インフィニット・ストラトス ~~ (ぬっく~)
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プロローグ

タイトルを募集しています。
もし、良かったら気軽にどうぞ。


何処かの倉庫で、彼は一人の少女に抱き締められていた。

 

「もう、大丈夫だから……」

 

彼女は彼の幼馴染だった。

彼は姉が出場する大会の妨害の為に誘拐され、何処かの倉庫に監禁されていたのだが、そこにいるはずのない幼馴染が助けに来たのだ。

そして、

 

「今……全てを終わらせてあげる」

 

彼女がこの倉庫に入る為に出した音に気が付かれ、外からぞろぞろと武装した人達が押し掛けてきた。

だが、彼女は恐怖に怯えるどころか、平然としている。

一枚のカードを取り出し、

 

「Ride The Vanguard」

 

彼女の身体が炎に包まれ、その姿を紅蓮の竜へと変える。

 

「Dragonic Overload!!」

 

 

 

 

私が転生者として自覚したのは、7つの時だった。

父はトレーニングカードゲームの制作会社の社員だった。そして、今回新規のゲーム提案を考えるのだが、全く進んでいなかったのだ。

確かに、ゲームを一から作るのは結構難しい。

タイトル、コンセプト、ルールなどが必要なのだから。

そんな時だった。

小さかった私の頭の中に、誰かの記憶が流れ込んで来たのだ。

そして、それが私の過去の記憶であると。

 

「ねえ、お父様」

 

「ああ、すまない。今、私は忙しいから後にしてくれ」

 

「うんん。違うの。その企画、私にやらせて」

 

娘のその言葉に父は呆然とする。

普通であればそのまま切り捨てても良かった。しかし、締め切りまでもう時間がなかった。

どうせ失敗するなら、賭けてみるのも悪くないと、何処かで思ってしまったのだ。

父は娘を膝に乗せ、娘の言葉に言われるままにPCに打ち込む。

 

「タイトルは……?」

 

「Vanguard」

 

「ヴァンガード?」

 

何処でそんな言葉を覚えたのか疑問に思うが、今更どうでも良く。

 

「先導者」

 

そして、この世界に『ヴァンガード』と呼ばれるカードゲームが生まれたのだ。

のちに、このカードゲームは世界中レベルで大ヒットした。

しかし、このカードゲームを作ったのが当時7歳の少女であることは、父以外誰一人として知らない。

 

 

 

 

「なによ、また喧嘩なんかしたの」

 

「文句あるでもあるのかよ」

 

「千冬さんに、おこられるからだよ」

 

傷の手当をしながら私は溜息をつく。

私の目の前にいる彼は、織斑一夏。

この世界の主人公と呼ばれる存在だ。

 

「余計なお世話だ」

 

クラスメイトの篠ノ之箒が虐められていたらしく、それに割って入ってそのまま乱闘になったらしい。

 

「はい。これで終わりよ」

 

「おう、ありがとうな」

 

乱闘と言っても、子供同士の喧嘩だからそれ程大きな怪我はしていない、掠り傷程度である。

 

「なあ、今日千冬姉が帰りが遅いから、そっちに行っていいか?」

 

「あ~。そう言えばもうじき始まるんだっけ? モンドグロッソが」

 

この世界は『インフィニット・ストラトス』と呼ばれる小説なのだが、私はタイトルと少しの内容を知っている。だが、この先で何が起こるのかは殆ど知らない。

そんで、この世界には『IS』と呼ばれるパワードスーツによる世界競技が行われていた。

目の前の彼、織斑一夏の姉である織斑千冬は中学生で日本代表として選ばれ、家に帰ってくるのが偶になっていたのだ。

 

「別にいいわよ」

 

一夏がうちの家に来ることは度々あるし、親も認可済みでもある。

 

「じゃあ、後で一緒にファイトしようぜ」

 

「それが、目的でしょ」

 

一夏は私の家がカードゲーム制作会社であることは知っている。

そんな時に私が開発したカードゲームを一緒にやったのだ。

 

「今回こそ、絶対に負けねからな」

 

「はいはい」

 

成績は6割私が勝ち越している。

まあ、無改造の構築済みデッキだからね、これぐらいがいいのさ。

そう思いながら、私たちは放課後を迎える。



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第一話

放課後。私と一夏は自室でカードを並べていた。

 

「ドラゴニック・オーバーロードでヴァンガードにアタック」

 

「堅強の騎士 ルノリアで完全ガード!!」

 

「ツインドライブ……ゲット、クリティカル。レフトのオーバーロードに乗せるね」

 

一夏の手札は残り1枚。

つまり、私のレフトにいるオーバーロードの攻撃を防ぐことはできない。

ダメージも5枚溜まっているため、最後の砦であるヒールを引き当てるしかないが、既に2枚見えている。

 

「オーバーロードでヴァンガードにアタック」

 

「ダメージチェック……」

 

一夏はデッキの一番上を捲るが、ヒールではなかった。

 

「あー、負けたぁ!!」

 

「結構いい所まで行っていたよ」

 

私のダメージは5で、ヒールも完全ガードも全て消化済みだったのだ。

もし、一夏にターンが返っていたら、完全に私が負けていた。

 

「なあ、このデッキを強化することは出来ないのか?」

 

「……できなくはないけど」

 

一応、強化用のカードは用意してある。

私は引き出しの中から白い箱と赤い箱を取り出す。

 

「強化することは、構築の幅だけじゃなく、プレイングも要することになるよ」

 

「いいぜ。次こそ勝ってみるから」

 

「言ったわね」

 

一夏の主人公補正が強すぎて、私もギリギリなのだ。

さらにブースターパックで強化されると、たぶん勝率がさらに下がる。

だから、今まで出さなかったが。

 

「じゃあ、出来たら言って」

 

「おう」

 

私と一夏は、今まで使っていたデッキの強化に入る。

晩御飯など忘れ、何十戦とファイトしてしまった。

 

 

 

 

あれから数年。

私たちは中学生になった。

主に変わったことは、クラスメイトの箒ちゃんが家庭事情により転校したり、中国からの転校生の鈴が来たぐらいしかない。

あとは、男友達が増えたぐらいかな……。

そうそう、あとは私…… PSYクオリアに目覚めました。

そのお陰なのか一夏との勝負は何とか五分を維持できている。

 

「あたしのターンね。パーフェクトライザーにライド!!」

 

「げっ!?」

 

「イマジナリーギフト アクセルⅡ」

 

鈴が使っているは、ノヴァグラップラーのパーフェクトライザーデッキ。

旧作より弱体化しているけど、使用者(鈴)のせいでエグいことになっている。

 

「うぉおおお!! 全てガードだぁ!! ヴァンガードには完全防御!! どうだぁ!!」

 

「あたしがそんなので止まるわけないじゃない。ツインドライブ、ゲット、ダブルクリティカル!!」

 

「馬鹿な……」

 

そう、鈴も一夏同様トリガー率がエグい。

ノーガード、完全防御、三枚抜きにしようが、ダブルクリティカルが飛んでくる。

 

「あたしの勝ちね♪」

 

「俺の財布がぁ……」

 

弾よ、頑張って。

 

「ウォーミングアップは済んだ事だし……愛華、あたしとファイトよ!!」

 

「いいよ」

 

そう言って、私は自分のデッキを取り出す。

神崎愛華。それが私の今の名前である。

 

「「スタンドアップ」」

 

「ザ」

 

「「ヴァンガード!!」」

 

 

▶︎

 

 

「パーフェクトライザーでアタック!!」

 

鈴の攻撃を受けて、私のダメージゾーンに5枚目のカードが置かれる。

だが、鈴の場にはもうすでに攻撃できるユニットがない。

 

「次で仕留めてあげる」

 

鈴のダメージゾーンはまだ2枚。

そして、手札には完全ガードが2枚ある。

普通であれば私が逆転する可能性は無比に近い。

そう、普通であれば。

 

「はぁ……。本当なら一夏が来てから見せるつもりでいたのだけど、仕方ないわね」

 

「なによ。まさか、この盤面を覆すことができるとでも言うの!?」

 

私は一枚のカードに手をかける。

 

「終わり無き探求の果てに、辿り着いた最終進化。 荒ぶる魂を昇華させ、今こそ真の姿を現せ! ライド・ザ・マイ・ヴァンガード!!」

 

私の最終兵器。

 

「 ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド!!」

 

