謂、煙幕玉というやつだ。中身はいつもの粒子撹乱ミサイルと変わらないが。

 

アンダースローの要領で、俺と相手の機体の中間地点に投げ飛ばす。炸裂した砲弾は瞬く間に煙と粒子をばら蒔き、一時的に視界とレーダーを使い物にならなくする。この隙に次の手を打つ。

 

「そんな見え透いた手なんか!」

 

ビットを全方位に放出して、煙幕と粒子を吹き飛ばす。ついでに隠れているだろう俺を炙り出そうという魂胆だろうが、そうはいかん。つーか、お前相手にそんな分かりやすい手なんか使うかってーの。

 

煙幕の晴れた先には、果たして4体のAGE-2ステルスがレギルス インベルを囲んでいた。

 

「これぞ忍法・分身の術、ってな」

 

アヤメさんの零丸のように本当に分身したわけではない。ダミーバルーンを使ったフェイクである。それでも一目ではわからない程度には精巧に作っている。簡易スラスターを内蔵し相手に向かっていくように細工をしてある。更にはーーー

 

「いくら増えても、全て落とす!」

 

そう言い、奴のレギルスは近づくダミーに向けてビットを放つ。所詮はバルーンでしかないダミーはビットが軽く当たるだけで簡単に破壊される。だが、そんなことは元より折り込み済みである。むしろこれを狙っていた。

 

リバースカードオープン、トラップ発動!

 

ビットに被弾した一体が、破裂とともに目も眩むような閃光を放つ。機雷による攻撃ならビットのバリアーで防がれそうだ。現に奴もそれを考慮してビットを纏っていたのだろう。しかし、ただの強烈な光ならそんなもの関係なしにすり抜ける。

 

「くっ!目眩ましなんかでーー」

 

おっと、これだけで終わりと思うのは甘いぜ。緩んだビームバリアーの隙をつき第二、第三の罠が叩き込まれる。割れたバルーンから溢れたトリモチが間接部に取りつき、動きを阻害する。紛れ込ませていた塗料がセンサーを汚す。

気休め程度に過ぎないが、これでレギルスの弱体化が出来た。他のゲームでいうところのデバフというやつだ。こういった効果は意外と馬鹿にならない。特に力量が並んでいる場合は、こうして打った手が後々効いてくることもある。

ちなみに四つ目のバルーンには、可愛らしい字体で“残念!!大ハズレ ヤハタ的にポイント低い”といった相手の神経を逆撫でするメッセージが出てくるようになっている。

 

「小癪な手をーーー!!」

 

ミラージュコロイドで姿を消したままニヤリとほくそ笑む。思うように罠にかかり慌てふためく姿を見るのは、いつ見ても胸がスッとした気分にさせてくれる。

愉悦に浸る性格の悪い下種野郎。どうも俺です。

 

見た目が地味な俺の必殺技(ファントムレイド)でレギルスの目の前に転移する。相手が反応する前に、腕部にマウントされたクナイを頭部にあるコックピット目掛けて突き刺す。貰ったーーー

 

「君がコックピットを狙うことぐらい分かってる!」

 

しかし、奴は左掌を犠牲にすることにより軌道を反らし、僅かに裂傷を作ることで止めた。こんなとこで原作再現なんかしなくてもいい。

背部のギラーガテイルーーーレギルスキャノンの変わりに備わっていたーーーに武器を絡め取られる。マウントした腕ごと軋んでいく感覚と、向けられた銃口に慌て武装を切り離す。蹴り飛ばすことで距離をとり、銃撃を回避した。

片方とはいえ武器を失った。ここまで再現されるのかよ。

 

「チッ、テレビ本編みたく簡単には落ちんか…」

 

思わずといった感じで悪態を付くが、別段これで落とせるとは微塵も考えていない。寧ろこの程度で倒れられるのは興ざめだ。

 

「MOEみたいな結末にもならないさ」

 

ユートは俺の軽口にそう返してきた。もう持ち直しやがったか。

それにしても、と続ける。

 

「相変わらず嫌らしい手を使ってくるんだな、君は」

 

「嫌らしいとはなんだ。これも立派な戦術だ」

 

馬鹿正直に正面からぶつかり合うだけが戦い方じゃないんだよ。罠を張り策を弄し相手を追い詰める、それだって立派なバトルスタイルだ。レナート兄弟、嫌いじゃない。

にらみ合いの最中、さっと機体のチェックを済ます。

俺の機体は無傷だが、武器を片方失った。

反対に奴のレギルスは軽微だが損傷をしている。しかし武器に関してはライフルもビットもテイルもしっかり残っている。

機体の状態は未だ五分五分といったところか……

ここから仕切り直しだ。どちらからともなく機体を加速させる。

 

奴は早速とばかり大量のビットをこちらに仕向ける。部分的とはいえセンサーの目隠しが出来た分、ビットの動きが先程よりも精彩を欠いた気がする。とはいえ、この数は脅威なのは変わらないが……

 

全身のスラスターを駆使し、上下左右稲妻のような軌道をとりながら追尾を振り切ろうとする。機体に色々仕込んだため、ストライダー形態への変形はオミットしてある。いつまで逃げ切れるかはわからない。何らかの対処をしないとな……

 

原典ではダークハウンドはアンカーを振り回し盾にすることで凌いだ。しかし、俺の機体には搭載されていない。変わりといってはなんだが、コイツを使ってみるか。

 

振り向き様に手にした物を投げつける。それは投げた衝撃で拡がり一枚の網になる。シュピーゲルのアイゼンネッツを参考にして作った特製の投網だ。電流の変わりに爆薬がたっぷり仕込んである。むしろ爆導索だな。ビットとぶつかることにより爆発が起き、後続の物ごと消し飛ばした。

 

爆煙を突っ切ってレギルスが飛び出す。ライフルの銃口からビームを発振し斬りかかってくる。こちらも負けじとクナイを振りかぶる。一合、二合と斬り結び鍔迫り合いに持ち込まれる。火花を散らしながら互いの機体が睨み合う。

 

ーーーさて、どうするか。

 

競り負けないよう機体を押し込みながら思考を疾走させる。この状態を崩す一手は? そこから勝利に繋げる道筋は?

必殺技(ファントムレイド)?無理だ。空間の粒子量が少ないから発動出来ない。

コンテナ内の忍具?駄目だ。派手に動けば勘づかれる。

考えろ。相手を欺く手段をーーー

 

思えば、俺がここまで追い込まれるのは随分と久しぶりだ。最近は一人でいることが少なくなったからな……

 

トリナとつるむようになってから、俺の世界は広がった。背中を預けられる相手がいる。それだけで安堵を感じるようになった。

 

さらに三人が加わり、フォースを組んで多人数でミッションをするようになった。集団行動が性に合わない俺でも、あいつらとなら楽しめた。

 

それでも時折、一人で我武者羅に戦いたいという事もある。背中を預ける仲間はいない。自身の知恵と腕をもって、目の前に立ち塞がる敵のみを打ち倒す。

普段、チキンだのヘタレだの言われている俺からは考えられない粗暴で原始的な衝動だ。しかし、それがただ楽しい。

 

「ヤハタぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

「ユートぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

 

テンションが最高潮になっているからだろうか、普段の俺からは考えられない程の声が上がる。それはユートの奴も同じようだ。雄叫びを上げながら、全力でぶつかってくる。

 

リアルでやったのなら黒歴史案件だが、ここはGBNだ。誰もがガンダムの登場人物になれる世界。叫びながら戦うなど日常茶飯事だ。

 

勝利への道筋は決まった。後は目の前のコイツを打ち倒す!

 

機体の力を緩める。恰も鍔迫り合いに負けたかのようにバランスを崩す。失敗すれば真っ二つになる。だが、リスクリターンの計算は今この場にいらない。

膝に仕込んだニードルガンを撃ち込む。虚を突かれ太刀筋がずれる。肩のスラスターがやられたが、機体の動作自体には問題がない。逆手でビームサーベルを抜き奴の左肩口に突き刺す。小さな爆発を上げレギルスの左腕がもげた。よし、これで厄介なビットは封じた。次はーーー

 

「まだだーーー!!」

 

だが、そこは相手も上位ランカー。この程度で闘争心は衰えない。今も俺を落とさんとしてレギルスのテイルが迫ってくる。クナイを盾にして防ぐ。長い尾が絡まり武器ごと左腕の動きが阻害される。武器を封じたつもりだろうが甘いんだよ。

 

「ーーーいいや、終わりだよ」

 

残った右手を手刀にし、頭部目掛けて突き出す。MFではないただのMSの手刀なら装甲を貫く威力はないが、ガラッゾのGNビームクローを参考にしてビームサーベルの発振器が仕込んである。出力の問題上、長い刀身を形成する程出せないが、貫手に纏わせて装甲を破壊するぐらいの威力はある。名付けてビームチョップ。

 

テイルはAGE-2ステルスの左腕を封じているから使えない。ライフルを持った右手はトリモチで関節の動きが阻害されて素早く動かない。ビットのシールドは吹っ飛ばした。ビームバスターがないのも確認済みだ。お前の武器は封じさせて貰った。

 

「だからまだだーーー!!!!」

 

そう言い、ユートはレギルスの膝からビットを射出する。

チッ、コイツも仕込んでいやがった!レギルスでもRの方かよ。

 

俺と奴の攻撃、どちらが速いーーー

 

コックピットを貫く手応えーーー同時に視界が赤く染まった。

 

 

 

 

