ナチスの生物兵器で斬るっ! (YJSN)
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スターリングラードからの転移...?

今回は前置き

独ソ戦は誰もが知ってる第二次大戦中の史上最大の陸上戦のことです




 

 

1942年 8/12 独ソ戦 南方軍集団A スターリングラード戦線

 

 

「Los Los Los!!」(急げ急げ急げ!!)

 

パァンッパァンッ

 

ダダダダダダダダンッ!!

 

ブロォォォォッ

 

チリと埃が舞う戦場で怒号が飛び交う。

 

そしてその怒号の源はぼくの喉からだった。

 

生物兵器大隊長 ヘルガ大佐として迅速な指揮を現地で下す。

 

「第三小隊は左舷の建物を三つ先のところで応戦開始、とにかく障害物があるところならどこでもいい!!そこを定位置として交戦しろ!!」

 

「第1小隊は右舷に平行線のまま散開、国防軍兵士の誘導を行え!!」

 

(ヤヴォール)

 

そう心の中で微かに聞こえる返答、だがしかし、それはぼくの幻聴に過ぎない。

 

彼らは言葉を発さず、戦闘以外のことは何も考えない。

 

 

 

 

ドォォォォォォンッ

 

ヒュゥゥゥッ...ドォォォォォォンッ!

 

東側から鳴り響く砲弾の滑空音とともに152mm榴弾砲の嵐が来る。

 

その榴散弾は建物を破壊し、ここスターリングラードの地を傷つける。

 

恐らくソ連軍側のSU-152と思われる自走砲部隊が到着し、ここももうじきまずくなってきた。

 

「大佐!ヘルガ・シュタイナー大佐!!」

 

「なんだ!どこの部隊のものだ!!」

 

「第27国防軍南方軍集団所属の

 

ドォォォォォォンッ!!

 

生物兵器大隊の親衛隊員数人と自分が隠れていた瓦礫と瓦礫の間に作られた塹壕に突如として敵砲弾が撃発した。

 

ガラガラッ ガサッ ドサッ...

 

様々なものが崩れ落ちて僕と目の前にいた恐らく指揮官補佐が倒される。

 

そして僕の意識も瓦礫に踏み潰されながら、次第にブラックアウトするのであった...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国家社会主義ドイツ労働者党所属組織 親衛隊生物兵器化学大隊は1933年始めに設立された。

 

総統が首相に就任した直後のこと。

 

比較的最初期に設立された部隊であり、正規の武装親衛隊第1SS師団と同期だ。

 

なぜそこまで早急な時期に設立されたのか。

 

それはエジプト・カイロにおけるあるモノの発見から繋がることになる。

 

1931年 現地のドイツ人考古学者があるファラオの墓から持ち帰ったという奇妙な生物がドイツ国内の企業に鑑定を依頼されたそうだ

 

ちなみに発見した当時、それに手を付けたものは全員肉が腐り落ち、その生命体に吸収されたかのように死に至ったという。

 

ドイツ国防軍および親衛隊長官 ハインリヒ・ヒムラーはこの生命体に強い関心を持つようになり、将来の軍事的活用を夢見ていた。

 

熾烈な権力闘争の末に親衛隊がこの生命体の研究・試験・運用を任されることが総統より正式に公布された

 

そしてその実験台に選ばれた被験者達が親衛隊生物兵器科学大隊であった。

 

ここに集められたのは親衛隊の中でも優秀な武装SSから来たエリート部隊の者や、特異な身体能力を持つ者だった。

 

そしてその中に、ぼくも含まれていた。

 

ヘルガ・シュタイナー大佐

 

ぼくは士官学校も出世もせずに初めから大佐クラスでの親衛隊員となった

 

その理由は総統にある

 

総統は孤児だった道端の小汚いぼくを拾ってくれたのだ

 

...正確には党の集会の時に隣にいたヒムラーによる人種論的な外観に感銘を受けた、そうだが

 

それでも構わない

 

彼らが、我らが総統がぼくのこの銀髪と、低身長を気に入ってくれるならばこの身を差し出す

 

北方民族からの出身で、異民族扱いされてきたぼくをヒムラーと共に親衛隊の右腕として雇ってくれたのだ

 

総統に尽くすことこそが民族の救済に繋がるのだ

 

そう信じてやまなかったのが、親衛隊一般課のぼくだった

 

だが時はきて、1933年、例の大隊に所属することになった

 

評判や大衆の意見は求めず、ヒムラー長官に頼まれれば何でもやったぼくだからこそ、素直に入隊した

 

が、そこでの実験は想像を絶するものだった。

 

カイロから密かに密入されてきた例の禍々しい黒い生命体は、不規則な形であり、液体なのか個体なのかの区別もつかなかった

 

そして触れたもの全員が手当たり次第に肉と骨を吸われ、そいつの養分となってしまう

 

そんな異常な生命体に科学者達の研究は難航した

 

が、しかし 被験者に数滴 その生命体を垂らして見たところ、死には至らなかったという。

 

ほんの数ミリリットルしか垂らさない場合、被験者に害はないと思われた。

 

けれど被験者は日に日に生気を失って行き、最後には言われた事以外なにもしない人形へと成り下がったという

 

しかもその謎の生命体との結合による細胞の活性化で、自然治癒力が格段に向上し、腕一本失ったとしても数分で回復する始末だった。

 

1937年、これらの研究結果に満足したヒムラーは、ぼくを使った実験を開始させた

 

ぼくに、その生命体のほぼ全てを吸収させるよう命じたのだ

 

ぼくは一瞬、たじろいだが、ヒムラー長官からの

 

『お前は捨て駒ではない。お前の流した血が、我ら祖国と総統を救う。

それにお前が必ず生還することを、私は信じている。』

 

という、激励を信じ、彼の命令を遂行した

 

 

 

 

 

 

 

被験中、かの生命体はぼくの腹わた辺りから侵入してきた

 

いい餌だとでも思ったのだろう

 

だがぼくは民族の為に、総統の為に生きねばならなかった

 

僕の身体がどれだけ蝕まわれようと、構わなかった

 

自分の所属する、自分と共に生きてくれる者達の元にまたいれるのであるならば、寄生されようとも構わなかった

 

その強烈な民族崇拝 共同体信奉が理にかなったのか

 

かの生命体は他の被験体と違い、ぼくの体内に寄生を開始した

 

ぼくの心臓や、ぼくの脳に渡るまで、ぼくと同化した

 

ぼくの、民族への最大限の献身こそが名誉であるという一つのイデオロギーに共感した、とでもいうのだろうか。

 

そのようにして、被験体第279番目の生体実験は終了した

 

してあの時...1942年のスターリングラード攻防戦において、ぼくは初めて実戦投入されたのだった...

 

隷下の親衛隊員は皆、ぼくに取り込んでいる黒き謎の多い生命体のカケラを体内に吸収している

 

意思や意識は存在せず、肉も骨も朽ち果てているがその身体能力や跳躍力は僕よりはるかに劣るが凄まじく、

 

ぼくらは弾丸を物ともしなかった

 

心臓の鼓動や生きている感覚は存在せず、物体が存在するだけの無機質な物へと変わっていく感覚だった

 

ただし、このような人形のような者達の中でぼくだけが唯一の意志を持ち、寄生された隊員を使役することができた

 

(...随分と都合よく作られたものだな...。)

 

どこから来てどのようにこの生命体が存在しているのかはしらないが、

ぼくとの共生を選んだならば、そのあるかわからない死の時まで十分に使役するつもりだ

 

...そしてこの意識がブラックアウトした後の状態はいつまで続くのだろうか...

 

そう思案に老けて、静かにその時を持つのであった...



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ヘルガ大佐、ファンタジックな世界へ飛ばされる

テンプレのようなタイトル

文才ではないので期待はしないでください




 

「...ん...んんぅう...?」

 

いきなり目の前が明るくなる...というより、視界が手に入ったというべきか。

 

先程までの真っ暗な眠らされたような世界とは大違いであった。

 

光量の変化に驚く頭を落ち着かせて、目を開いて周りを見渡す。

 

「ど...どこだよここは...?」

 

少しばかり口を悪くしながら誰も居ないはずなのに、誰かに問いかける。

 

周りは見渡す限り深い森だった。

 

その大自然の中に1人ポツンと木のそばで寝ていたのだ...。

 

「...はッ!!」

 

ここはソ連領内...なのかもしれない。

 

先のソ連軍による砲撃で重傷を負ったと一般兵士に勘違いされて郊外へ運ばれたとか...?

 

ではぼくの部隊は...一体...どこに?

 

考えれば考えるほど謎が増す。

 

情報量が異常に少ないこの状況では、まず身の回りから整理だ

 

服装は整ってある 埃一つついていない

 

腰の将校用拳銃は健在で、ブラックのP-38がホルスターにしまってある

 

更に、『忠誠こそ我が名誉』と刻まれたSS隊員の証、短剣も無事に所持している。

 

これが無ければ、真の隊員とは認められない。

 

「ふぅ...。」

 

安心して一息つく。

 

「しかし...動かないことに情報は得られないよな...。」

 

これまでのように部下の我が同志達に諜報活動をその進化した高い身体能力と共に行わせてぼくが司令の頭脳となる方法はここでは通用しない

 

他の我等が被験体達はここには居ないが、恐らくぼくが場所を移動すれば、共に追従してついてくるはず。

 

だがここに居ないということは、彼らがこれない移動不可能な場所に自分がいるということ...。

 

そういった場合、ぼくの『壺』から再び蘇らせねばならない

 

『壺』の中には遺灰が詰めてある。それもぼくの部下...いや、もはや自分の身体の中にいる例の黒い生命体を同じく秘めた同志達の被験中に採取した肉体や骨、遺灰だ

 

彼らの一部であるこれをぼくの持つ呪詛と共にこの壺を解放してあげれば、再び自らの前にその姿を現わす

 

それが1935年の実験結果から推測されたぼくに寄生する生命体の能力...優しく言えば、いわゆる召喚とかいったっけ?そういう奴だ

 

だが今、彼らが必要というわけではない。

 

しばらく様子見をしてから我が隷下として再び共に戦ってもらわねばならない...

