優しき日輪と鬼殺隊の美蝶 (蓮紅)
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序章
第壱話 傷付いた日輪は般若の激励を受ける


2019年11月29日から"pixiv"で執筆している作品をハーメルンでも投稿する事に致しました。
一人でも多くの方に楽しんで頂けましたら幸いでございます。

優しき日輪と鬼殺隊の美蝶
https://www.pixiv.net/novel/series/1212004

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
※原作の展開に私の都合でテコ入れ改変してCP要素増し増しにする予定です。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・蝶屋敷付近の森

 

大正二年(一九一三年) 三月一日(土)

時間帯:朝

天気:晴れ時々曇り

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ! 逃げんなっ!! そこになおれっ!!! 待ちやがれぇぇぇぇぇぇ!!! 炭治郎うううぅぅぅぅぅ!!!!」

 

「すみませんすみませんすみません本当にごめんなさいっっっ!!!」

 

鬼殺隊隊士・竈門炭治郎は鬼になった実妹の禰豆子を箱に入れて背負ったまま般若と化した鋼鐡塚蛍と森の中で地獄の鬼ごっこを繰り広げていた。

 

無限列車での死闘後、重症の身に鞭打って早朝に蝶屋敷を抜け出して煉獄邸に赴き、あの死闘で殉職した炎柱・煉獄杏寿郎の事の顛末を遺族に報告しに行っていた。その帰りに蝶屋敷の門前で待ち構えていた蛍に追いかけ回されていたのである。

 

炭治郎はあの死闘で杏寿郎を殺害した十二鬼月が上弦の参・猗窩座に一矢報いんとして、太陽から逃走を図る猗窩座の背に向かって愛刀を投げ付けたのだ。

 

その試みは成功したが、愛刀が刺さったまま猗窩座を逃してしまったため日輪刀を紛失。製作者である蛍は炭治郎に手渡して、僅か一週間も経たずに日輪刀を紛失した事実に激昂したのである。

 

その日輪刀も最後は猗窩座に粉々に破壊されてしまったのだが、その事実を蛍も炭治郎も知る由もないのはせめてもの不幸中の幸いと言えるだろう。

 

――どうしよう、どうしよう、どうしよう。どうにかして鋼鐡塚さんに落ち着いて貰わないと。

て言うか、走ってるせいで身体中が痛いっ! 痛いと叫びたいっ!!

 

炭治郎はこの窮地を打開する為に必死で頭をフル回転させていたが、高熱と疲労と激痛で妙案が思い付かなかった。

 

――大丈夫、俺は長男だから大丈夫。まだ我慢出来る。ってあれ? 鋼鐡塚さんが追い掛けて来ない?

 

炭治郎は犬に匹敵、いやそれ以上の精度を誇る嗅覚を持っている。その嗅覚に何度も命を救われ、窮地を脱して来た。この特性が無ければとうの昔に死んでいただろう。

 

炭治郎は匂いで蛍が追跡を辞めた事を察し、また憤怒の匂いも消えている事を知った。

 

落ち着いてくれたっ! と喜ぶ炭治郎は蛍の下へ近付く。ただし音を立てず、気配を殺して近付き茂みの中から蛍の様子を伺った。

 

――鋼鐡塚さんは何を……あっ! あれは杏寿郎さんの鍔だっ! しまった!! 鋼鐡塚さんから逃げるのに夢中で鍔を落とした事に気付かなかったっ!

 

炭治郎は杏寿郎の愛刀に付けていた鍔を杏寿郎の実弟である煉獄千寿郎から御守りとして託されていた。

 

蛍の手に杏寿郎の鍔があるのを見て己の犯した失態に自責の念に駆られるが、だからと言って何もする事が出来なかった。

 

此処でノコノコ出て来て自分の姿を見た蛍が再び激昂して、鬼ごっこを再開させたら炭治郎にとってたまったものではないからだ。しかしそんな炭治郎の懸念も直ぐに霧散する。

 

「炭治郎、居るんだろう? さっさと出て来い……俺はもうお前を追いかけたりしないから出て来いっ。」

 

「あっ……はい。」

 

炭治郎は拍子抜けする程、落ち着いた様子の蛍を見て素直に茂みから抜け出て蛍の前まで進む。そして炭治郎はある事に気付いた。

 

――火男のお面で表情は分からないけれど、鋼鐡塚さんから悲しい匂いがする……。

 

 

 

♦︎

 

 

 

炭治郎が茂みから抜け出て一、二分経とうとした時、ほぼ同時に炭治郎と蛍は沈黙を破って言葉を発した。

 

「あのっ……鋼鐡塚さん、その鍔はっ。」

 

「炎柱の……杏寿郎のか?」

 

「は、はい。そうです。もしかして鋼鐡塚さんが杏寿郎さんの日輪刀(かたな)を…?」

 

「ああ、そうだよ……俺があいつの日輪刀(かたな)を打ったんだ。」

 

「っ……。」

 

炭治郎は蛍から香る悲しい匂いの要因を知って息を呑んだ。油断すると両眼から涙が出そうになったが、懸命に我慢した。

 

蛍は炭治郎の様子に構わず、近くにあった大岩に腰を掛けて杏寿郎との出会いを思い出しながら炭治郎に語り始めた。

 

「杏寿郎に初めて出会ったのは、あいつの屋敷に日輪刀(かたな)を持って行った時だった。

煉獄家は初代産屋敷当主から仕えた武家の一族で、戦国時代から代々炎の呼吸を編み出し受け継ぐ鬼狩りの名家でな。その経緯から皆、鮮やかで綺麗な赤い刀身を出してたんだ。」

 

「俺は楽しみにしながら日輪刀(かたな)を持って行くとやはり予想通り、いや予想以上に鮮やかで綺麗な赤い刀身を見せてくれた。

俺はそれを見て機嫌が最高に良かったが、杏寿郎の放った一言で絶句した。あいつは俺に何て言ったと思う?」

 

蛍の質問に炭治郎は杏寿郎が何て言ったのか、予想出来ずに口を噤むと蛍は炭治郎に構わず続けた。

 

「あいつはなぁ、『素晴らしい日輪刀(かたな)だっ! だが気に入らん!!』って俺に向かって言いやがったのよ。」

 

蛍はその当時の様子を思い出しながら楽しそうにそう言ったが、炭治郎はその言葉と事実に絶句せざるを得なかった。

 

蛍の異常とも言える日輪刀への愛情とその生まれ付きのヒステリックぶりには辟易するほど骨身に染みている。

 

その蛍に面と向かって自らが丹精を込め、愛情を注いで打った日輪刀を否定するなどすればその場で奇声を上げて殺しに掛かってくるだろう。

 

炭治郎はハラハラしながら蛍の話の続きを待った。

 

「俺はその言葉にブチ切れて杏寿郎に飛び掛かろうとしたんだが、その前にあいつが俺の打った日輪刀(かたな)をヌンっ! と前に差し出した。

『この日輪刀(かたな)で唯一、この鍔が気に入らん! もっと炎のような意匠に作り替えてくれっ!!』と言ったんだ。」

 

「俺はあいつの放つ暑苦しい空気に呑まれて、飛び掛かろうとした事も忘れて『お、おう』としか言えず、日輪刀(かたな)を受け取って刀鍛冶の里に引き返して、一週間程で鍔を作り直して改めて届けに行った。」

 

「すると杏寿郎は『最高の日輪刀(かたな)だっ! ありがとうっ!! 鋼鐵塚殿っ!!!』と満面の笑顔で受け取ったんだ。もう七年以上も前の話だ。俺が丁度三十歳を迎えたばかりで、あいつはまだ十三歳だった。」

 

そこまで言うと、蛍は一呼吸してから空を見上げて杏寿郎との思い出話を続けた。

 

「杏寿郎はお前と違って日輪刀(かたな)を刃毀れさせたり、ましてやへし折ったり無くしたりなんて下手はしなかった。

まぁ摩耗して日輪刀(かたな)を打ち直したり作り替えたりは何回かしたがなっ……そうかぁ……もうあの鮮やかな赤い刀身も、あいつの太陽みたいな笑顔も、もう見れねぇんだなぁ……。」

 

「まだまだこれからだったろうに、本当に死んじまったんだなぁ…。」と悲しく残念な様子で言い締めた。炭治郎は蛍のその言葉を聞いて我慢出来ずに両眼に涙を浮かべ、杏寿郎の生前の言葉を思い出していた。

 

『俺は俺の責務を全うする!! ここにいる者は誰も死なせない!!』

 

『竈門少年。俺は君の妹を信じる。鬼殺隊の一員として認める。』

 

『怪我を厭わず死を恐れず命を賭けて鬼と戦い、血を流しながらも人を守る者は、誰がなんと言おうと鬼殺隊の一員だ。』

 

『疑ってすまなかった。信じるのが遅くなって申し訳なかった。竈門妹にも直接謝りたかったが、とても叶いそうに無い。』

 

『それだけが唯一、心残りだ。残念に思う。』

 

『俺がここで死ぬことは気にするな。柱ならば後輩の盾となるのは当然だ。柱ならば誰であっても同じことをする。』

 

『胸を張って生きろ。』

 

『今度は君達が鬼殺隊を支える柱となるのだ。』

 

「っ……鋼鐵塚さん、俺っ……俺……これから先きっと何回も日輪刀(かたな)をダメにしちゃうと思いますっ!!」

 

「それ胸張って言うことかっ!? 何宣言だクソガキっコラ!!!」

 

炭治郎の言葉に蛍はツッコミながら包丁を向ける。しかし炭治郎は視線を逸らさず、涙を流しながら己の決意を宣言する。

 

「でも俺は強く成ります! 鋼鐵塚さんが打ってくれた日輪刀(かたな)で、一人でも多くの人を鬼から救います!! 一人でも鬼に殺される人を、大切な人を亡くして悲しむ人を減らします!!」

 

後悔も悔恨も飲み込んで、炭治郎は誓う。蛍に、今は亡き杏寿郎に、何より自分自身に。

 

「何時かきっと杏寿郎さんのようなっ、だっ誰よりも強い剣士に、柱に成ります! 絶対に成ってみせますからっ!! 約束しますからっ!!!」

 

炭治郎は強く宣言した後、両眼から大粒の涙を流しながら堪え切れずに嗚咽を漏らし始めた。蛍はその様子を黙って聞いていた後、言葉を漏らした。

 

「腹が減った。」

 

「ひっぐ、うぐっ……えっ?」

 

「蝶屋敷から少し行ったところになぁ、美味い飯屋と絶品のみたらし団子を出す茶店があるんだ。お前が全部奢れ。それで今回は許してやる。」

 

「……っ!」

 

炭治郎は朝一で煉獄邸に向かい、昼前に蝶屋敷前に戻るはずだった。しかし蛍との地獄の鬼ごっこで既に昼を過ぎている。

 

炭治郎はその言葉に笑顔で了承して鍔を受け取り、共に蛍推薦の飯屋と茶店で舌鼓を打った。しかしそれで話は終わらなかった。

 

「あらあらあら。絶対安静って伝えたはずなのに、蝶屋敷を抜け出して好き勝手に動き回ってる悪い子はこんな所に居たんですねぇ。」

 

「はむはむはむ、ゴク、ふぅ……えっ?」

 

その言葉に炭治郎は食べ終わったみたらし団子の串を落としてから、青褪めて錆びた絡繰り人形のように首を声がした方向へとギギギと動かした。

 

そこに見えたのは、顔中の血管を浮かして満面の笑みを浮かべる鬼殺隊が誇る柱が一人、蟲柱・胡蝶しのぶの姿があった。




あとがき
作者の皆様の創作小説と鬼滅の刃愛に当てられて遂に烏滸がましくも読書側から作者の領域に足を踏み入れた無謀な愚か者です。

読んで楽しむ側で居続けるよりも自身も参加して作者の皆様を少しでも楽しませることが出来たらと思い投稿しました。どうか温かい目で見守って下さい。改めてどうか宜しくお願い致します。
ちゃんと続けられたら良いなぁ。

最後に非常に個人的な趣味かつ宣言にございます。

好きな鬼滅の刃CPは
竈門炭治郎×鬼滅女子(炭しの・炭アオ・炭カナ・炭蜜・炭ねず・炭ナエ・炭珠etc……)
鬼滅女子×竈門炭治郎(しの炭・アオ炭・カナ炭・蜜炭・ねず炭・ナエ炭・珠炭etc……)
炭治郎愛され(BL要素なし)
狛治×恋雪(狛恋)
竈門夫婦(竈門炭十郎×竈門葵枝)
煉獄夫婦(煉獄槇寿郎×煉獄瑠火(槇瑠))
宇髄夫婦(宇髄天元×宇髄雛鶴・宇髄まきを・宇髄須磨)
産屋敷夫婦(産屋敷耀哉×産屋敷あまね)

気持ちだけ応援しているだけ鬼滅の刃CPは
不死川実弥×竈門禰豆子(さねねず)
時透無一郎×竈門禰豆子(むいねず)
愈史郎×珠世(ゆしたま)

上記に書かれてすらいないCPは全て超地雷です。眼にしたくも無いし、語るなんて論外です。

宣伝
是非様
https://syosetu.org/?mode=user&uid=270158

蝶を守り抜く日輪
https://syosetu.org/novel/210136/

私にハーメルンへの投稿を勧めて下さった炭治郎×鬼滅女子の同志と言えるお方です。
なお、"蝶を守り抜く日輪"には一部、拙作の描写を参考・引用した部分がいくつか見られますが、私が引用許可を出してますので純粋なお気持ちでお読み下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


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美蝶自覚編
第弐話 日輪と藤蝶は互いの傷を癒さんとす


※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
※原作の展開に私の都合でテコ入れ改変してCP要素増し増しにする予定です。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・朝田屋

 

大正二年(一九一三年) 三月一日(土)

時間帯:昼

天気:晴れ時々曇り

 

 

「こ、こんにちわ。しのぶさん……っ。」

 

「はい、こんにちわ。炭治郎君。」

 

炭治郎は先程まで食べてた絶品のみたらし団子の味も忘れ、冷や汗を掻きながら笑顔でしのぶに挨拶した。

今置かれている立場を、この状況をお前はちゃんと分かっているのか、お前は何を言っているんだ、と善逸辺りがいたら即座にツッコミたくなるような状況だが、誰もそのような指摘はしない。

 

因みに、隣で炭治郎に昼食を、そしてみたらし団子も強制的に奢らせていた鋼鐵塚蛍は、まだ食べてないみたらし団子を掴んだまま、しのぶを炭治郎に押し付ける事に成功して即座に脱兎の如く逃走していた。今頃は刀鍛冶の里に帰還している頃であろうか。

 

炭治郎はその事を匂いで察したが「鋼鐵塚さん…!、俺を置いて一人だけ逃げるなんて……っ!」と心の中で呟くのが精一杯でそれどころではない。

何故ならば、遥か彼方に逃げ去った蛍よりも、先程穏やかに挨拶してくれたが、噎せ返りそうな憤怒の匂いを放つ眼前のしのぶからどうやってこの窮地を脱するか考えるのが先決だったからだ。

 

しかし、予想だにしない第三の人物が登場してこの状況を変えた事で、炭治郎は一時的にとはいえ窮地を脱する事になる。

 

「おっ、しのぶちゃんじゃねぇかい!? 久しぶりだねぇ!」

 

「あら、哲樹さん。お久しぶりですね。相変わらずお元気そうで何よりです。」

 

しのぶに声を掛けたのはこの甘味処の店主の男性だ。ヤクザの若頭をしていると言われても納得してしまうような、左頬から首にまでかけた大きな傷が特徴のいかつい長身の男性で、初見ではとても甘味処の店主をしているとは思えない。

声を掛けられたしのぶは一瞬で怒気を隠し、浮かんでいた血管を沈めて誰もが見惚れるような笑顔で哲樹に挨拶をして世間話を始めた。

炭治郎はしのぶのその変わり身の早さに茫然としている間に、二人の世間話も終盤に向かっていた。

 

「ほい、みたらし団子だよ。」

 

「ありがとうございます……あら、量が多くありませんか?」

 

「良いんだ。おまけだよ、おまけ。ここは俺の顔を立てて、黙って受け取ってくれや。」

 

「では、お言葉に甘えます。蝶屋敷の皆で美味しく頂きますね。」

 

「おう、アオイちゃん達にもよろしく伝えといてくれ……にしてもその坊主も鬼殺隊の鬼狩り様だったんだなぁ。市松模様の羽織のせいで最初気付かなかったぜ。」

 

哲樹の視線と話題が炭治郎に移る。するとしのぶが嬉しそうに炭治郎の傍まで寄ると腕を組んだ。これには炭治郎と哲樹が驚愕した。しのぶが炭治郎の腕にがっちりと組んだせいでしのぶの豊かな胸が腕に当たり炭治郎は林檎のように顔を一瞬で真っ赤にした。

 

「し、しのぶさんっ!?」

 

「ちょっ!? ええ!? しのぶちゃんっ!?」

 

「哲樹さん、紹介しますね。最近鬼殺隊に入隊した竈門炭治郎君。鬼殺隊の期待の星の一人なんですよ。」

 

「あ、えー。竈門炭治郎と言います。」

 

「お、おう。浅田哲樹ってもんだ。この甘味処”朝田家”の店主をしている。昔、しのぶちゃんに俺と女房を鬼から助けて貰った事があってな、それからの付き合いなんだ。しのぶちゃんが居なかったら、俺は今こうして生きていないぜ。」

 

「こいつぁ俺が鬼から女房を守った名誉の証よ。」と傷を親指で指して自己紹介を終える。そして炭治郎の事を十を数えれる程度の間ジッと見つめた後、しのぶと炭治郎の前にズンッ! と出た。

 

「しのぶちゃん、ちょっとその坊主……炭治郎君を貸してくれないかい? なぁに、ちょっとだけ話をするだけだよ。おっと、男子禁制ならぬ、女子禁制だからしのぶちゃんは此処で待っててくんな。」

 

「おーい、お前ぇ! しのぶちゃん来てるから挨拶してけー!」とお店の奥に向かって叫んだ。おそらく哲樹と同じくしのぶに救われた哲樹の妻だろう。ドタドタと足音を立てながらやってくる哲樹の妻を余所に、炭治郎を”朝田家”の裏に連れて行った。炭治郎は妙に力強く自分の腕を引っ張ってくる事を気にしながら大人しく付いて行った。

 

――何だろう?この人からは怒りの匂いはしない……するのは興奮と期待の匂いだ。どう言う事なんだろう?

 

 

 

♦︎

 

 

 

炭治郎は疑問に思いながら哲樹に引っ張られて行く。そして”朝田家”の裏に到着すると、哲樹は炭治郎と面と向かって口を濁しながら開口した。

 

「坊主、じゃなかった。えっと、炭治郎、君。」

 

「浅田さん、好きな風に俺の事は呼んでくれて構いませんよ。」

 

「そ、そうか。じゃあ坊主、俺の事も哲樹で良いぜ。」

 

「コホン。」と哲樹が咳払いすると改めて話を進めた。炭治郎も身を正して耳を傾ける。

 

「坊主。単刀直入に聞くが、お前さん、しのぶちゃんの恋人か将来を誓った許嫁なんか?」

 

「……はいっ?!」

 

哲樹の思わぬ質問に、炭治郎は顔を赤く染めて狼狽した。そして慌てて否定する。

 

「そんな関係じゃないですよっ! 俺なんかがしのぶさんと釣り合う訳がないじゃないですかっ。哲樹さんの考え過ぎです。」

 

「む、そうかぁ?……でもよ、考えても見な? しがない庶民でしかない俺に、お前さんを紹介するだけで態々腕を組んだりなんて真似なんかすると思うか? 結構前にしのぶちゃんが来た時なんかよ、しつこく声を掛けて来た身の程知らずの野郎の股間、笑顔で蹴り上げてたぜぇ?」

 

「ありゃ死ぬ程痛かっただろうなぁ…………。」としみじみと思い出すように言うと、炭治郎もその光景と男の受けた激痛を想像して思わず顔を歪めながら股を竦めた。

 

「う~ん。やっぱり、哲樹さんの考え過ぎだと思います。しのぶさんみたいな大人の女性が、俺みたいな子供を相手になんかしませんよ。」

 

「い~や、しのぶちゃんがお前さんの事をまだ好きでないにしても、脈は十分、あると思うぜ。”朝田家”の店主として何年も男女の逢引きの様子を見て来た俺の眼に狂いはねぇ!」

 

炭治郎から見れば何を根拠に訳の分からん事をと言いたげだったが、しのぶが自分に好意を抱いていると聞かされたせいか、引いていた赤がまた炭治郎の顔を覆い始めた。そんな炭治郎をおいて、哲樹は話を続けた。

 

「しのぶちゃんはな、カナエちゃんって言うすげぇ美人のお姉さんと一緒に此処で俺の団子を食べによく来てくれてたんだ。」

 

哲樹が昔を思い出すように語り始めた。炭治郎は哲樹から寂しさと悲しい匂いを嗅ぎ取り、またしのぶの最愛の実姉であったカナエの名前が出たのを聞いて、炭治郎は真剣に哲樹の話に耳を傾ける。

 

「そのカナエちゃんが鬼に殺されちまってから、しのぶちゃんは良い意味でも悪い意味でも変わっちまった。」

 

「その後、柱? つう鬼殺隊の偉い役職についた。詳しい事は俺には分からないけどよ、あの若さで人の上に立つって凄ぇ事だし、尊敬する。でもよ、しのぶちゃんはまだ十八歳の女の子なんだ。誰だろうと嫌でも大人になるんだから、もうちょっと我儘言って誰かに甘えたり頼ったりして欲しいんだよっ。」

 

炭治郎は哲樹の言葉にはっとした。そうだ。確かに自分はしのぶの凄いところばかりを見てきたが、蝶屋敷の屋上でのあの夜のやり取りでしのぶが必死でひた隠しにしていた「弱さ」を自分は目撃しているではないか。

炭治郎はその事実に気付かなかった己の鈍さと自身の弱さを恥ずかしく思った。

 

「俺じゃぁ、しのぶちゃんに甘いもんで一時の間、舌を楽しませる事しか出来ねぇ。俺じゃあの娘を守る事も支える事も癒す事も出来ねぇんだ。良い歳した大人があんな子供を守れねぇってのは、恥ずかしい話なんだがな。だから頼む!」

 

哲樹は炭治郎に力強く頭を下げた。

 

「何もしのぶちゃんと恋仲になれって言ってるんじゃないんだ。あの娘が少しでも安らかな気持ちで居られるように、しのぶちゃんが頼れるような、守れるような、強くてでけぇ男に成って欲しいんだよ。坊主とはついさっき会ったばかりだが、お前さんなら出来る気がするんだ。俺ぁ地頭は良くねぇが、客商売してるせいか、人を見る目には自信があるんでな」

 

「……哲樹さん、分かりました。」

 

炭治郎は哲樹の懇願に落ち着いた声で答えた。

 

「はっきり言って、俺がそんな男に成れるかは分かりません。でも俺は尊敬する人のような、強い剣士に、柱に成ると心に決めました。それから俺にとってもしのぶさんは大切な人です。あの人には死んで欲しくない。あの人には幸せになって欲しい。そう心から願っています。だから哲樹さんにお約束します。しのぶさんも他の鬼殺隊の仲間達も人々も全部、全員守れるような強い男に俺は成って見せます!」

 

炭治郎は哲樹に面と向かって力強く宣言した。哲樹は太陽のような眩しさと温かさを炭治郎から感じ取り、笑みを零した。

 

「それだけ聞けりゃ十分だ。ありがとうよ、俺の我儘を聞いてくれて……頼んだぜ、炭治郎。」

 

「お前さんも死ぬんじゃねぇぞ。」と哲樹は右手を差し出した。炭治郎は笑顔で「はい!」と答え力強く握手を交わした。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「あら、お帰りなさい。長かったですね?」

 

しのぶは戻って来た二人に声を掛けた。しのぶの隣には哲樹の妻と思われる可愛らしい女性がいて、炭治郎に向かって頭を下げていた。

 

「おう、炭治郎とは息が合ってつい長話をしちまってなっ。」

 

「へぇ、そうなんですか。どんなお話をしていたんですか?」

 

「それを言っちまったら女子禁制にした意味がねぇだろぉ? なぁに、漢の友情を深めてただけさ。なぁ、そうだよな、炭治郎?」

 

「ええ、そうですね。」

 

しのぶの質問に哲樹は誤魔化すように炭治郎に同意を求めると、炭治郎は哲樹の言葉に笑って同意した。

それから哲樹が「ちょっと待ってな。」というと”朝田家”の中へ入り、直ぐに戻って来た。その手には包まれた団子が入っていた。

 

「哲樹さん、これは?」

 

”朝田家”(うちの店)はみたらし団子が自慢だが、草餅も豆大福も自慢なんだ。持って行きなっ。」

 

「哲樹さん……ありがとうございます、後で頂きますね。今度、”朝田家”(お店)に友達を一緒に連れて来ますから。」

 

炭治郎は哲樹に悪いと金銭を払って断ろうとしたが、好意を無碍にするのも無粋だと考え、ありがたく頂く事にした。

 

「おうっ!……でも炭治郎のお友達も良いけどよ、どうせなら今度はしのぶちゃんと恋仲になって逢引きをするのに”朝田家”(うちの店)を利用してくれよなっ! そんときゃ割引するぜ!」

 

「まぁ、そうなったら素敵な話じゃない❤️ しのぶちゃん、楽しみにしてるわね❤️」

 

「あ、あはははははっ。」

 

浅田夫婦の怒涛の茶化しっぷりに、炭治郎は笑って対応する事しか出来なかった。そしてしのぶに視線を向けるとしのぶは予想外の反応を見せていた。

 

「な、なにを言っているんですか!? 二人して!? 私は炭治郎君とはそんな関係じゃないし、なる積もりもありませんから!!」

 

しのぶが顔を真っ赤にして「ほら炭治郎君! 行きますよ!!」と腕を引っ張って”朝田家”を去って行った。

炭治郎はしのぶの反応に戸惑いつつ、浅田夫婦に頭を下げてしのぶに引っ張られて行った。炭治郎としのぶを見えなくなるまで見送った浅田夫婦。そして哲樹から話を始める。勿論、話題の内容は炭治郎としのぶの事だ。

 

「なぁ、お前。」

 

「何かしら、あなた。」

 

「さっきの二人、どう思う?」

 

「そうねぇ、その前にあんなしのぶちゃん、久しぶりに見たわね。」

 

「ああ、良いもんが見れたし、良い漢にも出会えた。」

 

「ええ、とても良さそうな男の子だったわね。それからあの二人の事だけど……。」

 

「うん?」

 

「……時間の問題かしらねぇ。今度会う時が楽しみだわ❤」

 

「だよなぁ、だよなぁ! いやぁ流石は俺の女房だ! 俺の目に狂いは無かった!」

 

「ええ、貴方の女房ですから❤」

 

「「あははははは。」」

 

二人は楽しそうに笑った後、”朝田家”に戻った。また炭治郎としのぶの二人と再会出来る日を楽しみにしながら。浅田夫婦に話題にされている炭治郎としのぶはと言うと、黙って蝶屋敷まで帰っていたが、しのぶが不意に口を開いた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「炭治郎君。」

 

「はい、なんで……っ。」

 

炭治郎はしのぶの返事に返答しようとしたが、一瞬口を紡いだ。何故なら怒っている匂いを感じ取ったからだ。

 

「あんな事があったからって、私の怒りは霧散したわけじゃありませんから、逃げないで下さいね。」

 

「……はいっ。」

 

炭治郎は観念したようにしのぶに返事をした。

 

 

 

♦︎

 

 

 

東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月一日(土)

時間帯:昼

天気:晴れ時々曇り

 

 

「では、まず絶対安静の通達を無視して何をしていたのか、一部始終話して下さい。良いですか? 「一部始終」ですよ?」

 

「……はいっ。」

 

しのぶの部屋に連行された炭治郎は、しのぶに病室を抜け出してから起きた出来事を包み隠さず話し始めた。

 

病室を抜け出して真っ先に煉獄邸に向かった事。

煉獄杏寿郎の想いを実父であり元炎柱・煉獄槇寿郎へ伝える過程で言い争いになって取っ組み合いになった事。

日の呼吸について知ろうとしたが出来なかった事。

杏寿郎の実弟である煉獄千寿郎に杏寿郎のような柱に成ると誓った事。

蝶屋敷で戻る途中で日輪刀を紛失した事実を知って激昂した蛍に追い掛け回されて鬼ごっこをする羽目になった事。

冷静になった蛍から生前の杏寿郎の逸話を知った事。

蛍に誰よりも強い剣士に、柱に成ると誓った事。

蛍に食事を奢るなら許すと言われ飯屋と浅田家で一緒に食事をした事。

 

「…………」

 

しのぶは炭治郎が語っている間、一言も喋らず両眼を閉じて話を黙って聞いていた。そして聞き終わると、溜め息をついて炭治郎を見た。炭治郎はそれを見て恐る恐るしのぶに質問をする。

 

「あ、あの。しのぶさん……。」

 

「何ですか? 炭治郎君。」

 

「あの、その……怒らないんですか?。」

 

「……何から怒ったら良いのか迷っているから、困っているんですよ。」

 

「……っ。」

 

「絶対安静って言ったその日に病室を抜け出した事から怒るべきか、それともまた傷口が開いて出血するかもしれないのに、槇寿郎(元炎柱)と取っ組み合いをしたり鋼鐵塚さんと鬼ごっこをした事を怒るべきか、それとも数日間何も食べてないのにいきなり固形物をお腹に入れた事を怒るべきか……まぁ全部やるんですけどね。」

 

「……はいっ。」

 

「……決めました。炭治郎君、今直ぐ、目を瞑って下さい。」

 

「は、はい。」

 

炭治郎は覚悟を決めて目を瞑った。殴られるのだろうか、叩かれるのだろうか、そうされても仕方がない事をしたのだから、甘んじて受けよう。そう覚悟を決めた炭治郎だったが。

 

ギュッ

 

「……えっ?」

 

「……ごめんなさいっ。」

 

炭治郎に待っていたのは熱い掌から来る一撃でもなければ、固い拳から来る痛みでもなく、来たのは抱擁としのぶからの謝罪の言葉だった。しのぶの豊満な胸部に顔を埋めながら、炭治郎は予想外の事態に狼狽する。

 

「なっ、何でしのぶさんが謝るんですか?! 今回は全部俺が悪いのに、しのぶさんは何も悪くはっ。」

 

「そんな事は本当はどうでも良いんです。いえ、炭治郎君の性格ならきっとそうするだろうと思ってました………炭治郎君は私は悪くないと言ってくれましたが、私が余計な事をしなければ、貴方はこんなに傷ついて辛い思いなんてしなくて良かった。」

 

「…………しのぶさん。それはどう言う意味なんですか?」

 

炭治郎はしのぶの発言の意味を理解出来ず、説明を求めた。しのぶは抱擁を解いてから語り始めた。

 

「本来なら、無限列車の任務は煉獄さん一人で行われる単独任務でした。その任務に私が炭治郎君と善逸君、伊之助君の三人も同行させるべきだと、私が御館様に進言をしたんです。」

 

「……っ!!」

 

しのぶの言葉に炭治郎は衝撃を覚えたが、何も言わなかった。しのぶはそのまま語り続けた。

 

「煉獄さんは鬼殺隊隊士の鑑とも言える人でした。

強さについては言うまでもなく、卓越した判断力と指揮能力を持ち、公私混同する事無く公明正大でかつ、情けも忘れない人格者でした。

あの人ならきっと炭治郎君に良い影響を与えてくれる。未来への道標になってくれると思ったんです。」

 

そこまで言うとしのぶは一度口籠もるが、意を決して語り続ける。

 

「結果論ですが、禰豆子さんも含めて貴方達五人がいたから、魘夢(下弦の壱)から列車の乗客二百名の尊い命を守る事が出来ました。

それでも、たとえ不謹慎と思われようとも考えずには居られない。私のあの進言が無ければ、少なくとも炭治郎君の心に深い傷を負わせずに済んだのではないか。

無意味だと分かっていても、今でもそう思っているんです。」

 

「……しのぶさん。」

 

懺悔するように胸の内に秘めていた悔恨を吐き出すしのぶに、炭治郎はゆっくりと言葉を返し始めた。

 

「しのぶさん……ありがとうございました。」

 

「……っ!?」

 

炭治郎からの思わぬ感謝の言葉にしのぶは動揺する。そんなしのぶを見て、微笑みながら炭治郎は話を続ける。

 

「確かにしのぶさんの言うように、あの任務に行かなければ俺は傷付かずに済んだのかもしれません。

辛くないと言えば嘘になります。

杏寿郎さんが猗窩座…猗窩座(上弦の参)と戦ってる時、もっと強ければ、一瞬でも良いから杏寿郎さんを助けられるくらい強く成れていたら、待機命令に逆らってでも杏寿郎さんの盾に成れば良かった、杏寿郎さんの代わりに自分が死ねば良かった。杏寿郎さんの代わりに俺が死ぬべきだった。そう何度も、ずっと考えていました。」

 

炭治郎は目を瞑るとあの激戦と自身の不甲斐無さを思い出して、両手を強く握る。もう少し強くやっていたら爪が手に食い込んで流血していただろう。

 

「でも、そんな事を考えても過去(まえ)には戻れない、現在(いま)は変わらない、まだ見ぬ未来(さき)に進むしかないと思ったんです。

それに自分が死ねば良かったなんて言ったら、俺達を命を賭けて守ってくれた杏寿郎さんへの侮辱でしかない。怒った杏寿郎さんに大目玉を喰らっちゃいます。

だから俺はどんなに惨めでも、苦しくても、悔しくても、悲しくても、辛くても全力で前を進みます。進んで見せますっ! それが杏寿郎さんの期待に応えられる唯一にして最大の方法だと思うからっ。」

 

「……炭治郎君は、私を恨まないんですかっ。」

 

「まさか、俺がしのぶさんを恨む訳ないじゃないですかっ。」

 

しのぶは震えた声で炭治郎に質問した。しかし炭治郎はそんな事は有り得ないとばかりにしのぶに再び微笑んで穏やかに答えた。

 

「むしろ、お礼が言いたいです。

しのぶさんが進言してくれなかったら、俺は煉獄杏寿郎という偉大な人を知らないままだった。

杏寿郎さんを誤解したままだった。

杏寿郎さんと出会えて良かった。

杏寿郎さんとお話し出来て良かった。

杏寿郎さんを知る事が出来て良かった。

俺はあの人の強さを、言葉を、気高さを、黎明を、この先一生忘れません。だから……だから、しのぶさん。ありがとうございました。」

 

「~~~~~~~❤️」

 

炭治郎の感謝の言葉にしのぶは泣きながら炭治郎に強く抱き着いた。炭治郎もまた泣きながらしのぶを優しく抱き締め返した。二人は涙が止まるまで、そのままずっと互いを離すまい、離れまいと抱き締め続けた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「しのぶさん、折角の綺麗な目が赤くなっちゃいましたね。ふふっ。」

 

「笑わないで下さい。炭治郎君に言われたくありませんから。貴方だってそうです。お互い様です。」

 

二人は三十分近くお互いに抱き締め続け、そして名残惜しそうに離れていた。二人の眼は赤くなっており、アオイ達に見られたら何かあったのかと確実に聞いてくるだろう。まだ部屋を出れそうになかった。

 

「ねぇ、炭治郎君。私にして欲しい事はありませんか?」

 

「はい? して欲しい事……ですか?」

 

しのぶの唐突な質問に炭治郎は些か戸惑う。しかし、しのぶは構わず続けた。

 

「償いたいとか、お礼がしたいという訳では無いんです。ただ炭治郎君に何かしてあげたい。私はそう思ったんです。私に出来る範囲で、と言う条件付きですが炭治郎君のためなら私は何でもしてあげますよ?」

 

其の辺の男が聞けば一発で理性を失いそうな事をさらっとしのぶは炭治郎に言った。すると炭治郎は顎に手を置いて考え始めた。もしかしたら遠慮して断られるかもしれないと思っていただけに、しのぶは期待感を隠さず炭治郎を待った。

 

「……じゃぁ、一つだけ、良いですか。」

 

「はい、言ってみて下さい。」

 

「いえ、そうではなくてですね。ちょっと失礼しますね。」

 

「え……え?」

 

炭治郎はしのぶの肩に手を置いてそのままさき寝台(ベッド)の上に座らせると、しのぶの隣に座ってからしのぶの頭が炭治郎の膝の上に来るようにした。いわゆる膝枕である。この状況にしのぶは困惑した。

 

「あの……炭治郎君、これは一体……?」

 

「あ、もしかして嫌でした?」

 

「いえ! 決して嫌と言う訳ではなくてですね。むしろ嬉しい……じゃなくて! どうして私は炭治郎君に膝枕されているんですか? 普通、逆じゃないですか?」

 

しのぶはもし炭治郎に膝枕して欲しいと言われたら喜んでやっていたに違いない。しかし自分が炭治郎に甘えているこの状況が理解出来ていなかった。

 

「い~え、間違っていませんよ。何故なら俺の願いは……。」

 

「ね、願いは?」

 

「しのぶさんが俺にたくさん甘えること、だからです。」

 

「……はい?……な、なんですか!? それ!? 意味が分からないんですけど!?」

 

しのぶは一瞬呆けた後、たまらず起き上がって炭治郎をジト目で睨み付ける。炭治郎はフシャーッ! と威嚇する猫のようになったしのぶを見て苦笑を隠せなかったが、直ぐに真剣な顔付きになってしのぶを見た。

 

「しのぶさん。良い機会だから、この際はっきり言っておきます。」

 

「な、何でしょうか?」

 

「俺は、あの一緒に蝶屋敷の屋上に居た夜からずっと気になっていました。しのぶさんから匂う怒りの匂いよりも、そこに隠れていた嘘と悲しい匂いを、いつもピンと張り詰めた糸の様な雰囲気を気に掛けていました。」

 

「………続けて下さい。」

 

「しのぶさんは柱の一人だから、鬼殺隊の上に立つ人として立派でいなきゃいけない気持ちは分かります。

蝶屋敷の主人として、姉としてカナヲ達を守り、導かなければならないという気持ちも分かります。

それでも辛い時は辛い、苦しい時は苦しいとはっきり顔や態度、声に出してもそれは決して悪い事ではないと思うんです。

しのぶさんも、一人の人間、一人の女の子なんですから。」

 

「…………」

 

「しのぶさんが泣いたり、誰かを頼ったり、甘えたりしても誰も失望や落胆なんか絶対にしません。むしろ皆、しのぶさんが自分に頼ってくれる事に、甘えてくれる事に喜び、光栄に思ってくれるはずです。

何故ならこの蝶屋敷にいるカナヲもアオイさんも、すみちゃんも、なほちゃんも、きよちゃんも、善逸も伊之助も皆、しのぶさんが、貴女の事が大好きなんですから。」

 

「……だから、炭治郎君は私に甘えろ、と言うんですか?」

 

「俺にカナエさんの代わりが務まるなんて烏滸がましい事は思いません……それでも俺はしのぶさんを抱き締め支えられる男になりたい。

しのぶさんが泣いていたらその涙を拭える男になりたい。

しのぶさんに安らぎを与えられる男になりたいんです。だって俺も……。」

 

炭治郎は一度深呼吸して、改めて自身の想いを言葉に乗せて告白する。

 

「俺もしのぶさんの事が大好きですから……っ!」

 

「~~~~~~~~~~~~❤」

 

しのぶは歓喜して炭治郎に抱き着いて寝台(ベッド)に押し倒した。炭治郎は抵抗する事無く、流れに任せる。しかし、しのぶが抱き着いたまま何も言わないので声を掛ける。

 

「しのぶさん?」

 

「条件が……有ります。」

 

「はい、何ですか?」

 

「炭治郎君も……私に沢山、甘えて下さい。それが絶対条件です。」

 

「ふふ。はい、喜んで。」

 

炭治郎はそう言うと、抱き着いて離れないしのぶの腰に左手を回し、右手で頭を撫で始めた。しのぶはその手の温もりに再び涙を流し始める。

 

「炭治郎君は、意地悪な悪い子です。どれだけ私の事を泣かせたら気が済むんですか……っ私を泣かせて楽しんでませんか?」

 

「そんな訳ないじゃないですか。微塵もそんなつもりはありませんよ。そこまで言うんでしたらその涙、拭いましょうか? しのぶさんが良かったら、の話ですけど。」

 

「炭治郎君は、やっぱり意地悪な悪い子です。私がどう思ってるかなんて、匂いで分かる癖に……結構ですからそのまま頭を撫でていて下さい。これは嬉し涙ですから……。」

 

――ああ、なんて温かくて優しくて尊い人なんだろう。炭治郎君、生きていてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。私、炭治郎君と出会えて良かった、生きてて良かった。私は……私は……。

 

「すぅ……すぅ……すぅ……。」

 

「……しのぶさん、おやすみなさい。貴女は俺が守りますからね。」

 

そう言うと、炭治郎は眠りに就いたしのぶの頭を寝るまで撫で続けた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

炭治郎としのぶが部屋で過ごしている頃。

 

髪の両横に青い蝶々の髪飾りをつけている、一人の美少女が忙しなく動いていた。

 

「この案件は流石に私一人では決められない。しのぶ様に決めて頂かないと……。」

 

そう言って彼女が向かったのはしのぶの自室である。蝶屋敷を抜け出した炭治郎がしのぶと一緒に帰って来た事は既に周知の事実。炭治郎もしのぶにこってり絞られただろうと思い、同情しながらしのぶの自室へと足を進めた。そしてその扉の前にまで立った。

 

「しのぶ様、すみません。アオイですが、今宜しいでしょうか?」

 

ノックをして声を掛ける。しかし一切返事がない。アオイは繰り返しノックして声を掛けるが何も変わらない。

 

「部屋におられないのかしら……医務室にも居なかったし、此処しかないと思ったんだけど……?」

 

いないと判断し、その場を去っていたならアオイは幸運だったであろう。しかしアオイは自らの判断で不幸への道へと足を進めた。

 

「しのぶ様、失礼します。」

 

アオイはそのまましのぶの自室に足を踏み入れる。そして程無くして目撃した。炭治郎としのぶが抱き合いながら寝ている姿を。

 

「……?…………っ!?…………っっ!?!?」

 

アオイは声にならない声を出し、急いでしのぶの自室から出て行った。既に要件の事は頭から消し飛んでいた。そして速足から段々と駆け足になって行き、自分の部屋に逃げ帰っていた。

 

「何……あれ……え……なんで……??」

 

アオイは自室の寝台(ベッド)に飛び込んで困惑に満ちた声を出した。最も言葉にはなっていなかったが。

 

――しのぶ様って、炭治郎さんとそういう御関係だったの……?でも、何時から……?

 

ズキッ

 

「~~~~~~何で、何でこんなに胸が苦しいの……っ?!」

 

アオイは両眼から宝石のような涙を流しながら胸を押さえ続けた。

 




オリキャラ
浅田夫婦
浅田哲樹(あさだてつき)
”朝田家“の現店主。二十代後半の青年。左頬から首にかけた大きな傷が特徴の長身の男性で、初見ではヤクザの若頭と勘違いする程、いかつい人物。かつて夫婦共々鬼に襲われていたところをしのぶに救われた経験を持つ。以来、鬼殺隊には強い敬意と感謝の念を抱いている。年齢に不相応に卓越した人生観と人を見極める慧眼の持ち主で妻の八咲と共に鬼殺隊の隊士達のカウンセラーのような役割を果たしている。炭治郎をとても気に入っている。

浅田八咲(あさだやえ)
哲樹の愛妻。二十代半ばの女性。夫と自分を救ってくれた鬼殺隊、特にしのぶには心から感謝している。人を見る目が優れた慧眼の持ち主でかつ、話し上手なため夫と共に鬼殺隊の隊士達のカウンセラーのような役割を果たしている。


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第参話 病んだ藍蝶は日輪の陽に癒される

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*神崎アオイについてオリジナル設定あり。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月一日(土)

時間帯:昼

天気:晴れ時々曇り

 

 

「ん…………ん〜〜。」

 

鬼殺隊隊士・竈門炭治郎が蟲柱・胡蝶しのぶと共に昼頃に蝶屋敷に帰還して、炭治郎がしのぶの心を覆っていた闇を照らしその()()()の闇を祓う事に成功した後、そのまま互いに抱きしめ合ったまま眠りに就いていた。

 

炭治郎は目を擦って残っていた眠気を払うと、時間を確認するために時計を見る。すると自分達が寝てから、思っていたより時間は経過していない。そして部屋の(ドア)付近からある匂いに勘付く。

 

――真新しい人の匂い…………これはアオイさんの匂いだな。気を遣わせちゃったかな。

 

アオイが炭治郎達の寝姿を見て落ち込んでる事を微塵も考えていない炭治郎は、見当違いな勘違いをしてから自分の身体の上に乗っかって無防備に寝ているしのぶを見る。

 

その可愛らしさに笑みを零しながら、頭を撫でようと手を伸ばし掛けた。しかし、クン、と一度匂いを嗅ぐと手を止めた。

 

「……しのぶさん、おそようございます。起きてますよね?」

 

「……バレちゃいました? 本当に便利ですねー炭治郎君の鼻は。」

 

しのぶは「てへ❤」と舌先を出してから、いそいそと炭治郎から起き上がり、寝台(ベッド)から降りてタン、と軽い音を立ててから立ち上がった。そしてそのままクルッと優雅に回って炭治郎と向き合う。

 

「炭治郎君。私は今、とても爽快な気分です。ありがとうございました。」

 

「お蔭で元気百倍ですよ❤」と満面の笑みを浮かべ、両手をぎゅっと握ってガッツポーズをしてみせた。炭治郎はその仕草に思わず身悶えそうになったが、しのぶから漂うある匂いに気付いてそれを指摘した。

 

「それは良かったです……でも俺、しのぶさんから寂しい匂いを感じます……。」

 

「……っ。本っ当に、便利ですねー炭治郎君の鼻は。」

 

「炭治郎君の前では隠し事は出来ませんね。」と言って炭治郎の言葉に先程の満面の笑みは影に潜み、指摘通り寂しさを感じる笑みへと変わる。

 

「あの……もしも、俺がしのぶさんにまだ甘えていたい、と言ったらどうしますか?」

 

「あら……それは炭治郎君の本心ですか?」

 

「はい。俺がしのぶさんに甘えたいんです。」

 

「〜〜〜。で、でしたら仕方ないですね。うん、仕方ありません。ええ、仕方がありませんとも。んもぅ、炭治郎君ったら甘えん坊なんだからぁ❤」

 

炭治郎の言葉にしのぶは身悶えながら心底嬉しそうにクネクネと身体をクネらせると、炭治郎に近付いてから飛び込むように炭治郎に目掛けて力強く抱き着いた。炭治郎もしのぶを受け止め、抱き返した。

 

しのぶは普段炭治郎が匂いを嗅いでいるようにクンクンと炭治郎を嗅ぐと、蕩けるような笑みを零した。

 

「炭治郎君からは、お日様のような温かくて優しい、良い匂いがしますね。」

 

「自分の匂いがどう言うものか分かりませんが、しのぶさんからそう言って貰えたら嬉しいです」

 

「癖に……成りそうです❤ 十分……いや、十五分だけ…………❤」

 

「時間が増えちゃってますよ。でも、しのぶさん。時間なんて気にせず、俺が満足するまで甘えさせて下さいね。」

 

「……はい❤」

 

二人はそこで会話を打ち切ると、炭治郎は再びしのぶの腰に左手を当て、右手を頭に乗せて撫で始めた。それを合図にしのぶは更にぎゅっと力を込めて炭治郎を抱き締め返した。

 

これではどちらが甘えているのか分かったものではないが、炭治郎としのぶは心底幸せそうに戯れ合いを続け、二人が抱擁を解いて部屋を出たのは、結局目が覚めてから三十分以上が経過してからであった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

一方、炭治郎としのぶが互いに抱き合って眠っていた光景を目の当たりにして、多大な衝撃を受けた神崎アオイは何とか自身の心を落ち着かせて表面上は普段通りに装えるまでに回復していた。

内心ではまだ嵐の如く荒れ果てていたのだが、彼女の生来の生真面目な性分と責任感の強い性格が衝撃から立て直すのに役立った。また、アオイのある一つの決意が彼女を突き動かしていたのもあった。

 

――まだ…………まだしのぶ様と炭治郎さんがお付き合いされていると決まった訳じゃないっ。直接お二人の口から「付き合っている。」と聞いた訳でもないのに私の勝手な判断で決め付けるのは早計だわっ。何とか機会を作って、お二人から直接聞かなきゃ。でもどうやって聞けば…………「先程、仲睦まじく抱き合って眠ってましたけど、お付き合いされているんですか?」なんてとても言えないし……。

 

二人の関係を直接問いただそうとアオイは密かに決意していた。本人達が認めなければ、外野が何と言おうと何の意味もなく、ただの憶測でしかない。

これでもし、アオイの勘違いだったら炭治郎としのぶに余計な迷惑を掛ける事に他ならない。機会を見つけて本人達に直接言質を取ろうと決意したアオイ。

 

そんなアオイに人の気配を感じ、立ち止まる。そして耳に神経を集中すると、楽しそうな笑い声の混じった声が聞こえた。

 

――炭治郎さんとしのぶ様だっ!……「仲が宜しいですね。もしかして、お付き合いなさってますか?」とさり気無く近付いて思い切って質問してみようかしら?

 

そう思ったアオイだが、彼女の思考とは裏腹に身体は近くにあった物置の部屋へと進んで身を隠した。まるで炭治郎達から見られては困ると言わんばかりに潜み隠れた。

 

――な、何で隠れちゃうのよ私の馬鹿っ! 別に疚しい事なんてないじゃないっ!

 

自身の行動と思考が合ってない事に戸惑いながらじっとしていると、炭治郎としのぶが物置の前まで来た。そして二人は足を止めて会話を続けた。

 

「炭治郎君、此処までで良いですよ……ですが、今度こそ安静にしていて下さいね。分かりましたね?」

 

「分かりました。しのぶさんの言う通りに安静にしています。」

 

「よしよし、良い子です。」

 

しのぶはそう言うと炭治郎に微笑んだ。だが直ぐに真顔になってキョロキョロと周囲を確認し、誰もいない事を確信すると炭治郎に抱き着いた。しのぶからの抱擁に驚く炭治郎。

 

「しのぶさん……?」

 

「大声を出さないで。人が近くに居ない事は確認しましたから……。」

 

しのぶはそう言って炭治郎を黙らせると、顔を上げて炭治郎と目線を合わせる。

 

「炭治郎君、先程は本当にありがとうございました………正直、こんなに気が楽になったのは死んだ姉が生きていた時以来ですっ。」

 

「そんな、大袈裟な…………でもしのぶさんにそう言って頂けると俺も嬉しいですっ。こちらこそ、素敵な一時を過ごせました。ありがとうございました。」

 

しのぶは炭治郎にお礼を言うと、炭治郎も恐縮だと言わんばかりにしのぶに返礼した。するとしのぶは顔を赤く染めて先程と違い、口籠りながら会話を続けた。

 

「その…………時間が有る時で私達が二人揃った時でないと駄目ですが…………そ、その時は炭治郎君は何時でも私に甘えに来て下さいねっ。私、待ってますからっ。」

 

「……はい、その時は遠慮せずしのぶさんに甘えに行きますねっ……ぷっ、くくく。」

 

「わ、笑わないでくださいよぉ。」

 

「すみません、しのぶさんがつい可愛くて。」

 

「~~~❤」

 

炭治郎はしのぶが頑なにも「私が炭治郎に甘えたい❤」と素直に言わない事が可笑しくて、されど可愛過ぎて仕方がないのか、つい押し殺していた笑いを漏らすと、しのぶは顔を赤くしてそれに抗議した。

尤も炭治郎がしのぶに誉め言葉を口にすると、今度は別の意味で顔を赤くしたが。

 

そして二人は離れると、炭治郎が「失礼します。」と言ってその場を離れた。しのぶは炭治郎の背が見えなくなるまで見送ると、あの時の事を思い出して幸せそうに笑う。

 

「……ふふっ❤」

 

そう笑ってから、機嫌良く軽い足取りでその場を離れた。

 

「…………。」

 

アオイは先程のやり取りを一部始終、自身の耳で聞いていた。物置から出ようとしたが、足腰が言う事を聞かない。そして膝を抱えて座り込んだ。

 

「大丈夫……大丈夫よ、アオイ。しっかり、しっかりなさい。御二人から直接そうだと聞いてもいないのに、勝手な判断で決め付けなんて良くないわっ……そうよ、まだそうだと決まった訳じゃないわよっ。」

 

アオイは自身を鼓舞するように言い聞かせた。しかし青みがかった両眼の色彩は消え、虚ろな眼から涙が止まらなかった。

その日、しのぶと炭治郎に何回か会う機会はあったのだが、とても関係について聞く勇気は無く、業務だけ熟して眠りに着いた。

その働きっぷりは普段よりキレが一切無く、普段しない様な失敗も多かった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月三日(月)

時間帯:朝

天気:晴れ

 

 

次の日の二日目は昨日以上に、アオイは元気を無くして業務に普段ならしないような失敗を繰り返した。

アオイは昨日と同様に周囲に感づかれないように平静さを装ったが、時間が経つに連れ小さくとも失敗は増え続け、二日目の夜にはアオイの様子に気付いたなほ達がアオイを心配して休むよう進言した。

しかしアオイは頑なに聞かないので、三日目の朝には、すみが炭治郎を引っ張って来て洗濯物を干そうとするアオイを説得しようとした。

 

「アオイさん。きよちゃん達も心配しているから、休んだ方が良いと思うよ。別に少しくらい休んだって、誰もアオイさんを責める人なんかいないんだからっ。」

 

「大きなお世話です。炭治郎さんは私の事なんか放っておいて下さい。そもそも、炭治郎さんはしのぶ様に安静にしているように言われている筈です。私なんかの相手なんてしてないで部屋に戻って下さい。」

 

「アオイ、炭治郎君の言う通りですよ。」

 

「……っ。」

 

取り付く島もないアオイの拒絶するような言い方に炭治郎は困り果てていたが、事態を知って駆け付けたしのぶがアオイに近づいた。

アオイはしのぶの姿を見て動揺を隠せない。

 

「第一、何なのですか? 貴女の事を思って炭治郎君は言ってくれているのに、その言い草はなんです? 今すぐ炭治郎君に謝罪して言う通りに休みなさいっ。」

 

「っ! お言葉ですが、しのぶ様。私は別に休む必要など御座いませんのでご心配なく。私の事なんかお気になさらなくて結構ですっ。」

 

普段ならしのぶに対して絶対に言わないような毒の籠った返答に、炭治郎を始め周囲は唖然となる。しのぶも驚きを隠せなかった。

 

「…………でしたら柱として貴女に命じます。神崎アオイ。今直ぐ、直ちに全ての業務を終了して自室待機してなさい。良いですか? これは上官命令です。」

 

「……卑怯な真似をっ。」

 

鬼殺隊の最高位である柱の命令は一隊士如きでは逆らう事など絶対に出来ない。

組織である以上、上下関係は絶対だった。

しかしアオイは不服と言わんばかりに俯いて毒を吐くが如く言葉を口にした。尤も、アオイの声が小さ過ぎて誰にも聞こえなかったが。

 

「聞こえませんでしたか? ならもう一度だけ言います。今直ぐ、直ちに全ての業務を終了して自室待機してなさい。従わなければ、拘束してでも休ませますよ?」

 

「ちょ、しのぶさん……それは幾ら何でもあんまりでは……?」

 

「良いんですよ、炭治郎君。聞き分けの無い分からず屋にはそれぐらいが丁度良いんです。アオイが素直に言う事を聞いてくれたらそんな面倒な事はしません。」

 

「だ………せ………こ………の………っ。」

 

「「ん?……アオイ(さん)?」」

 

炭治郎はしのぶのきつい言葉に思わずアオイを庇ったが、しのぶは聞かず炭治郎を制した。

その時アオイは何かを口にしたようだが、炭治郎としのぶには声が小さすぎて聞こえなかったので聞き返した。

 

「誰のせいで私がこんな思いをしていると思っているのよっっ!!??」

 

『っ!?』

 

アオイの怒りに満ちた絶叫に周囲は騒然となる。アオイの顔は真っ赤に染まり、眼からは怒りの業火が見て取れた。

 

「こ………の………っ!」

 

「ちょ!?………アオイさん!!」

 

アオイは洗濯物が入った籠を投げ付けようとしたが、フラっと身体を揺らすと籠から手を放して意識を失った。

炭治郎が慌ててアオイを受け止めたため、アオイは地面に叩き付けられる事は無かった。

 

「アオイさんっ!? アオイさんっ!!??」

 

「炭治郎君っ! 今直ぐ、アオイを医務室まで連れて来て下さいっ!」

 

「はいっ!」

 

しのぶは動揺を抑えて、炭治郎にアオイを運ぶよう指示した。炭治郎は即諾してアオイを医務室まで運んで行った。すみ達は泣きながら心配そうにその様子を見送った。後には散らばった洗濯物だけが残っていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「風邪ですね。過労と心労のせいで、重症化してます。」

 

熱冷ましを何とかアオイに飲ませた後、意識を失い寝台(ベッド)で横になっているアオイを医務室で診察したしのぶは診断結果を炭治郎に伝えていた。

 

「そうですか………アオイさん、頑張り屋さんだから無理しちゃってたんだろうなぁ。」

 

「ええ、全く。炭治郎君と良い勝負です。貴方もアオイみたいにならないで下さいね?」

 

「あ、あはははは………善処します。」

 

しのぶの唐突な忠告に、炭治郎は乾いた笑みで笑いながら答えた。そして話題を変えようと炭治郎は思い付いたある提案をしのぶに進言した。

 

「そうだっ! あの、しのぶさん! その……アオイさんがしているお仕事ですが、俺に引き継がせて頂けませんか?」

 

「炭治郎君が、ですか? その申し出はありがたいですが、良いのですか?」

 

「はい、現場復帰どころか、機能回復訓練への参加もまだ無理な状態ですけど、身体を動かしたかったんです。尤も、アオイさんみたいに薬の調合は出来ませんし、包帯だって上手に出来るかは分かりません。ですが医療に関係した仕事は兎も角、包帯の巻き方はなほちゃん達から教わります。後、掃除や洗濯、料理は得意ですから大丈夫です!」

 

「これでも長男として、弟妹達の世話をしながら家事を熟してましたから!」と太鼓判を押すように自信を持ってしのぶに笑顔で断言して見せた。

しかしその時、死んだ弟妹達を思い出したのか炭治郎の笑顔に少しばかり陰りが見えた。しのぶはそれを見逃したりはしなかったし、ましてや指摘するような無粋な真似はしなかったが。

 

「……分かりました。炭治郎君がそこまで言ってくれるなら、私の方からでもお願いしたいと思います。アオイにはその間、休んで貰いましょうか。」

 

しのぶは寝ているアオイを見ながら、炭治郎の好意を無碍にはすまいとその提案を承諾すると、炭治郎は早速「じゃあ、今から洗濯物片付けてきます!」と医務室から退室してきよ達の下へ走って行った。

 

「……ほんと、何処までもお人好しで、優しい人なんですから。炭治郎君は。貴女もそう思いません? アオイ?」

 

しのぶは顔を赤くしたまま寝ているアオイに向かって話し掛けた。尤も、しのぶは返答など期待していなかったが。

しかし、しのぶが声を掛けたおかげか、アオイは「う〜〜〜〜〜ん。」と呻き声を出した。

しのぶはまるで自分がした質問への返答のようだと笑ってから医務室を出た。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月三日(月)

時間帯:昼

天気:晴れ

 

 

「……ん………っ。」

 

「っ! アオイさんっ! 目が覚めたんだね!」

 

正午を丁度過ぎた辺りに、アオイは目を覚ました。偶然その時にいた炭治郎が目を覚ましたアオイに気付き歓喜の声を上げた。

 

アオイは起き上がろうとしたが、熱冷ましのおかげで多少はマシとは言え、起き上がる気にはなれ無かった。またアオイが起き上がる気を起こさなかった理由がもう一つあった。

 

 

 

 

 

グゥ〜〜〜〜

 

 

 

 

 

空腹感である。アオイはこの三日間は食事も普段より喉を通らなかった。それもまたアオイが倒れる要因の一つになったのだが。

アオイは大音量が鳴る自身のお腹を恥ずかしく思ったが、炭治郎はくすっと笑うと「アオイさん、ちょっとだけ待っててね。」と言って医務室から出た。

 

暫くすると、炭治郎がお盆に乗せた土鍋を持って来た。茶碗と匙も水も隣に有った。

 

「お待たせ、重湯を持って来たよ。お粥でも良いかと思ったんだけど、やっぱりアオイさんが心配だったからっ。」

 

アオイは炭治郎の優しい気遣いに思わず涙が出そうになったが、炭治郎の次の発言でアオイはそれどころでは無くなる。

 

「食べるの手伝うから、アオイさんは口を開けて。はい、あーん。」

 

「………っ?!………あ、あーん。」

 

アオイは炭治郎の行動に仰天したが、身体が重くて自力での食事は難しそうだったため、炭治郎の好意に甘える事にした。

 

重湯の味は塩のみと淡白な味わいだったが、アオイにとって丁度良い塩加減であった。最初は見えていなかったが、別の小鉢で一緒に付いていた梅干しも良い刺激になった。

食べさせて貰っている内に炭治郎が持って来た重湯はあっという間に無くなった。

 

「ご、ご馳走様でした。」

 

「お粗末様でした。アオイさんが美味しそうに食べてくれて、俺も作った甲斐が有ったよ。あっ……これ、しのぶさんが調合したお薬だよ。解熱剤と疲労回復薬だけど、ちゃんと飲んでね。」

 

「はい……炭治郎さんがこの重湯を作ってくれたんですか?」

 

「うん。実はね……。」

 

アオイの質問に炭治郎が、アオイが倒れてから起きた事の要点だけを説明し始めた。

アオイは過労が原因で風邪を引いた事。

炭治郎がまだ現場復帰はおろか、機能回復訓練への参加も許されていないため、身体を動かしたいと言う名目でアオイの仕事の引き継ぎを提案し、しのぶが許可した事。

現状、炭治郎には出来ない医療関係の業務はしのぶが担当し、主に料理・洗濯・掃除を中心とした雑務は炭治郎が担当すると言う役割分担が上手く行っている事。

 

「アオイさん、何時もありがとう。だから今はお仕事の事は気にしないで。全部俺達に任せて、アオイさんには療養に専念して欲しいんだ。」

 

炭治郎は太陽のような笑顔でアオイに労いと感謝の言葉を送り、療養をお願いした。

 

「……っ……うぅ……ひくっ……うぐっ……うぅ〜〜っ。」

 

「アオイさん……っ?」

 

泣き出したアオイに炭治郎は戸惑いを隠せない。アオイが悲しい匂いを発しながら泣き始めたからだ。

アオイは嗚咽を漏らしながら懺悔をし始めた。

 

「わ、私は、愚か、者です……っ……っっ……ひ、一人で勝手に、悩んで、怒って、苦しんで……皆さんを、巻き込んで、め、迷惑を掛けてる……っ……最低の女です……っ!」

 

「アオイさん……。」

 

「わ、私は……しのぶ様達に……ひくっ……拾われなかった……ら……い、今、蝶屋敷(ここ)には、居なかった……! 無能者の私は……それなのに……っ!」

 

「そんな大恩あるお方に、あんな……あんな酷い事を……っ! も、もう自分が情けなくて、恥ずかしくて今直ぐ死んでしまいたい……っ!」

 

「っ! 巫山戯るなっ!!!」

 

「……っ!?」

 

アオイの悔恨から来る悲痛な言葉を、炭治郎は激昂して否定した。声を荒げて怒る炭治郎の姿にアオイは驚く。温厚な炭治郎が激昂する姿など初めて見たアオイは、そんな炭治郎を見て動揺を隠せず、顔を俯かせて口を噤むしかなかった。

 

「迷惑を掛けてるから? 自分が情けないから? 恥ずかしいから?……その程度の理由で、それだけの理由で死にたいだなんて言葉を軽々しく口にするなっ! アオイさんは自分の命を何だと思っているんだっ!?」

 

「………っ。」

 

「………アオイさんは、どうしてそう、そんなに自分で自分を呪うような事を簡単に口にするんだっ。」

 

「炭治郎……さん?」

 

アオイは炭治郎から怒気ではなく悲しみを感じて、俯いていた顔を上げる。そこには目を湿らせ今にも泣きそうな炭治郎の顔があった。

 

「……ごめん。俺はその程度の理由とか、それだけの理由って言ったけど、しのぶさんに大恩あるアオイさんにとってはそんなことなかったかもしれない。でも聞いて、アオイさん。貴女は自分をよく卑下したり、無能だの臆病者の腰抜けだのと自嘲したりするけれど、アオイさんはそんな人なんかじゃないっ。」

 

炭治郎は一呼吸置くと、しっかりアオイと目を合わせてから話を続けた。

 

「アオイさん。貴女は凄い人だっ。

自分は戦えない剣士だと言うけれど、カナヲとほぼ互角に戦えるだけの実力があるじゃないかっ。

ううん、たとえ戦わなくても、アオイさんはこの蝶屋敷で誰よりも率先して働いて、鬼殺隊の役に立っているよ。

アオイさんが作ってくれる美味しい料理が、鬼殺隊士(俺達)の血肉になって戦う力を与えてくれる。

アオイさんが蝶屋敷を常に綺麗で清潔にしてくれているから、皆が快適に過ごせて安心して休む事が出来ているっ。

アオイさんが治療を手伝ってくれているから、訓練に協力してくれているから、怪我をした隊士達は元気になって、現場復帰してまた鬼と戦う事が出来るんだっ。」

 

「これでもまだ、アオイさんは自分が無能者の役立たずだって言う事が出来る?」と炭治郎はこれでもかとアオイの功績を語り並べて見せた。炭治郎は続けてこう言った。

 

「誰が何と言おうと。いや、たとえこの世の全てがアオイさんを否定したって俺は何度でも胸を張って、声を大にして言えるよっ。神崎アオイさんは凄い人だ! ってね……だからもう、自分で自分を傷付けて否定しないで欲しい。アオイさんにはもっと自信を持って、胸を張って生きて欲しいんだ! ……こんな俺の言葉だけど、アオイさんの心に届いてくれたら嬉しいな。」

 

「――っっ!!」

 

炭治郎はそう言い終えるとアオイに向かって微笑んだ。その際に片眼から一筋の涙が流れた。炭治郎の温かい励ましの言葉の数々に、アオイは声にならない声を上げて大粒の涙を流す。両腕で涙を拭うが、止まる気配はない。炭治郎はアオイに近づいて、アオイの頭を優しく抱えて自分の胸に押し当てた。

 

「アオイさん、遠慮せず好きなだけ泣きなよ。いっぱい泣いて、溜まっていたものを涙と一緒に出しちゃおうよ。そうしたらきっと早く元気になれるから。俺で良ければ、アオイさんの気が済むまで傍にいるから、勝手に何処か遠い所へ離れて行ったりしないからっ。」

 

「………~~っ………~~~っっ………~~~~っっっ………。」

 

アオイは泣きながら炭治郎の腰に両腕を回して絶対に離れない、絶対に離さないと言わんばかりに強く抱きしめた。炭治郎はそれに答えてアオイの頭に手を置いて優しく撫で続けた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「アオイさん、少しは楽になった?」

 

「はい……炭治郎さんのおかげでとてもスッキリした気分です。」

 

アオイは憑き物が落ちたような笑顔で答えた。心做しか、熱も下がって顔の赤みも薄くなったようにも見えた。

 

「良かった……あの件についてしのぶさんも俺も気にしてないから。一言、ちゃんと謝ればしのぶさんも絶対に許してくれるよ。」

 

「はいっ。」

 

「よし、じゃあもうこの話はこれで終わりって事で………あのさ。アオイさんに質問なんだけど、しのぶさんの部屋で俺がしのぶさんと一緒に寝てるとこ、見たりしてない?」

 

炭治郎の質問にアオイはビクッ! となったが、一呼吸おいてから意を決して、アオイは炭治郎に正直に話す事を決めた。

 

「……はい、見てました。」

 

「やっぱりそうか。あの時アオイさんの匂いがしたから、見ていたんじゃないかって思ったんだっ。」

 

炭治郎は疑問が解けたからか、納得したような表情を見せた。一方のアオイは少し悲しそうに、なれど悲壮な覚悟を持って炭治郎に兼ねてからの質問をした。

 

「あの……炭治郎さんはしのぶ様と、その、お付き合いされているんですか?」

 

「………そう言われると、違う、としか言えないかなぁ……っ。」

 

「それは………どういう意味でしょうか?」

 

一緒に抱き合って眠るなどもはや恋人同士としか言えないのではないか。アオイはそう疑問に思って質問すると、炭治郎は少し悲しそうに、寂しそうに話し始めた。

 

「俺、しのぶさんに「大好き。」ってちゃんとそういう気持ちで言ったんだけど、その時に返事が貰えなくてさ……恐らく何だけど、多分しのぶさんは俺を兄弟……弟のようにしか見て貰えてない気がするんだ。」

 

「それはそれで嬉しいけどね。」と付け加えたが、炭治郎は残念そうに見えた。アオイは再び口を開こうとした瞬間、コンコンとノック音が扉の外側からした。炭治郎が「どうぞ。」と言うと扉が開いて一人の女性が入室してくる。その女性とはしのぶだった。

 

「失礼します……あら? 炭治郎君じゃないですか。なほ達が探してましたよ?」

 

「すみません、今から戻ります。アオイさん、また夕食を持って来るから。」

 

炭治郎はそう言って食器と共に医務室から退室した。アオイは「あ……。」と思わず手を伸ばしそうになったが止めた。

 

「アオイ。熱を測りますよ、それと身体の調子は如何ですか?」

 

「はい、大分良くなりました……でもっ。」

 

「でも?」

 

「あの……しのぶ様、先程の件は誠に申し訳ございませんでした!」

 

「その事でしたら、別に気にしなくても大丈夫ですよ……ですが何故、そう至ったのかは話してください。」

 

「はい…………実はしのぶ様が炭治郎さんと抱き合って寝ているところを目撃してしまって…………。」

 

「えっ゛?」

 

アオイが話した瞬間、しのぶの笑顔がそのまま固まる。アオイはピシッ! という幻聴を耳にした。一瞬の沈黙が場を支配した後、その沈黙を破ったのはしのぶだった。

 

「ア、アオイは何を目撃したのか、も、もう一度だけ言って貰えますか?」

 

「は、はい。しのぶ様が炭治郎さんに覆い被さるように、お互いを抱き締め合いながら寝ていらしたのを見ました。」

 

アオイは内心で苛立ちを覚えながらも、今度は詳細に説明した。するとしのぶは笑顔のまま脂汗を流し始める。

 

「…………あ、あはははははは。そうですか、見られてましたか……炭治郎君はその事を知っているのですか?」

 

「はい。私の匂いが残っていたので、来ていた事は察していたそうです。」

 

――炭治郎君、どうして私には言っておいてくれなかったのですか!? と言うか、起きた瞬間に教えてくれても良かったのに!!

 

後で絶対に炭治郎にお仕置きをする。いや、どうやってお仕置きしてくれようかと炭治郎への八つ当たりを大真面目に思考し始めたしのぶに、アオイは炭治郎の時と同じ質問をぶつけた。

 

「あの…………お聞きしたいのですが、しのぶ様は炭治郎さんとお付き合いされているのですか?」

 

「付き合っては……いないですねぇ。」

 

「……若い男女が同じ床で共に寝たのに、ですか?」

 

アオイは嫉妬心を抱きながら、しのぶに追求する様にそう尋ねた。

 

「ええ、残念ながら。炭治郎君は私に「大好き。」と言ってくれたのですが、肝心の私は嬉しすぎて返事するのを忘れて抱き着きましたし……でも恐らく炭治郎君は禰豆子さんと一緒で……私を妹のようにしか見てないと思うんですよねぇ。」

 

しのぶはそう言って「私の方が年上なんですけどねぇ。あはははははは。」と笑ったが、その後「それで良かったのかもしれない。」とかなり落ち込みながら言ったのをアオイは聞き逃さなかった。

 

「あ、あの。」

 

「アオイ。まだ熱が下がっても疲労は残ったままですから、後二日は休んで英気を養うように。良いですね?」

 

「は、はい。分かりました。」

 

しのぶはそう言い終えて、気持ちが沈んだ様子で医務室から退室した。アオイはしのぶからずーんという幻聴が聞こえた気がした。そして少しすると、アオイは思わず呟いた。

 

「もしかしなくても、しのぶ様も炭治郎さんも、お互いに勝手にフラれたも同然と勘違いしてるの?」

 

アオイの呟きに、答えてくれる者は誰もいなかった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月三日(月)

時間帯:夕方

天気:晴れ

 

 

炭治郎がアオイの夕食である卵粥を持って医務室にやって来た。アオイは炭治郎と二人でいる時間を大切にしたくて、アオイは一人で食べようと思えば出来たのに、それを隠して炭治郎に食べさせて欲しいと懇願した。炭治郎は承諾して昼食の時と同様に食べさせた。

 

「炭治郎さんが作ってくれた卵粥、とても美味しかったです。ご馳走様でした。」

 

「お粗末様でした。アオイさんがそう言ってくれるから作り甲斐があるよ。」

 

そこから二人は食後の談話を始めた。ちなみに食器は様子を見に来たきよが代わりに持って行ってくれた。

 

「あの、炭治郎さん。お願いがあるんですけど良いですか?」

 

「勿論。俺に出来る事なら何でもするよ。遠慮せずに言ってご覧よ。」

 

「は、はい。この部屋って医務室じゃないですか。だからあまり長期間、私が使用するのはしのぶ様にご迷惑だと思うんです。」

 

「成程っ。じゃあ、アオイさんは自分の部屋に行きたいんだね?」

 

「はい。で、でも一人で部屋に行くのはちょっと億劫でして……お手数をお掛けしますが、手伝って頂けないでしょうか?」

 

「うん、喜んで。お安いご用だよ。」

 

「え、きゃぁっ!?」

 

炭治郎は笑顔で承諾すると、アオイに近づいてひょいっと抱き上げた。所謂「お姫様抱っこ」だ。アオイは炭治郎の行動に歓喜と困惑の交えた様子で質問する。

 

「あ、あのっ。炭治郎さんっ、こ、これって……!」

 

「ん? これがアオイさんにとって一番、負担が少ないと思ったんだけど? 嫌だったら肩だけ貸そうか?」

 

「い、いえ。そうではなくてですね。私、お、重くないのかなぁって。」

 

「……ぷっ、あはははははは。アオイさんが重たい訳がないじゃないか。むしろ軽くて心配なくらいだよっ。」

 

そう言って笑いながらアオイを抱えて進み始めた。アオイはこの一時が嬉しくて炭治郎の首に手を回した。

 

「あら、炭治郎君と……アオイ?」

 

「しのぶさん、お疲れ様です。」

 

「お、お疲れ様です。しのぶ様。」

 

アオイの部屋に向かう途中で、炭治郎とアオイはしのぶと出会った。しのぶは二人の姿を見て僅かながら動揺していた。

 

「あの、炭治郎君。これは一体何事ですか?」

 

「はい。アオイさんが自室で休みたいと言ったんで、こうしてアオイさんをお部屋まで連れて行ってるんですよ。」

 

「そ、そうですか。しかしあまり炭治郎君に甘え過ぎてはいけませんよ。アオイ、自力では歩けないんですか?」

 

「しのぶさん、俺が好きでやってるんで大丈夫です。あまり気にされなくても結構ですよ?」

 

しのぶがアオイに苦言しようとしたが、炭治郎に阻止される形でそれは終わった。しのぶは渋々「分かりました。アオイ、大事にね。」と言うとその場を去った。しかし、しのぶとすれ違った際にアオイの耳にはしのぶがぎりっと歯軋りする音が聞こえた気がした。

 

この時、それを聞いたアオイの心中に湧き上がった感情はしのぶへの罪悪感ではなく、しのぶを差し置いて炭治郎を独占している事実への歓喜と優越感だった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

アオイの自室についた炭治郎は抱えていたアオイを優しくゆっくりと寝台(ベッド)に下した。

 

「炭治郎さん、ありがとうございました。」

 

「どう致しまして。アオイさん、他に俺に何かして来て欲しい事はないかな?」

 

アオイは炭治郎の言葉に少し考えてから、一つ頼み事をした。

 

「で、では手桶一杯のお湯と手拭いを二枚持って来て頂けないでしょうか?」

 

炭治郎は承諾してそれをアオイの自室まで持って来た。

 

「アオイさん。言われた通り持って来たよ…………じゃ、じゃあ俺は部屋の外に出てるからっ。」

 

「待ってっ!!」

 

アオイが手桶一杯のお湯と手拭い二枚を使ってこれから何をするのか分からない程、炭治郎は鈍感ではない。急いで部屋の外に出ようとしたが、アオイが大声を出して炭治郎が退室するのを阻止した。

 

「炭治郎さん。一人では背中までは手が届かないので、代わりに拭いて頂けないでしょうか?」

 

「ア、アオイさん。俺は男だから、それならすみちゃん達を呼んで来てやって貰った方がっ。」

 

「私は炭治郎さんがっ! 良いんですっ!」

 

アオイの必死の懇願に炭治郎は面食らい根負けする。

 

「…………分かった。そこまで言うなら、俺がやるよ。でもアオイさんに嫌な思いは絶対にさせたくないから、何かやっちゃったらすぐに言ってね?」

 

「はいっ!…………では服を脱ぐので少しの間後ろに向いていて下さい。」

 

炭治郎はアオイの言葉に直ぐ回れ右をして部屋の扉と対面した。スルスル、バサッと脱げて行く服の音だけが炭治郎の耳に入ってきたが、炭治郎は緊張感でそれどころではなく、「禰豆子と同じ事をやるだけ、禰豆子と同じ事をやるだけ。」と必死で脳内で念仏のように唱えていた。

 

「……良いですよ。炭治郎さん。」

 

そう言われて炭治郎は再び回れ右をしてアオイと向き合い、そして息を呑む。

そこには胸を隠すように両腕を前に組んで丸椅子に座る全裸のアオイがいた。

後ろ姿だけであったが、その状態からでも分かる猫のようなスラリとした肢体。

白くてシミ一つない瑞々しく美しい肌。

背中越しからでも分かる腕から溢れそうな豊満な乳房。

抱き締めたら折れてしまいそうな括れた腰。

小さ過ぎず、かと言って大き過ぎない形の整った臀部。

現場から離れていても鍛錬を怠っていないおかげか、市井の娘にはない鍛えられた、されど女性らしさを損なっていない健康的で細身の美しい筋肉質の芳体がそこにはあった。

また、僅かに見える臀部の割れ目が殊更、アオイの色気を増大させた。

アオイの裸体を見て、炭治郎は高名な芸術家の彫刻品を見ているような錯覚に陥っていた。

アオイもまた自身の裸体を炭治郎に晒している緊張感からか、何も言わずに黙っていたが、沈黙を貫いている炭治郎に堪らず声を掛けた。

 

「あの……何か言って頂けませんか? 黙っていられると不安になるし、困るんですけど……?」

 

「……っ! ご、ごめん。あまりに綺麗だから、その、見惚れてて。」

 

「……ありがとうございます。そう言って貰えて私も嬉しいです……背中、お願いしますね。」

 

「うん……その、アオイさん。大きなお世話になるかもしれないけどさ、こう言う事は今後、間違っても善逸とかには頼んじゃダメだよ?」

 

「ぷっ。くくっ、あはははは! 炭治郎さん、安心して下さい。こんな事は後にも先にも、私は絶対に貴方にしか頼みませんから。」

 

「それは……男として喜んで良いのかな……? ま、まぁ良いか。じゃあ、始めるよ?」

 

炭治郎はアオイの発言に複雑な思いをしながら、お湯に濡らした手拭いを持ってアオイの背中を拭き始める。

 

「ん❤……んん❤……あぁん❤……はあぁん❤……。」

 

「俺は何も聞こえない…………俺は何も聞こえてない…………こ、こんな感じでどうかな!? アオイさん!?」

 

「ありがとうございます……私はこれから拭ける所を自分でやりますけど、そのまま見てても良いですよ?」

 

「き、気持ちだけ貰っておくよ!」

 

炭治郎はそう言って急いで回れ右をした。そして一息ついたが、お湯の跳ねる音が聞こえる度にアオイの芳体を想像してしまい、悶々としてしまう。また、炭治郎の意思に反して下半身の愚息が膨張し始めて、洋袴(ズボン)に当たり痛みを生み出している事にも困っていた。それから濡れていない手拭いで身体を拭く時もまた、苦労をするのであった。

アオイは身体を拭き終わると、寝間着に着替えて寝台(ベッド)で横になった。そこに炭治郎が近づいて行く。

 

「アオイさん、これで全部?」

 

「いえ、最後に……最後にもう一つだけあるんです。」

 

「良いよ。言ってご覧よ。」

 

炭治郎は此処まで来たら何であろうとドンと来いという気持ちで、アオイの頼みを聞く姿勢を取る。そしてアオイは願いを口にした。

 

「体が弱っているからでしょうか、ちょっと心細いんです……だから、だからっ。」

 

「私が寝るまで手を握っていてくれませんか?」とアオイは言おうとした。だが彼女は無意識に別の事を言ってしまう。

 

「私が寝るまで一緒に添い寝してくれませんか?」

 

「「………えっ゛?」」

 

炭治郎は一瞬アオイは何を言っているのか分からなかったが、アオイはそれ以上に混乱していた。

 

――違う違う違うっ!! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ!!! 一体何を言ってるのよ私はっ!?

 

アオイは直ぐにその失言を訂正しようとした。そして炭治郎とほぼ話す瞬間が被る。

 

「あのっ!「良いよ。」……え?」

 

「俺で良ければ、アオイさんが寝るまで傍にいるよ。遠慮しなくても大丈夫だから、ね?」

 

「あ……はい❤」

 

アオイは無意識のうちに抱いていた心底の願望が叶った事に歓喜しながら、寝台(ベッド)の寝ていた位置から少し移動して、炭治郎が入れる間を開ける。二人でギリギリの大きさだ。

そして顔を合わせる炭治郎とアオイはどちらからともなく会話を再開した。

 

「炭治郎さん。今日は今日は私の我儘を沢山聞いて下さってありがとうございました。」

 

「ううん。こっちこそ、新鮮なアオイさんが見れて良かったよ。」

 

「あと……今更なんですけど、もし風邪が伝染(うつ)っちゃったらすみません。」

 

「俺は頑丈だからきっと大丈夫だよ。でももし風邪を引いちゃったら、その時はアオイさんに看病を頼んで良いかな?」

 

「も、勿論です! その時は喜んでお世話させて頂きますから!」

 

炭治郎とアオイはそのまま二人で会話を続けていたが、時間が経つに連れて睡魔が襲って来た。最初に眠りに就いたのは意外にも炭治郎の方が先だった。暗くて見えないが、炭治郎の寝息が自分にギリギリ掛かっているので位置に間違いはない。炭治郎の顔を想像しながらアオイは独自を続けた。

 

――私より先に寝るなんて、やっぱり炭治郎さんも慣れない事をやって相当疲れていたのかしら? でも本当に、今日は色んな事が起きたけどとっても楽しかったし、嬉しい事が沢山有った、素敵な一日だったなぁ。

 

アオイは今日あった事を思い出して思わず、笑みを浮かべる。だがある事を思い出して顔を顰めた。

 

――炭治郎さんとしのぶ様、今こそお互いに失恋したみたいになってるけど、どちらかが動けばすぐ好転する関係なのよね……応援しなきゃいけない……よね……カナヲが御二人の事を知って発狂しなきゃ良いけど……。

 

 

 

 

ズキッ!

 

 

 

 

――〜〜っ! 胸に痛みが……この痛みはっ……これって……ああ、やっぱりこれって…………。

 

アオイは此処に来て漸く自覚していた。自分はしのぶに嫉妬していたのだと。それは即ち神崎アオイが竈門炭治郎にある想いを抱いて居る事に他ならない。

 

――そうよね…………そうだよね…………じゃなきゃ身体を拭かせるなんて真似、嫌だったら絶対にさせなかったもの。炭治郎さんに拭いて欲しかったから頼んだんですもの。認めよう、認めなきゃ。しのぶ様にもカナヲにも悪いと思ったけど、やっぱりこの想いは無視出来ない、誤魔化せない、諦め切れない。ううん、諦めたくない。私は、私は炭治郎さんの事が好きっ………………大好きっ…………❤️

 

アオイは自身の心の奥底から芽生えて花開いていた恋心の確かな存在感を認めると、心中に抱えていたものがストンと落ちて心身が軽くなったような気がした。

そして手を動かして炭治郎の顔の位置をそっと探り始める。そして唇の位置を確認するとアオイはそこに向かって顔を近付けた。

 

「炭治郎さんっ、私は……貴方の事が大好きですっ❤」

 

アオイはそう言って寝ている炭治郎に静かに口付け(キス)をした。

 

余談だが、アオイは職場復帰するまでの間、炭治郎に毎晩添い寝を頼んでは炭治郎が寝ている隙に、口付け(キス)を事欠かさなかった。朝、炭治郎より早く起きる事が出来た時も我慢出来ずに口付け(キス)をした。肝心の炭治郎はアオイが細心の注意を払っていたせいか、アオイの行動に気付く事は無かった。




この話は個人的にかなり難産でした。

アオイは炭治郎に強く片思いをしている描写を書きたかったんですよ。しかし終盤のアオイはキャラが崩壊していると言われても否定出来ない(滝汗)。


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第肆話 無垢なる赫蝶は日輪を求める

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・某所

 

大正二年(一九一三年) 三月六日(木)

時間帯:早朝

天気:晴れ

 

 

まだ太陽が姿を現さない、暁闇(ぎょうあん)の薄暗い時間帯。人を喰らう鬼殺隊の怨敵にして宿敵『鬼』が太陽から姿を晒してなるものかと姿を隠し始めるこの時間帯に、一人の美少女が疾走していた。

 

右側のサイドポニーテールが特徴のこの美少女の名は栗花落カナヲ。鬼殺隊が誇る最高位の剣士である柱が一人、蟲柱・胡蝶しのぶの直弟子に当たる継子である。階級こそ鬼殺隊第六位階『(つちのと)』であるが、鬼殺隊の最高位たる『柱』に次いで二番目に高く、かつ一般隊員の最高位である鬼殺隊筆頭位階『(きのえ)』の隊士達を抑えて現在、最も柱に近いとされる実力を持つ天才美少女剣士だ。

 

そんな彼女だが、鬼の討伐任務を完了し、仮眠を取った後に自身の活動拠点である蝶屋敷へと疾走していた。それだけならば何時も通りの事なのだが、今回は事情が違っていた。その要因はカナヲの同期に当たる鬼殺隊隊士・竈門炭治郎にある。

 

カナヲは幼少期、両親に愛されず虐待された経緯がある。自己防衛のために何も感じない、自身では何一つ判断出来ないようになってしまった。人買いに売り飛ばされていたところを胡蝶姉妹に救われたのだが、その自己判断出来ない指示待ちの性格は変わらず、他人からの指示以外は、今は亡き元花柱・胡蝶カナエから渡された表裏の字が片面ずつ刻まれた銅貨による銅貨投げ(コイントス)で全てを決める有様だった。

そんなカナヲだったが、炭治郎との出会いが彼女に激変を齎した。カナヲは息が切れない程度に疾走しながら、その時の様子を回想していた。

 

『この世にどうでもいいことなんて無いと思うよ。 きっと。』

 

『よし! 投げて決めよう!』

 

『カナヲがこれから自分の心の声を良く聞くこと!』

 

『表が出たらカナヲは心のままに生きる!』

 

『頑張れ!!  人は心が原動力だから 心はどこまでも強くなれる!!』

 

『偶然だよ。それに裏が出ても表が出るまで何度でも投げ続けようと思ってたから。』

 

あの時の事を思い出すだけで、カナヲの心は火が灯したように、陽の光が差したように温かくなる。あの地獄と絶望の日々で壊れたと思っていた心は生きていて、あの日に光が差したのだ。蕾のように閉じていた心は、しっかり陽を浴びて花開いたのだ。

以来、カナヲは変わった。その変化は殆ど見ても分からないようなものであったが、少しずつ他の事にも関心を持つようになり、特に炭治郎の事が何時も気になった。

 

炎柱・煉獄杏寿郎の訃報を知った時、真っ先に心配したのはその任務に同行していた炭治郎の容態だった。アオイに頼んで治療の準備を手伝わせて貰い、炭治郎の帰還を待った。炭治郎に会えたら、「おかえりなさい。」と声を掛けてあげたい。あの時のようにお話がしたい。もし傷ついていたら、その年齢不相応に武骨で傷だらけの手を握ってあげたい。とカナヲはそう思ったのだ。

 

しかし、一日千秋の思いで炭治郎の帰還を待つカナヲに鬼の討伐任務の指令が下った。炭治郎を待っていても、鬼は待ってくれない。私情で指令に逆らい、任務を放棄するなど出来る訳が無く、通達して来た自身の鎹烏を斬り殺したくなる衝動と殺意を抑えて任務に向かった。任務が来た以上は、さっさと終わらせて帰ろう。そうカナヲは決意して。

 

カナヲは食事も休息の時間も惜しんで任地に向かい、指令を通達された日の晩に鬼を見つけて一刀両断にした。これで蝶屋敷に帰れる。カナヲが炭治郎を想って急いだ結果、鬼の襲撃から命を救われた夫婦の涙ながらの感謝を聞き流しつつそう思ったが、無情にもそのままカナヲに別の鬼の討伐任務が下ったのだ。

 

カナヲは通達にこめかみをピクピク動かしながら、夫婦に一度会釈をして新たなる任地に向かった。今度こそ、さっさと任務を終わらせて、炭治郎に会いに行こうと決意して。

 

二度目の指令の任地は一度目の指令の任地から一時間程走ったところにあり、討伐対象の鬼は獲物を巡って争っていた二体の鬼を漁夫の利を得る形で纏めて討伐した。

今度こそ帰れる、そう思ったカナヲに不運は続いた。鬼の討伐任務が完了しても矢継ぎ早に任務が通達されたのだ。

 

それも合計で六度もだ。その中には一度に二つの指令を下された事もあった。

鬼が集中して出現した任地に最も近くに居た隊員がカナヲだったと言うのもあったが、それにしてもカナヲは運が無さ過ぎた。

 

三度目の任務が通達された時は青筋を立て、四度目と五度目の任務が同時に通達された時は奥歯をギリっと歯軋りしてから日輪刀に手を掛け、六度目の時はついに我慢出来ずに日輪刀を抜いて鎹烏に斬り掛かろうとした。

 

そんな我慢に我慢を重ねて、漸く帰還命令及び帰還後の休息命令が下った時は、カナヲは心底ほっと安堵したものだ。

 

もしもこれが七度目の討伐任務の指令だったならば、間違い無く鎹烏はカナヲの手で斬り捨てられていた。炭治郎と出会う以前のカナヲならば、何度鬼の討伐任務の指令が通達されようと顔色一変えなかったであろうが。

 

この時既に、杏寿郎の訃報を蝶屋敷で聞いてから五日以上の日々が経過していた。

早く帰還して炭治郎と再会するために、休息を惜しんで東奔西走していた濃密な日々を終え、そこから半日掛けて蝶屋敷に戻るために疾走していたのだ。そしてカナヲは次の日の朝の七時頃に蝶屋敷に到着した。

 

――炭治郎は元気にしてるかな……会う前に身体を綺麗にしてからの方が良いよね……。

 

カナヲは今直ぐにでも炭治郎に会いたい気持ちを抑え、まずは自室に行って着替えを取りに行き、風呂場で身体を念入りに洗ってからなほに炭治郎のいる部屋を聞いて向かった。

炭治郎の部屋へと近付くと、何やら言い争う声が聞こえて来た。しかしそれは炭治郎の声では無い。カナヲは足を進めて部屋に向かいノックもせずに扉を開けた。

 

「………」

 

「貴女もしつっこいですねっ! アオイっ! 何度も言わせないで下さいっ!! 炭治郎君の治療は私が責任を持って行いますので、アオイは普段の業務に戻りなさいっ!! これは上官命令ですよ!!」

 

「しのぶ様こそ真顔で寝惚けた事を何度も仰らないで頂けますかっ! 大真面目に巫山戯た事を言うのも大概にして下さいっ!! 職権乱用も甚だしいですよ!!」

 

そこには顔を赤くして寝込んでいる竈門炭治郎がおり、その隣にはカナヲの師匠である蟲柱・胡蝶しのぶとこの蝶屋敷を任された先輩にあたる鬼殺隊隊士・神崎アオイが怒りのあまり、炭治郎に負けないくらいに顔を赤くし、青筋を浮かべて激しい口論を繰り広げていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月六日(木)

時間帯:朝

天気:晴れ

 

 

カナヲが蝶屋敷に帰還する前まで時間は巻き戻る。

 

「……ん……。」

 

しのぶに休養を言い渡されていたアオイが目を覚ました。しかし彼女は一人では無かった。既に完治していたが、最愛の想い人である炭治郎との過ごす時間が惜しんで添い寝を頼んでいた。

その炭治郎が自分の直ぐ隣で寝ている。アオイはその事実に歓喜しながら、確かに寝ている事を念入りに確認すると、肩に手を置いて静かに炭治郎の唇に口付け(キス)をした。

 

「んっ❤️………んっ?!」

 

炭治郎と口付け(キス)を交わしたアオイは全身に言葉に出来ない幸福感が全身を巡ったが、普段と違う炭治郎の異状に気付いためにその幸福感は跡形もなく霧散し、焦燥感を抱いた。

 

「炭治郎さんっ!?」

 

アオイはガバっと寝台(ベッド)から起き上がると炭治郎の額に手を置いて熱を測る。明らかに常温の熱さでは無かった。

 

「す、凄い熱……っ! 早くっ、速く! しのぶ様に見せなきゃ!!」

 

アオイは着替える間も惜しんで炭治郎を担いで自室を飛び出し駆け出した。鍛錬を休んで十数日経っていたが、それでも体重が六十一kgある炭治郎を一人で担いで駆け出すぐらい訳は無かった。

 

「三十九度六分……完全に風邪ですね。」

 

しのぶはこの光景に既視感を感じながら、炭治郎の診断結果をアオイに報告していた。アオイはしのぶが診断中に部屋に着替えに戻り、再び医務室に訪れて心配そうに熱冷ましを飲んで寝ている炭治郎を見ていた。

 

「炭治郎さんの風邪……絶対私のせいですよね……。」

 

「状況だけ見れば。炭治郎君にはアオイのようにならないでと言ったのですがねぇ……。」

 

アオイは炭治郎が風邪を引いた事に罪悪感を抱いて居た。原因に心当たりが多過ぎたからだ。そんな心当たりなど知らないしのぶは気にせず、アオイに質問をする。

 

「なったものは今更どうこう言っても仕方がありません……アオイ、もう業務復帰しても大丈夫ですか?」

 

「はい、今まで休ませて頂きありがとうございました。直ぐにでも業務の方に掛かれます。」

 

「そうですか。ではまたよろしくお願いしますね、アオイ。」

 

「はいっ!」

 

しのぶはアオイの復帰に喜び笑みを零すが、直ぐにそれを納めて今度は目を細めながらアオイに質問をした。

 

「しかし、アオイもよく炭治郎君が熱で苦しんでいると気付きましたね? 貴女の部屋は炭治郎君と禰豆子さんの反対側にあったはずですが?」

 

「……そんな些細な事など、今はどうでも良いのではないでしょうか? 大事なのは炭治郎さんの容態を回復させる事です。そうではありませんか? しのぶ様?」

 

しのぶの質問を綺麗に無視してアオイは正論を叩き付けた。そんなアオイにイラつきながらもしのぶは渋々同意する。

 

「ええ、アオイの言う通りですね。では私が炭治郎君の看病を務めましょう。ですからアオイは朝食を取ったら業務に戻って大丈夫ですよ。」

 

暗にさっさと医務室から出て行けとしのぶに言われたアオイは激昂するのを抑えて、どうにか冷静に反論する。

 

「しのぶ様、今は冗談を言っている場合などでは無いでしょう? 柱ともあろうお方が重篤でも無い一隊士如きの看病になど、時間を割いている場合では無い筈です。炭治郎さんの事は私が責任を持って、お世話させて頂きますからっ。」

 

「いえいえ、炭治郎君は御館様や私を始め、亡くなった煉獄さんも期待を寄せている鬼殺隊の将来を担う大切な逸材です。万が一、億が一が有ってはなりません。ならば、私自らが炭治郎君の看病を担当すると言うのが筋と言うものです。」

 

「でしたら、その万が一、億が一が起きた時に私がしのぶ様を御呼び致しますよ。第一、炭治郎さんが風邪を引かれたのは私が原因も同然です。ならば、私が責任を持って炭治郎さんのお世話をするのがしのぶ様の屁理屈と違って、本当の意味で筋と言うものです。それまではどうか、炭治郎さんの事は私にお任せ下さい。」

 

「事が起きてからでは遅いんですよ。そんな事も分かりませんか? アオイ、別に貴女の事が信用出来ないとかそんな事を言っている訳では決して無いんです。それよりも休養して鈍った腕のキレを取り戻すために、さっさと業務に復帰した方が良いんじゃないですかぁ?」

 

「いえいえ、私の業務は柱様の御勤めと違って、二日、三日手を付けなかったからって鈍るような難しい仕事でもないんですよ。それよりも、何時まで貴重な御時間をこんなところで浪費する御積もりなのですか? 柱って存外、御暇だったりするのでしょうか?」

 

しのぶとアオイは一切、互いに全く相手に譲渡する気が無いのか、内心に怒りを蓄積しながら青筋を立てて激しく毒の混じった口論を続けて行く。

もはや上官と部下ではなく、姉妹が玩具を奪り合いをしているが如き、姉妹喧嘩と化していた。

二人の口論はそれは沈静化するどころかより激しさを増して行き、カナヲが蝶屋敷に帰還してなお続いていたのだった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「これは……一体……っ?」

 

カナヲは状況が全く掴めないのか、困惑の声を上げる。カナヲに気付いたのか、しのぶとアオイは言い争いを止めてカナヲの方に注目した。

 

「カナヲ、おかえりなさい。今戻ったんですか?」

 

「カナヲ、おかえりなさい。怪我とかしてない?」

 

「は、はい……栗花落カナヲ。只今より鬼の討伐任務を終え、帰還しました。異状はありません。」

 

カナヲは戸惑いつつも帰還を二人に報告した。しかし二人はその報告には一切興味が無いのか、無視して同時に前に出てカナヲに言った。

 

「カナヲ! 何とかしてしのぶ様を止めるのを手伝ってくれないかしらっ?!」

 

「カナヲ! この石頭の分からず屋を何とかしたいから手伝いなさいっ!!」

 

「あ、あの一体何が何やら……それはそうと炭治郎がっ……!」

 

カナヲは顔を赤く染めて寝込む炭治郎を見るなど考えてもいなかったからか、動揺を隠せなかった。カナヲの様子を見て、しのぶが一部始終を説明した。

アオイは、しのぶに都合の良いように脚色して説明しないか監視していたが。

しのぶがカナヲに説明している内に、炭治郎が重い頭を抱えながら起き上がった。それを見てしのぶとアオイは直ぐにカナヲを放ったらかして炭治郎に向き合った。

 

「う~~~んっ、頭が重い……あれここは……?」

 

「炭治郎君っ! 目を覚ましたんですね!!」

 

「……チッ!……炭治郎さんっ! 無理はしないで下さい……!」

 

しのぶが先に駆け寄って炭治郎を支え、一歩遅れたアオイは誰にも聞こえないように舌打ちしてから、炭治郎の身を案じて声を掛けた。カナヲは二人に付いて行けず、未だ置いてけぼりを喰らっていた。

炭治郎は今度はアオイからどうなったのか説明を受けると、炭治郎は頭まで赤くなった顔を掻きながら申し訳なさそうに謝った。

 

「その、ご迷惑をお掛けしてすみません……。」

 

「炭治郎君が謝る事ではないですよ。治るまで私がしっかり看病しますからねっ。」

 

「……っ!」

 

しのぶは先手必勝とばかりに自分が看病を担当すると宣言して炭治郎から言質を取ろうとした。

アオイは出遅れたっ! と内心怒り狂いながら状況を見守った。

カナヲは茫然としながら状況を見守る事しか出来ず、一方の炭治郎はしのぶの言葉に笑顔で答えた。

 

「しのぶさん、ありがとうございます……嬉しいですっ。」

 

「はいっ! 万事、私に任せて下さいねっ!」

 

「……っ!」

 

その返答にしのぶは花が満開と言わんばかりの笑顔で歓喜し、アオイは悔しそうに顔を俯いた。

しかし、炭治郎の次の一言で状況が一変する。

 

「でも、柱であるしのぶさんのお時間を頂くなんて申し訳ないです……ですから、お気持ちだけ頂きますね。」

 

「……。」

 

「……っ!……っ!……っ!」

 

しのぶは笑顔のままピシッ! と石化したが如く固まり、アオイは笑いを堪えるために顔をそのまま、俯いたままでいた。笑いを必死で噛み殺してからしのぶを押し退けて炭治郎に向かって言った。

 

「炭治郎さんっ! 炭治郎さんの看病は私が請け負おうと思うんです!……前にご病気になったら私に看病をして欲しい、その時は私が喜んでお世話しますって言ったの、覚えてますよねっ?!」

 

「う、うん。勿論、覚えているよ。」

 

「……っ!」

 

アオイは炭治郎が約束を覚えていた事に安堵し、承諾されたとばかりに歓喜した。

一方のしのぶは笑顔を顔面に張り付けたまま、その様子に青筋を立てて苛立ちを隠せない。

カナヲはオロオロしながら状況を見守ったが、嫌な予感がしていた。その嫌な予感は間も無く的中した。

 

「でも俺のお世話に専念してたらなほちゃん達が大変だし、申し訳ないよ。アオイさんはお仕事の方に専念してくれたら、俺の方も気が楽で良いかなっ?」

 

「……っ。は、はい、分かりました……っっ。」

 

「ぷっ、くくくくっ。」

 

「……っ!」

 

炭治郎の思い遣りに満ちた言葉を無碍に否定する事などアオイに出来るはずが無く、不承不承で承諾する他無かった。

しのぶは溜飲が下がったと言わんばかりにアオイを嘲笑し、それを聞いたアオイは青筋を立てて横目でしのぶを睨み付けた。

 

「あ、あの……っ!」

 

此処まで来て、漸く状況を見守るだけで傍観者に甘んじていたカナヲが初めて口を開いた。炭治郎もカナヲの声を聞いて初めてカナヲの存在を認識した。

 

「カナヲっ! ゴホッゴホッ……カナヲ、帰って来てたんだねっ。」

 

「うん……炭治郎、無理しないでっ。」

 

カナヲは心配そうに炭治郎の傍に近付いた。しのぶとアオイは睨み合うのに忙しいのか、カナヲの相手などしていられなかった。

 

「炭治郎、とっても苦しそう……。」

 

「あはは、大袈裟だよ。心配しないで。それより、カナヲ。おかえりなさい。会えて嬉しいよっ。」

 

「……っ❤」

 

――ああ、温かい❤ 炭治郎の笑顔を見ているだけで、声を聞くだけで身体の内側から温かくなる。心が満たされて行く……❤

 

カナヲは胸の内から湧き出て来る幸福感を味わうのもそこそこに、カナヲはある決心をして身を翻してしのぶに向き合った。

 

「師範っ!」

 

「……っ。な、何ですか? カナヲ。そんな大声を出して……。」

 

しのぶはアオイとの睨み合いをやめて少し驚いた様子でカナヲを見た。アオイもまた普段見られないカナヲの様子に驚きを隠せない。

 

「私に、炭治郎のお世話をさせて下さい!」

 

「「「!?」」」

 

カナヲの嘆願にその場にいた三人は驚愕した。指示以外は全て銅貨投げで決めなければ何も出来ない筈のカナヲが自分の意志で炭治郎の看病がしたいと言い出したのだから、驚くのも無理は無かった。

炭治郎の病気の事は部屋に来るまで知らなかったのだから、事前に銅貨投げで看病するか否かを決めていたとは考えられなかった。カナヲが続けて言った。

 

「私は任務を終えて休息を取るよう言われてるから時間はあるし……そ、それに私が炭治郎の看病がしたいって、そう思ったんです。炭治郎が嫌じゃなかったら……私がお世話したい、です。」

 

「それは……。」

 

「俺からもお願いして良いですか? しのぶさん。」

 

言い澱むしのぶに炭治郎がカナヲに助け舟を出した。炭治郎は続けて言った。

 

「カナヲが自分で決めたのなら、俺はその意思を尊重したい。後、とっても嬉しいよ。カナヲ。自分の意思で決めた事も、俺のためにそう思ってくれた事も、ね。」

 

「ありがとうね、カナヲ。」と炭治郎は満面の笑みでカナヲに微笑んだ。するとカナヲは炭治郎に負けないくらい顔を赤くして俯いた。しのぶとアオイは二人の間に入る余地など無く、見てる事しか出来なかった。

 

「「……っ。」」

 

しのぶとアオイの二人は、落ち込みながら顔を俯かせる事しか出来なかった。そんな二人に炭治郎は気付いて声を掛ける。

 

「しのぶさんとアオイさんのお気持ち、とっても嬉しかったです。ありがとうございました。カナヲもそうですが、お世話になります。よろしくお願いします。」

 

炭治郎の純粋な感謝に、しのぶとアオイの機嫌は先程の落ち込みなど欠片も感じさせないくらいに、一瞬にして良くなった。また、カナヲへの気遣いも僅かながらあったが、炭治郎に醜態は見せまいと今回の一件は大人しくカナヲに譲る事にした。

 

「カナヲ。炭治郎君の事は任せますから、何かあれば何時でも呼んで下さいね。直ぐ駆け付けますから。」

 

「カナヲ。手伝ってあげるから炭治郎さんのお世話、お願いね。」

 

「はい!」

 

そう言ってしのぶとアオイとカナヲの三人は医務室から退室した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「炭治郎、ご飯持って来たよ。」

 

カナヲがお盆に土鍋や水を載せて部屋に入って来た。ちなみに部屋とは医務室ではなく竈門兄妹に充てられた自室である。

実は炭治郎は三人が退室してから這う這うの体で自室まで移動しようとしていた。移動中にきよとなほとすみに見つかり、彼女達が泣きながら移動を手伝ったのだった。

当然、この事実はしのぶの耳に入り、飛んで来たしのぶに炭治郎が説教をしこたま喰らったと言うのは言うまでもない。

 

「わぁ。ありがとう、カナヲ。丁度、お腹が空いていたんだっ。」

 

炭治郎は喜びながらカナヲを迎えた。カナヲは食事を炭治郎の隣に置いて、食事の説明を始めた。

 

「今日は牛乳が手に入ったから、牛乳粥にしてみたって、アオイが。」

 

「わぁ、初めて食べるかも。良い匂いだなぁ。ふふっ。」

 

炭治郎が喜びながら土鍋の中を覗いている間、カナヲは料理中の事を回想していた。

 

『カナヲ。今から炭治郎さんのご飯を用意するから。私が全部やっても良いけど、カナヲが作ってあげたいでしょう?』

 

『そう、次に塩を……それは砂糖っ! 砂糖だからっ!!……ほっ……ちょっ!? それは多すぎ! そんなに入れなくて良いからっ!! ほんのちょっとだけで良いの……それは少なすぎぃ!!』

 

『はぁ、はぁ、はぁ。やっと出来た。そ、それを炭治郎さんに持って行ってあげて。あ、もし一人で食べられそうに無かったらカナヲが炭治郎さんに食べさせてあげてね。』

 

最後のアオイの言葉に、カナヲの顔が赤くなる。しかし、実行するべく匙で牛乳粥を掬って炭治郎の下へ運んだ。

 

「はい、あーん❤️」

 

「カ、カナヲ。そんな事しなくても俺は一人で……。」

 

「あ―――ん❤️」

 

「……あ、あーん。」

 

カナヲの熱意に根負けして炭治郎は大人しく食べさせて貰った。食べ終わった後、カナヲは満足そうに頷いた。

 

「ご、ご馳走様でした。」

 

「お粗末様でした。炭治郎、美味しかった?」

 

「う、うん。とっても、美味しかったよ。」

 

「良かった……ねぇ、炭治郎。」

 

「何だい? カナヲ?」

 

「炭治郎が治るまで、私が食べさせてあげるからね❤️」

 

「え? い、いやぁ、そこまでしなくても……。」

 

「食べさせてあげるからねっ❤️」

 

「……う、うん。よろしくお願いします。」

 

「うんっ❤」

 

一方的にカナヲが炭治郎から承諾を得ると、カナヲはもの凄く嬉しそうに返事してご機嫌な様子で、食器をお盆に載せて部屋から退室して行った。

炭治郎は黙ってカナヲが部屋から退室するのを見届けるしか無かった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「炭治郎、入るね。」

 

「ああ、カナヲ………それはお湯の入った手桶と手拭いかな?」

 

「うん、炭治郎に必要だと思ったから持って来たの。」

 

「そっか、ありがとうね。カナヲ……じゃぁ「私が拭いてあげるから。」……はいっ。」

 

炭治郎は自分で拭くと言おうとしたのだが、カナヲに先手を打たれて言質を潰されてしまい、カナヲの有無を言わせない力強い言葉に押されて承諾した。

 

「……フ――ッ、フ――ッ、フ――ッ。」

 

カナヲはかなり興奮しながら炭治郎の服を脱がせて行った。酷く興奮気味なカナヲに炭治郎は少々引き気味になったが、少しでも拒絶するとカナヲが泣きそうになるので、炭治郎は我慢してカナヲに身を委ねた。

 

「フ――ッ、今から拭いてあげるね、炭治郎っ。フ――ッ、フ――ッ。」

 

「う、うん。お手柔らかにね……?」

 

カナヲは相変わらず興奮しながら、されど出来るだけ長くやっていたいのか、ゆっくりと丁寧に炭治郎の身体を拭いて行った。

しかし炭治郎の身体を隅々まで丁寧に拭いて行ってると、ついに一ヶ所を除いて拭き終わってしまう。そう、炭治郎の股間部である。そこの部分を巡ってカナヲと炭治郎が激しく言い争い始めた。

 

「カナヲっ! そこは流石にしなくて良いから! 自分でやるから!!」

 

「フ――ッ!! フ――ッ!! 遠慮しなくて良いからっ!! 全部っ!! 全部私に任せて炭治郎は大人しくしててっ!!!」

 

「遠慮とかそういう問題じゃないって! カナヲっ! お願いだから此処だけは俺にやらせて!!」

 

「大丈夫だからっ!! フ――ッ!! 炭治郎の大事な部分(ところ)だもの!! 私が丁寧にじっくり拭いてあげるから!!! フ――ッ!! フ――ッ!!」

 

「してなくて良いってばっ! お願いだからやめてくれっ! 後で何でもカナヲの言う事を聞いてあげるから!!!」

 

興奮しすぎて理性が崩壊しかけていたカナヲだったが、炭治郎の一言で先程までの興奮っぷりは何処へ消え去ったのかと問い詰めたくなる程、カナヲは冷静さを取り戻した。

 

「……ほんと?」

 

「ほ、ほんと、ほんと。炭治郎、嘘吐かない。約束するよ、カナヲ。」

 

「……分かった。」

 

こうして何とか炭治郎は自身の、男性としての尊厳を守る事に成功した。と言っても、カナヲは炭治郎が自分で自分の股間部を拭く時も退室を拒絶して、背を向けるだけに留めていた。

炭治郎は疲れ切って逆に熱が上がりそうだったが、もうどうとでもなれと半分ヤケクソ気味だった。

炭治郎は疲弊した様子で、カナヲに願いを尋ねた。

 

「カナヲ。俺に出来る事なら、って条件が大前提だけど、何でもやるよ。遠慮せずに言ってご覧?」

 

「う、うん……今から考えるから、ちょっと待ってて。」

 

カナヲは真剣に炭治郎に叶えて貰う願いを考えていた。願いが決まったのか、椅子に座っていたカナヲが勢い良く立ち上がった。炭治郎は願いが決まったのだろうと聞く姿勢を取る。

この時のカナヲは鬼狩りの時ですらしない程、真剣な顔付きになっていた。因みに数分程度しか経っていないが、カナヲは数時間が経過したかのように錯覚していた。

 

「カナヲ。願いは決まったかい?」

 

「うん……でもちょっと待ってて。すぐ戻るからね、炭治郎。」

 

「……っ?」

 

カナヲはそう言って竈門兄妹の自室から退室すると、ドタドタと大急ぎで駆け出して行った。

数分後、再びドタドタと激しい音が聞こえていると、カナヲが部屋に入室して来た。隊服ではなく、寝間着になっていた。そしてカナヲは炭治郎にこう言った。

 

「炭治郎。一緒に寝よ……?」

 

「え……?」

 

その後はあっという間であった。カナヲは直ぐに炭治郎の寝台(ベッド)に潜り込んで添い寝をする。炭治郎が状況を理解した頃には、なんかこんな似たような状況がこの前あったなぁと現実逃避する事しか出来なかった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「あ、あの。カナヲ。」

 

「何、炭治郎?」

 

「良いの? 俺、風邪だからカナヲに伝染(うつ)っちゃうかもよ?」

 

「大丈夫。私、馬鹿だから。」

 

「えっ?」

 

「馬鹿は風邪引かないって昔から言うでしょう? だから私は大丈夫っ。」

 

「……カナヲは馬鹿じゃないから、今後そう言う事は絶対に言わないでね……。」

 

炭治郎の真剣な様子で言った言葉に、カナヲは一瞬動揺するも話を続けた。

 

「分かった……でも本当の事だよ。私は自分で何も判断出来なかった。どんなに簡単な事でも自分で決断なんて、私には出来なかった……。」

 

「カナヲ……。」

 

「でも……でもね。炭治郎と出会って、私はほんのちょっとだけど変わったの。変わる事が出来たの。もし炭治郎がいなかったらこんな事、絶対に決められなかった……こんな未来は有り得なかった。全部、全部、炭治郎のお蔭なの……だから、だからね。」

 

語り終えたカナヲは改めて、炭治郎への感謝と好意を言葉に込める。

 

「本当に、ありがとう。炭治郎っ。」

 

「……っ。」

 

カナヲからの感謝の言葉に、炭治郎は胸がいっぱいになる。そして思わずカナヲを抱き締めた。

 

「カナヲ、俺の方こそありがとう。君は前から素敵な女の子だけど、今の方がずっと可愛くて素敵だよ。」

 

「炭治郎……っ!!」

 

カナヲは炭治郎から抱擁と称賛の言葉に歓喜して、カナヲも炭治郎を強く抱き締めた。暫くしてから、カナヲから会話を再開した。

 

「ねぇ、炭治郎。少しの間だけ離して。早く良く()るおまじないをしてあげる。」

 

「早く良く()るおまじない……? 分かった。良いよ。」

 

炭治郎が抱擁を緩めると、カナヲは炭治郎の頭部に触りながらこう言って顔を近付けた。

 

「早く炭治郎が元気になりますように。」

 

チュッ❤️

 

カナヲはそう言って炭治郎の額に口付け(キス)にを落とした。

 

「……」

 

「炭治郎、おやすみなさい❤️」

 

茫然とする炭治郎を余所に、カナヲは再び炭治郎を抱き締めてから目を閉じると眠りに就いた。そして炭治郎は茫然としつつ、更に熱が上がったように赤くなった顔色で呟いた。

 

「どうしよう。熱が下がるどころか、逆に上がりそうだ……本当に治るのかなぁ、俺。」

 

炭治郎の悩みを答えてくれる者は誰も居なかった。



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日蝶結愛編
第伍話 藤蝶は日輪を渇望す ❤️


※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


大日本帝国政府非公認組織・鬼殺隊

 

”原初の鬼”たる鬼舞辻無惨の討滅を目的に六代目産屋敷当主が創設した千年の歴史を持つ由緒ある組織である。

 

しかし、人を襲い喰らう鬼の存在が世間に露見すれば、この世は恐怖に包まれ、人々の間に無用な疑心暗鬼と混乱を生む危険性が多大に孕んでいる事から、鬼殺隊もまた公的に認められる事も認められて貰おうと歴代の産屋敷当主も働き掛ける事も無かった。

 

鬼殺隊もまた数百人からなる組織である。組織を滞りなく運営しようと思えば、やはり莫大な資金が必要不可欠だった。

 

しかし、産屋敷家一族は短命の代償を引き換えに鬼に対抗するために神から授けられたとしか言えない、”先見の明”と呼ばれる”第六感”や”未来予知”の異能を持ち、それを持って鬼殺隊存亡の危機から幾度となく脱して生き延び、莫大な財を築いて表向きは大日本帝国で一、二を争う大富豪・大実業家としての地位を築いて来た。

 

尤も、商談をする時も人脈構築も代理人を通してだったため、表世界に出て来る事は決して無かった。

そのため産屋敷家の名を知る者は居ても実態を知る者は殆ど居らず、皆が産屋敷家を「幻の一族」と呼んでいた。

 

鬼が闇夜に紛れて跋扈するこの世には残念ながら鬼の餌食になる不運な犠牲者と鬼殺隊に運良く救われ生き延びた幸運な生存者で別れる。

 

鬼殺隊に運良く救われた生存者の中にはその大恩に報いるべく、鬼殺隊に無償で支援する者達が存在する。

”藤の花の家紋の家”と何の捻りもない通称だが、鬼殺隊隊士が一目で支援者だと分かるように通称の通り藤の一文字と藤の花の家紋が玄関や門扉に刻んで目印としている。鬼殺隊の隊士達は此処で様々な支援を受けられる。

 

その”藤の花の家紋の家”が都市部から離れたところに一つ存在している。他の”藤の花の家紋の家”と比べ広大な敷地を持つ大屋敷に一人の穏やかそうな老婆が住んでいる。この穏やかそうな老婆の名は薬師寺ひさと言う人物だ。

 

薬師寺家は四百年前に当代の当主が鬼殺隊に命を救われた経緯から、支援者の一人として鬼殺隊を裏で支援して来た。

薬師寺家の中には鬼殺隊隊士として活動していた者もいた。尤も、そんな者は数えるほどしか居らず、多くの者は大商人として得た財貨を差し出して裏方に徹して来た。

 

ひさもまた例外を問わず、若い頃から女当主として商いで辣腕を振るいつつ、鬼殺隊を支援して来た。とうの昔に引退した今も、訪問して来た鬼殺隊の隊士を自ら率先してそのお世話を買って出ていた。

 

何時も冷静沈着で穏やかさをひさだったが、今回は違っていた。夕食の仕込みと藤の花の香を焚く準備に掛かった夕方前に鬼殺隊の隊士が訪問して来た。

そのため何時ものように持て成すために出迎えたのだが、その隊士が尋常ではない程に脂汗を滲ませながら苦しそうに呼吸を繰り返していたからだ。

 

「胡蝶しのぶ様っ! 直ちにお医者様を手配致しますので、どうか其れ迄の間はご辛抱を……っ!」

 

「はぁ、はぁ、結構ですからっ、はぁ、はぁ、お水だけ、はぁ、くれますかっ? はぁ、はぁ、はぁ、や、休んで、はぁ、いれば、はぁ、大丈夫ですから……っ!」

 

「しかしっ「お願い、します……っ!」……かしこまりましたっ。」

 

ひさは仕方なくその隊士の言う通り、水だけ持って来るためにその場を去る。

隊士は蝶々の羽根ののような美しい羽織を広げながら仰向けで寝転がる。

そして両腕で眼を覆った瞬間、今度は悔恨を滲ませたながら歯噛みした。

 

――――何よっ!……だらしのない! この私が、あの程度の事で動揺するなんて……っ!! ああっ……ひっく、うぅっ……っ!!

 

蝶々の髪飾りが特徴的なその美しい女性隊士は顔を歪めて涙を流し、負傷した左腕を右手で押さえながら今に至るまでの経緯を回想した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

東京府・蝶屋敷

 

 

大正二年(一九一三年) 三月七日(金)

時間帯:朝

天気:晴れ

 

「納得出来ません! 何故っ!! 病み上がりの炭治郎君を鬼の討伐へ行かせるのですか!?」

 

「知ルカ! 御館様カラノ直々ノ御指名ダァッ!」

 

「……っ。」

 

炭治郎の病気は今日の早朝で完治した。予定よりも早く完治した事に喜びながら朝食を全員で取っていた矢先に急遽、乱入して来た鎹烏から炭治郎指名の鬼の緊急討伐指令が下った。

しのぶは炭治郎の体調を考えて異議を唱えたが、鎹烏から鬼殺隊の頭領たる産屋敷耀哉直々の指名と言われてはしのぶも従う他無かった。

 

「だからって、治ったばかりの炭治郎さんを行かせるなんて……っ!!」

 

「炭治郎の代わりに、私が行く! 炭治郎はまだ休ませて!!」

 

「駄目ダッ! 御館様ガコノ任務ハ竈門炭治郎二シカ出来無イと仰セダッ!!」

 

当然だがアオイやカナヲ、それからすみとなほときよと言った蝶屋敷の女性陣もまた強く反発したが、しのぶに変えられなかった案件が変わる訳が無かった。

朝食を早々に切り上げて出立しようとした炭治郎だったが、心配と寂しさから涙を流して見送るアオイ達に炭治郎は困った様子で微笑みながら一人一人を抱き締めて一時の別れを告げた。

 

それを陰で見守っていたしのぶだったが、すみ達は我慢出来たもののアオイとカナヲが炭治郎と抱擁を交わしたのを見た時は遂に我慢出来ず、嫉妬心が燃え広がる。

しのぶは颯爽と飛び出すと、炭治郎に強く抱き着いて抱擁する。そしてそのまま頬に口付け(キス)を落として行った。それも二回、左右両頬にである。

 

炭治郎は呆気に取られたが、しのぶに口付け(キス)された後に今度は自分から、しのぶを強く抱き締め返してアタフタと慌てさせた。

其処から炭治郎は追撃とばかりにしのぶの耳元に口を近付けて、「元気が出ました。行って来ます。」と囁いてから任務のために蝶屋敷から去って行った。

 

呆気に取られたアオイとカナヲは一瞬、石化したが如く固まってしまった。しかし我に返ると嫉妬心からしのぶに反発したが、しのぶは両頬を赤くしたまま上の空の状態で蝶屋敷の下へ戻って行った。

見送りが終わった後に午前診察を始めたしのぶだったが、炭治郎の事ばかり脳裏に浮かんでまともな診察が出来無かった。そのためしのぶは早々に切り上げて、自室に引き篭もったのである。

 

この時に診察された隊士達は、異口同音にこう答えた。

 

「何時も凄艶な胡蝶様だが、今朝は一際、扇情的で艶麗過ぎて目のやり場に困った。」

 

と赤面とした様子でそう言って、後々に周囲からの羨望と嫉妬を買う羽目になった。

 

「んんっ❤……っ❤。」

 

自室の寝台(ベッド)に寝転がったしのぶは、顔を赤くしながら両腕を交差して自身を抱き締めていた。見送りの際に炭治郎から受けたあの包み込む様な、力強い抱擁を思い出してその余韻を楽しんでいた。

 

その姿は鬼殺隊が誇る柱の一人、蟲柱・胡蝶しのぶではなく、年相応に恋に浮かれる一人の乙女であった。

 

「……はぁ~~~~。」

 

余韻を存分に楽しんでいたしのぶであったが、暫くすると憂鬱そうな表情に変わって溜息を吐いていた。

 

――私は何をやっているのかしら……炭治郎君の告白を無視して、「妹としか見てない。」と思い込んで、炭治郎君への想いを諦めた筈なのに……私は炭治郎君の優しさに甘えて、自分の身体が今どうなっているのかも忘れて、恋に浮かれる市井の町娘みたいに舞い上がっていた。諦めなきゃ逆に炭治郎君を傷つけてしまうと言うのに。

 

――諦めてアオイとカナヲに譲って応援しようと思ったのに、私はそれが許せなかった……二人が炭治郎君とイチャつこうとしていたのを可能な限り妨害した。尤も、私も二人から何度も妨害された身ですけど……。

 

「カァァ―――ッ!! 北多摩郡昭和町ニテ鬼ガ出現!”(きのえ)”ノ隊員モ含メ既ニ八名ガ犠牲ニナッテイル! 蟲柱・胡蝶シノブハ直チニ出陣セヨッ! 繰リ返スッ! 北多摩郡昭和町ヘ蟲柱・胡蝶シノブハ直チニ出陣セヨッ! カァァ―――ッ!!」

 

「っ!」

 

しのぶは鎹烏のために開けていた窓から、鎹烏が入って指令を言い渡しに来た。しのぶは鎹烏の声を聞いて本能的に準備を始めた。

 

――今度は私に出陣命令……鬼が皆、禰豆子さんみたいであれば、言う事無いのだけれど……まぁ私の溜まっていた鬱憤や苛立ちを晴らすのに丁度良いわっ。さっさと行くとしますかっ。

 

準備を終えたしのぶは蝶屋敷から出立しようとした。すると其処へ焦燥感を抱きながら、カナヲにすみとなほ、きよが揃って走って来る。

 

「師範っ!」

 

「「「しのぶ様っ!」」」

 

カナヲ達は大声でしのぶの名前を呼ぶと、門前のところで立ち止まった。

 

蟲柱のしのぶが出陣する程の任務である。

カナヲ達の表情からはしのぶなら大丈夫だと言う絶対的な信頼と、万が一の確率で起こり得る最悪の事態を心配する不安の二色が見て取れた。

 

そんな妹分であるカナヲ達の表情を読み取れないしのぶではない。安心させるために、しのぶはカナヲ達に振り返って笑顔で話し掛けた。

 

「大丈夫ですよ。何時も通り、直ぐに帰ってきますから、ね?」

 

「「「「っ!……はい!」」」」

 

しのぶにそう言われ、カナヲ達は不安を払拭して元気良く返答をした。

カナヲ達の力強い返答を聞いて、しのぶは再び蝶屋敷に背を向けて出立しようとした。

 

「……お待ち下さいっ! しのぶ様っ!!」

 

「っ!……アオイ……っ。」

 

走って来る足音と自身を呼ぶ声を聞いて、しのぶは再び立ち止まり振り返った。

 

其処には包を持ったアオイの姿が在った。

息までは切らしていなかったが、走ったせいで少し汗を掻いていたアオイは一度だけ深呼吸をすると、手に持っていた包をしのぶに差し出した。

 

「アオイ、これは?」

 

「はい、お弁当用のおにぎりと冷たいお茶入りの水筒が入っております。塩昆布のおにぎりが一つ、しのぶ様がお好みの生姜の佃煮が入ったおにぎりが二つ入っています。どうぞ持って行って下さいっ!」

 

「っ!……そう、嬉しいわ。ありがとう、アオイ……暫くの間、私は不在になりますがそれまでの間は蝶屋敷の事、頼みましたよ。」

 

「はいっ、しのぶ様! 武運長久をお祈り申し上げます!!」

 

「では、行って来ます。」

 

しのぶはアオイの声援を受けて、正午過ぎに蝶屋敷を出立した。アオイ達はしのぶの姿が見えなくなるまで見送ると、蝶屋敷へ戻って行った。

 

蝶屋敷を出立したしのぶは途中でアオイに渡された弁当をさっさと片付けたが、それ以外の休憩を挟む事無く走り続けた。

 

「……」

 

しのぶは当日の内に、鬼が出現したという北多摩郡昭和町と言う町に到着しようと思えば出来たのだが、その到着予定時間が丁度、日が沈んで闇夜に包まれた夜中になってしまう。

 

――焦って事をし損じれば、元も子も無いわね。私はまだ、死ぬ訳には行かないのだから……。

 

体力を消耗した状態で天地の利を得ている鬼と戦うなど、愚の骨頂である。

鬼殺隊隊士の頂点に位置する柱になったしのぶだが、己の実力を過信して自惚れて傲慢になってはいない。

如何なるしくじりをして、敗死と言う運命を辿るとも限らないのだ。

 

――此処は一つ、昭和町の手前に在る別の町で身体を休めましょう。

 

しのぶは鬼を一刻も早く倒したい衝動を抑えつつ、冷静にそう判断を下した。

其処から昭和町の前にある町に存在する”藤の花の家紋の家”で一泊してから目的の昭和町に向かうのだった。

 

 

♦︎

 

 

東京府・昭和町付近の竹林

 

 

大正二年(一九一三年) 三月八日(土)

時間帯:早朝

天気:曇り

 

「降りそうで降らないこの曇天……嫌な天気ですねぇ。」

 

黒い絨毯が敷いてあるが如く、黒雲が天空を覆っているのを見てしのぶはそう呟いた。

 

これは単純にしのぶが、曇天を嫌っているからそう呟いているのでは無い。

否、確かにしのぶは曇天や雨と言った天候を嫌っているが、そんな個人的な理由だけでは決して無い。

 

鬼殺隊の宿敵たる鬼は太陽に抗えず陽光を浴びれば灰になって即死するため、夜にしか活動しないと思われがちだがそれは大きな誤りである。

 

要は太陽の陽光さえ浴びなければ良いので、天候が曇っていたり、降雨や降雪ならば日中でも活動が可能なのだ。

もし対象の鬼に度胸が有るあらば、この時間帯から動いて人間を襲うとも限らない。しのぶは小さく奥歯を歯軋りして昭和町へと向かって行った。

しのぶは向かう途中、”藤の花の家紋の家”の主人に右側に有る竹林を通り抜ければ昭和町へ行くための近道になると教わったため、言われた通りに竹林へと足を進めた。

 

「っ!……手間が省けた様ですね。あの主人には感謝の手紙でも後で(したた)めまて送るとしますか。」

 

荷車も通れる程の広さまで切り開かれた竹林の一本道を進んでいると、一人の女性が反対方向から走って来た。

時代誤差も甚だしい暗紫色の被衣(かつぎ)を深く被って顔を隠し、また肌を晒さない様に紫を基調とした着物を着ていたその上背のある女性は真っ直ぐ進み、しのぶの姿を認識すると立ち止まる。

 

「あら、おはようございます。お嬢さん。こんなところに一人で居たら、悪ーい鬼に攫われて食べられちゃうわよ?」

 

「おはようございます。お姉さん。私、こう見えても結構強いですから、鬼が来てもへっちゃらですよ。」

 

「へぇ……そんなに小さいのにねぇ。この感覚……もしかして、鬼狩りで言う柱だったりするの貴女?」

 

 

 

ガキン!!

 

 

 

その言葉が戦端の口火を切った。しのぶも女性鬼もほぼ同時に踏み込んで攻撃を開始した。

 

――っ!……相殺されたっ!?

 

しかし、初撃は相打ちで終了した事にしのぶは驚愕する。これは嘗て自身が十二鬼月の下弦の肆を屠って以来の出来事だ。故にしのぶは対峙している鬼について咄嗟に考えた。

 

――この雌鬼、もしや十二鬼月でしょうか? 

 

しのぶが疑問に思ったのも束の間、件の女性鬼は被衣を脱いで、その素顔を晒した。

女性鬼の素顔を見て、しのぶは驚愕する事になる。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「カナエ……姉さんっ!?」

 

しのぶが見た女性鬼の素顔は薄紫色を基調とした双眸、腰まである流れるような美しく黒い長髪、頭の両横に付けた蝶々の髪飾と、一見すると最愛の姉のカナエと瓜二つの容姿をしていたのである。

 

――……違うっ! あんなの姉さんじゃないっ! 

 

しのぶが動揺したのも一瞬の出来事。直ぐに頭を振り払う様に左右に振った。

 

――姉さんの遺体は……カナエ姉さんの遺体は私が回収して……()()()()を終えてから荼毘に付したの。だから鬼になっている訳が無い。

 

――それによくよく見てみたら姉さんと全然違うっ。瞳孔は猫みたいに縦に裂け目があるし、左目の目元には泣き黒子がある。それに色違いの髪飾りに加えて長髪の髪先にも三つ目の蝶々の髪飾りを付けている。そもそも、姉さんはあんな薄気味悪い笑い方なんてしない。なんて見ているだけで不愉快にさせる鬼なのっ!?

 

「カナエ……? 違うわよ。私の名前は妖鬼妃(ようきひ)。素敵な名前でしょう? あの御方がこの私に御自ら名付けて下さったのよ。……そう言えば、私が喰らった鬼狩り共の中には何人もそうやって勘違いしてた奴らが居たわね? そんなにそのカナエって娘に似てるの、私?」

 

「いいえ、全然似てませんよ。姉の方がもっと美人でした……一つ尋ねますが、その髪飾りは何処で手に入れたんです?……答えなさいっ!!」

 

「この髪飾りを何処で手に入れたですって……さぁ? 何処で手に入れたかしらねぇ?」

 

「巫山戯けてないで、私の質問に答えなさいよっ!? その髪飾りは何処で手に入れたっ!?」

 

しのぶはカナエが生前、大好きだと言っていた笑顔を捨てて女性鬼、妖鬼妃と名乗った女性鬼に問い詰めた。

 

カナエを模した笑顔の仮面をかなぐり捨てた事に一瞬、罪悪感を抱いたがそれに構っていられる程しのぶは冷静では無かった。何故なら妖鬼妃が着用している三つの蝶々の髪飾りには、見覚えが有ったからだ。

 

――あぁ、お願いっ!……どうかっ……私の見間違いであって……っ!

 

しのぶは祈った。自身の勘違いで有って欲しいと。そんなしのぶに、嘗てのある光景が回想として蘇る。

 

『ありがとうございます! カナエ様っ! しのぶ様っ! この髪飾り、大切にしますね!』

 

『師範とお揃いの髪飾りなんて光栄です! ありがとうございます!』

 

『師範の継子として恥じぬ、立派な鬼殺隊の隊士になりますっ! この頂いた髪飾りに誓って!』

 

カナヲと同様に、義妹であった嘗てのカナエやしのぶの継子達の思い出が脳裏に過った。

そんなしのぶの事など露知らず、妖鬼妃は楽しそうにコロコロ笑いながらしのぶに話し掛けた。

 

「そんなに怒ると皺になるわよ? せっかく綺麗な顔してるんだから勿体無い……人間なんて直ぐ老けてあっと言う間に皺くちゃになっちゃうんだから……フフッ。」

 

妖鬼妃はあっ! と今思い出したような顔をした。おどけた言動が天真爛漫で明るかったカナエと重なり、しのぶの苛立ちは募る一方だ。

 

「ああ、思い出したわ。この髪飾りを付けてたのは女の鬼狩り共のものだった……で、私が殺して喰らってから着けてるのよ。貴女も蝶々の髪飾りを着けてるわね? あの娘達の家族か何かかしら?」

 

「その髪飾りはカナエ姉さんと私があの娘達に渡した物だあああぁぁぁぁぁ!! 返せ返せ返せぇぇぇぇぇ!!!」

 

しのぶは激昂して地面を砕く程の踏み込みで妖鬼妃に迫る。その整った容姿は憎悪と憤怒で染まり切っていた。

 

――あの娘達が死んだ時、その鬼が討滅されたという報告を受けてなかったけれど、まさか此処でその仇敵(かたき)である元凶と出会うなんてっ! 絶対にこの悪鬼を生かして返さない。皆、見ててっ! 必ずっ……この雌鬼は必ず……私がこの手で滅殺(ころ)して、貴女達の敵討ちをするからっ!!

 

しのぶは心中で今は亡き継子達に固く誓うと、日輪刀を妖鬼妃に突き刺そうとする。

 

「……っ!?」

 

しかし、妖鬼妃に突き刺さるまで後一歩のところでしのぶはその場でしゃがみ込んだ。

 

「ちっ……この一撃で終わらせてあげようと思ったのに。」

 

妖鬼妃がそう忌々しそうに言った瞬間、しのぶの後方の竹林がバサバサと斬られて倒れる音が鳴った。

 

「っ!」

 

バサバサと音を立てながら倒れて行く竹林を耳にしながら、しのぶは跳んで妖鬼妃から距離を取る。

 

「腕が……一体何をしたんです?」

 

「私が素直に言うと思って?……まぁ別に良いわ……今見せてあげるっ!」

 

「っ!」

 

妖鬼妃がそう叫ぶと、両腕を蟷螂の鎌のような鋭利な刃物に変えて、鞭の如く伸ばしてしのぶの命を刈り取ろうとする。

 

――くっ!……速いっ!……早さだけじゃなくて間合いも広いっ……でも間合いは三十三尺(十m)が限界ってところかしらっ!

 

「それそれっ! どんどん行くわよっ!!」

 

妖鬼妃は楽しそうに嗤いながら、両腕を振り回してしのぶに襲い掛かる。しかし、しのぶもまた一度も掠る事すら無く、妖鬼妃の斬撃を躱し続ける。それだけで無く、妖鬼妃の分析も忘れない。

 

斬撃の速さを見切れる様になると、しのぶは反撃に出始めた。

 

されど、妖鬼妃は鬼特有の超速再生能力に感けて攻撃を受ける様な真似はしない。

高い身体能力だけでなく、その双眸から繰り出される幻術系の血鬼術をも駆使してしのぶを惑わそうとして来た。

 

――くっ!……手強い……っ!……こいつっ……十二鬼月特有の文字や数字が刻まれている数字持ちの鬼でも無い癖にっ、私が以前葬った下弦の肆よりも数段も強いっ!

 

妖鬼妃の強さに驚嘆と苛立ちを覚えながら、必死で突破口を探そうとしのぶは妖鬼妃を睨み付けた。

 

しのぶの視線を受けた妖鬼妃だったが、怯むどころか愉悦を感じて不敵に嗤う。機嫌を良くした妖鬼妃は、しのぶを挑発する様に饒舌に語り始めた。

 

「ふふ、どうしたのかしら? この髪飾りを取り戻すのでは無かったの? 本当に柱かしら? 貴女?……まぁ別に良いけどね。柱にしては弱い方なら役得だし。」

 

「っ!」

 

しのぶは妖鬼妃の挑発的な発言に激怒したが、それも刹那の間だけであった。

 

――この雌鬼の声を聞くのは腸が煮え繰り返りそうですが、このままべらべら喋らせましょう。思わぬ情報を聞き出せるかもしれない……。

 

逆に妖鬼妃の発言で冷静さを取り戻したしのぶは、そのまま妖鬼妃をただ単純に滅殺するのではなく少しでも情報を聞き出すために行動する考えに切り替えた。

 

「貴女を殺せばあの御方がお喜び下さる! 十二鬼月でもない私が柱を葬れば更にあの御方の尊き血を頂ける! それが叶ったら私は更なる力を手に入れて上弦の鬼にすらなる事だって夢じゃないっ!」

 

「……へぇ。不思議な話ですね。貴女程の強い鬼が下弦の鬼にすらその戦列に加えられていないのは、流石におかしいと思ってました。一体全体、十二鬼月の現状はどうなっているんです?」

 

捕らぬ狸の皮算用をする妖鬼妃を内心で嘲笑いながら、しのぶは答えて貰えないのを承知で妖鬼妃に質問してみた。すると妖鬼妃はしのぶの期待以上の情報を、自らの口から話し始めた。

 

「下弦の鬼なら廃止になったわっ。(下弦の伍)鬼殺隊(あなた達)に殺られてから、下弦の鬼達はあの御方にその不甲斐無さを咎められて粛清されたのよっ。魘夢(下弦の壱)だけは粛清を免れて機会を一度だけ与えられたみたいだけど結局、無様に殺られたみたいだし。本当、あの御方の御心を煩わせる、恥知らずの面汚し共だわっ。」

 

「廃止になった……?!」

 

しのぶは妖鬼妃から齎された情報の内容を聞いて、素で驚愕した。直ぐに笑みを零して歓喜したが。

 

何せ鬼舞辻無惨が自らの手で下弦とは言え、十二鬼月の半分を葬ってくれたのだ。

柱級の隊士ならば取るに足らぬ下弦の鬼であっても、一般隊士では束になっても討滅出来ぬ手に負えない強敵である。

自ら居なくなってくれるなら、鬼殺隊としては言う事は無い。寧ろその愚行に拍手喝采するに違いない。

 

――思いも選らぬ素晴らしい情報が手に入りました。これは是が非でも、この吉報を御館様の御耳に入れて頂かなくては。もうこれ以上の情報は引き出せそうにありませんし、さっさとこの雌鬼を地獄へ送るとしましょうか?

 

「貴女もあの娘達と同じよう手足を斬り落としてから、私の血鬼術で天国を味わいながら地獄へ送ってあげましょうっ。今思い出したんだけど貴女の名前、しのぶだったりしない? あの娘達が言ってたもの。」

 

「っ!?」

 

しのぶの浮かべていた笑みが、妖鬼妃の一言で一瞬にして歪んだ。妖鬼妃はそんなしのぶに気付きながら、楽しそうに回想して語り続ける。

 

「因みにだけど、あの娘達の最期は傑作だったわよ? あの整った綺麗な顔を歪ませて、涙や鼻水を流しながら、手足から血を垂らしながら、下の口から小水や愛液を漏らしながら『カナエ様、助けて! しのぶ様、助けて! 誰でも良いから助けてよぉ!!!』って最期は死ぬまで喚き散らしながら惨めに死んで逝ったわ。ああ、あの光景を今思い出しただけでイっちゃいそう!!」

 

「貴…………様っ! 貴様あああぁぁぁぁ!! もう黙れ喋るなあああぁぁぁぁぁ!!!」

 

しのぶは妖鬼妃が自身の調子を狂わせるために態と挑発なのは重々承知していた。

それでも実姉のカナエに似た顔で、苦しみながら逝った継子達の死に様に今も泥を掛け、唾を吐いて愚弄するのが許せなかった。

 

しのぶは怒り狂いながら、毒刃を喰らわせんと妖鬼妃に猛攻を仕掛ける。しかし同時に動きも荒くなったのか、しのぶは妖鬼妃の斬撃を浴びて左腕を負傷してしまう。

それを見て妖鬼妃は勝利が自身に傾いたと、そう言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「やっと一撃喰らったわね。ちょこまかと鬱陶しいったらないわ」

 

妖鬼妃は嗤いながら、しのぶの血をたっぷり浴びた右腕を元に戻してその腕に付いた血を舐め始めた。

 

「っ!……ふふっ。」

 

負傷したしのぶは斬られた痛みに耐えながら、何故か満面の笑みを浮かべていた。

 

「っ?……何を笑っているの? 貴女は私に追い詰められている事を理解しているのかしら?……まぁ、自分の立場を理解していないと言うのなら、私が甚振って思い知らせてあげるわっ……がぁっ!?」

 

妖鬼妃はしのぶの様子に不審に思いながら、自身の優位性を疑わずにいた。しかし妖鬼妃は突然、顔を激しく歪めて、大量の血を吐いて膝から崩れ落ちた。

 

しのぶはその様子を見て歓喜しながら、絶対に此処で仕留めると改めて強く決意する。

日輪刀を一度鞘に仕舞って今調合出来る最強の猛毒を作成して抜刀する。

 

しのぶの日輪刀は、刀鍛冶の里を束ねる里長"鉄地河原鉄珍"が自ら製作した傑作品の一つだ。非力で刺突しか使えないしのぶのために、細剣(レイピア)の如き形状をしている。日輪刀の鍔は蝶の羽を連想させる、雅で巧みな意匠をしている。

 

鞘にはしのぶが自ら精製した毒が複数種類携帯されており、鞘に納め捻る事で毒を混ぜて毒刃を製薬するのだ。この特殊な日輪刀の仕組みは鉄珍としのぶにしか分からない。

 

愛刀を抜刀して構えたしのぶは、自身が独自に編み出した呼吸の剣技を繰り出した。

 

 

 

蟲の呼吸  蜈蚣(ごこう)ノ舞い   百足蛇腹(ひゃくそくじゃばら)

 

 

 

しのぶは毒刃をそのまま妖鬼妃の首に叩き付けると、妖鬼妃は顔を更に歪ませながらそのまま後ろに吹き飛んで行き、太い竹に背中から激突した。

しのぶは吹き飛んだ妖鬼妃を見ながら、地面に着地して日輪刀を鞘に納めた。

 

――あぁ良かった。これでこの戦いも終わる。後はあの娘達の形見となった髪飾りを回収するだけね。今の衝撃で髪飾りが壊れてなきゃ良いけれど。

 

しのぶは髪飾りを回収するために妖鬼妃に近付く。すると妖鬼妃が太い竹に持たれながら、座り込みながら苦しそうに憎悪と怨嗟に満ちた視線でしのぶを睨み付けていた。しのぶはそんな妖鬼妃を見て、警戒心を解く事無く負けじと睨み付ける。

 

「くそがっ……藤の花の……毒を……身体に仕込むなんて……悪趣味、過ぎるわよっ……がはっ!!」

 

「っ!!」

 

妖鬼妃はその言葉を最期に、大量の血を吐血して絶命した。絶命した妖鬼妃を見て、しのぶは漸く警戒心を解いて三つの髪飾りの無事を確認するために妖鬼妃に近付いて行った。

確認すると三つの髪飾りは幸い壊れて居なかった。しのぶはその事実に安堵し、一筋の涙を流して髪飾りを優しく抱き締めた。

 

――皆、敵討ちが遅くなってごめんなさいっ。カナエ姉さんや貴女達の御家族と天国で幸せにねっ。

 

「蟲柱様! 居られますか!? 蟲柱様!?」

 

「っ!」

 

しのぶが急いで涙を拭うと、声がした方向へと身体を向けた。其処にいたのは鬼殺隊の下部組織である事後処理部隊『(カクシ)』の一団であった。

 

しのぶは女性の『隠』である東城隊士から腕の治療を受けながら、同時にこの一団の指揮官である東城隊士に事の一部始終を説明し、報告を依頼した。

 

「おい、嘘だろ……この鬼、見て見ろよ……。」

 

「ん?……うわっ!? カ、カナエ様っ!?」

 

『っ!?』

 

二人の『隠』の会話から、全員の注目が妖鬼妃の遺体に集まった。

 

「っ!……止めなさいっ! 貴方達っ!!」

 

『っ!』

 

東城隊士がその声を聞いて状況を察すると、二人の『隠』に怒号を浴びせる。

己の失態に気付いた二人は、勢い良くしのぶに頭を下げた。

 

「っ……気にしなくて大丈夫ですよ。私も最初はそう勘違いしましたから。」

 

「胡蝶様……。」

 

しのぶはそう言って負傷した左腕を抑えながら、妖鬼妃の遺体に近付いて行った。近くまで行くと、しゃがんで妖鬼妃の顔を見る。

妖鬼妃は大量の血を吐いたせいか、口周りが血だらけであり左眼からは一筋の涙が流れた痕が在った。

 

「っ!」

 

しのぶはその光景を見た瞬間、ある悪夢の光景が脳裏に鮮明に流れ始めた。

 

 

 

『しのぶ。貴女には普通の女の子の幸せを手にいれて、お婆さんになるまで生きてほしいのよ。』

 

 

 

「っ!?……おええええぇぇぇぇぇっ!!」

 

『っ!!??』

 

しのぶが唐突に苦しみ出して、その場で嘔吐した。しのぶのそんな光景を見て、『隠』達は動揺して騒然となる。

 

「蟲柱様……?」

 

「私に触るなぁ!!!」

 

しのぶは自身に気を使ってくれた『隠』を、咄嗟に殴り飛ばしてしまった。

 

「こ、胡蝶様……。」

 

「……っ。」

 

困惑を隠せない東城隊士の視線が居た堪れなくて、しのぶは後処理を命じ、一人で先に帰還すると言って『隠』達を置いて行って、その場を逃げ去ってしまった。

そしてしのぶは真っ直ぐ蝶屋敷に帰れないと判断して、たまたま近くにあった薬師寺ひさの屋敷に転がり込んだのである。

 

 

 

♦︎

 

 

 

東京府・薬師寺ひさ邸

 

大正二年(一九一三年) 三月八日(土)

時間帯:夕方

天気:曇り

 

 

時間が経過して悲しみと罪悪感は薄まれどしのぶの心中から消える事は無かった。

 

そう、しのぶはカナエを自身の手で殺害した錯覚に襲われて、それを拭う事が出来ずにいたのだ。

 

ひさが布団を引き、しのぶに薄紫色の浴衣に着替えさせた後も未だに癒え無かった。

しのぶには夕食を食べる余裕も、湯船に浸かる余裕も無かった。

 

――分かってるっ……分かっているわよっ!……あんなのカナエ姉さんでも何でも無い! 只の他人の空似なんだって事は!……うぅっ……。

 

「あぁっ……やっぱり……辛いなぁ……姉さん……っ。」

 

しのぶは嗚咽を静かに漏らしていると、ドタドタと激しい足音が近付いて来る。ひさには絶対に誰も近付けるなと事前に言い伝えている。しのぶは警戒しながら足音の主が正体を現すのを待った。

 

「しのぶさんっ!? 炭治郎ですっ!! 大丈夫ですかっ!?」

 

「う……そっ? 炭治郎……君っ!?」

 

しのぶは足音の主の正体を見て驚愕した。しのぶにとって今、最も会いたくて、最も会いたくなかった人物だったからだ。炭治郎は心配しそうに、泣きそうな顔でしのぶに近付いて行く。

 

「任務が終わって、偶然この屋敷に寄ったらしのぶさんが苦しんでるってひささんから聞いて、俺、居ても立っても居られなくて……ひささんに頼んで中に入れて貰って、此処まで来たんです!!」

 

「炭治郎君…………っ❤️!」

 

――ああ、私の愛しい人はこんなにも私のために想ってくれるのね……❤️

 

しのぶは炭治郎と出会えた事に歓喜しながら、しのぶの自分の中にある糸がプツンと切れる幻聴を耳にした。しのぶは目元を拭いてから炭治郎に答えた。

 

「炭治郎君。私の事なんて良いですから、休まれて良いんですよ? 炭治郎君も任務帰りでしょうし、身体を休まれては……。」

 

「いいえ! しのぶさんの事を放っておいて休む事なんて出来ません! 俺に出来る事があれば、遠慮なさらず何でも言ってください!」

 

「……❤️」

 

――ああ、炭治郎君。貴方ならそう言うと思ってワザと言いました。意地悪な私を許して……。

 

「で、では…………この丸薬(くすり)を飲んで頂けますか?」

 

「え? 俺が飲むんですか?」

 

炭治郎が疑問に思うのも無理は無かった。苦しんでいるのはしのぶである筈であって自分ではない。それなのに薬を飲ませて欲しいと言うのならともかく、自分が飲むのは流石に解せなかった。

 

「お願い……❤️」

 

「っ……はい、分かりました!」

 

しのぶの色気に満ちた嘆願を聞いて、ただでさえお人好しなのに、好意を抱いている女性から頼まれては、断れる筈が無かった。

炭治郎は大きめの紫色の丸薬を一粒、そのまま躊躇する事無く飲み込んだ。

 

「しのぶさん、飲みましたよ。次は何をしたら良いですか?」

 

「で、では。三十分程経ったらまた此処に来て下さい。服は隊服のままで、お願いしますね❤️」

 

「はい!」

 

炭治郎はしのぶの発言を何一つ疑う事無く、炭治郎は部屋から退室した。パタン、と障子が閉まるとしのぶは大きく息を吸って吐いた後に、布団に倒れ込んで両手で顔を覆った。

 

――やっちゃったっ! やってしまったっ!! ああ、私が作った、私の妄想と願望の集大成である、あの丸薬を炭治郎君に飲ませてしまった……! も、もう後には引けない……! カナヲ、アオイ、ごめんなさい……っ!

 

しのぶはカナヲとアオイに罪悪感から謝罪したが、その美しい顔には狂喜の笑みが含まれていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

炭治郎は言われたように一秒も遅れる事無く、しのぶの部屋に到着した。しかしその顔ばかりか全身が赤く染まっており、呼吸を荒くしていた。

 

「はぁ、はぁ……し、しのぶさん。言われた通りに来ました……あ、あの一体何を、はぁはぁ……俺に飲ませたんですか? なんか、身体が熱いんですけど……?」

 

「そうですか……では隊服の上だけ脱いでから、布団の上に座って頂けますか?」

 

「えっ? は、はい……?」

 

しのぶは布団の上で正座して炭治郎を待っていた。炭治郎はしのぶが三十分前より顔が赤くなり、身体全体からやたらと甘い匂いを放っているのが気になっていたが、身体が熱くてそれどころでは無かった。炭治郎は隊服を脱いで半裸になると、しのぶが指定した位置に座り、しのぶと向き合った。

 

「しのぶさん……俺は何を「炭治郎君、ごめんなさいっ!」……んんっ?!」

 

しのぶはそう叫ぶように言うと、炭治郎を押し倒して熱い口付け(キス)をお見舞いした。炭治郎は眼をパチパチしながら困惑する他無かった。

 

「んちゅ❤️……んん❤️……はぁん❤️……ちゅうぅ❤️……んん❤️」

―――――んんっ❤️ 炭治郎君の唾液、甘い❤️……もっと口付け(キス)したい……❤️

 

「はぁん……うぅん……ちゅ……しの……さん……んんっ」

 

しのぶは荒々しく口付け(キス)をしながら舌を入れて、炭治郎の口内を蹂躙していた。歯茎まで嘗め尽くし、炭治郎の唾液を飲み込み、自身の唾液を炭治郎の口に流し込んだ。二人の唾液は口内から溢れ出て、布団の上に落ちて行った。

永遠とも感じた時間の中、しのぶは息切れを起こして口付け(キス)を解く。しのぶと炭治郎の間に太い銀色の橋が出来ていた。

 

「はぁ……はぁ……し、しのぶさん……。」

 

「はぁ❤️……はぁ❤️……炭治郎君……私、上手く出来ましたか……?❤️」

 

しのぶはトロンと蕩けたような視線をしながら、若干の不安を匂わせつつ、炭治郎に感想を尋ねた。まるで何かをして上手く出来たか親に尋ねる幼子のようだ。

炭治郎は先程の飢えた獣のようなしのぶから連想出来ないその姿に面喰らい、正直にどう感じたか答えた。

 

「えっと……とても……気持ち良かったです……後、甘かった……。」

 

「~~❤️ 良かった❤️……もっと❤️……もっとしましょ❤️❤️」

 

「しの……んん!?」

 

しのぶは炭治郎が喜んでくれた事に狂喜しながら、再び口付け(キス)を落とす。

 

「ちゅうぅぅ❤️ じゅる❤️ はぁん❤️ ちゅるる❤️ んん❤️」

 

「ちゅうぅ、ちゅ、んん、んふぅ、じゅる、じゅるるる。」

 

しのぶは先程よりも激しさの増した口付け(キス)から呂の字(ディープキス)に変えてそれを浴びせながら、炭治郎の口内の水分を吸いつくさんばかりに炭治郎の唾液を吸引した。炭治郎も先程より積極的にしのぶと唾液を交換し始めた。

 

しのぶは炭治郎が答えてくれたように感じて再び狂喜しながら呂の字(ディープキス)を続けて行くと、炭治郎の洋袴( ズボン)に手を掛ける。カチャカチャと両手の感覚だけで洋袴( ズボン)の金具を外し、降ろす直前で唇を離す。口付け(キス)に夢中だった炭治郎もしのぶが洋袴( ズボン)を降ろそうとしている事に気付いて狼狽する。

 

「しのぶさん! そ、其処は!?」

 

「お、お願い! 全部、全部私に任せてっ! 炭治郎君に一生懸命ご奉仕するからっ! 全部私に委ねて……ねっ❤️! ねっ❤️!!」

 

嘆願するしのぶに炭治郎が拒否するなど有り得なかった。炭治郎は羞恥心を隠しつつ「わ……わかりました。お、お願いします……!」としのぶに委ねた。しのぶはそのまま洋袴( ズボン)を丁寧にかつ素早く降ろした。

 

 

 

 

ボロロン!!

 

 

 

 

「きゃあああ❤️!」

 

「うぅ~、やっぱり恥ずかしいな……っ!」

 

炭治郎の逸物を見て、しのぶは歓声を上げた。しかし炭治郎は羞恥心が頂点に達したのか、とても恥ずかしそうにしていた。そんな炭治郎の心情など露知らず、しのぶは炭治郎の逸物を夢中に品評していた。

 

――す、凄い❤️ 今まで治療の過程で殿方の男根を何度も見て来たけれど……大きいのでも炭治郎君の半分少々しか無かったわっ…………本当に…………凄いっ❤️……最低でも六寸(十八cm)……いや七寸(二十一cm)以上はあるわね……熱した鋼鉄(てつ)のように熱くて硬くて……太さも指が付かないくらいあるなんて……ああっ❤️ 素敵っ❤️……素敵っ❤️

 

しのぶが沈黙して余りに熱く視線を炭治郎の男根に浴びせていたため、炭治郎は不安になって声を掛けた。

 

「あ、あの。しのぶさんっ!……その、気持ち悪い……ですよね……? 俺、小さい時からあそこが大きくて……お風呂の時に弟達にも良く茶化されてましたから」

 

「い、いいえっ! いいえっ❤️!! あまりに立派だから見惚れていたんです……っ❤️! 恥ずかしく思う必要なんてないですよっ❤️! とても……素敵です❤️ ああ、なんて雄々しくて、逞しいのかしら……❤️」

 

しのぶがうっとりしながら言うので、炭治郎もしのぶが喜んでくれるならと思うと今まで抱いて居た自身の逸物に対する劣等感は消えていた。

しのぶは炭治郎の逸物に頬ずりすると、口を大きく開けて逸物をパクっと加えた。

 

「っ! ううぅ!!」

 

「じゅるる❤️ ちゅぶ❤️ ちゅうぅ❤️ ちゅるる❤️ ちゅぅ❤️ ちゅば❤️……。」

 

「ああああっ!! なんだ……これ……すごく……気持ち良くて……あっ……なにか出る……出るっ!! しのぶさんっ……出ちゃうから離れてください……っ!!!」

 

「っ❤️!! じゅるるる❤️ じゅるるるる❤️ ちゅぼ❤️ ちゅば❤️……っ❤️!」

 

炭治郎は未知の快感に全身を震わせ、しのぶは喉元まで使って炭治郎を気持ち良くしようと書物や又聞きの知識で頑張って奉仕していた。耐性の無い炭治郎は湧き出る射精感に慌ててしのぶに伝えたのだが、しのぶは出してとばかりに更に激しくする。

 

 

 

ビュルルルルルル!! ビュブルルルルル!! ビュルビュル!!!

