MAN OF THE STEEL (COTOKITI JP)
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We’re freedom. But,we’re in hell.

今回書いた作品はポストアポカリプス物です。
イメージとしては、マッド・マックスからヒャッハー!成分を引っこ抜いてそこに東側兵器をドバーッとぶち込んだ感じですね。


第四次世界大戦の終結から百年余りの時が過ぎ、世界は破滅への道を進みつつあった。

 

地球上の陸地の凡そ50%が砂漠へと変貌し、環境汚染と夥しい数の核兵器が齎した放射能によって人類の生息域は大きく減少した。

 

世界人口は嘗ての75億から度重なる核兵器の使用により僅か数億程度となり、古代から地球を支配していた人類は既に絶滅の危機を迎えている。

 

残された数少ない人類は、国家としての形を捨て、唯一の安全圏である要塞、『シティ』を荒れ果てた大地の上に築き上げ、80mの壁に囲まれた大都市に新たな希望を見出した。

 

しかし、それは滅びゆく地球と人類への延命処置に過ぎなかった。

 

時すでに遅し。

地球は今や大地も、海も、空すらも汚れ、最早修復など出来たものではない。

 

シティでは環境保全を訴えるような者も既にいなくなった。

地球に住まう皆が理解したのだ。

 

「滅亡は避けられない」と。

 

 

 

 

「おっ、標的発見。 11時の方向、距離は800m」

 

半分が砂漠に埋もれた廃ビルの屋上には、二人の男が揃って寝そべり、屋上から顔を出していた。

 

その内の一人はレーザー測距儀付きの双眼鏡で目の前の標的の情報を伝えており、もう一人は、狙撃銃を構え、隣の男の指す方向に銃口を向け、標的を視認した。

 

「形状や大きさ的にハウンドクラスって所か」

 

「みたいだな、やれるか?」

 

「殺れなきゃ銃なんて持ってない」

 

呼吸を整え、ライフルスコープのレティクルの中心に標的を置き、引き金を絞る。

 

真上から太陽が容赦なく照り付けてくるせいで汗が滴り、それを鬱陶しく思いつつも拭うことはせず、ただ射撃の機会を待ち続ける。

 

スコープを通して彼の目に映っているのはとても地球に住む生物とは思えないような見た目をしていた。

 

動物というよりあれは正しく『化け物』だろう。

 

皮膚は赤黒く変色し、角のような物が背中から飛び出ており、オレンジ色に光る四対の目はギョロギョロと蠢き、辺りを隈無く見渡している。

 

彼等は数多い化け物の中でもあの犬のような見た目をしている物を『ハウンド』と呼んでいる。

 

奴らはとても獰猛であり、小型のバギーカーやバイク等といった小型車両にすら襲い掛かり、中の人間を引きずり出しては食い殺す。

 

そしてハウンドは主に5〜10頭程の群れをなして行動している。

 

「よし、トラップを鳴らすぞ……」

 

スポッターをしていた男が、懐からリモコンのような物を取り出すと、そこに付いていたボタンを押した。

 

すると、ハウンドの群れから少し離れた場所に置いてあった車のエンジンが始動したのだ。

 

何時も車両などを標的にしていた奴らは直ぐに音の方を向き、エンジンのかかった車両に飛び付くように急接近した。

 

車両の扉をこじ開けようと必死に扉を引っ掻いたり、噛み付いたりするハウンドを見ながらスポッターの男、『アリフ』は鼻で笑った。

 

「よーし、今がチャンスだ。 撃て!」

 

絞っていた引き金が完全に引かれ、銃口から放たれた7.62mm×54mm弾は風を切り、距離減衰によって少しずつ速度を落としつつも、高速で車に張り付いていたハウンドの胴体を貫いた。

 

銃弾が貫通したことによって撒き散らされた鮮血は車体にベッタリと付き、赤黒く塗装した。

 

「ヒット」

 

「次」

 

突然の攻撃にハウンドは戸惑い、八つの目を余計にギョロギョロと動かし、攻撃がどこから来たのかを必死に探していた。

 

その光景は彼等からしたら滑稽であり、ハウンドが動きを止めている間に狙撃銃のボルトを引き、空薬莢が軽やかな金属音と共にコンクリートの上で跳ねた。

 

嘗て自分が幼少期から行ってきた動作をそつなくこなし、二匹目に照準を定める。

二発目も問題無く命中し、頭から脳髄をぶちまけながら倒れるハウンドを確認し、すぐさま三匹目を狙う。

 

「ヒット」

 

「次」

 

「ヒット」

 

「次」

 

何匹もの群れはたちまち二匹、一匹へと減っていき、遂に最後の一匹の胸部を撃ち抜いた。

 

「これで最後だ」

 

「もう終わりか。 エンジン切っとけよ」

 

狙撃銃、『SV-98』を背中に背負い、廃ビルの屋上から垂れ下がっていたロープに自分の体を固定するとラペリング降下でゆっくりとビルから降りた。

 

「あっつ……」

 

額から流れ落ちる脂汗を袖で拭いながらハウンドの死体の元へと近付く。

 

死体を銃口でつついて生死確認を行いながらその重さに苦戦しながらも横一列に並べる。

 

弾一発で済んだお陰で死体には大した損傷も無く、部位の回収は可能だった。

 

「俺は剥ぎ取りをするから見張り頼むぞ」

 

そう言ってアリフはハウンドの死体を捌き始めた。

 

今の時代、こんな化け物の部位を買い取ってくれる物好きがいるものだからこちらとしても有難い話だ。

 

