きさらぎゲートウェイ (スタプレ)
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きさらぎゲートウェイ

結構前に書いてストックした小説です。

このサイトでオリジナルは初めてですね。本編どうぞ〜


1

 

思い当たる記憶を全て辿った。

とある無人駅から電車で乗って2駅。そこから廃線跡の横を走るバスの終点まで帰る予定だったはず。見た目から見て学校の帰りだったのかな?

電車が発車して暫くしたら眠気が何故か急に来て、目を閉じた数秒で乗ってた電車や空いてたはずの車内の状況まで変わった。

窓は山の中なのか、地下なのか分からないトンネルが永遠に続く。

気が付けばラッシュと言えるこの状況で電車はなんの案内もなく終点らしき駅に着いた。

「この電車、首都圏に走ってた地下鉄?」

鉄道知識のある俺は乗ってた電車がどこの会社なのかもある程度分かる。もちろんこんなのに乗った記憶も無いし、そもそもこれは引退したはず。

 

「ここは...どこ?」

質問を無視するように、他の乗客は当たり前のように階段を上がる。

新しく見える駅の看板には『きさらぎゲートウェイ』と書かれている。

 

「きさらぎゲートウェイってどこ?」

分からない。

 

「なんでここにいるの?」

 

分からない。

 

「とりあえず戻ろう。」

 

ない。

 

「何が?」

 

電車がない。

 

「全部当駅止まり?」

 

嘘でしょ!?

 

最悪なことに携帯電話は忘れてしまったようだ。

 

(先に改札行ってみようか)

 

 

 

 

2

 

 

 

 

きさらぎゲートウェイのコンコースは広かった。この駅は何本かの線が走っているが、どれも当駅止まりの列車ばっかり。見た事ある列車が多いけど、どれも引退したやつや廃車された列車ばかり。

改札機は一台も無く、何かの窓口や、お土産売り場や道具売り場。大きくて曇った窓ガラスがあり、ここはバスターミナルもあるそうだ。

 

そもそもここが何県の何市にあるのかも分からないし、どうやって帰ればいいのかもわからない。

 

何故か新車試乗スペースもこの駅にある。その受け付けをやってる外国人男性に聞いてみた。

 

「すみません。ここってどこにありますか?」

 

「きさらぎゲートウェイはきさらぎゲートウェイにありますよ。他に説明のしようが出来ません。」

 

まぁ当たり前の返しだな

 

「お客様、名前を伺ってもよろしいですか?」

 

失礼な。自分の名前を名乗れないやつがいるか。

 

「俺は.........。あれ?」

 

開いた口からは名前が出て来なかった。

一番覚えているはずの単語。絶対忘れないはずの単語。なのになぜ?

 

「お客様、お忘れになられたようですね。」

 

流ちょうな日本語が余計焦らせてくる。

 

「実は、先程も似たお客様が見えて、あなたが3人目です。」

 

「記憶喪失の人が他に?」

 

「はい。そのお二人にお会いしてみてはいかがでしょうか?」

 

「いるんですか?ここに...」

 

まだ会話の理解が追いついていない。

 

「ええ、基本お客様みたいな状態になられた方はこの駅から出られません。」

 

「どんな人ですか!」

 

「さぁ、結構な人数を相手にしてますから覚えていません。しかし、あなたみたいなお客様は中々見ません。駅を観察すれば、どのような方か分かると思います。」

 

無茶ぶりにも程があるだろ。

 

「その人に会えば何か分かるの!?」

 

「空いた記憶が埋まるかもしれません。」

 

「ねぇ、なんで俺はここにさまよっているんだよ!」

 

「申し訳ないですが、これ以上はとある理由で教えることが出来ません。」

 

「そんな...」

 

「しかし答えられる範囲もあります。とにかく1回探索してみてはいかがでしょうか?時間が経てば過去を思い出すことが出来るかもしれません」

 

過去を...思い出す?

 

「また分からないことがあったらいつでも聞いて下さい。」

 

 

3

 

行けるところを歩いたが、普通の場所ではない事が分かった。

バス乗り場は外にあるのだが、それがかなりの雨で傘無しでは歩けない。電車とバスはどうやら24時間動いているようだ。

利用者はというと老若男女という言葉で納得させることが出来る風景だ。少し老人が多い。スキーの服装をしている人もおれば、水着姿の人もおるけど。

バスの行先表だと言われている窓ガラスも俺だけ曇ってて見えないらしい。

どんな場所かは把握出来たものの、手掛かりはゼロ。帰る方法どころか名前すら分からない。

 

「記憶も無人駅でみんなに送ってもらったことぐらいしか...」

 

.........あれ?