 

 

 

「――っ!!!」

 

「ゴクッ❤️……ゴクッ❤️……キュ❤️……ゴクッ❤️ ゴクッ❤️……ぷはぁ❤️ はぁー❤️ はぁー❤️」

 

炭治郎は我慢出来ずに逸物から白濁の溶岩を勢い良く射精した。しのぶは一滴も零すものかと全て飲み干して見せた。

しのぶは逸物から口を離し、手で逸物の硬さを確認する。萎えるどころか硬さが増している逸物を見て感じて、恍惚とした表情になる。炭治郎は快感が弱まって口が利くようになってからしのぶに謝罪した。

 

「しのぶさん……すみません。我慢、出来なくて……。」

 

「良いの❤️……とっても濃厚で❤️……甘くて❤️……素敵な味でした❤️……ね、ねぇ、炭治郎君❤️ もう一つになろ❤️ なりましょうね❤️」

 

しのぶは肌蹴ていた浴衣を脱ぎ捨てて生まれたての姿になる。明かりが付いたままであるため、その姿は良く見える。炭治郎はその鍛えられた美しい裸体から眼が離せなかった。

 

「ゴクッ……し、しのぶさんっ!」

 

「ふふっ❤️ 炭治郎君の日輪刀っ❤️ 私の裸を見て熱く硬く大きくなりましたよ❤️……ふぅ❤️ ふぅー❤️ も、もう挿入(いれ)ますね❤️……んんっ……んああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!❤️」

 

 

 

ズブブブブブッ

 

 

 

そう音を立てて騎乗位の態勢で炭治郎の逸物はしのぶの膣内に勢い良く侵入して行った。しのぶは一際大きな声を出した。その両眼からは大粒の涙が溢れ出る。それを見て炭治郎はしのぶを心配して声を掛けた。

 

「しのぶさんっ! 大丈夫ですかっ!? 痛くないですか!!」

 

「ち、違うのぉ❤️……気持ち良くて……それ以上に私が炭治郎君と一つになれたのが……貴方と結ばれたのが嬉しくて❤️……私……私ぃ……❤️」

 

しのぶは溢れ出る涙を両腕で拭いながら炭治郎に微笑んで見せた。そんなしのぶを見て炭治郎は愛おしさから胸が熱くなる。

 

「しのぶさんっ!」

 

「っ❤️!! あああああああん❤️!!」

 

炭治郎は上半身を勢い良く起き上がらせると、そのまましのぶを抱き締める。両手をしのぶの括れた腰に手を回し、自身の逸物をしのぶの蜜壷と形の良い大きな臀部に叩き付ける。炭治郎の対面座位での攻めに、しのぶは大きな声で嬌声を上げる。

 

「も、もう❤️ 全部、私に任せてって、んん❤️ 言ったのにぃぃぃあああああん❤️!!」

 

「しのぶさんっ! 貴女は俺をっ、ふぅ! 気持ち良くしてくれました! だから今度はっ、くぅ! 俺が貴女を、んん! 気持ち良くしてみせますっ!」

 

炭治郎はしのぶの豊満な乳房に顔を近付けて吸い付いた。そして吸い付いたまま徐々に攻めを強くして行く。しのぶは嬌声を上げながら炭治郎に抱き着く事しか出来ない。そうして炭治郎が攻め続けている内に、二人に限界が訪れ始めた。

 

「ああああっ! しのぶさん!! 出そうですっ!! 出ちゃいます!!!」

 

「んんっ❤️! 出してっ❤️! 私の膣内(なか)を❤️!! 炭治郎君でいっぱいにしてっ❤️!!!」

 

「はぁ、はぁ……うっ!!!」

 

 

 

ビュルルルルルルルル!! ビュルルル!!! ビュルビュル!!!

 

 

 

「「あああああああ!!!!」」

 

炭治郎の逸物から白濁の溶岩がしのぶの膣内を瞬く間に染めて行く。二人は快感のあまり屋敷中に響いたのではないかと言うくらいの嬌声を上げた。

 

「「はぁ、はぁ、はぁ。」」

 

快感の波が過ぎ去り、呼吸を整えると二人は見つめ合った後、口付け(キス)をした。

 

「「ちゅ……ちゅうぅ……ちゅ。」」

 

啄むような口付け(キス)を続けて行く内に、しのぶが炭治郎の肩に手を置いた。そしてそのまま炭治郎を押し倒した。

 

「わぁあ!? え、しのぶさんっ!?」

 

「私に任せてって言ったのに…………今度こそ、私が炭治郎君を気持ち良くしてあげますからっ❤️❤! 全部っ❤️❤️! お姉さんに任せて下さいねっ❤️❤️❤️!!!」

 

「……気持ち良くはもう既にさせられているのですが……わかりました。よろしくお願いします。ふふっ。」

 

しのぶが頬を膨らませながら炭治郎にそう宣言すると、炭治郎は苦笑しながらしのぶに委ねる事にした。しかし二、三回したくらいでは治まらず、その後二人は五時間以上もの間、休む事無く情交(セックス)を続けたのだった。




オリキャラ紹介

妖鬼妃(ようきひ)
カナエに良く似た女性鬼。効率良く成長するために稀血を中心に狩りをする美食家で、ある程度の人数を狩ったら鬼殺隊の眼から逃れるために他の鬼の縄張りも平気で侵入して共喰いしていた。しのぶの継子を全員殺害した張本人で臆病という訳ではなく、見つけた鬼殺隊士は容赦なく襲い殺して積極的に喰らっていた。

幻術系の血鬼術を使うが殺傷能力は低く、あくまで補助。両腕を蟷螂の鎌のように変化して攻撃する。間合いは三十三尺(十m)まで伸びる。実力は上弦の陸の片割れ"堕姫"と同等くらいの実力者。

しのぶとの死闘の末、討滅された。ある意味でしのぶのキューピッド役。
憎悪している鬼の御蔭で想い人と結ばれたと言う、しのぶへの皮肉の象徴でもある。


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第陸話 日輪は藤蝶の闇を祓う

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・薬師寺ひさ邸

 

 

大正二年(一九一三年) 三月九日(日)

時間帯:早朝

天気:曇り

 

 

此処は薬師寺ひさが所有し住んでいる薬師寺邸である。鬼殺隊を支援する“藤の花の家紋の家”として使われており、鬼殺隊士ならば誰でも無償で利用出来る。

今現在、鬼殺隊隊士・竈門炭治郎と蟲柱・胡蝶しのぶがこの薬師寺邸に宿泊していた。

 

「……ん……っ。」

 

起床した炭治郎は自分の上に乗っかっていた重みが無くなっている事に気付いた。

炭治郎は起き上がって周囲を見渡すと、薄暗い部屋に有った時計が目に付き、時間を確認すると時計の針は五時を刺そうとしていた。

 

――まだ五時前か……すると六時間ぐらいは寝れたかなっ? あれだけしたのに、思ったより早く起きれたなぁ……ふふふっ。

 

炭治郎は昨夜、しのぶと及んだ情事について思い出していた。あの後、しのぶが自分から攻めると言い出して上にのしかかって腰を振り始めた。

しかし、ものの三十分で「炭治郎君の……反則っ❤」と悔しそうに呟いて腰砕けになってそのまま倒れて来たのである。

 

それを合図に炭治郎としのぶは攻守交代となり、炭治郎がしのぶを四時間以上に渡って攻め続けたのだ。

しのぶは炭治郎の激しい攻めに数え切れない程の絶頂を繰り返した。途中でしのぶは「もうやめて。」だの「お願い休ませて。」だの「待ってイかせないで。」と炭治郎に伝えたのだが、炭治郎は攻めを激しくすれども止める事は無かった。

 

これは決して炭治郎が情交(セックス)の快楽に夢中で理性を失っていたからではない。

炭治郎もまた当初はしのぶの言葉通りに受け取り動きを止めようと考えたが、彼女から漂う嘘と強い欲求の匂いを感じて更に攻めを強くしてみせた。もしもしのぶが本気で嫌がっていたなら、直ぐにでもやめて謝罪しよう。と決心して。

するとしのぶは嫌がるどころか更に大きな嬌声を上げ、歓喜と幸福の匂いを強く漂わせたのだ。

 

炭治郎は確信を持って更にしのぶを喜ばせようと攻め続け、日を跨ぎ一時を過ぎた頃にしのぶが失神したため、動きを止めたのである。

炭治郎は未だ臨戦態勢の自身の愛刀を宥めつつ、何時の間にか部屋の外に新しい布団と浴衣、手桶の水に数枚の手拭いが置いてあったので、後始末を完了してから失神したまま眠りに就いたしのぶを抱いて寝たのだった。

 

炭治郎は起き上がって軽く身体を伸ばした後、部屋を出た。しのぶを探すためだ。しのぶの匂いを辿って足を進めて行く。

 

――外は昨日より雲が厚い……これは近い内に一雨降るな。しかし、しのぶさんは何処へ……ん? これはしのぶさんと……え? 何だかとても悲しい匂いがする……。

 

炭治郎は雨の匂いを気にしつつ、しのぶの匂いを辿って薬師寺邸の庭園に向かうと、そこに整備された庭園に足跡を見つけた。炭治郎は静かにその足跡を辿ると、茂みに隠れるように泣きじゃくるしのぶの姿があった。

 

「うぅ……ひっぐ……うぐ……あぁ……ああぁぁ……。」

 

「……?……しのぶさんっ!?」

 

「……っ!?」

 

炭治郎は驚いて思わず、しのぶに声を掛けた。しのぶは泣きじゃくるあまり、本来なら気付く事など造作も無い筈の炭治郎の接近に気付かず、気付いた時には自身の真後ろにいた。

しのぶは思わず、咄嗟の判断で逃げ出そうとしたが、足が絡れて転びそうになり、地面に顔面をぶつける前に炭治郎に抱き止められる形で転倒を阻止する事が出来た。

 

「……離して……っ。」

 

「……分かりました。でも雨の匂いが強くなって来ましたから、何時雨が降り出して来てもおかしくありません。せめて縁側にだけでも移動しませんか?」

 

「………………」

 

炭治郎はしのぶの沈黙を肯定と了承と解釈して、しのぶの手を掴んだまま薬師寺邸の縁側まで移動した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「「………………」」

 

縁側に移動した炭治郎としのぶだったが、縁側に座ってからお互いに閉口したまま、数分が過ぎていた。炭治郎は我慢出来ずに開口する。

 

「あ、あの、しのぶさん。良かったら俺、お水でも持って来ましょうか?」

 

「………………」

 

炭治郎はしのぶに声を掛けたが、しのぶは顔を俯かせたまま無言を貫いていた。

それに対し炭治郎は静かに縁側から立ち上がった。

 

「すみません。しのぶさんはお一人で居たいのに、俺が傍に居たら迷惑ですよね……気が利かなくてすみませんでした。俺、直ぐに離れますから。」

 

「ま、待ってっ!」

 

立ち去ろうとする炭治郎に対し、しのぶは俯いていた顔を上げて炭治郎を引き留めた。その声を聴いて炭治郎は縁側に座り始めると、しのぶは勢いよく頭を下げた。

 

「ごめんなさいっ!」

 

「っ!? しのぶさん。どうして貴女が俺に謝るんですか? しのぶさんは何も悪い事なんてしていませんよね?」

 

「いいえっ、そんな事無いわ。私は……私は一時の感情で炭治郎君にあんな事をしでかしてしまって……本当にどうかしていたの……本当に……ごめんなさいっ。」

 

しのぶは一筋の涙を流しながら、再び炭治郎に謝罪する。心から自身の行いに後悔し、悵恨(ちょうこん)している様子だった。炭治郎はしのぶの涙を拭い、肩に手を置いて視線を合わした。

 

「しのぶさん。貴女は何も悪く有りません。確かにいきなりされた時は驚きましたが、嫌では無かったですから。」

 

炭治郎は一瞬目を瞑ってあの一時を噛み締めるように思い出すと、直ぐに目を見開いて、真剣な表情でしのぶの両眼をしっかり見ながら話を進めた。

 

「何故嫌ではなかったか……だって、俺はしのぶさんの事が……それに俺はしのぶさんにした事に対して、責任を取らない様な無責任な男になる心算は有りません! だからしのぶさん、この先も俺と「駄目っ!!」……っ!?」

 

しのぶは炭治郎の告白を遮るようにしのぶは叫んだ。しのぶの叫び声に炭治郎は驚いて告白を中断してしまう。

しのぶは一度、大きく深呼吸すると笑顔で炭治郎を宥めるように、説得するように話し始めた。

 

「炭治郎君。あの時は私が悪いのであって、貴方は何も悪くなんて無いの。炭治郎君が私を一回抱いたからって律儀に責任を取る必要なんて無いんですっ。

貴方が責任を負う必要なんて有りません……あれは一時の夢、ただの夢幻(ゆめまぼろし)だと思ってどうか忘れて下さいっ。」

 

そこまで言うとしのぶは片手を前に出して反論しようとする炭治郎を制止してから、片手を下ろしてから話を続行する。

 

「ほら、私なんかより若くて健康的な娘達が蝶屋敷には居るじゃない? カナヲなんてどう? 

あの娘ね、炭治郎君は気付いてないかもしれないけれど、貴方の事がとっても大好きなのよ。きっと、貴方無しではこの先、生きて行けないくらいにはね……。」

 

しのぶは嬉しそうに、されど寂しそうにカナヲを炭治郎に勧めると、今度は別の女性を炭治郎に勧めた。

 

「何だったらアオイも炭治郎君にはお似合いじゃないかしら? 

家事全般何でも上手に出来るし、細かい気遣いも出来るからきっと貴方にとって素晴らしい良妻賢母(つま)に成れると思うのよっ……だからね、炭治郎君は私の事なんか忘れて、他の素敵な女の子と幸せになって? それが私の一番の願いなのっ……。」

 

まるでお見合いを強く勧めて来るお節介を焼く親のようになったしのぶに、炭治郎は面食らう。そして最後辺りに言った言葉に、炭治郎は怒りを含んだ様子で反論した。

 

「……俺がそんな事を言われてっ、「はい、分かりました。」なんて言って承諾出来る訳が無いじゃないですかっ! 

どうしてしのぶさんは明確な理由(わけ)を話そうとしないで、俺を貴女から遠ざけようとするんです!?……それともやはり、しのぶさんから匂う藤の花の香りが関係しているんですかっ?」

 

「っ!?」

 

炭治郎の指摘にしのぶは動揺を隠せず、笑顔の仮面が外れてしまう。再び俯いたまま黙するしのぶに炭治郎は確信を持って話を続ける。

 

「図星みたいですねっ。しのぶさんは疑問に思われてるようなので言っておきます。」

 

炭治郎は一呼吸置いてから、しのぶの疑問に答え始めた。

 

「俺が気付いたのは昨日の夜です。いえ、しのぶさんから藤の花の香りがしていたのを知っていたのは、最初に出会った時からでした。

当初は俺も藤の花の香り袋を常に身に付けているからとか、毒の開発で藤の花の香りがするのだろうと思ってました。でも裸でお互いに抱き合った時、しのぶさんから強い藤の花の香りがしたんです。」

 

「……ふふっ。」

 

「しのぶさん?」

 

「あははは、あっはははははっ。」

 

炭治郎の説明を聞いてしのぶは突然、哄笑を上げた。その様子に炭治郎は驚きを隠せなかった。

しのぶは一通り笑ってみせると、炭治郎と再び向き合った。その時炭治郎は一瞬だが動揺する。何故なら、しのぶからは怒った匂いがしているのを感じ取ったからだ。

 

「本当に、便利な鼻ですねぇ……今直ぐこの手で捥ぎ取ってやりたい程、忌々しさすら感じますよっ。炭治郎君。」

 

「……っ。」

 

「そんなに身構えないで下さい。もしかしたら、何時の日か貴方には感付かれると思っていましたから。」

 

そういうとしのぶは一度、眼を伏せて沈黙する。炭治郎はこの時しのぶから怒りの匂いに悲しい匂いが混じったのを感じた。しのぶは炭治郎に指摘された自身の身体について語り始めた。

 

「私の身体には今、高濃度の藤の花の毒が蓄積されています。髪の毛の先から足の爪先、血の一滴にまで藤の花の毒が混じっています。」

 

「っ!!??……どうして……っ!?」

 

「全ては姉の仇を取るため、ですっ。」

 

そう言うとしのぶは力を入れて握り拳を作った。しのぶは語り続けた。

 

「前に炭治郎君に話しましたよね? あの日、蝶屋敷の屋根の上で語ったあの夜の事を。私の最愛の姉が鬼に惨殺された……私はその怒りを忘れた事はない……。」

 

そこまで言うとしのぶは更に握り拳に力を込めた。しのぶは更に語り続けた。

 

「私は誓ったんです。この身体をっ! 私の全てを投げ打ってでも姉さんの仇を取るっ! 私から姉さんを奪った鬼を滅殺するためにっ!……弱い私にはこれしか方法が無かった。理論上の話でしかありませんでしたが、昨日の戦いで私は復讐が必ず成し遂げられると確信しました。」

 

しのぶは笑みを浮かべてそう言った。炭治郎は何か言いたげだったが、今は何も言わず黙ってしのぶの話を聴き続ける事にした。しのぶは怪我をしていた左腕を撫でながら再び語り始めた。

 

「昨日、私に傷を付けて勝ち誇っていた雌鬼が、その血を舐め取った瞬間に苦しみ出した姿は見ていて最高の気分でした。

炭治郎君にも見せてあげたかったですよ。これなら、たとえ仇の鬼を滅殺するに至らなくても、必ず弱体化は出来るっ。その時に他の誰かに私の代わりに倒して貰えば良いっ、とね。」

 

しのぶは言葉通り、自分の選択肢に間違いは無かったと思っていた。仇を討てる上に死んだ両親や姉の下へ行けるのだから本望とも言えた。

炭治郎は一通り聞くと、青褪めた顔をしていた。しのぶは自分の極端なやり方を聞いて引いているのだろうと思った。

そしてそのまま自分に幻滅して去ってくれれば良いと思いながら。

 

しかし、しのぶは気付いていない。炭治郎が話を聞いて別の意味で青褪めていた事に。そして間も無くその意味を自身が思い知る羽目になる事に。

炭治郎は一度深呼吸して息を整えると、しのぶに震えた口調で質問した。

 

「あ、あの、しのぶさん……その、しのぶさんが倒した鬼はしのぶさんが身体に藤の花の毒を仕込んだ事を知ってから、死んだんですよね……?」

 

「……? ええ、そうですよ? でも何一つ心配する必要はありません。ちゃんと念入りに死んだ事を確認しましたからね。鬼舞辻無惨にも知られる心配はありません。」

 

「炭治郎君は、何が言いたいんです?」としのぶは炭治郎を怪訝に思った。そんな視線を受けて、炭治郎は心苦しそうに口を開いた。

 

「しのぶさん。落ち着いて聞いて下さい。本当に、本当にこの事を言うのは心苦しいのですが……結論から言わせて頂きますと……貴女の望みが叶う事は、もう永遠に無いでしょうっ。」

 

「……は? 永遠に……無い? 炭治郎君、冗談よね? 流石に笑えないわよ?」

 

しのぶは紫掛かった美しい瞳に怒りの色を滲ませ、炭治郎を睨み付けた。しかし炭治郎は眼を逸らさず、むしろ負けじと視線を合わせてしのぶに話を続けた。

 

「しのぶさんにとっては「残念ながら。」と言うべきなのでしょう……ですが、これは俺が貴女を死なせたくないから言っている出鱈目でも無ければ、俺の身勝手から出た虚妄の戯言でも何でもありません。貴女のやり方が成功する事は絶対に無いっ……がっ!!!」

 

炭治郎が伝える終わった瞬間、強い衝撃が炭治郎を襲った。しのぶが炭治郎の胸倉を強く掴んだからだ。

 

「これ以上、そんな戯言を言い続けるのも大概になさいっ! 今直ぐその巫山戯た口を閉じなければ承知しないわっ!?」

 

笑顔が消え、怒りに満ちたしのぶの姿と彼女の警告に、炭治郎は動揺し一瞬、口を噤むが恐れず再び話を続けた。しのぶに伝えなければと言う使命感が炭治郎にはあったからだ。

 

「俺は! 鬼殺隊が知り得ない、鬼に関する事実を知っているんです…………情報源がとても口に出せないから、ずっと黙っていました。御館様には秘密裏に伝えていましたが…………しのぶさんの様子から見ると、御館様は柱にすらお伝えしていないんですねっ。」

 

「炭治郎君が御館様にしか伝えていない、鬼に関する事実……っ!? 何よ、それ!? 詳しく教えなさいっ!! 早くっ!!!」

 

「はぁ、はぁ。し、しのぶさん。お気持ちは分かりますが、どうか落ち着いて下さい! 慌てなくても、包み隠さず俺の知っている事は全部、貴女に話しますからっ!!」

 

しのぶは激しく狼狽した様子で胸倉を更に強く掴み、炭治郎を揺らしながら問い詰めた。必死でしのぶを宥めて落ち着かせると鬼に関する事実を語り始めた。

胸倉から手を離されても、自分を射殺さん勢いのしのぶの視線に緊張を隠せなかったが。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「まず、俺には禰豆子以外に仲良くして頂いている鬼の方々がいるんです。

珠世さんと兪史郎さんと言う人達です。

珠世さんは嘗て無惨に仕えていたんですが、今は無惨の呪いから解放されていて、無惨を倒すため、禰豆子を人間に戻すために協力関係を築いています。あ、兪史郎さんは珠世さんが作った鬼です。」

 

「……仲良くしている鬼?……珠世?……兪史郎? え、え?……ええっ!?」

 

炭治郎から齎された洪水の如き情報量にしのぶは困惑を隠せず、混乱している様子だった。入ってくる情報の量もだが、内容も内容である。しのぶが混乱するのも仕方無かった。

炭治郎は普段見れないしのぶを見れて珍しく思ったが、再びしのぶを宥めて落ち着かせてから、本題に入った。

 

炭治郎は鬼に関する事実に関して今度はゆっくり、丁寧に説明を始める。炭治郎はしのぶにこれらの情報を齎した。

 

・珠世とは嘗て無惨の傍で仕えていた鬼だが、今は無惨打倒のために戦っている高度な医学知識を持つ名医であること。

・兪史郎とは本来無惨にしか出来ない鬼の創造を珠世の手で実現した唯一無二の”珠世の鬼”であること。

・珠世と兪史郎は人を喰らう事無く、少量の人間の血で生き永らえていること。

・炭治郎は二人と浅草で出会い、禰豆子の血と今日まで倒した鬼の血を提供していること。

・鬼は鬼になった瞬間から無惨の奴隷であり、本能的に忠誠心と畏怖を全細胞に植え付けられること。

・鬼は無惨の呪いにより如何なる状況で有ろうと無惨を裏切らないし、裏切れない。人間や敵対者の前で無惨の名前を出すだけでも自壊作用が働き、鬼は死亡する。そのため如何なる手段による情報の獲得は不可能なこと。

・鬼は視線・思考・記憶・位置情報を無惨に全て把握される。距離が離れれば離れるほど思考情報の精度は低下するが、視線・記憶・位置情報はどれ程の距離から離れて居ようと逃れる術は無いこと。

 

これらの情報一つ一つがしのぶを驚愕させたが、鬼に関する情報に於いて、特に最後の情報を聞いた時は今にも失神して倒れてしまうのではないかと思う程、青褪めていた。

 

炭治郎はその様子を痛々しく思いながら、視線を逸らさないようにしのぶを見続けるしか無かった。

息苦しい沈黙が二人に舞い降りたが、そのままで居続ける訳には行かず、炭治郎は沈痛な表情で会話を再開し始めた。

 

「しのぶさんが倒した鬼が貴女の身体に仕込んだ藤の花の毒で殺られた事を死ぬ前に知ったなら、既に無惨にもその情報は渡っていると考えるべきです。そして……その情報を無惨は全ての鬼にも共有させるでしょう。

それは勿論、カナエさんを殺した鬼にも情報が行くに決まっています。もうどの鬼も、貴女を喰らおうだなんて考えない筈です。獲物が毒餌だと知っていて、喰らい付く馬鹿な捕食者なんて普通居ませんからっ。」

 

「…………」

 

しのぶは既に震えながら炭治郎から顔を背いて俯くしか無かった。

炭治郎は縁側から立ち上がり、しのぶの正面に移る。

そして下から顔を覗き込むようにしながら、心を鬼にして話を続けた。

 

「しのぶさん。今までの努力が報われない結果に終わって(つら)いのは分かります。

これまでの苦労が全て水の泡に終わってしまって苦しいのも分かりますっ……!

でもこれはしのぶさんにとっても良い機会になる筈ですっ! これを機に別の方法で復讐を成し遂げる方法を一緒に考えましょうっ! 微力ながら、俺もしのぶさんの力になりますっ!

必ずお役に立ってみせますからっ!」

 

「……っ……っ……っ……。」

 

しのぶが発する匂いが怒りや悲しみ、困惑など様々な匂いが入り混じっているのを炭治郎が感じていた。

しのぶが残酷な現実に打ち拉がれていると思い、炭治郎はその(つら)さを想像するだけで泣きそうになったが、その時しのぶが俯いて何か言っている事には気が付いた。

しかし、声が小さ過ぎて聞き取れ無かったため、炭治郎は心配しながら近付いて声を掛けた。

 

「しのぶさん……?」

 

 

 

♦︎

 

 

 

ドゴォッ!!!

 

 

「がはっっっ!!??」

 

炭治郎は顔面に強い衝撃を受けて吹き飛び、仰向けの状態で地面に叩き付けられた。

突然自身に陥った状況が理解出来ず、炭治郎は周章狼狽する。

すると左頬から熱と痛みを感じた後、自身の腹部に重みを感じて前を見てみると、そこには自身の身体にのしかかるように馬乗りになっているしのぶの姿があった。

 

「っ!!!」

 

炭治郎はしのぶの匂いを嗅いだ瞬間、鼻腔が火傷しそうになるぐらいの怒りの匂いを感じ取った。

しかし炭治郎はそれ以上に、しのぶから視線が離せない程、美しい笑顔でいた事が恐ろしかった。

 

「うふふふふふ、炭治郎君。駄目じゃないですかぁ鬼の存在を隠匿するなんて重大な隊律違反ですよ? 只でさえ、炭治郎君は禰豆子さんの件で立場が悪いんですからね?

私で良かったですねぇもしこれが不死川さんや伊黒さんだったらもぉぉっと面倒臭い事になってましたよ。

ささ、良い子だから何処にその鬼共がコソコソ隠れているのか教えて下さいな?」

 

「し、しのぶさん。俺はっ!」

 

「大丈夫ですよ! 炭治郎君は優しくて温かくてとても良い子だから鬼共にそこを目に付けられて騙されているんです!

だから私が今からその悪い鬼共を退治して炭治郎君を鬼共の魔の手から助け出してあげますからねっ! も~少しの我慢「好い加減にして下さいっ!!!」……っ。」

 

炭治郎はしのぶの現実逃避とも言える言動に遂に腹を据えかねて抗弁する。

しのぶは炭治郎の抗弁を聞いて怯むように静かになった。

 

「俺が嘘を吐けない馬鹿正直な性格である事は貴女が良く知っているでしょう!? 俺が大切な人の努力や苦労を全て否定するような残酷な真似が出来る訳が無いじゃないですか!

必要なら何度でも言いますがこれが事実なんです! 貴女のやり方ではもうカナエさんの仇討ちは叶わない!

好い加減、現実から目を反らすのは止めて下さい!」

 

「………………」

 

しのぶから先程の笑顔は消え去り、能面の如く無表情になった。

炭治郎は泣きそうになりながらも必死でしのぶに説得を続けた。

 

「しのぶさんが仇を討つために、身体に毒を仕込んだ覚悟は尊敬します……しかし、酷な事を言いますが、このままだとしのぶさんは無駄死にで終わってしまいます! ですから「五月蝿い……。」……えっ?」

 

炭治郎はしのぶの説得を中断した。何故なら、普段のしのぶからは絶対に聞かないであろう発言だったからだ。

しかし次の瞬間、それが炭治郎の聞き間違いでも無ければ、幻聴でも無い事を思い知る事になる。

 

「五月蝿い……五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿いっ!!! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇっ!!!!」

 

「っ!? があっ!?」

 

激昂したしのぶが怨嗟に満ちた声を上げると、そのまま両手で炭治郎の首を絞め始めた。

 

「良いからさっさとその嘘吐き鬼共の居所を吐きなさいよっ!! 嬲り殺してやるからっ……必ずこの手で殺してやるんだから……っそうよ! 鬼なんて……鬼なんて全員、苦しんで苦しんで惨らたらしく死んで、みんな地獄に堕ちれば良いのよっ!!!」

 

それはしのぶが心の奥底に封印していた魂の主張、心からの憎悪に満ちた魂の絶叫であった。顔からは笑顔は消え去り、眼は憎悪と憤怒の色で濁りきっており、顔中の血管が浮き出ていた。

炭治郎はしのぶの顔を見て、言葉を聞いて絶句したが、しのぶに絞首されて抵抗していたためそれどころでは無かった。

炭治郎は息苦しさに耐え、必死で開いた隙間から空気を取り込み、声を出そうとした。

 

「かふっ……ひゅーっ、ひゅーっ……し……の……ぶ……さん……っ。」

 

「絶対に許さないっ、認めてたまるもんですか……そうよっ! 嘘よっ! 嘘に決まっているわっ!! 誰にも言わせない……私の努力と苦労と覚悟が全部無駄になったなんて誰にも言わせないんだからっ!!!!」

 

しのぶはそう叫ぶと、更に炭治郎の首を絞める力を強めた。

炭治郎は残されていた僅かな気道すら塞がれてしまい、酸素不足による呼吸困難に陥った。

炭治郎は意識が朦朧とする中、失神する寸前でしのぶの絞首が緩む。

 

気道が確保出来たため、炭治郎はそこから一気に空気を取り込み始めた。充分な酸素を肺に取り入れている内に、「ポタッ。」と水音が聞こえた。それも二つの水音である。

 

一つは雨だ。天空に漂っていた黒雲から雨が降り出し始めた。この様子だと更に激しさは増すだろう。

もう一つは炭治郎の顔に落ちて鳴った水音だ。それはしのぶの瞳から零れ落ちた大粒の涙だった。

炭治郎はしのぶの顔を見てみると、嗚咽を出して泣いていた。

 

「ひっく……うぅぅぅ……わたし……あああああぁぁ……ああああぁぁぁぁぁ……っっ。」

 

「しのぶさん……っっ。」

 

憤怒、憤懣、悲憤、慨嘆、激憤、痛憤、激越、惆悵(ちゅうちょう)、悲嘆、哀絶、幽愁、悔恨、後悔、絶望、失望、様々な負の感情がごちゃ混ぜになって泣き出すしのぶを見て、炭治郎も我慢出来ずに泣き始めた。

しかし、このままではいけないと炭治郎は上半身を起こして改めてしのぶの説得を試みる。しのぶは炭治郎が起き上がっために、炭治郎が伸ばした足の膝の上に座り込む形になる。

 

「しのぶさん。何もいきなりご自分を犠牲にすることを前提とした、そんな復讐の仕方なんて、しなくても良いじゃないですか! カナエさんだってしのぶさんがそんな復讐の仕方をしても喜ぶ筈がありません!!

しのぶさんだけでその鬼を倒す事が出来ないなら、他の人達と一緒に戦って倒しましょう! 俺も喜んでしのぶさんのために戦います!」

 

「……(ぎりっ!)」

 

 

 

バシィィィィッッッ!!!!!

 

 

 

炭治郎の説得に対し、しのぶは激怒して歯軋りした後、炭治郎の左頬に目掛けて重い平手打ちを喰らわせた。

炭治郎はしのぶの平手打ちの衝撃で思い切り顔を背けたが、両手を地面に押し付けて座っていた。

そのため咄嗟に両手に力を込めて吹き飛ぶのを防ぐ事が出来た。

 

炭治郎はこの時、口の中を斬ったのか口内が血の味で埋め尽くされたが、しのぶに殴られた衝撃で茫然自失としていた。

左手で熱くなった左頬を抑えながら炭治郎はしのぶに視線を戻す。そこには涙を流しながら激怒するしのぶがおり、次の瞬間、左手で炭治郎の胸倉を掴んで怒号を浴びせた。

先程までポツポツとしか降っていなかった雨が本降りになって来た。

 

「知った顔で甘ったれた事を抜かすんじゃないわよっ!? 何も知らない癖に……私の事も! カナエ姉さんの事も!! カナエ姉さんの性格も顔も声も笑顔も何もかもを知らない癖に!!!……っ!!!」

 

しのぶがそこまで言うとガリッと血が滲む程、唇を噛む。そしてしのぶは泣きながら生前のカナエについて語り始めた。雨は更に強さを増した。

 

「カナエ姉さんは強くて美しくて賢くて優しい人だった!

十三歳で鬼殺隊に入隊して直ぐに遭遇した十二鬼月の下弦の弐を一人で返り討ちにした!

その功績で結果的に普通なら五年掛かって手に入れる柱の地位も、たった二ヶ月で手に入れて見せた!

当時は鬼殺隊史上最年少・最速の柱昇進と話題になったわ! 

その吉報を育手から知らされた時はどんなに嬉しかったか……っ。」

 

しのぶは誇らしげにカナエの柱に昇進した経緯を語る。しかし次にその顔には自嘲の色が浮かんだ。

 

「……一方の私は絶対に姉さんに追い付くっ!絶対に姉さんの隣に立って見せる!

そう決意した癖に藤襲山の"最終選別"で鬼の頸を斬り落とせず、折れた日輪刀(かたな)を投げ捨てて惨めに鬼から七日七晩逃げ回ってコソコソと隠れる事しか出来なかった!

生き残った同期達にも先輩の隊士達にも鬼の頸が斬れない隊士と馬鹿にされて鬼殺隊を追い出される寸前だった!

其処を姉さんが私を継子に指名して助けてくれたのっ! カナエ姉さんが居なきゃ今の私は鬼殺隊(此処)には居なかったっ!」

 

しのぶは当時の自身の不甲斐無さを自嘲しながら、更に語り続ける。

 

「カナエ姉さんの快進撃はずっと続いたっ!

多くの鬼を倒し、多くの仲間を、罪無き人々を救い続けた!

「鬼殺隊史上最強の女性(おんな)剣士」とか「歴代最強の女柱」なんて(のたま)う奴だっていたわっ!

あの時の私は一人を除いて姉さんより強い奴なんて居ないって思っていたっ!

鬼舞辻無惨だろうと、十二鬼月だろうと、姉さんに倒せない鬼なんか居ないって考えていたっ!

いいや、無惨を倒してこの戦いを終わらせるのは姉さんだって、信じてた!!……ぐっ、ぐううぅぅぅ……っっ。」

 

しのぶは生前のカナエを思い出して(つら)いせいか、言葉を詰まらせる。しかし、その苦しみを無理矢理捩じ伏せて続きを語った。

 

「そんなに凄かった人なのに、柱数人に匹敵するとされる上弦の鬼には敵わなくて惨殺(ころ)されたっ!……貴方は上弦の鬼の強さを知っている癖にっ! 私より弱い癖にっ!! 出来もしない事を口になんか出さないでよっ! そんな口先だけの理想論なんて何も知らない子供の戯言と一緒よっ!!!」

 

しのぶはそこまで言うと息が切らした様子で「はぁ……はぁ……。」と息を荒くして黙った。

炭治郎もまた何も言わず黙って聞き続けた。息を整えたしのぶだったが、歯軋りしてから再び語り始めた。

 

「死に際に姉さんは私に鬼殺隊を辞めて普通の女の子として生きて欲しいと言ったわっ!……でもそんな事が出来る訳無いじゃない!

お父さんもお母さんも鬼に惨殺(ころ)されてっ!

たった一人の姉さんまで奪われてっ!

妹同然の継子達も失ってっ!

数え切れない程の仲間が死んで逝ったのにっ!

今更無かった事にして普通に生きて行ける訳ないじゃないっ!

私は拒絶して死に際の姉さんに戦った鬼の情報を聞こうとした! でも私は鬼が”上弦の弐”である事と名前が”童磨”だと知る事しか出来なかったっ!

だから……だから私はカナエ姉さんの遺体を解剖して戦いの痕跡を調べる事にしたのよっ……っっ!!」

 

しのぶの告白に炭治郎は眼を見開いて驚愕した。その時のしのぶは怒り以上に悲しみの匂いが強く深くなった。

 

「カナエ姉さんの遺体を調べたら、肺胞が潰れてた……身体中、凍傷を起こしてた!

飽くまで推測の域を出ないけれど、童磨(上弦の弐)は氷を使った血鬼術を使うって事が、剣士の呼吸を封じる血鬼術を使うって分かっただけでも大収穫だったっ……無駄じゃなかった!

でも最愛の姉さんの身体を切り刻んでバラバラにする感覚は地獄だったっ! 解剖中は何回も何回も吐いた! 胃の中が空っぽになっても胃液を吐き続けた! あの感触を、苦しみを私は死ぬまで忘れないっ……!!」

 

しのぶは空いている右手で強く握る、爪が手に平に食い込んで流血し始めていた。しかし、しのぶは構わず語り続けた。

 

「私は、私からカナエ姉さんを奪った童磨(上弦の弐)を許さないっ……っ! あんな地獄を私に味合わせた童磨(あいつ)が許せないっ!!……だから……だから……っ。」

 

しのぶは自身の憎悪を炭治郎に吐き出し、自身の決意を語ろうとした。しかし、嗚咽が混じってきちんと語る事が出来なくなっていた。

 

「わたしは……身体に毒を……仕込んだのに……無駄に……なったなんて……ぐぅうぅぅっ……わたしが、弱いわたしが……ねえさんのか、かたきを、うっぐっ……とるには……これしか、ないのに……っっ……この方法しか……ないのに……非力なわたしじゃ……お、鬼の頸は斬れないから……もう……もうこうするしかないのに……ひっく……わたし……わたしは……なんのためにいきてきたの……どうしたら……いいの……もうどうすればいいのかわかんないよぉ……ううぅぅ……ひっく……ひっく……。」

 

親と逸れて迷子になった幼子のように泣き出したしのぶに、炭治郎は心臓を握り潰されたが如く胸が苦しくなった。しかし、このままではいけないと自身を奮い立たせ、右手をしのぶの左頬に添える。

 

「しのぶさん……俺はたとえ甘ったれた戯言だの口先だけの理想論だのと言われようと、俺は理想を諦めるつもりは、絶対にありません……。」

 

「……っ!」

 

しのぶは泣きながらキッ! と炭治郎を睨み付けるが、炭治郎は微笑みながら話を続けた。

 

「しのぶさんがそのやり方に拘るお気持ちは分かります……ですがこれを機に、生きて復讐を果たす方法を考えましょうっ。

しのぶさんだけで勝てないなら、カナヲや義勇さん、他の柱の方々と協力して倒す方向で考えた方が堅実的です……しのぶさんに力を貸す事を嫌がる人なんか絶対にいません!

この戦いは、貴女の復讐はしのぶさん一人のものじゃないから、貴女は一人じゃないから!……悔しいですけど、俺はまだしのぶさんのお役に立てる程、まだ強くありません。でもしのぶさんに誓います! 今よりも強く成って、柱になれるくらい強く成って必ずしのぶさんのお役に立って見せます! だって俺……俺の我儘でしかないですけど、しのぶさんに生きていて欲しいからっ!! 幸せになって欲しいからっ!!……っ。」

 

炭治郎は一呼吸おいてから、しのぶの両手を包むように掴んでから告白した。

 

「俺はしのぶさんが好きです! この戦いを終わらせる事が出来たら、禰豆子を人間に戻せた暁には、俺と一緒になってくれませんかっ!」

 

「……っっ!!??…………っっ。」

 

炭治郎の告白を聞いて、しのぶは眼を見開いて驚愕した。しかし、しのぶは言葉が出ず沈黙を続けた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「しのぶさん……っ?」

 

「駄目よっ!!」

 

「……っ!」

 

しのぶは炭治郎の告白を拒絶して立ち上がり、炭治郎から遠ざかるように数歩下がった。炭治郎も直ぐに立ち上がってしのぶに話し掛ける。

 

「しのぶさん……っ!!」

 

「……っ。」

 

炭治郎の呼び掛けに、しのぶはただ悲しそうに微笑むだけだった。そしてしのぶは炭治郎に語り掛ける。

 

「炭治郎君、藤の花の毒はかつてどうやって使われたか知ってる?……遊女を中心に、女性達が望まない妊娠を防ぐための避妊薬として、望まない妊娠をした時にお腹の子を殺す堕胎薬として用いたわ……私は、私は生き残れても、もう子供を産む事が出来ない可能性が高いの……っ! それに毒に蝕まれた私は何時、どんな副作用が発生するかも分からない……何時死んだっておかしくないのよっ!」

 

そこまで言うと、しのぶは何度目か分からない悲しみに満ちた涙を流しながら、更に語り続ける。炭治郎がこれを聞いて諦めてくれる事を願って。

 

「だから……だからね? 炭治郎君、考え直して?……わ、私みたいな、何時死ぬかも分からない、毒塗れの汚らわしい石女(うまずめ)の事なんて忘れて、他の女の子と幸せになって……ね……ねっ?」

 

「……」

 

炭治郎は黙ってそこまで聞くと、何も言わずしのぶに向かって足を進めた。そんな炭治郎に対し、しのぶは怯えた様子で後ろに下がろうとする。

 

「こ……来ないでぇ……っっ!」

 

「……っ!」

 

しのぶが更に後ろに下がろうとすると、足を滑らせて転びそうになる。そこを炭治郎が駆け付けてしのぶを手を掴み、そのまましのぶを引っ張って抱き締めた。驚くしのぶに炭治郎は抱き締めたまま語る。

 

「しのぶさん、貴女の身体がどう言う状態であろうと関係ありません。貴女が死んだ後でも、俺は何度だって言い続けます。」

 

炭治郎はしのぶとの抱擁を解いて、しのぶの眼をしっかり見て告白した。

 

「俺は、胡蝶しのぶさんが好きです。貴女を愛していますっ。」

 

「――っ!!」

 

炭治郎の告白にしのぶは大粒の涙を流す。炭治郎はしのぶから歓喜の匂いを感じ取った。しかしまだ悲しみと怯えの匂いが混じっている事に気付いた。しのぶは震えながら炭治郎に質問した。

 

「……いいのっ?」

 

「はい!」

 

「わたしは復讐を諦めきれない……この戦いの途中で死んでしまうかもしれない……。」

 

「しのぶさんの復讐は、俺も手伝います。それに戦いの途中で死んでしまう可能性があるのは誰しも同じです。」

 

「わ、わたしは生き残れたところで、炭治郎君の赤ちゃんを産んであげられないかもしれない……自分の子を抱けなくなるかもしれないのよ?」

 

「その分、二人で過ごせる時間が出来ますね。二人の思い出を沢山作りましょうっ。どうしても子供が欲しくなった時は、養子でも取れば良いんです。その子を、その子達を家族として迎えてあげましょうよ……血の繋がりなんてなくても家族の絆は作れる、それはしのぶさんが一番良くご存知ですよね?」

 

「……っ! わたしは……わたしは毒の副作用で突然死んでしまうかもしれない……きっと、貴方を置いて先に逝ってしまう……それでも……いいの?」

 

「その時は俺がしのぶさんの最期を看取ります。貴女がご両親やお姉さんのお傍に行くその瞬間まで、その手を最期まで握り続けてみせます。」

 

「……っ……っ……。」

 

「今度は俺の番ですね……しのぶさん。死が二人を分かつまで、一緒になって下さいっ。俺の恋人に……俺の妻になって下さい!」

 

「っ!!……あぅ……うぅぅ……っっ……ああああっ。」

 

 

 

バッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああああああああああああああああああああああああああああっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」

 

炭治郎に強く抱き着いたしのぶは声が枯れ、喉が張り裂けんばかりに泣け叫ぶ。身体の中に、心の奥底に澱んで溜まっていたヘドロを吐き出すように叫び続けた。

炭治郎は眼を閉じて同じく泣きながら黙ってしのぶを抱き締め続けた。少し経つとしのぶが途切れ途切れに炭治郎に告白の返答をする。

 

「ひっく……うぅぅ……わ、わたしも、たんじろうくんが、うぐぅ、すき、です、だいすき、です……わたしを、あ、あなたのこいびとに……つ、つまに、してください!」

 

「……はいっ!」

 

炭治郎としのぶはそのまま口付け(キス)を交わした。

その瞬間。偶然か、はたまた天の粋な計らいか、強く降っていた豪雨が弱まり優しい小雨となって二人に降り注いだ。

 

身勝手な、都合の良い思い込みかもしれない。それでも炭治郎はしのぶの荒んでいた感情を表していたような強雨から、まるで自分達を祝福してくれているような慈雨に変わった事に天に深く感謝した。




藤の花の毒が江戸時代に避妊・堕胎薬に使われていたのは知っているのですが、ソースが見つけられませんでした。智泉院・感応寺事件で使用されたと記憶しているのですが、実際はどうなんでしょうね?



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第漆話 日輪は藤蝶を貪欲に欲す ❤️

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・薬師寺ひさ邸

 

大正二年(一九一三年) 三月九日(日)

時間帯:早朝

天気:雨

 

 

「お互い、雨でびしょびしょですね。しのぶさん。」

 

「ええ、そうね。びしょ濡れだわ。ふふふっ。」

 

未だ雨に当たり続けている炭治郎としのぶは、決して短くない時間、雨に身体を晒し続けたせいでびしょ濡れになったお互いの姿を見て笑い合う。

しかし、直ぐに炭治郎がある事実に気付いた。

 

「……っ?!」

 

「……炭治郎君、どうかしたの?」

 

驚いた様子で、慌てて振り向いて背中を見せる炭治郎にしのぶが質問をぶつけた。すると炭治郎が背を向けたまましのぶに答えた。

 

「……あの、その……しのぶさんの浴衣が……っっ。」

 

「えっ?……っっ?!」

 

炭治郎の指摘を受けて、しのぶは着ていた浴衣に視線を向けた。

すると浴衣が雨に晒され続けた事でしのぶの身体にピッタリと張り付き、その美しい肢体を透けて見せていた。

しのぶは炭治郎は気付いて直ぐに目を逸らしてくれたのだと、漸く理解して赤面する。

 

「し、しのぶさん。先に行ってください。俺、後から行きますので……。」

 

「……っっ。」

 

「……えっ!?」

 

しのぶに気を遣ってそう言った炭治郎であったが、しのぶは返答代わりに炭治郎を背中から抱き締めた。しのぶのその行動に炭治郎は驚き狼狽する。

 

「しのぶさん!?」

 

「……一緒に縁側まで避難しませんか?……それに、貴方なら何時だって……っっ。」

 

「……っ(コク)」

 

しのぶの提案に炭治郎は黙ったまま頷いて承諾し、二人は顔を赤くしたまま縁側にまで避難した。因みに後半の部分は小声だったが、炭治郎はしっかり聞いていた。

 

「「……っっ。」」

 

縁側まで避難して雨宿りする炭治郎としのぶであったが、二人は相変わらず赤面したまま俯いていた。

しかし、その様子に直ぐに変化が起こる。炭治郎は俯いていた顔を直ぐに上げてしのぶを見た。何故なら、しのぶから悲しい匂いがしたからだ。しのぶを見てみると、彼女は自分の顔を見て悲しそうな顔をしていた。その意味が理解出来ず、炭治郎はしのぶに尋ねた。

 

「しのぶさん、どうかしました?」

 

「……っっ。」

 

しのぶは炭治郎の質問に答えず、黙ったまま炭治郎の赤く腫れた左頬を撫でた後、絞首した痣が残る炭治郎の首を撫でる。そしてしのぶは一筋の涙を流した。

炭治郎はしのぶが泣くのを見て動揺する。炭治郎が言葉を口にする前にしのぶから口を開いた。

 

「炭治郎君、ごめんなさいっ……貴方を、殴ったりなんかして……ましてや、首を絞めるなんて……っっ。」

 

「しのぶさん……。」

 

炭治郎は「気にしないで下さい。」と咄嗟に言おうとした。しかし、それではしのぶの気が済まないだろうと思い、口を噤む。すると炭治郎は一度目を見開いて、口元に笑みを浮かべる。この状況を丸く収める妙案を思い付いたからだ。炭治郎は直ちにそれを実行に移す。

 

「しのぶさん、ちょっと失礼しますね。」

 

「えっ……?」

 

戸惑うしのぶを余所に、炭治郎は添えられた手を握ってしのぶの美貌に顔を近付けた。

 

 

 

ちゅっ ちゅっ ちゅっ

 

 

 

「……っっ!?!?」

 

炭治郎は顔を近付けると、しのぶの額に一回、両頬一回ずつ、合計で三回口付け(キス)をした。炭治郎の行動に驚愕し、狼狽するしのぶ。そんなしのぶの様子を見て、炭治郎はしてやったりと言わんばかりに笑顔になる。

 

「俺、しのぶさんに二回程殴られて、首を一回絞められましたからね。これでお相子って事で、この話はお終いにしましょう。」

 

「……~~。」

 

炭治郎がそう言うと、先程まで抱いていた罪悪感は消し飛んだのか、しのぶからは恥ずかしさと悔しさの混じった匂いが漂い、赤面して炭治郎を睨み付ける。そして炭治郎に近付いて座り直すと、一矢報いるために行動に移した。

 

 

 

ぎゅっ❤

 

 

 

「っしのぶさん……?」

 

「……どうせなら、さっきみたいに口にして欲しかったなぁ……❤」

 

「……っ!」

 

しのぶは炭治郎に抱き着いて耳元に呟き、そして間近で炭治郎と見詰め合う。しのぶが言った事は飽くまで先程の炭治郎の口付け(キス)に対しての仕返しを兼ねた要素が強かった。しかし、本心ではそれを望んでいたのか、目を潤わせて炭治郎を見詰めていた。炭治郎もまたしのぶの目線から、また期待の匂いを察してそれに応えたいと決意した。

 

「しのぶさん……っっ。」

 

「炭治郎君……❤」

 

 

 

♦︎

 

 

 

「「……んっっ。」」

 

二人は磁石のように惹かれて口付け(キス)を交わした。ただ唇を重ねだけのものだったが。炭治郎は眼を瞑らず口付け(キス)をして、しのぶの反応を見た。

しのぶもまた眼を瞑らず炭治郎を見つめ続けていたが、口付け(キス)しているうちにトロンと眼を蕩けさせていた。

 

「「んっ……れろ……れろ……んん……んんっ……じゅるる……ぺちゃ……ぺちゃ……じゅる。」」

 

ただ唇を重ねるだけの口付け(キス)が物足りなくなって来たのか、二人の口付け(キス)は段々と、徐々に激しさを増して呂の字(ディープキス)に変わって行く。

 

互いの口に舌を侵入させて絡ませた後、口内を蹂躙し、唾液を甘露とばかりに貪り尽くしていた。呑み込めなかった唾液が口から漏れて、浴衣に落ちてシミを作って行く。

 

「んんっ、じゅる、ちゅぅぅ、んん、んっ。」

 

「ちゅる❤ ちゅぅぅ❤ じゅるる❤ んんっ~❤ んっ❤」

 

炭治郎としのぶは激しく呂の字(ディープキス)を続けていたが、それだけでは物足りなくなっていた。手持ち無沙汰だった手を使い、炭治郎は左手をしのぶの背に回して固定してから、右手を浴衣の中に潜り込ませてその豊かな乳房を揉み出していた。しのぶもまた徐々に勃起し始めた逸物を浴衣越しで愛撫していた。

 

快楽の波に揉まれ、酔って理性を無くしつつあった炭治郎としのぶは遂に互いの浴衣にまで手を掛けようとしたが、此処で想定外の第三者が現れる。

 

「炭治郎様、しのぶ様、いらっしゃいますでしょうか?」

 

「「っっ!?!?!?」」

 

突如として現れた第三者の声を聞いて、理性を取り戻した二人は慌ててその場を離れ、平静さを取り繕うと試みる。

尤も、双方共に口は唾液に塗れ、浴衣は開けていたが。

 

そこにいたのはこの薬師寺邸の主人である老婆、ひさであった。炭治郎としのぶはこの屋敷の最高権力者であるひさに挨拶をする。

 

「ひささん、おはようございます。」

 

「おはようございます。おひささん。」

 

「お二方とも、おはようございます。ささっ、こちらの手拭いで軽く御身体をお拭き下さい。それからお風呂の用意が整いましたので、是非お入り下さい。それが御済になり次第、朝餉の用意を致します。」

 

「ひささん、何から何まですみません。ありがとうございます。ありがたく使わせて頂きます。」

 

ひさのおもてなしと気遣いに、炭治郎は感謝を言葉にする。ひさは「恐縮で御座います。」と言ってその場を去った。

そこには赤面したままの炭治郎としのぶが残されていた。

 

「「…………。」」

 

「ねぇ、炭治郎君。」

 

「はい、しのぶさん。」

 

「おひささん、絶対気付いていたわよね?」

 

「……ひささんは何も言わなかったんです。そこは言わないで下さい。」

 

「そ、そうね。私達から藪蛇する必要もないわね……で、どうしましょうか?」

 

「ん? どう言う意味……ああ、そう言う事ですか、勿論、しのぶさんが先に入って下さい。俺は後で構いませんので。」

 

しのぶの質問の意図を察して、炭治郎はしのぶに遠慮して先に入るよう促した。それに対ししのぶはモジモジとしながら炭治郎に提案した。

 

「それで炭治郎君がまた風邪でも引かれたら悪いですもの……だ、だからね? 一緒に入らない?」

 

「……えっ?……えっと……」

 

しのぶの提案に炭治郎は顔を更に赤くしたが、結局「……わかりました……っっ。」と答えた。遠慮していたものの愛するしのぶの方から誘われたため、炭治郎の返答は一つしかなかった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「い、言っておきますけどっ! こんな明るい内から、しかもお風呂場で破廉恥な行為(おこない)は無しですからね!? その日輪刀も夜まで仕舞っておいて下さいよっ!」

 

「…………。」

 

自分から一緒に入らないか誘っておきながら、しのぶが炭治郎に行為に及ばないよう注意しておく。

する気が()()()無ければ真っ当な発言だが。しかし炭治郎は黙ったままニコニコと裸のしのぶを見ていた。

 

そんな余裕の様子の炭治郎を見て、何故自分より年下の炭治郎がこんなにも平静さを保っていて、年上の自分がこんなに焦って緊張しているのかと苛立ちながら、炭治郎を再度注意する。

 

「分かりましたね!?」

 

「はい♪」

 

炭治郎はそう返事をしてしのぶの後ろを付いて行く。炭治郎は匂いで既にしのぶの本心を察していた。

 

――そんなこと言っておきながらしのぶさんから凄い嘘と期待と興奮の匂いがする…………だったらそんな期待を察して応えられなきゃ男じゃないよなぁ。

 

そう自身の心中で呟くと、炭治郎は浴室に入った瞬間、行動に移した。

 

「しのぶさん、早速入りましょうか?」

 

「ええ、そうね……え、ひゃああん❤」

 

炭治郎は浴室に入ると早速、しのぶの背後から乳房を揉み始めた。それに対し、しのぶは嬌声を上げながら炭治郎に抗議する。

 

「ああん❤ さ、さっき駄目って言ったのにぃ❤」

 

「ふふ。そうですね。確かに駄目って言ってました。でも本当は期待してるんですよね? 匂いでわかりますよ。だから俺はそれに応えているんです。そうじゃなきゃいきなりこんなことしませんよ。それにまだ何もしてないのに、太腿に垂れているこの液体はなんなんでしょうかね? ふふふふっ。」

 

炭治郎はしのぶの蜜壷から流れ出てる液体を見てしのぶに指摘する。するとしのぶは赤面して釈明を始めた。

 

「っ! そ、それは……あ、汗ですっ! 只の汗ですからっ!!」

 

「ぷっ、あっはははははははは。」

 

しのぶの無理が有り過ぎる言い訳に思わず笑う炭治郎。しのぶの言動は炭治郎のしのぶへの愛おしさを増大させるだけだった。炭治郎は乳房を揉んでいた両手の片方をしのぶの蜜壷に向けてクチュクチュと弄り始めた。

 

「しのぶさん。その言い訳は無理が有り過ぎますよ……そもそも、汗ってこんなに温くて粘々してましたっけ? それからほら見てください。短時間で益々、滝のように溢れ出て来てますよ?」

 

「そ、それはぁ❤ 炭治郎君が意地悪するからぁ❤ ああああん❤」

 

しのぶは炭治郎に抗議するが、その顔は快楽で蕩け切っていた。炭治郎も興奮してずっとしのぶの臀部に当てていた逸物を秘部に収めるべく動き始める。

 

「これだけ濡れていたら大丈夫ですよね? しのぶさん、挿入(いれ)ますね。俺、もう我慢出来ませんからっ。」

――多少強引かもしれないけど…ごめんなさい、しのぶさん。

 

「あ、ああ❤ た、炭治郎君っ! せめてゆっくり、ゆっくあああああああっ❤!!」

 

炭治郎は心の中でしのぶに謝罪しながら背後からしのぶの秘部に逸物を挿入する。しのぶはその感触に歓喜の嬌声を上げた。炭治郎はしのぶの太腿に手を当て持ち上げて”後ろ矢筈”の体位で挿入して、そのまましのぶを抱えて激しく突き始めた。

 

「ああんっ❤! はあああんっ❤!! は、激しいよぉ❤!! ああああんっ❤!」

 

「ふうううぅ、ふううぅ、気持ち良いです……はぁ、はぁ。」

 

炭治郎は下から突き上げるように激しく攻め立てる。しのぶもまた立位による体勢で自身の全体重がのしかかるため、そこから来る強烈な快楽に連続して絶頂していた。そして炭治郎にも限界が来る。

 

「しのぶさんっ! 出ますっ! 出しますっ!……っ!!」

 

「ああ❤! あああああ❤!!!」

 

 

 

ビュルビュルビュルビュル!!!

 

 

 

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ❤!!」

 

しのぶの胎内を炭治郎の精液が一気に染め上げた。しのぶは一際大きい嬌声を上げ、炭治郎も絶頂して声にならない嬌声を上げた。

炭治郎は一通り出し切ると、そのまま秘部から白く染まった逸物を抜いて、しのぶをゆっくり下した。

 

「はぁー……はぁー……はぁー。」

 

「はあぁぁぁ❤ はあぁぁ❤ はあぁぁぁ❤」

 

炭治郎は絶頂の快楽から立ち直ろうと深く呼吸をした。一方のしのぶは絶頂の快楽に酔い痴れてフラフラになりながら浴槽の縁を掴んで身体を安定させた。

 

「はぁー……っ!!……っ。」

 

炭治郎はしのぶの姿を見て、視線を一点に集中した。しのぶ本人は意図してないかもしれないが、両腕を伸ばして浴槽の縁に掴まっていたため、臀部を突き出す”碁盤攻め”の体勢になっていた。

しのぶの蜜壷からは炭治郎が先程大量に射精した精液が膣内に収まり切らずに垂れるように溢れ出ていた。

その扇情的な姿に炭治郎の逸物は鞘から抜いた日輪刀の如く戦闘態勢になる。炭治郎は無言でしのぶの臀部を鷲掴みすると、自身の色で染まった秘部に逸物を挿入した。

 

「あああああああああんっ❤!?」

 

行き成り過ぎる挿入にしのぶは大きな嬌声を上げる。炭治郎は挿入して直ぐに反復動作(ピストン運動)を始めた。しのぶは浴槽の縁を強く握って炭治郎に抗議した。

 

「待ってぇ❤ あ、あああん❤ さっき❤ 出した、んんっ❤ ばっかりなのにぃぃぃ❤ ああん、あああんっ❤!!」

 

「ご、ごめんなさい!! ですが、そんなしのぶさんの姿を見て我慢なんかっ! 出来ませんよっ!!」

 

炭治郎はそう言うと乳房を両手で掴み、激しく揉みながら腰も更に激しく秘部に叩き付ける。

 

「~~~っ❤!!」

 

「あああっ!! 出します! またしのぶさんの中に!……いきます!!」

 

「き、来てぇ❤!! いっぱい出してぇぇぇぇ❤!!」

 

 

 

ビュルルル!!! ビュルルル!!! ビュルルルルルルル!!!

 

 

 

「ああああああああっ❤❤❤!!!!!」

 

しのぶは炭治郎の逸物から激しく精液を膣内に叩き付けられた事で再び絶頂した。

 

「「はぁ、はぁ、はぁ。」」

 

 

 

♦︎

 

 

 

「もう、こんなところで。流石にはしたないですよ、炭治郎君っ。」

 

「ふふ、すいません。ですがそう言うしのぶさんも、かなりノリノリだったと思いますけど?」

 

炭治郎としのぶは互いを抱き締め密着しながら、湯船に浸かっていた。しのぶの抗議に炭治郎は笑っていなす。

 

「う~ん。しのぶさんそこまで言うんでしたら、俺の抜きましょうか? 良いですよね?」

 

「だ、駄目ぇっ!!」

 

炭治郎の一言をしのぶは慌てた様子で拒否した。そう、情交は終わったのだが、炭治郎の逸物はしのぶの秘部に挿ったままだった。炭治郎は当初、逸物を抜こうとしたがしのぶが懇願して入れたまま湯船に浸かる事にしたのだった。

 

「こ、これは私の我が儘という訳では無くてですね……そ、そう! この体勢じゃないと湯船の中が狭いじゃないですかっ! あ、あと炭治郎君が際限無く出した子種が湯船に零れ出ちゃいますし……それに、それに日輪刀は鞘に納めるものですよっ! 私なにか間違ってますか!?」

 

「……っ……っ……そ、その通り……くくっ……ですね……ぷ、くくっ。」

 

次々と無理矢理過ぎる言い訳を大真面目に並べるしのぶに対し、炭治郎は笑いを抑えるのに必死だった。炭治郎が笑いを必死で抑える様子を見て、しのぶは唸りながら睨み付けることしか出来ない。

 

「うぅ~~~~っっ、きゃあ!?」

 

唸りながら炭治郎を睨み付けるしのぶに対して炭治郎は今一度強くしのぶを抱き締めて自身に引き寄せた。

 

「貴女が愛おし過ぎるのがいけないんですからね?……しのぶさん、大好きです。愛していますよ。」

 

「~~~~っ❤ わ、私も炭治郎君を愛してます❤」

 

炭治郎からの愛の呟きにしのぶも赤面しつつ歓喜して答え、炭治郎に負けじと抱擁する。

 

そのまま抱擁を交わした状態で暫く湯船に浸かっていたのだが、徐々に二人の息が荒くなって行った。

 

「……流石に……暑くなって来ましたね……はぁ……はぁ……あの、しのぶさん……あんまり締め付けるの、止めてくれませんか……?」

 

「そう言う、炭治郎君こそ……ふうぅぅ、ふうぅぅ……日輪刀を落ち着かせて下さいよ。私の膣内(なか)で暴れ過ぎですよ……んん❤」

 

「「はあぁぁぁ……はあぁぁぁ……んんっ。」」

 

二人は互いの行為に抗議していたが、息を荒くしたまま見詰め合っていると、そのまま口付け(キス)を交わしながら湯船から出た。

 

 

 

♦︎

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「しのぶさんっ! しのぶさんっ! しのぶさんっ!」

 

「ああん❤! ああああん❤!! さっきよりぃぃぃぃ❤ 激しいぃぃぃぃぃぃああああああ❤!!」

 

二人は浴槽を出て直ぐに浴室の床に倒れ込んで情交に及んでいた。炭治郎はしのぶの上に覆い被さり、”襷掛け”の体勢で激しく攻め、しのぶもまた炭治郎を離すまいと足を炭治郎の腰に交差して絡めていた。

そのまま炭治郎が攻め続けると、しのぶが口付け(キス)強請(ねだ)って来たので期待通り激しく口付け(キス)をお見舞いする。

 

「「ちゅぷ!! じゅぶじゅぶるる!! じゅううううう!! じゅううるるるる!!!!」」

 

炭治郎に呂の字(ディープキス)をされながら突かれているしのぶは、自分を激しく求めてくれている事に歓喜しながら更に膣内を激しく締め上げた。炭治郎はその締め付けに我慢出来ず逸物を爆発させた。

 

 

 

ビュルルルルルルルルル!!! ビュルルルルルルルルルルル!!!

 

 

 

「「~~~~~~~~~~~~~~~~~~」」

 

これまで以上の大量の射精に二人は口付け(キス)したまま絶頂した。漸く逸物から白濁の溶岩を出し切った炭治郎は口付け(キス)を解き、息を整えてからしのぶと見詰め合う。

 

「炭治郎君、とっても素敵でしたぁ……❤」

 

「しのぶさんが感じてくれて、俺も嬉しいです……。」

 

そう言い合った後、二人は起き上がり、座ったままお互いを強く抱擁する。するとしのぶが未だ興奮したように炭治郎の耳元に囁いた。

 

「もっと、愛し合しませんか?❤ 炭治郎君のは、まだ満足してないみたいですし……ね❤」

 

「しのぶさん……。」

 

二人は情欲の熱に浮かされて、再び情交(セックス)を再開しようとする。しかし、此処で予想だにしない事態が発生した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

ばっしゃーーーーーーん!!!

 

 

 

「「っっ!?!?!?!?!?!?」」

 

突然二人に降り注いだ冷水に困惑と混乱を隠せない炭治郎としのぶは慌てて周囲を見渡す。そして二人はその原因に驚愕する事になる。

 

「ひ、ひささん……っ!!」

 

「どうして、こちらに……っ!?」

 

「それはお二方がお風呂に行かれてから二時間あまりに経ち、心配になったからでございます。」

 

そこにはこの薬師寺邸の女主人たるひさがいた。隣には小柄な彼女がたとえ空っぽの状態であっても持つのがやっとではという大きさの(たらい)があった。

その(たらい)に冷水を入れて炭治郎としのぶにぶっかけたと言うのは状況証拠的に明らかであった。

 

ひさは普段通り穏やかな顔をしていたが、二人にとってそれが逆に恐ろしかった。その一際小柄な身体からは、信じられない程の威圧感が感じ取れていた。

 

「……お二方。何か言う事でもございますか?」

 

「「た……大変申し訳ございませんでしたっ!!」」

 

そんなひさを前にして、炭治郎達はそのまま土下座して謝罪した。他の仲間には絶対に見せられない姿であった。もし見られたらその場で自害して果てかねない。

 

「では、私からはもう何も申し上げる事はございません。朝餉は直ぐにでもご用意させて頂きますので、また後程、お申しつけ下さいませ。」

 

「わ、分かりました。」

 

「……はい。」

 

ひさはそう言うとその場を去って行った。浴室には情欲の熱は綺麗さっぱり消え去っていた炭治郎としのぶの姿だけであった。

 

「……しのぶさん。とりあえずお風呂に来たんですから身体を急いで洗って出ましょう……。」

 

「そうね、そうしましょうか……。」

 

二人は力なくそう言うと急いで身体を洗い、浴室から出て行った。朝餉は胃に優しく、されど豪勢な食材を使った料理が並んでいたが、炭治郎としのぶは殆ど味が分からなかった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月九日(日)

時間帯:朝

天気:曇り

 

 

「しのぶさん、もう顔を上げて下さいよ。今更気にしたって何も始まりませんから。」

 

「炭治郎君……すみませんが、一人にさせて下さい。恥ずかし過ぎて死んでしまいそうなので。」

 

朝食後、炭治郎は紙と筆と墨の用意を頼んで持って来て貰った。

 

しのぶは浴室での出来事が未だ衝撃的(ショック)だったのか、頭を膝に抱えて落ち込んでいた。

炭治郎はこれでは埒が開かないとしのぶを説得するが効果が無く、仕方無く本題をぶつけてしのぶの気を引く事にした。

 

「俺、しのぶさんに珠世さん達の事で相談があったんですが、聞いて貰えませんか?」

 

「っ!?」

 

今朝、炭治郎が話してくれた協力関係にある鬼達の話を聞いて、しのぶは俯いていた顔を上げて炭治郎をしっかり見る。

 

「炭治郎君は、私にその鬼達をどうしろと?」

 

「余計な前置きは省いて単刀直入に言います。しのぶさん、珠世さん達と協力して下さい。

珠世さんは俺が知る限り、大日本帝国(この国)で一番のお医者様です。薬にも毒にもお詳しいから必ず、しのぶさんのお望みを叶えるためのお役に立つでしょう。

どうか、鬼への嫌悪感は一旦置いて協力してくれませんか?」

 

「…………っ。」

 

炭治郎の嘆願に、しのぶは沈黙して考え始める。炭治郎もまた黙ってしのぶを見守っていると、しのぶが口を開いた。

 

「分かりました。ですが、条件が二つ程あります。」

 

「はい。」

 

炭治郎は固唾を飲んでしのぶが何を言うのか待った。

 

「一つ、その方々には蝶屋敷に住んで頂きます。蝶屋敷は設備は整ってますから、役に立つ筈です。」

 

「っ! しのぶさんはそれで良いんですか?」

 

「今更ですよ。それに一緒にいた方が協力と連携がやり易いですから。次に……二つ、私も禰豆子さんを人間に戻すための協力者に加えて下さい。」

 

「……えっ?」

 

二つ目の条件を聞いた炭治郎は一瞬、理解が及ば無かった。

 

「私も禰豆子さんに人間に戻って欲しいと願っています。」

 

しのぶはそう言って炭治郎から視線を外して、自身の禰豆子に対しての想いを語り始めた。

 

「私は正直言って、禰豆子さんの事が好きではありませんでした。

むしろ、嫌いと言っても良かった。

鬼である事は勿論、貴方からの愛情を独占しているようで妬ましかった。

でも貴方にそんな醜い私を悟られたく無かったから。知られたく無かったから。

だから絶対に禰豆子さんの前に出ないようにしたし、話題にもしませんでした。」

 

そこまで言うとしのぶは再び視線を炭治郎に戻した。

 

「でも今は違います。何故なら、最愛の人の一番の願いを私が叶えてあげたい。復讐に取り憑かれていた私が、今はそう思えるようになったんです……そ、それに未来の義妹(いもうと)の身を案じるのは当然じゃないですか。」

 

「しのぶさん……ありがとうございますっ。」

 

炭治郎は感激した様子で目を潤ませてしのぶに感謝すると、しのぶが炭治郎を優しく抱き締めた。

 

「私の方こそ、ごめんなさい。禰豆子さんの事、そんな風に思っていてっ。」

 

「良いんです、気にしないで下さい。しのぶさんは何も悪くありませんから。」

 

しのぶからの抱擁に対して、炭治郎もまた優しく抱き締め返す。二人は暫くそうしていると、どちらからともなく名残惜しむように抱擁を解いた。

 

「早速ですが、俺は珠世さんに一筆(したた)めます……承諾してくれると良いんですけどね。」

 

「だったら、私からもその方に一筆(したた)めるわ。それから大丈夫だと思うけど、御館様にも私からお手紙を出しましょう。」

 

「ありがとうございます! 助かります!!」

 

それから炭治郎としのぶは珠世と兪史郎を蝶屋敷に招くべく手紙に筆を進めた。

暫くして手紙が完成すると、雨が止んでいる内に庭に出てしのぶは早速自身の鎹烏に耀哉に宛てた手紙を持たせた。

 

その一方で、炭治郎は鎹烏に手紙を持たせる真似はせず、しのぶの鎹烏を共に見送っていた。不思議そうに見詰めて来るしのぶに炭治郎は尋ねられる前に答えた。

 

「珠世さん達は無惨の追跡から逃れるために、幾つもの拠点を転々としているんです。だから鎹烏では連絡は取れません。」

 

「では、どうやって連絡を取っているの?」

 

「こうするんです。今は居るかな?……茶々丸っ!」

 

炭治郎がしのぶの質問に答えた後、そう叫んだ。

 

 

 

 

みゃおぅ

 

 

 

 

猫の鳴き声と共に、庭に一匹の三毛猫が突如として現れた。その三毛猫は背中に革製の背嚢を背負っており、胸に目の紋様を描いた符を着けていた。

 

「きゃっ!?」

 

しのぶは茶々丸の出現に驚愕して炭治郎の背中に隠れた。炭治郎はしのぶのそんな姿に驚くが、するべき事を務めるべく二通の手紙を持って茶々丸に近付いて行った。

 

「茶々丸、この手紙を珠世さんと兪史郎さんに届けておくれ。」

 

「(コク)……みゃおぅ。」

 

炭治郎が背嚢に手紙を仕舞うと、茶々丸はそれを確認してから一度鳴く。すると再び姿を消してその場を去った。

その後の様子は察知出来なかったが、炭治郎は「お願いねー!」と声を掛けた。しのぶは戻って来た炭治郎に尋ねた。

 

「炭治郎君! あ、あの猫っ。」

 

「落ち着いて下さい、全部説明しますから。もしかして、しのぶさんって猫苦手なんですか?」

 

「うぅ、動物は全般苦手です……。」

 

「そうなんですか。なんか意外です。」

 

普段の凛々しさと余裕を失くしたしのぶを見て、意外に思う炭治郎。内心では愛する恋人の意外な一面を見れたので、茶々丸に心底感謝していたが。

 

炭治郎はしのぶと部屋に戻ると茶々丸を始め、兪史郎の事をしのぶに説明した。

兪史郎の血鬼術を説明された時はしのぶは驚愕と感嘆を隠さず、また採血の短刀は実物を興味深そうに触っていた。本当なのかと自分の腕を刺そうとした際は炭治郎は慌てて止めたが。

 

「炭治郎君。兪史郎さんについては分かりました。珠世さんはどんな方なんです?」

 

「珠世さんはですね……まず一言で言うなら、とっても綺麗な美人さんです。」

 

「……はいっ?」

 

炭治郎が珠世を思い出すように話す際、顔を赤く染めながらそう言った。

しのぶは炭治郎のそんな反応に対して青筋を浮かべる。

しかし炭治郎はそんな様子のしのぶに気付かず珠世の説明を続けた。

 

「綺麗なだけじゃなくて、聡明で頭も良くて様々な知識、特に医学知識の造詣(ぞうけい)が深いんです。

どんな状況であっても取り乱さない冷静沈着な女傑でもあります。

でもその本質は優しくて穏やかな人格者と言う、絵に描いたような大人の女性。珠世さんはそんな尊敬に値する、素晴らしい女性です。」

 

「………………っっっ。」

 

炭治郎は意識せずこれでもかと珠世を褒めながら説明したが、聞かされたしのぶはたまったものではない。

もしカナヲやアオイがこの場に居たら、炭治郎の口を無理矢理にでも封じて黙らせていただろう。

そんな炭治郎だが、しのぶを見て漸く彼女から怒りの匂いを察して困惑しながら尋ねた。

 

「あれ? しのぶさん、どうして怒っているんですか?」

 

「……どうせ私は感情の制御が出来ない未熟で短気な小娘ですよっ! 落ち着きのある大人な女性じゃなくて悪うございましたねっ! ふんっ!!」

 

「ちょ!? ええっ!? しのぶさん!? 俺何かしましたっ!?」

 

「炭治郎君なんか知りませんっ! 自分の胸に手を当てて良く考えなさいっ!!」

 

激怒したしのぶは嫉妬するあまり拗ねてしまい、炭治郎は大いに困惑したのだった。

因みに炭治郎はこの後、しのぶの機嫌を直すのに三時間以上掛かったのだが、原因は遂に分からなかった。



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第捌話 日輪は夢幻の桜蝶と邂逅す ❤️

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


某所

 

そこは多種多様な花々や植物が咲き誇る場所だった。その地は一つの大河で二つの地に分け隔てられていた。

その一方はこの世の花々や植物の姿が見えたが、大河を越えたもう一方の地に咲く花々や植物はこの世のものとは思えない程、神秘的なものばかりであった。

 

この世の花や植物が咲き誇る地に一人の女性が池の前で立っていた。

その女性は蝶々の羽根のような羽織を纏い、腰まで届く流れるような黒の長髪に、頭の両横に桃色が基調の蝶々の髪飾りを付けていた。

また服装は鬼殺隊の柱のみにしか着用を認められていない、金色の(ボタン)を付けた隊服を着ている容姿端麗な長身の美女だった。

 

「……………………」

 

その見た目麗しい美女は池を見て、少し顔を赤く染めながら考え事をしていた。そして初めて口を開く。

 

「彼は言葉に出来ない程の大恩人だけれど……このままでは……出来るかどうか分からないけれど、試してみる価値はあるわね。」

 

そう言うとクルリと身を返して、呟いた。

 

「今はもう声も届けられないけれど、お姉ちゃんが力になるからね。優しい貴女に変わって彼にお灸を添えてあげるわ。待っててね……しのぶ。」

 

そう言うとその美女は姿を消した。美女が覗いていた池には男女の夜の営みが映っていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

東京府・薬師寺ひさ邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十日(月)

時間帯:深夜

天気:雨

 

 

既に夜の闇が覆う日を跨いだ時間帯で、薬師寺邸で竈門炭治郎と胡蝶しのぶに当てられた一室は僅かな明かりが灯っていた。

そこは水音が跳ねる音と男女の喘ぎ声が部屋から響いていた。

 

「ちゅううぅぅぅ、ちゅぶちゅぶ、れろれろ、じゅるっ。」

 

「ああん❤ あああ❤ そ、そんなに乳房(おっぱい)吸わないでぇ❤ 乳首ぃ❤ 感じちゃうぅぅぅ❤」

 

「ちゅば。遠慮しないで、もっともっと感じてください。しのぶさん、ちゅううううぅぅぅぅぅっ。」

 

「ああああああ❤ さっきより強いぃぃぃ❤ イックううぅぅぅ❤」

 

しのぶは炭治郎にしがみ付きながら仰け反って何度目か分からない絶頂を迎えた。しのぶの反応を見て、炭治郎は愛おしさを募らせながら自分らしくないと思いつつも、つい意地悪な表情をしてしのぶに言う。

 

「しのぶさん、気持ち良くなってくれて嬉しいですよ。おかげでまたイきましたね♪ この二十分間、口付け(キス)乳房(おっぱい)しか弄ってませんけど、何回イったんですか?」

 

「ああ❤ あああぁぁぁ❤ そ、そんにゃこきょ言われても❤️ わ、分かんにゃい❤ 分かんないよぉ❤」

 

しのぶはそう言ってうつ伏せになる。膝を立てて溢れ出た精液が零れ続ける秘部を炭治郎に向けているため、誘っているようにしか見えない。そんな姿を見て炭治郎の逸物は硬さと熱さが増すばかりだ。

 

「しのぶさん、イッてすぐとはいえ、そんな姿をされたら誘っているようにしか見えませんよ。申し訳ないですけど俺、そんなしのぶさんを見て我慢出来ないので戻します♪」

 

炭治郎は臨戦態勢の逸物を中程で握ると、しのぶの秘部に一気に挿入した。

 

「あああああ~~~~~~~~っっっ❤❤!!」

 

しのぶは一気に挿入されたことによる強い快感に嬌声を上げる。炭治郎も同じく強い快感を感じながらしのぶを見つめる。

 

「ふふ……しのぶさん、気持ち良さそうですね。俺も気持ち良いですよ。というわけで……またいきますよ、しのぶさん! 手、失礼します!」

 

炭治郎はしのぶの前腕を掴んで引っ張ってから、しのぶを浮かせて激しく攻め始めた。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「あああ❤! んあああぁぁぁ❤! いひぃぃぃぃ❤!」

 

「ハアアァァァ、ハアアァァァ……っ!」

 

炭治郎は快感から恍惚な表情を浮かべ、しのぶは一突きされる度に大きな声で嬌声を上げて軽い絶頂を繰り返していた。そんな絶頂の波に襲われ続けたしのぶが一際大きな嬌声を上げた。

 

「ああああああっ❤! 来るぅぅぅっ❤! おっきいのきちゃうぅぅぅぅ❤!!」

 

「しの……ぶ、さんっ! 俺も……出ますっ!」

 

 

 

ビュルルルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!

 

 

 

「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ❤!!」

 

炭治郎の逸物から大量の白濁の溶岩がしのぶの胎内を通って子宮を襲う。しのぶは一際大きい嬌声を上げて絶頂した。

 

「ふぅ……ふぅ……気持ち、良かった……っ。」

 

炭治郎は満足そうにそう言った後、しのぶを見る。するとしのぶは白眼を向き、舌をだらしなく突き出して失神していた。そんなしのぶを見て炭治郎は呟く。

 

「ああっ……しまった……激しくやりすぎてしまった……しのぶさんがいいなら朝まで出来るようにしたつもりが……後半から我慢できなくなっちゃったんだよな……。」

 

そう言ってしのぶの蜜壷から自身の愛刀を引き抜く。

劣等感の象徴だった逸物も、今では最愛の恋人(ひと)を喜ばせられる自慢の愛刀となっている。そういう意味では初めて、炭治郎は自身の逸物を良かったかもしれないと思った。そしてその愛刀は臨戦態勢を未だ解いて居なかった。

しかし、気絶しているしのぶに無理矢理する訳には行かない。

 

炭治郎としのぶは早めの夕食と風呂を済ませ、十八時には情交(セックス)を始めていた。

しかし、最初から激しく攻めると昨日のようにしのぶが失神してしまうため、小休止を挟みながら愛し合った。

 

しかし、炭治郎が我慢出来ずについ、休んでいる時も口付け(キス)することと愛撫することをしたために後半は休みらしい休みが取れなかったため、しのぶは再び失神してしまったのだった。ちなみに我慢できなかった炭治郎だが、しのぶは嫌がったりせずに受け入れてくれたので炭治郎は内心、しのぶへの愛しさと感謝の気持ちでいっぱいだった。

 

昨日よりも二時間伸びて七時間以上愛し合えたが、炭治郎的には腹三分目と言ったところか。炭治郎は自身に眠っていた無尽蔵の性欲と精力、そしていくらしのぶが嫌がらずに受け入れてくれたとはいえ、後半も自分が我慢して休ませながらしのぶとするのが一番正しかったと思い返し、我慢できなかった自身を反省しつつ呼吸を整えて愛刀を宥めると、後片付けを済ませてから眠りに就いた。

 

――禰豆子には申し訳ないけど、俺、幸せだなぁ……今夜も良い夢が見れそうだ……。

 

心中でそう呟くと、明かりを消し、しのぶを抱き締めながら眠りに就いた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

炭治郎は何時の間にか見知らぬ空間に立っていた。

目を覚ましたような覚えは無い。またこのような場所に訪れた記憶も無い。

 

何故なら、このような多種多様な花々や植物が咲き誇る楽園のような場所に一度でも来たなら忘れられる筈がないからだ。

これ程までに自然豊かな場所は那田蜘蛛山でも蝶屋敷の裏山でも故郷の雲取山でも見当たらない。炭治郎は困惑を隠せなかった。

 

「此処は……一体何処なんだ……?」

 

炭治郎は困惑しながら周囲を見渡し、匂いを嗅ぐ。鼻に入ってくるのは周囲に咲き誇る花々や植物の香りだけだ。

そしてもう一つの事実に気付く。自分はひさが貸し出してくれた薄紫色の浴衣ではなく、鬼殺隊の隊服を身に纏っていた事だ。

驚いていた炭治郎は、不意に別の匂いを感知した。

 

――人の匂いだ……丁度良かった、此処が何処なのか聞いてみよう。もし俺と同じように迷っていたとしても、一人で行動してるより断然良い……にしてもどうしてだろう、誰かと似たような匂いがするな……。

 

炭治郎は頭に疑問を浮かべつつ、その匂いを辿って歩き始めた。すると自分に向かってその匂いの主も近付いて来ているようだった。

 

炭治郎は自身の眼で段々と、はっきりとその姿を捉えて行く内に困惑と動揺を露わにして行く。

 

――鬼殺隊の隊服を着ているっ!……それにしのぶさんと同じ羽織……カナヲと同じ髪飾り……!? 腰まである長髪で美しくて温和そうな上背のある美人……まさかっ……まさかっ!!??

 

困惑と動揺を隠せない炭治郎を余所にその美女は炭治郎に近付いて行く。

そして互いに瞳の色がはっきり認識出来る距離まで接近して対面した。最初に開口したのは炭治郎だった。

 

「は、初めまして。いきなりですが俺、竈門炭治郎と言います……あ、あの、付かぬ事を伺いますが、貴女は胡蝶しのぶさんと栗花落カナヲさんと言う方々をご存知でしょうか?」

 

炭治郎が直接名前を尋ねなかったのは訳が有った。故にこのように遠回しな形で質問をしたのだった。

その質問に対して美女は懐かしそうに、嬉しそうに、悲しそうに微笑みながら答えた。

 

「勿論です。あの二人は……いいえ、アオイもなほもきよもすみも、蝶屋敷にいる娘達、全員が私にとって掛け替えのない妹達ですよ……っ。」

 

優しい声でそう答えられた炭治郎は一度、匂いを嗅ぐ。彼女は嘘をついていない。そう思った炭治郎は確信した。炭治郎が再び開口する前に美女は続けた。

 

「初めまして、竈門炭治郎君。私はかつての鬼殺隊が柱の一人、元花柱・胡蝶カナエ……胡蝶しのぶの実の姉です。」

 

そう言って美女、胡蝶カナエは優雅に一礼して炭治郎に挨拶した。

炭治郎は顔を驚愕の色で染めてカナエを見詰めた。驚き過ぎて機械仕掛けの人形の如く、青白い顔で口をパクパクと動かしていた。

カナエはそんな炭治郎に罪悪感を抱きつつ話を続ける。

 

「炭治郎君、貴方が驚くのも無理はないわ。でもどうか落ち着いて、私の話を聞いて欲しいの。貴方はね、「俺死んじゃったんですかっ!?」……えっ?」

 

カナエが話している最中に割り込む形で炭治郎が叫びながら質問した。

しかし、炭治郎はカナエの答えも待たずに頭を抱えながら独り言を言い始めていた。

 

「な、なんでだっ!? どうして俺は死んだりなんかしたんだっ!? そもそも俺は死んでしまう原因なんか無かっただろうがっ!? お、落ち着け、炭治郎っ! 落ち着けっ!今までの行動を振り返れ! 頑張れっ、頑張れっ! ゆっくり、だけど確実に思い出すんだっ!!」

 

「あ、あの……えっと……。」

 

「た、確か俺はひささんの屋敷で過ごす最後の夜を、しのぶさんと同じ部屋で愛し合っていた。だけどしのぶさんが先に気絶しちゃったから、後片付けが終わった後、水を飲んで、しのぶさんを抱き締めながら眠りについた……だ、駄目だっ!? 全っ然心当たりが無いっ!?……ま、まさか……まさかっ!? これがひささんの言っていた腹上死なのかっ!? いやいやっ!? 俺は頗る元気だっただろうがっ!?」

 

「っ……っ……っ。」

 

「こ、これは罰なんだろうか……禰豆子を蔑ろに……した覚えはないけど、俺だけ幸せになったから神様から天罰を喰らったのかな……っ。だとしたら……あああああああっ!! うううぅ……禰豆子っ! ごめんっ! 兄ちゃん、先に逝っちゃってごめんよっ!! 俺はもうお前の力になれないけれどっ! 善逸と伊之助の手を借りて人間に戻ってくれよっ!!……しのぶさんもごめんなさいっ! 御傍にいるって約束したばっかりなのにっ! 先に逝ってしまってごめんなさいっ! どうか、どうか幸せになって下さいっ!!……うう、ひっく、ひっく……。」

 

「…………ぷっ!も……もう……だめっ……っっ!」

 

「ひっく……うっく……えっ?」

 

「あーはっはっはっはっ! あっはっはっはっはっ! あ―――はっはっはっはっ!!えっへへへへっ、ひぃ―――……ひぃ―――っ!お……お……おなか……おなかいたい……あはははははははっ! あ―――はっはっはっはっ! あ―――はっはっはっはっ! !いぃ―――ひっひっひっ! し、しんじゃうっ! またしんじゃうっ! と、とっくにしんでるのにっ、もういっかいしんじゃうよぉっ! も、もうゆるしてぇ……あ、あ―――はっはっはっはっ! あ―――はっはっはっはっ!! いぃ―――ひっひっひっ! あひゃひゃひゃひゃひゃっ!」

 

「………………。」

 

一人で恐慌状態(パニック)に陥った炭治郎が百面相しているのを最初は茫然自失となって見ていたカナエだったが、炭治郎の姿を見て堪え切れずに大爆笑し始めていた。

両手で腹部を抑え、両眼から滞りなく涙を流し顔を真っ赤に染めて、これでもかと大声で大爆笑していた。

炭治郎はその姿を見て今度は自身が茫然自失となっていたが、大爆笑しすぎて立ってられず、ついに地面に伏せてあちこちと転がりながら笑い狂うカナエをただ黙って見てるしかなかった。

カナエの声高々とした笑声は暫くの間続いた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「はぁ―――、はぁ―――。げほげほっ。あ、あんなに笑ったのは久しぶりだわっ。ううん、生前(生きていた頃)でも無かったわよっ。面白すぎて普段の私じゃ想像できないような笑い声もあげちゃったわっ。」

 

「えっと。何だか俺、早とちりしてしまったみたいで……その、すみませんでしたっ!!」

 

暫くして、漸く笑い終えたカナエが眼尻に残った涙を拭きながら炭治郎に話し掛ける。

炭治郎の方も自身が醜態を晒したという自覚があるのか、熱した日輪刀の如く赤面していた。

 

そんな赤い顔をしたまま、炭治郎はカナエにこの状況を把握するべく質問をする。

 

「あの、此処が何処なのか、教えて頂けませんか?」

 

「此処はこの世とあの世の境界線の一部分。どうやら”夢幻世界”って呼ばれているわ。」

 

「夢幻世界……。」

 

炭治郎は驚いたように呟きながら周囲を見渡す。そう言われてしまえば納得してしまえる光景が広がっている。

 

「……カナエさんが此処に残っている理由は、やはり……。」

 

「ええ、私だってお父さんやお母さんに会いたいけれど、やっぱり皆が、特に……しのぶの事が心残りだったから……。」

 

カナエはそう言って微笑んだ後、真剣な表情で姿勢を正して炭治郎に対面し直すと、柱合会議で柱が産屋敷家当主にするように膝を着いて頭を垂れた。そんな行動を取ったカナエに炭治郎は狼狽する。

 

「カ、カナエさんっ!?」

 

「竈門炭治郎殿。貴方の御尽力により蝶屋敷に住む我が妹達が救われました。

我が実の妹・胡蝶しのぶは憎悪と怨嗟の念から解き放たれ、復讐よりもこの先の未来を見つめられるようになりました。

義妹たる栗花落カナヲも、その心を蕾の如く固く閉ざしておりましたが、貴方の陽の光に当てられ花開く事が叶いました。

もう一人の義妹たる神崎アオイもまた、自ら殻に閉じこもり、鬱屈とした日々を過ごしていたところを、貴方が殻を破り彼女を解き放って下さったおかげで、かつてのアオイに戻りつつあります。

言葉だけではこれらの大恩は返し様がございませんが、私、胡蝶カナエが元花柱としてではなく、一人の姉として御礼申し上げます。本当にありがとうございましたっ。」

 

そう言ったカナエの両眼からは涙が溢れ出て、そのまま地面に落ちて吸収された。良く見ると、カナエの身体が微かに震えていた。炭治郎は匂いを嗅ぐとカナエからは歓喜の匂いがしていた。

ずっと望んでいた願いが叶った故に震えているのだろうと考えた。

炭治郎はカナエに近付いて衣嚢(ポケット)に入っていた手巾(ハンカチ)でカナエの涙を拭う。炭治郎の行動に気付いてカナエは顔を上げる。

 

「カナエさんが仰る程、俺は凄い事をしたとは思っていません。俺はただ、切っ掛けを与えただけで、そう成れたのはしのぶさん達自身の意志と力だと思ってますから……俺の方こそ、カナエさんに御礼を言わないといけません。

カナエさんが戦って、皆を守って、生き抜いた結果、今のしのぶさん達がいます。貴女がいたから、頑張ったから俺はしのぶさん達と出会えたんです。だから……カナエさん、ありがとうございました。本当に、お疲れ様でした。」

 

「……っ……っ……っ。」

 

炭治郎は両眼を潤ませながら、カナエに礼を口にする。カナエも再び静かに涙を流しながら炭治郎の眼をしっかり見詰める。

五つ数える程の間が経った後、炭治郎とカナエはどちらからともなくお互いを静かに抱き締め背に手を回して優しく抱擁した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「しのぶさんって、そんな幼い頃からお薬に詳しかったんですか?」

 

「そうなのよ。うちの家は代々、薬師の家系でね。薬学に関してはしのぶに勝てた試しが無かったの。しのぶは何時も「お母さんみたいな立派な薬師になるのっ!」って口癖のように言っていたわっ。」

 

炭治郎とカナエは平坦な草原の上に腰を押し付けて、互いの談話に花を咲かせていた。この時に炭治郎はある事が分かり驚愕する事になった。

 

「え? 普段はしのぶさんと一緒に行動していたんですかっ!?」

 

「ええ、そうよ。所謂”背後霊”って奴かしらね? しのぶからある程度の距離までなら自由に移動出来るみたいでね。時折、様子を見ているのよ。

しのぶが蝶屋敷にいる時は蝶屋敷周辺を漂ってるわ。と言っても、移動出来る距離も限られているし、姿形も見られないし、声も届かないから良い事より悪い事の方が多いけどね。

だから炭治郎君が蝶屋敷にいる時の様子とかを観察してたから、ある程度は知っているわよ。勿論、善逸君も伊之助君の事もねっ。」

 

そう言い終わるとカナエは少しばかり悲しそうに微笑む。そう微笑みながら次にこう話し始めた。

 

「皆の事を覗き見たり、盗み聞きする事が出来るだけで何も伝える事が出来ないって本当にもどかしいと思ったものよ。存在を知らせる術もありはしないしね……柱合会議の時も、「私がその場にいれば真っ先に炭治郎君と禰豆子ちゃんを庇うのにっ!」って口惜しく思ったわ。」

 

「そんな……そういう風に思って下さっただけでも俺、嬉しいですよっ! カナエさんっ!」

 

炭治郎はそう言ってカナエを励ましたが、カナエは悲しそうに微笑んで話を続けた。

 

「今回の「夢の中でその人と会う」って言うのも今回、初めて試してみたの……だからってしのぶやカナヲ、アオイには試さないけれどね。今会っても良い影響を与えるとは思えないし、しのぶと会っても喧嘩して終わると思ったから……本当は、会って抱き締めてあげたい……のだけどねっ。」

 

「っ!……カナエさん、何時に成るか……までは分かりませんから誓えませんけどっ! 俺が禰豆子と一緒にしのぶさんやカナヲ、アオイさん達の力になりますっ! 必ずっ! しのぶさん達を生かして貴女とこの夢の世界で再会させて見せますっ! どうかそれまで待っていて下さいっ!」

 

「……っ!……ありがとう、炭治郎君っ。」

 

炭治郎の宣誓とその微笑みにカナエは太陽を直視したが如く、眩しそうに眼を細めてから微笑んだ。

 

少しして炭治郎は「はっ!」と何か大切な事を思い出したような顔をして、カナエと真剣な顔で向き合った。

 

「カナエさん。今更かもしれませんが、貴女に伝えたい事があります。勿体無い話ですが、俺は妹さんのしのぶさんと結婚を前提でお付き合いさせて頂いています。俺がしのぶさんとお付き合いするのを認めて頂けないでしょうか!?」

 

炭治郎の真剣な様子にカナエは思わず吹きそうになったが、カナエもまた真面目な顔でその願いに答える。

 

「妹にとって貴方以上に相応しい人は居ないと私は思っています。炭治郎君。私からもどうか、しのぶの事を宜しくお願いします。」

 

カナエからの返答に炭治郎は安堵の笑みを浮かべる。しかし、カナエが「だけどね、その前に。」と言うと炭治郎の頭に疑問符が浮かんだ。

 

「な、何でしょうか? カナエさん。いや、えっと……カナエ義姉さんっ。」

 

「貴方に義姉さんなどと呼ばれる筋合いはありません。炭治郎君、正座。」

 

「……はい?」

 

「聞こえなかったの? 正座しなさい、せ・い・ざ。」

 

「え、でも、なんで……?」

 

「正座っ!」

 

「は、はいっ!?」

 

 

 

♦︎

 

 

 

――こ、これはどう言う状況なんだろうか……?

 

炭治郎は正座しながらこうなった原因とカナエが怒っている理由を考えていた。一方の正面にいるカナエは立ったまま両腕を組んで炭治郎を睨み付けていた。カナエからは怒りの匂いが沸々と強く成って行く。

しかし、幾ら考えても心当たりが無く、途方に暮れていた。そしてこのままでは埒が明かないと、そう結論付けてカナエに炭治郎は質問した。

 

「カ、カナエ……さん。どうして、俺は正座させられているんでしょうか?」

 

「貴方、本当に心当たりが無いの? もう一度だけ自分の胸に手を当てて考えて御覧なさい?」

 

「……駄目です。何もありません。俺は誓って、しのぶさんに対して不誠実な真似はしていません。」

 

「……そう、分かったわ。どうして私が炭治郎君に怒っているのか、教えてあげましょう……っ。」

 

炭治郎の言葉にカナエは溜め息を吐いて答える事にした。それに対して炭治郎は緊張を隠さず、カナエが何を言うのか待った。カナエの見目麗しい美貌が僅かに赤く染まっていた事が気になっていたが。

 

「それは、炭治郎君としのぶの情交についてよっ!!」

 

「……えええええ!?」

 

顔を更に赤くして言ったカナエに対し、想定外の答えに炭治郎も顔を赤くして狼狽する。

 

「その場面も覗いていたんですかっ!?」

 

「見ていたに決まっているでしょうっ?! ってそんな事はどうでも良いのよっ!!」

 

カナエはキッ! と炭治郎を睨み付け、指を指して炭治郎を弾劾する。

 

「あの情交は何っ!? あんな獣の交尾みたいな独り善がりなっ、あれじゃしのぶが可哀想でしょう!?」

 

「誤解ですよっ! しのぶさんだって喜んでくれてましたっ!」

 

「いいえっ! しのぶは優しいから貴方に合わせているだけだわっ! 第一、しのぶは小さくて華奢で繊細なのよっ!? もっと優しく丁寧に扱いなさいなっ!? しかもしのぶが「やめてっ!」とか「休ませてっ!」って懇願しているのに、貴方は一層激しく攻め立てたじゃないのっ!?」

 

「それは只のしのぶさんの振りですよっ! 本当にしのぶさんが嫌がってたら続けたりなんて絶対にしませんっ!」

 

「言い訳は無用よっ! 素直に謝るなら猶予もあげても良いかと思ったけれど……どうやらきっついお仕置きが必要みたいね……。」

 

「ちょっ!? ええ~~~っ!!!!」

 

カナエはズンっ! ズンっ! と炭治郎に近付いて行き、炭治郎は咄嗟に逃げようとしたが、そこは鬼殺隊を支えていたかつての柱、一瞬でカナエは炭治郎を捻じ伏せて拘束してしまった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「うぅ、どうして……こうなったっ。」

 

炭治郎は赤くなった顔を両手で覆って現状を嘆いていた。炭治郎はカナエに隊服を剥がされ、カナエの羽織の上で全裸で寝転がっていた。

カナエは鼻息を荒くして赤面したままある一点に視線を集中していた。それは炭治郎の逸物であった。

 

「これが……しのぶを泣かせている暴れん棒ね……。」

 

「……カナエさん、俺はしのぶさんを泣かせてなんか「いいからお黙り!」……はいっ。」

 

カナエは炭治郎を黙らせると、炭治郎の逸物を興味深そうに凝視してから、恐る恐る触り始めた。

 

「お、大きい……しのぶの時と違う気がするんだけど、ちょっとナヨってるし、固さもあんまり……」

 

「何もしてないんだから、勃たないですよ……痛たたたたっ!?」

 

「ご、ごめんなさいっ!?」

 

カナエがぎゅっと一瞬強く握ってしまい、炭治郎は痛みで悲鳴を上げた。それを聞いて慌ててカナエは手を離して謝罪した。

 

「カナエさん、強く握り過ぎです……触るんだったら、もう少し優しく……。」

 

「うん……確か、しのぶは手で扱いたり、口に入れて舐めてたりしたわね……。」

 

そうカナエが小声でそう呟くと、先程は手で傷付けた負い目からか、綿を触るように優しく握りつつ、恐る恐る炭治郎の逸物を口に咥えた。

 

「う"むぅ……れろ、じゅる……れろれろ……。」

 

「なっ!? カ、カナエさんっ!? それは!……あっ!……ううぅ……っ。」

 

――あっ。今、炭治郎君が感じてくれたのかな……嬉しいっ❤

 

炭治郎はいきなり自身の逸物を咥えて奉仕し始めたカナエを止めようとしたが、徐々に押し寄せてくる快感に口籠もる。

カナエは炭治郎の声を聞いて、更に炭治郎を気持ち良くしようと更に奉仕に力を入れる。

 

 

 

 

 

がりぃっ!

 

 

 

 

 

「いっったぁぁっ!?!?!?」

 

「っ!?」

 

炭治郎が悲鳴を上げたため、カナエは驚いて逸物から口を放す。口を放した後、カナエは青褪めた様子で唇に触れる。炭治郎の逸物に歯を立てて噛んでしまったからだ。

 

「痛……かっ……たぁ~っっ。」

 

「……っ……っ。」

 

炭治郎は痛みからか、眼尻に涙を溜めていた。カナエはその反応を見て更に顔面蒼白になる。

 

「ごめんなさいっ!!」

 

カナエはそう言って手を前について土下座して炭治郎に謝罪する。そんなカナエを見て炭治郎は面喰らい、慌てて止める。

 

「カナエさんっ! 頭を上げてくださいっ!! その……も、もう痛みなんて無くなりましたからっ!」

 

「…………っ。」

 

カナエは頭を上げると、黙ったまま上着の(ボタン)に手を掛け、そのまま上着を脱ぎ捨てた後、上着の下に巻いていた(さらし)を引き千切った。

 

「んなっ!?」

 

炭治郎はカナエの行動に驚愕する。しかし、それ以上にカナエの上半身の裸体に目が離せなかった。しのぶ以上に大きく形の良い豊満な乳房が実っており、括れた腰と少し割れた腹筋も姿を見せていた。

 

「炭治郎君、ごめんね?……今度はちゃんとご奉仕するからっ!?」

 

「えっと、カナエさん。別にご奉仕なんてしなくても……っっ!!」

 

炭治郎はやんわりと拒否しようとしたが、カナエは無視して乳房を使って痛みで萎えた炭治郎の逸物を包み込む。すると炭治郎の逸物はムクムクと大きさと固さと熱を取り戻して行く。

 

カナエはそれを見て歓喜しつつ、知識には無かった紅葉合わせ(パイズリ)を無意識に行使し始めた。自身の大きな乳房を以てしても飛び出た亀頭をレロレロと舐めたり、ちゅうぅぅぅと吸ったりし始めた。

 

「はぁうう、んんっ、ふぅ……ふぅぅ……カナエさん、離れて……出、出ちゃいます……。」

 

「れろれろ……ちゅばちゅぶ……出してぇ❤……ちゅうううぅぅぅっ❤!」

 

「っああ!!」

 

 

ビュルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!!!

 

 

「んんっっ!?……ゴックッ……ゴクッ……ゴクッ……ぷはぁっ!」

 

カナエは炭治郎の逸物から噴射された精液を飲み干そうとしたが、飲み干せず途中で口を離して、精液が顔に掛かる。幸い、髪には掛からなかった。

それを見て今度は炭治郎が慌て始め、カナエの顔を汚した事を彼女に謝罪した。

 

「カナエさんっ!? す、すみません!お顔を汚してしまって……っ!」

 

「んっ❤……ペロペロ❤……ちゅぱちゅぱ❤」

 

カナエは炭治郎の謝罪に反応せず、顔に付いた精液を水飴の如く舐め取って行った。

 

「精液って甘くて……美味しいのね❤️ それとも炭治郎君のは特別製なのかしら? ふふふっ❤️」

 

顔に付いていた精液を残らず舐め取ると、達成感と幸福感に満ちた恍惚とした表情をした。

そして未だ緊張感を保つ逸物を見て、更に行動に移ろうとする。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ちょっと待っててねっ。今から洋袴(ズボン)を脱ぐから……。」

 

「カナエさん……っ!?」

 

カナエは履いていた洋袴(ズボン)を脱ごうとして手に掛けるのだが、炭治郎がある事に気付く。そして直ぐ様、行動に移した。

 

「カナエさん。此処までにしましょう……?」

 

「っ!……どうして止めるのかしら?」

 

炭治郎は起き上がって両手でカナエの両腕を掴み、カナエの行動を阻止した。

そんな炭治郎にカナエは困惑と苛立ちを込めて質問する。

 

「もう充分ですよ。そこまでされなくても大丈夫ですから……っ!」

 

「答えになってないのだけれど……もしかして、しのぶに遠慮しているのかしら? だったら気にしなくて良いわよ? 私は生きてはいないのだから、浮気にも不倫にもならないわ。これは只の夢幻(ゆめ)だと思って、遠慮なんてしなくて良いのよ?」

 

「しのぶさんを思ったのもあります……しかし、たとえ只の夢幻(ゆめ)であろうと、俺は恐怖で震えている女性を抱く事なんて出来ません。」

 

「っ!?」

 

炭治郎の指摘に、カナエは動揺を隠せない。炭治郎は言葉を続けた。

 

「カナエさん。お尋ねしますが、初めてですよね?」

 

「……そんな事ないわっ。さっきのも、ただ久しぶりだったから失敗しただけで、私だって何回か経験がっ。」

 

「この夢幻(ゆめ)の世界でも、俺の鼻はちゃんと仕事してくれてるみたいです……嘘なんて直ぐ分かるんですからね?」

 

「……はぁ。敵わないわね、炭治郎君には。」

 

カナエはそう言うと洋袴(ズボン)を脱ごうとするのを止めて、膝を立てて顔を埋めて座り込む。炭治郎は敷いていた羽織を持ってカナエの肩に掛けた。

するとカナエは御礼を言って、炭治郎に語り始めた。

 

「私がこんな行動に出たのは、二つの理由があるの」

 

「二つの理由……それは何ですか?」

 

「一つは御礼ね。しのぶ達を救ってくれたから、御礼がしたくても私にはこの方法しか思い付かなかった……。」

 

「カナエさん、別に俺に御礼なんて……。」

 

「でもこれは飽くまで表向きの理由で、本当はしのぶ達の事なんてどうでも良いの。ううん、しのぶ達の事は大切だけど、私の本心を隠して表向きの理由でするんだと思い込もうとした。」

 

「……じゃぁ、本当の理由は何ですか?」

 

「嫉妬よ。」

 

「嫉妬……?」

 

「そうよ。本当は……心の奥底では私はしのぶに嫉妬してた。炭治郎君と結ばれるしのぶに嫉妬していたの。」

 

カナエは「ふふふっ。」と自嘲するように笑うと、その理由を炭治郎に語り始めた。

 

「私は那田蜘蛛山で初めて貴方達を見た時から気になっていたわ。

当然ねっ。鬼と仲良くすると言う私の夢だった願いを実現している少年とその鬼になった妹ですもの……正直、貴方達を観察出来る時は可能な限り、私は炭治郎君と禰豆子ちゃんを見詰め続けていたわ。

この兄妹は一体、鬼殺隊にどんな影響を齎すのだろうか、ってね。」

 

カナエはそこで一度区切ると、三つ数えない内に再び語り出した。

 

「そうして居る内に、私は炭治郎君の温かさや優しさに惹かれて、貴方にしか目が行かなくなった。

今日まで互いに出会った事も話した事もないのに、私が一方的に貴方に好意を抱いたのよ。

しのぶが炭治郎君と結ばれた時はその事実に泣く程、歓喜して心から祝福した。けれど、同時に魂を焼き尽くす程、私はしのぶに嫉妬もしたの。

もし私が生きていたら、炭治郎君に愛されていたのは、抱かれていたのは、結ばれていたのは私だったかもしれなかったのに……なんて身勝手で都合の良い妄想をしてねっ。」

 

「……」

 

カナエは膝に埋めていた顔を動かして、炭治郎に視線を向けた。両眼からは涙を流していた。

 

「ごめんなさいっ。こんな事いきなり言われても困るわよね……忘れて、もうこんな夢幻(ゆめ)は終わりにしましょう……。」

 

「っ! 待って下さい!!!」

 

炭治郎は立ち上がって去ろうとするカナエの腕を掴み、自身の下へ引き寄せた。カナエは炭治郎の胸に飛び込む形で共に倒れ込んだ。

 

「俺は女の子が泣いたまま、何もせず黙って見過ごすなんて真似は出来ません。死んだ父にも「泣いている女の子に優しく出来なきゃ長男以前に男として失格だ。」と言われましたしね。」

 

「……あら? だったら炭治郎君は泣いている女の子全員に同じ事をしちゃうのかしら? だったらとんだ女ったらしね……?」

 

「そう言う意味で言ったんじゃないんですけど……カナエさんが仰った内容(こと)は俺にも分かりますから。」

 

炭治郎はそう言うと、心の中でしのぶに謝罪しながらカナエの流れるような美しい黒髪を撫でる。炭治郎は更に語り続けた。

 

「俺、カナエさんとお話をしていた時、とっても楽しかったんです。

そして貴方の笑顔に、声に、仕草に、性格に惹かれて行っている自分を自覚していました……俺だってその僅かな間に思ったんですよ?

「もしカナエさんに生きて出会っていたら、俺はカナエさんとしのぶさん、どっちを好きになっていたんだろう?」ってね。」

 

「っ!!」

 

驚くカナエを置いて、炭治郎は抱擁を解いてカナエの両眼をしっかり見つめて告白する。

 

「正直に言いますね……俺、カナエさんの事が好きです……俺は貴女に誓って、この気持ちに嘘偽りはありません!」

 

「~~~~っ❤!」

 

炭治郎の告白にカナエは歓喜しながら強く、炭治郎に抱き着いた。

 

「良いの?……浮気になっちゃうわよ?」

 

「普通に考えたらそうですね。ですが、俺はカナエさんとしのぶさんの両方とも好きなんです。どっちかを見放すだなんて絶対にあり得ません。ですからここを戻ったらその分、しのぶさんに尽くします。て言うか、さっき浮気や不倫にならないって言ったのは何処のどなたですかね?……はははっ。」

 

「さぁ、誰がそんな事を言ったのかしらねぇ?……ふふふっ。」

 

「はははははっ!」

 

「ふふふふふっ!」

 

炭治郎とカナエは楽しそうに笑い合うと、互いの息が掛かる距離まで顔を近付けた。

 

「カナエさん、貴女が好きですっ。」

 

「貴方が好きよっ、炭治郎君っ。」

 

お互いに告白してから、二人は口付け(キス)を交わした。




ついに手を出してしまった炭治郎×胡蝶カナエ(炭ナエ)・・・(汗

いや、うちの拙作も当初は「優しき日輪と蝶屋敷の四美蝶」にするはずだったんですが、それだと「四人目って誰っ!?」とあっさり予測されるのでタイトルは生きてる人縛りにしました。

カナエにはこの作品で重要な役目を担って頂きますのでよろしくお願い致します。どうか御理解下さい。


カナヲ・アオイ「怒」


さて思わぬ伏兵の登場に激怒してる二人から逃走しますので失礼しま〜すっ!!!


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第玖話 日輪は夢幻の桜蝶と戯れる ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ・タグ編集大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


夢幻世界

 

 

「改めて思うんだけど、やっぱり好きな殿方(ひと)の前で全裸(はだか)になるのって、凄く恥ずかしいわねっ❤」

 

「……ごくっ。」

 

カナエは再び草原に敷いた羽織の上で乳房と蜜壷を両腕で隠して顔を赤くしながら恥ずかしそうに座っていた。

炭治郎はカナエのその扇情的な姿に生唾を飲み込む。

 

「カナエさん、その……綺麗なのは当たり前なんですが……えっと、その、凄く……可愛いです。」

 

「ええっ?!❤……あっ❤……っ❤」

 

カナエは炭治郎の称賛に動揺して、更に顔を赤面させた。何か言おうとしているが、動揺し過ぎて言葉にならない。

 

「っっ❤……あぁ❤……っ❤!!……はぅぅ❤ み、見ないでぇ❤……わたし、恥ずかしいっ❤」

 

カナエは頭から湯気が上がるのではないかと思われる程に顔を限界まで顔を赤くした。すると自身の真っ赤に染まった顔を炭治郎に見られたくないのか、乳房と蜜壷を隠していた両腕を離して両手で顔を覆い隠す。

 

そのお蔭で顔こそは隠せているが、代わりに乳房と蜜壷は炭治郎に丸見えだ。しかし、顔を隠す事に必死でその事実に気付いていない。

炭治郎はそんなカナエの様子が面白いのか、くすくすと笑いながら見ていた。

 

「カナエさん。顔、隠さないで下さい。俺、カナエさんの可愛い顔がもっと見たいです♪」

 

「……っ❤……っ❤…………。」

 

「隠しちゃいますか……残念です……だったら今見えてる乳房(おっぱい)とか、俺の自由にさせて貰いますね♪」

 

「……っ!!」

 

炭治郎はそう言うと桜色の蕾まで露出した立派な果実に手を伸ばし、強弱を付けながら揉み始めた。

 

「……わあっ。しのぶさんのより大きくて、柔らかいです……いや、どっちが良いかって比較してる訳じゃないですけどね!」

 

「んんっ❤……んっ❤……はぁ❤️……あぁん❤……。」

 

誰も聞いていない事を弁明するように叫ぶ炭治郎だったが、カナエの乳房を揉む手は止めなかった。

カナエも顔を覆っていた両手から両眼だけを覆い隠し、口などを露わにして嬌声を上げていた。

 

しかし、たまに指と指の間から炭治郎を伺う視線を飛ばすだけで、気付かれたら直ぐに隠してしまった。

恥ずかしがっている匂いが伝わって来る為、カナエの気持ちは分かるのだが、それでも見せて欲しいと思う炭治郎。炭治郎は更に攻め手を増やす事にした。

 

「……頂きますっ。」

 

「っ?……はうぅっ!?❤」

 

カナエは一際、大きな嬌声を上げた。炭治郎がぱくっと乳房に吸い付いたからだ。炭治郎は更にカナエを攻める。

 

「れろれろ、ちゅうぅぅ、ちゅぶちゅぶ、ちゅう~~~っ。」

 

「やん❤  はああぁん❤  ああん❤  ああああ❤  あああああ❤」

 

右胸を揉みながら硬くなった乳首に吸い付き、左胸もまた手を緩めず揉んで行く。

これには堪らず指と指の間を開けてカナエも視線を炭治郎に向けると、炭治郎はカナエのたわわに実った乳房に夢中で顔を覗いて来ようとはしてなかった。

 

自身の乳房に夢中になる炭治郎を見てカナエは炭治郎を更に愛おしく思う。

 

――ああっ❤ 炭治郎君が❤ 吸っても何も出ないのに私の乳房(おっぱい)に夢中になってくれてるっ……っ❤……赤ちゃんみたいで可愛いっ❤❤

 

カナエは両眼を覆っていた両手を離して、右手で炭治郎の頭を優しく撫で始めた。炭治郎を愛おしく見詰めながらカナエは思う。

 

――しのぶは確かに身体の全身を藤の花の毒に蝕まれているけれど、まだ愛する人の子を産めないと決まった訳じゃない……何より()()()()()()()諦める必要なんて何処にも無い……良いなぁ私も炭治郎君と出会って愛されて赤ちゃんを産んであげたかったなぁ……。

 

カナエがつい悲しく、また寂しく思ったその瞬間、炭治郎の乳房への愛撫が止まりカナエを真っ直ぐ見詰めた。その事にカナエは動揺する。

 

「えっと……どうしたの? 炭治郎君?」

 

「カナエさんから悲しい匂いがしましたから…………。」

 

「っ!!……っ、大丈夫よっ。気にしないで……っ。」

 

「……カナエさんっ。」

 

カナエは炭治郎に気にしないよう言ったが、炭治郎はその言葉を聞いて額面通りには受け入れない。炭治郎は息が掛かる距離まで、顔をカナエに近付ける。

 

「カナエさん……その、今の間だけですが、俺は貴女のものです。貴女だけのものですから。カナエさんの傍を離れたりしませんからっ。」

 

「……っ。ああっ❤  炭治郎君っ❤❤」

 

炭治郎の愛の嘯きを聞いて、カナエは歓喜に震える。その衝動のまま、炭治郎の両頬を掴むように手を置くと、互いの歯が激突する勢いで炭治郎と口付け(キス)を交わした。

 

 

 

 

 

 

「んちゅ❤……んん❤……はぁん❤……ちゅうぅ❤……んん❤」

 

「んん……うぅん……ちゅ……んちゅう……じゅるる……んんっ。」

 

カナエは炭治郎の口を抉じ開けて舌を侵入させる。炭治郎もカナエに応えようとカナエの舌を迎えて絡ませて唾液を交換し合う。

 

「ちゅぱちゅうぅぅぅ❤……あああっ❤……あっ❤……っ~~~~~~❤❤❤」

 

「んんんっ……じゅる……ちゅば……ん……っ!」

 

カナエは夢中で炭治郎の唾液を吸っていたが、少しして全身を激しく震わせた。

落ち着いた後、炭治郎から口を離してそのまま炭治郎に倒れ込んだ。炭治郎は倒れ込んだカナエを優しく抱き止めた。

 

「はぁ……はぁぁ……な、なに……今の?」

 

「何かありました?」

 

「なんて言えば良いのかしら……その、雷に打たれたような感覚が全身を……。」

 

「ああ、それはイった感覚ですね。」

 

「イった……つまり、私は絶頂したってこと?」

 

「そういう事です。それで、生まれて初めてイった感覚はどうでしたか?」

 

生前でも体験したことの無い感覚に困惑していたカナエに炭治郎は絶頂の説明をした後、少し意地悪そうにどう思ったのか質問した。カナエは顔を少し赤くすると、素直に炭治郎の質問に答えた。

 

「気持ち……良かったわ……っ❤」

 

「それは良かったです。なら、そんな感覚をまた味わって貰える様にしますね♪」

 

「そ、それは……あっ❤!」

 

カナエは炭治郎に抗弁しようとしたが、不意に嬌声を上げる。炭治郎がカナエの秘部に触れたからだ。

 

「ふふふ。突然触ってしまってすいません。でもカナエさんの此処、大洪水を起こしていて気になったので、触ってしまいました。」

 

「だ、誰の所為だと……んああああっ❤!!」

 

炭治郎は触れていたカナエの秘部に指を入れ、激しく、されどカナエを傷付けない様に配慮しながら愛撫し始めた。

 

カナエは炭治郎から離れようとしたが、空いていた左腕を自身の括れた腰に回されて固定され、動くに動けなかったため。カナエは炭治郎を抱き締めて嬌声を上げる事しか出来ない。

炭治郎が愛撫を続けて行く内に、カナエに限界が訪れて嬌声を上げながら炭治郎に限界を伝える。

 

「あああっ❤! んひぃぃぃ❤ き、来ちゃう❤! またきちゃうぅぅぅぅ❤! イっちゃうぅぅぅぅ❤️!」

 

「またイきますか? いいですよ。気持ち良くなって下さい、カナエさん♪」

 

「あっ❤!……あっ❤!……イ、イクうううううううっ❤❤!」

 

カナエは一際甲高い嬌声を上げると、蜜壷から潮を吹いて絶頂した。カナエは余韻でビクビク震えていたが、炭治郎はそんなカナエをゆっくりと羽織の上に押し倒した。

 

「はぁ❤……はぁ❤……はぁ❤……た、炭治郎君?」

 

カナエは息を整えてながら、炭治郎を見た。すると炭治郎が自分の秘部に、顔を近付けて来ていた。カナエはそれを理解して慌て出す。

 

「えっ!? た、炭治郎君!? 何をしようとして!?」

 

「何って、これからカナエさんのを御馳走になろうと思いまして。」

 

「そ、そんなっ!? 待って、汚いから……っ。」

 

「心配しなくても大丈夫ですよ。カナエさんに汚いところなんてありませんから。と言う訳で、頂かせて貰いますね♪」

 

「まっ!?……あああああっ❤!?」

 

炭治郎はそう言って、秘部から泉の如く溢れる愛液を舐め取り始めた。これには堪らず、カナエは大きく嬌声を上げる。

 

「ひぃぃぃぃ❤!? そ、そんなぁ❤ そんなにぃ❤ ペロペロ舐めないでぇぇぇぇぇ❤ あああああああっ❤!」

 

「ペロペロペロペロ…………じゅるるるる。じゅるるるるるるるるっ。」

 

「ひゃああああああっ❤!? 待ってぇ❤! 待ってぇぇぇ❤! イクっ……イクイクイクイっちゃうぅぅぅぅぅ❤!」

 

カナエは強烈な快楽で海老反りになって絶頂する。その際に蜜壷から潮を吹いて炭治郎の顔を汚した。

 

「おおっ……派手にイきましたね。カナエさん。」

 

「はぁ❤……はぁ❤……はぁ❤……はぁ❤……はぁ❤……。」

 

炭治郎は顔に掛かった蜜を全部舐め取り終わると、カナエの様子を確認する。

 

「カナエさん、大丈夫ですか?」

 

「……っ。」

 

「カナエさん?……うわっ!?」

 

息を整えたカナエは何も言わず起き上がり炭治郎を押し倒した。炭治郎は羽織の外に放り出され芝生の上に寝転がり、カナエは芝生に寝転がった炭治郎の上に馬乗りになる。炭治郎はカナエから怒気の匂いを嗅ぎ取り、冷や汗を掻き始めた。

 

「炭治郎君……何か、私に言う事は無いかしら?」

 

「えっと……気持ち良かったですか?」

 

「……っ!! ええ、とっっっっても気持ち良かったわよっ!! でもね、私に意地悪して楽しいっ!? 私、処女でも貴方より年上の大人なんですけどっ!?!?」

 

「……っ。そ、その……。」

 

「意地が悪そうな笑顔で笑いながら私にあんな意地悪してっ!? あの優しくて温かくて思い遣りのある私の炭治郎君は、一体何処に行ったのかしらっ!?」

 

「ご、ごめんなさい!! 自分でもらしくないなっていうのはわかっているんです。でも……その……。」

 

「……なによ?」

 

炭治郎は一度、両眼を瞑った。それから、少しずつ行動に移る。

 

「……だから。」

 

「え?」

 

「好きだから!!」

 

「っ!!」

 

炭治郎はそう大きな声で言って目を見開く。そして真剣な眼差しでカナエを見つめて告げた。

 

「好きだから……本当に好きだから……だからこそ、普段の俺じゃしない意地悪を、ついしたくなってしまう時があるんです!! 嫌……ですか?」

 

「……っ、う……」

――ズルいっ……本当にズルい❤

 

カナエは炭治郎の言葉と真剣な眼差しにそう思った。年下の炭治郎に意地悪されるのは、長女の威厳が欠けそうで凄く悔しい。だが、そうする理由が自分を好きだからこそ起こるものと言われてしまえば、カナエの答えは一つしかなかった。

 

寧ろ普段と違う意地悪な姿を見せるのは、炭治郎が自身を本当に好いている証明だと間接的に言われて、嬉しく思ってしまっている自分も確かに居るのだ。

 

本来なら四歳年下の炭治郎に、意地悪されるのはすごく悔しいはずなのにである。

 

「……気持ち良かったし……そういう想いから来るものなら……嫌じゃ……ないわ。」

 

「っ! 良かったです。 ありがとうございます!」

 

「……っ。」

 

炭治郎がぱぁぁと太陽のように明るい笑顔で答えると、カナエは何も言えず黙り込む。

これが惚れた弱みかと自嘲しつつ、やっぱり悔しいので一矢報いようとカナエは行動に出る。

 

 

 

 

 

 

「今度は私が攻めるわよっ! 異論はないわねっ!?」

 

「はい、分かりました。」

 

炭治郎は再びカナエの羽織の上に仰向きで寝直した。

一方のカナエは仁王立ちで炭治郎に攻めると宣言し、力強く勃起している逸物をどう攻めるか考えていた。

 

――さて、どうやりましょうか。攻めるとは言ったけど、口だけなんて論外……もう一度、私の乳房(おっぱい)で包んで口に吸おうかしら? でもさっきもやったのに同じ事なんて味気ない……そうだっ!……ちょ、ちょっと恥ずかしいけれど……これでやってみようっと♪

 

「炭治郎君、そこに仰向けで寝そべってくれる❤?」

 

「はい?……はいっ。」

 

炭治郎は羽織の上に仰向けで寝そべると、カナエは炭治郎の左側に密着して寝そべった。カナエの豊満な乳房が炭治郎の年齢不相応に鍛えられた胸板に乗っかって形を変える。

 

「あっ……カナエさんっ……。」

 

「ふふふっ❤ こんなのまだまだ序の口なんだからねっ❤」

 

カナエはそう言って括れた腰をくねらせて艶めかしく身体を浮かせると、自身の左側の乳房を持ち上げるように掴んで炭治郎の口元へ持って行き、乳房の赤い蕾を咥えさせ、再び身体を密着させた。

 

「さぁ、炭治郎君のだーいすきな乳房(おっぱい)の時間よっ❤ たぁんと召し上がれっ❤❤」

 

「んぐっ……ちゅう……ちゅうう……。」

 

「ああん❤ 揉みながら吸うなんて❤ そんな欲張りな赤ちゃんいないわよぉ❤❤」

 

炭治郎はカナエの両方の乳房を揉みながら、乳飲み子のように吸い付いた。カナエは炭治郎からの愛撫に声を荒げながら、今一度身体を僅かばかり浮かして左腕を動かすと、左手を炭治郎の頭に乗せて愛おしそうに撫でる。

 

「ちゅうう……ちゅうう……んぐっ!?」

 

炭治郎はカナエの乳房を吸っていると、不意に強い刺激が炭治郎を襲った。カナエが右手で聳え立つ逸物を掴んだからだ。カナエは力加減しつつ、炭治郎の逸物を扱き始めた。

 

「炭治郎君……痛くない? 気持ち良いかしらっ……?」

 

カナエは少しの不安を感じながらも炭治郎に質問する。炭治郎はカナエに頭を乳房に押し付けられつつ撫でられているので、答える事が出来ない。

其処で炭治郎は返答として左手でカナエの右の乳房の乳首を強弱を付けて摘み、吸っていた左の乳房を更に強く吸って乳首を舐め回した。

 

「あああっ❤❤!! き、気持ち良いって事よね? ふうううっ❤ ふうううっ❤ 負け……ないんだからっ❤❤ イかしてあげるから……覚悟しなさい❤!」

 

カナエは息を更に荒くしながら、炭治郎の逸物をシコシコと扱いて行く。対して炭治郎も、負けじと乳房への愛撫を続ける。

 

「ちゅばちゅば……うぐっ……うう……れろれろれろ……ちゅううううぅぅぅっ。」

――はぁ、はぁ、はぁ……カナエさんの愛撫……気持ち良いなぁ……っ……あっ、カナエさんから……嬉しい匂いと楽しい匂い……後、幸せの匂いがする……。

 

「はああ❤……はああ❤……ああんっ!!❤」

――ああっ❤ 気持ち良いよぉ❤ もっと舐めてぇ❤……っ❤!!……こらっ! カナエ!!……しっかり、しなさいっ!!……炭治郎君を……いかせるんでしょう!!……快楽に負けちゃ駄目よっ!!

 

カナエは炭治郎の愛撫で既に余裕が無く、先にいかないよう懸命に我慢して炭治郎の逸物を愛撫していた。

 

「ちゅう……ちゅう……んんっ……んんんっ!」

 

「ふぅ❤️……ふぅ❤️……ふぅ❤️……ふうぅぅ❤️」

 

カナエが愛撫を始めてから炭治郎が逸物に射精感を感じ始めており、射精しそうになっていた。カナエも炭治郎の逸物の膨らみ具合を感じて、射精しそうになっていると察した。

 

「炭治郎君っ❤ 遠慮しないでっ❤ いってっ❤ 沢山出してぇ❤❤」

 

「んっ!……んんんんんっ!!!」

 

「っ! きゃあああっ❤!!」

 

カナエが愛撫して数分、炭治郎は火山から噴火して放出された溶岩の如く、逸物から精液を勢い良く射精した。カナエは受け止めようと射精前に手を放して手で精液を受け止め、右手ばかりか右腕を白く染め上げて行く。

 

「ああっ❤……熱いっ❤……こんなにいっぱい出して❤ 勿体無いわっ❤❤」

 

カナエは恍惚とした表情で、自身の右腕に掛かった精液を丁寧に集めて一滴残らず全て舐め取って行く。

 

炭治郎はカナエが自身の身体から出た精液を美味しそうに色っぽく舐め取る様子を見て、既に自身の逸物を熱く固くしていた。

カナエは炭治郎の逸物を愛おしそうに見詰め、今度は炭治郎と視線を交える。炭治郎は乳房から口を放してカナエに言う。

 

「カナエさん、その……俺はっ!」

 

「……炭治郎君、私と一つになって?……❤」

 

 

 

 

 

 

カナエの破壊力抜群な台詞と仕草で了承を得た炭治郎。

 

炭治郎は起き上がりカナエの肩に手を置いて仰向けにさせると、身体に直接のしかからない様にカナエに配慮しつつ覆い被さった。

 

「た、炭治郎君……わ、私……初めてだから、その……っ。」

 

「カナエさん……勿論、優しくしますから……。」

 

炭治郎はカナエを落ち着かせるように優しく口付け(キス)をしてから、逸物を蜜壷に照準を定める。挿入する前に炭治郎はカナエに言った。

 

「カナエさん、深呼吸して下さい。一気に挿れた方が、結果的に負担が少ないでしょうからっ」

 

「分かったわっ……すうぅぅぅはあぁぁぁぁ、すうぅぅぅはあぁぁぁぁ~~~っ!!」

 

カナエは炭治郎の助言通り、深呼吸するとその途中で途切れる。

 

炭治郎が逸物を蜜壷に挿入したからだ。炭治郎の逸物は今まで何ものも入れた経験の無い、カナエの蜜壷を貫き胎内に侵入した。カナエは衝撃で思い切り顔を仰け反った。

 

「っ!?……カナエさんっ!? ごめんなさいっ! 大丈夫ですか……っ!?」

 

「はぁ……はぁぁ……っ❤ お、思っていたより痛くないわ❤……はぁ……はぁ……。」

 

炭治郎はカナエを心配して大声で声を掛ける。カナエの美しい薄紫色の瞳が輝く両眼から大粒の涙が流れていたからだ。

 

カナエは泣きながら右手を炭治郎の左頬に優しく添えて、今度はカナエが炭治郎を安心させようと顔を上げて優しく口付け(キス)をした。

 

口を離したカナエは涙こそ流していたが、幸せそうに炭治郎に微笑んでいた。カナエは微笑みながら炭治郎に心境を伝える。

 

「心配しないで、これは痛くて泣いてるわけじゃないから……炭治郎君。私ね、死ぬまで処女で良かったって思ってるわっ。だって神様の御計らいで愛する殿方(ひと)と結ばれて、処女(初めて)をあげられたからっ。その事実がとっても嬉しいの。とっても……幸せなの❤」

 

「~~~~~~~っ!!! カナエさんっ!!!」

 

「ああっ❤! んんっっ❤❤!!」

 

炭治郎はカナエの言葉に感激して、挿入していた逸物を一気に子宮口まで叩き付けた。しかし、そこからは腰を固定させて動かすような真似はせず、カナエに口付け(キス)をしながら両手でカナエの乳房を愛撫する。

 

「はぁん❤……ああん❤ たん……じろうくん❤…………動いて、良いのよ❤……っ?」

 

「ちゅう……はふ……ううん……駄目です……俺だけでなく……カナエさんにも……んんっ……気持ち良くなって欲しい……ですからっ。」

 

「んっ❤……もうぅ❤……優しい……あんっ❤!……んだからぁ❤❤」

 

カナエはそう言いつつも、炭治郎の優しさと気遣いから抱く歓喜に溺れながら、炭治郎から受ける口付け《キス》と愛撫を楽しむ。

 

そうして十数分間、炭治郎とカナエはじゃれ合いを続けていたが、不意にカナエから炭治郎に言う。

 

「炭治郎君、痛みが大分……ううん、もう痛みを感じなくなって来たわ。だからもう、動いてくれて大丈夫よっ❤」

 

「カナエさん……でもっ。」

 

「大丈夫だから……炭治郎君も……私で気持ち良くなってっ❤」

 

「っ!!……分かりました。痛かったら直ぐに言って下さいねっ……!」

 

カナエの言葉に炭治郎は理性の箍が外れないよう気を付けつつ、動く事を決意した。

 

「行きますよっ……!」

 

「うんっ❤……っ……っっ……あああああっ❤❤!?」

 

炭治郎は二十cm以上ある逸物をゆっくりと蜜壷から抜けるギリギリまで引くと、一気に子宮口まで逸物を叩き付けた。するとカナエは大きな嬌声を上げて仰け反った。

 

「ああっ……優しく包み込まれてるみたいで……安心しますっ……。」

 

「ふぁあああ❤……あああっ❤……あああああ❤」

 

炭治郎はカナエの蜜壷から押し寄せる快楽に酔いながら、ゆっくりと逸物を動かしてカナエの反応を見て思考していた。カナエは痙攣しながら、その快感に戸惑っていた。

 

――カナエさん……イってくれたみたいだっ……気持ち良さそうだし……これならっ!

 

「カナエさん、もっと早く動かしますね……っ。」

 

「あっ❤……ああぁぁ❤❤……ふぇぇ?」

 

 

 

 

 

 

ズッチュ! ズッチュ! ズッチュ!

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

「ああああああっ❤!! あああああああああっ❤❤!?!?」

 

最初より早く動かし始めた炭治郎により快感が更に強くなり、カナエは最初より大きく嬌声を上げる。炭治郎もまた更に強く成った快感を受けながらカナエに質問する。

 

「カナエさん……どうですかっ? 先刻(さっき)より気持ち良いですか……っっ?」

 

「あああああっ❤! 気持ち良いぃぃぃっ❤❤!! 先刻(さっき)より気持ち良いのぉぉっ❤❤!!」

 

カナエは大声で炭治郎の質問に答えていたが、強烈な快楽の強さで眼の焦点が合わず口から涎が垂れていた。絶え間なく連続して絶頂し続けていたカナエだが、炭治郎にもまた、限界がやって来た。

 

「カナエさんっ! 出しますっ!! 初めてカナエさんの膣内(なか)にっ!!……カナエさんの子宮(おく)にぃ!!」

 

「あああっ❤!! 頂戴っ❤!! 炭治郎君のっ❤❤!! いっぱい頂戴いいぃぃぃぃぃっっ❤❤!!」

 

 

 

ビュルルルルルル!!! ビュルルルルルルゥゥ!!! ビュルルルルルルルルルルルゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 

 

「あああああっ❤!……ああっっ❤!……あっ❤❤!!」

 

カナエは炭治郎の逸物から勢い良く射精されて声にならない声を上げて絶頂を繰り返した。

 

少しして、絶頂から息を整えた炭治郎とカナエは繋がったまま互いを見詰め合っていた。

身長差があるため、炭治郎がカナエを見上げる形ではあったが。

 

「愛してる殿方(ひと)との情交って、こんなにも気持ち良いものだったなんて知らなかったわっ❤……。」

 

「してる時のカナエさん、とっても可愛かったですよ……。」

 

「か、可愛いだなんて……っ❤❤」

 

「っっ……カナエさん、可愛いって言われて締まりがキツくなりましたよ? 先刻(さっき)も可愛いって言われた時、照れてましたよね? もしかして、慣れてないんですか?」

 

「……うん。実はそうなの。」

 

炭治郎の指摘に、カナエは恥ずかしそうに、懐かしそうに語り始めた。

 

「私ね、子供の頃から身長が高かったの。同世代の男の子より高かったから、何時も実年齢より上に見られていたわ。皆は私を綺麗とか美しいとか言ってくれたけど、私は可愛い女の子でありたかった。私に可愛いなんて言葉を掛けてくれたのは実の両親くらいだった。」

 

そう言うと、一呼吸おいてカナエは続ける。その声色には嫉妬が混じっていた。

 

「可愛いなんて言われていたのは何時もしのぶの方だったわ。

今のしのぶからは想像もつかないでしょうけど、無邪気で天真爛漫な、本当に小さな天使のような娘だった。

しのぶは私が羨ましかったみたいだったけれど、私はしのぶが羨ましかった。そう……しのぶが私になりたかったように、私もしのぶのようになりたかったっ。」

 

「そうだったんですか……だとするとその人達の目が節穴だった事に感謝の言葉しか言えないですね。」

 

「えっ?」

 

思い出に浸りながら言い終えたカナエは炭治郎の一言できょとんとした表情になる。

すると炭治郎は身を乗り出してカナエに口付け(キス)をした。

 

「っっ❤️❤️!!……ああっ❤️❤️」

 

「ほら、また可愛いカナエさんが見れましたよ? こんな可愛いカナエさんがいて、俺が独り占めしてるなんて俺はとても運が良いじゃないですか♪」

 

「こ、この……っ?!」

 

悪戯小僧のような笑みを浮かべた炭治郎だったが、瞬きする間に真剣な顔付きになって炭治郎はカナエを真っ直ぐ見詰める。

これには炭治郎に抗議しようとしていたカナエも胸中をドキっと高鳴らせて黙ってしまう。

 

「俺は美しいカナエさんも、可愛いカナエさんも、大人なカナエさんも、乙女なカナエさんも大好きです。それら以外の全部も引っ括めて、貴女を愛していますっ。」

 

「〜〜〜〜〜〜っっ❤️❤️!!」

 

カナエは炭治郎からの愛の告白に、全身を痙攣させる程の狂喜に震えた。

炭治郎はカナエから溢れ出る喜びの匂いに嬉しく思いつつ、ある事に気付く。

 

「カナエさん。もしかして今、イきませんでした?」

 

「っ❤️……ぁ❤️……ぁぁ❤️……炭治郎君が❤️ そんな❤️ 嬉しい事を❤️ 言うからああ❤️」

 

カナエは蕩けたような表情で炭治郎に抗議しながら口付け(キス)をした。

炭治郎もまた眼を細めて嬉しそうにカナエからの口付け(キス)を受け入れる。

 

暫く口付け(キス)したままの状態でいると、炭治郎はカナエから悲しさと寂しさの匂いがする事に気になった。

カナエは口を離して微笑みながら、炭治郎に言った。

 

「炭治郎君、ありがとう……貴方はしのぶから聞いているでしょうけど、私は素敵な殿方(ひと)と結婚してお嫁さんになるって夢があった。鬼殺隊に入隊してそれどころでは無かったけれど、その夢の一端を叶える事が出来た……たとえこれが最初で最後の機会で終わって、再び皆を見守るだけの存在になったとしても、私に悔いは無いわ。」

 

「っ!?」

 

炭治郎はカナエの言葉に動揺を隠せず、またカナエから漂う悲しみと寂しさの匂いの理由を察した。

炭治郎は声を荒げてカナエに問い詰めた。

 

「それはどういう意味ですかっ!?」

 

「言葉通りの意味よっ。私ね、今回の試みは初めてって言ったでしょう? こんな機会なんて、もしかしたら二度と無いかもしれないってそう思ってしまったから……っ。」

 

カナエはそう言って顔を反らした。反らした顔の目元からは一筋の涙が流れていた。

カナエは炭治郎に向かって言葉を続けた。

 

 

 

 

 

 

「考えても見て? 生者と死者が出会う事なんて普通は在りえないわ。この奇跡も二度も起きないかもしれない……ううん、予め私がそうやって予防線を張って、そう思いたいだけなのかもね。私が炭治郎君に触れる事が、声を聞かせる事が、愛される事が出来なくなってしまったら……きっと……耐えられ……ない……から……ううぅ、うううぅぅぅぅっ。」

 

カナエはそんな未来を幻視したのか、声が乞音(ども)って泣き始めた。炭治郎はそんなカナエを見て、何も言わずに頭に手を置いて優しく撫で始める。

カナエが少し落ち着き始めたのを見計らって、炭治郎はカナエの顎にそっと手を置いて、自分と向き合わせた。

 

「炭治郎君……っ?……んんっ!?!?」

 

カナエは炭治郎に声をかけた瞬間に口籠った声を上げる。

炭治郎が押し付けるようにカナエに口付け(キス)をしたからだ。炭治郎はそのまま舌までカナエの口腔内を蹂躙する。

 

「んんちゅ、ちゅぱぱ、じゅるる、ちゅうう、んちゅううう、ちゅうううぅぅぅぅ。」

 

「ちゅぱぁ❤ れろれろ❤ ちゅるるる❤ ちゅうううう❤ ちゅぱ❤」

 

カナエも舌を絡めて炭治郎に答えるが、勢いが強すぎて窒息しそうになる。

その寸前に炭治郎はカナエから口を離す。二人は呼吸して息を整えた後、炭治郎から開口する。

 

「カナエさん。この機会が再び俺達に訪れるのか、最初で最後の神様の気紛れなのかは俺には分かりませんが……ただ俺が言えるのは、この夢幻(ゆめ)が終わるまで、貴女の傍に居たい、貴女を離したくない、貴女と愛し合って居たい……っ!」

 

「っ❤❤!!……わた……しも、私も! 炭治郎君に愛されたい……お願い、今だけは……私だけを見て……私だけを愛して……私を……離さないで……っ!」

 

「カナエさんっ!!」

 

「あああああっ❤!! ああああああんっ❤❤!!」

 

強烈な快楽にカナエは一際大きな嬌声を上げた。何故なら、炭治郎が膣内に入れていた逸物を一気に引き抜いて、子宮まで叩き付けたからだ。

炭治郎は一旦動きを止めてカナエの耳元で囁く。

 

「カナエさん。先に忠告しておきます。先刻(さっき)で紳士の時間は終わりです。此処からは激しくしか出来そうにありません。良いですか?」

 

「うん❤️……来て❤️……いっぱい愛して❤️❤️」

 

「分かりました。では行きますよっ!」

 

炭治郎はそう言うとカナエの言葉に応えようと、カナエを求めて激しく攻め立てて行く。これまでとは比較にならない程、腰を激しく動かしてカナエを攻める。また口付け(キス)や乳房への愛撫も忘れない。

 

炭治郎の激しい攻めにカナエは絶え間なく歓喜に満ちた嬌声を上げ続け、それが炭治郎に更にカナエを喜ばせようとする原動力になっていた。

 

炭治郎は息切れを起こす事無く、体位を変えて休む事無く攻め続け、逸物から白濁の溶岩を子宮に叩き続けた。

 

カナエの脳内は洪水の如く押し寄せて来る強烈な快楽で大混乱(パニック)になっていたが、カナエは炭治郎からの快楽を受け続ける他無かった。

 

何度も失神しそうになったが、絶え間なく押し寄せて来る快楽がカナエを失神する事を許さなかった。

快楽の波を受け、意識が半分朦朧としつつカナエは思っていた。

 

――壊れ……ちゃいそう……ううん、炭治郎君になら……ああ、このまま永遠にこの時間が続いたら良いのに……❤

 

そう思っていたカナエだが、炭治郎のある一言が切っ掛けで今一度、理性を取り戻す。

 

「はぁ、はぁ……カナエさんっ! カナエさんっ!……カナエ!!!」

 

「っっ❤!?」

 

「全部……全部俺の色に染めたい……カナエは俺のものだから……俺だけのものだから!! 違うか!?」

 

「あっ❤!……ああっ❤!……はいぃ❤……私は……私の全ては、炭治郎君の……あなたのものです❤……ああ❤ あなたっ❤!……あなたぁ❤❤!!!」

 

「っ!! 嬉しい……嬉しいぞ!! カナエ! カナエ!! いくぞ!!」

 

「ああっ❤️! 来てぇ❤️❤️!! 全部、全部あなたのを、私の胎内(なか)にちょうだいぃぃぃぃっ❤️❤️!!」

 

 

 

ビュルルルルウウウゥゥゥ!! ビュルルルルルルウウウウゥゥゥ!! ビュッビュッビュッーーーーッッッ!!!

 

 

 

「あああああああーーーーーっっっ❤️❤️!!」

 

炭治郎の逸物から何度も出されたとは思えない程の大量の白濁の溶岩がカナエの膣内を白く染め上げて行く。

カナエは強烈な快楽に絶叫とも取れるような嬌声を上げて絶頂した。

 

「んんっ……ああ"あ"……はあ、はあ、はあ……っっ。」

 

炭治郎もまた快楽に腰を震わせて、カナエの膣内を自分色に染めて行く。逸物から白濁の溶岩を出し尽くすと、逸物をカナエの秘部から抜いて、乱れた息を整えるために呼吸をする。

 

カナエの秘部からは、入り切らなかった白濁の溶岩が勢い良く逆流して来た。

炭治郎は息を整え終えると、同じく快楽の大波から立ち直ったカナエの頬に優しく口付け(キス)をした。

 

「すみません。カナエさんの事を、呼び捨てにしてしまいましたっ。後、敬語が抜けてしまった事もすいませんっ。」

 

「……っ、いやぁ……呼び捨てにして……敬語なんて使わないで、私をカナエって呼んで……っ❤️❤️」

 

炭治郎は興奮のあまり名前を呼び捨てにした事と敬語を使わなかったことをカナエに謝罪したが、カナエは炭治郎を抱き締めると、囁くように耳元で敬語を辞めて呼び捨てにして欲しいと懇願した。

 

炭治郎はカナエの懇願を聞いて、顔を引いてカナエと目線を合わせる。カナエの為ならと決意して。

 

「ごめん……カナエ、愛してるよっ。」

 

「私も、愛しているわ❤️……あなた、お願い……この夢幻(ゆめ)から目覚めるまで、私を愛して……あなたを、愛させて……❤️❤️」

 

「〜〜っ!! ああっ! 俺もこの夢幻(ゆめ)が終わるまで、カナエを愛したい……っ!」

 

そう言うと、炭治郎はカナエに何度目か分からない口付け(キス)をしてから、情交を再開した。

 

二人は刹那の時も惜しいとばかりに身体を密着させ、文字通り炭治郎が夢幻(ゆめ)から目覚めるまで、濃厚な情交を続けたのだった。




あとがき
結局この話も炭治郎君とカナエさんの情交で終わってしまった・・・カナエさんの「重要な役割」まで書きたかったのですが、区切りが良いし、これ以上皆様を待たせたく無かったので投稿を決意しました。

次の投稿は時間がかかるかもしれません。期待せずのんびりお待ち下さいますよう宜しくお願い致します。

今話にはアンケートを設置しましたので、ご参加下さい。
内容は「Hシーン」に関してです。
作中に反映させるかはまだ分かりませんが、宜しくお願い致します。


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第拾話 人外の撫子蝶は日輪を取り戻さんとす ❤★

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・薬師寺ひさ邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十日(月)

時間帯:深夜

天気:雨

 

薬師寺邸に宿泊している鬼殺隊の隊士・竈門炭治郎と蟲柱・胡蝶しのぶが濃厚で激しい情交(セックス)を終えて、静まり返ってその一時間後の午前二時、世間では丑三つ時と呼ばれる時間帯に二人のいる部屋の襖が静かに開いた。

 

その人物は十を数える程の間、立ち止まっていた。そしてそのまま入ってきたのは麻の葉紋様の撫子色の着物に市松柄の帯を着用し、口には竹で作られた特製の口枷を付けた、腰まである先端が赤く染まった黒色の美長髪と桃色がかった裂け眼を持つ美少女だ。

 

その美少女の名は竈門禰豆子。竈門家の長女であり今や唯一、生存している炭治郎のたった一人の実妹にして最愛の肉親である。

 

禰豆子はおよそ二年前に故郷で鬼舞辻無惨の襲撃を受けて鬼と化してしまった経緯がある。通常であれば、禰豆子もその場で処断されてもおかしくはない。

 

数々の幸運と通常の鬼には持ち得ない禰豆子の特異性により、今日まで生き永らえている事に成功している。炭治郎は己の全てを捧げてでも、禰豆子を人間に戻すために鬼殺隊に籍を置いている。

 

禰豆子の特異性の一つとして、禰豆子は人を襲わない理性を保っている事にある。鬼は栄養補給の一環として人を襲って喰らう。

 

しかし、禰豆子はそうではない。禰豆子は本来、不眠生物である鬼とは例外的に睡眠を取る事で栄養を確保し、体力の回復に努めている。

 

そんな禰豆子だが、普段は実兄・炭治郎の師匠である元水柱・鱗滝左近次特製の箱の中に引き籠って寝ている。日光で身体を焼かれないためにだ。そして夜になると時偶に目を覚まして行動するのである。

何時も通りに夜に目を覚まして行動している禰豆子に見えるが、今の禰豆子は普段と様子が変わっていた。

 

「……フ――ッ!……フ――ッ!……フ――ッ!」

 

禰豆子は酷く興奮した様子で口枷からは涎が大量に零れ落ちていた。禰豆子は口枷を外してからゆっくりと、なれど確実に一歩一歩前に足を進めて炭治郎としのぶに近付いていた。

 

この状態の禰豆子の反応を見れば、誰でも遂に飢餓感が理性を上回って二人を襲おうとしているのだろうと勘違いするに違いない。

 

しかし、炭治郎もしのぶも一向に目を覚ます気配はない。それは情交(セックス)による疲労感から、目を覚まさないのではない。単純に禰豆子に殺意や殺気と言うものが無かったからだ。

 

禰豆子は二人の足元側にまで近付くと、しゃがみ込んで布団の中に潜り込んだ。そしてあるモノの前に止まる。

それはビクビクと熱り立つ炭治郎の逸物であった。浴衣を着ていたが、突き破る勢いで勃起していた。

 

それを見て禰豆子は更に興奮しながら両手を前に出して炭治郎の浴衣を紐解いて、炭治郎の逸物を露出させる。鞘に収められていた日輪刀を引き抜いて抜刀するが如く。

 

「……フーーッ!……(ゴクッ!)……っ!」

 

全容を露わにした炭治郎の逸物を前に、禰豆子は生唾を飲み込んだ。そして、禰豆子は一呼吸してから口を限界まで開けて炭治郎の逸物を口に咥えて頬張った。

 

「(パクッ!)……ちゅうう、ちゅうぅぅぅぅ!……れろれろ、じゅるっ!」

 

禰豆子は乳を吸う赤子の如く炭治郎の逸物を吸い付き、時に舐め始めた。禰豆子がこの様な行動を取ったのか、その要因は昨日の夜にまで時間が遡る。

 

炭治郎としのぶが初めて結ばれた日の夜、禰豆子は僅かに空いていた障子の隙間から二人の濃厚な情交(セックス)を覗き見ていた。

 

二人は騎乗位で情交(セックス)をしていたため、禰豆子は最愛の実兄が見知らぬ女に襲われていると思って思わず飛び出しそうになった。しかしそうはならなかった。

 

炭治郎もその女も、喜びの色を宿した声を上げていたからだ。互いに求め合う様に、抱擁を交わしていた。何をしているか理解出来ていなかったが、互いに害意は無い事くらいは禰豆子でも理解出来ていた。

 

また、禰豆子が飛び出して乱入しなかった理由がもう一つ存在した。

 

そもそも禰豆子は左近次から味方を今は亡き家族に見えるよう暗示を掛けられており、持ち前の強靭な精神力も相俟って人間を襲う事はまずありえない。

 

しかし、それだけが飛び出さなかった本当の理由ではない。

 

では何故、禰豆子が炭治郎としのぶの情交(セックス)中に飛び出さなかったのかと言うと、二人は禰豆子は今は亡き実父・竈門炭十郎と亡き実母・竈門葵枝に見えたからだ。この様に見えたのには理由があった。

 

まだ禰豆子が故郷の雲取山でまだ人間として家族と幸せに暮らしていた頃、それは当時九歳の時のある夜の日の出来事だった。

 

尿意を催して目が覚め、眼を擦り眠気と闘いながら厠に行った帰り、両親の部屋から聞き覚えの無い声が自身の耳に入って来た。

 

その聞き覚えの無い声は何なのだろうか探ろうと部屋に近付き、空いていた障子の穴へ背伸びして覗き込んだ。暗闇に目が慣れ、自身も比較的夜目が利いていたとは言え、全容を見る事は叶わなかった。

 

しかしそれでも、幼かった禰豆子には分かった事がある。

 

それは普段は凛としたしっかり者の葵枝が、膝まで届きそうな美しい漆黒の美長髪を振り回しながら、聞いた事も無い声を出して全裸で炭十郎と抱き締め合っていた事だ。

 

当時の禰豆子は、二人が何をしていたのか分からなかったが、本能的に邪魔してはいけないと考え、妨害行為をする様な真似はしなかった。

 

禰豆子は静かにその場を去ると、再び布団の中に入って眠りについた。自身の秘部が濡れている事に気付かないまま、夢の世界の住人になった。

 

そして翌朝目が覚めると、自身の寝間着がびしょ濡れになっており、お漏らしをしたと勘違いした実弟の竹雄と茂に揶揄われ、実妹の花子に今後は一緒に寝たくないと駄々をこねられ、実兄の炭治郎に慰められたりとてんやわんやの騒々しい朝となった。

不幸中の幸いなのは、布団にまで被害が及ばなかった事くらいか。

 

その騒動で禰豆子は昨夜の炭十郎と葵枝の情交(セックス)について完全に忘れてしまい、記憶の片隅に追いやっていた。

ちなみのこの日の二ヶ月後に、後の竈門家四男である末っ子の竈門六太の懐妊が発覚し、家族総出で祝う事になる。

 

その記憶が炭治郎としのぶの情交(セックス)で追憶となって現れ、禰豆子の足を止めるに至ったのだ。

 

結局、何も出来ずにその光景を釘付けになって見続ける事しか出来なかった。

終わった後も、部屋に入れず逃げる様に急いでひさに用意された自室に戻り、箱の中に籠った禰豆子だったが、彼女の心中にあったのは嫉妬心と羨望であった。禰豆子自身は自覚などしていなかったが、彼女の秘部は濡れていた。

 

昼になってから一度目覚めた禰豆子だが、暫くすると何時もと違う事が起きた事に困惑する。炭治郎が何時まで経っても戻ってこないのだ。どんな時であろうと、炭治郎は最低でも自分に一言は声を掛けてくれていた。しかし、今回は部屋に戻ってくる気配すらなかった。

 

それはそうだろう。禰豆子は知る由もないが、その頃の炭治郎は自暴自棄に成り掛けていたしのぶを必死で諫め、愛の告白をして両想いになり、その後もずっと二人っきりで過ごしていたのだから。しかしそれでも兄の炭治郎が戻ってこない理由を禰豆子は察していた。

 

――あの女が兄の傍にいるから、自分の下へ帰って来てくれないのだ。

 

禰豆子のこの思いに憎悪や殺意と言ったものは無い。しかし燃え盛る炎の如き、強烈な嫉妬心があった。

 

――絶対あの女から、兄をこの手で取り戻す。

 

爪で箱に穴を開けん勢いで、ガリガリガリガリと削りながら禰豆子は自身に固く誓った。そうしている内に眠って夢の世界の住人となった。

 

そして日を跨いで深夜二時前に、バァン! と大音を経てて禰豆子は箱から飛び出した。寝坊してしまったからだ。

 

夜に入った瞬間に飛び出す筈が、深夜になってしまった。

 

禰豆子は急いで炭治郎を探し始めた。尤も、ドタドタと動くと迷惑だからするなと以前、炭治郎に注意されているため、慌てずに落ち着いた上での行動だったが。

 

そして鬼になった事で強化された五感で、部屋の外からでも漂う淫靡な空気を察しして憤慨しながら、昨日見たしのぶの行動を模倣して炭治郎の逸物に愛撫し始めた。

 

「ちゅううう……ちゅうううううう……っっ。」

 

「んんん…………んんんっ……。」

 

見様見真似の口淫(フェラチオ)なため、しのぶ程の快楽は無い。思う通りに感じてくれない炭治郎に、禰豆子は苛立ちながらも必死で愛撫を続ける。

暫くすると、炭治郎の逸物が膨張した様に禰豆子は感じ、そして間もなくそれは射精の前兆だとその身で直接知る事になる。

 

 

 

ビュルルルルルッッッ!!! ビュルルルルルッッッ!!!

 

 

 

「~~~~~~っ!!」

 

咽喉を焼き尽くす勢いで白濁の溶岩が禰豆子を襲う。驚いた禰豆子だが、必死で飲み干して行く。情交(セックス)を覗き見ていた時も、禰豆子は炭治郎の逸物から射精して出た精液をしのぶが飲んでいるのを見ている。

自分が同様に出来た事に歓喜しつつ、その味に禰豆子は驚いていた。禰豆子にとって鬼になってから初めて、そして二年以上振りに口にしたものだ。

 

「……っ❤……っ❤……っ❤」

 

人生で初めて口にした精液は非常に美味だった。飢えてなどいなかったが、自身の心も身体も満たされ力が増して行く感覚に震える。

もっと欲しい。禰豆子がそう思うのは無理も無かった。禰豆子はその後、二回程炭治郎から射精して飛び出た精液を一滴残らず飲み干した。

 

「はぁ❤……はぁ❤……はぁ❤……っ❤」

 

禰豆子は一通り精液を飲んで満足したのか、逸物から口を放して口淫(フェラチオ)を終えた。しかし、息遣いは荒くなる一方だ。

少しして自分の秘部から大量の粘着した液体が出ている事に気付いた。それが愛液だと言う事は禰豆子は知らなかったが、禰豆子の秘部から更に大量の愛液が水溜りを作らん勢いで流れ出ている事に気付く。

 

気付いた瞬間、無性に疼きを覚えた禰豆子は本能的に交尾をしようと布団を被ったまま身体を前に移す。

炭治郎の逞しい胸板まで身体を移動させると、炭治郎の逸物を自身の秘部に入れようと腰を浮かせた。

思う通りに入らない事に苛立ちながらも、何とか炭治郎の逸物を自身の秘部の入り口まで誘導する事に成功する。そして一気に挿入した。

 

「~~~~~~~~~っっ❤❤!!!」

 

禰豆子は一気に膣内の肉壁を押し退けて子宮口まで叩き付けられる衝撃に悶絶し、まるで落雷を受けたが如き衝撃を受ける。禰豆子は処女喪失の痛みを苦しんでいる訳ではない。持ち前の再生能力で痛みは直ぐに消えたし、それならこれまでの鬼との戦いで受けた痛みの方が痛かったくらいだ。衝撃が消えると、炭治郎の逸物の熱さと太さ、そして硬さに驚いていた。

 

「っ❤……っ❤」

 

しかし、驚きの後に禰豆子が抱いたのは歓喜と炭治郎への愛おしさだ。しかし、しのぶが自分を差し置いてこんな経験をしていたのかと思うと、嫉妬心から対抗心が沸いて来る。そして身体を激しく動かしていた事を思い出して、禰豆子も同様に腰を動かし始める。

 

 

 

ズチュッ! ズチュッ! ズチュッ! ズチュッ! 

 

 

 

「~~~っ❤~~~~っ❤❤」

 

少しずつ自身に押し寄せて来る快楽に、禰豆子は快感を酔い痴れ始めた。もっと気持ち良くなろうと、更に強く炭治郎にしがみついて腰を激しくに叩き付ける。

 

 

 

パンっ! パンっ! パンっ! パンっ!

 

 

 

「ああっ❤…………あああっ❤……ああっ~❤❤」

 

強くなって行く快感に、禰豆子はついに声を我慢出来ず嬌声を上げ始める。鬼化して喋る事が出来ない禰豆子だが、人並みに嬌声は上げられる様だった。腰を動かしている内に、炭治郎の逸物が膨張している感覚を察する。

禰豆子はその様子に歓喜して、期待感を高めつつ腰を更に動かし始める。その時は間も無くやって来た。

 

 

 

ビュルルルルルルルルルル!!!!!