ハウンドの肉は食えるらしいが、自分で進んで食おうとは決して思わない。

 

それ程にハウンドの見た目は気持ち悪い。

 

解体は順調に進み、日が傾き始めた頃には粗方解体が終わった。

 

内蔵は種類ごとに袋に分けて詰め込み、残りの肉と一緒に先程トラップとして使っていた車両に乗せた。

 

「よし、後はこれを車両に積み込むだ―――」

 

「伏せろ!誰か来るぞ!」

 

「ブッ!」

 

遠くから聴こえてきた車のエンジン音に気付いた彼はアリフの項部分をひっ掴むと地面に伏せさせ、自分も伏せた。

 

結構強い力で地面に叩き付けてしまったがそんな事を気にしている場合ではない。

 

暫くして砂漠の奥から一台のバギーカーを改造して作られたであろう装甲車が近付いてきた。

 

双眼鏡で除けばその装甲車は上部分に重機関銃を備え付けている。

 

もしこちらに来るならば間違いなく狙いは自分達だろう。

 

エンジン音は次第に大きくなり、敵は間違いなくこちらを狙っていると分かった。

 

砂に体を埋めながらSV-98を構え、伏せ撃ちの体勢を取る。

敵車両を狙撃しようと試みるが、如何せんここら一帯は高低差の激しい砂漠地帯だ。

 

故にバギーカーは大きく揺れ、中の搭乗員なんて狙えたものではない。

 

ならばと今度はエンジンに狙いを合わせる。

幾ら装甲を施されているといってもそれは所詮そこらの廃車や瓦礫から拾った廃材が多く、拳銃弾を防ぐ程度の防御力しかない。

 

狙撃銃の弾なら充分に貫く事が可能だ。

 

バギーカーの揺れがある程度収まったタイミングを狙い、車体前部のエンジンを狙う。

 

引き金を絞る間もなくすぐさま発砲し、子気味のいい金属と金属が衝突する音が遠くから聴こえた。

 

確かにエンジンルームは貫いた。

事実、エンジンを守る装甲板には小さな風穴がポッカリと開いている。

 

しかし、当たり所が悪かったのか、それとも単純に威力不足か、バギーカーが止まる気配はない。

 

「ダメだカス当たりだ!」

 

即座にSV-98をアリフに押し付け、肩から下げていたAK-108のグリップに手を掛ける。

 

「アリフ!車両に隠れてろ!それと荷台に軽機関銃があるからそれで援護を頼む!」

 

「分かった!」

 

アリフのやや焦り気味の返事が聴こえてきたと同時に敵の装甲車も上部の重機関銃の押金を親指で押し、重々しい銃声を響かせる。

 

「来やがれ!」

 

AK-108に装着されたPSO-1照準器を覗き込み、装甲車の走行速度を考慮してそれなりの偏差を付けて引き金を引いた。

 

あの装甲車が撃ってくるブローニングM2の銃声には劣るが、高い連射速度によって軽快な銃声と共に飛んでくる5.56mmの威力も馬鹿にはできない。

 

「何をしてる!早く機関銃の用意をしろ!」

 

「分かってらァ!!」

 

狙いが定まっていないとはいえ、ばら撒かれる12.7mm弾による砂煙と着弾音は中々に恐ろしい物だ。

 

機関銃座には鋼鉄製の装甲板が取り付けられており、5.56mmでこの距離では貫通出来ない。

 

機関銃座を倒す事は無理と判断した彼は、即座にタイヤに照準を定め、バースト射撃で右側のタイヤをパンクさせた。

 

タイヤから間抜けな音を発しながらバギーカーはドリフトするかのように回転し、砂煙を撒き散らし、停止した。

 

「今だ撃てっ!」

 

AK-108とアリフの構えるPKPペチェネグによる集中砲火。

 

それを側面から喰らえば結果など明らかだ。

 

トタンに僅かな金属板を施しただけの装甲板はいとも容易く貫かれ、中の乗員は次々と鮮血を散らしながら息絶えた。

 

といっても中の様子はこちらからは見えないのであくまで予想だが。

 

用心深く銃を構えながらゆっくりと亀のようにバギーカーに近付き、半ば乱暴に重たい扉を開け放った。

 

「……クリア、か」

 

機関銃による集中砲火を喰らった車内など、言うまでもない。

 

血塗れの死体を物色し、装備品等を衣服のポケットやハーネスから引っペがす。

 

「やっぱり所詮は野良の無法者か」

 

手に入った装備品はどれも安値で売られているような粗悪品ばかり。

 

弾薬は使い物になるが、銃に関しては弾だけ抜き取って車内に放置しておく事にした。

 

「ガソリンと、あと重機関銃も持って行こう。 使えなくともパーツと弾薬は売れるかもしれい」

 

車内からガソリンの入ったポリタンクを手に取り、車外に並べる。

 

アリフは工具箱片手に重機関銃を外している最中だ。

 

彼は物資を車外に放り出しながら、これまでの事を何となく振り返ってみた。

 

今思えばあの最終戦争・・・・とまで言われた第四次世界大戦が終結してから大分経つが、それ以降からは、個人又は少数同士のいざこざ程度しか怒らなくなり、少なくとも国家間での戦争はこの世から確実に抹消されていた。

 

そう考えると、彼自身も今まで実現は不可能だと考えていた平和が、別の形・・・で実現したとも言えるかもしれない。

 

平和の定義等、とうの大昔に皆忘れてしまったが。

 

