新「艦娘」グラフティ4(第15部) (しろっこ)
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第1話(改1.3)<追跡と索敵>

美保鎮守府に起きる追跡劇、そこに割り込む磯風。果たしてどうなる?



 

「いろんな提督が居るものだな」

 

--みほちん------------

 

新「艦娘」グラフティ4

第1話(改1.3)<追跡と索敵>

 

---------(第15部)---

 

 美保鎮守府の廊下を二人の艦娘が走っていた。

 

「はにゃああ」

奇声とともに先を行くのは駆逐艦『漣(さざなみ)』。

 

「まてっ、漣!」

追うのは同じく駆逐艦『浜風』。

 

明らかにそれは先頭の艦娘を、後ろの艦が追いかけているのだった。

 

走りながら問いかける浜風。

「この前のアレは、何だ?」

 

漣は答える。

「だから、よく似合ってたでショ?」

「……そういう問題ではない!」

 

ふざける漣に生真面目な浜風。

 

 この鎮守府では滅多にない大騒ぎに、すれ違う他の艦娘たちも何事かと振り返る。いずれも鎮守府でも高速を誇る駆逐艦である。そう簡単には勝負は付かない。

 

 そんな彼女らが中庭を抜けようとしたときだ。

「……浜風」

「!」

 

急に浜風は黒髪の駆逐艦に呼び止められた。

 

「磯風?」

応える浜風。

覚えがある……そうだ、声を掛けたのは駆逐艦『磯風』だった。

 

そんな彼女も、この状況には躊躇(ちゅうちょ)しているようだったが……何か事情があるのか意を決したように手を振り自分の存在を誇示していた。

磯風は、この美保鎮守府に最近、着任したばかりだ。

 

その隙に「へへっ」と言いながら遠くへ逃げ去る漣。

浜風は一瞬、悔しそうに見送っていたが減速すると、磯風の元へ引き返した。

 

……そう、彼女が立ち止まるのにも理由があった。この鎮守府に着任する前、磯風とは同じ駆逐隊に所属して、一緒に戦った仲間だったから。

 

 額に汗を滲ませた浜風が近寄るのを待ち構えていた磯風。

やおら手にした艦娘の一覧表を差し出した。

「この表は何だ? 分かるか」

「あぁ」

 

軽く汗を拭った浜風は、改めて確認する。

その下段に書かれた浜風の名前と並んで磯風の名も手書きで書き加えてあった。直ぐに納得した表情の浜風。「チョッと済まない」と言いつつ一瞬、呼吸を整えた。

 

磯風もまた同じように一呼吸を置いて問いかける

「何の騒ぎだ?」

「いや、大した問題ではない」

 

磯風の問いを軽く受け流した浜風。

そして一覧表の名前を指差しつつ説明した。

「これはワンドロ……といっても分からないか。簡単に言うと、ここの提督の『お絵かきモデル』の順番表だ」

「お絵かき?」

 

当然、磯風は困惑した表情を見せた。

だが浜風は再び深呼吸すると、苦笑しながら続けた。

「提督は私たち艦娘の絵を描くんだ。もちろん鎮守府の任務の合間(あいま)をぬって……だが」

「なるほど」

 

磯風は軽く腕を組んで状況を把握するように頷(うなづ)く。

「いろんな提督が居るものだな」

 

浜風は一覧表を磯風に返しながら口を開いた。

「そうだ。ただこれは、あくまでも提督の趣味であって……決して強制されるものではない」

 

表を受け取った磯風は意味あり気にニヤッと笑った。

「そんなことをしたらセクハラで訴えられるかもな」

「セクハラ……」

 

その言葉に一瞬、表情を曇らせる浜風。

 

「ん?」

磯風は意外に感じた。

 

直ぐ浜風は慌てたように補足する。

「……私も、詳しくは知らないが提督は、もともと文系出身で美術が得意だったらしい」

 

その内容に表情を変える磯風。

「文系で美術部か。ならば変わり者決定だな」

 

だがその言葉に、いっそう複雑な表情を見せる浜風だった。

そして反復するように呟く。

「変わり者……だよな」

 

「どうした? 浜風」

「いや」

心配する磯風を安心させようとしたのか……いや、むしろ自分に言い聞かせるように言葉を選ぶ浜風。

 

彼女は乱れた銀髪を軽く宥(なだ)めながら言った。

「艦娘の指揮官という激務によるストレス解消と、艦娘との交流を兼ねて始めたという話だ」

 

「激務か……そうだな。提督家業は大変だからな」

白い手袋をした手で顎に手をやり、しきりに頷く磯風。

二人は揃って日本海を見詰める。大山(だいせん)の影が海面に反射して綺麗に見えた。

 

 髪を整えた浜風に磯風は申し訳なさそうに言う。

「済まない浜風。実は『ワンドロ』の概要は副司令殿から聞いていたのだが私としては浜風の率直な所見を伺いたかったのだ」

 

「そうか」

やや複雑な表情の浜風だった。

 

磯風はまた別の想いを口にした。

「我々を描くことによって指揮官の心労を解放し支えることに繋がるのであれば艦娘として喜んで協力すべきだろう?」

「あ……あ」

 

