やはり俺のパートナーは・・・ (バネア☆)
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2人の思い
第一話  それぞれの思い ~その1~


普段は読み専で、処女作につき表現が上手く伝えられないかもしれませんが
2人の微妙にすれ違う思いが交わりあい一つになる
そんな物語を描ければと思っています




~八幡視点~

 

12月に入ったある土曜休み。俺は、自室のPCでにらめっこしていた。

(やっぱりまだ足りないか・・・・)

 

一色いろはー俺の最愛の人。今や黒歴史と言ってもいい中学・高校時代で尖っていた俺を

ちゃんと見ていてくれて俺が求めていた「本物」の思いをぶつけられ付き合う事になり、

7年は経過したことになる

 

 

俺の親達や一色家にもその仲を認めてもらい、傍目には順風満帆と見えるだろう。

ただ高校時代の友人たちには

 

 

「比企谷君、そろそろ一色さんに応えてあげるべきかと思うけど?」

 

「ヒッキー、まだいろはちゃんと婚約もしてないの?」

 

「八幡、流石にもう言わずにはいられないよ?」

 

 

分かってるんだ・・・奉仕部の2人や天使に言われなくても。

ただアイツを幸せにしてやりたいという思いも。

 

現状ではまだ足りないんだ・・・・

結婚式を・・挙式をしたとしてもその後の先立つ為の金が・・・・

お互い引っ越しをして暮らしていく生活資金やら家電とか・・・・

その時点で苦労をしてるようでは幸せには程遠い・・・!

 

 

頭を振り。パソコン上の結婚情報サイトと別窓を開き、某有名検索サイトを閲覧する。

(気分転換にニュースでもみるか・・・・)

 

カチカチ

 

カーソルを合わせ下のページまで持っていくと

「旅トラベル」

 

社会人になって其れまでのデートと違い、遠出をしたり

南房総に行けるスポットに出かけたりするのに、

下調べで使っていたのでいつからか広告に載るようになったのだ

特急電車にも何回か乗ったこともあったな

 

中学に上がる小学生2,3年位まではよく親父と一緒に2人旅をしていたが、

親子で出かけられる格安フリー切符の廃止にあったこともあり、

旅行ともご無沙汰になり、中学でのトラウマで完全ボッチ・引きこもりに

なっていたが、いろはとの付き合いでまたこのようになるとはと自嘲したものだったが

 

 

(やっぱり・・・・ちゃんと伝えるべきだよな・・・)

と思いつつ、旅トラベルのHPを進める

進めた先に行き着いたページに目を引いた

 

 

 

「カシオペ〇紀行 一度は乗ってみたい憧れの寝台列車の旅」

 

 

運転日は大晦日・・・・か。今までは年明けと同時に初詣をいうのが通年となっていたが

 

 

『【ネット限定】大晦日出発「カシオペ〇紀行 盛岡行き」体験乗車プラン』 (1泊2日)

 

 

これが一番安いし、大事な話を切り出しやすくはなるよな・・・

寝台列車といえば、小学生の時に今はないブルートレインに親父と一緒に乗った時を思い出すな

機械の音と寝台が揺れまくりで寝れたものではなかったっけ

でも憧れとキャッチコピーに入れるくらいだ。増産されたブルートレインよりは余程マシだろう

 

だが帰りが・・・な。ただ盛岡から新幹線でとんぼ返りというのも

 

(なんですか、せっかく豪華寝台列車で盛岡まで来てすぐに東京まで戻るっていうんですか?

味気なさすぎですごめんなさい)

と言われかねん・・・

 

やはり真心が伝わるにはもう一押し必要か・・・・・

現地で初詣もいいが、東北まで足伸ばしてるんだから、何か出来ることはないものか・・・

うーむ。

 

 

 

と、ここで横に気配を感じて振り向くと

ニヤニヤと笑みを浮かべた妹ー小町が立っていた。

 

 

「うぉ!?お前いつからここにいた?」

 

「ノックしても返事がないから、また昼寝でもしてるかと思ったら・・・フーン」ニヤニヤ

 

「答えになってないぞ?いつからだ?」

 

「ヒミツでーす。ではではお邪魔しましたー」ニッコリ

 

「・・・・やばいな。いろはにバレなければいいんだが」

 

 

と冷や汗をしつつ思考に頭を戻し、一押しを考えるのだった。

うーむ東北東北で出来ること・・・は。

 

あ、そうだ。こないだの慰安旅行で行った温泉で撮ったアレに載ってる温泉地

 

そう東北地方にある有名温泉地で一泊二日で楽しんだ際に、足湯を楽しんだ時に

珍しいからスマホで撮っていたのだった

 

これに東北地方の温泉地が乗っているハズだ・・・・

しかも駅からバスで30分で行けるとあるし、秘境でもないし

手軽で外れはないだろう

何よりも俺もあの温泉地並みに楽しめそうだ

 

それからパソコンを駆使し、無理のない旅行プラン・宿にめぼしをつける頃には

日も暮れていたのだった

 

「おにいちゃん、ご飯だよー」

 

夕食の間、小町がニヤニヤとこちらを見ていたのは完全に無視することにした

 

 

そして、夕食を食べた後、意を決していろはを話を誘うべく

メールを打つのだった

 

 

 

 

~小町視点~

 

私こと比企谷小町はやきもきしていた。八幡おにいちゃんに対してにだ。

 

 

 

おにいちゃんの中学時代何があったかは分からないがやけに捻くれてしまい

濁った眼をするようになり、休みは引きこもりするようになってしまった。

 

物心つく頃に見た兄の姿は連休に父親と旅行に出かけ、それを楽しむものであったからだ

でも、高校3年になる頃に何と彼女が出来たという青天の霹靂にも等しい出来事が起きた

それ以前のおにいちゃんは人とは深く関わるまいというオーラがにじみ出ていたからだ。

 

兆候は少し前からあった。何故か部活動なんかに入ったなんていう話を聞き、

何かと複数の女の人の名前も聞くようになっていたからだ。

そんな中、知り合うようになった女の人で仲良くなった人がいた

 

お相手は一色いろはさん、おにいちゃん曰く「お前らと会わせると科学変換されるから会わしたくなかった」

失礼な話ではあるが、いろはさんとは非常に話が合いそれ以来「いろはお姉ちゃん!」と慕っている

 

年が変わって、何かといろはお姉ちゃんのおにいちゃんを見る目が変わったことに気付いた。

(これは恋をしている目だーと)

でも正直厳しいかなーとは思った。おにいちゃんの中学時代が何かがあったかは直接聞いてはいないが心をガチガチに凍らせる位の何かがあそこまでにしてしまったのだから

 

でもいろはお姉ちゃんは「先輩のいう本物を見つけて絶対に振り向かせて見せる」と息巻いていた。本物って何だろう・・?とは思ったけどいろはお姉ちゃんは本気なんだなーと

 

だったら、後は2人のおにいちゃんといろはお姉ちゃんの問題だから、後は暖かく見守っていよう

ただ難攻不落のお兄ちゃんだから長期戦になるかもと思っていた

 

だから無事に総武高校に合格し、安堵の日を送っていた中でその話を聞かされた時には

本当に驚いた。あのおにいちゃんを陥落させた。この人は本当にすごい・・・と

 

 

こうして4月に高校入学し生徒会入りしてからも公私ともにお世話になっていた。

この人が本当の家族「お義姉ちゃん」と呼べる日も夢ではないかもと思うようになっていった

実際、おにいちゃんといろはお姉ちゃんは両家公認の仲にまでなって順風満帆に交際をしていた

それがちょっと怪しくなったのは2人が社会人になってしばらくしてからだった

 

 

私、小町も社会人となり社会の荒波にもまれていた。それまでの理不尽のことが生温いといえる

位事を多々経験した。数か月もすると、鏡を見て自分の目に光が無くなっている事に愕然とした。

もしかしたら、おにいちゃんが学生時代に死んだ目をするようになったのは、これ位の理不尽を経験したからなのでは・・・?と

もっと、おにいちゃんを労わるべきかと思ったものだが、それ以上にいろはお姉ちゃんから

聞かされた話にかき消された

 

 

とある12月に入ったばかりの金曜日

 

「「かんぱーい!」」

 

「いやー、数か月ぶりだね!こうやって2人で飲むのも」

 

「先輩、いやお姉ちゃんには本当お世話になってしまって」

 

「社会人になってもう8か月になるんだよね?たまにはこうやって心の洗濯しないと!」

 

「うう、流石お姉ちゃんです・・・」

 

「一年前私も通った道だからー(トオイメ)」

 

と酒も入り、ガールズトーク進む中。

時折お姉ちゃんが吐く溜息が気になり、

 

 

「・・・・・・お姉ちゃん、どうかしたんですか?」

 

「えっ?」

 

「何か悩みがあるように見えましたので」

 

「いかんなぁ・・・考えないようにしてたのに」

 

 

「実はね・・・」

 

話をまとめると、一色家ー母親から最近

 

「7年もお付き合いしてる八幡君からまだそういう話はないのかしら」

 

「あれだけ一途な男はちゃんと逃さないようにー」

 

と言われるようになったそうだ

 

 

勿論いろはお姉ちゃんは将来的にはそうなりたいとは思っているが、

こちらから話をするのも親からそう急かされているからとお兄ちゃんを

追い詰めたくはないと悩んでるとの事

 

 

「ごめんね、小町ちゃん。こんな話聞かせて」

 

「ううん、あのお兄ちゃんと振り向かせた人でもここまで悩むと知ってある意味ほっとしてます」

 

「!?」

 

「私はお姉ちゃんに畏怖してたんですよ?ある意味ごみいちゃんと言える状態だったのが

お付き合いするようになってから、本当変わりましたから」

 

「よく見てるんだね」

 

「まぁ、おにいちゃんですから。そういうことなら、それとなくおにいちゃんの様子を探ってみますよ」

 

「うう・・ありがとう。小町ちゃん」

 

「対価として、乗り越えて幸せになってくださいね?」

 

「・・強くなったね、小町ちゃん」

 

 

 

 

そんなこんなで、私小町はやきもきしているのである。

彼氏が察してやれないどうするのだ!と昨日、あれから飲みすぎて二日酔いになり

遅い朝食を終わらせた後、おにいちゃんの部屋に向かう

 

まずはちょっと視察、探りを入れるべく、ノックをする

 

コンコン「おにいちゃん?」

 

あれ?いるよね?

 

コンコン「入るよー?」

 

何やら気付かない位、PCでの調べものに集中してる様子

気配を悟られないようそっとPCの画面を覗き見る

 

某有名結婚サイトの閲覧をした後、旅サイトなるものを開き

 

「カシオペ〇紀行 一度は乗ってみたい憧れの寝台列車の旅」

 

のページで止まり腕を組み、唸ってる

 

 

(フーン、ちゃんと考えてるんだね。しかも憧れの寝台列車なんて

大事な話をするつもりなのかも)

 

そう思うとニヤニヤが止まらない

そこでようやくこちらに気付いた様子

 

 

「うぉ!?お前いつからここにいた?」

 

「ノックしても返事がないから、また昼寝でもしてるかと思ったら・・・フーン」ニヤニヤ

 

「答えになってないぞ?いつからだ?」

 

「ヒミツでーす。ではではお邪魔しましたー」ニッコリ

 

 

 

(こちらから何かを促すまでもなかったいみたい。良かったですねいろはお姉ちゃん・・・)

(詳しくは伝える必要はないし。最低限のことでいいかな?)

 

 

TO:いろはお姉ちゃん

 

小町です、おそらく近いうちに動きがあると思います

それ以上はこちらからは言えません<(_ _)>

結果報告お待ちしてますね( ¯꒳¯ )b✧

 

 

(2人とも幸せになって下さいね

ここから先はもう見守るだけーっと)

 

 




後数話、登場人物の思いを綴っていきます
ご感想評価おまちしております




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第二話  それぞれの思い ~その2~

思った以上の難産回になりました。
いろはの抱いている思いが少しでも通じれば幸いです


~いろは視点~

 

わたし、一色いろは。社会人2年目。高校生の時にそれまでの私と違い素のままで

寄り添っていられる人 比企谷八幡せんぱいと巡り合い、両想いとなりお付き合いを始め

7年経過しました

 

嫌がらせで生徒会長の候補になり、それの解決依頼で知り合ったのが馴れ初め。

なんだかんだで生徒会長となってしまい、

「先輩の意向でなってしまったからにはちゃんと助けてくださいね?」を

名目に何かと手伝って貰っていた。それまで男子を靡かせていた所作が全く

通じない事に逆に興味を抱いていった。

 

決定的だったのは、奉仕部での会話を立ち聞きしてしまったからなのだろう。

 

 

 

 

         「本物」

 

 

 

 

それまでの私はどうだったのだろうか?男子を靡かせてばかりで私の本物の思いは?

葉山先輩を好きな思いは・・・・一体?それを確かめるべきなんだろう。

 

それからディスティニーランドで告白するも見事に撃沈。帰りの道中、せんぱいの前では

気丈に振舞ってこの行動に至らしめたせんぱいに

 

「責任・・とってくださいね?」

(そして、わたしの本物というものを見つけたら)

 

 

それからというもの、せんぱいを何かと意識するようになったんだろう。

 

(ああ、この人の傍だと心地よいなぁ)

(葉山先輩に抱いていたのはただ憧れていただけなのかも)

(これがわたしの本物なのかもしれない)

 

本物を自覚するようになり、それらしいモーションを仕掛けるも気づく様子がない。

いやむしろ、それに気付かないようにしてるのかな?と思い

 

(それならこちらから伝えないと。わたしの本物を)

 

そして何度目かのデートの時に

 

「あなたの傍だと飾らないわたしでいられる。今までのわたしの全てー表も裏も建前も本音も

ちゃんと傍で見ててくれました。そんなあなただからわたしは好きになりました」

「これがわたしの・・・本物の思い。ようやく見つけましたよ」

 

飾らない、打算でもない本物のわたしの思いを伝えました

その時の先輩の驚愕した顔は今でも忘れらない

そんなまさかと言わんがばかりでしたから

 

 

それから両想いとなりお付き合いが始まりました

それから先輩の大学の後を追い楽しいキャンバスライフを過ごし

比企谷家とわたしの家でも公認となるカップルにもなりました。

 

 

大学4年間も過ぎ無事に就職し、それまで遠出出来なかったスポットにも足を延ばすようになり

順調に交際をしていた

そんな中、こともあろうかわたしの両親からの言葉が、悩みの種となってしまうとは思ってもみなかった

 

 

秋も深まった11月のある日の夕食中、母さんから

 

「いろは、7年もお付き合いしてる八幡君からまだそういう話はないのかしら」

 

「え?そういうって?」

 

「決まってるじゃない。将来の話よ」

 

父さんからも

「正直、初めて会った時の目はあれだったが。

お前と交際を順調に重ねて随分と柔らかい眼差しをするようになった

それにあの年で問題解決力・提案力もある。部下に欲しいくらいだよ

だからと言うわけではないが、あれだけ一途な男はちゃんと逃さないようにな」

 

 

はっきり言われるまでもなく「結婚」のことなのだろう

でもわたしは誰かに急かされるままよりも、わたしの意思で決めたかった。

せんぱいとお付き合いようになったのも「本物が欲しい」と思って

行動した。その結果せんぱいを好きになった。

誰かに強制されたわけでもないわたし自身の行動だったから

 

だからこれも、わたしが決めないといけない

 

 

月がかわって12月に入った金曜日

わたしは高校時代から親しくしている後輩でもあり親友と会っていた

 

比企谷小町ちゃんーせんぱいの妹で。せんぱいと違ってできた子ですぐに仲良くなった。

せんぱいは「お前等と会わせると科学変換されるから会わしたくなかった」と嘆いていたけど

小町ちゃんはわたしを「おねえちゃん」と呼んでくれるようになり

一人っ子だったわたしに妹が出来るってこういうことかなと思ったり

 

 

それからわたしがせんぱいを目で追うようになったのを目ざとく彼女は察し

 

「難攻不落ですよ?何といってもあのおにいちゃんですから」

 

「うん分かってる、他の男の人と違って靡かないから。だけど本物がもう少しで見つかりそう

だから諦める理由にはならないよ」

 

と答え、そして冬が終わるころ、わたしたちはお付き合いを始めることになった事を

高校受験を終えた小町ちゃんに報告したら、驚愕を張り付けた顔をしていたのは今でも記憶に張り付いている

 

(やっぱり兄妹。似ているんだなぁ・・・)

 

そして彼女が総武高校に入学し、2年間生徒会で仕事をする仲間となり公私ともに世話をしあった

その仲は大学生・社会人となった今でも続いており、今日数か月振りに会い、女子飲みすることになったのである

 

 

「「かんぱーい!」」

 

「いやー、数か月ぶりだね!こうやって2人で飲むのも」

 

「先輩、いやお姉ちゃんには本当お世話になってしまって」

 

「社会人になってもう8か月になるんだよね?たまにはこうやって心の洗濯しないと!」

 

「うう、流石お姉ちゃんです・・・」

 

「一年前私も通った道だからー(トオイメ)」

 

と約1時間酒が進む中、思わずつい溜息をついた

それを目ざとい小町ちゃんが見逃すわけもなく

 

 

「・・・・・・お姉ちゃん、どうかしたんですか?」

 

「えっ?」

 

「何か悩みがあるように見えましたので」

 

「いかんなぁ・・・考えないようにしてたのに」

 

「実はね・・・」

 

 

 

親からの話とわたしが抱いている思いを白状する

 

 

 

 

「ごめんね、小町ちゃん。こんな話聞かせて」

 

「ううん、あのお兄ちゃんと振り向かせた人でもここまで悩むと知ってある意味ほっとしてます」

 

「!?」

 

「私はお姉ちゃんに畏怖してたんですよ?ある意味ごみいちゃんと言える状態だったのが

お付き合いするようになってから、本当変わりましたから」

 

「よく見てるんだね」

 

「まぁ、おにいちゃんですから。そういうことなら、それとなくおにいちゃんの様子を探ってみますよ」

 

「うう・・ありがとう。小町ちゃん」

 

「対価として、乗り越えて幸せになってくださいね?」

 

「・・強くなったね、小町ちゃん」

 

 

その話のあと、結局終電が気になる時間まで飲む事となり

翌日はもうじき昼ご飯になろうかという時間まで寝床を出れなかった。

 

(うーん、まだちょっと頭痛い・・・)

 

(ご飯食べた後、ちょっと外出して二日酔いを覚まそうかな)

 

昼食後、近くのショッピングモールでウィンドウショッピングを楽しんでる最中、

ふとスマホにメール着信がある事に気付いた

 

(え、着信が昼頃!?全然気づかなかった・・。えーと相手は小町ちゃん?)

 

 

FROM:小町ちゃん

 

小町です、おそらく近いうちに動きがあると思います

それ以上はこちらからは言えません<(_ _)>

結果報告お待ちしてますね( ¯꒳¯ )b✧

 

 

 

え?え?仕事早すぎない!?

近いうちに動きがある?

 

どういうことなの?

せんぱいから何かしらあるの??

 

ショッピングモールからの帰り道、そればかり気になって

休日の夕食には遅い時間に帰宅する頃、一つのメールが届いていた

 

 

FROM:大好きなせんぱい

 

明日、空いてるか?ちと会って話がしたい

 

 

 

(動きってこのことなの?小町ちゃん)

 

 

すぐさまわたしは明日の予定が問題ないことを返信し

何回かのやりとりで場所・時間を取り決めるのだった

 




そして物語は動き出す


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第三話  それぞれの思い ~その3~

筆が乗り、八幡視点が書き終わったので公開します


UAが2000を超えてる・・!!
読者の皆様ありがとうございます!


~八幡視点~

 

日は明けて日曜日、行きつけの喫茶店でいろはと会っていた。

お互い暖かい飲み物を注文をし、一口飲んだ後いろはから

 

「せんぱい・・話というのは何ですか?」

 

若干緊張した面持ちで切り出してきた。

 

俺はカバンからプリントアウトしておいたカシオペ〇のパンフレットコピーを取り出した。

 

「寝台特急『カシオペ〇』?」

 

「ああ。車内はこんな感じになっているんだ」

 

「オールA寝台寝台2人用個室って?」

 

「昔の寝台列車はこんな感じでな」

スマホを取りだし、画像を見せる

 

「これがB寝台の客室、でもってこっちがA寝台の客室だ」

 

「へー、昔はこんな感じだったんですね」

 

「J〇東日本が豪華寝台列車と銘打ってツアーを組むくらいだから

これが優れてることが分かるよな」

 

「せんぱい、そのツアーで今度旅行に行くんです?」

 

「そ、行先はここだ」スマホを表示する

 

 

『【ネット限定】大晦日出発「カシオペア紀行 盛岡行き」体験乗車プラン』 (1泊2日)

 

 

「ふむ、盛岡は岩手県・・・・って大晦日ですか?」

 

「ここ数年、年明けてからの初詣が定番になっていたが、こういった年越しもいいと思ってな・・・・どうだ?」

 

「はー・・・他のプランもあるんですね。・・・え?2倍近い値段?」

 

「すまん、流石にそこまでは手が出なかった」

 

「でも楽しそうですね。社会人になって鉄道旅が結構趣味みたいになってきましたし。行きたいです」

 

「・・・そうか!!」

 

「でも折角盛岡まで行くんですから、そのままとんぼ返りはないですよね?(ジトー)」

 

「そういうと思ったよ。ちゃんとその後も考えてある」

 

「お!流石ですね、わたしの考えちゃんと読んでますね!」

 

「ホレ、これを見てみろ」

 

スマホから画像を見せる

 

「『青〇18切符で行く温泉番付』?せんぱい、これ何処で撮ったんです?」

 

「こないだ会社の慰安旅行でこの温泉に行ったんだよ。そんときに足湯に浸かった所に

こいつが載ってたんだよ。面白そうだったから撮ったんだ」

 

「そうなんですか、なんか番付って相撲みたいですねー。なになに、条件が正真正銘の温泉であること。

J〇を利用して行けること。駅からバス30分程度で行けること・・・」

 

「うむ、だから秘境の温泉というわけではないし、温泉評論家なる人のお墨付きだ。

復路はいくつか回りつつ帰ろうと思ってる2泊くらいして」

 

「ふむふむ」

 

「候補地はこれらの5か所。年始の休みも家に戻っても2日確保出来るし、どうだ?」

 

「いいですね!でも親戚の集まりが、例年三が日の2日にあるから、それが鬼門になりそうなんですよねー」

 

「やはりそうか・・・そのあたりは説得するしかないな。

 ならこっちはお前んとこの両親の了承を得れれば、直ぐに申し込む算段を立てて置くとするか」

 

「分かりました!(ウキウキ)それはそうとデザート頼みましょう」

 

「おう」

 

 

 

 

(無事に申し込み完了まで済めばいいのだが)

 

そして夕方、喫茶店を出る

 

「じゃぁ、出来れば早めに返事がもらえると助かる。ツアー申し込み満員締切や宿が満室になる前にな」

 

「ええ、では連絡しますねー」

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「ただいまー」

 

「お帰りーおにいちゃん」(ニヤニヤ)

 

「・・・何だよ?その顔は?」

 

「いろはお姉ちゃんと会ってきたんでしょ」

 

「それが何か?」

 

「わ、開き直ってるし」

 

「んじゃ、飯出来たら呼んでくれ」

 

 

 

(流石に返事が来るとしても今日はないだろうな。今日はもうのんびり過ごそう)

 

PCを立ち上げ残りの休日時間を満喫していると・・・・

スマホのメール着信音がけたたましく鳴る

 

(携帯会社の広告かぁ・・?っていろは!?)

 

(早すぎるだろ!?もう了承を得たというのかよ?)

 

FROM:いろは

 

せんぱーい!両親の了承得ましたので

申し込みお願いしますね♪

 

 

(マジかよ・・・今まで1泊2日の旅行はすんなり通っていたのに)

 

(時期が年末年始。親戚の集まりをブッチするっていうのは、

説得に時間がかかると踏んでいたんだが)

 

(と決まったからにはとっとと、申し込みしないと!)

 

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

 

結論から言おう

ツアー:問題なく申し込み完了

温泉宿泊予約:泊まる予定温泉地の一つが満室となっており、その地の隣駅の宿泊と相成った

 

 

すまん・・・・・・・・いろは

 

その旨をメールで伝えると

 

 

FROM:いろは

申し込みお疲れ様です(´▽`)アリガト!

早い者勝ちですから仕方ないですよ。

せんぱいのエスコート振りに期待してますね!((o(^-^)o))わくわく

 

 

 

・・俺に気合を入れろという解釈でいいのか?

 

 

TO:いろは

あいよ。気合いれとく

旅行一週間前に、詳細が郵便で送られてくるから

そん時に改めて連絡いれるわ、そのつもりで

 

 

 

 

FROM:いろは

了解でーす(''◇'')ゞ

お待ちしております

 

 

さて、小町と両親達にも話しておかないと

 

 

~夕食時~

 

「あー今年の年末年始ないろはと旅行行くことになった」

 

「へー何処行くの?(やっぱり昨日見たカシオペ〇で行くんだろうなぁ)」

 

「東北地方。大晦日夜出発で寝台列車に乗っていく」

 

「お前が寝台列車に乗るなんて小学生以来じゃないか?そんなに気に入ったか」

 

「まぁ、今はブルートレインないし、豪華寝台列車っていうカシオペ〇に乗る」

 

「ほぉう、あれか!父さんも一度乗ってみたかったもんだ」

 

「え?そうなの?」

 

「昔はそこまで立場が偉くなかったし融通が利いたが、今や役職社畜となってるからな

土曜出勤も多い立場となってしまったから時間がな・・・」

 

「父さんーそういうのはいいから」

 

「んで、その東北地方で温泉巡りしながら年明けの3日には帰ってくる予定な」

 

「え、そんなに長いの?」

 

「あんた、せいぜい1泊位で帰ってくるのに・・・フーンなるほどね」

 

「これは期待していいのかも。しかも温泉巡り(ニヤニヤ)」

 

「あの子、いろはちゃんとも高校時代からだもんな(シミジミ)」

 

 

「・・・・・・・ま、そういうわけだからヨロシク」

 

 

 

出発日、天気荒れないでくれよー

 

 

 

      

 




いろは視点はまた次回に



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第四話  それぞれの思い ~その4~

三話でUAが4000越え!
拙作を読んで頂きありがとうございます。
ラストの雛形が出来たので、そこまでどのように
展開させて行くかが今後の課題となりそうです


いろは視点お待たせしました
短いですが公開


~いろは視点~

 

*八幡との旅行誘い話終了後からです

 

 

「じゃぁ、出来れば早めに返事がもらえると助かる。ツアー申し込み満員締切や宿が満室になる前にな」

 

「ええ、では連絡しますねー」

 

--------------------------------------------------------------------------------------------

 

帰りの道中

(せんぱいと3泊4日の旅行かぁ・・・・学生時代でもそんなに長く一緒にいたことなかったなぁ)

そう考えると顔緩むのを抑えきれない自分がいて、ドキドキが止まらない

 

(といけない、まずは親の了承を得ないと。絵に描いた餅になっちゃう)

 

 

 

そして帰宅後、夕食の支度をする前に両親を集め

話を切り出した。

 

 

「年末年始の事で、話があるんだけど」

 

「あら、元旦はいつも八幡君と初詣行ってるわよね」

 

「うん、そのせんぱいに旅行に誘われた。大晦日の夜から3泊4日で」

 

「あら!」

 

「ほう!」

 

「せんぱいからパンフレット貰ったの。この寝台列車で乗って年越し。

その後は、温泉巡りしながら3日には戻ってくるプランなんだ」

 

「ロマンチックじゃない!いいわ、行ってきなさい」

 

「ああ、止めはしないぞ」

 

「即答!?でも2日は親戚との集まりが!」

 

「考えてもみなさい、今まで1泊2日もしくは日帰り旅行だったのよ」

 

「そうだ、豪華寝台列車の年越しに温泉巡り。彼の気持ちの表れというものだろ」

 

「!せんぱいの・・・」

 

「これからに大きく関わるんだ。親戚にはこちらから言っておく」

 

「これから・・・・か」

 

 

 

(わたしはこれからもせんぱいと一緒にいたい。ゆくゆくはそう結婚という形では・・思っている

それは、急かされてるわけでもなくわたしがそうありたいという未来だから

何よりもわたしがせんぱいと幸せになりたいという思いーそれは間違いなく本物だと言えるから)

 

 

(それにせんぱいの気持ち・・・・・・・・か)

とにかく了承は得たんだし、連絡を

 

 

TO:大好きなせんぱい

 

せんぱーい!両親の了承得ましたので

申し込みお願いしますね♪

 

 

(これでよし・・・と)

 

約20分後

 

ツアーの方が問題なく申し込み完了

温泉宿泊の方が泊まる予定温泉地の一つが満室となっており、その地の隣駅の宿泊と相成った

 

申し訳ないとの一文を添えたメールが届いた

 

 

TO:大好きなせんぱい

申し込みお疲れ様です(´▽`)アリガト!

早い者勝ちですから仕方ないですよ。

せんぱいのエスコート振りに期待してますね!((o(^-^)o))わくわく

 

 

 

(さて、せんぱいはどう返してきますか?)

 

 

FROM:大好きなせんぱい

あいよ。気合いれとく

旅行一週間前に、詳細が郵便で送られてくるから

そん時に改めて連絡いれるわ、そのつもりで

 

 

高校の初のデートがおざなりだったことを思い出しつつ

思わずくすりとしつつも

 

 

TO:大好きなせんぱい

了解でーす(''◇'')ゞ

お待ちしております

 

 

(後は待つだけか、わたしの思いとせんぱいの思い・・・

同じ方向で向いていればいいな・・・

3泊4日の旅行に誘ってくれるくらいだから・・・)

 

と大晦日からの旅行を思い馳せると顔が緩むのを抑えられずに

ベッドをゴロゴロし、小町ちゃんの返信を思い出す

 

 

TO:小町ちゃん

 

多分、そっちも聞いてると思うけど

思い人と3泊4日で旅行に行ってきます

大きな転換点になると思うけど、

帰ってきたら、ちゃんと言いますね(`∇´ゞ

 

 

(ありがとね、小町ちゃん。いろいろ気遣ってくれて)

 

 

 

FROM:小町ちゃん

了解であります。おにいちゃんといろはお姉ちゃん!

の幸運を祈っております!d(⌒ー⌒) グッ!!

 

 

(大晦日まで後3週間後・・か)

今から心臓がバクバクして明日から大丈夫かなと

抑え込むのに必死になっていたわたしは寝たのが午前様になり

月曜の業務に精細を欠いたのは完全に余談なのである

 

 

そして旅行10日前に無事に案内が届いたとの連絡が来て、

出発時間1時間半前より、上野駅〇〇口改札外にて乗る号車案内をするとのことだった。

余裕を持って1時間半前に着くように待ち合わせをして向かう事を確認をして

当日を迎えるのでした




次回から旅行編です


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旅行編
第五話  旅行初日 ~カシオペ〇紀行~


ー今回の話の構成についてー
全く後悔などしていないっ!!

筆が乗ったので公開します


大晦日 上野駅20:30

 

 

「問題なく到着しましたねー」

 

「昼間の時点で強風によるダイヤ乱れがあったからちと不安だったがな。

〇〇口の改札口外でとっとと受付終わらせよう。風寒いわ」

 

「ですねー」

 

無事に受付が済み、乗車証と乗る号車と個室番号が書かれた首替えホルダーを受け取った。

速やかに温い駅構内に入り、

 

「せんぱい、飲み物とおつまみ買っていきましょ?」

 

チューハイ、ハイボール、肴にスルメ等を買って、時間を潰していると

俺達と同じくカシオペ〇乗車証を首からかけている人達が見受けられた

 

「乗る人達、意外と家族連れも多いですね」

 

「盛岡到着後、そのまま3か所に別れるツアーがあったからな。函館と津軽に奥入瀬だったか。おそらくそっちなんだろう」

 

「わたしたちが体験乗車プランってのは異色かもしれませんよ?」

 

「・・違いない」

 

苦笑しつつも、カシオペ〇の乗降扉が開く時間が迫ってきたので

地下ホーム17番線に降りることにした

 

そこにはカメラを構えている集団ーいわゆる撮り鉄がいた

 

「せんぱい、あの人たちは?」

 

「撮り鉄・・だな。今やカシオペ〇はツアーでの稀な運行になったから

それをカメラに収めたいという人達だろう」

 

「確かにツアーになっては、そうそう乗れるシロモノでもないですもんね」

 

「折角だから、記念写真に撮っておくか」

 

「バックにして2人で撮りましょう!」

 

カシオペ〇スイート展望室側とけん引する機関車側、両方で撮影していると構内で

常磐線の遅延・運転見合わせを知らせる放送が繰り返し行われていた。

 

 

「・・・危なかったですね」

 

「カシオペ〇が通るのは東北本線は盛岡までだ。今のところは問題ない」

 

 

そうこうしていると乗降扉が開いたので乗る号車と個室にひとまず荷物を

置きにいくことにした。そこでいろはが目ざとくあるものに気付いた。

 

 

 

「暗証番号式ルームキー?」

 

「ああ、前に渡したパンフのコピーには載ってなかったか。

4桁の番号を打ち込む事で暗証番号になるー銀行とかと同じだ

盗難予防になるという点では有難いよな。部屋を間違えることもないしな」

 

「へー進んでるんですね」

 

「以前見せたブルートレインなんざ、こんなんなかったからな・・」

 

「あ、乗ったことあるんでしたね」

 

「モーター音が煩いわ、揺れが列車の揺れが上下になるわで結構辛かったわ」

 

「せんぱい、展望車行ってみましょうよ」

 

「おう行ってみるか」

 

 

            ~展望車~

 

 

そこには幻想的なライトが灯され、優雅なクラシックが流れる空間となっていた。

既に先客がおり、スマホやビデオカメラを構えている人たちが思い思いに楽しんでいた。

 

 

「ロマンチックでいいですね・・・」

 

「だな・・・」

 

横目で見ると、うっとりとしてる目をしていた

 

(気に入ったみたいでよかった)

 

駅ホームを見てみると駅係員と見られる方々が

思い出の旅カシオペ〇の旗を掲げているのが見えた

 

車内放送でもお見送りの旗を持ってのお見送りをしますと流れた

(ニクイ演出だな・・いやツアーを申し込んで頂いたおもてなしなのか)

 

ぼんやりと眺めていると上野駅を発車し、各車内の設備案内、翌朝の盛岡到着時刻案内が

なされていた。

 

そんな中列車の速度が抑え気味なことが体感で気付いた。仮にも寝台「特急」な位だ。

電気機関車でけん引する位だから100キロ以上は当然出せるのだろう。

 

だが普段東京都まで通勤で使う総武快速線は、100キロ以上でブイブイ言わせている

今感じてる体感でも間違いない

 

 

やはりその辺りも快適な乗り心地を追求したおもてなしなのだろう

ガキん時に利用したブルートレインとはえらい違いだ。

いや比較すること事態おこがましいか。モーター音や寝ている時に上下に揺れる乗り心地の悪さ

今思うと俺にはブルートレインは合わなかったようだ。

 

子気味良い走行音を聞いて、そんな思考に陥ってるうちに埼玉県は大宮駅に到着していた。

展望車も人が多く家族連れも多くなってきていた。

 

 

「いろは」

 

 

「・・・あ、はい」

 

 

(普段と違う場所からの車窓に見入ってたか)

 

 

「そろそろ、部屋に戻るか」

 

 

「は~い」

 

 

~〇号車△△番個室~

*俺達に割り当てられた座席

 

 

「「乾杯(かんぱーい)」」

 

上野駅構内で前もって買っておいたチューハイ・ハイボールを

スルメを肴にして飲んでいた

 

「特別オプションですか?」

 

 

「乗車証の裏側を見てみろ」

 

 

「あ、ダイニングカーパブタイムのところに〇がついてますね」

 

 

「申し込みの際に追加オプションで入れといた

内容は年越しそばとスパークリングワインの提供となる」

 

 

「メールでもその内容触れてませんでしたよ?」

 

 

「サプライズだ」

 

 

「・・・・・せんぱい。あざといです」

顔を赤くし、そうつぶやくいろはに

 

 

「お前には負けるわ」

 

 

 

「何ですかそれー」

 

 

お互いに笑みをこぼしあい

 

 

「でも、時間がこれって狙いすぎですよ?」

 

 

「いや、これは俺も驚いている」

 

 

 

「え?時間も予約出来るんじゃ・・・」

 

 

 

「これは抽選制でな、どちらかの指定は出来ないと申し込みの時に

書かれていたからな」

 

 

「日頃の行い・・・ですかね?」

 

 

 

「俺に限って其れはないだろ」

 

 

 

「自虐ネタもたいがいにしてください素直に喜んでください折角

恋人が喜んでるんですから水を差さないでくださいごめんなさい」

 

 

「お、おう・・・・」

 

 

「それはさて置き、その時間の直前にはベッドメイキングしておきしょうか」

 

 

「だな」

 

 

それから取り留めのない雑談を交わしているうちに買い置きのアルコール飲料を

飲み干し、ベッドメイキングが終わる頃

 

「特別オプション第2回目に該当するお客様、ご準備が整いました。

ダイニングカーが御座います3号車までお越しくださいませ」

 

車内放送があった。

 

 

~3号車内ダイニングカー~ 宇都宮を出発して程ない時間帯

 

 

席に通され、料理が席に運ばれるまでの間、優雅な空間を体感していると

 

 

「ワインをお注ぎしてよろしいでしょうか?」

 

 

「あ、お願いします」

 

 

 

2つのグラスにワインを注がれたのを待ち

 

 

「年越しそばはまだ席には来てないけど」

 

 

「新年に」

 

 

「「乾杯」」

 

 

そう俺たちに割り当てられたのは

22:30~23:30

24:00~25:00

と設定された時間の2つのうち後者だったのだ

 

 

新年明け同時に、カシオペ〇のダイニングカーでスパークリングワインで

乾杯なんて出来すぎじゃないの?と数時間前上野駅で渡された乗車証の裏を

見て思わず叫びたい衝動にかられたのだ

 

 

程なくして運ばれた年越しそばをすすり、ウェイターさんが持っていた

謹賀新年のフリップを前にカメラに収めてもらい

部屋に戻るのだった。

 

 

 

~〇号車△△番個室~  AM1:00 福島県白河付近を通過

 

 

部屋に戻り、お互いカシオペ〇浴衣に着替えて寝るだけとなっていた

(もちろん、いろはが着替える間は廊下で待っていた。それくらいは当然である)

 

  ____窓窓窓窓____ 

 |枕 |枕  *いろは  |

 |            |

 |*  _____    |

 |俺 |     |   |

 |__|洗面所  |___扉

 

 

これが俺達に割り当てられたカシオペ〇ツインでの寝床配置となったのである

そして食べた蕎麦の消化が済む頃、床についた

 

 

「せんぱいー」

 

 

閉じた目を開けると目の前に枕から伸ばした

いろはの手があった。

 

 

「ちょっとわたしの手掴んでください」

 

 

「なんだよ・・・っ!!!?」

 

 

次の瞬間、俺は唇を塞がれていた。

硬直している隙にいろはの舌が口をこじ開け、俺の舌を絡めて蹂躙していく

時間にして十数秒いやもっとだろうか妖艶な音を響かせた後

解放したいろはは口元に残った糸を舌で舐め余韻を楽しんでるかのように見えた。

 

・・・・・ではなくて!