人類の運命は第三次世界大戦が起きたその日から決まっていたのだろう。

当時の文献をたまたま見漁っていた時があったが、それによると第三次世界大戦の時点で世界中で国家による統治体制が崩壊しかけていたそうだ。

 

第四次世界大戦はそれに比べれば世界大戦と呼ぶには大分小規模な戦争だったようだ。

核兵器によって戦力は互いに壊滅状態。

 

戦う理由も、その戦いを止める理由も忘れた彼等は互いに銃口を向け合った。

 

そして生まれたのが今のこの世界だ。

 

しかし、昔の本などを読んでいると今のこの世界の方が昔よりも生きやすいように感じる事がある。

 

大昔はシティの外、世界全体で法律による統治が行われていたそうだ。

 

人間の自由意志すらも、法律によって縛られていたのではと考えると、今の方がずっとマシだ。

 

路上で煙草を吸っても誰にも咎められないし、麻薬を堂々と売り捌いても誰も捕まえに来ない。

物を盗んでも持ち主を除いて誰も追いかけて来ないし、何より自由が彼等にはあった。

 

一応、シティは誰でも入れてくれるのだが、わざわざ法律のある場所になんて行く理由は無いし、それにあそこは武器の持ち込みは厳禁な為、愛銃を取られてしまう。

 

「……やっぱり今の方が良いな……」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「何も」

 

「いやいや、絶対何か言ったね。 教えろよ」

 

「断る。 教える理由が無い」

 

「何だよ、教えてくれたって良いじゃねえか」

 

「俺が駄目なんだよ」

 

ここは地獄(・・)であり、天国(・・)だ。



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No plan

〈2159年 5月 21日 旧ヨーロッパ大陸南東〉

 

あの無法者達から分捕った装備はマーケットで全て売り捌いた。

 

はした金しか手に入らなかったが、それよりもハウンドの部位の方が高く売れたので消費した弾薬費も合わせて元は取れている。

 

ここは『ロイヤルシティ』という名前のここ辺りではまあまあ大きめな街だ。

 

ロイヤルシティの特徴としては、商業区が大きく、だいたいここではなんでも揃う程だ。

 

それに、最近は店を開く為にロイヤルシティに移り住む者達も増えてきている為、居住区も増設しているらしい。

 

但し、街並みはロイヤルのロの字も無いが。

 

砂漠のド真ん中にある街なので風が吹けば砂埃が舞い上がって目や口に入るし、酷い時には食事を取っている最中にサソリやらなんやらが襲いかかって来たりする。

 

それでも、他の地方の街よりかはかなりマシだが。

 

そんな街の中で彼は一人飲食店で飯を食べていると、そこへ一人の女がやって来た。

 

「よう、元気してるか? 『モズ』」

 

モズと呼ばれた彼は、食事の手を止め、彼女の方に振り向いた。

ここいらでは余りみない美形の女であり、肌は褐色、天然パーマの赤髪は肩まで伸ばされ、身長は約180cmのモズと同じかそれより少し高いぐらい。

 

体型に関しては、出るには出ているが出過ぎてはいない、どちらも最低限の大きさはある。

 

「『リーシャ』か、マックスロードでの仕事はもう終わったのか?」

 

彼女、リーシャとは昔からの同業者であり、嘗ては依頼や物資の調達を共にこなしたり、こんな感じでプライベートでも会う事が多かった。

 

リーシャはマックスロード付近を跋扈していたあの馬鹿でかい芋虫みたいな化け物を討伐するという依頼を受けて暫く帰って来られないそうだったが、モズが予想していたよりもかなり早く彼女は帰って来た。

 

「もう一週間以上生息域に潜伏してたからなぁ。 だけど仲間が手際よくやってくれたお陰で直ぐに討伐は完了したし依頼主からは報酬を弾んでもらった」

 

「それは良かったな」

 

コーラをの瓶を呷りながら彼女の話をじっと聴き続けた。

やはりあの芋虫の討伐はかなり苦戦したようだ。

 

無理も無い。

アレは地面に潜っているから姿は見えないし、寝床もコロコロ変えるので居場所の特定も難しい。

 

話に拠れば最終的には何台ものピックアップトラックに搭載したハープーンガンで動きを封じ、無反動砲で頭を撃ち抜いたそうだ。

 

話を聞く限り、仲間はかなり手際が良く、ハープーンガンも一発目で全弾命中し、即座にトドメを刺せている。

 

確かにそれ程なら早く帰ってくるのも納得出来る。

と頷きながらまたコーラを喉に流し込んだ。

 

「隣、座れ」

 

このまま彼女をずっと立たせたままにするのも気が引けるので、テーブルを囲むように置かれていた三つの椅子の内の二つ目に座るよう促した。

 

ちょうど椅子に腰掛けた所で、向こうから慌ただしい足音と共に人が全速力で突っ走って来た。

目を凝らせばアリフだったので、何事かと息を荒くしながら席に座る彼に聞いた。

 

「あぁ、それがだな……朗報だ。 『シティ724』による『シティ726』への物資の輸送が何故だか知らねえが予定より大分早く行われる事になったらしい!」

 

「本当か? だとして、日時は?」

 

「いや、もう大量の物資を積んだコンボイが既に出発してる。 決められた輸送ルート通りなら二、三日後にはここの近くを通過する」

 

『シティ726』

数多く存在するシティの中でも特に旧ヨーロッパ大陸の中では危険な状態になっていた。

 

度重なる無法者集団や、武装勢力による襲撃によって隔壁の自動防衛システムは壊滅。

 