 

何ならぼくの部下達 彼ら同志は肉体を無理やりぼくに寄生している...名前でもつけるか、この物体Sのほんのカケラが死体に帰省して動いているようなものだ

 

つまり操り人形のようなものだ

 

しばらくは彼らのその痛ましい姿は見たくなかった

 

考えを一旦終わらせて、ひとまず目の前の目標に入る

 

「位置情報の取得...あわよくばスターリングラード戦線への帰還、戦線復帰だな...よしっ...と。」

 

立ち上がり、適当に付いた砂埃を払いながら走り始める。

 

タッタッタッタッ

 

今こうしている間にも100万近い将兵達がスターリングラードで倒れているかもしれない。

 

そう思うとジッとしている余裕はなかった。

 

ガンッ

 

地面を強く踏みつけて空高く跳躍して、一時的な滑空状態へと移行する。

 

鳥みたいに空を飛べるわけではないが、跳躍による物理エネルギーを利用して一定時間空中に留まることは可能だ。

 

それによってこの高い木々の真上から全景が見下ろすことができ、位置情報の取得が簡単に行える。

 

正直偵察機や航空機をわざわざ出さなくても良くなるため、ぼくのこの偵察方法は重宝された。

 

ビュゥゥゥーッ...

 

強い向かい風を浴びながら、一面の森と、少し西にいけば森の中をひっそりと繋げる街道が見えた。

 

そしてその街道は...

 

「...なんだありゃ?」

 

見たこともない建物に驚愕する。

 

ここから真北に存在する高い壁...そして中央に城らしき物が見える...。

 

「スターリングラードにしても、空爆と度重なる砲撃であんな綺麗には残されていないはず...。」

 

きっと自分はもっと別の場所...少なくともこんな静かでは独ソ戦線には居ないことは明白だった。

 

しかもあの凄まじく大きな城塞都市のような場所は、自分が聞く限り近くにあるなどという話は耳にしたことがない。

 

「と、...取り敢えず、情報収集の為に人が居そうなあそこに向かうとするか...?」

 

やや疑問口調で自分で自分に問いながら、あそこまで跳躍と走りによって走破を目指す。

 

ダンッ!

 

地面を強く蹴るごとにコンクリートのように圧縮された土と軍靴が鈍い音を発する。

 

そして凄まじい速度であの謎の城塞都市へと向かうのであった...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徐々に壁が大きく見え、順調に近づいて行き、その壁の根元まで来た。

 

ズザザザザァァッ

 

砂埃を舞わせながら、急ブレーキをかけて壁を見上げる。

 

「ほえぇ...そもそも独ソ両国内にこんな建物あったっけ...?」

 

その壮大さに少し見惚れるが、それはまたの機会にするとして、更に情報を求めて壁に向かって走りだし...

 

タッタッタッタッ

 

ガンッ

 

壁の頂上であろう30-45m上まで一気に一度の跳躍だけで距離を詰め、登り切る

 

この壁は内側の都市であろう部分を囲うように円形で建てられている

 

故に、この壁の上を周回すればここの中身が丸見えだろうという魂胆だ。

 

「うわぁ...すげぇ広いな...。」

 

壁の内側を見ると、遠くから見えた通り中央にデカイ城のようなものが立ち、その周りを取り囲むようにして住宅街や商業施設が立ち並ぶ。

 

「こんな広いとなると...うぅん。どこから手をつけるか...。」

 

町はなかなかに賑わってるらしく、音だけ聞けば普通の街並みだ。

 

ただ...妙なことに自動車や機関車、インフラや高度な技術レベルの生活風景が見られない。

 

城壁の上から見るとそればかりか斧や剣、槍などで武装する衛兵などが見られた。

 

「なんと...後進的な...というか、ここは祖国ドイツでもソビエト領内でもない...完璧な第三国ではないか。」

 

その事実にたった今気づき、驚愕している。

 

「と...とりあえず!!祖国に戻らねば...ライヒへ!!」

 

そう決心して、もう何がなんだかよくわからず、がむしゃらになりながらもどこか場所を聞けるところへと移動する。

 

壁を急いで跳躍して下町に飛び降りる。

 

ビュゥゥゥッ ドォンっ!

 

少し高さがありすぎたのか、衝撃で地面が少し凹んだが人通りのない裏街道だった為問題ない。

 

タッタッタッタッ

 

急いで町中を駆け回る。

 

早く仲間の元へ戻らねば...!

 

その一心で走り回ってあらゆる人物などに尋ねてみる。

 

言語の壁は...正直、なぜか向こう側の言語がドイツ語でないのにドイツ語に聞こえる。

 

この意味のわからない不明瞭な状況に嫌気がさしてくるが、こんな都合のいいことがあるならなおさらさっさと場所を訪ねるべきだ。

 

そうしてドイツ 又はソ連領内の位置情報やこの二カ国や主要な枢軸国への帰路を教えてくれと道沿いに出会う人々に話を聞いていく...がしかし、

 

「あぁ?ドイツだぁソビエトだぁ?何を訳のわからんことを...。」

 

そう事あるごとに無視されていく。

 

どういう事なのか、誰に尋ねてもそんな風な回答しか出てこなかった。

 

さらには、

 

「そんな国名聞いたこともないぞ?...それにあんた、ここいらじゃ珍しい服装してるな。

どっかのお偉いさんかなんかかね?」

 

「...ありがとう...もういいです。」

 

そう大人しく食い下がる。

 

道沿いに広がる石造りや木造の建築物や商店の数々...。

 

後進的な文明...。

 

意味不明だ。世界で超大国のはずである我が祖国の名や敵国であるソビエトの名すら知らんという。

 

頭の中が混乱するが、その中で最大限出来る限りの、今自分にできる出来ることを探す。

 

「...何はともあれ、情報こそが要だ。」

 

パンっ

 

両手で頬を叩いてから、気を取り直し、再び情報収集に務める。

 

この場所が一体なんなのか。ここにいる人間はなんなのかを。

 

思案しながら歩いていると、ちょうど話すのに良さげな場所を見つけた。

 

外観からは木製の建物で、ライヒにもよくある酒場だ。

 

キィィィ...

 

扉をあけて店内へ入る。

 

そうすると店の中にいる者達は皆、普段見ないこの服装が奇妙なのか、こちらをじっと見つめてくる。

 

気にもとめず、すたすたと歩き、どこか手頃な席はないかと見渡す。

 

すると、近くに何やらジッと座り込んで机に顔を伏している少年っぽい男の子を見つけた。

 

この子なら周りの連中よりかは気を落ち着かせて話せるだろうと思い、そばまで歩いていき、

 

「おーい。そこの少年。」

 

「...っ!!きたのか!!」

 

ガバッ

 

と、勢いよく顔を上げる少年...だがしかし、彼が言う通りの『来る』人ではなかったらしく、その嬉々とした顔は再び通常通りに戻った。

 

「って違うのか...。...ぇ、えーと、あなたは...?」

 

いきなり話しかけてきたぼくの方を見据えて、疑問に思ったことを口にする。

 

「そ、その前に、隣、座ってもいいかな?」

 

「え、えぇ、まぁ。」

 

「ありがと。」

 

短い会話を終えて彼の向かい側の席に机を挟んで座る。

 

「で...まぁ、初めまして。ぼくはヘルガ...ヘルガだ。よろしく。」

 

素性や本名、職業は今明かさないほうがいいだろう。情報の秘匿というやつだ。

 

「ぇ、え?...ぁ、はい、よろ...しく...?」

 

いきなりのことでよくわからないと言った顔をする少年

 

「失礼だが、名前は?」

 

「あ、は、はい!タツミといいます!!今日、帝都についたばかりの田舎者で...ぇ、えっと、あなたはどうしてぼくに?」

 

気前がいいのか自己紹介をスラスラとしてくれる。

 

「どうやら...だれか待っていたみたいだけど、その人本人じゃなくてごめんね。

ぼくは単に君と同じなだけさ...いや、君より無知かもしれない。」

 

「と、いいますと?」

 

「話は長くなるんだが...。」

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして自分が相当な田舎から来て、今日この地に辿り着いた身で何もわからず、この辺りの地理やこの場所について知りたいと言った趣旨を伝え、彼に色々と答えてもらった。

 

「...なるほどなるほど...ここは帝都で、中央にあるデッカいお城みたいなのが皇帝のいる場所...と。」

 

「そうさ!俺もどんなとこなのかはまだ来たばっかだし、よくわかんなくてな...けど、強い助っ人がいるから安心なんだぜ!」

 

意気揚々と話す彼は、そう語る。

 

「助っ人...タツミ君がさっき言っていた待っていた人のことかい?」

 

「そうさ!その人、どうやら警備隊のお偉いさんと通じてる友人がいるらしくて、隊長クラスからパパッと入隊させてくれるらしいんだぜ!」

 

「そ、それはうますぎる話じゃない...かな...あはは。」

 

その話を聞いて苦笑いが表情に出る。

 

「そうか?でも、俺はあいつを信じるぜ!もう少し待てば、ここに来るだろうしな!」

 

...この少年...どう見ても騙されている

 

話によるとこの少年、その人物にほぼ所持金の全額を渡してしまったそうな。

 

なんと虫のいい話だこと...

 

本人は鈍感なのか待ち続けているが...

 

「...ところで、ヘルガはどうして帝都に?」

 

タツミから聞かれる。

 

「...どうしてと言われても...どうしてなんだろう。」

 

真剣な顔になって、一思いに耽る。

 

「?」

 

「...ぁ、いやいや!まぁ、大体は君とおんなじ理由さ。」

 

「そっか!」

 

うまく話を合わせておく。どうしてここにいると言われても自分でもよくわからないのだから。

 

「それと!!