「いろは、いきなりーーむぐっ!?」

 

 

再度、また唇を塞がれ舌を蹂躙される。さっきより妖艶な音を響かせ、より時間も長く繋がった後ようやく解放され

いろはは、顔を紅潮させ

 

 

「せんぱい・・・大好きです・・・・今年もよろしくお願いしますね♪」

 

 

俺は「ああ、こちらこそ・・・・・」と返すのが精一杯だった

 

 

 

その後いろはが寝息を立て始めても、俺は不意打ちで2回もディープキスを

食らった余韻が残り、宮城県に突入するまで眠れず悶々とした新年の夜を

過ごすことになるのだった

 

 

 

 

 




はい、最後まで閲覧された皆さん

当SSのいろはは、八幡特効の「本物」を見つけ、彼を絆し陥落させた恐るべき乙女です
(当時の八幡や小町からは畏怖同然に見られていることは作中でも描写済み)

そんな彼女が7年間育み、八幡と一緒に幸せになりたいという思いに
彼女の両親が今回の八幡の旅行の誘いの思惑を看破したこと。
カシオペ〇での思い出に刻まれるであろう空間でのひと時。
そしてダイニングカーで新年をワインで祝う。

これだけの事が連鎖的に起これば、溢れ出る思いに突き動かされて、
八幡の話抜きに衝動的にキスをしても可笑しくないわけです。
原作やゲームでもあんなアプローチをする彼女ですから。



お楽しみ頂けたら幸いです



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第六話   旅行2日目 ~一つ目の温泉地へ~

UA6000突破!お気に入りも増えてきて励みになります

引き続き甘々な八色をお楽しみ下さい


~引き続き八幡視点~

 

元旦 AM6:00 北上駅運転停車中

 

 

個室備え付けの目覚ましの音で目を覚ます。

 

満足な睡眠とは言えないが、今日の宿到着時間は早い。

そこまで我慢すればいいだろう。

 

 

「ん~朝ですか・・・?」

 

 

どうやらいろはも起きたようだ。

 

 

「洗面所、先使うか?」

 

 

「すいません、先お借りします・・・」

 

 

その間にさっさと浴衣を脱ぎ、着替えを済ませることにした。

 

 

「いろは、着替え済ませたから、ちょっと展望車行ってくる」

 

 

「分かりました。こっちも着替えたら行きますね」

 

 

「了解だ」

 

 

 

廊下に出て外を見ると、一面の雪原が広がっており、山々が見えていた

 

 

(ああ、遠くまで来たもんだな・・・)

 

 

 

~12号車 展望車~

 

そこには、既に多くの人たちが好きに座っており

雪原をひた走る車窓を楽しんでいた。

 

 

「せんぱい」

 

 

「ああ、来たか」

 

 

「雪積もってますね・・・遠くまで来たって実感します」

 

 

「だな」

 

 

奇しくも同じ感想を漏らしていた。

 

 

20分程のんびりと車窓を楽しんだ後、

部屋に戻ることにした

 

 

~〇号車△△室~  6:50  日詰駅運転停車

 

 

洗面所で歯磨き・顔洗いの身支度を整え

ベッド状態のスペースをソファー状態に直し、車窓を楽しんでいた

 

こんな駅でも撮り鉄はいるのである。

岩手県で7時になる前の寒い朝なのに・・・

彼らの情熱には本当に頭が下がる

 

 

そうこうしている内に盛岡到着5分前となり、車内放送が鳴り響く、

5番線到着・お忘れ物がないようにとのご注意、そして

 

 

「今回のカシオペ〇のご旅行が素敵な思い出の1ページとなりますよう」

 

 

その言葉が一番胸に残った。

 

 

(少なくとも、寝る時にあんな不意打ちをする位だ。それにまぁ・・・)

 

 

横目で支度をするいろはを見やりつつ

 

 

(上機嫌っぽいし。楽しんでくれたようだ)

 

 

盛岡駅到着  AM7:28

 

 

今までけん引していた機関車を切り離し、上り線側にけん引し直す

その作業を見守る撮り鉄でごった返しっていた。

 

俺達は乗り換えと朝食の食糧の確保の為、見物も程ほどにして

改札を出るのだった。

 

 

コンビニでサンドウィッチとおにぎり、それとホットレモンを確保し、

東北本線上り電車を待つのだった

 

 

「せんぱいが持っている青〇18切符?それが3日まで使うものなんですか?」

 

 

「そ。J〇全線で5日(人)使用可能。だから期間内で使い切れるわけだ」

 

 

「でも、それだと1回足りませんよね?」

 

 

「だから、移動距離が短い日は普通の切符を買うことにする」

 

 

「12050円を割る5で2410円、大分お得ですね」

 

 

「まずは花巻までむかう。そこからバスで30分程の温泉地だ」

 

 

「昨日は体洗えなかったから、手入れもしたいとこです」

 

 

「俺も日頃のデスクワークで肩がこっちまったい」

 

 

「ふふっ、ゆっくりと浸かりましょうね♪」

 

 

岩手県 大〇温泉  AM9:20

 

 

「山間だから積雪も相当のものだな」

 

 

「温泉宿からの道が常時水を撒くことで凍結防止してますね」

 

 

「宮沢賢治ゆかりの自炊部・・・か。さて、入るとするか」

 

 

~600円を払い外来入浴での案内を受ける~

 

 

「入れる温泉は3つですか、混浴露天風呂に内風呂、反露天風呂、女性用の露天風呂もありますね」

 

 

「13時のバスが来るまで滞在するんだ。部屋を借りることにしよう」

 

 

「せんぱい・・・最初はその・・・・」

 

 

「・・・混浴露天風呂か」

 

 

「・・・(コクン)」

 

 

「・・・行くぞ」

 

 

「あ、待ってくださいよー」

 

 

(何なのこの子?寝る時に奇襲するわ。最初に混浴露天風呂にしたいとか。

今回の思惑に完全に気付かれているんじゃねぇか?)

 

 

(だとしても、コイツが楽しんでくれないと意味がない。

今はこちらも楽しんでいる素振りをしていないと。

話をするとしても、明日・・・だな)

 

 

~混浴露天風呂 〇〇の湯~

 

川の流れる音としんしんと降り積もる雪景色がたまらない

のだが、俺の恋人はというと、肌を寄せて恋人繋ぎをした手を

俺の膝に乗せるというトリプルコンボを仕掛けてくるのである。

 

 

(正直、温泉の温度よりこの状況による顔の紅潮度合いのほうが気になってしょうがない

そりゃ、7年も付き合ってるんだ。体を重ねることも幾度もしてきたが

この状況でのコンボは精神的にヤバイよ!?更には相席してる人がいる中

カップルは俺達だけなので余計に削られている気がしてならないのだ)

 

(ただ、横でやすらいでいる顔で満喫してるいろはを見て何かを

言うのは無粋と思い、甘んじてこの状況を受け入れていたのだが)

 

 

「せんぱい・・・いい温泉ですね、ここ」

 

 

「ん?ああ風流を感じるな」

 

 

「せんぱいも日々疲れてるですから、安らいでくださいね」

 

 

(!そうだった、当初の目的としては何よりも「2人で」楽しむってことなんだから

いろはの一連の行動もそういうことだと思うことにした)

 

 

何よりもそうした気遣いをしてくれたいろはに

 

 

「・・・・ありがとな」

 

 

小さく礼をいい

 

 

「えへへ・・」

 

 

と返事し握った手を優しく力をこめて反応したのだった。

 

 

 

 

 

 

~いろは視点~

 

 

 

わたしは夢心地で目を覚ました。

 

せんぱいが推した寝台列車だけあって、展望車ラウンジの雰囲気に流れるクラシックに照明

普段使う通勤電車と違う乗り心地、最高と言える空間だった。

おまけにダイニングカーのエレガントな雰囲気、その中で新年をワインで祝う

そんなサプライズに、わたしは胸がドキドキしっぱなしだ。

 

(この人はどんだけわたしを魅了させれば気が済むんだろうか、も~)

 

 

その思いを止められずに部屋を消灯して寝てしまう前に、

一計を案じて行動をおこすことにした

 

 

「せんぱいー」

 

 

わたしは枕に頭を乗せうつ伏せ状態で

せんぱいの顔まで手を伸ばした。 

 

 

 

「ちょっとわたしの手掴んでください」

 

 

 

 

 

「なんだよ・・・っ!!!?」

 

 

そう、これが狙い。手を掴んだ力をわたしの詰め寄る力に利用して

せんぱいの唇を奪っていた。

 

 

(ああ、もうせんぱいが愛おしくてたまらないっ・・・)

 

わたしの舌でせんぱいの口をこじ開けて、せんぱいの舌を蹂躙する

妖艶な音を立ててたっぷりと堪能したあと、ようやくせんぱいを

解放し引いた糸をなめまわし、じわりと余韻を楽しんだ。

 

 

 

 

「いろは、いきなりーーむぐっ!?」

 

 

(まだ足りない、もっとこの感触を感じたい・・・!)

 

 

再びせんぱいの唇を奪い、舌を蹂躙する。よりせんぱいを感じたいと音を響かせ

時間を惜しむが如く深く繋がる。そしてようやく解放したせんぱいは顔を紅潮させていた。

体が熱いわたしも、同じ状態なのだろう。

 

 

 

「せんぱい・・・大好きです・・・・今年もよろしくお願いしますね♪」

 

 

わたしは迸る思いを伝えた。 

 

 

「ああ、こちらこそ・・・・・」

 

 

せんぱいは熱にうなされたように返してくれた。

 

 

 

そして幸せな思いに包まれたまま眠りにつき、わたしは目を覚ましたのだった。

 

 

目覚めたばかりなのに洗面所を使わせてもらう、その気遣いが嬉しい・・・

身支度を整えた後、軽くメイク・着替えをすまし、ラウンジへと向かう。

 

先に来ていたせんぱいと落ち合う。

 

 

「雪積もってますね・・・遠くまで来たって実感します」

 

 

 

 

 

「だな」

 

 

 

しばし雪原が流れゆく車窓を楽しみ、部屋に戻ることにしました

 

 

部屋でもベッド状態のスペースをソファー状態に直し、車窓を楽しみつつ

 

降りる準備を整えていると 車内放送が鳴り響いた。

 

 

5番線到着・お忘れ物がないようにとのご注意、そして

 

 

「今回のカシオペ〇のご旅行が素敵な思い出の1ページとなりますよう」

 

 

 

(間違いなく素敵な思い出になりましたよ・・・・(〃▽〃))

 

 

 

盛岡からは在来線フリー切符の「青〇18切符」を使うとのことらしい

5日(人)1日で2410円以上の移動をすると元を取れるというのは理解できた。

まずは花巻駅まで行くとのことだけど、電車が来るまで間に

コンビニで買ったおにぎりを食べて朝食の時間を潰すことになりました

 

 

そして、花巻駅からバスで30分程。わたしたちは大〇温泉に到着

ここで13時まで滞在するとのこと。館内の温泉案内を受けました。

 

 

(あ、混浴露天風呂・・)

それが一番に目についた。せんぱいと寄り添って入りたいと真っ先に思いました

 

(何気なく意図を伝え、くみ取ってもらい一緒に入ることに成功しました)

 

 

~混浴露天風呂 〇〇の湯~

 

 

 

(んー、せんぱいの温もりいいなぁ・・・)

(手のぬくもりに肌を密着させて・・・安らぐなぁ・・・)

 

それに川の流れる音としんしんと降り積もる雪景色がたまらないなぁ~

 

 

でもせんぱいの顔が強張った様子だったので、声を掛けることに

 

 

 

「せんぱい・・・いい温泉ですね、ここ」

 

 

 

 

 

「ん?ああ風流を感じるな」

 

 

 

 

 

「せんぱいも日々疲れてるですから、安らいでくださいね」

 

 

 

 

 

 

「・・・・ありがとな」

 

 

ようやく和らいだ表情を見せたせんぱいに 

 

 

 

「えへへ・・」

 

 

と握った手にそっと力を込めて応えるのでした

 

 

 

 




温泉と言えばまぁ、混浴露天風呂もあるということで一つ
イチャイチャしてもらいました


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第七話  旅行2日目 ~温泉地での一時~

UAが8000に迫っているだと・・・!
お気に入りも50に迫る勢い・・・!

ありがとうございます。



~大〇温泉 客室~

 

 

~八幡視点~

 

 

混浴露天風呂でのぼせてしまった俺は、一旦部屋に戻ってきていた。

傍らには、湯上りの上気した顔をしたいろはが佇んでいた。

 

「ふぅ、ちと浸かりすぎて熱いな・・・」

 

 

「露天風呂にドライヤーがなかったんで、髪が濡れたままです。

どうです、せんぱい?水のしたたるいい女に見えます?」

 

 

「そんなんアピールせんでも、ここ着いてから混浴したいだとか

温泉でもスキンシップしてるだろうが。それでこっちは平静を

保つのにどんだけ、苦心してるとおもっ・」

 

 

あ、やべ・・・・口すべってしまった・・・・

のぼせた頭だとロクな事喋らんな。

かつて、理性の化け物と評されたこの俺が・・・!

なんとも情けない OTL

 

 

「そうですか・・・ちゃんと意識してもらってるんですね・・・

せんぱい、そういうのあまり口にしないから嬉しいです・・・」

 

 

顔を真っ赤にしてもじもじしながら言う姿がまた意識せざるを

得ないんだっての!

 

 

「さっきのもそういう事なんですよね・・・ふふっ」

 

 

ぐぁぁぁあ、なんかドツボにはまってしまった気が!!

 

 

「残りの湯に浸かってくる・・・・昼11:30にまた部屋でな」

 

 

「あっ、せんぱい!」

 

 

これ以上いたら、色々とまずい・・・

水風呂もある筈だからちょっと落ち着こう

 

 

内風呂の〇〇の湯、ここは露天風呂と違いぬるま湯でまったりと心を落ち着かせ

半露天風呂の〇〇の湯、ここからも川を眺められる場所であり、水風呂と湯舟の

ローテションで体もリフレッシュさせた

 

 

ふぅ、これぞ無。これぞ俺。さっきは俺らしくはなかったが、場に流されず

明日までは大事な話をする雰囲気すら作れない状態に陥ることない様に過ごそう・・

 

 

部屋に戻ると時間は11時になるところだった。

女性用の露天風呂もあるし、まだ時間はかかるんだろう。

座布団を敷き詰め、胡坐をかいて売店で買ったドリンクを飲んで水分補給をしているうちに

瞼が落ちてくる・・・・・・・寝不足がたたったか・・・・?

 

 

 

 

~いろは視点~

 

 

「残りの湯に浸かってくる・・・・昼11:30にまた部屋でな」

 

 

「あっ、せんぱい!」

 

 

行っちゃいました・・・。

でも本当に嬉しいですよ?恋人になる前もなってから年を重ねても、

中々そういう言葉を口にしないだけに。

照れ隠しだってことが分かっていても、

直接そう思ってる事を聞かされるっていうのは・・・ね。

 

 

温泉で温まった体と別の部分をさすりつつ、わたしも次に入る温泉に向かうことにしました

女性用露天風呂、内風呂、反露天風呂とタイプの違う3つの風呂に浸かる間に

 

 

(せんぱいのこれからの気持ちも知りたいけど、

この旅行で皹が入りつつある理性もまだ見ていたいなー)

 

 

と相反してるような願望を抱きつつも、温泉から上がり髪を乾かし部屋に戻ることに

 

 

「せんぱい、もう戻って・・・?」

 

 

そこには、座布団の上に胡坐をかいて船を漕いでいるせんぱいの姿がありました。

 

 

(ストーブは付けてない。それにジャケットも羽織ってもないのに寝たら、風邪引いちゃいますよ?)

 

 

わたしは、せんぱいを起こさないように体を横に倒し、毛布を掛けることに

枕は・・・そうわたしの膝♪

 

 

一度やってみたかったんですよね♪こういうの。

ふふ、起きたらどんな顔してくれますか?せんぱい

 

 

 

~八幡視点~

 

 

む・・・・・寝てしまっていたか。

あれ?俺なんで横になってる上に毛布を掛けられてるんだ?

それに頭に乗ってる感触・・・?

 

 

「あ、お目覚めですか?せんぱい♪」

 

 

超高速で覚醒し、体を起こす。

 

 

「な・・・何をやってるんの?お前」

 

 

「見ての通り、膝枕ですよ?」

 

 

「・・・ななな・・・」

 

 

「全く、ストーブも付けない部屋で寝てしまったら、体が冷えて風邪引いてしまいますよ?

わたし残りの日数をせんぱいの看病で過ごすの嫌ですからね?」

 

 

「・・・言葉もございません」

 

 

「ほら、もうちょっと時間あるんですから大人しく寝てて下さい」

 

 

無理やり体を横にさせられ、膝枕状態に戻させられる。

 

 

「結構恥ずかしいんだが・・・」

 

 

「可愛い恋人の膝枕なんです、むしろ喜ぶべきなんじゃないかと思ってください

それとも可愛くないから結構だと言うんですか?」

 

 

「それずるいだろ・・・分かってて言ってるだろ?」

 

 

「ちょっとずるいくらいの方が女の子らしいじゃないですか♪

なんなら、耳掃除もしましょうか?」

 

 

どうやら、俺はこいつには勝てないらしい・・・

流されないようにと思っていた矢先に、いつのまにか先手を取られるとは

 

 

「・・・・・・・飯の時間まででいい、耳掃除もいい、それ以上は勘弁してくれ」

 

 

 

「はい♪」

 

 

 

 

この際、下手に抵抗するよりは妥協案を出したほうが、

ひどくはならんだろうという判断をすることにした。

 

 

 

11:30を過ぎたころ、お食事処へ行き

肉料理を食べたいという思惑が一致し「鳥のきじ焼き」

を注文することにした。焼き鳥の食感と鰻のタレといった

馴染み深い味であったと言っておこう

客層を見ると、浴衣姿の家族連れが多く連泊してるグループもいるのだろう。

 

 

食べ終わる頃には満席になっていたので、部屋に戻ることに。

暖かいお茶を飲みつつ、窓からの雪景色をただただ眺めていた。

いろはも同じように景色を眺めており、落ち着いた表情をしていた。

 

 

~大〇温泉 バス停 PM1:00~

 

 

バスの時刻が近づいたので、バス停に移動していた。

 

 

「いい温泉郷でしたね」 

 

 

「1200年湯めぐりの里は伊達ではなかったな」

 

 

「廊下も古き良き時代を思わせる趣があって良かったです」

 

 

「渋いな。お前・・・まぁ、同意はするがな」

 

 

そして程なくして到着したバスに乗り、俺たちは大〇温泉を後にした

 

 

 

~いろは視点~

 

 

わたしはバスからの雪が降り続く車窓を眺めながら、先ほどまでの事を回想していた。

せんぱいの膝枕をしながら、あどけない寝顔を見るわたし得なひと時。

 

目覚めてからの渋々ながら承諾しつつも、満更でもない様子で

状況を受け入れるせんぱいの照れ顔。

 

そして食事をしたあと、部屋に戻ってゆったりと過ごす

まるでおしどり夫婦になったかのような感覚・・・

 

 

・・・・・・はっ!気が早い気が早い!

まだ婚約も結婚もしていないのにそんな感覚をもってしまうなんて・・・

 

でも、そういう風に思えてしまうこと事態が距離が縮んだと思いたい

せんぱいがどう思ってるかはともかくとして、

せんぱいが本心を漏らしてしまうくらい緩んだひと時が、わたしの思い出になった事は

間違いないと言えるだろうと

 

 

そんな思考に浸ってると、バスは花巻駅まで戻ってきていた。

 

 

~花巻駅  PM1:40~

 

「ここからは在来線を乗り継いで行くんですよね?」

 

 

「一ノ関と小牛田だな。仙台からは山形へ向かい、米沢市にある駅が今日の宿になるな

んでもって到着が7時過ぎと」

 

 

「結構長いですね?」

 

 

「日々時間に追われてるんだ、のんびり行ってもいいだろ?」

 

 

「それは深く同意します、はい」

 

 

「分かってもらえてなによりだ」

 

 

一路は南下し、山形県まで




前回に引き続き甘い回でございました。


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第八話  旅行2日目 ~車中での会話~

ちょっと短めです


東北本線に乗り南下するに連れて、それまであった雪原の車窓は無くなり、

田んぼの風景が目立つようになっていた。

 

乗った電車は2両ではあったが、乗車率はまばらだった。

元旦だからというのもあるのだろう。

 

途中駅でホームに大量の乗車客がたむろしてるのには面食らった。

駅の名を見て・・・ああ成程なと頷いていた。

 

 

「せんぱい?どうしました?」

 

 

「いや今、いっぱい人が乗ってきただろ?

何駅かと思ったら平泉だったんだよ」

 

 

「平泉って、あの平安時代の奥州藤原氏が拠点にしてたという?」

 

 

「ああ、それな。時刻表にもホラ。世界遺産として載ってるぞ?」

 

 

 

「ホントだ。載ってますね。察するに初詣ってことですか」

 

 

「だろうな。(スマホをいじりつつ)世界文化遺産登録は2011年だったのか。

同じ年にも小笠原諸島も登録されてるな」

 

 

 

「小笠原諸島って、船でしか行けないんですよね?」

 

 

 

「社畜には高嶺の花だな。旅行費用と休みの確保が至難の業だ」

 

 

 

「でも、働き方改革で有給を上手く繋げば」

 

 

 

「いや倍率が高そうだ・・・・。小笠原以外もいい所あるだろ

まずはそっちでいい」

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

「どうした?」

 

 

 

「それって、次回のお誘いですか?嬉しいですけどまだ2日も残ってるんで

まずはこの一時を楽しんでいたいんで心の準備をさせて欲しいです。

改めて誘ってほしいですごめんなさい」

 

 

「分かったから車内では落ち着け。改めて誘うから」

 

 

 

「・・!!!(それって!)」

 

 

そんな会話をしている内に電車は一ノ関に到着していた。

乗り継ぎで小牛田行きに乗ったが、平泉からの乗客は殆どが

一ノ関で降りるみたいで車内はまた空くようになっていた

 

 

だが、座席に座ってのんびりとしていると、やけに上機嫌ないろはが

恋人繋ぎをしてニコニコとしていた。

 

 

(なんかあったか・・・?)

 

 

電車は1時間程で小牛田に到着。仙台行き4両編成の乗り継ぎとなった。

 

 

「今まで2両だったから、広々と感じますねー」

 

 

いろはは背伸びをしつつ感想を漏らした

 

 

 

「ここまでロングシートだったからクロスシートになると

旅をしてるという実感が湧くもんだな」

 

 

「総武快速線もクロスシートの車両ありますよ?」

 

 

「房総半島とか成田空港まで足伸ばしてるし、

長距離走るって感じがするだろ?」

 

 

「あーそういうことですか」

 

 

電車は松島海岸駅を過ぎていた

 

 

「日本三景の一つ・・松島か」

 

 

「夕日が綺麗ですよ。せんぱい」

 

 

「一度は観光してみたいが、またの機会だな」

 

 

「・・ですね(フラグ・・・!)」

 

 

「そういえば、他の日本三景って知ってるか?」

 

 

「宮島と天橋立でしたか」

 

 

「おー知ってたか、時刻表の地図によると天橋立はJ〇線の駅ではないんだな」

 

 

「本当ですね。18切符では行けませんね」

 

 

 

「宮島はフェリーで行くようだな、最寄り駅は宮島口か」

 

 

「宮島の厳島神社は世界文化遺産登録されてるんですね」

 

 

「(スマホ検索しつつ)・・・1996年に登録か。割と経っているな」

 

 

「鹿もいるんですね、ここ」

 

 

「奈良公園もな、中学の修学旅行で鹿せんべいやったっけ」

 

 

「せんぱいもですか?餌付けの後も、中々離れてくれなかったんですよー」

 

 

「俺は餌無くなったら、そそくさと離れていったな・・

ま、ソイツは賢かったんだろ」

 

 

「せんぱい・・・」

 

 

「あーもういいな、この話は」

 

 

 

話が終わるころには仙台駅到着の案内がなされていた

 

 

       <仙台駅>

 

乗り換え時間30分と余裕を持っており、各々でトイレを済ませ、

暖かい飲み物を買って発車の10分前には席を確保することに

 

 

「仙台と言ったら牛タンですよねー。食べる時間がないのが残念です」

 

 

 

「まだ腹減らないし、駅弁だと匂いという問題があるからな」

 

 

 

「あ、その辺り考えてるんですね」

 

 

「以前見たニュースで、大阪土産の豚まんを新幹線で食べた時の匂いがクレームになるという

のもあるしな。俺もそういうの好ましくないからな」

 

 

 

「公共の乗り物ですから、周りに配慮は当然です」

 

 

 

山形駅には一時間後に到着の模様。

県境のトンネルを潜るころには再び雪景色を拝むことになっていた。

 

 

山形駅からは40分程で本日の宿に到着していた。

 

 

 

「え?今日の宿って駅から直結なんですか?

一歩も外にも出ずに?」

 

 

「前に言ってた 泊まる予定温泉地の一つが満室で、その地の隣駅の宿泊。

それがここだ。予定は番付表にもある赤湯温泉だったんだよ」

 

 

「でも、これだけ寒いと外に出るのも億劫ですよ」

 

 

「俺も山形駅着いた時、そう思った」

 

 

「転んでもただでは起きないってとこですね、流石ですせんぱい♪」

 

 

 

「・・・ありがとよ」

 

 

チェックインを済まし、食堂で夕食を取ることに。

 

 

「牛タンメンチカツ定食とな?食べてみるか」

 

 

「あ、わたしも同じものを」

 

 

牛タンとメンチカツの食感が絶妙な味で美味しく頂けたと言っておこう

いろはにも好評なようだった。

 

 

食休みを済ませた後、これまた駅直結の温泉に浸かり

部屋のベッドででまったりとしていた。

 

 

「せんぱい・・・失礼しますー」

 

 

「え?なんで入り込んでんの?」

 

 

「断りをいれようとすると、拒否されるじゃないですかー」

 

 

「そりゃそうだよ?」

 

 

「ほんとはカシオペ〇でもくっついて寝たかったんですけど、狭すぎたので我慢してたんですよー?」

 

 

「マジかよ・・・」

 

 

「マジです♪」

 

 

あざとらしく可愛らしく、ウインクをいれてくる

ドキッとさせられるじゃねぇか・・・

 

 

「ですので今日はいいですよね?」

 

 

 

「仮に断ると言ったら?」

 

 

「ふふっ、放しませんよー♪」

 

 

 

「絶対引く気ねぇ・・・こやつ」

 

 

 

「引きません♪暖かいなぁ・・・せんぱいの体のぬくもり・・・」

 

 

 

「(はぁ、どうしてこうなった?無理やり剥がすのももう面倒臭くなってきた)

もう好きにしてくれ・・・・」

 

 

 

「そうさせて頂きます♪」

 

 

 

もう、諦めの境地で横になっている内に眠気が、いろはの温もりもあったかい・・・・

ダメだ落ち・・・・る・・・・・・・・・

 

 

 

「せんぱい?・・・おやすみなさい」

 

 

そんな声が聞こえた気がした

 

 

 




各地ネタを入れてみました


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第九話  旅行3日目 ~八幡の暴走~

ちょっと長くなりました


<八幡視点>

 

 

 

 

    1月2日 AM7:00

 

 

 

部屋備え付けの目覚ましで、俺は起きた。

昨日の寝不足は早くに就寝することで大分解消したようだった。

 

横で寝ているいろはもどうやら起きたようだ

 

 

 

「あ、せんぱい・・おはようございます」

 

 

「ああ、お陰様でよく寝れたわ」

 

 

「そうでしょうそうでしょう、可愛い恋人の温もりですからね?」

 

 

朝っぱらから、絶好調だなコイツは・・・・

 

 

 

「せんぱいのあどけない寝顔も満喫出来ましたし♪」

 

 

「おい」

 

 

 

「それにこちらもとっても気持ちよく寝れました・・・( ´艸`)」

 

 

だから、朝からそういう顔するのやめてくれませんかねぇ?

 

 

 

「朝風呂行ってくる」

 

 

「あ、わたしも行きますよー」

 

 

熱い温泉で体を覚醒させ、食堂のバイキングで腹を満たす

 

 

「おせち料理もあるんですね、有難いです」

 

 

 

「そういやお前の家って毎年おせち作るの?」

 

 

「ええ、母さんが概ね。味付けの手伝いはここ数年してますね」

 

 

「ほう、うちは女性陣が毎年台所で忙しなくやってるな

もっとも今年は一人分いないから、材料費が浮いたと喜んでたが」

 

 

 

「こちらも帰っても、少ししかないかもですね。気分を感じられるってのは

いいものですね」

 

 

「・・・そろそろ部屋戻るか」

 

 

「はーい」

 

 

今日乗る電車は9時ちょっと前。のんびりと支度を出来る

部屋から臨める駅の様子や天気を見ながらまったりと寛ぐことにした

 

 

            <高〇駅発車5分前>

 

 

今日の移動が短いので券売機で買う事に。午前中の目的地は米沢市にある温泉だ

 

 

「あ、今日がせんぱいが18切符を使わない日なんですね」

 

 

「そうだ。宿泊地が新潟県の下越地方である村上市だからな、まずは米沢に向かう」

 

 

「そこからバスで30分の温泉郷なんですよね?」

 

 

「昨日みたいに雪積もってるだろうなー。だが晴れてる分マシか」

 

 

「ワイナリーで有名な高〇、冬でない時に来たいですね」

 

 

「結構ワイン飲むもんな、おまえ・・・」

 

 

程なくして到着した電車に乗り込み、米沢には10分程で到着した

そこからバスで30分、俺たちは温泉郷に到着した

 

 

 

    <〇野川温泉郷 AM10:00>

 

 

昨日夜まで降っていた雪も止んでおり、郷にはスプリンクラーでの除雪が進められていた。

売店も開いており、温泉饅頭・ラジウム卵などが売られており

いろはは無邪気にそれを眺めていた。そんな郷を見物しながら事前調べで

日帰り入浴する予定の宿が温泉点検で、利用できなかったのには落胆の色を隠せず

いろはに慰められることとなった。そんな中で見た郷案内に俺は愕然とした

 

 

「せんぱい・・・?」

 

 

「こ、小町だと・・・・?」

 

 

 

「あ、温〇むすめって書いてありますね。この温泉地の名前を取って〇野川小町ですか。

 

『四季を愛する雅で艶麗な歌人むすめ。動物が好きで、

よく猫を愛でたりほたるの観賞をしたりしている。

教養と気品があり、 立ち振る舞いがとても美しい』

おーなかなか詰まった設定ですね、大和撫子って感じのキャラです」

 

 

 

「・・・・・これは撮っておかないと」

 

 

 

「ちょっと、せんぱい!?」

 

 

「いや、小町だぞ?」

 

 

「せんぱいがシスコンなのはもう分かってますが、目の色変わりすぎですから!」

 

 

 

「小町と言ったら、福島県にもある温泉の名前でもあり、歴史上の人物でも「小野小町」って

あるけど、まさか観光大使でキャラとして使われるとは思わないだろ?

しかも観光庁が後援となってるじゃないか!」

 

 

「だからって小町ちゃんがせんぱいからそれを知らされても、純粋に喜ぶとは

限らないじゃないですか?」

 

 

 

「ええい、止めるな!帰ったら写真現像するんだ」

 

 

「キモイです!それよりもこの地図に『露天風呂 小町の湯』ってありますよ?

川向こうにあるようです」

 

 

「なん・・・だと?早速行くぞ!」

 

 

「あ、待ってくださいよ(ふぅ、何とかそらせた・・・これ以上はもう恥ずかしいですからね!)」

 

 

5分後、露天風呂の施設前に到着するも

 

※12月~4月中旬は雪のため休業します。

 

無常にも案内板が掲げられていた。

 

 

「なん・・・・だと・・・・

地図には書いてなかったじゃないか・・・」

 

 

 

俺は力が抜け、膝をついてしまった

 

 

 

「せんぱい!?ズボンが濡れちゃいますよ!?ヒートテックまで染みちゃいますって!!」

 

 

 

傷心に暮れたままとぼとぼと温泉街まで戻ることとなった。

 

 

 

「せんぱい、取り乱しすぎですよ・・・(げんなり)」

 

 

 

「いやだって、小町だぜ?」

 

 

 

「ほらほら、この旅館「こまちの湯」ってありますよ?わたしもう冷えてきたんで入りたいです」

 

 

「よし!早速いくぞ」

 

 

「(現金過ぎる・・・)」

 

 

旅館に入り入浴料を払い、館内の案内を受ける

5階に展望露天風呂、1回に大浴場とこまちの湯があるとのことだ

 

 

「まずは展望露天風呂だな」

 

 

「え、そっちからですか?」

 

 

 

「昨日の露天風呂だとドライヤーが無かったろ?大浴場なら確実にあるだろう?」

 

 

「あ、なるほど」

 

 

「今から1時間後にロビーでいいか?」

 

 

 

「分かりました、では後程~」

 

 

露天風呂からみる雪山の景色は雄大で、叶う事なら雪見酒をしたい

欲求に駆られるくらいだった。

 

 

続けて1Fの大浴場。蔵造りの中のゆったりした浴槽になっていた

温泉の注意書きには

『5号源泉と4号源泉3:7で混合し源泉100%』

4号源泉 = 温泉成分とても濃い

5号源泉 = 温泉成分少し濃い

と書かれていた。

確かに肌が荒れている俺にはいいかもしれん

 

 

 

最後にこまちの湯。これは昨日の大〇温泉と同じ内湯だった。

程よい温度なので、のんびりと寛ぎ時間を潰すことにした。

 

 

 

<いろは視点>

 

5Fにある露天風呂の絶景を見つつ暖まっている中

わたしはやられた感に陥っていた。

 

 

旅行の間、せんぱいを振り回し愛情アピールをして

それを満更でもなく受け入れているせんぱいも楽しい一時を

過ごしていたと思っていた。のに・・・!

 

 

まさか、このわたしが振り回される側になろうとは・・・

いかんいかん、こんなのわたしのキャラじゃない!

なんとかして元のポジションに戻らなければ。

 

 

そんな決意を固めつつも、1Fの大浴場・そしてこまちの湯で

身を清め火照った体を冷ましつつせんぱいと合流した。

 

 

「お待たせしました、せんぱい」

 

 

「おーだいぶ暖まったなー。後もう一つ事前に調べてた日帰り入浴の

場所行こうぜ、気に入ると思う」

 

 

「あ、オススメですか?期待していますよ」

 

 

     <〇〇〇旅館>

 

 

「ここはさっきの旅館と違って、湯は一つで大浴場ではない」

 

 

「?それだったら、なにか特徴があるんですか?」

 

 

「但し書きを見て見ろ」

 

 

 

 

激レア!特濃泉質【4号源泉】

特濃泉質4号源泉

温泉成分が濃厚なんです!

 

 

4号源泉 = 特濃温泉質 約80度

〇野川温泉において最も重要な源泉。

5号源泉 = 約35度

 

〇野川温泉には2種類の源泉があり、それぞれ温度や成分が異なります。

2種類の源泉の温泉成分をシンプルに比較しますと・・・

 

4号源泉 = 温泉成分とても濃い

5号源泉 = 温泉成分少し濃い

 

あえて比較するとこのようになります。

※5号源泉の泉質も大変良い物です

 

〇野川温泉の殆どの施設様では4号源泉+5号源泉をミックスした形で湯船へ供給されているのですが(当館調べ)

すべての浴槽に 特濃泉質の4号源泉(かけ流し100%)を供給しているのは当館一番のオススメポイントでございます。 

 

 

 

「循環しない」「沸かさない」「水で薄めない」

こだわり熱交換システム熱い源泉が流れるパイプを水の中に通すことで、

パイプから水へ熱が奪われていきます。この現象を熱交換と言います。

当館は熱交換システムにより、温泉の温度をコントロールしています。

熱交換をすることで、源泉の成分を損なわず温度だけを下げることができます。

当館では濃い温泉成分を含む4号源泉のみを使用。

濃厚でとろみのあるお湯を源泉かけ流しで提供しております。

 

 

 

 

「ほえー・・・」

 

 

「つまりは、この温泉郷でオンリーワンとも言えるし。

肌にもいいから女性向けとも言える」

 

 

「早速入りましょう!」

 

 

(えへへ、スベスベの肌になって、夜せんぱいを誘惑するってのも

悪くなさそうですね~。折角ですから、利用させていただきますよ?)