しかも武装勢力が所持していた迫撃砲や榴弾砲、ロケット砲等の曲射兵器による壁内の市街地への被害どころか、無人攻撃機まで飛来し、街を瓦礫の山へと変えた。

 

それらの武装勢力等は粗方駆逐されたが、今も尚復興作業が続けられており、その支援を『シティ724』から受けていた。

 

その大量の支援物資を運ぶコンボイは、壁外に住む全ての者達にとって格好の標的だった。

 

とは言っても、国家の末裔とも呼べるシティから送られてくるのだからそのコンボイの護衛は強力であり、最近ではMBTまで導入しているとのことだ。

 

モズ達はそのコンボイを襲撃しようと企ててはいるが、ただ攻撃を仕掛けて略奪と言うにはあまりにも無謀な話だった。

 

なので、モズ達の手段としては側面からの奇襲攻撃をすることとなった。

輸送ルート上を通るコンボイの先頭車両をトラップで無力化したタイミングで奇襲をかけ、物資を我が物にするというかなり単純な内容だったが、今の所これぐらいしか具体案が思いつかないので仕方がない。

 

具体的な作戦内容としては、コンボイの輸送ルートとされている旧高速道路上にIEDを仕掛け、コンボイがやって来るタイミングで起爆。

 

コンボイの護衛にはMBTが二両いるらしい。

出来ればそこでMBTを一両無力化しておきたい所だ。

 

その次はテクニカルの制圧射撃で敵の行動を制限しつつ、その隙にモズとリーシャが携帯式対戦車無反動砲、『RPG-29』で即座に二両目のMBTを撃破、その後にテクニカルの援護を受けつつ肉薄し、敵残存部隊を制圧する。

 

かなり無茶な作戦だが、勿論反対の意見も出た。

強く反対していたアリフが提案した作戦は、他の武装勢力が攻撃を仕掛け、敵を無力化した所で突入し、物資を持ち逃げするという漁夫の利を狙った作戦だった。

 

だがこの作戦もいつ武装勢力が攻撃を仕掛けるか分からず、確実性に欠ける為に却下となった。

 

結局、最初に提案された作戦がコンボイの襲撃に採用される事となった。

 

「んで?肝心の起爆装置を用意し忘れた感想は?」

 

「まさか携帯のバッテリーが壊れていたとは……まずい」

アリフの運転するトラックの荷台の上で揺られながら、モズはそこに積み上げられた大量の弾薬と本作戦で使う筈だったIEDを見つめ、顔を両手で覆った。

 

IEDの起爆には一番安価な携帯電話を使用する予定だったのだが、彼らが持っていた携帯は全部バッテリーが経年劣化で駄目になってしまっていた。

 

オマケにそこらの市場では携帯用のバッテリーなんて売ってるはずもなかった。

そういう物を売ってる場所なんて、廃れたジャンクヤードに群がった浮浪者が経営している廃品売場位だ。

 

結果的に、IEDは使えなくなってしまった。

 

「クソ、こうなったらコイツで強行突破だ」

 

「オイオイ大丈夫かよそんなんで?」

 

心配そうに顔を向けてくるアリフに見せ付けるようにRPG-29を肩に立て掛け、すぐ側にあった弾薬箱を叩いた。

 

「ここには合計六発のロケット弾が収納されている。 それにタンデム弾頭だからERA(爆発反応装甲)持ちでも撃破出来る。 本体も二つあるから俺とリーシャで一発ずつ撃てばいける筈だ」

 

自慢げに語るが、不安は募るばかり。

反撃にあったことも考えるとリスキーにも程がある。

 

とはいえ、彼等も今までリスクを冒しながら生きてきた。

そうポジティブな思考に切り替え、半ばヤケクソながらもモズ達と行く事を決めた。

 

「しゃーねぇ!付き合ってやるよ!その馬鹿げた作戦に……ってん?」

 

突然言葉が途切れた事を不審に思い、運転席に顔を覗かせるとアリフが神妙な顔付きで目前の風景を見つめていた。

 

「アリフ、どうした?」

 

「いや……俺の目の錯覚なら良いんだけどよ……」

 

「あの先にある地面、やけに黒くなってないか?」

 

 



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Strange sand.

『廃域』。

それはあの化け物達が大量発生してから凡そ二ヶ月ほど経ってから見られるようになった。

 

地面は焦げている訳でもないのに真っ黒に染まり、所々に赤黒く、大小様々な未知の物質で構成された結晶の様なものが生えている。

そしてそこには大抵、大量かつ強力な化け物が潜んでいる。

 

廃域の発生条件は不明、突然なんの前触れも無く発生し、凄まじい速度でその範囲を広げて行く。

 

そのせいで廃域の渾名はブラックウェーブ(黒波)と名付けられている。

人々はその黒波だけを唯一恐れ、日々を過ごしていた。

 

ひょっとしたら自分の足元に発生するかもしれない。

安全圏が崩壊するかもしれない。

 

黒波に対する恐怖は、恐らく何よりも大きかった。

 

「……ま、間違いねぇ……廃域だ……」

 

地面を埋め尽くす炭のような色の粉を手で掬いながら、アリフは言った。

その顔には驚愕と、焦りが混じっていた。

 

真っ黒に染められた大地、砂漠のサボテンのようにあちこちの地面から突き出ている謎の結晶。

モズは自身の経歴上(・・・・・・)、話で聞いたことしか無かったが、その聞いた内容とこの場所は明らかに一致している。

 

廃域はとてつもない化け物が出るとの事なので周囲を警戒していたのだが、モズはすぐ目の前に結晶があるのを見つけた。

結晶があるとは話には聞いていたが、触れてはいけないとは聞いていないので恐らく大丈夫だろうと足を踏み出す。

 

