終わりそうな世界で、それでも私は「生きたい」と叫ぶ (ゆめうつろ)
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私が生きたいと叫んだ日

 空は灰色に染まり、白く燃え尽きた大地にかつて都市だったものが墓標の様に立ち並び、枯れ果てた海には無数の船が打ち上げられている。

 そこに命はなく、巨石建造物だけが灰色の空に静かに浮かんでいた。

 

 だがまだ「生きていたい」という願いが聞こえる。

 だから彼はここに来た。

 

☆ ★ ☆ ★

 

 春、芽生えの季節、命の生まれる季節。

 

 ドキドキが止まらない、とても正気ではいられないので外の景色に視界を移す。

 路面電車から見えるのは、見慣れた街並みと天を支える翡翠の結晶樹。

 私は精霊様に感謝5割恨み3割その他2割の祈りを捧げる。

 

「メグリはマメに祈りを捧げるタイプなのか」

 

 腰まである美しい黒髪に白い肌、そして麗しき声、歌唱部最強でまだ在学中というのに事務所からも引く手数多な完璧歌姫たる「マコト・カノン」先輩が隣にいる……!!

 

「エッ……エッハイ……マコト先輩はどうしているので?」

「私は、起きた時と食事の時、後は寝る前に纏めてやるな」

 

 憧れの先輩と二人で学校へ向かうというシチュエーション、確かに憧れこそあれど私の様な若輩者の新参者が先輩の隣に座っている所を同じクラスの者にでも見られようものならそれは死を意味する!

 

 女神を慕う者は数知れず、教師から男子女子問わずあらゆる生徒を魅了する彼女の笑顔を向けられて正気を保っている私を誰か褒めてほしい。

 

「それで、その手はどうしたんだ?」

 

 アッ!!!先輩が包帯越しとはいえ私の右手をとってッ!!アアア!ヤッベ!

 

「あ、その……少し朝方にお湯を零してしまいまして」

「それは……早く治るといいな」

 

 いや、手よりも先に心と顔がアチチすぎる!

 顔が真っ赤になってないだろうか?恥ずかしすぎて爆発しそうだ。

 

 

 それに先輩に申し訳ない気持ちもすごい、これは本当は火傷じゃない。

 ペンで描いた「カッコイイ紋章」だ。

 

 昨日の夜中に突然頭に思い浮かんだソレをそのままのテンションでインクで描いてしまい、洗っても取れないので急いで来たのでとりあえず隠す為に包帯をまいて応急処置したという訳なのです。

 

 

 そう、このドキドキの何割かはこの致命的なものを先輩や同級生に見られないかというもの。

 もし見られてしまえば……私はとてもではないが生きていられない。

 

 ああ、これさえなければ至福の時だというのに、この有様。

 私は愚かです……。

 

 精霊様の御許にいるお父様、お母様……どうか私のこのやらかしが露見しないように精霊様に祈っていてくだされ……。

 

『学園前、学園前……荷物の置き忘れにご注意ください。今日も精霊様の祝福があらんことを』

 

 車内案内と共に私達は席を立つ。

 

「もう着いてしまったか、さぁ行こうかメグリ」

「はい、マコト先輩」

 

 今日も一日がんばりますか!さしあたってはこの紋章がバレないように!

 

 

☆ ★ ☆ ★

 

 昼休み、どうにか午前は我が身に宿りしカルマを隠し通せた。

 だが幼馴染の手によってその封印は解かれてしまった(絶望)。

 

「ほーんへー……それで今日はいつもの時間に居ないと思ったらマコト先輩と同伴かいな~」

「ア、その……ハイ」

「先輩を独り占めたぁ~それは至福の時やったんやろうな~」

「いえ……むしろ誰かに見られたりしたらと思うと恐ろしくてそれどころではありませんでした……」

「……まあええわ、それよりもそのアホな紋章がウケルんやが」

 

 目の前の彼女はもう笑いを堪えきれないという顔をしている、確かにこんな事してきたら誰でも笑う。

 

「えらい遅い中二病やなぁ~もう来年には高等部やで?」

「ハイ……」

 

 ヒノセ・アイリ、私の幼馴染であり独特な口調で話す少女。

 かつて関西と呼ばれた地方から移住して来た者の末裔であり、その名残として彼らは親しい者とは「カンサイベン」という言葉で話すという。

 

