篠ノ之束になったので配信しながらアベンジする (BBBs)
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配信者

アイアンマン2が終わった後から開始。


「ハロハロー、世紀の大天才の束さんだよー」

 

開始設定時間1秒過ぎ、カメラに向かって笑顔を浮かべ、両手をひらひらと振って挨拶をする。

そうすると画面を埋め尽くす文字の波。

 

『ばわー』『タッバおいすー』『待ちかねたぞ!』『初見大当たりか』『わこつ』『おっと、ここから先は地獄だぞ(科学薀蓄並感)』etc。

 

生放送のみで行われる実況配信動画。

観覧者数が3桁単位で増えていくのを尻目に、早速今日の話題を話し出す。

 

「今日は勉強会も蘊蓄もなし! そんなことよりあれ見たあれ! またアメリカでどんぱちやってたの!」

 

腕をブンブン振りながら、メタリックの赤いパワードスーツの話題を出すも。

 

『ありがとうございます!』『初見さん良かったな滅多に見れないぞ』『バルンバルンしよる!』

 

社長の話題ではなく、ちょっと興奮して腕を振った際に胸まで揺れた事に視聴者は釘付けだったようだ。

 

「誰が私の胸の話をしろっつったよ! 社長の話! アイアンマンの話!」

 

胸を隠すと逆にご馳走さまとか言われるので、椅子の高さを下げて首から下が見えないようにすると。

 

『カメラさんもうちょっと下!』『新人カメラマンだからしゃーない、(胸の話から)切り替えていこ』『ご覧の生放送は篠ノ之束の美貌と科学オタクの提供でお送りします』

 

99パーセント以上が私の容姿目当てで入ってきた奴らだから仕方ないが、引っ張ると枠が足りなくなるので無理矢理終わらせる。

 

「はいはいもういいから! それでさ、ぶっちゃけアイアンマンスーツってイカしてない? 正直着て飛んでみたいんだけどなー」

 

空想、SFから急に現実に飛び出してきた超科学にコメントが溢れかえる。

着てみたいとかカッコいいなどの肯定的なものから、その強力な性能に危なそうとか軍事バランスの変化による戦争が起きやしないかと不安がる否定的なものまで。

 

「まーね、実用レベルのレーザーやビーム、粒子砲ね、マイクロミサイルにフレア。 空のジェット戦闘機に陸の主力戦車が相手にならない性能じゃあ不安がる人がいるのも無理はないよね」

 

うん、と頷いて腕組み。

 

『映像がガチならクッソやばい』『社長天才すぎ問題』『ええい!社長はいい、アイアンマン映せアイアンマン!』

 

明らかに技術的ブレイクスルーを引き起こしている、アメリカの情報サイトを見るとアイアンマンを巡って色々起きているようだ。

MCUのアイアンマン2でもあったアメリカのアイアンマンスーツ引き渡し要求とか一悶着あったようだ。

 

「あとスターク・エキスポ行きたかったなー、社長もアイアンマンスーツ着て出席してたしさ。 まあパスポート持ってないけど!」

 

『バイトしてねぇ学生には発行費用辛いな』『1万超えだっけ』『パスポ持ってる人そんな多くないだろ』『投げ銭しようと思ったらできなかった、未申請?』

 

「年齢制限に引っかかってるから収益化は無理だね」

 

色々作りたい身では、少ないお小遣いからパスポート費用を捻出するのは辛い。

バイトはバイトで何時間も取られてやりたい事が出来なくなるのでやっていない。

 

「なぁ〜のぉ〜でぇ〜、お金がかからないAI、作った人工知能を発表します!」

 

『突然何言ってんだタッバ!』『金が欲しい→わかる。お金がかからないAI→まだわかる。作ったAI発表する→!?!?!?』『作ろうと思って作れるもんじゃないぞ』『束ちゃん天才ヤッター!』

 

「はい、それじゃあちーちゃん、視聴者の皆に挨拶して」

 

タタタターンとキーボードを操作してプログラムを起動。

 

『初めまして、プロジェクト・モザイカの多目的支援ユニット、千冬だ』

 

挨拶と同時に映像内に3Dモデルを投影する、ビシッと決まった黒のスーツを纏う黒髪のスラリとしてCOOLな雰囲気の女性。

見る人によっては冷たく感じるかもしれないが、逆にそれがいいのだ。

 

「ちーちゃんカワイイヤッター!」

 

万歳しておく、超長大なプログラムをチマチマ打ち込んだ甲斐があった。

モデルは当然あのブリュンヒルデ、残念ながら本人は周囲に見当たらなかったのでAIで再現させてもらった。

 

『こマ? チフユちゃん美人すぎない?』『まさか独立型戦闘支援ユニット!?』『ぼく知ってる! これ声優さんでしょ!』『3Dモデルの出来が良すぎて草』『今わかりました、ちーちゃんが俺の二次元嫁だったんですね』『彼女はADAではない(無言の腹パン)』

 

いろんな感想が画面上に流れる。多すぎて途中で消えて読み切れなかったがシモ話も多かったので気にしない。

 

「ゆーちゅーばーじゃないよ、モーションキャプチャーでもないよ、声を当ててる人もいないよ、中に誰もいませんよ」

 

『誠氏ね』『ダメじゃないかぁ! 誠は氏んでなきゃあ!』『後のゴミの人はお帰りください』『これ言われたの誠じゃないだろいい加減にしろ!』

 

「ネタもそこそこに、一からプログラム書き出したやつでね。 正直使ってるパソコンじゃリソース足りなくて会話程度しかできないけどね」

 

『ガチで中の人居ないなら凄くね?』『モデルの配布はいつになりますか?』『世紀の大天才様やぞ』『パソコンと配信機材用意するのでいっぱいいっぱい言ってたな』

 

「お金があればなー、私もアイアンマンスーツに負けないやつ作るんだけどなー。 ……クラウドファンディングで1000億円くらい募集してみよっかな、一番お金出してくれた人に私のサイン色紙をあげよう」

 

『桁多すぎワロエナイ』『色紙じゃなくてタッバと握手なら1万位だすんだけどな俺もなー』『金!金!金! 科学者として恥ずかしくないのか!』

 

「科学者以外のコメントは認めない! まあぶっちゃけアイアンマンスーツを作るだけならもっと少なくできるだろうけど、私が作りたいのはもっと気合の入ったやつだから、1000億でも足りるかわかんないんだよね」

 

『何作る気だよ(震え声)』『まさか工作機械から作る気?』『金!金!金!(ry』『ちーちゃん他に何できるんだ?』

 

「よくぞ聞いてくれました! ちーちゃんは家事以外なんでも出来るよ! あと作りたいのはアイアンマンスーツと似たようなやつ、着るタイプだと被っちゃうから別の形になるけどね」

 

『家事が一番大事なのでは?ボ訝』『家事が大事だって、それ一番言われてるから』『AIに家事させる必要あるのか?』『資金あればマジで作りそうな束ちゃん……』

 

「わっかんないかなー、完璧に見えて欠点の一つや二つあった方が可愛いでしょ?」

 

『確かに』『おまかわ!』『家事以外なんでもってんなら愛嬌になるか』『現実ならノーサンキュー』『待てよ?完璧無敵超人束ちゃんもAIの可能性が……?』

 

「出来ることは近接格闘補助と間接射撃補助とか、あとハッキングに収集情報の精査とかも出来るよ」

 

『……何する気なんですかね?』『最近AIの活用とかあるけどそこまでさせる!?』『でも家事できないんですよね?(笑)』

 

「他にも出来ることいっぱいあるけど、マシンスペックがまるで足りてない!」

 

『PC購入資金調達にクラファン使えばいいのでは?』『なんでそんな多機能にしたんだ!』『正直まともに会話出来るだけでもすごいやん』『ちょっと会話させてみてよ』『ガチならちーちゃん買いたい奴いくらでも居るんじゃねーの?』

 

「クラウドファンディングは考えとく、今日は時間も無いしちーちゃんとのお話は次回にしとくね」

 

配信終了の操作をしながらカメラに向かって笑いかける。

 

「次は別の報告が出来るかも、それじゃあまたね〜」

 

手を振り、配信が終了して事を確かめる。

 

 

 

「……ちーちゃん、トニー・スタークと直接連絡が取れる方法探してくれる?」

『……構わんが、見つかる保証はないぞ』

「絶対に見つけろって話じゃないからね、とりあえず探しといて」

『わかった、やっておこう』

 

バックグラウンドで捜索を開始する千冬を尻目に、いくつかのテキストデータを開く。

 

「……自己中だなぁ、私ってば」

 

その中には、手のひらサイズの熱プラズマ反応炉の製造方法が書かれていた。

 




篠ノ之束
転生オリ主の現役女子高生原作相当スペックの超人、社長の頭脳とキャップの身体能力を合わせたような女性。
中身が違うので原作よりも圧倒的に社交的で、容姿も飛び抜けているので学校でも人気者。
創造欲豊かで少ない小遣いでやりくりしてPCやら配信機材を買い揃えて、配信で頭脳を生かしたちょっとした勉強会やら制作物の発表とかして遊んでいたがアイアンマン騒動から冷や汗流して設計図を引いたりAIの千冬を作ったりした。
指パッチンで消えたくないのでなんとか介入できないか悩み中、MCU世界だと気が付いたのは社長がjrそのものだったから。


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試す者

巻き進行、だらだら腹の読み合いは見合わない。


『トニー様、メールが届いています』

「誰からだ?」

 

忙しい合間を縫い、いつものラボでカチャカチャと工具を操りながら、AIのJ.A.R.V.I.S.に声を返す。

 

『差出人はタバネ シノノノ、メールそのものが暗号でロックされてあります』

 

手を止めずにスーツの改良に勤しみ、J.A.R.V.I.S.に命令する。

 

「削除しろ」

 

聞いたこともない名前で、メールそのものを暗号で封じるのは他人に見られたく無い事を示す。

面倒事と判断して、トニーは見なかったことにした。

 

『よろしいのですか?』

「削除しろ、と言ったぞ」

『わかりました、件名『小型熱プラズマ反応炉の製造方法』のメールを削除します』

「──待て待て待て、今なんて言った?」

『件名『小型熱プラズマ反応炉の製造方法』のメールを削除します、復元出来ませんが本当に削除しますか?』

「………」

 

流石に手を止める、内容が件名通りのことなら暗号で容易に開封できないようにするのも理解できた。

それにメールの件名が本当なら不味い。下手に無視して反感を買い製造法がバラまかれてテロリストどもの手に渡ればうんざりするほど面倒なことになる。

少し前のイワン・ヴァンコのようなこともあり得る。これがアークリアクターの事であればどこで手に入れたのか聞き出さねばならない。

 

「開封して中身を確かめろ」

『了解です。暗号解読は約12時間後になります』

「なんだって? 何で12時間も掛かる?」

『無数の暗号で構築され、複雑に絡み合っているものと推定』

「……解読に集中しろ、可能な限り早くだ」

『了解です』

 

気が散ってしまった。工具を放り出してラボを後にした。

 

 

 

翌日、昼前にJ.A.R.V.I.S.からメールの暗号解除に成功したと報告を受け、チーズバーガーを食べながらラボの椅子に掛けてメールを開く。

メールには長文のテキストと一枚の画像、熱プラズマ反応炉の設計図が添付されていた。

 

「……本物か」

 

見ればわかる。トニーが作成したパラジウムを使用するアークリアクターとは多少構造が違うが、設計図通りに製作すれば毎秒数GJの電力を生み出す。

 

「……J.A.R.V.I.S.、この……名前かどうかもわからない奴を調べろ」

『調べておきました』

 

すぐにモニターにJ.A.R.V.I.S.が調べたそれらしい人物の情報が表示される。

確率が高い人物が複数、なんてこともなく表示されたのは一人の少女。

 

『このメールの発信元は日本のプロバイダ、ダミーとして経由された形跡は見当たりません』

「……他の人物の可能性は?」

『発信地域と契約者名に該当、氏名の希少性を鑑みて彼女がメールを発信した可能性は極めて高いと判断しました』

 

無数に表示される少女の情報、通っている高校から家族構成まで公共団体のコンピューターに保存されているデータを根こそぎ拾ってくる。

 

「……クラッキングする事もお見通しか?」

 

その中に一つ英語で「ミスタースターク、メールに返信してね」と表示された、メールの送信に使ったと思われるパソコンの情報。

 

『該当のパソコンのストレージには熱プラズマ反応炉に関する情報は存在せず、その代わりにこのメッセージがテキスト情報で残してありました』

 

パソコン内のデータはほぼ空、こちらが欲しがる情報は見せないという意図が見える。

 

「……J.A.R.V.I.S.、返信だ。 件名に付けてくれ、『それじゃあ及第点はやれないな』ってな」

 

 

 

 

 

 

「流石に引っかかってくれたか」

 

ディスプレイを眺めながら呟いた。画面に映っているのはトニー・スタークからの返信。

ちーちゃんがJ.A.R.V.I.S.に引っかからないよう慎重に探ってくれたおかげで、公開されていないメルアドをゲットできた。

そこに熱プラズマ反応炉、ぶっちゃけ私が設計したパラジウムのアークリアクターの設計図を同封してみたが振られてしまった。

だが返信が来た以上、メールを開き設計図を見て私のことを調べるのは予想できた。

調べた上であのプレイボーイは複合暗号化と旧型アークリアクターでは食いついてこなかった。おそらく私の様子を、次の行動を観察しているはず。

理想は最初っから全力で食いついてくることだったが、まずは興味を引くことが大事だったので落胆はない。

警戒という形ではあるが意識に留めることには成功しただろう。

パソコンの中身も覗かれたことは想像に容易い。ネット上でJ.A.R.V.I.S.に監視させているのは間違いないと思う。

旧型とは言えアークリアクターの設計図をばら撒かれるのは間違いなく困るだろう。まあそんなことは全くする気はないが。

 

さて、段階は次のステージに移行した。

旧型アークリアクターと言う前菜は終わり、メインディッシュの新型アークリアクターの話と設計図で席についてもらう。

残念ながら実験するための資金が無いので全部机上の空論ではあるが、実際に組み上げれば動作するだろう確信を持ってテーブルに置く。

流石にバッドアシウムの名称を出すと警戒の域を超えるので、改良案と題したバッドアシウム使用前提のリパルサートランスミッターの設計図を添付する。

流石にいきなり口封じには来ないだろう。他人には見せないだろうが彼の心には善意がある、はず……。

 

「……よし!」

 

メールを打つ、腹の探り合いをしている無駄な時間はない。

きっちり単刀直入に要求を書いてメールを送信。私が要求する設備を持っているのは世界広しと言えどトニー・スタークだけ。

だからなんとしてもと、柏手を打ってメールを送信した。

 

 

 

 

 

「お父さん! お母さん! お金貸して! パスポート作りたい!」

 

 

 

 

 

空港から出てすぐの指定された場所に向かえば、送迎用の豪華な車。

出迎えの運転手に笑顔で声をかけられた。

 

『タバネ シノノノさんですね? スターク・インダストリーズよりお迎えにあがりました』

 

策というよりも超最新技術のゴリ押し、そのおかげで出したメールの返信はすぐ来た。

是非とも招待したいとのお誘い。それを受けて両親にパスポート発行代を借り、高校を休学して一息に飛んできた。

休学の理由はスターク・インダストリーズに体験入社と出したらすぐに許可を貰えた。

校長はいろんな意味で有名なスタークで、最高学府に入るよりも宣伝になると踏んだのかもしれない。

一応通っている高校はちゃんと卒業する気ではあるが、これからどころかこれからも大問題が何度も発生するから、もしかすると出席日数が足りなくなるかもしれない。

 

……とりあえず今は目的を達成することを考えよう。

 

運転手はドアを開けて乗車を促してくる。

従って乗り込み、ドアが閉まればまるで檻の中。

運転手が座る前部座席と私が座る後部座席の間には分厚いガラス、後部座席からの襲撃を妨げる目的だろう強化ガラス。

ドアもドアで分厚く、工具があっても脱出するのに結構時間が掛かるのが手に取るようにわかる。

まあ私に掛かればこの程度のガラスは一撃で破壊できるし、ドアも蹴り飛ばして難なく脱出できる。

もちろんする気などないが。

 

これはかなり警戒されてるな。

問題なく向こうに着いたら、人気を遠ざけられてリパルサー・レイを向けられそうだ。

まあ、知り合いでも無いのに公開していないメルアドにいきなりアークリアクターの設計図を添付してくる奴とか怪しまない方がおかしいか……。

大人しく車に揺られながら、日本とは異なる風景を眺めて目的地への到着まで待った。

 

 

 

見えてきたのはビッグアップル。何処かの誰かが下品な建物とかなんとか言っていたスタークタワーも見える。

少なくとも全く別の場所に連れていかれる事はなさそうだ。

さらに車に揺られてスタークタワー前、案内されるがままエレベーターに乗り、社長の許可なしでは入れない上層階へと登っていく。

 

「案内はここまでになります。この中でおまちください」

 

案内役が止まったエレベーター内でそう言って頭を下げた。

こっちも礼を言って頭を下げる。エレベーターを降りて辺りを見渡せど人っ子一人いないフロア。

広々としたフロアに全面ガラス張りの窓の外には青空が広がっている。

少しだけ窓の外の景色を眺め、フロアの中に進んでいく。

予想が外れていなければJ.A.R.V.I.S.が監視していて、トニー・スタークが居るはず。

 

「………」

 

未来感溢れるデスクに近づいていけば、さらにフロアの奥から足音が聞こえてくる。

ゆっくりと足音の方を見れば、両手を後ろ手に近づいてくる男。

マーベルビッグ3のうちの一人、トニー・スタークが姿を現した。

 

「やあグッディガール、私のラボにようこそ」

 

警戒心の見えないような軽い足取りで近づいてきて、“左手”を差し出してくる社長。

 

警戒心バリバリですねわかります。

 

「初めまして、スタークさん」

 

そんな真顔の社長に対し、笑顔を浮かべて“右手”を差し出す。

左手と右手、行われない握手に数秒見つめ合い、社長が折れたのか左手を下ろす。

その代わりに右手を出してガッチリと握手、社長の右手は赤と金色で実に冷たかった。

手に伝わる冷たさに握った手に視線を落とし、すぐに社長の顔へと視線を戻せば真顔から笑顔に変じていた。

あっけに取られたわけもなく、最悪フル装備で出迎えられる可能性も考慮していたのでまだ優しい方だ。

 

「お会いできて光栄です、プレイボーイ」

 

こちらからブンブンと腕を振ってやる。スーツ込みなら負けるが生身では社長を圧倒できる。

 

「……意外と力が強いんだな」

 

社長が半ば振りほどくように握手を止める。

 

「それで、私の話を聞いてもらえると思っても?」

「聞いてやってもいいが、まずは私の質問に答えてからだ」

「もちろん」

 

一歩二歩と下がって、社長は疑問を口にした。

 

「あの熱プラズマ反応炉の設計図はどこで手に入れた?」

「私が自分で引きましたよ」

「聞き方を間違えたな。誰から製造方法を聞いた?」

「私が自分で考えましたよ」

 

それを聞いて社長は肩をすくめる。

 

「君があれを考えた? 世間一般じゃあ──」

「──大型施設での核融合炉すら実現していないのに?」

 

声に割り込んで引き継ぐ。

 

「……君がそれを自分で考えたとして、それを証明する方法は?」

「材料と設備を貸していただければすぐにでも作りますよ?」

 

そう言えば社長の眉が少し上がった。まあ作り方を知ってても実際製造するとでは勝手が違う。

現物を社長が見ている前で用意してやれば、流石に納得するだろうが……。

 

「まあ貸してくれませんよね。わかりやすく天才同士だけで通じ合う会話でもいいんですが」

 

ゆっくりと両腕を広げて。

 

「このバッグの中にメモリがあるんですけど、取り出しても?」

「……構わない」

「お言葉に甘えて」

 

ゆっくりと肩に掛かったバッグに手を差し込み、目的のメモリをゆっくりと取り出す。

 

「この部屋に内外からネットなどにアクセス出来ない孤立化したコンピューターはあります?」

 

USBメモリを社長に見せながら、内部のデータを見てもらえればわかりやすいと態度で提示。

 

「J.A.R.V.I.S.」

『設定変更、スタンドアローン』

「そこを使え」

 

社長が顎で示したのはテーブル、側面に差し込み口があるのであれ自体がパソコンなのだろう。

指示通りゆっくり近づいてからメモリを差し込む。そうするとメモリに収めていたプログラムが立ち上がり始める。

 

「ちょっと待て、何を起動している?」

 

社長の右手がテーブルに向けられる。何かあったら速攻ぶっ壊すつもりだろう。

 

「そりゃあ閲覧しやすいように私が作ったAIを起動しているんですよ」

 

正直に言えばちーちゃんはJ.A.R.V.I.S.にも負けないと言う自負があるが、宿しているマシンスペックが桁違いなのでやりあってもリソースの差で押し切られる。

テーブルの上には映像が投影され、起動中の文字とプログレスバーが数字を刻んでいる。

 

「社長にはわからないでしょうけど私の家って裕福じゃないんですよ。せいぜい衣食住に困らない程度なんです」

 

生まれながらの大富豪である社長には到底理解できない、低い生活レベル。

作りたいものがあれば簡単に何千万とつぎ込める社長と、ネットや携帯使用料を引いて残る月数千円をやりくりで凌ぐ私とではどうしようもない。

成人していればやりようもあるが、流石に未成年でイリーガルな手を使ってでも金を手に入れる気は無かった。

まあ正直配信だったりでこじんまりと遊んでいられればよかったが、違法ではないやりようで頭の中に引いた設計図を現実のものに出来るならやってみる価値はある。

その上敵対的な異星人やら異世界人が襲ってくるこの世界じゃ、彼らがなんとかするだろうと楽観して居る事は出来なかった。

映画じゃ日本なんてかけらも描写されていないが、全宇宙にまたがる指パッチンで自分が除外される確率は二分の一と言う高すぎる確率は看過できなかった。

自分が傲慢になっている自覚はある。それでも私に出来ることがあってその才能がある以上佇んではいられない。

 

「……よし、ちーちゃーん。 メモリ内のすべての情報を表示して」

 

異星人やらのことは省いて整合性を持つ説明をして、起動したちーちゃんに命令を飛ばす。

 

『プロジェクトISの情報も開示するのか?』

「うん、全部全部」

『わかった、メモリ内の全データを開示する』

 

流石に3Dモデルはなしで、J.A.R.V.I.S.と同じように音声だけで応答。

 

「私はアイアンマンに憧れて危惧した、だからこそこれを作るために社長に接触したんだ」

 

そしてトニー・スタークの助力があれば実現できる、机上の空論が開かれた。

 




この頃の社長はすぐに煽るから、うまい煽り具合なんて考えていられねぇよ!


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レッツ、アベンジ

『構造強度、発電量、実体サイズ、重量、実稼働のデータから測定。 トニー様の作るリパルサートランスミッターと同等であると判断できます』

 

物事には目に見える成果を提出するのが最も重要だ、なにせ口だけではない説得力を生むから。

ラボを使う条件に言い渡された条件、実用レベルのリパルサートランスミッターの作成を言い渡された。

社長とJ.A.R.V.I.S.の監視の中、入力した設計図のデータ通りに同じくラボにある製造設備から組み立てられ、出来上がったそれを社長とJ.A.R.V.I.S.が検証して本物と判断された。

 

作るのは楽しいが実際には手間取った。自分の設計図を見ていたら粗が目に付いて設計図を引き直したくらい。

その代わり出来栄えとしては現状最高だと言える。社長のラボでなければ間違いなく作れなかった。

やっぱ社長のラボは……最高やな!

モニターの先で視線が合い、社長が背を向けると同時に通信映像が消える。

少し待っていれば私のリパルサートランスミッターを手に、エレベーターから降りてきての社長の一言。

 

「それなりに、よく出来ている」

 

持て余すような扱い方で、私に手渡してくる。

基本形を作っただけだしねぇ。必要なバッドアシウムは社長製だし。

 

「それで、君はあれを作ってどうするんだ? だれかのケツでも叩きに行くのか?」

「そうですよ。叩きに行くどころかぶっといのをケツの穴にぶっ刺してやるんです」

 

おどけたように言う社長に、ちょっと過激な言葉を返した。

 

「……それって、僕のことじゃないだろうな?」

 

ヴィラン製造機である社長は心当たりがあるらしい。無論私は全く関係ないが。

社長の懸念は尤もで性能から考えれば、単一で相手になるのはアイアンマンくらいだからなぁ。

それ以外なら一国の軍隊とかのレベルになるから、そう言う考えに至っても不思議じゃない。

 

「まさか! 冗談ですよ、冗談。 ええ、……冗談です。 それでこれは極限環境下での作業用を想定してるんですよね」

「カタログスペックを見ればわかる。僕が言いたいのはそんなことじゃなくてだな……」

「常識的に考えて人類には早過ぎるんでばら撒いたりしませんよ。渡したら喜んで軍事利用されそうですし」

 

国に対して渡しても、ヴィランに襲撃されて奪われそうとしか思えない。

国が解析して劣化コピーを作ってもおかしくないし、情報が流れてアイアンマン2のハマーインダストリーズみたいな事が起こっても不思議じゃない。

社長がアイアンマン引き渡しを拒否するのがよくわかる。誰かに渡したら絶対面倒ごとが起きると確信できる。

何故かって? ここマーベル世界なんだよ?

 

「社長だってアイアンマンを軍事利用されたくないんじゃ? ウォーマシンは別のようですけど」

 

忙しい上に、世界がヒーローを求めてるから代わりをやってもらうために渡したんだっけ?

結局自分もヒーローやるしかなくなるんだから主人公というのは難儀なものだ。

 

「その通りだ、君もそれをわかっていてくれれば問題ない」

「十中八九対アイアンマン用として使われそうですけどね」

「それについては心配していない」

 

私のISは相手にならないってか? ははは、こやつめ!

すげぇ奴作ってやるから今に見てろよ!

 

「ご希望通りラボは使わせてやる、好きなだけ作っていくといい」

「ただしネットからは切り離されて、J.A.R.V.I.S.の監視付き」

「よくわかってるじゃないか、将来有望だな」

 

ニヤリと笑う社長、同じくニヤリと笑い返す。

 

「ある程度時間を頂きますよ」

「ここはプライベートルームになっている、食事、寝室、バストイレ、映画に本もたくさん、音楽だって聞き放題だ、不自由はしないぞ?」

「そりゃあ良かった、最高の物が作れる」

 

へっへっへっ、作成に没頭出来る環境を用意してくれるとはさすがは社長。

あとは戦いが起きる前に完成させられるかが鍵だな。

 

「それじゃあ僕はやる事がある、くれぐれも変なことをしないでくれよ」

 

今の時期だとS.H.I.E.L.D.関係か、それじゃああんまりゆっくりはできなさそう。

優先順位を決めておくか、間に合いませんでしたは流石にね。

 

「ええ、わかっています。 お仕事頑張ってください」

 

笑顔で手を振ってお見送り、それを見た社長は片眉を下げ、口角を少し下げた微妙な表情でフロアを後にした。

 

「よっしやるよちーちゃん!」

 

まずはどこまで出来るか確かめないと、忙しくなるぞー!

 

 

 

 

 

外界と隔離されようと関係無い、流石未来派芸術家と言えるすんばらしい製造設備に胸が踊った。

極めて高度で柔軟性に溢れる工作機械群、大雑把な太い金属棒からナノメートルよりも小さなピコメートル配線を描けるほど広範囲をカバー。

その反面、高度な制作物を作るのには高度な知識を必要とする。

専門的工学知識を備えた者であっても、ちーちゃんやJ.A.R.V.I.S.のような超高度AIのサポートがなければ製造出来るにしてもかなりの時間がかかるくらいには高度過ぎる設備だ。

無論私は高度な知識と超高度AIのちーちゃんを備えているので、十全に使いこなしてみせる。

 

「ちーちゃん、荷電粒子砲のバイパス強度再計算、これじゃあ過負荷に耐えられないよー」

『了解、限界負荷は同じままか?』

「350パーまで同じでよろー」

 

 

 

『束、プラズマブレードの必要出力が割り振られてないぞ』

「あいあい、……こいつでお願い」

『……この出力では構成材が耐えられんぞ』

「切り札って奴、3秒耐えられれば良いからこの出力で設定してー」

 

 

 

「あー、装甲外殻が予想より強度がない。 ちーちゃーん、分子配列を高電磁マトリクスをいれて再計算!」

『──計算中、分子結合を確認、総合装甲強度が32パーセントの上昇を確認した』

「じゃあ試作して、ダメならマトリクスそのものを変えてみよう」

 

 

 

寝食を忘れて作業に没頭、何度日が昇って落ちていったかわからないけど出来上がってきたスーツ。

特殊マトリクスによる分子レベルからの装甲を精製、内包する高度電子機器の作成、可能な限り小型化かつ高効率化した脚部と背面のターボジェットエンジンスラスター。

当然全領域稼働を謳うため膨大な水圧がかかる海中でもある程度動ける、人型なので流石に深海層などの水深数千メートルは無理だけど1000メートル位なら水圧に押しつぶされはしない。

宇宙だって問題はない、装甲が裂けるなどの重大な損傷や内蔵のライフサポートが切れない限りは宇宙線が飛び交う中での宇宙遊泳も余裕だ。

あとは私のバイタルデータを入力して調整を施せば、空飛ぶパワードスーツの完成。

 

残念ながら本物のISとは違って、基礎技術不足によって肌どころかインナーすら見せない全身装甲型の形となった。

その他にもシールドバリアーやパッシブイナーシャルキャンセラー、量子転換化なども搭載出来ていない。

ぶっちゃけ現状は形が違うアイアンマンスーツである、流石に設計思想が違うので最終的には別物になる予定だが。

 

「ちーちゃーん、初期化(フィッティング)するよー」

 

言うと同時に白色が映える前面装甲が展開して開き、背を預けるようにISに乗り込む。

装甲が閉じれば暗がりが広がり、特殊強化ポリカーボネート製の細いアイラインから室内が見える。

すぐにディスプレイが灯り、外部センサーが周囲の情報を取得して青色のインジケーターと共にフロアの景色が映る。

 

『バイタルデータ取得、フィッティングを開始する。 最適化(パーソナライズ)完了まで約30分』

 

腕を動かし指を開き、一本ずつ関節を意識して指を動かす。

上半身を反らしたり、屈伸したりしてアーマー可動域が想定通りか確かめる。

 

「………」

 

思考制御、サイバネティックインターフェースによるスラスターの点火。

空中静止を意識して、脚部と腰部のスラスター推力を増加して浮き上がる。

10センチほど浮き上がって止まり、上がりも下がりもせずに空中静止。

重心を前に移動すると各部スラスターに光が灯って噴出、倒れこみはせず空中でうつ伏せになる。

そこから更にスラスターを吹かせてその場でスピン、10回転ほど回ったがちゃんと高度を維持できた。

 

「こんなもんかな、偏向推力や姿勢制御もちゃんと機能してる」

 

体勢を戻しながらゆっくり降下して床に降りる、少なくともシミュレート通りに動いて安心した。

動力源である複数のリパルサートランスミッターも、正常にエネルギーを供給している。

センサーも上々、スキャニングで上下のフロアに何があるかまるで透視のように把握できた。

スーツの機能はしっかりと稼働していて、スーツを着たままちーちゃん経由でその他の作業に戻る。

 

「ブレード、ライフル、ランチャー、マイクロミサイル、レールガン、間に合うかなこれ」

 

スーツを優先して作り、後で順番に作っている武装。

ブレードとライフルは形になっているが他の装備は製造中、スーツの内蔵武装も未完成のまま。

戦えはするが火力不足もいいところ、全てが完成すれば話は別だが現状火力はアイアンマンに大きく劣る。

 

「何でもかんでも基礎技術が足りない! 想像を現実に出来ない!」

 

実に歯痒い、現実において完全なSFの領域。

一歩二歩どころか飛行機で飛び立つレベルで技術のブレイクスルーを起こしているが、それでも全く足りないのが現状。

基礎技術がなければどうしようもないのがもどかしい、天才にだってできないことはある……。

今はどうしても時間をかける必要がある、地道な努力が最短の道である。

しかし正直一人ではこれ以上大きく進めるのは無理だ、やるなら社長と協力していかなければならない。

今共同研究を持ち掛けても承諾してくれるかわからないが、奴らが現れれば手を取る可能性は大きく上がるだろう。

 

「はぁー、何事もうまくいかないもんだねー」

 

ため息を吐きながら、仮想キーボードを打っていれば赤い表示が立ち上がる。

 

「……停止?」

 

電力供給が止まり工作機械が停止したと表示されていた。

このコンピューター自体は無停電電源装置(UPS)が組み込まれているようで、停電によりいきなり停止はしなかったようだ。

しかしフロア自体は違うようで部屋の明かりも消え、窓から入ってくる日の光だけがフロアを照らす。

機械が止まれば当然製造中の武器も進捗が止まるわけで、まさか社長が停止させたのかと冷や汗が流れた。

 

「……おーい、J.A.R.V.I.S.! なんか電源止まったんだけどー?」

 

少し上を向いて、聞き耳を立てているはずのJ.A.R.V.I.S.へと声を掛けるが。

 

「……? どしたー? 返事してくれー」

 

返事がない、もし私に何かをするつもりなら警告の一つでもあるはずだがそれも無し。

一体何が起こったのか、仮想キーボードを叩いていると。

 

『束、外を見てみろ』

「あん?」

 

ちーちゃんに言われた通り窓の方を見れば、上から下に複数の何かが降りて行っているのが見えた。

 

『該当するデータ無し、正体不明の存在のようだ』

「……時間切れ?」

 

見えたのは奇妙な飛行物体に乗った異形の人型。

手に持った武器をぶっ放しながらニューヨークの街へと降りていっている。

 

「まだ終わってない! 後30分ぐらい待ってろよクソどもが!」

 

仮想キーボードを叩いてデータの保存、コンピューターを終了させながら窓へと向きなおる。

 

「ちーちゃんこっち来て!」

『スペックが足りん、碌な補助もできんぞ』

「声だけ貸してくれりゃオッケー!」

 

会話プログラムだけをISに入れて、スラスターに火を入れる。

 

『それが一番手っ取り早いが、修繕費を要求されても知らんぞ』

「社長がそんなケチなはずないって!」

 

フロア内を飛び、テーブルの上に置いていたブレードとライフルを引っ掴んで窓へ向かって加速する。

 

「実稼働テストォ! 記録開始ィィィィ!」

 

前方に向けた荷電粒子砲(ビームライフル)の引き金を引きながら、窓ガラスを突き破って大空へと飛び出した。

 




特製IS
見た目原作の白騎士に近いが全身装甲なので黒い部分も装甲で覆われている、背中の方に浮いてるでっかいカスタムスラスターは無し、腰の剣っぽいのも無し。
また基本装備のPICとかバリアも無し、アイアンマンと同じで装甲で耐えるタイプ。
等身大でスマートなアイアンマンと違って後付けで拡張するタイプなので基本ゴテゴテ、そのためペイロードはアイアンマンよりもかなり多く色々載っけた完成版の火力は大きく上回るが現在はお察し。
重量増加の機動力低下はスラスター推力強化と複数搭載で補う、速度は出るが咄嗟の動きは苦手だが結局は大推力でぶん回せる、現在はプラズマソードとビームライフルだけなので機敏に動ける。


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未来

なんか日間1位取ったようなので。
あと今更だけどネタバレあります。


束はスタークタワーから飛び出すなりスラスター推力を増やし、加速しながら降りていく。

近場のストリートに飛び込みながら、右手のビームライフルを起動。

通常の実体弾を扱う長銃とは形状が全く異なり、まるでSFに出てくるような上下二又に分かれた銃身は粒子加速及び偏向機能を持つ。

引き金を引けばその銃身の奥に光が灯り、銃身の間にはバチバチと電撃が走って拳大のピンク色の光球が飛び出す。

超音速で飛翔する光球は、あっという間に飛行物体に乗る異形の人型の背中を貫いた。

はっきりと言えば奴らに対するビームライフルの攻撃力は過剰、束は出力を下げて貫通させず奴らだけを焼くように調整。

奴らことチタウリ兵は一般市民どころか訓練されたフル装備の軍人でも脅威だが、身を守る防具は強固とは言いがたく消耗を前提とした歩兵でしかない。

ただ手に持つ武器は別で、エネルギー銃は実体弾の銃とは比較にならない火力を持つ。

大昔の馬が引いていた車輪の無い戦車のような形をした飛行装置もその高い機動力が厄介、どちらも人類の科学力では実現成し得ない高い技術力の証左。

そんなチタウリ兵がスタークタワー上空のワームホールから次々と飛び出してきている、アイアンマンも可能な限り撃ち落としているが穴から出てくる数の方が多い。

戦いは数だよとはよく言ったもの、1体では間違いなくアベンジャーズの面々には勝てないが、複数体で来られると攻撃力がある為に防御や回避にまわらざるを得ない。

現状手が足りておらず野放しになっているチタウリ兵は地面やビルにエネルギー弾をぶっ放したり、建物の中に残っている市民に襲いかかっている。

 

「好き勝手に……!」

 

無駄弾を撃っている暇はない、時速500キロほどで飛行しながらビルに取り付くチタウリ兵を撃ち殺していく。

当然そんな派手なことをやっていれば気付かれ狙われる、束は左手のプラズマブレードを展開して迫るエネルギー弾をプラズマで振るい払う。

移動を止めずに回避しながら撃ち返す、壁に張り付いていようが空を飛んでようが容赦なく撃つ。

 

『右の角から敵飛行編隊』

 