ゆっくりと近場にあった人一人位のサイズの結晶に歩み寄り、その手で触れた。

遠目に見れば確かに見た目は結晶だが、これは結晶と言うには表面がやけに凸凹している。

触った感じもまるで岩に触れているかのようだった。

 

岩、と言ってもザラザラとした感触ではなくどちらかと言うとつるつるしていて滑らかな感じがした。

 

面白そうなので採取してみたいが、生憎それが出来るような道具は持ってきていないし、それにこの岩は話に拠れば硬すぎてドリルどころか爆薬すら通じないそうだ。

 

肌触りを充分に堪能した後は岩の見た目をじっくりと観察する。

 

色合いは、全体的には黒いが内部が赤くなっているのが見て取れた。

その不思議な岩をじっと見つめていると、突然その岩が発光し、目が眩むほどの赤い光が発せられてモズは思わず顔を両腕で覆った。

 

「うおっ!?」

 

「モズ!どうした!?」

 

突然の光と呻くモズに、アリフとリーシャは駆け寄って来た。

かなりの光量だったから失明を心配しているのかもしれない。

幸い目が眩んだ程度なので、視覚にはさほど影響は無かった。

 

「大丈夫かよオイ?」

 

心配そうにしているリーシャと顔を見合わせ、大丈夫だと平気そうに返す。

そうすればリーシャとアリフも安心したように溜息を一つついた。

 

「ビビったぜ……てっきり大爆発でも起こるのかと思ったぞ」

 

「一体あの光は……?」

 

あの光はモズが手を触れてから間も無く突如発生した。

岩を構成している物質が人体と接触して何かしらの反応を起こしたのでは、と自分なりに推測してみるが、どの道今は原因は不明だ。

しかし、少し気になる所があった。

 

光が発生した時、気のせいかは分からないが岩が発光するのと合わせて自分の腕も発光していた(・・・・・・・・・・・)のだ。

 

恐る恐る自分の腕を確認してみるが、特に何も無かった。

やはり気のせいかと自己解決し、光の事は頭の片隅に追いやった。

 

そんな中でたまたま人工物を遠くに見つけたのはリーシャだった。

 

「なぁ、あそこになんか無いか?」

 

指を指した方角に双眼鏡を向け、その人工物の正体が明らかになる。

 

「おい……ありゃコンボイじゃねえか?」

 

「本当か?」

 

アリフから双眼鏡を受け取り、モズも確認するが、MBTが二両に輸送用の大型トレーラーが一両。

間違いなく今回の標的だったコンボイだ。

 

何故、こんな所で止まっているのかは、近付いて見てみれば直ぐに分かった。

MBTは二両共内部から発生したと思われる謎の赤い結晶によって内側から破壊されていた。

 

片方は砲塔が結晶によって引き剥がされて内部が結晶に埋め尽くされているのが見えた。

どう見ても動ける状態ではないので脅威がいなくなったのは有難かった。

 

「こりゃひでぇ、レオパルト(Leopard1A1A1)が木っ端微塵になってやがる」

 

「だが、トレーラーは運転席が潰れただけで荷物は無事みたいだな」

 

アリフが口に咥えた煙草にライターで火をつけようとすると、火打石を回す前にその手をモズによって掴まれた。

 

「なんだよ?」

 

「地面をよく見ろ」

 

地面に視線を移すと、モズが止めた理由が分かった。

大破したトレーラーやMBTから燃料が漏れ出していたのだ。

既に気化しているのか、地面に燃料が溜まっているのは見えなかった。

 

しかし、気化したガソリンは空気よりも重く、そこらの地面で滞留しているのは間違い無かった。

 

「あっぶねぇ……危うく吹っ飛ぶ所だった……」

 

そう言いながらそそくさと煙草とライターを仕舞うアリフを見て、モズは顔には出さずとも安堵した。

モズとて三人諸共爆散は御免だ。

 

「やっぱり貨物室は鍵が掛かってる。 爆薬を持って来てくれ」

 

「あいよ」

 

トラックの荷台からIEDを取り出したアリフはリーシャに向かってそれを投げ渡す。

 

杜撰な爆発物の扱いを特に咎めること無く貨物室の扉に手際良く仕掛けると起爆装置のスマートフォンの電源を付けた。

 

「よし、離れろ、吹っ飛ぶぞ」

 

設置の終了したモズ達は急ぎ足でトラックを動かし、砂の盛り上がった場所の裏に隠れた。

 

アリフが自分のスマートフォンを取り出し、起爆装置の電話番号に電話をかける。

 

一回目のコールとほぼ同時に遠くから大きな爆発音が聴こえた。

 

「こっからスピード勝負だ!さっさと奪ってトンズラするぞ!」

 

モズの携帯に犠牲になってもらった事に感謝しつつ、アリフはアクセルをふかした。

 

爆発で扉の破壊された貨物室に駆け込み、モズが拳銃を構えながら中をフラッシュライトで照らした。

 

しかし、そこにあったのは支援物資などでは無かった。

金属管やら配線やらに覆われた鉄の柱の様な機械があるだけだ。

 

これにどのような意味があるのかは分からないが、モズ達の目標ではない事は確かだった。

 

「なんだぁこりゃ?」

 

「何かの機械……みたいだな」

 

「デカイな…4,5mはあるぞ」

 

その謎の機械のスケールは圧倒的であり、見上げる程とまではいかなくとも視界に収まり切る事は無かった。

 