 やや強めの語気故に時々喧嘩腰だと思われるけれがちだが、実の所は親しい仲でのみ通じる冗談みたいなものとは彼女の談。

 

「ま、ちゃんと石鹸であらえば直ぐ取れるやろ。まあせいぜいみつからんようにな……にしても不思議な模様やな」

「そうですね、精霊様の紋章とはまた違うデザインで……昨日の私は何故こんなものを思いついたんでしょうか……」

 

 この世界には昔、神様がいて、色々な神話があったという。

 しかし最初に「メガリス」がやってきた時に精霊様の庇護下にあった場所以外は全て滅びてしまい、その資料の殆どが失われてしまった。

 

 それに残った資料も教会の奥で厳重に保管されていて、私の様な一般人はとてもではないけれどソレを見る事など叶わない。

 

「でも巫女を目指すんなら、これはあんまりよくないやろな……」

「そうですね、あくまで若気の至り……という事で……」

 

 私は将来、精霊様の巫女として働く者です。

 お父様やお母様がそうであったように、精霊様とこの世界に生きる命を繋ぐ役目を全うする。

 それが私の夢であり、使命であり、この世界に生まれてきた意味だと思う。

 

 私の右手に描かれた「円を囲むような炎」、それを精霊様の作った青空に掲げて見上げる。

 

「え……」

 

 私の視線の先には、ありえないものが映った。

 空に走る、黒い亀裂。

 恐怖のあまりに息が詰まり、声がでない。

 

「ひっ……なんや……あれ……」

 

 同じ様にアイリも驚愕と恐怖に固まるのを感じ取る。

 その間にも空には亀裂は広がり……ついに天蓋の結晶が砕けてそれが降りてくる。

 

 空に浮かぶ石で出来た巨大なモニュメント。

 

「め……メガリスッ!!!!」

 私は思わず叫んだ。

 

 昔話、教科書の中の歴史の中だけでしか見た事の無いもの。

 

 500年前、精霊様によって守られたこの島以外の全てを滅ぼしたもの。

 それが私達の前に、あらわれた。

 

「にげ……逃げんと……でもっ!どこに!?」

 

 そう、私達にはもう「この島」しかない、どこにも逃げ場所なんてない。

 ふと右手の紋章を見る。

 

 すると不思議な事に勇気が湧いてきた。

 

「戦う……」

 

 私の言葉に信じられないという顔でアイリがこちらを見る。

 

「どうやって……?」

「わからない、けど……このままじゃ皆死ぬ。この島の人全て、精霊様も、先輩も、アイリも、私も」

 

 凄まじい音と共にメガリスが煙に包まれる、どうやら教会の人達が必死に蓄えてきたのであろう武器で攻撃しているみたいだ。

 空を支える精霊様の結晶樹もまた輝きを放っている。

 

 みんな、生きる為に戦っている。

 

 私も祈りを捧げる。

 巫女となるべきものとして、出来る事をする。

 

 精霊様との繋がりが微かながら感じられる、体から少しずつ「命」が流れ出ていくのもわかる。

 同じ様に今、教会の本部では巫女の人達が祈っている筈……少しでもその手助けとなればいい。

 

 死ぬのは、怖い。

 

 また爆発が起きる、それはメガリスと戦っていた戦闘機が真上で撃ち落された音だった。

 

 燃える残骸が私達の上に落ちてくる。

 

 いやだ。

 

 生きたい……

 

「生きたいっ!!」

 

 私は、右手を掲げた。

 

★ ☆ ★ ☆

 

 全てが止まる、落ちてくる残骸も、隣に居るアイリも、戦っている人達も、メガリスも。

 

 ただ感じ取れるのは精霊様との繋がりと、私の後ろにいる誰かの存在。

 振り返ってみると、私達より少し年上なお兄さんが居た。

 

 不思議な事に髪の色は真っ白で、目は左右で赤青……いわゆるオッドアイ。

 見た事の無い制服の上に白衣を纏っている。

 

 でもそんな事、今は重要じゃない。

 

生きたいと望むなら、受け取るといい、それが君と、この世界の未来の助けになる筈だ

 

