拝啓、お母様。南雲くんと結託しました。敬具 (爆砕肉団子)
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一章 いつもの日常の大きな異変

やってしまった..............小説が元の作品には手を出さないようにしていたんですが、増え続けるサイト側が悪いですね、クオレハ(おい)。

書いたからには頑張りますよ〜バリバリ〜


今でも覚えている、あの日のことを。時期は中学二年の冬、肌寒い気温が肌を刺してやまない頃。

 

「ハァ..........ハァ...........ハァ......!」

 

片手には鉄パイプ、服に返り血はついていないが、目の前には激痛に襲われうずくまる少年。名を、南雲ハジメ。

 

「お、おい..........やりすぎなんじゃ」

「て、鉄パイプって...........お前」

 

仲間もドン引くほどの行為。鉄パイプで彼の後頭部を殴りつけたからだ。

 

そう、俺。刀崎 京(とうさき けい)は南雲ハジメを虐めていた。

 

 

 

 

 

 

暖かい気候が眠気を誘う。そして昨日が日曜日ということもあり、休日は遅くまで起きているせいで日曜の夜も翌日の二時頃まで起きていた俺は、教室の自分の席で眠りについていた。すると、コツンと少しの衝撃が頭に走る。

 

「こーら、また寝てるの?」

「うん..........?」

 

目の前にいたのは、黒髪を後ろで括る、いわゆるポニーテールという髪形をした少女。名を八重樫 雫、八重樫道場の娘で、門下生として剣術を嗜んでいる。切れ長の目は鋭く、しかしその目には柔らかさも感じられるため、冷たいと言うよりはカッコイイという印象を受け、男女ともに人気がある。

 

今では二大女神とか呼ばれているらしい。もう一人は白崎 香織というのだが、こちらはまたド天然でたまに鋭い、温厚で優しい子だ。

 

「なんだ、雫か..........」

「何が雫か、よ。そんなに私が残念なの..........?」

 

声色が泣きそうな事に、少しだけ吹き出してしまう。昔から、彼女の幼馴染達に彼女自身相当手を焼いているため、そんな彼女が何かを心配している様子に思わず笑いが出てしまったのだ。

 

「いんや?こんな美少女に起こされるなら毎日の方がいいんだけどなぁ」

「なぁっ!?」

 

俺の言葉に赤面する彼女。別に俺はラノベ主人公のような鈍感さでもないし昔からの彼女の仕草から薄々勘づいているが、何がとは言わない。

 

「じゃあ〜私が毎日起こしてあげるよ〜?」

 

むにゅりと後ろに柔らかいものが当たった。俺の横から顔をのぞかせているのは中村 恵里、眼鏡をかけたボブカットの少女だ。

 

「おい恵里、当たってんぞ」

「?、不思議なことを言うね。当ててるんだよ」

 

お前どこでそんなネタを、なんてことは言わないでおこう。毎日俺の家でアニメ見てりゃそりゃ知るわ。..............まぁ、俺の周辺の関係なんかどうでもいいか。

 

男子達から少し視線を集めるが、気にしない。1年の時からそうだし、なんなら八重樫の道場では毎日そうだし。あと、俺の頭上で雫と恵里の火花がちっているが気にしない、気にしない。それが一番だと俺は思ってる。

 

「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」

 

ゲラゲラと後ろから笑い声が聞こえる。後ろの扉から入室してきたのは、落ち着いた印象を受ける少年、南雲ハジメ。そして彼を嘲笑う中心にいるのは、檜山 大介という男。檜山は飽きもせずに毎日彼へと絡む陽キャまがいのやつだ。

 

まぁ内情など知らないが、あいつが南雲に絡む理由はいくつか思い当たる。多分、そのうちの一つは..........あぁ、来た。

 

「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

ニコニコとしながら南雲へ歩み寄ったのは、白崎。彼女は必要以上に南雲を構う。まぁその理由は薄々勘づいているんだが、多分俺と雫と恵里くらいしか分かってないんじゃないだろうか。

 

「あ、ああ、おはよう白崎さん」

 

彼女へ返事をした瞬間、殺気にも感じるクラスの眼光が南雲へと降りかかった。まぁそりゃ美少女があまりよく思わないやつにメロメロしてたらな........。

 

「ごめん、ちょっと行ってくるわね」

「おう、いってら〜」

 

そこでようやく気づいた雫が、恵里との幾数にも重なる視線戦争をやめて事態の収拾に向かう。

 

「南雲君。おはよう。毎日大変ね」

「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

雫と同時期に南雲へ話しかけるのは、彼の幼なじみである天之河 光輝。自分の正義感だけを信じて行動する、俺から言わせてもらえば面倒なタイプだ。自分が正しいと思ったことを信じて疑わず、それを信条にして生活している。思い込みが激しいタイプといえばわかりやすいだろう。まぁそれが霞むくらいのイケメンで女子にも大変人気がある。ちなみに恵里から言わせてもらえば「吐き気がする」だそうで。

 

そしてもう一人は坂上 龍太郎。彼らとの付き合いは浅いらしいが俺の知ったことじゃない。こいつも南雲をよく思っていないうちの一人だ。ただし嫌悪ではなく放置という方面だが。

 

「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」

「それが分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

 

天之河はそう、冷たい言葉を言い放つ。白崎は別にそんなつもりは無いのだが、天之河の中では「仕方なく構っている」と思っているようで、先述の通り白崎の恋心に気づいていない。

 

「いや~、あはは……」

 

まぁ、南雲も大人しい性格だから言い返すことも無いんだろう。そもそも穏便に済ませた方がリスクは少ないしな。

 

「? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

「え? ……ああ、ホント、香織は優しいよな」

 

言葉の通りなのだが、間違った解釈をしている天之河にとって、今の白崎の言葉は南雲に対して気を使ったと思っているようだ。本当にどうしようもないな、こいつは。

 

そんなところでチャイムがなり、各自解散していく。席が近い檜山達4人は何やらゴソゴソと会議のような会話をしている。どうせ南雲を昼休みどこかに呼び出すつもりだろう。...........さすがに今日こそは止めないとな。

 

「……ごめんなさいね? 二人共悪気はないのだけど……」

 

そう言って申し訳なさそうに謝る雫に、南雲は苦笑いして答えた。結局収集するのは雫で、あいつもだいぶ苦労していることだろう。

 

「........そんでお前はいつまでくっついてんだ」

「え?いいじゃん」

「よくねーよ、さっさと座れ。授業始まんだろ」

 

「ちぇ〜」と言いながら恵里も自分の席に帰っていく。そんな恵里とすれ違いで俺の目の前に座ったのは雫だ。先程交わした会話は雫が俺を気にかけて席移動したからではなく、もともと俺の前の席だったからだ。

 

「大変だな」

「うっさい」

 

今日も俺の、贖罪とその他諸々のスクールライフが始まる。

 

 

 

 

 

 

四時限目の授業が終わり、ようやく昼休み。大きな欠伸ひとつ、俺はようやく訪れた少しの休憩に心を安らかにしながら背伸びする。

 

「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどうかな?」

 

さて飯でも食べよう、と弁当箱を漁っていたらそんな声が聞こえる。まぁ案の定、白崎と南雲なんだが。一瞬にしてクラスの雰囲気が怪しくなっていく。

 

「あ~、誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河君達と食べたらどうかな?」

 

そう言って、10秒でチャージできることが有名なゼリーのパッケージをヒラヒラと見せる。まぁそんなせめてもの抵抗なんて意味をなさないんだが。

 

「えっ! お昼それだけなの? ダメだよ、ちゃんと食べないと! 私のお弁当、分けてあげるね!」

 

そう言うと椅子を寄せてきて、南雲の机で弁当を広げようと白崎が紐を解いていく。まだまだクラスの雰囲気は重くなる一方だ。白崎的には本気で心配しているのだが、またもそれを邪魔した男がいる。

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

ほら出た、我らが天之河君(笑)だ。本当にキザなセリフが痛々しい。俺の席に近づいてきて弁当を広げている恵里も顔をしかめてるぞ。そもそもキザなセリフはイケメンだろうとブサメンだろうとその威力は変わらない。どちらも「痛々しい」「見苦しい」「見るに堪えない」、こんな感想が残るばかりだ。

 

だがイケメンスマイルやキザなセリフなんて彼女には関係ないらしい。白崎は天之河に対してキョトンとしている。

 

「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」

 

素で聞き返した白崎に、これまた椅子を後ろにして俺の席で恵里と今度は弁当戦争していた雫が吹き出した。ほんと痛いわァ..........あいつ。

 

いたたまれなくなったのだろう、南雲は席を立とうとした。そんな時だーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーークラスが凍りついたのは。

 

南雲の目の前、天之河の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れたからだ。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様――俗に言う魔法陣らしきものを注視する。

 

 その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。

 

 自分の足元まで異常が迫って来たことで、ようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。未だ教室にいた我らが担任、畑山愛子先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。

 

 数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。




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異世界、トータス

暫くはテンプレのような文が続きます、御了承ください


光が晴れたのと、雫が俺の袖を引っ張ったのは同時だった。

 

「...........京」

 

みんなには隠すように、見たことも無い景色の中、彼女は俺へ不安な声音で訴えてくる。しっかりとしているように見えて、こいつも中身は思春期の少女だ。

 

「........どこかな?ここ。僕にはさっぱりなんだけど」

「さぁな。あと素が出てるぞ」

 

近くで呟くように小さな声を発する恵里に、声が聞こえた俺はそう諭す。恵里はハッとしたように口を抑えているが、俺以外聞いてないから。

 

「さぁて、どこだろな。ここ」

 

そう言いながら俺は辺りを見回す。どうやらクラス全員がここにいるらしい。もちろん我らが愛子先生も。天之河達も何が起こったのかわからないと言った表情をしている。南雲だけはそうではないみたいだが。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

俺達がいる所は台座のようだ。その下からそう言ってくる、自身の名をイシュタルと名乗った好々爺は、三十人以上が頭を垂れる中で唯一にこやかな笑顔をこちらへ向けてきていた。さぁて、また面倒なことになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

俺達は十メートルほどのテーブルがいくつも並ぶ大広間へと通された。その際に誰も一切として言葉を発しなかったのは、まだ現実に自分の理解が追いついてないからだろう。あと天之河がクラスを落ち着かせたこともあるか。そういうことは愛子先生の仕事なんだが、まぁナリがナリだしな。

 

ちなみに25歳という歳ながら童顔に低身長という合法ロリ体型。まぁこれじゃ生徒も和むばっかだわな。威厳なんぞ全く以てない。

 

そして彼らの視線を釘付けにしたのは本物の、正真正銘の美少女メイド達。元の世界では見れなかった本物が目の前に高じていることに、男子達の鼻の下が伸び、女子からの視線が酷かった。俺?んー、可愛いとは思うけどそんなかなぁ。ちなみに南雲の方を笑顔で見ていた白崎の背後にはスタンドがいた。間違いなくあれはスタンドだった、こわい。

 

そんなメイドさん達は俺達に給仕をするためにカートを押して入室する。そしてこの世界の飲み物や食べ物が各テーブル、各クラスメイトに手配されたのを確認した後、速やかに出ていった。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

はーい、面倒なんで割愛。要約するとこうだ。

 

この世界はトータスと呼ばれている。そんな世界には大まかに分けて人間族、魔人族、亜人族の3つの種族がいるらしい。その中で人間族と魔人族が何百年という長い年月をかけて戦争中。

 

そんな中、魔人族が魔物という生物を使役するという異常事態が発生した。そんな魔人族に対して目には目を歯には歯をということで俺達が戦争の道具として呼ばれたらしい。

 

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

そうして爺さんは恍惚とした表情をする。何がそんなに頬を染める原因となるのか、とりあえず気持ち悪かった、以上。

 

まぁ、爺さんが言ったことは俺たちの世界じゃ考えられないことだ。日本は戦争をやめて久しい。平和主義を謳う日本の民なら即刻拒否するはずだが、まぁどうせ無駄なんだろうなぁ。

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

もちろん愛子先生はぷりぷりと怒り出す。異論を呈する彼女に対して、爺さんは天を仰いだ。クラスとしては和むばっかなんだが、しかし続くじいさんの言葉に凍りつく。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

まぁ要は、欠陥召喚ってやつだ。逃がさねぇよ?と、そんな所だろうな。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

まぁ普通ならそうなんだが、俺らを召喚したのは神だから人じゃない。どうせこの後、神の御業だから我々には出来ないとかほざきやがるんだろうなぁ。

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな……」

 

ほーら見た事か。結局俺たちにメリットなんて何も無かった。まーた面倒なことになりそうだよ。

 

爺さんが口走った事実に俺と同じような思いのほかの奴らが騒ぎ立て始めた。もはやクラスはパニック状態だ。

 

雫は未だに無言で俺の袖を掴んでおり、恵里は我関せずと下を向いている。なるようになるとでも思っているのかもしれない。意外と神経は図太いほうだしな。

 

そしてそんな時だ、また馬鹿がバカやらかしたのは。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

天之河のその言葉を聞いて、下を向いていた恵里が小さく吹き出した。雫はじっと天之河の方を向いている。

 

天之河の言葉はクラス全体に届いた。だからこそ、クラス全体が冷静さと活気を取り戻し始めたのだ。そこでガタッと椅子が引かれる。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」

「雫……」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

 

いつもの四人が賛同して、次々に椅子が倒れる勢いで生徒達が起立していく。やがて全員が起立する頃、愛子先生が涙目で攻めてもの抵抗を見せていたが逢えなく撃沈した。

 

「はぁ.........何だこの茶番」

 

俺はもう何を言っても無駄そうなクラスに呆れて空気を読むことに徹した。チラリと南雲の方を見ると、恐らくこの先に待っている自分の特殊能力への期待か、はたまた本当の異世界へ来たことへの高揚か、少し目が輝いていたのを覚えている。




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ステータス確認

ちょっとだけ描写が違います。御了承を。


翌日から、訓練と座学が開始された。

 

まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られる。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

彼、メルド団長は俺達にフランクな話し方で接してくる。どうやら戦友に丁寧な言葉を喋るのは違和感があるらしい。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

 

聞きなれない言葉に天之河が質問する。団長は天之河の質問を補足するように話し始めた。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

納得したらしい生徒達は各々に指先へ針を指して、流血を魔方陣に擦り付ける。

 

「痛っ!」

「恵里、強すぎ。後で止血してやるよ」

「あ、ありがとう」

 

彼女は若干驚きつつも謝辞を述べる。まぁ俺だって人並みには心配するさ、特に恵里なら尚更だ。おっと、遠目から白崎と同じくらいの威圧が。

 

==========================

 

刀崎 京 17歳 男 レベル1

天職:死神

筋力:200

体力:120

耐性:80

敏捷:90

■■:300

魔耐:60

技能:瞬間移動・■■刀『■■■■』・■■操作・縮地・霞ノ体・剛腕・精神耐性・状態異常耐性・言語理解・鑑定

 

==========================

 

「.......なんじゃこりゃ」

 

映し出されたステータスにあまり実感が行かない。死神ってのはよく想像する方のあれなのか、それとも俺がよく読む漫画に出てくるほうなのか。間違いなく前者なんだろうが。

 

俺がステータスプレートとにらめっこを繰り返していると、メルド団長が口を開いた。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

RPGみたいだな、上限が100レベなんて。まぁそれでも無意識に全力を出さないようにセーブしている人間の体ではそれ以下のレベルにしか辿り着かないらしいが。

 

「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

そんなこと言って、みんなに天職あるんだろうな。各々がそれぞれステータスプレート確認してるし。ていうか俺の才能が死神ってなんだよ。命刈り取るの?あの世にお運びすりゃいいの?

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

そう言うと天之河が颯爽として前へ出た。そしてステータスプレートが映し出されていく。

 

==========================

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

==========================

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

「いや~、あはは……」

 

気恥しげに頬を書くその姿に白けた視線を送る。ちなみに団長はレベルが62でステータスは300前後だと言う。まあ団長だしそんくらいないとむしろ困るだろうなぁ。

 

気がついたら、俺の番だとばかりの視線が集まっていた。チラリと横の恵里を見ると、コクコク頷いて軽く背中を押してくる。半ば溜息をつきながら渋々団長にステータスプレートを差し出した。

 

==========================

 

刀崎 京 17歳 男 レベル1

天職:死神

筋力:200

体力:120

耐性:80

敏捷:90

■■:300

魔耐:60

技能:瞬間移動・■■刀『■■■■』・■■操作・縮地・霞ノ体・剛腕・精神耐性・状態異常耐性・言語理解・鑑定

 

==========================

 

「ほぉ、勇者様も凄かったがお前も凄いな。3つの項目が勇者を越してるし、ほかの数値も勇者に近しい。技能も結構ある.........が、隠蔽されているな?」

「なんでしょうね、これ」

 

俺もわからないから笑って誤魔化す。すると団長は「まぁかなりの戦力には変わらんな!」と豪快に笑い飛ばした。昔から愛想笑いだけは得意なのだ。

 

そうして戻ってみると、残っているのは南雲と我らが愛子先生だけだった。南雲はバツの悪そうに乾いた笑みを零しながら団長へステータスプレートを手渡す。

 

今まで、規格外のステータスばかり確認してきたメルド団長の表情はホクホクしている。多くの強力無比な戦友の誕生に喜んでいるのだろう。

 

その団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートを南雲に返した。

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 

とりあえずと言った形で南雲の職業を説明する団長。まぁ要は後方支援の天職ってことだ。戦えないなんてことは無いだろうが、役立たずになる可能性は十分にあった。

 

当然ながら、そんな南雲へ檜山達が付け入らないわけがなかった。俺の予想したように、檜山がニヤニヤとしながら声を張り上げる。

 

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

 

実にウザイ感じで檜山は南雲と肩を組んだ。その様子に周りのクラスメイトもニヤニヤ嗤っているのが伺えた。

 

「さぁ、やってみないと分からないかな」

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

 

そう言うと檜山は強引に南雲のステータスプレートをかっさらった。そうしてしばらく眺めた後、檜山は爆笑し始める。

 

そして、斎藤達取り巻きに投げ渡し内容を見た他の連中も爆笑したら失笑したりしている。

 

メルド団長の表情から内容を察しているだろうに、わざわざ執拗に聞く檜山。本当に嫌な性格をしている。取り巻きの三人もはやし立てる。強い者には媚び、弱い者には強く出る典型的な小物の行動だ。事実、香織や雫などは不快げに眉をひそめている。

 

「ぶっはははっ~、なんだこれ! 完全に一般人じゃねぇか!」

「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」

「ヒァハハハ~、無理無理! 直ぐ死ぬってコイツ! 肉壁にもならねぇよ!」

 

次々に笑い出す生徒達(アホ共)に白崎が憤然と動き出す。しかしその肩はいつの間に横にいたのか、雫に掴まれた。視線で訴えをかける白崎だったが、雫が首を横に振り白崎の後ろを示す。

 

果たしてその視線が捉えたのは、もちろん檜山へ物申す俺だった。

 

俺はサッと簡単にステータスプレートを笑っている馬鹿から取り返すと、無言で南雲へ返す。

 

「あ、ありがとう........」

 

南雲は急な俺の行動に目を丸くして、なんとか言葉を絞り出したように礼を述べる。まぁそりゃ喋りづらいわな、俺もだよ。

 

「あ?刀崎なんのつもりだてめぇ?」

「お前らこそなんのつもりだよ」

 

ガンを飛ばしてくる檜山に俺は一方歩み寄り、無言でバカの顔面を見下ろしてやる。

 

「くだらねぇ事やってんじゃねぇよガキが。場所、状況が変わってまでやることが南雲いびりとか、頭沸いてんのかお前」

「なんだと!?てめぇ俺よりステータスがちょっと高いからって調子にのんなよっ!?」

 

激昴した檜山が殴りかかってくる。実に単純なストレートだ。この世界に来てからなんだか目が冴えている。こいつの動きもスローモーション気味に見えている。

 

俺は檜山の右腕を掴んでひねりあげる。なんてことは無い、警察ももちろん、軍人も使用する対人戦の拘束術だ。

 

「いでででで!?なっ、いでっ!?」

「お前さぁ、小物感満載なのまだ分からないか?」

 

近くで天之河が止めに入ろうとしたが、先客がいた。ウガーッ!と割って入ってきたのは、愛子先生だ。

 

「こらーっ!クラス同士の喧嘩なんて先生許しませんよっ!!」

 

いつものように、ぷりぷりと怒り出す。その様子に絆されてかどうか、何となく毒気を抜かれたので俺は檜山を後ろから投げ倒した。と言っても足を払っただけだが。

 

「愛子先生の言う通りだ。喧嘩は良くない、これから助け合っていくんだ」

「はいはい、分かってますよっと」

 

天之河は俺の反応にまだ何か言いたそうだったが、檜山が騒ぎ出したためにそっちへ徹した。引っ込んだ俺のところへ、するりと雫が近寄ってくる。

 

「ありがとね」

「どうせ俺が行かなきゃお前らのどっちか、いや特に白崎が行ってたんだろ。男ってのはだいぶ恐ろしい生き物だからな、力を持った檜山が公衆の面前で白崎に嫌われようものなら何をしでかすか分かったもんじゃねぇ」

「.........自分で言う?」

 

最後は自嘲気味に二人で笑った。後に愛子先生が南雲を励ますためにステータスプレートを見せたのだが、逆に轟沈させられたのはまた別のお話。




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死角のイジメ

色々あった訳だが、特にお咎めはなかった。まぁ団長もみすみす即戦力を無下に扱うような馬鹿ではないだろうし、むしろ悪いのあっちだから俺が言われる筋合いないし。

 

ってな訳で2週間ほど経過したわけなんです。ひとつ分かったことがあった。

 

ーー俺は魔法を使えない。

 

まぁステータスを見ると全て解決なんだ。

 

==========================

 

刀崎 京 17歳 男 レベル9

天職:死神

筋力:300

体力:240

耐性:160

敏捷:180

■■:400

魔耐:120

技能:瞬間移動・■■刀『■■■■』・■■操作・■■・■■・縮地・霞ノ体・剛腕・精神耐性・状態異常耐性・言語理解・鑑定

 

==========================

 

この隠れている操作系の技能、これは魔力操作じゃなかった。つまりどういうことか、この操作は別系の技能で、隠れている数値の方も魔力ではないということだ。魔法を使うには魔力操作の技能を習得しなければならない。しかし俺には魔力もなければその技能すらないため、結果的に魔法が使えないのだ。

 

そしてなんと、新たにまた隠蔽されてるのが増えた。モウワケガワカラナイヨ。

 

「はぁ........なんだコレ」

 

タッチしてみても、指で撫でてみても、何も変化は起きない。しかし隠蔽にはこの霞ノ体という技能が関係しているということはわかった。

 

霞ノ体

ステータスや技能の隠蔽が可能。自身が設定した条件を満たすと消える。

 

まぁこんなことが書いてあるわけで。なんだよ、俺が設定した条件って。そもそも設定すらしてないのになんで最初から隠蔽かかってんだよ。

 

.........まぁ考えても仕方ないんだが。

 

「ま、なんとかなるだろ」

 

訓練の目的は七大迷宮と呼ばれる迷宮のうちの一つ、【オルクス大迷宮】を攻略するためだ。補足だがこの世界には迷宮と言われる、所謂ダンジョンのようなものがある。そして俺達に予定された【オルクス大迷宮】は全百階層からなるものらしく、深層に行くにつれて魔物は強くなるとか。

 

と、その時だ。俺の部屋の扉が勢い良く開け放たれたのは。

 

「京!居る!?」

 

雫が入室してきた。いつも通りの装いで、服装はもちろんこちらの世界に合わせた。各生徒のクローゼットには制服がハンガーに吊るされていることだろう。

 

「雫さん、せめてノックしません?」

「いいじゃない、今更でしょ?」

「親しき仲にも礼儀ありという言葉があってだな.........」

 

そんな俺の言葉を無視して「訓練行きましょ?」と微笑んでくる。俺としても別に深く言及するつもりはなかったので、雫と共に訓練場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

俺と雫が訓練場に辿り着くと、俺の姿を見た生徒達が何やら気まずそうに目を伏せたり施設の死角をチラチラとみている。そんな様子に頭へハテナマークを浮かべていると、恵里が近寄ってきた。

 

「遅いよ」

「何がだよ?」

 

そうすると、恵里は俺の耳元に寄って耳打ちしてきた。

 

「南雲くんがバカ(檜山)達に連れてかれた」

「っ!?...............どこに?」

 

そうすると、恵里は無言で施設の死角、先程生徒達がチラチラと見ていた場所を指さした。

 

「........?恵里?何かあったの?」

「見ればわかるよ」

「..........はぁ」

 

またくだらねぇ事しやがって。どんだけ南雲のこと好きなんだよ。怒り通り越して呆れてくるな、ったくよ。

 

どけ

 

その一言で何故かクラスが凍りつき、俺のことを見た瞬間に道をあけていく。そこまで強く言ったつもりは無いんだがな。

 

「行くぞ、雫」

「えっ、あ、うん!」

「行ってらっしゃい。私は待ってるよ」

 

恵里を背に訓練場の死角へ行くと、いきなり大きな声が聞こえてきた。

 

「何やってるの!?」

 

俺達より先に駆けつけたのであろう、白崎が。その後ろには天之河と坂上もいた。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

「南雲くん!」

 

檜山の弁明とも取れる言い訳を無視して、白崎は咳き込みながら踞る南雲に駆け寄った。

 

「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」

「いや、それは……」

 

俺の横を雫が通り過ぎて天之河の隣でそう言うと、特に檜山は明後日の方向を気まずそうに見た。

 

「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

 

三者三様に言い募られ、檜山達は誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去ろうとする。まぁ俺が見逃すわけないよな。

 

「へぶぅ!?」

 

まず先に俺の横を通り過ぎようとした近藤の頬をぶん殴る。すると彼奴は施設の壁に叩きつけられた。

 

「待てよお前ら。南雲にこんなことしておいて、まさかお咎め無しで通るなんて思ってんのか?」

 

仲間が急に殴られた事により、ギョッと残りの3人がすると共に、俺の一言でその場の全員が俺を注視する。

 

「なっ........刀崎!?何やっているんだ!」

「何って、バカを殴っただけだけど?」

 

そう言って今度は気を取られていた、俺の左を抜けようとしている中野の腹部に膝蹴りを入れる。そうすることによって蹲りそうになるそいつを近藤と同じところへ投げた。

 

「うぎゃっ!?」

「やめろ刀崎!やりすぎかもしれないが、檜山達は南雲が戦えるように訓練をつけてくれていたんだぞ!?」

「はぁ〜.............」

 

ため息混じりに拳を下ろす。そして天之河を睨んだ。

 

「クラスの頭が馬鹿ならそれに付き従う奴らも阿呆ばっかだな」

「なんだと!?」

「南雲をそこまで追いやったのは100%の悪意だ。分かるか?これは訓練なんかじゃなくて元の世界でも起きていたイジメなんだよ」

「虐めていた?檜山達が、南雲を?そんなわけないだろう?」

 

何言ってるんだこいつみたいな顔で俺を見る天之河。どうやらあの実態を彼はイジメじゃなく他の物と見ていたらしい。まぁそうだよな、イジメと思ってたんならまっさきにこいつが手を出すわな。

 

「南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてる。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

話の途中に南雲へ寄って行って、肩を叩きながらそう言う。そんな阿呆に対して南雲は唖然としたような表情をしている。ともすれば雫は額に手を当てて天を仰いだ。

 

「そ、そうだぜ!俺達の目的はそこもあったんだ!」

 

そして思い付いたように檜山がそういう。まぁ、そうだよな。こいつらには何を言っても無駄だよな。

 

「ほら、檜山もそう言ってる。やはり南雲をイジメていたというのはお前の勘違いなんじゃないか?」

「あー、うん。そう、そうそう。うん、分かった分かった」

 

無駄だ。何を言おうとこいつにゃ無駄。まぁ、それならやることはひとつだよな。

 

お前らには何を言っても無駄だったな

 

俺の一言にその場の全員が目を見開いて固まった。そのまま天之河の横を通り過ぎて、檜山の元へ行くと喉元を片手で掴む。そのまま壁へ押し付けた。そして首を握る手の力をどんどん込めていく。

 

「刀崎!?」

「がっ........ぐぁっ............かっ!」

「お前ら、本当にいい加減にしとけよ?もしこんなことが次あるなら、殺すからな」

「刀崎!その手を離せ!」

 

抵抗しようとしている檜山だが、残念ながら俺の方が筋力は上だ。後ろで何やらギャーギャー騒いでいるが気にしない。俺はそのまま耳打ちする。

 

「お前を殺すなら、抵抗や拒否感なんて何も無いからな?いんや、お前ら四人、か」

「あがっ..........ゲホッ!ゲホッ!」

 

それだけ言うと俺は檜山を解放した。最後、俺へ畏怖の視線を向け檜山達は逃げ去った。まだ白崎が怒髪天を貫いたような表情をしていたが、南雲がたしなめることによって心配そうな顔に戻る。

そしてそのまま回復魔法をかけ始めた。

 

「刀崎!お前はまたっ........!」

「大丈夫か?南雲」

「お前っ........話を!」

 

天之河が肩を掴んでくるがそれを片手で払い除ける。すると、さっきよりマシになった顔で俺の方を見て笑顔をうかべた。

 

「あ、ありがとう。白崎さん、刀崎くん。助かったよ」

「いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」

 

そう言って白崎は檜山達が逃げた方を睨んでいた。だが南雲は慌ててそれを止める。

 

「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!」

「でも……」

 

まだ少し食い下がろうとしない白崎に再度「大丈夫」と南雲は笑顔を見せる。そうすると渋々ながら、ようやく白崎も引き下がった。

 

「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」

 

真剣な表情で雫もそういう。南雲は依然として苦笑いしているだけだが。

 

「さ、話は纏まっただろ。戻ろうぜ、訓練が始まる」

 

俺の一言に、三人は同時に頷いた。後ろでまだ天之河がギャーギャー言ってた気がするが気にしない。




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月下の語らい、謝罪と和解

なんかサブタイがいい感じにリズムに乗ってますね


──夜

 

明日迷宮訓練が行われるという日の前日、俺の決意はようやく固まった。今まで言葉に出来なかったことを、しっかりと言おうと。俺は今、宿場町【ホルアド】の南雲の部屋の前にいる。

 

3回のノックの後にガチャりと南雲は扉を開ける。俺の顔を見ると少し驚いて固まったが。

 

「え、えっと........」

「夜分遅くにすまん。ちょっとだけいいか?」

「う、うん.........」

 

まぁ、そんな態度になるのも当たり前だろう。だが、俺とて気まずいのは同じなんだよ。

 

「その、話って?」

「ああ..........その、なんだ」

 

微妙な空気のまま、俺はそのまま頭を下げる。

 

「あの時は、本当にごめん」

「えっ、ちょ、え?」

 

まさか俺が開口一番に謝るとは思って無かったんだろう。南雲はぎょっとした表情で戸惑う。

 

「あの時の俺は、正直自分でもよくわかってないんだ。気がついたら南雲が倒れてて、周りの奴らはかなり引いてて.........。言い訳するんじゃないが、本当なんだ」

「あ、あの、刀崎くん?」

「でも、俺がやってしまったことには変わりない。今まで嫌な思いをさせて悪かった。水に流して欲しいとか許して欲しいとかは思ってない、自業自得だから。だけど、本当にごめん」

 

その場には、沈黙が訪れる。あの時のことでも思い出したんだろうか、それとも別のことだろうか。ここで頭をあげるのは絶対に違うだろうからこのままの姿勢で行くが。

 

「中学の時は確かに..........辛かったけど。その、2年になって刀崎くんと同じクラスだとか同じ高校だったとかで居心地が悪かったのは事実なんだ。........でも、実際には僕になんて絡んでこなかったし、それよりも檜山くん達の方が忙しかったし.........」

 

ポツリポツリと南雲は言葉を探しながらそう言う。

 

「でも最近、僕を助けてくれるよね。白崎さんや八重樫さんと同じくらいに。僕の方こそ、ありがとう。僕のためにそこまでやってくれて」

 

そしてそのまま立ち上がると、俺の元へ来る。

 

「正直、まだ少し怖い部分もある。でも、僕は君を許してるよ、刀崎くん。だから頭を上げて欲しいかな」

 

そこで俺はやっと顔を上げる。すると、そこには今までのような南雲の顔があった。

 

「こんな俺を許してくれるのか.........?」

「正直、僕はあまり気にしてない、かな。だから..........」

 

南雲は片手を差し出してくる。これがどういうことを意味するのか、こんな場面ならだいたい想像がつく。

 

「和解、なんてのは今更すぎる気がするけど、どうかな?」

「...........ああ」

 

俺はそのまま南雲の手を握りしめた。もちろん力は多少しか込めてない。怪我しない程度の。

 

「えっと..........これからもよろしく?」

「まぁ、そうだな」

 

変な雰囲気のまま終わってしまったが、まぁ一件落着だろうか。暫くは微妙な距離感だろうが、いずれは良き関係なっていきたいものだ。

 

そして男二人が変にニヤついている現場へさらに異端が訪れる。

 

「南雲くん、起きてる? 白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

まさかの白崎の訪問だ。なんですと? と、一瞬硬直すると、視線で俺に訴えてくる。

 

『ど、どうしよう刀崎くん!出た方がいいのかな!?』

『知らん!とりあえずハッキリさせた方がいい!』

 

ハジメは慌てて扉に向かう。かけていた鍵を外して扉を開けばそこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。

 

「なんでやねん」

「Oh...........」

「えっ?.........あれ、刀崎くんも?」

 

ある意味、衝撃的な光景に思わず関西弁でツッコミを入れてしまう南雲。よく聞こえなかったのか白崎はキョトンとしていたが、俺の声が聞こえて覗くように俺を見る。

 

「あー、うん。俺そろそろ帰るわ」

「ちょ!刀崎くん!?」

「白崎が用あるのは南雲だろ?俺がいたら邪魔だろうしな」

 

俺はするりと扉をぬけて白崎の背中を強引に中へ入れる。横を通る時に南雲から助けを求めるような視線を感じたが無視である。すまんな、俺がいると本当に邪魔にしかなんないから。

 

「ま、んじゃ帰るかな」

 

そう言って踏み出したら、夜の静寂に足音とは別の音が聞こえてきた。振り返れば、花瓶が置かれた棚に身を隠しているつもりなのだろう、俺からした見え見えな檜山がいた。

 

「何やってんだてめぇ」

「ひいっ!」

 

近づいて威嚇してやれば、檜山は尻餅をついて倒れる。俺はゴミを見るように冷たく見下した。

 

「また南雲になんか悪さしようとしてたのか?それとも白崎に強姦未遂でも?」

「ちっ、ちがっ...........俺はっ」

「何が違うんだよ?そんなに焦って、動揺して、しかもコソコソとして」

 

溜息をつきながら俺は足で檜山の腹を踏みつける。

 

「おごっ!?」

「今日はこれくらいにしといてやる、失せろ」

 

そう言って足を退けると、檜山は走り去って行く。

 

「あ、そうそう。この前言ったこと、ちゃんと有言実行するからな〜」

 

補足してそう言っておいてやると、一度盛大にすっ転んだ。その時に俺が吹いたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

俺が部屋に帰れば、ベッドにて座っている少女が一人。

 

「あ、やっと帰ってきた〜」

「なんでいるんだよ、恵里。お前の部屋はここじゃ少し奥だろ」

「ん〜?だってぇ、寂しいしぃ?」

 

雰囲気が違う。なるほど、素の方で酔っているらしい。メガネをコトンと机に置いてゴロンとベッドに寝転ぶ。

 

「お前、酔ってるだろ」

「あ〜分かっちゃったぁ?ここのお酒美味しくてぇ〜」

 

愛子先生が色々と言っているが飲酒はほとんどの生徒がしている。もちろんあの天之河でさえも。ここは日本じゃないしな。

 

いい気分でニマニマしながら俺の方を見てくる。仕方なく俺は椅子に座った。

 

「京ぃ〜こっちきてぇ〜?」

「お前と一緒に寝てる姿を誰かに見られてみろ、事案だぞお前」

「僕はいいよぉ〜?早急に公認カップルが作れるわけだしぃ」

 

しばらくしても俺がベッドに来ないことを理解したんだろう。恵里は襲ってきた睡魔に負けて静かに寝息を立てながら眠ってしまった。.........ってだから、俺のベッドで眠るんじゃないよ。

 

「全く、お前はいつもそうやって人に運ばせるな.........」

 

彼女の肩と膝裏を持って持ち上げる、いわゆるお姫様抱っこ。思ってたよりも軽い。

 

「んふ〜京〜」

「.......どんな夢見てんだよ」

 

幸せそうに寝ながら笑顔を作る恵里に溜息をついて、恵里の部屋へ急ぐことにした、のだが。

 

「.............京?」

「あっ...........」

 

合わないようにしていたのだが、悪運が強い。まさかの雫と鉢合わせてしまった。もちろん、笑顔で詰め寄ってきて、彼女の所々に青筋が見える。

 

「何してるのかしら.......?」

「あ、の、これはその...........」

「京〜♪」

 

その時、寝ぼけている恵里が俺の胸板に頬をスり寄せてきたのをリミットにピキリと雫の青筋が弾けた。

 

「京!!!」

「しーっ!静かにしないと他の人もいるからー!」

 

鬼の形相で追いかけてくる雫をどうにかしながら、なんとか恵里を部屋まで運んで、ヘトヘトのままベッドで眠りについた。なお、抱っこされている時に恵里がぺろっと舌を出していたのを俺は知る由もない。




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戦犯は間違いなく檜山

迷宮突入時のレベルはか書かれていないので、こちらで勝手に解釈してます。


翌朝、もはや日課となってしまったステータスプレートの確認をする。隠蔽されたところが明らかになっているかと期待したが、無駄だった。

 

==========================

 

刀崎 京 17歳 男 レベル15

天職:死神

筋力:380

体力:320

耐性:240

敏捷:260

■■:600

魔耐:220

技能:瞬間移動・■■刀『■■■■』・■■操作・■■・■■・縮地・霞ノ体・剛腕・精神耐性・状態異常耐性・言語理解・鑑定[+鑑定共有]

 

==========================

 

ちなみに鑑定共有は俺が鑑定したものをそのまま脳内で共有できるというものだ。まぁ鑑定できるものはまだまだ限られているが。

 

「さーて、そんじゃ、ま。頑張りましょうか!」

 

自分に喝を入れて、俺は集合場所へと歩みを向けた。

 

ーーこの時の俺はまだ知らない。まさかあんなことになるなんて。

 

 

 

 

 

【オルクス大迷宮】の正面入口付近で俺達は待機している。ここでステータスプレートを見せて入場することで死者の数なんかを正確に把握するらしい。

 

「は〜い、頑張ってね〜」

 

初めての俺達に笑顔で対応する、ここの制服を着た女性。今から死地になり得るかもしれないところへ向かうのに呑気なものだ。俺や雫、天之河達は前衛に配置されているので入場も早かった。

 

「っ..........いよいよね」

「ほい」

「んひゃあ!?」

 

緊張しているような雫の脇腹をチョンと指で小突く。すると彼女は可愛い声を出した。その声に雫へ視線が集まる。

 

「どうした雫?なんかあったのか?」

「な、なんでもないです.......アハハ」

 

団長の問いかけに苦笑いで雫は答えた。そしてそのまま俺をキッと睨んでくる。

 

「何するのよ!」

「緊張してるのバレバレだぞ」

「そ、それは..........」

 

図星だったようで。まぁこれから死にに行くかもしれないんだし仕方ないとは思うが。

 

「冷静に行かないと、周りが見れなくなる。周りが見れなくなると、今度は自分が見えなくなる。そうなると終わりだ。親父さんに習ったろ?」

「そ、そうね...........ごめんなさい、ありがとう」

 

ふわりと彼女は微笑んだ、まぁ俺も少しだけ気が浮いているが。なんか後ろから威圧のようなものを感じたが気のせいだろう、多分。

 

ちなみに恵里や白崎、南雲は後方支援なので後衛で列に続いている。

 

いざ迷宮に入ってみると、中は外の賑やかさとは無縁だった。

 

縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

 

「へぇ、洞窟なのに結構明るいな」

「そうね。洞窟といえば松明を持って進むような感覚だけど.......」

 

そんなことを言いながらどんどん遠くへ進んでいく。初の魔物との戦闘や、その後も雑魚の魔物は湧き続ける。

 

ラットマンとかいう魔物が襲ってきたが、難なく倒す。なんなら筋肉があるネズミだし、まぁ気持ち悪いったらないよな。そんなやつの話なんてカットだカット。

 

「今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

苦笑い気味に団長はそういう。まぁたしかに魔法組が綺麗に吹っ飛ばしてくれたからな。仕方ない仕方ない。

 

その後も問題なく、順調に進んでいく。まぁこのまま何も無いといいがな。

 

そして俺達は一流の冒険者か否かを分けるらしい二十階層までやってきた。意外と浅いもんだなと俺は他人事のように思っていたが、この世界では凄いらしい。

 

現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

 

まぁ俺らはチートみたいなもん持ってるしここまで来るのはだいぶ楽だった。だがいちばん怖いのはトラップだと団長は言っていた。場合によっては致死のトラップもあるとかないとか。

 

この点、トラップ対策として〝フェアスコープ〟というものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できる。ただし、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。

 

騎士団員がどうやらその技能を持っていたらしく、俺達はここまで円滑に進むことが出来た。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ!今日はこの二十階層で訓練して終了だ!気合入れろ!」

 

団長の声が洞窟によく反響する。楽勝プレーだったが気負うことも無くもう終わりか。

 

「ふーん、もう終わりか」

「油断はダメってさっき言ってたでしょ」

「へいへい〜」

 

というわけで一旦小休憩と相成った。どうやら白崎ちゃんは南雲くんに夢中らしいが。

 

「香織、なに南雲君と見つめ合っているのよ? 迷宮の中でラブコメなんて随分と余裕じゃない?」

 

雫のからかうような口調に思わず顔を赤らめる白崎。怒ったように雫に反論する。

 

「もう、雫ちゃん! 変なこと言わないで! 私はただ、南雲くん大丈夫かなって、それだけだよ!.......っていうか雫ちゃんだって、さっきから刀崎くんとずっと一緒にベタベタしてるじゃん!」

「なっ!そ、そんなわけないでしょ!?」

 

まさか仕返しが帰ってくるとは思ってもみなかった雫、白崎の反論に顔を赤らめている。

 

すると今度は南雲の方に熱烈な視線がひとつ。もちろんその主は檜山なんだが。なんか今朝になってから随分とどろりと黒い視線だ。

 

「.........ひっ!」

 

俺が殺気を乗せて睨んでやればすぐさまそそくさとどこかへ行ってしまう。.......あいつには注意しとかないと、何かしでかしそうだな。

 

「京?どうかしたの?」

「ん、いや。なんでもねーよ」

 

そんなこんなで休憩は終わり。俺達は二十階層を探索することになった。迷宮の一階層はかなり広いらしく、数十人マッピングするとしても半月から1ヶ月はかかるんだとか。

 

そしてどうやら四七階層までは確実なマッピングがされているらしい。トラップも心配ないだろう。

 

二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。

 

そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりだと言っていた。神代の転移魔法の様な便利なものは現代にはないので、また地道に帰らなければならない。非常にめんどくさい限りです。

 

すると団長は立ち止まる。何かと思っていたら臨戦態勢に入った。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

よく見ると、岩に擬態したゴリラのような魔物がせり出してくる。胸でドラミングしているが威嚇でもしているのだろうか。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

注意とともに全体が臨戦態勢に入る。奴らをとり囲もうとするが、如何せんこの場は足が悪い。そうすると何を悟ったのかロックマウントは少し後方に下がって仰け反りながら大きく息を吸う。

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「うるせぇよ、タコが」

 

どうやら固有魔法のようだが、皆はまともに食らって動けないらしい。俺は動けたのでそのままでかいゴリラ顔をぶん殴る。バゴォン!と鈍い音が響いてロックマウントは真横に吹っ飛んでいった。

急な襲撃に他のロックマウントはギョッとしている。

 

「今だ!お前らも攻撃しろ!」

 

団長の声で我に返ると一気に畳み掛ける。しかしロックマウントもなかなかにすばしっこい。

 

ロックマウントは突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ白崎達後衛組に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームには陸上選手も目を丸くするだろう。咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が白崎達へと迫る。

 

白崎達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。

 

 しかし、発動しようとした瞬間、白崎達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 

 なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて白崎達へと迫る。その姿は、さながらあっちの世界のル○ンダイブだ。妙に目が血走り鼻息が荒い。白崎も恵里も谷口も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

 

だが、なんのための俺の瞬間移動か。景色が変わり、ロックマウントの頭上に到達する。

 

「そのまま地面とキスしてなッ!!」

 

かかと落としが見事にロックマウントの脳天に決まる。落下の勢いのまま地面と足でロックマウントのゴリラ顔をスタンプしてやった。

 

「ったく!油断も隙もねぇな」

「あ、ありがとう刀崎くん」

「あぁ、京。僕のために...........」

「気にすんな、ここの守護は俺がする。あと恵里、色々違うからな」

 

そう言うと恵里はムッと頬を膨らました。素直に可愛いと言えないのはやはり俺の意地だろう。

 

そんな様子を見てキレる若者が一人。正義感と思い込みの塊、我らが勇者(笑)天之河光輝である。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて!と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする光輝。それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

「バッ...カ!、お前!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

メルド団長と俺の声を無視して、天之河は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで白崎達へ振り返った天之河。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ!と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。

 

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

団長のお叱りにバツが悪そうに謝罪する。まぁそりゃここ結構危ないしな。

 

「プッ、ざまぁないね」

 

恵里が黒い微笑をしていたのも印象的だった。

 

その時、ふと白崎が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

その言葉に、全員が白崎の指差す方へ目を向けた。

 

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。白崎を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなもので、特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

「素敵……」

 

白崎が、団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリと南雲に視線を向けた。その視線を知っていたのは俺と雫と恵里、あとはあいつくらいか。

 

「ねぇ京。採ってよあれ」

「バカ言うなよ。もしあれがトラップだったらどうすんだ」

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

「おい檜山、また馬鹿やらかすなよ」

 

しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

 

団長は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認した。そして、一気に青褪める。

 

「団長! トラップです!」

「ッ!?」

 

しかし、団長も、騎士団員も、俺の警告も一歩遅かった。

 

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。

 

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

 

部屋の中に光が満ち、俺達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれた。




ちなみに京くんはこのあとの関係上アーティファクトを所持していません。あと、描写補助のために技能へ剛腕を追加しました。


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悪手

今回、原作の展開に少し手を加えました。次回からついに斬魄刀登場です(予定)


俺達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

 

橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。俺達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

それを確認した団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめる団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

「まさか...........ベヒモス.....なのか......」

 

唖然としている前線の方面だが、なかなかにこっちもやばい。橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数がおびただしい。

 

小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けているようだ。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

背後からとてつもなくヤバい咆哮が聞こえてくる。正直、あんなの今の俺達じゃどうやっても勝てない。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

我に返った団長が指示しているが天之河が食い下がらない。今のあいつならこっちに来てくれた方が助かるんだがな!

 

「聞いただろ!こっちも起点を作るぞ!俺が突っ込むから後ろから援護頼む!」

「京!」

 

そんな悲しそうな顔すんなよ、恵里。絶対に生き残って引き返すんだから。

 

「ふっ!」

 

俺がトラウムソルジャーを引き付け、橋の下へ落としていく。倒す必要は無い、片っ端から掴んで外へ投げ捨てればいいのだ。そうこうしていると、どうやら準備が整ったらしい。

 

「っ!?」

 

しかし、前線の方も苛烈を窮めていた。どうにか撤退させようと、団長が聞き分けのないバカに話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきたのだ。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

 

「っちぃ!魔法組、放て!しばらく任せるぞ!」

 

魔法組が放ったのかどうかは知らないが、俺は瞬間移動で前線の方に移動する。景色が変わって、ベヒモスの頭上へ到達した。

 

「オォオオォォアァァ!」

 

失敗したら全員死ぬ。だが、そんなことさせるわけない。必ず、止めてみせる!

 

俺はそのまま落下してベヒモスの兜に渾身の一撃を叩き込む。バガァァン!と鉄の壁すらも砕きそうな鈍い音がすると共に、俺の片腕が悲鳴をあげる。苦痛に顔をゆがめるも、なんとか突進は止められた。

 

「グルルゥゥアァ!!」

「よくやってくれた京!助かった!」

「っ痛ぇ!どんだけ硬いんだよこの兜はよォ!」

 

痛いが、まだ動かせる。なおもベヒモスはこちらへ向かってこようとしていた。

 

「京!まだ行けるか!?」

「わかんねぇですよ!」

 

後ろじゃ結構奮闘しているみたいだ。俺の腕もそう長くは持たないだろう。返事すると、今度は団長が前に出る。

 

「カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!」

 

その指示に、後方にいた騎士団員が詠唱を開始する。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

 

先程よりは勢いの無いベヒモスの突進を、何とか聖絶が阻止する。だがそれでもピキっと少し障壁にヒビが入った。もっと時間を必要としなければ。

 

「ああクソっ!やるしかねぇよなぁ!」

「ちょ、待て!京!」

 

俺は聖絶の外へ駆け出す。団長の制止が後ろで聞こえるが気にしない。悪いな団長。

 

「オラァァァァ!!」

 

バガァァン!と、また同じ音が響く。正面から横殴りにベヒモスの兜を殴ると、ピシィ!と少し兜にヒビが入り、衝撃で少し横を向いた。

 

「っ痛ぇなぁ!クソが!」

 

悪態をつきながら俺は団長のところまで戻る。すると今度は天之河が後方へ下がっていった。

 

「刀崎くん!メルド団長!」

「「南雲(坊主!?」」

 

突然のイレギュラーに俺も団長も驚きを隠せない。なぜ生産職の彼がここに来ているのか。俺が問い質す前に南雲が言う。

 

「僕が、あいつを止めます!!」

「ちょ、南雲........何言って!」

 

俺が抗議の声をあげようとして、団長が止める。その視線は、真剣に南雲の瞳を射抜いていた。

 

「……やれるんだな?」

「やります」

 

決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくる南雲に、メルド団長は「くっ」と笑みを浮かべる。

 

「まさか、お前さんに命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

「はい!」

 

その直後、最後の障壁が突破された。そのまま赤熱化した兜は石畳の中にめり込んでしまう。

 

「錬成!!」

 

石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、南雲が錬成して直してしまうからだ。

 

ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、南雲は、その埋まった足元を錬成して固める。

 

ベヒモスのパワーは凄まじく、油断すると直ぐ周囲の石畳に亀裂が入り抜け出そうとするが、その度に錬成を直して抜け出すことを許さない。ベヒモスは頭部を地面に埋めたままもがいている。中々に間抜けな格好だ。

 

その間に、メルドは回復した騎士団員と白崎を呼び集め、天之河達と共に離脱しようとする。

トラウムソルジャーの方は、どうやら幾人かの生徒が冷静さを取り戻したようで、周囲に声を掛け連携を取って対応し始めているようだ。

 

「待って下さい! まだ、南雲くんがっ」

 

撤退を促す団長に白崎が猛抗議した。

 

「坊主の作戦だ!ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する!もちろん坊主がある程度離脱してからだ!魔法で足止めしている間に坊主が帰還したら、上階に撤退だ!」

「なら私も残ります!」

「ダメだ!撤退しながら、香織には怪我したヤツらを治癒してもらわにゃならん!」

「でも!」

 

なお、言い募る白崎にメルド団長の怒鳴り声が叩きつけられる。

 

「坊主の思いを無駄にする気か!」

「ッ――」

 

ベヒモスを足止めするには火力不足に陥るかもしれない。そんな事態を避けるには、白崎が移動しながら生徒達をを回復させる必要があるのだ。ベヒモスは南雲の魔力が尽きて錬成ができなくなった時点で動き出す。

 

「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――〝天恵〟」

 

白崎は泣きそうな顔で、それでもしっかりと詠唱を紡ぐ。淡い光が皆を包む。体の傷と同時に魔力をも回復させる治癒魔法だ。

 

団長は、白崎の肩をグッと掴み頷く。彼女も頷き、もう一度、必死の形相で錬成を続ける南雲を振り返った。そして、団長と、騎士団員達と共に撤退を開始した。

 

しかしトラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。

 

だが、ある意味それでよかったのかもしれない。もし、もっと隙間だらけだったなら、突貫した生徒が包囲され惨殺されていただろう。実際、最初の百体くらいの時に、それで窮地に陥っていた生徒は結構な数いたのだ。

 

それでも、未だ死人が出ていないのは、ひとえに騎士団員達のおかげだろう。彼等の必死のカバーが生徒達を生かしていたといっても過言ではない。代償に、既に彼等は満身創痍だったが。

 

しかし白崎のおかげで全員が元気を取り戻した。攻撃は一気にトラウムソルジャーを減らしていく。

 

「――〝天翔閃〟!」

 

純白の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。

 

橋の両側にいたソルジャー達も押し出されて奈落へと落ちていく。斬撃の後は、直ぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、生徒達は確かに、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段を見た。

 

「皆!行くぞ!!道は俺が切り開く!」

 

そんなセリフと共に、再び〝天翔閃〟が敵を切り裂いていく。天之河が放った攻撃によって自体は加速する。相変わらず痛いセリフだが、それでも今は必要だろう。

 

「お前達!今まで何をやってきた!?、訓練を思い出せ!さっさと連携をとらんか馬鹿者共が!」

 

皆の頼れる団長が〝天翔閃〟に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。その喝が生徒達をさらに元気づけていく。

 

そのまま生徒達の勢いで、ついに階段を確保する。

 

「坊主!あとはお前だけだ!!」

 

団長の必死の叫びは、果たして届いたのだろうか。魔力が空になったのだろう、南雲はこちらへと走り出す。

 

「魔法、放て!ベヒモスを足止めするんだ!」

 

その団長の声に、魔法組や魔法使える奴らはまとめてベヒモスへ魔法を放った。発動速度は人それぞれのため、いくつもの魔法の軌跡が南雲の頭上を通過する。誰もが行けると確信した、その時だ。

 

「っ!?.........おいおい嘘だろ!?」

 

魔法のうちの一個の火球が突如として軌道を変え、南雲へと突き刺さった。完全に予測できていなかったのだろう、南雲の顔は驚愕に満ちていた。俺は咄嗟に地を蹴り瞬間移動を使おうとする。

 

「っぐあ!?」

 

電流が走ったような感覚と共に腕に強烈な痛みが襲った。思わず俺は蹲ってしまう。

 

「京!どうしたの!?」

「くっ.............あ、っ俺よりも、南雲を!」

 

クソが!白崎の回復を受けてなかったのが間違いだった!!

 

俺が後悔するのと、橋が崩壊するのは同時だった。

 

度重なる強大な攻撃にさらされ続けた石造りの橋は、遂に耐久限度を超えたのだ。

 

「グウァアアア!?」

 

悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていった。ベヒモスの断末魔が木霊する。

 

南雲もなんとか脱出しようと這いずるが、しがみつく場所も次々と崩壊していく。

 

白崎が飛び出していくが、もう間に合わない。

 

そのまま南雲は下へ落下して行った。

 

「離して!南雲くんの所に行かないと!約束したのに!私がぁ、私が守るって!離してぇ!」

 

団長と天之河が白崎を必死に羽交い締めにする。彼女の細い体のどこにそんな力があるのか、白崎はその拘束を引き剥がそうとしている。

 

俺は痛みが走る腕を庇って穴を覗く。どこまでも下へと貫く底の見えない奈落。これは大分マズイ。

 

「香織っ、ダメよ! 香織!」

 

雫は白崎の気持ちが分かっているからこそ、かけるべき言葉が見つからない。ただ必死に名前を呼ぶことしかできない様子だ。

 

「香織!君まで死ぬ気か!南雲はもう無理だ!落ち着くんだ!このままじゃ、体が壊れてしまう!」

 

それは、こいつなりに精一杯、を気遣った言葉だろう。しかし、今この場で錯乱する白崎には言うべきでなかった。

 

「無理って何!? 南雲くんは死んでない!行かないと、きっと助けを求めてる!」

 

現実を受け止められる心の余裕は、今の白崎にはない。言ってしまえば反発して、更に無理を重ねるだけだ。坂上や周りの生徒もどうすればいいか分からず、オロオロとするばかり。

 

その時、団長がツカツカと歩み寄り、問答無用で白崎の首筋に手刀を落とした。ビクッと一瞬痙攣し、そのまま意識を落とす。

 

ぐったりする彼女を抱きかかえ、天之河がキッと団長を睨む。文句を言おうとした矢先、雫が遮るように制し、団長に頭を下げた。

 

「すいません。ありがとうございます」

「礼など……止めてくれ。もう一人も死なせるわけにはいかない。全力で迷宮を離脱する。……彼女を頼む」

「言われるまでもなく」

 

離れていく団長を見つめながら、口を挟めず憮然とした表情の天之河に雫は、告げる。

 

「私達が止められないから団長が止めてくれたのよ。わかるでしょ? 今は時間がないの。香織の叫びが皆の心にもダメージを与えてしまう前に、何より香織が壊れる前に止める必要があった。……ほら、あんたが道を切り開くのよ。全員が脱出するまで。……南雲君も言っていたでしょう?」

 

雫の言葉に、天之河は頷いた。

 

「そうだな、早く出よう」

 

そう言って皆が撤退しようとして、しかし俺は立ち止まる。

 

「待って欲しい」

 

その言葉に、全員が俺を振り向いた。

 

「雫、恵里、こっちに来て欲しい」

「京......?何よ、こんな時に............」

「僕も呼ばれるなんて、どうしたんだい?」

 

膝を着いた俺の元へやってきた彼女達を抱きしめる。

 

「ちょ、京!?」

「みんなの前では流石の僕でも恥ずかしいよ........」

 

俺の行動に女子達は頬を赤く染め、男子達は「いきなり何やってんだ?」と驚愕する。当の本人達はドキドキと胸を高鳴らせていた。

 

「刀崎!こんな時に何をっ.........」

「黙ってろ、天之河」

 

近づこうとした天之河は俺がドスを乗せた声で威嚇するとピクっと停止する。

 

「俺は、お前達のことを大切に思ってる。誰かに傷付けられれば命に変えても復讐するし、俺に出来ることならなんだってする」

「け、京?なんで急にそんな..........」

「デレてくれるのは嬉しいけど..........様子がおかしいよ?」

 

ああ、南雲が落ちて悲しんでいる時にこんな事を言うのはおかしい。だが伝えとかなければいけない、絶対に。

 

「だから、絶対に帰ってくる。約束だ」

「まさか..........冗談よね?」

「そんなサプライズいらないよ.......?」

 

きっともう彼女たちは察しているのだろう。その最悪の結果というものを。俺は立ち上がってクラスへと声をかける。

 

「悪いな、待たせて。だけど俺はどうしてもあいつを見捨てることが出来ない。というわけでみんな、またな!」

「よせ!京!!」

 

俺の行動を察して団長が止めようとするがまぁ間に合うはずもない。俺はそのまま奈落向けて飛び込んだ。

 

「嘘、嘘嘘嘘!!?京!?」

「なんで!?待って、待ってよぉ!!」

 

落下して行った京を追いかけるように二人共が飛び込もうとして、それを団長達に抑えられる。だが、京が見えなくなった瞬間、二人共同時にペタリと地面へ座り込んでしまう。

 

「..........っ!撤退するぞ!」

 

最後、苦しげな声でメルドは撤退の指示を出した。雫は光輝に、恵里は鈴に支えられて、クラス全員がその場から撤退する。




キャラ達の色々な過去を描写していないので結構考察してる人も多いのでしょうか。そのうち書きますので、悪しからず。


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斬魄刀

ーーよ

 

 何かが、脳裏に響いた。雫か、それとも恵里だろうか? 朝起こすにしてもなんでお前らが俺の部屋に......

 

ーーきよ

 

今度はしっかりと聞こえてきた。雫や恵里でもない、野太い男の声だ。

 

ーー起きよ! 

 

「ハッ!?」

 

強い言葉と共に俺の精神は覚醒する。した........のだが、そこは真っ白な空間。果てしなくどこまでも、純白の世界が続いている。

 

「やっと起きたか、たわけが」

「っ!?」

 

妙な威圧感を感じて、振り返る。そしてそこにいた物に、俺は固まった。純白の世界とは対象的な黒色の皮膚。獰猛に剥かれた牙や爪。それはまるで、神話に語られるような地獄の番犬、三つ首を持つケルベロスに姿が酷似していたからだ。

 

だが、不思議と恐怖心はない。それを見ていきなり逃げ出したいとも思わない。なんならどこかで会ったような懐かしさがある。

 

「.........誰だ?お前」

 

俺の質問に真ん中の首が目を細めた。

 

「我は汝が斬魄刀、『天変飢餓(てんぺんきが)』。姿は見た通りだ」

「斬魄刀.........?」

 

聞いたこともないが、俺の天職が死神であるのとなにか関係があるのだろうか。

 

「無駄話はせん。貴様はもう我を使える段階に至った」

「は?何言って.........」

「我ら斬魄刀の『始解』を会得したと申したのだ」

 

んー、そんな事言われてもよくわかんねぇな。実際に使った訳じゃねぇし。

 

「ではな、京。また会うとしよう」

「は、ちょ待っ..........」

 

俺の制止能わず、視界が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

なにやら硬い物の上で俺は目を覚ました。ゴツゴツとした何か、いや、それはよく見るとベヒモスだった。

 

「えぇ......?」

 

どうやら落下して死んだようだった。目から光は消えており、ピクリとも動かない。

 

「ってか、夢か.......?」

 

夢にしては変に現実的だったが。斬魄刀とか、『始解』とか、よくわかんねぇよ。

 

「ステータスオープン」

 

俺の前で開かれたそれを見て、驚愕することとなる。

 

==========================

 

刀崎 京 17歳 男 レベル80

天職:死神

筋力:4500

体力:3800

耐性:3600

敏捷:3000

霊力:9700

魔耐:2800

技能:瞬歩・斬魄刀『天変飢餓』[+解号][+始解]・霊力操作[+霊圧上昇]・破道・縛道・縮地・霞ノ体[+霞化け]・怪腕・精神耐性・状態異常耐性・言語理解・鑑定[+鑑定共有][+空間認識]

 

==========================

 

.........なんか増えてるんですけど。ていうかあの夢、いや現実だったのか。

 

とりあえず、先を急ごう。薄暗いが緑光石の発光で少しならば見える。

 

「........ん?刀?」

 

俺がベヒモスから降りて南雲を探そうとしていると、道に突き刺さる一刀の刀があった。こういうのは大抵トラップだと思うのだが、不思議と俺の体はそれに惹き付けられていく。

 

全体的に黒を基調とする刀で、組紐は血を塗ったような赤となっている。鍔は至って普通なので、日本にあるようなものだろう。

 

「っ!」

 

柄を掴むと、ドクン!と一瞬俺の中で何かが脈動する。体を触ってみるが........って、ええ?服装がよく分からない黒の着物に変わっている。

 

「よく分からんが........俺の天職、なのか?」

 

本当に意味不明だが、まぁ力があるのはありがたい。何故かここは異様な雰囲気が漂っている。上の迷宮とは何か違うのかもしれない。

ともすれば、ツルッと滑ってしまった。

 

「うおぉ!?」

 

どうやら水で滑って転んだらしい。見てみると、壁に穴が空いている。ともすれば、急に降り注いだ水に押しやられて俺は穴へと押し流された。

 

「な、なんだこれ〜!?あいたぁ!?」

 

ウォータースライダーよろしくかなりの速度で滑り降りていく。途中で速度が出過ぎて所々、体を打ちつける。そんな体験をしながら約数分、ようやくウォータースライダーの終わりが来た。

 

噴き出した鉄砲水のようなもので押され、地面を回転しながら水面にダイブした。

 

「ごぼぼぼぼ!?」

 

どうやらそんなに深いことはなく、手をついて顔を上げる。

 

「ぷはっ!はーっ!はーっ!」

 

し、死ぬかっと思った。生まれてこの方溺れたことはないが、今回ばかりはまじで溺れるんじゃないかとヒヤヒヤしたぞ全く。

 

ずぶ濡れになったはずの黒い着物は、自然と乾いていた。どんだけ通気性と吸着性が高いんだよ。ていうかもしかして触れた瞬間に水、蒸発してない?

 

そう思って水をかけてみると、違った。この着物はどうやら水を完全に弾くようだ。

 

「すげぇな、この着物。なんか気づいたら着てたけど」

 

感心するのはそこそこに、辺りを見回す。水が流れる音以外に環境音は聞こえない。洞窟は続いているのでとりあえず歩いていく。

 

「.......ん?」

 

なにやら、咀嚼音が聞こえる。グチュリ、グチャリ、肉をかみ潰しているような嫌な音だ。岩陰から覗いてみると、尻尾が二つある狼が、上半身だけの赤い瞳をしたウサギを捕食していた。なおその狼には、ドクン、ドクンと体に赤黒い線が走り、波打っている。

 

人間、医者でもなけりゃグロいところを見ると吐き出すもんだ。でも、俺はなんとも思わなかった。家でグロゲーとかをしていても、リアルで見るものは全く違うというのに。何をするでもなくじっとその捕食を見続けていた。

 

「.......行けるか」

 

刀を抜刀して、岩陰から出る。深く構え、一歩。一瞬で景色が変わって、ドサリと俺の横に狼の頭が落ちた。

 

俺は、瞬間移動の変わりにあった瞬歩という技能を使った。一瞬で短距離間を移動するものだ。そのうちに二尾狼の首を刎ねた、という訳だ。

 

「まぁまぁ、戦えるな。ここはなんだが雰囲気が違う気がしたが..........気のせいか?」

 

簡単にしんでいく魔物に、少しだけ気分が良くなった。だが、そんな気分は一瞬にして何かの殺気で塗り潰されていく。

 

「っ!?」

 

咄嗟に横へ避ける。すると、先程俺が居た地面に三本の爪痕が刻まれていた。それが飛んできた方向にじっと目を凝らす。

 

「グルルルル........」

 

あるー日、迷宮の中、くまさーんに、であーった。.........じゃねーよ!

俺が見つめるその先に、魔物がいた。そして魔物は巨体、二メートルはあるだろう巨躯に白い毛皮、赤黒い線が幾本も体を走っている。その姿は、たとえるなら熊だった。ただし、足元まで伸びた太く長い腕に、三十センチはありそうな鋭い爪が三本生えている。

 

「..........くまさん、何しにきたんすか?」

 

直後、爪熊は腕を振った。その瞬間、猛烈なる殺気に襲われてその場を飛び退く。するとまた、俺のいた所に三本爪の痕が刻まれる。

 

「ちぃ、遠距離型かよ!?」

 

面倒だ、どうする。もし瞬歩で近づけたとしても途中で切り刻まれるかもしれない。俺には南雲を助けるという揺るぎない信念がある。ここで死ぬわけには行かない。

 

(考えろ、どうする?こいつを倒すには、どうしたらいい!?)

 

俺は攻撃をなんとか避けながら、爪熊に対しての対策を考える。だが、策よりも先に浮かんできたものがある。その『言葉』は、自然と口から紡がれた。

 

「貪り喰らえ、天変飢餓」

 

直後、ゴウッ!と空気が振動した。その振動で霧が発生し、刀を一振すると一気に霧散していく。俺の刀は、闇のように暗く黒い刀身の中央を血液の様な紅い線が通る黒刀へと姿を変えていた。

 

「.........もしかして、これが『始解』ってやつか..................?」

 

感心して爪熊から目を離していると、怒りなのか攻撃してくる。先程とおなじ風の爪。だが、()()()()()()()()()

 

向かってくる風の爪を、俺は力を込めて両断する。

 

「グガッ!?」

 

まさか自分の攻撃が防がれるとは微塵も思ってなかったのだろう。爪熊は、一瞬だけ硬直する。だが、俺にはその硬直だけで十分だ。瞬歩で一瞬にして爪熊の首を刈りとる。

 

またもドサリと爪熊の首が血に落ちた。

 

「.......お?」

 

すると、妙に俺の体からドクン、ドクン心臓音が聞こえてくる。刀に付着していた血液が、その場で()()()。いや、正確には()()()()()

 

「............もしかして」

 

俺は爪熊、二尾狼、死んでるウサギを順に刺していく。やはり俺の予想通りに、どの魔物も質量関係なく刀身に吸収されていった。すると、何故か俺の力が漲ってくる。

 

==========================

 

刀崎 京 17歳 男 レベル85

天職:死神

筋力:5000

体力:4200

耐性:4100

敏捷:3500

霊力:10600

魔耐:3300

技能:瞬歩・斬魄刀『天変飢餓』[+解号][+始解]・霊力操作[+霊圧上昇]・破道・縛道・天歩[+空力][+縮地]・霞ノ体[+霞化け]・怪腕・風爪・纏雷・精神耐性・状態異常耐性・言語理解・鑑定[+鑑定共有][+空間認識]

 

==========================

 

やはり、刀が捕食して俺の力になっている。あと、技能の方も進化してきた。

 

「んじゃま、適当に理解しながら南雲探すとするか!」

 

そのまま俺は洞窟の奥へと消えるのだった。




斬魄刀の説明については、全貌が明らかになってからとします。ちなみにネタバレすると、ハジメは魔物の肉を喰らって激痛を伴っていましたが、京は斬魄刀がその全てを喰らうので、必要が無くなった成長、技能という物だけが京に渡ります。
奇跡的に、斬魄刀が腹を満たし京がレベルアップするというwin-winの関係が構築されているのです。


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死の淵で抗う獣達

刀崎 京が自分のことを助けに来ているなどとは梅雨も知らない南雲ハジメ。彼は、錬成して掘った穴で死を待っていた。

 

遡ること数日前。ハジメはこの世の弱肉強食の現状を目の当たりにする。弱き者が淘汰され、強き者が生きるこの世界。彼の片腕は京も戦闘をした爪思い熊により捕食されてしまった。

 

何とかこの穴を作り逃げ仰せ、たまたま湧き出ていた神結晶により傷はふさがったが、再生される訳では無い。そこからずっと幻肢痛に悩まされながら己が死を待ちづけているという訳だ。

 

だが、地獄はこれから始まるのだ。

 

 

 

 

三日経つ。

 

(どうして僕がこんな目に?)

 

何度もその疑問が頭の中を駆け巡る。

 

幻肢痛がハジメの体を悩ませ、それから逃れるために水を飲んだ。そうすることを何度も、何度も何度も繰り返していく。意識を失うように眠り、苦痛が精神を叩き起す。しかし神水のせいで体は健康体のまま。

 

 

 

 

さらに三日経つ。

 

一時ピークを迎えた、治まりかけた飢餓感だったが、再び反逆の狼煙を上げてハジメを襲う。幻肢痛は一向に改善などされることも無く、ハジメの精神を、一滴ずつコップに水を注ぐように少しずつ崩壊させていた。

 

(まだ……死なないのか……あぁ、早く、早く……死にたくない……)

 

死を望んでも、本能が性に縋る。矛盾を抱えた思考が、いつも駆け回る。ついには正常な思考などできるはずもなく、支離滅裂なうわ言を呟くように。すでに浸水は飲んでいない。このままでは死へと一直線だ。

 

 

 

 

更に更に三日経つ。

 

神水の効果は既になく、食料も無い。このままでは二日と持たずに死ぬんじゃないかと、予測される。

 

極限状態というのは人間の精神に異常をきたす。度重なるストレス、その根源が彼の精神をドロリしたコールタールのような黒いものへと変えていく。少しずつ、少しずつ、侵食していくのだ。

 

(なぜ僕が苦しまなきゃならない……僕が何をした……)

(なぜこんな目にあってる……なにが原因だ……)

(神は理不尽に誘拐した……)

(クラスメイトは僕を裏切った……)

(ウサギは僕を見下した……)

(アイツは僕を喰った……)

 

これまでの精神とは別に、黒い感情が生まれていく。白紙の紙が黒いインクに侵食されるように、どんどんハジメは歪んでいく。

 

無意識に敵を探し、飢餓感、幻肢痛、様々な要因が黒い感情を加速させる。

 

(どうして誰も助けてくれない……)

(誰も助けてくれないならどうすればいい?)

(この苦痛を消すにはどうすればいい?)

 

ついには、無意識のうちに現状の打開策を考えるようになっていた。

 

()は何を望んでる?)

(俺は〝生〟を望んでる。)

(それを邪魔するのは誰だ?)

(邪魔するのは敵だ)

(敵とはなんだ?)

(俺の邪魔をするもの、理不尽を強いる全て)

(では俺は何をすべきだ?)

(俺は、俺は……)

 

 

 

 

十日目。

 

ハジメからほとんどの感情が無くなった。全てどうでもいいこと、と切り捨てたのだ。

 

(殺す!)