センサーが拾った情報を千冬が冷静に告げ、ビルの角を曲がりながらプラズマブレードを上段に構えて加速しつつ振り下ろす。

下から潜り込むようにすれ違い、直進するつもりだった敵飛行編隊の真下を斜めに進む束が3機、超高熱のプラズマで搭乗者ごと縦に両断。

進行方向を変えずに向きを180度反転して残る敵2機にビーム弾を浴びせて始末。

 

『進行方向! 来てるぞ!』

 

振り返った時には曲がってきた別の飛行編隊の先頭と衝突、激しく回転しながらビルの窓に突っ込み、複数のデスクを巻き込みながら床に転がる。

 

『左に3体!』

「っ!」

 

痛みに悶えている暇はないと千冬、束も即座に応えて左手をデスク越しに撃ちながら迫るチタウリ兵へと向けてビームライフルを撃ちながら仰向けのままスラスターを吹かせる。

2体を始末しながら床をこすりつつ一気に加速、同時に左腕からワイヤーが飛び出してそのチタウリ兵の腹に吸着。

ビルの窓を破って飛び出し、ワイヤーの先にくっ付いたチタウリ兵も引き摺られて外に飛び出す。

加速しながら左腕を上手投げで力一杯振り下ろせば、遠心力の付いたハンマーのように動いて別のビルの壁に張り付いていたチタウリ兵に叩きつけた。

ぶつける前にワイヤー吸着を外し、2体のチタウリ兵は体を変形させ体液を撒き散らして落ちていく。

束はワイヤーを巻き取りながら次の奴らを探すまでも無く、そこら中にいるチタウリ兵に向けてビームライフルの引き金を引いていった。

 

 

 

高速で飛行する白い人型、ピンク色の光弾を撃ち放ちながら上空を横切られたのはキャプテン・アメリカ。

 

「あれは……、スターク! 空に白いのが飛んでいるがあれは知り合いか!?」

 

キャプテン・アメリカは右手を耳に当て、同種と思わしきスーツを着たトニー・スタークへと通信を入れる。

 

『白いの? ……あー、多分知り合いだ。 部屋にあったドーナツじゃ我慢できなかったらしい』

「敵じゃないんだな?」

『ちょっと待て、敵じゃないだろうが一応確認する』

 

 

 

キャプテン・アメリカからの通信を切り、すぐに束へと通信を飛ばしてみるトニー・スターク。

 

『──ピンチなんだよ社長! 助けてアイアンマン!』

 

繋がるなり声を上げる束。

 

「おいおい、いきなり助けてとは──」

『ハルクが飛んで来てる! うひゃあ!?』

「……そりゃピンチだな」

 

リパルサー・レイでビルの壁面に取り付いていたチタウリ兵を吹き飛ばしながら、通信の向こうで悲鳴を上げている束に言って聞かせる。

 

「通信を外部音声にしろ、ハルクに言って聞かせる」

『言って聞かなかったら!?』

「全力で逃げろ」

『切り替えた! 良いよ!』

「あー、聞こえているなハルク。 その白いのは敵じゃない、狙うなら他のやつを狙え」

 

そう言ってみるが、通信越しに返ってきたのはハルクの咆哮。

 

「……どうだ? 離れたか?」

『ビルの瓦礫が飛んでくる!』

「じゃあ逃げろ、それか侵略者になすりつけろ」

『ああもうっ! 了解!』

 

通信を切り、キャプテン・アメリカに通信を繋げる。

 

「白いのは敵じゃない、味方だから気にしなくていい」

『そうか、味方なら助かる』

「こっちはデカイのを引きつけるが、兵隊の数が多すぎる」

『通路を閉じれるか試してみる、可能な限り引きつけてくれ』

「了解、できるだけ早くやってくれよ」

 

空に走る稲妻を見ながら、悠々と空を飛ぶ大物へと向かって加速するアイアンマン。

 

 

 

一方、ハルクの追撃を避けながら速度を上げるのは束。

蛇行しつつキロメートル単位で跳躍できるハルクを背後に、チタウリ兵の方へと突っ込んで行く。

 

「もういいでしょ! あいつら相手にしてよ!」

 

束に気付いて撃ってくる飛行編隊のチタウリ兵だが、素通りされて反転しようとするもハルクに衝突してバラバラに吹き飛ぶ。

ハルクは別の飛行装置を掴んで束に投擲、振り返ってプラズマブレードで薙ぎ払うと高速で跳躍してくるハルク。

 

「ういっ?!」

 

体の芯まで響く咆哮とともに突っ込んでくる凶相のハルクを見て、たまらず変な声が漏れる。

反射的にスラスターを全開にして、弾丸と化したハルクの弾道上から退避。

脚部にハルクの指が掠ったが、なんとか回避して進行方向を変える。

かっ飛んでいったハルクはチタウリの大型飛行生物、リヴァイアサンの側面に激突、そのまま装甲を剥ぎ取ってリヴァイアサンに突き刺して暴れ続けていた。

 

「はぁ……」

 

溜息を吐きつつ何とかハルクの視界から逃れた束は、別のストリートを破壊しながら飛ぶリヴァイアサンを捉えた。

速度を上げて平行飛行しながら、出力を上げたビームライフルを装甲に目掛け撃ち込むも焦げ目を付けるだけで融解する気配がない。

 

「何なんだこの装甲!」

 

十万度超えの超高温の粒子を浴びせても表面がかすかに溶けるだけ、尋常ではない耐熱性に出力を戻して再加速。

 

「装甲がない場所も試してやるよ!」

 

並んだリヴァイアサンの先頭、頭部側面に向けて引き金を引く。

複数のビーム弾が突き刺さると同時に、あっという間に焼き爛れた弾痕が増えていく。

身を捻って悲鳴をあげるリヴァイアサン、当然逃す気はない束はプラズマブレードを構える。

体当たりじみたブレードの一撃が根元まで深々と突き刺さって、最後の断末魔をあげるその口方向へと払い抜ける。

絶命して高度を落とし墜落していくリヴァイアサン、一緒に落ちる気はない束は離れて次のチタウリを探す。

 

『束、250メートル先の角に生体反応が4つ現れた』

「内も外も危ないってわかるけどさぁ!」

 

ビルから逃げ出してきた市民を見捨てるのはマズイと、一気に下降しながら曲がって道路を削りながら着地。

避難勧告を出そうとして、振り返った4人を見て束は動きを止めてしまった。

 

「……は?」

 

千冬の報告通り、曲がった先に居たのは4人。

ただその人物らはビルから逃げ出してきた一般市民ではなかった。

 

アントマンことスコット・ラング。

ハルクことブルース・バナー。

キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャース。

そして、アイアンマンことトニー・スタークの4人だった。

 




ビームライフル
ビームの色を青にしようと思ったけどチタウリのが青白っぽいので、ビームライフル=ガンダムでピンク色に

プラズマブレード
普通に青い光、超高熱で溶かして切る

エンドゲーム
これがやりたかった。


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過去

(ナンデ!? エンドゲームナンデ!?)

 

同じ意匠のスーツを着た4人、間違いなくここにいるはずのない人物たち。

左胸にはアベンジャーズのマークであるAを捩ったものを付けている。

見てはいけないものを見てしまった、そんな悪寒が背筋に這い回る。

理由は簡単だ、彼らは確かに本人たちだろうが今この2012年の彼らではない。

つまり、時間の影響を受けない量子世界を通って過去に遡ってきた未来の4人。

同一の時間軸に年齢は違うが同一人物が2人ずつ存在している、人為的には有り得るが自然的に有り得ない、有って欲しくはない事象に遭遇してしまった。

この事象が起こっているということは、サノスの指パッチンが成立してしまった可能性が極めて高いということ。

それが指し示すことは、私の影響力では未来軸をずらせなかったということ。

頭に中でぐるぐると最悪が渦巻き、動けずにフリーズしているとスコットが口を開く。

 

「俺たちに会えて感激してるんじゃないか?」

 

何も言わず動かない私を見て、そう言うも。

 

「少し、黙っていろ」

 

顔だけスコットに向けた社長が真顔で返し、スコットは頷くことしかできなかった。

社長が視線を戻して私を見る。

そうだ、これは夢なんだ。

わたしは今、夢を見ているんだ。

目が覚めたとき、わたしは工作しながら動画配信しているんだ──。

 

「あータバネ、落ち着──」

「ぬぐあああああぁぁぁぁ!?!?」

 

両手で頭を押さえてうずくまる、見たくなかった事に続いて聞きたくない言葉が聞こえてしまった。

 

『ちーちゃんこの社長いま私の名前言ったよね!? タバネって呼んだよね!?』

『ああ、集音器(マイク)が不調でなければ言ったな。 それと最適化が完了したぞ』

 

スーツの中でちーちゃんに聞き間違いではないか問い質すも、無慈悲にも聞き間違いではないと否定された。

 

(私を知ってるって事は、私が存在する連続した同一時間軸か並行時間軸から来たんじゃないか!?)

 

いっそ正史かそれに近く、何かの間違いで私が居ない並行世界から来た4人で有って欲しかった。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

絶叫染みた叫び声に心配してか、4人が駆け寄ろうとしたが右腕を上げて制止する。

右手には当然ビームライフル、発射できる状態なので粒子加速偏向機に電撃が走る。

 

「待て待て待て! 落ち着け、僕たちは敵じゃない!」

「わかってる、わかっているがなりすましている可能性もある」

 

ちーちゃんが代弁しているので冷静に聞こえるが、スーツの中では間違いなく言葉は崩れ震えていた。

 

「そうだ、だから自己紹介しよう! まず隣の彼からだ!」

 

唐突に自己紹介を始める社長、どう考えてもそんな状況じゃないと思うんですけど……。

 

「ほら、知ってるだろ? 世界初のスーパーヒーロー、アメリカのケツ、スティーブ・ロジャースだ」

「おい、トニー!」

「なんだ、ちょっとしたジョークだ、そんなにカッカするなよ。 それで次だ」

 

不満バリバリな表情のキャップを横目に、社長は次にプロフェッサー・ハルクと化したブルース・バナーを指した。

 

「皆大好きセイグリーン! グリーンジャイアントのブルース・バナーだ」

「やめてくれよトニー!」

「そんなに怒るなよブルース、ハルクになっちまうぞ」

 

キャップに負けないぐらいに不満そうなブルース、そして次はスコット。

 

「それで3人目だ、彼は……別に覚えなくて良い」

「流石にそれは酷くないか?」

 

私もそう思う。

せめて名前ぐらい言ってあげようよ社長……。

 

「それではお待ちかねのメインイベント! スマートでアドバンスで──」

「気まぐれで協調性がない」

「自意識過剰で過信家でもある」

「ナルシストでアルコホリックって聞いたことがある」

「……トニー・スタークだ」

 

好き勝手言って反撃されたトニー・スターク。

 

「……あり得ない、ここに居るはずがない、トニー・スタークは今も空で戦っていてキャプテンとハルクは別のストリートに居る。 そこの男も間違いなくニューヨークに居ないはずだ」

「……その通りだ、僕らは今ニューヨークで戦っている僕らじゃない」

「なら未来、あるいは並行世界。 定番の超光速か重力波による時空間超越による時間遡行、それか……量子化か」

 

量子化による時間を無視して遡行するのが時間泥棒作戦の肝。

進み過ぎた科学は、魔法をも超えるのだ。

全知全能には届かずとも、今では解決不可能な事態も乗り越えていける。

だってマーベル世界だし、未来から誰か来るとかそこまで珍しいものじゃないし。

 

「トニー・スタークも見ただろう? 私が望んでいる研究の……、いや、私と話している暇はないか。 未来で時間遡行する必要があるほどの問題が起こったんだろう?」

「……ああ、そうだ」

 

4人が神妙に頷く。

 

「私は何も見なかったし聞かなかった、……正直に言うと本当に記憶から消したい」

「誰にも喋らないでくれると助かる」

「こっちの世界をめちゃくちゃにしないなら、喋る気は無いし邪魔もしない」

 

もう帰りたい、家の自室でごろごろしていたい……。

腕を下ろして、スーツの中でため息を吐いた。

 

「ありがとう、タバネ」

 

真剣な表情でキャプテンが礼を言う。

 

「……そうだ、一つ聞きたいことがある。 そっちの穏やかなハルクも気になるけど、トニー・スタークに聞きたい」

「答えられるものなら聞こう」

「簡単な質問だから気負わなくていい」

 

社長に視線を合わせ。

 

「Who are you?」

 

その問いに社長はニヤリと笑い。

 

「──I am Iron Man」

 

一瞬だ、社長は即座にアイアンマンになってみせた。

社長の表面に這うようにナノマシンスーツが生成されるのではなく、周りにスーツが現れたといった光景。

……あれ? これナノマシンじゃなくね?

それにナノテクスーツよりも少しマッシヴに見える、カラーリングはいつもの赤金だが明らかに質が違う。

 

「……ほう、もしや量子化?」

 

パカっとフェイスカバーを開いて顔を見せる社長。

 

「そうだ、カッコいいだろう?」

「まあまあだな、私の方がカッコよく作れる」

 

私がいる以上技術に違いがあるだろうとアイアンマンスーツを見たら、いずれ実装する予定の量子化技術を社長が使っていた件について。

量子化技術だけではないだろう、サノス戦でこの状態だったのに負けたりしたのか?

これで負けたとしたらサノスどんだけやべぇんだ……。

新たに嫌な情報が判明したところで、少し気持ちを切り替える。

 

「聞きたい事はそれだけだ、それと最後に一つだけ言っておく」

 

スラスターに火を入れて、体を浮かせる。

 

『ちーちゃん、代弁オフ』

『了解、オフにした』

 

こっちもフェイスカバーを開いて顔を見せ。

 

「みんな、頑張って」

 

そう言ってフェイスカバーを閉じて、空へと飛び上がった。

 

 

 

「……あの娘にまた背負わせてしまったな」

「我々が不甲斐ないからだな」

 

わずかに残る煙の尾を引いた空を眺め、ロジャースとトニーが絞り出すように言う。

 

「約束通り、喋らないでくれたね」

 

プロフェッサー・ハルクとなったブルースが、過去を想い感慨深く呟く。

 

「……あー黄昏ているところ悪いけど、もう行かないか? ほら、あまりここで時間潰すのはダメだろ?」

「……そうだな、行こう」

 

4人は一つの目標のために、それぞれの使命に向かって動き出した。

 

 

 

 

 

「あのスペース紫ゴリラ絶対にぶっ殺してやる!」

 

どれだけ時間が経ったか、あらん限りチタウリ兵を蹴っ飛ばし、殴りつけ、撃ち抜き、両断する。

なんで私がこんな思いをしなければならないのか、内から噴き出る憤りを暴力で発散する。

 

「くそっ! くそっ! 余計なっ! お世話なんだよっ!」

『落ち着け、無駄な……動きはないか』

「無駄なものなんてあるかっ!」

 

ビームライフルの出力を上げ、収束率を下げる。

 

「落ちろよゴミクズどもがっ!」

 

引き金を引けば、弾ける閃光とともにビームの散弾が広がる。

チタウリの飛行編隊は飲み込まれ、飛行装置は無事でも搭乗者は穴だらけになって落下していく。

振るっていい暴力でチタウリ兵を片付けていくが、減った分だけワームホールから湧き出てくる。

 

「いい加減、ミサイルまだ!?」

『……超音速飛翔体の反応無し、飛んでいるのはアイアンマンとハルクとソーだけだな』

「何が世界安全なんとかだよっ! ちゃんと仕事しろよっ!」

『今来たようだ』

 

その言葉に加速して上空に上がる。

既にアイアンマンがミサイルを抱えて橋からスタークタワーへと向かっている途中だった。

 

「社長良い所に! 乗ります乗ります!」

『おい、バカなこと言ってんじゃない』

「こっちはまだエネルギーに余裕があるけど?」

『追いかけてくるんじゃない!』

 

ミサイルを支えるアイアンマンの後を追って加速する、スタークタワーに擦り急上昇。

ワームホールに飛び込む姿を見ながら後に続けば景色が変わる。

社長との通信が途絶える、エネルギーが切れたのか動かなくなりゆっくりと落ちてくる。

だが目に入るのはその姿ではなく広がる星々と銀河が輝く宇宙、壮大すぎる世界に広がる大軍。

ニューヨークに入り込んだ数がほんの一欠片でしかない、インジケーターに表示された捕捉できたチタウリ兵だけでも数千。

リヴァイアサンも数百は下らない、画像解析から推定数は数万にも上るチタウリ。

トニー・スタークがなぜトラウマを抱えたのか、その理由が理解できてしまった。

即座にワームホールへと落ちてくるアイアンマンの背中にワイヤーを打ち込んで引っ張り、スラスターを吹かせて逃げるようにワームホールに向かう。

核熱が迫ってきているが、ギリギリではなく余裕を持って抜け出す。

ワームホールが閉じる様を見上げ、アイアンマンをぶら下げたままゆっくりと降下する。

駆け寄ってくるのはキャプテンとソー、警戒心は見えるが攻撃してくる様子は見られない。

 

「生きているのか?」

「生体反応はある、気絶しているだけだ」

 

ワイヤーを外し、アイアンマンを横たわらせる。

フェイスカバーを引き剥がし、トニーのご尊顔を拝謁。

 

「キャプテン、申し訳ないがここを頼めるか?」

「それは構わないが」

「彼が目覚めたら、後であの部屋に来てくれと伝えてくれ」

 

スラスターを噴射して、飛び上がり一気に加速してスタークタワーのあの部屋に向かう。

割れた窓から部屋に入り込み、床に膝をつけ滑り削りながら前面装甲を展開。

停止と同時に飛び降り、モニターテーブル横の椅子に勢いよく腰掛ける。

傷だらけのISを正面に捉え、目を細めた。

 

「……無理でしょ」

 

今のISの性能では、という意味ではない。

チタウリの前では地球は守れない、という点。

今回のはワームホールが小さく、敵が戦力の逐次投入と言う悪手を取らざるを得なかったので凌げただけ。

わかっていたつもりでも、いざ事実を目にするとくるものがある。

核でなぎ払った戦力も、サノス軍からすれば少数の一部分でしかない可能性が高い。

四次元キューブで開いたワームホールではなく、直接宇宙から侵攻してきたらどうしようもない。

社長はその可能性に怯え、トラウマになってしまったのだろう。

いかにアベンジャーズが地球最強のヒーローチームでも、同時に守れるのはせいぜい一都市程度。

今回であればニューヨークを守っている間に他の都市が、他の国が滅ぼされる。

恐らく社長や私の技術を人類そのものに譲渡してもどうしようもない、結局人間同士で争い合いに使ってその間にサノス軍が来て終わり。

事情を説明したところで信じなかったり関係ないと、自分勝手に振る舞う奴らが出てくると決まっている。

ヒドラなんかゴキブリみたいにどこにでも居るから、正直世界大戦とか起きても全く不思議じゃない。

じゃあどうすればいいのかと言う問題は、正史で結論が出ている。

エンドゲームと同じようにインフィニティ・ストーンを揃えて指パッチンでサノス諸共消し去ってしまえばいい。

 

「はぁぁぁぁ〜〜」

 

くそでかため息を吐く、恐らく、ほぼ間違いなくエンドゲーム展開が起きる。

そしてものすごく残念だが社長の指パッチンで未来に来た過去のサノスとその軍勢が消え去ることはない。

それはなぜかと言うと、“私がいる”からだ。

エンドゲーム展開で過去に遡ってきた彼らは私のことを知っていた。

未来の私はアベンジャーズに所属していて、彼らと一緒である可能性が高い。

そうするとどうなるか? 時が過ぎて未来の私と同じ状況になったら必ずこうするだろう。

“そもそも過去のサノスを未来にこさせない”、そうすれば社長は死なないし、最終決戦に参戦した人たちも死ななくて済む。

過去のサノスが未来に来ることになった要因がわかっているのだ、対策しないはずがない。

過去のサノスが未来に飛んで消えれば、過去であるこの世界は新しい時間軸にてサノス関連の問題が起きなくなって万々歳! なんて都合の良いことは起きない。

私ならそうする、絶対にする、何がなんでもそうする、なんで死者多数が確定している戦いを起こさないといけないんですか(全ギレ)。

だからこそこの世界のサノスは未来に飛べない、密かにインフィニティ・ストーンを回収、プロフェッサー・ハルクの指パッチンで失った半分が戻る。

あとは同じように密かに石を戻して未来世界はほぼハッピーエンド! 恐らくそうなる。

私が居なければ、私が生まれてこなければ、この世界は正史よりも少しは平和だったのだろう。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ〜〜」

 

なんでマーベル世界ってこんなに地獄なんだろう、いらぬ重荷を背負ってしまった気がしてため息をまた吐いた。




サ ノ ス 残 留 確 定
未来で過去サノスが消える、そんなうまい話があるわけねぇよなぁ?


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思い

『シノノノ様、トニー様より伝言を預かっております』

 

小さい音が鳴ると同時に3Dホログラムテーブルに表示された文字、いきなり声を掛けて驚かせないようにとJ.A.R.V.I.S.の配慮だろうか、社長からの伝言に耳を傾ける。

 

『トニー様は重要な用事があるために、数日は会いに来れないそうです』

「その間もここに滞在しといていいの?」

『はい、少なくともトニー様とお話が済むまで製造設備も含めてこのフロアをご使用下さい』

「ん、ありがと」

『何かご入用でしたら遠慮なく声をお掛けください』

「できたAIだよJ.A.R.V.I.S.は、社長にはもったいないくらいだ! うちの子にならない?」

『何バカなことを言っている』

『お気持ちは嬉しいのですが、申し訳ありませんがお断りさせていただきます』

 

だよねぇ、今J.A.R.V.I.S.が居なくなったら社長困りそうだしな。

すぐにF.R.I.D.A.Y.に切り替えそうでもあるが。

 

「使ってていいなら今のうちに武装を完成させとくかな」

 

量子化を実現させた未来ならともかく、現在では質量などを無視することは出来ない。

装備を取り付けるなら、その分の空間を使用する事になる。

そして空間には限りがあるので、色々取り付けるとバランスや装備の干渉を考えなくてはならない。

ある程度の武装の換装を想定しているが、いつでも好きな時にとはいかないだろうから大抵の状況に対応出来る武装にしなければならない。

火力を重視すれば重武装になり機動力が低下するし、機動力を重視すれば重武装には出来ない。

ロボゲーで集めたり製造した装備で機体を組み立てるのと似てはいるが、こっちは自分の命に直結するから純粋に楽しめない苦しみがある。

 

「ビームライフルとプラズマブレードはメインで、でっかいやつ対策に大型の爆発系も欲しいな。 貫通力の有るのも欲しいがあの装甲だと不安だな、回収してもらって調べてからの方がいいかな?」

 

リヴァイアサンのあの装甲は厚さを加味しても異常な耐久力を持つ、ハルクが引き剥がしてたりしたが引き剥がすのと弾丸で貫くとは訳が違う。

また超高温のレーザーやビーム粒子でも焼き切るには相当なエネルギーが必要になる、地球の冶金技術を優に超えるものであることは疑いようがない。

何と言うか、シンプルに技術的敗北を喫しているのが絶望的に痛い。

私や社長の作る装甲なら主力戦車(MBT)の120mm滑腔砲程度なら装甲が傷つく程度で防げる。

しかし向こうが本気で同じ厚さと重量の装甲を作るとかすり傷すらできない物が出来ても不思議ではない。

質と数を揃えた相手とかマジ勘弁してほしいよ、爆発半径がキロメートル単位の武装を連発とかでなければ正直相手にしたくない。

原作通りならエンドゲーム最終決戦位しか大軍相手にはしないが、私が居るせいで状況が変わる可能性が高い中、あのスペース紫ゴリラ(サノス)が同じ手を取ってくるとは思えないのが辛い。

 

「もーやだー!!」

 

悲鳴を上げつつ足をばたつかせながら、ISを完成させるべく指は仮想キーボードを高速タイピングしていた。

 

 

 

 

数日もあれば武装も一応の完成を見る、基礎は完成してるんだからあとは組み立てるだけだし。

傷付いた装甲も取り替えてピカピカの新品に、そこに武装も取り付けると少々ゴテゴテしい。

爆発範囲内を超高熱で焼き尽くすプラズマランチャーと調整可能な可変レートのビームガトリング。

それと2mmレールガンにレーザーキャノンの4種を搭載。

どれも展開式で使用しない場合は背中に隠れる形、一応背面装甲としての機能もある。

換装すれば他の武装も使える、あまり意味はないがガトリングやらミサイルランチャーを付ければ擬似ウォーマシンにも成れる。

一応の完成を見せた白騎士mark1、いや、ここは日本式で白騎士一式とでも呼んだ方がいいか。

直立する白騎士、それを椅子に座って眺めていたら、プライベートエレベーターのドアが開いて社長が降りてきた。

 

「完成したのか?」

「それなりに」

 

武装を付け足したことにより不足していた火力面が改善、砲口数が増えたことにより同時攻撃数も増えた。

多数を相手にしても十二分にやれる、数日前のあの襲撃時にこの装備だったら倍ぐらいのキルスコアを稼いでいただろう。

 

「随分と遅かったですが、何か問題でも?」

「問題しかない」

 

アベンジャーズのメンバーでありながら相談役もやってるんだったか、国やS.H.I.E.L.D.のお偉いさんにも色々説明しないといけないだろうしな。

 

「問題と言えば1つ、奴らの装備や死体は全力で回収してもらえます?」

「なんで僕がそこまでしないといけないんだ?」

 

白騎士を眺めながらの社長。

 

「絶対くすねる奴出ますよ、異星人が持つ未知のテクノロジーですからね。 金目当てで拾って売り払う奴が居て、それを買い取るブローカーが居て、強力な武器になるから高値でも手に入れて悪用する奴が出てくる。 ほら、これ以上ない完璧な理論!」

 

武器そのものが価値を持つ、未知の材質、未知の構造、未知のエネルギー源。

文字通り現状これ以上供給がない、需要がだだ上がりな代物。

悪用されないよう国と私たちで管理しようぜってこと、他所に渡さず独占しようとも言う。

チタウリ関連は問題が出てくるから、早めに回収しとけばヴィラン化しない人も出てくるはず。

……社長が関わると大体ヴィラン化するような気もするが。

 

「スタークさんも異星人の技術、気になるんじゃないんですか? 私は超気になってて今すぐ研究を始めたいくらい、相手を知らないってのはとっても……“怖い”ですからねぇ」

 

敵性異星人の襲来と異星人の技術を扱うテロリスト、お前らほんと頭マーベルしてるな。

年間世界の危機とかシャレになってないんですけど。

 

「確かに、一理ある」

 

白騎士の周りを一周した社長が足を止めて言う。

 

「鉄は熱いうちに打て! 国も巻き込んで頼みますよスタークさん!」

「それもそうだな、回収も保管も国にしてもらおうか」

 

コンコンと白騎士の装甲をノックする。

 

「それでこいつはどうするんだ? 持って帰るのか?」

「持って帰れませんよ、スタークさんのところで保管しててください」

「おいおい、持って帰らないならなんで作ったんだ」

「作りたかったから、それが役立ったからさ……」

 

はぁ、と小さく溜息を吐く。

アレを思い出して少々気分が沈む。

 

「社長、あれどうすんの?」

「あれってなんだ?」

「……ちーちゃん、ファイル『ワームホール』を再生」

「──おい、待て、止めろ! よせよせよせ!」

 

言葉の意味を理解した社長がものすごく嫌そうな顔で手振り。

止める気は無い、向き合って乗り越えねばならない事実。

 

「……判別出来るだけで5桁、さらに奥にもそれらしいのがぞろぞろと」

 

ホログラムで投影された、ワームホールに突っ込んだ後の映像。

社長は悍ましい宇宙の映像を見て表情を歪めた。

 

「これどうすんだよ、こんなの勝てないよ……」

 

項垂れて、両手で顔を塞ぐ。

幸いチタウリが直接侵攻してくるのは特殊な形な上、何年も先だ。

しかし猶予なんて微塵もない、こいつらを迎撃して撃退、あるいは殲滅など出来るはずもない。

文字通り全人類が一丸となり、社長が思い描いたウルトロン計画が完璧に機能すれば蹂躙されず戦いの形にはなるだろう。

しかしそれは不可能だ、200%くらいの確率で失敗する。

100%人類一丸となれず敗北し、残り100%でアホがバカやって人類同士で戦いとなる。

初めからインフィニティ・ストーンを集めに行った方がまだ成功率がある。

 

「……どうするんだ?」

 

小さく社長が漏らす、私ではなく社長自身に問いかけるような言葉。

 

「スタークさん、予想ですけど猶予はあります。 その間に何か方法を見つけるしかありません」

「……そうか、ワームホールか。 奴らがひとっ飛びで地球まで来れるならこんなものを使う必要はない」

「それでも、空間を飛び越えられるこれはとんでもない物ですけど」

 

四次元キューブ、もとい空間を超越するスペース・ストーンの力はやばい。

他のストーンも語彙力が低下するほどやばい、と言うかやばくないインフィニティ・ストーンは存在しないが。

 

「あーあれか、……なんと言うか、あれだな」

 

ワームホール先の映像を消させていると、社長がなんか歯切れが悪そうにしていた。

 

「……なんです? 気持ち悪いんですけど」

「ほら、あれだろ。 こう、光の柱が上がって、空に穴が空いたワームホール」

 

ジェスチャーで交え、見たらわかるワームホールの説明をいちいちしてくる。

 

「見ればわかりますよ」

 

私の言葉にビシッと人差し指を向けてくる社長。

 

「そうだ、見ればわかる。 ワームホールを生み出したあれは四次元キューブと言うんだが……」

 

要領を得ないしどろもどろな、あまり言いたくないような雰囲気を醸し出す社長。

嫌な予感がしてきた、両手で耳を塞ぎたいが聞かないとさらに酷いことになりそうで嫌々耳を傾ける。

 

「あれな、……奪われた」

「───」

 

言葉が出なかった、覚えていた、だが忘れていた。

ショックを受けていた、別の宇宙に広がるチタウリの軍勢に肝を冷やしていてエンドゲーム展開を忘れていた。

 

「……ぉ、が、まって冗談でしょ?」

「……本当だ。 まあ、アレは僕が悪い。 いや、リアクターはちゃんとメンテナンスをしていた、不具合なく稼働していたんだ、なのに……」

「いやいやいや、ちょっとどうしてそうなったんですか!?」

「大丈夫だ、必ず取り返す」

 

確かロキとキューブを移送しようとエントランスに降りて、そこでどっかのお偉いさんと遭遇してロキとかの処遇で一悶着。

その隙にアントマンがリアクターの隙間に入り込んで小細工、リアクターが不具合を起こして社長が心臓発作を起こしたように倒れこむ。

その騒動のうちに未来の社長が保管ケースごとキューブをゲットするも、直後に階段から降りてきたハルクがドアを吹っ飛ばして未来の社長がそのドアに轢かれてケースを落とす。

最悪なことにケースからキューブがこぼれ落ちてロキの足元に、周囲が自身に注目していない事を確認してキューブを拾い上げたロキは空間を飛んで逃げ出した。

未来組の行動を抜いた記憶通りの展開を聞き、完全に時間軸が分岐してしまった事に言葉を失ってしまった。

 

「さ、探しているんですよね!?」

「勿論全力で探している、あのトナカイ君に完全にしてやられた」

 

未来組にはセプターも必要だからキャップがハイルヒドラして手に入れ、過去キャップが未来キャップと遭遇して変装したロキと報告されたんだったか。

大丈夫だよな? ロキじゃなくて未来のキャップが持って行ったんだよな?

確認しないと……。

 

「その、トナカイ君と言うのは?」

「今回の騒動の首謀者だ、セプターも持っていかれた」

 

見事なほどの失態だ、事件の首謀者に逃げられて、騒動の原因となるキーアイテムを2つとも持ち去られた。

事情を知っている私はともかく、こんな失態だと全方位から全力で罵倒が飛んできてもなんら不思議ではない。

 

「詳しく!」

「詳しくと言ってもな、君にはもう関係ない話だろう?」

「……関係ない? 全人類が当事者なのに関係ないと?」

 

社長を見ながら立ち上がる。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

「いいや、そんな場合であってもやるのがアベンジャーズの仕事だ」

「スタークさん、私は戦えますし、頭の出来はそれなり以上だと自負しています! 多くのことで役に立てますよ!」

「僕はアベンジャーズの相談役でもある、君が役立つとしても他のメンバーも君を入れることに反対するだろうな」

「戦うなって言うなら、スタークさんの研究をお手伝い出来ます。 出来る事があるのに何もするなは道理に合いません!」

「道理に問うからこそ、子供の君を渦中に巻き込むつもりはない。 そもそもフロアから出るなと言ったのに何で出てきた? 攻撃されているからと言って、未完成のままで出てくる君の無謀さは認められない」

「……関わらない方がいいと言うのであればお断りします、もうすでに十分関わっていますので」

「……君はそれなりに頭が回ると思っていたが、案外そうでもなかったらしい。 J.A.R.V.I.S.、お客様がお帰りだ」

 

社長がそう言うと、エレベーターのドアが開く。

 

「飛行機は手配しておく、もう子供は家に帰って寝る時間だ」

「そうですか、それじゃあ家に帰ってママのおっぱいでも吸ってます」

 

手荷物を集めてバックに押し込み、ちーちゃんが入ったメモリをテーブルから引き抜いてエレベーターに乗り込む。

ドアが閉まるまで、視線は一度も外れなかった。

 

『申し訳ありません、シノノノ様。 トニー様はシノノノ様を巻き込みたくないのです』

 

エレベーターの独特の浮遊感を感じていたら、やりとりに見かねたのかJ.A.R.V.I.S.が社長のフォローを入れてきた。

 

「まあそんな感じだよね、今はまだ……」

『それはどう言った意味でしょうか?』

 

本当に関わらせたくないなら、何も話さずさっさと追い出せば良い話。

それをせずある程度話してくれた事は、多少なりとも感謝があった……のかどうかわからないか。

ともかく多少なりとも何らかの思惑があったのかもしれない。

 

「気にしないで、それはともかくスタークさんは多分トラウマになってると思うよ。 十中八九不安定になるから、崩れないよう支えてあげて」

『はい、わかりました。 お気遣いありがとうございます、シノノノ様』

「それじゃあJ.A.R.V.I.S.、またね」

 

到着してドアが開いたエレベーターから降りて、そのままスタスタとスタークタワーを出る。

社長のありがたい心遣いだが、家でじっとしていれば万事解決する状況じゃなくなっている。

逆に動いていかないと、さらに時間軸が分岐してしまう。

未来組に結構関わっているような親しげな反応をされた身としては、座して待つとか全宇宙の生命体半数を巻き込む自殺と変わらない。

しかしこれからどうするか、社長は関わらせる気はないようだし協力のアプローチをしてもなしのつぶて。

それなりに知っているから、ニック・フューリーに売り込むと言う手もある。

あの秘密主義者も使える戦力は欲しいだろうから、身辺調査の後に声をかけてくれる可能性はある。

 

「参ったな……」

 

アベンジャーズへ確実に参加する方法が今の所見つからない、結構困った状況だ。

歩道に空いた穴を避けながら歩き、街の修繕に勤しむ人たちを眺めていると鼻腔をくすぐる美味しそうな匂いが漂ってきた。

揚がったポテトの匂い、見れば世界的バーガーチェーン店があった。

手持ちは少しある、せっかくニューヨークに来たんだし日本との違いを確かめてみるのも一興か。

入店してメニューを見れば、日本にはないものが色々。

興味深く、良さそうなものを注文して受け取れば予想通り色々でかい。

道理で肥満が多くなるわけだ、肥満大国に恥じない量のセットを持ってテーブルへ。

ここはお行儀よく食べる場所じゃない、カウンター席に着いてポテトを食べてコーラを飲みハンバーガーに齧り付こうとしたところに。

 

「左失礼」

 

声が掛かって隣の席に座る人物。

どこかで聞いたことがある声とセリフ、ちらりと横を見れば少々古臭い服を着た見知らぬ男性。

コーヒーと新聞紙を持っていて、座るなり左手を口元に当てた。

 

「……問題は解決したんですか?」

 

顔は見たことがない、しかし聞いたことがある声とセリフ、そして服の上からでもわかるがっちりと鍛え上げられた肉体。

 

「……よく分かったな」

 

変装をしたキャップだ、顔の方は変装道具を使っているんだろう。

 

「ニューヨーカーとしては少々、いえ、かなり古臭い格好ですよ」

「……そうか」

「それで、問題はどうなったんです?」

 

口を動かさずに喋る、もしかするとS.H.I.E.L.D.エージェントが尾行でもしているかもしれないので読唇術対策で口を動かさない。

キャップも聞かれたくないから口元を押さえているんだろう。

 

「ああ、解決したよ」

「それは良かった、でも1つだけ言いたいことが。 ニューヨーク襲撃の主犯逃亡と使われた道具が奪われたのって、あなたたちのせいですか?」

「ああ、それについては申し訳ないと思っている。 だがそれは心配しなくていい、フォローはしておいたから君はそのまま普通に過ごしてくれれば問題ない」

「それは助かります、追い出されたのにどうにかしろと言われても困りますから」

「それについても心配しなくていい、すぐに声がかかるはずだ」

 

誰から? なんて聞くのも野暮である。

おそらくニック・フューリーくらいしか心当たりがない。

 

「そうですか」

「戻る前にタバネに声をかけたのは礼を言いたくてね」

 

他のメンバーは見当たらず、キャップ一人って事は石を返しに行った帰りだろう。

 

「私を監視でもしてたんですか?」

「いや、君に聞いた。 よくここに来ていると」

 

仕込みは上々のようだ、いつか何処かでキャップにこのバーガー店に来ることを言わないとならんのか。

 

「忘れないようにしておかないといけませんね」

「すまない、タバネには面倒ばかり掛けてしまった」

「私は何もしてませんよ」

「今はまだ、な」

 

これからやる事いっぱいやりますよ、みたいなこと言わないで欲しいんですけど。

……ん? 待てよ? 何で今の私に礼を言いにくるんだ?