生返事だった。

(……らしくないな)

 

磯風は少し不思議に思ったが、あまり気にしないことにした。

「手間をかけたな浜風、感謝する」

 

磯風は軽く敬礼をすると、そのまま管理棟の二階へ向かった。

後に残された浜風は複雑な表情のままだった。

 

 先ほど追いかけられていた漣もまた二人のやり取りを影から覗いていた。

そして呟いた。

「そうそう、ご主人様のストレス解消なんだよ」

 

 庁舎の二階へ上がった磯風。

提督執務室の扉をノックすると中から返事があった。

「……はい」

「磯風です」

「いそ?」

 

それは変な反応だ……と思いつつ待っていると「入れ」と指示された。

彼女は扉を開けた。

 

【挿絵表示】

 

 

 海の光を反射しながら、きらきらした光に包まれた執務室だった。

磯風は扉を閉めると軽く敬礼をした。

 

 

 

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PS:「みほちん」とは
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第2話(改1.4)<喜怒哀楽>

半ば勢いで提督の執務室へ飛込んだ磯風だったが出鼻をくじかれる。そんな彼女は過去の経験を思い出すのだった。



 

(これは、何処かで見た覚えがあるな)

 

--みほちん------------

 

新「艦娘」グラフティ4

第2話(改1.4)<喜怒哀楽>

 

---------(第15部)---

 

「駆逐艦『磯風』入ります」

 

 提督の執務室に副司令の祥高はいなかった。そして白い制服を着た提督は何かの書類に眼を通していた。

 

磯風を見上げた彼は「どうした?」と声をかけてきた。独特な低い声は執務室に程よく響いた。

 

彼女は机に近づいて言った。

「今日は私の日と聞いているのだが」

 

【挿絵表示】

 

 

「え?」

提督は不意を突かれたような表情をした。

 

(先の浜風といい、司令といい、これは何だ?)

さすがの磯風も一連の反応には少々、違和感を覚えていた。

 

しかし彼女は直ぐに軽く頭を振る。

(……いや、これは、きっと新しい鎮守府に不慣れな自分が感じる現象に違いない)

 

疑いを打ち消した彼女。それは不安に溺れそうな自分を強引に丸め込む意味もあった。

 

(慌てるな、飲まれてはいけない)

心中で、そう言い聞かせた彼女は改めて何事もなかったように軽く呼吸を整える。

 

「確かワンドロとか言ったか……」

「ワンドロ?」

磯風の問いかけに改めて不思議そうな表情を見せる提督。一瞬、執務室の会話が止まる。

 

(やはり噛み合わないな……)

さすがの磯風も次第にウンザリして来た。前線に例えるなら『苦戦中』という状況だろう。

 

 窓の外からは、他の艦娘たちの演習の音が聞こえてくる。

 

場を繕うように磯風は何気なく壁を見た。そこには額装された艦娘の絵画(イラストともいう)が何枚も掲げられていた。

 

中には見覚えのある顔……それはこの鎮守府の食堂で見掛けた『鳳翔』さんの絵だった。

 

その穏やかな表情をした彼女の左側には手書きで『鳳翔』の文字。更には、その絵が描かれたであろう日付も入っていた。

 

【挿絵表示】

 

 

(なるほど)

彼女は軽く頷いた。これが浜風の言っていた美保鎮守府の『司令(提督)が描いた絵』なのだ。

 

(これは、何処かで見た覚えがあるな)

ふと磯風は過去の記憶を振り返った。

 

 以前、所属していた鎮守府でも『お偉いさん方』の文化発表会みたいな展示会に付き合わされたことがあったのだ。

 

そこは、ここより広い施設で同じように額装された作品を幾つも見せられた。

 

当日、磯風は秘書艦ではなかったが、たまたま玄関ロビーに出ていて副司令に呼び止められた。

「おぉ磯風、今、空いてるか?」

「はい」

「ちょうど良い、命令だ。横に立っているだけで良いから帯同せよ」

「はぁ?」

 

……良く分からないうちに捕まってしまった(巡り合わせが悪いともいう)。

 

直ぐに反論出来ない自分の寡黙で生真面目な性格が災いしたと……今でも思っている。

 

 副司令と共に軍用車が会場に到着する。普段から紳士的な責任者たちが何人も集っていた。

 

入り口で受付をして中に入る。すると、制服を着た指揮官たちが、お互いの『作品』を自慢し合っていた。

 

そこには部外者も多く招かれていたようで明らかに海軍ではない人たちで溢れていた。

「どうだ? この作品は」

「はぁ……素晴らしいと思います」

「ウム、そうだろう」

 

自分よりも上官に当たる指揮官に、次々と感想を求められた。だが艦娘である彼女は適当に話を合わせるしかなかった。

 

彼女は心中で苦笑していた。

(そもそも艦娘に審美眼など無いのだ)

 

……とはいえ艦娘は単なる機械と違って喜怒哀楽がある。だから海軍内でも人と同じような感性を艦娘に感じる者も居るようだった。

 

「変人」

磯風は思わず小声で呟(つぶや)いた。

 