判定はーーー

 

「Battle end!Draw!」

 

引き分け!? アニメじゃあるまいし、そんなのあるのかよ。あ、これ、ゲームだったわ…

 

なんかどっと疲れてきた…… それは相手も同じ様で笑顔に力がない。

 

「で、どうする。もう一度やるかい?」

 

「やだよ。怠い」

 

「ハハ、俺も同感だ」

 

微妙に締まりがない結末だったが、ランクに変動がなかっただけ良しとしよう。負けてないからいいんだよ。

 

「今日はありがとう。いいバトルが出来た」

 

バトル時の勇ましい雰囲気はどこに行ったのか、ユートの奴は爽やかに言ってきた。

 

「まぁ、なんだ……俺も楽しめたと思う」

 

らしくはないが、そう答えていた。すると奴は目を丸め、

 

「まさか、君からそんな言葉が聞けるとはね」

 

笑いながら去っていった。

 

それにしても、疲れた。 とっととログアウトして、帰って寝よう……

 

 

こうして、俺と奴の戦歴には一引き分けという結果が加わることになった。

 

 

 

× × ×

 

 

 

明けて月曜日。学生たる俺は、今日も立派にお勤めを果たすべく登校する。

昨日のバトル疲れもあり、ぶっちゃけ怠い。しかし、親に学費を払って貰っている以上通わなくてはならない。

昇降口でいろはと別れたあと、2年F組へと向かう。

 

教室に入ると一部がやけに騒がしい。具体的に言えば、トップカースト組とオタク系陰キャ組。やれやれ、朝から元気が宜しいことで……

 

「おはよー八幡」

 

「おぉ、おはよう戸塚」

 

戸塚からの挨拶で、俺も元気が漲ってきた。

 

「八幡もGBNやってるんだよね?」

 

そう戸塚が尋ねてくる。天使と見紛うほど可憐な容姿をしている戸塚だが、その実男の子っぽい趣味をしている。男だから当たり前だって?戸塚の性別は戸塚だよ。

そして、それはGBNも例外ではない。むしろどストライクの様である。ただ、部活が忙しくてなかなかダイブ出来ないと言っていた筈だが……

は!まさか、俺と一緒にダイブしたいということなのか。任せろ戸塚。お前のためならジャブローだろうがアクシズだろうが容易く堕としてみせる!

 

「昨日久しぶりにダイブしたんだけど、すっごいバトルが中継されてたんだ。ロビーもその話題で持ちきりだったよ」

 

既にダイブ済み、しかも昨日、だと。奴とのバトルがなければ、戸塚とGBNデートが出来たかもしれないのに。おのれ、ユート!

 

しかし、そんな話題になるようなバトルなんてやってたのか?まぁ、自分のバトルに集中していたし、終わったら終わったで直ぐに落ちたからな。ロビーでのことなんか知らん。

 

「サイレントキラーと流星の貴公子(シューティング・プリンス)と呼ばれる人たちのバトルだよ。二人とも凄腕のランカーでライバル同士でね、バトルを見ててワクワクしたよ!」

 

戸塚はバトルを思い出したのか、上気した頬で熱く語る。テンションが上がるあまり、なんかセイみたいになっている。

 

しかし、サイレントキラーが二つ名とは…… あれ、高血圧や糖尿病とかを指す言葉だよな。誰だか知らんが不憫な二つ名だ。ウケる。

 

「これなんだけど」と言って自分のスマホを差し出してくる。おぉ、戸塚との距離が近い。まるで恋人みたいだ。と、いろはに知られたら確実に白い目で見られることを考える。なんかトップカーストの方から「サイハチ愚腐腐…」という声が聞こえる。いかん、動画に集中しなくては。

 

GBN公式のリプレイ動画には宇宙が拡がっていた。そこでぶつかり合う2機のMS。

一機は漆黒の装甲に身を包み両腕に武器を携えたAGE-2のカスタム機。

対峙するは数多のビットを引き連れた紫の装甲をもつレギルスのカスタム機。

 

やだ、なんか凄く見覚えがある。え?ちょっとマジで?え?

 

『ヤハタぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!』

 

『ユートぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!』

 

コックピット内で叫びながら戦う二人の男。どう見ても俺たちです。本当にありがとうございました。

 

「凄いよね! この二人のバトル、結構人気があるんだ。しかも、二人同時に新型の御披露目だったんだ。リアルタイムで見れてラッキーだったよ」

 

戸塚は嬉々として語る。目がキラキラしていて非常にかわいいが、今の俺にはそれに見とれる余裕がない。

 

「レギルスを使っている方が流星の貴公子(シューティング・プリンス)のユート。オールレンジ攻撃が得意なんだ。本体と合わせて隙のない連携で相手を仕留めるんだ。以前はHi-νを使ってたんだけど、まさかレギルスに乗り換えるなんてね。相手に合わせたのかな?」

 

わー、戸塚は詳しいなー。

だが、そいつが流星の貴公子(シューティング・プリンス)なら……

 

「AGE-2を使っているのがサイレントキラーのヤハタだよ。不意に狙撃されて、気付いた時には倒されているから見えない暗殺者と呼ばれているよ」

 

やっぱ俺か。確かにマッ缶愛してるし、糖尿病予備軍だわ。なんだ俺にピッタリじゃねぇか。ハハ、ウケる。いやウケねぇよ。

 

「こっちの人はねトラップや不意討ちを駆使して戦うから、普通の人からはイマイチだけどベテラン勢からの人気は高いんだ」

 

戸塚は動画を見ながら嬉しそうに説明をしてくれる。折角の戸塚との会話だが、内容が内容故にあまり頭に入ってこない。相槌もおざなりになってしまう。「なるほど」「すごいな」「戸塚は物知りだな」ぐらいしか言ってない。すまん、戸塚。

 

「っべー!マジでこの動きっべーわ。ありえないっしょ!」

 

戸部の喧しい声が響く。あまりの声のでかさに、まわりの人間も何事かとそちらを向く。

 

「どんだけビット飛ばせんの。ランカーってマジべーわ。隼人くんもそう思わね?」

 

「はは、そうだな」

 

どうやらトップカースト組も同じものを見ているようだ。

さっきから由比ヶ浜が、これヒッキーだよね、といった感じでチラチラ見てくる。

うん、声に出さなかったことはありがたいよ。でもあまりこっちを見ないでね。何事かと思われるから。

 

三浦は興味がないのか髪を弄りつつ、葉山の方をちらちら見てる。反対に、海老名さんはしきりにうんうんと頷いている。

 

「ミステリアス王子様とやさぐれ暗殺者が組んず解れつぶつかり合って、最後は同時に爆発!ユーヤハ愚腐腐……」

 

ヒィ!?あまりの悍ましさに思わず声が漏れそうになる。なんかスイッチ入ってるぅ!?

 

「姫菜、知らない人でそう言った事は…」

 

冒涜的な腐のオーラを至近距離で食らったためか、流石の葉山も顔を青くしている。

おう、言ってやれ葉山。今だけはお前を応援するわ。

だいたい俺みたいなマイナーランカーよりチャンピオンとか有名処がいるだろ。

 

「いやいや隼人くん。ユーヤハは前から密かに人気はあったけど、今ではキョウロン、シャフタイに続く第3の勢力として台頭して来てるんだよ」

 

既にあったの!?なんかシャフリさん達にも飛び火してるし。つーか、なんだよ第3勢力って。三隻同盟なの?心の平穏の為に武力介入するぞ。

 

「ダイバーの同志も、それ以外の同志にもいい燃料になったよ。あっという間にイラスト、SSが。いやー、目の保養だね」

 

わー、GBNの外にまで出ちゃったかー。ヤハタってば有名人。

 

「生で見えるハヤハチが至高と思ってたけど、ユーヤハもいいね!なんとなくキャラも似てるし」

 

そりゃ片方本人ですからね。リアルばれするような真似はしないが、ロールプレイはしていない。

 

「特に分身して囲んで色々ぶっかける所には鼻血が止まらなかったよ」

 

やめてー!! 俺の渾身の策をそんな目で見ないでー!!