その場にいた者たちは、見たことのないカードに驚きを隠しきれなかった。

 



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第二話

「すまん遅れた! って、どうしたんだ?」

 

一夏が入ってくるが、誰一人として反応がなかったのだ。

全員、ファイトテーブルから目を離さなかった。

一夏が覗くと、鈴のダメージゾーンには6枚のカードが置かれている。

 

「嘘だろ……」

 

弾のその一言で止まっていた時間が動き出す。

 

「何があったんだ?」

 

「あ、ああ。何て説明すればいいんだ」

 

弾がこの状況を説明しようとするが、言葉に表すことが出来なかった。

 

「答えが知りたかったら、分かるよね?」

 

私はデッキを一夏に見せる。

一夏もその意味が分かったのか、鞄からデッキホルダーを取り出す。

 

「Stand Up」

 

「スタンドアップ」

 

「The」

 

「ヴァンガード!!」

 

「Vanguard!!」

 

 

 

 

「降臨せよ、戦士達の主! ライド! 騎士王 アルフレッド!! イマジナリーギフト『フォースⅠ』」

 

ファイトは順調に進む。

相変わらず一夏の猛攻が凄いが、私はダメージを4で維持する。

 

「Stand&Draw」

 

私は引いたカードを見て、わずかながら微笑む。

 

「今から見せてあげる。先ほどの戦いの答えを」

 

一枚のカードに手に取ると。

 

「一夏来るぞ!! 鈴を倒したユニットが!!」

 

弾が注意を呼びかける。

 

「終わりなき探求の果てに、たどり着きし最終進化。荒ぶる魂を昇華させ、今こそ真の姿を現せ! Ride!」

 

ドラゴニック・オーバーロードの上に更にライドさせる。

 

Dragonic Overload The End(ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド)!!」

 

一夏も初めて見るカードであった。

愛華のデッキは最初の時から『かげろう』のドラゴニック・オーバーロードをずっと使い続けている。

そして、目の前にそのドラゴニック・オーバーロードの進化形態が現れた。

 

「イマジナリーギフト『フォースⅡ』」

 

そして、残り手札を全てコールする。

 

「The Endでヴァンガードにアタック」

 

「ガード!!」

 

一夏は3枚抜きでガードする。

つまるところ、この攻撃は決してヒットすることはない。

 

「Fast check. Get! Critical!!」

 

私はその効果を全てオーバーロードに乗せる。

 

「Second check. Get! Critical!!」

 

それも全てオーバーロードに乗せる。

そのバトルが解決し、私の場でもう攻撃できるユニットはいない。

一夏がヴァンガードを起こそうと手を乗せようとした時だった。

 

「まだよ、私のターンはまだ終わっていないわ」

 

「え?」

 

「The Endは終わらない! 『Eternal Apocalypse(永遠の黙示録)』!!」

 

私はカウンターブラスト1枚とソウルブラスト1枚を行ないジ・エンドをスタンドさせる。

 

「な!? どう言うことだよ!!」

 

「The Endは手札が4枚以下ならコストを支払えばドライブ数を-1にしてスタンドさせることができるのよ。もちろん、この効果は1ターンに1度しか使用できないけどね」

 

つまり、今のドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンドはクリティカル4のパワー33000の化け物になっているのだ。

一夏のダメージゾーンには既に4枚ある。

この攻撃は受ける訳にはいかなかった。

 

「再び、ヴァンガードにアタック!!」

 

「完全ガード!!」

 

一夏も保険で持っていたカードを出し、この攻撃を防ぐ。

 

「Drive trigger check. Get! Critical!!」

 

連続で3枚のクリティカルトリガーを普通は出すのもあり得ないが、私は初めから知っていた。

そりゃね、PSYクオリアが教えてくれるんだもの。

 

「The Endの炎は決して消えることはないわ! 再び立ち上がれ、The End!! 『Eternal Apocalypse(永遠の黙示録)』!!」

 

今度は、手札を3枚ドロップさせ、ジ・エンドをスタンドさせた。

 

「嘘だろ!? まだ、立ち上がるのかよ!!」

 

「ソウルにオーバーロードがいれば、手札3枚と控えにThe Endは再び立ち上がる。もちろん、この効果も1ターンに1度であり、ドライブ数も-1されるが、パワーを✛10000を得られるわ」

 

つまり、パワー53000でクリティカル5のジ・エンドが完成したのだ。

 

「Final attack!!」

 

「くっ!! ノーガード!!」

 

一夏の手札ではこのアタックを防ぐことは出来なかった。

そして、ダメージゾーンに―――6枚目のカードが置かれる。



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第三話

「愛華ぁあああ!!」

 

「あら? 鈴ちゃん、目覚めたの」

 

一夏とのファイトが終わった頃、立ったまま気絶していた鈴がようやく、正気に戻るなり私に付きかかって来る。

 

「あのユニットは一体何なのよ!!」

 

あのユニットとは、ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンドのことだろう。

 

「来月に新しい弾が発売されるのは、知っているわよね?」

 

「来月というと、『帝国炎撃団』だったよな?」

 

「そうだよ。そこに収録されている新しい『かげろう』がこれなんだよ」

 

「まじか!?」

 

「もちろん、他の『クラン』も用意してあるわよ」

 

私は部室の片隅に置いてあったアタッシュケースをテーブルの上に置く。

開けると中には、ぎっしりとカードが詰まっていた。

 

「今回の収録『クラン』は、『かげろう』と『シャドウパラディン』、『リンクジョーカー』の3つね」

 

開発者特権で私は来月に発売されるカードを手に入れてあるのだ。

と言っても、大会とかでは来月まあで使用することはできないが。

 

「数馬のデッキが強化が出来るぐらいか……」

 

中学に上がってから作った部活である『カードファイト部』の部員の一人である御手洗 数馬だ。

使用クランは、『リンクジョーカー』のデリーター軸を使用している。

 

「今日は数馬のデッキを強化をメインにやるか」

 

そして、今日の目標が決まった。

 

 

 

 

「そう言えば、もうじきアレが行われるわよね?」

 

「ああ、そう言えばそうだったな」

 

私は一夏ともう一戦しながら、アレの話をしていた。

 

「今年もうちに来るの?」

 

「いや、今回は政府から招待状を貰っているぞ」

 

アレとは、『第2回モンド・グロッソ』のことだ。

前回は一夏の姉である千冬が優勝を決め、世界最強の称号を手に入れた。

そして、今回はその身内である一夏にも招待状が送られてきたのだ。

 

「へ~、そうなの」

 

優勝者の身内であるため、その招待状には往復分の航空券に宿泊ホテル代が入っていた。

 

「というと一夏がいない間、暇だな」

 

「愛華もその日、いないんだよな?」

 

「そうね」

 

その日、私はIS研究所に行かなければならないのだ。

カードゲームだけでは食っていけないのは目に見えていた。

私は年に1回行われるIS適性簡易検査を受け、毎年A+を出していることで、IS研究所からオファーが届くのだ。

そして、それを私は受けることにした。

その日に正式のIS適性を調べるのだ。

 

「愛華がISの道に進むなんて、以外よね……」

 

「まあ、A+なんて規格外適性じゃあしょうがないじゃね?」

 

一応言っておくと、簡易検査で調べられるランクはAまでしか存在しない。

では、何故私がA+かというと―――簡易検査でErrorと表記されたからだ。

しかも何度も調べてもErrorしか表記されないことで、私はA+ということになった。

 

「ブラスター・ブレードでアタック」

 

「ダメージチェック。ノートリガーよ」

 

そして、下校時間まで私たちはヴァンガードを続ける。

 

 

 

 

一夏がドイツへと旅立って、私はとある山奥に来ていた。

IS研究所がそこにあるのだ。

 

「お待ちしていました」

 

研究所職員との挨拶を済ませ、私は早速IS適性を調べる。

もちろん予想通りでSランクであった。

代表候補生の資格を取得する条件もクリアし、後日に正式な書類が送ってくれるそうだ。

 

「それって、もしかして……」

 

「ええ。ISのコアですよ」

 

特殊なクリスタルが台の上で浮かんでおり、私がそれがISのコアであることを一目で気付いた。

その時だった。私の両眼に激痛が走る。

 

「っ!? ああああああああ!!」

 

「どうしました!?」

 

今までに感じたことのない痛みに私は両眼を押さえる。

 

(PSYクオリアがISコアと共鳴している!?)