 

 

わたしたちは、フロントで荷物を預かってもらえるサービスを受け、

温泉に浸かることにしました

 

 

(確かに広くはないですが、化粧水を付けてるような感触ですねー。

しばらくのんびりしますかね)

 

 

と30分も浸かってのぼせてしまったのは、ちょっと失敗だったかも

でもせんぱいには

 

「そんなに気に入ったのか」「長く浸かって喉乾いてるだろ」と

ドリンクを奢ってもらったので、これはこれでいいかなと思ったり

 

 

リビングで涼んでいると、せんぱいがめざとくそれを発見した

 

 

「お、なにこれ!昔のゲーム機じゃん!」

 

 

「スーパーファ〇コン、ファミリーコン〇ュータですよね。

昔のリバイバルで最近発売したとかいう」

 

「ああ、昔は本体も手のひらサイズには持ちきれない大きさだったらしいな。

親父が90年代に発売されて大学時代やってたと言ってたっけ」

 

 

「せんぱいも小町ちゃんもその遺伝子を継いでるわけですね」

 

 

 

「まぁ、そうなるな。マリ〇ーカートもあるぞ!?元祖マリカー」

 

 

「学生の時、せんぱいの家で〇iiでよく3人プレイしましたよねー」

 

 

「ずるいよな、お前ら。テクニックで勝とうとはしないで、

ダイレクトアタックで注意をそらすんだもんな・・・」

 

 

「フフン、それくらいで惑わされるが悪いんですよー」

 

 

「実力で勝てよ、実力でよ」

 

 

「でもせんぱい的には役得だったでしょ?ドキドキしたんじゃないですか?」

 

 

「・・・・分かってて言ってるならずるいぞ」

 

 

「紛れもない肯定ですよね。えへへ・・・」

 

 

 

「さて腹減ったから飯食いに行くぞ」

 

 

 

「あ、置いていかないでくださいよー」

 

 

 

(軌道修正には成功出来たみたい・・・

それになんか幾つもの視線が感じたし頃合いかも)

 

リビングで寛いでいる他のお客さん達からの目が

明らかにこのリア充が!このバカップルが!と

目には口ほどに物を言う視線だったからだ。

 

 

でもこれが、わたしたちなのだから。

7年間も付き合ってきた軌跡なのだから

 

 

せんぱいが何を話すつもりかは分からないけど、

わたしはいつも通りにそれを待とうと思う

 

 

せんぱいは「いつも通り?いつも以上に過剰にスキンシップしてるだろうが」

って昨日と同じように言うだろうけど、わたしがそうなったのは

「せんぱいのせいですよー」って開き直るつもりだ

 

 

だって、こんなに思い出に残る温泉旅をしてて

我慢出来るわけがないじゃないですか。

そのあたりを察してもらえない辺り、せんぱいたる所以なのかもしれないけど

 

 

そんなことを思いながら、せんぱいの後を追うのでした

 

 




八幡暴走ネタは当初から書きたいことの一つでした
彼があのワードを目にして、何もしないはずがないではないか!


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第十話  旅行3日目 ~食堂での語らい~

      <〇〇食堂>

 

 

温泉に入っている間に時刻は13時を過ぎていた。

この温泉郷に留まれるのはあと1時間半ほど。

腹を満たす為、食堂に入ることに

 

ご当地メニューである「もやしラーメン」を頼むことにした

 

 

「せんぱい、本当にラーメン好きですよねー

同じメニューを頼んでしまうわたしもだいぶ毒されてますけど」

 

と苦笑いで返してくる。

 

 

「何、ご当地という位だから普通に食べるモノと違うと思ってな」

 

 

スマホで試しに「もやしラーメン  米沢」と検索してみることにした

 

 

 

「へぇ、これ鉄〇DASHでも紹介されるほど有名なのか」

 

 

「え?わたしにも見せてくださいよ」

 

 

米沢は、山形県内でも有数の豪雪地帯で、一年の内4ヶ月以上雪に閉ざされます。

このため、豆もやしは冬期間に生産できる商品作物として、長い歴史を持っています。

豆もやし栽培は、明治の初め頃に始まり、その頃は個人で行われていました。

その後、大正12年6月1日に「三沢村大字小野川もやし業組合」が結成され、

共同作業による生産が行われるようになりました。

現在でも「〇野川豆もやし業組合」として、共同作業による生産が受け継がれています。

 

 

栽培方法はユニークで、県内有数の豪雪地帯として有名な米沢市〇野川温泉の

豊富な温泉水を利用する。毎年11月頃になると、温泉街の近くには作業場が建てられる。

中には「室」となる木製の箱を並べ、その下に温泉水を通し一種の温室状態を作る。

木箱の底に砂を敷き、一晩浸水した「もやし豆」をまき、さらに上を砂で覆う。

コモをかけて室内を30度に保って約一週間、もやしが伸長したところで収穫する。

栽培は11~3月までの冬期間のみ。

 

 

 

 

 

 

「つまりは季節限定メニューなんだろうか」

 

 

 

「市販で売っているもやしと違う豆付きなんですね」

 

 

 

店内を何気なく見ると、年期の入った夫婦と年配グループの2つだけ。

そんなに時間はかからないだろう、と思っていると待望のラーメンが運ばれてきた

 

 

 

「ふむ、醤油ベースに具は普通のトッピング、そして豆もやしか」

 

 

 

「シンプル イズ ベストを体現したかのような・・・」

 

 

食感も豆がシャキシャキ、もやし部分も市販のと違い飲みこんで食べるといった消化方法で

食していった。

 

 

そんな最中、年期の入った夫婦が食堂の主人との会話で

「今回の温泉旅行で~」という言葉が耳に入ってきた。

へぇ、あの夫婦も俺達と同じ・・・

 

 

「実はわたしたちも温泉旅行の最中なんですよ!」

 

 

ってええ!?いろは何会話に加わってるの?

 

 

「あら、あなたたちも?」

 

 

「ええ、せんぱいが誘ってくれて」

 

 

「おう、見たところ学生時代か会社のってとこかい?」

 

 

「えーと高校時代からの付き合いでして」

 

 

「ほほえましい関係じゃないの~」

 

 

「へへ、せんぱい、他人からはそう見られてますよ?」

 

 

もう加わるしかないじゃないか・・・・

 

 

「ま、過度なスキンシップがなきゃそうだろうよ」

 

 

 

「む、なんですかそれー」

 

 

 

「仲がよさそうで何よりだな、お前さんたちの見た目からして8~9年ってとこかね?」

 

 

 

「・・・・・・よくわかりますね」

 

 

 

「何、それくらいはな」

 

 

 

「それでおじさん達は、何処の温泉に行くんですか?」

 

 

 

「昨日は作〇温泉泊まってな、今日はこの温泉郷に泊まるんだ

さっき旅館に車を置いてな、今日はもうアルコール解禁しても問題はないのさ」

 

 

ふと見るとグラスにビールが注がれており、顔もやや赤くなっていた

 

 

「ってことは東北地方在住なんですか」

 

 

「ああ、そうだ。んでお前さんたち、何処から来たんだ?」

 

 

「自分たちは関東の千葉県から来ました」

 

 

「あら、随分と遠くから来たもんだねぇ」

 

 

「せんぱいから『青〇18切符で行ける温泉番付』を見せられてそれで

温泉巡りをしてるんです、大晦日に関東を経って昨日は岩手県の温泉に

立ち寄りましたね」

 

 

俺は補足説明としてスマホの画像をだしてご夫婦に見せることにした

 

 

「私等が行った事ある温泉地、結構載ってるじゃない」

 

 

「横綱と大関と前頭の幾つかは行ってるな」

 

 

「俺も18切符で若いころ使ったことあったなー」

 

 

「ご主人も使ったことが?」

 

 

 

「九州まで行った事があってなー昔はそれで乗れる夜行快速で行ったもんだよ

懐かしいもんだ」

 

 

「・・・18切符っと。せんぱい、検索したら1982年発売なんですって。

もう40年近い歴史があるんですね、なんか回顧する人を目の当たりにすると

ロマンを感じませんか?」

 

 

 

「世の中全員が全員、旅行の移動に新幹線や在来線特急、飛行機を利用するわけではない

ってこだよな・・・40年近く続けて発売されてるってことは」

 

 

 

「なんだ、お前さんたち?その旅行ずっと鈍行旅だっていうのか?」

 

 

 

「行きは寝台列車で帰りはそうですね。明日には千葉に戻りますし」

 

 

 

「はぁーーーー・・・・てえしたもんだわ」

 

 

「そう言えば、あなたたち結構荷物があるけど、まだ移動するのかしら?」

 

 

「14時40分にはバスが来るのでそれで米沢駅に戻ることになります。

そこからは新潟県の村上の〇波温泉が今日の目的地です」

 

 

「ん?〇見?そこって山形県じゃなかったけか?」

 

 

「地図があるからそれで説明してもらったほうが早いわよ」

 

 

 

「お。そうかそうか」

 

 

 

「今いる〇野川温泉がここで、今日の目的地が・・・ここになります」

 

 

「おーーーおーーーなるほどな。てっきり俺はこっちかと思ったんだわ」

 

 

そうしておじさんが指さした場所は米沢から北ー最上町にある温泉地だった。

 

 

「なるほど、勘違いでしたか。ちなみにここには泊まったことが?」

 

 

「おうここはな・・・・・」

 

 

そんなこんなで話すうちに

 

 

「まだバスまで時間があるんだろ?ビール飲んでけよ、運転もしないんだから問題ないだろ?」

 

 

 

「はは・・ではご馳走になります」

 

 

「一期一会に・・・」

 

 

「「「「乾杯!」」」」

 

 

「でも、結構移動するわよね?新潟県なんて」

 

 

「到着するのは、19時過ぎになりそうですね

それに明日の方が一気に関東の千葉県まで移動するんですから

そっちの方が大変かもしれません」

 

 

「せんぱい、寝ちゃったら起こしてください」

 

 

「コイツ、もう寝る気でいやがる・・・」

 

 

 

酒が入った語らいも進む中、いろはがトイレで席を立ったところで

おじさんが小声で話しかけてきた

 

 

「お前さんたち、どうやらまだそういう関係ではなさそうだな?」

 

 

「・・・何がでしょう?」

 

 

「お前さんたちの薬指にはあるべきアクセサリーがなかった。

お前さんたち位の歳なら付けていても可笑しくはないはずだ」

 

 

「・・!鋭いですね」

 

 

「年の功ってやつだ。ま、そんだけ付き合ってれば、倦怠期も

あるだろうけど、見たところ仲も良好そうだ。

ちゃんと答えだしてやんな」

 

 

「・・忠告ありがとうございます」

 

 

返事をすると背中をバンバンと叩かれる

・・・・・・ちょっと痛かった

 

 

いろはが席に戻ってからも話は盛り上がるうちに

時間が来たので店を出ることに

 

 

「気を付けてねー」

「頑張れよ」

 

 

と言葉を頂いた。俺達は

 

「「ごちそうさまでした」」と返し

俺は心の中で(ありがとうございます)とお礼を言った

 

 

 

 

 

バスを待つまでの数分の間

 

 

「しかし、いきなり人に話しかけるとは思わなかったぞ」

 

 

「でもせんぱい、ちゃんと楽しく会話してたじゃないですか?」

 

 

「そりゃ、温泉旅行って共通の話題があったからだろ?」

 

 

「それでも会った頃に比べたら柔らかくなりましたよ」

 

 

「・・・そうか?」

 

 

 

「表情が、ですよ?」

 

 

 

「鏡で見れないからよく分からんのだが」

 

 

 

「もう8年経とうかという位いますから分かるんですよーわたしには」

 

 

「専業主婦目指していた俺が社畜営業として曲がりなりにもやれているのも

無関係ではないかもな。第一印象は視覚で決まると言うからな」

 

 

「そうですよ!(元々の能力に自然な表情が柔らかくなったせいで、魅力的になった

のは自覚がないんでしょうね。それまで身内・身近にいる人だけが分かっていたのに)」

 

 

「ま、そう納得しておくか(そうなったのは間違いなく・・・)」

 

 

そんな会話をしつつ到着したバスに乗り込み、米沢駅へ

 

 

 

 

 




旅ならではの一コマです


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第十一話 旅行3日目 ~米沢駅にて~

<八幡視点>

 

バスに乗って米沢駅に戻ってきた。

 

新潟方面に向かう米坂線は約1時間後、

駅員に聞いたところ、発車の20分前に列車に乗れるらしい

村上までの切符を購入して、待合室・売店を見て回ることに

 

待合室にはテレビが設置されており、全国高校サッカー選手権の試合中継が流れていた

確か決勝は埼玉スタジアムだったか?

 

売店には駅弁も売られており、米沢名物「牛肉ど真ん中」が丁度2つあったので

お茶と一緒に購入することに

 

 

「あれ?さっきラーメン食べたばかりですよ?」

 

 

「今日の宿は素泊りだからな。乗り換えの坂町でも結構待つから、そこで食べればよいだろ」

 

 

「名物駅弁ですか、これも旅の醍醐味ですね」

 

 

朝着いた時は気付かなかったが、駅前には「上杉の城下町 米沢へ」と書いてあり、

その下には騎馬の謙信が刀を振りかざす写真があった。

 

 

「んー米沢ってあんまり上杉氏ってイメージが強くないですね」

 

 

「ま、川中島の戦いでの武田信玄vs上杉謙信。

越後の戦国大名であることが授業で習うからだろうな」

 

 

「そうなんですよ!でも関ヶ原の戦いのきっかけになったのは上杉氏が挙兵したから

というのは知ってるんですが、どうして米沢なんでしょうね?」

 

 

「それは豊臣秀吉によって領地移し替え、移封ってやつだ。その戦いの2年前らしい」

 

 

「あ、なるほど。関ヶ原の戦いに間に合わなかったから、そのまま残されたってとこですかね」

 

 

「いや、間に合わなかったというより、最上国の大名や伊達政宗と

戦っていてるうちに終わったという方がいいんだろうな」

 

 

「せんぱい・・・よく知ってますね」

 

 

「単なる知識欲さ。大したことはない。あと米沢市民に尊敬されている存在なら

米沢藩中興の祖とされた上杉鷹山公だな。当時、領地返上寸前の

米沢藩再生のきっかけを作り、江戸時代屈指の名君として知られている人だ」

 

 

「そういえば、以前に大河ドラマでやってたような・・・?」

 

 

「鷹山公による米沢藩の藩政は在命中から日本全国のおおよそ280藩の

中でも模範として幕府からも褒めたたえられたそうだ。

現代でもどこぞの野球監督が尊敬し、アメリカの要人もスピーチで彼に触れることもあったそうだからな。

ま、現代でも影響を及ぼす位から今でも誇りに思い「公」とつけて呼ぶんだろうな」

 

 

「歴史を感じますねぇ」

 

 

「彼が残した言葉で

『為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり』

が有名だよな」

 

 

「ちょっと古風な言い回しですね」

 

 

「現代風に言えば

『どんなことでも強い意志を持って行えば必ず実現する、

結果が得られないのは成し遂げる意思を持って行動しないからだ』」

 

 

「なんか、ぐっさりくる言葉ですね」

 

 

「ただ、いろはは素直に凄いと思うんだよ」

 

 

「え?わたしですか?」

 

 

「まさか俺からの言葉がそこまで影響するとは思わなかったよ」

 

 

「改めて言われると面映ゆいんですけど・・・

それまでの自分を顧みると本気で生きてきたのかなって

ただ状況を楽しむばかりの人生になっている、突き付けられた

気がしたんです。だからまぁ、葉山先輩に玉砕したのも当然

と言えるんですよね。見抜かれていたのかもしれません」

 

 

「でも、そう行動を起こせたのが賞賛に値するのさ。

普通だったら、ただ立ち止まってしまうだけ、右往左往して

時が流れてもおかしくはない」

 

 

「う~それでもその時のせんぱいと同じように

足掻いて足搔いてでも欲しくなったんです、本物が」

 

 

「その足掻いたその先が、俺の隣という『居場所』だったという事か」

 

 

「本当に『灯台下暗し』ですよ、まさに。こんな近くにあるだなんて」

 

 

「それは俺のセリフなんだがな。まぁ今まで・・・ありがとな」

 

 

「・・・こちらこそです」

 

 

顔を赤らめつつそっと手を握ってくる

 

 

「ああ・・」

 

 

俺は優しく握り返す事で応えた

 

 

 

 

やがて坂町行きの列車の発車20分前になり、席を確保することにした

電光掲示板には昨日利用した仙台~山形間の仙山線運転見合わせ及び

ダイヤ遅れの情報が流れていた。

 

 

「もし昨日起きてたらやばかったかもですね」

 

 

「最悪、陸羽東線か福島回りの山形新幹線を利用する羽目になってたかもな」

 

 

と苦笑で返した。

ホームには既にディーゼル車が停まっており、乗客もちらほら席に付いていた

 

 

「ディーゼルってあまり乗らないかもしれません」

 

 

「確かに今までの旅行先でもディーゼル乗った事なかったかもな。

電車と違いモーター音がモロに聞こえるからな。新たな楽しみに

目覚めるかもな?」

 

 

 

「期待半分としておきますよ。2時間のんびりさせてもらいます」

 

 

程なくして発車。景色は夕暮れから夜の真っ暗闇へと変わっていた。

いろはも最初のうちは車窓を見ていたが船を漕ぐようになっていた

 

 

そんな中、俺はさっきの会話を思い起こしていた

 

 

 

それでも、ここから後もう一歩踏み出さなければならない。

何よりも、もう8年近くも共にいてくれたコイツに

何よりも、厳しい現状ではあるけどもこれからも共に一緒に幸せにありたいと

思う気持ち。

 

伝えないと、願う未来も叶わない。だからこそ俺は行動した

一色いろはとこれからもこんな風に思い出に残る旅を刻んでいきたいと

実際にそう旅行することで

そしてその思いも伝える。いろはがこの先どうしたいかも聞けることなら聞きたい。

正直怖れもある。だけどだけどまさにこれだ

 

 

『どんなことでも強い意志を持って行えば必ず実現する、

結果が得られないのは成し遂げる意思を持って行動しないからだ』

 

 

国を立て直す為の志も愛おしい人と共にありたいという純粋な思いも大きさは違えど

信念は同じだと俺は思う。そして話すときはー

 

 

<いろは視点>

 

 

わたしは、バスから戻る最中改めて認識していた。

せんぱいの魅力についてだ。

 

 

はじめて出会った時のせんぱいは必要最低限の会話だけする

会話を楽しむというのは皆無だったからだ。

ごく親しい身内を除けばだけども

 

 

でもさっきのように一期一会で酒を酌み交わす程になるなんて

仮に当時の事を知る人がいれば、目を疑うもしくは信じはしないだろう

 

 

むしろわたしの恋人が、ちゃんと世間と交わえるようになったのを喜ぶ

べきなんだろうが、魅力的に見えるようになってきたせんぱいに言い寄る輩が

出てきそうなのが悩みの種となりそうなのだ

 

今までは日常的に関わる人間、もしくはわたしのようにそうならざるを得ない関係性

を作れた。だからこそ知りえた事柄だったのにだ。大学時代はわたしがバリヤーとなり

その芽すら出させない土壌を作ってきたからよかったが

 

今現在では、その兆候が出てきたからこそ、その芽が出る前に手を打たなければならないのかもしれない

嫉妬や独占欲が出てきてるのも自覚しつつも、バスは米沢駅に戻ってきていた。

 

 

次の列車がまだ1時間近いとの事で、待合室のテレビを見たり

夜食用の駅弁を買い置きしたり、駅前を散策したりして時間を潰すことに

 

 

上杉謙信の写真からかつての米沢藩、この地で称えられてる上杉鷹山の逸話に派生したりした

相変わらずの博識ぶりの舌を巻いていたが

 

 

そこから何故かわたしが賞賛される話には驚いた。

わたしが無我夢中で本物を求めた結果、今があるということ

それに改めて感謝されるとは思わなかったから

 

(不意打ちはずるいですよ・・せんぱい)

 

 

わたし自身、結構せんぱいを振り回してしまっている自覚はあったので

照れ隠しに手をそっと握ることで紛らわす事しか出来なかった

人が多い駅前では流石に抱き着くのは憚れますもんね・・・

 

 

 

新潟方面へのディーゼル車の発車時間20分前となり、速やかに席確保。

2時間近いとのこだったが、車窓を眺めている内に暗闇となり、

ぼんやりと思考にふけることに

 

 

(今回の旅の誘いって、今までの感謝もあったのかな?

まぁそれも悪くはないけど、これからどう考えてるんだろ?)

 

 

疑問を考えている内に眠気が襲ってきて、つい居眠りをしてしまうのでした



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第十二話 旅行3日目 ~温泉宿泊地へ~

UAが15000を超えました
お気に入りも90件

名立たる八色SSの足元には遥かに及びませんが
拙作をお読みいただきありがとうございます


今話では、いろは視点を入れると一話あたりの平均字数を遥かにオーバーして
しまう為、きりのいいところで区切ることにしました。

全ては次回への布石・・!


    <坂町駅>

 

列車はようやく乗換駅の坂町駅に到着するところだった。

ちょうど村上方面への普通電車が発車してすれ違っていってしまった

 

 

「接続できるダイヤにしてもらいたかったですよ、全く」

 

 

ちょっとご立腹ないろはではあったが

 

 

「いや、時刻表によると到着4分前にはもう出てるよ、あれは。

遅延してただけだろうよ」

 

 

それでも、まだふくれっ面ないろはを宥めつつ

 

 

「待合室で駅弁食べて、のんびり待とうぜ。腹も減ったし」

 

 

「・・・そうしますか」

 

 

 

米沢駅で買っておいた「牛肉ど真ん中」お茶と共に食べることにした

待合室の中は適度に暖房が利いており、寒さに震えるということはなさそうだった

味の方は名物駅弁だけあって、冷めても十二分美味しく腹を満たすことが出来た

いろはも美味しいものを食べられて、笑顔を見せるようになっていた

 

 

(美味しいものを食べると、無条件に笑顔になるとはよく言ったもんだな)

 

 

「そういえば、せんぱいと小旅行するようになって、今回初めて関東外ですけど

駅弁って冷めても美味しいですよね?」

 

 

「ああ、それな。慰安旅行の時、新幹線で昼に駅弁食べるなんて事もあったし」

 

 

「なんですか、その慌ただしいスケジュール・・・」

 

 

「いや、その旅行が全国支店からの集まりだったんだよ。ABCに分かれてて

Aは西日本、Bが北陸、Cが東北の選択制になっててな」

 

 

「わ、せんぱいの会社と業績よかったり?」

 

 

「こないだ60周年だったそうな」

 

 

「わーお」

 

 

「話戻すとだな、各営業所で偏りなく第2希望まで出して、調整するという感じでだな

東北地方からの面々と合流して北陸新幹線で金沢方面となると、到着が昼頃になるだろ?

それなら、到着前に新幹線の車内で駅弁食べたほうがタイムロスにならない、というわけだ」

 

 

「なるほど・・・現代人にありがちな効率的な」

 

 

「1泊2日なんだから、そうならざるを得ないだろうよ」

 

 

「だから、愛しの恋人とは18切符でのんびりしたいという事なんですか?」

 

 

「明日の最終日こそちょっとタイトにはなるが・・・な」

 

 

「ちょっと、答えになってないですよー?」

 

 

(全く、こいつは・・・・)

 

 

会話の間に電車接近チャイムが鳴っており、

 

 

「そろそろ支度しないとな、駅弁の箱も畳んでごみ箱に捨てないとな」

 

 

「むー」

 

 

「こらこらジャンガリアンになるな、それにさっきも言っただろうが」

 

 

「それでもー」

 

 

「(しょうがねぇなぁ)」

 

 

俺はにわかに立ち上がり、いろはの手を取り立ち上がらせる勢いそのままに、

いろはの体を優しく抱擁した

 

 

「・・・これで満足か?」

耳元で呟き、いろはが機能停止してる隙に駅弁の箱を纏めて待合室の外の

ごみ箱に捨てることにした。

 

 

機能停止から回復したいろはは、村上行の電車に乗ってからも

ご満悦でロングシートの席まで俺を引っ張り、たった10数分の間だけなのに

俺の肩に頬を摺り寄せ目を瞑ったままでいた。

 

 

(機嫌を損ねるわけにはいかなかったが、らしくないことをしてしまった代償か)

 

 

と頭を掻き、こんなん俺のキャラじゃないってのにな・・・

これから普段の俺じゃない事するから割り切るしかねぇのかもなぁ

 

 

と心の中で溜息したのだった

 

 

  <村上駅>

 

時刻は19時を過ぎる頃、無事に今日の宿の最寄り駅に到着し改札口をくぐった。

 

 

「・・・・・意外だったな」

 

 

「何がです?」

 

 

「いや、日本海側だから積雪も想定していたんだがな」

 

 

「そうですね、全く積もってませんね?」

 

 

「正直拍子抜け感が半端ない」

 

 

「まーまー。それで宿までは歩くんですか?」

 

 

「いんや、タクシーで10分くらいだから」

 

 

早速、ロータリーに停まっているタクシーに乗り込み

宿の名前を告げて走り出す

 

 

「雪積もってないんですね、日本海側だからちょっと心配してたんですが」

 

 

運転手さんにちょっと聞いてみることに

 

 

「ええ、この時期に積もらないのは何年ぶりかもしませんね」

 

 

「やっぱりそうですか」

 

 

「お客さんは温泉に浸かりに来たんですか?」

 

 

「ええ、恋人と旅行で」

 

 

「ほう、羨ましいもんですね」

 

 

「〇波温泉は駅から離れてるから、明日もタクシー使うことになりそうで」

 

 

「よければ、このティッシュを。連絡先が書いてありますので」

 

 

「助かります。明日の朝も早いので。素泊りなんです」

 

 

「なるほど、駅前にはコンビニもありますので」

 

 

「コンビニ・・・そういえば、道中ないですね」

 

 

「ええ、ここは国道位大きな道でないと駐車スペースもないし

24時間営業も困難なんですよ」

 

 

「確かに、光熱費とか馬鹿にならんですね」

 

 

っと無事に到着したようだ

 

 

 

      <〇〇〇〇の宿>

 

 

フロントには人がおらず呼び鈴を鳴らす事で、ご主人が出迎えてくれた

そしてこの宿の説明を受けることに

 

温泉は源泉90度。それを竹で冷却し源泉かけ流しにするという方式を取っていること。

フロント横には「温泉で手に入れる美肌と健康」

メタケイ酸(170mg)を超える値と書かれていた

 

どうやらこれは、温泉に含まれる天然成分らしい

肌の新陳代謝を促進しツルツルの美肌にしてくれる美肌成分であると。

夜は22時まで、朝は6時から入浴可能と

 

そして浴衣は身長のサイズ、色と種類別に選べるとの事。

いろはは好みの浴衣があるとご満悦のようだった。

 

説明が終わり、自分たちの泊まる部屋である3Fに上がると

部屋番号が書かれている壁の下に「比企谷様」と紙が掲げられていた

 

 

「なんか、修学旅行とか慰安旅行で来たおもてなしを受けてる気分だ」

 

 

「確かに、個人でこんな風にされるのってないかもですね」

 

 

部屋の中は、和室で既に2つ布団が敷かれていた。

それに暖房が利いてちょっと暑いくらいだった。

設定が26℃になっていたので、ちょっと温度を下げることにした

流石に寝る時は寝づらくなるだろうからな

 

早速荷物をおろし、窓際の椅子に座ってひと段落ついていると

いろはがここの温泉に興味津々らしく、先程の「メタケイ酸」

をスマホで検索していた

 

 

「せんぱい、これ凄いですよ!?」

 

 

スマホには先程の説明書き以外にも、

 

『肌のセラミドを整えてくれる作用もあるということで、

とても期待度の高い成分なのです。この成分が100mg以上であると、

美肌に導いてくれるお湯だと証明することができるのです』

 

とあった

 

 

「さっきロビーの説明書きには170mgってありましたから、

これは楽しみですよ!」

 

 

「随分と食いついてるのな、昼の時といい」

 

 

「女性にとって美肌は永遠のテーマなんです!せんぱいも肌の綺麗な

わたし好きですよね?」

 

 

「まぁ、肌が荒れてるよりはな」

 

 

「事前に温泉を念入りに調べつくしましたね?流石です!」

 

 

「ここのクチコミも悪くはなかったし、宿泊も1万ちょっとだから

選んだだけだったが、竹で源泉を冷却してるなんて見落としてたんだがな」

 

 

「そうなると、せんぱいは神がかってるのかもしれませんね!

わたしの中でも株が爆上げですよ?」

 

 

「ってことは、旅行前まで株は低かったのか?ショックだな・・・・」

 

 

「ああ、もう拗ねないでくださいよ~」

 

 

そんなこんなやり取りをしつつも、お互い浴衣に着替え

温泉に浸かりに行くことに

 

 

「せんぱいせんぱい、浴衣似合ってます?」

 

 

いろはの選んだ浴衣は薄紅色を基本に花をあしらった着物、

ちなみに俺の浴衣は、薄い緑色にや木の枝をあしらった着物となっていた。

 

 

「ああ、よく似合ってるな」

 

 

「フフン、そうでしょうそうでしょう」

さりげなく、腕にしがみ付いてくるいろは。

あの女性特有の膨らみの感触が当てつけられてるんですがね・・・

ここは心を鬼にして

 

 

「あと、どさくさ紛れに腕にしがみつくと階段が降りにくいからな」

 

 

「むぅ・・なら袖で我慢してあげます」

 

 

ちなみにこの旅館は8室しかなく、収容人数は多くないらしい

温泉は貸し切り状態となっており、ほのかな竹の香りが漂って

硫黄の温泉って違って、風流な空間を演出していた。

温度もややぬるめの41度、まったりと浸かることが出来た。

 

 

(この後・・・・だな。あいつがどう答えてくれるか。

怖れはあるけど、どのみち傷つけ続けるばかりになるよりは

ちゃんと話さなければ・・・・)

 

 




いろはの視点はまた次回。
運命の時はもうじき


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第十三話 旅行3日目 ~思い交わる時~

さて、皆さんの予想は当たっていたでしょうか?




~いろは視点~

 

 

 

わたしは夢心地でいた。

いつもの愛情アピールをスルーされ、拗ねてたら

流れるように抱きしめられた挙句、耳元で囁かれたりしたら

頭の中ショートするってもんですよ?

 

 

せんぱい、人目があるところではこんなことする人じゃなかったのに

米坂線で乗ってきた人達、逆側のホームでこっちを見てるのに・・・

こんな開き直れる人だった?

 

 

かろうじて、動けるまでに持ち直したわたしは、村上駅までの車内

動揺と高揚がごちゃ混ぜになった胸中を隠すが如く

せんぱいの肩に寄りかかり、目を閉じたままでいた。

 

 

(せんぱいがこんなことする理由って・・・何か・・・ある?)

 

 

村上駅に着いて、宿へタクシーへ移動中も

何とか話を合わせるまでには持ち直したものの

落ち着かない気持ちは残ったままだった。

 

 

 

     〇〇〇〇の宿

 

 

宿到着後、主人からの説明で、ここの大浴場が独特の源泉かけ流しであることに加え

メタケイ酸なる成分が肌に良いとのことらしい。

 

浴衣も色や身長に合わせたものを選択できるというのは

ありがたいことだった。ホテルや旅館の浴衣って統一されてて

地味な色合いが多くて悩みの種になりやすいのよね・・・

 

やっぱり、可愛いもので身を包みたいというのは歳をとっても

女にとっては永遠のテーマなわけですよ!

 

今度こそ、せんぱいに上手くはぐらかされずに言わせてやりますとも!

さっきは拗ねすぎたせいでカウンターを食らいましたけどね

 

 

部屋に入って、それまでの冷えた体を癒すが如く

暖房が暑いほどの温度に設定されて効いていた

 

 

和室で布団が敷かれており、就寝の準備は万全といったところだろうか

でもまだ7時半にもなってないのだし、ちょっと休憩しますかねー

そうだ、さっきのメタケイ酸って何だろう、ちょっと調べてみようっと

おお、これは・・・期待できそう

 

 

「せんぱい、これ凄いですよ!?」

 

 

スマホに表示されている説明書きをせんぱいにも見せてみた

 

 

 

『肌のセラミドを整えてくれる作用もあるということで、

とても期待度の高い成分なのです。この成分が100mg以上であると、

美肌に導いてくれるお湯だと証明することができるのです』

 

 

「さっきロビーの説明書きには170mgってありましたから、

これは楽しみですよ!」

 

 

「随分と食いついてるのな、昼の時といい」

 

 

「女性にとって美肌は永遠のテーマなんです!せんぱいも肌の綺麗な

わたし好きですよね?」

 

 

「まぁ、肌が荒れてるよりはな」

 

 

もう、相変わらず素直に言わないですね

なら、褒め殺しにしてみましょう 

 

 

「事前に温泉を念入りに調べつくしましたね?流石です!」

 

 

「ここのクチコミも悪くはなかったし、宿泊も1万ちょっとだから

選んだだけだったが、竹で源泉を冷却してるなんて見落としてたんだがな」

 

 

「そうなると、せんぱいは神がかってるのかもしれませんね!

わたしの中でも株が爆上げですよ?」

 

  

「ってことは、旅行前まで株は低かったのか?ショックだな・・・・」

 

  

「ああ、もう拗ねないでくださいよ~」

 

 

(むむ?ベクトルを誤ったかな?)

(でもまだまだ、浴衣を誉めてもらうんだ) 

(大浴場に行くのに浴衣に着替えたわたしを)

 

 

「せんぱいせんぱい、浴衣似合ってます?」 

 

 

「ああ、よく似合ってるな」

  

 

「フフン、そうでしょうそうでしょう」

どや顔を決めつつ、そっとせんぱいの腕に抱き着いて

意識させてみることに 

 

 

あと、どさくさ紛れに腕にしがみつくと階段が降りにくいからな」

 

 

「むぅ・・なら袖で我慢してあげます」

(ちょっと目を逸らしてるから、意識はされたかな・・?)

 

 

      大浴場

 

 

そこは主人の説明の通り、引湯管から出た源泉を竹で冷却していく方式で

備え付けのデジタル温度計は41度と表示されていた

温泉は貸し切り状態となっており、ほのかな竹の香りが漂って

硫黄の温泉って違って、風流な空間を演出していた。

 

実際に浸かってみると、昼のせんぱいが勧めてくれた旅館の

よりは心持ち劣る感触ではあったけど、それでも程よい

温度で満喫出来そう

 

 

(せんぱい・・・あなたはこの旅行で何をしようとしてるんですか・・・)

(旅行を快諾してくれた父さんや母さんが、示唆した事って何なのだろう・・・・)

 

 

思考に耽ってると顔が沈んでしまうまで体勢が崩れてしまい、

危うくのぼせてしまうところだった

 

 

火照った体を冷ますべくロビーに向かうと既にせんぱいがソファーで

寛いでおり、テーブルに置いてあったビールを渡してきた。

 

 

「ま、飲みな」

 

 

「いただきますね♪」

 

 

「・・・ゴクゴクゴク」

 

 

「おーいい飲みっぷりだ」

 

 

「乾いた喉に冷え冷えビール、最高ですね

ま、あとでお冷も飲みますけど」

 

 

 

「水分不足、利尿作用も働くから、当然だわな」

 

 

「せんぱい、残りは部屋で飲みましょ。体冷えちゃいますよ?」

 

 

「そうだな、戻るとするか」

 

 

部屋に戻り、窓側の椅子で向かい合って座り

何気ない会話をしていると時刻はどんどん進んでゆき

9時を回っていた。代わり代わりに洗面所を使って

寝る準備をしていると

 

 

「いろは、終わったらちょっと話がある」

 

 

(!?せんぱいがこの旅に誘ってくれた目的・・・?)

 

 

「あ、はい分かりました」

つとめて冷静に返事をするも、胸中では

不安と期待が渦巻いたままでいた。

それを何とか顔に出さないようにしつつも

せんぱいが座って待っている椅子の向かい側まで

向かうのでした

 

 

    ~八幡視点~ 

 

 

「話ってなんですか?」

 

 

「・・・これからの事だ、将来の」

 

 

「・・・!!!」

 

 

「高校の時、お前から告白されて7年いやもうじき8年だったか

世間一般だったらもう結婚しても可笑しくないと言われるだろう。

実際、奉仕部の2人や戸塚と同窓会やった時もまだなのかと言われるくらいだ

でも、結婚式・引っ越し・家電、毎月かかる光熱費・家賃それを捻出して

いざという時の備えがないようでは家庭の幸せなんて程遠い所にあるのが

今現在の状態だ。このざまでは甲斐性なしと罵られ、離れていってしまうのが

関の山だろう。現実なんて常に残酷で、暮らしにゆとりがないようでは

それに押しつぶされてしまうのがオチだ。

お前も、これまでの人生で少なからず世の中の闇というものを見てきただろう」

 

 

ここで一息ついて

 

 

「でもだ、でも俺は今回旅に誘ったのはこうしてこれからも年を重ねても

お前に振り回されつつも、息抜きの温泉旅をして思い出を重ねていきたいんだ。

生まれてから重ねてきた年月が、価値観が違う者同士が暮らしていく中で衝突もあるだろう

離婚率の統計がそれを示しているだろう」

 

 

無言で重苦しい雰囲気だけど、

緊張で喉がもつれてるけど、

一番伝えたい事、これだけはちゃんと伝えるんだ!

 

 

 

「それでも・・・・それでもだ、長い間付き合ってきてやっぱり俺は

お前と共に歩んでいける未来が欲しいんだ!

結婚費用が溜まるまでまだ数年はかかるだろうけど、

これが俺の偽ざる思いだ」

 

 

 

「せんぱい・・・・」

 

 

 

いつしか俺はいろはの顔が見れず、ずっと下を向いてしまっていた

きっと俺はとても情けない顔をしているだろうから

無言の時間が流れていたが、いろはのすすり声に我に返った

 

 

「お前、なんで泣いて・・・・」

 

 

「せんぱい・・・怖かったんですね。いつまでも同じ思いなんて保証なんてないですもんね。

でもそれ以上に将来の事考えてくれてたんだって、わたしと一緒に幸せになりたいって。

そう思うと、胸がいっぱいになっちゃって、わたしもいずれ結婚出来たらと思ってましたから・・・・」

 

 

「!!」

 

 

「でもね、でもね話を聞いてせんぱいは、しょいこみ過ぎだと思うんです」

 

 

「・・・何が?」

 

 

「結婚式・引っ越し・家電、毎月かかる光熱費・家賃でしたっけ?

それらを一括で考えていることです。確かに結婚式の費用は一番かかるものだと思います。

何も一緒に暮らす事=結婚式ではないですよ?

芸能人やアスリートの方々って、入籍して数年後に式をあげるっていうケースもありますよね?