 

 

 

「んんっ!!……。」

 

「~~~~~~~~~っ❤❤!!!」

 

禰豆子の期待通り、大量の白濁の溶岩が子宮に叩き込まれる。禰豆子は想像以上の快感に、声にならない嬌声を上げて絶頂して全身を痙攣させた。そして、禰豆子は精飲した時とは比べ物にならない程の満足感と幸福感が快感となって全身を貫き、全身に力が宿るように感じ始めていた。

 

「……っ❤」

 

身体から快感が治まると、禰豆子は繋がったまま上半身を起こす。すると布団が山の如き形に捲れ上がった事で、最愛の兄である炭治郎の顔が見える様になった。

 

「ふふっ❤……ちゅっ❤」

 

禰豆子は愛おしそうに視線を向けて笑みを零した後、上半身を伸ばして炭治郎の顔に向かって近付いて行きそのまま口付け(キス)を落とした。

 

「ちゅっ❤……んんっ❤……ぁあんっ!!❤」

 

 

 

パンっ! パンっ! パンっ! パンっ!

 

 

 

唇を離した禰豆子は炭治郎の鍛えられた胸板に置いて両手を固定した後、再び腰を動かし始めた。

 

「ひゃぁあんっ!❤……ああぅっ!❤……あふぅぅんっ!!❤」

 

一度絶頂したがために身体の感度が上昇した禰豆子は、先刻よりも強い快感を味わっていた。

 

「ああぁっ!❤ あああっ!❤……はぁっ❤……はぁっ❤……はあぁんっ!❤」

 

更に強い快楽を求めて、禰豆子は炭治郎の逸物を包んでいる膣内を締め付ける。それから少しして、再び禰豆子が求めていた極上の快楽がやって来た。

 

 

 

ビュルルルルルルル!! ビュルルルルルルルル!!!!

 

 

 

「ああああっっ!!❤❤ ああああぁぁぁ~~~~っっ!!❤❤❤」

 

禰豆子の小さな子宮を溺死させんばかりに、炭治郎の逸物から大量の精液が射精された。待ち望んでいた快楽の津波を感じてながら、禰豆子は絶頂する。

 

「……っ❤……ぁっ❤……あぁっ❤……あああっ❤……ちゅっ❤……ちゅっ~❤❤」

 

快楽の津波が収まり、半ば飛んでいた意識を完全に取り戻した禰豆子は上半身を伸ばして炭治郎に再び口付け(キス)を落とす。そして口付け(キス)を続けたまま、禰豆子は腰を動かし始めた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十日(月)

時刻:4:42

天気:雨

 

 

「……うんっ……んんっ。」

 

声を上げたのは、快楽から失神してそのまま眠ってしまっていたしのぶだった。しのぶは眼を瞑ったまま、脳内で状況を改め始めた。

 

――……んっ~また私は気絶してしまったのね……うぅ……でも悪いのは炭治郎君よっ。絶倫過ぎるんだから❤…………あれっ? 布団の感触がないっ? と言うか、この音は何かしらっ?

 

うつ伏せ状態で寝ていたしのぶは、右腕で眼を擦りながら眠気を払う。そして音の鳴る方へ視線を向ける。

 

「あっ❤……あんっ❤……あああっ❤……ああっ~❤❤」

 

「……っ?…………はああああああああっ!?」

 

しのぶが起き上がって怒気に満ちた大声を上げる。視線の先には将来を誓った最愛の恋人である炭治郎が布団を被ったまま仰向けで寝ていた。

 

しかし、布団は明らかに盛り上がっており、炭治郎でない人物の声が聞こえて来た。しかもその声が嬌声と来ている。

 

「誰だっ!? お前はあああああっ!!??」

――こっ、殺すっ! 絶対に殺すっ!!

 

しのぶは殺意を全開にして、布団を勢い良く引っぺがした。すると抱いて居た怒りを吹き飛ばす程の衝撃を、しのぶは受ける事になる。

 

「ねっ、禰豆子さんっ!?」

 

ひさの女性使用人が炭治郎に夜這いを仕掛けて来たと思っただけに、思わぬ人物の登場に驚愕した。まさか夜這いを仕掛けて来た人物が実妹の禰豆子とは、しのぶも思わなかった。

 

驚愕したしのぶだったが、時間が経つと共に再び怒りが戻り、徐々に表情が憤怒の色で染まり始める。しのぶの身体はワナワナと全身が震えていた。

 

「何を……やっている……んです……っ?」

 

ワナワナと震えながら、しのぶは禰豆子に質問をする。すると禰豆子は嬌声を上げながら、しのぶの方にゆっくりと視線を向ける。

 

「ああああっ❤ あんっ❤ ああん❤…………ふっ❤」

 

「……ああ"っ!?」

 

涎を垂らしながら勝ち誇ったように妖艶に嗤う禰豆子に対し、しのぶは激怒して声を荒げる。

既にしのぶの両眼は血走っており、青筋が立っていた。

 

「このっ……糞餓鬼(クソガキ)ッッ!!」

 

我慢出来ずに激昂したしのぶは禰豆子に飛び掛かろうとした。その瞬間、禰豆子に異変が起こる。

 

 

 

ビュルルルルルルゥゥゥゥッッッッッ!!!!!

 

 

 

「ああああああっ~~~~~❤❤!!!」

 

「っ!!!」

 

炭治郎の逸物から今まで以上に大量の白濁の溶岩が禰豆子を襲い、禰豆子もまた今まで以上に大きな嬌声を上げて絶頂した。その大声の大きさに驚いてしのぶは動きを止める。

 

「あっ❤……あっ❤……っ❤」

 

禰豆子は全身を痙攣させた後、ガクッと身体が伸びた様に仰向けになって倒れた。しのぶは直ぐに竈門兄妹の近くに寄る。

 

「すぅ❤……すぅ❤……すぅ❤……。」

 

「…………」

 

怒りの対象が失神して眠ってしまい、そのまま黙ってしまうしのぶ。しのぶは沈黙したまま、握っていた拳を開放する。

 

――とりあえず、二人を引き剥がしましょう。

 

それから禰豆子を炭治郎から引き剥がすべく、炭治郎の両脇に両腕を差し込んで引き剥がす。

 

「ぐっ、重い……流石は男の子だわ……っ。」

 

しのぶは愚痴を零しながら苦労の末に、炭治郎を動かして布団諸共、禰豆子から引き剥がした。

 

すぽっと音を立てて炭治郎の逸物が、禰豆子の秘部から抜けて姿を現す。その逸物は禰豆子の愛液で染まったまま、へなっとなって倒れた。しかし、しのぶの視線は禰豆子の秘部に集中し、そして驚愕した。

 

――炭治郎君の精液が溢れて来ないっ?……まさか、吸収しているのっ……!?

 

禰豆子の身体に起こっている事実に驚愕し、マジマジと視線を禰豆子に向けるしのぶ。既に憤怒は消え去り、しのぶは医学者としての顔になっていた。

 

「……」

 

しのぶは一通り禰豆子の身体を調べるために、禰豆子に近付いて行く。しかし、触るところまでは行かなかった。

 

「……チッ。触りたくは無いけど、直接触らないと調べられないし……。」

 

しのぶは忌々しそうに、悔しそうにそう呟いた。

 

そうなのだ。しのぶは禰豆子の身体に、どうしても触れたくは無いのである。何故しのぶは禰豆子の方を動かさなかったのかというと、理由としては二つ有る。

 

先ず第一の理由としてしのぶ自身の身体は、現時点で鬼にとって多量に摂取すれば落命する危険が有る程の猛毒に蝕まれている。その藤の花の毒で禰豆子の体調に支障を来たしてはならないという、しのぶなりの気遣いがあった。

 

第二の理由としては、しのぶ自身が常日頃から抱いている鬼という種族への嫌悪感と憎悪だ。

それがたとえ最愛の恋人となった炭治郎の実の妹であっても、その先入観を拭うのは容易では無かったのだ。

 

「……ええいっ! 儘よっ!!」

 

しのぶは葛藤を振り切る様にそう叫ぶと、徐に禰豆子への触診を開始した。自身の個人的な感情よりも、眼前の現象を少しでも解明する方を優先したのである。

 

「……ふぅ……っ。」

 

一通り禰豆子に触診を行い、更に目視で診察を終えてしのぶは額に付いていた汗を拭う。一仕事終えたしのぶであったが、更なる難題がしのぶを待ち受けていた。

 

「禰豆子さん……どうしよう……。」

 

しのぶが頭を抱えている理由とは、眼前で全裸のまま熟睡している禰豆子の対処方法であった。

 

このままにしておけば、炭治郎が起床してこの事態に気が付いてしまうだろう。そうなってしまうと自分が全部、炭治郎に一部始終を説明しなければならなくなる。

 

「いや、どうせ説明しないと駄目なのでしょうけど……」

 

遅かれ早かれ、当事者である炭治郎に説明しなければならない案件だ。しかし、今は説明するのがしのぶにとっては癪であった。

 

「そうなると、早く隠蔽しなければ……っ。」

 

炭治郎の嗅覚の鋭さを考えれば、隠蔽などほぼ不可能だ。それはしのぶも重々承知しているが、それでも時間稼ぎにはなる。

 

しかし、しのぶが口にした様に隠蔽するとなると禰豆子を着替えさせて元に戻さなければならない。それには必然的に、禰豆子への接触は避けられないのだ。

 

「かと言って、おひささんかその使用人達にやらせる訳にも……。」

 

ひさはしのぶが生まれる前から長年鬼殺隊に貢献してくれている、信用の出来る御仁だ。しかし可能ならば、この特殊案件を詳細に知る人物は少ないに越した事は無い。そうなると、しのぶに選択出来る道は一つしか存在しなかった。

 

「チッ!……禰豆子さん、この件は貸しだからねっ!? 後で絶対取り立ててやるんだからっ!!」

 

しのぶは青筋を浮かべ悪態を吐く様にそう言うと、禰豆子に着物を着せて部屋まで担いで運び出す。現在の天気は雨だが、晴れて日光が差しても当たらない様に配慮して禰豆子を寝かせる事に成功した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十日(月)

時間帯:早朝

天気:雨

 

「ふぅ~。」

 

しのぶは一息ついてから炭治郎が寝ている部屋に戻ると、其処には未だ熟睡している炭治郎が居た。

 

「……あんな事があったんですから、気が付いても良いんじゃないですかねぇ……っ。」

 

もし本当に気付かれたら面倒臭い事態になると分かっていながら、しのぶは呆れた様に炭治郎に向かって呟く。尤も、その呟きが届く事など期待していないが。そしてしのぶの視線は炭治郎の逸物に向けたが、次に視線を時計に向ける。

 

しのぶが時計を確認すると、時刻は午前五時を過ぎている。

 

「……っ❤」

 

四時間以上前に炭治郎から受けていた快楽を思い出すと、しのぶは軽く息を吞んだ。そして少ししてから、しのぶは動き出した。

 

「…………ふぅ。流石に鬼の体液が付いているものに、いきなり口を付ける勇気なんて私には無いわよ。」

 

息を整えて冷静さを取り戻したしのぶは、予め用意していた布で炭治郎の逸物を掃除する。

それは飲水用の水を一度掛けてから改めて掃除するという、念の入れ様であった。尤も、炭治郎の嗅覚を前にして、この程度では禰豆子の匂いを消し去れる程の隠蔽は不可能であろうが。

 

「こんなものかしら?……いいえ、まだ足りないわね。」

 

しのぶは綺麗になった炭治郎の勃起していない逸物を確認してから、しのぶはある決断をして炭治郎にしがみ付く様に抱き着いた。

 

「っ……ちゅっ❤……ちゅっ❤……ちゅっ❤」

――炭治郎君は、()()私だけのものなんだから……アオイにもカナヲにも、他の誰にも……負けるもんですか、況してや禰豆子さんにだなんて……っ!

 

炭治郎に自身の匂いを擦り付ける様に、自身のものだという証明を残す様に炭治郎の全身に口付け(キス)を落として口付け痕(キスマーク)を残していった。更に自身の裸体を、炭治郎の裸体に何度も擦り付けてる念の入れ様である。

 

「ぁ❤……くぅっ❤……んぅっ❤……はあぁん❤」

 

まるで消毒して禰豆子の痕跡を跡形も無く消し去ってやると、そう言わんばかりであった。炭治郎に口付け(キス)を続けるしのぶの心中は、嫉妬心と対抗心と独占欲でいっぱいになっていた。

 

不幸中の幸いと言えるのは、今寝ている炭治郎が夢幻世界で最愛の実姉・カナエと深く愛し合っていると言う事実を知らない事だろう。もし、しのぶがその事実を知ったら、一体どうなるのか想像もつかない。

 

「……ふぅ。」

――貴方だって散々、私に付けまくったんですからね? これぐらい、許して下さいね?……ふふっ❤

 

冷静さを取り戻したしのぶは、自身が付けた口付け痕(キスマーク)で全身に赤い痕が付いた炭治郎の全身を確認して一定の満足感を得る。先刻の情交(セックス)では一方的に炭治郎に攻められていたため、その腹癒せもしのぶは兼ねていた。

 

「んっ……んんっ……っ。」

 

「!」

 

すると満足感という名の余韻に浸っていたしのぶは、炭治郎の動きに気付いた。

 

「っ……っ!!」

 

「!?」

 

それから間も無く、炭治郎が飛び起きる様に上半身を勢い良く身を起こした。唐突な炭治郎の行動にしのぶは驚きを隠せない。

 

「……あれ?……此処は……?」

 

炭治郎は慌てた様子で、周囲を見渡した。そして漸く、しのぶと視線を交える。

 

「炭治郎君、おはようございます。」

 

「あっ……おはようございます、しのぶさん。」

 

炭治郎は一瞬だけしのぶから視線を逸らした後、それを誤魔化すかの様に頭を上げてしのぶに挨拶をした。

 

「……」

 

しかし、しのぶはそんな炭治郎の様子を見逃す筈が無かった。しのぶは心配そうに、炭治郎を見詰める。

 

「……あっ!❤」

 

しのぶは唐突に、驚きの声を上げる。炭治郎がしのぶを強く抱き締めたからだ。しかし、しのぶに拒否感は無い。最愛の恋人である炭治郎が、自らの意志で自分を抱き締めてくれているのだ。しのぶは直ぐに歓喜しながら、炭治郎に抱擁を返した。

 

「……っ。」

――しのぶさん、しのぶさん……っ。

 

しのぶは知る由も無かったが、炭治郎は罪悪感で胸がいっぱいになっていた。その理由とは、カナエと愛し合っていたためである。

 

炭治郎自身、カナエの想いを受け入れ結ばれた事に後悔など微塵も無い。間違い無く、幸せな一時であったと胸を張って断言出来る自信が有る。

 

しかし胡蝶しのぶという此の世で最高位の女性と結ばれておきながら、他の女性と浮気をしてしまったという罪悪感は、やはり拭う事など出来はしない。馬鹿正直にしのぶに事実を告白して懺悔する訳にも行かず、炭治郎は内心で苦悩していた。しのぶは炭治郎が苦しんでいるのを見て、心配から声を掛ける。それでも炭治郎が苦しんでいる理由までは、しのぶに察する事など出来る筈も無かった。

 

「……どうかしました? 怖い夢でも見ましたか?」

 

「っ!……いいえ、違います。」

――その逆です。逆なんですけど……っ。

 

しのぶの質問に、炭治郎は即座に否定する。その理由までは口に出来なかったが。誤魔化す様に、炭治郎は視線を右往左往させると、時計が目に入った。時計に載っていた時刻は五時半を丁度過ぎていたところだった。

 

「……しのぶさん。」

 

「っ?……はい。なんで、んむっ!?」

 

炭治郎に名前を呼ばれたしのぶは返答しようとしたが、それも途中で遮られる様に口を閉ざした。正確に言うと、閉ざされたのだ。何故なら炭治郎に口付け(キス)をされた事で、しのぶは喋れないのだから。

 

「んんっ……ちゅっ……ちゅうっ……ちゅうぅぅっ。」

 

「んちゅぅっ……ちゅっ❤……ちゅう❤……じゅぅっ❤……ちゅうぅぅっ❤」

 

炭治郎から口付け(キス)をされたしのぶだったが、困惑したのほんの最初の間だけ。直ぐにしのぶは自ら両腕を炭治郎の首に回して積極的に舌を出し入れして唾液を交換する。

 

「ぢゅっぢゅうぅぅぅっ!……はぁむぅ……ぢゅるるっ!……しの……ぶさんっ……好きですっ……ちゅうぅ……大好き……です……ちゅるぅっ!!」

 

「~~っ!!❤……私っ……だってっ!❤……ちゅばっ!❤……好きぃっ❤……ちゅぶぶ!❤……ちゅうぅぅ!❤……大っ!❤……好きぃ!❤❤……んちゅうぅぅぅぅっ!!❤❤❤」

 

炭治郎からの告白を耳にして、全身を震わせる程の歓喜と幸福感に満たされながらしのぶも応える。

 

互いの唾液を貪り合う炭治郎としのぶは、自身の想いを何度も告白しながら更に激しく抱き合い口付け(キス)を交える。部屋中に、水音を大きく跳ねる音が鳴り響いた。

 

 

【挿絵表示】

 

提供:椿様

 

「ちゅううぅっ……ちゅっ……はぁ、はぁ……はあぁ~。」

 

「んちゅうっ❤……はぁん❤……はぁ、はぁ~❤……っっ❤❤。」

 

長い口付け(キス)を終えて、炭治郎としのぶは深く呼吸を繰り返して息を整えた。その際に太い銀色の橋が出来て一瞬にして消滅する。二人は唾液塗れの口元をそのままに、互いの息が届く程の至近距離から見詰め合った。

 

「……あっ❤」

 

するとしのぶが不意に強い熱を下腹部に感じて、視線を少しばかり下に下げる。

其処には自身に至極の熱と極上の快楽を齎してくれる、炭治郎の分身と言っても過言では無い炭治郎の逸物が血管が浮かび上がる程に勃起していた。

 

「……しのぶさん……俺、今日の夜まで我慢出来そうにありません……今から貴女を愛しても良いですか?」

 

「っ!❤」

 

汗を垂れ流しながら、炭治郎はしのぶに尋ねた。

 

「……貴方に頼まれたら、私は断れないって分かってる癖に。」

 

「…うぅ、ごめんなさい。」

 

「……っ❤」

 

しのぶが苦笑しながらそう言うと、炭治郎が申し訳無さそうにしゅんと頭を下げる。しのぶはそんな炭治郎を見て、ゆっくりと両腕を炭治郎の頸に回して耳元に囁いた。

 

「勿論、良いに決まっています……来て、炭治郎君……っ❤」

 

「っ……しのぶさんっ!!」

 

この時に炭治郎はしのぶから強い歓喜と欲望の匂いを感じ取っており、それが炭治郎の愛し合いたいという欲を強く刺激していた。また炭治郎はしのぶの秘部から愛液が次々と洪水の如く溢れ出ている事も、その嗅覚で感じ取っていた。

 

更にしのぶから承諾の言葉を貰っては、炭治郎は最早自分で自分を抑える事など出来はしなかった。

 

 

 

ズブッッ!!!

 

 

 

「あああぁぁぁぁっっっ!!!!❤❤❤」

 

炭治郎の逸物を勢い良く挿入されたしのぶは、仰け反らせる程の衝撃と快楽を受けて、大声で嬌声を上げながら絶頂した。

 

「っ……ああっ……やっぱり、気持ち良いです……しのぶさんの膣内(なか)……っ。」

 

炭治郎は涎を口から一筋垂らしながら、自身の逸物を締め付けて来る心地良い感触に酔っていた。

 

「はぅっ❤……ああぁっ❤……っっ❤」

 

「しのぶさん……俺も、動きますね?」

 

「ぁ❤……っ(コクッ。)」

 

炭治郎はしのぶから了解を得ると、膣内を少しの間だけ味わってから、一気に行動に出る。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「はあん❤ あああん❤ ああぁん!❤ ああああん!!❤」

 

最初から全力(フルスロットル)で、炭治郎はしのぶを求めてしのぶを容赦無く攻め立てた。

 

「しのぶさんっ!……っ!……しのぶさんっ!!」

 

炭治郎は激しく反復運動(ピストン)を続けつつ、しのぶの名前を叫びながら押し潰す様に身体を押し付けてしのぶを抱き締める。

 

「炭治郎……君っ❤!……炭治郎君っ❤!!……んああああっ❤!!」

――あぁ、私っ……こんなにも、炭治郎君から求められてる……っ❤❤

 

炭治郎に激しく求められている事に発狂しそうになる程の狂喜を覚えながら、しのぶもまた炭治郎の名前を叫びながら抱擁を返す。

 

「っっ!……ますっ……出しますっ!!」

 

 

 

ビュルルルルルルルゥゥゥゥゥ!!! ドピュドピュドピュドピュッ!!!

 

 

 

「あああっ!!❤……出てるぅっ……イくぅぅぅぅっ!!!❤❤」

 

「くぅっ……ぁああっ……っ!!」

 

しのぶは押し寄せて来る熱と快感を受けて、耐え切れず頭を仰け反らせて絶頂した。炭治郎もまた両眼を強く瞑って絶頂して快楽に悶える。

 

「はぁ……はぁっ……っっ。」

 

炭治郎は息を荒くしながら呼吸を整えつつ、眼前の乳房の中心に有る赤い蕾に視線を集中させていた。

 

「ぱくっ!……ちゅうううぅぅぅぅ! ちゅぱちゅぱ! ちゅうぅ~っ!」

 

「あああああっ❤!……そんなに乳房(おっぱい)吸っちゃだめぇぇぇぇ❤❤!!」

 

炭治郎はしのぶを抱き抱えると、しのぶの豊満な乳房に勢い良く吸い付いた。しのぶは絶頂の余韻も収まらないまま、正常位から対面座位に切り替えて再び逸物を子宮に叩き付けられて嬌声を上げる。

 

 

 

パンッ! パンッパンッ!! グチュグチュグチュッ!!!

 

 

 

「あっ❤!……炭治郎君❤! ああっ❤!……あああんっ!❤」

 

しのぶは快楽の波に飲まれてまま、炭治郎の右肩に左手を置き、右手を炭治郎の頭において乳房に押し付けて快感に悶絶していた。炭治郎は逸物をしのぶの秘部の中に入れたまま、乳房への愛撫に集中する。

 

「ああうぅっ❤……また……また炭治郎君のが❤ 大きくなってるよぉ❤……っ❤❤」

 

炭治郎が暫く愛撫を続けていたら、しのぶは少しして起きた変化に気付く。自身の膣内で炭治郎の逸物が膨張して、固さを増していたのだ。

 

――ああぁ❤……もう何処まで絶倫なのぉ……っ❤

 

しのぶは炭治郎の絶倫振りを感じながら、間髪入れずに襲って来る快楽の波に悶えていた。

 

「ちゅぅぅぅぅ、ちゅぱ…………すみません、しのぶさん。俺、もっともっとしたいです……後、三回……いえ、もう二回だけ愛しても良いですか?」

 

「っ!」

 

しのぶの乳房を吸っていた炭治郎は、乳房から口を離してしのぶに情交(セックス)の続行を懇願していた。

 

「嘘……ま、まだ二回も……。炭治郎君、前々から思っていましたが、貴方は本当に性欲が強いんですね……。」

 

しのぶは炭治郎の性欲の強さに驚きながら炭治郎に言う。炭治郎はしのぶの言葉に「うっ……」と呻く。

 

「そ、その……ごめんなさい!! 自分でも性欲がすごく強いって分かっているんです。だから俺の性欲が強い事を誤魔化す心算はありません。でも、これだけは覚えておいて欲しいです。」

 

「……? 何ですか?」

 

炭治郎は告げる。

 

「俺の性欲の強さは、しのぶさんの様な俺が好きな人への愛情から起こるものなんですっ!!」

 

「っ❤!!」 

 

炭治郎は続けて告げる。

 

「俺の性欲は決して、見ず知らずの女性でも綺麗なら身体の関係を持ちたいとか、そんな不純なものじゃありません。しのぶさんの様な愛する女性に対する大きな愛情があるからこそ、今みたいな時にそれが引き金となって、出来る限りずっと愛し合っていたいと強く思うこと――そんな欲こそが俺の強い性欲であり、俺の中にずっとあるんです。」

 

炭治郎は自身の性欲が強い意味を説明した後、最後にしのぶに聞く。

 

「しのぶさん、こんな性欲が強い俺ですけど、俺ともっと愛し合ってくれませんか? 勿論嫌なら断ってくれて構いませんし、俺もやめます。しのぶさんが嫌がっているのに、俺の一方的な欲を無理矢理ぶつけるなんて最低ですからね。そんなことをすれば俺が一番大切だと考える、しのぶさんのような俺が好きな人に対する愛情の気持ちを正しく持っているとは言いがたく、真に愛しているとは絶対に言えないと思いますからっ!!」

 

「っ――❤❤!!!」

 

しのぶは炭治郎の言葉に感激して炭治郎を強く抱き締める。炭治郎もしのぶのことを強く抱き締める。其処へ、しのぶが炭治郎の耳元へ囁いた。

 

「嬉しい❤……嬉しいですよ、炭治郎君。そんなふうに思ってくれて、私は本当に嬉しいです❤」

 

「っ!」

 

「さっき聞いてくれた事に答えますね。」

 

しのぶはそう言うと、抱擁を解いて炭治郎を見つめ、自身の両手を優しく炭治郎の両頬に添えながら答えた。

 

「良いですよ……私も炭治郎君ともっと愛し合いたいです❤️ それに炭治郎君がそういう意味で性欲が強いのなら、私だって性欲が凄く強いんですからね❤️ これからも……ずっと❤」

 

「っ!!……し、しのぶさんっ! ありがとうございます!!……んっ。」

 

「んっ❤……っ❤」

 

しのぶの言葉を聞いて炭治郎は感激し、しのぶに口付け(キス)をする。しのぶも炭治郎の口付け(キス)を喜んで受け入れる。

 

舌を絡めない触れただけの口付け(キス)であったが、今の二人にはそれで十分だった。一分程続けた後、二人は互いに少し離れると極薄の銀色の橋が、刹那の間だけ現れて消滅した。

 

「……好きよっ❤」

 

「っ!!!」

 

「私も大好きなの❤……炭治郎君が……だからね……貴方を愛しているから……そんな貴方に求められて、私もすごく嬉しいの……っ❤❤」

 

しのぶはそう言い終わると、顔を更に紅潮させ、恥ずかしそうに両手を両頬に添えた。炭治郎はしのぶの告白に更に感激していた。

 

「しのぶさんっ!!」

 

「あああっ!❤❤」

 

炭治郎は歓喜しながら、勢い良くしのぶと統合したまま立ち上がる。それから膣内に収めていた逸物が、完全に抜け切る寸前まで腰を引く。

 

 

 

パアァン! パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「んひいぃっ❤!! ああぁんっ!❤ はあぁんっ!!❤」

 

叩き付ける様な音が、再び幾度となく室内に鳴り響いた。炭治郎が下から思い切り、逸物をしのぶの子宮に叩き付けているからだ。いきなりやって来た快楽の衝撃に、しのぶは頭を天井に向かって仰け反って嬌声を上げる。

 

「しのぶさんっ! しのぶさんっ! しのぶさんっ!……しのぶさんっっ!」

 

「ああっ!❤……深いっ!❤……これ深いよぉっ!❤……ああぁんっ!❤」

 

炭治郎は対面座位から駅弁の体位に姿勢を変えて、しのぶを抱き抱えながら激しく突き上げる。

 

炭治郎から突き上げるだけで無く、伸し掛かる様にしのぶが重力に従って身体を下ろすために、通常の体位よりも挿入が深くなる。

 

「んああぁぁっ!❤……炭、治郎君……無理、しないでぇ……私ぃ……重くない?……あぁっ!❤」

 

「全っ然っ!……大丈夫ですっ!……しのぶさんはっ……重いどころか、軽過ぎる……位ですっ!!……もっと太った方がっ!……良いですよっ!」

 

「ば、馬鹿ぁっ!?……女に太れとかっ…ぁぅ❤……言うなぁっ!❤……あひぃぃっ!❤」

 

炭治郎を心配したしのぶだったが、逆に炭治郎の要らぬ気遣いとも言える的外れな助言に、少しばかり立腹して炭治郎を叱り付ける。

 

尤も、炭治郎に突き上げられて嬌声を上げながらの叱咤であったため、迫力は皆無と言っても良かったが。

 

「はぁっ!……うぐっ……そろそろ、出ますっ!…………あぁぁああっ!!!」

 

 

 

ドビュルルルルルルルウウゥゥゥゥゥ!!! ビュルルルルルルルウウゥゥゥゥッ!!!!

 

 

 

「んああああぁぁぁぁぁっ〜〜!!❤❤❤」

 

炭治郎の逸物から白濁の溶岩が射精され、しのぶはその灼熱から齎される快楽を受けて絶頂した。

 

「「はぁ……はぁ……はぁ…っっ。」」

 

駅弁は女性が宙に浮いたままの態勢になるため、女性を支える男性の負担も大きいが、それ以上に女性も反射的に力んで男性にしがみついてしまうため、女性への負担もまた大きいのである。

 

この体位に必要なのは膂力ではなく、均等(バランス)が整った姿勢など技術力といったコツが求められるのだ。当然、情交(セックス)を昨日知ったばかりの二人に其処までの技量(テクニック)は無いので、疲労は多かった。

 

炭治郎としのぶは絶頂が収まっても、疲労感から息を荒くしながらゆっくりと腰を布団の上に落ち着けた。

 

――炭治郎君……未だにお腰の日輪刀は固くて大きいままだけど、流石に疲れたみたいね……今はこれで打ち止めかしら……?

 

しのぶは炭治郎の疲弊具合を見てその様に判断し、労う様に炭治郎の頭を優しく撫でる。

 

「ふぅふぅ……はぁ……はぁ……ハアアァァァ、ハアアァァァ……。」

 

「はぁはぁ……っ?……」

 

しのぶは炭治郎の様子が変わった事に気付いた。

その炭治郎は深い呼吸を繰り返しながら、逸物をしのぶの秘部から抜こうとしていた。しかし、先端の鈴口まで抜ける直前で静止する。

 

「炭治郎君……っ??」

 

しのぶは気になって炭治郎に声を掛ける。しかし次の瞬間、それは起こった。

 

 

 

ズチュウッ!!!

 

 

 

「ああああぁぁぁっ!?!?❤」

 

炭治郎が突如しのぶを押し倒してから、逸物を一気に子宮口まで叩き付けたのである。不意打ちを喰らったしのぶは、悲鳴に近い嬌声を上げる。

 

「ハアアァァァ……しのぶさんっ!……ハアアァァァ!!……ハアアァァァ!!」

 

「あうぅぅっ!❤……そんなっ……いきなり……ひあぁんっ!!❤」

 

炭治郎はしのぶの左膝裏に抱え、側位の体位で逸物を激しく突きこんで行く。子宮に注いでいた精液が、愛液と混ざり合った混合液となって掻き出されて排出され、布団の上に染みを作っていった。

 

「はああぁんっ!❤……あっ!❤……良いぃっ❤……気持ち良いっ❤❤……。」

 

「お、俺も……気持ち良いです……しのぶさんっ!!」

 

子宮口を鈴口がコツコツと当てる事で感じる快感に、炭治郎としのぶは口元から涎を垂らしながらその快楽に酔い痴れる。

 

「あぁんっ!❤……あくぅっ!❤……あぁっ! 来るっ!……たん、じろうくんっ!❤……わたしぃ……っ!❤❤」

 

「はいっ!……俺もっ! イきますっ!!……ぁああああっ!!!」

 

 

 

ビュルルルルルルルッ!!! ビュルビュルビュルビュルビュル!!!

 

 

 

「あああぁぁっ!❤……あああっ!❤……イくっ!❤……イっちゃうっ〜〜〜〜っ!!❤❤❤」

 

しのぶの膣内を通って、また新鮮な白濁の溶岩が子宮を覆い尽くしてしのぶを絶頂へと導いた。

幾度も射精を繰り返したために、最初の頃よりも発射された白濁の溶岩はその熱量も質量も共に質を落としていたが、それでも通常の男性のと比較しても遥かに多く濃厚で高温なものであった。

 

「……っ❤……っ❤❤……きもち、よかったぁ❤……もう……おなかいっぱい❤……んんっ❤」

 

「んちゅ……しのぶさん……んっ……お疲れ様……でした……ちゅううっ。」

 

しのぶが労う様に炭治郎に余韻の口付け(キス)を行うと、炭治郎もまたしのぶを労ってその口付け(キス)に答える。

 

二人は一つに繋がったまま、十数分間に渡って余韻の口付け(キス)を続けたのだった。




お待たせしました。

椿様から大改訂への激励として挿絵を頂けました! 椿様、何時もありがとうございます!! https://www.pixiv.net/artworks/88911804

2020/02/15に投稿していた第拾話の『人外の撫子蝶は日輪と禁断の愛を交える』の改訂版になります。あんまり変わり映えしてないかもしれませんが、お楽しみ頂ければ幸いでございます。

改訂部分
壱:炭ねずシーンの加筆
弐:炭しのシーンの加筆

強化部分
しのぶの鬼に対する嫌悪感や忌避感の描写。
炭治郎のカナエとの浮気から来るしのぶへの罪悪感。
挿絵(炭しの)

それと元々あった部分は第拾壱話に話数を、題名を『夢幻の桜蝶は日輪の大師となる』に変更しました。内容も加筆済みです。

此方も含めて御感想、お待ちしております。

次回の更新は六日後の四月十日(土)です。お楽しみに!!!


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第拾壱話 夢幻の桜蝶は日輪の大師となる ❤★

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*未成年飲酒と未成年喫煙は犯罪行為です。絶対に真似しないで下さい。お酒と煙草は二十歳になってから。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ・タグ編集大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・薬師寺ひさ邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十日(月)

時間帯:朝

天気:雨

 

「じゅるるるるっ❤……じゅるっ❤……ちゅうぅぅ❤……ちゅうばっ❤」

 

「ふぅぅぅっ……しのぶさん、気持ち良いです。」

 

炭治郎としのぶの居る一室で、卑猥な水音が鳴り響いていた。

 

余韻の口付け(キス)を終えた二人は、息を整えてから行動に移り始めた。炭治郎の精液で埋め尽くされたしのぶの秘部から、これまた真っ白に染まった自身の逸物を引き抜いた。

 

するとしのぶが徐に身体を起こして、炭治郎の逸物を口に入れて口淫(フェラチオ)を始めたのだ。所謂"お掃除フェラ"である。

 

「ああぁっ……あぐっ!……ふぅぅぅっ。」

 

炭治郎は先程で終わりだと思ったからこそしのぶの行動に驚いたものの、拒否するようなことはせず、しのぶの口淫(フェラチオ)を受け入れた。そして、しのぶの口淫(フェラチオ)から来る気持ち良さに酔っているのが現状である。

 

「……っ……しのぶさん。」

 

口元から涎を垂らしながら、炭治郎は快感に耐えて右手を伸ばす。右手を伸ばした先に在ったのは、しのぶの頭部であった。

 

「っ!❤」

 

しのぶの頭に手を置いた炭治郎は、優しくしのぶの頭を撫でる。

 

「じゅぼじゅぼっ!❤……ちゅううぅぅっ!❤……じゅるじゅるるるっ!❤」

 

最愛の恋人が自身の口淫(フェラチオ)で気持ち良くなってくれて、且つその快楽に酔い痴れながらも自分の頭を優しく撫でてくれるとなれば、自然としのぶの口淫(フェラチオ)にも力が入る。そして間も無くそれは起こった。

 

 

 

ビュルルビュルルビュルルルル! ドピュピュピュピュドピュドピュ!!

 

 

 

「んぐっ!?❤……んんんっ~~~~!!❤❤」

 

しのぶは口内を埋め尽くす白濁の溶岩の質量と熱量に驚きながらも、餌を口に咥えた栗鼠の如く両頬を膨らめせて受け止める。

 

「っ……ゴクッ❤……ゴクッ❤……ゴクッ!!❤」

 

我に返ったしのぶは口内を蹂躙する白濁の溶岩を一滴も吐き出すまいと、必死で飲み込んで胃の中へと収めていった。

 

「ゴクッ❤……んちゅるる❤……じゅるっ!❤……んん~~っ❤❤……ぷはぁ❤」

 

しのぶは白濁の溶岩を飲み尽くすと、再び炭治郎の逸物を一舐めする。そして最後に付いていたしのぶの唾液は、しのぶ自身が布で拭き取って完全に綺麗にする。

 

「綺麗になりましたよ❤ 炭治郎君❤❤」

 

「しのぶさん、ありがとうございました。とっても気持ち良かったです。」

 

自身の逸物を一生懸命、ご奉仕してくれたしのぶに炭治郎は感謝を述べた。その瞬間であった。

 

 

 

ズキッ!

 

 

 

「うぐっ……っ!」

 

「っ!?……炭治郎君っ!?」

 

炭治郎が突如、胸を抑えて蹲った。そんな炭治郎の姿を見て、しのぶは焦った様子で慌てて声を掛ける。

しかし、炭治郎は右手を押し出す様に前に差し出してしのぶを制止させる。

 

「だ、大丈夫です……()()()()使()()()()()()()ですから……っ。」

 

()()()()使()()()()()()()?……何を使い過ぎたんです?」

 

炭治郎が苦しんでいる理由を伝えると、しのぶはその肝心の理由が理解出来ず首を傾げる他に無かった。

そんなしのぶの可愛らしい姿を見て、炭治郎が額に汗を浮かべながら苦笑し、そして顔を赤らめながらより詳細に理由を述べる。

 

「その……先刻(さっき)の情交の最後の一回をする前に、俺、疲労があったんです。でも、それでも最後の一回がしたくて、集中するために……口で言うのは恥ずかしいんですけど……呼吸を……"ヒノカミ神楽"を使ったんです。それで"ヒノカミ神楽"を使ったので……最近でも少しの間だけならともかく、普段はあの呼吸を使った後は、身体が一時的に動けなくなるんです……。」

 

「"ヒノカミ神楽"を?……あっ!」

 

炭治郎が口にした理由を耳にして、しのぶは微かに記憶に残っていた事実を思い出す。快楽に夢中で殆ど覚えてはいないが、確かに聞き慣れない呼吸音を耳にしたのは覚えていた。

 

「……ぷっ!……あはははっ!!」

 

「っ!……うぅっ……笑わないで下さいよ……。」

 

先刻まで抱いていた焦燥感や心配は何処へやら、しのぶは面白可笑しく笑声を上げる。そんなしのぶを見て、炭治郎は赤面しながら悪態を吐く事しか出来なかった。

 

「ふふ……っ❤」

 

「あ……。」

 

しのぶはひさから借用している薄紫色の浴衣を羽織る様に着用して半裸状態になると、炭治郎の頭を膝に乗せて膝枕をした。

 

「炭治郎君が動ける様になるまで、膝枕をしてあげます。ちゃんと休んで下さいね❤」

 

「えっと、はい……ふふっ。」

 

炭治郎は頭の下から感じる太腿の柔らかさを感じながら、身体が動ける様になるまでしのぶの膝枕を受ける事にした。しのぶ自身から香る藤の花の匂いも相まって、自然と炭治郎から笑みが零れる。

 

「……っ❤」

 

 

【挿絵表示】

 

提供:椿様

 

自分から炭治郎の表情は伺えないのは残念ではあったが、炭治郎が甘えてくれている事に歓喜の情念を隠せないしのぶは、膝枕で炭治郎を甘やかすのが幸せで仕方が無かった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

動ける様になった炭治郎はしのぶに礼を述べてから、二人揃って朝食を貰うために指定されていた部屋に移動していた。

 

二人で過ごしていると、襖越しからひさの使用人がやって来て朝食の時間を連絡して来たからだ。しのぶは炭治郎が動ける様になったのを確認しつつ、移動時間も計算してから移動を開始していたのだった。

 

「炭治郎君。一応お尋ねしますけど、大丈夫なんですね?」

 

「……ええ。すみません、しのぶさん。もう大丈夫です。」

 

しのぶの質問に歩きながら答えた炭治郎だったが、その炭治郎は少々疲弊した様子であった。そんな最愛の恋人の様子に、しのぶは苦笑する。

 

「やり過ぎ……と言うよりも、"ヒノカミ神楽"を使ったから一時的に動けなくなるなんて……その底無しの精力絶倫振りに驚けば良いのか、情交に呼吸術を使い過ぎて動けなくなった事実に呆れたら良いのか……ふふっ。」

 

「しのぶさん、その……もうあんまり言わないで下さい。俺も気にしているんですから。」

 

「ごめんなさい。だって可笑しいんですもの……。」

 

クスクスと笑うしのぶに、炭治郎は頬を膨らませて不服そうに見詰める。

 

――でも思わぬ呼吸術の鍛錬方法かもね……それこそ情交そのものが、結構な負荷が掛かる筋力の鍛錬にもなって……炭治郎君としか、絶対に私はやらないけど。

 

――しのぶさんに笑われちゃったけど……もしかしたら"ヒノカミ神楽"を使い熟す近道になるかもしれない。でも情交をしている最中に息を切らすなんて、しのぶさんを困らせるから今はとても出来ないな……。

 

二人で新たな呼吸術の鍛錬方法の開拓の可能性を見て、各々で考察を心中で繰り返していた。そうしている内に、二人は指定されていた部屋に到着する。

 

 

 

グツグツ

 

 

 

「「!」」

 

「しのぶ様、炭治郎様。お二人共おはようございます。」

 

「おはようございます。おひささん。」

 

「ひささん! おはようございます!」

 

この屋敷の最高権力者であるひさから朝の挨拶をされて、直ぐに二人は返礼した。室内は、鍋を煮詰める音が鳴っていた。

 

「(ゴクッ)……ひささん。それって鳥のお肉ですよね?……でも初めて匂いを嗅ぐ様な……。」

 

「ご明察にございます、炭治郎様。こちらは雉のお肉になります。」

 

「へぇ、雉のお肉ですか? 珍しいですね。」

 

しのぶはそう言って、興味深そうに鍋を見詰めた。しのぶが言った様に、雉肉は比較的珍しい食肉であった。

 

雉の食用の歴史は古い。歴史を少し調べれば、平安時代にまで遡る。この時代から、最高級の食肉として公家を筆頭に"山の河豚"と呼ばれる程に人々から愛されていたのだ。

 

しかし明治時代に入ってからか牛や豚、鶏や兎などの畜産肉の需要が増えた事で、狩猟肉(ジビエ)の需要が減って行ったのである。

 

また、現在の"鳥獣保護法"の原型となる"狩猟法"が明治二十八年(一八九五年)に制定されてから、更に狩猟肉(ジビエ)の需要が減ったのも更に雉肉が希少になった理由であった。

 

しかし更に希少価値が上がったからこそ、食卓に出されれば老若男女問わず喜ばれる最高級の狩猟肉(ジビエ)としての地位は不動のものであった。

 

「本日の朝餉は、雉鍋と雉の(ガラ)から出汁を取って作った雉飯、そして雉の塩焼きでございます。シメは雉蕎麦をご堪能下さい。」

 

「ありがとうございます。それにしてもおひささん。朝からお肉ですか……?」

 

普段から小食なしのぶが、驚きを隠す事無くひさに尋ねる。するとひさが、ニヤッと笑みを零した。

 

「はい、夜遅くまで……そして早朝から()()()()()()()お二人には丁度良いかと思いまして。」

 

「「!?」」

 

ひさが言わんとしている事を察して、炭治郎としのぶは赤面する。

 

「えっと、その……あ、ありがとうございます! 俺、雉のお肉を食べるのは初めてなので、楽しみですっ!!」

 

炭治郎は誤魔化すかの様に、喜色満面の笑みを浮かべてひさに深く礼を述べた。

 

「いいえ、大した事ではございません……それとお食事前に、幻と言われている一品を召し上がられますか?」

 

「「幻と言われている一品?」」

 

炭治郎としのぶは異口同音に、ひさが口にした言葉を復唱した。

 

「はい、その通りでございます。」

 

ひさがそう言って手拍子で二回叩くと、一人の使用人が二つの酒盃を運んで来た。

 

「「!!」」

 

炭治郎としのぶは運ばれた酒盃を見て、驚きを覚えた。酒盃の中には、お酒と思われる液体に焼いた雉肉が入って居たからだ。そんな驚く二人に、ひさは解説する。

 

「こちらは熱燗に塩で焼いた雉肉を付けた"雉酒(おきじさま)"と呼ばれるお酒になります。焼いた雉肉から出る旨味が熱燗に入り、実に濃厚な味がするのでございます。厳密には食前酒という訳ではございませんが、是非ご賞味下さい。」

 

「では、お言葉に甘えまして……。」

 

炭治郎としのぶはそう言うと、熱燗に入って居た雉肉を備えられていた小皿に移してから、酒盃を手に取った。そして二人は視線を交える。

 

「「乾杯。」」

 

室内で軽くカランという音が鳴ってから、二人揃って雉酒を口にした。

 

 

 

*未成年飲酒は犯罪行為です。絶対に真似しないで下さい。お酒は二十歳になってから。

 

 

 

「「っ!……はぁ。」」

 

二人は特に感想を言うでも無く、感嘆深く溜息を吐くだけであった。その様子に、ひさは満足そうに二人を見詰めた。

 

「お酒って初めて飲みましたけど、美味しいですね。」

 

「私もお酒は嗜みませんが、美味しいと言うのは分かります。」

 

炭治郎としのぶは漸く、雉酒について感想を述べる。それから小皿に移した雉肉も口にした。その後に、ひさの使用人が盆に乗せて雉肉料理を運んで来た。

 

「では、失礼致します。何かあればお呼び下さいませ。」

 

ひさはそう言って使用人達と共に、炭治郎としのぶに一礼してから退室して行った。

 

「「頂きます。」」

 

ひさ達が退室したのを見計らってから炭治郎としのぶは両手を合わせて異口同音にそう言うと、用意された雉肉料理にあり付き始めた。

 

「雉肉ですけど、結構弾力がありますね。」

 

「そうですね。でも淡泊だけど、それでいて濃厚な味がして美味しいです。」

 

炭治郎としのぶの二人は雉肉を堪能する。するとしのぶが雉肉を箸で摘まんでからある行動に出る。

 

「はい、炭治郎君。あーん❤」

 

「えっ!?」

 

しのぶが雉肉を摘まむと、炭治郎の口元まで運んだのである。しのぶの行動に、炭治郎は驚きを覚える。するとしのぶの表情に一抹の不安が宿る。

 

「嫌……ですか?」

 

「!! と、とんでもないです!……あ、あーん。」

 

「あーん❤」

 

炭治郎が了承すると、しのぶは喜色満面の笑みを浮かべて食事を運んだ。それから炭治郎の食事の大半は、しのぶによって運ばれる事となった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「七十六、七十七、七十八、七十九、八十……炭治郎君。八十回目がちゃんと下まで行ってませんよ。さぁもう一度っ!!」

 

「ぜぇ……ぜぇ……はいっ!」

 

炭治郎としのぶは昼食を終えた後、綺麗に清掃された部屋で腕立てをしていた。

 

尤も、腕立てをしているのは炭治郎だけである。しのぶは腕立ての態勢を取っている、炭治郎の背中に座って重りの役割をしていた。

 

何故腕立てをしているのかというと、雨のために室外での鍛錬などは出来ないからだ。

 

出来ないというよりもしないだけであって、やろうと思えば普通に出来るのだが、折角与えられた貴重な休息期間を使って体調を崩す危険性(リスク)を犯す理由など無かったのである。

 

其処でしのぶは雨の中で鍛錬をしようとした炭治郎を静止して、室内での鍛錬の監督をする事にしたのだ。炭治郎もしのぶからの指導が直接得られる事に、否やなど皆無であった。

 

二人は小休止を何度も挟みながら一刻(ニ時間)掛けて鍛錬とその後の柔軟体操を行ってから汗を拭いた後、ひさから昼食として出された絶品の天麩羅を堪能してから、与えられた部屋の中で互いの身をくっ付けて座っていた。

 

この休息期間が終われば、再び鬼との戦いに身を投じるのだ。この貴重で尊い時間を、二人は惜しむように味わっていた。

 

「こうして一緒に身を寄せて過ごすだけでも、良いものですね。しのぶさん。」

 

「ええ、こんなに幸せを感じる日々が訪れるなんて、考えた事もありませんでしたよ。」

 

しみじみとそう話し合っていると、しのぶが炭治郎に寄りかかって共に畳の上にゆっくりと倒れ込んだ。

 

「おっと……しのぶさん?」

 

「炭治郎君、このままお昼寝をしちゃいましょうか?……お昼ご飯を食べたのもありますけど、早朝から情交してここまで眠っていないのもあって実は凄く眠いんですよ。でも、私は今夜もしたいですから……だから……ね?」

 

「っ!……分かりました。一緒に寝ましょう、しのぶさん。」

 

しのぶが言った言葉に炭治郎は了承の意を示す。そしてその言葉を聞いて満足げな表情を浮かべたしのぶは、隠していた眠気から直ぐに目を瞑り、直ぐに眠り始めた。

 

「……すぅ…………すぅ…………すぅ…………。」

 

「…………しのぶさん、おやすみなさい。ふふっ。」

 

緩々に緩んだ無防備なしのぶの寝顔を見て、炭治郎の胸中が幸福感で埋め尽くされる。

 

そして何時の日かの如く自身に寄りかかって眠りに就いたそんなしのぶを見て、炭治郎は懐かしそうに笑いながら自身も夢の世界の住人に加わるべく両眼を閉じる。

 

すると、炭治郎は不意にある事を思い出した。

 

――今寝ても、あの世界に戻れるのかな……今回駄目だったら夜にもう一回試してみよう……()()に……()()()に会えると良いなぁ……。

 

炭治郎はそう願いながら、ゆっくりと眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

夢幻世界

 

 

眼を閉じて過ごす内に、炭治郎は違和感を覚え始めた。背中から畳の感触とその材料である藺草の香りが消え、代わりに多種多様な花や植物の香りが炭治郎の鼻に入って来た。

 

その事実を理解した瞬間、炭治郎は眼をカッ! と見開いて飛び起きる。身体を確認するとひさから借りた薄紫の浴衣ではなく、鬼殺隊の隊服を着用している。

 

「……っ……っ……っ!!!」

 

炭治郎は自身の嗅覚を最大限に使ってある匂いを探る。そして目的の匂いを探り出すと、一気に駆け出した。その勢いは地面に罅を入れる程のものだった。

 

全力で駆け出し始めて十分経ったかどうかと言うところで、炭治郎は立ち止まる。

 

炭治郎の眼前には、蝶々の羽根の如き羽織を靡かせた、両横の蝶々の髪飾りが特徴の黒色の長髪で長身の美女、胡蝶カナエが立っていた。

 

カナエは薄紫色の瞳をした両眼を潤ませて、炭治郎を見詰めていた。炭治郎もまた視界を滲みそうになるのを必死で我慢して、その美女を見詰め続けていた。

 

二人は互いに無言のまま近づいて行く。その距離は互いの瞳に自身の姿が映る程、距離を詰めて行く。

 

「どうしてだろう……この前会ったばかりなのに、もう何十年振りに再会したみたいだっ……。」

 

「ええっ、本当ね。出会ったのはこの前なのに、凄く久しぶりに会った気分ねっ……。」

 

「……でも俺は信じていた。きっと、いや、絶対にまた会えるって。」

 

「私も……絶対にまた会えるって信じていたわ。」

 

炭治郎とカナエはそこまで互いに言った後、駆け出して互いに強く抱擁を交わした。

 

「ただいま。また会えて俺、凄く嬉しいっ。」

 

「おかえりなさい。私もまた会えて、凄く嬉しい……っ。」

 

二人は抱擁を緩めて視線を交わす。そしてそのまま静かに口付け(キス)を交わした。

 

 

 

 

 

 

炭治郎とカナエはそのまま地面に肩を並べて座っていた。何か甘い言葉を言い合ったりせず、ただ肩をくっつけて、黙って手を重ねてその互いの温もりを感じていた。暫くしてその心地良い沈黙も、カナエの笑い声によって破られる。

 

「ふふふふっ。」

 

「どうしましたっ? カナエさん?」

 

「こらっ!」

 

「……っ?」

 

炭治郎がカナエの名前を呼ぶと、カナエは怒ってコツンと炭治郎の額を突いた。そしてフグのように頬を膨らませて睨み付ける。

そんなカナエを見て苦笑しながら、突かれた額を撫でながら炭治郎はカナエに尋ねる。

 

「何で怒ってるんですか? カナエさん?」

 

「……ふんだっ」

 

炭治郎の質問に対して、カナエは答えずに拗ねてそっぽを向いてしまう。カナエは不満と怒りの匂いを漂わせており、これには炭治郎も困り果ててしまう。それでも、互いの手は重なったままだったが。

炭治郎は空いた手で頭を掻きながら、お手上げ状態になって仕方なく、カナエに無条件降伏の意を伝える。

 

「……すみません、どうしてカナエさんがそう怒っているのか、俺には分かりそうにないです。なので、教えて下さいませんか?」

 

「…………。」

 

「……どうか、どうかお願いしますっ。」

 

カナエの横で頭を下げる炭治郎に対し、そっぽを向いたままカナエがぼそっと呟いた。

 

「敬語とさん付け……。」

 

「えっ?」

 

「敬語とさん付けっ!!」

 

「……ああっ、そうだった! そういう事かっ!」

 

呟いた言葉を聞き逃したため、聞き返す炭治郎に対し、カナエはそっぽを向いた顔を戻して炭治郎に向かって大声で不満の原因を伝えた。

それにより炭治郎は漸く、カナエの不満の原因を理解して納得した。

不満の原因を理解した炭治郎は、直ぐに行動に移した。

 

「……きゃっ!?」

 

カナエは小声で悲鳴を上げた。炭治郎が重ねていた手を解いて、カナエの肩に手を置いて抱き寄せる。カナエはそのまま炭治郎の胸元に頭を添える形になる。

炭治郎はカナエの流れる様な美長髪を撫でながら、その耳元で囁いた。

 

「ごめんね、俺が悪かったよ……カナエ。」

 

「……んっ❤ 分かればよろしい……もっと撫でてっ❤……。」

 

「こんなこと言う柄じゃないけど、お姫様の仰せのままに……。」

 

そう言って炭治郎は頭を撫で続け、カナエも機嫌が良くなって幸せそうに両眼を閉じる。二人の間には甘くて心地良い空気が漂い、幸せの時間が流れた。

 

しかし、再びカナエによってその時間が再び終わりを告げる。

 

「さて、このまま過ごしたいところだけれど、やるべき事はきちんとやらないとねっ。」

 

「えっ?……っ??」

 

立ち上がったカナエは、そのまま両手を開いた。すると光の粒子がカナエの両手に集まり始めて、形を構成する。

 

それは二振りの日輪刀だった。

 

その光景に驚く炭治郎を余所に、カナエは炭治郎に日輪刀を手渡した。それは確かに、製作者である鋼鐵塚蛍にグチグチと愚痴や嫌味、警告を言われながら渡された三代目の愛刀だった。

 

カナエは先程の乙女の雰囲気を消し去り、かつての花柱としての威厳を纏いながら凛とした表情で炭治郎と対峙した。

 

「竈門炭治郎君。今から貴方には修行を課したいと思います。」

 

「修行……っ?」

 

戸惑いながらカナエが口にした言葉を復唱した炭治郎に、カナエは分かり易い様に説明を行う。

 

「ええ……夢幻世界(此処)で修業をしても、筋力が増す訳が無いから肉体的向上は見込めません。しかし、呼吸法、足捌き、筋肉の使い方、太刀筋矯正、剣術や剣技、戦闘能力の経験の獲得や向上は見込める筈です……本音で言えば、この時間を貴方との甘い時間に全て費やしたいところですが……しかし、それでは貴方のためにもしのぶ達のためにもならない…………。」

 

そう言ってカナエは両眼を閉じて一旦沈黙する。そして再び眼を見開いて話を続ける。

 

「炭治郎君もしのぶ達も鬼との戦いに生き残って、お爺さん、お婆さんになるまで生きて人並みに幸せな人生を歩んで欲しい……そのためにも、私が貴方を指導します。」

 

「っ!!」

 

カナエの決意を知った炭治郎は、気を引き締めて真剣な表情を浮かべる。そんな炭治郎に、カナエは一転して楽しそうに次を語った。

 

「これでも悲鳴嶼さんを除けば、冨岡君や不死川君、それから宇髄さんにも一度だって模擬戦で負けた事は無いんだからね。

勿論、柱になる前の煉獄君にも伊黒君にもよ。少し前に冨岡君と不死川君の模擬戦をしのぶの隣で覗き見る機会があったけれど、今やっても負ける気がしないわ。」

 

カナエはそう言って勝ち誇るように微笑んで見せた。炭治郎はその言葉に驚愕し、昨日の雨の日の朝に叫びながらしのぶが言っていた、カナエへの称賛の言葉は大言壮語などでは一切無かったと改めて認識した。

 

それと同時に炭治郎は興奮していた。通常であれば、多忙を極める柱から直接指導して貰える好機など、まず有り得ないのだから。

 

「分かりましたっ! 不束者ですが、よろしくお願いします!! カナエさん!!」

 

「……敬語とさん付け、戻ってるわよ?」

 

「そうですね。でも、ケジメは必要だと思うんですよ。何なら"師匠"とか"先生"ってお呼びしましょうか?」

 

非難するように炭治郎を見たカナエだったが、炭治郎がカナエにそう反論すると、カナエは降参とばかりに溜め息を吐いた。

 

「それは私が嫌だから、そのままで良いわ。」

 

そう言って炭治郎からの他人行儀な態度を嫌ったカナエは、炭治郎からの呼称を承諾した。

 

「因みに説明しておくけれど、夢幻世界(此処)では頸を含めて斬られたり突かれたりしても、鬼みたいに痛みはあるけど元通り再生するから心配しないで。私の身体で実証済みだから、安心して良いわ。」

 

「っ!?……色々言いたい事はありますが、言うのは止めておきます。とりあえず、分かりました。」

 

ジト目でカナエを睨みつけながら炭治郎はそう言って、鞘から日輪刀を抜刀する。カナエもまた、鞘から日輪刀を抜刀して構えた。

 

「私を慮って、私を斬る事に躊躇したら許さないわよ……さぁ、何処からでも掛かって来なさいっ!」

 

「はいっ! 胸を借りさせて頂きますっ! 竈門炭治郎っ! 参りますっ!!」

 

そう言って炭治郎は駆け出した。こうして元花柱・胡蝶カナエによる地獄の修業が始まりを告げた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 

 

水の呼吸 拾ノ型 生生流転(せいせいるてん)

 

 

 

炭治郎は何度かカナエと鍔迫り合いを繰り広げた後、流流舞(りゅうりゅうま)いや雫波紋突(しずくはもんつ)きなどと言った水の呼吸による剣技を繰り出して来たが、カナエに剣技すら使わせず防がれてしまい、遂に"水の呼吸"の奥義である生生流転(せいせいるてん)を繰り出してカナエに仕掛けた。

 

炭治郎の周りに水龍神が浮かび上がり、カナエを襲う。この剣技は使用中の間、他の剣技に直ぐには切り替えられないと言う弱点があるが、繰り出す連撃が多ければ多い程、威力が上がると言う長所がある。

 

"水の呼吸"の奥義を繰り出されたカナエだったが、彼女は恐ろしい程、非常に冷静だった。一撃、二撃、三撃と炭治郎の生生流転(せいせいるてん)を往なし、そして四撃目でカナエは「ヒュゥゥゥゥ」と呼吸してついに剣技を繰り出した。

 

 

 

水の呼吸 壱ノ型 水面斬(みなもぎ)

 

 

 

カナエは両腕を交差させて、横一閃に日輪刀を振るった。"水の呼吸"の奥義を、"水の呼吸"の最も基本的な剣技で跳ね除ける。

 

「"水の呼吸"っ!?」

 

これには炭治郎は驚愕の色を隠せない。カナエは花柱故に"花の呼吸"を使う筈なのだから、と。そんな炭治郎にカナエは簡潔に解説する。

 

「何も驚く事はないでしょう? "花の呼吸"は"水の呼吸"の派生の呼吸術よ。源流である"水の呼吸"を使えて当然でしょう? 尤も、私は冨岡君程の素質が無いから使ったところで、"花の呼吸"程の精度も威力もないけどね。ちなみに私と同様に、しのぶもアオイも"水の呼吸"が使えるわよ。」

 

「しのぶさんもアオイさんも……ですか?」

 

「ええ……しのぶだって"水の呼吸"も"花の呼吸"も使えるけれど、どちらの呼吸を使っても鬼の頸を斬り落とせないから、使う事自体、嫌っているの。」

 

カナエは当時を思い出す様にそう言った。炭治郎はカナエから悲しい匂いを嗅ぎ取る。カナエは続けて言った。

 

「だからこそ、あの特殊な刺突専用の日輪刀を使って扱う"蟲の呼吸"を編み出した……しのぶは私の死後、私に変わってかつていた継子達に自分の感情を押し殺して"花の呼吸"を教えていた。自分では使っても何一つ、役に立たない呼吸法を他人に指導する……きっと、しのぶは辛かったでしょうね……。」

 

カナエはそう回想すると、しのぶへの罪悪感から申し訳無さそうに両眼を閉眼した。

 

「カナヲの時も、そうだったんでしょうか……っ?」

 

カナヲの修行もしのぶが見ていたのだと思っていた炭治郎は、カナエにそう質問する。すると返って来たのは、炭治郎にとって想定外の回答であった。

 

「あの娘には指導していないわっ。私もしのぶもカナヲが鬼殺隊に入る事には大反対だったから、カナヲがなんと言おうと入隊する事も指導する事も絶対に認めなかったものっ。」

 

「え!? 認めなかったんですかっ!?」

 

カナヲの意外な事実に、炭治郎は声を荒げて驚愕した。しかし、これがまだ序の口である事を知る。

 

「それでもね、カナヲは炭治郎君の人間離れした嗅覚の様に、あの娘は人間離れした視覚を使って見ただけで"花の呼吸"を習得してしまった。訓練を盗み見て、それだけで"花の呼吸"を学んだのよ。」

 

「そうなんですか。それにしても凄いですね……盗み見ただけで呼吸が使えるようになっただなんて……カナヲって、本当に天才なんですね。」

 

炭治郎はカナヲに対して、素直に賞賛の言葉を口にした。

 

「そうね、私もあの娘が指導を受けずに"花の呼吸"を使えるようになっていたのを見た時、本当に天才だと思ったわ。……それでね、その後は炭治郎君が参加した"最終選別"の日、カナヲはしのぶが仏壇に保管してあった私の日輪刀を持ち出して、勝手に"最終選別"に飛び入り参加しているのっ。」

 

「っ!?」

 

当時のカナヲのそんな行動力が有ったとは思わず、炭治郎は驚愕で声が出なかった。

 

「私だけはカナヲが蝶屋敷を飛び出して"最終選別"へ参加しに行くところを目撃したけれど、伝える術が無いし、伝え様が無いでしょう? だからカナヲの書き置きを見て、カナヲが"最終選別"に飛び入り参加した事に気付いた当時の蝶屋敷の皆はその時、大慌てだったのよっ。」

 

「そうだったんですかっ!?」

 

カナヲの意外な事実に、炭治郎は声を荒げて驚愕した。しかし、その後は嬉しそうに微笑んでみせた。そんな炭治郎にカナエは反応する。

 

「嬉しそうねっ、炭治郎君。」

 

「はい、やっぱりカナヲの心の声は小さかっただけで、昔からカナヲは心の声をちゃんと出していたんだって、分かりましたからっ。」

 

「ええ……でも、その心の声を大きくしてくれたのは、間違いなく貴方よ?……本当に、ありがとう。炭治郎君。」

 

カナエがそう炭治郎にお礼を言うと、炭治郎は照れ臭そうに笑った。二人の間に優しい空気が流れる。しかし、カナエは真剣な表情で炭治郎の呼吸法や剣技の評価を始めた。

 

「炭治郎君の"水の呼吸"を見たけど、正直に言うわね? 自分自身で自覚しているかもしれないけれど、やはり貴方は"水の呼吸"と体質が合っていないのよ。私の見立てでは、頑張って完全に使いこなせるようになっても、剣技の威力は冨岡君の半分以上、私の十全以下……十割のうちの六割程度と言ったところかしらね?」

 

「そう……ですか。自分でも分かっている心算でしたが、面と向かって言われると流石に落ち込みますね。ちょっと残念です。」

 

炭治郎はカナエからの評価を聞いて、残念至極な様子を隠せない。落ち込む炭治郎を宥める様に肩に手を置いて、カナエは話し掛ける。

 

「炭治郎君は、やはり"ヒノカミ神楽"を使い熟す事に専念すべきだと思うわ……私も初めて見るのだけれど、使って貰えるかしら?」

 

「分かりましたっ!…………それでは行きますっ!!」

 

炭治郎は"水の呼吸"の使用するのを止めて、"ヒノカミ神楽"を使ってカナエに挑む。カナエもまた"ヒノカミ神楽"を見極めようと真剣に炭治郎を見詰める。

 

"水の呼吸"とは比べ物にならない威力を誇る"ヒノカミ神楽"の剣舞を前に、カナエも流石に剣技無しでは往なす事が出来なくなっていき、ただ"花の呼吸"を使うこと無く"水の呼吸"の剣技で"ヒノカミ神楽"の剣舞を受け止め、往なし、切り払い、相殺して行く。

 

炭治郎はカナエのそんな様子に、驚愕と焦燥を隠せない。

 

――カナエさんに"花の呼吸"を使わせる事が出来ない……っ! しのぶさんの言っていた事は何一つ間違っていなかったっ! 誇張でも何でもない、紛れもない事実。これがカナエさんの……これが"鬼殺隊史上最強の女性(おんな)剣士"……"歴代最強の女柱"の実力(ちから)か……っ!!

 

炭治郎が余計な考え事をしていたせいか、"ヒノカミ神楽"の剣舞が鈍る。炭治郎が自ら作った隙を見逃す程、カナエは優しくも甘くも無かった。炭治郎に隙を作った代償を直接その肉体に支払わせるべく、カナエは"水の呼吸"の剣技を使う。

 

 

 

水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突(しずくはもんつ)

 

 

 

雫波紋突(しずくはもんつ)きは"水の呼吸"の剣技で唯一、日輪刀で頸を斬らねば倒せない鬼に対して有効ではない刺突技だ。主に鬼への牽制や迎撃に対して使用する。

 

しかし、"水の呼吸"随一にして最速の速さを誇る剣技が、炭治郎の"ヒノカミ神楽"の剣舞を吹き飛ばして炭治郎を襲う。咄嗟に日輪刀で受け止めようとする炭治郎だったが、間に合わずカナエの日輪刀が炭治郎の心臓に突き刺さった。

 

「がはっ!?」

 

炭治郎は刺突された激痛に悶えながら、日輪刀を手放しくの字になる。そしてずぼっとカナエの日輪刀が炭治郎の身体から抜けて、炭治郎は血を撒き散らしながら後方へと吹き飛ばされる。

 

周辺の花々や植物、草原が炭治郎の血で赤く染まったが、一瞬にしてその吸収されたように消滅する。そして炭治郎の身体もまた、胸に空いた風穴が光に包まれ、瞬く間にその傷が塞がる。

 

「はぁ~~~~。」

 

炭治郎は深い溜め息を付いて、左手で両眼を覆う。自身の実力と、柱の力の差を残酷なまでに思い知らされたからだ。

 

無限列車の時、杏寿郎と猗窩座の戦闘でも自身の力不足を思い知らされた炭治郎だが、カナエとの訓練で改めて身に染みる結果となった。そんな感傷に浸る炭治郎に、カナエは厳格に言う。

 

「炭治郎君。貴方は何時までそこに寝っ転がってる心算なのかしら? 早く立ちなさい。まだまだ始まったばかりでしょう? 時間は有限なのだから、無駄にしないのっ。」

 

「……そうですね、分かりましたっ!」

 

炭治郎は起き上がり、落とした日輪刀を拾い、再び構えてカナエに挑む。一方で、カナエは再び炭治郎が使う"ヒノカミ神楽"を往なしながら、"ヒノカミ神楽"の存在を考察していた。

 

――"ヒノカミ神楽"……やはり只の神楽として受け継いだと言う割には大袈裟過ぎるわね……ヒノカミ……火之神……日之神……っ!! やはり"ヒノカミ神楽"は"日の呼吸"ではないかしらっ!?……もし"始まりの呼吸の剣士"が無惨一党から"日の呼吸"を隠匿するために、炭治郎君のご先祖様に、竈門一族に託したのかもしれないっ!!……だとしたら名前を変えて受け継がれて来たと言われても辻褄が合う……っ!

 

カナエは自身が打ち立てた仮説に震える。しかし、直ぐに考察し直した。

 

――ああ、駄目ね。状況証拠だけでそうだと言う明確な物的証拠が無い……いいえ、関係無い! "ヒノカミ神楽"が"日の呼吸"で有ろうと無かろうと、関係無いわ! 私は炭治郎君を強くする。愛する人が死なせないために、幸せな一生を歩ませるために、私は私の出来る最大限の働きをするっ。それだけよっ!!

 

カナエは脳内に並べていた"ヒノカミ神楽"の考察を振り払うと、炭治郎との鍛錬に集中した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。」

 

 

 

水の呼吸 弐ノ型 水車(みずくるま)

 

 

 

炭治郎の"ヒノカミ神楽"から繰り出される剣技を往なしていたカナエは炭治郎の真横に素早く高速移動すると、垂直方向に身体全身を一瞬で一回転しながら炭治郎に斬り付けた。

 

カナエの日輪刀は真っ直ぐ下りて炭治郎の両腕を切断した。炭治郎は両腕を切断されて、滝の如く大量の血が両腕から流れる。あまりの激痛から思わず両膝を地面に着き、大量の脂汗を顔を俯かせて悶絶する。

 

「があああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?!?」

 

炭治郎の絶叫が夢幻世界に響く。はっきり言って何度目なのか、炭治郎にもカナエも覚えていない。何故なら既に何度も何度もカナエに炭治郎は斬られているからだ。

それに対しカナエは冷静に冷めた眼で炭治郎を見ていた。

 

「炭治郎君。何度も言わせないで。貴方も分かっているでしょうけれど、戦っている間は痛みを感じている暇なんて無いのよ? しっかりなさいっ! 両腕を斬り落とされたなら、口で日輪刀(かたな)を咥えてでも鬼に立ち向かいなさいっ! 貴方に戦う意思が残っているなら、の話だけれどね?」

 

「……っ。」

 

カナエの冷淡とも冷酷とも言える厳し過ぎる言葉に、炭治郎は自身を奮い立たせて片膝を上げる。

 

その頃には両腕の血は止まり、両腕の切り口は光に包まれ、徐々に両腕が元に戻った。そして落とした日輪刀を拾う。

 

一方、斬り落とされた両腕は何時の間にか消滅していた。炭治郎とカナエの修業は続く。

 

「……炭治郎君、今日は此処までしましょう。」

 

「えっ? でも……俺、まだ出来るんですけど?」

 

「炭治郎君、夢幻世界(此処)では肉体的・精神的疲労と言う概念は無いわ。でもね、鍛錬のやり過ぎは却って成長を阻むの……休むのもまた、貴方の大事な仕事よ?」

 

「そうなんですか。分かりました。そういうことならカナエさんのお言葉に従います。」

 

カナエが炭治郎を諫めると、炭治郎は従った。炭治郎は日輪刀を鞘に収める。カナエはそれを見た後、ニコニコしながら炭治郎に言う。

 

「最初の鍛錬お疲れ様。それでね、貴方に見せたいものがあるの❤ ふふっ❤」

 

カナエはそう言うと、右手の指をパチンと鳴らす。すると炭治郎の背後の植物が蠢き、炭治郎は驚いて蠢く植物を注視する。すると見る見るうちに見ただけで分かる程、ふかふかの深緑の寝台(ベッド)が完成した。

炭治郎は完成した寝台(ベッド)を見て、驚いたままカナエに振り向いて質問した。

 

「カナエさん、これは……んぐっ!?」

 

「んっ❤……んちゅ❤……ちゅうぅぅぅ❤」

 

カナエは炭治郎の両頬を掴む様に添えると、そのまま熱い口付け(キス)を捧げた。カナエはその後、口付け(キス)しながら羽織を脱ぎ捨て、自身の隊服と炭治郎の隊服の(ボタン)を外して肌蹴させる。

そこまですると、カナエは口付け(キス)を止めて炭治郎と視線を交える。二人の間には太い銀色の橋が出来て、間も無く決壊した。

 

「んんっ……カナエさん……っ。」

 

「んちゅ❤……さん付けも敬語も止めて……もう師弟の時間は終わって、此処からは夫婦の時間よっ❤……沢山可愛がって行ってね❤ あ・な・た❤」

 

カナエは艶美に微笑むと、炭治郎に再び口付け(キス)をして深緑の寝台(ベッド)に押し倒した。

 

 

 

 

 

 

「はあぁ、はあぁ、ふうぅ。」

 

「ああん❤ ひゃぅん❤ んあああ❤」

 

カナエに押し倒された炭治郎だったが、直ぐに立場が逆転して今は炭治郎が上に立って正常位でカナエを攻め立てていた。

炭治郎の熱り立った逸物が洪水を起こしているカナエの秘部に侵入し膣内を通り過ぎて、子宮口を激しく突く。カナエは歓喜しながら嬌声を上げていた。

 

「ふぁあああ❤ 良いぃっ❤ 気持ち良いぃよぉぉぉ❤」

 

「ふううぅぅ、ぱくっ、じゅる、ちゅううぅぅぅぅ。」

 

「ひゃあああ❤ お、乳房(おっぱい)も良いのぉぉぉっ❤ もっと吸ってぇぇ❤!」

 

炭治郎が腰を激しく動かしながら、同じく激しく跳ねるカナエの乳房に狙いを定め、炭治郎は自身の片手よりも大きなカナエの乳房を揉みながら、時に先端の赤い蕾を摘み、そして吸い付いてカナエを攻め立てる。

 

カナエは更に強くなった快感に悶えながら嬌声を上げる。そう攻める内に炭治郎の逸物が限界に近付き、血管を浮かせる程に膨張させる。

 

「ちゅううぅぅぅ、はぁ、はぁ……か、カナエっ! 出るっ! 出すぞ!!」

 

「あああっ❤! 出してぇ❤! 出してぇ❤!! 全部受け止めるからああぁぁぁぁ❤❤!!」

 

 

ビュルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

 

 

「んあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ❤❤!!」

 

炭治郎の逸物から射精されて出た白濁の溶岩が、カナエの膣内全体を白く染め上げる。カナエは一際、大きな嬌声を上げて絶頂した。

炭治郎は息を整えると、身体を更に屈めてカナエに近付き、優しく口付け(キス)する。カナエもまた眼を細めながら、喜んで炭治郎からの口付け(キス)を受け入れてじっくりと味わう。

 

「はふぅ❤ ああぁ❤ ちゅっ❤ んちゅぅ❤ あなたぁ❤! あなたぁ❤!」

 

「ううぅん、ちゅうう、うぅむ、んんっ、カナエっ! カナエっ!」 

 

二人は舌を絡ませ、互いの唾液を吸って更に口付け(キス)は激しさを増して行く。炭治郎は口付け(キス)を続けながら再びカナエの子宮口を目指して激しく逸物を突き始める。

 

カナエはその快楽に悶え、嬌声を上げようとするが、既に炭治郎に口を塞がれているためそれは出来なかった。暫くすると炭治郎の逸物は再び限界を迎え、爆発するが如く射精してカナエの膣内を白濁の溶岩で埋め尽くした。

 

 

 

ビュルルルゥゥゥゥ!! ビュルルルルルルゥゥゥゥ!!

 

 

 

「~~~~~~~~❤❤!!!」

 

カナエは先程と同様の大きな嬌声を上げられず、声にならない嬌声を上げて全身を歓喜で痙攣させた。

炭治郎もカナエの様子を見て、満足そうに見つめると、逸物を秘部から抜き去る。

 

「ああっ❤!!……っ。」

 

「そんな不満そうな顔をしないで……まだまだするから……カナエ、四つん這いになってくれる?」

 

「は、はい❤ 分かりました……っ❤」

 

カナエは炭治郎に言われた通り、仰向け態勢だった身体をうつ伏せにする。そして犬猫が背伸びしたように両膝を付いて臀部を突き出し秘部を炭治郎に差し出す。

 

既に秘部からは二回の射精により入り切らなかった白濁の溶岩がドロッと零れ落ちている。その淫靡な光景を目の当たりにした炭治郎の逸物は更に固さを増し、熱を帯びる。

 

炭治郎はカナエの形の良い臀部を鷲掴みにして、一気に逸物を秘部に目掛けて挿入した。

 

「ああぁぁぁぁぁっ❤!! そ、そんないきなりぃぃぃぃんあぁぁぁぁぁぁ❤❤!!」

 

「ふうぅぅぅ、動くよっ。カナエっ!」

 

炭治郎は宣言通り、一気にカナエの秘部から漏れ出す白濁の混合液を撒き散らしながら、逸物を突き始める。カナエはその激しさから善がり狂う事しか出来ない。

そんなカナエに炭治郎は動きながら質問をした。

 

「はぁ、はぁ、カナエっ。今の俺達、こんなに激しい情交をしているよね? それについて、どう思う? カナエの気持ちが知りたいんだけど。」

 

「ああぁぁ❤ そ、それはあぁぁぁ❤ あああああん❤」

 

カナエは分かっている癖にと思いながらも炭治郎の質問に善がりながら答えようとするが、それより先にカナエは絶頂寸前にまで陥り、その事を炭治郎に伝えようとする。

 

「ああん❤ んあぁぁぁん❤ わ、私❤ またイクっ❤ イっちゃうぅぅぅ❤」

 

「答えてくれないか……なら……。」

 

「ああぁぁっ❤……っ❤!?」

 

カナエは嬌声を上げるのを止めて、狼狽するカナエ。四つん這いのまま、必死で頸を動かして炭治郎を見ようとする。

炭治郎は逸物が抜ける寸前まで止まると、動くのを止めて静止していた。あと少しで絶頂寸前だったカナエは、これには堪らず抗議する。

 

「ど、どうしてぇ? うご……いてぇ、お願いぃぃぃ❤!!」

 

「カナエはまだ俺の質問に答えていないからね。もう一度聞くよ。こんなに激しい情交……どう思う? カナエの気持ちを教えて。そうしないと抜いても良いし、このまま我慢大会に突入しても良いんだけど、どうする?」

 

炭治郎はちょっぴり意地悪な笑みを浮かべてカナエにそう言った。尤も、炭治郎もまた汗を掻いており、やせ我慢しているのは明白だ。

しかしカナエは炭治郎の苦しい様子に気付かず、答えを口にした。

 

「……きよ。」

 

「え?」

 

「す、好きよ❤! 好きなの❤!! あ、あなたにこんなに激しく求められて❤️! こんなに愛されて嬉しいのっ❤!!」

 

「……っ。」

 

カナエの言葉に、炭治郎は歓喜で胸がいっぱいになる。匂いや様子で分かっていながらも改めて言葉で聞けたのだから当然だ。お礼とばかりに動こうとするが、カナエは続けていたため、そのまま静止の状態を維持する。

 

「わ、私はっ! 前にあんな事言ったけれど、嫉妬していただけなのっ! 本当は炭治郎君の言った言葉が正しいって分かってた! でも嫉妬してしまったから、あなたに前にあんな事を言ってしまったのっ! 私は愛し合うあなた達を見ながら、自分で自分を慰める事しか出来なかった! 私はしのぶが羨ましかったっ! しのぶが狡いって思った! しのぶばっかり愛されて悔しかったのよっ!」

 

「っ!! カナエっ!!」

 

「あああぁぁ〜〜〜〜〜っっ❤❤❤!!!」

 

炭治郎はカナエの告白を受けて、その自分への想いに応えようと一気に動く。焦らされて敏感になっていたカナエはそれだけで絶頂した。

炭治郎は構わず、カナエを攻め続ける。炭治郎もまた、カナエへの想いで溢れていた。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「カナエっ! カナエっ! 貴女が……好きだっ!! 愛してるっ!!」

 

「ああっ❤! あああんっ❤!! 私も……私もっ❤! あなたを愛しているのぉ❤!!」

 

「ありがとうっ! ありがとうっ!……そろそろ出すっ! 出すよっ!!……出るっ!!」

 

「っ❤! また、出してぇ❤!! あなたの、たくさん頂戴ぃぃぃぃぃぃ❤❤!!」

 

 

 

ビュルルルルルルルルルルゥゥゥゥゥッッッ!! ビュルルルルルルルルルルゥゥゥゥゥッッッ!!

 

 

 

「「ああああああああっ!!」」

 

炭治郎とカナエはほぼ同時に絶頂した。炭治郎が白濁の溶岩をカナエの膣内に向けて出し尽くすと、逸物を抜いてカナエの隣に寝転がってカナエを見詰める。

 

カナエもまた、身体を伸ばして体勢を崩すと、横向きになって炭治郎を見詰める。

沈黙を守ったまま見詰め合っていた二人だったが、不意にカナエが沈黙を破って開口する。

 

「……炭治郎君、私、幸せよ。絶対に会えると信じていたとはいえ、夢幻世界で実際に愛するあなたとまた会えて、こうして愛し合ったり鍛錬で強くしたりすることが、これから何度でも出来ると確信出来た事がね。でもね、そんな幸せな私だけど、炭治郎君に二つだけお願いしたいことがあるの。いえ……二つのお願いというより、二つの約束ね……とにかく、聞いてくれないかしら?」

 

「二つの、約束?……俺に出来る事なら、何でも!」

 

「ありがとう。」

 

カナエはそう言うと起き上がって姿勢を正す。炭治郎もまた、それに倣って起き上がって姿勢を正す。そしてカナエは話し始めた。

 

「まず一つ目。最初に言ったけれど、あなたは必ずこの戦いで生き残って、しのぶ()を幸せにしてお爺さんになるまで生き抜くこと。」

 

「はい!……んっ? ()??」

 

炭治郎は疑問を一つ抱いたが、カナエが強引に話を続けた。

 

「二つ目、良い??」

 

「は、はいっ!」

 

「二つ目は……もしも"生まれ変わり"や"来世"と言うものが存在するなら……今度は私をあなたの本当の妻にして欲しい……私、あなたのお嫁さんになりたいのっ。」

 

「っ!!」

 

カナエの願望と告白を耳にして、炭治郎の胸中はドクッと大きく音を立てて鳴る。

 

「ね? 今世ではしのぶに譲るんだもの……それくらいの……夢幻(ゆめ)や希望は抱いても良いでしょう……?」

 

カナエは不安そうに炭治郎に言った。両手の先は微かに震えていた。すると炭治郎はカナエの両手を包むように握り、固い意志を持って宣言する。

 

「竈門炭治郎はこの場で胡蝶カナエさんに誓います! もしも俺が生まれ変われた時は、必ず貴女を思い出して、どれだけの時が掛かろうと見つけ出してみせます! 貴女を必ず、幸せにします!」

 

「……っ❤」

 

炭治郎の宣言に、カナエは歓喜の涙を流した。そして二人は五つを数える程度の間、見詰め合うとどちらからともなく口付け(キス)を交わして情交《セックス》を再開させた。




お待たせ致しました。

こちらでも椿様から大改訂への激励として挿絵を頂けました! 椿様、何時もありがとうございます!! https://www.pixiv.net/artworks/88911804

2020/02/15に投稿していた第拾話の『人外の撫子蝶は日輪と禁断の愛を交える』の改訂版になります。

改訂部分
炭しのシーンの加筆
挿絵(炭しの)

最後に全体を読んで頂ければお気付きになられると思いますが、話数が大変おかしな事になっております。穴が開いているところが、挿入投稿予定の話数になります。穴埋めをするみたいに、楽しめたらと思います。

次回の投稿をお待ち下さい。


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第拾弐話 撫子蝶は日輪と藤蝶に誓約す ❤★

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「んちゅっ!❤……じゅるるっ!❤……ちゅうううぅぅっ!!❤」

 

情交(セックス)を再開させた炭治郎とカナエ。その再開の狼煙代わりに口付け(キス)をした二人。

 

するとカナエは炭治郎の告白を受けて胸中に湧いた幸福感と興奮からか、カナエは炭治郎の両頬を掴む様に挟んでから貪る様に炭治郎の口内を貪って唾液を吸引していた。

 

「んんっ!……んちゅううっ!!」

 

炭治郎はカナエの積極的な様子に内心面食らっていたが、直ぐにカナエの背中に両腕を回して抱き締めながらカナエの想いに応える。

 

「っ!!❤……じゅるるるううっ!!❤❤……はうぅんっ❤……ぢゅるるるるっ!!❤❤」

 

カナエは炭治郎からの口付け(キス)が積極的になったのを感じて益々、幸福感と興奮を覚えて炭治郎を強く貪っていく。

 

「んんんっ!?」

 

カナエに更に強く吸い付かれた炭治郎は焦った声を漏らす。僅かに空いていた気道が完全に塞がれてしまったからだ。

 

焦った炭治郎はカナエの背中に回していた両腕を解放し、両手を前に出してカナエの豊満な乳房を揉みだした。

 

「ちゅううっ!❤……あうんっ!?❤」

 

「!」

 

炭治郎に自慢の乳房を鷲掴みにされて、カナエは驚きの嬌声を上げる。

その際にカナエからの口付け(キス)の勢いが収まった事で、炭治郎は気道の確保に成功し新鮮な空気を得る事が出来た。

 

「ちゅば……はぁ……はぁ……それっ。」

 

「ああっ!❤」

 

炭治郎から唇を離したカナエが、一際大きな嬌声を上げる。炭治郎が乳房の先端にある赤い蕾を摘んだために、電流が走った様な快感がカナエを貫いたのだ。

 

「……♪」

 

カナエの嬌声を聞いて炭治郎は気を良くしたのか、再度両方の乳房を両手で餅を捏ねるが如く揉み始めた。

 

「あんっ!❤……あぁっ❤……あぅっ❤……良いっ❤……良いのぉ❤」

 

耳に入って来る嬌声を聞きながら、炭治郎はカナエを傷付けない様に力加減をしつつ両方の乳房を揉んでいく。

 

「……はぁ……はぁ……。」

 

カナエの乳房を夢中になって堪能していた炭治郎は、飢えた獣の如く息を荒くして涎を垂らしていた。

炭治郎の視線の先には乳房の先端にある赤い蕾があり、炭治郎が凝視するその赤い蕾は勃起して存在を自己主張していた。

 

「はぁっ……あむっ。」

 

「んぁあ!❤」

 

辛抱堪らず、炭治郎は先ず右側の乳房を口に含んだ。カナエはその刺激を受けて、ビクッと身体を震わせて嬌声を上げた。更に強くなった快感に震えながら、カナエは身体を艷やかにくねらせる。

 

「っ……ちゅばちゅばっ!……ちゅううぅぅぅっ……れろれろ……ちゅううっ。」

 

「あああんっ!❤……駄目ぇ❤……そんなにっ❤……いやらしく吸われたら、私ぃ……ああんっ❤」

 

炭治郎は乳房を揉む手を緩める事無く、更に吸い付きを加えて愛撫を続ける。

 

カナエは拒絶の言葉を口にはしたものの、嗅覚に優れた炭治郎はカナエの全身から歓喜の匂いを感知して直ぐに嘘を看破してしまう。

 

更に突き放すのでは無く、炭治郎の頭を愛おし気に抱き抱えていては誤魔化し様が無かった。

 

「じゅるるるっ……じゅるっ!……くちゃっ……はむっ……ちゅるるるっ!……ちゅううぅぅっ!」

 

「やゃあんっ!❤……ああんっ!❤……あぁっ!❤……あああっ!❤」

 

炭治郎はカナエの両方の乳房を、執拗なまでに交互に吸って舐めて揉み続ける。カナエは炭治郎の頭を抱き抱えたまま、だらしなく涎を垂らして頸を左右に振って快楽に悶えるだけであった。

 

「ちゅうぅ~~っ!……んちゅううぅっっ~~!!」

 

「ひゃあぁぁぁっっ!!❤……あああぁぁぁっ~~!!❤」

 

炭治郎はカナエの乳房を真ん中に寄せると、二つある赤い蕾を一度に口にして吸い付いた。カナエは背中を浮かせる程の快楽を受けて、今まで以上に大きな嬌声を上げた。

 

――カナエはしのぶさんより乳房(おっぱい)が弱いなぁ。このままイかせても良いんだけど……そうだ、よしっ!

 

カナエの乳房を吸ったまま、炭治郎にある考えが脳裏を過ぎる。そして"善は急げ"とばかりに、炭治郎は即座に実行する。

 

 

 

ズブッッッ!!!

 

 

 

「んあああぁぁぁぁぁぁっ!!??❤❤❤」

 

突如としてカナエが海老の如く背中を仰け反って、悲鳴の如き大きな嬌声を上げて絶頂した。炭治郎が乳房を鷲掴みにすると、カナエに覆い被さって自慢の逸物を、精液と愛液が混ざった混合液をトロトロに垂れ流している秘部に挿入したからだ。侵入して来た逸物が膣壁を搔き分けて、勢い良く侵入していく。

 

「カナエ……イってくれたみたいだね?」

 

「ぁっ!……かはぁっ!……ああうぅっ……そんな、いきなりぃ……っっ❤」

 

炭治郎の長大な逸物が半分程、カナエの膣内に挿入されて動きを止める。

 

炭治郎は確信を持ちながらも、カナエに絶頂したかどうかの確認を行う。そんなニヤニヤとした意地悪い笑みを浮かべる炭治郎に、カナエは絶頂の余韻に震えながら涙目で睨み付けた。

 

元花柱であるカナエから睨まれでもすれば、たとえ大男であっても怯んで腰が引くものだ。

しかしその視線に威圧感や怒りなどといったものがある筈も無く、あるのは年下の炭治郎に好きな様に弄ばれている悔しさしかない。

同時に、炭治郎の鼻に届いたのは歓喜の匂いなど喜びに満ちたものばかりだ。

 

その匂いを鼻一杯に吸い込む程に、更に血が集まって逸物の固さが増していく。

 

「意地悪してごめんね……お詫びにこれからもっと、カナエを気持ち良くしてあげるから……さっ!」

 

「まっ!……ああああっ!!!❤❤」

 

カナエは炭治郎を止めるべく声を上げようとしたが、炭治郎はまだ膣内に入って居なかった残り半分の逸物を一気に膣奥まで叩き付けてカナエの制止の声を押し黙らせた。カナエは先刻程では無いにせよ、軽い絶頂を受けて嬌声を上げる。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

対面座位で本格的に情交(セックス)を始めた炭治郎とカナエ。炭治郎が涎を垂らす程の気持ち良さを感じながら、カナエにも気持ち良いか尋ねる。

 

「はああっ……気持ち良いっ……カナエも、気持ち良いかい?」

 

「ああんっ!❤ あああっ!❤ あうあぁぁんっ!!❤❤」

 

「って、聞くまでも無いみたいだね?……ふふっ。」

 

しかしカナエは快楽の波に揉まれて、炭治郎の問いに答える余裕は無かった。カナエが快楽に悶えている姿を見て、炭治郎は歓喜から自然と笑みが口元に浮かぶ。

 

「それ……それっ!……っっ!!」

 

炭治郎は対面座位で腰を激しく振って、逸物を子宮口まで叩き付ける。

 

「んああっ!❤……激し、いいぃっ!❤……ああぁっ!❤ あなたぁぁっ!!❤」

 

「っ!」

 

快楽を受けて嬌声ばかり上げていたカナエが、漸く快楽に耐性を付けて炭治郎を呼ぶ。そのまま息も絶え絶えに、カナエは続けた。

 

「お願い……ああっ❤……一緒にっ……私と一緒にぃぃぃっ!!❤」

 

「っ!!」

 

カナエが涙を流しながら口にした懇願を聞いて、炭治郎は直ぐに察した。

 

「ああっ!……一緒にイこう!! 俺ももう直ぐ……出るからっ!!」

 

「っ!❤」

 

炭治郎が自身が望んでいる事を察してくれた事に、カナエは歓喜しながら反応する。歓喜からか、逸物を締め付ける膣圧が上昇した。

 

 

 

パンッ! パンッパンッ! パンッ!

 

 

 

「ううぁっ!……カナエ、出すよっ!!」

 

「ああぁんっ!❤……来てぇっ!!❤」

 

 

 

ビュルルルルゥゥゥゥゥビュルルルルルルルゥゥゥゥゥ!!! ビュルルビュルルビュルルルウウウウゥゥゥッッッ!!!!

 

 

 

「あああぁぁぁぁ~~~~~っっっ!!!❤❤❤」

 

「うぁああっ!……搾り取られるぅ……っっっ!!!」

 

下腹部を膨らませる勢いで、カナエの膣内に大量の白濁の溶岩が流れ込んで来る。炭治郎は腰を震わせながら射精を続けて絶頂し、カナエもまた天を仰ぐ様に仰け反って絶頂する。

 

「はぁ……はぁ……あなたっ……ちゅううぅっ❤」

 

「っ!……はむっ……ちゅうぅっ……ちゅうう。」

 

絶頂の余韻から漸く解放されたカナエは、炭治郎に感謝を込めて熱烈な口付け(キス)を行った。

カナエから口付け(キス)をされた炭治郎は、直ぐにこれに応えた。唇を触れ合うだけの口付け(キス)を行う二人。少しして異変が起きる。

 

「っ!!!」

 

「んっ?……カナエ?」

 

カナエが突如、何かに反応して炭治郎との口付け(キス)を中断した。それを受けて、炭治郎は疑問を感じてカナエに尋ねようとしたがその前に、カナエが炭治郎に答えた。

 

「……しのぶがあなたの事を起こそうとしているわ。」

 

「えっ?……そうなの?」

 

カナエから伝えられた事実に、炭治郎は驚きながらも半信半疑といった態度でカナエに応えた。

 

「結構経っていたみたい……あなた、私の事は良いからしのぶの下へ帰ってあげて。」

 

「良いの?……いや、でも。」

 

カナエがしのぶの下へ帰還する様に炭治郎に促すと、炭治郎は名残惜しそうに口を閉ざした。そんな炭治郎を見て、カナエは歓喜を覚えつつも炭治郎への説得をする。

 

「私の事は良いから、しのぶをお願い。」

 

「……そうだね。分かったよ……またね、カナエ。」

 

「はいっ❤」

 

先刻の恋する乙女の一面も、快楽に溺れる様子も既に無く、長女としての思いやりに満ちた姉としての胡蝶カナエの姿が其処にはあった。

 

カナエの切り替えの早さに驚きながらも、炭治郎はカナエの説得を受けて急いで逸物をカナエの秘部から抜き去る。それから服装を正す間も無く全裸のまま、炭治郎は仰向けの姿勢で横になって両眼を閉じた。

 

「また愛し合いましょうね、あなた❤……ちゅっ❤」

 

炭治郎は右頬から熱を感じ、次に響いた水音とカナエの声を耳にした。炭治郎は答える間も無かったが、心中でカナエの言葉を承諾してからその意識は闇の中へと沈んでいった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年)三月十日(月)

時間帯:夕方

天気:雨

 

 

「……きてっ。炭治郎君、起きて下さいっ!!」

 

「んっ?……んっ~~っっ。」

 

炭治郎はしのぶの呼び掛けで目を覚ました。背伸びしてから、ゆっくりと眼を開ける。

 

「お寝坊さんねっ。私も人の事など言えないけど……もう夕方よ?」

 

「……えっ? 夕方っ!?」

 

炭治郎はしのぶの言葉に驚いて、一気に開眼して外を見て、時計を見る。既に日は沈みかけており、橙色の夕日が姿を現していた。また、時計の針は十七時を過ぎていた。

 

「……二刻(四時間)は寝ちゃいました? 俺??」

 

「ええっ……こんなに寝てしまうとはね……夕食、もうそろそろ出来るそうですよ?」

 

「分かりました。出来たら、行きましょうか? しのぶさん。」

 

「はいっ……と言いたいところだけど、持って来て頂きましょう……炭治郎君のそれ、他人に見せたくないし、見られたくはないでしょう?」

 

「……?……っ!?」

 

炭治郎はしのぶの視線を追うと、それは炭治郎の逸物を指していた。既に勃起しており、浴衣を突き破らん勢いであった。

 

「本当に、お盛んなんだから……。」

 

しのぶは頬を赤く染めながら、呆れた様子で溜息を吐いた。

 

「す、すみません……っ。」

 

炭治郎は羞恥心から、力無くしのぶに謝罪した。

 

「……っっ❤」

 

そんな炭治郎が愛おしくて、クスクスと笑いながら炭治郎に近付いて行く。

 

「んちゅ……夜になったらお付き合いしますから、それまでは我慢して下さいねっ❤」

 

「っ!!……はいっ。」

 

慰められる様にしのぶから口付け(キス)された炭治郎は、羞恥心が消えて元気良く返事をする。しのぶはそれを見てから、夕食を持って来て貰える様にひさに頼みに行った。

 

「……はぁ。」

 

しのぶが退室して気配が遠退いて行くのを確認してから、炭治郎は溜息を吐いた。

 

「しのぶさん、ごめんなさい……。」

 

炭治郎はしのぶ本人に届く事が無い謝罪の言葉を口にする。炭治郎が口にした謝罪の言葉は、虚空へと消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十日(月)

時間帯:夜

天気:雨

 

 

炭治郎としのぶは夕食と風呂を済ませた後、ひさに引いて貰った布団の上にいた。

しのぶは丸薬を取り出すと、炭治郎に渡して飲ませようとしていた。

 

「しのぶさん。聞くのを忘れてましたけど、この丸薬(くすり)の正体って何です?」

 

「っ!」

 

気持ちを切り替えた炭治郎は丸薬の正体が気になって、しのぶに丸薬の効能などについて尋ねた。一瞬だけ葛藤した様に顔を俯かせたしのぶだったが、炭治郎の質問に正直に答える事にした。

 

「……この丸薬(くすり)は藤の花の解毒薬と媚薬を掛け合わせた混合薬なの。私の体液を取り込んで、炭治郎君に中毒症状を出させる訳にはいかないから。」

 

「っ! なるほど……でしたら、もっと早く行動するべきでしたね。」

 

「えっ?……んんっ❤!?」

 

炭治郎は丸薬を口に入れると、そのまましのぶに口付け(キス)をした。戸惑うしのぶを余所に、炭治郎はしのぶの口をこじ開けて丸薬を自身の唾液と共に流し込む。

 

しのぶは炭治郎の唾液と共に丸薬を飲み込んだ。炭治郎はしのぶが丸薬を飲み込んだ事を確信してから、口を離す。二人の間に細い銀の橋が出来て、直ぐに崩壊した。

 

「……っ……どうして……私に丸薬(くすり)を飲ませたのっ?」

 

「決まってます。しのぶさんの身体にある藤の花の毒を消すためです。」

 

「っ!……そんなの、もう今更……っ!」

 

しのぶは怒って抗議しようとするが、炭治郎がそれを遮る形で終わる。

 

「今更じゃありません! "千里の道も一歩から"と言う故事があります。今からでも解毒を始めましょう! きっと完治します!!」

 

「……私の血は、鬼の体内を入れる事が出来ればそれだけで武器になります。その利点を自分から捨てるなんて……っ!」

 

「貴女が傷だらけになるのを黙って見てろって俺に言う積もりですか!? そんな事は見す見す承諾出来ません! 」

 

炭治郎に抗弁しようとするしのぶだったが、炭治郎の言葉に沈黙してしまう。しかし、しのぶはならば別の方向で反論しようと試みる。

 

「……私はもう一年以上もの間、藤の花の毒を摂取し続けて来たの。どうせ、完治なんて不可能よ……っ!」

 

「始めもしないで諦めようとしないで下さい!」

 

「…っ!」

 

しのぶの諦念に対して、炭治郎は厳しく叱責する。

 

「一年掛けて毒を摂取して来たなら、もう一年掛けて解毒すれば良いでしょうっ!? それでも足りないなら、二年でも三年でも、もっと時間を掛けて根気良く治療を続ければ良いんです!!」

 

「……っ。」

 

炭治郎はしのぶに諦める事無く強く治療の継続を勧める。炭治郎の真剣さを前にして、しのぶは何も反論出来なかった。

 

「俺に出来る事なら何でもやります!……お願いします、どうか諦めたりしないで下さい。俺はまだ、貴女を何一つ幸せに出来ていない。……しのぶさんは俺とこれからは一緒に生きてくれるんじゃないんですか?」

 

「!!!」

 

炭治郎の懇願にしのぶはハッとして驚く様に両眼を見開き、そして顔を俯いて一筋の涙を流す。だが次の瞬間、しのぶは顔を上げて炭治郎の眼を真っ直ぐ見詰める。その顔には覚悟を決めた様子が見られた。

 

「……ごめんなさいっ。私が間違っていたわ……私も、炭治郎君の隣でこれからも生きて行きたい。ずっと貴方の傍に居たい……っ!」

 

「っ!!」

 

しのぶの決意に、炭治郎は歓喜して何も言わずに彼女を抱き締めた。しのぶもまた、炭治郎の胸に顔を埋めて抱擁を返す。

 

抱擁を解いた後、二人は無言のまま浴衣に手を掛けて、生まれたての姿に成る。しのぶは右手を自身の口に持って来る。その手には特製の丸薬が手に有った。

 

「まだ、炭治郎君はちゃんと服用してないから……❤」

 

「っ!……んっ。」

 

そう言うとそのまま炭治郎に自身がされた事と同様に、しのぶは炭治郎に口付け(キス)をして丸薬を唾液で包んで炭治郎の体内に流し込む。

ピチャピチャと水音を立てながら、炭治郎はしのぶの乳房を両手で掴み、しのぶは炭治郎の逸物に撫でる様に愛撫して行く。

 

そうしている間に、ドタドタと足音が廊下から聞こえて来る。音が大きくなっているので、炭治郎達に向かって来ているのだろう。

 

炭治郎は苛立ちながら唇を離して、クンと匂いを嗅ぐ。すると炭治郎の苛立ちは困惑に変わり、しのぶもまた誰が来るのか予想が出来たのか、額に青筋を立てる。

 

 

 

スパァン!

 

 

 

荒々しく音を立てて襖が横に滑って開く。其処には、息を荒くした禰豆子の姿があった。

匂いで察していたとは言え、実際に姿を現しては炭治郎も困惑と焦燥感を拭えない。一方のしのぶは、苛立ちを何とか抑えて招かれざる客を迎えようとする。

 

「……フーッ!……フーッ!……フーッ!」

 

「ね、禰豆子っ!? こ、これはだな……っ!!」

 

「……あらあらあら ようううやくお出ましですか? 禰豆子さんっ。」

 

「フーッ!……(キッ!!)」

 

禰豆子はしのぶを睨み付けると、竹製の口枷を投げ捨てて着物を脱ぎ捨てた。これには炭治郎も狼狽する。

 

「禰豆子っ!? 何で着物をっ……!?」

 

「……ちっ……納得出来ませんが、許さない訳には行きませんからね……禰豆子さん。参加を許してあげますから、待って下さいね? 良いですか? "待て"ですよ?」

 

「っ!!…………(コクッ。)」

 

しのぶがそう言うと、禰豆子は承諾して涎を垂らしながら布団の上に座った。炭治郎の困惑の色は強く成って行く。

 

「しのぶさんっ! これはどう言う……事なんですかっ?」

 

「炭治郎君。今から説明してあげるから、落ち着いてっ。」

 

 

 

♦︎

 

 

 

その部屋は異様な光景が広がっていた。二人の女性と一人の男性が裸で一つの布団の上に座っていたからだ。しかし、甘い雰囲気は皆無で、少し殺気立っている。初見で見ればこれから修羅場が起きると勘違いするに違いない。

 

「さて、何からどう説明しましょうかね?」

 

「しのぶさん。俺にも全容が分かる様に、一から全部お願いします。」

 

「その心算だから、安心して。でも要点だけ抑えて説明するわよ。でないと禰豆子さんも我慢出来ないでしょうし。」

 

そう言うと、しのぶはこの前の情交(セックス)後に、禰豆子が夜這いを仕掛けて来て、自分も加わった事実に説明した。

炭治郎はその事実を知って驚愕したが、驚愕したのはその後の説明についてだった。

 

「禰豆子が……その……俺の精液を吸収したんですか……っ!?」

 

「ええ。私が直接、この眼で目撃しているから間違いないわ……禰豆子さんは睡眠以外の栄養確保の手段に乗り出したのよ。」

 

しのぶはそう言って禰豆子を見た。禰豆子は相変わらず涎を垂らしながら炭治郎の逸物を凝視していたが、しのぶと炭治郎の真剣そのものだ。全裸である事を除けば、だが。

 

「これが人間に戻るために良い方向に向かうのか、それともこれが更に人の血、人肉と欲求が強く成って鬼化が進んでしまうのか、判断が着きません……ちょっと困った事が出来てしまいましたね。」

 

「禰豆子……。」

 

炭治郎としのぶは困ったように顔を合わせた。それからしのぶは禰豆子に向かってこう言った。

 

「禰豆子さん。今宵は許してあげますから、今後は善逸君とか伊之助君の、他の殿方の精液にしてくれませんか?」

 

しのぶの言葉に、炭治郎は何か言おうとしたが、しのぶがその前に手を翳して制止する。そして眼で伝える。私に任せて、と。

 

「……(ブンブンッ!)」

 

禰豆子はしのぶの言葉に頸が千切れんばかりに、頸を横に振って拒絶反応を見せる。しのぶは質問を続ける。

 

「どうしても、炭治郎君の精液でないと嫌ですか?」

 

「(コクコクッ。)」

 

「蝶屋敷に帰ったら、他の殿方の精液も試してみませんか? 気が変わるかもしれませんよ?」

 

「(ブンブンッ!)」

 

「……炭治郎君以外の殿方の精液は、嫌なんですね?」

 

「(コクコクコクッ。)」

 

「……絶対に、炭治郎君の精液だけが良いんですね?」

 

「(コクコクコクコクッ。)」

 

「……はあぁ~~~~~っ。」

 

禰豆子がきちんと自身の質問を理解しているとしのぶは認識すると、深く溜め息をついてから、再び禰豆子を見詰める。その視線は人を射殺さんばかりに鋭かった。

 

「もしも、貴女の要求が強くなって人の血を、人肉を欲するようになって人間を襲ったりなんかしたら、炭治郎君は責任を取って禰豆子さんの頸を刎ねてから自害しなければなりませんっ。ついでに冨岡さんと元水柱の鱗滝さんもです。」

 

禰豆子が罪を犯した時に起こり得る最悪の事態について、しのぶが改めて解説する。もしこの最悪の事態が発生すれば、しのぶは未来永劫、禰豆子の事を許さないだろう。

 

「もしそんな事になったら……私は絶対に貴女を許しません。……約束なさい、絶対に人間は襲わない、と。そして命を惜しまず、全身全霊を賭けて炭治郎君を守り抜く、と。」

 

「……(コクッ!)」

 

禰豆子はしのぶの警告に、先程よりも強く頷いて承諾した。そして右手の小指を立てて突き出した。

 

「っ!」

 

それを見て、しのぶは一瞬だけ身を硬直させた。

 

しかし一度だけ深呼吸をすると、笑みを浮かべながら躊躇しつつも自身も右手の小指を立てながら突き出した。

 

「ゆびきりげんまん。約束です。」

 

そう言ってしのぶは禰豆子とゆびきりげんまんをして、固く誓約を行った。するとしのぶは、突然ずいっと顔を禰豆子に近付けていった。

 

「……言っておきますけど、炭治郎君の一番は正室であるこの私ですっ!……良いですね?」

 

「……?」

 

警告する様に告げたしのぶであったが、禰豆子は意味を理解していないのか、頸を傾げるだけであった。この禰豆子の様子を見て、しのぶは額に青筋を浮かべる。

 

「良・い・で・す・ねっ!?」

 

「っ!!!……(コクコクッ。)」

 

怒気を放ちながらしのぶが再度そう言うと、圧倒された禰豆子は慌てて何度も首肯して頷いてみせた。

 

「……まぁ良いでしょう。」

 

しのぶに同意した禰豆子であったが、明らかに自身が口にした言葉の内容を理解せず反射的に頷いた禰豆子を見て、しのぶは心中複雑としながらも納得してみせる。

 

それからほぼ同時に二人揃って、一部始終を見ていた炭治郎に向かい合った。

 

「という訳で、炭治郎君。禰豆子さんもよろしくお願いします。早速やってみましょう。」

 

「ちょっ!?……ま、待って下さい! 禰豆子は俺の血の繋がった実の妹なんですよ!? それを兄の俺が抱くなんて……っ。」

 

炭治郎はしのぶの言葉に異議を唱えるが、禰豆子の全裸(はだか)をちらっと見ると、ゴクッと生唾を飲み込んで、待機していたため落ち着いて萎えていた逸物に再び血が巡って勃起し始めていた。

 

それを見て、しのぶは炭治郎に意地悪そうに言う。

 

「口では尤もらしい事を言っているけれど、炭治郎君の日輪刀は犯る気満々みたいよ? もう自分の欲望を素直に認めて、私たち二人、朝まで可愛がってね❤」

 

しのぶの言葉を口火に、しのぶと禰豆子は炭治郎に抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁ、はぁぁぁぁ。」

 

「じゅぶじゅぶ❤ じゅるる❤ れろれろれろ❤」

 

「れろれろ❤ ちゅうぅぅぅ❤ じゅるるるる❤」

 

炭治郎は両手を床に付けて、足を延ばして座っていた。そして熱り勃つ逸物を、しのぶと禰豆子が競う様に口淫(フェラチオ)で奉仕していた。二人が触れ合わない様に左右で分かれつつ、快楽で震える逸物を舐め、子種がたっぷりと含まれているであろう陰嚢を揉み解す。

 

この美少女二人に同時に奉仕して貰うと言う、非常に贅沢な状況に炭治郎は興奮を隠せなかった。

 

その興奮が種火となって、性欲と言う火を強くする。逸物が噴火寸前に成なり、そしてその瞬間は間も無く訪れた。

 

「うっ!」

 

「きゃっ!?」

 

 

 

ビュルルルルゥゥゥゥゥゥ! ビュルルルビュルルルビュルルル!! ビュルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

 

 

「あっ……はぁぁぁぁ……はぁはぁはぁ……っっ。」

 

「んぐっ!❤……ゴキュ❤……ゴクゴクッ❤……っ❤」

 

「ああぁぁ~~っ!?」

 

禰豆子がしのぶを突き飛ばすと、炭治郎の逸物を独占して其処から溢れ出る白濁の溶岩を自身が独占して飲み込んだ。

 

しのぶはそんな禰豆子を見て、大声を上げる。それは炭治郎によって起きる嬌声ではなく、悲しみや悔しさから来る悲鳴であった。

 

「ゴクッ!❤……ふぅ~~❤❤……ペロッ❤……ふっ❤」

 

「……ああ"っ!?」

 

一滴残らず飲み尽くした禰豆子は、見せ付ける様に炭治郎の逸物を一舐めしてからしのぶを鼻で嗤う。そんな禰豆子の態度に、しのぶが気が付かない筈が無い。声を荒げて、青筋を浮かべながらしのぶは禰豆子を睨み付けた。

 

「し、しのぶさん。お願いですから、落ち着いて下さい。禰豆子っ! お前もしのぶさんを突き飛ばしたりなんかしたら駄目だろうっ!」

 

口淫(フェラチオ)の余韻に浸かっていた炭治郎であったが、しのぶから憤怒の匂いを嗅ぎ取って慌ててしのぶを宥め、禰豆子に注意を行った。

 

「むっ……。」

 

炭治郎に注意された禰豆子は、シュンとなって顔を俯かせる。

 

「……まぁ炭治郎君が其処まで言うなら……。」

 

しのぶも炭治郎の嘆願を聞き、更に禰豆子の様子を見て憤怒の炎を鎮める。

 

「……っ!」

 

其処へしのぶに、ある閃きが脳裏に浮かび上がった。しのぶは早速、脳裏に浮かび上がったその閃きを実行する。

 

「今度は私の番です……はむっ。」

 

「っ!!」

 

「あっ!……っ。」

 

しのぶは勃起している炭治郎の逸物を口に加えて独占する。しかし、今まで喉奥まで使って口だけのに口淫(フェラチオ)では無かった。

 

ひゃんひりょうくぅん(炭治郎君)……ちゅううぅぅ❤……ひもひいぃじぇしゅかぁ(気持ち良いですか)?」

 

「あぁ、はい……しのぶさんのお口と乳房(おっぱい)、どっちも凄く気持良いです……っ。」

 

しのぶが行っていたのは、自信の乳房を使って逸物を愛撫する紅葉合わせ(パイズリ)であった。

 

「じゅるるるっ❤……ちゅうううぅぅぅっ!❤❤!」

――嗚呼っ❤ 本当に太くて固くて大きい❤……それにすっごく熱いわ……っ❤

 

自信の乳房を使っても収まり切らない炭治郎の逸物の巨大さとその熱量に圧倒されながらも、しのぶは負けじと乳房で逸物を挟み、紅葉合わせ(パイズリ)で刺激を与えながら奉仕を続ける。

 

「ちゅううぅ❤……ちゅ❤……ちゅっ❤(チラッ。)」

 

「!」

 

逸物の先端、鈴口を口に咥えながら、しのぶは禰豆子を横目でチラッと見る。

 

「……(ニヤッ。)」

――貴女じゃ真似出来ないでしょう? 哀れねぇそんな貧相な身体で。

 

「っ!!……うぅ~~~!!!」

 

しのぶは心中で優越感に浸りながら、ニヤッとした笑みを浮かべて禰豆子を見下した。

 

 

【挿絵表示】

 

提供:椿様

 

口でこそ何も言わなかったしのぶであったが、禰豆子はしのぶが言わんとしている事を察して、青筋を浮かべて睨み付けた。

 

 

 

ビュルルルルルルゥゥゥゥ!! ビュルルルルルルルルルゥゥゥゥゥ!!!

 

 

 

「んむぅぅっ!?……ゴクゴクッ❤……ウググッ!!❤……ゴクッ!!❤……ゴクゥッ!!❤」

 

そうしている間に、炭治郎が快楽に耐え切れずしのぶの小さな口に白濁の溶岩を発射した。しのぶは驚きながらも、直ぐに嬉しそうに濃厚な白濁の溶岩を飲み干して行った。

 

「ふうぅ……ご馳走様でした❤ ちゅっ❤」

 

満足感を得たしのぶは、感謝の意を示す様に鈴口に口付け(キス)を落とした。

 

「はぁ……はぁ……しのぶさん、凄く気持ち良かったです。ありがとうございました……禰豆子も、ありがとう……。」

 

射精の余韻が去った事で、二人に礼を述べてから今度は炭治郎が行動に出る。

 

「あっ❤!」

 

「ああっ❤!!」

 

炭治郎は起き上がると二人を同時に抱き締めて、しのぶ右側に、禰豆子を左側に寄せる。抱き寄せたまま二人の脇下に腕を差し込むと、それぞれの乳房を優しく揉み始める。

 

「あっ!❤ ああっ!❤」

 

「あうぅっ!❤ 炭治郎君っ❤……あふぅぅ❤……っ❤」

 

――しのぶさんの乳房(おっぱい)、柔らかいなぁ……禰豆子の乳房(おっぱい)は些か小振りだけど、これはこれで……。

 

炭治郎は両眼を瞑って、しのぶと禰豆子の乳房を堪能する事に集中する。それから暫く二人の乳房を堪能した後、チラッと両眼を開けた。

 

「ああんっ❤……あっ❤……んあぁん❤」

 

「ああっ❤……揉み方がっ……いやらしいのぉ❤……あっ!❤……乳首ぃ❤ 抓まないでぇ❤❤」

 

「……(ゴクッ。)」

 

二人の嬌声が耳も刺激するのも相まって、炭治郎の逸物はギンギンと膨張し硬直し始める。

 

炭治郎は二人を貪りたい衝動を残った理性で抑えつつ、涎を垂らしながら魅惑的な嬌声を上げ続ける二人の瑞々しい桃色の唇に狙いを定めた。

 

「……禰豆子っ!」

 

「ぁあ❤……っ!!❤」

 

炭治郎が最初に狙いを定めたのは禰豆子だった。乳房を揉む手を緩める事無く、禰豆子に口付け(キス)をした。

 

「ちゅう、んんん、ちゅう、禰豆子ぉ、ちゅうう、禰豆子ぉ。」

 

「ちゅうううぅぅぅ❤ んちゅうう❤ じゅるる❤ ちゅうぅぅ❤」

 

炭治郎から名前を呼ばれながらの情熱的な口付け(キス)に禰豆子は興奮しながら、炭治郎の唾液を吸い付くさん勢いで吸引する。その光景にしのぶは嫉妬心を隠せない。

 

「うぅ~~~、私の前でそんな情熱的なぁ……早く、早く私にもしてよぉ。」

 

「ちゅっ……ごめんね。しのぶさん。」

 

「ああっ❤ きったぁぁぁぁぁ❤ んちゅううううう❤ ちゅうぅぅぅぅぅぅ❤」

 

炭治郎は禰豆子から唇を離して、今度はしのぶと口付け(キス)をする。しのぶは歓喜して炭治郎の両頬を両手で掴む様に握った。今度は、炭治郎との口付け(キス)が終わってしまった禰豆子が嫉妬心を隠せない。

 

「むぅ~~~~……むぅ?」

 

羨望の念と嫉妬心を抱きながらしのぶを睨み付けていた禰豆子だったが、不意に視線を下へ下ろすと其処にはギンギンに怒張する炭治郎の逸物が視線に入った。

 

「……っ❤」

 

禰豆子は思わず片手で、炭治郎の逸物を握り締める。勿論、握り潰さない様に加減してだ。炭治郎の逸物から感じる熱を感じて、禰豆子の秘部から愛液が漏れて行く。

 

「ちゅるるっ❤……っ!」

 

「んぐっ!?」

 

禰豆子の行動に気付いたしのぶが炭治郎との口付け(キス)を続けたまま、自身も片手を伸ばして炭治郎の逸物を握り取った。

 

しかし勢い良く手を伸ばして逸物を掴んだため、加減が出来なかったのかしのぶが非力と言えど敏感な逸物を力強く握り締められた炭治郎は呻き声を上げた。

 

「ちゅっ❤……禰豆子さん、先ずは私からです。」

 

「むっ!」

 

しのぶが炭治郎から唇を離すと、逸物を握り締めたまま禰豆子にそう言って牽制する。するとしのぶの発言に対して不服だと言わんばかりに、禰豆子が抗議の声を上げてしのぶを睨み付けた。

 

「私からです……良いですね?」

 

「うっ……(コクコクッ。)」

 

従わなければ承知しない。そう言わんばかりに、笑顔だが青筋を浮かべたしのぶが禰豆子を睨み付けた。しのぶの恐ろしい笑みに恐怖を抱きながらコクコクッと頸を縦に振って、禰豆子は逸物から片手を離した。

 

「よろしい……炭治郎君、行きますね?」

 

「あ、はい。俺は何時でも大丈夫です。」

 

しのぶは自身の両手を炭治郎の両肩に置いて、炭治郎に跨がろうとする。炭治郎もまた挿入し易い様に、少し姿勢を整えて座り直した。

 

お預けを喰らって待ち切れないと言わんばかりに、しのぶの秘部からは愛液がダラダラと垂れ流されていた。

 

「んっ……あっ❤……あぁっ!!❤」

 

しのぶは炭治郎の逸物に目掛けて、ゆっくりと腰を降ろして行く。炭治郎の逸物は飲み込まれる様に、しのぶの秘部の中へと挿入されて行った。その際に、湧き出る快感に、しのぶは堪らず嬌声を上げていた。

 

「あああっ!❤❤」

 

「うぁっ……っ!!」

 

少ししてしのぶは漸く炭治郎の長大な逸物を、自身の膣内へ全て収める事に成功する。その際に先端の鈴口が子宮口をコツンと突付いた事で発生した快楽に、炭治郎としのぶは揃って喘ぎ声を上げた。

 

「しのぶさん……俺もう、我慢出来ません……っ!!」

 

「ぁぅっ❤……えっ?……ちょっとまっ!……ああああんっ!?❤❤」

 

すると炭治郎は我慢の限界を超えたのか、しのぶの括れた細い腰を両手で掴むと一気に下から突き上げ始めた。

まだ挿入の余韻から回復出来て居なかったしのぶは、不意打ち気味の快楽の波を受けて大きな嬌声を上げる。

 

「ああん❤……はああん❤……あっ!❤……良いっ❤……気持ち良いぃぃ❤ やあああん❤ ああん!❤」

 

「あああっ! しのぶさん! 俺も! 気持ち良いです!!」

 

「むぅ……うぅ~~~っ!」

 

お互いに喘ぎながら、激しく情交(セックス)を繰り広げる炭治郎としのぶ。自分を差し置いて最愛の兄と愛し合うしのぶに、禰豆子は不満を隠せない。

 

「っ!……んふっ❤……あぁっ!❤ 好きぃ❤……炭治郎君っ!❤……好きですぅっ!❤……んああぁっ!❤」

 

そんな禰豆子の不満げな様子を、しのぶは見逃さなかった。しのぶは禰豆子に見せ付けるが如く炭治郎への愛を告白しながら、絶対に離すまいと両腕と両脚をがっちりと絡み付かせて炭治郎を強く抱擁する。

 

「くぅっ……ぁあっ!……お、俺も……好きです!……しのぶさんっ! 大好きですっ!!」

 

しのぶの膣内から来る締め付けによる快楽に酔い痴れながら、炭治郎もまたしのぶへの愛を告白しまたそれを証明すべく激しくしのぶを攻めて逸物を子宮口へと突き立てる。

 

 

 

ビュルルルルルルルゥゥゥゥゥッッッ!! ビュルルルルルルルルゥゥゥゥゥッッッ!! ビュルビュルビュルビュルッッ!!

 

 

 

「うぁ、あぁぁぁっっ!!」

 

「!」

 

そうしている内に炭治郎の逸物は我慢の限界点を迎え、勢い良く白濁の溶岩を発射させた。子宮口と鈴口が密着した零距離射精であったため、逸物から発射された白濁の溶岩は一瞬にして子宮内を埋め尽くし膣内全体を白く染め上げた。

 

「あああぁぁぁぁっ!❤❤……熱いぃぃっ❤ イクうぅぅぅっ!!!❤❤❤」

 

炭治郎の逸物から齎された強烈な熱を浴びたしのぶは、快楽の津波に耐え切れず絶頂する。その際にしのぶは炭治郎を一際強く抱擁して、仰け反って絶頂していた。

 

「はぁ……はふぅ……はあぁぁ。」

 

「ああぁっ❤……はぁぁ❤……はあぁ❤」

 

勢いが弱くなったと言えど出続ける白濁の溶岩の熱を受けて、しのぶは弱々しくも艶やかな嬌声と吐息を漏らす。耳元にその声と吐息が掛かり、炭治郎の逸物はビクッと膣内で震える。

 

「うぅっ~~!……あううぅっ~~……っ!!」

 

愛し合う二人を羨望の眼差しで見詰めながら、禰豆子は太腿をモジモジとし擦り合わせていた。

 

「っ……炭治郎……くぅん❤……っ❤❤」

 

「!」

 

そんな禰豆子に取られまいと、しのぶは媚びる様に猫撫で声で炭治郎の名前を呼んだ。

 

「禰豆子、ごめん……もう少し待ってくれ。しのぶさん、続けて行きますよっ。」

 

「あっ❤……っ❤……うんっ❤」

 

禰豆子に罪悪感を感じつつも、炭治郎はしのぶを優先する決断を下した。益々その両眼に獣欲の色を輝かせながらしのぶに続きを促すと、それを聞いてしのぶは快楽の余韻を感じつつ歓喜しながら頷いた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ひぃぅっ!……あうぅっ!……んんうぅっ!!」

 

炭治郎の妹である禰豆子が唸り声を上げながら、一心不乱に、無我夢中になって片手で自身の小振りな乳房を揉み、指で秘部を掻き回して自慰に耽っていた。

 

自慰を行っている禰豆子だったが、その耳目は眼前の光景にのみ集中していた。視線は射抜かんばかりに凝視し、耳も音一つ漏らさんとばかりに聴力に力を入れている。

 

「はあぁんっ!❤……いひぃっ!❤……ああっ!❤」

 

「しのぶさんっ……凄く色っぽいです……あぁっ!」

 

仰向けになって寝転がっている炭治郎の上に、しのぶは跨って腰を振っていた。未だに炭治郎としのぶは禰豆子を放置して情交(セックス)に夢中になっていたのだ。

 

あれから続けて既に三回も炭治郎は膣内射精を行っていたのだが、それでも規格外の逸物は一切衰えを知らずにしのぶの膣内で暴れていた。

 

「あぁんっ!❤……深いぃっ!❤……くひぃぃっ!❤」

 

自身に夢中になって愛してくれる炭治郎に、しのぶもまた狂喜しながら情交(セックス)を続けていた。

 

女性主体の体位である騎乗位になって踊る様に動き続けているのは愛する炭治郎への配慮もあるが、それとは比較にならない大きな理由がしのぶには存在していた。

 

――どう、禰豆子さん? 私は……胡蝶しのぶはこんなに炭治郎君に愛されている女なのよ。

 

それは独占欲である。最愛の恋人である炭治郎を禰豆子には取らせまいと嫉妬の炎を燃やしつつも、自分達がこれでもかという程に愛し合っている姿を見せ付けてやりたかったのだ。

 

「あぅっ!❤……いぃ❤……好きぃ❤……んあぁん!❤」

 

「!」

 

互いの手を絡ませて恋人繋ぎをしながら、しのぶは譫言の様に炭治郎への愛を囁く。そして自慰をしている禰豆子にチラッと視線を向けて、ニヤッと笑みを浮かべた。

 

「ううぅっ!……っっ!!」

 

禰豆子はしのぶの視線に気付いて自慰を続けたまま、嫉妬心を燃やしてしのぶを睨み付ける。

 

 

 

ビュビュビュルルルルルウウウウゥゥゥゥゥ!!!!

 

 

 

「んああああぁぁぁっっっ!!!!❤❤❤」

 

文字通り火山の噴火の如き勢いで下から吹き上がる白濁の溶岩から齎される、その熱と快楽の波を受けてしのぶは頸を仰け反らせて絶頂した。

 

「ああっ!……あああっ!!」

 

射精によって得られる快楽に腰を浮かす程の快感を受けて、炭治郎も思わず涎を一筋垂らしながら喘ぎ声を漏らした。

 

「ひゃんっ!……うぅっ!……んあああっ!」

 

炭治郎としのぶが絶頂したのに合わせる様に、自慰を行っていた禰豆子もまた絶頂する。しかし、其処に歓喜の色などは無く、あるのは一種の悔しさだけであった。

 

「炭治郎君……ちゅるるる❤……ちゅううぅっ❤」

 

「あああっ!……しの、ぶ……さん……っっ!」

 

「っ!!」

 

五回目の膣内射精も終わり、更に絶頂の余韻が収まりを迎える。其処へ禰豆子が眼にしたのは、炭治郎の逸物をしのぶが口に咥えて口淫(フェラチオ)しているところであった。

 

炭治郎の精液と自身の愛液で混ざった混合液塗れの逸物を、しのぶが一生懸命になって舐め取って掃除していた。しのぶの熱心な奉仕に対して、炭治郎も快感に震えながら喜んで受け入れる。

 

「はぁ……はぁ……うぅっ……っ。」

 

禰豆子は自分の存在を忘れて熱烈に愛し合う二人の様子を見て、思わず両眼を潤ませた。そして一筋の涙が片眼から零れ落ちる。

 

「うえぇぇぇん……ええぇぇぇん。」

 

「「っ!?」」

 

炭治郎としのぶは泣き声を耳にして、直ぐに口淫(フェラチオ)を中断して泣き声のする方向へ振り向く。其処には両眼から零れ落ちる涙を拭いながら、号泣している禰豆子の姿が在った。




お待たせ致しました。

2020/02/15に投稿していた第拾話の『人外の撫子蝶は日輪と禁断の愛を交える』後半の改訂版になります。

椿様から大改訂への激励として挿絵を頂けました! 椿様、何時もありがとうございます!!
https://www.pixiv.net/artworks/89332129

改訂部分
炭ナエの加筆
禰豆子としのぶのやり取りの加筆
炭しの+ねずの加筆

改訂前と比べたら元の文章は二割程しか残っていないと思います。

そして誠に申し訳無いのですが、終了部分を含めての後半は次の話に含めて行います。

更新までは空白の期間が出来ます。新規読者様には申し訳無く思います。御了承下さいませ。

次回の更新は4/14(水)になります。お楽しみに!


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第拾参話 日輪と藤蝶は焦慮に駆られる ❤★

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「ね、禰豆子っ!?」

 

「禰豆子さん……っ!」

 

二人は禰豆子の名前を呼びながら、禰豆子の下へ近付いた。

 

「えええぇぇぇぇん、うえええぇぇぇぇぇんっ。」

 

「禰豆子、どうして泣いて……っ。」

 

「……」

 

禰豆子に駆け寄った炭治郎は泣いている理由を尋ねようとしたが、咄嗟に口を閉ざした。自分で尋ねておいて何だが、直ぐに禰豆子が泣いている理由を察したからだ。

 

因みにしのぶの方は禰豆子が泣いている理由を最初から察して、気まずそうに顔を背けていた。

 

「うううぅぅぅぅっ!!」

 

「「っ!!……っ。」」

 

禰豆子が泣きながら唸り声を上げて、炭治郎としのぶを睨み付けた。二人は一度禰豆子を見てから互いに視線を合わせると、再び気まずそうに視線を逸らした。

 

「……禰豆子、悪かった……機嫌を直してくれ。」

 

「私も大人げない真似を……ごめんなさい、禰豆子さん。」

 

「…………ムゥ。」

 

炭治郎としのぶは反省の念を抱いて、禰豆子に謝罪して頭を下げる。そんな二人を見て、禰豆子は泣き止んで小さく声を漏らす。

 

「……っ!」

 

すると禰豆子の視線にある光景が映る。禰豆子の視線には、炭治郎の精液が溢れ出て零れ落ちているしのぶの秘部が映っていた。

 

「むっ!」

 

「きゃっ!?」

 

「禰豆子っ!?」

 

突如、しのぶが悲鳴を上げて仰向けの状態で尻餅を着いた。禰豆子がしのぶを突き飛ばしたからだ。そんな禰豆子の行動に、炭治郎が驚愕の声を上げる。

 

「禰豆子さん、何を……っ!」

 

「……んっ!」

 

しのぶが自身を突き飛ばして来た禰豆子に抗議の声を上げるも、禰豆子はそんな抗議の声などに聞く耳を持つ事も無くしのぶに接近していく。

 

「えっ……あぁっ!?」

 

禰豆子が次に移った行動を見てしのぶは当惑を声を漏らし、刹那の間にその声は困惑へと瞬時に変化した。

 

「んんっ~~。」

 

何故なら禰豆子はしのぶの両足首を掴むと、そのまま開脚の要領でゆっくりと広げたからだ。身体が柔軟なしのぶは両足を伸ばされて開脚の姿勢になると、必然的に淫靡な香りを醸し出している秘部が丸見えの状態になった。

 

「……んちゅうっ。」

 

「ひぁっ!?」

 

そのしのぶの秘部に、禰豆子が口を着けた。水音がなると同時に、禰豆子の唇の感触が敏感な秘部に触れた事でしのぶもまた驚きの悲鳴を漏らした。

 

「!?」

 

炭治郎は驚くばかりで、何も行動に移せない。しかし、これは禰豆子にとって始まりに過ぎなかった。

 

「じゅるるるっ!……じゅるちゅうううぅぅっ!!」

 

「あああぁぁっ!?……まっ!?……何をっ……ああぁぁっ!!」

 

強い吸引音と共に、しのぶから悲鳴に近い嬌声が上がる。しのぶの秘部から溢れ出る炭治郎の精液としのぶの愛液が混ざった混合液を、禰豆子が吸い取って飲み込んでいたからだ。

 

「ああっ!……んあああっ!……あうぅぅっ!」

 

しのぶはどうにかして禰豆子から逃れようとしたが、禰豆子にがっちりと太腿の付け根を押さえ付けられていた。そのためしのぶは頭を左右に嫌々と降るばかりで、禰豆子から逃れる事は叶わなかった。

 

「あっ……そのっ……っっ……はぁ……はぁ。」

 

禰豆子の行動を止められる可能性が有ったのは炭治郎だけであったが、その当人は美少女二人が絡み合う様子を見て呼吸を荒くしつつ逸物を膨張させ固くしながら二人を凝視する事しか出来なかった。

 

「じゅるるっ!……んんっ〜〜。」

 

しのぶの秘部を舐めて吸っていた禰豆子であったが、不意に不満げな声を漏らす。その理由は、秘部から溢れ出る精液を思う様に飲めなかったからだ。

 

最初こそ幾ら舐めて吸っても溢れ出ていた精液だったが、非常に濃厚で粘着性がありしのぶの膣内にこびり付いていたのだ。

 

秘部の入り口とその浅い部分は、直ぐに禰豆子は口にする事が出来た。しかしその膣内の中間地点から膣奥にまでこびり付いた精液が中々、禰豆子の口内までに降りては来なかったのである。

 

「んっ!」

 

其処で禰豆子にある妙案が脳裏に浮かんだ。禰豆子は早速、その妙案を実行すべく舌をしのぶの膣内で真っ直ぐピンと伸ばした。

 

「んんっ!……えっ?」

 

限界まで突き出した舌の感触を感じて、しのぶが小さく嬌声を漏らす。だが其処から禰豆子が動きを止めた事に、しのぶは困惑を隠せない。

 

しかししのぶの困惑も束の間、その異変は直ぐに起こった。

 

「ひゃあぁぁっっ!!??」

 

「っ!?」

 

しのぶが両眼を見開いて、海老の如くビクッと身体を仰け反ってから悲鳴を上げる。そんなしのぶの悲鳴を聞いて、炭治郎もまたビクッと身体を震わせた。

 

「し、しのぶさんっ! 大丈夫ですかっ!?」

 

声色が少し異なっていたため、炭治郎は心配してしのぶに声を掛ける。

 

「やあぁぁっ!……ああぁっ!……うっ、嘘っ!?……んああぁっ!!」

 

炭治郎に心配されて声をかけられたしのぶであったが、しのぶ本人は炭治郎に応える余裕すら無いのか、嫌々と頸を左右に振って困惑の色が孕んだ嬌声を上げていた。

 

――カナエと同じ仕草してる……やっぱり姉妹だなぁ……。

 

炭治郎はそんなしのぶの様子を見てそう思いながら、その原因を作っているであろう禰豆子に視線を変える。

 

「んんっ〜〜……じゅじゅるるるるっ!!」

 

禰豆子は大きく水音を立てながら、しのぶの膣内に溜まっていた炭治郎の精液を吸収していた。

 

「……」

 

炭治郎は二人の様子を交互に見比べて、一先ず様子を見守る事にした。その最大の理由は、しのぶから拒絶感や嫌悪感を伴った匂いは発していなかったからだ。

 

「あああぁぁぁっ!!」

 

「!」

 

炭治郎がそう一考している内に、しのぶから一際大きな嬌声を上げた。再び身体を仰け反っている事から、禰豆子の愛撫に耐え切れず絶頂したのだろうという事は容易に想像出来た。

 

――でもいきなり反応が変わったよな?……禰豆子、何をしたんだ?

 

炭治郎はしのぶの急激な反応の変化を見て、禰豆子に要因があるのだろうと考える。しかし、判断する材料が少な過ぎて直ぐに断念した。だが炭治郎は禰豆子から思わぬものを見た事で、それが判明した。

 

「んんっ、じゅる……れろっ。」

 

「あぁ……はぁ……はぁ……っ。」

 

絶頂の快感が収まって荒く呼吸を繰り返すしのぶを他所に、膣内にこびり付いていた精液を全て舐め取った様で禰豆子が漸くしのぶの秘部から口を離した。

 

「っ!?!?」

 

二人を見守っていた炭治郎が、思わずギョッと驚愕の表情を浮かべて眼前の光景を凝視した。

 

「ぺろっ♪」

 

禰豆子の舌が、通常より大きく伸びていたのだ。禰豆子はその長く伸ばした舌に付いていた精液を、舌の長さを元に戻して口内に収めてからじっくりと堪能する。

 

そう、禰豆子は普段自身の身長の伸縮に使用する肉体变化を舌にのみ応用し、その長さを調整していたのだ。

 

その姿はさながら獲物を獲る時に舌を伸ばす蛙の如き光景だが、どちらかといえば蟻の巣に舌を抜き差しを繰り返して蟻を捕食する"喰蟻獣(アリクイ)"であった。

 

炭治郎の推測だが、禰豆子は喰蟻獣(アリクイ)の如く長く伸ばした舌の抜き差しをしのぶの秘部へ繰り返して、こびり付いていた精液を舐め取っていたのだろう。

 

しのぶもまた膣奥まで舐められるという、人間では有り得ない感覚と快感を感じていたのだ。同時に困惑を覚えるのも、無理も無い話であった。

 

「はぁ……はぁ……禰豆子さん……っっ。」

 

「「っ!」」

 

しのぶが禰豆子を呼ぶ声を聞いて、禰豆子が気付いた様子で振り返る。炭治郎もまた、禰豆子と同様に反応する。

 

しかし、炭治郎と禰豆子では反応に差が生じていた。禰豆子は無警戒にしのぶへ振り向いたのに対して、炭治郎は嫌な予感に駆られながら振り向いていた。

 

何故なら、しのぶからは苛立ちと怒りの匂いがプンプンと漂っていたからである。

事実、しのぶは笑みと同時に青筋も浮かべていたのだ。その表情もまた、怒りで赤く染まっていた。

 

「「……っ。」」

 

ビクッと一度だけ身体を震わせて、竃門兄妹は咄嗟に頭を俯かせた。しのぶを見る。二人は直ぐに説教や叱咤が飛んで来ると思ったからだ。

 

「………………」

 

しかし、しのぶの表情や雰囲気から怒気などといったものは消失していた。先刻とは打って変わって、しのぶの美貌からは血の気が引いた様に青褪めていた。

 

「うっ?……?」

 

「しのぶさん……?」

 

竈門兄妹は首を傾げて、心配そうにしのぶの様子を見る。しのぶが血の気を引く程に青褪める心当たりが、二人には思い浮かばなかったからだ。そして間も無くそれは起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「っ!?!?」」

 

まるで此の世の終わりでも迎えたが如く、突如としてしのぶは悲痛な悲鳴を上げた。そんなしのぶの悲鳴を聞いて、竈門兄妹は咄嗟に反応出来ずに固まってしまう。

 

 

 

ドドドドドドドドドッ!!!

 

 

 

「しのぶ様っ! 如何なさいましたかっ!?」

 

其処へ薬師寺邸の女性主人であるひさが複数の使用人と共に、その老齢を伴わない健脚を以て走りながら炭治郎達の居る部屋の前までやって来た。

 

「開けるなぁっ!!!」

 

「「「っ!!!」」」

 

拒絶感を全開にしてしのぶがそう叫ぶ、現場はシンと時間が停止したが如く静かになった。

 

焦燥していたしのぶであったが、その実、行動は非常に冷静で素早かった。

何故ならひさ達が部屋の前までやって来る前に、しのぶは禰豆子を引っ張って寝かせたからだ。

 

そうした理由はただ一つ。ひさ達に知られない様に、存在を悟らせない様にするために、禰豆子を隠さなければならなかったからである。

 

「!」

 

炭治郎もしのぶの行動理由を察して、特に何か文句を言う事は無かった。尤も、正確には言えなかったとも言えたが。

 

「……何故来たのです? おひささん……私は決して、誰もそちらから人をこの部屋に寄越さない様にと言った筈ですよ?」

 

しのぶは青筋を浮かべながら、襖越しにひさを睨み付けて咎める様にそう責め立てた。

 

「……申し訳ございませぬ。しかし、悲鳴の様なものが聞こえましたもので、つい……。」

 

「それに関しては、お騒がせして申し訳ありません。ですが何でもありませんから、戻って下さって大丈夫です。」

 

ひさが襖越しにしのぶへ謝罪すると、しのぶもまたひさに謝罪して部屋の前から去る様に伝えた。

 

「何かあれば、私が直接言いに行きます。下がって頂いて構いません……ただお手数ですが、六時を過ぎたらお風呂に入りたいのでそれだけ用意して頂けますか?」

 

「……畏まりました。お時間に合わせて、朝餉もご用意致します。」

 

「お気遣い、ありがとうございます。おひささん。」

 

感謝の言葉をしのぶに述べられたひさは、そのまま使用人達を連れて部屋の前から立ち去った。

 

「……はぁ……っ。」

 

ひさ達が去って行くのに比例して足音と気配が遠ざかって行くのを耳にして、しのぶは漸く安堵した様子で溜息を吐いた。しかし、それも束の間の一時だけであった。

 

「禰豆子さんっ、大丈夫っ!? 何とも無いっ?!」

 

「……うっ?」

 

しのぶは焦燥感を隠す事無く、冷や汗を流しながら本来なら嫌な筈の禰豆子の身体を拒絶感など一切皆無であるかの様に、ベタベタと積極的に触って行く。

 

その姿はまるで触診を行っている様であった。否、紛れもなく触診であった。

 

「あ、あの……しのぶさん。」

 

「今は大丈夫みたいだけど……あぁ~~どうしようっ……一体どうしたらぁ~~。」

 

しのぶを控えめに呼んだ炭治郎だったが、禰豆子の触診を終えたしのぶには届いて居なかった。先刻の焦燥感をその美貌に貼り付けて、しのぶは両手で頭を抱えながら困り果てていた。

 

「しのぶさん……あの、何を焦っているんですか? 俺にも分かる様に説明してくれると、大変助かるのですが……。」

 

「……っ。」

 

炭治郎は再び控えめながらも、されどはっきりとしのぶに状況の説明を求めた。自身が現況を理解しなければ、しのぶの力になれないからだ。しかしそれでも、今の炭治郎でもはっきりと分かる事がある。

 

それはこの状況に、禰豆子が深く関わっているという事だ。するとしのぶがジト目で、炭治郎を静かに睨み付けた。それからゆっくりと、しのぶは開口する。

 

「……知っているでしょう? 私の身体は現在(いま)、高濃度の藤の花の毒が蓄積されているのよ。」

 

「はい。それは勿論、俺にも分かっています。それが何か……はっ!?」

 

しのぶの指摘を受けるも、炭治郎は指摘の真意が理解出来ていなかった。しかし、ある事を思い出してハッとなる。

 

「禰豆子は先刻(さっき)、しのぶさんのお股を舐めてた……っ。」

 

「えぇ。私の愛液ごと、炭治郎君の精液を全部舐め取ってしまったのよね……っ。」

 

しのぶがこめかみを抑えながら呟く様に小声でそう言うと、炭治郎の顔色がゆっくりと青褪めていった。

 

「ね、禰豆子が毒を……しのぶさんっ! 一体どうしたらっ!!」

 

最愛の妹である禰豆子が毒に冒された可能性がある所為か、炭治郎は冷静さを失って半ば取り乱しながらしのぶに助けを求める。

 

「っ!……炭治郎君、落ち着いてっ……落ち着きなさいっ!」

 

最愛の恋人である炭治郎に其処まで想われている禰豆子に、しのぶは思わず嫉妬心を抱いたが直ぐに振り払って炭治郎に冷静になる様に諭した。

 

「っ!」

 

しのぶに強く諭された炭治郎は、我に返って冷静さを取り戻した。それを見てしのぶは、炭治郎に自身が下した診断結果を述べ始めた。

 

「禰豆子さんが私と炭治郎君の混合液を吸収してから、もう数分が経過しています。これが普通の鬼なら、もう効き始めている……少なくとも、効能の前兆すら起きていないのは確かです……だから禰豆子さんはまだ大丈夫……な筈よ。」

 

「……」

 

炭治郎を安心させようと診断結果を述べようとしたしのぶであったが、確信が無いのか徐々に自信が失われていくしのぶの発言に、炭治郎は逆に不安を煽られる。

 

「うっー?」

 

最悪の場合、自身の命が脅かされているかもしれない現状に対して何一つ危機感が全然感じられない呑気な声を上げつつ、こてんと首を傾げて二人のやり取りを禰豆子はのんびりと見ていた。

 

禰豆子の様子を見れば、炭治郎としのぶのやり取りに対して何一つ分かっていないと理解するのは火を見るよりも明らかであった。

 

「……っ。」

 

禰豆子の無事な様子を見て、炭治郎も平静を努めつつしのぶに質問を始めた。

 

「しのぶさん。禰豆子に丸薬(くすり)を飲ませてはどうですか? 俺達と同じ藤の花の解毒薬を。」

 

「無駄ね。あの丸薬(くすり)は飽くまで人間用であって、鬼の禰豆子さんに同じ効能を発揮するとは思えないわ。」

 

炭治郎は禰豆子に解毒薬を服用させる事をしのぶに提案したが、しのぶは種族間による問題から却下した。

 

「っ……じゃあ、今からでも鬼用の解毒薬(くすり)を作るというのは……っ!」

 

「無理よっ! 此処は蝶屋敷じゃないのっ! 製薬に必要な設備も無ければ、勿論材料だって一つも無いっ!……第一、私は鬼を殺す毒は作れても、鬼を生かす薬なんて作った事も無いわよっ!!」

 

自身の不甲斐無さから自己嫌悪に駆られながら、しのぶは炭治郎にそう反論した。

 

炭治郎は無理を承知で製薬を提案したが、薬というものは一朝一夕で作れる物では無いのだ。

 

如何に毒の種類を見抜いただけで必要な薬を瞬時に製薬出来る鬼才の持ち主であるしのぶであっても、材料が無くてはどうしようも無い。

 

飽くまでしのぶは薬草や毒草から薬を生み出す薬師寄りの医者であって、無から有を生み出せる様な魔法使いでは無いのである。

 

自身の不甲斐無さに自己嫌悪を抱いたしのぶだが、それについてはもう一つ理由があった。

 

それは死んだ最愛の姉であるカナエの夢であった「鬼と仲良くなる」と言う夢を受け継いだ身でありながら、鬼を殺すための毒薬作りしかして来なかった過去の自分への嫌悪感に襲われたのだ。

 

――それを考えると禰豆子さんのために薬を作ろうとしている、珠世って女の方がよっぽど炭治郎君の力になってるわね。

 

生かす薬は専ら被害者や仲間である人間のための物ばかりであり、鬼を救うための薬という発想自体が炭治郎に言われるまでしのぶには存在しなかった。それを意図も簡単にやってのける珠世に、しのぶは思わず嫉妬心を抱いた。

 

――……くっ! かと言って藤の花の毒が禰豆子さんに効かない事を神頼みするだけで、私が……私達が何もしない訳には……っ!!

 

しかし、しのぶはその明晰な頭脳を焼き切れんばかりに回転させて解決方法を模索する。尤も、それは鬼の禰豆子のためというよりも、最愛の炭治郎を悲しませないためという意味合いが強かったが。

 

――そうだわっ!……これしかないっ!! 何よっ、簡単じゃないっ!

 

すると其処へ、しのぶはある解決方法を思い付く。その思い付いた解決方法とは、しのぶにとって目から鱗が落ちる思いがした解決方法であった。

 

「炭治郎君っ! 今直ぐ禰豆子さんを抱いて下さいっ!!」

 

「はいぃっ!?」

 

しのぶが唐突に口にした提案に、炭治郎は思わず狼狽する。

 

「しのぶさん、本気で言ってます!?」

 

「私は至って大真面目よっ!」

 

炭治郎がしのぶに正気を確認する様に尋ねると、しのぶは即答して炭治郎に答えた。

 

「炭治郎君の精液を禰豆子さんに吸収させ続けて、少しでも藤の花の毒の影響が及ばない様にする。今はこれしか方法がありませんっ!」

 

「っ!」

 

しのぶが断言する様に自身が思い付いた方法をはっきりと公言すると、炭治郎も咄嗟に荒唐無稽と反論する事が出来ない。

 

「と言う訳で……早速ですが炭治郎君、早くその日輪刀を抜刀して下さい。」

 

「いや、あの……っ。」

 

しのぶにそう言われた炭治郎だったが、即座に了承する事は出来ない。

 

何故なら炭治郎は先刻の騒動の所為で、自身の逸物はすっかり萎縮して萎えてしまったからだ。

 

それでも炭治郎の逸物は常人男性の平均的な逸物よりも目を見張るものであったが、このままでは禰豆子と情交(セックス)する事は出来ないとまでは言わないものの、速やかに実行に移すのは難しいと言えた。

 

「でしたら、私が勃たせて差し上げましょう……はむっ。」

 

「あっ……。」

 

「あっ!?」

 

しのぶが炭治郎の逸物を復活させるべく、早速口淫(フェラチオ)を始めた。逸物から感じる生暖かい感触に触れて、炭治郎は息を漏らす。対して未だにお預けを喰らっている禰豆子は、しのぶに不満の声を漏らした。

 

「じゅる❤……れろれろ❤……禰豆子さんは(ねずゅきょひゃんは)……其処で(ひょこへぇ)……ぢゅる❤……待っていなさい(みゃっへぇいにゃひゃい)…ずるるるるるるっ!❤❤」

 

「っ!……うぅ〜〜〜っ!!!」

 

炭治郎の逸物を根本まで加えながら、しのぶがピシッと人差し指を立てて禰豆子を静止させる。尤も、逸物を頬張り口淫(フェラチオ)をしながら喋っていたため、殆ど言葉として成立していなかった。

 

しかし、禰豆子には意味がきちんと通じたのかしのぶを涙目で睨み付けていた。そんな禰豆子を余所に、しのぶは口淫(フェラチオ)を続け精子が溜まっているであろう陰嚢を優しく揉み解していた。

 

「んじゅるうぅっ!❤……んんっ!!❤……あぅんっ❤」

 

しのぶの口内で、炭治郎の逸物に血が集まって勃起していく。それを感じてしのぶは、ある種の満足感が胸中に宿っていた。

 

「はぁ……しのぶさん、其処良いですっ……一回出しても良いですかっ?」

 

「っ!」

 

しのぶの口淫(フェラチオ)の気持ち良さに、炭治郎は酔い痴れていた。そして完全に勃起した逸物から、その濃厚な白濁の溶岩を発射する許可をしのぶに求める。

 

尤も、この許可を求める問い炭治郎にとっては形式的なもので、直ぐにでも射精しようとしていた。しかし、此処で炭治郎はしのぶに予想外の行動を取られる。

 

「駄目です。」

 

「あぐっ!?!?」

 

しのぶがいきなり口淫(フェラチオ)を止めて逸物から口を離すと、拒絶の言葉と共に炭治郎の逸物の根本をギュッと強く握ったからだ。

 

幾らしのぶが非力とはいえ、急所である逸物を握り締められては炭治郎も悶絶して声を漏らすのは仕方がない事であった。

 

「し、しのぶさん……何で……?」

 

湧き上がっていた射精欲求が消失した炭治郎は、涙目になりながら未だに強く逸物を握り締めているしのぶに尋ねた。するとしのぶから返事は直ぐに帰って来た。

 

「今は持っている精液を全部、禰豆子さんに注がなければならない刻です。無駄打ちは許しません。」

 

「!」

 

炭治郎はしのぶにそう言われて、思わずハッとなった。

 

しのぶが言った様に、炭治郎の精液が禰豆子にとっての薬代わりなのである。それを自身の欲望を発散させるためだけに射精するなど、以ての外と言えた。

 

また炭治郎はしのぶから強い欲求の匂いがしたが、飽くまでも禰豆子を優先して自身の欲望を抑え込む姿を見て、自身の耐性の無さを恥ずかしく思った。

 

「すみませんでした。しのぶさん……。」

 

「大丈夫ですよ。気にしないで……ちゅっ❤」

 

シュンとなって謝罪する炭治郎に、しのぶは慰める様に右頬に口付け(キス)を落とした。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……。」

 

二人のやり取りを見続けていた禰豆子は、息を荒く涎を垂らしながら秘部に触れ指を出し入れして自慰を繰り返していた。

 

「……禰豆子、待たせたな。」

 

「ああっ!……あああっ!!」

 

炭治郎がギンギンに勃起させた逸物を片手で握りながら、禰豆子に接近して行く。禰豆子もまた炭治郎から放たれる熱量を浴びて、自分から股を開いて逸物を挿入しやすい様に態勢を整える。禰豆子の秘部からは既に大量の愛液が分泌されており、股の下は既に愛液溜まりが出来ていた。

 

 

 

ズブッッ!

 

 

 

「あああぁぁっっっ~~~~!!!!❤❤❤」

 

何の前触れも無くいきなり逸物を膣内へと挿入された禰豆子は、身体を弓形に反って激しく絶頂した。

 

「んぐっ!……あぁっ!」

 

そして炭治郎もまた、しのぶの口淫(フェラチオ)によって暴発寸前だった逸物を直ぐに爆発させる。

 

 

 

ドビュビュビュビュゥゥゥゥッッッ!!!!

 

 

 

「んひいいぃぃぃぃっっっっ!!!❤❤❤」

 

「あっ!……うぁっ!!」

 

勢い良く放たれた白濁の溶岩を浴びて、禰豆子は再び絶頂する。白濁の溶岩が禰豆子の狭い膣内を瞬時に埋め尽くしたが、次の瞬間には体内に吸収されて消滅した。

 

「あ――……うぅ――っっ❤」

 

「禰豆子……ちゅっ。」

 

禰豆子は満たされた歓喜を胸中に抱きながら、炭治郎を抱き締めて感謝を示す様に口付け(キス)を行う。炭治郎もまた、愛おしそうに禰豆子に口付け(キス)を返した。

 

「んんっっ!❤……んぢゅううぅぅっっ!!❤」

 

「んんっ!?」

 

最初こそ唇が触れる程度の口付け(キス)であったが、直ぐに物足りなくなって禰豆子が炭治郎の唾液を吸い付くさん勢いで舌を炭治郎の口内に入れる。

炭治郎は禰豆子の勢いに圧倒されて戸惑っていたが、それも最初だけで直ぐに応戦した。

 

「ずちゃっ!……くちゃくちゅ……じゅるるうっ!!」

 

室内に水音が何度も跳ねる音が響き渡る。その音に反応していたのは、竈門兄妹だけでは無かった。

 

「あぁ……くぅっ~……っっ!」

 

しのぶは口付け(キス)をする竈門兄妹を見て、嫉妬心から悔しそうに身体をくねらせて悶えていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ああぁぁんっ!❤……んああああぁぁぁぁっ!!❤❤」

 

「ふぅっ! ふぅぅっ!……禰豆子っ!……可愛いぞ、禰豆子っ!!」

 

治療という大義名分の下、未だに竈門兄妹による禁断の情交(セックス)が続いていた。

 

「あひいぃぃっ!❤……あああっ❤……はああぁんっ!!❤❤」

 

押し潰される様に炭治郎に覆い被さられた禰豆子だったが、寧ろその圧迫感が堪らない様子で陶酔しながら炭治郎を強く抱き締めていた。

 

「はあぁっ!❤……禰豆子さんっ……なんて気持ち良さそうなのっ……くぁっ!❤……羨ましいぃっ!……っっ!」

 

息を荒くして身体をモゾモゾとしながらも、竈門兄妹を見守っていたしのぶ。

しかし暫く時間が経過してからついに耐え切れなくなって、上半身を前のめりにして秘部に指を出し入れして掻き回していた。

 

しのぶの股下には、既に愛液溜まりが出来上がっていた。

 

しのぶはこの情交(セックス)自体が禰豆子を助ける事、そして禰豆子にとって食事であり医療行為の側面が強い事は理性面では重々承知している。

 

しかしそれでも自分を差し置いて、眼前で炭治郎に愛されている禰豆子に対して強い嫉妬心と羨望の念を抱きながら呪詛を吐いていた。

 

 

 

ビュルルルルウウュゥゥゥゥッッッ!!!! ドピュピュピュピュピュゥゥゥッ!!!!

 

 

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!❤❤❤」

 

未だ勢いが衰えない炭治郎の逸物から、新たに濃厚な白濁の溶岩が大量に禰豆子の膣内を埋め尽くす。同時に禰豆子も、膣内に入り込んだ極上の栄養源を一滴も零す事無く吸収していった。

 

「~~~っ!!!」

 

禰豆子が絶頂したと同時に、しのぶも不覚ながら同じ瞬間(タイミング)で絶頂する。

 

――あぁ……イっちゃった……せめて炭治郎君の手でイキたかったなぁ……。

 

その事が、しのぶにとっては悔しくて堪らなかった。どうせなら自慰による自分の手では無く、炭治郎の手で絶頂したかった。

 

「ああぁ❤……はあぅん❤……あぁ❤」

 

「はあぁぁぁ……はぁ……はぁ……。」

 

「っ!……はひぃんっ!❤……ああぁぁんっ!!❤」

 

息を整えた炭治郎が、再び反復動作(ピストン)を繰り返す。快楽の波が収まり掛けていた禰豆子は再び強い快感を感じて嬌声を上げる。

 

「……っ。」

 

再び始まった竈門兄妹の情交(セックス)を見て、しのぶの我慢の限界が来てしまう。

 

「わっ!?」

 

炭治郎が不意に、驚いた声を上げる。炭治郎が驚いた理由は、背中にぶつかって来た衝撃からだ。しかしその衝撃は炭治郎に痛みを齎すものでは無く、その感触は柔らかかった。

 

「どうしました? 情交の動きが止まってますよ。」

 

「えっと、しのぶさんっ?」

 

炭治郎が頸を動かして横目で背後に眼をやると、其処には自身に抱き着いてその豊満な乳房を背中に押し付けて来ていたしのぶの姿があった。余裕の笑みを浮かべているしのぶだが、それは表面上だけのハリボテに過ぎない。

 

実際のしのぶは余裕など一切無かったのだが、それを炭治郎に悟らせない様にしていた。通常なら炭治郎の嗅覚が直ぐにしのぶの虚勢を看破しそうなものだが、部屋中に漂う淫靡な匂いが幸運にもしのぶに味方した。

 

「私の事は気にせず、どうぞ続けて下さいな……私は私なりに、楽しませて貰いますから。」

 

しのぶはそう言うと身体を上下に揺らして、自身の豊満な乳房を炭治郎の背中に擦り付け始めた。

 

「うっ……しのぶさんの乳房(おっぱい)……(ゴクッ!)。」

 

何度愛撫を繰り返しても飽きないしのぶの乳房の感触を背中で感じて、禰豆子を優先して炭治郎は生唾を飲み込んでグッと欲望を堪えて反復動作(ピストン)を再開させた。

 

「ひゃぁっ!?❤……ああぅっ!!❤……んああぁぁんっ!!❤❤」

 

しかし代わりに炭治郎の逸物が反応して、大きさと固さが増して行く。それを直接感じ取った禰豆子が思わず跳ねる様な嬌声を上げた。

 

 

 

ドピュピュッッ!! ビュビュルルルルルゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!!