さっきから気になってたんだけどさぁ!その服装は何!?どっかの軍隊!?超超超かっけぇよ!!すんごい勲章付いてるけど、どっかの軍人さん!?」

 

興味津々にぼくの親衛隊の制服について問いただしてくる。

 

この少年、事あるごとに声がデカイので注目の的だ。

 

まあ、それはおいておいて

 

「こ、これね...これは...まぁ、なんというかただの私服だよ。こ、こ故郷ではよく着るんだ!」

 

むちゃくちゃな嘘だが、しかし

 

「そ、そうなのか...軍人さんなら、俺を入隊させて欲しかったんだけどなぁ...。」

 

「そんなに腕が立つの?」

 

少し深くまで聞いてみる。

 

「おうよ!俺の剣の腕は中々だぜ!!」

 

そう言ってタツミは背中にかけてある剣を親指で指して自慢する。

 

「...ふぅぅーん...。」

 

ぺろり...

 

舌鼓が鳴る。騎士...に似たようなものなのか。彼のその手腕に少し興味が湧いた。

 

「ねぇ...良かったら、ここでその君が待っている人を一緒に待ってもいいかな?

運が良かったらぼくもその...帝都警備隊に入隊できたら、なんちゃって。」

 

この都市国家には、帝都警備隊と言われる軍事組織が存在する。

 

明確な軍は強力な力を持つ帝具を持つ者にしか与えられず、この警備隊のみが国内で唯一の正式な武装部隊だ。

 

「あ、あぁもちろん!!

じゃぁ、改めて、俺はタツミ!

本当はもう2人いるんだが、はぐれちまってここにはいないけど、帝都にはついた頃だし、出会ったら紹介するぜ!」

 

「ありがと!ぼくはヘルガ...ヘルガ・シュタイナー!よろしくね!」

 

この世界を鑑みるに、自分のいた場所とは全く異なる場所というのは明白だ。

 

更には恐らく...世界線、丸ごと違う可能性も存在する。

 

昔、誰かから聞いたことがある。

 

自分達とは異なる道を選んだ分岐線や世界線がいくつも存在し、平行線として存在するという話を。

 

これはそのうちの一つなのだろうか?

 

世界地図などについても、タツミは明確に記されているのは帝都の東側が海岸で囲まれており、

 

西側と北側に異民族の国家が存在するということだけらしい。

 

ならばここはもはや自分のいた世界とは全く異なる。

 

この地で働き、情報収集に務め、祖国に戻れる日までは活動し続けねば...。

 

あわよくばこの帝国自体をライヒのものに...。

 

小さな野心に火がついたように思案を巡らせるのであった...。

 

 




主人公の制服姿の元はだいたいこんなイメージ

https://images.app.goo.gl/Au2kHMJmcaaNDNE99

主人公の隷下のSS隊員はこんなイメージ

https://images.app.goo.gl/aopmUab9UgDYsZWD6


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アリア一家とアリアのアーリア化(ギャグじゃないよ)

深夜テンションの結晶




あれから5時間が過ぎ去り...

 

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!!持ち逃げされたぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

「だから言ったのに...。」

 

酒場を出た瞬間、タツミの地獄の雄叫びが聞こえた...

 

どうやら、ぼくが案じていた通りにタツミは騙されて、金だけ持ち逃げされたらしい

 

辺りは真っ暗な上、彼の資金はあの酒場でメシ代を払ったら底をついてしまった

 

「...ヘルガさん...申し訳、ないですっ!!」

 

ガクンっ

 

「ぇ、えええええっ!?」

 

なぜか、なぜかいきなり土下座を食らわされる

 

「ぼくが、ぼくが甘かったばかりにっ!!ヘルガさんまで騙してしまって!!」

 

どこまで優しい少年なんだと気が重くなる。

 

「あ、頭をあげてくださいよタツミ殿...。それに、付き合うと言ったのはぼくの方ですし...気になさらないでくださいね。」

 

ニコッ

 

破壊力100の男の子...娘...?笑顔で対応してやると、

 

「は、はいぃぃぃッ!!」

 

ズッキュゥゥゥンッ

 

(ちょろいちょろい...。)

 

そう内心腐った笑顔を見せる。

 

残念ながら自分の身体は例の黒い寄生命体に入り込まれてから老化が14才で止まってるんだな...

 

若さ故の過ち...何度でも繰り返せるわ!!

 

そう意気揚々と思いまくっていたが...

 

「えーと...じゃぁ、ぼくらは今晩、野宿ですね...。」

 

「あー...そうなりますよね...。」

 

互いに金銭は所持していない。

 

ぼくは持っているには持ってるが、マルク紙幣なのでドイツ通貨は何一つ意味をなさない。

 

この世界の、特にここの通貨は別のもんらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、絶賛路上で男の子2人で身を寄せ合って野宿中...

 

ガクガク...

 

「ヘルガさん...寒い?」

 

「ぇ...まぁ少し...ヘァックションッ!!」

 

ズルルルっ...

 

「あんま近寄らないでくださいね...。」

 

「何っ!ぼくのこと引いてるのかお前っ!

寒さには弱いんだぞ!くっ付き合わなきゃあったまれないぞ!」

 

「いや、いやぁ、遠慮します、あはは...。」

 

鼻水をすすりながらくしゃみを必死に堪えてタツミに寄り添う。

 

ちなみにその気はナイ♂ぼくはGから始まりYで終わる異常性壁者ではない

 

それにしてもこの寒さは一体何なのだろうか。まだ帝都の暦上秋だってのに...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラガラガラ...

 

パタンっ

 

スタっスタっスタっスタっ

 

だいぶ眠気が僕らを襲い始めた頃...ぼくらの近くで物音がした

 

「あらまぁ...なんてかわいそうなの。」

 

ビクンッ

 

いきなり声をかけられてビビる

 

うたた寝をしていたところを起こされ、瞼を無理やり開くと、そこには...

 

「...どなたですか。」

 

そこそこ可愛い美少女が立っていた。

 

残念ながら可愛いだけの美少女だ。

 

「ん...んんん?ヘルガさん、どうかした...の...って、え?」

 

いきなりの女の子の登場に驚いているのか、タツミも静止する。

 

「もし、泊まるあてがないなら、私の家に来ない?」

 

何か...ありそうな目をしながら少女は優しい笑顔で僕らにその手を差し伸べてくる。

 

「ぇ...い、いいんですか?ここで野宿するよりかはだいぶマシですけど...。」

 

そうタツミが不安そうに聞き返すと、後ろにいる2人の彼女の護衛らしき男のうちの1人が口を開く。

 

「アリアお嬢様は、お前達のような者を放って置けないのだ。お言葉に甘えて置け。」

 

そうどこか冷徹な言葉をかけてくる。

 

(...放って置けない...救済ではなく...破壊か。)

 

さっきのそのマリアお嬢様とかいう貴族のお嬢様...彼女の目をまっすぐに見据えると、彼女はすぐに僕から視線を離した。

 

その理由は覗かれたくないものでもあるのだろうか?

 

...ともかく、連中を利用できるのであれば利用できるだけしよう。

 

反旗を翻すなら、一歩も下がるな。

 

一歩も下がるなというのはソビエト人民委員による有名な命令であり、撤退を禁ずる悪魔の命令だったそうだ。

 

...どうでもいいか、ソ連兵の捕虜から聞いた話だ。もう彼は死んだが...。

 

「タツミ...いこうよ!」

 

表情を読み取られないようにしてタツミに勧める。

 

(もちろん推奨したからには、彼は守るよ、最低限ね...。)

 

心の中で小さな誓いをしながら、彼女の家にまで行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

彼女の家は想像した通りの貴族邸であり、豪華で高額な美術品や絵画、家具などが並べられている。

 

どれも実用性のない不必要なものばかりだ。

 

金持ちのやることはよくわからん。

 

それで、だ。僕ら2人は取り調べを受けてる最中...それも彼らのお茶の時間に。

 

「おぉ、アリアがまた誰か連れてきたようだ。」

 

「あら、癖よねぇ。これで何人目かしら。」

 

彼女の両親が談話している。

 

隣のタツミは周りを見渡してその屋敷の景観に圧倒されている。

 

そういえば彼は貧困の村からの出身と言っていたな。こんなところは初めてか。

 

(...これで何人目かしらってことは、連れてこられた他の連中は見当たらないなぁ...クロっぽいね。)

 

そう冷静に思案する。

 

「拾っていただき、ありがとうございます!!」

 

タツミが歓喜に満ちた笑顔で礼をする。

 

僕も右手を高く掲げ、敬礼を行う。

 

「Danke Unser Feindesland...。」

(ありがとう、我が敵地よ...。)

 

タツミが何か怪訝そうにこちらを横目で見て、

 

(機嫌を悪くしたらマズイだろ!普通に礼をしろ普通に!)