確かに乙女にとって一生に一度の結婚式、ウェディングドレスを着るというのは夢ではあります。

 

でもそれはわたしにとっては、あくまでも通過点であり、せんぱいと共に幸せであること

それが最優先であり、他に勝るものではないんです」

 

 

「!!!!」

 

 

「ですから、そんなに抱え込まないでください・・・ね?」

 

 

涙を流しつつも、特上の笑顔でほほ笑んでくれる

それまで幾度となく見ていたあざとい顔でもなく

心からの笑顔、慈しみを持った笑顔

それを見たらもう迷いはなかった・・

膝が震えてしまっているが、ここで勇気を出すんだ!

 

この子の心からの笑顔が、これからも見られるならば

比企谷八幡!ここで奮い立たなきゃ男じゃないぞ

震える膝を拳で叩き、カツをいれる

 

 

「いろは。。。いや一色いろは」

 

 

「・・・・・・はい!」

 

 

俺の開き直った顔に改めて姿勢を正す

 

 

 

「俺と・・・・・俺と結婚して下さい」

 

 

 

「・・・・っ!!」

 

 

 

その言葉を聞くがいなや、いろはは俺に抱き着いて首に腕を回してくる

 

 

 

「わたしが・・・・わたしがあなたを支え続けますっ・・・!

今回みたいなすれ違いにならないように。わたしたちが幸せでい続けられるように

わたしがせんぱいを支え続けますから・・・っ!

だから、よろしくおねがいします・・!」

 

 

 

これはなんだろう、体の奥から熱くなる気持ちは。

体全身が震えるようなこの感触は。

そうか、こんな俺でも手に入れることが出来たのか・・・

共に歩んでくれる愛おしい人が。

俺の思いに応えてくれる人が。

 

 

しばしの間この歓喜に硬直していたが、今や世界で一つしかない宝物に

感謝を込めて

 

 

「ありがとう、いろは・・・・これからも宜しく頼む、相棒」

 

 

そう言って、壊れ物を扱うかのように優しく抱きしめた

 

 

 

 

 




これで終わりな訳がありません。
外堀がまだです。お互いの両親という外堀が!
了解が得られるまでは!


追記:いろはの浴衣はプリンセスコネクトRの正月ユイをイメージしております


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第十四話 旅行3日目 ~青写真を描く~

前話の反響が凄いみたいで、お気に入りが一気に増えた事に驚いています
まだまだ話は続いていきますので引き続きお楽しみください

キリが悪く、普段の1.5倍以上になってしまった・・・・


<いろは視点>

 

 

良かった・・・・・・本当によかったよぉ・・・・

 

せんぱいが辛い現状に慄きつつも、わたしとの未来を

幸せを願っていた事。

 

今回の旅行も、これから先も思い出を紡いでいきたいという

行動そのものだったという事

 

そして結婚費が溜まるまで申し訳ないと思ってる事。

 

 

その思い全てがわたしの胸を打ち、涙が止まらなかった

何よりも付き合ってきた絆が確かにあったことが嬉しくて

 

 

そしてわたしの中に明確な答えができた。それはー

 

 

「お前、なんで泣いて・・・・」

 

 

せんぱいがわたしの涙をすする音に気付いて、顔を上げたみたいだった

 

 

「せんぱい・・・怖かったんですね。いつまでも同じ思いなんて保証なんてないですもんね。

でもそれ以上に将来の事考えてくれてたんだって、わたしと一緒に幸せになりたいって。

そう思うと、胸がいっぱいになっちゃって、わたしもいずれ結婚出来たらと思ってましたから・・・・」

 

 

「!!」

 

 

「でもね、でもね話を聞いてせんぱいは、しょいこみ過ぎだと思うんです」

 

 

「・・・何が?」

 

 

「結婚式・引っ越し・家電、毎月かかる光熱費・家賃でしたっけ?

それらを一括で考えていることです。確かに結婚式の費用は一番かかるものだと思います。

何も一緒に暮らす事=結婚式ではないですよ?

芸能人やアスリートの方々って、入籍して数年後に式をあげるっていうケースもありますよね?

確かに乙女にとって一生に一度の結婚式、ウェディングドレスを着るというのは夢ではあります。

 

でもそれはわたしにとっては、あくまでも通過点であり、せんぱいと共に幸せであること

それが最優先であり、他に勝るものではないんです」

 

 

そうこれがわたしの答え。結局何が障害であれ

わたしの一番は比企谷八幡という何よりも愛おしい人と

共に歩んで幸せになりたいんだということ。それが根底ある限り、

わたしはもう迷うことはないんだ

ということに。

 

 

 

「!!!!」

 

 

「ですから、そんなに抱え込まないでください・・・ね?」

 

 

せんぱいをそうして見つめていると

 

 

「いろは。。。いや一色いろは」

 

 

「・・・・・・はい!」

 

 

何やら覚悟を決めたかのような面持ちになり、

わたしも自然と背筋が正される思いにさせられた

 

 

 

 

「俺と・・・・・俺と結婚して下さい」

 

 

 

「・・・・っ!!」

 

 

 

わたしがずっと待ち望んでいた言葉

付き合ってから7年以上も待った言葉

それが耳に届いた瞬間

何も考えず彼の胸に飛びこみ力強く抱きしめていた

 

 

 

「わたしが・・・・わたしがあなたを支え続けますっ・・・!

今回みたいなすれ違いにならないように。わたしたちが幸せでい続けられるように

わたしがせんぱいを支え続けますから・・・っ!

だから、よろしくおねがいします・・!」

 

 

わたしは本当に幸せだ。この人が勇気をだしてくれて。

わたしの中にある本当の答えを見出すことが出来て。

 

 

そしてわたしを「よろしく頼む、相棒」と

人生のパートナーと読んでくれた事に。

溢れ出る幸せに身を任せながら、

しばらくの間、抱き着いたまま余韻を味わっていました

 

 

 

 

・・わたしも言わないと、両親に言われたこと。

 

 

「・・・・せんぱい。」

 

 

「ん?」

 

 

「わたしの話・・・聞いてくれます?」

 

 

「おう、なんだ?」

 

 

「実は・・・・・」

 

わたしは11月あたりから、両親から7年間も付き合っていて

将来の話をされていないのかという探りを入れられていた事。

せんぱい自身はどう思っているかで急かしたくなかった事。

それを見破られた小町ちゃんに気を使われていた事。

包み隠さず話した。

 

 

「だから、わたしもせんぱいの事強く言えないんですよね・・・」

 

 

「すまん、いろは。俺は結婚費用で申し訳ない思いでいっぱいで

視野狭窄になっていた」

 

 

「もういいんですよ、こうして腹を割って話すことでわたしたちにとって

最適解を導ける道が見出せそうですから」

 

 

「って、小町がニヤニヤしてたのって・・・まさか?」

 

 

「お察しの通りです。小町ちゃんが気を使ってそれとなく監視してたんです」

 

 

「あー納得だわ・・・・」

 

 

「でも、小町ちゃん曰く『ほとんど何もしなかった。見守るだけだった』って」

 

 

「なんつーか、俺ら小町に一生頭上がらなくないか?」

 

 

「本当ですよね・・ふふっ」

 

2人して苦笑いしつつも、常にわたしたちを見守ってくれていた

キューピットに

 

 

(ありがとうね小町ちゃん、ずっと応援してくれて・・・)

 

 

「あ、そうだせんぱい。話それましたけど、今度からちゃんとお互い話合いましょう?」

 

 

「今回のすれ違いの教訓ってことか」

 

 

「そうです!今まで付き合ってきた絆がようやく結実しましたけど

これからずっと一緒に歩んでいくんですから、言うべき事はちゃんと言うべきと思うんです」

 

 

「確かに、それを言われると言葉もないんだよな」

 

 

「それはこっちもです。親からのプレッシャ-をせんぱいに直ぐに言えずじまいでした。

プロポーズしてくれたから結果オーライでも、これからが長いんですから」

 

 

「おまえ、本当すげぇな。今ある幸せよりもう前を見据えてる」

 

 

「当たり前です!あなたを支え続けると誓ったんです。

ぶつかり合って理解しあえるって。これまでだって。今回も。

そしてこれからも」

 

 

ガシガシとちょっと強めに頭を撫でられる

 

 

「ああ、ちょっと、髪のセットが乱れちゃいますよ~

ってせんぱい・・・・?泣いてるんですか・・・?」

 

 

「いや、改めて実感してるだけだ・・・」

 

 

「何をです?」

 

 

「恩師の言葉だ」

 

 

「恩師って平塚先生ですか?」

 

 

「ああ、俺に本物とは何かを教えてくれた先生だ」

 

 

「・・・・!平塚先生だったんですか」

 

 

「そう言えば、話したことなかったか」

 

 

「是非聞かせてください。どのように教えてくれたのか」

 

 

「時期的にあれはいろはが生徒会長になってからのクリスマスイベントだったな。

ビジョン不足で遅々として進まない、形が集約出来ないといった八方塞がりの状態で

相談したんだったな、確か」

 

 

「う・・・お恥ずかしい限りで」

 

 

「それで考えるべき点を間違えない事を言われたよ。その時、何故傷つけたくないかを

大切なものだから、傷つけたくないと」

 

 

「・・・!」

 

 

「その当時の対象が奉仕部だったんだけどな。でも突き付けられるように言われたよ

『人間は存在するだけで無自覚に傷つける。生きていても、死んでいても傷つける

関わっても関わらなくても傷つくかもしれない。必要なのは自覚だ』とね」

 

 

「・・・・」

 

 

「『誰かを大切に思うことはその人を傷つける覚悟をすることだ』と」

 

 

「つまり、せんぱいが今回旅行に誘ったのは覚悟をしたってことなんですね。

このまま、結婚費用が溜まるまでプロポーズをしないままでは溝が深まってしまって

更に傷つけてしまうって」

 

 

「そうなるな。話にはまだ続きがあって踏ん切りがつかなかった俺にこう言ってくれて

覚悟が出来たんだ。

『今しかできない事、ここにしかないものがある。今だよ』って

『考えてもがき苦しみ、あがいて悩め。そうでなくては本物ではない』と」

 

 

「・・・なんていうか、凄いですね・・・・・

先輩が心から恩師と慕う気持ちが分かりました」

 

 

「全くだよ、あの人がいなかったらどうなっていたか。

未だに迷い、間違っていたかもしれない。

こうして未来予想図を語り合える事なんてなかったかもしれない」

 

 

「わたしもせんぱいに影響されなかったら、偽物や欺瞞ばかりの人生だったかもです」

 

 

「・・・いろは。帰って両家の挨拶が済んだら、平塚先生に報告に行こうか」

 

 

「そうですね、わたしたちの指針となってくれた人に感謝の言葉を」

 

 

 

 

「いや喫緊の問題は、両家の挨拶があった」

 

 

「私の家もせんぱいの家も仲は良好ですけど?何かありましたっけ?」

 

 

「ビジョンだよ。ビジョン。それを考えて提示なしには納得はしないだろ」

 

 

「あ、なるほど。せんぱいが抱えててた結婚式費用、それをまず行わないと仮定すれば

その費用は新生活へと回せますね、それで大分楽になる筈です。費用分担割合も

言えばその辺りも話し合いで調整出来ますね」

 

 

「っていいのか?式は・・・?」

 

 

「言ったじゃないですか?最優先は何かを決めてさえいれば、根底が揺らぐことはないって」

 

 

「・・・そうか」

 

せんぱいから自然な笑みが漏れる。

憑き物が落ちたかのような、柔らかな表情に思わず見惚れてしまう

 

 

「その辺りも両家に話して相談しましょう。基本線はこれで。何かしらの形でウェディングドレスを着る事が出来れば構わないって」

 

 

「それなら、年賀状用とかにデータを貰うとかもあるんじゃないか?」

 

 

「ふむふむ、それで話してみましょう。もっとよい知恵が出るかもしれませんし」

 

 

時刻を見ると23時を回っていた。

 

 

「せんぱい、もうこんな時間ですよ?」

 

 

「明日も6時起きだから、そろそろ寝るか」

 

 

「あの・・・今日もいいですか?」

 

 

「断っても勝手に入り込むんだろうが」

 

 

 

「えへへ。お邪魔しますね♪」

 

 

昨日も暖かかったけど、幸せに包まれてる分今日の方がより暖かいなぁ・・・

布団というのもあるのかもしれないけど

 

 

「あ、ごめんな。いろは」

 

 

「?何がです?」

 

 

「婚約指輪用意してなくて・・・・」

 

 

「いいんですよ、これもわたし達らしいじゃないですか

期せずして婚前旅行のようなものになりましたし」

 

 

「まさか、この旅でプロポーズになるとは思わなかった」

 

 

「わたしも意図を読み切れてなかったんでおあいこです」

 

 

「そうだな、話さなくても分かるなんて幻想とはよく言ったもんだな」

 

 

「かつてのせんぱいの言葉でしたね。でもお互い腹を割って話せたことで

分かり合える絆が確かに築けていた。わたしはそれが何よりも嬉しいですよ。

それにわたしがこんなにスキンシップしちゃったのは歯止めが

かからなくなっちゃったからですもん・・・」

 

 

「・・・そうなの?」

 

 

「やっぱり分かってなかったんですね?」

 

 

「今まで以上にとは思ってたけど」

 

 

「カシオペ〇でのサプライズのせいですよ。あんなの予想できるわけないじゃない

ですか・・・。あれで抑えきれなくなっちゃったんですから」

 

 

「完全に誤算だったわ。今日の話をちゃんと切り出せるようにするには、

機嫌を損ねないようにしなきゃならんし。かと言って邪険にも出来なかったし」

 

 

「乙女心ってのは難しいんですよ?せんぱい♪」

 

 

「制御しようと思った俺が間違ってたよ、大火傷したからな・・

さっきもらしくもない事する羽目になったし」

 

 

「でも嬉しくなかったですか?」

 

 

「そりゃまぁ・・・・・・嬉しいにきまってるが、人目があるところは遠慮したい」

 

 

「言質とりましたよ?じゃぁ2人きりの時は正直になるってことで」

 

 

「俺のキャラじゃねぇ・・・むしろ気持ち悪くない?」

 

 

「卑下しないでください。わたしは愛情を感じていたいんですよ?

言葉と行動と両方で」

 

 

「意外と寂しがり?」

 

 

「違うんですよ、愛情も話さなくても分かるものじゃなく

ちゃんと言葉で欲しいんです!米沢でくれた感謝と同じように」

 

 

「ああ、そういうことなのか」

 

 

「そうです!」

 

 

「・・・努力はする、照れくさい」

 

 

「慣れてください、これからの円満な生活のために」

 

 

 

「なんていうか、もう尻に敷かれてる気がする・・・」

 

 

「せんぱいがマウント取れると思ってたんですか?」

 

 

「いんや、今でも振り回されてるか、むしろ必然だったのかも。

我が家でも親父尻に敷かれてるし」

 

 

「あ、わたしの家もそうかもです」

 

 

「その方が上手くやれてるかもだな」

 

 

「むしろ相性がバッチリなんじゃないですか?わたしたち」

 

 

「そうでなきゃ、プロポーズなんぞしてない」

 

 

「おおう、不意打ちズルいですよぉ・・・」

 

 

「やられてばかりではつまらんから、一矢報いてみた」

 

 

お互い笑みをこぼしあい、未来の予想図がこんなものなのかを

夢見つつも眠気が襲ってくるのが分かる

 

 

「せんぱい、落ち着いたら結婚指輪も買いに行きましょうね」

 

 

「ああやることは山積みだな」

 

 

しばし、無言の時間が流れる

 

 

「せんぱい、わたしの手握ってください」

 

 

「ん?こうか?」

 

 

せんぱいの右手をわたしの左手で掴み、指の間を指を絡ませて恋人繋ぎの状態に

 

 

「今日はこのまま繋いで寝たいです・・・」

 

 

「・・・ああいいけど?」

 

 

「あと優しいキスを下さい」

 

 

・・んっ・・・

 

いつもの貪るような荒々しいキスと違う

ガラスを扱うかのようなキスをしてきた

そして名残惜しむように顔を離した

 

わたしは今多分凄くゆるい顔をしてるんだろう

プロポーズされた余韻と手の温もり、そしてキスで

 

こんな夜にこれ以上の言葉は無粋だと思う。だから一言だけ

 

 

「おやすみなさい、せんぱい」

 

 

「ああ、おやすみ」

 

 

 




今回終わりまでいろは視点でお送りしました
旅行編は帰るまで終わりませんよ?


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第十五話 旅行4日目 ~新潟駅へ~

お待たせしました。若干アレな内容なのは
2人がそういう間柄ということでご了承ください


AM5:50 〇〇〇〇の宿

 

 

スマホのバイブレータ音で俺は目を覚ました。

この宿は6時から大浴場が開いているとのことなので

朝風呂も浴びようと思い、この時間に起きることにしたのだった。

 

横をみるとまだいろはが幸せそうな顔で眠りについていた。

本当に感慨深いものだ・・・・・

付き合い始めの頃、人の好意というものに慣れてなかった。

無論、それまでの交流も、ただの利用しあう関係と割り切って考えていたのにだ

いつからかコイツの純粋の思いが7年以上の年月を経て

まさかこの俺が「失いたくないからこそ、今踏み出そう」なんて行動に至らしめた

 

 

高校当時では黒歴史認定する程の出来事だったが、今思えば一歩踏み出せてよかったと思う。

今でも交流のある奉仕部の2人、雪の下に由比ガ浜。本音で話し合える得難き親友、

それに天使戸塚。そして今や婚約者である「一色いろは」

 

ぼっちだった筈の俺が、中学時代までの俺が人に恵まれるとは本当に分からないものだ

高校入学当時の俺が今の自分を見たら、「ありえん」「別次元の俺」と言い出しかねないだろうな

 

そんなことを思いつつ、洗面台に立ちうがい・顔洗いを済ませて

和室部屋に戻るといろはも起きていた

 

 

「あ、おはようございます・・・」

 

 

にこやかに挨拶をしてくる

 

 

「ん、おはようさん。落ち着いたらひと風呂浴びに行くぞー」

 

 

「せんぱいも大概温泉好きですよね」

 

 

「そりゃシャワー浴びるよりは風呂に浸かるほうがいいに決まってる」

 

 

「せんぱい・・・実を言うと、この旅行で抱かれるのちょっと期待してたんですけどね・・・」

 

 

顔赤くしながらこっぱずかしい事をいう恋人に、こちらまで顔が熱くなっていくのを

自覚していくのを感じる

 

 

「・・・・今、朝っぱらからそれを言うか」

 

 

「だってせんぱいから求めてくるのって、そう多いわけじゃないですか」

 

 

「そりゃまぁ、あれだ、その・・・・」

 

 

「何ですか?ちゃんと言ってくれないと分かんないですよー?」

 

 

「くっ・・・・がっつき過ぎると幻滅されるかもしれんだろうが」

 

 

「せんぱいってほんと、草食系ですよね。

そういうところも好きなんですけど」

 

 

蠱惑的な笑みでこちらを見つめてくるいろは

 

 

「何なの、おまえ。俺を萌え殺すつもり?」

 

 

「いえいえ、そんな恐れ多い」

 

 

「どうだかな・・・てっきり帰ったら清算を求めてくるんだろう?」

 

 

「その通りですよ!最近ご無沙汰なんですから・・・」

 

 

「・・・・・落ち着いたらな」

 

 

「言質とりましたよ?忘れませんからね?」

 

 

「昨日からそればっかだな、全く」

 

 

「女として求められてない、手を出されないってのはちょっと複雑なんですよ?

倦怠期まっさかりな心境ってこんな感じなのかと思って・・・

でもプロポーズされたから心は満たされてはいるんですけどね。

やっぱり何と言いますか・・・・」

 

 

「そりゃ、こっちは大事な話し合いをするための旅行なのに、誘惑に負けて

たら馬鹿丸出しじゃねえか。こっちは自制するだけでなく、その上ご機嫌取り

しなきゃならんかったのだぞ?」

 

 

「ほんと、せんぱいって理性の化け物ですよねー。

行為の時だって、避妊具を毎回欠かさないんですから」

 

 

「そりゃ、一色家の一人娘なんだから。親父さんが溺愛してるのは想像に難くないだろ?

筋を通さないと、許してくれそうにないだろうが・・・・・」

 

 

「んーそういうもんですかね?」

 

 

「ちなみに俺の場合、小町が『授かり婚します』なんて言い出したら

相手の男を一発ぶんなぐってしまうまである」

 

 

「うわぁ・・・シスコン甚だしい・・・・」

 

 

「とまぁ、溺愛してる家族の情は決して侮ってはいけないわけだ」

 

 

「考えすぎかと思いますが」

 

 

「それはさておき、もう6時過ぎてるから大浴場行くか」

 

 

「わたしまだ洗面所使ってないですよ?」

 

 

いろはが洗面所を使い終わるのを待って部屋を出ることに

その前に不意打ちでいろはの唇を奪い、たっぷりと舌を絡ませあい堪能した。

 

 

「…ぷはっ、はぁ、はぁ・・・」

 

 

「…はぁ、今はこれで我慢してくれ」

 

 

「・・・はい。せんぱいから求めてくるまで我慢してあげます」

 

 

お互い顔が茹蛸状態なこの絵面は相当に滑稽なのではないかとは思ったけど

いろはの承諾が得れれば安いものだと考えてしまう俺も、相当にアレなのだろうな

 

 

大浴場で寝汗をかいた体を洗い、身をリフレッシュさせ

前日タクシーを使った際に頂いたティッシュ記載の番号でタクシーを呼び、

7時には旅館を出ることにした。

 

 

(まさか、ここでプロポーズすることになるとは・・・世の中本当に分からないもんだな

でも、あの時をおいていつするんだって場面だったし、後悔など微塵もないな)

 

 

そんなことを思いつつも宿玄関前に待機しているタクシーに乗り込み

駅まで向かうことになった

 

 

天気はみぞれ混じりの雨となっていた。にも拘らず駅周辺まで行くと積雪もないのに

スプリンクラーが作動していた事に、運転手さんに聞いてみると

 

 

「市の予算的に厳しいんですよ。センサーが高額になってしまうから」

 

 

と世知辛い話を披露されることとなった。

政治って本当にままならないのだなと改めて実感した

 

 

      村上駅  AM7:15

 

 

乗る電車のおよそ10分前に到着し、コンビニで軽い朝食として

おにぎりとサンドウィッチ、マッ缶の代わりにエメマンを買って電車内で

食べる事とした。

 

クロスシートの座席を確保し、新潟駅までの1時間ー道中のんびりと食べつつ

流れゆく山の車窓を楽しんでいた

 

 

「んー流石に朝早かったからちょっと眠いかもです」

 

 

「俺はコーヒー飲んでるからな。問題ない」

 

 

「せんぱいは日常的に飲んでるじゃないですか、効果あります?」

 

 

「ま、会議の前に飲むと睡魔には襲われないな」

 

 

「むしろカフェイン耐性があると思うんですけどねー」

 

 

      新潟駅  AM8:40

 

 

(なるほどな・・・・)

 

 

「せんぱい?一旦、駅の外に出るんじゃないんですか?」

 

 

「いや、以前ニュースで新潟駅の改築工事を見たことがあってな」

 

 

「そういえば、新幹線と在来線のホームが同じですね。

新幹線からの乗り換えがスムーズで楽でいいです。

年配の方には良さそうです」

 

 

「1階にまだ在来線のホームがあるから完成ではないらしいがな。

駅を出る前に、ちょっと見に行っていいか?」

 

 

「せんぱいも物好きですよねー」

 

 

「何言ってんだ?千葉駅の改良工事の過程を見るのも楽しかったろ?

完成したらどうなるかワクワクしたろ?下手に遠出するよりは身近なデートスポットに

なったのは嬉しい誤算だったしな」

 

 

「出不精な筈なせんぱいが、変わっていく過程を見るのもこちらも

楽しかったですけど」

 

 

「え?そうなん?」

 

 

「高校の時はめちゃインドアでしたよ?家デートも多かったんですけど

でもせんぱいのお母さんと仲良くなれたのは良かったので、それはそれで」

 

 

「俺の母さん、すぐに気に入ったもんな、いろはのこと」

 

 

「付き合うようになって、ご挨拶したら『今日はお赤飯ね』って言い出しましたからね。

あれでせんぱいが家庭内でどう思われてるか分かっちゃいました」

 

 

「基本俺に対しては放任だからな、彼女が出来るなんて思ってなかったんだろ

小町からは聞いてたんだが、実際に見て『息子には勿体ない』とでも思ったんだろうな

あざっとい部分が無ければ、母さんにも魅力的に映ったんだろうよ」

 

 

「ふふん、つまりは当時の魅力的なわたしに磨きがかかりそして今や

プロポーズをしないではいられない存在になっていた。

せんぱいの中ではそういうことなんですよねー?」

 

 

「人前でそういうことを言うな・・・恥ずかしいだろ」

 

 

そんなやり取りをしつつも、3階ホーム下の電光掲示板が千葉駅と同じ事や

待合室にコンセントがあり、スマホの充電が出来る事に有難く思ったり

1階のホームが完全な行き止まり方式で昔を偲ばせたりと

次に乗る電車まで退屈せずに待つことが出来たのだった。

 




今後の更新としては週1か2ペースで書ければと思っています


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第十六話 旅行4日目 ~郊外の温泉地へ~

旅行ももうじき終わりとなります


      新潟駅  AM9:15

 

改札口外でそれぞれお土産を見繕い

今日の日帰り温泉の目的地に向かう電車に乗ることとなった。

 

 

「せんぱいが買った土産って『ぬれおかき』なんですね?」

 

 

「ああ、銚〇電鉄の『ぬれ煎餅』に連想してしまってな」

 

 

「以前、犬吠崎行った時に買ったんでしたよね」

 

 

「京葉工業地帯の穏やかな東京湾もいいけど

荒波の太平洋は迫力あったろ?」

 

 

「結構風が吹いてて大変でしたよ?」

 

 

「風に煽られるいろはを見るのも中々絵になったよ、今思えば・・・な」

 

 

「なんですか?それ?新たな一面を見て惚れたとか言うんですか?」

 

 

「・・・端的に言えばそうなる」

 

 

「わ。せんぱいがあっさり認めた・・・」

 

 

「何だよ?お前が昨日ああ言ったからだろう。それとも言って欲しくないの?

俺も恥ずかしいから言わないでいいならこっちは楽だけど」

 

 

「わー待ってください。素直に言ってくださいよー」

 

 

「精神力削られるから少しずつ慣れさせてくれ・・・

んで、いろはは『南蛮えび煎餅』を買ったのか。

無難なところを攻めたな?」

 

 

「新潟県は米どころなので。ご当地モノをと思いまして。

柿ピーとかで有名なあの製菓会社もこの県ですもんね」

 

 

「確かにな。日本酒も有名だけど荷物が重くなるから流石に厳しいわな」

 

 

発車2分前に電車に乗り、改めて目的地を確認することに

 

 

「これから行くのは1時間程度で着く岩〇温泉だ

事前に2つの日帰り入浴を候補に選んでいる

まずは駅に近いここに行って、次はこっちだな。

観光拠点道の駅っぽいのが近くにあるからそこで食事って流れで考えている」

 

 

「今度のは山間でもなく都会に近いからちょっと違う感じですね?」

 

 

「入浴は11時だからちょっと待つかもしれんけどな」

 

 

「時間が押してしまうよりはマシだと思います」

 

 

「うむ」

 

 

温泉の最寄り駅からはバスが出ているが、この時間帯は出ておらず

やむを得ずタクシーを使う事に。

一つ目の温泉宿を告げると、そこの宿は岩盤浴があるとのクチコミを頂き

県外からもそれ目当てで来る人が多いとの事だった。

一応下調べで存在は知ってるがどうしたもんかね・・・?

 

 

     ほてる〇〇     AM10:45

 

 

明治創業だけあってホテルの規模としては、団体宿泊も受け入れ可能な三ツ星ホテルというだけあって

三が日であっても人人人、がごった返しておりフロントには常にチェックアウトの宿泊客で

いっぱいだった。予想通り早く着いてしまったので、ロビーにあるソファで寛いで待つことにした

 

暇つぶしに備え付けのスポーツ新聞でも見ることに

昨日催された箱根駅伝の結果が載っているな・・・・・

ふむ、あの大学が往路優勝だったのか、今日の結果次第では復権あるかもしれんなー

 

 

程よく時間を潰してると11時を過ぎたので日帰り入浴の申請を出すことに

話を聞くと岩盤浴は2000円とやや高めだったので遠慮することにした。

これだけ広いホテルだから温泉も期待出来るであろう・・・と。

 

 

結論からその予想は外れていなかったと言っておこう。

日本庭園に面した露天風呂では緑を眺めながらのんびり入浴、

内風呂にはジャグジー、寝湯、全身を大きく広げて入浴出来るのって

余りないかもしれん。

更にサウナもあったので何回かローテションで行き来して相当リラックス出来たとは思う

・・・・あいつも気に入ってくれたらいいけど

 

 

         AM11:45

 

いろはと合流し、次の日帰り入浴のホテルへと移動することに

どうやらいろはも気に入ってくれたようで、移動中もずっとご満悦のようで

こちらも知らずのうちに顔が綻んでいた

 

 

約5分程で〇〇〇〇に到着した

丁度観光バスからの団体客がぞろぞろと旅館に吸い込まれていくのを

目の当たりにした。入り口横には団体記念撮影の看板が置かれていた

看板にはこの温泉地のPRキャラクターが描かれており、何処となく愛敬をそそられた

 

 

「三が日から、団体で温泉観光してる人多いもんですね・・・・」

 

 

「さっきの旅館も大概過ぎたが・・・な。さしずめ、

ここは昼食と温泉で立ち寄った感満載だな」

 

 

「せんぱい、昼食ここでも良かったですよ?」

 

 

「いやーここも老舗旅館で高いし・・・日帰り温泉でのクチコミが上位ってことで一つ。

予定通りあそこで食べようぜ。ああいった所の味が良かったりするしな」

 

 

「何気に貧乏性ですね・・・・」

 

 

「社会人3年目に多くを求めるなっつーの」

 

 

温泉は下調べで上位だけあって広々としており、

大きな岩を使ったダイナミックな浴場だった。

やや温めの温度でじっくりと浸かっていられそうだ。

露天風呂も同様に岩風呂だった、やや狭かったがこの時間は俺だけなので

貸し切り状態で満喫出来た。

旅の最後の温泉、いい形で〆ることが出来そうだ

 

 

~いろは視点~

 

 

せんぱい曰く、旅行で訪れる最後の温泉郷とのことで

わたしも目一杯満喫するつもりで楽しみにしていた

 

最初のほてる〇〇で入浴開始時間までロビーのソファーで

のんびりしながら、フロントの様子を見ていた。

今まで立ち寄った温泉・ホテルと違って格式ある由緒ある

佇まい、まるで都内にもある有名ホテル引けを取らない

と感じられて、期待は高まるばかりだった。

 

 

11時を回って受付開始になり、早速大浴場へと向かう事に。

この温泉地で唯一の岩盤浴が楽しめるというウリがあったけど、

せんぱいと話し合い、パスすることにしました

流石に普通の入浴の倍は高いもんね・・・・

 

10分後、ジャグジーでくつろいでいるわたしがいた

日頃のデスクワークで凝り固まった体がほぐされる~

 

 

(あああ~これたまらないわ~)

 

 

こんなゆるゆるになってる顔は、流石にせんぱいにも見せられるものじゃない

サウナに水風呂と揃っていたけど、わたしはこれで充分安らぐわ~

まだ24歳なのにこんなにハマってしまうなんて、まずいのかしら?

 

時間も忘れてただ癒されるばかり。露天風呂に入ってからの風情も楽しむのも

忘れてしまう程に。

 

大浴場から上がってほてるを後にした移動中も、わたしは終始機嫌がよく

最後の温泉も満喫させてもらうつもりだった。

 

 

〇〇〇〇

先程のほてると違って、バスの団体客以外の人はあまり見受けられなかった

こういう所で昼食もいいんじゃないかって、せんぱいをけしかけてはみたものの

あっさりと却下されてしまった。むぅ・・・ムードを楽しみたかったのに~

 

 

ここの温泉はどうやら入れ替え制みたいだ。わたしが今入浴中のこの湯が

木のぬくもりを感じさせる大きな丸太の露天風呂で、

自然の開放感を感じることができる趣きのある湯船

 

とあり、せんぱいの方が

大きな岩を使ったダイナミックなお風呂というのが特長みたいだ

 

あとわたしがそそられたのは貸切露天風呂の存在だ

今が冬ではなく暖かい季節だったらイチャイチャ出来たのに・・・

一昨日みたいにただ寄り添うだけでなく誘惑し放題だったのに・・・

と妄想をふくらましてみたりするが、帰ってからの確約はとってあるので

そっちに期待しよう、ふふん。

それに、旅行に誘ってくれたお礼も最後にしてあげよう、

いまのわたしに相応しいとびっきりの♪

 

 

      ~新潟市〇〇観光施設~

 

最後の温泉を存分に楽しみ、ここに昼食を食べに訪れていた

 

 

「せんぱい、本当~にラーメン好きですよね・・・・」

 

 

「俺のソウルフードにケチ付けんな」

 

 

「今度はとんこつラーメンですか…」

 

 

「お前はおにぎり定食か2つで夜までもつのか?」

 

 

「いざとなったら買い置きしたお菓子でも食べますよ

折角のコシヒカリ食べておきたいので」

 

 

「ん、そうか」

 

 

お互い食べ終えて、施設内をぐるりと回ってみることに

広場スペースでは鉄道模型を走らせてそれを興味深そうに

子供たちが眺めていた

 

 

「せんぱいも昔はああだったんじゃないですか?」

 

 

「小学校低学年くらいまではそうだったかもな・・・」

 

 

「可愛らしいじゃないですか、目を輝かせて鉄道模型を見ている姿」

 

 

「何言ってんだ?今の俺から想像しても引かないか?」

 

 

「あら?まだそこまで目死んでない頃なのでは?」

 

 

「いやどうだったか、覚えてないんだが」

 

 

「それだったら、両親の挨拶の時に聞いてみましょう!

せんぱいのお母さんなら間違いなく知ってるでしょうし」

 

 

「止めてください。本当勘弁してください。人の黒歴史弄らないでください」

 

 

「えー?純粋な頃のせんぱい、知ってもいいじゃないですかー?」

 

 

こうやって未来をはせてせんぱいを弄ったり、素直になったせんぱいの

カウンターに赤くなってしまったり、傍目にはバカップルなのだろうけど

わたしたちは幸せでいられるーそう今までと違った形で

 

 

お互いが分かりあおうと努力していく限りはーそう信じて

 

 



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第十七話 旅行4日目 ~帰郷~

        13:30

 

 

バスの発車時間になり俺たちは観光施設を後にしていた。

 

 

そしてほどなくしてやってきた電車に乗り、最初の乗換駅まで来たまではよかったのだが・・

 

 

「次の電車まで1時間・・・か」

 

 

「駅前もそれほど巡る程ではなさそうですから、

暖を取れる待合室でのんびりしましょうよ?」

 

 

「確かにそれが懸命と言えるな」

 

 

「ではせんぱい、もし寝てしまっても発車時間が近づいたら起こしてくださいね?」

 

 

「・・・・・おい」

 

 

「エスコートはわたしを千葉まで送るまで終わりませんよ?