 

 

 

「ひゃあああああぁぁぁぁんんっっっ!!!❤❤❤」

 

其処から少しして、白濁の溶岩が禰豆子の子宮目掛けて襲い掛かって来た。禰豆子は背中を弓反りにして絶頂しながらも、本能で炭治郎の精液を吸収していく。

 

「はあぁぁぁ~~……気持ち良いぃ……。」

 

射精による快感と背中に当たるしのぶの乳房の二種類の感覚を味わいながら、炭治郎は腰を震わせて絶頂する。

 

「はぁ❤……はぁ❤……はぁ❤」

 

自身の豊満な乳房を炭治郎の背中に擦り付けていたしのぶは、息を荒くしながらもその行為を続けていた。しのぶの秘部からは変わらず大量の愛液が溢れ出ており、更に新たな愛液溜まりを作っていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

パァン! パァン! パァン!

 

 

 

「あぁんっ!❤……あああぁっ❤……あああ~~っ!!❤」

 

衰え知らずの炭治郎に激しく突き込まれて、禰豆子は布団を両手で鷲掴みにして腰を度々宙に浮かせながら嬌声を上げていた。

 

「はぁ❤……れろっ❤……ひゃぁん❤……ぁあん❤……炭治郎くぅん❤……ちゅるるっ❤」

 

最初は乳房だけを押し付けていたしのぶは甘い嬌声を上げながら、炭治郎の身体を愛撫していた。口で吸い舌で舐め、手を、足を、乳房を、腹部を、秘部を乞う様に炭治郎に擦り付けていた。

 

炭治郎は禰豆子に対して既にしのぶの三倍近い回数の射精を行っており、遂に余裕が無くなったしのぶが炭治郎に媚びる様に全身を使って愛撫していたのだ。

 

「禰豆子……禰豆子……っ。」

 

「……っ。」

 

しのぶの身体の感触を味わいつつも、炭治郎の意識と視線は禰豆子にのみ集中していた。その事実が、しのぶにとっては酷く悲しかった。

 

「はぁ……ひっく……うぅっ……たんじろうくんの……ばかぁ……。」

 

「っ!!」

 

遂に取り繕え無くなったしのぶは、嗚咽を漏らしながら炭治郎を罵倒する。そんなしのぶの悔し気な嗚咽を聞いて、炭治郎の意識は漸くしのぶにも向けられた。

 

 

【挿絵表示】

 

提供:椿様

 

「なんですかぁ?……私の事なんか放っておいて、禰豆子さんの()()を続けたら良いじゃないですかぁ……ふんだっ。」

 

「しのぶさん……。」

 

そのしのぶは涙目になりながら頬を河豚の如く膨らませて、詰まらなそうに拗ねている。寂しい匂いを放っているそんなしのぶの姿を見て、炭治郎は申し訳無さそうな表情を浮かべた。

 

「あんっ!❤……あああっ!❤……ああんっ!!❤」

 

尤も、だからと言って禰豆子への攻め手は緩める様な真似はしなかった。しかし、同時にしのぶへの行動にも移り始めていた。

 

「しのぶさん……ちょっと前に出て横に来て頂けますか?」

 

「えっ……?」

 

しのぶが戸惑う様に声を漏らすと、炭治郎が待ち切れず身体を捻って左腕をしのぶの腰に回して横へ移動させた。

 

「あっ!……炭治郎君っ……っ!❤」

 

「せめて、愛撫だけでもさせて頂きます……んっ。」

 

「んんっ!?❤」

 

炭治郎が両眼を瞑ると、しのぶに口付け(キス)を落とした。不意打ちに近い口付け(キス)を受けて、炭治郎とは対照的に驚愕から両眼を限界まで見開いたしのぶ。しかし直ぐにトロンと両眼を蕩けさせて炭治郎からの口付け(キス)を受け入れた。

 

「んちゅうっ❤……んんううぅぅぅっ!!❤……じゅるぢゅるるるるっ!!❤❤」

 

しのぶが炭治郎からの口付け(キス)を受け入れて、幸せに浸かっていたのも束の間だけ。直ぐに貪る様に炭治郎の口内へ向かって、舌を出し入れして唾液に吸い付き始めた。

 

「んんんっっ!!……ぢゅるるっ!……ちゅうううっ!」

 

炭治郎も負け時と舌で迎え撃ち絡ませながら唾液を吸う。それだけでなく左手で乳房を揉んで乳首を摘み、右手を伸ばして秘部に指を入れ、時には陰核(クリトリス)を指の腹で優しく摘まんで愛撫を行う。

 

「あああっ!❤……はううぅぅぅっ!❤……あぁんはあぁぁんっ❤❤」

 

「ちゅううぅぅっ!❤……ちゅるるちゅるっ❤……ひゃ❤……あん❤……んんっっ!❤……んうぅぅっ!!❤」

 

美少女二人の二重奏の嬌声が部屋中を響く。炭治郎は興奮しながら禰豆子の子宮目掛けて腰を上に向かって振り、しのぶへの愛撫は更に力を入れて行う。そうしている内に、間も無く三人に快楽の大波が襲う。

 

 

 

ビュルルルルルルルゥゥゥゥゥッッッ!! ビュルルルルルルルルゥゥゥゥゥッッッ!! ビュルビュルビュルビュルッッ!!

 

 

 

「あああああ~~~~~~っっっ❤❤!!」

 

「「~~~~~~~~~~~~っっっ!!」」

 

三人はほぼ同時に絶頂した。快楽の大波を受けてそれぞれ痙攣するが、それが治まると再び情交(セックス)を再開させる。それから炭治郎は禰豆子が気絶しても、朝になるまで精液を注ぎ続けた。勿論、しのぶへの愛撫の手も一切緩めなかった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十一日(火)

時間帯:早朝

天気:曇り

 

「すぅ……すぅ……すぅ……。」

 

「……はぁ~~っ。」

 

「お、お疲れ様です。しのぶさん。」

 

朝を迎え外に明かりが宿る。長い雨は漸く止んだが、それでも雲は晴れず太陽が差す事は無かった。尤も、禰豆子にとってはその方が良かったのだが。

 

五時を過ぎた辺りから既に日出時間を過ぎていたのだが、陽光が刺さなかった事を良い事に治療という大義名分を掛けた情交(セックス)が続き、少し前に漸く終了していた。

 

禰豆子は現在、炭治郎が持って来た日除け箱の中で身体を拭かれ着物を着せて貰って、満足そうに寝息を立て寝ている。そんな禰豆子を余所に疲労困憊といった様子で溜息を吐くしのぶと、そんなしのぶを労う炭治郎が居た。

 

「……結局、禰豆子さんの身体には何の異常も見受けられませんでした。」

 

げんなりとした様子で自身が下した禰豆子の診断結果を、喉奥から絞り出す様にしのぶは炭治郎へゆっくりと告げた。

 

「そ、それは良かったです。本当に……これって俺の精液を禰豆子が摂取したからでしょうか?」

 

「……」

 

しのぶから禰豆子の診断結果を知らされると、炭治郎は安堵しながらその要因についてしのぶに質問した。するとしのぶは苛立ちを隠す事無く、こめかみを押さえながら炭治郎に応える。

 

「確証は残念ながらありません。ですが藤の花の毒の耐性に関しては、炭治郎の精液を摂取した事による影響が一因となっています……その筈です……というか、そう思わないとやってられません。」

 

「……えっ?」

 

言葉の最初は至極真面目な分析であったというのに、後半が感情的で自暴自棄気味に吐き捨てられた愚痴であった事から、炭治郎が思わず戸惑いながらしのぶを見る。

 

「……私が良い思いをしたのは最初だけで、後は全部禰豆子さんに持って行かれてしまいました……"鳶に油揚げを拐われる"とはこういう時の事を言うんでしょうか?」

 

禰豆子が入っている日除け箱を、青筋を浮かべながらしのぶが睨み付ける。

 

「しのぶさん……えっと、その……。」

 

そんな不機嫌なしのぶを見て、炭治郎は何と言って声を掛ければ良いのか悩んで口を詰まらせた。

 

「……っ。」

 

良い言葉が思い付かない炭治郎、言葉を口にするのではなく、行動に移す事を決意した。

 

「しのぶさん。」

 

「っ!」

 

炭治郎がしのぶの名前を呼んでから、ギュッと優しくしのぶを抱え込む様に抱き締めた。

 

「……っ❤」

 

炭治郎に抱擁されたしのぶは、頭を自身には無い逞しい胸元に押し当てられた。片耳から入って来る炭治郎の心臓音が、しのぶにとってまるで子守唄の様に聞こえて来て自身が抱えていた苛立ちや嫉妬心が消滅していく。

 

「もう一泊……という訳にはいきませんから、蝶屋敷で皆が寝静まってから、二人の時間を作りましょう。俺からしのぶさんのお部屋に行きましょうか?」

 

「っ!……それも良いですね、ふふ❤」

 

炭治郎の提案を聞いて、しのぶがうっとりとした表情を浮かべながら承諾した。

 

「でしたら……先ずはお風呂に行った方が良いですね。炭治郎君、一緒に行きましょうか?」

 

「っ! は、はいっ! 喜んで!」

 

しのぶに風呂の同伴を誘われた炭治郎は、即答して快諾した。そんな炭治郎の反応を見てしのぶは炭治郎を牽制する様に人差し指をピンと伸ばして、その鍛えられた胸元に押し当てる。

 

「言っておきますが、情交(おイタ)は無しです。おひささんに同じ事で怒られたくありませんし……歯止めが掛かりそうにありませんから。」

 

「っ!」

 

最初こそ建前を口にしたしのぶだったが、頬を赤くして照れながら本音を言うしのぶを炭治郎は驚いて見詰めた。

 

「‥…はいっ! 分かりました!!……ふふっ。」

 

「もう……笑わないで下さいな……っ。」

 

炭治郎は元気良く承諾したが、堪え切れず小さく笑う。しかしその堪えた笑声をしっかり耳にしたしのぶが、拗ねた様に炭治郎に抗議した。

 

 

 

 

 

 

風呂で身体を綺麗にした後、用意された朝食を食した炭治郎としのぶはは蝶屋敷に帰還するべく、薬師寺邸から出発する準備を整えた。

 

「しのぶさん、こっちです。ほらほら、早く。」

 

「待って下さい、炭治郎君。一体何なのですかっ、全く……。」

 

禰豆子の入った箱を背負いながら、隊服に着替えた炭治郎はしのぶと手を繋いである場所へと向かっていた。事情が分からないしのぶは怪訝としながらも、炭治郎に引っ張られて付いて行く。

 

「到着しました。此処です。」

 

「……っ!」

 

炭治郎に案内されたしのぶ、漸く案内された場所が何処なのか見当が付いた。

 

二人が居る場所は薬師寺邸の庭園が見える縁側であった。そしてそこから見える庭園は、しのぶが隠していた闇を祓い、炭治郎と結ばれた思い出の場所であった。

 

「……あそこで、俺はしのぶさんと本当の意味で結ばれたんですよねっ。」

 

「ええ……今思い出すと、少し恥ずかしいわっ。」

 

炭治郎が嬉しそうに言うのに対して、しのぶは羞恥心から少し頬を赤くして応えた。

 

「まぁそう言わずに。俺にとっては何ものにも代えがたい、宝物の様な思い出ですよ。」

 

「……私だってそうです。炭治郎君、此処は私達二人だけの、大切な思い出の場所よ。……おひささんに頼んで、この屋敷を買い取っちゃいましょうか?」

 

「あははは、しのぶさんなら本当に出来そうですね。」

 

しのぶの提案に、まんざらでも無い様子で炭治郎は笑って応えた。

 

「「……」」

 

触れるか触れないかと言う距離を維持していた二人は、そのままくっ付いて互いの肩を抱き合う。

 

「炭治郎君、ありがとう……私を選んでくれて……っ❤」

 

「俺の方こそ、選んでくれてありがとうございます。しのぶさんっ。」

 

互いに選んでくれた事に感謝の言葉を述べると、互いの肩を抱き合っていた手に力と熱が籠った。

 

二人の間に甘い空気が流れる。しかし、思わぬ第三者がその甘い空気を吹き飛ばす。

 

 

 

みゃおぅ

 

 

 

一匹の猫の鳴き声が薬師寺邸の縁側に響く。その猫は三毛猫で背中に革製の背嚢を背負っており、胸に目の紋様を描いた符を着けていた。珠世の愛猫、茶々丸である。

 

「あっ! 茶々丸!!」

 

「きゃっ!?」

 

「っ!……っと。」

 

炭治郎は茶々丸の姿を認識すると自分から近付こうとした。しかし、そうはならない。何故ならしのぶが炭治郎の後ろに回って、禰豆子の入っている箱を掴んでいたからだ。あの三毛猫に近付かないで、と言わんばかりに。

 

すると茶々丸の方から炭治郎達に近付いて、背中の背嚢を見せる。

 

炭治郎はしのぶから怯えの匂いを嗅ぎ取って、その恋人の可愛い様子に苦笑しながら、必死に手を伸ばして背嚢を開ける。

そこには一通の手紙と茶々丸が着けている愈史郎の符が十枚、そして空の採血の短刀が二振り入っていた。

 

「ありがとうね。茶々丸。」

 

炭治郎は茶々丸に礼を言いながら、採血の短刀と手紙と符を受け取り、手紙の内容を確認するために開封する。

 

茶々丸はしのぶに嫌われている自覚があるのか、炭治郎達から自ら距離を取る。そのため、しのぶも再び行動を移れる様になる。

 

しのぶは茶々丸の気遣いに感謝しながら、炭治郎の背後から手紙の内容を確認する。

 

 

 

拝啓 

 

炭治郎さんと胡蝶しのぶさんへ

 

何時も鬼の血の提供と此度のお手紙ありがとう。

 

お二人からのご提案とそのお気持ち。最初こそ迷いましたが、鬼舞辻無惨を倒すために私達はご提案を受けたいと思っています。

 

しかし、残念ながら今直ぐと言う訳には参りません。

 

何故なら、炭治郎さんと私が出会った時に巻き込まれ、無惨に鬼化させられた浅草の男性が、未だに正気を取り戻せていないからです。

 

私と愈史郎だけでもご迷惑でしょうに、意識が戻れば暴れる鬼がいてはお二人の鬼殺隊のお立場を悪くしかねません。

 

ですので浅草の男性の容態が落ち着くまでは、ご提案を辞退したいと思います。

 

どうかご理解の程、よろしくお願い致します。

 

最後に、胡蝶さんに頼まれていた愈史郎の『紙眼』を入れて置きますので、好きな様に使って下さい。

 

因みに私達は『紙眼』を略称して、『目』と呼称して呼んでいます。

 

この『目』ですが、使用する上で注意しなければならないのは、陽光に当たってしまうと塵になってしまうのでその点だけご注意下さい。

 

お二人の多幸多福、心よりお祈り申し上げます。

 

珠世より

 

 

 

手紙の内容を見た炭治郎は、提案が受け入れられなかった事に残念に思いながらも、その事情を理解して納得していた。一方でしのぶは手紙の内容の一部が理解出来ず、炭治郎に質問する。

 

「炭治郎君。手紙に書いてある浅草の男性とはどなたの事ですか?」

 

「はい。実は浅草で……。」

 

炭治郎は浅草での出来事を詳細に説明すると、事情を理解したしのぶは納得した。確かに暴れる鬼がいては、流石のしのぶも蝶屋敷に招く事は出来ない。

 

そう思うしのぶの視線がある物に止まる。それは空の採血の短刀である。しのぶにある考えが一つ、脳裏に浮かんだ。

 

「炭治郎君、その採血の短刀。私に貸してくれる?」

 

「採血の短刀を?……分かりました、どうぞ!」

 

「ありがとうっ。」

 

しのぶは採血の短刀を受け取ると、陽光が禰豆子に当たらないよう注意しながら、箱を開けるしのぶ。

 

「禰豆子さん、ごめんね。」

 

しのぶはそう言って謝罪の言葉を口にしてから、採血の短刀を禰豆子に刺して禰豆子の血を採血する。禰豆子の血で満たされた採血の短刀を、しのぶは炭治郎に返却する。

 

「これを、あの猫……茶々丸にお願いっ。」

 

「分かりました……茶々丸っ!」

 

炭治郎が茶々丸を呼ぶと、茶々丸は炭治郎に近付いて行く。炭治郎は採血の短刀を茶々丸の背嚢に入れる。

 

「これを珠世さんへ届けておくれっ。」

 

「(コク)……みゃおぅ。」

 

茶々丸が鳴くと再び姿を消してその場を去った。昨日と同じように炭治郎は「お願いねー!」と声を掛けた。炭治郎は茶々丸がいたところを暫く見詰めた後、しのぶに質問をした。

 

「しのぶさん、どうして禰豆子の血を採血したんですか? この前、鬼を倒した時に禰豆子の血も送ってますから、あまり意味はないのでは?」

 

「炭治郎君。禰豆子さんは二晩で、貴方の精液を大量に摂取しているのよ? 禰豆子さんの身体や血に何らかの変化が起きていてもおかしくないから、私は送る価値があると判断したんです。」

 

「な、なるほど……ははっ。」

 

炭治郎は昨夜の乱交を思い出して、頬を赤く染める。箱に入るために今は小さくなっている妹が、まさかあれほどの色気を出すとは思わなかった。

チラッと箱に向かって、炭治郎は視線を向ける。無防備に寝ている禰豆子の寝顔を想像しながら。

 

その後、しのぶが『紙眼』の性能を試したいと希望したため、部屋に戻ってその『紙眼』の性能を直接体験する事になった。

 

しのぶがその高性能さに感嘆して珍しく興奮しながら何度も確認していたため、出発時間が予定よりも遅れるのだった。

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十一日(火)

時間帯:朝

天気:曇り

 

「ひささん。お世話になりました。」

 

「今日までありがとうございました。おひささん。」

 

炭治郎としのぶがひさに向かって頭を下げて感謝の言葉を述べる。其処には二人を見送るべく、薬師寺邸の女性主人であるひさが立っていた。しかし、その顔は心配の色が宿っている。

 

「……その、本当に発たれるのでございますか? せめてもう一泊されて発たれるのは明日の朝にしては如何でしょうか?」

 

ひさは遠慮した様子で控えめながらも、二人に宿泊の継続を提案する。その理由は、二人はまだ十分に休めていないのではと考えたからだ。

 

――このままでは無事に帰路には着けず、途中で倒れてしまうのでは?

 

昨夜に何が起きたかは、ひさが知る由もない。しかし、もし炭治郎としのぶに道中で何かあっては、隊士の休憩処たる"藤の花の家紋の家"として名折れである。そう思うとひさとしては二人には十分に休んで欲しかった。

 

「怪我をしている訳ではありませんから、心配しなくても大丈夫です。」

 

「このまま走って蝶屋敷に帰れそうです。安心して下さい。」

 

「……畏まりました…………っ!」

 

しのぶがそういうと、ひさとしては何も言えなくなってしまう。しかしある妙案がひさの脳裏を過ぎり、僅かだが両眼を見開いた

 

「ではせめて、()()()を差し上げますので是非お使い下さいませ。少なくとも徒歩で帰られるよりかは、帰路が楽だと思います。少々お待ちを。」

 

「「?」」

 

ひさの言葉の意味を理解出来ず、炭治郎としのぶが首を傾げている間にひさが二人に一礼してその場を足早に去る。待つ事数分。ひさが使用人と共にガラガラと音を立てながら戻って来た。

 

「「!?」」

 

炭治郎としのぶはひさが持って来た予想外のものを見て、驚かずにはいられなかった。




お待たせ致しました。

椿様から大改訂への激励として挿絵を頂けました! 椿様、何時もありがとうございます!!
https://www.pixiv.net/artworks/89744024


改訂箇所
・炭しのねずのやり取り全般
・人力車の登場とアオイの出迎え(第拾肆話)

何とか投稿予告を守れました。2020/02/15に投稿していた第拾話の『人外の撫子蝶は日輪と禁断の愛を交える』の最後の改訂版になります。

この設定を生かしたくて改訂をした様なものです。何時も御愛読の皆様、新規読者の皆様、お待たせして申し訳ございません。

次回の投稿ですが……すみません、四月中に投稿したいのですが、無理なら五月一日(土)になります。どうかよろしくお願い致します。挿入投稿の新作になります。お楽しみに!


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第拾肆話 藍蝶は日輪への秘めたる想いを告白す

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*神崎アオイについてオリジナル設定あり。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージは創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・某所

 

大正二年(一九一三年) 三月十一日(火)

時間帯:朝

天気:曇り

 

時刻はまだ昼に差し掛からない、昼前の出来事。一昨日から降っていた雨が止み、されどまだ分厚い雲が漂う大空の下、雨水で泥濘んだ街道をガラガラと車輪を転がす音を立て、時に泥を跳ねながら炭治郎は走っていた。

 

それから少しして街道の横に小休止出来る場所を見つけた炭治郎は、時間を掛けてゆっくりを足を止めて人力車を静止させる。

 

「はぁ……はぁ……はぁ。」

 

炭治郎が大粒の汗を流しながら、息を整えるために呼吸を繰り返していた。

 

「はぁ~~……っ。」

 

炭治郎は人力車の支木から手を離して、人力車に載せていた水筒を手に取りゴクゴクと喉を鳴らしながら中身の冷水を飲み干して行く。

 

「んっ……んんっ……ぷはぁ~……美味しい……。」

 

半分程飲み干した炭治郎は、生き返った様に息を吹き返して身体が冷えて行くのを感じた。

 

「……っ。」

 

炭治郎が水を飲んでいると、人力車に揺られて眠っていたしのぶが起床する。両腕を天に仰ぐに様に伸ばして背伸びをしてから、残っている眠気を飛ばすために片眼を擦る。因みにしのぶの隣の座席には、禰豆子が眠っている日除け箱が置いてあった。

 

「……お疲れさまです。炭治郎君。」

 

「おそようございます、しのぶさん。」

 

「……っっ。」

 

しのぶが炭治郎に挨拶をすると、炭治郎が苦笑しながら返答する。可笑しそうに笑う炭治郎を見て、しのぶは恥ずかしそうに頬を少し赤く染めた。

 

「ん、んんっ!……今更ですけど、おひささんから結構な物を貰っちゃいましたね。」

 

「ええ、俺もそう思います。」

 

しのぶが誤魔化す様にある話題を切り出すと、意図に気付いた炭治郎が苦笑しながら肯定した。

 

現在の炭治郎としのぶだが、しのぶは人力車の座席に座っており、その人力車を此処まで炭治郎が引っ張っていたのである。

 

この人力車だが、炭治郎が言う様にひさから手渡された貰い物だ。

 

黒と赤を基調とした落ち着いた意匠(デザイン)であり、車輪も木輪や鉄輪では無くゴムタイヤである。更に折畳式の屋根も、きちんと完備されていた。

 

三人乗りが可能な人力車の中では一番大きい物であり、積載荷重量は三百kgまで可能という上等な代物であった。

 

人力車の車両価格は一人乗り仕様で七十五円(百五十万円)以上、二人乗り仕様で最大九十円(百八十万円)前後、三人乗り仕様ともなれば安くても百円(二百万円)以上と非常に高額であった。

 

当然こんな最高級の上物を無償で提供すると言った話になった際、一悶着があったというのは最早言うまでも無い。

 

しかしそれでも結局、最後はひさの『このまま持っていても死蔵されるだけ。是非使って欲しい。』という言葉に炭治郎達が根負けして人力車を譲り受けて貰ったのだ。

 

当初はひさの使用人から人力車夫も用意されそうになったが、其処は固辞して炭治郎は鍛錬のためと称して人力車夫役を自ら買って出ていた。

 

『ご武運を。』

 

そう言って"切り火"をして厄除けをしてくれたひさに見送られながら、炭治郎は人力車を引いて出発していたのである。

 

「私達を乗せながらでは、やはり大変ではありませんか?」

 

「いや、重さが有った方が走り易かったりします。大変なのは止まる時と走り出す時だけですね。」

 

しのぶの気を遣った発言に、炭治郎はそう言って気にしない様に伝える。

 

炭治郎の発言は気遣いに関係無く、正しいものである。人力車は車両重量だけで百kg以上あるが、一度走り出してしまえば"慣性の法則"に従って重みが速度を維持してくれるのだ。

 

どちらかと言えば車線変更や停止時が難しいものであるため、本業の人力車夫は周囲を常に確認しながら最大でも時速八キロの速度に留めている。

 

余談だが、人力車は一八七〇年(明治三年)に和泉要助、高山幸助、鈴木徳次郎の三人が発明したと言われている。

 

駕篭より遥かに速度が有ってかつ馬よりも安価なこの交通手段は瞬く間に全国に広がり、最盛期の一八九六年(明治二十九年)には二十一万台もの人力車が稼働していたとの記録が残っている。

 

因みに二万人以上居たとされる駕篭かき達は、その大半が人力車夫に転職したと言われている。

 

その後は鉄道や馬車の登場によりその数は年々減少傾向になり、路面電車の普及で更に数が減少し、自転車や自動車の本格的な台頭が来てその地位を明け渡すまでは、人力車は国民の足となり続けるのである。

 

「しのぶさん。出発しますね。」

 

「ええ。蝶屋敷までお願いね、炭治郎君。」

 

「はいっ!」

 

小休止を終えた炭治郎は、再び蝶屋敷を目指して人力車を引き始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

夢幻世界

 

 

多種多様な植物や花々が咲き乱れる楽園の如きこの地で、二人の女性が対峙していた。

一人は竹製の口枷を着けた美少女、竈門禰豆子だ。禰豆子は両手に握り拳を作ると、一気に対峙している女性に向かって駆け出した。

 

対峙している女性とは、胡蝶カナエの事である。炭治郎の第二の師匠にして恋人、また義姉に当たる美女だ。

 

正面に立つと、正拳突きを繰り出した。しかしあっさり避けられると、次々と鬼の身体能力に任せて攻撃を繰り出して行く。

 

攻撃されているカナエは涼しい顔のまま、舞う様に躱し、受け流して行く。禰豆子は思う様に行かない事に苛立ちを募らせながら、更に攻勢に出る。

 

しかしその苛立ちが逆に攻撃を大雑把でがむしゃらなものに変えて行くため、状況は悪化して行くばかりだ。そしてカナエは行動に出る。

 

カナエは再び繰り出された正拳突きをしゃがんで躱すと、そのまま足を前に出して禰豆子の姿勢を崩す。禰豆子が前に倒れ込むとそのまま突き出された腕を抱える様に掴んで一本背負いを喰らわせた。

投げ飛ばされた禰豆子は地面に叩き付けられる。その際に花々が散って花弁が舞う。

 

「むぅ〜〜〜〜っ。」

 

禰豆子は悔しそうに声を出しながらバッ! と勢い良く起き上がり、カナエに視線を向けた。

 

「禰豆子ちゃんは武術の心得がないからそれは仕方ないとして、鬼の身体能力に感けてるせいで攻撃が単調で読み易いのよね。」

 

カナエは、禰豆子に微笑みながらさらりと酷評した。何故、カナエと禰豆子が夢幻世界で鍛錬をしているのかと言うと、その理由はカナエにある。

 

日中の間はしのぶの隣で漂うか、夢幻世界に引き篭もっているかのどちらかであったが、炭治郎との邂逅がカナエの意識を変えた。

 

――もっと炭治郎(愛する夫)の力になってあげたい。

 

そう考えたカナエは思案した結果、日中寝て過ごしている禰豆子に目を付けた。もし禰豆子と夢幻世界で会う事に成功すれば、禰豆子を自分の手で鍛えて炭治郎に力添え出来ると考えたからだ。

 

自身の得た能力を手探り状態で使っているのが現状であり、もしかすると炭治郎にしか適用出来ない懸念が有ったが、杞憂に終わった。

カナエは自己紹介も程々に、禰豆子を説得して現在、体術の指導をするに至ったのである。

 

ちなみに、結婚などしていないのだから、当然正式な夫婦ではない。しかし、カナエの中では自身こそ竈門炭治郎の本当の妻。そう言う認識であった。

 

――あなた。あなたが起きている間は、私が義妹(禰豆子ちゃん)を頑張って強くして見せるわ。だからあなたも頑張ってね❤ それからあなたが寝た時は、その瞬間に私は真っ先に義妹(禰豆子ちゃん)夢幻世界(私達の愛の巣) から叩き出して、直ぐに会いに行きますからね❤

 

「……ふふっ❤」

 

カナエは脳裏に浮かべた炭治郎の顔を想像して笑みを零した後、再び禰豆子の指導を再開させた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月十一日(火)

時間帯:朝

天気:曇り

 

 

アオイは走って蝶屋敷の門前へと向かう。なほは後から向かうとの事だ。

 

やっと炭治郎と会える。

 

見送って十日程しか経っていないが、アオイは再会の時間が無事に訪れた事に歓喜していた。しかし、同時に不安だった。

 

――どうか、炭治郎さんがしのぶ様との関係を進展させていません様に。

 

「……っ!…………ほっ。」

 

アオイは懸念が的中しない事を祈りながら走っていると、蝶屋敷の門前に到着した。門前前には、誰も居なかった。その事実に安堵と落胆がアオイに押し寄せる。

 

炭治郎の姿が見れなかった事への落胆と、今自分が懸念している事が少なくとも今、見なくて良いのだという安堵だ。しかし、その安堵も間も無く跡形も無く消し飛ぶ事になる。

 

「…………っ!?」

 

アオイは思わず両眼を見開いた。眼前の予想外の光景に理解が追い付かなかった。

 

炭治郎が人力車を率いて走っていたからだ。そして人力車にはしのぶが乗っていた。

 

「えっ?……ええっ?」

 

思わぬ光景を見てアオイが戸惑う中、炭治郎が人力車を止める。しのぶから日除け箱を受け取って背負い直してから、炭治郎はしのぶの手を優しく取って地上に降ろした。

 

「「……」」

 

「っ!?!?」

 

炭治郎としのぶが手を握った瞬間、視線が交わり頬を赤く染める。そんな二人を見て、アオイは一瞬にして二人の関係を察してしまう。

 

それから炭治郎がしのぶの手を握ったまま、愕然とした様子のアオイに声を掛ける。

 

「えっと、ただいま……アオイさん。」

 

「ただいま、アオイ……どうしたんですかぁ? そんな大口開けてぇ? 折角の美人が台無しですよ?……ふっ。」

 

「……っ!」

 

釈明に困った様に照れながら空いた片手で頭を掻く炭治郎、そして最後に優越感で一杯な様子のしのぶがアオイを鼻で嗤う。

 

アオイは如何にか声を荒げようとするのを必死で抑え、自身を落ち着かせようとする。その間にしのぶが炭治郎に話し掛けた。

 

「炭治郎君。早く禰豆子さんを部屋に連れて行って上げた方が良いのではありませんか? ちゃんとした寝台(ベッド)で寝れた方が、禰豆子さんにとっても良いでしょうからね。」

 

「そ、そうですねっ!……けど人力車はどうしたら……。」

 

しのぶの提案に肯定的だった炭治郎だが、人力車を放置出来ずに困り果てると、即座にしのぶが手を打った。

 

「この人力車はアオイに運んで貰いますよ。結構力持ちですからね。大丈夫ですから、任せて下さい。」

 

「えっと……分かりました。」

 

炭治郎はしのぶに其処まで言われて承諾する。

 

「俺は禰豆子を部屋に連れて行きます。」

 

「はい❤ 後で皆と一緒に食事にしましょうね❤」

 

「はいっ!」

 

炭治郎は元気良くしのぶにそう返答すると、禰豆子を部屋に連れて行くべくその場を去って行く。その後ろ姿をしのぶとアオイは見送って行った。

 

「「………………」」

 

その後に残った二人の間に気まずい沈黙が残る。しのぶは笑顔のままアオイを、アオイは睨み付ける様にしのぶを見ていた。そうしている間に、しのぶの方からアオイに向かって開口した。

 

「アオイ、後で……十三時頃になったら私の指定した場所に来て下さい。」

 

「十三時頃……ですか? その場所とは何処でしょうか?」

 

アオイの質問に対し、しのぶが答える。アオイは指定場所に蟀谷(こめかみ)をピクッと一瞬動かした。

 

「……分かりました。しのぶ様の仰る様に致します。」

 

「宜しい……ああ、一応言っておきますね。遅れる分には構いませんが、指定した時刻より早く来る事は許しません。分かりましたね?」

 

「わ、分かりました。しのぶ様がそう仰るなら……。」

 

しのぶの発言に怪訝そうに思いながらも、アオイは承諾した。それを受けてしのぶは機嫌を良くしてその場を去る。

 

一人残されたアオイは、放置された人力車を蝶屋敷の適当な場所に設置して屋敷に戻って行った。

 

そして三人が揃った食事の時は、食事の前に嘗ての継子達の敵討ちが成し遂げた事、その形見である髪飾りを取り戻した事を報告すると、皆が静かに涙を流して継子達の冥福を祈った。

 

その後は気持ちを切り替えて昼食を始めたが、アオイはしのぶの門前での言葉が気になったせいか、会話にもあまり参加せず食事の味も分からずに終わった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十一日(火)

時間帯:昼

天気:曇り

 

 

アオイは食後の小休止の後、後からしのぶに言われて普段着用している白衣を脱いで、鬼殺隊の隊服のみ着た上で十三時丁度に到着するようにしのぶが指定した場所に到着した。

その指定場所とは、機能回復訓練や鍛錬で使用される蝶屋敷の蝶道場だ。

アオイが蝶道場に入ると、其処にはしのぶが正座して待っていて、その周辺には適当に何十本もの木刀が散らばっていた。

 

「お待たせして申し訳ありません、しのぶ様。」

 

「いいえ、時間通りに良く来てくれましたね。アオイ。」

 

アオイは対面する様に一丈(三m)手前まで進み、しのぶと同様に正座する。するとしのぶがアオイに話し掛ける。

 

「聡明な貴女ならもう分かっているでしょうけれど、今から私と手合わせして貰います。」

 

「しのぶ様と手合わせ……それは構いませんが、理由を伺っても?」

 

何故、アオイはしのぶがこの様な真似をするのか理解出来ず、しのぶに質問する。

 

「何時もはハキハキと歯に衣着せぬ物言いをする貴女ですが、自分自身が関わる事には歯切れが悪くなる悪癖があるでしょう?……だからこちらの方が素直に本音を出せると思いましてね。」

 

「……本音を出せる? お言葉ですが、それはどう言う意味でしょうか?」

 

「自分でも分かっているでしょう? それか敢えて気付かぬ振りをしているのか……私が言えるのは、身体を動かした方が時には口で物事を言うより雄弁だと言っているんですよ。鬱憤晴らしにも、多少はなるでしょうしね。」

 

しのぶはそう言うと木刀を拾って構えて見せる。そしてアオイを嗤って挑発する。

 

「さぁ、何処からでも掛かっておいでなさいな? 本当なら、私だって貴女よりも炭治郎君のために時間を使いたいんですからね? さっさと其処らへんに転がっている木刀を適当に拾って準備なさいっ。」

 

「……だったらさっさと終わらせてあげますよ!? 私は今、機嫌が悪いんです! 何処ぞの蟲柱様のせいでねっ!!」

 

アオイはしのぶの挑発が自身に発破をかけるための方便である事は頭では理解し、重々承知しているのだが、感情を制御出来ずに激怒する。

乱暴に転がっている木刀を一本掴むと、ブンッ! と乱暴に一振りしてからしのぶに向けて構える。そんなアオイに対し、ふっと鼻で嗤う。

 

「すうぅぅぅぅぅっ…………シィッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

カァン!

 

 

アオイが肺一杯を呼吸で満たすと、真っ直ぐしのぶに向かって突進して強烈な縦斬りの一太刀を浴びせた。それに対し、しのぶは木刀を横向きに構えてアオイの縦斬りを受け止める。

三つ数えた程度の静寂から、しのぶはニタァァァと嗤う。そのしのぶの嘲笑とも解釈出来る嗤いに、アオイの怒りの熱が更に上昇する。

 

「ちぃっ!」

 

アオイは舌打ちしてしのぶから間合いを取る。そして態勢を立て直してから、アオイは再度しのぶに切り込む。数度切り込み、全て最初の縦斬りの一太刀と同様に防がれると、遂に呼吸の剣技を使い始める。

 

 

「ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 

アオイが使い始めたのは"水の呼吸"だった。水面斬(みなもぎ)りやねじれ(うず)滝壷(たきつぼ)と言った剣技を次々と繰り出すが、しのぶは受け止めたり、往なしたりと言った真似はせず全てひらりひらりと躱して行く。

羽織っているカナエの形見である蝶々の羽根を象った羽織も相まって、本当に蝶々が舞っている様である。

 

――相変わらず……カナエ様と一緒で、思わず見惚れて動きを止めてしまいそうになる……。

 

刹那とも言える一瞬だけ間だが、アオイはしのぶに見惚れてしまったため、頭を振り払って更に"水の呼吸"の剣技を繰り出す。

 

 

「ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 

水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫(すいりゅうしぶき)(らん)

 

 

水流飛沫(すいりゅうしぶき)(らん)は厳密に言うと剣技ではなく、歩法である。動作中の着地時間及び着地面積を最小限にし、縦横無尽に駆け巡る事を可能になり、特に足場の悪い場所での戦いに適している。

木刀が乱雑に散らばっている今の蝶道場において、実に適した選択である。

 

アオイは必要最小限の動きで散らばる木刀を避けながらしのぶに接敵し、その背後を取る。アオイは肩まで木刀を担ぐ様にして、思い切りしのぶに木刀を振り下ろす。

 

 

カァァン!

 

 

甲高い音と共に、アオイが後方へ吹き飛ばされる。アオイは空中で後方宙返りを一回華麗に決めて、地面に着地する。

アオイは顔を上げてしのぶを見る。しのぶは右手に持つ木刀を右肩にぽんぽんと当てて、呆れ果てた様子でアオイを見る。

 

「アオイ。貴女は何時まで"水の呼吸"を使うつもりなのですか? 只でさえ"水の呼吸"は貴女との相性が悪くて、適性が低いのは自分でも分かっているでしょう? この私にさえ弾かれる程度の精度しかないのよっ?」

 

しのぶはそう言ってアオイを窘める。するとしのぶは何か閃いた様に木刀を手に持ったまま手を叩いて一度拍手をした。

 

「ああっ! もしかして貴女、炭治郎君と御揃いの呼吸だから、"水の呼吸"を頑なに使っていたのかしら?……馬鹿な事をやっていないで、真面目にやって貰えます? 全く、使うなら()()()"花の呼吸"にして欲しいものですねぇ。」

 

「……っ! こっ……のっ!……でしたらお望み通りにやってあげますよっ!!」

 

しのぶに愚弄されたアオイは激怒して挑発通りに"花の呼吸"を使うために呼吸法を変える。

 

 

「「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」」

 

 

アオイは"花の呼吸"の呼吸法を使ったが、アオイはある事実に気付いて、驚愕のあまり動きを止めてしまう。そしてそんなあからさまな隙を見逃す程、しのぶは優しくも甘くも無い。アオイは直ぐにその迂闊な行動を取った代償を間も無く支払う事になる。

 

 

花の呼吸 肆ノ型 紅花衣(べにはなごろも)

 

 

しのぶはアオイに向かって、大円を描くが如き斬撃を見舞う。アオイは咄嗟に受け止めたため、カァン! と甲高い音を後方へ吹き飛ばされる。アオイはそのまま足から地面に着地して、二丈(六m)程の距離を足で引き摺って止まる。アオイの木刀に一筋の亀裂がビシッ! と入った。

 

「っ!!……っっ!」

 

「吃驚してくれて何よりです。と言うか、私が"花の呼吸"を使うのがそんなに……意外なんでしょうね。私はこの"花の呼吸"を嫌っていましたから……いえ、嫌っていたのは呼吸法ではなく、私自身ですね。」

 

しのぶは語り始める。しかしそれはアオイではなく、()()()()に語り掛けているかの様にアオイは感じた。

 

「私は"花の呼吸"でも"水の呼吸"でも私の筋力では使ったところで鬼の手足を斬り落とすのがやっと……一番硬い頸の部分なんて斬り付けても弾かれてしまうか、最悪日輪刀(かたな)がへし折れてしまう……。」

 

しのぶはそう言うと悔しそうにぎゅっと木刀を強く握った。しのぶは語り続ける。

 

「だから私は"蟲の呼吸"を編み出した。毒で鬼を殺す力技に使う決断をした。でも本音を言えば、"蟲の呼吸"が一番嫌いで……私はカナエ姉さんと同じ"花の呼吸"を使って鬼と戦いたかった……カナエ姉さんが逝ってから私が仕方なく継子達に指導したけれど、本当は苦痛で仕方が無かった……。」

 

そう言ったしのぶにアオイは嘗て見たある光景を思い出す。それは生前いた継子の一人がしのぶに"蟲の呼吸"を指導して欲しいと頼み、それを聞いたしのぶが激怒してその継子に向かって怒号を浴びせたからだ。

その時はまだ生きていたカナエが間に入って取り成したおかげで、如何にかその場は治まったが、あの出来事以降は蝶屋敷では"蟲の呼吸"が禁句(タブー)になったのを良く覚えている。

あの当時、偶然その戦慄の現場を目撃した自分が動けなくなった程、しのぶの怒りは凄まじいものだった。

 

「……でもそれは昔の話っ! カナエ姉さんの事は今でも大切だし、敵討ちだって忘れていませんっ! 呼吸法だの鬼の頸が斬れないだの、そんな些細な事なんてもう気にもしていませんよっ!……だって私にはこの世で一番大切な人が……炭治郎君が出来ましたから……っ❤」

 

「っ!?」

 

アオイは驚愕してしのぶを見る。しのぶは顔を赤く染めながら、空いた左手を左頬に添えてうっとりとしていた。その幸せそうな表情は、アオイにとって不愉快極まりなかった。

 

「それは……どう言う意味なのですか……っ?」

 

アオイは射殺さんばかりに鋭い視線でしのぶを睨み付けたが、しのぶは微風を受けた程度の感覚でしかなく、涼しい顔のまま話を進める。

 

「分かってる癖に、敢えて言ってます? それともまさか……本当に意味が分からないと?」

 

「…………お聞きしたいのですが、しのぶ様は炭治郎さんとお付き合いされているのですか?」

 

今から約一週間程前に、自身が急病で倒れてしのぶが診察に来た時と同じ質問をするアオイ。アオイはその時と同様の返答が返って来る事を願った。しかし、その願いは一瞬にして崩壊する。

 

「ええっ、付き合っていますよ。私、胡蝶しのぶは竈門炭治郎君と正式にお付き合いしていますっ。」

 

「っ!?!?」

 

アオイは先程とは比較にならない程、驚愕してしのぶを見る。アオイは徐々に身体の全身が震えて痙攣を起こし始める。その両眼は憤怒や悲哀など、様々な感情が入り乱れていた。

 

「えぇ……うぇっ……はぁ……っ?」

 

もはや、言葉にならない声を出してしのぶを見つめるアオイ。そんなアオイに対して、しのぶは容赦なく続けて語り始める。

 

「んっ? 何処まで進んだか? とでも言いたいでしょうか?……でしたら答えてあげますよ。それはもう、お互いの全身を裸で見せ合い、交わりましたよ❤ 私の身体も、炭治郎君の身体も、お互いに見せてない部分などありませんっ。」

 

「っ!?…………うぅっ……っ!」

 

しのぶの告白を受けて、アオイはその光景を想像したのか、顔を赤面させて小さな唸り声を上げる。それをしのぶは聞いたか聞いていないのか不明だが、鼻で嗤って語り続ける。

 

「私から炭治郎君を押し倒したから、結ばれたと言うには少々強引なやり方でした。それでも炭治郎は責任を取る、死が二人を分かつまで一緒に生きて欲しい、俺の妻になって下さいと私に言ってくれたんです。」

 

「んなっ……つ、妻っ!? と言うか……お、押し倒したぁ!?」

 

しのぶの思わぬ発言に、アオイは驚愕と当惑の混じった声を上げる。しかし、徐々にその顔を染める赤色は憤怒の色へと変化する。

そして明確な怒りへと変貌した。

 

「そ……そんなのっ! ただ単に炭治郎さんの責任感が強い性格に付け込んだ既成事実じゃないのっ!? 誇って言ってんじゃないわよっ! このアバズレっ!!」

 

「……あ”っ? 誰が……アバズレですって?……っ!」

 

「貴女以外に誰が居るのよっ! この……アバズレっ!! 淫売!!」

 

「っ! こ……のっ……っ!……ふうぅぅ……ふうぅぅ……落ち着け、感情を制御出来ないのは未熟者だ……ふうぅぅ……ふうぅぅ……。」

 

しのぶはアオイの敬語を忘れる程の怒りから来る罵詈雑言に対して、理性を失って激昂しそうになる。しかし、何か()()()()を思い出したのか、自分を落ち着かせようと深呼吸して感情を沈める。

 

「今直ぐ土下座して謝るなら、許してやっても良いわよっ?……アオイっ!」

 

「誰がっ!!」

 

 

ダァン! 

 

 

カァン! カァン! カァン! カァン! ピシィッ!

 

カァン! カァン! バキッ! ヒュン! カァァン!

 

バキッ! ヒュン! ヒュン! カァン! カァンッ!

 

 

アオイとしのぶの打ち合いは続く。互いの木刀に罅が入り、そして折れる。

折れた木刀の残骸を相手に向かって投げ捨て、その間に散らばっている真新しい木刀を適当に拾って打ち合いを続ける。

 

しのぶは"花の呼吸"だけでは不利と判断して、"蟲の呼吸"の刺突技も使用し始める。

 

 

蟲の呼吸 蜻蛉(せいれい)(まい) 複眼六角(ふくがんろっかく)

 

 

神速の速さから繰り出される六連連続の刺突撃が繰り出される。その刺突痕は蜻蛉の複眼の如く。

これが専用の日輪刀から繰り出された刺突技ならば、一瞬にして六ヶ所から大量の猛毒が注入されその猛毒が鬼を死へと苦しみと共に導くであろう。

しかし、アオイもまた案山子ではない。瞬時にしのぶを迎撃する。

 

 

花の呼吸 伍ノ型 (あだ)芍薬(しゃくやく)

 

 

アオイはしのぶの六連連続の刺突撃に対し、アオイは九連連続の斬撃で迎え撃つ。その斬撃痕は芍薬の花の如く。

 

 

バキッ!!

 

 

互いの刺突技と斬撃を相殺すると、木刀が耐え切れず大音を立ててほぼ同時にへし折れる。するとしのぶとアオイは間髪入れず木刀の残骸を放り投げる。

 

放り投げられた木刀の残骸は放射線を描いて真っ直ぐ飛んで行き、互いの木刀の残骸に当たって弾ける。

 

二人は放り投げた瞬間に、新たな木刀を探し出す。しのぶとアオイの周辺には砕けた木刀の残骸ばかりが無数に転がっていたが、どうにか二人して無傷の木刀を拾って、ほぼ同時に構える。

 

しのぶとアオイは決して短くない時間を打ち合っていたためか、息が切れ掛かりまた大量の汗を掻いていた。しかし、まだ互いに一撃も浴びていない。

 

「はぁぁぁ、はぁぁぁ、貴女も、はぁぁぁ、しつこい、ですね。アオイっ。」

 

「ふぅぅぅ、ふぅぅぅ、それは、ふぅぅぅ、お互い様、です。しのぶ様っ。」

 

二人は息を整えると、ほぼ同時に木刀を振り上げ、そして互いの相手に向かって木刀を力強く振り下ろした。

 

 

カァン!

 

 

甲高い音が再び蝶道場に鳴り響いた。

 

筋力差で言えばしのぶより頭半分、身長が高いアオイの方が多い筈だ。

しかし均衡を保ち、鍔迫り合いを繰り広げている。しのぶとアオイは互いの瞳が鏡の如く、自身を認識出来る程の距離に近付いた。その状況の中、しのぶがアオイに向かって開口する。

 

「アオイ。私と炭治郎君が愛し合っているのがどうして許せないのか、貴女は自分でも分かってる?」

 

「……っ! それは……っ!」

 

良い澱むアオイに対し、しのぶは余裕の笑みを浮かべて先に答えた。

 

「貴女が私を許せないのは、大好きな炭治郎君を私に盗られたからよね? 違う? 私に炭治郎君をどう思ってるか、言ってみなさいな? ああっ! 嫌なら別に良いのよ? 好きな人の事を素直に好きと言えない、腰抜けの臆病者に用なんてありませんから。」

 

「っ!…………ええっ、言わせて頂きますとも!!」

 

アオイはしのぶの挑発に一瞬、口を噤む。しかし、アオイは直ぐに自身の心中に秘めていた想いを声高々に宣言する決意をする。

 

「私、神崎アオイも! 竈門炭治郎さんの事が好きだからです!……いいえ! 心の底から! 炭治郎さんの事を愛しています!!」

 

「っ!……っ。」

 

しのぶはアオイの炭治郎への愛の告白に一瞬、身を竦ませるが、間一髪入れずアオイに問い詰める。しのぶは木刀に入れる力が増した。

 

「炭治郎君の、何が! 何処が好きなんです!? 好きだの愛してるだの、言うだけなら子供でも出来ますよ!」

 

「っ……全部、全部です! 炭治郎さんの太陽の様な優しく温かい笑顔も! 大海原の様な広くて深い器量さも! 涙脆くて感動屋なところも! 生真面目で恪勤精励(かっきんせいれい)なところも! ちょっと融通の利かない頑固なところも! 全部! 全部ひっくるめて私は! 炭治郎さんを愛します!」

 

アオイは木刀に力を込めてしのぶを押し込む。その際に木刀を振り上げてしのぶに叩き付ける。

しのぶは正面から受け止めたため、カァン! カァン! カァン! と甲高い音が蝶道場に鳴り響く。

その伴奏を伴いながら、アオイはしのぶに炭治郎の何を愛しているかを答えてみせた。状況は再び鍔迫り合いの均衡を保った状態に戻る。

 

「そうですか、奇遇ですね。私もそうです。」

 

しのぶはアオイの答えに対して、しのぶも答える。しのぶは語り続けた。

 

「……だからこそ、私も譲りません! 私も炭治郎君を心の底から愛しているんですっ! 炭治郎みたいな素晴らしい殿方はこの国、いやこの世に二人と居ないでしょうからっ! ()()()()()()()()()()()()、炭治郎君を誰かに譲渡する積もりはありません!」

 

「っ!」

 

アオイはしのぶの告白に一瞬、身を竦む。その隙を突いて、しのぶは渾身の力を木刀を握った両手に込めてアオイを押し込んだ。

アオイはしのぶに対抗出来ず、数歩下がってから距離を取って木刀を構え直す。しのぶもまた、木刀を構え直した。

しのぶは木刀を構えたまま、アオイに最後の質問をした。

 

「アオイ。貴女はつまり、私から炭治郎君を奪い盗る事も辞さない。と言う事ですよね?」

 

「っ!?」

 

しのぶの言葉に、アオイは目を見開いて驚愕する。また、アオイは動揺を隠せない。しかし、しのぶはアオイに構わず続けた。

 

「結ばれた経緯はどうあれ、私は炭治郎君と将来も約束した上で付き合っています……つまりはそういう事です。」

 

「わ、私は……私は……っ!」

 

「私は……なんです?」

 

言い澱むアオイに対し、しのぶは問い詰める。するとアオイは顔を俯かせた。

良く見ると、そのアオイの身体は小刻みに震えていた。

 

「……れる訳無い……。」

 

「アオイ?」

 

「わ、私がしのぶ様から炭治郎さんを奪い盗るなんて……そんな恩知らずな真似……出来る訳ないじゃないっ!!」

 

カラン、と木刀を落として膝を着いて座り込むアオイ。アオイはこの四年間、しのぶがどれ程苦しんで来たのかを知っている。大恩人からの恩を仇で返す様な真似は出来なかった。アオイは嗚咽を漏らしながら続けて言う。

 

「それに……そんな真似をしたら……ぐすっ……炭治郎さんに嫌われちゃう……うぅ……炭治郎さんに嫌われたら……私、もう生きて行けない…………。」

 

アオイにとって炭治郎にどう思われるかが最も重要だった。もし炭治郎に嫌われてしまったなら、アオイは自ら命を絶つだろう。それ程、アオイにとっては大変な事だった。

 

しかし、泣きじゃくるアオイに対し、しのぶは冷淡に言い放った。

 

「そう……それなら、潔く炭治郎君を諦める……と思っても良いのね?」

 

しのぶの発言にアオイは顔を上げ、目を見開いてしのぶを見る。すると更に大粒の涙がアオイの両眼から流れ落ちる。

 

「ううぅ、ううぅ~~~。いやぁ……やああぁぁ……諦め切れない……諦めたくないよぉ……うっく……ぐずっ……ひっく……。」

 

大粒の涙を流したまま頭を抱えて嫌々と頭から何かを振り払う様に頭を振るアオイ。駄々を捏ねる幼子の如きアオイに、しのぶは冷徹に問い詰めた。

 

「私から炭治郎(想い人)を奪い盗る勇気も度胸も無い……だけど潔く炭治郎(想い人)を諦める事も出来ない……なら、貴女はどうしたいと言うの?」

 

そんなアオイにしのぶは冷淡に言い放つ。アオイは涙を必死で拭いて深呼吸して何とか自身を落ち着かせようとする。何とか普通に喋れる程度までに立ち直ると、アオイは行動に出た。

 

「……っ! アオイ、それは何の真似かしら?」

 

しのぶは驚いた様子でアオイに問う。しのぶがそうなるのも無理は無かった。

アオイが土下座の姿勢で平身低頭の状態になったからだ。しのぶに問われてアオイは口を開いた。

 

「しのぶ様に……ご無理を承知でお願い申し上げます。わ、私を炭治郎さんのお傍に置いて頂けないでしょうか……。愛人でも妾でも……いいえ、身体だけの関係でも良いんですっ。……どうか……どうか、お願い致しますっ。」

 

「アオイ……。」

 

アオイは全身を震わせながら、しのぶに懇願した。しのぶと正面から敵対した挙句、炭治郎にも嫌われかねない略奪愛に走る勇気などある筈も無く、かと言って想い人である炭治郎を諦めて失恋を受け入れる勇気も無かった。

アオイが決断したのは、しのぶの許しを得て炭治郎の傍に置いて貰うと言う、第三の選択肢だった。しのぶの許可を得ても、炭治郎が受け入れてくれるか、と言う懸念もあるのだが、今のアオイに其処まで頭が回る余裕は無い。

震えながら待つアオイに待っていたのは、しのぶの返事ではなかった。

 

 

ギシッ!

 

 

アオイとしのぶの耳に入ったのは、人の足音だ。それを聞いて、アオイは驚いて顔を上げて周りを見回す。

しかし、周囲を見渡しても、自身を除いて蝶道場にはしのぶしか居なかった。

するとしのぶがくすっと笑って蝶道場の一角に向かって声を掛けた。

 

「私がよしと言うまで、動かないで欲しかったんですがね……炭治郎君。」

 

「っ!?」

 

アオイは驚愕と動揺をその美しい顔に貼り付けてしのぶと同じ方向へ視線を向ける。

すると何もない場所から突如、一人の男性が姿を徐々に現した。

その男性とはしのぶの最愛の恋人であり、アオイの最愛の想い人である竈門炭治郎だった。右手に目の紋様が描かれた符を持っており、何故か左手には全集中の呼吸・常中の訓練時に使用する初心者用の瓢箪を持っていた。

 

「た、炭治郎さん……何時から……其処に?」

 

アオイは震えた声で炭治郎に質問した。しかし、その質問に答えたのは炭治郎では無かった。

 

「最初からですよ。炭治郎君は私達のやり取りの一部始終を見て聞いてます……ああ、どうやって姿を隠していたのかとか、そう言う質問は無しでお願いしますよ? 二度手間になりますから、カナヲとかが揃った時にしますので。」

 

アオイの質問に淡々と答えたのはしのぶだった。しのぶは起き上がろうとするアオイの右肩に手を置いて、アオイの耳元に近付いて囁いた。

 

「逃げるな……。」

 

「っ!?」

 

威圧感に満ちたしのぶからの警告に、アオイは絶句して動かなくなる。しかし、次の言葉でまた事態が変わる。

 

「大丈夫。決して、貴女の悪い様には成らないから。勇気を出して、アオイ。」

 

「っ!!」

 

しのぶの言葉に、アオイは両眼を大きく見開いた。そして一度、両眼を瞑るとそのまま立ち上がり、ゆっくりと開眼してから炭治郎の方へと歩いて行った。炭治郎の前まで歩いて行くと、アオイは炭治郎の前で立ち止まった。

 

「アオイさん……そのっ。」

 

「炭治郎さん……もうお聞きかもしれませんが……私は……私は貴方の事が好きです。」

 

アオイは炭治郎の両眼をしっかり見詰めて、自身の想いを告白した。

アオイの心中は不思議と不安は無い。むしろ、やっと自身が心中に抱いて居た想いを吐露出来てスッキリとした満足感が有った。しのぶの激励もまた、アオイの心中を安定させるのに役立っていた。

 

「っ……アオイさん……俺は……俺はしのぶさんとお付き合いさせて貰っていて……将来の約束もしたんだ……だから……だから俺っ……。」

 

ごめん、とそう炭治郎は言おうとした。しかし、咽喉につっかえ棒でも刺さったかの如く、その拒絶の三文字が自身の咽喉を通らず声にする事が出来ない。

自身に困惑を隠せない炭治郎に対し、しのぶが炭治郎に声を掛けた。

 

「炭治郎君、どうしたんですか?」

 

「しのぶさん……っ。」

 

「……もしかして、ごめん、とご自分の口から言えないとか?」

 

「っ!……その……しのぶさんのために……アオイさんのためにもそう言わなきゃいけないって、分かっているんです……でも、どうしても口から出なくて……ごめんなさいっ。」

 

しのぶに申し訳なさそうに罪悪感いっぱいの様子で、しのぶに謝罪する炭治郎。しかし、しのぶは笑顔で炭治郎に接近して行く。

 

「炭治郎君っ。私は別に怒っている訳はないんですよ。むしろ、どうしてそうなってしまうのか、理解するために私は炭治郎君にお手伝いしようと思うんです。」

 

「お手伝い……?」

 

アオイが怪訝そうに、しのぶを見詰める。しのぶは気にせず、炭治郎に話し続ける。

 

「炭治郎君は……右利きですよね? では、その瓢箪を右手に持ち替えて下さい。」

 

「は、はい。」

 

炭治郎はしのぶに言われたまま、右手の符と左手の瓢箪を持ち替えた。

 

「では、瓢箪をしっかり握って下さい……実験を始めますね?」

 

「はい、しのぶさん。」

 

炭治郎の実験の準備が完了したと見て、しのぶは実験を始めた。

 

「では、炭治郎君。想像してみて下さい。貴方がアオイか、もしくはカナヲと一緒にいるところをです。

そして貴方がアオイとカナヲに会って挨拶しているところを、

仕事の手伝いをしているところを、

お話をしているところを、

一緒に食事をしているところを、

笑い合っているところを、

訓練をしているところを、

合同任務に行っているところを

……どうです? 想像出来ましたか?」

 

「はい、しました。」

 

「想像してどう思いました?」

 

「想像して……日常的な光景だと思いました。」

 

「分かりました。では……それを善逸か伊之助君、または冨岡さん、何なら他の誰でも良いので、他の男性を炭治郎君と置き換えて想像してみて下さい。どう思いましたか?」

 

「別に……普通の事だと思います。特に何か思ったりはしていません。」

 

炭治郎は実験に不思議に思いながら、しのぶの質問に答えた。するとしのぶは実験を続ける。

 

「では次からが本題です。炭治郎君、想像してみて下さい。貴方がアオイかカナヲに……

「好き」だと、「愛している」と告白されているところを、

炭治郎君がその告白に答えて両想いになったところを、

一緒にお風呂に入っているところを、

「好き」だと、「愛している」と愛を囁き、囁かれているところを、

熱い口付け(キス)を交わしているところを、

お互いに全裸(はだか)になって抱擁を交わしているところを、

お互いに全身を愛撫しているところを、

そして一つになっているところを……想像してみて下さい。」

 

「「っ!!」」

 

はぁぁぁ、としのぶが色っぽく吐息を吐いてから、炭治郎を見た。すると炭治郎だけでなく、アオイも顔を赤面させていた。しのぶは満足そうに二人の様子を見た。

 

「聞くまでも無く、嬉しそうですね……ではっ。」

 

「今の状況を、炭治郎君から善逸君か伊之助君、冨岡さんらと置き換えて想像してみて下さい。」

 

「「っ!?!?」」

 

しのぶの衝撃発言のせいで、炭治郎とアオイの赤かった顔が、一瞬にして引いて行く。アオイ至っては既に青褪め、自身の身体を抱き締めながら震えていた。また、炭治郎は気付いていないが、左手に持ち替えた符を蝶道場の床に落としていた。

 

「どうしました? 先程と同様、簡単な事です。想像するだけで良いんですよ? 善逸君か伊之助君、冨岡さんらと言った炭治郎君でない殿方がアオイかカナヲに、

熱い口付け(キス)を交わしているところを、ミシッ

お互いに全裸(はだか)になって抱擁を交わしているところを、ミシッ……ミシッ

お互いに全身を愛撫しているところを、ミシミシッ

そして一つになっているところを……「バキッ!!」おっと……っ。」

 

「キャッ!!」

 

何かが大きく砕けた音が蝶道場に鳴り響く。そして間も置かず、次々と何かが落ちる音が鳴った。

アオイは一瞬、大音に驚いて眼を瞑った。そして開眼して音の鳴った方を見ると、アオイは驚いた。

炭治郎の右手に有った瓢箪が、粉々に砕けていたからだ。砕けなかった大き目の破片はそのまま床に落ち、続けて粉々になった破片がパラパラと落ちて行く。右手には僅かばかりの瓢箪だった物の破片が掌に残っていたが、右手を開いたためその破片も床に落ちて行く。アオイは炭治郎の右手から視線を移した。

 

「っ!?」

 

其処でアオイは更に驚く事になる。炭治郎の左手から僅かだが、出血して血を流していた。炭治郎の左手の指の爪が、掌に食い込んでいる証拠であった。アオイは勿論、炭治郎の流血に驚いたが、それ以上に見て驚いたものが有った。

 

「フ――ッ!! フ――ッ!! フ――ッ!! フ――ッ!!」

 

それは炭治郎の形相である。普段は穏やかで菩薩の如き、優しい顔をしている炭治郎だが、今はその面影が見れない程の阿修羅の如き、憤怒の形相であった。両眼は血走って赤い亀裂が無数に走っており、顔中の血管が浮き出ていた。

炭治郎の恐ろしい形相を見て、流石のしのぶも見かねて声を掛けた。しのぶも此処まで炭治郎が豹変するとは思わず、困惑していた。

 

「炭治郎君、落ち着きなさい。現実でそんな事は起こっていませんからっ。落ち着いてっ。」

 

「フ――ッ!! フ――ッ!!…………ふううぅぅぅっ! ふうううぅぅぅぅぅ……っ!」

 

炭治郎はしのぶの声を聞いて、必死で落ち着かせようとした。暫くして、漸く落ち着いて何時もの穏やかな表情に戻る。炭治郎が落ち着いたのを見て、しのぶとアオイも安堵した。しのぶは再び、炭治郎に声を掛けた。

 

「其処まで怒れるなんて……そんなにアオイ達が伊之助君達のものになるのが許せなかったっ?」

 

「……はい…………たとえ想像であっても……"もしも"でしかなくても……俺は祝福する事も許す事も出来ませんでした…………っ。」

 

炭治郎は一度、溜め息を吐いてから言葉を続けた。

 

「出来れば今日は、善逸にも伊之助にも義勇さんにも会いたくないですね。もし会ってしまったら、問答無用で殴り掛かってしまいそうだっ。」

 

「まぁ……アオイ、良かったですねぇ? こぉぉぉんなにも、炭治郎君に想われてますよ?……ちょっと羨ましいです。」

 

アオイは炭治郎としのぶの言葉に、顔を赤面させて俯かせた。アオイに構わず、しのぶが「私も、同様に想ってくれますか?」と炭治郎に質問した。すると炭治郎はしのぶの質問に答えず、しのぶに近付いて優しく抱き締めた。

 

「っ❤!」

 

「当たり前です……俺はこんなにもしのぶさんを愛しているんですから……誰であろうと! たとえ神様だろうと! 俺は絶対にしのぶさんを渡したりなんかしませんっ!」

 

「~~っ❤!……嬉しい……です❤ 絶対に私を離さないで下さいね❤」

 

しのぶは炭治郎の愛の囁きに、うっとりとしながら炭治郎の胸に顔を埋めていた。抱擁を解くと、しのぶが背伸びして炭治郎の耳元に囁いた。

 

「私の事は良いですから、アオイにも直接言ってあげて下さい。女と言う生き物は、直接、愛する殿方に言われて行動に移して貰わないと、安心出来ないんですからっ。」

 

「はい、ありがとうございます……行ってきます。」

 

炭治郎はしのぶにそう言うと、アオイの下へ向かった。

アオイは顔を赤くしたまま、炭治郎に熱い視線を向ける。炭治郎はアオイから緊張と期待と興奮の匂いを感じ取った。

炭治郎はアオイの前に立つと、膝を着いて頭を垂れた。それは、麗しい姫君に傅く西洋の騎士の如く。

そして顔を上げ、視線を真っ直ぐアオイの青色掛かった瞳に定めてしっかりと見詰めた。

 

「俺は……竈門炭治郎は、神崎アオイさんの事が好きですっ……貴女が良ければ、俺の隣でこれからも一緒に生きてくれませんか?」

 

「――っっ❤❤!!!」

 

炭治郎の告白に、アオイは黙って炭治郎に向かって飛び込む様に強く抱き着いた。炭治郎は避けずに正面からアオイを受け止めたが、最後は床に尻餅を着いた。アオイの事はしっかりと抱き留めていたが。

アオイは炭治郎の首に腕を回して泣きながら一瞬、沈黙した。そしてアオイは開口する。

 

「はいっ!…………喜んでっ……喜んでっ❤!」

 

アオイは真珠のような大粒の涙を両眼から流しながら、その日一番の笑顔で炭治郎の告白に答えた。




あとがき
まず、十日に一回とか大口叩きながら半日以上掛かった事を心からお詫び致します。真に申し訳ございませんでした。

まず、ない頭を捻り脳味噌を絞った結果、このような形でしかアオイと炭治郎をくっつける方法が思い浮かびませんでした。

今後もそうなんですが、今後も些か強引は手段でヒロインをくっつけるかもしれません。
どうか御了承下さい。

次回はしのぶがアオイ達を認める理由から始まり、アオイの本番になります。そして次々回はカナヲ編です。更新はなるべく早く急ぎますが、気長にお待ち下さいませ。

今後とも宜しくお願い致します。

一部変更
第陸話 日輪は紫蝶の闇を祓う
カナエの経歴
またカナエさんが強く成ってしまった……。


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第拾伍話 藍蝶は日輪にその身を捧げて一部となる ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*神崎アオイについてオリジナル設定あり。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月十一日(火)

時間帯:昼

天気:曇り

 

 

「はい、これで治療は終わりましたよっ。」

 

「すみません、しのぶさん。ありがとうございます!」

 

炭治郎はしのぶに左手の治療をして貰っていた。その証拠に、炭治郎の左手の掌は包帯に包まれている。

 

「傷そのものは浅いので、今は十四時だから……後、四時間くらいしたら外して大丈夫ですよ。」

 

「はい、分かりました。」

 

「しのぶ様、蝶道場の片付けが終わりました。」

 

炭治郎の治療をするしのぶの下へ、アオイがやって来た。鍛錬で折れた木刀の片付けと、その際に散った木片等の塵掃除を終了していた。

しのぶが炭治郎を治療している間の僅かな時間で掃除を終わらせたアオイに、炭治郎は深く感心していた。

 

「流石だね、アオイさん。そうだ、アオイさんもしのぶさんに診て貰いなよ。」

 

「いえ、炭治郎さん。私は大丈夫です。」

 

「アオイの言う通りです。診る必要はありません。」

 

診察を拒否したアオイに、しのぶが答えた。意外にもアオイを肯定する言葉だった。

 

「今宵、炭治郎君に抱かれる身体に青痣なんて作る訳にはいきませんでしたからね。その辺は気を付けていましたよ。」

 

「「っ!?」」

 

しのぶの言葉に炭治郎は元より、アオイが顔を一瞬にして赤面させた。それはボンッ! と言う幻聴が聞こえて来る勢いであった。

そんな二人の様子が余程可笑しいのか、クスクスと笑って独り言を呟いた。

 

「ふふっ。可哀想だから、揶揄うのはもうこの辺にしておきましょうか……まぁアオイが()()呼吸を使わなかったから、出来た事ですけどね。」

 

「っ!」

 

「っ?……しのぶさん、何か言いました?」

 

しのぶは小声で独り言を呟いたため、炭治郎は聞き逃したため、しのぶに聞き返した。

一方のアオイは、少し動揺していた。

 

「何でもありませんよ。炭治郎君、私とアオイはきよに頼んで用意して貰っているお風呂で汗を流す事にします。それまではアオイとの初夜に備えて、休んで英気を養って頂戴……何でしたら、一緒にお風呂に入る?」

 

「し、しのぶ様っ!」

 

「あ、あはははははは。しのぶさん、それは夜までの楽しみに取っておきますよ……アオイさん。その……また後でね?」

 

「は、はい。炭治郎さん。」

 

其処で会話は終了して炭治郎、しのぶ、アオイの三人は二手に別れて蝶道場を去った。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ふうぅ……。」

 

ちゃぽん、と言う音と共に湯船に湯の波が波紋する。アオイはしのぶに言われて、一足先に大浴場に到着して、身体を洗ってから湯船に浸かっていた。

 

――こんな真昼間からお仕事せずにお風呂なんて久しぶりだわ……ふふっ、偶にはこんな贅沢も悪くないわね……。

 

アオイはうっとりとしながら、両眼を瞑って湯船に張ったお湯の心地良さを味わっていた。するとガラガラと戸が横に滑って音を立てた。

アオイが片眼を開けて確認すると、入って来たのはしのぶだった。

 

「遅くなったわね、アオイ。そのままで良いからね。」

 

「は、はい。分かりました。」

 

思わず立ち上がろうとしたアオイに対し、しのぶが先手を取ってアオイを湯船に浸からせたままにする。そのまま浴槽の前で身体を洗い始めた。

よくよく見てみると、身体中に虫刺されの様な跡が見える。その事実に、そしてしのぶの鍛えられた美しくしなやかな肢体に、アオイは目を奪われて視線が釘付けになる。

 

「……アオイ、幾ら何でもジロジロと見過ぎでは? 流石に意識しますよ?」

 

「っ!? す、すみません、しのぶ様。」

 

アオイはしのぶの指摘を受け、慌てて視線を逸らす。すると、身体を洗い終えたしのぶは浴槽に入って来た。チャポン、と言う音と共に湯船に波が起こる。

しのぶはアオイの隣まで移動すると、アオイの側面を向いたままアオイに質問をする。

 

「私の身体が、そんなに気になりますか?」

 

「うっ……そ、そのっ……虫刺されの様な赤い跡って、やっぱり……っ。」

 

「ええっ、炭治郎君に愛された証です。ちょっとだけ、恥ずかしいですけどねっ。」

 

「……っ。」

 

しのぶは少しだけ顔を赤く染めると、少し身体を動かしてその一部分を誇らしげな様子でアオイに見せ付けた。

するとアオイは、少し動揺して顔を赤く染める。それをしのぶは見逃しはしなかった。

 

「おやおや、アオイ。もしかして、炭治郎君に抱かれているところでも想像しましたか?」

 

「し、しのぶ様っ! わ、私は別に……っ。」

 

「うんっ? アオイは今宵、炭治郎君に抱かれるつもりはないと? では私が、アオイの代わりに炭治郎君と愛し合って来ますね❤」

 

「んなっ!? だ、誰が何時! しのぶ様に譲ると言いましたか!?」

 

しのぶのがめつい発言に、アオイは赤面しまま抗弁する。しのぶは再び、クスクスと笑う。

 

「では、今宵は念入りに身を綺麗にして炭治郎君の下へ行かないといけませんよ? 初夜は記念すべき特別なものにしたいでしょう?」

 

「うぅ……はい。しのぶ様。その……恐れながら、先達者として色々教えて下さいませんでしょうか?」

 

「良いですよ。勉強熱心なのは良い事です。ですが後学のためにどうだったか、終わったら教えて下さいね。」

 

「うっ……は、はい。その、私ので良ければ構いませんけど……上手く説明出来るか分かりません。ですが、その時はしのぶ様に詳しくお話したいと思います。」

 

アオイはしのぶからの頼み事を了承する。続けてアオイは心配事を口にした。

 

「……私が心配しているのは、しのぶ様の美しいお身体を知ってる炭治郎さんが、しのぶ様に劣っている私の身体で満足して頂けるのかという事なんですが。」

 

「……はぁっ?」

 

アオイは本気で心配している様な素振りを見せながらしのぶに悩みを伝える。しのぶはアオイの自信無さげな発言に青筋を立てて反応していた。

 

これはアオイが先程見たしのぶの美しい芳体を見て、自信喪失してしまったせいで出た卑屈な発言に過ぎなかったのだが、アオイの迂闊な失言がしのぶの逆鱗に触れる。

 

しのぶは青筋を浮かべたまま、アオイをジト目で睨み付け、静かに湯船から立ち上がった。しのぶのそんな様子に気付いたアオイが、戸惑いながらしのぶに尋ねた。

 

「し、しのぶ様? どうかされましたか?」

 

「……アオイ、ちょっと立って貰える?」

 

「……はいっ? どうしてですか?」

 

「良いからっ! さっさと立ちなさいっ! 早くっ!」

 

「は、はいっ!?」

 

アオイは言われたまま、ジャバンッ! と大きな音を立てて湯船から立ち上がる。

すると湯船の窓掛け(カーテン)からアオイの美しい芳体が姿を現した。

 

しのぶは食い入る様にアオイの身体を見詰めていると、青筋は更に色濃く浮かび上がった。しのぶは黙ったままアオイの背後に移動する。

 

「……もう良いわよ。よーく分かりましたからっ。」

 

「はい……あの、これはどう言う、ああんっ!?」

 

アオイが再び湯船に浸かろうとした瞬間、しのぶがアオイの豊かな乳房を下から鷲掴みにした。それに驚いてアオイは嬌声を上げた。

 

「あんっ❤! し、しのぶ様っ!! 一体何を……っ!?」

 

「感度は良好……っと。こんなに大きく立派な乳房(もの)を持っている癖に、何を心配する必要があったんですかねぇ? 貴女の乳房(これ)、私と同じどころか、私のより大きくありませんか?」

 

しのぶが背後からアオイの乳房を揉みながら、アオイに質問をする。アオイは時折感じる快感に悶えつつ、しのぶの質問に対し返答する。

 

「そ、そんな事はああぁぁぁっ。私……っ❤……よりしのぶ様の方が……ずっと……あっ❤……お綺麗……だからぁ、んんっ❤!」

 

「アオイ、それは褒め過ぎです。貴女だってとっても綺麗だわっ。炭治郎君に恋してるからかしら?……にしても感じ過ぎよ、乳首もこんなに立てちゃって。えいっ!」

 

「ひゃうぅ❤!!」

 

しのぶがアオイの両方の乳首を軽く抓ると、アオイが一際大きな嬌声を上げて仰け反った。

 

「でも、ありがとうね。アオイ。」

 

しのぶは快感でぐったりしているアオイに礼を言ってから、アオイの乳房から両手を離した。アオイは膝から崩れる様に、再び湯船に浸かり、その際に湯船に大きな波を立てた。

しのぶも続けて湯船に静かに浸かると、息切れするアオイに再び話し始めた。

 

「貴女は私やカナヲより身長がある分、スラっとして見栄えが良いのよ? ああっ、きっと炭治郎君は貴女が気絶するまで離したりなんかしないでしょうね。言っとくけど、炭治郎君の愛撫はあんなものじゃないからね?」

 

「き、気絶するまで……愛撫もあんなものじゃない……ごくっ。」

 

しのぶの予想と助言に、アオイは思わず唾を飲み込んだ。それは緊張と期待から来る興奮によるものだった。しのぶはアオイの様子を見て苦笑する。

 

「ふふっ、大丈夫っ。炭治郎君なら最初は優しく愛してくれるわよ。その後は知らないけれどね。彼、情交中はちょっと意地悪になるところがあるから、頑張ってね❤」

 

「意地悪に……?」

 

アオイは炭治郎とは無縁と思われる単語の出現に、思わず疑問を抱いた。

 

「まぁ"百聞は一見に如かず"と言いますから、貴女が直接確かめなさい。他にはね……。」

 

しのぶは自身と炭治郎の情交の体験談も含めて、更に語り続けた。アオイは脳味噌に直接、その内容を刻み込む勢いで耳目をしのぶに集中させた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大浴場を後にして、更衣室で着替えを終えたアオイに、同じく着替えを終えたしのぶが近付いて来た。

 

「アオイ。貴女にはこれを渡しておきます。」

 

「……っ? しのぶ様、この瓶は何でしょうか?」

 

しのぶはアオイに一つの瓶を渡すと、アオイは受け取った瓶を一度注視してしのぶに尋ねた。しのぶは瓶の中身の説明を始める。

 

「その瓶に入っているのは睡眠薬です。情交に及ぶ前に、私とアオイと炭治郎君以外の、蝶屋敷にいる人間、全員に飲ませて下さい。ですが、なほ達にも飲ませるかは任せます。」

 

「っ! しのぶ様、それはそうしなければならない理由があるんですか?」

 

「残念ながら、必要性があるんです。」

 

しのぶは困惑気味のアオイに説明を始めた。

 

「蝶屋敷の壁って、患者が快適に眠れる様にするために、少しでも音が漏れない、入って来ない様に厚めに作られているんですよ。でも限度と言うものが有って、嬌声の大きさ次第で、室外に声が漏れる恐れがあります。」

 

「っ!」

 

しのぶの言葉に、アオイは驚きその意味を察して納得した。しのぶは肩を竦めると、アオイに向かって揶揄う様に言い放った。

 

「まぁ、喘ぎ声を他人に聞かれても良い、挙げ句に覗かれても良い、と言うなら別にその睡眠薬(くすり)、盛らなくても構いませんよ? 私なら絶対に嫌ですけどね。」

 

「そ、それは……私も嫌です。」

 

アオイは盗み聞き、覗き見される可能性を懸念して、しのぶの言葉を拒絶した。しのぶはアオイの返答に満足すると、アオイを安心させるために睡眠薬の説明を行う。

 

「この睡眠薬(くすり)ですが、一日一回、と言う条件を守るなら身体に害はないので大丈夫ですよ。既に不眠に悩まされていた患者に試薬して確認してますので。」

 

「そうですか。いえ、しのぶ様の作る薬を疑っていた訳ではありませんが、それを聞いて安心しました。」

 

アオイは説明を受けて安堵する。流石に相手の意思を無視して薬を盛るのは、アオイの良心を傷付ける。

 

「ふふっ、幾ら私でも悪戯に人体に害する薬なんて作らないわよ。でも……私と、いえ私達と炭治郎君の愛の営みを邪魔する輩は、誰であろうと容赦しません。」

 

「……っ!」

 

アオイはしのぶの言葉にビクッと身体を震わせて驚きを露わにするが、しのぶに深く同意していた。

 

「しのぶ様の仰る通りです。少々、忙しくなりそうですね。」

 

「ええ、全くです。順番等の話し合いはカナヲとも合流してから決めるとして……アオイ、頑張って来てね。」

 

「はいっ!」

 

しのぶとアオイは、これから先の幸福を想像して、お互いに微笑みあった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

しのぶとアオイが大浴場に入った頃。

 

しのぶから夕食まで自由時間とされた炭治郎は、昼寝をする事にした。

 

生真面目な炭治郎なら鍛錬に時間を当てるところだが、既にひさの屋敷から蝶屋敷まで走り抜いている。それも人力車を引っ張りながらだ。

 

既に身体は十分に苛め抜いている。そう判断した炭治郎は肉体を休ませる事にした。

そして、恐らくこの世で自身にのみ許されたと思われる鍛錬法を実践する事にしたのである。

 

それは義姉であり第二の恋人でもある胡蝶カナエに指導して貰う事だ。

炭治郎はカナエにも事前に言われている。肉体強化はこの世で行い、技術指導は夢幻世界で行うのが最善の道であると。

 

卑怯だの反則だのと言われようと知った事ではない、それで罪無き人々が一人でも救われるなら幾らでもしてやる、鬼の存在そのものが卑怯で反則、そして悲しく哀れなのだから、とも言っていた。

 

炭治郎はその言葉に大いに同意し、忠実に従う事にしたのだった。尤も、炭治郎はこの鍛錬法が実妹の禰豆子も適応しているとはまだ知らないのだが。

 

眠りに就いた炭治郎は直ぐにカナエと再会し、早速修行を付けて貰っていた。開始して二十分程してから、カナエが評価を始める。

 

「炭治郎君。決して、全部駄目ではないけれど……やはり基礎から見直しましょう。」

 

カナエがそう判断して炭治郎に言うと、続けて評価した。

 

「貴方は癖で動いて戦う悪癖があるから、まずはそれを直さないとね。相手の動きを見て一手、二手先を読めるようにならないと、この先の上弦の鬼や無惨との戦いに着いて行けないわ。」

 

そう言って、カナエは顎に右手を置いて思考する。すると何か閃いたのか、炭治郎に告げた。

 

「そうね、炭治郎君は嗅覚が、鼻が利くのだからそれを生かすべきよ。カナヲは視覚で相手の筋肉の動きを見て先読み出来るのと同様に、貴方も嗅覚で先読み出来る様に頑張りましょう。」

 

「嗅覚で先読み……それって可能なんでしょうか?」

 

「可能か不可能かの話ではありません。可能にするんです。炭治郎君の身体は良く言えば発展途上で成長の余地があるけれど、悪く言い換えれば未熟で未完成なのよ。だからと言って身体が成長し切るのをのんびり待つ訳にはいかない。」

 

「貴方は後天的な、努力型の秀才であって先天的に才能に恵まれた天才ではないの。」

 

夢幻世界(此処)だから自由に使っているけれど、今世でヒノカミ神楽を使えば消耗が激しくて長続きしない。水の呼吸は体質に合ってないのも相まって、消耗は少ないけれど決め手に欠ける。肉体的な欠点は技術で補うしかないわ。」

 

「そうですね……カナエさんの仰る通りだと思います。俺、頑張ります!」

 

疑問に思う炭治郎にカナエは断言してそう評価した。その評価に対し、炭治郎は元気良く返答する。

するとカナエはその元気な発言の裏腹に少し影が差しているのを察して、炭治郎を抱き締めた。唐突なカナエの行動に、炭治郎は少々面食らう。

 

「カナエさん?」

 

「炭治郎君は、確かに当代の柱達の様に天才ではないかもしれない。でも柱達(彼ら)に負けない、いいえ凌駕する可能性が秘められていると私は思っています。少しずつでも構わないから、それを開花させましょう。炭治郎君なら、必ず出来るわ。」

 

「はい、頑張ります! しのぶさん達を守れる様に、俺は強く成りますっ。」

 

カナエが炭治郎を慰める様に激励すると、炭治郎は先程より元気に返事した。するとカナエは抱擁を解いて、炭治郎を見る。そして両手を炭治郎の両頬に添えると、力一杯引っ張り出した。

 

「いたたたたたたっ!? カ、カナエひゃん、にゃにうぉ!?」

 

炭治郎は両頬を引っ張られたまま、涙目で当惑しつつカナエを見る。カナエは微笑したまま青筋を立てていた。

 

「アオイの件については、想いを受け入れてくれてありがとう。そしておめでとう。あの娘も、そしてカナヲも幸せにしてあげてね…………でもね。」

 

其処まで言うと、カナエの微笑は消え去り怒りに染まって更に青筋が濃くなった。

 

「やっぱり愛する殿方が他の娘といちゃついてる姿は、見てて腹が立つのよ……ねっ!」

 

カナエは言い終わると抓った手に更に力を入れる。これには堪らず、炭治郎は痛みで悶絶する。

カナエは妹のしのぶと同様、かなり嫉妬深い性格をしている。

 

しかし長女であると言う誇りや責務から、必死で自分に言い聞かせて我慢して長女の責務を全うしていた。カナエはそれを死ぬまで表に出す事は無かった。それが炭治郎と結ばれてから、封印していた嫉妬心が爆発したのである。

今ではしのぶ達の幸せを心から願いつつも、殺意に近い嫉妬心を抱いて過ごし、それを炭治郎と過ごす時間で発散していた。

 

「いひゃいいひゃいいひゃいっ!? ご、ごめんなしゃいっ!?」 

 

炭治郎は両頬を引っ張られたまま、カナエに必死で謝罪する。その炭治郎の姿を見てカナエも気が済んだのか、漸く炭治郎から両手を離した。

 

「許す許さないって話では無いのよ。私もしのぶ達の幸せを一番に願っているから。でもね……やっぱり羨ましいから……だから夢幻世界(此処)では、私だけを見て、私だけを愛してね。」

 

「……っ!」

 

カナエから寂しい匂いを炭治郎は感じ取ると、両頬の痛みを忘れて、カナエに優しく口付け(キス)をする。唇を重ねただけだったが、カナエは嬉しそうに両眼を細めて受け入れた。

 

暫くそのままでいた二人だったが、カナエの方から唇を離す。カナエはその後、右手の人差し指を真っ直ぐピンと伸ばすとそのまま炭治郎の唇に置いた。顔を赤く染めたまま、カナエは炭治郎に言う。

 

「これ以上はダーメ❤ 私だって炭治郎君と愛し合いたいけれど、これから初めての娘を抱く前なのに、摘まみ食いはいけません。でも情交(こと)が済んだら、今度は私を沢山愛してね❤?」

 

「……はいっ!」

 

炭治郎とカナエは修行を再開させた。炭治郎は何十回と手酷くカナエに切り刻まれたが、何が悪いか幾度も的確な助言を受けて修正させ、時折休みを挟みつつ、炭治郎が目覚めるまで修行を続けた。

因みに休憩時は、二人で口付け(キス)をして楽しんで過ごしていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

アオイはその大浴場でしのぶと別れた後、すみに尋ねて残りの仕事を片付けてから、夕食の仕込みをしていた。これにはしのぶも参加したため、何時もより早く済んだ。

アオイは本音で言えば、出来れば炭治郎と一緒に夕食作りがしたかったのだが、其処は我慢した。

 

今宵、叶わないかもしれないと恐れていた、自身が夢見ていた望みが叶うのだ。人生最高の夜になる。そう思うと何時も以上に力と気合が入っていた。そして患者への夕食を配食し終えると、自分達の夕食の準備を終えたのだ。

しかし、炭治郎が何時までも経っても来ないので、しのぶに言われてアオイが炭治郎の迎えに向かった。

 

『夕食が冷めるので、早く戻って来て下さいね。』

 

そう言われたアオイはしのぶの発言の意図を理解し、顔を赤く染めて無言で頭を一度下げてからその場を足早に去った。

 

アオイは普段なら絶対にしない、駆け足で竈門兄妹のいる部屋に向かった。そして(ドア)の前に立つと、二回程コンコンと叩いた。

 

「炭治郎さん、お夕飯が出来ましたよ……っ。」

 

アオイはそう言って(ドア)越しから声を掛けると、まるで夫を夕飯に呼ぶ妻の様だと一人嬉しそうに悶絶する。

そうして待っているが、部屋から返事は無い。仕方なくアオイは再び、(ドア)越しから声を掛ける。

 

「炭治郎さん、居ますか? 開けますよ~?」

 

アオイはそう言って(ドア)をガチャッと開けた。すると室内では、禰豆子が寝台(ベッド)で寝ており、炭治郎は禰豆子に向かって椅子で座って寝ていた。

 

「炭治郎さん、寝てる……っ。」

 

アオイは炭治郎が寝ているのを見て、少し微笑みながら炭治郎に近付いて行った。

 

「炭治郎さん……っ。」

 

「起きて下さい。」とアオイは言おうとした。しかし、その前にある事を思い出した。

それは嘗て炭治郎が寝ている時に、アオイが隠れて炭治郎に口付け(キス)していた頃の話だ。

 

炭治郎に秘めたる想いを告げて片思いから両想いになり、想い人から恋人になった現在(いま)過去(まえ)の如くコソコソと隠れながら唇を奪う必要など、アオイには一切無い。

 

しかし、あのドキドキ感を最後に味わっておこう、ともアオイは考え付いていた。

炭治郎が起きる前に事を済ませるべく、アオイは早速"善は急げ"とばかりに行動に移す。

 

アオイは静かに深呼吸をして息を整えてから、ゆっくりと炭治郎に近付いて行き、炭治郎の正面に移動する。そして寝ている事をしっかりと確認を終えると、少ししゃがんで椅子に座ったまま寝ている炭治郎に口付け(キス)をした。

 

「んっ❤…………っ❤」

――ああっ❤……炭治郎さん❤……好きっ❤……好きぃ❤…………大好きぃ❤❤…………っ❤

 

決して想いを口から言葉にはせず、心中で呟く。声を聞いた炭治郎が、起きてしまう可能性を少しでも下げる為だ。

しかし、アオイの口付け(キス)は此処から何時もと違っていた。それは何時もの口付け(キス)よりも長かったからだ。バレずに済ませるために、触れたら直ぐに離していた唇。しかし、両想いになった歓喜から、無意識に口付け(キス)を長く続けていた。

 

「ちゅっ❤……んんっ❤」

――そろそろ離さなきゃ……でも、離れたくないなぁ……っ❤

 

アオイは名残惜しそうにそう思い、仕方なく炭治郎から離れようとした。

 

「っ❤……っ!?」

 

アオイは驚愕した様子で炭治郎から離れて、勢い良く足が寝台(ベッド)に当たった。そのまま寝台(ベッド)に尻込みしそうになったが、何とか踏ん張って立ち止まった。

アオイがこうなったのには理由がある。炭治郎の舌が自身の口内に侵入して来たからだ。

 

右手人差し指で唇を撫でながら、アオイは炭治郎を見ると、頭を俯かせたまま舌を出している炭治郎がいた。

 

「熱烈な挨拶だったね。アオイさん。」

 

「っ!?……炭治郎さん、起きていたんですか!?」

 

炭治郎が舌を出したまましてやったりとばかりにそう言うと、アオイは動揺した様子でそう返事をした。炭治郎が起き上がってアオイに近付いて行く。

 

「アオイさんが俺に口付け(キス)した当たりからかな? その時に起きたんだけど、アオイさんが眼を閉じていたから気付かれなかったよ。」

 

「あの……その……ごめ、んんっ!?」

 

アオイは炭治郎に謝罪をしようとしたが、途中で途切れる。それは炭治郎がアオイに口付け(キス)をして謝罪を遮断したからだ。アオイは炭治郎の行動に驚いて両眼を見開いた。

 

――私……私……炭治郎さんから……口付け(キス)されてる……嬉しいっ❤

 

アオイは両眼をトロンと蕩けさせて、炭治郎からの口付け(キス)を堪能していた。暫く口付け(キス)した状態で居ると、炭治郎の方から唇を離した。

 

「どうだった……って、聞くまでも無さそうだね。」

 

「あっ❤……ああっ❤……もっと……して下さぁい……っ❤」

 

「良いよ。アオイさん、おいで。」

 

炭治郎はそうアオイを呼ぶと、椅子に座り直した。アオイはフラフラとした足取りで炭治郎に近付き、その膝の上に乗ってから炭治郎の首に両腕を回して抱き締めた。

炭治郎もそれに応える様に、左手をアオイの腰に回し、右手をアオイの後頭部に当てて抱き締め返した。

 

「「んんっ!」」

 

炭治郎とアオイは其処から、再び口付け(キス)をした。しかし、ただ唇を重ねただけの口付け(キス)ではない。炭治郎の方から舌を入れて、アオイの口内に侵入を始めた。

 

侵入した炭治郎の舌は、そのままアオイの口内を蹂躙し、歯茎の一本一本まで丁寧に舐め取り始める。

しかしアオイもまた、侵入してきた炭治郎の舌を迎撃するため、自身も舌を動かし始めて、炭治郎の舌を絡め捕る。

 

竈門兄妹の部屋は、ピチャピチャと言う大きな水音と、禰豆子の小さな寝息音のみが響いていた。

 

――はあぁっ❤……美味しいぃ❤……甘いっ❤

 

アオイはうっとりとしながら、唾液の交換を続ける。すると炭治郎の方から唇を離した。

唇を離すと、太い銀色の橋が出来上がり、少し経つと二つに割れて二人の服を汚した。既に二人の口周りは唾液塗れであった。

 

「ぷはっ……アオイさん、大丈夫? 苦しくなかった?」

 

「最高……ですぅ❤……もっと❤……もっと口付け(キス)して下しゃいぃ❤……っ❤」

 

アオイは炭治郎の唾液を飲み込んだせいか、それとも炭治郎の淫気に当てられてか、将又両方のせいかは不明だが、アオイは酔った様に炭治郎を求めた。

 

「うん、良いよ。もう一回、しよっかっ。」

 

炭治郎は微笑みながら閉眼すると、再び口付け(キス)するために、アオイに接近する。アオイもまた、炭治郎を受け入れるために両眼を閉じてそれを待った。

 

 

 

バァン! ガシャ――ン!!

 

 

 

「「っ!?!?」」

 

「一体、炭治郎君を呼ぶだけでどんだけ時間喰ってんですかねぇ?…………アオイっ!!」

 

(ドア)から爆音が響いたため、二人は口付け(キス)を寸前で中止してほぼ同時に(ドア)を見ると、其処には青筋を立てて激怒しているしのぶの姿があった。

 

先程の爆音も、しのぶが(ドア)を蹴り破ったためだ。そのせいで(ドア)を固定する金具が外れ、木製の(ドア)がしのぶの蹴撃を受けて大きく破損している。

 

しのぶは腕力こそ柱一非力だが、脚力においては柱の中でも三本の指に入る膂力の持ち主だ。

これは筋力が足りないと言う事実に反発したしのぶが、自身の筋力を限界まで鍛えた事により齎された結果であった。そう努力して尚、鬼の頸が斬れない事実に打ちのめされて暗い影を落とす事になったのだが。

 

「し、しのぶさんっ!」

 

「しのぶ様っ! あの、これは……っ!」

 

「アオイ、御託は結構です……随分と、お楽しみの最中だった御様子で……ねぇ?!」

 

「うっ……っ。」

 

炭治郎とアオイは既に椅子から降りて、しのぶと正対していた。

しのぶはアオイに、ではなく炭治郎に近付いて行き、その正面に立った。

そしてアオイの方にチラッと一目見てから、「ふんっ。」と鼻で嗤うと行動に移った。

 

「消毒しますっ。」

 

「はっ?」

 

「へっ? しのぶさ、んんっ!!」

 

しのぶは爪先立ちをして、炭治郎に口付け(キス)をした。炭治郎が口籠ったのは、喋ってる途中で口付け(キス)をされたからだ。

 

「んなっ!?」

 

アオイはしのぶの行動に動揺して声を荒げるが、時既に遅し。しのぶは炭治郎の口内に舌を侵入させた後だった。

 

「んんっ〜〜〜❤ れろれろ❤ ちゅうぅ❤ れろ❤ んちゅううぅぅぅっ❤❤……ぷはっ❤……ふぅ❤」

 

「っ!」

 

しのぶは炭治郎の口内を舐め尽くした後、使命を果たしたと言わんばかりに、達成感と恍惚感に満ち溢れた笑顔で炭治郎を見詰めた。

それを見て、アオイはしのぶに激昂する。アオイは炭治郎の左腕を抱きかかえる様にして腕を組むと、しのぶに抗議した。

 

「しのぶ様っ! ()()()この私に炭治郎さんを譲って下さるのではありませんでしたかっ!? これでは話が違うではありませんか!?」

 

自身の行為を棚に上げての、このアオイの抗議に対し、しのぶも負けじと炭治郎の右腕を抱きかかえる様にして腕を組むと、アオイに反論する。

 

「確かに、私は貴女に()()()炭治郎君を譲るとは言いましたよ。しかし、それはあくまで情交をするまでの譲渡です! それまでの間も! これからも! 私は自重する積もりなど断じて! 一切!! ありません!!」

 

「ぐっ!? うぅ〜〜〜っ!!」

 

「ふんっ!!」

 

「あ、あのっ、二人共っ!? どうか落ち着いて下さい!!」

 

しのぶとアオイは炭治郎を挟んで睨み合いを始めてしまう。この状況に困り果てた炭治郎だったが、この窮状を打破する一考を閃いた。

 

「しのぶさん、アオイさんもその辺にしましょう。なほちゃん達もお腹を空かせて待ってますよ? お二人さえ良ければ、このまま移動しませんか?」

 

「「っ!!」」

 

炭治郎の提案に、しのぶとアオイは一度頭を冷やす。そして、冷やした頭で二人は思考を始めた。

 

――確かに炭治郎君の言う通り、これ以上なほ達を待たせる訳にはいかないわね。アオイが些か癪だけど。

 

――夕食後は色々とやらなきゃいけない事が沢山有るのに、こんなところで貴重な時間を浪費するのは勿体無いわ。

 

――何より、炭治郎君(さん)を困らせたい訳じゃないし、彼の提案を受け入れましょう。

 

しのぶとアオイは五つを数える程度の僅かな時間の間に、結論を下す。二人は組んでいる腕に力を入れた。

 

「炭治郎君、行きましょうか❤」

 

「案内しますね、炭治郎さん❤」

 

二人はほぼ同時に炭治郎にそう言うと、竈門兄妹の自室から退室した。

炭治郎は思い付きが上手く行ったと安堵した。

 

きよ達が居る厨房に到着する直前、しのぶが立ち止まる。そのため、炭治郎とアオイも足を止めた。しのぶは不意に口を開いた。

 

「そう言えば、アオイに聞いてみたい事が有りました。」

 

「アオイさんに、聞いてみたい事が?」

 

「何でしょうか? しのぶ様。」

 

アオイが怪訝そうにしのぶに尋ねる。するとしのぶは少し笑ってから、アオイに質問をした。

 

「炭治郎君の唾液の味は如何でしたか?」

 

「っ!?」

 

「だっ!?……っ!?」

 

しのぶの爆弾発言とも言える質問に、炭治郎とアオイは一瞬にして顔を赤く染める。

しのぶは二人の反応に満足すると、炭治郎の腕を離してアオイの前に移動し、顔を接近させて伝える。

 

「甘くて美味しかったでしょう?……でもね、炭治郎の精液はもっと凄いのよ❤ あんなものじゃないわ❤」

 

「っ!?…………ごくっ。」

 

しのぶの体験に基づく経験談を聞いて、アオイは生唾を飲み込んだ。

そのアオイの反応を見てから、しのぶは一足先に厨房へ入って行った。

 

「……取り敢えず、俺達も行こうか? アオイさんっ。」

 

「そ、そうですね。炭治郎さんっ。」

 

取り残された炭治郎とアオイは、続けて厨房に入って行った。そして二人は待ち構えていたすみ達の苦情の嵐に平謝りする羽目になり、また少し冷めた夕食をお腹に入れる事になった。

アオイは炭治郎の唾液の味が忘れられず、昼食と同様、全くその味が分からずに終わった。

 

アオイはその後、しのぶに破壊(こわ)された(ドア)の修復などの残った雑務を片付け、再び風呂に入って体を念入りに洗った。

そして蝶屋敷に滞在している患者には、しのぶの命令だと言って渡された睡眠薬を投薬した。

勿論、薬の中身が睡眠薬だとは伝えなかったが。

 

 

 

♦︎

 

 

 

アオイはその日の業務を全て終わらせ、しのぶから()()()貰った薬を服用し、青色の寝間着姿で自室をウロウロと動き回りながら、落ち着きを失くしていた。

 

理由は明白である。その理由とは炭治郎との初夜を迎えるために、待ちかねていたからだ。

最初は竈門兄妹の部屋に、自ら足を運ぼうかとも考えたが、がっついていると思われたくなかったので、炭治郎には準備が出来たら自分の部屋まで来て欲しいと事前に頼んでいたのである。

 

アオイが待っていると、(ドア)の方から丁寧なノック音が聞こえて来た。

待ち望んだ音を聞いてアオイは一度飛び上がると、上擦った声で「はいっ!」と言って走って(ドア)を開ける。すると其処には照れた様子の炭治郎が立っていた。そんな炭治郎を見てアオイも照れが移ったのか、顔が少しずつ赤くなっていた。

 

「と、とりあえず。部屋の中へどうぞ。」

 

「うん、お邪魔します。」

 

炭治郎はアオイに招かれてアオイの自室に入室する。そして二人は無言で寝台(ベッド)に座り込んだ。

そのまま沈黙を貫いていると、アオイが耐え兼ねて開口した。

 

「あ、あのっ! 炭治郎さんっ!」

 

「何だい、アオイさん?」

 

突然大きな声で呼ばれた炭治郎だったが、彼は冷静にアオイに答えた。

するとアオイは寝台(ベッド)から起き上がって炭治郎と正対する。

 

「すみませんでしたっ!」

 

「……っ? えっと、どうしてアオイさんが謝るの?」

 

アオイはそう言って勢い良く頭を下げて炭治郎に謝罪した。これには流石に僅かだが、炭治郎も動揺してアオイに尋ねる。アオイは謝罪する理由を一から説明し始めた。

 

「私、実は……炭治郎さんが寝ている隙に口付け(キス)をしていました……だから、あんな事をしたんです。」

 

「……アオイさん。」

 

炭治郎はアオイの名前を呼んで寝台(ベッド)から立ち上がると、ゆっくりアオイに近付いて行く。

そしてそのまま顔を上げたアオイに、炭治郎は口付け(キス)をした。

 

「っ!?…………っ❤」

 

アオイは炭治郎からの口付け(キス)に一瞬驚くが、直ぐにうっとりと眼を蕩けさせながら、その口付け(キス)を受け入れて炭治郎を抱き締めた。

 

少しすると炭治郎とアオイは唇を離して見詰め合い、炭治郎はアオイを抱き上げてお姫様抱っこをする。

炭治郎は微笑みながらアオイに言う。

 

「俺が、その事でアオイさんに怒ると思う?」

 

「っ……いいえ。そうは思いません。炭治郎さんは優しいからっ。」

 

「違うよ。寧ろそれを聞いて、凄く嬉しかった……俺はアオイさんを愛してるから……っ。」

 

「~~~~❤❤❤ 私も❤……炭治郎さんを愛しています❤❤……っ❤」

 

何時ぞやの時の様に、アオイはお姫様抱っこの状態で炭治郎の首に両腕を回して密着する。

 

炭治郎は一歩一歩ゆっくりと寝台(ベッド)まで歩くと、アオイを寝台(ベッド)に優しく降ろした。

するとアオイは両手を炭治郎の両頬に添えると、アオイは頭を上げて炭治郎に口付け(キス)をする。

二人はそのまま舌を入れた事でピチャピチャと水音が部屋中に響き始める。

 

「ちゅうぅ……くちゅくちゃ……れろ……んんっ……ぴちゃぴちゃっ。」

 

「んんんっ❤……ちゅううぅ❤……れろれろ❤……んんっ❤……っ❤」

 

アオイが仰向けで寝ているため、唾液が重力に従い、アオイの口周りのみを汚して行く。

すると炭治郎から口付け(キス)を解いて少し身体を起こす。

アオイに直接圧し掛からない様に注意しつつ、炭治郎はアオイに覆い被さる。

 

「はぁ……はぁ……服……脱がすよ……はぁっ。」

 

「はぁ❤……はい……っ❤」

 

炭治郎はアオイの了解を得てから、アオイの寝間着の(ボタン)を一つずつ外して行く。

(ボタン)を全て外すと、アオイの谷間と鍛えられた腹筋が姿を見せる。うっすらと掻いた汗でキラリと光って見えた。

 

「アオイさん、晒は外しておいてくれたんだ?」

 

「はい、邪魔だと思って……洋袴(した)も脱がしてくれますか?」

 

「うん……っ。」

 

アオイに頼まれて、炭治郎は洋袴(ズボン)にも手を掛けてゆっくりと降ろす。すると姿を現したのは、スラリとした細く豹の如き鍛えられたしなやかな美脚と、既に濡れて湿っている秘部だった。

またアオイは同時に、上着を完全に脱ぎ捨てた事で、アオイは全裸となった。炭治郎はアオイの全裸に視線が釘付けになり、息が荒く成って行く。

 

「っ!……はぁ……はぁ……アオイさん……()()()()……そう思ったけど……凄く綺麗だっ……っ。」

 

()()()()……っ?」

 

炭治郎の言葉に、アオイは首を傾げる。アオイの疑問に、炭治郎は息を整えてから懐かしそうに答えた。

 

「あの時だよ……アオイさんを看病してた間、俺が貴女の身体を拭いていた時……さ、覚えてる?」

 

「っ! 勿論ですっ。忘れられる筈がありません。私にとって素敵な思い出の一つですから。」

 

炭治郎にそう質問されて、アオイも懐かしそうにその時を思い出した。炭治郎は苦笑してある事実をアオイに暴露した。

 

「あの時は……アオイさんが凄く綺麗で、毎回身体を拭く時に変な考えを起こさない様に、自分を抑えるのが大変だったんだよ。」

 

「まぁ……実は言うとですね。あの時は炭治郎さんが襲ってく来てくれないかなって私、凄く期待していたんです❤……炭治郎さんが絶対にそんな事をする訳ないって、同時に思ってましたけどね❤」

 

アオイは目を細めながら、あの時の状況を克明に思い出して可笑しそうに笑う。そんなアオイに対し、炭治郎が口を尖らせて抗議する。

 

「買い被り過ぎだよ。あの時は本当に、アオイさんに襲い掛からない様に自分を抑えるのが大変だったんだから……っ。」

 

「結局、襲って来てくれなかったじゃないですか……でも、もうそんな我慢なんて、しなくても大丈夫ですからねっ? もうこの身体は頭から足の爪先まで、全部……全部、貴方のものなんですから……っ❤」

 

「~~~~~っっ!!! あのね、アオイさん。そんな事言われたら俺、本当に抑えが効かなくなるからやめて……っっ。」

 

アオイの愛に満ちた一言が、炭治郎の胸を高鳴らせて理性に大きく罅を入れる。また、炭治郎の逸物が洋袴(ズボン)の中で膨張し、既に衝突事故を起こしている。

炭治郎は逸物が痛くて直ぐに洋袴(ズボン)を脱ぎ捨てたかったが、それよりもアオイの美しい身体に夢中だった。

アオイは足を延ばしたまま、両手を支えにして座った状態で炭治郎を誘う。

 

「炭治郎さん。私を……貴方のものにして?……❤」

 

「~~~~~~っっっ!!!」

 

炭治郎は頭の中にあった理性が砕ける音を耳にしたと同時に、両手を突き出して大きく自己主張している豊かな乳房に鷲掴みにする。

 

「ああああっ❤❤!!!」

 

アオイは胸を鷲掴みされて、大きな嬌声を上げる。アオイの艶っぽい声に炭治郎の昂揚は上昇し、そのまま乳房を揉み始める。

 

「はああんっ❤! きゃああん❤! ああん❤! あああん❤!」

 

「アオイさん……凄く感じ易いんだね……気持ち良い?」

 

「あああっ❤! き、気持ち良いですぅぅ❤ 炭治郎さんは❤ 大きい乳房(おっぱい)……好きなんですかぁ❤?」

 

アオイからの質問に、炭治郎は揉む力を緩めて答える。

 

「大小に大きな拘りなんてないよ……その女性(ひと)自身が一番重要だから……でも本音で言うと、どちらかと言えばやっぱり大きい方が好きかもしれない……。」

 

「……っ❤ 良かったです❤……初めてこの乳房(むね)を持ってて良かったって、乳房(おっぱい)が大きくて良かったって思えそうです。」

 

炭治郎からの回答を聞いたアオイは、満足そうに、嬉しそうに自身の乳房を見ながらそう言った。炭治郎はその言葉に疑問を持ったので、アオイに質問する。

 

「アオイさんは、嫌いだったの? この乳房(むね)っ。」

 

「まぁ……()()()()()戦闘に何も役に立ちませんし、肩は凝りますし、殿方からはジロジロと厭らしい視線を飛ばして来ますし……治療時や機能回復訓練時は隙あらば触ろうとする患者(ひと)もいるんですよ?……主に善逸さんとか。」

 

それを聞いて炭治郎の額に青筋が浮かぶ。しかし、炭治郎は眩い笑顔を顔面に貼り付けていた。アオイはしのぶみたいだと、苦笑して炭治郎を宥める。

 

「アオイさん。今後はそんな事が有ったら、何時でも直ぐに俺を呼んでくれないか? そいつらの頭がカチ割れるまで頭突きするからっ。」

 

「もう、そんな事しなくて良いですから。炭治郎さんって、意外と嫉妬深いですよね……ふふっ❤ 善逸さんとかに喧嘩を売ったら駄目ですよ。私も適当にあしらって触らせてませんし……そんな事するくらいなら、もっと私に時間を費やして欲しいです……❤」

 

アオイが両手を炭治郎の両肩に置いて、耳元でそう囁くと、炭治郎は冷静になって落ち着きを取り戻した。

 

「そうだね……もう、アオイさんは俺が一生、手放したりなんかしないからっ。」

 

「~っ❤! ああっ❤! んああぁぁぁっ❤❤!!」

 

炭治郎が動いて左側の乳房に吸い付いた。アオイは炭治郎からの愛の囁きを聞いたのも相まって、強烈な快感を受けて一瞬、大きな嬌声を上げて仰け反った。

快感から立ち直ったアオイは、押し寄せる快感に耐えながら自身の乳房に吸い付く炭治郎の頭を愛おしそうに抱きかかえた。

 

「はあああんっ❤! ああんっ❤! 気持ち良いっ❤! 気持ち良いですっ❤!! あああんっ❤! ああああああんっ❤❤!!」

 

「んんっ!!」

 

アオイは一際大きな嬌声を上げながら絶頂した。

 

炭治郎はアオイに強く頭を乳房に押し付けられたため、一瞬気道を塞がれて窒息しそうになったが、力が弱まって手が緩んだところをなんとか起き上がった。

 

快感からアオイは力が抜けて仰向けに倒れた。すると、絶頂から立ち直って息を整えたアオイが、炭治郎に向かって言った。

 

「私ばっかり、狡いです……炭治郎さんのも窮屈そうですし、服を脱いだらどうですか?」

 

「ああっ、うん。そうするよ。」

 

炭治郎はそう言って寝台(ベッド)から降りると、いそいそと入院着を脱ぎ始めた。アオイは釘付けになってその様子を見る。

 

すると炭治郎の傷だらけの筋肉質な上半身が姿を現した。

アオイは治療のために見慣れている筈なのに、今に限っては初めて見る様で、胸の高鳴りが止まらない。

 

病院着の上着を脱いで、今度は洋袴(ズボン)に手を掛ける。炭治郎はアオイの視線が更に強く、また興奮の匂いも強くなった事に苦笑しつつ洋袴(ズボン)を脱ぎ去った。

 

「っ!!……ごくっ。」

 

アオイはある部分に注目して、思わず唾を飲み込んだ。その部分とは、既に勃起して臨戦態勢になっている炭治郎の逸物であった。

 

「そんなに見られちゃうと、流石に照れるなぁ。」

 

「っ、すみません……あの、触ってみても良いですかっ!?」

 

「逃げたりしないから、慌てなくても良いよっ……ふふっ。只、結構敏感だから優しくお願いね?」

 

「は、はいっ!」

 

食い気味にそう尋ねるアオイを、炭治郎は可笑しそうに笑いながら了承し、最後にお願いを付けた。

アオイはそれを見て、恥ずかしそうに少し落ち着くと、寝台に座り直した炭治郎に、正確には熱り勃つ逸物に近付き、そして優しく握り締める。

 

「凄い……こんなに熱くて固くて大きいなんて……今まで治療の過程で見て来た、他の患者達のなんてこれに比べたら子供みたい……っ。全くの別物だわっ。」

 

アオイは感動した様に炭治郎の逸物を握って感想を言う。アオイは逸物から炭治郎に視線を変えた。

 

「炭治郎さん、今からご奉仕しますね❤ この日のために私、沢山勉強して来ましたからっ❤…………っ❤」

 

「勉強?」

 

「はい❤ 蝶屋敷(此処)に入院する患者って、暇を持て余して見舞いに来る人に頼んで持って来て貰ったり、自前で持って来る人がいるんです……艶本を。」

 

「……あーなるほどねー。」

 

炭治郎は納得した様に頷く。以前、善逸が艶本を蝶屋敷に持って来たため、それを取り上げようとするアオイに抵抗した結果、艶本が真っ二つになって駄目になった事があるのだ。

 

善逸は「もうこれ手に入らないのに~~~っ!!」と号泣する様を、炭治郎がアオイや伊之助と共に呆れた様子で見ていたのを良く覚えている。アオイは説明を続けた。

 

「その……艶本を片手に、自慰する患者も嘗てはいたので、風紀や衛生の観点からそう言う類いの物は取り上げる事になってるんですよ……退院する時に返却しますが。」

 

「つまり、アオイさんはこれまで患者から取り上げた艶本で、勉強してくれてたって事だよね?」

 

「……はいっ。後は、男根を見立てた物で舐めたり吸ったりする練習をしたりとか……し、してましたっ!」

 

炭治郎の指摘に、アオイは顔を赤面させて頷き、更に他にどうやって勉強に励んだか暴露した。其処までしてくれていたアオイに、炭治郎は感動の念を禁じ得ない。

 

「其処まで……凄く嬉しいよっ。じゃぁ、お願いして良いかな?」

 

「はいっ❤! 上手く出来るか分かりませんが、一生懸命、ご奉仕させて頂きます❤!」

 

アオイは元気良くそう言って、炭治郎の逸物をパクッと口に含み、口淫(フェラチオ)を始めた。炭治郎は刺激でその際にビクッ! と全身を一度震わせる。

 

「はうっ❤……んんっ❤……れぇろれろ❤……ちゅうぅ❤……ちゅうぅぅ❤」

――お、大きい❤ 顎が外れそう……でも、少しでも炭治郎さんを気持ち良くしたい❤……気持ち良くなってぇ❤…………っ❤

 

アオイはそう思いながら口淫(フェラチオ)を五分程続けると、炭治郎から反応が有った。

 

「アオイさん……そろそろ出そうだ……口を離してくれるっ? このままだと口に……。」

 

「ちゅぼ❤……っ❤!……だ、出してぇ❤……れろれろっ❤!……じゅるるるっ❤!!」

 

炭治郎はアオイに気を遣ってそう言ったが、アオイは逆に刺激を強くして逸物から離れず、口淫(フェラチオ)を続けた。

この快感から耐え切れず、炭治郎はアオイの口内目掛けて射精する。

 

「……っ!……んあぁぁっ!……出るっ!」

 

 

ビュルルルルルゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

 

 

「~~っ❤!?……ごきゅっ❤……ごくっ❤……ごくっ❤……ごくっ❤」

 

アオイは射精の勢いに驚くも、何とか逸物から口を離さず押し寄せる白濁の溶岩を飲み干して行く。

半ば気合で全て受け止める事に成功したアオイは、口内に粘り付く精液をそのままに逸物から口を離す。

口内の精液をクチャクチャと噛み締めながら、アオイはゴックンと飲み込んで見せた。

 

「えへへ❤……凄く濃厚で❤……甘くて❤……美味しかったですっ❤……艶本には生臭くて不味いって書かれてたのに、炭治郎さんのは特別なんですねっ❤❤」

 

「えっと、そうみたいだね……試しに自分で舐めてみたら、前に食べた果実より甘くて本当に吃驚した……何だか自分の身体が心配になって来たよ。しのぶさんに今日診て貰って、異常無しとは言われたけれどっ。」

 

アオイが恍惚感に満ちた表情で感想を述べると、炭治郎は何とも言えない様子で自身の身体を心配する。

 

「しのぶ様がそう仰ったなら、心配無用かと。……そんなことより、私はもう限界です。我慢出来ません……っ❤」

 

そう言ってアオイは両足の膝裏を掴んで両足を広げて見せた。其処には大洪水を起こしているアオイの秘部が光って見えていた。

 

「炭治郎さぁん❤ 前戯は良いから……貴方の日輪刀を……私の秘部(さや)に挿れてくれませんか?❤」

 

「っ!……うん、挿れるね。痛かったら直ぐに言って欲しい……。」

 

炭治郎は逸物を中程から握って、アオイの秘部に狙いを定める。炭治郎は一度アオイを見て確認すると、アオイはコクッと頷いた。

アオイの了承を見て、炭治郎は逸物を秘部に向かって挿入した。

 

「ううぅ……ああぁぁぁっ……っ!!」

 

「ああぁぁぁんっっ❤❤!!」

 

炭治郎はズブブブブッと一気に逸物をアオイの秘部に挿入する。その衝撃に、アオイは大きな嬌声を上げた。

逸物を全て挿入し切ると、炭治郎はアオイの無事を確認する。

 

「はぁ……はぁ……アオイさん、大丈夫かい?」

 

「ああぁっ❤……大丈夫ですっ❤……あんまり痛くない❤……。」

 

アオイはそう言って、炭治郎に微笑む。そしてアオイは炭治郎にある頼み事を伝えた。

 

「あの……入っているところを……見てみたいです❤」

 

「分かった、良いよ。少し動くね。」

 

炭治郎は逸物を少し秘部から抜いて、アオイの身体を少し持ち上げる。アオイの視線は炭治郎の逸物が、自身の秘部に入ってるところがはっきりと捉えた。

アオイが目的を確認出来たのを炭治郎が認識すると、アオイの身体を優しくゆっくりと寝台(ベッド)に降ろした。

 

「ううぅぅっ……ひっくっ……あううぅぅ……ああぁぁっ!」

 

「っ!? アオイさんっ!?」

 

アオイは突然、大粒の涙を流して泣き始めた。炭治郎は焦燥してアオイの名を呼んだ。

するとアオイが身体を起こして炭治郎を抱き締め、その涙の理由をゆっくりと話し始めた。

 

「私……私ぃ、本当に、炭治郎さんと一つになれた……本当の意味で、炭治郎さんの一部になれたんですね……嬉しいぃ❤」

 

「~~~~っ!!」

 

そう言って歓喜の涙を流しながら、アオイは炭治郎に口付け(キス)してその歓喜を伝えた。

それを受けて炭治郎は両眼を見開いて驚き、其処まで言ってくれたアオイに感激して、その想いに全力で答えようと決意する。

 

「じゅるるるっ! れろっ! ちゅうぅぅうぅぅぅっ!! じゅるるるるっ! んんんっ!!」

 

「んんっ~~❤! ちゅううぅぅぅ❤!! はぅぅん❤!! れろれろっ❤!!」

 

炭治郎はアオイをサバ折りし兼ねない程に強く抱擁して、アオイの唾液を強く吸引する。

アオイもまた、炭治郎と同様に舌を侵入させて唾液を強く吸引して交換した。

 

そうして数分、そのまま口付け(キス)を続けた炭治郎は息を整えるために口付け(キス)を解いた。

太い銀色の橋が二人の間に出来て、少しの間、宙に浮いてから消滅した。

 

「はぁ❤ はぁ❤ はぁ❤ 炭治郎さん、動いて下さい。貴方の好きな様に……っ❤」

 

「アオイさんっ……良いの? 今の俺、手加減出来そうに無いよ?」

 

心配そうに言う炭治郎に、アオイは顔を近付けて耳元で囁いた。

 

「しのぶ様から頂いたお薬で、痛みは殆ど無いんです。それよりも私、炭治郎さんにもっと愛されたい……っ❤」

 

「っ~! 貴女と言う人は……先刻(さっき)からっ!……激しくしか出来ないからねっ!」

 

「っ❤!……えへへっ❤ はい❤ 望むところです❤❤」

 

ぐちゅっ! ぐちゅっ! ぐちゅっ! ぐちゅっ! ぐちゅっ!

 

「ああああっ❤! あああんっ❤! あああああんっ❤!」

 

アオイは炭治郎の激しい突きに、歓喜しながら嬌声を上げる。炭治郎もまた、アオイから漂う歓喜の匂いに酔いながら更に激しく攻め立てる。

そうしている内に、炭治郎に限界が訪れる。すると炭治郎は抱擁を解いてアオイの腰を強く掴む。そして抜ける寸前まで引くと、思い切り膣奥を突いた。

 

ビュルルルルルルルゥゥゥゥゥ! ビュルルルルルルルゥゥゥゥゥ!!

 

「あああああああぁぁぁぁぁぁっ❤❤❤!!!」

 

炭治郎の逸物から大量の白濁の溶岩が発射され、アオイの膣内を真っ白に染める。アオイは快楽で放心状態になりながら、譫言の様に呟き始めた。

 

「あっ❤……ああっ❤……いっぱい出てるぅ❤…………❤」

 

「っ……もっと……まだ、まだ足りない……!」

 

「えっ?……っ?」

 

 

パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

「ひゃああうぅぅぅっ❤!? ああああんっ❤!? 凄いぃぃっ❤!! 気持ち良いぃぃっ❤!!」

 

「はぁぁぁっ、まだ……まだ行くよっ。寝かせないからね、アオイさんっ!」

 

「き、来てぇぇぇっ❤! もっと愛してえぇぇぇぇっ❤!!」

 

炭治郎の激しい愛撫と突きを、アオイは喜んで受け入れた。お互いに激しく求め合いながら、夜は明けて行った。




お待たせして申し訳ございません。漸く投稿出来ました。
アオイとの話ですが、何か話がどんどん膨れ上がって行き、こうなりました。

アオイがこんな感じなのは結ばれてはっちゃけてると思って下さい。

次回はカナヲ編です。今後もよろしくお願い致します。

更新は……今月中とだけ明記します。遅れるようなら直ぐ発表します。


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第拾陸話 夢幻の桜蝶は日輪に憤慨す ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ・タグ編集大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月十一日(火)

時間帯:深夜

天気:曇り

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「あっ!❤……はああっ❤!……ああぁんっ!❤」

 

蝶屋敷のある一室で、肉を叩く音と艶やかな嬌声の二重奏が部屋中に鳴り響いていた。その音の大きさは室内を越えて、室外の廊下にまで聞こえる程であった。

 

「あぁっ!❤……炭治郎さんっ❤……激しいぃ❤……ああっ❤……んあぁっ!!❤」

 

「ごめんっ……アオイさんの膣内(なか)……気持ち良いから……止められないっ!」

 

アオイが制止する様に、炭治郎の鍛えられた胸元に手を当てる。しかし炭治郎は止まる事無く無我夢中で腰を振って、膣内に挿入している逸物を更に突き込み子宮口にまで先端の亀頭を押し当てる。

 

 

 

パンッパンッパンッ!!!

 

 

 

「ああぁぁっ❤!!……先刻(さっき)より激しくなってぇっ……でも嬉しいですぅぅっ!!❤❤」

 

「アオイさんっ! アオイさんっ!!……あぁっ! 出るっ!!」

 

炭治郎が自分に夢中になってくれている事実が嬉しくて、アオイは炭治郎の胸板に当てていた両手を離し、その細腕を炭治郎の頸に回して抱き締めた。

 

更にアオイと身体を密着させた炭治郎もまた、アオイを強く抱き締めてその想いに応えた。

 

 

 

ビュルッッッ!!! ビュルルルゥゥゥゥビュルルルルルルゥゥゥゥゥ!!!!

 

 

 

「あああぁぁぁぁっっっ!!!❤❤ またイくううううぅぅぅぅっっっ!!!!❤❤❤」

 

自身の子宮に勢い良く侵入して来た白濁の溶岩を浴びて、アオイは頭を仰け反らせて絶頂した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「あっ……あうぅ……。」

 

更に炭治郎に責められ続け、十回を超えて射精されたアオイ。射精された回数の三倍以上も絶頂させられて意識が半分飛んでいたアオイが身体を痙攣しながら、寝台(ベッド)で伸びていた。

 

「あぁ……またやり過ぎちゃったよ……。」

 

処女だったアオイに手加減していた炭治郎だったが、次第に加減を失くして行ったためアオイを抱き潰してしまったのだ。

 

「はぁ……ごめんね、アオイさん。」

 

炭治郎は謝罪しながら、アオイの膣内に挿入していた逸物を抜き去った。すると膣内から白濁塗れの、未だに勃起している逸物が姿を現した。

 

「っっ……ぁぅ?……たん、じろう……さん?」

 

「あ……起きちゃった? アオイさんっ。」

 

炭治郎の逸物が膣内から抜かれて、寂しさを覚えたアオイが意識を取り戻す。

それを見て、炭治郎は申し訳無さそうにアオイに声を掛けた。

 

「そのまま休んでなよ。」

 

「……でも。」

 

炭治郎に気を掛けられたアオイだったが、チラッと視線を下にやると未だに臨戦態勢を解いていない逸物が眼に付いた。その視線に気付いた炭治郎は、苦笑しながらアオイの頭を優しく撫でる。

 

「無理を強いたくないんだ。一緒に休もう、アオイさん。」

 

「……はいっ❤」

 

炭治郎がもう片方の手で布で逸物を拭きながら、アオイに休む事を提案する。アオイは炭治郎の優しさが愛おしくて、起き上がると炭治郎に抱き着いた。その際に下腹部に炭治郎の逸物がぶつかって身体を刺激した。

 

――……俺は長男だ。長男だから絶対に我慢出来る……鎮まれっ、鎮まるんだ……っ!

「……このまま抱き合いながら寝ようか?」

 

「ふふっ❤ 喜んで❤」

 

炭治郎はアオイの身体を感じて思わず性欲が燃え上がりそうになったが、それを理性と長男力で無理矢理抑え付けてアオイと抱き締めながら寝台(ベッド)に寝転がった。

 

「お休み、アオイさん。」

 

「お休みなさい、炭治郎さんっ……ちゅっ❤」

 

アオイは炭治郎に口付け(キス)をしてから、そのまま両眼を閉じる。炭治郎もそれに合わせて両眼を瞑ると、そのまま二人は眠りに就いた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

夢幻世界

 

 

「あ……あの、カナエ?……??」

 

「……つーん。」

 

夢幻世界に辿り着いた炭治郎だったが、本人は困り果てていた。カナエが不機嫌さを全開にして、不貞腐れていたからだ。炭治郎が声を掛けても、拗ねてそっぽを向いてしまう。

 

「『無理を強いたくないんだ。一緒に休もう。』……ですって? 随分とまぁお優しいです事。」

 

「……あ――。」

 

カナエが漸く口にした一言の内容を耳にして、炭治郎は漸くカナエの不機嫌の原因を察知した。

 

カナエはアオイに嫉妬していたのだ。長女(あね)矜持(プライド)と言う名の楔が外れた今、カナエは炭治郎の前では一人の女であった。そして妹のしのぶに勝るとも劣らない嫉妬深さを、一切隠す事無く全開にしていたのだ。

 

「きゃっ!?」

 

「お望みとあれば、今日は優しくするよ。カナエ。」

 

炭治郎がカナエに接近して、背後から優しくカナエを包み込む様に抱き締める。そっぽ向いていたカナエは油断していたのか、突然感じる力強く逞しい感触に悲鳴を上げる。

 

尤も、その悲鳴の色は黄色いものであったが。

 

「……もうっ❤」

 

カナエは愚痴る様にそう呟くと、耳に入って来る炭治郎の声と吐息を感じながら、うっとりとした表情を浮かべて前に回された炭治郎の手を優しく抱き締めた。

 

――惚れた男の子に抱き締められただけで、こんなに幸せに感じるなんて……我ながら、単純な女だわ……。

 

カナエは胸中で燃え盛っていた嫉妬心が鎮火して霧散して行くのを感じながら、炭治郎の温もりを堪能していた。両眼を閉じて静かになったカナエを見て、炭治郎が声を掛ける。

 

「カナエ、悪いんだけど……今回はどんな鍛錬をするのか、教えて貰えるかな?」

 

「っ!」

 

炭治郎に尋ねられたカナエは、両眼を開いてうっとりと蕩けた表情を一気に引き締めた。

 

「……そうね。」

 

カナエは顎に片手を置いて、炭治郎に指導すべき鍛錬の内容を脳裏で思案し始めた。

 

「っ!」

 

今度はそんな様子のカナエを見て、炭治郎が頬を赤くして見惚れる。恋する乙女の如き年相応な顔をするカナエも大好きだが、年齢不相応に大人びた凛々しい女傑の一面を持つカナエもまた、炭治郎は大好きなのだ。

 

「……よろしい。鍛錬の内容が決まったわ、()()()()。」

 

「っ!……はいっ!」

 

カナエが自身の呼び方を変えたのを聞いて、炭治郎も態度を改めて姿勢を正した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「膝を曲げない! それからもっとゆっくりやりなさいっ!!」

 

「は……はいぃっ!!」

 

炭治郎はカナエの指導の元、腕立て伏せを行っていた。

 

しかし、唯の腕立て伏せでは無い。自身の膝と同程度の高さの腰掛けがある椅子に両足を置いて、宙に浮かせたままピンと棒の如く姿勢を真っ直ぐな状態での腕立て伏せだった。

 

この夢幻世界は精神世界であるため、肉体の鍛錬は現実に直結しない。どれだけ鍛えたところで身体の方は筋肉量が増えたりしないのだ。

 

「カナエ……さん。どうして俺は……鍛錬をやっているんでしょうか?」

 

炭治郎も疑問に思って、言われた通りの腕立て伏せの回数を行った後に、カナエに理由を尋ねた。その回答は、直ぐにカナエから得られた。

 

「炭治郎君の自主鍛錬だけど、数ばかり熟してる形が主体的になっているわ。普通の腕立て伏せを百回するよりも、より高負荷の腕立て伏せを十回行った方が効率的です。」

 

「っ!……な、成程。その通りですね。」

 

カナエの持論を聞いて、炭治郎は目から鱗が落ちる思いをしながら感心した。カナエは炭治郎の様子を見て満足しながら、更に続ける。

 

「言葉で教えても、炭治郎君は覚え切れないでしょう? 実際にやって身体に覚えさせない。良いわね?」

 

「はいっ!」

 

行動で覚える様にと言われ、炭治郎は納得して力強く頷いた。

 

その後、炭治郎はカナエから幾つか鍛錬方法の修正を掛けられ、更に柔軟体操についても指導が入った。

 

「柔軟体操は毎日、五分でも良いから続けなさい。一朝一夕で完成するものではありませんからね。"継続は力なり"よ。」

 

「はい……それは分かっているんです。蝶屋敷はアオイさん達が手伝ってくれるんですけど、一人だとこのやり方で良いのかなって疑問が……。」

 

「っ!……そうね……っ。」

 

炭治郎が困った様子でそう言うと、カナエは顎に片手を置いて再び一考を始める。

 

「柔軟に関しては私より、()()()の方が専門分野なのだけれど……。」

 

()()()?」

 

カナエが呟いた一言の内容が気になって、炭治郎は復唱してその一言を呟いた。

 

「ええ。現在(いま)の鬼殺隊が誇る柱の一人、"恋柱"こと"甘露寺蜜璃"ちゃんよ。」

 

「っ!!」

 

炭治郎はカナエに教えられた蜜璃の事を、咄嗟に脳裏に思い出した。最初から禰豆子に敵意を抱かず、中立を守ってくれた女性の柱である。その事から、炭治郎の中では印象が良かった。また、あの特徴的な桜色の髪色も含めて、その稀に見る美貌が強く炭治郎の印象に残っていた。

 

――と言うか……鬼殺隊ってその組織の特異性から女の子の数が多い訳じゃないけど……禰豆子も含めて、しのぶさんと言いカナエと言い、アオイさんにカナヲや甘露寺さんと、物凄い美人さんが集まってるなぁ……()()()()も可愛いし……雲取山(故郷)を下りた町にも可愛い女の子は居たけど……明らかに次元が違うと言うか……っ。

 

炭治郎は頬を赤くしながら自分が超の付く美人を次々と、脳裏に思い浮かべていった。さり気無く禰豆子も数に入れている当たり、その妹好き(シスコン)振りが見て取れたのだが、炭治郎本人に自覚は無い。

 

――俺は幸運にもしのぶさんとアオイさん、そしてカナエと結ばれたけれど……本当、俺には勿体無い女の子ばっかりだよな……普通の人生を歩んでいたら、絶対に会えなかった……そう思うと複雑だけど。

 

自身の分不相応な幸運に対して、炭治郎はしみじみとそう自覚していた。そして余計な事を考えて、勝手に感傷に浸っていた。

 

「……た~ん~じ~ろ~う~く~ん?」

 

「いたたたたたたたっ!?!?」

 

しかしそんな炭治郎の心情など知らないカナエは、頬を赤く染める炭治郎に対して笑みを浮かべたまま、青筋を浮かべて鼻を千切らんばかりに引っ張って抓っていた。鼻を引っ張られて抓られて、炭治郎は涙目で悶絶する。

 

「全く、私と言う者がありながら……何を想像していたのかしらねぇ?」

――大方、蜜璃ちゃんの事を想像していたんでしょうね……チッ!

 

カナエは変わらず炭治郎の鼻を引っ張ったまま、炭治郎が想像している内容を予想した。

 

「あがっ!?……あのっ!!……カナエ、さんっ……っ!!」

 

「あっ?」

 

炭治郎は必死で鼻を引っ張り抓られる痛みに耐えながら、必死で開口する。対してカナエは苛立ちを隠す事無く、どんな言い訳をするのかと思いながら静かに睨み付けていた。しかし炭治郎が喋り易い様に抓る強さを緩める当たり、カナエの優しさが無意識に出ていた。

 

「い、今言っていた甘露寺さんとか、しのぶさん達他の女の子の事を思い浮かべて……カナエさん達と俺が、俺みたいな凡庸な男には分不相応な素敵過ぎる女性と結ばれてとても幸せだと思いましたっ!!」

「っ!!!」

 

炭治郎は嘘を吐く事無く、本当の事を正直にカナエに伝えた。炭治郎が告白した瞬間、カナエは一瞬固まった。それから徐々にゆっくりと、頬が赤く染まっていく。

 

「~~っ!!❤……何が凡庸なものですかっ!……炭治郎君、貴方は私が知る限り最高の男の子よっ!!」

 

「むぐっ!」

 

カナエは歓喜を爆発させて、炭治郎を思い切り自身の乳房に頭を押し当てる様に強く抱き締めた。

 

「ふふっ❤……炭治郎君、だ~いすき❤❤」

 

「俺も……大好きだよ、カナエ。」

 

「「…………」」

 

炭治郎とカナエは二人揃って互いに愛を囁いた後、続けて言葉を発する事はしなかった。それから暫くの間、何も言わないまま二人で静かに抱擁を交わして時を過ごしていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「えっと、その……甘露寺さんなら、柔軟について詳しいんですか?」

 

カナエからの熱烈な抱擁を解かれた炭治郎は、頬を赤くしたまま余韻を感じて浸る事はせず、蜜璃に関してカナエに尋ねていた。

 

「えぇ、そう思うわ。私もしのぶ越しで見た限りだけれど……あの子の身体の柔らかさはきっと鬼殺隊一ね。先天的な体質もあるんでしょうけど、きっと誰よりも柔軟について詳しい筈よ。」

 

炭治郎の質問を受けて、カナエは蜜璃について知っている限りを教えた。

 

「……良しっ! 甘露寺さんは柱だから会える機会なんてそうないだろうけどっ! もし出会えたらその時に教えて貰おうと思います!!」

 

「そうね、それが良いわ。それまでは蝶屋敷でなほ達に手伝って貰いなさい。」

 

「はいっ、ありがとうございますっ!」

 

炭治郎がカナエに頭を勢い良く、九十度にまで下げて礼を述べた。

 

――あっ!

 

「っ?……カナエさん、どうかしました?」

 

「えっ!?……いえ、何でも無いわ。」

 

「……っ?」

 

カナエがあっと何かに気付いた様子で口を開けて驚くと、炭治郎はそんなカナエが気になって声を掛ける。炭治郎に声を掛けられたカナエは、頸を振って何でも無いと答えた。

 

炭治郎はそれでも気になったが、追及する事でも無いと思い聞かない事にした。

 

――蜜璃ちゃんって、炭治郎君並みに教えるのが下手なのよね……もし出会っちゃって指導して貰う事になっちゃったら、かなりややこしい事になるんじゃないかしら?

 

カナエは心中で炭治郎と蜜璃が出会った時の事を想像して、困った様子で頭を悩める。

 

「すううぅぅぅっ……よーしっ! 頑張るぞ~~っ!!」

 

炭治郎は一度だけ深く深呼吸をすると、気合を入れる様に決意を改めて声を上げた。

 

――……まぁ良いか。私の自慢の旦那様だし、何かあってもきっと大丈夫ねっ!!

 

そんな炭治郎の様子を見て、カナエは先送る様に思考放棄を決意した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「今回の指導はこれで以上よ。忘れたら何度でも私に聞きなさい。」

 

「はいっ! ありがとうございました!!」

 

炭治郎は再びカナエに頭を勢い良く、九十度にまで下げて礼を述べた。カナエはそんな炭治郎に苦笑しつつ、炭治郎程では無いにせよ頭を下げて返礼する。

 

「さて……始めましょうか?」

 

「っ?……何を始めるんです?」

 

カナエが炭治郎に提案すると、炭治郎は理解出来ず首を傾げる。

 

「……っ。」

 

そんな炭治郎の様子が癪に障ったのか、カナエは笑顔のまま額に青筋を浮かべる。

 

「意地悪っ!……その、()()()()を……ね?」

 

カナエが抗議してそう言った後、頬を赤くして赤面しながら指をモジモジとし始めた。

 

「っ!」

 

そんなカナエの可愛らしい様子を見て、今度は炭治郎も言いたい事を察した様子で、カナエから伝染した様に赤面する。

 

「……カナエ。」

 

「んっ!?」

 

炭治郎はカナエの名前を呼ぶと、カナエが反応する前に自分から接近する。モジモジしていた両手を包み込む様に掴んでから、口付け(キス)を交わしたのだ。

 

「……っ❤」

 

最初こそ両眼を見開いて不意打ちの口付け(キス)に驚いていたカナエだったが、直ぐに両眼をトロンとさせて炭治郎からの熱い口付け(キス)を堪能する。

 

「ぷはっ。」

 

「ぁ❤……。」

 

炭治郎が唇を離して口付け(キス)を止める。その際に薄い銀色の橋が出来て、直ぐに途切れて消滅する。

 

「っ!……っ❤」

 

カナエが我に返ると、直ぐに隊服に手を掛けて脱ごうとする。しかし、炭治郎に両手を握られてそれは出来なかった。

 

「カナエ……俺に服を脱がさせてくれないか?」

 

「えっ!? あっ……はいっ❤」

 

炭治郎のお願いを聞いて、カナエは一瞬だけ戸惑うも直ぐに承諾した。炭治郎から両手を離されても、両手を下ろすだけで委ねる様に自身の身体を差し出す。

 

「……(ゴクッ。)」

 

炭治郎は生唾を呑み込むと、カナエの隊服に手を掛けて(ボタン)を外し始める。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っっ。」

 

(ボタン)を一つ外す度に、炭治郎の息は荒くなっていった。

 

炭治郎の(ボタン)の外し方は特徴的で、上から下へ一つずつ(ボタン)を外すのでは無く下から上の順に一つずつ(ボタン)を外していた。まるで楽しみにを最後の最後まで取って置くかの如く。

 

「はぁ……っ!!」

 

(ボタン)を外し終えた炭治郎は驚いた。カナエのシミ一つ無い、美しい肌が見えたからだ。だからこそ驚いた。以前は乳房に着けていた、晒が無かったのである。

 

「カナエ、晒は?」

 

「そんなもの、もう必要無いじゃない。私達二人しか夢幻世界(此処)には居ないのよ?……何でしたら私、最初から全裸(はだか)でも良いんですからね?」

 

「っ!?」

 

カナエの言葉を聞いて、炭治郎は驚愕しながら直ぐに首を横に振って否定した。

 

「頼む、それは止めてくれ……修行に集中出来ない……俺の理性が持たないからっ……っ!!」

 

「っ!……うふふっ❤」

 

炭治郎がカナエの言葉を否定する理由を聞いて、カナエは思わず笑ってしまった。

 

「……あなた、全部脱がせてっ❤」

 

「う、うんっ!」

 

カナエに頼まれた炭治郎は、バッとカナエの隊服を羽織ごと脱がせる。すると美しい二つの巨大な双丘を含む鍛えられた上半身が姿を表した。

 

「……っっ。」

 

炭治郎は飛び付いてむしゃぶりつきたくなる衝動を抑えつつ、次にカナエの洋袴(ズボン)に手を掛ける。調帯(ベルト)を外して、一気に洋袴(ズボン)を下に下ろした。

 

「やんっ❤」

 

「っ!」

 

洋袴(ズボン)を下ろすと、其処には細くも鍛えられた美脚が姿を現す。しかしそれ以上に炭治郎は、愛液がダラダラと溢れ出ている秘部から眼を離せなかった。

 

「……(ゴクッ。)」

 

炭治郎は再び生唾を飲み込んで、必死で本能を理性で抑え込む。そして直ぐに片足ずつ持ち上げてから残っていた草履と足袋を外し産まれ立ての姿にした。

 

「今度は私の番ね?」

 

「そうだね、お願いするよ。」

 

全裸になったカナエは、今度は炭治郎の隊服に手を掛けて丁寧にかつ素早く脱がしていく。

 

「……っ!❤」

 

カナエが炭治郎の洋袴(ズボン)を下に下ろすと、既に何度も自身の子宮に子種を注いで来た炭治郎の逸物が臨戦態勢の状態で姿を現した。その大きさから、勢い良く下から上に跳ね上がる。

 

「っっ❤……あなた、座っててっ。」

 

「分かったよ、カナエ。」

 

炭治郎が尻餅を付いて座り込むと、カナエは炭治郎の靴下と草履を脱がした。炭治郎を自身と同様に産まれ立ての姿をすると、カナエは臨戦状態の逸物を右手で優しく包む様に握り締めた。

 

「ご奉仕……させてくれる? この前みたいに噛んだりしないから……。」

 

炭治郎にカナエは上目遣いでお願いする。以前の事がある手前、炭治郎に拒絶されるのではないかという不安がカナエの心中にはあった。

 

「勿論っ! でもまた嚙んじゃっても、カナエは気にしなくて良いからね?」

 

それはカナエの杞憂であった。炭治郎はカナエの申し出を受けて、満面の笑みを浮かべて歓迎した。そればかりか、再び同様の失敗をしても事前に許すとさえ炭治郎ははっきりとカナエに伝えた。

 

「~~っ!❤……大好きっ!!❤」

 

「わっ!……んうぅっ!!」

 

「んちゅうううっ!❤……ちゅうううっ!❤❤」

 

カナエは歓喜するあまり、逸物から手を離して炭治郎に抱き着いて口付け(キス)をした。

暫くの間、カナエからの熱い口付け(キス)が行われた後、カナエから唇を離して口付け(キス)を終えた。

 

「それでは早速……ご奉仕させて頂きます。」

 

カナエは再び逸物に顔を近付けると、優しく片手で握ってから口を大きく開けて逸物を咥え込んだ。

 

「っ!」

 

敏感な逸物を通してカナエの口内の生暖かい感触を感じて、炭治郎は一瞬だけ身体をビクッと震わせた。

 

「んんんっ!?……れろれろっ❤……じゅるるっ❤」

 

カナエは炭治郎の様子を気に掛ける事無く、口淫(フェラチオ)を続行する。滑り出しは順調なカナエであったが、本人に余裕は一切無かった。

 

――こ、此処の筋が弱かった筈よね?……ああっ、それから陰嚢も優しく揉み解してあげなきゃ……大丈夫。やれば出来る。しのぶやアオイ、それに禰豆子ちゃんに出来て、私に出来ない筈が無いんだから……っ!!

 

カナエは炭治郎が三人(妹達)情交(セックス)をしている時、決して一瞬たりとも眼を離したり逸らしたりせず観察を続けていた。

 

それも全て、炭治郎に気持ち良くなって欲しい一心からである。嫉妬心と羨望の念を抱きながら、秘部から愛液を垂れ流し耐え切れず自慰をしながらも、炭治郎を喜ばせたい一心で一部始終を観察していたのだ。

 

「ぢゅるぢゅっ!❤……じゅじゅりゅるるるるっ!!❤……ぴちゃぴちゅっ❤……ちゅろれろろ!!❤」

 

一生懸命、一心不乱に炭治郎の逸物に口淫(フェラチオ)をするカナエ。其処へ舌を動かしつつ、炭治郎の様子を伺う。まだ口淫(フェラチオ)を始めて間も無いのだが、炭治郎が感じてくれているのかどうしてもカナエは気になったのだ。

 

「はぁああっ……気持ち、良いっ……カナエ、もう出そう……っ。」

 

「っ!❤」

 

カナエの口淫(フェラチオ)を感じて、炭治郎はだらしなく涎を口元から垂らしていた。そんな炭治郎が感じてくれているのを見て、カナエは無性に強い歓喜を覚えた。また逸物が膨張した様に感じ、カナエは炭治郎の言葉が本当だと確信した。

 

 

 

ビュルルルルルルルゥゥゥゥ!! ビュルルビルルルビュルルルゥゥゥゥゥ!!!!

 

 

 

「んんんっっ!!!??❤」

 

「ああっ!……はぁあぁぁああっ!」

 

カナエは凄まじい勢いで口内に入って来る白濁の溶岩を受けて、カナエは両眼を見開く程の驚きを覚えた。それは口内を瞬く間に埋め尽くし、両頬を膨張させる程の量になる。その姿は餌を頬袋に溜め込む、栗鼠を連想させた。

 

「んむうぅぅっ!……むうぅっ……むふうううぅぅぅっっ。」

 

カナエは口内に溜まる精液を口内に留めたまま、空いた鼻腔で呼吸する。

 

「……(ゴクッ!)……(ゴクゴクッ!)……ぷはああぁぁぁっ!……ふうぅ❤」

 

口内の精液を咽る事無く、全て飲み込んで胃の中へと精液を収める。左手を左頬に添えるその美貌には、恍惚感と達成感が満ち溢れていた。

 

「お疲れ様、カナエ。」

 

自身の精液を飲み干してくれたカナエに感謝と労いを込めて、炭治郎はカナエの頭を優しく撫でる。其処から片手をずらして右頬に添える。

 

「っ❤」

 

カナエは視線だけで炭治郎が望む意図に気付くと、直ぐに炭治郎に向かって身体を動かした。

自身に近付いて来るカナエに対して、炭治郎は右手を後頭部に回し左手で乳房を鷲掴みにした。

 

「ちゅちゅううぅぅ!……じゅるるうぅっ!!……ぺちゅぺちゃっくちゅうううぅぅぅっ!!」

 

「んちゅううぅっ!!❤……はぁむちゅうぅっ!!❤……ちゅむぶちゅううぅぅぅっ!!❤❤」

 

炭治郎から吸い尽くされる様な勢いで、カナエは熱烈な口付け(キス)を受ける。その際に片手でカナエの乳房を愛撫する事も忘れていなかった。

 

「ぢゅるるるっ!❤ ぶちゅるぅっ!❤ じゅちゅるるるっ!❤」

 

「むっちゅるるっ! じゅちゅっ! ちゅじゅるるっ!!」

 

カナエも両腕を炭治郎の頸に回して強く抱き締めながら、負けじと舌を入れて炭治郎の舌を迎え撃つ。

舌と舌が絡み合い、二人の口から唾液が溢れ出る。顎を伝ってそのまま炭治郎の胸元に、唾液が次々と垂れ落ちて行った。

 

「ちゅぶ❤……はぁ、あなたぁ❤」

 

カナエは名残惜しそうに唇を離すと、その際に太い銀色の橋が出来る。カナエはうっとりとその様子を見詰めながら、炭治郎を愛おしそうに呼んだ。

 

「うん、そろそろ……一つになろうか、カナエ?」

 

炭治郎は後頭部に回した手を再びカナエの右頬に添えて、優しく撫でながら提案した。

 

「ええ……でも私に挿入(いれ)させて……良いかしら?」

 

「……(コクッ。)」

 

カナエからの誘いの提案に、炭治郎は微笑みながら頷いた。チラッとカナエの下腹部に視線を向けると、既に炭治郎の逸物の上から洪水の如く愛液が太腿を伝って秘部から溢れ出ていた。

 

「カナエの下の口は、もう待ち切れないみたいだね? 」

 

「い、言わないで……っ❤……んああああぁぁぁっ!❤❤」

 

カナエは恥ずかしそうに顔を逸らしながら、炭治郎の逸物目掛けて腰を下ろした。挿入時の衝動に、カナエは大きな嬌声を上げる。

 

「あああぁぁっ!❤……わ、私が動くからっ!❤……あなたはそのままっ❤……あひぃんっ!❤」

 

「うんっ、分かった!……くうぅっ!……お願い、ねっ!……カナエっ!!」

 

炭治郎がカナエの膣圧を感じながら、カナエに委ねて仰向けに倒れた。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「いひぃっ!❤……ああんっ!❤……やっぱりぃっ!……硬くて、太いぃっ!❤……んなああっ!❤」

 

炭治郎の鍛えられた胸板に両手を置いて、カナエは必死で腰を上下に挿抜を繰り返して行く。その際にカナエの豊満過ぎる乳房もまた、炭治郎の眼前で大きく揺れる。

 

「カナエ……っ。」

 

「ぁんっ!❤……くぅあぁっ!!❤……っっ!❤……あんっ!❤……あああんっ!❤」

 

炭治郎はカナエの名前を優しく呼んでから、自身の胸元に置いているカナエの両手に自身の両手を重ねて、そのまま恋人繋ぎをして指同士を絡めた。

 

「ああっ!❤……これっ、好きぃ❤……あああんっ!❤」

 

「俺も、だよ……カナエ……くうぅっ!……ああっ!」

 

カナエは炭治郎と恋人繋ぎをしている事が嬉しいのか、自身の歓喜を表現する様に膣圧が強くなった。炭治郎も強くなった膣圧を受けて、思わず嬌声が漏れる。

 

 

 

ビュルルビルルルルルルルルゥゥゥゥッッッ!! ビュビュルルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!!

 

 

 

「あああああぁぁぁぁぁ熱いぃぃぃぃっっっっ!!!❤❤❤」

 

騎乗位の体位のためか、炭治郎の逸物から文字通り火山の噴火の如く、下から白濁の溶岩を子宮内に叩き付けられてカナエは絶頂した。頭を仰け反らせたまま、未だに襲い掛かって来る快楽の波を受けて、身体を小刻みに震わせていた。

 

「あああぁぁぁ……ふううぅぅぅ、ふううぅぅぅっ。」

 

炭治郎もまた絶頂したためか、身体を小刻みに震わせて残り汁をカナエの膣内に送り続けて行く。そして余韻も程々に、炭治郎が突如として動き始めた。

 

「ふうぅぅっ……ふんっ!」

 

「えっ?……きゃああっ!?❤」

 

炭治郎が一度だけ深呼吸をすると、唐突に身体を起こしてからカナエの括れた腰に両手を回して抱き着いた。突然の炭治郎の行動に、カナエも驚愕から咄嗟に身動きが取れなかった。

 

驚くカナエを他所に、炭治郎は座ったまま行動に移る。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「んああぁぁぁっ!?❤❤……待って、ああん!❤ あああんっ!❤❤」

 

「ふんっ! ふんっ! ふんっ!!」

 

カナエが静止を求める声を上げるも、炭治郎は一切カナエに構う事無く腰を下から上に振るって子宮に叩き付ける。

 

「わ、私がもっと……攻めようと思ってたのにっ……あああっ!❤」

 

「ふんっ! 遠慮しなくて良いんだよ、カナエ! 今度は俺がいっぱい、カナエを気持ち良くしてあげるからっ!!」

 

「そんなっ❤……やあぁんっ!❤」

 

炭治郎は抱き地蔵(対面座位)の姿勢で、座ったまま僅かばかり地面から宙に浮くカナエを下から膣奥へ逸物を叩き付ける。大きく揺れていたカナエの豊満な乳房が、炭治郎の胸板に押し付けられて形を変えた。

 

「ふうぅぅっ、気持ち良い……乳房(おっぱい)を身体に押し付けられるのも良いけど、やっぱり……っ。」

 

「ひゃああんっ❤……あんっ!❤……んんっ❤……あああっ!!!❤」

 

カナエに突き上げる逸物を止めないまま、炭次郎は再び乳房を片手で揉んでその柔らかさを堪能し始める。

 

「んっ。」

 

「あんっ!❤」

 

炭治郎がカナエの乳房にある赤い蕾に吸い付くと同時に、強過ぎず弱過ぎない絶妙な力加減で反対側の赤い蕾も摘んでみせた。勿論だが逸物の突き上げも緩めたり、況してや止める様な真似は絶対にしない。

 

「ひゃあああっ!?❤ そ、そんなにっ!……一度にっ……されちゃったらっ!!❤……私っ……ああっ!❤」

 

「んちゅううぅぅぅっ!……ぷはっ!……大丈夫だよ、カナエっ!……俺ももう直ぐ射精()そうだからっ!」

 

カナエは三箇所から同時にやって来る快楽の波を受けて、カナエは直ぐに限界に達しそうになる。そんなカナエに、炭治郎は即座に声を掛けた。

 

「っ!……あぁっ!❤ 来てぇぇっ!!❤❤」

 

乳房から口を離した炭治郎が自身も絶頂寸前だと伝えると、カナエは喜んで受け入れた。

 

 

 

ドビュルルルルルルルゥゥゥゥッッッ!! ドビュビュルルルルルルゥゥゥゥゥッッ!!!!

 

 

 

「んああああぁぁぁぁぁっ!!❤❤❤」

 

「ああああっ!……出るうぅっ!!」

 

炭治郎の逸物から大量の白濁の溶岩を再び子宮内に浴びせられたカナエは、先刻以上の快楽の波を全身に感じて絶頂した。

 

「ぁぅ……ああぁぁ……。」

 

「はぁ……はぁ……もっと、したい……。」

 

意識が半ば朦朧とするカナエであったが、炭治郎の方は益々その両眼に獣欲の光を輝かせていた。カナエの様子を他所に、炭治郎は呟きながら行動に出る。

 

「……ぁっ?……んあああっ!?」

 

「ハアアァァァ……ハアアァァァ……っ!!」

 

炭治郎はカナエと繋がったまま、徐に立ち上がった。それから両足の間をゆっくりと広げてから、僅かばかり座り込む様に膝を曲げる。

 

「ああっ……こ、この体位は……っ。」

 

「どうやら、知ってるみたいだね?……俺としのぶさんの情交を覗いたからかな? ふふっ……また、一緒に気持ち良くなろうっ!!」

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「ああぁんっ!❤……ふ、深いぃっ!❤……あああんっ!❤」

 

炭治郎はしのぶとの情交(セックス)の時と同様、櫓立ち(駅弁)の体位でカナエを攻める。身長差の関係からか、カナエの豊満な乳房が炭治郎の息に届く程の距離にまで近付いた。

 

「ひゃあん!❤……あううぅっ!❤……き、気持ち良いっ!!❤……ああああっ!❤」

 

カナエは余韻すら引かないまま炭治郎に激しく攻められて、嬌声を上げながら炭治郎に強く抱き着く事しか出来ない。

 

「ハアアァァァ……全身をカナエに包まれてるみたいだ……気持ち良くて安心する……。」

 

「やんっ!!❤❤」

 

炭治郎は安心し切った様子で強くカナエに抱き着いて、その豊満な乳房の真ん中にある谷間に顔を埋めて癒される。

 

「ぁぁ❤……あなたぁ❤」

 

「カナエ……好きだっ。」

 

炭治郎はカナエに剥き出しの好意を口にしてから、更に勢いに乗った。

 

 

 

パンッパンッパンパンパンッッッ!!!

 

 

 

「んあああぁぁぁっっっ!!!❤❤❤……激しいっ❤……っ!!❤❤」

 

「好きだっ! カナエっ!!……好きだよっ……っ……愛してるっ!!」

 

「~~~っっっ❤❤!!……私もっ!……私もよっ❤ 愛しているわっ、あなたぁぁっ!!❤❤」

 

これまで以上に腰を動かして激しく反復動作(ピストン)を繰り返しながら、炭治郎はカナエに愛の言葉を大にして伝える。カナエもまたその事に感激しながら、強く抱擁を返して嬌声を上げ続けていた。

 

「あな、たっ!❤……私っ……もうっ……っ!❤」

 

「俺も、そろそろっ!…………一緒にイこうっ! カナエっ!!」

 

炭治郎がそう言った瞬間、カナエは自身の膣内に収まっている逸物が膨張する様に感じた。

 

「あぁっ! 出るっ!!」

 

「っ!❤」

――あぁ❤ またあの熱くて心地良い快楽の波がやって来るのね……っ❤❤

 

カナエが期待からか、無意識に膣圧を上昇させた。炭治郎の逸物を締め付けて、その中に詰まっているであろう白濁の溶岩をカナエは吐き出させようとした、その瞬間であった。

 

 

 

ドンッ!