生に縋りつくための、純粋なる殺意。純度100%の、この世界の誰よりも研ぎ澄まされた殺意だけが芽生えた。

 

自身の敵になるならば、それがなんであろうと殺す。

 

そして、飢餓感から脱出するためには。

 

(殺して食ってやる)

 

ここに来て、みんなが知るような優しく温厚な南雲ハジメは死んだ。今ここに誕生したのは、度重なる理不尽が心を鍛えた、生に伴う純粋なる殺意を敵に振りかざす南雲ハジメ。

 

すっかり弱ってしまった体を動かし、神水を犬のように飲む。飢餓と幻肢痛は戻らないながらも、身体中に活力が戻る。

 

「殺してやる」

 

ギラギラと光った瞳、獰猛に牙を覗かせ、宣言するようにもう一度呟いた。

 

 

 

 

 

 

あれから、南雲ハジメという獣は昔の南雲ハジメが跡形もなく消滅するほど格段に成長した。

 

魔物を駆り、血肉を喰らい、その体は別の者へと作りかえられる。その際に伴った痛みすら耐えきり、自身の知識と魔法を、応用して武器を作った。

 

大型リボルバー式拳銃、しかしそのカラクリはレールガン。燃焼石だけではなく、固有魔法である纏雷の電磁加速によって銃弾を射出するそれを、ドンナーと名付けた。

 

だがそれだけでは止まらない。彼は次々に武器を作り上げていったのだ。剣と魔法のファンタジー世界に、現代兵器が産み落とされた。

 

ハジメが生産した武器達は、例外に漏れず全てが魔物に牙を剥いた。特にドンナー、この長身型バレル搭載の大型拳銃に急所を撃ち抜かれれば、ほぼ確実に相手は死ぬ。あまりの威力に、急所部位とそこを中心に円形の中型くらいの穴が空くのだ。

 

自身の体の欠損は、人間であろうと魔物であろうと致命傷に等しい。故に、ほぼ確実に相手は死ぬ。

 

これを駆使し、ついには宿敵であった爪熊にも勝利を収める。ドンナーにより爪熊を屠った。そして、いつものようにその血肉を喰らい、糧とする。

 

その後は上階をめざして探索を続けることによって日が過ぎていく。だが、自然とその足はさらに下の層へと向いたのだ。

そしてついに五十階層過ぎたあたりで、ハジメは運命の出会いをする。

 

300年前に滅んだはずの吸血鬼の生き残り、自動再生により桁外れの不死性を手にして封印された少女。ハジメは名の無い彼女にユエと名付けた。

彼女の力は規格外で、当代最高と呼ばれるほどの魔法使いだったらしい。

 

「どうして…?」

「あ?」

「どうして逃げないの?」

 

現在、ハジメはユエを解放したことにより発動したトラップのサソリもどきと敵対していた。そんな折り、ユエがそんな事を言ってくる。

 

「何を今更。ちっとばっかし強い敵が現れたぐらいで見放すほど落ちてねぇよ」

 

さも当然のように、ハジメは言い放つ。ユエは、ハジメに言葉以上の何かを見たのか納得したように頷き、いきなり抱きついた。

 

「お、おう? どうした?」

 

いきなりの事に戸惑うハジメ。もうすぐ閃光手榴弾により後退したサソリもどきがもうすぐ戻ってくるだろう。あまり固まってはいられない。

 

「キシャァァァァァァァ!?!!?!!?!??」

「っ!、なんだ!?」

 

突如、サソリもどきが断末魔のような声を上げた。その声に、ハジメ達はサソリもどきを注視する。

 

「破道の三十三、蒼火墜!!」

 

どこか聞き覚えのある声と共に、サソリもどきへ蒼い炎が直撃する。

 

「キシィィィィ!!」

「あーもう、うっせぇな!黙ってろ!!........雷鳴の馬車、糸車の間隙、光もて此を六つに別つ。縛道の六十一、六杖光牢!!」

 

どこからともなく現れた六つの光の帯が、サソリもどきの胴体のような部分に突き刺さる。すると、サソリもどきはもがいているが動かない。

 

「ま、とりあえず一旦って所か」

 

偶然にも、その影はハジメ達の目の前に着地する。

 

「っ!...........お前は!」

 

見覚えのあるその背中に、驚きのあまりハジメは片腕で目を擦った。ここにあいつがいるのはありえない。しかし、現実にはそこにいる。着ている服は違えど、あきらにその姿は、刀崎 京その者だった。

 

 

 

 

 

 

遡ること数日前。

 

あれからどんだけ行っただろうか。階層は四十を超えてから数えるのをやめた。まぁ、色々と技能を見る時間はあったから僥倖か。

 

「キュイ!」

 

と、俺の目の前にこの前、二尾狼に食われていたウサギが現れる。下半身って、そんな風だったんだな.......。

 

「キュッ!」

「っ.....と!」

 

いきなり、豪速球で突進してくる。俺はすっかり戦闘にも慣れた体を半身引いて、無駄なく攻撃を回避した。そして俺は、自動で頭に流れてくる文字の羅列を察して、その照準をまだ隙があるウサギへ向ける。

 

「君臨者よ、血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ、焦熱と争乱、海隔て、逆巻き、南へと歩を進めよ!。破道の三十一、赤火砲!」

 

ウサギが次の攻撃に移る前に詠唱が終わり、俺の手からバスケットボール波の大きさの火球がウサギへ放たれ、避ける暇もなく直撃した。

 

「キュイイイイイ!?」

 

衝撃で吹っ飛ばされ、バキィ!と鈍い音がしたかと思うと、そのウサギはどうやら首の骨を折ったようで、絶命した。すかさず俺は天変飢餓でウサギの肉を喰らわせる。

 

「ん〜、なんとも言えぬこの感覚。素晴らしいね!」

 

こんな奈落の奥だ、テンションも上げていかなきゃ損って物さ。

 

先程放った赤火砲、これは九十九の式がある中の一つだ。ちなみにもう一つの縛道の方にも九十九の式がある。もしや魔法が使えなかったのは変わりに破道や縛道があったからかもしれない。

 

ちなみに破道は攻撃系統、縛道は連絡や探索、相手の拘束などに用いる.......と技能欄には書いてあった。

 

もう一つ発見があった。なんと斬魄刀『天変飢餓』、始解の状態だと斬った相手の周辺部位全てを喰らう。ちなみにその規模は刀の気分次第、すごく特殊な能力を持った刀だ。

 

「ん?」

 

探索していると、大きな扉があった。そしてよく見ると、大量に血を噴出して倒れている魔物が二匹。サイクロプスと形容するのが正しいだろう。とりあえず吸収しておく、誰が倒したのかは知らんが。

 

「さて........と?」

 

少し開いた扉から中を覗いてみる。すると、真っ先に聞こえてきたのは、こんな異世界には似つかわしくないドパン!ドパン!という銃声。あと、よく分からない甲虫類の尻。

 

「よっ、と」

 

ブスリと、尻尾付近に天変飢餓を刺してみる。すると、見る見るうちにその血肉を食らっていく。そして、今までに無いほどの力が湧いてくる。

 

「お、おお....!」

 

まだまだ、飢えた獣がようやく肉を与えられた様に異常な速度で吸収していく。やがて、尻尾付近全てを吸収し終えた。

 

「キシャァァァァァァァ!?!!?!!?!??」

 

その甲虫類が得体の知れない断末魔のような声を上げた。驚いて、咄嗟に前へ大きく飛んでしまう。

 

「破道の三十三、蒼火墜!!」

 

空中の不安な体勢だが、俺ならできる。詠唱破棄でとりあえず赤火砲より威力の高いものをぶっ込んでみる。

寸分違わずサソリもどきの頭部へと、蒼い炎が直撃した。

 

「キシィィィィ!!」

「あーもう、うっせぇな!黙ってろ!!........雷鳴の馬車、糸車の間隙、光もて此を六つに別つ。縛道の六十一、六杖光牢!!」

 

蒼火墜によって俺を認識したらしい。さっきのはお前か!と言わんばかりに怒りを顕にしていた。まぁうるさいからとりあえず拘束するけど。

どこからともなく現れた六つの光の帯が、サソリもどきの胴体のような部分に突き刺さる。

 

俺はそのまま来る途中でマスターした天歩で、縮地と空力を使いながらゆっくりと着地した。

 

「ま、とりあえず一旦って所か」

「っ!...........お前は!」

 

その時、後ろから声がした。聞き覚えのある声だ、しかし俺の印象とは少し違い、何か刺がある。

 

「ん?...........んん?」

 

振り返りそこにいた人物に、俺は目を疑った。




京くんは、時間がある時は詠唱しますが時間が無い時は詠唱破棄します。何故って?カッコつけたいからです。

そして次回(今回後半から)、ようやく彼らの再開です。


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血肉を求める獣達、相見える

白髪にギラギラと光った瞳、すっかり見るかげもないその人物に俺はどこか見覚えがある........のだが。

 

「えっと.........どちら様ですか?」

「っおい!俺だ、南雲ハジメだ!」

 

うん、知ってるよ。随分と身長や雰囲気は変わったが、なんとなく面影がある。.........でもなぁ、そこの子がなぁ。

 

「いや、俺の知り合いにそんな、白髪でなんか片手無くて、裸の女の子抱いてるようなやつなんていないし.............」

「バッ..........違っ!ユエも早く離れろ!」

 

どうやら彼女はユエというらしい。いやー、見れば見るほどロリ体型なんだが、っていうかなんで俺はナチュラルに女の子の裸を見ているのだろう。

 

「えっと、ユエだっけ。これでも着てな」

 

俺は彼女にパサリと来ていた黒の着物を渡す。まだ中には白い着物があるから大丈夫、大丈夫。

 

「ん........ありがとう」

「おう。さすがにそんな状態で居られるとキツい」

 

そう言いながら俺はじっ、と南雲を見つめる。「な、なんだよ......」と俺が何かしたか、とでも言うような返しをしてくる。

 

「いやー、南雲さんは女の子が裸でいても何もかけてあげないんだな、と」

「仕方ねーだろ!?サソリに手一杯だったし渡してやるもんが何もねーんだよ!」

 

わたわたと言い訳をする南雲。どこか変貌前の彼に盾いるところがある。

 

「.........にしても、お前も随分と変わったな」

「ん?ああ。身長も少し伸びたんじゃね?」

 

自分のことはあんまり気にしてなかったが、言われてみれば。南雲も身長が伸びているのだが、まだ俺の方が高い。

 

「それにその刀とか、さっきの魔法とか、どうなってんだ?お前は確か魔法は使えなかったはずだろ」

「魔法じゃねぇんだな、これが。ま、後で話すさ」

 

そう言いながら、俺はサソリを睨む。どうやら六杖光牢の力が消えたらしい。自由になったサソリは威嚇するように左右の爪を振り上げている。

 

「あいつを倒さねぇと、こっから出んのは難しい」

「なるほどな。りょーかい、まかせろ」

「ん........時間を作って、欲しい」

 

ユエは俺にそう言う。何かをするつもりなんだろう。それを察して、俺は頷く。

 

「ま、倒したらすまんな」

「んっ!」

 

そう言うと再び南雲に抱きついた。それを見て見ぬふりをして、俺はサソリへ突っ込んでいく。

 

「キシャァァァァァ!!」

「うっさいっての!」

 

怒りに任せ振り下ろした爪を俺は片腕で弾き飛ばす。大きく仰け反ったサソリもどきのクラブに刀を突き立てた。

 

「好きなだけ喰らえ!」

 

グイッと力を込める。すると、瞬く間に天変飢餓がそのクラブを食い尽くしている。

 

「キシャァァァァ!?」

「耳元で騒ぐんじゃねーよっ!」

 

食い終わった俺は、すでに満タンのコップに水面張力ギリギリの精度を求めたように力が漲ってきている。元々俺の武器は素手だ、サソリもどきの腹部に入り込み、踏み込む。

 

「オラァ!」

 

ドゴォン!とかなり強度が強そうな外殻を貫き、衝撃波がサソリもどきを空中に打ち上げる。その瞬間にとてつもなく大きい魔力反応を感じた俺は、瞬歩ですぐさま南雲の所まで戻った。

 

「ぷはっ、吸血完了。............"蒼天"!!」

 

ユエが放った魔法、その正体は青白い炎の球体だ。打ち上げたサソリもどきが球体に押され、床とサンドすることによって、魔法に対してもかなりの強度を誇るだろうその外殻がドロドロに溶ける。

 

「お疲れさん、ユエ。助かったよ」

「んじゃま、畳み掛けますか!」

 

俺と南雲は同時に走り出す。瞬歩で先に到達した俺が、外殻が溶けたその間の肉に向かって拳を叩き付ける。すると、サソリもどきの全身に衝撃波が轟いて、体液が撒き散らされる。

そこにドパン!ドパン!と銃声が響き、別の外殻の穴へ銃弾が撃ち込まれた。

 

「これでも食らってな!」

 

グイッ!と溶解液まみれの中へ手を突っ込み手榴弾をセットした南雲は下がり始める。俺も瞬歩で撤退するが、振り向きざまに式を練る。

 

「破道の三十一、赤火砲!!」

 

その照準を合わせるのは、南雲が埋め込んだ手榴弾の辺り。寸分違わず向かった火球は、無事引火して手榴弾の大爆発を引き起こした。サソリもどきはその爆発で辺り一体に体液や肉、外殻を撒き散らした。

 

 

 

 

 

 

無事にサソリもどきを倒した俺達は、その血肉や外殻を回収して南雲が拠点としているところに案内された。刺して喰らわせようとすると、慌てて止められたが。拠点で、南雲が変貌した経緯を彼は語った。聞くにおぞましい地獄のような話だ、俺が当事者なら耐えられない。

 

俺もお返しにとここまでの経緯を語った。すると、南雲は俺の刀を興味深そうに眺める。

 

「刀身が変貌する、斬魄刀............お前の天職、なかなかに異常だな」

「お前にゃ負けるさ」

 

二人してニヤリと笑う。まさかこうして南雲と笑う日が来ようとは、俺自身思ったことがなかった。消耗品を補充しながら、さらに話を進める。

 

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

「……マナー違反」

 

ユエが非難を込めたジト目で南雲を見る。俺もないわー、と非難の視線を送った。

 

「お前.........非常識だろ」

「うっ...........」

 

自分に非があると認めたからこそ、何も返せない。

 

「あ、そう言えばなんでユエを助けたのか聞いてなかったな」

「ん、私が話す」

 

そうすると、ハジメを制止してユエが語り始めた。どうやら彼女は先祖返りをした吸血鬼で、通常の吸血鬼よりも膨大な力を持ち、その力を国のために使ってきたらしい。しかしある日叔父に裏切られて、技能のせいで不死性を獲得して死ねないユエをこの大迷宮に封印したんだとか。

 

「なかなかなお話でした........」

「吸血鬼って皆そんなに長生きするのか?」

「私は特別。再生で歳もとらない」

 

12歳の頃に魔力の直接操作や、自動再生の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないとか。まぁ、死なないってことはメリットではあるがデメリットもあるけどな。何がとは言わないが。

 

「それで........肝心の話だが、ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」

「....わからない。でも......」

 

何かを知っているのか、ユエは南雲の問いに返答する。

 

「.....この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

「「反逆者?」」

 

聞きなれない上、不思議な言葉に南雲と声が重なった。

 

「反逆者........神代に神に挑んだ神の眷属のこと。......世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

 

彼女曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。

 

その果ての一つがこの【オルクス大迷宮】らしい。奈落の底の最深部には反逆者が住まう場所があるんだとか。

 

「......そこなら、地上への道があるかも.......」

「なるほど。奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がってくるとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないってことか」

 

コクリと、彼女は頷いた。錬成を続けている南雲には見えないが。

 

「んじゃ、そこ目指して行くしかないってこったな」

「ああ、その通りだ。それに、さっさと抜け出して元の世界に帰りたいしな」

 

そう南雲が言うと、ユエの表情は暗くなる。

 

「.......帰るの?」

「うん?元の世界にか?そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。.......色々変わっちまったけど.......故郷に.......家に帰りたい.......」

「.......そう」

 

ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。

 

「.......私にはもう、帰る場所.......ない.......」

「「...........」」

 

その言葉に、俺達は黙ってしまった。そうすると、錬成を中止した南雲がガリガリと頭を掻いて、ユエの頭を撫でた。

 

「あ~、なんならユエも来るか?」

「え?」

 

南雲のその言葉に、ユエは驚いた様に目を見開いた。まさか誘いが来るとは微塵も思ってなかったのだろう。

 

「それがいいじゃん。帰る場所がないなら日本にユエが来ればいい」

「普通の人間しかいない世界だし、戸籍やらなんやら人外には色々窮屈な世界かもしれないけど......今や俺も似たようなもんだしな。どうとでもなると思うし.........あくまでユエが望むなら、だけど?」

 

しばらく唖然としていたが、理解が追いついたのか「いいの?」と俺と南雲の瞳を見比べながら問うてくる。南雲は苦笑いしながら、俺は普通に笑って頷く。ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。南雲はそのユエに頬が少し赤くなっていたが、首を左右に振ると元通りに。

 

俺?俺は別に........可愛いとは思うが地上に、なぁ?

 

ユエが俺たちの世界に来るということも決定し、俺達は、地上へ出るための準備を進めた。




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花は残酷に貪られる

「だぁー、ちくしょぉおおー!」

「なんだこの量はァァァァ!?」

「........ハジメ、京、ファイト........」

「お前は気楽だな!」

 

現在、俺は南雲達と共に草むらの中を奔走していた。周りは百六十センチメートル以上ある雑草が生い茂り南雲の肩付近まで隠してしまっている。ユエなら完全に姿が見えなくなっているだろう。ちなみに俺も同じくらい。

 

「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」

 

理由はこいつら、二百体近い魔物に追われているからである。先程から俺が後ろへ向かって破道を食らわせているのだが、それで減らしてもこの多さだ。

 

「ええい面倒だ!千手の涯、届かざる闇の御手、映らざる天の射手、光を落とす道、火種を煽る風、集いて惑うな我が指を見よ。光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔、弓引く彼方、皎皎として消ゆ。.......破道の九十一、千手皎天汰炮!!!」

 

俺の背後から後ろの魔物たちへ向けて長細い三角形の光の矢が降り注いで行く。その矢はほぼ全ての魔物にい命中して少しの間硬直させる。

 

「南雲ぉ!!」

「分かってるよ!!」

 

手榴弾ふたつを抜き、魔物たちへと投擲する。魔物達は足元に転んだ爆弾によって爆発に宙を舞う。俺はその内に天変飢餓を始解させ、地面に向かって突き立てた。

 

「草を喰らえ!!」

 

ズブズブと、周りに生えていた草がどんどん低くなっていく。その辺に生えている草でさえも、俺の中に滾るのは栄養として。視界が良くなると、そこに残っていたのは二十体ほど。

 

「双蓮蒼火墜!!」

「"蒼天"!!」

 

俺の式とユエの魔法が同時に出現する。前方からは蒼火墜よりも格段に威力が上昇している蒼い炎、上空からは青白い球体。魔物達は咄嗟の出来事にに逃げ出すことも出来ず、爆発され、焼かれた。

 

「ふぃー、何とかなったな」

「お前........なんださっきの」

「ん?破道だよ、あれも」

 

そう言うと困惑したような表情を見せる。最近は結構な頻度で南雲を援護していたユエが対抗するように相手を瞬殺してしまう。そこにもちろん俺は攻撃するわけで、南雲の出番はめっきり減ってしまった。

 

「ハジメ、血」

「はいはい.......」

 

先程のように大きい魔法を発動してしまうと、今のユエの魔力はすぐに尽きてしまう。なので南雲から吸血することによって色々と回復しているのだ。ちなみに俺を吸血すると、「京の血は、非常食にする」と言われた。

 

あんまり意味がわからんが好き好んで南雲の飲んでくれるならこちらも貧血にならずに済むのでありがたい。

 

「にしても、だ」

「ああ.........」

 

俺と南雲の予想は同じだろう。意図しなくても、声が重なる。

 

「「敵があまりにも弱すぎる」」

 

俺たちの言葉に、ユエもハッとしたような表情をする。

 

ラプトルもティラノも先程の魔物達も、動きは単純そのもので特殊な攻撃もなく簡単に殲滅できてしまった。それどころか殺気はあれどもどこか機械的で不自然な動きだった。

 

明らかになにか操られているような、そんな印象を受ける。その時、南雲がバッ!と振り返った。俺も嫌な予感がする。

 

「ユエ、刀崎、ヤバイぞ。三十いや、四十以上の魔物が急速接近中だ。まるで、誰かが指示してるみたいに全方位から囲むように集まってきやがる」

「........逃げる?」

「........いや、この密度だと既に逃げ道がない。一番高い樹の天辺から殲滅するのがベターだろ」

「俺の破道も広範囲殲滅じゃないしな」

「ん........特大のいく」

「おう、かましてやれ!」

「んじゃま、頼んだぜ」

 

南雲とユエと俺は高速で移動しながら周囲で一番高い樹を見つける。そして、その枝に飛び乗り、眼下の足がかりになりそうな太い枝を砕いて魔物が登って来にくいようにした。

 

南雲はドンナーを構えながら静かにその時を待つ。俺も息を殺して身を潜める。

 

そして第一陣が登場した。ラプトルだけでなくティラノもいる。ティラノは樹に体当たりを始め、ラプトルは器用にカギ爪を使ってヒョイヒョイと樹を登ってくる。

 

南雲はドンナーの引き金を引いた。発砲音と共に閃光が幾筋も降り注ぎカギ爪で樹にしがみついていたラプトルを一体も残さず撃ち抜く。

 

撃ち尽くしたドンナーからシリンダーを露出させると、くるりと手元で一回転させ排莢し、左脇に挟んで装填する。この間五秒。器用な事だ。

 

その間、隙ができる南雲を俺が式で援護した。そして、再度装填完了したドンナーを連射する。俺達だけで既に十五体は屠ったはずだが、まだまだ満足感がない。

 

既に眼下には三十体を超えるラプトルと四体のティラノがひしめき合い、俺達のいる大木をへし折ろうと、あるいは登って襲おうと群がっているからだ。

 

「ハジメ?」

「まだだ.......もうちょい」

 

ユエの呼び掛けにラプトルを撃ち落としながら答える南雲。ユエは南雲を信じてひたすら魔力の集束に意識を集中させる。

 

そして遂に、眼下の魔物が総勢五十体を超え、今では多すぎて判別しづらいが、事前の気配感知で捉えた魔物の数に達したと思われたところで、南雲は、ユエに合図を送った。

 

「ユエ!」

「んっ!"凍獄"!」

 

ユエが魔法のトリガーを引いた瞬間、俺が達のいる樹を中心に眼下が一気に凍てつき始めた。ビキビキッと音を立てながら瞬く間に蒼氷に覆われていき、魔物に到達すると花が咲いたかのように氷がそそり立って氷華を作り出していく。

 

魔物は一瞬の抵抗も許されずに、その氷華の柩に閉じ込められ目から光を失っていった。氷結範囲は指定座標を中心に五十メートル四方。まさに〝殲滅魔法〟というに相応しい威力である。

 

「はぁ.........はぁ.........」

「お疲れさん。流石は吸血姫だ」

「さすがユエだな。サンキュ」

「..........くふふ........」

 

周囲一帯、まさに氷結地獄と化した光景を見て混じりけのない称賛をユエに贈る俺と南雲。ユエは最上級魔法を使った影響で魔力が一気に消費されてしまい肩で息をしている。おそらく酷い倦怠感に襲われていることだろう。

 

南雲は傍らでへたり込むユエの腰に手を回して支えながら、首筋を差し出す。吸血させて回復させるのだ。神水でもある程度回復するのだが、吸血鬼としての種族特性なのか全快になるには酷く時間がかかる。やはり血が一番いいようだ。

 

ユエは、南雲の称賛に僅かに口元を綻ばせながら照れたように「くふふ」と笑いをもらし、差し出された首筋に頬を赤らめながら口を付けようとした。

 

だが、それを止めるように突如、南雲が険しい表情で立ち上がる。俺もさらに嫌な予感が増していた。

 

「南雲」

「ああ。ユエ、更に倍の数だ」

「!?」

「こりゃいくらなんでもおかしいだろ。たった今、全滅したところだぞ? なのに、また特攻.......まるで強制されてるみたいに........あの花.........もしかして」

「寄生、だろうな」

「お前らもそう思うか?」

 

南雲の推測を肯定するように俺達はゆっくりと首を縦に振った。

 

「.........なら、本体がいるはず」

「だな。あの花を取り付けているヤツを殺らない限り、俺達はこの階層の魔物全てを相手にすることになっちまう」

 

俺達は物量で押しつぶされる前に、おそらく魔物達を操っているのであろう魔物の本体を探すことにした。でなければ、とても階下探しなどしていられない。

 

しかしユエに吸血をさせている暇はない。南雲はユエに神水を渡そうとする。しかし、ユエはそれを拒んだ。訝しそうな南雲にユエが両手を伸ばして言う。

 

「ハジメ.......だっこ.......」

「お前はいくつだよ! ってまさか吸血しながら行く気か!?」

「.......あらあら、お熱いことで」

 

南雲の推測に「正解!」というようにコクンと頷くユエ。確かに、神水ではユエの魔力回復が遅いし、不測の事態に備えて回復はさせておきたいだろう。しかし、自分が必死に駆けずり回っている時にチューチューされるという構図に若干抵抗を感じるであろう南雲。

 

結局了承してユエをだっこ........は邪魔になるため、おんぶして、俺達はは本体探しに飛び出していった。

 

「まーたハードランかよー!」

「ユエ!まだか!?」

 

冒頭に近い数の魔物が後ろから迫ってきている。この展開がデジャヴだと思ったのはそのせいだろう。

 

やばい地響きを立てながら迫っている。背の高い草むらに隠れながらラプトルが併走し四方八方から飛びかかってくる。それを迎撃しつつ、探索の結果一番怪しいと考えられた場所に向かいひたすら駆ける南雲と俺。ユエも魔法を撃ち込み致命的な包囲をさせまいとする。

 

俺達が睨んだのは樹海を抜けた先、今通っている草むらの向こう側にみえる迷宮の壁、その中央付近にある縦割れの洞窟らしき場所だ。

 

なぜ、その場所に目星をつけたのかというと、襲い来る魔物の動きに一定の習性があったからだ。俺達が迎撃しながら進んでいると、ある方向に逃走しようとした時だけやたら動きが激しくなるのだ。まるで、その方向には行かせまいとするかのように。このまま当てもなく探し続けても魔物が増え続けるだけなのでイチかバチかその方向に突貫してみることにしたというわけである。

 

どうやら、草むらに隠れながらというのは既に失敗しているので、南雲は空力で跳躍し、縮地で更に加速する。俺もその後に続き同じ行動をとる。

 

「ユエさん!? さっきからちょくちょく吸うの止めてくれませんかね!?」

「......不可抗力」

「嘘だ!ほとんど消耗してないだろ!」

「........ヤツの花が.......,私にも.........くっ」

「何わざとらしく呻いてんだよ。ヤツのせいにするなバカヤロー!」

「お前ら余裕かっ!」

 

こんな事態でなければ頭を引っぱたいていたとこだ。こんな状況でもユエは南雲の血に夢中で、未だに吸血を続けている。そして俺達はそのまま縦割れの洞窟に飛び込んだ。

 

中は大の大人が二人並べば窮屈になるほどなので、南雲が殿を務める。背後からはラプトルやティラノが一体ずつしか入って来れずにいた。

 

「貪り喰らえ『天変飢餓』!!」

「刀崎!?どうする気だ!」

「俺が殺す!お前は錬成で穴をふさげ!!」

 

俺がそう言うと南雲は頷いた。それを確認して振り返り、ラプトル達を迎撃する。面倒なので瞬歩を使い首を跳ねる。その際に首から上全てが持って行かれた。俺が引き付けているうちに完全に割れ目を閉じたようで、残ったティラノにトドメを指してなんとか落ち着いた。

 

「ふぅ~、これで取り敢えず大丈夫だろう」

「.........お疲れさま」

「そう思うなら、そろそろ降りてくれねぇ?」

「........むぅ.........仕方ない」

 

南雲の言葉に渋々、ほんと~に渋々といった様子で南雲の背から降りるユエ。余程、彼の背中は居心地がいいらしい。俺は残った死体を全部吸収して合流する。

 

「さて、あいつらやたら必死だったからな、ここでビンゴだろ。油断するなよ?」

「ん」

「りょーかい」

 

しばらく薄暗い道を道なりに進めば、大きな広間のようなところに来た。嫌な予感が強いが、進むしかない。

 

「っ!?」

 

中央まで行くと、全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛来してくる。俺達は3人で背中合わせになってその玉を迎撃する。その玉が百を超えた頃、ユエは風魔法で、南雲は石壁で防ぐ様にしていた。俺は相変わらず剣術で弾いているが。

 

「ユエ、おそらく本体の攻撃だ。どこにいるかわかるか?」

「..........」

「ユエさーん?」

 

南雲の気配感知とはまた違う、五感では感じ取れない部分が吸血鬼にはある。それを頼りにしていたようだが、反応がない。

 

「にげて........二人とも!」

「っ!?」

「ちぃ!!」

 

咄嗟に体が動いて、俺は南雲へ向けられていたユエの片手を切り落とす。ユエの片手が刀に吸収される。俺達はユエから離れる、南雲は俺を睨んだ。

 

「刀崎!?......お前!!」

「悪い!体が勝手に.......すまん!、だがあれを見ろ!」

 

睨む南雲に、俺は指を差す。そこには、ユエを人質にとったエセアルラウネもどきがいた。

 

そのエセアルラウネは、ユエのてを自らの頭にやった。どうやら自分を魔法でぶっ飛ばすぞ、とでも言っているらしい。いくら吸血鬼、自動再生を持っていても規格外の上級魔法に晒されて直ぐに再生できる訳は無いだろう。

 

「........やってくれるじゃねぇか............!」

 

ギリッと、南雲は歯ぎしりする。俺はエセアルラウネを静かに観察する。恐らく、南雲が銃口を向ければすかさずユエを盾にするだろう。さすがに南雲といえどユエを貫通して撃つ気は無い。

 

「........南雲」

「ああ?」

 

俺は密かに耳打ちする。恐らく、上手くいく。いや、俺ならばできる。

 

「.........できるんだな?」

「こんな時に嘘なんかつかねーよ」

 

それを信じたのか、南雲は視線で返答してくる。すると、それを隙と見たのかエセアルラウネは先程の緑色のピンポン玉を飛ばしてくる。

 

その玉を南雲はドンナーで、俺は刀で打ち払う。玉が破裂して、胞子のようなものが飛び出す。もともと俺は毒が効かない。それに加え刀が全て吸収する。南雲も毒は効かないだろう。これは不幸中の幸いだ。

 

「二人とも.......ごめんなさい........」

 

悔しそうな表情で歯を食いしばっているユエ。自分が足でまといなっていることが耐え難いのだろう。今も必死に抵抗しているはずだ。口は動くようで、謝罪しながらも引き結ばれた口元からは血が滴り落ちている。

その上でエセアルラウネは愉悦の表情を浮かべている。性格の悪いやつだ。

 

しかし、事態は拮抗している。俺かまなにか動きを見せてもエセアルラウネはユエを自爆させる。今は、きっかけが欲しかった。

 

「二人とも!.......私はいいから........撃って!」

 

そんな時、ユエがそう行った。........恐らく、南雲は俺と同じことを考えていることだろう。

 

「え、いいのか? 助かるわ」

 

ドパンッ!!と広間に銃声が響き渡る。ユエの言葉を聞いた瞬間に南雲は躊躇わずドンナーの引き金を引いた。だがその銃弾は、エセアルラウネの顔の横を通り過ぎる。ハズレかと思われるその銃撃、バスレなわけがないだろう?

 

「縛道の六十一、六杖光牢!!」

 

俺にはその一瞬で十分だ。どこからともなく現れた六つの光の帯が、エセアルラウネの胴体に突き刺さる。ついに動きを見せた俺達に行動を起こそうとしていたようだが、動かない。

 

「南雲、今だ!」

「ああ!」

 

南雲は近づいてユエの頭に咲いた花を取り、離れた。その瞬間、エセアルラウネの胸から黒刀が生えた。

 

「そんな外道なことするなら、俺もお前にしていいよなぁ!?」

 

グイッ!と天変飢餓をくねらせる。ゴキュ!バキィ!と鈍い音が響き、エセアルラウネは声を上げることすら許されず刀の餌食となった。

 

「……撃った」

「あ? そりゃあ撃っていいって言うから」

「……ためらわなかった……」

「まぁ作戦のためだしな」

 

南雲が注意を引き、俺が六杖光牢と刀でエセアルラウネを殺す、という構図だ。南雲が大人しくしていたのは、その糸口を探るためだ。

 

「狙い撃つ自信はあったんだけどな、流石に問答無用で撃ったらユエがヘソ曲げそうだし、今後のためにならんだろうと配慮したんだぞ?」

「……ちょっと頭皮、削れた……かも……」

「なわけねーだろ。あいつの頬横だぞ?それに撃っても再生するだろ、問題なし」

「うぅ〜........」

 

ユエは「確かにその通りなんだけど!」と言いたげな顔で南雲の腹をポカポカと殴る。緊迫した雰囲気が一転して、和んだ俺達であった。




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安堵は一瞬

刀崎くんは九十番台の式には詠唱を必要とします。(破道、縛道共に)


俺達がユエの機嫌を損ねてから数日が経とうとしていた。ちなみに彼女から俺まで血を吸血され、満足した彼女と対照的に疲弊した俺達。だがその回あってかユエの機嫌は治っていった。非常食とか言われた俺まで飲むなんて、相当機嫌を損ねてたんだろうなぁ。

 

ユエはあまり怒らせないようにしよう、と俺と南雲の間で固く深い禁止事項が結ばれた。

 

そんな俺達は、ちょうど次の階層で南雲が最初いたところから数え始めて百階層目になるらしい。俺達はその一つ前の階層で装備の確認や弾薬の補充など色々行っていた。

 

そしてユエはそんな南雲へずっとくっついている。慣れてきたのか、俺達に甘えてくるような感覚を見せるようになってきた。南雲の方へ露骨に甘えることもあれば、こちらに来ることもある。

 

「2人とも……いつもより慎重……」

「うん? ああ、次で百階だからな。もしかしたら何かあるかもしれないと思ってな。一般に認識されている上の迷宮も百階だと言われていたから……まぁ念のためだ」

「刀は手入れしないと直ぐにひねくれるからな。昔の侍もこうやってマメにしてたとか言うし。俺も南雲と同じく、念の為ってやつさ」

 

しかし、こうやって準備をして、万全になったところで、それを超える驚異が降り掛かってくるかもしれない、それが迷宮だ。それを俺達は、この数週間でよく学んだ。だから俺も、南雲も、準備は怠らないし油断もしない。

 

しばらくして全ての準備を終えた俺達は、階下へ続く階段を降りていった。

 

その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは三十メートルはありそうだ。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。どこか荘厳さを感じさせる空間だった。

 

俺達は、しばらく見惚れつつも足を進めた。すると、全ての柱が淡く輝き始める。ハッと我を取り戻し俺たちは警戒する。柱は俺達を起点に奥の方へ順次輝いていく。

 

俺達はしばらく警戒していたが特に何も起こらないので先へ進むことにした。南雲は感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。二百メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「……これはまた凄いな。もしかして……」

「……反逆者の住処?」

「そんな感じがあるな」

 

いかにもラスボスの部屋といった感じだ。だが、今まで何も感じてこなかった俺の背中に少しだけ悪寒が走った。初めてのことだ、こんな感覚は。南雲も静かにその瞳をギラつかせ、ユエは額に少し汗を浮かべている。

 

「ハッ、だったら最高じゃねぇか。ようやくゴールにたどり着いたってことだろ?」

 

南雲は本能を無視して不敵な笑みを浮かべる。たとえ何が待ち受けていようとやるしかないのだ。

 

「……んっ!」

 

ユエも覚悟を決めた表情で扉を睨みつける。

 

「ま、負ける気なんてしないけどな」

 

そして、三人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

 

その瞬間、扉と俺達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

俺と南雲は、その魔法陣に見覚えがあった。忘れもしない、あの日。南雲が奈落へと落ち、俺がそれを追いかけた日に自分達を窮地へと追いやったトラップと同じものだ。ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

「おいおい、なんだこの大きさは? マジでラスボスかよ」

「さて。鬼が出るか、蛇が出るか」

「.........大丈夫.......私達、負けない.........」

 

俺は表情を変えずに魔法陣を睨み、南雲が流石に引きつった笑みを浮かべるが、ユエは決然とした表情を崩さず彼と俺の腕をギュッと掴んだ。

 

「っ!来るぞ!」

 

俺は叫ぶ。同時にそれは姿を現した。

 

体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラに酷似した姿。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光が俺達を射貫く。その殺気は、常人ならば心臓を止めてしまうのではないかと言うほどのもの。しかし、俺と南雲はそれを獰猛に笑い返し、ユエは揺るぐことの無い表情で見返す。

 

「「やってやろうじゃねぇか.....!」」

「ん、やる!」

 

同時に赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放った。それはもう炎の壁というに相応しい規模である。

 

「貪り喰らえ!『天変飢餓』!!」

 

俺が前に出て、始解させる。紅の赤が通る黒刀は、その炎全てを飲み込んだ。そのうちに南雲とユエは左右に飛び退き反撃を開始する。南雲のドンナーが火を吹き電磁加速された弾丸が超速で赤頭を狙い撃つ。弾丸は狙い違わず赤頭を吹き飛ばした。

 

「クルゥアン!」

 

白い文様の入った頭が鳴くと、吹き飛ばされた赤い頭は瞬く間に再生されていく。南雲に少し遅れてユエの氷弾が緑の文様がある頭を吹き飛ばしたが、同じように白頭の叫びと共に回復してしまった。

 

『刀崎、ユエ、あの白頭を狙うぞ!キリがない!』

『んっ!』

『分かった!』

 

青い文様の頭が口から散弾のように氷の礫を吐き出し、それを回避しながら南雲とユエが白頭を狙う。俺は緑頭を斬り伏せながら式を練った。

 

ドパンッ!

 

「"緋槍"!」

「破道の七十三、双蓮蒼火墜!!」

 

閃光と燃え盛る槍、青い爆炎が白頭を狙う。しかし、その間に割って入った黄頭がその攻撃の全てを受け止める。しかし、俺が放った双蓮蒼火墜を受けてその頭が吹っ飛ぶ。白頭が叫んで回復してしまったが。

 

「ちっ!盾役か。攻撃に盾に回復にと実にバランスのいいことだな!」

「面倒だよクソが!」

 

南雲が上に焼夷手榴弾を投げ、ドンナーの最大出力を以て白頭を狙う。ユエの方も緋槍で南雲に合わせる。彼女の蒼天なら殲滅が可能かもしれないがその後は少し吸血が必要だ。それに、殲滅してもくたばるタマじゃないと予測される。だからこそ、黄頭を抜いた俺がやらなければ。

 

「破道の七十三、双蓮蒼火墜!!」

 

蒼い爆炎は黄頭を抜き、南雲達の攻撃が届こうとした瞬間、今度は別の頭が盾になって防がれてしまう。

 

「ちぃ!ならこれでどうだ!」

 

そうして俺が新たな式を練ろうとした瞬間。

 

「いやぁああああ!!!」

「!? ユエ!」

「なんだぁ!?」

 

咄嗟にユエに駆け寄ろうとするが、それを邪魔するように赤頭と緑頭が炎弾と風刃を無数に放ってくる。未だ絶叫を上げるユエにを背に、俺は刀でそれらを喰らわせる。そして、そういえば黒い文様の頭が未だ何もしていないことを思い出した。

 

「おい! ユエ! しっかりしろ!」

「……」

「ユエ!どうした!?」

 

俺が時間を稼いでいると、南雲が閃光と音響の手榴弾を投げてヒュドラを怯ませる。俺達はその隙を利用して柱の裏に隠れた。未だにガタガタと震えて青ざめているユエは、南雲や俺の呼び掛けに答える様子もない。しかししばらくするとその瞳に光が灯る。

 

「ユエ!」

「.......ハジメ?」

「おう、ハジメさんだ。大丈夫か? 一体何された?」

「........京?」

「安心しろ、ちゃんと俺だ。どうした?」

 

パチパチと瞬きしながらユエは俺達はの存在を確認するように、その小さな手を伸ばし南雲と俺の顔に触れる。それでようやく俺達はがそこにいると実感したのか安堵の吐息を漏らし目の端に涙を溜め始めた。

 

「....よかった...........見捨てられたと........また暗闇に一人で.......」

「ああ? そりゃ一体何の話だ?」

 

ユエの様子に困惑する俺達。ユエ曰く、突然、強烈な不安感に襲われ気がつけば俺と南雲に見捨てられて再び封印される光景が頭いっぱいに広がっていたという。そして、何も考えられなくなり恐怖に縛られて動けなくなったと。

 

「ちっ! バッドステータス系の魔法か? 黒頭は相手を恐慌状態にでも出来るってことか。ホントにバランスのいい化物だよ、くそったれ!」

「.........二人とも...........私」

 

ユエの顔は、今にも泣きそうな脆い表情だった。不安そうに震えている。南雲はガリガリと頭を掻きながらユエ目の前にしゃがみ視線を合わさる。

 

「? ……!?」

 

首を傾げるユエにキスをした。

 

ほんの少し触れさせるだけのものだが、ユエの反応は劇的だった。マジマジと南雲を見つめる。

 

南雲は若干恥ずかしそうに目線を逸らしユエの手を引いて立ち上がらせた。

 

「ヤツを殺して生き残る。そして、地上に出て故郷に帰るんだ。……一緒にな」

 

ユエは未だ呆然と南雲を見つめていたが、いつかのように無表情を崩しふんわりと綺麗な笑みを浮かべた。

 

「んっ!」

 

本当なら引っぱたいてやりたいんだがなぁ。状況が状況だし、ていうかこいつ俺の前だと最早ためらわないし。南雲はコホンとひとつ咳払いをして、俺の目を見据えた。

 

「刀崎、シュラーゲンを使う。連発できないから援護頼む」

「........貸し1な」

「は?なんで........」

「お前が人目も構わずユエとキスするからだよバカ!!」

 

パチクリしている南雲を無視し、俺は悪態をついて柱から飛び出す。瞬歩を使わず走ると同時になるべく高速で詠唱した。

 

「滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器、湧きあがり・否定し、痺れ・瞬き、眠りを妨げる、爬行する鉄の王女、絶えず自壊する泥の人形、結合せよ!反発せよ!地に満ち己の無力を知れ!!.........破道の九十、黒棺!!!」

 

まるで葬式の棺のような黒い長方形の棺桶がヒュドラを取り囲んでいく。破壊しようとブレスを放っているが、無駄だ。そんな程度じゃこの牢獄は崩せない。

 

「"緋槍"!"砲皇"!"凍雨"!」

 

矢継ぎ早に紡がれた魔法の名前。ユエが放った魔法はどんどんと完成していく黒棺の合間を縫ってヒュドラに直撃していく。

 

「クルゥアン!」

 

完成する直前、全ての首を再生したヒュドラが見えたのを最後に黒棺が完成した。

 

「グルゥウウウウ!!!?!?!???!!?」

 

中では重力の奔流がヒュドラを圧殺せんと蠢いているだろう。ブチッと聞こえたためどこかの首が潰れたかもしれない。

 

「......ハハっ、まさか足止めとはいえ全体を覆っちまうとはな。これ、俺の出番なくね?」

「.......ん、すごい力」

「いや、今の俺じゃ完全に圧殺できるまでの術式には至っていない。多分、あと十数秒で終わる」

「......そうか。わかった」

 

南雲はそう言うと、対物ライフル、シュラーゲンを脇に挟み狙い澄ます。打ち出すのは黒棺が終わった瞬間、ヒュドラが姿を現した時だ。

 

「クル...........ウァン」

 

中から聞こえてきた声、徐々に姿を現すヒュドラは、全身から血を吹き出しており、白頭以外の全ての首が潰れかけている。白頭が弱々しく鳴くと、再生されるもゆっくり過ぎて変化は見られない。弱々しく本能的に黄頭が白頭を守るべく立ちはだかるも、意味は極めて薄い。

 

「ぶっ飛べ!!」

 

南雲が纏雷を使いシュラーゲンが紅いスパークを起こす。通常弾の数倍の量を圧縮して詰められた燃焼粉が撃鉄の起こす火花に引火して大爆発を起こした。

 

ドガン!!

 

大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共に、赤い弾丸が約一・五メートルのバレルにより電磁加速を加えられる。その威力は想像されるだけでとてつもない破壊力である。異世界の特殊な鉱石と固有魔法がなければ到底実現し得なかった怪物兵器。

 

発射の光景は正しく極太のレーザー兵器のよう。かつて、勇者の天之河がベヒモスに放った切り札が、まるで児戯に思える。射出された弾丸は真っ直ぐ周囲の空気を焼きながら黄頭に直撃した。

 

黄頭も一応庇ってはいたのだが、まるで何もなかったように弾丸は背後の白頭に到達し、そのままやはり何もなかったように貫通して背後の壁を爆砕した。階層全体が地震でも起こしたかのように激しく震動する。

 

後に残ったのは、頭部が綺麗さっぱり消滅しドロッと融解したように白熱化する断面が見える二つの頭と、周囲を四散させ、どこまで続いているかわからない深い穴の空いた壁だけだった。

 

急に2つの頭が射抜かれたヒュドラは、俺たちの相手も忘れて南雲を注視していた。俺はユエと顔を見合わせて同時に頷く。今までにないほど口が回った。

 

「千手の涯、届かざる闇の御手、映らざる天の射手、光を落とす道、火種を煽る風、集いて惑うな我が指を見よ。光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔、弓引く彼方、皎皎として消ゆ。.......破道の九十一、千手皎天汰炮!!」

「"天灼"!」

 

中央の雷球は弾けると六つの雷球で囲まれた範囲内に絶大な威力の雷撃を撒き散らした。三つの頭が逃げ出そうとするが、まるで壁でもあるかのように雷球で囲まれた範囲を抜け出せない。天より降り注ぐ神の怒りの如く、轟音と閃光が広大な空間を満たす。さらにそこへ三角形の光の矢が降り注いで行く。

 

そして、十秒以上続いた最上級魔法と破道に為すすべもなく、三つの頭は断末魔の悲鳴を上げながら遂に消し炭となった。

 

安堵したようにペタンとユエが地面に座る。俺も、ようやく戦闘が終わったと思い気が緩んだ。

 

ーーその瞬間だった。

 

「2人とも!!」

 

ユエの切羽詰まった声が響き渡る。何事かと見開かれたユエの視線を辿ると、音もなく七つ目の頭が胴体部分からせり上がり、俺達を睥睨へいげいしていた。あまりの眼光に、俺と南雲は硬直する。

 

だが、七つ目の銀色に輝く頭は、俺達からスっと視線を逸らすとユエをその鋭い眼光で射抜き予備動作もなく極光を放った。先ほどの南雲のシュラーゲンもかくやという極光は瞬く間にユエに迫る。ユエは魔力枯渇で動けない。

 

「くそがっ!!」

 

瞬歩でユエの前に立ち、天変飢餓を突きだす。直後、極光と斬魄刀がぶつかりあった。放たれた光はどんどん刀へと吸収されていくが、俺の腕の血管がその威力を支える度にピシィ!とちぎれていく

 

「うぐぁ!?」

「京!」

「刀崎!!」

 

それでも、俺は踏ん張る。だが、俺はその威力に負けて少しずつ下がらされていた。

 

「オォオオオォォォオォオ!!」

「刀崎!もういい!やめろ!!」

 

どうやらユエの避難が終わったらしい南雲が俺へそう叫ぶ。しかし、俺が受けをやめて瞬歩で移動する前にこの極光は俺へと刃を届かせるだろう。依然、腕の血管は切れ続ける。

 

「うがっ!?」

 

そしてついに、俺は足が床から離れ極光の威力共々一番後ろの壁に叩きつけられた。その威力を表すように、壁には深い亀裂がいくつも走り、俺を縫い付けている。

 

「かはっ..........」

 

そのままドサリと俺の体は床に落ち、朦朧とする意識はすぐに消え去った。



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卍解、放たれた飢え

ハジメとユエは床に伏した刀崎を、呆然と見つめるしかった。

 

「くそがっ!!」

 

ハジメはヒュドラに向かって音響と閃光の手榴弾を投げつけ、時間稼ぎをしているうちに後退する。

 

「刀崎!」

「京!」

 

それぞれが名前を呼び、京に駆け寄る。ハジメが体担ぎ、柱の裏に隠れた。

 

「刀崎!おい!しっかりしろ!」

「京!返事して、京!!」

 

二人が呼びかけ、頬を叩き、揺らすが反応はない。ハジメが息を確認すると、微弱ながらに息をしている。だらりと下がった腕からは止まらぬ流血が皮膚を塗っていた。その現状は酷く痛々しい。

 

「クソっ!こんなになるまで無茶しやがって!」

 

ハジメは神水を取り出すと、蓋を開けて強引に飲ませる。

 

「ケホッ!ケホッ!」

 

急な物体の侵入に喉が拒絶するように無意識に咳き込む。しかしそれを無視して飲ませると、コク、コク、と飲み始めた。一本全てを飲みきると、息が安定して腕の流血も元通りになる。

 

「ハジメ.......」

 

ユエが京の手を握りながら心配そうに見つめてくる。そんな彼女にハジメは笑って、ゆっくりと頭を撫でた。

 

「心配すんな、絶対こいつは帰ってくる。だから、こいつを隠して反撃するぞ。起きた時にはあいつを倒して驚かせてやろうぜ!」

「........んっ!」

 

獰猛に笑ったハジメにユエはキッと決意を固めたように返事する。

 

「行くぞ!」

「ん!」

 

背後の仲間を守るため、生きるため、地上へ帰るため、ハジメとユエは最大の強敵へ走り出した。

 

 

 

 

 

 

俺は、どうなったんだろう。ヒュドラの光を受けて、それを刀が喰らって............それで?

 

ーー起きよ

 

野太い男の声が聞こえてくる。いや、それは間違いないだろう。

 

「.........天変飢餓」

「うむ、我である」

 

目を開けば、そこはやはり純白の世界。天変飢餓の精神世界だ。

 

「なんで今、俺を呼んだ?」

「今のままでは、貴様は彼奴に勝てぬ」

 

こいつが言う彼奴とは、恐らく7本目の首を待つヒュドラの事だろう。

 

「京、貴様の根底はなんだ?」

「根底.......?」

「貴様が真に望む、奥底に眠る根底の感情はなんだと聞いている」

「俺の奥底の感情.......?」

 

 

ーーここを出て雫たちと再会を果たすこと

 

 

 

ーー違う

 

 

 

ーーあいつを倒すこと

 

 

 

ーー違う

 

 

 

ーー元の世界に帰ること

 

 

 

ーー違う

 

 

 

「意識が浅い。もっと奥底を探してみろ」

 

そう言われ、俺は静かに目を閉じる。

 

 

 

ーー俺の根底はなんだ?

 

 

 

ーーなんのためにここへ来た?

 

 

 

ーーなんのために、俺は奈落へ飛び込んだ?

 

 

 

ーー全ては

 

 

 

ーー全てはあいつを

 

 

 

ーー南雲を

 

 

 

ーー南雲ハジメを

 

 

 

「..........南雲ハジメを守ること」

 

 

直後、グチャりと異質な音がする。手には暖かい、何かの液体が俺の片腕を伝う。目を開けると、そこには。

 

「っ!?おま、なにしてっ!」

「クハハ、驚いたか?」

 

俺の腕が、天変飢餓の真ん中のクビを貫いていた。血は赤く、俺の腕を伝って純白の世界に赤インクを落としていく。

 

「聞け、京。貴様は死神として特殊な例だ。異世界で我に目覚め、今、お前は『卍解』を会得しようとしている」

「『卍解』.........?」

 

聞いたことの無い言葉に、俺は唖然と聞き返す。天変飢餓はそんな俺を見て更に語る。

 

「『卍解』というのは我ら斬魄刀の真の名を呼ぶことによって解放される。そのためには『屈服』と『具象化』が必要だ」

「『屈服』.......?『具象化』........?」

「『屈服』は我をこの通り倒すことだ。そして『具象化』は我を死神の世界に呼び出すこと。..........本来ならば死神の世界にて我を倒すことによって『卍解』は成される。しかし、ここはどうやらおかしいらしい。今お前のいるここかが死神の世界となり、『具象化』の条件を満たしている」

「つまり俺は、『卍解』が使えるということか?」

「よく分かっている。さすがは我が気に入っただけのことはある」

 

クツクツと喉で笑う天変飢餓。急にその純黒の皮膚が崩れ落ち発光し始めた。

 

「ちょ、えっ!?」

「さぁ、我が刀を抜け!貴様が抱えている根底の感情を、その飢えを満たせ!我が名を呼べ、我を覚醒させろ!」

 

天変飢餓が吠えた瞬間、その体から激しい光が溢れる。その光は俺の視界を全て覆った。

 

『我は天変飢餓!神をも喰らう(マモノ)也ッ!!』

 

意識を失う直後、そんな声が脳に刻み込まれた。

 

 

 

 

 

 

あれから、どれくらいの時間が好きたのだろう。1分?30分?はたまた1時間?

 

時間を忘れるほど攻撃し、意識が途切れそうになる度、京の状態を思い浮かべた。

 

「........ハァッ!..........ハアッ!」

 

ハジメ、ユエ共にその体はボロボロ、既に満身創痍だった。彼は一度極光を受け、眼球が蒸発している。そんな状態でも意識を失わなかったのは、一重に刀崎 京の存在が大きかった。

 

「まだだ、まだ...........あいつがっ!」

「ハジメ!」

 

ユエの声に、ハッと空を見る。すると、ヒュドラが極光を放とうと大きくその顎門を開口したばかりだった。

 

「っ!!」

「ハジメぇ!!」

 

ユエが飛びつき、ハジメも横に飛び、二人の力でなんとか極光を避けた。その際、ユエの両足が極光に焼け苦悶の表情を浮かべる。

 

「ユエッ!」

「........っつ、大丈夫!」

 

すぐさま自動回復するが、もうそろそろ本当に二人とも限界だ。このままではおそらく、二人とも.........

 

(なにか、何かてはないのかっ!?刀崎も、俺たちも助かるような、そんな手はッ!!)

 

ハジメが脳をフル回転させて瞬時に打開策を考えようとした、その時だ。

 

「「っ!!?!?」」

 

ズン!!

 

言い知れぬ底なしの威圧感が、その場全てを覆った。あまりの圧と、押し殺さんばかりの殺気に、ハジメ達は一瞬何事かと目を見開く。

 

「クルゥゥアァン!」

 

そうすると、ヒュドラは敵を見つけたとでも言わんばかりにある一定の方向を睨みつけ、咆哮のような雄叫びを上げる。その声にハッと我に返り、ヒュドラが見つめる先を、二人はゆっくりと辿っていく。

 

「.........刀、崎?」

 

ハジメがポツリと呟く。そこには、ヒタ、ヒタ、とまるで幽鬼のようにゆらゆら歩く京がいた。ようやく気絶から復帰したのかと一瞬安堵するも、纏う雰囲気が只者ではないことに気づく。それは、少し前の、ユエや京と会う前の自分に酷く酷似していると思った。

 

「京!」

 

咄嗟にユエが叫ぶ。すると、ピタリと立ち止まった京が、顔を上げる。

 

()()()、ユエ、後は任せろ」

 

そう言って、ニッと笑う。そして、ゆらりと自身の愛刀を天井向けて掲げた。

 

ーーハジメを守るために、全てを投げた。ハジメを守るため、剣をとった。ハジメの敵は俺の敵、ハジメを脅かす者は、俺が殺す。

 

自身の根底にある渇望を、飢えを、その権化を解放する。紡げ、謳え、全てを満たすその者を、全てを喰らうその名前を。脳に流れてくる羅列は、刀崎 京に言葉を与えた。

 

「『卍解』」

 

直後、ゴウッ!と更に威圧と殺気が増した。大地が揺れる、空気が振動する、刀崎 京の霊圧が、格段に上昇していく!

 

押し潰さんばかりの殺気を放っていた京が言葉を呟いたことにより、ハジメとユエの体を圧殺せんとばかりの殺気が襲った。本当に物理的に押しつぶされてしまうのではないかと思うほどの強大な威圧、殺気。

 

「なに........アレ..............」

 

なんとか、ユエが声を振り絞った。京を中心にして起きていた、鎌鼬が飛び出しそうな乱気流が収まると、京の姿が顕になる。

 

「『神喰獣(かみくらいのマモノ)』」

 

風にたなびく、伸びた赤い髪。上半身ははだけ、特に胸板辺りと両頬、両肩にはドクロマークが刺青のように掘られている。

 

そして何より、先程まで刀だったそれは元の原型を留めながらも、赤黒く脈動していた。

 

「クルゥゥアァン!!」

 

ヒュドラは直ぐに抹殺すべく極光を放った。それは真っ直ぐに京へと迫っていく。

 

「刀崎!!」

「京!!」

 

危険を知らす叫びがハジメとユエから聞こえる。しかし京はその光線を一瞥すると、刀を構えた。

 

飢閃(きせん)

 

ポツリと呟き、極光へ向けて刀を一振。

 

ザン!

 

刀が触れた瞬間、その極光は一瞬にして消滅した。.........いや、正確には刀が喰らった。

 

「クルゥゥアァン!!」

 

自身よりも強敵が現れ、怒りを顕にするヒュドラ。おそらく自分が一番だと、この中では自分が強いのだと、驕っているのだろう。もう一度京へ極光を放つ。

 

「くどい。空食吐瀉(くうしょくとしゃ)

 

刀から出たのは、ヒュドラの極光。一直線に伸び、そのまま吐き出した極光と相殺された。そのまま京は走り出す。瞬歩を使い、ヒュドラに近寄ったところで跳躍する。

 

黒刑(こっけい)貪食飢餓地獄(とんしょくきがじごく)

 

振りかざした刀が通ったそこに、地獄からはい出ようとするようなドロドロの手がいくつも出現する。その手はどんどんとヒュドラの首を荒々しく掴んでいく。

 

「クルゥゥアァン!?」

 

咄嗟に逃れようと、叫びながら極光を自身にまとわりつくドロドロの手に放つ。しかし、それが着弾した瞬間に飲み込まれ、さらにその手が増殖、巨大化してた。

 

「腹を空かせた(マモノ)()を与えるとは、逆効果だったな」

 

そのまま、バキバキ、ビキィ!と固い蛇鱗が潰され、喰われていく。京はそれを床からじっと見つめていた。

 

「空我の果てに、満たされぬ飢えの糧となれ」

 

その言葉を最後に、ヒュドラは肥大化したドロドロの手に頭を握り潰され、捕食され、絶命した。しかし『卍解』はヒュドラの首を全て食らうまで続いたのだった。




斬魄刀『天変飢餓』

使い手
刀崎 京

会得している段階
始解、卍解

解号
「貪り喰らえ」

始解状態
普通の刀と変わらない銀色の刀身は黒く変色し、切っ先にかけて刀の中央を血を塗ったような紅い線が通る。

触れたものを刀が捕食し、不要なものは全て京に渡る。

卍解状態
血を連想させるような紅さの髪が、たなびくほどに伸びる。上半身がはだけ、胸板辺り、両頬、両肩にドクロが刻まれる。刀は始解状態の原型を留めながらも、まるで生きているように、生物の心臓のように鼓動している。

飢閃
始解状態の天変飢餓に似た効果を持つ。しかし、吸収するのではなく、対象を斬り喰らう。(刃先の届かない所でも切れる)

空食吐瀉
刀が今までに食らったものから自由に刀外へと射出する。本編ではヒュドラの極光を射出して相殺させた。なお、一度外に出すと再度外に出した物を喰らうまでは使えない。

黒刑・貪食飢餓地獄
刀に宿る、飢えに対する様々な物が手の形となって外に出る。(別名、飢餓の手)京が望む終幕を終えるまで、対象を喰らい続ける。消滅させることは不可能、攻撃や魔法を放っても喰らい、増殖、肥大化する。

ここに記述した内容(特に卍解後の技)はまだまだ未成熟である。この先、新たな可能性を見せてくれることだろう。


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【幕間】失意と決意、新たなる道

今回はヒロインサイドが多めです。なので冒頭よりも中身の方でサブタイを優先しました。


暖かい光が、窓から差し込む。開け放たれた窓から入ってくるそよ風が俺の頬を撫でた。

 

「ん.........?」

 

俺の目に入ってきた見知らぬ天井。背中の柔らかい感触は........ベッドだ。どういうことだ?さっきまで俺は迷宮にいたはずなのに......。

 

「.........なんだこれ」

 

窓から外を除くと、まず最初にた太陽があった。いや、正確には太陽と呼べるようなものが天井に浮いていたのだ。さらには緑豊か、川や滝まで点在しており、ここの空間だけで生活出来てしまうだろう。

 

俺はとりあえず廊下に出る。しばらく行くと、何やら気配を感じる扉があった。

 

「........あ」

「あ」

 

開けた瞬間、そいつと目が合った。義手に黒いコート、眼帯など色々厨二チックなお人が。傍にいるのはちゃんと服を着たユエだ。

 

「失礼しました........」

「っておい待てぇい!」

 

扉を閉めようとすると義手で強引にグイッと止められる。

 

「いや、その、俺の知り合いに白髪、眼帯、義手、黒いコートなんていう厨二病全開な人なんていないから..........」

「デジャヴだよな!?明らかデジャヴだよな!」

 

まぁ、冗談はさておいて。どうやらハジメとユエは無事だったらしい。

 

「無事だったんだな」

「ああ、俺も、ユエも、お前のおかげで救われた。ありがとう、助かった」

 

夢のようなものを見ていた気分だったんだが、全部夢じゃ無かったらしい。俺はどうやら卍解した後に気絶したんだとか。

 

ヒュドラを倒した後に扉が独りでに開いて、ここにたどり着いたと語る。そしてハジメとユエはここの主、オスカー・オルクスから神代魔法なるものを手に入れたと。

 

どうやらここを出てすぐに帰れるわけじゃないらしい。七つの迷宮全てを攻略すれば道は開けるかもしれない、と。そのあとも色々話してくれたが、どれも面倒なものばっかだ。

 

「ま、だいたい全部わかった」

 

つまりは、帰るために全力を尽くせと、そういう事だ。

 

「見ての通りなんだが.、刀崎。俺は少しの間ここに留まって色々と準備をしようと思う。神代魔法を手に入れたことによって作れるものの幅が増えたしな」

「ん、私も魔法をもっと.........あとハジメと一緒にいたい」

「なぁ、ハジメ。俺もこう呼んでるんだし、下の名前で呼ばね?」

「お、おう。.........んで、()。お前はどうする?」

 

その問いは何なのだろうか。普通の意思確認?それとも何かを試されてる?まぁ俺が答えることは決まってる。

 

「俺はお前を助けるためにアイツらと別れた。ハジメの敵は俺の敵だし、ハジメを脅かす奴は全員殺す。これは俺自身の根底にあった望みだ。だから、これからもお前について行く」

「..........お前は、人を殺せるのか?」

「覚悟は出来た。...........敵になるのなら、人だろうと、魔物だろうと、神だろうと、殺す」

 

真剣に、俺はそう答えた。ハジメは少し考え込むようにしたあと、頷く。

 

「分かった。殺す殺さないはさておき、お前が仲間になるのは心強い。よろしくな、京」

「ああ、ハジメ」

 

俺は、ハジメとグータッチをして笑い合う。だが、ユエさんがその様子を見て一言。

 

「........(恋の)競争相手?」

「「違う!!」」

 

何かを察して、俺たちは同時にユエの言葉を否定した。

 

 

 

 

 

 

時は少し溯る。ハジメが奈落に落ち、京が助けに行ってから既に五日が経過していた。未だに目覚めない親友の姿、さらに自分の傷も相まり、その顔は闇底にいるかのように暗い。

 

あの後、呆然と立ち尽くす雫と恵里、気を失った香織を連れて一行は無事に【オルクス大迷宮】を脱出することに成功した。

 

帰還を果たし、まず最初に全員が王国側への報告を行った。メルドが死んだ者の名を口にした瞬間、安堵と非難の声が一斉に湧いてでた。

 

無能を助けるために力を持った者まで死なせるとはどうなっているんだ、と。はっきり言って、京は上層部に目をつけられていた。その強さ、その生真面目さは十分に伝わっていたのだ。故にたまに京へ上層部の人間が擦り寄る姿を雫や恵里は何度も見ている。

 

しかし、彼らはそんな京でさえも非難した。人情に駆られたか、無駄死にだ、犬死だ、など、非難の声は湧いて止まることはなく。おそらく、無能を助けたからという理由もあったのだろう。

 

実際、雫は自身の武器に手をかけ、恵里は死んだ目で術式を展開しようとして、それぞれ龍太郎、鈴に止められる。今は耐えろ、と。ここでやらかせばどうなるか分かったものじゃない、と。

 

国王やイシュタルでさえ同じ感想を抱いていた。止められた雫と恵里は、怒りに震え、唇を流血するほどまで強く噛んで耐えるしか無かった。

 

光輝の抗議などで非難の声は薄れていったものの、まだ同じ事を抱いている者は多いだろう。

 

「香織.........」

 

ポツリと親友の名前を呟き、少しでも早い目覚めを待つばかり。ここに戻ってきてから、あまりのショックに雫と恵里は訓練に出ようとしなかった。それは本音で、香織が心配だから、少し体調が悪いと愛想笑いを作って回避している。

 

「あ、いたんだ」

「.........恵里」

 

ガチャリとドアを開けた主を見て、ポツリと呟くように雫は言葉にする。そこに居たのは、泣き腫らしたのか目を真っ赤にして、無理に微笑む恵里だった。

 

「「...........」」

 

二人の間に、とても複雑な静寂が訪れる。同じ人を好きになった物同士、とうやって声をかけようかと答えを巡らせるため言葉が出てこなかった。

 

「........まだ、目覚めないんだ」

「..............ええ、もう5日」

 

とりあえず、話を一旦香織に移す。そうすることでしか、話せないから。

 

その時だ、雫が握っていた香織の手がビクッと一瞬震えた。そして、閉じていた眼が開かれる。

 

「香織!」

「あ.........雫ちゃん、と。恵里......ちゃん」

「おはー........」

 

ようやく親友が起きてくれた事に、少しだけだが心が軽くなる雫。握っていた手を更にぎゅっと握る。

 

「ええ、そうよ。私よ。香織、体はどう?違和感はない?」

「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど......寝てたからだろうし.......」

「そうね、もう五日も眠っていたのだもの.......怠くもなるわ」

 

少し俯き気味に雫はそう言う。その言葉に香織が反応した。

 

「五日?そんなに......どうして........私、確か迷宮に行って.......それで........」

 

あの日の事を思い出そうとしている香織にマズいと思い咄嗟に話を逸らそうとする。しかし残念ながら間に合わなかった。

 

「それで........あ.........................南雲くんは?」

「っ..........」

 

返す言葉が見つからず、雫は押し黙ってしまう。恵里にしても、返す言葉が見当たらないと言った表情だ。その二人の顔に、香織はあの日の出来事が全て現実だったと自覚する。

 

「........嘘だよ、ね。そうでしょ?雫ちゃん。私が気絶した後、南雲くんも助かったんだよね?ね、ね?そうでしょ?ここ、お城の部屋だよね?皆で帰ってきたんだよね?南雲くんは.......訓練かな?訓練所にいるよね?うん.......私、ちょっと行ってくるね。南雲くんにお礼言わなきゃ.......だから、離して?雫ちゃん」

 

そう言いながら起き上がろうとする香織を、ただ引き止めることしか出来ない。雫は今にも泣きそうな顔で、それでも泣くのを我慢して香織を引き止める。そうした時だ、恵里が覚悟を決めたようにポツリとこぼす。

 

「南雲くんは.........香織、君の代わりに京が助けに行ったんだよ」

「恵里!!」

「でも、二人とも帰ってきてない」

 

雫の言葉を無視して、正面を見据え香織にその言葉を伝えた。香織の表情が一気に変化していく。

 

「.........香織。わかっているでしょう?........ここに彼はいないわ。もちろん、京も」

「やめて........」

「香織の覚えている通りよ」

「やめてよ.......」

「彼は、南雲君は........京は.........」

「いや、やめてよ........やめてったら!」

「香織! 二人とも死んだのよ!」

「ちがう!死んでなんかない!絶対、そんなことない!どうして、そんな酷いこと言うの!いくら雫ちゃんでも許さないよ!」

 

そんな香織の叫びに、ついに雫は溜め込んでいたものを吐き出すように叫ぶ。

 

「私だって辛いわ!京が南雲くんを助けに行って、もう五日も戻ってこなくて!.........それで、心の中で京は死んだって言う私が居て.........」

 

自分より先に涙を見せた雫を見て、あまりの驚きに香織は涙が引いていく。恵里でさえ、泣き腫らした目で再び今にも泣きそうな表情をしていた。

 

「分かってると思うけど...............ここに二人はいない。それは受け入れるべき...........現実なんだよ」

 

残酷に、現実が三人の心に傷を付ける。同じ痛みを別つ者達だからこそ、誰かが非情にならなければいけない。今回は、それが恵里だっただけだ。

 

「雫ちゃん.........恵里ちゃん.........南雲くんは...........落ちたんだね。刀崎くんも..........二人ともここにはいないんだね」

 

静かにポツリと呟く香織に、雫はゴシゴシと目を拭いて事実を述べる。

 

「.......そうよ」

「あの時、南雲くんは私達の魔法が当たりそうになってた........誰なの?」

「わからないわ。誰も、あの時のことには触れないようにしてる。怖いのね。もし、自分だったらって........」

「そっか」

「恨んでる?」

「.......わからないよ。もし誰かわかったら........きっと恨むと思う。でも.......分からないなら.......その方がいいと思う。きっと、私、我慢できないと思うから......」

「そう.......」

 

香織がそう言えども、雫と恵里の心情は言葉に現せるほど綺麗ではなかった。ハジメを助けるために京が飛び込んだ原因に至った、ハジメへ魔法を放った人物。それさえいなければ、こんな気持ちにはならずにすんだ。

 

原点に立ち返ってそう思った時、二人の感情に初めて明確なる殺意というものが湧いた。今でも、香織以上に魔法を放った人物に対して黒い感情を抱いている。

 

「雫ちゃん、恵里ちゃん、私、信じないよ。南雲くんは生きてる。刀崎くんも一緒に。死んだなんて信じない」

「香織、それは........」

 

それは、何度も二人が信じた道。しかし、目の前の現実に何度も砕かれ続けた道。自然とその可能性を信じなくなった道。その茨道を、香織は進むと言った。

 

「わかってる。あそこに落ちて生きていると思う方がおかしいって。........でもね、確認したわけじゃない。可能性は一パーセントより低いけど、確認していないならゼロじゃない。.......私、信じたいの」

「香織........」

「私、もっと強くなるよ。それで、あんな状況でも今度は守れるくらい強くなって、自分の目で確かめる。南雲くんのこと。.......雫ちゃんと恵里ちゃんだって、そうでしょ?」

 

.......だから、と続いて、香織は二人へ頭を下げた。

 

「力を貸してください」

「「..........」」

 

自分達が自然と拒んだ道を、香織は進むと言った。その目で確かめるまでは諦めないと言った。その言葉に、その道を進む背中に、感化されてきている自分達がいるのは事実だ。

 

一人だったから、その道を拒んでいたのかもしれない。もっと早く、恵里と、雫と、この結論に至っていれば、まだ気持ちは楽だったのかもしれない。だがそんなことは後の祭りだ。問題は、その話に乗るか乗らないか。

 

おそらく、幼馴染である光輝や龍太郎も含めてほとんどの人間が香織達の考えを正そうとするだろう。しかし、それで止まるほどこの恋は冷めていない。

 

「もちろんいいわよ。納得するまでとことん付き合うわ」

「雫ちゃん!」

「その話、乗った。君に勇気を貰ったよ、香織。ありがとう」

「恵里ちゃん!!」

 

二人の返答に花が咲いたように笑う香織。「ありがとう!」と何度も言って二人へ飛び込んだ。雫も恵里も、無言でポンポンと彼女を抱きしめていた。

 

なお、突然の油断で香織から順に寝ていたベッドに倒れて行った。とてもタイミングが悪く、不意にドアが開かれる。

 

「雫!香織はめざ.........め........」

「おう、香織はどう........だ........」

 

光輝と龍太郎だ。香織の様子を見に来たのだろう。訓練着のまま来たようで、あちこち薄汚れている。

 

あの日から、二人の訓練もより身が入ったものになった。二人もハジメ達の死に思うところがあったのだろう。何せ、撤退を渋った挙句返り討ちにあい、あわや殺されるという危機を救ったのはハジメなのだ。そしてそんなハジメを助けに行った京にも見方を改めた。もう二度とあんな無様は晒さないと相当気合が入っているようである。

 

そんな二人だが、現在、部屋の入り口で硬直していた。訝しそうに雫が尋ねる。

 

「あんた達、どうし.......」

「す、すまん!」

「じゃ、邪魔したな!」

 

雫の疑問に対して喰い気味に言葉を被せ、見てはいけないものを見てしまったという感じで慌てて部屋を出ていく。そんな二人を見て、香織もキョトンとしている。しかし、聡い雫はその原因に気がついた。恵里はとっくに気づいていたようで、苦笑いしている。

 

現在、香織の上に雫と恵里が乗っかり、傍から見ると二人が香織を押し倒したように見えてしまっている。まるでこれから何かが起こるような雰囲気だ。

 

つまり、激しく百合百合しい光景が出来上がっている。ここが漫画の世界なら背景に百合の花が咲き乱れていることだろう。

 

雫は深々と溜息を吐くと、未だ事態が飲み込めずキョトンとしている香織と苦笑いする恵里を尻目に声を張り上げた。

 

「さっさと戻ってきなさい! この大馬鹿者ども!」

 

その声は、王城内に響いたとか響いてないとか。




ちなみにここら辺でしばらくヒロインズの話はお休みです。原作通りの帝国と勇者の絡みは多分ほとんど意味ないんでカットです、カット。

......皆も代わり映えしない原作通りの勇者より、オリ主介入のハジメズの方が気になるでしょ?




ー追記ー
ルーキー日刊ランキング15位ありがとうございます


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二章 新たな旅立ち〜うさぎを添えて〜

我に返って見てみると、三日間くらいで狂ったように上げてますね.......。


俺達がオスカー邸に滞在してから、早いもので二ヶ月が経過した。しかしこの間、俺達はボケっとしていた訳では無い。

 

まず、ハジメは神代のアーティファクト級の武器やらなんやらを大量に作っていた。さらにオスカーから宝物庫と呼ばれる物を拝借したらしい。指輪型のアーティファクトで、仕込んだ宝石の中に形成された空間にほぼなんでも収納出来るという代物だ。ハジメ曰く、作ったもの全て入れてもまだ余裕がある、と。

 

そしてなんと、宝物庫を使った戦闘術も習得してしまった。宝物庫から空中に出した銃弾をそのまま弾倉へリロードする離れ業だ。手で銃弾を込める必要が無いため素早く、かつ迅速に対処ができる。

 

そして、移動型のアーティファクト、魔力駆動二輪、四輪。言ってみればバイクとトラックだ。やさしいハジメは俺の分まで二輪を作ってくれており、さらにスポーツバイク風のカスタムまで施してくれている。身内贔屓が凄いハジメさんなのであった。

 

あと、ハジメさんはガン=カタスタイルをやりたいらしく、相棒のドンナーに続きシュラークという新しい拳銃を作った。義手によって両手が使えるからだとか。

 

まぁそんな義手にも色々仕掛けが施されていたり、まだまだハジメが作ったものはこれだけじゃないのだが、語っているとキリがないので割愛。ちなみに俺の斬魄刀を興味本位で解析したらしいハジメが言うには「理解不能」だとか。

 

だが、これだけは伝えたい。ハジメ、あいつはついに我らとは違う高みにへとたどり着いてしまった.......!!

え?正確に言えって?つまりだな、ハジメさんはユエと大人の階段を昇ってしまったのだよ!まぁ、元からユエがハジメの事好きなのは知ってたし、ていうか俺の前でキスしてたし。ココ最近部屋から色々聞こえてきてたし。

 

ちなみに余裕が出来たのかユエさん、「ん........京とするのも、やぶさかじゃない」とか言い出してんの。やめてくれよ、俺のピュアな精神を汚く汚さないでくれ.......。

 

とまぁ、ハジメさんの全貌でした。続いてユエさんなんだが、まぁ特に語ることは無い。なぜなら魔法や技能の練度が上がった、以上!ってことしか言えることがないから。

 

んで、俺なんだが、あれから始解、卍解共にかなりの練度を積み上げた。そのおかげもあって、始解状態ならば永続的に、卍解状態は一日ならば余裕で継続させることが可能となった。破道や縛道の方も訓練を積み重ねたのだが、やはり八十九番までを無詠唱に使えることしか出来ないようで。九十番以降はやはり詠唱が必要になってくる。

 

だが、練度のおかげでどちらの鬼道も式の威力が格段に上昇した。ちなみにここだけの話なんだが、訓練でハジメとやりあった時に俺は蒼火墜でこの世界最高硬度のアザンチウム性のハジメの仕込み盾を大きく陥没させたことがある。何が言いたいかと言うと、それほどまでに威力が上昇したということだ。

 

この二ヶ月間、早いようで短かった。やはりそれは俺達の取り組む熱が違ったからだろう。そして2ヶ月と10日たった俺達は、今、旅立とうとしている。三階の魔法陣を起動させながら、俺たち三人は気を引き締める。

 

「ユエ、京.........俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

「ん........」

「だろうな」

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

「ん......」

「問題ない」

「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん、ていうかするんだろうよ」

「ん........」

「その時はただ斬るまでよ」

「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

「今更……」

「覚悟はとっくの昔に出来ているさ」

 

三人で向かい合い、ハジメがユエ達の瞳を、ユエが俺達の瞳を、俺がハジメ達の瞳を見る。

 

「俺がユエと京を、ユエが俺と京を、京が俺とユエを守る。それで俺達は最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えよう」

 

ここで過ごしていくうちに、俺の根底の飢えにも変化が訪れた。渇望する飢えは、ハジメと、彼が大切に思っている存在を俺自らが守ると、ハジメ()を脅かす者は俺が殺すと。ハジメだけではなく、その周辺も守りたいという飢えに変わった。だから彼は、こんな事を言ったのだ。

 

「んっ!」

「ああ、もちろんだ!」

 

ユエと俺は、ハジメへそれぞれ最高の返事をした。

 

 

 

 

 

 

魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱よどんだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気にハジメの頬が緩んでいる。

 

やがて光が収まり目を開けた俺の視界に映り込んできたのは、洞窟だった。

 

「なんでやねん」

 

魔法陣の向こうは地上だと無条件に信じていたのだろう。ハジメは、代わり映えしない光景に思わず半眼になってツッコミを入れてしまった。どれだけ期待していたのか、項垂れている。

 

そんなハジメの服の裾をクイクイと引っ張るユエ。何だ?と顔を向けてくるハジメにユエは自分の推測を話す。慰めるように。

 

「……秘密の通路……隠すのが普通」

「あ、ああ、そうか。確かにな。反逆者の住処への直通の道が隠されていないわけないか」

「出たところが地上なんて、反逆者がそんな間抜けなことはしないだろうよ」

 

ハジメは相当浮かれていたらしい。まぁ無理もない、地下に留まって約3ヶ月の月日が経ってしまっている。その間、人口の太陽以外に自然という実感を覚えたものはほぼ無いのだから。

 

真っ暗な洞窟ではあるのだが、ハジメとユエは元々の技能で、俺は鑑定の派生技能で空間を把握できるので問題ない。三人とも、確実にゴールまでの道を踏みしめて行く。

 

途中でいくつかの罠やトラップがあれども、ハジメが持っているオルクスの指輪が反応して勝手に通してくれた。反逆者って本当に抜かりない。

 

そして遂に俺達は外へと出ることに成功した.......のだが。

 

「んー、なんか思ってたのと違ぇなぁ」

「何はともあれ外に出たんだ、僥倖だろ」

「んっ!」

 

想像と120度くらい違う外の光景に俺は愚痴を零すも、横のお二人さんは地上に出ただけ満足だったらしい。

 

左右に長く伸びる崖のような構造、ここの写真を見たから知っている、ここは、【ライセン大峡谷】。俺達はその洞窟の入口にいたのだ。頭上にはちょうどいいタイミングなのか俺達が求めて止まなかった自然の太陽が。空気も奈落の澱んでいるものとは違いかなり美味い。ここに自然があればなおよしだったものなのだが。

 

「……戻って来たんだな……」

「……んっ」

 

二人は、ようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互い見つめ合い、そして思いっきり抱きしめ合った。

 

「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

「んっーー!!」

「声がでかいんだよ」

 

嬉しいのは仕方の無いことだ。しかしこれでここら辺を縄張りとかにしているかもしれない魔物が来たら...........まぁ問題ないのだが面倒だ。

 

ようやく二人の笑いが収まった頃には、すっかり....魔物に囲まれていた。.............ほらぁ、言わんこっちゃない。

 

「はぁ~、全く無粋なヤツらだな。........確かここって魔法使えないんだっけ?」

 

ドンナー・シュラークを抜きながらハジメが首を傾げる。座学に励んでいた彼には、ここがライセン大峡谷であり魔法が使えない場所であると理解していた。

 

「......分解される。でも力づくでいく」

「ま、俺にゃ関係ないけどな」

 

俺も少しだが知っている。ここ、【ライセン大峡谷】では魔法が分解されてしまう効果があるらしい。だから、ユエなど、魔法職にとっては天敵みたいな場所なのだ。

 

「力づくって……効率は?」

「……十倍くらい」

 

どうやら、初級魔法を放つのに上級レベルの魔力が必要らしい。射程も相当短くなるようだ。

 

「あ~、じゃあ俺達がやるからユエは身を守る程度にしとけ」

「うっ........でも」

「いいからいいから、適材適所。ここは魔法使いにとっちゃ鬼門だろ? 任せてくれ。それにこっちにゃ近距離の達人様がいらっしゃる」

「ん……わかった」

 

ハジメの言葉に渋々といった様子で引き下がるユエ。それでも俺達へ向けて某アニメのようなポーズをとって応援してくる。どこで知ったんだと俺達二人は思ったが、言わないことにした。

 

「んじゃ、ちゃっちゃと片付けるぞ、京」

「任せろ。援護頼むぜ、ハジメ」

「おう」

 

刹那、正面にいた魔物の首が宙を舞う。そしてドチャリと地に落ちて破裂した。あまりに一瞬の出来事に、魔物達は理解が追いついていない様子だ。しかし、ようやく現実を認めたのか、敵意を剥き出しにする。

 

しかし、俺の背後でガン=カタのスタイルを取っていたハジメのプレッシャーが極度の緊張感を生み出す。そこへ俺は、さらに刀を構えた。

 

「貪り喰らえ『天変飢餓』」

 

始解、それだけだと言うのにズン!と威圧的な気配が辺りを侵食する。今の俺の始解は、鍛錬に鍛練を重ね続けた結果、ヒュドラ戦での俺の卍解とほぼ同じ霊圧にまで引き上げることが出来た。

 

圧殺せんとばかりの威圧感と殺気に地上の魔物は耐えられなかったらしい。そのうちの数匹が泡を吹いて倒れだしていく。

 

ドパン!ドパン!

 

ザンッ!