 

なんで帰るだけなのにみんなに送られたの?そのみんなには家族がいたような...

 

「あれ?タットか?タットじゃないか?」

窓ガラスに手を着いて考えてたら声が聞こえた。タットは誰かは分からない。でも自分に声を掛けられているのは感じたので振り向いてみた。

振り向くと私服姿の青年が、軽く敬礼をして、「お前もここにいたのか」と言って笑っている。

 

「ジタロウ?ジタロウだ!どうしてここにいるの?」

 

間違いない。こいつは親友ジタロウだ。何故友人の名前はすぐ思い出したのだろうか。

 

「タット、ここはどこだ?俺は早く帰って寝たいんだ。」

 

どうやら俺の名前はタットという名前らしい。

 

「分からねえ。自分の名前を忘れるぐらいの記憶喪失に陥っていたから、ここがどこかもわからない。」

 

「俺もタットの後ろ姿を見て『あ、タットがいる』て思って近づいたんだ。正直俺も名前なんて忘れていたんだ。」

 

これ以上聞かなくてもジタロウは俺と同じ状況ってことが分かった。

 

(よし!仲間が出来ただけでも前進したぞ!あの人のところに会いに行こう!)

 

 

 

 

4

 

 

 

 

「すみません、今いいですか?」

 

「おや、さっきのお客様ではないですか?.........新しいお仲間を見つけられたのですね。」

 

「え?新しい仲間?」

 

「おいタット、この人誰だ?」

 

「.........嘘でしょ?」

 

「これで4人目ですね。」

 

「.....................い、一歩も前進してなかった。ジタロウに会えてもまだゼロだったんだ。アハハハハハハ」

 

「おいタット、大丈夫か?」

 

「お客様、ご心配ならず。私が申した方は先程みられました。どうやら私の方で何か進展がなかったか聞かれました。」

 

「その人は今どこに...」

 

「多分喫茶に行かれたと思います。あなた達のことを探しに行ったようですよ。」

 

「ありがとう!よし、行くぞ!」

 

「待ってよ、てかあの人は本当に誰〜」

 

5

 

 

 

「あのマイケルはこの喫茶に居ると言ってたなぁ。」

 

「あの人マイケルっていう名前だっけ?」

そういえば名前を聞くのを忘れた。

 

「いや、リスニングテストで半分の確率でマイケル出てくるだろ?だからマイケル(仮)でいいよ。」

 

多分絶対マイケルではない。

今俺達は喫茶で適当にだべっている。手掛かりなくてもお互い話し合うだけでも何か思い出すかもしれない。

 

「そういえばタットはどうやって来たんだ?」

 

「銀色で緑の線の電車に乗ってきた。」

 

「あ、俺と違う電車だ。」

 

「え、違うの?」

 

「地元の電車だと思うけど何か古臭い電車だったなぁ。最初中央駅から乗って家の近くに行くつもりだったのがここに着いたってわけ」

 

「全然違うルートだな。」

 

「そういえばなんで1区間なのに電車に乗ったんだ?」

 

中央駅から最寄り駅までは自転車でも行ける距離だ。

 

「お前のことだから、らくにしたいと思って電車に乗ったんじゃね?」

「いやいや、俺どんな風に見られてるの?

それに何故か大勢の人に見送られた。」

 

場所は違うが、起きたことは全く一緒。この2人は何か大切なことを忘れているような。何かを終えたことに...

 

何か不自然な点があればと言うと、このきさらぎゲートウェイはおじいちゃんおばあちゃんがほとんど。

相変わらず曇って何も見えない窓を見ながら話をしている。マイケル(仮)も忙しそう。

喫茶も同じ。ただ、隣の席には双子っぽい女子高生2人が話している。若者が少ないから普通の高校生も特別に見える。

 

遂に話すことが無くなった2人は黙ってコーヒーをすするしかなかった。沈黙すれば周りの会話はよく聞ける。

 

...にしてもブラック苦っ

ミルク入れよ

 

「それにしてもどこにいるのかなぁ?」

 

「あの人来てましたよと言ったくせにいないじゃん!嘘でもついたんじゃ...」

 

「分からない。記憶を失った青年達を探さなきゃ。」

 

驚いて首が90°曲がった。コーヒー行きのミルクは予定を変更してお冷行きになった。

 

「あー!間違えて砂糖を水の中に入れちまった!これじゃ三〇サイダーの炭酸抜けた奴だー!」

 