 彼は何かを言っているが、私には聞き取れない……けれど宝石の埋まった厚みのある黒いディスク状の機械こちらに差し出している。

 ぱっとみ、携帯端末みたいな素材で出来ていますが。

 

 きっと、手にとれって事なのでしょうか。

 

根幹から違う世界の存在である俺があなたにしてあげられる祝福は今はこれが限界だ、この地の精霊よ

 

 続けて精霊様の樹の方に向かって何かを話している、この人もまた私達と同じ様に精霊様との繋がりがあるみたい。

 

 

 息を吸って吐く、覚悟を決める。

 そうだ、私は生きていたい。

 

 機械を受け取る。

 

 光が溢れ出し、力が、この体に満ちる。

 そして声が聞こえた。

 

『メグリ・アカリ、あなたは今この時、私達の最後の希望になった』

 

 それは聞いた事のない声、でもはっきりとわかる。

 精霊様の声だった。

 

 

 暖かな光が私を包み、時が動き出した。

 

 落ちてきた戦闘機の残骸を「結界」で受け止めると私の胸についた「コア」がそれを「再構築」して武装として身に纏う。

 

「なん……や、生きとる……まだウチ生きとる……」

 

 あの不思議なお兄さんの姿はなかった、でもこの「システム」がその存在が幻でない無い事を証明していた。

 

「アイリ、ちょっと私……魔法少女になっちゃったみたい」

「魔法……少女?」

 

 制服ではない不思議な服を纏い、私はスイと空に浮かび上がった。

 



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開闢の旋律

 この世界を支える結晶樹、その根元の更に下に広がる洞窟の泉。

 精霊の泉と呼ばれるそこにマコトは居た。

 密着するような体を覆うスーツの上から装束を着た彼女はメガリスとも精霊とも違う「新しい力」がこの世界に生まれた事を感じ取った。

 

「そうか、あれが私達の最後の希望……なんですね、精霊様」

 

 500年前、地球は宇宙よりやってきた12体のメガリスによって蹂躙された。

 あらゆる命が死に絶えていく中、全てを投じた抵抗によって3体のメガリスを倒す事が出来たものの、結果として人類は敗北した。

 死力を尽くし終わりを待つだけだった人類の前に「それ」は舞い降りた。

 3体のメガリスの残骸を使って、この星に最後の「箱舟」を作り出した。

 

 それが「アーク」と呼ばれるこの島であり、そして今「精霊」と呼ばれる存在である。

 

 マコトは、この精霊の声を「受け取る」事のできる巫女でありの一人であり、当代の「祭司長」。

 この島に生きる命全てを背負って立つ者である。

 

 水面が淡い光を放ち、波打つ。

 

「さあ、私も役目を果たさなければな」

 

★ ☆ ★ ☆

 

『MAGIC-GIRL-STANDARD-SYSTEM HEAVENS HEART AKATSUKI-X2』

 

 その身に白き「アカツキ」を纏い、魔法少女は行く。

 彼女を突き動かすのは、生きたいという意志一つ。

 

 故にアカリは飛ぶ。

 

 

 巨石建造物体「メガリス」

 文字通り、その巨体を構成するのは「石」だ。

 それもただの石ではない、地球上には存在しない未知の構造体だ。

 核となるエネルギー結晶体を中心に流動し、まるで生物の様に振舞うが、そこに「命」も「魂」もない。

 

 異星人の兵器と推測されてこそいるもののその正体は定かではない。

 

 山ほどもある巨大な球体を中心に一つ一つがビルほどのサイズの球体が12。

 防衛の為に出た戦闘機に向かって凄まじい速度で体当たりをしかけて撃墜し、さらにはその質量で転がる事で街を蹂躙するのは旧時代において人類との戦いで残った9体のメガリスのうちの一体。

 

 破壊天球サテライト

 

 戦闘機の機銃も、レールガンによる対空砲火も効かず、ミサイルでさえも傷つける事のできない頑強な敵に対し、アカリの持つ武器はただ一振りの「杖」だけ。

 

 当然だが、アカリには戦闘経験などない。

 武術の心得どころか、暴力に訴える喧嘩も。

 

‐怖い

 

 恐怖を抱きながらも、アカリはメガリスに向かって飛ぶ。

 不安を抱きながらも、与えられた力を信じて、握り締める。

 

 

『聞こえるか』

 

 不意に、よく知る声が聞こえた。

 それはマコトの声だ。

 驚きながらもアカリは精霊の力か何かと納得して、肯定の意志を告げる。

 

『ならよし、私がお前に敵との戦い方を教える』

 

‐マコト先輩が?