 

銃声が響き、黒刀が紅い残線を残して舞い、魔物達は瞬く間に殲滅された。やはり奈落よりは格段に弱い。死体を喰らったところで、ほぼなんのエネルギーも得られなかった。俺達は同時に首を少し傾げた。

 

そんな俺たちの様子に、トコトコとユエが傍に寄ってくる。

 

「........どうしたの?」

「いや、あまりにあっけなかったんでな.......ライセン大峡谷の魔物といやぁ相当凶悪って話だったから、もしや別の場所かと思って」

「なんて言うか、期待外れもいいところだ」

「......ハジメが化物。京はもっと化け物」

「ひでぇいい様だな。まぁ、奈落の魔物が強すぎたってことでいいか」

「ま、それでいいんじゃね」

 

二人で顔を見合わせそう結論付け、話し合いの結果【ハルツィナ樹海】の方へ向けて魔力駆動二輪を走らせる事になった。なお、お二人さんは例のごとくイチャラブ中。

 

まぁその間にも魔物は襲い来るのだが片手間で簡単に魔物を片付けている。俺は一応、始解状態の刀を魔物へぶん投げて吸収、勝手に手に戻ってくるためそれを応用してブーメランみたいにして遊んでいた。

 

突き出した崖を回り込むと、大型の魔物が現れる。いつぞやのティラノもどきによく似た双頭のティラノもどき。なにやら天変飢餓に似たシンパシーを感じるがどこからともなく否定されたので........って、誰に否定されたんだ?

 

まぁそんなことはさておいて、それよりも気になったのはそのティラノもどきから逃げる影だろう。半泣きで逃げているウサ耳を生やした少女だ。

 

「.......何だあれ?」

「........兎人族?」

「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処なのか?」

「.........聞いたことない」

「じゃあ、あれか? 犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」

「........悪ウサギ?」

 

魔力駆動二輪を止めて逃げ惑う兎人族を無視し、呑気にお喋りタイムに入ったお二人さん。さすがに見ていたら可哀想になってきたので俺は飛び出す。

 

瞬歩で駆け寄り、うさぎの少女の尻をハジメ達の辺りに蹴っ飛ばして双頭のティラノもどきを睨む。

 

「ぷべぇっ!?」

 

.........後ろからなにか聞こえてきたが知らない。

 

「てめぇなんぞ刀を使うまでもねぇよ」

 

俺はそのままティラノもどきの片側の顎門が開いた口を横殴りにぶん殴る。すると、いとも簡単になぐった頭が破裂し、衝撃波で真横の土の壁に叩きつけられた。その際に生じた落石でいまやティラノもどきとなった魔物はピクリとも動かなくなる。

 

「し、死んでます…そんなダイヘドアが一撃なんて…」

 

いつの間に横にいたのか、少女はそんなことを言う。どうやらあのティラノもどきはダイヘドアと言うらしい。そして何故か俺を無視してハジメの方へ行き、頭を下げた。

 

「先程は助けて頂きありがとうございました!私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです!取り敢えず私の仲間も助けてください!」

 

助けて貰ったにもかかわらず追加で助けを要請するなかなか神経が図太いうさぎであった。




シア!後ろぉ!!(次回予告)



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残念ウサギの事情

このクソウサギ、名前をシアと言ったか。家族を助けてくれとハジメに懇願している。

 

「お、おい」

「なんですかっ!首を縦に振ってくれるまで離れませんよ!!」

「........う、後」

「ふぇ?」

 

ハジメがまずいといった表情で、ユエがカタカタと震えながらシアの後ろを指さした。その指をたどって、シアの視線も背後に。

 

「お前、助けて貰った張本人を無視してハジメに行くとはいい度胸してんなゴラァ!!」

「ひぃっ!?」

 

怒髪天を貫いた俺がいた。ハジメ達が無視して助けないから可哀想になって助けたのにまさかの無視だぞ?無視。さすがに俺もキレるわ。

 

俺はウサ耳の顔をアイアンクローして地面に叩きつけた。

 

「ぶへぇ!!?」

「ふざけんなよてめぇ!!」

 

さらに握りつぶさん勢いでメキメキと顔面を圧迫して、高圧(非致死性)の纏雷をクソうさぎに流し込む。

 

「アババババババババババババ!?」

 

キレると言っても電圧と電流は調整してあるので死にはしないが、しばらく動けなくなるくらいの威力はある。シアのウサミミがピンッと立ち、ウサ毛がゾワッと逆だっている。纏雷を解除してやると、ビクンッビクンッと痙攣しながらズルズルと崩れ落ちた。

 

「京.........無視、ダメ........絶対........」

「あ、ああ.........」

 

後ろではハジメが「お前どこでそのネタを......」と言っているが気にしない。黒煙を上げるうさぎを見下ろす。

 

「に、にがじませんよ〜」

 

まるでゾンビのごとく俺の足を掴んで離さない。俺は一旦ハジメに視線を移す。

 

「お、お前、ゾンビみたいな奴だな。本気で怒ってる京の攻撃受けたろ.......何で動けるんだよ?つーか、ちょっと怖ぇんだけど........」

「.......不気味」

「うぅ~何ですか!その物言いは!さっきから、電撃とかアイアンクローとか、ちょっと酷すぎると思います!断固抗議しますよ!お詫びに家族を助けて下さい!」

「「お前が悪いんだろうが!」」

 

二人揃って図々しいうさぎを否定する。しかし俺の攻撃を受けても案外余裕そうなのがすごく怖い。なんだよこいつ、奈落の魔物より胆力あるんじゃねぇの?

 

「だぁっ!とりあえず離せ!動き辛いだろうが!」

「話を聞いてくれるまで離さないですぅ〜!!」

「分かった!!分かったから!!聞いてやるから離せ!!」

 

ハジメ達の同意を得ずドゴォ!と足蹴りでシアはゴロゴロと地面を転がって行った。必死の顔でハジメ達へ向くと、お、おう、と首を縦に振っていた。

 

「ま、また蹴りましたね!父様にでさえ暴力受けたことないのに!よく私のような美少女を、そうポンポンと.......もしや殿方同士の恋愛にご興味が......だから先も私の誘惑をあっさりと拒否したんですね!そうでッあふんッ!?」

「お前いつ俺に誘惑したよ」

 

とりあえずうるさいので鞘で顔面を殴っておいた。この際だからなんなら天変飢餓の餌にでもするか?俺の糧になってくれそうだ。

 

「京、悪い顔........」

「京、さすがに落ち着け........」

 

ハジメ達に引き気味で抑えられたので閉まっておく。そうするとハジメがシアに近づいた。

 

「ったく、お前といいユエといい、なんでネタ知ってんだよ、どこから仕入れてるんだ?んで、お前の誘惑に乗らんのは俺の隣にお前よりはるかにレベルの高い美少女がいるからだ」

「お前、彼女持ちに誘惑かけてたのか........もう少し自分の身の程弁えろよ..........?」

「さすがに酷くないですかっ!?」

 

ギャーギャーと騒いでいるシア。うるさいばかりだ。だがその視線がユエに行くと、「うっ」と怯んでしまう。しかし、とある部分を見たのだろう。決して口にしては行けない言葉を言ってしまう。

 

「で、でも!胸なら私が勝ってます!そっち女の子はペッタンコじゃないですか!」

 

〝ペッタンコじゃないですか〟〝ペッタンコじゃないですか〟〝ペッタンコじゃないですか〟

 

静寂を切り裂くようにシアの叫びが木霊した。刹那、計り知れぬ殺気が後ろからひしひしと伝わってくる。ハジメは「あ〜あ」と天を仰ぎ、俺は憐れむ視線を送る。うさ耳よ、無い訳では無いんだ。安らかに眠れ。

 

――――.........お祈りは済ませた? 

――――......謝ったら許してくれたり

――――..............

――――死にたくなぁい! 死にたくなぁい! 

 

「"嵐帝"」

 

――――アッーーーー!! 

 

突如発生した竜巻に巻き上げられ錐揉みしながら天に打ち上げられるシア。彼女の悲鳴が峡谷に木霊し、きっかり十秒後、グシャ! という音と共に俺達の眼前に墜落した。

 

俺達に多大なネタを提供してくれるあのとある家のようなポーズで地面に首から突っ込んでビクビクしている。その様子は完全にギャグとしか言えない。ユエは後ろで「いい仕事をした!」と言ったふうに汗を拭うふりをした。

 

二輪から降りて、ハジメの元にとことこ駆け寄る。すると下からじっと瞳を見て、何故か俺にまで視線を向けてくる。

 

「........おっきい方が好き?」

「............」

 

俺もハジメも、もちろん無いよりある方がいい。たが、今そんなことを言えば間違いなくシアの二の舞で某家の様なポーズになることだろう。

 

「........ユエ、大きさの問題じゃあない。相手が誰か、それが一番重要だ」

「..........」

「えーっと.........可愛いなら問題ないん........じゃね?」

 

俺とハジメが気まずそうに目を泳がせていると、一瞬目を細めたが何かに納得して無言で魔力駆動二輪へ戻っていった。俺達は大きくため息をついて命がまだある事を実感した。

 

とりあえず話が進まないので乱暴にウサギを引き抜いてハジメの前に引きずり出す。

 

「うぅ~ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに........ とりあえず、改めまして私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は........」

 

とりあえずこいつ、経緯から話すのでとにかく話が長かった。要約すると、亜人族としてひっそり【ハルツィナ樹海】の最深部、フォアベルゲンにて暮らしていた兎人族。色々なことがあって亜人族の他の人々にフォアベルゲンを追放された。北の山脈地帯に行った所まではよかったものの、運悪く巡回中の帝国兵達に半数が囚われたと。

 

逃げ惑い、ライセン大峡谷にきたハウリア族は帝国兵が一向に撤退しないのを見てさらに峡谷を進むしかなくなったと言う。

 

「.......気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

 

ちなみに二十分くらいの内容を一分間作文風にまとめた。その間俺は暇なのでステータスを見ていたのだが。

 

==========================

 

刀崎 京 17歳 男 レベル???

天職:死神

筋力:26000[×卍解時10倍]

体力:25600[×卍解時10倍]

耐性:23800[×卍解時10倍]

敏捷:21500[×卍解時10倍]

霊力:55600[×卍解時10倍]

魔耐:19900[×卍解時10倍]

技能:瞬歩・斬魄刀『天変飢餓』[+解号][+始解][+卍解]・霊力操作[+霊圧上昇][+霊圧増幅]・破道[+半無詠唱化]・縛道[+半無詠唱化]・疾風迅雷[+天歩][+空力][+縮地][+纏雷][+出力強化]・霞ノ体[+霞化け]・怪腕[+風爪][+筋力強化][+雷鎚]・精神耐性[+逆境][+感情高揚]・状態異常耐性[+完全無効][+報復]・言語理解・鑑定[+鑑定共有][+空間認識][+人物鑑定]・殺気[+感情増幅]・気配遮断[+幻踏]・超高速霊力回復

 

==========================

 

現在のステータスはこんなもの。纏雷とかは色々やってたら自動的に合わさっていった。レベルについては表示不可能だし、なんかそれぞれの数値も異常だし。多分天変飢餓が奈落の魔物を喰らった影響だろう。ハジメに比べりゃ技能なんか全然だが。

 

ちなみに新しく鑑定の派生技能で追加された人物鑑定。これは俺よりレベルが下のやつなら誰でもステータスプレートを通さずにステータスを見ることが出来る。めちゃくちゃ便利だが本人には使えない。

 

シアは今までとは一変、真剣な表情でそう頼み込んでくる。ハジメは一瞬チラリと俺を見たが、俺は『お前に任せる』と視線を送った。

 

「断る」

 

俺の視線の後に、ハジメは一言、そう言った。唖然としているシアを置いて、俺達は再び魔力駆動二輪に跨る。するとようやく我に返ってギャーギャーと抗議の声を上げ始めた。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと!何故です!今の流れはどう考えても『何て可哀想なんだ!安心しろ!!俺が何とかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところですよ!流石の私もコロっといっちゃうところですよ!何、いきなり美少女との出会いをフイにしているのですか!そこの人もこの人になんとか言ってくださいよ!」

「ある程度のことはハジメの意思に従う。俺の望みはハジメとユエを守ることだ。お前らが滅ぼうと知ったこっちゃない」

「酷っ!?それでも人間ですか!?って、あっ、無視して行こうとしないで下さい!逃しませんよぉ!」

 

無視して進もうとすると今度はハジメの脚に飛びついた。ハジメはその行為にため息をついて、ギロリとシアを睨む。

 

「あのなぁ~、お前等助けて、俺に何のメリットがあるんだよ」

「メ、メリット?」

「帝国から追われているわ、樹海から追放されているわ、お前さんは厄介のタネだわ、デメリットしかねぇじゃねぇか。仮に峡谷から脱出出来たとして、その後どうすんだよ?また帝国に捕まるのが関の山だろうが。で、それ避けたきゃ、また俺達を頼るんだろ?今度は、帝国兵から守りながら北の山脈地帯まで連れて行けってな」

「うっ、そ、それは........で、でも!」

「俺達にだって旅の目的はあるんだ。そんな厄介なもん抱えていられないんだよ」

「そんな......でも、守ってくれるって見えましたのに!」

「......さっきも言ってたな、それ。どういう意味だ? .......お前の固有魔法と関係あるのか?」

 

そう言っているので、いざ鑑定タイム。当然の権利のようにシアのステータスを見てみる。

 

「.......なるほどなぁ」

「京?」

 

なるほど、そういうことか。確かに、とても深く関係があった。俺の声にハジメがこちらへ振り向く。

 

「そいつの固有魔法は"未来視"。仮定した未来が見えるらしい」

「仮定した未来......?」

「えっと、はい。もしこれを選択したら、その先どうなるか?みたいな......あと、危険が迫っているときは勝手に見えたりします。まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど.......そ、そうです。私、役に立ちますよ!"未来視"があれば危険とかも分かりやすいですし!少し前に見たんです!貴方が私達を助けてくれている姿が!実際、ちゃんと貴方に会えて助けられました!」

 

一度発動すると莫大な魔力を消費して魔力が枯渇するが、任意の発動では三分の一程か。自動で発動するのはシアが危険と思った時、か。

 

どうやらシアはこの未来視を使って俺達を探し出したらしい。まぁ仮定選択で不確定の未来を信じて行動に移せるのはすごいと思うが。

 

「そんなすごい固有魔法持ってて、何でバレたんだよ。危険を察知できるならフェアベルゲンの連中にもバレなかったんじゃないか?」

 

全く以て最もな返答だ。ハジメの指摘に「うっ」と唸った後、シアは目を泳がせてポツリと零した。

 

「じ、自分で使った場合はしばらく使えなくて......」

「バレた時、既に使った後だったと.......何に使ったんだよ?」

「ちょ~とですね、友人の恋路が気になりまして.......」

「ただの出歯亀じゃねぇか! 貴重な魔法何に使ってんだよ」

「何に魔を差してんだ阿呆が」

「うぅ~猛省しておりますぅ~」

「やっぱ、ダメだな。何がダメって、お前がダメだわ。この残念ウサギが」

「話にならんな。無理だ無理」

 

呆れたようにそっぽを向くハジメに俺も同意する。シアが泣きながら縋り付き、ハジメがいい加減引きずってでも出発しようとすると、何とも珍しくユエが助け舟を出した。

 

「........二人とも、連れて行こう」

「「ユエ?」」

「!?、最初から貴女のこといい人だと思ってました!ペッタンコって言ってゴメンなッあふんっ!」

 

ユエの言葉にハジメは訝しそうに、俺はなんの気まぐれかと不思議そうに、シアは興奮して目をキラキラして調子のいい事を言う。次いでに余計な事も言い、ユエにビンタを食らって頬を抑えながら崩れ落ちた。

 

「........樹海の案内に丁度いい」

「あ~」

「その選択肢があったか」

 

亜人族達以外では迷うと言われているため、最悪俺がどうにかしようと思っていたが、俺も流石に愛刀に草を食べさせたくはない(もう食べさせたけど)。

 

ハジメと俺が同じようなことを考えていると、魔力駆動二輪から降りて俺達の服の裾を掴み、俺達の瞳を真っ直ぐに射抜いた。

 

「......大丈夫、私達は最強」

 

その一言に、一瞬だけハジメが奈落を抜ける時に言った言葉を思い出す。三人が守り合えば、最強だと。俺達は顔を見合わせて苦笑いした。

 

やはり亜人族に案内させるのが安定した、一番近い道だ。たとえその間に何が待ち受けようとも、この世の理不尽と徹底抗戦すると言ったのは俺達だ。邪魔をするなら殺せばいい、足を引っ張るのなら引き返して走ればいい。一番単純なことだ、ユエに俺達はそれを気付かされた。

 

「そうだな。おい、喜べ残念ウサギ。お前達を樹海の案内に雇わせてもらう。報酬はお前等の命だ」

「あ、俺は別にいらないから。ハジメに任せるだけだから」

 

それにしてもさっきのハジメのセリフはかなりヤクザに近い。後で指摘して弄ってやろう。対価は多分殺し合いだが。シアはハジメの声を聞き飛び上がらんばかりに喜ぶ。

 

「あ、ありがとうございます!うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」

 

泣き笑いして安堵したような表情を見せる。しかしすぐに立ち上がった。

 

「あ、あの、宜しくお願いします!そ、それでお三方のことは何と呼べば......」

「ん?そう言えば名乗ってなかったか......俺はハジメ。南雲ハジメだ」

「......ユエ」

「俺は刀崎 京。なんとでも呼べばいい」

「ハジメさんと京さんとユエちゃんですね」

 

俺たち三人の名前を何度も反復して覚えようとするシア。しかしハジメの後ろではユエは不満そうに言う。

 

「.......さんを付けろ。残念ウサギ」

「ふぇ!?」

「いやいや。ユエ"様"だろ?」

「ふぇぇ!?」

 

俺が冗談交じりに言うと、完全に年下だと思っていたらしく戸惑う。なお、俺は後でユエに皮肉を込めた意味だと思われ吸血された。瀕死になりそうな中、俺は騒動が終わったあと何となくシアがハジメに付いて来そうだという予感がしたのは内緒だ。




ステータス、ハジメは原作と何も変わらないので割愛にございます。
ちなみにここらのハジメくんは京くんに感化されて少し人物像が違います。重要な場面に京くんの意見を聞こうとしたりします。



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空飛ぶ白いうさぎ

道中、シアの疑問に色々とハジメが答えていた。俺?俺はただのんびりとライディングを楽しむだけだ。なお、シアはあっちに乗せている。だってね、無理ですよあんな面倒なウサギ。人数的におかしいのだがハジメは譲歩してくれた。ありがたやありがたや。

 

「なるほど.......だから固有技能や魔法を........で、えっと。斬魄刀?でしたっけ。なんなんですか?それは」

「知らん。はっきり言って俺にも理解不能な刀だ。正直、京の斬魄刀の力は真の意味であいつの固有技能だ。多分、あいつにしか斬魄刀のことは分からない」

「ん、未知数.......」

 

ハジメ達の説明にほえ〜っと馬鹿面を提げで俺を見るシア。すると、その耳がピンっと立ってピクピクしている。

 

「!、ハジメさん!もう直ぐ皆がいる場所です!あの魔物の声……ち、近いです!父様達がいる場所に近いです!」

「だぁ~、耳元で怒鳴るな!聞こえてるわ!飛ばすからしっかり掴まってろ!」

 

ハジメは、魔力を更に注ぎ、二輪を一気に加速させた。壁や地面が物凄い勢いで後ろへ流れていく。俺も霊力をさらに注いでハジメの横に続く。ちなみにハジメは俺のために作ってくれたが、魔力と言うよりは霊力駆動二輪である。まぁ魔力駆動二輪でいいだろう、面倒だし。

 

そうして走ること二分。ドリフトしながら最後の大岩を迂回した先には、今まさに襲われようとしている数十人の兎人族達がいた。

 

ライセン大峡谷に悲鳴と怒号が木霊する。

 

ウサミミを生やした人影が岩陰に逃げ込み必死に体を縮めている。あちこちの岩陰からウサミミだけがちょこんと見えており、数からすると二十人ちょっと。見えない部分も合わせれば四十人といったところか。

 

そんな怯える兎人族を上空から睥睨しているのは、奈落の底でも滅多に見なかった飛行型の魔物だ。姿は俗に言うワイバーンというやつが一番近いだろう。体長は三~五メートル程で、鋭い爪と牙、モーニングスターのように先端が膨らみ刺がついている長い尻尾を持っている。

 

「ハ、ハイベリア........」

「チッ!京!」

「分かってる!!」

 

ハジメは前に乗せたユエに運転を任せドンナー・シュラークを抜き、俺はバイクの上に立って式を練る。

 

「破道の七十三、双蓮蒼火墜!!」

 

全部で六匹いる、シア曰くハイベリアという個体名のワイバーンもどきは品定めするように上空から兎人族を見下ろしていた。俺達はそんなワイバーンもどき達に二条の閃光と蒼き爆炎で横槍を入れる。

 

二条の閃光は狂うことなくワイバーンもどき一体ずつの頭部を撃ち抜き、蒼き爆炎は撃ち抜いたワイバーンもどき諸共ぶっ飛ばす。急な攻撃にようやく気づいた残りの四匹、しかしもう遅い。

 

「ハジメ、2匹ずつな!」

「遅れるなよ!」

 

俺は魔力駆動二輪を足場に飛び出して、自身の体に纏雷を流して筋肉を活性化させる。体が電気で覆われ、バチバチッ!と周りに稲妻が走った。俺はそのまま瞬歩を使う。

 

「雷切!」

 

刹那、雷光がハイベリアもどき二匹の目の前を通り過ぎる。ともすれば、首が新たに二つ宙を舞ってドチャリと地面に落ちた。そうして俺は魔力駆動二輪が倒れない内に戻って停止させる。これが俺の新しい戦闘方法、纏雷を使って身体強化、瞬歩とあわせた目にも止まらぬ斬撃。名付けて雷切。

 

雷切とは一般的に雷を切るということで雷切と呼ばれる。しかし俺のは、雷を使い斬るという意味での雷切だ。

 

ハジメの方は、手榴弾を投げてそれをハイベリア二匹の中央で撃ち抜くことによって大爆発を誘発、地面に叩き落としてトドメに脳天を撃ち抜いた。

 

「な、何が……」

 

先程、子供を庇っていた男の兎人族が呆然としながら、目の前の頭部を砕かれ絶命したハイベリアと、後方で体と首が別々に落ちたハイベリアを交互に見ながら呟いた。

 

そして兎人族達の優秀な耳に、今まで一度も聞いたことのない異音が聞こえた。キィィイイイという甲高い蒸気が噴出するような音だ。今度は何事かと音の聞こえる方へ視線を向けた兎人族達の目に飛び込んできたのは、見たこともない黒い乗り物に乗って、高速でこちらに向かてってくる四人の人影。

 

その内の一人は見覚えがありすぎる。今朝方、突如姿を消し、ついさっきまで一族総出で探していた女の子。一族が陥っている今の状況に、酷く心を痛めて責任を感じていたようで、普段の元気の良さがなりを潜め、思いつめた表情をしていた。何か無茶をするのではと、心配していた矢先の失踪だ。つい、慎重さを忘れて捜索しハイベリアに見つかってしまった。彼女を見つける前に、一族の全滅も覚悟していたのだが......

 

その彼女が黒い乗り物の後ろで立ち上がり手をブンブンと振っている。その表情に普段の明るさが見て取れた。信じられない思いで彼女を見つめる兎人族。

 

「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」

 

その聞きなれた声音に、これは現実だと理解したのか兎人族が一斉に彼女の名を呼んだ。

 

「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」

 

ハジメは、魔力駆動二輪を高速で走らせながらイラッとした表情をしていた。仲間の無事を確認した直後、シアは喜びのあまり後部座席に立ち上がりブンブンと手を振りだしたのだ。それ自体は別にいいのだが、高速で走る二輪から転落しないように、シアは全体重をハジメに預けて体を固定しており、小刻みに飛び跳ねる度に頭上から重量級の凶器巨乳がのっしのっしとハジメ頭部に衝撃を与えているのである。ラッキースケベもいいとこ........おっと、これ以上は黙っておこう。

 

ハジメは、未だぴょこぴょこと飛び跳ね地味に妨害してくるシアの服を鷲掴みにする。それに気がついたシアが疑問顔でハジメを見た。ハジメは前方を向いているためシアから表情は見えないが、何となく不穏な空気を察したシアが恐る恐る尋ねた。

 

「あ、あの、ハジメさん.......?どうしました?なぜ、服を掴むのです?」

「運転を妨害するくらい元気なら働かせてやろうと思ってな」

「は、働くって.......な、何をするのです?」

「なに、ちょっと飢えた魔物にカッ飛ぶだけの簡単なお仕事だ」

「!?ちょ、何言って、あっ、持ち上げないでぇ~、振りかぶらないでぇ~!」

 

焦りの表情を表にしてジタバタもがくシアだが、筋力一万超のハジメに敵うはずもなくあっさり持ち上げられる。

 

ハジメは片手でハンドルを操作すると二輪をドリフトさせ、その遠心力も利用して問答無用に、上空を旋回していたため仕留め損ねたようだ、そのハイベリアへ向けてシアをぶん投げた。

 

「逝ってこい! 残念ウサギ!」

「いやぁあああーー!!」

 

物凄い勢いで空を飛ぶウサミミ少女。シアの悲鳴が峡谷に木霊する。有り得ない光景に兎人族達が「シア~!」と叫び声を上げながら目を剥き、ハイベリアも自分に向かって泣きながらぶっ飛んでくる獲物に度肝を抜かれているのか、最後まで避けることなくシアとぶつかって墜落し、首の骨を折って自滅した。

 

「た〜まや〜」

「汚すぎる花火だ」

 

俺のノリに乗ってきたハジメがそんなことを言う。やはりこういう時はかなり息が合う。

 

「うわぁあぁぁぁぁぁぁぁ、へぶっ!?」

 

そのまま落下して、地面とキスをするとそのまま首まで突っ込んだ。見事に先程故にぶっ飛ばされた時のように某家の態勢を取っている。もはや完全なるネタだ、ネタの塊だ。

 

「ぶあっ!!ハジメさん!あんなところから落ちたら普通死んじゃいますよっ!!」

「それでも生きてるお前はなんなんだよ。つか本当に怖いんだけど」

「エグい耐久力だよな、ほんと。台所のG並の」

「京さんまでぇ!!」

 

俺が皮肉混じりに冗談を言い、ハジメが引く。ハジメの前に居たユエも何とは言わず無言で引いていた、ギャーギャーとまたも抗議の声を上げているシアを無視して俺達は魔力駆動二輪を降りた。

 

「シア! 無事だったのか!」

「父様!」

 

真っ先に声をかけてきたのは、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。はっきりいってウサミミのおっさんとか誰得である。シュールな光景に微妙な気分になっていると、その間に、シアと父様と呼ばれた兎人族は話が終わったようで、互の無事を喜んだ後、俺達の方へ向き直った。

 

「ハジメ殿と京殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか.......父として、族長として深く感謝致します」

 

「まぁ、礼は受け取っておく。だが、樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ? それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」

 

シアの存在で忘れそうになるが、亜人族は被差別種族である。実際、峡谷に追い詰められたのも人間族のせいだ。にもかかわらず、同じ人間族である俺とハジメに頭を下げ、しかも俺達の助力を受け入れるという。それしか方法がないとは言え、あまりにあっさりしているというか、そんな様子に疑問を持ったようなハジメ。

 

カムは、それに苦笑いで返した。

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

 

その言葉にハジメは感心半分呆れ半分通った様子だった。一人の女の子のために一族ごと故郷を出て行くくらいだから情の深い一族だとは思っていたが、初対面の人間族相手にあっさり信頼を向けるとは警戒心が薄すぎる。というか人がいいにも程があるというものだろう。

 

「えへへ、大丈夫ですよ、父様。ハジメさんと京さんは、女の子に対して容赦ないし、対価がないと動かないし、人を平気で道具にするような酷い人ですけど、約束を利用したり、希望を踏み躙る様な外道じゃないです! ちゃんと私達を守ってくれますよ!」

「はっはっは、そうかそうか。つまり照れ屋な人なんだな。それなら安心だ」

 

シアとカムの言葉に周りの兎人族も「なるほど」と言った表情を浮かべて頷いている。ハジメが青筋でドンナー・シュラークを抜こうとしていたが、ユエが割って入る。

 

「……ん、ハジメは(ベッドの上では)照れ屋」

「ユエ!?」

「俺はノーコメントで。まぁでも甘いのは確かだな」

「京まで!?」

 

まさか俺達の口撃があるとは思わなかったのだろう、顔を引きつらせていた。そんなこんなで、俺達はさっさと魔物が来ないうちに移動を始めたのだった。




原作に沿って書くつもりはないんですけど、自然とそうなっちゃうんですよね。もっとオリジナルを入れたい.....!

てなわけで要素には入ってませんがオリキャラ登場させてもいい人ー!


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敵に慈悲なし

四十二人の兎人族を連れて俺達は遂にライセン大峡谷を抜けれる場所に着いた。何故か学校にあるような階を挟む事に反対にむくような階段があったのは驚きだ。ちなみにここまで来るのに魔物が襲ってきたのだが俺達にはそんなこと関係ない。余裕で撃退したが、魔物がやられる度に兎人族が騒いでうるさかったのを覚えている。

 

なんとなしにハジメは遠目で、俺は空間把握で見ていると、シアが不安そうに俺達に話しかけてくる、

 

「まだ帝国兵はいるでしょうか......?」

「ん、どうだろうな。もうくたばったと思っていなくなってる可能性も無くはない」

「.........いんや、いる」

 

俺がそう言うと、ハジメはバッ!と、シアは不安そうにこちらを向いた。

 

「知っているのか雷電!」

「おいバカ、使うところ間違えてんぞ」

 

もちろんハジメが冗談で言っているのは知っている。俺はそれを理解して互いに笑い会う。シアがキョトンとしてネタについてきていないので話を戻そう。

 

「俺の空間認識は鑑定の派生技能。ハルツィナ樹海の手前くらいまでならどこにどいつがいるのか把握出来る」

「数は?」

「三十人。待ってたんだろうな、あくびしてる奴がいるわ」

 

ハジメはそれを聞くと小さく舌打ちして階段を昇っていく。俺もその横に続いた。

 

「.......まさか戦うんですか」

 

シアが俺達の後に続きそう呟く。

 

「今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵.......人間族です。お二方と同じ。.......敵対できますか?」

「残念ウサギ、お前、未来が見えていたんじゃないのか?」

「はい、見ました。帝国兵と相対するお二方を.....」

「だったら、何が疑問なんだよ?」

「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと.......」

 

シアの言葉に周りの兎人族達も神妙な顔付きで俺達を見ている。小さな子供達はよく分からないとった顔をしながらも不穏な空気を察してか大人達と俺達を交互に忙しなく見ている。登りながらのため落ちそうになるのを大人が支えた。

 

しかし、ハジメは、そんなシリアスな雰囲気などまるで気にした様子もなくあっさり言ってのけた。

 

「それがどうかしたのか?」

「えっ?」

 

疑問顔を浮かべるシアにハジメは特に気負った様子もなく世間話でもするように話を続けた。

 

「だから、人間族と敵対することが何か問題なのかって言ってるんだ」

「そ、それは、だって同族じゃないですか......」

「お前らだって、同族に追い出されてるじゃねぇか」

「それは、まぁ、そうなんですが........」

「大体、根本が間違っている」

「根本?」

 

さらに首を捻るシア。周りの兎人族も疑問顔だ。

 

「いいか?俺は、お前等が樹海探索に便利だから雇った。んで、それまで死なれちゃ困るから守っているだけ。断じて、お前等に同情してとか、義侠心に駆られて助けているわけじゃない。まして、今後ずっと守ってやるつもりなんて毛頭ない。忘れたわけじゃないだろう?」

「うっ、はい.......覚えてます.......」

「だから、樹海案内の仕事が終わるまでは守る。自分のためにな。それを邪魔するヤツは魔物だろうが人間族だろうが関係ない。道を阻むものは敵、敵は殺す。それだけのことだ」

「な、なるほど.......」

 

何ともハジメらしい考えに、苦笑いしながら納得するシア。俺も同じように言う。

 

「さっきも言ったが、俺はある程度のことはハジメの意思に従う。ハジメ達の敵は俺の敵だし、ハジメ達を脅かす者は俺が殺す。悪いがな、俺達は同族を手にかける覚悟なんてとっくの昔にできてんだよ」

 

なんともない顔で語る俺のその言葉に、シアは黙った。同族だろうと殺します宣言に静寂が訪れたが、その静けさを破ったのはカムだった。

 

「はっはっは、分かりやすくていいですな。樹海の案内はお任せくだされ」

 

快活に笑いとばす。下手に正義感を持ち出されるよりもギブ&テイクな関係の方が信用に値したのだろう。その表情に含むところは全くなかった。

 

そうこうしていると、俺達はようやくライセン大峡谷から脱出することが出来た。.......が、しかし。案の定抜けた先には帝国兵がいた。

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

その数は三十。剣や盾、あとカーキ色の軍服を纏っている。一瞬驚いた顔を見せるも、その後は品定めするように兎人族を見た。

 

「小隊長!白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」

「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

「ひゃっほ~、流石、小隊長!話がわかる!」

 

その様子は、どことなく檜山達に似ているような感覚がした。俺は非常に吐き気がする、クソ野郎共だと一瞬で悟るとゴミを見るような視線を向けた。

 

小隊長と呼ばれた男が、ようやく俺達へと視線をを向けてくる。

 

「お前ら、兎人族じゃねぇよな」

「ああ」

「それが?」

「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

 

勝手に推測し、勝手に結論づけた小隊長は、さも自分の言う事を聞いて当たり前、断られることなど有り得ないと信じきった様子で、俺達に命令した。当然ながら従うと思ったら大間違いだ。

 

「「断る」」

「.......今、何て言った?」

「断ると言ったんだ。こいつらは今は俺のもの。あんたらには一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメする」

「別に俺はどうでもいいんだが、話が話だからな。おまえらによく似た一人のクソに命令されてる気分で不快だ。ハジメはこう言ってるが、はっきり言ってやるよ」

 

俺は殺気を強め、小隊長ごと背後の帝国兵を射抜く。

 

「失せろ、雑兵」

 

その言葉にどれだけ効果があったのかは知らない。ただ、畏怖する視線を向けてきたり、反対に怒気を孕んだ視線を向けてくる者が居ただけだ。小隊長と呼ばれた男も後者だった。ハジメから完全に視線を外し、俺に殺気を向けてくる。

 

「......小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

「てめぇらみたいな帝国の最底辺兵に取ってやる時間はねぇんだよバーカ」

 

俺がウザさMAXであろう顔でニンマリと嘲笑を浮かべてやると、小隊長は遂にキレて無言で剣を抜いた。その瞬間、横から銃声が響く。

 

ドパン!

 

自然な動きでドンナーを抜いたハジメが小隊長と呼ばれた男の頭を鉛玉でぶっ飛ばした。首から上がなくなった体はどしゃりと地に倒れ伏す。

 

急に起こった出来事に理解が追いつかないのであろう残りの帝国兵達。そんな中、悠然と俺達は歩いていく。

 

「いきなり良かったのか?」

「京を殺そうとした。つまりは俺の敵だ」

「カカッ。違いねぇな」

 

ハジメがさらにシュラークを抜き、俺は刀を抜刀する。纏雷を発動させて帯電状態のまま瞬歩を使う。

 

一条の雷光が兵士達の隙間を通り過ぎていく。その尾を引く軌跡が消滅する頃、軌道上にいた帝国兵全てが首から上とおさらばして小隊長の男と同じように倒れる。

 

同時に、ハジメのドンナー・シュラークで頭を撃ち抜かれた帝国兵が力なく地面に倒れた。さらに残っていた帝国兵の真ん中に手榴弾を抜いて投げ込み、その四肢をまるごとふっ飛ばす。

 

「「お前らに殺されるほど弱くねぇ」」

 

俺達の重なった言葉を死体に送る。先程まで土ばかりだったそこに、赤く池のように広がった血液が場を満たす。ピチャピチャと音を立てながら俺はハジメの元へ戻った。

 

シア達ハウリア族は、その圧倒的な殲滅力と、あまりの帝国兵の呆気なさに全員が言葉も忘れてその二人を見ていた。この二人ならば、必ず我らを救ってくれると、どこかそんな自信が湧いたかもしれない。

 

なお、ユエは満足そうに二人へ向かって頷いていた。

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

どうやら取り残していたらしい、最後の帝国兵が腰を抜かして尻餅をつく。ハジメはそんな帝国兵へ歩み寄る。

 

「ひぃ!くっ、来るなぁぁ!嫌だァ!だ、誰か助けてくれ!死にたくない!!」

 

命乞いをしながら後ずさる帝国兵を酷く冷めた視線で見下ろし、その背中にゴリっとドンナーの銃口を当てた。

 

「ひいっ!た、頼む!殺さないでくれ!な、何でもするから!頼む!」

「そうか? なら、他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。結構な数が居たはずなんだが……全部、帝国に移送済みか?」

「........は、話せば殺さないか?」

「お前、自分が条件を付けられる立場にあると思ってんのか?別に、どうしても欲しい情報じゃあないんだ。今すぐ逝くか?」

「ま、待ってくれ!話す!話すから!.......多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから.......」

 

絞った、その言葉が意味するところ、つまり残りの兎人族は殺したということだろう。そして殺されなかった兎人族も、全て帝国にいるだろうと。

 

その兵士の言葉に悲痛な表情をする兎人族達。ハジメは聞くことを聞いたのでさっさと殺すことにしたのだろう、引き金を引き背中に大穴を空けられた兵士は力無く地に倒れた。後ろの兎人族はそれを見て若干引いている。するとおずおずとシアがハジメに近寄って来た。

 

「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」

 

はぁ?という呆れを多分に含んだ視線を向けるハジメに「うっ」と唸るシア。自分達の同胞を殺し、奴隷にしようとした相手にも慈悲を持つようで、兎人族とはとことん温厚というか平和主義らしい。だが、ハジメより先にユエが反論を呈した。

 

「.......一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎ」

「そ、それは........」

「.......そもそも、守られているだけのあなた達がそんな目をハジメや京に向けるのはお門違い」

「.......」

 

おっと、どうやら俺にも向けられていたらしい。なんでぇ?ただ簡単に首をはねただけだよ〜?怖くないよぉ〜?........おっと、恵理みたいな喋り方になってしまった。

 

「ふむ、ハジメ殿、京殿、申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ」

「ハジメさん、京さん、すみません」

 

兎人族を代表して謝る2人にハジメは手をヒラヒラと、俺は沈黙で答える。そのまま無傷だった馬車をハジメが宝物庫から取り出した魔力駆動二輪に簡単に連結させた。どうやら無事な馬車はもうひとつあったようで馬を退けてハジメが俺カラーの二輪を連結させる。

 

俺達はそのまま一気に樹海の方へとハンドルを向けるのだった。




一応、アンケートの締切は明日(1/7)の23:59分までとしましょうか



感想お待ちしております


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残念なのはハウリア族

アンケに協力してくれた皆様、ありがとうございます。

神聖なる投票の結果、98:76でオリキャラ有という方針となりました。意外と四項目めに投票している鬼畜読者様がいて顔が引き攣ったのは内緒の話。

まぁ、いいんじゃないかなぁ(粉みかん)

ちなみにくれぐれも、本小説は毎日投稿ではございませんのであしからず。


そうこうしているうちに、俺達はハルツィナ樹海と平原の境界線まで来た。カムが先頭に出ている。

 

「それでは、ハジメ殿、京殿やユエ殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。お三方を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

「ああ、聞いた限りじゃあ、そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」

 

カムが言った最深部の大樹とは、亜人たちからウーア・ハルトと呼ばれる大きな樹木のことらしい。多分そこまで行きゃあ迷宮があるのは確実だろう。

 

「ハジメ、気配消しすぎだ」

「ん、こんなもんか?」

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや、全く、流石ですな!」

 

ハッハッハと快活にカムが笑い飛ばす。少しばかり思っていたが、やはりカムは神経が図太いと思う、うん。

 

歩く道中、ユエが俺たちに語り掛けてくる。

 

「二人とも、なんで帝国兵に私抜きで戦ったの?」

 

霧があるにも関わらずムスッとした顔が非常にわかりやすい。ハジメは苦笑しながら彼女の頭に手をぽんと置いた。

 

「それはな、実験のためだ」

「実験......?」

 

ハジメが言う実験、その二つのうちの一つは人を殺したことに関して何か思うことがあるのか、ということだった。しかし、結果として何も思わなかったらしい。

 

「やっぱり、敵は敵だ。殺す事を躊躇うようじゃ、この世界は生きて行けねぇだろうしな」

「俺もある意味確認を込めてだ。ま、案の定ハジメと同じ感想だったけどな。人を斬る感覚も、案外悪くない」

「お前、どこぞの抜刀斎みたいになるなよ.......?」

 

意外とガチトーンで心配してくるのが少し悲しかった、まる。

 

「あ、あの!」

 

すると、横を歩いていたシアが急に声を上げた、俺達は歩きながらシアの顔を見る。

 

「どうしたウザうさぎ。催したならその辺で......」

「ち、違いますよぉ!そうじゃなくて!......ハ、ハジメさん達の事教えてください!」

「んー?俺達のことは既に話したろ?」

「あの、そうじゃなくて........その、ならく?の事とかを知りたくて...........」

 

まぁ、別段隠す必要も無いのでその場で話す。カムとかそこら辺に聞かれているだろうが関係ない。ハジメが変わった話、ユエの過去、俺が助けに行った理由などなど。

 

「うぇ、ぐすっ.........ひどい、ひどすぎまずぅ~、ハジメさんもユエさんもがわいぞうですぅ~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて........うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

 

「私、甘ちゃんですぅ」「もう弱音吐かないですぅ」とか色々言っている。それだけなら良かったんだが、ハジメの外套で顔をふきふきしていたため最後に大きい一発を貰っていた。やはり残念うさぎだ。

 

そんな折り、カムが立ち止まった。ハジメも視界が悪い中でナイフを構えている。俺の空間把握にもその敵影は映った。ハジメが貸し与えたナイフを兎人族も構えている。

 

と、突然ハジメが左手を素早く水平に振った。微かに、パシュという射出音が連続で響く。

 

「「「キィイイイ!?」」」

 

三つの何かが倒れる音と悲鳴が聞こえてくるのは同時だった。すると慌てたように四本腕をはやす体長六十センチほどの猿が三匹編成でこちらを襲ってくる。

 

「ま、ここまでいりゃ俺の範囲だ」

 

兎人族の子供やシア達に攻撃しようとした猿達が綺麗に三つに下ろされる。知らぬ間に怪腕の技能の派生に入っていた風爪が猿達を切り裂いたのだ。ドチャリと三つの死体、合計9つのパーツが地面に転がる。

 

「あ、ありがとうございます。京さん」

「ありがと!お兄ちゃん!!」

「おう、気にすんな」

 

礼を言える子供はしっかり教育されているということだ。そういう子供は将来が楽しみになる。シアは突然のことに硬直した自分にガックリと肩を落としていた。

 

カムが苦笑いしながら先を進む。その後も魔物に襲われたが、やはりどうしても奈落の魔物と比べてしまい、この程度か、という感じで終わってしまう。やはり霧で見えずともどこから来るかわかっていれば十分だった。

 

そうこうして数時間がすぎた頃。ハジメが静かにドンナー・シュラークのホルスターに手をかけようとしていた。俺も、空間把握でその敵の数を確認して刀の塚に手を添える。ユエはその正体に気づいて面倒くさそうな表情をしていた。カム達も忙しなくうさ耳を動かす。

 

「お前達.......何故人間といる!種族と族名を名乗れ!」

 

そこに姿を現したのは、虎の亜人。筋骨隆々で見た目だけは強そうな印象がある。カムが喋り出す前にシアを視界に入れた虎の亜人が大きく目を見開く。

 

「白い髪の兎人族......だと?......貴様ら……報告のあったハウリア族か......亜人族の面汚し共め!長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは!反逆罪だ!もはや弁明など聞く必要もない!全員この場で処刑する!総員かッ!?」

 

男が最後まで言い切る前に、ハジメが銃弾を放つ。その一条の閃光は虎の亜人の頬をかすり、背後にあった木を吹っ飛ばして薙ぎ倒す。それとついでにようやく全員が把握出来たので俺は殺気を全員に振りかざす。

 

「「っ!!?」」

 

刹那、ドサリと地面に倒れ伏す音が不特定多数聞こえる。一番俺のさっきを受けたのは目の前の虎の亜人のはずだがが、冷や汗を流しているだけだ。相当精神が強いと見た。

 

「なっ、何がっ.........」

「なぁ、亜人さん達よ。平和に行こうぜ?こっちだって無駄なリソースは裂きたくねぇんだわ。分かる?どぅーゆーあんだすたん?」

 

最後のは完全にふざけた。強者の余裕ってやつ。まぁ窮鼠猫を噛むなんてのはよく言うがハジメが俺への攻撃をさせるわけが無い。

 

「........一つ聞きたい。お前たちの目的は?」

 

するとハジメがその返答に答える。

 

「樹海の深部、大樹の下へ行きたい」

「大樹の下へ.......だと? 何のために?」

「俺達は七大迷宮の攻略を目指している。ハウリアは案内のために雇ったんだ」

 

そのあと色々説明しているハジメの横で俺は周りを警戒していた。まぁ特に何もいないんですけどね。

 

「お前等が攻撃するより、俺の抜き撃ちの方が早い……試してみるか?」

「.......いや。だが、下手な動きはするなよ。我らも動かざるを得ない」

「わかってるさ」

 

どうやら話は終わったようだ。ハジメの視線で俺は殺気を解除する。最初は出力が強すぎたが後々すこし調整したので気絶はしていない。しかし、俺の殺気に当てられて反撃しようと思う者はいないだろう。ハウリア族への視線は相変わらずのようで、彼らは居心地悪そうにしていた。

 

そうすると今度はこんな雰囲気に飽きたのかユエが構って欲しいとばかりにハジメへちょっかいをかけ始める。更にはシアも混ざり始めて場は和んで行った。ハウリア達はもう慣れたようだが、初めて見る亜人達は呆れたような表情をしている。

 

「よろしいのですかな?混ざらなくても」

「ん?むしろカムが乱入すりゃいいだろ。実の娘が男に懐いてんだぞ」

「いや、私が入ると本当の意味で死んでしまいます........」

「あー........」

 

ハジメは三人で(ユエにシアがめげずに乱入して)イチャつき、俺はカムと世話話をしていた。経過するに1時間ほど、何がどうなったのかユエがシアに関節技を決めて、シアがタップしているときだ。一瞬にして気配が変わる。

 

霧の奥からは、数人の新たな亜人達が現れた。彼等の中央にいる初老の男が特に目を引く。流れる美しい金髪に深い知性を備える碧眼、その身は細く、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせる。威厳に満ちた容貌は、幾分シワが刻まれているものの、逆にそれがアクセントとなって美しさを引き上げていた。何より特徴的なのが、その尖った長耳だ。いわゆる森人族、エルフという存在だ。

 

「ふむ、お前さんらが問題の人間族かね?名は何という?」

「ハジメ。南雲ハジメだ」

「俺は刀崎 京。あんたは?」

 

周囲の亜人が長老に何て態度を!と憤りを見せる。それを、片手で制すると、森人族の男性も名乗り返した。

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。〝解放者〟とは何処で知った?」

「うん?オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だ」

 

どうやら男は驚愕しているようだ。表情に出さないところは上手い隠し方だとは思うが。

 

「ふむ、奈落の底か........聞いたことがないがな.......証明できるか?」

 

証明と言われて、ハジメは首を捻る。ユエも首を捻る。いや、普通に指輪出せばいいだろうよ。

 

「ハジメ、指輪あるだろ」

「あっ、なるほど」

 

一瞬、変貌前のハジメに戻ったような気がしたハジメが宝物庫からオルクスが付けていた指輪を取り出し、弾いて長老に渡した。その指輪を受け取ると刻まれた紋章をマジマジとみている。少しすると、ゆっくりと息を吐きながら口を開く。

 

「なるほど........確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはある.......よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

長老の声に、周りの虎の亜人を筆頭とした亜人族達が講義の声を上げる。しかし、静かに、だが強く言った。

 

「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」

 

アルフレリックが厳しい表情で周囲の亜人達を宥める。しかし、今度はハジメの方が抗議の声を上げた。

 

「待て。何勝手に俺の予定を決めてるんだ? 俺は大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに興味はない。問題ないなら、このまま大樹に向かわせてもらう」

「いや、お前さん。それは無理だ」

「なんだと?」

 

聞く話によると、大樹の周辺では霧が濃すぎて亜人族でさえ迷うそうだ。行くのなら、一定周期で霧が薄くなる時期に行くのが絶対、その事実は亜人なら誰でも知っていると言う。

 

「次は10日後だ」

 

ついでに「今すぐ行ってどうする気だ?」とハジメを見た後にカムを見た。ハジメはポカンとした表情でカムを見る。俺もカムを、ユエもカムを。その場の全員がカムを見た。

 

「あっ」

 

まさに今思い出した、と言わんばかりの間抜けた声を出す。その反応にハジメはピキリと青筋をうかべた。

 

「カム?」

「あっ、いや、その何といいますか........ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか........私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか.......」

 

しどろもどろになって必死に言い訳するカムだったが、俺達のジト目に耐えられなくなったのか逆ギレしだした。

 

「ええい、シア、それにお前達も!なぜ、途中で教えてくれなかったのだ!お前達も周期のことは知っているだろ!」

「なっ、父様、逆ギレですかっ!私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って……つまり、父様が悪いですぅ!」

「そうですよ、僕たちも、あれ?おかしいな?とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって……」

「族長、何かやたら張り切ってたから……」

 

逆ギレするカムに、シアが更に逆ギレし、他の兎人族達も目を逸らしながら、さり気なく責任を擦り付ける。

 

「お、お前達!それでも家族か!これは、あれだ、そう!連帯責任だ!連帯責任!ハジメ殿、京殿、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」

「あっ、汚い!お父様汚いですよぉ! 一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」

「族長! 私達まで巻き込まないで下さい!」

「バカモン!道中の、二人の容赦のなさを見ていただろう!一人でバツを受けるなんて絶対に嫌だ!」

「あんた、それでも族長ですか!」

 

亜人族の中でも情の深さは随一の種族といわれる兎人族。彼等は、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら互いに責任を擦り付け合っていた。情の深さは何処に行ったのか......流石、シアの家族である。総じて、残念なウサギばかりだった。

 

青筋を浮かべたハジメが、一言、ポツリと呟く。

 

「......ユエ、京」

「ん」

「お。俺もやっていいのか」

 

ハジメの言葉に一歩前に出たユエがスっと右手を掲げた。俺もカカッと笑いを上げてユエの隣に立つ。それに気がついたハウリア達の表情が引き攣った。

 

「まっ、待ってください、お二人!やるなら父様だけを!」

「はっはっは、何時までも皆一緒だ!」

「何が一緒だぁ!」

「ユエ殿、京殿、族長だけにして下さい!」

「僕は悪くない、僕は悪くない、悪いのは族長なんだ!」

 

喧々囂々に騒ぐハウリア達に薄く笑い、ユエは静かに呟いた。

 

「"嵐帝"」

「ついでにビリッとけ」

 

――――アッーーーー!!!

ーーーーアババババババアバババ!!

 

魔法で発生した風に纏雷の雷を混ぜておいた。綺麗にハウリア達は打ち上げられ、全員が某家よろしくその体勢になっていた。もはや族全体でネタになっていると言っても間違いではないだろう。アルフレリック達は呆れたような表情を浮かべ、天を仰いだ。

 

「自業自得だろ、残念うさぎ共」

 

言い捨てるようにハジメはそう言った。どこまでも残念な姿と在り方なハウリア族なのであった。




ー追記分ー

登場を画作していたオリヒロインですが、設定を見返しているとサブヒロインの方になりそうです。だって...........ねぇ?
サブヒロインでも、ヒロインはヒロインです。
ヒロインです(迫真)



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反抗する意思

俺達は今アルフレリックに連れられてフォアベルゲンに到着した。言ってみれば、山の中にある秘境のような場所だろうか。空気も美味しい、自然が豊か。

 

「それで、俺達は資格を持っているというわけか.......」

 

今、ハジメはお話中である。ユエもその横に座っている。俺?基本的に俺は面倒な話スルー派だから。何やら族の長老達に伝えられる口伝てを教えているとかなんとか。

 

ともすれば、何やら階下が騒がしくなってきた。ハジメ達は話を中断して騒ぎを見に行こうとするが。

 

「いやぁ、いい。俺が見てくるから座って話してろ」

「そうか、んじゃ任せる」

「ふむ........熊の亜人の族長には気をつけろ」

 

階下へ降りる俺へそんなことを言ってきたアルフレリックに、俺は後ろ背に手をヒラヒラさせて答える。確か下にはハウリア族を待たせてたはずだが、案の定、騒ぎになっているらしい。

 

降りて行ってみると、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。部屋の隅で縮こまり、カムが必死にシアを庇っている。シアもカムも頬が腫れている事から既に殴られた後のようだ。

 

「おいおい、なんですか?発情期ですか?コノヤロー」

「貴様か、この忌み子と兎人族をここへ連れてきたのは」

 

俺が喋れば、亜人達の視線が一気にこっちを向く。もちろん睨み付きで。そんな中、一人の熊の亜人が俺へ話しかけてくる。

 

「そうだが?なにか文句があるか?」

「この世界に生きる者ならば、知っているはずだ。我らの余所者への仕打ちを」

 

確か侵入者である他の種族には厳しい処罰かなんかを与える、だっけか。まぁ、俺には関係ないけどな。

 

「それがどうした?」

「分からないか?今すぐそこの忌み子共々、フォアベルゲンから出て行けと言ったのだ」

「やだね」

 

俺は嘲笑うかのようにそう返す。すると、熊の亜人は一瞬目を見開き、何かを抑えるように拳を握ったあとゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 

「なら、力づくで出て言ってもらうしかあるまいな。そして貴様の背後にいるアルフレリックにも話を聞かねばならぬ」

 

俺よりも数十センチは高い熊の亜人が、目の前にやってくる。まるで最後の宣告だとでも言わんばかりに口を開いた。

 

「もう一度言う。今すぐにフォアベルゲンから出ていけ。さもなくばそのか細い腕を鎖骨からへし折る」

「やだね」

 

即答でそう言ってやる。すると熊の亜人は、その脂肪と筋肉の塊のような豪腕を振り上げた。

 

「そうか、残念だ」

 

直後、振り下ろされたその腕は寸分の狂いもなく俺の左肩に向けて襲いかかる。熊の亜人の腕力は一撃で木をへし折るものだと聞く。恐らく後ろで俺に哀れみの視線を送っている亜人達、横でこの光景を見守っている兎人族達は俺が肉塊にでもなると思ってるんだろう。そんなわけないだろ。

 

「っ!?」

 

ズドン!と音がして、だが目の前の光景に当事者の熊の亜人はもちろん、その他の奴らも目を見開いて驚いている。熊の亜人のその腕は、何をするでもなく涼しい顔をした俺の左肩に止まっていた。

 

コキ、コキと簡単に首を慣らして薄ら笑う。

 

「んー、肩叩きとしては60点。攻撃としてはマイナス100点。おめでとう、振り切ったぜ」

「っ!.........このっ!!」

 

ついでに振り抜かれたもう片方の手を軽く手で受け止める。相手方としてはまたもズドン!も音が鳴っているんだが、涼しい顔で俺は熊の亜人を見る。

 

「あのな、一発でわかったろ?無理だって」

 

そのまま受け止めた腕を掴む。熊の亜人はそれを振りほどこうとしているが、いくらどう動ことうも空中に縫い付けられたようにビクともしない。

 

「き、貴様!離せ!」

「教えてやるよ、本当の殴り方ってやつを」

 

そのまま、振りかぶる。狙うのは........そうだな、胸板辺りでいいか。

 

「それ」

 

ドゴォ!と熊の亜人が放った一撃よりもはるかに重い音が鳴り、直撃した瞬間に回転を加えた俺の拳で、熊の亜人は遊園地のコーヒーカップもかくやという回転で背後の壁を突破ってどこかへ消えてしまった。しばらくすると、地面から悲鳴が聞こえてくる。

 

まさか腕力に優れた熊の亜人が一発でやられるとは思わなかったのだろう。他の亜人達は全て唖然とした表情で静まり返っていた。

 

「んで、何しに来たのアンタら」

 

俺がそう言っても答える返事が返ってこない。どうしたもんかとあぐねていたら、頭上から声がかかった。

 

「なんだ、騒がしい」

 

階下へ向けて、アルフレリックとハジメとユエが降りてきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、アルフレリックが事態を収集してくれた。いやー非常に優秀だわ。さすが持つべきものは族長だわ。

 

「で?あんた達は俺等をどうしたいんだ?俺は大樹の下へ行きたいだけで、邪魔しなければ敵対することもないんだが.........亜人族としての意思を統一してくれないと、いざって時、何処までやっていいかわからないのは不味いだろう?あんた達的に。殺し合いの最中、敵味方の区別に配慮する程、俺はお人好しじゃないぞ」

 

ハジメの言葉に、身を強ばらせる長老衆。言外に、亜人族全体との戦争も辞さないという意志が込められていることに気がついたのだろう。

 

「こちらの仲間を再起不能にしておいて、第一声がそれか.......それで友好的になれるとでも?」

 

グゼという男が苦虫を噛み潰したような表情で呻くように呟いた。

 

「は?何言ってるんだ?先に殺意を向けてきたのは、あの熊野郎なんだろ?ましてや俺は手を出してないし、京だっていきなり殴りかかるなんてことは無い。再起不能になったのは自業自得ってやつだよ」

「き、貴様!ジンはな!ジンは、いつも国のことを思って!」

「それが、初対面の相手を問答無用に殺していい理由になるとでも?」

「そ、それは!しかし!」

「勘違いするなよ?京が被害者で、あの熊野郎が加害者。長老ってのは罪科の判断も下すんだろ?なら、そこのところ、長老のあんたがはき違えるなよ?」

 

おそらくこいつは熊の亜人と仲が良かったのではないだろうか。その為、頭ではハジメの言う通りだと分かっていても心が納得しないのだろう。だが、そんな心情を汲み取ってやるほど、ハジメはお人好しではない。

 

「グゼ、気持ちはわかるが、そのくらいにしておけ。彼の言い分は正論だ」

 

アルフレリックの諌めの言葉に、立ち上がりかけたグゼは表情を歪めてドスンッと音を立てながら座り込んだ。そのまま、むっつりと黙り込む。

 

「確かに、この少年は、紋章の一つを所持しているし、その実力も、ジンをやったその男も、大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」

 

そう言ったのは狐人族の長老ルアだ。糸のように細めた目でハジメを見た後、他の長老はどうするのかと周囲を見渡す。

 

その視線を受けて、翼人族のマオや、虎人族のゼルも相当思うところはあるようだが、同意を示した。代表して、アルフレリックがハジメに伝える。

 

「南雲ハジメ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを口伝の資格者として認める。故に、お前さんと敵対はしないというのが総意だ.......可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。.....しかし.............」

「絶対じゃない......か?」

「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に、今回再起不能にされたジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな……」

「それで?」

 

アルフレリックの話しを聞いてもハジメの顔色は変わらない。すべきことをしただけであり、すべきことをするだけだという意志が、その瞳から見て取れる。アルフレリックは、その意志を理解した上で、長老として同じく意志の宿った瞳を向ける。

 

「お前さん達を襲った者達を殺さないで欲しい」

「.........殺意を向けてくる相手に手加減しろと?」

「そうだ。お前さんらの実力なら可能だろう?」

「あの熊野郎が手練だというなら、可能か否かで言えば可能だろうな。だが、殺し合いで手加減をするつもりはない。あんたの気持ちはわかるけどな、そちらの事情は俺にとって関係のないものだ。同胞を死なせたくないなら死ぬ気で止めてやれ」

 

まぁ、こっちはやられたら殺り返す精神だからな。むしろ手加減しろという方が難しい。いやまぁ、やられっぱなしで終わるわけないんで結局は殺るんだが。まぁそんな戯言を誰も聞くわけねぇよな。

 

すると、虎人族の男が口を開く。

 

「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」

 

その言葉に、ハジメは訝しそうな表情をした。もとより、案内はハウリア族に任せるつもりで、フェアベルゲンの者の手を借りるつもりはなかった。そのことは、彼等も知っているはずである。だが、ゼルの次の言葉で彼の真意が明らかになった。

 

「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」

 

ゼルの言葉に、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。この期に及んで、誰もシアを責めないのだから情の深さは折紙付きだ。

 

「長老様方!どうか、どうか一族だけはご寛恕を!どうか!」

「シア!止めなさい!皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」

「でも、父様!」

 

土下座しながら必死に寛恕を請うシアだったが、ゼルの言葉に容赦はなかった。

 

「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」

 

ワッと泣き出すシア。それをカム達は優しく慰めた。長老会議で決定したというのは本当なのだろう。他の長老達も何も言わなかった。おそらく、忌み子であるということよりも、そのような危険因子をフェアベルゲンの傍に隠し続けたという事実が罪を重くしたのだろう。

 

「そういうわけだ。これで、貴様が大樹に行く方法は途絶えたわけだが? どうする? 運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」

 

そんな問いかけに、俺達は何言ってんだこいつと言った表情で返す。すると、ハジメがぽつりと言った。

 

「お前、アホだろ?」

「分かってないなぁ」

「な、なんだと!」

 

ハジメと俺物言いに、目を釣り上げる虎人族の男。シア達も思わずと言った風にこちらを見る。ユエは俺達の考えがわかっているのかすまし顔だ。

 

「こちとら別にお前らの判断なんて関係ないし、もともと案内もこいつらに任せてるから要らん。その段階でこいつらを処刑するつもりなら全面戦争で受けて立つ」

 

そう言い、ハジメを見る。すると、俺の方を向いて小さく頷く。

 

そのまま長老衆を睥睨しながら、スっと伸ばした手を泣き崩れているシアの頭に乗せた。ピクッと体を震わせ、俺達を交互に見るシア。

 

「俺達から、こいつらを奪おうってんなら.......覚悟を決めろ」

「ハジメさん........京さん.......」

 

確固たる言葉を述べると、アルフレリックが静かに問うてくる。

 

「本気かね?」

 

アルフレリックが誤魔化しは許さないとばかりに鋭い眼光で俺達を射貫いた。

 

「当然だ」

「何度も言わせんな」

 

しかし、全く揺るがない俺達。だがアルフレリックはまだ引き下がろうとしない。

 

「なぜ、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう」

 

アルフレリックの言葉にハジメは面倒そうな表情を浮かべつつ、シアをチラリと見た。先程から、ずっと俺達を見ていたシアはその視線に気がつき、一瞬目が合う。

 

「約束したからな。案内と引き換えに助けてやるって」

「.......約束か。それならもう果たしたと考えてもいいのではないか?峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう?なら、あとは報酬として案内を受けるだけだ。報酬を渡す者が変わるだけで問題なかろう」

「問題大ありだ。案内するまで身の安全を確保するってのが約束なんだよ。途中でいい条件が出てきたからって、ポイ捨てして鞍替えなんざ格好悪いだろ?」

 

ハジメは性格が変わろうとも義理堅い。こいつらを本気で最後まで守り通す覚悟をしているのだ。俺もその意思に従っている。つまり答えは変わらない。

 

「諦めた方がいいと思うぞ。死にたいならそのまま反抗して構わんが」

 

俺達に引く気がないと悟ったのか、アルフレリックが深々と溜息を吐く。他の長老衆がどうするんだと顔を見合わせた。しばらく、静寂が辺りを包み、やがてアルフレリックがどこか疲れた表情で提案した。

 

「ならば、お前さん達の奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ。.......既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

「アルフレリック!それでは!」

 

完全に屁理屈である。当然、他の長老衆がギョッとした表情を向ける。ゼルに到っては思わず身を乗り出して抗議の声を上げた。

 

「ゼル。わかっているだろう。この少年達が引かないことも、その力の大きさも。ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対することになる。その場合、どれだけの犠牲が出るか......いや、恐らく全滅もありえる。長老の一人として、そのような危険は断じて犯せん」

「しかし、それでは示しがつかん!力に屈して、化物の子やそれに与するものを野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」

「だが.........」

 

だが、さらにハジメが空気を読まずに言い放つ。

 

「そんな事、やシアを見逃すのは今更だと思うぞ?」

 

ハジメはおもむろに右腕の袖を捲ると魔力の直接操作を行った。すると、右腕の皮膚の内側に薄らと赤い線が浮かび上がる。さらに、〝纏雷〟を使用して右手にスパークが走る。

その光景に長老達は目を見開いた。

 

「俺も、シアと同じように、魔力の直接操作ができるし、固有魔法も使える。次いでに言えばこっちのユエもな。京に至っては霊力とかいう未知の力を操作出来る。つまり俺達はあんた達のいう化物ってことだ。だが、口伝では〝それがどのような者であれ敵対するな〟ってあるんだろ? 掟に従うなら、いずれにしろあんた達は化物を見逃さなくちゃならないんだ。シア一人見逃すくらい今更だと思うけどな」

 

しばらく硬直していた長老衆だが、やがて顔を見合わせヒソヒソと話し始めた。そして、結論が出たのか、代表してアルフレリックが、それはもう深々と溜息を吐きながら長老会議の決定を告げる。

 

「はぁ~、ハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、同じく忌み子である南雲ハジメ、刀崎 京の身内と見なす。そして、資格者南雲ハジメと刀崎 京に対しては、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、南雲ハジメ達の一族に手を出した場合は全て自己責任とする.......以上だ。何かあるか?」

「いや、何度も言うが俺は大樹に行ければいいんだ。こいつらの案内でな。文句はねぇよ」

「........そうか。ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが........」

「気にしないでくれ。全部譲れないこととは言え、相当無茶言ってる自覚はあるんだ。むしろ理性的な判断をしてくれて有り難いくらいだよ」

「なんか俺混ぜられてるけど、っていうか俺が主?えぇ......」

 

ハジメの言葉に苦笑いするアルフレリック。他の長老達は渋い表情か疲れたような表情だ。恨み辛みというより、さっさとどっか行ってくれ!という雰囲気である。その様子に肩を竦めるハジメはユエやシア達を促して立ち上がった。

 

ユエは終始ボーとしていたが、話は聞いていたのか特に意見を口にすることもなくハジメに合わせて立ち上がった。

 

しかし、シア達ハウリア族は、未だ現実を認識しきれていないのか呆然としたまま立ち上がる気配がない。ついさっきまで死を覚悟していたのに、気がつけば追放で済んでいるという不思議。「えっ、このまま本当に行っちゃっていいの?」という感じで内心動揺しまくっていた。

 

「おい、何時まで呆けているんだ? さっさと行くぞ」

 

ハジメの言葉に、ようやく我を取り戻したのかあたふたと立ち上がり、さっさと出て行く俺達の後を追うシア達。アルフレリック達も、俺達を門まで送ってくれるらしい。

 

シアが、オロオロしながら俺達に尋ねた。

 

「あ、あの、私達........死ななくていいんですか?」

「?、さっきの話し聞いてなかったのか?」

「い、いえ、聞いてはいましたが........その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか........信じられない状況といいますか........」

 

周りのハウリア族も同様なのか困惑したような表情だ。それだけ、長老会議の決定というのは亜人にとって絶対的なものなのだろう。

どう処理していいのか分からず困惑するシアにユエが呟くように話しかけた。

 

「........素直に喜べばいい」

「ユエさん?」

「........ハジメと京に救われた。それが事実。受け入れて喜べばいい」

「........」

 

ユエの言葉に、シアはそっと隣を歩く俺達に視線をやった。ハジメは前を向いたまま肩を竦める。俺はカカッと笑う。

 

「まぁ、約束だからな」

「そういうこったな」

「ッ.........」

 

シアは何度目か分からない涙をうかべ、気がつけば俺達にダイブしようとしていた。

 

「ハジメさ~ん!京さ〜ん!ありがどうございまずぅ~!...........ふぎゅっ!」

「あ、わり、つい反射的に」

 

俺はハジメの前に出てそのままシアを背負い投げで地面にたたきつけてしまった。

 

「なんでですかぁ!!今のは黙って私に抱きつかれてるところですよぉ〜!!」

「........残念うさぎ」

 

最後にユエが言い放った言葉で、シアがガチ泣きしてしまった。その光景に、俺がユエをジト目で見つめ、まさかのハジメも横に並んだ。

俺達二人の視線にユエがいたたまれない表情をしてシアを慰めたのだった。




まだハジメへ抱きつくのを許さない京くん。


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シア・ハウリアの告白

京達がフォアベルゲンでの一件を終えてから今日でちょうど十日が経った。

 

ズガンッ! ドギャッ! バキッバキッバキッ! ドグシャッ!