お前もかよ!てか余計なこと言うなよ。

大声を出したジタロウに驚いて女子2人も90°首を曲げた。

 

「あれ?若い男の子がいる〜」

 

どうやら俺達の存在に気づかなかったようだ。

 

「もしかして君たち記憶のない子?」

 

「そうだよ〜私達もなんでここに来たか分からないんだ。」

 

これが俺たち4人の大きな一歩だった。喫茶を出てマイケル(仮)の所に行こうとした。

 

「あ、お金持ってない...」

 

「ここのコーヒー無料だよぉ。」

 

定期的にここ行こ。

 

 

6

 

 

彼女たちはやっぱり双子だった。ストレートで赤いピンをしているのがアイ。ポニーテールで青いゴムで髪を結んでいるのがマイ。2人も同じ経緯でここに来てしまったらしい。

自分の名前を口出すより先に相手が呼んだので、名前を忘れたのかは分からなかったらしい。

 

「おーいマイクゥ〜見つけたよぉー」

 

アイが緩い感じでマイケル(仮)に話し掛けた。

 

「マイクかぁ〜なんか悔しい...」

 

惜しかったよ。スゲー惜しかったよジタロウ!でもそこは悔しがる場面じゃないんだよなぁ。

 

「全員揃ったところ申し訳ありません。私にどんなにせがまれようが、お金を渡そうが、お客様の記憶を思い出すヒントは言えません。」

 

「なんて言えないのぉー」

 

マイが不満そうに言う。

 

「ここは地獄でもありません。つまらないところでもありません。しかし、長い時間いれば飽きてくるのは誰でもあります。」

 

「何が言いたい?」

 

「きさらぎゲートウェイから永遠に出ることが出来ません。ここはとある中継地点です。何故ここにいるかは大体の方は分かります。しかし稀に忘れてしまったお客様も見えます。」

 

他にも来たんだ。記憶のない人。

 

「私には見えませんが、その人たちにしか見えない手掛かりが駅に落ちているそうですよ。」

 

「フリーゲームみたいなダンジョンだな...」

 

「あと他のお客様の会話を間接的に聞いて思い出すのもありみたいですよ。ぜひ駅のあちこちにまわって手掛かりを見つけて下さい。全ての記憶が思い出せば、この駅から出れますよ。」

 

あと何年この駅にいることになるのか?4人はその答えを知ることは出来ないだろう。

 

「お客様、ご対面されて何か気づいたことはありませんか?」

 

マイクが言う。何故か初対面の感じはなかった。久しぶりに会ったような気が...

 

 

 

7

 

 

「おーい、何か新聞が落ちてるぞー!」

 

ジタロウが新聞を広いあげた。係員らしき人も拾おうとしないので、恐らく自分達にしか見えない物なのだろう。

アイマイ姉妹は別のところを探索している。

 

『丸々海岸で4人の遺体。自殺か?』と書かれた見出しがあった。

 

「全く!自殺なんてけしからん!」

 

「おめー何様で怒ってるんだ?」

 

「そりゃ自殺で迷惑掛けるのが許せないから」

 

「気持ちはわかるけどさ、死ぬまで追い詰められた人の気持ちも分かってやれよ。」

 

記事には女子2人男子2人と書いてある。

そういえば海、最近行った気がする。ジタロウと釣りをしたのかな?その後は...何したっけ?

 

 

 

 

 

喫茶に入ってみたら、アイマイ姉妹と女性の方が向かいあって話をしていた。誰だろう?

 

「どう?手掛かりは見つかった?」

 

「手掛かりか分からないけど、この方となら話をしてるよぉ。」

 

「この方はハスミさん!きさらぎゲートウェイの駅長さんなの〜」

 

「はじめまして。あなた達も記憶を忘れてしまったようね。」

 

凄く丁寧な女性だ。

 

「えぇ、今探索中です。」

 

「残念ながら、駅長の私でもヒントを言ってはいけないの。それは昔から決まったことだわ。」

 

「え?昔から?」

 

どう見ても20代にしか見えない。

 

「ハスミさんは今何歳なんですか?」

 

「永遠の18歳!」

あ、そういうタイプの女性なんですね承知しましたー

 

「あ!何その残念な方だな〜という感じで見る目は!」

 

「いえいえ、お若い方だな〜って。」

 

「ハスミさんはいつからここにおるの?」

 

ジタロウが聞く。

 

「さぁどれぐらいだろう?最初はこの駅はなんにもなかったのよ。」

 

「え、何にも?」

「昔はホームも1番線しかなかった。気づいたらゲートウェイという名が付くほどの駅になったわね〜」

 