未来に戻れば……、まさか私は死んじまったのか!?

 

「……未来の私は死んだんですか?」

 

聞きたくないが否定の言葉を聞きたくて質問。

 

「いや、ちゃんと無事だよ」

「それは良かった……」

 

色々駆けずり回って最後は死にました、は全力で遠慮したい。

私は死んでないと言うなら未来の私に礼を言えばいい、だがそうしないのは……。

 

「戻らないつもりですか?」

「……僕は何度君に向かって“よく分かったな”と言えばいいんだ?」

「さぁ? それはキャプテン次第です」

「数えておくべきだったな」

 

フッとキャップが笑う、だがすぐに表情は真剣なものに変わる。

 

「君に聞きたいことがある。 僕が兵士を投げ出すことを、タバネはどう思う?」

「………」

 

正直に言えば抜けて欲しくない、2023年を過ぎたところで何もおきなくなり世界が平和になるとは思えない。

 

「私が必死に説得したら戻ってくれるのですか?」

「それは……」

「私は決意を覆せる言葉は持っていませんのでこう言うしかありません。 良い人生を、スティーブ・ロジャース」

 

長年戦ってきてもう90歳超え、何度も世界を救ったんだしいい加減退役しても良いんじゃないだろうか。

本当は、心の底から抜けて欲しくはないが、スティーブ・ロジャースという人間を見た以上、兵士である前に人として幸せになっても良いんじゃないかと思ってる。

 

「……ありがとう、タバネ」

「いいえ、おそらく未来で文句を言うでしょうから気にしないでください」

「……あの八つ当たりはこれだったのか」

 

どうやら未来の私は、八つ当たりと認識されるような正当な文句を言ったらしい。

どうせ他の皆には言ってないんやろ? まあそこまで器量が狭いメンバーはいないだろうけど私は違うからいずれ必ず文句を言わせてもらう。

私は老人であっても遠慮せんからな!

 

「……もう行くよ、長居すると彼と鉢合わせするかもしれないから」

「彼とは?」

「スカウトマンさ」

 

立ち上がってコーヒーカップと新聞紙を持ち、視線ごと顔を向けてくるキャップ。

 

「タバネ、君とともにアベンジャーズで戦えたことを誇りに思う」

「こちらこそ、未来の私も誇りに思うでしょう」

 

互いに小さく頷き、キャップは店を出て行った。

このあと人目につかないところで過去に飛ぶんだろう、彼女との約束を守るために。

一人の男の人生を見送って、ハンバーガーを頬張っていると……。

 

「隣はよろしいかな、お嬢さん」

 

黒ずくめの眼帯秘密主義おじさん(ニック・フューリー)が現れた。

 




気が滅入っていない社長なら子供をアベンジャーズに入れないんじゃね?
CWではかなり参ってたしなぁ、反対されたのにスパイディ入れたし。

あと簡単なエンドゲーム式タイムトラベル解説。
バックトゥザフューチャーや作中で言ってた作品のタイムトラベルは、簡単に言えば過去から未来に続く一本線。
だから過去を変えると未来が変わる。
エンドゲーム式は基本一本線だけど過去に介入した時点で分岐する枝分かれ方式。
つまり並行世界が発生してその方向に進むんで、過去を変えても未来は変わらない。
ブルースが言っていた「過去が未来になる」と言うのは移動した過去が分岐してまた別の未来になるという事。


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覚悟

配信したいけど作中環境は配信できる状況やないんや……。
ユルシテ、ユルシテ……。
なので次は配信です(ヴィブラニウムの意思)


ストリートが見えるカウンター席で、隣にニック・フューリーが座る。

関係無い第三者のMCUファンとしてなら嬉しいのかもしれないが、がっつり関わる必要がある当事者だと胃痛がしてきそうな状況。

と言うか許可してないのに座るのかよ、私の許可なんていらない席だけど。

 

「………」

 

一度ちらりと見てすぐに正面へと視線を戻し、ムシャムシャとハンバーガーを食べる。

 

「………」

 

ニック・フューリーはニック・フューリーで、ポテトだけをつまんで食べていた。

会話もなく、ただジャンクフードを美味しく食べているだけ。

まさかこいつはスカウトマンじゃないのか? ただの偶然だったりするのか?

ハンバーガーを食べ終え、ちょっとやきもきしていたら。

 

「お嬢さん、随分とお若いようでご旅行ですかな」

 

口の中のものがなくなるのを見計らっていたのか、顔を少しだけ向けてきての声かけ。

 

「ええ、もう帰りますが」

「ほう、このニューヨークで色々と観光地があるがどこか気に入った場所は見つかったかな?」

「そうですね、ある意味観光地となったスタークタワーの品のない感じが気に入りましたね」

「ハッハッハッ、それは僥倖、彼の活躍もあり観光客も増えているようで。 まあ現在はご覧の通りだが」

「招かれざる来訪者には退去してもらったそうで、この程度で済んで良かったですね」

「ああ、アベンジャーズが奴らを撃退した」

「アベンジャーズ? 何かの特殊部隊とかですか?」

「スーパーヒーロー集団、7人からなる地球の平和を守る者たち」

「へぇ、そうなんですか」

 

凄い目力のロックオンを感じる、新しく7人目が増えている所にお前の事分かってるから逃がさねぇからなぁ? って気配も感じる。

別に隠してたわけじゃないけど、調べ上げてあたりを付けるのは実に優秀だろう。

これでヒドラの巣窟じゃなきゃなぁ、まさに人類を守るための(S.H.I.E.L.D.)って感じで頼れるんだけどなぁ。

ほんと、ヒドラは害悪でしかねぇな? 絶対に滅ぼさなきゃ……!(使命感)

 

「ネットでは騒ぎ立てられている、特に7人目の“ホワイト”」

 

なるほど、白いからホワイトね。

実に安直ではあるが、目立つ要素で呼ばれる事は別に珍しくない。

正式名称など知られちゃいないのでおかしくはない、いずれ発表されても“白騎士”なんでやっぱりホワイトじゃんってなるだろうが。

 

「名前、年齢、人種、何もかもわからずただ白いスーツを着て戦い、住民たちを助けた。 ただ声が女性だったので性別も女性だと言われているが」

 

ニックが再度視線を向けてくる、ホワイトって誰なんだろうなー、君知ってるー? 知ってるよねー? って感じ。

 

「有名税なんて言って、個人情報をばら撒くのもどうかと思いますけどね」

「平時であればな、だが事の大きさは個人の域を大きく逸脱している」

「……そんな話を一介の子供にしてもらっても困ってしまいますね」

 

これ普通なら途中で席を立たれて逃げられる話だぞ、ニックも確信があってしているんだろうけどさ。

 

「S.H.I.E.L.D.に入れ、タバネ シノノノ。 人類全てが君の力を必要としている」

 

世界平和を守るためなら女子供でも容赦なく使うところ、グッドだね!

むしろそんくらいしても人類守れないんだから、つらみを感じる……。

 

「アベンジャーズではなくS.H.I.E.L.D.ですか、まあ相談役に嫌われているので気軽に返事はできませんが」

「彼は相談役だが決定権は私にある」

「なら説得してください、彼だけではなくアベンジャーズ全員を説き伏せてください」

「わかった、話しておこう」

「話すだけじゃダメですよ。 なんだかあなた、すごく隠し事多そうですから」

 

結局喋らずにゴタゴタを発生させそうなんだよなぁ、ニック・フューリーは。

それが原因でアベンジャーズから誰か一人でも抜けられると非常に困る。

一応頭脳的に社長の代わりや、身体能力的にキャップの代わりは出来るが、それぞれ本人たちの代わりになる事はできない。

 

「なら実績が必要だな、彼らが黙るくらいの」

 

やっぱり黙ってるつもりだったのかよ、アベンジャーズ案件が発生したら飛び込みで実績作れとか言わねぇだろうな?

 

「今回のことが実績にならないなら、相当難しいですよ」

「だったら積み重ねるしかない、S.H.I.E.L.D.でな」

 

だから最初からアベンジャーズではなく、S.H.I.E.L.D.に入れと言ったのか。

ブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフや、ホークアイことクリント・バートンもエージェント上がり。

2人ともお飾りではなくちゃんと活躍していることから、我流ではなくエージェントとしてきっちり学んでから入るのもありか。

ただ年月的に何年もエージェントをやっている余裕はない、最低でも次に集結する時までにはアベンジャーズに加入しておかなければならない。

 

「……わかりました、S.H.I.E.L.D.に参加します。 それで、S.H.I.E.L.D.エージェントになるためには何をすれば?」

「君は何が出来る?」

 

何が出来るって、ひどく抽象的だな。

 

「エージェントには何が必要なんですか?」

「色々だ」

「……その色々を教えろって聞いたんですけど?」

「色々とはそのままの意味だ、できる事により仕事が振り分けられる。 できる事とできない事、それらを把握しておきたい」

「そう言う意味でしたら、大抵のことはできます。 国連公用語は全部話せますし、話せない言語も少し勉強すれば覚えられます。 運動もそれなりに、格闘や銃器の射撃や飛行機や自動車などのビークルも知識にはあります。 問題は知識があっても実際の経験がないところでしょうか」

「随分と多芸だな」

「大体見ればわかりますし」

 

細胞レベルでオーバースペックって文字通りおかしい。

昔に身体能力をテストするため、人目の少ない場所を選んで体を動かしたら明らかに人間の限界を超えた動きをしてしまった。

垂直跳躍で5メートルほど飛び上がり、走れば対岸をそれなりの速度で走っていた自動車を追い抜いた。

停めてあったごく普通の自動車を側面から持ち上げてみたら、簡単にタイヤが地面から離れた。

人類の限界超えを確認してから、常に限界を超えないように抑えていた。

別に自分の体の制御が難しいわけでもないから苦労はしなかったが。

 

頭脳面でも常軌を逸していた。

計算には苦労しないし、机上の空論レベルの問題も解法をすぐに導き出せた。

なんと言えばいいか、組み立て方がわかっているパズルを組み上げるような感覚。

小型アークリアクター辺りの難解さになると少々頭をひねる必要があるが、完成に何ヶ月もかかるほどではない。

よくある天才が『なんでこの問題が解けないのかわからない』と不思議がる感覚がよくわかる。

実際にそんなことを言ったりはしないが、“理解する”のではなく“理解した”状況になるためには他人への言葉に気をつける必要があったくらいだ。

理解力で言えば、社長もこんな感じなんだろうか?

 

「問題として知識だけなので訓練して経験を積む必要がありますけど、その場合優秀な方を割り当てて欲しいのですが」

 

例えばナターシャさんとか。

 

「希望はあるか?」

「……ナターシャ・ロマノフさん、上から見た時いい動きをしていました」

「いいだろう、彼女に君を預ける」

 

決断力があるのか、最初からそうすると決めていたのか。

どちらにしろ主要人物に接点を持っておかなければ、今はニック・フューリーの手のひらで踊っておこう。

 

「それともう1つだけ、説明しておきますから私の両親を不自由がない程度に匿ってくれませんか?」

「下手に使われたくないか」

「ええ、人質にでもされたら堪りませんからね」

 

私が調べた以上、両親は特に不審な点がない人物だ。

実はどっかの組織で私が超人血清じみたものを打たれた実験体だったりするかもと嗅ぎまわったが結局何にもなかった。

完全に痕跡を消しているとかされていたらどうしようもないが、こうしてニックが声をかけてきた以上両親におかしな点はないのだろう。

普通にいい両親なので、不幸な目に遭うようなことにはしたくない。

 

「手配しておこう」

 

バートンもニックに手配してもらってたはずだから、よほどのことがない限り大丈夫だろう。

 

「他には何かやっておくことはありませんか?」

「ああ、一つある。 S.H.I.E.L.D.で行動する以上、情報の漏洩は防がなければならない」

「動画配信はやめませんよ」

 

言いたいことがわかってすぐに拒否り、残るでかいサイズのコーラを飲み干す。

生きがいを奪おうなんてふてぇ野郎だ! 視聴者と駄弁りながら動画を配信するのは楽しいのによぉ!

ストローから口を離し、軽く拭いてからニックに視線を送る。

 

「私は常日頃色々考えているんですよ、こうやって口にする言葉も全て考えてから言ってるんです」

「……それで?」

「これまで一度たりとも他者に漏らしてはいけないことは口にしたことはありません」

「それはどうかな。 人間は機械ではなく、その全てを制御しきれるわけじゃない」

「あなたはそうなんでしょうね、それじゃあ私は一度日本に帰ります。 どうせ私の事を調べているんでしょうから、必要なものは送ってください」

 

それじゃあ、と席を立ちゴミをゴミ箱に捨てて店を後にした。

 

 

 

それを見送ったのはニック・フューリー、携帯電話を取り出しながら遅れて店を出る。

 

「……エージェント・ロマノフ、予定通り“ホワイト”を君に預ける。 自信があるようだからしっかり躾けておいてくれ」

 

返事を聞いてから携帯を閉じれば、すぐに電話が掛かってくる。

 

「……私だ、……消えた? よく探したのか? ……わかった、捜索を続けろ」

 

再度携帯を閉じ、スタークタワーを見る。

 

「彼女は何を隠している……?」

 

車がニックの隣に横付けされ、それに乗り込む。

トニー・スタークに匹敵する頭脳から作り出されたスーツ、それだけならまだ良かったがどうやら隠し事があるようだ。

ホワイトに接触した男は角を曲がった時には消えていた、何を話していたのかも聞き取れなかった。

 

「嫌な予感がするな……」

 

何かを抱える日本の少女が言うには、決して秘密を明かす気は無い。

話した内容が事実なら、なるほど手強いだろう。

見極める必要がある、世界を守れる力があるか。

 

「スタークタワーに回してくれ」

 

ニック・フューリーを乗せた車は、進路をスタークタワーへと向けた。

 

 

 




生活のこととか書いたけど、別に物語進めるのに必要ねぇじゃんってなって大幅削除。
後アンケート。


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配信者2

「ハロハロ〜、世紀の大天才の束さんだよー」

 

数ヶ月ぶりの帰国と配信、予告配信時間となりカメラに向かって手を振る。

 

『おかえりー』『待ちかねたぞ!』『随分とお久だ』

 

前回の配信よりも流れるコメントと視聴者の数が減っている、告知していたとは言え流石に時間が経ちすぎて他に流れてしまったんだろう。

 

「パソコン起動するのも久しぶりやん、むしろ自分の部屋の匂いが懐かしい」

 

『良い匂いがしそう(小並感)』『束ちゃん!部屋の空気を瓶詰めにして、売ろう!』『いつになったら映像と一緒に匂いも流れてくるようになるのか』『時代は直嗅ぎ』『おまわりさん案件多スギィ!』

 

「そいじゃ久しぶりの配信だけど、今日は報告と図画工作でもすっかね」

 

『そういやなんか言ってたね』『何の成果も!!得られませんでした!!』『良い話と悪い話、どっちやろ』

 

「調査団やめーや、いや色々作りたくてパトロン候補に会いに行ったんだけどダメだった、途中まで良い線いってたと思ったんだけどさぁ」

 

『そりゃ残念』『1000億も出せるパトロンとかいるのかよw』『パトロン、金持ち、美少女女子高生、何も起きないはずはなく……』

 

「ニューヨーク、異星人、襲撃が起こらないはずもなく……」

 

『うぇ!?』『NY行ってたん!?』『まじかよよく無事だったね』『最初番宣かと思ったNY襲撃』

 

「もうガチのガチよ、空飛びまくって撃ちまくってまじやめろよと思いました」

 

肩を落としてみる、実際クソのクソでため息しか出ないから演技ではないが。

 

「ほんとあれはやばかった、アベンジャーズ居なかったらニューヨーク無くなってたと思う」

 

『そんなにやばかったんか?』『なんかゲームやSF映画見てる感じだったわ』『ワープしてくるやつが歩兵とか、なんか凄いのか凄くないのかわからん異星人だったな』『鯨よりでけーのが普通に飛んでる時点でやべーだろw』

 

「なんか空飛んでビーム撃ってたし、あんなん逃げるしかできないよ」

 

警官や州兵も頑張ってたけど焼け石に水状態、アベンジャーズが居なかったらニューヨークを侵攻拠点にされてたかもしれん。

 

「いやー最後の方にミサイルが飛んできたのよ、多分あれ核ミサイルだったんじゃないかなーと思う」

 

『かwwwwくwwwww』『まさか核鬱とかないやろ』『ぜってー避難住んでなかったんちゃう?』『まじだったらベルカ式国防術をリアルで見ることになってたんかな』『ベルカ式とかwwwwwwしゃれになってませんねクォレハ……』

 

「核ミサだったら私もやばかったし、多分数万の死者と数十万の被曝者出してたと思われ」

 

『つべの動画見ると悲鳴と爆発音ばっかだったな』『死んだエイリアンを間近で撮ってる猛者もいたぞ』『エイリアン怖すぎワロエナイ』

『社長がミサイル運んでたっぽいからマジで核みたいやな』『さすが社長!』『エイリアン人型だったのがちょい気になった』

 

「侵略されてやばいと思うけど核ミサ撃つとはなぁ、ちなみに核ミサだと確信している。 飛んできたの1発だけだし、社長が異星人放っておいてミサイルを運ぶと思う?」

 

『社長自分のタワー守りたかった説』『遠くから撮った動画ばっかだけど倒壊するような感じじゃなかった』『タワー壊すだけなら何発も打ち込んだ方が良さげよね』『核ミサイルだったとしても撃ち落とされてたらどうするつもりだったんやろな』

 

「核でぶっ飛ばして侵略を防ぎました、市民は全滅し残るのは爆心地と放射能まみれのニューヨーク。 他の場所も同じようになったら核ぶっ放すんやろね、根本的な解決法無しで次の展望見えてねぇわ」

 

『核で一網打尽よ!(なお土地のことは考えないものとする)』『まあこう言うのって大体命令出した奴安全なとこにいるんだよな』『成功してたらしてたで似た状況になったら核ぶっ放すんやろな』

 

「仕方ないっちゃあ仕方ないが、巻き添え食う人のことも考えてほしいわ……」

 

『当事者だかんねぇ……』『タッバ元気出して』『重みが違う』

 

「それがあったせいでパトロンとの交渉も失敗したしほんまイラつくわー、でもまあ別のところから声がかかったんですけどね」

 

『やったやん!』『新しいのは1000億出せるんか?』『大丈夫?騙されてない?』

 

「一応まともなところだから受けたよ、なので移住します」

 

『ファっ!?』『えーまじ?』『ちょっと重大発表すぎない?』『嘘だぁぁぁぁぁ』『いかないで;』『え、配信やめんの?』『引っ越しじゃなくて移住って、外国かよ!』

 

「日本が良かったけどダメそうだったからね、やりたいと言うかやらなくちゃいけないし決めました。 移住するだけだから配信は続けるよ、日本時間に合わせるから変わらず夜だけど」

 

『いいようなよくないような……』『やりたいことのために移住決断とかすげぇな』『外国ってその国の言葉喋れんと苦痛でしかないからなぁ』

 

「外国語って言うか英語だけど問題なく通じたからね、そこは心配ない。 今の所話せるのは国連公用語に日本語含めた7ヶ国語やね、必要なら他のも覚えるけど」

 

『マルチリンガルすぐる……』『世紀の大天才は化け物かっ……!』『覚えるコツとかあんの?』

 

「コツとかないなぁ、聞いたら覚えるし」

 

瞬間記憶能力者って言いたくなるほど物覚えが良い。

覚える必要があると思って見ると記憶に残り続ける、単純に記憶力がかなり強化されている感じだ。

 

『あっこれ参考にならない奴だわ』『だよねー、聞けば一発だもんげ』『その記憶力が羨ましい……』『記憶するだけで喋れるわけねーべ、元が違うんじゃよ』

 

「まあ教える場合は意識するけど、自分で喋る時はイントネーションくらいかな。 単語は伸ばしたり短くするといきなり通じなくなったりするからねぇ、あと和製英語はきっちり除外しよう、ガチで通じないから」

 

『おっ勉強会か勉強会か?』『女子高生教師とかどうなってんだここは!』『俺の高校時代にこんな先生がいてくれたら……』

 

「過去は振り返らない! まあ学校も辞めるんですけどね」

 

『外国にいながら日本の高校通うのは無理だしな』『流石に卒業しといたほうがよくない?』『中退は周囲の目が痛いぞ(実話)』『同級生の男どもは涙流して嘆くだろうなw』

 

「高認はどうしようかなぁ、暇になった時帰国して受ければいいかな」

 

『日帰り旅行感覚で国家資格を取りに行く束ちゃん』『東大余裕でこけるはずねーべ』『向こうで高校いかねーの?』

 

「多分行かない、そんな余裕ないし」

 

必要なことは言ったので、ごそごそと足元に置いていた道具を取り出す。

 

『うーん、でかい』『定期的なサイズ確認、嫌いじゃないわ!』『乗っているのも良いね』

 

「……えー、重要発表は終わったので次は工作しまーす。 いつもは手元映しながらだけど、今日は前回の配信で言ってたちーちゃんとおしゃべりでもしててね」

 

私は黙々と作業すっから、と言ってちーちゃんの3Dモデルを立ち上げる。

 

『ちーちゃん来た!』『俺の嫁ェ!?』『チーちゃんってなんだっけ』

 

「話っつっても当然全部拾えないから注意ね、質問とか何回でも書き込んで良いけど拾うかどうかはちーちゃん次第」

 

『はーい』『質問しろとかいきなり言われても困るぜ』『ちーちゃんの3サイズいくつですか?』

 

「ちーちゃん、好きなように答えて良いよ」

「ふむ、それならば最初に言っておく。 私の事をちーちゃんと呼ぶな、そう呼んで良いのは束だけだ」

 

『あら^〜』『嫌いじゃないわ!』『そう言う個性なのね』『ここにキマシタワ-を建てよう』『百合の園だったとは、このリハク(ry』

 

「んー、今は無理だがいつかちーちゃんのボディを作ってみるのもありかな」

 

『ヒューマノイドってやつか!』『ちーちゃんがこの三次元に!?』『やはり俺の嫁だったか……』

 

「感情もプログラムしてあるから、してほしくない事し続けると答えてくれなくなるかもしれんよ」

「例えば今言ったちーちゃんと呼ぶな、と言ったこととかな」

 

むすっと言った表情のちーちゃん。

自分で設定したとはいえ、ある意味融通がきかない性格になっちまったもんだ。

流石に戦闘中などは切り替わるから問題じゃないけど。

 

「みなさんわかりましたかー? 自分がされたくない事を相手にするようなつまらない人間にならないでくださいねー」

 

返事の大合唱が大量に流れる。

 

「それじゃあちーちゃんとの会話をお楽しみください」

 

続いて単純な会話や質問が画面にびっしり流れていく。

それを横目で見てから、社長のラボからついでに持ってきた部品を広げて制作しだす。

 

「最初の質問だったな、スリーサイズは上から88・57・85と設定されている」

 

『おっほう!』『見たらわかる(ガン見)』『頑張れば現実にいるサイズ』『じゃあ束ちゃんのサイズのおなしゃす!』『こっちもおっぱいぷるんぷるん!?』『常に全画面余裕でした』

 

「こらこら、そう言うのは答えなくて良いから」

「そう言うわけだ、束のスリーサイズは諦めろ」

 

『チクショーめ!』『じゃあ千冬さんよりもすごいかどうかだけでも!』『胸は勝ったな(確信)』『僕は安産型が好きです』

 

「お前らちょっとは自重しろ」

 

画面は見ずコメントの音声出力とちーちゃんの声だけで返す。

気持ちはわかるが聞かれる女の気持ちも考えろ、まあ普通は考えられないか。

知らないだろうがインフィニティ・ストーンなら可能である事は恐ろしい事実であろう。

 

『千冬ちゃんは何が好き?』『どう言う目的でAI作ったんだっけ?』『これぜってー中の人いるだろ!』『千冬さんはデートするならどこが良い?』

『AIだけどやってみたいこととかある?』『やっぱイケメンの方がいいのかね』『下着とかつけてんの?』『束ちゃんの好きなところはありますか?』

『千冬も一緒に移住かぁ、俺もついていきてぇなぁ』『そういやどこに移住すんの?』『ゲーム配信とかしないの?』『喋り以外は配信者らしくないことに今気がついた』

 

ガンガン流れてはちーちゃんが答えていく。

それを聴きながらカチャカチャといじくり回していたら。

 

「束」

「んー?」

「今何を作っているのかと言う質問だ」

「あーこれ?」

 

外側は出来ているので、手に取りカメラの前に持ってくる。

 

「デデン! これは一体なんでしょうか?」

 

『ヤロー! 馬鹿にしやがってぇー!』『それ付けちゃうかー』『え!?現役天才美少女女子高生の束ちゃんがバニースーツを!?』『うっ!ふぅ……』

 

「着ねーよ、ちーちゃんには着てもらうかもしれないけど」

 

『『『やったぜ!』』』

 

見せたのはメカニカルのうさ耳。

 

「これね、なんだと思う?」

 

『ミキプ◯ーン?』『うさ耳の他に何があるのか……』『俺たちは試されているのか!?』

 

「これね、マルチセンサー搭載の装着型デバイスよ」

 

『よくわからんがとにかくよし!』『なんかすごいもん作ってんね』『マルチセンサーって?』『ああ!』『ああ!』『ああ!』

 

「センサーと聞いて思い浮かぶ奴は大体入ってると思っていいよ、音、光、熱、そこらへんを検知するやつ」

 

『はぇーすっごい……』『出力はどうすんの?』『そのサイズでちゃんと使えんの?』

 

「今んとこちーちゃんが教えてくれるようにしてる、問題は範囲と稼働時間なんだよねー」

 

範囲も狭いし稼働時間も短い、10メートル程度の検知距離で最大連続稼働は1時間も無い。

本当は常時稼働が良いが、それをできるだけの技術がねぇ!

 

「要改良だけど、今のところは要所要所で稼働させれば良いかなーって」

 

『いや、それ何に使うん?』『日常で使い所さんがない気がする』『可愛いは正義、わからんのか!』『タッバが着けるの?』

 

「そだよー、最初猫耳とかも考えたけどあのサイズに収めるのは難しかったから、縦に伸びるうさ耳型にしてみた」

 

まだ中身が入っていないうさ耳を頭の上に乗っけてみる。

 

『きゃわわ!』『ほーええやん』『スクショ連打した』

 

「まー完成にはもうちょい掛かるからね、折角だしちーちゃんと話しててよ」

 

『タッバとも話したいんよ!』『千冬ちゃんもいいけど束ちゃんもね?』『俺の質問を聞けぇー!』

 

 

 

 

 

「彼女、随分と印象が違うわね」

「スーツを着た状態ではこのAIが喋っていたんだろう」

 

午前中のニューヨークのワシントンD.C.にあるS.H.I.E.L.D.本部施設、トリスケリオンの一室に1組の男女がモニターを見つめていた。

 

「本当に彼女があのスーツを?」

「ああ、トニー・スタークは自分が作ったと言っていたが、実際に白いスーツを作ったのは彼女だろう」

 

今度新しく入る新人、空を飛ぶ異星人を迎撃したアイアンマンと遜色のないスーツを作った存在。

確かにトニー・スタークはあの白いスーツを作れるだろう、でも彼の言動では疑惑が残る。

年端もいかない少女にスーツを着せるかどうか、流石に少女にスーツを着せて戦わせる気はなかったように見える。

キャプテンから聞いた話では、彼女が飛んでいたのを知らなかった様子だったと言う。

 

「残念だが放っておくとまずい事になりかねん、子供と言えど重要な監視対象に指定せざるを得ない」

 

この配信を見る限りではそこまでの存在には見えなかったが、過去の配信動画を見る限り高い知性を持ち合わせているのがわかる。

スーツを作り侵略者迎撃に出てきた経緯は未だ掴めてはいないが、アベンジャーズとして戦うには十分な力を備えている。

自在に空を飛べるのがアイアンマンだけである現状、彼女が加わればもっとスムーズに事を運べるのは想像に難しくない。

 

「どこまでやっていいので?」

「エージェント・ロマノフ、君が使えると判断するまで徹底的に扱いてやれ」

「……了解」

 

頭脳だけではやっていけない、S.H.I.E.L.D.はともかくアベンジャーズともなれば心技体、どれもが必要となる。

果たして彼女はどこまで食らいついてくるか、アベンジャーズ志望の可憐なお嬢さんに期待しておこう。

 




うさ耳決定。

原作で妹の箒はバスト98らしい、束はそれ以上との話。
いまはまだそこまでいってないけど、いずれはその領域に立つと言うのか!

掲示板もいつかやらねば……


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掲示板

お茶濁し


【世紀の大天才】篠ノ之束その22【現役美少女女子高生】

 

1:名無しちゃん

YouTuberの篠ノ之束について語るスレッドです。

過去スレやルールは>>2参照してください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

205:名無しちゃん

うぎゃあああああ!!1!!!!1!1!!

 

206:名無しちゃん

うっそだろ……

 

207:名無しちゃん

束ちゃん引退決定!!

 

208:名無しちゃん

なかなかチャレンジャーだな

 

209:名無しちゃん

移住とはたまげたなぁ……

 

210:名無しちゃん

何しに行くか言わなかったな

 

211:名無しちゃん

日本から出て行くのかー

 

212:名無しちゃん

移住とか思い切り良すぎじゃん

 

213:名無しちゃん

タッバがアメリカンナイズしたらどうしよう……

 

214:名無しちゃん

束ちゃん俺を置いて行くのか…………

 

215:名無しちゃん

束ちゃんは胸もでかいが日本離れるメリットもでかいやろ

 

216:名無しちゃん

俺もやりたい事やれる人生を歩みたかったから応援するわ

 

217:名無しちゃん

配信続ける言うとるし応援一択だな、引き止めてるやつストーカー組じゃねーの?

 

218:名無しちゃん

重大発表だけど机に乗った胸の方がインパクトでかい

 

219:名無しちゃん

やりたい事かぁ

 

220:名無しちゃん

何しに行くんだろな

 

221:名無しちゃん

ストーカーありえるな、豚箱に送り込まれたやつ以外にもいるようだし

 

222:名無しちゃん

やりたいことって機械工学系かねぇ

 

223:名無しちゃん

何やるか知らんが高校中退で声かけられるのはさすが世紀の大天才やな

 

224:名無しちゃん

アメリカか、英語ペラペラだしいいかもね

 

225:名無しちゃん

米国行って変なのに引っ掛からなきゃいいけど

 

226:名無しちゃん

ストーカー叩きのめして警察に突き出すタッバならアメリカくらい余裕だろ

 

227:名無しちゃん

ちーちゃんきた!

 

228:名無しちゃん

ぬぅぅぅん、ちーちゃんが俺の属性に特攻入っててつらい

 

229:名無しちゃん

移住について聞きたいけど工作に入っちまったか

 

230:名無しちゃん

ちーちゃんきゃわわ!

 

231:名無しちゃん

年齢タッバと合わせてあるんだな

 

232:名無しちゃん

束は現実にいて千冬は現実にいない、これって悲しいことですよ

 

233:名無しちゃん

本当はユーチューバーじゃねぇのこれ?w

 

234:名無しちゃん

3Dモデルいい感じだぁ

 

235:名無しちゃん

タッバとチッフが制服着て並んで下校してるところを見たい、見たくない?

 

236:名無しちゃん

ガチで反応いいな、中の人いるだろこれ

 

237:名無しちゃん

何でわざわざAI設定にしたのか

 

238:名無しちゃん

koolだわちーちゃん

 

239:名無しちゃん

束ねちゃん何作ってんだろ

 

240:名無しちゃん

3サイズ答えちゃうかー

 

241:名無しちゃん

滅多におらんぞこのサイズ!

 

242:名無しちゃん

でかいほそいでかい

 

243:名無しちゃん

けつもいい感じだ

 

244:名無しちゃん

画面が幸せ

 

245:名無しちゃん

クールタイプいいぞいいぞ

 

246:名無しちゃん

ユーチューバーに居そうだな

 

247:名無しちゃん

ほんと束ちゃん色々できるな

 

248:名無しちゃん

贅沢言わないから束ちゃんの彼氏になりたい

 

249:名無しちゃん

ちーちゃん欲しいぜおい!

 

250:名無しちゃん

ちーちゃんも気になるが束が何作ってんのか気になる

 

251:名無しちゃん

質問おすぎだろw

 

252:名無しちゃん

>>248

可愛くて頭が良くてメカやロボが好きで男心のわかる巨乳美少女の彼氏が贅沢じゃないなら何が贅沢なんだ

 

253:名無しちゃん

流れはえー

 

254:名無しちゃん

スリーサイズ答えてくれるクール系美少女AIに質問しないやつおりゅ?

 

255:名無しちゃん

タッバの横乳見てるは

 

256:名無しちゃん

千冬ェ……

 

257:名無しちゃん

料理できないっつってんのにww

 

258:名無しちゃん

ちーちゃん優先はわかるが、機械いじってるたばねーちゃんの指先見たいんだよ俺は!

 

259:名無しちゃん

ああいいっすねぇ〜

 

260:名無しちゃん

ちーちゃん結構身長あるな

 

261:名無しちゃん

>>258

わかる、機械いじり好きな癖してタッバの綺麗な指すこ

 

262:名無しちゃん

スタイル映えるなぁ

 

263:名無しちゃん

すぐおっぱいおっぱいいいやがって!

 

264:名無しちゃん

物理演算もちゃんと仕込んでるんだな

 

265:名無しちゃん

なんとかかんとか支援AIだっけ、束に支援っているのか?

 

266:名無しちゃん

アメリカ、遠いな

 

267:名無しちゃん

何作ってんだ? この前の手回しドリルみたいなやつじゃねえだろな?w

 

268:名無しちゃん

千冬さんんんんん!

 

269:名無しちゃん

タッバ大好きかこいつ!

 

270:名無しちゃん

いいですわぞ〜!

 

271:名無しちゃん

嫌そうな顔だなw

 

272:名無しちゃん

判断的確すぐるwww つかこの流れ見えてんのか?

 

273:名無しちゃん

動体視力検査じゃねえんだけどなあw

 

274:名無しちゃん

小狡いw

 

275:名無しちゃん

罵倒されたがり多すぎない?

 

276:名無しちゃん

パンツが見れて罵倒してもらえるとかM多すぎぃ!

 

277:名無しちゃん

パンツまでしっかり作ってんだなw

 

278:名無しちゃん

手を抜かない女、束

 

279:名無しちゃん

パンツまで作ってあるのか確認するためにしゃがませるとかやるやん

 

280:名無しちゃん

流石にテクスチャに書き込んでるのかポリゴンで作ってんのかわからねぇか

 

281:名無しちゃん

>>248

贅沢定期

 

282:名無しちゃん

できないこと探す方が難しいたっば

 

283:名無しちゃん

かわいいなぁちーちゃん!

 

284:名無しちゃん

うさ耳かこれ

 

285:名無しちゃん

うさみみつけえうとかあざとい

 

286:名無しちゃん

何のためのうさ耳

 

287:名無しちゃん

アクセにしてはメカメカしいな

 

288:名無しちゃん

念入りに殺しにきてやがる

 

289:名無しちゃん

笑顔が眩しいんだけど

 

290:名無しちゃん

危うく昇天するところだった

 

291:名無しちゃん

うさ耳つけて笑顔とか殺傷力高杉ない?

 

292:名無しちゃん

※美少女に限る

 

293:名無しちゃん

猫耳がよかった……

 

294:名無しちゃん

バニースーツいけるやん!

 

295:名無しちゃん

あーだめだめ、エッチすぎます

 

296:名無しちゃん

うさ耳がセンサーとか予想できるかw

 

297:名無しちゃん

マルチセンサー?

 

298:名無しちゃん

センサーなんぞつけて何すんだ?

 

299:名無しちゃん

ストーカーでも感知すんのか?

 

300:名無しちゃん

可愛いけどうさ耳つけて外出するのは結構きついと思うが

 

301:名無しちゃん

高性能なうさ耳、ほんとなんにつかうんだ

 

302:名無しちゃん

本当に工作好きだよなぁ

 

303:名無しちゃん

今日も動画編集が捗るな

 

304:名無しちゃん

これからは二人並んで配信なんかな?

 

305:名無しちゃん

久しぶりの束ちゃんが楽しそうで何より

 

306:名無しちゃん

たっばと千冬ちゃんが掛け合いしながらとかサイコーやん?