 

樹海の中、凄まじい破壊音が響く。野太い樹が幾本も半ばから折られ、地面には隕石でも落下したかのようなクレーターがあちこちに出来上がっており、更には、燃えて炭化した樹や氷漬けになっている樹まであった。

 

「ユエさんの頬っぺ!キズです!キズ!私の攻撃当たってますよ!あはは~、やりましたぁ!私の勝ちですぅ!」

 

ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶシア。そこまで喜ぶのには、理由がある。

 

「ユエさん。私、勝ちました」

「..................ん」

「約束しましたよね?」

「..............................ん」

「もし、十日以内に一度でも勝てたら.......ハジメさんとユエさんの旅に連れて行ってくれるって。そうですよね?」

「............................................ん」

「少なくとも、ハジメさんに頼むとき味方してくれるんですよね?」

「...................................................................今日のごはん何だっけ?」

「ちょっとぉ! 何いきなり誤魔化してるんですかぁ!しかも、誤魔化し方が微妙ですよ!ユエさん、ハジメさんの血さえあればいいじゃないですか! 何、ごはん気にしているんですか!ちゃんと味方して下さいよぉ!ユエさんが味方なら、九割方OK貰えるんですからぁ!」

 

しかしユエは人差し指を立て、チッチッチッと舌打ちをする。

 

「京の血もなかなか美味しい」

「どうでもいいですよぉ!!!」

 

ぎゃーぎゃーと騒ぐシアに、ユエは心底鬱陶しそうな表情を見せる。

 

十日前、シアのユエへの頼み事として十日以内にユエへ戦闘で一度でも傷をつければ、京達に頼む時に味方になって欲しいということを頼んだ。ユエは愚かな頼み事だと思い了承したが、それが仇となったようだ。

 

シアとしては、ハジメと京は何だかんだでユエに甘いということを見抜いていたので、外堀から埋めてしまおうという思惑があった。何より、シアとて女だ。ユエのハジメや京に対する感情は理解している。自分も一部同じ感情を持っているのだから当然だ。ならば、逆も然り。ユエもシアの感情を理解し同行を快く思わないはずである。だからこそ、まず何としてもユエに対してシア・ハウリアという存在を認めてもらう必要があった。

 

果たして、十日という日にちが過ぎ、今日ようやく約束を達成したのだ。

 

「........はぁ。わかった。約束は守る..........」

「ホントですか!? やっぱり、や~めたぁとかなしですよぉ! ちゃんと援護して下さいよ!」

「........................................ん」

「何だか、その異様に長い間が気になりますが..........ホント、お願いしますよ?」

「........,しつこい」

 

渋々、ほんと~に渋々といった感じでユエがシアの勝ちを認める。シアは、ユエの返事に多少の不安は残しつつも、ハジメ同様に約束を反故にすることはないだろうと安心と喜びの表情を浮かべた。

 

そろそろ、ハジメ達のハウリア族への訓練も終わる頃だ。不機嫌そうなユエと上機嫌なシアは二人並んでハジメ達がいるであろう場所へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

ユエとシアがハジメのもとへ到着したとき、ハジメは腕を組んで近くの樹にもたれたまま瞑目しているところだった。

 

二人の気配に気が付いたのか、ハジメはゆっくり目を開けると二人の姿を視界に収める。全く正反対の雰囲気を纏わせているユエとシアに訝しそうにしつつ、ハジメは片手を上げて声をかけた。

 

「よっ、二人共。勝負とやらは終わったのか?」

「ん。.........京は?」

 

ユエが問うと、クイッと親指を自分の背後に向ける。そこに居たのは、森の方を睨んでゆるりと佇む京だった。

 

ハジメは自分達がいなくなった後に、窮地に陥らないようにと訓練を提案した。そしてそれをハウリア族は受けたのだ。

 

しかしハジメが最初思い描いていたよりもハウリア族の甘さは酷かった。虫一匹殺すのに、多大な情けをかけるハウリア族を見かねてキレたハジメは、この十日間地獄のような訓練をハウリア族に課した。そして今日、卒業訓練と称して京と戦わせている。

 

勝てるわけがない、というのはあたり前の話だ。だがハジメも勝つとは思っていない。自身より格上の京に対してどこまでやれるか、それで判断するのだ。ちなみに京にも、手加減はするなと言ってあるのだが........。

 

「あいつ、楽しんでるな.........」

 

見事にハウリア族は遊ばれていた。この十日間で見違えるほどになったとハジメは思っている。しかし、それでもやはり京に勝つのは、鼠が龍に挑むようなものだ。

 

「おーい、隠れてたら戦えないだろー?」

 

京は空間把握を使いながら森へ潜むハウリア達に言葉を投げかける。直後、彼へ向かって暗器が投げられた。それを弾いた瞬間、どこから沸いたのか彼の背後からウサギ耳の暗殺者が四人かかる。

 

「後ろ取ったり.........ぐべぇ!」

「そんなっ!攻撃はかんぺ........ぐほっ!」

「あべぇ!」

「あべし!」

 

雷光が走り、うさぎ4人が地面にたたきつけられる。スタッと軽く着地した京の体からはバチバチィ!と稲妻が周囲に走った。

 

「あんまり行かないならこっちから行くぞー?」

 

もちろん、返事などない。京はため息をついて空力を使い空中へと舞い上がる。

 

「雷鎚!!」

 

()()()()()()()()()ハウリア達へ向けて、天から爆雷が轟いた。怪腕の派生技能である雷鎚。拳に雷を纏わせて殴るだけだがその威力は絶大で、着弾した地面が陥没して亀裂を入れるだけではなく、周囲一体が衝撃波によって吹き飛ばされ、更地に帰る。まるで北欧神話のトールが神器、ミョルニルが放つ一撃のような激しい攻撃に、全員がくたばったかと思えた。

 

「っ!......いない!?」

 

しかしそこに、ハウリア達の姿は無い。次に空間認識が捉えたのは、空中。振り向きざまに襲いかかってきたハウリア二人の首へ手刀を落として気絶させる。

 

「ちぃ!」

 

そんな京へ向かって今度は大量の暗器が投げ込まれた。その攻撃に、ハジメが派生技能として使っている瞬光の真似事で、電気を脳に流し動体視力と認識力を活性化させて擬似瞬光を使う。その瞬間、大量に飛んでくる暗器が急激にゆっくりとなった。

 

京はその中をゆらりゆらり枯葉が舞うように避け続け、既に敵影を現したハウリア達の元へ雷光が尾を引く。百人斬りよろしく片っ端から峰打ちでハウリアは気絶させられていった。

 

「.......おん?」

 

しかし斬り終わったあとに気づいた。最後の一人、カムが居ないことに。

 

「キエェェェエエェェイ!!」

 

いつかの八重樫道場で体験したような奇声を上げ、カムが両手に暗器を持って斬りかかってくる。さらに一閃、二閃、三閃と攻撃は加速し、京もその攻撃に反応した。だが暗器だけの攻撃ではなく、さらには体術までも使い、京の喉元を掻き切らんと迫る。

 

十日前までとは全く違うハウリア達に、京は素直に賞賛を送った。少しだけとは言え、己と対等に戦えたのだから。なればこそ、最後にも賞賛を送る。

 

「お疲れさん。よくやった、合格だろ」

「っ!」

 

直後、いつの間にかカムは両手に握っていた暗器を取り上げられ、その刀が首筋で止められた。

 

「そこまでだ」

 

そこまで来て、ハジメの制止が入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

ふぅ、油断大敵ってのはこのことだな。にしてもハウリア達、よくやるようになったなぁ。これもハジメのあの放送禁止用語が並ぶ訓練のおかげだろうな。

 

「んで、話ってなんだ?」

「ん........」

 

ユエにベシッと叩かれて、シア前に出る。ちなみにカム達は少しの間、待機してもらうことにした。

 

「確かユエと戦闘してたんだろ?勝ったのか?」

「そうなんですよ!ハジメさん!京さん!聞いて下さい!私、遂にユエさんに勝ちましたよ!大勝利ですよ!いや~、ハジメさんにもお見せしたかったですよぉ~、私の華麗な戦いぶりを!負けたと知った時のユエさんたらもへぶっ!?」

 

身振り手振り大はしゃぎという様相で戦いの顛末を語るシア。調子に乗りすぎて、ユエのジャンピングビンタを食らい錐揉みしながら吹き飛びドシャと音を立てて地面に倒れ込んだ。よほど強烈だったのかピクピクとして起き上がる気配がない。やっぱりいくら頑張ってもネタ枠から外れないらしい。

 

フンッと鼻を鳴らし更に不機嫌そうにそっぽを向くユエに、ハジメが苦笑いしながら尋ねる。

 

「で?どうだった?」

 

勝負の結果というより、その内容について質問するハジメ。正直、どんな方法であれユエに勝ったという事実は信じ難い。ユエから見たシアはどれほどのものなのか、俺も気にならないといえば嘘になる。

 

ユエは話したくないという雰囲気を隠しもせず醸し出しながら、渋々と言った感じでハジメの質問に答えた。

 

「.........魔法の適性はハジメと変わらない」

「ありゃま、宝の持ち腐れだな.......で?それだけじゃないんだろ?あのレベルの大槌をせがまれたとなると……」

「........ん、身体強化に特化してる。正直、化物レベル」

「.......へぇ。俺達と比べると?」

 

ユエの評価に目を細めるハジメ。正直、想像以上の高評価だ。珍しく無表情を崩し苦虫を噛み潰したようなユエの表情が何より雄弁に、その凄まじさを物語る。ユエは、ハジメの質問に少し考える素振りを見せるとハジメに視線を合わせて答えた。

 

「........強化してないハジメの.......六割くらい。京の........三割くらい」

「マジか.......最大値だよな?」

「ん.........でも、鍛錬次第でまだ上がるかも」

「おぉう。そいつは確かに化物レベルだ」

 

ハジメは、ユエから示されたシアの化物ぶりに内心唖然としながら、シアに何とも言えない眼差しを向けた。強化していないハジメの六割、俺の三割ということは、本気で身体強化したシアはほとんどステータスが6000〜7000ということだ。これは、本気で強化した勇者の二倍の力を持っているということでもある。まさに〝化物レベル〟というに相応しい力だ。

 

俺もハジメも、まさかの事実に驚愕を隠せない。すると、シアがその様子を見たのか強い瞳で俺達の前に出て、射抜いた。

 

「ハジメさん、京さん、私をあなた達の旅に連れて行って下さい。お願いします!」

「「断る」」

「即答!?」

 

むしろどうして断られないと思ったのか、それを教えて欲しい。色々と問題があるんだよな。

 

「ひ、酷いですよ、お二方。こんなに真剣に頼み込んでいるのに、それをあっさり........」

「いや、こんなにって言われても知らんがな。大体、カム達どうすんだよ?まさか、全員連れて行くって意味じゃないだろうな?」

「いや、さすがに俺も合格と言ったがそれはちょっと........」

「ち、違いますよ!今のは私だけの話です!父様達には修行が始まる前に話をしました。一族の迷惑になるからってだけじゃ認めないけど........その.........」

「その?なんだ?」

 

何やら急にモジモジし始めるシア。指先をツンツンしながら頬を染めて上目遣いでハジメをチラチラと見る。あざとい。実にあざとい仕草だ。ハジメが不審者を見る目でシアを見る。傍らのユエがイラッとした表情で横目にシアを睨んでいる。俺はそんな二人をどことなく宥める。

 

「その........私自身が、付いて行きたいと本気で思っているなら構わないって.........」

「はぁ?何で付いて来たいんだ?今なら一族の迷惑にもならないだろ?それだけの実力があれば大抵の敵はどうとでもなるだろうし」

「なんか他に俺達の旅について行きたい理由でもあるのか?」

「で、ですからぁ、それは、そのぉ........」

「........」

 

モジモジしたまま中々答えないシアにいい加減我慢の限界だと、ハジメはドンナーを抜きかける。俺はいつかの白崎が重なってそれを止める。それを察したのかどうかは分からないが、シアが女は度胸!と言わんばかりに声を張り上げた。思いの丈を乗せて。

 

「ハジメさんの傍に居たいからですぅ!しゅきなのでぇ!」

「........は?」

「あー........やっぱり?っていうかその前に噛むなよ、一世一代の大仕掛けだぞ」

「うぅ〜」

 

噛んだことへの羞恥、ハジメは豆鉄砲をくらったような顔、自体は混沌と化していた。

 

「いやいやいや、おかしいだろ?一体、どこでフラグなんて立ったんだよ?自分で言うのも何だが、お前に対してはかなり雑な扱いだったと思うんだが........まさか、そういうのに興奮する口か?」

 

自分の推測にまさかと思いつつ、シアを見てドン引きしたように一歩後退るハジメ。シアが猛然と抗議する。

 

「誰が変態ですか!そんな趣味ありません!っていうか雑だと自覚があったのならもう少し優しくしてくれてもいいじゃないですか.........」

「いや、何でお前に優しくする必要があるんだよ,.........そもそも本当に好きなのか?状況に釣られてやしないか?」

 

ハジメは、未だシアの好意が信じられないのか、いわゆる吊り橋効果を疑った。今までのハジメのシアに対する態度は誰がどう見ても雑だったので無理もないかもしれない。

 

「状況が全く関係ないとは言いません。窮地を何度も救われて、同じ体質で........長老方に京さんと一緒に啖呵切って私との約束を守ってくれたときは本当に嬉しかったですし........ただ、状況が関係あろうとなかろうと、もうそういう気持ちを持ってしまったんだから仕方ないじゃないですか。私だって時々思いますよ。どうしてこの人なんだろうって。ハジメさん、未だに私のこと名前で呼んでくれないし、京さんなんかすぐに呼んでくれたのに。何かあると直ぐ撃ってくるし、鬼だし、返事はおざなりだし、魔物の群れに放り投げるし、容赦ないし、鬼だし、優しくしてくれないし、ユエさんばかり贔屓するし、鬼だし........あれ? ホントに何で好きなんだろ?あれぇ~?」

 

話している間に、自分で自分の気持ちを疑いだしたシア。首を傾げるシアに、青筋を浮かべつつも言っていることは間違いがないので思わずドンナーを抜きかけるも辛うじて俺が押えて踏み止まる。

 

「と、とにかくだ。お前がどう思っていようと連れて行くつもりはない」

「そんな!さっきのは冗談ですよ?ちゃんと好きですから連れて行って下さい!..........あっ、京さんもちゃんと好きですよ!また別の意味で!」

「お前、なんだその今つけたような言い分は」

 

取ってつけたようなシアの言い方にジト目を向ける俺。

 

「あのなぁ、お前の気持ちは.........まぁ、本当だとして、俺にはユエがいるって分かっているだろう?というか、よく本人目の前にして堂々と告白なんざ出来るよな..........前から思っていたが、お前の一番の恐ろしさは身体強化云々より、その図太さなんじゃないか? お前の心臓って絶対アザンチウム製だと思うんだ」

「誰が、世界最高硬度の心臓の持ち主ですか!うぅ~、やっぱりこうなりましたか........ええ、わかってましたよ。ハジメさんのことです。一筋縄ではいかないと思ってました」

 

突然、フフフと怪しげに笑い出すシアに胡乱な眼差しを向けるハジメ。

 

「こんなこともあろうかと!命懸けで外堀を埋めておいたのです!ささっ、ユエ先生!お願いします!」

「は?ユエ?」

「なんでユエ?」

 

俺達がハテナマークを浮かべていると、ユエが苦虫を百匹くらいかみ潰したような顔で言う。

 

「......................ハジメ、京、連れて行こう」

「いやいやいや、なにその間。明らかに嫌そう........もしかして勝負の賭けって.......」

「........無念」

「まさかユエが負けるなんてなぁ........」

 

ユエがガックリと肩を落としたので本当なのだろう。ならば、シアは本気で俺たちについてくるつもりでその約束を取り付けたということだ。

 

ハジメは、一度深々と息を吐くとシアとしっかり目を合わせて、一言一言確かめるように言葉を紡ぐ。シアも静かに、言葉に力を込めて返した。

 

「付いて来たって応えてはやれないぞ?」

「知らないんですか?未来は絶対じゃあないんですよ?」

 

それは、未来を垣間見れるシアだからこその言葉。未来は覚悟と行動で変えられると信じているのだろう。

 

「危険だらけの旅だ」

「化物でよかったです。御蔭で貴方について行けます」

 

長老方にも言われた蔑称。しかし、今はむしろ誇りだ。化物でなければ為すことのできない事がある。俺達の旅は危険ばかりの旅だ、そんな化物が輝く。

 

「俺の望みは故郷に帰ることだ。もう家族とは会えないかもしれないぞ?」

「話し合いました。〝それでも〟です。父様達もわかってくれました」

 

今まで、ずっと守ってくれた家族。感謝の念しかない。何処までも一緒に生きてくれた家族に。最初は反対することもあったのだろう、子が親の元を旅立つのを見るのは抵抗がある。それでも彼女は説き伏せたのだろう。

 

「俺の故郷は、お前には住み難いところだ」

「何度でも言いましょう。〝それでも〟です」

 

シアの想いは既に示した。そんな〝言葉〟では止まらない。止められない。これはそういう類の気持ちなのだ。恐らく白崎と同じような、そんな気持ちだ。

 

「........」

「ふふ、終わりですか?なら、私の勝ちですね?」

「勝ちってなんだ..........」

「私の気持ちが勝ったという事です。..........ハジメさん」

「........何だ」

 

 もう一度、はっきりと。シア・ハウリアの望みを。

 

「........私も連れて行って下さい」

 

見つめ合うハジメとシア。ハジメは真意を確認するように蒼穹の瞳を覗き込む。

 

「まだ...........だ」

「ふえっ?」

「まだ.........京の返答を聞いてないだろ」

 

そう言ってハジメは神妙な面持ちでこちらを見てくる。ユエも、シアも、こちらを見ていた。俺はため息一つ、ハジメに近づいていく。

 

「戦闘面では、申し分ない。度胸もある、成長の見込みもある。...........まぁとりあえずだ、ハジメ、一発ぶん殴らせろ」

「はっ?ちょ、何...........」

 

ボゴォ!と音を立てて、ハジメは数メートル吹っ飛んだ。その一瞬の出来事に、ユエやシア、果てには地面を転がったハジメでさえ何が起きたのかわからないと言った表情だ。

 

「なんで殴ったか、分かるか?」

「わかんねぇに決まってんだろ!」

「はぁ........これだからバカジメは。いいか?シアは『お前の事』が好きなんだよ。連れていくも連れていかないも、お前次第。こいつの目を見てみろ、本気の目だぞ。そんなこいつの覚悟を、お前は俺へ最終判断を委ねることで踏みにじろうとした」

 

俺はそのまま近づいてハジメの胸ぐらを掴みあげる。その瞳を間近で射抜いた。

 

「てめぇの身に降りかかったんだ、てめぇが決めろ!俺に判断を仰いでチキってんじゃねぇぞ!」

 

そう言うと胸ぐらを離す。俺の言葉に、ハジメはしばらく黙っていた。だが、少しして大きくため息をつく。

 

「.......................はぁ~、勝手にしろ。物好きめ」

 

その言葉に、シアは口元を抑えている。目からは涙が溢れだそうとしていた。そんな彼女に、ハジメは「あと.........」と付け加える。

 

「その、悪かったよ。確かに京の言う通りだ」

 

罰が悪そうにそう述べる。その言葉で、今度こそシアの涙が決壊する。ユエはどことなく納得したような顔でため息を吐いていた。

 

「ふぇ〜ん!ユエざん、京ざん、ありがどうございまずぅ〜!!」

「.........ん」

「俺は何もしてねぇよ。..........あと、悪かったなハジメ。いきなり殴って」

「全くだ。ったく、怪腕持ちのお前に殴られるとかもう勘弁だ」

 

そう言ったハジメだが、俺も彼もどことなく笑みを浮かべていたのだった。




長い前置きの果てに、あとちょっとでライセン大迷宮ですねぇ。





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新たな町へ、下準備に

あれから、豹変したハウリア達にシアが唖然としてハジメを見たり、その豹変したハウリアが無駄に厨二病に目覚めていてシアがジト目でハジメを見たりしていたのはここだけの話。

 

ちなみに大樹に行くまでに待ち伏せがあったらしいが、ハウリア族がその待ち伏せを全員楽しんで殺そうとしていたので本気でシアに説教を食らっていた。ハジメはハジメで自分の失態をなかった事のようにフォアベルゲンに貸一つを作った。ハジメは理不尽にハウリア族を一発殴っていたので俺も参加した。後に俺がハジメの失態に突っ込んで頭をぶっ叩いてやったけどな。

 

紆余曲折を経てようやく大樹にたどり着いたが、なんと大樹さんは枯れていた。俺たちが来る前からそうであったらしいが。

 

〝四つの証〟

〝再生の力〟

〝紡がれた絆の道標〟

〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

「.........どういう意味だ?」

「.........四つの証は........たぶん、他の迷宮の証?」

「.........再生の力と紡がれた絆の道標は?」

 

迷宮の中に入ることは叶わず、オルクスの指輪を翳すとこんな文が出てきた。その構文に俺達は頭をひねる。

 

「う~ん、紡がれた絆の道標は、あれじゃないですか? 亜人の案内人を得られるかどうか。亜人は基本的に樹海から出ませんし、ハジメさん達みたいに、亜人に樹海を案内して貰える事なんて例外中の例外ですし」

「……なるほど。それっぽいな」

「……あとは再生……私?」

 

ユエが自分の固有魔法かと思案する。試しにと、薄く指を切って自動再生を発動しながら石板や大樹に触ってみるが.......特に変化はない。 となると、やはり別ルートだ。

 

「むぅ.......違うみたい」

「多分あれだろ、神代魔法に再生魔法ってのがあるんじゃないか?」

 

俺が言うと、全員が(シアを除き)なるほど、と小さく頷いた。

 

「という事は枯れ木に四つの証、つまり七大迷宮の半分を攻略した上で、再生に関する神代魔法を手に入れて来いってことじゃないか?」

「なるほど、確かに京の言う通りかもしれないな」

 

そうすると、ハジメは大きなため息をついて頭をガリガリと掻く。

 

「はぁ~、ちくしょう。今すぐ攻略は無理ってことか.......面倒くさいが他の迷宮から当たるしかないな........」

「ん.......」

「なんのためにわざわざここまで来たのかわかんねぇ〜........」

 

三者三様に面倒そうな表示を浮かべた。唯一話について行ってない(話を聞いていない)シアを置いといて。ハジメは背後のハウリア族に

 

「いま聞いた通り、俺達は、先に他の大迷宮の攻略を目指すことする。大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。お前達なら、もうフェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で十分に生きていけるだろう。そういうわけで、ここでお別れだ」

 

チラリとシアに視線を送っている。ここを逃せば別れの言葉は言えないだろう。今のうちに言っておけと、そういう事だ。

 

「とうさ..........」

「ボス!、大将!お話があります!」

「........あれぇ、父様?今は私のターンでは........」

「大将って、まさか俺?」

 

シアの呼びかけをさらりと無視してカムが一歩前に出た。ビシッと直立不動の姿勢だ。横で「父様?ちょっと、父様?」とシアが声をかけるが、まるでイギリス近衛兵のように真っ直ぐ前を向いたまま見向きもしない。やっぱりハウリアの血には残念性が色濃く出ている。

 

「ボス、大将、我々もボス達のお供に付いていかせて下さい!」

「えっ!父様達もハジメさんに付いて行くんですか!?」

 

カムの言葉に驚愕を表にするシア。十日前の話し合いでは、自分を送り出す雰囲気だったのにどうしたのです!?と声を上げる。

 

「我々はもはやハウリアであってハウリアでなし!ボスと大将の部下であります!是非、お供に!これは一族の総意で........」

「却下」

 

その言葉に、速攻で却下を出す俺。おそらくハジメも言うつもりだったんだろうが、ほとんど後出しの俺が珍しく先に言ったことが珍しかったのだろう。少しびっくりした表情をしている。

 

「なぜです!?」

「単純明快。お前らじゃ足手まといだから」

「しかしっ!」

「調子に乗るな。俺達の旅についてこようなんて百八十日くらい早いわ!」

「具体的!?」

 

ハジメの言葉になお、食い下がろうとするカム達。しまいには、許可を得られなくても勝手に付いて行きます! とまで言い始めた。

 

「もし是が非でも付いて来るというのなら、一族全員血祭りな?」

「「.........」」

 

笑顔でそう言ったハジメに、カムを筆頭としたハウリア族は全員が絶対零度の如き表情で固まる。おそらく、次々と虐殺されていく自分達が脳裏を過ったのだろう。ハジメは「あとそれに......」とつけ加える。

 

「この前も言ったよな?もしそんな気があるなら京を本気で殺せ、と。そうしたら考えてやるって」

「む、無理ですよこんな化け物っ!!」

 

え?ハジメさんそんなこと言ってたん?京くん初耳だよ?何勝手に人の命狙わせようとしてんですか。

 

「まぁ、そういう事だ。諦めろ。だから、あれだ。お前等はここで鍛錬してろ。次に樹海に来た時に、使えるようだったら部下として考えなくもない」

「.......そのお言葉に偽りはありませんか?」

「ないない」

「嘘だったら、人間族の町の中心でボス達の名前を連呼しつつ、新興宗教の教祖のごとく祭り上げますからな?」

「お、お前等、タチ悪いな.......」

「そりゃ、ボスの部下を自負してますから」

「そんなことしたら本気で殺すからな?」

 

引き攣る顔のハジメに、青筋を浮かべる俺。その顔を見てまた固まるハウリア族。ユエがぽんぽんと慰めるようにハジメの腕を叩く。

 

「ぐすっ、誰も見向きもしてくれない.......旅立ちの日なのに.......」

 

隣でいじけているシアを相手する者は誰も居なかった。やはり残念性を極めたシアは格が違う。

 

 

 

 

 

 

 

見送りを受けた俺達はまたも魔力駆動二輪で平原を疾走していた。ハジメの方に三人、そして俺が俺カラーのバイクもとい二輪に乗っている。

 

「ハジメさん。そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?」

「あ?言ってなかったか?」

「聞いてませんよ!」

「........私は知っている」

「俺も〜」

 

場所を知らされてないのがシアだけという事実に、彼女はむっと唸って抗議の声を上げる。

 

「わ、私だって仲間なんですから、そういうことは教えて下さいよ!コミュニケーションは大事ですよ!」

「悪かったって。次の目的地はライセン大峡谷だ」

「ライセン大峡谷?」

「ハジメがめんどいし先にそっち言った方がついでだからだと〜」

 

俺が要約して伝える。するとハジメは苦い顔をしていた。

 

「おい、大幅に略すな。........まぁそうなんだが!」

「ついででライセン大峡谷を渡るんですか........」

 

表情を引き攣らせながらも、さらにシアは続ける。

 

「で、では、ライセン大峡谷に行くとして、今日は野営ですか? それともこのまま、近場の村か町に行きますか?」

「出来れば、食料とか調味料関係を揃えたいし、今後のためにも素材を換金しておきたいから町がいいな。前に見た地図通りなら、この方角に町があったと思うんだよ」

 

いい加減に俺達はまともな料理が食べたいと思っていた。最近ハジメと地図を見て計画を立てていると、とある町をこの辺りに見つけたのだ。町だから絶対に料理はあるし、ここで準備をしようと二人で一瞬のうちに決心した。

 

「はぁ~そうですか........よかったです」

 

ハジメの言葉に、何故か安堵の表情を見せるシア。ハジメが訝しそうに「どうした?」と聞き返す。

 

「いやぁ~、ハジメさんのことだから、ライセン大峡谷でも魔物の肉をバリボリ食べて満足しちゃうんじゃないかと思ってまして......ユエさんはハジメさんの血があれば問題ありませんし.........京さんは刀から栄養分貰う植物みたいな食事だし........どうやって私用の食料を調達してもらえるように説得するか考えていたんですよぉ~、杞憂でよかったです。ハジメさんと京さんもまともな料理食べるんですね!」

「当たり前だろ! 誰が好き好んで魔物なんか喰うか!........お前、俺を何だと思ってるんだ........」

「プレデターという名の新種の魔物?」

「俺だってな、食べたいんだよ」

「京さんは..........なんでしょう。新種の雑草もどき?」

「OK、お前、町に着くまで車体に括りつけて引きずってやる」

「いや、お前のうさ耳刀で切って食べるわ」

「ちょ、やめぇ、どっから出したんですかっ、その首輪!ていうか京さんも二輪に立ちながら刀抜くとかいうバランス技しないでっ!ホントやめてぇ~そんなの付けないでぇ~、切らないでぇ〜、ユエさん見てないで助けてぇ!」

「.......自業自得」

 

いつまでもギャーギャー騒ぐシアと愉快な俺達である。

 

数時間ほど走り、そろそろ日が暮れるという頃、前方に町が見えてきた。ハジメの頬が綻ぶんでいた。俺も奈落から出た時のような『戻ってきた』という感覚がある。ハジメの懐のユエもどこかワクワクした様子。きっと、俺達は同じ気持ちだ。僅かに振り返ったユエと目が合い、ハジメがこちらを向き、お互いに微笑みを浮かべた。

 

「あのぉ~、いい雰囲気のところ申し訳ないですが、この首輪、取ってくれませんか?何故か、自分では外せないのですが.......あの、聞いてます?お三方?ちょっと、無視しないで下さいよぉ~、泣きますよ!それは、もう鬱陶しいくらい泣きますよぉ!」

 

未だギャーギャーうるさいシアは置いといて、俺達は街に入ることに成功する。門番は適当に俺とハジメではぐらかしておいた。

 

「これです!この首輪!これのせいで奴隷と勘違いされたじゃないですか!ハジメさん、わかっていて付けたんですね!うぅ、酷いですよぉ~、私達、仲間じゃなかったんですかぁ~」

 

シアが怒っているのは、そういうことらしい。旅の仲間だと思っていたのに、意図して奴隷扱いを受けさせられたことが相当ショックだったようだ。もちろん、ハジメが付けた首輪は本来の奴隷用の首輪ではなく、シアを拘束するような力はないだろう。そして恐らく、シアもわかっている。だが、だとしても、やはりショックなものはショックらしい。

 

そんなシアの様子にハジメはカリカリと頭を掻きながら目を合わせる。

 

「あのなぁ、奴隷でもない亜人族、それも愛玩用として人気の高い兎人族が普通に町を歩けるわけないだろう? まして、お前は白髪の兎人族で物珍しい上、容姿もスタイルも抜群。断言するが、誰かの奴隷だと示してなかったら、町に入って十分も経たず目をつけられるぞ。後は、絶え間無い人攫いの嵐だろうよ。面倒……ってなにクネクネしてるんだ?」

 

言い訳あるなら言ってみろやゴラァ!という感じでハジメを睨んでいたシアだが、話を聞いている内に照れたように頬を赤らめイヤンイヤンし始めた。ユエが冷めた表情でシアを見ている。

 

「も、もう、ハジメさん。こんな公衆の面前で、いきなり何言い出すんですかぁ。そんな、容姿もスタイルも性格も抜群で、世界一可愛くて魅力的だなんてぇ、もうっ! 恥かしいでっぶげら!?」

 

調子に乗って話を盛るシアの頬に、ユエの黄金の右ストレートが突き刺さった。それはもう完璧な軌道を描いて。可愛げの欠片もない悲鳴を上げて倒れるシア。身体強化していなかったので、別の意味で赤くなった頬をさすりながら起き上がる。

 

「.......調子に乗っちゃだめ」

「.......ずびばぜん、ユエざん」

 

冷めたユエの声に、ぶるりと体を震わせるシア。そんな様子に呆れた視線を向けながら、ハジメは話を続ける。

 

「あ~、つまりだ。人間族のテリトリーでは、むしろ奴隷という身分がお前を守っているんだよ。それ無しじゃあ、トラブルホイホイだからな、お前は」

「それは........わかりますけど......」

 

理屈も有用性もわかる。だがやはり、納得し難いようで不満そうな表情のシア。仲間というものに強い憧れを持っていただけに、そう簡単に割り切れないのだろう。そんなシアに、今度はユエが声をかけた。

 

「.........有象無象の評価なんてどうでもいい」

「ユエさん?」

「.........大切な事は、大切な人が知っていてくれれば十分。.........違う?」

「..............................そう、そうですね。そうですよね」

「........ん、不本意だけど........シアは私が認めた相手.........小さい事気にしちゃダメ」

「.......ユエさん........えへへ。ありがとうございますぅ」

 

シアは、ユエの言葉に照れたように微笑みながらチラッチラッとハジメを見る。何かの言葉を期待するように。

 

ハジメは仕方ないという様に肩を竦めて言葉を紡ぐ。

 

「まぁ、奴隷じゃないとばれて襲われても見捨てたりはしないさ」

「街中の人が敵になってもですか?」

「あのなぁ、既に帝国兵とだって殺りあっただろう?」

「じゃあ、国が相手でもですね!ふふ」

「何言ってんだ。世界だろうと神だろうと変わらねぇよ。敵対するなら何とだって戦うさ」

「くふふ、聞きました? ユエさん。ハジメさんったらこんなこと言ってますよ?よっぽど私達が大事なんですねぇ~」

「........ハジメが大事なのは京と私だけ」

「ちょっ、空気読んで下さいよ! そこは、何時も通り『.....ん』て素直に返事するところですよ!.........っていうか、京さんが大事って.............まさか!へぶぅ!?」

 

いらぬ想像をしたシアにハジメとユエの平手打ちが両方から突き刺さる。ユエの右ストレートにより赤く腫れた頬がさらに赤くなっている。俺もやろうとしたが二人が先にやったので無視した。

 

「どうした?珍しく喋らねぇな」

「俺が黙るのがそんなにおかしいですかコノヤロー」

「まぁ珍しいっちゃそうだな。なんかあったか?」

 

俺はそう言われて、流れていく景色を見回した。

 

「いやなに、最初に王都を見た時のことを思い出してな」

「...........そうか」

 

懐かしげに景色を見る俺に対して、ハジメは少し笑みを浮かべていた。

 

「あー!?ハジメさんもしかして本当に京さんと........ヘブライっ!?」

 

シアがまた余計なことを言おうとしてついに義手の手でハジメに殴られた。ほら言わんこっちゃない、調子乗るから。

 

「それ以上言うと本気で置いてくぞ」

「ぁ、あい...........」

 

そんな風に俺達はメインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい。

 

ハジメは看板を確認すると重厚そうな扉を開き中に踏み込んだ。




爆肉「はいどうも作者です。思いつき企画!後書きdeトーク、のコーナー!パチパチパチ!第一回のゲストはこの人!我らが主人公、刀崎 京兄貴!」
京「こんなことしていいのか?無駄じゃね?」
爆肉「無駄とか言わないでくださいよぅ。とある人がやってるの見て面白そうだと思ったんですよぉ」
京「さいでっか」
爆肉「京くん、京くん。私、原作を読んでて思ったことがあるんですよ。.......ノイントちゃそのデレた感じ........見たい。...............見たくない?」
京「ノイントと言えば、ああ、原作でハジメと死闘を繰り広げた分解天使さんの一人か」
爆肉「そうです。後に香織の仮の体になるノイントちゃんです!.........機械的な女の子が急に恋心に目覚める...........欲しくない?」
京「まぁ原作でもシアと死闘してた個体が戦闘に熱を持ったしな。ワンチャンあるんじゃね?」
爆肉「さっすがー。ハジメみたいなニブチン主人公じゃないですね!ワンチャン.............やろうかな?」
京「いいのか?お前、要素に書いてないだろ?ていうかそれじゃ展開どうなるんだ?」
爆肉「京くん............要素が全てじゃないだろう?それに君は犠牲となるのだよ?展開はオリジナル展開と書いてるしね?」
京「おい、まさか............」
爆肉「とゆーわけでぇ!意味深な発言をしましたが尺が押してるので今回はここまで!感想お待ちしております!」



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ブルックの女の子はトリップしている

中に入ってみると、いつかのアニメで見たような内装のように綺麗で少し驚いた。酒を飲み交わすあらくれ、魔法使いや戦士がほとんどだと見受けられる。冒険者達が当然のように注目してくる。最初こそ、少し警戒した表情をしていた彼等の視線がユエとシアに向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。中には「ほぅ」と感心の声を上げる者や、門番同様、ボーと見惚れている者、恋人なのか女冒険者に殴られている者もいる。平手打ちでないところが冒険者らしい。

 

テンプレみたく絡んでくることは無かったので、俺とハジメは受付へと真っ直ぐ進んだ。カウンターには大変魅力的な.......笑顔を浮かべたオバチャンがいた。恰幅がいい。横幅がユエ二人分はある。どうやら美人の受付というのは幻想のようだ。地球の本職のメイドがオバチャンばかりという現実と同じである。

 

「見たところ3:1。両手に花を持っているのに、まだ足りなかったのかい?残念だったね、美人の受付じゃなくて」

 

一発で俺らの関係性を見抜いたのか、ハジメへそんな言葉を送る。そして内心でハジメもそんなことを思っていたのだろう、顔が若干引きつった。

 

「いや、そんなこと考えてないから」

「あはははは、女の勘を舐めちゃいけないよ?男の単純な中身なんて簡単にわかっちまうんだからね。あんまり余所見ばっかして愛想尽かされないようにね?」

「........肝に銘じておこう」

 

ハジメの返答に「あらやだ、年取るとつい説教臭くなっちゃってねぇ、初対面なのにゴメンね?」と、申し訳なさそうに謝るオバチャン。何とも憎めない人だ。チラリと食事処を見ると、冒険者達が「あ~あいつもオバチャンに説教されたか~」みたいな表情でハジメを見ている。ちなみに俺には「あんたも気をつけるんだよ」と言った。

 

「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」

「ああ、素材の買取をお願いしたい」

「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」

「ん?買取にステータスプレートの提示が必要なのか?」

 

ハジメの疑問に「おや?」という表情をするオバチャン。

 

「あんた達、冒険者じゃなかったのかい? 確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」

「そうだったのか」

「他にも、ギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするね。どうする?登録しておくかい?登録には千ルタ必要だよ」

 

すると、俺の方をチラリとみてくる。別に俺はどっちでもよかったが、まぁ割引つくなら色々と応用できるだろうと思い小さく頷く。それを見たハジメは再び視線を戻した。

 

いつか本で読んだことがある?ルタとは、この世界トータスの北大陸共通の通貨だ。ザガルタ鉱石という特殊な鉱石に他の鉱物を混ぜることで異なった色の鉱石ができ、それに特殊な方法で刻印したものが使われている。青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなっている。驚いたことに貨幣価値は日本と同じなのだ。

 

「う~ん、そうか。ならせっかくだし登録しておくかな。悪いんだが、持ち合わせが全くないんだ。買取金額から差っ引くってことにしてくれないか? もちろん、最初の買取額はそのままでいい」

「可愛い子二人もいるのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」

 

オバチャンがすげーかっこいい。ハジメにそういったオバチャンは今度はこちらに向いてくる。

 

「あんたも、この子みたいに頑張るんだよ?子沢山はいい事だからねぇ」

「ま、俺には遠くに待たせてる女がいるんだけどな?」

「あら、もう持ってんのかい。なら安心だねぇ!」

 

俺とオバチャンはあっはっはと笑い飛ばす。何より驚いていたのは俺に既に彼女がいたということを信じているハジメ達。もちろん、嘘である。視線でそのことに気づいたハジメは少し小突いてきた。俺はあっちの世界で近所のおばちゃんたちとのネットワークを築いてるくらい対応は慣れている。

 

そうこうしていると、俺達が隠蔽して渡したステータスプレートが帰ってきた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに〝冒険者〟と表記され、更にその横に青色の点が付いている。

 

青色の点は、冒険者ランクだ。上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する。........お気づきだろうか。そう、冒険者ランクは通貨の価値を示す色と同じなのである。つまり、青色の冒険者とは「お前は一ルタ程度の価値しかねぇんだよ、ぺっ」と言われているのと一緒ということだ。切ない。きっと、この制度を作った初代ギルドマスターの性格は捻じ曲がっているに違いない。いや、確実に曲がっている。

 

「男なら頑張って黒を目指しなよ?お嬢さん達にカッコ悪ところ見せないようにね。そっちのあんたもね」

「ああ、そうするよ。それで、買取はここでいいのか?」

「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」

 

オバチャンめちゃくちゃ優秀じゃねーか。ハジメは予めバッグに入れて置いたものを出す。品目は、魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石だ。

 

「こ、これは!」

 

カウンターの受け取り用の入れ物に入れられていく素材を見て、再びオバチャンが驚愕の表情をする。

恐る恐る手に取り、隅から隅まで丹念に確かめる。息を詰めるような緊張感の中、ようやく顔を上げたオバチャンは、溜息を吐きハジメに視線を転じた。

 

「とんでもないものを持ってきたね。これは................樹海の魔物だね?」

「ああ、そうだ」

 

奈落の魔物の余った素材を出さないところは、テンプレを理解しているのか、はたまた天然か。オバチャンの反応を見る限り、やはり珍しいようだ。

 

ちょっとだけ、奈落の素材を出して受付嬢が驚愕し、ギルド長登場!いきなり高ランク認定! 受付嬢の目がハートに!というテンプレを実現してみたなんてことはハジメに限って.........あるな。まぁそんなのいらんいらん。

 

「……あんたも懲りないねぇ」

 

オバチャンが呆れた視線をハジメに向ける。

 

「何のことかわからない」

 

とぼけながらハジメは現実から目を逸らす。

 

「樹海の素材は良質なものが多いからね、売ってもらえるのは助かるよ」

 

オバチャンが何事もなかったように話しを続けた。オバチャンは空気も読めるらしい。良いオバチャンだ。そしてこの上なく優秀なオバチャンだ。

 

「やっぱり珍しいか?」

「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」

 

オバチャンはチラリとシアを見る。おそらく、シアの協力を得て樹海を探索したのだと推測したのだろう。樹海の素材を出しても、シアのおかげで不審にまでは思われなかったようだ。

 

それからオバチャンは、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は四十八万七千ルタ。結構な額だ。

 

「これでいいかい? 中央ならもう少し高くなるだろうけどね。」

「いや、この額で構わない」

 

ハジメは五十一枚のルタ通貨を受け取る。この貨幣、異様に軽い上、薄いらしく五十枚を超えていても然程苦にならなかった。もっとも、例え邪魔でも、ハジメには宝物庫があるので問題はないだろうが。

 

「ところで、門番の奴にこの町の簡易な地図を貰えると聞いたんだがあるかい?オバチャン」

「ああ、ちょっと待っといで......ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 

手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。これが無料とは、ちょっと信じられないくらいの出来である。

 

「こんな立派な地図を無料で、助かるわオバチャン。もしかしてメイド・インオバチャンかな?」

「そうだよ、あたしが趣味で書いてるのさ。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」

 

オバチャンの優秀さがやばかった。この人何でこんな辺境のギルドで受付とかやってんの? とツッコミを入れたくなるレベルである。きっと壮絶なドラマがあるに違いない。そして俺はナイスオバチャントーク。

 

「そうか。まぁ、助かるよ」

「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その二人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」

 

オバチャンは最後までいい人で気配り上手だった。ハジメは苦笑いしながら「そうするよ」と返事をし、入口に向かって踵を返した。ユエとシアも頭を下げて追従する。食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後までユエとシアの二人を目で追っていた。

 

「いやぁ、あの刀の子、話が分かるねぇ。今度一緒に飲みたいもんだ」

 

手を後ろへまわし「カカッ!」と笑った。

 

 

 

 

 

 

もはや地図というよりガイドブックと称すべきそれを見て話し合い。決めたのは〝マサカの宿〟という宿屋だ。紹介文によれば、料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後が俺達の決め手だ。その分少し割高だが、金はあるので問題ない。若干、何が〝まさか〟なのか気になったというのもある。

 

宿の中は一階が食堂になっているようで複数の人間が食事をとっていた。俺達が入ると、お約束のようにユエとシアに視線が集まる。それらを無視して、カウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。

 

「いらっしゃいませー、ようこそ〝マサカの宿〟へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」

「宿泊だ。このガイドブック見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」

 

ハジメが見せたオバチャン特製地図を見て合点がいったように頷く女の子。

 

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

 

女の子がテキパキと宿泊手続きを進めようとするが、ハジメは何処か遠い目をしている。ハジメ的に、あのオバチャンの名前がキャサリンだったことが何となくショックだったらしい。女の子の「あの~お客様?」という呼び掛けにハッと意識を取り戻した。

 

「あ、ああ、済まない。一泊でいい。食事付きで、あと風呂も頼む」

「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」

 

女の子が時間帯表を見せる。なるべくゆっくり入りたいので、男女で分けるとして一時間は確保したい。その旨を伝えると「えっ、二時間も!?」と驚かれたが、日本人たる俺達としては譲れないところだ。

 

「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 二人部屋と三人部屋が空いてますが.........」

 

チラチラとこちらを見てくる受付ガール。おそらくそういうのが気になるお年頃なんだろう。

 

「二人部屋二つだ」

「........むっ」

 

俺が言うと、ユエは少し顔を顰めた。案の定、色々とするつもりだったらしい。だが俺の笑顔がそれを許さない。

 

「........はぁ。京なら、仕方ない」

「えっ?えっ?なんですかユエさんその間は。ていうか京さんもしかしてあんなことやこんなことを.......へぎゅう!?」

 

公衆の面前でも容赦なくハジメがシアをぶっ叩いた。何故か受付ガールはそれを見て頬を赤らめているが、なんのつもりなんでしょうねぇ。

 

「ったく、周りに迷惑だろうが、何より俺らが恥ずいわ」

「も、もう少し、もう少しだけ手加減を.........身体強化すら貫く痛みが........」

「自業自得だバカヤロー」

 

ハジメは、冷ややかな視線をシアに向けると、クルリと女の子に向き直る。女の子はハジメの視線を受けてビシィと姿勢を正した。

 

「悪いな、二人部屋二つで頼む」

「.........こ、この状況で.........つ、つまり二人で?す、すごい……はっ、まさかお風呂を一時間も使うのはそういうこと!?それから……あ、あんなことやこんなことを........なんてアブノーマルなっ!」

 

女の子はトリップしていた。見かねた女将さんらしき人がズルズルと女の子を奥に引きずっていく。代わりに父親らしき男性が手早く宿泊手続きを行った。部屋の鍵を渡しながら「うちの娘がすみませんね」と謝罪するが、その眼には「まさかそういうご趣味が.......」という視線を向けてきた。

 

これはもうダメだ、とお互いに俺達は顔を見合わせて、さっさと部屋に入って一晩を過ごした。




雫「京.........どこでそんな子を.......?」
爆肉「第二回、後書きdeトークのコーナー。第二回のゲストはこの人、はい、我らがヒロイン雫ちゃんです」
雫「一体いつから?もしかして元の世界で..........ブツブツ」
爆肉「あのー..........雫さーん?」
雫「ハッ!もしかして迷宮で別れた後に私に内緒で............そうよ!あの性格なら違いないわ!」
爆肉「雫さん、そろそろ本気で正気に戻ってください」
雫「あ.........ごめんなさい」
爆肉「いや、まぁ分かりますよ。自分が特別って言うのが一番いいですよね」
雫「な、ななな何を言ってるのかしらっ!?私は別にそんなこと一言も........」
爆肉(まぁ多分、京くんが言ったことはある意味見栄を張った本当なのかもしれませんが........)
雫「っていうか、投稿期間かなりハードペースじゃない?大丈夫なのかしら?」
爆肉「まぁ多分、大丈夫ですよ。犠牲になるのは睡眠時間なだけで」
雫「重症じゃない........ていうか、私達はいつまでお休みなの?」
爆肉「つ、次の幕間まで............で、す」
雫「スチャ..........」
爆肉「アーッ!」
雫「作者が再起不能(リタイア)したので今回はここまでよ。感想、お待ちしているわね」

ーFinー


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ドキ!ワク!?ライセン大迷宮

翌日、服や食料などを調達するためにユエとシアが外へ出かけて、服屋でクリスタベルという()()に会ったり、二人に求婚してきた男共をユエが制裁して後のフラグを作ったり、その光景を見ていた女の子達がお姉様呼びしていたりした頃。

 

ハジメは何かを作るために部屋で作業をしていた。京は久しぶりの朝の余裕に、もともと朝が弱いのもあってゴロゴロしていた。

 

「ハジメぇ〜何作ってんの〜」

「ん?ああ、これか?」

 

気の抜けた俺の声に、ハジメは作っていたものを掲げる。まだ完成途中のそれは、おそらく完成すれば大槌になるであろう代物。

 

「まさか、シアのやつか?」

「そうだ。あいつの成長から見てほとんどあの武器じゃあ力を発揮出来ないだろうからな」

「ふ〜ん」

 

やだハジメさんったら、作ってる時の笑顔をシアさんに見せてあげたいものですわ、オホホホ。

 

「ほんと甘いよなぁ、お前」

「なんの事だ?」

「気にすんな、独り言」

 

本当にこいつは身内に甘い。ユエ然り、行動を共にしてまだ2週間弱しかたってないシアにも、そして俺にも。ツンデレハジメさん、誰得なんだろうなぁ。

 

「よし、出来た」

 

そう言ってハジメは完成したのだろう、それを試験的に運用している。見た目は円柱だが、魔力を流しているのか、カシュン!と音を立てて大槌を振るうのにちょうどいい長さとなる。

 

「命名するなら、『ドリュッケン』だな」

「ほー。ドイツ語で押す、とかの意味があったよな」

「ああ。あと、倒壊する、とかだな。ぴったりだろ?」

「たしかにな」

 

満足すると、宝物庫の中にそれを閉まった。.........それにしてもだ。

 

「ハジメ、絶対に戦隊モノ好きだったろ」

「戦隊モノってよりは、ガ〇ダ厶とかの方だな」

「なるほどなー」

 

その後、時間いっぱい俺達はオタクトークを楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

あれから色々とあって、俺達はライセン大峡谷を探していた。相変わらず峡谷の下ではうじゃうじゃと魔物が出てくる訳だが、シアの新武器である大槌型アーティファクト『ドリュッケン』や、いつも通りハジメのドンナー・シュラーク、ユエの魔法、俺の斬魄刀の敵ではなかった。むしろ、シアが仲間になったことで殲滅がより一層楽になった迄ある。

 

そんなこんなで二日ほど行って三日目の今日も野営だ。ハジメの作ったテントはとても快適で、冷蔵庫完備、生成魔法で作った暖房石と冷房石のおかげで温度調整完璧、さらに調理器具も完備。ハジメが超優秀すぎてヤバい件について。

 

夕食を食べ終え大満足、就寝時間が近づいた頃。シアは花を伐採しに行くらしい。俺はまだ眠れないのでハジメと見張りでもしてよう。

 

「ハ、ハジメさ~ん!京さ〜ん!ユエさ~ん!大変ですぅ!こっちに来てくださぁ~い!」

「あ?」

「なんすかねぇ〜」

 

シアの声がした方へ行くと、そこには、巨大な一枚岩が谷の壁面にもたれ掛かるように倒れおり、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所があった。シアは、その隙間の前で、ブンブンと腕を振っている。その表情は、信じられないものを見た!というように興奮に彩られていた。

 

〝おいでませ!ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪〟

 

感情表示に使うような『!』や『♪』が使われたそれは、なんとも軽い。まるで迷宮の入口とは思えない軽さだ。

 

「.......なんかムカつく」

「ん........」

「そうか?」

 

別にムカつきはしないが、まぁ軽いわな。

 

「しかし、入口らしい場所は見当たりませんね? 奥も行き止まりですし……」

 

シアは、入口はどこでしょう?と辺りをキョロキョロ見渡したり、壁の窪みの奥の壁をペシペシと叩いたりしている。

 

「おい、シア。あんまり……」

 

ガコンッ!

 

「ふきゃ!?」

 

〝あんまり不用意に動き回るな〟そう言おうとしたハジメの眼前で、シアの触っていた窪みの奥の壁が突如グルンッと回転し、巻き込まれたシアはそのまま壁の向こう側へ姿を消した。さながら忍者屋敷の仕掛け扉だ。

 

「「……」」

「バカ.......」

 

奇しくも大迷宮への入口も発見したことで看板の信憑性が増した。やはり、ライセンの大迷宮はここにあるようだ。まるで遊園地の誘い文句の様な入口に、「これでいいのか大迷宮」とか「オルクスでのシリアスを返せ」とか言いたいことは山ほどあるが、無言でシアが消えた回転扉を見つめていたハジメとユエ。俺は天を仰ぐ。一度、三人で顔を見合わせて溜息を吐くと、シアと同じように回転扉に手をかけた。

 

扉の仕掛けが作用して、俺達を同時に扉の向こう側へと送る。中は真っ暗だった。扉がグルリと回転し元の位置にピタリと止まる。と、その瞬間、

 

ヒュヒュヒュ!

 

無数の風切り音が響いいたかと思うと暗闇の中を俺達目掛けて何かが飛来した。その正体は光を全くと言っていいほど反射しない漆黒の矢。その数、空間把握でみるに二十本ほど。

 

「問題ないな」

 

刹那、青光りが煌めく。その次にはパラパラと切り刻まれた矢の数々が床に落下して行った。最後の矢が地面に叩き落とされるのと同時に再び静寂が辺りを包む。

 

と、同時に周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らし出した。俺達のいる場所は、十メートル四方の部屋で、奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸びていた。そして部屋の中央には石版があり、看板と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が掘られていた。

 

〝ビビった?ねぇ、ビビっちゃた?チビってたりして、ニヤニヤ〟

〝それとも怪我した?もしかして誰か死んじゃった?........ぶふっ〟

 

「「……」」

「なるほどなぁ.......」

 

どうやらここの反逆者は人を煽るのが大好きらしい。まぁ別にそんなムカつくほどでもないが、ハジメ達には色々来たらしい。

 

ふと、ユエが思い出したように呟いた。

 

「........シアは?」

「「あ」」

 

背後を振り返ると、回転扉に縫い付けられていた。.........下になにか液体を混ぜて。

 

「........ハジメ、着替え」

「あいよ」

 

〝宝物庫〟からシアの着替えを出してやり、シアは顔を真っ赤にしながら手早く着替えた。

 

服と心を新たに、迷宮攻略と洒落こもうとして、ゴギャ!という破壊音を響かせて粉砕される石板。

 

よほどその石版に腹に据えかねたのか、親の仇と言わんばかりの勢いでドリュッケンを何度も何度も振り下ろした。

 

すると、砕けた石板の跡、地面の部分に何やら文字が彫ってあり、そこには..........

 

〝ざんね~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~プークスクス!!〟

 

「ムキィーー!!」

 

シアが遂にマジギレして更に激しくドリュッケンを振い始めた。部屋全体が小規模な地震が発生したかのように揺れ、途轍もない衝撃音が何度も響き渡る。発狂するシアを尻目にハジメはポツリと呟いた。

 

「ミレディ・ライセンだけは〝解放者〟云々関係なく、人類の敵で問題ないな」

「........激しく同意」

「まぁまぁ........あとシア、いい加減うるさい」

 

さすがにやり過ぎるシアの背後から手刀を落として悶絶しているところを乱暴に引っ張っていくことにした。

 

迷宮の中は、中々に厄介な場所のようだった。魔法がほとんど使えないのだ。谷底より遥かに強力な分解作用が働いているためだ。魔法特化のユエにとっては相当負担のかかる場所である。

 

そしてハジメも体の外部に作用する固有魔法である纏雷や空力などが使えなくなっており、ドンナー・シュラーク、シュラーゲンなどの威力も落ちてしまっている。非常に面倒な場所で、さらに頼りにしてきた魔法が使えないとなると、苦戦を強いられることになるだろう。先程からの石版のように、ここの反逆者であるミレディ・ライセンは余程意地悪く、さらに煽りが大好きなようだ。

 

俺は天変飢餓が固有魔法を固有技能へと変換してくれているので問題ない。原理はまだわかってないが。さらに霊力には分解作用が働かないため破道や縛道はいつも通り使える。そういう理由も含めて、身体強化が重要なこの迷宮で頼りになるのは俺とシアしかいない。

 

「ほんと、京がいてくれて助かった」

「ん.........同意」

「許さないですぅ.......絶対にブッ殺してやるですぅぅぅ............」

 

ハジメとユエが無視している、それにも反応せずにフシュゥゥゥと機関車の排熱のように息を吐いたシア、彼女が最初のウザイ石板を破壊し尽くしたあと、俺達は道なりに通路を進み、とある広大な空間に出た。

 

そこは、階段や通路、奥へと続く入口が何の規則性もなくごちゃごちゃにつながり合っており、まるでレゴブロックを無造作に組み合わせてできたような場所だった。一階から伸びる階段が三階の通路に繋がっているかと思えば、その三階の通路は緩やかなスロープとなって一階の通路に繋がっていたり、二階から伸びる階段の先が、何もない唯の壁だったり、本当にめちゃくちゃだった。

 

「こりゃまた、ある意味迷宮らしいと言えばらしい場所だな」

「..........ん、迷いそう」

「ふん、流石は腹の奥底まで腐ったヤツの迷宮ですぅ。このめちゃくちゃ具合がヤツの心を表しているんですよぉ!」

「.........気持ちは分かるから、そろそろ落ち着けよ」

「なるほどなぁ」

 

俺はそう言いながら空間の真ん中に立つ。空間把握、攻撃の時にも色々と利用させてもらっているが、この技能の真髄はこういった本当の迷路のようなところで役立つ。

 

「........京?」

「ん........?」

「よし、分かった。俺に付いてきてくれ、こっちだ」

 

俺が先導して先を歩く。ハジメ達は俺の後についてきている。俺は先程、部屋の真ん中に立って迷宮の構造全てを把握した。どこにどういう罠があるのか、どの道を行けばいいのか、など。無駄な道は避けて通るべきだろう、彼らのストレス的に。そしてそんな道をわざと通ったとなるとさすがに俺でも殺されかねない。

 

「いやほんと、索敵できるとか助かるわ」

「ん、フェアスコープより優秀」

「.........なんですかぁ!その視線は!!」

 

それに比べてこのウサギは.......と言った視線がシアに突き刺さる。彼女は抗議しているが事実としてあまり役に立っていない。「戦闘で挽回するんですぅ!」と言っていたが本当だろうか。

 

そこから通る通路、通路、たどり着いた部屋など、様々なところに罠は仕掛けてあった。だが俺の華麗なナビゲートによりその全ては完璧に打ち破られたのだった。黄色い文字が出てくるが、逆に嘲笑ってやったくらいだ。

 

道行く全てのトラップを突破し、この迷宮に入って一番大きな通路に出た。幅は六、七メートルといったところだろう。結構急なスロープ状の通路で緩やかに右に曲がっている。おそらく螺旋状に下っていく通路なのだろう。まぁ、こんなところで何も無いわけがないんだよな。「ガコンッ!」という何かが作動する音が響く。既に、スイッチを押そうが押すまいが関係なく発動している気がする。

 

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

明らかに何か重たいものが転がってくる音である。

 

「「「……」」」

「あー........なるほどね」

 

三人が無言で顔を見合わせ、同時に頭上を見上げた。俺は空間把握でその飛来物を理解する。スロープの上方はカーブになっているため見えない。

 

「よくあるやつだ。巨大な岩が来るぞ」

 

俺が言うと、異音は次第に大きくなり、そして........俺の言った通りカーブの奥から通路と同じ大きさの巨大な大岩が転がって来た。

 

ユエとシアが踵を返し脱兎のごとく逃げ出そうとする。しかし、少し進んで直ぐに立ち止まった。俺の前にハジメがツカツカと出てきたからだ。

 

ハジメは、轟音を響かせながら迫ってくる大玉を真っ直ぐに見つめ、獰猛な笑みを口元に浮かべた。

 

「やられっぱなしじゃあなぁ!性に合わねぇんだよぉ!」

 

 義手から発せられる「キィイイイイ!!」という機械音が、ハジメの言葉と共に一層激しさを増す。

 

そして……

 

ゴガァアアン!!!

 

凄まじい破壊音を響かせながら大玉とハジメの義手による一撃が激突した。ハジメは、大玉の圧力によって足が地面を滑り少し後退させられたがスパイクを錬成して踏ん張る、そして、ハジメの一撃は衝突点を中心に大玉を破砕していき、全体に亀裂を生じさせた。大玉の勢いが目に見えて減衰する。

 

「ラァアアア!!」

 

ハジメが裂帛の気合と共に左の拳を一気に振り抜いた。辛うじて拮抗していた大玉の耐久力とハジメの拳の威力は、この瞬間崩れさり、ハジメの拳に軍配が上がった。そして、大玉は轟音を響かせながら木っ端微塵に砕け散った。そういうのは俺がやりたかったんだけどなぁ........。

 

ハジメは、拳を振り抜いた状態で残心し、やがてフッと気を抜くと体勢を立て直した。義手からは、もう、あの独特の機械音は聞こえない。ハジメは、義手を握ったり開いたりして異常がないことを確かめると俺達の方へ振り返った。実に清々しい顔で「やったぜ!」と言わんばかりの表情だ。やはり俺のナビゲートがあっても仕掛けとウザイ黄色の文字は溜まるらしい。

 

「ハジメさ~ん!流石ですぅ!カッコイイですぅ!すっごくスッキリしましたぁ!」

「.......ん、すっきり」

「ははは、そうだろう、そうだろう。これでゆっくりこの道........」

「いや、まだだ」

 

二人の称賛に気分よく答えるハジメ。しかし、その言葉は途中で俺に遮られた。

 

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

という聞き覚えのある音によって。笑顔のまま固まるハジメ。同じく笑顔で固まるシアと無表情ながら頬が引き攣っているユエ。俺が先程転がってきたところを睨む。それを認識すると共に、俺は粉砕するのを潔く諦めた。

 

黒光りする金属製の大玉だった。さらに金属製の大玉は表面に空いた無数の小さな穴から液体を撒き散らしながら迫ってきており、その液体が付着した場所がシュワーという実にヤバイ音を響かせながら溶けているようなのである。

 

「うそん」

「..........さすがに切れないからな?俺、鉱物系は無理だからな?」

 

俺はそう言うと真っ先に回れ右をしてスロープ下へ走り出す。ハジメ達もその後を追っているようだ。俺は走りながら冷静にこの先を見すえる。一番下、下った先にはどうやら相当大きな空間が広がっているようだ。部屋の天井付近に俺達が走る通路の出口がある。だがその下は、何となく嫌な予感がした。

 

「いやぁあああ!!轢かれた上に溶けるなんて絶対に嫌ですぅ~!」

「……ん、とにかく走って」

 

通路内をシアの泣き言が木霊する。

 

「っていうかハジメさ~ん!京さ〜ん!先に逃げるなんてヒドイですよぉ! 薄情ものぉ!鬼ぃ!」

 

先を走る俺達に向かってシアが抗議の声を上げる。

 

「やかましいわ!誤差だ誤差!黙って走れ!」

「誰のおかげでここまで楽に来たと思ってるんだ!今も殿務めて索敵してたんだぞコノヤロウ!」

「置いていったくせに何ですかその言い草!私の事なんてどうでもいいんですね!?うわぁ~ん、死んだら化けて出てやるぅ!」

「........シア、意外に余裕?」

 

必死に逃げながらも、しっかり文句は言っているシアに、ユエが呆れたような目線を向ける。

 

そうこうしているうちに終わりが見えてきた。ハジメも遠見でその先を見ているようだった。

 

「真下に降りるぞ!」

「んっ」

「はいっ!」

「馬鹿野郎!上に飛べ!下は嫌な予感がするんだよ!!」

 

俺は出口付近でそう言って跳躍する。そしてそのまま刀で壁を刺してなんとかぶら下がった。一方のハジメ達はというと。

 

「げっ!?」

「んっ!?」

「ひんっ!?」

 

三者三様の呻き声を上げた。出口の真下が明らかにヤバそうな液体で満たされてプールになっていたからだ。

 

「んのやろうぉ!」

 

ハジメは、咄嗟に義手からナイフを射出、同時に壁にアンカーを撃ち込み右手でユエを捕まえ落下を防いだ。

 

直後、頭上を溶解液を撒き散らしながら金属球が飛び出していき、眼下のプールへと落下した。そのままズブズブと煙を吹き上げながら沈んでいく。

 

「”風壁”」

 

ユエの魔法で飛び散った溶解液が吹き散らさられる。しばらく、周囲を警戒したが特に何も起こらないので、ハジメはようやく肩から力を抜いた。

 

「ぐすっ、ひっく、どうせ私なんて.......私なんて.......うぅ、ぐすっ」

 

何やらすぐハジメ達の横から泣き声が聞こえるので振り向いてみればシアが数本のナイフに衣服を縫い止められた状態で壁に磔になっていた。

 

「だから飛べって言ったのに.........」

 

「言わんこっちゃない」と付け加えて俺は天を仰いだ。なお、この後ハジメ達がこんな状況でラブコメを始めて、真下から叩き落としてやろうかと思った俺である。

 

「確かに、京の言う通りにした方が良かったかもな........」

「ん..........」

「はい...........」

「もうほとんど終点だが、ちゃんと次からは指示を聞いとけよ?」

「「「はい.......」」」

 

全く、人の話は最後まで聞けとお母様に教わらなかったのかしら、ぷんぷん。..........なんか自分でやってて吐きそうになったわ。

 

進んでみるとその部屋は長方形型の奥行きがある大きな部屋だった。壁の両サイドには無数の窪みがあり騎士甲冑を纏い大剣と盾を装備した身長二メートルほどの像が並び立っている。部屋の一番奥には大きな階段があり、その先には祭壇のような場所と奥の壁に荘厳な扉があった。祭壇の上には菱形の黄色い水晶のようなものが設置されている。

 

「いかにもな扉だな。ミレディの住処に到着か?それなら万々歳なんだが……この周りの騎士甲冑に嫌な予感がするのは俺だけか?」

「........大丈夫、お約束は守られる」

「それって襲われるってことですよね?全然大丈夫じゃないですよ?」

「あの奥になんか空間があるんだけどな。恐らくあの祭壇辺りに仕掛けでもあるんじゃないか?」

 

そんなことを話しながら俺達が部屋の中央まで進んだとき、確かにお約束は守られた。

 

毎度お馴染みのあの音である。

 

ガコン!

 

ピタリと立ち止まる俺達。内心「やっぱりなぁ~」と思いつつ周囲を見ると、騎士達の兜の隙間から見えている眼の部分がギンッと光り輝いた。そして、ガシャガシャと金属の擦れ合う音を立てながら窪みから騎士達が抜け出てきた。

 

「んー、ざっと五十体!」

 

騎士達は、スっと腰を落とすと盾を前面に掲げつつ大剣を突きの型で構えた。窪みの位置的に現れた時点で既に包囲が完成している。

 

「ははっ、ホントにお約束だな。動く前に壊しておけばよかったか。まぁ、今更の話か........京、ユエ、シア、やるぞ?」

「んっ」

「か、数多くないですか?いや、やりますけども.......」

「ま、問題ナイナイ」

 

ハジメはいつものようにドンナー・シュラークを抜く。ユエも魔法を構えた。俺も纏雷を纏う。しかし、シアの腰が引け気味だ。このメンバーで俺と共に一番影響なく力を発揮できるとは言え、実質的な戦闘経験はかなり不足している。まともな魔物戦は谷底の魔物だけで、僅か五日程度のことだ。ユエとの模擬戦を合わせても二週間ちょっとの戦闘経験しかない。もともとハウリア族という温厚な部族出身だったことからも、戦闘に対して及び腰になるのも無理はない。むしろ、気丈にドリュッケンを構えて立ち向かおうと踏ん張っている時点でかなり根性があると言えるだろう。

 

「シア」

「は、はいぃ!な、何でしょう、ハジメさん」

 

緊張に声が裏返っているシアに、ハジメは声をかける。それは、どことなく普段より柔らかい声音だった感じだ。ついにハジメもデレ始めたのか。

 

「お前は強い。俺達が保証してやる。こんなゴーレム如きに負けはしないさ。だから、下手なこと考えず好きに暴れな。ヤバイ時は必ず助けてやる」

「........ん、弟子の面倒は見る」

「カム達があそこ迄やれたんだ、お前はもっと輝けるだろうよ」

 

シアは、全身に身体強化を施し、力強く地面を踏みしめた。その表情はやる気に充ちている。

 

「ふふ、ハジメさん達が少しデレてくれました。やる気が湧いてきましたよ!ユエさん、下克上する日も近いかもしれません」

「「……調子に乗るな」」

「どうでもいいです」

 

ハジメとユエの両方に呆れた眼差しを向けられるも、テンションの上がってきたシアは聞いていない。真っ直ぐ前に顔を向けて騎士達を睨みつける。俺は我関せずだ。

 

「かかってこいやぁ!ですぅ!」

「いや、だから、何でそのネタ知ってんだよ……あっ、つっこんじまった」

「........だぁ~」

「........つっこまないぞ。絶対つっこまないからな」

「だぁ〜!」

「お前はさらに乗るんじゃない..........ったく」

 

五十体のゴーレム騎士を前に、戦う前から何処か疲れた表情をするハジメ。おそらくトドメは俺だ。そんなハジメの状態を知ってか知らずか.......ゴーレム騎士達は一斉に侵入者達を切り裂かんと襲いかかった。




爆肉「意外と否定の声もないので続く後書きdeトークのコーナー。第三回のゲストは.........」
恵里「やっほ〜僕だよ〜」
爆肉「はい、恵里ちゃんでございます」
恵里「そう言えば投稿から一週間ちょい経過したんだね」
爆肉「そうですね。まさか一週間でお気に入り400件以上貰えるなんて思ってませんでした。遅れた感は否めませんが、毎回見てくださる読者様方、ありがとうございます」
恵里「見直しもロクに出来ないクソ作者だけど、これからもよろしくね〜」
爆肉「やっぱり人間、間違いはあるんですよ........」
恵里「君は間違いだらけじゃないかな。むしろ生まれてきたことが間違い?」
爆肉「グハッ!そんなこと言わないでください死んでしまいます......」
恵里「気丈に見えてクソザコナメクジだもんね〜。もっと壊してあげよっか?」
爆肉「ヤメテクダサイホントニコワレマス」
恵里「ははっ。冗談だよ、じょーだん♪」
爆肉「意地の悪さとかでミレディに勝負したら勝つんじゃないですかね、あなた........」
恵里「さぁ?やってみないと分からないからね〜」
爆肉「否定はしないんですね.......」
恵里「まぁ、僕自体もともと壊れてるしね、ハハハ!」
爆肉「恵里さんが本編に触れそうになったのでここまでです。次回、ついにミレディちゃん登場。原作の通りになるのは目に見えてますが、京くん達はどんな戦いを見せてくれるのでしょう」
恵里「次回もお楽しみに〜♪感想も待ってるよ〜」

ーFinー


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面倒極まりないその迷宮

ゴーレム騎士達の動きは、その巨体に似合わず俊敏だった。ガシャンガシャンと騒音を立てながら急速に迫るその姿は、装備している武器や眼光と相まってって凄まじい迫力である。まるで四方八方から壁が迫って来たと錯覚すらしそうだ。

 

しかし、そんな俊敏なゴーレムの間を雷光が光の尾を引きながら通り過ぎる。次々に首が宙を舞い、カランカランと地面に落下していく。その背後からは、ハジメがドンナー・シュラークで援護している。

 

「でぇやぁああ!!」

 

ドォガアアア!!

 

気合一発。打ち下ろされた大槌ドリュッケンは、凄まじい衝撃音を響かせながら一体のゴーレム騎士をペシャンコに押しつぶした。

 

「うわぁ.......えげつな」

 

ゴーレム騎士を相手にしながら苦笑い気味に俺は言う。俺がゴーレム騎士だったら.........想像もしたくない。

 

地面にまで亀裂を生じさせめり込んでいるドリュッケン。渾身の一撃を放ち、死に体となっていると判断したのか、盾を構えて衝撃に耐えていた傍らの騎士が大きく大剣を振りかぶりシアを両断せんと踏み込む。

 

シアはそれをしっかり横目で確認していた。柄を捻り、ドリュッケンの頭の角度を調整すると、柄に付いているトリガーを引く。

 

ドガンッ!!

 

そんな破裂音を響かせながら地面にめり込んでいたドリュッケンが跳ね上がった。シアの脇を排莢されたショットシェルが舞う。跳ね上がったドリュッケンの勢いを殺さず、シアはその場で一回転すると遠心力をたっぷり乗せた一撃を、今まさに大剣を振り下ろそうとしている騎士の脇腹部分に叩きつけた。

 

「りゃぁあ!!」

 

そのまま気迫を込めて一気に振り抜く。直撃を受けた騎士は、体をくの字に折り曲げて、まるで高速で突っ込んできたトラックに轢かれたかのようにぶっ飛んでいき、後ろから迫って来ていた騎士達を盛大に巻き込んで地面に叩きつけられた。騎士の胴体は、原型を止めないほどひしゃげており身動きが取れなくなっているようだ。

 

ヒュンヒュン

 

そんな風切り音がシアのウサミミに入る。チラリと上空を見ると、先程のゴーレム騎士が振り上げていた大剣が、シアに吹き飛ばされた際に手放なされたようで上空から回転しながら落下してくるところだった。シアは、落ちてきた大剣を跳躍しながら掴み取ると、そのまま全力で、迫り来るゴーレム騎士に投げつけた。

 

大剣は豪速で飛翔し、ゴーレム騎士が構えた盾に衝突して大きく弾く。シアは、その隙を逃さず踏み込み、下段からカチ上げるようにドリュッケンを振るった。腹部に衝撃を受けた騎士の巨体が宙に浮く。苦し紛れに大剣を振るうが、シアはカチ上げたドリュッケンの勢いを利用してくるりと回転し、大剣をかわしながら再度、今度は浅い角度で未だ宙に浮く騎士にドリュッケンを叩きつけた。

 

先のゴーレム騎士と同様、砲弾と化してぶっ飛んだゴーレム騎士は後続の騎士達を巻き込みひしゃげた巨体を地面に横たわらせた。

 

「戦闘力高くない.........っと!」

 

ゴーレム騎士さん、余所見してる最中に襲わないでくださいよ。ていうか、数が多すぎて面倒だ。

 

「シア!俺を打ちあげろ!」

「はい!........って、えぇ!?」

 

混戦状態でもそのうさ耳にはしっかりと届いたらしい。俺はシアの方へと向かう。ハジメも俺のやることに気がついたのか、ユエと共に俺達を援護してくれている。

 

二人の協力でさらに分散したゴーレム騎士達の合間を切り刻み、俺はようやくシアノ元へと追いつく。すると、彼女もこちらに気づいたのかドリュッケンを、構えた。

 

「優しくお願いします!」

「はい!」

 

フルスイングしたドリュッケンの平面に片足を乗せて、そのまはまの勢いを利用し、飛び上がる。シアのフルスイングで俺は天高く舞い上がり天井に到達すると、そのまま反転して右手に纏雷を集中させる。

 

地上では俺の方へ剣を向けて落下してきた時にでも串刺しにしようと考えているのだろう。

 

「ハッ!おもしれぇ!」

 

さらに纏雷を重ねがけ、体にも負荷をかける。瞬間、ゴーレム騎士達の中心に雷が落ちた。

 

「オラァ!!」

 

ドゴォォン!と轟音が響き、ゴーレム騎士があまりの衝撃波に軽々と吹っ飛ばされていく。出力強化した俺の雷鎚は、いつかのハウリア族との戦闘で木々を吹っ飛ばした時よりも出力は強い。床には激しい陥没と1m以上刻まれた亀裂が幾つも入っている。

 

しかし、バラバラに散っていったゴーレム騎士達は、まるでなんともなかったかのようにムクリと起き上がり、再び襲いかかってきた。

 

「.........再生した?」

「みたいだな」

「そんな!?キリがないですよぉ!」

 

そう、ゴーレム騎士達は破壊された後も眼光と同じ光を一瞬全身に宿すと瞬く間に再生して再び戦列に加わっていたのである。

 

シアが、迫り来るゴーレム騎士達を薙ぎ払いながら狼狽えた声を出した。どれだけ倒しても意味がないと来れば、そんな声も出したくなるだろう。だが、それに反してハジメとユエは冷静なまま、特に焦った様子もなく思考を巡らしながらゴーレム騎士達を蹴散らしている。この辺りは経験の差というやつだろう。この程度の逆境、奈落の底では何度も味わったものだ。むしろ、あの頃より遥かに強くなった今は余裕すらある。

 

「.........ハジメ、ゴーレムなら核があるはず」

 

ユエの言う通り、ゴーレムは体内に核を持っているのが通常であり、その核が動力源となる。核は魔物の魔石を加工して作られている。オスカーのお掃除ゴーレムの設計書にもそう記されてあったらしい。ユエは、その核を壊そうと言っているのだ。

 

だが、そのユエの提案にハジメは渋い表情をした。

 

「それがな、こいつら核を持っていやがらねぇんだよ」

「..........確か?」

「ああ、魔眼石でも確認しているが、そんな反応はない。ゴーレム自体から微量の魔力は感知できるんだがな……」

「け、結局どうするんですかぁ!このままじゃジリ貧ですよぉ!」

 

シアがゴーレム騎士達を相手にしながらいよいよ焦った声を上げた。俺はその一連の会話を聞きながら再び空間把握で先を見透す。

 

やはりこの先に部屋がある。とすると、怪しいんだよなぁ。

 

しかし、それより先にハジメが叫ぶ。

 

「ユエ、シア、京。こいつらを操っている奴がいる。マジでキリがないから、強行突破するぞ!」

「んっ」

「と、突破ですか?了解ですっ!」

「了解、俺が切り開く!」

 

俺は少し後方からこっちへ向かってくるハジメ達に合わせてゴーレム騎士達をなぎ倒していく。背後ではハジメ達が後方から迫るゴーレム騎士を対処していた。

 

そのまま走り続け、俺達は祭壇にたどり着いた。すると扉のような物が見え、しかしそれは封印されている。

 

「封印の解除はユエに任せる。錬成で突破するのは時間がかかりそうだ」

 

ユエが封印解除している間、俺達は階段を登ってくるゴーレム騎士達を退けることにした。

 

「ん……任せて」

 

ユエは、二つ返事で了承し祭壇に置かれている黄色の水晶を手に取った。その水晶は、正双四角錐をしており、よくみれば幾つもの小さな立体ブロックが組み合わさって出来ているようだ。

 

「さぁて、やりますか!」

 

俺は式を練る。籠城戦なら無闇に突っ込むよりは遠距離の方がだいぶ有利になる。その要領とほぼ変わらない。背後の姫を守り抜く、それが騎士に与えられた使命だ。

 

「破道の六十三、雷吼炮!!」

 

雷が迸る。突っ込んできたゴーレム騎士は、気弾となったその雷に撃ち抜かれて後方へ倒れていく。

 

「お前、ほんとずるだよなそれ」

「これが持たざる者よ!」

 

カカッと笑って、ドンナー・シュラークやドリュッケンで応戦する2人を尻目に追加で式を練る。

 

「赤火砲!雷吼炮!双蓮蒼火墜!!」

 

火炎の弾、気弾の雷、青い爆炎が次々にゴーレム騎士へと到達し、爆ぜて、その体をぶっ飛ばす。階段から転げ落ちていくそれが、面白かった。

 

「かははは!もっと上がってこいやぁ!!」

 

きっと、俺は籠城戦の遠距離攻撃者と今、同じ気持ちになっているかもしれない。とにかく楽しい、こんな戦闘途中だが。

 

「京さん.........なんかトリップしてません?」

「ああ.........少し暴走してるな、ありゃ」

 

背後でゴーレム騎士達を退けながら二人がそんなことを言っていたが、もちろん俺にそんな声は届いていない。もちろん少しハジメ達がイチャイチャしていたのも聞こえていない。

 

「.........開いた」

「早かったな、流石ユエ。シア、下がれ!」

「はいっ!」

 

未だトリップしている俺を置いて、先にハジメ達は下がった。扉の内側でいつでも閉めれるようにシアがスタンバイする。

 

「京!下がれ!!」

「お?って開いてんじゃーん!」

 

俺はそのままダイナミックスライディングで扉に入る。するとハジメが置き土産と言わんばかりに手榴弾を投げ込み、シアがそれを確認してから早急に閉鎖する。

 

爆風が届く前に締め切った扉の奥からドガァァン!と爆破の音が聞こえてきた。

 

「京、お前なんだかんだ楽しんでたろ」

「あ、バレた?」

「たく、程々にしとけよ」

「へいへい」

 

なんだかんだハジメは許してくれる。もし俺がシア並みの力を持っていたら殴られていたことだろう。

 

部屋の中は、遠目に確認した通り何もない四角い部屋だった。てっきり、ミレディ・ライセンの部屋とまではいかなくとも、何かしらの手掛かりがあるのでは? と考えていたので少し拍子抜けする。

 

「これは、あれか? これみよがしに封印しておいて、実は何もありませんでしたっていうオチか?」

「........ありえる」

「うぅ、ミレディめぇ。何処までもバカにしてぇ!」

 

三人が、一番あり得る可能性にガックリしていると、突如、もううんざりする程聞いているあの音が響き渡った。

 

ガコン!

 

「「「!?」」」

 

仕掛けが作動する音と共に部屋全体がガタンッと揺れ動いた。そして、俺達の体に横向きのGがかかる。

 

「っ!?何だ!?この部屋自体が移動してるのか!?」

「.......そうみたッ!?」

「うきゃ!?」

「お、おぉお!?」

 

ハジメが推測を口にすると同時に、今度は真上からGがかかる。急激な変化に、ユエが舌を噛んだのか涙目で口を抑えてぷるぷるしている。シアは、転倒してカエルのようなポーズで這いつくばっている。俺は例の如く刀を床に刺して衝撃に備えた。

 

部屋は、その後も何度か方向を変えて移動しているようで、約四十秒程してから慣性の法則を完全に無視するようにピタリと止まった。ハジメは途中からスパイクを地面に立てて体を固定していたので急停止による衝撃にも耐えたが、シアは耐えられずゴロゴロと転がり部屋の壁に後頭部を強打した。方向転換する度に、あっちへゴロゴロ、そっちへゴロゴロと悲鳴を上げながら転がり続けていたので顔色が悪い。相当酔ったようだ。完全にダウンしているように見える。ちなみにユエは、最初の方でハジメの体に抱きついていたので問題ない。

 

「ふぅ~、ようやく止まったか.......ユエ、大丈夫か?」

「.......ん、平気」

「京........は平気そうだな」

「よゆーだな」

 

「ハ、ハジメさん。私に掛ける言葉はないので?」

 

青い顔で口元を抑えているシアが、ジト目でハジメを見る。ユエと俺だけに声を掛けたのがお気に召さなかったらしい。

 

「いや、今のお前に声かけたら弾みでリバースしそうだしな......ゲロ吐きウサギという新たな称号はいらないだろ?」

「当たり前です! それでも、声をかけて欲しいというのが乙女ごこっうっぷ」

「ほれみろ、いいから少し休んでろ」

「うぅ。うっぷ」

 

今にも吐きそうな様子で四つん這い状態のシアを放置して、俺達は周囲を確認していく。そして、やっぱり何もないようなので扉へと向かった。

 

「さて、何が出るかな?」

「........操ってたヤツ?」

「その可能性もあるな。ミレディは死んでいるはずだし……一体誰が、あのゴーレム騎士を動かしていたんだか」

「........何が出ても大丈夫。ハジメは私が守る........ついでにシアも」

「聞こえてますよぉ~うっぷ」

 

いつも通りの真っ直ぐなユエの言葉に頬を緩めるハジメ。優しい手付きで、そっとユエの柔らかな髪を撫でる。ユエも甘えるように寄り添い気持ちよさそうに目を細めた。

 

「.........前から言おうと思っていたのですが、唐突に二人の世界作るのやめてもらえませんか? 何ていうか、疎外感が半端ない上に物凄く寂しい気持ちになるんです、うっぷ」

 

吐き気を堪えながら、仲間はずれは嫌!と四つん這いのまま這いずってくるシア。

 

「........前から言おうと思っていたんだが、時々出る、お前のそのホラーチックな動きやめてもらえないか?何ていうか、背筋が寒くなる上に夢に出てきそうなんだ」

「な、何たる言い様。少しでも傍に行きたいという乙女心を何だと、うぷ。私もユエさんみたいにナデナデされたいですぅ。抱きしめてナデナデして下さい!うぇ、うっぷ」

「今にも吐きそうな顔で、そんなこと言われてもな........しかもさり気なく要求が追加されてるし」

「........シアにハジメの撫ではまだまだ早い」

 

シアが根性でハジメ達の傍までやって来て、期待した目と青白い顔でハジメを見上げる。ハジメはそっと、視線を逸らして扉へと向き直った。背後で「そんなっ!うぇっぷ」という声が聞こえるがスルーする。そんなことを繰り返しているハジメ達を無視して、俺は空間把握で先を見透す。..........あっ。

 

「........マジかぁ〜」

 

俺がピタリと止まって、心底嫌そうにそう言った事で背後のハジメが訝しげにする。

 

「どうしたんだ?京。何を見た?」

「えーと、あのですね..........」

 

非常に気まずそうな顔をしている俺は「まぁ、うん。開けたらわかる」と言って扉を開け放った。

 

扉を開けた先は、別の部屋に繋がっていた。その部屋は中央に石板が立っており左側に通路がある。見覚えがあるはずだ。なぜなら、その部屋は、

 

「最初の部屋........みたいですね?」

 

シアが、思っていても口に出したくなかった事を言ってしまう。だが、確かに、シアの言う通り最初に入ったウザイ文が彫り込まれた石板のある部屋だった。よく似た部屋ではない。それは、扉を開いて数秒後に元の部屋の床に浮き出た文字が証明していた。

 

〝ねぇ、今、どんな気持ち?〟

〝苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?〟

〝ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ〟

 

「「「……」」」

「それ1番めんどいやつ.........」

 

ハジメ達の顔から表情がストンと抜け落ちる。能面という言葉がピッタリと当てはまる表情だ。三人とも、微動だにせず無言で文字を見つめている。俺は膝に手を当てて下を向く。すると、更に文字が浮き出始めた。

 

〝あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します〟

〝いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです〟

〝嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!〟

〝ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です〟

〝ひょっとして作ちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー〟

 

「は、ははは」

「フフフフ」

「フヒ、フヒヒヒ」

「.......ハァ」

 

三者三様の壊れた笑い声が辺りに響く。俺はついに地面に崩れ落ちた。その後、迷宮全体に届けと言わんばかりの絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。最初の通路を抜けて、ミレディの言葉通り、前に見たのとは大幅に変わった階段や回廊の位置、構造に更に怨嗟の声を上げたのも言うまでもないことだ。ちなみに俺は天を仰いだ。

 

何とか精神を立て直し、再び迷宮攻略に乗り出した俺達。しかし、やはり順風満帆とは行かず、特にシアが地味なトラップ(金たらい、トリモチ、変な匂いのする液体ぶっかけetc)の尽くにはまり、俺がシアにキレかけてハジメとユエが必死の形相でそれを止めたりと、色々あった。なんでナビゲートした俺が間違えたのか、おそらく地味にルートが変わったせいだろう。もう、ほんとに、めんどくせぇ。

 

 

 

 

 

 

あれから随分と経った。恐らくは一週間くらい。その間、俺達は深部へとたどり着くことが全くと言っていいほど叶わなかった。空間把握を使えども使えども、構造が変わり、複雑になり、読み取るのが面倒になって、ついにはハジメ達に全部投げやりにして、「もう、俺、戦闘だけやるから」と索敵を放棄しました。ハジメ達も分かってくれたのか了承してくれた。

 

そして、もう何度目かわからない攻略の末、ついに終わりが見えた。最初に来た、あの部屋へと到達したのだ。

 

「........やっとだよ」

 

俺は疲労混じりにため息をついた。背後からはその言葉に同情するような視線が送られてくる。

 

「ここか.......また包囲されても面倒だ。扉は開いてるんだし一気に行くぞ!」

「んっ!」

「はいです!」

「了解!」

 

案の定襲ってきたゴーレム達だが、適当に蹴散らして奥の通路に走っていく。すると今度は、ゴーレム騎士達もその通路に走ってきて、天井走や壁走といったどこぞの忍者だよとツッコミを入れたくなるような光景を描いた。

 

そして俺達を抜いたゴーレムが落下して再構築し、待ち構えていた。そのゴーレム騎士達に俺達は足を止めるしかなく。

 

「重力さん仕事してくれよ......」

「ちっ、面倒な」

 

ハジメはドンナー・シュラークを太もものホルスターに入れると、宝物庫から新たな武器を出した。ロケット&ミサイルランチャー、オルカン。手元に十二連式の回転弾倉が取り付けられた長方形型で、ロケット弾は長さ三十センチ近くあり、その分破壊力は通常の手榴弾より高くなっている。

 

「おっと、耳栓耳栓」

「ん」

「あ、京さん!?ユエさん!?」

 

シアが耳栓をする前にハジメがそれをぶっ放した。発射音が激しくシアの耳に騒音を届ける。

 

バシュウウ!