言い方からみると最初にきさらぎゲートウェイに来たのはハスミさんで間違い無さそうだ。

 

「タット。きさらぎってどういう漢字で書くのか知ってる?単純に『如月』かなぁ。」

 

「いいんじゃないひらがなで。」

 

この時ひらがなという重要なことに気づくことは今はなかった。

 

 

8

 

 

「またなんか落ちてる。今度は日記と紙片だ。」

 

なんでこんな物が落ちてるか考えたくもない。

ちなみに何か落ちていたら、5分ぐらい待って、誰も拾おうとしたり、見ようともしなければ自分達にしか見えない物だという判断をして回収する。

 

「おいこれタットの日記じゃん。」

 

「なんでこんなところにあるんですかねぇ。」

 

日記を開くとある日にちで途切れている。それは今日なのかは知らない。

 

『明日は次太郎と釣りの予定だ。場所は丸々海岸。釣った魚はその場で捌いて刺身で食べよう。フグだけは勘弁してくれよ。』

 

書いた日にちはこの前拾った新聞の記事の日付けと1個前だ。つまり自殺事件があった日と釣りに行った日は同じ。こんな騒ぎがあった記憶がない。そういえばあの時は雨上がりの日だったな〜。

 

「自分の日記に浸るならこっちの紙片を見てくれ〜」

 

ジタロウが呼んでいる。紙片の内容は、

『気のせいかも知れませんがよろしいですか?』という文で始まった掲示板のコピーだった。

続きは一切書いてない。これもどこかで見たことがある。

思い出せない以上、今の紙片は観察する必要がない。釣りのことを聞いてみようか。

 

「なぁジタロウ。俺ら釣り行ったよなぁ。」

 

「そういえば行ったな。成果はタットだけだったじゃん。」

 

「俺何釣った?」

 

「普通のフグを釣っただろ?捌けないから家で飼うって言ってたやん。」

 

「その後覚えてる?」

 

「その後は...可愛い女の子2人に話し掛けられて一緒に遊んだっけ?その次は忘れた。」

 

女の子2人ねぇ...

 

『アイちゃんとマミちゃんは魚好きなの?』

 

『好きだよぉ。このフグさん可愛ぃ。』

 

『これ食べるの〜?』

 

『免許持ってないから家で飼うつもり。』

 

『ねぇタットくん、ジタロウくん。あっちに眺めのいい崖があるから行こうよぉ。』

 

『お、いいね。行こうよ!』

 

『じゃあそこまでダッシュだよ〜』

 

初対面だけどすぐ友達になった仲の良い双子アイとマイ。

いくつものスポットライトに当たったように、記憶が蘇る。

アイとマイに会っている!

気付けば彼女たちのところに行こうと走り出していた。

 

『ワシはサイゴに孫の顔が見れてよかった』

 

『田中さんはええなぁ、あのバカ息子は結婚すらしなかったから...』

老人の会話が微かに聞こえた。

なんとなく察してたことが確信に変わった。もう聞かなくても分かるだろ。ここがどういう世界か。

 

 

 

 

9

 

 

 

 

『この前俺たち(私たち)会っているよね!』

 

再会してすぐに4人はお互いの顔を見ながら叫んだ。

 

「私達あの時会っていたんだね〜」

 

「丸々海岸で遊んだことをすっかり忘れていたよ。」

 

「私達も何か紙を拾ったよぉ。」

 

紙の内容はとある雑誌の記事だった。都市伝説の特集のようだ。

 

『きさらぎ駅

ハスミさんは死後の世界に迷ってしまったのでは?日常生活で使っているものでも、霊道を通れば霊界に行くこともあるらしい。またはハスミさんは既に死去しており、何らかなの力でネットを使っていた説も有力と言える。』

 

「ハスミさんってまさか駅長の...」

 

「きさらぎゲートウェイ...いや、きさらぎ駅に最初に来たのはハスミさん。そして、彼女はもう。」

 

「死んでしまったということか...」

 

ネットで聞き覚えあると思ったら、きさらぎ駅の話に出てきたんだ。鉄道系の都市伝説は珍しい。だから色んなサイトをまわってはきさらぎ駅の事を調べていた。

 

「私のことバレてしまったようですね。」

 

丁寧な声が聞こえた。ハスミさんだ。

 

「私は死んでしまったことに気づかず、この駅に来てしまった。もちろん掲示板のように記憶はなかったわ。」

 

「でもハスミさんは思い出したよぉ。なんでこの駅にずっといるのぉ?」

 