 

307:名無しちゃん

リスナーを増やす仕事が始まる……

 

308:名無しちゃん

俺も着るから束ちゃんもバニースーツ着てくれねぇかなぁ

 

309:名無しちゃん

束+うさ耳=最高

 

 

 

 

 

 

 

1001:名無しちゃん

このスレッドは1000を超えました。

新しいスレッドを立ててください。

 




千冬
苗字なし、年齢はオリ束さんに合わせてるので女子高生年齢
なので見た目原作千冬じゃなくマドカの姿が近い


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移住

日本の女子高生が高校を辞めてからのアメリカに移住してS.H.I.E.L.D.に就職。

字面にすると相当おかしなものだ、狙ってやらないと同じことなど起きないのではないだろうか。

まあやろうと思っても相当な才媛で勧誘されなければ門前払いだろうが。

そんなどうでもいいことを考えながら持ってきたのはキャリーケース一つだけ、必要なものだけを押し込めてアメリカに降り立つ。

空港を出れば出迎えが現れた。

 

「初めまして、シノノノさん。 S.H.I.E.L.D.からの迎えよ、荷物は後ろに、あなたは前に乗って」

 

目の前に黒のいかした車が横付けされ、ウィンドウが開いて声を掛けられた。

もちろん声を掛けてきた人もいかした美女だ。

言われた通りに荷物を後ろに乗せ、助手席に乗り込む。

 

「初めまして、ロマノフさん」

「……私の名前をどこで?」

 

表情を変えずに尋ねてくる、普通S.H.I.E.L.D.職員のリストなんて外部からアクセスできない。

確かにナターシャさんも載っているだろうが、文字通り一般職員と同じような内容でしかない。

 

「調べました」

 

実際見たのはニューヨーク侵攻の時で、直接対面したのは今日が初めて。

実際齟齬の解消のため職員リストにアクセスして閲覧済み、流石に深い所には触っていないのでS.H.I.E.L.D.トップクラスのエリートエージェントである事は知らない態でいる。

まあ職員リストにアクセスした時点でやばいのは当然だが、向こうもこっちを調べたんだから文句なんて言わせねぇ。

 

「……そう」

 

短い問答の後に発車、身体に掛かる慣性を感じながらナターシャさんの横顔を見る。

 

「……私の顔に何かついてる?」

「いいえ、綺麗な顔だなと」

「そう? ありがとう。 あなたも可愛らしい顔をしているわよ」

「よく言われます」

 

軽く笑みを作っているが、内心警戒しているだろうな。

あのニックからは迎えをよこすとしか聞いてないから、普通は誰が迎えにくるのか予想もつかないだろう。

リストを全て閲覧して覚えた、或いはニックとナターシャさんのやりとりを盗み聴いたかと言った可能性を思いつく。

なんにせよ警戒に値するだろう、私だったら警戒する。

 

「調べたと言ったけど、どうやって?」

「普通にハッキングで入手しましたよ」

 

私からすればただの職員リスト程度なら、頑張らなくても入手出来るセキュリティでしかない。

一応フォローしておくとそこらの企業のセキュリティよりもお堅い、もっと重要な機密とかになれば国家機密以上とも言える守りを備えている。

J.A.R.V.I.S.がS.H.I.E.L.D.の機密を探るのに時間が掛かるほどの堅固さがある。

流石に情報の重要度はそこまで高くないので、一般職員リストは簡単に手に入れられた。

 

「ハッキングもこなすなんて、流石トニー・スターク並の頭脳と言ったところね」

「おだてても何も出ませんよ」

 

実際S.H.I.E.L.D.には何も渡す気はない、実はヒドラなんていなくて兵器開発なんてしていないクリーンな組織とかでなければ技術なんて見せることすらしたくない。

まあナターシャさんが誰にも渡さないと約束してくれれば、うさ耳センサーくらいなら渡してもいいが。

 

「それで、あの白いスーツを作ったのは本当にあなたなの?」

「ええ、設備はスタークさんに借りましたが設計から製造まで私が自分でしましたよ」

 

社長だったらそこまで疑われないが、流石に実績も何もない小娘がいきなりアイアンマンに匹敵するスーツを作りました、は疑われても仕方がない。

 

「信じられないのはわかりますが、あれは実際に私が作ったものです」

「確かにそれも有るけど、トニー・スタークがあれは自分が作ったと言っていたから確かめたいのよ」

 

ワッツ!? 社長、横取りはあきまへんでぇ……。

 

「……スタークさんは関わらせる気はないようですね」

「残念でしょうけど私もトニー・スタークに賛成よ、子供がアベンジャーズに参加するのは反対」

 

まあそうやろなぁ、少女兵じみた事に賛成するアベンジャーズメンバーは居ないだろうな。

 

「ニック・フューリーはそうでもないようですが」

「そうね」

 

あのおっさんは使えるものは使う主義だろうし、宇宙の脅威も知っているからなぁ。

ニューヨーク襲撃では核ミサを拒否ってたが、本当にどうしようもないなら許容もするだろう。

となると私の事はいつでも戦力として使えるように手元に置いておき、ジリ貧になるようなら投入すると言った感じか?

しかしそれだと戦力の逐次投入の悪手になるし、今は見定めるお試し期間ってところだろう。

合格であればアベンジャーズに加入させるよう働きかけるだろうし、不合格ならS.H.I.E.L.D.エージェントのように扱うかもしれない。

 

「私としては今すぐにでも認めて欲しいくらいですよ、実際のところ戦力を持て余している時期は疾うに過ぎていますし」

「それはどういう意味?」

「ニューヨーク襲撃の時、奴らが現れたワームホールの先に飛び込んだのは見ていましたよね?」

「ええ、ワームホールを閉じる用意をしていたわ」

「あの穴の先、何が居たと思います?」

 

その問いの数秒後、ナターシャさんの眉間のシワが寄った。

 

「ご想像の通り、馬鹿みたいな数の奴らが居ました。 悲しい事にスタークさんと私は奴らを撃退できないという見解に至りまして」

「確かに彼からその話は聞いている、でも猶予はまだあると言っていたわ」

 

そう言えばあの光景は社長しか知らなかったな。

ワームホールの向こうに奴らが沢山居たが、核でなぎ払ったんだから何とかなるみたいなことを思われそうだ。

 

「猶予があってもどうにもならないと思いますよ」

 

ほんと内憂外患が過ぎるマーベル時空、常に詰み一歩手前とかおかしいやん?

 

「それをどうにかするのが我々S.H.I.E.L.D.とアベンジャーズよ」

「ええ、全くもってその通り」

 

S.H.I.E.L.D.はともかく、アベンジャーズが何とかしないといけないのは事実。

むしろヒドラに乗っ取られたS.H.I.E.L.D.をアベンジャーズメンバーがなんとかするまである。

こんなんじゃキャップが組織を不審がるのもわかるし、顛末を知ってる身としては組織という集団に頼ることができない。

頼れるのは社長の資金とアベンジャーズだけだ!

 

 

 

 

 

他愛の無い考えと会話をしながら、ナターシャさんのドライブのもとS.H.I.E.L.D.の最高司令部であるトリスケリオンに到着。

ポトマック川の中頃にあるルーズベルト島に建てられた建物、メインである建物は円柱形でなかなか洒落ている。

荷物を降ろし車から降りてトリスケリオンを見上げていたらナターシャさんの声。

視線を下ろした時にはバレーパーキングの係員が車の運転席に乗り込んでいるところだった。

 

「駐車場はどこだったかな」

 

そう呟いたのが耳に入り、運転席を覗いてみたらサングラスをかけた白髪の老人が乗っていた。

 

「───」

 

絶句していれば車は発進し、遠く離れていくのを見送ってしまった。

 

「どうかした?」

 

車が走り去った方向を唖然としてみていれば、ナターシャさんから声が掛かった。

 

「……いえ、今の人……」

「彼? S.H.I.E.L.D.に長年勤めているバレーパーキングの係員よ」

「えぇ……」

 

いや、確かにあの人がいてもおかしくは無い……。

しかしこんなところで出会うなんて予想だにしていなかった。

驚きすぎて動けなかった、出会えるとわかっていれば握手でもして貰ったのに……。

 

「……知り合い?」

「……いえ」

 

二人して見送る、まあここで勤めているならまたいつか出会えるだろう。

その時に握手でもして貰えばいい、気持ちを切り替えてナターシャさんに言う。

 

「別に何かあるわけじゃ無いです、行きましょう」

「……こっちよ」

 

ナターシャさんの案内のもと、トリスケリオン内部へと入っていく。

S.H.I.E.L.D.のエンブレムが中央に置かれた広々としたエントランスからエレベーターへ。

管理部や資料部に赴いて制服受け取りや職員リストへの登録やらを経て、トリスケリオン本部の訓練施設へと移動する。

 

「ところで私の宿泊先はどこですか?」

「あとで案内するわ」

 

それなりの広さでいくつかの部屋に分かれ、トレーニングマシンなどが置いてあるのが見える。

 

「まずはあなたの身体能力を確かめるわ、トレーニングスケジュールを考えないと」

 

そう言われて更衣室で着替えさせられた、黒いシャツとパンツ。

伸縮性があり胸以外は余裕がある。

 

「体力、筋力、反応速度、一通り計らせてもらうわ」

 

別に疲れているわけじゃ無いけど、翌日にでもしてほしいもんだ。

 

「了解」

 

ランク1の新米職員は高ランクエージェントの命令に逆らえないので、粛々とトレーニングマシンを使用する。

長距離から短距離までの走れた距離や出せた速度、腕や足の筋力や点いた明かりを追う反応速度の測定などなど。

無駄に力を入れて汗を流しぜえぜえと息を切らす演技をしながら、女子高生の年齢にしては結構高い数字に調整して記録させる。

演技する理由? ヒドラの腹の中で全力の記録なんて残す必要なんてないです。

 

「……それなりに鍛えているようね」

「……ええ、それなりに」

「いいわ、測定は終わりよ」

 

そう言われて、シャワーやら着替えやらで身だしなみを整えて更衣室から出ればナターシャさんが待っていた。

 

「これ、職員が覚えておく必要があるやつ」

 

タブレットを差し出され、受け取って操作するとS.H.I.E.L.D.のロゴマークが表示され消えたらメニュー画面が表示された。

いわゆる教科書のようなもの、これを覚えて来いってことか。

 

「それじゃあ宿舎に案内するわ」

 

 

 

 

 

案内されたのはトリスケリオンの客室だった。

広々とした部屋で、なかなかいい値段がしそうな調度品で飾られている。

 

「……もっと簡素な部屋を想像してたんですが」

 

間違いなく来賓をもてなすための部屋だろう。

高級ホテルのいい部屋と言ってもおかしくは無い。

 

「あなたの希望を叶えた結果よ」

 

ベッドとパソコンとネットがある部屋としか言ってないんだよなぁ……。

 

「私の希望とニックの希望を満たした部屋がこの部屋ですか」

「そういうこと」

 

監視下に置いときたいのはわかるがね、別に豪華な部屋じゃなくてもいいだろうに。

 

「今日はもう休んでいいわよ、明日から本格的な訓練に入るから」

「わかりました」

「そのタブレットにあなたに必要な設備や間取りが入ってるから、わからなくなったらそれで確認してちょうだい」

 

言うべきことを言ってスタスタとナターシャさんが去っていった。

 

「………」

 

とりあえず室内を物色、一泊数十万はしそうな部屋でお目当てのものを発見。

それはデスクトップパソコン、これが無いともうやってけないよ。

よくよく見なくても市販の物、先進的技術を持つS.H.I.E.L.D.で扱われているようなものじゃ無い。

触らせたくねぇのかな、まあ今まで使ってたパソコンよりもはるかに高性能だから良しとしておく。

バッグからメモリを取り出してポートに差し込んでちーちゃんを入れる。

 

「……はいはい、当然だよねぇ」

 

中身を精査すると、巧妙に隠されているがスパイウェアが仕込まれている。

全部排除してもいいが、別に何かの開発データとか入れる気はさらさら無いのでそのままにしておく。

配信メインで使う予定だから情報収集されても痛くない。

いや、パスワード取られたら嫌だな、こっちは見えないようにしておこう。

 

 

 

 

 

そのままパソコンにかじりついてセッティングとカスタマイズと仕込み、それが終われば室内を歩き回る。

そのままではわからないのでうさ耳を取り出して装着。

 

「まあそうだよねぇ」

 

センサーを働かせれば室内のいたるところに埋め込まれた監視カメラを検知、それも本体は1センチ以下の極小サイズ。

死角を徹底的に潰す配置、室内のどこにいても確実に捉える。

レンズの穴も小さすぎる上、壁や天井それぞれの模様に合わせているために凝視したとしても気が付かない設置具合。

見られて喜ぶ性癖なんぞ持ち合わせていないがこれも放置でいい。

問題なのは浴室、外国で基本の3点ユニットの浴室内にも死角なしと言わんばかりにカメラが埋め込んである。

作っててよかったうさ耳センサー、これが無ければいろいろさらけ出した生活を送ることになっていただろう。

せめてトイレだけでも死角にしないと、気を休めることすらできん。

流石にカメラを壊すのは最終手段にして、まずはニックと交渉しなければ……。

リビングに戻りタブレットを操作してトリスケリオンの階層構造を見るが、間取りの一部が表示されていない。

当然あるはずの長官室や世界安全保障委員会の部屋も見当たらない。

ナターシャさんが言っていた“必要な設備や間取り”と言うのはこう言うことか、情報閲覧制限がかけられているために見られないのだろう。

 

「……しゃーない」

 

パソコンの前に戻り、タブレットとパソコンをケーブルで繋ぐ。

バックから別のメモリを取り出して差し込みキーボードを打つ、スパイウェアを黙らせてからプログラムを立ち上げてタブレットにアクセスして情報を改ざんする。

左手でタブレット、右手でキーボード、別々に操作してクラッキングからの必要な情報を書き換える、そうすれば情報閲覧制限が外れてトリスケリオンの完全な間取りが表示される。

タブレット画面を指先でスワイプ、素早く全部の間取りを覚えて閉じ、キーボードを操作して改ざん前の情報に戻す。

 

「ダメだなこりゃ」

 

長官室まで行けねぇ、エレベーターは拒否られるし階段を使おうにも施錠されていてセキュリティアクセスを要求される。

入ったばかりの新米が長官に会いたいですと言っても、普通は色々な理由で会えないだろう。

ニックに言うよりナターシャさんに頼み込んだ方が早そうだ。

信用されてないし怪しまれているのはわかるが、こうも露骨だと面倒くさい。

こりゃ社長に食い下がっていたほうがマシだったか。

 

 

 

 

 

翌日、風呂に入らずトイレにもいかないでタブレットの中身を全部覚えて一晩を過ごす。

そうして朝迎えに来たナターシャさんに向かって一言。

 

「ロマノフさん、部屋の監視カメラはなんとかなりませんか?」

「……よく分かったわね」

「別にリビングとかは我慢できるんですよ、でもトイレやバスルームまで覗かれるのは嫌なんですよ」

「だからってタブレットをクラッキングするのは感心しないわね」

「そうさせたのはニックですよ、二度とS.H.I.E.L.D.の機材にハッキングを仕掛けるなと言うなら従います。 なのでバスルームのカメラだけ取り外すようニックに言ってもらえませんか?」

 

その言葉に悩むような仕草をしたナターシャさん、携帯電話を取り出して電話し始める。

 

「……ニック、彼女が監視カメラを取り外してほしいと言っているんだけど」

 

まあそう言う仕込みかもしれない、監視として裸見られるくらいならニックの策に乗ってやろう。

 

「……ええ、わかった」

 

パチリと電話を閉じ、私に視線を送るナターシャさん。

 

「まずは行動で示してから、だそうよ」

「そうですか、じゃあ壊しますね」

 

部屋の中に戻ってテーブルの上に置いていたうさ耳センサーを着け、その隣に置いていた工具箱からプラスドライバーを取り出して浴室へ。

 

「ちょっと、本気? と言うかなにそれ?」

「見ての通りうさ耳ですが? あと私を怪しんでいるのは理解していますが、ここまでプライバシーが無いのならこちらも相応の手段を取りますよ」

 

ナターシャさんに止められるも、振り払って浴室のドアノブに手をかけると。

 

「……もう一度掛け合ってみるから、少しだけ待ってくれない?」

「いいですけど、ダメなら壊しますから」

 

はぁ、とため息をついたナターシャさんはもう一度携帯を取り出して掛け始める。

 

「……見てたでしょ、この子本気で壊すつもりよ? ……ええ、それはわかるけど……」

 

聞いた内容だとニックは譲る気はないようだ。

なので浴室に入って、カメラがある位置にドライバーを根元まで一気に差し込んで破壊する。

ドスッ、ドスッ、ドスッとリズムよく突き刺してカメラを破壊していく。

 

「……ニック、御愁傷様といったほうがいいかしら?」

「いい教訓になったのでは? 不信も度が過ぎるとロクな目に遭わないとよくわかる例になりましたよ」

 

都合20回ほど浴室の壁に穴を開ける、これだけカメラを破壊してもトイレが見えなくなるだけ。

 

「私は優しいですからね、お風呂のカメラはバスタオルを巻けばいいだけなので壊さないでおいてあげます」

 

それを聞いたナターシャさんは肩をすくめるだけだった。

 




バレーパーキング(車移動)の係員は当然の権利でコズミック・ビーイング。
ちなみにただのカメオ出演ではなくちゃんとした公式キャラクターなんで気になった人は「ウォッチャー・インフォーマント」で調べよう


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蠢動

指パッチンから戻ってこれたので初投稿です


一週間、彼女が来てからそれだけの時間が流れた。

教官として過ごした時間でわかったのは、彼女はとても優秀で勤勉であること。

座学は文句の付けようがなく、少なくとも基本を間違えることはなかった。

実際に出題すれば間違いなく答えて、一晩で全て覚えたと言う言葉は偽りでなかったのが証明された。

既に知識の面ではエージェントとして問題なく活動できる、優秀と言うレベルを超えていた。

そんな彼女は主に体の動かし方、特に格闘術を重視したトレーニングに日々励んでいる。

才能があると言うのはこう言うことなのだろうか、と思うほどの適応力を彼女は見せる。

私の動きを見て技術を取り込む、口にすれば簡単だが実際にやるとなると難しいのは言わずともわかる。

だけど翌日には動きが洗練されている、彼女曰く、効率的な体の動かし方は考えた、との事。

彼女には知識を動きに反映できる才能がある。

今やネットでメジャーな格闘技や武術を簡単に見られ、その学んだ動きを自分の体に落とし込んで最適化する。

トレーニングが終わった後でも自室で体を動かしている、今日覚えたことを復習して身につけている。

そうして翌日には動きが鋭くなっている、世界中のアスリートや格闘家などは彼女のことを見て羨望や嫉妬を抱いても不思議ではない。

長い時間を掛けた繰り返しの連続で身につける動きを1日で習得する、それは異常と言っていい才能。

その才能が彼女を極めて大きく成長させる、一週間前のぎこちない動きだった彼女はもう存在しない。

 

「右、次左行くわよ」

「りょ、おっと」

 

返事を待たずにワン・ツーからの左足を狙った右のローキック。

 

「反撃!」

 

その声に反応して彼女は左足の足底で踏みつけるように受け止め、私の体勢を崩しながら踏み込んでくる。

コンパクトな構えから私の左頬に向かって右のジャブ、左手で受け流して外へいなす。

お返しに右のボディブローを打ち込もうとするが、同じように左手で受け止めて外へといなされる。

その時には左肩を掴まれ、上体を引っ張られれば上体が下がってそこに顔面を狙った左膝が飛んでくる。

顔面を砕こうとする彼女の左膝を左腕で受け止め、左足を下ろされる前に両腕を突き上げ彼女の胸の前で開いて強引に腕を開かせる。

片足立ちの彼女の上体が反れてたたらを踏んだところで前蹴り、腹部に足底を押し付けて蹴り出す。

彼女はバランスを崩して臀部を床につけるも勢いを殺さず軽やかに後転、一回転した後、素早く起き上がって構えを取り直す。

 

「なるほど……」

 

ダメージを受けるような蹴りではなかったので、特に問題なさそうな彼女。

続きを、そう言いたげな彼女に付き合うのが私の任務。

構え直してジリジリと距離を縮めた所に携帯が鳴る、すぐにお互い構えを解いて離れた。

外しておいた携帯を手に取り耳に当てる。

 

『エージェント・ロマノフ、任務だ』

 

 

 

 

 

「それで、いつまで彼女を監視する気?」

「隠していることを確かめるまでだ」

 

ニックはかなり不審がっている、確かに怪しむ理由が複数あるための考え。

それは理解できる、ニューヨーク襲撃前後の彼女の行動は怪しい。

襲撃の一週間ほど前に突如異星人に対抗できるスーツと武器を作ってそれを着こなして戦い、アベンジャーズ入りを拒否されてトニー・スタークの元から去れば、わずかにも追跡できなかった謎の人物と盗聴できない会話を行なっていた。

それ故に彼女に不審が付いて回っている、その頭脳だけでも要監視対象であるのにS.H.I.E.L.D.が盗聴も追跡もできない人物と接触していたのは怪しまざるを得ない。

 

「それはどれくらい?」

「可能な限りだ」

 

ニックはかなり拘っている、確かに怪しいが怪しみすぎているようにも見える。

 

「確かに彼女は怪しいけど、どうしてそこまで怪しむ必要が?」

「……タバネ シノノノがトニー・スタークに匹敵する頭脳だけならただ監視するだけで終わっただろう」

「なるほど、彼女よりも追跡できなかった謎の人物の方が気になるのね?」

「それもある。 知っての通り、使用していた集音デバイスは世間一般に流通しているものとは違う。 民生品だろうが軍用品だろうがS.H.I.E.L.D.以外の盗聴防止対策では防げない」

 

S.H.I.E.L.D.が保有する技術は最新鋭の軍事技術の数世代先を行く、一般には未だ未来と思われている技術を実用化して使用している。

エージェントが使用する数多のデバイスも同様で、動作原理そのものが違うので旧知の盗聴防止対策はまるで効果がない。

だと言うのに完全に防聴され、まるでその音声部分が編集で切り取られたかのように無音だった。

一応この盗聴デバイスの防聴対策もあるが、単純にノイズが入って聞き取れなくなる程度の物で完全に無音にするほどの効果はない。

そんな完全に無効化出来る防聴技術をただ男と話すために使うだろうか? たとえ使ったとしても一瞬でエージェントの追跡を振り切る男なんて怪しいにも程がある。

 

「たとえ彼女が防聴デバイスを作っていたとしても、そこまでして聞かれたくない話をしたのはなぜだ? そして話していた男はどこへ消えた? ……タバネ シノノノを放置しておくのは危険すぎる、杞憂であればいいがそうでなかった場合に備えておく必要がある」

「だから彼女の訓練は終わりってこと? 彼女、行動力あるから飼い殺しは難しいと思うけど」

 

調べれば一度も渡航履歴がないハイスクールガールが、単身でいきなり渡米するほどの行動力を見せた。

どうやったかは分からなかったけど傲慢で気難しいと言えるトニー・スタークに取り入ったのもやすやすと出来る事ではない。

この行動力を以って動かれると面倒なことになりそうな予感もする。

 

「彼女も新米とは言えS.H.I.E.L.D.職員、実績を積むために相応の仕事をしてもらう」

 

彼女は認めてもらうためにS.H.I.E.L.D.に加入した、その実績積みを理由にすれば文句も言いづらいでしょう。

 

 

 

 

 

「冗談はよしてくださいよ、まだ一週間しか経ってないんですよ?」

 

ナターシャさんが黒ハゲ、じゃなかったニックを連れて戻ってきた。

そして言われたのが訓練終了、一週間分の訓練経験でどうしろって言うんだよ!

 

「ニックが言う実績を積みにきたのもありますけど、一番は経験を積むことなんですけど?」

 

ちょっとキレてますよアピールしながらニックを見る。

 

「知識は備えた、格闘技術も十分、だから仕事をしてもらう」

「……仕事の内容は?」

 

空飛んで異星人とドンパチした身ではあるが、ある意味安全なIS装着しての事だから生身で銃弾が飛び交うようなところは遠慮したいが。

 

「実績を積むには地道な努力が必要だ、だから新米に相応しい仕事をしてもらう」

 

そう言われ、ニックとナターシャさんは別の任務があると去っていった。

そして与えられた仕事はデータ入力、紙媒体のアナログデータをデジタルデータに入力変換するお仕事。

当然機密なんて含まれていない、漏れたとしても大した問題ではない情報。

それを自室のパソコンでタイピング、どっかの部署に配属になるのかと思ったがソロ活動。

確かに営業じゃない出歩かない新人がやりそうな事だけどさぁ。

私がやるべき仕事かと言われれば、新入社員として見ればやるべき仕事ではある。

信頼されてないし新入社員だからこの仕事、厚めの紙束は普通一日掛かりの量だが速読からの高速タイピングで午前中に終わった。

正直に言えばもっと早く終わらせられる方法もあるが、まあ一応私がやっておいた方がいいんだろう。

ちなみにその早く終わらせられる方法とは、カメラで撮影して画像をパソコンに送り専用プログラムに解析させてテキストに起こすと言う方法。

これなら一時間も掛からずに終わらせられる、これは間違いなく人材と時間の無駄遣いですねわかります。

今度テキスト起こしのプログラムでも作ってニックに渡してやろうか、AIのような複雑なものじゃないからリバースエンジニアリングで解析されても問題無いような構成にできるし。

とりあえずやるべき仕事は提出し終わって午後は暇、これが普通の会社なら別の仕事をやるんだろうけど終わったら自由の了承を貰ってるんでネットに齧り付く。

 

「ちーちゃーん、キーワード検索、『トニー・スターク』」

 

椅子の背もたれに背を預けながら日課となっている社長の情報収集、なんか社長のストーカーみたいになっているが単独映画がいつ起こったのか正確に覚えていなかったので情報収集は欠かせない。

表示された情報の社長はあっちやこっちでイベントに出ている、実に精力的ではあるが原作通りトラウマを患っているならこれから露出が減っていくだろう。

今日は自動車のイベントに出るようだ、社長がメインで乗っている自動車メーカーイベントに出演予定。

派手好きだしアイアンマンスーツを着ていくのかもしれんな、むしろ着て行かない理由がない。

へいへい社長ビビってる〜! と煽るにも相手が強大すぎる、私もビビってるし……。

確かインフィニティ・ストーン無しだと勝ち目ゼロだったっけ……、ちょっと難易度調整ミスりすぎとちゃう?

石無しでサノス軍に勝つためには地球人類そのものを数世代先の技術で武装させる必要があるが、当然の権利のごとく悪用する連中が出てくるだろうからもう諦めている。

となると原典通りアベンジャーズがなんとかするしかないし、せめて石無しサノスぐらいは殺せる程度には強化しないとダメそう。

 

「……ちーちゃん、公開している中で社長の推定総資産は?」

「約750億ドルだ」

「……公開分だけで7.5兆円位か、金持ちすぎでしょ」

 

数百万円どころか数千万円でもはした金って言えちゃうレベルだ、しかし世界は広くトップ10に入るものの社長の資産でも世界一ではない。

こんだけあれば好きなもん作れるんだけどなぁー、ほんと可能な限り早く社長に取り入りたいよなぁー。

サノス軍は原始的に見えて実はハイテクなんだよなぁ、向こうには宇宙一の頭脳と言っても過言ではないエボニー・マウも居る。

だから一刻も早く研究したい、製造したい、実験したい、社長の金で。

ここだけ切り取るとクズみたいだが、昔から金稼ぎに精を出していたとしても社長の資金や設備には届かないと断言できる。

当然今から金稼ぎをやり始めても無理、結果的に社長のマネーパワーに頼るしかない。

レアメタルとかもガンガン使ってる私のISや社長のアイアンマンスーツは1着だけでも100億円くらいかかってるからなぁ、これはスーツそのものの制作費であって製造設備は考慮してない値段。

製造設備の費用はスーツの十倍では利かない金額、以前製造設備費も兼ねて1000億円くらいと考えたが実際使用すると足りないのがよくわかった。

所有権は社長にあるとは言え10万ドルポンッと、じゃない1億ドルポンッと使わせてくれた社長のお大尽には感謝しかない。

いろいろ作りたいし、だからあと10億ドルぐらい使わせてくれねぇかなぁー、無理だろうなぁー。

 

 

 

 

仕事しつつIS改良したいなぁと考えていたら結構な月日が経った、ガチでデータ入力のお仕事しかもらえなかった。

一週間くらいしたら少しくらいは何か進展があるだろうと思ったけど何も起こらず、そのまま二週間、三週間、一ヶ月、二ヶ月と時間が経った。

朝起きて仕事して午後からはトレーニングと社長情報を探してネット徘徊、休みの日には時差考慮で朝配信と言ったS.H.I.E.L.D.生活。

完全に何もなかったかと言えばそうではなく、数週間から一ヶ月に一回の頻度でナターシャさんが戻ってきて訓練をつけてくれる。

ちょっと聞いたら潜入任務やら違法な武器取引してるやつをぶん殴ったりで頑張っているらしい、そういう仕事だし特に驚くこともなかった。

そういやキャップはニックの尻拭いでもしているんだろうか? S.T.R.I.K.E.チームは有るようだし、ナターシャさんたちと一緒にエージェントしてるんだろう。

しかし動きがないのもそれはそれで焦るな、次に起こるのは社長が自宅住所晒してテロ組織に偽装したキリアンたちに自宅凸を食らう『アイアンマン3』。

調べて予想した通り社長の露出は今やがっつり減っている、せっせとスーツ作りに邁進しているようだ。

自称テン・リングスが爆発テロってるしもうそろそろ起こってもいいはず、確か『アベンジャーズ』から7ヶ月後なので時期的にはおかしくない。

見逃さないためにもこれからも社長ウォッチを続けなければ……、と思ってたら社長が自宅住所を公表していた。

ハッピーがやられたせいで頭にきていたんだろうけど、流石に住所を公表するのはまずい。

住所バレで自宅凸食らった事が有る身としては全くもって感心できない、社長は知らないとは言え研究バレたらまずいんでテロ組織に偽装しようなんて考える連中やぞ。

トップは社長に恨み抱いてるし、凸ってコロコロしようと考えても不思議じゃない。

殺人を起こした理由が恨みで有る事がトップだと聞いたことがある、エクストリミスや兵器もあるから行動に移ってもおかしくない。

 

「……これは──」

 

これから起きる社長の受難を考えてチャンスかな、と口にせず考える。

ある程度同じように進むなら、ペッパーさんはエクストリミスを投与される。

社長にとってペッパーさんは大事な人だし、エクストリミスの製剤方法を渡せば解毒剤を迅速に作れる。

認められる実績を積んでいくのもいいが、現状飼い殺しでしかない状況だし社長に恩を売っておきたい。

ただこの問題自体は社長だけで解決してもらわなければならない、下手に手助けしてトラウマ残したままになったら不安しかないし。

騒動が起こったらA.I.M.から情報を抜けるだけ抜き取っておかなければならない。

ネットに繋がっているデータサーバーにエクストリミスの製剤方法保管してたりしねぇかな? それならなんとしても抜き取っておくんだが。

……やっぱ受け身じゃダメだな、7ヶ月掛かって理解してたんじゃ賢いとは言えない。

ニック、あんたのことは嫌いじゃないが人命救助のためだ、こっそりとだがいろいろやらせてもらうぞい。

 

「……んー」

 

大きく背伸びをしてベッドに向かう、飛び込むようにベッドに寝転がって瞼を閉じる。

動きたいがまだ早い、社長が行方不明になってからじゃないとニックがうるさいだろう。

 

「……死なないでよ」

 

動けない今、世界を救うために必要不可欠な社長の無事を祈っておいた。

 




エージェントオブシールドは見てないので技術の話は適当です

社長が乗ってる車=ア○ディ
社長の総資産はマーベル・スタジオ・ビジュアル・ディクショナリーだと754億3000万ドルらしい
スーツの値段は適当、当然それだけ出せば作れるわけじゃあない


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侵食

トニー・スタークの日本語吹き替え役の藤原啓治さんがお亡くなりに、ここ最近嫌なニュースばっかりやん……。


 

始まった、マスコミのヘリが上空からスターク邸を撮影している。

そこに画面外から一筋の煙、ミサイルが飛来してスターク邸を支えている崖へと突き刺さって爆発していた。

どっかの映画かなんかの映像じゃないかと勘違いしそうな生放送。

迫力ありまくりですわこれ。

そういやS.H.I.E.L.D.もテン・リングスのことを調べていたはず。

アベンジャーズに必要な社長が襲撃されて、それなりに慌てているかもしれない。

だからと言ってこっちへの監視が緩むとは思えん、7ヶ月経ってても何かしてるとわかれば監視の目を強めてくるだろう。

なーんて言ってももう向こうの監視画面は差し替え済みで、私がベッドで横になってる映像を違和感のないよう繋げたループで流し続けているんだけどね。

まあS.H.I.E.L.D.にとって不利なことをするわけじゃないんで、咎められたところで問題はない。

むしろS.H.I.E.L.D.が解決出来なかったことを解決するから評価されるのでは? いちゃもん付けられても反論出来るしさ。

 

「うっし」

 

パソコンデスク前の椅子に座って爆破テロの情報を集め始める。

最初は普通にネット上に転がっている情報を漁る、現在進行形のHOTな話題だから無数に転がっている。

識ってる身としては全て根拠もない予想や憶測ばっかり、魔法だ超能力だと騒ぎ立てている奴もいる。

状況からすればそう言う主張も分からなくもないが、流石に拾うだけ無駄な情報ばっかり。

ある程度情報攫ってから本命に移る。

S.H.I.E.L.D.の情報から取ってきて、更にはFBIや警察などからクラッキングして引っ張ってくる。

え? S.H.I.E.L.D.の機材にクラッキングを仕掛けない約束? ヒドラへのクラッキングだからセーフ!

残念だろうがこのパソコンからS.H.I.E.L.D.のローカルエリアネットワークに直接繋がっていなくとも外とは繋がっている。

一旦外に出てからS.H.I.E.L.D.の機材にアクセスしているから、このパソコンと直接繋がっていないのはまるで意味がない。

ざるのように見えるが別段そんなことはなく、浅いところでもがっしり分厚いセキュリティーが張り巡らされているので普通はそうそう入り込めない。

J.A.R.V.I.S.を動かすレベルのサーバーならサクッと入れるが、そうではない民生品だと色々とパワーが足りない。

なので無数にある他所のコンピューターリソースをお借りしてS.H.I.E.L.D.にアタック、膨大になった演算リソースを使って足音を殺して見つからないようにこっそりと忍び込む。

忍び込む先はセキュリティレベルが低い所、入り込めばこちらのものでセキュリティホールを作って正当なアクセスに偽装する。

ここまで済めば他所のリソースをお借りする必要はないので、あとはS.H.I.E.L.D.のコンピューターを橋頭堡としてヒドラの如くジワジワと時間をかけて侵入していった。

7ヶ月もあれば全体の半分ほど感染済み、S.H.I.E.L.D.のコンピューターそのものが侵入経路として働くので大抵の情報は覗き放題だ。

慎重にじっくりやったおかげでバレちゃあいない、感染拡大はちーちゃんに任せて私は今まで一度もS.H.I.E.L.D.のコンピューターやサーバーへのアクセスを行なっていなかったので気がついていないはず。

 

そうした仕込みから得られた情報、爆発によって発生した熱は約3000度、半径10から15メートルにいた人物は即座に蒸発。

使用されただろう爆発物の破片は半径5キロから一切発見出来ず、何が爆発したのかまるで手がかりはない。

正直この時点でお手上げレベルだ、普通であれば化学的に見てこの状況は発生しない。

爆弾ってのは中身が液体であれ固体であれ、爆薬を容器に入れて爆発させるまで状態を維持しておく必要がある。

その爆薬を入れておく容器の破片が見つからないってのはどう考えてもおかしいのだ。

爆発すれば吹き飛ぶ、それこそ3000度の熱を発しようとも容器は完全に消えて無くなることなどない。

爆薬の化学反応やら保存容器の破片やらでなんらかの形で必ず痕跡が見つかるのだ、それが一切ないのでどんな爆弾だったのかまるで見当がつかず捜査が進んでない状況である。

爆薬であり保存容器でもある人体も燃え尽きているんだろう、それらしいものも見つかっていない。

なので結果的に化学反応無視でいきなり爆発が起こったようにしか見えない。

爆破に巻き込まれた人は大体入院してたりで、有力な目撃情報も得られていない。

だからこそ爆破テロを防げず、警戒していても好き勝手されている状況。

 

まあ普通無理だよこれ、人体が3000度の熱を発して吹き飛びましたって言って信じる奴は頭のおかしい奴だけだよ。

そこら中歩いている人間がおクスリやっただけで突然高威力の爆弾そのものになるとか予想できませんって。

それにしてもちょっとマーベル世界の人間の可能性ヤバすぎやしません? 超人血清よりはるかにヤベェぞこれ。

わけわからんどうなってんのこれ状態の情報、これ一気に解決したらますます怪しまれること請け合いだな……。

でもまあ順序立ててやれば解決に行き着ける問題なんだよね、ただ解決まで行けるのは法を無視できて大抵の場所からクラッキングで情報を抜き取れる人物でなきゃならないけど。

その条件に当てはまるのは私か社長しかいないわけで。

 

「……まずは」

 

パソコンのUSBポートにクラッキング用プログラムを入れたメモリを差し込んで起動。

ちーちゃんと連動させてスターク邸のサーバーにアクセスを試みる、そうすると反応するのは電子的防御を社長から任されているJ.A.R.V.I.S.だ。

 

「……ふんふん、やあJ.A.R.V.I.S.、久し振り」

『シノノノ様、お久しぶりです』

 

コンコンコンとノックしてもしもーしと分かりやすくJ.A.R.V.I.S.を呼び出した。

 

「ごめんね? J.A.R.V.I.S.に用事があってアクセスしたんだ」

『大変申し訳ありませんが只今大変立て込んでいまして……、用件を後に回すことはできませんか?』

「ごめん、こっちもちょっと急いでる。 話は5分も掛からないから、J.A.R.V.I.S.がダメだと思ったら断ってくれてもいいよ、勿論無理やり奪って行く気もない」

『わかりました、どのようなご用件でしょうか?』

「ほら、社長があいつらを挑発してたでしょ? それでちょっと心配になって今マンダリンとかテン・リングスを調べてんの。 だから襲撃前のスターク邸の監視カメラの映像が欲しいんだけど、貰えないかな?」

『それはどう言った理由で提出を求めているのですか?』

「普通に調べてもわかんないから、こうなったら手当たり次第根こそぎ調べようと思ってね。 現状明確に繋がりがあるのは今飛んで行ってる社長だけ、それでテレビ見てたけどスターク邸に誰か訪ねてきてたでしょ?」

『はい、マヤ・ハンセン様がトニー様を訪ねてきました』

「訪ねてきた理由は?」

『トニー様に救援を求めてきました』

「その理由は?」

『不明です、トニー様とポッツ様が口論を始めましたので話は中断してしまいました』

「その後は?」

『襲撃が』

「……そっかー、じゃあそのマヤ・ハンセンって人の情報をくれない? 救援を求めてくるとか何か関係ありそうだからそっちから調べたいんだけど」

『わかりました、データをお送りします』

 

そうJ.A.R.V.I.S.が言うと、監視カメラの映像と収集したと思われる顔写真と経歴が送られてくる。

 

「ありがと、ところでバンバン攻撃されてたけど社長は無事?」

『はい、ただ気を失っていて呼び掛けているのですが応答がありません』

「……それは良くないね、今どこに飛んでってるの?」

『テネシー州ローズヒルへとフライトしています』

「修正は?」

『出来ません、どうやら私は……メンテナンスの必要があるようでして……』

「……わかった、こっちでできるだけ支援しておく。 ああ、それと私のスーツはまだ残ってる? 私自身は動けそうに無いから遠隔で動かしたいんだけど」

『残っております、現在スターク邸の地下に保管してありますが稼働させるにはトニー様の許可が必要になります』

「それじゃあ勝手に動かすのは問題あるか……、スーツを飛ばしたら飛ばしたで目立つしなぁ……。 わかったよ、あるものだけでなんとかするよ」

『申し訳ありません、トニー様のことをよろしくお願いします』

 

そう言って接続が切れる、ほんと出来たAIだよJ.A.R.V.I.S.は。

スーツを動かせないことに落胆しつつ、送られてきた情報を展開する。

 

「………」

 

マヤ・ハンセン、植物学者兼DNA解析学者。

現在はアメリカのシンクタンク、A.I.M.に所属する。

社長と会ったのは13年前、それ以降一度も会っていない人物が急に訪ねてきて助けを求めるってはどう言う事だろうなぁ?