 

と合図を送ってくるが、

 

「はっはっはっ!それは何かの挨拶かい?」

 

気前よくアリアという少女の父親は聞いてくる。

 

「はい!僕の故郷で相手に敬意を払う特別な挨拶です!!」

 

意気揚々と答えると、

 

「そうかそうか!ははは!変わったところもあるもんだな、アリア。」

 

「えぇ、お父様!」

 

(...笑いはイライラの真反対ってね。)

 

彼ら、笑ってこそいるものの僕の一つ一つの挙動にイライラしてるのが丸わかりだ。

 

特にマリアの目をしばらく見てるだけで自己の欲望が見えてくる。

 

こりゃ危険だな...。

 

警戒しつつも話を進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど...軍で出世して故郷の村を救いたいか...。」

 

「はい!」

 

絶賛タツミが何をしに帝都にやってきたのかを尋問されているところだ。

 

色々とタツミと話したが、内容はほぼ一致している。

 

嘘はついてないようだ。そもそもあれだけの男の子が嘘をつくとは思ってもいないけど。

 

 

 

話は進んでいき、タツミの友人であるイエヤス、そしてサヨという少女2人が帝都に来る途中別れてしまい、

帝都で落ち合う予定だったが未だに会えていない現状をタツミが伝えると、

 

「よかろう!軍の者に口添えをしておこう。あとその二人の捜索もな。」

 

アリアの父親の異常な気前の良さにぼくの警戒心はマックスだ。

 

「アリアの勘ってよく当たるんだけどね、きっと近いうちに二人とも会えると思うよ?」

 

ニコッ

 

貴族のお嬢様 アリアは明らかに意味ありげな発言をする。

 

(...会える...これで何人目かしら...異常な援助...。)

 

よくある手口だな...はぁ。

 

確信に迫ったが、どうせなら演技をし続けて幻をタツミにもう少しだけ見させてやるかと思う。

 

どのみち、ぼくはここが『帝政国家』であることを知った時点で、目的ができたから、タツミとは別れるつもりだった

 

全てをライヒに またいつか総統に出会う日まで

 

(...ハイル・ヒトラー...!!)

 

心の内側で静かにかの人を敬う。

 

「それで、あなたは一体どちらからいらしたのかしら?えーと... 」

 

「ヘルガです!ヘルガ・シュタイナーです!

北方の方から来た、裕福とは言えない出稼ぎ人です!」

 

急に話を振られて、ついフルネームが出る

 

「あらあら、それじゃぁタツミ君とはどこで知り合ったの?」

 

この母親...グィグイ聞いてくるな...もしかして性癖的にぼくが対象なのか...?

 

彼らがやっているぼくの寄生物よりクロっぽい趣味の性癖対象に選ばれるとは不運だ。

 

「あー、たまたま酒場で道もわからず出会ったタツミ君に色々と話を聞いて、成り行きで...ね!タツミ!」

 

「あ、はい、そうです!」

 

「なるほどなるほど...所でその服装はあまり見かけないね。

若いのに勲章らしいものをジャラジャラと...どこかの有力な軍人さんかな?」

 

アリアの父親が自分の服装について聞いてくる。

 

「いぇいえ!これはただの私服に過ぎません!

故郷ではこう言った服装が当たり前でしたので...。」

 

「そうかそうか!やはり君の故郷は珍しいものばかりだな!一度訪ねてみたいよ!」

 

こちらに探りを入れようとしたのか、まぁ真の情報など誰にも渡さないつもりだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、彼らとの談話も終わり、タツミとぼくは各部屋別々のところが割り当てられて、好きに使っていいと言われた。

 

(...この状態で寝るのは危険だな...。)

 

カーテンを閉め、部屋を真っ暗にし、ドアには鍵がついていなかったのでぼくの手からドアノブに黒い例の生命体を纏わりつかし、開けれないようにした。

 

更にぼくは

 

タンっ

 

地面を音が響かないように蹴って、天井に手をついた。

 

そしてついた手から体を横転させて、すっかり重力に争い天井にまるでコウモリのようにぶら下がって眠気を誘っていく。

 

ぼくの足からは常にドス黒いモヤのかかった物体が天井との接着剤の役割を果たしている。

 

「では...おやすみ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スヤァ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ...ガチャガチャ...

 

夜中にドアノブを回してぼくの部屋に侵入しようとする者たちがいるということを、ぼくは知りながらそのままにしておいた

 

どうせ入ったとしても天井で寝てるとは思わんだろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が経つのは早い 特に睡眠時間中は

 

もう朝になり、そして貴族らしいアリアお嬢様の無駄遣いの買い物に付き合わさせられる

 

ぼくらはお屋敷にいる間は彼女のお供としているということになっている...らしい?

 

んでまぁ、そのお嬢様が異常なほどの量を購入するもので...

 

「なんか量がおかしくなっちゃってますけど...。」

 

タツミがそう引く程の積み上げられた荷物が目の前にあった。

 

「女ってのは、貴族に限らず大抵こんなもんだ。」

 

護衛のうちの一人がタツミとぼくに話しかける。

 

「えっ、そうなんですか?ウチはすぐに着るものは選びますけど。」

 

「それは着るものがないからじゃ...。」

 

タツミがなんか意味深なことを言い、ぼくがなんとなく予想をつける

 

「それよりタツミ、ヘルガ。あそこをみてみろ。あの中央の建物、あれがこの街の中心部 帝都だ。」

 

「おおおおぉ!!でっけえええええ!!」

 

タツミが興奮状態に陥る。

 

「あれが、国を動かす皇帝様のいるところですか!」

 

タツミが意気揚々と聞くが、しかし

 

「いや...少し違う...。」

 

そう言ってその護衛はそっとぼくらの耳に近づいて、小さな声で

 

「皇帝はいるが、まだ子供だ...。

そしてその皇帝を操る大臣こそが、この国を腐らせる元凶だ...。」

 

「えッ...!」

 

タツミは驚きで声も出ないと言う様子だった。

 

ぼく自身、タツミが知らなかった情報はぼくも知らないので、新情報として脳内にインプットしておいた。

 

「じ、じゃぁ、俺の村が重税で苦しんでいるのも...。」

 

「帝都の常識だ。」

 

「くっ...!!」

 

タツミはこの事実に男の子らしく、村を思ってか怒りを抱く。

 

「...ヘルガ、お前はあまり驚かないんだな。」

 

そうぼくのことを少し疑問に思う護衛だが、

 

「いえ...そういうことには慣れていますので...。」

 

「そうか...他にも、あんな連中もいるぞ。」

 

護衛が更にぼくらに向けて指差したのは

 

「...ナイト...レイド?」

 

と、書かれた四人程の指名手配犯の張り紙が見えた。

 

「帝都を震え上がらせる殺し屋だ。その名の通り、夜襲を仕掛けてくる。

帝都の重役・富裕層が連中のターゲットだ...。一応、覚悟はしておけよ...。」

 

なにか意味ありげな発言だったが、タツミはなりふり構わず、

 

「はい!」

 

と元気で答える。

 

「あと、とりあえず...お前ら、あれなんとかしてこい。」

 

そう護衛が更に指を指す方向を見ると

 

アリアお嬢様がこちらに走ってきており、その背後には...

 

バカでかい荷物が二人がかりの護衛で運ばれてきていた

 

「「なんの修行ですか!」」

 

盛大なツッコミを入れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は素早く立ち去り、今日もまた夜中が来た...

 

コツ...コツ...コツ...

 

そしてぼくは、ある部屋に向かおうとしている

 

それは...

 

バタンッ

 

勢いよく開かれる扉、そして

 

ビクンッ

 

開かれた部屋の中にいる、一人の少女が一瞬震えるが、すぐに何かをしまって彼女の背中に隠す

 

「アーリアお嬢様〜!」

 

少し演技的な甘い声も交えて呼んでみる、そうすると、

 

「あら?ヘルガ君、何の用かしら?

それにこんな夜中に勢いよく扉を開けたらご両親に叱られるわよ、もお!」

 

と、いつも通りのテンションでぼくに接する

 

だがぼくはもう彼女の状態に気づいている

 

なにをぼくから隠し、何を遠ざけようとしたのかを...

 

「アリアお嬢様〜、背中にあるものってなぁに?」

 

わざとらしそうに聞いてみる。

 

そうすると彼女は慌てたように身動いで、

 

「あ、え、えぇ、それ?ただの本よ!さっきまで読書してたの、つい夜更かししてしまったわ。」

 

ぼくに常に笑顔で接するが、その顔にも汗が流れ、次第に焦った顔に変わっていく

 

その様子を見て、ぼくは

 

(...こりゃ、さっさとしたほうがいいな。)

 

別の誰かがこの屋敷に侵入してきたことをぼくの体内にいる寄生物が知らせてくれる。

 

ぼくは少しため息をついた後...

 

ボゥンッ...

 

黒い砂塵と共にぼくは彼女の目の前から消えた...

 

「っ!?ヘルガ!?...どこにいったの!?」

 

そう驚く彼女だが、

 

「ここだよ...。」

 

彼女の耳を舐めながら囁いてあげると

 

「ッ!!!」

 

彼女はぼくから距離を離そうと後ろに一気に下がるが、ぼくの思い通りに彼女はベッドの段差に足を取られ、ベッドの上に寝転がるようになった

 

「ッ...へ、ヘルガ君?悪ふざけはもうやめてちょうだい?ね?」

 

そうなんとか平常を保とうと語りかけてくるが、気にも留めずに彼女の上に馬乗りになる

 

そして彼女の顔の目の前にぼくの顔を持っていく。

 

それと同時にアリアお嬢様の両腕を掴んで封じる。

 

「...犯す...つもりなのかしらね?」

 

彼女の目の色が少しだけ変わった。

 

「H目的ならとっくに強姦だのなんだのしてるよ。そうじゃないさ。」

 

ぼくは言ってやると、彼女は怪訝な顔をする。

 

「じゃぁ、なによ。あなた知ってるんでしょ?

私が家族の拷問に手を貸してること...何かする以外考えられないわよ...。」

 

彼女 勘がいいのか ぼくの態度や日頃の会話から察していたようだった。

 

「そこにあるのも拷問器具なんだろ。両親に言われてお前が手入れ役として毎晩磨いてる...。」

 

ゴツンッ かパッ

 

左足で地面に置いてある物々しい工具箱を蹴り、蓋を開けてみると中には大量のメスやら針、ナイフ・ハンマー・ノコギリなどが入っていた。

 

「お前はもうじき死ぬさ。なんといったかな...ナイト・レイドか?連中がこの屋敷に来てる。」

 

「っ...やっぱり...やりすぎたんだよ、私達。」

 

「...。」

 

ぼくは彼女の目をまっすぐ見据えて、根っからの腐れ野郎ってわけではないことを確信した。

 

「生まれたとこがこんなとこじゃ、しょうがないとも言えなくはないな...拷問への直接加担は?」

 

「...嘘はついても無駄よね。最初の、最初の一回だけ、女の人の皮膚に傷を、ほんの小さな傷をつけた...。

お母様に誘われて離れの小屋に呼ばれた時、私の初めての時よ...そんなこと聞いてどうするの?」

 

「しっ...黙って答えるんだ。...お前はなにに忠誠を誓う?」

 

「...?いきなりなにをっ...!」

 

「忠誠だよ...単純なことだ、なにが欲しかった?...拷問か?それ系統の破壊か?