 

どういう理由なのか、突如としてISコアと私がもつPSYクオリアが共鳴し始めたのだ。

 

(このままでは、私の眼が焼き切れてしまう!)

 

だが、この現象を止める術を知らない。

 

『我が名を呼べ』

 

「へ?」

 

突如として誰かが話しかけてくる。

 

『我が名を呼べ。マイ、ヴァンガード』

 

幻聴でない。確かに聞こえた。

私は―――

 

「ドラゴニック・オーバーロード!!」

 

置かれていたISのコアが強い光を発し、研究所はそれに包み込まれた。

その場にいた職員もその輝きに眼を瞑ってしまう。

そして、それが収まると。

 

「一体何が起きたのだ」

 

「おい! あれ」

 

職員が私の方に指をさす。

私の手のひらの上で一枚のカードが回転しながら浮かんでいたのだ。

それを手に取ると。

 

「嘘でしょ……」

 

カードが再び輝き、一瞬にして私の身体にISが装着された。

その姿はまさしく、竜だった。赤い竜。ドラゴニック・オーバーロードの姿を模様したISだったのだ。



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第四話

その先のことは、予想する必要なかった。

すぐさま、私が乗っていたISの解析が行われ、それと同時に事情聴取が行われる。

両眼の瞼の上から氷水が入った袋で押さえ、Q&Aに答えるが……。

 

「そっちの方はどうだ?」

 

「全く分かりませんよ」

 

私にも分からないことが起こったのだ。

ISも同じく全く解析が進まずにいた。

 

(……惑星クレイがPSYクオリアを通じてISのコアに干渉して来たんでしょうけど、この人達に説明したところで通じないでしょうね)

 

一夏とのファイトの時、余りにもトリガー率の高さに、PSYクオリアで一度だけ覗き込んで見たことがあった。

あれは、今でもよく覚えている。

どう言う訳か、ロイヤルパラディン陣で一夏ファンクラブが出来ていたのだ。特に女性陣で。

終いには、エポナたちトリガー陣を恐……お願いしているのだ。

ちなみに、ノヴァグラップラーも同じで、鈴のファンクラブがある。こっちは男性?陣だが。

 

(しかし、一体どう言うつもりなのかしら?)

 

基本的には、惑星クレイから干渉は殆どない。

つまり今回のこれはあっちで何かが起きている証拠でもある。

私はPSYクオリアを使い、霊体状態で惑星クレイに降り立つと、案の定予想通りだった。

 

「こりゃあ、どう言うことよ」

 

ロイヤルパラディン陣で何やら騒ぎが起きていたのだ。

 

「お待ちしておりました。マイ、ヴァンガード」

 

「お久しぶりです。ネハーレンさん」

 

私が来ることを待っていたのか、かげろう陣営の『ドラゴンナイト ネハーレン』がそこにいたのだ。

 

「状況を説明してくれる?」

 

「はい。実は……イチカ・オリムラ殿が何者かに誘拐されたようです」

 

それを聞いて私は何故か納得してしまった。

ロイヤルパラディン陣営の騒ぎは一夏ファンクラブの暴走だったのだ。

ただの暴動ならどうなっただろうが、これは流石に一線を越えてしまったらしい。

下手したら私達がいる地球に空間を開けてこっちに来るだろう。

 

「そりゃあ、不味いわね」

 

「はい。ですので……」

 

「分かったわ。その件は私の方で何とかしてみましょう」

 

もし、惑星クレイのユニット達がこっちに来たら、被害が相当になると予想される。

それも隕石が激突したくらいに。

私はPSYクオリアを解除すると、目の前には先程いた研究所が映る。

 

(そういえば、今日ぐらいに一夏が誘拐される日だったことをすっかり忘れていたわ)

 

一夏が誘拐されたことで、ロイヤルパラディン陣が暴走し、その解決策としてかげろう陣が私に助けを求めたのだ。

 

(今からドイツに飛んだとして、時間が足らないわね。となると……)

 

「解析は終わったのでしょうか?」

 

「いえ、完全にお手上げです」

 

職員に尋ねるも、このISの解析は全く終わっていなかった。

 

「何重にもロックがかけられており……」

 

「そうなんですか? だったら何とかなるかもしれません」

 

「はい?」

 

そう言って、私はISに乗り込むと。

 

「!? 主任! システムロックが」

 

私が乗り込んだことで、いくつかのロックが解除される。

しかし、私の目的は他にあった。

 

(もし、私が予想が正しければ―――)

 

惑星クレイは地球とは次元が離れた程の技術を有している。

もし、その技術がこのISに使われていたら。

 

(当たりね!!)

 

私が探していた物があり、すぐさま起動させる。

職員たちは一体何が起こったのか分かることなく。

突如として、私が乗ったISが再び光だし、その場からISごと消えた。



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第五話

昔、ヴァンガードで月に行ったシーンを私は思い出した。

あのシーンは明らかに人類が作り出すことのできない品物であり、ならそれは何処から持ってこられたのか?

簡単なことだ、あれは惑星クレイの技術であれば納得がいくのだ。

そう。だからもしかしたらと、私は思いISに乗り込む。

 

(転送地点は一夏のいるところ)

 

一夏が誘拐されたことを彼女らが知っていることは、デッキを所持していることが分かる。

なら、そこへ飛ぶだけ。

私はそれを起動させると、光に包まれた。再び眼を開けると、目の前には青空が広がっていた。

 

「あの倉庫だね」

 

体勢を立て直しながら、真下にある倉庫めがけて突っ込む。

 

「一夏!!」

 

「愛……華?」

 

私は一直線に一夏の下に駆け寄る。

両腕をがっちりに縛られいたが、特に大きな負傷は見当たらなく一安心した。

 

「もう、大丈夫だから……」

 

当然のことだが、私が盛大な侵入に誘拐犯が気が付く訳がない。

外からぞろぞろと入って来る。

 

「今……全てを終わらせてあげる」

 

私は一枚のカードを取り出し。

 

「Ride The Vanguard」

 

持っていたカードが輝き出すと、紅蓮の炎が私を包み込む。

 

Dragonic Overload(ドラゴニック・オーバーロード)!!」

 

帝国の竜王をその身に宿して、この地上に降り立った。

 

 

 

 

「Shoot!! Shoot in!!」

 

異変を嗅ぎ告げた誘拐犯は人質のいる倉庫へと突入した。

そこには、ISスーツを身に纏った少女が一人だけいるだけだった。天井に大きな穴があり、あの少女がそこから侵入して来たことは一目でわかる。

しかし、今人質を連れてかれる訳にはいかなかった。

何故なら、まだ日本政府にはこのことを言っていないからだ。

だが、少女は誘拐犯を敵として認識していた。

そして、悪夢がその場を支配したのだ。

 

「Fuck!!」

 

少女はISを纏い、躊躇なく襲いかかって来たのだ。

紅蓮の竜をイメージしたような、見たことないISが剣を振り下ろすと、後から炎が追尾してくる。

いくら銃弾を撃ち込もうが、少女を取り囲んでいる炎の壁がそれを邪魔してしまう。

 

「Use the hostage as a decoy!」

 

「Fuck! No way」

 

誘拐犯も流石にこれ以上の被害を出す訳にはいかず、一夏を囮としてはしるが。

 

「何処に行くのかな?」

 

紅蓮の竜は決して、誰一人として見逃さない。

一夏の敵は私の敵。敵は一人残らず殺す。

 

Eternal Flame(エターナル・フレイム)

 

紅蓮の炎は全てを焼き払う。

その手を赤く染め、全ての敵を殲滅した。

 

「…………」

 

私は自分の手を眺める。

紅く染まった手。あちこちらに飛び散った返り血。

きっと今の姿を一夏を見たら100%引くだろう。沢山の人を殺したのだから。

それでも―――

 

「終わったの……か……?」

 

「……うん」

 

一夏の腕を縛っていた鎖を切断し、私は一夏を抱える。

そして、そのまま日本へと転移した。



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第六話

あれか数年。

第二回モンド・グロッソは織斑千冬の二連覇で幕を閉じる。

史実では、弟である一夏が誘拐され、決勝戦を棄権したことで二連覇を逃すはずであった。

しかし、そこに私が乱入して未来を変えてしまったのだ。

もちろん歴史の修正力により織斑千冬はドイツに恩を返す為に一年間教官をすることになった。

一体どう言うことなのかと、疑問に思うが至って簡単だ。

あの時、私は一夏を日本へ直接転移した。しかし、一夏は正式にドイツに入国している。つまり、ドイツ内で行方不明になったことになる。

誘拐された所の現場が発見されたが、肝心の一夏はおらず、燃え切った倉庫と大量の焼死体があったのだ。

もちろん、一夏は直ぐに発見された。しかも日本で。

だが、肝心のその場で出来事は()()()()()()()()()()()()()