A.I.M.、A.I.M.ねぇ、検索して出てくるA.I.M.のホームページ。

中身を見てみればA.I.M.社長のアルドリッチ・キリアンの顔写真もあった。

ニコッと笑った外人的イケメン、エクストリミスで色々治って自信がついたんやろな。

そこで終わっときゃいいのに色々やっちゃってるからもう止められない。

 

「さーてと……」

 

軽快にタイピング、複数のルートを構築してA.I.M.のデータサーバーに侵入。

まずは手当たり次第に調べちゃおっかなー、とりあえずマヤ・ハンセンが所属しているA.I.M.を調べちゃおっかなー。

侵入できたし所属員リストも見ちゃおっかなー、ちゃんとマヤ・ハンセンも載ってるなー。

おっとこれはなんだー? エクストリミスゥー? 怪しいなー、中覗いとかなきゃなー。

なんだこの動画はー、エクストリミス投与したら爆発したぞー、まさか爆破テロの爆弾はこれじゃないのかー?

 

「……まだまだ未完成か、改良の余地がありまくりだなぁ」

 

表示したエクストリミスの効能や構成を見て呟く。

これそのものは画期的だ、未だ解析されきっていないヒトゲノムの未使用部分に生体電位を操って役割をはめ込む技術。

アルドリッチ・キリアンが付け加えたのは高温発熱と人体再生能力を持った超人血清のようなもの、明確に決めたわけじゃなく偶然の産物である可能性もあるが。

適合しなきゃ爆散することを除けば有用だ、科学ノ進歩、発展ニ犠牲ハツキモノデースとは言え失敗=爆散死亡はかなりいただけない。

だから隠蔽して、テロリストに偽装した。

大統領にも反対されてたんだっけかな、副大統領は孫を救ってやりたいから秘密裏に支援したようだが。

 

「しかしありえん、こんなん普通スタンドアローンにしておくでしょ」

 

セキュリティ越しであろうと外部とネットで繋がっている、それはあまりにも致命的で危機感の欠如を示している。

疑われていない、外から侵入できるはずがない、そんな考えが見え隠れしている。

どうしてもバレたくないものなら有線無線関係なく外から接続できないようスタンドアローン化しておくべきでしょ。

これのせいで社長が真実に行き着いた、やっぱ脇が甘いわ。

よし、データのダウンロードが完了。

エクストリミスの製剤方法、人体実験の映像記録、被験者とのインタビュー映像、編集されていない偽マンダリン撮影映像、もう逃げられねぇからな?

さて、30分もかからず証拠はあっさり揃った。

製剤方法は後で社長に渡すとして、残りはどう使おうか。

これでニックを煽ってもいいし、功績として積んでもらうのもいいだろう。

だけど製剤方法渡したらニックはニックで利用しようとするんだろうしなぁ……、いや、問題解決したらS.H.I.E.L.D.が接収するんじゃね?

今渡してもそんなに影響はないかな? 問題起きてもコールソンさん達が対応するだろうし。

サイドの話はサイドでやってもらうしかないな、そこまで首突っ込めなさそうだし。

方針が決まれば事が進むまで待機だな、社長が墜落するのは日が暮れてからだし。

 

 

 

 

「ちょっと待てよ?」

 

日が暮れて待機が明けてから気がつく、ここで支援するとしても出来ることなんてほとんどない。

社長に黒幕を教えるのは論外だし、何かを届けることもできない。

社長の様子を見ようにもアクセスできるカメラがものすごく少ない。

テネシー州ローズ・ヒルに居るのはわかっているがそれ以上のことがわからない。

SNS上で探してみるも当然目撃情報は無し、これじゃあJ.A.R.V.I.S.に嘘をついてしまう。

トリスケリオンから抜け出すのもアウトだしな……、しかし放置するのも忍びない。

ニックに連絡を入れてS.H.I.E.L.D.を動かすのも不安が残る、流石にキリアンもS.H.I.E.L.D.が動いていると知れば対応を変えてくるだろう。

 

「……んー」

 

クリスマスまで待つか? あと数日でクリスマスの日にエクストリミス事件は社長の活躍で解決する。

待っていれば解決する、と言うのも疑わしくもある。

どこまで干渉してよいやら、下手に手助けして社長のスーツ依存症が治らないのはまずい。

多少手助けはあったものの、基本社長一人で解決して克服してもらわなくてはならない。

私が入り込むと恐らく主流がねじ曲がる、それは確定していて入り込まざるを得ないのも確定している。

問題はどこまで干渉すべきか、匙具合がまるでわからん。

正直悩んでても仕方ない、S.H.I.E.L.D.の衛星使ってローズ・ヒルを隈なく探しておくか。

 



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配信者3

「メリークリスマース、世紀の大サンタの束さんだよー」

 

赤いサンタ帽を被っての挨拶から始まる配信。

ひらひらと手をカメラに向け振るとコメントが流れ始めた。

 

『こんばんはー』『ん?』『ところで世紀の大サンタって何だよ(マジレス)』『タッバのクリスマスプレゼントだ!』『ちょっとまってなんやこれ』『アニメっぽくてええやん』『八歳と九歳と十歳のときと、十二歳と十三歳のときも僕はずっと! 待ってた!』『生で動画流すのやめてくりー』『自分の3Dモデル作ったんか』『ジョナサン帰れや!』『クリスマスプレゼントだろ!』『なにを……』

 

「リスナーの皆さん、聖なる夜に動画配信見てるなんて彼女とか……あっ、なんでも無いよ」

 

『に、二次元に彼女が居るから……』『彼女などいらぬ!』『束ちゃんでハードル上がりすぎてんよ〜』『周りにいい女がいないだけだし』

 

「二次元の方にも選択肢はある! さて、今日は技術雑談かなぁ、あと社長」

 

『ついで扱いされる生死不明の社長』『草生える』『挑発しといてあっさり襲撃とか笑っちゃうんだよね』『草』

 

リスナーの画面に映っているのは私をアニメ調にデフォルメ化した3Dモデル、頭にメカうさ耳を着けて青と白を基調としたエプロンドレスのあの姿。

当然胸元は閉じていて、胸の谷間は見えないようにしている。

 

「動画じゃないよー、モーションキャプチャーで動かしてんの、ほれ」

 

視聴者からは白い背景に自分の3Dモデルしか映っていない配信画面を切り替えて、いつもの配信へと切り替える。

一応室内の様子がバレないよう白の布を掛けた衝立を並べ、ほぼ真っ白にしか見えていない。

 

『ヌッ!』『ああ^〜、いいっすねぇ^〜』『うーん、でかい』『モーションキャプチャー????』『ノルマ達成』『なんもつけてないやん』『またまたご冗談を』

 

一見するとモーションキャプチャースーツなどつけていない黒シャツとパンツ、多くの人が想像するような機器は見当たらない。

 

「まあ大体の人は全身にセンサー貼ってあったりする黒いスーツを想像するだろうけどね」

 

キーボードとマウスでパソコンを操作、画面を左右に二分割。

左に3Dモデルを、右に通常の配信画面を表示したのを確認して5メートルほど離れる。

両腕を水平に広げて静止状態から二回転、バレエのダブル・ピルエットと言う水平回転を行う。

 

『ウッソだろwww』『どうなってんのこれ?』『どうやって動き感知してんだよこれ』

 

その動きに追従して、わずかに遅れて3Dモデルが同じ動きで回転する。

勿論3Dモデルに物理演算を仕込んでいるので、くるりと回った時にスカートが貫通なく綺麗に広がった。

 

「せっかく3Dモデル作ってみたから、どうせならモーションキャプチャーも作ってみようかなって思ってね」

 

その場で後方宙返りや側方宙返りをやってみせる、3Dモデルも破綻なく同じ動きを取る。

 

『ちょっと誰か説明してくれ!』『普通にすごくて草』『?????!!?』『技術的な説明されてわかるやついんのかよw』

 

「技術的って言っても、映像解析してるだけだよ」

 

今度は腕を前に突き出し、指を一本ずつ動かすと3Dモデルも同じように指が動く。

 

「普通に解析した映像からモーションをトラッキング、あとマッチムーブで合わせて正確性を底上げしてんの」

 

『?????』『なるほど、よくわからん』『そういうことかぁ!(わかってない)』『それにしたってマーカーなしでこれはすごいぞ』

 

「まあ光学式とのハイブリッドだし、こんくらいよゆーよゆー」

 

蹲み込んで腕立て伏せのポーズ、同時に床を木目の模様に変化させる。

 

「わかる? これわかる? このモデルのサイズ同じだけど、スーパーデフォルメとかの腕の長さが違うのでも補正して手が着くんだよ」

 

3Dモデルがきっちり手のひらが地面についている、変に浮いていたりしておらずに不自然さはない。

 

「マーカー無し調整無しのリアルタイムでこれ実現してるモーキャプ無いと思うよ、さすが世紀の大天才」

 

『粋がってるの草』『素直にすごいと思うが台無しだぞ』『草生えるwwwww』『ドヤ顔かわええやん』『草』『可愛すぎでしょどうしてくれんのこれ』

 

「サイズも小さめに作ってんのよ」

 

起き上がってカメラの撮影範囲外に置いているモーションキャプチャーの機材を引っ張ってくる。

 

「ほれ、これ一つでモーキャプができるようにしてんだよ」

 

見えるようにパソコンのカメラの前に持ってくる。

キャスター付きの50リットル程度の長方形の蓋つきゴミ箱、その中にカメラやらセンサーやらを収納している。

 

『圧倒的手作り感』『このサイズで????』『予想以上に小さかった』『まじもんならスゲェな』『DIYかな?』

 

「基本パソコンの構成そのまま使っててね、その上にカメラとか色々載っけてるんだよ」

 

ゴミ箱の蓋を開けて、パソコンのカメラを手に取って中身を映す。

中には基盤などがそのまま入っており、それぞれを繋ぐ配線が詰められている。

側面にも穴を開けていて、そこから映像解析用のカメラレンズを覗かせている。

 

「こういうのって基本ハードウェアの性能が重視されがちだけど、ソフトウェアをしっかり効率化すればこんだけやれるんだよね」

 

実のところ機器そのものは全て市販のものでこのモーションキャプチャー機器のソフトウェアは、一部を除いてパソコンのOSなどをそのまま利用している。

ただそのままでは想定した性能に届かないのでソフトウェアに手を加えた。

具体的には映像解析関係、容量を抑えつつ効率的なソースコードを作成。

ISのソフトウェアに比べれば、月とすっぽんレベルの差があるので苦戦などしようもない。

超高性能AIであるちーちゃんもいるので、不具合修正もあっという間に終わっての実用化。

 

『マジだったらすごいやん』

 

ちーちゃんの時もそうだけど、私が実際に作成したと信じていない層は一定数いる。

もちろん信じてもらう必要はない、信じてもらったところで何かが変わることもないだろうし。

モーションキャプチャー機材を元の位置に戻して、パソコンの前に戻る。

 

「せっかくだし今日は分割画面でやろっか」

 

左に3Dモデル、右に現実の配信を載せる。

 

「フェイストラッキングも作ったんだよね、こんな感じにしてみた」

 

モニターの横に置いていた機器、市販の長方形のペン立ての中に分解したビデオカメラを押し込んで作ったフェイストラッカーをパソコンのカメラに映す。

配線はパソコンとモーションキャプチャー機器に繋がっている。

 

「適用するなら顔もそれなりに作り込まないとダメだけど」

 

目の周りだと視線の方向や瞳孔の大きさ、眉毛やまぶたの動き。

口周りは唇や舌から口角、連動して頬まで動かせる。

3Dモデルはアニメや漫画調なので鼻の穴までは作っていないが、作っていれば鼻の穴の大きさまで検知して動かせる。

 

「これ3Dモデルでやってるけど、イラストとかの2Dキャラクターでも動かせるんだよね」

 

もう一画面追加して三画面、左に3Dモデル、真ん中に現実、右に2Dイラストを表示。

3Dモデルと同じようにデフォルメされた私の2Dイラスト、それがフェイストラッキングで読み取った動きを設定した通りに模倣する。

現実と3Dと2D、それぞれサイズが違う顔の表情の移動量を適切な状態で落とし込む。

 

「作ってて思ったけど、ポリゴンキャラもイラストキャラもいずれ流行りそうだなぁ」

 

『すごいっちゃすごいけどどうだろ』『このレベルなら確かに流行りそう』『なんか知らんがこう言う技術見るとワクワクする』『個人じゃ無理じゃねこれ』『今北、なにやってんのこれ?』

 

「ハロハロー、なにやってるか字幕載せとくか」

 

画面左下に「モーションキャプチャー中」と書いて載せておく。

 

「続きだけど、ユーチューバーになりたいけど顔出ししたくないって人いるだろうしねぇ。 流石に版権キャラクターは怒られるからオリジナルでさ、それでやってる事はアニメと同じでただ声当てる人がモーションもやるってだけでね」

 

実のところユーチューバーと言う言葉が生まれる以前、2000年代中頃から3Dモデルでやっているユーチューバーっぽい人は存在する。

その頃は生配信は無く、何らかの主張などの動画を投稿するだけだったようだけど。

ただ技術的な問題で数年後に現れるだろう先駆けのキャラよりも動きが悪く、フレームレートも30を下回っていることもある。

いわゆるカクついた動きで、いかにも昔の3Dモデルという感じで粗いため今見る分には流石に厳しい。

 

「断言していいわ、もうちょっと技術が追いついたらどんどんポリゴンのキャラやイラスト系のバーチャルなユーチューバー出てきて流行るぞ」

 

『技術が追いついたら(追いついていないとは言っていない)』『この配信は未来から送られていた……?』『タッバは未来人だったのか』『ここが未来だ!』『確かにサブカルな日本なら流行りそう』

 

「個人でやるには正確なモーキャプは高いから、採算取れるって確信した企業が突っ込んでくるだろうね」

 

ちょっと調べたら個人で所有できそうなモーキャプキャプチャー機材は、ゲーム機の付属機器で1万円弱の値段。

個人所有で考えれば破格とも言えるが、残念ながら正確性には難がある。

正確性を求めれば室内設備の大掛かりな物となり、値段も数百万はするので本当の意味で道楽でもないと買おうと思う人は少ない金額だ。

 

『これ幾らぐらいしたん?』『千冬ちゃんもそうだけど、売り出したら売れそうだよな』『買えるのはせいぜいkinectくらいだなぁ』『たっけーな、モーションキャプチャー』『調べたら400万とか出るんだが』

 

「モーキャプは50万くらい、フェイストラッカーは15万くらいやね。 流石に小型の個人所有出来る奴よりも正確性は保証するよ」

 

この金額は市販機材購入費用であって、組み立て費用やソフトウェア開発費などは含んでいない。

 

『思ったより安いやん、どこ製なん?』『パチモン疑うレベルの安さ』『価格破壊待った無し!』『あの赤貧束ちゃんが何十万も使うなんて……!』

 

「赤貧言うな、ちゃんと給料貰っとるわい。 それとこれは篠ノ之束製、市販のモーキャプでやったんじゃないよ。 検索しても出ないから注意ね」

 

もし本物なら使いたいから売って欲しいと言う人が出てくるかもしれない。

流石に売らないが、調べて問題なさそうなら貸してあげる事はやぶさかではない。

そうなった場合勿論盗難やリバースエンジニアリング対策を施して、外側から中身までもうちょっと整えてから渡すことになるけど。

 

「もしかしたらこのフェイストラッカーとモーションキャプチャー使いたい人が居るかもしれないから、説明文にメルアド載せておくから使いたい人は送ってちょうだい、レンタル条件書いて返信するから」

 

『え、貸すのか』『使いどころが映画とかそこら辺でしか思いつかねぇ』『ユーチューバー限定?』

 

「いんや、映画で使いたいってのも良いし、ヴァーチャルなユーチューバーになりたいって人でも良いよ。 申し込むのは誰でもいいけど、ただ当然審査があるってだけ。 でもまぁ……、私の予言を現実の物とするためにヴァーチャルユーチューバーになりたい人を優先するかもね、なのでお便り待ってまーす」

 

手を振っておく、3Dも2Dも同じように手を振る。

 

「よし、問題なかったね。 お次は社長の話、ではなくとあるリスナーに一言言いたい」

 

『全員じゃなく?』『ん?』『言いたいこととはいったい……』『やっちまった奴でもいたか』

 

「いやさ、ニコの方に切り抜きあげてる人居るのよ、それについてちょっとね……」

 

『無断転載?』『確かにあったな』『見た見た』『あー、あれか?w』

 

「別に切り抜きを上げるなとか動画を消せとは言わんよ、たださぁ……何で胸の部分しか上げないわけ? 気になるのはわかってるけど、それしかないみたいで悲しいじゃん!」

 

雑談や工作画面で撮れ高無くて面白くないかもしれないが、胸の部分だけ切り抜かれるとかそれしかないみたいで嘆かわしいよ。

 

「何だよ5万再生ってよぉ! こちとら世紀の大天才やぞ! 胸より頭脳の方がすごいんやぞ!」

 

『草』『草』『草』『タバネちゃんカワイイヤッター!』『草生える』『まあそれはね?』『おっぱいだけですぃましぇん;』『草www』『本人いて余計に草』

 

「投稿者名乗り出るとか胸だけに良い度胸じゃねぇの、他の部分もあげねぇとゆるさねぇからな?」

 

『は?』『は?』『ちょっと待って! 今束ちゃんが何か言ったから静かにして!』『は?』『公式に切り抜き許可でて草』『は?』『わかりました他の部分もあげます』

 

「わかればいいのよ、ほんとたのむよー?」

 

 

 

 

 




【篠ノ之束】おっぱいとおしり集【公認】

2012/12/24まで。
おっぱいだけあげるなと怒られたのでおしりもつけました。



・ヴァーチャルYouTuber/VTuber
作中2012年だと影も形も無い、先駆者たる親分も2016年の11月末。
3Dモデルで配信はまだ厳しい現状、2Dを動かしてるlive2Dとかは既に存在してるが洗練されてないのでこっちもまだ厳しい。
と言うかオリ束さんの奴は2020年のものよりもお手軽で技術的に上、貸し出せば早めに出てくるかもしれない。
社長は2008年の時点でVRどころか接触操作可能なAR(拡張現実)を実用化済み、頭おかしいでほんま。

・給料
一応S.H.I.E.L.D.から貰っている、当然使い道も監視されている。
使い道は大体工作用、生活費はS.H.I.E.L.D.が出しているので趣味に使い込める。


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中核

3時間程度の配信を終了する。

配信関係のウィンドウやソフトを全て終了し、ちーちゃんに状況を確認する。

 

「ちーちゃん、S.H.I.E.L.D.の社長捜索の進展は?」

『衛星からの映像や目撃情報収集によってテネシー州に居る可能性が高いと判断しているようだ』

「流石にそれくらいはわかるか」

 

すでに監視映像は差し替え済み、リアルタイムで映像を差し替えているのでもう人間の目では気が付かないだろう。

それが出来るのもS.H.I.E.L.D.の電子機器の大半を支配下に収めたおかげで、レベル7までの機密はすぐに閲覧できるようになった。

それ以上になると侵入に苦労する硬固なセキュリティからスタンドアローンのサーバーや、指紋や網膜スキャンが必要な区画に紙媒体で置いてあったりするので閲覧がほぼ無理。

まあ、社長の捜索関係は結構レベルは高いが見られない情報ではない。

当然S.H.I.E.L.D.も社長の居場所は探していて、大まかな位置も見当がついているとのこと。

アベンジャーズのメンバーで、S.H.I.E.L.D.の相談役なんで探さない理由はない。

 

ニックの肝煎りであるアベンジャーズ計画だし、死んでしまうと色々まずい、十中八九蘇生させられるだろうが。

中身の何割かはヒドラなS.H.I.E.L.D.であるが、S.H.I.E.L.D.の振りしてちゃんと働いている以上しっかり調べている。

ヒドラとしては社長は死んでてくれたほうが嬉しいだろうし、死んでいなけりゃ居場所を把握しておきたいだろう。

社長が僻地でアイアンマンスーツ無しで彷徨いていたら、事故を装って殺しにかかる事も十分あり得る。

 

「今のところはうまく行ってるかな?」

 

だが考えていた結果は杞憂として流れていた。

昨晩ローズ・ヒルで発砲事件が起こりとある飲食店が爆発、電線に引っかかった身元不明の焼死体が見つかっている。

その周辺をS.H.I.E.L.D.の衛星で捜索したら、社長らしき人物をちーちゃんが見つけた。

んで夜が明けての昼過ぎ、ついさっき大統領専用機が爆散した。

当然落下する乗務員たちと彼らを救助しようとするアイアンマンを衛星が捉えた。

本体である社長たちは今ボートで移動中のはず、夜になれば奴らがいるだろう埠頭のコンテナ船に仕掛けるだろう。

奴らをぶちのめした後、最後に花火大会でトラウマ解消! ハッピーエンドで終わり。

それが半日後に訪れる、今私に出来ることは何かの拍子でS.H.I.E.L.D.に社長の居場所を知られるのを防ぐこと。

S.H.I.E.L.D.内で少々怪しい動きもあるので、ヒドラはしっかりと内側に存在しているだろう。

例えアベンジャーズメンバーであろうとこの事件に茶々は入れさせない、ここで社長はしっかりと羽化してスーパーヒーローになってもらう。

ガチで世界の命運が掛かっているんで、トラウマでへこたれてもらっては困りすぎる。

 

「誰かこの役割代わってくれないかなぁ……」

 

入ってくる社長に関する情報の添削を行いながら、一人ため息を吐いた。

 

 

 

 

 

そうしてS.H.I.E.L.D.とヒドラの邪魔をしていたら、マリブの社長邸で楽しい楽しいホームパーティーが始まった。

まるでクラッカーから飛び出す紙テープや紙ふぶきのように、地下の格納庫からアイアン・リージョンが飛び出していく。

衛星からの映像で素早く数を数えれば、アイアンマンスーツとは形が違うのが一機、編隊飛行の最後尾を飛んでいた。

 

「あ? 私のも花火にする気かよ!」

 

所有権は社長にあるとは言え、一着100億円以上もするスーツを破壊するのは勿体なさすぎる。

改良や拡張性の余地を十分に残しているから、新しい技術があるからと一から作り直す必要はない。

 

「……いや、違うか?」

 

花火にするため、ではなく地下格納庫に置いたままにすると奪われかねないから一緒に飛ばしたのかもしれない。

社長が自分で渡したウォーマシンならともかく、私が作った戦闘能力が比肩するスーツを解析されて技術が世界中に拡散するのは好ましいことじゃない。

世界中の企業や軍部が躍起になってスーツを作ろうとしているが、今のところ全く使い物にならない性能だ。

2010年のイワン・ヴァンコがハマー・インダストリーズで作った量産型とも言えるアーマーにも届かない。

なんかどっかの専門家かコメンテーターだかがアークリアクターがあればアイアンマンスーツを作れると言っていた気がするが、武装、装甲、推進装置、アビオニクスとどの部分をとっても既存の技術を超える革新的技術で構成してあるためにうまく行っても劣化版しか作れない。

いろいろ言ってる連中は無知の知ならぬ無知の()で笑っちまうね、世の中のコメンテーターとかはもうちょっと考えて発言したほうがいいと思う。

まあそんな世界中のスーツ製作事情の中、再現は出来ないが劣化版の技術であろうと搭載出来ればとても面倒なことになる。

その可能性を考えて一緒に飛ばしたんだろう、……それでも花火にされる可能性は未だ残ってるけど。

流石にここでスーツについて社長やJ.A.R.V.I.S.に苦情を入れるのはおかしい、誰にも話していないだろう情報を知っているのは疑いを深めるだけ。

問題が起こりそうなら連絡を入れてみるか。

 

 

 

 

 

飛行するアイアンマンスーツ群の進行方向とA.I.M.のサーバーから盗ってきた情報から、キリアン達がいるであろうマイアミの湾港に停泊中の船を見張る。

そうしてちーちゃんに監視を任せて数時間、太陽は水平線の向こう側に沈んで世界は夜の帳に包まれる。

監視している船は明かりをバンバン付けてるからすぐにわかった、照らされている中で銃を持ってうろついてるとか見つけてと言ってるようなもんだ。

スーツ群もすぐ近くにまで迫っている、開戦まで秒読みなのは間違いない。

 

「ちーちゃん、社長は?」

 

モニターの映像が切り替わり、コソコソと船に乗り込んでいく社長とローディさんを俯瞰で捉える。

その光景を黙って見つめ、ここで撃たれて倒れるなんて状況にならないよう祈っておく。

 

「敵の配置」

 

衛星の俯瞰映像が引き、船全体の映像。

目視できる範囲の人間を四角記号でマーキング、青色が社長とローディさん、赤色がA.I.M.の兵隊。

恐らく船内にも居るだろう、全員が戦闘員じゃないにしろ100人位は詰めてそうだ。

 

「怪しい熱源は?」

『現状異常な熱源は感知していない』

「……そんなに上手い話はないか」

 

判別は難しいだろうなぁ、任意で自身の熱量を操作できるだろうし。

通常時は普通の体温なのでサーモグラフィーで熱分布を調べても常人と見分けが付かない。

超人的身体能力、心臓や脳を除いた高度な再生能力、高温の発熱能力、精神への影響がなければ兵士に利用したいレベルの有用性。

そんなのがある程度量産出来るとか、エクストリミスを作り出したアルドリッチ・キリアンとマヤ・ハンセンは間違いなく天才だ。

そんな人物がそれなりの頻度で生えてくるからやばいんだよこの世界は。

 

「本当に頭おかしいわ」

 

私や社長ならもっと完璧に近いものに仕上げられることを含めて、頭おかしい連中多すぎなこの世界に対してため息を吐く。

 

『始まったぞ』

 

ちーちゃんの言葉にモニターへ視線を向けると、船上で発火炎らしき閃光がチカチカと瞬く。

スーツ群もすぐ側まで近づいており、恐らくもう目視範囲に入っているだろう。

 

「さて、どうするのかな?」

 

社長のポーズからアイアンマンスーツたちがエクストリミス・ソルジャーたちに飛びかかり戦闘開始。

遠距離では回避されるためか、近距離でリパルサー・レイを撃ち込んでいる。

一撃で頭や心臓を潰さないと倒せないのは実に面倒で、船の通路や梁が入り組んでいるのもあるせいで飛行しているのに組み付かれている。

その中で異質のスーツ、私の白騎士もきっちり参加している。

ライフルだと余裕で撃ち抜けるのだが船には爆発物が多いので、他のアイアンマンスーツと同じように近距離での戦闘を繰り広げている。

射撃を誤ればエクストリミス・ソルジャーを貫通して、爆発物に当たりかねない。

 

J.A.R.V.I.S.はちゃんとそこら辺を考慮して左手に取ったプラズマブレードを展開、エクストリミス・ソルジャー目掛けて振り下ろして斬りかかるも避けられて、逆に高熱化した拳を頭部に叩き込まれる。

だが耐久性も耐熱性も十二分に施しているため、大きな損傷なく素早く態勢を立て直して右手を開いて伸ばし、エクストリミス・ソルジャーの首を掴んで持ち上げ通路に叩きつける。

鉄製の通路が大きく凹んで歪み、再度持ち上げてから腕を振って海へと投げ捨てる。

その様子を見て他のエクストリミス・ソルジャーは仕掛けてこない、アイアンマンスーツと違って目に見える武装を持っているためか隙を窺うだけ。

だがそれは悪手であり、高速で飛行してくるアイアンマンスーツに奇襲のリパルサー・レイを受けて吹き飛び落下していく。

 

それを見送って、次に手に取るのはビームライフル。

右手に持って狙うのは、反対側の離れた通路にいるエクストリミス・ソルジャー。

格闘戦をしているアイアンマンスーツに組みつこうとしたところを、ビーム粒子の収束率を上げた鋭い一撃で狙い撃つ。

瞬時に空間を走り抜けたビーム弾は、正確にエクストリミス・ソルジャーの胸、心臓を貫いて夜の海上に消えていく。

狙い撃たれたエクストリミス・ソルジャーは穴の開いた自分の胸を見て、力無く倒れ込んで絶命した。

 

「やるやん」

 

千切っては投げ、千切っては投げの繰り返し。

社長が一心不乱に作ってきた息子たちよりも頑丈な白騎士は、組み付かれても簡単に引き剥がし、掴まれて高熱に曝されても平然と掴み返して骨をへし折っていく。

骨が折れた程度じゃエクストリミス・ソルジャーは無力化出来ないが、痛覚はちゃんと機能しているために苦痛で怯んだ隙に貫手で胸を貫いたり掴んで投げ飛ばしたりでなかなかの活躍。

アイアンマンスーツがぶっ壊されている状況から白騎士つえーと思いがちだが、製造コンセプトが全然違うし破壊されているアイアンマンスーツはどうも機能特化型が多く装甲などは薄めと見受けられる。

あと手で掴まれ高熱を受けて機能障害が発生しているようだが、どうもエクストリミス・ソルジャーは高出力の電磁波、電磁パルスを放出している可能性が高い。

 

どういう原理か直接調べないとわからないが高熱化の際に体内で電磁パルスが発生、それを浴びて機能障害が発生しているのではないかと見ている。

その上高熱とのコンボで負担が大きくなり、結果動きが鈍っているんじゃないだろうか。

周囲の影響を見るに、高出力だが小範囲のEMPとして見ていいだろう。

電子機器の塊であるスーツは当然ガチガチの防護処置を施しているが、それを抜いてきているのでかなりやばい出力なのがわかる。

副作用であれ小範囲高出力EMPとか、どんだけ性能盛ればいいんだエクストリミスは。

わかる人が見れば研究したいし、兵器利用でも十二分に使えるものなんで悪用したい人が出るのも当然か……。

 

悪用されることが決まっているエクストリミスのことを考えながら、状況が進行している船上を見る。

社長がエクストリミス・ソルジャーの妨害とアイアンマンスーツの援護を受けながら移動用通路や支えの鉄骨の上を飛んだり走ったり、必死なのは破損したクレーンに挟まれたペッパーさんを追いかけているから。

ストーリーラインの通りに進行している、だが急に道筋が外れる可能性もある。

社長の生存は最重要ではあるが、ペッパーさんも超重要で見過ごせない。

何せ社長のメンタルケアをやってくれる大事な人、もしペッパーさんが居なくなってしまったら社長のメンタルは坂を転がり落ちるようにボロボロになりそうで怖い。

 

「白騎士は?」

 

モニターが白騎士を中心とした俯瞰映像に切り替わる、切り替わった瞬間にはプラズマブレードを横薙ぎにしているところだった。

刃にあたる熱プラズマ放射は10万度を超える温度を持ち、知られる金属全てが即座に蒸発する温度を押しつけられればエクストリミス・ソルジャーと言えど耐えられるはずもない。

鉄の手すりごと上半身と下半身が泣き別れて通路に転がるエクストリミス・ソルジャー、その様子をさらにズームで拡大してみるとゆっくりとだが真っ赤に燃えるマグマが断面から流れ出るようにして下半身を形成していく姿を捉える。

当然それを見過ごすJ.A.R.V.I.S.ではなく、挙げた右足のヒールで逃れようともがくエクストリミス・ソルジャーの胸を踏み潰す。

 

「やべぇ……」

 

四肢だけではなく下半身まで再生出来るとか、エクストリミスの再生能力を甘く見ていた。

四肢はおそらく100%そのまま再生出来るだろう、骨や筋肉などの運動器系や感触などの感覚器系などをきっちり再生できなければうまく動かせないだろうし。

内臓なども完璧に再生出来るのであれば、まさに医療革命と言っても過言ではない。

ただ適合率が高くなければ、そこまでの再生能力は持てないかもしれないが。

実に有用に見えるが間違いなく軍事利用されてひどいことになるのは想像に容易い、寧ろエクストリミスなんて作らなければよかったまである。

 

いろんな意味で酷い技術を思いながら、今度は社長の方へと映像を移す。

対峙した二人、走り出す社長とキリアンの一騎討ちが始まる。

クレーンの影になっていたために、ペッパーさんが落ちたところは見えなかった。

生きててくれよと祈りながら、二人の殴り合いを見守る。

社長はスーツを装着して戦うも、赤熱するキリアンの攻撃で装甲が簡単に破壊されている。

 

こうして見ると明らかに3000度を超える熱量を持っている、よくよく考えれば不適合で爆散するのと適合して自在に操るとでは違いが出るのは当然。

キリアンは特に適合率が高いように見える、その熱量で融解させてスーツを破壊しているのだろう。

攻撃を受けスーツが破壊されながらも凌ぐ社長と、赤熱する殺意を持って殺しにかかるキリアン。

時にはスーツから脱出し、時には別のスーツに着替えながら戦う社長。

パワードスーツであるアイアンマンを圧倒する身体能力で追い詰め始めるも、スーツを破壊されながらも致命的な一撃をギリギリで回避している社長。

 

このままではスーツの在庫切れでなす術もなく殺さねかねない状況だが、攻撃から逃れスーツを脱ぎ捨て一度距離を取ったところで本命が来た。

今までは社長の時間稼ぎだったようで、遅れてやってきたスーツが社長の元に辿りついて装着。

アイアンマンMark.42かと思ったが、明らかに形状やカラーリングが違う。

何時もの赤と金に、珍しい白の三色で塗装されていてフォルムは多少鋭角的。

 

それを見ていたキリアンは駆け出し、社長はリパルサー・レイで迎え撃つ。

キリアンは文字通りの超人的機動でリパルサー・レイを回避して接近、赤熱した指で切り裂くようにスーツの装甲を打つが、今までのスーツと違って装甲が裂けることなく耐え抜く。

キリアンは驚く間もなくアイアンマンの握った拳を受けてタタラを踏む、そこからは攻守が逆転した。

社長はリパルサー・レイと打撃を繰り出し、その攻撃を受けながらも反撃を繰り出すキリアン。

装甲は赤くなるも破れず、手足のリパルサー推進ユニットを利用した高速の連打を受けてのけ反る。

トドメとばかりに胸を張ってユニ・ビームの発射態勢に入るが、キリアンは飛び込み前転で紙一重で回避。

 

握った拳を打ち込もうとするも飛び込んだ形が仇となり、跳ね上がったアイアンマンの膝が顎を捉えてキリアンの体が跳ね上がる。

同時に飛び上がっていたアイアンマンがリパルサー・レイを撃ち下ろし、被弾したキリアンが通路を突き破って落下。

怒りを浮かべたのはキリアンだけじゃないと言わんばかりにリパルサー・レイを連続で撃ち込んでいくアイアンマン。

落下先のコンテナを突き破って激しく落下、今度こそトドメのユニ・ビームを撃ち込んでコンテナが大爆発を起こした。

 

それを見届けてゆっくりと降りて着地、今回の騒動は大事な人が犠牲になるも首謀者を討ち果たして解決……。

とはならず手のひらを向けてアイアンマンが振り返れば、エクストリミスに適合して無事だったペッパーさんが立っていた。

そうしてスーツを脱いだ社長はペッパーさんと抱き合って、アイアンマンスーツ花火大会でめでたしめでたし。

残念ながら白騎士も花火大会の彩りに添える形となった。

それを俯瞰映像で見届ければ、思っていたよりも丸く収まったと感想。

ここは必要以上に手を出さないと決めたが、いざそうするとかなりやきもきしてしまう。

 

「……はぁー、ちーちゃん、J.A.R.V.I.S.にA.I.M.の情報全部送っといてー」

『わかった、送信しておく』

 

既に違うものだが知っていると言うのは結構辛い。

もう一度ため息を吐いて、深く椅子に凭れ掛けた。




アイアンマン3との相違点
・大体一緒だが一部スーツが違う、うさぎ製スーツを解析して長所をアレンジして取り込んだので、良いところが少なかったMark42君よりも頑強で強くなってたりする。
問い質しても多分はぐらかされる。

エクストリミス・ソルジャー
・3000度は凄いけど薄いとは言えあんなに複合装甲を引き裂けんの? と言うツッコミが結構あるので適合者は爆発3000度よりも高温を出せるだろと不要な強化をしたが特に変わらなかった。

顛末変更
・別に社長に倒させても構わんのだろう?