そう言えば、18切符で何処まで一緒に行くんですか?」

 

 

「そんなの千葉駅までに決まってるだろ」

 

 

「え?そうなんですか?」

 

 

「この場合、俺がJ〇で行けるいろはの最寄りまでってのが筋だろ」

 

 

「・・・分かってるじゃないですか、心憎いまでに」

 

 

「お褒め頂き光栄だ」

 

 

「ぷっ・・・・」

 

 

「フン・・・・」

 

 

「ではお言葉に甘えさせていただきますね?」

 

 

「あいよ、今日中に帰れれば問題ない」

 

 

そして5分も経つ頃、隣のベンチで見事なまでに船を漕ぐいろはの姿があった。

ただ寝ているあいだも俺の手を繋いで離さないでいるのには、思わず笑みをこぼしてしまうまでであったがちなみについ俺も、ウトウトとしてしまったのはいろはには黙っておこう

 

 

そして15:30になりようやく帰郷への道のりが始まった。

東三条、長岡と乗り継ぎを果たし。ここから水上行きの最終電車に乗ることとなった。

 

 

 

「最終電車」なのである。まだ夜とは言えない時間なのにだ。16:32発の電車が最終電車。

関東首都圏に住んでる身からしたら、とんでもないダイヤだ

 

 

「まだ17時にもなってないのに最終電車って・・・」

 

 

どうやらいろはも同じ事を考えていたらしい

 

 

「全くだな、これを逃したら新幹線に乗らざるを得ない」

 

 

「もしその場合、何処まで乗るんですか?」

 

 

「高崎までだな。でも最悪、越後湯沢まで鈍行は出ているから、そこから高崎の方が安く済むだろう。高崎からなら割と本数出てるからどうとでもなる」

 

 

「なるほど・・・頭の回転が早いですね」

 

 

 

「想定しうるケースを出しただけだ」

 

 

「でも今日も運がいいですよ?ほら電光掲示板見てください」

 

 

「山形線に遅延?人身事故か・・・。ここから先遅れないように祈っておくか」

 

 

「順調に行けば、23時までには千葉駅でしたっけ?」

 

 

「そうだ、水上が18時30分くらいの乗り継ぎで。高崎が20時くらいってところか」

 

 

「夜の食事どうしましょう?」

 

 

 

 

「高崎で何かしら買おう。弁当を売っている駅だ。無かったらコンビニで軽食

でも買うとしよう」

 

 

「りょーかいです」

 

 

水上までの道中、それまで無かった雪景色が浦佐を過ぎる頃から見え始めたものの

辺りは真っ暗となり、そして県境の清水トンネルを潜り抜けると

大晦日以来の関東ー群馬県に入っていた

 

そして水上から乗り継ぎ、高崎行きへ。それまでの2両から倍の4両となり余裕をもって座席を確保出来た。

 

 

          高崎駅

 

水上からおよそ1時間。高崎駅に到着した。乗り継ぎを含め長い間座っていたせいか

いろはも、やや疲れが見えるようだった。

 

 

(ここからアレを利用するのも手ではあるか・・・)

 

 

いろはがトイレから戻ってくる間にキヨスクで「とり飯弁当」を2つ確保しながら

そんなことを思っていた

 

 

「グリーン車・・・ですか?」

 

 

「ああ、総武快速線にもついてあるアレだ。SUICAで事前にグリーン料金を払っておけば

安く乗れるぞ。お疲れのようだから、東京駅までは楽していこう」

 

 

「休日だと800円なんですね。2時間近く乗ってるならアリですし、

普通車の座席はもう取れないでしょうね」

 

 

「弁当もグリーンでのんびり食えるだろ?」

 

 

そしてグリーン車の座席を確保し

 

 

「SUICAを座席上部にある読み取り部にタッチすれば、完了だな」

 

 

「今まで使ったことなかったから新鮮です」

 

 

リクライニングシートで座席を崩し、のんびりと食事を取り終わった後は、

またもやウトウトしているいろはを見守りつつ、流れゆく夜の夜景をただただ眺めていた

 

 

(ほんとうに幸せそうな顔しやがって・・・・)

 

 

いつからだろうか、この子があざといだけでなく愛おしく感じるようになったのは

付き合い始める前からだろうか、いや実際に始めてからだろうか、

本質を見抜けなかったのはまだまだ俺も未熟だったんだろうな。

ただ利用しあう利害の一致みたいな関係性だった筈の俺達だったのに

 

この子に大分毒されたと一言で纏めるとそうなるかもしれない。

俺が理論でかわそうとするとする上を行動により取られ続け

初めて見せるあざとくない表情ー心底嬉しそうな、はにかみ顔に魅了され

それまで避けてきた、いい言葉で言うと賢しいやり方は完全に潜め

小細工のない真正面から向き合う気高さをもった瞳。

生徒会長としてではなく、一色いろは個人として

惹かれてしまったのがこうなった原因なのだろうな

 

 

ぼんやりと思考に耽っていると荒川を渡り東京都まで入っていた。

上野、東京はもうじきか。そろそろいろはを起こしておくか

 

 

          東京駅

 

 

「ん~久しぶりの実家までもうじきですっ」

 

 

「お前よく寝てたな・・・・もう22時か、

この流れだと千葉には23時までには到着出来そうだ」

 

 

「もうひと踏ん張りですね、流石に座れないかもですけど」

 

 

「途中駅で空けばいいけどな」

 

 

総武快速線はそれなりに人が乗ってはいたものの船橋駅で

2人分の座席が空き15分だけだが、座ることが出来た

 

 

 

         千葉駅 23:00

 

 

千葉駅に到着し二人で有人改札口から降り、千葉モノレールの改札口までのんびりと歩く

 

 

「ようやく戻ってこれたか」

 

 

「お疲れ様です、せんぱい」

 

 

「お前もな、ってか結構寝てただろ・・・」

 

 

「せんぱいならちゃんとエスコートしてくれる信頼感ありますから。やるときはやる人ですし」

 

 

「そいつはどうも・・・。俺が乗り過ごすって可能性は考えないわけ?

総武快速線は千葉が終点だからいいものの、さっきの上野東京ライン直通電車は終点が小田原だからな?」

 

 

「でも新潟で1時間で待ちぼうけしてた時、せんぱいもお休みしてたじゃないですかー?

それで充分行けると思いましてー」

 

 

「・・・・・バレてたか」

 

 

「なんて言っても責任お化けですから、ちゃんと力抜く所を知ってるなら安心ですよ」

 

 

「(やれやれ・・・・)」

 

 

「それではせんぱい、ここまででいいですよ?」

 

 

「そうか、そっちから連絡くれるという流れでいいんだな?」

 

 

「ええ、今回の事全てわたしの両親に話して、そしてこれからの事を

話す時間を作ってもらいます。その日取りを連絡します」

 

 

「了解だ」

 

 

「せんぱいの家の方の障害が少なそうですけど」

 

 

「あーどうだろうな・・・?」

 

 

「(応援してくれた小町ちゃん、でもせんぱいを奪うわけだから・・・複雑かもしれないな)」

 

 

「あいつは多分、全部聞いてくるんだろうな・・・今日は帰ったら即寝たいんだけど」

 

 

「かもしれませんね。フフッ」

 

 

「ああ、それじゃまたな」

 

 

「待ってください」

 

 

咄嗟に袖を掴まされる

 

 

 

「え?まだ何かあるの?」

 

 

「今回の旅のお礼もしてないのに別れようとするなんて随分と薄情ですね?」

 

 

「俺は充分、してもらったと思うんだが」

 

 

「わたしはしていません!大人しく礼を受けてください」

 

 

「分かったよ。んで―― 」

 

 

その先は言えなかった。いや言わせてくれなかったという方が正しいのか

目の前に目を瞑ったいろはの顔が、俺の唇がいろはの唇に塞がれていたから――

その上、俺の背中に手を回されて強く抱きしめられていた。

俺も無意識に彼女の頭をぽんぽんと撫でていた。

 

 

「・・・・ふう、これがわたしなりのお礼です

言葉と行動。両方伴ってこそのわたしの本当の思い。

受け取ってくれてありがとうございます。わたしもまたこういう旅行したいです。

ちゃんと夫婦になったら家庭風呂で遠慮せずにイチャイチャ出来ます。

そういうの一度はやってみたいもので♪」

 

 

「人前でキスされるのも恥ずかしいんだけど、そんな爆弾発言も控えようね?」

 

 

「それでこそせんぱいです♪ストッパーがいるから安心出来るんですよ、わたし」

 

 

「コイツめ・・・」

 

 

「それでは最後に改めて挨拶を」

 

 

お互いすっと寄り添って

 

 

「せんぱい、またです。愛してます」

 

 

「いろは、俺も愛してるよ」

 

 

「あ、ちゃんと言ってくれた・・・・」

 

 

「ここは言わないといけないと思ったよ、流石にな。でないとリテイク要求されかねん」

 

 

「阿吽の呼吸ってヤツですね」

 

 

「ここは空気読まないとな(帰り遅くなりたくないし)」

 

 

名残惜しむようにその場を離れて

改札口を潜り階段を上っていくいろはを見送り終わった俺は、再びJ〇の改札口を

18切符で有人改札口を抜けて総武緩行線で幕張駅まで向かうのだった。

 

 

(一応小町にメールしておくか・・・)

 

 

TO:俺の天使 小町

 

今千葉駅を出たところだ。日付変わる前には着けそうだ

 

 

(これでよし)

 

 

FROM:俺の天使 小町

 

了解、待ってるよー(o^-')b

 

 

(なんだ?この絵文字?何の意味が?)

腑に落ちないまま10分程で幕張駅に到着し、もう遠くない家路をのんびりと歩く

 

 

(目立った遅れもなく無事に進んでよかった)

 

 

スマホの着信音が鳴り、内容を確認すると

 

 

FROM:いろは

 

無事に家に到着しました。

改めて誘ってくれてありがとうございました!('-'*ゞ

 

 

(ふむ・・・)

 

 

TO:いろは

おう、こっちももうじき到着だ。

温まって寝ろよ、おやすみ

 

 

さて家も目前だ、疲れたってことで、土産話は明日話すで誤魔化してとっとと寝るか

 

 

「ただいまー」

 

 

「あ、お兄ちゃん、ようやく帰ってきた」

 

 

「待ちかねたぞ、バカ息子め」

 

 

「さぁ、話を聞きましょうか、八幡」

 

 

いつの間にかトラインアグルを組まれて、包囲される俺

 

 

「な、何のことでしょうか?疲れたから、もう寝させて欲しいんだけど?」

 

 

「いろはお姉ちゃんからこんな連絡が入ったからには、本人から話を聞かないことには

寝かせるわけないでしょう?」

 

 

「そうだぞ、八幡」

 

 

「休みはまだ2日あるんだから、ゆっくり睡眠をとれば問題ないわ」

 

 

(まさか・・・・あいつ・・・!!)

 

 

冷や汗がダラダラ垂れていくのを自覚しつつ、小町から見せられたスマホには

 

 

FROM:いろはお姉ちゃん

 

先程、せんぱいに千葉駅で見送られました

婚前旅行凄く楽しかったよー(^∀^)

わたしからも今度話すけど

せんぱい視点での話も是非聞いてみてね~( ̄ー ̄)b

 

 

やりとりした時間軸を見ると、小町にメールをする前だった。

あの時、既に知っていたというのか・・・!!だからあんな絵文字を!

この場は取調室となっていたわけか!

 

 

「大体想像は付くけど、吐いてもらうよ、『婚前旅行』の意味合い(ニヤニヤ)」

 

 

「全く長かったな(ニヤニヤ)」

 

 

「大丈夫、コーヒー淹れるから。寝かせはしないわよ(ニッコリ)」

 

 

「(いろは~~~~!!!余計な事を!俺の睡眠時間返して・・・)」

 

 

そしてそれから数時間の間、根掘り葉掘り聞かれ、俺の精神が瀕死になったのは言うまでもない

 




これで旅行編、終わりです。
次回以降は結婚準備の話が始まります


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第十八話 家族に見守られて

会話文多めです。かなり悩みましたがどうぞ


<比企谷家>   

 

 

 

   1月4日 AM11:00

 

 

昨日、日が変わろうかという時間に帰宅した俺に家族の容赦ない尋問が待ち受けており

ようやく床に就いたのは夜中2時を回っていたと思う。

旅行の疲れもありぐっすりと寝れたようだ。

 

 

1階のキッチンまで降りていくと家族3人がホクホク顔でこっちを見ているのには

軽くイラっときたのだが

 

 

「おはよう、お兄ちゃん」

 

 

「ようやく男を見せたな、八幡」

 

 

「なんだか感慨深いわね・・・」

 

 

見守ってくれていた事にひとまずの感謝を述べる

 

 

「まぁ、なんだ。心配かけてすまん」

 

 

「いいってことよ!」ウインクしサムズアップして応える小町

 

 

「まずは両家の挨拶になるんだな?」と親父が聞いてくる

 

 

「ああ、いろはの連絡待ちだ。俺が一色家に挨拶するのが一歩目となる」

 

 

「それでいろはちゃんが、ウチに挨拶に来るのがその次と」母さんが確認する

 

 

「それが上手く済んだら、結婚指輪の予約。物件探しと生活用具の選定になるんだね」

 

 

と小町が繋げる

 

 

「と言っても、大学時代に使った家電をいくつか転用すればある程度はいけるかもしれん」

 

 

「大学2年次の時、1年間実家を離れて暮らした時のね」

 

 

「親父の勧めで何事も経験だと強制されたんだった」

 

 

「ま、いろはお姉ちゃんと付き合うようになってからは、多少は家事をやるようになったんだよね~どういう風の吹き回し?(ニヤニヤ)」

 

 

「いつまでも実家暮らしってわけでもないし。転勤で一人暮らしになるかもしれんから・・。

まさか追い出される事になるとは思わなかったんだがな」

 

 

「いつまでもスネかじりではいかんだろ、バカ息子。お前の為を思っての事だ」

 

 

「まぁ、今では感謝してるよ。あの経験があるから今度は落ち着いてやれそうだ。

もっとも同じ大学に入ったいろはがたびたび押しかけて来て、半同棲状態になったのは誤算だったんだが」

 

 

「えー今思えば楽しかったんじゃないの?」

 

 

「夫婦の予行演習と思えばいいのよ」

 

 

「いやまだ確定じゃないから・・・・」

 

 

「俺達は全く問題ない」

 

 

「ええ」「そうだよ」

 

 

「ま、すぐには連絡は来ないだろうから、のんびり待つかね・・・」

 

 

「改めて聞いておきたいんだけど、お兄ちゃん?

いろはさんを好きになって、プロポーズした要因を知っておきたい」

 

 

「・・・・・・今更聞くの?それ」

 

 

「だってプロポーズしたのって、お互い本音をぶつけ合って導き出せたからでしょ?」

 

 

「ぐぬぬ・・・・」

 

 

「ほらほら、小町達それ聞いて暖かく見送りたいんだから」

 

 

親父や母さんを見ると、まだかまだかと言わんばかりの笑みを浮かべて俺を見ている

これは話さないと解放されないパターンだ。

2時間も尋問しておいてまだ延長戦なのか、このS家族は!

 

 

「俺をちゃんと見てくれていた事」

 

 

「ただあざといだけなく、頑張り屋で向こう見ずなところ」

 

 

「そんないろはが男を侍らす所以外にも、嬉しそうにはにかむ顔に

強い意志をもった瞳をむけられて、それに魅了された事」

 

 

「卑下するばかり、逃げようとする俺にちゃんと向き合うようにと叱咤してくれた事」

 

 

「付き合ってから振り回されてばかりの日常も悪くないと思い始めていた事」

 

 

「大学に入ってから、何かと世話焼きないろはに感謝の思いしかなかった事」

 

 

「そんないろはと幸せになりたいという思いを抱き始めた事」

 

 

「最初から親の金に頼っては、いざという時に頼れないからまずは自分たちの力で生活したかった事」

 

 

 

恥ずかしかったが、長い間見守ってくれた家族には伝えないといけないという義務感で抑え込み

それらを話終えた俺は

 

 

「・・・これで満足か?これ以上話したくないんだけど」

 

 

「いや~・・・・・ごみいちゃんがこんなにべた惚れするなんて。

いろはお姉ちゃんには感謝しかないね!」

 

 

 

「引きこもりのバカ息子が・・・・」

 

 

「いろはちゃんがうちの義娘候補になってくれてよかったわ・・・」

 

 

「何度も言うけど、決定してないんだからな?全く・・・」

 

 

 

朝昼兼用の食事を終え、自室に戻り。昨日片づけきれなかった旅行の荷物を片付け終えた。

スマホで撮った旅行中の写真を見ながら、別れ際に言われた言葉を思い出していた

 

 

『わたしもまたこういう旅行したいです。ちゃんと夫婦になったら家庭風呂で遠慮せずにイチャイチャ出来ます。そういうの一度はやってみたいもので♪』

 

 

(そうなるのは、一色家の父親というラスボスの説得があるだろうに・・・・

でもそんな未来を馳せる位に楽しかったんだな。あいつ)

 

 

まだ眠気の残る俺はベッドに潜り、眠ることにした

 

 

 

____________________________________

 

 

2時間程深い睡眠をとった後、スマホを確認するといろはからのメール着信があった

気付かないほど寝入ってしまったのか・・・・・・・

 

 

FROM:いろは

 

改めて旅行お疲れさまでした!

両親にもお話済みまして、来週の連休の日曜日に時間を作ってもらいましたので

宜しくお願いします!(^人^)

 

 

 

ああ、とうとう来たな・・・ラスボス戦が

いかに何回かお会いして交際を認めてもらっていても

こればかりは膝が震える戦いだ

 

 

 

1階居間に降りていき、決戦の日を伝えた

 

 

「試練の時だね、お兄ちゃん」

 

 

「臆するな、素直に訴えていけ」

 

 

「吉報をまっているわ、八幡」

 

 

(ああ、行ってくる・・・!)

 

___________________________________

 

 

<一色家>

 

 

1月4日  AM10:00

 

昨夜、日付変わる前に帰宅したわたしは、「無事に帰ってきたか」と両親の出迎えを受けつつも

「詳しい事は明日話すよ、疲れたから」と逃げて、安眠を確保したものの

そして今日になり、朝食を食べた台所の席に座ったまま、今回の旅の話をすることに

 

 

カシオペ〇で「サプライズ」があったこと。雪景色を眺める中での露天風呂。

3日目の夜にお互いの本音を曝け出しあい、せんぱいがプロポーズしてくれて

わたしもせんぱいを支え続けると言った事。それを伝えました

 

 

「そう・・・・ようやく言ってくれたのね、八幡君は」

 

 

「ま、今言わずして何時言うんだという場面だな」

 

 

「?えーと、2人は予定調和というか、こうなることを分かってたの?」

 

 

「そりゃあ、彼の思惑を考えてればなんとなくね」

 

 

「彼が今まで言わなかった事を考えれば本気だと分かる」

 

 

「・・・よかった、母さんと父さんもせんぱいを理解していてて」

 

 

「何言ってんの?いろはが家に連れて来て、どれだけ思いあってるのか

目を見れば分かるわよ。それまでのあなたの目と違ってね」

 

 

「最初は何故こんな男をとも思ったがな、お前が変わったのは

明らかだったし。いい意味で影響しあってるのは見てるうちに分かった」

 

 

「それで、せんぱいとの挨拶の時間を作って欲しいんだけど、いつがいいかな?」

 

 

「来週の日曜でいいわよね?あなた」「ああ、それでよいだろう」

 

 

「分かった。せんぱいに連絡しておく」

 

 

「それでそれで、いろは。彼が来る前に聞いておきたいんだけど、

彼を好きになって、プロポーズを受けたのはどうしてなの?」

 

 

「え?ええ~~???」

 

 

「娘が嫁ぐのだもの、あなたも聞きたいわよね?」

 

 

「・・・そうだな、改めて聞いておくか」

 

 

 

___________________________________

 

 

 

「せんぱいはそれまでのわたしに靡くこともなく、素を曝け出したわたしを

拒絶することもなかった人」

 

 

「そしてそれまでのわたしをぶち壊してくれた人」

 

 

「下手に背伸びせずに等身大のままでいられる楽さ、心地よさ、それまでの私には

感じえなかったもの。それをもっと知りたいと思った。初めてだったから」

 

 

「生徒会の手伝いだったりとか、どうでもいい理由をつけて

せんぱいと関わる内に、せんぱいの家にお邪魔して知り合ったせんぱいの妹の小町ちゃん」

 

 

「世話好きだったり、媚びる行動が一切効かない理由の一端を知る事になって

漫才さながらの兄妹の掛け合いが羨ましいって思った」

 

 

「多分それが好きを自覚したきっかけだと思う。せんぱいの傍にずっといたいと」

 

 

「せんぱいを含めた雪乃先輩と結衣先輩の関係性が凄く素敵だなって憧れる一方で

お互いに惹かれてても言い出せないのは明らか。

後発であるわたしにはもう打って出るしかなかったわけで」

 

 

「告白してもあの面倒くさいせんぱいだから、逃げようとするのは目に見えてたから

逃げ道を塞いで、納得させるのは一苦労だったけどその甲斐あってようやく恋人同士になれた」

 

 

「恋人として付き合っていく中で何気ない気遣いとか自然な笑顔とか

見せられて、ドキドキしたりとか今までになかった思い」

 

 

「そして受験後には、毎日会うことが出来ない寂しさを自覚してしまう自分に戸惑いつつも、どうすべきかと迷ってもやっぱりせんぱいの傍にいたいという思いは変わらなかった」

 

 

「せんぱいは「だったら俺の受ける大学行ってみるか?この大学なら将来ある選択肢を少しでも広げられるだろうし。勉強のモチベーションも上がるだろう」と言ってくれた」

 

 

「何よりも、せんぱいが誘ってくれた事。せんぱいも一緒にいたいって思ってくれてた事が嬉しかった

直接は言ってくれない素直じゃない捻くれてる事も、それでこそだと思ったし」

 

 

「わたしもせんぱいと同じ大学に合格して、せんぱいが一人暮らしを始めて、

せんぱいの家で遊んだり、料理を作ってあげたりしていく日々を過ごしていく内に

こういう日常・・・悪くないなって。せんぱいもそう思ってくれるのかなって」

 

 

「大学で学ぶ内にやりたい仕事も見つかって、無事にその仕事に就けて充実した日々を送っていても

まだ言ってくれないのかな?でも急かして流されるままにというのは気が引けるから

待った方がいいのかなー?って思いはずっと持っていたよ」

 

 

「2人から言われるまでもなく、やっぱりせんぱいから言って貰いたかった」

 

 

「わたしが赴くままにアプローチして付き合う事にはなったけど

せんぱいの本当の思いがないままでは何処かで綻びが出てしまうから」

 

 

「だから、今回の旅で今まで言ってくれなかった理由が知れて本当に嬉しかったの。

それだけ本気だってこと。せんぱいだけの力でという覚悟。だけど、視野が狭くなっていた事。

それでしか応えることが出来ないと思ってた事」

 

 

「わたしはせんぱいと共に幸せであること。それが最優先であること。それさえあればもう迷わない。それに気付けたからこそ、この人を支え続ける。それがあの人の傍らでしたいことなの」

 

 

 

 

 

「・・・・そう。あの『自分磨き』と称して『外見磨き』ばかりに囚われてばかりのいろはが」

 

 

「いろはをここまで変えてた恩人であり、恋人か」

 

 

「改めて感謝しないといけませんね、あなた」

 

 

「む・・・来週次第だな」

 

 

 

「ふ、2人ともそんなに重く考えないで?」

 

 

「大事な一人娘なのよ?あなたがちゃんと幸せにならないと心配よ。ね?」

 

 

「ああ、その通りだ」

 

 

「ありがとう、母さん、お父さん・・・」

 

 

改めて家族の愛を感じて胸が熱くなり、涙腺が崩壊してしまった。

ダメだなぁ・・・一昨日あれだけ泣いてしまったのに・・・

 

 

 

 

 

 

 

気持ちが収まり、昼ごはんを食べ終えて自室に戻ったところでせんぱいにメールを打ちました

 

 

(来週ですよ、せんぱい・・・)

 

 

 




今後の更新について活動報告で、後程お書きしますので
目を通していただけると幸いです


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第十九話 一色家 ~託す思い~

自分には姉2人がいるのですが、2人が嫁ぐ際の面通しも和やかに進んでいました。
そして学校へ通うまで育った孫達をみる父や母の目が優し気なものを見て、
いろはの両親もこんな思いなのだろうと連想しつつ書き上げました



1週間経った3連休の中日である日曜日

 

 

俺は休日にも拘らずスーツに着込んでいた。

前日のうちに小町や母さんの監修のもと、結婚挨拶の手土産に相応しいものは

何か選ぶべく、千葉駅直結であるペリエ千葉に足を運び和菓子詰め合わせを買うことに相成った。

 

2人曰く「「ここで恥をかかせるわけにはいかない」」

と一文字も狂う事なく断言されたのはショックではあったが、

俺を思いやってのことと割り切ることにした。

 

 

そして、時刻は9:50

 

一色家まであともうじきの道のりを歩いていた。

心臓はバクバクと脈打ってるのが自分でも分かる。

 

一色家の一人娘であるいろはを奪おうとしている

あざとい部分を抜きにしても、ルックスがあれだけ綺麗な部類な女

父親からしたらどれだけ溺愛してても可笑しくはない

今日だけの挨拶で果たして許されるだろうか・・・・

いろはの受験勉強を教える名目で何度かお会いしてても

今日ばかりは死地だ・・・!!

 

 

ピンポーン

 

一色家のインターホンを押し、運命の時が来た事を実感しつつも

いろはが応答し中に入れてもらえることに

 

 

「せんぱい、時間通りですね!いらっしゃい!」

 

 

「ああ、お邪魔します」

 

 

「居間に両親が待ってますのでどうぞ、どうぞ」

 

 

そこには満面笑みのいろはの母であるしぐれさんと父である兼人さんがいた

 

 

「こちら手土産でお持ちました。どうかお受け取り下さい」

 

 

しぐれ「わざわざありがとうね。受け取らせて貰うわね」

 

 

兼人「立っていないで座り給え」

 

 

「失礼します」

 

 

(このひりつくような緊張感はなんだ・・・・?

さっきから兼人さんじっと俺を見ているだけじゃないか)

 

 

(な、なんて切り出していいものか・・・・・・)

 

 

しぐれ「八幡君、そんなに固くならずにお茶飲んで一息ついたらどうかしら?」

 

 

「お気遣いありがとうございます、頂きます・・・・」

 

 

(・・・熱いお茶でちょっとは落ち着いたかな。

いろはをチラリと見ると笑顔で小さく首肯してみせていた)

 

 

「今日は時間を作って頂きありがとうございます」

 

 

兼人「娘が頼んできたからな。旅行の話も一通り聞いてはいる」

 

 

「それなら、単刀直入に言わせて頂きます。いろはさんと結婚させて頂きたく参りました。

どうかよろしくお願いします」

 

 

俺にとって顔をずっと下げてる時間が無限にと思われたが

 

 

兼人「顔を上げるんだ。八幡君」

 

 

「え・・・・・・・?」

 

 

しぐれ・兼人「「むしろこちらからありがとうとお礼をいいたいくらいだ」」

 

 

「な、何故、お二人がお礼を?そんな大層な事は」

 

 

しぐれ「娘があんなに一途に一人の男を慕える相手に巡り合えたんだもの。

そういう話が出れば、純粋におくりだすつもりだったのよ」

 

 

兼人「高校に入るまで、外見磨きばかりしていた娘が何時からか変わったのは

分かったからな。悪い男に騙されてないか心配だったが、真剣に向き合っている

のは見て取れたよ。大学受験であんだけ目標に向かって漲らせた眼をしたいろはを

見るのは初めてだったからな。それに応える君も大したものだと思っていた」

 

 

 

「・・・・身に余る思いです」

 

 

兼人「それに、大学で一人暮らししている君の家に半同棲していただろう。

そういった意味では、信頼していたからこそ静観していた」

 

 

「・・・・え?いろは、友達の家にって言ってなかった?」

 

 

「・・・・ばれていたようです」

 

 

しぐれ「ふふ、あれだけ仲睦まじいのだから言葉の裏を考えれば丸わかりよ?」

 

 

「」

 

 

兼人「もし授かり婚で挨拶に来ようものなら、純粋に祝福は出来なかったと思うが」

 

 

「・・・・(やっぱりそう思ってたか)」

 

 

しぐれ「いろはを幸せにしたいからこそ、一線を踏み込まなかった思い。

その覚悟。確かに聞かせてもらったからこそ、八幡君にお願いするわ」

 

 

しぐれ・兼人「いろはは、面倒な娘ではあるけど大切な宝物。どうか娘を幸せにしてあげてやってくれ(下さい)」

 

 

まさか、しぐれさんと兼人さんに頭を下げられるとは思ってなかった俺は戸惑うばかりだったが

横にいるいろはからツンツンと脇腹をつつかれ我に返った

 

 

「恐縮です。いろはと一緒に歩んで行きます」と頭を下げ感謝を述べた。

 

 

24年も手塩を掛けて育ててきた愛娘を手放す思い、それは身を引かされる思いなのかもしれないと

想像していただけに、それ以上に幸せになると言い切った強い娘に育った感無量さ。

それほどまでに強い影響を受けたと思われている俺に託す安心感。

 

 

改めて、身が引き締まる思いを感じていた。

俺も将来、もし小町が結婚したらこの2人の境地に至れるのだろうか?

認めないぞと喚く醜態をさらすだけになってしまうのだろうか?

そんなことをふと思ったが

 

 

しぐれ「さ、折角来たのだから、八幡君からいろはの話も聞きたいわ」

 

 

「え?」

 

 

兼人「そうだ、出前ももうじき来るからゆっくりしてくれたまえ」

 

 

「い、いろは?聞いてないんだけど?」

 

 

「ごめんなさい・・・驚かしたいと言われたから口留めされてたの」

 

 

どうやら、すんなり終わってくれないらしい。

とことんお付き合いするしかないようだ

これもいい機会だ。ご両親とお話しすることは久しくなかったのだから

 

 

11時に出前の寿司が届き、宴が始まった。酒が入ってくるとしぐれさんから

「馴れ初め」だの「付き合い始めてからの心の変わり様」だの

尋問を受ける事になった。兼人さんも横でそれを聞いていて

「一目惚れだけでなく、ちゃんと振り向かせたか。わが娘ながらよくやったもんだ」

としみじみと呟いていたのが印象的だった。

先週も同じような目にあったんだけど、これも試練なのだろうか?ぐぬぬ・・・

 

 

「そういえば気になっていた事があるのですが、お聞きしてもいいですか?」

 

 

しぐれ「いいわよ?何かしら」

 

 

「お二人の左手薬指にあるべきものがないのですが」

 

 

兼人「ほう・・・めざといな」

 

 

しぐれ「これはね家事に邪魔になる度に外すのが面倒になったから付けなくなったのよ」

 

 

兼人「俺は指環が入らなくなってしまったからだな」

 

 

「・・・そういうことでしたか」

 

 

「せんぱい?何か思い当たる事でも」

 

 

「いや、単純な疑問だ」

 

 

兼人「・・・八幡君、一つ言わせてもらえるかな?

婚約指輪・結婚指輪、全ての夫婦にそれが必要なのかという疑問が浮かんでいるのかもしれないな。でも君達は、話し合うことで結婚式をあげないという選択肢を選ぼうとしてるのだから。

だから、それも君達でよく話し合うといい」

 

 

「・・・(見透かされたか)」

 

 

「父さん!それは・・・」

 

 

しぐれ「あなたたちがよく考え決めた決断なら、それを母さんは尊重するわ。

後悔のない選択をすることがどれだけ難しいか分かってるつもりよ」

 

 

「ご忠告ありがとうございます」

 

 

時刻は昼を大きく廻り、夕食もいらない位に腹が膨れていた

そろそろお暇を告げようかと思って席を立ったが

 

 

「せんぱい、帰る前にわたしの部屋に来てくれませんか、時間は取らせませんので」

 

 

「?ああ、構わんが」

 

 

いろはの部屋に入ると後ろで鍵をかける音が聞こえた

 

 

「なんで鍵を掛けた?」

 

 

「邪魔されたくなかったからですよぉ・・・」

 

そっと背中から抱き着かれて、懐かしむように語りだした

 

 

「この部屋で大学受験勉強に明け暮れた日々、せんぱいからの

スパルタに耐えて耐えて、ようやく報われて号泣した懐かしい記憶」

 

「そんな中でもちゃんとアメをくれたお蔭で乗り越えられた。

それを改めて振り返りたかったからなんですよ」

 

 

「そうだな・・・・お前模試の結果とか精神的にキツイ時とか、甘えてきたもんな」

 

 

「弱音みせたくなかったんですけど、やっぱり誘惑に勝てませんでしたねー今思うと」

 

 

「こっちがちゃんと引き締めないといけないから、程々にして離さなければならなかった

俺の理性を褒めたたえたい」

 

 

「ありがとうございます、おかげで深みに入りきらずに済みました。

今日はちょっとだけ甘えてもいいですよね?」

 

 

「断るわけないだろう?」

 

 

正面に向き合い、距離が0になり抱擁しあい唇を優しく啄むだけの接吻

だけど酒で酔ってるだけでなく、体中が暖かい気持ちに包まれているのを感じつつ

名残惜しむ様に体を離した

 

 

「じゃあ、そろそろ帰るわ」

 

 

「また明日です、そちらにお伺いしますね」

 

 

そう、酒の席で明日はいろはが比企谷家に挨拶に来ることに決まったのだ

取り急ぎ、小町にはメールでその旨を伝えてある

 

 

お邪魔しましたーと挨拶を告げ、一色家を後にする

(また明日・・・か)

そんな言葉を交わさなければならない日々も、もうじき終わりとなる

それがいつまでも続いて欲しいと願いながら俺は家路に着いた



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第二十話 比企谷家 ~小町の祝福~

2週間近くも待たせて申し訳ありません・・・
新職場に慣れるのも一苦労です
コロナの影響も少なからずあるようで、乗り越えるまでが大変になりそうです




3連休最終日の祝日である成人の日

 

わたしは久しぶりにせんぱいの家である比企谷家に訪れる事となっていた

まだ学生の頃はよく遊びに行ったりしたなぁ

それに初めて結ばれたのもせんぱいの部屋だったし

 

思い出したら赤面せずにはいられない記憶、それが結実するんだ

わたしの一色家、せんぱいの比企谷家、両方に認めてもらって

祝福されてわたしたちはようやく歩き出せるんだと

万感の思いを胸に秘めて今 比企谷家のインターホンを押した

 

ピンポーン

 

「どちらさまで?」

 

「せんぱい、あなたの婚約者のいろはちゃんですよー」

 

入口扉が開き、せんぱいが出迎えてくれた

 

「こんな時でもマイペースなんだな、お前・・・」

 

「もう気負う必要はないですから、日頃からお世話になってるせんぱいのご両親なら問題ないですよ?」

 

「・・・・・まぁそうだろうな」

 

「(あるとするなら、小町ちゃん・・・かな)」

 

キッチン、4人座れる間ででせんぱいの父さん 修さんと先輩の母さん 由美さんと向かいあう形

こちら側にはわたしとせんぱいが座る形となっていた

 

 

修「よく来てくれたいろはちゃん」

 

由美「八幡から話は全て聞いていたわよ。お互いぞっこんなのにいつ結婚するのかと思ってたけど

八幡が踏み込んだお蔭で覚悟が出来た事もね」

 

いろは「あ・・・う・・恐縮です・・」

 

修「息子はひねくれ者で面倒な奴だが、ちゃんと支えてくれる人がいてくれて本当に良かった。

これからもどうか宜しくお願いする」

 

由美「私はようやくいろはちゃんが義娘になってくれるから嬉しいわ」

 

 

「あ、ありがとうございますっ」

 

「それで2人にちょっと相談したいことがあるんだが」

 

「せんぱい、それって・・?」

 

 

予想通りというか、昨日わたしの両親にも聞いていた指輪の話を切り出していた

 

修「そうか、要するにお前は結婚指輪に拘らないつもりなんだな?」

 

由美「将来的に外してしまうものなら、別のアクセサリーにしようとしてるのね」

 

「まだ、そう決めたわけじゃないんだが、実際付けてない人達の考えを聞いただけだ」

 

「せんぱい、そんなことをを考えてたんですね・・・」

 

「いろは、後で一緒に調べてもらいたいんだが、その上で決めようと思う」

 

「分かりました・・・せんぱい」

 

由美「さ、いろはちゃんが来るまでに昼ごはんの下ごしらえも済んでるから

食べて行ってね。昨日、うちの八幡がご馳走になったんだから遠慮せずにね?」

 

「あ、わたし手伝えることありますか?」

 

由美「あら、折角だからお願いしようかしら」

 

 

小町ちゃんも一緒に昼の献立の手伝いをして、メニューはお赤飯に

とんかつ、ひじきの煮物、なめこの味噌汁 がっつりなものだった

なんでもとんかつは昨日の肉特売日に、今日の為に買っておいたそうらしい

食事中は比企谷家女性陣から、せんぱいを巻き込んで盛大に弄られまくられる事になって

せんぱいもわたしも相当顔が真っ赤だったのは言うまでもない

 

 

食事後、小町ちゃんの部屋にわたしたちは招かれ、改めて見守ってくれた事に

 

「小町ちゃん、色々とありがとう」

 

「今回も世話をかけてしまってたようだな、ありがとよ」

 

「や、面倒くさいお二人ですから」

 

「う、そう言われてしまうと・・・・」

 

「ぐうの音も出ないわな・・・・」

 

小町ちゃんはふぅと溜息を吐くと

 

 

「もう付き合って8年近く経つんだっけ?いつ比企谷姓になるか心配になるほどだったんだよ?」

 

「そんなにか?」

 

「そうだよ?でもまぁ、お兄ちゃんが『まずは親の金に頼らずに』って事で本気だと納得したし」

 

 

そしてわたしの方に向き直って

 

「いろはお姉ちゃん、こんな言葉足らずで面倒くさい兄だけど、8年も一緒にいてくれてありがとうございます。これからもどうか兄の傍で支えて上げてください。兄を悲しませたりしたら絶対許しませんから。23年も一緒にいて、捻くれていて、どうしようもなくて、それでも私が寂しくないように連れ添ってくれた兄ですから。どうかそれを忘れないでください」

 

 

小町ちゃんから改めて託されたものの思い、せんぱいへの家族愛。その重さ全てが

わたしに身に降りかかり、引き締まる思いで

 

「うん、ありがとう。小町ちゃん。わたしたちは2人で歩いていくから」

 

 

そして、わたしは席を外し2人で話したいことがある間、せんぱいの部屋で待つ事になった。

あれだけ仲がいいし、話も長くなるだろうと思っていた。

 

小町ちゃんが泣く声がこちらにまで響いてきた。

せんぱいと小町ちゃんの掛け合い、絆という強さ。

小町ちゃんが大事にしてきたモノ

 

 

 

確かに受け継いだよ

 

 

小町ちゃん

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 

5分位経ってせんぱいがやって来た。

 

「すまんいろは、待たせたな」

 

「いえ、兄妹同士積もる話もあるでしょう?」

 

「そう言って貰えると助かるな」

 

そう言いながら、ポチとパソコンの電源を入れる

 

「早速調べるんですか?」

 

「ああ、俺達だからこその指輪に代わるアクセサリー。それを見出だしたいからな」

 

 

せんぱいが試しに打ち込んだキーワード『結婚指輪の代わり』その検索結果として

まず結婚指輪を購入したかの割合が

「購入した」……約9割

「購入していない」……約1割

 

 

 

次いで結婚指輪を購入しなかった場合、代わりに購入するとしたら何がいいですか?

 

 

第1位「ネックレスなどのアクセサリー」

 

第2位「腕時計」

 

第3位「食器や家具、家電などの実用品」

 

第4位「バッグや財布などの小物」

 

 

『第1位に輝いたのは「ネックレスなどのアクセサリー」でした。やはり、結婚の記念という特別な意味をもつ品物には、指輪でなくともアクセサリー類を選ぶ人が多いようです。ネックレスなどであれば、洋服の下に身に着けることができるので、職務上着けるのが難しいという場合や着け外しによる紛失が心配…という人にも安心ですね』

 

 

 

「なるほど・・・な」

 

「確かに付け外しの紛失はあるかもしれません。入浴とか家事とか、その都度というのは面倒かもですね」

 

「ネックレスに絞って調べて見るか?」

 

「ええ、それでいってみましょう」

 

 

 

『結婚ネックレス』で検索を掛けた結果

 

『一世一代のプロポーズ、言葉だけなんて示しがつかない!と考える男性が多いようです。

しかし、婚約指輪を準備しようにも女性の指のサイズが分からず、女性から指輪はいらないと言われている。

 

 

普段から指輪をつけない女性にプロポーズする場合は、どうしたらいいのか困ってしまいますよね。

そんな男性たちに最近人気のアイテムが「ネックレス」なんです。

 

特に24歳以下の若いカップルは、婚約指輪よりも予算を抑えめにできるという理由で、

35歳以上の大人カップルは、ネックレスの方が身に着ける機会が多いという実用的な理由で、ネックレスが支持されています』

 

 

「24歳以下って・・・」

 

「わたし今24ですけど・・・ある意味当てはまってますね」

 

「んで、拘りたいブランドとかある?今のところ有名なところが出てきているけど?」

 

「まずは千葉県にあるブランド店を絞り込みましょう」

 

「了解だ」

 

某有名ブランドの2つが千葉駅近くにあるみたい

まずは直に行ってみて希望のものが出来るかになるかな・・・

 

「どうせなら誕生石を添えたペンダントにしたいですねー」

 

「誕生石か・・・・4月:ダイヤモンドと水晶、8月:ペリドット、スピネルとサードニックス。

ペリドットってあまり聞かないけど、黄緑色が特徴なのか」

 

「あとは、指輪とかに印字できるプレートとか付けられかどうかですね」

 

「結構要望あるのな・・・行ってみて実現出来るか聞いてみるか」

 

「ええ、今日出来るのはこれ位ですね」

 

「ああ・・・」

 

「このペリドット、せんぱいが身に着けていれば怖いもの知らずって感じですよ?