結局、捜査には進展がなく、打ち切りなった。

 

 

 

 

私がIS適性でSランクを出したことで、国家代表候補生の資格を獲得し、殆どの時間をIS稼働時間に割り当てた。

学校にも殆ど行くこと無くなったが、卒業資格だけは何故か発行された。どうやら、IS資格を取得したことで、政府が一枚噛んでいるらしい。

そして、一夏の記憶から()()()()()()は私が惑星クレイのユニットに頼んで封印してもらった。

あれから私は一度も一夏と顔合わせをしていない。

 

「time up」

 

本日の訓練を終わらせるブザーが鳴り、私はISを解除する。

ISが研究所から姿を消したことは大ごとになったが、その数時間後に帰って来たことでひとまず無事にことが済んだ。

 

「本日の訓練は終了です」

 

「はい」

 

管理室からの指示に従い、私は退出する。

シャワーを浴びながら、次の起こる出来事を思い出していた。

 

(もうじき、進学受験……)

 

私は進学先は既に決まっている。

そして、今回の事件は私ではなく、一夏なのだ。

一夏が試験会場でISを偶然で起動させてしまう。

 

「これは、阻止することはできない……」

 

阻止したところで、歴史の修正力で元のレールに戻るだけだろう。

 

(なら、せめて私が一夏を導くしかない)

 

ISは女性にしか使えない。

男性で世界初での起動。世間はじっと待っていられる訳がないから、一夏を例の場所に入学させるだろう。

 

「久々に会うのも、悪くないかもしれないわね……」

 

そして、運命の歯車が動き出した。



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第七話

「はい、副担任の山田真耶です。皆さん、一年間よろしくお願いしますね」

 

桜が咲き誇る春。私は中学を卒業し、IS操縦者育成学園であるIS学園に入学した。

割り振られたクラスは一年一組であり、あの人が担任のクラスである。

 

「織斑一夏くん」

 

「は、はい!!」

 

入学恒例の自己紹介が行われ、このIS学園で唯一の男性である織斑一夏の自己紹介の番になった。

流石に予想外のことが起こり、流れるままにこの学園に強制入学したため、頭がまだ完全に理解しきれていないらしい。

 

「いや、あの、そんなに謝らなくても、しますから、自己紹介しますから」

 

「ほ、本当ですか?」

 

本当に、変わっていないわね。

私が一夏を再び目にして、最初に思った感想がそうだった。

 

「新学期早々騒がしいぞ。織斑」

 

どうやら、運が良かったのか悪かったのか。このクラスの担任である、織斑千冬がやってきたのだ。

一夏も以外な人物の登場に目を疑っているだろう。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。出来ない者は出来るまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな?」

 

うん。相変わらずの暴君。

十年近くの付き合いだけど、相変わらずですね。

例の事件以降、代表から引退してIS学園の教師をやっていることは知ってはいた。

 

「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ、感心させられる。それとも私のクラスにだけ集中させてるのか?」

 

まあ、IS世界大会を二連覇した強者ですもの。それにファンがこの世界中に結構いますから。千冬さん目当てで入学して来る人もチラホラいてもおかしくありませんからね。

 

「まあいい。織斑、続けろ」

 

「え? ああ」

 

予想外の出来事で、流れたと思われた自己紹介が再開される。

 

「えー、えッと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

手始めとしては、普通の自己紹介をする。

そこで一夏はある人物が目に入った。

 

「あれ?」

 

そう、私と窓側にいる、篠ノ之箒にだ。

 

「愛華と箒?」

 

私のことに気付いたようで、私は軽く手を振る。

 

「お前は自己紹介も、まともに出来んのか」

 

一夏は千冬に引っ張たたかれ、ついでに自分が千冬の弟であることをバラしてしまう。

 

「さあ。ショートホームルームは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが基本動作は半月で身体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。私の言葉には返事をしろ」

 

「はい!!」

 

そして、ショートホームルームが終わった。

後ほど、個人での自己紹介がおこなわれたが、一夏は箒に連れていかれ行ってしまったが、次の授業前にはまあギリギリに戻ってくる。

 

「さて、授業に入る前に再来週に控えているクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけない」

 

IS学園では何回か実戦イベントがある。

つまり、私たちの初めての実戦なのだ。

まあ、当然この中にはいるだろう。

 

「はーい!! 織斑くんがいいと思います!」

 

噂をすれば。唯一の男性操縦者を推薦しない者はいないだろう。

最初の推薦に釣られて、一夏の票が増えていく。

 

「納得できませんわ!!」

 

おや?

後ろから怒鳴り声が聞こえ、振り返ると一人の生徒が席から立ち上がっていた。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表なんていい恥晒しですわ!」

 

(確か、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットだったかしら?)

 

私と同じでIS学園に代表候補が入学することは稀にあった。

現在知っているだけで、この学園にはロシア代表と日本候補が在籍している。

幸い、その二人はこのクラスではなかった。

 

「決闘ですわ!」

 

「いいだろう。その喧嘩買ってやる」

 

話がいつの間にか進んでおり、セシリアの決闘を一夏は買っていた。

 

「とにかく、話はまとまったな。勝負は一週間後の放課後、第三アリーナで行う。それでよいな?」

 

「「はい!!」」

 

「それと、神崎」

 

「はい」

 

私は何かいやな予感がした。

千冬のその笑顔を見て。

 

「織斑にISの知識を可能な限り叩き込ませろ」

 

「……はい。了解です」

 

全く面倒なことを押し付けられるとは……。

 

 

 

 

 

「久しぶりだな。愛華」

 

「そうね。一夏」

 

放課後、私たち以外は寮へと帰宅した頃、一夏が声をかけてくる。

 

例の事件以降から会ってはいなかったが、どうやら元気よくやっていたようだ。

 

「私がISに関わって以来だから一年半ぶりかな?」

 

「そうだな」

 

私が学校に来なくなってからあったことを一夏から聞くと、どうやら鈴が家庭事情で転校してしまったらしい。

 

「多分、その内に会える気がする」

 

「そうなのか?」

 

100%絶対に会う。これは断言してもいい。

だって、あの子今……中国代表候補生だし。それに、一夏のことを……。

 

「とりあえず、千冬さんからの頼みである以上、この一週間で叩き込ませるわよ」

 

「お、おう」

 

ISは女性にしか使えないため、男性である一夏は全く勉強していないとのことで、短い時間の中で必要なことだけを叩き込ませるしか方法がない。

それだけでも、相当の量がある。しかも相手は代表候補生。

 

「代表候補生と言うだけで、一夏はかなり不利だというのに……」

 

「なあ? 代表候補生って……なんだ?」

 

いきなりの爆弾発言に私は言葉を失う。

 

「一夏……」

 

「ん?」

 

「私は、泣いてもいいかしら?」

 

「はい?」

 

流石にこれはない。

文字通りの意味すら理解できていないとは、思ってもみなかったのだ。

 

「は~あ。モンド・グロッソに参加できる選手はどんな人か知っている?」

 

「強い奴だろ?」

 

「正確には違うわ。モンド・グロッソに参加できるのは、その国に所属する代表と数人の代表候補生だけなのよ」

 

モンド・グロッソとは、アラスカ条約に参加している国を中心に行われるIS同士での対戦の世界大会であり。格闘・射撃・近接・飛行など、部門ごとにさまざまな競技に分かれ、各国の代表が競うことになる。各部門の優勝者は「ヴァルキリー」と呼ばれ、総合優勝者には最強の称号「ブリュンヒルデ」が与えられるのだ。

 

「つまり、代表候補生とは、国家代表の予備群なのよ」

 

「ほうほう」

 

「ちなみに、私もこの日本代表候補生なのよ。わかる? この意味」

 

「おう。わかった。つまり、あのセシリアって子も愛華ぐらい凄い奴って事なんだよな?」

 

「まあ、今はそれでいいわ」

 

本当に理解しているのか分からないが、今はそれでいい。

 