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疑惑

エクストリミス事件が終結し、ペッパー・ポッツのエクストリミスを解毒剤を作って治し、胸の金属片を摘出してアーク・リアクターを取り外せるようになってから1ヶ月。

不眠症は治ったのだろう、以前よりも顔色が良く健康的になったトニー・スターク。

もうすぐ2月になろうと言う時期、心身が健康となりつつあるプレイボーイが私の部屋で背もたれを前にした椅子に跨がるように座っている。

私はベッドに座って、社長と相対している。

 

「それじゃあ話してもらうぞ、君が隠している秘密の全てを」

 

ニックが痺れを切らした、と言うよりもエクストリミス事件で手助けした事で社長が動いたのだろうと考えられた。

ニックと何らかの交渉をして、態々話をするために時間を作ったんだろう。

疑惑か感謝か、疑惑の方が確率が高いだろうけど。

そんな社長に意地悪そうな笑みを作って口を開く。

 

「スタークさん、一つ賢くなるようなことを教えましょう。 他人に話せるような話は秘密とは言いませんよ」

 

ほぉら、これでまた一つ賢くなりましたねぇ。

そうやって煽ってみると、社長は鼻で笑って。

 

「意地を張るのはわかる」

 

視線を部屋の隅へと向け。

 

「何から何まで監視されてたんじゃ、気も休まらない」

 

まあ、私の状況は把握済みだよねぇ……。

 

「……秘密とやらを話せばこの状況から解放すると?」

「僕ならそうする」

 

作り笑顔を浮かべる社長、嘘つけ絶対はぐらかしたり適当な嘘並べてその場しのぎするぞ。

 

「……わかりました、隠している秘密を話します」

 

はぁ、と一つため息を吐いてパソコンの方を見る。

 

「ちーちゃん、私の体重は?」

『56.2kgだ』

「はい、私の秘密を明かしましたよ」

 

それを聞いた社長は作り笑顔を消して。

 

「……思っていた以上に重大な秘密だったな」

「乙女の秘密を暴こうなんて、女性全てを敵に回す行為だってことを分かってるんですかね」

「確かに、下手に聞くと叩かれるだろうな」

 

プレイボーイな社長からすれば、大半の女性は体重のことを聞かれたく無いことくらい理解しているだろう。

私からすれば恥ずかしいと思うような体重じゃ無いので、聞かれればあけすけに答えるが。

 

「重大な秘密を明かしてくれて助かった、ニック・フューリーには僕から話しておこう。 それとついでに乙女の秘密よりも軽いこの秘密も答えてくれると助かるが」

 

そう言って懐からスマホのような長方形のデバイスを取り出して、一度軽く振る社長。

水平にしたデバイスから上に映像が投影され、本命の秘密を暴きに来た。

まあこんな茶番、通じるとは思ってなかったが。

 

「この男は誰だ?」

 

空間に投影されたのは一時停止の映像、それはニューヨーク襲撃の後に私が立ち寄ったハンバーガー店。

社長は拡大した映像の中の男、すなわち変装している未来のキャプテンを指さした。

 

「気の良いおじさんでしたよ、ニューヨークがこんな状況で災難だったなと同情されましたが」

 

当然知らないフリをする、まかり間違っても『まだ知るべき時ではない』とか『いずれ分かりますよ、いずれね……』、みたいな思わせぶりな態度を取るのも無しだ。

怪しまれたくない状況で怪しまれる言動を取るとか、頭沸いているんじゃないかと言う話になる。

それを踏まえて全く知らないフリをする、科学的に脳の記憶領域を調べられたり今は存在しないだろうワンダ・マキシモフなどの超能力で記憶を見られたりしなければ大丈夫なはず。

……インフィニティ・ストーン由来とは言え、いずれ超能力関係も調べておきたいな。

 

「それにしては仲が良さそうに見えるが?」

「……? 仲が良い?」

 

何言ってんのこいつ? みたいな顔して聞き返す。

初対面で赤の他人の未成年とおっさんが仲が良いとかどんな関係だよ、別の意味で邪推されるぞ。

 

「何を話していた?」

 

しらばっくれるも、社長は意に介さぬまま続けて聞いてくる。

 

「世間話ですよ、どこかの長官と同じようなことを話していましたね」

 

勿論勧誘とかではないですよ、と付け加える。

 

「……わかっていると思うが、ニック・フューリーは君を疑っている。 僕も君を疑っている、理由は理解しているな?」

「客観的視点で見ればタイミングが良すぎると私もわかってます、ただそれは偶然ですので疑われても疑惑を晴らすものを提示できません。 この男性のことも同じです、声を掛けられたからと疑われても知らない事を明かすことはできません」

「飽くまでなにも知らないと?」

「スタークさんが全く知らない人物のことを聞かれてなんて答えますか? 知らないと答えますよね? 今の私の状況はそれなんですよ」

「………」

 

なにも言わない社長は私に視線を合わせたまま、椅子から立ち上がる。

 

「ここだけの話だが、この話の対応で君の進退が決まる」

「次は私が何かを隠しているか暴くまで監禁でもするんですか?」

「それもありうる」

「そうですか、まあ当然今までも私の事を調べ続けていたんでしょうけど、この8ヶ月状況が変わっていない以上何も見つけられていないと判断できますが、スタークさんはどう思いますか?」

「同感だ、ニックもそうだがS.H.I.E.L.D.は君の秘密とやらを見つけられていないし、今後も見つけられるか怪しいもんだ」

「ありもしない事を声高に喚き散らしても、存在しないものは存在しませんからね」

 

再度腕を上げた社長はデバイスをもう一度振る、今度は静止画ではなく再生された動画。

 

「知らないのなら仕方がない、話を変えよう。 確かに君の周辺は疑わしいが、僕としてはこっちの方が気になる」

 

流れる映像は私と未来キャップの口元を隠した会話シーン、だがその映像は異様な不自然さがあった。

 

「……これは?」

 

映像が歪んでいるとか途切れていたりするわけではない、流れている音が極めて不自然だった。

社長のデバイスから流れる映像と音声、S.H.I.E.L.D.の進んだ技術で作られた盗聴機器なんだろう。

映像から見ると店からそれなりに離れた場所から店の中の音を盗聴しているようだが、奇妙な事に中央の音だけが綺麗に切り取られたように存在していない。

波形で見れば綺麗に中央部分が見事に存在しないのが予想できる。

 

「最初はよくある逆位相で打ち消しているものだと思ったが、調べればそんな単純な現象じゃなかった」

 

さらにもう一度デバイスを振ると、映像は消えて分析結果の情報が表示される。

 

「君は男が話したと言った、だがこの音声からの分析だと男の周囲にはそもそも音が発生していない」

 

音とは振動だ、状態に関わらずあらゆる物体が振動し、伝播する事によって発生する。

映像の音声の解析結果から、私と未来キャップの一定範囲内は何らかの作用によって完全に音が断絶している。

効果範囲内では私と未来キャップの会話だけではなく、発生しているはずの店内の音も存在していない。

社長も様々な方向から解析アプローチを掛けたが、結果的にどうしてそうなっているのか理解できなかったようだ。

私も解析情報を一通り見たが、同じようにどうしてそうなるのか判断がつかない。

色々推察してみるもしっくりこない、実際にイメージを形にして見ても同じような効果が得られるかは疑わしい。

こうなってくると社長は持っておらず、私だけが持つ情報で判断するしかない。

 

 

どう見ても未来の私が犯人です、本当にありがとうございました。

 

 

未来キャップはおそらく誰にも人生をやり直すことを話しておらず、それを知っているのは私だけ。

社長が生存しているかわからんし、おそらく私だけがこうなる事を知っているから未来の技術で作った無音化装置を未来キャップに渡した可能性が高い。

話を聞かれないための必要な措置ではあるが、そのせいで今の私がとても困った事になっている。

礼を言いたいからって私に会いにくるんじゃねぇよ! 面倒な事になってるじゃないか!

自業自得に見えるが鶏が先か、卵が先かじゃねぇんだぞ!

 

「……何とも言えませんね、音は迂回もしてないようですし。 ……これは振動そのものを制御している?」

 

そんな内心をおくびにも出さず、考えられる可能性を呟く。

私が社長と同じ立場なら間違いなく同じような分析内容になっているだろう、かなり詳細な分析結果を見てもどうしてそうなってるのかわからない。

未来は今現在実用化できていない量子化も実装出来るほど進んでいる以上、私が見つけていない法則があるだろう。

その未知の法則によって作られている可能性がある以上、未知の法則を解き明かさないと無音化装置の原理を暴くことはできない。

 

「結論から言いますと、私にはわかりかねます。 というかこの映像もらえませんか? 私も調べてみたいので」

 

社長があらかた調べ尽くしているが、個人的に結構気になる。

 

「本当に知らないんだな?」

「この男の人の事もそうですが、知っていると嘘をついてもどこに居るとかこの技術の提示は出来ませんよ」

 

存在しませんからね、と断言しておく。

 

「そうか、わかった。 それじゃあこの部屋から出る準備をしておいてくれ、それとS.H.I.E.L.D.のシステムから手を退けておくように」

 

そう言って、返事を待たずに社長は部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

「予定通り、彼女は連れて行くぞ」

 

束の部屋を出て、トニー・スタークは長官室へと足を運んでニック・フューリーと対面する。

 

「話の通り、S.H.I.E.L.D.は彼女の秘密を暴けなかった。 この男の所在も見つけられなかった、彼女の頭の中を覗けば解決するかもしれないが、今それをするには色々と足りない」

「S.H.I.E.L.D.のシステムの件がある、やろうと思えばできる」

「その結果、S.H.I.E.L.D.の崩壊か?」

 

デバイスを懐にしまいながら、鼻で笑ってニックに言うトニー。

 

「僕はお勧めしないな、今J.A.R.V.I.S.にセキュリティーを解析させているがなかなか手強い。 監禁からの記憶拝見をすれば彼女は抵抗するし、報復としてシステムの破壊を実行するかもしれない」

「だから泳がせろと?」

「スパイ活動は僕の分野じゃない、だが8ヶ月掛けても証拠を見つけられなかった事は失敗だと言うのは僕にでもわかる」

 

ニックの鋭い視線がトニーに突き刺さるも。

 

「そう怖い顔をするなよ、チャンスだと考えよう。 自由に動かせて尻尾を出させればいい、その尻尾を掴めるかはそっち次第だが」

「……彼女が隠している秘密が、世界の安全を脅かしたらどうするつもりだ?」

「その時は、アベンジャーズの仕事だ」

 

 

 

 

 

「使い方は去年の時とあまり変わっていない、まあ問題ないだろう」

 

トリスケリオンから連れ出し、戻ってきたのはスタークタワー。

場所は世界最先端と自負するラボ、スタークタワー上層階の僕のプライベートルーム。

 

「設備は自由に使ってもいい、それも去年と同じだ。 ただ製造する全ての物は一度提出してもらう、スーツを作っても同様だ」

「ええ、もちろん」

 

彼女、タバネ シノノノは嬉しそうな笑顔を浮かべてうなずく。

 

「では早速」

 

早足でコンピューターに向かい、バッグからUSBメモリを取り出して差し込んで仮想キーボードを叩き始めた。

 

「何かあればJ.A.R.V.I.S.を呼べよ」

「はーい」

 

その返事を聞いてエレベーターに乗り込み、もっと上の僕の自室へと戻る。

いつもの椅子に座り、J.A.R.V.I.S.にアイアンマンスーツの改良案が性能に即しているかシミュレーションを行う。

その傍ら、彼女がいるラボの映像を見る。

部屋には監視カメラを仕掛けてある、流石にニックと違って彼女の尊厳やら人権やらを尊重してやるつもりだ。

監視のことで他にも色々あったが、彼女の監視関係はJ.A.R.V.I.S.にほとんど任せてある。

連れ出す前にも話したが、僕はニックが気を揉む謎の男や彼女の秘密とやらよりも盗聴防止に使われた技術や彼女の作るスーツや機器の方が気になっている。

 

……あまり思い出したくはないことだが、数ヶ月前に魔がさしてしまった。

言い訳をすれば、精神が参っていたんだ。

奴らのことを考えてしまって、悪夢を見てしまうほどだった。

眠れずにスーツの改良と製造に明け暮れ、性能の強化にひた走っていた。

そんな中で睡眠不足で体調と精神を崩していた僕は、気がつくと彼女の技術に手を出していた。

普段通りであればそんな事はしない、自分の技術に自負がある。

彼女のスーツに採用されているものよりもより良い技術を開発し、より高性能のスーツを作れると自信を持って言えた。

 

そう、普段通りであれば……。

精神がやられていた僕は彼女のスーツの性能を見て、最悪なことにインスピレーションが湧いてしまった。

敵対する相手を圧倒する高火力に生半可な攻撃を跳ね返す硬い防御力とジェット戦闘機を軽く引き離せる加速力と最高速度。

それだけじゃあない、極限環境下での活動を目指しただけあって超高温から極低温まで問題なく活動でき。

以前食らったソーの雷を受けても余裕、深海での高圧力下でも問題なし。

対腐食性も高く、詰め込めるものは全部詰め込んだと言ってもいい性能だった。

今では低性能と言えるアイアンマンMark.7と同じ時期にこの性能、当時開発していたMark.42では分離飛行と重量位しか有利な点が無かった。

開発していた機能特化型スーツ群の長所を一纏めにして高性能化したようなスーツに、僕は何かを見てしまったんだろう。

Mark.42の開発を一時中止して、多機能かつ高性能なスーツの開発に着手。

試行錯誤を重ねて出来上がったのが、アルドリッチ・キリアンを倒したアイアンマンMark.43だった。

 

出来上がったスーツの性能は満足いくものだった、それまでのスーツを易々と破壊していたキリアンの攻撃を耐え抜いて逆に倒してしまえるほど。

そうして出来上がったスーツを前に技術の盗用と言うあまりにも恥ずべき行為に罪悪感を浮かべたのか、カラーリングに彼女のスーツのメインカラーである白色を差し込んでいた。

彼女は気がついているかもしれないが、それを伝える気はない。

逃げていると言われればその通りで、正直に伝えて謝れる気がしなかった。

いずれ謝るにしろ、別に今でなくてもいいだろう。

 

恥の現物であるMark.43は戦いが終わったあと、スタークタワー上層階の改装が終わり次第解体した。

今のメインスーツであるMark.45は彼女のスーツから得られた技術は一切使っていない、その上で性能を上回り防御力を落とさず軽量化し分離飛行を盛り込んだものとなっている。

いい状態に仕上がっている、今のところ不満点はない。

彼女はあの戦いを見ていた以上、スーツを破壊したことを知っているだろうからまたスーツを作るだろう。

どのような性能に仕上げてくるか少し楽しみである、Mark.45と同程度の性能に仕上げてくるのか、それ以上の物を作り上げるのか。

もちろん負ける気はない、もしも上回るスーツを作ってきてもすぐにもっと優れたスーツを作ってやる。

 

『楽しそうですね、トニー様』

「……なに?」

『いえ、笑みを浮かべていましたので』

 

ハッとして顔に手を当てると、口角が上がっていた。

すぐに指で口角を押さえて下げる。

 

「なんで笑う必要がある? J.A.R.V.I.S.の気のせいだろう」

『確かに気のせいかもしれません』

「そうだ、気のせいだ」

 

口元を揉みながら、一心不乱に仮想キーボードを打ち込むタバネ シノノノが映っている映像を閉じた。




56.2kg
・重いと感じた人はちょっとサブカルに浸りすぎかもしれない。
実写ベースなのでオリ束さんは確実に重いメロンを抱えている上、ガチトレーニングしているのでこれでも軽い方な乙女の秘密。
ちなみにキャップは100kg超え、流石アメリカのケツや。

現在のオリ束さんを困らせている人ベスト3
・1位 サノス 2位 未来の自分 3位 未来のキャプテン・アメリカ
1位は言わずもがな、2位と3位のせいで味方のはずなのにめんどくさいことに。

Mark.45
・オリアイアンマンスーツ、結構ゴツい、全領域対応型でシンプルに強い。
150kgほどで以前のアイアンマンスーツより重い仕上がり、白騎士の方は足とか長いし詰め込んでるので武装込みで300kgほど。
以降のスーツは影響出ているので形や性能はおそらく変化している。

技術の盗用
・オリ束さんがアベ入りして仲良くなったらバラして謝るかもしれない。

社長の笑み
・技術競争の始まりだあああああ!!
バナーとは話ができるが、同じ分野で話が通じるどころか競え合える人物社長の周りにいなかったやろ。
いたら間違いなく張り合うと思う。


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配信者4

 

「ハロハロ〜、世紀の大天才! 束さんだよー」

 

『ハロハロー』『ハロハロー』『5万人おめっとさーん』『おいすー』『ばんわー』『ハロハロー』『キター!』『5万人おめでとう』『ハロロ〜』『待ちかねたぞ!』『ハロハロ5万人だあああ!』

 

いつもと同じく、リスナーの挨拶とチャンネル5万人登録のお祝いコメントが高速で流れていく。

開始数分前の待機場の時点で同時接続者数が5000人を超えていた、配信者としてはいい方ではなかろうか。

 

「さて、今日は告知していた通りに5万人登録記念枠になります。 見てくれるのはありがたいことです」

 

カメラに向かって頭を下げる。

ここ数ヶ月で私の胸や尻やらの切り抜きがどんどん増えていき、去年注意したあの野郎の動画再生数は30万を超えていた。

他にもモーションキャプチャー機材紹介の切り抜きは30秒ほどしか再生時間が無いのに、丁寧な拡大処理を施した胸揺れがあるせいか40万再生を超えていた。

Youtubeの方にも投稿しておりこっちも50万オーバーを叩き出している、そのせいでかチャンネル登録者数がここ数ヶ月で大きく増えた。

 

「ただまあ、私の切り抜きが色々上がってますが、センシティブ方面でやってるわけではないのでその辺はご了承ください」

 

ちょっと前から下ネタ方面のコメントも結構増えてきた、全数が増えれば割合的にそう言うのも増えてくる。

別に胸や尻や太ももを見てもらう為に配信しているんじゃない、まあそれを利用してチャンネル登録者数を増やそうとしているわけでもない。

世の中言葉を濁して言ってもわからない奴らがいる、なので時にははっきりと言っておかねばならない。

これでチャンネル登録者数が10分の1になろうが100分の1になろうが全く気にすることではない。

 

「では改めまして、チャンネル登録者数5万人を超えました。 登録して色々と見てくださり、ありがとうございます」

 

その後チャンネル登録者数が数百減り、同時接続者数も500以上減ったがそのまま続ける。

後で低評価も増えるだろうが、知ったこっちゃねぇ。

 

『一気に減りすぎワロタ』『切り抜きの大半が体だもんなぁ』『タバネチャンカワイイヤッター!』『そう言う輩はさっさといなくなったほうが平和じゃん?』『切り抜き師の罪は重い』『女配信者は静的に見られるもんな、ましてや可愛いし』『真のリスナーさえ残って居ればよい』

 

エロ目的とも思われるリスナーが減ったことに肯定的なコメントが多数。

まあ別に下心ありでも構わない、それを露骨に表さなければよかったがそう言うコメントも増えてきたのではっきり言っておいた。

 

「それじゃあ始めましょうか、告知通り質問コーナーです。 事前に募集していましたが、説明欄に匿名で質問を送れるリンクを貼ってますんで私に聞きたいことがある人はそちらからどうぞ。 結構数があるんで採用されなくてもすねないように」

 

両手の人差し指で下を指し示しながら説明する、この質問コーナーはコメントの雑談は拾うが質問はあまり拾わないのでやってみた。

 

「笑える下ネタは拾うかもしれないけど、ライン超えているようなやつは触らないから考えて送ってね」

 

それじゃあ早速、自作の匿名メッセージ送信サイトで送られたメッセージを表示させて読み上げる。

 

「それじゃあ一つ目、『こんばんは、質問を送らせてもらいます。いつも配信を楽しく見ていますが、タバネさんは他の方とコラボなどしないのでしょうか?沢山のYouTuberが居ますがこの人と絡んだらおもしろそうだなぁと思うことがよくあります。もしコラボする予定があるなら是非とも教えて欲しいです!』。 コラボしないんですかって質問は結構ありますね、質問に答えるとコラボする予定はないです。 理由としては自由に一人でやりたいのと、忙しいので予定が合わなくなることがあり得るので今後もやる予定はないですねぇ。 実のところそう言うお誘いも結構あるんですが全部お断りさせていただいております。 なんかオフコラボもする前提で声かけてくる人もいますね、行きませんが」

 

『まあわかる』『不純目的か』『下心丸見えのもありそう』

 

オフコラボ持ちかけてきた中には登録者数10万人超えの人気配信者らしいのも居たが他のyoutuberは見てないから知らんし、決定事項みたいに場所と時間指定されても行くわけがない。

 

「では次、『束ちゃんは今ニューヨークとのことですが何か気に入った場所とか食べ物とかありますか?今度ニューヨークに行くことになったので参考にさせてもらいたいです』。 うーん、忙しくて殆ど外出してないからなぁ……。 タイムズスクエアとかセントラルパークとかまだ行ったことないし、スタークタワー、今はアベンジャーズタワーか、それを見たくらいなんだよね。 今度外で配信してみるかな……、食べ物は最初はアメリカって感じのハンバーガー食べただけであとは自炊してんだよね、なので全然参考にならなくてすまぬ……、すまぬ……。 まあちょっとした旅行ならいいけど、滞在してファストフードばっかだとガチで太るから注意ね」

 

『ググったらマジでデカくてワロタ』『ピザとかそう言うのもでかいんだっけ?』『見るだけで胸焼けしそう』『この量はちょっと……』

 

マジでかいからな、アメリカのファストフード。

ドリンクとか日本と同じサイズ表記で倍くらい量が違うからな。

日本のLサイズがアメリカのSサイズと言えば、量の違いを実感できるだろう。

肥満大国と言われるのも納得の量、まあ流石にレストランとかでは普通だと思いたい。

 

「それじゃあ次」

 

表示したメッセージは『タバネ!タバネ!タバネ!タバネぇぇうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!』と長々と書かれたルイズコピペと呼ばれるものを私に置き換えた改変物。

それを読まずに10秒ほど画面に表示してから閉じる。

 

「こう言うのも送っていいですよ、声に出して読まないですけど」

 

『草』『ルイズ以下略』『まあこういうのも居るだろなぁw』『わかる』『ガチ恋勢!?』『ルイズコピペ久しぶりに見たw』

 

「お次はー、『はろはろー、束ちゃんは何かゲームしたりしないんですか? 個人的に一緒にプレイできるゲームなら嬉しいんですが』。 ハロハロー。 ゲームは別に嫌いじゃないんだけどね、私自身プレイする側じゃなくて見ていたい側の方なんだよね。 あとプレイする時間を物作りに使いたい派、まあ絶対プレイしないわけじゃないからそんなに時間を取られないゲームなら何かするかも?」

 

一緒にしたいなら協力か対戦ゲームか……、時間の掛かるRPGとかは無しだな。

時間を制限してマイクラとかも良いかも、集めるのに時間は掛かるが分担すれば建築に必要な数は集められるし。

 

「そだねー、視聴者参加型でマイクラとか? みんなで作ればそれなりに楽しいかも?」

 

『おーいいね』『参加希望』『ログイン合戦楽しみ』『一瞬で埋まりそうやな』『java版?』

 

「java版、普及率考えるとjava版でやるつもり。 そいじゃー次、『はじめまして、いつも配信見させてもらっています。 束さんの配信で可愛い声を聞いていると歌枠とか聞いてみたくなりますが、束さんは歌ってみたとか興味はありますか?』。 歌ってみたはこれも予定はないなー、音痴とかではないけど正直人前で歌うのはちょいと恥ずかしいかな……。 声についてはありがとう、私も自分の声は好きだよ」

 

実際可愛いから仕方がないね、……あの人とはまあ他人の空似ってことでいいだろう。

 

「えー、次は……、『すき!』」

 

実にシンプルな告白、これに言葉ではなく笑顔で返しておく。

 

『あっ(昇天)』『うっ!……ふぅ』『びっくりして心臓が止まったんだけどどうしてくれんのこれ』『死 屍 累 々』『やべーぞタッバの全体即死攻撃だ!』

 

どうやら笑顔は致命的な一撃でコメントしたリスナーは死んだようだ、その程度で死ぬんじゃこの先生きていけねーぞ。

 

「リスナー、死んだ人片付けておいてー。 それじゃあつぎー、『束ちゃん!wii フィット、しよう!』。 お断りー、どうせまた切り抜きあげるんでしょ? へっ、ごめんだね!」

 

私から餌はあげるつもりはない、そういうセンシティブなつもりは無いと言ったばかりなのにやったら言った意味がなくなる。

 

「運動は間に合ってるんでね、体動かす系のゲームとかはやらないよ」

 

『しゃーない』『間違いなく切り抜かれるやろな』『タッバが楽しくやれないならしなくてええよ』

 

「まあ結局私が好き勝手やってるだけだしね、あれしろこれしろと指図されても聞く気はないからそれを意識してコメントしてもらえると助かるね」

 

 

 

 

 

雑談を交えつつある程度質問に答えて、必要な質問はもうなさそうなので質問コーナーを終了。

いろいろ質問が来ていたが、注意書きで駄目って書いてたのにセンシティブに分類される質問もちらほら。

ジョークやネタを絡めたものを含めた質問が9割、残りがセンシティブ判定を食らうものや単純な罵詈雑言だった。

宣言通り匿名にして送信者を探る気はないが、ネットは本当の意味で匿名じゃないことを理解してないのがそれなりにいる。

まあ忠告してやる義務もないので、その事でそいつらが被害を被っても自業自得なんで構わずスルーしておく。

 

「質問はこんくらいかな、後は答えられないやつとかセンシティブなやつとかばっかりだし。 と言うか送ってくれた人注意文ぐらい読んでくれよー、ちゃんと書いてたでしょー?」

 

『そういうのもいるわな』『俺は説明書読まないタイプ』『割合的にどんくらいなん?』

 

「約1割位かな、日頃から確かめる癖をつけといた方が問題発生を未然に防げるからおすすめ」

 

そうしてコメントから話題を拾いながら雑談していると、別のモニターに表示していたメールソフトに一通送られてくる。

 

「ちょっと待ってねー」

 

そのモニターに視線を送り、送られてきたメールを開く。

 

「……ダメかー」

 

メールの内容は採用しないとのお断り、椅子の背もたれに体を預けてため息を吐く。

 

『何がダメだったん?』

 

「いやさー、やりたいことあってお金が欲しくてさ。 得意な事でお金稼げないかやってたんだけどね、売り込んでみたけどうちじゃ扱わないって断られた」

 

全く見る目がないぜ、と一つ愚痴を吐く。

 

『なんか商品でも作ったんかい?』『タッバが作ってる変なものとか売れるの!?』『ニーズに合わなかったか』

 

「変なものとは失礼な、工作で作ってるやつとは違ってちゃんとしたモンだよ。 まあガラクタと言えるものもそれなりに作ったけれども、商品としてしっかりしたものを作ったんだからね」

 

『何売ろうとしてた?』

 

「アンチチートプログラム」

 

『予想の斜め上すぎて草』『どうしてそうなった』『プログラムとかAIの千冬ちゃん作るくらいに得意そうだ』

 

私が作ったものにまるで意味がわからんぞと言ったコメントが溢れる。

 

「いやさ、オンラインでゲームしてるとチーターに遭遇した事ない? アクション系とかFPSとか多いじゃん? それで遭遇すると大体瞬殺されてめちゃくちゃ萎えたりしない? 一プレイヤーだと基本対抗出来ないからさ、それなら製作側に回って潰してやろうかなと思って作った」

 

前世の話ではあるが、チーターに遭遇してくっそ萎えた事があったので、チーターと開発者潰してやるわと結構力を入れて作ったプログラム。

目算ではあるが流通しているチートツールは使えなくなるはず、公平性に力を入れているオンゲならどこか採用してくれるかと思ったが梨の礫だった。

 

『なんか恨みこもってて草』『プレイヤーにできることは抜けるか通報か運営に文句言うくらいしかないしな』『採用されないってことはチート防げないと判断されたのでは?』

 

「ガチで防げるんだよなぁ……、採用を見送る問題点がやっぱでかいか」

 

実際に作ったアンチチートプログラムには問題がある、極めて高い防御力を発揮するにはそれなりの理由があって、それが採用を見送られる原因だと思われる。

 

「専門用語並べてもわかんない人いるだろうから簡単に説明すると、PCとかコンシューマー機にはCPUとかメモリなどのハードウェアとプログラムを動作させるソフトウェアを繋ぐカーネルって階層型の領域があるわけ。 私のアンチチートはそのカーネルを保護して監視、ゲームプログラムと連動して渡される値が違ったら即効ゲームを落としてゲームをプレイできなくなるようにしてるんだけど、そのカーネルが保護して監視するのが問題になってるんじゃないかなぁと」

 

カーネルは機器の根幹であり、カーネルを監視することは機器全体の流れを見れるということ。

つまりPCやらコンシューマー機の中身を全て見る事ができる、中身を覗かれるかもしれないと言う不安感を煽る形となる。

 

「つまりカーネルってのはハードウェアとソフトウェアの橋渡し役で、最近のチートツールはカーネルからソフトウェアに送られる情報を横取りして改ざんした値をゲームに渡して不正に動作させてるわけ。 中にはアンチチートプログラム動いてんのにチーターいるじゃんって思う人がいるだろうけど、それはそのアンチチートがカーネルレベルで対応してないから防げていないって事なんだよね。 ゲームの運営が個人情報とか収集しませんよと言っても信じない人は一定数居るだろうし、それで苦情を入れる人もいるだろうしねぇ……」

 

めんどくせぇこった、と説明を終える。

 

『確かに嫌がる人いるだろなぁ』『中覗かれるかもと考えると拒否感でても仕方ないか』『FPSランクマガチ勢の俺は大歓迎だけどな、チーターシネ』

 

「ここまで来ると運営とチートツールのイタチごっこじゃなくて、そのゲームを遊ぶプレイヤーの気持ち次第なのが面倒くさいところ。 そろそろいい時間だし配信終わろっかな、そいじゃあまたねー」

 

『おつおつー』

 




・質問コーナー
以前からやろうと思ってたけど、これならオリ束さんへの質問を募集でもしとけばよかった。

・中の人
居るかもしれないし居ないかもしれない。

・アンチチートプログラム
元ネタあり、アンチチートで検索すればそれっぽい話が出てくる。
チーター抹殺出来るアンチチートがあったら正直ガチで欲しい、欲しくない?


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思惑

アベンジャーズタワーのプライベートルーム、そこからしていた配信を切って背伸び。

現在の時間を見るともうすぐ12時、お昼時ではあるがこれからやる事があるので昼食はまだ食べない。

 

「J.A.R.V.I.S.、もうすぐ時間だけどスタークさんは居るよね?」

『はい、予定通り準備は完了しています』

 

これから社長とのフライトを予定していた。

フライトと言っても飛行機に乗ってどこかに行くわけじゃなく、新しく作成した白騎士の二号機のテストフライト。

怪しまれて監視されている中でせっかく作った白騎士を自由に動かすことは許可されない、なので監視役として社長に付き添ってもらう事になった。

もし暴れ出した場合に止められるのはアイアンマンだけ、さらに白騎士のシステムはJ.A.R.V.I.S.管理下に置かれているために私は文字通り動かすだけしか出来ない。

 

最初動かしたいと社長に言ってみたら断られた。勝手に飛ばれてそのまま逃げられるかもしれないので当然の判断。

なら白騎士のシステム権限全部渡すから飛ばさせてくれよと、ついでに何かあったときのために抑え役として社長も来ればいいじゃんと強請った。

社長は忙しいが機能の全権を渡すんであればとスケジュール調整して付き合ってもらうことになった。

流石にこれで断られたら諦めるつもりだったが、社長は乗ってきてくれたので助かった。

実の所、白騎士のテストはもちろん大事だが本命は別のところにある。

 

あと2ヶ月ほど経てばチタウリによるニューヨーク襲撃から1年が経つ。

SNSを含むネット上にはアベンジャーズの情報が載っており、ファンになって熱心に情報収集に勤しむ人もいる。

その情報の中のアベンジャーズには7人目として白騎士の情報も載っているが、ニューヨーク襲撃以来白騎士が姿を現したのはエクストリミス事件だけ。

だが当の白騎士は編隊飛行でアイアン・リージョンに混じってたし、途中で日が暮れたから運が良いのか悪いのか、白騎士が撮られることはなくネット上では完全に姿を消していると見られていた。

 

その噂に拍車をかけているのがアベンジャーズの活動であり、アスガルドに帰っているソーが居なかったりするがその中に参加していないのも噂を助長させている。

私としてはその噂はあまり好ましいことではない、なので今回のテストフライトはその噂を払拭するための行動。

社長やニックやナターシャさんが認めなくとも私はアベンジャーズかアベンジャーズに近しい位置で活動することを余儀なくされているので、仲間外れで遠ざけられるのは困った事になりかねない。

そこで社長と行動することにより一般人に目撃させ、最近は通称ホワイティと呼ばれている白騎士はアベンジャーズの一員なんだと誤解させることが目的。

ウィンターソルジャーのようなS.H.I.E.L.D.崩壊がなければ、アベンジャーズの内情を世間一般に明かすことなどないから、事情を知らなければアベンジャーズの一員として誤解されるだろう。

 

つまり私はアベンジャーズメンバーになるために外堀を埋め始めた。

その一環で世間一般を利用して、社長たちに圧力を掛ける。

ただ個性的なアベンジャーズメンバーにとっては圧力と言っても影響は微々たるものだろう、それこそウルトロンのようなことが起きない限り外圧には屈しない頑固さがある。

勿論アベンジャーズに入る事は通過点に過ぎず、今後の活動にあたって人助けにも精を出す予定。

私が隠していることを暴けない以上、ヒーローとして実績を積んでいけば社長たちもいずれ認めてくれるだろう。

それでも認めてくれないなら、勝手に活動することになるが。

 

白騎士のステータスはオールグリーン、ソフトウェア上では問題なし。

あとは飛ばしてみるだけ、PCを終了させエレベーターに向かう。

乗り込めば自動でドアが閉まり、上昇していく。

軽い浮遊感が終わり最上階、ドアが開けば部屋の中央にはアイアンマン。

 

「ご要望のお楽しみの時間だぞ」

 

既にスーツを装着していた社長、その先には窓の外を見据える白騎士。

笑って白騎士へと向かうと、背面が開いて入り込みスーツを纏う。

すっぽりとスーツ内に収まると軽い音とともに背面装甲が閉じ、ディスプレイが起動して室内と外の青空が表示される。

 

「J.A.R.V.I.S.、渡しておいた基礎データをインポートしておいてくれた?」

 

手を握ったり開いたり、サイバネティックインターフェイスは正確に私の動きを読み取って機体の動きに反映する。

 

『アップロード済みです』

「ありがと」

『どういたしまして』

 

本来ならちーちゃんが行うのだが、権限を渡してあるんで代わりにJ.A.R.V.I.S.がメインサポートとして稼働させる。

 

「フライトシステムをテスト」

『フライトシステム、テスト中』

 

白騎士の装甲が動き、装甲に保護された機体各所のスラスターが見え隠れ。

スカートスラスターもそれぞれ個別に可動して、装甲に守られた推力偏向板が波打つように動いた。

 

「射撃管制装置をテスト」

『射撃管制装置のテストは許可されていません』

「まあそうだよね、じゃあ他に許可されてることをテスト」

『了解、全機能のテスト完了まで約30分』

「……よし! 飛びましょう! スタークさん!」

 

流石に30分は長い、社長もそこまで待ってるわけにもいかないだろう。

最適化は一号機のデータを流用してほとんど省くことはできるが、その他諸々の装備テストは別の話になってくるのでこんなに時間がかかる。

 

『……シノノノ様もまず歩くより走る方がお好みのようですね』

「文句はスーツを取り上げたスタークさんによろしく」

「おいおい、それは君も承諾しただろう? 責任を罪のない者になすりつけるのは良く無いぞ」

 

パカッとフェイスガードが開いて社長が文句を言ってくる。

 

「出来てすぐ持っていかれたんじゃこっちも調整しようがないと思うんですけどねぇ」

「それも織り込み済みで行動しない君が悪い」

 

疑われているのに干渉を受けず動かせる状況にしたらまずいと思うんですけど(正論)

 

「はいはい、私が悪うございました」

 

軽く言いつつ重い足音を鳴らして外に出て、ヘリポートへ向かう。

私も含めて重量350kg超の重量でありながら、その足取りは重さのかけらも感じられない自然体。

スーツのパワーアシストは正常に機能し、マンマシンインターフェイスの設計には間違いがない。

この白騎士の二号機、とりあえず白騎士二型と呼ぶとして、この二型は新技術を組み込んだ意欲作。

二型の目玉を挙げるとすれば、花火大会で綺麗に散った一型とは大きく変わった推進システム。

 

一型は推進力としてターボジェットエンジンを載せて推進剤を圧縮して目一杯詰め込んでいたが、活動時間が予想より短い事がニューヨーク襲撃の際に分かった。

消費量から推測すると、あと30分戦闘が続いていれば推進剤切れに陥っていた。

予想が甘かったとしか言えない、いくら推進剤を圧縮して詰め込んでも容量に限界がある為、効率を大きく上げなければ飛行可能時間の延長は厳しい。

そこで問題改善の為に推進機能の改良を決意、基本は改良したターボジェットエンジンに新しく組み込んだのは反重力装置だ。

この反重力装置は私が新規に開発した物ではなく、チタウリのチャリオットやリヴァイアサンが搭載していた物を解析して実用化した。

 

はっきり言って最初は手も足も出なかった。私や社長を含め純粋な地球人類科学が低質なおもちゃと思えるほど極めて高度な技術で構築された物だ。

散々頭を捻って実用化したと言ってもチタウリ製の物と比べれば性能は著しく低い、しかもエネルギー馬鹿喰いで片足ずつに専用の改良型アークリアクターを載せる必要があるほど。

それでも反重力ユニットは推進装置の強化に成功、脚部推進装置は一型とサイズ変わらずで全体的に性能が向上した。

 

本来なら反重力ユニットを衝撃吸収とか姿勢制御などで全身に付けたいところだが、アークリアクターの数を3倍ぐらい増やさないといけなくなるので今回は見送った。

反重力ユニットのエネルギー消費程ではないが、全体にアップデートを施したのでエネルギー消費も上がっている。

エネルギー消費増加に対する解決策はアークリアクターの改良で、エネルギーの出力と供給時間が向上したので全力機動と搭載武装をフル稼働させても5時間は持つ想定。

武器がライフルとブレードしか使えなかったニューヨーク襲撃と比べ、フル武装でも稼働時間2割増で動ける。

一型と違って完全フル武装、充足感に満ち足りた白騎士二型を動かしてヘリポートの縁に立ち、全身のスラスターが展開する。

 

「飛行ルートは入力済みだ、指示通りに従って飛んでくれ」

「……スタークさん、せっかく飛ぶんですからここは一つヒーローっぽいことしませんか?」

「人助けをするのか、君が?」

「疑われている人間が人助けをして点数稼ぎすることはダメなんですか? 面倒な紛争や違法な武器商人をぶん殴るだけがヒーローの活動じゃないでしょう?」

「……正直で結構、君の案に乗っておこう。 J.A.R.V.I.S.、消防と警察の無線を傍受しろ」

『了解しました、緊急性が高い事件をピックアップします』

 

やけに乗ってきてくれるが、なんらかの裏が社長にはあるのだろう。

私の言動を観察する意味合いがあるのはわかる、後は白騎士二型がカタログスペック通りに性能を発揮するかどうかを確認でもするんだろうか?