貨物室の中心まで進むと、もうさいけっかんのように張り巡らされた金属管と配線の中に一つ、何かが埋め込まれている窪みがあった。

 

よく見てみればそこには赤色に妖しく輝く石があった。

いや、具体的に言えばあったと言うよりかは浮いていた(・・・・・)と言った方が正しい。

 

「何なんだこれは……」

 

赤色の宝石のとも結晶とも言える見た目の石をまじまじと興味津々で見つめるリーシャと半ば警戒しつつ観察するアリフの姿がそこにはあった。

 

「おい、どうするんだ? 早く決めないと新手が来るぞ」

 

モズの問い掛けに対するアリフの答えは思いの外早かった。

 

「……今回はハズレだな。 帰ることにしよう。」

 

アリフの目付きから滲み出ている警戒心を感じ取ったモズは迷い無く彼に賛同し、リーシャも渋々帰ることにした。

 

「さっさと帰───」

 

何かが弾ける音、貨物室に飛び込んでくる何か。

これらを聴覚で、視覚で感知したモズの行動は早かった。

 

「伏せろっ!!狙撃されてるぞ!!」

 

二人が瞬時に伏せた事を確認すると、貨物室の壁に開いた穴を見た。

 

銃弾は右の壁を貫通し、左の壁までもに風穴を開けていた。

 

これを見てモズが導き出した答えは一つ。

 

「相手は12.7mmクラスかそれ以上の対物ライフルを持ってる!こっちは撃たれ放題だ!!」

 

「クソっ!貨物室から急いで出ろ!!」

 

次々と飛び込んでくる銃弾を間一髪で躱しながら、何とか貨物室から脱出することが出来た。

 

しかし、貨物室を出て早々に待ち構えていたのは複数人による機関銃の一斉射撃だった。

 

「あーチクショウ!!隠れろ!ミンチになるぞ!!」

 

銃弾の嵐の中を這って進み、漸くMBTの残骸の裏に隠れた。

 

数百発もの銃弾がレオパルトの装甲に阻まれ、激しい火花と共に跳弾する。

 

反撃する暇も無い弾幕にモズが歯軋りしていると、リーシャから悲鳴にも近い声が上がった。

 

「アイツら無反動砲を持ってる!!この戦車ごと俺達をぶっ飛ばすつもりだ!!」

 

「あー!!もう勘弁してくれぇ!!」

 

文句を垂れている間にも発射されたHESHがレオパルトの側面を貫き、炎上し始めた。

 

「このままだと弾薬庫に引火するぞ!逃げろ!!」

 

エンジンから出火したレオパルトを棄て、別の遮蔽物を探そうとしたその時だった。

 

けたたましい金切り声にモズ達の動きが止まり、敵の銃声も止んだ。

 

その金切り声は、モズのとっては余り聞き覚えの無い物だったが、声の様子からしてマトモな奴では無いことは確かだ。

 

何よりも一番驚いたのは

 

「アイツら! 地面から出てきやがった!!」

 

その化け物は地面から生えてくるという事だ。

 

人型だが、体毛は一切なく、灰色の体に細々とした四肢、四対の目に、肉食獣のような牙の生えた大きな口を持っており、人とは似ても似つかなかった。

 

ソレが数百匹単位で群れを成してやってきたのだ。

 

またもや相手の発砲が始まったが、今度は狙いはモズ達ではなくあの化け物のようだった。

 

「こんな所にいる訳にもいかねえ!アイツらの所へ行くぞ!!」

 

「何言ってんだ馬鹿!!相手はこっちに銃口を向けて来た敵だぞ!?」

 

「そんなこと気にしてられるか!!どの道早く動かないとアイツらの餌食だぞ!!」

 

「あぁー!クソ!!どうなっても知らねえぞぉ!!」

 

モズがテクニカルの銃座に付き、リーシャは荷台でその援護、アリフは嫌がってた割には自分から運転席に乗り込んでいた。

 

ハンドルを切り、相手の方へと全速力で車を走らせる。

徐々に距離が縮んでいき、相手の人数が7人だというのが分かる程には近付いた。

 

そして幸運な事にも相手は撃ってくる様子は無く、隊長らしき兵士がこちらに手を振り、明らかに援護を要請していた。

 

「どうやらアイツらも同じ考えだったみたいだな!!」

 

テクニカルを彼らのすぐ傍に止め、モズは重機関銃、『Kord』を構え、チャージングハンドルを右手で引き、初弾を薬室に込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Lightning and Arrow

やっと展開を進められそうです……。
次話はなるべく早く投稿出来ればと思っています。


「クソっクソっ!!テメェらここ(廃域)がどれだけ危険か分かっててドンパチ始めたんだろうな!?」

 

悲鳴にも近い声を上げるアリフ。

 

「こんなタイミングで廃域が発生するなんて予測出来るかバカヤローッ!!」

 

鳴り響く銃声。

 

舞い上がる砂煙。

 

地面の上で薬莢が跳ねる音。

 

そしてそれに合わせて聞こえて来る奇怪な化け物の叫び声。

 

彼らの銃口が咆哮を上げる度に2,3人はバタバタとドミノ倒しの様に倒れていく。

だがその死体の数を遥かに超える化け物が死体の山を這い上がってはその尋常ではない脚力で駆ける。

 

モズの撃つKord重機関銃は12.7×108mmを使用しており、引き金を引く度に一気に数匹の化け物の半身が吹き飛んだ。

 

管のような排莢口から吐き出された空薬莢がトラックの荷台に降り注ぎ、少しずつ金色の山が出来てきた頃、モズは突然射撃をやめた。

 

