届け!この思い…… (なだかぜ)
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時雨×天ノ弱
ねえ、提督。今日は僕がずっと前から思っていることを話してみようか。
うん、所詮僕の独り言さ。聞いていてくれるんだったら、何も言わなくていいさ。優しいね、提督は。
いや、ごめん。そういう意味じゃないんだ。え?そうすぐ謝るなって?ほらね、やっぱり今日も提督は優しい。
僕は何の話をしようとしていたんだったっけ?
そうそう、僕のことだったね。え?前置きが長いって?ふふっ、せっかちだなあ、提督は。そうだね、それでこそ僕の提督だ。
鉛色の雲。青空なんてこれっぽっちも見えない。明日もみれない僕は、一体何のために戦っているんだろう。いや、提督は気にしないでね。きっと雨はいつか止むはずさ。この弾の雨も、きっと…
話を戻そうか。まずはごめんね、提督。提督の前では僕は「僕」じゃなかった。僕じゃいれなかったんだ。「提督」っていう人種が怖かったから。
でも、提督も「提督」じゃなかったんだ。提督は「提督」みたいに僕たちを「兵器」として見なかった。提督は「提督」みたいに、偉そうにするだけの人じゃなかった。それは「提督」としてはどうなのか僕にはまだ解らないし、解りたくもないけれど。でも、確かに僕はそんな提督が好きだった。
提督が大事にしていたリンドウの花も、もう散ってしまったよ。キレイだったけれど、ね。こんな花みたいにいっそ散れたら……なんて思ってなんかないよ、僕は大丈夫さ。提督、ありがとう。
今度会えたら花言葉の意味を教えてほしいな。ダメ、かな?そんなこと、言わないよね?
今日も佐世保は土砂降りの雨だったよ。昨日も雨で、何もできなかった。いや、別に雨は好きなんだけれどね。
え?夕立たちと遊んでたんじゃないかって?ごめんね、白露型もとうとう僕一人になっちゃったよ。残ったのは何も出来なかった僕だけ。
いや、提督のせいじゃないさ。僕らのことを守ってくれた提督のことを恨むわけなんかないじゃないか。
僕もレイテに行ってくるよ。還ってこれるかわからないけれど、本当に今までありがとう。提督。
そうだ、あの時の僕にはまだはっきりわからないけど、今の僕にもはっきりはわからないけれど、僕は提督のことが好きだったんだ。
そっと吐き出した溜め息も、空に逃げ惑って最後には夜の空に溶け込んでしまい、姿も見えなくなる。提督にとっても、みんなにとっても、僕たちはそれぐらいの価値しかないんだろうか?代わりのきくような存在なんだろうか?
またみんなで笑える日なんてどうしたって来るはずないのに、夢の1つも見れないのに。僕はどうして、誰のために戦っているのだろう。こんな考えを持つなんて、「兵器」失格なんだろうけどね。
それでも僕はこんなことを思わずにはいられない。目の前で何隻もの「兵器」を看取り、一人で泣いていた情けない「兵器」としては。
でも提督なら答えをくいれるんだろう、きっとそっと微笑みながら。それなら僕は待つさ、いくらでも。いつまででも。
提督、もういいかい?ふふっ、僕もせっかちなのかもしれないね。
この後、彼女はスリガオ海峡に突入した西村艦隊の中で唯一生還して「幸運艦」としてその名を世に知らしめることとなるが、それはまた別の話である。
当時の人は後にこう語っている。「船が泣いていた」んだと。
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