 

「ど、どうしたの八幡!?顔が真っ青通り越して土気色だよ?」

 

あぁ、戸塚、俺はもう駄目かもしれん。お前と友だちになれて良かったよ。

小町、ごめんな。お兄ちゃんは先に逝く。いい女になるのだな。

いろは、愛してる。最期にお前と会いたかった。いつまでも抱き締めたかった。

あぁ、ララァ、刻が見えーーー

 

「擬態しろし!」

 

三浦のツッコミにより海老名さんは沈黙した。どうやら、寸でのとこで現世に留まれたようだ。

あーしさんありがとう。本っ当にありがとう。

安堵のあまり力が抜けてく。

 

「八幡、大丈夫?八幡…?八幡!!」

 

戸塚の呼び声が遠くに聞こえる。どうやら気が抜けたあまり、意識も失うようだ。

なんもかんも、あの悍ましい妄想が悪い。下手しら今までの黒歴史よりもトラウマになる。

 

 

こうして、俺は意識を手放した。

 

 

気が付いたらすでに昼休み、保健室のベッドで横になっていた。突然倒れたということで、下手したら病院に担ぎ込まれていたかもしれん。

いろはに心配かけて泣かせてしまうわ、昼飯を食いっぱぐれるわで散々だった。

 

ただ、これだけは言いたい。

 

やはり俺が腐女子の餌になるのはまちがっている。

 

 

 




ライバルキャラの登場回でした。作中では特に描写はしていないですが、ダイバーの中の人は葉山です。


オリジナルガンプラ


機体名:ガンダムAGE-2ステルス シノビ

新たに作成したウェア。名前の通り忍者をモチーフにしている。

狙撃性能と巡航能力に優れたスナイプウェアと異なり、格闘能力と隠密性が強化されている。

武装はGNクナイを参考にして作られた複合武装のシグルクナイ。シグルブレイドとビームマシンガン、小型シールドが搭載されている。
その他リアスカートに忍具を納めたコンテナ。四肢に隠し武器が仕込まれている。

ギミックを仕込んでいる分、ストライダー形態への変形はオミットされている。



機体名:ガンダムレギルス インベル

ユート(葉山隼人)のガンプラ。

ガンダムレギルスをベースに改造した機体。
原型機から分離機能と内蔵火器が省かれているが、その分頑強さとビットの搭載数が上がっている。むしろレギルスRに近い機体になっている。
膨大な数のビットが降り注ぐ様は、流星雨の様である。

名前の由来は雨のラテン語から。


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だからこそ、チャンピオンは立ち上がる。

お待たせしました。本編の続きを投稿します。

※後書きにオリジナルフォースを追記しました。


その話題が出たのは、ユートの奴とのバトルから数日経った夕食時の事だった。

 

 両親が共働きの上多忙な比企谷家では、普段は俺と小町だけの食卓だ。稀にいろはの奴が加わることもあるが、基本は二人きりだ。

 

しかし今日は珍しく4人で食卓を囲んでいる。

久しぶりに小町(我が家の天使)と食事を共に出来るということにあり、2人とも非常に機嫌がいい。

 

親父にいたってはアルコールを摂取して上機嫌になったのか、頻りに小町に話し掛けまくっている。

最初は応対していた小町も鬱陶しくなってきたのか徐々に御座なりな反応になる。終いには「お父さん、ウザい」の一言で切り捨てていた。ザマァ。

 

「そーいや、あんた、最近いろはちゃんとどうなの?」

 

そんな親父の様を眺めてホッコリしていると、母ちゃんが尋ねてきた。

 

「どう、ってなんだよ」

 

 国語学年3位の実力と読解力を誇る俺でも、流石に何の脈絡もなく言われては聞き返したくなる。

 

「あんたみたいな捻くれ者の相手してくれる子なんて、これから先他にいるかわからないし、ちゃんと捕まえときなさいってことよ」

 

実の息子に酷い言い種だが、事実だから反論出来ん。

 

「わーてるよ。俺だって今更いろは以外と居ようとは思わん」

 

そう言うと、両親はポカンとした顔で俺を見ていた。だから、なんだよ。

 

「お前、本当に俺の息子か?」

 

親父が唖然とした顔で聞いてくる。なんだよ、実は血が繋がっていませんでしたとか言うつもりかよ。 え、違うよね?

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃんのことになると大分素直になるからね。小町的に面白いからポイント高いけど」

 

ニヤニヤ笑いながらそう告げる小町。「すでに告白(プロポーズ)済みだしねー」更には人の黒歴史?まで伝える始末。うっさいわ、クソガキ。

 

それを聞いて両親は「これで比企谷家も安泰…」だ「孫の顔が…」だと勝手に騒いでいる。

 

暫くは俺といろはの事を肴にして飲んでいた両親だったが、やがて話題は愚痴にシフトしていく。比企谷家の両親は共にGBN運営会社に勤めている。只でさえ人気コンテンツ故に、ここ最近はブレイクデカールの対応に終われ多忙を極めていた。

 

小町の事が大好きな二人である。触れ合う時間が減り、ストレスは溜まる一方だ。

 

やれ「ブレイクデカールが進化した」だの「データ改ざんしてログに残らない」だの「カツラギさんも大変だ」と愚痴愚痴言ってる。

 

誰だよカツラギさん。それに、なんか機密事項みたいなものも入ってるし。ハチマンナニモキイテナイ。

 

聞き流しながら黙々と箸を進めていると、

 

「おい、八幡。ブレイクデカールなんぞ使ってないだろうな」

 

不意に親父が問いかけてきた。おいおい、息子を疑ってるのかよ。この比企谷八幡、目と性根は腐ってても、犯罪に手を染めるほど堕ちてはない。

 

「んなもん使うかってーの。リスクがでかすぎるわ」

 

不正ツールに手を出して得られる力なんて高が知れている。バレたときのリスクに対して、得られる旨味が全くない。

 

「大丈夫だよ。そんなの使わなくても、お兄ちゃんアホみたいに強いし」

 

と、小町が擁護してくれる。小町ちゃん、そう言ってくれるのはありがたいんだけど、お兄ちゃんに向かってアホはないんじゃないかなー。由比ヶ浜じゃあるまいし。

 

「それに、お兄ちゃんの戦いかた自体がずるっぽいし。ねー、サキぃちゃん」

 

更にフォローだかなんだか分からんことを付け加える。

大体ずるじゃねぇよ。不意討ち(遠距離狙撃)闇討ち(ミラージュコロイド・ステルス)騙し討ち(ファントムレイド)もちゃんとシステムに認識されている手段だ。(トラップ)口撃(トラッシュトーク)で揺さぶりを掛けるのも戦術としては基本中の基本だ。

あと、なんだよサキぃちゃんって。()イレント()ラーだからサキぃちゃんか?センスねぇわ。

 

小町の言葉により親父は納得したようだ。何も言わなくなった。この差と言いたくなるが、小町相手だからちかたないね。

 

「まぁ、なに、フォースの連中にも言っとく」

 

これでこの話は終いとなった。そして話題はまた俺といろはの事になる。まだ続けるのかよ。

 

 

 

× × ×

 

 

 

第七機甲師団、壊滅ーーー

 

その話題がGBN内で一番ホットなニュースだった。だが、盛り上がりと裏腹に内容はヒヤリとさせられるものがあった。

 

ビルドダイバーズの時のように、新人部隊とのバトルの結果というわけではない。エース級のメンバーが悉く撃ち取られているのだ。

 

これが上位フォース同士のバトル結果なら、このような形で話題にはならない。来るべきガンプラフォースバトルトーナメントの為の対策やら考察で賑わう筈だ。

 

 それが何の注目もない名も知らぬフォース、それもよりによってマスダイバーの集団によって倒された。しかも噂では相手は一度倒しても甦ってきたという。まるでDG細胞に侵されたかのように。

 

そういえば、と思い出す。以前倒した相手も自己修復していたことを。デビルガンダムだったからと気にも止めていなかったが、改めて考えれば確かにあの修復力は異常だ。

 

 俺の回りでも予兆があったわけだ。偶々、コックピットを狙い撃ちで倒すという戦法のお陰で被害がなかったというだけだ。一歩間違えれば同じ轍を踏んでいたかもしれない。

 

 ユートの奴とのバトルで、先入観に囚われて痛い目にあったばかりだからな。あらゆる可能性を想定しておけば、対処しやすくなる。

 

「ブレイクデカールが強化されたらしい。これからは、この間のデビルガンダムみたいなのがごろごろ出てくるかもしれん」

 

 対策としては不用意なバトルは受けないこと。もしいきなり襲われたのならば、軽く足止めしてとっとと逃げるに限る。

 ハンガリーの諺にもある。逃げるは恥だが役に立つ。しぶとく生き返る相手にわざわざ付き合う義理はない。どうしても勝ちたけりゃ、機を見てその場を作り上げればいい。

 

そんな気持ちでフォース(アザレア)のメンバーに伝える。だが、揃いも揃って白い目で見てくる。あれ?俺、何かやっちゃった?

 

「や、先輩、ちゃかぽこ倒してるじゃないですかー」

 

説得力ないですよー、とトリナ(いろは)は言う。

 

 実はあのデビルガンダムとのバトルの後も、何度かマスダイバー相手にやりあっていた。

 

 それもこれも全部ユートの奴とのバトルの所為である。あのバトル動画で顔が割れ、積年の恨みとばかりに挑んでくる輩が増えた。その中には勿論マスダイバーも含まれている。むしろそっちばっかだった。どんだけ奴等から恨まれてんだよ、俺。

 

だが、まぁ、これでも個人ランク88位の上位ランカーだからな。油断せず策を講じ欺き虚を突きコックピットを狙ってダイバーごと潰す。動かす人間さえいなければ、どれだけパワーアップしようがただの木偶の坊だ。

 

……端から見れば鬼畜の所行だな。トリナの言葉にリマチたちも俺のバトルを思い出しているのか、若干引いた表情を浮かべている。

 

だがな、トリナ。お前も俺のことを言えんぞ。

 

「えー、お姉ちゃんも大概なんだけど…」

 

俺以外にもリマチ(小町)に突っ込まれ、むぐぐといった表情を浮かべる。

 

フォース内では俺に続く撃墜率を誇るトリナである。ダイバー歴も長く、下位ランクの升ダイバー相手なら遅れを取らない。

 

高機動重装型のインセパラブルガンダムだ。いくら相手が頑丈になろうが、持ち前のバ火力で無理矢理突破してるからな。更に武装にツインバスターライフルを追加したことにより、一層殲滅力が上がった。これじゃミンチどころか、塵すらも残らん。

 

只でさえ凶悪なのに、ついこの間はサテライトキャノンを見て「いいですねー、これ。ちらっ」とか言い出す始末。

もうやめて。これ以上積めないから。機体バランスが崩れて動かなくなるから。

 