「どうしたモズ!?」

 

「オーバーヒートだ!!新しい銃身をくれ!!」

 

モズの怒声を聴き、飛び上がる様に立ち上がり荷台のツールボックスから予備の銃身を取り出し、モズに投げ渡した。

 

銃身を受け取り、すぐさまモズは今付けている銃身の留め具を外し、ハンドルを持って銃本体から引き抜くとそこから素早く左手に持っていた次の銃身を差し込み、固定した。

 

銃身の固定が成されているかしっかりと確認をし、それから射撃を再開する。

 

「……!! 奴らの数が減ってきたぞ!!」

 

先程まで百を超える群れを成していた化け物だったが、次第に群れの中に隙間ができ始め、とうとうその先にある地面が見えてきた。

 

「いいぞ!!あともう少しで殲滅出来る!!」

 

「クソォッ!!弾代誰が払うと思ってんだァ!!!」

 

またもやアリフから別の意味での悲鳴が聞こえて来るが、それにはお構い無しに高価な12.7×108mmが銃身から次々と吐き出される。

 

実際、Kordに使用する12.7×108mm弾は現在の市場ではブローニングM2などに使用される12.7×99mm弾と比べてかなりの高値で売られている。

 

弾一発で僅かとはいえ軽い食事が取れてしまうその弾は、実戦ですら使う事が無く、幾つかの弾薬箱が家の倉庫と言う名のガラクタ置き場に機関銃本体と共に放置されていた。

 

今回は廃域に進入するという事なので初めてそれらを外に持ち出したのだ。

 

銃本体、200発入りの弾薬箱5つ、予備の銃身5本、専用の3脚。

 

これらに掛かった値段をアリフが見積もった所、凡そ8万ドルもの費用をモズ達は負担していた。

 

それだけじゃない、他にも多くの小銃弾が消費されていた。

12.7×108mmに関してはまだ諦めが着く。

しかしモズ達が普段使用する一般的な小銃弾は決して欠かせないものである為、常に補給が必要とされる。

 

重機関銃より幾分かは安くなるとはいえ、それでも負担が来るのは間違い無かった。

 

たった今撃ち殺した最後の一体に使用した弾も含めれば、きっとかなりの大金になるだろう。

 

本当に、金は何時でも必要だ。

金が無ければ何も出来ない。

現に、彼等の命を救った大量の銃弾も元を辿れば金だ。

 

これ程シティの連中が羨ましく思えてくるのは何度とあるものでは無い。

 

チャージングハンドルを引いて薬室に弾が入っていないか確認し、足元にある空薬莢の山を足で退かすとそこに勢いよく腰を落とした。

 

名も知らぬ兵士達も同じように、息を切らしながら岩陰にもたれかかっている。

 

一切の言葉が聞こえて来ず、ただ複数人の荒い息遣いが聞こえて来るだけのこの状況下において、モズは一人の一人の兵士を見つめていた。

 

それは女で、身の丈に合わない巨大なライフルを傍らに置き、水筒をラッパ飲みしており、ふと彼女と目が合った。

 

荷台に転がった大量の空薬莢が鬱陶しく、また彼らと一度会話を交えておくべきかと考え、荷台から飛び降りると彼等の元へ歩み寄った。

 

やってくるモズに気が付いた彼等は一度警戒する素振りを見せるが、両手を軽く上げて交戦の意思は無い事を示すと警戒を解き、隊長らしき黒人の兵士が立ち上がり、モズの目の前へ来た。

 

彼の黒い肌の所々に見え隠れしている痛々しい傷跡は、どう見てもただの裂傷とか刺傷ではなかった。

 

見ただけで相当の死線をくぐり抜けてきた事がすぐに察する事が出来た。

 

彼の容姿を下から上までじっくりと観察していると、ジャケットに縫い付けられていたワッペンが目に止まった。

 

円形のワッペンの中央には両手に稲妻を持ち、それを胸の前でクロスさせている神であると予想出来る白髭を生やした老人がそこにあった。

 

そしてそれを囲む様に英語でこう書かれていた。

 

「第246空挺戦闘団……。 お前ら、まさか……」

 

モズは知っていた。

以前にもこのワッペンを見ていたのだ。

 

地上で戦うモズ達を支援する為に、敵を直上から空より降り注ぐ幾多もの稲妻の如く強襲する彼等には二つ名があった。

 

忘れるはずも無い。

 

共に戦場に立ち、絶望を前にしても尚戦い続けた彼らの名を。

 

「……『フォルゴーレ戦闘団』、まさか生き残りがいたとはな」

 

「それはこっちのセリフだ。 『ストレルカ機甲大隊』は全滅したと聞いたが?」

 

 

 

 

 




終盤に出てきた未知の単語に関してはいずれ説明しますのでしばしお待ちを。


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Red Army

猛暑が日常の旧ヨーロッパ南西の砂漠(と言うよりヨーロッパの殆どが砂漠)の真ん中に、幾人かの人が群れていた。

 

その者達は大破したトラックを取り囲み、何かを話している。

 

「トラックにゃあ、補給物資のほの字もねぇヘンテコな機械が入ってただけだったよ」

 

「機械?補給物資じゃないのか」

 

疑問を露わにする彼等に、アリフがじゃあ中に入って確かめてみろ、と促す。

大穴の開いたコンテナに入り込むと、そこにあるのはやはりあの未知の機械。

 

勿論彼らがその機械の用途等知るはずも無い。

一体何に使う機械なのかは分からないが、分かる事と言えばひとつしかない。

 