「良かった。織斑くんたち、まだ教室にいたんですね」

 

「あ、山田先生」

 

説明が一通りに終わった頃に、山田先生が教室に入ってくる。

どうやら、一夏の寮の部屋割が決まったらしい。

そのカギを渡しに来たようだ。

 

「1025ね……」

 

「愛華は?」

 

「1024よ」

 

「隣か」

 

運よく、一夏の部屋の隣になった。

多分、千冬さん辺りがそう調整した可能性がある。

 

「織斑」

 

「おう」

 

教室のドア前に千冬さんがいた。

 

「本来なら自室以外の部屋での宿泊は禁止されているが……今回は特例として許可してやる」

 

千冬さんの言う通り、生徒手帳にもそのことについて記載されている。

一週間後の決闘に向けての勉強のために、無理矢理だが私のルームメイトを一時的に交換するらしい。

 

「わかった」

 

必要事項を伝え、山田先生たちは退室する。

私たちも、教室ではなく寮でやることにし、私の部屋に向かう。

 

「そんじゃ、時間が惜しいからちゃちゃっとやるわよ」

 

そして、その日は徹夜覚悟で私は一夏に試合に必要な部分だけを叩き込む。



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第八話

入学式翌日の朝八時。一年寮にある食堂で私たちは朝食を取っていた。

 

「とりあえず、座学はボチボチにやるとして、実戦をメインに取り込みたい所なんだけどね……」

 

私の一番の難解点があったのだ。

IS学園には、勿論のこと生徒にISを貸出している。

しかし、全校生徒に対して圧倒的に数が少なく、申請しても最低でも一週間はかかってしまうのだ。

 

「んじゃあどうするんだ?」

 

A定食の鮭を摘まむ、一夏が愛華に問う。

愛華はISを所持しているため、この申請を行う必要がない。

しかし、一夏にはISがないのだ。まあ、倉持技研がISを用意していることを私は知っているが、来るのは試合当日なのでどうしようもないですがね。

 

「となるとな……。剣道場を借りる他ないかぁ……」

 

剣道場と言う言葉に一夏の隣に座る幼馴染n篠ノ之箒が反応する。

私が最後に会ったのは、小学五年の頃だった。一夏から貰った白いリボンにポニーテールをした子。目つきもあの時から全く変わっていなかったので、直ぐに気付いた。

 

「なら、その役目は私がやっても構わないだろう」

 

「いや、多分、時間の無駄になるから」

 

「な!? それはどう言う意味だ!!」

 

箒が自信満々に言うが、私がそれを却下する。

 

「まず前提条件が違い過ぎるのよ。ISは主に空中戦なのよ。剣道というより剣術の方がいいのよ」

 

剣道は地面の上での戦いであって、空中での戦いでは剣術の方がいいのだ。

しかも、何でもありの戦いに剣道では分が悪すぎる。

 

「言わせておけば……私は篠ノ之束の妹なのだぞ」

 

「それが? あの人はあの人であって、貴女は貴女でしかないのよ。それとも、相手が銃からスタングレネードまで何でも使えるに対して、貴女はそれを卑怯とでも言うのかしら?」

 

「くっ……」

 

ISのルール上武器の使用制限は殆どない。

拡張領域に収まれば何でも使ってもいいのだ。

かと言う私のISの拡張領域は一本の剣でいっぱいなんだけどね。

 

「とりあえず、放課後に剣道場にお邪魔するわ」

 

少しでも戦えるようにすることが、今私が出来ることだった。

 

 

 

 

放課後、私たちは剣道場で竹刀を片手に向き合う。

胴着を借りて打ち合うが、一夏は昔やっていた剣道の癖が僅かに残っていた。

対して私は構えから剣道とは程遠く、自由な型で攻め込む。

 

「くっ!」

 

上から竹刀を振り下ろし、その遠心力を利用してそのまま振り払いに入る。

連撃に一夏が反応出来ず、そのまま竹刀が胴に入った。

 

「少し休憩しましょう」

 

「おう……」

 

成績は一夏の完敗。まだ一度も私に勝ててないどころか一撃すらいれていないのだ。

まあ、一夏が誘い技に引っ掛かり過ぎて次の手に対応できないのが、主な敗因でもある。

 

「私の動きを見てて、どう思った?」

 

「何か……、踊っているような感じだった」

 

一夏の素直な感想に私は微笑む。

 

「そう。なら、Shall We Dance?」

 

竹刀を片手に持ち、一夏に向ける。

それに答えるように、一夏が両手持ちから片手持ちに切り替えた。

 

「いいぜ」

 

何度も打ち合い、その日は終了する。

そう言った日々を繰り返し、ついにセシリアとの決闘の日になり、私たちは第三アリーナで一夏のISが搬入されてくるのを待っていた。

一夏に専用機が来ることは、千冬さんから聞かされたのだが、そのISがまだ届いていなかったのだ。

 

「約束の時間までもうないというのに、まだって……」

 

「そうだな……」

 

私たちは、沈黙してしまう。

 

「あ、いました!」

 

そこに山田先生が慌ててやってくる。

 

「来ました。織斑くんの専用機が!」

 

どうやら、ようやく到着したようだ。

 

「すぐさま、準備しろ。織斑」

 

山田先生と一緒にいた千冬さんに言われるままに一夏が、そこにあったISに乗り込む。

 

「何か問題はある?」

 

「いや、問題ない」

 

一夏は言いきる。

 

「時間が無いから、最適化は試合中にやることになちゃったけど、完了するまで逃げさい。いいわね?」

 

「わかった」

 

「よし、行ってきなさい。一夏」

 

「行ってくるぜ。愛華、箒」

 

一夏は大空へと飛び立つ。



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第九話

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

セシリアは上機嫌で一夏が来るのを待っていた。

 

「わざわざ負けて、惨めな姿を晒す為にご苦労なことですわ。今ここで謝ると言うなら、許してあげないこともなくてよ」

 

「それは出来ない条件だな。愛華たちと約束してしまったからな……アンタに勝つってな!」

 

「あらそう。残念ですわ―――なら、お別れですわね!!」

 

「!」

 

試合開始のブザーはもう一夏が指定の位置に到着していた時に、既に鳴っていた。

一夏がセシリアの提案を断ったことで、ようやく試合が始める。

セシリアの専用機《ブルー・ティアーズ》の主力武器である六七口径特殊レーザーライフル《スターライトmkⅢ》のレーザーが一夏の肩を撃ち抜く。

 

「くっ!」

 

一夏の専用機《白式》が一夏の動きに付いてこれず、肩に被弾してしまう。

幸いにも、この攻撃は軽傷と判断されたようで、《絶対防御》は作動されなかった。

 

「さあ、踊りなさい! わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる円舞曲で!!」

 

射撃、射撃射撃射撃。セシリアの弾雨のような射撃が降り注ぐ。

正確なその射撃は、一夏のシールドエネルギーをガンガンと削っていく。

 

「こっちも―――」

 

一夏は現在展開可能の装備を展開する。

光の粒子から現れたのは、片刃のブレードだった。

 

「中距離射撃型のわたくしに、近距離格闘武器で挑もうなんて、笑止ですわ」

 

目に見える程まで、不利な武器にセシリアは鼻で笑う。

 

「やってやるさ」

 

引くことのできない戦いが加速する。

 

 

 

 

「やはり、少しラグがあるのが痛いですね……」

 

ピットでリアルモニターを見ていた私が一夏の動きに呟く。

まだ、一次移行すら済ませていないのに、代表候補生であるセシリアの射撃を何とか回避しているのだ。

 

「だが、少なくとも戦えるぐらいには出来ている」

 

千冬さんも一夏の戦いっぷりに賞賛する。

 

「それでも不慣れな空中戦では、セシリアさんの方がかなり有利ですね」

 

ISは稼働時間に比例して上達していく。

少なくとも200時間以上乗っているセシリアと20分ぐらいしか乗ったことのない一夏では天地が逆さまになっても勝つことは出来ないだろう。

だが、勝率を上げる方法なら、いくつかある。

 

「セシリアの癖、思考、得意戦術などを把握していれば多少ですが、勝つ見込みがありますが……」

 

「まあ、あいつがそれを上手く使いこなせるかは、別の問題だな」

 

激戦が始まってから30分が経つ。

そろろそ、《白式》の一次移行が始まってもおかしくない。

その時だった。PSYクオリアが何故か反応したのだ。

 

「……え?」

 

それと同時に一夏が《ブルー・ティアーズ》の隠しミサイルが直撃する。

 

(なんで、惑星クレイと繋がったの?)