 

 

 

「きゃっ!?」

 

何の前触れも無く唐突に、カナエの悲鳴が零れた。

 

「な、何がっ…………っ!?!?!?!」

 

カナエは戸惑いを隠せない様子で周囲を見渡すと、直前まで櫓立ち(駅弁)の体位で深く愛し合っていた炭治郎の姿が何処にも見当たらなかった。

 

逸物も当然カナエの秘部から消え去っており、今更ながらカナエは強烈な喪失感に陥っていた。

 

「嘘っ……何処へ行ったのっ!?……炭治郎君……っ!!!」

 

カナエは激しく困惑しながら、一生懸命周囲を探って炭治郎の姿を探し出そうとする。しかし、どんなに頑張っても捜索しても炭治郎の姿は夢幻世界には見当たらなかった。

 

「炭治郎君……まさかっ。」

 

尻餅を付いて座っていたカナエは炭治郎が消滅した理由を察して、咄嗟に両眼を瞑る。

 

「……っ……っっ!!」

 

両眼を瞑ってから少しして、カナエは怒りで全身を震わし始める。炭治郎が消滅した理由が分かったからだ。

 

「アオイィっ!?……炭治郎君を無理矢理起こしたわねっ!!」

 

カナエは青筋を額に色濃く浮かべながら、怨嗟の声を漏らす。

 

炭治郎が無限世界から消失した理由は、アオイが無理矢理に近い形で起床させたからだ。肉体が覚醒した炭治郎は自動的に精神も引っ張られたのである。それも、選りにも選ってカナエにとって最悪の瞬間(タイミング)であった。

 

普段ならそう言った異変に気付けるカナエであるが、炭治郎と愛し合う事を優先するあまり気付くのが遅れたのである。

 

「あともうちょっと……あともうちょっとで一緒にイけたのにっ……っ!!」

 

カナエは悔しそうに地団太を踏みながら、悪態を吐いていた。最愛の恋人との情交(セックス)を、最高潮(クライマックス)の時に妨害されたのだ。カナエの憤怒からか背後から、どす黒い(オーラ)の様なものが見て取れた。

 

「……この恨み、晴らさずにおくべきかしら……っっっ!!!」

 

このまま怨霊と化すのではないかと心配になる程に、カナエは憤怒の炎を燃え広がらせた。

すると其処へカナエはある妙案を思い浮かんだ。

 

「……丁度良い実験体が居るじゃないっ! 鬱憤晴らしにもなる、最高の人材がっ!!」

 

カナエはそう言うと、間も無く右手の指をパチンッ! と一回だけ鳴らした。それから間も無く一人の女性が現れた。

 

「うっ――?」

 

カナエの眼前に現れたのは、炭治郎の妹である禰豆子であった。唐突に召喚された禰豆子は周囲を見渡してから、何故か全裸状態のカナエを見て状況が理解出来ず首を傾げた。

 

「ふふっ……ふふふふふうふふふふふふ。」

 

カナエは不気味な哄笑をすると、全裸のまま蝶々を象っている羽織だけを羽織る。それから生前の愛刀であった、自身の桃色の刀身をした日輪刀を召喚する。

 

「禰豆子ちゃんっ! いきなり来て悪いんだけど鍛錬を始めましょうっ!!……とりあえず私に斬られて頂戴っっ!!」

 

カナエはそう言って、日輪刀を禰豆子に向けた。カナエは炭治郎と一緒に絶頂出来なかった恨みを、禰豆子に八つ当たりする事で解消しようとしていたのである。

 

「ううぅっ~~~~!?」

 

唐突過ぎてカナエが言っている内容は理解出来ないが、禰豆子は本能的に恐怖心や困惑を抱きながら後退った。

 

「……うっ!」

 

「あっ! こらっ! 待ちなさ――いっっっ!?」

 

次の瞬間、禰豆子は脱兎の如くカナエの前から逃走する。そんな禰豆子を見たカナエは隊服に履き替える事もせず、日輪刀を振り回しながら禰豆子を追い掛けて行った。

 

禰豆子はこれからカナエと地獄の鬼ごっこを行って捕縛された後、鍛錬と称してカナエから八つ当たり気味に、鍛錬の指導を受ける事になる。たとえ只の八つ当たり気味であったとしても、鍛錬自体が無意味なものでは無かった事が唯一の救いであった。




お待たせ致しました。

アオイと結ばれた後の、ダイジェストで終わらせていたやり取りです。省略せずちゃんと書きゃ良かったな……(´Д`)ハァ

次回、もう一作だけ新作投稿です。四月中に投稿しますのでお待ち下さい。



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第拾漆話 藤蝶は日輪に仕置きを行う ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ・タグ編集大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月十二日(水)

時間帯:早朝

天気:曇り

 

 

「ん……っ。」

 

炭治郎とアオイの激しい夜は過ぎ去り、太陽が姿を現し始めた頃にアオイが目を覚ました。

 

気怠そうに、されどその事実に嬉しそうにしながらアオイは身体を起こした。その気怠さが、炭治郎に愛された紛れもない証拠だからだ。

 

アオイは身体を起こすと、隣で寝ている炭治郎を見る。アオイは直ぐに行動を起こした。

 

「炭治郎さん、起きて下さい。ねぇ炭治郎さん、起きて?」

 

アオイはぱしぱしと頬を叩いたり、顔中を口付け(キス)したりして刺激を与えて行く。

 

「んっ……んんっ~~っ。……んぁ?」

 

アオイが刺激を与え続けた事で、炭治郎が目を覚ました。それを見てアオイは微笑みながら、炭治郎に朝の挨拶をする。

 

「おはようございます❤ 炭治郎さん❤」

 

「……ああっ、おはよう。アオイさん。」

 

アオイは嬉しそうに微笑みながら挨拶をする。炭治郎もまた起き上がると、それに微笑みながら挨拶を返した。

 

――……ごめんね、カナエ。

 

この時炭治郎は、心中である人物に謝罪していた。それは胡蝶カナエにである。

 

何故なら、その時は夢幻世界でカナエに求められ、愛し合っていた最中だったからだ。

アオイが無理矢理に近い形で炭治郎を起こしたため、情交(セックス)の途中で退場する形で終了していた。

 

炭治郎は知る由もないが、この時のカナエは発狂したのではないかと勘違いする程に激昂していた。

 

カナエはその憤怒を発散するため禰豆子を再び呼び出して、鍛錬と称してこの怒りを全て彼女にぶつけようとしていた。禰豆子はこの八つ当たり同然のとばっちりから逃走して、カナエと地獄の鬼ごっこを繰り広げていた。

 

「……炭治郎さん❤」

 

一方でそんな事を知る由も無いアオイは、そのまま炭治郎に抱き着いて口付け(キス)をする。炭治郎もまた、アオイを抱き締めて受け入れる。

 

ほぼ二人が同時に唇を離すと、アオイは炭治郎に話し掛けた。

 

「炭治郎さん、ごめんなさい。途中で失神してしまいました。」

 

「いや。俺の方こそ、ごめんなさい。アオイさんの事を考えず、独り善がりな攻め方をして……っ。」

 

お互いに謝罪を始めた炭治郎とアオイだったが、直ぐに笑い合い始めた。笑い終えると、アオイが炭治郎に抱き着いた。

 

「ねぇ、炭治郎さん。まだ時間がありますから、続きをしませんか?❤」

 

「えっと、嬉しいお誘いだけど。朝の仕込みとか良いの? 良かったら手伝うよ?」

 

炭治郎は抱き着いて来たアオイを受け止めて、その豊満な乳房が胸板に押し潰れてる感触を味わいながらアオイに提案する。

 

「しのぶ様に代わって頂きましたから、そのままやって頂こうかと。」

 

「えぇ……良いのかなぁ? それっ??」

 

アオイの発言に、炭治郎は少々驚きながら聞き入れる。アオイは続けて言った。

 

「良いんですよ。只でさえ、私はしのぶ様に出遅れているんです。この後はカナヲも加わって来るし……慎ましく自重なんてしてられません! 攻めて攻めて攻めまくります!!」

 

「あ、あはははははっ。ごめんね、アオイさん。」

 

アオイの積極的過ぎる宣言に、炭治郎は謝罪してアオイに詫びる。炭治郎の謝罪に対し、アオイは首を横に振って答えた。

 

「謝らないで下さい。私もしのぶ様も、納得の上でこうする事を選んだんですから。」

 

アオイは其処で話を締めると、抱擁を解いて片手をある所へ両手を広げた。

 

「ほら、遠慮しないで下さい……御子息の方が、炭治郎さんより犯る気満々みたいですけど。」

 

炭治郎の勃起し始めている逸物を握り締めながら、アオイがニヤニヤとしながら炭治郎に指摘する。

 

「うっ……まぁこんな綺麗な女性に抱き締められたら、ねぇ。」

 

「っ!❤」

 

困りながら誤魔化す様にそう言うと、アオイは歓喜から笑みが零れた。

 

「もう、お上手なんですから……さぁ❤ 召し上がれ❤」

 

「……っ、頂きますっ!」

 

「きゃあああああっ❤❤!!!……んんっ!❤」

 

炭治郎が抱き着いてアオイを寝台(ベッド)へ押し倒すと、アオイは歓喜の悲鳴を上げた。

歓喜の悲鳴を上げるアオイに、炭治郎が口付け(キス)をしてその口を塞ぐ。尤も、アオイも嬉しそうに炭治郎の顔を両手で挟んで唇を押し付けたが。

 

「ちゅぢゅぶぶっ!!❤……ぶじゅりゅるるるっ!!❤❤……んちゅうううぅぅぅっ!!❤❤」

 

「じゅるるっ!……ぢゅぶちゅるっ!!……ちゅちゅううぅぅっっ!!」

 

二人は貪り合う様に口付け(キス)をして、互いの唾液を吸い尽くす。しかし息が切れたのか、二人は太い銀色の橋を築きながら唇を離した。

 

「ちゅばっ! はぁ……はぁ……アオイさん、俺……もう……挿入(いれ)ても良いかな!?……っ!!」

 

「はぁ❤……はぁ❤……良いですよ、炭治郎さんっ……私も早く、早く貴方が欲しいですっ……っ!❤」

 

嘆願する様に身体を震わせながら炭治郎がそう言うと、アオイもまた息を荒くしながら間接裏に両手を添え両足を広げて逸物が挿入し易い様に秘部を広げて見せた。

 

「っ!……アオイさんっ!!」

 

炭治郎は不意に視線を下に向けると、先に入っていた精液を追い出す勢いで愛液を分泌しているアオイの秘部が目に映った。其処まで自身を強く求めてくれている事に、炭治郎は強い歓喜を覚えて逸物を秘部へと挿入した。

 

 

 

じゅぶぅっ!!!

 

 

 

「あああぁぁぁっ!!!❤❤❤」

 

「っっ!!」

 

逸物を膣内に挿入されたアオイは、歓喜しながら嬌声を上げる。一方で逸物に襲い掛かって来る膣壁からの圧力と快感に対して、炭治郎は歯を食いしばって耐えていた。

 

「あぁんっ!❤……お、おかえりなさぁいっ❤❤」

 

「ふふっ。先刻(さっき)振りだけど……ただいま、アオイさん。」

 

嬉しそうに逸物を迎えるアオイに、炭治郎は優しい口付け(キス)を落とす。口付け(キス)を終えた唇を離し頭を上げると、アオイの括れた腰を掴んで反復動作(ピストン)を始めた。

 

 

 

パンッ パンッ パンッ

 

 

 

「あぁっ❤……来たぁっ……炭治郎さんのがっ……私の膣内(なか)で暴れてるぅ……っ❤❤」

 

「うぁっ……気持ち良いっ……。」

 

アオイは歓喜の表情を浮かべながら、訪れる快感に身体を震わせていた。炭治郎も逸物を締め付けてくる膣圧を感じながら、腰を振って行く。

 

尤も最初だからか、飛ばし気味では無くアオイを気遣って優しく腰を振っている。

 

「ぁあん❤……はぁはぁ❤……た、炭治郎さん……っ。」

 

「ん?……何だい、アオイさん? どうして欲しい?」

 

炭治郎はアオイに呼ばれて、反射的に望んでいる要求を尋ねた。アオイから僅かな不満と強い欲求の匂いがしたからだ。

 

「もっと……もっと激しく突いて下さぁい……お願いします❤」

 

「っ!」

 

蕩けた表情を浮かべながらも、些かの不満を表現するかの様に口元はへの字に曲がっていた。

 

「……お望みとあらば、喜んでっ!」

 

「っ!❤……ああんっ!❤❤」

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「あああんっ!❤ 良いぃっ!❤……先刻(さっき)よりっ!……気持ち良いぃっ!❤……んぁああんっ!!❤❤」

 

「アオイさんっ!……俺もっ!……ずっと気持ち良いよっ!!」

 

炭治郎が更に腰を動かして反復動作(ピストン)を速めると、アオイの嬌声が高く鳴り響き膣圧の締め付けが強くなった。

 

「炭治郎さんっ!❤ 炭治郎さんっ!!❤」

 

炭治郎の頸に両腕を回して強く抱き着いて、アオイは最愛の恋人の名前を必死で呼び掛ける。その際にしのぶより大きいアオイの豊満な乳房が、炭治郎の鍛えられた胸板に当たって形を変えた。

 

「あぁっ……アオイさんっ……っ!!」

――くうっ……柔らかくて気持ち良い……でも何よりアオイさんから匂う嬉しい匂いと愛情の匂いが心地良い……っ。

 

アオイの乳房の感触、そして歓喜と愛情の匂いを感じて炭治郎もまた興奮していた。

その興奮が燃料となって炭治郎の逸物を大きく硬く、更に熱を持たせて行く。同時に腰も激しく動かして、逸物を暴れさせた。

 

「ああぁぁぁっっ!!❤……炭治郎さんのが……更に大きくなってぇっ!!❤ 私っ、もう……もうぅっ!!❤」

 

「アオイさんっ! 俺もっ!……そろそろ射精()すからっ!!……くぅあああっ!!!」

 

 

 

ビュルルルウウゥゥゥゥッッッ!!! ビュルルルルルルルルルウウウウウウゥゥゥゥッッッ!!!

 

 

 

炭治郎が限界を迎えて嬌声を上げると、堰を切ったが如く逸物から大量の白濁の溶岩が溢れて出てアオイの膣内へと流れ込んで行った。

 

「んああああぁぁぁぁぁぁっ!!❤❤……いっぱい……出てるぅっ……っっ❤❤❤」

 

アオイは一際嬌声を上げて絶頂すると、全身を痙攣させながら譫言を呟いていた。

 

「ふうぅぅぅっ……っ!!」

 

炭治郎は大きく呼吸をして、余韻を弾き飛ばした。それから再び動き出し始めた。

 

「ぇ?……えぁああっ!?❤」

 

炭治郎と違って余韻に浸っていたアオイだったが、炭治郎の動きに引っ張られる形で驚きの声を上げていた。

 

「アオイさん……まだまだ行くよっ。」

 

「ああんっ!❤……~~っ❤❤」

 

炭治郎はアオイの身体を、少し浮かす様に持ち上げる。自身にアオイを引き寄せると、次にアオイの豊かな臀部を鷲掴みにして抱き地蔵(対面座位)の体位になった。

 

「ひゃぁっ!❤……やあぁんっ!❤……炭治郎さんっ……飛ばし過ぎっ……あんっ!!❤」

 

アオイは自身を貫く様な、強い快感を覚えて頭を身体ごと弓状に仰け反らせた。その際に炭治郎との抱擁が解けて、自身の豊満な乳房がプルンと炭治郎の眼前で揺れ動いた。

 

「っ!!……アオイさんの……乳房(おっぱい)……(ゴクッ。)」

 

炭治郎は誘う様に上下に揺れるアオイの豊満な乳房を見て、静かに唾を飲み込んで胃に流し込んだ。

 

そして逸物を挿入しての反復動作(ピストン)の動作を、少し弱くして緩めながらも止める事無く炭治郎はある行動に出た。

 

「ぱくっ……んっ……。」

 

「んあぁんっ!?❤❤❤」

 

炭治郎が涎を垂らしている口元を大きく開けると、そのまま左側の乳房を咥えた。

何度も絶頂して感度が上がった身体では、アオイはそれだけで快楽に悶絶して嬌声を上げる。

 

「ああぁ❤……良いっ❤……もっとっ❤……もっとしてぇ❤……炭治郎さんっっ❤」

 

「ぅんっ……ちゅるるるっ……れろちゅろっ……ちゅううぅぅっ!」

 

アオイの要望に応えて、炭治郎は舌も使って乳首を刺激する。勃起して赤くなる赤い蕾の味を堪能しながら、更に反復動作(ピストン)の動作を速めて膣内を掻き回す。

 

 

 

パンッ! パンッパンッ! パンッ!

 

 

 

「あんっ!❤ ひゃあん!❤ あああんっ!!❤」

 

アオイは強くなった快感を感じて、蕩けた表情を浮かべて快楽に悶絶する。

乳房を刺激する舌から跳ねる水音と、逸物が抜き差しする際に愛液と精液が混ざった混合液を泡立てながら掻き出す二種類の水音を耳にして、否応無しに身体の感度が上昇してしまう。

 

「ちゅぶっちゅぶっ……れろっ!……はぁっ……ふぅぅ……ふぅぅ……はむっ……ちゅうぅっ!……ちゅううっ!!」

 

「ぁああんっ!❤……またっ……そんなにネチっこく吸われたらっ……ああぅっ❤……感じちゃうぅよ❤……っっ❤❤」

 

炭治郎は左乳房から口を離した後、呼吸を整えてから右乳房を咥えて吸い付き始めた。アオイは僅かに快楽が弱まったと思ったのも束の間、再び強い快感に襲われてその快楽の波に悶絶する。

 

 

 

パンッ! パン! パンッ! パンッ! パンッパンッパンッパンッパンッ!!!

 

 

 

「あっ!❤ ああっ!❤ たんじろうさんっ!❤ またっ! また射精()るんですねっ! あああんっ!❤」

 

「ちゅるるるっ!……ちゅうううぅぅぅっ!!」

 

炭治郎の動きが速くなり、また逸物が膨張する感触をアオイは感じ取った。アオイの問いに対して炭治郎は乳房が口に埋もれて喋れないため、答える代わりに肯定する様に更に強く乳首を吸った。

 

「あぁああぁっ!❤……また強くっ❤……はい、分かってますっ❤❤……好きなだけ、私の膣内(なか)射精()して下さいぃぃっ!!!❤❤❤」

 

「っ!!!」

 

 

 

ビュルウウゥゥッッ!!! ビュルルルルドビュルルルルルルウウウゥゥッッッ!!!

 

 

 

「んあああぁぁぁぁ~~~~っっ!!!❤❤……熱いぃっ❤……っっっ❤❤❤」

 

濃厚さが変わらない白濁の溶岩を直接子宮に浴びて、アオイは頭を仰け反らせて絶頂した。

 

――あぁ……幸せぇ……〜〜っ❤

 

子宮を破裂させる勢いで流れて来る白濁の溶岩の灼熱を感じながら、アオイの幸福感は頂点にまで達していた。

 

「ふうぅぅぅっ……アオイさん。」

 

「っ!❤……はい、炭治郎さん……っ❤」

 

呼吸を整え終えた炭治郎が、優しくアオイに声を掛ける。そんな炭治郎の呼び掛けを聞いて、アオイも直ぐに応えて視線を交えた。

 

「「……」」

 

二人は十秒もしない間だけ見詰め合うと、示し合わせたが如く同時に両眼を瞑って余韻の口付け(キス)を交わした。

 

「「ちゅうっ……んちゅ……んんんっ……ちゅううっっ……っっ。」」

 

炭治郎とアオイは余韻の口付け(キス)を交わし続ける。それから少ししてゆっくりと、二人は唇を離す。その際に細い銀色の橋が出来て、一瞬で決壊して消滅した。

 

「っ……アオイさん……もっとしたいけど……そろそろこの辺で止めておこうか?」

 

「えっ?……でもっ。」

 

炭治郎の提案に、アオイは戸惑う様に下腹部に視線を向ける。其処には未だに勃起している逸物が、自身の膣内で大きく脈を打っているのを感じていたからだ。

 

「っ!……ふふっ。」

 

アオイの視線を受けて、炭治郎は苦笑しながらアオイの頬を優しく撫でる。

 

「流石にもう起きないとね。それにちょっと時間を置いたら治まるよ……俺達が愛し合えるのは、今回限りって訳じゃないからね。」

 

炭治郎は諭す様にそう言ってから、アオイの秘部から逸物を抜き去ろうとする。その際に名残惜しそうのか、抜けば抜く程に締め付けは強くなったのだが、炭治郎はその膣圧に耐えながら逸物を抜き去った。

 

「あぁ……っ……分かりました。ではせめて最後は口で……はむっ。」

 

「っ!」

 

アオイは炭治郎の言う事を承諾すると、情交(セックス)の続きを諦めて口淫(フェラチオ)を行う事にした。炭治郎の返事を待たず、アオイは逸物を咥えて口淫(フェラチオ)を始めた。

 

「ぢゅぶぶっ❤……じゅるっ❤……ぢゅちゅくちゅっ❤……はあぁむ❤……れちゅ❤……ちゅちゅううっ❤……ぢゅる❤……れちゅるるっ❤」

 

アオイは逸物にこびりついていた、精液と愛液の混合液を吸い取る様に舐め回す。しかし炭治郎に気を遣っているのか、吸引する様にでは無く撫でる様に舐め取りながら時折優しく吸っていた。

 

最初は亀頭のある先端部分だけを口に咥えて舐め取った後、自らの頭を前後に動かして逸物の奥まで丁寧に舐め、時に吸って逸物に刺激を加えた。

 

アオイが口淫(フェラチオ)をしている間、栓が外れたが如く秘部からは精液が垂れ落ちて寝台(ベッド)にシミを作っていた。

 

「んあぁっ……あっ……アオイさん、良いよ……気持ち良いっ。」

 

勢いのある口淫(フェラチオ)を受けて、炭治郎は天を仰ぐ様に頭を上げて快楽を堪能していた。その口元には、一筋の涎が零れる程だ。

 

「……っ❤❤」

 

アオイは上目遣いでチラッと炭治郎の様子を見て、歓喜と幸福感から更に力と愛情を込めて口淫(フェラチオ)を続行する。

 

 

 

ドガッ! バターンッ!!

 

 

 

「一体何時まで盛ってんのよっ!!!?」

 

突如として顔を真赤に染めて激昂したしのぶが(ドア)を派手に蹴破って、怒号を上げながら怒鳴り込んで来た。

 

その右手には手拭(タオル)を数枚重ねて握っており、左手には湯気が出ているお湯が入った桶を持っていた。

 

しのぶに蹴破られた(ドア)は、蝶板を弾いて派手な音を立てながらアオイの室内に倒れて行った。

 

 

 

ビュルビュルルルルウウゥゥッッ!!! ドビュルルルルウゥゥッッッッッッ!!!

 

 

 

「~~~~っ!!!❤❤❤」

 

「ああぁっ!……ぅあああぁぁっ!!」

 

奇しくもその瞬間に、炭治郎の逸物から白濁の溶岩がアオイの口内へと勢い良く侵入して行った。アオイは喉を鳴らしながら、その侵入者を喜んで受け入れる。

 

「ごくごくっ❤……ごきゅっ❤……ちゅれろろっ❤……んんっ~~❤❤……ぷはっ!❤」

 

アオイは射精された精液を一滴も零す事無く精飲を行うと、逸物が汚れない様にと丹念に逸物を舐めて綺麗にして行く。アオイが口淫(フェラチオ)を終えて逸物から口を離すと、其処には自身の僅かな唾液で濡れた半勃の逸物が姿を現していた。

 

「終わりました……その、良かったですか? 炭治郎さん。」

 

しのぶの存在に気付いた様子も無く、炭治郎の様子を見ていたとはいえ急に心配になったアオイ。その青がかった瞳に僅かに不安の色を見せながら、炭治郎を訪ねた。

 

「とても良かったよ。ありがとう、アオイさん。」

 

炭治郎はそんなアオイを見て、苦笑しながら礼を述べる。そしてその礼が決してアオイを気遣っての表面的なお世辞などでは無いと証明するために、炭治郎は即座に行動に出る。

 

「んっ……。」

 

炭治郎は身体を起こすとそのままアオイに接心して、アオイの瑞々しい唇を奪って口付け(キス)をした。

 

「「ちゅうっ……んちゅ……んんんっ……ちゅううっっ。」」

 

未だにしのぶの存在にすら気が付く事無く、炭治郎とアオイは余韻の口付け(キス)を交わし続けていた。

 

「…………っっ。」

 

そんな二人を見て、しのぶはこのまま自身を無視して情交(セックス)を続けるのではないかと思う程だ。

 

「っ!」

 

尤も、黙って見学していられる程しのぶは大人しくは無い。手拭(タオル)と桶を置いた後に強く握り拳を作って、益々憤怒の具合を増大させる。それから素早く、しのぶは行動に移った。

 

「もしもーし。朝です……よっ!!」

 

しのぶが青筋を浮かべた笑顔のまま、炭治郎とアオイの耳を思い切り引っ張った。

 

「んぐっ!? あいたたたたたっ!!!?」

 

「痛っ!!? 痛ったたたっっ!!??」

 

二人はしのぶに力一杯、耳を引っ張られてその激痛から涙目になりながら唇を離した。

 

「……ふんっ。」

 

そんな二人の様子を見て、しのぶは両手を耳から乱暴に放す。

 

「「~~~っ。」」

 

ジンジンとする痛みの余韻はあれど、激痛から解放された炭治郎とアオイは反射的に抓られた耳を片手で撫でた。

 

「し……しのぶ様っ。」

 

「おそようございます。お邪魔様でしたかね?……昨夜から随分と、お楽しみの様で……?」

 

「うっ……。」

 

しのぶは益々怒りを発露しながら、次々と嫌味を並べ立てた。そんなしのぶに、アオイは何も言い返す事が出来ない。

 

「……フン。」

 

しのぶは面白く無さそうに、手拭(タオル)を軽くお湯で濡らしてからアオイに投げ付けた。頭を覆われる様に手拭(タオル)を被ったアオイは、直ぐに体を拭き始めた。

 

「さっさと身体を拭いて、身体を綺麗にしなさい。」

 

「……分かりました。ありがとうございます。」

 

しのぶに邪魔されて不愉快だったアオイは渋々といった感じで、感謝の言葉を伝えてから急いで身体を拭き始めた。そんなアオイを見て、しのぶもまた拭くのを手伝う。

 

「あ、俺もっ「炭治郎君はじっとしてて下さい。」……はい。」

 

自分も身体を拭こうと動こうとした炭治郎だったが、しのぶに強くそう言われては何もする事が出来ない。炭治郎がじっとしている間に、アオイは一ヶ所を除いて汗まみれの身体を拭き終えた。

 

「はぁ……全く、どんだけ膣内(なか)射精()したんですか?」

 

「えっと……あはははっ。」

 

「うぅっ……恥ずかしいです。」

 

そう言ったしのぶの額には、色濃く青筋が浮かび上がっている。しのぶの視線の先にあったのは、アオイの秘部である。その秘部からは未だに、炭治郎が膣内射精して出ていた精液が膣内に収まり切らずに溢れ出ていたのだ。

 

そんな光景をしのぶに見られて、アオイは羞恥心から赤面して顔を俯かせるしか出来ない。

一方でしのぶから嫉妬の匂いを感じ取った炭治郎は、炭治郎は誤魔化す様に乾いた笑いをする他に道は無かった。

 

少しして秘部から精液が流れ落ちるのが止まると、アオイは隊服に着替え終えた。

 

「着替えたら、先に行ってなほ達と朝食を食べて良いわ。私と炭治郎は、後から行くから。」

 

「はいっ?……何故私だけ……三人で行けば良いではありませんか。」

 

隊服を着たアオイを見て、しのぶは先に朝食を済ませる様に促して来た。その様に勧めるしのぶに、アオイは怪訝そうに睨み付けた。するとしのぶの笑顔に亀裂が入るが如く、額に青筋が浮かび上がる。

 

「良いからっ! 炭治郎君は私に任せて、さっさと行きなさいっ!」

 

「っ!?……分かりました……チッ。」

 

笑顔から一転してアオイに強くそう言うと、一瞬だけ気迫に押されて怯んだアオイが小さく舌打ちをして不承不承としながら了承した。

 

――もうちょっと炭治郎さんとイチャついてから、腕を組んで歩きたかったのに……っ!

 

しかし炭治郎を取られた悔しさと朝の願望を潰された怒りから、アオイも額に青筋を浮かべる。しかしそんな自身の様子を隠す様に、アオイは一礼して頭を下げてからそのまま顔を伏せつつ二人に背中を向けた。

 

「あっ、アオイさんっ!」

 

「……炭治郎さん。素敵な一夜をありがとうございましたっ……ではまた。」

 

アオイは振り返らずに炭治郎に礼を述べてから、自室から退室した。

 

「……」

 

アオイが立ち去るのを見届けてから、しのぶは炭治郎と向き合った。

 

「さぁ、炭治郎君も身体を拭きましょうね。」

 

「…………はい、分かりました。ありがとうございます。しのぶさん。」

 

炭治郎は何か言いたげだったが、それを呑み込んでしのぶに礼を述べてから、手を伸ばして手拭(タオル)を受け取ろうとする。しかし、しのぶはその伸びた手をサッと避ける。

 

「しのぶさん?」

 

「炭治郎君の身体は、私が拭いて上げます。」

 

「え? いやいやそんな……身体を拭く位、自分で出来ますよ? しのぶさんのお手を煩わせる程じゃ……。」

 

炭治郎は遠慮した様子でそう言うと、再び手を伸ばして手拭(タオル)を受け取ろうとする。

 

「私がやりますから……良いですね?」

 

「っ!?……は、はいっ!」

 

「…………」

 

それから黙ったまま何も言わずに、しのぶは炭治郎の身体を拭き始めた。

 

「…………っ。」

 

それから素早く、炭治郎の全身を拭き終わったしのぶ。しかし、唯一拭き終わっていないある場所を前にして、しのぶは動きを止めて青筋を浮かべる程に苛立ちを覚えた。

 

 

 

ぎゅううぅぅぅっ!!!

 

 

 

「痛っ!? 痛い痛い痛いっ!!?」

 

炭治郎は突然襲って来た激痛に、涙目になって悶絶する。何故ならアオイの唾液塗れで濡れている半勃の逸物を、しのぶが片手で思い切り握り締めたからだ。

 

幾らしのぶが非力と言っても男性の急所である逸物を渾身の力で握り締められては、炭治郎は悶絶して身悶える他に無い。

 

「ふんっ……自業自得です。」

 

しのぶはそれだけ言うと、逸物を握っていた手を離した。その際に手に付着したアオイの唾液を邪険そうに見詰めてから、急いで手巾(ハンカチ)で手を拭いた。

 

「で、炭治郎君? アオイはそんなに美味しかったんですか?」

 

「っ!?」

 

しのぶからの思わぬ質問に、炭治郎は両眼を見開いて驚愕する。そんな炭治郎を他所に、しのぶは愚痴る様に続けた。

 

「そうですよね……アオイは私より若いし、乳房(おっぱい)も大きいですし……何よりピチピチの処女(はつもの)ですしねぇ……ふんっ。」

 

「っ!!?……わ、若いって言っても一歳しか年齢差が無いじゃないですかっ!? それに乳房の大きさとか、処女(はつもの)とか関係無いですよっ!! しのぶさんにはしのぶさんの素晴らしさがありますっ!!」

 

しのぶがアオイについて自身より勝っている部分を並べ立て悔しそうにすると、炭治郎は慌ててしのぶを宥める様にそう言った。しかし、この迂闊な発言がしのぶの憤怒の炎に油を注ぐ事になる。

 

「そうですか、つまり……誰が相手でも夢中になって(ケダモノ)に変貌して貪れるって訳ですね。本っっっ当に見境が無いんですねぇ。」

 

「!!!?」

 

しのぶの辛辣な発言に、炭治郎は大口を開けて驚愕し狼狽した。それから慌てながら否定する。

 

「そんな事っ。」

 

「言い訳や釈明なんて聞きたくありません。お世辞も結構です。」

 

「……っ。」

 

しのぶは聞きたくないとばかりに、炭治郎の言葉を強く拒絶する。言葉だけで無く、身体から拒絶の匂いまで出されては炭治郎は言葉を発する事が出来ない。

 

しのぶは再び、半勃ちの逸物を握って炭治郎を見詰める。

 

「フンッ……アオイの口淫がどれ程良かったのか知りませんが、私の口淫で上書きしてやりますから。アムッ……。」

 

「あっ……。」

 

しのぶは苛立ちを隠す事も無く、そのまま炭治郎の逸物を口に入れて口淫(フェラチオ)を始める。

 

「ぢゅぢゅっ!❤ ぺろくちゅろろっ!❤ じゅるぢゅるるっ!❤ ちゅうううぅぅぅっ!!❤」

 

「うぁあっ!……くぅっ!……はぁはぁ……ぁあっ!」

 

しのぶは炭治郎の逸物を、貪る様に刺激して行く。先刻のアオイの優しさや気遣いの孕んだ口淫(フェラチオ)とは異なり、野獣の食事風景を連想させる様な、荒々しい口淫(フェラチオ)であった。

 

そんな荒々しい口淫(フェラチオ)であったが、炭治郎はアオイの時以上に感じて嬌声を漏らしていた。

 

「んじゅるちゅううぅれろっ!!❤……はむくちゅくちゃ❤……ぶちゅちゅっ!!❤」

 

 

 

ビュルルルルルル! ビュルルルルルル! ビュルルルルルル!

 

 

 

「っ❤!!……ゴクッ❤……ゴクッ❤……ゴクッ❤」

 

射精された事で口内に流れ込んで来た大量の白濁の溶岩を、しのぶは一生懸命飲み下す。しのぶはぷはぁと口から逸物を離すと、逸物の硬さや熱さ、太さを確認する。変わらず健在な逸物を見て、しのぶはうっとりしながら身体を動かす。

 

「本当に底無しですね……文字通り女を堕として孕ませるための妖刀……此処は正室として、無節操な旦那様の愚息にお仕置きしなくてはなりません……何時ぞやの件の分も纏めて、ね。」

 

「お、お仕置き?」

 

炭治郎は聞き捨てならない単語をしのぶの口から耳にして、復唱する様に言葉に出した。不安の色を少しばかり顔に宿した炭治郎に、しのぶは微笑むながら頷く。

 

「えぇ……私が満足するまで、炭治郎君から搾り取ってやります。覚悟して下さい。絞り尽くしてやりますから……っ!」

 

「え?」

――それってご褒美では?

 

何を言っているんだろうかと思いながら、炭治郎はしのぶを見てついでに匂いを一度嗅ぐ。するとしのぶからは強い嫉妬心の匂いがしており、自分でも何を言っているのか自覚していないんじゃないかと炭治郎は思った。

 

「(パクッ!)……じゅぶじゅずるるっ!❤……ずるるるるっ!❤……にゅりゅるちゅうっ!❤……はぁむっ❤……ちりゅるっ❤……んちゅううううっ!!❤……はぁはぁ❤……ちゅうっ!❤……じゅううるるるるっ!!❤」

 

「ぬぉあっ!?……ああっ!……くうっ……しのぶさん……激しいっ……っ。」

 

炭治郎が呑気にしのぶの様子を考察している隙に、しのぶは不意打ち気味に口淫(フェラチオ)を再開した。喉奥まで使って逸物を呑み込み、口全体で炭治郎の逸物を愛撫する。

 

「ずるるるっ!❤……んちゅうるりゅるるるっ!!❤……んぎゅずるちゅるっ!!❤……ぺろちゅっ❤……ちゅる❤……じゅるっ❤……じゅじゅるるっ!❤……ぶじゅるるっ!!❤❤」

 

 

 

ドリュルルルルルル! ビュルルルルルル! ビュルルルルルルルルルルウウウゥゥゥ!

 

 

 

「うぅっ!」

 

「~~~❤❤」

 

しのぶは再び口内に侵入して来た白濁の溶岩を、何故か今度はいきなり飲み干さずに受け止める。

 

――フッ――! フッ――!……駄目よ……まだ飲み干しちゃ駄目……っ!!

 

使命感か何かに駆られた様に、しのぶは白濁の溶岩を口内に溜め込んで行く。しかしあまりの量に、僅かばかりの白濁の溶岩が喉奥を通り胃の中へと侵入を果たしていた。

 

「……っ……っ……っ。」

 

「し、しのぶさん?」

 

水を含んだ河豚、または餌を頬袋に溜め込んだ栗鼠の如く両頬を精液で一杯にしたしたしのぶ。其処へ身体を起こして炭治郎に近付いた

 

「……(ゴクッ!)……(ゴクッ!)……(ゴクッゴクッ!)……ぷはぁっ……あはっ❤」

 

「!!!」

 

意図的に炭治郎にも嚥下音が聞こえる様に、しのぶは態とらしく音を立てて精飲を行った。そして口内に残っていた精液を一滴残らず飲み干すと、その余韻を感じて恍惚とした表情を浮かべた。

 

「ふぅっ……まだまだです。もっと……っ❤」

 

「あっ!……はっ、はっ!……くぅっ!……ああっ!……っっ!!」

 

しのぶは再び口を限界まで開けてから、炭治郎の逸物を咥えた口淫(フェラチオ)を再開した。

 

「全く……気持ち良くなって……じゅるるっ❤……女だったら……誰でも良いんでしょ?……じゅるちゅちゅっ!❤❤……この、犯りちんっ……(ガブッ!)」

 

「あいたっ!?」

 

口淫(フェラチオ)を再開したしのぶだったが、悪態を吐きながら逸物を強く一噛みした。激痛に近い痛みに、余韻を味わっていた炭治郎は両眼を見開いた。

 

「し、しのぶさん……?」

 

「ちゅるじゅるるっ!❤……れろちゅれろ❤……愛撫ばかりではっ……じゅじゅっ!❤……お仕置きになりませんからねぇ……ちゅるっ❤」

 

当惑を隠せない炭治郎を余所に、口淫(フェラチオ)を続けながらも嫉妬と怒りから青筋を浮かべるしのぶ。そんなしのぶを見て、炭治郎は嫌な予感を覚えて冷や汗を一筋流していた。

 

「(カプッ!)……ちゅぢゅううぅっ!❤……(ガリガリッ)……じぇろちゅるぅっ!❤……(ガシガシッ)……(ガブッ!)」

 

「いたっ!?……し、しのぶさ……あぁっ!……んいつぅ……ひあっ!……か、かまないで……ああぁっ!」

 

今度の口淫(フェラチオ)は普通の口淫(フェラチオ)では無かった。しのぶは炭治郎の逸物を何度も強弱を変えて噛み付きながら、口淫(フェラチオ)を行っていたのである。

 

炭治郎は敏感な逸物を襲う痛みと快楽と言う、二つの対照的な感触に見悶えていた。

 

「あっ!……うぅっ!……あああぁっ!!」

 

 

 

ビュリュルルルルルル! ビュルルルルビュルルルルルルルウウウゥゥゥ!!

 

 

 

「んふふううぅぅぅっ!!!❤❤」

 

しのぶは射精されて流れ込んで来た白濁の溶岩を、嬉しそうに両眼を細めながら飲み干して行った。

 

(って、いけないいけない……これはお仕置きなんですから……)

 

しのぶは恍惚とした表情を一瞬で真顔にすると、逸物から口を離した。そして加虐心を抱きながら、炭治郎に言葉攻めを始めた。

 

「炭治郎君……私に何度も敏感な所を噛まれたのに、もしかして感じちゃったんですかぁ?……ほんっっとうに『私の』炭治郎君は変態さんですねぇ❤……ふふふっ❤」

 

「ひぃあぁっ!!……しのぶさん、強く握らないで……ああぁっ!?」

 

しのぶはゴシゴシと、まるで乳牛の搾乳の如く逸物を上下に強く握って愛撫していた。非力とは言え、しのぶが力一杯やると炭治郎には丁度良いのか、羞恥心紛れの嬌声を上げ続けていた。

 

「……ふふっ❤」

 

そんな炭治郎を見て、しのぶは心が満たされる感覚を覚える。数回の情交(セックス)を重ねているしのぶであるが、何時も炭治郎に主導権を握られていた。主導権を握ったと思っても、直ぐに立場が逆転していた。

 

此処まではっきりと優勢を保っている現状が、しのぶにはとても愉快だった。

 

「良いでしょう、握るのは止めてあげます……代わりに、もう一回カミカミしてあげますねぇ♪」

 

「えっ……っ?」

 

炭治郎が戸惑うのを他所に、しのぶは再び行動に移った。

 

 

 

ガリッ!!

 

 

 

「ぅうぁああっ!!?」

 

 

しのぶは炭治郎の逸物の先端部分である亀頭に向かって、思い切りその白い歯を見せ付ける様に噛み付いたのだ。

 

「じゅろれろれろっ!❤……(カリカリッ)……ちゅるるっ❤……(ガブッ!)……れぇろろっ!❤……っっ!!❤❤」

 

「あああっ!……くぅっ!……ちょっと痛いけど……あれ、気持ち良いっ……。」

 

「っ!❤」

 

炭治郎が気持ち良さげに声を漏らすと、しのぶは思わず嬉しくなってしまう。尤も、この時には既にしのぶの中にはお仕置きをすると言う考えは頭から霧散していた。

 

しのぶは逸物全体だけで無く、陰嚢も甘噛みをしながらもその後は必ず傷を癒さんばかりに舐めていた。「気持ち良い」と「痛み」を交互に与える事で、炭治郎に愛撫をしていたのである。

 

 

 

ドビュリュルルルルルルウウウウウゥゥゥゥゥッッッッ!!!

 

 

 

「んぐううぅぅぅっっ!!!??❤❤❤……(ゴクゴクッ!)……(ゴクゴクゴクッ!!)」

 

既に二桁近く射精していると言うのに、未だに濃度も射精量も変わらない炭治郎の絶倫振りに圧倒されながらも、しのぶは喉元を過ぎ去る白濁の溶岩を誤って肺に入らない様に必死で飲み干して胃に流し込んで行く。

 

「(ゴクッ!)……(ゴクッ)……ちゅれろろろっ❤……じゅるれりゅろ❤❤……ぷはっ!!❤」

 

「あぁ……はぁはぁ……」

 

しのぶは漸く白濁の溶岩を一滴残らず飲み干すと、逸物の隅々まで丹念に舐め取ってから口を離した。

 

「炭治郎君……私の口淫は上手でしたか?」

 

「っ!」

 

しのぶの唐突な問い掛けに、炭治郎は咄嗟にしのぶを見詰めた。しかし炭治郎も一瞬でも考える事無く、即答した。

 

「はい……少しの痛みが、後から来る快楽をより強く感じさせる良い塩梅になって……とっても気持ち良かったです……っ。」

 

「っ!❤……ふふっ❤……ふふふふっ❤」

 

炭治郎の生真面目な答えを聞いて、しのぶは満足そうに両頬を赤く染めて幸せそうに笑みを零した。

 

「そうですか、そうですか……ではもっともっ~~と、してあげますね❤」

 

「えぇっ!?……ま、まだするんですかっ!?」

 

しのぶが更に続けると言うと、炭治郎はしのぶの貪欲さに両眼を見開いて驚愕する。

 

「勿論です。本音を言うと、最後までしたいんですが……それだと炭治郎君のご褒美になってしまいますし、歯止めも利かなくなりそうなので……その代わりと言ってはなんですが、もっと口でしてあげます。今はそれで我慢して下さいね❤」

 

「うぅ……はいぃ。」

 

図らずともお預けを喰らってしまった炭治郎はしのぶに抗議する事など出来ず、甘んじて口淫(フェラチオ)を受けた。それから半刻(一時間)に渡ってしのぶは休まずに幾度と無く、口淫(フェラチオ)と精飲を繰り返したのだった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十二日(水)

時間帯:朝

天気:曇り

 

「ふぅ……とっても気持ち良かったけど、偉い目に遭ってしまった……っ。」

 

しのぶの執拗とも取れる口淫(フェラチオ)が漸く終わって、アオイの部屋から退室した炭治郎。

 

昨夜のアオイとの情交(セックス)、朝に起きた直後に情交(セックス)再開させ、休む間も無くしのぶからの執拗な口淫(フェラチオ)を受けて、流石に炭治郎も疲弊していた。

 

尤もそれはどちらかと言えば厳密には疲労では無く、欲求不満であった。炭治郎はしのぶから受ける献身的な口淫(フェラチオ)も大好きであったが、それ以上にしのぶの極上の肉体を味わいたかった。

 

口淫(フェラチオ)による射精を十回を超えた所で、我慢が限界に達した為に炭治郎は幾度と無くしのぶの極上の肉体を欲して手を伸ばした。

 

しかしそれをした所でしのぶに蝶々の如くひらりと身体を躱されるか、逸物を強く握られて牽制されるかでそれも叶わなかった。

 

炭治郎は脳裏に、その時のしのぶの様子を思い出した。

 

『じゅるっ❤……ふぅ❤……満足しました。もうお互い、この辺で良いでしょう。』

 

しのぶは恍惚な表情を浮かべながら、逸物から手を離した。自身の後始末だけを手早く済ませると、炭治郎にしのぶは言った。

 

『さて、朝ご飯は……私はもう要りませんね……何せ()()()()()()()()()()()()をたっぷりと、お腹いっ~ぱい頂きましたからね。もう何もお腹に入りませんよ。ご馳走様でした、炭治郎君❤』

 

満足そうに合掌しながら、しのぶは炭治郎に朝食無用の事実を伝えた。

 

「しのぶさんは朝ご飯が要らないかもしれないけれど、俺はもうお腹と背中がくっ付きそうだよ……はぁ」

 

炭治郎は先刻からぐぅぐぅと鳴り続けるお腹を押さえながら、しのぶに対して愚痴を零した。

しのぶの執拗な口淫(フェラチオ)により、既に時刻は朝と昼の中間に位置していた。

 

炭治郎は蝶屋敷の食堂が設定している朝食の時間は過ぎ去っている事を承知の上で、何か食べられないか

確認するべく食堂に向かっていた。

 

「……っっ。」

 

炭治郎は空腹を紛らわすべく別の事を考え始めると、ある一面が脳裏に浮かびあがり思わず両頬を赤く染めて赤面した。

 

それはしのぶの事であった。しのぶが炭治郎の耳元に顔を近付けて囁いた。

 

『今夜、私の部屋に来てくれる? 来てくれたら……その時は私の()()()にも、その濃厚な七草粥をご馳走して下さいね? 頸を長くして待ってますから……っ❤』

 

耳元に囁かれた内容に驚きながら、炭治郎は急いでしのぶに顔を向けた。

 

『ふふっ❤』

 

しのぶはそんな炭治郎を見て、返答も聞かずにその場を静かに去って行った。炭治郎は逸物を露出した状態のまま、鼻歌を歌いながら立ち去って行くしのぶを見送る事しか出来なかった。

 

我を忘れた状態だった炭治郎は、漸く我を取り戻して急ぎ着替えアオイの部屋の後始末を一人で済ませてから退室したのであった。

 

「まぁ……楽しみが出来たな。早く夜にならないかなぁ……ふふっ。」

 

炭治郎はそう言って笑みを零しながら、漸く食堂の入口に到着した。炭治郎はそのまま、食堂へと入って行く。

 

「あら、炭治郎さん。おはようございます。」

 

食堂の厨房には、昨夜結ばれたアオイの姿があった。

 

「おはよう、アオイさん。」

 

アオイを見つけた炭治郎は、直ぐに笑顔で挨拶をした。其処へ炭治郎の腹部から、大きな空腹音が食堂に鳴り響いた。

 

「その……アオイさん。いきなりで悪いんだけど、何か食べる物は無いかな?」

 

炭治郎は恥ずかしそうに赤面しながら、頬を指で掻いてアオイに尋ねた。

 

「勿論です。ちゃんと炭治郎さん用に朝ご飯は用意してますよ。安心して下さい、炭治郎さん。」

 

「っ!……ありがとうっ! アオイさんっ!!……えっ?」

 

アオイが笑顔で朝食を用意していると答えると、炭治郎は喜色満面の笑みを浮かべてアオイに礼を述べた。

しかしアオイから憤怒の匂いを嗅ぎ取って、炭治郎から笑みが消えて当惑の表情を浮かべる。

 

しかし理由は分からずとも炭治郎は直ぐに、アオイの行動から憤怒している事を理解した。

 

「はいっ! どうぞっ!!」

 

「っ!!……!!!?」

 

アオイが朝食と言って用意した朝食を見て、炭治郎は愕然とした。

 

「あ、あのアオイさん……こ、これって……っ。」

 

眼前に出されたのは、湯飲み茶わん一杯の水と、小皿に盛られた塩であった。それ以外の物は、何一つ無かったのである。

 

困惑を隠せない炭治郎は、身体を震わせながら用意された朝食に指を指してアオイを見る。するとアオイの美しい容貌には、青筋を浮かべた笑顔が張り付いていた。

 

「私の部屋で炭治郎さんがしのぶ様と何をしていたのか、私は知りませんが……あまりに炭治郎さんが遅いので朝ご飯は片付けちゃいましたよ。」

 

炭治郎にとって無慈悲とも言える発言を、アオイは一切躊躇せずに告げる。トントンと何時も以上に強く包丁を叩き付けて大根を斬りながら、アオイは続けて言った。

 

「食堂には現在、何もありませんよ。米粒一つありませんから。それとお昼ご飯ですけど、今からだと後一刻(二時間)一刻半(三時間)は掛かります。最後にきよ達に食べ物を強請っても、無駄ですからね? 大人しく待っていて下さい。」

 

「そ、そんな……。」

 

現状の炭治郎にとって死刑宣告と言っても過言では無い言葉をアオイから受けて、炭治郎は青褪めながら絶句した。しかし、アオイは炭治郎に掛ける情けなど持ち合わせては居なかった。

 

「ほら早くっ! その塩を舐めて水を飲み終えたら、さっさと食堂を出て行って下さいっ!! 私は現在(いま)、お昼ご飯の仕込みで忙しいんですからっ!!」

 

「は、はいっ!!」

 

アオイからそうきつく言われてしまった炭治郎は、泣く泣くアオイの言う通りに従った。

 

急いで塩を四、五回舐めて一気に水を呷る様に飲み干すと、脱兎の如く食堂から退室したのであった。

 

結果論ではあるのだが、炭治郎にとってこの朝食抜きが最もきつい一番の仕置きとなったのであった。




お待たせ致しました。

まず最初に、お待たせして大変申し訳ございません<(_ _)>

中には心配してメッセージまで送って下さった方々に、改めて御礼申し上げます。ありがとうございましたorz

今回のしのぶさんの嫉妬心を爆発させてみました。改訂前は一、二桁程度で片付けてしまっていたけれど、こんな感じだったと皆様に御見せ出来たら幸いです。

執筆する楽しさをもう一度思い出せたので、これからちょっとずつでも更新速度を回復させたいと思います。今後もよろしくお願い致します。


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第拾捌話 藤蝶は日輪に嫉妬をぶつける ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月十二日(水)

時間帯:朝

天気:曇り

 

「……はぁ。」

 

蝶屋敷の食堂に併設されている厨房にて、一人の女性が溜息を吐いていた。その女性とは、蝶屋敷の管理を一手に担っている神崎アオイであった。

 

「……やり過ぎたかなぁ……うん、幾ら何でもやり過ぎ……よね。前線で戦う隊士にとって、身体は資本なのに……うぅ~~もっと賢い方法があった筈なのになぁ~~ハァ……っ。」

 

反省と後悔の言葉を逐一漏らしながら、叶いもしないたらればを口にして先刻において自身がしてしまった愚行を後悔し猛省する。

 

「で、でもっ……私は悪く無いわよ。炭治郎さんがっ、最初はあんなに愛し合っていたのに……しのぶ様が出て来た途端に……って、あっさり身を引いて食い下がらなかった私も、炭治郎さんにどうこう言う資格なんて無いか…………ハァ。」

 

最初こそ炭治郎に悪態を吐こうとしたアオイであったが、直ぐに発言を翻して再び猛省する。

 

何故アオイが炭治郎を冷淡に食堂から追い出したのかと言うと、アオイはただ単に嫉妬心を拗らせてしまっただけある。それでも自身の部屋で最愛の恋人が正室とは言え、他の女と情交(セックス)に及んでいると思うとアオイは腹正しくて仕方が無かった。

 

尤も、アオイは知る由も無いが炭治郎としのぶは情交(セックス)などしておらず口淫(フェラチオ)までしか至ってはいないのだが、アオイからすればどちらにせよ同罪であった。

 

「……そうだわっ!」

 

罪悪感を含む雑念に駆られていたアオイだったが、暗雲を晴らすが如き妙案が脳裏に浮かんだ。

 

「炭治郎さんの大好物の、タラの芽の天麩羅を用意しましょうっ……そうと決まったら、お仕事片付けて買い物に出掛けなくちゃっ!」

 

アオイは先刻とは打って変わって、太陽の如き満面の笑みを浮かべて歩き出した。

 

――炭治郎さん、喜んでくれるかな?……喜んでくれると良いなぁ……っ❤

 

炭治郎の歓喜の笑みを脳裏に浮かべて、アオイは御機嫌な様子で業務に向かった。

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

「…………顎が痛いわっ。」

 

げんなりと疲労困憊の様子で、しのぶが歩きながら顎に手を置いてゆっくりと撫でた。

 

何故ならしのぶはあの後、口淫(フェラチオ)だけで十回以上もの射精を受け止めかつ一滴も零す事無く精飲してみせたからだ。その時に顎を酷使した結果、ジンジンという刺激が絶えずしのぶを襲っていた。

 

「それにお腹もタプタプ……お昼ご飯入るかしら?……幸せな重みだけど。ふふっ❤」

 

しのぶが先刻の口淫(フェラチオ)を思い出して、うっとりとした表情を浮かべて右手を右頬に添える。それから片方の左手で、精液が堪っているであろう腹部を撫でた。その仕草は、子宮に居る我が子を撫でる妊婦そのものであった。

 

「お幸せそうですね? しのぶ様。」

 

「!」

 

しのぶの背後から突如、女性の声が聞こえた。しのぶが振り返ると、其処には今日の業務に就くアオイが居た。しかし、その声は澱みが含まれており視線もしのぶを睨み付ける様に鋭かった。しのぶからしてみれば、先刻まで御機嫌に笑みを浮かべていたなどとは、とても思えないに違いない。

 

「アオイ……えぇ、幸せですよ……貴女もそうでしょう?」

 

「えぇ、勿論幸せです……何処ぞの柱様の邪魔さえなければ、もっと幸せでした。」

 

アオイの問いにしのぶが答えた後、アオイに指摘をする。その指摘内容に対して、アオイは毒づく様に悪態を吐いた。

 

「「……」」

 

しのぶとアオイの間に、剣呑とした空気が流れる。二人は静かに睨み合った。

 

「はぁ……此処でこうしていても埒が明かないから、別の部屋に行きませんか? アオイ。」

 

「っ!……分かりました。」

 

溜息を吐いたしのぶの提案に、アオイは冷静さを取り戻して承諾した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

しのぶとアオイの二人は、しのぶの診察室まで移動していた。既に午前の診察は終えているので、診察を待つ患者はいない。其処で二人は椅子に座って、お互いに正面から向き合う。

 

「それで?……アオイは私が気に入らないの?」

 

「そう言う訳ではありません。しのぶ様には私と炭治郎さんの関係を認めて頂いて、感謝の念に堪えません。」

 

アオイはしのぶにそう言うと、感謝の念を示すが如くしのぶに頭を下げた。

 

「…………ただ、炭治郎さんとの甘い一時を邪魔しないで欲しかっただけです。しのぶ様も、もし私に邪魔されたら嫌でしょう?」

 

「……」

 

頭を上げてから言い放ったアオイの鋭い指摘に、しのぶは答えられずに口籠った。しのぶは誤魔化す様に一、二度咳き込むと、アオイにある提案をする。

 

「アオイ、私から提案があるの……聞く気はある?」

 

「何でしょうか?」

 

アオイはしのぶの提案が気になって、耳を傾けた。

 

「私達の間で炭治郎君との情交の順番とか、予め色々決めておいた方が良いと思うの。」

 

「!!……そうですね。一々諍い等は起こしたくありません。」

 

アオイのしのぶの提案に両眼を見開いて驚くも、直ぐに納得した表情を浮かべた。そんな物分かりの良いアオイにしのぶは笑みを浮かべる。

 

「話が早くて助かるわ……では今夜は、私が炭治郎君との情交の時間を貰うわね?」

 

「それに関しては、異議が有ります。しのぶ様。」

 

「っ!」

 

しのぶはアオイに了承して貰える前提で話を進めていたのだが、即座に異議を唱えられた事に思わず顔を顰めた。

 

「……何故でしょう? 理由を言ってみなさい、アオイ。」

 

しのぶは努めて穏やかにアオイに尋ねた。しかし額には苛立ちからか、青筋が浮かんでいた。

そんなしのぶに臆する事無く、アオイは理由を話し始める。

 

「先ずしのぶ様ですが、私と炭治郎さんの情交の時間に乱入して、私がする筈だった時間を奪っております。幾らしのぶ様が正室だからと言っても、これでは不公平です。」

 

「っ!?……アオイは乱入して来たと言いますが、私が認めたのは夜の間だけです。朝から無節操に盛っているのを、私が止めただけじゃない。それに奪ったと言うけれど、私は情交などしてませんから。飽くまで口淫だけです。」

 

アオイは先刻の乱入に関してしのぶに抗議するが、しのぶは飽くまでも正当な行為であったとしてアオイの抗議を退けた。しかしこのしのぶの言い分が、アオイの怒りの炎に油を注ぐ。

 

「本番をしていないだけであって、口淫も情交の一種でしょうがっ!? 柱の一角に立たれる方が、つまらない屁理屈捏ねないで下さいっ!!」

 

「屁理屈とは心外な……私は最後までしたい気持ちを、グッと理性を保たせる事で抑えたんですよ? 性欲のままに発情期を迎えた、動物の如く盛ってたアオイとは違うんです。」

 

自身の事を棚に上げて、しのぶは自身の正当性を主張する。それを聞いて再び反論しようとしたアオイだったが、しのぶが片手を前に翳してそれを静止した。

 

「まぁまぁ、アオイ。伊黒さんじゃあるまいし、過ぎた事をネチネチ言わないで下さい。そんな事では、炭治郎君に嫌われますよ?」

 

「誰の所為だと思って……っ!」

 

他人事の様に話すしのぶに対して、アオイは額に青筋を浮かべて憤る。しかしアオイも途中で怒るのが馬鹿らしくなったのか、何度か深呼吸を行って落ち着きを取り戻し始めた。

 

「さて、話が変わりますが……まだカナヲが参加していないから話し合うのは早いと思ったんですけど、もう事前に決めておこうと思うんですよ。取り合えず、任務の間は勿論、生理日や危険日も計算して当番を決めませんか?」

 

「……そうですね。その辺ははっきり明言した方がよろしいかと思います。」

 

しのぶが提案した内容を聞いて、アオイも同意して頷いた。しかしある疑問を抱いた為、アオイはしのぶに尋ねた。

 

「あの、しのぶ様。当番と仰いますけど……炭治郎さんと関係を持った女全員で同時に抱かれたら、その様に面倒な管理もしなくて済むのではありませんか? その……悔しいですけど、炭治郎さんの性欲はとても一人で受け取られるとは思いませんし。」

 

「……それも考えたけれど、毎回一緒だと炭治郎君が飽きるんじゃないかって思ってね。そう言うのは偶にした方が良くないかしら? アオイだって、自分だけ愛して貰いたいって思わない?」

 

「っ!……まぁ、そうですね。」

 

先刻は嫉妬心が暴走し掛けた事実もあって、アオイは恥ずかしそうにしのぶの言葉に賛同した。その瞬間、アオイはある事を思い出した。

 

「そういえば、カナヲは何時帰って来るでしょうか? しのぶ様は何か聞いていますか?」

 

「そう言えば、アオイ達には伝えていませんでしたね。昨日の夕方には討伐完了の連絡がありましたので、明日の昼までには帰って来る筈ですよ。……あの子にもちゃんと、炭治郎君と私達の関係を一から説明しなければいけませんね」

 

しのぶはそう言うと、面倒臭そうに溜息を吐いた。炭治郎としのぶ達の関係は世情の一般常識から懸け離れた関係である為、説明時の面倒臭さは想像に容易かった。アオイも当事者なので、しのぶに感謝と罪悪感を抱きながら小さく頭を下げた。

 

「其処なんですけど……私の時みたいに喧嘩するんですか?」

 

「……あの娘にそんな事しませんよ。ちゃんと話し合いだけで済ませます。この件についてですが、アオイも参加しなさい。良いわね?」

 

アオイに尋ねられた質問の内容を聞いて、しのぶはその当時のやり取りを脳裏に思い出しながら頸を横に振るって否定した。それからしのぶから対話による解決を検討していると知って、アオイも参加する事に同意した。

 

「分かりました。…何も起こらないと良いのですが」

 

アオイはしのぶに同意しつつ、平穏無事で終わる事を祈った。しのぶも黙って頷くと、アオイにある提案を行った。

 

「取り敢えず、大体の事は私達二人で話し合って決めて……それで上手く行かなければ、その都度変えて問題点を修正して行きましょうか?」

 

「そうですね。全部決めたら、カナヲも怒る可能性もありますので。前より大分、自分で考えて物事を決められる様になりましたから。」

 

「そうね。これも全部、炭治郎君のお蔭ね。」

 

「そうですね。ふふっ。」

 

しのぶの提案に全面的に同意したアオイ。その後も二人して真剣に炭治郎との付き合い方について話し合ったのだった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

夢幻世界

 

 

炭治郎は睡魔に身を委ねて、夢幻世界でカナエに会いに行こうとしていた。

 

アオイの嫉妬から朝食に在り付けず没収されると言う、想像だにもしなかった仕置きを受けてしまった炭治郎。

 

あまりの空腹感から日課の鍛錬など到底行う気にはなれず、自室に籠って眠りに就いていた。

 

尤も、その空腹感が眠りに就くのを妨げる最大の障害となっていたのだが、炭治郎は泣き喚く腹の虫を只管に無視して両眼を瞑っていた。

 

炭治郎が頑なに眠りに就こうとしていた理由としては、ただ単に鍛錬を実行する気力が無かっただけでは無い。とは言え、昼食時間になるまでの時間稼ぎを目論んでいる事は、炭治郎としては否定の仕様が無かったが。

 

その理由とは、カナエに会いに行きたかったのである。

 

炭治郎は先刻、意図していないとは言えアオイに半ば妨害される形で情交(セックス)を中断させられてしまっている。カナエがその事に不満を持ってはしないかと、炭治郎は心配していたのだ。

 

こちらの理由に関してもカナエを心配している事が理由の全てでは無く、しのぶから受けたお預けから胸中に生まれた欲求不満を発散したかったというのも理由としてはあった。

 

炭治郎は暫くの空腹感との格闘の末、漸く眠りに就く事が出来たのである。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……カナエ……っ。」

 

炭治郎は両頬を紅潮させながら、洋袴(ズボン)を突き破らん勢いで痛みが生じる程に逸物を勃起させながら、自身の超人的な嗅覚を頼りにカナエを求めて夢幻世界を彷徨い歩いていた。

 

「……あっ。」

 

炭治郎は気付かない内に、自身の前方に一人の女性が立っている事に、漸く気が付いた。

その女性とは、勿論カナエの事だった。

 

「ふぅ……はぁ……はぁ……っ。」

 

「っ!」

 

炭治郎はカナエの様子を見て、炭治郎は更に気付いた事があった。

 

それはカナエが自身と同様に息を荒げている事と、強い欲情の匂いを身体から発していた事だ。

 

事実、カナエは絶頂寸前で情交(セックス)を中断させられた事から、その魅惑的な肉体は欲求不満に陥っていたのである。カナエもまた、炭治郎を強く求めていた。

 

カナエから発せられる欲情の匂いが鼻腔を通して鼻に入った瞬間、炭治郎の理性を繋げる糸がプツンと切れる音が脳裏に響いた。

 

「カナエっ!」

 

「きゃあっ!!?❤」

 

気付いていたら炭治郎はカナエを押し倒していた。そして炭治郎に押し倒されたカナエも、驚きを覚えつつも歓喜の声を上げながら抵抗する事無く押し倒された。

 

「んじゅううっ! じゅぢゅぢゅるるるっ!! ぺちゅらられろろっ!! じゅずずずっ!!」

 

半ば理性を失った炭治郎はカナエを貪り尽くさんばかりに、カナエに覆い被さる形で呂の字(ディープ・キス)をして口内を蹂躙していた。

 

「んんんんっ!!?❤ ちゅううぢゅううっ!!❤ ぺちゃれろれろれろっ!!❤ んずずっ!❤」

――ああっ❤……普段の炭治郎君でも凄いのに、こんな……こんな餓えた野獣みたいな炭治郎君に犯されちゃったら私、これからどうなっちゃうのかしら……っ❤❤

 

これから起きる未来を脳裏に想像すると、カナエの子宮は突如溶岩の如く灼熱の熱さを帯び始めた。その灼熱に伴い、秘部から大量の愛液が分泌される。

 

炭治郎からの熱烈な呂の字(ディープ・キス)を受けつつ、カナエは右手を震わせながらパチンと指を鳴らした。するとその瞬間、二人の隊服は光の粒子に変貌してそのまま消失した。

 

「あっ……❤」

 

「……っっ。」

 

全裸になった事で、炭治郎の長大な逸物は狭い空間から解放されその姿を露わにしていた。

 

炭治郎の逸物は既に、蚯蚓が張り付いているが如く血管が浮き上がっていた。先端の亀頭からは先走り汁が滲み出ており、カナエの鍛えられた筋肉質な腹部に零して汚していた。

 

一方でカナエの豊満な乳房の先端の乳首は勃起するが如く立っており、興奮しているからか血が集まって赤くなっていた。更に秘部からは愛液溜まりを作らん勢いで、愛液が溢れ出ていた。

 

二人の身体の反応は、互いに大いに期待している事を隠そうともしていなかった。

 

「カナエ……良いよね?」

 

「はぁっ❤……はぁっ❤……早く、早く来てっ!……っっ❤」

 

「うんっ! 行くよっ!!」

 

炭治郎は逸物の中程を掴むと、カナエの秘部に狙いを定めた。それから最初こそゆっくりと挿入して行き、間も無く膣内へと逸物を押し込んだ。

 

「くぅっ!❤……あぁ❤……あっ!❤……ああああっっ!!❤❤」

 

逸物を挿入されただけで、カナエは絶頂した。

 

しかし、カナエの絶頂は終わらない。

 

「カナエだけ狡いよ…………ふんっ!」

 

炭治郎は先に絶頂した事を責めながら、炭治郎は矢を携えて弓弦を引くが如くゆっくりと腰を引くと、一気に再挿入した。逸物は膣内を掻き分けて、一気に子宮口に激突する。

 

「あひいいぃぃぃっ!!?❤❤」

 

絶頂したばかりのカナエは炭治郎の行動を把握出来なかった為、気付く前に逸物から齎された強烈な快楽を受けて再度絶頂した。

 

「ぐおぉっ!? カナエっ……ああああっ!!」

 

カナエが再度絶頂した際に、膣内がうねる様に蠢いて逸物を包み込んだ。その強烈な圧迫感を逸物全体から受けてしまい、炭治郎はたまらないとばかりに快感に耐え切れず射精した。

 

 

 

ビュルドュルルルルルルルウウウウウウゥゥゥゥゥゥッッッッ!!! ビュルビュルビュルルルルルルルルウウウウウウウゥゥゥゥッッッッ!!!!

 

 

 

「ああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!❤❤❤」

 

子宮に直撃する白濁の溶岩の熱量に、カナエは両眼を見開き身体を大きく仰け反らせて絶頂した。

 

「あぁんっ❤……はあぁぁ❤……っっ❤」

 

快楽の余韻に浸りながら、カナエは満足そうに吐息を漏らした。しかし膣内に納まっている逸物を、逃がさないと言わんばかりに締め付けている辺り、まだ満足していないことは明らかだった。

 

「ハアアァァァ!……ハアアァァァ!……っっ。」

 

炭治郎も射精の余韻に浸っていたが、情交(セックス)を続けたくて呼吸を整えていた。炭治郎の逸物もまた、大きさも固さも失われる事無く臨戦態勢に入っている。

 

「カナエ……っ。」

 

「えっ?……んんっっ!?❤」

 

余韻も引かない内に、炭治郎はカナエを引き寄せて口付け(キス)を落とした。

 

カナエは炭治郎からの不意打ちの口付け(キス)に最初こそ驚いて両眼を見開いたが、直ぐにうっとりとした表情を浮かべ両眼を閉じてから口付け(キス)を堪能する。

 

「じゅぢゅちゅるるる!……ぺろれろれろろっ!……ぢゅちゅずづづっ!!」

 

「んんちゅじゅるるっ!❤……しゅれろろろっ!❤……じゅじゅぢゅづるるっ!!❤」

 

触れるだけの口付け(キス)をしていたが、それも直ぐに互いを貪り合う激しい呂の字(ディープ・キス)へと変わって行った。

 

炭治郎とカナエは、互いに両腕を背中に回して強く抱擁を交わした。

 

それから暫くの間、二人の気が済むまで呂の字(ディープ・キス)を続けた後、漸く二人は唇を離した。口から溢れた唾液の所為で、二人の顔は唾液塗れになっていた。

 

「ふうっ……はぁはぁ……カナエ、この前の続きも済ませておこうよ。」

 

「こ、この前の続きって……っ。」

 

「分かってるでしょう?……それっ!」

 

「ああんっ!❤」

 

炭治郎はカナエと繋がったまま、勢い良く立ち上がり櫓立ち(駅弁)の体位になった。カナエは両腕を炭治郎の頸に回して、炭治郎に抱き着いて離れない。

 

「今度こそ、一緒にイこうね。カナエ。」

 

「っ!❤……うんっ❤……あああんっ!❤」

 

カナエは炭治郎が愛おしくて、頭を上げて口付け(キス)を落としてから炭治郎の頭を抱き抱えて自身の豊満な乳房に顔を押し付けた。

 

「ひゃあんっ!❤ うぅぁあんっ!❤❤ ふ、深いっ!!❤❤ あああっ!❤」

 

炭治郎がカナエを抱き抱えたまま、下から勢い良く上へと逸物を突き上げる。カナエは快楽から、炭治郎の頭を更に強く谷間に押し付けた。

 

「ふうううぅぅぅっ!……ふううぅぅっ!……れろれろっ……ちょっとしょっぱいね、ふふっ。」

 

「やああんっ!❤……な、舐めちゃ駄目ぇ……ああんっ!!❤」

 

カナエの谷間に顔を埋めた炭治郎は僅かな隙間から呼吸をしつつ、カナエの谷間を舐めた。汗を流しているからか、塩味を感じて意地悪そうな笑みを浮かべる。そんな炭治郎の反応を見て、カナエは恥ずかしそうに顔を背けた。

 

 

 

パンッパンッパンパンパンッッッ!!!

 

 

 

そうして戯れている内に、炭治郎の逸物は限界に達しそうになり自然と腰の動きが早くなった。

 

「ああっ!❤……あなたのが、大きくなってっ!❤……んあぁんっ!!❤」

 

「くうっ!……そろそろ……射精()そうだっ! カナエッ!!」

 

「あっ❤……お願い、来てぇ!❤」

 

「ぐっ、あああっ!」

 

 

 

ビュルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 

 

「んああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!❤❤❤」

 

子宮に叩き付けるが如くやって来た白濁の溶岩を浴びて、カナエは頭を大きく仰け反らせて絶頂した。

 

「~~~~~~っっっ。」

 

カナエから離さないと言わんばかりに強く抱擁されている炭治郎は、声を上げる事が出来ずカナエの谷間に顔を埋めながら絶頂する。

 

そうしている間に射精が止まった炭治郎は、ゆっくりと腰を下ろして繋がったままカナエを仰向けに倒した。

 

「はぁ……はぁ……一緒にイけたね? カナエ……っ。」

 

「そう……ね……最高……だったわ……っ❤」

 

そうして互いに微笑み合うと、炭治郎が上半身を倒してカナエと口付け(キス)を交わした。そして唇を離すと、カナエの薄紫色の瞳に映る自身を認識しながら話し掛けた。

 

「今回の修業……どうしようか?」

 

「そうね……しなきゃいけないわよね……あなたは休んで良い立場じゃないもの。」

 

「うっ……」

 

実力の無さを遠回しに指摘されて、炭治郎は思わず声を詰まらせた。そんな炭治郎の様子を見て、カナエは苦笑する。

 

「ごめんなさい、意地悪い事を言いたかった訳じゃないの……あなたはどうしたい?」

 

「っ!……俺は……っ。」

 

カナエに尋ねられた炭治郎は、一瞬の間はあったものの直ぐに答えた。

 

「このままカナエと愛し合いたい……駄目かな?」

 

「っ!❤」

 

炭治郎が弱弱しくカナエに尋ねると、カナエは微笑みながら炭治郎に答える。

 

「良いに決まっているじゃないっ❤……その代わり、いっぱい愛してね?❤」

 

「っ! 勿論だよっ!」

 

「あああんっ!❤」

 

炭治郎は返答と共に腰を引いて逸物で一突きしてから、自身の身体を前に押し倒して》襷掛け(正常位)でカナエを攻め始めた。

 

「ああっ!❤ あなたっ!❤……好きっ!❤……好きぃっ!❤」

 

カナエも炭治郎の腰の辺りで両足を絡めて、炭治郎と身体を密着させて愛を囁く。

 

今回は炭治郎もカナエも修行をせずに、只管に情交(セックス)に夢中になっていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十二日(水)

時間帯:昼

天気:曇り

 

炭治郎はその後、互いにある程度情交(セックス)をした後でカナエに戻る様に促された。炭治郎はカナエともっと一緒に居たかったのだが、現実世界の時刻を知って慌てて帰還したのである。

 

「お昼ご飯は・・・・・・お昼ご飯は流石に食べられるよね?」

 

炭治郎は空腹感から断末魔を上げる腹部を押さえながら、ヨロヨロとよろめきながら食堂に向かう。既に昼食開始時間から、大きく時間が過ぎ去っていた。炭治郎は一抹の不安を抱きながらも、食べ物を求めて食堂へと足を進める。

 

炭治郎が食堂に到着すると、既に厨房に入って食器を洗浄し終えていたアオイにすみとなほときよの四人が居た。

 

「あっ! 炭治郎さんだっ!!」

 

食堂へ入室する炭治郎の存在に、すみが気付いて声を上げた。そのすみの声を聞いて、アオイ達も炭治郎の存在に気付く。

 

「あ、あの……アオイさん、ご飯はあるかな?」

 

「炭治郎さん……。」

 

炭治郎が恐る恐るアオイに尋ねると、アオイは閉口した。そんなアオイの様子を見て、炭治郎の不安が増大する。しかし、それは炭治郎の杞憂であった。

 

「ちゃんとご用意してありますよ。ただしお味噌汁は少し温め直しますからから、もう少し待って下さい。」

 

「ほ、本当っ!?」

 

昼食の用意がされていると聞いて、炭治郎は驚きと共に喜びを露わにする炭治郎。そんな炭治郎に、なほときよが声を掛けた。

 

「お味噌汁温めますねー。きよちゃん。お蕎麦の方はやってくれる?」

 

「良いよ。炭治郎さん、一緒にお昼ご飯を食べましょうね。」

 

「うんっ!……って一緒に? きよちゃん達はお昼ご飯食べてないの?」

 

アオイ達は普段、先に食事を済ませてから入院している隊士達の食事の対応を行うのだ。

 

自分達が空腹感を覚えながら、隊士達が食事している所を見るのは辛いものがあるからである。そんな事情を知っている炭治郎さんは、きよの言葉を聞いて驚きの声を上げた。

 

「その……私達、炭治郎さんと一緒にご飯を食べたかったんです。」

 

「っ!!」

 

恥ずかしそうに頬を赤く紅潮させて、アオイがそう言うとなほ達も首肯して肯定した。炭治郎はそんなアオイに思わず感動を覚える。

 

「待たせてごめん。皆、一緒に食べよう。」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

それから炭治郎達は仲良く席に着くと、すみ達が手際良く料理を並べて行く。

 

蕎麦を中心に副菜のふろふき大根、ほうれん草のお浸し、出汁巻き卵に冷奴、汁物の味噌汁と並べられて行った。炭治郎だけ、蕎麦は山盛りで提供され大いに堪能したのだった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

漸く満腹になった炭治郎は食後の休憩を終えてから、鍛錬を行った。カナエからの指導内容を思い出しながら、間違える事無く実行して行く。

 

時折、カナエとの情交(セックス)を思い出して愚息を勃起しそうになったが、其処は気合で無理やり抑え込む事に成功した。

 

鍛錬に集中していた午後の時間帯は特に特筆する様な出来事は無く、ある意味平穏な時間を過ごす事が出来た。

 

敢えて特筆するならば、アオイが買い物から帰って来た時に随分と機嫌が良かった事だ。きよ達が気になって機嫌が良いその理由を聞いても、「秘密♪」とアオイに言われて何も聞けなかった。

 

このまま夜も平穏な一時であると思われたのだが、太陽が沈んで夜闇が濃くなった頃に、蝶屋敷で一騒動が発生した。

 

負傷した七名の隊士が、『隠』に背負われて蝶屋敷に搬送されて来たのだ。鬼は何とか討伐出来たらしいが、負傷して半死半生と言った具合である。

 

事前に鎹烏からの連絡を受けて治療の準備は出来ていたので、しのぶ達は迅速に治療を開始した。

 

炭治郎は治療道具や必要な物品の運搬作業と言う形で事前準備では貢献出来たものの、治療行為に関しては門外漢であるため、一切関わる事は出来なかった。

 

以前、入門編用の医学書を手に取る機会があったのだが、内容は半分程しか理解出来なかった。

それだけでもしのぶやアオイに大したものだと褒められたが、炭治郎にとっては恥ずかしい限りであった。

 

しのぶの自室で待っていて欲しいと言われた炭治郎は、入浴など済ませてから、しのぶの自室に設置してある寝台(ベッド)で座って待っていた。

 

炭治郎がしのぶの自室で待機して暫くしてから、寝間着姿のしのぶが入室して来た。

 

「しのぶさん。お疲れ様でした。」

 

「ありがとう。炭治郎君こそ、お疲れ様。」

 

炭治郎がしのぶを労うと、しのぶも炭治郎を労った。

 

「いやいや、俺は何もしてませんよ。」

 

「いいえ。炭治郎君が治療の準備を手伝ってくれたから、今回運ばれて来た皆さんを少しでも早く治療する事が出来たんですよ。」

 

謙遜した炭治郎に、しのぶはそう言って炭治郎の貢献を称賛した。しのぶの称賛を受けて照れる炭治郎の隣に、しのぶが腰を下ろした。

 

「さて、お待たせしてしまいましたね。では早速……。」

 

「しのぶさん、ちょっと待って貰えませんか?」

 

「?」

 

自身の寝間着に手を掛けて脱ごうとするしのぶに、炭治郎は片手を翳して止めた。そんな炭治郎の行動を見て、しのぶは頸を傾げた。炭治郎は直ぐに、しのぶを制止した理由を話し始めた。

 

「しのぶさんはお疲れじゃないですか? そんな状態では、俺も抱きたいとは思えません。」

 

「あっ……。」

 

炭治郎はそう言ってしのぶの肩を抱くと、ゆっくりと優しく寝台(ベッド)に寝転がった。

 

「今夜は、一緒に寝るだけにしましょう。」

 

「……良いの? 朝の時に私からお預けを喰らっている、炭治郎君も辛いでしょうに。」

 

「しのぶさん程ではありません。それに偶にはこんなのも良いと、しのぶさんは思いませんか?」

 

「……そうね。良いと思うわ。」

 

炭治郎の提案を受けて、しのぶはされるがまま寝台(ベッド)で横になった。

 

「……おやすみなさい、炭治郎君。」

 

「おやすみなさい。」

 

しのぶがそう言ってから程無く、しのぶから寝息が聞こえて来た。炭治郎の推測通り、しのぶの疲労は大きかった様だ。

 

「疲労の匂いが強かったからね…………お疲れ様でした。しのぶさん。」

 

炭治郎は寝ているしのぶにそう労ってから、自身もしのぶと共に布団を被ってしのぶの横で就寝に着いた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十三日(木)

時間帯:深夜

天気:曇り

 

「……んっ。」

 

しのぶは自室の寝台(ベッド)の上で、ふと目を覚ました。

 

「あっ……そうか、私……っ。」

 

覚醒した意識と共に、しのぶは現状について冷静に分析して思い出す。

 

「ふふっ❤……っ!!」

 

しのぶは真っ暗闇の室内の中、眼前から感じる愛おしい温もりを強く抱擁した。するとしのぶは、ある事に気付いた。

 

「炭治郎君の……っっ。」

 

しのぶは現在、炭治郎の鍛えられた胸板に押し付ける様に抱き締められていた。身長差から炭治郎の股間の位置が丁度、自身の股間と触れ合う位置にあるのだ。

 

「……(ゴクッ。)」

 

その事実に気付いた瞬間、しのぶの中の獣欲に火が付いた。お預けを喰らったのは、何も炭治郎だけでは無い。しのぶもまた、欲求不満を募らせていたのだ。

 

尤も、周囲に悟られたく無くて普段通りの態度を装っていたし、炭治郎に匂いで感付かれないように緊急手術まで接触しない様にしていたが。

 

「ふぅ……ふぅ……っ。」

 

少々の名残惜しさを感じながらも、しのぶは身体を捻る様に動かして炭治郎の抱擁を外し、息を乱しながら炭治郎の体をまさぐり始めた。

 

「……っ。」

 

しのぶは布団の中に身体を潜らせると、炭治郎の寝間着を解いた。すると半勃起状態の逸物が、しのぶの前に姿を現した。

 

視界は真っ暗闇だが、手による触感でもその熱は容易にその形をしのぶに認識させた。更に布団の中の室温が上昇している事を、しのぶは肌で感じ取っていた。

 

――不必要に動いて、炭治郎君を起こすのも面白く無い……此処は……。

 

「……私の手だけで絶頂させてみましょう……っ❤」

 

しのぶは荒くなって行く呼吸を気合で抑制しつつ、両手を使って逸物の愛撫を始めた。

 

「……ぅう……あっ……うんっ……。」

 

「っ!❤」

――こうして手淫だけでやってみるのも、悪くないわね……丁度良いから、もっと練習しましょう。

 

朝の時も手淫を使って逸物を愛撫していたが、それも脇役に過ぎず主役は飽くまで口淫(フェラチオ)であった。

 

今後の炭治郎との豊かな性生活の為にも、少しでも性技の練度を向上させたいしのぶ。其処でしのぶは、ある事を思い付いた。

 

――私が炭治郎君を絶頂させられるか、それともその前に炭治郎君が目覚めてしまうか……勝負ですっ。

 

高揚したしのぶは我慢比べに等しい勝負事を心中で設定して、一人で勝手に盛り上がっていた。この状況では、誰が声を掛けてもしのぶが耳を貸す事は無いだろう。

 

「ふぅ……ふぅ……ふぅ。」

 

興奮しつつも力加減を間違えない様に細心の注意を払いつつ、しのぶは更に両手で炭治郎の逸物を愛撫して行く。

 

「んぁ……くぅ……あぁっ!」

 

未だに目覚めない炭治郎だが、しのぶの愛撫を感じている事は確かだった。

 

「……っ!!」

 

するとしのぶは炭治郎の逸物が震え出し、更に膨張した感覚を両手から感じ取った。しのぶは直ぐに愛撫を止めて、桶に入っている水を両手で掬うが如く亀頭の前に両手を並べた。

 

 

 

ビュルルビュルルルウウゥゥゥゥッッ!!! ビュルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 

 

 

「きゃっ……っ!!」

 

掌から生まれた高熱を感じて、しのぶは思わず悲鳴を上げた。そうしている間にも、逸物から発射された白濁の溶岩がしのぶの両手から溢れんばかりに溜まって行く。

 

「あぁ、勿体無い……っ。」

 

掌の指の間から寝台(ベッド)に敷いているシーツへ零れる白濁の溶岩を見て、しのぶは心底残念そうに呟いた。しのぶは横になっている体勢の為、このままでは残りの白濁の溶岩も重力に従って全てシーツの上に落ちかねない。

 

「っ!……じゅずずずっ!!!……ちゅちゃくちゅちゅ❤……くちゃくちゅっ❤」

 

しのぶは身体を屈めて、両手にある白濁の溶岩を一気に啜った。それだけでなく更に残っている部分すら念入りに舐め取って、自身の胃の中へと納めて行った。

 

「……はぁ❤……はぁ❤……も、もう我慢出来ない……っ!!!」

 

白濁の溶岩を飲み干したしのぶは、益々息を荒げた後に叫ぶ様にそう言うと自身の欲望を満たす為に行動に出る。

 

しのぶは寝間着を一気に脱ぎ捨てて生まれたての姿になると、布団を剥いでから炭治郎の寝間着も強引に脱がせた

 

そうして出来上がったのは、全裸のまま仰向けに寝ている炭治郎の姿であった。その逸物は天を衝かんばかりに力強く勃起している。

 

「た、炭治郎君が悪いんですからね……。」

 

しのぶは炭治郎の非を責めながら、自らの腰を上げて逸物に跨った。炭治郎の逸物を片手で掴むと、既に愛液の洪水を起こしている秘部の膣口に狙いを定める。

 

「んっ❤……んんっ!❤……んああぁぁぁっ!!❤❤」

 

しのぶは一気に腰を下ろして、炭治郎の逸物を自身の膣内へと挿入した。挿入された逸物は、しのぶの膣内を掻き分けて進んで行く。その感触だけで、しのぶは軽く絶頂した。

 

「ぁぁぁっ!❤❤……はぐぅっ!?❤❤❤」

 

炭治郎の逸物の長大さとしのぶの小柄な身体が相まって、しのぶの予測速度を上回る速さで逸物は一気に子宮口まで到達した。ゴツンッ! という幻聴を脳裏で耳にしたしのぶは頸を仰け反らせる程の衝撃を受ける。

 

「うっ……あぁっ……っっ。」

 

唇から唾液を一筋、だらしなく垂らしながらしのぶは全身を痙攣させていた。

 

「……んっ。」

 

その隙に、炭治郎が下半身から熱さと圧迫感を覚えて目を覚ます。

 

「…………し~のぶさんっ♪」

 

「っ!? ああんっ!❤」

 

炭治郎は楽しそうにしのぶの名前を呼ぶと、しのぶは驚愕すると共に炭治郎に視線を戻した。

しかしその視線も不意に上げた嬌声と共に逸らされる。炭治郎が下から両手を伸ばして、その豊満な乳房を鷲掴みにしたからだ。

 

因みに何故炭治郎はこの現状に動揺しなかったのかと言うと、事前にカナエから現状を伝えられていたからである。

 

カナエから現実世界の現状(しのぶの夜這い)を知らされた炭治郎は、目覚めたら何をしようかと舌舐めずりながら一考し、実行に移したのだ。

 

「そんなに、俺が欲しかったんですか? しのぶさん。」

 

「うぅ……っ。」

 

しのぶは恥ずかしそうに赤面して、思わず炭治郎の視線から逃げる様に顔を逸らした。

 

「……♪」

 

炭治郎はそんなしのぶを、愛おしそうに見詰める。炭治郎の行動は、これだけでは終わらない。

 

「しのぶさんが俺を求めてくれて、とっても嬉しいです。頑張りますから、気持ち良くなって下さいね? しのぶさん♪」

 

「まぁっ!?」

 

 

 

パンッ!! パンパンっ!!! パンッ!!

 

 

 

「あああんっっ!!❤❤❤ ああっ!❤……あああっ!!❤❤」

 

仰向けの炭治郎は、その体勢のまま下から上へと腰を動かし始めた。両手で乳房を鷲掴みにして、餅を捏ねる様に愛撫する事も忘れない。

 

そのまましのぶの豊満な乳房を鷲掴みにしている両手の親指と人差し指だけ移動させて、乳房の先端にある赤い蕾を摘まんだ。

 

「ああぁあんっ!!❤❤」

 

キュッと乳首を摘ままれたしのぶは、乳房を鷲掴みにされた時よりも大きな嬌声を上げた。炭治郎の不意打ち気味の愛撫を受けて、しのぶは膣圧の制御(コントロール)を失う。

 

「うぐっ!?……しのぶさん、強く締め付け過ぎっ……ああっ!!」

 

炭治郎は強烈な膣圧を受けて、逸物から精液を搾り取られた。

 

 

 

ビュリュルルルルルルルウウウウウゥゥゥッッ!! ブリュルルルルウウウウゥゥゥッッッ!!

 

 

 

「んああああぁぁぁぁぁっ!!!❤❤❤」

 

しのぶは射精された白濁の溶岩を零距離から子宮に受けて、その灼熱から齎される快楽に絶頂した。

 

「あっ❤……あぁっ❤……。」

 

しのぶは頭を仰け反らせ唇から一筋の唾液を垂らしながら、快楽の余韻に全身を痙攣させる。

 

「うぅっ……はああぁぁぁっ!……っ!」

 

炭治郎も射精が終了した後も、腰を震わせながら精液を小出ししてしのぶの膣内を自身の色に染めて行く。

 

先に快楽の余韻から解放されたのは、しのぶであった。

 

「はぁっ❤……はぁっ❤……っ!!!」

 

しのぶは呼吸を整えると、炭治郎の鍛えられた胸板に両手を置いた。

 

「こ、今度はっ❤……私が動きますっ……炭治郎君はっ、じっとしててっ……下さいっ!!」

 

「っ!……は、はいっ!」

 

悔しいのか妙に据わった眼をしているしのぶに、炭治郎は抵抗する事無くその攻めを受け入れる。

 

「くふうぅぅっ!❤……ああんっ!❤……どう、ですかっ!?❤……気持ち良い、ですかっ!!❤」

 

「は、はいっ! 凄くっ!❤……気持ち良いですっ!……ううぁっ!!」

 

「嬉しいぃっ!❤……もっとっ❤……もっとっ!❤ 気持ち良くなってっ!!❤……はあぁんっ!❤❤」

 

しのぶは上下に動くだけでなく、時に円を描く様に腰を動かしたりと多彩な腰付けで炭治郎を魅了する。

 

そうしてしのぶが腰を艶めかして動かしている内に、しのぶの膣内で再び動きがあった。

 

「ひゃあぅんっ!❤……炭治郎君のがっ!❤ 私の膣内(なか)でっ!❤ 大きくっ!❤ ああぁっ!❤」

 

「しのぶ……さんっ!……また射精()したいっ、ですっ!……くぅっ!」

 

「だ、射精()してっ!❤ 炭治郎君のっ!❤ 全部受け止めるからぁぁっ!!!❤❤」

 

 

 

ビュビュビュリュリュリュルルルルウウウゥゥゥッッ!! ビュルルルルウウウウゥゥゥッッ!!

 

 

 

「ああああああああぁぁぁぁっっっ❤❤❤!!!」

 

膣内に大量の白濁の溶岩を受けて、しのぶは再び絶頂した。そしてその直後、炭治郎にとってもしのぶにとっても予想外の事態が発生する。

 

 

 

バァン!! ガッシャーンっ!!!

 

 

 

「師範っ! 炭治郎っ!!…………っ!!!??」

 

突如、何かが弾かれて落ちる大音が鳴り響いた。

 

しのぶの自室の(ドア)を蹴破って現れたのは、しのぶの義妹で継子の栗花落カナヲであった。




お待たせ致しました。

漸く更新出来ました。更新予告を守れず大変申し訳ございません。心配をおかけして申し訳無い気持ちでいっぱいです。

早速ですが、連絡事項です。

少しの間、心身共に余裕を得たいと思いまして……大変申し訳無いのですが、一ヶ月程更新を休ませて頂きたいと思います。

次回の更新は我らが主人公たる竈門炭治郎君の誕生日である、7/14日(水)にしようと思います。此処から安定して更新出来たらと、切実に思っております。

私が急死しない限り、拙作の完結を目指して頑張ります。皆様、どうかよろしくお願い致します<(_ _)>


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第拾玖話 日輪への想いで赫蝶は暴走す

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・某所

 

大正二年(一九一三年) 三月十三日(木)

時間帯:朝

天気:曇り

 

 

人類の宿敵・鬼を狩る戦闘者集団"鬼殺隊"の重要施設である蝶屋敷に二人の隊士が向かって歩いていた。

 

一人は、三角模様が無数に描かれた黄色の羽織を隊服の上に纏う金髪の青少年、我妻善逸。

 

もう一人は、剥製にした猪の頭を常に被っている上半身裸の青少年、嘴平伊之助だ。

被り物のせいで素顔は見えないが、その素顔は美女と見間違えんばかりの美貌を誇る。

 

二人は炭治郎の同期に当たる新進気鋭の精鋭隊士であり、知っている者からは期待されている逸材である。はっきり言ってしまえば、才能だけなら炭治郎を超える天才達だ。

 

また、炭治郎と同様に二人とも五感の能力の一つが突出して優れている。善逸は音で種族や感情すら聞き分けられる程の超感覚の聴覚を持ち、伊之助は集中して使えば広範囲で周辺を探知可能な程の超感覚の触覚を持っている。

 

尤も、性格に難があるため事情を知らぬ者や初見の者は、一見しただけでは見抜くのは極めて難しいのだが。

 

「もう直ぐ蝶屋敷だっ。また可愛い女の子に治療して貰える~♪」

 

「おい紋逸っ! 朝飯喰わずにずっと歩いたせいで、俺ぁ腹減ったぞっ! 本当に天ぷらがあそこで食えるんだろうなっ!?」

 

「俺もお腹空いたよ。それから善逸、な? 一応チュン太郎に手紙持たせたから間違いないとは思うぞ。結果は着いてからのお楽しみって奴だ。」

 

善逸はそう言って伊之助を静かにさせると、足早に蝶屋敷へ向かう。伊之助もそれに付いて行った。

 

 

 

 

 

 

東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月十三日(木)

時間帯:朝

天気:曇り

 

 

そして二人は朝の十時前に蝶屋敷の門前にまで到着し、門前の中を通ると善逸は鼻の穴を名一杯広げてそこの空気を吸った。

炭治郎程、善逸は嗅覚は優れておらず常人のそれと変わらないのだが、善逸は思い込みから蝶屋敷の匂いで一人勝手に舞い上がっていた。

 

「やっぱり花と可愛い女の子の匂いがするなぁ~~あぁ~~良い匂いだなぁ~。」

 

「そ、そうかぁ? こっからじゃ花の匂いなんてしねぇだろ? お前。何時から権八郎みたいに鼻が良くなったんだ?」

 

「何言ってんだよ! 蝶屋敷からは元々素敵な匂いと音が……あれ? なんか前に見たキリスト教の教会の鐘みたいな音が蝶屋敷中から聞こえて来るんだけど……リンゴーンリンゴーンって感じの。確かこの音って……。」

 

「音の事なんか言われても分かんねぇよ! 何時までもこんなところにいないでさっさと行くぞ紋逸!」

 

「だーかーら善逸だって言ってるだろー!」

 

蝶屋敷へ先に入って行く伊之助に、善逸は何時までも名前の呼び間違えを訂正しながら付いて行った。

 

 

 

 

 

 

広間に机を並べて今回の朝昼兼用食を頂くと決めて蝶屋敷の面々は集まっていた。其処に善逸と伊之助が合流する。

 

「アオイちゃん久しぶり! 俺が居なくて寂しかった? 会えて嬉しい?」

 

「寂しいなんてちっとも思いませんでしたけど、再会出来て嬉しいですよ。善逸さん。」

 

「嬉しいだなんて、いひひひひぃ!」

 

善逸は身体をクネクネさせてながら一人喜ぶ、そして視線はアオイの豊満な乳房に思い切り目線を落としていたが、アオイは手慣れていると言わんばかりに、気にせず無視して伊之助の下へ足を進める。

 

「おっ!? 天ぷらがちゃんとあるじゃねーか! どれ、まずは一つ……あいてっ!」

 

「伊之助さんっ! 摘み食いは止めて下さい!!」

 

伊之助が大皿に盛られた天ぷらを摘み食いしようとして手を伸ばしたところ、アオイがパシッ! と手を叩いて阻止する。その事に怒って伊之助は抗議する。

 

「何だよっ!? ちょっとぐらい良いじゃねぇーかよ!?」

 

「しのぶ様に怒られて挙句、ご飯抜きがご希望ですか?」

 

「うっ……分かったよ。待てば良いんだろ、待てば。」

 

伊之助はしのぶに怒られるのが怖いのか、しのぶの名前を聞いた途端、静かになって座り込む。

善逸も伊之助に倣って、同様にその隣に座る。するときよ達の様子が気になってアオイに質問する。

 

「なんか、皆ソワソワしてない? 皆から鳴る音が何時もと違うんだけどさ?」

 

「……私の口では説明しにくいので直接、ご覧になって下さい。直に分かりますよ。」

 

「むっ? アオイちゃんがそう言うなら……。」

 

善逸もアオイにそう言われて、納得して黙り込む。すると善逸の耳が、三人分の足音を聞き取る。

すると間も無く一人目が現れた。それはこの蝶屋敷の主人たる蟲柱・胡蝶しのぶであった。

 

「あっ! しのぶさんっ!? お久しぶりで……すっ!?」

 

善逸はしのぶに声を掛けたが、動揺して思わず口籠る。しのぶの美しい顔には青痣が見え、治療した痕が有った。またしのぶから憤怒の音を聞き取ったからだ。するとしのぶが善逸に声を掛けた。

 

「あらっ、お久しぶりですね。お帰りなさい、善逸君。」

 

「は、はい。ただいま帰りました……っ。」

 

善逸は怯えた様子でしのぶに返答する。伊之助はそんな善逸を見ながら、ヒソヒソとアオイに話し掛ける。

 

「な……なぁ? なんでしのぶはあんなに怒ってんだ? 肌がビリビリすんぞ。しかも怪我してるし。ってお前も何怒ってんだよ?」

 

「もう直分かりますよ。もう直……ねっ。」

 

アオイは伊之助の質問に対してそう言って双眸を閉じた。その整った顔に青筋を立てながら。

すると、残り二人の足音が広間にやって来た。それは栗花落カナヲと竈門炭治郎だった。

 

「おっ!? やっと来たんだ。ただいま、炭……はああぁぁぁぁぁ?!」

 

「善逸さんっ! 五月蠅いですよっ!!」

 

善逸が怒りに満ちた奇声を上げると、アオイがそれを聞いて抗議する。それは善逸が見たものに理由があった。

 

「~~❤」

 

「や、やぁ。善逸、伊之助。二人ともお帰り……っ。」

 

それは炭治郎の右腕をがっちりと掴んで幸せそうに腕を組んでいる、左眼に医療用の白い眼帯を着け、顔に青痣があるカナヲと、困惑気味な炭治郎の姿が有った。

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十三日(木)

時間帯:早朝

天気:曇り

 

 

時間は今から早朝の蝶屋敷にまで遡る。

 

炭治郎と結ばれたアオイは、今までに無い程に上機嫌になっていた。一方のしのぶは嫉妬しつつもアオイを祝福していた。

 

朝食を終えた炭治郎と蝶屋敷の面々はそれぞれ己のするべき事を行うべく行動に移し始めた。

 

炭治郎は肉体の鍛錬を、しのぶは患者の診察を、アオイとなほ達は蝶屋敷の雑務と何時も通りの平和な日常を謳歌していた。

 

そしてそれが終わり、昼食後を終えての小休憩でしのぶとアオイはある事について話し合っていた。

 

それは炭治郎との情交(セックス)の順番である。しのぶはアオイに禰豆子の件を話そうか悩んだが、カナヲと合流してから話すべきと判断して黙っていた。

 

話し合いの結果、炭治郎の情交(セックス)は交代制による順番に決定したのである。

 

蝶屋敷に炭治郎としのぶが帰還した日の夜にアオイが担当したため、自動的に二日目はしのぶに順番が巡って来たのだ。禰豆子は眠っていたため、好機を逃すまいと一人で炭治郎と愛し合ったのだった。

 

一方、蝶屋敷に現在不在のカナヲは、三件の鬼討伐指令を終えて蝶屋敷に帰還中だった。この三件の任務の内、二件は下弦級の強敵であったが、カナヲは難無く討伐した。

 

その後、鎹烏から帰還許可を貰ってカナヲは急いで蝶屋敷の帰路へと着く。そして炭治郎としのぶが蝶屋敷に帰還して二日目の、まだ朝日が昇ったばかりの早朝に蝶屋敷への帰還を果たしたのである。

 

カナヲは蝶屋敷に到着して、身体を拭いて着替えた後、途中で眠たそうにしているきよと出会った。

 

「あっ……カナヲさん……おかえなさぁい。帰られたんですね……。」

 

「ただいま、きよ。それからおはよう。炭治郎って帰ってる?」

 

「はい、帰ってますよ。一昨日くらい前から。」

 

「……っ!」

 

きよからそう聞いて、何故自分はもっと早く戻れなかったのかと悔しんだ。

しかし、カナヲは直ぐに気持ちを切り替えて炭治郎の、竈門兄妹に充てられた部屋へと向かう。するときよがカナヲに声を掛けた。

 

「お部屋に行っても今はいませんよ、炭治郎さん……あっ!?」

 

「……部屋に居ない?……こんな時間に?……だったら炭治郎は今、何処に居るの?」

 

きよは思わぬ失言に思わず手を当てて閉口するも、時すでに遅し。カナヲは疑問に思いつつきよに炭治郎の居場所を尋ねた。

 

「あの、えーと……さぁ、私には何処に居るのかは……あ、朝練に出てるかもしれないですよっ!」

 

「……きよっ。」

 

「ひっ!?」

 

きよは適当な指摘でその場を逃れようとしたのだが、カナヲは据わった目できよを見詰めつつその両肩を掴んだ。

その事にきよは怯えた声を出して竦んだ。

 

何故、カナヲがそうしたのかと言うと、きよが嘘を吐いていると看破したからだ。

カナヲは悲しい過去の経緯により、超人的な視力を所持している。

 

普段のきよの仕草から彼女が嘘を吐いているか否か見抜くなど、カナヲにとっては造作も無い。

カナヲは目を据わらせたまま、きよに顔を近付けて質問をする。きよの恐怖心はますます上がった。

 

「炭治郎が何処に居るのか知っているなら、素直に教えて?」

 

「え、えーと……き、昨日の夜っ! しのぶ様のお部屋に炭治郎さんが入って行くのを見ましたっ!」

 

きよは顔を赤く染めてそう言った。きよだけでなく、すみもなほも患者から艶本を没収する過程で、その知識を年齢不相応に得ているのだ。

炭治郎としのぶが、そしてアオイがどう言った行為をしているか理解している。

きよの反応を見て、カナヲは嫌な予感に駆られ、そして怒りで赤く染まる。

 

「ちぃっ!?」

 

「きゃああっ!?」

 

カナヲはきよを突き飛ばすと、しのぶの部屋まで駆け出して行った。

突き飛ばされたきよは背中から壁に激突し、その痛みに悶絶する。しかしそんなものに構ってられないとばかりに急いで起き上がった。

 

「い、急いでアオイさんに知らせないと……っ!!」

 

きよは背中の痛みに顔を顰めながら、アオイの部屋に向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 

カナヲはしのぶの部屋まで駆け出していたが、部屋に近付くに連れて歩みが遅くなっていった。そして足音を殺して歩くようになっていた。

 

それは想像する最悪の想定を目にしたくないと言う考えから歩みが遅くなっていたのもあるが、僅かだが声が聞こえて来たからだ。

その声は部屋に近付くに連れて徐々に大きく聞こえて来た。そしてカナヲが(ドア)の前まで来ると事は起こった。

 

「ああああああああぁぁぁぁっっっ❤❤❤!!!」

 

「っ!?!?」

 

しのぶの部屋から、一際しのぶ本人と思われる声が扉越しからでもはっきり分かる程、色気に溢れた大声が聞こえて来た。

カナヲは思わず驚きからビクッ! と身体を震わせた。しかし、カナヲは焦燥感を抱きながら、膝を曲げて利き足である右足を胸まで上げると、思い切り力を込めて(ドア)を蹴り出した。

 

(ドア)は破損しながらバァン! と大音を立てて思い切り開き、付け根の金具が外れて再びバァン! と大きな音を立てて室内へと倒れ込んだ。

 

この(ドア)は鍵が掛かっていたのだが、カナヲの蹴撃を受けて鍵は壊れ(ドア)を固定していた蝶番は千切れる様に破損していた。

 

「っ!?」

 

「……っ。」

 

「師範っ! 炭治郎っ!!…………っ!!!??」

 

カナヲはしのぶの部屋に入って驚く事になる。

しのぶが全裸で同じく全裸になって寝台(ベッド)に寝ている炭治郎の上に跨っていたからだ。

 

カナヲからはしのぶ顔は見えなかったが、しのぶが顔を横に向けた事で室内は薄暗くとも断片的にだがその表情が見れた。

 

しのぶの整った美貌は真っ赤に染まり、涎を口から絶え間無く垂れ流させていた。尊敬する師範の見た事も無いだらしの無さ過ぎる、かつとてつもなく幸せそうな顔をしているしのぶと目線が合った。

 

敬愛する師範と最愛の想い人が愛し合っている姿を見たその瞬間、カナヲの頭の中で何かが切れる音がした。

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

 

 

 

 

カナヲは絶叫しながら腰の日輪刀を抜刀してしのぶに斬り掛かった。

このカナヲの蛮行にしのぶと炭治郎は慌て始める。

 

「ちょっ!?」

 

「カナヲっ!? っ!?」

 

「うわっ?!」

 

炭治郎は反射的に寝台(ベッド)から起き上がろうとしたが、しのぶに突き飛ばされて再び寝台(ベッド)に寝転がった。

 

しのぶは炭治郎を寝台(ベッド)に突き飛ばして倒すと、寝台(ベッド)から頭を低くして飛び降りる。

カナヲの頭より高く振り翳した日輪刀の縦斬りの斬撃が、寝台(ベッド)に深く喰い込んで終わる。

 

「っ!……ああああああっ!!」

 

「カナヲっ!! 頼むっ! お願いだから落ち着いてくれっ!!」

 

炭治郎は三度、寝台(ベッド)から起き上がると、全裸のままカナヲの右腕を掴んで、カナヲの暴走を止めようとする。しかし、その行為もカナヲの怒りを助長するだけで終わってしまう。

 

「邪魔っ!?」

 

「ぐっ!?」

 

カナヲは寝台(ベッド)に喰い込んだ日輪刀から手を離すと、炭治郎に掴まれた右腕をそのまま掲げる。

すると炭治郎の腹部が無防備になり、其処へすかさずカナヲが空いた左手の拳を丸めて、強烈な正拳突きを炭治郎の腹筋に叩き込む。

 

カナヲの正拳突きを受けて、炭治郎はその激痛でカナヲの右腕を離してしまう。

右腕の自由を取り戻したカナヲは間髪入れずに下から炭治郎の顎へ目掛けて掌底打ちを叩き込んだ。

 

「がはぁっ!?」

 

炭治郎は宙に浮かんで、後頭部から床下に叩き落された。

 

「炭治郎君っ!? くっ!?」

 

炭治郎がカナヲに殴り倒されている間に、しのぶは自身の日輪刀を手にしていた。宙に舞う炭治郎と、直ぐに自身に標的を切り替えたカナヲを見て、しのぶは瞬時に判断した。

 

「ちぃっ!!」

 

しのぶは鞘に収めたままの日輪刀で、神速の刺突撃を繰り出す。しかしその刺突撃はカナヲにではなく、自室の窓に向かって放たれたものだった。

窓はその神速の刺突撃を受けてパリンッ! と甲高いと共に粉々に砕け散った。

 

しのぶは硝子片を踏まない様に注意しつつ、全裸のまま蝶屋敷の庭へと飛び出した。

 

「待てっ!?」

 

カナヲはしのぶの行動に仰天しつつ、憤怒の形相でしのぶを追跡した。

 

炭治郎は倒れて失神し、少ししてから目を覚ました。失神していた時間は数秒か数十秒か、はたまた数分経過していたのかは分からないが、そんなものを悠長に確認する余裕など、炭治郎には無い。

 

「……しのぶさんっ! カナヲっ!!」

 

炭治郎は倒れたまま、頭だけ上げてしのぶとカナヲの名前を呼ぶ。そして二人の後を追跡しようとした。

 

しかし、現状の自身の姿を見て、更に残されたしのぶの寝間着が目線に映る。炭治郎はしのぶが現在、どの様な格好でいるのかを考えた。

 

「……くそっ!!」

 

炭治郎は苛立ちながらそう悪態を吐く。そして焦りながら、祈りながら急いで洋袴(ズボン)を履き始めた。

 

――頼むから、最悪の事態にはならないでくれっ。

 

 

 

 

 

 

「てやぁぁぁっ! はあぁぁぁっ!! だああぁぁぁぁっ!!!」

 

「ちょっとっ!……待ってっ!!……待ちなさいっ!!……カナヲっ!!……っ!!!」

 

剣技のキレなど一切無く、ただ我武者羅に振り回しているだけの斬撃をしのぶは必死で躱しながら、カナヲを必死で説得を試みる。

しかしカナヲは一切しのぶの説得に耳を傾ける気は無い。その事実にしのぶは遂に怒りを覚える。

 

 

 

ガキィン!

 

 

 

しのぶは隙を見て、鞘に入れたままの日輪刀でカナヲと鍔迫り合いを行う。

 

「待ちなさいって言ってんでしょうが!? あんた良い加減にしなさいよっ!? 私にだって我慢の限度ってもんがあるんだからねっ!?」

 

「五月蠅いっ!! 黙れ黙れ黙れっ!!!」

 

「っ!……っ。」

 

しのぶの最終通告とも言える言葉を、カナヲは無下に振り払う様に叫ぶ。

しのぶはカナヲの言葉に動揺していると、カナヲが再び日輪刀を高く掲げ、一気に振り下ろす。

 

 

 

バキィッ!!

 

 

 

カナヲが叩き付けた日輪刀は、根元からへし折れる。そしてしのぶの日輪刀もまた、鞘もろともへし折れて鞘に内蔵されている毒液が蝶屋敷の庭に撒き散らされた。

 

愛刀を破壊されたしのぶは、遂に堪忍袋の緒が切れる。両眼を血走らせ青筋を破裂せんばかりに濃く浮かべながら、カナヲを罵倒する。

 

「こ……のっ……馬鹿継子(でし)っ!!」

 

「泥棒猫っ!! 淫乱師範!!! 淫売のアバズレ!!!!」

 

「「がああああぁぁぁぁぁっ!!!!」」

 

猛獣の咆哮の如き雄叫びを上げると、斬られた口火の如く雄叫びと共に、互いに向かってしのぶとカナヲは殴り合いを始めた。

 

殴り合いからの殴打に始まり、時に蹴撃、組手、掴み合いで転げ回ったり、更には髪を引っ張られたらそのまま頭突きを浴びせる事もあった。

 

しのぶとカナヲはその容姿端麗な美貌に青痣を作り、鼻と口から一筋の血を流していた。

 

しかし、純粋な肉弾戦となるとカナヲに分がある。しのぶは小柄で非力と言う弱点を、これまで戦闘経験で補っていたがそれにも限度があった。

 

何より、今のしのぶは全裸である。通常の鬼の爪牙すら通さない高品質な隊服を着用しているカナヲと、全裸で無防備なしのぶとでは蓄積される傷痍(ダメージ)が違う。

 

このままカナヲに優勢かと思われたが、そうは問屋が卸さなかった。

 

「だあぁっ!!」

 

「っ!……シィッ!」

 

カナヲが右手でしのぶを殴ろうとしたが、しのぶは前に出たままそれを躱す。

しのぶの顔を掠める様にカナヲの右手が通り過ぎると、すかさずしのぶも右手でカナヲに殴り掛かった。

 

「ぎゃぁっ!?」

 

「っ!……ふんっ。」

 

しのぶの正拳はそのままカナヲの左眼を殴り付ける。するとカナヲはその激痛に悶絶して、両手で殴られた左眼を抑えた。

殴られる直前に瞼を閉じていたため、眼球そのものに傷など無い。しかし、急所をやられて平然とはしていられなかった。

 

しのぶはカナヲの様子を見て鼻を鳴らすと、畳み掛けるために、拳を振り上げながら前に出た。

カナヲに殴り掛かる直前、しのぶはカナヲがニヤリと嗤う瞬間を見た。

 

「っ!!……がはっ!?」

 

カナヲが薄気味悪く嗤うのを見て、しのぶは一瞬動きを止めるも既に手遅れだった。

しのぶの腹部に目掛けて、カナヲの前蹴りが炸裂したからだ。しのぶは一瞬、身体をくの字に曲げて後方へと吹き飛んだ。

 

「っ!……げほげほっ!!」

 

「フ―――ッ! フ―――ッ! フ―――ッ!」

 

しのぶは地面に倒れ込んで咳き込むと、カナヲが左眼を抑えながら勝利を確信した様子で息を荒くしつつ、笑みを浮かべてしのぶに接近する。

 

しかし、その前に二人に声を掛ける者達が現れた。

 

「しのぶさんっ!?」

 

「カナヲっ!?」

 

駆け付けたのは上半身だけ肌蹴て半裸の炭治郎と、きよの報告を受けて駆け付けたアオイだった。

 

「あんたしのぶ様に何やってんのよっ!?」

 

「っ!……。」

 

アオイはカナヲに怒号を浴びせながら羽交い締めにする。一方の炭治郎は、カナヲに一瞬だけ視線を向けると、そのままカナヲを通り過ぎてしのぶの下へと駆け寄った。

 

「しのぶさん、とりあえずこれを羽織って下さい。」

 

「炭治郎君……ありがとう……っ❤」

 

「いいえ、遅くなってすみませんでした。」

 

しのぶは炭治郎が持って来た毛布で身を包み、自身の全裸を覆い隠す。炭治郎は贖罪の意味も込めて、しのぶを優しく抱き締めた。

その光景を、アオイに羽交い締めされたままのカナヲが愕然とした様子でその二人を見ていた。

 

「た、炭治郎っ! あのね、私……。」

 

「カナヲっ!!」

 

「っ!!」

 

カナヲは炭治郎に声を掛けようとしたが、それを遮る様に炭治郎が大声でカナヲの名前を呼んだ。

怒気の混じった炭治郎の声を耳にして、カナヲは震えて黙り込んだ。炭治郎はしのぶを抱き締めたまま、カナヲに向かって言い放った。

 

「しのぶさんは……しのぶさんは俺の大切な恋人(ひと)だっ! しのぶさんを傷付けるなら幾ら君でも許さないぞっ!!」

 

「っ!……あぁ……うっ……っっ。」

 

「……っ❤」

 

しのぶは炭治郎の言葉にうっとりとしながら、その鍛えられた逞しい身体に身を寄せた。そして刹那の一瞬、しのぶはカナヲと目線を合わせると、口元だけニヤッと静かに嗤った。すると自身の中で何かが粉々に砕ける音を、カナヲははっきりと耳にした。

 

 

 

「いやあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!! やああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

 

 

 

「「「っ!?」」」

 

カナヲから発せられた、蝶屋敷全体に響いたのではないかと思われる程の絶叫が上がった。魂の絶叫とも言えるカナヲの叫声に周囲は絶句する。

 

「やだあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!! いやあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」

 

「ちょっ!?……カナヲっ! 落ち着きなさいっ!!」

 

「たんじろうをとらないでえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!! とっちゃやだああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

 

カナヲが暴れ始めたため、アオイが必死でカナヲを抑え付ける。カナヲはしのぶを睨み付けながら、滝の如く涙を流しながら泣き叫び続ける。

 

「かえしてえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!! わたしのたんじろうをかえしてよおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!」

 

「うええええええええええええええええええええええええええええええええんっっっっ!!! えええええええええええええええええええええええええええええええええんっっっっ!!!!」

 

カナヲの嫉妬と絶望に満ちた絶叫は、カナヲが失神するまで続いた。カナヲが失神するまで、アオイもしのぶもその場を動く事が出来なかった。

カナヲの絶叫が弱まったのを見て、炭治郎がカナヲに近付くとカナヲは飛び込む様に炭治郎に抱き着き、そして失神して意識を失ったのだった。

 

カナヲの最初の絶叫を聞いて、きよもすみもなほも現場に集結し、更に蝶屋敷に入院していた隊士達も集まって一部始終を見て聞いていた。

 

しのぶはすぐさま緘口令を敷いて事態の収拾と隠蔽を試みた。

しかし、"人の口に戸は立てられぬ"の故事曰く、しのぶのその試みは失敗に終わり、"蟲柱が継子と竈門炭治郎(おとこ)を巡って殺し合いをした"とその噂は尾鰭だけでなく背鰭や胸鰭まで付く勢いで瞬く間に鬼殺隊全体に広まる事になる。

 

更には"蟲柱が継子の想い人を寝取った"などと言った事実の様で事実でない噂まで広がり、蝶屋敷はその誤解を訂正する日々に追われ、しのぶは骨身に堪える日々を送る羽目になった。

 

最後にその想い人である炭治郎の噂も加わり、本人は"鬼殺隊一の女たらし"と言う烙印(レッテル)を押され、炭治郎も否定出来ない悪評に頭を抱える事になる。

 

尤も、炭治郎の人柄の良さや人格者としての評判も既に鬼殺隊では広まっていたので、噂を真に受ける者と噂を嘘だと捉える者で別れ、大半が後者であったのが不幸中の幸いであった。

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十三日(木)

時間帯:朝

天気:曇り

 

 

「すぅ…………すぅ…………すぅ…………。」

 

「「「………………」」」

 

カナヲは炭治郎に抱き着いたまま眠っていた。騒動の後、全員でアオイの部屋まで避難していた。黙ってカナヲを見ていた炭治郎としのぶ、そしてアオイの三人だったが、最初にアオイが開口した。

 

「とりあえず、しのぶ様の治療をしましょう。カナヲはその後で……炭治郎さん。申し訳ないのですが、暫くそのままでお願い出来ますか?」

 

「うん、良いよ……と言うかカナヲを引き剥がそうとしても出来ないみたいだから、先にしのぶさんの治療をしてよ。」

 

「炭治郎君、ごめんなさいっ。こんな事態になってしまって……っ。」

 

「俺にも責任の一端を担ってますから、しのぶさんも謝らないで下さい。」

 

しのぶの謝罪を炭治郎はやんわりと受け止める。それを見てアオイは、しのぶの治療を始めた。

カナヲに時折気に掛けながら、炭治郎はその様子を眺め続ける。

 

そうしている内に、アオイによるしのぶへの治療が終了し、今度はカナヲへの治療を試みようとする。

因みにだが、しのぶは既に隊服に身体を通してある。

 

「カナヲ。治療したいから炭治郎さんから離れてっ。」

 

「…………」

 

しかし、カナヲが炭治郎に顔を埋める様に抱き着いて離れないため、治療の実行が出来ないでいた。

見かねた炭治郎はカナヲに話し掛けた。

 

「カナヲ。俺はカナヲから離れたりしないから、ちょっとの間だけ、離れておくれ。」

 

「……んっ……んんっ。」

 

するとカナヲはゆっくりと炭治郎から離れて寝台に寝転がった。しかし、不安そうに、または泣きそうになりながら何かを求めて探している様に手をもぞもぞと動かしていた。

炭治郎はそれを見て優しくその手を握ると、カナヲは安心し切った様子で落ち着きを取り戻していた。

 

しのぶとアオイはそれを見て、カナヲの治療を始める。些か治療しにくかったが、何とか出来た。

薬品を塗る際に沁みる筈だが、カナヲはそんなものは微塵も感じる素振りを見せなかった。カナヲの治療後、アオイとしのぶが炭治郎に話し掛けた。

 

「炭治郎さん。お手伝い頂きありがとうございました。」

 

「炭治郎君、迷惑掛けてごめんねっ?」

 

「いいえ、お礼を言われる様な事も謝られる様な事もしてませんよ。寧ろ俺が謝らなければならないくらいで……。」

 

炭治郎は申し訳なさそうに二人に答えた。其処から三人そろってクスクスと小さな笑い声が部屋中に響く。

笑い声が収まってから、アオイが再び開口する。

 

「すみません。私はそろそろ食堂で患者達の朝食の配食を終わらせてこようと思います。」

 

「アオイ、私も手伝いますよ。せめてものお詫びです。」

 

「俺は……此処に残りますね。カナヲを置いてはいけないので。」

 

アオイが朝食の配食に向かうと、しのぶがその手伝いを買って出る事を進言した。一方の炭治郎はカナヲが再び暴走しない様に、傍にいる事にした。

 

「お願いします……皆で朝ご飯食べたかったのに、それどころではなくなってしまって残念です。」

 

「俺もそう思うけど、後で皆でお昼ご飯を一緒に食べようよ。カナヲにも誤解を解いて貰ってから一緒に……さ。」

 

「そうね、是非そうしましょうっ。」

 

しのぶはそう言って話を閉めると、アオイと共に部屋から出ようとした。しかし、部屋を出る寸前で身を翻して炭治郎に接近する。

 

「炭治郎君、カナヲに向かって堂々と私を大切な恋人だと言ってくれて……凄く、嬉しかったわっ❤」

 

「これはそのお礼です❤」しのぶはそう言って炭治郎に口付け(キス)をした。

 

「「っ!」」

 

炭治郎は一瞬驚いたが、直ぐに眼を閉じてしのぶからの口付け(キス)を受け入れる。

アオイはその光景が見たくなかったのか、直ぐに視線を二人から反らした。

 

「ふふっ❤ 炭治郎君、またね❤……アオイ、行きましょうか?」

 

「はい……では炭治郎さん。また来ますので、どうかカナヲをよろしくお願い致します。」

 

「了解っ、カナヲの事は任せておいて。行ってらっしゃい!」

 

炭治郎に見送られて二人は部屋から出て行った。炭治郎は寝台に座った状態でカナヲと手を握っている。

カナヲは炭治郎の手を握ったまま未だに寝ていた。

 

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

しのぶとアオイが出て行ったため、炭治郎とカナヲの二人だけになった部屋は沈黙に包まれていた。

聞こえてくるのは、カナヲの寝息だけだ。すると炭治郎はカナヲに向かって静かに言った。

 

「ごめんねっ。カナヲ。」

 

炭治郎としては頭を撫でてあげたかったが、態勢が不自然に成るため言葉による謝罪だけに留めた。

そうして静かに待っていた炭治郎だが、暫く時間が経つと問題が生じ始めた。

 

「……厠に行きたい……っ。」

 

尿意を催して来たのである。炭治郎はカナヲから手を放そうとしたが、そうする度に強さを増して握って来るのだ。

これでは厠に行きたくても行く事が出来ない。ましてや、カナヲを連れて厠に行く訳にも行かないからだ。

炭治郎にとって、これが便意ではない事が唯一の救いであった。

 

「どうしよう……困ったなぁ……っ。」

 

炭治郎が困り果ててると、(ドア)からコンコンとノックする音が聞こえて来た。炭治郎はノック音に答える。

 

「どうぞ。」

 

「失礼しますね。炭治郎さん。」

 

其処に入って来たのは寺内きよ、中原すみ、高田なほの三人だった。炭治郎は意外な訪問者に少し動揺する。

 

「三人共、どうしたんだい?」

 

「はい。カナヲさんのご様子が気になったので見に来たんです。」

 

「あんな目に遭ったから、カナヲさん大丈夫かなって……。」

 

「炭治郎さんも、大変でしたね。」

 

「うん、俺は大丈夫だよ。カナヲも……今は寝ていて落ち着いてるかな。こうして手を放してくれないけれど。」

 

炭治郎はきよ達に足をモジモジさせながら答えた。するとその様子を見たすみが炭治郎に指摘した。

 

「炭治郎さん……もしかして、その……おしっこに行きたいんですか?」

 

「っ!?」

 

すみからの思わぬ質問に、炭治郎は動揺を隠せない。そんな炭治郎を見てきよとすみが行動に出た。

 

「きよちゃんっ。」

 

「うんっ!」

 

すみがきよに声を掛けると、きよはすみが言わん事を理解していると言わんばかりに部屋を飛び出して行った。

 

すると三十秒も経たない内に、きよが部屋へ戻って来る。両手に尿瓶を大事そうに抱えて。

きよが両手に持っている物を見たせいか、これには炭治郎が慌て始める。

 

「待ってくれっ!? そ、其処までしなきゃならない程のものでもないからっ!!」

 

カナヲが寝ている事も忘れて、炭治郎は大声を上げて抗弁する。しかしなほ達は気にも掛け様ともしない。

 

「炭治郎さん、我慢はお身体に毒ですっ。」

 

「寝たきりで動けない患者さんを相手に私達、慣れてますからっ。」

 

「それとも余計な我慢をして、最後にお漏らしするのが炭治郎さんのご希望ですか?」

 

「うっ……っ。」

 

すみ達の洪水の如き怒涛の正論を前に、炭治郎は反論する糸口を見失う。

そして炭治郎にとって永遠に等しい葛藤の末、白旗を上げて無条件降伏する道を選択した。

 

「分かった……よろしくお願いしますっ。」

 

「「「はいっ!!!」」」

 

そこからきよ達の行動は素早かった。

 

きよがそのまま尿瓶を持って炭治郎の真正面に立ち、なほとすみが炭治郎の両側に立ち、洋袴(ズボン)を脱がせようとする。

 

「「行きますっ!……せーのっ!」」

 

なほとすみが阿吽の呼吸で洋袴(ズボン)を脱がせた。すると洋袴(ズボン)から炭治郎の日輪刀が姿を現した。

 

「「「きゃあっ!!!」」」

 

きよ達は炭治郎の日輪刀を見て驚愕から悲鳴を上げた。その様子を見て炭治郎は空いた手で思わず顔を隠す。

 

「くっそ……やっぱり恥ずかしいなぁ……っ。」

 

「「「…………」」」

 

すみ達は呆然としながら、炭治郎の日輪刀を凝視していた。見兼ねて炭治郎がなほ達に声を掛ける。

 

「あの……もうそろそろお願いして良いかな?」

 

「っ!!……は、はいっ!」

 

「「すみませんでしたっ!!」」

 

炭治郎に声を掛けられて、其処からきよ達の行動は手早かった。

きよは尿瓶を日輪刀に当てて準備をする。すみとなほは日輪刀が尿瓶から外れない様に掴もうとしたが、其処は炭治郎が断固として拒否した。

 

ジョロロロロロ、と発射された尿が尿瓶に当たる音が部屋に響く。炭治郎は早く終われと念じながら、この一時を耐えた。

そしてやっとの事で排尿が終了する。

 

「す、棄てて来ますねーっ。」

 

「あ、私達もそろそろ戻らなきゃ……こ、これで失礼します。」

 

「炭治郎さん、お邪魔しました。」

 

「うん、お疲れ様。ありがとうね。」

 

すみ達は一礼するとそそくさと部屋から退室する。残された炭治郎は溜息を吐いた。

 

「……洋袴(ズボン)、履かせて行って欲しかったなぁ……。」

 

なほ達は慌てた様子で出て行ったため、止める間も無かった炭治郎。

炭治郎は一度カナヲから手を放そうと試みたが、逆に痛みを感じる程に強く握り返して来た。

何度試しても失敗に終わったため、炭治郎は仕方なしに片手で洋袴(ズボン)を履き直す事にした。

 

一方、部屋から退室し、炭治郎の排尿を棄ててから業務に戻る途中のきよ達は沈黙したまま、廊下を歩いていた。

 

「「「…………」」」

 

沈黙していたすみ達だったが、きよが立ち止まるとすみとなほも立ち止まった。そしてきよが開口する。

 

「炭治郎さんのあ、あれ。大きかったね……。」

 

「う、うん。他の患者さん達のと同じものだなんて信じられないよっ。」

 

「凄かったなぁ……。」

 

なほ達が脳裏に炭治郎の日輪刀を想像させると、顔を赤く染める。今度はすみから話し始めた。

 

「あれがしのぶ様やアオイさんの膣内(なか)に入るんだよね? い、痛くないのかな?」

 

「ちゃ、ちゃんと膣内(なか)に入るんじゃないかな? 女の人の膣内(なか)から赤ちゃんが生まれるんだからっ。赤ちゃんの方が大きいだろうし。」

 

「勃起すると更に大きくなるって艶本に書いてあったけど……炭治郎さんのはどれだけ大きくなるんだろう?」

 

なほの疑問に再び、三人の間に沈黙が訪れる。そして何を脳裏に想像したのか、きよ達の顔が林檎の如く赤く染まる。

しかし、直ぐにきよが悲しそうな顔をして話し始めた。

 

「炭治郎さんと一緒に過ごす時のしのぶ様とアオイさん。前より幸せそうに笑う様になったよね……。」

 

「しのぶ様達は美人だし、お身体もとってもお綺麗で、炭治郎さんとお似合いだよね……。」

 

「私達なんて子供じゃ全然……炭治郎さんには見向きもされないよね……。」

 

「「「はあぁぁぁっ。」」」

 

すみ達は一同に溜息を吐くと、業務に戻るべく歩み出した。この時奇しくも同じ事を思っていた。

 

――早く大人になりたいなぁ。

 

そう思いながら歩いていたなほ達。この時、きよもすみもなほも、自身のある部分が湿っていた事に気付く事は無かった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っ。」

 

炭治郎は汗を流しながら、やっとの事で片手で洋袴(ズボン)を履き直す事に成功する。

安堵感と不思議な達成感が、炭治郎に満ち溢れていた。

すると再び(ドア)からコンコンとノックする音が聞こえて来た。炭治郎はノック音に答える。

 

「っ……どうぞっ。」

 

「失礼しますね。炭治郎さん。」

 

部屋に入って来たのはアオイだった。その手にはおにぎりとお茶が乗ったお盆を手にしている。

 

「どうしたんですか? そんなに汗を掻いて……っ?」

 

「……ちょっとした運動だよ。退屈だからねっ。」

 

アオイに汗を掻いている理由を尋ねられて、炭治郎はそう答えた。

ある意味では運動の様なものだったので、炭治郎は普通に答える事が出来た。

 

「そ、それより。アオイさん、そのおにぎりは?」

 

「朝食抜きは炭治郎さんにはきついと思いまして。余ったご飯で作って来たんですよ。」

 

「それは……凄くありがたいよ。ありがとう、アオイさん。」

 

先刻の騒動のせいもあって、蝶屋敷史上でも稀に見るドタバタとした朝に炭治郎は朝食に在り付けないと諦めていた。

炭治郎はアオイの心遣いには平伏して感謝する事しか出来ない。

 

「はい、どうぞ召し上がれ。」

 

「お言葉に甘えて……頂きますっ。」

 

炭治郎は空いた片手でおにぎりを食べ始めた。炭治郎好みの塩加減の効いた塩昆布と梅干のおにぎりで握っていないおにぎりだ。

 

米は強い圧力が加わると時間の経過と共に餅の如く固くなってしまう。

如何に圧力を加えないかが美味しさの鍵だとアオイは炭治郎に教わり、実践すると言葉通り格段に美味しくなった。

 

その時の様子を懐かしく思いながら、炭治郎の食事風景を微笑ましくアオイは見ていた。

 

「ご馳走様でした。ありがとう、アオイさん。」

 

「お粗末様でした。どういたしまして、炭治郎さん。」

 

アオイはお盆を下げて机に置いてから、(ドア)に向かい鍵を掛けた。そして炭治郎の隣にピタッと密着する様に寝台(ベッド)に座る。

炭治郎はアオイの行動を嬉しく思いつつも、モジモジソワソワとした様子のアオイを見て疑問に思った。

するとアオイが炭治郎に話し始める。

 

「その……ですねっ! しのぶ様ばっかり口付け(キス)したり色々するのは、公平性に欠けると私は個人的に思うんですよっ……だから……そのっ。」

 

「……っ!……ぷっ、あはははっ。」

 

「わ、笑わないで下さいよっ! わ、私は真面目に「ごめんねっ、アオイさん。」んんっ!?……っ❤」

 

炭治郎は喋っている途中のアオイに口付け(キス)をした。

アオイは唐突な炭治郎からの口付け(キス)に最初は驚きから戸惑ったが、直ぐに嬉しそうに両眼を細めて口付け(キス)を受け入れる。

更に飢えを満たさんと言わんばかりに、アオイの方から舌を入れて炭治郎の口内を舐め尽くす。

 

「ちゅうううぅぅ❤……好き❤……炭……治郎さぁん❤……しゅき❤……んちゅ❤……好きぃ❤……っ❤」

 

「んんっ……俺も……アオイ……ちゅ……さんが……ちゅぅぅ……好きだっ……っ。」

 

炭治郎もまた、アオイの想いに応えるべく想いを口にしながら舌を絡ませる。アオイは更に快楽を得ようと炭治郎の両頬を掴む様に添えて更に激しく口付け(キス)をして行く。

 

アオイの部屋は水音が叩く音とカナヲの寝息だけが響いて行く。炭治郎もアオイも口付け(キス)して行く内に理性の壁が削れ、目が虚ろになって行く。

 

そうしていると、ガチャガチャと言う音が(ドア)から鳴ったため、慌てて二人は、正確にはアオイが炭治郎から距離を取った。

 

「は、はいっ! 今開けます!!」

 

アオイが(ドア)を開けると、其処にはニコニコと笑いながら青筋を浮かべたしのぶが立っていた。

 

「し、しのぶ様っ。」

 

「開けてくれてありがとう、アオイ。おかげでまた(ドア)を蹴破らずに済んだわ……それから貴女、口元と胸元が涎塗れよっ?」

 

「っ!?」

 

しのぶの指摘を受けて、アオイは咄嗟にバッ! と手で涎で汚れた部分を覆い隠そうとした。そんなアオイを見て、しのぶは「ふんっ。」と鼻を鳴らすと炭治郎とカナヲに近付いて行った。

 

炭治郎はしのぶとアオイのやり取りの間に袖で涎跡を拭き取っていた。しのぶが炭治郎の前に立つと、カナヲについて尋ねた。

 

「炭治郎君、カナヲの様子はどう?」

 

「まだ目を覚ましません。眠ったままです。手を放してくれませんしね。」

 

「そうみたいね、ふふっ。」

 

「はい、はははっ。」

 

炭治郎としのぶは可笑しそうに笑い合う。するとその声を聞いてカナヲに動きがあった。

 

「んっ……んんっ~~。」

 

「「「っ!!」」」

 

カナヲが眠たげな声を上げながら、起き上がってゆっくりと目を開けた。それを炭治郎達は静かに見守る。

 

「…………」

 

「カナヲっ! 大丈夫っ!?」

 

カナヲは黙ったまま、静かに周囲を見渡すと、最後に炭治郎と視線を合わせた。

何も言わないカナヲを心配して、炭治郎が声を掛けた。

 

「……えへへっ❤」

 

「えっ?」

 

「っ!?」

 

「カ、カナヲ?」

 

突然普段しない様な笑い声をしたカナヲに、炭治郎達全員が困惑する。そんな三人を余所に、カナヲが動き出した。

 

「おはようっ❤ たんじろぉ❤❤」

 

そう言ってカナヲは、愛おしそうに炭治郎に口付け(キス)をした。




お待たせして申し訳ありません。

カナヲをぶっ壊してしまいました……(汗)

カナヲ中心による炭カナを書いていた筈なのに、割合的に炭しの>炭アオ>炭カナになってしまった……カナヲが主役の筈だったんだがなぁ……

更新予定ですが後一、二話ぐらい炭カナssが続きます。

強いショックを受けて精神が幼児化(?)してキャラ崩壊を起こしているカナヲが炭治郎はもとい、蝶屋敷の面々を翻弄して振り回します。

今月の更新は厳しいので、来月辺りになると思って気長にお待ち下さい。

予告でこう書いたけどちゃんと書けるかなぁ……(滝汗)

それから深刻な悩みなんですが、炭蜜好きだけどハードル高過ぎて拙作で出せるか心配です。おばみつも応援しているので(書く勇気ないが)。

希望は沢山来ているんですがね。頑張って出したい……ネタ……ネタはないか……。
現状では彼女含め、「若干」ご都合な展開に持ち込むかもしれないです。
ご了承ください。


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第弐拾話 赫蝶は日輪を翻弄する

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「た、炭治郎っ!? 手前(てめぇ)!? 俺や伊之助が必死扱いて鬼を倒してたって時に、お前は可愛い女の子と甘ーい時間を過ごしてたのか!?」

 

炭治郎がカナヲと仲睦まじい様子で登場したのを見て、両眼を血走らせて炭治郎を問い詰めた。

 

「お、おかえり、善逸っ。 いやっ、その!? 俺だって鬼と戦ってたし決してそれだけって訳じゃ……っ。」

 

「それだけって何だよ!? やっぱり可愛い女の子と甘い一時を過ごしてたのかぁ!! きぃぃぃぃえぇぇぇぇぇっ!!! もう許さねえぇぇぇぇぇっぶっ殺してやるぅぅぅぅぅっ!!!」

 

善逸は炭治郎の言質を耳にして、奇声を上げながら発狂した様に激昂する。一方の伊之助もこのやり取りに何か癪に思ったのか、ぷんすか怒っていた。

 

「おい紋逸っ!? 俺様は鬼如きぶっ殺すのに必死扱いてた覚えはねぇぞ!? 余裕綽々だったわっ! 手前(てめぇ)と一緒にすんじゃねぇ!!」

 

「……はぁ~~~っ。」

 

アオイはこの混沌とした状況に対し、怒る気も起きないのか深い溜息を吐いていた。そしてある人物が事態を収拾させるために動いた。

 

「ひっ!?」

 

奇声を上げながら激昂していた善逸が突如悲鳴を上げて押し黙った。周囲にいた者達は直ぐにその理由を察した。

 

「善逸君。私は鬼の頸は斬り落とせませんが、人間(ひと)の首なら斬り落とせるとは思うんですよ? 試した事はありませんし、そんな機会などこの先皆無だと信じたいのですがねっ。」

 

善逸が自身の日輪刀を抜刀して炭治郎に襲い掛かる前に、しのぶが動いていた。しのぶが音も立てずに素早く善逸の隣へ立つと、先に日輪刀を奪ってその首に押し当てたからだ。

 

しのぶは隊律違反スレスレとも言える自身の凶行を見て震え上がる善逸を見ながら、カナヲが目覚めた後の事を思い出していた。

 

カナヲが目を覚まして炭治郎に口付け(キス)したのを目の当たりにして、しのぶとアオイのカナヲへの心配は那由他の彼方へ飛んで行き、激昂してカナヲを炭治郎から引き剥がそうとした。

 

しかしその直後、すみより急患の連絡を受けたため、そちらに手を回さざるを得なくなったのだ。

しのぶとアオイはカナヲを一睨みすると、部屋から退室して治療の準備に向かった。

 

その際にしのぶは「大人しく死んでいれば良いものをっ……っ!」と思わず口にしてしまいそうになったが、心中で抑えた事に自画自賛したい気分だった。

 

運ばれて来た急患の隊士は意識不明の重体であり、両眼を潰された状態で脂汗を流していた。

 

――こいつは助かったところで、悲鳴嶼さんと違ってもうこの先やっていけないかもしれないなぁ……。

 

しのぶは内心でそう思いつつも、アオイと共に懸命に治療を行い、重体の隊士は一命を取り留めた。

 

施術が終了すると、きよが食事の準備が終わりそうだという事を伝えに来た。あの大騒動で朝ご飯を食い損ねたため、珍しく背腹がくっつきそうな程に空腹を感じていた。

 

藤の花の毒を服用し続けて、食欲不振になっていたしのぶの身体は炭治郎と結ばれてから、その毒を消し去るために毎日解毒薬を服用する日々に変わっている。

 

別段何かが劇的に変わった訳では無い。しかし確実に変化が起きている日常を肌で感じて、思わず笑みを零しそうになったしのぶはアオイにきよと共に手伝いに行く様に命じ、自身は炭治郎とカナヲを呼びに行くために動く事にした。

 

アオイはしのぶに「(ドア)は破壊しないで下さると大変助かります。」と忠告してから承諾してきよと共に向かう。

アオイの言葉に苦笑しながら承諾したしのぶは、遠ざかって行くアオイときよの背中を見届けてから、アオイの部屋に向かった。

 

アオイの部屋に向かう途中、カナヲは思い切り炭治郎に甘えているのだろうと思うとしのぶは徐々に苛立ちが募り始めた。

青筋を立てながらしのぶは部屋に到着すると、ノックもせずに(ドア)を開けようとする。

 

しかし、(ドア)には鍵が掛かっており開けて入る事が出来なかった。炭治郎が(ドア)に鍵を掛ける筈が無いので、カナヲの仕業だろうと思うと無性にしのぶは腹立だしく思った。

 

もともと短気なしのぶはアオイの言葉も忘れ、激昂して(ドア)を蹴破り破壊(こわ)してから入室した。すると

室内では相変わらず、いや先刻よりもカナヲが炭治郎にべったりとくっ付いて甘えていた。

 

しのぶはカナヲに飛び掛かりたい衝動を抑えつつ、何時もの笑顔に青筋を立てながら、二人に食事の用意が出来た事を伝えた。そして今に至るのであった。

 

 

 

 

 

 

しのぶは回想を終えると怯える善逸に構わず、笑顔のまま青筋を立てて善逸の首に日輪刀を押し当てながら、最終通告を突き付けた。

 

「善逸君。貴方には二つの選択肢があります。自分から静かになるか、黙らせられるかです。如何しますか?」

 

「黙ります……静かにしますんで許して下さい……。」

 

「好し好し、良い子は好きですよ。」

 

しのぶは善逸が大人しくなった事を確認すると心にも無い事を言いながら、日輪刀を一回ししてから鞘へと納刀した。

 

善逸がへなへなと座り込む光景に目もくれず、しのぶは静かに自身の席へと戻って座り込む。

その様子を固唾を飲んで見守っていたきよ達はほっとして一安心し、一方の炭治郎はカナヲに促されて善逸を無視して仲良く席についていた。

 

皆が静かになるのを見てから一斉に「頂きます。」と両手を合わせて言うと、蝶屋敷の面々と炭治郎達との食事が始まった。

しかし、始まって直ぐにまた別の騒動が起こる事になる。

 

「はい❤ たんじろぉ❤ あーん❤」

 

『っ!?』

 

「カ、カナヲっ!?」

 

「っ?」

 

カナヲが箸でタラの芽の天ぷらを掴むと、炭治郎の口元まで持って行った。このカナヲの大胆な行動に、カナヲと伊之助以外の一同は驚愕する。

 

「カナヲっ!? 炭治郎さんに何をやってるのっ!?」

 

「はしたないからやめなさいっ! カナヲっ!!」

 

「炭治郎っ!! てめぇ……てめっ!!」

 

しのぶとアオイはカナヲに抗議し、善逸は何も悪くない炭治郎に嫉妬していた。

しかし、カナヲは二人の抗議に対して何処吹く風と言わんばかりに無視していた。

肝心の炭治郎も当惑したが、カナヲの笑顔と期待の匂いを裏切る訳には行かなかった。

 

「あ、あーん。」

 

『っ!!……っ。』

 

パクッとタラの芽の天ぷらを口にして、炭治郎はそれを良く噛んで味わい始めた。その様子をカナヲが頬を赤くして満面の笑みで炭治郎を見詰め、伊之助を除いたその場にいる女性陣と善逸は羨望と嫉妬の念を抱きながら二人を睨み付けていた。

 

炭治郎が原型が無くなるまで噛んでからゴックンと飲み込んで胃に流し込むと、カナヲは炭治郎に向かって言った。

 

「どうだったっ? 炭治郎っ?」

 

「お、美味しかったよ。カナヲ。」

 

「っ❤ よかったぁ❤」

 

「……っ。」

 

「……チッ!」

――それは私が炭治郎さんのために作ったのにっ! カナヲは何もしてない癖にっ! あからさまにあんたが作った様な面しないでよっ!!

 

カナヲは炭治郎の反応を喜びを以て受け止めた。

アオイは苛立ちを隠さず、カナヲを睨み付けていた。

しのぶは苛立ちながら、見てられないと無視して食事を始めた。

因みに善逸は顔を俯かせて呪詛の様なものを吐いていた。

 

カナヲは炭治郎の様子を見て、再び天ぷらを箸で掴もうとした。しかし、その前に炭治郎が行動に出る。

 

「カナヲっ。此処からは普通に食べられるから、カナヲは何もしなくて良いよ。」

 

「……炭治郎、遠慮しないでっ? 好きでやってるんだものっ。」

 

「……はっきり言うよ。俺は皆みたいに普通に食べたいんだ。カナヲに食べさせて貰う必要なんてないから。」

 

「っ!」

 

炭治郎は少しきつい口調でカナヲを拒絶する。するとそれを受けてカナヲはカランカラン、と音を立てて箸を右手から落とした。

 

その落ちた箸に見ている内に炭治郎がカナヲから涙と悲しい匂いを感じ取ったので、直ぐにカナヲに視線を戻す。カナヲの右眼には大粒の涙が浮かんでいた。

 

「カナヲっ!?」

 

「あぅ……ううぅ、ヒックッ……ヒクッ……たんじろうは……いやなの?……か、カナヲのことが、きらい……っ?」

 

『っ!?!?』

 

炭治郎に拒絶された事が相当悲しかったのか、大泣きして溢れ出る涙を拭いながら、嗚咽を漏らすカナヲ。カナヲのその様子を見て、しのぶ達一同は思わず驚愕から絶句して固まってしまう。

 

「ごめん……なさいっ……あやまるからぁ……きらいにならないでぇ……っ。」

 

「っ!? 待ってくれっ! カナヲっ!! 俺はカナヲを嫌いになんて、絶対にならないからっ!?」

 

泣きながら炭治郎に謝るカナヲに対し、炭治郎は絶句した状態から慌てて立ち直ってカナヲの誤解を解きに掛かる。炭治郎は優しくカナヲを抱き締めた。

 

「俺がカナヲを嫌いになる訳が無いだろう? 先刻(さっき)のも嫌って訳じゃないんだ。ただちょっとだけ恥ずかしかっただけで……。」

 

「ひっく……ほんと?」

 

「本当だよ。だからカナヲ、安心しておくれ。」

 

炭治郎はカナヲを安心させる様に頭を優しく撫でる。カナヲを撫でている内に、カナヲから安堵と安らいだ匂いを感じ取った。

 

『…………』

 

「えへへ❤……じゃ、じゃぁ……たんじろうは、カナヲのこと、すき?」

 

「っ!……っ。」

 

カナヲからの質問に、思わず黙り込だ炭治郎。しかし、炭治郎は直ぐに笑みを浮かべてその質問に答える。

 

「うん。俺はカナヲの事が大好きだよ。」

 

「っ!!❤❤」

 

炭治郎の愛の告白とも解釈出来る発言に、カナヲはバッ! と離れて炭治郎を見詰めた。そして、大輪の華の如き笑みを浮かべる。

 

「カナヲもたんじろうのことがだーいすきっ❤!」

 

 

 

チュッ❤

 

 

 

「っ!?」

 

『っ!?!?』

 

そう言ってカナヲはゆっくりだが、飛び込む様に炭治郎に向かって抱き着き口付け(キス)をした。

 

これまでしのぶや禰豆子、アオイと何百回と数え切れない程に口付け(キス)の経験がある炭治郎だったが、衆人環視の前での口付け(キス)は未経験なため、今の状況が飲み込めず再び固まってしまう。

 

「んんっ!?」

 

「んっ~~❤ んんっ~~❤❤」

 

「あ……んたねぇ! 好い加減にしなさいよっ!? こんな昼日中から何やってんのよっ!?」

 

アオイは自身の行いを棚に上げて、カナヲを非難する。食器をダンッ! と乱暴において、アオイは立ち上がった。

 

 

 

バキッ!!!

 

 

 

すると突如大きな音が広間に響き渡った。カナヲと炭治郎を除くその場にいる全員が、音源の元へと視線を向けた。

視線を向けた先にはしのぶがおり、右手に持っていた湯呑茶碗を握り潰したせいで鳴った音だと分かった。

 

その証拠として机には残骸と成り果てた湯呑茶碗の破片が大小散らばっており、冷えた麦茶があちこちと机を濡らしていた。

しのぶが怪我をしていない事と、入っていた飲料が温茶でない事が不幸中の幸いであった。もしもそうでなければ、今頃しのぶは火傷をしていたかもしれなかった。

 

「……あらあら、お茶碗が壊れてしまいましたっ。どうやら寿命(ガタ)が来ていた様ですねぇ。」

 

「……その様で。そんな粗悪品を出してしまってすみません。」

 

「良いんですよ、アオイ。気にしないで下さい。長い年月使っていればどんなものでも、何時かは壊れてしまうものです。」

 

「はい、しのぶ様。」

 

「その湯呑茶碗は、この一週間程前に買って来たばかりの物です。」とアオイは口には出さず、心中でのみの発言に留める。

しのぶは知っている筈だがどうでも良いのか、一切気にせず右手を拭いてから食事を再開した。

 

それは味噌汁に残ったご飯を入れて汁かけご飯にすると、しのぶは一気に流し込んだ。しのぶの普段は取らない行動に、善逸達一同は呆気に取られた。

しのぶは汁かけご飯を完食すると、大皿に乗ってあるおかずには殆ど手を付けずに席を立った。

 

「やる事が多いので先に失礼しますね。ご馳走様でした。」

 

しのぶは破裂寸前までに膨張した青筋を立てながら感情が一切籠っていない発言を笑顔のまま口にして、炭治郎とカナヲを横目で睨み付けて「ふんっ。」と鼻を鳴らしてから、足早にその場を立ち去った。

 

『…………』

 

「ああっ……しのぶさん……っ。」

 

「たんじろう、あーん❤」

 

「っ……カナヲっ!」

 

「しのぶ姉さんの事は今は良いでしょう? 早く食べないと冷めちゃうよ?」

 

カナヲがそう言うと再び「あーん❤」と言って今度は椎茸の天ぷらを炭治郎の口元まで持って行く。炭治郎は仕方なくパクっと口を開けて椎茸の天ぷらを口にした。

 

その後カナヲは炭治郎が自分で食べていると錯覚する程に、頃合い(タイミング)を合わせて炭治郎にご飯やおかずを差し出し、また炭治郎が食べている間にカナヲも食事を進めていた。

 

この時カナヲは、炭次郎が何を求めているのかを視線で察して炭治郎に食べさせると言う、非常に無駄で高度な神業をやってのけていた。

カナヲの人間離れした超人的な視力だからこそ、実践可能な神業である。

 

それを見てたアオイ達はもう突っ込むのをやめて、黙々と食事を続けていた。アオイは青筋を立てながら、バクバクと乱暴に食事を終わらせると、直ぐに立ち去った。

善逸も突っ込むのを止めて、カナヲの様子を観察していた。

 

――しっかし、カナヲちゃんに何があったんだろう? しのぶさんもアオイちゃんもずっと怒っている音が鳴ってるし……でもカナヲちゃんから鳴ってるこの音は……。

 

善逸は首を傾げながら、食事を続けた。炭治郎を羨望から睨み付けながら。

 

 

 

 

 

 

東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月十三日(木)

時間帯:朝

天気:曇り

 

 

朝昼兼用食が終わり、全員で食器の片付けを終えた頃にある男性が蝶屋敷を訪問していた。

炭治郎の腕に抱き着く様に組んで幸せそうにしているカナヲを見て当惑を隠せないのは鬼殺隊の隠密部隊・『(カクシ)』の隊員である後藤隊士だ。炭治郎は後藤隊士に挨拶をする。

 

「こんにちはっ! 後藤さんっ! お疲れ様ですっ!」

 

「お、おう。お疲れ様……にしてもその……カナヲ様っ、どうしたんだっ?」

 

「カナヲは……あ~すみません、聞かないで下さい。」

 

カナヲの変貌振りに困惑しつつ、その事を炭治郎に後藤隊士は尋ねた。

しかし、説明するのも難しいので炭治郎は口を濁す。そして話題を逸らそうと、逆に炭治郎が後藤隊士に質問をした。

 

「後藤さんこそ、しのぶさんにご用ですか?」

 

「おう、胡蝶様の御依頼で薬の運搬に来たんだよ。丁度運搬し終わったところだから、胡蝶様に御報告をするところだ。車で今日は来てるから、多めに運べたわ。荷車で運ぶより量は少ないけどなっ。」

 

「車っ!? 車で来てるのっ!?」

 

「「っ!?」」

 

炭治郎の腕に抱き着いていたカナヲが、車と言う単語に強く反応して大声を上げる。炭治郎達はカナヲの反応に驚かざるを得ない。

 

「カナヲっ?」

 

「ねぇ後藤さんっ! 車で何処まで行く積もりなの!?」

 

「お、おう。今から銀座まで走る予定だけど……っ。」

 

後藤隊士は思わず敬語も使うのも忘れて、タメ口でカナヲと対話する。しかしカナヲはそんな些細な事など気にも掛けず、興奮してながら要望を口にした。

 

「わたしと炭治郎を車に乗せてって!!」

 

「「……はぁっ!?」」

 

後藤隊士と炭治郎は声を揃えて聞き返した。当然だ。希少な車は産屋敷家と言えど十台と所有していない。使用方法は専ら物流か要人の運搬に使用する。

それを一隊士の私用如きのために車を使用するなど、以ての外である。

 

「出来る訳ねぇだろっ!? いきなり何言ってんだおめぇ!?」

 

「ケチ臭い事言わないでよっ! 次いでじゃんっ! 別に良いでしょう!?」

 

「別にケチ臭くねぇしそもそも良かねぇ!? そんな事したら俺が大目玉を喰らうわっ!?」

 

「カ、カナヲっ! あんまり後藤さんを困らせたら駄目だよっ!」

 

後藤隊士とカナヲの口論が激化して行く中、炭次郎は必死でカナヲを落ち着かせる事を試みるが、カナヲを止める事が出来ない。

 

「なんですかっ? 騒々しいですよっ?」

 

「っ!……しのぶさんっ!!」

 

すると口論を聞いて駆け付けたのはしのぶとアオイだった。炭治郎は救世主を見る様な視線を二人に送る。

炭治郎はしのぶ達に状況を詳しく説明する。説明を受けたしのぶは一歩前に進み、カナヲ達の間に立つ。

 

「後藤さん。すみませんが、カナヲの要望を聞いて貰えませんか? 責任は私が全て取りますからっ。」

 

「ええっ……しかし……まぁ胡蝶様が其処まで言うなら……。」

 

しのぶの説得に、後藤隊士は困りつつも了承する。後藤隊士の了承を受けて、カナヲは両眼を輝かせた。

 

「ほんとっ!?」

 

「お、おう、男に二言はねぇよ。胡蝶様にちゃんと礼を言うんだぞっ。」

 

「うんっ!! 後藤さんっ! しのぶ姉さんっ! ありがとうっ!!」

 

『っ!』

 

カナヲが大輪の華の満面の笑みでしのぶ達に礼を言うと、カナヲ以外のその場にいる一同は、一瞬固まる。しかし、カナヲは気にせず抱き着いていた炭治郎の右腕から離れると、炭治郎の前に移動する。

 

炭治郎が無限列車の任務に赴く前に、カナヲの両手を握った時と同様にカナヲが炭治郎の両手を掴んで、固く握り締める。

 

「カナヲっ?」

 

「炭治郎っ! ちょっと着替えてからお金取って来るからっ! 炭治郎は後藤さんと待っててっ!!」

 

カナヲはそう言って炭治郎の両手から手を離すと、自室へ向かって一目散に駆け出した。

 

「しのぶ姉さんっ! お化粧道具借りるね―――っ!」

 

カナヲは振り返りもせず、そう叫びながら駆け出して行った。しのぶ達は呆気に取られながら、駆け出して行くカナヲを見送った。

 

『…………』

 

「……ぷっ……あははははははっ!!」

 

沈黙を打ち破る様に笑い声が廊下に響く。炭治郎達の視線がしのぶに注目した。しのぶは眼尻を拭きながら話し始めた。

 

「あれ程、元気なカナヲが見れるなんて……()()()()があった後だけれど、良い傾向なのかもしれませんねっ……アオイ。すみませんが、カナヲを見て来てくれませんか? 着替えとかお化粧とか、困っていたら手伝って上げてっ。」

 

「は、はいっ! 分かりました。」

 

アオイはしのぶに言われた事を承諾すると、カナヲの後を追い掛けて行った。

 

「あ、あの……胡蝶様、あの子に一体何があったんですか? それにお二人のお怪我は一体……っ。」

 

「それは聞かないで下さい。私の口から言いたくありません。」

 

「うっ……っ!」

 

後藤隊士の質問に対し、突如目に見えない透明な壁が出現したが如き威圧感のある笑顔でしのぶは答えた。身を竦ませる後藤隊士を無視して、しのぶは炭治郎に話し掛けた。

 

「炭治郎君。先程、御館様から鎹烏が来ましてね。炭治郎君はカナヲの面倒を見る様に、私は()()()()()()の件に関して説明をする様に命令が来ました。」

 

「っ!」

 

「まぁ患者の診察等の業務が終わってからで良いと言われたので、そのご考慮は大変ありがたいですがね……何と言って説明したら良いか正直かなり頭が痛いですっ。」

 

しのぶは溜め息を吐いて困り果てた様子を見せた。炭治郎も困りつつしのぶに断言する。

 

「もしもの時は、俺が全責任を取りますっ! はっきり言ってしまえば、俺のせいみたいなものですしっ。」

 

「いいえ、勝手に暴走したカナヲ(あの子)が悪いんです。炭治郎君は悪くありません……と言う訳で、カナヲの面倒、お願いしますね?」

 

「はいっ!」

 

しのぶは炭治郎の返事を聞くと、その場を去って行った。後藤隊士は炭治郎と共にしのぶを見送ると、炭治郎に質問した。

 

「な、なぁ? 今朝の出来事とか、一体何があったんだよ?」

 

「すみません、()()()については俺も言いたくないんです。本当にすみません。」

 

炭治郎は床に頭を付ける勢いで後藤隊士に謝罪すると、後藤隊士もそれ以上強く聞こうとしなかった。炭治郎は蝶屋敷に預けていた給料を引き出すと、蝶屋敷の門前まで後藤隊士と共にカナヲを待ち始めた。

それから駆け付けて来たカナヲと合流すると、炭治郎と後藤隊士は車に乗り込んだ。

 

「いってらっしゃい。炭治郎君、カナヲ。楽しんで来てね。」

 

「はいっ!」

 

「行ってきますっ! しのぶ姉さんっ!」

 

しのぶとアオイの二人に見送られて炭治郎達は出発した。

 

 

 

 

 

 

「……はぁっ。」

 

しのぶは炭治郎達を見送った後、部屋で一人溜息を吐いていた。その表情は憂鬱な雰囲気が見て取れた。

 

「私が炭治郎君とお出掛けしたかったなぁ……はぁ。」

 

そう言って再び、しのぶは重い溜息を吐いた。そう、しのぶは炭治郎と逢引(デート)に出かけたカナヲが心底羨ましかったのだ。

心身共に炭治郎と結ばれたしのぶであったが、逆に言えばまだそれだけしかしていない。恋人らしい事など、情交(セックス)以外にまだ一つとして実行出来ていないのだ。

 

約二週間前に、”朝田家”で過ごした時間を逢引(デート)と言っても差し支えは無いとも言えるが、その当時は両思いではなく両片思いだったので数には数えていない。

 

それ以前にしのぶはまず業務を終えてから、早朝の乱闘騒ぎについて耀哉に説明するために、急ぎ出頭しなければならない。その事実が何よりもしのぶを憂鬱とさせる原因となっていた。

 

「御館様に何とご説明すれば良いでしょうかね……。」

 

そう言って自身の部屋を見渡す。其処には蹴り壊された(ドア)と真っ二つになった寝台(ベッド)、砕け散った窓が見えた。あの時を思い出して、しのぶは青筋を浮かべる。

 

「大体、カナヲが悪いのよっ……勝手に怒って、勝手に暴れて、挙句の果てには泣き落としで炭治郎君を独占(ひとりじめ)するなんて……炭治郎君も炭治郎君だわっ!!」

 

――どうして、炭治郎君の下には良い女が集まるのかしらっ!?