己の欲望に忠を尽くすか?両親のように...。」

 

彼女の真意が知りたい。彼女はせっかくの美少女というのもあるが、容姿がとにかく北方アーリア系民族だった。

 

金髪、そこそこのショートヘアにカットされ、頭蓋骨もちょうど良い形だった。

 

まさにぼくと瓜二つの、双子と言われても信じてしまうような少女だったのだ。

 

彼女は欲しい...我がアーリア民族に必要不可欠な人材だ

 

この国でアーリア系の民を見つけるのはこれから先異常なほど大変だろうし、今のうちに見つけておきたかった

 

だが中身がゴミでは使いようにならん

 

だから彼女がなにに忠を尽くすのかが知りたかった

 

「私に...何か欲があることは無いわ...ただなんとなく生きているだけよ...。」

 

どこか寂しげに、拷問の手伝いや自らの意志では無いことをやることへの忌避感や倦怠感をぼくに訴えていた。

 

「...そう...じゃ、一つ提案なんだけど。」

 

「なによ...どうせ私はもう終わりよ。」

 

ローテンションなことばかり言うなこの女...

 

「私、私うるさいぞ。そんなに自分が大切かメス犬。」

 

「...いいえ。」

 

「そう、それでいいんだ。どうせこの先やる事がないなら、ぼくと一緒に行かない?」

 

「...どこへよ...。」

 

無気力な女とはまるでマグロのようだ。

 

強姦されてるわけでもないのに強姦されてる無抵抗な状態だ。

 

おっと、言葉が汚すぎたかな。

 

「ライヒだ...いずれこの帝国はわがドイツ民族のものとなる...。」

 

「ふっ...いい空想物語ね...。」

 

「まあまて、まだ話の続きがあるんだ...今話すと長いがな。

ま、肝要な所だけ聞くって事だ。よく聞け小娘。

 

お前には私と、我が民族の為にカラダも意志も捧げてほしい。

 

お前自身の意志によって、民族の一部となるのだ。」

 

「なによそれ、バッカみたい...。」

 

「つまりは、ぼくの為に尽くせということだ。嫌ならまだ共に生きれるお前が、無駄死にするぞ?

 

こんなところでな...お前の遺伝子は劣ったものとして、お前という種は絶滅するのだ。」

 

ビクッ...

 

その言葉に何か思い上がったのか、彼女は一瞬震える。

 

「...土日...。」

 

「ん?」

 

何か言いたそうに口をぼくの耳に近づけてきて...

 

「...土日は休ませろ...っ!!!」

 

強くぼくに言ってきた。

 

「...もちろんだよ、我が妹...。お前は今からぼくの妹だ...。ようこそ、ライヒへ。」

 

ベッドに押し倒しておいて言うようなセリフではないがな。

 

「じゃぁ、ひとまず逃げるか。」

 

「でも...どうやって逃げるの?ここはやつらに囲まれてるはずよ...。」

 

「そうだな...じゃ、目瞑ってて?」

 

「...なにする気?」

 

「ただの移動だよ。なんだ、ビッチにでも目覚めたか?」

 

「...好きにしてッ!!」

 

何か怒ったような口調で言われるが、無視してぼくは意識を集中させる。

 

彼女を抱きかかえて、ベッドから引き離す。

 

いわゆるお姫様抱っこだ。

 

そして周囲の空間との調和...ぼくの中にいる寄生物による空間との共同体を形成する。

 

空間との共同体は、ぼくの細胞が寄生物によって別の空間へと空気循環のように移動させられる状態を指す

 

側から見れば瞬間移動や、空を飛んでるように見ることもできるのだろう

 

「引き裂かれないように、ぼくに掴まってて。」

 

コクっ

 

この意志なき少女だったアリアがぼくの隷下に入り、意志ある民族の一部へと変わった

 

ぼくは嬉しくてたまらなかった

 

そしてその夜、ナイトレイドの連中はターゲットの一人を排除できず、どこに行ったのか捜索も困難なまま依頼未達成のまま帰還することになった...

 

 



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権限拡大に首切りザンク編

あの後、ナイトレイドの夜襲がやはりあったと言うか、事件として報じられた。

 

アリアは彼女の家族で唯一の生き残りであり、彼女が資産を相続することとなった

 

もちろん、彼女の両親はこの帝国の全権代表とも言えるとある大臣の派閥についていたそうなので、アリアももれなくそちら側に今は付いている

 

その、なんとか大臣...名は忘れたが、そいつから形として援助金などが出ており、その金で邸宅を購入した

 

絶賛、アリアはその邸宅に居を移し、貴族としての仕事をしてもらっている

 

本人曰く、『貿易に関する関税』によって儲ける副業のようなものだとか

 

なるほど、将来は外務省貿易課にでも配属しようかと考えておく

 

そして今、ぼくは彼女に雇われた護衛、と言うことになっている

 

彼女が権力基盤だ 彼女が貿易関連の経済体制から食い込み、勢力を伸ばせばぼくはただの護衛ではなく、

元ある親衛隊として帝国の全土の防衛を行うつもりだ

 

そのために、今は彼女の邸宅の裏庭で...

 

《血肉を取り戻せ...骨を大地から集めるのだ!!》

 

古代エジプト語での詠唱を行い、自らの壺を

 

《主人が帰ってきたぞ!!!!》

 

サァァァァァァ...

 

『『『Cy...Cy...Cy...。』』』

 

壺の蓋を勢いよく開け、遺灰を形にし、彼らを呼び戻す。

 

そして、僕の目の前には総勢、75名の親衛隊生物兵器化学大隊の我が戦友達が揃った

 

皆、ミイラのように身体は痩せ細り、顔面はもはや見せられないほどグロいので、ガスマスクを被ってもらっている

 

「...この見た目の割に、身体能力は半端ないんだよな、彼ら...。」

 

心底外見と似つかわない強さに驚く。

 

彼らには今後、帝都の情勢や経済的重要区間などの諜報活動にでてもらうつもりだ。

 

そしてぼくと少数がこの邸宅に残って護衛という名目上の仕事を果たす。

 

「ここらの情報が欲しい。経済区域、この帝都における情勢やあらゆる有益な情報を諜報してほしい。急いでくれ。」

 

そういうと、彼らは了解の意を示し、

 

ガンっ

 

と地面を強く蹴り、ぼくほどではないがだいぶ高いところまで跳躍しながら、邸宅の外側へと走り去っていった

 

そして残りの数名がぼくの背後に回る形で護衛についた

 

「お仕事が終わりましたので、昼食にしませんか...ヘルガ大佐どの...?一体なにをなされて...?」

 

「あ、あぁいや、なんでもない。ぼくの部下を呼んでただけさ。」

 

「なるほど...了解です。」

 

肩をすくめて彼女、邸宅から出てきたアリアに説明する。

 

ぼくの背後にいる親衛隊員を一瞬怪しんだが、ぼくの話を聞いて納得したように頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで数ヶ月が経過、帝都での生活も安定してきた

 

何よりアリアが割と事務処理で使えるのだ

 

流石は元貴族...いや今も貴族か

 

現場に出向いて品々の仕入れ値や利益率などを常に計算している

 

その度に護衛であるぼくが付いていくハメになる

 

その上彼女は買い物好きで、バカスカ物を買ってくるからうちの親衛隊員でも荷物運びがギリギリなくらいだ

 

そして、だ 各経済区域担当官をぬっ殺して、うちの管轄下に置いた

 

連中は調べた所、凄まじい汚職や書類改竄だらけで、まぁ死んでも仕方ないと思われるような奴らばかりだ

 

そのかわり、大臣の派閥に属している者達の一味であったため、

ナイトレイドの夜襲で亡くなったという事になってはいるものの、毎週連続で殺されていくからにはあの大臣、相当頭にきている模様

 

まあアリアの経済圏が広まってそれはそれでいいんだけどね

 

「ふへへぇ...。」

 

で、ニヤニヤしながらぼくは目の前の先ほど届いた書類を見ている

 

「それ...取るのに何週間もかかったんだから、無くさないでよ。」

 

アリアから忠告を受ける

 

「わかってるってぇ。」

 

こんな紙切れ一枚に嬉しがる理由は、書かれている内容だった。

 

「貴公、オルトア・アリアの護衛部隊である『親衛隊』は、管轄下の経済区域における国家保安権限を認めるものとする、かぁ。」

 

そう、ぼくらが管轄下に置いた経済区域...まぁまだ今は3つしかないが、その管轄下での治安維持活動が可能となった。

 

大臣が認証を渋ったせいで中々出なかった許可だが、ようやく降りたようだ

 

それもそのはず、今帝国では辻斬りザンクと呼ばれる帝具使いの犯罪者が出回ってると言う

 

最近、うちの近くでも何名か警備隊が殺害されたそうだ

 

警備隊の数合わせのために、僕らにも国家保安権限を委譲したのだろう

 

そんなこんなで時は流れるように過ぎていき、ぼくはこれから出かけるアリアの護衛を務める身支度をする

 

何やら今日の夕ご飯のおかずを買いに行くついでに現場の価格調整をしたいという。

 

彼女が管轄下に置いている区域では、親衛隊の目もあってか不正取引を成立させたものは容赦なく見せしめの首吊りかその場で銃殺刑に処している。

 

親衛隊員は各地に見えないところから彼らを監視している...それだけでもその区域の民からすれば恐怖だったらしい

 

近頃犯罪率は低下している

 

まぁザンクが狩りまくってるからってのもあるかもしれないが

 

ザンクについての情報はそこそこ得ておいた

 

どうやら帝国随一の刑務所での首切り役人だったが、その後帝国の指揮を離反

 

国宝である帝具を盗み出し逃走したものが帝都に流れ着いたと

 

「もしもの事があったら良くないし、アリアにはこれからつきっきりでいるよ。」

 

「...好きにして。」

 

「冷たいなぁ。」

 

不愛想な彼女は前とは大違いだ。

 

「じゃ、いくとするか。用意はできたでしょ?」

 

「...えぇ。」

 

4名の親衛隊員が背後に回って僕ら二人の護衛を務めてくれる。

 

大抵のことは彼らがこなすから、ぼくはただ見てるだけさ。

 

ただ...今は日が暮れてしまいそうな夕暮れ時...アリアが外出するにはちょっと危ない時間かな...