 

今までにないことに、私は驚くがその答えはリアルモニターに映っていた。

 

「フン、機体に救われたな、馬鹿者め」

 

一夏の姿を隠していた煙が、弾けるかのように吹き飛ばされる。

そして、その姿を見て私は思わず―――。

 

「ブラスター……ブレード……」

 

一夏のその姿は、まさしく《ブラスター・ブレード》だったのだ。

 

 

 

 

―――ライド・システムの起動を確認。

 

(な、なんだ……?)

 

ミサイルを受ける直前に《白式》の一次移行が完了した。

そして、その時に現れたウィンドには、ライド・システムと書かれていたのだ。

 

(それに、この姿はまるで……)

 

白い騎士。ロイヤルパラディンの先導者であり、一夏のお気に入りのカードの姿だったのだ。

 

「まさか、一次移行!? 今まで初期設定で戦っていたって言うのですの!?」

 

セシリアも一夏の機体が変わったことに驚いていた。

 

「そうか。これでやっと、この機体は俺の専用機になったんだな」

 

なんでこんなことになったのか解らないが、もしかしたら勝てるかもしれないと一夏と確信する。

 

「行こう! 《白式》!!」

 

「っ! これで終曲にして差し上げますわ!!」

 

弾頭が再装填されたミサイルが飛んでくるが。

 

「うおおお!!」

 

これは、愛華がよく口にしている言葉だった。

 

『イメージしなさい』

 

(今、俺は《ブラスター・ブレード》と同じなのだ!)

 

ISから伝わってくる意思らしき物を一夏は感じていた。

どう動けばいいのか、この剣の使い方など。

そいった物が伝わってくるのだ。

 

「いけぇえええ!!」

 

横一閃。

一夏は剣から伝わる勝利を。

 

『試合終了。勝者―――織斑一夏』

 

勝つ確率が最も低かった戦いに一夏は、勝利したのだ。



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第十話

「一体どう言うことよ」

 

一夏とセシリアとの試合が終わって直後のことだった。

《白式》の姿が《ブラスター・ブレード》になっていたことについて私は一夏を問い詰める。

 

「いや、俺に聞かれてもな……」

 

一夏にもどうしてそうなったのかは解らない。

仕方ないので、私は《白式》の解析を始めることにした。

 

「多分、これね……」

 

表示された《白式》のシステム一覧を見て、その原因をつきとめた。

《ライド・システム》と書かれたそれが《白式》が《ブラスター・ブレード》へと姿を変えたのだ。

もちろん、それが解除されると《白式》へと元に戻る。

 

「一次移行と同時に現れた謎のシステムって……」

 

私はこのシステムに思い当たる節があった。

明らかに惑星クレイが関わっている。

 

「とりあえず、身体に何か異変があるかもしれないから、使用するのは程々にね」

 

「お、おう。わかった」

 

一夏は私から返却された《白式》を受け取る。

 

「それでは―――」

 

私の話が終わると、山田先生がISに関する注意事項の説明に入った。

 

「一体何を考えているかしら……」

 

惑星クレイの思惑が一体何なのかが解らない。

二年前の時は、一夏を救うために干渉して、今回はそれと言った理由がないのだ。

謎が謎を呼ぶ。

その答えが出ることは一向になく、その日は静かに終わりを告げた。

 

 

 

 

「では、三人とも武装を展開しろ」

 

一夏がクラス代表になり、静かな日常が訪れる。

そして、本日はISを使った授業が行われ、専用機持ちの私たちが手本としてISを展開していた。

千冬さんに言われるままに、拡張領域から《エターナル・フレイム》と書かれたブレードを私は展開する。

 

「よらしい。では、次はその場から急上昇しろ」

 

「はい」

 

セシリア、一夏の順に急上昇を開始する。

途中で一夏に追いついてしまったので、私がそのまま引っ張る形でセシリアのいる位置まで連れて行く。

 

「サンキュウな、愛華」

 

「別にいいわよ」

 

あれから、一夏との同室生活が終わり、本来の住人がやってきた。

一夏はあの篠ノ之箒で、私は布仏本音と呼ばれるクラスメイトと同室になる。

 

「お前たち、急降下と完全停止をやってみろ。目標は地表から十センチだ」

 

「了解です」

 

セシリアは楽々とそれをこなしたが、一夏がそのまま墜落したかのように、グランドをクレーターを作る。

 

「いくら出来ないとは言え、これはないわよ……」

 

私も完全停止し、一夏の前に降り立つ。

 

「誰がグランドに穴を開けろと言った」

 

「すみません」

 

「自分で開けた穴だ。自分で埋めておくように」

 

「はい……」

 

そして、本日の授業が終わる。

放課後、私たちは食堂に集まっていた。

 

「と言うことで、織斑くん。クラス代表決定おめでとう!!」

 

食堂を貸し切っての就任パーティーが開かれたのだ。

 

「あ、ありがとう……」

 

クラスメイトの気迫に押されながらもパーティーを楽しむ一夏。

私はジェスチャーで後で外に来てと一夏に伝え、外のベンチに座る。

 

「なんだ? 愛華」

 

「就任祝いをあげようと思ってね」

 

私は一夏に近づき、首に何かの装置を付ける。

 

「何だこれは?」

 

「ニューロリンカーよ。うちの会社がVRMMOして販売するのよ」

 

「へ~。今度はデジタル化か」

 

「そう。その試作品が送られてきたから、一夏にもβテスターを兼ねてやってもらおうと思ってね」

 

私も首元を見せて、ニューロリンカーを付けていることを見せる。

 

「じゃあ、もう入っているのか?」

 

私はその問いに頷く。

一夏はワクワクしながら食堂に戻り、私はその隣に座る。

ポケットからコードを取り出し、一夏のニューロリンカーに接続させて、私のにも接続させた。

 

「キーコードを言えばすぐに始められるわ」

 

私たちは、β版を起動させる。

 

「「リンク・スタート!」」

 

意識が吸い込まれ、虹のリングをくぐる。

そして、次の映った世界は別世界だった。

 

「じゃあ、デッキを作ってから始めようか」

 

そう言って、あらゆるクランが表示される。



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第十一話

「準備はできたようだね」

 

「おう。で、どうやって始めるんだ?」

 

私たちはニューロリンカーで電脳空間にダイブしている。

最初にされたのは、デッキの作成。そして、それが終わったのでファイトを始めるのだが、ファイトテーブルが何処にもないのだ。

 

「それが、このゲームの醍醐味なのよ。私に続けて頂戴。スタンドアップ、ザ、ヴァンガード!!」

 

「お、おう。スタンドアップ! ヴァンガード!!」

 

私たちの足元が光だし姿が変わる。

 

「ライド。《リザードランナー アンドゥ―》」

 

私の姿がクレイのユニットの姿に変わった。

一夏も同じくクレイのユニットの姿に変わる。

 

「おっと!? な、何だこれは!?」

 

一夏が《ばーくがる》にライドして、その感覚に驚いていた。

 

「私たちはクレイのユニットと一体化して戦うのよ、一夏。ライド! 《サーベル・ドラゴニュート》」

 

私の姿がまた変わって、一夏はどの様に進めるのか分かったようだ。

 

「ライド! 《竪琴の騎士 トリスタン》」

 

「仲間を呼ぶ方法は知っているよね?」

 

「おう。コール! 《プラック・エンチャンター》」

 

「そうそう。アタックは―――」

 

「その説明は大丈夫だぜ。支援を頼む!」

 

一夏の後ろにいる《プラック・エンチャンター》が頷く。

 

「はぁあああ!!」

 

「くっ!」

 

私は一夏からの攻撃をその身で受ける。

 

「《ドラゴンフルアーマード・バスター》にライド! スキル発動!!」

 

紅い鎧を纏った私の背後に炎が現れると、ドラゴンの影が映る。

 

「コール! 《ドラゴンナイト ネハーレン》《希望の火 エルモ》」

 

《ネハーレン》のスキルが発動し、《エンチャンター》が退却する。

そして、一夏は私の攻撃を全てその身で受けた。

 

「行くぜ!!」

 

「来い!」

 

「立ち上がれ、俺の分身!! ライド! 《ブラスター・ブレード》!!」

 