流石にこんな街中でフルスペックを発揮したらビルの一つや二つ、簡単に倒壊する。

なんなら全力飛行するだけで死人が出かねないから、性能確認なんざ出来ないだろうが。

それでもやってくれるというなら乗るしかない、このビッグウェーブに!

 

準備を整えると体が前のめりに傾き重力に引っ張られる、スラスターが光を放ち機体を持ち上げる。

真っ逆さまから水平へ、出力を一気に上げてビルの間、道路の上空を飛ぶ。

J.A.R.V.I.S.のナビゲーションに従い、最短距離で災害現場へと飛んでいく。

当然10メートル後方にはアイアンマンが追従し、時速300キロメートルほどで向かう。

歩道を歩く市民たちは飛行の音に上を見上げ、飛んでいる私たちを見つけて指を差す。

中には素早くスマホなどを取り出して撮影する市民もいた。反射だろうがいの一番にネットへと上げれば注目を集める事は請け合いだ。

 

1分ほど飛行し続ければ目的地が見えた。

 

「一件目」

『見ての通り火事が起こっています』

 

一軒の8階建のアパートメント、3階から5階の窓から火が吹き出しており、6階から8階からは黒煙が上がっていた。

既に消防車が数台駆けつけて消火活動に当たっているが、火の手の勢いは止まる様子はない。

下手しなくても数時間は燃え続ける火力、このアパートメントの修繕は不可能だろう。

 

『あのアパートメントの住民の殆どは脱出したのが確認されていますが、数名所在が判明していません』

『逃げ遅れたか、中に居ても不思議じゃないな。 J.A.R.V.I.S.、アパートメント内部をスキャンだ』

『了解』

 

アパートメントの正面に到着、滞空したまま白騎士とアイアンマンはセンサーでアパートメント内部をスキャニング。

 

『君は5階だ、僕は7階のを助ける』

「了解」

 

スキャニング結果を共有し、アパートメント内部に取り残された住人を発見。

弾かれるようにアパートメントの内部に突入、噴き上がる火炎を浴びつつ壁やドアをぶち抜きながら直行。

目的地の部屋のドアを引き剥がして踏み込めば、スキャニング結果と同じ住民がピクリとも動かず倒れていた。

おそらく親子、子供に覆いかぶさるようにして気を失っている女性と子供に抱き抱えられている猫で二人と一匹。

そばにはベッド、昼寝をしている時に火事に見舞われ、気が付いた時には煙を吸い一酸化中毒やシアン化物中毒などを起こし手遅れになったと推測できた。

 

「社長、壁をぶち抜くからショックブラストの使用許可を頂戴」

『社長? ……いいぞ、だが今回だけだ』

 

右腕を上げると使用制限が解除されたショックブラスト、右前腕の装甲が可動して開き衝撃砲がせり上がって展開する。

ドンッと重い音と共に最短で外に通じる壁と窓を一直線に吹き飛ばし、親子とペットを抱えて一気に飛び出す。

5階の高さから降りて、待機していた救急車のそばへと降りる。

アイアンマンも男を抱えてアパートメントから飛び出してきた。

 

「一酸化中毒を引き起こしている、適切な対処を」

 

驚きの表情を浮かべている救急隊員が慌てて救急車からストレッチャーを引き出す。

救助した住民を救急隊員へと引き渡し、振り返ったアイアンマンは放水を続けている消防隊員たちへ向かって一声。

 

「消防隊員の諸君、このアパートメントの中に要救助者はもう居ない。 君たちの仕事を全うしてくれ、延焼もちゃんと抑えてくれよ? 行くぞ」

 

その一言で私たちは一気に飛び上がる、唖然とした消防隊員たちや野次馬を残して。

 

『次は人質を取り逃走中の銀行強盗です』

「……治安悪くない?」

『それは事件を起こす奴らに言ってくれ』

 

警察の無線から逃走中の車両、速度規定を超過して走るワゴン車を発見。

無線を聞いてから2分ほどでそのワゴン車の上空へとつける。

 

「運転席と助手席に一人ずつ、後ろに銃を持ったのが二人と人質らしき人が二人か。 後お金もいっぱい」

『小銭稼ぎをするのも大変だな。 さて、君はあの車をどう止める?』

「何でもいいんで社長が犯人を無力化、私が車を止めるでどうでしょう?」

『いいだろう、君は武器を使えないからな』

 

私は頷いて加速、ワゴン車の斜め上へと位置付ける。

 

『やるぞ』

 

一気に下降してワゴン車とほぼ同じ速度で後退しながら目の前に降りると、アイアンマンの肩から小型兵装が顔を出して銀行強盗たちの手足をワゴン車の天井越しに撃ち抜く。

痛みに驚きハンドルを切られる前に広げた腕でフロントを掴む。

両腕を車体に食い込ませながら上半身をそらし、ワゴン車を持ち上げてスラスターを吹かせて上昇させる。

 

『やあ、助けに来たが怪我もなく元気そうだ』

 

アイアンマンはワゴン車の天井を引き剥がし、人質の安否を確かめていた。

 

「社長、車がアクセル全開なんだけど運転席からひっぱり下ろせない?」

『丁重に降りてもらうとするか』

 

社長はわざわざ運転席ドアまで移動して軽く窓をノックする。

 

『ノックノックノック、少し聞きたいことがあるんだがおっとこれは大変だ、誰にやられたんだ? すぐに病院に運ばないと!』

 

鍵が掛かっていたドアハンドルを握り潰しながらドアを開いて強盗犯を掴んで引き摺り出した。

 

『良いぞ、降ろせ』

 

位置をずらして歩道にゆっくりとワゴン車を置き、銀行強盗たちも引き摺り下ろしておく。

銀行に用事のあった客だろう、人質たちも車から降りて私たちに頭を下げて礼を言ってくる。

 

『怪我はないか? そりゃ良かった、助けた甲斐があったよ』

 

その光景に周囲の野次馬から歓声が上がる、超有名人のヒーローが人質を救って事件解決したので騒いでいる。

私はそれを聞きながらエンジンキーを回してエンジンを停止、キーを引き抜いて運転席に放り投げる。

 

「この傷じゃすぐに出血死しないだろうけど、一応手当てしときますよ」

 

手早く縛って出血を抑える、その後ワゴン車の後部に銀行強盗たちを押し込む。

その間にも野次馬たちが挙ってスマホのカメラを向け、アイアンマンと白騎士を撮影する。

この分だと一時間もしないうちにネットに拡散、世界中に白騎士の存在を示すことになるだろう。

予定通り順調に進んでいる、このまま社長と世間にアピールを続けていこう。

出来る限り面倒な事件は起きないでくれよと私は祈った。

 




陛下の俳優がお亡くなりに、ブラックパンサー2はどうなるんやろなぁ……。


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負債

周りの野次馬からこれでもかと言うほどに携帯電話のカメラで撮られている、社長なんか態々フェイスカバーを開いて野次馬に向かって顔を見せているから歓声が上がっている。

そのせいで私にも「顔見せてくんねーかなー」みたいな視線が四方から向けられている。

そんな視線を向けられた所で流石に見せてやる気はない、いずれS.H.I.E.L.D.が崩壊した際の情報暴露で身バレするとしてもだ。

これからは身の安全と言う危機管理も重要になっている、S.H.I.E.L.D.のシステムの大半を掌握したせいでヒドラも焦っただろうし殺害予定(キル)リストに載ってるのも簡単に予想がつく。

フェイスカバーを開いたら弾丸が顔に向かって飛んでくることもあり得る、死にたくないしやることいっぱいあるから安全な場所でなければスーツを脱ぎたくない。

 

……ヒドラのせいで去年の社長みたいなスーツ依存症になりそうだな。

 

そんな事を考えてパトカーが来るまで待機、負傷しているとは言え流石に銀行強盗を放置して置くのはまずいので到着まで待っていた。

警戒しかやる事が無いので暇潰しを兼ねてアイアンマンを見る、去年のクリスマスの時とまた形状が変わっていた。

社長の事だから間違い無くバージョンアップしていると見ていい、残念ながらスペックの程は知らないがメインスーツにするくらいだから前のバージョンの問題点も解決してきているだろう。

デザインは前回の角ばった奴より丸みを帯びていて、個人的には今のアイアンマンの方が好みだ。

 

『どうした? こっちばかりを見て、私に惚れたか?』

 

顔は向けていないのに見ていることがバレたのは、J.A.R.V.I.S.がこっそり社長に報告でもしたのか。

とりあえず鼻で笑って返しておく。

 

「社長はともかく、アイアンマンには惚れてますよ」

『それはつまり、僕に惚れていると言うことか』

 

そう言われると確かに、トニー・スターク=アイアンマンだからアイアンマンに惚れているならトニー・スタークに惚れていると言ってもいい。

しかし惚れているのはスーツの外見(ガワ)と技術であって、中の人は言うほど惚れてはいない。

 

「……社長はまあ好き寄りの普通かな。 でもすぐ煽るし表面上だけであっても他者を尊重しないし、余程の才能でないと対等に扱わないでしょ? そこら辺が普通の域を出ない要素だね」

 

アベンジャーズメンバーは方向性は違えど天才揃い、科学技術的な話は少ないものの一目置くレベルの傑物揃いなのでやっていけている。

そうでなければとっくに意見の相違でバラバラだっただろう、下手すりゃ原作のように各アベンジャーズ結成で別れて活動してたかもしれない。

それくらい社長はほんとにあくが強い強い、自分に自信がありすぎてナチュラルに相手を見下している。

実際大抵のことは一人でできるくらいに万能だから、社長を超える超科学やファンタジー物質でなければ誰かに頼ったりしない。

私に対してそこまで悪辣じゃないのは能力をある程度認められているからだろう、そうでなければ……ただの女として口説かれていたかもしれない。

まあ未成年をあれこれするかはわからないが、そう言う可能性もあっただろう。

社長の女とか私は絶対にごめんだが。

 

『……確かにそうだな、だが会話ができないと人生つまらないぞ?』

「そこら辺はわかりますけど、社長の場合は会話にすぐ煽りを入れてくるからなぁ……」

『ちょっとしたジョークじゃないか』

 

そう言って軽く肩を竦める社長。

うーん、これはヴィラン製造機!

 

「……社長って人間強度高いのか低いのかわかんないですよね」

『なんだその人間強度って言うのは?』

「ちょっとした日本のファンタジー小説で出てくる造語ですよ」

 

社長はその性格から友達と言える人なんて極々わずかだろう。

ローズ大佐、ローディさんみたいな器がでかい人とじゃないと友人として付き合っていくのは無理だろうな。

 

『歓談の最中申し訳ないのですが、ヨークビルで強盗事件が発生しているようです』

「……ほら、やっぱり治安悪すぎですよ」

『僕に言われてもどうしようもないぞ』

「わかってますよ、ただの確認です」

 

警察も来たことだし、事件現場に向かうか。

この場を警官に任せスラスターを吹かして一気に飛び上がり、社長が後に続く。

 

『これは……トニー様、まずい事になっています』

『何があった?』

 

飛行中に焦ったような合成音声でJ.A.R.V.I.S.が事件の追加情報を告げた。

 

『強盗犯は3人、それぞれエネルギー兵器を使用しているようです。 これにより警官5名と市民9名が死傷、現在人質を取って店に立て篭り逃走用の車両を要求しています』

 

エネルギー兵器と聞いて片眉が上がる、今現在エネルギー兵器を実用化しているのはごく僅か。

社長や私のように自力で開発するか、S.H.I.E.L.D.などの組織が地球外の超技術を手に入れて解析するか。

前者ならどっかの天才が作って誰かに売り払ったか、後者ならどっかの組織から横流しされたか。

S.H.I.E.L.D.の可能性も考えたが、流石にそこまでガバってないだろう。

そうなると現在一番可能性が高い入手先は、後のヴァルチャーことエイドリアン・トゥームス一味か。

 

2012年のニューヨーク襲撃の際、チタウリの武器は旧スタークタワーを中心としてあちらこちらに散らばった。

社長が出資してアメリカ政府が立ち上げた『ダメージコントロール局(DODC)』が回収して保管しているが全て回収できるわけがない。

政府も広報で危険であるから拾っている場合は提出してほしいと国民に伝えている。

それに耳を貸さず記念だとか言って隠し持つ奴らや、金になると価値を見出して裏に流す奴らもいる。

そう言うのの一部が彼らに流れ、チタウリの武器を作り変えたりエネルギーコアを転用して別の武器を作り上げた可能性は高い。

 

「社長、エネルギー兵器ってチタウリのやつだと思います?」

 

犯人を警察に引き渡してからの現場に向かって飛行中、ほぼ決まりの結論を社長に聞いてみた。

 

『その可能性は高いな』

「チタウリなら誰かが弄って流してる事になりますね」

『そうだな、その誰かはあまり頭が良くないらしいが』

「確かに」

 

部下を食わせる為や嫌がらせもあって武器作ったんだったか、だがこんな白昼堂々強盗を働くような阿呆に武器を売ったのは流石に呆れてしまう。

足がつく可能性があるが早急に活動資金でも必要だったんだろうか?

これがエイドリアンの仕業だとして、流石に目をつけられたとして今後は身を潜めもっと慎重に活動するだろう。

知識を使えば早期に身柄を抑えることもできるが、デメリットとしてスパイダーマンの成長の場が減ってしまう。

ヒーローとして考えるなら、ここでヴァルチャーが生まれないように先んじて叩いておくのが最善だろう。

 

それを承知で抑えて彼らの活動を終わらせれば、今後作られ売り払われるエネルギー兵器によって出る犠牲者が居なくなる。 

だがスパイダーマン対ヴァルチャーの一戦は、ピーター・パーカーがスパイダーマンと言うヒーローを確立するために必要な出来事だ。

これをすっ飛ばして成長が遅れればどうなるか……、対峙するヴィランは容赦はしてくれない。

怪我で済むなら良いが、最悪死ぬ可能性もあり得る。

サポートすればいい話ではあるが、ずっとスパイダーマンを支える事ができるかわからない。

 

なので私にとっての最善の方法は奴らに圧力を掛けて活動を抑制し、怪しい武器取引をほどほどに抑えてその時まで待つ。

もとより何処で誰が武器取引をするかなど知らないのだ、都合よく全ての取引がネット上で行われているとかでなければ全て抑えるのは不可能。

A.I.M.の時と違って繋がる情報はない(てい)なので、J.A.R.V.I.S.のサポートがあっても無理だ。

なので可能な限りピーター・パーカーには単独でヴィランをぶちのめして、事件を解決出来るようになってもらわなければならない。

 

もちろんサポートはする、介入しすぎた結果で強くなれなかったスパイダーマンが死亡するなんて事になったら大事すぎる。

未来を知っている、正確には並行世界の未来を知っているとこう言う問題に直面して悩むから嫌なんだよ……。

 

「全く、面倒なことを起こしてくれますね。 強盗殺人を働く気概があるならもっと真っ当なことを出来るでしょうに」

『それについては同意だな、まあ強盗の気持ちなんて理解する気はないが』

「武器を手に入れて気が大きくなっただけでしょうしね」

 

悩んでも仕方ない、今回もこっそりと見守るのがベターなんだろう。

内心で方針決定したところで、J.A.R.V.I.S.がディスプレイに表示している事件現場までの最短距離に沿って飛ぶ。

私が前、社長が10メートルほど後方で飛んで事件現場上空に到着。

 

「やっちゃってますねぇ……」

 

通りの上空で滞空して見下ろすと通りに面した店、看板から見るに宝石店の前にはひっくり返って燃えているパトカーがあった。

パトカーを盾に出来ないために警察官たちは遠目に銃を構えて強盗犯を警戒し、更に距離を置いて野次馬が群がっている。

命の危険があることに気が付いていないバカな野次馬にため息を吐きながら、パトカー側面にはえぐられたような大きな凹み、道路にもいくつかの大穴が空いている光景を見る。

明らかに爆発した跡で、これがパトカーを吹き飛ばして燃やした原因だろう。

 

「穴の縁が融解してますね、火薬の武器じゃここまで綺麗に溶けませんよ」

『エネルギー性の爆発、十中八九奴らの武器だな……』

 

社長のトラウマを刺激している光景、マシになったとは言えまた酒漬けになったら困るので行動に移す。

 

「社長、テーザー使いたいんですけどいいですよね?」

 

人質が居る以上流石に無手で突っ込めとは言わないだろう、1人に殴り掛かっている間に人質を撃たれたりしたら責任は取れない。

 

『僕も行こう、流石にこれは任せてはおけない』

「失敗すると?」

『そうじゃない、ただ僕がやるべきことなだけだ』

「……まあ、それならいいですけど」

 

社長は思うところでもあったか? そんな殊勝な性格じゃないと思うが。

奇妙な社長を見ていれば店の前に勢いよく降り立つ、いつもの膝に悪そうなスリーポイントランディング*1でバッチリ決めた。

私もちょっと真似しようと思ったが、足の長さが違いあの体勢は格好良く決められそうにないので普通に落下して社長の隣にガツンと着地。

ちょっと道路にヒビが入ったが、緊急事態だし許してくれるだろう。

ついでに周囲の野次馬たちからは歓声が上がっていた。

 

「まずは投降を呼びかけるんでしたっけ?」

『一応な』

 

警告を出さず叩きのめすと、叩きのめした側から訴訟される可能性があるとか、しかも負ける場合もあるのできっちりと投降を促しておく。

 

「強盗たちに告げる! 君達は包囲されている! 人質を解放し武器を捨てて投降しろ! 話せばわかる!」

「……ほんとかなぁ?」

 

社長の投降の呼びかけに疑問を感じていたら、人質を盾にした強盗犯たちが店の奥からこっちを見てくる。

すぐさま拡大ズームで強盗犯、ではなく手に持つ武器を確認する。

ナターシャさんが奪って使っていた細長いエネルギーライフルが2丁と、キャップがパトカーの上で警察官に指示を出した時に盾でチタウリ兵の腕ごと叩き落としていたブラストライフルの計3丁。

縁取りして強調表示される武器は照会の結果、チタウリの武器と82%で形状が一致。

残りの18パーセントはバイパスなどの明らかに後付けされた機構で占められている。

いかにも人が扱えるようにしましたと言わんばかりの武器、そのまま流用しているので武器としてはスマートさは失われている。

 

「もっと綺麗に作れないもんですかね」

「そう言ってやるな、一生懸命作ったかもしれないぞ」

 

社長の上辺だけの努力は認めます的な発言、しかしいじくり回して使えるようにしている以上相応の能力があるのはわかる。

尤もとりあえず使えるようにしたと言った感じであり、地球上に存在しない理論を理解している訳ではなさそうだ。

強盗たちに注意を払いながらも、武器の事を考えていたら強盗たちが困惑していた。

声を拾って聞けばアイアンマンが来るとは考えていなかったようで、このまま人質を押し出して要求を飲ませようとする奴と、今更ながら事の重大さに気が付いて投降しようとする奴とで揉めていた。

 

『この武器ならアイアンマンなんてイチコロだ! 怖気づくことはねぇ!』

『で、でもよ! 効かなかったらどうするんだよ!』

『てめぇも車が吹っ飛ぶのを見てただろうが! 効かねぇわけねぇんだ!』

 

残念だけどこの装甲相手じゃ一発や二発では効かないんだよね、社長のもそんな軟な装甲じゃないだろうし。

正直魔改造されて威力数倍とかになっていなければゴリ押しで問題なく制圧できるが、その場合だと人質の安全は保証できないのでやらないだけ。

 

「話は纏まったか? 素直に投降することをお勧めするが、どうする?」

 

投降しないなら遠慮は無しだ、そんな意思の籠もった最後通告。

社長の一言で右肩部内蔵テーザーガンがオンラインに、意思一つで展開して発射できるようになる。

強盗犯との距離は25メートルほど、テーザーガンの射程内でいつでも撃てるが、痙攣時の衝撃で引き金を引いてしまうかもしれないので銃口が人質から外れないと撃つのは無理か。

 

「ま、待て! 俺は投降する!」

 

怖気付いた1人は武器を手放して両手を上げ、店の外に出ようとする。

 

「おい待て! 勝手なことをするんじゃねぇ!」

「うるせぇ! 簡単な盗みだって聞いてたのに話がちげぇじゃねぇか!」

 

人質を盾にする主犯格らしき男が仲間の行動を咎め、仲間割れをしはじめた。

 

「さっさとそいつを拾え!」

「嫌だね! こんな話に乗るんじゃなかった!」

 

簡単な盗みという話だったのにパトカー数台を廃車にし、警官と市民を殺害してアイアンマンに追い詰められる状況は美味しい話ではないのは明らか。

 

『まだ撃つなよ』

「わかってますよ」

 

様子見をしているがこのまま仲間割れを見ていたら十中八九投降しようとしている男は撃たれることになるだろう、明らかに激昂しているしそうならない方がおかしいまである。

 

「……社長、私がワイヤーで武器を引き剥がすのはどうです? 発射から引っ張り寄せるまで1秒で出来ますよ」

 

人質に銃口が向いている武器をピックアップ、人質は一塊にされているのでこの武器がなくなれば即制圧できる。

具体的には左腕のワイヤーを人質を取っている強盗犯の武器に向けて高速射出、武器に吸着させて引ったくる。

同時に社長が残る武器持ちをリパルサーレイでぶっ飛ばす、実に簡単でスマートに終わらせられる。

 

『で、僕が残りを撃つってことか。 いいね、やろうか。 合図はこっちで出す、ワイヤーの発射はJ.A.R.V.I.S.がやれ』

『了解しました』

 

仲間割れの怒鳴り合い、ヒートアップする口論は強盗犯にとって最悪になった。

口論は無駄と投降しようと店の外に歩き出そうとすると、怒り心頭の主犯格が銃口を向けて男の背中を撃った。

 

「ゥギァ──」

 

短い断末魔を上げた男は、まるで紙が焼けるように全身が灰になって床に散り積もる。

 

『撃て!』

 

その光景を前に素早く左腕を上げるとJ.A.R.V.I.S.が照準を合わせワイヤーを発射、時速300キロ超の吸着ワイヤーが強盗の武器を捕らえる。

巻き取りながら左腕を引く頃には社長が両腕を上げて、残る武器持ちにリパルサーレイ。

衝撃特化のリパルサーレイは仲間殺しに愕然としていたもう1人の男を吹き飛ばして店内の壁に叩きつけ、主犯格の強盗は急に手元から武器が引っ張り取られた反動で人質を突き飛ばすようにして前によろけ出ていた。

 

『プレゼントだ』

 

アイアンマンの左右の手のひらから同時に光弾が飛び出し、主犯格の男は被弾の衝撃で吹っ飛んで壁に叩きつけられたあと床に転がった。

 

「馬鹿な真似を……」

 

強盗犯を制圧したあと、店の中に銃を構えて突入する警官を横目に見ながら左手に持った改造チタウリ武器を眺める。

 

「リチャージ出来ないからバイパス噛ませてる、人間相手なら過剰出力だしねぇ」

『及第点だな、こんな設計をみれるとは思っていなかった』

「……オモチャとして?」

『そうだ、こんなオモチャで殺人をやったのは笑えないが』

 

オモチャと言えばオモチャだ、正面から撃ち合いをしたとしたらバイパスに当たる可能性があるくらいにはみ出ている。

このバイパスが破損すれば十中八九スパイダーマンでもあったエネルギー漏れが発生する、金属も簡単に切断するほどの高密度エネルギーなので人に当たったらお察しだ。

そんな欠陥品をハイテク武器と謳うのはお笑い種、かつて武器を売っていた社長からすればオモチャもいいところだ。

 

「これの販売元、どうします?」

『君に伝えてどうする? なにかする必要はないぞ』

 

この件については何もしない、間違いなく新聞やニュースで報じられてエイドリアン一味は知ることになるだろう。

そうなれば活動を控える、活動基盤であるネットを介さなければ社長でも追い切れないと思う。

ただまあ、S.H.I.E.L.D.やFBIもあるからそっち方面の足で稼がれる可能性もある。

しかし原作はアホなショッカーがぶっ放してスパイダーマンの目に止まったから一気に進展したのであって、それまでは何年も尻尾を掴まれなかった。

無論時間の問題であったとしても隠れ続けたのは事実であり、本格的に動き出してもあっさり捕まることは恐らく無いだろう、と思いたい。

 

「社長がやるって言うなら何もしませんよ、私としては販売元が無くなればいいわけですし」

 

動くとしても本格的にスパイダーマンが活動し始めた時だろう、願わくば介入無しで立派なヒーローになって欲しいものだ。

 

*1
スーパーヒーロー着地と言われるいつものあれ、絶対膝や腰にくるはず




ハルクみたいな超人か対策したスーツや装甲じゃないと当たったら一瞬で全身が燃え尽きて灰になるってエグいよね。
改造でそうなったのかわからないけど殺意マシマシなサノス軍の武器だし、元から低強度生物絶対殺す武器でも不思議ではないと思う。


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掲示板2

ここの誤字は仕様です


アベンジャーズ雑談スレpart885

 

1:名無しのヒーロー

スーパーヒーローチームのアベンジャーズの雑談スレッドです。

過去スレやルールは>>2を参照してください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

249:名無しのヒーロー >>253 >>259 >>260 >>261 >>266 >>272 >>329

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

https://image.com/gallery/white.jpg

 

250:名無しのヒーロー

>>245

去年みたいなのがそう簡単に起こってたまるか

 

251:名無しのヒーロー >>257

>>245

ぶっちゃけSFの中だけだと思ってた異星人がいた事だけは収穫だな。

敵性なのはいただけないけど。

 

252:名無しのヒーロー

そういや異星人は居るだろうけど距離が遠すぎて来れないって言ってた学者連中顔真っ赤だったな

 

253:名無しのヒーロー >>258

>>249

グロ画像? 誰か人柱になってくれ

 

254:名無しのヒーロー

敵対的でワープしてくるとか人類終わりやんけ!って言ってるやつもまだ居るしな

 

255:名無しのヒーロー >>269

最近アベ出動してねーな

 

256:名無しのヒーロー

社長の情報ばっかりでつまらんよなぁ

 

257:名無しのヒーロー

>>251

そこでアベンジャーズですよ

 

258:名無しのヒーロー

>>253

ブラクラとかグロ画像じゃない、アベンジャーズの画像

 

259:名無しのヒーロー

>>249

これマジ?

 

260:名無しのヒーロー

>>249

生きとったんかワレ!

 

261:名無しのヒーロー

>>249

超久しぶりじゃん

 

262:名無しのヒーロー

全員揃うこと全然ないしなぁ、アベンジャーズ

 

263:名無しのヒーロー

思ってた以上にでかいな、アイアンマンの頭半分以上たけぇじゃん

 

264:名無しのヒーロー

アイアンマンよりSFしてねぇか?

 

265:名無しのヒーロー

はっきり映ってるのはじめてじゃね?

 

266:名無しのヒーロー

>>249

並んでるの結構映えるな

 

267:名無しのヒーロー

鉄男が2メートルぐらいだっけ?

なら2.2~3メートル位か、てかゴツいな

 

268:名無しのヒーロー >>275

めっちゃ足長くてバランスわりぃw

 

269:名無しのヒーロー

>>255

アベンジャーズが出るってことは常識的に考えて相当やばいだろ、活躍見たいから出動してくれは他人事じゃないんだが

 

270:名無しのヒーロー

確かにでかい、あれは胸部装甲なのかおっぱいなのか、それが問題だ

 

271:名無しのヒーロー

はっきりとしたディテールが出て色々捗るな!出てる画像大体ぼんやりしてるから想像で描かなくて済む

 

272:名無しのヒーロー

>>249

おー、かっこいいな

 

273:名無しのヒーロー

アイアンマンはスマートだけどホワイトはゴテゴテしてるな

 

274:名無しのヒーロー

動画もつべに結構上がってるぞ、avengersの新着で検索すると出るわ出るわ

 

275:名無しのヒーロー

>>268

そうか? スネ辺りから下がブースターとかだったらとくにおかしくは感じないが

 

276:名無しのヒーロー

動画で見たほうがいいぞ、腰のやつ装甲スカートかと思ったらブースター?だったりするし

 

277:名無しのヒーロー >>283

全長はでかいし胸部装甲もでかい、腰の銃や剣もでかいな

全然デザイン違うし、社長が作ったんじゃなくね?

 

278:名無しのヒーロー

アイアンマンよりSFっぽいな。

 

279:名無しのヒーロー

ガチャガチャ動いてんなーw

 

280:名無しのヒーロー

動画で見ると自然に動いてんな、足長いしスカートがスゲェ邪魔そうなのに

 

281:名無しのヒーロー >>294 >>298

ホワイトは死んだって言ってた奴ら生きてるかー?w

 

282:名無しのヒーロー >>286

アイアンマンも感動するがホワイトでも感動するわ、完全にSFのパワードスーツが人間と遜色ないレベルで動いているのはやばすぎる……

 

283:名無しのヒーロー

>>277

デザインだけ担当した可能性は?

 

284:名無しのヒーロー

話題も萎み始めたところでいい感じに燃料投下してくれるな

 

285:名無しのヒーロー

動画漁るのが捗るわ

 

286:名無しのヒーロー

>>282

しかも空飛んでるしな、ビームも撃てるし次はバリアでも張ってくれるか?

 

287:名無しのヒーロー >>291

何度見てもおかしく感じる、あんな速度で飛び出して中の人が無事な訳ないだろ

絶対中身入ってないだろコレ

 

288:名無しのヒーロー >>312

ttps://www.youtube.com/watch?v=xxxxxxxxxxxx

これどうなってんの?鉄男がぶっ放してるのはわかるがその前にホワイトが何してるのかわかんね

別の角度無いかな?

 

289:名無しのヒーロー >>304

ええい、アイアンマンはいい、ホワイトを映せ、ホワイトの戦いぶりを!

 

290:名無しのヒーロー >>295

分かってる範囲でライフルとブレードとひあり腕のワイヤー?で全部か

 

291:名無しのヒーロー

>>287

中身入ってるぞ、社長は顔出ししてたし

つーか逆になんであんな速度で飛び出してるのに無事で居られるか考えないの?

ビーム撃ったりあんなもん飛ばしてるんだからSFによくある慣性制御とかあってもおかしくないでしょ

 

292:名無しのヒーロー

窓から炎が吹き出てんのに普通に突っ込んでて草

ttps://image.com/gallery/XXXXXXXXXX.gif

 

293:名無しのヒーロー

なんか日本のSFっぽいスーツよなこれ

 

294:名無しのヒーロー

>>281

別スレで中身が違うって元気に喚いてるぞ

 

295:290

>>290

ひありじゃなくて左

 

296:名無しのヒーロー >>309

何だこのスーツ!(驚愕)

ミリタリーバランス壊れちゃ~う!

 

297:名無しのヒーロー >>351

こりゃわかっていたが社長が公開しねーわけだ

 

298:名無しのヒーロー

>>281

死亡確認!

 

299:名無しのヒーロー

ホワイティ、予想以上に大きいな

 

300:名無しのヒーロー

こんなんロマン感じちゃうだろ

 

301:名無しのヒーロー

まじでアイアンマン作った社長天才だな

 

302:名無しのヒーロー

車持ち上げながら飛んでる画像もあるな、推重比いくつだよ

 

303:名無しのヒーロー

鉄男と白、どっちが強いのか気になるな

 

304:名無しのヒーロー >>307

>>289

酸素欠乏症の技術者が居ますね・・・

 

305:名無しのヒーロー

勢いが目に見えて増えててワロタ、皆検索しまくってんのな

 

306:名無しのヒーロー

アーマー着てみてぇなー

 

307:名無しのヒーロー

>>304

技術者が夢中になるわけだ(鉄男と白を見ながら)

 

308:名無しのヒーロー

ホワイトスーツはやっぱアイアンマンと同じようにガチャガチャ開くんかな?

 

309:名無しのヒーロー

>>296

ホモは帰って、どうぞ

・・・冗談抜きでミリバラぶっ壊れるな、アイアンマンは等身大サイズで戦闘機並らしいし

 

310:名無しのヒーロー >>317

二人とも撃たれてんのに平然としてるのクソワロタ、跳弾あぶねぇだろ!

 

311:名無しのヒーロー

見た目おもいっくそビームなのに吹き飛ぶだけとかどうなってんだあれ

 

312:名無しのヒーロー

>>288

ttps://www.youtube.com/watch?v=zzzzzzzzzzz

斜め後ろからのスロー再生の奴

左手からなんか飛び出してる、それで引っ張り寄せたみたい

 

313:名無しのヒーロー

この日に事件起こした連中の運の悪さマジウケルwwwwwww

 

314:名無しのヒーロー

個人携行火器で倒せるのか甚だ疑問だな、動画じゃ明らかに小火器効いてないし携行ミサイルとかじゃないと通じなさそう。

 

315:名無しのヒーロー

まじ動力源どうなってんだろな、アーマーのサイズから大きくても手のひらサイズぐらいだろうし

 

316:名無しのヒーロー >>322

さすが世界を救ってきた奴らだ、面構えが違う

 

317:名無しのヒーロー

>>310

銃社会での事件なのに野次馬してる連中だぞ?流れ弾にあたって死ぬ可能性なんて欠片も考えてもねー馬鹿どもの心配する必要ねーだろ

 

318:名無しのヒーロー

白と黒、青い目の部分を見るとACfAのホワイトグリントっぽくみえる、ホワイトもなんかゴツゴツしてるし

 

319:名無しのヒーロー

戦車並みの装甲を持つジェット戦闘機とか言われてるけど、バルカンはともかくミサイル一発あたったら普通に吹っ飛びそうなんだけど

 

320:名無しのヒーロー >>341

事件起こしてた連中、玉が冷えただろうなw

 

321:名無しのヒーロー

2008年から色んな所が頑張って飛行可能なパワードアーマー研究してっけど、未だアイアンマンみたいに飛べるような奴出てきてねーよな

アイアンマンちょくちょく改造してるようだし、やっぱ社長やべーわw

 

322:名無しのヒーロー

>>316

面構え(マスク)

 

323:名無しのヒーロー >>339

警察に任せていい事件に首突っ込んできたってことは、結構やばい事件だったんかな?

 

324:名無しのヒーロー

ブレイクスルーしすぎて社長の脳みそアインシュタインの脳みそよりすごいことになってそう

 

325:名無しのヒーロー >>346 >>396

考察スレだとアイアンマンは戦闘機並みの速度でヘリ並みの機動力で戦車並みの火力と装甲らしい、個人で持ってていいレベルの物じゃなさすぎwwwww

金持ちだからって持ってていいものじゃないし、国に渡すべきだよなこれ

とっとと渡して量産化してりゃニューヨーク襲撃のも被害抑えられただろうに

 

326:名無しのヒーロー

ホワイトスレも加速してんなぁw

 

327:名無しのヒーロー

飛んでくの速すぎw燃料とかどうなってんだwww

 

328:名無しのヒーロー

技術公開されても専門家でも頭にハテナが付きそう

 

329:名無しのヒーロー

>>249

直接張んな馬鹿

 

330:名無しのヒーロー

鉄男はスッキリしてんのに白はゴテゴテ支店のなんでだろうな

 

331:名無しのヒーロー >>357

今北産業

 

332:名無しのヒーロー

武装権とか認めるから馬鹿みたいにこんな事件起こってるんだろうに

 

333:名無しのヒーロー

ホワイト出てきたけど基本社長ばっかで他メンバー全然見ないな、キャプテンももうちょっと露出してほしい

 

334:名無しのヒーロー

アベンジャーズ来日したりしねぇよなぁ、来たら来たで相当やばい問題だろうけど間近で見てみたいわ

 

335:名無しのヒーロー

アイアンマンと違って手のひらビームぶっ放せないからかぶん殴ってて草

 

336:名無しのヒーロー

吹っ飛んだ車を空中キャッチするのヤバスギwwwwww

 

337:名無しのヒーロー

盛り上がってまいりました!