ランカーの俺が作った機体を使えば、強いのは当たり前と思われるだろう。だが、このインセパラブルは真っ当な機体とは言えない。トールギス並に製作者は何考えてんのって物に仕上がっている。

 火力厨のトリナの要望に応えるためにガン積みされた重火器。そんな重い機体を飛ばすだけでなく、可変機能まで付ける始末。

 彼女の所望する最高のスピードと最強の剣、あとかわいさを形にした結果、とんでもないじゃじゃ馬が生まれてしまった。バトルスタイルと合わないからもあるが、俺だって好き好んで使いたいとは思わない。

 

 それをコイツは難なく操縦するどころか、平気でバトルして勝ってくる。使い難くないかと聞いても「わたしの愛馬は凶暴でーす」と笑って答えるだけだ。

 

 俺のことをニュータイプ(感知能力特化)だの言ってるが、お前も大概なんだよ。充分、上位ランカー(コチラ側)の素養がある。言ったら絶対調子に乗るから、言わないが。

 

 当の本人は納得いかないのか、ぷぅと頬を膨らませている。可愛いな、突っつきたくなる。

 

「でもさ、なんでズルしてまで勝とうとするのかな?」

 

心底わからないと言った感じでユイユイ(由比ヶ浜)が疑問を浮かべた。「たかがゲームなのに…」と、ポツリと溢す。

 

「たかがゲームだからよ」

 

その問い掛けに対し冷気を孕んだ声が飛ぶ。読んでいたデータベースを閉じネコノ(雪ノ下)が答えた。

 

「ゲームだからこそ気軽に不正が出来るの。そもそも、彼らは不正をしているなど微塵も思っていないわ」

 

「全く、度し難いほど愚かね」ピシャリとネコノが言い放つ。その意見には俺も同意だ。

 

 奴等はブレイクデカールのことを、非公式ツールぐらいとしか思っていない。ちょっとした悪ふざけのつもりなんだろう。罪の意識など有りはしない。有ったとしてもそこまで深刻に捉えていないだろう。だがな、

 

 「チートツールの使用は電子計算機損壊等業務妨害に引っ掛かる。立派な不正行為だよ」

 

 なんらかの形で損害を与えていることには変わりはない。そうすりゃ余裕で警察案件だ。

 

 そうネコノに続く形で説明すれば、

 

 「でんし…けいさんき?電卓のこと?」

 

 と、とっても素敵なお返事を頂いた。あちゃー、ユイユイにはちょっと難しかったかー。

 

 「よーするに、ユイユイ先輩のスマホのデータを誰かが勝手に消しちゃったからタイホしますよー、ってことです」

 

 と、トリナが分かりやすく説明したお陰で心得たようだ。「もー、ヤッキーも最初からトリナちゃんみたいに言ってくれればいいのに」とご立腹だ。

いや、確かに普段使いのない用語だけどさ、後輩から解説されるのはどうよ。

ネコノも「現社も要強化かしら」とユイユイのテスト勉強に向けて頭を抱えている。

 

若干生温くなった空気を裂くかのように、ピコンと軽快な音が室内に鳴り響く。どうやら俺宛にメッセージが届いたようだ。

 

この間のユートに続き珍しい。やだヤハタったらモテ期?と馬鹿なことを考えつつメッセージを確認する。

 

「誰からですか?」

 

トリナが俺の手元を覗き込んでくる。まるで彼氏のメールを確認する彼女のようだ。あっ、まるでじゃなくても彼女だったわ。

 

「あぁ、ユートの奴からだ」

 

送り主の名を告げ、ウィンドウをトリナへと向ける。読んでいいのかと目線で問いかけて来たので、こくりと頷く。どうせバトル依頼とかだろう。読まれたところで何の問題もない。

 

 トリナは「えーと、なになにー」とわざわざ口に出しながら読み出す。

 

 「『この間はバトルを承諾してくれてありがとう。前回は引き分けという結果に終わったが、君とは何れ決着をつけたい。さて、本題に入らせてもらう。俺の所属するAVALONのリーダーから君宛の言伝を預かっている。』AVALONのリーダーってチャンピオン!?」

 

 「は?チャンピオン?」

 

 発せられた思いもよらない単語に驚く。慌てモニターを覗き目を走らせる。

 

 『ヤハタ君

 

 突然済まない。ユートを通じて連絡を取らせて貰った。

 君とユートのバトルは見させて貰ったよ。双方とも素晴らしい戦いだった。

 その上で、君とアザレアのメンバーに依頼したいことがある。詳しい内容は直接会って話をしたい。近々使いの者がコンタクトを取るだろう。

 

 全てのダイバーがGBNを変わらず楽しむために、宜しく頼む。

 

 クジョウ・キョウヤ』

 

 

 マジだよ、マジでチャンピオンからのメッセージだよ。

 

 同じフォースに所属している奴からの転送だ、チャンピオンを騙ったメッセージの確率は低いだろう。スマホに届く親戚の芸能人からのメールより余程信憑性がある。

 

 にしても、チャンピオンからの依頼ねぇ

。俺たちがチャンピオンと会ったのは、ビルドダイバーズの初試合の場だけだ。接点などほぼないと言って等しい。それなのにチャンピオン直々のお呼び出しだ。厄介事の匂いがプンプンする。

 

 「先輩、どーしますか?」

 

 トリナが尋ねてくる。他の連中を見れば、俺が決めろとばかりに見返してくる。

 

 どーするたって…、どーしよ?

 

 

 

× × ×

 

 

 

 結局は依頼を受けることに決めた。なんてたってGBN最強からの依頼だ。気にならないと言えば嘘になる。

 

 指定された日、フォースメンバー全員集合でエントランスで待つ。間もなく約束時間になる。迎えの人間がそろそろ来る筈だ。

 

 「アザレアの皆さん、お待たせしました」

 

 そんな声とともに見知った仮面の男が現れる。

 

「やぁ、この前ぶりだね」

 

爽やかに笑いながらユートが話し掛けてきた。

 

「なんだよ。お前が出迎えか?」

 

 そんな風に返すが、予想通りだ。第一、メール送ってきたのこいつだし。

 

「一番君と面識があるからね。俺が選ばれたというわけさ」

 

全く知らない奴が来るよりはマシだ。いきなり初対面の人と話すのは、ボッチには難易度が高い。

 

「どもどもー。お兄ちゃんの妹のリトル・マチです」

 

リマチが先陣を切って挨拶をする。初対面なのに物怖じせず話し掛けるのは、流石としか言いようがない。リマチの挨拶を皮切りにネコノとユイユイが自己紹介をしていく。

 

トリナといえば、「んー?」と首を傾げながら、ユートの奴を見ている。どしたの?

 

「ユートさん、でしたっけ?何処かでお会いしたことありませんでしたかー?」

 

なにそのナンパの常套句みたいなの。

 

「はは、よくある顔だからね」

 

 怪しい仮面をつけた野郎がよくいてたまるか。そんなもんが大量にいるのはガンダムのキャラぐらいなもんだ。あ、ここ、ガンダムのゲームだわ。

 

 それにしても、女って奴はこーもイケメンが好きなんかね。イケメンだから許されるって風潮、どうよ。

 

 「おう、トリナ、イケメンならここにいるぞ。目が腐ってない今の俺ならイケメンだ」

 

 腐敗の抜けた俺は、クールな目元のナイスガイだ。格好と合間って凄腕のアサシンにしか見えん。なお、暗がりで佇んでいたらガチでビビられ人殺し呼ばわりされたことがある。

 

 「ちょっとイケメンになったぐらいで、ごみぃちゃんから滲み出るダメ人間オーラは消せないよ」

 

 と、実の妹から辛辣なお言葉を戴く。何それ、俺のネガティブオーラはただイケすら無効にするのん?デバフ効果強すぎじゃね?

 

 「も~、先輩ったらヤキモチですか~?」

 

 トリナは笑顔全開で小突いてくる。

 べ、別に妬いてるとかそんなんじゃないんだからね!嘘です。かなり妬いています。今すぐユートの奴にアンブッシュしたくなるぐらい。

 

 その標的は「腐った目…先輩…まさかな」とか言ってる。何?お前の回りにも腐った目の先輩がいんの?俺以外にもそんな人間がいるとは驚きだ。

 

 「あなたたち、いつまで遊んでるのかしら」

 

 そんな俺たちを見かねてネコノが口を出す。見れば、やれやれとばかりに頭を抱えていた。

 

 「そうだね、そろそろ移動しよう」

 

 

ユートに連れられて、アザレア一行はAVALONの本拠地(フォースネスト)に移動する。とは言っても転移するだけだから、移動時間などないようなものだ。文字通りあっという間に到着した。

 

そこにはディスティニーランドのシンボルの如くそびえ立つ城があった。

 王者の証を示すかのような威風堂々たる佇まい。以前訪れた森といい、巨大物恐怖症(メガロフォビア)見たら卒倒ものである。

 まぁ、GBNをプレイする輩にそんなもんはいないか。MS自体5,6階建ての建物に匹敵するしな。

 感慨深くそれを見上げる。話には聞いていたが確かに立派なもんだ。俺たちの部室(フォースネスト)とは雲泥の差だな。流石、上位ランク用の報酬である。これがトップフォースの力か…

 

ふと、視線を横にずらせば、同じように女性陣も王者の居城を見上げていた。まあ、女性というものは多かれ少なかれお姫様願望というものがあるというし、何か心に響くものがあるのだろう。知らんけど。

 

「やー、先輩、ヤバいですねー」

 

トリナが俺の袖をクイクイと引きながら言う。

 お前の語彙の方がヤバいと言いたいが、まぁ、言いたいことはわかる。これだけでかいと圧倒されるよな。

 

「これだけ立派なお城だと、落とすの大変そうですねー」

 

ん?あれ?トリナさん、なんか考えていること違くない?