一夏の切り札が現れる。

 

「コール!! 皆、行くぞ!!」

 

それに答えるように、一夏が呼び出したユニットたちが一斉に向かって来る。

 

「《ドラゴンモンク ゲンジョウ》!!」

 

僧侶が現れ、私を守るが、《ブラスター・ブレード》の一撃はその身で受ける。

 

「焼き尽くせ、黙示録の炎。ライド! 《ドラゴニック・オーバーロード》!」

 

私も切り札にライドする。

一夏も《ドラゴニック・オーバーロード》をまじかでその姿を見て、感じ、そして、わくわくが止まらなかった。

 

 

 

 

一夏の就任パーティーが始まってから少し経った頃だった。

少し離れた席で一夏と愛華が一緒に座っているところを見つかってしまう。

お互いに目を瞑っており、最初は寝ているのかと、箒が無理矢理起こそうとするが。

 

「ダメダメ! 起こしちゃ、ダメなの!」

 

布仏本音が止めるに入った。

 

「何をする!」

 

「オリム―たち、今電脳世界に入っているんだよ。無理矢理起こしちゃダメなんだよ!」

 

本音の指摘を箒は無視し、再び一夏に手をかけようとするが、本音がそれを阻止する。

その騒ぎにクラスメイトたちが集まり始め。

 

「あれ? 織斑くんたち、ニューロリンカーを使っているんだ」

 

一夏たちの首に嵌められたニューロリンカーを見て、騒ぎの原因が判明する。

 

「織斑くんたち、何をやっているんだろう?」

 

「電脳世界で二人きりって」

 

「嘘! それって」

 

何やら、余計に騒ぎが大きくなる。

 

「織斑くんたちが、何をやっているのか見たくない?」

 

「うんうん。ちょっと見たいかも」

 

「誰か、調べられる人いない?」

 

「はい! はいはい!! 私、できます」

 

一人の生徒が愛華のニューロリンカーの接続端子にケーブル接続させ、それを食堂のモニターに繋ぐ。

そして、そこに映しだされたのは―――紅のドラゴンと白い騎士が戦っている所だった。

 

『俺に力を、気高き誇りの白き翼! ライド! 《孤高の騎士 ガンスロッド》!!』

 

白い騎士が天馬に跨る騎士へと姿を変えたのだ。

 

『終わりなき探求の果てに、たどり着きし最終進化。荒ぶる魂を昇華させ、今こそ真の姿を現せ! クロスライド! 《ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド》!!』

 

紅のドラゴンもさらに進化するかのように姿を変える。

 

「この声って、織斑くんと神崎さんだよね?」

 

二人の戦いの会話で、ドラゴンは神崎愛華で、騎士が織斑一夏だと分かる。

戦いはヒートアップし、お互いに譲らない。

 

「これって、ヴァンガードじゃない?」

 

「うん。あの姿何処かで見たことがあると思ったけど、ヴァンガードだよね」

 

CMや広告で一度は誰でも見たことのある姿に、皆がこれが何なのかが分かる。

一夏たちが今やっているのがヴァンガードと呼ばれるゲームだと。

 

『《ジ・エンド》は終わらない!』

 

『《イゾルデ》で完全ガード!!』

 

愛華の攻撃を防がれる。

そして、激しい攻防の終焉が訪れた。

 

『あの日手にした小さな光はこんなにも光り輝く! ライド! 《エクスカルペイト・ザ・ブラスター》!!』

 

光の戦士へと姿を変えた一夏の一撃は愛華の仲間たちを全員吹き飛ばす。

そして、愛華自身はガードし、その身を守ったが。

 

『来なさい!!』

 

光の戦士から白い騎士へと姿が変わる。

騎士がドラゴンを切り伏せ、ドラゴンが光の粒子となって消えた。

 

 

 

 

『私の負けね……』

 

地面に大の字に倒れる愛華。ファイトが終了すると白い騎士も一夏の姿へと元に戻る。

 

「よいしょっと。それじゃあ、ログアウトしましょう」

 

そう言って、私たちは手を縦に振る。

いくつものコマンドが表示され、その一番最後の欄にログアウトと書かれたコマンドを押す。

 

「う、う~~~ん!」

 

意識が覚醒し、私は背伸びする。

 

「「!?」」

 

私の意識がしっかりした時、その周りにクラスメイトたちが群がっていたいたのだ。

一夏もその光景に正直に驚いていた。

 

「うお!? 一体何にがあったんだ?」

 

「ねえねえ!!」

 

そこからは、質問攻めの嵐だった。

私たちがヴァンガードをやっていたことや、何やら、これやらで対応するので精一杯で、その先のことは正直何も覚えていない。

そして、就任パーティーは終わりを迎える。



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第十二話

「ねえね聞いた? この話」

 

「二組に転校生がくるんだって! さっき職員室で聞いたって人がいたらしいよ」

 

「転校生?」

 

私たちが教室に入るなり、何か騒がしかった。

どうやら、隣の教室に転校生が来たらしい。

 

「なんでも中国の代表候補生らしいですわ」

 

「セシリア」

 

「わたくしの存在を危ぶんでの転入かしら」

 

「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」

 

「別の意味では、騒ぎかねないかもしれないかも……」

 

「神崎さんは、何かご存知なのですか?」

 

「中国、代表候補生と来ると。一人しか思い当たらないのよ……」

 

そう。この二つのキーワードで当てはまる人物は一人しかいない。

 

「その通りよ!」

 

「やっぱりか……」

 

教室の入り口前に仁王立ちする少女。

一夏のIS学園への入学が報道されたのだ。

彼女が来ない訳がない。

 

「中国代表候補生、凰鈴音。久しぶりね。一夏、愛華!」

 

諸事情で中国に引っ越してしまった彼女が代表候補生となって私たちの前に現れたのだ。

 

 

 

 

「鈴。いつこっちに帰ってきたんだ?」

 

「つい最近よ。《パーフェクトライザー》でアタック」

 

「それに、いつ代表候補生になったんだ? ガード」

 

「質問ばっかしないでよ。《アシュラ・カイザー》でアタック」

 

昼休み。鈴と一夏がヴァンガードファイトしながら、質問を投げかけていた。

 

「アンタこそ男なのにISとか使っちゃって、ニュース見てびっくりしたわ。それと、それは完全ガードね」

 

私はIS事情で二年ぶりに会い、一夏は一年ぶりに会う幼馴染にやっぱりその空白期間が気になってしまったらし。

 

「一夏さん! そろそろどういう関係か説明していただきたいですわ!!」

 

「そうだぞ! まさか付き合ってるなんてことはないだろうな!?」

 

我慢の限界だったのだろう。箒とセシリアが多少棘のある声で訊いてくる。

 

「幼馴染よ。篠ノ之さんの後の」

 

「幼馴染?」

 

まあ、知らないのも無理はない。

箒が引っ越したのが小四の時で、鈴が来たのが小五の時なのだ。

 

「まあ、そうだな。《エクスカルペイト・ザ・ブラスター》でフルアタック」

 

「ちょ!? アンタ、何ていうカードを使ってくるのよ!!」

 

鈴がフル展開した盤面で、一夏が《エクスカルペイト・ザ・ブラスター》にライドし、盤面を一掃してしまったのだ。

結果、何も出来ずに鈴が敗北する。

 

「ほら鈴、前に話したろ? 俺の通ってた剣術道場の娘」

 

「ああ、そういえば聞いたわね。ふーん、そうなんだ……」

 

鈴はそういったものにはあんまり興味はなく、最低限の礼儀だけを返す。

 

「初めまして。これからよろしくね!」

 

「篠ノ之箒だ。こちらこそよろしくな」

 

そう言って挨拶を交わすが、何故か花火を散ったような幻覚を見る。

幼馴染ということで何かを感じ取ったのだろう。

 

「わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん」

 

「……誰?」

 

「な!? イギリス代表候補生のこのわたくしをまさかご存じないの!?」

 

「うん。あたし、愛華以外の国には興味ないし」

 

「な、な、何ですって!!」

 

まあ、そう言うところは変わっていないわね。

理由はたぶん成績では私が全勝しているからだろう。

 

「い、言っていきますけど! わたくし、あなたのような方には負けませんわ!」

 

「あっそ。でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」

 

確かに強いだろうね。

セシリアと違ってたった一年で代表候補生の座についた訳だから、実力は確かに本物なんだろう。

 