 

 

 

『夜に輝きを放つとされるペリドットは、暗闇への恐怖や妄想を吹き飛ばし、

ネガティブなエネルギーから身を守る護符としても、活躍してくれるでしょう。

 

怒りや悲しみなどマイナスな感情におちいりやすい人などには心を癒し、明るく前向きに生きていけるようサポートし、夢を実現させてくれるといわれています。途中、自信をなくしたり意気消沈してしまったとき、この石をアクセサリーとして身につけてみてください。心が明るく太陽に照らされるように、ふたたび希望をもたらし向上心を復活させてくれるでしょう。

 

この石は、どんな時にも明るい希望と勇気をもたらしてくれますので、マイナスの感情にとらわれやすい人には、身につけてお守りにすることをお勧めします。ストレスをやわらげ、持ち主の魅力を内面から美しく輝かせるサポートをしてくれますので、異性などからの注目度もアップすることでしょう。また、ペリドットは知能と関係が深く、知恵と分別を与えてくれる石とされています』

 

 

「こ、これは・・・・・」

 

「ね?」

 

「昔はそうだったかもしれんが、今は大分違うと思うんだが?」

 

「それでも、根っこの部分はそう変わらないですよ?」

 

「ぐぬぬ・・・・」

 

「だから・・・ね?社会で戦うせんぱいに少しでも加護があったらいいなって」

 

「お前も社会人だろうが・・・」

 

「でも同じ会社じゃないですよ?共闘することは出来ないから、社外秘の情報だってあったりするでしょう?更にもう一つの加護が受けられたら心強くなるんじゃないかと思ってですね?」

 

 

「・・つまりは4月の誕生石と組み合わせたいと?」

 

「まぁ、そうなんですけど」

 

うーんそれもあるんだけど、わたしの気持ちも伝わってるのかな?

 

「・・・・・気遣う気持ちは受け取っておく、ありがとよ」

 

こっちには顔を向けずボソッと零す相変わらずのせんぱいに

 

「この捻デレさんめ♪」

 

「フン・・・」

 

 

ちゃんと案じてる思いも理解してくれてて、小さな事かもしれないけどやっぱり嬉しい

甘えたくなってしまう

 

「せんぱい・・・・」

 

上目遣いと熱っぽい顔で、して欲しい事をねだると「正しく」理解したせんぱいは

 

「しょうがない奴め・・・」

 

苦笑しつつもわたしを抱きしめ、熱い口づけをして応えてくれるのでした

 

_____________________________________

 

流石にせんぱいのご両親、隣に小町ちゃんがいる中でそれ以上に求めあう事はなく、

 

「この後、俺がいたたまれなくなるからな・・・・」

 

と自制してくれたせんぱい。この辺りはちゃんとTPOを心得てくれてて良かった

わたしが結構無茶振りしちゃう事あるからなぁ~

 

 

「そろそろ帰るだろ?駅まで送る」

 

駅までの道中

 

「来週は指輪交渉ですね?」

 

「ああ、時間も空いたら家電のリストアップもしたいところだな」

 

「でも、せんぱいの一人暮らしの時の家電はまだ保管してるんじゃ?」

 

「2人だとスペックが足りないのもあるかもしれんから、改めて・・だな」

 

「部屋探しはどうします?」

 

「前の時は1DKだったが、社会人になった今は2LDKで探してみよう」

 

「あとは引っ越しの費用・・・になりますね」

 

「ああ、そうとう金かかるだろう。現実的な問題があるから一つ一つ乗り越えなきゃな」

 

「もちろんです!」

 

 

やがて幕張駅に到着し、恋人繋ぎをしていた手を離して一時の別れの挨拶

 

 

「それではせんぱい、また来週・・・です」

 

「ああ、風邪引くなよ」

 

_____________________________________

 

J〇、モノレールを乗り継ぐ中でわたしは物思いに耽っていた

これで外堀が完全に埋められたんだな・・・

小町ちゃんから託された思い、ちゃんと刻み込んでおかないと!

2人で夫婦として歩いていくスタートライン、ようやく見えただけに過ぎないんだから

現状に甘えたり、これが当然なんて思ってしまったら、崩壊が始まると心得ないといけない

 

わたしが覚悟しないといけないのはそういうことなんだと改めて思いつつも

家の最寄り駅に着き、徒歩で家路を急ぐのでした

 

 

 

 

 




普段の1.5倍の長さになりましたが色々と調査した事も載せた結果こうなりました。

指輪ではなくネックレスを選ぼうとしてる2人の構想は実親からの話から考えました。父は定年位に結婚指輪を外し、母は日頃の家事から指がふやけ太くなって抜けなくなった事を聞いていたので、20代半ばで家庭を築く2人には現実的な考えをもって歩んでいく話を描きたいと思っていました。


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第二十一話 恩師への報告

大変お待たせしました
3000字に届きませんがキリが良いので公開します


両家の親との挨拶から数日たった土曜日、お互い休みが重なったこともあり

千葉駅近くのそごうにある宝石店に足を運んでいた。

 

「せんぱい、ここをいつの間に予約してたんですか?」

 

「平日のうちにな、長時間待たされて挙句決まらないというのはイヤだからな」

 

「相変わらず、ずるい・・・」

 

「なんで罵倒されるのかね、俺・・」

 

ここが千葉駅界隈でよさげな宝石店だから、いろはの要望に応えられるといいんだけど

 

________________________________________

 

11時に予約した店に入り、まずは陳列されている指輪・ネックレス・ピアス・イヤリング

を一通り見て眺め、イメージを膨らまして相談することと相成った。

 

結論からいうとプレート以外はほぼ要望通りになりそうだった。

基本としてはリングネックレスという形で、刻印はリングの裏に書かれ

4月の誕生石ダイアモンドと8月の誕生石ペリドットの組み合わせのリングで制作と相なった

 

ちなみにダイアモンドの誕生石は「永遠の絆」の意味を持ち、ペリドットは「夫婦の幸福」を意味していたらしく、

 

「2つ合わせれば最高の言葉じゃないですか!」といろはが感極まっていたのいたので、よかったのか・・な?

 

ちなみに刻印の言葉は「May the happiness be with you」

直訳すると「幸せがあなたと共にあらんことを」

 

プロポーズのきっかけとなった俺からの言葉、プロポーズ受け入れてくれたいろはの言葉

それを考えるとこれしかないだろうと思っていた。

 

いろはが「なんで日本語ではなく英語なんですか?」と聞いてきたが

「日本語だとあまりにも直接的過ぎて恥ずかしいから英語でぼかした」と言い訳したが

 

「ばか・・・・」顔を真っ赤にして胸に顔を埋めてきたので、満更でもなかったみたいだ

俺も恥ずかしい思いをした甲斐はあったのかもしれない

 

 

 

宝石店を出て同じ建物の飲食店で昼食を取るころには、13時をとうに回っていた

お互い運ばれた食事を終わらせ一息をついたところで

 

「せんぱい、この後はどうするんです?」

 

「前もって話してた平塚先生と18時から飲む約束を取り付けてるからそれまではフリーとなるな。

電器店に必要になるものを下見にでも行くとするかね・・・」

 

「それ来週に延期して、他に行きたい所あるんですけどいいですか?」

 

「何処なんだよ・・・・」

 

____________________________________________

 

「ここなんですよ♪」

 

「よりによってここ?」

 

施設に入り部屋番号をタッチしていく。そうここは駅からちょっと遠ざかった界隈にあるラブホテルだった

部屋に入ると同時に、お互いを強く求めあうが如く舌を絡ませあう

 

「いろは、ごめんな・・・」

 

「せんぱい、わたしがどんだけこうされたかったか分かります?」

 

「うっ・・・」

 

「プロポーズしてくれた婚前旅行でも結局されなかったし、それ以前を遡れば11月ですよ?

あまりにもセックスレス過ぎると思いません?」

 

「言葉もございません」

 

「毎日会えていた学生の頃とは環境が違うとはいえ、これは由々しき問題なのでわたしを寂しくさせた

罰としてわたしを一杯愛してくれたら許してあげますから」

 

「寛大な婚約者であることに感謝しますよ」

 

「それはほら、行動で示してくださいよー」

 

この後、一緒に風呂を浴びたり色んな体位で3回は抜かされた事だけ言っておく

時間が結構あるのに3回だけ?一杯焦らして気持ちよくしたからのと

腰が痛いからあまり激しい動きが出来ないというよんどころない事情もあったことを上げて置く

 

お互い汗だくになった体の汗を流しあってる間、いろはも相当ご満悦のようだったし

俺も満たされた気持ちになった

 

「せんぱい、今回もゴム付けてましたね」

 

「そりゃそうだろうよ?まだ妊娠させるわけにはいかんでしょ。

アフターピルばかりを使うのはコンドームより高いのもあるし、

いろはにも副作用の危険性があるから最終手段にしておきたいからな・・・」

 

「もう、親の了承も得てるというのに・・・

学生の時と違って、今や社会人になってピルを買う金がないわけではないんですから。

先週から飲んでるから危険性はほとんどないと言えるのに、せんぱいが考えるその時期はいつなんですか?」

 

「2人で暮らすようになったら・・・じゃないか?

それまで、色々と手続きやら身の回りの買い出しとかあるだろうし

新生活に入っての苦労もある事考えたら、いろはには無理させられないだろうが」

 

「・・・・・せんぱいはいつも優しいですね」

 

「先を見据えてるだけだ。リスクを抱える必要はないんだ。

いろはが教えてくれただろ?幸せでい続ける為にやることをやろうしてるだけだ」

 

「そうですねっ!」

 

ぎゅっと抱き着いてきて熱いキスを交わしあう。この2,3時間で何度もした行為。

付き合い始めてもう数えきれないほどした行為。でも、俺もいろはも飽きる事はないだろう

 

 

_____________________________________

 

17時半になった所でラブホテルを後にして、平塚先生の集合場所の千葉駅に向かう事になった

 

 

「久しぶりだな、比企谷」

 

「ご無沙汰してます、先生」

 

「それに今日は一色もいるんだな」

 

「ええ、ご無沙汰してます、平塚先生」

 

「立ち話もなんだ、店に入ってからにしようじゃないか」

 

 

居酒屋に入り酒も進み話が盛り上がる中、あの報告をすることに

 

「先生、実はですね、この度俺達は結婚することになりまして」

 

「それでわたしたちの恩師にはいち早く報告しようと思ったわけです」

 

「なんと・・・・・・そうか、そうなのか」

 

感慨深げにつぶやき、何度も首肯する

 

「2人とも手のかかる生徒だったがとうとう結婚か・・・・

 いつかはそうなるだろうなと思ってたがとうとうなんだな

 おめでとう、2人とも」

 

「「ありがとうございます」」

 

「それで式は挙げるのか?」

 

「いえ、籍をいれるだけです。将来的に物入りになりそうなので」

 

「せんぱいも式を挙げる事にこだわってたんですが、話し合って先を見据えた決断をしたんです」

 

「なるほどな・・・・2人とも仲良くしてるようでなによりだな」

 

「当然です、いまや婚約者なんですから!」

 

「俺達がようやくここまで来れたのは、先生の導きがあってこそだと思ってます」

 

「わたしからもお礼を。ありがとうございました」

 

「ふふ。そう言われると教師をやっていてよかったとつくづく思うよ。こちらこそだ」

 

_____________________________________

 

いい時間になり、店を出て解散することに。

 

「ではな、2人とも。無事に籍を入れたら、知らせるんだぞー」

 

「もちろん、記念写真の裏面をつけてお送りさせて頂きます」

 

そう去っていく平塚先生は、いいなぁ私も結婚したいと呟いている姿が酷く哀愁を漂わせていたのが

印象的だった。

 

「俺達も今日は帰るか?」

 

「ええ、来週以降もやることがいっぱいですねー」

 

「また来週な・・・いろは」

 

「ええ、来週です、せんぱい・・・・」

 

別れ際のハグとキスを交わし俺達はそれぞれ家に

 

 

 

 

 

 

 

 

 




若干それらしい表現になりましたが
上手くボカしたつもりです


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第二十二話 それからの日々

今月最後の更新になると思います
思った以上に執筆の時間が取れなくて申し訳ありません


それからの日々は瞬く間に過ぎ去っていった。

 

先生に会った翌週は家電店・家具屋に足を運び必要になる家電を選定

いろはと話し合った結果32型テレビセットを新生活応援フェアに合わせてまとめ買いする事に

 

昼からは2LDKの部屋を探しに不動産屋を覗きに。

俺の最寄り駅といろはの最寄り駅の中間、稲毛駅から徒歩15分のタウンハウス

家賃は7万円、子供OKともあるから、将来家族が増えても問題はなさそうなので

来週は現地の見学に行くことになった

 

 

「せんぱい・・・・今日もお願いしますね…?」

夕方からは恋人のおねだりで恋人の営みを2時間程ラブホテルですることに

 

「何か月後からは毎日こういうの出来ますね~」

「毎日って・・・俺の婚約者は何時からこんなことを言うようになってしまったのだろうか」

「え、せんぱいのせいですよ?」

「俺かよ!?」

「わたしをいつもメロメロさせてる責任はそれくらいじゃないと!」

「毎日は厳しいじゃないかなぁ・・・・」

「むーじゃ毎日ハグしながら添い寝で!」

「それ旅行の時と同じじゃん・・・」

「せんぱいもう、倦怠期突入ですかぁ?わたし凄く悲しいですよぉ・・・」

「違うんだよ、腰が張ってて毎日そんなんやってたら持たないっての」

 

「20代半ばで腰痛もちって・・・」

「言うな・・・運動不足って自覚はある」

 

「なら、お互い改善すべき点はありそうですね!」

「へ?」

「先週3時間も事に及んだあと、しばらく休憩してましたけど

もう疲労困憊で、家帰るまで凄くダルかったんですよね・・・

学生時代あんなに交わえる体力あったはずなのに愕然としました」

 

「マジで?全然そう見えなかったわ。俺もまだまだ甘いな・・・」

「えへへ、こんな事で気遣われるのは恥ずかしいので黙ってました♪」

 

「こいつめ・・・」

照れ隠しに頭をわしゃわしゃと撫でてやると

「わーもう、折角のセットが乱れちゃうじゃないですかー!」

「そうなると休日とか寝る前運動したほうがいいかもなぁ」

「わたしマネージャーの時、柔軟体操してから寝てましたから

結構よく寝れるんですよ?腰痛予防体操も取り入れれば

わたしたちの営みも安泰ですよ?」

 

「そう簡単には効果でないかもしれんが、やらないよりはやってみるかね」

「じゃぁ、わたし実践してみせますんで、今日夜からやってくださいね?

わたしたちのよりよい未来のために」

 

「そうだな、愛想をつかれないよう頑張らないとな」

「あり得ませんよ」

「え?」

「わたしがあなたに愛想をつかすなんてことはあり得ません」

今までと違うちょっと怒りの表情で断言してきた。

 

「い、いろは?」

「偽物だらけのわたしの欺瞞を突き付けて、本物と呼べる何か。

それを考える機会をくれた事。恋人同士になってからは常にわたしを第一に考えてくれた事。

結婚式費用を真剣に考えていてくれた事。そんな人をなんで愛想をつかすなんて発想が

浮かぶことが意味不明ですよ」

(でも「頑張る」って言ってくれた事はキュンときましたけど♪)

 

「あー悪い、失言だったな」

「分かればいいんです」

「さて、延長料金取られる前に退散しよう」

 

 

翌週

 

 

目当てのタウンハウスの下見を一色家と共に行う事になった。

人生の先輩の意見も参考にしておきたかったからだ。

ちなみにうちは、社畜両親が家を朝から空けているので無理だった。

休日出勤するまでの社畜にはなりたくないものである

 

しぐれさんも兼人さんも「いい物件でスーパーの立地も良い」

との太鼓判を頂き、俺達も気に入ったので

改めて書類を目を通し賃料・駐車料金・管理費。全てを足し

2人の手取り給料みて充分余裕があることからここに決定した。

入居は1か月後からという事らしい。

 

次にやることを見据えるとなると引っ越しとなる

何社かとの相見積もり、そして俺の部屋から持っていく荷物だろう。

 

「しばらくは週末は会えなくなりそうだな。お互い荷物纏めで」

「必要なことですもんね。ちょっと寂しいですけど」

 

 

2月に入った週末

 

小町にも手伝って貰い、持っていく引っ越し荷物を選定していく。

大学2年の一年間で使った家電(洗濯機・炊飯器・掃除機・電子レンジ・冷蔵庫)を物置から引っ張り出し

ダンボールにしまったままのプラスチック皿、そして読まなくなったラノベや漫画は

50冊以上にも及び、これらは古本屋に売ることにした。

本棚は半分ほど空きが出来、いろはが所有する本・雑誌も収容可能になるだろう

後はベッドは置いていくことにしよう。代わりに布団を買い足さないと

 

ここに至って引っ越しサイトで相見積もりを敢行。単身パックで試したら8社出た中の関東内で地域に根差してる

引っ越し会社。ここの営業マンとまずコンタクトをとってみることにしよう

 

コンタクトの結果、来週土曜に家に来てもらえるとのことだった。

今日一日手伝ってくれた小町へのお礼として、スーパー行ってモンブランのケーキを

買ってきて2人で食べた。疲れた体には糖分とそれを中和するコーヒーが染みわたる・・・

 

2月2週目の週末

 

引っ越し会社の営業の人が我が家に訪問しに来た。具体的な荷物をこちらから説明し

無償サービスでダンボールを何枚か貰えるのと細部の見積もりの直しをしてもらえる運びとなった

 

それらを終えた後、水道会社・ガス会社・電力会社の契約。

ネットでも一括で契約を結べるのであっという間に終わった。

 

平日のバレンタインデーでいろはと落ち合い、本命チョコをもらい

その場で美味しく頂き、まったりと雑談する中進捗具合を確認をした

あちらも引っ越しの見積もりが終わって週末から

ダンボールに細かいものを積めていくとの事らしい。

俺と同じ進捗具合のようだ

 

 

週末、本棚にある雑誌・漫画・ラノベ・ファイル等をダンボールに梱包。

衣類箪笥やゲームを置く為の箪笥の荷物も纏め終える頃には一日が終わっていた

 

2月最終週いよいよ引っ越しである

午前中にまず新たに購入した家電・家具。13時からは俺の荷物。15時からはいろはの荷物。

俺の家族だけでなくいろはの両親も手伝い・配置の手伝いで来てもらっている。

本当にありがたいことだ。

 

引っ越し会社の社員さんの方々の緻密な作業、母さんたちのインテリア配置のセンス

絶妙に相まって17時には無事終了。最低限の日用品・お皿等を取りだし終えた後

駅前に繰り出し皆で外食でとんかつ定食を美味しく頂いた。

 

20時頃駅で両家族を見送った後、

「・・・帰るか」

「うん・・・」

自然な流れで手を繋ぎあい、家までの10数分の道をのんびり歩いていく

 

「「ただいまー」」

って誰もいないのに2人で言ってしまう辺りどうなんだろうな

 

そう思ってたら、隣にいたいろはが正面に回り込み

「ふふ、お帰りなさい、せんぱい~」

ぎゅっと背中に手を回し抱きしめてきて、得も言われぬ幸福感に包まれる

「なんかいいな・・・愛する人がいてその人が出迎えてくれるのって」

「せんぱい、柄にもなく浸ってます?」

「今日からそれが始まるんだって思うとそりゃそうなるだろうよ・・・」

「じゃ改めて、今日から宜しくお願いしますね・・・八幡君♪」

「・・・!ああ宜しくな、いろは」

 

 

その後、2人でお風呂で互いを洗いっこした後、引っ越しの疲れが出たせいか

入浴後直ぐに眠気に襲われそのままダウンするように2人で寝入ってしまった

だけど、いろはが横向きで俺に抱き着いたまま寝入るその顔は

見惚れてしまう程の安らかな寝顔だった

 

 

 



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家族編
第二十三話 2人の新婚生活


知らない天井だ・・・・。朝起きて感じたのはまずそれだった。

そしてなんでベッドではなく布団で寝ているのだったか・・?

 

横を見てようやく思い出した。俺の婚約者ーいろはが安らかな寝顔をして俺に抱き着いたまま寝ていた

昨日この家に引っ越しをしてその疲れで、風呂に入った後そのまま寝てしまったのだった

 

起きようかと思ったが、温もりが離れた事でいろはを起こしてしまうのは悪いかと思い

二度寝をしようとした矢先

 

「ん~ふぁぁ・・・」

 

どうやら起きてしまったようだ

 

「・・・おはようございます、八幡君」

 

「おはよう、いろは」

 

 

___________________________________

 

朝食にパンに完熟ゆでたまごに野菜ジュースを平らげた後、今日の予定を考えることに。

 

「まずは日用品と食料品の買い出しはしておかないと明日以降がまずいな」

 

「自転車で10分位でスーパー2件ありますもんね。その2件を周って冷蔵庫を満タンにしちゃいましょう」

 

「どちらが何が安いかも徹底チェックさせてもらうかね・・・」

 

「・・・・八幡君、こんなところで主夫力を見せなくても」

 

「何を言う?家計を抑えるにはまず安い店の方を買うのは当然。

タイムセールで割引食品を抑えるのは自分へのご褒美なんだぞ?」

 

「それは否定しないんですが・・・大学2年の夏休みにタームセールに頼り切りの生活を

目の当たりにしてしまっては心配しちゃいますよ?」

 

「バイトを深夜クローズまでやってると、スーパーの閉店時間ギリギリになるから

つい売れ残りの総菜とかおかずとか見てしまうのが日課になってしまうんだよなぁ・・・」

 

「それだと栄養偏りますのは分かりますよね?」

 

「いや、本当その通りです・・・」

 

「前期は真面目に栄養バランス考えた自炊をしてると思ってたのに」

 

「それで後期は講義が終わるや否やスーパー買い出しで、家で料理を作るという日々だったか」

 

「全く世話が焼ける人だなぁ・・・って思いましたよ」

 

「小町からはある程度教えてもらってたが、手の込んだ料理までは億劫だったからなぁ、今思えば」

 

「でもわたしは胃袋を掴めて絆が深められたいい時間だったと思ってますよ?」

 

「足を向けて寝れないとはまさにこのことだと思い知らされましたよ、感謝しております」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

まだ早朝だというのに、お互い顔を赤らめて愛おしいという気持ちが溢れるままに

どこからともなく体が近づき熱いキスを交わしあう

 

________________________________________________________________________

 

 

「もうちょっとしてたかったのにな~」

 

「あれでスイッチが入ってしまったら買い出しどころじゃすまんだろ・・・」

 

30分たっぷりと熱いキスを交わした後、自転車で予定通りスーパーの買い出しを済ませることにした

駅前にも〇オンがあるけど、駅からちょっと遠いスーパーの値段設定も気になるという事もあり

比較する価値はあると意見が一致した。

 

家から近いスーパーでは今日のお買い得品の鶏むね肉・牛乳・食パン・総菜は棒棒鶏が小パックで安いというのもあり

各種調味料を揃えるのも併せて購入することにした

 

ママチャリ2台分に満載になったので、一旦帰宅し、2件目のスーパーでは日用品・パスタ・乾麺・野菜各種をたんまりと購入

再び帰宅。冷蔵庫には十二分の食糧が入り鶏むね肉の調理は明日以降に回し、夕食は棒棒鶏と簡単なサラダを作ることにして

昼はパスタをカルボナーラを付けて食すことに。

 

食後は前日の引っ越しの片づけ。

昨日両家族の手伝いもあり大部分は片付いていたが、本棚へ置く本や漫画・雑誌の配置がなかなか決まらず揉めたものの

夜になるころには全て片付いていた

 

夜の食事はお米を炊き、大根のみそ汁、棒棒鶏にワカメとレタスに和風ドレッシングをかけたシンプルなメニューにビールで乾杯した

 

食事も終わり後片付けを済んだ後は、柔軟体操を念入りに行う

 

「先月から継続してるお蔭で、大分無理なく出来るようになってきたかもしれん」

 

「近いうちに、休み前日はたっぷりまぐわう事出来そうですね~」

 

「あーそれもいいんだけど、今度試したい事があるんだけどいいか?」

 

___________________________________

 

「八幡君はどSなんですか?どMなんですか?」

 

「開口一番がそれはひどくないですかね?」

 

「こないだ2か月近くセックスレスだったのはもう過ぎた事でいいんですけど」

 

「(いいのか・・・・)」

 

「一緒に暮らしてすぐに4日間禁欲生活してみようだなんて・・・」

 

「いや、この方法は避妊がしにくいと聞いてるから、一緒に暮らすまでは実行出来ないだろうと」

 

「・・・今まで生で出してもらったことないので、いずれはと思ってましたけど」

 

「なら、協力してもらえるか?」

 

「わたしも興味はありますからいいですけど・・・」

 

「じゃぁ明後日から試してみるってことでいいか?」

 

「分かりました・・・でもピルはまだ飲み続けますからね?

まだ2人きりの生活を満喫したいですし♪」

 

「そ、そうか・・・・」

 

「色んな所に行って思い出を刻むのをもう少し楽しみたいので

妊娠はまだ先でいいかなーって」

 

「いろはがそれでいいなら俺は何も言わないさ」

 

「はーい♪」

 

「なら、今日はじっくりのんびりと・・いいな?」

 

「うん・・・お願いします」

 

 

明日からまた仕事なので、ほどほどにまぐわったとだけ明記しておくことにする

 

_____________________________________

 

火曜日

 

この日から提案した方法を夜に実践。土曜日午前が本番なのだが

お互い予想以上に欲情してしまい、金曜日の夜はもう限界だった

 

土曜日午前

 

朝食の後、前戯をたっぷりした後、繋がりあい

今までにない快感と幸福感につつまれ

 

「これはまりそうですよぉ・・・八幡君

またやりましょ?生でやるのも快感が凄すぎてやばいです・・・」

 

 

当初は難色を示していたいろはもすっかり乗り気になり、

従来のまぐわいだけでなく、ポリネシアンセックスもせがむようになり

俺達の仲は益々ラブラブになっていた

 




まぁ、新婚さんで毎日を過ごすわけですから・・・


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第二十四話 比企谷いろはになる日

月一、二投稿になって申し訳ありません。

短いですがキリがいいので投稿します


それから一か月の月日が流れていた

 

平日の帰りが早いいろはが夕食を作り

駅前イ〇ンのタイムセールの時間に合えば

連絡し買うという生活がほぼ定着していた

 

 

そして4月16日 いろはの生誕日

俺達は事前に有給申請を出し区役所に訪れていた

 

 

          ~回想~

 

 

引っ越し、リングネックレスの注文を進める内に

いつ婚姻届けを出そうかという話を出したところ

 

「もちろんわたしの誕生日です!」

 

「まぁ、なんとなくそう言うのだろうとは思った」

 

「だって、絶対忘れようがないでしょう?すっぽかして大喧嘩とかにはなりようがないですし」

 

「全く、あざとかわいい婚約者だこと・・・・・・」

 

 

          ~回想終わり~

 

 

俺達の首元には、オーダーメイドのペア・リングネックレスが掛けられていた

4月の誕生石ダイアモンドと8月の誕生石ペリドットの組み合わせのリング

裏の刻印は「May the happiness be with you」=「幸せがあなたと共にあらんことを」

一か月の期間で作られたそれは、俺達が満足出来るだけのアクセサリーに仕上がっていた

 

ただ抜かっていた点・・・それが実家に届けられていたということだろう

引っ越した後、送り先を宝飾店に伝えていなかったこちらの落ち度だ

当然、いろはやこまちに「しょうがないお兄ちゃん(人)だなぁ」と呆れられたとのは言うまでもない

区役所で滞りなく書類手続きが受理され、「一色いろは」は晴れて「比企谷いろは」

俺の妻となった。

 

 

「ようやくですねー・・・」

 

役所からの帰り道、感慨深げにいろはがつぶやく

 

「いろは?どうしたんだ」

 

「いつかはこうなりたいと思って事が実現して、法的公的にも認められるって嬉しいなーって」

 

「そうだな、今日からは俺達は夫婦というわけだからな」

 

「このまま帰るのも味気ないのでデート行きません?」

 

「平日、今から行けて混まなそうなところかぁ」

 

 

考えた結果、家からも近いスポット

千葉都市モノレールで千葉動物公園にやって来た。

 

 

「平日の昼間にもならない時間帯だけあってのんびりと回れそうですね」

 

「そういえば風太君とやらは健在でいるかね?」

 

「勝手に亡くなった扱いをしないでください!」

 

「ま、突発で来てしまったし、ふれあい動物コーナーは避けた方がいいだろう

服と靴汚れるだろうし」

 

「・・・・相変わらずですね」

 

「これ位はな(フフッ)」

 

「(この人は初めてデートした時も気を使ってくれたし、後自然に笑顔を見せるようになった。

その姿をわたしだけが独占しているというこの気持ち。いつまでも忘れないでいたいなぁ・・・)」

 

「とりあえずふれあいコーナー以外、全部見てみるつもりで回るかね」

 

「は~い♪」

 

 

風太君ことレッサーパンダは未だ存命で、人間の歳でいうと80歳にもなるというらしい

右目に白内障を患ってるとのことだ。流石に俺達の家族が増える時までは厳しいかもな・・・

 

ハシビロコウはほとんど動かなくて、それが逆に興味深いものとなったし

猛禽類であるワシの勇ましさには純粋にかっこいいと思えたし

小動物のチンチラやミーアキャットを見ると和んだりもした

小学生以来の動物公園、年を経てから訪れるのも当時と変わった趣があって、悪くはないと思えた

 

14時を過ぎあらかた見終わり、森のレストランで遅めの昼食を取ることにした

メニュー表に載っていた「レッサーパンダラーメン」

ラーメンでどのようにレッサーパンダを表現してるのか、興味をそそられた俺は迷わずチョイス

 

「八幡君、ここでもラーメンですか・・・」

 

呆れるように言う新妻いろはだったが

 

「いや気になるだろ?なんでレッサーパンダラーメンなのか」

 

「わたしも気にはなりますけど・・・」

 

そう言ういろはは、ハシビロコウアイスパンケーキ。デザートのみと

腹持ちがあまりよくないものをチョイスしていた

 

レッサーパンダラーメンは添えられた旗にレッサーパンダがあしらえた物になっており

いかにも子供が好きそうな飾りとなっていたものだった。

将来家族が増えて小さなお土産にするのも悪くはないと思えるものだった

 

 

15時を過ぎ、モノレールで動物公園を後にした。穴川駅で降り稲毛駅イ〇ンで

ワインとケーキを買い帰宅。

 

「二重の記念日ですからそれらしくお祝いしましょ?♪」

 

夕食の準備は2人で進めることに。献立は生姜焼きにワカメのお浸し。大根の味噌汁。デザートにモンブランのケーキ

並べ終えてグラスにワインを注ぎ終え

 

「結婚という新たなスタートという日に」

「わたしの25歳という誕生日に」

「「乾杯」」

 

食後の後、ワインを口移しで飲みかわすという極上の味わいを楽しんでいる内に

頭に酔いが廻り顔が赤くなっていくのを自覚した。

いろはも同様に目がトロンとなり頬も赤くなり始めたので中断することに

 

「調子に乗っちゃいましたね・・・・」

 

「だな・・・結婚初夜だってのにこんなに酔っぱらってちゃ世話ないな・・・」

 

「もうこのまま寝ちゃいましょう、2日酔いにならないうちに」

 

「そうするか・・・」

 

歯磨きをし終えて寝室でいつものように寄り添っていつものように寝ようとしたが

 

「八幡君・・・せめて繋がったまま寝ませんか?」

上目遣いに酔いで頬を赤らめた表情に俺はあっさり陥落し

「ん、そうするか」

 

 

繋がったまま動く事無く、何気ないやり取りを交わしていく

 

「今日デート楽しかったですね」

 

「ああ小学生以来だな、あそこ行ったのは」

 

「いつか家族が増えたら行けたらいいですね」

 

「・・・・同じこと考えてたわ」

 

「そういった未来予想図に思いをはせるのもいいものですね・・・

GWも日帰りか一泊で何処か行けたらいいんですけど」

 

「え?今から宿取れるか?厳しいぞ多分」

 

「無理なら日帰りでもいいんですよー?」

 

「まぁ、週末探してみるか」

 

「便りにしてますよ?旦那様♪」

 

「へいへい、そろそろ寝るぞいろは」

 

「は~い。おやすみなさい・・・」

 

 



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第二十五話 GW旅行 ~その1~

前話投稿日にお気に入りが爆発的に増えて驚いています
拙い話ですが引き続き楽しんでもらえると嬉しいです


中々纏まらずに時間がかかりました。
GW旅行編スタート


5月に入ったGWの中日。いろはと共に一泊二日の旅行に出ていた。

いろはの生誕日の後、週末に検索して運よく残っていた宿の予約が取れたのだ

 

行き先は茨城県は袋〇温泉。午前中は水戸市にある偕楽園でのんびり過ごし、

15時までに水戸駅に着けるように段取りを組めば、宿には17時過ぎに着ける見込みなので

偕楽園以外にも足を伸ばすことになっても問題はなさそうだ

まずは船橋まで出て東武アーバンパークライン、柏からは常磐線で水戸までという行程だ

 

「昔は野田線だったんだよな」

 

「東北地方のJ〇も路線名がおしゃれなのありますけど、それと同じなんでしょうかね?」

 

「どうなんだろな?広報担当にでも問い合わせれば分かるかも、いや分からんか」

 

「昔は単線区間も長かったけど、複線区間も大分長くなりましたねー」

 

「もうじき急行区間が船橋まで伸びるそうだな」

 

「柏の先の清水公園、なんか凄い懐かしいです♪小学生の遠足で行った場所ですよ」

 

「おーお前もそこ遠足で行ったのか」

 

「アスレチックメインで遊びましたねぇ。水上コースは怖かったのでパスしましたけど」

 

「・・・・・小学生から小賢しかったのな」

 

「流石に池ポチャは絵面的に笑いものになりかねませんから」

 

「考えることは同じか」

 

「ってことは、八幡君もその頃からだったんですね」

 

「まぁ、そうだな・・・今更そこは言うまでもないか」

 

「ですね、それ以上は野暮ってものでしょ、折角の旅行ですし」

 

「流石は俺の妻だ」

 

「伊達に長く連れ添ってませんから♪」

 

 

        ~柏駅~

 

アーバンパークラインに乗って揺られる事30分程で柏駅に到着した。

時刻表を見ると、勝田行きは10分前に出てしまいあと20分待つことになりそうだ

 

「あ、仙台行き特急がありますよ?」

 

「そっか震災で不通だったのがこないだ復旧したんだったな・・・・」

 

「でも仙台に到着するのが4時間もかかるのは難かもしれないです」

 

「のんびり旅をする人は乗るんだろうなー後記念乗車とかする人とか」

 

「いつか乗ってみたいってのはないんですか?」

 

「どうだろうな?いわき方面は足伸ばしてないから、いや鈍行でいくのも悪くないし」

 

「どちらにせよ、期待させてもらいますね?♪」

 

「・・・・あいよ」

 

 

         ~安孫子駅・下り線ホーム~

 

「ってなんで勝田行きを待たずに、一駅先の安孫子に来たんですか?」

 

「我孫子駅って言ったら、食べてみたいものがあってだな」

 

「だから今日の朝、サラダだけにしたんですね、で、またラーメンですか・・・・」

 

「残念ながら違う、蕎麦だ」

 

「え。ラーメンじゃない?でも普通の蕎麦ではなさそうですね?」

 

「ご名答、俺もネットで見ただけだから頼むのは初めてなんだが」

 

 

_____________________________________

 

 

「なにこのから揚げ、でかすぎる・・・」

 

「実際見てみると、ほんとにジャンボだな・・・・」

 

次の電車までの10分余りでなんとか完食。

電車の最後尾で2席確保出来、水戸駅まで向かう事に

 

「こりゃ、昼要らないなぁ」

 

「でも、つゆとから揚げの相性抜群でしたね」

 

「いろはが完食するくらい気に入ったようでなによりだ」

 

「わたし基本食事は残したくないですから」

 

         ~水戸駅~

 

 

我孫子から1時間半程で水戸に到着。ここからは水戸漫遊1日フリーキップを購入。

 

「水戸と言ったら偕楽園位のイメージしか浮かばないよな」

 

「そうですね、後は県庁所在地である知識しか・・・」

 

「折角だし、15時までの時間の許す限り見て回るとしようぜ」

 

「は~い。梅の時期も終わってるから八幡君の嫌いな人込みも避けられますしね(ニヤッ)」

 

「・・・・むしろ、時期を過ぎてるのに行くのかって言われると思っていたんが

気遣いのできる妻で助かるわ」

 

「ふふん、もっと褒めてもいいんですよ?」

 

「ふむ・・・なら、今夜は楽しみにしててくれ」

 

「(あ、珍しく八幡君からお誘いですね。えへへ・・・)」

 

_____________________________________

 

            

             ~偕楽園・ 好文亭表門~

 

入場料と共に貰ったガイドブックには

「『偕楽園は金沢の兼六園、岡山の後楽園とならぶ「日本三名園」のひとつで、

天保13年(1842年)に水戸藩第九代藩主徳川斉昭によって造園されました。』

とあるか。でもって、ここから入っていくのがオススメのようだな」

 

「『陰と陽の相反するものの調和によって、万物は健全育成するという原理に基づき、

人間もまた屈伸して身体や心の調和を図り、修養につとめよ』ですか

偉人の遺した言葉ってのは結構胸に残りますね・・・。

それにしても陰と陽ですか・・・・・・・・・」

 

「どうしたんだ?」

 

「いえ、陰と陽、わたしたちにも当てはまるなって思いまして」

 

「俺は陰で、いろはが陽で絶妙に調和してるってことか」

 

「でも、そうなれたのはあなたのおかげですよ?