 

「見た感じバスターライフルでいけそうだけど、トップフォースだからなー。絶対、防衛網張ってそうだし…」

 

確かにヤバいわ。何がヤバいかって、城を見て攻城戦について考えるようになっているあたり。やだわ、この子ったら、完全にGBNに染まっているじゃない。

 

どうしてこうなった… 出会った頃はきゃるんとしたあざといだけの可愛らしい少女だったのに、いつの間にか火力主義のバスターガールになってしまった。誰だよ、こんなになるまで放っておいた奴。

 

…あ、俺か。私色に染め上げたってレベルじゃねぇな。責任とらなきゃ。

 

「……やだなー。ジョーダンですよ、ジョーダン」

 

俺の視線から何かを読み取ったのか、手をパタパタ振りながらおどけた口調で否定をする。だがな、トリナよ。いろは検定2級保持者の俺からして見れば、わりと本気で考えていたことがバレバレだ。

 

「おーい、お兄ちゃん、お姉ちゃん。いつまでもいちゃついてると、置いてっちゃうよー」

リマチから声が掛かりそちらに向かう。流石に見知らぬ場所で置いてきぼりをくらっては堪らない。このままでは、所在なさげに彷徨う不審者(迷子)の一丁上がりだ。即座に警備員が飛んでくるレベルの。

 

……俺のステルスっぷりなら見つかるようなことはないだろうがな。なんなら、ジャブローに侵入したアカハナみたく、格納庫まで行って爆弾を仕掛けて来るまである。やだ、ヤハタってば物騒。これじゃ、トリナのことは言えんな。

 

益体もないことを考えながら、トリナと二人、先導するユートを追いかける。

 

流石上位ランクの城だけあって、内装も豪華な造りとなっている。いくらデジタルの産物と理解しているとはいえど、調度品に近寄ってまじまじと眺める気も起きない。

……舞浜のお城のガラスショップでも必要以上に近づかないぐらいだからな。一緒にいた後輩(彼女)に「先輩はチキンですねー」と呆れられたりはしたが……

うっかり落として割って弁償する羽目になったりするんじゃないか、そんなこと考えてビクビクするんだよ。俺のリスク計算能力の高さをなめんな。

 

長い廊下を歩くこと暫く、両開きの扉の部屋の前に到着した。

 

「準備が整うまでこちらで待っててくれないかな」

 

そう言ってユートは扉を開ける。促されるまま中に入ると、豪奢な内装の部屋には数多くのダイバーで溢れていた。中央のテーブルには料理が置かれ、その回りで各々が食事をしたり会話を楽しんだりしている。

所謂ビュッフェスタイルという奴か。高級ホテルの特別会場とかでしかお御目にかかれない感じだな。いや、実物を見たことないから知らんけど。

 

あまりにも場違いな雰囲気に、ソワソワしてしまう。こういった不特定多数が集まる空間は苦手なんだよ。何、マナーとか知らないんだけど。

その中でネコノは、ただ一人慣れたようにドリンク片手に持ち、壁の華へと化した。流石、リアル社長令嬢。こういったこともお手ののか。パーティー会場に迷いこんだ猫にしか見えんけど。

 

リマチとユイユイは皿を片手にデザートコーナーへ突撃している。リマチ(かわいい妹)にちょっかいを掛ける害虫がいないか目を光らせていたが、どうやらそんな不届きものはいないようだ。もしいようものなら、サイレントキラー(不本意な二つ名)の下に、暗殺を実行するところだった。

 

安心して俺もネコノに倣い壁と同化する。ドリンクを傾けながら、ちらりと参加しているメンバーを確認する。ロンメル隊を筆頭に、かなりの実力派ダイバーが集まっているようだ。俺でも知っているような有名ダイバーがちらほらいるぐらいだからな。

 

「おっ、アマゾネスの人もいるのか」

 

その集団の中に一人の女性ダイバーを見付ける。キセル片手に着流し姿の、まさに女傑といった風貌のダイバーだ。

 

「誰ですか、先輩。そのアマゾネスの人って」

 

当たり前のように隣にいるトリナが、俺の呟きを耳聡く聞き付ける。

 

「ダイバー名はRecklessっていう、トップランカーだ。ゴッドガンダムの改造機を使って殴り合い(ステゴロ)を得意とする人だ。その戦いっぷりと、女性オンリーフォースのリーダーってことでアマゾネスって呼ばれてんだとよ」

 

俺の知ってる限りの情報を伝える。分かったのか分からんのか、トリナの奴は「へー」と気のない返事をするだけだ。

 

「ん?おぉ、ヤハタじゃないか」

 

そんな風に注目していたからか、話題の人がこちらにやって来た。「ぅす」と軽く会釈をする。

 

「なんだ、君も呼ばれていたのか」

 

そう言いながらも、「まぁ、実力からすれば当然か」と一人で納得している。独り言が増えると歳をとっ「何か言ったか」いえ、何でもないです。

 

 「風の噂ではフォースを組んだと聞いたが……」

 

 ちらりと俺のとなりに立つトリナを見る。視線を向けられたトリナは「どもです」と小さく会釈をした。その様子を見て口許を綻ばせると、

 

 「きみも青春しているな」

 

「結構、結構」と豪快に笑いながら去っていった。

 

「タイガーさんみたいな方ですね」

 

トリナはポツリとそう述べた。なかなか的を得た感想だ。二人とも似たような気質のダイバーだからな。

 

 「テメー!なにをやらせやがる!」

 

噂をすれば影とはよく言ったもんだ。突然響いた怒号に振り向けば、本人がいた。お約束通りシャフリさんと言い争っている。

 あーあ、殴り合いまで始まったよ。取っ組み合ってドッタンバッタンと、いい大人が何やってんだか…

 

 公の場でそんな目立つような事をしているから注目の的だ。今も少し離れた所にいる女性ダイバーが驚いた顔で見ている。

 

 「キャー!生シャフタイよ!」

 

 と、騒ぎに負けないぐらいの声を上げる。何事?

 

 「人前に姿を現さなかったミステリアスなシャフリヤールと」

 「ワイルドガテン系のタイガーウルフ」

 「その二人が組んず解れつ絡み合ってるわ!」

 

 途端に辺りから溢れ出す瘴気混じりの声。そのあまりにも冒涜的なオーラに、同性であるトリナも当てられて身を震わせている。

 

ーーー腐ってやがる。まさかこの会場にも腐海が拡がってしまうとは…… っべー、マジっべーわ。

 

こんな危険区域に居ては堪らないとばかりに、トリナの手を引き離脱する。パニックやサスペンスものなら死亡フラグだが、この場合だと留まっていた方が危険である。

 このまま長時間いたら、トリナが彼女たちから発せられる高濃度BL粒子に当てられて腐道の革新者(ヤオイノベイター)に覚醒してしまう。エセゆるふわガールからガチゆる腐わガールになったら笑うに笑えん。愚腐腐と笑いながらかけ算をし出すのを見たら今より目が腐る自信がある。

 

 避難訓練の様に慌てず走らず静かにフォースメンバーのもとに移動する。這々の体のこちらと違い、彼女たちはビルドダイバーズと和やかに談笑していた。

 

 「およ?おにーちゃん、どしたの?リアルみたいに目が腐ってるよ?」

 

 折角の正常だったアバターの目すら腐らせてしまうとは。げに恐ろしきはBL腐ィールドかな。

 なんか始まる前から疲れた。帰っちゃ駄目かな……

 

 準備が整ったということで、集まったダイバーたちが一斉に移動する。俺たちも倣い人波に続いていく。

 

 着いた場所は国会中継などで見るような講堂だった。これだけの数のダイバーを収容してもなお余裕はある。どれだけ広いんだよ…と、目線を走らせながらナンバーワンフォースの持つ財力に驚愕する。

 そうこうしている内に壇上にはチャンピオンとロンメル隊長の姿が。なに、これからダカール演説でもすんの?

 

 「用件も告げずに呼び出して済まない。そして集まってくれてありがとう」

 

 チャンピオンは一同を見回すと、先ずは謝辞を述べた。

 

 「ここにいるダイバーは私が心から信頼を寄せているダイバーだ」

 

 柔和な笑みを浮かべながら告げる。その言葉に集まった一同の空気が和らぐ。チャンピオン直々に認められて誇らしいのだろう。口許を綻ばせている。

 

 そんな中で俺はキナ臭さを感じていた。前にも考えたが、俺たちとチャンピオンが会ったのは一度きりだ。ここまで評価されるような心当たりはない。

 これは、誉めておいてから無理難題のパターンじゃね?