 

バァン! と苛立ちから感情的に椅子を蹴り飛ばしたしのぶは嫉妬心を隠せない。そのまま親指の爪を噛んで顔を悔しそうに滲ませる。しかし、直ぐに親指の爪から口元を離して溜め息を吐いた。

 

「自分で言うのも何だけど、私って嫉妬深くて重い女よね……。」

 

竈門炭治郎(最愛の恋人)独占(ひとりじめ)したい癖に、その一方で聖人面して己の幸せをアオイやカナヲにも分け与え様としている。この前など、炭治郎が珠世の説明をしただけで、嫉妬に狂って拗ねてしまった程だ。

 

――あ、あれは炭治郎君が悪いのよっ!! 鬼の女なんかをあんなに嬉しそうに語って……つまりは相当な美人って事よね……警戒しておかないと……っ。

 

珠世に対して別の意味で警戒心を抱き始めたしのぶは、一旦その事を思考から切り離すと再び今後について考え始めた。

 

「とりあえず、新しいのを手配しますか……その間は炭治郎君と同じ部屋で過ごさせて貰いましょう。元竈門兄妹部屋の改修も暫くすれば終わると報告を聞いてるし、それだけが楽しみだわっ。」

 

しのぶはそう言うと、漸く本当の意味での嬉しそうな笑顔を浮かべた。しかし、その笑顔も間も無く跡形も無く消え去る事になる。

 

 

 

みゃおぅ

 

 

 

「へっ?」

 

しのぶは間抜けな声を上げて、錆びた人形の如く身体を動かし鳴き声の鳴った方向を見る。

其処には革製の背嚢を背負った三毛猫の茶々丸が窓際に座って姿を現していた。

 

「ひっ!?」

 

しのぶは悲鳴を上げて尻餅を着いた。蝶屋敷の面々や患者には絶対に見せられない光景だったが、そうは言っていられなかった。

幼少期に姉のカナエに救われるまで、野良犬に追い掛け回された恐怖からの精神的外傷(トラウマ)により、生来の動物嫌いになってしまったしのぶ。

 

"最終選別"では自身に充てられた鎹烏にすら恐怖して逃げ回った程だ。慣れるのにも時間が掛かった。あの時の事は今でも思い出すだけで顔から火が出そうになる。

尤も、それを目撃した同期は全員殉職しているのが自身にとって不幸中の幸いとも言えるが。

 

「な、何かご用ですか……っ?」

 

「(コクッ)」

 

茶々丸は首を縦に振ってから、窓際から降りてしのぶの部屋に入る。しかし茶々丸はしのぶに背中の背嚢を見せるだけで、これ以上しのぶに自分から近付く様な真似はしない。

しのぶは如何にか冷静さを取り戻す事に成功したが、未だ茶々丸に近付く事が出来ない。精神的外傷(トラウマ)と言うものを払拭するのは簡単ではないのだ。

 

しかし、事情を知らぬ者を呼んで取りに行かせる訳には行かない。そんなことをすれば事情を説明しなければならなくなる。鬼が関わっている以上、吉凶どちらに転ぶか分からない博打(ギャンブル)は出来ない。

 

炭治郎は丁度カナヲと外出中、禰豆子は絶賛爆睡中であるため自身しか対応出来ない。しのぶは時期(タイミング)を悪さを呪うしか出来なかった。

 

しのぶは幾度も深呼吸を繰り返してから、尻餅状態から四つん這いの状態になって茶々丸に語り掛ける。

 

「あ、あのねっ? 決して、お前の事が嫌いって訳じゃないのよっ? ただ昔から動物が苦手ってだけで……う、動かないでね。いきなり動いたら私、泣いちゃうからね? 良いわねっ?」

 

しのぶはそう話し掛けながら、四つん這いの状態のまま茶々丸に接近を試みる。同時に誰も来るなと祈りながら。もしこの様子を他の誰かに見られようものなら、突発的に自分は自害しかねないとしのぶは思った。

 

一歩ずつ、ゆっくりと確実にしのぶは茶々丸に近付いて行く。近付くに連れて震えが大きくなり、亀よりも歩みが遅くなって行くが漸くしのぶは背嚢に手が届くまで茶々丸への接近に成功する。

 

「い、良いっ? 開けるわよっ?」

 

しのぶは震えが増す手を何とか抑えながら背嚢を開ける。すると背嚢の中には一通の手紙が入って居た。しのぶは手紙を掴むと、先刻と違って脱兎の如き速さで茶々丸から離れた。

茶々丸から一定の距離を確保すると、しのぶは手紙を開封して読み始めた。

 

 

拝啓

 

炭治郎さんと胡蝶しのぶさんへ

 

この前の禰豆子さんの血の提供ありがとうございます。

 

血を確認したところ、一週間も経たずに驚く程の変化が起こっていました。

 

この血を使って血清を作り浅草の男性に投薬したところ、自我を取り戻すとまでは行かずとも、食人本能を抑制し沈静化する事に成功しました。奥方もこの事実に落涙する程、喜ばれていました。

 

こちら側の最大の懸念事項が解決しましたので、そちらの好きな時期に合わせて合流する事が可能になりました。

 

そちらの蝶屋敷にお邪魔する前に、まずはこちらの道具や研究資料を運送したいと思っています。

 

人手の方はこちらで金で雇って運び込ませますのでその許可を頂けないでしょうか?

 

また、私達も蝶屋敷から一番近い拠点に今は滞在していますので、ご連絡頂ければ遅くとも半日で連絡が取れる筈です。

 

最後に、僅かな期間の間に禰豆子さんの変化に気付き、血を提供して下さった事に感嘆と感謝の念に堪えません。

 

是非、お会い出来た暁には気付く事が出来たその理由などを聞けたら幸いに思います。

 

ご連絡お待ちしております。

 

珠世より

 

 

「……成程ね。好ましい状況だわっ。」

 

そう呟いたしのぶは、珠世への返信の手紙を(したた)めるために道具を一式揃えると、蹴り飛ばした椅子を元に戻し、机に紙を広げて手紙を書き始めた。

 

 

拝啓

 

珠世さんへ

 

浅草の男性の方の沈静化、誠におめでとうございます。

 

ご懸念の解消に成功されてそちらのお役に立てたこと、合流出来ることを私も大変嬉しく思います。

 

何より私達の御館様たる産屋敷耀哉様も、珠世さんと協力関係を結ぶ事を大変望まれておりました。

 

この吉報が御館様のお耳に入れば大変お喜びに成られるでしょう。

 

それから研究資料等の運搬に関してはこちらから人手を送ります。

 

人手は禰豆子さんに好感を抱いて居る者達ばかりを選抜致しますのでご安心下さい。

 

禰豆子さんの血の変化の件に関しては、文書では説明しきれないのでお会い出来た暁に説明したいと思います。

 

最後にお会い出来る日を炭治郎君共々楽しみにしております。

 

鬼殺隊・蟲柱 胡蝶しのぶより

 

 

「……ふぅ。こんなものかしらねっ……っ?」

 

しのぶはそう言って手紙を乾かせると、丁寧に折り畳んだ。するとしのぶは、溜め息を吐いて困った様子でこめかみを抑えた。

 

――禰豆子さんの件、どうやって……何と言って珠世さんに説明しよう……っ。

 

まさか近親相姦による精液摂取から齎された変化だと包み隠さず言う訳には行かず、しのぶは禰豆子の変化の説明に関して新たに頭を抱える事になった。

 

「……今考えても仕方が無いわ。先ずは御館様の件を片付けないとっ。」

 

一先ずこの一件は保留にして、耀哉への手土産が出来たとしのぶは喜ぶ。

折り畳んだ手紙を持つと、茶々丸が背中の背嚢をしのぶに向けた。しのぶは反射的にビクッ! と身を震わせた。

 

「……フ――ッ、フ――ッ、フ――ッ。」

 

しのぶは必死で深呼吸を繰り返した。長い深呼吸が終わると、ゆっくりとしのぶは茶々丸に近付いて行った。

 

「こ、これを珠世さんまでお願いっ……っ!」

 

「(コク)……みゃおぅ。」

 

勇気を振り絞って茶々丸に渡すと、茶々丸は一度鳴いて姿を消してからしのぶの部屋から立ち去った。

しのぶは茶々丸が立ち去ると、安堵の溜息を吐いてから産屋敷邸へ向けて出発した。

 

 

 

 

 

 

東京府・銀座

 

大正二年(一九一三年) 三月十三日(木)

時間帯:朝

天気:曇り

 

 

一台の黒塗りの車が悠々と走っていた。車はT型フォードと言う車種である。米国アメリカの大手自動車製造会社“フォード・モーター社”の代表する車種だ。

 

明治四十一年(一九〇八年)に発売が開始され、庶民の手にも届く低価格車両として、「世界の大衆車」として代表される事になる名車である。

 

それでもその希少性から、日本ではとても庶民は手を出せる価格ではなかった。実業家と言った大商人か華族しか所有しておらず、この当時の日本では保有台数は全国でも六十一台前後しか無かった。

その六十一台の内の十台と言う、全体の六分の一の保有率を誇る産屋敷家は、流石としか言えないだろう。

 

そんな希少な車が都市に入ると、嫌でも野次馬から注目が集まる。好奇の視線が降り注ぐ中、車の(ドア)が開く。

 

一人は市松模様の羽織が特徴の少年、竈門炭治郎だ。彼は車から降りると反対側の(ドア)まで走る。

 

「どうぞ、カナヲっ。」

 

「ありがとうっ❤ 炭治郎っ❤」

 

(ドア)から降りたのは桃色を基調とした、全体に梅と牡丹の花模様が描かれている気品のある着物を着たカナヲだった。カナヲの手には赤色のお洒落な鞄を手に持っている。

 

『おおっ……っ!』

 

「……っ!」

 

左眼に眼帯を付けているが、化粧で更にその美貌が際立ったカナヲに野次馬は一瞬息を呑む。炭治郎も例外では無かった。

蝶屋敷でその姿を初見で見た時は、後藤隊士に肩を突かれるまで固まっていたくらいだ。そんな姿をしのぶとアオイに睨まれていたのも炭治郎は気付かなかった。

そうしていると、運転席に座っている後藤隊士が炭治郎とカナヲに声を掛ける。

 

「なぁ、本当に目当ての店の前まで行かなくて良いのか? 直ぐ其処だぞ?」

 

「良いのっ! 炭治郎と一緒に銀座を歩きたいからっ!!」

 

「そ、そうか。俺は補給とか済ませて待ってるから、ちゃんと指定場所に来るようになっ? 言われた店の土産買って待ってるからさ。んじゃ楽しんで来いよ~。」

 

「はーいっ! 後藤さんっ! ありがとうっ!!」

 

「後藤さん、ありがとうございましたっ!!」

 

後藤隊士はそのまま、車を走らせて去って行った。炭治郎達は去って行く車に頭を下げて見送る。

姿が見えなくなった後、カナヲは炭治郎の腕に抱き着く。カナヲの大胆な行動に、野次馬は(どよめ)いた。

 

「カナヲっ……っ!」

 

「炭治郎、まず案内したいところがあるのっ! 行こ行こっ!!❤」

 

「そ、そんなに引っ張らなくても逃げないからっ!?」

 

炭治郎はカナヲに引っ張られる形で、後ろを気にしながらカナヲに先導されて銀座の街並みを歩き始めた。

 

『…………』

 

炭治郎とカナヲの歩き去って行く背中を、黙ったまま見送る野次馬。その沈黙は二人の背中が小さくなるまで続き、一人の野次馬が沈黙を破る様に口を開くと、次々と野次馬が口を開き始めた。

 

「あ、あの女の子は何処の家のお嬢様なんだ?」

 

「きっと名のある家のご令嬢に違いないっ!」

 

「あの男の子はお嬢さんの許嫁かしらっ?」

 

「…………」

 

暫く大通りは騒然となる。少しばかり時間が経つとそれも収まるのだが、暫く間炭治郎とカナヲは銀座で噂される事になる。




あとがき

お待たせ致しました。待たせた挙句何時もより短いですが、ご了承頂けますと幸いです。

目の符が太陽の下では使えないと最近本誌で出て来たけれど、矛盾を感じるのが不満ですね。日中はずっと鬼みたいに日陰に隠れてたの? って質問したいくらいです。
義勇が十九歳で柱になったと言う設定だったのにカナエの生前中には既に柱だったり、
カナエさんの享年が十七歳なのも、
しのぶさんが童磨の初見殺しが避けられなかったのも、
鬼殺隊が上弦の情報が一切持ってなかったのも、
色々と不満です。同時にワニ先生でも設定に綻びが出るんだと思うと親近感が湧きます。

最後に、タイトルを「優しき日輪と蝶屋敷の三美蝶」から「優しき日輪と鬼殺隊の美蝶」に変更します。
次回の更新は四月中に何とかします。
引き続きカナヲに振り回される炭治郎をお楽しみ下さい。


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第弐拾壱話 赫蝶は日輪との逢引を楽しむ

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


カナヲに連れられて、炭治郎が到着したのは大きな店舗であった。炭治郎は店前に立つと、茫然としながら店名を口にした。

 

「し、"白滝"……?」

 

「うんっ! "白滝屋"って言うんだって! 炭治郎っ! お店の中に入ろっ!」

 

「で、でもこんな大きなお店……って、カナヲっ!」

 

「早く早くぅ!❤」

 

炭治郎は先に"白滝屋"の店内に入ろうとするカナヲを思わず制止しようとしたが、カナヲは店から翻して及び腰の炭治郎の腕を引っ張って暖簾を共に潜り、店内に入って行った。

 

「いらっしゃいませっ!」

 

元気そうに清楚な着物を着た女性店員が、炭治郎とカナヲに声を掛ける。だが炭治郎の恰好を見て、一瞬固まった。すると、女性店員は慌てた様子で二人に声を掛けた。

 

「お、お客様っ! 少々お待ち下さいませっ!?」

 

女性店員はそう言うと、炭治郎とカナヲに一礼してから、慌てた様子で店の奥へと走って行った。

 

「カ、カナヲっ。やっぱり俺達が入ったら行けなかったんじゃ……っ。」

 

「あの人から拒絶とか、そんな匂いがしたのっ? 炭治郎っ?」

 

「……ううん、そんな感じの匂いはしなかったよっ。」

 

炭治郎は女性店員の反応を見て少々慌てたが、カナヲの指摘で冷静さを取り戻した。二人で大人しく待つと、初老の男女と店員と思われる人々が一斉に集まって整列した。

 

「いらっしゃいませ。ようこそお越し下さいました、()()()様。」

 

「っ!」

 

そう言って全員で炭次郎とカナヲに一礼した。老齢の男性の"鬼狩り"の単語を耳にして、炭治郎が大きく反応する。するとカナヲが炭治郎に指摘する。

 

「炭治郎っ。表に藤の花の家紋も横に有ったんだけど、気付かなかった?」

 

「う、うん。全然気付かなかったよ。お店に圧倒されてたから……っ。」

 

「ふふっ❤ 炭治郎ってば慌てん坊さんだねっ❤」

 

カナヲはそう言って楽しそうに笑うと、前に出て"白滝屋"の一番偉い人物と思われる立派な着物を着た初老の男性に近付いて行った。

 

「炭治郎に……あの人に着物を見繕って欲しいの……三着……いや五着くらいっ。」

 

「畏まりました……幹也っ! それからお前たちも早速準備をっ。」

 

「はい、大旦那様っ。ささっ。鬼狩り様。どうぞこちらへっ!」

 

「え、えっとっ……そのっ!」

 

「"白滝屋"の二代目を務めております。白滝幹也と申します。恐縮ですが、お着物を見繕わせて頂きます。」

 

「え、えぇ~~っ!!」

 

炭治郎はあっという間も無く幹也と店員達に連れられて行った。それをカナヲと初老の女性、大旦那と呼ばれた男性が見送った。

 

 

 

 

 

 

「鬼狩り様、大変お似合いでございます。」

 

大旦那様と先刻、二代目店主の幹也に呼ばれた初老の男性が炭治郎の着物姿を褒める。カナヲもうんうん、と同意する様に頷いていた。

 

「あ、ありがとうございます。えっと……。」

 

「初代目の富之丞にございます。既に隠居した身ですが、青臭い婿殿の尻拭いをしておる者です。」

 

炭治郎が口籠るのを察して、自己紹介する富之丞。富之丞の言葉を聞いて、幹也は困った様に頭を掻いて誤魔化した。しかし、炭治郎はそれどころではない。

 

「あ、あのっ! こんな立派なお着物を俺が着ても良いんですかっ!?」

 

「勿論でございます、鬼狩り様。どうかご遠慮なさらず」

 

炭治郎は黒と紅色の市松模様の着物を着せられていた。良質な生地で作られている着物を着て、炭治郎は酷く緊張していたからだ。

 

カナヲはそんな炭治郎を気にせず、富之丞に話し掛ける。

 

「この着物は着て帰るから……着ていた隊服共々残りの着物を包んでくれる?」

 

「畏まりました。」

 

「ありがとう、代金は合計で幾らっ?」

 

カナヲは富之丞に礼を言うと、支払いをすべく代金の総額を尋ねた。それを聞いて富之丞は慌て始める。

 

「とんでもないっ! 鬼狩り様からお金を頂くなど……っ。」

 

「今回は私用で来てるからそう言うのは関係ないのっ。ちゃんとお金は払わないと……ねっ?」

 

カナヲが有無を言わさない態度で富之丞にそう言うと、折れた様子で富之丞は了承する。

 

「……畏まりました。ではこれだけ頂きたいと思います。」

 

そう言って総額をカナヲと炭治郎に伝える。すると炭治郎は金額に驚愕し、カナヲは怪訝そうに富之丞を見た。

 

「そ、そんな高い物を買って貰う訳には……っ!」

 

「……ねぇ? その金額で合ってる? 思ってたより安い……。」

 

「正直に申しますと、全額の三割程値引きさせて頂いております。こちらの気持ちとお考え下さい。」

 

富之丞はそう言って頭を下げると、カナヲは富之丞に承諾した。

 

「分かったっ……じゃあお金を……。」

 

「ちょっと待ってくれっ! カナヲっ!!」

 

支払いを済ませようとするカナヲに対し、炭治郎は阻止しようとする。炭治郎は故郷での質素倹約を重んじる生活から、高額な品物に対して畏れの様なものを抱いていた。

そのため、今回のカナヲの買い物に対して遠慮しようとしていたのである。しかし、カナヲは炭治郎のその気持ちを汲み取った上で炭治郎を黙らせる。

 

「炭治郎っ、遠慮しないで? わたしの方がまだ炭治郎よりお給金は高いし、この前の任務で賞与も届くだろうから……大好きな人に贈り物がしたいの、良いでしょう?」

 

「っ……分かった……その、ありがとうっ。」

 

「うんっ❤!」

 

鬼殺隊において隊士は基本給に加え、討伐成功時に賞与が与えられる。この賞与は討伐した鬼の強さや数で金額が変わって来る。

カナヲは下弦級の鬼を二体も討伐しているので、それだけ支払われる予定の賞与は高いと予想出来た。

 

カナヲの気持ちを無下に出来なかった炭治郎は、申し訳なさそうに承諾してカナヲに感謝する。そんな炭治郎の様子にカナヲは満足そうに返答した。

 

 

 

 

 

 

"白滝屋"での買い物を済ませると、富之丞達に一同総出で見送られながら炭治郎とカナヲが出て来た。炭治郎は隊服ではなく、黒と紅色の市松模様の着物を着ている。

 

その手にはカナヲが炭治郎のために購入した着物が入った風呂敷包みを持っていた。その中身は隊服と着物一枚一枚を個別に包装してある徹底振りであった。

 

"白滝屋"を出て少しすると、炭治郎がカナヲに話し掛けた。

 

「カナヲ、ありがとう。こんな良い物を買って貰って……っ。」

 

「良いの。炭治郎ってば普段は隊服か蝶屋敷の患者さん用の服しか着てないじゃない? だから私服を買ってあげたかったの。」

 

「ううん……確かに服装なんて気にもしてなかったなぁ……カナヲ、俺もカナヲにお礼がしたいんだけど、何かして欲しい事は無いかな?」

 

「ううん、そんなのないよ。そもそも、ね……。」

 

カナヲは其処で一旦、閉口すると炭治郎と肩をくっつけたまま歩き続ける。

 

「こうして、炭治郎と二人っきりでいるだけでわたしは幸せだからっ❤」

 

「……っ。」

 

カナヲの言葉に、炭治郎は嬉しさから言葉が出ない。

だが尻目で後方を見ると、炭治郎は顔を引き締め直してからカナヲを見た。

 

「カナヲ。君さえ良ければもうちょっと歩かないか?」

 

「っ?……うんっ! 良いよっ!!」

 

炭治郎が差し出した左手を、カナヲは嬉しそうに掴むと手を繋ぎながら歩き続けた。

 

そうして少し経つと、炭治郎は大通りから方向転換をする。路地裏を見つけて其処へ向かって歩き出した。

 

明治五年(一八七二年)の大火で銀座は焼け野原となり、その凶事を吉事に変えるべく当時の明治政府が巨額の予算を投じて、西洋風の煉瓦街へと銀座を変貌させたのだった。

 

その金額はその時の国家予算の二十七分の一に相当する大金だったと言う。

要所とは言え、たかだか廃墟寸前の街一つにこれだけの予算を集中して使う辺り、当時の明治政府がどれ程銀座の将来性に本気で賭けたかが伺い知れると言うものだ。

 

そしてその大博打は見事に的中し、日本最先端の街の一つとして国内外でその名を轟かせるに至っている。

しかし、どれ程の予算を投じようと街作りはその過程で光陰がはっきりと別れる。

 

銀座も例外ではなく、やはり一部は人目の着かない薄暗い路地裏が出来るものだ。

 

炭治郎が何故、その様な場所を選んで歩き始めたのかと言うと、それにはきちんと理由がある。

カナヲは最初こそ疑問に思ったが、背後からの視線を感じて炭治郎の行動理由を察した。

 

 

 

 

 

 

「ちょっとちょっと。真昼間とは言え、こんなところを歩いていたら危ないよっ?」

 

炭治郎とカナヲは背後から掛けられた声を聞いて、足を止めて振り向いた。其処には二十代前半と思われる三人組の男性が立っていた。

ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる彼らに対し、炭治郎は三人組の男性から漂う悪意の匂いに顔を顰めた。

しかし、直ぐにある匂いを感じて少し目を見開いて、笑みを浮かべてから男性に答える。

 

「そうですか、すみません。教えて下さりありがとうございます。」

 

炭治郎はそう言って頭を下げてから大通りに戻ろうとしたが、三人の男性が炭治郎とカナヲを遮った。

 

「なぁ、お嬢ちゃん? 銀座歩くんだったら俺達と一緒に行かない? お茶くらい奢るからさ?」

 

「そっちのお上りさんのボクと歩くよりよっぽど楽しいぜっ?」

 

「ああ、そんな冴えない坊やと一緒に居ないで僕達と銀座を過ごそうじゃないか?」

 

三人組の男性は炭治郎などまるで存在しない様に扱いながらカナヲにだけ声を掛け続ける。しかし、最後の一言がカナヲの怒りに大火を灯した。

しかし、カナヲはその怒りを表情には出さず、氷の如き笑みを浮かべたまま炭治郎に小声で話し掛ける。

 

「炭治郎、ちょっと待ってて? すぐ終わるから❤」

 

「あっ!? カナヲっ!?」

 

炭治郎は大声でカナヲを呼んだ、しかし、その頃にはカナヲは鞄を炭治郎に預けて三人組の男性の下へ楽しそうに歩いて行っていた。

自分達の方向へ歩いて来るカナヲを見て、下心満載の笑みを浮かべる三人組の男性。

 

「へぇ?……カナヲちゃんって言うんだっ?」

 

「良い名前だなっ、さっ……俺達と一緒に行こうか? カナヲちゃん?」

 

「ああっ、ボク? カナヲちゃんは此処からは僕達と過ごすからさ?……一人で帰ってくれよな?」

 

最後の男性がそう言うとカナヲの肩に手を置こうとする。するとカナヲが逆にその手を掴んだ。

そしてもう片方の手を男性の肩において思い切り力を籠める。

 

「おにーさん、おにーさん♪」

 

「へっ?」

 

「えいっ❤」

 

男性が間抜けな声を出し、カナヲが可愛らしい掛け声を上げた瞬間、男性の右肩からポキッ! と音が鳴った。そして男性の右腕はだらんと下がる。

 

「ぎゃああああああああああっ!!!???」

 

「は?」

 

「幸次っ!?」

 

次の瞬間、惚けていた男性は肩に激痛を感じて叫声を上げた。幸次と呼ばれた男性は痛みのあまり、両膝を地面に着いて右肩を左手で抑えた。

その叫声を聞いて、残りの二人のうち一人は状況を飲み込めず惚けた様子で間抜けな声を出し、一人は名前を呼んで心配した。その男性は惚けた様子の仲間をより状況を理解してカナヲに怒声を浴びせた。

 

「おいっ!? 幸次に何をしやが「うっさいっ!!」……た……がっ!?」

 

カナヲは激昂した様子で男性の鳩尾を思い切り殴ると、幸次と同様に右肩を外して脱臼させた。

残った一人は仲間の二人を置いて逃げ出そうとしたが、直ぐにカナヲに掴まり右肩を脱臼させられて壁に叩き付けられた。

 

「あっ……あっ……っ。」

 

「ひぃ……ひぃ……っ。」

 

「いてぇ……いてぇよ……っ。」

 

三人組の男性は脱臼した右肩を抑えながら、ブルブルと震えていた。その鼻からは一筋の血が流れていた。この後カナヲに顔面を殴られてから、そのまま壁に並べる様に叩き付けられていた。

 

「ねえ、お兄さん達? 良い歳した大人が年下の子供に絡んで無様に返り討ちに遭うとか情けなくないの? そもそもその行動自体をやる前に恥ずかしいとは思わなかったの? こんな馬鹿な事に時間費やして、貴方達は何のために生きてるの?」

 

「「「……っ。」」」

 

カナヲの存在否定とも言える言葉の数々に、三人組の男性は口籠り右肩の痛みを忘れて顔を俯かせた。

 

カナヲは部屋の大掃除を終えたが如く、スッキリとした表情をしていた。カナヲは血の付いた右手を幸次の服で拭き取ると、着物に返り血が付いてないか確認している内に炭治郎が駆け付けて来た。

 

「あっ! おっまたせ~炭治郎っ❤」

 

「カナヲっ!!」

 

カナヲは炭治郎に近付こうとしたが、炭治郎が大声で名前を呼んだので少し驚いて立ち止まる。

 

「その……少しやり過ぎじゃないかっ……っ?」

 

「……っ?……そんな事無いよっ。折ったんじゃなく外しただけだし。」

 

「……カナヲ。外した肩って戻せる?」

 

「うん? 戻せるけど?」

 

カナヲは造作も無いとばかりに、炭治郎にあっけらかんとした様子で答える。炭治郎は頭を抱えつつカナヲに言った。

アオイ達と違い治療行為が下手だったカナヲだったが、治療時や機能回復訓練中、または任務遂行中に隊士の脱臼をしのぶや隠が戻しているところを何度か見ただけでそのやり方を覚えていた。

 

「……カナヲ。今直ぐこの人達の肩を戻してくれっ。」

 

「ええっ~別に気にしなくても良いじゃない? こんな人達放っといて行こうよっ、炭治郎っ❤」

 

「駄目だっ!」

 

「っ!」

 

炭治郎の叱責に身体を竦めるカナヲ。そんなカナヲに対して炭治郎は優しく諭し始めた。

 

「カナヲ、これは幾ら何でもやり過ぎだよ。早く治してあげて。」

 

「……分かった。」

 

カナヲはしょぼくれた様子で三人組の男性に近付いて行く。カナヲが近付いて来る事に気付いた三人は怯えて逃げ出そうとした。

 

「ひっ!?……待って「五月蝿いっ! じっとしてないと本当に肩を使い物にならない様にするよっ?」……っ!」

 

カナヲの恫喝を聞いて咄嗟に黙り込む三人。カナヲはそれを無視してせっせと右肩を嵌めて元に戻す。

 

「ふんっ。」

 

不服そうにカナヲは鼻を鳴らすと、三人から離れて行く。すると今度は炭治郎が近付いて行った。

警戒する様に炭治郎を見る三人に対し、炭治郎は財布を取り出すと幾許かの金を手渡した。

 

『っ!?』

 

「炭治郎っ!?」

 

「……」

 

この炭治郎の行動にその場にいた全員が驚く。しかし炭治郎はそんな反応に気にも掛けず、幸次と呼ばれた男性の手を両手で握って話し掛けた。

 

「これは治療費です。一応、お医者様に診て貰って下さい。

貴方達の事情なんて知ってる訳が無い俺に、どうこう言う資格は無いかもしれませんが……今は辛くても、苦しくても、思い通りに望みが叶わなくても自分から正しい道を外れる様な真似はしないで下さい。

真面目に生きていたら何時かきっと、良い事が訪れますから……ねっ?」

 

『……っ。』

 

炭治郎はそう言い終わると、カナヲを連れて路地裏を去るために歩き出した。一方の三人組は呆然としながらそれを見送る。ある程度三人から離れると、カナヲが炭治郎に歩きながら質問をした。

 

「ねぇ炭治郎? どうしてお金なんて渡したりなんかしたの?」

 

「うん……あの人達から苛立ちと悲しみ、後は悔しいって匂いがしたから……きっと壁にぶち当たって乗り越えられなくて、鬱憤を晴らしたかったんだと思うんだ……まぁ俺の勝手な思い込みかもしれないけどね……。」

 

「……炭治郎ってば、やっぱり優しいね……わたし、炭治郎のそんなところが大好きっ❤」

 

カナヲは炭治郎の行動の理由を聞いて、愛おしそうに炭治郎の左腕に抱き着いた。炭治郎は苦笑しながら、カナヲを好きにさせて歩き続けた。

 

一方の三人組は炭治郎達が去ってから、幸次が起き上がって二人に話し掛ける。

 

「智也、勇樹。大丈夫か?」

 

「お、おう。」

 

「僕も何とか……っ。」

 

智也と勇樹も幸次に倣って起き上がり、三人で路地裏を出るべく歩き始めた。

暫く沈黙していた三人だったが、智也が不意に開口する。

 

「なぁっ。」

 

「うん?」

 

「何だい?」

 

幸次と勇樹に返答された智也は顔を俯かせて続けた。

 

「自分より年下の子供に絡んで返り討ちに遭った挙句、金を恵んで貰うなんて……最高にだせぇよなぁ。俺達。」

 

「……っ!」

 

「は、ははっ……言葉も無いや。」

 

智也の自虐に二人は耳が痛そうに同意する。すると幸次が開口した。

 

「あの子……手が傷だらけだった。」

 

「…っ……ああ、そうだったな。」

 

「どんな人生を歩めば、そんな手になるんだろうね……っ?」

 

幸次達は炭治郎の言葉に思わず反論しようとしたが、炭治郎の傷だらけの両手を見て絶句するあまり言葉を失ったのだ。そして黙ったまま炭治郎達を見送る事しか出来なかった。

再び三人の間を沈黙が包んだが、勇樹が沈黙を破る様に開口する。

 

「……とりあえず、"医術開業試験"の勉強、し直そうよ。まだ後期試験まで時間あるし、こんなところで腐ってないでさ?」

 

「……おう。」

 

「そうだな……っ。」

 

幸次と智也、勇樹の三人はそう言って路地裏を去って行った。この三人は後に医者として、炭治郎と再会する事になるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

東京府・銀座

 

大正二年(一九一三年) 三月十三日(木)

時間帯:昼

天気:曇り

 

 

炭治郎とカナヲは大通りに戻ると、路面電車に乗って銀座中を見て回っていた。そしてある程度すると、カナヲが途中で路面電車から降りて炭治郎と共に再び銀座を歩き始めた。

炭治郎をカナヲにこれから何処へ行くのか、手を繋ぎながら歩いていた。

 

「カナヲ。これから何処へ行くんだいっ?」

 

「うん……その前に炭治郎はその……お腹空いてる?……蝶屋敷で食べてからそんなに経ってないと思うけど……っ?」

 

「あ~~うん。実は俺、あの時あんまり食欲湧かなくて何時もより食べなかったろ? だから正直、お腹がペコペコで……。」

 

炭治郎は照れた様に自身のお腹を擦る。カナヲは炭治郎が空腹ではないかもしれないと心配していたのだが、炭治郎の様子を見て安堵した笑みを浮かべた。懸念が無くなって嬉しいのか、カナヲは笑顔を浮かべながら説明を始めた。

 

「これから行くお店は"煉瓦家"って言ってね。ハイカラな西洋料理の専門店なのっ! 恋柱様の行きつけのお店なんだって!」

 

「へぇ……恋柱……甘露寺さんだっけ? その人御用達のお店なんだ? 俺、西洋料理なんて食べた事ないなぁ。」

 

「私も初めてなのっ!……しのぶ姉さんが恋柱様とお話してたのを以前聞いて……どうせなら、炭治郎と一緒に食べてみたいなぁ……って思ったから。」

 

カナヲは頬を赤くしながら、照れた様子で炭治郎に言った。炭治郎はカナヲの心遣いに嬉しさで胸が一杯になる。

そうして歩いていると、カナヲが止まる。炭治郎がカナヲを不思議に思って顔を覗くと、目を見開いた驚愕の顔をしていた。

炭治郎は益々謎が深まったので、カナヲが見ている方向に視線を向ける。すると炭治郎はその理由を理解した。

 

「う~ん。どうしよう……せっかく来たのになぁ~。」

 

"煉瓦家"の前で苦悩していたのは、しのぶと同様に鬼殺隊が誇る柱の一人である恋柱・甘露寺蜜璃であった。

 

過去のある経緯から腰まである両端の三つ編みの黒髪から桃色の髪色に、先端が黄緑色になったと言う特異な経緯の持ち主である長身の美女だ。

 

純白の羽織を着ているが、隊服は胸元が大きく開いており、下半身はカナヲと同じ短洋袴(ミニスカート)だが下は黄緑色の長靴下(ニーソックス)を着用している。

標準的な隊服と比べて大きく肌が露出しており、通行人がちらちらと蜜璃を横目で見て通り過ぎていた。

 

「恋柱様っ!?」

 

カナヲが驚いてそう言うと、蜜璃が反応してカナヲの声の聞こえた方向を見る。カナヲと炭治郎を見つけると、嬉しそうに駆け寄って来た。

 

「あ~~っ! カナヲちゃんだぁっ! そっちは……炭治郎君だよね? お久しぶり! 改めまして、恋柱・甘露寺蜜璃ですっ!」

 

「は、はいっ! 改めまして、竈門炭治郎ですっ!」

 

炭治郎は顔を赤くしながら、蜜璃に頭を下げて挨拶をした。その際に蜜璃の豊満な乳房と開かれた胸元に一瞬だが視線を奪われ、慌てて目を反らした。

しかし、カナヲは炭治郎のその様子を見逃しはしなかった。青筋を立てムスッとしながら、横目で炭治郎をカナヲは睨み付ける。

 

「……っ。」

 

「え、えーと……そうだっ! 甘露寺さんは此処でどうしていたんですか? 何やらお困りのご様子でしたが……っ?」

 

カナヲから発せられる憤怒の匂いを嗅ぎ取った炭治郎は冷汗を流しつつ、蜜璃に質問をした。

すると蜜璃は乾いた笑みを浮かべながら、炭次郎の質問に答えた。

 

「実はね? 遅めのお昼ご飯を"煉瓦家"で食べようと思ったんだけど、手持ちのお金だけじゃ心許なくて……其処で諦めて帰るか、ちょっとだけ食べて帰るか悩んでいたのっ。」

 

蜜璃は自身の事情についてそう言い終えると、少しばかり恥ずかしそうに頬を赤くして顔を俯かせた。

 

「そうだったんですか……そうだっ!」

 

蜜璃が悩んでいた理由を知った炭次郎は、突如解決策となる妙案を思い付いたのか、大声を出した。

炭治郎は早速、自身が思い付いた妙案を蜜璃に提案し始める。

 

「甘露寺さんっ! 甘露寺さんさえ良かったら、お昼ご飯は俺達とご一緒しませんか? 丁度、俺とカナヲも"煉瓦家"(此処)で食べようと思ってたんですよ。これも何かの縁ですし、足りない分は俺が支払いますから。」

 

「た、炭治郎っ?」

 

「ええーっ!? 本当にっ!? 良いのっ!?」

 

炭治郎の提案に動揺を隠せず、カナヲは焦燥する。カナヲとは正反対に、蜜璃は炭治郎の提案に歓喜の表情を隠せず、されど半信半疑で炭治郎に質問した。炭治郎は蜜璃の質問に笑顔で答える。

 

「する気も無いなら、俺もこんな提案しませんよっ。銀座に来る時、幾ら必要か不安だったから所持金は全額持って来ているんです。遠慮せず沢山召し上がって下さい。」

 

「わーい!❤ 炭治郎君ありがとうーっ!❤❤」

 

「うぷっ!?」

 

「……っ!!」

 

蜜璃は胸をときめかせると、炭治郎に思わず抱き着いた。蜜璃の方が炭治郎より長身なためか、炭治郎は飛び込む様に蜜璃の胸元に埋まると、林檎の如く顔を赤面させた。

しかし、自分から離れようとはしない。厳密には、炭治郎が蜜璃の膂力に勝てなくて抵抗出来ないのだが。

カナヲは炭治郎と蜜璃のやり取りを見て、静かに青筋を立てて怒りを覚える。

 

「じゃあ早速っ! お店の中に入ろうよっ!!」

 

「か、甘露寺さんっ!」

 

興奮気味に蜜璃は炭治郎の腕を引っ張りながら、"煉瓦家"に入って行く。カナヲは炭治郎と蜜璃を見送る事しか出来なかった。

 

「……チッっ!!」

 

炭治郎との逢引(デート)を思わぬ形で妨害され台無しにされたカナヲは、激怒しながら二人の後に付いて行った。

 

 

 

 

 

 

「ん~~美味しいっ❤!!」

 

「「…………」」

 

"煉瓦家"に入って行った炭治郎達は店員の案内を受けて卓子(テーブル)に着席した。其処から蜜璃が品書き(メニュー)を手に取ると、怒涛の勢いで注文を始めた。

蜜璃の注文を受けて、"煉瓦家"の店員は次々と料理を運び始める。炭治郎達は知る由もないが、蜜璃が"煉瓦家"に入った瞬間、店長(オーナー)に連絡し、厨房に総力戦に入る様に号令が掛かって居た。

 

カレーライス(ライスカレー)トンカツ(ポークカツレツ)牛カツ(ビーフカツレツ)チキンライス(チッケンライス)オムライス(オムレツライス)牛肉煮込み(ビーフシチュー)ビーフステーキ(ビフテキ)ポークステーキ(トンテキ)、コロッケ、ハムエッグ、ポークソテー、ロールキャベツと言った炭治郎やカナヲが見た事も無い西洋料理が、次から次へと三人に運ばれて行った。

 

卓子(テーブル)から溢れ出そうな怒涛の料理群の前に、蜜璃は何の苦も無く次から次へと絶品の西洋料理を空にして行き、白皿の山が築かれて行った。そしてその白皿の山を店員が急いで片付けて行く。

炭治郎は蜜璃の食欲を始めて目の当たりにして、驚きを隠せない。また、その場にいる他の客も、蜜璃を見て驚きながら食事する手を止めていた。

すると蜜璃が手を付けない炭治郎とカナヲに気付いて食事を一時中断して話し掛けた。

 

「炭治郎君、カナヲちゃんも、どうしたの? これ、全部美味しいよ。」

 

「……」

 

「あ、はい……っ。」

――炭治郎……やっぱり恋柱様の食欲に驚いてるなぁ……初見じゃ誰でも驚くよね……っ。

 

カナヲはじっと炭治郎を見る。炭治郎も蜜璃の常人離れした大食漢振りに驚いているのだろうと思った。しかしカナヲの予想は半分合っていたのだが、残り半分は想像と外れていた。

 

「凄いですねっ! 甘露寺さんっ!!」

 

「「っ!?」」

 

炭治郎は眼を輝かせて蜜璃を称賛した。思わぬ反応に蜜璃とカナヲは逆に驚いた。蜜璃は炭治郎の反応に当惑しながら、少々安堵していた。

 

「えっと……引いてる訳じゃないの?」

 

「はいっ?……そんな訳無いじゃないですか。沢山食べられるって事はそれだけ体力があるって証拠だし、同時に元気な証です! むしろ尊敬しますっ!!」

 

「……っ!」

 

蜜璃の質問に、炭治郎は大声で否定し、称賛の理由を並べた。満面の笑みで純粋にそう言ってくれた炭治郎に、蜜璃は目を熱くした。

 

「そんな事言われたの、お父さんとお母さん……いや、師範以来かも……っ。」

 

「師範っ?」

 

「うんっ……私の師範はね、炎柱の煉獄杏寿郎さんでその人の継子だったのっ。」

 

「っ!!」

 

「……っ。」

 

蜜璃の言葉に、炭治郎は驚愕する。カナヲはしのぶからそれとなりに聞かされていたので、驚きは無い。そう言えば、と思ったくらいだ。すると店員が二名、炭治郎達の下へやって来る。

 

「お客様。次のお料理が来るまで、少しばかりお時間頂けますでしょうか? 出来ましたら直ぐにお持ちしますのでっ!」

 

「あ、うん……分かりました。」

 

「ありがとうございますっ! お皿は下げさせて頂きますっ。」

 

店員は「失礼しますっ!」と大声で言って会釈してから、山積みの皿を運んで行った。大声で店員がそう言ったため他の客の耳にも入り、視線を炭治郎達から外れて食事の手を止めていた手を動かし始めた。

 

「うん、そうだなっ……炭治郎君になら、別に話しても良いかなっ……っ。」

 

驚いたままの炭治郎を余所に、蜜璃は両手の小刀(ナイフ)肉叉(フォーク)卓子(テーブル)に一旦置くと、杏寿郎を始め、自身について語り始めた。カナヲは静かにその話に耳を傾ける。

 

生まれ付きの特異体質で普通の女性よりも背が高く、成人男性の十倍近い膂力と大食漢のせいで世間や他人から奇異の目で見られていたこと。

最初は黒髪だったが、髪色が変化してから更に奇異の目が更に強くなったこと。

これらが要因となってお見合いでは化け物扱いされて破談になったこと。

それが嫌になって全てを偽る様に生活し、人生に絶望していたこと。

鬼殺隊に入ってありのままの自分で生きられる様になり、救われたこと。

 

「……しのぶちゃんや炭治郎君の様に、鬼の存在のせいで、大切な家族を奪われて人生を壊された人達が沢山居るのは分かってる……でもね、私は鬼殺隊が存在していたから、今こうしてありのままの自分で生きていられるんだ……ごめんねっ。」

 

「……っ!?」

 

「……っ。」

 

炭治郎は蜜璃の唐突な謝罪の意味が一瞬分からず、動揺する。一方のカナヲは蜜璃の言葉の意味を痛い程、深く理解していた。

自身も鬼殺隊が存在していたから、栗花落カナヲはカナエとしのぶの二人と、胡蝶姉妹と出会えたのだ。

 

「もしも鬼が居なければ」あの二人は御両親と一緒に今も幸せに暮らしていただろう。しかし自分は最愛の姉二人に出会えただろうか? あの地獄に身を浸かり続けながら朽ち果てていたのだろうか? それとも花街で遊女として男に身を売りながら生きていただろうか? 「もしも」や「たられば」など何の意味も無い。しかし、その想像がカナヲを恐怖でブルっと身を強く震わせる。

 

そんなカナヲを、炭治郎は見逃さなかった。炭治郎はカナヲの口からその半生を直接、耳にしているのだ。

鬼殺隊に所属する人間は大きく二種類に分かれる。鬼に家族や恋人を殺されて鬼殺隊に入隊した者と、居場所を無くして鬼殺隊に拾われたか入隊した者だ。炭治郎やしのぶが前者ならば、蜜璃とカナヲは間違いなく後者だ。

炭治郎は一度、両眼を瞑って沈黙すると再び開眼して質問した。

 

「甘露寺さんに……それからカナヲに一つだけ、お聞きした事があります。」

 

「何っ? 炭治郎。」

 

「なぁに? 炭治郎君。」

 

「お二人は今、幸せですか?」

 

「「っ!!」」

 

蜜璃とカナヲは炭治郎の質問に驚く。反射的に二人は視線を合わせると、炭治郎の眼を真っ直ぐ見詰めた答えた。

 

「私は……鬼殺隊に出会えて、今とっても幸せだわ。」

 

「私も……姉さん達に拾われて、夢の中に居ると思うくらい……幸せっ。」

 

二人は正直に、自身の現状について断言した。それを聞いて、炭治郎は二人に微笑んだ。

 

「良かったです。カナヲも甘露寺さんも幸せで。」

 

「「……っ!」」

 

驚く二人に対して、炭治郎は微笑んだまま語り続ける。

 

「えっと、確か……"人間万事塞翁が馬"って故事があります。意味は簡単に言うと、吉事も凶事も何時反転するか分からないって意味なんですけど……俺の場合、家族を殺されて、禰豆子も鬼に変えられてしまって、この世で誰よりも不幸だと思った事もありました……でも鬼殺隊に出会えたお蔭で、普通に生きてたら絶対に出会えなかった人達と出会えて、俺は新しい幸せを手に入れる事が出来たんです。その人達の中には勿論、甘露寺さんもカナヲも含まれてます!」

 

「「……っ!!」」

 

「だからっ……だから、お二人も他人(ひと)に遠慮せず、もっともっと幸せになって下さい! もしその事で文句を言う奴なんていたら、俺が全力でそいつに頭突きしてやりますからっ!!」

 

「……っ、ありがとう……炭治郎。」

 

「ほんと……嬉しいわっ……でも頭突きはやめてあげてね、可哀想だから。」

 

カナヲは手巾(ハンカチ)で必死に両眼を拭きながら、炭治郎に礼を言った。蜜璃は嬉しさを隠せず、泣きながら炭治郎の言葉に苦笑する。

三人の間に沈黙が包み込むと、複数の店員が出来立ての料理を持って来て、卓子(テーブル)に並べ始めた。

 

「……料理も来た事だし、遠慮しないで二人も食べて食べてっ!!」

 

「……はいっ!」

 

「俺、こんなハイカラな料理食べるの初めてなんで楽しみですっ!」

 

まるで初めて食べるが如く、今度は三人で食事を始めた。楽しい時間を過ぎ去って行く。

 

 

 

 

 

 

「おい、君。この店は妖まで客として招くのかね?」

 

『……っ!』

 

毒の籠った声が"煉瓦家"の店内に響いた。店内中の人間が声の主に注目する。

其処にはハイカラな洋装を着た肥満男性が店員に話し掛けていた。

 

右眼には片眼鏡を付け、顔はちょび髭が特徴的だった。男性の隣には護衛と思われる付き人の男性が一人立っていた。

その男性は蜜璃を睨み付けると、フンと鼻を鳴らして続けた。

 

「大体、何なんだねその馬鹿げた髪色は? しかも女子ともあろう者がそんな牛や豚の様に貪り食うとは羞恥心と言うものを持ち合わせていないのかな? ああ、怪物に人間の様な常識など求める私の方が愚かと言うものか。全く、折角の料理を楽しみにしていたの言うのに全てが台無しだよ。どう責任を取ってくれるんだねっ?」

 

「あっ……っ。」

 

蜜璃は思わぬ罵倒を受けて、動揺を隠せない。顔中から汗を流している。過去の精神的外傷(トラウマ)を抉る様な言動を受けたせいか、目の焦点が定まっていない。

 

「巫山戯るなぁっ!!!」

 

『っ!!』

 

突然バァン! と言う音が鳴り響いた。そして続けて物が落ちて割れる音が鳴り響く。炭治郎が卓子(テーブル)を叩き割らん勢いで叩き、その衝撃で白皿の山が崩れて床に落ちたせいだった。

しかし炭治郎は憤怒の表情のまま、肥満男性に近付いて行く。すると付き人の男性が炭治郎の前を遮った。

 

「おい、旦那様にちがぁっ!!??」

 

付き人は炭治郎を止めようとしたが喋ってる途中で炭治郎に胸倉を掴まれ、そのまま頭突きを浴びせられた。付き人は額を割って血を流しながら気絶した。

炭治郎は今日は嫌な奴と多く出会う日だと思いながら、そのまま肥満男性に再び近付き、胸倉を掴んで宙に浮かせた。

 

「がぁっ!? こ、小僧っ!! 儂を誰だと……がぁっ!」

 

「知るかっ!! 甘露寺さんに謝れっ!!!」

 

炭治郎は激昂しながら肥満男性に謝罪を要求した。炭治郎の怒号は続いて行く。

 

「甘露寺さんは優しくて思いやりのある素晴らしい女性だっ! 人の一面だけを見てその人の全てを否定する様な恥ずかしい真似なんかするなっ!! 今直ぐ彼女に謝罪しないと許さないぞっ!!!」

 

「……っ!!」

 

「ふ、ふん。何故儂があんな女に謝罪などせねばならん? 小僧の方こそ今直ぐ土下座して儂に謝らねば後悔するぞっ?!」

 

炭治郎に胸倉を掴まれて謝罪を要求されても、肥満男性は余裕の笑みを零さない。炭治郎は男性から嘲笑の匂いを嗅ぎ取って、更に怒りが増大する。

 

「このっ……「それ以上はいけません!!」……っ!」

 

炭治郎は怒りのまま肥満男性を殴ろうとする。しかし、其処に初老の男性がやって来て炭治郎を止める。肥満男性は勝利を確信して笑みを浮かべていた。

 

「おお、店主(オーナー)。この小僧が儂に無礼を働いたんだ。今直ぐ追い出してくれ。」

 

「……ええ、今直ぐ出て行って頂けますか?……お客様がっ。」

 

「……っ!」

 

店主(オーナー)は退店を要求した。炭治郎にではなく、肥満男性にである。肥満男性は驚愕し、顔を真っ赤にして店主(オーナー)に抗議した。

 

「な、何故儂が追い出されねばならんっ!?」

 

「……お耳を拝借っ。」

 

店主(オーナー)は肥満男性の耳に小声で話し込むと、真っ赤だった顔が急激に青褪めて行く。炭治郎は肥満男性から後悔と恐怖の匂いを嗅ぎ取った。

肥満男性は店主(オーナー)を押し退ける勢いで炭治郎の前に出ると、その場で勢い良く土下座した。

 

『っ!?』

 

「ま、まさか産屋敷家の関係者の方々だったとは……存ぜぬ事とは言え、大変な無礼を致しまして申し訳ございませんでしたっ!!」

 

肥満男性は恥も外分もなく、頭を床に叩き付けて炭治郎に謝罪する。しかし、炭治郎の気は一切晴れはしない。

 

「俺にではなく、本人に謝るべきでしょう!! 良いから早くっ、甘露寺さんに謝って下さいっ!!!」

 

「は、ははっー!!」

 

炭治郎に言われて、肥満男性はドタドタと急いで蜜璃の下へ行き、炭治郎と同様に土下座して謝罪した。

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十三日(木)

時間帯:夕方

天気:曇り

 

「えへへっ。私達、得しちゃったね。炭治郎君、カナヲちゃん。」

 

「ええっ……まぁ。」

 

「そうですねっ。甘露寺さん。」

 

炭治郎と蜜璃、カナヲの三人は"煉瓦家"を後にして大通りを歩いていた。

 

あの後の出来事だが、蜜璃は肥満男性の謝罪を受け入れて水に流そうした。すると肥満男性は許してくれた事に落ち着きを取り戻して、お詫びと称して炭治郎達の食事代と割れた食器の弁償金を全て支払ってくれた。

 

どうやら、炭治郎達を通して産屋敷家と繋がりを作ろうとしたらしい。しつこいくらい、話し掛けて来た。

産屋敷家と直接関係しているのは精々、蜜璃くらいである。自分とカナヲは関係していないと知ったらどうなるのか、炭治郎は必死で笑うのを堪えていた。

 

炭治郎達はその後、小物店でお土産を買ったりしながら後藤隊士と待ち合わせの場所へと向かって行った。

少し歩くと、後藤隊士が車に乗ったまま、窓から手を振っていた。

 

「おーい。此処だぞ~。」

 

「後藤さん、お待たせしましたっ!!」

 

「あっこんにちわ。お疲れ様です。」

 

「あっはいっ! お、お疲れ様ですっ!」

 

後藤隊士は蜜璃に挨拶され、直ぐ様返礼する。遠目で見た時は動揺して落ち着かせるのに必死だった。

そんな後藤隊士に気にも掛けず、カナヲが後藤隊士に話し掛ける。

 

「後藤さんっ! 買っておいてくれたっ!?」

 

「おう。"近江屋"のバタークリームケーキ。確かに胡蝶様達とお前らの分、ちゃんと買っておいたぞ。」

 

「よしっ! ありがとう、後藤さんっ!」

 

カナヲは後藤隊士の買い物結果に満足して礼を言った。すると蜜璃が話に加わって来る。

 

「あっ~! "近江屋"(あそこ)のバタークリームケーキっ! 甘くて美味しいよね~っ!!」

 

「へ、へぇ。ですが……恋柱様の分はありませんよ?」

 

「えっ……あ~そうだよね……。」

 

蜜璃が後藤隊士の言葉に、落ち込むしかなかった。そんな蜜璃の様子が居た堪れなくて、炭治郎も話に加わる。

 

「後藤さん。そのばたーくりーむけーきでしたっけ? 俺の分はありますよね?」

 

「おうとも、勿論あるぞ。ついでにあの黄色いのと猪の分もな。」

 

「……甘露寺さん。俺達はこれから蝶屋敷に帰るんですけど、良かったらご一緒しませんか? 俺と善逸と伊之助の分のばたーくりーむけーき、食べて下さっても構いませんから。」

 

「ええーっ!? 本当にっ!? 良いのっ!?」

 

「はいっ!」

 

蜜璃のあまりの喜びようを見て、炭治郎は微笑ましく思いながら蜜璃に答える。すると後藤隊士が炭治郎に話し掛けた。

 

「おい、炭治郎。良いのかよ? そんな事言って。」

 

「良いんですよ。また何時の日か買って食べれば良いんですからっ。」

 

「……まぁ良いか。俺の分も有るんだが、恋柱様にやっといてくれ。」

 

「分かりましたっ! ありがとうございます!!」

 

後藤隊士の気遣いに感謝しながら、炭治郎は蜜璃とカナヲと共に車に乗り込む。そして車は銀座を後にした。

 

「炭治郎君。今日はありがとうね?」

 

「甘露寺さん。俺、何もやってませんよ?」

 

走っている車の車内で、炭治郎と蜜璃は後部座席で会話をしていた。カナヲは蜜璃に気を使って助手席に座っていた。

 

「ううん。"煉瓦家"では私のためにあんなに激しく怒ってくれたじゃないっ? 凄く嬉しかったわっ。」

 

「そんな……当然の事ですよ。」

 

「それでもよ。ありがとう❤ 炭治郎君❤」

 

「どういたしまして、ふふっ。」

 

炭治郎と蜜璃は車内談話に花を咲かせるが如く、盛り上がる。するとカナヲが助手席から参加して来た。

 

「炭治郎っ! また来ようねっ❤!!」

 

「うんっ! カナヲも今日は本当にありがとうっ!!」

 

「……ふふふっ。」

 

後藤隊士は嬉しそうに談話する三人を見て、炭治郎達が楽しい一時を過ごせたのだと思うと自身の事の様に嬉しくなって笑みが零れた。

 

炭治郎一行はそのまま走り続けて、一八時前には蝶屋敷に到着した。




お待たせ致しました! 炭カナデート編です。まぁ途中で思わぬ人物が追加しましたが。

作中に登場した店は全て実在する名店をモデルに名前を変えて登場してます。弐話の団子屋と一緒ですね。

今更ですが、年月や日付、天気とか追記しました。ちゃんとその時代を生きていると言う風にしたかったので。
鬼滅本誌は春夏秋冬が分からない鬼滅時空ですが(分かるのは鬼滅本誌一話が雪の降る季節だった事くらい)こちらでははっきりさせてます。

次は時系列に関しての説明です。

1912/7/14 竈門炭治郎 十五歳の誕生日

1912/8/1~8/7 最終選別

1912/8/10~11/15 沼鬼~那田蜘蛛山

1912/11/16~1913/2/28 蝶屋敷~無限列車

となってます。理由は手鬼が大正時代と知ったのは炭治郎に聞かされてから知ったので、年号が変わったばかりと解釈しました。

次回は炭カナ本番です。幼児退行(?)に関してある事が分かります。


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第弐拾弐話 赫蝶は日輪と結縁す ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*R指定作品です。
*この作品は竈門炭治郎×栗花落カナヲ+胡蝶しのぶ(炭カナ+炭しの)です。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

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東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月十三日(木)

時間帯:夕方

天気:曇り

 

 

「アオイさんっ! お野菜切り終わったよっ!!」

 

「ありがとうございますっ! 炭治郎さんっ!! 私も丁度、鍋に使う魚と鶏肉を捌き終わりましたっ!」

 

「追加のお米もそろそろ炊けそうだよっ! アオイちゃんっ!!」

 

「善逸さんっ、分かりましたっ! きよっ! お鍋の準備は出来てるっ!?」

 

「勿論ですっ! はいっ!!」

 

「おーい、炭八郎っ! 追加の米俵持ってきたぞーっ。」

 

「ありがとう! 伊之助っ、皆の邪魔にならない様にそこに置いといてっ!」

 

蝶屋敷の厨房は騒然としていた。皆が慌ただしく夕食作りをしていたからだ。

 

炭治郎達が蝶屋敷に帰宅した時にアオイが出迎えたのだが、分かっていたとはいえ、恋柱・甘露寺蜜璃と言う人物の登場に度肝を抜かれてしまった。

するとアオイは蜜璃への挨拶は程々に、カナヲに蜜璃を任せて後藤隊士と炭治郎を引っ張って厨房へと向かって行った。

 

「どうして、恋柱様が来られる事をもっと早く連絡して下さらなかったんですか?!」

 

「ほ、本当にすまん。」

 

「ごめんなさいっ!」

 

アオイの怒声を受けて、炭治郎達は平謝りだった。アオイが激怒するのも無理はない。

蜜璃が来ると、その時に用意する食料が最低でも軽く十人前以上の誤差が生じる。後藤隊士は同行させていた鎹烏に蜜璃来訪の急報を出したが、しないよりマシな程度であった。

 

食料の長期保存が効かないこの大正時代において、蝶屋敷では契約している農家や魚屋、貴重な畜産家から毎日の様に蝶屋敷が注文した量のみが届いている。

 

食糧庫にはパンパンに米を詰めた米俵や袋一杯の小麦粉や蕎麦粉が大量に備蓄されている。勿論、味噌や塩と言った調味料もだ。しかし保存の効かない物はそうは行かない。

沢山買い込んでも、使い切れずに腐らせてしまうのがオチだからだ。

 

尤も、長期保存は聞かなくても、短期保存ならば可能ではある。蝶屋敷に置いてある"氷冷蔵庫"だ。

 

人工の氷室であり、主に"氷箱"や"冷蔵箱"と呼ばれている氷冷蔵庫とは、上下にある二つの扉がある食料保存庫だ。

 

上扉に氷塊を入れて、その氷塊から下に落ちる冷気が下扉の食品を冷やす仕組みになっている。

 

この氷塊は東京にある千を越える製氷工場の中で、契約している製氷工場から毎日の様に氷塊を取り寄せていた。

 

アオイは蜜璃の来訪のために、氷冷蔵庫に入れていた鶏肉を取り出し、善逸に全速力で買い出しに行かせて手に入れた魚や野菜で"水炊き鍋"を作る事にしていた。

 

善逸は荷車で買い出しに行かされていたため、帰って来た頃には疲労困憊状態であった。炭治郎に何か言いたげだったのだが、その様な暇など有りはしなかった。

 

こうしてアオイの指揮の下、何とか蜜璃の歓迎も兼ねた夕食が完成した。完成した頃にしのぶも帰って来て、蜜璃の来訪に驚いていた。

しかし、直ぐに笑顔で蜜璃を歓迎して全員で揃って夕食を始める事が出来た。

 

炭治郎達が昼過ぎに食べた味の濃い西洋料理のせいで美味しく食べられないのではとアオイは心配したが、逆にさっぱりとした味付けが好評だったのか、瞬く間に鍋の具材は消えて行った。

 

夕食後の片付けが終わると、炭治郎が立ち上がって開口する。

 

「善逸、伊之助。俺達は行こう。女の子同士だけで話したい事もあるだろうし。」

 

「ええー。俺も其処に加わりたいんですけど~。」

 

「駄目駄目。女子会って奴には男は加わったら駄目なんだから。」

 

駄々を捏ねる善逸を炭治郎は宥める。伊之助は黙ったまま従った。以前女子会に乱入しようとしてしのぶの怒りを買った経験から、"女子会"は禁句だった。

炭治郎は其処まで言うと、アオイに近付いて行く。

 

「アオイさん、ご馳走様でした……冷蔵箱にばたーくりーむけーきが入ってるから、皆で食べてよ。」

 

「……っ! 分かりました。ありがとうございます。炭治郎さん。」

 

炭治郎が小声でそうアオイに報告すると、アオイは嬉しさを隠さずに感謝した。やはり甘味の魅力にはアオイも敵わないらしい。

ちなみに何故バタークリームケーキが氷冷蔵庫にあるのかと言うと、料理の時に空きが出来たので炭治郎が保管したからだ。

 

また炭治郎と後藤隊士、善逸と伊之助の分のバタークリームケーキを蜜璃に譲渡する約束なので、見られる訳にはいかなかった。

炭治郎達が去ると、きよとすみがお茶の準備に入り、アオイとなほがバタークリームケーキを白皿に乗せていた。

カナヲはその場を去ろうとしたが、しのぶと蜜璃に止められていた。

 

「カナヲ……銀座での炭治郎君との逢引……じゃなかった買い物の様子、是非話して欲しいわ。」

 

「あ、私も知りたいっ!」

 

「うっ……はいっ。」

 

カナヲは仕方なく茶会に参加し、蜜璃と会うまでに起こった事を話し始める。其処まで話すと、蜜璃も話し手に加わった。

 

「あの時の炭治郎……格好良かった……っ❤」

 

「うんっ!❤ 炭治郎君格好良かったよねっ!❤」

 

「うぅっ、見たかった……っ。」

 

「そうですね……っ。」

――カナヲ……なんて羨ましいっ……甘露寺さんもっ。

 

内心乗り気でなかったカナヲだったが、話を夢中になって聞くしのぶ達に気を良くして、饒舌気味に話し続けた。蝶屋敷の女子会である茶会は大いに盛り上がった。

 

「……善逸、伊之助。悪いけど、先に風呂に入っててくれないか? 忘れる前に手紙を出しておきたいんだ。」

 

「手紙?……分かった、先に入ってるよ。」

 

「おう、行くぞ紋逸。」

 

炭治郎はそう言うと善逸達と別れて部屋に戻った。すると善逸が思い出した様に呟く。

 

「そう言えば、炭治郎と一緒に風呂に入った事ないな。」

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十三日(木)

時間帯:夜

天気:晴れ

 

 

炭治郎は善逸達と別れて手紙を書き終えた後、小売店で買った土産を包んで"松"と呼んでいる鎹烏の天王寺松衛門に持たせた。

松は運搬出来る限りの量の荷物を持たされたせいで散々文句を言っていたが、炭治郎が買っておいた金平糖を与えた途端に機嫌が良くなり、手紙と土産を運びに行った。

 

その後、風呂に向かうと偶然にも後藤隊士が風呂に入るために向かっており、善逸達と入れ替わる形で一緒に入る事になった。

蝶屋敷の敷地内には温泉が湧き出ており、其処から湯を引いている。季節問わず沸かさなくてもお湯を使えるため、アオイ達が洗濯に重宝している。

 

炭治郎は突然、後藤隊士に肩を掴まれた。すると後藤隊士は蝶屋敷にいた他の隊士から今朝の騒動について聞き、目を血走らせて炭治郎に問い詰めると炭治郎は観念してしのぶ達との関係を話した。

 

炭治郎は後藤隊士に「炭治郎、お前。何時か刺されるぞ。背中に気を付けろよ。鬼殺隊の隊士が鬼じゃなくて嫉妬で仲間に殺されるとか、笑えねぇからなっ。」と警告と共に説教され、炭治郎は頭を掻いて誤魔化すしかなかった。

 

風呂から上がった炭治郎はカナヲとの逢引(デート)で買って貰った寝巻用の紫色の浴衣を着ていた。

 

因みに禰豆子は炭治郎達が帰って来た頃に起床していて、飲み食いは出来ないが茶会に参加して意気投合した蜜璃に遊んで貰っていたため部屋には不在だった。

禰豆子が帰って来ないため、炭治郎が迎えに行くべく部屋を出ようとした時だった。

 

 

 

コン コン コン

 

 

 

部屋の(ドア)からノック音が聞こえて来た。

 

「どうぞ。」

 

炭治郎が入室を促すと、寝間着姿のカナヲが入って来た。

 

「炭治郎っ、入るよ……部屋、変わってるね。」

 

「うん、まぁね。」

 

炭治郎がそう言って部屋を見渡す。

 

蝶屋敷に初めて竈門兄妹が来た時に与えられた部屋は当初、寝台(ベッド)が二つあるだけの簡素な洋室だったが、大改装の末に大きく部屋が変わっていた。

隣の空室の壁を破壊して一つの部屋にしたため、大広間の様な広さがある。また木床だったのが畳の和室に変わっている。

 

手紙や筆記作業のための折脚式の座卓があり、布団を収納するための大きな押入れが作られていた。押入れの隣には座卓をしまうための、普段は壁にしか見えない収納棚がある。布団も現在は畳の上に綺麗に敷いてある。

 

窓は光を差し込ませないために、木戸も作られている。そして()()()()()()()()()()()()()()が気になったが、今は気にしないでおく事にした。

 

竈門兄妹の自室がこうなっているのは、しのぶが耀哉に珠世の件で手紙を出した際にアオイにも手紙を出していたからだ。

その内容とは、手紙に書いてある様に竈門兄妹の部屋を改装する様にと書かれていた命令書だった。

 

アオイは命令書通りに費用を惜しまず職人を雇って改装させた事で、炭治郎達が銀座から逢引(デート)から帰ってくる前に改装を終えたのだった。

 

「どうしたの? カナヲ。」

 

「うん、私……カナヲも炭治郎と一緒に寝て良い?」

 

「っ!」

 

炭治郎がカナヲの質問に少し驚いて眼を見開く。すると炭治郎がカナヲを隣に座る様に促す。カナヲは嬉しそうに姿勢を崩して炭治郎の隣に座る。

 

「えへへっ❤」

 

「カナヲ、一つ良いかな?」

 

「なぁに?❤ 炭治郎❤」

 

笑みを浮かべるカナヲに炭治郎は質問した。

 

「もう、何時ものカナヲに戻っても良いんじゃないかな?」

 

「っ!?」

 

炭治郎の質問に、カナヲは驚いて顔を上げて炭治郎を見る。

 

「カナヲの匂いで最初から気付いていたんだけど……言うのも野暮だと思ったからさ。ずっと黙ってたんだ。」

 

「……っ。」

 

カナヲは顔を俯かせると、炭治郎の正面に移動する。

 

「ごめんなさいっ!」

 

「っ!」

 

カナヲはそのまま、頭を下げ土下座して謝罪した。炭治郎は少し驚くとカナヲの土下座を止めさせてから、頭を撫で始めた。

 

「……何も謝る必要なんてないよ。怒ってる訳じゃないし……ただ、どうしてそうなったのかだけ、俺に聞かせてくれると嬉しいな。」

 

「……うん。」

 

炭治郎はそう聞くと、カナヲは小さい声で了承して、炭治郎に抱き着いてから語り始めた。

 

「私……素直になりたかったの……でも栗花落カナヲのままじゃとても勇気が持てなくて……自分であって自分じゃない誰かを演じれば、心のままに行動出来るかもって……。」

 

「カナヲ……。」

 

炭治郎の胸に顔を埋めたまま、カナヲは語り続ける。炭治郎はカナヲから悲しい匂いを嗅ぎ取った。

 

「ごめんね。炭治郎は師範とお付き合いしているのに、私なんかに付き合わせて……おめでとう、師範を幸せにしなきゃ、許さないからね?」

 

「……」

 

カナヲの言葉に、炭治郎は沈黙する。カナヲの悲しい匂いが強くなったからだ。そしてカナヲの身体の震えが強くなる。

互いに喋るのを止めていたが、カナヲがボソッと震える声で呟いた。

 

「……やだ。」

 

カナヲが小声でそう呟くと、ぎゅっと炭治郎を強く掴んだ。

 

「やだやだやだやだやだやだやだ。」

 

幼児の様に駄々を口にして拒絶する。嗚咽を漏らしながら、カナヲは炭治郎の胸から頭を離して炭治郎の眼をしっかり見る。

その大きな薄紫色の瞳からは、大粒の涙が零れ落ちる。左眼の眼帯も涙で濡れて行く。

 

「わ、私っ……炭治郎が好きぃ……ずっと、炭治郎の傍に居たいよぉ……傍に、居させて……っ。」

 

「……っ。」

 

カナヲは炭治郎に悲壮な嘆願を口にすると、再び炭治郎に抱き着いてその胸に顔を埋めた。

炭治郎は自身の胸から零れ聞こえるカナヲの嗚咽を耳にしつつ、強く抱き締める。

 

 

 

コン コン コン

 

 

 

炭治郎が口を開く前に、(ドア)から丁寧なノック音が聞こえた。カナヲの時と同様に炭治郎は入室を促すと、(ドア)が開く。

するとしのぶとアオイが入室して来た。

 

「入るわよ。炭治郎君、カナヲっ。」

 

「お邪魔します。」

 

「……師範っ!……うぅ~っ。」

 

カナヲは入って来るしのぶを見つけると、炭治郎を取られまいと唸り声を上げながら、炭治郎を強く抱き締める。

そんなカナヲの様子に、炭治郎達一同は苦笑を隠せない。

 

「カナヲ。炭治郎さんやしのぶ様から言うのもなんだから、私が説明するわね。ちゃんと聞いて頂戴。」

 

「……うん。」

 

親友であり第三の姉であるアオイの言葉に、カナヲは静かに耳を傾ける。

アオイはゆっくりと自身を含めながら炭治郎としのぶの現状の関係について語り始めた。

 

警戒する様な表情で見ていたカナヲだったが、その内容が耳に入って来る内に徐々に炭治郎から顔を離してアオイを凝視する。

最後には、最初と異なる意味を持つ身体の震えを出しながら、アオイに質問する。

 

「つ、つまり……師範もアオイも……炭治郎と関係を持っているの……っ??」

 

「そう言う事です。」

 

カナヲの質問に、アオイではなくしのぶが答える。しのぶは続けた。

 

「最初こそ、私だけが炭治郎君を独占(ひとりじめ)したかった……でもね、貴女達が炭治郎君を想う気持ち、痛いぐらい分かるもの。」

 

「炭治郎君なら貴女達を任せられるし、彼を知った貴女達にこれ以上の男性が現れる訳ないから、それだと一生独り身を貫きかねないでしょう? そんじょそこらの男共に、カナヲもアオイも渡したくないしね。」

 

「炭治郎君が大切な様に、カナヲもアオイも私の大切な妹ですもの……幸せになって欲しいと思うに決まっているじゃない。」

 

「師範……っ。」

 

「しのぶ様……っ。」

 

しのぶはアオイとカナヲの間に立つと、二人を優しく抱き締めてから、その両手を離して二人に問い掛けた。

 

「カナヲに、そしてアオイに改めて聞きます。私は炭治郎君の一番である正室を、誰であろうと絶対に譲るつもりはありません……ただし、貴女達が側室でも良いと言うのなら、これからも私と一緒に炭治郎君を支えませんか?」

 

「「っ!……はいっ!!」」

 

アオイとカナヲは力強く返事をしてから、しのぶを力強く抱き締めた。

蚊帳の外に居る様な状態になっている炭治郎だが、本人が一番の原因である自覚があるせいか、ほっとしていた。

しかし、その安堵も次の瞬間、跡形も無く消し飛ぶ事になる。

 

「では。私達、()()で炭治郎君を支えましょうね?」

 

「はいっ!……はっ?」

 

「はいっ!……へっ?」

 

「っ!?」

 

しのぶの言葉に、アオイとカナヲは驚きを隠せない。勿論、炭治郎もだ。

更にしのぶはその言葉の意味を説明する。

 

「ええ、私、アオイ、カナヲ、そして禰豆子さんです。彼女も炭治郎君と身体を重ねているんですよ。」

 

「「っ!?……炭治郎(さん)っ!?」

 

「うっ……っ。」

 

アオイとカナヲは怒声を上げて、炭治郎を睨み付けた。その迫力に圧されて、炭治郎は怯んだ。しのぶは今にも炭治郎に飛びかかりそうな二人を宥め始める。

 

「二人共落ち着きなさい……炭治郎君の名誉のためにも言っておきますが、禰豆子さんから炭治郎君を襲って()ってますからね?」

 

「軽く説明するから聞きなさい。」と言うとアオイとカナヲは不承不承ながら、しのぶの言葉に耳を傾ける。

炭治郎は二人が一先ず矛を収めた事に安堵した。

 

「……なので、私は禰豆子さんも認めているんです。一種の賭けですが、これが人間に戻る近道だと思っていますので。」

 

「話は分かりました……でも……うぅ~。」

 

「だからって血の繋がった実の兄妹同士でだなんて……むぅ。」

 

「えーと……ごめんなさいっ。」

 

しのぶの説明を受けて頭では納得したものの、二人は不服なのか炭治郎を半眼で睨み付ける。炭治郎は平謝りするしかなかった。

 

「……とにかくっ! この事実は他言無用です。炭治郎君の命にも関わる出来事ですので……もっと話したい事は沢山ありますが、それよりカナヲはまず私達みたいに炭治郎君に愛されたいでしょう?」

 

「っ!」

 

しのぶの指摘に、カナヲは図星とばかりに赤面して反応する。しのぶは苦笑しながら、カナヲにある物を手渡した。

 

「この薬を情交前に飲んでおく様に。炭治郎君。禰豆子さんは甘露寺さんに預けてあるから、気にしなくて大丈夫よ? では楽しんでらっしゃい……アオイ、帰るわよ。」

 

「はい。カナヲ、頑張ってね? 炭治郎さんっ、カナヲをよろしくお願いします。」

 

そうしのぶに促され、アオイはしのぶと共に竈門兄妹の自室から退室する。バタンと(ドア)の締まる音をきっかけに、再び炭治郎とカナヲは二人きりの雰囲気を取り戻した。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……えっとっ。」

 

カナヲが沈黙したまま半眼で炭治郎を睨み付けると、気まずそうに視線をそらした。

そんな炭治郎に、カナヲは静かに近付いて抱き着いた。

 

「か、カナヲ?」

 

「……女たらし。」

 

「……っ。」

 

カナヲがぼそっと炭治郎の耳元に囁いた。思わぬカナヲの発言に、炭治郎は眼を見開く。

 

「女殺し、変態、放蕩者、漁色家、鼻下長(びかちょう)、好色家、色情狂、大通人(だいつうじん)、淫蕩者、色事師、色魔、ひもカス、ド助平野郎っ、女泣かせ、女の敵っ!」

 

「……ごめん。」

 

何処からそんな言葉を学んだのかとツッコミを入れたくなったが、何一つ否定出来る要素を持っていないので、炭治郎は素直に謝罪する。

 

「嫌いになった? カナヲ?」

 

「馬鹿、大好きっ。」

 

カナヲは炭治郎の言葉を否定して、炭治郎を抱き締めて掛け布団の上に押し倒した。炭治郎は流れに任せてカナヲに押し倒される。

炭治郎を押し倒すと、カナヲは起き上がってしのぶに処方された薬を飲み込んだ。

 

「ゴクッ……私も姉さん達も幸せにしてくれなきゃ許さないからねっ!!」

 

「っ! ああっ……俺の生涯を賭けて、大切な皆を幸せにして見せるっ。」

 

炭治郎は力強く、そうカナヲに宣言した。

 

「よろしい……んっ。」

 

カナヲは納得して、閉眼して唇を少し突き出した。この意味が分からない炭治郎ではない。

炭治郎は苦笑して、カナヲの顎に手を当てた。

 

「カナヲ。ほんの一瞬だけ、目を開けてくれる?」

 

「ん?」

 

カナヲは炭治郎に言われて閉じていた両眼を開けて炭治郎を見る。炭治郎はそのままカナヲに想いを告白する。

 

「俺は、カナヲを心から愛している。」

 

「~~っ❤! つ、栗花落カナヲも、竈門炭治郎を心から愛していますっ!❤……離さないでっ、ね?❤」

 

「ああっ! 頼まれたって離さないよっ!」

 

「んんっ❤!!」

 

炭治郎がそう言って勢い良く、されど歯がぶつからない様に配慮してカナヲに口付け(キス)をした。

 

「んっ……。」

 

唇を合わせただけの口付け(キス)だったが、炭治郎は今までお返しとばかりに、カナヲを強く抱きしめて口付け(キス)をする。

カナヲは眼をトロンと蕩けさせて、幸せそうに炭治郎からの口付け(キス)を受け入れる。

 

炭治郎はそのまま、カナヲと一緒に掛布団の上に倒れ込む。カナヲはのぼせた様に呆然としていた。

そんなカナヲを余所に、炭治郎は寝間着を脱がして行く。すると、幾つか青痣のある細見の上半身が姿を現す。

乳房はしのぶ達よりきつそうに、晒しが巻かれていた。

 

「……っ! きゃあぁっ!?」

 

「っと……。」

 

カナヲは正気を取り戻すと、何時の間にか上半身が裸にされていた事に気付き、小さく悲鳴を上げて胸元を隠す様に両腕を交差させた。

炭治郎はカナヲの悲鳴に驚いて、炭治郎は一旦身を引いた。

 

「ごめん。嫌だった? カナヲ。」

 

「ち、違うの……ただちょっと吃驚しちゃっただけだから……。」

 

カナヲは顔を赤面させて、悲鳴を上げた事を謝罪した。そう言われて炭治郎は安堵すると、晒しを外そうと両手を伸ばした。

 

「ま、待ってっ! 駄目ぇっ!!」

 

「っ!? か、カナヲっ?」

 

カナヲは炭治郎は両手を掴んでそれを阻止した。思わぬカナヲの行動に、炭治郎は当惑する。

すると落ち着いたカナヲが、炭治郎に途切れ途切れに話し掛ける。

 

「わ、私だけ脱ぐなんて嫌……炭治郎が先に裸になって……?」

 

「分かった。良いよ。」

 

炭治郎は了承すると、寝間着をスルスルと外して行く。

 

「ひっ!?……っ。」

 

裸になった炭治郎を見て、カナヲは再び小さな悲鳴を上げた。

驚愕したカナヲの大きな眼を釘付けにしていたのは、炭治郎の勃起した逸物だった。

 

「カナヲ……大丈夫?」

 

「えっ……あっ……うん……ごめん。」

 

炭治郎に気を遣われ、カナヲが正気に戻る。視線は変わらず炭治郎の逸物に釘付けだったが。

 

「……触っても良い? 炭治郎??」

 

「ふふっ、どうぞ。」

 

炭治郎は誇る様に、自身の逸物をぐいっとカナヲの前に近付けた。

カナヲは恐る恐る両手を伸ばして、炭治郎の逸物を握り締める。

 

「大きい……それに固くて、熱いっ……まるで日輪刀みたい……っ。」

 

「皆そう例えるよね……って、カナヲ……ちょっと強く握り過ぎ……っ。」

 

「っっ!……ごめんなさいっ。」

 

炭治郎の指摘に、カナヲは慌てて握る手を緩めた。痛みが無くなって安堵した炭治郎を見て、カナヲが炭治郎に質問する。

 

「しのぶ姉さん達は、どうやっていたか知りたいの……炭治郎、教えてくれる?」

 

「うん……良いよ。」

 

カナヲの質問を聞いて、必要最低限の性知識しかないのだと炭治郎は察する。しのぶやアオイと違って純粋(ピュア)なカナヲに、炭治郎は微笑ましく思う。

カナヲが炭治郎の看病の時に、身体を拭く際に興奮していたのは本能的なものだったのだろう。

 

「そうだな……口で舐めたり吸ったり、乳房(おっぱい)で挟んだりしてくれてるよ。」

 

「こ、これを舐めたり吸ったり……顎が外れたりしない……?」

 

カナヲは姉二人の前戯を聞いて、恐る恐る炭治郎に質問する。

 

「別に無理しなくても大丈夫だよ。ちょっと寂しいけどね。」

 

「……むぅ……私だって、負けないもんっ。」

 

炭治郎の言葉に、カナヲは嫉妬心から対抗心が燃え上がって来る。

カナヲは晒しを外れない限り限りまで緩めると、晒しを付けたまま乳房の谷間に逸物を挟み込んだ。

 

「うおっ……っ!」

 

「はあぁん❤……炭治郎の日輪刀が熱くなった……舐めるね、炭治郎っ❤」

 

そう言って乳房に挟んだ逸物を、カナヲは舐め始める。

 

「れろ❤……れろれろ❤……ちゅっ❤……気持ちいいっ? 炭治郎っ❤」

 

「う、うん。気持ち良いよっ。」

 

「……っ。」

 

炭治郎の言葉に、カナヲは顔を顰めた。炭治郎が微妙な顔をしたからだ。嘘ではないが、本当でもない。そう言わんばかりに。

事実、炭治郎も感じてはいたのだが、気持ち良いと言うより擽ったいと言うのが正直な感想だった。

しかし、最愛の男性の心情を見抜けないカナヲではない。対抗心の炎が、一気に燃え上がる。

 

「パクッ!……ちゅううぅ……れろれろれろ……っ!!」

 

口を目一杯開けると、逸物を口内に招き入れる。其処からしのぶやアオイ達がどうやったか想像しつつ、同様に舐めたり吸ったりして行く。

更にカナヲは両手で乳房を動かして、逸物を扱く様に動かして行く。

 

「ああっ!……くうぅっ!……あぁっ!」

 

「ちゅうぅ❤……っ❤」

 

先程の児戯の如き擽ったい愛撫とは比較にならない快楽に、炭治郎は思わず声が漏れて室内に木霊する。

そんな炭治郎を見て、カナヲは漸く満足感を得る。しかし、愛撫の強さを緩める事はしない。

そうして行く内に、逸物は限界を迎え始めた。カナヲは逸物が膨張した様に感じ取る。

 

「ああぁっ!……で、出るっ!……カナヲっ! 飲んでっ!!」

 

「っ!?」

 

 

 

ビュルルルルルルルルルルルルッ!!!

 

 

 

「んんっ!?……ゴクッ……ゴクッ……おえっ!?」

 

「っ!」

 

カナヲは逸物から勢い良く射精して出て来る白濁の溶岩を飲み干せず、その一部が気道に流れ込んでしまい思わず咽てしまう。

炭治郎はカナヲから思わぬ声色を聞いて、咄嗟に逸物を谷間から引き抜いた。

 

逸物はそのまま、カナヲの顔や胸元周辺を白く染め上げて行く。カナヲは未だに咽ていた。

 

「げほっげほっ……ふうぅぅ……ふうぅぅ……っ。」

 

「カナヲっ、大丈夫っ?」

 

「んんっ……炭治郎の……甘くて、美味しい……っ。」

 

呼吸を整えたカナヲは、炭治郎の逸物から射精された精液をうっとりとしながら、夢中になって堪能する。

身体にへばり付いた精液を、カナヲが舐め取っていると緩んでいた晒しが外れて、隠れていた乳房が姿を現した。

 

「っ!……へぇ、カナヲの乳房(おっぱい)、しのぶさんと同じくらいの大きさがあるなぁ。」

 

「ちゅっちゅ……れろれろ……へっ?」

 

炭治郎のカナヲの乳房への感想を、精液を舐め取り終わったカナヲが耳にした。

 

「きゃああああっ!?」

 

「おっと。」

 

カナヲは悲鳴を上げて再び、両腕を交差して乳房を隠そうとする。しかし、その前に炭治郎が両腕を掴んで阻止した。

顔を乳房に近付けて、炭治郎はじっくりと観察する。すると間もなく、ある事に炭治郎は気付いた。

 

「あれ?……乳首が……乳房(おっぱい)の中に埋もれている……っ?」

 

「~~~っ!!!」

 

炭治郎の呟きに、カナヲは顔を梅干の如く赤面させて、声にならない悲鳴を上げる。炭治郎はカナヲから羞恥の匂いを嗅ぎ取った。

その匂いを嗅いだ炭治郎は、カナヲの心情を察しした。

 

「カナヲ。晒しを頑なに外そうとしなかった理由って……えっと、"陥没乳首"の事だったの?」

 

「…………うんっ。」

 

比較的長い沈黙の末、カナヲは観念した様に炭治郎の質問に肯定した。

因みに、何故炭治郎が陥没乳首について知っているのかと言うと、空いた時間にアオイと共に以前、隊士達から取り上げた艶本を読ませて貰い、その内容の一部に書かれていたからだ。

 

「だ、だって。しのぶ姉さんもアオイも、なほもすみもきよも普通だったし……私だけ……っ。」

 

「カナヲ、落ち着いて。」

 

「んっ!?」

 

自棄になった様に捲し立てるカナヲに対し、炭治郎は落ち着かせようと口付け(キス)をした。

驚くカナヲを余所に、炭治郎はカナヲの口内に舌を侵入させた。

 

「れろ……ぴちゅ……くちゃくちゃ……っ。」

 

「くちゅ❤……れろれろ❤……くちゃ❤……んあぁ❤……あ❤……ああっ❤」

 

自身の知らない口付け(キス)にカナヲは先程の焦燥感などは消滅していた。恍惚感一杯の様子でカナヲは炭治郎を見詰める。

そんなカナヲを見て安心した炭治郎は、カナヲに問い掛けた。

 

「大人の口付け(キス)の味はどうだった? カナヲ?」

 

「あっ❤……あっ❤……最……高っ❤……っ❤」

 

「それは良かった。」

 

炭治郎はそう言ってから、両手を伸ばしてカナヲの乳房を掴む様に揉み始めた。

 

「あんっ❤! た、炭治郎っ!!」

 

「別に可笑しいと思う事なんて無いんだよ。カナヲの乳首がちょっと恥ずかしがり屋さんなだけじゃないか……あむっ。」

 

「ああんっ❤❤!!」

 

炭治郎は顔を左乳房に近付けて、そのまま乳輪を口内に納める。炭治郎の舌は待ってましたと言わんばかりにカナヲの乳輪を舐め回し、埋もれている乳首を露出させようと暴れ始めた。

 

「ひゃあん❤ ああん❤ たん……じろう❤……もっと……優しく……あああんっ❤!」

 

「くちゅ……やっと出て来た……。」

 

炭治郎は良く知っている感触を確認すると、左乳房から口を離した。そこにはピンと立った桜色の蕾が、カナヲの乳首が芽を出して姿を見せていた。

 

「では、次は右の乳房(おっぱい)と行きますか。」

 

「ま……待って……っ。」

 

「ぱくっ。」

 

「あうぅぅっ❤❤!!」

 

カナヲの嘆願を無視して、炭治郎は右乳房の乳輪を口内に納めて同様の要領で愛撫を始めた。

 

その快楽に、再びカナヲは嬌声を上げて悶える。すると暫くしてから炭治郎は口を乳房から離した。

 

残った唾液で銀色の橋を形成して、直ぐに壊れる。其処には炭治郎の唾液で濡れた右側の乳首が姿を現していた。

 

「はぁ❤……はぁ❤……はぁ❤……。」

 

「……♪」

 

カナヲは快楽から解放されて、必死で切れ掛けていた息を整えていた。カナヲのそんな姿を見て、炭治郎は自身に加虐心を生み出した。

勿論、虐めたり苦しめたりしたい訳ではない。ただ、意地悪が少しばかりしたいだけの悪戯心である。

 

「これでカナヲもしのぶさん達と同じになったよ……でもカナヲの方が感度は良いかなぁ~?……ふぅぅ。」

 

「ひゃあん❤」

 

炭治郎がカナヲの蕾の様な乳首に息を吹きかけると、カナヲが大きな嬌声を上げた。その嬌声を聞いて、益々炭治郎の加虐心に燃料が投下された。

普段見ない炭治郎を目の当たりにして、カナヲは涙を浮かべながら炭治郎に抗議する。

 

「炭治郎の……馬鹿ぁ❤……意地悪ぅ……っ❤」

 

「ははははっ。ごめんごめん……お詫びに、もっと気持ち良くしてあげるから♪」

 

炭治郎は微笑みながら、再び両手でカナヲの乳房を掴んで揉み始めた。

 

「ひいぃぃん❤ あっ❤……あああっ❤!……こんなっ❤……事で❤……私は誤魔化され……ないいぃぃぃぃっ❤❤!!!」

 

炭治郎に続けて抗議するカナヲだったが、浮き出た乳首を摘ままれて、大きな嬌声を上げた。

炭治郎はカナヲの奏でる嬌声をもっと聞きたくて、更に攻勢の手を強める。

 

「あむ……ちゅううぅぅぅ………れろれろれろ……ちゅううちゅうううぅぅぅっ!」

 

「あひいぃぃっ!❤……二つ同時なんてっ……駄目ええぇぇぇぇっ!!❤❤」

 

炭治郎がカナヲの乳房を真ん中に寄せると、両方の乳首を同時に態と音を立てて強く吸った。

炭治郎に弄られて敏感になった乳首を思い切り吸われて、カナヲはその快楽に悶絶する。

 

「あああああああああっ❤❤❤!!!」

 

乳首を吸われ続けたカナヲは、身体を弓反りに曲げて痙攣をおこしながら、先程以上に大きな嬌声を上げた。

炭治郎はたった今、カナヲが絶頂したのだと確信して、両乳首から口と両手を離した。

 

「あっ❤……ああっ❤……っ❤」

 

初めての絶頂を経験して、放心するカナヲ。炭治郎は絶頂したカナヲに満足しつつ、再び攻勢に出た。

意地悪の入った愛撫は、終わった後に仕返しをしようとするのは経験済みである。

しのぶもカナエもアオイもそうだった。其処で炭治郎は攻勢の手を緩めずに攻め続ける選択肢を選ぶ。

 

 

 

クチャッ

 

 

 

「あっ!❤」

 

放心していたカナヲが、再びビクッ! と身体を跳ねさせて嬌声を上げる。

洪水を起こしている秘部に、炭治郎が指を入れたからだ。

 

「凄く濡れてるね……ちょっと怖いかもしれないけど、カナヲ。俺に任せてくれ。」

 

「う、んんっ!❤」

 

炭治郎の言葉に頷こうとしたカナヲだったが、途中で炭治郎が口付け(キス)したため口籠って終わる。

 

「んっ❤……ちゅ❤……んんっ!❤……んんんっ!❤」

 

炭治郎に口付け(キス)をされながら秘部を弄られて口籠りながら、嬌声を上げ続けるカナヲ。

 

「~~~っ!!❤❤」

 

「ちゅ……イってくれた? カナヲっ。」

 

炭治郎の質問に、カナヲは少し恨めしそうに頷いた。すると炭治郎が少し汗を流しながら、カナヲに質問した。

 

「……もうこれだけ濡れてるし……挿れて良いかな?」

 

「…っ!……うんっ……うんっ❤!!」

 

カナヲは歓喜と期待の匂いを全身から醸しながら、力強く頷いた。

炭治郎はカナヲの同意を得て、炭治郎は逸物を秘部の入り口まで持って行く。

 

「一気に挿れるよ、カナヲ。」

 

「来て……~~~っ!!!」

 

「あああっ!……きっ……つい。」

 

カナヲは規格外の逸物を挿入され、その圧迫感と快楽と痛みに悶絶する。しのぶの薬で痛みは軽減されているとは言え、完全に無くなった訳では無かった。

炭治郎はそれらを匂いで察しながらも、途中で止めると却って痛みが長引くため子宮口まで一気に逸物を押し込んだ。

 

「はぁ……はぁ……だい……じょうぶ?……カナヲっ。」

 

「ああっ❤……痛いけど……痛いのに……気持ち良いぃよぉ❤……たんじろぉ❤❤」

 

カナヲは歓喜の涙を流しながら、炭治郎にそう伝えた。炭治郎は僅かな血の匂いを嗅ぎ取り、痛みが抜けるまで動かずに乳房を揉んだり口付け(キス)したりして、カナヲの痛みが引くのを待つ事にした。

 

「ちゅっ❤……炭治郎……突いて❤……動いて良いよっ❤……っ❤」

 

「カナヲっ、まだ入れたばかりだよ?……まだ痛みはあるんじゃ……っ。」

 

「……もうっ!!」

 

「うわっ!?」

 

炭治郎の優しさは嬉しかったが、じれったいのかカナヲが挿入されたまま起き上がって炭治郎を押し倒して騎乗位の態勢になった。

 

「カナヲっ……っ!」

 

「私だって……私の方が……炭治郎を気持ち良く出来るもん……しのぶ姉さんにも……アオイにも負けないんだからぁ……っ!」

 

 

 

パンっ! パンっ! パンっ! パンっ!

 

 

 

「っぁああっ!……はぁっ……くぅっ!!」

 

「あああっ❤ ああん❤ あああんっ!!❤」

 

カナヲが上下に腰を動かし始めた。しのぶの多彩な腰使いとは違って単調なものだったが、締め付けが二人より強いため、炭治郎の口から喘ぎ声が漏れる。

カナヲからもまた、快楽で嬌声が上がる。

 

「ああっ!❤ いひぃっ!!❤……またくるっ!❤……イっちゃうっ❤……っ!!」

 

「っ!……カナヲっ!……もうちょっとだけ……耐えてくれっ!……俺もイクからっ!!」

 

「っ!!❤……うっ……んんっ!!❤」

 

炭治郎の言葉に、カナヲは了承して必死に絶頂しない様に快楽に耐える。カナヲにとって永遠に近い一、二分が経過してから炭治郎に変化が起こる。

正確には炭治郎の逸物にだ。カナヲは胎内に収まる逸物が、膨張した様に感じ取った。

 

「カナヲっ!……出るっ!……出すよっ!!」

 

「あああああんっ!!❤ 出してぇっ!!❤ 沢山出してぇっ!!!❤❤」

 

 

ビュルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!! ビュルルビュルルビュルルルル!!!!

 

 

「あああああああっ~~~~~❤❤❤!!!!」

 

炭治郎の逸物から噴火の如き勢いで、白濁の溶岩がカナヲの子宮と膣内を白く染め上げた。カナヲは快楽を受けて一際大きな嬌声を上げた。

 

「はぁ……はぁ……どうだった……カナヲっ?」

 

「あっ❤……あっ❤……しゃいこう❤……たんじろぉ❤……しゅき❤……しゅきぃ❤……っ❤」

 

「……俺も……大好きだよ……カナヲっ。」

 

絶頂して呂律が回らず、舌を出して涎を口から垂らし続けるカナヲに、炭治郎は苦笑する。

炭治郎はカナヲを抱き締めるために、身を起こそうとした。しかし、ガシっ! と二の腕をカナヲに押さえ付けられて阻止された。

 

「カナヲっ……?」

 

「もっと❤……もっとしようよ❤……あさまで……わたひをあいしてぇ……❤」

 

呂律の回らない口で、そう言ってカナヲは再び腰を動かし始めた。

炭治郎は起き上がって何とかしようとしたが、カナヲは更に力を込めて炭治郎を押さえ付けた。

 

カナヲは腰を動かし続けて炭治郎から精液を搾り取る。上下運動だけの動きが徐々に変わって行き、時には身体を折り曲げて炭治郎に口付け(キス)をする事もあった。

炭治郎は仕方なく、カナヲの全力の愛撫を一心に受け止める事にした。夢中に愛し合う二人は、この時(ドア)が開いた事で鳴った開閉音に気付かなかった。

 

体力配布も考えずに全力で動き続けた結果、遂に限界がカナヲに訪れる。

その証拠に、炭治郎が十二回目の射精が終わった後に見られた。

 

「カナヲ……大丈夫かい?」

 

「もっと……もっとぉ……まら……まら出来るもん……で……き……っ。」

 

「カナヲっ!」

 

カクっとカナヲが炭治郎に向かって倒れ込み、炭治郎はカナヲを受け止めた。

 

「すぅ………すぅ……すぅ……。」

 

「……お疲れ様。おやすみ、カナヲ。」

 

炭治郎はカナヲを労って、その頭を優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 

「もしもーし。」

 

「っ!?」

 

炭治郎は第三者の楽しそうな声を聞いて、驚愕して周囲を見渡し、匂いを嗅ぐ。

しかし視覚でも嗅覚でも、その姿を炭治郎は捉える事が出来なかった。

尤も、炭治郎に焦りは無かった。何故ならその声は毎日聞いているし、姿を捉えられないその絡繰りは理解していた。

 

「しのぶさん、居るんでしょう? 出て来て下さいよ。」

 

炭治郎がそう言うと、炭治郎の呼び掛けに答える様に一人の美女が姿を現した。

この蝶屋敷の主人たるしのぶだった。隊服ではなく、紫色の寝間着姿だ。

奇しくも同色の寝間着に苦笑しながら、炭治郎はしのぶに話し掛けた。

 

「全く。カナヲってば、だらしないですねぇ~。」

 

「……しのぶさん、何時からこの部屋に居らっしゃったんですか?」

 

「そうですねぇ……十分くらい前に入りましたよ。炭治郎君の不用心♪」

 

「あはははっ。言葉もありません。」

 

しのぶの指摘に反論の術が無い炭治郎は、笑って誤魔化すしかなかった。

 

「と言っても、最初から最後までずっと覗いてましたけどね~。」

 

「……っ……それは愈史郎さんの『紙眼()』を使ってですか?」

 

炭治郎の質問に、しのぶは真面目な表情で答える。

 

「この部屋の四方と天井に貼った『紙眼()』で、私の部屋からこの部屋を視る事が出来ました。遠視……と言うより"偸視(とうし)"ですね。

しかも部屋に耳を立てても何一つ聞き取れず、気配も察する事も出来ませんでした。

流石は隠密に長けた血鬼術の符、感服しますよ。」

 

しのぶは手に持った『紙眼』を楽しそうに見ながら、しのぶは答える。

炭治郎はしのぶの言葉に同意した。

 

「アオイさんはどうしているんでしょう?」

 

「アオイにも『紙眼()』が愈史郎さんの血鬼術で出来ている事を伏せて、使い方を説明しましたよ。此処に来てないと言う事は、自慰でもやってやり疲れて寝ているんじゃないですかねぇ?」

 

炭治郎の指摘に、しのぶはどうでも良さげにそう呟いた。炭治郎はしのぶの発言に、僅かに嘘の匂いがある事に気付いた。

 

「まぁまぁそんな事今はどうでも良いじゃないですか……炭治郎君も満足していないのでしょう?」

 

「……ええっ。まぁ。」

 

炭治郎に同意する様に、しのぶに魅せ付ける様に精液と愛液の混合液が付いた逸物はピンと勃起した。血に濡れた日輪刀の様な戦闘態勢の炭治郎の逸物を見て、しのぶはゴクっと喉を鳴らした。

時刻は日を跨いだばかりだ。朝までまだ時間が有る。

 

「全く……なぁにが「私の方が炭治郎を気持ち良く出来るもん。」よ……二時間も持たずに気絶して……処女を喪くしたばかりの生娘如きに甘く見られたもんだわ……っ。」

 

フンと鼻を鳴らして気絶したカナヲを見る。カナヲから視線を外すと、しのぶはカナヲを乗せたまま掛け布団の端を掴んだ。炭治郎もそれに習って、カナヲを移動させた。

カナヲの移動後、炭治郎としのぶはまだ真っ新な敷布団に一度目を向けてから互いを見詰める。

 

「炭治郎君、この薬を。」

 

「頂きますね。」

 

炭治郎はしのぶから紫色の丸薬を受け取ると、一切の躊躇無くその丸薬を口に含んだ。

 

「これで準備は完了です。では……今度は私を愛してくれますか?」

 

しのぶはそう言って、寝間着をスルスルと脱ぎ落した。

其処には見慣れた、されど見惚れずには居られないしのぶの美しい裸体が姿を見せる。既に太腿に垂れている程、愛液が秘部から溢れ出ていた。

何時もと違うのは、カナヲとの乱闘で青痣が見られる事だ。

 

「はいっ……喜んでっ……っ。」

 

「嬉しい❤……青痣の事は気にしないで……沢山、愛し合いましょうね❤」

 

しのぶは嬉しそうにそう言うと、二人は磁石の様に互いを近付いて口付け(キス)をした。




お待たせ致しました。
と言う訳で、カナヲの幼児化(?)は「カナヲの渾身の演技だった」と言うオチでした。うちのカナヲなら大正・昭和を代表する大女優に成れると思います。

にしても愈史郎に合流後に殺されそうな使い方してますねぇ(笑)

此処に来て漸く三人と関係を結べました。まだまだストーリーにすら戻れてません。すみません、時間を下さい。

次回は炭しのに戻ります。お楽しみに。

ご愛読ありがとうございました。

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taikomoti様
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鳥籠 
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12269105

炭治郎×鬼滅女子(と言うより蝶屋敷)による炭治郎愛されss。炭しのも炭カナも炭アオもある盛沢山のssです。
炭治郎と蝶屋敷の女の子達の『幸せ』な結末は必見です。


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第弐拾参話 桃蝶は日輪の秘事を偸視する ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*R指定作品です。
*この作品は竈門炭治郎×胡蝶しのぶ+神崎アオイ+甘露寺蜜璃(炭しの+炭アオ+炭蜜)です。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月十四日(金)

時間帯:夜

天気:晴れ

 

 

時間(とき)は少し遡り、しのぶが竈門兄妹の自室に到着する少し前の出来事。

 

「んぁ……ああっ……ああんっ!」

 

蝶屋敷のある一室で、艶めかしい声が室内に響いていた。

その部屋の主は神崎アオイであった。アオイは青の寝間着姿を脱ぎ捨てて、全裸で寝台(ベッド)の上に居た。

 

アオイは頬を赤く染めて、荒い呼吸を繰り返しながら、両手で自身の乳房を揉みしだいていた。

しかし、顔を見ると何時もは見られない物が有った。

 

それは符である。赤色の目の紋様が描かれており、アオイの額を覆う様に張られていた。珠世の鬼である愈史郎の血鬼術で作られた『紙眼』だ。

 

「ああっ……カナヲっ!……羨ましいっ……私も炭治郎さんに……乳房(おっぱい)を触られたい……いっぱい吸って欲しいぃっ!!」

 

アオイはそう言いながら、羨望を隠せない様子で更に乳房を揉みしだき、乳首を抓る。

常識的に考えれば、アオイの想像、否、妄想でしかない。直接現場を見ていなければそうであると分かる筈も知っている筈も無い。

 

しかし、アオイは現在進行形(リアルタイム)で炭治郎とカナヲの情交を知る事が出来た。

それはアオイの額に張られている『紙眼』のお蔭である。

 

アオイはしのぶにこの『紙眼』を渡され、使い方のみ教わっている。最初こそこの得体のしれない『紙眼』に恐怖感も覚えたが、今やその様な感情など有りはしなかった。

竈門兄妹の自室に張られた符を通して、アオイは自室で炭治郎とカナヲの情交(セックス)を偸視していたのである。

 

この光景に『紙眼』に対する恐怖感や不信感は跡形も無く消し飛び、夢中になって二人の情交(セックス)を見ていた。

最初こそ息を荒げるだけであったが、ついには我慢の限界を突破して自慰に耽始めたのである。

 

アオイは一度炭治郎に抱かれているが故に、カナヲの喜びが身を焦がす程に理解出来ていた。

自身と代わって欲しいと叫びたいくらいの羨望を抱きながら、カナヲを見守っていた。

 

「いひぃっ!!……ああっ……あああっ!……炭治郎……さんっ!……二つ同時にだなんて……欲張り過ぎますぅ……っ!」

 

炭治郎がカナヲの両乳首を真ん中に寄せて、二つ同時に思い切り吸った。

アオイはその光景を見て、何時ぞやの自分の時を思い出して悶絶していた。

 

「はぁ……はぁ……カナヲっ……何よそれ……もっとしっかり咥えなさいよっ……炭治郎さんが気持ち良くなれないでしょう?!……はぁ……はぁ……。」

 

アオイの右手は乳房を揉みしだく動作は変わらなかったが、左手は秘部に伸びて弄っていた。

しかし、今のアオイは炭治郎へのカナヲの愛撫の拙さに苛立ちを覚えながら、声に出して文句を言っていた。

 

「あああっ!?……カナヲの馬鹿っ!……炭治郎さんの精液は濃くて量が多いからって……受け止められないなんてっ……勿体無い……私だったら一滴も零さないのに……っ。」

 

カナヲが精飲に失敗して咽たのを見て、アオイは憤怒した。しのぶもアオイも、精飲で炭治郎の精液を一滴も零さず飲める事を互いに自慢していた。

因みに、アオイと同じく見守っていたしのぶも自室で自慰に耽りながら憤っていた。

 

「~~~っ!……カナヲ……おめでとう……これで私達の仲間入りね……任務の時以外は毎日、炭治郎さんに可愛がって貰おうね……っ。」

 

比較的大きな快感がアオイの身を貫いた後、カナヲの処女喪失の瞬間を目撃し、アオイは我が事の様に喜びながら祝福した。

 

「もう……無理しちゃって……炭治郎さんに素直に甘えたら良いのに……一時間……持って二時間かしら?」

 

カナヲが炭治郎を押し倒して騎乗位で攻めるのを見て、カナヲの体力を計算するアオイ。アオイはその一時間強が経過後に行動に移る。

 

「そろそろ限界ね……あんなんじゃ炭治郎さんも満足してないと思うし……み、未来の側室(つま)としてっ! 将来の夫の献身に行かないとっ!」

 

アオイはそう叫ぶと、身体を拭いてから寝間着を着用して部屋から退室した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「っ!……しのぶ様っ。」

 

「こんばんわっ。アオイ。」

 

部屋を出たアオイは『紙眼』を額に着けたまま、竈門兄妹の部屋へと急ごうとした。

しかし、途中で廊下に立っていたしのぶと出くわした。自身と同じく、しのぶも『紙眼』を額に着けていた。

『紙眼』のお蔭で、鬼と同様に日中と変わらぬ視界を得られている。

 

「しのぶ様、どうしてこちらに?」

 

「貴女と同じ目的を果たすためですよ。アオイと合流しようと思ってね、此処で待っていたの。」

 

しのぶの言葉に、アオイは口元に笑みを浮かべた。

 

「それはお待たせして申し訳ありませんでした。ではしのぶ様っ。早速炭治郎さんの下へ行きましょうっ! 何時、カナヲが気絶しても不思議ではありません。」

 

「ええ、そうね。」

 

アオイはしのぶにそう言うと、再び竈門兄妹の部屋へ向かうために足を進めた。しのぶの隣を横切った時、それは起こった。

 

 

 

プスッ

 

 

 

「えっ?……っ?」

 

アオイは自身の首に痛みが走った感覚が理解出来ず、惚けた様に痛みの発生源に向かって視線を向けた。

其処にはアオイの首筋に向かって注射を打ち込む、しのぶの姿があった。

 

「ごめんなさいねっ、アオイ。」

 

「っ!?」

 

謝罪の言葉とは裏腹に、満面の笑みを浮かべるしのぶ。アオイは咄嗟にしのぶの寝間着を掴んだ。

 

「しの……ぶ……さまっ!!」

 

「悪いわね、アオイ。でも油断している貴女も悪いのよ? これから先、炭治郎君と二人っきりで愛し合える機会なんて早々無いものっ。」

 

「っ!……くそっ。」

 

アオイは何か言おうとしたが、投薬された薬が即効性の睡眠薬だったため、アオイはそのまま夢の住人となってしまった。

 

「っと……危ない危ないっ。」

 

しのぶは床に倒れそうになるアオイを受け止める。アオイを受け止めたしのぶは、そのままアオイに話し掛けた。

 

「貴女を部屋に運ぶ時間が勿体無いのよっ。今夜は其処で寝て下さいね? アオイっ……ふふっ。」

 

そう言ってアオイを廊下の端に寝かせると、しのぶは機嫌良く炭治郎の下へ歩き始めた。

しかし、歩き去ったしのぶにはこの後自身も想像外の事態が発生する事になる。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~~~っ。間に合って良かった~~~っ。」

 

しのぶがその場を去って数分後、蝶屋敷の廊下から明るい声が聞こえた。

恋柱・甘露寺蜜璃である。蜜璃は夕食に相伴した後、しのぶ達に勧められて蝶屋敷に一泊する事にしていた。

 

「危なかったなぁ……やっぱり蝶屋敷は広過ぎるよ~っ。」

 

しかし、蝶屋敷については何度か治療と私事で訪れた事は有っても、宿泊したのは今回が初めてだ。蝶屋敷そのものについて詳しい訳では無かった。

 

そもそも、蝶屋敷は医院としての機能があるせいか、屋敷の単純な大きさは産屋敷邸を超える。敷地面積も産屋敷邸を次ぐ鬼殺隊第二の広さを誇るのだ。

 

鬼殺隊に所属する者や鬼について知っている者にとっての常識として、夜に藤の花の香炉を焚くのが常識となっている。

 

これは勿論、鬼による襲撃を防ぐためだ。

 

しかし、蝶屋敷の広さを考えると、香炉を焚くだけで重労働である。

 

そのため蝶屋敷を覆う様に藤の花が植えられており、季節外は一定間隔でしのぶ特製の藤の花の匂い袋を吊るして鬼除けとしているのだ。

 

蜜璃は女子会の後、与えられた部屋で意気投合した禰豆子と寝るまで遊びに付き合い、そのまま共に就寝していた。しかし、尿意を催して(トイレ)に向かったのだが、位置を覚えていなかったのだ。

 

就寝前に一度行った場所とは言え、暗闇のせいもあって位置が分からず、焦燥感を抱きながら必死で探し、漏らす前に事を済ませる事が出来たのであった。

 

尤も、禰豆子との遊びに夢中で肝心な事を聞かなかった蜜璃が悪いのだが。そして蜜璃はある事に気付いた。

 

「どうしよう……私の部屋何処だっけ?……っ。」

 

蜜璃は(トイレ)を探すために蝶屋敷を歩き回る内に、部屋の位置を忘れていた。仕方なく勘を頼りに部屋を探す。

そうして歩いていると、蜜璃は思いも寄らぬものを見つけた。

 

「……っ!?……アオイちゃんっ!?」

 

蜜璃は廊下で倒れているアオイを見つけたのだ。最初は見間違いと思ったが、そんな事は無かった。

 

「……寝てるだけみたい……良かったぁ……ほっ。」

 

蜜璃は右手の石油洋燈 (ランプ)を床に置くと、急いでまずはアオイの脈を診て、それから他に目視と触感で身体の異常の有無を確認し、とりあえずその様なものは無いと安堵した。

 

しかし、蜜璃に二つの疑問が思い浮かんで首を傾げた。

 

「どうして、アオイちゃんが廊下(こんな所)で寝ているのかしらっ?……それとこの額に着けてる布……いや符っ?……なんだろう?」

 

しっかり者のアオイが廊下で寝る筈が無いので、蜜璃は不思議に思った。それから目の紋様が描かれた奇妙な符の存在に疑問を抱く。

 

半分捲れた様に額に付いていたのだ。しかし、幾ら考えても理由が分かる訳がないので、蜜璃は考えるのを止める。

 

「えーと、アオイちゃんをまず運ぶのが先よね……どっちかしら?」

 

蜜璃は廊下を見て、アオイの部屋がどちらの先にあるのか考えた。しかし、アオイの自室の位置など知らないので、仕方なく勘で行き先を選んだ。

 

「う~~ん……こっちねっ!」

 

アオイを抱き抱えると、石油ランプを手に取って蜜璃は歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

「合ってて良かったぁ……。」

 

蜜璃が廊下を歩いていると、アオイの名前が(ドア)が書かれた部屋を見つけたのだ。

早速、蜜璃は部屋に入ってアオイを寝かせた。

 

アオイを寝台(ベッド)に寝かせた後、蜜璃は退室しようと思ったが、アオイが付けていた符、否『紙眼』が気になって椅子に座りながら符について考えていた。

 

「何なのかしら?……この符みたいなの……っ?」

 

蜜璃は石油洋燈 (ランプ)の僅かな明かりを頼りに、両手で符の端を掴んで広げてみた。

 

「う~ん……あっ、そうだわっ! アオイちゃんは額にこれを付けていたから、付けてみたら分かるかもっ!」

 

蜜璃は上に『紙眼』を上げて見詰めると、そのまま目元に装着した。

 

「……な~んて起きる筈ないわよねっ…………『……くれますか?』……えっ?」

 

蜜璃は『紙眼』を付けてお道化て見せたが、突然聞こえる筈の無い声と景色が飛び込んできて思わず惚けた。

その声と景色に、蜜璃は耳と目に神経を集中させた。

 

「し、しのぶちゃんっ!?……それに炭治郎君に……カナヲちゃんまでっ!?」

 

思わぬ者達の登場に、蜜璃は声を出して驚いた。視点を考えると仕組みは理解出来ないが、どうやら天井から見下ろす形に成っている様だ。

当惑する蜜璃を余所に、炭治郎としのぶは行動に出ていた。

 

『ん❤……んんぁっ❤……はぁん❤』

 

『んんっ……っ。』

 

「っ!?」

 

二人は磁石の様に互いを近付いて口付け(キス)をした。その光景に驚愕する蜜璃。

 

――えっ!?……ええっ!?……炭治郎君としのぶちゃんって、そう言う関係だったの!?

 

あの真面目の塊の様なしのぶが、年下の男子に夢中になって口付け(キス)をしている。この事実が蜜璃にとって衝撃的だった。

 

これが通常の、他愛ない会話の中で炭治郎としのぶの恋仲を知ったなら、驚きこそすれ直ぐに祝福しただろう。

しかし、そんな事実よりも目前の行為に視線が釘付けだった。蜜璃が驚愕している間に、二人の行動に変化が起こった。

 

『んんっ❤……ちゅる❤……ちゅぱっ❤……れろぉっ❤……。』

 

『んんっ……ごくっ……じゅる……れちゃ……。』

 

「えっ?……えっ!?……あれも口付け(キス)なのっ!?」

 

徐々に舌を激しく絡ませる蛇が絡み合うが如き激しい呂の字(ディープキス)を見て、蜜璃は驚愕する。

口付け(キス)とは唇を合わせるだけものものだと思っていたがために、蜜璃は己の無知さを知る事となった。

 

「……っああぁ……んんっ❤……。」

 

蜜璃は炭治郎としのぶの口付け(キス)を見ているだけで、身体の熱量が上昇している事が分かった。

しかし、これがまだ序章である事もまた、理解していた。蜜璃の黄緑色の瞳は興奮と期待で彩られていく。

 

『ちゅっ❤……ふふっ❤……では早速、ご奉仕させて頂きますねっ❤』

 

『はい……しのぶさん、お願いします。』

 

口付け(キス)をして後に、しのぶは腹部に当たっていた炭治郎の逸物に顔を近付けた。此処でまた蜜璃はある事に気付いた。

 

「う……そっ……何あれ……っ。」

――あれ、大きくないっ?

 

蜜璃は炭治郎の逸物を見て驚愕を通り越して絶句する。されど、その視線は其処に釘付けだ。

 

「あ、あれが……炭治郎君の、お……おっ……~~っ!」

 

蜜璃は恥ずかしいのか、最後までその単語を口に出来ず口籠る。一方視線の先の光景は大きく変化しようとしてた。

直立している炭治郎に対し、しのぶが口を大きく開けて、その逸物を全て咥えて見せた。

 

『ああっ!……しのぶさんの……お口、気持ち良いですっ。』

 

『んっ❤……じゅぼっ❤……れろっ❤……じゅるっじゅるっ❤……おいひぃ❤……。』

 

「しのぶちゃんっ!?……あ、あんな大きいモノを、あの小さいしのぶちゃんが口一杯に……っ」

 

あのしのぶが整った顔を崩して炭治郎の逸物を下品に貪る様子に、蜜璃は手を口に当てて驚愕する。

だが蜜璃は喰い込む様に顔を前方に動かした。しかし、映像が変わる事は無い。

 

「うっ……うっ~~っ!!」

 

蜜璃はじれったそうに『紙眼』を額に着けたまま、それに触れ始めた。そうしている内にある事に気付く。

 

「視点が変わるけど……流石に近付けない、か……うぅっでももっと近くで見たいぃぃっ!!」

 

遠くも無いが近くも無い場所から偸視している現状に、蜜璃は思わず苛立ちから歯軋りした。

 

『紙眼』に使用用途が分からず、蜜璃は苛立ちを覚えていた。余談だが愈史郎は己の意志一つで、自由自在に動かす事が可能である。

 

苛立っている蜜璃を置いて、炭治郎としのぶの動きが変わった。蜜璃は炭治郎の声でその変化に気付いた。

 

『うぐっああっ!!……しのぶ……さんっ!……そろそろ出ますっ!……受け止めてっ!!』

 

 

 

ビュルルルルルルウウゥゥゥゥッッッ!!!! ビュルルビュルルビュルルルルッ!!!!

 

 

 

『~~~~っ❤❤……ゴクッ……ゴクッゴクッゴクッ……ゴクッ……っ。』

 

「っ!!? い、今……炭治郎君が射精しているのかな?」

 

蜜璃の予想通り、炭治郎が射精してしのぶの口内に濃厚な精液を流し込んでいた。しのぶもまたその射精を全力で受け止めて飲み尽くすと、顔を動かして逸物を綺麗に掃除する。

そのためしのぶが逸物から口を放すと、炭治郎の逸物はしのぶの唾液でテカテカに光った状態で姿を現した。

 

『ふうぅ……何十回も射精しているとは思えない程、濃厚で美味しかったですよ❤ 炭治郎君っ❤』

 

『良かったです。俺もとても気持ち良かったぁ……。』

 

『ふふっ❤……アオイやカナヲの下っ手糞な口淫より全然良かったでしょう? 良かったですよね? 炭治郎君っ❤』

 

「えっ!? 炭治郎君っ!……アオイちゃんともそう言う関係なのっ!?」

 

カナヲが炭治郎達の隣で全裸で寝ているのだ。そうなのではないかと思ったが、まさかアオイまで炭治郎とそう言う関係だとは思わなかった。

 

『ええっ……でも二人も決して下手では無いですよ? しのぶさん。』

 

『んもぅ……優しいんだから……でも私が一番上手ですよね?』

 

『……はい、しのぶさんが(カナエ以外では)一番上手です。』

 

『ふふっ❤ 当然ですっ❤ 炭治郎君への愛情なら誰にも負けませんし、何より私が一番多く身体を重ねているんですからっ❤』

 

炭治郎はそう言ってしのぶの言葉に肯定し、同意した。しのぶは炭治郎の言葉を歓喜を以て受け入れた。尤も、心中では炭治郎がしのぶとカナエを比較して、カナエの方が上手だと思っていた事は、炭治郎だけが分かる事であった。

 

しのぶは炭治郎の様子に気付かぬまま、敷布団に腰を下ろして足を開脚する様に広げてみせた。

 

『さぁどうぞ……炭治郎君❤……その御立派な日輪刀、私の膣内(なか)挿入(いれ)ても良いんですよっ❤』 

 

『……じゃぁ早速……っ。』

 

「えっ!? ちょっと待って、炭治郎君っ!? ほ、本当にしのぶちゃんの膣内(なか)にそれを挿入(いれ)るのっ!?」

 

蜜璃は動揺を隠さずに狼狽して、不意にそう叫んだ。咄嗟に口を両手で押さえたが、アオイは全く起きる気配が無かった。

ほっと安堵の溜息を吐くと、蜜璃は二人の状況を見守る。

 

大太刀の如き炭治郎の逸物を、短刀の鞘よりも小さく見えるしのぶの秘部に収めようと言うのだ。

しのぶが壊れてしまうのではないか? と蜜璃はしのぶを心配したのである。しかしそれが杞憂だった事に間も無く気付く。

 

『い、挿入(いれ)ますっ!』

 

『はいっ!❤……んっ❤……んんっ❤……んああああああっ!!❤❤』

 

「っ!?……ほ、本当に挿入(はい)ったぁ!?」

 

蜜璃は自身の両眼に映った光景が信じられなかった。あの小さく見えたしのぶの秘部が炭治郎の逸物を呑み込んで見せたのだ。

しかし、秘部が大きくなったりした訳では無かった。よくよく見たら、しのぶの下腹部が円柱状に膨張している。

蜜璃は過去に見た事がある、似た様な光景を思い出した。蛇が自身より胴回りの大きい獲物を呑み込んだ後の様子と酷似している。

 

 

 

パンっ! パンっ! パンっ! パンっ!

 

 

 

『あひぃぃっ!❤ 良いっ!❤ 良いぃのっ!!❤ 気持ち良いよぉ!!❤』

 

『ああっ! 俺も! 俺もです!……気持ち良いですっ!! 最高ですっ!! しのぶさんっ!!』

 

「あっ……ああっ……す……凄いっ……っ!」

 

炭治郎としのぶは隣で寝ているカナヲの存在など忘れた様に嬌声を上げる。

蜜璃は発情した獣の交尾の如き二人の情交(セックス)から視線を外せない。太腿をモジモジと擦り合わせながら、状況を見守る。

 

『あっ!……くぅっ!……好きですっ!……しのぶさんっ!……しのぶさんっ!』

 

『あああんっ!❤……私も好きぃ……好きぃっ!❤……大好きっ!!❤』

 

「あっ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……っ❤」

 

二人は互いの想いを告白しながら、更に激しく愛し合う。蜜璃は息を切らしながら、食い入る様に二人を見詰める。

そうして炭治郎が逸物の挿入を繰り返していると、炭治郎に限界が訪れる。

 

『……出るっ!……うぁああぁぁっ! イキ……ますっ……射精(だし)ますっ!!」

 

 

 

ビュルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥ!! ビュルルルルビュルルルルルルルウゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

 

 

『あああぁぁぁぁぁぁイクうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!❤❤』

 

しのぶは両手で敷布団を強く掴みながら、白濁の溶岩から齎される快楽に悶絶し弓反りになって絶頂した。

 

「……ああっ……はぁ……はぁ……しのぶちゃん……今、絶頂したんだよね?……すっごく……気持ち良さそう……っ。」

 

蜜璃は荒くなっていく息を整えながら、しのぶを見る。その両眼は羨望の色が宿っていたのだが、本人にはその自覚が無かった。

 

しのぶは快楽の津波から解放された後、炭治郎を見詰める。炭治郎は何も言わず、黙って顔を近付けてしのぶに労いの口付け(キス)をした。

炭治郎からの口付け(キス)を受けて、しのぶは言わずとも自身が何を求めているか察してくれた炭治郎に対して愛おしさが込み上げてくる。

 

『ちゅっ……しのぶさんっ、今度は後ろに向いて下さい……』

 

『あぁっ❤……っっ❤……(コクッ)』

 

しのぶが炭治郎の頼み事を聞いて頷くと、逸物が膣内に挿入された状態のまま器用に四つん這いの姿勢になった。

 

『ふうぅっ!……ふぅっ!』

 

炭治郎は荒く呼吸を繰り返しながら弓を限界まで引いているが如く、逸物をゆっくりしのぶの秘部から引いて行く。そして逸物の亀頭部分だけが、秘部に挿入されている状態にまで移ると其処で身体を震わせながら炭治郎は動きを止めた。

 

『あひぃっ!❤……か、カリが引っかかってぇ……っ❤❤』

 

『ふうぅっ!……ふぅっ!……行きますっ!!』

 

『ああぁぁんっ!❤』

 

炭治郎が一気に逸物を挿入すると、しのぶは大きな嬌声を上げて頭を仰け反らせた。正常位から後背位に切り替えて休みを挟む事無く情交(セックス)を続ける二人に、蜜璃は驚きを覚えていた。

 

「……ま、まだするんだ二人共……(ゴクッ)……っ。」

 

二人の性欲の強さに驚きながら、蜜璃は唾を呑み込んだ。

 

炭治郎としのぶの情交(セックス)を覗き見している蜜璃だが、実は過去にも似た様な体験を何度かやっていた。

 

蜜璃の両親は近所ばかりか、故郷の町でも有名な鴛鴦夫婦であった。結婚して二十年以上経とうとも、その仲睦まじい関係は変わる事が無い。

 

その為か、頻繁に情交(セックス)を重ねて数年に一度は子供を出産しており、多い時期には毎年出産していた事もあった。その為、蜜璃は何度か尿意を覚えて(トイレ)に向かった際には両親の情交(セックス)を目撃しているのだ。

 

幼少期は何をしているか分からなかったが、年齢を重ねる毎に意味が分かって性に興味が惹かれたものだ。

 

それが自身よりも年下の男女が、情交(セックス)に夢中になっている。それも両親以上に激しいものだった。蜜璃はこれから先に起こる事に期待して、秘部を濡らしながら熱い視線を向けていた。

 

しかし、其処から再開された炭治郎としのぶの情交(セックス)は想像以上のものだった。

 

一度は射精をしたのだから流石に落ち着いていくものだと蜜璃は思っていたのだが、そんな事は無かった。蜜璃の父親が二回若しくは三回の射精で落ち着くものだから、それが男性の精力の基準だと思っていた。

 

しかし蜜璃は今日、そんな基準にも例外が存在するのだと知った。蜜璃は期待以上の光景に更なる興奮を覚え、それは自身の身体にも表れていった。

 

「んふぅっ……ああん❤……あんっ❤……指が……止まらないっ……。」

 

蜜璃は無意識のうちに寝間着を脱いで半裸になっていた。寝間着は肌蹴ており、その豊かな乳房は解放されていた。

 

右手で乳房を、左手で秘部を弄って自慰に耽っていた。口からも涎を絶えず垂らしている。

最初こそ止めようとしたが、直ぐに忘れてしまった。そんな蜜璃を余所に、炭治郎としのぶの情交(セックス)は激しさが増して行くばかりだ。

 

『うぁあんっ!❤ い、良いぃっ!❤ 違う所に擦れて……当たってっ……気持ち良いっ❤ ひゃああんっ!❤』

 

『あぁっ!……しのぶさんっ……しのぶさんっ!』

 

しのぶは涎を垂らしながら、快楽に酔い痴れる。しのぶの口元から、唾液が重力に従って布団の上に落ちた。

 

『はあぁっ!……しのぶさんっ……この体勢だと……しのぶさんの丸くて可愛いお尻が丸見えですよっ!!』

 

『やああんっ!❤ い、言わないでぇっ!!❤ あああんっ!❤』

 

しのぶの臀部を両手で揉みながら炭治郎がそう言って褒めると、しのぶは羞恥心からその美貌を真っ赤に染める。その際に、膣内が圧縮する様に逸物をキュッと締め付けた。

 

『あぐぅっ!?……あああああっ!!!』

 

 

 

ドビュビュッ!! ビュリュルルルルルルウウウウゥゥゥゥッッ!!

 

 

 

『んあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!❤❤❤』

 

炭治郎が大声を上げると、逸物を根本まで突き入れて子宮口まで叩き付けた。其処から零距離で叩き付けられる精液の熱に両眼を見開く程の快楽に襲われて、しのぶは大きく絶頂する。

 

『あぁっ❤……はぁあっ❤……あああっ!?❤❤』

 

荒く呼吸を繰り返して呼吸を整えていたしのぶだったが、唐突に大きな嬌声を上げた。

 

炭治郎がしのぶの腰を掴むと、逸物を挿入したまま再びクルッと身体を半回転させたのだ。

 

一度正常位の体勢に戻した炭治郎だが、しのぶの腰を掴んだままその小柄な身体を持ち上げるとそのまま抱擁して身体を密着させて抱き地蔵(対面座位)の姿勢を取った。

 

炭治郎に抱き締められて抱擁を受けるしのぶは、そのままその豊満な乳房を形が変わるほどに胸板に押し付ける。

 

『ああんっ!❤……そ、そんなに押し付けないでぇ❤ 子宮(おく)に……子宮(おく)にコツコツ当たってるからぁっ!!❤❤』

 

炭治郎の頸に両腕を回して抱き着きながら、しのぶは快楽に見悶えていた。

 

『ふぅ!……ふぅ!……っっ!!』

 

しかし炭治郎は構わず腰を上方に突き上げて、挿入した逸物で膣内を掻き回し子宮を刺激し続ける。しのぶは拒絶の言葉を口にこそ出しているが、本人からは歓喜の匂いしかしなかったからだ。その為、炭治郎は逆に激しくすれども緩めたり況してや止める様な真似はしなかった。

 

「あぁっ❤……ふぅうんっ❤……二人共、凄く気持ち良さそう❤……っっ❤」

 

『紙眼』越しから二人の気持ち良さそうな顔を見て、蜜璃は羨望の混じった声を上げて自慰を続ける。そんな蜜璃の胸中では、ある願望が宿り始めていた。

 

――炭治郎君としのぶちゃんが居る部屋の中、どうなっているんだろう??……知りたいっ。

 

蜜璃は既に偸視だけでは、物足り無さを感じ始めていた。

 

――どんなに感じなのかしら? 躊躇しないでしのぶちゃんは炭治郎君のを舐めてたけど、美味しいのかな? 気持ち良いのかな?……良いなぁ羨ましいなぁ……。

 

蜜璃の羨望感は、何も炭治郎をしのぶに取られた事による嫉妬では無い。蜜璃は炭治郎に好意は抱いているが、それは家族愛に等しいもので恋愛感情では無いのだ。

 

鬼への復讐心や無辜の民から鬼を守りたいと言う正義感、或いは家業故に義務感や使命感から鬼殺隊に在籍している隊士達の中で、唯一自身の婿探しの為にと言う異色の動機から鬼殺隊に入隊している蜜璃である。

 

それがしのぶに自身の目標を先に成し遂げられて、蜜璃はその事実に羨望感や嫉妬心を抱いていたのだ。

 

――私もっ……早く運命の旦那様に巡り合いたいわ……っ。

 

そう思いながら、自慰する手が止まらない蜜璃。するとある出来事が、蜜璃の手を止めた。

 

「んんっ……んんっ~~っ。」

 

「っ!?」

 

アオイの声を聞いて、蜜璃は飛び上がりそうになるぐらいの衝撃を受ける。

ハッと我に返った蜜璃は急いで寝間着を着直そうとしたが、アオイが勢い良くガバッと起き上がったため、蜜璃は思わず硬直して動けなくなってしまう。

 

三つを数える程の静寂の後、アオイは青筋を立てて声を荒げた。

 

「糞がっ!!……あの色惚け柱ぁっ!?」

 

アオイとは思えぬ暴言を吐いた後、アオイは勢い良く自室から飛び出て駆け出した。蜜璃はアオイの電光石火の如き素早い行動に呆気に取られてしまう。

 

「えっ、あれ?……私、気付かれてないの?」

 

蜜璃の呟きがアオイの自室内に響いたが、それに反応する者など居なかった。そのまま数分、じっとしていると炭治郎の自室で変化が起こった。

 

『んああぁっ!!❤ 炭治郎君っ!!❤……私っ……もう、イきそうっ……っっ❤』

 

しのぶが歯を食いしばりながら、口元から涎を垂らしながら絶頂すまいと必死で快楽に耐える。

そんなしのぶを見て、炭治郎も即座に応えた。

 

『しのぶさんっ! 俺もっ! イきますっ!! 射精()しますっ!!!』

 

『ああんっ!❤ 来てぇっ!!❤❤』

 

 

 

ドビュルルルルルルウウウウゥゥゥゥゥ!! ビュルルルルビュルルルビュルルルルルウウウウゥゥゥゥッッ!!

 

 

 

『あああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!❤❤❤』

 

炭治郎を絞殺さんばかりにしのぶは全力で炭治郎に強く抱き着きながら、押し寄せて来る白濁の溶岩を子宮に受けて絶頂した。

 

『うおおっ……おおおっっ。』

 

炭治郎は搾り取ろうとしてくる膣圧からの快楽に酔い痴れながら、子宮に目掛けて白濁の溶岩を浴びせ続けた。

 

『はぁ❤……はぁ❤……はぁ❤……んんっ❤』

 

『んっ』

 

しのぶは快楽が収まるのと同時に、炭治郎に余韻の口付け(キス)を行う。炭治郎も拒否する事無く、口付け(キス)を受け入れる。

 

唇が触れるだけの口付け(キス)をしながら、しのぶは身体を起こして膣内に挿入されていた逸物から離れる。その後は何も言う事無く、黙って精液と愛液の混ざった混合液に塗れた逸物の掃除を始めた。

 

炭治郎はしのぶの行動を最初から分かっていたのか、何も言わずに身を委ねる。

 

『れろっ……綺麗になりましたよ。炭治郎君っ』

 

『ありがとうございますっ。しのぶさん。』

 

しのぶは口淫(フェラチオ)をして、真っ白に染まっていた逸物の掃除を終える。既にしのぶの秘部からは大量の精液が垂れていた。

 

『……にしてもまだまだガッチガチじゃあないですかっ。本っ当に底無しですねぇ。』

 

『俺のお相手をして下さってるのが、絶世の美女なものですから。飽きるとか枯れるなんて三文字は、少なくとも俺の辞書の中にはありませんよっ。』

 

『んもうぅ……お上手なんですから……私だってそうなんですからね! 炭治郎君は最高の殿方ですっ!!』

 

しのぶは負けじとそう叫ぶと、炭治郎に強く抱きしめた。そして抱擁を解くと、二人同時に顔を近付けて口付け(キス)をした。

 

 

バァン! ガッシャン!!

 

 

『『っ!?!?』』

 

『しのぶ様ぁっ!!!』

 

突然、竈門兄妹の室内に響いた大音に驚いて炭治郎としのぶは、口付け(キス)を止めて音の鳴った方向へ視線を向ける。

すると其処には青筋を立てたアオイが室内に入って来ていた。




お待たせしました。大正時代でまさかの盗撮兼視姦プレイ。炭蜜と思った方すみません。さすがにまだ其処まで行けない。
まぁエロゲーかギャルゲーみたいにヒロイン育成しているみたいでこれはこれで楽しいのですが。
それから予定してなかった炭アオも大幅に加筆。原作への腹癒せのつもりです。お陰でより多く炭蜜も加筆出来ましたがね。

次回の更新予定は今月中には上げます。少々お待ち下さい。

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たんたん溜まり様

ユーザーID
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炭蜜を中心に炭治郎×鬼滅女子ssを書いておられます。更にイラストも手掛けている両道な方です。是非ご覧になってみて下さい。


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第弐拾肆話 桃蝶は日輪の秘事を凝視する ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・前話も改訂しているので、そちらも併せてお読み下さい。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「ええっ!?……アオイちゃん、もう炭治郎君の下へ行ったのっ!?」

 

蜜璃は飛び出したアオイが炭治郎の部屋に向かって行った事が分かって驚いた様だ。

アオイが激昂している様子を見て、蜜璃は嫌な予感を感じる。誰が見ても分かる。これから修羅場が起きるのだと。

 

「え、えーと……止めに行かないと……駄目よね?」

 

誰かに同意を求める様に呟いた蜜璃だが、自身以外誰も居ないのだから、返答など有る筈が無い。

 

『フッ――! フッ――! フッ――!』

 

『あ、アオイ……とりあえず落ち着きなさい。あ、あの事なら謝るから、ね?』

 

アオイは猫の如く威嚇する様な声を出してしのぶを牽制する。しのぶはアオイに打ち込んだ薬が思ったより早く切れた事に動揺して要らぬ単語を口にした。

 

『あの事? 謝る??』

 

『うっ……。』

 

炭治郎が呟く様に言った言葉に、しのぶは動揺して口籠る。そんなしのぶの様子を見て、炭治郎が質問した。

 

『しのぶさん。貴女が此処に来る前に何が遭ったのか、教えて頂けますね?』

 

『……はいっ。』

 

しのぶは観念した様に、炭治郎の事の経緯を説明した。

 

「……成程っ。だからアオイちゃんは廊下でお眠りしていたのね……ってしのぶちゃんそれやり過ぎっ!?」

 

蜜璃はアオイが廊下で眠っていた経緯を聞いて、納得したが即座に過剰とも言えるしのぶの行動にツッコミを入れた。

 

『……はぁ。』

 

経緯の一部始終を聞いた炭治郎は、困った様子で溜息を吐いた。

 

『……しのぶさんっ。』

 

『はい……っ!?』

 

『っ?!』

 

「あれ?」

 

炭治郎はしのぶの名前を呼ぶと、しのぶを優しく抱き締めた。

思わぬ抱擁に、しのぶとアオイ、そして蜜璃は驚きを隠せない。

 

『しのぶさん。俺は貴女の寛大なご厚意のお蔭で、今のこの幸せな状況を噛み締める事が出来ています……ですがそのためにしのぶさんやアオイさん、カナヲが傷付いたりするのは悲しいです。不満も怒りも苛立ちも、俺が全て受け止めます。なので今後はその様な事が無い様に、止めて頂けますね?』

 

『……ええっ。私もやり過ぎました。』

 

炭治郎の説得を、しのぶは真摯に受け止める。しのぶは炭治郎の抱擁を解かれた後、アオイに面と向かう。

 

『アオイ。やり過ぎたわ。先刻(さっき)はごめんなさいっ。』

 

『いえ、油断した私が悪いので。もし私がしのぶ様のお立場だったなら、きっと似た様な事をしていたでしょう。』

 

アオイがそう言い終わると、右手を差し出した。しのぶは差し出されたアオイの右手を見て、笑みを浮かべて同様に右手を差し出し、和解の握手をした。

炭治郎はしのぶとアオイが和解出来た事に安堵した。蜜璃もまた、一触即発の事態が無くなった事を喜んでいた。

 

『炭治郎君。私は此処でアオイと交代します……アオイっ。私は仮眠を取ってからきよ達の朝食作りを手伝うから、貴女は炭治郎君に可愛がって貰いなさい。』

 

『分かりました。しのぶさん、お疲れ様。』

 

『はいっ! お疲れ様でした、しのぶ様っ!』

 

「えっ?……普通に聞き流すところだったけど、炭治郎君、まだ犯るのっ!?」

 

炭治郎としのぶが情交(セックス)を始めて二時間以上経過し、丑三つ時(午前三時)になろうとしていた。

 

それでもまだ情交(セックス)を続けようと言うのだ。もう何度、驚愕したか分からない蜜璃だったが、炭治郎の精力絶倫に驚かずにはいられなかった。

しかし、蜜璃は情交(セックス)の光景が引き続き見れるであろう事に内心歓喜し、期待の色で瞳を染め切っていた。

 

『えーと……アオイさん、俺は構わないけれど……この部屋で犯るの?』

 

『はいっ?……っ!』

 

「うんっ?……あっ!?」

 

炭治郎の質問に、アオイと蜜璃は首を傾げた。しかし直ぐに蜜璃がその質問の意図に気付いた。

アオイが部屋の(ドア)を蹴破ったため、部屋は誰もが常に覗ける無防備な状態を晒しているのだ。

 

これでは愈史郎の『紙眼』の隠密性も意味をなさない。アオイもその事に気付いた様で、自身の軽率な行動に今更ながら後悔していた。

しかし、アオイは直ぐに思考を切り替えて、意を決した様に炭治郎の両手を掴んで提案した。

 

『炭治郎さんっ! こっ、此処じゃなくて、私の部屋に移りましょう!』

 

「っ!?」

 

『アオイさんの部屋に……分かったっ……ちょっと着替えるね?』

 

『はいっ!』

 

炭治郎はアオイから解放されると、身体を拭いてから紫色の寝間着を着用してからアオイをお姫様抱っこで抱き抱えた。

 

『きゃっ!?』

 

『ご案内させて頂きます。俺の愛しいお姫様。』

 

『……はいっ❤』

 

アオイはうっとりとしながら、炭治郎に全身を委ねて凭れ掛かる。それを見て炭治郎はアオイの部屋へ向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十四日(金)

時間帯:深夜

天気:晴れ

 

 

「……えっ?……えっ!?……アオイちゃん達、こっちに戻ってくるのっ!?」

 

蜜璃は焦燥感を隠せない様子で狼狽していた。冷や汗を流しながら、蜜璃は一考する。

 

「と、とりあえず、服を着てこの部屋を出ないと……っ!」

 

アオイ達が戻ってきたら今度こそバレる。蜜璃はそう思って立ち上がり、アオイの部屋にある姿見鏡の前に立った。

 

「ええっ!? な、何でっ!?」

 

姿見鏡の前に立った蜜璃は先程よりも大声を出して驚愕した。その理由は姿見鏡にあった。

 

「私の……私の姿が消えてるっ!?」

 

姿見鏡を見て、寝間着を整える筈だった蜜璃。しかし、姿見鏡に映っていたのは半裸の自身ではなく、反射で映る室内だった。

絶句した蜜璃だったが、姿が消えている原因を考えると、それは一つしか思い当たらなかった。

 

「……やっぱりっ!!」

 

それは額に付けている『紙眼』であった。蜜璃は『紙眼』を外すと、ゆっくりと自身の肉体が姿見鏡に映った。

蜜璃は確信を得ると、何度も着脱を繰り返してから考察を始め、そしてある考えに至った。

 

――後でしのぶちゃんに『紙眼(これ)』が何なのか聞くとして、『紙眼(これ)』を付けると姿も見えなくなるんだ……と言う事はっ!

 

「『紙眼(これ)』を着けていれば……これから行われる炭治郎君とアオイちゃんの情交がバレずに見れる?」

 

蜜璃は無意識にその考えを口にしてから、ゴクッと唾を飲み込んだ。その瞳は興奮と期待で彩られていた。

 

「い、急がないと……っ!」

 

蜜璃はそう言うと、寝間着を脱いで折り畳み、室内の隅に隠した。その途中で両手の寝間着を持ったまま、鏡の前を通る。

 

「身に着けている物や持っている物もちゃんと消えるなんて本当に凄い……でも足音は消えなかったから音まで隠せないみたい……其処だけ気を付ければ良いわね。」

 

恐ろしい速さで『紙眼』の使い方を覚えながら、蜜璃は寝台(ベッド)の真横の木床に座り込んだ。途中でアオイの部屋に有った、綺麗な布巾を持っている。

 

甘露寺蜜璃は鬼への怨恨ではなく、婿探しを目的として鬼殺隊に入った一際変わった経緯の持ち主だ。車内でその話を聞かされた炭治郎も、一瞬その理由を聞いて絶句した程である。

将来の夫との出会いを夢見る蜜璃だが、その将来の夫のためと称して性知識の勉学も貪欲だった。

 

書物や又聞きだけではない、本物の情交(セックス)が間近で見られる好機(チャンス)なのだ。むざむざその好機(チャンス)を自分から手放す気は無かった。

丁度その時、部屋の(ドア)が開いた。

 

「っ!!」

 

蜜璃は咄嗟に気配を殺して片手で口を押さえた。すると炭治郎がお姫様抱っこのまま、アオイを連れて部屋に入って来た。

炭治郎は足で(ドア)を閉めてから鍵を掛けると、寝台(ベッド)まで移動してからアオイを降ろす。

炭治郎とアオイは黙ったまま互いを見詰めると、静かに口付け(キス)をした。

 

――っ!!……わぁ……私の前で早速口付け(キス)しちゃってるっ……凄い。

 

「っ……ちゅっ……ちゅっ……っ。」

 

「っ!……ちゅっ❤……んちゅっ❤……っ❤」

 

蜜璃は眼前で口付け(キス)をする二人に熱い視線を送る。炭治郎達は蜜璃に気付く事無く、更に舌を絡めて激しく口付け(キス)をする。

口付け(キス)をしながら、二人は互いの寝間着に手を掛けて脱がして行く。

二人が唇を離すと、唾液で出来た銀色の橋が現れて崩れていき、ポタッと木床に落下した。二人は全裸になり、そのまま寝台(ベッド)に倒れ込んだ。

 

「炭治郎さん……お願いします……私もカナヲみたいに……っ❤」

 

「分かった……行くねっ。」

 

「はいっ!❤……ああっ!!❤」

 

アオイに覆い被さる様に上になっていた炭治郎が、仰向けに寝ても強く主張する乳房を鷲掴みにした。

 

「はあああん❤……ああっ!❤……ああっ!!❤」

 

――わぁ……炭治郎君……餅を捏ねるみたいにアオイちゃんの乳房(おっぱい)を揉んでる……気持ち良さそう……。

 

蜜璃は口に布巾を咥えて声が漏れないようにしてから、自身の乳房を揉み始める。

 

「あんっ❤……ああんっ❤……あっ!❤」

 

暫く揉まれて落ち着いて来た嬌声が、再び大きく奏でられた。炭治郎が乳首を摘まんだからだ。

炭治郎はその反応に満足すると、乳房と乳首を交互に愛撫して行く。

 

「ああっ❤……たん……じろぉ……さぁん❤……これも、良いんですけどぉ❤……っ。」

 

「これも……何だい? 言ってくれなきゃ分かんないよっ?」

 

「あうぅっ……意地悪ぅ……っ。」

 

アオイは炭治郎に抗議する様に、涙目で睨み付ける。それに炭治郎は愛らしさしか感じない。

 

「あははっ。ごめんごめん……これで許してよ。」

 

「んっ❤……。」

 

炭治郎は詫びも兼ねてアオイに口付け(キス)すると、アオイの機嫌は一転して良くなった。

口付け(キス)を止めて唇を離すと、次にピンと屹立している乳首を狙いを定めて吸い付いた。

 

「あああんっ!❤……良い……良いですっ❤……もっとぉ……っ❤」

 

「ちゅばちゅば……れろれろっ……ちゅうぅぅ……。」

 

「ああううぅっ!❤……あんあああんっ!❤……好きっ❤……乳房(おっぱい)弄られるの好きぃ❤」

 

炭治郎は左右の乳房を交互に吸って愛撫する。

炭治郎の愛撫を感じて、アオイは頭を左右に振りながら嬌声を上げる。

 

――はぁ……はぁ……んんっ!……炭治郎君……赤ちゃんみたい……可愛いかもっ❤……。

 

蜜璃も自身の屹立している乳首を摘まんで愛撫する。その刺激を感じて身体を動かすと、くちゃっと水音が鳴ったため音源に視線を向けた。

自身の秘部から流れた愛液が溜まって水溜りならぬ愛液溜まりが出来ていた。

 

「んあああああっ!!❤❤」

 

――っ!!

 

一際大きな嬌声を耳にして、顔を上げた。視線の先では、炭治郎が左右両方の乳首を纏めて吸っていた。

アオイはその刺激を受けて絶頂した様だ。

 

「アオイさんっ。良かった?」

 

「はぁ❤……はぁ❤……はいっ❤」

 

「みたいだね……挿れる前にさ、一回お願いしても良いかな?」

 

「っ!❤……勿論ですっ、喜んでっ❤」

 

アオイはそう言って早速、炭治郎の逸物に顔を近付けた。すると炭治郎がアオイに一声掛ける。

 

「あっ……その前にアオイさんも俺の方にお尻を向けてくれる?」

 

――っ!?

 

「えっ……ええっ!?」

 

「一緒に気持ち良くなろうよっ。」

 

「ううっ……はいっ……恥ずかしいですけどっ……。」

 

アオイは顔を赤面しつつ、身体を動かして臀部を炭治郎の顔に乗せる。

 

――凄い格好してる……て言うか炭治郎君のデカっ……直接見ると全然違うっ!!

 

蜜璃は熱り勃つ炭治郎の逸物を見て、ゴクリと唾液の塊を呑み込んだ。

 

「れろれろ……じゅるる……じゅるるるるるっ。」

 

「んんっ!❤……れろっ❤……ふぁああ❤……んっ~!❤……くちゅくちゃ❤」

 

――ふぁああ……凄い……先刻(さっき)から凄いとかしか言ってないけど凄いっ……っ!

 

蜜璃は布巾を噛む力と自慰する手を強めながら、更に目を釘付けにして二人を見詰める。

 

――はぁ……はぁ……もっと……もっと近くで見たい……見てみたい。

 

蜜璃は二人が夢中になって互いの性器を愛撫するのを見て、発覚の危険性は低いと判断して四つん這いになってゆっくりと接近する。

 

三尺三寸(一m)まで距離を詰めると、それは起こった。

 

 

ビュルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥ! ドピュドピュドピュドピュッ!!

 

 

――っ!!!

 

「~~~~っ!!!❤❤❤」

 

「くちゃ……うわっ!?」

 

どちらを先に絶頂させられるか競う様に愛撫していた二人だったが、炭治郎が先に絶頂して射精した。

しかしアオイも精液を受け止めて、その歓喜と達成感で絶頂して秘部から潮を吹いた。

アオイは一滴も零すものかとゴクゴクと飲み干して行く。蜜璃は興奮しながらその様子を脳内に焼け付ける。

 

「んっ~~❤……くちゃ……ご、ご馳走様でしたぁ❤」

 

「ありがとう、アオイさん。気持ち良かったよ。」

 

炭治郎はアオイに礼を言うと、身体を滑らせるようにアオイの後ろに移る。アオイも移動しようとしたが、炭治郎がアオイの括れた腰を掴んで阻止した。

 

「あっ!❤……炭治郎さんっ!❤」

 

「アオイさんはそのままで……このまま挿入(いれ)たいっ。」

 

「……はいっ❤……どうぞっ❤」

 

アオイは壁に両手を着いてから臀部を炭治郎に向ける。その際に愛液が垂れる秘部を、臀部ごとフリフリと振って炭治郎を誘ってみせた。

そんな扇情的なアオイを見て、射精した逸物は一瞬で硬さを取り戻す。

 

――ああっ❤……とうとう……あんな大きいのをアオイちゃんの膣内(なか)挿入(いれ)ちゃうんだ……ねじ込んじゃうんだっ……んんっ❤……(ゴクッ)。

 

ますます愛液溢れる秘部を弄りながら、蜜璃は視線を更に集中させる。鬼狩りの時ですら、これ程に集中した事は無い。

 

「ああっ❤……ああああああっ!!❤」

 

「うぐっ……アオイさんも凄いっ……っ!!」

 

――は……入っちゃった❤……あんな大きいのを……アオイちゃんの膣内(なか)挿入(いれ)ちゃった……。

 

蜜璃は眼前の光景が信じられず、目を見開いてその様子を凝視する。

一方の炭治郎はそんな蜜璃に未だ気付く事無く、アオイを夢中で貪る。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「ああぁぁっ!❤ あああんっ!❤ ああああんっ!❤」

 

「はぁっ! アオイさんっ! はぁっ! はぁっ! アオイさんっ! アオイさんっ!」

 

――ふぅ……ふぅっ!……あんなに……激しく……獣の交尾みたいな……ふぅ……ふぅっ……アオイちゃんも炭治郎君も気持ち良さそう……っ。

 

炭治郎は叩き付ける様な挿入を繰り返しながら、大きく跳ねるアオイの乳房に狙いを定める。腰を掴んでいた両手を離して思い切り乳房を揉み始めた。

 

「ああんっ! お、乳房(おっぱい)までぇ……っ❤!」

 

「アオイさんの乳房(おっぱい)……気持ち良いよっ……っ。」

 

炭治郎は乳牛の乳を搾る様に揉んでいくと、快感が増してアオイの嬌声が大きくなる。

蜜璃もまた、興奮が増していく。既に何回も絶頂していた。

 

――はぁ……はぁ……ふぅ……ふぅっ……っっ。

 

蜜璃はトロンとした目で二人を見詰める。その目には羨望の色が見て取れた。

 

「ああっ! 射精《だ》すっ! 膣内(なか)射精()すよっ!! アオイさんっ!」

 

射精()してぇ! 全部、全部下さいぃぃぃっ!!❤」

 

――炭治郎君……アオイちゃんも……イキそうなのね……ああっ、私もイキそう……イクッ!

 

 

ビュルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥ! ドピュドピュドピュドピュドピュドピュッ!!

 

 

「あああああああぁぁぁぁぁぁっ~~~~!!!❤❤」

 

――~~~っ!!!

 

大量の精液を受けて、アオイは絶頂して嬌声を上げた。炭治郎も涎を口から垂らしながら射精の快感に震える。

そしても蜜璃もまた共鳴したかの様に絶頂したが、噛んだ布巾のお蔭で声を漏らす事は無かった。

 

「はぁ……はぁ……まだまだ行くよ……アオイさんっ。」

 

「は、はいぃ❤……もっと……もっと私を炭治郎さんで染めて下さい……っ❤❤」

 

蕩け切った様子で、アオイが炭治郎に嘆願した。炭治郎はアオイの同意を得ると、ニヤッと笑って行動に出た。

 

「ふぅっ。」

 

「あぁっ……えっ?……えぇっ!?」

 

炭治郎は一息着くと、何と逸物を秘部から抜いてしまった。唐突の喪失感に襲われて、アオイは動揺する。

 

「きゃっ!?」

 

動揺するアオイを余所に、炭治郎は足を掴んでアオイの身体をクルッと回す様に動かした。

 

「ひゃぁんっ!!?」

 

炭治郎と正面から向き合ったアオイだが、再び当惑した様子で悲鳴を上げる。炭治郎が抜いた逸物を、秘部の上にピタッとのし上げたからだ。その長大な逸物は、秘部ばかりか臍まで覆った。

 

その光景が、蜜璃の視線を釘付けにする。

 

――や、やっぱり大きい……あんな大きいのに、しのぶちゃんやアオイちゃんの膣内に挿入(はい)る事が出来るなんて……っ。

 

蜜璃は我ながら、女体の神秘に感心していた。しかし、アオイはそれどころでは無かった。

 

「な、なんでぇ?……何で、抜いたんですか?……挿入(いれ)て……挿入(いれ)て下さいっ……お願いしますっっ。」

 

アオイは腹部から逸物の熱を感じながら、炭治郎に再び挿入してくれる様に嘆願した。そんなアオイに、炭治郎は笑みを浮かべて応える。

 

「ごめんごめん、意地悪がしたい訳じゃないんだ……ただ、アオイさんの顔を見ながら、愛し合いたかったから。」

 

「っ!!❤❤」

 

炭治郎からの告白に、アオイは胸を射抜かれる様なときめきを覚えた。先刻まで抱いていた不満など、当に消滅してしまっている。

 

「あっ❤……あぅっ❤❤……わ、私も……炭治郎さんのお顔が見たいですっ❤……っ❤❤」

 

アオイが顔を赤く紅潮させながら、恥ずかしそうにそう言って炭治郎に想いを伝える。炭治郎はそんなアオイに、口付け(キス)をして応えた。

 

――あわわ……すんごいイチャイチャしてる……二人共、幸せそう……。

 

蜜璃は口付け(キス)を交わす炭治郎とアオイを見て、二人が如何に幸せな状況に居るかを観察する。

 

「「ちゅっ……んちゅっ……ちゅううぅぅっ。」」

 

唇を触れ合うだけの口付け(キス)を続けながら、炭治郎は器用に身体を動かした。

 

「ちゅうぅっ❤……~~~~っ!?❤」

 

炭治郎との口付け(キス)を堪能していたアオイだったが、唐突に瞑っていた両眼を見開いた。

 

不意打ち気味で挿入された逸物の感触に、アオイが強く反応したからだ。

そんな自身の予想よりも良い反応をしたアオイを、炭治郎は嬉しそうにしながら更に子宮口まで逸物を深く挿入した。

 

「~~~~ぁぁっ❤……もうぅ❤、いきなりぃ❤……っ❤❤」

 

唇が自由になったアオイは、歓喜しつつも抗議する様に炭治郎を睨み付けた。そんなアオイの視線を真正面から受けても、炭治郎はただ苦笑するだけだったが。

 

――うおっ!?……あ、あの炭治郎君がアオイちゃんに意地悪な真似を……普段の彼からは、とても考えられないわぁ……。

 

炭治郎と蜜璃が本格的な交流を果たしたのは、昨日が初めてだ。はっきり言って付き合いなど、まだ無いに状況である。

 

しかしそれでもあの優しさの塊とも言える炭治郎が意地悪な真似を、それも異性に対して行うなど普段の炭治郎のならば絶対にしないだろうと言う事は現状、付き合いが短い蜜璃でも分かる事であった。

 

炭治郎の新たな一面を見て、蜜璃は思わずドキッと胸が高鳴った。

 

「っ!!」

 

そんな蜜璃の事など知る由も無いアオイは、炭治郎を見てある事に気付いた。その時には、炭治郎も行動に移ろうとしていた。

 

「アオイさん、行くよっ……。」

 

「あっ! 炭治郎さんっ、待ってっ!」

 

「っ!」

 

――!?

 

炭治郎が一言だけ事前にアオイに伝えた瞬間、アオイが炭治郎を静止する為に抱き着いて抱擁した。

 

これが言葉だけなら構わず反復動作(ピストン)を行う所だが、流石に抱き着かれては炭治郎も静止せざるを得なかった。

 

蜜璃もまた、情交(セックス)を再開させるのだろうと言う予想が外れた事に驚きつつも、アオイが何をするのか気になって静かに状況を見守る。

 

「えっと……どうかしたの? アオイさん。」

 

炭治郎は少々戸惑いつつも、アオイに自身を静止した理由を尋ねた。炭治郎に尋ねられたアオイは、少し抱擁を緩めて炭治郎と向き合った。

 

「炭治郎さん……お疲れですよね?」

 

「えっ!?」

 

――っ!?

 

アオイが心配する様に疲労感を指摘されて、炭治郎は少々動揺する。

 

「……」

 

動揺している炭治郎を見て、アオイは確信を得る。自身の豊満な乳房を炭治郎の逞しい胸板に押し付けながら、アオイは炭治郎に抱き着いて耳元に囁い始めた。

 

「無理はしないで下さい。カナヲにしのぶ様、最後に私を続けて抱いているんですから。鬼じゃあるまいし、炭治郎さんが疲れているのも当然です。」

 

「……ごめんね、アオイさん。」

 

アオイが囁く様に口にした指摘を耳にして、炭治郎は観念した様子でアオイに謝罪した。

 

――あ、そうか。そうだよね……カナヲちゃんと何回したかは知らないけど……しのぶちゃんとは何回もしたのは私も見てるし。それに見てるだけの私でさえ、こんなに体力を使うんだもん。当事者の炭治郎君が疲れない訳無いわよね。

 

炭治郎の精力絶倫振りを見て、限界が無いのではと思っていた蜜璃。それがアオイの指摘を聞いて、思わず納得してしまった。

 

一方で炭治郎に謝罪されたアオイは、苦笑しながら頬に口付け(キス)を落とした。

 

「ちゅっ❤……謝らなくて良いんですよ。こうして炭治郎さんと一つで居るだけでも、私は幸せですから……っ❤」

 

「っ……ちょっと休めば調子が戻ると思うから、少しの間だけ待って欲しい。その代わり……。」

 

アオイの言葉に炭治郎は嬉しく思いながらも、詫びる様にそう口にした。そして直ぐに、炭治郎は行動に移る。

 

「ああんっ!?❤」

 

「はぁっ……やっぱり、柔らかくて気持ち良いなぁ。」

 

炭治郎は恍惚な表情を浮かべながら、両手でアオイの乳房を堪能する。しかし餅を捏ねるが如く揉み下す訳でも無く、ただ両手に置いているだけである。

 

「はぁんっ!❤……くふぅっ❤……あぁっ!❤」

 

「……ふふっ。」

 

乳房を触れられて身悶えるアオイを見て、炭治郎は嬉しそうに笑った。しかしその笑みには、意地悪な色が見て取れた。

 

「アオイさん。俺は乳房(おっぱい)に手を置いているだけなんだけど、気持ち良いの?」

 

「あああっ❤……だ、だってぇっ……炭治郎さんの手だと思うとっ!……ああっ❤」

 

炭治郎の言葉を聞いて、アオイは勝手押し寄せてくる快楽の波に身悶えながら抗議する。

 

「あふうぅんっ!❤……炭治郎さんの、意地悪っ!!」

 

アオイは羞恥心から赤面しつつ、抵抗する様に顔を擦り付けた。擦り付けるだけでなく時折、炭治郎の頬に軽く口付け(キス)も落として行く。

 

――アオイちゃんの仕草……うちで飼っている愛猫(ねこ)ちゃん達みたいね……ああやって良く甘えに来てくれてたなぁ。

 

蜜璃は実家で飼っている四匹の愛猫を、懐かしそうに思い出した。脳裏に飼っている愛猫を思い出すと何故かその愛猫達が全員、全裸のアオイに摩り替ったので蜜璃は慌てて頭を振り払い始めた。

 

――いやいやいやいや、何で何でっ!? 変な目で見る様になっちゃうから止めてっ!?