 

そんな音と共に、後方に火花の尾を引きながらロケット弾が発射され、狙い違わず隊列を組んで待ち構えるゴーレム騎士に直撃した。

 

次の瞬間、轟音、そして大爆発が発生する。通路全体を激震させながら大量に圧縮された燃焼粉が凄絶な衝撃を撒き散らした。ゴーレム騎士達は、直撃を受けた場所を中心に両サイドの壁や天井に激しく叩きつけられ、原型をとどめないほどに破壊されている。再構築にもしばらく時間がかかるだろう。

 

俺達は一気にゴーレム騎士達の残骸を飛び越えて行く。

 

「ウサミミがぁ~、私のウサミミがぁ~!!」

 

ハジメと併走しながら、ウサミミをペタンと折りたたみ両手で押さえながら涙目になって悶えているシア。兎人族........それは亜人族で一番聴覚に優れた種族である。

 

「だから、耳を塞げって言っただろうが」

「ええ?何ですか?聞こえないですよぉ」

「.......ホント、残念ウサギ.......」

 

ハジメとユエが呆れた表情でシアを見るが、悶えるシアは気がついていない。

 

再び落ちて来たゴーレム騎士達に対処しながら、駆け抜けること五分。遂に、通路の終わりが見えた。通路の先は巨大な空間が広がっているようだ。道自体は途切れており、十メートルほど先に正方形の足場が見える。

 

「京、ユエ、シア!飛ぶぞ!」

 

ハジメの掛け声に頷く俺とユエとシア。背後からは依然、ゴーレム騎士達が落下してくる。それらを迎撃し、躱しながら俺達は通路端から勢いよく飛び出した。

 

が、思った通りにいかないのがこの大迷宮の特徴。何と、放物線を描いて跳んだハジメ達の目の前で正方形のブロックがスィーと移動し始めたのだ。

 

「なにぃ!?」

「ちょ、おまっ!」

 

この迷宮に来てから何度目かの叫びを上げるハジメと俺。目測が狂いこのままでは落下する。チラリと見た下は相当深い。咄嗟にアンカーを撃ち込もうと左手を掲げた直後、ユエの声が響いた。

 

「"来翔"!」

 

発動した風系統の魔法により上昇気流が発生し俺達の跳躍距離を延ばす。一瞬の効果しかなかったが十分だった。未だに離れていこうとするブロックに追いつき何とか端に手を掛けてしがみつくことに成功する。義手のスパイクで固定し、ぶら下がったハジメにユエとシアもしがみついた。

 

「ナ、ナイスだ、ユエ」

「ユエさん、流石ですぅ!」

「あっぶな!サンキュー」

「.......もっと褒めて」

 

墜落せずに済んだことに思わず笑みを浮かべ、俺達はユエを賞賛する。ユエも魔力の消費が激しく少々疲れ気味だが得意げな雰囲気だ。

 

だが、そんな和やかな雰囲気は空飛ぶゴーレム騎士達によって遮られた。そう、ゴーレム騎士達は宙を飛んでいるのである。おそらく重力を制御して落下方向を決めているのだろう。凄まじい勢いで未だぶら下がったままのハジメ達に急速接近する。

 

「鬱陶しいなおい!」

「っ!?ユエ、シア登れ!」

 

ハジメは二人に指示を出すと同時にドンナーを抜くと、迫り来るゴーレム騎士達に連続して発砲をした。俺も片手で式を練って応戦する。ユエとシアが、ハジメの体を伝ってブロックの上に登りきり、ハジメと俺は倒立する勢いで体をはね上げてブロックの上に移動した。直後、俺達がぶら下がっていた場所にゴーレム騎士が凄まじい勢いで大剣を突き刺す。一瞬、技後の影響で硬直するゴーレム騎士にハジメは頭上から銃撃し、俺は鬱陶しいイライラをぶつけるように殴りつけて撃ち落とした。

 

「くそっ、こいつら、重力操作かなんか知らんが動きがどんどん巧みになってきてるぞ」

「........たぶん、原因はここ?」

「あはは、常識って何でしょうね。全部浮いてますよ?」

 

シアの言う通り、ハジメ達の周囲の全ては浮遊していた。

 

俺達が入ったこの場所は超巨大な球状の空間だった。直径二キロメートル以上ありそうである。そんな空間には、様々な形、大きさの鉱石で出来たブロックが浮遊してスィーと不規則に移動をしているのだ。完全に重力を無視した空間である。しかし俺達は重力を感じている。なんとも奇妙な部屋だ。

 

観察しようとすこし周りを見渡しながら一瞬気を抜いたその瞬間。

 

「逃げてぇ!!!」

「「「!?」」」

 

通りかかったブロックに急いで飛び移る。すると、さっきまで俺達が居たブロックが跡形もなく木っ端微塵に砕け散った。赤熱化する巨大な何かが落下してきて、ブロックを破壊すると勢いそのままに通り過ぎていったのだ。

 

「あっぶな!?」

「シア、助かったぜ。ありがとよ」

「.......ん、お手柄」

「えへへ、”未来視”が発動して良かったです。代わりに魔力をごっそり持って行かれましたけど.......」

 

シアがいなかったらさっきの攻撃はモロに直撃していたことだろう。そうすると、あれほどの粉砕を起こす攻撃だ、俺たちの体がどうなっていたかなど、容易に想像がつく。

 

改めて戦慄を感じながら、俺とハジメは通過していった隕石モドキの方を見やった。ブロックの淵から下を覗く。と、下の方で何かが動いたかと思うと猛烈な勢いで上昇してきた。それは瞬く間に頭上へ出ると、その場に留まりギンッと光る眼光をもって俺達を睥睨した。

 

「おいおい、マジかよ」

「........すごく.......大きい」

「お、親玉って感じですね」

「え?なにコレ..........でっか.......」

 

ユエの発言が若干アウトな気もするが今は気にしていては負けだ。俺達の目の前に現れたのは、宙に浮く超巨大なゴーレム騎士だった。全身甲冑はそのままだが、全長が二十メートル弱はある。右手はヒートナックルとでも言うのか赤熱化しており、先ほどブロックを爆砕したのはこれが原因かもしれない。左手には鎖がジャラジャラと巻きついていて、フレイル型のモーニングスターを装備している。

 

ともすれば、今度は周囲へ通常サイズのゴーレム騎士が飛来し、俺達を取り囲んだ。

 

「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」

「「「「..........は?」」」」

 

珍しく俺達の声は全て重なった。






爆肉「..........第4回、後書きdeトークのコーナー..........」
ハジメ「随分とお疲れだな」
爆肉「第4回のゲストは原作主人公のハジメです......あぁん、疲れたよぉんもぉん!!」
ハジメ「まぁ、だいぶ今回は面倒だったしな」
爆肉「原作見ながら書いててもね、本当に疲れた。何が疲れたってね、戦闘の後にスタート地点に戻されるっていうね、本当にしんどかった」
ハジメ「元気出せよ、それでも作者か?」
爆肉「執筆にも体力はいるんですよ.......」
ハジメ「お、おう」
爆肉「体力の関係で正式なミレディちゃんの登場は次回に回ってしまいました。一応、ミレディちゃん登場はしてるから次回予告はちゃんと回収したはず.......」
ハジメ「言い訳、って知ってるか?」
爆肉「そんなの私は知らない(キリッ」
ハジメ「元気じゃねーか」
爆肉「気のせいですよきっと。それじゃあ、今回はここまで」
ハジメ「次回も読んでくれ。感想も待ってるからな」

ーFinー


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硬壁貫く、感情の大槌

俺たち四人は目の前の光景に唖然としていた。誰が、凶悪な装備を携え、ゴーレム達を操っているであろう主から女の子の声がすると思うだろうか。

 

「あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ?全く、これだから最近の若者は.......もっと常識的になりたまえよ」

 

実にイラっとする話し方である。しかも、巨体ゴーレムは、燃え盛る右手と刺付き鉄球を付けた左手を肩まで待ち上げると、やたらと人間臭い動きで「やれやれだぜ」と言う様に肩を竦める仕草までした。普通にイラっとするハジメ達。道中散々見てきたウザイ文を彷彿とさせる。〝ミレディ・ライセン〟と名乗っていることから本人である可能性もあるが、彼女は既に死んでいるはずであるし、人間だったはずだ。

 

「そいつは、悪かったな。だが、ミレディ・ライセンは人間で故人のはずだろ?まして、自我を持つゴーレム何て聞いたことないんでな.......目論見通り驚いてやったんだから許せ。そして、お前が何者か説明しろ。簡潔にな」

「あれぇ~、こんな状況なのに物凄く偉そうなんですけど、こいつぅ」

 

全く探りになってなかった。むしろド直球だった。流石に、この反応は予想外だったのかミレディを名乗る巨体ゴーレムは若干戸惑ったような様子を見せる。が、直ぐに持ち直して、人間なら絶対にニヤニヤしているであろうと容易に想像付くような声音で俺達に話しかけた。

 

「ん~?ミレディさんは初めからゴーレムさんですよぉ~何を持って人間だなんて........」

「オスカーの手記にお前のことも少し書いてあった。きちんと人間の女として出てきてたぞ?というか阿呆な問答をする気はない。簡潔にと言っただろう。どうせ立ち塞がる気なんだろうから、やることは変わらん。お前をスクラップにして先に進む。だから、その前にガタガタ騒いでないで、吐くもん吐け」

「お、おおう。久しぶりの会話に内心、狂喜乱舞している私に何たる言い様。っていうかオスカーって言った?もしかして、オーちゃんの迷宮の攻略者?」

「ああ、オスカー・オルクスの迷宮なら攻略した。というか質問しているのはこちらだ。答える気がないなら、戦闘に入るぞ?別にどうしても知りたい事ってわけじゃない。俺達の目的は神代魔法だけだからな」

 

ハジメがドンナーを巨体ゴーレムに向ける。ユエはすまし顔だが、シアの方は「うわ~、ブレないなぁ~」と感心半分呆れ半分でハジメを見ていた。

 

「.......神代魔法ねぇ、それってやっぱり、神殺しのためかな?あのクソ野郎共を滅殺してくれるのかな?オーちゃんの迷宮攻略者なら事情は理解してるよね?」

「質問しているのはこちらだと言ったはずだ。答えて欲しけりゃ、先にこちらの質問に答えろ」

「こいつぅ~ホントに偉そうだなぁ~、まぁ、いいけどぉ~、えっと何だっけ........ああ、私の正体だったね。うぅ~ん」

「簡潔にな。オスカーみたいにダラダラした説明はいらないぞ」

「あはは、確かに、オーちゃんは話が長かったねぇ~、理屈屋だったしねぇ~」

 

巨体ゴーレムは懐かしんでいるのか遠い目をするかのように天を仰いだ。本当に人間臭い動きをするゴーレムである。ユエは相変わらず無表情で巨体ゴーレムを眺め、シアは周囲のゴーレム騎士達に気が気でないのかそわそわしている。

 

「うん、要望通りに簡潔に言うとね。私は、確かにミレディ・ライセンだよ。ゴーレムの不思議は全て神代魔法で解決!もっと詳しく知りたければ見事、私を倒してみよ!って感じかな」

「結局、説明になってねぇ........」

「ははは、そりゃ、攻略する前に情報なんて貰えるわけないじゃん?迷宮の意味ないでしょ?」

 

今度は巨大なゴーレムの指でメッ!をするミレディ・ゴーレム。中身がミレディ・ライセンというのは頂けないが、それを除けば愛嬌があるように思えてきた。ユエが、「.........中身だけが問題」とボソリと呟いていることからハジメと同じ感想のようだ。

 

そして、その中身について、結局ほとんど何もわからなかったに等しいが、ミレディ本人だというなら、残留思念などを定着させたものなのかもしれない。

 

ハジメは少し落胆した様子で巨体ゴーレム改めミレディ・ゴーレムに問い掛けた。

 

「お前の神代魔法は、残留思念に関わるものなのか? だとしたら、ここには用がないんだがなぁ」

「ん~? その様子じゃ、何か目当ての神代魔法があるのかな? ちなみに、私の神代魔法は別物だよぉ~、魂の定着の方はラーくんに手伝ってもらっただけだしぃ~」

 

俺達の目当てはあくまで世界を超えて故郷に帰ること。魂だか思念だか知らないが、それを操れる神代魔法を手に入れても意味はない。そう思って質問したのだが、返ってきたミレディの答えはハジメの推測とは異なるものだった。ラーくんというのが誰かは分からないが、おそらく〝解放者〟の一人なのだろう。その人物が、ミレディ・ゴーレムに死んだはずの本人の意思を持たせ、ゴーレムに定着させたようだ。

 

「じゃあ、お前の神代魔法は何なんだ? 返答次第では、このまま帰ることになるが........」

「ん~ん~、知りたい? そんなに知りたいのかなぁ?」

 

 再びニヤついた声音で話しかけるミレディに、イラっとしつつ返答を待つハジメ。

 

「知りたいならぁ~、その前に今度はこっちの質問に答えなよ」

 

 最後の言葉だけ、いきなり声音が変わった。今までの軽薄な雰囲気がなりを潜め真剣さを帯びる。その雰囲気の変化に少し驚くハジメ達。表情には出さずにハジメが問い返す。

 

「なんだ?」

「目的は何?何のために神代魔法を求める?ていうか、そっちの君。さっきから探ってるんだけど全く魔力ないよね?なんでここにいるの?何者?」

 

嘘偽りは許さないという意思が込められた声音で、ふざけた雰囲気など微塵もなく問いかけるミレディ。もしかすると、本来の彼女はこちらの方なのかもしれない。思えば、彼女も大衆のために神に挑んだ者。自らが託した魔法で何を為す気なのか知らないわけにはいかないのだろう。

 

ユエも同じことを思ったのか、先程までとは違う眼差しでミレディ・ゴーレムを見ている。深い闇の底でたった一人という苦しみはユエもよく知っている。だからこそ、ミレディが意思を残したまま闇の底に留まったという決断に、共感以上の何かを感じたようだ。

 

ハジメは、ミレディ・ゴーレムの眼光を真っ直ぐに見返しながら嘘偽りない言葉を返した。

 

「俺の目的は故郷に帰ることだ。お前等のいう狂った神とやらに無理やりこの世界に連れてこられたんでな。世界を超えて転移できる神代魔法を探している……お前等の代わりに神の討伐を目的としているわけじゃない。この世界のために命を賭けるつもりは毛頭ない」

「俺については、魔力の代わりに霊力ってものがある。正体も何も俺は人間だ。ここにいる理由についてはこいつらを守るという望みのためさ」

「……」

 

ミレディ・ゴーレムはしばらく、ジッと俺達を見つめた後、何かに納得したのか小さく頷いた。そして、ただ一言「そっか」とだけ呟いた。と、次の瞬間には、真剣な雰囲気が幻のように霧散し、軽薄な雰囲気が戻る。

 

「ん~、そっかそっか。なるほどねぇ~、別の世界からねぇ~。うんうん。それは大変だよねぇ~よし、ならば戦争だ!見事、この私を打ち破って、神代魔法を手にするがいい!あっ、君はよく分からないけど!」

「脈絡なさすぎて意味不明なんだが........何が『ならば』何だよ。っていうか話し聞いてたか?お前の神代魔法が転移系でないなら意味ないんだけど?それとも転移系なのか?」

 

 ミレディは、「んふふ~」と嫌らしい笑い声を上げると、「それはね……」と物凄く勿体付けた雰囲気で返答を先延ばす。その姿は、ファイナルアンサーした相手に答えを告げるみの○んたを彷彿とさせた。

 

いい加減、イラつきが頂点に達し、こっちから戦争を始めてやるとオルカンを取り出したハジメの機先を制するようにミレディが答えを叫ぶ。

 

「教えてあ~げない!」

「死ね」

 

ハジメが問答無用にオルカンからロケット弾をぶっぱなした。火花の尾を引く破壊の嵐が真っ直ぐにミレディ・ゴーレムへと突き進み直撃する。

 

ズガァアアアン!!

 

凄絶な爆音が空間全体を振動させながら響き渡り、濛々と立つ爆煙。

 

「やりましたか!?」

「........シア、それはフラグ」

 

シアが先手必勝ですぅ! と喜色を浮かべ、ユエがツッコミを入れる。結果、正しいのはユエだった。煙の中から赤熱化した右手がボバッと音を立てながら現れると横薙ぎに振るわれ煙が吹き散らされる。

 

煙の晴れた奥からは、両腕の前腕部の一部を砕かれながらも大して堪えた様子のないミレディ・ゴーレムが現れた。ミレディ・ゴーレムは、近くを通ったブロックを引き寄せると、それを砕きそのまま欠けた両腕の材料にして再構成する。

 

「ふふ、先制攻撃とはやってくれるねぇ~、さぁ、もしかしたら私の神代魔法が君のお目当てのものかもしれないよぉ~、私は強いけどぉ~、死なないように頑張ってねぇ~」

 

そう楽しそうに笑って、ミレディ・ゴーレムは左腕のフレイル型モーニングスターを俺達に向かって射出した。投げつけたのではない。予備動作なくいきなりモーニングスターが猛烈な勢いで飛び出したのだ。おそらく、ゴーレム達と同じく重力方向を調整して〝落下〟させたのだろう。

 

ハジメ達は、近くの浮遊ブロックに跳躍してモーニングスターを躱す。そこに俺を残して。

 

「「京(さん)!!」」

「あれれ〜?もしかしてもう降伏しちゃった〜?その後ろの子達を守るとか言ってて〜?ププッ!」

 

実にウザイ言葉を吐きながらも、そのモーニングスターをこちらへ射出する速度は変わらない。

 

「バーカ、避ける必要がねぇんだよ」

「うわわっ!?」

 

直後、バゴォ!と轟音を立てて、モーニングスターが真横へものすごい勢いで吹っ飛んでいった。その衝撃で鎖から外れ、棘の鉄球は壁に着弾すると破裂する。

 

「なっ、何が起きたしぃ!?」

「霊力で拳に薄い膜を作って、殴った。以上」

「何その人間離れした技っ!?」

 

「まぁそれは置いといて.......」と言ってコキコキと首を鳴らし、俺は渾身の笑みを浮かべた。

 

「ミレディ・ライセン.........死ぬ覚悟はいいな?」

「「「..........」」」

 

直後、三人は悟った。度重なるやり直し、ウザイ文字、努力を無駄にするような迷宮の構造、こんなところでいくら京と言えどもストレスを溜め込まないわけがない。

 

つまり現在、彼はこの場の誰よりもキレている。それはもう、いつかのシアの腹を据えかねた時以上に。

 

「........京、キレてる」

「け、京さんが本気で怒ってますぅ........」

「触らぬ神に祟りなし、だ。暫くはゴーレム達を片付けるぞ」

「「ん.........(は、はい)」」

 

三人の話はそれで纏まった。一方、前ではミレディが近くのキューブを砕いてモーニングスターを修復していた。

 

「まぁでも、操れるのが騎士だけとは一言も言ってないよぉ~」

 

ニヤつく声音のミレディを無視して、三人はゴーレム騎士を殲滅し始める。俺も纏雷を纏ってミレディにぶつかっていく。

 

「んなぁっ!?早っ........」

「遅い」

 

ゴガァン!

 

電磁加速によって爆発的な衝撃を生んだ拳がゴーレムの体に突き刺さる。あまりの衝撃に耐えきれなかったのか、ミレディは一歩後ずさる。

 

「な、何その馬鹿力!」

「京!ミレディの核はゴーレム騎士達と変わらない!心臓の辺りだ!」

「んなっ!なんでわかったのぉ!」

 

ハジメの魔眼がミレディの心臓の位置を捉え、シアもユエも俺も眼光は更に鋭くなる。ハジメは群がるゴーレム騎士達を面倒と思ったのか宝物庫から新たな武器を出した。

 

ガトリング砲メツェライ。ユエと背中合わせになり、毎分一万二千発の死を撒き散らす化物を解き放った。

 

ドゥルルルルル!!

 

六砲身のバレルが回転しながら掃射を開始する。独特な射撃音を響かせながら、真っ直ぐに伸びる数多の閃光は、縦横無尽に空間を舐め尽くし、宙にある敵の尽くをスクラップに変えて底面へと叩き落としていった。回避または死角からの攻撃のため反対側に回り込んだものは、ユエの水のレーザーにより、やはり尽く両断されていく。

 

瞬く間に四十体以上のゴーレム騎士達が無残な姿を晒しながら空間の底面へと墜落した。時間が経てば、また再構築を終えて戦線に復帰するだろうが、しばらく邪魔が入らなければそれでいい。そう、親玉であるミレディ・ゴーレムを破壊するまで。

 

「ちょっ、なにそれぇ! そんなの見たことも聞いたこともないんですけどぉ!」

 

ミレディ・ゴーレムの驚愕の叫びを聞き流し、ハジメは、メツェライを宝物庫にしまうと、再びドンナーを抜きながら、少し離れたところにいるシアにも聞こえるように再び声を張り上げた。

 

「ミレディの核は、心臓と同じ位置だ!あれを破壊するぞ!」

「んっ!」

「はいです!」

「だからなんで分かるの!!」

 

俺はそのまま突進して再度心臓の位置に拳をたたきつけた。ドガァン!と激しい音がして、またミレディが一方後退る。

 

「あぁぁぁ!めんどくさいなぁ君は!」

 

足場に着地した俺に、ミレディの赤熱化した手が迫ってくる。俺は再び霊力を拳に纏わせてその一撃を受け止めた。

 

「ぐぅっ!」

「パワーでゴーレムが負けるわけないよぉ~」

 

ジリジリと足場の後方に押されていく。俺は纏雷の出力を更に上げて筋肉を活性化させる。

 

「うおっ!?押し返してくんのぉ!?」

「オラァ!!」

 

そのままミレディの拳を押し返す。俺が時間を稼いでいる間に、見事にハジメは到達したらしい。

 

「お前、俺を忘れてないか?」

「!?」

 

驚愕し慌てて声のした方向に視線を転じるミレディ・ゴーレム。いつの間にか懐に潜り込み、アンカーと甲冑の隙間に足を入れることで体を固定しながら、巨大な兵器:シュラーゲンを心臓部に突き付けているハジメが其処にいた。シュラーゲンから紅いスパークが迸る。

 

「い、いつの間ッ!?」

 

ドォガン!!!

 

ミレディの驚愕の言葉はシュラーゲンの発する轟音に遮られた。ゼロ距離で放たれた殺意の塊は、ミレディ・ゴーレムを吹き飛ばすと共に胸部の装甲を木っ端微塵に破壊した。

 

胸部から煙を吹き上げながら弾き飛ばされるミレディ・ゴーレム。ハジメも反動で後方に飛ばされた。アンカーを飛ばし、近くの浮遊ブロックに取り付けると巻き上げる勢いそのままに空中で反転して飛び乗る。そして、ミレディ・ゴーレムの様子を観察した。

 

「.......いけた?」

「手応えはあったけどな........」

「これで、終わって欲しいですぅ」

 

ユエが手応えを聞き、シアが希望的観測を口にする。ハジメの表情は微妙だ。案の定、胸部の装甲を破壊されたままのミレディ・ゴーレムが、何事もなかったように近くの浮遊ブロックを手元に移動させながら、感心したような声音でハジメ達に話しかけてきた。

 

「いやぁ~大したもんだねぇ、ちょっとヒヤっとしたよぉ。分解作用がなくて、そのアーティファクトが本来の力を発揮していたら危なかったかもねぇ~、うん、この場所に苦労して迷宮作ったミレディちゃん天才!!」

 

自画自賛するミレディ・ゴーレム。だが、そんな彼女の言葉はハジメの耳に入っていなかった。ハジメの表情は険しい。なぜなら、破壊された胸部の装甲の奥に漆黒の装甲があり、それには傷一つ付いていなかったからだ。ハジメには、その装甲の材質に見覚えがあった。

 

「んぅ~、これが気になるのかなぁ~」

 

ミレディ・ゴーレムがハジメの視線に気がつき、ニヤつき声で漆黒の装甲を指差す。勿体ぶるような口調で「これはねぇ~」と、その正体を明かそうとして、ハジメが悪態と共に続きを呟いた。

 

「.......アザンチウムか、くそったれ」

 

ハジメが眉間に皺を寄せてそう言った。

 

「おや? 知っていたんだねぇ~、ってそりゃそうか。オーくんの迷宮の攻略者だものねぇ、生成魔法の使い手が知らないわけないよねぇ~、さぁさぁ、程よく絶望したところで、第二ラウンド行ってみようかぁ!」

「させねぇよ」

 

刹那、雷光が走り装甲へ激突した。ドゴォォン!と轟音を立てて、ミレディ・ゴーレムの胸部装甲に亀裂が入る。

 

「んなぁっ!?」

「この拳、その装甲、俺が殴ったら先にどっちが壊れるだろうな?」

「その馬鹿力、本っ当に鬱陶しいなぁ!!」

 

己の身に真に危険が近づき、ミレディが苛立った声をあげる。その隙にハジメ達が攻めてこようとするも。

 

「させないよぉ!」

 

ミレディ・ゴーレムの声と共に足場にしていた浮遊ブロックが高速で回転する。いきなり、足場を回転させられバランスを崩すハジメ達。そこへモーニングスターが絶大な威力を以て激突した。ハジメ達は、木っ端微塵に砕かれた足場から放り出される。ハジメは、ジャラジャラと音を立てながら通り過ぎる鎖にしがみついた。ユエは砕かれた浮遊ブロックの破片を足場に”来翔”を使って、シアはドリュッケンの爆発の反動を利用して何とか眼下の浮遊ブロックに不時着する。

 

そこへ狙いすました様にミレディ・ゴーレムがフレイムナックルを突き出して突っ込んだ。

 

「くぅう!!」

「んっ!!」

 

直撃は避けたものの強烈な衝撃に、ユエとシアの口から苦悶の呻き声が漏れる。それでも、すれ違い様にユエは〝破断〟をミレディ・ゴーレムの腕を狙って発動し、シアはドリュッケンのギミックの一つである杭を打撃面から突出させて、それを鎧に突き立て取り付いた。

 

〝破断〟はミレディ・ゴーレムの右腕の一部を切り裂いたが切断とまでは行かず、ユエは悔しげな表情で別の浮遊ブロックに着地する。

 

一方、ミレディ・ゴーレムの肩口に取り付いたシアは、そのまま左の肩から頭部目掛けてドリュッケンをフルスイングした。が、ミレディ・ゴーレムが急激に〝落ちた〟ことによりバランスを崩され宙に放り出された。

 

「きゃあ!」

 

悲鳴を上げるシア。そこへ、モーニングスターの鎖にしがみついていたハジメが、振るわれる鎖の遠心力を利用してシアのもとへ飛び出し空中でキャッチする。

 

「随分と余裕だな!」

 

鎧の隙間に張り付いたままバゴォ!と音を立ててまた装甲を殴る。すると、先程よりも僅かにピキリと亀裂が入った。

 

「くそっ!硬ってぇ!」

「あーもー!さっきからぁ!!無視してあげてたのわからない!?」

 

俺は一旦距離をとるためにハジメ達の元へ向かう。しかし、ミレディ・ゴーレムの手がこちらへ向かってきている。だがその瞬間、今度は下方から水のレーザーが先程傷を入れた部分に直撃してその腕を両断した。

 

「.......してやったり」

 

そこに居たユエは、下方のブロックでほくそ笑んでいた。

 

「サンキューユエ!助かった!」

「っ、このぉ!調子に乗ってぇ!」

 

ミレディが、イラついた様子で声を張り上げた。俺はその間にハジメの元へ跳躍した。

 

「お前、よく張りつけたな」

「チームプレーの賜物だよ。お前らがゴーレム騎士を相手にしててくれたからな」

「な、なんか疎外感が.......」

 

そんなことは無いぞとシアを慰める。........そうしていると、ミレディ・ゴーレムが何も喋らない。それどころか、周囲のブロックを引き寄せて破損した腕を再構築することも無く、ただ天井を強い光で見続けていた。

 

「ハジメさん、京さん、ユエさん!避けてぇ!()()()()()()!」

 

恐らく、その言い方からしてシアの固有魔法が発動したのだろう。つまり、それほど危険な攻撃ということになる。

 

その直後、それは起こった。

 

空間全体が鳴動する。低い地鳴りのような音が響き、天井からパラパラと破片が落ちくる。いや、破片だけではない。天井そのものが落下しようとしているのだ。

 

「っ!?こいつぁ!」

「ふふふ、お返しだよぉ。騎士以外は同時に複数を操作することは出来ないけど、ただ一斉に〝落とす〟だけなら数百単位でいけるからねぇ~、見事凌いで見せてねぇ~」

 

呑気なミレディの言葉に苛立つが、そんな事に気を取られている余裕はない。この空間の壁には幾つものブロックが敷き詰められているのだが、天井に敷き詰められた数多のブロックが全て落下しようとしているのだ。一つ一つのブロックが、軽く十トン以上ありそうな巨石である。そんなものが豪雨の如く降ってくるのだ。

 

「ハ、ハジメさん!」

「ハジメ、そこにいろ!ユエは俺が行ってくる!」

 

俺は急いでユエの元へと向かう。ユエもこちらへ合流しようと浮遊ブロックを足場に跳躍してきていた。ミレディ・ゴーレムはその間もずっと天井を見続けていた。しかし、時間からしてユエと合流した後に邪魔を入れる時間はなさそうだ。

 

「ユエ!俺の背中に乗れ!」

「んっ!」

 

飛び乗った彼女を上手くキャッチする。しかし、それが刻限とでも言うように天から巨石群が降り注いだ。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!ゴバッ!!

 

天井からブロックが外れ、地響きがなり止む代わりに轟音を立てながら自由落下する巨石群。しかもご丁寧に、ある程度軌道を調整するくらいは出来るのか、ハジメ達のいる場所と俺たち乗る場所に特に密集して落ちてくる。

 

「ユエ、揺れるぞ。捕まっとけよ!」

「ん!」

「ハジメ、気をつけろ!」

 

だが落ちてくるまで少し時間がある。俺は急ぎで式を練った。

 

「縛道の六十一、六杖光牢!!」

 

どこからともなく六つの光の帯が現れ、ミレディ・ゴーレムの胴体を囲うように突き刺さった。いきなり現れた異物を解こうとするも、六つの光は消えない。

 

「なっ、体が動かない!そんな魔法見たことも聞いたこともないんだけど!?」

「魔法じゃねーからな!」

 

俺が六杖光牢を放つ間にハジメはオルカンで巨石の数々を撃ち落としていた。しかし、迎撃もそこまで。ついには到達した巨石に飲まれてしまった。恐らく、瞬光を使って避けるだろう。俺も纏雷を全身に纏い、全力で脳を活性化させて擬似瞬光を発動させる。

 

刹那、スローモーションとなった世界で、飛来する巨石の合間を縫うようにして避け続ける。直後、横の巨石群で赤いオーラが一瞬輝いた。恐らく、ハジメが瞬光の上に限界突破を使ったのだろう。そこまでして、恐らく彼はかなりの魔力を持っていかれているだろう。助けに行きたいが、、巨石群に横入りするのは容易ではない。

 

だからこそ、俺はハジメを信じて避け続けた。

 

「う~ん、やっぱり、無理だったかなぁ~、でもこれくらいは何とかできないと、あのクソ野郎共には勝てないしねぇ~」

 

動けるようになったミレディが、俺たちの死体を探した。しかしそこには居ない。

 

「そのクソ野郎共には興味ないって言っただろうが」

「えっ?」

 

聞き覚えのある声が響いた。不遜でマイペース、見たこともないアーティファクトを操る白髪眼帯の少年、そう、ハジメの声だ。驚愕と僅かな喜色を滲ませた声を上げて背後を振り返るミレディ。

 

そこには、確かに、荒い息を吐き、目や鼻から血を流してはいるものの五体満足のハジメが浮遊ブロックの上に俺が肩を貸して立ち、ミレディを睥睨していた。

 

「ど、どうやって……」

 

自分の目には確かに巨石群に呑まれたように見えたハジメが、目の前にいることに思わず疑問の声を上げるミレディ。そんな彼女に、ハジメは、ニィと口の端を吊り上げて笑う。

 

「答えてやってもいいが.......俺達ばかり見ていていいのか?」

「えっ?」

 

先程と同じ口調で疑問の声を上げるミレディ。だが、その疑問は、直後、魔法の直撃という形で解消された。

 

「”破断”!」

 

ユエの凛とした詠唱が響き渡り、幾筋もの水のレーザーがミレディ・ゴーレムの背後から背中や足、頭部、肩口に殺到する。着弾したウォーターカッターは各部位の表面装甲を切り裂いた。

 

「こんなの何度やっても一緒だよぉ~、両腕再構成するついでに直しちゃうしぃ~」

「いや、そんな暇は与えない」

 

振り向きもせず余裕の雰囲気でユエの魔法を受けきったミレディ・ゴーレムに、ハジメがアンカーを打ち込みながら一気に接近する。片手にはシュラーゲンを持っている。

 

「あはは、またそれ? それじゃあ、私のアザンチウム製の装甲は砕けないよぉ~」

 

ミレディはやはり余裕の態度だ。ハジメに取り付かれ、胸部にシュラーゲンを突きつけられても撃ちたきゃ撃てば? と言わんばかりだ。周囲の浮遊ブロックで妨害しようともしない。それも当然といえば当然だろう。何せ、ハジメの武器がミレディ・ゴーレムの装甲に歯が立たないことは実証済みである。その為、ミレディは、この段階で代わり映えしない攻撃手段を選んだということから、万策尽きて悪足掻きをしていると判断した。

 

だが、その余裕が命取りだ。

 

「知っている!」

 

ハジメの言葉と共にシュラーゲンからスパークが走り、電磁加速されたフルメタルジャケットモドキがミレディ・ゴーレムの胸部をゼロ距離から吹き飛ばす。轟音と衝撃にミレディ・ゴーレムが弾かれ吹き飛ぶ。

 

だが、ハジメは前回のように離脱したりはしなかった。アンカーを巻き上げると、そのまましがみつき、義手を砕けたミレディ・ゴーレムの胸部に押し当て、内蔵されているショットシェルの残弾が尽きるまで撃ち尽くす。激しい衝撃が更にミレディ・ゴーレムを吹き飛ばし、背後に浮いていた浮遊ブロックの上に叩きつけた。

 

「こ、こんなことしても結局は……」

「縛道の六十一、六杖光牢!!」

「凍って!〝凍柩〟!」

 

再び六つの帯がゴーレムの体を囲って突き刺さる。さらにダメ押しとばかりのユエの魔法が発動し、背中から天井ブロックに叩きつけられていたミレディ・ゴーレムの背面が一瞬で凍りつき、浮遊ブロックに固定された。最上級魔法を無理に使ったユエは肩で息をしながら近くのブロックに退避した。

 

「よくやった!ユエ!京!」

 

すると固定されたミレディ・ゴーレムの上にアンカーを刺してハジメは立つ。片手には、宝物庫から取り出された、パイルバンカーが装備されている。先程、俺が亀裂を入れた所に再び立ち、そこにパイルバンカーを押し当てた。すると、大筒が紅いスパークを放ち、中に装填されている漆黒の杭が猛烈と回転を始める。

 

キィイイイイイ!!!

 

高速回転が奏でる旋律が響き渡る。ニヤァと笑ったハジメの表情に、ゴーレムでなければ確実に表情を引き攣らせているであろうミレディ。

 

「存分に食らって逝け」

 

すると、大筒が紅いスパークを放ち、中に装填されている漆黒の杭が猛烈と回転を始める。

 

キィイイイイイ!!!

 

そんな言葉と共に、吸血鬼に白木の杭を打ち込むがごとく、ミレディ・ゴーレムの核に漆黒の杭が打ち放たれた。

 

ゴォガガガン!!!

 

凄まじい衝撃音と共にパイルバンカーが作動し、漆黒の杭がミレディ・ゴーレムの絶対防壁に突き立つ。胸部のアザンチウム装甲は、元々入っていたヒビが加速し、杭はその先端を容赦なく埋めていく。あまりの衝撃に、ミレディ・ゴーレムの巨体が浮遊ブロックを放射状にヒビ割りながら沈み込んだ。浮遊ブロック自体も一気に高度を下げる。ミレディ・ゴーレムは、高速回転による摩擦により胸部から白煙を吹き上げていた。

 

.......しかし、ミレディ・ゴーレムの目から光は消えなかった。よく見れば、アザンチウム製の鎧を貫いているものの、コアにはほとんど届いていなかった。

 

「ハッハッハ!惜しかったねぇ!でもあとちょっと届か.......」

「おい、いつ俺が一人だと言った?」

 

ニヤリとハジメは笑う。その直後、上空で輝きを放つ激しい稲光。そこにいたのはもちろん俺。先程天井から降り注いだ巨石群とほぼ同じ速さでミレディへ突っ込む。

 

「雷鎚!!!」

 

バガァァァァン!!

 

最大出力の雷鎚を上から杭に叩きつけた。すると、先程のパイルバンカーよりも激しい音を立ててグンッ!と黒の杭が沈み込む。だが、まだ貫いていない。そんな手応えはなかった。

 

「ハ、ハハ。どうやら未だ威力が足りなかったようだねぇ。だけど、まぁ大したものだよぉ?四分の三くらいは貫けたんじゃないかなぁ?」

「おいおい、こんな中途半端で終わるわけないだろ?」

「え」

「あいつも随分と溜まってるだろうな。なぁ、そうだろう?」

 

そして、その最後の一撃を決めるであろう、普段は残念うさぎな彼女の名前を、俺達は声を合わせて呼んだ。

 

「「シア」」

「てぇいやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

俺達が飛び退いた瞬間、代わりに現れたのは、ウサミミをなびかせ、ドリュッケンを大上段に構えたまま、遥か上空から自由落下に任せて舞い降りるシアだった。

 

「ッ!?」

 

シアが何をしようとしているのか察したのだろう。今度こそ、焦ったようにその場から退避しようとするミレディ・ゴーレム。自分が固定されている浮遊ブロックを移動させようとするがその体は未だに消えぬ六つの帯で固定されて動かない。

 

シアは、そのままショットシェルを激発させ、その衝撃も利用して渾身の一撃を杭に打ち下ろした。

 

ドゴォオオ!!!

 

轟音と共に杭が更に沈み込む。だが、まだ貫通には至らない。シアは、内蔵されたショットシェルの残弾全てを撃ち尽くすつもりで、引き金を引き続ける。

 

ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!

 

「あぁあああああ!!」

 

シアの絶叫が響き渡る。これで決めて見せると強烈な意志を全て相棒たる大槌に注ぎ込む。全身全霊、全力全開。衝撃と共に浮遊ブロックが凄まじい勢いで高度を下げていく。

 

そして、轟音と共に浮遊ブロックが地面に激突した。その衝撃で遂に漆黒の杭がアザンチウム製の絶対防御を貫き、ミレディ・ゴーレムの核に到達する。先端が僅かにめり込み、ビシッという音を響かせながら核に亀裂が入った。

 

地面への激突の瞬間、シアはドリュッケンを起点に倒立すると、くるりと宙返りをする。そして、身体強化の全てを脚力に注ぎ込み、遠心力をたっぷりと乗せた蹴りをダメ押しとばかりに杭に叩き込んだ。

 

シアの蹴りを受けて更にめり込んだ杭は、核の亀裂を押し広げ……遂に完全に粉砕した。

 

 ミレディ・ゴーレムの目から光が消える。シアはそれを確認するとようやく全身から力を抜き安堵の溜息を吐いた。直後、背後から着地音が聞こえ振り向くシア。そこに俺達が着地して、シアは満面の笑みでサムズアップするのだった。





爆肉「第5回、後書きdeトークのコーナー。ゲストはこの方」
ユエ「ん」
爆肉「原作ヒロイン、ユエさんです」
ユエ「作者、見直しした?」
爆肉「し、しましたよ.....?」
ユエ「1万2000文字突入して、サボってない?」
爆肉「だ、大丈夫ですよ!?」
ユエ「誤字報告あったら、魔法でする」
爆肉「魔法でするって何!?怖いんですが!!」
ユエ「なら、もう少し半分に分けてもよかった」
爆肉「いやぁ、前回にミレディが一応登場した手前、今回は妥協したくなかったので.......」
ユエ「妥協なんて言葉、仕えるの?
爆肉「うっ.........でっ、でもいくら妥協の人生の私でも!ていうかむしろそんな私だからこそ.......!」
ユエ「ない」
爆肉「グハァ!」
ユエ「作者が死んだから、ここまで。次回も待ってて。感想も待ってる」

ーFinー


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少女、ゴーレム

少し短めです、ごめんなさい(されど5000字強)


あの後、ミレディが最後の力を振り絞って言葉を投げかけてきた。恐らく、完全にその体は死んだことだろう。『狂った神』、『世界をかけた戦争』、反逆者達が口々に言うその言葉は、俺たちに馴染みもなければ知識も無い言葉だ。

 

彼らが対抗していたという神、そんな神に慣れさせるために自ら鬱陶しい口調を使ったと彼女は言った。神は、どのような手段を使うのだろう。やはり、元の世界に帰る過程でラスボスのようなものとして登場するのだろうか。謎は深まるばかりだ。

 

「京ー?行くぞー?」

「ん、ああ!」

 

こちらへ向かってきたブロックに飛び乗って、光壁へと向かっていく。すると、近づくにつれて光の壁は薄まって行き、やがて通り抜けれるまでになったというタイミングでブロックがそこを通過する。

 

するとそこには。

 

「やっほー、さっきぶり!ミレディちゃんだよ!」

 

俺たちより少し小さいくらいのゴーレムとなっているミレディが某歌姫のようにキラッ☆とやりそうな勢いで動いている。確かに、一度攻略されてその後にボスがいなければ意味が無い。だからこそ、消滅はしないだろうと思っていた。まさか、このような形で会うとは思わなんだが。

 

「あれぇ?あれぇ?テンション低いよぉ~?もっと驚いてもいいんだよぉ~?あっ、それとも驚きすぎても言葉が出ないとか?だったら、ドッキリ大成功ぉ~だね☆」

 

ちっこいミレディ・ゴーレムは、巨体版と異なり人間らしいデザインだ。華奢なボディに乳白色の長いローブを身に纏い、白い仮面を付けている。ニコちゃんマークなところが微妙に腹立たしい。

 

「.......さっきのは?」

「ん~?さっき?あぁ、もしかして消えちゃったと思った?ないな~い!そんなことあるわけないよぉ~!」

「でも、光が昇って消えていきましたよね?」

「ふふふ、中々よかったでしょう? あの〝演出〟!やだ、ミレディちゃん役者の才能まであるなんて!恐ろしい子!」

 

テンション上がりまくりのミニ・ミレディ。比例してウザさまでうなぎ上りだ。そんなミニ・ミレディを前にして、ユエは手を前に突き出し、シアはドリュッケンを構えた。流石に、あれ?やりすぎた?と動きを止めるミニ・ミレディ。

 

「え、え~と.........」

 

ゆらゆら揺れながら迫ってくるユエとシアに、ミニ・ミレディは頭をカクカクと動かし言葉に迷う素振りを見せると意を決したように言った。

 

「テヘ、ペロ☆」

「........死ね」

「死んで下さい」

「ま、待って!ちょっと待って!このボディは貧弱なのぉ!これ壊れたら本気でマズイからぁ!落ち着いてぇ!謝るからぁ!」

 

しばらく騒がしい音がその空間に響いた。まぁさすがに完全に壊されてもなんとなくこの後に困ると思ったのでゲンコツでとめたが。

 

「......痛い」

「痛いですぅ!」

「阿呆。まじで壊したらやばいやつならどうすんだ。一時の感情に任されないで、合理的に、冷静に考えろ」

 

すると今度は、二人を無視して魔法陣を調べていたハジメの元へ来たミレディを、彼が鷲掴みにした。

 

「このまま愉快なデザインになりたくなきゃ、さっさとお前の神代魔法をよこせ」

「あのぉ~言動が完全に悪役だと気づいてッ『メキメキメキ』了解であります!直ぐに渡すであります!だからストープ!これ以上は、ホントに壊れちゃう!」

 

これ以上ふざけると本気で壊されかねないと理解したのかミニ・ミレディもようやく魔法陣を起動させ始めた。俺はそんなハジメの頭に二人同様、ゲンコツを入れる。

 

「くぁっ.......!」

「さっきからお前ら、乱暴なんだよ。こいつを壊して、何か起動出来ないギミックがあったらどうすんだ.......ったく」

「そいつなら壊してもそこら辺のゴーレムから出てきそうだけどな」

「黙らっしゃい」

 

そんなこんなで、魔法陣の中に入るハジメ達。今回は、試練をクリアしたことをミレディ本人が知っているので、オルクス大迷宮の時のような記憶を探るプロセスは無く、直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていく。

 

ものの数秒で刻み込みは終了し、あっさりとハジメ達はミレディ・ライセンの神代魔法を手に入れる。

 

「これは........やっぱり重力操作の魔法か」

「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね…って言いたいところだけど、君とウサギちゃんは適性ないねぇ~もうびっくりするレベルでないね!」

「やかましいわ。それくらい想定済みだ」

 

ミニ・ミレディの言う通り、ハジメとシアは重力魔法の知識等を刻まれてもまともに使える気がしなかった。ユエが、生成魔法をきちんと使えないのと同じく、適性がないのだろう。

 

「まぁ、ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。君は……生成魔法使えるんだから、それで何とかしなよ。金髪ちゃんは適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ」

 

ミニ・ミレディの幾分真面目な解説にハジメは肩を竦め、ユエは頷き、シアは打ちひしがれた。せっかくの神代魔法を適性なしと断じられ、使えたとしても体重を増減出来るだけ。ガッカリ感が凄まじい。また。重くするなど論外だが、軽くできるのも問題だ。油断すると体型がやばい事になりそうである。むしろデメリットを背負ったんじゃ......とシアは意気消沈した。

 

そんな三人を後目に、今度はミレディが俺を見てくる。

 

「あっれれ?君は入らなくていいのかな?かなかな?」

「そいつないくらのうに直接書き込まれようと、使えないものは使えない。言っただろ?魔力が無いって」

 

すると、何となく、ミレディの仮面の奥の表情が消えたような気がした。その口から、全く抑揚のない声が聞こえてくる。

 

「君は本当に何者?少なくとも、この世界の理から外れてるよ、その力」

「俺が何者かなんて、どうでも良くないか?俺は俺、ただのどこにでもいるような人間、刀崎 京。そんで、ハジメと同じ『被害者』。お前が疑うような要素は何も無いと思うが?」

 

この力はただの天職の影響だと、俺はそう思っている。その己の気持ちに偽りはないし、そこを疑われても、だから?と俺は答える。俺は人間だし、何の変哲もない、ただの元の世界の『被害者』。

 

「........そう、だね。まっ、それでいいんじゃなーい?」

「適当だな、お前本当に」

 

そんな俺たちの会話に、ハジメは空気も読まずに入ってくる。さすがはハジメ様だ。

 

「おい、ミレディ。さっさと攻略の証を渡せ。それから、お前が持っている便利そうなアーティファクト類と感応石みたいな珍しい鉱物類も全部よこせ」

「.......君、セリフが完全に強盗と同じだからね? 自覚ある?」

 

歪んだニコちゃんマークの仮面が、どことなくジト目をしている気がするが、ハジメは気にしない。ミニ・ミレディは、ごそごそと懐を探ると一つの指輪を取り出し、それをハジメに向かって放り投げた。パシッと音をさせて受け取るハジメ。ライセンの指輪は、上下の楕円を一本の杭が貫いているデザインだ。

 

ミニ・ミレディは、更に虚空に大量の鉱石類を出現させる。おそらく〝宝物庫〟を持っているのだろう。そこから保管していた鉱石類を取り出したようだ。やけに素直に取り出したところを見ると、元々渡す気だったのかもしれない。

 

しかし、この程度でよしとしないのがハジメクオリティー。出された鉱物類を自分の〝宝物庫〟に仕舞いながら、冷めた目をミニ・ミレディに向ける。

 

「おい、それ〝宝物庫〟だろう?だったら、それごと渡せよ。どうせ中にアーティファクト入ってんだろうが」

「あ、あのねぇ~。これ以上渡すものはないよ。〝宝物庫〟も他のアーティファクトも迷宮の修繕とか維持管理とかに必要なものなんだから」

「知るか。寄越せ」

「あっ、こらダメだったら!」

 

本当に根こそぎ奪っていこうとするハジメに焦った様子で後退るミニ・ミレディ。彼女が所有しているアーティファクト類は全て迷宮のために必要なものばかりだ。むしろ、それ以外には役に立たないものばかりなので、ハジメが持っていても仕方がない。その辺りのことを掻い摘んで説明するが、ハジメは「ほぅほぅ、よくわかった。じゃあ寄越せ」と容赦なく引渡しを要求する。どこからどう見ても、唯の強盗だった。

 

「ええ~い、あげないって言ってるでしょ!もう、帰れ!」

 

なお、ジリジリと迫ってくるハジメに、ミニ・ミレディは勢いよく踵を返すと壁際まで走り寄り、浮遊ブロックを浮かせると天井付近まで移動する。

 

「逃げるなよ。俺はただ、攻略報酬として身ぐるみを置いていけと言ってるだけじゃないか。至って正当な要求だろうに」

「それを正当と言える君の価値観はどうかしてるよ!うぅ、いつもオーちゃんに言われてた事を私が言う様になるなんて........」

「ちなみに、そのオーちゃんとやらの迷宮で培った価値観だ」

「オーちゃぁーーん!!」

 

ハジメに呆れた視線を向けつつも、今までの散々弄ばれた事を根に持っていたユエとシアも参戦し、ジリジリとミレディ包囲網を狭めていく。半分は自業自得だが、もう半分はかつての仲間が創った迷宮のせいという辺りに何ともやるせなさを感じるミレディ。

 

「はぁ~、初めての攻略者がこんなキワモノだなんて........もぅ、いいや。君達を強制的に外に出すからねぇ! 戻ってきちゃダメよぉ!」

 

今にも飛びかからんとしていたハジメ達の目の前で、ミニ・ミレディは、いつの間にか天井からぶら下がっていた紐を掴みグイっと下に引っ張った。

 

「「「?」」」

「おいおい、まさか.........!」

 

嫌な予感が、俺の背筋を襲う。よく、ひも状のスイッチというものを見る。それが意味するところは........

 

ガコン!!

 

「「「「!?」」」」

 

そう、トラップの作動音だ。その音が響き渡った瞬間、轟音と共に四方の壁から途轍もない勢いで水が流れ込んできた。正面ではなく斜め方向へ鉄砲水の様に吹き出す大量の水は、瞬く間に部屋の中を激流で満たす。同時に、部屋の中央にある魔法陣を中心にアリジゴクのように床が沈み、中央にぽっかりと穴が空いた。激流はその穴に向かって一気に流れ込む。

 

「嫌なものは、水に流すに限るね☆」

 

 ウインクするミニ・ミレディ。ユエが咄嗟に魔法で全員を飛び上がらせようとする。この部屋の中は神代魔法の陣があるせいか分解作用がない。そのため、ユエに残された魔力は少ないが全員を激流から脱出させる程度のことは可能だった。

 

「〝来…〟」

「させなぁ~い!」

 

 しかし、ユエが〝来翔〟の魔法を使おうとした瞬間、ミニ・ミレディが右手を突き出し、同時に途轍もない負荷がハジメ達を襲った。上から巨大な何かに押さえつけられるように激流へと沈められる。重力魔法で上から数倍の重力を掛けられたのだろう。

 

「それじゃあねぇ~、迷宮攻略頑張りなよぉ~」

「ごぽっ.......てめぇ、俺たちゃ汚物か!いつか絶対破壊してやるからなぁ!」

「ケホッ許さない」

「殺ってやるですぅ!ふがっ」

「だからやめろって.......ごぼぼ!..........バカジメェ!!」

 

ハジメ達はそう捨て台詞を吐きながら、俺はハジメに文句を言いながらなすすべなく激流に呑まれ穴へと吸い込まれていった。穴に落ちる寸前、ハジメだけは仕返しとばかりに何かを投げたようだが。俺達が穴に流されると、流れ込んだときと同じくらいの速度であっという間に水が引き、床も戻って元の部屋の様相を取り戻した。

 

「ふぅ~、濃い連中だったねぇ~。それにしてもオーちゃんと同じ錬成師、か。ふふ、何だか運命を感じるね。.........それに、あの変わった術を使ってた子」

 

仮面の奥で、存在しない顔を訝しげにしながら京の顔を思い出す。非常に未知な力を持っていた。それこそ、一歩間違えばこの世界が()()()()だろう。それほどの潜在能力が、彼には眠っている。あれをして、オスカーと同じ錬成師の子と同類だというのだ。

 

「........非常に、おかしな話だね。これもあのクソ野郎共の企みってやつなのかな」

 

そう思って深く考えようとした瞬間、ミレディの近くで何やらカランカランと転がる音がする。なんだろうと振り返ったそこにあったものを見て、すぐさま回れ右して走り出そうとして.......。

 

「やり返すまで気が済まないとか、私より性格悪いよーっ!!」

 

黒い物体、それはハジメお手製の手榴弾だった。穴に落ちる寸前でせめてもの仕返しにとナイフに括りつけた手榴弾を投擲したのだ。

 

迷宮の最奥に、「ひにゃああー!!」という女の悲鳴が響き渡った。その後、修繕が更に大変になり泣きべそを掻く小さなゴーレムがいたとかいないとか……。




幕間を考えていると、後書きのネタが飛んでしまったので、今回はコーナー無しです。次回もお楽しみに、感想もおまちしております。


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【幕間】内に眠る猛き蒼

タイトルがいい感じに書けた。やったぜ。


ーーあの頃は、ずっと泣いていた。

 

目に見える物全てがわからなくて。私が悪いのか、何がダメなのか、それさえも分からなくて。ずっと暗い中にいた。ずっと悲しみの中にいた。ずっと辛くて、理由を聞いてもなんにも答えてくれなくて、光輝に相談してもどうにもならなくて、香織が何とかしようとしてくれたけど、やっぱり裏では収まってなくて。

 

誰にも言えず、誰にも頼れず、溜まったものを吐き出せなくて。私は言い返すことも出来なくて。

 

誰かに救って欲しかった。誰かに守って欲しかった。誰かの熱で温めて欲しかった。温度が失われた冷たい私を。道場のために可愛さを捨てた地味な私を。皆みたいに女の子らしくない男のような私を。虐められて何も出来ない、弱い私を。

 

「あんた、女だったの?」

 

蔑んで、侮るような視線でそう言われたことを、今でも覚えている。ショックだった。外見をどう変えようが、中身はれっきとした女の子。女じゃないと思われていたなんて、傷付く。

 

泣いて、泣いて、泣き腫らして、それでも止まらない。それでも、あの悲しい気持ちは、あの怖い気持ちは、止まらない。でも、私は何も出来ずに泣くしかなかった。それしか出来ないから。

 

「どうした?なんで泣いてんの?」

 

.........あの日までは。

 

 

 

 

 

 

時は大幅に遡り、京達がサソリもどきを倒した日。

 

「ーーん」

 

声が聞こえる。透き通るような少女の声だ。誰を呼んでいるのか、どんな気持ちで呼んでいるのか。

 

「ーーちゃん」

 

声が聞こえる。その声はどんどん大きくなって、どんどん聞き取れるようになって。やがて、誰を呼んでいたのかわかった。

 

「雫ちゃん!」

「ん.........」

 

目を開けたそこに、香織がいた。いつもと変わらない、天使のようなその双眸で、壁に背を預けて眠っていた雫を見ている。

 

「えっと、香織?どうしたの?」

「どうしたの?、じゃないよ!顔!涙流れてる!」

「え......?」

 

そう言われて自身の目を拭うと、ひんやりと少し冷たい感触。どうやら自分は本当に泣いていたらしい。

 

「どうしたの?どこか痛いの?」

「いいえ、どうもないわ。心配しすぎよ、香織」

 

「そう.....?」と少し心配げにそう言う香織に、雫は笑顔を以て返す。すると、チラリと周りを見た香織がなにかに気づいたようだ。

 

「あ、みんな出発するみたいだよ。私たちも行こっ?」

 

そう言われて、先程見ていた()であったものから意識を切替える。そうだ、今は迷宮攻略に来ていたのだった、と。現在、迷宮攻略を行っているのは光輝率いる勇者パーティー、それに加えて小悪党組、最後は永山重吾のパーティー。そこにメルド団長率いる騎士団員が付き添っている。

 

残りのクラスメイト達は、王都に居残っている。理由は言わずもがなハジメ、京の死である。目の前で奈落に落ちたあの姿が頭から離れなかったのだろう。それ以来、戦うことを諦めてしまっている。しかしそんな中でも戦うことを望んだ人間達がここにいる。

 

「ええ........行きましょうか」

「ちなみになにか夢、見た?」

 

歩きながら香織はそう、問うてくる。その表情には興味の色が強い反面、心配の色が見え隠れしていた。香織的には、怖い夢でも見たのかと思っているのだろう。

 

「.......いいえ、なんにも見てないわ」

 

雫は再びそう言って、微笑む。「むぅ〜、じゃあなんで泣いてたの〜?」と少し訝しげに聞いてくるも、「何も無いわ」と雫は切って捨てる。

 

一度はショックで戦線を退いた雫と恵里だったが、あの日、香織と交わした約束を胸に、茨の道を進むことに決めた。次の日からは訓練にも顔を出し、表向きの京達の死をめげずにこれまで参加していた他の生徒よりも数倍ストイックに修練を重ねた。

 

その心には「もうあんなことを繰り返させはしない」と、確固たる意志を持って。真相を確かめるまで折れることの無い確かな恋の大柱を持って。なればこそ、その修練が彼女たちをより強くした。

 

現在は迷宮攻略六日目。現在は順々に出て来る魔物を蹴散らし、油断もなく進んで六十階層となる。

 

最高到達階層はあと五階層とかなり近い。

 

しかし、現在一行は立ち往生していた。そこにあったのは、見下ろす限りの絶壁。真下は何かわからないほど真っ暗な、ただの闇である。そこに架かる一本橋のみ、向こうへ渡ることが許された唯一の手段だ。

 

「香織.......」

 

雫の心配そうな呼び掛けに、強い眼差しで眼下を眺めていた香織はゆっくりと頭を振ると、雫に微笑んだ。

 

「大丈夫だよ、雫ちゃん」

「そう.......無理しないでね?私に遠慮することなんてないんだから」

「えへへ、ありがと、雫ちゃん」

 

雫もまた親友に微笑んだ。香織の瞳は強い輝きを放っている。そこに現実逃避や絶望は見て取れない。このような崖を見ると、きっと彼女はハジメが落ちたあの時の光景を思い出すことだろう。しかし、それに負けぬ強い心が、香織を香織たらしめていた。

 

香織の恋は、強い。そんじょそこらの気軽な愛よりも、よっぽど。信じているからこそ、トラウマにも打ち勝てる。こんなことじゃダメだと、己を振るい立たせられる。そんな香織を、雫は心から尊敬していた。

 

(やっぱり、香織は強いわね)

 

親友の姿を見て、勇気が更に膨れ上がる。親友のその姿を見たからこそ、私も、と立ち上がれる。

 

だが、そんな空気は読まないのが勇者クオリティー。光輝の目には、眼下を見つめる香織の姿が、ハジメの死を思い出し嘆いているように映った。クラスメイトの死に、優しい香織は今も苦しんでいるのだと結論づけた。

 

「香織........君の優しいところ俺は好きだ。でも、クラスメイトの死に、何時までも囚われていちゃいけない! 前へ進むんだ。きっと、南雲もそれを望んでる」

「ちょっと、光輝........」

「雫もだ。刀崎が助けに行って死んだのは残念だが..........大丈夫だ。俺が傍にいる。俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない。二人を悲しませたりしないと約束するよ」

 

「恵里、君もね」と彼女の方を向き、光輝は笑う。ハジメや、その彼を助けに行った京が死んでいるのはほぼ確定事項で、光輝自身もそうだと思っている。だから、未だ受け入れられないと感じた彼女達を彼なりに励まそうとした言葉なのだが、それは無駄というものだ。

 

「ほんっと、上辺の言葉だけは一級品だね」

 

嫌味ったらしく、しかし誰にも聞こえないような声で恵里はそう言った。

 

「あはは、大丈夫だよ、雫ちゃん。.......えっと、光輝くんも言いたいことは分かったから大丈夫だよ」

「そうか、わかってくれたか!」

 

香織の本音からして、光輝の言葉は理解できないだろう。光輝からしても、香織の本音は理解できない。そもそも彼には言っても無駄なのだから。

 

これ以上の会話は無駄だと悟ったのか、雫は先へ進むことを勧めた。

 

「........エリリン、トウくんがいなくなってから少し変わった?」

「え?......な、何が?」

 

もちろん今の恵里は、本当の己を隠している状態。地味で目立たない、クラスの図書委員という役柄を()()()()()()()に過ぎない。本当の彼女を知っている雫や香織からすれば少し違和感もあるが、決して鈴は彼女を知らない。

 

そんな彼女から言われた確信に迫る言葉に、内心ドキッとしながら平常を装い聞き返す。ちなみに、鈴は京のことを、トウくんと呼ぶ。

 

「なんていうか、こう........辛そう」

「へ..........?」

 

確かに辛いのは辛い。だが、同じ気持ちの人が他に二人もいる。そして、同じ茨の道を進むことに決めた。今の彼女は辛さあれど、希望を持って前を向いている。恐らく、人の内心を感じることは苦手なのだろう、見当違いで良かったと内心ホッとする。

 

「え、あ、うん。だ、大丈夫だよ」

「ほんとに?辛かったらいつでもいいなよ?」

 

とりあえず微笑んでおくしかない。彼女の答えに対して少し顔がひきつったのは内緒だ。

 

階層を下へ降る途中、鈴の親父的なセクハラを鈴に止められたり、それを見て目を泳がせていた光輝達を雫がぶっ叩いたりと色々あったが、一行はようやく歴代最高到達階層である六十五階層へと到達する。

 

「気を引き締めろ! ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」

 

付き添いのメルド団長の声が響く。光輝達は表情を引き締め未知の領域に足を踏み入れた。

 

しばらく進んでいると、大きな広間に出た。何となく嫌な予感がする一同。

 

その予感は的中した。広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がったのだ。赤黒い脈動する直径十メートル程の魔法陣。それは、とても見覚えのある魔法陣だった。

 

「ま、まさか……アイツなのか!?」

 

光輝が額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。

 

「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」

 

龍太郎も驚愕をあらわにして叫ぶ。それに応えたのは、険しい表情をしながらも冷静な声音のメルド団長だ。

 

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ!退路の確保を忘れるな!」

 

いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルド団長。それに部下が即座に従う。だが、光輝がそれに不満そうに言葉を返した。

 

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ!もう負けはしない!必ず勝ってみせます!」

「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」

 

龍太郎も不敵な笑みを浮かべて呼応する。メルド団長はやれやれと肩を竦め、確かに今の光輝達の実力なら大丈夫だろうと、同じく不敵な笑みを浮かべた。

 

「.......雫ちゃん?」

「ええ。分かっているわ」

 

今回、橋はない。だが、各々の脳裏に明確にあの時の記憶が蘇る。ハジメが落ちたあの瞬間、京が飛び込んだあの瞬間。そして、その一端を作ったベヒモスの姿。

 

雫の目は、しっかりとその魔法陣を睨んでいた。あの頃は圧倒的強者であったベヒモス、だが今はどうだろう。己は人の数倍修練を積んできた。この場の誰よりも鍛えたと、本気でそう思う。今ならば勝てるのではないかと、今ならば己の剣技が通るのではないかと。

 

(怖くない。目の前にいるのは、唯の敵。だから、斬る)

 

剣を抜いた瞬間、雫の闘志が燃え上がった。

頭は氷のように冷たく、心は太陽のように熱く。これはいつか、彼女の父親が言ったものだ。今の彼女は、まさにそれだった。闘志は燃え上がらせながらも、頭ではどのように切り崩すか考えている。

 

そして、遂に魔法陣が爆発したように輝き、かつての悪夢が再び光輝達の前に現れた。

 

「グゥガァアアア!!!」

 

咆哮を上げ、地を踏み鳴らす異形。ベヒモスが光輝達を壮絶な殺意を宿らせた眼光で睨む。緊張を走らせる光輝達、だがその間を通り抜けて、ベヒモスの足に鮮血が舞った。

 

雫である。

 

「悪いけど、登場を待ってやるほど世界は上手く出来てないのよ!」

 

振るった剣は硬い毛を貫通して奥の柔い皮膚へと傷をつける。だが雫は追撃をすれば自身の命が危ないと思ったのだろう、大きく後方に下がった。まるで雫のそれが開始の合図だと言わんばかりに、今度は光輝の剣が輝き始める。

 

「雫、いいぞ!万翔羽ばたき、天へと至れ〝天翔閃〟!」

 

光輝の光の斬撃はベヒモスの胸元にくっきりと斜めの剣閃を入れ、赤黒い血が滴り落ちていた。

 

「グゥルガァアア!?」

 

悲鳴をあげながら後退するベヒモス。そんな様子を見て、光輝は確信した。

 

「いける!俺達は確実に強くなってる!永山達は左側から、檜山達は背後を、メルド団長達は右側から!後衛は魔法準備!上級を頼む!」

 

光輝が矢継ぎ早に指示を出す。メルド団長直々の指揮官訓練の賜物だ。

 

「ほぅ、迷いなくいい指示をする。聞いたな?総員、光輝の指揮で行くぞ!」

 

メルド団長が叫び騎士団員を引き連れベヒモスの右サイドに回り込むべく走り出した。それを期に一斉に動き出し、ベヒモスを包囲する。

 

前衛組が暴れるベヒモスを後衛には行かすまいと必死の防衛線を張る。

 

「グルゥアアア!!」

 

ベヒモスが踏み込みで地面を粉砕しながら突進を始める。

 

「させるかっ!」

「行かせん!」

 

クラスの二大巨漢、坂上龍太郎と永山重吾がスクラムを組むようにベヒモスに組み付いた。

 

「「猛り地を割る力をここに!”剛力”!」」

 

身体能力、特に膂力を強化する魔法を使い、地を滑りながらベヒモスの突進を受け止める。

 

「ガァアア!!」

「らぁあああ!!」

「おぉおおお!!」

 

三者三様に雄叫びをあげ力を振り絞る。ベヒモスは矮小な人間ごときに完全には止められないまでも勢いを殺され苛立つように地を踏み鳴らした。

 

後衛組である恵里も、雫と同じくらいの修練を積み重ねてきた一人だ。その魔法詠唱速度は、この場の誰よりも早く、また威力も高い。

 

「猛り盛る炎の灼天、蒼き海をも焼け!”炎嵐”」

 

いの一番に魔法を放った恵里。ベヒモスの足元に渦巻く炎の嵐を発生させる。

 

「グウゥゥルゥガァァァ!!」

 

悲鳴のようなものと共に、ベヒモスのその皮膚を炎の嵐が焼く。やがてその嵐が止む頃、その炎を突き破って角を狙う少女が一人。

 

「全てを切り裂く至上の一閃、”絶断”!」

 

雫の抜刀術がベヒモスの角に直撃する。魔法によって切れ味を増したアーティファクトの剣が半ばまで食い込むが切断するには至らない。

 

「ぐっ、相変わらず堅い!」

「任せろ!粉砕せよ、破砕せよ、爆砕せよ、”豪撃”!」

 

メルドが飛び込み、半ばまで刺さった雫の剣の上から自らの騎士剣を叩きつけた。魔法で剣速を上げると同時に腕力をも強化した鋭く重い一撃が雫の剣を押し込むように衝撃を与える。

 

そして、遂にベヒモスの角の一本が半ばから断ち切られた。

 

「ガァアアアア!?」

 

角を切り落とされた衝撃にベヒモスが渾身の力で大暴れし、永山、龍太郎、雫、メルドの四人を吹き飛ばす。

 

「優しき光は全てを抱く。”光輪”!」

 

衝撃に息を詰まらせ地面に叩きつけられそうになった四人を光の輪が無数に合わさって出来た網が優しく包み込んだ。香織が行使した、形を変化させることで衝撃を殺す光の防御魔法だ。

 

香織は間髪入れず、回復系呪文を唱える。

 

「天恵よ、遍く子らに癒しを。”回天”」

 

香織の詠唱完了と同時に触れてもいないのに四人が同時に癒されていく。遠隔の、それも複数人を同時に癒せる中級光系回復魔法だ。以前使った”天恵”の上位版である。

 

だが、その回復で再び攻勢に出ようとした雫に、その牙は向いた。

 

「グゥガァァ!!」

「!?」

 

突っ込んできた雫の攻撃に、まるで読んだとでも言うようにベヒモスが反応する。蹴り挙げられた前足がロクに防御姿勢を取らなかった雫に直撃し、そのまま勢いよく壁に叩きつけられる。

 

「かはっ!!」

「雫をよくも.....!”光爆”!」

 

肺から全ての空気が抜け、さらに脳を揺らされて一瞬、気が飛びそうになる。

そんな雫の姿を見て、光輝が突きの構えを取り、未だ暴れるベヒモスに真っ直ぐ突進した。そして、先ほどの傷口に切っ先を差し込んだ。聖剣に蓄えられた膨大な魔力が、差し込まれた傷口からベヒモスへと流れ込み大爆発を起こした。

 

「なっ......!?」

 

しかし悲鳴一つこぼさず、ベヒモスは雫の方を睨んでいた。まるで、自分が死のうとお前だけは殺す、とでも言わんばかりに。そしてあろう事か、光輝が突き刺した聖剣をそのままに、雫へと突進を始めた。

 

「っ!しまっ.........」

 

雫はまだしっかりとした意識が覚醒せず、ゆらりゆらりと立ち上がるしかなかった。香織と鈴が咄嗟に聖絶を詠唱するも、間に合わない。龍太郎と重吾が咄嗟に駆け出すも、間に合わない。ほかのクラスメイト達が助けに入ろうとするも、間に合わない。そう、全て間に合わないのだ。

 

「雫ちゃん!逃げてぇ!!」

 

ドゴォォン!