 

 「故に今から話すことは他言無用でお願いしたい」

 

 一転して真剣な表情になるチャンピオンに、回りの空気が引き締まる。

 ほらー、早速不穏な前置きが来たー。

 

 「皆も知っての通り不正ツールを使うマスダイバーは数を増やしつつある。しかも、彼らの手口は巧妙で運営も手を拱いているのが実情だ」

 

 親父たちもぽろっと溢していたな。データ改ざんしてログが残らないとかなんとか。

 

 「よって私はブレイクデカールの氾濫を阻止すべく有志連合の結成を提案する」

 

 不穏な前置きの割には穏便な提案である。

 要するに、今まで個々で対応、その場凌ぎの対処しか出来なかったマスダイバーに対し、組織だって対抗しようという話か。現状で有効な打開策がない分、悪くない考えである。集団行動が苦手な俺には正直勘弁だが…

 

 ざわめく群衆に、手にした馬上鞭をピシッと鳴らしロンメル隊長が一喝する。

 

 どうでもいいけど、トリナって馬上鞭が似合いそうだよな、声的に。髪をうなじでアップにして監守服を着たらぴったりな気がする。分かりやすく言えば、Gガンのナスターシャみたいな格好だ。

 ……頼んだらやってくれないかな。無理か。

 

 と、アホなことを考えている内に辺りは静まり、チャンピオンが言葉を続ける。

 

 「もし、賛同が出来ないなら、今すぐ立ち去ってくれて構わない」

 

 え?帰っていいの。じゃ、ここいらで失礼をば…

 

 「そんな腰抜けがここにいるわけないだろ」

 

 タイガーさんの言葉を皮切りに次々と賛同の声が上がる。

 うちの女性陣も乗り気な様だ。トリナは俺が逃げ出そうとしてるのを見越してか、ガッチリ腕をホールドしてやがる。帰れなくなった…

 あと、後ろから聞こえる舌打ちが怖い。

 

 「ありがとう」

 

 チャンピオンはそう言いながら、歓声を手で制して止める。タ○さんかな?

 

 「現在AVALONはロンメル隊と秘密作戦を遂行中だ」

 

 ほう?秘密作戦とな。中々、男心を擽る単語だ。さっきまで乗り気でなかったのに、ちょっぴりワクワクしてしまう俺ガイル。

 

 「ここからは私が説明する」

 

 ロンメル隊長が引き継ぎ、大型モニターの前に立つ。

 

 「我々有志連合の目的はブレイクデカールを配布している黒幕を突き止めることにある」

 

 結論ありきで進めてくれるのは非常にありがたい。こういった大人数で一からやってたら、中々上手くまとまらず時間の無駄になる。流石は智将ロンメル、淀みがない。

 

 中にはミッションのターゲットからディスカッションしていこうなんて言う輩もいるぐらいだからな。以前特殊ミッションで組んだ奴がそんな感じだった。いや何言ってるかわかんねーよ。

 

 「既に行動を開始している我が隊の諜報員が黒幕と接触次第、ガンプラで出撃、黒幕を包囲する」

 

 諜報員まで有してるとは、ミリタリー色が強いフォースなだけのことはある。

 

 「当然ながらマスダイバーの反撃が予想されるだろう」

 

 「ようするにマスダイバーとやりあえってことだろ?」

 「あいつらには仲間がヒデー目にあわされたんだ」

 「こんだけの猛者がいれば楽勝だろ!」

 

 やいのやいのと、そこかしこより声が上がる。やる気充分なのは結構だが、早くも勝った気になるってのはどうよ。慢心するのは敵と黄金の王様だけでいい。

 

 「その心意気は頼もしい限りだ」

 

 早くもお気楽モードの空気を割いて、ロンメル隊長の声が響く。しかし、と続ける。

 

 「我が隊が被害を受けた際にマスダイバーは再生能力を有していた」

 

 初見とはいえロンメル隊を倒している。そんな奴らが群れなしている可能性がある。厄介という言葉では片付かない。

 

 「さらに発生されるバグに巻き込まれる可能性も有する」

 

 そして、副次効果で現れるバグ。バグだけあって、どんなことが起きるか予想もつかない。嵐になるぐらいなら問題ない。変なところに飛ばされ、身動きが取れないとなったら目も当てられない。

 

 「危険な作戦と言わざる終えない」

 

 ロンメル隊長の冷静な言葉に、浮かれ顔は一転して通夜のような沈痛な面持ちとなっている。実際に被害を受けたフォース、それも自分達よりもはるかに格上のーーーからの言葉だ。重みが違う。楽勝と煽っていた連中は完全に萎縮してしまっている。テンションの落差激しすぎない?

 

 「だが、活路はある」

 

 静かに、それでも頼もしさを感じる声でチャンピオンが言葉を紡ぐ。その声に俯いていた一団も顔を上げる。

 

 「黒幕の正体、そのIDさえ分かればいいんだ」

 

 最初にも言ってたな。こちらの目的はブレイクデカールの氾濫阻止だ。それには黒幕さえ炙り出せば事足りる。わざわざマスダイバーを根絶やしにする必要はない。有志連合はティターンズやアロウズじゃないからな。

 あとは運営に任せて、垢Banなり覚悟の準備をしてもらうなりすればいい。いらん義侠心を出して下手なちょっかいを掛ければ、返ってこちらが不利になりかねん。

 

 「頼む。それまで君たちの命を預けてくれ」

 

 そう言い、こちらに向けて敬礼をした。

 

そんな真摯な態度を見せられて、応えなければ男が廃る。え、とっくに廃ってるって?俺だってたまにはカッコつけたくなるの、GBN限定だが。

 

 一同が立ち上がり敬礼をする。俺も周りに倣い敬礼を返す。ピシリと背筋を伸ばしたそれは、我ながら様になっていると思う。敬礼は男の子の基礎スキルだからな。

 

 ちらりと隣に目線を向ければ、トリナはお得意のウィンク付き陸軍式敬礼をしている。こんなとこであざとさ振り撒いてどうすんの?

 

 これで本日の有志連合の会合はお開きとなった。

 あとは向こうの出方次第だ。いつ呼び出しが掛かってもいいように準備をする必要がある。あんま呼び出されたくないけど……

 まぁ、今日のところはフォースネストに帰るか。

 

 

 我らがフォースネストに戻ってきた。AVALONのものとは比べるもなく狭いが、それが不思議と落ち着く。段ボールに入りたがるカマクラ()の気持ちがよくわかる。

 

 「ヤハタ君、あなたはこの作戦をどう考えるかしら」

 

 椅子に座り一息ついていると、ネコノが尋ねてきた。曖昧な質問だ。これは、単純な勝ち負けでなく別のことへの問いかけか。

 

 「作戦の成否じゃなくて、後ろが関わっているかってことか?」

 

 他のメンバーはピンと来ないのか首を横に傾げている。ただ一人ネコノだけが縦に振った。

 

 「これだけの規模の作戦だ。運営もなんらかの形で関わっているだろ」

 

 作戦目的が黒幕を突き止めることだからな。その後の処理は運営任せだ。

 それに運営もあれだけ臍を噛まされ続けて来たんだ。ここいらで対処をしておかないと、運営能力に疑問を持たれてしまう。下手したらGBN存続まで危ぶまれる。

 

 「黒幕見つけてスクショ取って通報なんて悠長なことはしとれんだろ。監視員みたいな形で参加してんじゃねーの、知らんけど」

 

 エキシビジョンマッチみたいな公式イベにも喚ばれているチャンピオンのことだ。運営との伝手ぐらい一つや二つあってもおかしくはない。似たようなものは俺だって持ってるぐらいだしな。

 

 「まぁ、小難しいことはチャンピオンたちに任せて、マスダイバーとの小競合いに集中しとけ」

 

 ネコノは「そう」と言い、それ以上言葉を発しなかった。

 

 勝つにしろ負けるにしろ、この作戦でブレイクデカールを巡る局面は大きな変化を告げるだろう。

 いや、勝たなきゃいかんのはわかっている。だが、この先どう転ぶかはわからない。

 柄にもなく神様にでも祈りたくなる。ガンプラだから、川口名人に祈ればいいのかな?

 

 願わくは有志連合にとって最良の結果にならんことをーーー




ようやく山場の有志連合までたどり着けました。
長いので前後編と別れています。決着は次回で。


オリジナルフォース

フォース名:腐論足(フロンタル)

 BL好きのBL好きによるBL好きの為のフォース。
腐女子のみで構成されている。歴代ガンダムキャラからダイバー同士、剛の者にいたってはMSでもかけ算をするという兵揃い。準団員として他のフォースにもメンバーがいるとの噂がある。ある意味マスダイバーよりも厄介。
フォースシンボルは赤いバラ(意味深)
 
 フォースリーダーはホモォさん
 
 
フォース名:ヴァルトラウテ
 
 戦場の勇気を意味するワルキューレの名を冠した女性ダイバーオンリーフォース。
 数ある女性ダイバーフォースの中でも、かなりの武闘派にあたる。まさに、女子力(物理)を地で行く。
 フォースの合言葉は“強い男に会いに来た”。見込みのある男性ダイバーにバトルを仕掛けるが、彼女達が勝つ度に悲しいかな婚期が遠退く。
フォースシンボルは白い衣の戦乙女
 
 フォースリーダーはReckless



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外伝
いろは生誕記念 やがて、この景色も一色いろはの思い出になる。


祝え!一色いろはの誕生日を!