 

蜜璃は何度か頭を左右に大きく振ってから、漸く脳裏の幻影を振り払った。

 

そんな間抜けに見える蜜璃の存在など炭治郎とアオイは知る由も無く、触れ合うだけの状態から移ろうとしていた。

 

「……あむっ。」

 

「んあぁんっ!❤❤」

 

炭治郎がアオイの左乳房に吸い付いた瞬間、アオイは電流の如く流れた快楽を受けて反射的に頭を仰け反らせた。

 

「んむっ、ちゅちゅううぅっ、ちゅるちゅちゅうううぅぅぅっ!」

 

「あああっ!❤……ふうぅぅっ!❤……んああぁぁんんっ!!❤❤」

 

アオイは唇から涎を一筋垂らしながら、勃起している乳首から襲って来る快楽に身体を震わせる。そんな快楽に悶えるアオイの歓喜を匂いで察した炭治郎は、自身も嬉しく思って、もう片方の手で乳首を弄りながら更に乳房を攻める。

 

――はぁ❤……はぁ❤……はぁっ❤

 

蜜璃はそんな二人を、息を荒くしながら熱い視線を向けている。先刻と変わらない光景だというのに、蜜璃の興奮度が増しているのは、明確な理由があった。

 

――あぁっ❤……遠目から見ているだけじゃ、絶対に分からなかった。こ、これが情交(セックス)の空気なんだっ……感じる熱もっ……鼻に入って来る匂いもっ……こんなっ……っっ❤

 

蜜璃は炭治郎としのぶの情交(セックス)を偸視しているだけでは理解出来なかったであろう、情交(セックス)での熱量や空気、匂いに当てられて酔い痴れていた。自然と、自慰する手に力が入る。

 

――はぁっ❤……はぁっ❤……(ゴクッ!)

 

炭治郎とアオイに聞こえるのでは無いかと心配になる位、大きく音を立てて唾を呑み込んだ。尤も、炭治郎はアオイの豊満な乳房を吸うのに夢中で、アオイもまたその快楽に酔い痴れていて気付く事は無かった。

 

「ちゅうううちゅううううっ!……ぷはぁっ……おやぁ?」

 

溢れた涎で口元を汚しながら、乳房から口を離した炭治郎が意地悪な笑みを浮かべた。

 

「アオイさん、顔……蕩け切ってるよ?」

 

「あぁん❤……だって、すっごく気持ち良いからぁ❤」

 

意地悪な炭治郎に対して、アオイは開き直ってそう言った。

 

「そっか……俺も気持ち良いよ、アオイさん。」

 

「っ!❤……あぁ❤……嬉しいぃ❤……ちゅっ!❤……ちゅううぅぅっっ!❤❤」

 

アオイは炭治郎の言葉が嬉しくて、自分から炭治郎に口付け(キス)をした。吸い付く様に、炭治郎の唇をアオイは吸って行く。

 

「ちゅちゅっ!……ちゅるちゅちゅっ!……じゅるちゅううぅぅっ!!」

 

炭治郎もアオイに応える様に、呂の字(ディープキス)に切り替えてアオイの口内に舌を入れ唾液を吸い始める。呂の字(ディープキス)に夢中になりつつも、アオイの乳房を両手で揉んだり、指で乳首を摘まんだりして炭治郎は愛撫の手を緩める様な事はしない。

 

「んちゅうぅっ!?❤……はぁんちゅるっ!❤……んぁあ❤……ちゅうっ!❤……ちゅううっ!❤❤」

 

乳房から感じる快楽に身悶えつつも、アオイは負けじと両手で炭治郎の側頭部を掴み、顔を押し付ける。更に激しく舌を炭治郎の口内に入れ互いの舌を絡ませた為、呂の字(ディープキス)は更に大きな水音を立て始めた。

 

――わぁっ❤……アオイちゃん、自分からだなんて……っ❤

 

今まで炭治郎に攻められるか、頼まれてやっていたアオイが何も言われずとも自分から積極的に動いている。しのぶも自分からしていたのだが、やはり眼前でその光景を見ると新鮮さが強かった。

 

しかし、此処から蜜璃の予想を超える展開が繰り広げられる事となる。

 

「ぢゅずずずっ!!❤❤……じゅちゅううぅぅぅっ!❤……ぷはぁっ!❤……た、炭治郎さんっ! 私もう、我慢出来ませんっ!!」

 

「えっ?……わぁっ!?」

 

――っ!?

 

炭治郎と呂の字(ディープキス)を交わしていたアオイであったが、そのアオイがもっと快楽を欲して炭治郎を突如押し倒した。

 

アオイの不意打ち気味な行動に反応し切れず、炭治郎は寝台(ベッド)の上で仰向けの姿勢で倒れた。このアオイの行動に、蜜璃は驚きを隠せない。

 

「私がっ……私が動きますからっ!……炭治郎さんはじっとしてて下さいっ!!……ふぅ――っ!……ふぅ――っ!」

 

アオイは飢えた獣のように興奮しつつも、呼吸を整え始めた。呼吸を安定させたアオイは、炭治郎の鍛えられた胸板に両手を置いてから、両膝を曲げてゆっくりと腰を上げ始めた。

 

「ふぅ――っ!……行きますっ!」

 

――えっ?

 

アオイは自身を鼓舞して気合を入れる様にそう言うと、逸物が秘部から抜ける限り限りまで腰を上げてから一気に腰を下ろした。

 

蜜璃はただ、その様子は呆然と眺めるしか出来ない。

 

「っ……んあぁあっ!!❤」

 

――っ!!?

 

アオイが衝撃から甘い嬌声を上げると、蜜璃は驚愕から両眼を見開いてアオイの様子を見詰めた。

 

「あぁんっ!❤……ああっ!❤……くぅっ!❤……あああっ!❤」

 

――っ……っ……っ。

 

アオイは腰を上下に動かしながら時雨茶臼(騎乗位)の体位で、炭治郎を攻め立てる。その際にアオイの豊満な乳房が、艶めかしく上下に跳ねていた。

 

――これっ、これが女の子が主導権を握るやり方なのねっ……本の中でしか見た事が無かったけど、実際に初めて見たわ。

 

初めて見る時雨茶臼(騎乗位)の光景を、蜜璃は食い入る様に凝視していた。

 

両親の情交(セックス)を偸視した際に見た事がある体位は、正常位か後背位の二種類しか見た事が無い。

 

艶本を読んで初めて知った体位であったが、艶本で内容を知るだけと、実際に見るのとでは月とスッポン程の違いがあった。

 

「あぁ!❤……良いぃっ❤……ああぁぅっ!❤……今っ❤……グリグリってぇっ……ぁああんっ!❤❤」

 

――っ!……(ゴクッ!)

 

アオイの艶めかしい嬌声を聞き、更にその動きを見て蜜璃は同姓にも関わらず生唾を飲み込んだ。

 

――や、やっぱり何回見ても信じられないわぁ……しのぶちゃんも勿論なんだけど、あの生真面目なアオイちゃんが……こんなに乱れた姿を見せるなんて……っ。

 

蜜璃がアオイと付き合いがあるのは、柱に就任して初めて出席する柱合会議でしのぶと初対面を果たした後だ。其処でしのぶと出会って初めて、自身の隊服は特殊なのだと言う事実に気付いたのである。

 

アオイと会った回数で言えば、今日まで通して二桁を超えるかどうか程度しか無い。それでも何時も心中で抱いた印象は、生真面目でお固いというものだった。

 

アオイは過去の経緯から鬼と戦えなくなった事実も知っており、出会った時は必ず声を掛けたものでもっと気安く接して欲しいと頼んでも態度を変える事も無かった。

 

――それが……それが今じゃあ、私以上に恋する乙女の表情になってるっ……本当に気持ち良くて幸せそう……っ❤

 

もしこの場面を普段のアオイを知る者達に見せたら、間違いなく自分の目を疑うに違いない。アオイが同一人物か、必ず疑うだろう。眼前で目の当たりにしている自身でさえ、これは性質の悪い淫夢では無いかと疑いそうになるくらいだ。

 

――はうぅぅっ!❤……はぁはぁっ❤……流石に私も……ちょっと声を抑えるのが辛くなって来たかもっ……くぅっ!❤

 

蜜璃は食い入る様に炭治郎とアオイの情交(セックス)を見詰めながら、片時も自慰する手を止めていない。大小の規模はあれど、既に何度も絶頂しているのだ。その度に声を押し殺して来たのだが、それも辛くなってきた。

 

「ひゃぁあっ!❤ あああっ!❤ 炭治郎さんのがっ!❤ 大きくなってっ!❤ ああんっ!❤」

 

「うぅっ!……アオイさんっ!……俺っ……もうっ!……っっあぁっ!」

 

「く、下さいっ!❤……炭治郎さんの子種っ!!❤……全部っ!❤……ぁあああああああんっ!!❤❤❤」

 

――っ!!?……~~~っっ!!!

 

室外まで響かねない程の大声量を上げて、アオイは身体を大きく仰け反らしながら絶頂した。アオイに釣られて、蜜璃もまた絶頂する。しかし声を出して炭治郎とアオイにバレない様に、歯を食い縛り必死で声を押し殺した。

 

――~~~~っ!……ああぁっ❤……アオイちゃん、良いなぁ……っ❤

 

羨望の混じった視線を、蜜璃はアオイに向ける。それは炭治郎に抱かれているからでは無く、他人を気にせず快楽を素直に受けられる環境に対しての羨望である。尤も、蜜璃が室内に居る事を知ればアオイは嬌声では無く悲鳴を上げかねないが。

 

「はぁっ❤……はぁっ❤……はぁっ❤」

 

そんな蜜璃の事など知る由も無いアオイは、炭治郎と繋がったまま絶頂の余韻から仰向けに倒れて荒く呼吸を繰り返していた。

 

「はぁ……はぁ……ふうぅっ。」

 

対して炭治郎はアオイより先に呼吸を整えると、起き上がって逸物を秘部から抜き去った。それから炭治郎はアオイに近付いてその身体を持ち上げると、アオイの背中と自身の胸板をくっつける様に背面抱きを行った。

 

「炭治郎さん……っ❤」

 

「お疲れ様。とっても気持ち良かったよ。」

 

「……っ❤」

 

炭治郎に労いの言葉を掛けられたアオイは、嬉しそうに頬を赤く染める。凭れ掛かる様に、アオイは炭治郎に背中を預けて両眼を閉じる。炭治郎もアオイに釣られて、両眼を閉眼させながら優しく抱き締めた。

 

――お、終わったのかな?

 

炭治郎とアオイの動きが止まったのを見て、蜜璃は情交(セックス)が終わったのかと考えた。しかしそれは大きな勘違いであると、蜜璃は知る事になる。

 

「きゃっ!?❤」

 

――っ!

 

アオイが突如、閉じていた両眼を見開いて小さく悲鳴を上げた。その悲鳴を聞いて、一瞬だけ身を起こしそうになる程に蜜璃は驚いた。直ぐにアオイに視線を移して見れば、何故かアオイはジト目で炭治郎を睨み付けていた。

 

「もう……炭治郎さんの助平っ❤」

 

「あ、あはははははっ……。」

 

炭治郎はアオイからそんな視線と悪態を受けて、誤魔化す様に笑声を上げて言い訳を口にした。

 

「アオイさんも悪いんだよ? アオイさんが、とても魅力的な女の子だから……。」

 

「っ!?❤……そ、そんな言葉で誤魔化されると思って、ひゃああんっ!!?❤❤」

 

炭治郎の唐突な誉め言葉を聞いて、アオイは思わず抗議しようとしたが失敗に終わる。

 

アオイを抱き締めていた両腕を動かして、両手でアオイの乳房を鷲掴みにしたからだ。何度も絶頂して敏感になっているアオイは、それだけで大きな嬌声を上げた。其処へ炭治郎がアオイの耳元へ、小さく囁いた。

 

「後一回だけ、良いかな?……今度は俺が動くから……。」

 

「はぁああんっ❤…………ど、どうぞ……好きにして、下さい。私はもう、炭治郎さんのモノですからぁ❤」

 

「ありがとう。アオイさん。」

 

炭治郎はアオイから承諾を得ると、感謝する様に首筋に口付け(キス)を落とした。

 

――えっ?……うっ……うそぉっ!?

 

この会話を聞いて驚いたのが、蜜璃である。しかし、蜜璃が驚いたのはそれだけでは無かった。

 

――た、炭治郎君のあれが……もう勃起してる……っっ!!

 

先刻まで萎えていた筈の炭治郎の逸物が、再び血が集結して大きく硬く勃起していたのである。蜜璃は改めて、炭治郎の精力絶倫振りに驚愕した。

 

そんな蜜璃を他所に、炭治郎は行動に移っていた。アオイを宙に抱き抱えながら、寝台(ベッド)の端まで移動する。

 

「ふぅ~~っ……それじゃ、次は……こうしようか?」

 

「あぁっ……えっ……えっ?」

 

 

 

ズブゥッッ!!!

 

 

 

「あああっ!!❤」

 

アオイを抱き抱えていた炭治郎は、自身の逸物に狙いを定めてアオイを降ろした。秘部へ一気に逸物を挿入されて、アオイは嬌声を上げる。

 

炭治郎は座った様な姿勢になり、アオイもまた逸物に貫かれたまま炭治郎に背を向けて座り込んだ様な体勢になる。炭治郎は手懸かり(後背面座位)の体位でアオイと情交(セックス)を始める心算だっだ。

 

――ちょっ!? ええぇっ!!?

 

これに一番驚いたのは蜜璃だ。何故なら炭治郎とアオイが移動したために、より眼前に来てしまったのだから。

蜜璃の視線には、パンパンに精液が詰まったアオイの秘部に栓をするが如く挿っている逸物が見えた。量が多過ぎてその精液も秘部から零れ落ちており、それが一層淫靡な妖気を醸し出す。

 

「そぉ……れっ!」

 

 

 

バチュッ! バチュッ! バチュッ! バチュッ!

 

 

 

「あああぁぁぁぁっっ!!❤❤ ああんっ!❤ あんっ!❤ あんっ!❤ あんっ!❤」

 

――ああっ……あああっ!❤ こんな……もうカナヲちゃんやしのぶちゃんと合わせてたら何十回も射精してるのに……炭治郎君凄い……っ。それとも若い殿方って皆そうなのっ?……。

 

アオイは突き上げて来る逸物の衝撃に、大きく嬌声を上げる。蜜璃は水音が混じった挿入音を出す逸物から目が離せない。油断すると更に近付いて息が掛かりそうである。

この時、蜜璃の中で炭治郎の評価は変わっていた。「妹想いの誰にも優しい年下の男の子」では無くなり、こう思ったのだ。

 

『雄』であると。

 

彼に少しでも好意を持つ雌は一瞬にして手籠めにされ、彼無くして生きていけなくされるのだと。

 

――私が此処に居るって気付かれたら……こ、今度は私が犯されちゃうのかな……ゴクッ。

 

優しい炭治郎が同意も無くそんな事をする筈が無いのだが、蜜璃の印象は昼までの出来事が頭の片隅に追いやられ、この獣欲に支配された炭治郎一色で染まっていた。

 

そもそも、単純な力量では蜜璃の方が格上なのだ。そんな『もしも』は起こり得ない。

そんな事実を忘れて、蜜璃の脳内では蜜璃自身が想像された炭治郎に犯され始める。

 

『甘露寺さん、貴女はいけない人ですね。覗き見なんて、俺がお仕置きしてあげますよ!』

 

乳房(おっぱい)柔らかいなぁ……それに美味しそうです。』

 

『こんなにジュクジュクに濡らしちゃって、今から舐めてあげますね。』

 

『俺に任せて……優しくしますから。絶対に痛い思いはさせませんよ。蜜璃さん。』

 

『蜜璃さんっ! 蜜璃さんっ! 蜜璃さんっ!』

 

――~~~~っ!!❤❤

 

蜜璃は脳内の炭治郎に犯されて絶頂した。最後に至っては苗字では無く名前で呼ぶ始末である。

 

「じゅるぅっ! んちゅっ! ずちゅるっ! ぢゅるっ! ぢゅちゅっ! じゅるぅっ!」

 

しかし、炭治郎は未だに気付かない。アオイの首を振り向かせて口付け(キス)をする。アオイもそれを受け入れて舌を伸ばして絡ませ、獣欲のままに唾液を交換する。

そして間も無く十回目の膣内射精が行われた。

 

 

ビュルルビュルルビュルルルルゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!! ビュルルルルルウウウウゥゥゥゥ!!!!

 

 

「~~っ❤!……~~~~っ❤❤!!!」

 

アオイは口付け(キス)をしたまま、白濁の溶岩を下から叩き付けられ絶頂する。今までで一番大きかった絶頂だったため、それは起こった。

プシャっと水音が鳴った瞬間、秘部から大きく潮を吹いたのだ。

 

そしてその潮は、眼前に居た蜜璃に直撃してしまう。

 

――っ!?!?!?!?

 

潮が掛かった蜜璃は驚愕して、思わず後ろに下がり尻餅を付いた。そして事態は起こってしまう。

 

「ああっ……気持ち良かっ……っんんん!?」

 

炭治郎は余韻に浸る間も無く、有る筈の無い匂いを嗅いで狼狽する。そして匂いの下を辿り前を見た。

 

「か……甘露寺さんっ……っ!?」

 

其処には全裸で座り込む蜜璃がいた。額に着けていた『紙眼』は潮で濡れて効力を失っていた。

 

「あっ……えっと……お、おはよう! アオイちゃんっ! た、炭治郎君!」

 

蜜璃は咄嗟に朝の挨拶をしたのだが、その姿は滑稽極まりなく、鬼殺隊が誇る柱が一人、恋柱の威厳は皆無だった。

 

「あぅ……えへへへっ❤……っ❤」

 

快楽のあまりアオイが失神した事だけが、この場における唯一の救いであった。

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十四日(金)

時間帯:早朝

天気:晴れ

 

 

後三十分もしない内に太陽が姿を現さんとする時に、蝶屋敷の門前に二台の車が到着した。

運転席と助手席から三人の『(カクシ)』と一人の隊士が現れた。村田隊士と言う、炭治郎とも比較的多く付き合いのある隊士だ。鬼の禰豆子にも理解がある。

本人は後部座席に座る者達を降ろすために、(ドア)を開けながらこう思った。

 

――まさか、禰豆子以外にこんな鬼がいるとはなぁ……っ。

 

車から降りて来たのは紫苑を基調とした多様な花の絵柄が描かれた着物を着ている美女だ。千人に「美女か醜女か」と質問すれば間違い無く即答で全員が美女と答えるだろう。

 

そんな美女の隣にいたのは水色の髪をした書生の恰好をした少年だった。何故か少年の額には青筋が立っている。

 

二台の車から降りて来たのは禰豆子と同様の竹製の口枷を口に咥えた二十代後半の男性だ。その目は虚ろで非常に大人しい。

 

その男性の隣に駆け寄る様に回って来たのは一人の女性だ。先の女性には及ばないが十分、美人と言える部類に入るだろう。

 

因みに車内には日の出に備えて、身体を覆える様に黒の外套(マント)が用意されていたが、杞憂で済んだ様だ。

 

村田隊士と『(カクシ)』達に案内され、蝶屋敷に入って行く。すると玄関にはこの蝶屋敷の主たる蟲柱・胡蝶しのぶが立っていた。しのぶは鎹烏の急報を受けて、急ぎ準備をしていたのだ。

 

「初めまして、私は鬼殺隊・蟲柱の胡蝶しのぶと申します。蝶屋敷へようこそ。珠世さん、愈史郎さん。」

 

しのぶはそう言って、珠世達に優雅にそう一礼した。




お待たせ致しました。7/14(水)更新と予告してますが、サプライズ更新と言う事で。

更新と言っても、大改訂の残骸みたいなものです。当初はしないと宣言していましたが、やはりやらないと心残りが出来ると思って書き直して死蔵していたのを手直しして引っ張り出して来ました。

7/14(水)の更新ですが、予告通りしたいと思います。もし無理なら事前に連絡致します。もう暫くお待ち下さいませ。


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緊急柱合会議編
第弐拾伍話 日輪は人外の紫蝶と合流す


※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ・タグ編集大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月十四日(金)

時間帯:早朝

天気:晴れ

 

 

『…………』

 

蝶屋敷の神崎アオイの部屋に五人もの人間が集まっていた。蝶屋敷の主である胡蝶しのぶを筆頭に、竈門炭治郎、甘露寺蜜璃、神崎アオイ、栗花落カナヲの五名だ。

 

全員、度合いに差はあれど赤面している。

 

事の発端は先ずしのぶに有る。しのぶは仮眠を取るためにカナヲの部屋を借りて就寝した。

 

カナヲの暴走によってしのぶの自室は未だ半壊状態なのだから、当然である。壊れた家具は撤去しただけで、とても安眠出来ない。

 

炭治郎に激しく抱かれて疲弊したしのぶは寝台(ベッド)に横になった瞬間、泥の様に眠りに就いた。しかし、四時を回って間も無く鎹烏が伝令にやって来たのだ。

緊急出陣命令かと飛び起きて身構えたしのぶだったが、その内容は驚くべきものだった。

 

件の鬼、珠世が蝶屋敷に護送されると言う連絡だった。それだけではない。蝶屋敷に一度案内したのち、指定した者達と共に産屋敷邸まで来る様にとの厳命だった。

 

密命を帯びたしのぶは早速着替えてから行動に移った。

先ずはすみとなほときよを起こして入院患者の朝食の仕込みを頼んだのだ。

 

次に竈門兄妹の自室に赴いて幸せそうに失神しているカナヲに苛立ちながら、しのぶ特製の気付け薬を嗅がせて無理やり叩き起こす。

天国から一転して地獄へ叩き落されたカナヲは完全に目を覚まし、しのぶを睨み付けた。

 

このしのぶ特製の気付け薬は嗅覚に特化した炭治郎が嗅げば、一瞬程度とはいえ悶絶して動けなくなる程に強力な物だ。

 

しのぶの開発する薬の効果は絶大なのだが、効率重視のためか味覚や嗅覚に配慮したものでは無い物が多く、それが特徴的でもあった。そのため鬼殺隊からは、非常に信頼されかつ恐れられている。

 

カナヲに睨み付けられたしのぶだったが、そんなものは微風程度にも気にせずカナヲの隊服を顔面に向かって叩き付けると、率先して竈門兄妹の部屋を掃除を始めた。

因みにこの時、しのぶは『紙眼』を全て回収しておいた。

 

師であるしのぶに逆らえる筈も無く、カナヲは早々に掃除を手伝う。精液と愛液でドロドロになった布団は、蝶屋敷の敷地内にある大型焼却炉で焼却処理する事となった。

これが竈門兄妹の部屋から寝台が撤去され、和風になった大きな理由である。寝台(ベッド)では乗れる人数に限りが有り、掃除も手間であった。

 

それが従来の布団ならば最悪、そのまま捨てて処分出来たのだ。

 

しのぶ達は本来はもっと物を大切にする性分である。

しかしそれも炭治郎と結ばれる前の、関係が少しばかり深まった段階から詰まらぬ事で貴重な時間を浪費する事を嫌う様になった。

 

明日どころか今日の命の保障すら無い現状、炭治郎と過ごす時間が彼女達にとって何ものにも変え難い至宝であったのだ。

 

しのぶは炭治郎とアオイが移動しているのを去り際に聞いているので、今度はアオイの部屋に向かう。

もしも自分ならば、緊急でも無いのに情交(セックス)の時間を邪魔されようものなら、その場で知らせに来た者を殺してしまう自信が有った。

それにアオイには負い目がある。そのせいか邪魔をするのも気が引けたのだが、今回は仕方が無い。

 

その結果としてアオイの部屋に入ったのだが、其処には顔を真っ赤にしている蜜璃と炭治郎、それから失神して寝台(ベッド)で寝かされているアオイの姿が在った。

しのぶとカナヲは何故蜜璃がアオイの部屋に居るのかと疑問に思い動揺したのだが、まずしのぶはアオイを叩き起こすために気付け薬を嗅がせて起床させた。

 

飛び起きたアオイは、周囲を見渡せば最愛の恋人とこの蝶屋敷に居る現主要女性陣が一斉に自室に居る事に驚いた。

そんな驚いたアオイを余所に、しのぶは何故蜜璃がアオイの部屋に居るのかとその理由を尋ねた。

 

質問を受けて動揺して狼狽する蜜璃に対し、炭治郎が仕方なく蜜璃がした事を説明する。

 

それを聞いたしのぶは能面の如く無表情になり、アオイは今一度失神するのではと心配になる程、一瞬にして顔を赤く沸騰した。

カナヲもまた赤面していたが、話の半分を理解していなかった。

 

しのぶは対『(カクシ)』に所属している前田まさお用の油とマッチを手に取ると、換気も兼ねて窓を開けてから効力を失った『紙眼』を燃やして焼失させた。

 

『紙眼』を焼失させた後、しのぶは全身を震わせながら羞恥心で顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……あの、しのぶ姉さん……この符について、私にも説明して欲しいんだけど……っ?」

 

「あっ! うんうんっ! 私もこの符が何なのか知りたいっ!」

 

「……えぇ……っと……。」

 

カナヲの質問に蜜璃も便乗する。自身への言及を避けたいと言う思惑もあるが、関連しているため時間稼ぎにもならない事に気付いていない。

このカナヲの質問に言い澱むしのぶに対し、炭治郎が助け舟を出す。炭治郎は『紙眼』を手に取って説明を始めた。

 

「カナヲ、甘露寺さん。この符は『紙眼』……略して『紙眼()』と言ってね? 愈史郎さんって言う、鬼の血鬼術で作られた代物なんだよ。」

 

「……えっ?」

 

「えっ?」

 

「えぇ――っ!?」

 

炭治郎の暴露に驚いた二人だったが、先ず最初に驚いたのはアオイだった。

得体が知れないとは思っていたが、まさか鬼の血鬼術で作られているとは思いも寄らなかったからだ。

 

炭治郎はアオイから発せられる、恐怖の匂いと身体の震えを察して直ぐに行動に出た。

 

「っ!……た、炭治郎さんっ?」

 

『っ!!』

 

アオイからは少々の困惑と多大な歓喜の混じった声が室内に響いた。炭治郎がアオイの下へ駆け寄って抱き締めたからだ。

 

「アオイさんっ。信じてほしい……愈史郎さんは鬼だけど、口が悪いだけで本当はとっても良い人なんだ……もしも……万が一の時は俺がアオイさんを守るから、落ち着いてくれないか。」

 

「は……はいっ❤」

 

アオイは炭治郎から抱擁されている喜びから、うっとりとしながら身を任せ、両眼を閉じながらそう返答した。

思わぬ役得を得たアオイだったが、これを黙してじっと傍観する者は居なかった。

 

「炭治郎っ! 私も怖いっ!!」

 

『っ!』

 

嘘の有無を調べる必要が無いぐらいに露骨過ぎる嘘を吐いて、カナヲが炭治郎に抱き着いた。

即座に妨害されたアオイは炭治郎に身を任せたままカナヲを睨み付け、カナヲもまたアオイを睨み付ける。

 

「え、えーと……じゃ、じゃあ私も……。」

 

この流れに何故か便乗して蜜璃が炭治郎に接近しようと試みる。

 

 

 

バァン!

 

 

 

『っ!?』

 

その瞬間、室内に何かが弾けた様な大音が響いた。それはしのぶが壁を固く握りしめた拳で強く叩いたせいで鳴った大音だった。

 

「……話を、戻しましょうか……?」

 

『……はいっ。』

 

満面の笑みで青筋を立てるしのぶを前に、炭治郎達一同はそう言って従うのがやっとだった。

「炭治郎君は私の隣に戻りなさい。」と言うしのぶの言葉を切っ掛けに、再び室内は落ち着きを取り戻した。

 

アオイとカナヲは炭治郎から引き剥がされたのを不服に思ったが、その思いは内心に留めて真剣に話に耳を傾けた。

これから鬼に関連する話を聞くのだ。生半可な気持ちで聞く事は出来ない。

しのぶは皆の顔が引き締まったのを見て、満足そうに頷いてから事の真相を話し始めた。

 

「では話しましょうか……これから私達と共闘する事になるであろう鬼達の話をっ。」

 

その言葉を口火にしのぶは静かに語り始めた。

 

しのぶは其処から、自身が炭治郎に薬師寺ひさの屋敷で聞いた珠世と愈史郎に関する説明を、何点か加えてアオイ達に説明し始めた。

蜜璃は思わぬ存在の話に、真剣な表情でしのぶの話に耳を傾ける。

 

その説明の過程で、しのぶは自身に『紙眼』を貼って姿を隠して実演してみると、カナヲは出目金の如く両眼を見開かせて驚いた。

 

『紙眼』に関しては、途中で蜜璃が見つけた新たな操作方法を教えて貰い、大いに話題が盛り上がったが。

しかし、その話も途中で情交の時の話になった途端に空気が変わる。

 

「……これを使って姉さんもアオイも覗き見していたなんて……。」

 

カナヲは顔を赤くしてジト目で責める様に二人を睨み付けた。アオイは申し訳なさそうに顔を俯かせたが、しのぶは開き直っているのかしれっとしていた。

しのぶはカナヲの視線を流すと、蜜璃に話し掛けた。

 

「私はカナヲ以上に、甘露寺さんが『紙眼()』を使いこなすと言う想定外に驚きを隠せないのですが……どうして、額に貼ってみようという発想に至れたんですかっ?」

 

「あ、あははははははっ。」

 

今度はしのぶがジト目で責める様に蜜璃を睨み付けると、蜜璃は誤魔化す様に乾いた笑い声を上げた。尤も、しのぶは蜜璃を責めるつもりなど毛頭無い。

自身が独占欲を拗らせてアオイを眠らせる様な真似をしなければ、そもそもあんな事態にはなっていないのだ。しのぶは心底自身の軽率な行動を後悔した。

それはアオイも分かっており、顔を上げたアオイはしのぶを静かに睨み付けた。ギスギスとし始めた雰囲気を察して、炭治郎が声を上げる。

 

「ま、まぁもう過ぎてしまった事を言っても仕方無いですよ……それにしても、どうしてしのぶさんは甘露寺さん達に珠世さん達のお話をする気になったんですか?」

 

「甘露寺さんなら私以上に珠世さんへの理解が有ると思いましてね……それからその珠世さん達と合流することが決まりました。今現在、『隠』達に連れられてこの蝶屋敷に向かっているんです。その後に産屋敷邸までご案内する様に、御館様直々に指令が来たんですよ。」

 

『っ!?』

 

しのぶの発言に、カナヲ達は驚愕した。炭治郎もだ。まさか其処まで話が急展開を迎えていたとは思わなかったからだ。

驚愕する炭治郎達を余所に、しのぶは話の続きをする。

 

「御館様は緊急柱合会議を開いて珠世さん達を柱全員に紹介する事になるでしょう。珠世さんと愈史郎さんの護衛に私、炭治郎君、善逸君、伊之助君、禰豆子さん、カナヲ、アオイ、そして甘露寺さんの八名が選ばれました。」

 

『っ!?』

 

続けて話したしのぶの発言に、炭治郎達は更に驚愕した。当事者である炭治郎はともかく、無関係な善逸達まで参加する事になるとは思わなかったからだ。

この決定に最も動揺し、抗議したのはアオイだった。

 

「お待ち下さいっ! しのぶ様っ!……わ、私はもう日輪刀(かたな)は……。」

 

「アオイ。これは御館様の決定なの。大人しく従って頂戴。」

 

「っ……。」

 

アオイを黙らせたしのぶは、全員を一見して見渡した後に再び話し始める。

 

「もう間も無く、珠世さん達が蝶屋敷に到着する筈です……この説明をするために善逸君と伊之助君を竈門兄妹部屋に集めましょう。アオイ、カナヲ。貴女達はすみ達を呼んで来てくれる? 禰豆子さんと同様、この珠世さん達も蝶屋敷(此処)で暮らす予定だからっ、紹介しておきたいの。」

 

「はいっ。」

 

「分かりましたっ。」

 

 

 

♦︎

 

 

 

蜜璃は禰豆子を、しのぶは善逸と伊之助を、アオイとカナヲはすみときよとなほを呼び集める為に一度その場を解散した。炭治郎は隊服に着替えるので先に自室へ戻る。

善逸達はまだ日が昇らない早朝に叩き起こされて悪態を吐いていたが、しのぶが殺気をぶつけた途端に静かになった。

 

しのぶ達が最初に到着すると、次に蜜璃も禰豆子を連れて入室して来た。蜜璃はあの扇情的な隊服を身に着けている。

善逸が早速、禰豆子と蜜璃にすり寄ったが炭治郎に因って引き剥がされた。

最後にカナヲがすみ達を連れて入室する。しのぶはやっと揃ったと思ったが、アオイが居ない事に気付いてカナヲに尋ねた。

 

「カナヲ。アオイはどうしたのかしら?」

 

「朝食の仕込みがあるからと言って厨房の方に……。」

 

「そう、まぁ良いでしょう。」

 

アオイ不在の理由を聞いて納得したしのぶはそのまま、珠世達の件について善逸達に説明を始めた。

その話を聞いて炭治郎とカナヲと蜜璃を除く全員が驚愕し、『紙眼』の性能の実演時は大いに感嘆した。

 

善逸と伊之助が特に騒がしかったが、しのぶが再び黙らせた。伊之助は『紙眼』を執拗に求めたが、しのぶの殺気を浴びて身を縮こませた。

懲りない伊之助に一同が呆れていると、アオイが室内に入って来た。

 

「失礼します。遅くなりました。」

 

「アオイ、朝食の仕込みはもう良いの?」

 

「はい。必要な分は大方終わりました。昨夜の内に済ませていたのもありますし幸い、蝶屋敷に残っている患者もそう多くは無いので。」

 

「流石はアオイね。」

 

多くは無いとは言うものの、決してその人数は少なくは無かった筈だ。

しのぶはアオイの手際の良さを称賛すると、アオイは「恐縮です。」と頭を軽く下げて炭治郎の隣に移動した。

すると善逸が気になった事があるのか、炭治郎に質問をする。

 

「なぁ、炭治郎。しのぶさんが言ってる珠世さんって鬼はさ……もしかして、美人か?」

 

「あーうん。そ「そうですよ。」……っ。」

 

「……っ!?」

 

「お、おい。しのぶ?」

 

「姉さんっ?」

 

『しのぶ様っ?』

 

「しのぶちゃんっ?」

 

炭治郎が善逸の質問に答えようとすると、しのぶが割り込む様にその質問に答えた。

その場にいる全員がしのぶに注目する。しのぶの発言が気になったと言うのもあるが、最も気になったのはしのぶの纏う空気だ。

 

しのぶの声色には怒りが混じっていた。青筋もしっかり立っている。炭治郎は嗅覚で、善逸は聴覚でそれを察して閉口した。

 

「私も今日初めてお会いするので知りませんが、炭治郎君が頬を赤く染めてものすっっごく嬉しそうに珠世さんの事を話していたのをよ~く覚えていますよ。『とっても綺麗な美人さん。』なんですよねぇ。炭治郎君?」

 

「えっと、はい。」

 

『……』

 

しのぶが言った内容に炭治郎が同意すると、しのぶの怒りが増大した。また、アオイとカナヲのこめかみもピクピク動き出し、なほ達もムスッとした顔になった。

善逸は両眼を血走らせて睨み付けていた。

 

「『綺麗なだけじゃなくて、頭も良くて様々な知識、特に医学知識の造詣(ぞうけい)が深いんです。

どんな状況であっても取り乱さない冷静沈着な女傑でもあります。

でもその本質は優しくて穏やかな人格者と言う、絵に描いたような大人の女性。珠世さんはそんな尊敬に値する、素晴らしい女性です。』……そうですよねぇ、炭治郎君。」

 

「は、はい。」

 

薬師寺ひさ邸で自身がしのぶに行った説明をしのぶが一語一句間違えずに言い放った事に少々怖気が走ったが、何とか声色に恐怖の色を交える事無く肯定する。

 

『……』

 

するとしのぶの怒りの匂いが強くなった。それを感じ取った炭治郎はビクッと身体を震わせた。

同時にアオイとカナヲの額にも青筋が浮かび、きよ達も不服そうに頬を膨らませた。

善逸に至っては竈門兄妹が最初の任務で戦った沼鬼を彷彿とさせる程に歯を削る勢いで歯軋りしていた。

 

この状況に炭治郎だけでなく、蜜璃も困惑して様子を見守った。するとカナヲが最初に動いた。

 

「姉さん。要は敵がノコノコ蝶屋敷にやって来るんですね……何も考えず斬って良いよね?」

 

「待ってくれっ、カナヲっ! 珠世さん達は敵なんかじゃ、あいだだだだだっ!?」

 

カナヲの殺意の籠った発言に炭治郎は慌てて止めに入るが、善逸が炭治郎の頭に噛み付いたため失敗に終わる。

眼を血走らせた善逸が憎悪のたっぷりと籠った恨み言を炭治郎に吐き始める。

 

「炭治郎……どうしてお前んところにばっかり良い女が集まって来るんだよぉっ! 自分だけイチャイチャイチャイチャイチャイチャしやがって!! お前変われ頼む変わってお願い変わって下さい!!!」

 

「痛いっ! 痛いって! 善逸っ!! 頼むから離してくれっ!!」

 

炭治郎に噛付亀(カミツキガメ)の如くしがみ付き噛み付いて離れ様としない善逸を中心に、現場の混沌具合が加速する。蜜璃は更に困惑し、アオイは溜息を吐いた。

 

「あ、あわわわわわ。ア。アオイちゃんどうしようっ!?」

 

「はぁ~~……。」

 

「……善逸君。今直ぐ炭治郎君から離れないと新薬の実験体にしますよ?」

 

「すみませんでしたっ!!」

 

善逸は電光石火の如き速さで炭治郎から離れて正座した。それを見てしのぶは次に荒ぶるカナヲに声を掛ける。

 

「カナヲ。これから協力関係を築く相手を斬るなんて駄目に決まっているでしょう?……第一、貴女の新しい日輪刀はまだ届いていないし……それからこちらに大義名分が無い内は駄目よ? 良いわね?」

 

「はいっ! 姉さん。」

 

――言ってる内容が物騒過ぎるっ!!

 

しのぶ達の会話を聞いて炭治郎は静かに戦慄し、いざと言う時は自身が身を挺して珠世達を守ろうと決意した。

するとカナヲが炭治郎に声を掛ける。

 

「女と聞いて思い出したんだけど……炭治郎に聞きたい事があるの。」

 

「何だいっ? カナヲ。」

 

カナヲの言う内容が理解出来ず、炭治郎はカナヲの発言の続きを待った。

必然的に全員から注目を集めたカナヲは気にせず炭治郎を真っ直ぐ見詰めて尋ねた。

 

「昨日、浅草の小物店とかお土産を買えるお店でね……炭治郎は六つの髪飾りを買ってたんだけど、その事で聞きたいの。」

 

「……どうして、その事が知りたいの?」

 

炭治郎は嫌な予感をしつつ、されど表面には出さずにカナヲに尋ねた。するとカナヲの薄紫色の瞳がスッと澱んだ様に見えた。

 

「最初は私達に買ってくれたと思ったんだけど、恋柱様も含めて、私達にくれたのは花柄模様の描かれた手鏡だったじゃない?……六つの髪飾りの内の一つは今、禰豆子ちゃんが付けてるでしょう?」

 

そう言うと、全員の視線が禰豆子に向かう。確かに禰豆子の豊かな長髪には桃色の貝殻の髪飾りが付いてあった。

 

「それでね……残りの五つの髪飾りって、誰のなの?……教えてくれるよね? 炭治郎っ?」

 

「あの……えっと……それは……。」

 

『……』

 

言い淀む炭治郎に、しのぶ達の視線は鋭くなった。数が合わないのだから、絶対に蝶屋敷の面々への贈り物ではない。そうなると必然的に、別の誰かへの贈り物になってしまうと言う事だ。

 

「お、おい炭三郎っ。隠してねぇで吐けってっ!」

 

「本当に洒落になんないからさっ! 買い忘れたんだろっ? そうだろそうだと言ってくれよ炭治郎っ!?」

 

しのぶ達の憤怒を音と肌で感じた善逸と伊之助は、焦燥感を露わにして炭治郎に問い詰める。

善逸も当初は先程と同様、しのぶ達側について炭治郎を問い詰めようとしたのだが、しのぶ達の憤怒の音を聞いて炭治郎の説得に回ったのだ。

 

しかしそう説得されても、炭治郎は頭を抱えるしかなかった。何故なら何も隠していないし、この五つと言う数で間違いないからだ。

これ以上言う事は無く、また嘘を吐いても直ぐにバレるために言うだけ無駄だった。

 

「……炭治郎君、その髪飾りは今何処にあるのかしらぁ?」

 

「……えっ?」

 

青筋を立てて静かに憤るしのぶに、炭治郎は困惑する。その様子を見てアオイ達の視線も鋭くなった。

 

「皆っ! 探して頂戴っ!!」

 

『はいっ!』

 

しのぶの号令で家宅捜索が始まろうとしていた。一斉に動き出す一同を前に、炭治郎が慌てた様子で答えた。

 

「ま、待って下さいっ! もう髪飾りは手紙と一緒に鎹烏で昨夜のうちに送って……あっ。」

 

「……へぇ。」

 

「ほう……。」

 

「ふ~ん。」

 

炭治郎は咄嗟に口に手を当てて押さえるが、一度吐いた言葉を無かった事には出来ない。

伊之助と蜜璃を除く面々が半眼で炭治郎を睨み付ける。

 

伊之助は無関心気味でポカンと、蜜璃は何故か尊敬する様にキラキラとした眼で炭治郎を見詰めていた。

あまりの居心地の悪さに、炭治郎は誤魔化す様に頭を掻くしか出来なかった。

 

「そうですか……で、何処のどなたに送ったんですかねぇ……?」

 

しのぶは苛立ちながら、炭治郎に質問をする。対して、炭治郎は冷や汗を掻きながらも毅然と答える。

 

「すみません。手紙のお相手については話せません。」

 

「……だったら直接、手紙を見て調べます!」

 

「うんっ! 炭治郎だったら手紙をきちんと保管しているだろうしねっ!」

 

文通相手について話す事を炭治郎が拒否すると、苛立ったアオイとカナヲが再び家宅捜索しようと室内にある箪笥に近付こうとした。

 

「ちょっ!? アオイさんっ! カナヲっ!!」

 

「「きゃっ!?」」

 

「……っ。」

 

炭治郎は慌てて二人を止めるために両手を腰に回して抱き寄せる様に引き留める。すると二人は小さく悲鳴を上げて、炭治郎の胸元に手を置いた。

 

アオイもカナヲも炭治郎の思わぬ行動に頬を赤く染めて笑みを浮かべ、逆にしのぶの額の青筋は濃くなっていった。

 

「このっ!……「カァ―――――!! カァ――――!!」……っ。」

 

しのぶがアオイ達の行動に激昂して飛び掛かろうとした瞬間、鎹烏の大きな鳴き声が蝶屋敷の外から聞こえて来た。

すると間も無くして喚起のために開けていた窓から一羽の鎹烏が室内に入って来た。

 

「胡蝶シノブッ! 間モ無ク"例ノ客人"ヲ『隠』達ガ連レテ来ル。直グニ出迎エル様ニッ!! 繰リ返スッ! 胡蝶シノブッ! 間モ無ク"例ノ客人"ヲ『隠』達ガ連レテ来ル。直グニ出迎エル様ニッ!!」

 

室内に着地した鎹烏はしのぶの方を見て、そう告げた。するとしのぶは苛立ちを隠す事無く舌打ちした。

 

「ちっ……ちょっと迎えに行って来ます。この一件は後で必ず追及しますからね……それから私が居ない間にお痛などはしないように。」

 

「は、はい。」

 

「はーい❤」

 

「はい、分かりました。」

 

アオイとカナヲをしのぶが一睨みして警告してから珠世達を玄関で出迎える為に退室した。

 

「「……ちゅっ!❤」」

 

『っ!?』

 

しかし、しのぶが去った後にアオイもカナヲも抱き着いている炭治郎の頬にほぼ同じ時期(タイミング)口付け(キス)をした。

二人の積極的過ぎる行動に、室内に残っていた周囲は仰天する。

 

「っ!……ふ、二人共っ!? しのぶさんがお痛はするなって……。」

 

「そんなの知らなーい❤」

 

「炭治郎さん、前に言いましたよね?……私、慎ましく自重なんてしないって。」

 

炭治郎の注意も何処吹く風と言わんばかりに、最愛の恋人である炭治郎に積極的に接近(アプローチ)するアオイとカナヲ。

これには注意した炭治郎も、嬉しく思って口元を緩ませてしまう。

 

『……』

 

「むぅ~~っ。」

 

「シィイイイイイイイィィィィィィィィっ!」

 

いちゃつく三人に、すみときよとなほは羨望の念を抱きながら涙目で様子を見る。

禰豆子も唸り声を上げながら嫉妬心を隠さず睨み付け、それを蜜璃が頭を撫でつつ宥める。

そして最後に善逸が雷の呼吸を吐きながら殺気立つ。これには炭治郎も焦燥感を隠せない。

冷静でいたのは蜜璃と伊之助だけだった。

 

「ちょ……ちょっと俺も珠世さんを出迎えて来る!!」

 

居た堪れなくなった炭治郎が適当な理由として、そう言って慌てて退室しようとした。

しかし、善逸が高速移動して炭治郎の退路を断つ。その両手には自身の日輪刀が握られていた。

 

「そんな見え透いた理由で逃がす訳無いだろうがぁ! 不肖、我妻善逸っ! この世のモテない男性を代表して!! お前を成敗してやるうぅぅぅぅぅぅっ!!!」

 

「ちっ!……伊之助さんっ! 善逸さんを押さえてくれたら今度天ぷらの大盛りを用意してあげますよっ!!」

 

「本当かアオイっ!!」

 

――伊之助……動物より動物(けだもの)してる……っ。

 

アオイは咄嗟に伊之助を天ぷらを餌に焚き付けると、善逸に突進して吹き飛ばし取り押さえた。

伊之助の反応速度とその理由に、カナヲは呆れ果てていた。

 

「善逸っ!……ごめんっ! 伊之助っ! そのまま善逸を押さえててくれっ!!」

 

炭治郎は伊之助が善逸を押さえ込んでいる内に、部屋を退室するとアオイとカナヲも炭治郎の後を付いて行った。

 

「どけぇ伊之助!! 俺は世のモテない男性達に変わってあの女ったらしに制裁を加えないといけないんだあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「うるせぇぞこの弱味噌っ! 俺様の天ぷら大盛りのためにも大人しくしてろ紋逸っ!!」

 

伊之助に取り押さえられた善逸は暴れて自由の身になろうと試みるが、伊之助もまた天ぷらの大盛り欲しさに全力で善逸を押さえ込む。

 

「ねぇすみちゃん、きよちゃん。珠世さんってどんな方だと思う?」

 

「炭治郎さんと禰豆子さんのためにお力を貸して下さるお方よ。きっと良い方だわ。」

 

「そうだよなほちゃんっ! それにとってもお美しい方らしいし……っ。」

 

『……はぁ。』

 

きよの言葉に、三人は溜め息をついた。子供ながらも炭治郎に静かに想いを寄せる三人にとって、やはり美女が炭治郎と接点があるのは心苦しい事だった。

 

「賑やかだなぁ……ねぇ禰豆子ちゃんっ。珠世さんてどんな人なのかしらね? 私、お会いするのがとっても楽しみだわっ!!」

 

「ん~~っ♪」

 

一方の蜜璃と禰豆子は、珠世の到着を楽しみにしながら二人して遊んでいた。この二人の間にのみ、平穏と平和の空気が流れていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ご丁寧にどうも。私が珠世です。こちらは助手の愈史郎になります。」

 

「……」

 

玄関でしのぶの一礼を受けた珠世と愈史郎は、直ぐ様返礼として頭を下げてしのぶに挨拶をする。

竹製の口枷を咥えた男性に肩を貸す女性も頭を下げた。

既に護衛役の村田隊士と『隠』の隊士達はしのぶを見た瞬間に頭を下げていた。

 

双方ともに互いの礼を終えた後、しのぶは珠代の整った顔を見て思う。

 

――綺麗な顔をしている……それに隣の鬼は殺気丸出しなのに対して、敵地とも言って過言じゃないこの蝶屋敷に身を置いても平然としている。

気に入らないけれど、炭治郎君が見惚れて尊敬するだけの事はあるわね。

 

「立ち話も何ですから、部屋まで案内させて頂きます。炭治郎君も禰豆子さんも、珠世さんとお会い出来るのを楽しみにしていますよ。」

 

「そうですか、私も炭治郎さん達と再会するのが楽しみです。」

 

そう言って玄関から珠世達が上がって廊下を歩き始めると、前方から足音が聞こえて来た。

 

「……珠世さんっ!」

 

しのぶ達の前に現れたのは炭治郎だった。その直ぐ後ろにアオイとカナヲも付いて来ている。

 

「まぁ……おはよう。お久しぶりね、炭治郎さん。」

 

「はいっ! おはようございます! お久しぶりですっ! 愈史郎さんもお久しぶりにお会い出来て嬉しいですっ!」

 

『……』

 

炭治郎と珠世が挨拶して再会の喜びを露わにしている中、挨拶された愈史郎は返答せず沈黙を守る。

また、周囲も黙ったまま二人を見ていた。するとアオイとカナヲが炭治郎の前に出る。

 

「……初めまして。勿体無くもこの蝶屋敷をしのぶ様より任されている、神崎アオイと申します。」

 

「……蟲柱・胡蝶しのぶの継子である栗花落カナヲです。初めまして。」

 

そう言って二人で珠世達に一礼する。その声色から警戒心が含まれている事に気付いた愈史郎は青筋を立てて睨み、珠世は愈史郎を宥めつつ苦笑しながら返礼した。

 

「初めまして。アオイさん、カナヲさん。珠世と言います。こちらが愈史郎です。私の助手兼護衛を務めてくれています。」

 

尤も、その警戒心が嫉妬や炭治郎への恋愛感情から来るものであるとは、流石の珠世も想像が付かなかった。

しのぶはそんなアオイ達の挨拶を無視して、炭治郎に質問する。

 

「炭治郎君、どうしてこちらに?」

 

「あーえっと……はいっ、珠世さんに早く会いたくて来ちゃいました。」

 

返答に困った炭治郎は、咄嗟に嘘だが本当でもある思い付きの理由を言ってその場を切り抜ける。

 

『っ!』

 

「まぁ……っ。」

 

炭治郎の思わぬ発言に、珠世は困った様な、されど嬉しい様な顔をして笑みを浮かべた。

良く見ると頬も薄っすらと赤くなっている。

 

『……』

 

その珠世の反応が、周囲に化学反応を引き起こした。

しのぶとアオイ、カナヲに愈史郎が青筋を立てて苛立ちを心中に抱える。

 

一方の村田隊士と『隠』達は半眼で炭治郎を見る。そしてこう思った。

「噂も存外間違っていないかもしれない。」と。

 

「さぁ皆さんっ! 部屋まで案内しますよっ! 急がないとそろそろ日が差してしまいます。どうぞ付いて来て下さいっ!」

 

炭治郎は不穏な空気を匂いで察すると、そう言って強引にその場を切り抜ける事にした。

 

 

 

♦︎

 

 

 

竈門兄妹の自室に帰還した炭治郎達は、早速室内に待機していた蜜璃達に珠世達の紹介を始めた。

しかし、たかだか自己紹介で一悶着起こしたのは何時も通り、善逸と伊之助であった。

 

「美しいお姉さんっ! 俺と結婚して下さいっ!!」

 

「……ふんっ!」

 

「げほぉっ!!」

 

光速で珠世の両手を掴んでそう告白した瞬間、激昂した愈史郎に鳩尾へ一撃を喰らい気絶した。

 

「うちの善逸がすみません。」

 

「全くだっ。」

 

気絶した善逸を抱えながら、炭治郎は愈史郎に謝罪した。此処で初めて愈史郎が口を開いた。

 

「お前が炭五郎が言っていた珠世だなっ! 山の王、嘴平伊之助様だっ! 俺と勝負しろっ!」

 

「……ふんっ!」

 

「げほぉっ!!」

 

間を置く事無く伊之助が珠世に向かって指を指しながらそう言い放った瞬間、激昂した愈史郎に鳩尾へ一撃を喰らい気絶した。

 

「うちの伊之助がすみません。」

 

「全くだっ。」

 

気絶した伊之助を善逸の隣に並べてから、炭治郎は愈史郎に再び謝罪した。

 

「はぁ~~。」

 

しのぶは溜め息を吐いて気絶した善逸と伊之助に気付け薬を嗅がせて叩き起こす。

 

「あ――――っ!!!」

 

気付け薬を嗅がされた二人は、悶絶して絶叫しながら室内を転げ回った。炭治郎も咄嗟に鼻を押さえながら、二人に呆れた視線を送る。

珠世と愈史郎の紹介でそんな騒ぎも起きたが、ある意味先の二人以上に注目を集める者達が出て来た。

 

禰豆子が着用している物と同様の竹製の口枷を着けた鬼に寄り添う様に一人の美女が出て来た。

 

「……初めまして。草薙要の家内、草薙綾と申します。」

 

綾と名乗った美女は水玉模様の着物を着ており、髪を後頭部辺りに団子状に結んでいた。

深く頭を下げて一礼すると、綾は炭治郎の前に出た。

 

「っ?……っ!?」

 

『っ!?』

 

炭治郎を筆頭にその場にいる全員が驚いた。何故なら、綾が勢い良く畳に手を置くと、そのまま炭治郎に土下座したからだ。

綾は頭を伏せたまま、炭治郎に向かって口を開いた。

 

「竈門炭治郎様っ! 夫を殺さず命を助けて頂き、本当にありがとうございましたっ!!」

 

「……っ……綾さんっ。俺はお礼を言われる様な資格はありません。むしろ俺が貴方達に謝らなければならない……っ。」

 

炭治郎は一瞬悔しそうに顔を歪めると、綾と同様に今度は炭治郎が綾に向かって土下座した。

 

「俺が鬼舞辻無惨を相手に不用意な行動を取ったばかりに、お二人を巻き込んでしまいました。この罪の必ず、全力で償わせて頂きます。本当に、すみませんでした。」

 

『っ!』

 

「……」

 

綾は頭を上げると、炭治郎にも姿勢を戻して欲しいと頼んだ。綾に促され、炭治郎は土下座を止めて綾に視線を向ける。

 

「珠世様は仰ってました。鬼になった時点で、鬼狩り様に討伐される対象なのだと。あの場にいたのが炭治郎様でなければ、夫は生きてはいなかったと……私、嬉しいんです。夫を未だに人間(ひと)として扱ってくれる炭治郎様が……だから……ありがとうございましたっ!」

 

「……っ。」

 

綾からお礼の言葉に、炭治郎は感極まって胸が熱くなる。不可抗力とは言え、草薙夫婦を巻き込んでしまった事が未だ炭治郎の心中に罪悪感として残っていたのだ。

罵倒される事も覚悟していた炭治郎だったが、こうも感謝の気持ちを伝えられるとは思っていなかった。

 

「炭治郎君。誇って良いんですよ。」

 

「しのぶさん。」

 

両眼を潤ませる炭治郎に、しのぶが声を掛けた。全員の注目がしのぶに集まる。

 

「普通の鬼殺隊の剣士なら……いや、たとえ柱であったとしても"人殺しになる前に早く殺そう"とは考えても、"人殺しをしない様に助けなければ"なんて絶対に思いません。炭治郎君は凄い人です。尊敬します。」

 

しのぶは炭治郎にそう言って浅草での英断を称えた。この言葉の裏にはしのぶの自嘲も含まれていた。

もし自身なら真っ先に殺していた。いや、鬼にも優しかった死んだ姉のカナエでも炭治郎と同様の英断は下せなかったと思った。

そう自嘲するしのぶに、綾が話し掛けた。

 

「胡蝶しのぶ様。御迷惑をお掛け致しますが、夫共々よろしくお願い致します。」

 

「迷惑だなんてとんでもない。御二人の実家だと思って気楽に寛いで下さいね。」

 

「……では一つだけ、お願いがあります。」

 

「何でしょうか?」

 

綾の言葉に、しのぶは首を傾げて綾が何を続けて言うか待った。

 

「私は夫共々、正式な免許を持っている医者なのです。良ければ、しのぶ様の治療のお手伝いをさせて頂けないでしょうか?」

 

『っ!?』

 

「えぇ――――っ!! そうなのっ!?」

 

蜜璃が草薙夫婦の思わぬ正体に、驚いた様に尋ねた。すると綾が静かに笑みを浮かべて答える。

 

「はい。新宿にある医院で勤めておりました。」

 

「……んっ? でも新宿の医院を働いていたのに、どうして浅草の方に……?」

 

善逸が疑問に思ってそう呟いた。すると綾の顔が悲しみに歪む。綾は嗚咽を漏らしながらその理由に答えた。

 

「ひっく……漸く医院の方が落ち着いたから、夫が私を遅めの新婚旅行に連れて行きたいと休みを取って浅草へ来たんです……それが予定外の急患の治療が終わって夜に浅草に着いた途端にあんな事になってしまって……うぅっ……っ。」

 

――うわぁっ……。

 

思わぬ地雷を踏んだと、その場に居る全員が絶句して閉口する。新婚旅行初日であんな事が起きれば、自暴自棄になってもおかしくない。

質問した善逸は罪悪感から汗を垂れ流していた。

 

「えっと……すみませんでしたっ!!」

 

善逸は泣きじゃくる綾に平謝りするしかなかった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

綾が落ち着いたのを見計らって、しのぶが綾の提案を快諾した。

 

「純粋に医療関係者が増えるのは大歓迎ですよ。それに私の様なモグリの医者ではなく、正式な医者が働いているとなれば多少は大っぴらに出来る事が増えますしね。」

 

しのぶはそう言って綾を歓迎した。勘違いしやすいが、しのぶは医者も裸で逃げ出す程に医学知識への造詣が深いだけであって正式な医者ではないからだ。

後にあの野口英世も受けて医師免許を得た、最難関の"医術開業試験"を受験して合格出来れば年齢も性別も関係無く医師免許を習得出来るのだが、鬼殺隊での多忙さ故にその様な事は不可能であった。

 

無免許医が治療行為を行っているとなれば、国法に触れる。世俗から乖離している鬼殺隊の世界と言えど、国法からは切り離せなかった。

しのぶの治療活動に支障を来たさない様に、産屋敷家が蝶屋敷の実態が世間に露見しない様に工作してくれているのだ。

また、産屋敷家傘下の提携医院とも積極的に連携を取って治療している。だからこそこの少人数で蝶屋敷は運営に成功しているのだ。

 

後は雑談を少しばかりすると、しのぶがすみときよにある指示をした。

 

「すみ、きよ。アオイが作ってくれた()()。持って来てくれる?」

 

「あれ?……はいっ! 分かりました。」

 

「直ぐに持って来ますね!」

 

そう返答すると、二人は駆け足で退室した。炭治郎は疑問に思ってしのぶに質問する。

 

「しのぶさん。すみちゃん達は何を持って来るんですか?」

 

「直ぐに分かりますよ。炭治郎さん。」

 

炭治郎の質問に対し、アオイが自信満々な様子で答えた。すると間も無く二人が戻って来る。

 

「あっ、お帰り……っ!」

 

「「しのぶ様っ。戻りました。」」

 

「お疲れ様。」

 

炭治郎は二人を見て驚いた。自身が日中を移動する時に禰豆子を入れている箱を二人が背負っていたからだ。

これを見た炭治郎に、アオイが説明する。

 

「炭治郎さんが鬼との戦闘中で箱が壊れない可能性なんて無いじゃないですか。だからもしもの時に備えて材料を取り寄せて予備を作っておいたんです。こんな形で役に立つとは思っていませんでしたけどね。」

 

「凄い……アオイさんっ! 本当に凄いよっ!」

 

アオイの器用さを見て炭治郎は心から称賛する。するとアオイは嬉しそうに笑みを浮かべた。

そんなアオイを無視して、しのぶが珠世と愈史郎に話し掛ける。

 

「珠世さん、愈史郎さん。私がしたい事が分かりますね?」

 

「はい。禰豆子さんと同様に、小さくなって箱の中に納まれば良いんですよね?」

 

「そうです。この方法が結局、一番早いので。」

 

産屋敷邸までの移動方法として、箱に納まって移動する方法をしのぶが提案し、珠世が承諾した。

すると愈史郎がしのぶに初めて、開口して話し掛けた。

 

「おい、胡蝶しのぶ。話す事は話しただろう? 今から、俺が指定した奴は此処に残ってそれ以外の他の奴らは出て行って貰おうかっ?」

 

「何ですか? 藪から棒に??」

 

殺気の籠った一方的な発言に、しのぶは苛立ちながら愈史郎に返答をする。

言う通りにしないしのぶに、愈史郎は苛立ちから青筋を立てて声を静かに荒げる。

 

「さっさとしろっ。俺は別にこの場に居る全員の前で言っても良いんだぞ? お前達が余計な恥を掻いても良いならな?」

 

「……っ!!……分かりました……誰が残って誰が退室するんです?」

 

愈史郎の言わん事を察したしのぶは、頬を少し赤くしながら愈史郎に質問をした。

それを聞いて愈史郎に人物の指定に入った。

 

その結果、退室したのは善逸と伊之助、すみときよとなほ、草薙夫婦に村田隊士と『隠』達だ。

逆に残ったのは竈門兄妹にしのぶ、蜜璃にアオイとカナヲ、そして珠世と愈史郎だ。

特にしのぶは耳の良い善逸に細心の注意を払っていた。

 

「……で? 愈史郎さんは何が言いたいんです?」

 

しのぶは嫌な予感がしながら愈史郎に質問をする。すると愈史郎が青筋を立てて激昂した。

 

「……お前らっ!? 俺の『紙眼()』を一体、何に使っているんだよっ!?」

 

『っ!!??』

 

「「??」」

 

愈史郎の指摘に、炭治郎達一同は驚愕し、動揺する。全員が赤面していた。ただし珠世と禰豆子は分かっておらず茫然としていたが。

 

「ゆ、愈史郎さん……その……ですねっ!」

 

「炭治郎っ!! お前禰豆子を人間に戻す事が全てじゃなかったのか!? 少々見ない間に随分と爛れたな貴様っ!?」

 

「うっ……言葉もございません……。」

 

愈史郎にその爛れた性活を咎められ、炭治郎は頭を下げて謝罪するしかなかった。

そうしていると、カナヲが身体を震わせながら愈史郎を見ていた。アオイは赤面して固まっていた。

 

「貴方が知っているって事は……つまり……裸……見られた?……炭治郎以外の男にっ?……。」

 

そう独り言を呟くと、顔を俯かせたまま炭治郎に接近する。そしてカナヲは炭治郎の日輪刀を奪おうとした。

 

「カナヲっ!? ちょっと待ってくれっ! 俺の日輪刀を奪って何をする気なんだっ!?」

 

「良いから黙って私の邪魔をしないでっ! 炭治郎の日輪刀貸してっ!? じゃないとこいつ殺せないっ!!」

 

「カナヲっ! 頼むから落ち着いてくれっ!?」

 

『……』

 

カナヲはしのぶとの乱闘で未だ日輪刀を失っている。故に炭治郎の日輪刀を奪って愈史郎の殺害を試みようとしたため、炭治郎は慌ててカナヲを止めに入る。

混沌の極みに達した室内を見て、珠世は現状を理解出来ず茫然としたが、現状打破のためにパァン! と合掌するが如く両手を叩いて全員を静かにした。

 

「静かにしなさいっ!……愈史郎、私は全く状況が理解出来ていません。今直ぐ簡潔に説明しなさい。」

 

「はいっ! 珠世様っ!!」

 

「ちょっ!? 待って……っ!」

 

愈史郎を阻止しようとしたしのぶは、珠世に一睨みされて口籠った。そうしている間に愈史郎の説明を受けた珠世は、思わぬ内容を耳にして驚愕する事となった。 

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……つまり……炭治郎さん達の情交のために、愈史郎は『紙眼』を悪用された訳ね?」

 

「はいっ!……正確には炭治郎ではなくこの淫売婦共が悪用した様ですが……。」

 

『……』

 

しのぶ達は抗議したかったが、悪用したのは間違いないので押し黙るしか無かった。

珠世は一度、溜息を吐くとしのぶ達と向き合った。

 

「しのぶさん。確かに情交時で嬌声が漏れるのを防ぎたいと思い、使用したのは賢いと言えます。愛する殿方を常に、何時でも視界に入れられる様にしたいと言う気持ちも理解出来なくはありません……ですが、産屋敷の現当主と炭治郎さんとしのぶさんのお考えではこの『紙眼()』を鬼殺隊の隊士全てに配布する考えなのですよね?」

 

「「は、はいっ。」」

 

炭治郎としのぶは異口同音で珠世の質問に肯定した。すると珠世がある指摘をする。

 

「この『紙眼()』が配布された暁には、全ての隊士にその痴態の一部始終を見学される結果になりますが、その事実は理解してますか?」

 

『あっ!』

 

珠世の指摘を受けて、炭治郎としのぶだけでなくアオイもカナヲも蜜璃もその状況を想像して頭を沸騰させる勢いで赤面した。

話し合いの結果、珠世の仲裁もあってしのぶが所有していた九枚の『紙眼』は、一旦愈史郎に返却される事となった。

 

その後は全員で朝食を取り、食後の小休憩を取った。善逸達は炭治郎達が何時までも赤面している事から気になって質問するも、炭治郎達は岩よりも口を固く閉ざしたままだった。

産屋敷邸に出発する際、草薙夫婦の護衛も兼ねて村田隊士は蝶屋敷に残留し、代わりに後藤隊士と増援の『隠』が合流して産屋敷邸に向かう事となった。

 

 

 

 

 

 

東京府・産屋敷邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十四日(金)

時間帯:朝

天気:晴れ

 

 

広大な屋敷の縁側で一人の男性が座っていると、一羽の鎹烏が飛んで来て男性の眼前で着陸して人語を使い報告をする。すると男性は静かに笑みを浮かべた。

 

「そうか……珠世さんが炭治郎達と共に此処へ向かっていると……これは丁重に持て成して差し上げなくてはね……。」

 

男性はそう言って、再び静かに笑みを浮かべた。




お待たせしました。

タイトル一覧を見て頂ければ分かりますが、美蝶の色を変更しました。連載当初から悩んでいた、と言うか悩んでいる色ですがやはりこちらの方が上位互換かと思いまして。
それに読者の方から「しのぶは紫と言うより藤では?」と指摘を受けて悩んでいた案に変更する事にしました。
なお、珠世さんを「紫蝶」と例えましたが、炭治郎の相手役になるかはまだ未定です。したいけど愈史郎の存在が邪魔だ(失礼の極み)。

それから浅草の夫婦には姓名を与えて職業を医者にしました。無惨様ガチャでこれくらいの超レアキャラになっても良いよね。
本来なら一生眠っていた筈の巨龍を呼び起こした無惨様が悪いんだから。

最近何処で区切ろうか悩んでて頭が痛い……それに今回は何時もより面白くないかも(汗)。

次回の更新は六月中にします。

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透川様

pixivユーザーID
https://www.pixiv.net/users/23364086

日だまりにて、きみを待つ
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12751796
炭アオssです。繊細で丁寧な感情表現や描写に引き込まれる名作です。アオイの儚くも美しい炭治郎への想いは必見です。


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第弐拾陸話 日輪と美蝶の前日祭 ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*R指定作品です。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ・タグ編集大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


産屋敷家

 

千年の歴史を持つ、日本国随一の名家である。初代まで遡ると平安時代では頂点に君臨していた大名門であった。

 

しかし、一族から鬼舞辻無惨を輩出してから呪いにより子々孫々は早死にする様になり、その座を藤原家に明け渡す事になった。

 

鬼舞辻無惨を討滅し、鬼と言う存在をこの世から葬り去る事に専念した産屋敷家は表舞台から消え去ったが、その影響力は増大すれども減る事は無かった。

 

探せば至るところで産屋敷家の名前が見られ、それを頼りに無惨もまた自身を狙う産屋敷家を滅ぼすべく捜索しているが、今日まで霞の如く逃げられ発見には至っていない。

 

正確に言うと、過去に何度か掴み掛けた事はあれど限り限りのところで逃げられている。

そのため産屋敷家は一族の早死にと言う難点を抱きながらも、今日まで存続しているのだ。

 

炭治郎達は『隠』達に目隠しや耳栓をされて五感を隠された上で、何度も別の『隠』達に変えられて背負われて産屋敷邸まで案内され、大広間で待機している。

 

これは鬼によって囚われ、快楽攻めや拷問、または裏切り者による内部情報の漏洩を防ぐためである。故に鬼殺隊隊士の頂点に立つ柱であろうと、持っている情報は一般隊士のそれと殆ど変わらない。

 

現在大広間にいるのは竈門兄妹、胡蝶しのぶ、甘露寺蜜璃、神崎アオイ、栗花落カナヲ、我妻善逸、嘴平伊之助、珠世、愈史郎の十名だ。

尤も、その中で善逸だけがソワソワして待っていて、禰豆子は箱の中で熟睡中だったが。

 

「な、なぁ。何で俺や伊之助まで呼ばれたんだ?……産屋敷邸って呼ばれるとしたら、柱とか偉い人が呼ばれる場所だろう?」

 

先刻(さっき)も言ったけど、珠世さん達の護衛だよ。何度も言わせないでくれよ、善逸。」

 

「で、でも俺じゃ役に立たないって!」

 

「善逸さんと同意見なのは些か癪ですが、私もとてもお役に立てるとは……。」

 

「御館様は無意味な事はしない方です。善逸君、大人しくしなさい。アオイ、貴女もよ。」

 

騒ぐ善逸をしのぶは静かに諫め、不安な様子のアオイにも声を掛けた。

アオイの腰には封印していた自身の日輪刀が有り、カナヲの腰にはカナエの形見の日輪刀を備えていた。

しのぶの腰にもまた刺突特化の特殊な日輪刀ではなく、入隊時に与えられたまま使う事無く封印していた通常の日輪刀を手にしていた。

すると紫色の着物を着た黒髪のおかっぱ頭で、左頭部に藤の花の髪飾りをしている子供が登場した。

 

「ん?……あっ! あの子って確か、"最終選別"にいた子……。」

 

「しっ!……御館様の御子息であらせられる産屋敷輝利哉……様だよっ。」

 

善逸がそう呟くと、炭治郎が慌ててそう言って善逸を静かにさせた。

因みに伊之助はしのぶに殺気で騒がない様に念押しされているため、最初から静かにしていた。猪頭の被り物も外してある。

 

「御館様の御成りです!」

 

輝利哉がそう言うと、奥から二人の人物がゆっくりと大広間に入って来た。

 

一人は総白髪の二十代後半の長身の美女だ。名前は産屋敷あまね。産屋敷家現当主の妻である。

浮世離れしていると言っても過言ではない、その美貌を前に見慣れていないしのぶと蜜璃を除いた面々は見惚れて固まった。

 

その美女に支えられている様に、一人の長身痩躯の男性が歩いている。

肩まである切り揃えた黒髪に、何より顔を中心に広がる焼け爛れた様な薄紫色の痣に眼が行くのが特徴の美青年だ。

この男性こそが千年以上に渡り鬼舞辻無惨と戦い続ける産屋敷家の第九十七代目当主・産屋敷耀哉である。

 

「御館様におかれましては御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます。」

 

事前にしのぶから挨拶の口上を譲られていた蜜璃が、平伏して耀哉にそう言った。

禰豆子、珠世と愈史郎を除く全員もまた、蜜璃に倣って平伏する。尤も、伊之助はしのぶが怖かったので皆に倣っているだけだが。

 

「ありがとう、蜜璃……善逸、伊之助、カナヲは初めましてだね。産屋敷家第九十七代目当主・産屋敷耀哉だ。自己紹介はしなくて大丈夫だよ。君達の事は知っているからね。」

 

「は、はい。」

 

カナヲが頭を少し上げてから、そう返事して再び平伏する。

 

――これが……御館様……っ。

 

――なんて澄んだ音がするんだ……炭治郎とはまた別の音だけど、聞いているだけで涙が出そうだ……。

 

――な、何なんだ()()()……声を聞いただけでほわほわしやがるぞ……。

 

――数年ぶりにお会いするけれど、痣が広がってる……お労しや、御館様……。

 

――この人が鬼殺隊の現頭領……っ。

 

――……ちっ。

 

カナヲは初めて会う耀哉に圧倒され、善逸は耀哉から鳴る音に感動し、伊之助は胸中に抱いている感情に当惑し、アオイは数年ぶりに耀哉の姿を見て胸を痛めていた。珠世は想像とは違う人物の登場に動揺し、愈史郎は耀哉を見て内心で忌々しそうに舌打ちした。

 

その理由は耀哉の出す声に有る。耀哉の声は聞く者に安らぎを与える。誰問わず心が落ち着き、不思議な高揚感を与えられて心服するのだ。

この声質は産屋敷家の直系に必ず継承されている異能の一つである。

 

「そして……こんなに早く会えるとは思っていなかった……会えて嬉しいよ、珠世さん、愈史郎さん。」

 

「……初めまして、耀哉さん……珠世です。」

 

「愈史郎だっ……ふん、鬼殺隊の親玉がこんな死に損ないの病人とはなっ。」

 

『っ!?』

 

珠世は緊張しながら挨拶すると、愈史郎も倣って挨拶した。しかし次の瞬間、耀哉に向かって侮蔑の含んだ罵声を放つ。

これにはその場に居る全員が驚愕した。

 

「ちょっ!?……愈史郎君っ!!」

 

「愈史郎っ!!」

 

「黙ってろ甘露寺。珠世様もお下がり下さい……俺はこの死に掛けと話しているんだ。」

 

「……っ。」

 

「……」

 

愈史郎の暴言に聞いて蜜璃と珠世は思わず諫めようとするが、愈史郎は聞く耳を持たずに耀哉を睨み付ける。

その態度にしのぶは青筋を立てて横目で愈史郎を睨み付け、炭治郎は心配そうに愈史郎と耀哉を交互に見た。

 

「一人で歩けもしない奴が動き回ったら、周囲が迷惑するだろうがっ。病人なら病人らしく、大人しく寝ていたらどうだっ? お前が直接、戦いに身を投じる訳でも無いんだ。今まで通り、鬼狩り共に任せれば良いだろう?」

 

「確かにそうかもしれない……だが何時か動けなくなる身体なら……今のうちに動いて、私の子供達に出来る事をしてあげたいんだ……たとえ人の手を借りてでも、一人の人間として振舞いたい。」

 

「……っ。」

 

愈史郎は他の面々とは違って、耀哉を見て苛立ちを募らせていた。

 

それは愈史郎の人間時代が起因している。十代半ばで不治の病に侵され、余命幾許も無かった頃だ。

 

物心が付く前に両親と死別し、多額の遺産を目当てに叔父夫婦に引き取られた育てられていた愈史郎だったが、その生活は幸せではなかった。

 

叔父夫婦からも、その実子達である従兄弟達からも親族からも表向きは満面の笑みを浮かべて媚び諂われたが、裏では嫌々な様子で自身の早死にを願い呪っていた事実は忘れたくても忘れられなかった。

 

病が重症化するとその本性を露わにして態度を一変させ、看病する事も忘れて壊れた道具を捨てるが如く、親族全員から見捨てられた。珠世が居なければ、自身はこの世を呪いながら死んだに違いないのだ。

 

それが耀哉はどうだ。自身と同じ状況でありながら卑屈にならず絶望もせず、手を貸す者も嫌がっている様子を見せる様子が無く、大勢の者達に心から慕われている。

 

それだけでも妬ましく腹正しいと言うのに、病人と無駄話をしていると言うのも愈史郎にとっては鬱陶しい限りだった。

 

「おい産屋敷、お前を診ている医者は居るのか?」

 

「ああっ。居るとも……定期的に見て貰っているよ。それからしのぶには薬を調合して貰っている……。」

 

耀哉の回答を聞いて、愈史郎はフンと鼻で嗤う。

 

「珠世様……この男の主治医はかなりの藪医者の様です。薬も役に立たぬ無駄な物を飲まされて哀れな事だ。この男、見ていて鬱陶しいので珠世様が御診察されては如何でしょうか?」

 

『っ!!』

 

「っ!……ええっ! そうねっ!!」

 

珠世は愈史郎の言葉に、これまでとは打って変わって笑みを浮かべて立ち上がった。すると珠世はあまねに話し掛けた。

 

「すみませんが、耀哉さんを診察してもよろしいでしょうか?」

 

「……はいっ。寧ろ、こちらからお願いしたいくらいです。珠世様、どうかよろしくお願い致します。」

 

「はい。何が出来るかは分かりませんが、医者として最善を尽くします。ええっと……。」

 

「っ!……あまねです。産屋敷耀哉の妻・産屋敷あまねと申します。」

 

口籠った珠世の様子を察して、あまねはその場で自己紹介して珠世に頭を下げた。一方愈史郎も騒がしくなっていた。

 

「おいお前らっ! 珠世様がお持ちした薬箱と医療用具全部持って来いっ!」

 

「何でそう偉そうに指図するんだよっ! 自分で取りに行けば良いだろうがっ!?」

 

「馬鹿かお前はっ? 今、俺が歩いたら陽光が直撃するだろうがっ。ウダウダ言ってないで持って来いっ!」

 

善逸が愈史郎に抗議すると、愈史郎は善逸を黙らせて道具を持ってこさせた。勿論、炭治郎や蜜璃達も協力する。

 

実は蝶屋敷に運搬する筈だった医療用具や研究資料だがそれらは現在、産屋敷邸に運び込まれていた。

耀哉の容態を『隠』から聞いていた珠世が急遽、治療に必要だろうと考えての一案だったのだ。

 

こうして、会談の場面になる筈だった大広間は一転して診察室へと変貌を遂げた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……良いでしょう。もうお召し物を着て下さって大丈夫ですよ。」

 

診察を終えた珠世が耀哉に脱いだ服を着る様に促した。

着衣を終えた耀哉を見て、皆の注目が集まる中で珠世が開口する。

 

「結論から申し上げますと、やはり普通の薬では治療に役立てないでしょう。鬼舞辻無惨の呪いに寄るものとなると、それはこの世の理の外のものですから。」

 

珠世は一目見ただけで、耀哉の身体に起きている深刻さを理解した。

 

「……」

 

「なんでぇ、それじゃ結局お前も役に立てねぇって事じゃねぇか!? 偉そうに抜かす事かそれっ!?」

 

「おい猪っ!? 珠世様に向かって無礼だぞっ!?」

 

伊之助が珠世の結論に対して声を荒げて抗議すると、愈史郎が伊之助の態度に激昂して睨み付ける。

そうなると必然的に伊之助の怒りが珠世から愈史郎に向かい、一触即発の状態になる。

 

「伊之助、愈史郎さん。二人とも、落ち着きなさい。」

 

『っ!』

 

耀哉が睨み合う二人を宥めるために、優しく声を掛けた。

するとそれだけでピリピリとした一触即発の空気は胡散して消え去った。

 

「人の話は最後まで聞くべきだよ……珠世さん、普通ではない薬なら役に立てると言う事かな?」

 

『っ!』

 

耀哉の発言で、再び注目は珠世に集まった。珠世は耀哉の質問に頷いて見せる。

 

「耀哉さんの言う様に、その普通ではない薬は……禰豆子さんの血が鍵となるでしょう。」

 

「っ!……禰豆子の血が、ですか?」

 

炭治郎は驚いた様にそう反芻すると、全員の注目が禰豆子に集まった。

珠世もまた禰豆子に視線を向けながら、話を続ける。

 

「はい、禰豆子の血は草薙さんの鬼の本能から来る凶暴性を抑え込みました……勿論、耀哉さんの呪いの方が比較するまでも無く遥かに重いものですが……何かしらの影響を与えられる可能性は十分考えられるかと。」

 

そう言ってから珠世は、期待の籠った視線を禰豆子に注ぐ。

しかし、それを遮る様にしのぶが珠世に向かって尋ね始めた。

 

「珠世さん。それはつまり、禰豆子の血を使って製薬すると言う事でしょうか?」

 

「はい。幸いにも道具はこちらに運び入れていますし、産屋敷邸にも今は使われていない研究室があるとか……そちらで製薬をしてみましょうか。」

 

「……すみませんが、珠世さん。その製薬、もう少々お待ち頂けないでしょうか?」

 

「……待つ、ですか?」

 

しのぶなら喜んで製薬に賛成し、協力するものだとばかり思っていた珠世はしのぶの意外な発言に少々面食らう。

 

「おいっ! 珠世様の邪魔をする気か!?」

 

「うるっさい男ですね。誰もするなとは言っていないでしょうがっ……少々待って欲しいと珠世さんにお願いしているんですよ。」

 

しのぶの態度を非難する愈史郎に対し、しのぶは鼻で嗤ってそう言うと、耀哉に平伏してから話し掛けた。

 

「御館様、一つ……いや二つだけ質問した事がございます。」

 

「なんだい、しのぶ?」

 

しのぶに穏やかに返答する耀哉に対し、しのぶは質問を始めた。

 

「柱合会議は、始めるご予定に変更はありますでしょうか?」

 

「変更はないよ。最初から予定通り、皆が任務から帰って来るのに合わせて明日の昼過ぎに柱合会議を予定しているよ。」

 

「分かりました……二つ目ですが、禰豆子さんの血を使っての製薬は暫くお待ち下さいませんでしょうか?」

 

「別に構わないが、どれくらい待てば良いのかな?」

 

「はい、今暫くの御猶予を頂ければ、今より禰豆子さんの血を今以上に濃くして御覧に入れます。」

 

『っ!』

 

しのぶの発言に、その場にいる全員が眼を見開かせて驚いた。耀哉がしのぶの発言に対し、質問する。

 

「ほう……どうやってするつもりかな?」

 

「申し訳ございませんが、それはまだ申し上げられません。ただ、私を信じて頂くしかないのですが……。」

 

しのぶは耀哉へ明確な回答が出来ない事に対し、頭を下げて詫びを入れる。

耀哉はそんなしのぶに対し、穏やかに宥めた。

 

「しのぶを疑うつもりなんて、微塵も私には無いよ。君には他の子供達と同様、絶対的に信頼しているからね。」

 

「勿体無いお言葉、ありがとうございます。御館様。」

 

しのぶはそう言って深々と、頭を耀哉に向けて下げる。そして直ぐに立ち上がった。

 

「……あまね様、お部屋を一つお借りしたいのですが、よろしいでしょうか? それからこの間は、誰も近付いて欲しくないのです。」

 

「でしたら、本邸から少し離れた別邸がありますから其処をお使い下さい。」

 

「使って大丈夫でしょうか?」

 

「はい。定期的に使用人に清掃させるだけでもう使っていませんから。」

 

「ありがとうございます……重ね重ね申し訳ないのですが、以下の物を御用意頂けますでしょうか?」

 

「何なりと。」

 

あまねがそう言ったのを見計らって、しのぶは必要品を口上を述べた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「善逸君、がんばがんばっ!」

 

「ふひひひひひっ!」

 

産屋敷邸のある一室で、応援する元気な声と、聴いただけで身が竦みそうな汚い笑声が聞こえていた。

その部屋には蜜璃と善逸と伊之助がおり、蜜璃指導の下、柔軟体操が行われていた。

 

善逸の柔軟を見た蜜璃が身体を密着させて善逸の柔軟を手伝っていた。

応援して身体を密着させる蜜璃に対し、善逸は思惑通りに事が運んだ事を喜んでいた。

 

実は善逸は柔軟体操に手を抜いており、こうする事で蜜璃が指導すると思ったからだ。

蜜璃の柔らかい身体と香る桜の様な匂いに喜びながら、蜜璃にされるがままの善逸。

しかし、そんな邪な考えを持つ善逸に、間も無く天罰が下る。

 

「ひひひっ……へっ?……ちょっ、ちょっと待ってっ! これ以上曲がらないっ! これ以上行きませんからっ!!」

 

「弱気な事を言っちゃ駄目だよっ! 痛気持ち良いくらいまで伸ばして初めて可動域が広がるんだから! さぁ頑張れ頑張れ善逸君っ!!」

 

「うぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

蜜璃の怪力で無理やりな姿勢を取らされた善逸は、現可動域を超えたために発した激痛に悶絶する。

泣き叫ぶ善逸を尻目に、伊之助は蜜璃から言われた柔軟姿勢を取っていた。

 

「かあぁぁぁぁっ! 情けねぇな紋逸っ!! そんぐらいでギャーギャー言うなっ!」

 

伊之助は常人には出来ない姿勢を取りながら、善逸の見苦しい醜態を鼻で嗤う。

優越感から来るものであったが、そんな伊之助にも平等に天罰が下る。

 

「伊之助君の身体は本当に柔らかいのねっ! 凄い凄いっ!!」

 

「ははははっ! 凄いだろう俺はっ! 凄いだろう俺はっ!!」

 

激痛で気絶した善逸を放置して、蜜璃が伊之助の下まで行きその柔軟性を称賛する。

称賛された伊之助は更に気を良くして御機嫌になった。

 

「よーしっ! ならもっと頑張ってみようか!」

 

「えっ!?……お、おう! 良いぞっ! 山の王である俺に不可能はねぇっ!」

 

「おー言ったねっ! だったら私も本気で行くわよっ!」

 

「望むところだぁっ!」

 

伊之助の気勢に対し蜜璃は嬉しそうに声を大きくすると、伊之助の身体をがっちりと掴んで柔軟体操を始める。

 

「ふん……これくらい……ちょ……ちょっと待てぇ! 待ってくれぇっ!!」

 

「頑張ってっ! 伊之助君っ!! 此処から頑張れば新しい世界が広がるからっ!!!」

 

「うぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

蜜璃の怪力で善逸以上に無理やりな姿勢を取らされた伊之助は、現可動域を超えたために発した激痛に悶絶する。

無意識に善逸と伊之助を拷問している蜜璃は、二人の柔軟体操を交互に手伝いながら回想と考え事をしていた。

 

『良いですか、甘露寺さんっ? "絶対に"善逸君と伊之助君を私達に近付けないで下さい。お願いしますよ? "絶対に"ですからね? 成し遂げて頂けたらお礼はたっぷりさせて頂きますから。』

 

『うんっ! 分かったわっ!!』

 

――しのぶちゃんが禰豆子ちゃんに何をするか分からないけれど、しのぶちゃんの事だからきっと大丈夫っ! 私はしのぶちゃんに頼まれた様に、善逸君と伊之助君を此処に引き留められる様に頑張らないとっ!!

 

そう決意した蜜璃は更に柔軟体操に力を入れる。聞き苦しい絶叫を奏でながら、蜜璃はある事を頭に浮かんだ。

 

――でもあの面々を考えると……いやいや、珠世さんと愈史郎君がいるから事には及ばないよね。第一、炭治郎君と禰豆子ちゃんは実の兄妹だし……無いよね? 流石に無いよね?

 

こうして暫くの間、蜜璃は一抹の不安を抱きながらも産屋敷邸では二人の男が放つ汚い高音による絶叫が鳴り響いた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

東京府・産屋敷邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十四日(金)

時間帯:朝

天気:晴れ

 

 

炭治郎達は産屋敷本邸から離れた別邸に集まっていた。

その場にいるのは炭治郎、禰豆子、しのぶ、アオイ、カナヲ、珠世、愈史郎の七人が集まっていた。禰豆子も現在、箱から出て起床している。

 

しのぶの指定で、室内には一斗の結樽一杯に入った冷えた井戸水とそれを掬って飲むための大きな合が付いた柄杓が有った。

因みに別宅へ移動する際に珠世と愈史郎、そして禰豆子はそれぞれアオイとカナヲ、そして炭治郎が箱に入れて運び、道具は産屋敷の使用人が運び入れた。

 

「……で?……何故俺と珠世様まで此処に連れて来た?……相応の理由が有るんだろうな?」

 

「……珠世さん。以前、お手紙で禰豆子さんの血の件で是非ともその変化を聞きたいと言う旨を書かれていた内容を覚えていますか?」

 

「おいっ!」

 

「愈史郎っ!……すみません、しのぶさん。勿論、覚えていますよ。」

 

激昂する愈史郎を宥めると、珠世はしのぶの質問に対し肯定した。

その顔色は好奇心と興奮で満ちていた。そんな珠世の視線を受けて、しのぶは一度深呼吸してから決意を固める。

 

「出来れば隠したかったのですが、とても御二人からは隠し通せるとは思わないので、はっきりとお伝えしたいと思います。実は……。」

 

「「……っ!?」」

 

しのぶは禰豆子の血の変化の詳細を説明すると、二人の顔は驚愕一色で染まった。

炭治郎はその説明を傍らで聞く間、とても居た堪れない気持ちで一杯になっていた。

 

「……炭治郎。お前は仏の様な奴だと思っていたが、その本性は(ケダモノ)そのものだったんだな……ある意味、尊敬するぞ。」

 

「……愈史郎さん、尊敬するとかそんな心にも無い事を言わないで下さい。むしろ、軽蔑の匂いをプンプン感じるんですが……。」

 

「必要なら何度でも言いますが、禰豆子さんが炭治郎君の寝込みを襲ってした事ですので、その辺は絶対に勘違いしない様に。それから絶対に、口外しないで下さい。」

 

「こんな事実、口外出来るかぁっ!?」

 

愈史郎は激昂してしのぶの警告に対してツッコミを入れた。一方の珠世は話を聞いて最初こそ動揺したものの、直ぐに真剣な表情でしのぶの話を一語一句聞き逃すまいと耳を顔ごと傾けていた。

しのぶの話を聞き終えた珠世は、一旦双眸を閉じるとゆっくりと見開いてから開口を始めた。

 

「体液は確かに体液だけれど……精液を摂取しただけであれだけの変化を……っ?」

 

右手を顎に手を置いて、ブツブツと独言を口にしながら禰豆子について考察する珠世。

そんな珠世を、皆は横から口を出さずに見守る。

 

――真剣にお考え事をされている珠世様も美しい……。

 

そんな珠世を、愈史郎は相変わらずその美貌を称えながら見惚れていた。

珠世は考察を続けていたが、皆の視線を感じてコホンと咳払いしてからしのぶと向き合った。

 

「しのぶさんが言っていた"血を濃くする方法"とは……つまりはそう言う訳ね?」

 

「まぁ……そう言う事です。」

 

しのぶは珠世の察した様子に、頬を赤く染めながら肯定した。すると愈史郎が何かに気付いた様子で、しのぶに問い掛けた。

 

「なぁ……精液であれだけ変化が促進されたと言うのなら……禰豆子に血を飲ませた方がもっと早く進化するんじゃないか?」

 

『っ!』

 

愈史郎の質問に、全員がハッとした表情をする。問い掛けられたしのぶに注目が集まるが、しのぶは静かに首を横に振った。

 

「それは私も考えました。しかし、禰豆子さんは炭治郎君の血を飲む事を頑なに拒否したんです。」

 

『っ!』

 

「っ!……禰豆子さんがっ。」

 

「……しのぶ姉さん、その試みは何時やったの?」

 

全員がその事実に驚く中、カナヲは何時その実験をしたかしのぶに質問した。

 

「そうね……三日前から毎日実験したわ。炭治郎君の血液を飲ませる試みと……それ以外の人間の血に反応するかを確かめる実験をね。」

 

「っ! しのぶさんっ。それで禰豆子はどういった反応をしたんですかっ?!」

 

炭治郎は食い気味な様子で、しのぶに質問をする。禰豆子に関連する案件だからか、焦燥感が見て取れる。

大切な実妹の事とは言え、そんな必死な様子の炭治郎を見てしのぶは禰豆子に少々の嫉妬心を抱きながら、その質問に答える。

 

「炭治郎君の血にだけ反応した……それから幾人もの血を試験管に入れて並べてみたら、炭治郎君の血以外には見向きもしなかった。けれど、決して炭治郎君の血に手を付けようとはしなかったわ。それは血を入れ替えて何度試しても、結果は変わらなかったの。」

 

『……っ。』

 

しのぶから禰豆子の実験結果を聞いて、全員が驚きと共に安堵感を覚えた。何故なら、幾ら血を見ても鬼の本能が機能して居ないと言う、何よりの証拠だからだ。

 

「しのぶ様。私もこの実験に関して初耳なのですが、しのぶ様だけで禰豆子さんの実験をされていたのですか?」

 

「ええ。アオイの言う通り、私だけで実験を行ったわ。」

 

「……一言だけでも言って下されば、お手伝いしましたのに……。」

 

アオイの質問にしのぶが肯定すると、アオイは不満そうにそう口にした。そんなアオイを見て、しのぶは苦笑しながらその理由を話し始めた。

 

「万々が一、禰豆子さんが暴走しても被害は私だけで済むでしょう? それにその時は私の独断専行で、炭治郎君の了承を得ずに勝手に実験を行った事にしようと思ったのよ。」

 

『っ!?』

 

しのぶが何でもない様に理由を言うと、炭治郎達は眼を見開いて驚愕した。つまり、禰豆子のために全責任を負う覚悟だったと言う事に他ならない。

 

「しのぶさん……っ!」

 

「ごめんなさいっ……自分勝手なのは重々承知よ。それでも炭治郎君を巻き込みたく無かったの。」

 

炭治郎が若干、声を荒げてしのぶの名を呼ぶとしのぶは申し訳無さそうに謝罪した。その様子を見た珠世が、しのぶに助け舟を出す。

 

「炭治郎さん、もう過ぎた事を言っても仕方無いわ……今後の実験は、私や愈史郎も加わりますから安心して?」

 

「珠世さん……分かりました。でもしのぶさん。もうそんな無茶は今後、御一人だけでは絶対にしないと俺達に約束して下さい。」

 

「ええっ。約束します。」

 

珠世にそう説得され、炭治郎は渋々納得した上でしのぶに約束させると、しのぶは二つ返事で了承した。

 

「……で、今から始める訳か?」

 

「はい。」

 

愈史郎の問い掛けに対し、しのぶが肯定する。

 

「おい、炭治郎。お前は大丈夫なのか?」

 

「えっ? 愈史郎さん、どう言う意味でしょうか?」

 

愈史郎からの思わぬ気遣いの言葉に、炭治郎は面食らって質問を返した。呆れた様子で、愈史郎は炭治郎の質問に答える。

 

「言葉通りの意味だが? お前は一夜掛けて散々、しのぶ達と()っていただろうが。体力と精力は持つのか?」

 

『っ!』

 

「あ、あはははは……産屋敷邸(此処)まで来る時に、『隠』さんの背中で一時間ぐっすり寝てましたし、大丈夫だと思いますよ。」

 

後頭部を掻きながら、照れ臭そうに炭治郎はそう言った。それを見て愈史郎が珠世に目配りをした。

 

「……珠世様っ。」

 

「ええっ。」

 

愈史郎の目配りを見て、珠世が炭治郎の前へ向かうと懐から二種類の色違いの丸薬が入った薬入れを取り出して炭治郎に渡した。炭治郎は手渡された丸薬を見て、少々当惑しながら珠世を見る。

 

「えっと……このお薬は何ですか?」

 

「青色の丸薬が珠世様特製"疲労・体力回復薬"。黄色の丸薬が珠世様特製"精力増強剤"だ。」

 

『っ!?』

 

「疲労・体力回復薬に精力増強剤っ……ですか。」

 

しのぶ達が驚愕する中、愈史郎の説明を受けて、炭治郎が反芻する様に口にしながら手元にある丸薬を凝視する。

 

「ま、待って下さいっ! その薬の副作用は何なのか、私が知らずに服用は認められませんっ! 珠世さんっ、是非教えて下さいっ!」

 

しのぶは何故か怒った様子で、珠世に丸薬の副作用について説明を求めた。炭治郎がしのぶの匂いを嗅ぐと、嫉妬の匂いを嗅ぎ取った。

 

「お前っ……珠世様が製薬したお薬を疑う気かっ!?」

 

「愈史郎っ!……しのぶさん、副作用と言っても頻繁に乱用しなければ何も起きませんよ。起きたとしても若干の間、不眠になる程度です。」

 

「……そうでしたか。」

 

激昂した愈史郎を宥めて、珠世は簡潔に薬の副作用についてしのぶに説明する。しのぶは渋々、納得した様に見せた。

すると愈史郎はそんなしのぶの様子を見て、鼻で嗤って話を再開した。

 

「珠世様が製薬したお薬に欠陥が有る訳が無いだろうがっ! 珠世様の看板商品の一つだぞっ。」

 

「看板商品?」

 

アオイが愈史郎の発言に、好奇心と疑問を復唱する。愈史郎はアオイの反応を見て、ふふんと鼻を鳴らして室内を動き回りながら、説明を始めた。

 

「珠世様は貧乏人共から診察料を取る様な真似はしないっ。だが人間社会に生きて行く以上、金は必要不可欠だ。ならどうするか? 当然、金を持ってる金持ち、例えば華族や大商人共と言った金蔓を相手に金を分捕れば良い。」

 

そう言って愈史郎は青、黄、桃色の丸薬が入った薬入れを取り出した。

 

「幾つもある珠世様がに製薬した素晴らしいお薬の中でも人気商品だ。青と黄色の丸薬が先刻(さっき)説明した薬だ。桃色の丸薬は避妊薬だ。」

 

「避妊薬っ!?」

 

しのぶは驚愕してその桃色の丸薬を凝視した。そのしのぶの様子を見て、愈史郎は得意げになる。

 

「疲労・体力回復薬は一番人気の薬だ。使う場面を問わない。この薬と併せて他の二つの内どちらかもしくは両方を買う。

精力増強剤は男共に人気だ。女を元気に抱きたいから当然だな。

そして精力増強剤以上に人気で、回復薬と並ぶくらい皆が欲しがるのが避妊薬だ。男は妻以外の女を抱く際に妊娠されたら困る。女は夫や恋人じゃない、つまり浮気相手の間男の子を孕むと困るから欲しがる。

それから、吉原遊郭の花街で店を経営する経営者共が挙って欲しがるな。理由は勿論、商品である遊女共が妊娠したら使いものにならないからだ。

因みに今は手元に無いが、生理痛抑制薬もこの三つの次くらいに人気だぞ。」

 

愈史郎は説明をし終えると、まるで自身の業績が如くむふぅと鼻息を荒げて誇らしげになる。珠世は面白そうにそんな愈史郎を見て苦笑した。

 

「勿論、薬の売買で無惨に見つかるヘマをしない様に工夫はしてありますから。」

 

「……成程、御高説ありがとうございました。」

 

しのぶはそう言って僅かだが、頭を愈史郎に向かって頭を下げた。炭治郎はしのぶから嫉妬の匂いに加えて尊敬と悔しい匂いを感じた。

炭治郎は知る由も無いが、どれもしのぶが作ろうとして製薬に失敗している薬ばかりだからだ。

そして固定の客層が居ると言う事は、薬効は確かだと言う証拠に他ならない。年季が違うとは言え、同じ医学者として尊敬するも嫉妬するのは無理は無い。

 

「珠世さん、是非後で丸薬を頂けますか?……それから製薬方法もどうか……。」

 

「ええ、構いません。」

 

「言おうと思ってましたが、私達に敬語は無用ですよ。珠世さん。」

 

「……分かったわ。炭治郎さん、始めるならその前に丸薬を飲んで十分程待ってね?」

 

「はい、分かりました。」

 

それから珠世と愈史郎は箱に戻ると、それをアオイとカナヲが背負って別邸を出ようとする。

しかし、しのぶは出ようとせず炭治郎と布団を敷くのを手伝っていた。

 

「……姉さん、何で一緒に出ないの?」

 

「何でって……私も混ざるからよ。」

 

「はぁっ!?」

 

あっけらかんとした様子でさも当然の如く言うしのぶに対し、アオイが青筋を立てて憤る。カナヲも声に出さないが、青筋を立てている。

炭治郎も予想していなかったのか、驚いた様子でしのぶを見ていた。

 

「驚く事はないでしょう? 禰豆子さんの貧相で退屈な身体で、炭治郎君が満足する訳無いじゃない。だから最後までしたいところだけど、其処は我慢して当て馬になる心算よ。」

 

「むっ!?」

 

「し、しのぶさん。其処はせめて慎ましいと言ってあげて下さいよ……っ。」

 

しのぶは禰豆子を鼻で嗤いながら、そう言って蝶の羽織と隊服の上着を脱いで晒姿になった。しのぶの発言を聞いて、禰豆子が青筋を立てて睨み付ける。

炭治郎もしのぶの隠す様子も無い言い方に、少々困った様にそう言った。

 

「ふふ、貴女達も最後までして貰えず当て馬でも良いと言うのなら、人数分の着替えを持って来た上で戻ってらっしゃい❤」

 

「「はいっ!!」」

 

アオイとカナヲは元気良く異口同音で返事をすると、ドタドタと別邸から走り去って行った。

 

「さぁて……時は金なりよ、炭治郎君。最後まで出来ないけど、たっぷりと愛し合いましょうか?❤」

 

「はいっ!」

 

「……むぅ。」

 

炭治郎が返事すると同時に、三人は服を脱いで生まれたての姿になった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「アオイっ! 早く早くっ!!」

 

「カナヲっ! あんた私にだけ着替え持たせんじゃないわよっ!?」

 

カナヲを先頭に、アオイが着替えを持って口論しながら本邸の中を疾走し、別邸に帰還する。

珠世達を送り届けるために出て、着替えを入手するまで二十分以上経過していた。

 

「姉さん、戻りましたっ!!」

 

カナヲが勢い良く襖を開けて、しのぶに帰還を報告した。そして間も無く着替えを両手に抱えたアオイがやって来た。

アオイは直立したまま固まるカナヲを見て、不思議に思う。

 

「カナヲ?……っ!」

 

カナヲの名を呼んだ直後、アオイは眼前の光景を見て息を呑む。

 

「ああんっ❤……あああんっ❤」

 

「れろぉ❤……ちゅぅっ❤……たん……じろぉ……くぅん……んちゅうぅっ❤」

 

「んんっ……しっ……のぶ……んちゅ……さん……っ……。」

 

「「……っ!」」

 

炭治郎達の情交(セックス)は既に始まっていた。炭治郎が後背位で禰豆子を責め立て快楽で悶えさせていていた。

禰豆子は余程気持ちが良いのか、布団を両手で掴みだらしなく涎を垂らしていた。

 

炭治郎は禰豆子に逸物を突き立てながら、しのぶとの口付け(キス)に没頭していた。

炭治郎はアオイ達の反対側に顔を向けているため、表情は窺う事が出来ない。

 

その代わりにしのぶの表情は見て取れた。

しのぶはアオイ達と目線が合うと、眼を細めて見せ付ける様に更に大きく音を立てて口付け(キス)をした。

 

「じゅるるっ❤……ちゅるるるっ❤……じゅちゅるるるっ❤」

 

「はぁ……はぁ……姉さんっ……ずるいっ!」

 

「そうですっ!……はぁ……はぁ……わ、私達も混ぜて下さいっ!!」

 

アオイとカナヲはそう叫んでから、乱暴に着替えを投げ捨てて着ていた隊服も乱暴に脱ぎ始めた。

二人の様子を見て、しのぶが炭治郎から口を離す。

 

「待てっ。」

 

「「っ!!」」

 

犬を躾ける様に、しのぶがそう言うとアオイ達の動きが止まる。

アオイ達は身体を動かしたくても、金縛りに遭ったが如く目線以外を動かす事が出来ない。

それを見てしのぶは、人差し指を自身の唇に一度当ててから、二人に話し掛ける。

ちゅぱっ、と水音がその際に鳴った。

 

「もう少しそのままでいなさい。十分くらい経ってから、二人のどちらかに代わってあげるから……んっ❤」

 

そう言うと、しのぶは再び炭治郎と熱い口付け(キス)を再開させた。

再び二種類の水音が室内に鳴り響き、しのぶの約束通り丁度十分経ってから、交代するために二人の前に立つ。

この間、炭治郎は禰豆子に一回射精していた。

 

「「はぁ……はぁ……はぁ……。」」

 

アオイとカナヲは羨望の眼差しをずっとしのぶに向け続け、淫蕩な雰囲気に飲まれて何時自慰をするために手を動かし始めてもおかしくは無かった。

 

「アオイ……待てっ。」

 

「っ!?」

 

アオイはしのぶからお預けを継続され、表情に絶望の色が宿る。しかし、しのぶはそんなアオイを歯牙にも掛けない。

 

「我慢なさい。炭治郎君は禰豆子さんの相手をしなきゃいけないんだから、先ずは身体を温めないとね……カナヲ、本番は許さないわよ? 私も我慢しているんですからね?」

 

「はいっ! はいっ! 分かったっ! 分かったからっ! 姉さんっ!!」

 

早く許可をくれと言わんばかりに、カナヲが急かす。その双眸には既に涙で溢れそうだった。

 

「よろしい、十五分だけよ?……よしっ!」

 

「たんじろぉ!!❤❤」

 

しのぶの許可する発言の後に、弾丸の如く炭治郎に向かって飛び込んだ。

炭治郎は危うく吹き飛びそうになるが、何とかその場に留まった。

 

「カナヲ!……慌てないで……んちゅ……逃げないから……んんっ!!」

 

「んちゅうぅぅぅぅっ!❤……じゅるちゅぅぅぅ!❤……れろちゅろ!❤」

 

「じゅうううぅぅぅっ!……ちゅるちゅううぅ……ちゅろれろ……っ!」

 

飢えた獣の如く、歯が激突する勢いで炭治郎と口付け(キス)をするカナヲ。炭治郎は戸惑いつつも、カナヲに応えるべく全力で返す。

 

「ああんっ!❤……あああっ!❤……あんっ!❤」

 

カナヲと口付け(キス)をしつつ、炭治郎は禰豆子への責めも忘れない。禰豆子も涎を垂らしながら、齎された快楽に酔う。

 

「はあぁぁっ!…はあぁぁっ!……ふっ――!……ふっ――!……炭治郎さんっ!……カナヲっ!」

 

アオイは先程よりも息を荒くしながら、羨望の念を隠さずに三人の情交(セックス)を眺める。

 

「ふぅっ……ふぅっ……ふぅっ……っ。」

 

しのぶもまたアオイ程ではないにしろ、息を細かく吐いていた。

 

このまましのぶと同様に、カナヲも時間一杯まで炭治郎と口付け(キス)をするかと思われたが、此処で変化が訪れる。

 

「ちゅううぅっ!❤……はぁっ!……はぁっ!……炭治郎っ!……おっ、乳房(おっぱい)吸ってっ!❤……もう先端が痛いくらい疼くのっ! お願い吸ってぇっ!!」

 

カナヲが両手で乳房を掴んで炭治郎の口元へ持って行き、吸って欲しいと懇願した。

炭治郎はカナヲの必死な形相に、一言だけ返事して思い切り陥没乳首に吸い付いた。

 

「う、うんっ! ぱくっ!……ちゅううぅぅぅぅっ!!」

 

「ああああああっ!!!❤❤」

 

カナヲは炭治郎の力強い吸引を感じて、大きく後ろへ仰け反った。快楽に悶絶して炭治郎の頭を強く乳房へと押し付けながら、馬の尾の如き一つに束ねた黒の長髪を左右に振り回す。

 

「んぐっ!?……じゅるっ! ちゅうちゅうぅっ!」

 

「あああんっ!!❤……良いぃっ!❤……良いのぉっ!!❤ どっちもいっぱい吸ってぇ!!❤」

 

カナヲは窒息させない程度に抱擁を緩めながら、自身の乳房を夢中で愛撫する炭治郎を愛おしく見詰める。

 

「ううぅっ……カナヲっ……良いなぁ……っ。」

 

「同感……ですっ……私も吸って貰えば良かった……っ。」

 

アオイの羨望に満ちた呟きに、しのぶも先刻より顔を赤く息を荒げながらカナヲを見詰めていた。

カナヲはしのぶとアオイの姉二人から感じる羨望の視線に優越感を抱きながら、十五分間ずっと乳房を愛撫して貰っていた。

 

「……さぁカナヲっ!……交換の時間よっ!」

 

両手を拍手する様にパンパンと二回叩いて、カナヲに炭治郎から離れる様にしのぶが促した。

 

「ああっ❤……たんじろぉ❤……私の乳房(おっぱい)美味しいぃ?❤」

 

「うんっ……ちゅば……美味しいよっ……っ。」

 

「あああっ❤……あああっ~~❤❤」

 

しのぶの声を無視して、三人は情交(セックス)を続けていた。これには、しのぶの額に青筋が浮かぶ。そしてその怒りは刹那の瞬間に爆発した。

 

「……交代だって言ってんでしょうがぁっ!? 終いよっ! し――ま――いぃっ!!」

 

「いたたたたたっ!? 痛い痛いっ! 痛いよしのぶ姉さんっ!?」

 

激昂したしのぶがカナヲの耳朶を掴んで引っ張ると、流石のカナヲも耳を引き千切らんばかりに容赦なく引っ張るしのぶに従わざるを得ず、炭治郎から離れて行く。

 

「ふんっ!……さぁアオイ、待たせたわね。よしっ!」

 

「は、はいっ!!」

 

アオイがしのぶの許可を得ると同時に、炭治郎の下へ駆け付け口付け(キス)をした。

しかし、カナヲと違い労わる様な優しい口付け(キス)だ。

 

「んっ❤……炭治郎さん、少しの間だけ動かないで下さい。」

 

「んっ……えっ?……分かった。」

 

アオイは動かない様に頼み了承されると、今度は禰豆子に近付いて行った。

 

「禰豆子さんっ! 先刻(さっき)から炭治郎さんしか動いていないじゃないですか! 今度は禰豆子さんが動いてあげたら如何ですか?」

 

「っ!……はぁ……はぁ……うんっ!」

 

禰豆子がアオイの提案を承諾すると、息を整え一度逸物を抜いてから身体を起こして騎乗位の態勢になった。

 

「アオイさんっ?」

 

「はぁ……はぁ……わ、私は炭治郎さんにお股を舐めて欲しいんですっ……私、昨夜に互いの性器を舐め合ったのが忘れられなくてっ!……っ!!」

 

『っ!』

 

「た、体重は掛けませんので圧し掛かっても良いでしょうか!?」

 

アオイが太腿をモジモジと擦り合わせながら、炭治郎に嘆願する。

炭治郎は、笑顔でアオイの嘆願を承諾した。

 

「勿論だよ。おいで、アオイさん。」

 

「は、はいっ!」

 

炭治郎の許可を得たアオイは、早速炭治郎の顔に覆い被さる様に秘部を押し付けた。

 

「んっ……れろれろ……ちゅるるるる……じゅるっ!」

 

「ああっ!❤……良いっ!❤……もっと舐めて下さいぃっ!!❤❤」

 

秘部への愛撫を始めた炭治郎に、アオイは興奮を隠せない。自身の愛液が炭治郎の口に入って糧となり最愛の恋人の一部になって行くと思うと、興奮して益々アオイの秘部から愛液が分泌されて行く。

一方、炭治郎の下半身でも動きが有った。

 

 

 

パンっ! パンっ! パンっ!

 

 

 

「ああうぅっ!❤ あああっ!❤ ああああんっ!❤」

 

禰豆子もまたアオイに対抗心を抱いて、強く腰を打ち付けて炭治郎の逸物から白濁の溶岩を膣内に招き入れようと奮起する。

そしてその瞬間は間も無く訪れた。

 

 

 

ビュルルルルルルルゥゥゥゥゥ! ビュルルビュルルビュルルルウウゥゥ!!!

 

 

 

「あああああああぁぁぁぁぁぁっ!!❤❤❤」

 

炭治郎の逸物から射精された白濁の溶岩が禰豆子の膣内に入り、そして体内へと吸収されて行った。

禰豆子は何度受けても慣れないこの極上の快楽と幸福感、そして達成感を感じて全身を震わせた。

余韻も束の間、再びこの感覚を得るべく腰を打ち付け始めた。

 

「ああっ!❤……アオイも羨ましいけど……やっぱり禰豆子ちゃんが一番羨ましい……っ。」

 

「ふうううぅぅぅっ……ふうううぅぅぅっ……そうねっ……っ。」

 

しのぶは深呼吸しつつ、カナヲに同意する。気を紛らわすべく、以前の出来事を回想していた。

 

――おひささんの屋敷でもああやって交代でそうやってたのよね……ただ私の汗を舐めた禰豆子さんの身体に異常が無いか後で直ぐ調べたわね。あの時は本当に焦ったわ、何も無かったから良かったけれど……でもどうして何も無かったのかしら? 禰豆子さんには、藤の花の毒は効かないとか……まさかね?

 

そう思いつつ、アオイの時間が終了したのでアオイを引き剥がして今度はしのぶの番となった。

そうしてしのぶ達は交代で炭治郎と禰豆子の情交(セックス)に参加し、時間が過ぎて行く。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「し、しのぶ様。お昼ご飯を持って来ました。」

 

「ありがとう、アオイ。カナヲもお疲れ様。」

 

しのぶはそう言ってアオイとカナヲを労うと、柄杓で結樽から掬った水をぐいっと一気飲みする。

アオイとカナヲはしのぶに命じられて昼食を持って来た。

十個以上あるおにぎりにふわふわの卵焼きときちんとお椀に入った味噌汁だ。

 

本当はきちんとした定食をあまねが用意していたのだが、しのぶに命じられてアオイがそれらを持って来たのだ。

しのぶは早速、おにぎりを一口頬張る。そして炭治郎に近付いた。

 

「ふぁい、あーん❤」

 

「んぐっ!?」

 

「「っ!?」」

 

しのぶが炭治郎に口付け(キス)をして親鳥が雛に餌を与えるが如く食べさせたのだ。

これにはその場に居る全員が面食らう。しかし、直ぐにアオイが我に返った。

 

「っ!……負けません!!」

 

何時の間にか再び全裸になっているアオイが、卵焼きを口に含むとそのまま炭治郎に口付け(キス)をした。

 

「んんっ!?」

 

「んちゅ❤……美味ふぃい……ちゅちゅっ❤……でしゅかぁ❤……ちゅっ❤」

 

「ほう、アオイもやるわね。」

 

「むぅ~~っ! 私だって負けないっ!……あつっ!? あっつっっ!?」

 

カナヲも対抗しようと味噌汁を口に含んだが、冷まさずいきなり口にしてその熱さに悶絶し、慌てて柄杓で水を口内に流し込んだ。

 

『ぷっあははははははははっ!!!』

 

その様子に室内は爆笑の渦に包まれた。カナヲの顔は火が付いた様に真っ赤に染まったのは言うまでもない。

 

その後は(トイレ)休憩や水分補給を挟みつつ、炭治郎はしのぶ達を愛撫し愛撫されつつ禰豆子を抱き続け精液を注ぎ込み続けた。

 

しのぶ達は途中で我慢出来ず、本番までしそうになったが必死で堪えて我慢を続けた。

 

珠世と愈史郎から貰った精力増強剤と回復薬を服用した効果もあってか、この妖艶な宴は夕方になるまで止まる事無く続いたのだった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十四日(金)

時間帯:夕方

天気:晴れ

 

 

「すぅ……すぅ……すぅ……。」

 

産屋敷本邸の少し離れたところにある別邸では、炭治郎が疲れ果てた様子で眠り込んでいた。

 

そうしていると、しのぶが何か大事な事を思い出したかの様に一度両手を叩いた。

その手を叩いた音に釣られて、アオイとカナヲはしのぶを見た。

 

「アオイ、カナヲ。折角の機会だから、今の内にしておきましょう。これから貴女達に、大事な話があります。」

 

「っ!」

 

「……はい、何でしょうか?」

 

カナヲとアオイは身構えて、話を聞く態勢を取る。声色からして、かなり重い話かもしれないと思ったからだ。

真剣な表情を取る二人に対し、しのぶは議題を口にした。

 

「……」

 

「「…………っ!?」」

 

議題の内容を聞いたアオイとカナヲに対し、しのぶは嘗てこれ以上無い程に真剣な表情で二人に問う。

 

「私は覚悟は出来ているわっ。だからと言って強制はしない……貴女達は如何かしら?」

 

「勿論ですっ!」

 

「炭治郎のためなら、喜んでっ!!」

 

しのぶの問いに、アオイもカナヲも間髪入れずに即答した。さも当然だと言わんばかりに。

そんな二人の態度に、しのぶは満足そうに笑みを浮かべた。

 

「よろしい……後で()()()を用意するから、その時に……改めて、炭治郎君を一緒に支えましょうね。」

 

「「はいっ!!」」

 

互いの手を固く握って、しのぶ達は炭治郎を支える事を固く誓った。

しのぶ達は手を握ったまま、隣で寝ている炭治郎を愛おしそうに見詰めて微笑む。

因みに、禰豆子は犯り疲れて既に箱の中で小さくなって眠っている。

 

「子供みたいな安心し切った顔しちゃって……ふふっ」

 

「そりゃあんなに射精したんですから、炭治郎さんが疲れ果ててそのまま寝るのも仕方ないですよ。」

 

「うん……疑問なんだけど、姉さん。男の人って炭治郎みたいにとは言わないけど、何回も射精出来るものなの?」

 

カナヲの質問に、しのぶは難しい顔をしながら質問への回答を口にする。

 

「いいえ、多くても五、六回が限界だそうよ。普通の絶倫の人で十回超えるくらいかしらね?」

 

「えっ!?……でも今回、炭治郎は私達との情交も合わせて百回以上射精して……っ!」

 

「正確には私達三人で三十回以上、禰豆子さんで百回以上……合計で百三十回以上ね……自分でも何言ってるのか分かんないわね……。」

 

「こんな事実、伝えたところで誰も信じて貰えないでしょうね……珠世さんの薬が凄かったのか、炭治郎君の精力が元々凄かったのか、或いは両方か……。」

 

「姉さん、そんなの考えても分からないんじゃないかしら……。」

 

しのぶ達は炭治郎の精力絶倫振りに、もやは尊敬を通り越して戦々恐々としながら話し合っていた。尤も、休息を挟みながらの情交(セックス)ではあったが。そうでなければ、炭治郎の逸物が持たないからだ。

 

不能で短小で情交(セックス)に淡泊よりは遥かにマシだが、自分達だけではとても受け止められそうにない。

無論、全力で受け止めるがそれにしても限度が有る。そう言いたいしのぶ達であった。

 

「ま、まぁ幾ら精力が凄くて性欲が凄まじくとも、体力が追い付いてませんからね。火山内部にどれ程の溶岩が溜まっていようが、噴火しなければ恐れるに足りません。」

 

「そんな言って、しのぶ様が炭治郎さんより先に気を失わずに済んだ事はありましたか?」

 

「うぐっ……っ。」

 

自身を鼓舞する様に発言したしのぶだったが、アオイにツッコミを入れられて思わず黙り込んだ。

そこへカナヲが、黙り込むしのぶに助け舟を出す。

 

「しのぶ姉さんっ! 今はそんな事よりも何時、禰豆子ちゃんの血を珠世さんにお渡しするの?」

 

「そうね……今直ぐ採血した物をとりあえず渡して、暫く時間が経過してから改めて採血をしてみましょう。時間がある程度経過した物の方が、身体に順応して変化が起きているかもしれないから。」

 

しのぶはそう言ってから禰豆子が寝る前に採血した血を持って別邸から出て行くと、カナヲとアオイがその後を付いて行った。




お待たせしました。
炭ナエまで持って行きたかったのですが、此処まででした。多人数の情交って難しいなぁ……今回は制約付きだけど。まだまだ修行不足を痛感しました。
次回の更新は六月中です。次回こそ炭ナエです。

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きのこ三昧様
pixivユーザー https://www.pixiv.net/users/27228381
R18の炭治郎×鬼滅女子ssを書かれている作者様です。優しく丁寧で愛に溢れた文章は是非とも見習いたいところです。

あなたを守る
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10993709
炭蜜ss。刀鍛冶の里編後に炭治郎が蜜璃に告白し、蜜璃がその想いを受け入れて結ばれます。

梅雨入りと湯船
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11610246
炭カナss。決戦後、夫婦になった炭治郎とカナヲが風呂で身体を重ねます。

愛のかたち
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11664254
炭カナss。「梅雨入りの湯船」の続編。悩み病むカナヲを炭治郎の愛が包んで癒します。

忍び寄る蝶
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12719254
炭しのss。決戦後、炭治郎に命を救われたしのぶが、お礼と称して風呂で炭治郎を襲い、秘めていた想いを告白します。


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第弐拾漆話 夢幻の桜蝶は日輪を督励す ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


夢幻世界

 

 

「「……」」

 

炭治郎とカナエは隣り合わせで座っていた。特に何かを話すでも無く、互いの片手を握って静かに過ごしていた。

 

「……」

 

炭治郎はカナエに話し掛けたかった。カナエから、悲しい匂いが出ていたからだ。

 

しかし、自分が話し掛ける事で逆に悪化させては本末転倒だと考え、何も言わずに沈黙を守っていたのである。

 

「……ねぇ、あなた。」

 

「っ!……何だい、カナエ?」

 

漸くカナエの重い口が開いて、炭治郎は内心で安堵しながら平静を装いカナエに答える。カナエは悲しそうな表情を浮かべて話を続ける。

 

「私ね、最近こう言う芸当が出来る様になったのよ。」

 

そう言ってカナエが空いた手を翳すと水滴が集まって一塊の水となり、そこから丸い円状に薄く広がって壁掛けの鏡の如く姿を変えた。

一度その水面が波紋を広げて揺れると、ある人物が映っていた。それも二名だ。

鬼の珠世と愈史郎である。

 

「珠世さん……最初、御館様が仰られたこの名前の意味が理解出来て無かった……で、あなたがしのぶに説明をして初めてその人物の重要性が理解出来たわ。」

 

そう言うとカナエは顔を俯かせた。その顔色には自嘲の色が見えた。事実、炭治郎はカナエから悲しい匂いを嗅ぎ取って、心配そうにカナエを見詰めた。カナエは顔を俯かせたまま、語り続ける。

 

「もし私が生きている内に珠世さんと愈史郎君。この二人を知っていたら……私は絶対に見つけ出して、土下座してでも二人を説得した。周囲が何と言おうと、絶対に保護していた。しのぶが猛反発していたでしょうけど、絶対に()()蝶屋敷に招いていたわ。」

 

「……」

 

「でも御館様は私に珠世さん達の事は、御話して下さらなかった……私、あなたより御館様から信頼されていなかったのかしら……っ。」

 

「……っ!」

 

炭治郎はカナエの感情を表す様に波紋を広げ続ける鏡面から視線を外してカナエを見ると、カナエは笑みを浮かべていた。しかしそれはとてもぎこちなく、双眸からは涙が一筋流れている。炭治郎はカナエから悲しい匂いに加え、寂しさと悔しい匂いを感じ取った。

 

「カナエっ!」

 

「っ!」

 

炭治郎は腰を上げてカナエを抱き締め、カナエの頭を抱き抱える様に胸板に押し当てた。

そのまま炭治郎は、カナエの流れる様な美しい黒の長髪を優しく撫でる。この瞬間、カナエの集中が切れたせいか、水の鏡面は形を崩してポチャッ! と大音を立てて地面に落ちた。

 

「カナエを御館様がそんな風に御思いになる訳が無いじゃないか……きっと、時間が足りなかっただけだよ。きっとそれだけの話……カナエが生きていたら、御館様はきっと御話しする筈だったよっ。」

 

「……そう、かしら……そうだと良いなぁ……ありがとう、あなた……。」

 

「っ!……っ。」

 

炭治郎に宥められたカナエは礼を口にしてから、炭治郎に口付け(キス)をした。

口付け(キス)をしたまま、カナエは両腕を炭治郎の首に回して抱き締める。炭治郎はカナエに応えるべく、左手を腰に当ててから右手でカナエの後頭部に手を添えて優しく抱き締めた。

 

「あぅんっ❤……んんっ❤……っ❤」

 

「んっ……。」

 

ただ唇を合わせるだけの優しい口付け(キス)だったが、少しずつ、されど確実に押し付ける力が強くなって行く。

 

そうして行くと、どちらからも舌が飛び出し互いの口内を往来する。幻想的な夢幻世界に、淫靡な水音だけが鳴り響いて行く。

 

炭治郎はカナエとの口付け(キス)を夢中になって堪能していたが、物足りなくなって来たせいかそのままカナエを優しく押し倒す。

カナエの身体は、炭治郎に押し倒されて草原に横たわった。荒い息遣いをしながら、双眸を潤わせて炭治郎を見詰めていた。

 

カナエは恍惚感に満ち溢れた表情で、炭治郎を愛おしそうに抱き締め返す。暫く互いの温もりを感じ入っていた二人だったが、炭治郎の方から開口した。

 

「カナエ、お願いがあるんだ。」

 

「何かしら? あなた。」

 

炭治郎からの唐突な頼み事に、カナエは質問する。

 

「今、情交に耽っているとカナエに夢中になって忘れちゃうだろうからさ……先に聞いておきたいと思ってね。」

 

「……ふふっ。何が知りたいの?」

 

カナエは炭治郎の言葉に喜びを隠さず、笑みを浮かべながらそう尋ねた。炭治郎はその頼み事の内容を口にし始めた。

 

「明日は緊急柱合会議だろう? 俺、柱で知っているのはしのぶさんと甘露寺さん、そして義勇さんと杏寿郎さんの四人だけだから……他の四人……いや、五人について知っておきたいんだよ。正直に言うと、良い印象が無いから。」

 

「成程ねぇ……知りたいとあなたが思うのも当然だわ……でも駄目よっ。」

 

「ええっ!?……どうしてっ!?」

 

カナエからの思わぬ拒絶に、炭治郎は動揺して尋ねた。カナエは炭治郎の様子を見て、可笑しそうに笑いながら答える。

 

「ふふふっ……普通に教えたんじゃ、面白く無いじゃない……だから一つ余興を挟みましょうよ。」

 

「余興……っ?」

 

「そう、余興よ……ふふっ。」

 

炭治郎は首を傾げたが、カナエは楽しそうに笑うだけだった。

 

 

 

 

 

 

「御機嫌は如何かな? 愛しい俺のお花のお姫様?」

 

「……ふん。私が御機嫌に見える様なら、お医者様にお目目を見て頂いた方が良いわよ? 仮面の殿方さんっ?」

 

カナエとは思えない程、不機嫌そうな声を出して炭治郎()()()人物を睨み付けた。

カナエの隣には小さな塔の様な植物が背後に生えており、其処から蔦が伸びてカナエの両腕を上方から、両足を少し広げる様に拘束していた。

 

眼前の男性は正確に言うと炭治郎なのだが、炭治郎本人は何故か目元だけ穴を空けた黒い布製の仮面を着用していた。

 

「おっと、俺のせいでお姫様が御機嫌を損ねてしまった。はてさて、どうしたものかな?」

――本当、どうしてこうなった。

 

不敵な笑みを浮かべる炭治郎はその内心では、頭を抱えて困り果てていた。

こうなった経緯を説明するには、少々時間(とき)を遡る必要がある。

 

『俺がカナエを尋問して、柱の情報を聞き出すぅ?』

 

『そうよ。私は勿論抵抗するから、あなたは私を屈服させて柱の情報を吐かせるの。』

 

『あのね、カナエ。俺は尋問なんて、した事が無いんだけど?』

 

以前、炭治郎は初任務で沼鬼から鬼舞辻無惨について聞き出そうとしたが、失敗に終わっている。

そもそも、あんなものは尋問でも何でもない。当の昔に本人の記憶から消え去っていた。

 

『あなた、"案ずるより産むが易し"と言うでしょう? 大丈夫よ。』

 

『とても……大丈夫とは言えないんだけど?』

 

『それから当然の話だけれど、暴言も痛いのは無しよ。まぁそんな心配しなくても、あなたがそんな事する訳が無いけどね。』

 

「する訳が無いし、出来ないよ……やっぱり俺にやれる気がしないから、もう普通に言ってくれないか?」

 

炭治郎は少々げんなりとした様子で、カナエに嘆願した。

するとカナエから笑顔が消え、すうぅと双眸を細めた。

 

『しっかりしなさいっ。諦める事は許しません。』

 

『っ!?』

 

いきなり威圧感全開でカナエが炭治郎を叱咤すると、炭治郎は反射的に身体を直立させて硬直した。

しかし、炭治郎は何とか言葉を絞り出してカナエに抗弁する。

 

『い。いや……やっぱり俺には……。』

 

『やりもしない内から諦めるのは止めなさい。竈門炭治郎。』

 

『……っ。』

 

『最初から出来ないと決め付けるなど、それが長男のする事ですかっ。あなたに長男の自覚があるならば、当たって砕ける覚悟で失敗を恐れずにやり通しなさい。』

 

『……分かりましたっ! 竈門炭治郎っ! 全力で務めさせて頂きますっ!』

 

『よろしい……あなたならちゃんとやれる。頑張って。』

 

『はいっ!』

 

決意を固めた炭治郎に、カナエは炭治郎に激励してから仮面を渡して準備を始めたのだった。二人とも自覚していなかったが、この間抜けなやり取りを大真面目にやっていた。

 

――安請け合いし過ぎたな……俺は長男だから冷静でいられるけど、次男だったらずっとあたふたしてた……やると言った以上、全力でやるしかないか……。

 

炭治郎は自身の愚かさに後悔の念を抱いたが、直ぐに頭を切り替え改めて自身を演じる決意を固めた。

 

「……で、お姫様にもう一度聞くよ?……俺は鬼殺隊の柱達の情報が欲しいんだ……素直に全部バラしてくれたら直ぐにでも解放してあげるけど?」

 

炭治郎はそう言って、拘束しているカナエに顔を接近させた。するとカナエは炭治郎の頬に目掛けて唾を吐いた。

 

「っ!」

 

「はっ!……舐めないで下さる? 私は鬼殺隊が柱の一人、花柱・胡蝶カナエよっ! 仲間の情報なんて、この命と誇りに替えても吐きはしないわっ!!」

 

「……ふぅん。」

 

そう宣言して、炭治郎に向かって不敵に笑った。唾を掛けられた炭治郎は、その唾を人差し指で拭き取ると、舌に押し当てて舐め取った。

舐め取り終えると、炭治郎は逆にカナエに向かって不敵に笑う。

 

「では、仕方がないね……直接、その蠱惑的な身体に聞く事にするよっ。」

 

「っ!! な、何をっ!?」

 

動揺するカナエを余所に、炭治郎はカナエの隊服に向けて両手を伸ばす。この時にカナエの匂いを嗅ぐと、カナエから興奮と期待の匂いを感じ取って安堵する。

この時に炭治郎の脳内では、事前の会話を思い出していた。

 

『あなた、一つだけお願いが有るんだけど?』

 

『良いけど、一つと言わずに何でも言ってみなよ。カナエ。』

 

『ありがとう……じゃあ言うわね? 私を全裸(はだか)にする時はね、何時もみたいに隊服(ふく)を脱がすんじゃなくて、破いて欲しいのっ。』

 

『えっ!? 破いて欲しい?……カナエ。その隊服だけど、甘露寺さんじゃあるまいし俺にそんな芸当が出来ないんだけど……っ?』

 

炭治郎がそう言って困惑するのも無理は無かった。

鬼殺隊の隊服は十二鬼月もしくはそれに匹敵する力が無ければ、破る事も裂く事も叶わない程に高性能だ。

炭治郎もまた膂力の持ち主だが、それは一般人と比べたら程度である。

 

『大丈夫よ、強度は紙みたいに脆弱に細工しておくから❤』

 

『……了解。俺からも一つ言っておくよ?……カナエから拒絶や嫌悪、恐怖の匂いを感じたら、カナエが何と言おうと俺はその時点で辞めるから。良いね?』

 

『ええっ。それで良いわ。そんな事は起きないと思うけどね❤』

 

そんなやりとりを思い出した炭治郎は、カナエの望みを叶えるべく隊服を両手で掴んだ。

 

「……すうぅぅぅっ……ふんっ!」

 

「ま、待ちなさいっ!?……きゃああああっ!!」

 

ビリビリビリビリッ! と布を破る音が鳴ると、カナエの上着の隊服が炭治郎の手で引き裂かれた。

隊服の下から出て来たのは、晒姿の上半身であった。

 

炭治郎は間髪入れる事無く、そのまま両手で晒を握ると思い切り力を込めて引き千切った。

そうすると、晒に圧迫されていた豊満な双丘は解放された反動でぷるんっ! と音を立てて大きく揺れた。

 

「おおっ! お宝が姿を現したね……さて、お姫様? 身に纏っていた鎧を剥がされた気分は如何だい?」

 

「……地獄に堕ちろっ。」

 

「……っ。」

 

この時炭治郎は咄嗟にすんっ、とカナエの匂いを嗅ぐ。カナエから漂う匂いに嫌悪感や憎悪は一切無かった。

人を射殺せる程に鋭く睨み付けているにも関わらずだ。

 

尤も、もしその様な匂いを含みながら先程の台詞を聞こうものなら、炭治郎は当の昔に意気阻喪(ショック)状態で寝込んでいる。

 

カナエは発せられる匂いに有ったのは罪悪感と謝罪の匂いだ。

炭治郎に対して、鬼にさえ言った事も思った事も無い言葉を言い放った事に、カナエは内心では申し訳無い気持ちでいっぱいだったのだ。

 

これに気付いた炭治郎は、ゾクゾクッと背筋に愉悦が走った。

 

カナエが炭治郎のために、場を盛り上げるために必死で取り繕い演者として振舞っている事実を理解したからだ。

また普段のカナエとは掛け離れた、その懸隔している言動(ギャップ)に炭治郎は興奮せざるを得なかった。

 

人柄や人間性からそうだったが、地縛霊だの背後霊だのと言う陳腐な存在から進化して、炭治郎にとってカナエは美と愛を司る女神そのものと言って表現しても、決して過言ではない存在である。

 

愛する女神が自身の出せる全力を出して演者に成り切っているのだ。

これに応えられなければ男が廃る。

 

――俺なら出来るっ! 長女のカナエさんに出来て、長男の俺に出来ないなんて道理がこの世に有る筈が無いっ!!

 

炭治郎は全力で演者を演じ切ると内心でカナエに誓った。その決意を胸に、炭治郎はカナエの乳房に手を伸ばす。

この時、炭治郎は気付いていなかった。この状況を心底楽しみ始めている自分の姿に、まだ炭治郎は気付いていなかった。

因みに余談だが、炭治郎は心中ではカナエをさん付けで呼んでいる。何故かと言うと、今世で間違えてカナエを呼び捨てにすれば、周囲に不審に思われるからだ。

 

「あっ!❤ んんっ……っ!」

 

「こんなに大きいと揉み応えがあるなぁ……大きさの割には感度は良いみたいだし?」

 

既に揉み飽きているぐらいに弄んでいる癖に、炭治郎はまるで初見の如き感想を述べた。

炭治郎の感想に、カナエは快楽に耐えつつ言い返した。

 

「はっ!……あなたの……んっ!❤……気のせい……あぁっ❤……じゃないのっ?」

 

「んん? カナエはとても気持ち良さそうに見えるけどなぁ?」

 

「そんなの……っっ❤……あなたの……勘違いよっ……っ!❤……こんな事されても……ちっとも気持ち良くなんか無いっ!……気持ち悪いだけなんだからぁ……っ!」

 

そう言って、カナエは余裕の笑みを炭治郎に向けた。しかし、それを炭治郎はただ楽しそうに微笑んで見つめ返した。

ただでさえ、カナエからは常に嘘と歓喜の匂いが漂っているのだ。それにカナエの身体は、快楽を受けて小刻みに震えている。

 

「ふーん……そっか。それは悪い事をしたなぁ……じゃあ別のやり方をさせてもらうよ。」

 

「別……のっ?……っ?」

 

「ぢゅるっ! ぢゅううううぅぅぅぅっ!!」

 

「ああんっ!?❤」

 

炭治郎は右乳房に喰らい付く様に先端の赤い蕾ごと口に入れて吸い始めた。空いた左乳房も乳房全体を揉むのを止めて、乳首を摘み、押し込み、引っ張る様にして重点的に愛撫を始めた。

 

「ああっ!❤……ひぐぅっ!!❤……あっ❤……ああっ!❤……~~~~っ!?❤❤」

 

先刻を超える快楽を前に、カナエは再び声を抑えて堪えようとしたが、最後は声にならない声で絶頂しながら反り返った。

そんなカナエの様子に満足して、炭治郎はぢゅぱっ! と態と大きな水音を立てて右乳房から口を離した。

 

「御馳走様……どうやらイったみたいだね?」

 

「~~っ!……違うっ!……わ、私はっ!……感じて……なんか……っ!!」

 

カナエは頬を僅かに赤く染めて、涙目で炭治郎の言葉を否定した。カナエの否定に対して、炭治郎は溜息を吐く。

 

「やれやれ……強情なお嬢さんだなぁ……。」

 

そう言って炭治郎はカナエの洋袴(ズボン)に手を掛けると、一気にビリビリッ! と破り捨てた。

 

「きゃああっ!?」

 

「おおっと……あれれーおかしいぞー? カナエは感じてないって言ったのに、下のお口はびしょびしょだぁ~。」

 

「~~~~~っ!?」

 

炭治郎の巫山戯た口調に、カナエはかああっ! と羞恥心で顔を一瞬にして真っ赤に染めた。

赤面したカナエは涙目でキッ! と炭治郎を睨み付けたが、炭治郎からしてみれば子猫が上目遣いで見ているようにしか感じていない。

 

「こ、これは…汗っ! そうっ!……だだの汗だからっ! 何も感じたりなんかしてないわよっ!!」

 

「ぷっ、あっはははははははは。」

 

炭治郎は心底面白いのか、可笑しくてたまらないとばかりに爆笑する。一方のカナエは、爆笑する炭治郎を睨み付ける事しか出来なかった。

 

「カナエ。これが汗にしたってその言い訳は無理が有り過ぎるよ……そもそも、汗ってこんなに温くて粘々してたっけ? ほぉら……益々、滝の様に溢れ出て来たよ?」

――しのぶさんと同じ言い訳を使うなんてやっぱり姉妹なんだなぁ。ふふふっ。

 

「そ、それはぁ……ううぅ、全部あなたのせいなのにぃ……。」

 

カナエが唸り声を上げながら、恨めしそうに炭治郎を睨み付けた。

 

「あはははは、ごめんごめん。意地悪が過ぎたね……じゃあお詫びと言っては何だけどっ。」

 

炭治郎は其処まで言うと、いそいそと隊服を脱ぎ始めて全裸になる。カナエは炭治郎が洋袴(ズボン)を下ろした時に、ボロロン! と音を立てて姿を現した逸物に視線が釘付けになる。

 

「えっ……えっ!?」

 

当惑するカナエに対して炭治郎は植物を動かして、カナエは宙吊り状態のまま開脚の姿勢を取らせた。カナエの秘部からはトロンと愛液が一筋、重力に従って落ちて行った。

 

「カナエの素直な下の口、俺の愛刀で蓋をしてあげるよ。」

 

「あ、ああ❤ あ、あなたっ! 待ってっ! せめてゆっくり、ゆっくあああああああっ!!」

 

炭治郎は正面からカナエの秘部に逸物を挿入する。カナエは一気に逸物を秘部に入れられて、歓喜の嬌声を上げた。

炭治郎はそのまま"駅弁"の体位で挿入して、そのままカナエの豊かな臀部を鷲掴みにしながら激しく突き始めた。

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

「ふうぅっ……気持ち良いなぁ……。」

 

「ああぁぁん❤ ふ、深いぃぃぃっ!!❤」

 

圧迫感と共にやって来た強烈な快感に、カナエは堪らず悶絶した。

 

「ふぅ……ふぅ……先ずは……一回っ!!」

 

ビュルルルルゥゥゥゥゥ! ドビュドビュドビュドビュドビュ!!

 

「ああああぁぁぁぁぁっ!❤❤……熱……いぃぃっ!❤ イクゥゥゥゥゥ!!❤❤」

 

カナエは炭治郎の逸物から射精して勢い良く飛び出た精液を子宮内に浴びて絶頂した。

炭治郎も一定の満足感の余韻を感じつつ、絶頂から落ち着いたカナエに尋ねる。

 

「で、カナエ?……柱達の情報を素直に言う気になったかな?……言わないと、これが何十回と続く事になるよ?」

 

「っ!……ふ、ふん。あなたが何回射精して精液を私の子宮に注ぎ込もうと、私を何百回絶頂させようと、仲間の情報を吐いたりなんかしないわよ……っ!」

 

「ふふっ、まだ余裕があるみたいだねぇ?」

――カナエさんが言う様に、それだと何時も通りなんだよなぁ……それも良いけど、何とか別の方法でカナエさんを驚かせてやりたい。

 

不敵に笑う炭治郎は内心、どうやってカナエを自白誘導させようか悩んでいた。

どうせなら、愛する女神に新しい刺激を与えてやりたい。炭治郎はそう思って思考を巡らす。

 

――焦らして我慢させる……のは前にやったしなぁ……そうだっ……これをやってみるか。でもカナエさんが嫌がったら直ぐに止めよう。

 

ある一案が炭治郎の脳内に浮かんだ。炭治郎は一抹の不安を抱きつつ、実行に移した。

 

「……っ?」

 

「れろれろ……これだけ濡らせば大丈夫かな?」

 

炭治郎は右手の中指と人差し指を念入りに舐めて唾液塗れにすると、テカテカに光る二指を見てそう呟いた。

そして無言でその手をあるものを目指して、ゆっくりと動かし始める。

 

「っ?……あひぃぃっ!?」

 

プスッ、と音を立てると同時にカナエが小さく悲鳴を上げた。

カナエは双眸を見開かせて、その原因を探った。

 

「あ、あなたっ!? 何処に何を……っ!?」

 

「何処に何をって……カナエの可愛いお尻の穴に中指を入れてみたんだよ。」

 

「~~~っ!?」

 

炭治郎は何でも無い様に、あっけらかんとした発言にカナエは声にならない悲鳴を上げた。

事態を把握したカナエは首筋まで赤面して、炭治郎への抗議を始めた。

 

「其処は止めてぇ!?……駄目っ……き、汚いからぁっ!?」

 

「……前にも言ったけど、カナエに汚い箇所なんて何処にも無いよ…………それに気付いている? カナエからは今、興味と期待の匂いでいっぱいなんだけど?」

 

「っ!!??」

 

カナエはその指摘に驚愕して、炭治郎の顔を見た。其処には楽しそうに笑みを浮かべる炭治郎が居る。それ即ち、嘘偽りの無い事実であると言う明確な証拠だ。

もしもこれがカナエを騙すために吐いた嘘ならば今頃、炭治郎の顔は不自然に歪んでいる。

 

「カナエも、実は興味津々なんだよね?……お尻でするの。」

 

「ち、ちがっ!……そんな訳が……んひいいいいぃぃぃぃぃっ!?」

 

「うおっ……お尻に入れる指を増やしたら前の締め付けもきつくなったよ……っ。」

 

炭治郎は中指に加えて人差し指も追加して愛撫すると、秘部の締め付けが連動してきつくなった。

尻穴(アナル)への愛撫を続けながら、炭治郎は再び逸物をカナエの子宮へ目掛けて叩き付け始めた。

 

「あひぃぃぃっ!?……ひぃっ……いひぃっ!?」

 

「ぐっ!……きっ……ついっ!……もう……もう出るっ!!」

 

 

ドビュルルルルルウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!! ビュルルルルルルルウウウゥゥゥゥゥッゥゥ!!!

 

 

「んあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!❤❤❤」

 

「うおぉぉっ、搾り取られる……っ!!」

 

炭治郎は絶頂して強く締め付ける秘部の快感に悶絶し、カナエも子宮内を埋め尽くさん勢いで浸入して来る白濁の溶岩の熱を受けて、身を反り返らせて絶頂した。

出し尽くしてなお、キュッキュッと締め付けて搾り取ろうとする秘部の刺激を炭治郎は堪えつつ、絶頂して姿勢を反り返らせたままのカナエに声を掛けた。

 

「カナエ?……大丈夫?……っ?」

 

「あっ……うっ……あうっ……。」

 

子宮口を目掛けての激しい突きと尻穴(アナル)への愛撫から来る二重の快楽で、カナエは失神し白目を剥き舌をだらしなく突き出していた。

 

「……」

――指で弄っただけでこれなんて……もし挿れたらカナエさんはどうなるんだっ?

 

炭治郎はカナエの尻穴(アナル)に挿入した際を想像して、ゴクッと唾を飲み込んだ。

その後の行動は素早かった。

 

秘部に差し込んでいた逸物を直ぐに抜き去ると、そのままカナエを宙吊り状態にして背後に回り込んだ。

そうして炭治郎は一度深呼吸をすると、まだ精液と愛液の混ざった混合液塗れの逸物の中程を握って一気に尻穴(アナル)に先端の亀頭をズボッ! と捻じ込んだ。

 

「あああっ!?……えっ?……っ?」

 

尻穴(アナル)に挿入された衝撃で、カナエの意識が戻る。されど、現状が理解出来ず、当惑を隠せない。

 

「おそよう、カナエ。今ね、俺の愛刀がカナエのお尻にすっぽり入り始めたところだよ。」

 

「えっ!?……ひぃっ……ま、待ってぇ……そんな大きいの……本当にお尻に入るの?……っ。」

 

「……大丈夫、優しくするね。」

 

「う、うん……。」

 

炭治郎は演技をするのも忘れて、カナエを思い遣りながら優しく説得する。炭治郎が止めなかったのは、カナエから恐怖の匂い以上に興味と興奮の匂いが強かったからだ。

カナエもまた、演技を忘れて炭治郎に不安そうに尋ねたが、炭治郎に説得されて覚悟を決める。元より、カナエ自身も尻穴(アナル)情交(セックス)をする事への興味が恐怖を上回った。

炭治郎はゆっくりと逸物を尻穴(アナル)へ挿入して行った。

 

「うっ……あああっ!!」

 

「あああっ❤……あうぅぅぅっ!!❤❤」

 

炭治郎は逸物を全て尻穴(アナル)に入れて、腸内に逸物を侵入させた。カナエは膣内挿入とはまた違う、未知の感触を戸惑いながら味わう。

腸内で逸物を感じていると、逸物が膨張して膨れ上がった様に感じた。

 

ドビュビュビュビュビュッ! ドビュドビュドビュッッ!!

 

「ぁああっ!❤……お腹の中……温かいわ❤❤」

 

カナエはじわりと来る熱さに満たされながら、首だけ動かして背後に居る炭治郎に声を掛けた。

 

「入れただけで出すなんて……そんなに良かったの?……私の腸内(なか)は?」

 

「良かったよ、膣内(まえ)に劣らずとても……出したのは態とだけどね。」

 

「態と?」

 

炭治郎の言葉に首を傾げながら、嫌な予感がするカナエ。その予感は間も無く的中する。

 

「これで遠慮無く突けまくれるよ……覚悟してね、カナエ?」

 

「ま、待ってぇ!?……あぐぅぅぅっ!?」

 

 

パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

「はああぁぁっ!……尻穴(うしろ)も良いなぁ……膣内(まえ)とは違う良さがある……。」

 

精液で腸内を被覆(コーティング)した炭治郎は、膣内と同様に激しく逸物を突き始めた。

敢えて腸内射精したのは幾ら今世の鬼と同様に、傷が再生する夢幻世界と言えどカナエに傷付いて欲しく無かったからだ。

 

「いひぃっ!?❤……あああんっ!❤……あああっ!❤……っ!!❤」

 

事実、精液が潤滑油となって円滑な反復動作(ピストン)が可能になり、炭治郎は遠慮する必要が無くなった。

炭治郎の容赦の無い突きを前に、カナエは舌をだらしなく伸ばして嬌声を上げる他無かった。

 

 

ビュルルルルルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!! ドピュピュピュッッッ!!!

 

 

「んあああああぁぁぁぁぁっまたイクうぅぅぅぅぅぅぅっ!!❤❤❤」

 

先刻以上に大量の精液を腸内に注ぎ込まれて、カナエはだらしのない顔を晒しながら絶頂した。

 

「ふぅ~お尻も良かったよ……カナエ。」

 

「あっ❤……ああっ❤……内臓がっ……灼けりゅぅ……っ❤」

 

カナエは更に三回、合計で五回も炭治郎に腸内に射精されて小刻みに震えながら半放心状態になる。

炭治郎は既に黒い布製の仮面を外して素顔を晒していた。尤も、カナエは気付いていないが。

 

炭治郎はカナエが落ち着くのを待ってから、カナエを抱き締める。するとカナエが炭治郎に嘆願し始めた。

 

「お、お願いぃ……もう……もうお尻でするのは止めてぇ……感じ過ぎておかしくなっちゃう……。」

 

「……だったら、カナエ。もう大人しく柱達の情報を渡す気になったかな?……言わないと、お腹が妊婦さんみたいになるまでお尻でするよ?」

 

「っ!!……わ、わかったっ。分かりましたぁ!……言うわっ! 言うからっ!! 柱の皆の事をは喋るからもうお尻は止めてぇ……。」

 

カナエは涙を流しながら、炭治郎の要求を呑んで嘆願した。炭治郎はカナエのその言葉に笑みを浮かべる。

炭治郎は逸物を尻穴(アナル)から抜いて蔦の拘束を解くと、それは起こった。

 

「どわああっ!?」

 

炭治郎がカナエに押し倒されたからだ。油断した炭治郎は成す術も無く、仰向けで草原に転がる。

 

「ふふふふっ……ふふふふふふっ……炭治郎君、今直ぐ正座しなさい。」

 

「え、え~と……。」

 

「しないならその耳飾り諸共、その耳を引き千切るわよ!?」

 

「は、はいっ!」

 

炭治郎は憤怒の匂いを漂わせるカナエに、ただ従う他無かった。

 

「さぁて?」

 

カナエは両腕を組んで、正座する炭治郎を睨み付けた。

 

「……あなたはお尻で情交をする危険性を理解して、あれをやったのかしらぁ?」

 

カナエはそう言って、炭治郎を問い質す。炭治郎は恐れ戦きながら、カナエの質問に答える。

 

「い、いや……アオイさんの艶本にはお尻に関して何も書かれて無かったから別に……ただ、濡らさないと痛いだろうなって思ったからああしたけど……。」

 

「……はぁ~~~っ。」

 

炭治郎の無知さに、カナエは溜め息を吐かざるを得なかった。カナエは炭治郎に対し、怒涛の勢いで説教を開始する。

 

「良い?! お尻は本来、情交が出来る様に作られてないの! しようと思ったら事前準備が大変なんだからっ!!」

 

「排泄の概念がないこの夢幻世界でこの私だから良かったものを、今世でしのぶ達に同じ事をしてみなさいっ。炭治郎君の規格外の逸物を挿入れたら、お尻が裂けるわよっ!?」

 

「お尻に逸物を入れてから膣内や口に入れたりなんかしたらそれこそ大変よ! 最悪、病気になっちゃう可能性だって有るんだからっ!」

 

「今世に帰ってもっ! 絶対にしのぶ達()()お尻でしない様にっ! 良いわねっ!?」

 

「はいっ!……ん?……()()?」

 

「…っ!」

 

カナエの言葉に炭治郎が首を傾げて呟くと、先刻の勢いは何処へ行ったのかと言いたくなる程にカナエが動揺して静かになる。

動揺したカナエだったが、顔を赤くして炭治郎が開口する前に先手を打って先に開口した。

 

「も、もし炭治郎君がどうしてもお尻でしたいと言うなら……私でしなさいっ。良いわねっ!?」

 

「……ふふっ。うん、分かった。俺はカナエとしかお尻でしない。そう此処で約束するよ。」

 

「……良いでしょう。だったら、この話はこれで終わりにしてあげる。」

――やったあああああああああああっ!!!

 

カナエは平静を装ってそう言って話を締めたが、内心では小躍りしたくなる程に狂喜乱舞してた。何故なら、明確にしのぶ達と差を付ける事が出来たからだ。

 

しのぶ達が思いついて今後頼んでも、炭治郎にして貰えず、自分だけがして貰える。その優越感で、カナエは全身を幸福感で浸していたのだった。

 

「ごめんね、カナエ……んっ。」

 

自身が起こした軽率な行動を猛省して、炭治郎にはカナエに謝罪の意味も込めて口付け(キス)をした。

 

「んんっ❤」

 

カナエは幸福感をそのままに、炭治郎からの口付け(キス)を堪能する。

 

そのまま暫くの間、炭治郎とカナエは口付け(キス)を続けた後、どちらからとも無く離れて見詰めあった。

 

しかし何かを続けてする訳でも無く、炭治郎はカナエの横隣に座って、片手を優しく掴んで手を握った。カナエも拒む事無く、寧ろ嬉しそうに笑みを浮かべながら炭治郎の手を握り返した。

 

「カナエ。早速だけど、今居る柱達の情報を貰っても良いかな?」

 

「ええ、勿論。今から一人ずつ、私が知っている事を話しましょう。」

 

カナエは現時点で柱の地位に付いている鬼殺隊の隊士達の情報を語り始めた。

 

柱と言うものに序列は無いのだが、柱に任命された順番から炭治郎はカナエに教わった。

 

壱:煉獄愼寿郎

弐:悲鳴嶼行冥

参:宇随天元

肆:胡蝶カナエ

伍:冨岡義勇

陸:不死川実弥

漆:胡蝶しのぶ

捌:煉獄杏寿郎

玖:伊黒小芭内

拾:甘露寺蜜璃

拾壱:時透無一郎

 

既に引退している愼寿郎は除外する。一番長い行冥が八年、一番若い無一郎が二年程、柱として活動をしていると言う。

また、生前に会っていたのは小芭内までで、蜜璃と無一郎には会う前にカナエは死んだらしい。

 

「下から順番に一人ずつ説明するわね? 霞柱の時透無一郎君は一言で言うなら"天才剣士"よ。」

 

「"天才剣士"?」

 

炭治郎は反芻する様に呟いた。柱合会議では、霞の様に匂いが無かった印象がある。あの時は自分も大人げなかったとは言え、石をぶつけられた悪印象の方が強いが。

 

「そうよ……しのぶから聞いたでしょうけど、私は十三歳で鬼殺隊に入隊して二ヶ月で花柱になったわ。でも時透君は十二歳で入隊して二ヶ月で霞柱になった……二ヶ月と言ったけど、本当は私より一週間早く柱になってるの。だから事実上、現在の鬼殺隊最年少・最速で柱になった記録の持ち主なのよ。」

 

「最年少かつ最速の柱……。」

 

炭治郎は感嘆した様に、その言葉を反芻した。

 

「後は……記憶喪失らしいわ。」

 

「記憶喪失!?」

 

思わぬ単語の登場に、炭治郎は驚愕した。カナエはその理由を続けて説明する。

 

「ええっ……何でも、鬼に家族と襲われた時に記憶を失ったそうよ。生き残ったのも彼だけで記憶を共有している人が全員いなくなってしまったから、取り戻し様が無くて……。」

 

「そんな……。」

 

炭治郎はそれを聞いて胸が締め付けられる感覚に襲われた。もし、自分が家族の記憶を失くしたりなどしたら、きっと絶望するだろうから。

 

そんな炭治郎を見てカナエは、炭治郎に優しく抱き着いて口付け(キス)を落とした。

 

「カナエ……?」

 

「そんなに悲しくならないで……何も記憶が戻らないと決まった訳じゃないわ。きっかけ一つで記憶が戻るかもしれない……もしかしたら、あなたが彼の記憶を取り戻させたりしてね?」

 

「まさか……でも手伝える事があれば力になりたい……かな。」

 

「あなたなら、きっと力になれるわよ。あなたは今日まで、何人もの心を救っているのだから……。」

 

そう言ってカナエは炭治郎に愛おしそうに頭を抱き抱えて、その豊満な乳房に押し当てた。そのままカナエは続けて話す。

 

「次に恋柱の甘露寺蜜璃ちゃんだけど……もう彼女の方からあなたに話してるわよね……あ、そうだ。」

 

「ん?」

 

カナエは何か思いついた様に、ある事を話し出した。

 

「蜜璃ちゃんの格好だけどね。あの隊服、本人が望んで着てるんじゃないのよ。」

 

「ええっ!? そうなのっ!?」

 

炭治郎は驚愕してカナエを見る。カナエは期待通りの反応をする炭治郎に喜びつつ、その経緯を説明した。

前田まさおと言う『隠』がおり、この人物を筆頭に隊服を製作しているのだが、女性隊員には露出度の高い隊服を送っているらしい。

 

かつて自分にもしのぶにも送られたが焼却処分しており、女性隊員には注意と指導をしていたのだが蜜璃にはそれが漏れていたそうだ。

蜜璃はしのぶとの初対面までその事実を知らず、知った後でも、"可愛いから"と言う理由で今も着続けているのだとか。

 

「……あの恰好、刺激が強いから目に毒なんだよなぁ……。」

 

「あら? あなたの視線は蜜璃ちゃんの顔にしか行ってないじゃない?」

 

「そうしないと、失礼じゃないか。」

 

「私、そんなあなたが大好きよ❤ ふふっ❤」

 

カナエは炭治郎に啄む様な口付け(キス)を顔中に浴びせてから、更に続けた。

 

「しのぶはもう良いわよね……なら次は蛇柱の伊黒小芭内君ね。ほら、あの白蛇を連れてる子。」

 

「……むぅ、あの人か……。」

 

炭治郎は小芭内の名前を聞いて、僅かだが眉を顰めた。小芭内には良い印象が一つも無いからだ。言い分は正しいだけの正論屋としか、今は思えなかった。

あの蛇の様なネチッこい視線を思い出すと、背中が痛み出してムズムズするのだ。

 

「ぢゅううぅぅぅっ!……ぢゅぢゅっ!……ちゅうぅっ!!」

 

「あんんっ!❤……あ、あなたっ……どうし……たの?……んんっ❤」

 

炭治郎は眉を顰めたのが恥ずかしいのか、隠す様にいきなり横抱きに抱き着いてカナエの乳首に吸い付いた。そのまま夢中になって片腕を背中から回し、脇の下を通してもう片方の乳房を揉む。

 

「ああんっ!❤……あっ❤……んあぁ❤……良いっ❤……ひゃんっ❤……気持ち……良いっ❤……あうぅっ!❤」

 

夢中になってカナエの乳首に吸う炭治郎に、カナエは双眸を閉じて頭を優しく撫でる。

暫くの間そうしていると、炭治郎は落ち着いたのか吸うのを止めて顔を上げた。

 

「ちゅば……ごめん、話の腰を折って……。」

 

「ふふっ❤……もう良いの?」

 

「うん、落ち着いたよ……。」

 

「……あなたにとって伊黒君は良い印象なんて無いでしょう。ううん、きっと多くの隊士が彼に良い印象を持っていないでしょうね。」

 

カナエは炭治郎の頭を撫でながら、小芭内について語り始めた。

 

「でもね……彼も本当は優しい人なのよ……故郷で鬼に凄惨な目に遭わされて、其処を煉獄君のお父さんに救われて、そのまま煉獄家に引き取られて過ごしていたらしいわ。」

 

「っ!?」

 

思わぬ小芭内の過去を耳にして、炭治郎は驚愕してカナエを見た。

 

「それから、伊黒君と一緒に居る白蛇の名前が鏑丸君って言う事くらいかしら……ごめんね。これ以上、私は彼自身について知らないの……。」

 

「いや、十分だよ。ありがとう、カナエ。」

 

炭治郎は申し訳なさそうなカナエに礼を言った。しかし、カナエは有る事実を敢えて伝えていなかった。

 

――蜜璃ちゃんに片思いしているんだけど……言う必要は無いわね。もう半分、蜜璃ちゃんの心は炭治郎君に傾いているし……私の大切な夫を傷付けた、言い訳を並べて告白する勇気も無い腰抜けの臆病者に、この私が義理立てしてあげる義理も義務も無いわよ。

 

カナエは心中で小芭内にそう毒突きながら、語るのを続ける。

 

「煉獄杏寿郎君も……私が語れる事は無いのよねぇ。」

 

カナエは杏寿郎の事について語る事が無く困り果てたが、炭治郎を見ると少し落ち込んだ様に見えた。

カナエは直ぐに炭治郎が杏寿郎の名前を聞いて、悲しくなったのだろうと推察した。

 

突如、パァン! と音が鳴り響いた。

 

それはカナエが両手で挟む様に、炭治郎の両頬を叩いたからだ。炭治郎の顔は火男の様な顔になる。

 

「にょ、にょにを?」

 

「しっかりしなさいっ! 煉獄君はあなたが自分の死を悲しんで俯いているよりも、言い残した言葉を胸に前を向いて歩いてくれる方がずっと喜ぶわっ!」

 

「……はいっ!……ごめん、情けない姿を見せた。」

 

「ふふっ❤ そんな時にあなたの背中を叩いてから、頭を撫でてあげるのが私の役目よ❤」

 

カナエは誇らしげに、その豊満な乳房を揺らして胸を張って見せた。炭治郎はカナエに感謝しつつ、その姿を見て苦笑した。

 

「しのぶはもう良いとして……次に説明するのが、えーと……風柱の不死川実弥君なのよねぇ。」

 

「……っ。」

 

カナエが困った様に実弥の名前を呟くと、炭治郎は小芭内の時以上に露骨に顔を顰めた。

炭治郎は実弥に対し、筆舌に尽くし難い怒りがある。あの時を思い出すと、沸騰した様に血が頭に上るのだ。

 

「……っ!」

 

炭治郎の顔を見て、カナエは一考してから話し掛けた。

 

「ねぇ、あなた❤」

 

「んっ?」

 

身体を前に動かした事で、カナエの乳房が揺れる。更に抱き着いた為に、カナエの乳房は炭治郎の胸板に擦れて形を変えた。

 

「あなたが私の乳房(お乳)を吸った所為で、子宮が疼いて仕方が無いの❤……説明する前に、抱いて欲しいなぁ❤」

 

「っ……喜んでっ!!」

 

「んんっ❤!」

 

カナエの括れた腰を掴んでから、炭治郎は口付け(キス)を行う。カナエは嬉しそうに両眼を閉じると、再び炭治郎の顔を挟む様に両手を添えて自身の唇を押し付けた。

 

「ちゅっ❤……ちゅっちゅ❤……んんちゅうぅっ❤❤」

 

「んちゅう……んんうぅぅ……ちゅちゅうううっ!!」

 

舌を入れない普通の口付け(キス)であったが、二人にはこれで充分であった。何故ならこれは二人にとって、挨拶代わりの序章に過ぎないからだ。

 

「ちゅふぅんっ!……ちゅうううぅぅっ!!」

 

暫くの間、口付け(キス)を堪能していた二人のうち、炭治郎が先に行動を起こし始めた。カナエとの口付け(キス)を続けながら、その豊満な乳房に手を伸ばし始めていた。

 

「んちゅうぅ❤……っ!」

 

両眼を瞑って炭治郎との口付け(キス)に夢中になっているカナエだったが、炭治郎の行動を気配だけで察していた。すると炭治郎より先に、カナエは行動を起こした。

 

「ちゅちゅうっ!❤……ぷはあぁっ!❤……だぁめ❤……ふふっ❤」

 

「っ!?」

 

カナエの乳房に向かって伸ばしていた両手を、炭治郎はカナエに恋人繋ぎの形で握り締められて阻止された。思わぬカナエの行動に、炭治郎は思わず面食らう。

 

「焦らないでっ……んんっ❤」

 

カナエはそう言って炭治郎を宥めると、恋人繋ぎをしたまま炭治郎から離れて座り込む。それから開脚する様に両足を左右に広げて股を開いた。花が咲く様に姿を現したカナエの秘部は、既に愛液と言う名の蜜が洪水の如く流れていた。

 

「ふうぅっ❤ ふうぅっ❤……さ、先にあなたの立派な日輪刀をっ……私の鞘の中に納めてっ……それからだったら私の乳房(おっぱい)、好きにしても良いからぁっ❤……っっ!❤」

 

「っ!!!」

 

カナエは赤面しつつ羞恥心に耐えながら、炭治郎を艶めかしく誘った。カナエが絞り出したこの一言は、炭治郎の理性を一撃で崩壊させる威力を秘めていた。

 

「カナエッ!!」

 

 

 

ズボッ!!!