「まぁ、MBTを2両も持ち出す位には価値があるって事だな」

 

「だが、これの使い方を知っているのはシティの連中だけだろう。 こんなもの市場で売ってもガラクタ扱いに決まってる」

 

この機械をどうするのかと話している間に、モズの目線は中央の窪みにはめ込まれた赤く光る石に向けられていた。

 

モズの目線は釘付けにされ、しかしそれは好奇心によるものではなくまた別の感情によるものであった。

 

それが何かなど、分からない。

だがそれ(・・)に向かって右手は無意識に伸びていた。

 

他の者達にモズの奇行に気付く素振りを見せる者はいなかった。

誰にも気付かれる事無く、その手は赤い石を掴もうとしている。

 

赤い石にちょうど指先が触れようとした時、突然声を上げたのは一時間ほど前にモズ達に狙撃をお見舞いしたあの女兵士だった。

 

「何かが来る!多分音からして攻撃ヘリ!」

 

その言葉を聞いた彼等、特にフォルゴーレ戦闘団を名乗った者達は弾かれたように動き出し、両手に各々の銃を持ってコンテナの外に駆け出した。

 

アリフらもそれに続いて外に出ていく。

石を手に取ろうとしていたモズも共にコンテナの外へと飛び出す。

 

廃域の結晶に身を隠しながら音のする方の空へと双眼鏡を向けると確かにそこには三機の攻撃ヘリ、『Mi-24 ハインド』が編隊を組んで向かってきているのが見えた。

 

それらに向けられているモズとあの黒人の兵士と女兵士の視線に込められていたのは焦り、しかし恐怖から来るものではなく、嘗て自らが味わった経験(・・)によるものだった。

 

「ハインド……ここら辺のシティはあんなの使っちゃいねえ!」

 

「エンブレムが見えた……おいおいありゃあ……!」

 

機体の側面に描かれたその赤い星(・・・)

数あるエンブレムの中でも特に恐れられたあのエンブレムを知らぬ者などいるはずもない。

 

「なんでよりによってレッドアーミィ(・・・・・・・)なんて来やがるんだよ!?」

 

『レッドアーミィ』。

3年前に終結した幾つものシティを巻き込んだ大規模クーデターの後に突如活動を活発化させ始めた武装勢力の一つである。

 

各地のシティや他の武装勢力を襲撃しており、大昔に存在した国家、『ソビエト社会主義共和国連邦』の復活を目標に掲げている。

 

レッドアーミィとはソビエト労農赤軍を意味しているのだが、彼等は既に形骸化していた共産主義というイデオロギーを棄て、ソ連崩壊後に誕生したロシア連邦と同じ資本主義社会の道を歩もうとしていた。

 

そしてそのレッドアーミィを構成しているのは、殆どが大規模クーデターに参加していたシティの軍隊か、武装勢力の残党であり、その武装勢力の中にはフォルゴーレ戦闘団とストレルカ機甲大隊も含まれていた。

 

モズも嘗てはストレルカ機甲大隊に所属していたが、今は抜け出した身、即ちレッドアーミィとの関係は一切無い。

 

「どうすんだ!?このままじゃ俺達殺されちまうぞ!」

 

「どうするって……降伏するしか無いだろ」

 

「アイツらが捕虜の待遇なんて保証してくれると思うか!?」

 

「少なくとも機銃でミンチ以下の何かに成るのは避けられるかもしれない」

 

そう言いながらモズは愛銃をハインドの目の前で放り捨て、両手を上げた。

 

一瞬身構えたアリフだったが、ハインドから銃声もロケットが発射される音も聞こえてこず、目を開けるとハインドが二機とも着陸していた。

 

未だローターの回り続けるハインドの兵員室から歩兵がゾロゾロと出てきてこちらに銃口を向けながらレッドアーミィにしては珍しく降伏勧告を行った。

 

「この場にいる武装集団に告ぐ、所持している武器を捨て、両手を上げてこちらへ来い」

 

行動に悩むアリフ達だったが、モズが顎でしゃくり、フォルゴーレの連中も急かしてきたので大人しく武器を捨ててモズの左へ並ぶ。

 

全員が横一列に並び終えるとレッドアーミィの兵士はモズ達の背後に回り、その手に持っていた手錠で一人ずつ拘束した。

 

後ろ手に拘束された彼らは兵士に促され、ハインドの傍まで歩み寄った。

 

「その場で跪け」

 

大人しく命令に従い、地に膝を着いた。

すると一番左にいるあの黒人から順番に手に何かしらの機械を押し当てられた。

 

当然最後のモズも押し当てられたのだが、その時に兵士の様子がおかしかった。

解析結果を見た兵士は急いでハインドへと戻っていってしまった。

 

「総統、やはり予測通りでした。 彼で間違いありません」

 

「そうか」

 

今度はハインドから先程の兵士と共に今時珍しい軍服を着用した男がモズの目の前へと来た。

 

しかしモズは彼の顔を知っていた。

あの黒人も同じようで驚いた顔で彼を見ていた。

 

「やっぱりお前だったとはな、モズ」

 

「クリメント……レッドアーミィを率いていたとは知っていたが何故ここに……?」

 

「話すと長くなる、まずは落ち着ける場所に着いてからだ」

 

クリメントがハインドを指さすと兵士はその一機にモズ達を押し込んで離陸させた。

 

もう一機のハインドは機体下部から垂れ下がったワイヤーとあの輸送トラックの貨物を繋げて飛んでいる。

 

あれに関する事もきっとこの後聞かされるのだろう。



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