 

『そうだ、巫女として、祭司長として、精霊様の意志と、人々の願いでお前を導く』

 

 メグリ・アカリは最後の希望であり、その器だ。

 だがまだ未熟で、幼いが故に支えが必要だ。

 

 最後の希望を守る事こそが精霊巫女「マコト・カノン・エシズ」としての役目。

 

『まずは小物から片付けろ、握った杖に意識を乗せろ』

 

 言われたとおり、アカリは右手に持つ杖を強く握り「通れ」と念じる。

 すると驚くほどすんなりと「杖」に体の一部の様に感覚が通る。

 

‐あのこれはっ!?

 

『後で説明する、それよりも次は攻撃だ、メガリスの質量に対して物理攻撃は通りにくい。コアを狙って「波動」で攻撃しろ』

 

‐波動って何ですか!?どうやって!?

 

『なら《ウタ》を杖で増幅して撃ち出すんだ、お前も歌唱部なら歌える筈だ』

 

 音とは光についで最も身近な「波」。

 アカリは攻撃となる《ウタ》を考えながらも、戦闘機を追いかける「衛星球」に狙いをつける。

 

 敵を凝視するとまるでゲームの様にターゲティングマークが視界に現れる、さらに凝視すれば透ける様に絶えず流動する石の球体の中に浮かぶ結晶核が視えた。

 

 スゥと息を吸い込む、春の暖かくもまだ冷たい空気が肺の中に満ちる。

 

「ウィア ス ロクアーゴ エ レンセ ララ レロノータ」

 

 口から紡がれるのは「音」の羅列。

 ヒトの言語としての意味はもたない、だが「詠唱」としては意味を持つ。

 

 「波」が手から伝わり、杖に供給されているエネルギーが形状を変えていく。

 

-撃てる

 

 直感的にそう感じたアカリは、杖の先に繋ぎ止めているエネルギーを「開放」する。

 

《ウェーブショット》

 

 放たれた「音の槍」は真っ直ぐに衛星球のコアに突き刺さり爆裂。

 常に流動している石は動力と制御を失うとまるで液体の様に解けて崩壊した。

 

-やった!?

 

『まだだ、来るぞ』

 

 一撃で衛星球を破壊したアカリをメガリスは「脅威」と認識した。

 戦闘機を追っていたもの、街を破壊していたもの、全てが等しく浮かび上がり、本体の周囲に戻ってくる。

 

 衛星球がまるで口を開くように変形して、コアを露出しながらメガリスを中心に周回軌道を描き出す。

 

『回避しながら、ウタで壁を作り、隙を見て周囲の奴らを片付けろ、本体は一番最後まで残せ』

 

‐わかりました!

 

 500年前、人類は多大な犠牲を払って3体のメガリスを倒した。

 だがその際に本体を狙った攻撃を行ったが故に、攻撃部隊は誰一人帰ってくる事が出来なかった。

 それは本体の制御を失った「眷属物」の暴走によるものだ。

 

 一体一体が反応兵器と同等以上の威力の爆弾になる、故に先に眷属物を始末しなければならない。

 

 

 露出した衛星球のコアからアカリ目掛け赤いエネルギー弾の弾幕が展開される。

 一発一発の威力は体当たりによる質量攻撃に比べればマシだが、十分以上の殺傷力と、空と視界を埋め尽くす程、まるで光の吹雪だ。

 

「エルル ワール ヴォーテ ウォル ロール」

 

《スパイラルシールド》

 

 弾幕は熱量を持ってこそいるが、質量自体はさほどない。

 杖を正面に向け、波動の渦を描く、空間を歪め、重力を歪め、エネルギー弾を収束していく。

 

 そしてそのまま収束したエネルギー弾に波動特性を込めて《チャージショット》として露出している衛星球のコアに撃ち込み、崩壊させる。

 

 残り10体。

 衛星球は軌道を変化させつつ、速度を上げて失った分を補うように弾幕を激しくし、さらにそれに加えて衛星球を構成する石を変化させた砲弾を混ぜてくる。

 

‐!!