「しばらくしたら、私の友人が来たのよ。私の後を追いかけてね。詳しくは言いたくないけど、彼女が私の死因を教えてくれたの。ここの駅のルール覚えてる?」

 

「確か、他の人から何故ここにいるかは聞いたらこの駅から出られない...だからハスミさんは...」

 

「そう、このルールは私が考えたわけでもなく、元からあったもの。だから私は何も知らず死因を知ってしまい、気づいた時はもう出られなくなった。そして友人は異世界に旅立ってしまったわ。」

 

ハスミさんは遠くを見たまま語る。瞳には涙は無いものの、寂しそうな目をしていた。

 

「日本の霊がきさらぎ駅だけに集中するようになった頃。もっと綺麗な駅にしたい。その願いからきさらぎ駅は秘境駅ではなくターミナル駅になり、それをきっかけにきさらぎゲートウェイという名前がついて今に至るわ。」

 

答え合わせは終わった。ここは死者の魂が集う場所だということ。そして俺達は何らかの原因で地球でいうこの世を去ってしまったこと。

 

パズルのあと1ピースが空から降ってきた。

 

新聞の記事だった。2枚ある。

 

『丸々海岸の崖が崩れる

絶景スポットで有名な丸々海岸の崖の一部が崩れたことが先日地元観光協会の調べでわかった。専門家によると、長年の風化が原因ではないかということ。警察はさらに崩れる可能性があるとみて立ち入りの禁止を呼び掛けている。』

 

もう1枚の記事はもう読む必要は無さそうだが読んでおこう。

 

『高校生らは転落死した模様

先月丸々海岸付近で発見された遺体の死因が判明した。解剖の結果、頭を強く打ったことが原因で、転落した場所は崩れた場所とほぼ一緒だということも警察の調査で明らかとなった。警察は4人の高校生が崖の上にいた時に転落してしまったということで、自殺ではないことが発表された。』

 

霧が晴れた。

あの時4人で走っていた。双子2人が先に行って、その後をジタロウと一緒に追っていた。彼女達が崖の先端に着いたのと同時に姿は見えなくなった。

(海に落ちた!)

泳ぎに自信のある2人がすぐ助けようと海に飛び込んだ。しかし目の先にあったのは水ではない。岩だった。

 

 

 

 

10

 

 

 

 

 

「ここは?」

 

私はいつも通り会社から帰るところだった。

 

県内で唯一の都心から小さな私鉄に乗って10数分。小さい割には本数が多いので、便利と言えば便利だった。

 

この日は残業で長居してて、電車もあと何本で終わりという遅さだったと思う。

 

そして気がつけば山の中を走っていた。毎日通っているから異変にはすぐに気づく。

「これは...降りた方がいいわね。」

 

降りた駅は『きさらぎ駅』。辺りは山ばかりで秘境駅とも言える様子だった。

 

連絡手段でもあったネットの掲示板を利用するものの、充電切れ。私はこの駅に取り残されてしまったようだ。

 

 

 

 

 

11

 

 

 

 

今まで通過していた電車はいつしか終点駅となり、列車の本数が多くなった。

 

降りる客のほとんどが老人。ここは死後の世界だと悟ったのは言うまでもない。

 

降りる客が向かうのは各方面へ向かうバス。ちなみに私が乗ろうとしても、全て断られてしまう。

 

「なんで乗せてくれないんですか!?」

 

「お客さんがなんで死んだのか。自分でも分からないでしょ?事実を知らない霊を各世界に行かすのはダメなんだ。」

 

「そんな...」

 

そしてそのまたいつか...

 

「おやハスミ?まだここにいるのかい。」

 

「あんたは...ハナミ!」

 

目の前にいる女性はハナミ。会社の同僚だ。

何故かは知らないが、この人には怒りの感情がある。

 

「ハッ!お前を含めたやつを殺せて清々したわ。」

 

そうか...思い出したよ。駅についたの同時にこいつに殺されたんだ。

 

「一度は逮捕された身だけど、脱獄した甲斐があったよ。あんたを殺めた後、死刑になって首を絞められたけど後悔はしてない。」

 

「畜生が...」

 

仲のいい同僚がこいつに殺された時、私はこいつに憎悪を抱いたんだ。

しかし既に逮捕されていたため、この怒りをぶつけることは出来なかった。

 

「じゃあ地獄に行くので。これでさようならだね〜」

 

「おい、待てよ!」

 

「待ちたいのは山々だけど、閻魔さまに逆らうのはまずいからね。じゃあね〜」

 

「...チッ。クズ人間が...!」

 