生徒会長になって支えが無かったら陽にはなれなかったと思いますよ」

 

「ああ、そうだな。俺は黒子として動くのが性にあってるからな」

 

「もし・・・・もし、信任投票で落選になってたらいじめが助長されて

耐えきれずに転校なんて未来もあったかもしれません。

そうなると本当にあの時が人生のターニングポイントですよねー」

 

「もし、たられば言っても意味はない。人生過去に戻ってやり直しなんて

ゲームみたいな事は不可能なんだ。だけど依頼人の意向に添わない形で

代替案を提示。押し切った形が今に至る未来を紡いだ結果でしかない。

そして俺を受け入れてくれて、いろはが俺の妻であること、俺にとっての陽。

それは誰がどう見ても歴然としてるだろ?」

 

「八幡君はなんで不意打ちでストレートにものを言いますかね・・・」

 

「え、事実を言ったまでだが?」

 

「(自覚なしに言うんだから、天然はこれだから困るんですよ・・・)」

 

 

陰の世界とやらを抜け、陽の世界に当たる『好文亭(こうぶんてい)』まで

辿り着いていた。日本遺産に登録されるだけあって陰の世界のもたらす

マイナスイオンと好文亭の様式といい、納得させられるものだった

 

 

「今の時期は、キリシマツツジやドウダンツツジなど約380株が咲き誇ってるみたいですね」

 

「ツツジの一種ってことか。赤と白の色合いが見事なもんだな」

 

ツツジが植えられた東西梅林というエリアをのんびり巡りっていると園内に入って1時間半が経過

正午に差し掛かる時間帯になっていた。

 

 

「後行ける場所と言えば一つか二つだな・・・」

 

「茨城県立歴史館にしません?一番近いですよ」

 

「後時間があれば、徳川ミュージアムにも足伸ばしてみるか」

 

 

 

         ~茨城県立歴史館~

 

常設展は原始・古代から近・現代までを13のテーマで区分されていた

 

「常陸国って言ったら徳川光圀のイメージが強かったが」

 

「平将門の乱が茨城を含めた関東一帯だったのは忘れてましたねー」

 

「それを鎮圧した平貞盛の子孫達が常陸国を収めていったのか・・・・・・」

 

「戦国時代に入ると群雄割拠で佐竹氏が大大名として生き残るも、関ヶ原で旗印を

鮮明にしなかった為に戦後、秋田久保田に転封となり、常陸から去っていった。

そして江戸時代になり徳川氏がという流れですか・・・・」

 

「・・・・・・歴史って奥深いな」

 

「ですねー・・・・」

 

 

俺達は今まで知らなかった歴史の波乱万丈さに気安い言葉が出ずにただただ

圧倒され魅了され時間を過ごしていった

 

 

 

 

 

 



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第二十六話 GW旅行 ~その2~

遅れて申し訳ありません
コロナの影響が勤め先にも出てしまい、
余裕がない状態が続いておりました

峠は越したので投稿します
ちょっと短めですが


水戸駅 15:00

 

茨城県立歴史館で思いのほか時間を費やしてしまい

徳川ミュージアムに寄らずに水戸駅まで戻って来ていた

 

 

「さてここからはディーゼル車での1時間位の旅となるな」

 

「水郡線・・・水戸と郡山を結ぶから「水」「郡」線なんですかね?」

 

「どうだろうな?四国とか北海道とかもそれらしい路線もあるからな」

 

「でもわたしとしては愛称の『奥久慈清流ライン』というのがロマンチックでいいと思いますね」

 

「清流っていうからには久慈川に沿って走る路線ってところなんだろうな・・・」

 

「時刻表には郡山直通ってないんですね?袋田までになってますよ?」

 

「これは去年の台風の影響らしいな。全線復旧には来年までかかるってさ」

 

「天災ですか・・・わたしたちは袋田までですけど、その北に行く人たちは不便ですね」

 

「バスの代行輸送があるらしいぞ。只見線とか日高本線とかが現在もそうだな」

 

「天災の前には人は無力なんですね・・・」

 

「人の悪意に察して対策を練れるとこと違ってな」

 

「八幡君・・・それ以上は水を差しますから止めましょ?」

 

「わりぃ・・・」

 

 

水戸駅 15:15発 袋田行き

 

この路線は上菅谷で常陸太田方面と郡山方面とで分岐する。

常陸大宮を通過する頃には山間・勾配がキツクなってきて目的地が近くなってきたことを思わせた。

 

終点(暫定)である袋田には16:30には到着していた

 

 

「宿は袋田の滝から程近い場所にあるんですね?」

 

「ああ、ここから徒歩30分位だな。

明日朝通る道でもあるからのんびりと行こうか」

 

 

「そういえば、今回も日帰り温泉をピックアップしてるんですか?」

 

「おう、2つほどな。

一つは今日泊まる宿の近くで朝10時からと、もう一つが駅よりの宿で朝11時からだな。

ちなみにそっちは12時から大浴場も入れるから、それも楽しみたいところだな」

 

「んーそれだと大分帰るの遅くなるんじゃ?」

 

「予定では14時前にはここを出て、稲毛には18時には着けるな」

 

「明後日からがちょっと心配ですが・・・温泉で疲れを取れると考えればいいか・・・うん」

 

 

宿までの道は途中から登り坂となり、40分程かかったものの無事に到着した

 

 

    <〇〇の宿 〇〇館>

 

 

「正月に泊まった〇波温泉の宿は和室8部屋だったが、ここは12部屋らしいな」

 

「建物自体はちょっと古さを感じますがそれもなんかいいですね♪」

 

「古さといえば、岩手の〇沢温泉も良かったな、床がきしむ音が歴史を感じさせていい」

 

「ここの温泉はラジウム泉と古代檜風呂が売りみたいですね」

 

「俺は食事が楽しみだな。ご当地グルメ満載の『奥久慈グルメ満載の『雅』プラン』」

 

「八幡君、ご当地グルメとか好きですもんねー」

 

「食事は19時10分に部屋に持ってくるように指定したから温泉に温まってくるとしようか」

 

「ええ、また後程~」

 

 

      

    <入浴後>

 

 

「天然温泉ではないけど、やけに体がポカポカしちゃいました・・・・・」

 

「あー水分はちゃんととっておけよー。道中に買っておいたミネラルウォーターと

缶チューハイは冷蔵庫にいれてあるから」

 

「はーい」

 

 

湯冷ましに窓際でまったりと寛いでいると、待望の食事が運ばれてきた

 

「予約のHPやクチコミでも相当な量とは知ってはいたが・・・・」

 

「会社の慰安旅行クラスでのご馳走レベルですよ?これ・・・・」

 

 

「ちなみに当館では『冷たい品』は冷たいうちに、『温かい品』は温かいうちに召し上がって頂く様にと各料理を、

時間をおいてお運びする様になっています。 ~『旬』『味』と『間』をお楽しみ下さい~

 

それではまたお伺いさせて頂きますので失礼いたします」

 

と仲居さんからのご説明があった。

 

 

「八幡君・・・・ここ結構高かったんじゃ?」

 

「ん、30000円はしたな」

 

「・・・随分と張り込みましたね?正月でもここまでの宿じゃなかったですよ?」

 

「GWで近場の温泉で空きがあるという条件で探したら、運良く残ってたのがここだったんだよ・・・

ちなみに明日日帰り温泉しにいく所は、予約時には既にアウトで料金も洒落にならん位高い」

 

 

「なら、今後日常生活は節約生活ですね?頑張ってくださいね♪」

 

「いやいやお互いだろ?」

 

 

2人して笑いあいながら、瓶ビールをコップに注ぎあい乾杯をし

奥久慈ならではのご当地食材に舌鼓を打った。

 

時間差で運ばれてくる料理も絶妙な食べ頃になっており、

十二分なおもてなしに俺達はアルコールも進み、1時間という

まったりと食事時間を費やすこととなったのだった・・・

 

 

「満腹だ・・・・・・」

 

「ちょっと動くのが辛いです・・・」

 

「全部お食べになったんですね。流石お若いカップルで」

 

「確かに俺達は20代半ばで新婚ではありますけど・・・」

 

「それはそれは!随分と仲のよい空気でありましたけど、新婚さんでございましたか!」

 

「同居しはじめたのは2月で籍を入れたのは4月ですねー」

 

「出来たてではありませんか、幸せそうでなによりです」

 

食事後のお膳を片付けに来た仲居さんとの会話を楽しみつつ

布団を敷き終えた仲居さんが退室間際に

 

「それではごゆっくりおくつろぎくださいませ・・・」

 

と残した言葉が意味深すぎてちょっと怖かったのは秘密である。

 

_____________________________________

 

食後の余韻というか、あまり動きたくないという暗黙の了解か、

2人して窓際の椅子で缶チューハイを開け、取り留めもない話をしてると

時刻は22時を指していた

 

ほろ酔い状態のいろはが妖艶な笑みを浮かべてすり寄ってくる

 

「うふふ、はちまんくぅん・・・昼言った事わすれてませんよねぇ~」

 

「家とは違うから激しくすると隣に声が漏れるからな・・・

じっくりと交わうことにするか?」

 

「それじゃ声が漏れそうになったらタオルでも咥えましょうか」

 

「いや、唇で塞げば問題ないだろ」

 

「わぁ、凄い魅力的な提案ですぅ」

 

 

 

「じゃいろは・・・」

 

「うん、一杯愛して・・・ね?」

 

そして俺達は一つに交わりあい、幸せな気分のまま一つの布団で一夜を過ごした

 

 

 

 

 



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第二十七話 GW旅行 ~その3~

大変お待たせしました。
文章構成が頭の中で上手く纏まらず苦労しました。

3期のいろはが可愛くて、
この物語のいろはの可愛さを
八幡の妻という可愛さを出せるかと
自問自答しながら書き上げました


「んん・・・」

 

いつもと違う寝床の感触、そして下半身の覆っている快感ー

 

(そうだ、旅館に泊まっていろはと繋がったまま寝てしまったんだっけ)

(当のいろはは、いつもと同じように・・・いやそれ以上に満足げな寝顔を見せているな)

(普段と違う状況下でのまぐわいが余程嬉しかったのかねぇ)

 

(まだ6時にもなってないか・・・、もうひと眠りするか)

 

 

__________________________________________

 

 

「ふぁ・・・もう朝なんだ・・」

 

(心地よい疲れでよく寝れたし、わたしのおなかにまだ八幡君のがある)

(果てた後、そのまま寝ちゃってたんだ、お互い)

(今はまだ新婚生活楽しんでいたいから、ピル飲んでるけどいずれは・・・)

 

 

 

(ブーッ、ブーッ)

スマホの目覚まし音が鳴って八幡君が起きだした。

 

「おはようさん、先に起きていたのか」

 

「ええ、おはようございます。八幡君」

 

「わり、まだ繋がったままだわ。抜くからちょっと待ってくれ」

 

 

_________________________________________

 

 

「それ・・・固いままですね」

 

「そりゃ、20代半ばで朝から萎れてたら問題ありだろうよ?」

 

「・・・静めておきましょうか?」

 

「朝飯も7時過ぎに運ばれて来るから遠慮しとく」

 

「えー」

 

「汗だくだし、温泉に浸かりに行くよ」

 

「むー分かりましたよ」

 

「そんなに不満げなら家に帰ったらでいいか?」(耳ボソ)

 

「・・・もう!//」

 

 

背中を叩かれてしまうがこのやりとりが心地よい

 

 

入浴後、運ばれてきた朝食『和食膳』

秋刀魚やシラス、イクラ等。ヘルシーなメニューに舌鼓を打ち

 

食後ゆったりと準備を整え、830には宿を後にした

 

 

~袋田の滝~

 

「日本三大名瀑の一つ、確かにこれは圧倒されるのも頷けるわけだ」

 

「入館料と共に貰ったパンプには、

『西行法師がこの地を訪れた際、「四季に一度ずつ来てみなければ真の風趣味わえない』

と絶賛したことからとも伝えられています。』ですって」

 

「3つのデッキから見る滝の全貌も一見の価値あるわ、こりゃ」

 

「相当金掛けたんでしょうね~。観光の名所だけに」

 

「私的にはなんでこんなものが?ってのはあったがな」

 

「?何がです?」

 

「トンネルの途中にあった『「恋人の聖地」モニュメント』

オシドリをモチーフにしたアレな」

 

「あー確かにありましたね」

 

「平成27年に恋人の聖地認定されたらしいが、あまり有名とは言い難いと思ってな」

 

「・・・ロマンがないなぁ」

 

「いや有名どころを考えるとだな、『幸福駅』位しかぱっと思い浮かばないんだよ」

 

「『幸福駅』?そんな駅何処にありましたっけ?」

 

「北海道にある廃線になった駅だな。今でも駅舎は残ってるらしいぞ」

 

「名前からしてあやかれそうですねー。北海道かぁ・・・」

 

「え、いつかは行きたいとか言い出す気か?」

 

「むしろ言わない方がおかしくありませんかー?」

 

「・・・そうだよな、お前さんはそういう女だったよ」

 

「分かってるぅ~」

 

そう言うやいなや、ギュッと腕に抱き着いてくる

 

「いろはさんや、歩き辛いんですけど?」

 

「いいじゃないですか、恋人の聖地を謳ってる場所なんですから

こんなことをするのもわたしたちだけじゃない筈ですよ?」

 

(コイツは何時だって強かだな。まぁそれに救われてきたのも幾度も

あったし、結婚に至れたのもそうだし、今後もそうなんだろうな・・・)

 

「はいはい分かりましたよ、奥さん。

人が多くなって来たのでそろそろ移動しますよ」

 

「むぅ、もうちょっと余韻に浸っていたいのに、この旦那様は・・・」

 

 

日帰り温泉の一つである入浴時間の10時に迫っていたので

滝を後にし、移動中の最中

 

「そう言えば、日本三大名瀑って他に何があるんでしたっけ?」

 

「身近なとこでは日光の華厳の滝だな。もう一つは熊野の那智の滝か」

 

「そういえば東武鉄道の特急スペーシアって『けごん』と『きぬ』でしたよね?」

 

「ああ、おそらくは滝の名前と地名にあやかってるんだろう」

 

「小・中学生の修学旅行でも日光には縁がなかったんですよねー」

 

「あそこは世界文化遺産に登録されてる日光東照宮がある

外国からの観光客も多いし、受け入れも大変なんだろうさ」

 

「だったら、プライベートで行く分なら問題ないですよね?」

 

「どんだけねだるのよ、この子は・・・・」

 

「わたし、スペーシアの個室一度乗ってみたいんです!いいですよねー?」

 

「ま、そのうちにな・・・そのうち。旅行ばかりしてたら、生活がひっ迫しちゃうでしょうが」

 

「そこは現実的なんですよね・・・」

 

「これから、どれだけ長い時を一緒に暮らすと思ってんだ?

生き急いだって仕方ないだろ?一つ一つ、楽しんでいけばいいさ」

 

「むふふ~、さしあたっては〇〇の宿 〇〇〇〇の温泉を楽しみましょうか!」

 

「あいよ、奥さん。仰せのままに」

 

腕に抱き着いたままかと思いきや、それをほどき手を引っ張って先導する

愛妻いろはに苦笑しつつ俺はそう応えるのだった

 

 

         ~〇〇の宿 〇〇〇〇~

 

 

10時をちょっと回った時分に到着し、入浴料を払い館内の案内図を見てみると

 

「あ、ここ昼食食べれますね♪」

 

「次の所、昼食は食べれないんだよな、駅近くの食事処にしようかと思ってるけど」

 

「ならここにしましょう!食事が11時からなら開店と同時に入れば時間ロスもないでしょうし」

 

「そうか?まぁ発車の時間が14時前後だから余裕があると言えばそうだが」

 

「じゃ決まりですねー。上がったら無料休憩室ってとこで合流しましょ」

 

「おう、また後でな」

 

 

_____________________________________

 

ここの温泉は檜内風呂、露天風呂の2つが楽しめる仕様になっていた。

 

効能は 経痛・筋肉痛・関節痛・五十肩・運動麻痺・関節のこわばり・うちみ・くじき・慢性消化器病・痔疾・冷え性・病後回復期疲労回復・健康増進

 

・・・万能ということなのだろう。腰痛も収まりつつある事だし、ゆったりと浸かる事30分。

 

無料休憩室で涼み、11時までお土産屋を見て時間を潰すことにした

 

 

「ほーんーここ一帯ってりんごの産地だったんだ」

 

「女将の自家製レシピでリピーター続出・・と」

 

「アップルパイって作った事ある?」

 

「いえ、これはやった事ないですね・・・」

 

「どうやらダイニングの昼食でも同じものが食べれますね」

 

「ん、まだそこまでお腹空いてないからそっちでいいか」

 

 

 

ダイニングルームにて「数量限定 手作りアップルパイ&ドリンクセット600円」としてメニュー

としてあり2人してそれを注文することに

 

甘味の酸味が黄金比率でマッチングした味わいを気に入りってしまい、

お土産に4つ買ってしまったことを明記しておく

 

 

      ~2つ目の日帰り温泉旅館へ移動中~

 

「いやー絶品でしたね、アップルパイ♪」

 

「サクサクの生地にりんごの甘味と酸味が絶妙に合ってたからな」

 

「おうちでも冷やして食べましょうねー」

 

「そうだな」

 

 

歩く事15分 〇い〇〇〇〇 に到着した

 

 

「ここの渓流露天風呂は12時までしか入れないからちょっと短めだな」

 

「さっきの食事のせいですか・・・まぁ、仕方ないですね」

 

「源泉かけ流しの湯の美肌効果があり、美人の湯と言われt」

 

「直ぐ入りましょう、直ぐに」

 

「お、おう・・・」

 

(てか充分お前は美人だってのに・・・)

 

(やはり女はいつでも美人でありたいですからねー)

 

 

_________________________________

 

渓流露天風呂は10分位しか浸かれなかったが、大浴場・庭園露天風呂は

ゆったりと浸かり食後ということもありのんびりと出来た

 

 

温泉から上がった後も上がってもポカポカと暖かく、肌がしっとりと馴染んでる感があり

湯上り処で2人で涼んでいる間も、絶えずいろはが鼻歌を口ずさんでいて

この小旅行を楽しんでくれたようでなによりだった。

 

 

時刻は1330。

 

「そろそろ駅に行くか、いろは」

 

「え、もう時間ですか」

 

「街並みをのんびり目に焼き付けて行こうと思ってな」

 

「昨日は到着して即宿直行でしたからね・・・」

 

「あー慌ただしくて済まんかった・・・」

 

「いいですよー今日は今日でのんびり出来ましたし。

また明日から頑張ろうという気にもなりました」

 

「そいつは良かった」

 

「あ、八幡君。水戸からまたグリーン車乗りましょうよ?

鈍行旅の最後の贅沢ってやつ、気に入ったので」

 

「なんだまたグリーン車か?チャージ金額大丈夫かな・・」

 

「水戸駅で20分位待つんですよね?問題ないですって」

 

そんなやり取りをしつつ俺達は駅へと向かって行く

明日からの日常に備えて愛の巣へ戻るために

 

 

そして愛妻と今度は何処に旅に行こうかと頭を巡らせながら

 

 

 

 

 

 



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第二十八話 フォトウェディング

この話は短いですが、連載当初から絶対に描きたい事だったので
ここまで書けて満足です


GW旅行が終わり、6月に入った休日。

俺達は幕張にあるフォトスタジオに足を運んでいた。

 

「結婚式を挙げないなら、せめてウェディングドレスを着て

それを写真として残したいです、出来れば家族と一緒に」

 

そんないろはの願いで前々から調べていた所、幕張にある

フォトスタジオで請け負ってくれるのが判明した。

(流石に『ご家族様・ご友人様のお支度やお衣装レンタルは要別途料金』とはあったが)

 

 

(これであいつらとも、直に会えて、やきもきさせてしまった謝罪も出来るな)

 

 

今日は比企谷家・一色家だけでなく、戸塚、雪ノ下、由比ヶ浜にも事前に連絡し

撮影に加わる事となっていた

 

 

タキシードに着替えて、背広に白ネクタイ姿の戸塚と雑談しながら

いろはの支度が整うまで待つことに

 

「話には聞いてたけど、式は挙げずにフォトウェディングという形にしたんだね」

 

「いろはとも色々話し合ってだな、式を挙げた後を考えると若干心許なかった現状だったんだよ。

それでもあいつは俺と共にいる事が最優先だって言ってくれたんだ。後は両家と相談してこうなった」

 

「それで6月になったのには『ジュンブライド』にあやかってるの?」

 

「ご名答、いろはが『ロマンチックでしょう?』って言うんだ。相変わらずあざといだろ?」

 

「でもそういうところも、好きなんでしょ?八幡は?」

 

「正直それを無くしたら、アイデンティティーないだろ?」

 

「相変わらず捻くれてるなぁ、そういう時は肯定しちゃえばいいのに・・・」

 

 

 

一方女性陣の方は・・・

 

 

「わー凄い似合ってるよ、いろはちゃん!」

 

「純白のドレスではなく、サーモンピンクってところなのかしら?

高校の時着てたカーディガンも確かピンクだったわね」

 

「ええ、この色はわたしのお気に入りの色なんです

わたしが生まれたのが4月で丁度桜色なので思い入れがあるんですよねー」

 

和やかに談笑してる中、いろはの母しぐれさんがノックし入室してくる

 

 

「いろは・・・よく似合ってるわね。婿側も準備は整ってるし

チャペルとカメラマンも何時でもOKよ」

 

「うん、ありがとう。お母さん」

 

「じゃ、あたし達は先に行ってるね」

 

「いろはさん、また後でね」

 

2人が立ち去り、いろはの父ー兼人さんが入れ替わりに入室してきた

 

 

「いろは、そろそろ行こうか。結婚式は挙げられなくても

愛娘とバージンロードを共に歩けるとは感無量だ。父さんは・・・」

 

 

「ありがとう父さん。式は挙げられなくても、ちゃんとお世話になった

お礼を返したいと思ったら、やっぱりチャペルは外せないと思って」

 

 

「ちゃんと親孝行の出来る娘に育ってて嬉しいよ・・・

八幡君と幸せになるんだぞ?」

 

「今でもちゃんと幸せだよ?改めて認めてくれてありがとう・・・父さん」

 

 

___________________________________

 

 

バージンロードの先で戸塚・小町と共に静かに待つ

 

流石に牧師は呼ぶと予算が高くなる為、見届けを買って出たのが

この2人だった。2人が持つお盆の上には、ペアネックレスが置かれてある

誓いの言葉の後に、指環の交換が行われるのが常ではあるが、

代わりにネックレスを付けあうということで話がついた

 

そして扉が開き、いろはと兼人さんがバージンロードを歩き

こちらへと向かってくる。俺の前まで来るとそっと小声で

 

「いろはを・・・愛娘を宜しく頼む」

 

と囁き、席へと戻っていた。

 

(分かってますよ、こいつと2人で歩いていきますから)

 

「おにいちゃん」「八幡」

 

「「ネックレスの交換を」」

 

お互いにネックレスを付けあうと

 

「あなたを愛してます、八幡君。これからもずっと・・・」

 

「俺もいろはを愛している。不甲斐ない俺をこれからも支えて欲しい」

 

「はい・・・!」

 

そして情熱的なキスを交わし

 

参列者 比企谷家・一色家・雪ノ下に由比ヶ浜。そして見届け人の2人

そしてフォトスタジオのスタッフからの拍手に歓迎された

 

 

チャペル内で友人同士での撮影

一色家との撮影

 

終始皆笑顔で和やかな雰囲気で無事終了した。

 

 

後日撮影データを基にお互いの会社関係者と親戚にに入籍報告葉書を

送ることになったのだった。

 

 

「このたび4月16日に入籍いたしました。未熟なふたりですが、

力を合わせて温かい家庭を築いていきたいと思います。

これからもよろしくお願いいたします」

 

との一文を添えて

 

 

 

「これで一通り終わったか?」

 

「そうですね、あの旅行でやりたい事を一つずつ

成し遂げてきましたし、憂いはないかなーと」

 

「そいつはなによりだ」

 

「後は・・・・ですね」

 

「ん?」

 

「いつ妊活を意識しようかなーって」

 

「あーしばらくは旅行で思い出を作りたいって言ってたもんな」

 

 

 

「ですです。なのでお盆休みがもうじきじゃないですか?」

 

「近年、海の日が制定されて休みが長くなった。有難いことだ」

 

「なのでー西の方行ってみません?」

 

「西の方ねぇ。修学旅行で京都まで行った位しかないな」

 

「わたしもです・・・」

 

「宿も1か月以上前なら空きもあるかもしれんな」

 

「八幡君もこの際、京都での思い出の上書きしちゃいましょ?

いい思い出も作りましょ?」

 

「え?もう京都確定なの?」

 

「妄想するのはただですよ?ね?」

 

「全く調子のいい妻だな・・・おい」

 

「だから、お盆の旅行終わったら、お互いちょっと意識してやってみましょ?

気負わずに楽しくね?」

 

 

「ん、了解だ」

 

 

俺達の日常はこうして流れていく

 

 

 



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第二十九話 八幡の誕生日そして お盆旅行~その1~

昨年投稿するつもりでしたが、最繁忙期で書ける時間を確保出来ませんでした

本年もよろしくお願いいたします。


季節は夏真っ盛り、8月に入っていた。

学生にとっては長い長い休みを謳歌出来るパラダイスではあるが、

今の俺は社会人4年目、休みがお盆のみという生活に慣れつつあるというのが現状

 

ああ、社畜への道へひた走っているんだな・・と若干落ち込みつつ稲〇駅を降り家路を進む

更には立て続けに自分がやったミスのクレーム処理も相まって、普段より残業が長くなってしまった

流石に今日、閉店タイムセールを狙って買いに行く気力は今の俺にはなかった

 

「帰ったぞー」

 

「あ、おかえりなさーい」

 

「大分遅くなってすまんな」

 

「珍しいですね?こんなに遅くなるなんて?」

 

「あーミスが立て込んでなー。その処理と謝罪に時間を食ってしまったんだ」

 

「そうでしたか・・・・お疲れ様です」

 

「・・・・おう」

 

_____________________________________

 

 

普段着に着替え、今日は飯食べたらシャワー浴びて寝てしまうかと思い浮かべていた所

 

「はい、温め終わりましたよ?」

 

「ああ、ありがとな」

 

「後、こちらも・・・ですね」

 

そう言って冷蔵庫からいろはが取り出したのは、モンブランと赤ワイン。

 

「今日は八幡君、あなたの誕生日ですよ?」

 

「・・・・ああ、そうだったか」

 

「ちょっとちょっと?自分の誕生日忘れてるってどんだけですかー?」

 

「・・む、繁忙期にも入って余裕がなかったのは否めないな・・・」

 

「全く、自分の事は二の次にしちゃうんだから、八幡君は・・・・

だからこそちゃんと足を付けて、一旦立ち止まってもいいと思う」

 

「いろは?」

 

「八幡君は一人で物事を考えてしまう癖があるのは、昔からの性分だってのは

知ってる。わたしとの結婚時期を悩んでたのもそう。でも、今はもう一人じゃない。

わたしたち家族です。夫婦です。八幡君の妻です」

 

 

「心配かけてしまったな・・・」

 

「ホントですよ!全く・・・ですから今日は26歳になったお祝いで

明日からはまた新たな気持ちで挑めるようにわたしが癒しますから!」

 

 

そう言って可愛らしくウインクする、あざとくも愛おしい俺の愛妻いろはに

 

 

「つくづくお前には勝てないな・・・ありがとないろは」

 

溢れる感謝の思いを込めて頭を撫でた

いろはは満更でもなく目を細めて受け入れ、幸せ一杯の顔で

 

 

「どういたしまして♪」

 

 

食後は2人で久々に一緒に風呂に入り

上がった後はハグし合って寝る事に

 

 

「八幡君からハグしてくるなんて・・珍しい。大抵はわたしからなのに」

 

「なんとなく今日はそんな気分なんだ」

 

「明後日からはまた旅行ですね?」

 

「ああ、上手い事宿が取れた。今から楽しみだな」

 

「心の洗濯してまた新たに頑張りましょうね♪」

 

「おう」

 

啄むようなキスを交わし

 

「八幡君、おやすみなさい」

 

「おやすみ、いろは」

 

_____________________________________

 

8月10日(山の日)AM4:40 稲〇駅

 

 

熱中症対策で俺は帽子。いろはは麦わら帽子。

そしてお互い冷却タオルをを首に巻き。青Tシャツにジーンズに歩きやすいスニーカーを履いた装いの俺

いろはは黒のフラットシューズにグリーンスカートに白Tシャツで決めている

俺達は寝ぼけ眼を擦りながら、駅構内のベンチで横須賀線直通の電車を待っていた

 

「ふぁーねむぃ・・・・」

 

「戸塚駅まで1時間ちょっとだから爆睡はするなよ?するなよ?」

 

「随分と強行旅を組んだんですねぇ~」

 

「あまりゆっくりだと今日中に京都に着かないからな・・・」

 

「今回もあの切符の鈍行旅を組んだんですね?休憩なしで鈍行で乗り継いでも

京都到着が15時前・・・新幹線ならおよそ2時間半。7時間も違うなんて

偉大って改めて感じますね。それでいて朝ラッシュ並みのダイヤを一日中組んでる

どれだけ需要があるんだって話ですよ」

 

そう、俺はまた青〇18切符で鈍行旅を組んだのだ

初日こそ京都への移動とメインとなるが

それ以降の大移動は5日目位になる見通しを立てたので1枚の購入に留めていた

 

 

「まぁ、なんだ戸塚からは沼津まで2時間位あるんだし、

またグリーン車で寝ればいいんだ。それまで辛抱してくれ」

 

「ふぁーい・・」

 

そうこうしてるうちに総武線快速・横須賀線直通電車が入線。

始発電車ということもあり、悠々と座席を確保。

東海道線への乗り換え駅が東京駅・品川駅・横浜駅・大船駅・戸塚駅と多数あるのに

検索サイトで戸塚駅が出てきたので疑問に思っていたのだが

 

駅の構造、乗り換え時間、その辺りを考慮されての事だと理解できた

 

東京駅ー総武線が地下ホーム。東海道線まで遠い。新幹線停車駅。人多し

 

品川駅・横浜駅・大船駅ー階段を上り下りを余儀なくされる。品川駅に至っては新幹線停車駅。

多数の路線が行き交う、よって人多い。

 

戸塚駅ー横須賀線と東海道線が同じホームで乗り換えが出来る、階段上り下りが不要!それ以外の路線は市営地下鉄のみ。

 

この世には神がいた!戸塚は駅でも人でも俺に優しいものであったのだ!ただただ内心感激する俺に

いろはがジト目をしていたのはここだけの話にしておこう

 

 

戸塚駅から乗り換えた東海道線のグリーン車は既に7割程席が埋まってはいたものの2人並びの席をかろうじて確保。

そこでようやく沼津まで2時間程の仮眠をとる事が出来たのだった

 

_____________________________________

 

沼津駅 AM8:05

 

「んーよく寝た~」

 

「大分眠気も取れたな」

 

「後何回乗り継ぐんでしたっけ?」

 

「静岡と掛川だな。掛川から天竜浜名湖鉄道、ローカル線に乗ることになる」

 

「あれ?京都までの移動で終わるんじゃないんですか?」

 

「寄り道だ。さて問題、浜名湖って言えば何が有名?」

 

「浜名湖・・・?うなぎ!?」

 

「正解だ。俺も店を絞り込むまで知らなかったんだが

うなぎの焼き方は『関西風』『関東風』があるらしいんだ」

 

「どっかのバラエティ番組でカレーが西が牛肉。東が豚肉を使用するって

知りましたけど、あれと同じなんですかね?」

 

「カレーの場合はブランド牛が神戸、松阪があるからその傾向だな。

東は養豚が盛んだったという話がるからだな」

 

「ふーん、話戻しますがうなぎの焼き方は?」

 

「関西風は腹開きにして蒸さないで焼くためパリッと香ばしいワイルドな仕上がりで、

関東風は背開きにして蒸す工程が入るため、余分な脂が落ち、ふわっとした食感に仕上がりにするそうだ」

 

「ほへー」

 

「浜松は東西の調理法が混在されてるから非常に興味深いな」

 

「おおー八幡君がイキイキしてる・・・」

 

「掛川まではあと2時間揺られることになるが、まぁのんびりと行くとするか」

 

「はい♪」

 

__________________________________________________________________________

 

掛川駅 AM9:55

 

沼津駅からは席は確保出来たものの静岡駅では県庁所在地の駅だけあって、

車内は混み合っており1時間程つり革に揺られて耐える事と相成った

 

「いろは、大丈夫か?」

 

「うん大丈夫です・・・」

 

自販機でポカリを2本買い、一本をいろはにの頬に当てた

 

「わひゃぁ!?」

 

「混み合った車内で水分取られただろう、暫く当てて熱覚ました方がいいぞ」

 

「普通に手渡してもいいじゃない、もう・・・・」

 

そんな戯れをしていると天竜浜名湖鉄道の発車時間が迫ってきてた為、

 

取り急ぎ乗車し席を確保した。

 

「ディーゼル車で一両・・・・」

 

「のどかでいい・・・非日常に来たって気がする・・・・」

 

「八幡君が旅に凝り始めたのってこういった非日常を味わうためなんです?」

 

「まぁそうだな。人生苦いことばかりだしな・・マッカンみたいな癖になる甘味もいいが

こういったのも悪くない・・・・なんて渋すぎる・・か?」

 

と自嘲的に笑ってしまうが

 

「ううん、いいと思いますよ?」

 

ポカリを一口飲んで一息ついた後

 

「共働きで先に帰って八幡君を出迎える日常も

外に飛び出して、知らない事に触れる刺激もどれも大切な事として刻まれますから」

 

「つくづく変わったよな、お前」

 

「八幡君も出不精って印象が強かったのに、こんなに旅行にはまるなんて

付き合い始めからは考えられないですよ?」

 

「あー元々俺は、親父と一緒に旅行出てたんだよ、小学生低学年位まではな」

 

「そういえば、婚前旅行の時言ってましたっけ、ブルートレイン乗った事があるって」

 

「それだそれ。その頃を思い出してドはまりしたのが今に至るってわけだ」

 

そんな会話をしているとうなぎを食べる為に降りる駅が近づいてきた

 

 

 

 

 

 




区切りがいいのでここで止めます

人生山あり谷あり。
八幡の場合は谷ばかりですが、いろはと共にある事で
頑張れる源、心の清涼剤になっている描写を
一つ入れてみたいと思って入れてみました


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第三十話  お盆旅行~その2~

大変お待たせしました。
構成に大分悩みましたが出来上がりました


遠州鉄道との乗り換え駅である西鹿島駅を通り過ぎる事、数駅。

途中下車した頃には11時を過ぎていた。

 

「ふむ、丁度店が開いて間もないな」

 

「到着時間が開店時間に合わせて組んでいたというんですか・・・・」

 

「店が混んで待たされるのは嫌だというのもある。浜松駅みたいな町の中心部だとそうなり易いしな」

 

「それも計算してのことですか、相変わらずというか・・・」

 

「時間を上手くコントロールするのは大事だぞ?イレギュラーな事は出来るだけ避けるのが俺だ(ドヤ)」

 

「威張るとこそこじゃないですよ(ペシ)」

 

 

      ~〇〇屋~

 

駅から歩くこと数分。目的の店に到着。

客は俺達以外にはいなく、目論見通りに事が運びそうな流れに

思わずほくそ笑みつつ、うな丼を2人前頼み店内の様子を見ながら待つ

 

「なんか落ち着いた感じの店ですね。さっきトイレに行った時に座敷の席もみかけましたよ」

 

「3代続いてる店で味にはこだわってるみたいだ。

『一匹ずつ個性の違ううなぎを見極め、焼き加減を変えております』だとよ

・・・プロなんだな、一匹毎に変えるとは」

 

「でなきゃ、専門店なんて謳う筈がないですよ?」

 

「違わない。本場のうなぎ楽しみにさせてもらうか」

 

      ~10分後~

 

お盆に鰻が乗った丼とお吸い物が運ばれてきた

 

「凄いです・・・今まで食べて来たうなぎの厚みが全然違う」

 

「そうだな、では早速頂くとしようぜ」

 

「「いただきます」」

 

 

 

「(うぉ、これは!!?見た目の厚さに反してこの食感の柔らかさ!!

タレと相まって至高の味わいだ!

いつも食べていた鰻はタレで誤魔化していたのがよく分かるな)」

 

 

ちらりといろはの方を見ると、目を輝かし黙々と食べていた

この様子だと俺と同じ感想を持ったんだろうなと予測しつつ

完食し、次の列車が出る10分前になった所で店を後にした

 

_____________________________________

 

「ん~美味しかったですね♪」

 

「天然うなぎの美味さは伊達ではなかったな。

今回のはうな重だったが名古屋めしでうなぎを短冊切りにしたひつまぶしもあると聞いたことがあるな」

 

「名古屋めしですか・・・他には味噌カツとかきしめんは聞いたことありますけど」

 

 

「名古屋駅弁・・・・っと。お、検索したら味噌カツとひつまぶしは駅弁でもあるようだな」

 

「帰りに駅弁を買って食べる楽しみが出来ましたね」

 

「それに松阪牛の駅弁もあるぞ?三重県・・・隣県だからこそだろうな」

 

「どうせなら、松阪牛と味噌カツ両方買ってみませんか?