 

「そもそもお店開いてんのか...?」

 

少し疑問に思いつつも、彼女と足を進めていくのであった...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふふんふふーん♬」

 

「お前買い物の時だけは嬉しそうだな...。」

 

後ろの荷物大量の親衛隊員が苦しそうに見える

 

彼らの筋力なら耐えられるだろうが...

 

「...ョ...サヨ!!」

 

(...?)

 

鍛錬された聴覚から、僅かに声が聞こえた。それに走る音も...。

 

「どうかしましたか?ヘルガ大佐殿。」

 

アリアにはぼくの本職などについても色々と語ってある。

 

故に大佐呼ばわりしてくる。ヘルガでいいと言ったのに...。

 

「いや...なんか聞こえなかったか?そこの路地裏から。こう、サヨって。」

 

「サヨ...前の亡きご両親の拷問施設にそのような女がいたような...。」

 

「生きてたのか?」

 

「いえ...死亡が確認されています。私のお母様によって。」

 

「そうか...だが、サヨって呼んだということは...その名前を呼ぶのは一人しかいないな...。」

 

「?」

 

アリアはよくわからないと言った顔だが、ぼくはよく覚えている。

 

最初に出会い、あのアリアの屋敷でのナイトレイドの夜襲後、彼は行方不明になっていることを...

 

そして今聞こえた声は...彼だということを

 

彼はいないはずのサヨをみたのか...?確実に走って追いかけていたのが路地裏の陰から見えた

 

「アリア、先にそこの親衛隊員とともに帰ってろ。」

 

このまま彼女を戦場に連れていくには少し危険だ

 

留守番でもしておいてもらおう。

 

「...あまり無茶はなさらないでください。」

 

ぼくに少し忠告をしてから、彼女は踵を返して帰路につく

 

「...タツミ...待っててね。」

 

ガンッ

 

そう言いながら、時速何十キロもありそうな速度でぼくは地面を蹴り、跳躍を開始して、彼を追いかける...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィンッ

 

ガンッガンッ

 

ギギギィッ

 

金属同士の激しいぶつかり合いが聞こえてくる...

 

方向は大広場の方だ...

 

ヒュゥゥゥッ

 

跳躍による風切りの音が心地よい

 

真っ暗な日がくれた暗闇を飛んで回る

 

 

 

 

ぼくの背後からも、また複数の風切りの音がする

 

親衛隊員だ 急遽諜報任務から外して8名程を隷下に割り当てた

 

首切りザンクのいる場所を一人でウロつくのは流石に抵抗がある

 

「ッ、間に合ったぁ!!」

 

ある建物の影を抜け、広場が目の前の視界にバッと広がる。

 

跳躍しながら、地面へと重力に従って落ちていく。

 

ズザザザザァァッ!

 

丁度タツミの真横に降りれた

 

「タツミ!!タツミ!!大丈夫か!?」

 

だいぶ傷を負っているタツミに近寄り、心配する。

 

「...ッ、あんたは...ヘルガ...さん?」

 

「どうしてこんな傷...を...って...。」

 

ぼくは彼がじっと見つめている方向を振り返る。

 

そしてそこには...

 

「...指名手配中の...アカメ...!?ナイトレイドかッ!!」

 

そう一瞬後ずさり、こいつがタツミをやったのかと思うが...

 

彼女と対峙しているもう一人の男の方を見て、納得する

 

「なんだぁ、おめぇはぁ?」

 

ぶっきら棒にその男は突然の侵入者に目を細める。

 

「...首切りザンクだったか?確か名前は。」

 

「そうだ!!俺の名前を知っていてくれたとは光栄だよ!!愉快愉快!!」

 

変な口調なやつだな...。

 

そしてアカメもこちら側を振り返り、

 

「...誰...。」

 

と不思議そうに首をかしげる。

 

「あー...お楽しみのところ邪魔してすまないが、やり合うならさっさとやりあってくれ...。ぼくはこの子に用があるだけだしな。」

 

「...。」

 

タツミに用があるというと、ぼくにも殺気を向けてくるアカメだが

 

「勘違いしないでよ、ただの治療だ。」

 

「...タツミに何かしたら、お前も斬るッ...!!」

 

鬼のような目でこちらをみてから、ザンクとの戦いに戻る。

 

「ヘルガ...どうして...ッいって...!」

 

「たまたま路地裏から走っていく君の姿が見えて、少し心配になっちゃってね。

 

ところでタツミは今までどこにいたんだ?

消息不明になってから少し心配してたんだよ?」

 

「いやぁ、まぁ、色々とあってね...あはは。」

 

「...まぁその話は後で、じゃぁ...。」

 

ぼくは腕の襟を捲り、小さな細い腕を外気に晒す。

 

そして、親衛隊の短剣を取り出し、

 

シュッ...

 

「んっ...飲んで...。」

 

「...えっ?こ、これを!?」

 

...常人からしたら訳がわからない行動にタツミは困惑している。

 

ぼくの短剣で切った傷口から、血...若干黒く染まった血が流れ出る。

 

「そう!いいから!!」

 

ガバッ

 

「おわっ...!」

 

タツミをぼくの腕に引き寄せて、無理やり飲ませる

 

ゴクン...ゴクンっ...

 

吸血...いや、本来なら血液は流れていないが、ぼくに寄生する物体の血液との結合物が、タツミの体内に取られていく。

 

これらのぼくの血液...?は、タツミのザンクに切り刻まれた鋭利な傷口の細胞を活性化し、ぼくから与えた血液によって大半の傷口の細胞が補われて動けるようになる...。

 

もちろん、一時的な細胞への措置であり、数日経つとその細胞は消え去り、元の傷口へと戻る

 

がしかし、その頃にはタツミ自身が治療に成功してるだろう

 

「ぷはぁっ...ほんのりと甘いけど、ヘルガの血はどうなってんだ...。」

 

怪訝に思いながらも味のレポートをしてくるタツミ。

 

「ほんと?」

 

ぺろっ

 

自分でも舐めてみる

 

「...たしかに、りんごの一歩手前の甘さだな...。」

 

どういうわけか、ぼくの血液には砂糖でも入ってるのか?

 

「よくわからないけど...体が動けるようになってきた気がする...ありがとう、ヘルガ。」

 

「うん...ところで、彼女らは...。」

 

ガァンッ

 

ギリギリギリリリッ

 

キィンッ!!

 

未だぼくらのそばで熾烈な戦闘を繰り広げている彼女 アカメと首切りザンク

 

「あぁ...俺をたったいまさっき助けてくれた、アカメだよ...街の指名手配書にもあっただろ?」

 

「あいつが...アカメ...。」

 

帝都では有名な殺し屋と聞いている。

 

更に帝具使いであるらしく、彼女が持っている刀...あれに少しでも触れるとアウトらしい

 

現状のところ、アカメ優勢の状況だったが...

 

ピトっ...

 

急にアカメが止まった

 

そしてザンクが何やらニヤニヤとした顔でアカメを見据えている

 

「ッ!?アカメ!どうしたんだ!アカメ!!」

 

タツミがそう叫ぶが、彼女には聞こえていないらしい。

 

「ムダだ少年よ。これは俺の帝具の能力、幻視ッ!相手にこれまで出会ってきた中で最愛の者を映し出す、催眠効果のようなものだ...。

 

今頃こいつは、最も大切な人間に出会っているのだろうさ。」

 

そうザンクがご丁寧に解説してくれる。

 

現にアカメは瞳孔が開き、目の前のザンクへの態度を一新させた。

 

「アカメ!!お前がみてるのは幻覚だ!!アカメ!!」

 

「むだだ...一人にしか効かないが効果は絶大ッ!愛しきものを見ながら死ね!!アカメェ!!!」

 

ザンクが二刀流の剣を武器に、アカメに急速に接近していく。

 

そしていま間近にもザンクの剣が振るわれようとしたその時...

 

 

 

 

 

 

世界は暗転した

 

いや、ザンクの世界だけ、という事だろうか

 

ぼくが地面から這わせていた黒いナニカは、彼の足元にまで到達していたのだ。

 

「...ッッ!?」

 

その瞬間、この時が止まったような世界で、ぼくとザンク以外は何も見えない暗闇へと移る

 

「...な、何をしたぁ!!??」

 

意味がわからないというように、ザンクは目の前のぼくに対して問いかけてくる。

 

「...少し夢を見てもらうだけだよ。」

 

「なんだとッ!」

 

「たのしんで...くださいね。」

 

そう言ってぼくもその暗闇の場から消える...。

 

「ど、どこ行きやがった!!」

 

ザンクは帝具を使って必死に探すが、見当たらない。

 

 

 

 

ゴゥンッ

 

 

 

 

更に周囲の風景が広がる

 

「ちっ、なんだよ...。」

 

ザンクはようやくこの謎の幻覚か...それとも異なる世界なのか、その場所から出れたことに安堵するが...

 

彼は出てなどいなかった

 

彼が次に立つ場所は、白い壁面に覆われた一本通路だった

 

上からは蛍光灯によって僅かに光が出ているのみの...