その後原因も分かったことからバスに乗ろうとしたものの、また乗車拒否されてしまった。

この時は知らなかったのだが、他人に死因を教えてもらうのが違法行為で、二度とこの駅から出られないことが分かった。

 

霊界で、日本で亡くなった死者の魂が全てここに集まると決まった時。

私が自動的に駅長になり、きさらぎ駅はきさらぎゲートウェイと変名されるほど大規模な駅に変わる。

なぜこの駅になったのか。それはちょうど日本の真ん中に位置するらしいからだって。

 

 

 

 

 

 

12

 

 

 

 

 

 

葬儀場の様子は今でもぼんやりと思い出す程度だ。自分が乗ったのは電車だが、笑顔のないお見送りの人達は霊柩車でいってしまう自分を見たのだろう。

 

記憶は全て揃った。でもなんか胸が苦しい。何か大事なものを忘れている。

 

「遂に記憶を思い出されたようですね。」

 

ハスミさんの声ではっと我に帰る。

 

「亡くなられた方の後は自由です。天国に行く人もおれば、この世のどこかに幽霊として滞在する人もいます。この駅からはバスに乗って下さい。発車標はあの窓ガラスで確認して下さいね。」

 

「ハスミさん。ありがとうございました!」

 

「楽しい生活。送って下さいね。」

 

(またお客様が行ってしまう。でも私は寂しくない。この仕事にやりがいを感じるから!)

綺麗で丁寧な声が心に聞こえた気がした。

 

 

 

 

13

 

 

 

まだ心のモヤモヤは取れない。何か忘れったっけ?

 

「なぁどこ行く?」

 

「4人だけの場所がいいな〜」

 

相変わらず3人は楽しく話している。まるで旅行の行き先を考えている友人みたいだ。

 

そしてハッキリ見えるはずの窓ガラスに到着した。

 

 

...............あれ?

 

「俺たちだけなら無人島?」

 

なんで?

 

「どれが無人島か分からないよぉ。」

 

なんで?

 

「シノク島はどう?あそこ無人島だぞ。」

 

俺だけ見えない...

 

「いいねそこ〜タットくんは〜?」

 

全て思い出したはずなのに...

 

「タットォ?」

 

何を思い出していないの?

 

「タット!お前大丈夫か?」

 

「俺タットだ!大丈夫じゃない。」

 

地味に独りの世界に行っていました。

3人の心配そうに見る顔をさらに悪化させた。

 

「まだ窓ガラスが曇ってみえる。」

 

 

色々話した結果、やっぱり俺の記憶が完全に復活してない説が一番有効だった。

 

「どうしようか?とりあえずタットが完全に記憶を取り戻すまで待つか...」

 

「それは出来ません。」

 

突然別の声が聞こえた。マイクやハスミさんの声じゃない。振り向くと明らかに年下だと分かる女子が立っていた。制服らしきものを着ている。この人も駅員さんなのか?

 

「基本きさらぎゲートウェイは滞在時間が大まかに決まっています。しかしお客様は滞在時間を大幅に越してしまったため、なるべく早くこの駅を出発しなければなりません。」

 

まだ別のルールがあったか...

 

「ど、どうしよう〜」

答えは決まっている

 

「先に行ってよ。後から追いかけるからさ。」

「いいのか?」

 

「そうするしかない。行ってらっしゃい!ジタロウ、アイ、マイ。」

 

こうしてバスを見送って、最後のピースを1人で探した。

 

 

14

 

 

 

人の波は途絶えない。迷ったらマイク!

マイクは忙しいのか暇なのか分からない様子で働いている。

 

「タット様、ちょうどいい所に来ました。」

 

「ちょうどいい所?」

 

「あなた宛に手紙が届いています。」

 

「マイクって郵便屋さんなの?」

 

「郵便を承る仕事もしているだけですよ。」

 

そもそも郵便なんてあるんだ。

 

「手紙の内容で、全てを思い出すはずですよ。」

 

マイクの言葉で急いで封を切る。

 

手紙は『達人へ』と書かれている。母の字だ。

 

『あなたはこれからやりたいことがある。それを実現するためにあなたは生きていました。なのに何故自分から旅立ってしまったのでしょうか?きっと辛かったことだろう。私達に心配掛けるのが嫌だったのでしょう。あなたのいない人生はこの先明るくありません。でも、あなたを追ったら色んな方からお叱りを受けると思います。なので私も可能な限り生きます。あなたもあちらの世界で楽しんで下さい。生まれてきてくれてありがとう。   母より』

 

 

 

15

 

 

 

 

 

俺は誤解されたままの状況が嫌いな性格だった。崖の下の遺体。素人が見ても集団自殺と思うのは普通のこと。だから事件を報道するマスコミでさえ自殺と報道するわけだから、その根拠がなくても世間はその報道を鵜呑みにする。

 

 

葬式も皆んなの誤解は解けないまま終わってしまった。親戚は自殺の原因探しでヒソヒソ。中学の友達は相談してくれなかったことを悔やんでいた。高校のクラスメイトは自殺の情報を聞いて驚きを隠せていなかった。

 

(違う!自殺じゃない!あれは事故だよ!)