 人間の軍人にも千差万別、イロイロなタイプが居る。とはいえ翻(ひるがえ)れば艦娘も様々だ。

 

面白いことに艦娘の中には『ゲージュツ』的な才能を発揮する者も居るらしい……あの「青葉」だって、その一人だろう。

 

【挿絵表示】

 

 

人間だけではない。艦娘とて『芸術家』タイプには『変人』が多いことは彼女も、よく理解しているつもりだった。

 

 だが防人(さきもり)としての艦娘には「趣味」など、ご法度である。そんな意識が不文律として艦娘たちの間に厳然と存在するのも事実だった。

 

そんな彼女の心象の変化を感じたのだろうか? 美保提督は合点したような反応をした。

「あぁ」

 

彼の表情も和(やわ)らいだ。同時に執務室の緊張感も収まっていった。

 

 彼女は、ここぞとばかりに提督に向き直った。そしてポケットから先ほどの一覧表を取り出すと改めて確認をしながら言った。

「順繰りとは言え百隻を越す美保鎮守府、機は逃せまい」

 

「はあ?」

また煮え切らない返事だ。

 

(美保司令って……昼行灯(あんどん)なのか?)

そんな言葉が磯風の脳裏をよぎる。

 

「ずっ」

机上の珈琲をすすった提督が意外な発言をする。

 

「お前も描いて欲しいのか?」

「えっ!」

今度は磯風が慌てる番だった。

 

 

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第3話(改1.2)<傲慢と反省>

自らの言動の矛盾に勝手に、はまり込む磯風だった。しかし提督は……



 

「いや、無理は申さぬ。司令も多忙ゆえ」

 

--みほちん------------

 

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第3話(改1.2)<傲慢と反省>

 

---------(第15部)---

 

 先ほどから執務室では美保提督と駆逐艦娘の奇妙なやり取りが続いていた。ドギマギする磯風に畳み掛けるように繰り返す提督。

「磯風も描いて欲しいのか?」

「い……」

 

思わず言葉に詰まった。言った本人が実は、いちばん驚いていた。

(自分はなぜ、こんなに慌てているのだ?)

 

……その狼狽振りを隠すように頭の後ろに軽く手をやりながら窓の外へ視線を送る。前線に例えるなら小破、いや中破だろうか?

 

 そもそも、この部屋に入ったときは自ら、今日のワンドロは『私の日』だと主張したはずだ。

 

ところが司令から前向きな返事を受けた途端、急に及び腰になった。

 

 もちろん司令に何をして貰うかは分かっている。つい今しがた壁に貼ってある『作品』を見たから。

(似顔絵を描いてもらうだけだ)

 

たとえそれが自分の苦手な『ゲージュツ』分野であれ最前線で深海棲艦と戦うよりも簡単なことだ。

 

そう自分に言い聞かせてハッと気付く。

(……まさか! 磯風は経験の無いことに恐怖を感じ始めたのか?)

 

いや、それは認めたくない。

 

 窓の外からは艦娘たちが演習する模擬弾の音が聞こえてくる。

この間は数秒も経っていない。しかし磯風にとっては妙に長い時間に感じられた。

 

 意を決したように提督を振り返った彼女が発した言葉。

「いや、無理は申さぬ。司令も多忙ゆえ」

 

【挿絵表示】

 

 

 提督は少々、驚いたような表情だった。無理も無い……自分の行動は矛盾し支離滅裂だから。

 

(矛盾だ)

穴があったら入りたいとは、こういう状況を言うのだろう。顔から火が出るくらいに恥ずかしかった。

 

(なぜ、こうなった?)

 曲がったことが大嫌い。前線でも率先して先陣を切ることを誇りにすら抱く磯風。

 

……だが今日、これまでの自分らしからぬ行動に打ちのめされていた。

 

 ある面、彼女は美保の司令を甘く見ていたのかもしれない。

先の浜風との会話で、提督を変人呼ばわりしていた自分を悔いた。

 

(きっと傲慢だったな)

相手は小さい鎮守府とはいえ曲がりなりにも提督である。一方の自分は駆逐艦に過ぎない。磯風は強がっていた自分のメッキが剥がされる想いだった。

 

自らの態度を反省した彼女。入室当初の勢いは何処へやら、すっかり項(うな)垂れて意気消沈していた。

 

 だが提督は何事も無かったかのように机の上で手を組んだまま言った。

「今なら構わんよ」

 

彼は、さほど大柄ではない。しかし、その声は低音が混じった深いもので執務室に程よく響いた。

「着任して日も浅い君のことだ……」

 

【挿絵表示】

 

 

その言葉に磯風は、ゆっくりと顔を上げた。その視線の先には穏やかな表情の提督が居た。

「その方が気分転換にもなろう?」

「はい」

 

……そう応えたはずだった。

だが頭に血が上ったように舞い上がっていた彼女は思わず握り拳を突き上げて『よっし!』と言ってしまった。

 

そんな彼女を見ながら提督は心中で呟く。

(お前の順番はホントは昨日だったが……まぁ、これは内緒だナ)

 

【挿絵表示】

 

 

そういう彼は優しい目をしていた。

 

 

以下魔除け

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