 

その先に扉があった

 

「...何かのギミックらしいな...。」

 

ザンクは冷静に何かを考えながら扉の方へと進む。

 

そして扉を開けようと近づくと...

 

ゴゥンッ

 

その一瞬で扉と自分との距離が飛躍的に伸びた

 

「...?なんだこりゃぁ...。」

 

ザンクはその後も、後も後も後も何回も扉へ近づこうとして走り、跳躍しながら扉へとグイグイと近寄ろうとするが、一向に距離が開いたままで何一つ進展がない

 

「はぁ...はぁ...はぁ...なんなんだよここはッ!!」

 

怒号を喚き散らし、ついに限界点に達したのか、この作られた精神世界の脱出を試みるが、壁を破壊しようとしても壊せず

 

後ろに戻ろうとするとまた同じように扉があり、無限へと通じる扉の距離が近づくごとに離れる現象に遭遇する...

 

「ハァッ...ハァッ...出せッッ!!早くッッ!!出してくれッッ!!

頼むぅぅぅうううあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ガァンッ

 

ドゴッガンッガンッ

 

ついに発狂し始めたのか、彼はがむしゃらに壁や天井を破壊しようと暴れ回る。

 

が、それは一切が叶えられることがなく、永遠と同じことの無限ループが続く

 

「出せえええええええ!!!!早く俺を出してくれえええええええ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、あの暗い世界から戻ったぼくは...

 

 

 

「...ルガ...ガ...ヘルガッ!!ヘルガッ!!」

 

「...ッ...はぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

スゥゥゥゥゥゥゥ...

 

と、息を吹き返した

 

「ゲホッ...ゲホッ...カハッ...!!」

 

吐血を吐きながら、ぼくはなんとかこの世に戻ってこれたようだった...。

 

ぼくに寄生するこの生命体とぼくの脳の融合によって作り出されたあの精神世界は、あらゆる者を幽閉する...永遠に

 

彼らは同じことしか出来ず餓死か自殺の二択しか取れなくなるだろう

 

死への恐怖こそが最大のダメージである...

 

そのかわり、ぼくの脳への負担もかなり高く、現にこうして意識不明の重体でぶっ倒れている

 

「よかったッ...ヘルガ...!!」

 

タツミがそう言ってぼくを抱き起す。

 

「...ザンクは...どうなったの...。」

 

「それが...。」

 

 

 

どうやら、ザンクはあのアカメを斬る直前から謎の言葉を発し、発狂して何もないはずの空中を剣でなぎ払っていたという。

 

アカメは彼の帝具能力の一つ、幻視から解放され...いや、解放される前から彼を斬る為に跳躍し、急接近した

 

そして未だなお気がおかしくなったザンクの首元を斬りきざみ、死へと至らせたという

 

「そう...なのか...。」

 

「あぁ...ところで驚いたよ、ヘルガがいきなり倒れるなんて...何があったんだ?」

 

「...。」

 

色々と聞いてくるタツミとぼくにアカメが振り返った。

 

そして、ぼくの方に目線を向け、

 

「...お前...何をした...。」

 

冷たく言い放つ

 

「...バレてたの?」

 

そう、未だ意識がはっきりしない脳を働かせて聞き返す。

 

「バレてたって...なんのことだよ、アカメ?」

 

タツミはよくわからないと言った風にアカメに問う。

 

「...ザンクがアカメに斬りつける直前に、奴の能力 幻視が打ち消された...。

奴の足元に忍び寄ったナニカによってな...お前の方向から来ていたあれは一体なんだ。答えろ。」

 

どう見ても不審がられている

 

「ッ、教えるかよ、このロリが...ッゔぉぇッ...!」

 

想像以上に使い慣れていなかったせいか、先ほどのザンクを精神世界にぶち込んだ影響で脳震盪が収まらない。

 

そして意識が遠のいていくうちに、周りの陰から静かに近寄ってきていた周囲に潜伏させていた親衛隊員に...

 

「...帰ってアリアの子守でもしてろ...ッ...。」

 

そう言い残して、ぼくはこの意識を手放した...。

 

あのザンクの精神世界での行動は、現実にも同じように反映される

 

壁を破壊するときは空中を破壊しようとし、扉に近づこうと跳躍するときはその場で足踏みをしていた...

 

彼は見ているものが異なる、肉体と視覚のズレが生じていたのだった...



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ナイトレイドとの接触

「...うぅ〜ん...。」

 

何やら誰かの声が聞こえる。

 

比較的若い、男性の声だ。

 

(...うなされてるのか...?)

 

生憎と自分はいままだ睡魔との闘争によって動けない。

 

我が瞼は一向に閉じたままである。

 

(...眠い...。)

 

眠気を振り払おうと意識を再び覚醒させる試みを行うが、その瞬間

 

ガバァッ!!

 

「はぁ...はぁッ...。

...イエヤス...サヨ...俺を一人にしないでくれ...。」

 

隣にいる少年らしき声が突如、悪い夢から起き出す。

 

(...一人に...か。だが誰かの声が聞こえてる時点で、我々はもう一人ではない。)

 

目覚ましがわりに彼の声を利用して、瞼をこじ開ける。

 

「...。」

 

見たことのない木製の天井。

 

更に硬い地面...。

 

(...ここはどこだろう。)

 

確か首切りザンクとの闘いにアカメが決着をつけ、ぼくは意識を失ったはず...

 

「...ん〜...むにゃむにゃ...。」

 

「...って、なんで俺のベッドに...っ。」

 

「...タツミは今日から私の部下なんです...むにゃむにゃ...。」

 

今の若い声の主...そうだ、タツミだ。

 

タツミが何やら異変を感じ取って呟く。

 

(...ベッドの上に何かいるのか...それに、タツミ以外の誰かの寝言も聞こえた気がする...。)

 

タツミがもう一人の...女の声の主の、部下?

 

(...タツミはどこか軍にでも所属していたのか...?)

 

ますます疑問が深まる...。

 

すると、

 

「...ん〜...?」

 

と、タツミのベッドの上に上半身だけ寝転がってるらしい女性が立ち上がり、こちらの方へと近寄ってくる。

 

そして...

 

「おはようございます...ふぁーぁ...。」

 

と、なぜかぼく、又はタツミでもなく、机の上の...木で作られた小さな彫刻...おそらくタツミの私物であろうものに向かって挨拶をした。

 

(...大丈夫か、この女...。)

 

内心そう思ったが、自分も、目線だけ動かすのもやめて、周囲にいる者が全員起床した事を確認してから自分も起き上がる。

 

「...おはよう、ございます。」

 

棒読みで彼らに朝の挨拶を済ませる...。

 

(...てかここほんとにどこッ!!)

 

内心はその疑問でいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから朝起きて、タツミと...もう一人の女性、自己紹介してくれた桃色の長髪の女性 シェーレには鍛錬があるようなので、食堂で状況をよく聞いてくれ、とのことだった。

 

ちなみに鍛錬の内容を聞いてみると、鎧泳ぎとかいう地獄の内容だった...。

 

「シェーレの奴の部下でほんとに大丈夫なのかぁ?」

 

「安心しろ、タツミはああみえても年上受けがいいんだ。」

 

「はいはいはい!!わたし次タツミを部下にするの予約済み〜ッ。」

 

「ほらな?」

 

「なんなんだよそれ!!ズリィィィィィ!!」

 

何やら朝早くから食堂ではガヤガヤと騒いでいるようだ。

 

スタッスタッスタッスタッ

 

テンポよくこの木造の通路を歩いて行き、食堂前まで来る

 

ギィィィィィ...

 

足元の床が軋む音で、皆が食堂入口側を見る。

 

「あ...お、おはようございます...。」

 

取り敢えずグッドモーニングを伝える。

 

数多くの視線がぼくに突き刺さる チクッチクッと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...なるほど、だいたいの状況はつかめました。」

 

昨晩の自分の状況と、あれからどうなったのかを早足で聞いていった。

 

あの後、気絶した僕をタツミが庇い、傷が癒えるまで自分の部屋で休ませると言ったそうだ。

 

あそこで寝かせてくれれば自然にいつも通りに帰れたのに...。

 

これでは屋敷の妹、アリアが心配する...いや、あいつの心配する顔も少しは見てみたいな。

 

まあ、アリアのことは親衛隊員がなんとかしてくれるだろう

 

彼らは指揮官不在でも最終時に下された命令に対する戦略的判断は怠らない

 

それだけの厚い信頼があるということだ。

 

それと、タツミがあのアリアご両親の邸宅におけるナイトレイド襲撃の時に、彼らの仲間に加わることになったそうだ。

 

(...なるほど、だから彼はあの時アカメとザンクの戦闘の場にいたのか。)

 

それで、先日は首切りザンクの暗殺依頼に赴いていたとのこと。

 

「自己紹介が遅れたな。私はナジェンダ。ここ、ナイトレイドのリーダーを務めている。」

 

「俺はラバック!!ところで君、男?女?どっちにも見えるからわかんないけど、もし女の子なら俺っちと付き合って...」

 

ガンッ

 

「グヒョォッ...!」

 

ヘロヘロ〜...ぺたん

 

「私はアカメだ...。」

 

「そしてそのお隣がレオーネお姉さんだよ〜、よろしくね坊や。」

 

さっきの緑色の奴は随分なアタッカーだけど、残念なことにぼくは男で、アカメに股間を強打されたのは無駄に終わったな...。

 

「ぼくは...ヘルガ。ヘルガ・シュタイナー大佐だ。」

 

「大佐?警備隊にでも入っているのか?」

 

ナジェンダがふと疑問に思って聞いてくる。

 

「そ、そうだよー、さっきから気になってたんだけどよ、そのご立派な軍服、どっかの特殊部隊...だったりして!?」

 

「ラバック...お前なぁ...。」

 

緑色のラバックが興味津々に聞いてくる。

 

「あー...その前にそれ、食べてもいい?」

 

話を遮って、目の前に並んでいる朝食であろう果物に手を出そうとする。

 

「あぁ、もちろんだ。腹一杯食べてくれ。」

 

「ありがと!」

 

ニコッとした破格の笑顔を送りつけると、

 

「くぁぁぁぁぁ!!朝から年下の男の子の笑顔を観れるとはッ!タツミ以上かもしれないな!!」

 

黄色い髪を持つ女の人、先ほど名乗っていたレオーネさんがそういう目でジターッとこちらを見てくる。

 

取り敢えずリンゴをつかんで、口に運ぶ。

 

シャキッ...シャキッ...