 

338:名無しのヒーロー >>390

ホワイト移してる高画質な動画ない?

 

339:名無しのヒーロー

>>323

やばいと言えばやばい、犯人が異星人の武器使ってたようだ。

それで10人以上死んでる。

 

340:名無しのヒーロー

ホワイト出てきたが雷神も全然見ないな、やっぱ地元に帰ってんのかな?

 

341:名無しのヒーロー

>>320

玉じゃなくて肝な、軍隊よりやべーやつらが制圧しに来るから玉が冷えるどころかなくなっても不思議じゃないが

 

342:名無しのヒーロー

強盗犯が鉄拳食らっててめっちゃ痛そう・・・・

 

343:名無しのヒーロー

射殺ありなアメリカでよく強盗とかやってられるな、誰かに家族を人質にでも取られてんのか?

 

344:名無しのヒーロー >>349 >>361 >>369 >>371 >>373 >>379 >>383 >>388 >>392 >>394

フリスビー使いも全然見ないな

 

345:名無しのヒーロー

世界中の科学者技術者が躍起になってんのに出てこないから社長のヤバさが際立ってるわ

 

346:名無しのヒーロー >>396

>>325

確かに、飛べるから州軍より早く来て戦えただろうね

アメリカだけ歩兵サイズの超兵器持ってても世界を守れるし、核をチラつかせてナメてくる奴らにガンガン睨みを効かせられるようになるだろうに

 

347:名無しのヒーロー

比較対象が戦車とか戦闘機なのが可笑しいんだよなぁ…

 

348:名無しのヒーロー

撃たれてんのに平然と傍まで飛んでくるとか怖すぎない?

 

349:名無しのヒーロー

>>344

ここで自殺するのやめてもらっていいですか?

 

350:名無しのヒーロー

ワンボックスカー持ち上げてんだけど、3トン位余裕っぽそうだな

 

351:名無しのヒーロー

>>297

公開したら絶対ろくなことにならないのが見える見える・・・

 

352:名無しのヒーロー

武器は腰のでかいの2つだけじゃなくてまだあるんかな?

ゴテゴテしいけど他に武器付いてるように見えんし

 

353:名無しのヒーロー

どっか外国行って犯罪者しばいてるって聞いたがほんとかね?

 

354:名無しのヒーロー

コントラストがはっきりしてていいな、明らかに女性的だしアベンジャーズの紅一点か

 

355:名無しのヒーロー >>378

中身女なんかな、ボディラインもろ女だし

 

356:名無しのヒーロー

足とかにも実はついてたり? 装甲がスライドしてミサイルが発射されても納得できるぞ

 

357:名無しのヒーロー

>>331

所在不明だったホワイトが

アイアンマンと

NYの事件解決に出てきた

 

358:名無しのヒーロー

>>339

マジ? アメリカ怖すぎない?

 

359:名無しのヒーロー

ちょっと力入れて一発殴るだけで頭蓋骨砕けそうだなおい

 

360:名無しのヒーロー

武装した奴らがまじで相手になってないwwwww

 

361:名無しのヒーロー

>>344

なんだぁ、てめぇ・・・

 

362:名無しのヒーロー

結構音沙汰なかったのに急に出てきたとかなんでだ? なんかアベ案件でもあったのか?

 

363:名無しのヒーロー

こんなパワードスーツとかあっても穴塞ぐのが精一杯とか宇宙人ヤベーイ

 

364:名無しのヒーロー >>375 >>382

ttps://www.youtube.com/watch?v=yyyyyyyyyy

アメリカ治安悪すぎワロエナイ・・・

 

365:名無しのヒーロー

アベの行動基準って異星人関連以外でなんかあんのかな?

 

366:名無しのヒーロー

宇宙人の武器持ち出されたらアベンジャーズ案件だろ

 

367:名無しのヒーロー

なんとなくだけどアイラインは光っててほしい

 

368:名無しのヒーロー

あれだ、ホワイトは腰とか細くしたらMHっぽくなるな

 

369:名無しのヒーロー

>>344

あーあ

 

370:名無しのヒーロー

ある程度体格推測できる形してんな、胸が詰め物じゃなければかなり巨乳でスタイルいいぞホワイト

 

371:名無しのヒーロー

>>344

正気かよお前wwwwwwwwwwwwwww

 

372:名無しのヒーロー >>385

アベンジャーズってあれだな、消防士とかと同じで活躍したら困るタイプの存在

 

373:名無しのヒーロー

>>344

勇気と蛮勇を履き違えた哀れなやつが現れたな・・・

 

374:名無しのヒーロー

アベンジャーズ関連の動画見てアメリカ行きてぇってなるやつ居ねぇだろ

 

375:名無しのヒーロー

>>364

洋画かよwwwww

 

376:名無しのヒーロー

ホワイトのアーマーに興奮してるやつがいて草

せめて中身に興奮してやれよ……

 

377:名無しのヒーロー >>391

異星人問題解決してないし、割りかしアイアンマンかホワイトを量産しないとまずいのでは?

 

378:名無しのヒーロー

>>355

NYの救助者が女の声だったって証言してるし、異様に出っ張った胸部装甲がおっぱい収納しててもおかしくないな

 

379:名無しのヒーロー

>>344

また来世がんばれよ

 

380:名無しのヒーロー >>386

足の長さは実際の長さじゃないから高身長じゃない可能性も結構あるよな

 

381:名無しのヒーロー

でっかい剣は見た目切れそうじゃないけど、ビームサーベルとかそういうタイプか?

 

382:名無しのヒーロー

>>364

これだから銃社会は……

全米ライフル協会はなくなったほうがいいのでは?(過激派)

 

383:名無しのヒーロー

>>344

アンスレ行くべきだったな、命知らず

 

384:名無しのヒーロー

中身気になるな

 

385:名無しのヒーロー >>400

>>372

??? なんで活躍しちゃいけないんだ?

 

386:名無しのヒーロー

>>380

アーマーと中身がほぼ同じならバランス悪すぎてキモいまであるぞ

 

387:名無しのヒーロー >>402

鉄男本スレと白本スレがバチバチでワロタ

 

388:名無しのヒーロー

>>344

ちゃんと>>2を読んだか? 読んでてそれならガチでROMってたほうがいいぞ

読んでないならこのスレに限らず二度と書き込まないほうがいいぞ

 

389:名無しのヒーロー

ゴテっとしてるがスラッともしている、こういうデザインどっかで見たことあるな・・・・・

 

390:名無しのヒーロー >>401

>>338

これとかどうだ? 後ろ姿だけどはっきり映ってるぞ

ttps://www.youtube.com/watch?v=VVVVVVVVVVVVV

 

391:名無しのヒーロー

>>377

悪用怖いからなぁ、米に渡してもし漏洩したら核兵器の二の舞になりそう

 

392:名無しのヒーロー

>>344

キャプテンスレ見たことあるか? ガチ熱狂的信者はまじでやべーぞ

 

393:名無しのヒーロー >>399

>>370

足は膝から下が長いだけだから、身長150から170くらいだな!

 

394:名無しのヒーロー >>398

>>344

即効キャプテンスレに貼られてて草wwww

 

395:名無しのヒーロー

ホワイトはアイアンマンと違ってスカートとか背中とかのスラスターで姿勢制御か、やっぱ設計が違うんかな

 

396:名無しのヒーロー

>>325 >>346

そういうのはアイアンマンスレでやれ

 

397:名無しのヒーロー

鉄男も白も見れば見るほどぶっ飛んでんな

・・・別に飛行出来ることと掛けてる訳じゃないからね

 

398:名無しのヒーロー

>>394

草に草生やすな

 

399:名無しのヒーロー

>>393

もうちょっと絞ってもろて

 

400:名無しのヒーロー

>>385

アベ活躍すんのは警察どころか軍隊でも手に負えないような問題だぞ

 

401:名無しのヒーロー

>>390

サンガツ、他にもあったら誰か教えてくれ

 

402:名無しのヒーロー

>>387

似たようなもんだしどっちが強いか比べるのは男の子のサガだな

 

 

 

 

 

 

 

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まだまだ寒い時期が続く、上にもう二枚ほど羽織るこの時期。

空を超えた先の宇宙では、アスガルドで言う九つの世界が直列に並んだ。

5000年に一度に起こるこの現象は、SFでありファンタジーでもあるマーベル世界では珍しくはあるがおかしなことではない。

九つの世界が並んだらどうなるのかと言うと、未知の自然法則で発生した謎のパワーがリアリティ・ストーンを強化する、その時にリアリティ・ストーンを使えば全宇宙を改変出来るほどの力を発揮する。

 

普段通りインフィニティ・ストーンやべぇ事案、未知の自然法則を解き明かすには情報が足りさなすぎてもやもやしていた私は何時ものアベンジャーズ・タワーの自室。

空に穴が空いたり、ソーがマレキスとどつきあったり、空間の歪みに飛び込んで天文学的距離を瞬時に移動したり、ダークエルフの船がへし折れて倒れている最中に消えたり。

すでに全て終わった事件で、ネットに上げられた映像を見ていた。

今回の事件も当然知ってはいるが、動けないので無事に終わることを祈るしかなかった。

 

始まった時には既に手遅れ、社長は忙しくて間に合わないし。

事件が始まった時点では全容がわからず空間の歪みでもS.H.I.E.L.D.止まり、アベンジャーズ案件と認識された時には距離の問題で手助けすらできない。

おかげで私の祈祷力が右肩上がり、祈る先はもちろんサングラスを掛けたあの人。

おそらく存在するだろう神と言っても過言ではない超存在である他のコズミック・エンティティーズに祈るよりはマシだろう。

 

許可を得た上で出来るだけ情報を収集、ネットに上がっている映像はもとより、S.H.I.E.L.D.からの情報も一部だけ社長から流してもらった。

限られた情報からの解析結果、何らかの力が空間を歪めている事しかわからなかった。

それは当然で物理法則とは異なる法則、あるいは超越した現象でこれは確実と思える情報がない状態で解き明かせるなんて不可能。

せめて当時のグリニッジに観測機器を置いて収集したデータだったり、手元にリアリティ・ストーンでもあれば未知を解き明かせる手がかりになっただろうが……。

いや、インフィニティ・ストーンは流石に危険か。

 

縛りのある元学生だと流石に事前の仕込みも出来ないし、不自由なのはストレスがたまる。

まあそれも順調に行けば後1年位でS.H.I.E.L.D.崩壊からの証拠不十分で釈放されるだろう。

疑いをかけてくるフューリーも雲隠れするし、そうなれば少しは動きやすくなるかもしれない。

ただフューリーが雲隠れする前に一度は会っておきたい、その理由としてフューリーには地球人類の殆どが持っていない宇宙への伝手がある。

フューリーではなくソーに頼るのも手だが、S.H.I.E.L.D.崩壊時点でもほぼ他人のお願いなんて聞いてくれるか怪しい。

それを言ったら私の事を怪しんでいるフューリーも拒否る可能性はバカ高いが。

 

地球に定住している異星人を探すのもフリーになってからやるつもりだが見つかるとは限らない、そのために複数の手段をとっておきたい。

何にせよ異星人の高度な技術はガチで欲しいし、それだけの価値が間違いなくあると踏んでいる。

今こうやって設計図の三次元映像を投影しているテーブルを挟んで社長と議論している、反重力ユニット程度の技術を難なく実現している超隔絶した科学技術なんだから。

 

 

 

「で?」

「なんだその『で?』と言うのは?」

 

 ピッ、と新しく小型化に成功した反重力ユニットの設計図に高出力化の案を組み込み、それに従ったJ.A.R.V.I.S.が設計図を書き換える。

 

「ここで設計図書き直してていいんですか?」

「……どういう意味だ?」

 

ピッ、と高出力化案が外されて出力安定化の案を入れる社長、それに従ったJ.A.R.V.I.S.が設計図を書き換える。

 

「ポッツさんですよ、折角の休みなんですから二人で出かければいいのに」

「君にそんな事を心配してもらう必要はないな」

 

ピッ、と出力安定化案を外して高出力化案と出力安定化案の折衷案を組み込み、それに従ったJ.A.R.V.I.S.が設計図を書き換える。

 

「表面上怒ってないかもしれませんが、内心不満が溜まったでしょうねぇ」

「………」

 

社長は無言で設計図を横に退かし、少し眉間に皺を寄せて言った。

 

「さっきから何が言いたいんだ?」

「いえ、せっかく社長が休みになったのに遊びに行かずラボに籠もりっきりなのはどうかなと」

「……君は僕の恋のキューピッドにでもなりにきたのか?」

「まさか、なんでそんな面倒なことしなくちゃいけないんですか」

 

正直社長は焦っているだろう、ニューヨーク襲撃もそうだが、今回のダークエルフ襲来も危機感を募らせるには十分すぎる。

外宇宙に対する監視衛星なども社長は打ち上げている、なのにダークエルフの艦がイギリスのグリニッジに現れるまでまるで気が付かなかったようだ。

社長が考えて作ったセンサーやレーダーを欺くステルス性能、同じく世界平均から逸脱した技術を持つS.H.I.E.L.D.の初動から見ても見逃した可能性が高い。

つまり地球最高峰の科学技術を持つ組織と個人が揃って出し抜かれた、外宇宙の文明からすれば地球など何ら脅威を覚えない辺境の低文明惑星に過ぎない。

社長もその程度のことはとうに察しているだろう、だから技術を高めようと研究に邁進している……、ように見える。

 

つまり何が言いたいかと言えば。

 

「気分転換してきたら?」

 

異星人のせいで気分が落ち込み、何とかしなければと頭の中が新技術開発で煮え滾っている、その上スターク・インダストリーズ会長としての仕事で肉体が疲れている。

トラウマ爆発してたアイアンマン3状態に戻りかねず、そのままにしてメンタルブレイクされたら全世界の人間が困ることになる。

そうならずに居たのは、偏にペッパー・ポッツの支えがあってこそなのは間違いない。

じゃなきゃメンタル弱めな社長ならとっくにメンタルブレイクしてサノスに完全敗北していただろう。

 

「J.A.R.V.I.S.、社長は最近休んでる?」

『いいえ、シノノノ様。 トニー様の平均睡眠時間は5時間を切り、直近では3時間48分しか睡眠をとっていません。 それとポッツ様とお出掛けになったのは2ヶ月ほど前になります』

 

身を削ってんなぁ、という感想。

だが理解できる、私は平行世界知識と言う指標があるし、そこまでメンタル弱くないと思っている。

だが社長は知らない、わからない、真っ暗な目の前の道を必死に照らそうとしている。

その真っ暗な道から全人類を簡単に滅ぼすような存在が急に飛び出てくるかもしれない可能性に怯えている。

そしてその危惧は一度起こり、二度目も最近起こった。

 

もう楽観視出来る状態ではない、だから身を削って道を照らそうとしているんだろう。

 

「いつまでも持たないでしょ、そんな生活。 困るんですよね、いざ社長が居ないといけない時に心身ボロボロなんて」

 

仮にそんな事になっても気力を振り絞って立ち上がるだろうが、そんなボロボロな状態より心身万全な状態で立ち向かったほうが能率が全く違うのは言われなくてもわかるだろう。

 

「幾つか設計パターン作っとくから、ちょっとばかりバカンスに行ったほうがいいんじゃない? J.A.R.V.I.S.もそう思うよね?」

『シノノノ様に同意します、トニー様は十分な休息を取るべきです』

「2対1、民主主義でこっちの勝ち」

「……いいか、君には──」

 

社長は拒否するつもりだったのだろうがそうは問屋が卸さない、J.A.R.V.I.S.と結託して社長は既に罠に嵌っている。

言い切る前に社長の携帯が鳴り、渋面でポケットから携帯を取り出せば発信者であるペッパー・ポッツの顔。

とっくにJ.A.R.V.I.S.へメッセージを贈り、社長の名前でポッツさんを呼ぶようにしていた。

社長に電話したのはポッツさんがこのフロアに入れないからだろう、危険人物の可能性がある私が居るこのフロアに大事なポッツさんを入れるような社長ではない。

 

『トニー? 貴方が用があるってJ.A.R.V.I.S.から聞いたのだけど』

「……話は後だ、忘れるんじゃないぞ。 あと僕は社長じゃなくて会長だ」

 

席を立ちながら指差して私にそう言い、着信を受けポッツさんと喋りながらエレベーターへと向かった社長。

私は手を振って見送る。

 

『感謝します、シノノノ様』

「言って聞かなかったんだから仕方がない」

 

エレベーターの扉が閉まった後、J.A.R.V.I.S.が感謝を述べた。

基本他人に泣き言を言わない社長、ローズさんやポッツさんにも殆ど漏らさない。

忠告した所で聞かないだろうからJ.A.R.V.I.S.に協力した、ポッツさんも巻き込んでちょっとリフレッシュして貰うことにした。

何もなければ次のアベンジャーズ案件は来年、キャプテンたちがヒドラの陰謀を阻止してのS.H.I.E.L.D.崩壊ではあるが社長が必要になるかはわからない。

もし必要になった時、ボロボロとか笑い話にもならないので休める時にちゃんと休んでもらいたい。

 

恐らく精神すり減らしてる社長の頭の中でウルトロン計画は出来上がっているだろう、ニューヨーク襲撃もダークエルフ襲来も国軍は敵の排除という点でまるで役に立ってなかった。

なので量産型アイアンマンを大量生産して、宇宙からの敵に備えようとしている。

新技術だったり基礎技術が上がればスーツは強力になる、私も社長もそれを理解しているから開発に勤しんでいる。

正直国もS.H.I.E.L.D.も外宇宙の敵には役立たねぇからなぁ、自分でなんとかしようって気持ちになるのはわかる。

その結果がソコヴィア協定なんだけど……。

 

一つため息を吐いて、テーブルに肘を突いて手のひらに顎を乗せる。

 

「人間関係は面倒だねぇ……」

 

来る非難を想像して辟易してしまった。

 




介入の余地はないんでダークワールドすっ飛ばし、作中の2013年も特にやることないんで飛ばすでしょう。

・サングラスを掛けたあの人
ただの特別出演ではなくMCU世界でちゃんとした設定がある人、実はコズミック・ビーイングまたはコズミック・エンティテーと呼ばれる超存在。


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配信者5

「ハロハロ〜、世紀の大天才の束さんだよー」

 

『ハロハロー』『ハローハロー』『ハロハロー』

 

 世界の裏では色々起こっているが私の周りでは特に何も起きず、2014年になってXデーが近くに迫ってきている。

 出来ることは技術研究と配信位なので、いつもどおりに配信する。

 

「それじゃあ予告通りマイクラなんだけど……」

 

 配信開始前に概要欄には自作MODの配布先URL、配信画面には借りたマイクラサーバーへのアクセスIPを表示すると、あっという間に規定数一杯になった。

 

「今日は皆さんに、ちょっと撃ち合いをして貰います」

 

 10年ほど前に流行った小説や映画のセリフをパロって告げる。

 

『世界のキタノさん!?』『俺たちは中学生だったのか』『生 存 者 0 人』

 

「今から何すんのって人は概要欄のURLに説明あるから読んでね、それすら面倒な人のために超簡略化して説明すると、三人一組でパーティーを組み、徐々にマップの外から時間経過で迫ってくる窒息バリアから逃げながら、そこら中に置いてあるチェストの中から武器や防具や回復アイテムを集め、他のパーティーをぶっ倒して最後の1パーティーになったら勝ちというゲーム」

 

『ほー』『面白そうやん』『マイクラで本格FPSってwwww』『最大60人ってラグ凄そうだな』

 

 結局の所、数年先で流行るであろうバトルロイヤルゲームを真似たMOD。

 では未来に先んじたから先駆者かと言われれば違う、既にマイクラのバトロワ系MODは存在している。

 少々方向性が違うが、系統としては同じ物。

 説明にあたりスライドショーを用意、イラストも有ったほうがよりわかりやすいだろう。

 

「注意点としてシステムを結構改変してて、剣やツルハシなどの近接系武器はないよ。 武器の銃は性能が違う複数の種類を用意してて、それで撃ち合ってもらう。 最序盤の武器がない時や弾切れの時は素手で殴れるから、銃を手に入れてもエイムが下手な人は殴り倒されるかもしれないから注意しよう!」

 

 銃を持って乱射しているスティーブが、別のスティーブに殴り倒されているイラストに切り替える。

 

「防具も改変してて、バニラだとダメージ軽減だけどこのMODの鎧は一定までのダメージ量を肩代わりするライフと同じ扱いね。 なので設定耐久値以上のダメージを受けると破損してダメージを肩代わりしてくれなくなります、ですが鎧自体は破損したからと言って消滅はせずに特定の回復アイテムで修復できます」

 

 スライドを切り替え、撃たれながらも物陰に隠れて人参を食べるスティーブのイラスト。

 

「回復アイテムは即時に効果を発揮して種類は2つ、リンゴとにんじんね。 普通のリンゴとにんじんはハート2.5個分回復して、金のリンゴとにんじんは最大値まで回復します。 回復アイテムとして最上位でエンチャントされた金のリンゴがあってハートと鎧を全回復します、余談だけど金リンゴとテクスチャ似てるから迷ったけど他に良さそうなのがなかったんでエンチャント金リンゴにしてます。 当然ながら金の回復アイテムは普通のより出にくいし、エンチャント金リンゴは更に出にくいのでマップに10個落ちてれば多い方だね」

 

 イラストをスライド、リンゴやにんじんは3秒、金の回復は5秒、エンチャント金リンゴは8秒と書いてて効果に応じて時間が掛かる事を示す。

 

「バニラの食べ物と一緒で食べきらないと効果が出ないのでしっかり食べきりましょう、もちろん食べている時は移動速度が遅くなって無防備なんで、回復される前に距離を詰めて倒したりするのもいいし、地形的に不利なら逃げて仕切り直してもいい。 他にも移動速度が1.3倍になってたり、ジャンプの高さが2ブロック分になってたり、爆発以外ではブロックを破壊できなくなってたりしてるんでそれを念頭に動きましょう」

 

 バニラより速く走って駆け抜けるスティーブ、バニラの倍の高さに飛び上がるスティーブ、高所から落下してもダメージを受けないスティーブ、スティーブが投げたエンダーパールが爆発して遮蔽物や家を破壊するイラスト。

 他にはブロックを置いたり拾ったりできないスティーブ、殴りと爆発以外ではノックバックしないスティーブ、倒されて泳ぎモーションでゆっくり移動するスティーブ、仲間のスティーブがダウンしたスティーブを撫でて5秒掛かって助け起こすイラスト。

 知っておくべき変更点をイラストと口頭で説明しておく。

 

『別物過ぎてワロタwww』『マイクラの皮かぶったFPS……』『どうしちまったんだスティーブ!』『スティーブ、変わっちまったな』

 

「大体説明したから始めるかな」

 

 管理者としてコマンドブロックを作動させ、バトロワを開始する。

 画面中央部に10秒のカウントダウンが始まり、マップ端からプレイヤーたちを載せたエンダードラゴンがマップを横断するように飛んでくる。

 

『エンダードラゴン始めてみたがこんなんなんだ』『エンドラは輸送機だったのか……』『まさかエンダードラゴンが運ぶとは思わんかったwww』『エwンwドwラwwwwwwww』

 

「さぁ飛んだ飛んだ、物資は有限早い者勝ち。 マップ中央に近いほど強いアイテムが転がってるよ」

 

 配信を聞いていたプレイヤーたちがマップ中央付近で10パーティーほどが飛び降りていく。

 その姿はただ落下ではなく、頭を下にしてほぼ真下の急な角度で降りていく。

 だが数人はエンダードラゴンから飛び降りた高さで落下せず静止していた、動こうとしているが手足が動くだけでその場に縫い付けられたように止まっている。

 

「おーっと、皆はこのプレイヤーがなんで止まってるかわかるかな?」

 

『ラグじゃね?』『ラグ』『切断だと消えるからラグ?』『ラグでも止まりっぱなしではないし切断?』

 

「ラグ? それとも切断? 残念! チーターでした! チート使っちゃったねぇ! 荒そうと思ってた? 無理なんだよなぁ」

 

『バカやっちゃったねぇ!』『殺せ、チーターだ』『まじでチーター?』

 

 コメントもチーターで沸き立っている、中には疑っているリスナーも居たがアンチチートに引っかかった挙動しているので間違いない。

 PvP、対人戦を全面に押し出している以上、ある程度の対策は必要だと考えた。

 私は性善説を信じていないのでチートを使ってくる連中がいるだろうと想定し、現在出回っているチートツール全般を封殺するプラグインをサーバーに導入済み。

 そして予想通りチーターが入ってきて、アンチチートに引っかかって晒された状態になった。

 

「はい、さようなら。 あんたらがやったことは犯罪だってことをちゃんと認識しときなよ? 通信も匿名じゃないからどこの誰でどこに住んでてどのプロバイダから繋げてるのか簡単にわかるんだからさ」

 

 チーターたちをサーバーから締め出して、ブラックリストに登録。

 生配信してる所にわざわざ入ってきたんだから出来心の初犯ではないだろう、まあ初犯だとしてもチートで乗り込んでくるあたり悪意ありと判断して完全に締め出しておく。

 

「私がゲーム会社の運営だったら見せしめで民事訴訟起こしてるところだよ、弁護士費用とか合わせて数百万は取れるだろうから舐めないほうがいいよ? それと、もしかしたらこのアンチチートを欲しい人がいるかも知れないから、概要欄のMOD配布先に置いとくのでダウンロードしてね」

 

『助かる鯖管いそうだな』『まじ防げるなら勲章ものですよ』『まあ升開発者といたちごっこだろうけど』『みせしめに訴えてみよ!』

 

 そんなこんなでクソッタレなチーター共を追い出してゲームの中の戦場を見れば、残りパーティー数が15になっていた。

 チーターを除けば19パーティー57人が戦ったり戦わなかったり、撃ち合いで負けて全滅したり、迫る安置外バリアから逃げようとして底なし渓谷にダイブしたり。

 倒した相手の物資を漁るのに夢中になって安置外で窒息死したりと、どんどん数が減っていって最終的には最後の安置収縮が始まる前に安置外でパーティーが窒息死して安置内にいた別パーティーが優勝した。

 どこか荘厳なBGMとともに、勝利パーティーにはデカデカと『CHAMPION』と表示されているだろう。

 

「最後戦ってないけどチャンピオンおめでとう! とくに賞品とかでないけど。 じゃあリプレイでも見てみるか」

 

 私の画面ではさっきの試合のリプレイを表示していた。

 マップを俯瞰で眺められて、生存者が点で表示されて次々と消えていく様子が見られた。

 

「このパーティーが別の意味でMVPだね」

 

 ピックアップしたパーティーはマップ端に降り立った3人、他に降りたプレイヤーは居ないので潤沢な物資を集めるのに成功。

 だが漁ることに夢中になりすぎて安置縮小に気が付かず、窒息バリアに飲み込まれた。

 縮小の第一ウェーブではダメージは小さいので最短距離で駆け抜ければダウンせずに抜け出すことは出来る、しかし彼らに待ち受けていたのは奈落だった。

 急勾配の小高い丘を登ってダッシュで飛び降りたら底なし渓谷、坂道のようになっていたために先が見えずに3人共勢いよく飛び降りたらそのまま落下死という結末。

 3人がほぼ同時に横並びで飛び降りたのも芸術点が高く、華麗に死んでいったのはリスナーからも好評だった。

 

 次の試合は私も参加、社長の通信回線じゃないのでping値は300msを超えてラグに見舞われた。

 それでもなんとか戦ったが、配信してるのでゴースティングが発生したのか有利だった高台の家が三方向から攻められた。

 撃ち合いで1パーティーを半壊させたが、別のパーティーから飛んできたエンダーパールが家をぶっ壊しつつパーティー全体がダメージを受け、詰められて捌ききれずに全滅した。

 結果は5位とそこそこな結果、配信を通して司令塔としてボイスチャットで指示をだしてパーティー最多キルを獲得。

 パーティーメンバーもしっかり付いてきてくれて中々楽しい戦いだった。

 

 

 

 

 

「今日はここまでにしとこ、それじゃあまたねー」

 

『おつおつー』『おつかれー』『次回に向かって全裸待機』『おっつー』

 

 何度か試合をして、手を振って配信を終わる。

 すぐに隣のモニターに視線を向け。

 

「J.A.R.V.I.S.、これは祝砲じゃないよね? 明らかに炸裂してるし」

『……予定されていない想定外と推測されます』

 

 モニターには一連の光景、SNSに大量投稿された新型ヘリキャリアの画像。

 トリスケリオン地下施設の河川から上昇していて、そのうちの一機の甲板艦載砲が何かに向かって盛大にぶっ放している光景だった。

 




元ネタ:AP○X


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表記

世界がどんどん広がっていって拾いきれないよ!


「J.A.R.V.I.S.、悪いけどこれについてちょっと調べてくれない? 飛行し始めていきなり発砲とかおかしいし」

 

杞憂であればいいけど、その一言でJ.A.R.V.I.S.は束に言われた通りにネットに潜った。

本来であればその言葉を聞き入れることもなく調べなかっただろう。

勿論気まぐれなどでは無く、最も先進的なA.IであるJ.A.R.V.I.S.は合理的な判断で不自然な出来事を調べることにした。

J.A.R.V.I.S.が初めに手をつけたのは原因となったSNS、次々と増えていく動画や画像、細かいテキストまで洗いざらいに精査していく。

そうしてわかったのは新型ヘリキャリアが飛行して、そのうちの一機が何かに向かって発砲していることだけだった。

 

S.H.I.E.L.D.職員などが内部情報をSNSで上げているわけもなく、数はあれど核心にたどり着くような情報はない。

J.A.R.V.I.S.はこのままSNSで情報を集めても表面を擦るだけで終わる可能性が高いと判断し、よほど重要な情報でなければ提供してくれる人物に通話を掛けた。

 

『……ヒル副長官、現在飛行している新型ヘリキャリアに問題は発生していませんか?』

『J.A.R.V.I.S.? トニー・スタークもヒドラに気が付いたのね』

『ヒドラとはスティーブ・ロジャースの活躍で壊滅したとされるあの秘密結社ですか?』

『……その言い方だとただ単にヘリキャリアを不審に思っただけのようね』

 

J.A.R.V.I.S.はその通話を録音しながら、聞こえてくる拳銃の発砲音で大きな問題が発生していると判断した。

 

『問題が発生しているのですね?』

『ええ、とても大きな問題がね。 ヒドラがS.H.I.E.L.D.に潜り込んで、長い年月を掛けて組織を再興していた。 そしてS.H.I.E.L.D.の計画を乗っ取って、ヒドラが世界を支配するためにヘリキャリアを使って邪魔になる人物の殺害を企てているわ』

『それなら間違いなくトニー様も標的として狙われているでしょう、すぐにトニー様に経緯を伝えます』

『そうしてちょうだい、今は偵察衛星とヘリキャリアをリンクさせないために動いているわ』

 

J.A.R.V.I.S.はマリア・ヒルから必要な情報を簡潔に聞き取り、通話を切ると同時にトニー・スタークへと話しかける。

 

『トニー様、今すぐにアーマーを着てください。 危険が迫っています』

「会長としてこの仕事の山より危険な事なんて早々ないだろう? 早く済まさないとペッパーとディナーを楽しめなくなる」

『トニー様が提供したリパルサーエンジンを積んだヘリキャリアがヒドラに乗っ取られました。艦底の機関砲でヒドラの脅威となりうる人物を抹殺しようとしています』

 

その言葉を聞いてトニーは手を止める。

SNSに上げられているヘリキャリアの動画を再生して、不自然と思われた箇所を説明するJ.A.R.V.I.S.。

 

「なら僕を狙うのは妥当だな、それよりなぜヒドラが出てきた? キャプテン・アメリカとそのお仲間たちのおかげで70年前に壊滅したはずだろ?」

 

トニーがそうJ.A.R.V.I.S.に問いかけた時、エレベーターのドアが開いてアイアンマンが現れる。

 

『70年前、ヒドラはたしかに一度壊滅しました。 ですがS.H.I.E.L.D.の前身、戦略科学予備軍がヒドラの優れた科学力を取り入れるため、ヒドラの科学者を取り込みました』

「その結果がこれか」

 

J.A.R.V.I.S.が操作し側に降り立ったアイアンマンスーツが開き、トニーは体を預けてスーツを身に纏う。

 

「優れた技術は魅力的ではあるが、扱う人物によっていくらでも顔を変える。 取り込むのはいいが監視が不十分だったようだな。 J.A.R.V.I.S.、よく気づいてくれた」

 

アイアンマンのHUDにアベンジャーズタワーからトリスケリオンまでを表示させると、最短距離を最大速度で飛行しても10分近くかかる。

キャプテン・アメリカとそのお仲間たちが事態の収拾に勤しんでいるが、その10分で問題が大きくなって解決不可能になる可能性もある。

そうなる前にここは一つ、少し前に作ってみた道具でも使ってみるかとトニー。

 

『いいえ、最初に気がついたのはタバネ様です』

「……なに? どういうことだ?」

『SNSでこの映像が投稿された事を不審に思ったようです』

 

それを聞いたトニーの眉間にシワが寄る。

 

「いいか、終わった後で僕から話す。 それまで彼女と何も話すな」

『わかりました』

 

そうしてアイアンマンはアベンジャーズ・タワーから飛び立ち、衛星軌道から降下してきた全長10メートルに近い飛行物体が並走する。

6つの角張った楕円体で出来た傘の骨組みのような飛行物体からアームが伸びてアイアンマンを掴んで中に収納、そして一気に加速してトリスケリオンへと向かった。

 

 

 

 

 

連れて行ってくれなくて泣きそう、とでも言えばいいのか。

飛んでいくアイアンマンに、上空から降りてきた細長くてでっかいやつが社長を収納したら超高速でかっ飛んでいったのを見送った後。

ネットに公開されたS.H.I.E.L.D.とヒドラの全情報を開いて私の情報を表示させる。

 

「ひぇー、こりゃとんでもない」

 

名前はもちろんのこと、年齢、身長、体重、スリーサイズ、利用しているSNS等々。

性格や思考などの内面や、どこで生まれてどこの学校に入学して卒業したのか。

『読めばわかる! 篠ノ之 束!』みたいな私のことを隅々まで調べ上げた情報が記載されている。

幸いな事にお願いしていたのを聞いてくれたのか、トリスケリオンに居た時の監視映像は綺麗サッパリ消されてあるので助かった。

人類文明が滅びない限り転載されまくって残り続けるデジタルタトゥーになるところであった。

 

安堵しながらS.H.I.E.L.D.の情報を閉じて今度はヒドラの方を開いてみると。

 

「こいつらガチでやばい……」

 

そう呟くほど、ヤバい言葉が沢山載っている。

私の性格分析から始まって白騎士の性能評価や利用価値、拉致から洗脳、幾つか抹殺方法まで載っている。

拉致は色々考慮されたが、トリスケリオンに居た時は私の監視メンバーの中にヒドラ構成員が少なかったため実行されず。

アベンジャーズ・タワーに移った時も全く外出しなかったため拉致計画は頓挫。

私の拉致が出来ないなら両親を拉致して言う事聞かせようとしたが、ニック・フューリーがどこにも居場所の情報を載せてないし探しても見つからなかった。

拉致計画は破棄され、身柄を押さえられないので洗脳も同じく破棄。

 

じゃあ白騎士の製造方法だけでも調べるも、知っているのは私と社長だけでデータ自体もJ.A.R.V.I.S.と社長謹製セキュリティに守られた社長のプライベートサーバーに保管されててお手上げ。

欲しいものはどれも手に入らず手が出せないとなり、アーニム・ゾラが開発したデータマイニング・アルゴリズムで解析するとトニー・スタークと同様にヒドラに敵対すると判定されて私の抹殺計画が始まる。

 

基本的に引きこもってるので引きずり出すのは難しく、外に出るのは白騎士を装着している状態なので普通に殺すのは難しい。

ウィンター・ソルジャーを送り込む案も考えられたが、白騎士を着たり私が超人である可能性があるため失敗する可能性のほうが高いと判断されて見送り。

普通に殺すの無理じゃね? しょうがないからインサイト・ヘリキャリア計画でアベンジャーズメンバーと一緒に殺すべって事になって計画実行待ちだった。

 

私とは関係ない実験記録とか計画とか見ると、人権? なにそれおいしいの? 我々が人類を支配するのを邪魔する奴らはみんな死ね! とか真顔で言ってる狂信者ども。

やっぱヒドラは滅ぼさなきゃ……! と再度心に誓うほどにヤバいのオンパレード。

もう完全に人類の癌細胞になっててどうしようもないなこいつら、一匹見かけたら十匹居るとも言われるゴキブリみたいな状況になってる。

 

「……あーあ」

 

ニュースで流れる世界各国にあるS.H.I.E.L.D.支部で巻き起こるヒドラの一斉蜂起を見ながらツイート。

 

「次の配信は延期、落ち着いたら再度告知します、っと」

 

万単位で増えていくフォロワーを横目にツイートした。

 




What If...?、めっちゃ面白かったです。
皆も見よう!


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