 

泣きながら訴えても棺の中のハードウェアはもちろん喋らない。

このモヤモヤは誤解を解けなかったことの悔みなんだ。今は涙を流さない。あの時に枯れてしまったのだろう。

 

16

 

 

 

手紙を丁寧にポケットにしまってある事をマイクに聞いた。

 

「マイク、母さんに手紙を送りたいけど無理かな?」

 

マイクは少し難しい顔で、

「手紙は無理ですねぇ」と答えた。

でも、と言ってマイクは続ける。

 

「メッセージなら送ることも出来ます。」

 

「メッセージ?」

 

「送り先の方が寝ている間に送ります。つまり夢ですね。この紙に送りたいメッセージを書けば伝えたいことが伝わります。」

 

このメッセージを書けば誤解を解けるかもしれない。書いて損はないな。

 

メッセージを書きながらもう1つマイク聞いてみた。

 

「マイクはなんでここにいるの?ハスミさんと同じで記憶を思い出すアドバイスを貰ってしまったから?」

 

マイクは首を振る。

 

「私は日本で自ら人生を終わらせました。自害はあの世では罪に入ります。」

 

聞いた事あるな。

 

「他人を殺したら殺人。その標的が自分だから当然ですよね?でも辛い思いをして逃げたい。そんな人達も地獄へ放り込むことも違う。なので、こういう駅で一定期間働くことで、私達は罪を償っているのです。」

 

少し前に年下の女子に会った。あの子も自殺したのかなぁ...

 

メッセージを書き終わったことはマイクとのお別れのサインだ。

 

「このメッセージは私が責任を持ってお届けしますね。」

 

「マイク、今までありがとう!」

 

「お気を付けて。第二の人生も楽しんで!」

 

俺は軽く頷いて、バスの案内板に行った。

 

『母さんへ

何も恩返ししないで逝ってしまってごめん。でも、今まで幸せに暮らすことが出来ました。辛いことなんて一切ありません。

そして友達と一緒に無人島で暮らす予定です。死んでないと言っても無理があります。でも僕は第二の人生と捉えて楽しく生きたいと思います。今までありがとう。お元気で

達人』

 

 

17

 

 

 

「行ってしまいましたね。」

 

「えぇ...あの子達の青春が羨ましいです。本当は現世で生き生きしている予定でしたのに。」

 

私はマイクを見た。彼はよくやってくれた。

 

「マイク。あなたも自由になりなさい。」

 

「いいんですか?」

 

「充分よ。今回も含め、あなたは色んな人を助けた。満期は少し早いけど、それほど価値のある仕事をしてくれた証拠よ。」

 

「そうですか。ではお言葉に甘えて。」

 

「ふふ。あなたがここに来た時は懐かしいわね。」

 

 

 

 

18

 

 

 

「あなたの名前は?」

 

「マイク・リーガと言います。」

 

「日本語がお上手なのね。」

 

「日本にはずっと憧れていましたから。」

 

きさらぎゲートウェイの駅長となった私には一つ重要な仕事がある。

 

それは自害者の裁判だ。

閻魔さまが、駅長である私に自害者の判決をして欲しいと。

 

そもそも自害は罪の一つ。本来罪を犯した者は地獄に送られるが、追い込まれた末の自殺なので痛い目にあるのは筋違い。

なのでこの駅で働くことで、命の尊さを学び償うということになった。

 

 

そして目の前の外国人さんもその1人だ。

 

「理由を聞いてもいいかしら?」

 

「......私は元々アメリカ出身でした。異国の文化に憧れており、何かその関連の仕事をしたいと思いました。」

 

「それで日本を選んだのね。」

 

「はい。まず日本の文化を学ぶために旅館で働くことになりました。しかしその旅館でイジメを受け、耐えられず線路に飛び込んでしまいました。」

 

「なるほどね。もう話は聞いていると思うけど、あなたはここで働いてもらいます。線路に飛び込みだから...およそ10年ぐらいかしら?」

 

「分かりました。よろしくお願いします。」

 