 

甘い果汁が口の中いっぱいに広がる。

 

ひとかみ、ふたかみと味を楽しんだところで、

 

「ふぅ...で、何の話だったっけ?」

 

漸く話に戻る。

 

「だから!その服装だよ!!どっかの兵隊さんかな!?」

 

芋虫色のラバックが再度聞く。

 

「ぁ、あぁ、これは...。」

 

一瞬戸惑う。親衛隊の正式軍服ですと、正直に言うか?まだ信用もできていない彼ら、ナイトレイドに...。

 

彼等は暗殺部隊...というより、懲罰部隊や粛清部隊といったほうが正しいだろう。

 

だが同時に彼等は帝国の破壊者、すなわち汚職者や犯罪者の一斉暗殺も行っている。

 

今の自分からすれば有益だ。

 

(...ここは本当のことを話しておくか、それにアカメの目もある。)

 

昨晩の戦闘で、自分のザンクへの攻撃が見破られており、只者ではないことは知れ渡っているはずだ。

 

「...親衛隊員だよ。耳にはしたことあるでしょ?」

 

「あ、あぁ、最近帝都の主要な経済区域担当官、オルトア・アリア貴族嬢の護衛でもあり、帝都の治安維持も行なっているという...。

 

って、貴様親衛隊員か!?」

 

ズザザッ

 

一気にぼくから距離を離して周りの者たちが戦闘態勢に入る。

 

「ち、ちょっと待て待て待て!! 今ここでやり合う気か!?」

 

焦りながら待ったをかける。

 

「最近になって勢力を拡大してる親衛隊を危険視するのはわかる...それにアリアにバックについてるのは例の大臣...わかる、わかるよ!」

 

「そこまで知っているならば今更待つ必要はなし!!」

 

「葬るッ...!」

 

即決でぼくを斬ろうとアカメがどこから持ってきたのか彼女の刀で切り裂こうとしてくる。

 

「ぼくらが敵となる理由はないはずだ!それに君達とはイデオロギーの相違点しかない...頼むから冷静になってくれ...。」

 

殺気に満ち溢れた場所へと変貌したが、何とか取り付き直す。

 

「...わかった。だが変な気は起こすなよ?」

 

ナジェンダが承認して、周りの者たちもそれぞれの武装をしまう。

 

「...にしても、まさか親衛隊員だったとはねぇ...タツミの知り合いだっていうから連れてきたってのに。」

 

「あぁ悪かったな!親衛隊で!!」

 

若干声を荒げながらムキになる。

 

「まぁそう怒るなってぼくぅ〜。」

 

「...喧嘩売ってんの?」

 

ぐぬぬぬぬぬ...

 

...いや、これではラチがあかない

 

「ま、まぁまずは状況整理だな...。ぼくには君達を殺害する理由もないし、害を加えるつもりもないよ...。」

 

「...でも私らの本拠地、バレちまったよな?」

 

「それは...そんくらい信用しやがれってんだ黄色野郎!」

 

「黄色野郎とはなんだ黄色野郎とは!

見た目のかわいさの割に口は悪い悪ガキにはお仕置きが必要だなぁ!」

 

黄色い奴...レオーネと熱くなるが

 

「二人ともやめろ。今はそんなことを言ってる場合ではない...それで?

ヘルガ大佐、私達に危害を加えるつもりはないといったな?」

 

こくんっ

 

ぼくは素直にうなづく。

 

「だいたい、ぼくらが狙ってた経済区域の担当官も1人そっちが暗殺してたし...ありがたいぐらいの存在だよ。」

 

「そうか...そう言ってもらえると嬉しい限りだ。」

 

「...。」

 

隣からアカメがじっとこっちを見つめてくる。

 

(...昨日のことまだ気になってるのか...?)

 

内心で呟くが、彼女には伝わらない。

 

「ともあれ、昨日のザンク討伐の時、タツミを助けてくれてありがとう。それについては感謝している。」

 

「ん...まぁ、彼は知り合いみたいなものですし。」

 

本当はあの時、ナイトレイドの襲撃から彼を守らなかった事を少し後悔していただけなのだが。

 

「...そうか...。では友好関係を築けそうだな...とはいかないんだね、これが。」

 

ナジェンダが何か意味ありげな感じで言ってくる。

 

「それって...アリアのことだよね?」

 

「そうだよ!!あの時、うちらがあの外道の両親を殺害し終えた時にはもうどこにもいなかったんだから...。

 

そしてタツミに聞き出したところ、あの夜いるはずの一緒にいたヘルガ...あんたとそのアリアだけが跡形もなく消えていた...と。

 

おっかしいなぁ、うちら結界を張ってたのに。」

 

「...どうやって逃げたか、それについては聞かないで欲しいけど、彼女は今こちらで精を出して働いてるよ。」

 

ナジェンダや隣にいるアカメが苦虫を噛み潰したようかのような顔でぼくを見据える。

 

「ッ...そいつは拷問に関与しただけでなく、あまつさえオネスト大臣の派閥に付いているんだぞ!それにその護衛のお前達親衛隊も同罪だ...ッ。」

 

レオーネが本音をぶつけてくる。

 

「...アリアは拷問に直接関与はしていない。彼女の両親が主犯格だ。」

 

ダンッ!!

 

アカメがそばの机を拳で強打する。

 

「ッだとしても、彼女は見殺しにした。

それもまた然り...。」

 

「...もちろん、拷問器具の手入れや拷問の黙認は彼女が破壊への手助けをした何よりもの罪だ。

...だが彼女はまだ若い、それにその容姿は我がアーリア民族のと瓜二つだ。」

 

「ふんっ...民族主義者か...。」

 

レオーネがまたも引っかかってくる。

 

「何が悪い、コミュニスト...。」

 

「ッなんだと!!」

 

「レオーネ!...やめるんだ。」

 

ナジェンダがその場を収める。

 

「...だがレオーネが言うことにも一理ある。それに先ほども述べたように彼女はオネスト派閥に属している...いずれ死なねばならない。」

 

「...いや、死にはしないさ。見限りをつけてぼくが親衛隊をオネストや警備隊、

そしてナイトレイドとも違う、第三の武装部隊として勢力を拡大させる。

 

そしてアリアはぼくの指揮下だ。彼女もオネストの情報網から彼の寝言をくすねる。

そして彼女のその働きこそが、彼女の罪を滅ぼす。」

 

そのぼくの計画に皆は押し黙る。

 

「...なるほど...なら、しばらくは相互利益の為に協力関係ってところだな?」

 

「...友好的中立の辺りで勘弁してくださいよ。

この帝国、ライヒは誰にもあげませんよ?

 

現皇帝の明確な意志と共に統治されるべきだと考えているから...ね。」

 

「ふむ...。」

 

皆深刻そうな顔をして考えるが、ここで止まっていては何もできない

 

「ま!その話は置いといて、対オネスト陣営として、しばらくはよくやっていきましょうよ。」

 

話を切り出すと、

 

「ぁ、ああ、まぁ確かにそうだな。乗った、では時が来るまで...。」

 

「うん...では当面の目標は決まったことだし...帰ってもいいかな?」

 

「なんだ、そんなに急ぐ必要はないじゃないか。」

 

「ナジェンダ...こいつは私達の場所を知った。帰らせないぞ...!」

 

アカメが血走った目でぼくを見る。

 

「そう早まるな、アカメ。彼もオネストにとって有利になるようなことは自分の不利...それは重々承知だろう。そうだろう?ヘルガ大佐殿。」

 

「うん...。」

 

「返事が小さい返事が!!」

 

レオーネがまたケチをつけてくる

 

面倒になったので、

 

『...Hasch...。』

 

静かに呟き、自らの体をこの空間と同化させ、黒い霧が自分が座っていた食堂の席に残される

 

「ッ!?」

 

アカメが一瞬驚くが、つかの間にぼくはレオーネの背後に回り、

 

「はぁぁぁぁぁぁい!!!!」

 

めい一杯の大声で彼女の耳元に返事をした。

 

「うぎゃぁぁぁぁぁ!!うるさいっての!!」

 

彼女は飛びのいてぼくから耳を遠ざける。

 

「返事がちっちゃいんでしょ!」

 

「うぬぬ...。」

 

「はぁ...。」

 

アカメが警戒したのが馬鹿らしいとばかりに、奥の厨房らしきところに戻っていった。

 

「さぁて、じゃひとしきり用も終わったようだし... 」

 

モミモミ...

 

「...ん?」

 

何か脇の間から胸にかけて違和感がある

 

そして胸がなんだかくすぐったいような...

 

「おおぉ...ほんとうにまな板だ...こいつ男だ!!」

 

「...この変態がぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ガンッガンッ!!

 

彼、芋虫ラバックとでも名付けるか、そいつの股間に二撃ほど痛い蹴りを入れてやった。

 

「きゃぃぃん!俺の大切なところがぁ...っ。」

 

「男同士で胸を触るバカがいるか!!」

 

かれこれ乱れた服装を整える。

 

「ははは...彼は幼女のような童顔の君でも手を出すらしいな。」

 

ナジェンダが冷静に分析する。

 

「...ちなみにゲイではないらしい。」

 

「ゲイじゃねぇよ!!」

 

ラバックが緊急復活して反抗するのであった...。

 

 



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