 

香織の悲痛な叫びと、ベヒモスが雫のいる壁へと到達したのは同時だった。距離が近かったとは言え、その巨体から発せられる力は壁に深く亀裂を入れ、雫を中心に壁を深く陥没させる。

 

「「雫!!!」」

 

光輝、龍太郎、恵里、メルドの声が重なる。しかしそれ以降は誰も喋らず、誰も何も行動せず、その光景を見るしかなかった。一瞬、全員の脳裏に雫の死が過ぎる。

 

ベヒモスは少し硬直したあと、壁からゆっくりと離れた。そこには、陥没した壁から、ドサリと地面に倒れた雫が。血は溢れていないことから、恐らくその巨体で突進されても骨折と意識を刈り取られるだけに済んだのだろう。

 

だが、ベヒモスはまだ雫への追撃をやめない。彼女を踏み潰さんと、その前足を少し高く上げたのだ。咄嗟に動こうとしても、全員のその足が動かなかった。だからこそ、間に合わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、ベヒモスの前足が迫る刹那のうちに交わされた記憶。

 

『起きなさい』

 

声が聞こえる。意識は気絶ているはずなのに、その声は確かに雫へと届いた。

 

『起きて、あなたがあれを倒すの』

 

返答がなくても、その謎の声はさらに続ける。

 

『立ち上がりなさい。今のあれを倒せるのは、あなたしかいない』

 

直後、ドクン!と雫の心臓が確かに跳ねた。血液が身体中を今までに無いくらい駆け巡る。心臓が焼けるように熱く、だがそれは痛みじゃない。

 

『解き放つの、あなたの中のあなたを』

 

頭は氷より冷たく冷静に、心は太陽より熱く。そんな父の言葉が反響する。身体中から、力が漲る。

 

『解き放つの。その()を』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、ベヒモスの前足が跳ね除けられ、その巨体が大きく仰け反る。

 

「っ!なんだ!?」

 

光輝は驚きを言葉にする。直後、()()()()()がとある一点を中心に乱気流を起こしながら吹き上がった。

 

そう、その青いオーラの主は、雫だ。

 

「あれは.......限界突破か!?」

 

メルドが呟くようにそう言う。限界突破、本来ならば赤いオーラが体から吹き上がる。しかし雫のそれは、海のように蒼い、青色。だがメルドの経験してきた気配からしても、雫のそれは限界突破だった。

 

「雫、良かった!このまま一気に攻め.........」

 

光輝の声を聞くことなく、雫の姿が掻き消えた。いや、その場の誰にも捉えられなかったと言うべきか。

 

次にドガァ!という音が響いたのと同時に全員が我に返る。見れば、雫がベヒモスを拳一つで後退させていた。

 

「グウゥゥルゥガァァァ!!」

 

なにかの怒りなのか、鋭い咆哮がその空間に響き渡る。しかし、雫は臆するでもなくゆっくりと剣を構えた。

 

刹那、また姿が掻き消える。そして同時に、ベヒモスの体に剣閃が走った。

 

「グゥガァァァァァ!?」

 

苦悶の声を漏らすベヒモスの体には、剣閃が走る度に深々と斬撃が刻まれている。頭、体、足、胸、次々に刻まれていくその傷を付けた本人の姿は見えず、だがひたすらに剣閃だけが加速していった。

 

「なにが........起きてるんだ........?」

 

光輝は愕然とその光景を見つめるしかなかった。いや、光輝だけでは無い。ほかの全員も、メルドたち騎士団も、雫が繰り広げている異次元の戦闘に参加することが出来ず、その光景を見ているしかなかった。

 

次に雫が姿を現すと共に、至る所から血が吹き出るベヒモスはグラリと体勢を崩して地面に倒れていく。それを見て、雫は抜刀の構えを取る。

 

「”絶断”」

 

短くそう呟かれた直後、これまでにないほど大きな剣閃が音もなく走る。その一撃はベヒモスの肉を易々と両断し、そこに至るまでの地面には深い亀裂を入れ、ベヒモスの少し後方の壁まで届いた。ズルリと肉がズレたベヒモスは、綺麗に一刀両断されている。

 

最後はあまりにも呆気なく終わったベヒモスに、まだ理解が追いつかないでいた。しかし、ドサリと雫が地面へ倒れたのを見て、全員が我に返る。

 

「雫ちゃん!!」

 

真っ先に香織が駆け寄る。胸に耳を押し当てて心臓の鼓動を確認するが、トクン、トクンと跳ねている事から気絶しているだけだと推察し、胸をなで下ろした。

 

近寄ってくる光輝達にもその無事を知らせ、全員が安堵する。

 

人が変わったように強くなった雫。限界突破のオーラの色。謎が残るばかりだが今は、宿敵を討ち果たせた、それだけでいいじゃないかと全員がそう結論付けた。




※恵里の魔法は個人で考えたオリジナルのものとなります。


爆肉「後書きdeトークのコーナー。第六回のゲストはこの方」
シア「はーい、私ですぅ」
爆肉「残念うさぎのシアさんです」
シア「ちょっとぉ!作者さんまでぇ〜!!」
爆肉「ハジメさんからは『好きにしてくれ。雑に扱っても構わない』という手紙を貰っております」
シア「ハジメさぁぁぁん!!」
爆肉「まぁそんなこんなで、実は雫ちゃんの成長を書くのを完全に忘れていたんですよ........」
シア「それで、今回の幕間ですか?」
爆肉「そうです。キーワードは鬼、そして青いオーラですね」
シア「ふむふむ、なるほど(設定資料)」
爆肉「シアさん、そこに書いてあることは本当に口外禁止ですからね?」
シア「分かってますよぅ!帰って一族の皆に話すだけにしますね!」
爆肉「だからそれをやめてください!!」
シア「ふえぇ!?口外ってそういう........へぶぅ!?」
爆肉「あっ...............えっと、シアさんが気絶したので今回はここまで。次回もお楽しみに。感想もお待ちしておりますね」


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三章 フューレンへ

それそれ後書きdeトークのコーナーのゲストからレギュラー化しようかと考えている今日この頃。今回はおやすみです。


ミレディの迷宮から流された俺達は、ブルックから一日ほどの泉に打ち上げられた。シアはなにか見てはいけないものを見たようで、そのショックから誤って水を飲んでしまい気絶。ハジメの心肺蘇生によって事なきを得たのだが、その過程でまたイチャイチャ。

 

なぜかその近くには、この前に世話になった宿の女の子と、ユエとシアが服を選ぶ時に世話になったらしいクリスタベルという()()が。

結果的に二人に合流してマサカの宿を借りることとなった。

 

しかし、特に変わったことは無い。宿の女の子がトリップしすぎてまたお母様にお仕置きされていただけで。

 

 

 

 

 

 

カラン、カラン

 

そんな音を立てて、俺達は冒険者ギルドのブルック支部に入る。ブルックに滞在して1週間、この1週間はなかなか内容が濃かった気がする。ユエかシアを手に入れようと決闘騒ぎを起こした者は数知れず。ユエ本人を直接口説く事は出来ないが、外堀を埋めるようにハジメから攻略してやろうという輩がそれなりにいたのである。

 

もちろん、ハジメがそんな面倒事をまともに受けるわけがない。最終的には、決闘しろ!というセリフの〝け〟の部分で既に発砲、非致死性のゴム弾が哀れな挑戦者の頭部に炸裂し三回転ひねりを披露して地面とキスするというのが常だった。

 

なぜか〝スマッシュ・ラヴァーズ〟というパーティー名が浸透しており、その内容を聞いたところ、何やらユエが”股間スマッシャー”なる異名をつけられていたことが判明し、その相棒であるハジメが相手を瞬殺するために知らぬ間に付けられていたとか。

 

ハジメが遠い目をしていたが、全く以て自業自得である。

 

「おや、今日は四人一緒かい?」

 

俺達がカウンターに近づくと、いつも通り、おばちゃんがおり、先に声をかけた。キャサリンの声音に意外さが含まれているのは、この一週間でギルドにやって来たのは大抵、ハジメ一人かシアとユエの二人組だからだ。俺は毎日単騎でおばちゃんの所へ行っていた。

 

「ああ。明日にでも町を出るんで、あんたには色々世話になったし、一応挨拶をとな。ついでに、目的地関連で依頼があれば受けておこうと思ってな」

 

世話になったというのは、ハジメがギルドの一室を無償で借りていたことだ。せっかくの重力魔法なので生成魔法と組み合わせを試行錯誤するのに、それなりに広い部屋が欲しかったらしい。おばちゃんに心当たりを聞いたところ、それならギルドの部屋を使っていいと無償で提供してくれたのだ。

 

なお、ユエとシアは郊外で重力魔法の鍛錬である。俺はおばちゃんの世間話の相手。

 

「そうかい。行っちまうのかい。そりゃあ、寂しくなるねぇ。あんた達が戻ってから賑やかで良かったんだけどねぇ~。特に京ちゃんと話してると飽きないしねぇ」

 

大体、あっちの世界でも仲良くなったマダム達には「京くん」やら「京ちゃん」やらと呼ばれていた。ここのおばちゃんも例外ではない。

 

「悪いけど、俺っていう商品の期限切れだな」

「勘弁してくれよ。宿屋の変態といい、服飾店の変態といい、ユエとシアに踏まれたいとか言って町中で突然土下座してくる変態どもといい、〝お姉さま〟とか連呼しながら二人をストーキングする変態どもといい、決闘を申し込んでくる阿呆共といい.......碌なヤツいねぇじゃねぇか。出会ったヤツの七割が変態で二割が阿呆とか.......どうなってんだよこの町」

 

ちなみに「ユエちゃんに踏まれ隊」と「シアちゃんの奴隷になり隊」と「お姉様と姉妹になり隊」という三つの勢力が産まれている。よく分からないうちに結成されたそれは、時にアグレッシブに、時に静かにその魔の手を伸ばした。

 

例えば、ユエに付きまとうとして少女達が俺たち目掛けて突貫してきたり、前述のようにハジメを倒そうとする馬鹿がいたり、シアめがけてスライディング土下座で踏んで欲しいと頼んでくる阿呆がいたり。始めてきた時よりブルックの街の風景は混沌と化した。

 

「まぁまぁ、何だかんで活気があったのは事実さね」

「やな、活気だな」

「で、何処に行くんだい?」

「フューレンだ」

 

そんな風に雑談しながらも、仕事はきっちりこなすキャサリン。早速、フューレン関連の依頼がないかを探し始める。

 

フューレンとは、中立商業都市のことだ。俺達の次の目的地は【グリューエン大砂漠】にある七大迷宮の一つ【グリューエン大火山】である。その為、大陸の西に向かわなければならないのだが、その途中に【中立商業都市フューレン】があるので、大陸一の商業都市に一度は寄ってみようという話になったのである。なお、【グリューエン大火山】の次は、大砂漠を超えた更に西にある海底に沈む大迷宮【メルジーネ海底遺跡】が目的地だ。

 

「う~ん、おや。ちょうどいいのがあるよ。商隊の護衛依頼だね。ちょうど空きが後二人分あるよ.......どうだい? 受けるかい?」

 

キャサリンにより差し出された依頼書を受け取り内容を確認するハジメ。確かに、依頼内容は、商隊の護衛依頼のようだ。中規模な商隊のようで、十五人程の護衛を求めているらしい。ユエとシアは冒険者登録をしていないので、ハジメと俺の分でちょうどだ。

 

「連れを同伴するのはOKなのか?」

「ああ、問題ないよ。あんまり大人数だと苦情も出るだろうけど、荷物持ちを個人で雇ったり、奴隷を連れている冒険者もいるからね。まして、ユエちゃん、シアちゃんも結構な実力者だ。一人分の料金でもう二人優秀な冒険者を雇えるようなもんだ。断る理由もないさね」

「そうか、ん~、どうすっかな?」

 

少し思案しながら、チラリと俺の方を見た。俺に意見を求めているらしい。ユエとシアもこちらを見ている。二人は、俺の意見ならば問題ないと言った目だ。

 

「いいんじゃないか?急ぐ旅じゃないだろ?」

「まぁ、確かにそうだなぁ。.......ま、たまにはいいか」

 

七代迷宮を巡る度は急ぐ必要は無い。時間がかかるだろうから問題ないのだ。

 

「あいよ。先方には伝えとくから、明日の朝一で正面門に行っとくれ」

「了解した」

 

ハジメが依頼書を受け取るのを確認すると、キャサリンがハジメの後ろのユエとシアに目を向けた。

 

「あんた達も体に気をつけて元気でおやりよ?この子に泣かされたら何時でも家においで。あたしがぶん殴ってやるからね」

「.......ん、お世話になった。ありがとう」

「はい、キャサリンさん。良くしてくれて有難うございました!」

 

おばちゃんの人情味あふれる言葉にユエとシアの頬も緩む。特にシアは嬉しそうだ。この町は亜人などの人種差別が比較的少なく、大変過ごしやすい街だったことだろう。

 

「あんたも、こんないい子達泣かせんじゃないよ? 精一杯大事にしないと罰が当たるからね?」

「.......ったく、世話焼きな人だな。言われなくても承知してるよ」

 

おばちゃんの言葉に苦笑いで返すハジメ。そんなハジメに、おばちゃんが一通の手紙を差し出す。疑問顔で、それを受け取るハジメ。

 

「これは?」

「あんた達、色々厄介なもの抱えてそうだからね。町の連中が迷惑かけた詫びのようなものだよ。他の町でギルドと揉めた時は、その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかもしれないからね」

 

バッチリとウインクするおばちゃんに、思わず頬が引き攣るハジメ。手紙一つでお偉いさんに影響を及ぼせるアンタは一体何者だ? という疑問がありありと表情に浮かんでいる。

 

「おや、詮索はなしだよ? いい女に秘密はつきものさね」

「.......はぁ、わーたよ。これは有り難く貰っとく」

「素直でよろしい!色々あるだろうけど、死なないようにね」

 

そう言うと、今度は俺の方を向いて、まるで息子を見るような目を向けてくる。

 

「あんたにはあたしの愚痴やらなんやら、更には酒の席まで、迷惑をかけたね」

「いんや、久々の気負いしない会話はめちゃくちゃ楽しかったぜ」

「かーっ!あたしが若かったら結婚を考えてたかもね!」

「さぞ美人だったんだろうな、おばちゃん。俺もあと40年早く産まれたらよかったよ」

「相変わらず口が上手い子だね、ほんと。.........気をつけなよ」

「ああ!」

 

最後に固い握手を交わして、ようやく俺達はギルドから出る。

 

「お前.......どこでそんなスキルを」

「近所交流って、大事なんだぜ?」

 

ユエとシアが不思議な顔をしていたので、この話はここまでにしておいた。

 

 

 

 

 

 

あの後、クリスタベルさんの所に寄ってハジメが暴走しかけたり、またもソーナちゃんがトリップしてブチ切れたお母様に今までにないほどのキツイお仕置きをされたり、最後まで愉快だった。

 

そして翌朝、商隊のリーダーモットー・ユンケルに依頼を確認して、護衛のリーダーに詳細を聞いて、俺達はフューレンへ向け出発した。

 

珍しい白髪うさぎのシアに目がくらんでハジメに宣戦布告気味の商談を持ちかけてきたユンケルを大事になる前にやんわりと止めたのは言うまでもないだろう。

 

そして現在はフューレンまであと三日という所まで来ていた。

道程はあと半分である。ここまで特に何事もなく順調に進んで来た。ハジメ達は、隊の後方を預かっているのだが実にのどかなものである。

 

 この日も、特に何もないまま野営の準備となった。冒険者達の食事関係は自腹である。周囲を警戒しながらの食事なので、商隊の人々としては一緒に食べても落ち着かないのだろう。別々に食べるのは暗黙のルールになっているようだ。そして、冒険者達も任務中は酷く簡易な食事で済ませてしまう。ある程度凝った食事を準備すると、それだけで荷物が増えて、いざという時邪魔になるからなのだという。代わりに、町に着いて報酬をもらったら即行で美味いものを腹一杯食うのがセオリーなのだとか。

 

 そんな話を、この二日の食事の時間にハジメ達は他の冒険者達から聞いていた。ハジメ達が用意した豪勢なシチューモドキをふかふかのパンを浸して食べながら。

 

「カッーー、うめぇ! ホント、美味いわぁ~、流石シアちゃん! もう、亜人とか関係ないから俺の嫁にならない?」

「ガツッガツッ、ゴクンッ、ぷはっ、てめぇ、何抜け駆けしてやがる! シアちゃんは俺の嫁!」

「はっ、お前みたいな小汚いブ男が何言ってんだ? 身の程を弁えろ。ところでシアちゃん、町についたら一緒に食事でもどう? もちろん、俺のおごりで」

「な、なら、俺はユエちゃんだ! ユエちゃん、俺と食事に!」

「ユエちゃんのスプーン……ハァハァ」

 

うまうまとシアが調理したシチューモドキを次々と胃に収めていく冒険者達。初日に、彼等が干し肉やカンパンのような携帯食をもそもそ食べている横で、普通に〝宝物庫〟から取り出した食器と材料を使い料理を始めた俺達。いい匂いを漂わせる料理に自然と視線が吸い寄せられ、俺達が熱々の食事をハフハフしながら食べる頃には、全冒険者が涎を滝のように流しながら血走った目で凝視するという事態になり、物凄く居心地が悪くなったシアが、お裾分けを提案した結果、今の状態になった。

 

当初、飢えた犬の如き彼等を前に、ハジメは平然と飯を食っていた。もちろん、お裾分けするつもりなど皆無である。しかし、野営時の食事当番をシアと俺が受け持つようになってから、外で美味い食事にありつくには俺とシアを頼る必要がある。ハジメもユエも、作れないわけではないが、どうしても大味なものになってしまうのだ。ハジメは男料理ゆえに、ユエは元王族らしく経験がないために。なので、美味い飯を作ってくれる一人であるシアに、お裾分けを提案されては、流石のハジメも断りづらかった。

 

それからというもの、冒険者達がこぞって食事の時間にはハイエナの如く群がってくるのだが、最初は恐縮していた彼等も次第に調子に乗り始め、ことある毎にシアとユエを軽く口説くようになったのである。

 

「で、その中には隠し味として致死性の毒薬を入れてるんだが、どうもないか?」

「「「ゴフッ!!!」」」

 

冒険者達が大袈裟に吐き始める。もちろん嘘なのだが、調理の一端を担っている俺の言葉は無視できないだろう。

 

「.......嘘だがな。んで、何か言うことは?」

「「「「「いつも飯、ありがとうございます!!!」」」」」

「よろしい」

 

飯を作ってくれた人達に感謝の言葉を述べるのは当たり前のことだ。それが出来ないなら、食う資格はない。今回は大目に見たが。

 

俺が裏の料理長とか影で言われてるようになった日からさらに二日のこと。残す道程があと一日に迫った頃、遂にのどかな旅路を壊す無粋な襲撃者が現れた。

 

最初にそれに気がついたのはシアと俺だ。街道沿いの森の方へウサミミを向けピコピコと動かすと、のほほんとした表情を一気に引き締めて警告を発した。俺はシアに任せてさらに空間把握の範囲を広げる。

 

「敵襲です!数は百以上!森の中から来ます!」

 

その警告を聞いて、冒険者達の間に一気に緊張が走る。現在通っている街道は、森に隣接してはいるが其処まで危険な場所ではない。何せ、大陸一の商業都市へのルートなのだ。道中の安全は、それなりに確保されている。なればこそ、せいぜい多くても四十体ほど。百体など、まず有り得ないのだ。

 

「くそっ、百以上だと?最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか?ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」

 

護衛隊のリーダーであるガリティマは、そう悪態をつきながら苦い表情をする。合計で十七人、物量で押し切られると思っているのだろう。そしてリーダーなので、様々な対策を考えねばならない。ずっと苦い顔をして思案している。

 

「迷ってんなら、俺らが殺ろうか?」

「えっ?」

 

まるでちょっと買い物に行ってこようかとでも言うような気軽い口調で、信じられない提案をしたのは、他の誰でもないハジメである。ガリティマは、ハジメの提案の意味を掴みあぐねて、つい間抜けな声で聞き返した。

 

「だから、なんなら俺らが殲滅しちまうけど? って言ってんだよ」

「い、いや、それは確かに、このままでは商隊を無傷で守るのは難しいのだが...........えっと、出来るのか? このあたりに出現する魔物はそれほど強いわけではないが、数が.........」

「数なんて問題ない。すぐ終わらせる。ユエがな」

 

ハジメはそう言って、すぐ横に佇むユエの肩にポンッと手を置いた。ユエも、特に気負った様子も見せずに、そんな仕事ベリーイージーですと言わんばかりに、「ん......」と返事をした。

 

ガリティマは少し逡巡する。一応、彼も噂でユエが類希な魔法の使い手であるという事は聞いている。仮に、言葉通り殲滅できなくても、ハジメ達の態度から相当な数を削ることができるだろう。ならば、戦力を分散する危険を冒して商隊を先に逃がすよりは、堅実な作戦と考えられる。

 

「わかった。初撃はユエちゃんに任せよう。仮に殲滅できなくても数を相当数減らしてくれるなら問題ない。我々の魔法で更に減らし、最後は直接叩けばいい。みな、わかったな!」

「「「「了解!」」」」

 

ガリティマの判断に他の冒険者達が気迫を込めた声で応えた。どうやら、ユエ一人で殲滅できるという話はあまり信じられていないらしい。確かに、百体の魔物を一瞬で殲滅できる魔法などそうそう無い。一般的な常識ならそう考えるのも仕方ないだろう。

 

俺達は、商隊の馬車の屋根の上だ。

 

「ユエ、一応、詠唱しとけ。後々、面倒だしな」

「……詠唱……詠唱……?」

「……もしかして知らないとか?」

「……大丈夫、問題ない」

「いや、そのネタ……何でもない」

「接敵、十秒前ですよ~」

「ちなみにあそこら辺な」

 

そうこうしている内に、シアから報告が入る。俺も一番密度の高い場所を示す。ユエは、右手をスっと森に向けて掲げると、透き通るような声で詠唱を始めた。

 

「彼の者、常闇に紅き光をもたらさん、古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん、最強の片割れたるこの力、彼の者と共にありて、天すら呑み込む光となれ、”雷龍”」

 

ユエの詠唱が終わり、魔法のトリガーが引かれた。その瞬間、詠唱の途中から立ち込めた暗雲より雷で出来た龍が現れた。その姿は、蛇を彷彿とさせる東洋の龍だ。

 

「な、なんだあれ......」

 

それは誰が呟いた言葉だったのか。目の前に魔物の群れがいるにもかかわらず、誰もが暗示でも掛けられたように天を仰ぎ激しく放電する雷龍の異様を凝視している。護衛隊にいた魔法に精通しているはずの後衛組すら、見たことも聞いたこともない魔法に口をパクパクさせて呆けていた。

 

そして、それは何も味方だけのことではない。森の中から獲物を喰らいつくそうと殺意にまみれてやって来た魔物達も、商隊と森の中間あたりの場所で立ち止まり、うねりながら天より自分達を睥睨する巨大な雷龍に、まるで蛇に睨まれたカエルの如く射竦められて硬直していた。

 

そして、天よりもたらされる裁きの如く、ユエの細く綺麗な指タクトに合わせて、天すら呑み込むと詠われた雷龍は魔物達へとその顎門を開き襲いかかった。

 

ゴォガァアアア!!!

 

「うわっ!?」

「どわぁあ!?」

「きゃぁあああ!!」

 

雷龍が、凄まじい轟音を迸らせながら大口を開くと、何とその場にいた魔物の尽くが自らその顎門へと飛び込んでいく。そして、一瞬の抵抗も許されずに雷の顎門に滅却され消えていった。

 

更には、ユエのしなやかな細指の指揮に従い、雷龍は魔物達の周囲をとぐろを巻いて包囲する。逃走中の魔物が突然眼前に現れた雷撃の壁に突っ込み塵となった。逃げ場を失くした魔物達の頭上で再び、落雷の轟音を響かせながら雷龍が顎門を開くと、魔物達は、やはり自ら死を選ぶように飛び込んでいき、苦痛を感じる暇もなく、荘厳さすら感じさせる龍の偉容を最後の光景に意識も肉体も一緒くたに塵へと還された。雷龍は、全ての魔物を呑み込むと最後にもう一度、落雷の如き雄叫びを上げて霧散した。

 

隊列を組んでいた冒険者達や商隊の人々が、轟音と閃光、そして激震に思わず悲鳴を上げながら身を竦める。ようやく、その身を襲う畏怖にも似た感情と衝撃が過ぎ去り、薄ら目を開けて前方の様子を見ると……そこにはもう何もなかった。あえて言うならとぐろ状に焼き爛れて炭化した大地だけが、先の非現実的な光景が確かに起きた事実であると証明していた。

 

「........ん、やりすぎた」

「おいおい、あんな魔法、俺も知らないんだが.......」

「ユエさんのオリジナルらしいですよ? ハジメさんから聞いた龍の話と例の魔法を組み合わせたものらしいです」

「俺がギルドに篭っている間、そんなことしてたのか……ていうかユエ、さっきの詠唱って……」

「ん……出会いと、未来を詠ってみた」

 

無表情なのにドヤァ!と得意げなユエ。ハジメはなにかの気が失せたらしく、そっとユエの髪を撫でているだけだった。

 

圧倒的力を持って殲滅され、焼け野原となった森を見つめて、残る冒険者が錯乱したのは言うまでもないことだ。

 

 

 

 

 

 

なんだかんだあり、全ての商隊の人々と冒険者達の度肝を抜いた日以降、特に何事もなく、一行は遂に中立商業都市フューレンに到着した。

 

フューレンの東門には六つの入場受付があり、そこで持ち込み品のチェックをするそうだ。ハジメ達も、その内の一つの列に並んでいた。順番が来るまでしばらくかかりそうである。

 

馬車の屋根で、ユエに膝枕をされ、シアを侍らせながら寝転んでいたハジメのもとにモットーがやって来た。何やら話があるようだ。若干、呆れ気味にハジメを見上げるモットーに、ハジメは軽く頷いて屋根から飛び降りた。

 

「まったく豪胆ですな。周囲の目が気になりませんかな?」

 

モットーの言う周囲の目とは、毎度お馴染みのハジメに対する嫉妬と羨望の目、そしてユエとシアに対する感嘆と嫌らしさを含んだ目だ。それに加えて、今は、シアに対する値踏みするような視線も増えている。流石大都市の玄関口。様々な人間が集まる場所では、ユエもシアも単純な好色の目だけでなく利益も絡んだ注目を受けているようだ。俺はもちろん空気である。

 

「まぁ、煩わしいけどな、仕方がないだろう。気にするだけ無駄だ」

 

そう言って肩を竦めるハジメにモットーは苦笑いだ。

 

「フューレンに入れば更に問題が増えそうですな。やはり、彼女を売る気は........」

 

さりげなくシアの売買交渉を申し出るモットーだったが、その話は既に終わっただろ? というハジメの無言の主張に、両手を上げて降参のポーズをとる。

 

「そんな話をしに来たわけじゃないだろ?用件は何だ?」

「いえ、似たようなものですよ。売買交渉です。貴方のもつアーティファクト。やはり譲ってはもらえませんか?商会に来ていただければ、公証人立会の下、一生遊んで暮らせるだけの金額をお支払いしますよ。貴方のアーティファクト、特に〝宝物庫〟は、商人にとっては喉から手が出るほど手に入れたいものですからな」

 

〝喉から手が出るほど〟そう言いながらもモットーの笑っていない眼をみれば〝殺してでも〟という表現の方がぴったりと当てはまりそうである。商人にとって常に頭の痛い懸案事項である商品の安全確実で低コストの大量輸送という問題が一気に解決するのだ。無理もないだろう。

 

野営中に〝宝物庫〟から色々取り出している光景を見たときのモットーの表情と言ったら、砂漠を何十日も彷徨い続け死ぬ寸前でオアシスを見つけた遭難者のような表情だった。あまりにしつこい交渉に、ハジメが軽く殺気をぶつけるとようやく商人の勘がマズイ相手と警鐘を鳴らしたのか、すごすごと引き下がった。

 

しかし、やはり諦めきれないのだろう。ドンナー・シュラーク共々、何とか引き取ろうと再度、交渉を持ちかけてきたようだ。

 

「何度言われようと、何一つ譲る気はない。諦めな」

「しかし、そのアーティファクトは一個人が持つにはあまりに有用過ぎる。その価値を知った者は理性を効かせられないかもしれませんぞ?そうなれば、かなり面倒なことになるでしょうなぁ........例えば、彼女達の身にッ!?」

 

モットーが、少々、狂的な眼差しでチラリと脅すように屋根の上にいるユエとシアに視線を向けた瞬間、ゴチッと額に冷たく固い何かが押し付けられた。壮絶な殺気と共に。周囲は誰も気がついていない。馬車の影ということもあるし、ハジメの殺気がピンポイントで叩きつけられているからだ。

 

「それは、宣戦布告と受け取っていいのか?」

 

静かな声音。されど氷の如き冷たい声音で硬直するモットーの眼を覗き込むハジメの隻眼は、まるで深い闇のようだ。いつかやりかねないと思っていたが、やはりやってしまったユンケルに俺はため息をついてハジメが額に突きつけたそれを降ろさせる。

 

「やめとけ。この男に俺達へ害を及ぼそうとする力なんざひとつもねぇよ。無駄な殺生だけはマジで良くない」

「だが........」

「あんたもあんただ。確かに商人なのはわかるが、そこまで肝が座ってるとは思わなかったよ。何度言ってもハジメは断り続けるし、折れることは無い。お互い穏便に済ませようぜ。な?」

 

チラリとハジメの方を向くと、ため息をついてその殺気を解除した。すると、ユンケルは腰を抜かしたのか地面に倒れる。

 

「.......はぁはぁ、なるほど。割に合わない取引でしたな...........」

 

未だ青ざめた表情ではあるが、気丈に返すモットーは優秀な商人なのだろう。それに道中の商隊員とのやりとりから見ても、かなり慕われているようであった。本来は、ここまで強硬な姿勢を取ることはないのかもしれない。彼を狂わせるほどの魅力が、ハジメのアーティファクトにあったということだろう。

 

「京に感謝するんだな。次がないといいが」

「.........全くですな。私も耄碌したものだ。欲に目がくらんで竜の尻を蹴り飛ばすとは............」

 

〝竜の尻を蹴り飛ばす〟とは、この世界の諺で、竜とは竜人族を指す。彼等はその全身を覆うウロコで鉄壁の防御力を誇るが、目や口内を除けば唯一尻穴の付近にウロコがなく弱点となっている。防御力の高さ故に、眠りが深く、一度眠ると余程のことがない限り起きないのだが、弱点の尻を刺激されると一発で目を覚まし烈火の如く怒り狂うという。昔、何を思ったのか、それを実行して叩き潰された阿呆がいたとか。そこからちなんで、手を出さなければ無害な相手にわざわざ手を出して返り討ちに遭う愚か者という意味で伝わるようになったという。

 

ちなみに、竜人族は、五百年以上前に滅びたとされている。理由は定かではないが、彼等が”竜化”という固有魔法を使えたことが魔物と人の境界線を曖昧にし、差別的排除を受けたとか、半端者として神により淘汰されたとか、色々な説がある。まぁ別に、竜とか竜人族が出てこようと関係ない。殴って、切って、喰らうだけだ。

 

「そう言えば、ユエ殿のあの魔法も竜を模したものでしたな。詫びと言ってはなんですが、あれが竜であるとは、あまり知られぬがいいでしょう。竜人族は、教会からはよく思われていませんからな。まぁ、竜というより蛇という方が近いので大丈夫でしょうが」

 

何とか立ち上がれるまでに回復したモットーは、服の乱れを直しながらハジメに忠告をした。中々、豪胆な人物だ。たった今、場合によっては殺されていたかもしれないのに、その相手と普通に会話できるというのは並みの神経ではない。

 

「そうなのか?」

「ええ、人にも魔物にも成れる半端者。なのに恐ろしく強い。そして、どの神も信仰していなかった不信心者。これだけあれば、教会の権威主義者には面白くない存在というのも頷けるでしょう」

「なるほどな。つーか、随分ないい様だな。不信心者と思われるぞ?」

「私が信仰しているのは神であって、権威をかさに着る〝人〟ではありません。人は〝客〟ですな」

「……何となく、あんたの事がわかってきたわ。根っからの商人だな、あんた。そりゃ、これ見て暴走するのも頷けるわ」

 

そう言って、手元の指輪をいじるハジメに、バツの悪そうな表情と誇らしげな表情が入り混じり、実に複雑な表情をするユンケル。先ほどの狂的な態度は、もう見られない。ハジメの殺気に、今度こそ冷水を浴びせられた気持ちなのだろう。

 

「とんだ失態を晒しましたが、ご入り用の際は、我が商会を是非ご贔屓に。あなたは普通の冒険者とは違う。特異な人間とは繋がりを持っておきたいので、それなりに勉強させてもらいますよ」

「.......ホント、商売魂が逞しいな」

 

ハジメから呆れた視線を向けられながら、「では、失礼しました」と踵を返し前列へ戻っていくユンケル。俺達は二人して彼のことに呆れてしまったのであった。




ちなみに作者は前回の雫で一瞬だけ燃え尽きました。


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なんでここに先生がっ!?

暫くはトークコーナーおやすみです。なんで作ったんだ、ってね。私も思いました。思ってから後悔しました。


街に入ってすぐにテンプレのように、ユエとシアの美貌に惹かれた豚男が、護衛に命令してハジメを痛めつけようとした。しかし例のごとくユエがその男、なんでもランク”黒”のレガニドと言うやつをのしてしまい、ハジメが豚男を気絶させた。そしてギルドに騒ぎが回り、俺達は事情聴取を受け、おばちゃんから貰った手紙を出すと、今度は支部長のイルワが出てきたのだ。支部長が出てくるくらいすごい手紙だったらしいそれを書いた人に俺はめちゃくちゃ軽く当たっていたのだが、今から土下座でもしに行こうかと考えた。

 

「御託はいい、本件を話せ」

 

無駄にイルワが話を長引かせようとしているような気がしたので、俺はその話をぶった斬った。

 

その内容を話せば、北の山脈へ魔物の調査へ行った冒険者パーティーについて行った伯爵家三男のウィル・クデタという男を、伯爵が探している。理由は冒険者になると飛び出して言った、という擬似的な家出なのだが、遣わせていた連絡員も消息不明となり、大事になった次第らしい。

 

対価にユエとシアにステータスプレートを作り、そこに表記された内容について他言無用を確約すること、更に、ギルド関連に関わらず、イルワの持つコネクションの全てを使って、俺達の要望に応え便宜を図ること。という二つのことを約束させて、交渉成立と相成った。

 

もちろん今回のことをしっかりと一切不問にするのは忘れていない。

 

京達がいなくなった後。にイルワに声をかける。

 

「支部長.......よかったのですか?あのような報酬を........」

「.......ウィルの命がかかっている。彼ら以外に頼めるものはいなかった。仕方ないよ。それに、彼等に力を貸すか否かは私の判断でいいと彼等も承諾しただろう。問題ないさ。それより、彼らの秘密........」

「ステータスプレートに表示される〝不都合〟ですか.......」

「ふむ、ドット君。知っているかい?ハイリヒ王国の勇者一行は皆、とんでもないステータスらしいよ?」

 

ドットは、イルワの突然の話に細めの目を見開いた。

 

「!、支部長は、彼が召喚された者.......〝神の使徒〟の一人であると?しかし、彼はまるで教会と敵対するような口ぶりでしたし、勇者一行は聖教教会が管理しているでしょう?」

「ああ、その通りだよ。でもね......およそ四ヶ月前、その内の一人がオルクスで亡くなったらしいんだよ。奈落の底に魔物と一緒に落ちたってね。そして、それを助けに行った一人がまた亡くなったと」

「.......まさか、その者が生きていたと?四ヶ月前と言えば、勇者一行もまだまだ未熟だったはずでしょう?オルクスの底がどうなっているのかは知りませんが、とても生き残るなんて........」

 

ドットは信じられないと首を振りながら、イルワの推測を否定する。しかし、イルワはどこか面白そうな表情で再び京達が出て行った扉を見つめた。

 

「そうだね。でも、もし、そうなら........なぜ、彼は仲間と合流せず、旅なんてしているのだろうね?彼らは一体、闇の底で何を見て、何を得たのだろうね?」

「何を.......ですか.......」

「ああ、何であれ、きっとそれは、教会と敵対することも辞さないという決意をさせるに足るものだ。それは取りも直さず、世界と敵対する覚悟があるということだよ」

「世界と......」

「私としては、そんな特異な人間とは是非とも繋がりを持っておきたいね。例え、彼が教会や王国から追われる身となっても、ね。もしかすると、先生もその辺りを察して、わざわざ手紙なんて持たせたのかもしれないよ」

「支部長.......どうか引き際は見誤らないで下さいよ?」

「もちろんだとも」

 

スケールの大きな話に、目眩を起こしそうになりながら、それでもイルワの秘書長として忠告は忘れないドット。しかし、イルワは、何かを深く考え込みドットの忠告にも、半ば上の空で返すのだった。

 

 

 

 

依頼で向かう街の料理に米が使われているということで目の色を変えた俺とハジメは、バイクを爆速で走らせた。その速度は、制限なしの高速道路のみで許される時速200キロ越え。

 

本来の高速道路より100キロオーバーで余裕で捕まる速度に、ユエもシアも顔を風圧で歪めていたが、日本人としては譲れない。そもそもここは異世界なのでいくら飛ばしても問題ないというのはある。

 

「行くぞぉぉぉハジメぇぇ!!俺は風になるぅぅぅぅ!!フォォォォォォ!!」

「飛ばせ飛ばせぇぇぇ!!戦争じゃぁぁ!!」

 

久しく食べていない日本食に狂喜乱舞しながら俺達は狂乱のテンションでウルの街へたどり着いた。即座に水妖精の宿を探し、ユエ達を半分引きずりながらそこに駆け込む。

 

「け、京さん........ハジメさん..........ヤバいです」

「風強い.......景色がぐるぐる.........」

 

横で伸びている二人を完全に無視して、俺達はメニュー表を血眼になって見定める。すると、お冷を運んできたウェイトレスが近づいてくる。

 

「ご注文はお決まりで..........」

「ニルシッシルで(天丼で)!!」

「「......あ?」」

 

ウェイトレスの言葉を遮って頼んだ俺たちの声が重ねる。そして、頼んだ物が違うことに、俺達は互いにガンを切った。

 

「おいおいハジメさんよぉ。ここに来てインド料理アレンジのイギリス発祥なものを食べるたぁどういう了見だァ?」

「あぁん?お前こそご家庭のソウルフード、小学生が好きな料理1位にもなったことがあるカレーを頼まないとはどういうことだよ、アァ?」

 

バチバチと火花が散る視線の戦いに、ウェイトレスは顔を引き攣りながら申し訳なさそうに言った。

 

「ろ、論争中失礼致します..........実は、香辛料の在庫が残りわずかでして............今日が最後になるので当店ではニルシッシルをオススメしております」

「「なん........だと..........?」」

 

二人して言葉が重なった。某ネタなのだがここに知る者はいないだろう。流石にユエ達も...........知らないよな?

 

「いつもならこのような事がないように在庫を確保しているのですが......ここ一ヶ月ほど北山脈が不穏ということで採取に行くものが激減しております。つい先日も、調査に来た高ランク冒険者の一行が行方不明となりまして、ますます採取に行く者がいなくなりました。当店にも次にいつ入荷するかわかりかねる状況なのです」

 

その言葉に、俺達は我に返る。その高ランク冒険者達というのは、ウィルがついて行った一団のことだろう。とりあえず今日は遅いので休むことにしたが、明日の早朝から取り掛かった方がいいかもしれない。

 

「んじゃ、俺もとりあえずニルシッシルで」

「かしこまりました。.........そちらのお客様方はどうなされますか?」

「.......ハジメと京と同じもので」

「私も同じものでお願いします!」

「かしこまりました」

 

ウェイトレスがメモをすると、奥へと消えていった。その瞬間だ、シャァァ!とカーテンが引かれ、そこに俺たちの見覚えのある人物が居たのは。

 

「南雲君!刀崎君!」

「あぁ?................え?」

「..................は?」

 

そこにいた人物に、俺もハジメも言葉を失う。まさか、こんな所にいるとは思わなかったからだ。そして、カーテンの先にはどこかで見覚えのある騎士達と、クラスメイト達。ユエ達はこの状況についていけてないのか小首を傾げている。

 

「南雲君....刀崎君....やっぱり二人なんですね?生きて.......本当に生きて........」

「いえ、人違いです。では」

「へ?」

 

泣き崩れそうな先生に予想外の言葉をかけて、宿の出口へスタスタと向かおうとしたハジメ。俺は引き止めて頭をぶっ叩く。

 

「痛ぇ!」

「阿呆。頼んだんだから最後まで食うぞ」

「叱る所がそれですかっ!?.........ていうか二人ですよね!?ちょっと変わってますけど、先生分かりますよ!!」

「クッ..........」

 

諦めたようにわざとらしく頭を垂れたハジメを座らせる。すると、俺達だけを見ていた愛ちゃん先生がユエとシアを視界に入れる。

 

「えっと......あれ?南雲君、刀崎君、こちらの方々はどちら様ですか」

「待ってくれ、俺達は馬鹿みたいなテンションと依頼のせいで一日以上ノンストップで来たんだ。腹も減ってる。まずは食べさせてくれ」

 

改めて疲れた様子でハジメが言うと、その横に座るユエ達が先生を見た。

 

「.......ユエ」

「シアです」

「ハジメの女」「ハジメさんの女ですぅ!」

「お、女?」

 

若干どもりながら「えっ? えっ?」とハジメと二人の美少女を交互に見る。上手く情報を処理出来ていないらしい。後ろの生徒達も困惑したように顔を見合わせている。いや、男子生徒は「まさか!」と言った表情でユエとシアを忙しなく交互に見ている。徐々に、その美貌に見蕩れ顔を赤く染めながら。

 

「あと、京の........姉?」

「じゃあ私は京さんの妹ですねっ!」

「おい馬鹿共、勝手に根も葉もない羽を付けんな。.........いやほんとになんもないから、そこのお前らはそんな目で見ないでくれ」

 

そんなことを言っていると、次はハジメから否定の言葉が出た。

 

「おい、ユエはともかく、シア。お前は違うだろう?」

「そんなっ!酷いですよハジメさん。私のファーストキスを奪っておいて!」

「いや、何時まで引っ張るんだよ。あれはきゅ『南雲君?』……何だ、先生?」

 

シアの〝ファーストキスを奪った〟という発言で、遂に情報処理が追いついたらしく、先生の声が一段低くなる。愛子の頭の中では、ハジメが二人の美少女を両手に侍らして高笑いしている光景が再生されているようだった。表情がそれを物語っている。

 

顔を真っ赤にして、ハジメの言葉を遮る先生。その顔は、非行に走る生徒を何としても正道に戻してみせるという決意に満ちていた。そして、〝先生の怒り〟という特大の雷が、ウルの町一番の高級宿に落ちる。

 

「女の子のファーストキスを奪った挙句、ふ、二股なんて!直ぐに帰ってこなかったのは、遊び歩いていたからなんですか!もしそうなら……許しません!ええ、先生は絶対許しませんよ! お説教です! そこに直りなさい、南雲君!........あと刀崎君も!」

「なんで俺が取ってつけたように巻き込まれる!?」

 

散々、愛子が吠えた後、他の客の目もあるからとVIP席の方へ案内されたハジメ達。そこで、先生や園部優花達生徒から怒涛の質問を投げかけられつつも、ハジメは、目の前の今日限りというニルシッシル(異世界版カレー)。に夢中で端折りに端折った答えをおざなりに返していく。

 

Q、橋から落ちた後、どうしたのか?

A、超頑張った

Q、なぜ白髪なのか

A、超頑張った結果

Q、その目はどうしたのか

A、超超頑張った結果

Q、なぜ、直ぐに戻らなかったのか

A、戻る理由がない

 

そこまで聞いて愛子が、「真面目に答えなさい!」と頬を膨らませて怒る。全く、迫力がないのが物悲しい。案の定、ハジメには柳に風といった様子だ。目を合わせることもなく、美味そうに、時折俺やユエやシアと感想を言い合いながらニルシッシルに舌鼓を打つ。表情は非常に満足そうである。

 

その様子にキレたのは、先生の背後にいた男だ。

 

「おい、お前!愛子が質問しているのだぞ!真面目に答えろ!」

 

ハジメは、チラリと男を見ると、はぁと溜息を吐いた。

 

「食事中だぞ?行儀よくしろよ」

「お前らには黙って食うっていうことが無いのか?」

 

全く相手にされていないことが丸分かりの物言いに、元々、神殿騎士で自然とプライドも高くなっているのだろうその男は、我慢ならないと顔を真っ赤にした。そして、何を言ってものらりくらりとして明確な答えを返さないハジメから矛先を変え、その視線がシアに向く。

 

「ふん、行儀だと?その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前の方が礼儀がなってないな。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ?少しは人間らしくなるだろう」

 

侮蔑をたっぷりと含んだ眼で睨まれたシアはビクッと体を震わせた。ブルックの町では、宿屋での第一印象や、おばちゃんと親しくしていたこと、ハジメの存在もあって、むしろ友好的な人達が多かったし、フューレンでも蔑む目は多かったが、奴隷と認識されていたからか直接的な言葉を浴びせかけられる事はなかった。

 

つまり、俺達と旅に出てから初めて、亜人族に対する直接的な差別的言葉の暴力を受けたのである。有象無象の事など気にしないと割り切ったはずだったが、少し、外の世界に慣れてきていたところへの不意打ちだったので、思いの他ダメージがあった。シュンと顔を俯かせるシア。

 

よく見れば、男だけでなく、他の騎士達も同じような目でシアを見ている。亜人差別の徹底的な典型が根付いているらしい。

 

あんまりと言えばあんまりな物言いに、思わず先生が注意をしようとするが、その前に俯くシアの手を握ったユエが、絶対零度の視線を先程の男に向ける。最高級ビスクドールのような美貌の少女に体の芯まで凍りつきそうな冷ややかな眼を向けられて、男は一瞬たじろぐも、見た目幼さを残す少女に気圧されたことに逆上する。

 

「何だ、その眼は?無礼だぞ!神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか!」

 

思わず立ち上がる男を、横の男は諌めようとするが、それよりも早く、ユエの言葉が騒然とする場にやけに明瞭に響き渡った。

 

「.......小さい男」

 

それは嘲りの言葉。たかが種族の違い如きで喚き立て、少女の視線一つに逆上する器の小ささを嗤う言葉だ。唯でさえ、怒りで冷静さを失っていた男は、よりによって男としての器の小ささを嗤われ完全にキレた。

 

「........異教徒め。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる」

 

無表情で静かに呟き、傍らの剣に手をかける男。突如現れた修羅場に、生徒達はオロオロし、先生や他の騎士達は止めようとする。だが、男は周りの声も聞こえない様子で、遂に鞘から剣を僅かに引き抜いた。

 

その瞬間、

 

「ふーん?剣を抜いてもいいのは、切られる覚悟のあるやつだけだぞ?」

 

ハジメがドンナーで撃つより早く俺が男の首筋に斬魄刀を押し当てた。いつでもどうにでもできるように始解を待機している。さらに遅れてドパン!と宿屋に銃声が響き、男の顔面横を通り過ぎ、非致死性のゴム弾が壁に叩きつけられた何事かと飛んできた店長は空気を読んだシア達があしらってくれた。

 

「きさ.....まっ!いつの間に!」

「落ち着けよ、隊長とやら?お前は痛みを知らない。ここは穏便にすまさないか?周りにも迷惑がかかる。ちなみにお前に拒否権はない」

 

そのままギリッと刃を首筋に更に押し当てる。すると赤い血がたらりと一つ下へ消えていった。「クッ!」と悔しげに男は納刀して着席する。それを確認して俺も対面の席へ戻った。

 

「いい判断だ。それでいい」

 

目が点になっていたクラスメイトや先生、他の騎士達も俺が座ることによってようやく我を取り戻した。先程のことについて追求しようとした先生の行動を見据えてか、さらにハジメがテーブルへゴトッとドンナーを置いた。

 

「俺も、多分京もあんたらに興味がない。関わりたいとも、関わって欲しいとも思わない。いちいち、今までの事とかこれからの事を報告するつもりもない。ここには仕事に来ただけで、終わればまた旅に出る。そこでお別れだ。あとは互いに不干渉でいこう。あんたらが、どこで何をしようと勝手だが、俺の邪魔だけはしないでくれ。今みたいに、敵意をもたれちゃ......つい殺っちまいそうになる」

 

「どうやら京に助けられたみたいだけどな。分かったか?」と付け加えて、再びハジメはニルシッシルを食べ始めた。先生やクラスメイト、さらに騎士も何も言わない。

 

そんな空気を突き抜くようにハジメ達がイチャつき始めた。さすがは空気が読めないハジメさん、黙って退出するとか何かあったろうに。

 

「あれ?不思議だな。さっきまで南雲のことマジで怖かったんだけど、今は殺意しか湧いてこないや.........」

「お前もか。つーか、あの二人、ヤバイくらい可愛いんですけど.........どストライクなんですけど……なのに、目の前にいちゃつかれるとか拷問なんですけど.........」

「.........南雲の言う通り、何をしていたか何てどうでもいい。だが、異世界の女の子と仲良くなる術だけは.........聞き出したい!........昇!明人!」

「「へっ、地獄に行く時は一緒だぜ、淳!」」

 

グツグツと煮えたぎる嫉妬を込めた眼で、ついさっき自分達を震え上がらせたハジメを睨みながら、一致団結するクラスメイト三人。すっかり、シリアスな雰囲気が吹き飛び、本来の調子を取り戻し始めた女生徒達が、そんな男子生徒達に物凄く冷めた目を向けていた。

 

「南雲君と刀崎君でいいでしょうか?先程は、隊長が失礼しました。何分、我々は愛子さんの護衛を務めておりますから、愛子さんに関することになると少々神経が過敏になってしまうのです。どうか、お許し願いたい」

「穏便に済ませられるなら、俺はどうだっていい。あと、許すも何も別に気にしてないから」

 

なんでもないと言った俺に、ハジメも小さく頷く。そうした折、その男がハジメのドンナーを見た。

 

「そのアーティファクト.......でしょうか。寡聞にして存じないのですが、相当強力な物とお見受けします。弓より早く強力にもかかわらず、魔法のように詠唱も陣も必要ない。一体、何処で手に入れたのでしょう?」

 

微笑んでいるが、目は笑っていないその男。考えていることは大体わかる。

 

ハジメが、チラリとチェイスを見る。そして、何かを言おうとして、興奮した声に遮られた。クラス男子の玉井淳史だ。

 

「そ、そうだよ、南雲。それ銃だろ!?何で、そんなもん持ってんだよ!」

 

玉井の叫びに男が反応する。

 

「銃?玉井は、あれが何か知っているのですか?」

「え?ああ、そりゃあ、知ってるよ。俺達の世界の武器だからな」

 

玉井の言葉に男の眼が光る。そして、ハジメをゆっくりと見据えた。

 

「ほぅ、つまり、この世界に元々あったアーティファクトではないと.......とすると、異世界人によって作成されたもの........作成者は当然.........」

「俺だな」

 

ハジメは、あっさりと自分が創り出したと答えた。男は、案外簡単に認めたことに意外感を表にする。

 

「あっさり認めるのですね。南雲君、その武器が持つ意味を理解していますか?それは........」

「この世界の戦争事情を一変させる........だろ?量産できればな。大方、言いたいことはやはり戻ってこいとか、せめて作成方法を教えろとか、そんな感じだろ?当然、全部却下だ。諦めろ」

 

取り付く島もないハジメの言葉。あらかじめ用意していた言葉をそのまま伝えたようだ。だが、男も食い下がる。銃はそれだけ魅力的らしい。

 

「ですが、それを量産できればレベルの低い兵達も高い攻撃力を得ることができます。そうすれば、来る戦争でも多くの者を生かし、勝率も大幅に上がることでしょう。あなたが協力する事で、お友達や先生の助けにもなるのですよ?ならば.......」

「なんと言われようと、協力するつもりはない。奪おうというなら敵とみなす。その時は........戦争前に滅ぶ覚悟をしろ」

 

ハジメの静かな言葉に全身を悪寒に襲われ口をつぐむチェイス。そこへ俺が更に口を挟む。

 

「あのさぁ、騎士さんよ。大前提として俺らがそちらに対して友好的だとか思ってるのか?それは大きな間違いだぞ?戦争とやらにも興味無いし、この世界の人間が滅ぼうがどうでもいいんだよ」

「なっ......なんてことを!」

 

平静を装っていた男は一瞬だけ怒りに充ちた表情を見せる。そこを、先生が取り直すように口を挟んだ。

 

「チェイスさん。南雲君達には南雲君達の考えがあります。私の生徒に無理強いはしないで下さい。南雲君も、刀崎君もあまり過激な事は言わないで下さい。もっと穏便に.......南雲君は、本当に戻ってこないつもり何ですか?」

「ああ、戻るつもりはない。明朝、仕事に出て依頼を果たしたら、そのままここを出る」

「どうして.......」

「なぁ、園部」

 

俺は今まで黙っていた園部に対して質問を投げかける。

 

「なっ、何?」

「そうドモんなよ。んで結局、人殺し未遂は見つかったか?」

「「.........」」

 

クラスメイト達はそれに対して黙っている。すると、下を向きながらポツリと園部が言い出した。

 

「結局........誰がやったのかも分からなくて。天之河君が全部纏めちゃったから...........」

「ほらな?未だに人を殺そうとしたやつも見つからない。クラスに潜んでるクソ野郎がいる状態で、そんなことを許容してお前らを引っ張ってる無能なリーダーがいる集団に俺達が帰りたいと思うか?」

 

話は決まったという風にハジメ達が立ち上がったのを見て、俺もそれに習う。未だに誰も喋らずお葬式状態の一団に俺は言葉を捨てる。

 

「ほんとに、気を付けとけよ。いつ首を狙われてもおかしくないんだからな」

 

俺は最後にそう言って、ハジメ達の後を追いかけた。




次回もお楽しみに。感想もお待ちしております


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北の山脈での会合

とりあえず、後書きdeトークのコーナーはもう少しだけお休みです。それと、このSSを投稿し始めて11か12日目ですか。そこくらいにお気に入り件数がなんと500件を突破しました!

ありがとうございます!

まぁ.........読者様が増えた変わりに作者のガバが浮き彫りになってきたんですけど。
はい、ちゃんと見直しして、ちゃんと文章構成考えて、もっと投稿者として。執筆者として自覚を持ちます。


深夜を周った頃、ハジメが愛子先生に伝えたいことがあるということで部屋へ向かった。そうしてハジメを待つこと十数分、以外にも早く彼は帰ってきた。

 

「おかえり。言いたいことは言えたか?」

「ああ。やっぱり俺の事は事故として処理されてるらしい」

「まぁそりゃ、神の使徒の中に仲間を殺した人殺しが紛れてるなんて世間に知られるわけにゃいかんだろうしな」

 

俺がそう言う間に、ハジメはベッドに寝転がる。そうすれば今度は俺が立ち上がった。

 

「行くのか?」

「ちょっとな。まぁ俺も話したいことはあるし」

 

ヒラヒラと手を振って先生の元へ向かう。扉の前、ノック三回に返事を待つことなく俺は入室した。鍵はかけられてなかった。恐らくハジメが開ける時にダメにしてしまったのだろう。

 

「こんばんわ、先生」

「って、刀崎君!?」

 

驚いている先生を後目に備え付けられた椅子に座る。

 

「あ、あなたまで、何しに来たんです?」

「酷いですね。教え子が話をしに来たらダメなんですか?」

「いえ、そういう訳では無いですけど.........」

「それに、さっきここへ来たハジメの話が随分とショッキングだったみたいですね。顔に出てますよ」

「っ!?」

 

おそらく図星だったのだろう。口をパクパクさせて言いたいことが出ない様子だ。だが、そんな事も一瞬。直ぐに真剣な顔でこちらを見てきた。

 

「刀崎君も南雲君も言っていましたが.........殺されかけたって........」

「はい。ハジメが落ちたあれは、仕組まれた魔法だったんですよ」

「一体誰が........そんなこと!」

 

答えない俺に、さらに黙る先生。俺から語るべきではないだろう。少しの静寂がその場を支配する。きっと先生は色々と頭の中で思い巡らせていることだろう。ため息をつきながら俺は話を変えた。

 

「そう言えば、雫と恵里は元気にしてますか?」

「えっ?........ええと、はい。最近は手紙でしか連絡できていませんが.........彼女達も、南雲君の生存を信じていた白崎さん同様にあなたのことを諦めていませんでした。この目で確かめるまでは折れないと」

 

健気な事だ。普通、そこまで生存を信じるなんてことないけどな。..........まぁ、俺が必ず帰ってくるって言ったのもあるが。すると、少し先生は微笑んだ。

 

「やはり、気になるのですね」

「まぁ、あの二人には色々と手を焼かされてきましたから。気にならないといえば嘘になります」

「なら、戻ればいいじゃないですか。........それとも、彼女達以上に何か南雲君に肩入れする事情があるんですか..........?」

「まぁ、そんな所です。それに、あいつらは俺がいなくても大丈夫...........かな?あれ?なんか心配になってきたぞ...............」

 

コロコロと表情を変えた俺に先生は吹き出す。クスクスと笑っている。

 

「刀崎君、雰囲気がかなり変わりましたね」

「そうですか?むしろいつも通りな気がしますけど.........」

「非常に落ち着いている印象だったんですが、今はどことなく明るいですよ」

 

まぁ確かに、身を潜めてたのは事実だが、少しは自分を出していたような気もするんだけどなぁ..............あ、雫と恵里の間だけか。

 

「刀崎君が心配している二人ですが、ちゃんと迷宮攻略に力を入れて、強くなっているみたいですよ」

「そうですか。それは良かった」

 

今日確認したかったのは、この事だ。やはり、頭の片隅では気になってしまう。だがそれが払拭できたなら、もう用はない。俺が出ていこうとして、先生が呼び止めた。

 

「刀崎君に南雲君も。私は二人がどのような経験をしてきたのか、知りません。ですが、私はいつでも二人の帰還に反対はしません!文句を言ってくる人がいれば、先生が怒りますから!」

「..........ありがとうございます。愛子先生」

 

手をヒラヒラとさせて、俺は部屋を退室した。普段は力も権力もない先生だ。しかし、その優しさだけは、その包容力だけは母親並のものがある。ある意味、尊敬するべきところなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

夜明け頃。初めて朝靄というものを見た。俺は朝が弱いので半分睡眠気味に大きな欠伸をする。だがハジメがとある一点を見ているのを感じて、俺もその方向を注視した。

 

すると、そこには朝靄を掻き分けて歩いてくる先生とクラスメイト六名。まるで海外映画の決戦の日の登場のようだ。地味にかっこよかった。

 

「........何となく想像つくけど一応聞こう........何してんの?」

 

ハジメが半眼になって先生に視線を向ける。一瞬、気圧されたようにビクッとする先生だったが、毅然とした態度を取るとハジメと正面から向き合った。ばらけて駄弁っていた生徒達、園部優花、菅原妙子、宮崎奈々、玉井淳史、相川昇、仁村明人も先生の傍に寄ってくる。

 

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね? 人数は多いほうがいいです」

「却下だ。行きたきゃ勝手に行けばいい。が、一緒は断る」

「な、なぜですか?」

「単純に足の速さが違う。先生達に合わせてチンタラ進んでなんていられないんだ」

 

見れば、愛子達の背後には馬が人数分用意されていた。この世界に来てから乗馬の練習なんてしてないはずだが、乗れるのだろうか。普通に気になる。特に愛子先生。

 

「ちょっと、そんな言い方ないでしょ?南雲達が私達のことよく思ってないからって、愛ちゃん先生にまで当たらないでよ」

 

何とも的外れな物言いに、ハジメは「はぁ?」と呆れた表情になった。ハジメは説明するのも面倒くさいと、無言で”宝物庫”から魔力駆動二輪を取り出す。

 

突然、虚空から大型のバイクが出現し、ギョッとなる先生達。

 

「理解したか?お前等の事は昨日も言ったが心底どうでもいい。だから、八つ当たりをする理由もない。そのままの意味で、移動速度が違うと言っているんだ」

 

おざなりに返事するハジメに、なおも先生は食い下がる。

ああ、この目は何を言っても無駄な目だ。

 

「ていうか先生、ほかの騎士達はどうしたんです?」

「あ、それに関しては置き手紙を残してきました。その話を聞くかどうかは分かりませんが.......」

 

その背後ではクラスメイト達が苦笑いしている。どうやら騎士達は熱狂的に先生を推しているらしい。

 

先生は決意を固めた表情でぐいっとハジメに近寄る。

 

「南雲君、先生は先生として、どうしても南雲君からもっと詳しい話を聞かなければなりません。だから、きちんと話す時間を貰えるまでは離れませんし、逃げれば追いかけます。南雲君達にとって、それは面倒なことではないですか?移動時間とか捜索の合間の時間で構いませんから、時間を貰えませんか?そうすれば、南雲君達の言う通り、この町でお別れできますよ.........一先ずは」

 

つまり、地の果てまでも追いかけ回してやる!と、そういうことらしい。天を仰いだハジメは、俺の方に視線を向けてくる。

 

「先生はどこまで行っても”教師”だし、俺らがここで意地張るのも無駄だと思うぞ」

「はぁ.......分かったよ。同行を許そう。といっても話せることなんて殆どないけどな.......」

「構いません。ちゃんと南雲君の口から聞いておきたいだけですから」

「はぁ、全く、先生はブレないな。何処でも何があっても先生か」

「当然です!」

 

ハジメが折れたことに喜色を浮かべ、むんっ!と胸を張る愛子。どうやら交渉が上手くいったようだと、クラスメイト達もホッとした様子だ。

 

この瞬間、先生達がなし崩し的に捜索に参加することとなった。

 

 

 

 

 

 

俺達はハジメの魔力駆動四輪に乗っかって北の山脈へ。

標高千メートルから八千メートル級の山々が連なるそこは、どういうわけか生えている木々や植物、環境がバラバラという不思議な場所だ。日本の秋の山のような色彩が見られたかと思ったら、次のエリアでは真夏の木のように青々とした葉を広げていたり、逆に枯れ木ばかりという場所もある。スマフォや写真があれば是非とも一枚収めておきたかった。

 

その麓に四輪を止めると、しばらく見事な色彩を見せる自然の芸術に俺達は見蕩れた。女性陣の誰かが「ほぅ」と溜息を吐く。ちなみに愛子先生は生徒の膝枕で爆睡するという失態を犯し、真っ赤になって謝罪していた。

 

ハジメは外に出ると、ライセン大迷宮を通して学んだゴーレム捜索の応用で、予め作っていた無人偵察機を四機、空に飛ばす。

 

「おいお前ら、行くぞ」

「ド、ドローン......?」

「無人偵察機......?」

「ほんと南雲.......わかんねぇな」

 

クラスメイト達は若干引きながらその後を着いてくる。時間にして一時間と少しほど。今は恐らく六合目くらいだろうか。

 

俺たちの普段のペースに付いてくる先生達はよくやる。だが、もう死に体らしい。

 

「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか........けほっ、はぁはぁ」

「ぜぇー、ぜぇー、大丈夫ですか........愛ちゃん先生、ぜぇーぜぇー」

「うぇっぷ、もう休んでいいのか?はぁはぁ、いいよな? 休むぞ?」

「.......ひゅぅーひゅぅー」

「ゲホゲホ、南雲達は化け物か........」

 

仕方が無いので、周囲の捜索も兼ねて山道を外れ川に降りる。俺の空間把握、シアのうさ耳、ハジメの偵察機で辺りを確認するが、それといった敵影はなし。

 

やがて先生達が来ても構わずにハジメ達がイチャつき始めたので、俺は無視して川の上流の方へさらに範囲をのばしてみる。

 

「.......お前も大変だな」

「別に。慣れたし、今じゃどうでもいい」

 

男子生徒達から同情の視線を向けられたが、鬱陶しいのでひと睨みすると顔を引きつらせて後退りして行った。

 

「.......これは」

「ん.........何か見つけた?」

 

ハジメがどこか遠くを見るように茫洋とした目をして呟くのを聞き、ユエが確認する。その様子に、愛子達も何事かと目を瞬かせた。

 

「川の上流に.......これは盾か? それに、鞄も……まだ新しいみたいだ。当たりかもしれない。京、ユエ、シア、行くぞ」

「ん.......」

「はいです!」

「ああ」

 

そのまま川の上流の方へ行くと、小ぶりな金属製のラウンドシールドと鞄が散乱していた。ただし、ラウンドシールドは、ひしゃげて曲がっており、鞄の紐は半ばで引きちぎられた状態で、だ。

 

さらには少し離れたところに争った形跡があり、折れた剣や飛び散った血痕の数々。さらに草木も色々と折れたり踏まれたりしている。すると、シアが何か光るものを見つけた。

 

「ハジメさん、これ、ペンダントでしょうか?」

「ん? ああ.......遺留品かもな。確かめよう」

 

シアからペンダントを受け取ったハジメはそれの汚れを落とすと、どうやら唯のペンダントではなくロケットのようだと気がつく。留め金を外して中を見ると、女性の写真が入っていた。おそらく、誰かの恋人か妻と言ったところだろう。大した手がかりではないが、一応回収しておくことにした。

 

その後も、遺品と呼ぶべきものが散見され、身元特定に繋がりそうなものだけは回収していく。どれくらい探索したのか、既に日はだいぶ傾き、そろそろ野営の準備に入らねばならない時間に差し掛かっていた。

 

ハジメの偵察機が捉えた映像には、東に三百メートル程いったところに大規模な破壊の後があったらしい。ハジメは俺達を促してその場所に急行した。

 

そこは大きな川だった。上流に小さい滝が見え、水量が多く流れもそれなりに激しい。本来は真っ直ぐ麓に向かって流れていたのであろうが、現在、その川は途中で大きく抉れており、小さな支流が出来ていた。まるで、横合いからレーザーか何かに抉り飛ばされたようだ。

 

そして魔物の足跡の形跡もあり、本格的な戦闘をして撤退するために下流へ下ったと推測した俺達は、上流を無人偵察機に任せ、川辺へ沿って下流へ下ることにした。

 

すると、今度は、先ほどのものとは比べ物にならないくらい立派な滝に出くわした。ハジメ達は、軽快に滝横の崖をひょいひょいと降りていき滝壺付近に着地する。滝の傍特有の清涼な風が一日中行っていた探索に疲れた心身を優しく癒してくれる。そこで、俺の空間認識にそれは引っかかった。

 

「ハジメ。滝の奥だ」

「.ああ、そうらしいな」

 

ハジメも気配感知でその気配を捉えたのだろう。俺の言葉に同意している。

ユエは俺達の言いたいことを察したのか、無言で俺達の前に出た。

 

「”波城”、”風壁”」

 

すると、滝と滝壺の水が。かの紅海におけるモーセの伝説のように真っ二つに割れ始め、更に、飛び散る水滴は風の壁によって完璧に払われた。高圧縮した水の壁を作る水系魔法の”波城”と風系魔法の”風壁”である。

 

詠唱をせず陣もなしに、二つの属性の魔法を同時に、応用して行使したことに先生達は、もう何度目かわからない驚愕に口をポカンと開けた。きっと、かつてのヘブライ人達も同じような顔をしていたに違いない。

 

魔力も無限ではないので、俺とハジメは、先生達を促して滝壺から奥へ続く洞窟らしき場所へ踏み込んだ。洞窟は入って直ぐに上方へ曲がっており、そこを抜けるとそれなりの広さがある空洞が出来ていた。天井からは水と光が降り注いでおり、落ちた水は下方の水溜りに流れ込んでいる。溢れないことから、きっと奥へと続いているのだろう。

 

その空間の一番奥に横倒しになっている男を発見した。傍に寄って確認すると、二十歳くらいの青年とわかった。端正で育ちが良さそうな顔立ちだが、今は青ざめて死人のような顔色をしている。だが、大きな怪我はないし、鞄の中には未だ少量の食料も残っているので、単純に眠っているだけのようだ。顔色が悪いのは、彼がここに一人でいることと関係があるのだろう。

 

その青年は、ウィル・クデタであった。起こして話を聞いてみると、五日前、俺達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールと遭遇したらしい。流石に、その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だと、ウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。そこで、ブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。それから、追い立てられながら大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。

 

漆黒の竜だったらしい。その黒竜は、ウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。

 

ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたらしい。彼は話している内に、感情が高ぶったようですすり泣きを始めた。

 

「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで.......それを、ぐす........よろごんでる..........わたじはっ!」

 

洞窟の中にウィルの慟哭が木霊する。誰も何も言えなかった。顔をぐしゃぐしゃにして、自分を責めるウィルに、どう声をかければいいのか見当がつかなかった。生徒達は悲痛そうな表情でウィルを見つめ、先生はウィルの背中を優しくさする。ユエは何時もの無表情、シアは困ったような表情だ。俺はハジメ達に任せて万が一の為に退路を索敵しておく。

 

ウィルが言葉に詰まった瞬間、意外な人物が動いた。ハジメだ。ハジメは、ツカツカとウィルに歩み寄ると、その胸倉を掴み上げ人外の膂力で宙吊りにした。そして、息がつまり苦しそうなウィルに、意外なほど透き通った声で語りかけた。

 

「生きたいと願うことの何が悪い? 生き残ったことを喜んで何が悪い? その願いも感情も当然にして自然にして必然だ。お前は人間として、極めて正しい」

「だ、だが........私は........」

「それでも、死んだ奴らのことが気になるなら.......生き続けろ。これから先も足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ。そうすりゃ、いつかは.......今日、生き残った意味があったって、そう思える日が来るだろう」

「........生き続ける」

 

涙を流しながらも、ハジメの言葉を呆然と繰り返すウィル。ハジメは、ウィルを乱暴に放り出し、自分に向けて「何やってんだか」とツッコミを入れた。きっと彼に少し思うところがあったのは事実だろう。

 

「さて、んじゃ話もまとまったし、帰るか。今から行けば多分、野宿しないで済む」

「ああ。さすがにこの人数での野宿はきつい」

 

俺の言葉にハジメも苦笑いしてウィルを起こした。先生達が気にかけているので彼は問題ないだろう。話を聞いて、ブルタールの群れや漆黒の竜は気になるところだが、今はどうでもいい。まぁ、襲ってきたところで逆に殺すだけだが。

 

ユエの魔法で再び外に出ようとした時だ。上空に、その影を捉えた。

 

「おいおい、それはないっすよ........」

 

さすがにこのまま帰るのを期待していた俺は、顔が引き攣る。俺達のその視線の先に、件の竜かどうかは分からないが、ここにいることから9割そうであろう黒竜がいた。

 

その竜の体長は七メートル程。漆黒の鱗に全身を覆われ、長い前足には五本の鋭い爪がある。背中からは大きな翼が生えており、薄らと輝いて見えることから魔力で纏われているようだ。

 

空中で翼をはためかせる度に、翼の大きさからは考えられない程の風が渦巻く。だが、何より印象的なのは、夜闇に浮かぶ月の如き黄金の瞳だろう。爬虫類らしく縦に割れた瞳孔は、剣呑に細められていながら、なお美しさを感じさせる光を放っている。

 

その黄金の瞳が、空中より俺達を睥睨していた。低い唸り声が、黒竜の喉から漏れ出している。その迫力はほかの魔物達とは桁違いだ。いくつかのゲームでも空の王者として登場している竜種だが、実際に見ると納得出来る。

 

その黒竜は、ウィルの姿を確認するとギロリとその鋭い視線を向けた。そして、硬直する人間達を前に、おもむろに頭部を持ち上げ仰け反ると、鋭い牙の並ぶ顎門をガパッと開けてそこに魔力を集束し出す。

 

キュゥワァアアア!!

 

不思議な音色が夕焼けに染まり始めた山間に響き渡る。あれを食らったらまずいと、本能が警鐘を鳴らした。

 

「ッ!退避しろ!」

 

ハジメは警告を発し、自らもその場から一足飛びで退避した。ユエやシアも付いて来ている。だが、そんなハジメの警告に反応できない者が多数、いや、この場合ほぼ全員と言っていいだろう。

 

先生や生徒達、そしてウィルもその場に硬直したまま動けていない。先生達は、あまりに突然の事態に体がついてこず、ウィルは恐怖に縛られて視線すら逸らせていなかった。

 

「........やれやれ」

「京!?」

「京さん!?」

「と、刀崎君!?」

 

俺が飛び出していくのを捉えたハジメとシアが叫び、その声で気付いた先生も俺の名前を呼ぶ。だが、退避が遅れたこの状況でやれるのは俺しかいない。

 

「貪り喰らえ『天変飢餓』!!」

 

俺は斬魄刀を始解させた。銀色の刀身は刃先から黒く塗り替えられ、中央には赤い線が走る。空力で滞空した俺は、ブレスを吐こうとする竜を睨んだ。

 

「さぁ、根気比べと行こうか!」

 

その瞬間、竜からレーザーの如き黒色のブレスが一直線に俺へ放たれた。




次回、ついに原作のド変態が登場です。お楽しみに。

感想もお待ちしております。


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竜の尻を殴り飛ばす

サブタイからわかっていると思います。.........つまりそういうことです。


竜からブレスが放たれて、音すらも置き去りにしたそれは俺の斬魄刀と激しくぶつかり合った。

 

「っ!重っ..........!!」

 

その威力は、いつぞやのヒュドラが放った極光のそれに匹敵するかもしれない。未だに切っ先とブレスが拮抗を見せ、全て刀が喰らっているとはいえ、俺が空中に作った足場とブレスで俺を圧死させることは叶わないことも無い。

 

故に、夜空に蒼き雷光が走った。

 

「うぉおおお!!」

 

纏雷の出力強化で身体を活性化させて、ブレスの圧に対抗する程の力を引き出す。纏雷でブーストした俺の身体は、そのまま黒竜のブレスを耐え続けた。時間にして一分、いや、それ以上はあるかもしれない。ついにそのブレスの終わりが見え、完全に消えた瞬間、俺は空を駆ける。

 

首元を狙い一閃、その刀が黒竜の首を喰らい尽くした.........と思っていた。

 

「ゴォアァァァァ!!」

「っ、ちぃ.......!」

 

電磁加速の俺に異次元的な反応を見せた黒竜の咆哮の衝撃波で狙いがズレ、竜鱗一つを切り裂くに止められた。

 

さらに黒竜は通り過ぎた俺を見逃さず、そのまま身体を膂力で高速回転させ、威力を持った尾が俺を襲った。

なんとか両腕をクロスさせて防御するが、如何せん空中は相手の領域。俺はそのまま滝までふっ飛ばされるが、なんとか空中で体勢を立て直して着地する。

 

「京!」

「いや、下がってろハジメ。あいつの瞳を見るに、狙いは背後のウィルだ。もし全員で行って突破された場合、誰もあいつを守れない」

 

「それに.......」と付け加えて、俺はハジメ達の方へ嗤った。

 

「こんなに楽しい空中戦は無いぜ?」

「.........」

 

ハジメは少しだけ黙るが、「わかった」とだけ言うと再びユエ達と下がっていく。どうやら俺の願いを聞いてくれたらしい。

 

「さて、斬るなんて面倒なことはナシだ。殴る!」

 

そのまま俺は再び黒竜へ向かっていく。火炎球がいくつかこちらへ飛来してくるが、全てがゆっくりに見える俺に躱せないものなどない。火炎球の隙間を雷光が尾を引き、黒竜の開口していた顎門に拳をぶち込んだ。アッパーに近いその攻撃は、少し黒竜の身体を仰け反らせるだけに留まる。

 

「ちっ、硬ぇ!」

 

ギロリと、ついにその瞳が俺を見た。自身を本当に死に追いやる存在と判断したのか、再び火炎球が俺へ飛来する。然しその直後、ノータイムで死をまき散らすブレスが後を追って放たれた。

 

「甘ぇよ!」

 

火炎球の合間を縫い、ブレスを最小限の動きだけで躱し、俺は黒竜の頭上に瞬間的に現れる。

 

「伏せろ!」

 

バゴォォン!と俺の渾身の一撃は黒竜の脳天を捉え、そのまま威力に従って地面へ落下していく。

 

「グルゥァァァ!!」

 

苦悶の声が響き、土煙を巻きながら轟音を立てて地面に落下した黒竜に、すぐさま俺は式を練った。

 

「破道の六十三、雷吼炮!!」

 

雷を帯びたエネルギー弾が真っ直ぐに黒竜向かって落ち、直撃する。再び土煙を巻き上げたため黒竜の姿は見て取れないが、静かなことから撃沈したのかもしれない。

 

「グゥガァァァァ!!」

 

いや、それは早計だった。沈黙したことに油断を誘って、再び空へ飛び立つのを待っていたのだ。土煙を突き破って飛来した黒竜の開かれた顎門が俺に襲いかかる。

 

「ぐぅあ!」

 

突き立てられた牙が腕に刺さる。そのままの勢いを以て噛み殺さんとする顎門をひたすら纏雷で活性化された筋力で耐えた。

 

「そんなに欲しけりゃくれてやるよ!!」

 

纏雷の出力を上げ、片手と足だけで顎門を抑え込むと式を練る。

 

「破道の七十三、双蓮蒼火墜!!」

 

直後、黒竜の口元で大爆発が起きた。俺が放った蒼き爆炎が口内に直撃して爆風を起こしたのだ。俺はその勢いで地面に吐き出され、黒竜の口からは黒煙が立ち込めている。

 

「グゥゥアァン!」

 

火傷でもしたのだろうか、グワングワンと首を振って痛みを消しているような仕草だ。俺はそのうちに再び黒竜へと接近する。

 

「オラァ!!」

 

ドゴォン!と轟音を発しながら俺は黒竜の腹部を殴りつけた。その衝撃で黒竜の体が地面と垂直になる。さらに今度は黒竜の背中に移動した。

 

「雷鎚!!」

 

飛び上がってくる黒竜の背中へ、打ち返すように纏雷を拳に纏って殴りつける俺の攻撃に、体が逆くの字になりかけて、まるでピンボールのように弾かれ地面に落下する。しかし正確には叩きつけられた、という表現が正しいだろう。その威力を示すように地面は陥没して、辺りに亀裂が走っている。

 

「滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器、湧きあがり、否定し、痺れ・瞬き 眠りを妨げる。爬行する鉄の王女、絶えず自壊する泥の人形、結合せよ、反発せよ、地に満ち己の無力を知れ!........破道の九十、黒棺!!!」

 

早口の詠唱により短時間で構成されたその式は、たちまち黒き長方形の壁を作って黒竜を取り囲んでいく。

 

「グゥルガァァァァ!!」

 

再び咆哮で消し去ろうとするも、一度構成されたこの式は余程の威力でないと解除されない。さらに、俺の練度もあの時より数段上がっている。たとえ黒竜のブレスが来ても今ならば余裕で耐えることだろう。

 

悪あがきをしている黒竜は、なすすべもなく重圧の棺桶へ閉じこめられた。

 

「グゥゥアァン!」

 

やがて自らの身に起きている異変を感じたのだろう、黒竜が苦悶の声をあげ始める。バギィ!ドギャッ!ベギャッ!と重力に潰されていく音が聞こえる。非常に生々しい音に、中で起こっていることを知ったら生徒達は吐くに違いない。

 

空中から滝の方へと着地した俺にハジメ達が向かってきた。

 

「相変わずえげつねぇな.......重力で圧死.......だったか?」

「私でも.......できない」

「私は初めて見ます........」

 

シアは何故か青ざめてプルプル震えている。きっとハジメが中で起こることを説明したんだろう。まぁ誰しも、重力に押しつぶされて死んでいくなんてそんな痛い事、想像したくないわな。そうやっていると、遅れて先生達がやってきた。

 

「す、すげぇよ刀崎!あんなにおっかない黒竜をやっちまうなんて!」

「やったかどうか、最後までわかんねぇよ。魔物ってのは異常にしぶといからな。それに奈落の魔物に匹敵する強さだよ、あれは。さながら黒棺はシュレディンガーの猫みたいなもんさ」

「重力に押しつぶされて死んでいるか、生きているか。それは50%..........か。なかなか上手い例えだな」

 

玉井に対してそういうと、ハジメは説明の補足をする。ただ、ハジメの言葉に聴き逃してはならない言葉があったのか、その意味を知ってシア同様に青ざめる生徒達。愛子先生はウィルに手を貸していたため、何の話をしているのか掴めていない様子だった。

 

「京、もうすぐ」

「ああ、そんなもんか」

 

ユエの言葉に、全員が黒い長方形の立方体を注視する。それは上からゆっくりと消滅していく。やがて全ての壁が消滅したそこに、確かに黒竜はいた。

 

「クルゥ、グワッン!」

 

全身の至る所から血を吹き出し、翼は経し曲がりながら、今にも泣きそうな声で叫ぶ。大量の血が滴り落ちている地面は、まるで血の池の様。

 

「そう言えば、京。〝竜の尻を蹴り飛ばす〟って、あったよな.....?」

「え?あぁ..........そういう事か」

 

ニヤリと意地の悪い顔をしたハジメに、全員が頭にハテナを浮かべる中、俺は意図を察してニヤリと笑い返した。ハジメが竜へ向かって親指で首を掻き切るような仕草をする。

 

俺はそれを見て天高く跳躍した。

 

「ハジメ.....まさか.........」

「ハジメさん..........?」

「お、お前ら。気がついたか?」

 

ハジメが京に指示した内容にようやく気がついたのか、ユエとシアの顔が引き攣った。生徒達は未だに不思議そうな顔をしているが、依然、ハジメだけがニヤリと笑っている。

 

「お前ら、この世界には〝竜の尻を蹴り飛ばす〟ってことわざがあってな?」

「ああ、聞いたことがありますよ。竜はおしりが弱点で、それを実行して叩き潰された人が居たんですよね。..........まさか」

 

ようやく気がついた愛子先生が、思わず表情を固まらせた。そのうちに今度はシアが黒竜の頭上に現れる。

 

自由落下と、ショットシェルの激発の反動を利用して隕石のごとく黒竜へと落下した。シアの、大上段に振りかぶった超重量のドリュッケンが、さらに魔力を注がれて重量を爆発的に増加させる。

 

「そぉいや!ですぅ!!!」

 

そして、狙い違わず黒竜の脳天に轟音を立てながら直撃した。

黒竜は、頭部を地面にめり込ませ、突進の勢いそのままに半ば倒立でもするように下半身を浮き上がらせ逆さまになる。

 

「あぁ、そのまさかだ」

 

シアが逆さまにさせたそこに俺が突っ込んだ。狙うのは尻尾の付け根である。シアのタイミングを見て自由落下と、逆さまにした空力の足場を纏雷で強化した足で蹴り、雷のような速度で突っ込みながら拳を振り上げ狙いを定めた。

 

「雷鎚!!!」

 

直後、振りきった拳により少しズレたが、拳は迷わず鱗がまとわれていない肉の部分に突き刺さった。と、その瞬間だった。

 

〝アッーーーーーなのじゃああああーーーーー!!!〟

 

えっ?今、喋って............