 

 物理的・質量的な威力を持った弾は《スパイラルシールド》では吸収しきれない、アカリは石の砲弾を回避しながら次の攻撃手段を模索する。

 

『メグリ、一体ずつではなく一気に纏めて始末するんだ。敵はお前の行動に対応してくる』

 

 メガリスは基本的に機械的・規則的な攻撃を仕掛けてくるが、相手の行動にあわせて「学習」する。

 つまり長期戦になれば不利になるのはこちら側だ。

 

 距離を取り、アカリは残る全ての衛星球を視野に入れ《マルチロックオン》を行う。

 

「メルガ レレイースル アーラ ロウルス」

 

 《スパイラルシールド》でエネルギーを吸収し、石弾は回避、そして詠唱により自身からもエネルギーを杖に供給していく。

 

 そして杖が保持可能なエネルギーの最大値に達したと同時に全開放。

 

《ホーミング・リリース》

 追尾弾により、9体の衛星球のコアを同時に撃ち砕き、崩壊させる。

 

 これによって残るは本体である「メガリス・サテライト」だけ。

 

 しかしアカリはサテライトの内部のコアを見て驚愕の表情を浮かべた。

 それはあまりに巨大で、衛星球とは桁違いのエネルギーを持っていた。

 

 つまり、とてもではないが撃ち落せない。

 

-こんなの、どうすれば

 

『一発で撃ち落せないなら、百発撃ち込め、百発でだめなら千、千でダメなら、一万だ。お前のウタは「届く」だから諦めるな』

 

 衛星球を失ったサテライトは形状を変化させ、全方位に向けて無軌道に直線的な光線を放ち始める。

 それを回避、あるいは被弾しつつも全身を覆うバリアコーティングで耐えつつアカリは敵を見据える。

 そうだ。

 

-私は、生きたい……

 

 メグリ・アカリは「生きなければいけない」。

 ロックオンを解除し、《フルオート》へ切り替える。

 

「エール ロード ロール ウォーラララララララララ」

 

最初の3節で形状を固定し、ひたすら《La》の音をショットへと変換していく。

 

「ララララララララララララララ!!!!」

 

 息の続く限り《ウタ》い、空気がなくなればありったけの大気を吸い込む。

 かつて地球という星を覆い、生命を育んできた大気。

 

「ララララララララ!!」

 

 ここに生きる存在として、滅びへの抵抗と精霊への感謝を込めたウタを、メガリスのコアへと撃ち込む。

 

 それはメガリス・サテライトのコアを確実に削り、亀裂を生み、そしてついに「打ち砕いた」。

 絶え間なく流れ出た光線が止まり、メガリス・サテライトが波動エネルギーによって内部から「爆裂」した。

 

 粉々に砕け散った残骸が天蓋から与えられる精霊の光によってキラキラと瞬いて、降り注ぎ消滅していく。

 正しくは、精霊によって「同化」されていく。

 

『……アカリ、よくやった。本当に……』

 

 感極まったマコトの声に、アカリは安堵の息を吐く。

 痛む喉を押さえ、未だに自分でも信じられないという気持ちを抑えながらも、生き残ったという真実を噛み締める。

 

 

 かつて精霊は三体のメガリスの残骸でこのアークを作り、500年に渡り人を生かしてきた。

 それを支えてきたエネルギーの一つがこのメガリスのコアだ。

 

 そして今日という日にメガリスの襲撃があったのは何も偶然ではない。

 精霊の力が尽き、限界が訪れたのだ。

 

 当然、全てのモノには限りがある。

 故に何も対策が無かった訳ではない、いくつもの手段で延命を繰り返し、未来を求めて抗った。

 

 メグリ・アカリが最後の希望というのは比喩ではない、文字通り、精霊の力が完全に尽きる前にメガリスと戦う事の出来る「最後の手段」だった。

 

 それに加え、エネルギーを補給できたとはいえ、すでに「サテライト」の襲撃でこの地に人の生き残りがいる事は敵に伝わっている。

 

 この先、隠れ通す事は出来ない。

 やってくる残り8体のメガリスと戦わなければならない。

 それが人類が生き残る為のただ一つの手段。

 

 メガリスと人類の最後の戦いが始まった。



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