お裾分けし合って食べ合うのもいいと思うんですけどー?」

 

「それも楽しそうだな」

 

帰りの予定を新たに付け加えつつ、駅に滑り込んできた列車に乗り

東海道本線・新所原駅へ向かうのだった。

 

 

新所原からは2駅で愛知県は豊橋駅。

ここからは快速・新快速の電車が存在し席もクロスシートになっており快適な旅が出来そうだった。

行きでは名古屋は通過しそのまま京都へ直行予定、大垣以降での乗り継ぎを考慮し

一本後の快速電車まで待つことに相成った。

 

名古屋方面からの折り返し電車到着後、すぐに扉付近の席を確保し網棚に荷物を載せ

だらりと寛ぎつつ発車を待つ。

 

「これで1時間半はのんびりと座ってられますね」

 

「ああ、後の乗り換えは大垣と米原のみ。京都には17時前には着けるだろう」

 

「修学旅行では夜の観光は全く出来ませんでしたからねー

食事後から21時までの制約ではまともに周れるわけないのに!」

 

「俺の時は平塚先生に連れられて、ラーメン天下一品総本店で舌鼓を打ったな、懐かしい」

 

「監督すべき立場で生徒と共にラーメン食べに行くってどうかと思うんですけど・・・」

 

「まぁ、今となってはいいじゃないか、今回は色んなモノを食べてみようと思う

まずはシティホテルにチェックアウト。荷物を置いて街に繰り出すのもありだろう」

 

「でもほとんどのお寺さんはもう見物出来まませんよ?」

 

「京都タワーで夜景見物位はしておこう。明日の夜は福知山に泊まるんだから」

 

「京都の街並みの夜景ですか・・・首都圏とは多分違うものなんでしょうね・・・」

 

「日没と夜景、両方楽しめるには19時前後に20時過ぎか・・・ちと夕食早めにしておくがいいか?」

 

「りょーかいです(ビシッ)。で、どれにするかもう決めてるんです?」

 

「ああそれがだな(京都ガイドブック見ながら)、京懐石や精進料理なんてあるんだが

正直高くつくからもっとリーズナブルなのを探してるんだが中々・・・・な」

 

「んー湯豆腐は食べないんですか?」

 

「それは1000円台で食べれる店が、金閣寺近くにあるらしいから明日の昼に行こうと思ってる」

 

「んーそしたら、何食べようか・・・な?にしんそば・・・これ食べに行きませんか?」

 

「おーニシンか。数の子のイメージしかないけどな」

 

「この機会に食べてみません?話のネタに」

 

「んじゃ、荷物置いたら食べに行って、その後京都タワーって流れで行くか」

 

「はーい♪」

 

 

大垣駅 15:02 普通電車4両編成

 

米原駅 15:47 新快速12両編成

 

とそれぞれ遅延も乗り遅れることなく進み、京都駅16:42に定刻到着した。

 

「んー家からここまで12時間かかりましたか~。

それにしても大垣からの電車が4両編成はないと思いますけど」

 

「ま、ちゃんと輸送力は賄い切れてるんだから増やすまでもないという判断なんだろ?

長い間お疲れさん。ホテルまで徒歩5分位だ。そこで休憩したら目星をつけた店に行くぞ?」

 

「ん、しっかし京都は盆地だからなんでしょうか・・・じっとり暑いですね・・・・」

 

「電光掲示板には現在33℃とあるな・・・うへぇ・・・」

 

げんなりとしつつもホテルに何とか辿り着き、チェックイン。

いくらか生気を取り戻した後、目的の店へと繰り出したのだった

 

 

     ~総本家にしんそば 〇〇~

 

地下鉄四条駅から徒歩数分で行けるこの店に辿り着いた

夕方と時間もあり客の入りもそれなりで8割ほど席が埋まっていた

 

「冷やしメニューもあるな。迷う必要はなさそうだ」

 

「ですね、すいません~『冷やしにしんそば』2つお願いします」

 

蕎麦が運ばれてくるのを待つ間、案内書きを見る事に。

 

 

「なるほどな京都は、盆地である特性上新鮮な海の幸には恵まれることも少なかったか」

 

「京都府は海なしではないですけど、北部の舞鶴までいくのは時間かかりますもんね」

 

「ま、明後日行くことになるけどな。んでもって朝廷への貢物も干魚類が主であったと。

特に『にしん』『たら』は代表的な魚類で、一般市民も干魚類をタンパク源として好んで常食していた・・・か」

 

 

「『にしん』と『そば』の組合わせに成功し、『にしんそば』として売出したところ、

一躍洛中洛外にその味と風味が流布された。そして京都を代表するグルメになったんですね」

 

「にしん」と「たら」で思い出したんだけど、おせち料理とかでも使われてたな」

 

「そうです、そうです!昆布巻きでありますよ!」

 

「今は亡くなちゃったけどお祖母ちゃんが正月お節で作ってくれたのを食べるのが楽しみだったんだよな」

 

「あ、わたしの実家もそうです。だけど、母曰く『結構手間かかるから作りたくない』って言ってました・・・」

 

「うちもそうだ・・・・共働きってのもあるからな(苦笑)」

 

10分位で注文した蕎麦が届き手を合わして

 

「「いただきます」」

 

「へぇ、骨まで柔らかくて食べやすいな・・!」

 

「出汁とにしんの油が絶妙な味わいですよ」

 

「にしん自体が甘辛くて蕎麦のマッチングもいいな」

 

_____________________________________

 

「「ご馳走様でした」」

 

スタッフに「ありがとうございましたー」という言葉に見送られ、店を後にした

 

 

 

「中々の味だったな」

 

「ですね、にしんなんて中々食べる機会ないですからねー」

 

「時間ももうじき18時半になるか。ここからなら京阪本線で七条駅まで行くのがよさそうだ」

 

「七条駅が京都タワーに近いんですね。よーし行きましょう!」

 

 

 

          ~京都タワー~

 

「ただのタワーだけじゃなく、地下に大浴場まであるとは驚きだな」

 

「汗もかいてますし、夜景まで見た後、利用しましょうよ?」

 

「21時まで営業してるみたいだし、悪くはないな・・・」

 

「素直に入るって言えばいいのに・・・・」

 

 

そんなやり取りをしつつ展望室へ到着すると、もうじき日の入の時刻らしく綺麗な夕焼けに染まっていた

 

「いいタイミングだったな」

 

「ええ、とても綺麗・・・」

 

完全な日没となり、眼下には町のライトが灯り始めていた

それはまるで碁盤の目のような街が形成されていた

 

「昔の平安京は街並みは碁盤だったというが、それは今でも受け継がれているんだな」

 

「確か当時の中国、唐の都ー長安をモデルとしてるんでしたよね?」

 

「ああ、奈良時代の平城京もそうだったみたいだな」

 

1時間程夜景を満喫したのち、地下の大浴場で汗を流し

ホテルに戻ると時刻は21時を指していた

 

 

「流石に今日は寝てしまうか」

 

「明日も一日観光ですからねー」

 

「世界遺産の寺の幾つかは見て置きたい。修学旅行では行けなかった所をな」

 

「清水寺とかは除外ですね」

 

 

ホテルの寝間着に着替えると、いつものように俺の寝床に入り込み

横向きで俺に抱き着いてくる愛妻いろはに苦笑する

 

 

「正直ツインで予約じゃなくて、ダブルでもよかったような気がするんだよな・・・」

 

「でもダブルがなかったから仕方なくってことなんでしょ?」

 

「正解・・・」

 

「将来わたしたちの愛の結晶が出来ても、こうして寝るのはわたしだけの特権ですからね?」

 

「ま、断っても俺が寝ている内に抱き着くんだろうに。。。」

 

「バレバレですか(テヘ)。でも嬉しいでしょう?」

 

「・・・・・・・おう、そりゃぁな」

 

「ふふっ・・・おやすみなさい、八幡君」

 

「おやすみ、いろは。良い夢を」

 




筆者は現地浜松にてうなぎを実際食べましたが、本当に美味しかったですよ


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第三十一話 お盆旅行~その3~

遅れて申し訳ありません


旅行2日目

かつてないほどの難産回と長丁場になりました
2日目最後まで載せるか迷いましたが
区切ることにしました





                8月11日

 

いつもと違う寝床の感触で目が覚めた。時刻は?・・・・ともうじき6時になるのか

普段とあまり変わらんな。

久々の遠出、猛暑の中での大移動で知らず知らずの内に疲れていたのかもしれんな

 

さて今日は何処から周るとするかな

とぼんやりと考えていたらスマホの6時の目覚まし音が鳴り

いろはもむくりと起きだし

 

ん~っと両腕を上に伸ばしてにこやかに

 

「おはようございます、八幡君」

 

「おはよう、いろは」

 

いつも俺を癒してくれる柔らかな笑みと共に朝の挨拶を交わし合った

 

 

_____________________________________             

 

 

身支度を整え、6:30からの朝食時間開始と同時に食べ始め、

7:00にホテルを後にした俺達はまず京都駅に赴き

 

京都駅前バスのりばなどに設置(京都駅以外にも一部設置)の券売機にて

「地下鉄・バス1日券」を購入した。

時節柄お盆という観光シーズンで渋滞も考えられるので臨機応変に動けるよう

これにしておいたのだ。夜には福知山に移動するし、時間は有効に使わないとな

 

まずはこれで地下鉄烏丸線・東西線と乗り継ぎ「東山駅」へ向かう事に。

そこからは徒歩10分で平安神宮に到着した

 

 

「朝だから大分涼しくて楽でいいな」

 

「盆地ならではの気候ですね、朝涼しく昼は暑いといった」

 

「正月は旅行で初詣行くタイミングを逃してしまったし

京都に来たんなら行っておきたいと思ってたんだよ」

 

「正しくは【婚前】旅行ですよね?(ジー)」

 

「はい、そうです・・・」

 

「宜しいっ!(腕を抱き満面の笑み)」

 

「お守りも買っておくか。こういう歴史があるところならご利益にあやかれそうだ」

 

「何のお守りにするんですか?」

 

「健康のお守りだな。大きな病気にならずに生きたい。いろははどうする?」

 

「わたしは健康ともう一つ考えてます」

 

「もう一つ?」

 

「それはヒ・ミ・ツです♪」

 

「あ、あざとい・・・・」

 

_____________________________________

 

大きな鳥居と境内も広く、朝の早い時間とあってのんびりと散策し

目当てのお守りも難なく購入し、実質1時間程の滞在時間となった

 

「拝観料払えば、 神苑内も見れたんですね」

 

「ま、桜や紅葉の時期じゃないし。今回はいいだろ」

 

「意外と歴史は京都の中では新しい方だったんですね?」

 

「平安遷都1100年記念として創建だったとはな」

 

「遷都を決めた桓武天皇をご祭神。有終として孝明天皇としたと。

学校で習わないことばかりですねぇ」

 

「ああ、だから面白いよな、歴史ってのは。そこにまつわるエピソード一つとっても」

 

「そういえば、さっきお守り2つ買ってましたけど何を買い足したんです?」

 

「ん、こいつだよ」スッと紙袋から中身を取り出して見せた

 

 

【愛護守】

 

 

「【愛護守】って何です?」

 

「平たく言えば、ペットのお守りだな。実家の猫のカマクラも飼い始めて10年近く経つ。

人間で言うと還暦を超えるからな。動きも大分ぎこちない所あるし。

今度実家帰ったら、首輪に付けてやろうと思ってな」

 

「・・・八幡君ってやっぱり家族を大事にしてるんですね」

 

「そりゃぁ、愛着あるしな。カマクラも大事な家族だ」

 

 

 

_____________________________________

               

              AM10:30

 

 

9:30に平安神宮を後にし、次に向かったのは金閣寺方面。バスを乗り継ぎ1時間程で到着。

 

人気のある湯豆腐膳が食べられる店なので開店前に並んでおこうと思い

早めに向かったのだが、既に何組か先に並んでいた

流石老舗人気店だけあるようだ・・・・

 

11時になり席に通され、二人して『湯豆腐膳』を注文

出来上がるまでお通しとして ごま風味のつまみ湯葉を堪能することに

これがチュルッといけて めっちゃ美味しい。

湯豆腐メインで楽しむつもりだったがこれは嬉しい誤算かもしれん

 

20分程で湯豆腐膳が運ばれて来て、まずは出汁を一口啜ってみる

 

「へぇ。昆布出汁がよく聞いて美味いな」

 

「結構好みの味ですね、これ」

 

「さて豆腐の方はどうだろう?

・・!豆腐は絹ごし、濃厚な醬油で味付けされてるのか・・・!しかも甘味がある」

 

「八幡君好みの味ですね。わたしは豆腐の舌触りが気に入りました」

 

「小鉢は・・・ご飯が進みそうなおかずばかりだな」

 

「ちょっと濃いめの味付けなんですね。確かにご飯が進みます(苦笑)」

 

15分程で完食し。会計を済まし1Fの土産屋で

「生湯葉丼の素」を購入。実家用と併せて多めに

 

 

「やー満足満足です♪」

 

「豆腐屋直営だけあって美味だったな」

 

「店員さんが話してくれましたけど、

『活発に活動されている方の昼食にと、やや濃いめの味付けとなってるんですよ』って教えてくれました」

 

「それでか・・・ようやく納得したわ」

_____________________________________

 

 

時刻はもうじき12時になろうかという頃で、店の近くの北野天満宮にも寄ってみようという事にもなり

 

「天満宮・天神社の総本山なのか・・・・・・・・」

 

「学問の神様、菅原道真を祭ってるんですね」

 

「修学旅行では行ける機会が無かったからな・・・」

 

「「学問」「至誠」「芸能」「厄除」の神様。随分と多くのものを司ってますねぇ」

 

「生きていく上で「至誠」「厄除」は避けて通れないだろうな。あやかっておくか・・・」

 

「ちゃっかりしてますねぇ~・・・・」

 

寺のあちらこちらにある通称「なで牛」をなで回し

御朱印帳なんてものが販売してるのが目に留まったので

俺は青。いろはは梅をそれぞれ購入してみた

 

「これで各地の旅した時に、お寺さんの御朱印集めという楽しみが

出来ましたね。旅する目的は一つだけじゃなくてもいいですよね?」

 

とウチの嫁さんはご機嫌ではあったけども

 

 

______________________________________________________________________

 

足早に北野天満宮を後にし、徒歩15分程で金閣寺に到着。時刻は13時半になっていた

拝観料400円を払い、近くのベンチで座り一緒に貰ったパンフレットを流し読みしつつ涼を取ることにした

 

「足利義満が建てたというのが学校の歴史の授業で習うのが一般的だったんだが・・・」

 

            パンフレットより

       

『実際は鎌倉時代に西園寺公経が所有していた土地に建立された西園寺・北山第という別荘が始まりとされています。

鎌倉幕府の倒幕後、西園寺家は権力を失い土地を手放すこととなりました。

室町時代に入り、荒廃していたこの場所を室町幕府第3代将軍であった足利義満が譲り受け、

1397年(応永4年)に山荘北山殿が造営されることとなりました。これが金閣寺となります。

そして金閣寺の正式名称は義満の法名鹿苑院殿から二字をとって鹿苑寺とされています』

 

 

「ここまでは知らなかったですね・・・・」

 

「一つの歴史を紐解くだけで学校で習わない事が知れる。本当に奥深いわ・・・」

 

「でも、1950年に放火で全焼って・・・・」

 

「おっかねぇな・・5年後に再建されたってあるが、戦後間もない日本の状況を考えるときつかったかもしれんなぁ」

 

 

ベンチで充分に休憩を取り終え、舎利殿・鏡湖池・夕佳亭といった見どころをのんびりと巡り

世界遺産に登録された文化財の美を目に焼き付けた

 

_____________________________________

 

金閣寺を出た際には15時になっていた。俺としては後2つ見て置きたい場所があった

徒歩15分ほどで嵐電(京福)北野線に乗り「北野白梅町駅」から「嵐山駅」に移動した

 

「流石に暑いですね・・・・この時間帯は」

 

「あんまり無理すんなよ」

 

「あ、生八つ橋売ってますね。どうしようかな~」

 

「ん?こいつは??生八つ橋以外にも種類があるのか?」

 

「え?ほんとだ・・・!」

 

 

「ええ、八つ橋は見ての通り生菓子の『生八つ橋』

そして生地を焼き菓子にしたものが『八つ橋』とされているんです」

 

「でも流石に『ようかん』があるなんて知りませんでした・・・!」

 

「6種類あるし全部買っていこう」

 

「また荷物が増えちゃいましたね♪」

 

「構わん構わん、これくらいはな」

 

思わぬ形でお土産が増えたが渡月橋に足を向けた。

一般的には観光の名所ではあるが俺にとっては因縁の場所だ・・・

 

かつて俺はここで葉山の依頼を受け、奉仕部3人でで受けた戸部の依頼、

そして海老名さんが秘密裏に依頼した3つの板挟みに苦しみ

 

我ながら最低だと思う「嘘告白」を行い3つ全ての依頼の解消をした

数少ない手札を切り、効率化を極め、最善を尽くしたと思っていた。

 

あの2人なら分かってくれる筈だと勝手に期待してその偶像を押し付けることの愚かさを、

俺は絶望した。言わなくてもわかるという幻想と、言ったからわかるという傲慢に。

 

 

そして傷つける覚悟、勇気がないとただ立ち止まるだけだという事を

俺はあの部活で学んだから。そして今隣にいる愛妻がいるのも

一歩踏み出せたからからこそだという事に

 

 

だからこそ打ち明けよう、初めて会った時、奉仕部が何故崩壊一歩手前だったのか

何故生徒会長を推したのかを

 

「いろは聞いてくれるか」

 

「え?」

 

「かつて、お前を生徒会長に推した経緯を」

 

「・・・・・・・はい、聞きます」

 

____________________________________

 

木陰のある嵐山公園を通りながら、トラウマの場所を目指して歩く

そして歩きながら件の話をゆっくりと話す

 

その間いろははぎゅっと俺の手を握り、その力が少しずつ力が込められていくのが見て取れた

 

嵐山 竹林の小径に辿り着き

 

「ここが3つの依頼を受け、嘘告白をもって解消を行った所だ」

 

「結果2人には拒絶。生徒会選挙で3人がバラバラに事に当たり部は崩壊寸前

それを食い止める為、奉仕部を守るためにお前を生徒会長に推した。これが真実だ」

 

 

「・・・・・やっと話してくれましたね」

 

「!?まさか薄々気付いていたのか?」

 

「ううん、小町ちゃんから。付き合う前に謝られてたんです

『小町の依頼で、あの2人のために……いろはさんを利用して……生徒会長に推させてしまってごめんなさい』って」

 

 

「!?小町がそんなことを・・・」

 

「でも、それまでの男子を手駒にしたりちやほやされたりの生活なんかよりも

イベントをやり遂げた時の充実感・達成感。得難いものを得れました。

何より本物に感化されて、わたしがわたしで在れる居場所を見つけられました」

 

 

「うぐぐぐ・・・」

 

「逆に感謝してるって事をその時に話しました。でも何故、奉仕部がそんな状態になってしまったのか、そこまでは教えてくれなかったんです。

『小町もそれが分かるまで話も聞かない状態に陥ったし。いつになく兄が沈んでいたのでそう簡単に教えてはいけないと思うんです。分からないままだったら、奉仕部も崩壊。いろはさんの今もなかった可能性すらあったかもしれないです。だから兄が過去の傷を乗り越えて打ち明けてくれるのを待ってあげて下さい』・・・てね」

 

「小町・・・そんな思慮深い事を・・・(顔を手で覆う)」

 

 

「わたしも時期的に修学旅行かなと当たりは付けてたんですけど。小町ちゃんにあんなこと言われた以上下手に詮索は出来ないまま、ここまで来ちゃいましたけどね」

 

「あーすまないな・・・」

 

「でもこうして話してくれた事、トラウマに等しい傷を乗り越えられるまでになって良かったです本当に」

 

「・・結婚するまで黙ってた事に触れないのか?」

 

「そりゃ、人には一つや二つ触れて欲しくない事はありますよ?八幡君のその性格に何年付き合ってきたと思ってるんですかー?んー?」

 

「うわっ、うざ・・・」

 

「ふふっ、わたしも面倒くさい性格してるって自覚あるし、似た者同士、何せ出会うまでに培ってきた土壌が違うんですから、まだ結婚1年目のヒヨッコ。隠し事も打ち明けあいそして落としどころを見つけながら生きていくんですから、これくらいでへこたれるもんですか!ってね」

 

てへっと舌をだしおどける小悪魔っぷりに逆に笑みが零れる

 

 

「それにそろそろ欲しいなって思ってるんです・・・」

 

 

 

腕に抱き着き、そして耳元で囁いた

 

「八幡君とのこども♪」

 

 

バッグからごそごそと紙袋を取りだし俺の前に見せた。それは

 

【安産守】

 

 

(平安神宮で買ったお守りのもう一つがこれだったというのか)

 

 

「ね?欲しくないですか?」

 

「ああ、めちゃ欲しいな」

 

ただ理想を押し付け合うだけでなく、話をして分かり合う

そんな関係を家族として発展して、お互いを気遣える程の今だったら。

俺達二人の愛情を吸収してすくすく成長していける存在。

 

俺達の血を継いだ存在。

愛おしいと思える存在。

 

そんなものが生まれて、その成長を見守って行ける

俺達に新たな生きる意味が増えるという事。

 

奇跡であり本物でもある

そんな提案を断るなんてあり得ないだろう

 

 

「お前と俺との間で生まれる本物の存在・・・断るとでも?」

 

 

「はいっ!それでこそわたしの旦那様ですっ!」

 

 

 

 




2人にとって新たな家族が増えるのが確定する日
それは遠くないことなのかもしれません


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第三十二話 お盆旅行~その4~

大変お待たせしました。京都編その2です


いろはに真相を打ち明け、感情が高ぶってしまい、近くにある嵐山公園のベンチで座り落ち着きを取り戻すことにした。

夕方の時間に入り、木陰の中、緩やかな風が吹かれていると顔の暑さも心の平静も取り戻しつつあった。

 

「八幡君、落ち着きました?」

 

「ああ、心配かけたな。いろはも暑さに参ってないか?」

 

「ええ、休憩と水分補給したので大丈夫です」

 

「そうか、ならそろそろ行くとしよう」

 

と立ち上がったと同時に列車の警笛が響いて思わず反応してしまう。

 

「お?丁度トロッコ列車が出る時間帯かな?」

 

「ちょっと見に行ってみません?時間ありますよね?」

 

「確かにまだ余裕はあるな・・・見に行くとするか」

 

_____________________________________

 

トロッコ嵐山駅に辿り着くと丁度亀岡方面へ発車したばかりのトロッコ列車を拝めることが出来た。

 

「トロッコ列車かぁ・・・乗ってみたいけど観光シーズンは難しいかもですね」

 

「四季折々の風景が楽しめるだけに当日購入は厳しいだろうな」

 

「そもそも、『嵯峨野トロッコ列車』なんて誕生したのですかねぇ?」

 

「昔はこの嵯峨野線が単線で、嵯峨嵐山と馬堀を直線トンネルで結んだ複線が完成した以降、それまで使っていた線路を活用しようとした動きから始まったと聞いているな」

 

 

「なるほど再活用したわけですか」

 

「それが今や京都の観光名物の一つになっているのだからな。嵯峨野線は京都から園部までの愛称という形らしい、それ以降は山陰本線で呼ばれていて、所々電化されたりと単線だったりとつぎはぎみたいになっていて、俺としては楽しめる路線だと思っているよ。

誰だったか忘れたけど山陰本線を「偉大なるローカル線」と評した事で有名な位だからな」

 

「相変わらず詳しいですね」

 

「ちょっとした雑学をかじっただけに過ぎん。もうじき日も暮れる。二条城のライトアップが19時からだからそれまでに飯を食べてしまうか」

 

「どこで食べましょうかねー?」

 

「駅前でいいだろ。嵯峨嵐山か二条のどちらかで」

 

「ん、それじゃ移動開始ですね」

 

結論から言うと、嵯峨嵐山ではリーズナブルな店が無かったので、二条駅近辺で回転寿しの店で軽く腹を満たし18時半になる前に二条城へ向かう事となった

 

二条城    18:30

 

「お盆だけあって結構並んでいるものだな・・・」

 

「それだけ人気なんですね、ここのライトアップ」

 

19:00からまもなくして入場出来てまず目に留まったのは仄かな光が当てられている七夕だった。

 

「こいつは地元の子供達の願い事だろうか」

 

「みたいですね。字がまだ幼いですよ。ふふ、この頃の子供達はこんな願い事をしていたんですね」

 

会場を進むと「願い事コーナー」が設置されており来場者も笹を飾る事が出来るとのことだ

 

 

った。

「へぇ、粋な事が出来るんだな」

 

「色とりどりな絵葉書短冊ですよ、どれで書こうか迷ってしまいますね」

 

 

「よし、こんなもんか」

 

「わたしも書き終わりました」

 

飾り終えたお互いの短冊を見終えて、お互い笑いあう。

 

「八幡君らしいですね。『平穏な日常を過ごしたい』だなんて」

 

「いろはこそまだ宿ってもないのに『元気な赤ちゃんを授かりたい』とは。気が早いぞ」

 

「えへへ、旅行中もピル飲んでいるのでシても授からないですけど、家帰って排卵日を見計らったうえでいっぱいしましょうね?」ボソッ

 

「・・・あいよ」頭ボリボリ

 

その後、メッセージ行灯が並んでいる通りを歩く。行灯の下の方には地元企業と思しき名前が記されている。完全な夜になろうという空の景色と相まって幻想的だった。

 

 

「妖怪たちの百鬼夜行」をテーマにした国宝・二之丸御殿(大広間)へのプロジェクションマッピング

 

二の丸庭園のライトアップ

 

夏の夜だからこそ映える最高の鑑賞を楽しみ、光の風鈴展示では夜になって涼んできた体感温度をより感じ、2人してスマホで動画撮影して楽しんだ

 

天の川をイメージしたライトアップした通りは青を基調とした通りで「願い七夕」は明るい色であったのに対して、こちらはやや暗めー夜を強調しているのかもしれない

 

 

休憩がてらベンチに座り、スマホで天の川を調べて見る事にした

 

『あまのがわ。夜空を横切るように存在する雲状の光の帯のこと

 

中国・日本など東アジア地域に伝わる七夕伝説では、織女星と牽牛星を隔てて会えなくしている川が天の川である。二人は互いに恋しあっていたが、天帝に見咎められ、年に一度、七月七日の日のみ、天の川を渡って会うことになった』

 

(そうか、七夕にちなんだものだったか)

それ以外にも目を引いたのは

 

『天の川のあちこちに中州のように暗い部分があるのは、星がないのではなく、暗黒星雲があって、その向こうの星を隠しているためである』

 

(だから青でライトアップしたのか)

フムフムと一人納得していた。

 

十二分に二条城のライトアップを満喫し会場を後にした時刻は21時を周ろうかという時間になっていた。

 

「んー満喫しましたね!京都」大きく背伸びをしてにこやかな顔をするいろはに

 

「ああ今回は純粋に楽しめたな」

 

そう返すと、ぎゅっと何も言わずに指を絡めて柔らかく握りしめてきた

 

「それなら・・良かったです。八幡君のつらい記憶が楽しい思い出で上書きされて」

 

「全く・・・・俺には勿体ない位出来た嫁だよ、お前は」

 

お礼とばかりに握り返し俺達は二条駅に向かうのだった。

 

 

二条駅 ~21:20~

 

時刻表を見ると30分に普通電車が出て、園部終点。接続電車を経て福知山には23時半を過ぎてしまうか。

片や後続の特急「きのさき」に乗ってしまえば終点福知山までのんびり出来る上に23時前には到着・・・か。

問題は席が空いているかどうかだけど果たして・・・?

 

結論・運がいい事に隣同士の空席を確保出来た。特急料金が1000円近くかかったが今日一日観光で歩き詰めだったからゆったり座席で疲れを取れる事に安堵したのだった

 

 

福知山駅 ~23:00~

 

「特急」きのさきに乗車して座席をリクライニングして終点・福知山までまどろんで多少の疲れは取れ、今日の寝床であるシティホテルへ向かっていた

 

チェックインを無事済ませツイン部屋に入りお互いシャワーで汗を流し終え、ようやく寛ぐ頃には日付も変わる時間になろうとしていた

 

「ふぅ、ようやく火照った体も涼んできたし寝るとするか」

 

「ですね~」ファ

 

「しかし夏場のホテルの寝間着はちょっと暑いかな」

 

「これに布団も掛けたら間違いなく蹴飛ばしてしまいますねぇ」

 

「ちょっと緩めの空調で調整してから床に入るとするか」

 

「はーい」

 

ベッド備え付けのボタンで完全消灯し瞼も閉じ掛け本能の赴くまま睡眠につく

と思っていたが腕に抱き着いていたいろはがそっと身を乗り出し頬に唇にキスをしてきた

 

「・・・何してんの?」

 

「旦那様がよく眠れるようにおまじないをかけてあげました♪

長年の棘がようやく抜けた事で心安らかになりますようにってね」

 

ああ、お蔭でよく寝れそうだ。程よく疲れてもいるしな」

 

「おやすみなさい。八幡君」

 

「おやすみ、いろは」

 

 




一つのトラウマを乗り越えた八幡と
それを支えるいろはという構図

それを表現してみたかったのです

感想も是非お願いします


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第三十三話 お盆旅行 ~その5~

大分間が開いてしまいましたね・・・申し訳ありません


             8月12日 旅行3日目

 

昨日京都を一日観光した疲れからか、福知山のとあるシティホテルにチェックインそしてシャワーを浴びた後は泥のように寝てしまっていた。スマホの目覚ましを掛けてなかった為、目を覚ましたら7時をとうに回っていた。

 

(やべ、大分寝ちまった・・・えーと時刻表、時刻表・・・)

 

(ふむ、朝飯食べてからの750の便は無理だな。次の特急は・・・やめておくか。となると913の便にしとくか)

 

「おーい、起きろ~起きろ。いろは」

 

「んーもう朝ですかぁ」

 

「おう朝だぞ、今日はそこまで強行軍じゃないからゆっくり支度しよう」

 

「ふぁーぃ・・・」

 

 

ホテルの定食指定メニューを平らげ、身支度を整えチェックアウトした時点で8時を過ぎていた。

 

「南口にも足を運んでから、改札くぐるとするか?」

 

「そうですね、まだ余裕ありますから」

 

改札手前のコンビニで飲み物を調達し終え、南口に出てみると駅前としては割と広めの公園が設置されていた。その真ん中にSLが遠目に見えたので折角なので近くまで行ってみることに。

 

「転車台に乗っているのか・・」

 

「転車台って?」

 

「平たく言えば、車両の方向を変えるための機械だな」

「例を出すと東京からの先頭列車にSLがあったら折り返しで東京に運行するにはどうしたらいいと思う?」

 

「えーと向きを変えないといけませんよね?」

 

「そう転車台はそのためのものだ」

 

「なるほど・・・」

 

更にSLの前まで行ってみると

 

「C11形か。それに保存状態もよさそうだ。市の管理がいいのだろうな」

 

「見てくださいよ、運転席には大きな白いクマのぬいぐるみがいますよ」

 

「解説パネルが設置されているな。平成19年からここにあるみたいだな」

 

 

時間を潰しているうちに9時に近くなったので、改札口をくぐり既に到着していた列車の座席を確保。午前の観光地である天橋立―

宮津での乗り換えを経て10時過ぎに着く予定だ

 

 

               ~天橋立~

京都丹後鉄道というローカル線に揺られる事一時間、目的地に到着した。

去年正月に日本三景の一つである松島を通り過ぎたが、この天橋立で感じる情緒を思う存分楽しませてもらうとするか。

 

駅そばの観光協会のおすすめルートを参考に回ってみる事にした。

 

              天橋山智恩寺

 

寺横の由来を伝える看板によると

『日本三文殊第一霊場』として広く知られております。『三人寄れば文殊の智恵』でなじみ深い文殊菩薩。正式には『文殊師利菩薩(もんじゅしりぼさつ)』とお呼びいたします。

試しにスマホで日本三文殊を調べて見ると

ここ以外にも大和の安倍文殊(奈良県桜井市)、出羽の亀岡文殊(山形県高畠町)あることが分かった。

 

いろはにこの事を話すと

「『日本三』とつくものつくづく多いものですね~」

 

「そうだな、文殊に景、滝と名園は既に一つずつ巡ったし。他にも車窓だとか夜景もあるな」

 

「そういった場所を大事な人と訪れるのも大事な思い出になりますよね~」

 

じーと上目遣いかつニヤニヤ顔で見つめてくる妻。全くあざとい奴だ・・・

 

「・・・ああ、そうだな」

 

そんなやりとりをしつつ、昨日買ったばかりの御朱印帳に新たなコレクションを加えて慈恩寺を後にした。

 

 

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「風切って松並木走ると涼しくていいですねー」

 

「ま、観光船が暫くないからこんな移動手段になってしまったんだがなー」

 

あの後、股のぞきで有名な笠松公園へ向かう移動手段として観光船乗り場に向かったのだが、丁度出たばかりで時間ロスする位なら何かないかとガイドマップを見るとレンタサイクルもあるとの事。しかも対岸での返却も可能との事で迷わず食いついたのだった。

 

「八幡君、あそこ海水浴場みたいですよ?結構人がいます」

 

「内海だから波もそんなになさそうだな。泳ぎやすそうだ」

 

「あー水着・・・持って来ればよかったかな」

 

「ん?何泳ぎたかったの?」

 

「だってこんな穏やかな海ですよ?」

 

「それには同意するが、お前の素肌を他人に見られるのが不快だ。邪な目で見られるに決まっているからな」

 

「へー、ふーん、ほーん・・」(ニヤニヤ)

 

「なんだよ、その顔は?人の妻を下心ありきで見られて喜ぶような人間と思われているのか?そいつは心外だな・・・」

 

「いやー八幡君も捻くれ具合も鳴りを潜めたといいますか、独占欲丸出しになるようになって嬉しいというか、感無量といいますか、ご褒美上げたくなっちゃいますよ・・もう」

 

「お、おう・・・そうか。・・・・なら」

 

自転車の速度を緩め、ちょいちょいといろはを手招きして耳元に囁いてやった

 

「今日の宿で期待させてもらっていいと解釈するぞ?」(ボソッ)

 

「ふぇっ!?それって・・・」

 

言われたいろはは急激に顔を真っ赤に染めて硬直し、言った俺もそそくさと自転車をこぎ直し離脱した。俺も衆目がある所で臭いセリフを吐いたダメージで内心悶えているのを悟られたくなかったからだ。

 

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観光船一宮駅で自転車を返却し、笠松公園に通ずるリフトに乗って山頂に到着。

ケーブルカーもあったが、リフトの方が開放感もあって心地よさも抜群だった。帰りもリフトにしよう、そうしよう。

 

笠松公園から改めてレンタサイクルで通った天橋立を望んでみる。

 

「なるほど、これが日本三景の一つと称えられるだけある・・・」

 

「で、そこが股のぞき出来る場所ですか」

 

「お前のスマホ寄こしな。代わりに撮ってやる。そのロングスカートじゃ無理だろ」

 

「あ、ありがとうございます・・相変わらず痒い所に手が届く事しますよね」

 

「ばっか、俺ほど気が利く奴そうそういねぇぞ?もっと称えてもいいのだぞ」

 

「はいはい、後がつかえていますので、さっさと済ませてくださいねー」

 

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「ほれ撮ってやったぞ、確認してみろ」

 

「ありがとうございます~どれどれ・・・股のぞきで撮った写真、本当に空に浮かんでいる島そのものですね・・・」

 

「天橋立が天に架かる橋のように見える事から、『天橋立』の由来ではないかと言われているのも納得だよな」

 

 

笠松公園での絶景を満喫した後、行き同様リフトで下山。そこから駅までは遊覧船でゆらりと船旅を楽しんで行くことに。

 

 

天橋立駅 14時19分発普通電車 豊岡行き

 

 

「昼食もロクにとらずにたい焼き2つだけってなのはあんまりじゃありません?」

 

「そう怒るな、今日の宿泊地での楽しみは残しておきたいじゃないか。その為の布石だ」

 

「城〇温泉でしたっけ?」

 

「そうだ。旅館は朝の料理のみの予約にしたが、夕方は駅界隈にある新鮮な魚介類を食べられる店で楽しもうと思ってだな」

 

「むぅ、そういう事なら我慢してあげますよ」

 

「寛大な奥方様に感謝いたしますよ」ニヤリ

 

豊岡駅15時57分に着いた後、16時19発 鳥取行きに乗り継ぐ事10分程。

今回の旅行での目当ての温泉宿 城〇温泉駅に到着したのだった

 

 

「んーお腹空きましたねー」

 

「駅着いた途端の第一声がそれか」

 

「いいじゃないですか。食への欲求は時には色気を凌駕するんですよ?」

 

「そんな奥さんを早く胃を満たしてあげないとならんようだな・・・

それならここなんかよさそうだな」

 

「一階が鮮魚店で上が店になっていますね。直売店ってわけでしょうか」

 

「異論はなさそうだな、ここで決定な」

 

 

「まさか、一階で販売している魚介類をそのまま調理して貰えることも出来るとは驚きだな。手間賃は当然かかるけど」

 

「ここが旬の季節なら松葉ガニが食べられるというなら、カニを食べないという選択肢はないでしょう、いえそれ以外はないです!」

 

「・・・いろは、目が血走ってないか?」

 

「もう腹ペコなんですよ?折角だからメニューシェアで色んなもの頼みましょうよ」

 

「んじゃ・・この3つで」

 

 

メニュー表を吟味した結果、「かにサラダ」をシェア。俺は「カニ玉丼」、いろはは「かにエビ丼」を注文し、新鮮なカニ料理に舌鼓を打ったのだった。

 

 

「ご馳走様でした。堪能しました♪」

 

「鮮度抜群だったな。身がプリプリだった。妻が満足した所で宿にチェックインするとするか」

 

「もう17時過ぎていますからねー」

 

 

今日の宿は駅かラ徒歩10分程の奥まった小路の所にある。その道中但馬牛の肉まんを販売している店が目に入り「ちょっと肉も腹にいれておこうか」と意見が合い、テイクアウトしてその旨さを堪能した。

 

 

 




3日目が終わってませんが長くなるので分けます
それではまた次回に


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