 

〝お尻がぁ~、妾のお尻がぁ~〟

 

黒竜の悲しげで、切なげで、それでいて何処か興奮したような声音に全員が「一体何事!?」と度肝を抜かれ、黒竜を凝視したまま硬直する。

 

「キェェェアァァァァァ!!シャァベッタァァァァァァァ!!!」

 

俺は思わずそんな声を上げてしまう。地響きを立てて地面に倒れる竜を背景に、俺は固まったまま着地したのだった。

 

 

 

 

 

 

俺たちが取り囲む中、そこには一人の女性がいた。

 

「うぅ........酷い目にあったのじゃ........」

 

座り込んだまま尻を擦りながら涙目でうっとりしているその女性。

 

この女、先程の黒竜である。黒き魔力が晴れたその場には、両足を揃えて崩れ落ち、片手で体を支えながら、もう片手でお尻を押さえて、うっとりと頬を染める黒髪金眼の美女がいた。腰まである長く艶やかなストレートの黒髪が薄らと紅く染まった頬に張り付き、ハァハァと荒い息を吐いて恍惚の表情を浮かべている。

 

見た目は二十代前半くらいで、身長は百七十センチ近くあるだろう。見事なプロポーションを誇っており、息をする度に揺れるそれはデカい。何がとは言わないがデカい。

 

「ハァハァ、うむぅ、助かったのじゃ......まだお尻に痛みがあるが......それより全身もあちこち痛いのじゃ........ハァハ..........痛みというものがここまで甘美なものとは........」

 

何やら危ない表情をしているその女性に、思春期真っ盛りの男共はヨツンヴァイン気味である。女子達の視線が痛いこと、痛いこと。俺はさすがにドMなんぞ要らなくてですね.......。

 

「面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」

 

気を取り直し、正座してそう述べた女性は、和式の挨拶のように両手を揃えて礼をする。ハジメは訝しげな表情をするが、ユエが補足した。

 

「さっきのは.........竜化。間違いなく、竜人族」

「いや、それは分かってんだけどな。こいつどうするかなって」

 

事情を聞いた上で、処遇を悩んでいたらしい。どうやらこの女性、竜化して丸一日眠っている間に謎のローブの男に洗脳されたらしい。女性曰くそのローブの男の闇系統の魔法は天才的だったらしく、抗えなかったとか。

 

その後、洗脳をされたまま魔物の洗脳を手伝わされていた時、ローブの男にウィルを殺してくるように命令されて、今ここに至ると。

 

「操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ.........勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか」

 

ティオがそう言うと、今度はウィルが前に出てくる。

 

「殺しましょう........」

「ほう?何でだ?」

「この人が殺したことに変わりはありません........ どうしようもなかったってわかってはいますけど.......それでもっ!ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって........彼らの無念はどうすれば........」

 

ウィルはグッと拳を握りながらティオを睨みつける。そしてそれを見たハジメはドンナーを静かに構えた。

 

「確かにこちらとしてもお前の都合なんざ知ったことじゃねーし。死ね」

「待つのじゃー!お、お主、今の話の流れで問答無用に止めを刺すとかないじゃろ!頼む!詫びなら必ずする!事が終われば好きにしてくれて構わん!だから、今しばらくの猶予を!後生じゃ!」

「知らん、死ね」

 

問答無用でドンナーの引き金を引いたハジメ。ドパン!と音が響くも、その弾丸がティオに着弾することは無かった。ティオはグッと目をつぶっていたのを僅かに見開く。

 

「やめとけ、馬鹿が」

「京?何やって........」

「色々言いたいことがあるが、まずはハジメからだ。お前のスタンスは敵を殺すこと、だよな?操られていたこいつに敵意はあったか?今ここにいるこいつは敵意があったか?ないよな?」

「だがお前と殺し合いをしたのは事実だろ?」

「意志を奪われ、無理やり戦わされていたやつを殺すなんざそれは外道の極みだ。確かにさっき俺はこいつと殺し合いをしたが、事情がわかった今、こいつを殺すなんてことはしない」

 

続けて俺はハジメへ言う。

 

「敵は殺す。しかし敵じゃないやつは違うだろ?スタンスを妥協してまで殺す必要があるか?こいつを殺すことは、ルールに反してるんじゃないのか?」

「...........」

「俺は基本的にお前に従うが、敵意がないやつを殺すことは許さん。分かってるだろ?」

 

ハジメはそう言うと、押し黙った。今度はウィルの方に歩み寄り、胸ぐらを掴む。

 

「お前が本当に怒る矛先はこいつか?もしその私情を振りかざすならそれはローブの男にだろ?こいつを殺すのはお門違いってもんだ」

「っ!ですが!!」

「もしこいつが許せないなら殺せばいい。ただし俺に勝てるならな?」

 

睨みつけるとウィルは黙った。適当に投げ捨てて最後にティオを見下ろす。

 

「わかってると思うが、お前が全部悪い、なんてことはない。だが俺はお前を殺さない。ハジメに関しても、ユエやシアに関しても、この場の誰にもお前を殺させたりはしない」

 

そう言って再び俺は振り返った。すると、ユエが頷く。

 

「京が、正しい」

「ユエ......?」

「......自分に課した大切なルールに妥協すれば、人はそれだけ壊れていく。黒竜を殺すことは本当にルールに反しない?」

 

ユエも、ハジメが壊れていくのを危惧したのだろう。敵意を無視して相手を殺す無惨な殺人鬼になれば、それは狂人よろしく壊れているのと同義だ。そんな者にはなって欲しくないと思ったのだろう。

 

「まぁそんなわけで、異論があるなら俺に言え。でも、こいつを殺すに値する異論があるならな。わかってると思うが、感情論なんぞ一切聞き受けんぞ。以上!この話は終わり!」

 

再びそこに静寂が流れる。その雰囲気に流されていたティオが、ハッとしたように口をだす。

 

「そ、そうじゃ。件のその黒いローブの男が、洗脳させて魔物の大群を作り出し街を襲う気なのじゃ!妾がいた時は、既に三、四千程の群れだった!」

「何......?」

 

ハジメは辺りを見ていた無人偵察機を操作してさらに周囲を捜索する。時間にして約数分の出来事。どんどん景色が変わる中、無人偵察機の一機がその大軍を見つけた。

 

「こりゃあ、三、四千ってレベルじゃないぞ? 桁が一つ追加されるレベルだ」

 

ハジメの報告に全員が目を見開く。しかも、どうやら既に進軍を開始しているようだ。方角は間違いなくウルの町がある方向。

 

「このままだと半日か一日そこらで街にたどり着くぞ」

「あの.......ハジメ殿達なら何とかできるのでは」

 

その言葉で、全員が一斉に俺達の方を見る。その瞳は、もしかしたらという期待の色に染まっていた。しかしハジメは、それらの視線を鬱陶しそうに手で振り払う素振りを見せると、投げやり気味に返答する。

 

「そんな目で見るなよ。俺の仕事は、ウィルをフューレンまで連れて行く事なんだ。保護対象連れて戦争なんてしてられるか。いいからお前等も、さっさと町に戻って報告しとけって」

 

ハジメのやる気なさげな態度に反感を覚えたような表情をする生徒達やウィル。そんな中、思いつめたような表情の先生がハジメに問い掛けた。

 

「南雲君、黒いローブの男というのは見つかりませんか?」

「ん? いや、さっきから群れをチェックしているんだが、それらしき人影はないな」

 

先生は、ハジメの言葉に、また俯いてしまう。そして、ポツリと、ここに残って黒いローブの男が現在の行方不明の清水幸利なのかどうかを確かめたいと言い出した。

 

「残りたいなら勝手にしろ。俺達はウィルを連れて町に戻るから」

 

そう言って、ウィルの肩口を掴み引きずるように下山し始めた。それに慌てて異議を唱えるウィルや愛子達。曰く、このまま大群を放置するのか、黒ローブの正体を確かめたい、ハジメ達なら大群も倒せるのではないか.......と。

 

ハジメが、溜息を吐き若干苛立たしげに先生達へ振り返った。

 

「さっきも言ったが、俺達の仕事はウィルの保護だ。保護対象連れて、大群と戦争なんかやってられない。仮に殺るとしても、こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない。真っ平御免被るよ。それに、仮に大群と戦う、あるいは黒ローブの正体を確かめるって事をするとして、じゃあ誰が町に報告するんだ? 万一、俺達が全滅した場合、町は大群の不意打ちを食らうことになるんだぞ? ちなみに、魔力駆動二輪は俺と京じゃないと動かせない構造だから、俺達に戦わせて他の奴等が先に戻るとか無理だからな?」

 

理路整然と自分達の要求が、如何に無意味で無謀かを突きつけられて何も言えなくなる先生達。

 

「まぁ確かに、彼の言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何もできん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ。妾も一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの」

 

押し黙った一同へ、後押しするようにティオが言葉を投げかける。先生もようやく諦めたのか、それに賛同して共に下山することにした。

 

「ていうか、お前、どうすんの?」

「妾は魔力が枯渇して動けん......。誰かが妾を持って降りてくれんかの...........特にごしゅ.........ゴホン。君が」

 

チラチラとその視線を俺へ向けてくるティオ。クラスメイトの男達が火花を散らしていたが女子達に却下され、ハジメは「勝手にしろ」とハンドサインで送ってきたため関与する気がないらしく、結局、俺しか手の空いてるやつが居なかった。一瞬、引き摺ってやろうかとも考えたが、よくよく見ると瀕死である。

 

「んひゃっ!?」

 

仕方なく俺は持ち上げることにした。身長の割に軽い。これなら問題ないだろう。女子達がキャーキャー言っているのがうるさい。

 

「ところで、何か言ったか?」

「な、何も言ってないのじゃ...........」

 

俺は顔を逸らすティオを後目にハジメたちの後をついて行った。

 

「こ、これはこれで悪くないかもしれん............」

 

最後、小さくそういったティオの言葉は、京には聞こえていない。




次回もお楽しみに。感想もお待ちしております。


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豊穣の女神、AIKO

帰りは魔力駆動四輪が爆速でウルの町へ。途中、護衛隊のヤツらをハジメが引きそうになったり、天井に磔にしたティオが揺れで響く傷の痛みにハァハァしていたがまぁそれは置いといて。

 

ウルの町へ着いた途端、先生達がチーターも舌を巻きそうな速度で町長の元へ走っていった。そこにウィルも行ってしまったため、追いかけねばならなくなった。

 

「で。お前そろそろ歩けるだろ」

「そうなんじゃが.........その、居心地が良くての?」

 

もう少ししてくれと言わんばかりの視線に、俺はティオを雑に地面へ投げ捨てた。

 

「あひん!........い、いきなり投げ捨てるとは........ハァハァ」

「大体、公衆の面前であんな抱き方してる方が恥ずかしいんだよ。後、気持ち悪いからそんなことしないでくれ」

「んっ..........さらに追い討ちの口撃..........」

 

もう面倒だ、と俺はティオを無視してハジメの後に続いた。本気で放置するとは思ってなかったようで後から慌てて追いかけてきたが。

 

俺達がようやく街の役場に到着した頃、その場は既に騒然としていた。ウルの町のギルド支部長や町の幹部、教会の司祭達が集まっており、喧々囂々たる有様である。皆一様に、信じられない、信じたくないといった様相で、その原因たる情報をもたらした愛子達やウィルに掴みかからんばかりの勢いで問い詰めている。

 

俺は面倒なのでハジメに任せて外に出た。

 

「お前は着いてこなくていい」

「ちょ、妾1人でそんな........」

 

バタン

 

最後に蹴りを入れて俺は扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

時間にして、十数分。中で何を話していたのか、俺にはわかりかねる。だが、静かに扉が開いて、ハジメ達が出てきた。

 

「行くのか?」

「あぁ........()()()()()()

 

ハジメなら関係なしにウィルを数十秒で引っ張り出してくるだろう。こんだけかかったってことは、恐らく先生がハジメを説得したという事だ。あの人には誰であっても勝てないからな。

 

それに、ハジメの目付きが少し変わった。恐らく先生に諭されて心境の変化というものがあったのだろう。俺はフッと笑って後に続く。

 

「で、どうするんで?」

「少し用意するからな。それまでは自由にしてていいぞ」

 

「そうだ......」と付け加えて、俺の方を向いてくる。

 

「久しぶりにお前を過労させてやるよ」

「ハッ、そういう事ね」

 

ニヤリと笑ったそれを一瞬で理解して、俺は笑い返した。

 

「わ、妾.......重要参考人なのに.......ハァハァ」

 

このド変態だけは無視だ、無視。

 

 

 

ウルの町。北に山脈地帯、西にウルディア湖を持つ資源豊富なこの町は、現在、つい昨夜までは存在しなかった〝外壁〟に囲まれて、異様な雰囲気に包まれていた。

 

この〝外壁〟はハジメが即行で作ったものだ。魔力駆動二輪で、整地ではなく〝外壁〟を錬成しながら町の外周を走行して作成したのである。

 

もっとも、壁の高さは、ハジメの錬成範囲が半径四メートル位で限界なので、それほど高くはない。大型の魔物なら、よじ登ることは容易だろう。一応、万一に備えてないよりはマシだろう程度の気持ちで作成したので問題はない。そもそも、壁に取り付かせるつもりなどハジメにはないのだから。

 

「おー、改めて見ると案外低いな」

「うるせ。どうせ保険なんだからいいんだよ」

「名付けるなら.......ウォール・ウル?」

「やめとけ、全部言うのはアカン」

 

豊穣の女神とか呼ばれているらしい愛子先生が指導して、ウルの町の住人が避難組と居残り組に別れ、現在は居残り組だけになったウルの町。人数が少ないというのにいつも以上に活気溢れるその町を背景に俺は壁に座り込んで空間把握を使っていた。

 

映り込んでくる景色には馬鹿ほどの魔物の大軍。これを殲滅しろというのだから、苦笑い極みない。

 

「言っとくがティオ、付いてくんなよ?」

「な、なぜじゃ!?妾も前線で........ハッ!?まさか妾は役立たずと罵られて........んっ!」

「次言ってみろ、切るぞ?」

 

ハァハァしているがティオにため息をついて、俺は再び外へと意識を向けた。

 

「お前、まだロクに動けないだろ」

「っ!」

 

俺の言葉に、ティオの表情が固まった。どうやら事実らしい。

 

「その取り繕う仕草........いやまぁ本気なんだろうが。無理してんのは丸わかりだよ」

「........バレておったか」

「そこまで分かりやすかったら誰でもわかるわ。..........まぁ、なんだ。そんな状態で戦って死なれでもしたら目覚めが悪いから、だからお前はここにいろ」

「........あいわかった」

 

それ以来ら沈黙が辺りを支配する。..........ハジメ達の視線を除いて。

 

「で、何か言いたそうだな?お前ら。ん?」

「ナ、ナンニモナイヨー。ナニモオモッテナイヨー」

「.........ナンデモナイ」

「........デスゥ」

 

これから戦争じみた 戦いをするのに何とも呑気なものだ。まぁそれが俺達のいいところなのかもしれないが。

 

「南雲君、刀崎君、準備はどうですか?何か、必要なものはありますか?」

「いや、問題ねぇよ、先生」

 

そこへ愛子先生と、この前、シアを罵った男、名をデビットという騎士がこちらへやってきた。デビットカードみたいな名前をしていることに最初は笑いが止まらなかった。

 

「おい、貴様。愛子が…自分の恩師が声をかけているというのに何だその態度は。本来なら、貴様の持つアーティファクト類の事や、大群を撃退する方法についても詳細を聞かねばならんところを見逃してやっているのは、愛子が頼み込んできたからだぞ?少しは........」

「デビッドさん。少し静かにしていてもらえますか?」

「うっ........承知した.........」

 

しかし、愛子に〝黙れ〟と言われるとシュンとした様子で口を閉じる。その姿は、まるで忠犬だ。亜人族でもないのに、犬耳と犬尻尾が幻視できる。今は、飼い主に怒られてシュンと垂れ下がっているようだ。

 

「南雲君。黒ローブの男のことですが.......」

 

どうやら、それが本題のようだ。先生の言葉に苦悩がにじみ出ている。

 

「正体を確かめたいんだろ?見つけても、殺さないでくれってか?」

「........はい。どうしても確かめなければなりません。その.......南雲君達には、無茶なことばかりを.......」

「取り敢えず、連れて来てやる」

「え?」

「黒ローブを先生のもとへ。先生は先生の思う通りに.......俺も、そうする」

「南雲君.......ありがとうございます」

 

そして何故か今度は遠い目をしていると思っている俺の元へ先生が来た。

 

「ふふ、なんだかんだ言って刀崎君も優しいですね」

「いや別に、俺はハジメに従うだけですから」

「ティオさんの事もですよ」

「...........」

 

やはりこんな状況だから、先生との言葉のキャッチボールはやりにくい。せめて恥ずかしいことは言わないで欲しいものだ。すると一瞬、先生の表情が曇る。

 

「その、作戦を聞かされましたが...........気をつけて。絶対、無事に帰ってください!南雲君もですよ!」

「「ああ(分かってますよ)」」

 

俺達の安全を一番願っているのは、愛子先生だろう。もはや母親みたいな感覚になりつつあるのだが、あくまで本人は教師として、だ。裏で豊穣の女神以外に『愛子ママ』とか言われそうな勢いだ。

 

「ごしゅ........コホン。主、ちょっと良いかの?」

「なんだ?無駄に喋ると回復する物もしないぞ?」

「その.......じゃな?お主は、この戦いが終わったらウィル坊を送り届けて、また旅に出るのじゃろ?」

「だろうな」

「うむ、頼みというのはそれでな........妾も...............」

「あ、来たぞ」

 

ハジメに言葉を遮られ、少しだけ顔をしかめるティオ。どうやらハァハァはしないらしい。そんなティオを尻目に俺の空間把握にも捉えられた。

 

空を飛ぶプテラノドンもどきの中に、一際大きな存在がいる。その背中に乗っているそいつは........明らかに清水幸利だった。愛子先生もハジメにそれを見せられて信じたくないという風だった。

 

「予定よりかなり早いが、到達まで三十分ってところだ。数は五万強。複数の魔物の混成だ」

 

魔物の数を聞き、更に増加していることに顔を青ざめさせる先生達。不安そうに顔を見合わせる彼女達に、ハジメは肩越しに不敵な笑みを見せた。

 

護衛騎士達が「ハジメに任せていいのか」「今からでもやはり避難すべきだ」という言葉に応対しながら、町中に知らせを運ぶべく駆け戻っていった。生徒達も、一度ハジメを複雑そうな目で見ると愛子を追いかけて走っていく。残ったのは、ハジメ達以外には、ウィルとティオだけだ。

 

ウィルは、ティオに何かを語りかけると、ハジメに頭を下げて愛子達を追いかけていった。すると、彼女が俺の近くに寄ってくる。

 

「なんだ?」

「今回の出来事を妾が力を尽くして見事乗り切ったのなら、冒険者達の事、少なくともウィル坊は許すという話じゃ。........そういうわけでやはり助太刀させてもらうからの。何、魔力なら大分回復しておるし竜化せんでも妾の炎と風は中々のものじゃ。動かんでも良いからの」

「........はぁ。ハジメ、あれをくれ」

 

ハジメは無言で魔晶石の指輪を投げてよこした。俺はそれを受け取ってティオに渡す。疑問顔のティオだったが、それが神結晶を加工した魔力タンクと理解すると大きく目を見開いた。

 

「後で絶対返せよ」

「俺はここからいなくなるから知らんぞ」

 

竜人族は、教会などから半端者と呼ばれるように、亜人族に分類されながらも、魔物と同様に魔力を直接操ることができる。その為、天才であるユエのように全属性無詠唱無魔法陣というわけにはいかないが、適性のある属性に関しては、ユエと同様に無詠唱で行使できるらしい。竜人族が武闘派だったというテンプレはどこへ行ったのやら。

 

「戦前にプロポーズとは........妾はまだ何も言っておらんのじゃが.............。しかしじゃ、妾の答えはもちろん...........」

「やめろ。答えなんぞいらないしプロポーズでも何でもないから。あとちょっと静かにしてろ変態」

「んんっ!」

 

ハァハァさせないようにしていたのだが、やってしまった。まぁ、もう後の祭りな訳だが。

 

ハジメは前に出て錬成で、地面を盛り上げながら即席の演説台を作成する。

 

突然、壁の外で土台の上に登り、迫り来る魔物に背を向けて自分達を睥睨する白髪眼帯の少年に困惑したような視線が集まっていく。

 

ハジメは、全員の視線が自分に集またことを確認すると、すぅと息を吸い天まで届けと言わんばかりに声を張り上げた。

 

「聞け!ウルの町の勇敢なる者達よ!、私達の勝利は既に確定している!」

 

いきなり何を言い出すのだと、隣り合う者同士で顔を見合わせる住人達。ハジメは、彼等の混乱を尻目に言葉を続ける。

 

「なぜなら、私達には女神が付いているからだ! そう、皆も知っている〝豊穣の女神〟愛子様だ!」

 

その言葉に、皆が口々に愛子様?、豊穣の女神様?とざわつき始めた。護衛騎士達を従えて後方で人々の誘導を手伝っていた愛子がギョッとしたようにハジメを見た。

 

「我らの傍に愛子様がいる限り、敗北はありえない!愛子様こそ!我ら人類の味方にして〝豊穣〟と〝勝利〟をもたらす、天が遣わした現人神である!私達は、愛子様の剣にして盾、彼女の皆を守りたいという思いに応えやって来た!見よ!これが、愛子様により教え導かれた私の力である!」

 

ハジメはそう言うと、虚空にシュラーゲンを取り出し、銃身からアンカーを地面に打ち込んで固定した。そして膝立ちになって構えると、町の人々が注目する中、些か先行しているプテラノドンモドキの魔物に照準を合わせ、引き金を引いた。

 

紅いスパークを放っていたシュラーゲンから、極大の閃光が撃ち手の殺意と共に一瞬で空を駆け抜け、数キロ離れたプテラノドンモドキの一体を木っ端微塵に撃ち砕き、余波だけで周囲の数体の翼を粉砕して地へと堕とした。

 

ハジメは、そのまま第二射三射と発砲を続け、空の魔物を駆逐していく。そして、わざと狙いを外して、慌てたように後方に下がろうとしている比較的巨大なプテラノドンモドキを、その上に乗っている黒ローブごと余波で吹き飛ばした。黒ローブは宙に吹き飛ばされて、ジタバタしながら落ちていった。こちらとしては手間が省けて非常に楽だ。

 

魔物をどうにかするまで、黒ローブに先生を引き合わせる暇はないので、取り敢えず一番早い逃げ足を奪っておこうという腹だ。撃ち落としたと聞いたら先生が怒りそうだが、流石に、ハジメにも怪我をしないように気を遣うつもりなど毛頭ないらしい。

 

ちなみにこの演説、俺も披露に参加することになっているらしく、予め詠唱を終わらせておいた破道を小さく呟く。

 

「.........破道の九十一、千手皎天汰炮」

 

俺の背後から三角形の長細めの矢が、撃ち漏らした飛行型の魔物に向かって放た。次々に魔物が落下していき、更には下の魔物にもいくつかあたる。

 

空の魔物を駆逐し終わった事を確認したハジメは、悠然と振り返った。そこには、唖然として口を開きっぱなしにしている人々の姿があった。

 

「愛子様、万歳!」

 

ハジメが、最後の締めに愛子を讃える言葉を張り上げた。すると、次の瞬間...........

 

「「「「「「愛子様、万歳!愛子様、万歳!愛子様、万歳!愛子様、万歳!」」」」」」

「「「「「「女神様、万歳!女神様、万歳! 女神様、万歳!女神様、万歳!」」」」」」

 

ウルの町に、今までの様な二つ名としてではない、本当の女神が誕生した。どうやら、不安や恐怖も吹き飛んだようで、町の人々は皆一様に、希望に目を輝かせ愛子を女神として讃える雄叫びを上げた。遠くで、先生が顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。その瞳は真っ直ぐにハジメに向けられており、小さな口が「ど・う・い・う・こ・と・で・す・か!」と動いている。

 

「そんじゃま、お先に失礼」

 

俺は纏雷を纏って空を駆けていく。空の魔物は駆逐しているので空を悠々と進むのに障害はいらない。ちなみに先程の茶番、色々と狙いがあるらしいがどうでもいいので聞き流していた。

 

時間にして一分ほど。ちょうど魔物と城壁の中間くらいで、俺は悠々と着地した。

 

「貪り喰らえ『天変飢餓』」

 

向かってくる魔物達を見据え、俺は天変飢餓を始解させた。鋼の刀身は漆黒に染まり、中央に紅い線が走った。だが、一体、一体を切り殺すなんて面倒なことはやっていられない。故に──

 

「──卍解」

 

その場に、ドン!と見えない重圧が発生した。




次回もお楽しみに。感想もお待ちしております。


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清水脱落

はい、タイトルから分かること第二弾。つまりそういう事です。
巷では彼を救う小説もあるそうですが、私には彼を救うことが出来ませんでした...........。

変わりにティオの話入れたんで許してください。えっ?それとこれとは違うだろ、って?

気のせいですよ、マイブラザー。


ティオ・クラルスは見惚れていた、現在、魔物の大軍とハジメが作った城壁の中間地点にいる少年に。理由は、言わずもがな。自分の体を圧死させんとばかりに迫っているこの見えない重圧。

 

「うわわ!?な、なんですか!?」

「そう言えば、お前らは初めてだったな、あいつの『本気』は」

 

慣れた様子でハジメはそう言い、ユエは一切表情を変えない。シアはあまりの重圧に尻もちをついてしまった。

 

「な、なんでハジメさん達は平気なんですかぁ!」

「んー?」

 

そう言うと、二人は尾を見合わせた。

 

「「慣れ?」」

「慣れるもんじゃないですよ、これぇ!」

 

以前のシアならば、泡を吹いて倒れていたことだろう。その重圧には、空気が鳴動し、大地が振動する。形容など出来ない、不可視の先制攻撃とでも言うべきか。

 

その重圧に、進軍していた魔物達、全ての足が止まった。個体によっては、後ずさりするような魔物もいる。それほどの力を誇る京を見てハジメは口を開いた。

 

「俺が化け物なんて言うなら、あいつは魔神だよ、ほんと。普通にやっても京は俺より強ぇし、多分、俺達が本気で纏めてかかっても勝てるかどうか、ってところだ」

「そ、そんなに京さんってば強いんですか........」

「ん、強い」

 

ふんす、とユエはない胸を張って誇らしげにしている。ハジメはシアに苦笑いしながらさらに述べた。

 

「ステータスにしてもあいつの方が格段に上だし、勝ってる所なんて、技能の多さと知識くらいだ。.........だから、あいつだけは敵に回したくねぇんだよ。まぁそんなことは万一にもないだろうが」

 

シアは「ほぇ〜」と感心しながら立ち上がった。もうその重圧には慣れたのだろう。しかし、ティオにしてみれば驚くことばかりだ。

 

先日、自分と戦った時のあれは、まだ本気ではなかったというのだ。

 

元々、ティオは里で一、二を争うほどの実力者だったため、競う者が居なかった。有頂天になっていた、などといえば嘘になるが、それでも腕には確かに自信があったのだ。

 

しかし、里を出て初めてその自信をポッキリと折られたのが、今、最前線にいる彼。

 

しかも、その敗北した相手の力は、本気でなかったという。こちらも洗脳されていたとはいえ、かなり本気の度合いで戦ったと言うのに。そんな彼が、本気で戦おうとしている。いったどんな力を持っているのだろう、一体、どれほどの強さを誇るのだろう。

 

脳内で想像することでは、きっとその強さは計り知れない。故に、見惚れてしまった。初めて負かされた彼に。色々と自分に新しい扉をこじ開けてしまった彼に。まだ見ぬ京の本気に、色々とキュンキュンしているのは内緒の話。

 

(.......ダ、.ダメじゃ。そんな姿を見せられたら............)

 

彼女は、自分より強い者を伴侶にしようと決めていた。実力が拮抗しても、自分に勝ったのならその者を伴侶に認めようと。

 

(あぁ.........()()()()()................)

 

その姿を見て、胸が高鳴ってしまう。動悸が早まってしまう。身体中が逆上せたように熱い。もう彼しか見えなくなる。自然と彼を見るその表情が、にヘラとだらしなく緩んでしまう。

 

圧倒的などという言葉では言い表せないほどの力。この瞬間、ティオの心は瓦解した。自身が想像していた以上の化け物。神にも等しい、その力。惚れた。言い方はおかしいが、完全に一目惚れなのだ。要は、ティオが刀崎 京という男に堕ちた、という事。

 

「おいコラ変態。なに発情してんだ」

「........ハッ!?」

 

ハジメの言葉により、我に帰るティオ。グワングワンと頭を振って気を確かに持つ。

 

「せめた公と私は分けてくれ、特に今はな」

「わ、分かっておる!よし!やるのじゃー!」

 

明らかな動揺にハジメは溜息をつき、シアは苦笑いしている。ユエは無言でティオを見つめ、再び視線を戻した。

 

(絶対に、ついて行くのじゃ!)

 

先程、ハジメに遮られて言えなかった言葉を絶対に言うため、恋する乙女は張り切る。アドレナリンが全開で出ており、動かない体などどこ吹く風であった。

 

 

 

 

 

 

京を中心にして取り囲んだ乱気流が晴れた。

 

「卍解『神喰獣(かみくらいのマモノ)』」

 

ハジメ達のいた所が『重圧』と言うならば、京がいるこの場は『暴圧』とでも言うべきだろう。遠くなるほどに威力が弱くなっていくその法則は、もちろん圧にも適応される。

 

その場には、物理的に押し潰されたと錯覚するほど強い精神的圧がかけられていた。なればこそ、ハジメ達が魔物の大軍の足が止まったように見えたそれは、京の『暴圧』を受けて、前線の魔物達が立ったまま気絶してしまったのだ。

 

「お、おい!?どぉして動かないんだ!!なぁ、おい!おいってば!なんとか返事しろよォ!!」

 

その気絶した魔物に後ろの方で叫んでいるのは、今回の騒動の犯人である清水幸利。本当ならば飛んで清水のところまで行きたいが、殲滅も兼ねている。

 

俺が動こうとした瞬間、左右数メートル離れたところの魔物が爆発やら魔法やらで吹き飛んだ。

 

「な、なんなんだぁ!?」

 

清水が驚愕の声を上げる。もちろん、それを放ったのはハジメのアーティファクト達。今はシアやユエ達に担がれて快活にその砲塔を轟かせていた。遅れて直撃するのは、またも魔法。恐らくティオが放ったものだろう。

 

そろそろ俺も動かねば。卍解してたのに知らぬ間に殲滅されたなんて笑えない話だ。

 

「黒刑・貪食飢餓地獄」

 

虚空へ振るった刀が通り過ぎれば、無数の飢餓の手が現れる。その手達は、空中を浮遊しながら魔物達へと襲いかかった。

 

前線にいた魔物達は、飢餓の手に触れる度、為す術も無くズプリと飲み込まれていく。十体ほど喰らえば、その手は肥大化していたのを分散させるように増える。魔物の数、現在四万程にして、飢餓の手は百。

 

だが次々に襲い掛かる魔物はまるで坊掃除機の如き速さで飢餓の手に飲み込まれては、満たされぬ飢えの糧となっていく。

 

喰らい続けること数分、ハジメ達の援護もあり、その数は三万二千程にして、飢餓の手は五百を超えた。俺は清水幸利まで続く道を悠然と歩いて行く。

 

「よう、久しぶり」

「!!?!??!!?」

 

飢餓の手によって開かれた道を悠然と進み、ようやく辿り着いた。手始めに一瞬で杖のアーティファクトを砕いてやれば、尻餅をついた。

 

「だ、誰だよおまえぇ!!」

「いや、俺だよ清水。俺」

「お、俺の知り合いに、そんな赤髪なんて居ねぇ!!」

「いや俺だよ。刀崎。刀崎 京だよ」

「は........はぁ!?」

 

困惑したように俺を何度も見る清水。まぁ確かに、卍解の状態じゃあ顔だけだし、わからないのは仕方ないかもだが。

 

「あ、あの、南雲を助けに行った刀崎か!?」

「あぁ、その刀崎で間違いない」

「な、なんでこんなとこに!!お前は死んだはずだろぉぉ!?」

「いやー、勝手に殺さないでくれますかねぇ?こうして俺は生きてる訳ですし........」

 

そう言うと、清水は、自分の思い通りに行かない赤子のように暴れはじめた。

 

「どいつもこいつも、ふざけやがってぇ!!死んだはずのやつが強くなって帰ってくるなんて、そんなテンプレ要らねぇんだよォォお!!そんなテンプレがあるなら俺の方だろうがぁぁぁ!!」

「いや、知らんがな」

「ふざけんなよ!!本当なら天之河じゃなくて俺が勇者だったはずなのにぃぃぃ!!」

 

とても悔しそうに地面を叩きつける清水はちょっと哀れに見えてしまった。

 

「あー、うん。天之河が勇者なのは、うん。分かるぞ、その気持ち」

「う、うるさいうるさいうるさい!俺の気持ちなんて誰にもわかんねぇんだ!!強化フラグおっ立てて帰ってきたお前に俺の気持ちなんて分かるわけないだろうがぁぁぁぁ!!」

「えぇ.........」

 

そろそろ飢餓の手が他の魔物達を喰らい尽くしている頃だ。それにハジメ達が前線に上がってきている。愚痴を聞くのは少し疲れたので一瞬で背後に回って、手刀を落として気絶させた。

 

「お、もう終わっちまったか」

「ん、まぁな」

 

卍解を解除しながら担いでいた清水をポイッと投げ捨てる。ハジメはそのまま清水に義手から出したワイヤーを括り付けた。

 

「京、わかってるとは思うが.......」

「あぁ。()()()()()、な」

 

そのまま俺はハジメの後ろに乗ってウルの町まで戻った。

 

 

 

 

 

 

帰ってくると、何かやたらとティオの視線が熱かった。それはもう、溶けるほどに。もちろん、事情聴取は町外れで行っている。まぁ、全面的に俺は我関せずでいる訳だが。

 

「の、のう.........()()()()

「ん?何..........いや、ちょっと待て、なんだその呼び方は」

 

きょぬー竜人族の美人が俺の事を主人呼びしてくる件について(仮題)

 

売れそうに無いラノベのタイトルみたいな助けの求め方だわ。

 

「先程のご主人様の本気に、妾はときめいてしもうた。元々、妾より強い者しか伴侶にせぬと誓っておった身、ようやく見つけたのじゃよ」

「いや、普通に無理ですけど」

「くっ.......期待通りの返事..........と、とりあえずじゃ。妾もご主人様達の旅に同行させて欲し...........」

「いや、普通に無理ですけど」

「ハァハァ、な、ならば、妾の全てを捧げるのじゃ!身も、心も、髪の毛の一本まで、ご主人様に捧げるのじゃ!どうzy..........」

「いや、普通に無理ですけど」

 

両手を広げて唐突な奴隷宣言するティオをバッサリ切り捨てた俺に、彼女はわざとらしく地面に倒れ込んで、オイオイと泣くふりをする。

 

「うぅ.......酷い、酷いのじゃ。妾をこんな体にしたのはご主人様じゃろうに........責任をじゃな........」

「いや、知らんがな。あと勘違いされるようなこと言うな。ただ尻を殴っただけだろうが」

「あれは........中々に良かったのじゃ..........」

 

思い出すように恍惚とした表情を浮かべるティオ。

 

「里でも、妾は一、二を争うくらいでな、特に耐久力は群を抜いておった。じゃから、他者に組み伏せられることも、痛みらしい痛みを感じることも、今の今までなかったのじゃよ。それがじゃ、ご主人様と戦って、初めてボッコボッコにされた挙句、組み伏せられ、痛みと敗北を一度に味わったのじゃ。そう、あの体の芯まで響く拳!目隠しして嫌らしいところばかり責める重力。体中が痛みで満たされて........ハァハァ」

 

言い回しがアレだが、間違ったことは言っていないのが少しムカつく。

 

「.......まさか、開いたのか?」

「そう、開いたのじゃ」

 

何が、とは言わない。何を、とも言わない。ただ、そういう事、としか。

 

「あそこまでされて、こんな体にされたら.........もう妾、お嫁に行けないのじゃ」

 

「じゃから」と続けて、ティオは喋る。

 

「責任を取って妾を連れて行って!ついでにご主人様のお嫁にして欲しいのじゃ!!」

「MURIです」

「はふぅ!!」

 

大袈裟にダメージを受けた様子の肩で息をしているティオ。さっきの表現は非常に体力を使ったことだろう。ちなみに他人事である。

 

「それに、お前はやることがあったんだろ?それをやりに行けよ、普通に考えて」

「うむ、問題ない。絶対にご主人様の傍に居る方が効率が良くて一石二鳥というやつじゃからの」

「こっちとしては大問題なんですけど.........」

 

どうやらティオは是が非でも引く気がないらしい。確かに強いのはいい。変態性もまだ一応、目をつぶっていられる。だが、あと一つ問題がある。

 

「まぁ、その、なんだ。仮についてきたとして、お前の気持ちに俺は答えられないと思うぞ」

「.......理由を聞いても?」

「まず、俺がお前を好きじゃない」

「はぐっ!」

「そして、体を餌にして魅力で殴ってくる奴は気に入らない」

「うぐぅ!」

「そして何より、変態は好まない」

「のじゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

パタリと、今度こそティオは地面にダウンした。..........まぁ、あと一つあるんだが、可能性の話だし、確実じゃないのは相手に失礼だ。

 

地面に崩れ落ちたティオだったが、肩を震わせながらゆらりゆらりと立ち上がった。

 

「ふ、ふふ、ふふふ.........そ、その程度かの.............?」

「いやお前、大ダメージじゃねーか」

 

俺は、それでも立ち上がるティオにため息をついて、どうしたもんかとあぐねる。

 

「ご主人様、もう降参かの?ん?ならば妾の勝ちじゃな?」

「いや、あのですね。そもそも俺は...........」

 

むにゅりと、何か腕に柔らかいものが当たった。いや、その正体は確実に、ティオの双丘である。俺の腕に当たるようにして押し当てているのだ。

 

「何度言われようと、妾は立ち上がるぞ。伊達に竜人族1の耐久力ではないからの。じゃから、妾は諦めん。ご主人様達の旅に何をしてでもついていって、必ずご主人様を振り向かせてみせるのじゃ」

 

その真剣な目だけは、はっきりと伝わった。確固たる意思を秘めたその目は、もう何事にも揺るがされないだろう。どうやら、俺が折れるしかないようだ。

 

「.........ハジメの気持ちがわかった気がするな。分かったよ、降参だ、降参」

「!、ほんとかの!?やっぱり取り消しとか、そういうのはなしで.......」

「ええいやかましい!ハジメ達には俺から言う!いい加減黙れ!」

「はぁん!........ハァハァ、やっぱり妾の認めたご主人様なのじゃ。アメと来たらムチを.........分かっておる...........」

 

ホントこいつ、どうしよう。ハジメ達になんて言おう。なんかほんと、面倒なことになりそうだなぁ。

 

俺がそんな事を思い悩んでいるとき、どうやら向こうの事態は深刻なようだった。

 

「京!」

「お、おう!?どうした!?」

「あいつを頼む!俺はこっちで手一杯だ!」

 

見れば、シアがなんならかの激痛に顔を歪ませ、清水は瀕死、愛子先生は青ざめて手足を痙攣させている。そして、その中心にいたハジメが指さした先に、片足を失った鳥型の魔物を飛行させてウルディア湖を渡ろうとしている片腕だけの男がいた。

 

「っ!逃がすかよっ!!」

 

すぐさま纏雷と出力強化で地面を蹴った。空力を足場にしてすぐさまその片腕の男へ追いついていく。

 

「っ........なっ!貴様は!」

「雷切!!」

 

雷を帯びた一閃が、オールバックに片腕の男と、鳥型の魔物を真っ二つに両断した。よく見ると、その容姿は魔人族に似ている。清水と何らかの関係があったのは間違いないだろう。落ちていく男を見下ろして、再び岸辺へと戻る。すると、事態はクライマックスを迎えている模様。

 

「し、死にだくない.......だ、だずけ.......こんなはずじゃ.......ウソだ........ありえない........」

 

清水は瀕死の状態のままだ。傍には愛子先生が手を握って座っている。すると、ハジメの方を向いて叫んだ。

 

「南雲君!さっきの薬を!今ならまだ!お願いします!」

 

ハジメは、先生の言葉を予想していたようで「やっぱりか...........」と呟きながら溜息をつくと、愛子と清水の下へ向かった。そして、先生に、どんな返答がなされるか分かっていながら質問する。

 

「助けたいのか、先生?自分を殺そうとした相手だぞ?いくら何でも〝先生〟の域を超えていると思うけどな」

 

自分を殺そうとした相手を、なお生徒だからと言う理由だけで庇うことのできる、必死になれる〝先生〟というものが、果たして何人いるのだろうか。それは、もう〝先生〟としても異常なレベルだと言えるのではないだろうか。そんな意味を含めて彼女にした質問の意図を愛子先生は正確に読み取ったようで、一瞬、瞳が揺らいだものの、毅然とした表情で答えた。

 

「確かに、そうかもしれません。いえ、きっとそうなのでしょう。でも、私がそういう先生でありたいのです。何があっても生徒の味方、そう誓って先生になったのです。だから、南雲君........」

 

ハジメは、予想通りの答えに、ガリガリと頭を掻いて不機嫌そうにしながらも、これが愛子先生なんだよなぁと仕方なさそうに溜息をついた。そして、しばらく何かを考えるように天を仰ぐと、一度目をつぶり深呼吸し、決然とした表情で清水の傍に歩み寄った。

 

「清水。聞こえているな? 俺にはお前を救う手立てがある」

「!」

「だが、その前に聞いておきたい」

「........」

 

救えるという言葉に、反応して清水の呟きが止まりギョロ目がピタリとハジメを見据えた。ハジメは一拍おき、簡潔な質問をする。

 

「.........お前は..........敵か?」

 

清水は、その質問に一瞬の躊躇いもなく首を振った。そして、卑屈な笑みを浮かべて、命乞いを始めた。

 

「て、敵じゃない.........お、俺、どうかしてた...............もう、しない.........何でもする.........助けてくれたら、あ、あんたの為に軍隊だって.........,作って.........女だって洗脳して..........ち、誓うよ..........あんたに忠誠を誓う...........何でもするから..........助けて.........」

 

そこに、数十秒の静寂が訪れた。ハジメは無表情で清水の目をじっと見つめている。敵であるか、敵でないか、その判断をつけているのだろう。

 

俺は、清水の判断を全てハジメに一任した。その理由は、対峙した時、彼の瞳から溢れる狂気がおぞましいものだったからだ。清水幸利は自分に酔っている。既に、黒へと堕ちているのだ。だからこそ、彼はまた同じ過ちをすることだろう。今度は、俺達の、れっきとした『敵』として出てくるだろう。

 

だから。だから俺はハジメに一任した。

 

「..........そうか」

 

そう言うと、ハジメは顔を上げ、俺だけ捉えられるように小さく首を振った。

 

『こいつはもうダメだ』と。

 

俺もその返答に頷いた。

直後、無言で清水へドンナーを向けたハジメに先生が飛び出すも、間に合わない。

 

ドパンッ! ドパンッ!

 

「ッ!?」

 

息を呑む音。それは誰のものだったのか。頭に一発、心臓に一発。正確に撃ち込まれた弾丸は、清水の体を一瞬跳ねさせ、確実で覆しようのない死を与えた。

 

乾いた銃声の余韻が響く中、誰も言葉を発せず、白煙を上げる銃を片手に黙って物言わぬ死体を見下ろすハジメを、唯々呆然と見つめた。静寂が辺りを支配し、誰もが動けない中、ポツリと言葉がこぼれ落ちた。

 

「.........どうして?」

 

それは先生だった。呆然と、死出の旅に出た清水の亡骸を見つめながら、そんな疑問の声を出す。ハジメは、清水から視線を逸らして愛子を見た。同時に、愛子もまたハジメに視線を向ける。その瞳には、怒りや悲しみ、疑惑に逃避、あらゆる感情が浮かんでは消え、また浮かんでは消えていく。

 

「敵だからな」

 

ハジメは簡潔的にそう述べた。そしてウィルを連れて踵を返す。

 

「先生が言っていた、寂しい生き方、ってやつ。やっぱり、俺には出来そうもない。そんな余裕も、無い」

「南雲君!」

「俺は、この先、何度だって繰り返すよ。敵には、容赦しない。それが先生たちや、クラスメイト達であっても、引き金を引く。間違ってると思ったなら、先生も思った通りに行動すればいい。...........だが、邪魔だけはしないでくれ。極力、先生は殺したくない」

「...........」

 

そう言って魔力駆動四輪に乗り込んだハジメに、俺も同じように乗り込んだ。土煙を巻きながら四輪が通り過ぎる中、そこには後味の悪い静寂だけが残るのだった。




次回もお楽しみに。感想もお待ちしております。


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ティオさん怒らせる

今日中に雫達と合流まで書きたい.........と思っていた時期が私にもありました


車内で、ハジメがツンデレであることが改めて確認された後、当然話はティオに移り変わった。

 

「...........無念」

「おい、京..........まさか..........」

「そうじゃよ!妾がご主人様を堕とし.......あひん!」

 

荷台から車内へ続く窓に顔をのぞかせて余計なことを喋らせようとするティオの額を裏拳で弾く。荷台ではドッタンバッタンと音が響いた。

 

「さ、さすがはご主人様.........妾のポイントを既に掌握して...........」

「頼むから喋らないでくれ。............まぁ、その、なんだ。そういうことなんだよ」

「どういうことだよ!?」

 

バツの悪そうに視線をそらした俺に、ハジメはツッコミを入れる。渋々俺はハジメを説得しなければならない。

 

「ん、つまり、黒竜は京が好き」

「.........は?」

「え?ユエさん、今、なんて言いました?」

 

ユエの衝撃的発言に、ハジメとシアが耳を疑って聞き返す。まさかの、ユエは気づいていたらしい。

 

「黒竜は京が好き」

「.........嘘だろ」

「京さん.............」

「おいコラ、シア。俺へ哀れみの視線を向けんな」

 

ウサミミをグイッと引っ張ってやれば「いーたーいでーすぅー!」とじたばたしている。

 

「まぁ、なんだ。シアを連れていくか判断する時にお前が俺に言ったように、そいつのことはお前が決めろ、京。お前が決めたことなら、俺は否定することは無いだろうからさ」

「ハジメ..........」

 

そう言えば、そんなこと言った気もするな。あの時、言っておいて正解だった.......?

 

「ん........弟に恋人ができるのは、姉として嬉しい」

「私も、京さんの協力があってここにいますし.........京さんが言うことなら私も問題ないですよ」

 

最悪、切腹も視野に入れてたんだが........その必要はなさそうだ。

 

「だ、そうだぞ、ティオ」

「うむ。それじゃあ、よろしくの!ハジメに、シアに、ユエ。妾のことはティオで構わん!」

「ん」

「はいです」

「あぁ」

 

三者三様に頷いて、結局ティオが同行することに決まった。しかし、実質的に胃を痛めるのは俺だけである。なんとも悲しい話だ。

 

ファーレンに帰ってきた俺達は、イルワの所にウィルを送り届けた。イルワは大変安堵した表情していたのが印象的だった。そして約束としてハジメの要求した事は飲んでもらう事に。

 

ギルドを出る前にユエ、シア、並びにティオのステータスプレートが発行された。

 

==========================

ユエ 323歳 女 レベル:75

天職:神子

筋力:120

体力:300

耐性:60

敏捷:120

魔力:6980

魔耐:7120

技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法

==========================

 

==========================

シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40

天職:占術師

筋力:60 [+最大6100]

体力:80 [+最大6120]

耐性:60 [+最大6100]

敏捷:85 [+最大6125]

魔力:3020

魔耐:3180

技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法

==========================

 

==========================

ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

天職:守護者

筋力:770  [+竜化状態4620]

体力:1100  [+竜化状態6600]

耐性:1100  [+竜化状態6600]

敏捷:580  [+竜化状態3480]

魔力:4590

魔耐:4220

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法

==========================

 

まぁ、強い。なんなら、召喚されたチート集団のクラスが個人で挑めば確実に負けるだろう。

 

イルワがあんぐりした口を閉じれなくなったりした事もあった。

 

その後、俺達のランクが金に上げられたり、フューレンに居る間は宿のVIPルームが使用可能になったり、イルワの家紋が入った手紙を貰ったり、大盤振る舞いには感謝しないといけない。

 

そして、その日の夜。

 

月夜がちょうど中間くらいの刻。シアがハジメ達の情事を盗み見ているであろう時間、俺は眠っていた。

 

そんな部屋で、ギィィィと、ゆっくり扉が開いていく。

 

「ふっふっふ、侵入成功、という所かのう」

 

古来の忍者のような歩法でベッドに歩み寄る影。昼間とは打って変わり、雪のような白い着物一枚だけで身を包んだティオである。ゆっくりと、音を立てないようにベッドへ接近する。

 

「まずはご主人様の寝顔でも拝見するとしよう.......」

 

そろり、そろり、依然、音を立てないように接近してようやくそこに至る。そしてそのまま寝ている布団を剥ぎ取った........の、だが。

 

「......なっ!?」

 

そこに、姿はなかった。明らかに膨らみはあったはずなのに、求めている物はなく、無人なのであった。

 

「ティオ、後ろ」

「何.........!?」

 

ドサリと、布団に倒れ込んだ音が響く。ティオを、俺がベッドに押し倒したのだ。彼女は自分に起きたことをまだ理解出来ないでいる。

 

「で、何しに来たんだ?」

「そ、その............夜這いを...........じゃな?」

 

押さえつけた腕が使えず、目を泳がせてそう言うティオ。いざ押し倒されてみれば、顔が真っ赤に燃え上がり、視線をまともに合わせない。普段の彼女からは想像できない姿だろう。

 

「ふーん。俺を襲おうとしたわけ?」

「...............」

 

コクリとティオは頷いた。それを見て、俺はため息をつく。

 

「じゃあ、逆も想像できてるよな?」

「え......?それは.............」

 

俺は無言で顔を近づけていく。どんどん迫る度に、彼女の顔が赤くなっていくのが分かった。

 

「だ、ダメじゃご主人様..........わ、妾まだ........心の準備が..........」

 

それを無視してどんどん迫る。ついに鼻先が触れそうな距離になると、何か覚悟を決めたように目をギュッとつぶった。しかし俺はそこで停止する。

 

「なーんてな、嘘だよバーカ」

「......へ?アバババババアバババ!?」

 

纏雷を笑顔で大量に流し込んでやる。それはもう、気絶するくらい。だがそれでも、天職が『守護者』なティオは耐えきった。変わりに全身から黒煙を上げてビクンビクンしているが。俺はそのまま床に放り捨てる。

 

「い、今のアメとムチはなかなか.........いや、想像以上に.............ハァハァ」

「お前、ほんとブレねーのな」

「ていうか、今のはもう、そういう雰囲気じゃったろう!?」

「いや、ねーから。誰がこんな夜中におっ始めるんだよ。やりたくもない女と」

「んん!.........じゃ、じゃが自分で言うのもなんじゃが妾はナイスバディじゃぞ!?」

「黙れ、変態害悪ドMが。人間誰しもな、睡眠邪魔されんのが大嫌いなんだよ。お前は睡眠を邪魔した。よって害悪。よってクソオブクソ。リアリー?」

「はぁぁん!.........く、くふぅ...........ムチがすごいのじゃ......」

 

いい加減、頬をうっとりさせながら一向に退室する気配がないティオにキレて、首根っこを掴んで強引に外に放り出した。その後、しっかりと鍵もかけて。

 

こいつがフラグとか、ない。絶対にない。

 

 

 

 

 

 

翌日。ハジメさんはシアちゃんとデートに行きましたまる。

 

「の、のう......ご主人様。そろそろ機嫌を治してはくれぬか..........?」

「んで、次どこだっけユエ」

「ん、あっち」

「ぬ、ぬぅ...........」

 

ハジメ達が観光区へデートに行ったため、俺はユエと商業区へ買い物に出かけた。ティオ?そんな奴いませんよ、あははは。

 

「た、確かにあれは妾に否がある。謝るから、なんでもするから許しておくれ..........」

 

ここまでティオを無視するのには、理由がある。まず、深夜に俺の睡眠を邪魔したこと。あいつが夜這いに来た時だ。その時だけで留められたのなら、まだ許せた。

 

しかし、だ。あいつは懲りずに朝もまたやってきたのだ。ただでさえ朝に弱い俺を、強引に起こそうとした罪は深い。よって無視だ、無視。

 

「よォ、兄ちゃん。左右に女侍らせて、何様だ?」

 

そうこうしていれば、ラノベ鉄板のテンプレがやってきた。今までハジメが請け負うはずだったそのテンプレ返しを、なんの縁か、俺がやる羽目に。

 

目の前にはいつかのクリスタベルさんのような大男が。下卑た目でユエや、特にティオの胸を凝視している。

 

「そっちの嬢ちゃんたちも、そんな男じゃなくて俺とやろうぜ?」

 

その男の手が真っ直ぐに俺を通り過ぎて、とある一点へ。その前に腕を掴んで、止める。

 

「公然わいせつとか、恥ずかしくないのか?」

「あぁ?てめぇ、俺ん誰だと思っ............!?」

 

その前に、俺の殺気が男を射貫く。至近距離でそれをモロに受けたためか、男は腰を抜かして地面に倒れ込んだ。

 

「お、おお俺を誰だと思ってやがる!?フリートホーフ幹部の........」

「知るか。こっちのド変態は俺の物だし、こっちは親友の彼女だ。どちらもお前にゃ取り付く隙がねぇんだよ。分かったなら失せろ、三下」

 

最後は脅し気味に刀の鞘を顔面横に通して地面に叩きつけた。それだけで、一瞬にして立ち上がり逃げ去っていく。

 

「お、覚えてやがれよォ!」

「覚えてたらな〜」

 

適当に流して、気づく。背後からのティオの熱い視線に。

 

「ご、ご主人様.........今、なんと?」

「あぁ?......ってか、反応してしまった.........まぁいい。その、なんだ。他に言葉が見つからなくてだな........」

 

視線を逸らせば、ティオがパァァと明るくなる。そしていつものテンションに戻った。

 

「つまり、妾を伴侶と認め.........」

「違うわ変態。帰れ」

「んんっ!」

 

いつもの調子だとやはりハァハァしてしまうティオ。こうなれば無視が安定なのでいつも通りに接する。

 

歩こうと思って横を見れば、ユエが少しむくれていた。

 

「何だ?」

「........親友の彼女?」

「ん?いや、そうだろ?」

 

そう言うと、ユエはふるふると首を横に降った。そのジト目は真っ直ぐに俺を見ている。

 

「........俺の、姉」

「それ、まだ引き摺るのか...........」

 

ユエとしてはそれを変えるつもりは無いらしい。そんな彼女に苦笑いしていると。

 

ドガシャン!!

 

「ぐへっ!!」

「ぷぎゃあ!!」

 

すぐ近くの建物の壁が破壊され、そこから二人の男が顔面で地面を削りながら悲鳴を上げて転がり出てきた。更に、同じ建物の窓を割りながら数人の男が同じように悲鳴を上げながらピンボールのように吹き飛ばされてくる。その建物の中からは壮絶な破壊音が響き渡っており、その度に建物が激震し外壁がひび割れ砕け落ちていく。

 

そして十数人の男が手足を奇怪な方向に曲げたままビクンビクンと痙攣して表通りに並ぶ頃、遂に、建物自体が度重なるダメージに耐えられなくなったようで、轟音と共に崩壊した。

 

野次馬が悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように距離を取る中、ユエとティオは聞きなれた声と気配に、その場に留まり呆れた表情を粉塵の中へと向ける。

 

「お前........なにやってんの?」

「あぁ、お前ら。ちょうどいい、内容は説明するから手伝ってくれ」

「ちょ、ちょっと待つのじゃ。シア、何があった?」

「あはは........デート中だったんですけど............なんか、成り行きで...........。人身売買してる組織の関連施設を潰して回ってるんです.........」

 

問題は、成り行きである事。一体彼らはどんなデートをすればそんな事になるのか。もはや苦笑いなど通り越して呆れてくる。ハジメはトラブルメーカーであると、はっきりわかる瞬間だ。

 

「.........成り行きで裏の組織と喧嘩?」

 

呆れた表情のユエにシアは乾いた笑いが零れる。仕方ないのでハジメの説明を聞くことにした。




次回もお楽しみに。感想もお待ちしております。


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あやしたら家族?

ハジメの話を大幅に要約しよう。シアとデートしてたら海人族のミュウという幼子に出会った。フリートホーフとかいう奴らがミュウを攫って行き、返して欲しくばシアを連れてこい、と。

 

「で、だ。指定された場所に行ってみれば、そこには武装したチンピラがうじゃうじゃいて、ミュウ自身はいなかったんだよ。たぶん、最初から俺を殺してシアだけ頂く気だったんだろうな。取り敢えず数人残して、皆殺しにした後、ミュウがどこか聞いてみたんだが........知らないらしくてな。拷問して他のアジトを聞き出して.......それを繰り返しているところだ」

「どうも、私だけじゃなくて、ユエさんとティオさんにも誘拐計画があったみたいですよ。それで、いっそのこと見せしめに今回関わった組織とその関連組織の全てを潰してしまおうということになりまして........」

「なんだ、その野蛮な考え方は」

 

行った先々で巻き込まれるそれは本当になんなだろう。やはり主人公補正でもついてんのかねぇ......。

 

「........それで、ミュウっていう子を探せばいいの?」

「ああ。聞き出したところによると、結構大きな組織みたいでな……関連施設の数も半端ないんだ。手伝ってくれるか?」

「ん........任せて」

「買い物は後ですればいいか。りょーかい」

「ご主人様がやるなら、妾も協力するぞ」

 

こうして、化け物達のミュウ捜査隊が結成された。

 

 

 

 

 

 

その室内には、とある男の怒号が振り撒かれていた。

 

「ふざんけてんじゃねぇぞ! アァ!? てめぇ、もう一度言ってみやがれ!」

「ひぃ! で、ですから、潰されたアジトは既に五十軒を超えました。襲ってきてるのは二人組が二組です!」

「じゃあ、何か? たった四人のクソ共にフリートホーフがいいように殺られてるってのか? あぁ?」

「そ、そうなりまッへぶ!?」

 

室内で、怒鳴り声が止んだかと思うと、ドガッ!と何かがぶつかる音がして一瞬静かになる。どうやら報告していた男が、怒鳴っていた男に殴り倒されでもしたようだ。

 

「てめぇら、何としてでも、そのクソ共を生きて俺の前に連れて来い。生きてさえいれば状態は問わねぇ。このままじゃあ、フリートホーフのメンツは丸潰れだ。そいつらに生きたまま地獄を見せて、見せしめにする必要がある。連れてきたヤツには、報酬に五百万ルタを即金で出してやる!一人につき、だ!全ての構成員に伝えろ!」

 

男の号令と共に、室内が慌ただしくなる。男の指示通り、組織の構成員全員に伝令するため部屋から出ていこうというのだろう。だが一人の男がドアノブに手をかけようとした瞬間。

 

ドガァ!

 

その男は吹き飛ばされたドアと共に部屋の中心辺りまで吹っ飛んで来た。何事かと全員がドアがあった場所を注視する。

 

「ちわーっす。三河屋でーす」

「なっ!?」

 

冗談込みで、俺はダイナミック乱入したのだ。あれから数十分くらいかけて俺達はアジトの場所を突き止めた。そして先陣を俺が切らされたわけである。そこから内部に侵入するのは、俺と、シア。ハジメさん達は救出側である。

 

「構成員に伝える必要はありませんよ。本人がここに居ますからね」

「ふむ、外の連中は引き受けよう。手っ取り早く、済ますのじゃぞ?シア、それにご主人様」

「ありがとうございます、ティオさん」

「んー、任せたぞ〜」

 

いつも通りの調子でティオにそう告げ、俺は室内をじっくりと見る。一番動揺していた男ら反応から見るにフリートホーフの頭か何かだろう。その証拠に少し前へ出て口を開き始めた。

 

「........てめぇら、例の襲撃者の一味か........その容姿.........チッ、リストに上がっていた奴らじゃねぇか。シアにティオだったか?てめぇは.......京か。あと、ユエとかいうちびっこいのもいたな........なるほど見た目は極上だ。おい、今すぐ投降するなら、命だけは助けてやるぞ?まさか、フリートホーフの本拠地に手を出して生きて帰れるとは思ってッ!?......ギャアアア!?」

 

好色そうな眼でシアとティオを見ながらペチャクチャと話し始めた頭の男に、シアは冷め切った眼差しを向けて問答無用にショットガンを撃ち放った。飛び出した無数の鉄球によりハンセンは右腕を吹き飛ばされた状態で錐揉みしながら背後の壁に激突し、絶叫を上げながら蹲る。

ちなみにティオは絶賛無双中........いや、さらに改築中だわ。

 

「た、たのむ。助けてくれぇ!金なら好きに持っていっていい!もう、お前らに関わったりもしない!だからッゲフ!?」

「勝手に話さないで下さい。あなたは私の質問に答えればいいのです。わかりましたか?分からなければ、その都度、重さが増していきますので........内臓が出ないうちに答える事をオススメします」

「.......シアよ。お主、やっぱりハジメの仲間じゃの........言動がよう似とる」

 

苦笑い気味のティオを聞き流して、シアは冷たく男を見下ろす。その男は、ドガン!とシアがドリュッケンを床に叩きつけると、早口でミュウの場所を洗いざらい話した。

 

シアは、ハジメに詳しい場所を伝えると念話を切った。そしてドリュッケンにかけていた重力魔法を解除してツカツカと離れていく。

 

「た、助け.......医者を..........」

「んー。それは色々と虫が良すぎるだろ。子供の人生を食い物にして、自分だけ助かろうとなんざ、許されるわけ無いよな?」

「あ......た......」

 

ザン!

 

助けて、とでも言おうとしたんだろう。だが、助けるはずがない。喋る前に首を落として絶命させた。

 

「うむ、さすがご主人様。さすがの容赦のなさじゃ」

「貶してるのか褒めてんのか分かんねぇな。.......まぁいいや、シア、ティオ、行くぞ」

「はいです」

「うむ」

 

俺は二人を引き連れてハジメと合流すべく立ち去った。

 

 

 

 

 

 

イルワのところが集合場所ということで、向かっている途中に、ドデカい花火や場違いな雷龍が天を昇って行ったりした。あまりの驚きにシアが弾丸の如くハジメを問い詰めていたのは印象的だ。

 

「おーっす。おつかれ〜」

「おう、お前らもな」

「パパ、シアお姉ちゃん..........と、知らない人なの.........」

 

その言葉に、俺を含めて3人が固まった。今、聞き間違えがなければこの幼子はハジメのことを『パパ』と呼んだ。子供がいるということは、お母様とお父様がいるわけで。それでもハジメのことを『パパ』と呼んだ.........となるとだ。

 

「ハジメ.........そこまで堕ちたか貴様!!」

「ちげーわ馬鹿!おい、ティオとかシアまでそんな顔すんな!あと京は露骨に引いてんじゃねぇ!!」

「もしもし?警察ですか?........はい、実は友人が幼子を............」

「ヤメロォォォ!!.........つて、ハッ!?よくよく思ったらこの世界に警察いねーだろ!!」

 

ハジメが怒涛のツッコミに疲れて、肩で息をする頃、その幼子が、不安からか泣き出してしまった。

 

「うわぁぁぁぁん!!」

「ちょっ、お前ら、ミュウが泣いちまっただろ!!」

「いや、それはハジメさんの声が........」

「うるせぇ!元はと言えば京のせいだろうが!」

 

ギャーギャーしているハジメ達を差し置いて、腕に抱かれた幼子を知覚されない速度で奪い取る。ソファーに座って、幼子のエメラルドグリーンの長い髪をゆっくりと優しく撫でた。

 

「大丈夫だぞ、ほ〜ら怖い人はいないからな〜」

「..........みゅ?」

「うっそだろ.........」

 

ほぼ瞬間的に泣き止んだ幼子と、俺の視線が合う。ハジメはその泣き止みの速さに開いた口が塞がらないといった様子。

 

「うるさくてごめんな。俺は、京だ」

「........京お兄ちゃん」

 

幼子の、目を輝かせてポツリとそう言った言葉に、シアが恐る恐る口を開いた。

 

「ミュ、ミュウちゃん........?そのお兄ちゃんって言うのは........」

「パパ。そして京お兄ちゃんなの!」

 

にぱーと花が咲いたように笑う幼子。その空間は凍りついた。ハジメが目頭を揉み、俺は表情を引きつらせ、ユエ達は呆然と固まっている。

 

この瞬間、誰もが理解したのだ。俺が家族認定されたことに。

 

「ミュ、ミュウ.......?その、京お兄ちゃんはもしかして............」

「パパも、お兄ちゃんも、なの!」

「えぇ..........」

 

幼子をあやしてたら知らぬ間に家族認定されていた件。

 

だから売れないラノベタイトルだよこれは。

 

「ま、まぁとりあえず。よろしくな?ミュウ」

「よろしくなの!京お兄ちゃん!」

 

ギューッと俺に抱きついてくるミュウに、苦笑いで頭を撫でるしかなかった。そしてチラリとハジメを見ると、何も言うまいという顔だ。

 

「えーっと..........お父さん?」

「ぶっ殺すぞ、京」

 

ちなみにミュウをすぐにあやせたのは、母親の友人の所へベビーシッターに言った経験があるから。そしてやたらと俺が子供から好かれる体質だということ、だろう。昔は近所で楽しくやっていたもんだ。

 

「これは........かなり懐かれてしまったのう。ご主人様よ」

「お、おう。正直なところ、俺自身が一番驚いてんの」

「その調子で妾もその腕の中に.........」

「おい、妹が変な学習するだろ?やめてくれよ」

「もう妹呼びかのっ!?」

 

ちなみにミュウの他の呼び方については、お姉ちゃん。しかしそこに家族認定はない。ハジメを筆頭に、俺とミュウ、仮の親子パーティーがここに完成したのだ。非常にミュウのお母様になんと説明したらいいのか、胃が痛む内容だ。

 

イルワに胃薬貰おうかな.........。

 

その日の夜、俺が別室で寝るのを良しとしないミュウがわがままを言って、結局ハジメ、ミュウ、俺という状態で川の字に寝る事になってしまった。ユエ達はどこかミュウに押された様子で口出しすることも出来ず、甘んじて三人部屋を受けいれていた。




文字数がかなり少なくなっておりますこと、お詫び申し上げます。

手抜きというわけではなくて、区切っているとこういうことになってしまったんです。

まぁ、ほら、あれです。嵐の前の静けさ、的な?

次からは、見たかった方が大半でしょう。雫達との合流に入っていきます。そして作者もずっとこのときを待ち望んでおりました。

なので、次回もお楽しみに。感想もお待ちしております。


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立ちはだかる強敵

その空間に、様々な騒音が響き渡る。金属どうしがぶつかるような音から、肉を経つ音、爆発、人の声など。

 

「はぁぁぁ!!」

 

気合一閃。対峙していた魔物は、頭から真っ二つに両断された。雫は血振りした刀を、ゆっくりと納刀する。

 

「お疲れ様!雫ちゃん」

「ええ、ありがとう香織」

 

戦闘が終わり、香織が少し怪我をしていた雫を回復魔法で癒す。

 

現在、三ヶ月前のベヒモス討伐を成したパーティーと変わらない面子が、【オルクス大迷宮】の八十九層を攻略している最中だった。メルド団長率いる騎士団は、力の関係上、七十層で待機している。

 

あの日、倒れた雫は急いで迷宮の外まで運ばれ、意識が戻るまでは一旦休憩ということになった。

 

その間の雫の容態は、香織と恵理が管理しており、12時間交代で看病することに。彼女が目覚めたのは、意識を失ってから三日後の事だった。

 

目覚めた雫を待っていたのは、もちろん質問の雨。あのオーラはどういうことか、あの力はなんなのか、根掘り葉掘り聞かれたが、一貫して雫は「分からない」と答えた。

 

なんでも、ベヒモスを討伐した時は、しっかりと意識があったはずなのに、起きてしまえば自分の身に何が起こったのか、全く記憶が無くなっていたのだ。しかし、技能の欄には新たに増えたのであろう派生技能と、限界突破の文字が。

 

結局として光輝が前向きに纏めたためそれ以上の追求は避けられたが、雫自身、あの一件から今日に至るまで、一度もあのような力を出したことは無い。感覚で言うならば、使いたくても使えない、状況。力を上手く扱えていないというのもあるだろう、その力を認識できていないということもあるだろう。

 

だが、メルドにはしっかりと注意された。

 

「その力の使い方には、気をつけろ」と。

 

雫はその言葉を胸に今日まで前線で戦い抜いてきた訳だが、未だにあの力の正体や、発動方法でさえも分かっていない。通常技能の限界突破についても、何か特定の条件を達しないと発動しないようで、それについても未だわかっていない。

 

怪しいところばかりだが、雫は前向きに捉えることにした。自分はもっと進化できるのだと。なんとも健気な答えである。

 

ちなみに、そんな雫の現在のステータスはこうだ。

 

==========================

八重樫雫 17歳 女 レベル:72

天職:剣士

筋力:500

体力:610

耐性:370

敏捷:1160

魔力:430

魔耐:430

技能:剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇]・縮地[+重縮地][+震脚][+無拍子]・先読・気配感知・隠業[+幻撃]・(限)限界突破[+刀鬼化]・言語理解

==========================

 

この(限)というのが、どうやら発動条件を指定しているようで、発動しようとしても出来ないのである。

 

「技能.......どう?」

「変わらないわ。全然使えない」

 

そう聞いてくる香織に対して、全くお手上げといった様子で雫は肩を竦める。いつもの返答に、香織は雫の手を握った。

 

「きっと、雫ちゃんが強くなれば使えるようになるよ!」

「そうね........そうだといいのだけれど」

 

強く、とは一体どこまでのことだろうか。もうすぐレベルが到達するというのに、一向に使い方はわからない。もしかしたらこのまま一生、分からないままなのではないか、という疑問は何度も雫の頭に過った内容だ。

 

今や、この謎の技能は雫を悩ませる種のひとつになっていた。

 

「ま、気楽に行こうよ?」

「恵理........」

 

難しい顔をしていた雫の肩をトントン、と叩いて恵理はそう言う。もちろん、今の彼女は素の方だが、近くには香織と雫しかいないので問題ない。

 

「あと十層だよ」

「そういえば.........そうね」

 

迷宮が百階層だと言うことは周知の事実だ。だが、ここに至るまでの道のりに、香織が求めるハジメはもちろん、雫達が求める京の死体もなかった。

 

その事実に内心安堵していた三人。そして、雫達の中には、二人が生きている、という希望が見え始めていた。なればこそ、気を引き締めなければいけない。必ずこの目で確かめるまで、確信しないと決めたのだから。

 

「京に会いたい?」

「当たり前よ。........どうせ恵理もでしょう?」

「会いたい?違うねぇ。触れたい、だよ」

 

不敵に笑みを浮かべる恵理に、苦笑いする他なかった。最近は、完全に雫や香織へ、その内に秘める狂気を全面へ押し出している恵理。過去に京だけにその本心を見せていたところからすると、随分と仲良くなった物だ。

 

ちなみに、恵理もベヒモスと対峙した日からすればかなり成長している。元々、圧倒的に頭が回転して、外面の関係上、日の目を見ない降霊術も天武の才を見出している彼女。裏で降霊術は幾つも進化を遂げたし、外面としても活躍するために圧倒的知識を蓄えて魔法を幾つも習得した。

 

今では、火属性の魔法だけではなく、全属性の魔法の詠唱簡略化まで漕ぎ着けている程。もちろん、それは裏の彼女の努力であって、表の彼女が使うのは火属性だけなのだが。

 

しかし、いざと言う時は背に腹は変えられない。死が近づいてくるのならば、全力を以てそれを撃退する覚悟である。彼女とて、死ねないのだ。もう一度、京に会うまでは。

 

「雫ちゃん、恵理ちゃん、出発だって!」

「ええ、分かったわ」

「おっけー」

 

休憩していた一同は、光輝の判断により先へ進むことになった。既に八十九層の九割方はマッピングが終了しており、現在通っているルートが最後であった。

 

この先に階段があるのだろう。だんだんと近づいてくる未知の領域に、雫は内心、気合いを入れ直した。あと十層、本当にそれでこの迷宮は終わる。一先ず、完全攻略をめざして京達のことは頭の隅に追いやった。

 

出発してから十分程で一行は階段を発見した。トラップの有無を確かめながら慎重に薄暗い螺旋階段を降りていく。体感で十メートルほど降りた頃、遂に光輝達は九十層に到着した。

 

一応、節目ではあるので何か起こるのではと警戒していた光輝達。しかし、見た目、今まで探索してきた八十層台と何ら変わらない作りのようだった。さっそく、マッピングしながら探索を開始する。迷宮の構造自体は変わらなくても、出現する魔物は強力になっているだろうから油断はしない。

 

警戒しながら、変わらない構造の通路や部屋を探索してく光輝達。探索は順調だった。だったのだが、やがて、一人また一人と怪訝そうな表情になっていった。

 

「.........どうなってる?」

 

一行がかなり奥まで探索し大きな広間に出た頃、遂に不可解さが頂点に達し、表情を困惑に歪めて光輝が疑問の声を漏らした。他のメンバーも同じように困惑していたので、光輝の疑問に同調しつつ足を止める。

 

「……何で、これだけ探索しているのに唯の一体も魔物に遭遇しないんだ?」

 

既に探索は、細かい分かれ道を除けば半分近く済んでしまっている。今までなら散々強力な魔物に襲われてそう簡単には前に進めなかった。ワンフロアを半分ほど探索するのに平均二日はかかるのが常であったのだ。にもかかわらず、光輝達がこの九十層に降りて探索を開始してから、まだ三時間ほどしか経っていないのに、この進み具合。それは単純な理由だ。未だ一度もこのフロアの魔物と遭遇していないからである。

 

最初は、魔物達が光輝達の様子を物陰から観察でもしているのかと疑ったが、彼等の感知系スキルや魔法を用いても一切索敵にかからないのだ。魔物の気配すらないというのは、いくら何でもおかしい。明らかな異常事態である。

 

「..........なんつぅか、不気味だな。最初からいなかったのか?」

 

龍太郎と同じように、メンバーが口々に可能性を話し合うが答えが見つかるはずもない。困惑は深まるばかりだ。

 

すると、メンバーが何かを見つけたように声を上げた。

 

「これ.......血........だよな?」

「薄暗いし壁の色と同化してるから分かりづらいけど..........あちこち付いているよ」

「おいおい........これ.......結構な量なんじゃ............」

 

表情を青ざめさせるメンバーの中から永山が進み出て、血と思しき液体に指を這わせる。そして、指に付着した血をすり合わせたり、臭いを嗅いだりして詳しく確認した。

 

「天之河、この血は新しい。最近つけられたものだ。何か怪しい。一旦引いた方がいいんじゃないのか?」

「そりゃあ、魔物の血があるってことは、この辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど........いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」

 

光輝の反論に、永山は首を振る。永山は、龍太郎と並ぶクラスの二大巨漢ではあるが、龍太郎と違って非常に思慮深い性格をしている。その永山が、臨戦態勢になりながら立ち上がると周囲を最大限に警戒しながら、光輝に自分の考えを告げた。

 

「天之河........魔物は、何もこの部屋だけに出るわけではないだろう。今まで通って来た通路や部屋にも出現したはずだ。にもかかわらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が初めて。それはつまり……」

「.........何者かが魔物を襲った痕跡を隠蔽したってことね?」

 

あとを継いだ雫の言葉に永山が頷く。光輝もその言葉にハッとした表情になると、永山と同じように険しい表情で警戒レベルを最大に引き上げた。

 

「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど........人であると考えたほうが自然ってことか.........そして、この部屋だけ痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、あるいは.........」

「待って、何かいるわ........」

 

雫がいち早く気配感知でなにかの存在を捉える。その声で、全員が彼女の見ている先を睨んだ。コツ、コツ、と響く足音は二人分。魔物では無かったが、こんな所に人が居るというのも、違和感がある。

 

だが、その考えは敵影が現れてからどうでも良くなった。広間の奥の闇よりゆらりと現れたその人物達。一人は燃えるような赤い髪をした妙齢の女。その女の耳は僅かに尖っており、肌は浅黒かった。もう一人は、空のように澄んだ水色の髪を肩で切りそろえた少女。やはり耳は僅かに尖っており、肌は浅黒い。

 

その女達の特徴は、イシュタルから叩き込まれた座学知識でよく知っている。人間の宿敵、そう。

 

「...........魔人族」

 

ポツリと呟いたのは誰だろうか。しかし、間違いではない。その特徴を持つ種族、人間との戦争を繰り広げている種族、魔人族なのだから。

 

「勇者はあんたでいいんだよね? そこのアホみたいにキラキラした鎧着ているあんたで」

「あ、アホ.........う、煩い!魔人族なんかにアホ呼ばわりされるいわれはないぞ!それより、なぜ魔人族がこんな所にいる!」

 

いきなり聞こえてきた男並みのハスキーボイスに面食らいながらも、光輝は自分がアホ呼ばわりされて反論する。

 

しかし、魔人族の女は、煩そうに光輝の質問を無視すると心底面倒そうに言葉を続ける。

 

「はぁ~、こんなの絶対いらないだろうに........まぁ、命令だし仕方ないか.........あんた、そう無闇にキラキラしたあんた。一応聞いておく。あたしらの側に来ないかい?」

「な、なに?来ないかって........どう言う意味だ!」

「呑み込みが悪いね。そのまんまの意味だよ。勇者君を勧誘してんの。あたしら魔人族側に来ないかって。色々、優遇するよ?」

「カトレア.......」

「一応だよ、一応。あたしだって仕方ないんだ」

 

カトレアと呼ばれた女性の反応に、苦い顔をする少女。どうやら光輝を誰かからの命令で魔人族側に引き入れようとしているらしい。

 

「一応、お仲間も一緒でいいって上からは言われてるけど?」

「何度言われようとも、裏切るつもりなんて一切ない!」

 

お仲間には相談せず代表して、やはり即行で光輝が答える。そんな勧誘を受けること自体が不愉快だとでも言うように、光輝は聖剣を起動させ光を纏わせた。これ以上の問答は無用。投降しないなら力づくでも!という意志を示す。

 

「交渉決裂、ですね。言っておきますが、あなたの勧誘は最優先事項ではありません。殺しても構わないと言われていますので」

「っ.......!」

 

少女は虚空に突如現れた彼女と同じ色の刀身をした短刀を抜き放つ。光輝達は戦闘態勢に入ったと見て二人を十分に警戒した。

 

「まさか手こずるなんて思っていませんが、私は付き添いだということをお忘れなく」

「分かってるよ。ったく、なんだってこいつだけ撤退可能なのかねぇ」

 

煩わしそうに髪をかきあげて、カトレアは光輝達を射抜いた。依然、警戒を崩さない十五人に対して、ため息をついてようやくやる気を出した。

 

「まぁいい。餌の時間だよ、ルトス、ハベル、エンキ!」

 

魔人族の女が三つの名を呼ぶのと、バリンッ! という破砕音と共に、雫と永山が苦悶の声を上げて吹き飛ぶのは同時だった。

 

「ぐっ!?」

「がっ!?」

 

二人を吹き飛ばしたものの正体は不明。魔人族の女の号令と共に、突如、光輝達の左右の空間が揺らいだかと思うと、縮地もかくやという速度で〝何か〟が接近し、何の備えもせず光輝と魔人族の女のやり取りを見ていたクラスメイト達に襲いかかったのだ。

 

最初から、最大限の警戒網を敷いていた雫と永山はその奇襲に辛うじて気がつき、咄嗟に、狙われている生徒をかばって見えない敵になんとか防御態勢をとった。

 

「雫!永山!」

「余所見していていいのですか?」

「っ!!」

 

至近距離に迫った少女の短刀が、光輝を襲う。首筋に狙いを定めて放たれた斬撃は、辛うじて聖剣で弾くことに成功する。反撃とばかりに聖剣を振るうが、軽やかな身のこなしでイナバウアーよろしく後方に仰け反った少女は、その攻撃を躱して更に光輝を襲う。しかし同じ所に狙われた攻撃は、またも聖剣が受け止めた。