「そんな事よりねえ、一夏!」

 

「ん?」

 

「あんたクラス代表なんだって?」

 

「成り行きでな」

 

「ふ~ん。愛華、あんたどのぐらい教えたの?」

 

「基礎ぐらいよ。先日、専用機が来たんだから」

 

鈴には一夏にISを教えたのが私だと言うことはまだ、話していないのだが訪ねてきたのだ。

 

「じゃあ、放課後待っているわ」

 

「わかった」

 

私は何も言わずに了承する。

 

「おい! 何勝手に決めているのだ!」

 

「そうですわ! 相手は二組のクラス代表ですわよ!」

 

「多分、何を言っても無駄だから」

 

断っても勝手に来ることは、予測出来ていた。

だから、あえて何も言わずに放課後の予定を了承したのだ。

そう。何を言って無駄なのさ。あの猫にはね。

 

 

 

 

「愛華のISって随分変わっているわね」

 

放課後、アリーナに集まった私たちは既にISを展開していた。

 

「しかも、名前までも《ドラゴニック・オーバーロード》って」

 

私が決めた名前ではないのだけどね。

惑星クレイがISコアに干渉して出来た特殊なISであるのだ。

鈴の言うことも分からなくもない。

 

「まあ、それは置いといて。今は一夏にはISに慣れてもらう必要があるんじゃない?」

 

「それもそうね」

 

やることが決まり、私たちは順に一夏と訓練を行う。

途中、代表候補生どうしでも行った。

お互いに手の内を晒すことはせず、腹の探り合いをする。

 

(青龍刀……と言うことは接近型と見ていいわね。だけど、肩側にあるアレも気になるけど……)

 

私は鈴と手合わせしてそう感じた。

青龍刀は両手剣に切り替えることも可能で、正直言って結構手こずる。

しかも、まだ隠し玉があるのだ。

 

(愛華も中々やるわね。片手剣であたしの攻撃を捌くなんて……)

 

鈴も愛華の実力に素直に賞賛する。

パワー勝負では鈴が勝っていたが、愛華はそれを剣先で逸らし、技術で勝負してきた。

直線で向かって来た剣がいきなり方向転換して来るのだ。鈴もそれを紙一重で回避する。

 

「む。当たったと思ったんだけどな」

 

「結構ギリギリだったわよ」

 

双方。武器を納め、地上に降りる。

これ以上やったら、奥の手を使いかねないと。

 

「そろそろ、撤収しましょう」

 

アリーナの閉館時間が迫っており、私たちはISを解除してシャワールームへと向かう。

シャワーを浴びている時だった。隣のシャワー室から鈴がこの後ファイトしないかと誘われた。

 

「愛華。後で私とファイトしない?」

 

「いいけど? あ、そうだ。鈴はニューロリンカー持っている?」

 

「一応、あるわよ?」

 

なら、そっちの方がいいわね。

 

「丁度いいのがあるから。後で一夏も誘うからね」

 

「わかったわ」

 

話がまとまり、私たちは自室へと戻る。

 

 

 

 

自室に戻ると私はニューロリンカーをオンラインモードにする。

ベッドに入り、目を閉じた。

 

「リンク・スタート」

 

虹のリングをくぐり、ゲームタイトルが表示される。

 

「来たわね」

 

「おう」

 

私の後に続いて一夏がログインしてくる。

 

「あたしが最後なのね」

 

鈴もログインし、全員がそろう。

そして、このゲームのやり方を一通り説明し、私たちは、朝までヴァンガードファイトにくれた。



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第十三話

あれから数週間後。

クラス対抗戦表が発表され、一夏の初戦の相手は二組の鈴だった。

 

「うわぁ、満員御礼だな」

 

「そりゃ、今年は一夏がいるからね」

 

第二アリーナの客席は全席満員になり、所々で通路で立って見ている生徒もいるぐらい満席だった。

ついには会場入り出来なかった生徒、関係者は、リアルタイムモニターでの鑑賞するらしい。

 

「期待の新人同士の戦いだもの。気にならない奴はいないわ」

 

『一回戦、一組と二組の代表選手は準備を始めて下さい』

 

館内放送で一夏たちが呼ばれる。

どうやら、一夏たちの試合がもうじき始まろうとしていた。

 

「出せる全力を出して来なさい!」

 

私は一夏の背中に活を入れる。

 

「おう!」

 

一夏も私の活を受け取り、元気よく返事し控室を後にする。

 

「……さて、私の方も本来の目的に取り掛かりますか」

 

この後に起こる事件だけは特に覚えていた。

一夏と鈴の試合終盤に差し掛かった時に篠ノ之束が自作した無人機IS『ゴーレム』が襲撃してくる。

その事件は何とか無事に一夏が解決するが。

 

「折角の訓練を無駄にする訳にはいかないものね」

 

襲撃によりクラス対抗戦は中止になる。

だから、これだけは何が何でも阻止しようと、私は決めていた。

 

 

 

 

クラス対抗戦で多くの生徒、教師陣はそっちの方に注目が行っており、人の目を気にせずに私はISを展開する。

そして、ハイパーセンサーを限界まで使い『ゴーレム』を探す。

 

「……いた」

 

ハイパーセンサーに急接近する物体を感知する。

私はすぐさま、その方角へと飛ぶ。

 

「こっから先は通行止めよ」

 

私は、高速移動する『ゴーレム』と激突した。

出力はどうやら向こうの方が上で、少しばかり押されたが、私は自前の剣で『ゴーレム』スラスターいくつか破壊する。

スラスターをいくつか失った『ゴーレム』は失速し、同時に私を敵として認識したようだ。

 

「一夏たちの邪魔をしに来たようだから、私が先にスクラップしに来てあげたわよ」

 

私が言い終わる前に『ゴーレム』が攻撃しかけてくる。

『ゴーレム』の主な攻撃方法は、その見た目のにある大きな腕とそこに内蔵されているビーム兵器の二つ。

その上で全身装甲であるのだ。

剣一本で戦う私の一撃は殆ど通らないだろう。

 

「まあ、とっておきを使うから、問題ないのだけどね」

 

私はドラゴニック・オーバーロードのスキルを解放する。

シールドエネルギー残量が一気に100減ると、今まで弾かれていた一撃がまるでバターを切るかのように『ゴーレム』の腕を切り飛ばす。

一夏の単一仕様能力である『零落白夜』のシールドエネルギーを能力に変えるように、私のドラゴニック・オーバーロードは単一仕様能力とは別で特殊なスキルを搭載している。

その一つであるシールドエネルギー残量を100減らすことで純粋な攻撃力へと変えることができるのだ。

もちろん、この効果は相手に当たった後、その効果を失ってしまうが。

 

「逃がさないわよ。私の一夏に危害を加える者は誰だと、容赦はしないわ」

 

帝国の竜王と呼ばれるこの機体に乗った時から、私は決めていた。

竜は宝を守る門番であり、最強の象徴でもある。

だから、織斑一夏と言う名の宝を守る存在でありたいと。

 

「さよなら」

 

その冷たい別れの言葉を残し、私は『ゴーレム』を真っ二つに切り裂く。

『ゴーレム』はそのまま暗い海の底へと沈み、その証拠を残すことなく消えた。

 

 

 

 

「いや~、負けてしまったわ(笑)」

 

「いや、なんで(笑)なのよ!」

 

私はそれとなく戻ってくると、一夏と鈴の試合は終わっていた。

結果は、一夏の敗北。

 

「情けないぞ!」

 

「そうですわ! あれだけ散々教えて差し上げたのにも関わらずに!!」

 

箒とセシリアは嘆いていた。

試合は最初は鈴が優勢だったそうだ。

中盤に差し掛かった頃に一夏が先日に習得した瞬時加速で鈴の背後から襲撃したが、そこを間一髪避けられてしまったらしい。

そこから先は泥沼化し、一夏は敗北してしまったのだと。

 

「まあ、鈴の方が一枚上手だったと言うことね」

 

「決まったと思ったんだがな」

 

私は溜め息を吐く。

まあ、一夏にはいい経験になっただろう。

 

「白式は短期決戦型なのだから、開始直後に先制攻撃出来なければただの鉄の塊でしかないのよ?」

 

「今後の訓練は3倍だな」

 

「ふぁ!?」

 

流石の一夏もそれには驚く。

沈む夕日を背景に私たちは寮へと帰る。



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