4月16日ーーーB.C.1178 ギリシアの英雄・オデュッセウスがトロイア戦争を終えて自国に帰還した日である。

 

長く辛い旅路の果てに故郷で待っている妻・ペーネロペーと再会する。その冒険を記した叙事詩がかの有名な“オデュッセイア”である。

え、知らない?面白いから一度読んでみるといい。キュクロプス(サイクロプス)やセイレーンみたいな、今やゲームで馴染み深い言葉が出てくる分取っ付きやすい筈だ。キュケオーンの大魔女も出てくるしな。

 

さて、コアなガンダムファンなら気付いていると思うが、このオデュッセウスとペーネロペーは、閃ハサのライバルMS・オデュッセウスガンダムとペーネロペーユニットの名前の元ネタである。アナハイム製ガンダムが20周年のことと、長い間放浪の旅を続けた英雄に掛けて付けられたらしい。奪われた王妃を取り戻すために遠征しギリシアの勝利を導いた英雄と、反連邦組織の象徴を墜とした連邦にとっての(・・・・・・・)英雄。なんとも皮肉的だ。

 

 

 

結論:閃光のハサウェイ楽しみです。

 

 

 

 

ーーーと、益体もないことを考えて現実逃避しているが、俺はここ数日、難題に頭を抱えている。

 

この問題に比べればまだ、単機でジャブローに潜入をする方が簡単なぐらいまである。俺のステルス性は伊達じゃない。

 

オデュッセウスの件で暈していたが、4月16日はあざとい後輩・一色いろはの誕生日である。

本人も鬱陶しいぐらいアピールしていたし、wikiにも載っていたから間違いない。wikiに誕生日が載ってるなんて、何もんだよ一色。あ、

俺のも載ってたわ。凄いな、wiki。

 

 

先月あった小町の誕生日には、手製のケーキを持参して祝ってくれた。兄妹水入らずの誕生会にちゃっかり参加して何様のつもりだよ、と言いたかったが、一色特製のケーキが絶品だったので文句を言う気も失せた。

 

俺の誕生日にもプレゼント貰ったしな。

HGジェノアス(特価500円シール付)だったけど。家族以外から貰えたのは初めてだったから、結構嬉しかったりする。

 

それにまぁぐだぐだと言っているが、一色の誕生日を祝うのは実は初めてではない。去年もプレゼントを渡したしな。

 

ただ、敗者たちの栄光の1巻を渡したら、物凄く微妙な顔で「先輩がガンダムバカなのは知ってますが、わたしのプレゼントにもガンダムで来るのは予想外すぎです。でも先輩から貰えることは素直に嬉しいのでありがとうございます」と言われた。

小町にも「ごみぃちゃん、それどうよ」と言われた。おかしい… W(ウィング)は女性人気が高い筈だ。

まぁ、結局は一色も嵌まったらしく、家に来て続きを読んでいたが… いや、自分で買えよ。

 

小町相手ならここまで悩まくても済む。欲しいものをおねだりしてくるからな。全く、うちの天使はちゃっかりしている。

 

しかし、相手は一色である。いくら小町みたいなもんとはいえ、そこは花の女子高生だ。どんなもんが欲しいのか検討がつかん。

 

それとなく聞いてみても「先輩がくれるなら何でもいいですよー。どんなものでも先輩との思い出になりますしー」と、とびっきりの笑顔で宣う始末。余計に難易度が上がった気がする…

 

思い出にねぇ…

 

こっそりバースデーカードとくまのぬいぐるみを一色の席に置いておく、とか。

 

……俺がやったらただの不審者だな。却下だ、却下。

 

 

五飛、教えてくれ……俺は一色に何をプレゼントすればいい?俺はあと何回、一色のお断り芸を聞けばいいんだ……小町は俺に何も言ってはくれない……教えてくれ、五飛!

 

と、何処かで聞いたことあるような台詞を流しながら、NPDのアルトロンガンダムEWとバトルをしている。…NPDだから回答などあるわけないが、お約束みたいなもんだからいいんだよ。

 

一色へのプレゼントのアイデアに完全に煮詰まった俺は、気分転換がてらGBNにダイブをしていた。戦闘に集中することにより、隅に追いやる。

「人、それを問題の先送りと言う!」と、脳内のロム兄さんが言ってる気がするが、全力でスルーしておく。

そもそも、ボッチ故に他人と会話しない分、独りで思索する事は得意分野ではある。しかし、後輩女子へのプレゼントという俺には慣れないジャンルの事であり、その分余計に頭を使っている。

 

そんな慣れない事へのストレス発散的な気分で、衛生軌道上でアルトロンガンダムと戦っている。それも何度も。

名場面の再現と呼べるミッションだが、個人向け上位の難易度でありそこまで人気はない。ただ、俺の機体特性上はめ技の真似事が出来、割りとあっさりクリアー可能だ。

 

ーーー貴様の為に、何人の五飛が死んだと思ってるんだ!?

ーーー聞きたいかね?……今までの時点では5人だ。

 

と、脳内で寸劇をしながら6人目を落とす。

単純作業は苦手ではないが、こうも繰り返すと疲れてくる。 いや、肉体的には疲れないが、精神的な疲労は溜まる。流石に不人気ミッションを、インターバルを入れているとはいえ、占有するのはマナーが悪い。

 

 

なんか糖分を摂取したくなってきた。喫茶店にでも入って一休みするか。(小遣い)は少ないが仮想通貨(ビルドコイン)はたんまりとある。これでも個人上位ランカーだからな。

 

あ、プレゼント買う金もそんなにないわ。 インセパラブル作るのにそれなりに掛かったし。バイトするような時間もない。

 

新たに浮上した問題に頭を抱えながらも、行きつけの喫茶店へと足を運ぶ。メインエリアから外れた場所にあるここは、人気(ひとけ)がなく閑散としている。

普通に考えたら商売にならないが、そこはゲーム内、売り上げなんて度外視だろう。人が少ないからこその静かな雰囲気を気に入っている。寂れた感じが非常に落ち着く。

 

コーヒーとケーキを注文する。GBNでは現実と同じように、何かを食べた際に味を感じることが出来る。詳しい原理は説明されてもあまり理解出来そうにはないが、なんか脳を騙す的な原理で五感を再現しているんだろう。知らんけど。

 

無論、実際に食べている訳ではないから腹は膨れんし、栄養にもならない。しかし余分な脂肪にならないということで、女性からの人気は高い。

 

… 一色の奴も前に「罪悪感がなく乙女の夢が叶います」と力説してたしな。まぁ確かに、体重の事を気にせず思う存分ケーキを食べるのは、男の俺からしても魅力的に思える。

 

だが、GBNでの飲食か…… これは案外悪くないかもしれん。何も物に拘らなくてもいい。

 

やっぱ俺って、不可能を可能に…って、いかん。この台詞は撃墜フラグだったわ。続編で記憶操作されて仮面被って出てくる羽目になる。

待望の完結編なのに、久しぶりに見た主人公が仮面キャラになってたら、視聴者が全員画面の前でポカンとするわ。キャラデザ変更ってレベルじゃねぇ。タイトルも『俺の仮面ラブコメはまちがっている。 』に変わっちまう。

仮面ラブコメってなんだよ。仮面夫婦みたくカップルのフリでもするのか?ニセコイかよ。

 

……さっきから俺は一体何を言ってるんだ?

 

 

兎も角、方針さえ決まれば話が早い。

帰宅した後にVeda(G◯◯gle先生)にアクセスする。これだけ人気コンテンツだ。情報には事欠かない。GBN公式ページ、タイアップ企業のページ、果てはまとめサイトから個人ブログまで。そこから取捨選択し、最適のプランを構築しなければならない。

さあ、検索を始めよう。キーワードはーーー

 

知的欲求に夢中になった右側の魔少年みたく、それから数日に渡り夜遅くまで計画を立てていた。夜更かしし過ぎて小町に怒られることもあったが、一色の誕生日の計画を立てているのを知ると一転上機嫌になり、ポイント高いと言いながら人の肩をバシバシ叩いて去っていった。痛いんだけど。

 

その甲斐あってか、我ながらいいプランが立った。

勝利の法則は決まった。これなら、なんかいける気がする。待っていろ一色。もう、お前のお断り芸を聞かない!

 

 

 

ーーー後から振り返れば、この時の俺はテンションがおかしいことになっていたのだろう。

 

苦手分野の思索によるストレス、睡眠不足から来る思考力の低下。それに伴い解決の糸口を見つけたことの高揚感。それにより普段俺の感情を制御している理性が休眠状態になり、平時の俺からは考えられない行動を取っていた。

後に一色から聞いた話によれば、ただでさえ人の予想から外れた行動を取る俺が、更に輪を掛けた行動を取っていたらしい。

 

まぁ、だから今更なんだという訳ではないが。

 

 

 

× × ×

 

 

 

やって来る4月16日ーーーの前の休日。駅で一色と待ち合わせる。

 

麗らかな春の日差しが寝不足気味の目に染みる。

だが、出掛ける前にマッ缶をキメて来たからな。コーヒー入り練乳飲料と称されるぐらいの暴力的な甘さだ。この刺激により、今日一日ぐらいは乗り越えらるだろう。

 

そうこう考えているうちに待ち合わせの時間になった。しかし、まだ一色は来ていない。

 

別段、前触れもなく呼び出したわけでもない。事前に連絡を済ませている。天気がいいからと出掛けようなど、一色(あいつ)じゃあるまい。

 

まぁ、どうせあいつの事だ。わざと遅れてみせて、こちらの反応を評価しようって魂胆だろう。

全く何様のつもりだと言いたいが、今日呼び出したのは俺の方だし、誕生日だから大目に見てやろう。いや、一丁前に上から目線で俺の方が何様のつもりだよ。

 

と、噂をすれば、

 

「すみません。遅くなりましたー」

 

ほらな。一色の声が聞こえる。

とてとて小走りしながら、こちらに寄ってくる。

 