 

「どうしてっ..........こんな事を!」

「こんな事、とは戦争の事ですか?ならば不思議なことを言いますね。悪が正義を滅ぼすのは昔から常と思っていますが」

 

話している最中だが、少女の短刀がジリジリ光輝の首に迫っている。光輝は男で、しかも1000近く筋力があると言うのに、だ。それに比べて少女は、涼しい顔で短刀を押し当てている。

 

魔人族が元々優れているというのは知られている事だ。しかし、ここまでとは誰が予想しただろうか。強い、それが素直に光輝から出た本音だ。

 

「話し合えば、和解だって!」

「ふざけないでください。そちら側とは分かり合えませんよ」

 

少女は、そのまま光輝の腹部を蹴り飛ばす。自分達とほぼ変わらない少女の蹴りだと言うのに、聖剣で受け止めたにもかかわらずその体が2、3メートル後退した。

 

明らかにステータスはあちらが上。このままではジリ貧で押し負けるだろう。しかし、少女は考える暇を与えてくれない。

 

「集中してください」

「っ!?」

 

その一瞬の油断が、少女にとっては十分な時間。いつの間にか懐に入っていた少女が地面へ沈みこんだかと思うと、バレーの柔軟宜しく、垂直に蹴りが光輝の顎を穿った。

 

衝撃により体が空中に浮いた光輝は、続けざまに放たれた少女の回し蹴りで壁に叩きつけられる。

 

「がっ.......!!」

「光輝!!」

 

永山と共に襲いかかった魔物の対応に香織の支援を受けながら追われていた雫が叫ぶ。光輝へ向かおうとした少女が急に飛び退いたと思うと、その地点に炎の嵐が吹き荒れた。

 

「チッ、外しちゃったか」

 

恵理が、ベヒモスの討伐に加担した上級魔法、”炎嵐”を放ったのだ。当然ながら、魔法の威力はあの時よりも格段に上昇している。今はならば、人一人を簡単に焼き払うことも可能だろう。遠目から見たその危険性に、少女は恵理をチラリと睨んだ。

 

「おっと、やばいかな.......?」

 

恵理が別の地点へ移動しようとした時、そこに雫が割り込んだ。魔物の対応に追われていた雫のカバーに龍太郎らが入ったため、余裕が出来たのだ。香織が光輝を回復させている以上、自分が対峙しなければならなかった。

 

無拍子で、残像すら見えない超高速の世界に入った雫が、震脚による戦闘術と合わせて少女に襲いかかる。

 

「っ!この.....!」

「なかなかの太刀ですね」

 

確実に斬れると思ったその剣も、短い刀身の短刀に受け止められてしまう。だが、予測はあまりしていなかったようで、少女の頬に1つの冷や汗が伝った。

 

ならば、とさらに加速して少女に剣撃を叩きつける。剣術により斬撃速度が上昇したその太刀、さらに八重樫流の足運びと震脚を使った戦闘術、そこに無拍子という急激な緩急を付けた、認識することすら許さない移動術を合わせれば、その太刀は先程よりも向上した、神速の一閃となる。

 

繰り出した斬撃に潜んでいた八重樫流奥義が一”断空”。空間すら立つという名目のその技。銀色の剣閃が煌めいたと思えば、雫の背後で戦闘をしていたキメラの尻尾が一瞬にて両断された。

 

この奥義、少女にはなったのではない。苦戦を強いられている背後の仲間のためにはなったのだ。雫は元々、戦場での視野が自然と広い。どこに補助へ入ればいいのか、誰のカバーが最優先なのか、それが自然と分かる。

 

なればこそ、オカン体質とも言うその性格から、戦闘においては光るものがあるのだ。しかし、今回ばかりはその判断が悪手だった。

 

「余裕ですね、背後にまで気を取るとは」

「っ!?」

 

依然、少女との戦闘は上手く行っている。しかし、背後で轟音が轟いた。何事かと少女を弾き飛ばして音のした方を見れば、光輝達の周りに新たに三体の魔物が現れ、そのうちの二体が光輝と龍太郎に攻撃をしたのだ。

 

光輝と龍太郎に不意を打ったのは、体長二メートル半程の見た目はブルタールに近い魔物。しかし、いわゆるオークやオーガと言われるRPGの魔物と同様に、ブルタールが豚のような体型であるのに対して、その魔物は随分とスマートな体型だ。まさに、ブルタールの体を極限まで鍛え直し引き絞ったような体型である。実際、先程の不意打ちからしても、膂力・移動速度共に、ブルタールの比ではなかった。

 

そして恵理の放っていた火球を全て吸い込んでしまったのは、体から六本の足を生やした亀のような魔物。背負う甲羅は、先程まで敵を灰に変えようと荒れ狂っていた炎と同じように真っ赤に染まっている。

 

と、次の瞬間、多足亀が炎を吸収しきって一度は閉じていた口を再びガパッと大きく開いた。同時に背中の甲羅が激しく輝き、開いた口の奥に赤い輝きが生まれる。まるで、エネルギーを集めて発射寸前のレーザー砲のようだ。

 

その様子に恵理は苦虫を噛み潰したような表情をする。雫も少女との戦闘で助けに入る隙がない。しかし、そこにちっちゃな守護者が躍り出た。

 

「にゃめんな!守護の光は重なりて、意志ある限り蘇る”天絶”!」

 

刹那、鈴達の前に十枚の光のシールドが重なるように出現した。そのシールドは全て、斜め四十五度に設置されており、シールドの出現と同時に、多足亀から放たれた超高熱の砲撃はシールドを粉砕しながらも上方へと逸らされていく。

 

それでも、継続して放たれる砲撃の威力は、一瞬にしてシールドを食い破っていく。鈴は、歯を食いしばりながら詠唱の通り次々と新たなシールドを構築していき、〝結界師〟の面目躍如というべきか、シールドの構築速度と多足亀の砲撃による破壊速度は拮抗し辛うじて逸らし続けることに成功した。

 

逸らされた砲撃は、激震と共に迷宮の天井に直撃し周囲を粉砕しながら赤熱化した鉱物を雨の如く撒き散らす。その様子に少女は、一旦雫との交戦をやめて後退する。

 

「カトレア、まさかそこまで出すとは」

「こっちの方が早いと思ったんだ」

 

「それに......」と付け加えて少女へニヤリと笑った。

 

「あんたも、ようやく『()()』を使う相手が出来たんじゃないの?シャル」

 

シャルと呼ばれた、水色髪の少女。「そうですね.......」と言うと、ゆっくりと雫の方へ歩いてくる。

 

「あなたの方が勇者より強いと、私が保証します」

「あまり、嬉しくないわ」

 

素直なシャルの賞賛に、警戒を解かずにそう述べる。

 

「ですので、私も力を出しましょう。期待しているので、簡単には壊れないでくださいね?」

「何を言って.........っ!?」

 

次の瞬間、その場の全員の背中にゾワリと悪寒が走った。その発生源は、シャル。いつの間にかカトレアのところまで引いていた魔物達の前で、目を細めた彼女は短刀をゆっくりと水平に持ち上げる。

 

「水銀束ねて、氷河へ散れ。『水面銀月(みなもぎんげつ)』」

 

まるで、何かを解放するような言葉。次第に彼女の周辺に白い靄のようなものが発生していく。靄が完全に少女の身体を隠すと、ピシィィ!と氷が割れるような音が聞こえる。

 

「な、何が起きて.........」

「皆!油断するな!すぐに来るぞ!」

 

光輝の号令に、全員が気を引き締めた。その瞬間だ、靄が三つに切り開かれたのは。

 

掻き分けて現れたのは、かのポセイドンが使うトライデントのような三又の槍。しかし金属の部分は中央だけで、左右には氷で作られた荒々しい氷角が主張している。水平に構えている事から、先程の短刀が変化したものだと予測される。

 

シャルは、軽々とその氷の大槍を振り回すと、臨戦態勢で構えた。その表情は、少しだけ笑っていた。

 

「第二ラウンド、と行きましょうか」

 

そうして再び地をけったシャルと共に、カトレア率いる魔物達も光輝達へ襲いかかった。




変形シーンはちゃんと待ってくれるカトレアさん。そして、見たことがある彼女の言葉........。一体何なんだろう(すっとぼけ)。


次回もお楽しみに。感想もお待ちしております。


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遠藤の頼みと支部長の依頼

俺達は、現在、宿場町ホルアドにいた。

 

本来なら素通りしてもよかったのだが、フューレンのギルド支部長イルワから頼まれごとをされたので、それを果たすために寄り道したのだ。といっても、もともと【グリューエン大砂漠】へ行く途中で通ることになるので大した手間ではない。

 

ハジメは、懐かしげに目を細めて町のメインストリートをホルアドのギルドを目指して歩いた。俺もその横で目を細める。

 

「お兄ちゃん、パパ、どうしたの?」

「ん?あ~、いや、前に来たことがあってな.......まだ四ヶ月程度しか経ってないのに、もう何年も前のような気がして........」

「この四ヶ月間が濃すぎたんだよ」

 

俺がそう言えば、ハジメは「だな」と苦笑する。俺達に取って、始まりの地とも呼べるこのホルアド。懐かしくないわけが無い。

 

「緊張と恐怖と若干の自棄を抱いて一晩過ごして、次の日に迷宮に潜って........そして落ちた」

 

内容を聞かされている三人は、何も言わない。唯一、ミュウだけが、子供特有の無知なる表情でハジメを見ていた。

 

「こら。ミュウが居るんだ。そんな話はやめとけ」

「......わり。過去は過去、今は今だもんな」

「そゆことだ。教育にも悪い。ほら、行くぞ」

 

俺はミュウを肩車しながら、四人を率いてギルドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

入った瞬間に子連れと知った冒険者がこちらを睨んできてミュウが怯えた。その瞬間、ヤクザハジメが出たのは内緒の話だ。

 

ちなみにそれでも余計にミュウが怖がって俺の視界を塞いできたのは言うまでもない。

 

「支部長はいるか? フューレンのギルド支部長から手紙を預かっているんだが……本人に直接渡せと言われているんだ」

 

 ハジメは、そう言いながら自分のステータスプレートを受付嬢に差し出す。受付嬢は、緊張しながらもプロらしく居住まいを正してステータスプレートを受け取った。

 

「は、はい。お預かりします。え、えっと、フューレン支部のギルド支部長様からの依頼……ですか?」

 

普通、一介の冒険者がギルド支部長から依頼を受けるなどということはありえないので、少し訝しそうな表情になる受付嬢。しかし、渡されたステータスプレートに表示されている情報を見て目を見開いた。

 

「き〝金〟ランク!?」

 

冒険者において〝金〟のランクを持つ者は全体の一割に満たない。そして、〝金〟のランク認定を受けた者についてはギルド職員に対して伝えられるので、当然、この受付嬢も全ての〝金〟ランク冒険者を把握しており、ハジメのこと等知らなかったので思わず驚愕の声を漏らしてしまった。

 

その声に、ギルド内の冒険者も職員も含めた全ての人が、受付嬢と同じように驚愕に目を見開いてハジメを凝視する。建物内がにわかに騒がしくなった。

 

受付嬢は、自分が個人情報を大声で晒してしまったことに気がついてサッと表情を青ざめさせる。そして、ものすごい勢いで頭を下げ始めた。

 

「も、申し訳ありません!本当に、申し訳ありません!」

「あ~、いや。別にいいから。取り敢えず、支部長に取り次ぎしてくれるか?」

「は、はい!少々お待ちください!」

 

放っておけばいつまでも謝り続けそうな受付嬢に、ハジメは苦笑いする。ウルで軽く戦争し、フューレンで裏組織を壊滅させるなど大暴れしてきた以上、身分の秘匿など今更の話だが。

 

やがて、と言っても五分も経たないうち、ギルドの奥からズダダダッ!と何者かが猛ダッシュしてくる音が聞こえだした。何事だと、俺達が音の方を注目していると、カウンター横の通路から全身黒装束の少年がズザザザザザーと床を滑りながら猛烈な勢いで飛び出てきて、誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

 

「なぁ、京。あれって........」

「あぁ、あれは間違いなく........」

 

クラスで一番影が薄い、彼。自動ドアが三回に一回ぐらいの頻度でしか認識してくれない、彼。黒装束によってさらに薄さを増そうというのが客観的に見てとれた、彼。俺達は二人してその名を呼んだ。

 

「「遠藤?」」

 

俺たちの呼ぶ声に、バッ!とこちらへ向く。だが、再びキョロキョロと辺りを探し始めた。

 

「南雲ぉ!刀崎ぃ!いるのか!お前なのか!?お前達なのか!?何処なんだ!南雲ぉ!刀崎ぃ!生きてんなら出てきやがれェー!」

 

あまりの大声に、思わず耳に指で栓をする人達が続出する。その声は、単に死んだ筈のクラスメイトが生存しているかもしれず、それを確かめたいという気持ち以上の必死さが含まれているようだった。

 

さすがにうるさいので、背後に近づいて頭をぶっ叩いてやった。

 

「痛った!?誰だ今殴った.........の.........」

 

そこで遠藤の言葉が消える。そして目を擦って、俺達を交互に見た。

 

「........刀崎 京?」

「おう」

「.........南雲 ハジメ?」

「ああ」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

ありえない、と言った風に遠藤が叫んだ。遠藤、お前、今ギンギンに存在感出てるぞ.......よかったな。

 

「お前ら.......生きていたのか」

「今、目の前にいるんだから当たり前だろ」

「何か、えらく変わってるんだけど........見た目とか雰囲気とか口調とか.........刀崎は、着物着てるし」

「奈落の底から自力で這い上がってきたんだぞ?そりゃ多少変わるだろ」

「服も変わるさ」

「そ、そういうものかな?いや、でも、そうか........ホントに生きて..........」

 

あっけらかんとした俺達の態度に困惑する遠藤だったが、それでも死んだと思っていたクラスメイトが本当に生きていたと理解し、安堵したように目元を和らげた。

 

「っていうかお前ら.......冒険者してたのか?しかも〝金〟て........」

「ん~、まぁな」

 

ハジメの返答に遠藤の表情がガラリと変わる。クラスメイトが生きていた事にホッとしたような表情から切羽詰ったような表情に。改めて、よく見てみると遠藤はボロボロであった。一体、何があったんだと内心首を捻る。

 

「.......つまり、迷宮の深層から自力で生還できる上に、冒険者の最高ランクを貰えるくらい強いってことだよな?信じられねぇけど...........」

「まぁ、そうだな」

 

すると、土下座気味に頭を下げて、再び遠藤は叫んだ。

 

「頼む、南雲、刀崎!助けてくれ!!皆が.........」

「「断る」」

「即答!?」

 

まるで漫才のようなツッコミに、遠藤は流されてしまいそうになるが、ブンブンと首を振った。

 

「な、何でだよ!?皆がピンチなんだ!!」

「いや、俺らは別にやる事があってだな........」

「お前にとっちゃ白崎さんが、刀崎にとっちゃ八重樫と中村が危ないんだよ!!」

「「何.......?」」

 

まるで手のひらを返すように、俺達はその言葉を聞き逃さない。

 

「死んだんだよ!メルド団長もアランさんも他の皆も!迷宮に潜ってた騎士は皆死んだ!俺を逃がすために!俺のせいで!死んだんだ!死んだんだよぉ!」

「.........そうか」

 

癇癪を起こした子供のように、「死んだ」と繰り返す遠藤に、何を聞くでもなくハジメはただ一言、そう返した。俺は肩で息をしながら目が血走っている遠藤を、宥める。

 

「で、何があったんだ?」

「それは........」

 

遠藤が話そうとして、六十歳過ぎくらいのガタイのいい左目に大きな傷が入った迫力のある男が遠藤の腕をつかんで有無も言わさず奥へ連れて行った。風格からして、支部長だと悟った俺達は大人しく後ろへついて行くことにした。

 

 

 

 

 

 

遠藤は話した。九十層で、魔物を操る女と、異様に強い少女の魔人族に会った、と。そのうち、魔物を操る女が放った魔物にメルド団長達は殺された、と。

 

「魔人族.......か」

 

魔人族と言えば、先日、清水を亡き者にしようとしたやつの種族も魔人族だった。

 

「つぅか何なんだよ!その子!何で、菓子食わしてんの!?状況理解してんの!?みんな、死ぬかもしれないんだぞ!」

「ひぅ!?パパぁ!」

 

場の雰囲気を壊すようなミュウの存在に、ついに耐え切れなくなった遠藤がビシッと指を差しながら怒声を上げる。それに驚いてミュウが小さく悲鳴を上げながらハジメに抱きついた。

 

当然、ハジメから吹き出す人外レベルの殺気。パパは娘の敵を許さない。

 

「てめぇ.......何、ミュウに八つ当たりしてんだ、ア゛ァ゛?殺すぞ?」

「ひぅ!?」

 

ミュウと同じような悲鳴を上げて浮かしていた腰を落とす遠藤。両隣から「……もう、すっかりパパ」とか「さっき、さり気なく〝家の子〟とか口走ってましたしね~」とか「果てさて、ハジメはエリセンで子離れ出来るのかのぉ~」とか聞こえてくるが、ハジメは無視する。

 

「んで、遠藤。お前はどうしたんだ?」

「俺は........二人の魔人族から撤退した後にメルド団長達に知らせるように頼まれて.........そんで今ここに」

「なるほどな」

 

遠藤が、全マッピングを終わらせている迷宮を駆け抜けるのには少なくとも数時間はかかるだろう。そして、その女達の心理から考えて、ゆっくり探すだろう。

 

「まだ、間に合う」

「っ........!刀崎!」

 

そう言って立ち上がった俺を、ハジメも支部長も見る。ミュウも同じように見上げていた。

 

「行くのか?京」

「悪いな。今回ばかりは見逃せねぇんだよ」

「........そうか」

 

ハジメはそれだけ言うと、支部長の方に視線を向ける。すると、ミュウが膝から降りて俺の方へ寄ってくる。

 

「お兄ちゃん、行くの?」

「ごめんな〜ミュウ。でも、後で絶対に帰ってくるからな〜」

「うぅ..........でも、京お兄ちゃんなら我慢するの!」

「いい子だ」

 

寂しい気持ちを我慢しているミュウの髪を笑顔で撫でる。すると気持ちよさそうに目を細めていた。

 

「待ちな、京」

「.......何か?」

 

そこで、支部長が待ったをかけた。俺は振り返って支部長の瞳を見る。その瞳に俺を止める気は無いようだ。ならば、恐らく。

 

「お前が行くなら、俺がお前たちに依頼しよう。南雲ハジメ、刀崎 京、及びその仲間達。迷宮攻略中の神の使徒を生きて連れて帰ってきてくれ」

 

その言葉に、ハジメは目を見開いて何か言おうとしたが、黙り込む。きっと、彼女の存在が頭に過ったのだろう。

 

「ったく、わぁーったよ。やればいいんだろ、やれば」

「おう、そういう事だ」

「んじゃ、京。俺は少し話をしてから行く。後でな」

「おう。さっさと来いよ」

 

互いにそう笑いあって、今度こそ立ち去ろうとしてティオが横に並んだ。

 

「ご主人様、妾も.........」

「お前はミュウを頼むぞ」

「.......へ?」

 

一緒に行く、とでも言おうと思ったのだろう。だが、全員が行ってしまっては誰もミュウの面倒を見れない。ハジメもギルドに預ける気は無いようだし、丁度いい。

 

「どうせハジメが行くなら、ユエもシアもついて行くだろ?なら誰がミュウの面倒を見るんだ?お前しか居ないだろ?」

「いや、じゃがな.........」

「そういう訳で、頼んだぞティオ」

「あっ.......ちょ、待っ.............有無を言わさず置いていくとは........んんっ!」

 

その場の全員が、ティオに白けた視線を送った瞬間であった。

 

「なぁ、刀崎。ミュウちゃん.......だっけ?その、兄貴なのか?」

「ん、ああ。ハジメがパパで、俺がお兄ちゃん。南雲ファミリー的なそれだよ」

「えぇ...........って言うかだな。誰だよあの美人!?しかもご主人様って!」

「聞くな、殺すぞ」

「えぇ.............」

 

手のひら返しの俺に、遠藤はそう言うしかなかった。




文章が短いのはごめんなさい。

区切り的にはこうしたかったんです。


次回、ついにですよ!ついに!お楽しみに!
感想もお待ちしております


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異端の介入

合流.......うーん、そうね?みたいな感じになってしまったこと、先にお詫びしておきます。ま、まぁ本番は次回ということで.......(汗)


遠藤と共に懐かしき入場ゲートを潜る。あの時はたしか、雫と話をしながら入ったんだったかな。

 

「ふーむ、なるほどなぁ」

「ど、どうしたんだ?」

 

空間把握で今どこにいるのか、正確にとらえた。どうやら誰かが結界で隠してるらしい。今から行けば.........うーん、ま、試してみるしかない。転移用の魔法陣は遠藤が壊したらしいし。

 

「よっし、そんじゃ行くか!」

 

俺は纏雷を体に纏う。ビリビリと周辺には稲妻が迸った。もちろん遠藤は目が点である。

 

「おま......え?何、それ?某ハンターのキ〇アか!?」

「おい、やめとけ。それ以上はいけない」

 

とりあえず遠藤をひょいと持ち上げる。ボロボロなので、できるだけ振動が無いようにしたいところだ。

 

「うわっ........ん?これ俵担ぎ?」

「お前、おぶったり、お姫様抱っこされたいか?」

「.........されたくないです」

 

とりあえず俺はそのままゆっくりと歩いた。そこから地面を蹴る度にだんだん速度を上げていく。

 

「ちょ、え.....?速っ...........」

「遠藤、絶対に落とさないから。俺を信じろ!」

「信じろって......ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

遠藤の声が木霊中、俺は低い姿勢で纏雷と空力を応用しながら迷宮を駆け抜けることにした。

 

 

 

 

 

 

一方の勇者パーティーとその一行。あの後、大乱戦の中、シャルの圧倒的力から半ば逃げるようにして撤退をするしかなかった。

 

シャルが振るった氷の大槍の力は、今の彼らにすれば絶大。襲い来る、魔法ではない何かの技、さらには槍自身の武技のようなものまで使う彼女に、最初は善戦していた雫も押され始め、ついにはダメージを受けた。

 

さらにそこへカトレアの魔物達が介入してくるのがいやらしい。今や、光輝達はボロボロの死に体でなんとか逃げ延びたのである。既に遠藤には救援要請をしているのだが、一向に帰ってこない。

 

唯一、無傷を保っていた香織が魔法で癒しているのだが、それでも精神的ダメージは治るはずが無かった。

 

「クソっ!なんなんだよあいつら!」

 

ここに来て、野村が声を上げた。拳を地面に叩きつけて、悔しさを露わにする。

 

「落ち着くんだ、野村。こんなところで取り乱しても何も........」

「落ち着く!?今もアイツらが俺達を探してるこの状況でか!?冗談じゃねぇ!」

 

すると立ち上がって、今度は雫の方を睨む。急に視線を向けられて一瞬、雫はたじろいでしまった。

 

「大体、八重樫のあの力さえあれば倒せたんじゃないのかよ!?」

「それは.........」

「発動条件が分からないとか、そんなことあるか!?どうせ俺たちに隠してんだろ!」

「野村、それはさすがに言い過ぎだろう!」

 

そこに待ったをかける光輝。雫は確かにそうである事実を突きつけられて少し顔を沈ませてしまった。

 

雫があの時に見せた、圧倒的な力があれば、確かに勝てたかもしれない。皆が傷つくこともなかったかもしれない。そう思うと、やはり自分を責めて........

 

「あのさ、野村。君、何様のつもり?」

「はぁ!?」

 

そこで、以外にも恵理が野村を睨んだ。全員の視線が、雰囲気の変わった恵理へと集まる。

 

「雫だって、その力については悩んでる。いっぱい悩んで、それでも分からないんだよ。それを隠してる?ふざけたことを言わないでくれるかな?」

「なんだよ中村!お前だってロクに支援に参加してなかったじゃないか!」

「そういう君だって、逃げ回るしかなかったよね。私はちゃんと魔法を組んで攻撃してたの」

 

それに対して反論しようとした野村。そこへ、ついに光輝が口を挟んだ。

 

「やめるんだ!」

「っ......なんだよ、天之河」

「野村、今は争ってる場合じゃない。今度こそ俺が勝つ!だから........」

「.......でも、”限界突破”を使っても勝てなかったじゃないか」

「そ、それは........こ、今度は大丈夫だ!」

「なんでそう言えんの?」

「今度は最初から”神威”を女魔人族に撃ち込む。みんなは、それを援護してくれれば........」

「でも、長い詠唱をすれば厄介な攻撃が来るなんてわかりきったことだろ? 向こうだって対策してんじゃねぇの?それに、魔物だってあれで全部とは限らないじゃん」

 

ついに不安が最高潮になってきた野村と近藤達。その言葉に龍太郎達がヒートアップしたりして騒ぎになりそうになった瞬間、だがその空間は凍りついた。

 

「グゥルルルルル.........」

「「「「!?」」」」

 

唸り声だ。とても聞き覚えのある低く腹の底に響く唸り声。全員の脳裏にキメラや赤い四つ目狼の姿が過ぎり、今までの険悪なムードは一瞬で吹き飛んで全員が硬直した。僅かな息遣いすらも、やたらと響く気がして自然と息が細くなる。視線が、通路の先のカモフラージュした壁に集中する。

 

ザリッ!ザリッ!、フシュー!フシュー!

 

壁越しに、何かをひっかく音と荒い鼻息が聞こえる。誰かがゴクリと喉を鳴らした。臭いなどの痕跡は遠藤が消してくれたはずで、例え強力な魔物でも壁の奥の光輝達を感知出来るはずはない。そうは思っていても、緊張に体は強張り嫌な汗が吹き出る。

 

完全回復には、今しばらく時間がかかるだろう。今責めてこられたならば、確実に負ける。

 

しばらく、外を彷徨いていた魔物だが、やがて徐々に気配が遠ざかっていった。そして、再び静寂が戻る。それでも、しばらくの間、誰も微動だにしなかったが、完全に立ち去ったとわかると盛大に息を吐き、何人かはその場に崩れ落ちた。極度の緊張に、滝のような汗が流れる。

 

「........あのまま騒いでいたら見つかっていたわよ。お願いだから、今は、大人しく回復に努めてちょうだい」

「あ、ああ........」

「そ、そうだな........」

 

雫が頬を伝う汗をワイルドにピッ!と弾き飛ばしながら拭う。近藤達も、どもりながら返事をして矛を収めた。まさに、冷や水を浴びせかけられたという感じだろう。

 

一先ず安心、と全員が脱力した瞬間。

 

ドガァァァァァァン!

 

静寂を切り裂くように、違う壁が豪快に破壊された。全員がその轟音に視線を向け、まさか、と冷や汗が大量につたる者も多数。

 

一番来て欲しくない悪魔、先程の氷の大槍を持ったシャルがゆっくりと土煙の中から現れた。

 

「......見つけた」

「ほんと、あんたの索敵は優秀だね」

 

シャルの背後に続くようにして、魔物を引連れたカトレアが入ってくる。最悪の事態が発生してしまった。光輝達はすぐに立ち上がって臨戦態勢を取ったが、背後の何人かはまだ立ち上がれていない。

 

「手間取らせてくれたね。でも、それはこの瞬間までだ」

「さっさと殺して、私は兄様のところへ帰ります」

 

そう言ってシャルが飛び出した。それを迎え撃つようにして光輝と雫が突っ込んでいく。

 

「二人でも、止められませんよ」

 

跳ね除けるような槍の大振りが簡単に光輝と雫を壁まで吹き飛ばした。さらにその後ろから魔物が突っ込んでくる。

 

「”天絶”!!」

 

ほぼ無詠唱の香織のシールドは、しかし。魔力が尽きかけの彼女の防壁を簡単の突破してしまう。しかし、恵理にとってはその時間だけで十分だった。

 

「吹き荒れろ!”炎嵐”」

 

恵理の魔法が、後衛陣に襲い掛かろうとした三体の魔物を包み込んだ。吹き荒れる炎の嵐が魔物の皮膚をどんどん焼いていく。

 

「「「グゥルガァァァァ!!」」」

 

魔物達の苦悶の声が響く。内心、小さくガッツポーズを取った恵理に、しかしその瞳が彼女を捉えた。大きく跳躍して、こちらへ投擲の構えを取ったシャルに。

 

「白蓮華」

 

なんとか阻止しようと雫と光輝が止めに入る。しかし、投擲した大槍の余波に再び壁へ叩きつけられる。

 

「「”天絶”!!」」

 

これはまずい、と香織と綾子が渾身の障壁を張る。しかし、まるで薄い氷をいくつも破るように簡単に障壁を破壊し、後衛の地面に大槍が突き刺さる。

 

「爆ぜろ」

 

シャルが握った拳に応じて大槍から氷が放出され、後衛の全員が壁へ叩きつけられた。その威力は絶大で、後衛の何人かは意識を失った。しかしなんとか意識を保った恵理、香織、鈴は、壁へ縫い付けるように首から膝までを覆った氷に拘束された。

 

シャルの一撃により後衛が崩壊、カトレアの操る魔物が前衛をジリジリと削る。今まで難なく攻略してきた十五人のパーティーは、二人の魔人族により壊滅状態に陥っていた。もうダメだ、と、心の中で誰もが思ったことだろう。

 

(京っ.........!)

 

故に雫は願ってしまった、彼が助けに来てくれることを。生きているかもわからない人間に縋り付いてしまう程、心的余裕がなくなっていた。

 

その瞬間だった。天井が崩壊したのは。

 

「「!?」」

 

全員の動きが止まり、崩壊した瓦礫と土煙が発生する地点を注視する。

 

「おまっ、()()!地面を破壊するとかなんなんだよそれ!」

「いやー、ここの真下だったからつい」

 

土煙から、聞き覚えのある声が二つ。一つは先程まで行動を共にしていた遠藤のもので間違いないだろう。

 

.........では、もう一つは?

 

「ケホッ!ケホッ!おえっ、どんだけ立つんだよこの土煙」

 

そこには、たしかに彼がいた。

 

........死んだと思われていたはずの、刀崎 京が。

 

 

 

 

 

 

面倒だからって無闇矢鱈に破壊するもんじゃねーな。まぁ、土煙を吸い込んでも特に何もないんだが。

 

「えーと、んで。どういう状況ですかこれ」

 

俺は遠藤にそう話しかける。すると、遠藤は辺りを見回して、固まった。

 

「あいつだよ........」

「ん?あいつ?」

「あの赤髪の女!!あいつが団長達を!」

 

確かに、その場には遠藤の話の通り、赤髪の女と水色髪の少女がいた。そのうち、少女の方が持ってる武器は.........なんか俺の斬魄刀に似てんだよなぁ。

 

「おや、おめおめと逃げ帰ってきたのかい。団長ってのは........あぁ、あっけなく倒れたやつか。あいつならもう時期死ぬだろうし、放ってきたよ」

 

何が面白いのか笑いながらそういう女。俺はそこを通ってきたわけなんだが、居なかったぞ?............まぁ、ハジメ達が見つけてくれるだろ。

 

「「京!!」」

 

そこで、俺の名前を呼ぶ声が二つ。声のした方を見てみると、なんとそこには恵理と雫が。.........ボロボロだけど。

 

「なんだい、あんた。こいつらの知り合いかい?」

「まぁ、そんな所だ」

「へぇ、そうかい。じゃあ、死にな!」

 

女がそう叫べば、どうやら背後に回ったらしい魔物が三体、俺へ襲いかかってくる。遠藤も急な襲来に反応できていないらしい。

 

「見えてんだよ、バーカ」

 

刹那、雷光が煌めく。俺は纏雷を纏って一瞬のうちに三対の魔物の首を落とした。ドシャリと地面に落ちた魔物達を見て、赤髪の女は目を見開いた。

 

「なんっ........何を!?」

「移動した、斬った、以上。何か?」

 

赤髪の女は未だに理解が追いついていないのか、目を見開いたまま固まっている。すると今度は、氷の大槍を持った少女がこちらへ向かってくる。

 

「私が殺る!!」

「っ!待て!シャル!」

 

シャルと呼ばれた少女が突き出してきた槍を半身引いてよけ、そのまま蹴りあげる。グルグルと回って槍が遠くに飛ばされるのを背後に、俺は少女を近くの壁に叩きつけた。

 

「がぁっ!?」

 

苦悶の声が漏れて、激しく咳をしている。まさか、こんなヤツらに負けたのか........。

 

「んで、何だっけ。まだやんの?」

「っ!行け!」

 

赤髪の女は持てる全ての魔物を俺へ押し付けてくる。これにはさすがに遠藤も横で騒いでいるが、こんな物、奈落の魔物に比べればどうってことは無い。

 

「貪り喰らえ『天変飢餓』」

 

一瞬で始解状態にした斬魄刀で次々に魔物の首を落とし、食らっていく。雷光が煌めいたのは一瞬。しかし、首が無くなった魔物は複数体。全部が俺の背後に斬り捨てられる。

 

「あー、そうだ、遠藤。ほれ」

「うわっ、とと!」

 

俺はハジメから予め貰っていた試験管を数本、遠藤に手渡す。まぁ、こうなるだろうとは予想してたんだろうな、ハジメも。

 

「な、なんだよこれ!?」

「魔法のお薬。ていうか内容聞かずにさっさと飲ませてやれ。hurry up!!」

「はひぃ!!」

 

遠藤は天之河達の所へ飛んで行った。これで勇者パーティー一行は大丈夫だろう。

 

「.........さて」

 

俺は二人を交互に瞳へ映して、殺気を発動する。押しつぶすような威圧が、二人を支配した。

 

「死にたいやつから前へ出ろ。もれなく内側から喰い破ってやる」

 

そう言うも、反応はなし。だが、いつの間にか叩きつけた少女が居ない。ともすれば、その反応は上空に。

 

「はぁぁぁ!!!」

 

突き出した大槍は、真っ直ぐに俺へ向けたもの。刀で軌道をずらしてやれば、俺の真横に落下する。

 

しかし、空中でその槍を振り上げてさらに俺を襲う。

 

「......へぇ」

 

受け止めたそこから、力強い押しが俺に加わる。とても少女とは思えない筋力だ。

 

「おっと、逃げんな。縛道の六十一、六杖光牢」

 

少女と対面しながらも、動きを見せた赤髪の女へ向けて片手で式を練る。どこからともなく六つの光の帯が現れ、女を取り囲むと差し込むようにしてその動きを止めた。

 

「クソっ!?動かな.....い!?」

「しばらくそこで、もがいてな」

「余所見するなァっ!!!」

 

ともすれば、少女が大槍で俺を弾き飛ばした。そのまま後退した俺へ向かって跳躍する。

 

「氷壊山!!」

 

地面に叩きつけた大槍から発生した鋭く尖る氷が俺を刺し殺そうと迫ってくる。だが対照的に、俺は纏雷を拳に纏わせた。

 

「オラァ!!」

 

ガシャァァン!

 

纏雷を纏った拳と正面からぶつかった氷は、拮抗する事すら許されずに崩壊する。さすがに想定していなかったのだろう、少女の顔は驚愕の色で塗り固められている。

 

「このっ!!」

 

馬鹿正直に突っ込んできた槍をのらりくらりと避け、時には弾き返す。それでも止まない攻撃は評価するべきだが、何分、まだまだ攻撃の密度が浅い。突きの槍を掴みこんで、少女の腹部に膝蹴りを入れる。

 

「っかは!」

 

蹲った少女を、そのまま回し蹴りで弾き飛ばした。地面を数回跳ねれば、ゴロゴロと転がって行った。

 

ともすれば、今度は上空から紅いスパークが散る。

 

「おせーぞー」

「お前こそ、何遊んでんだよ」

 

降りてきたのは、ハジメ、ユエ、シア。ユエとシアは物珍しいのかチラチラと辺りを見回している。ハジメはチラリと全体を一瞥して、宝物庫から遠藤に渡したのと同じ試験管を取り出す。

 

「ユエ、シア、怪我してる奴に飲ませてやれ」

「ん」

「はいです!」

 

そう言うと遠藤と同じく、天之河達の方向へ向かって行った。

 

「なぁ、団長は?」

「ん?あいつなら上で放置だ。既に飲ませてある」

 

ならば大丈夫だろう。そう思って吹っ飛ばした少女の方を見ると、居なくなっていた。

 

「居ない.........」

「逃げたやつはどうでもいいだろ。それより.......」

 

そう言ってハジメは六杖光牢に縛られている赤髪の女を睨んだ。

 

「ば、化け物め........あたしの魔物達をあっという間に..........それに、シャルも」

「ま、化け物はいつもの事だからな」

 

あとはどうでもいいのでハジメに任せる。俺は一歩引き下がった。

 

「ま、大体の予想はつく。ここに来たのは、〝本当の大迷宮〟を攻略するためだろ?」

 

魔人族の女が、ハジメの言葉に眉をピクリと動かした。その様子をつぶさに観察しながらハジメが言葉を続ける。

 

「あの魔物達は、神代魔法の産物........図星みたいだな。なるほど、魔人族側の変化は大迷宮攻略によって魔物の使役に関する神代魔法を手に入れたからか........とすると、魔人族側は勇者達の調査・勧誘と並行して大迷宮攻略に動いているわけか.......」

「どうして.......まさか.........」

 

ハジメが口にした推測の尽くが図星だったようで、悔しそうに表情を歪める魔人族の女は、どうしてそこまで分かるのかと疑問を抱き、そして一つの可能性に思い至る。その表情を見て、ハジメは、魔人族の女が、俺達もまた大迷宮の攻略者であると推測した事に気がつき、視線で「正解」と伝えている。

 

「なるほどね。あの方と同じなら.........化け物じみた強さも頷ける.........もう、いいだろ?ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね.........」

「あの方.........ね。魔物は攻略者からの賜り物ってわけか.........」

 

捕虜にされるくらいならば、どんな手を使っても自殺してやると魔人族の女の表情が物語っていた。そして、だからこそ、出来ることなら戦いの果てに死にたいとも。ハジメとしては神代魔法と攻略者が別にいるという情報を聞けただけで十分だったらしく、もう用済みだとその瞳に殺意を宿した。

 

 魔人族の女は、道半ばで逝くことの腹いせに、負け惜しみと分かりながらハジメに言葉をぶつけた。

 

「いつか、あたしの恋人があんたらを殺すよ」

 

その言葉に、ハジメは口元を歪めて不敵な笑みを浮かべる。

 

「敵だと言うなら神だって殺す。その神に踊らされてる程度の奴じゃあ、俺には届かない」

「なら返り討ちにしてやるさ」

 

互いにもう話すことはないと口を閉じ、ハジメは、ドンナーの銃口を魔人族の女の頭部に向けた。

 

しかし、いざ引き金を引くという瞬間、大声で制止がかかる。

 

「待て!待つんだ、南雲!彼女はもう戦えないんだぞ!殺す必要はないだろ!」

 

ここで出てくるのが勇者(笑)。天之河は、フラフラしながらも少し回復したようで何とか立ち上がると、更に声を張り上げた。

 

「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。南雲も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」

 

余りにツッコミどころ満載の言い分に、ハジメは聞く価値すらないと即行で切って捨てた。俺も止めるような理由はない。

 

「どーぞ?」

「おう」

 

ドパン!

 

その空間に、乾いた銃声が響き渡った。



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合流

ラブコメ気味な前半戦、はーじまーるよー

もちろん前半戦ということは後半戦もあるわけで。


乾いた銃声と共に、女は撃沈した。脳を一撃。ドンナーが簡単にその女の命を刈り取ったのだ。

 

「南雲!!」

 

あまりにうるさい声で、天之河がハジメの名を呼んだ。ハジメは面倒な表情でチラリと天之河を一瞥して、それ以降視線を向けることは無かった。もちろん、正義感と勘違いが強い彼はそれを許すはずがない。

 

「どうして、どうして彼女を殺したんだ!」

 

動けないのか、その場で鋭くハジメを睨みつける。だが一向にハジメは答える気配がない。

 

「ハジメさーん、皆さんの回復、終わりましたよー」

「おう、サンキュ」

 

そう言って寄ってきたシアのうさ耳をモフりハジメた。さらにはユエも終わったのかトコトコこちらへ向かってくる。

 

「おい、南雲!聞いて........」

「「京!!」」

「ハジメ君!!」

 

天之河の声を遮って俺とハジメを呼ぶ声。二人してその声の方を見れば、ハジメの方に白崎が。俺の方に雫と恵里が向かってきて.........。

 

「あ、ちょっ待っ.....おぉぉぉぉ!?」

 

俺は二人に飛びつかれて転倒した。なんとか二人を地面に激突させることは回避したので良かった。

 

「京.......!本当に京なの!?」

「お、おう。安心と安全の京さんだぞ」

「この匂い.......京だね!」

「おい恵里、なんだその狂気の発想は」

 

俺が起き上がって二人の目を見ながらツッコミを入れていると、俺の膝に何かが落ちた。よく見てみると、雫が泣いていたのだ。俺の腕を握りながら人前であるのを忘れて泣いている。

 

「京.......本当に良かった........ひっぐ、私、心配で.........ぐすっ」

「いや、さすがに泣くのは............まぁ、そうか」

「そうだよ、京。僕らを悲しませたんだから」

 

泣いている雫とは対照的に、恵里は幸せそうに笑みを零している。感動の再会というよりは、やっと会えた、という方か。

 

「馬鹿っ........けいのばかぁ........ひぐっ」

「分かった、分かったから。泣き止んでください雫さん」

「なにー?僕は構ってくれないのー?」

「いや、そうじゃなくてだな.............はぁ」

「あ、あの京さんが困り果ててる..........!?」

「あ、明日槍が降る........!!」

 

クラスの二大女神が人前もはばからずに顔をくしゃくしゃにして泣いている構図は、さぞかし違和感がある事だろう。シアとユエは後でOHANASHIしなければ。

 

さらに涙が止まらない雫は白崎がハジメの胸に飛び込むのと同時期くらいに俺の胸板へ額を当ててすすり泣いた。恵里は恵里で座ったまま俺の傍に寄り添ってるし、全然身動きが取れないこの状況。

 

「なぁ、ハジメ」

「京、みなまで言うな」

 

今だけは同じ境遇を理解し合うしかない。いつもなら俺が頭を叩いてる方なんだがなぁ。

 

「........はぁ、香織達は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて.......でも、南雲達は無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある。もうそれくらいにして、離れた方がいい」

 

天之河、背後のクラスメイトからの視線がかなり痛いぞ。絶対わかってないだろ、こいつ。

 

「悪い、恵里。雫をちょっと頼む」

「え?あぁ、.うん」

「シア、白崎を支えてやってくれ」

「あ、はいです」

 

俺が雫を恵里に預け、ハジメが白崎をシアに預けて天之河を見る。OHANASHIしようという事だ。

 

「天之河。存在自体が色んな意味で冗談みたいなお前を、いちいち構ってやる義理も義務もないが、それだとお前はしつこく絡んできそうだから、少しだけ指摘させてもらう」

「指摘だって?俺が、間違っているとでも言う気か?俺は、人として当たり前の事を言っているだけだ」

 

ハジメから心底面倒です!という表情を向けられ、不機嫌そうにハジメに反論する光輝に取り合わず、ハジメは言葉を続けた。

 

「誤魔化すなよ」

「いきなり何を........」

「お前は、俺があの女を殺したから怒っているんじゃない。人死にを見るのが嫌だっただけだ。だが、自分達を殺しかけ、騎士団員を殺害したあの女を殺した事自体を責めるのは、流石に、お門違いだと分かっている。だから、無抵抗の相手を殺したと論点をズラしたんだろ? 見たくないものを見させられた、自分が出来なかった事をあっさりやってのけられた……その八つ当たりをしているだけだ。さも、正しいことを言っている風を装ってな。タチが悪いのは、お前自身にその自覚がないこと。相変わらずだな。その息をするように自然なご都合解釈」

「ち、違う!勝手なこと言うな!お前が、無抵抗の人を殺したのは事実だろうが!」

「敵を殺す、それの何が悪い?」

「なっ!?何がって、人殺しだぞ!悪いに決まってるだろ!」

 

確かに、人殺しは悪い。しかし、その考えは、この世界では甘すぎる。

 

「天之河、お前さ、この世界を殺さずに救えるとか思ってるのか?」

「当たり前だ!和解すればそれで.........っ!」

 

俺達は顔を見合わせて、心底深くため息をついた。

 

「で、和解しようとした結果があれですか?」

「ちっ、違っ.........あれは落ち着かせようと.........!!」

「ちげーよ。一方的に負けてただろうが」

 

本当に、俺が助けに来なかったらどうなっていた事か。ハジメと同じペースできたなら、絶対に死人が出ていた。

 

「はぁ、お前と議論するつもりはないから、もうこれで終いな?俺も京も、敵対した者には一切容赦するつもりはない。敵対した時点で、明確な理由でもない限り、必ず殺す。そこに善悪だの抵抗の有無だのは関係ない。甘さを見せた瞬間、死ぬということは嫌ってくらい理解したからな。これは、俺が奈落の底で培った価値観であり、他人に強制するつもりはない。が、それを気に食わないと言って俺の前に立ちはだかるなら.........」

 

ハジメが一瞬で距離を詰めて天之河の額に銃口を押し付ける。同時に、ハジメの”威圧”が発動し周囲に濃密な殺気が大瀑布のごとく降りかかった。息を呑む天之河達。仲間内でもっとも速い雫の動きだって目で追える天之河だったが、今のハジメの動きはまるで察知出来ず、戦慄の表情をする。

 

「例え、元クラスメイトでも躊躇いなく殺す」

「お、おまえ.......」

「勘違いするなよ?俺は、戻って来たわけじゃないし、まして、お前等の仲間でもない。白崎に義理を果たしに来て、ついでに支部長の依頼だからだ。ここを出たらお別れだし、俺達には俺達の道がある」

 

それだけ言うと、何も答えず生唾を飲む光輝をひと睨みして、ハジメはドンナーをホルスターにしまった。”威圧”も解けて、盛大に息を吐きハジメを複雑そうな眼差しで見るクラスメイト達だったが、天之河は、やはり納得出来ないのか、なお何かを言い募ろうとした。しかし、それは、うんざりした雰囲気のユエのキツイ一言によって阻まれる。

 

「戦ったのは京。恐怖に負けて逃げ出した負け犬にとやかくいう資格はない」

「なっ、俺は逃げてなんて......」

「もういい。お前はそれ以上喋るな、天之河。俺たちがこうやって言うだけ無駄だからな」

 

そう言って俺達は撤退を始めた。まだまだ何か言いたげだった天之河も、クラスのやつらにいい加減、諭されて撤退に入る。

 

前線はハジメに任せて、俺は後方からクラスメイトの後について行っている。もし今、この状態で魔物が後ろから襲ってきても対処できるように、だ。まぁ最も、前の方では魔物以上の何かが戦闘しているらしいが。

 

途中で団長達を拾い、一行はどんどんと出口へ向けて進んでいく。雫は撤退する時には泣き止んでいたが、未だに離れてくれない。恵里にしても、離れる理由がないだの何だのと言って俺の横にぴったりくっついている。

 

「雫さん........?」

「嫌。.........嫌よ」

「あのー........そんな子供じゃないんですから.............」

「嫌」

「じゃあ恵里..........」

「だーめ」

 

どうやら俺の拘束はまだまだ続くらしい。いつもならば火花を散らしていた雫と恵里だが、俺が居なくなった後に何か心の変化でもあったのだろう。こんな状況であっても争う様子を見せない。

 

そのまま【オルクス大迷宮】の入場ゲートまで辿り着いた。途中、湧いて出た魔物をハジメが瞬殺するのを見て、もちろんクラスメイトは驚いていたのは印象的だ。彼は奈落に落ち、進化して帰ってきた。もはや無能などとは誰にも呼ばせない。

 

「あっ!パパぁー!!お兄ちゃんー!」

「むっ!ミュウか」

 

先頭の方では幼い子供の声が反響した。それは、ハジメの義娘であり、俺の義妹である海人族の幼女、ミュウである。

 

「ミュウ!」

「パパー!」

 

親子の感動の再会並の演出で二人が近づく頃。しかしそこに疾風が割り込んだ。ハジメの抱き締めが虚空へと消え、一瞬何が起きたか分からない様子。

 

「キャー!?何この子!!すっごく可愛いじゃない!!」

「......は?」

 

ミュウを攫って行ったのは、いつの間にか俺の横から消えていた雫だった。目を輝かせながら、ミュウを腕の中で抱きしめている。

 

「だ、誰なの!?」

「可愛い〜!ぬいぐるみ、みたい!!ほっぺとかも柔らかいわ!!」

「うぅ〜パパぁーお兄ちゃんー!」

 

雫は昔から好きな物を抑制されていたため、特に女の子らしい可愛い物には目がない。好きな色はピンクだし、彼女の部屋には大量に可愛いぬいぐるみなどが置いてあったりする。そんな雫が飛びつく程の可愛さというのが、ミュウだったようだ。

 

「おい八重樫、何うちの子に触って........っ!?」

 

瞬間、ハジメが転がされた。

 

「........は?」

 

ハジメは二度目の戸惑い見せる。先程、ハジメは雫の肩に触れた。だが、その瞬間にハジメの身体は足を払われたように地面と水平になり、落下したのだ。何かの間違いだと再び雫の体に触れれば、再びハジメは宙を舞った。

 

雫は昔から、触れることを許可した人間以外がフィーバー中に自分の身体に触れれば問答無用で空気投げするのだ。その速度は、俺を以てしても認識不可能。まさにその領域は亜光速と言っても過言ではない。

 

気がつけば宙を舞い、地へと落ちる。なお、本人は触れた人に対して目もくれずに可愛いものに夢中なのである。

 

ハジメはどこからどう攻めようとも、同じように空気投げされた。最初は数回、しかし回を重ね、その数は既に五十回を超えているにもかかわらず、ミュウを取り返せていない。

 

「くっ、クソ!!」

「落ち着け、ハジメ。あの状態の雫にゃお前でも勝てねぇ」

 

俺はそんなハジメを置いといて雫の肩に触れた。しかし、何も起きない。

 

当然だ、雫が触れることを許しているのは俺だけなのだから。ポンと置かれた手を辿り、その視線が俺を凝視した。

 

「落ち着け、雫。とりあえずミュウを返してくれないか。皆が見てる」

 

その言葉に雫は我に返ったように辺りを見回し、雫の意外な一面に固まっていた全員の表情を見た瞬間に、顔を真っ赤に燃え上がらせて俯き、ミュウを手渡して来る。彼女はそのままスススと俺の背に隠れた。

 

「...........もうお嫁に行けないわ」

「雫、油断大敵って知ってる?」

 

恵里が慰めのような言葉をかけているのを尻目に、俺はミュウを地面に下ろした。

 

「ところでミュウ。ティオは?」

「ティオお姉ちゃんなら............あっ!来たの!」

 

ミュウが指を指したそこに、人混みをかき分けて、妙齢の黒髪金眼の美女が現れる。言うまでもなくティオだ。

 

「ティオ、ちゃんと見とけって言ったろ」

「目の届く所にはしっかりとおったよ。しかし不埒な輩の制裁光景なんぞ見せられんじゃろ?」

「なるほど、そういう事な」

「それならしゃあないか........で?その自殺志願者は何処だ?」

「いや、ハジメよ。妾がきっちり締めておいたから落ち着くのじゃ」

「.........チッ、まぁいいだろう」

「.........ホントに子離れ出来るのかの?」

 

どうやらミュウを誘拐でもしようとした奴がいたらしい。あとで制裁を追加しようかとも考えたが面倒だしいいや。

 

そして見事にミュウのハジメに対する「パパ」呼びで勇者パーティーの一行には勘違いする奴らが多数現れた。冷静に考えればありえないことなのだが、イレギュラーが発生しすぎてその冷静さを失っているためこのような事になってしまった。

 

「ハジメくん!どういうことなの!?本当にハジメくんの子なの!? 誰に産ませたの!?ユエさん!?シアさん!?それとも、そっちの黒髪の人!? まさか、他にもいるの!?一体、何人孕ませたの!?答えて!ハジメくん!」

 

ハジメの襟首を掴みガクガクと揺さぶりながら錯乱する白崎。ハジメは誤解だと言いながら引き離そうとするが、白崎は、何処からそんな力が出ているのかとツッコミたくなるくらいガッチリ掴んで離さない。白崎の背後から、「香織、落ち着きなさい!彼の子なわけないでしょ!」と正気を取り戻した雫が諌めながら羽交い絞めにするも、聞こえていないようだ。

 

そのうちに周囲から変な噂が羽を広げて、いつの間にかハジメゲス疑惑が一行の中で広まることとなってしまった。

 

ちなみに、南雲家の家訓として「可愛い物に夢中な八重樫には触れるべからず」という事柄がハジメの代から追加されたのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

その後、ティオが締めたという男とは別グループの男達がミュウ達に突っかかってきたのだが、見事にハジメが制裁。男の象徴を撃ち抜くという残虐性を見せた。これには勇者君達も引かざるを得ない。

 

そんなコメディーが目の前で繰り広げられながら、とうとう別れの時はやってきた。しかし、いざ旅立とうとした時、ハジメを白崎が引き止める。

 

自分達のところへ歩み寄ってくる白崎に気がつくハジメ。ハジメは、見送りかと思ったが、隣のユエは、「むっ?」と警戒心をあらわにして眉をピクリと動かした。シアも「あらら?」と興味深げに彼女を見やり、ティオも「ほほぅ、修羅場じゃのぉ~」とほざいている。どうやら、ただの見送りではないらしいと、ハジメは、嫌な予感に眉をしかめながら彼女を迎えた。

 

「ハジメくん、私もハジメくんに付いて行かせてくれないかな?..........ううん、絶対、付いて行くから、よろしくね?」

「......................は?」

 

第一声から、前振りなく挨拶でも願望でもなく、ただ決定事項を伝えるという展開にハジメの目が点になる。思わず、間抜けな声で問い返してしまった。直ぐに理解が及ばずポカンとするハジメに代わって、ユエが進み出る。

 

「.........お前にそんな資格はない」

「資格って何かな?ハジメくんをどれだけ想っているかってこと?だったら、誰にも負けないよ?」

 

ユエの言葉に、そう平然と返した白崎。ユエが、さらに「むむっ」と口をへの字に曲げる。

 

白崎は、ユエにしっかり目を合わせたあと、スッと視線を逸らして、その揺るぎない眼差しをハジメに向けた。そして、両手を胸の前で組み頬を真っ赤に染めて、深呼吸を一回すると、震えそうになる声を必死に抑えながらはっきりと.........告げた。

 

「貴方が好きです」

「..........白崎」

 

彼女の表情には、羞恥とハジメの答えを予想しているからこその不安と想いを告げることが出来た喜びの全てが詰まっていた。そして、その全てをひっくるめた上で、一歩も引かないという不退転の決意が宿っていた。

 

覚悟と誠意の込められた眼差しに、ハジメもまた真剣さを瞳に宿して答える。

 

「俺には惚れている女がいる。白崎の想いには応えられない。だから、連れては行かない」

 

はっきり返答したハジメに、白崎は、一瞬泣きそうになりながら唇を噛んで俯くものの、しかし、一拍後には、零れ落ちそうだった涙を引っ込め目に力を宿して顔を上げた。そして、わかっているとでも言うようにコクリと頷いた。彼女の背後で、天之河達が唖然、呆然、阿鼻叫喚といった有様になっているが、そんな事はお構いなしに、白崎は想いを言葉にして紡いでいく。

 

「........うん、わかってる。ユエさんのことだよね?」

「ああ、だから..........」

「でも、それは傍にいられない理由にはならないと思うんだ」

「なに?」

「だって、シアさん、彼女はかなり真剣だと思う。違う?」

「.......それは.............」

「ハジメくんに特別な人がいるのに、それでも諦めずにハジメくんの傍にいて、ハジメくんもそれを許してる。なら、そこに私がいても問題ないよね? だって、ハジメくんを想う気持ちは........誰にも負けてないから」

 

そう言って、白崎は炎すら宿っているのではと思う程強い眼差しをユエに向けた。そこには、私の想いは貴女にだって負けていない!もう、嗤わせない!と、彼女の強い意志が見える。それは、紛れもない宣戦布告。たった一つの、〝特別の座〟を奪って見せるという決意表明だ。

 

白崎の射抜くような視線を真っ向から受け止めたユエは、珍しいことに口元を誰が見てもわかるくらい歪めて不敵な笑みを浮かべた。

 

「..........なら付いて来るといい。そこで教えてあげる。私とお前の差を」

「お前じゃなくて、香織だよ」

「..........なら、私はユエでいい。香織の挑戦、受けて立つ」

「ふふ、ユエ。負けても泣かないでね?」

「........ふ、ふふふふふ」

「あは、あははははは」

 

ハジメとは違う意味で、二人の世界を作り出すユエと白崎。告白を受けたのは自分なのに、いつの間にか蚊帳の外に置かれている挙句、白崎のパーティー加入が決定しているという事に、ハジメは助けを求めるようにこちらを見てきた。しかし、こちらでも案件が発生したのだ。

 

「ん〜!香織はやったねぇ!」

「そうだな。.........っていうかなんでそんなにテンション高いんだ?」

「え?僕も言うことはちゃんと言おうかな、って」

 

すると、恵里は雫を押しのけて俺の前に出る。今度はこちらに気づいたティオが何かを察するように「むっ?」と声を上げる。

 

「京、この先よろしくね?」

「ちょっ、恵里!?」

「...............へ?」

 

白崎のついて行きます宣言並みの言葉を呟かれて、思わず俺は間抜けな声が出てしまった。まさかの行動に雫は驚いた様子だ。

 

「僕、さっき思ったんだぁ。パーティー抜けてでもやっぱり傍に居たい、ってねぇ」

「えーと、つまり。............付いて行きたいって事か?」

「ん?違うね。僕が付いて行くことは決定事項。既に変えられることの無い事実だよ。そこに、京やそっちのお仲間とか、後ろの人の意思とか関係ないから。願いとか、宣言じゃないの。決定事項の確認だよ?」

 

つまりは、何を言おうと絶対に俺達についてくると言うことだ。一旦騒動が終わったハジメが恵里のその発言に苦笑いした後、天を仰いだ。ティオについては先程のユエのような表情で顔を顰めている。

 

「で、雫はどうするの?」

「.....えっ?わ、私?」

 

恵里に諭されて雫が戸惑ったような声を上げる。彼女は既に心を決めたようで、揺るぎない視線で雫を見ていた。しかし、雫についてはまだ迷いがあるようだ。視線を彷徨わせている。

 

「僕としては後ろの人だけじゃ張り合いがないから来て欲しいって言うのはあるけど?」

「む?なんじゃと?」

 

さすがにアウトオブ眼中宣言をされたティオが黙っていられず、恵里に口を出した。しかし、彼女はティオに臆すること無く毅然と語ってみせる。

 

「じゃあ聞くけど、貴方は京の何なのかな?まさか、彼女でもないのに私に口出す権利なんてないよねぇ?」

「フッ、甘いのう若いの。妾は既にご主人様の奴隷じゃ!身も心も全てを捧げる仲でのう」

 

ティオが、ついに爆弾を投下した。『ご主人様』『奴隷』この2つだけで一気に俺へ集まる視線がやばい物に変わって行く。ハジメはついに我関せずと思考放棄してしまった。

 

しかし恵里はその言葉を聞いて、表情を変えることは無かった。むしろ、その程度か、とでも言わんばかりの薄ら笑いを作る。

 

「でも、結局それは『奴隷』っていう枠組みであってどうあっても婚約者なんかに昇華することは無いよね?」

「い、いや、妾はご主人様を伴侶と.........」

「でもそれを京が認めていたら、の話だよね。見た感じそんなこと全く無いし、なんなら僕の方が京に近い存在だし?」

 

いつの間にかハジメと同じく蚊帳の外な俺。ティオと恵里の討論はまだ終わりそうにない。

 

「では 、主はご主人様のなんなのじゃ?」

「僕?僕はねぇ..........そうだねぇ」

 

頬を朱に染めながら、くねくねと体を動かしてニヤついている。そして、急に目を細めてニヤリと笑った。

 

「雫と、京の一番大切な位置を争う存在、かな?」

「いやっ、ちょっと、恵理.........」

 

そこで恥ずかしくなった雫が顔を赤くしながら止めに入る。すると、ようやく思い出したように恵里は雫へ視線を向けた。

 

「っていうか、どうなの?雫。京について行くのか、行かないのか」

「えっ、ええ?私は...........」

 

しかし、そこから先を応えようとすれば雫は黙ってしまった。




次回もお楽しみに。感想もお待ちしております


P,S
心優しいコメント、ありがとうございます。応援コメント等がとても活力になっておりますので、体調にだけ気をつけて頑張っていきたいですね。


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雫の決断

予告通りの後半戦、はーじまーるよー


自分が抜けたら大変なことになりそうな勇者パーティー。
ここで拒めば二度と会えないかもしれない彼。


雫は、どっちを取るのか。



今回は第三者視点で書いて参ります


雫は今、人生で最大と言ってもいいほど悩んでいた。自分が居ないと手が付けられない光輝達を取るのか、それとも今を逃せば二度と会えないかもしれない彼と共に行くことを取るのか。

 

光輝に抱く感情は、恋愛感情などでは無い。随分と手のかかる弟を預かるような、姉の気持ち。一方の京へ抱く気持ちは、純情な乙女のそれだ。まさに、香織がハジメを想い続けているような、深い恋愛感情。自分の気持ちに正直になって、幼馴染よりもハジメと共に行くことを選んだ香織はとても凄いと思っている。その気持ちを言葉にする事は、簡単では無いのだから。

 

ならば自分も.........

 

などとはやはり行かないのだ。光輝に至っては、性格がどうであれ腐っても十年以上の付き合いがある幼馴染。一緒に居れば、嫌という程相手の長所、短所が分かってくる。そしてその光輝の短所をカバーできるのは、自分しか居ない。今までそうして来たように、これからもそうして行かなければならないだろう。........だから周りからは『オカン』等と呼ばれるのだが。

 

しかし、京に対して後ろ髪を引かれる想いがあるのもまた事実だ。優柔不断、意気地無しなどと言われればそれまでだろう。しかし、乙女である彼女の想いを知って、果たしてそんなことを言える輩はいるだろうか?いや、居ない。

 

光輝が十年以上の付き合いがある幼馴染なら、京は他の誰にも変えられない初恋相手だろう。きっかけは小学生の頃。真に雫へのいじめを止めた彼の姿に惚れた。小学生の好きというのは付き合うなどという行為には至らないのがほとんどである。しかし、彼女のその感情は、若いながら付き合って結婚したいとまで思ったほど。

 

そんな想いは、彼女を取り巻く環境が変わっても残り続け、道場で顔を合わせて話している為、余計に加速した。今の今まで、彼以外を好きになった事は一切ない。なればこそ、初恋を引っ張り続けている彼女の心に、すんなりと在留するという選択肢が出てこなかったのだ。

 

友情か、恋愛か。光輝(幼馴染)か、(初恋相手)か。最も、現在の光輝が京と対比するほどの価値があるのかと言えば、おそらく無いだろうが。

 

雫が俯いて黙ってしまった事により、介入する隙ができてしまった。それを見逃さないのが、やはり勇者。

 

「ま、待て!待ってくれ!意味がわからない。香織が南雲を好き?恵里と雫が刀崎の事を?付いていく?えっ?どういう事なんだ?なんで、いきなりそんな話しになる?南雲!刀崎!お前達、いったい彼女達に何をしたんだ!」

「..........何でやねん」

「はぁ?」

 

香織がハジメを、恵里と雫が京を好きだと言うことを認めないらしいこの勇者。単に光輝が気がついていなかっただけなのだが、光輝の目には、突然、香織と恵里が奇行に走り、雫も影響されて、その原因は二人にあるという風に見えたようだ。本当に、どこまでご都合主義な頭をしているのだと思わず関西弁でツッコミを入れてしまうハジメと、呆れた様子の京。

 

完全に、ハジメと京が三人に何かをしたのだと思い込み、半ば聖剣に手をかけながら憤然と歩み寄ってこようとする光輝は更に続ける。

 

「香織が南雲を気にかけていたのは香織が優しいから、南雲が一人でいるのを可哀想に思ってしてたことだろ?じゃないと協調性もやる気もない、オタクな南雲を香織が好きになるわけないじゃないか」

 

さすがに黙っていても、正面から否定されれば腹が立つハジメ。苦笑いが引き攣ってピクピクと頬が震えている。そしてハジメが否定されれば京もだ。

 

「雫や恵里だって、協調性もなくパッとしない、南雲と同じオタクな刀崎を好きになるなんてありえないだろ?」

 

京は特に何を言うでもなく黙って聞いていたが、横で彼にピッタリと張り付いていた恵里が顔を顰めた。するとそこへ、香織が出てくる。

 

「光輝くん、みんな、ごめんね。自分勝手だってわかってるけど..........私、どうしてもハジメくんと行きたいの。だから、パーティーは抜ける。本当にごめんなさい」

「僕は元からあまりこのパーティーは好きじゃなかったし、抜ける機会を探してたのも事実。だから香織と違って負い目なんて感じてないし、謝る事は何一つない。もちろん今の君に謝る気も一切ないよ」

 

香織は素直に述べたが、恵里は先程、京が否定された仕返しとばかりに睨み返しながらそう述べる。恵理の仕返しに京が少し笑いそうになったのは内緒のお話。

 

「嘘だろ?だって、おかしいじゃないか。香織と雫は、ずっと俺の傍にいたし...........これからも同じだろ?香織と雫は俺の幼馴染で.......恵里はパーティーメンバーで、だから.......俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ、三人とも」

「えっと..........光輝くん。確かに私達は幼馴染だけど.........だからってずっと一緒にいるわけじゃないよ?それこそ、当然だと思うのだけど.........」

 

香織はそう答え、雫と恵里は黙る。特に恵里はもう光輝の瞳を見ていない。光輝の視線は京とハジメの周辺に向く。美少女達を侍らせているハジメ、『奴隷』と自分を語る女性を連れた京。ご都合解釈がさらに光輝を稼働させる。

 

「三人とも。行ってはダメだ。これは、君達のために言っているんだ。見てくれ、あの二人を。女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで........しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪まで付けさせられている。黒髪の女性もさっき刀崎の事を『ご主人様』って呼んでいた。きっと、そう呼ぶように強制されたんだ。南雲や刀崎は女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人だって簡単に殺せるし、強力な武器を持っているのに、仲間である俺達に協力しようともしない。そして今、君達を騙そうとしているんだ。あいつに付いて行っても不幸になるだけだから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君のために俺は君達を止めるぞ。絶対に行かせはしない!」

 

無駄に早口で明後日の思考で言葉を語る光輝に、雫は俯いて何も言わず、香織達は唖然とした。恵理に至っては本気でカチンと来たのか何かを言おうとして、しかし京に止められた。さすがに抗議しようと京を見るも、彼が前に出てしまったため何も言え無い。

 

「なぁ天之河。さっきお前は三人が自分と一緒にいることが当たり前だ、と言ったよな?」

「そうだ。香織達はお前達と一緒に居るべきじゃない。だから、連れていくなら俺が止める」

 

京が語れば、光輝は断固とした姿勢を見せる。その姿にため息をついた京は、やれやれと言った表情で口を開いた。

 

「じゃあお前は、三人の人生に責任を取れるんだな?」

「.......は?」

 

光輝は京から出た予想もしない言葉にその先が出てこなかった。そんな彼へ京はさらに続ける。

 

「三人の人生の全てを預かれるのかと聞いたんだよ」

「何を言って.........」

 

予想もしない方向で語る京に、光輝は言葉を探そうとしていた。しかしそんな光輝より早く京が言葉を紡いでいく。

 

「女性が望むところの根底は、誰しもが『幸福』なんだよ。その人によって種類は違うだろうが、大方、子供を授かったり、結婚したり、だな。で、俺が聞いてるのは、白崎、雫、恵里、三人のそんな幸福をお前が約束できるのか、ってこと」

 

光輝は答えない。いや、答えられないのだろう。ご都合解釈する光輝にとって、こんなにも飛躍した話への解答など用意出来ないのだから。

 

「まさか、恋に奔走する白崎達を遮るのが、お前のただの我儘なんてことは無いよな?正義感の強いお前はそんなクソガキみたいな事しないよな?」

「違うっ!香織達は俺と居るのが当たり前なんだ!だからその当たり前を貫き通そうとしただけで...........」

「黙れ」

 

光輝の言葉を、たった二文字が遮る。京のその声には、すこし怒気が含まれていた。

 

「その当たり前が、他人の恋心を邪魔していいとでも思ってるのか?何様だ、お前は。神にでもなったつもりか?。ありえない?君のために?ふざけたこと言ってんじゃねぇよ。他人のお前が当人の恋愛に介入して来るな」

 

京は頭をガリガリと掻きながら、非常に面倒そうに「まぁ、とりあえずだな」とつけ加えて口を開く。

 

「お前が言ったその言葉は、それぐらい重みがあるんだよ。三人に大して恋愛感情もない、ましてや個人の勝手な解釈だけで当人の選択に口出しする権利なんて誰にもない」

 

そして最後に、京は光輝へ向かってキッパリとこう告げた。

 

「現実を見ろ、天之河。いい加減、そのご都合解釈はやめろ」

 

そう告げた京に、光輝は反論する言葉がなかった。その様子に潮時だと、京は雫の元へ歩こうとする。だが一方の光輝は、固く握りしめた拳をふるわせて、叫んだ。

 

「三人とも。どうしてわかってくれないんだ!?南雲も刀崎も人殺しで、女性のことなんてなんとも思ってない奴らなんだぞ!?君達はそんな奴らと一緒にいて幸せなわけがないだろう!どうしてもわかってくれないというのなら、力づくでも俺がっ..............」

「お前、本当にいい加減に..........」

 

パァン!!

 

何かが破裂したような、鮮明な音が響き渡る。

 

光輝と京が再び論争しようとした瞬間、雫が割って入って光輝を平手打ちしたのだ。頬が少し腫れた光輝は、何が起こったかわからないという表情を浮かべる。

 

「.........いい加減にしてよ」

「................雫?どうして俺を........」

 

殴ったのか、その言葉は出てこなかった。先に雫が光輝へ言葉を投げたからだ。その言葉は一瞬にして静寂になった空間へ明瞭に響く。

 

「その当たり前を作ってきたのは誰だと思ってるのよ!!私と香織がこれからも貴方の傍に居る?ふざけないで!私達にも男を選ぶ権利はあるのよ!」

「雫、待って..........」

「待たない!そのご都合解釈で、何回私が辛い思いをしてきたと思ってるのよ!!」

 

一番初めは、小学生の時。いじめを光輝に相談した時の彼の返答。その他にも、募る話はまだまだある。しかしそれでも乗り越えてきたのだが、どうやら今日、爆発したらしい。

 

「あなたはいつも自己完結で、それのせいで影響が出る人の事なんて気にもしない!そんなフォローをさせられてきた私の気持ち、分かってる!?」

「そ、それは.............」

「分からないでしょうね!?自分では正義を成したとでも思ってるんだもの!そして謝りもしない、後ろめたさすらない!」

 

怒涛の口撃はまだまだ続く。

 

「ついにはそんな身勝手な言葉まで使って、香織や私達の心を否定して、本当に何様のつもりよ!!香織は南雲君を好きになってる!あなたが気づいてないだけ!私も、恵里もそうよ!!」

 

グイッと顔を寄せて、言葉のストレートを叩き込んだ。

 

「私は京が好き!大好き!そんな気持ちをあなたなんかに否定されたくない!それに、あの時に私を救ってくれなかった貴方に私の気持ちなんてわかって欲しくない!」

 

キッパリと、そう告げた。京が好きで、お前の事は好きじゃない、と。だからこれから一生、そばにいるなんて有り得ない、と。

 

「最初は残ろうかと思ったけど、もう我慢の限界よ!もう本当にうんざりした!!」

 

少し下がると、クルッと振り返って、宣言した。長く悩んでいた、その結論を。

 

「私は京について行く!光輝のことなんかもう知らない!」

「なんっ..........雫!?」

 

その言葉に、香織がキャー!と騒ぎ出し、恵里も少し嬉しそうに頬を緩めた。ハジメと京は相変わらずため息をついており、ティオはまた新たな敵が増えてさらに顔を顰めている。まさかの告白に愕然とする光輝を無視して、雫は京の腕に抱きついた。

 

「私が言ったのは、こういう事。香織もそれは同じ。いい加減に理解しなさい、馬鹿」

 

その瞬間、瓦解したように光輝が崩れ落ちた。次々と異論を呈していく幼馴染に理解が追いつかないのかもしれない。頃合だと言うようにハジメは頭をガリガリと搔いた。

 

「んじゃ.........まぁ。話も纏まったみたいだし、行くか」

「お、おう」

 

実は一番面食らっているハジメと京。とりあえず行くかと、ハジメが魔力駆動四輪を宝物庫から出して乗り込もうとした瞬間だった。

 

「南雲ぉぉぉぉぉぉ!!刀崎ぃぃぃぃぃぃ!!」

「「!?」」

 

あまりの声にハジメと京が振り返る。するとそこには、神々しい光を集めた聖剣を構えながらこちらを睨んでいる光輝がいた。

 

「やっぱり俺はお前達を認めない!香織達を連れていくなら俺が止める!!」

「.........なんでやねん」

「あのさぁ............」

 

二人して呆れている所に、光輝から赤いオーラが昇り立った。どうやら限界突破を使ったようで、本気で止めに来ているらしい。

 

「万象切り裂く光、吹きすさぶ断絶の風、舞い散る百花の如く渦巻き、光嵐となりて敵を刻め!天翔裂...........」

 

小さく舌打ちをしてドンナーを構えたハジメだったが、その必要はなくなった。なぜなら、光輝が魔法を発動する前に地面へ倒れ伏したからだ。

 

「ったく、諦めが悪すぎんだよ、バカが」

「龍太郎.........」

 

雫が、ポツリと呟いた。先程、光輝の攻撃を止めたのは、近くにいた龍太郎だ。背後から手刀を落として気絶させた。いくら勇者といえども、一点に集中している時に背後から攻撃されれば、ダメージを受ける。それが、近接職の龍太郎の手刀ともあれば尚更だ。

 

「この馬鹿が度々迷惑をかけちまって、すまねぇ。南雲、俺に免じて..........なんて言うのは気が引けるが、今回は見逃してくれねぇか?こいつも悪気があったわけじゃねぇんだよ」

「正直、どうでもいいから勝手にしてくれ」

「すまねぇ」

 

そう言って龍太郎は頭を下げた。クラスにいた時とはだいぶ変わった龍太郎に、ハジメも京も素直に驚いている。

 

「刀崎が言うように、俺も甘えてた部分があった。光輝みたいに、香織や雫はこれからも一緒にいるんじゃねぇか、って。だが実際にそんな事は全くねぇ、って思い知ったところもある」

 

淡々と龍太郎はそう語る。彼とて光輝達と時間を共にした男だ。雫や香織に対して思うところがあるのは当然だ。

 

「だがまぁ、応援してやるのが道理ってもんだよな。.............行ってこい、香織、雫。お互いにちゃんとゲットしてこい!」

「龍太郎...........」

「龍太郎君.............」

 

あまりのかっこよさにハジメと京はお互いに目を擦り合わせて二度見した程。その場に居る女子達も少しキュンとしている。

 

「光輝は俺とか団長とかその他の奴らで何とかしとくからよ。こっちは心配すんな」

 

最後、そう笑った龍太郎に女子数人が撃ち抜かれたようで、バタリと倒れてしまった。ここまでカッコイイ龍太郎が、世界に何人いることだろう。まぁ、一人しかいないのだが。

 

「エリリン!シズシズ!カオリン!」

 

龍太郎の横に、ちっこいのが走ってくる。鈴は、横に並ぶと3人の名前を呼んだ。

 

「行っちゃうんだね........」

「ごめんね、鈴ちゃん。でも、ハジメ君について行きたくて........」

「ううん、いいんだよ。シズシズとエリリンも」

「私は勢いで行っちゃった所があるのだけれど.........でも、もう引き下がるつもりも無いから」

「まぁそうだね、仕留めて帰ってくるよ」

 

苦笑いした後、覚悟を瞳に宿す雫と、カラカラと笑う恵里。その二人を見て、今度はハジメと京に視線を移した。小さい体が地面を滑って二人の前に現れる。

 

「ハジメン!カオリンはずっとハジメンの事を好きだったんだよ!大切にしてあげてね!」

「ハジメン............って俺の事か?」

「他に誰がいるの?ハジメンはハジメンでしょ?」

「お、おう.......」

 

臆することの無い鈴に、面食らってしまうハジメ。鈴のコミュニケーション力というのは果てしなく高いという証拠だろう。そして、そんな彼女の視線が京へ向く。

 

「トウ君も、エリリンとシズシズをよろしくね!エリリンはわかんないけど、シズシズは本当にトウ君が大好きだから!!」

「こっ、こらっ!鈴!変なこと言わないで!」

 

顔を真っ赤にしながらそういう雫に怖さは無い。鈴はいたずらっ子のような笑みを浮かべて京へそう述べた。

 

「.........まぁ、なんだ。善処するさ」

「二人とも、大切にしないと鈴が許さないからねっ!!」

 

釘を刺す用にそう言って戻っていく。横で恵里が「僕は狂おしいぐらい好きなんだけどなぁ」と言っていたのは、あえて聞こえないふりをした。

 

「まぁ、とりあえず行くか?」

「そうだな。.........大分、大所帯だが」

 

ハジメの声に京は苦笑いしながら答え、全員が魔力駆動四輪へ乗り込んだ。

 

目指すのは【グリューエン大砂漠】にある七代迷宮のひとつ、【グリューエン大火山】。九人の大所帯となった一行は、残ったクラスメイトに見送られながらその場を後にした。




誰かが大人にならなければいけない。つまりはそういう事ですよね。


次回、幕間を書いて四章へと突入していきます。お楽しみに。

感想もお待ちしております。


P,S
投稿開始から二週間弱が経ちまして、お気に入りが700人以上.........

.............700人?え?うそやん..........................


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