年数は大まかしか決まってない。全て私の判断で決めれる。閻魔さまも適当なのだ。

 

それで年数だが、関係ない人をどれぐらい巻き込んだのかで決まる。

線路に飛び込むと最高の10年ぐらい。短いのは自室で睡眠薬の多量摂取らしい。

 

 

 

 

19

 

 

 

「ハスミ駅長が優しくしてくれたから楽しく働けたんです。あぁ...私も生前はハスミ駅長みたいな人のところで働きかった...。」

 

「それは嬉しいこと言ってくれるじゃない。それでどこに行くの?」

 

「母国のアメリカに戻ろうと思います。ちょうど新型の列車に乗れるので。」

 

最近開発された列車。バスだと外国には行けなかったのだが、新幹線みたいな列車を使えば地球のどこでも行ける。

 

「そう...元気でね。死人に言うのはおかしいかもしれないけど。」

 

「はい!駅長もお元気で!」

 

 

 

20

 

 

 

バスも街で見るようなやつと同じだった。シノク島は不人気かどうか知らないが、高速バスの車内で乗客はたった1人。前世だったら確実に赤いですね。

 

 

更にこのバス途中の温泉地に停まって1泊するらしい。シノク島って意外に遠かったんだ...

 

『本日はあじさい温泉カタハラ館で1泊する予定でございます。明日のバス発車は9時半でございます。』

 

自分1人しかいない車内でガイドさんがマイク使って喋っている。俺に話し掛ける感じで案内すればいいのに...

 

 

 

「おおうめー!」

 

あじさい温泉カタハラ館は最高だった。

露天風呂から見えるあじさいと海の景色はツイ〇ターで紹介したいほど。

ご飯は海の幸を活かしていて百点満点って言ったら失礼かな?でもそれぐらい感動する美味さだ。

 

「ここサイコー!」

 

「気に入っていただいて何よりです。」

 

可愛らしい声がした。振り返ると中学生ぐらいの女の子がデザートを持ってきてくれた。彼女はここのスタッフ。着物姿が非常に似合う。

 

「ホントに最高!また行きたくなるよこれ。」

 

「いつでもお待ちしてますよ。」

 

彼女は微笑んだ。......あれ?

 

「もしかして君生きてる?」

 

今まで死人しか会ってないから気づかなかったけど、彼女は生気があるように感じる。

 

「よく気づかれましたね。」

 

「まぁ俺幽霊だし人間じゃないからな。」

 

「何かの理由でここに来てしまったのです。帰る方法が分かるまで働かせて貰っているのです。」

 

この後夜遅くまで彼女と話した。この旅館もあまり客が来ないらしい。なので宿泊客と1対1で話しても問題ないだとか。

 

 

翌日もいい天気だった。彼女が『また来て下さい〜』と行ってバスを見送ってくれた。

 

あじさい温泉郷を抜けるとすぐ海を渡る橋に入る。

 

『ただ今シノク島と繋ぐレインボーロードを渡っています。全長〇〇mで...』

 

相変わらずほぼ空気の中でガイドさんが喋っている。

某レースゲームの場所かなここは?全然虹色に光ってないけど...

 

何時間か海の上を走ると島が見えて来た。

シノク島だ!

同い年ぐらいの3人がバスに手を振っている。次太郎達だ!

 

ここでの生活が楽しみで仕方ない。サバイバルか?それとも自分達の国を作るのか?ワクワクが溢れて待ちきれない。

 

バスのドアが開いた瞬間終わらない『楽しい』の始まりだ!

 

 

 

 

 

このストーリーはフィクションです。登場人物、施設は現実のものとは一切関係ありません。




ここまで読んでいただきありがとうございます!

このお話は都市伝説『きさらぎ駅』をイメージして作っています。
当作品を作る発端としては、自分の夢で不思議な駅に来たことから始まりです。本文中では伝わりにくいかもしれませんが、きさらぎゲートウェイとほぼ同じデザインが夢に出てきました。

これを元に僕が好きな都市伝説の1つ、『きさらぎ駅』を組み合わせこの作品が生まれました。

実はかなり前に書き上げたのですが、当時は投稿する予定はなく、自己満足で終わりでした。
しかし最近メモに残っているのを発見し、もうすぐ別のオリジナル連載をするので試しにどうかと思い、投稿することを決意しました。
久しぶりに除く文章はまぁ酷い。一部書き直しや、新たにシーンを増やしたりして完成しました。

急展開でおかしな部分はあると思いますが、お許しください。

それではまた別作品でお会いしましょう!


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