「その、先輩、大丈夫ですか?目がいつもよりヤバイことになってるんですけど」

 

ヤバイって何だよ。お前の語彙の方がヤバイぞ。

 

「や、キレたときの三日月みたいな目になってますよ」

 

え、何、そんな淡々と人を処理をしていきそうな目になってるの?確かにそれはヤバいわ…

 

「まぁ、少しな…」

 

言葉を濁す。計画を立てるのに夜更かしが過ぎたなんて、コイツには言えん。

 

しかし、俺の反応から何かを察したのか、

 

「期待してますよー」

 

と悪戯な笑顔を浮かべる。「でも先輩だからなー」と言いながらも足取りは軽い。

 

しばらく歩き、いつもの模型店に到着する。途端に一色はげんなりとした雰囲気になり、

 

「ダイバーギア持ってこい言ってたので、予想はしていましたが…」

 

小声で「わたしの誕生日祝いじゃなかったの…」とゴニョゴニョ言っている。心配しなさんな、ちゃんと考えてっから。

 

ダイブしてもまだブー垂れているトリナ(一色)を連れたって、一軒の店の前まで移動する。リアルであったら、いやGBN内でも寄り付かないであろう洒落た佇まいの店だ。

 

「予約していたヤハタです」

 

トリナと二人、席に通される。こういった店に入りなれているであろうトリナでも、真逆俺が率先して入るとは思っていなかったようだ。若干そわそわしている。

 

事前に予約注文(オーダー)していたケーキが出される。

 

運ばれてきたケーキを見て、トリナが「わぁーー」と感嘆の声を漏らす。

 

直径12cm(4号サイズ)のそれは、ガンダムシリーズのマスコットキャラたるハロの形を模していて、見た目非常に愛らしい。

ピスタチオクリームでボディカラーの緑を再現しており、半月状のドーム型で立体感もある。目や口はチョコレートで描かれ、耳の部分はラング・ド・シャになっており中々凝った作りをしている。

形を崩さないようにと横に添えられたチョコプレートは吹き出し型になっており、『タンジョウビ、オメデトウ』のメッセージが書かれている。

 

トリナもどうやら気に入ったらしい。さっきから頻りに撮影をしている。女の子ってこういうの好きだよな。同じもんだし、何枚撮っても変わらんでしょ?

 

「すいませーん、カメラお願いしてもいいですかー?」

 

それだけでは飽き足らず、店員を呼び止め撮影を依頼する。

 

「ほら、先輩も」

 

トリナに急かされ、俺も撮影範囲に入る。リアルでも喫茶店に入る度に散々付き合わされたからな。今更ごねても意味がない。

 

ケーキを挟んでトリナの方に身を乗り出す。

カメラの方に顔を向け(・ω⊂)(ヒイロのポーズ)を取る。ガンダムでキメポーズと言ったらこれだろ。

横目でトリナの方を見れば、手は逆だが同じポーズを取っていた。わかっているじゃねぇか。

ただコイツがすると、なんか別の如何わしい写真に見えてくる。こんな事を考えているのがバレたら、EDのリリーナばりの冷たい目で見られること間違いなしである。

 

「先輩、これ、ホントにいただいちゃっていいんですか?」

 

チラリとこちらを窺うように見る。普段は遠慮のえの字も知らんぐらい傍若無人に振る舞うくせに、珍しく此方から奢ったりすると途端に恐縮しだす。

 

「ああ、遠慮すんな」

 

そもそも、その為に予約したんだ。どんどん食ってくれ。

 

「可愛いからナイフ入れるの躊躇しちゃいますねー」と言いながらも、迷わずザックリと切れ込みを入れる。おい、全然躊躇してないだろ。

綺麗に切り分けられた断面を覗く。そこにはぎっしりとメカが詰まっていた…なんてことはなく、土台のビスキュイ、ピスタチオムースにベリーのソースが層になっていた。ほぉ、見事なもんだ。

 

ドームケーキはその形状ゆえに、ホールケーキよりも手間がかかる。丸型に入れて焼き上げたスポンジ生地を土台に飾りあげていくものと違い、焼いた生地をドーム型に張り付けて中身を入れて冷やし固めなければならない。加えてハロを模したキャラデコケーキだ。見た目に拘ればさらに時間がいる。

リアルで頼もうものなら相応の値段がする。具体的に言えば4000円ぐらい。

しかし、ここは電脳世界。データさえあれば簡単に量産が出来る。材料費、人件費その他諸々の経費がかからないので非常にリーズナブル。科学の 力って すげー!

 

それにしても、ケーキに対しての描写が細かすぎだろ、俺。まぁ、お菓子作りが得意な一色に色々と付き合わされたから、それなりに知識が付いている。スイーツ男子になっちゃうのかよ。

反対に、一色のやつはガンダム女子になりつつある。先程の(・ω⊂)(これ)がいい証拠だ。

順調に洗の…もといはまってきている。そうか、これが相互理解。人類の革新というやつか。違うか。

 

脳内でそんなことを考えて、コーヒーを啜る。正面に座るトリナを見ると、「んぅ~」と目を細めながらケーキを堪能していた。

 

カロリーを気にする必要がないから、あっという間にワンホールを平らげる。

 

「先輩にしては中々のチョイスでした」

 

「おう」

 

女子の夢たるケーキワンホール食いを達成できたからか、トリナはご満悦のようだ。

 

だが、これで満足して貰っては甘い。

今日の俺は、祝福の鬼すら凌駕する存在だ!

 

「腹ごなしに一寸ばかり付き合ってくれんか?」

 

疑問符を浮かべながらも頷くトリナを連れて、AGE-2ステルスのコックピットに乗り込む。

 

「狭いかもしれんが、我慢してくれ」

 

コックピットで2人乗りだが、何度か乗っているので今さら気にはしていない。トリナも横で大人しくしている。

 

発進後すぐさまストライダー形態に変形し、空を翔る。フィールド移動のためのゲートを抜ける。

 

ゲートを抜けるとそこは雪国ーーーというわけではなく、むしろその反対、むせ返るほどの緑に満ちた世界だった。

 

「えと、先輩?ここは」

 

いきなり馴染みのない場所に連れてこられて、トリナは疑問符を浮かべる。

 

「南米・ジャブローだ」

 

宇宙世紀の地球連邦本部でお馴染みの場所だ。架空の地域だが、アマゾン川流域の熱帯雨林をモデルにしており見応えがある。

 

「や、なぜ、わざわざこんなとこに?」

 

場所を聞いてもいまいちピンと来ないのだろう。トリナは首を傾げたままだ。

 

「ま、お前に見せたいものがあってな」

 

「見せたいもの…… なんですか?」

 

そう慌てなさんな。そろそろだから。

 

「左を見てみろ」

 

俺の言葉に胡乱ながらも顔を向ける。その瞳の先には、視界一杯に拡がる薄桃色。

 

「先輩!フラミンゴですよっ!フラミンゴ!!」

 

トリナは目をキラキラと輝かせながら、目に写る情景を報告してくる。

おいおい、興奮しすぎだ。某アイドル閣下みたいな事を言ってるぞ。まぁ、あのお方もお菓子作りが得意でどことなくあざといから、似てるっちゃー似てるが…

 

俺も機体を制御しながらも、その風景を見遣る。コイツに見せたかった景色はこれだ。

 

ジャブローから再び宇宙(そら)に向かうWB(ホワイトベース)に並び、飛び立つフラミンゴ。劇中では何気なく挿入されたシーンだったが、その分記憶に残った。そう思う人がいたからこそ、このGBNでも再現されたのだろう。

 

「綺麗ですね…」

 

トリナは感慨深げに呟く。

 

「なぁ、思い出に残りそうか?」

 

ふと、トリナに聞いてみる。彼女は不思議そうにこちらを見る。

 

どれだけ綺麗な風景でも、電脳空間でのことだ。現実世界には存在しない。

さっき食べたケーキにしてもそうだ。どれだけ美味しくても0と1の集合体に過ぎない。腹もふくれなければ、栄養にもならない。

この世界はサーバーの中でしか存在できない不安定な代物だ。いくらガンダムが息の長いコンテンツとは言え、いつ消えてしまうかもわからない。

それでも、GBN(この世界)はここにある。興味のない人間からしたら、虚構に浸り何が楽しいと思われるだろう。

だが、俺はここにいる。デジタル(贋物)で出来たこの世界を楽しんでいる。

 

烏滸がましいことではあるが、コイツにもこの世界の事を好きになってもらいたい。あのフラミンゴのようにいつまでも記憶に焼き付けて欲しい。そう願ってしまう。

 

「いつか消えてしまうかもしれない景色だ。それでも、今はこのGBNを楽しんで欲しい」

 

そう伝えるとトリナはゆるゆると首を振り、

 

「今だけじゃありません。来年も再来年も、ずーっとよろしくです!せーんぱい!」

「素敵なプレゼント、ありがとです!」ととびきりの笑顔(俺へのプレゼント)をくれた。

 

ーーー俺が貰ってどうするんだよ。

 

 

 

 

MISSION:一色いろはの誕生日を祝え

 

報酬:少女の笑顔

 

≪MISSION CLEAR!≫

 

 

 




いろはす誕生日記念SSでした。本編とはパラレルみたいな感じで。

五飛ネタに走ってますが、別段嫌いな訳じゃないです。当時のアンソロでも、ハゲキャラや一人だけ美形に描かれないなど散々ネタにされていたので、そのイメージが抜けきらないだけです。幼い頃の印象は大事。


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