 

 

 

「んああああぁぁぁぁぁぁっ!!?❤❤❤」

 

問答無用で逸物を挿入されたカナエは、悲鳴に近い嬌声を上げて絶頂した。

 

「くっ、ふぅっ……っ!」

 

炭治郎は畝る様に襲ってくる膣圧に、思わずカナエと同様に絶頂してしまいそうになった。しかしどうにか踏み止まって、その快楽に耐え切った。

 

「ふぅっ……はぁっ……はぁっ!」

 

今直ぐにでも炭治郎は発情期を迎えた動物の如く、腰を振って反復動作(ピストン)に移りたかったが、実行には移さなかった。それよりも先に、炭治郎にはやっておきたい事があったのだ。

 

「あぁっ❤……ああぁんっ❤」

 

炭治郎が定めた視線の先には、仰向けで寝ている事で重力に逆らう様に天に向かって上を指すカナエの豊満な乳房であった。

 

「……えいっ!」

 

「ああぁんっ!!❤」

 

炭治郎がカナエから両手を離して眼前にある豊満な乳房を揉むと、反射的にカナエが嬌声を上げる。その嬌声が、炭治郎の理性を溶かす様に火を付ける。

 

「はぁっ……カナエは言ったよね?……挿入(いれ)た後なら、乳房(おっぱい)を好きにしても良いって。」

 

「あ、あぅっ……そんなっ……っ。」

 

自身の膣内を掻き回す快楽を期待していたカナエは、自分が言った先刻の言葉を少しばかり後悔した。炭治郎は自身の逸物をカナエの膣内に入れたまま動こうとはしなかったのだ。炭治郎が定めた標的は、その立派に育った果実に集中したのだから。

 

「はぁ……あぁっ……柔らかくて、気持ち良いなぁ…………あむっ……ちゅれろっ……れろれろっ。」

 

「ひゃあんっ❤……んああぁっ❤……あああんっ!❤」

 

乳房の柔らかさを堪能する様に優しく揉みながら、先端の赤い蕾に口を添わせて優しく舐める。ゆっくりとされど確実にやって来る快楽の波に、カナエは頭を振りながら悶絶する。

 

「ちゅれろれろっ!……れろじゅろっ!」

 

「ああぁっ❤……はああぁぁんっ!❤」

 

左右交互の乳房にある先端の赤い蕾に、炭治郎は順番ずつ舐めて愛撫する。

 

「ちゅうううぅぅぅっ……ぢゅううううぅぅぅぅぅっ!!❤」

 

炭治郎は舐めるのを止めると、授乳される乳飲み子の如く思い切り乳房を吸った。

 

「んあああぁぁぁっっ!❤❤ もうイクうううぅぅぅぅっっ!!❤❤❤」

 

炭治郎に乳房を吸われたカナエは、頭を仰け反らせて絶頂した。絶頂したからか、膣圧が急激に圧縮されて逸物をきつく締め上げた。

 

「っ!? あああっ!? カナエっ……そんなに締め付けられると……うぁああっ!」

 

 

 

ドビュッ!! ドビュビュビュルルルルルルウウウゥゥゥッッ!!!

 

 

 

「ああぁぁっ!❤……あ、熱いぃぃぃっ!!❤❤」

 

カナエは不意に白濁の溶岩から発する熱を感じて、絶頂した事から身体を痙攣させた。

 

「あぁ❤……ああぁっ❤」

 

カナエは再び押し寄せて来る快楽の余韻に、涎を垂らしながら受け入れて堪能する。

 

「……っ。」

 

炭治郎も射精した後の余韻や疲弊から動かずに静止していたが、カナエを求めて再び体を動かし始めた。

 

「っ!?❤……ああぁんっ!❤ ああああぁんっ!❤」

 

余韻とは比べものにならない快楽に襲われて、カナエは再び嬌声を上げる。しかし其処に拒絶感や嫌悪感は一切無い。

 

カナエは歓喜を以て、炭治郎を受け入れ両腕を炭治郎の頸に回して抱き締めた。

 

「良いぃっ!❤ 気持ち良いっ!❤」

 

「ああっ! カナエっ!……可愛い……凄くっ……可愛いよっ!!」

 

カナエを褒めながら、炭治郎は腰を振り続ける。そんな炭治郎に、カナエは眼を虚ろにさせつつも愛を囁いて想いを伝える。

 

「あうぅっ!❤……ああっ!❤ 其処っ!❤ 其処突かれるの好きぃっ!❤ んあぁんっ!❤ あなたっ!❤……好きっ❤!……好きぃっ!❤」

 

「俺もっ……カナエが好きだよっ!……大好きだっ!!」

 

互いの愛の囁きに快楽の波は大きく、熱は熱さを増して行く。

 

「くぅぅっ!……カナエっ! 射精すよっ! 膣内に……全部っ!!」

 

「き、来てぇぇぇっ!❤ 私っ❤……あなたと一緒にイきたいぃぃぃっ!!❤❤」

 

 

 

ドピュビュルルルルルルルウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!! ドビュルルルルルウウゥゥゥゥゥッ!!!

 

 

 

「んあああああぁぁぁぁ~~~~~~っ!!❤❤」

 

逸物から射精された大量の精液が、カナエの子宮を真っ白に染め尽くし始めた。その熱を直に浴びて、カナエは深い絶頂に襲われて全身を強く痙攣させた。

 

「あぁぁっ……気持ち良いっ……っ。」

 

「はぁ❤……はぁ❤……はぁ❤……とっても、素敵よ❤……ちゅっ❤……ちゅっ❤」

 

カナエは労う様に、炭治郎の両頬に一回ずつ口付け(キス)を落とした。すると、カナエはある事に気付いた。

 

「あっ❤……また固くなったぁ❤……まだ、したい?」

 

「……うんっ……もっとして良い?」

 

炭治郎は無節操で強欲な愚息に呆れながら、しれっと自身の欲望をカナエに告げた。

カナエは素直過ぎる炭治郎に、可笑しそうにクスクス笑いながら抱き締めた。

 

「駄目な訳無いじゃない❤ いっぱい愛して❤ あ・な・た❤」

 

「――っ!……カナエっ!」

 

「ああんっ❤!」

 

その言葉を引き金に、炭治郎は再びカナエとの情交(セックス)を始めた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……やっと……落ち着いたよ……ありがとう、カナエ。」

 

「はぁ❤……はぁ❤……よ、良かったぁ❤……じゅ、十五回も抜かずに出すなんて❤……流石に思わなかったわ❤」

 

カナエは息を切らしながら、炭治郎の頭を撫でてから額に口付け(キス)を落とした。

カナエの腹部は、注がれた精液で少しばかり膨らんでおり、精液と愛液が混ざった混合液が絶え間なく流れていた。

 

炭治郎は双眸を閉じて口付け(キス)の余韻まで味わうと、カナエに話し掛ける。

 

「ごめんね、カナエ……今なら不死川さんの事、落ち着いて話が聞けるよ。」

 

「じゃあ話すわね?……と言っても知ってる事なんて殆ど無いわよ。彼、自分の事を話したがらなかったし。皆もそうなのだけどね。」

 

カナエは苦笑しながら、炭治郎にそう話す。それを聞いて、炭治郎がカナエに質問をした。

 

「カナエ……不死川さんって、"稀血"だよね?」

 

「っ!……あなた、何処かでそう聞いたの?」

 

「いいや、柱合会議(あの)時に気付いたさ。不死川さんの血って他の人達とは全然匂いが違うから……だから凄く焦ったよ。禰豆子も流石に耐えきれないんじゃないかってね。」

 

炭治郎は懐かしそうに、かつ苦々しそうにあの時を思い出していた。

 

「不死川君は態と負傷してその血で鬼を鈍らせて倒すの。強いのだから、そんな真似はするなって私もしのぶも何回止める様に言っても止めなくてね……彼は外見と言動で勘違いされやすいけど、他人想いの優しい人なの。理解出来ないでしょうけどね。」

 

「……」

 

「無理に理解しなくて良いわ。それはきっと、時間が解決してくれるから……そうだわ。後、彼には血の繋がった実の弟が居るのよ。」

 

「弟が……っ。」

 

「周囲には居ないって、同姓なだけだって言ってるわ。その弟君、あなたの同期に居るのよ?」

 

「俺の同期に……?」

 

炭治郎の同期は五人しかいない精鋭だ。そして該当する人間は一人しか見当たらない。あの顔の傷が特徴の、"最終選別"で小競り合いをした少年だ。

 

「あの彼か……?」

 

「ええ、名前は不死川玄弥。彼自身にも秘密が有ってね……。」

 

「……っ!?」

 

炭治郎はカナエが暴露した玄弥の秘密に驚愕した。

 

「"鬼喰い"……そんな事が可能なのか……っ。」

 

「前例が無い訳じゃないの。でも鬼殺隊の歴史でも十例も無い希少な事例なのよ。しのぶに説明してたわ。呼吸が使えないから、追い詰められて鬼の身体を食い千切ったら、"鬼喰い"の能力に気付いたって。」

 

「玄弥は呼吸が使えないのか……もし俺に鬼を倒す力が無かったら、俺も同じ事をしたかもしれないなぁ……。」

 

炭治郎はしみじみと、自身が呼吸の使える身体である事を感謝した。

 

「不死川君はこれくらいかしらね……次は水柱の冨岡義勇君だけど……聞きたい?」

 

「はいっ! 義勇さんに手紙は出してるんだけど、お忙しいのか返事が無くてまだ殆ど何も知らないんだっ!」

 

炭治郎はカナエが義勇の話題を口にすると、実弥と違って一転して顔を輝かせてカナエを見詰めた。

露骨過ぎる程に態度が違う炭治郎に、カナエは苦笑する。

 

「ごめんなさい。私も冨岡君の事は殆ど知らないの……でもこれだけは知ってるわ。彼の羽織……片方は死んだお姉さんの着物の絵柄で、残り半分は"最終選別"で死んだ兄妹弟子の着物の絵柄だそうよ。」

 

「っ!?」

 

炭治郎は義勇の思わぬ事実に、炭治郎は双眸を限界まで見開かせて驚いた。そしてある事を思い出した。

師匠である鱗滝左近次が住む狭霧山の修業時、カナエと同様に肉体無き身体で自身の姉弟子と共に表れて鍛えてくれた、兄弟子の事を。

 

その期間は決して長くは無かったが、忘れはしない。あの出会いが無ければ自分は今頃、"最終選別"の藤襲山でその生涯を終えていただろう。いや、出る事も叶わなかったかもしれない。

今の自分があるのは、間違い無く彼らのお蔭でもあるのだ。それを思い出して、炭治郎の双眸からは大粒の涙が溢れていた。

 

「……っ……っ……っ……。」

 

「……」

 

カナエは何も言わず、静かに泣き始める炭治郎を慰めるために頭を優しく抱えて撫で始める。

炭治郎はそのまま、カナエに身を任せて泣き続けた。

 

「……ごめん、話の腰を折ってばかりで……。」

 

「別に気にしなくて良いのよ……ふふっ、次は音柱の宇随天元さんなのだけどね、あの二番目に身体が大きかった人。」

 

「うん。」

 

「あなたは彼と気が合うと思うわ。あの人も雛鶴さん、まきをさん、須磨さんって言う、奥方が三人居るから。」

 

「はいっ!? 三人っ!?」

 

炭治郎は自身と同様に複数の女性と付き合っている男性が他にも居るとは思わず、驚愕の声を上げた。

カナエはその様子が可笑しくて仕方が無いのか、クスクス笑いながら話を続けた。

 

「本当よ。私がまだ生きていた頃は、良く蝶屋敷に来て庭に咲いてる花で花束を作ってくれって、私に頼みに来たもの。奥方の贈り物にするからってね。」

 

「あの人、とても奥さん想いなんだ……。」

 

「ええっ。きっとあなたと仲良くなれるわ。奥方三人の命が、この世で誰よりも大切だと思ってる愛妻家だから。」

 

天元について語り終えると、カナエは一度、深呼吸をした。長かった柱語りも、残すは一人となった。

 

「最後に岩柱の悲鳴嶼行冥さんだけど、あなたは彼に付いて何処まで知っているの?」

 

「悲鳴嶼さんは……()()()()()俺が知っているのは、盲目である事と柱の中でも一番強い、最強だって事かな? あの人だけ匂いが違ったし。」

 

「そう……その通りよ。あの人こそ歴代でも最強に分類される柱なのよ……私もしのぶも、その強さに命を救われたわ。」

 

「命を……救われた?」

 

炭治郎はその言葉に、少しばかり動揺する。するとカナエは懐かしそうに、悲しそうに語り続けた。

 

「あなたには言わなかったけれど、私達姉妹は悲鳴嶼さんに鬼から命を救われたの。もしあの人が来てくれなかったら、両親と一緒に鬼に殺されていたわ。」

 

「っ!!」

 

炭治郎は行冥と胡蝶姉妹の関係の切っ掛けを、今この場で初めて知った。炭治郎は更に舌を除く五感に神経を尖らせた。

 

「両親の葬式後、私達は悲鳴嶼さんに頼んで鬼殺隊に入らせて欲しいって頼んだの。でも頑なに普通の女の子として暮らせって聞かなくて……遂に根負けした悲鳴嶼さんは私達を諦めさせるために無理難題を突き付けて来たわ。」

 

「カナエ達に無理難題を……?」

 

炭治郎が反芻して呟くと、カナエが右手を翳した。すると少し離れたところに大岩が出現する。

 

「この大岩を動かせたら、育手を紹介する。出来なければ諦めろって言われたのよ。」

 

「っ!?……こ、こんな大岩をっ!?」

 

岩の大きさは自身が修行で真っ二つにしたのと同等の大きさがあった。推定数トンと言える大岩を少女二人に動かせだなどと、無理難題にも程がある。

 

「そ、それでどうやってその無理難題を突破したの?」

 

「簡単な話。"てこの原理"を使って動かしただけよ。道具禁止、だなんて悲鳴嶼さんは言わなかったから。」

 

「な、成程。」

 

自分だったら思い付かなかっただろうなと、炭治郎は自嘲しながら納得した。

 

「……悲鳴嶼さんには、後でお礼を言わないといけないな。」

 

「そうしてあげて頂戴。きっと喜ぶわ。あの人も、とっても優しい人だから。」

 

「ああっ……ありがとう、カナエ。お蔭で、大分柱達の印象が良くなったよ。」

 

炭治郎はカナエにそう礼を口にしてから、強く抱き締めた。カナエもまた、炭治郎の背中に両腕を回して、強く抱き締め返す。

 

「どういたしまして……最後に私から、あなたに一つ、聞いて良い?」

 

「うん、何でも聞いて欲しい。」

 

炭治郎がそう言った瞬間、カナエの双眸がすうぅっと細くなり、首筋に刃を当てられてる錯覚に襲われた。

背中に嫌な汗を流しながら、炭治郎は平静を装う。

 

「あの五つの髪飾りの件……あなたの口から直接、説明して欲しいの。私には、説明してくれるわよね?」

 

「うっ……っ!」

 

炭治郎は口籠ったが、観念して全てをカナエに説明した。するとカナエは青筋を立てて、炭治郎の首を絞首し始めた。

 

「あなたはぁ……っ! 何処まで業が深いのかしらっ!?」

 

「ぐえぇぇぇっ!? まっ……てぇ……なにも……してない……がらぁっ!?」

 

「当たり前よっ!? してたら私があなたを殺してるわっ!!」

 

カナエは突き放す様に、絞首を解いて炭治郎を解放した。荒い咳をしながら呼吸を整える炭治郎に、カナエが話し掛けた。

 

「……あなたが死んだ時、色欲の大罪で地獄へ堕ちたりなんかしないでしょうね……?」

 

「……否定出来る要素が、無い事が(つら)いね……。」

 

炭治郎が苦笑しながらそう言うと、カナエは溜め息を吐いて話を続ける。

 

「もしあなたが地獄へ堕ちたら、私も同行しますからね?」

 

「えっ!? でもそれはっ!!」

 

抗弁しようとする炭治郎に、カナエは一喝して黙らせる。

 

「異議は認めません!……あなたが居ない天国や来世なんて、それこそ無間地獄だわっ。」

 

「……ごめん。ありがとう、カナエ。其処まで貴女に想われて、俺は幸せ者だよ。」

 

カナエの決意に感動しながら、炭治郎はカナエを抱き締めた。

炭治郎の抱擁を受けて、満たされて行く自身の単純さに程々呆れながら、抱擁を返す。

 

カナエは何時も通り、炭治郎が目を覚ますまで仲睦まじく夢幻世界で過ごすのだった。何時もとの違いは、これから炭治郎が参加する緊急柱合会議への対策として入念な根詰めを行っていた事だけだった。




お待たせしました。
束縛尋問プレイむっずっ!(吐血)

こうして茶番はありましたが、炭治郎君が柱達の個人情報を入手に成功しました。
この情報が炭治郎君如何なる吉凶禍福を齎すかはお楽しみに。まぁ其処まで掘り下げられないかもしれないけれど。
と言うか書き終わって思ったけどなんか口調が童磨っぽく見えるな(汗)

今回はオリジナルも交えて柱達の説明をしましたが、それぞれスピンオフやファンブックで今後、設定や背景が加わるようなら、修正を重ねて行く所存です。よろしくお願いします。

次回、緊急柱合会議です。船が空中に投げ出されてトリプルアクセルをするぐらいに荒れに荒れ果てる予定です。(多分)
更新は可能なら六月中に何とかしたいです。
訂正:更新は8/1(土) 18:00になりました。

宣伝

K様
pixivユーザーID https://www.pixiv.net/users/30327136
炭しのssを何作品も書かれている作者様です。読んでいる作品は日常の大切さと尊さを気付かされます。

十六夜様
pixivユーザーID https://www.pixiv.net/users/20013890
炭しのや炭ナエの連載作品を書かれている作者様です。勿体無い話ですが、拙作を教材にして下さっています。是非読んでみて下さい。

コッシ―様
pixivユーザーID https://www.pixiv.net/users/33950015
しのぶさんは眠れない
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12443885
炭しのssです。精神的に参り始めているしのぶさんを、炭治郎君の太陽の温かさが癒します。


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第弐拾捌話 日輪は本祭に身を投ず

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*超辛口表現有り。苦手な方ご注意ください。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。



東京府・産屋敷邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時間帯:深夜

天気:曇り

 

 

「……漸く終わったぞ。」

 

愈史郎は灯り一つ無い真っ暗な部屋で、椅子の背凭れに身体を委ねながら達成感の余韻に浸っていた。愈史郎は今の今まで室内の卓子(テーブル)の前で黒色を初めとした様々な色の紙を使い、『紙眼』作りに励んでいたのだ。

 

「それにしても流石は大名門・産屋敷家。庶民では手に入らん上質な紙を持っている。後で追加を蝶屋敷に送って貰うか。」

 

何故、通常の白紙を使わないかと言うと、それには明確な理由が有る。それは珠世と愈史郎が別邸を退所する辺りまで、時間(とき)は遡る。

 

『愈史郎さんっ! ちょっと良いですかっ!?』

 

『……っ?……何だっ? どうした??』

 

『ちょっとお願いがあるんです。』

 

『お願い?……珠世様じゃなくて俺にか?』

 

『はいっ! 愈史郎さんじゃなきゃ出来ない事ですっ!!』

 

『……聞くだけ聞いてやるっ。』

 

愈史郎は小声で話す炭治郎を怪訝そうに見ると、炭治郎はしのぶ達と距離を置いた事を確認して引き続き小声で話を続ける。

 

『……『紙眼』の機能を細分化して作れないか、だと?」

 

「はい、『紙眼』は超視力の貸与、夜目の確保、視覚同調、透明化、隠密特化と幾つもの機能を着けてます。」

 

『ああ、細かく分けるとそうなるな。』

 

『確かに複数の機能が付いているこの状態が一番かもしれません。ですが、細分化する事で使える機能が無くなる分、その機能の特化が可能にならないかと思って……。』

 

『試した事が無いから分からん。で、もし出来るならどれを望むんだ?』

 

『……ですっ。』

 

『っ!……それだけで良いのか?……まぁ良いだろう、やるだけやってやる。ついでに他の奴も作っておいてやろう。』

 

『本当ですかっ、ありがとうございますっ。』

 

『炭治郎。因みに、何枚居る?』

 

『では……()()程、お願いします。可能なら、明日の緊急柱合会議までに間に合えたら嬉しいですっ。』

 

『分かった、その時までに用意してやるっ。』

 

『よろしくお願いしますっ!』

 

「……はぁ。あいつらの鍛錬を見学していたせいで、完成予定時間が思っていたよりも遅くなったなぁ。」

 

愈史郎は溜め息を吐いて、軽々しく承諾した事を少し後悔した。しかし、直ぐに両頬を両手でパンパンッ! と叩いて気合を入れる。

 

「だが、これは盲点だったな……炭治郎の御蔭で気付く事が出来た。後であいつに礼の一つでも言ってやるか。」

 

「お疲れ様、愈史郎。」

 

「珠世様っ!」

 

愈史郎の下へ珠世がやって来た。愈史郎は慌てて、席を立って珠世に一礼した。

 

「炭治郎さんからの頼み事、やり遂げたみたいね?」

 

「はいっ! 思っていたより時間がかかりましたが、新たな可能性に気付けました。」

 

「其れは重畳ね……これから改めて製薬した薬を耀哉さんへ持って行くのだけど、一緒に来るっ?」

 

「はいっ! 勿論ですっ!!」

 

愈史郎が元気良く返答してから、二人で耀哉の居る部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時間帯:早朝

天気:曇り

 

 

夜明けが近付く中、灯り一つ無い産屋敷家の別邸で竈門炭治郎が目を覚ました。

 

「……」

 

炭治郎はカナエに対して向けた言動を思い出し、羞恥のあまりそのまま襖も障子も突き破って外へ転げ回りたい衝動に駆られた。

しかし、そうはならなかったのは炭治郎の周囲を囲む様に同衾している者達が居たからだ。

 

「「「「……」」」」

 

炭治郎の恋人達である胡蝶しのぶ、神崎アオイ、栗花落カナヲの三人が炭治郎に抱き着く様に眠っていた。

アオイとカナヲが左右の脇下から抱き着き、しのぶが炭治郎に圧し掛かる様に眠る。炭治郎は気を反らすために、カナエを思い出していた。

 

『あなた、柱合会議頑張って来てね❤……それから先刻(さっき)犯ったあれ、とっても楽しかったわ❤』

 

『私も色々考えておくから、あなたも考えておいてね❤ 普通に愛し合うのも素敵だけれど……また、ああ言うの一緒にしましょうね❤』

 

――我ながら、拙い演技だったなぁ……カナエさんを悦ばせるためにも、ああ言うのも勉強しないと駄目か。それにしても……。

「どうしよう……。」

 

炭治郎は重さは感じていたが、愛しさを覚える重みだ。それ自体に苦は無かった。

すると炭治郎の呟きが思っていたより大きかったのか、しのぶとアオイがモゾモゾと動き始めた。

 

「んっ……んんっ?」

 

「あっ……起こしちゃいましたか?」

 

「んぁ……おはよう……ございますぅ……。」

 

しのぶがそのまま起き上がり、アオイは片眼を擦りながら起床した。

カナヲは炭治郎に抱き着いて寝ていたが、炭治郎がスンッと一度匂いを嗅ぐとカナヲに声を掛けた。

 

「カナヲ、おはよう。起きてるよね?」

 

「……バレちゃった。おはよう、炭治郎。」

 

カナヲが指摘されたために、仕方なく起床する。

全員が身体を起こした後に、しのぶが炭治郎に話し掛けた。

 

「炭治郎君。随分と長く寝ましたね。半日近くは寝てましたよ。」

 

「半日っ!?」

 

炭治郎は慌てて時計を確認すると、しのぶの言う事に間違いは無かった。夢幻世界に滞在した時間が何時もより長いとは思ったが、まさか半日近い時間が今世では経過しているとは思わなかったのだ。

 

しかし炭治郎は直ぐに頭を切り替えると、直ぐに全員で洗顔等の朝の準備をする。それが終わった頃にあまねと偶然遭遇し、耀哉の下へ来て欲しいと言って来たため、炭治郎達は全員で耀哉の居る部屋へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「耀哉様、あまねです。胡蝶様達をお連れ致しました。」

 

「どうぞ、皆で入っておいで。」

 

耀哉の了承を得て、あまねは炭治郎達と連れて室内へ入室する。其処には布団から起き上がっている耀哉と付き添う珠世と愈史郎が部屋に居た。珠世は頭を下げて一礼して炭治郎達に挨拶を済ませた。

 

「「「「おはようございます、御館様。」」」」

 

「みんな、おはよう。」

 

炭治郎達はその場で一礼して、耀哉への挨拶をしてから着席した。

すると、愈史郎が炭治郎に向かって口を開いた。

 

「炭治郎。お前に頼まれた物だが、出来たぞ。」

 

「本当ですかっ!?」

 

炭治郎は身を乗り出す勢いで、愈史郎に質問する炭治郎。その顔は、雲一つ無い晴天を連想させる様な笑顔であった。

 

『……っ?』

 

満面の笑みを浮かべる炭治郎比べ、珠世と愈史郎を除く面々はその笑顔の意味が理解出来ず、首を傾げる。

そんな様子のしのぶ達に苦笑しながら、興奮気味の炭治郎は愈史郎に話を続けた。

 

「それで、今何処に在りますか!?」

 

「落ち着けっ、炭治郎。土産を待ち切れない子供みたいだぞお前っ……。」

 

「あっ……すみません、愈史郎さん。」

 

愈史郎に注意されて、炭治郎は恥ずかしそうに赤面し姿勢を正した。

そんな炭治郎を、その場にいる一同は微笑ましく見守る。

愈史郎は静かになったのを見計らって、懐から黒い紙を一枚取り出して炭治郎に渡した。

 

「頼まれていた奴だ。そうだな……『紙眼・()』とでも名付けるか。」

 

「……何がどう違うんです? 色しか違いが見えませんが?」

 

しのぶは首を傾げながら、炭治郎の持つ『紙眼』を凝視した。愈史郎はふふんと得意げな顔で通常の『紙眼』を取り出して説明を始めた。

 

「良いか? 俺の『紙眼』の能力の一つに"視覚同調"と言うものがある。だがこれは二人以上居ないと出来ないし、視界も第三者視点のものだ。通常の『紙眼(もの)』に比べて、この『紙眼・視』は"ものを見る事"のみに特化している。この言葉の意味が分かるか?」

 

「……まさかっ。」

 

耀哉の傍に控えていたあまねが、声を僅かに震わせて呟いた。普段の冷静沈着なあまねなら、絶対に見せない出来事だ。

 

「『紙眼・視(そいつ)』を付ければ、この一枚だけで視力を得られる。無論、盲目であろうとな。」

 

『っ!』

 

その場に居る全員の顔に、喜びの色が宿る。既に気持ちは期待でいっぱいだった。自然と、一同の視線は炭治郎の持つ『紙眼・視』に集まった。

炭治郎は熱の籠ったその視線を受けて、深呼吸してから耀哉に向かって話し掛けた。

 

「御館様、『紙眼・視(此方)』を目元にお着けしても良いですか?」

 

「勿論だとも。寧ろ私は現在(いま)、とてもワクワクしているよ。」

 

耀哉から期待と喜び、そして興奮の匂いを炭治郎は感じ取った。

 

――これで上手く機能しなかったらどうしよう……。

 

愈史郎に限って失敗は無いと思いつつ、一抹の不安が炭治郎の心中には有った。

しかし、このまま何もしない訳には行かないので、炭治郎は仕方無く愈史郎を除く室内に居る全員の期待の視線を受けながら実行に移った。

 

「……如何ですか? 御館様。」

 

「……」

 

「……御館様?」

 

沈黙する耀哉に対し、しのぶが心配して声を掛ける。耀哉はその声を耳にして、ピクッと身体を一瞬震わせてから顔を炭治郎達に向けた。

 

「いや、夜闇の世界が懐かしくてね……だけどその暗闇のせいで、皆の顔がはっきりと見えない……かな?」

 

「…っ!……直ぐに灯りを……「おい、ちょっと待てっ。」っ!」

 

日出するまでまだ時間はある。耀哉の言葉にあまねは直ぐに立ち上がるが、愈史郎が引き留めた。

 

「耀哉。指で擦る様に、右から左に流せ。そうすると『紙眼・視』が夜目形態に切り替わる。真っ暗闇でも昼間の様に見える様にした。逆もまた然りだ。」

 

『っ!』

 

周囲が驚く中、耀哉は愈史郎に頷いてからゆっくりと手を動かして、それからその手を降ろした。

 

「……っ……炭治郎、こっちにおいで?」

 

「は、はいっ!」

 

炭治郎は咄嗟に大声で返事をすると、恥ずかしそうに一度小さく咳をしてから耀哉に近付いた。

 

「……額の痣……花札の様な耳飾り……赤味掛かった黒髪と赤黒い瞳……報告が有った様に、炭治郎は本当に"赫灼の子"なんだね。」

 

『っ!!』

 

驚愕する周囲を余所に、耀哉が炭治郎の痣を撫で、そのまま左耳に装着している花札に似た耳飾りを撫でる。カランと音を立てながらそう言うと、今度は炭治郎の背後に居るしのぶ達に声を掛けた。

 

「しのぶは現在(いま)もその羽織を着ているんだね。カナヲもカナエの髪飾りを……アオイ、一年振りに顔を見るけれど、元気そうで良かったよ。」

 

『っ!!』

 

「耀哉様っ……!」

 

耀哉が一人一人にしっかりと顔を向けて話し掛けると、次にあまねに声を掛けた。

 

「また……あまねの顔が見れて嬉しいよ。でも少し痩せたかな……私のせいでごめんね?」

 

「いえっ……いえっ!……とんでもございませんっ……。」

 

あまねは眼尻を急いで拭き取ると、直ぐに平伏して頭を下げた。耀哉が顔を上げるように言ってから、今度は珠世と愈史郎を見た。

 

「珠世さん、愈史郎さん。本当にありがとう……貴方達の御蔭で、私は以前より元気になり、またこの眼に視力(ひかり)を取り戻す事が出来た……感謝してもし切れない……。」

 

「……いえ、私としてもこの程度しか出来ないのは寧ろ、医者として汗顔の至りです。」

 

「……珠世様はともかく、俺は大した事はしていない。礼なぞ不要だ……どうしてもと言うのなら、礼は全て炭治郎にでも言っておけ。」

 

耀哉が頭を下げて珠世達に礼を述べると、珠世は恐縮して頭を下げ、愈史郎は少し照れた様にそう言って顔を背けた。

そんな愈史郎の言葉に、耀哉は静かに頷いて炭治郎と向き合った。

 

「……炭治郎。「鬼舞辻無惨を倒すために、何時か珠世さんと合流を。」と私も考えていたけれど、しかしそれは少なくとも一年以上先になると私は考えていた。もしかすると、私の代では達成出来ないかもしれないと言う諦念も有った。」

 

「四百年以上前から産屋敷家当主にのみ珠世さんの事は代々伝えられ捜索していただけに、直ぐに合流出来るとは考えられなかった。」

 

「だがそれも君の尽力の御蔭でそんな懸念は杞憂で終わり、こうして私達は珠世さん達と合流する事が叶った。本当に、ありがとう。炭治郎。」

 

「……っ!」

 

耀哉は座ったまま、炭治郎に頭を下げて感謝の念を伝えた。あまねもまた、耀哉に倣って炭治郎に頭を下げる。

産屋敷夫婦に頭を下げられた炭治郎は、その言葉に双眸を濡らして身体を震わせると、直ぐに両手を付いて頭を下げた。

 

「とんでもありませんっ!……俺がしたのは、珠世さんに手紙を出したくらいで……決断してくれたのは珠世さんですから、お礼なんて……っ!」

 

恐縮した様に炭治郎がそう言った。そんな炭治郎に、耀哉はふふっと静かに笑ってから話し掛けた。

 

「謙遜しないでおくれ、炭治郎……ふふ、それにしても、珠世さんは本当に美しい女性だね……炭治郎が手紙にああ書く気持ちが良く分かるよ。」

 

「……っ?……炭治郎が、手紙になんて書いたんだ?」

 

愈史郎が気になって耀哉に尋ねる。それと同時にしのぶとアオイ、カナヲの視線がスッと鋭くなり、炭治郎の背中に冷や汗が一筋流れた。

 

「確か……『珠世さんは鬼でありながらとても穏やかで優しくて知的で聡明な、まさに才色兼備を絵に描いた様な美しい女性です。あの方が鬼殺隊に来て下されば千人力、いや万人力になります。必ず、柱にも勝るとも劣らぬ働きを為さるでしょう。今直ぐにとは言いませんがどうか、時期を見て珠世さんを御招きする御許可を頂けませんでしょうか?』……だったかな?……とても、力強く書かれてあったらしいね。あまね?」

 

「はい、私にはそう見受けられました。」

 

「ほう……流石は炭治郎だな。よーく分かっているんじゃないか……。」

 

「あ、あははははははっ。」

 

「「「……」」」

 

愈史郎が炭治郎の手紙の内容にうんうんと感心する中、炭治郎は照れた様子で笑いながら誤魔化す。しかし、しのぶ達の視線は一層鋭くなる。しのぶに至っては青筋が立っている。

 

「まぁ……炭治郎さんったら、恥ずかしいわ……。」

 

「……っ。」

 

「「「……」」」

 

珠世は炭治郎の手紙に書かれていた称賛の言葉の数々に、照れた様子で頬を赤く染める。しかし、その表情には喜びや嬉しさが有った。事実、炭治郎は匂いで喜びを感じ取っている。

そんな珠世の反応を見て、炭治郎は照れ顔で珠世以上に頬を赤く染めた。

 

しかし、そんな二人のやり取りをしのぶ達は面白くなさそうに睨み付ける。

今やしのぶだけでなく、アオイもカナヲも青筋が立っている。

 

「……」

――またしても珠世様の照れ顔を、おのれ炭治郎っ!!……しかし、こんな珠世様のお顔は滅多に見れない……見れた事に感謝するべきか……うーん、うーん……。

 

愈史郎もまた炭治郎を最初こそ嫉妬で睨み付けていたが、同時に感謝の念も抱くと言う複雑な表情をしていた。

炭治郎は背後から匂う殺意と怒りの匂いに先刻以上に冷や汗を流しながらも、先刻の耀哉の言葉を思い出す。

 

――御館様は、先刻(さっき)四百年以上前と仰られた……カナエさんから教わったけど、その時期は"始まりの剣士"が登場した時代と一致している……もしかしてっ!!

 

炭治郎は双眸を限界まで見開くとバッ! と頭を上げて珠世を見た。

唐突な炭治郎の行動に、耀哉達は少し驚きを覚える。

 

「すみませんっ!……珠世さんっ! お聞きしたい事があるんですっっ!!」

 

「は、はい。何かしらっ、炭治郎さん?」

 

炭治郎の勢いに面喰らいながらも、珠世は炭治郎の質問が気になるのか、興味深そうに炭治郎を伺う。

珠世から許可を貰った炭治郎は、鼻息すら荒くしながら珠世に尋ねる。

 

「あのっ!……珠世さんは、"始まりの呼吸の剣士"に会ってますか!?……四百年以上前の話になるんですけど……っ!」

 

『っ!』

 

炭治郎の質問に、耀哉を除く全員がその内容に驚いた。そして直ぐに全員の視線が珠世に集中する。

しかし、珠世も愈史郎も困った様に頭を傾げていた。

 

「えっと……珠世さんっ?」

 

「っ!……ああ、ごめんなさい。その……炭治郎さんが言っている"始まりの呼吸の剣士"と言う単語の意味そのものが、私には理解出来なかったものですから……。」

 

「す、すみませんっ!」

 

困った様子で微笑む珠世に、炭治郎は謝罪する。珠世に理解してもらうべく、炭治郎は説明を始めた。

 

「俺も名前は知らないんですけど……ああっ、俺と同様に花札に似た耳飾りをしていたそうです。この"始まりの呼吸の剣士"と呼ばれている由来は、鬼殺隊に呼吸術を齎して下さったからです。」

 

「その人が居た御蔭で、鬼殺隊は鬼狩りの効率を飛躍的に向上させたそうでして……なんでも、あの鬼舞辻無惨を後一歩まで追い詰めたと聞いています。」

 

「……っ!!!」

 

珠世は炭治郎の言葉に息を呑んで双眸を見開いて驚愕した。愈史郎もまた、そんな珠世を見て驚きを隠せない。

しかし、珠世は顔を俯かせて沈黙したため、愈史郎は心配になって声を掛けた。

 

「珠世様っ……?」

 

「っ!!……ああっ、私ったら……ごめんなさい、炭治郎さん……っ。」

 

愈史郎に声を掛けられて、珠世は我を取り戻す。珠世は一言謝罪すると、一度深呼吸してから炭治郎を真っ直ぐ見詰めた。

 

「はい……その"始まりの呼吸の剣士"と言う方を……継国縁壱さんを私は知っています。私は縁壱さんと戦国時代に出会ったわ……それも最初の出会いは縁壱さんと無惨が戦う時に、私がまだ無惨の傍で仕えていた頃だったっ。」

 

『っ!?』

 

珠世の言葉に、炭治郎達全員が驚愕した。特に耀哉の驚き様は凄まじいものだった。

 

「珠世さんっ!!……どうか、その話をもっと詳しくっ……ごほごほっ!!」

 

「耀哉様っ!」

 

「お、おいっ! 病人が興奮するなよっ!?」

 

耀哉が前のめりになって珠世に尋ねたが、急に身体を動かしたため激しく咳込んでしまう。あまねは心配そうに耀哉に声を掛け、愈史郎もまた耀哉の興奮ぶりを怒って諫めた。炭治郎もまた耀哉を心配してみたが、直ぐに珠世に視線を戻して質問した。

 

「じゃ、じゃあ珠世さんはその人の……縁壱さんの戦いを覚えているんですよね!?」

 

「ええ。勿論、覚えているわ。直接その戦いを見ていたもの……そう言えば、確かに彼は炭治郎さんと同じ耳飾りを着けていたわね。」

 

炭治郎の質問に、珠世は力強く頷いて肯定して見せた。

その肯定を受けて、炭治郎の表情に興奮の色が強くなる。炭治郎は続けて珠世に言った。

 

「珠世さんっ! 俺の"ヒノカミ神楽"を見ては頂けないでしょうか!?」

 

「見る?……その"ヒノカミ神楽"とは何かしら?」

 

「はい、実はですね……っ!」

 

炭治郎は隠せない興奮を押さえつつ、珠世に"ヒノカミ神楽"について説明を始めた。耀哉達もまた、真剣に炭治郎の説明に耳を傾ける。

 

炭治郎曰く、継国縁壱が使ったとされる全ての呼吸の原型ともなり、原点にして頂点である"日の呼吸"が、何らかの経緯を辿って竈門家に"ヒノカミ神楽"として名前を変えて伝わったと考えていると言う。

 

その理由としては、自身が使うもう一つの呼吸である"水の呼吸"とは比べ物にならない程に消耗が激しく、高威力の剣技が出せるらしい。

 

その他にもヒノカミ神楽"の剣舞を受けた鬼は十二鬼月で有ろうと無かろうと全員が例外無く、その傷に灼ける様な高熱と激痛を感じて再生力が低下したと言うのだ。

 

炭治郎の説明を受けた珠世は、顎に手を置いて一考する。十を数える程の沈黙を後に、珠世ではなく耀哉が開口した。

 

「炭治郎、"百聞は一見に如かず"と言う故事もある。故事に倣って、早速だけど庭先でその"ヒノカミ神楽"を私達の前で披露して貰えないかな?……折角、私の眼が見える様になったんだ。是非ともこの眼で直接見てみたい。」

 

「そうですね……耀哉さんの仰る様に炭治郎さん、見せて下さらないかしら?」

 

「はいっ! 早速ですが、準備しますっ!!」

 

炭治郎はそう言って勢い良く部屋から退室して、鬼殺隊の隊服に着替えて日輪刀と共に戻って来た。

そして炭治郎は庭に出て、日輪刀を構えて集中する。耀哉達全員が、そんな炭治郎に注目した。

 

「……竈門炭治郎、舞いますっ!」

 

炭治郎はそう言って、剣舞"ヒノカミ神楽"を演じ始めた。

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時間帯:朝

天気:曇り

 

 

「んだァ?……俺が一番最後かよォ?」

 

産屋敷邸にある一室で、ある男性の声が室内に響いた。

 

胸元を大きく露出した隊服を着用している傷だらけのこの男性こそ鬼殺隊が誇る柱が一人、風柱・不死川実弥である。

 

実弥が言う様に、室内には複数の先客がいた。現役のヤクザ者すら全裸で逃げ出しそうな実弥の眼光を受けながら、微風程度にすら誰一人として感じてはいなかった。

 

室内に居たのは、以下の人物達である。

 

鬼殺隊・岩柱 悲鳴嶼 行冥

鬼殺隊・音柱 宇髄 天元

鬼殺隊・水柱 冨岡 義勇

鬼殺隊・蛇柱 伊黒 小芭内

鬼殺隊・霞柱 時透 無一郎

 

しのぶと蜜璃の二人を除いて文字通り、鬼殺隊の支柱たる現役の柱達が産屋敷本邸に集結していた。

一番最後に来た実弥は、不服そうに鼻を鳴らした。そんな不機嫌になった実弥に、柱筆頭である行冥が盲目の双眸から涙を流しながら声を掛けた。

 

「不死川。最後になったからと不機嫌になるな。私達もつい先刻(さっき)産屋敷邸(おやしき)に到着したばかりだ。遅れた訳では無いのだから、気にするな」

 

「……あんたがそう言うなら良いけどよォ……。」

 

実弥は頭を数回掻くと、そのまま入室しようとした。

 

「お待ち下さい。不死川様。」

 

「あん?」

 

入室しようとする実弥に対し、案内役を務めた後藤隊士が声を掛けた。声を掛けられた実弥は、足を止めて振り向いた。

 

「御館様からの御命令です。お持ちの日輪刀は()()、こちらにお預け下さい。」

 

「……何ィ?」

 

後藤隊士の言葉に、実弥は怪訝な表情を浮かべるもその反応を見た小芭内が声を掛けた。

 

「そいつが言っている事は真実(ほんとう)だぞ。俺達も既に己の日輪刀を預けている。」

 

「……けっ!」

 

小芭内の発言を受けて、実弥は忌々しそうに長刀である日輪刀と対鬼仕様の散弾銃(ショットガン)を預けた。

事実、実弥が来る前に行冥達は日輪刀を『隠』達に預けていた。

尤も、行冥の特殊過ぎる日輪刀は数人で必死に運び出していたが。

手渡された長刀と散弾銃(ショットガン)を見ると、後藤隊士は双眸を細めて実弥を見る。

 

「……不死川様、お言葉ですが自分は()()と言いました。預けて下さい。」

 

「……ちっ。」

 

実弥は舌打ちしてから、腰に隠していた脇差程度の長さのある日輪刀を二刀、後藤隊士に投げ渡した。

この二刀の日輪刀は、実弥の愛刀が使用不能になった時の予備武器である。

 

実弥程の実力者が日輪刀を刃毀れさせたり折られたりする事は先ず無い。しかし、万が一の時に備えた物であり過去に起因して、実弥は複数の武器を手に持たなければ安心出来無かった。

 

後藤隊士は実弥の舌打ちに内心では恐怖心を抱いたが、態度には出さず一礼してからそそくさとその場を去った。

去って行く後藤隊士を見届けると、実弥は入室する。

 

「……日輪刀(かたな)が手元にねぇってのは、落ち着かねぇなァ。」

 

「まぁな。尤も、現在(いま)今は日中故に万々が一など有り得ないがな。」

 

「はっ、違ぇねェ。」

 

実弥は小芭内の言う事に同意すると、行冥の隣へ胡座を書いて座り出した。

 

「んで、なぁんで日輪刀(かたな)を預けなきゃならねぇんだァ? 今までんなこたぁ一度も無かっただろ? 何か知らねぇのか悲鳴嶼さんよォ。」

 

「いや……私も何も聞かされていない……。」

 

「俺も分からんぞ。」

 

常に涙を流している行冥は手に持っている数珠をジャリジャリと擦りながら、実弥に答えた。

小芭内もまた、行冥に便乗する形で答える。

すると、沈黙を貫いていた義勇が静かに口を開く。

 

「……心当たりなど、一つしか無いと思うが?……そんな事も分からないのか、お前達は。」

 

「……あ"っ?」

 

「ほぅ……ならば教えて貰うか。さぁ勿体振らずにさっさとほざけ。下らん推測なら許さんぞ貴様。」

 

義勇の物言いに、実弥と小芭内は青筋を立てて憤る。

しかし、義勇は気にする事無く話を続ける。

 

「今から三ヶ月以上前……いや、去年の終わり頃に有った柱合会議が原因だろうな。」

 

「柱合会議だぁ?……別に日輪刀(かたな)を預かる様な事は起きなかっただろうが?」

 

「不死川……俺と同い年なのに、痴呆症が始まった様だな? この緊急の柱合会議が終わり次第、直ぐに胡蝶に診察して貰ったらどうだ?」

 

「あ"ぁっ!? 喧嘩売ってんのかテメェ……。」

 

「俺はお前を心配して言っているんだ。これ以上痴呆症が進んで、人と鬼の区別さえ付かなくなればそれこそ洒落にならないからな。」

 

「するかぁっ! 俺を痴呆症(ボケ)扱いしてんじゃねぇよ!!」

 

激昂して立ち上がる実弥に対し、義勇は変わらず表情の読めない顔を維持したまま淡々と話し続ける。

見兼ねた行冥は、実弥を制止して義勇を尋ねる。

 

「冷静になれ、不死川……富岡、柱合会議(あのとき)の何が原因だと言うのだ?……。」

 

「悲鳴嶼さんも本気で言っているのか?……無抵抗の少女に刃を一方的に突き立てたんだ。二度とあの出来事が起きぬ様にと、御館様は憂いたのだろう。」

 

「「「「っ!」」」」

 

義勇の発言に、無一郎以外の柱達は反応した。その発言に反論したのは小芭内だった。

 

「ふんっ。鬼に日輪刀(かたな)を突き立てて、何が悪い? 身勝手な勘違いも甚だしいぞ、富岡。」

 

「……伊黒。(――お前がそう言うのなら、()()()()()()は正しい行動なのだろう。だが御館様はそうは受け取らなかった。俺もそうは思わない。それが事実だ……)俺は、お前と不死川に後で胡蝶に診て貰え、とだけ言っておこう……特に頭と眼の方を念入りにな。」

 

「貴様っ……っ!」

 

小芭内が双眸を血走らせて義勇を睨み付けると、首に巻き付いている白子個体(アルビノ)のアオダイショウである鏑丸が威嚇する様にシャー! と唸り声を上げた。

尤も、どちらも義勇は気にも掛けなかったが。

 

実弥の怒りも相まって一触即発の状態にまで陥ったが、黙って状況を見守っていた天元が制止するために割って入った。

 

「おいおい、地味な口論は止めにしようぜ。御館様の御屋敷で派手に喧嘩する心算か?」

 

「「……っ。」」

 

天元の言葉に、実弥と小芭内は冷静になって怒りを抑える。しかし、義勇は違った。

 

「宇髄も偶には良い事を言う……(――お前達が何故そう怒っているのか、何に対して怒っているのか分からないが、少しは落ち着いたらどうだ?……それにしても先刻(さっき)から)五月蠅いから、静かにしてくれ。そんなにガミガミ怒っていると、益々頭を悪くするぞ?」

 

「「「「……」」」」

 

義勇の発言に怒りを通り越して、行冥達は沈黙して茫然になる。義勇は本心からそう言っており、自他共に誰一人として気付いていないが義勇の発言には一切の悪意が無いのだ。すると上の空で話の輪に入って居なかった無一郎が、不意に口を開いた。

 

「ねぇ……どうして僕達は御館様に呼ばれたの? 誰か何か知ってる?」

 

「「「「「っ!」」」」」

 

無一郎の一言に、全員が注目する。しかし、考え込んだ行冥が先ず自身の推測を口にした。

 

「最近出没している、"十二鬼月ではない下弦級の鬼"についての対策ではないかと私は思っている。お前達も戦っている筈だ。」

 

行冥の推測に、次々と声が上がる。

 

「あぁ。俺も派手に四匹程倒したぜ。」

 

「俺は三匹だけだが遭遇した。」

 

「……俺も三体、倒した。」

 

「僕も三体くらい……あれ二体だっけ?……どっちでも良いや……。」

 

「けっ! 羨ましいこったぜぇ……俺ぁ一匹しか殺ってねぇってのによぉ……。」

 

それぞれ自身が遭遇し討伐した下弦級の鬼について報告し合った。すると天元が下弦の鬼とは違う話を始めた。

 

「悲鳴嶼さんの言う様に、恐らく今回の柱合会議の主題は下弦級の鬼共の話だと俺も思う。でもよ、()()()についても話すと俺は思うんだよなぁ……そう言えば、お前らは聞いているか? ()()()についてな。」

 

「っ!」

 

「噂だァ?」

 

「……」

 

「「?」」

 

天元の言葉に、一同はそれぞれ異なる反応を見せた。

小芭内は一瞬だけ双眸を見開き、実弥は怪訝そうに反応し、行冥は眉を顰めた。

義勇と無一郎は一切内容を理解していない様子で、首を傾げていた。

 

五人五様の反応を見せる行冥達に、天元は得意げな顔で話し始めた。

 

「よーし。何も知らねぇ奴もいるみたいだな。折角だから、この天元様が一から派手に説明してやるよ。情報収集も一応しておいたしな。」

 

天元は一度咳払いすると、噂について話を始めた。

 

「噂の出所は蝶屋敷でな。その内容は「胡蝶と継子が男を巡って派手に殺し合いをした」らしいぜ?」

 

『っ!』

 

天元のその一言で、行冥達全員が大なり小なり驚きの反応を示した。

しかし、直ぐにその噂を鼻で嗤う者達がいた。実弥と小芭内の二人だ。

 

「けっ! 下らねぇ噂を真に受けてんじゃねぇよォ。」

 

「不死川の言う通りだな。あの胡蝶が恋に陥る様な女だと宇髄、お前は本気でそう思っているのか?」

 

「俺も最初は下らねぇ地味な噂が流れてると思ったもんさ。でもよ、俺が昨日の昼過ぎに蝶屋敷に訪れた際に、実際に現場を見た入院中の隊士連中が"開いた口に戸は立たぬ"とばかりに言ってたんだよ。だから派手に問い詰めてやったぜ。そりゃも派手派手になぁ!」

 

『っ!』

 

信憑性皆無な噂を無責任に言っている隊士を見たのではなく、直接その現場を見た者がいたならば、話は別であった。

行冥達は些か動揺して、更に天元の話に食い入る様に僅かながら身体を前に詰めた。

 

「連中の言い方は大袈裟に聞こえたが、噂の内容は存外に針小棒大に言ってる様子じゃなかったみたいだった。俺は胡蝶や女達に直接聞こうと思ったが胡蝶は不在だったし、屋敷内で緘口令を敷いてたから女達は一切その事を話そうとはしなかった。まぁそれも無駄だったがな。しかも胡蝶達が取り合っていた男って言うのが、あの竈門炭治郎らしい。」

 

『っ!?』

 

炭治郎の名前が出た瞬間、義勇と実弥と小芭内の表情に驚愕の色が宿った。特に義勇が一番驚いていた。

 

「馬鹿な……(――有り得ん話だ。炭治郎はもっと真面目で誠実な男だ。複数の女と付き合うなど、)宇随ではあるまいし、考えられない。」

 

「……俺はどうでも良いだろうが……それにまだ竈門炭治郎(あいつ)が両方と付き合っていると派手に決まった訳じゃねぇ。とにかく、それが事実で真実らしいんだ。それから、俺が入手した噂の内容だ。派手に耳の穴かっぽじって良く聞けよ。」

 

義勇の言い方に天元は青筋を立てるも、激昂する事無く冷静に噂の内容の話を続けた。

 

・炭治郎としのぶが部屋で情交に励んでいた瞬間を、カナヲが目撃し激昂した。

・隊士達は乱闘の瞬間を直接目撃していなかったが、砕けた日輪刀が庭に転がっておりしのぶとカナヲの顔は殴り合ったのか青痣があった。

・カナヲは炭治郎に片思いをしていた様で、選りによって師匠であるしのぶに想い人を盗られた悲しみから人目を憚らず号泣していた。

・しかし、朝になるとカナヲが常に炭治郎と腕を組んで仲睦まじく過ごしていた。

・昼前に、炭治郎とカナヲが逢引するために銀座に向かった。

 

「……以上が、俺が入手した噂の内容だ。もっと念入りに情報収集したかったが、蝶屋敷に何時までも地味に長居する訳にも行かなかったんでな。」

 

「「「「「……」」」」」

 

天元が話した内容に、義勇は茫然としていた。そんな義勇の様子を見て、実弥と小芭内が口を開く。

 

「ちぃっ……一体全体何をやってんだあいつらはァ……。」

 

「馬鹿馬鹿しい……と切り捨てたいところだが、そんな簡単な話でも無い様だな。俄かには信じられんが。」

 

「……どっちでも良いよ。面倒臭い……。」

 

「あぁ……どちらにせよ柱が恋の縺れで継子と刃傷沙汰や喧嘩沙汰など、あってはならない前代未聞の大事件だ。隊士達にも面目が立たぬ……追及は免れないだろう……。」

 

行冥がそう言い締めると、義勇達は頷いて納得した。すると襖越しから、「失礼します。」と言って襖を開けて行冥達に声を掛ける者が現れた。

 

「お待たせ致しました、柱の皆様方。柱合会議の準備が間も無く整いますので、何時もの中庭までお越し下さい。」

 

其処に居たのは『隠』の後藤隊士だった。すると小芭内が後藤隊士を睨み付ける様に、顔ごと視線を向ける。

 

「ちょっとまてっ……甘露寺と胡蝶がまだ到着していない様だが?」

 

小芭内は蜜璃が不在な事に心配したのか、そう後藤隊士に尋ねると頭を伏せたまま、後藤隊士は小芭内に答えた。

 

「御二人ならば、間も無く柱合会議に到着されるので伊黒様、どうぞ御心配無く。先ずは皆様方がお越し下さい。」

 

「……っ。」

 

後藤隊士の言葉に、小芭内は不服ながらも納得する他無かった。こうして、行冥達は待機部屋から退室して中庭へと向かった。

盲目でありながら、常人の様に平然と前を歩く行冥は考えていた。

 

――御館様からの御手紙で騒動(こと)の顛末は聞いている……しのぶに新たな生きる喜びが得られた事は、私にとっても非常に喜ばしい出来事だ……しかし、私は心の眼で見たものしか信じる積もりは無い……この会議で君を見極めさせて貰うぞ……竈門炭治郎っ。

 

心中でそう思いながら、行冥は手に持っている数珠をジャリジャリと鳴らして中庭へと向かって歩いて行った。

しかし、行冥はまだ知らない。自身の予想を遥かに超える展開が、この緊急柱合会議で待っている事を。

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

行冥達が中庭に到着した瞬間、行冥が何か違和感を感じた。盲目の双眸を顔ごとキョロキョロと動かして、行冥をその違和感の原因を探す。

 

「どうかしたのかァ悲鳴嶼さんよォ」

 

「……いや、何も無い筈なのだが……何だか違和感を感じてな……。」

 

「違和感?」

 

行冥は視力を失った分、他の四感と第六感が常人よりも優れている。()()行冥が違和感を感じていると言うのだ。気のせいや勘違いで済ませられるものでは無い。

 

それを理解している義勇達は、キョロキョロと周辺を見渡し気配を探り始めた。しかし、義勇達の視線には何も見えず、また違和感や他人の気配も感じられなかった。

しかし、間も無く行冥達にそんな事もしていられない程の衝撃が訪れる。

 

「やぁ。待たせて悪かったね。私の可愛い剣士(こども)達。」

 

『っ!?』

 

行冥達は驚いて産屋敷本邸の方向へと視線を向ける。其処には崇拝し、敬愛して已まない産屋敷家の当主にして鬼殺隊の主人たる産屋敷耀哉が居た。

行冥達から見て耀哉の左斜め後ろには、控える様に愛妻のあまねと第三子で長男の輝利哉、そして上から第一子のひなき、第二子のにちか、第四子のくいな、そして末子である第五子のかなたの四人の娘達が鞄や袋を持って現れた。

 

『御館様っ!!??』

 

行冥達は突如降って湧いた様に登場した産屋敷一家の存在に驚いて、咄嗟に横一列に整列してから跪いて頭を垂れた。

そのため、産屋敷一家が咄嗟に紙の様な物を懐に仕舞う瞬間を見逃していた。

 

普段は半年に一度開催される柱合会議では、妻のあまねか実子の誰かが耀哉が来た事を事前に知らせて来てくれている。

これまでの例を考えれば、耀哉の方から先に会議に到着するなど今回が初めて、つまりは前例の無い前代未聞の事態である。

 

行冥達は産屋敷一家の気配を察知出来なかった事に愕然としながらも、それ以上に驚愕している事実が眼前に存在していた。

それは、耀哉があまねや輝利哉達の介助を必要とせず、一人で自力に行動している事だった。

 

自身達の知る耀哉は、呪いにより痣が広がりその命は元より身体の自由をも少しずつ確実に奪っていた。

しかし、今の耀哉の姿はどうだ。痣こそ広がっているものの、誰の支えも必要とせず、一人で自立している。不可思議なのは、額から目元まで覆う様に眼の紋様が描かれた不思議な紙を貼っている事だった。

 

この様な驚愕せざるを得ない事実を眼前にしたせいか、行冥達は一同に声を失っていた。

 

本来ならば、耀哉が登場した時点で柱同士で奪い合う挨拶の口上を行冥達の誰かが口にしている。表面上では冷静沈着な様子を取り繕っても、内心では早い者勝ちとばかりにソワソワと落ち着きを失い、互いを牽制しているのだ。

その様な事態に陥っているが故に、誰も挨拶の口上を口にするどころか、中には口を開けて惚ける間抜け振りを晒す始末であった。

 

「御館様におかれましては御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます。」

 

『っ!?』

 

突如として産屋敷本邸の中庭で、この場で現在は不在になっている筈の者の声が響き渡った。

 

「この声……胡蝶かっ!?」

 

義勇が叫ぶ様に呼んだのは同じ鬼殺隊の柱である蟲柱・胡蝶しのぶの名前だった。

行冥達は驚いた様子で周囲を探るが、何処にもその小柄な少女の姿は見つからない。

 

だが、行冥達がしのぶの姿を探し始めた刹那、それは起こった。

 

『っ!?』

 

行冥達が横一列に整列する中、その一番端から三歩程進んだ先でしのぶが行冥達と同様に跪いている姿が在った。

先刻までは、しのぶの影も形も無かったにも関わらずだ。

 

動揺する行冥達を見て、しのぶは楽しそうに、面白くて堪らない様に、可笑しくて仕方が無い様子でクスクスと笑い始めた。

 

「いやぁ……皆さん、お疲れ様です。良いものを見させて頂きましたよ。冨岡さん達が動揺する姿なんて、滅多に見れるものではありませんからねぇ。」

 

しのぶは右手に眼の紋様が描かれた白紙を手に持ってから、愉快そうにそう言った。

 

「しかし、冨岡さん達はちっとも気付いてくれなかったのに、悲鳴嶼さんだけは違ったから内心ヒヤッとしましたよ。私が此処に居るのがバレるんじゃないかとね。流石ですね、悲鳴嶼さん。」

 

「……胡蝶、その右手に持っている紙は何だ?……御館様も色違いの物を顔に貼っておられるが、その紙に絡繰りが有るのか?」

 

「そんなに焦らなくても直ぐに分かりますよ、冨岡さん。せっかちな男は嫌われますよ? 只でさえ、炭治郎君と違ってみんなから嫌われているんですから。」

 

「……俺は嫌われていない。」

 

「はいはい、そうですね。」

 

義勇はそう言ってしのぶの言葉を否定したが、しのぶは気にもせず右手の『紙眼』を懐に仕舞い込んだ。

昼間にも関わらず、『紙眼』が機能したのは、今が曇りで太陽が出て居ないからだ。日差しが出る前に『紙眼』を仕舞うのは道理である。

 

「しのぶの言う通りだよ。それについてはこれから説明しよう……それにしても、君達の凛々しい勇姿を再び、この眼で見れる日が来るとは昨日までは考えられなかった、想像する事も出来なかった……()には感謝しないとね。」

 

『っ!?』

 

行冥達は耀哉の言っている意味が分からなかった。何故なら、耀哉の視力は一年前の冬頃に呪いの進行で失っているからだ。

どう言う理由で視力が戻ったのか、行冥達には理解出来なかった。

 

「私が視力を取り戻したのは本当の事だよ?……そうだね……左から実弥、無一郎、天元、行冥、小芭内、義勇、しのぶ、の順番で並んでいる。違うかな?」

 

『っ!?』

 

耀哉の指摘に、しのぶを除く行冥ら鬼殺隊の柱達は驚愕する。

産屋敷家の唐突な登場で動揺した行冥達は、慌てて横一列に整列してから跪いていた。その際の順番など気にする余裕は一欠片も有りはしなかった。

 

もし並び順を気にする余裕が有ったなら、義勇を毛嫌いしている小芭内がその隣に並んでいる筈が無い。

また、背後に居るあまね達が耀哉に並び順を耳打ちした様子も無かった。

 

耀哉の視力が戻っていると言う事実に、行冥達は疑惑の念を抱く余地など有りはしない。歓喜と動揺を抱く行冥達に、耀哉は伝える。

 

「君達には、早速紹介したい人達が居るんだ。是非とも会って欲しい。」

 

「紹介したい者達……その者達が御館様の眼を治したのですか?」

 

「治したと言うと語弊があるけれど、概ね間違ってはいないよ。私がこうして元気なのは、間違いなく彼女達の御蔭だから……皆、彼女達は私にとって大事なお客様だ。粗相の無い様にお願いするよ。」

 

『御意。』

 

耀哉の視力を取り戻した耀哉の客人がどう言う人物か、行冥達は気になって仕方が無い様子だった。

尤も、耀哉の言う客人達がどう言う人物か知った時の反応を想像して、しのぶは笑いを堪えるのに必死だったが。

 

「皆の準備が出来たみたいだから、早速此処にお呼びしようか……蜜璃、皆と一緒に出て来ておいで。」

 

「はーいっ! 御館様っ!!」

 

「っ!」

――そうか、甘露寺も先に御屋敷に来ていたのか。

 

小芭内は同僚であり想い人の蜜璃の名前を耀哉から聞き、本人のその明るい声を聞いて蜜璃の存在を確認出来た事に安堵していた。

しかし、その安堵も間も無く一瞬にして消し飛ぶ事態が発生する。

 

『――っ!?』

 

行冥達から見て耀哉の右斜め後ろから、誰も居なかった筈の空間に次々と人が現れた。

先ずはその空間の左側に甘露寺蜜璃、栗花落カナヲ、神崎アオイ、竃門禰豆子の順番に現れ、反対の右側に竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助が姿を現した。

 

しのぶと同様の方法で登場しただけでも行冥達は充分に驚きを隠せないが、その蜜璃達の印象が霞む程の驚愕を齎す人物が間も無く現れた。

炭治郎達が守る様に、その空間の中心に二人の人物が登場した。紫を基調とした様々な華の絵柄が描かれた着物を着た女性鬼と書生の如き白服の少年鬼がいた。そう、珠世と愈史郎である。

 

「鬼っ……!?」

 

「鬼……だと……っ!」

 

行冥と天元は禰豆子以外の鬼が産屋敷本邸に存在している事に驚き、そう呟いた。

無論、義勇や無一郎と言った他の柱達も驚いて既に臨戦態勢に入って居る。しかし、行冥達には致命的な問題が有った。

 

――ちぃっ!? 手元に日輪刀(かたな)がねぇっ!!

 

実弥は日輪刀を手放して、『隠』に預けた事を心底後悔していた。憤怒のあまり、今直ぐ自分で自分を殴り飛ばしたいくらいだ。

 

「御館様っ! 早く其処を御離れ下さいっ! あまね様も他の方々もっ!!……テメェらっ! 揃いも揃って何やってんだくらァ!!!」

 

「甘露寺っ!! 早くその鬼共をっ……っ!!」

 

実弥と小芭内は産屋敷一家を鬼から距離を確保するために、日輪刀が無い今、身を呈してでも護るべく駆け出そうとした。

しかし、そうはならなかった。

 

「傍から見ると、見苦しい事この上無いですねぇ……良い歳した大の男が、と言うか柱ともあろう方々が、そう右往左往するのは止めてくれます? 好い加減、落ち着いて下さいな?」

 

『っ!!!』

 

挑発的な言動でその場を諌めたのは、中庭にいた柱で唯一動揺していなかったしのぶであった。尤も、事の発端を作った一人なのだから、動揺する筈も無いが。

 

「いやぁ、私も一歩間違っていたら悲鳴嶼さん達の(そちら)側に居たんですよねぇ。私、皆さんと違って蚊帳の外にされなくて良かったわぁ。」

 

動きを止める行冥達を他所に、そう呟くしのぶ。先刻から嘲笑も含まれる言動に、行冥達は顔を顰める。普段は感情が読めない義勇が珍しく苛立ちながら、しのぶに尋ねた。

 

「胡蝶……逆に聞くが何故、鬼が御館様の直ぐ近くに居るのにそんなに冷静で居られる?……丸で何か知っているみたいだなっ?」

 

「それは勿論、あの鬼達の正体はどなたなのか、知っているからですよ……正確に言うと、私と炭治郎君が産屋敷邸(ここ)へ連れて来たんですがね。」

 

『っ!?』

 

ごく普通の事だと言わんばかりにあっけらかんと暴露するしのぶに、行冥達は驚愕する。しかし、それも束の間の話。

先ず最初に実弥の顔に青筋が立ち、憤怒の色に染まったからだ。

 

「胡蝶テメェっ! 何を「五月蝿いですから黙っててくれます?」……っ!!」

 

しのぶを怒鳴り付け様とする実弥だったが、しのぶは対応するのも無駄と言わんばかりに無情なまでに斬り捨てた。

思いも選らぬしのぶの言動に呆気に取られて沈黙する実弥達を無視して、しのぶは立ち上がりさっさと歩き出す。

 

しのぶは耀哉に「失礼致します、御館様。」と一言伝えてから、履物を脱いで産屋敷本邸に入り炭治郎達と合流した。

 

「しのぶ姉さん、どうぞ。」

 

「ありがとう、カナヲ。」

 

しのぶは預けていた日輪刀を、カナヲから礼を言ってから受け取った。

受け取った日輪刀を腰に添えると、クルっと身体を動かして行冥達の正面に向いた。しのぶは行冥達の疑惑と追及する様な視線を、涼しい顔をして正面から受け止める。

 

「言っておきますが、私も炭治郎君も御館様の御命令でこの御二人を産屋敷邸(おやしき)に連れて来たんです。貴方方に責められる筋合いなど、私達には一切有りませんので悪しからず。」

 

『っ!』

 

『……』

 

其れらの視線を斬り捨てる様にふんっと鼻で嗤いながらしのぶが言うと、天元、実弥、小芭内の額に青筋が走る。行冥と義勇、無一郎は違ったが、苛立ちを覚えていた。

 

「しのぶが言っている事に間違いは無いよ。実際に私が珠世さんと愈史郎さんを産屋敷邸(ここ)まで連れて来る様に頼んだんだ。」

 

『っ!』

 

耀哉本人からしのぶの発言を裏付ける肯定的な言葉を受けて、行冥達は口を噤んだ。しかし、実弥を筆頭に行冥達は耀哉を信じられない様な視線を送った。

 

「……御館様、何故その様な鬼共を産屋敷邸(おやしき)に招かれたのか、我々にも御説明下さるのでしょうか?」

 

実弥は憤怒を抑えつつ、極めて慇懃な態度で耀哉へと質問した。

しかし、気の弱い人間ならば視線が遭っただけで心臓麻痺を起こしかねない程の鋭い眼光と殺気は健在であり、一つの感覚に特化した炭治郎、カナヲ、善逸、伊之助は其れを察知して辟易していた。

 

――うわぁ……冷静さを取り繕っても怒ってる匂いがはっきりするなぁ。

 

――視線を遭わせるだけでも疲れる……。

 

――おいおい、大丈夫なのかよっ!? なんかあのおっさんからすっげぇ禍々しい音が聞こえるんだけど!!!

 

――あの傷だらけ野郎……すげぇ、視線だけで肌がビリビリしやがるぞ。

 

緊迫した空気の中、耀哉は落ち着いた様子で実弥に返答を始めた。

 

「珠世さん……こちらの女性の鬼なんだけどね。四百年前まで無惨の側近をしていた人なんだ。」

 

『っ!?』

 

珠世の思わぬ過去に、行冥達は一同に驚愕した。その生きて来た年数もそうだが、無惨の側近と言う事は十二鬼月の上弦かそれに匹敵する地位にいた証拠に他ならないからだ。

 

「すると御館様は、鬼舞辻無惨の情報を得るためにその者達を産屋敷邸(おやしき)に招いたと?」

 

行冥は耀哉の言わんとする事を察して、そう指摘した。

 

「それもあるね。だけどそれは理由の一つに過ぎない。この二人は鬼だけど、とても頼もしい味方なんだよ。だから皆には珠世さん達が鬼殺隊に居る事を認めて欲しいと思っている。」

 

『!』

 

耀哉にそう言われ、行冥達は一瞬の驚きを露わにする。

 

「「……」」

 

行冥と天元は沈黙を貫いた。

去年の柱合会議の禰豆子と違い、珠世が鬼殺隊に齎すであろう情報の有用性を理解しているからだ。

 

鬼舞辻無惨と鬼殺隊の戦いの歴史は千年を超えるが、未だに鬼に関しての生態は謎に満ちている。

これまで幾度と無く鬼を生け捕りにし、拷問して情報を吐かせようとも自白させられた試しは一度として成功していない。

 

「(炭治郎が連れて来た鬼ならば、少なくとも信用は出来るでしょう。)……俺は御館様の御意思に従います。」

 

「僕はどっちでも……直ぐに忘れてしまうだろうから。」

 

『!』

 

義勇は顔色が読めない無表情の顔をしたまま賛成を表明し、次に無一郎が賛成とも反対とも取れる他人任せな発言をする。

 

「はいっ! はいっ!! 私は大賛成です! 御館様っ!!」

 

「御館様。炭治郎君と共に珠世さんを連れて来た私は勿論、賛成とさせて頂きます。」

 

『!』

 

続けて蜜璃としのぶが賛成を表明する。行冥達と違って珠世や愈史郎と先に交流を果たしている二人は、その人間性も有能さも理解している。反対する道理など皆無であった。

何より反対すれば炭治郎が悲しむだろう。最愛の恋人が悲しむ選択肢など、しのぶが選ぶ訳が無かった。

 

しかし、如何に道理や得られる利益を理性ではそれらを理解していようと、感情を優先してしまうのは人間の性である。

それはたとえ鬼殺隊隊士の頂点に位置する柱であろうと変わらない。否、むしろ長年柱として鬼の醜さを見て来たからこそ認められなかった者達が居た。

 

「信用しない、信用しない。只でさえ竈門禰豆子の存在だけでも業腹だと言うのに、これ以上鬼の存在が増えてたまるものかっ。それに無惨に仕えていたと言う事は、そいつらは人間(ひと)を殺して喰った経験が有ると言う人喰い鬼なのだと、否定の仕様が無い事実があるっ。そんな奴らの存在など、認められはしないっ。」

 

「伊黒の言う通りですっ、御館様っ! 情報が必要なのは認めましょう……ですがそれだけです!! そいつら持っている情報を、拷問してでも吐かせるだけ吐かせてからさっさと始末すれば良いっ!」

 

『っ!!』

 

暴論とも言える実弥と小芭内の意見に、その場に居る者の一部は顔を顰める。

しかし、耀哉は冷静に、穏やかな口調で二人を諭す。

 

「実弥、小芭内。落ち着く様に……私は言った筈だよ? この二人の御蔭で私の体調は良くなり、視力も取り戻す事が出来たのだとね……それは即ち、無惨側の情報を持っている事以外にもその有能さを表している事に他ならない。」

 

『っ!!』

 

「くっ……。」

 

「……ちっ。」

 

耀哉の指摘に、実弥と小芭内の二人は顔を俯かせて小さく舌打ちした。それが聞こえたのか聞こえなかったのかは耀哉にしか分からないが、耀哉は気にも留めなかった。

 

「皆が珠世さん達を認めてから……と思ったけど、貰った情報の一端を皆で共有しようか?……炭治郎っ。」

 

「は、はいっ!」

 

耀哉はそう言って炭治郎の方向へと振り向き、名前を呼ぶと炭治郎は声を掛けられるとは思わず、つい吃ってしまった。

炭治郎は恥ずかしかったのか、少し頬を赤く染めたが耀哉は何も言わず楽しそうに微笑んだ。

 

「炭治郎。君がしのぶに説明した様に、此処に居る全員に"珠世さんと愈史郎さん"の事と"鬼に植え付けられる鬼舞辻無惨の呪い"について説明してくれるかい?」

 

「はい、分かりました。御館様っ。」

 

「……呪い?……っ?」

 

誰が呟いたのか定かではないが、呪いと言う単語に疑問を浮かべた。尤も、事情を知らぬ者達全員が疑問に思っていたが。

炭治郎はそんな者達を余所に、姿勢を正して説明するための心の準備をしていた。一度深呼吸をしてから、炭治郎は説明を始める。

 

「えー……では恐れ入ります。俺が、竈門炭治郎が御館様の命によりこの二件について説明させて頂きます。実は……」

 

『……っ!!??』

 

炭治郎が始めた説明に、初見の者で驚愕しない者は居なかった。行冥達は皆、炭治郎に食い入る様に耳目を集中させた。

 

 

 

 

 

 

『……』

 

「……以上が、珠世さんと愈史郎さん及び無惨の呪いに関しての情報になります……御館様。」

 

「うん、十分だよ。ありがとう、炭治郎。ご苦労だったね。」

 

「いえ、とんでもないです。」

 

今から約一週間前、藤の花の家を務める薬師寺ひさ邸でしのぶに説明した様に、炭治郎は産屋敷一家や鬼殺隊の柱達を相手に説明して見せた。

耀哉が質問を一切許さず、炭治郎の説明を最後まで聞く様に言ったためものの十五分程でこの二件の説明が終了した。

耀哉が説明を終えた炭治郎を労うと、今度は自身が行冥達に話し掛けた。

 

「さて、先刻(さっき)炭治郎が説明してくれた内容に関しては、全て事実であると私が保証するよ……それにしても、千年以上掛かっても産屋敷家(私達)鬼殺隊(子供達)が手に入れらなかった鬼の真実に関する情報をこうも簡単に手に入れてしまうなんて、なんだか不思議な感覚だね。」

 

『……っ。』

 

「……」

 

耀哉は感慨深げにそう呟くと、行冥達は少し落ち込んだ様に顔を俯かせた。自分達の不甲斐無さ、無能さを遠回しに責められている様に思ったからだ。尤も、耀哉が行冥達を無能と謗り、責め立てる様な真似などする訳が無いのだが。

しかし、その中で天元だけが顎に手を置いて何やら深刻そうに考え事をしていた。天元の様子に気付いた耀哉が、気になって尋ねてみた。

 

「天元、どうかしたのかい?」 

 

「……はっ、御館様……俺から御館様に進言したい事が一つあります……っ!」

 

「何かな? 言ってみなさい。」

 

耀哉に促された天元は、一呼吸おいてから答えた。

 

「無惨の呪いに関しては理解しました……しかし、それだとこの産屋敷邸(おやしき)に鬼が三体も居る時点で、無惨に産屋敷邸(此処)を補足された恐れがあると思われます……っ。」

 

『!!!』

 

『……』

 

天元の発言に選り、その場の反応は真っ二つに分かれた。

何一つ情報を事前に知らず初見である行冥達と、事前に情報を精査している炭治郎達だ。

中でも行冥側で特に五月蠅く喚き散らすのが二人居た。

 

「いやああああぁぁぁぁぁ~~~産屋敷邸(此処)が無惨にバレた~~~~早く逃げないと殺されるうぅぅぅぅぅぅっ!!!」

 

「何喚いてんだ腰抜け紋逸っ! 鬼の親玉が自分から来てくれるってんなら上等だぁっ! 俺様がぶっ殺してやらあぁぁっ!!」

 

「……ちっ。」

 

善逸と伊之助である。正反対の反応を騒がしく示す二人だったが、そんな二人を不愉快そうにしのぶが見ていた。

 

「……っ!」

 

「「っ!……(コクッ)」」

 

しのぶはアオイとカナヲに目配せ(アイコンタクト)すると、直ぐに気付いた二人の行動は早かった。

 

「「フンッ!!」」

 

「「げほぉっ!!」」

 

カナヲが善逸を、アオイが伊之助の鳩尾に正拳を一撃入れ込むと、善逸と伊之助は悶絶して蹲った。

愈史郎の時と違い、手加減されたのか気絶まではしなかったが大人しくなった。

しのぶはその様子を見て、満足そうに頷いた。

 

「……あの馬鹿二人の言う事を支持する訳ではありませんが、御館様はお急ぎあまね様達をお連れして産屋敷邸(おやしき)から退避されて下さいっ。後の事は俺達が……。」

 

「おい、この馬鹿騒ぎは何時まで続ける心算だ?」

 

『っ!』

 

毒の籠った辛辣な暴言に、騒がしかった空気が一瞬にして霧散する。そう言ったのは、今の今まで沈黙を守り続けていた愈史郎だった。

しかし、産屋敷本邸襲撃の危機を馬鹿騒ぎと切り捨てられて怒りを覚えない行冥達ではない。先ず反応したのは進言した天元だった。

 

「てめぇっ! 何が馬鹿騒ぎだってんだオラァ……。」

 

「お前らは何を聞いていたんだ? 珠世様も禰豆子も自力で呪いの解呪に成功していると言っているんだよ……そして俺は珠世様の手で鬼にされた男だ。あんな臆病な小心者に仕えた覚えなど一切無いっ! 無惨とは何の縁も無いわっ!!」

 

「……っ。」

 

『……』

 

「「……」」

――ああぁ、始まってしまった……。

 

愈史郎の説明を聞いて、焦燥していた行冥達は落ち着きを取り戻した。しかし、愈史郎は変わらず嘲笑や嘲弄の混じった視線で行冥達を睨み付けていた。

一方の炭治郎と珠世の二人は額に手を当てて、頭痛にでも悩まされているかの様に頭を抱えていた。

 

「第一、お前らは去年の終わり頃、今から三ヶ月以上前に禰豆子を一度産屋敷邸(此処)に連れて来ているんだろうが……もし呪いが残っていたら今頃産屋敷邸(此処)はとっくに無惨に襲撃されて灰も残っていないんだよ。そんな事も分からんのか? この薄ら馬鹿共がっ。」

 

「……てめぇっ……。」

 

天元は青筋を立てて、愈史郎を睨み付ける。実弥や小芭内もだ。しかし、愈史郎は気にも留めず、視線を逸らさず睨み返す。そしてふっと鼻で嗤う。

 

「何だ? お前らが馬鹿なのは本当の事だろう? 特に其処の無駄に派手で馬鹿げた格好をしたお前っ! お前の様な図体だけの見た目が派手な見掛け倒しの大馬鹿野郎を、世間では何と言うか知ってるか? "大男、総身に知恵が回りかね"って言うんだよ! 俺に指摘されるまで空騒ぎしてた馬鹿は黙ってろ。無駄に騒いでいたのは事実だろうがっ! 人の話もきちんと聞かずガタガタと喚き散らしやがって、恥を知れ恥をっ!!」

 

「っ!……こ……のっ……っ!!」

 

盛大に愚弄された天元は、血管がブチ切れそうになる程の怒りを覚える。しかし、自身の軽率な進言がこの騒動を引き起こしたのは事実だ。天元は地面に拳が喰い込む程に思い切り殴って堪える他無かった。

 

そんな天元を見ても、愈史郎は変わらず鼻で嗤って嘲笑すると、そのまま前へ進み始める。炭治郎は愈史郎を止めようとしたが、愈史郎は気にしない様に言って前へ進む。しかし急に立ち止まった。

 

「……御館様の客人とやらは……随分と礼儀と言うものを知らぬ様だな……。」

 

『っ!』

 

重みの含んだ声でそう呟いたのは行冥だった。沈黙して座していた行冥だったが、天元達と同様、先刻から愈史郎の口にする暴言に立腹していたのだろう。

額には青筋が浮かび、手に持つ数珠には力を込め過ぎたせいか、罅が入っていた。

 

常人ならば恐れ慄くところだが、愈史郎は気に止めはしない。

 

「おい、デカブツ。俺が礼儀知らずなら、お前ら鬼狩り共は恥知らずな上に役立たずと救い様が無い存在だろう?」

 

『……っ!!!』

 

「……何だと……っ?」

 

愈史郎の鬼殺隊の存在そのものを愚弄する言葉に、行冥達は憤怒する。この場所だけ温度が上がっている錯覚に陥るも愈史郎は気にも掛けない。

 

「直ぐにその言葉の意味。鬼殺隊(お前ら)、馬鹿共に教えてやるから黙ってろ。」

 

愈史郎は其処まで言うと一方的に会話を切り上げて、耀哉へと近付いた。それを見て炭治郎も動き出す。

 

「善逸、この()()を預かっておいてくれないか?」

 

「えっ?……お、おう。分かった。」

 

炭治郎は懐に入れていた手紙を善逸に渡すと、今度はしのぶと蜜璃に話し掛けた。

 

「しのぶさん、甘露寺さん。すみませんが、あまね様達が居る反対方向へ移動しておいてくれますか?」

 

「っ!……えぇ、良いわよ。」

 

「分かったわっ! 炭治郎君っ!!」

 

炭治郎に言われて、しのぶ達はあまね達が居る反対側へ移動を始めた。

 

片側に人口密度が集中したが、炭治郎達が居る大広間は少なく見積もっても三十畳はある大広間だ。十分過ぎる広さが有った。

炭治郎はそう伝えてから、急いで愈史郎の直ぐ後ろまで付いて行く。いざと言う時に、飛び出して愈史郎を守れる様に。

 

「おい、耀()()。鬼殺隊の柱とやらは、良い意味でも悪い意味でも寛容で寛大だな。実力さえあれば、どんな馬鹿でも柱に成れるんだからなっ。」

 

『っ!』

 

愈史郎のあからさまに侮蔑の富んだ暴言に、行冥達は激怒する。しかし、それは暴言の内容に激怒した訳では無かった。

 

「おい 鬼ぃッ! 何、御館様の御名前を呼び捨てにしてんだテメェっ!」

 

激昂した実弥が飛び掛からん勢いで、愈史郎に問い詰めた。しかし、愈史郎は溜め息をついて軽く実弥をあしらう。

 

「喚き散らすな、破落戸(ゴロツキ)同然の三下風情が。そんなもの、本人から直接そう呼んで良いと俺が許可を貰っているからに決まっているだろうが。」

 

「愈史郎さんの言う通りだよ、実弥。私の事は名前で呼んで欲しいとそう頼んだのだから、気にしないで欲しい。」

 

『!』

 

「御館様っ!……しかしっ!!」

 

愈史郎の言葉に、耀哉が援護する様にそう証言した。実弥はそれでも抗弁しようとするが、愈史郎がこれを黙らせる。

 

「本人が良いと言っている事に、お前如きが嘴を挟む気か?」

 

「……っ!!」

 

愈史郎の指摘に、実弥は悔しそうに奥歯を噛み砕く勢いで歯軋りしつつ、何とか堪えて耀哉に膝を着き頭を垂れた。

漸く大人しくなった実弥に対し、愈史郎はそれでも鼻で嗤う。

 

「ふんっ。知性も理性も無い、薄汚い狂犬風情が。最初からそうやって行儀良くお座りしていれば良いんだよ。耀哉っ、この柱合会議が始まる前に、俺の言った要求を覚えているな?」

 

そう言ってからまるで路傍の小石を見るが如く、愈史郎は実弥への関心を失くして耀哉にそう尋ねた。

 

「ああ、勿論覚えているよ……でも剣士(子供)達には少し加減してくれると私としては嬉しいかな?」

 

「そいつは保証出来そうに無い……それだと"俺が言いたい事"が全部言えなくなるからな。」

 

『っ!』

 

愈史郎の言葉に、炭治郎やしのぶは緊急柱合会議が始まる前の事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

『先に断っておくぞ。俺は正直言って、珠世様と違ってこの合流に関しては納得していないんだっ。』

 

『『『『『『っ!』』』』』

 

『愈史郎さんっ!』

 

『愈史郎っ!』

 

珠世の話が終わった後に、突如として愈史郎がそう切り出した。

今更とも言える愈史郎の発言に、耀哉達は驚き、炭治郎も珠世も焦燥を見せる。

 

『今更、この合流にどうこう言う積もりは無い。だが一つだけ、許して欲しい事がある。』

 

『何かな? 愈史郎さん。』

 

耀哉が気になってそう尋ねると、愈史郎は答えた。

 

『俺は柱合会議で、下手に出る積もりも言う事を自重する積もりも無い。言いたい事は余さず言わせて貰う。たとえお前達にとって耳にするのも嫌な事も、俺は平気で言わせて貰うぞ。』

 

『っ!』

 

『……分かった。それぐらいであれば、お安い御用と言うものだよ。』

 

『なら、取引成立だな。鬼殺隊の頭領様は話が分かる様で助かる。』

 

耀哉が愈史郎の条件を承諾し、耀哉に要求が承諾された愈史郎は満足そうにそう言った。二人はそのまま自然な流れで握手を交わした。

 

『愈史郎……貴方は合流する時「私の意思を尊重する」と言ってそれ以降は何も言わなかったじゃない……。』

 

『はい、確かに俺は珠世様にそう言いました。』

 

珠世の言葉に、愈史郎は肯定した。愈史郎は続ける。

 

『俺は、珠世様と二人で静かに暮らせて行けばそれだけで良かった……だがそれでは珠世様の悲願は叶えられない。』

 

『俺の我が儘同然の願いなんて今更どうだって良い事だ。俺自身、二つの理由があってこの合流に賛成した。』

 

『二つの理由?』

 

炭治郎が復唱する様にそう言うと、愈史郎は肯定して頷いた。

 

『そうだ。一つ目の理由は勿論、無惨を倒す事が珠世様の長年の悲願だからだ。この手で叶えるお手伝いがしたい。』

 

『では、もう一つの理由は?』

 

『もう一つの理由はな……』

 

其処まで言うと、愈史郎は炭治郎としのぶを見て微笑んだ。

 

『お前達が無惨の鬼共との戦いに生き残って、幸せになって欲しいと思ったからだよ。炭治郎、しのぶ。』

 

『っ!?』

 

驚く炭治郎達を余所に、愈史郎は再び耀哉と向き合った。

 

『耀哉。とにかくだ。お前は今日集まって来る柱共を押さえ込んでくれよ。一々邪魔されては敵わんからな。』

 

『分かった。剣士達(こどもたち)には、私の方で言い聞かせておくよ。』

 

『頼んだぞ、耀哉。』

 

其処で耀哉と愈史郎の話は終わった。何も言えなかった炭治郎達だったが、炭治郎達は眩しいものでも見る様に微笑んだ愈史郎の微笑が忘れられなかった。




大変お待たせしました。今回から緊急柱合会議編の序章です。
今回で愈史郎の毒舌が片鱗を見せましたが、エンジンが掛かっただけです。次回で凄まじい罵詈雑言が飛び交うので、大荒れに荒れますが、御了承下さい。

次回の更新は八月中です。今回四十日以上掛かってますが、此れよりかなり早く更新しますのでお待ち下さい。

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槇野様
pixivユーザー
https://www.pixiv.net/users/36500165
しのぶ愛に溢れた方で炭しの・ぎゆしのssを中心に活動されています。
私は炭しのssしか読んでいませんが、どの作品も幸せに溢れていて読んでいるだけで気持ちが良くなる名作ばかりです。ブラックコーヒーがカフェオレに感じるくらい甘いですよ〜!

ユウユウ様
pixivユーザー
https://www.pixiv.net/users/51043097
炭しのssを中心に活動されています。

日の呼吸が使えるお日様の師匠は紫蝶
https://www.pixiv.net/novel/series/1336870
炭治郎君が義勇ではなくしのぶさんに拾われた。と言う原作改変ssです。タイトルやサブタイトルに拙作と類似性があるのは拙作を参考にされているからだそうです。実に光栄な話です。

mowlio様
pixivユーザー
https://www.pixiv.net/users/4367953
炭しのや炭ナエを書かれている作者様です。

真心は、グラスに添えて。
https://www.pixiv.net/novel/series/1345403
珍しい炭ナエでの現代パロss。花言葉ならぬカクテル言葉を交えて繰り広げられる大人な恋愛が魅力です。この作品を読んで初めてカクテル言葉と言うものを知りました。

"お酒は二十歳になってから"

長子力溢れる炭治郎君とカナエさんの大人なやり取りをお楽しみ下さい。


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第弐拾玖話 日輪と鬼殺隊の柱は反目す

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*超辛口表現有り。苦手な方ご注意下さい。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。



「皆、彼は愈史郎さん。炭治郎が説明してくれた様にこの世でたった一人、無惨以外の者の手に選って……そう、珠世さんの編み出した方法で鬼になった唯一無二の存在だ。」

 

「愈史郎だ。何度も名乗るのは面倒だから、その空っぽの頭に俺の名前を叩き込んでおけ。」

 

『……っ。』

 

先制攻撃とばかりに毒を吐く愈史郎に対し、行冥達は青筋を浮かべる。炭治郎達は愈史郎の自重しないどころか、激しさが増して行く毒舌振りに益々頭を抱えていた。

 

「皆もそんなに愈史郎さんを睨まない様に……私の顔に付けている『紙眼・視(もの)』だけど、これは愈史郎さんの血鬼術で作られた物なんだ。この『紙眼・視()』の御蔭で、私は視力を取り戻す事が出来たんだよ。」

 

『っ!?』

 

新たに発覚した新事実に、行冥達は驚愕した。耀哉が目元に装着している紙の事は気になっていたが、それが鬼の血鬼術で作られた物だとは思いもしなかった。

しかし、驚愕する行冥達を余所に愈史郎は耀哉の言った事に補足する様に続けた。

 

「先に言って置くが、装着している本人に害悪など一切無いからな? 装着する事で引き起こる代償も皆無だっ。第一そんな物、危なくて本人に渡せるかっ!」

 

『……っ。』

 

愈史郎が疑われるのも心外だと言わんばかりに、そう叫ぶ様に断言した。

 

事実、行冥達は鬼の血鬼術で出来た物を耀哉に装着して欲しく無かった。

しかし、愈史郎が先手を打つ形でそう牽制されてしまい、行冥達は押し黙る事しか出来ない。

尤も、そんな事をすれば耀哉は再び視力を失い、暗闇の世界の住人に舞い戻ってしまうのだから行冥達には何も出来はしないのだが。

 

沈痛する様に沈黙する行冥達を鼻で嗤う愈史郎に、耀哉は話し掛けた。

 

「そんなに苛めないであげておくれ、愈史郎さん。行冥達は私を心配してくれているだけなのだから。」

 

「ボンクラで愚鈍な柱共(こいつら)が悪い。それから先に言って置くが、俺は言いたい事ははっきり言わせて貰う。」

 

「うむ、加減してくれると嬉しいけど……皆、此処からは愈史郎の言いたい様に言わせてあげて欲しいっ。良いね? 邪魔をしてはいけないよ?」

 

『……御意っ。』

 

耀哉は優しく、されど一度行冥達にそう言って釘を刺すと行冥達は不承不承の様子で承諾した。

耀哉の言葉を愈史郎は無碍に斬り捨てると、一呼吸おいて耀哉に質問した。

 

「ずっと疑問に思っていたんだが、耀哉。お前は()()()()()()?」

 

()()()()()()?……とは、どう意味かな?」

 

耀哉は愈史郎の質問の意味が分からないのか、愈史郎に対して質問内容の意味を尋ねた。

愈史郎は耀哉の質問に対し、溜息を一度ついてから答えた。

 

「決まっているっ。この柱合会議は「鬼殺隊と珠世様は鬼舞辻無惨を倒すために"呉越同舟"して協力する事になった。」と伝えれば良いだけだっ。

だというのに何故、柱共()()に一々認められなければならない? 産屋敷家の現当主で鬼殺隊の頭領たるお前が承諾すればこの話は終いだろうがっ……何時まで時間を無駄にしている心算だ?」

 

『っ!!』

 

愈史郎の毒舌にその場にいる全員が息を呑むが、耀哉は落ち着いた様子で答えた。

 

「愈史郎さん。私は確かに当主の座に就いているけれど、それだけの男だよ。私自身はそれ程重要な存在じゃないんだ。だけど幸運な事に鬼殺隊……特に柱の子達から慕って貰っている。そう……鬼殺隊の柱達こそが鬼殺隊で最も重要な存在なんだよ。」

 

「……っ。」

 

耀哉の称賛に満ちた言葉に、行冥達の胸中は歓喜と誇りで胸がいっぱいになった。改めて、行冥達は柱として耀哉に仕えている事を光栄に感じていた。

 

「親馬鹿此処に極まれり、だな。」

 

『っ!』

 

そんな鬼殺隊の柱達への称賛の言葉も、愈史郎には理解出来ず一言で斬り捨てられた。

行冥達は思わぬ愈史郎の一言に絶句し、これが耀哉への侮辱だと理解した瞬間、心中が怒り心頭になる。

尤も、耀哉は面白可笑しそう笑うだけだった。

 

「親馬鹿、と言われたら否定出来ないかな?……でもね、愈史郎さん。」

 

「何だ?」

 

耀哉は愈史郎を呼んだ後、ゆっくりと鬼殺隊の柱は如何に偉大な存在であるかその理由を語り始めた。

 

「鬼殺隊の柱達は当然、他の剣士(子供)達より抜きん出た才能を持っている。

血を吐く様な鍛錬も自らに貸して己を叩き上げている。

誰よりも命を賭けて任務に挑み、幾度と無く死線を潜り抜けて十二鬼月をも倒している。

勿論十二鬼月だけでなく誰よりも多くの鬼を倒し、多くの人々の命と未来を守っている。だからこそ柱は尊敬され優遇されるんだよ。」

 

「ふぅん……十二鬼月をねぇ……。」

 

愈史郎を諭す様にそう説明した耀哉だったが、当の本人は冷めた眼でその話を聞いていた。

それから愈史郎は一言、独言を呟いてから耀哉に問い詰めた。

 

「耀哉。お前は十二鬼月と簡単に口にしたが、周知の事実なのは承知で言おう。

十二鬼月は"上弦"と"下弦"で大きく二つに分かれるが、こいつらはどの十二鬼月を倒したんだ? 当然、上弦のどれかを倒しているんだろうな?」

 

『っ!』

 

「……っ。」

 

愈史郎が嫌味に満ちた表情で指摘した内容に、耀哉の痣塗れの顔は初めて動揺の色が見て取れた。

そんな耀哉を愈史郎は見逃さなかった。そして容赦も手加減も一切しなかった。また、する心算も皆無であった。

 

「どうした? お前が其処まで親馬鹿ぶりを発揮して言うんだ。一番弱い、最弱の上弦の陸ぐらいは倒した奴が居るんだろう?」

 

「……いや……まだ誰も……上弦を倒した子はまだ居ないよ……。」

 

『……っ。』

 

絞り出す様にそう言った耀哉に対して、行冥達鬼殺隊の柱は罪悪感から申し訳なさそうに顔を俯かせた。

行冥達の表情からは己の不甲斐無さを悔いている様にも見えた。

 

「はっ! ()()?!……()()、なぁ?」

 

しかし、愈史郎は容赦などしない。寧ろ見つけた綻びを広げんと無遠慮に刳り出しを始めた。その表情には加虐心と怒りで満ち溢れていた。

 

「ま、お前が口籠るのも無理は無い。上弦の鬼を倒すどころか、半月以上前に柱が一人、返り討ちに遭って死んだばかりだからなっ!」

 

『っ!!』

 

鬼殺隊にとって直視したくない愈史郎の指摘に、あからさまに顔を顰めた。耀哉もまた、沈痛の表情を隠せない。

 

「愈史郎さんっ! 杏寿郎さんの事は……っ!」

 

今まで沈黙を守り、時に伊之助達の口出しを阻止する側に居た炭治郎だったが、流石に命の恩人たる杏寿郎にまで愚弄されるなら黙っては居られなかった。

 

「落ち着け、炭治郎っ。」

 

「っ!」

 

愈史郎が炭治郎の方向へ振り向いて、穏やかな声で炭治郎を落ち着かせた。これには炭治郎も、押黙る他無かった。

 

「お前らを守った炎柱とやらは、下弦如きも混じっているとは言え十二鬼月を二体も……それも一般人(有象無象)炭治郎達(足手纏い)を守り庇いつつの孤軍奮闘の末に死んだんだ。」

 

「本当の事を言えば、折角見つけた上弦の鬼を刺し違えて道連れに出来なかった事を、役立たずだの柱の癖に不甲斐無いだのと罵倒して貶してやりたいところだ。

だがその偉業を前にしては称賛されこそすれ、貶される筋合いなど一つも無い。そればかりか、お前を守り抜いた事に俺は感謝しなければならないだろうからな。」

 

「っ!」

 

『っ!!』

 

惜しみ無い杏寿郎への称賛の言葉に、炭治郎は驚きを隠せないまま愈史郎を見た。愈史郎のその言葉に一切の嘘偽りが無い事に確信を得ると、炭治郎は思わず目頭を熱くして泣きそうになった。

行冥達もまた、自分達にとって意外過ぎると言っても過言では無い愈史郎の称賛の言葉を聞いて思わず面食らう。

 

しかし、信頼していた仲間が称賛されて喜ばない者など居ない。

心中に轟々と燃え盛っていた憤怒の業火が、僅かながら鎮火して行く。

尤も、それも束の間の出来事であったが。

 

「ただし、四年前に死んだ花柱なら話は別だ。」

 

『っ!?』

 

その一言は、これまでの中で最もその場に居る者達を驚愕させる一言だった。特に炭治郎と蝶屋敷に住む者達の驚き様は凄まじいものだった。

 

「ど……どう言う……意味ですか? 愈史郎さんっ。」

 

「ふっ……昔話をしてやるよ。」

 

動揺を隠せないまま、炭治郎は愈史郎にその言葉の意味を尋ねた。間違いであって欲しいと願いながら。

一方の愈史郎は、炭治郎を一度見てから再び行冥達と向き合って語り始めた。

 

「良いか? 鬼殺隊の柱に成れる程の才能を持つ鬼狩りははっきり言って特別な存在だ。

その優秀な肉体は、稀血に次ぐ価値が有ると俺は思っている。

もし柱が鬼に敗れて死んだなら、その肉体は髪の毛一本血の一滴、それこそ骨も残さず食い尽くされる事になる。()()ならな。」

 

「……えぇ。そうですね……。」

 

愈史郎の解説に、炭治郎が相槌を打つ。

 

「だが、その花柱……しのぶの実姉(あね)である胡蝶カナエは四年前に十二鬼月の童磨(上弦の弐)と戦い、敗北した。しかし、童磨(上弦の弐)は太陽と言う名の天敵を前にしたために、その極上の餌を眼前に放置して逃走する羽目になった。」

 

『……』

 

「っ!?」

――上弦の……弐っ!? ()()()が女性に手を掛けたの?!

 

愈史郎の語る言葉に、その場に居る全員が静かに耳を傾ける。愈史郎は続けた。

善逸も伊之助も同様である。二人はアオイから僅かばかりにカナエについて聞いているため、動揺は其処まで無いのだ。

 

だが珠世だけは、愈史郎の話を聞いて動揺していた。自身の経験と愈史郎の話が噛み合わなかったからだ。

 

「……っ。」

――あれから百年以上の年月(とき)が経って居る。その間に何かしら変化が有っても、何もおかしくは無い。先ずは愈史郎の話を聞きましょう。其処から分析と判断をしても遅くは無いわ。

 

しかし、珠世はそう結論付けて自身の動揺を一瞬で沈め、真剣に愈史郎の話に耳を傾けていた。

 

「っ?」

――珠世さんから動揺の匂いがした気がしたけど……俺の勘違いかな?

 

炭治郎は普段、冷静沈着な珠世から動揺の匂いがした事に気付いたが、一瞬だったため勘違いしたと考えた。

珠世の事以上に、愈史郎の話が気になったと言うのも、そう思った原因だった。

 

「生きながらにして喰われる不幸から逃げ延びたカナエだったが、既に致命傷を受けてその命は風前の灯火だった。其処へ当時、継子だった実妹(いもうと)のしのぶが駆け付けた。」

 

『っ!!』

 

其処まで語ると、愈史郎の表情に侮蔑の念が宿った。炭治郎としのぶは嫌な予感を本能的に悟った。

 

「普通なら、残っている命を使って童磨(上弦の弐)に関する情報を可能な限り伝えるべきだ……だが、そいつはぁ!……しのぶに伝えるべき事を伝えず、ただ鬼殺隊を辞めて一人の女として生きろと言った。全てを忘れて庶民として生きろと説得する事に僅かな命の灯火を全部使ったんだっ!!」

 

『っ!!!』

 

「も、もう止めてぇ!!」

 

「しのぶ様っ!!」

 

「しのぶ姉さんっ!!」

 

しのぶは愈史郎を止めるべく駆け出そうとしたが、両脇にいたアオイとカナヲが咄嗟にしのぶの腕を掴んで阻止した。

アオイ達から逃れようと必死でしのぶは藻掻くが、純粋な力比べではしのぶに勝ち目など皆無だった。

 

善逸と伊之助は普段見ないしのぶの姿に動揺し、動く事が出来ない。蜜璃もまたしのぶの狼狽する姿を見て動揺を隠せない。

 

アオイ達はしのぶが愈史郎を阻止しようとする気持ちも痛い程理解していたが、其れ以上に知りたかった。聞きたくても聞けなかったあの過去(とき)の事が知りたかったのだ。

一方の炭治郎と珠世は、傍観に徹するか阻止するために動くか悩んでいた。そんな苦悩する炭治郎に、愈史郎は声を掛けた。

 

「炭治郎。お前としのぶには悪い事をしていると思っている。だが、これはしのぶのためになると信じてくれ……珠世様も、どうか御許し下さい。」

 

「……分かったわ、愈史郎。」

 

「っ!!……分かり……ました。愈史郎さん。」

――どうして、愈史郎さんは何処でこの事を知ったんだろう……っ?

 

愈史郎に説得された炭治郎は、どうやって情報を入手したのか気にはなったもののその言葉を信じる事にした。

炭治郎は愈史郎の傍を離れると、しのぶに近付き自身の胸部にしのぶの頭を押し付ける様に抱き締めた。

 

「っ!」

 

「きっと、しのぶさんにとって辛いでしょうから……。」

 

「……っ。」

 

しのぶは何も言わず、しがみつく様に炭治郎に抱き着いた。そのことに関してアオイもカナヲも何も言わず、静かに見守りつつ愈史郎の話に注目した。

 

「……話を続けるが、結局カナエはしのぶのために何一つ役に立てないまま息を引き取った。だが、遺体と言う物は当時の状況を形にして物語る情報源の宝庫だ……だからこそしのぶは自分の手で死んだ実姉(あね)の遺体を解剖すると言う、己の身を裂くに等しい苦渋の決断をした!」

 

『っ!!??』

 

「――――――っ!!!!」

 

「しのぶさんっ!」

 

心的外傷(トラウマ)を抉られたしのぶは炭治郎に頭を胸部に押し付けられているため、声にならない絶叫をあげた。

炭治郎もまた、しのぶを思って頭を強く自身の胸部へと押し付ける。しのぶから漂う悲しみの匂いで泣きそうになるのを我慢しつつ、炭治郎もまた堪えた。

 

その一方で、初めて知った真実の一端を知って、行冥達にも動揺が走った。特に妹分であるアオイやカナヲ達の動揺は激しかった。

 

「騒ぐな、馬鹿共がっ。」

 

『っ!!』

 

毒々しい程の愈史郎の一言により、一瞬にして静寂を取り戻す。愈史郎は全員の怒りに火が点火される前に言葉を続けた。

 

()()()()の事で一々騒ぎ立てるなよ。こんなもの、しのぶにとっては地獄の窯の蓋が開いたに過ぎないんだからな。」

 

しのぶの苦難を知っている愈史郎は、一々騒ぎ立てる見苦しい周囲の光景に苛立ちながらもそれを表情に出さない様に努めた。

 

実姉(あね)のカナエが()()()()()せいで、地獄が始まった。幼い妹分共の面倒を見つつ、共感出来ない実姉(あね)の理想と自身が抱く鬼への憎悪と復讐心、この相容れない二つの信念を背負いながら、己を殺して実姉(あね)の模倣した笑顔の仮面を被らなけれならなかった。」

 

『……』

 

しのぶの心中を考えると、行冥達は何も言えはしなかった。

 

「カナエが倒せなかった童磨(上弦の弐)を、鬼の頸一つ斬り落とせない自分の手で倒せるなどと、しのぶは楽観的に考えなかった。しのぶが苦悩の熟考の末に思い付いた、最も成功率の高い敵討ち方法とは……己の肉体を藤の花の毒で満たすと言う、狂気的とも言える常軌を逸した方法だった。」

 

『!!!???』

 

「「「「「「……っ。」」」」」」

 

最後の情報に関しては、大いに混乱を齎した。しかし、僅かながら冷静さを保っている者達も居た。

炭治郎、耀哉、行冥、天元、しのぶ、珠世の六人である。

 

――あのデカブツ二人からは然程の動揺が見られない……さては、知らなかったが()()()()()()()

 

愈史郎は行冥と天元を見て、心中でそう評価した。

 

「しのぶちゃん……なんで、そんな方法を選んだの?」

 

汗を流しながら、蜜璃は炭治郎の胸部に顔を埋めるしのぶにそう尋ねた。しかし、答えたのはしのぶではなかった。

 

「甘露寺。お前は馬鹿じゃないんだから分かるだろう? しのぶは敵討ちを成功させるために自分が童磨(かたき)に喰われる事で"死なばもろとも"、地獄まで道連れにする覚悟を選んだんだ。」

 

『!』

 

『……っ。』

 

「しのぶちゃんっ!?」

 

「ね……姉さんっ!!」

 

「しのぶ様っ!!」

 

「おいっ! 嘘だろしのぶっ!」

 

「しのぶさんっ!」

――あの不規則な音の原因は、藤の花の毒が原因だったのか!

 

行冥達、鬼殺隊の柱以上にしのぶと同じ時間を過ごし距離感が近かったアオイ達の動揺は激しかった。

当然だ、愛する家族の死の覚悟を聞かされて、動揺しない者などいやしないのだから。

 

「……安心しろ。無惨の呪いの所為で、全部無駄になってしまったからな……いや、今回に限っては"御蔭"と言ってあの臆病者に感謝するべきか?」

 

「御蔭……っ?」

 

「御蔭だと……っ?」

 

義勇と小芭内は愈史郎の言っている意味が分からず、奇しくも異口同音にそう呟いた。

 

「成程、そう言う意味か……。」

 

「なんだァ?……何がそう言う意味なんだよ悲鳴嶼さんよォ。」

 

行冥の呟きに、実弥が反応して意味を尋ねると行冥は静かに答え始めた。

 

「その男が言っている"御蔭"の意味とは……恐らく胡蝶の身体の秘密が鬼を通して無惨に知られてしまったのだろうな。それも此処最近知られたばかり、と言ったところか。」

 

『っ!』

 

「ふんっ。無駄にでかい図体によらず存外頭が切れるんだな、お前。」

 

行冥の推測に驚く実弥ら他の柱達を余所に、愈史郎は素直に行冥を称賛した。

 

「別段大した事ではない。呪いの内容を思い出せば、誰でも辿り着けるであろう程度の問題でしかないからな。」

 

行冥は謙遜した訳でも無く、さも答えられて当然と言わんばかりに断言した。

 

「さて……ああ、この後しのぶにどうなったか簡潔に説明すると、炭治郎が自暴自棄になったしのぶを説得し慰めてから告白して、互いに将来を誓い合う恋仲関係になった。と言ったところだ。真偽を確かめたかったら本人達に聞け。」

 

愈史郎の誘導とも取れる言葉に、自然と行冥達の視線が炭治郎としのぶに集中する。耀哉も面白そうにニヤニヤ笑いながら、この状況を見守った。

一斉に視線を浴びる炭治郎は、顔を赤く染めながら、やっとの思いで口を開いた。

 

「えっと……愈史郎さんの仰っている事は間違い有りません……。」

 

「……事実です。私はもう、自分から死ぬ積もりなんて毛頭有りませんからっ。」

 

炭治郎が答えた後に、しのぶもまた炭治郎の胸部に埋めていた顔を上げてそう断言した。

だが泣いていたのか薄紫色の双眸が少し赤くなったしのぶは、直ぐに自身を未だ心配そうに見詰めるカナヲ達へと身体を向けた。

 

「皆っ。心配を掛けて……貴女達に相談もせず勝手な真似をしてごめんなさい。もう藤の花の毒は摂取していないし、今は解毒に力を注いでいるから安心してね?」

 

「しのぶ姉さんっ!」

 

「しのぶ様ぁっ!」

 

「しのぶさんっ!」

 

「しのぶちゃんっ! うわーんっ!!」

 

「しのぶぅぅぅっ! こんのっ大馬鹿野郎っ!! こんな小っこい身体で背負い切れねぇもん背負い込みやがってぇうわああぁぁぁんっ!!!」

 

しのぶは義妹であるアオイやカナヲ、親友だと思っている蜜璃、それから善逸と伊之助からも泣きながら抱き締められ揉みくちゃにされた。

 

炭治郎は押し退けられる形でしのぶと引き剥がされてしまい、珠世の護衛そっちのけでしのぶを抱擁する蜜璃達に呆れながらも、その光景を微笑ましく見詰めていた。

 

蜜璃達に抱き締められているしのぶは、自分を想って泣いてくれる事に感動し双眸を潤わせながら、その熱い抱擁を受け止めていた。

 

『……』

 

――しのぶ、良かったなぁ……。

 

義勇達は表情をさほど変えずその光景を見ていたが、行冥だけは違っていた。口にこそ出さないが、その心中は歓喜に満ちていた。

事実、行冥は通常よりも勢い良く滂沱の涙を盲目の双眸から流している。

 

「ふふっ……禰豆子さん、貴女は行かなくて良いの?」

 

珠世もまたその光景を目頭を熱くしながら見ていたが、その集まりに加わらず自身の傍を離れない禰豆子に声を掛けた。

 

「……んっ。」

 

しかし、禰豆子は加わらず珠世の手を握って微笑んだ。

それを見て、珠世は少し驚きながらも喜びを感じる。

 

「愈史郎さん。」

 

「何だ? 耀哉??」

 

その光景を静かに見ていた耀哉だったが、少ししてから愈史郎に声を掛けて尋ねた。

 

「愈史郎さんが杏寿郎やカナエの件について話したのは、どう言う意図が有っての事なのかな?」

 

『!』

 

「はっ! そんな事も分からないお前じゃないだろう?……まぁ柱共に勘違いが起きない様にはっきり言っておいてやる。

当代の柱共(お前ら)はカナエやこれまでの役に立たなかった歴代の柱共と同じ轍を踏むなと警告しているのさ。要はだな……精々、"死ぬ時は役に立ってから死ね。"と俺は言っているんだよっ。」

 

『!!!』

 

「愈史郎っ!」

 

愈史郎のあまりの物言いに、頭を抱えつつも沈黙を貫いていた珠世が口を挟んだ。

珠世の言動は愈史郎にとって神の御告げに等しい筈なのだが、今回は頭を一度下げるだけで気に留めなかった。

その一方で、行冥達は愈史郎の暴言に怒りを覚えていた。

 

「おいくらァ!……役立たずたぁ誰の事だァ!……!」

 

「ふんっ……おい、耀哉。産屋敷家……と言うか鬼殺隊と鬼舞辻無惨との戦いはこれまで何年間続いている?」

 

激昂する実弥に対し、愈史郎は鼻で嗤って無視すると耀哉にそう質問した。

 

「っ?……もう、千年以上になるね。その長い年月の間、剣士(子供)達は無惨を探しながら鬼から人々を守り続けているんだよ。」

 

「……そうか、で、鬼殺隊を設立したのは、その呪いを受け始めたのは産屋敷家の何代目だ?」

 

「……設立したのは六代目で、呪いを受け始めたのは六代目の子供から……七代目の当主からこの呪いを受け続けているよ。」

 

耀哉からそう教わった愈史郎は、顎に右手を当てて思考を始めた。しかし、それも束の間だけであり再び開口する。

 

「となると、お前で九十七代目だから……産屋敷家はお前を入れて当主に就いた者だけで九十人以上、それ以外にいた男子や子女を含めたら最低でも千人以上が天寿を全う出来ずに犬死している訳か?」

 

『っ!!』

 

顔を怒りの色に染める行冥達を愈史郎は嘲笑すると、そのまま続けた。

 

「勘違いするなよ? 俺は本来なら普通の人間と同様に生きられた筈なのに、天だか神だか仏だかに見覚えの無い呪いと言う罰を与えられた産屋敷家に、心から同情しているんだ。産屋敷家(こいつら)に罪なんて無いのにな。」

 

愈史郎は心底、産屋敷家に同情した様子でそう話した。

 

「この戦いの本当の大罪人は……おっと、その前にきちんと言って措かないとな。」

 

わざとらしく一度咳払いしてから、愈史郎は炭治郎達が居る背後へ振り向いた。

 

「あ~……今から酷い事を言うが、炭治郎、しのぶ、甘露寺、カナヲ、アオイ、善逸、伊之助。お前達は該当しない。申し訳無いとは思うが聞き流せよ? 気分は悪くするだろうからな。」

 

炭治郎の名前を一人一人丁寧に呼ぶと、愈史郎はこれから自身が行う行為に謝意を込めて詫びを入れた。

 

『……(コク)』

 

炭治郎達は「ただでさえ酷い事を言っているのに、これ以上何を言う積もりだろう?」と困った様子で愈史郎の謝罪を受け入れて頷いた。

 

「愈史郎、貴方はこれ以上何を言う心算なの……?」

 

「お耳を汚してすみません。ですが俺を止めないで下さい、珠世様……禰豆子、珠世様を頼むぞ。」

 

「(コクッ!)」

 

冷や汗を掻く珠世にも愈史郎は謝罪をしてから禰豆子にそう言うと、禰豆子は力強く頷いた。

それを見て愈史郎は行冥達と正面から向き合う。しかし、その表情は汚物でも見る様な侮蔑や軽蔑に満ちていた。

 

そんな歪んだ愈史郎の表情を見て、天元、実弥、小芭内は怒りで青筋を浮かべる。一方で行冥は盲目なのも相まってまだ冷静でいた。そして義勇と無一郎は何とも思っていなかった。

 

「何だ貴様っ。俺達に該当して、甘露寺達に該当しない事とは何だ? 鬼の分際で、俺達に何を言う心算だ?」

 

「黙れ糞蛇っ。貴様如きに急かされなくても今から言ってやるよ、この()()()共が!」

 

『!』

 

思わぬ単語を口にした愈史郎に、その場に居る人間全員が驚いた。それは耀哉も同様であった。

 

「待って欲しい、愈史郎さん。どうして、行冥達が大罪人なんだい?……そう言ったからには相応の理由が有るんだろうね?」

 

耀哉は反射的に意図を知るべく、愈史郎に質問した。その声色には力が籠っていた。自身ならまだしも、剣士(こども)と呼んで愛する行冥達を其処まで言われては黙っては居られなかった。

 

「ふんっ、耀哉。お前は無惨とは千年間戦っていると自分の口で言ったのを覚えているな?」

 

「……ああっ。覚えているよ。」

 

「それだ、それ!」

 

愈史郎は我が意を得たりとばかりに、その理由の一端を語り始めた。

 

「お前が『鬼殺隊は千年に渡って鬼から人々を守っている。』などと御大層で大仰な言い方をしたところで、要するに千年もの間、無惨に逃げられて返り討ちに遭い続けて来たと言う、屈辱的な敗北の歴史を積み重ねて来ただけだろうが!

こんな”無能の証明”としか言い様が無い恥辱に塗れた歴史、何処をどう解釈したら誇りに思えるんだ? その前に情けない、恥ずかしいと言う感情が湧くのが普通じゃないのか?」

 

『!!!』

 

「……っ……っ……。」

 

愈史郎の身も蓋も無い言い方に、耀哉は痛いところを突かれたのか反論出来ずに黙り込んでしまう。

 

「テメェッ!!」

 

「貴様ぁっ! 御館様を愚弄する気かっ!?」

 

それを見て激怒したのは行冥達だ。特に実弥と小芭内は声を上げて激昂していた。行冥も天元も義勇も無一郎も額に青筋が走っている。

しかし、愈史郎の顔色に変化は無い。それどころか行冥達を鼻で嗤う余裕すらある。

 

「柱と言うのは頭だけじゃなくて耳まで悪いのか? 鬼殺隊がどれだけ無能なのか言っていると言うのに、その俺が何時耀哉を! 産屋敷家を愚弄した!? 言って見ろ!!」

 

『……っ。』

 

愈史郎の問いに対し、行冥達は答えられず沈黙する。それを見て愈史郎の視線は、益々侮蔑や軽蔑の色が強くなった。

 

「これも全部、これまでの鬼狩り共が無惨を発見して討ち滅ぼせていないから、今日まで続いているんだろう! 第一、柱共(お前ら)は何か無惨について新しい情報だけでも入手出来たか?

未だに去年、炭治郎が浅草で無惨と邂逅した事実以上の結果を、柱共(貴様ら)は持って来ているのか!? 有るならさっさと出して見ろ!! 今この場でなぁっ!!」

 

『……っ。』

 

愈史郎に問い詰められた行冥達は、何も言えず沈痛する他無かった。愈史郎の言う様に、行冥達は無惨に関する情報など、未だに一つも入手出来ていないからだ。

何も言えなくなった行冥達に対し、愈史郎は嘲笑しながら話を続ける。

 

「そら見ろ、何一つ鬼殺隊や耀哉が喜ぶ吉報を持って帰って来ていないじゃないか。どうせそこいらの雑魚鬼を狩った程度の成果しか、柱共(貴様ら)は持って帰って来ていないんだろう?」

 

「雑魚鬼をたとえ一万匹狩ったところで、無惨からしてみれば痛くも痒くも無い! 何一つ、鬼殺隊の勝利には繋がらないんだよ!! そんな簡単な事実も理解出来ていないとか、曲がりなりにも鬼殺隊の頂点に位置する柱ともあろう奴らが、情けないっ。」

 

『……』

 

行冥達は挑発的な愈史郎の罵倒に対しても、悔し気に歯軋りをして沈黙する他無かった。愈史郎の指摘は全て正しいからだ。

 

事実、この三ヶ月の間に行冥達は雑魚鬼しか狩っていない。下弦級の鬼ではあるのだが、大局的には何ら影響を齎さないのだ。

胸を張って持ち帰れる情報など一つとして持ち合わせていなかった。

 

しかし、愈史郎は行冥達を相手にそんな他人事の事情に配慮する様な優しさなど、一欠片も持ち合わせていない。

 

「それから、お前は柱共(こいつら)は十二鬼月の下弦を倒していると言ったな?」

 

「うん……そう言ったね。」

 

耀哉がゆっくりとそう言うと、愈史郎の表情は嘲弄に染まる。

 

「そうか……そう言えば、この柱合会議の議題の一つで"数字持ちではない下弦級の実力を持つ鬼共の対策"を予定していたよな? 違ったか? 耀哉。」

 

『!!』

 

「……確かにそう予定しているね。」

 

何故その話題を唐突とも言えるこの時に言うのか、耀哉は愈史郎に疑問を持った。

そんな耀哉に構わず、愈史郎は語り始める。

 

「今から約一週間前、しのぶから鬼殺隊にとって素晴らしい吉報が齎された。吉報(それ)は無惨が自らの手で十二鬼月の下弦の鬼共を後先考えずに粛清した、と言うものだ。当然、この情報は直ぐ様、全ての鬼狩り共の耳に入り、鬼殺隊の士気向上に繋がると皆が期待した筈だ。」

 

愈史郎はしのぶを称賛する様に、そう言った。しかし、その態度も瞬く間に変化する。

 

「……だがその吉報が届いた一方でこの約一週間、各所で下弦級の実力を持つ異能持ちの鬼が何体も出現し、多くの人々が殺され、鬼狩り共が返り討ちに遭っている!……これがどう言う意味か、此処に居る柱共(貴様ら)に分かるか?」

 

そう問い詰める様に言った愈史郎だったが、間髪入れる事無く話を続ける。

 

「無惨にとって、下弦の鬼など居ようが居まいがどっちでも良かったと言う事だっ! 無惨()が少し本気を出せば、下弦級の鬼など幾らでも生み出せる、その程度の存在でしかないんだぞっ! あんな臆病者に糠喜びさせられて、鬼殺隊(貴様ら)は悔しいと思わんのか?!」

 

『っ!』

 

柱共(こいつら)が下弦の鬼すら倒した事も有る? それがどうした? 何の自慢になる?……下弦如きの鬼なぞ、珠世様や俺は勿論、其処に居る炭治郎達にでも倒せる程度の鬼でしかない! この先の戦いを考えれば、倒せて当然の相手なんだよっ!

柱ではない炭治郎達でも倒せる雑魚鬼如き、柱共に倒せて当たり前だろうが!……分かったら一々威張り散らすな。親馬鹿も大概にしろ、間抜けっ。」

 

「……っ。」

 

事実を指摘された耀哉は反論出来ず、項垂れて顔を俯かせる他無かった。

 

「て……めぇ……っ!」

 

「テメェッ!」

 

「貴様っ!」

 

「今のは聞き捨てならんぞ!」

 

「「……っっ。」」

 

愈史郎が言い放った耀哉への直球(ストレート)過ぎる侮辱発言に、行冥達は激高する。沈黙を貫いている義勇と無一郎すら、頭を上げて愈史郎を睨み付けている。

 

「静かにっ。」

 

『っ!』

 

耀哉は激高している行冥達に対し、穏やかな声で注意した。

その声を聞いて行冥達は驚き、途端に静かになった。

しかし、敬愛している主人を愚弄されて、何もしないと言う事に誰も納得して素直に従う事は出来なかった。

 

固まって動かなくなった行冥達に、愈史郎はうんざりとした表情で話し出した。

 

「どうした? 柱共(貴様ら)の大好きな御主人様が「静かにしろ。」と仰っておいでだぞ? そんな簡単な命令にも従えないのか? この無能な駄犬共がっ。」

 

『!!』

 

愈史郎の火に油を注ぐ様な暴言に、再び激高しかけた。しかし、耀哉が今度は手を前に出して行冥達を止める。

そして突き出した手を耀哉は、突き出した手をゆっくりと下ろすと、行冥達もそのまま最初の姿勢に戻った。

 

「はっ、まるで本物の犬の様だ……それにしても先刻(さっき)は実に耳障りだった。ああ言うのを"弱い犬程よく吠える"と言うんだろうな。」

 

『!!!』

 

「愈史郎っ!」

 

あまりの容赦の無い愈史郎の暴言に、ついに沈黙して状況を見守っていた珠世が、思わず止めろとばかりに声を上げた。

炭治郎としのぶは困った笑いを浮かべて、蜜璃達は愈史郎の毒舌に絶句して固まっていた。

しかし、愈史郎に自重する様子も止まる様子も見られなかった。

 

愈史郎は珠世に向かって申し訳無さそうに一礼してから、再び行冥達の方へ顔を向けて声を上げた。

 

「俺が今から柱共(貴様ら)が如何に恥知らずで無能な役立たずな存在か、その空っぽの頭でも理解出来る様に説明してやる……おい、耀哉。鬼殺隊(こいつら)が最後に上弦の鬼の討伐に成功したのは何時の話だ?」

 

『っ!』

 

「っ!……それは、今から百年以上前……正確に言うと百十三年前、一八〇〇年(寛政十二年)に起きた時の話だね……()()()()当時の炎柱が、当時の上弦の伍を討ち取ったとされている。」

 

――っ!!

 

――っ?……珠世さんっ?……どうしたんだろう? 御館様の発言の後に、珠世さんから強い動揺の匂いがする。

 

耀哉が最後の上弦の討伐例を口にした後、今度は珠世が動揺した事にはっきりと炭治郎は気付いた。

しかし、今は耀哉と愈史郎に集中するべく思考を切り替えた。

そんな愈史郎は、珠世の変化に気付く事無く話が進んで行った。

 

「上弦の伍を討ち取ったのは、炭治郎達を守った杏寿郎の先祖に当たる当代の炎柱でね。相打ちとは言え、九十五年振りに柱の手で上弦の鬼を倒したと言う、鬼殺隊にとっては大快挙だったんだよ。」

 

「そうか。つまりこの百十三年間、鬼殺隊御自慢の柱様は上弦を相手に無様な敗死を重ねた挙句、惨めに喰われ続けて逝った訳だ。何ともまぁ、涙が出そうなくらい御立派な話だな、おい?」

 

『!!!』

 

無神経過ぎる愈史郎の発言に刹那の間、時間が停まったが如く全員が凍り付いた。

しかし、直ぐに行冥達の胸中に憤怒の炎が燃え上がる。

行冥の持つ数珠が、次々とピキピキ音を立てながら罅割れて行った。

 

「派手にブチ殺されてぇのか、てめぇ……っ!」

 

激怒した天元が顔中の血管を浮かせながら、愈史郎にそう言って脅迫した。常人なら既に失禁しながら失神しているところだが、愈史郎は違った。

それどころか、そんな激怒する行冥達を嘲笑う。

 

「どうした、何をそんなに怒っている? 当代の柱共(貴様ら)の話など俺はした覚えは無いぞっ? 俺が今言ったのは過去にいた、歴代の柱(役立たず)共の話をしているだけだからなっ。」

 

「ただまぁ、如何に鬼殺隊の柱が恥知らずで役立たずな存在なのか、俺の話を聞いて理解出来ただろう? 上弦に返り討ちにされるだけでも役立たずだと言うのに、喰われて上弦共(そいつら)を強化する片棒を担いでいるんだから、恥知らずと言わずに何だと言うんだ? これ以上、何て言葉で表現したら良い? もし良い表現方法が有るのなら、後学のためにも参考に教えてくれないか?」

 

愈史郎は行冥達を見下す様にそう言ってから、そのまま反論の機を行冥達に与える事無く、吐き捨てる様に言い始めた。

 

 

 

 

「『血を吐く様な鍛錬も自らに課して己を叩き上げている。』?

鬼に有利な夜の闇の中で戦う事を常時強いられ、傷を負えば簡単には塞がらず身体の部位を失えば再び再生する事も無い生身の人間は鬼に何もかも劣っているんだから、死にもの狂いで何千何万何億倍も努力するのは当たり前だろう?

出来て当然、して当たり前、必ずやらなければならない必要最低限の努力を、それが出来たからと言ってそれが一体何だと言うんだ? 何をそんなに偉そうにほざいている?」

 

「そもそも、そんな()()()()すら出来ないから、一般隊士(下っ端)共は次から次へと雑魚鬼如きに殺されて、柱共も上弦の鬼に返り討ちに遭い続けているんだろう? 怠け者共が、努力が足りてないんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

「『誰よりも命を賭けて任務に挑み、幾度と無く死線を潜り抜けて十二鬼月をも倒している。』?

はっ! 弱い鬼としか戦っていない癖に、単純に今日まで雑魚鬼相手に恵まれていただけだろ? そんな程度の低い戦いを全部、死線死闘と十把一絡げに自己評価すれば、楽に自分を高く見せれて便利だよな?」

 

「これは鬼と人間の戦争だぞ? 他者の命を奪うために殺し合うんだから、自分の命を賭けるのは当たり前だろうが!

『俺は強いから自分だけは死なない。』なんて勘違いしている思い上がった馬鹿がこの鬼殺隊に身を置いているなら、さっさと叩き出した方が身のためだぞ?

そう言う恥知らずの自惚れに限って、碌に人の役に立てないまま周囲に迷惑だけ掛けまくってから惨めに死ぬんだよ。」

 

 

 

 

 

「『誰よりも多くの鬼を倒し、多くの人々の命と未来を守っている。』?

貴様ら、鬼殺隊が千年通してやって来た事はその場凌ぎの人助けをして、罪無き人々に闇夜の恐怖を子々孫々にまで植え付けただけだ。

その手で救った命よりも、掌から零れ落ちた命の方が遥かに多いとちゃんと自覚しているんだろうな?

生涯に渡ってその安全を保障した訳でも無い癖に、無能な負け犬の分際で英雄になったとこっ恥ずかしい勘違いをしてないか?」

 

「ぷっ、くくくくっ。見ているこっちの顔から火が噴き出そうだ。頼むから、鬼殺隊(貴様ら)は救えなかった命で屍の山を築いていて、その頂上まで土足で駆け上がり胡坐を掻いて座っている事に自覚を持ってくれ。何時まで大恥を晒していたら、鬼殺隊(貴様ら)は気が済むんだよ?」

 

 

 

 

 

『!!!』

 

「…………っっ。」

 

鬼殺隊の柱達へ向けた、耀哉の称賛を根本から否定し、鬼殺隊の存在そのものを踏み躙り侮辱と嘲笑を繰り返す愈史郎に、流石の耀哉も言葉を失った。

 

傍聴している炭治郎としのぶは、こめかみを押さえながら頭を抱えていた。蜜璃は怒らずアワアワと狼狽しているのが、炭治郎にとって不幸中の幸いだった。

蜜璃の膂力の前では炭治郎としのぶなど、協力して立ちはだかっても勝利は有り得ない。

 

同じく傍聴している珠世に至っては、愈史郎の悪口雑言に対して頭を抱えるどころか既に青褪めていた。只でさえ白い肌が更に色を失って行きかねない程である。

しかし、愈史郎の苛烈な口撃は止まらない。寧ろ止めを刺さんばかりに勢いが増して行く。

 

「良いか? その耳の穴をかっぽじって良く聞けよ? お前らの御主人様はなぁ! 残り少ない命を燃やして、この鬼殺隊の長い長い無様な敗北の歴史に終止符を打つために、自分の代で一族の呪いを断ち切るために、これ以上哀れな犠牲者を出させないために、無惨を討ち滅ぼすために手段は問わないと決意を固めたっ!」

 

「そのために本来なら討滅対象の鬼である珠世様と俺に、自ら頭を下げて協力を申し込んで来たっ!

珠世様もまた、ノコノコ出向けば殺されるかもしれない可能性を百も承知で鬼殺隊(此処)までやって来たっ!

しのぶも鬼への憎悪を押し殺して無惨を倒すために、愛する男と共に幸せになるために珠世様と手を組んだっ!

甘露寺も、これ以上誰も死んで欲しくない、傷付いて欲しくないとこの協力に大いに好意的だった!

炭治郎に至っては、最早言うまでもない! 何せ立役者のこいつが居なければ、この合流は成し得なかったんだからなっ!」

 

其処まで言うと、愈史郎は一呼吸置いてから行冥達を再び睨みつけながら、止めの言を唾棄する様に吐き捨てる。その視線にありったけの侮辱と軽蔑の念を込めて。

 

「これで分かったか? 俺達と貴様らとでは無惨を倒す意気込みも気合も覚悟も何もかもが違うっ!!……あぁ、そうだ。雑魚鬼を狩って満足して、英雄気取りで愉悦に浸っている貴様らとは全てにおいて違うんだっ!!」

 

「そんな役立たずの恥知らずな負け犬共に、これ以上足を引っ張られてたまるか! こんな奴らから認められたいとも思わないし、認められたくもない! 信頼? 信用? そんなもの要るかっ!!

認めて貰いたいと思う程の存在価値が、貴様ら如きには一欠片も存在しないんだよ! 全く、こんな無駄な事をしている間にまた今夜、罪の無い人間が何人も理不尽に殺されて不条理に死ぬっ! これも全部っ、全っ部貴様らが能無しで不甲斐無い所為だぞ!」

 

「そんな不甲斐無い役立たずの貴様らに代わって、俺達はこれからどうやって無惨に対抗するか、上弦共をどう探し出して戦うか、やる事や考える事が山の様に有るっ!」

 

「良いからこれまで通り貴様ら、柱共はただ黙って鬼を見つけて醜く殺し合っていれば良いんだよっ! それが鬼を殺す事しか頭に無い……鬼狩りしか能が、取り柄が無い、()()()()()()なんだからなっ!!」

 

『!!!!!』

 

『…………』

 

愈史郎がそう言った瞬間、産屋敷本邸はシンッと音が無くなった様に静寂になった。

 

 

 

パァンッ!

 

 

 

しかし、次の瞬間に大音が産屋敷本邸で鳴り響いた。

 

「愈史郎さんっ!?」

 

「大丈夫だ、問題無い……いきなりなんだっ。危ないだろうが……っ!」

 

「チィッ!」

 

愈史郎が合掌する様に、両手を合わせていた。その手の中には刃物の様な物が在った。

そして舌打ちした音の方向へ顔を向けると、天元が青筋を立て双眸を血走らせながら苦々しく舌打ちをした音だった。

 

「何だこれ?……短剣……じゃないな。苦無か、これっ!?」

――苦無に何か塗られて……藤の花かっ!……喰らっていたら死にはしないが拙かったな……っ。

 

「俺達が下手に出りゃ、派手に調子に乗りやがって……!!」

 

『……』

 

「っ!」

 

行冥達もまた、天元と同様に激怒していた。自身が経験して来た過去や努力、鬼を倒すための意思や苦労ばかりか、存在すら否定して嘲弄され侮辱されている事に激怒していた。

 

小芭内は双眸を血走らせ青筋を走らせている。行冥は持っている数珠に力を入れ過ぎたせいか、既にボロボロだ。

実弥と義勇は顔を俯かせて表情が見えなかったが、実弥は一筋の血を流す程に唇を強く噛み、義勇は爪が喰い込み両手から流血していた。

無一郎だけは唯一、行冥達とは違いその表情は丸で能面の如く無表情で感情を読み取る事が出来ない。

 

その無一郎が顔を俯かせたまま、ゆっくりと立ち上がる。飛び掛からんとしていた小芭内は、動き出した無一郎を見て動きを止め、行冥達も注目した。

しかし全員の注目を受けている無一郎は立ったまま、其処から動かず不動になる。

 

「……無一郎?」

 

耀哉は不動の姿勢を取った無一郎を不思議に思い声を掛けた瞬間、事態は動いた。

 

 

 

ドゴォッ!!!

 

 

 

「っっっ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

『っ!?』

 

突然、愈史郎が後方へ吹き飛ばされたのだ。愈史郎はそのまま後方に居た炭治郎に受け止められたので事無きを得た。

炭治郎と愈史郎は、何が起きたのか理解出来ず、原因を探るために前方を見る。

 

すると愈史郎が立っていた場所の手前に、顔を俯かせたままの無一郎が右腕を突き出した状態で立っていた。

無一郎は高速で移動し、土足のまま産屋敷本邸に入って愈史郎を殴り付けたのだ。愈史郎は咄嗟に両腕を交差して受け止めたため、直撃する事は無かった。

尤も、鬼である愈史郎にとってこんなもの、何でも無い出来事のだが。

 

「おい、好い加減にしろよクソ野郎が。」

 

『っ!』

 

緊急柱合会議が始まってから、初めて無一郎が言葉を口にした。

その能面の如く、無表情で感情が読み取れなかった顔には明確な怒りの色が見えた。

 

「ふん。人間の姿をした人形が混じってるかと思えば、お前もちゃんと血の通った人間だったんだな、餓鬼。」

 

『っ!』

 

「愈史郎さんっ!」

 

炭治郎が見兼ねて、愈史郎に声を掛けた。しかし、愈史郎は変わらない。

無一郎の一撃を受けてジンジンする右腕を抑えながら、感情を露にする無一郎に対しても容赦なくその毒舌を浴びせる。

 

「お前、俺に()()()()()()とか、そうボロクソに言われたのがそんなに気に喰わなかったか?……んっ?」

 

「っ!」

 

愈史郎が無一郎に向かって先刻と同様の言葉を吐くと、無一郎は先刻の怒りは何処へ行ったのか、そのまま動かなくなってしまった。

無一郎はある言葉を聞いて、脳内である光景を幻視していたのだ。

 

『居ても居なくても変わらない様な、つまらねぇ命なんだからよ。』

 

――誰だ? 思い出せない……。

 

――昔誰かに同じ事を言われた気がする。だけど、誰にそう言われたんだ?

 

 

 

ズキッ!!!

 

 

 

「――っ!!!」

 

無一郎の頭に突如として、鋭い痛みが走った。

あまりの激痛に無一郎は後ろに三歩程下がり、そして斜め前に千鳥足でよろけながら身体を崩した。

 

『っ!』

 

「時透君っ!」

 

「おいっ!? どうしたっ!?」

 

炭治郎が無一郎の下へ駆け付け、倒れる前に無一郎を受け止めた。

愈史郎もまた、突然苦しみだした無一郎を心配して声を掛けた。

 

「時透君っ!」

 

「霞柱様っ!」

 

しのぶとアオイがその様子を見て、炭治郎と無一郎の下へ駆け付けた。

珠世も駆け付け様と一歩踏み出したが、認められていない自分が駆け付けるのも要らぬ誤解を招くと、思い留まる。また、カナヲが珠世を制止したのも理由であった。

 

愈史郎への怒りどころでは無くなり、しのぶが簡易診察を始めるのを見守る耀哉達であったが、行冥と義勇が漸くある違和感に気付いた。

 

――……不死川……っ?

 

「不死川は……何処へ行った?」

 

『っ!?』

 

義勇の呟きで、愈史郎と無一郎に気を取られていた耀哉達が、漸く実弥がその場から居なくなっている事に気付いた。

すると少し離れたところから、悲鳴が幾つも上がった。そして少しすると、実弥が緊急柱合会議に戻って来た。

 

『っ!』

 

耀哉達は帰還して来た実弥の姿を見て驚愕した。その手には『隠』に預けていた筈の脇差の日輪刀が在り、日輪刀を握っている右手を中心に身体中が返り血と思われる血で赤く染まっていた。

 

「おい鬼ィッ……テメェが抜かしている事は正しいと認めてやるよォ……。」

 

『っ!』

 

実弥は日輪刀をゆっくりと構える。顔中の血管を浮かせて青筋を立て、双眸を血走らせながらそう言った。

その顔色は激しい憎悪と憤怒で染まっており、炭治郎と伊之助は鼻腔と肌が火傷する様な、善逸は鼓膜が破れる様な感覚に襲われた。

 

「俺ぁテメェの言う様に、鬼共を殺す事しか能が、取り柄がねぇって事をなァッ!」

 

『っ!!!』

 

実弥は言い終わった瞬間、日輪刀を構えて産屋敷本邸に乗り込んで来た。

そして勢いを殺す事無く呼吸を繰り出して剣技を放とうとする。

そのまま殺意に満ちた実弥の凶刃は、愈史郎へと向けられる筈だった。

 

 

 

ガキンッ!

 

 

 

『っ!?』

 

しかし、実弥の凶刃が愈史郎に届く事は無かった。

その本人を除いて、誰もが思いもしなかった人物が日輪刀を抜刀し、その凶刃を受け止めたからだ。

 

「っ!?」

 

実弥の凶刃から愈史郎を守るために、咄嗟に愈史郎の前に立った炭治郎は思わぬ人物の助けが入った事に驚愕した。

勿論、炭治郎だけではない。産屋敷本邸に居る、全員が驚いていた。

 

「テメェ……何の真似だァ?」

 

「何の真似?……風柱様。私達は御館様の御命令で、未熟ながらも珠世さんと愈史郎さんの護衛を務めております。御言葉ですが、そっくりそのまま貴方様にお返しさせて頂きます。風柱様こそ、何の真似ですか?」

 

「テメェ……っ!」

 

その人物とは、神崎アオイだった。アオイは実弥の眼光を真正面から受けながらも、その凶眼から視線を逸らす事無く毅然に立ち向かう。

 

「アオイの言う通りだよ、実弥。」

 

「御館様……っ。」

 

苛立ちながらアオイを睨み付ける実弥に対し、耀哉が声を掛ける形で助け舟をアオイに出した。

 

「私が今回、何のために()達から日輪刀(かたな)を預かったと思う? この様に珠世さんと愈史郎さんに危害が及ばない様にするためだ……それから先刻(さっき)悲鳴の様なものが聞こえた気がしたけど、何だったのだろうね? 後、実弥の身体に付いている血痕も気になるのだけど、私に教えて貰えないかな?」

 

「っ……しかしっ!」

 

「私の質問に、答えてくれないのかい? 実弥。」

 

「……」

 

耀哉の質問に対し、実弥は答える事が出来なかった。

顔を俯かせて無言になる実弥を無視して、耀哉は愈史郎に話し掛けた。

 

「愈史郎さん、私の剣士(こども)達が無礼を働いたね……申し訳無かった。」

 

『っ!?』

 

耀哉が頭を下げて謝罪する姿を見て、行冥達は驚いていた。そんな耀哉を見て、慌てて実弥が声を掛ける。

 

「頭を上げて下さいませ! こんな奴に御館様が謝る事など……っ!」

 

「実弥。少しの間で良いから、静かにしててくれるかな?」

 

『っ!』

 

耀哉が謝罪したまま、突き放す様にそう言われた実弥は言葉を失った。行冥達も同様である。

何時も穏やかな耀哉から、微かだが怒気を感じたからだ。耀哉から初めて見る感情の露を見て、言葉を失っていた。

耀哉の態度を見れば、どれだけ珠世達を重要視しているか口にするまでも無い。

 

非は明らかに自身にあるとは言え、実弥は衝撃(ショック)を隠せなかった。

しかし、しかし、行冥達以上に困った様子で居る者が居た。行冥達を殺す勢いで悪口雑言を吐いていた、愈史郎である。

 

「……悪かったな。俺も少し熱くなり過ぎたよ。」

 

『っ!?』

 

少しばかり冷静さを取り戻した愈史郎はバツが悪そうに、耀哉に頭を下げて謝罪した。

 

先刻の傲岸不遜で傍若無人な態度は何処へ行ったのか、そう言いたくなる程の変貌ぶりを見せた愈史郎にしのぶ達は付いて行けず固まった。

特に珠世など、非現実的な光景を見た様な茫然とした顔で何度も頬を抓っていた。

炭治郎だけは、愈史郎をそうさせた耀哉に対しキラキラとした表情で尊敬の念を抱いて見ていた。

 

少ししてから、愈史郎は下げていた頭を上げた。

耀哉は楽しそうにクスクス笑い、愈史郎は恥ずかしそうに赤面して頬を掻いていた。

 

耀哉は、倒れていた無一郎に声を掛ける。

 

「無一郎、頭の方は大丈夫かい?」

 

「……はい、御館様。すみませんでした……。」

 

無一郎はしのぶと戻って来たアオイに支えられて立ち上がり、耀哉に謝罪した。

 

「そんな事は気にしなくても良いんだよ……もしや、記憶が戻りそうだったのかな?」

 

『!』

 

「いえ、微かに何かを思い出しそうだったのですが……。」

 

「そうか……でも焦る必要は無いよ。君は必ず自分を取り戻せる。失った記憶は必ず戻る。心配なんて要らない。ただ、切っ掛けを見落とさない事だ。先刻(さっき)の様にね。」

 

「……はいっ。」

 

無一郎は耀哉に返答した後、一人で行冥達の列に戻った。

無一郎を見届けてから、しのぶとアオイも持ち場へ戻るために移動を始める。

 

「……ふんっ。()()()()()()()()()()日輪刀(かたな)を、今度はその鬼を守るために使うとはなっ。」

 

『っ!』

 

小芭内が粘着質な声で、そう呟いた。しかし、周りが聞こえる程度に大きな声量でだ。

 

「……」

 

小芭内の呟きを耳にして、アオイは一度足を止めたが振り向きもせず無反応だった。

日輪刀をクルリと回して回転納刀を決めると、何事も無かった様に再び歩き出した。

小芭内の呟きを聞いてしのぶの額に一度青筋が走ったが、無反応なアオイを見て何もしない事にした。

 

――()()()()()()()()()()?……と言うか、アオイさんの日輪刀(かたな)の刀身の色……っ!

 

炭治郎の耳からは、小芭内の呟きが深く印象に残っていた。

また、初めて見たアオイの日輪刀の刀身の色を見て驚いていた。それは善逸も伊之助も同様だった。

そんな炭治郎を余所に、耀哉は再びこの場に集結している全員に向けて話し始めた。

 

「愈史郎さんの言葉で私も些か目が覚めたよ。

そうだった……これ以上、罪無き人々が鬼に愛する者を奪われないために、これ以上私の剣士(こども)達が犠牲にならなくて済む様に、私は無惨を倒せるならどんな手段も問わない、どんな禁忌をも躊躇無く犯すと言う決意を固めていた。……すまないが、私は君達に認めて貰うのを待っては居られない。

珠世さんと愈史郎さんが如何に有能かは、もう私の身体や愈史郎さんの血鬼術を見れば分かると思う。

鬼殺隊にどれ程の貢献が出来るか分かっている者の立場として、はっきり言わせて貰うっ。」

 

耀哉は其処まで言うと、一度呼吸してから、決意を固めて断言した。

 

「御二人には蝶屋敷に滞在して貰い、共に無惨を倒す頼もしい同志として心から歓迎する。良いね?」

 

『っ!……御意っ。』

 

普段より強い口調で話す耀哉に対し、行冥達は圧倒されながら承諾した。

鬼の珠世達を受け入れがたい感情が在っても、先ずは無惨を倒す事が第一なのは事実だ。

 

また、敬愛する耀哉の生涯を賭けた決意を聞かされては、公私混交して足を引っ張るのは憚られた。

だがそれでもなお、耀哉の決定に納得出来ない者が一人だけ存在していた。

 

「いいえ、何も良くないっ!……こんな決定、認められませんっ!!……これ以上の鬼を鬼殺隊に受け入れるなど承知出来ない……っ!!!」

 

『っ!』

 

それは実弥だった。実弥だけは、耀哉の決定に未だに反対して抗議していた。

小芭内を除いて全員から白眼視され始めた実弥だが、それでも実弥の意思は変わらなかった。

 

「くっ!?」

 

「っ!!」

 

『っ!』

 

実弥は右手に持った日輪刀を左腕に刺そうとしたのだ。

それを察しした炭治郎は、日輪刀が実弥の左腕の肉を斬る前に刀身を掴んで阻止したのである。

日輪刀の刀身を掴まれた実弥は、反射的に動きを止めた。

 

「「炭治郎君っ!」」

 

「「「炭治郎っ!」」」

 

「「炭治郎さんっ!」」

 

「炭三郎っ!」

 

しのぶを筆頭に蜜璃、アオイやカナヲ、善逸に伊之助、そして珠世と愈史郎が炭治郎の蛮行とも言える行動を心配して声を掛けた。

 

だが炭治郎は掌を斬らない様に、絶妙な力加減を入れて刀身を両手で握っていた。

しかし、もし実弥が無理矢理にでも刀身を動かしてしまえば、炭治郎の両掌は斬り裂かれてしまうだろう。

 

しのぶ達はそれを懸念して、早く刀身から両手を離して欲しいと強く願っていた。

その一方で、しのぶ達は優しさと心配から炭治郎を想っているのに対し、実弥の想いは正反対だった。

 

「テメェ……さっさと手を離しやがれッ……っ!」

 

実弥は苛立ちを頂点に達しながらも、警告する様にそう口にした。

 

「お断りしますっ!」

 

しかし、炭治郎は怯まない。寧ろ、手を斬り裂かれようと離すものかと決意を固くする。

そんな炭治郎を見て、実弥は益々苛立ちを募らせた。

 

「テメェっ!」

 

「好い加減にして下さいっ!」

 

『っ!』

 

炭治郎が大声で返したため、全員が驚いて双眸を見開いた。

 

「貴方は禰豆子と同じ事をしようとしてますが、はっきり言って無駄骨を折るだけですっ!」

 

「んだとォ……。」

 

「珠世さんと愈史郎さんは長年正体を隠して、医者として多くの人々を無償で治療しその命を救って来ましたっ!……当然、その中には稀血の方だって何人も居たっ! 血の耐性なら禰豆子よりも遥かに強いんだっ!! 貴方程度の稀血で理性を失う訳が無いでしょうっ!!」

 

炭治郎は実弥を傷付けさせまいと、必死で説得する。しかし、その説得は実弥にとって火に油を注ぐ行為だった。

 

「んなもん……やってみねぇと分からねぇだろうがァ!」

 

「っ!!」

 

『っ!』

 

実弥はそう叫んでから動いた。しかし日輪刀を持つ右手ではなく、傷付け様とした左腕の方を逆に日輪刀へ近付けたのだ。

炭治郎は両手で約二尺(六十cm)ある脇差の日輪刀を掴んでいたが、刀身の(きっさき)を掴んでは居なかった。

 

そのため、刀身の鋩から実弥の左腕に喰い込み、一筋の裂傷を作ってしまった。

 

「なっ!?」

 

「ふっ……。」

 

炭治郎が口を開けて絶句する中、実弥の裂傷から一筋の血がポタッと垂れて畳に落ちた。

垂れ落ちた血を見て、炭治郎が顔を歪める中、実弥は逆に笑みを浮かべていた。

 

「おい鬼っ! 飯の時間だぞ喰らい付けっ!!」

 

「……っ!」

 

愈史郎は双眸を見開いて、実弥の血を見詰めた。

実弥はそんな愈史郎の様子を見て、実弥は手応えを感じてほくそ笑む。

 

しかし、そんな実弥の期待は、愈史郎の悪意に満ちた笑みによって一瞬にして裏切られた。

 

「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。」

 

『っ!?』

 

愈史郎が態とらしく呆れ果てた様子で溜息を吐いた。そして右手で頭を数回掻いてから、実弥に声を掛けた。

 

「で?……気は済んだか? 三下??」

 

『っ!!』

 

禰豆子が初めて実弥の血を見た時は、理性を失い掛けたと言うのに愈史郎は汗一つ掻いて居なかった。

それは珠世も同様である。因みに禰豆子は、しのぶによって手巾(ハンカチ)で鼻を押さえられていた。

行冥達はその光景を見て、驚きを隠せない。

 

「炭治郎、日輪刀(そいつ)から手を離して良いぞ……三下、お前は本当に馬鹿だよなぁ? 炭治郎の言う様に、鬼の俺達が血肉の匂いに涎を垂らしながら人間の治療をしていたとでも?」

 

「っ!」

 

嘲弄と軽蔑に満ちた悪意の在る笑みで、愈史郎は実弥を嘲笑う。それを見て、実弥の額に青筋が浮かび上がる。

 

「その傷だらけの身体、大方その血で鬼を誘い出したり、酔わせて弱らせるなり理性を失わせて戦いを有利に持ち込んでから狩っていたんだろうが、相手が悪かったな。

そこらの雑魚鬼と俺達は違うぞ。そんな下らん子供騙しの小細工が、俺達に効く筈が無いだろうが間抜け。」

 

「俺に何度も言わせるなっ。柱共(貴様ら)は今日まで雑魚鬼相手に恵まれていただけだ。弱い鬼としか戦っていない事実を認めろっ!

第一、俺達と違って直ぐに傷の再生も出来ない癖に、そんなに自分を態と傷付けて消耗を強いる戦い方をして何になる?

警告しておくが、俺達にすら効かないこんな下らん小細工が、無惨や上弦共に通じるなんて甘ったるい妄想なんぞ考えるなよっ?!……分かったら二度とするなっ、良いなっ?!」

 

「……っ!」

 

実弥は自身が思い描いていた展開には一切掠りもせず失敗に終わった事実に項垂れながら、無意識に右手の日輪刀を下ろして行った。

 

――っ!……愈史郎さんから優しい匂いがする。口ではああ言っているけど、それでも気を使って言ってくれているんだから本当に優しい人だよね。

 

実弥が項垂れている中、炭治郎は愈史郎の無意識な優しさに感心していた。そんな中、事態を見守っていた耀哉が口を開いた。

 

「これで珠世さんも愈史郎さんも人間(ひと)を襲わないと証明出来たね……実弥、まだこれ以上……無惨を倒すために御二人と協力する事に反対する理由はあるのかな……?」

 

「……いえ…………。」

 

耀哉からは威圧感すら漂わせるその言葉に、実弥は動揺して小さい声量でしか答えられなかった。

すると、思わぬ人物が会話に参加して来た。

 

「耀哉さんっ。この先の話をする前に、この方に簡単な処置だけでも済ませて構いませんか? 医者の端くれとして、この様な怪我人は見過ごせません。」

 

「っ!……勿論だとも、珠世さん。寧ろ、私からお願いしたいくらいだ。実弥、拒否してはいけないよ? 良いね?」

 

「っ!?……御意っ。」

 

実弥は珠世の治療を受ける事に露骨に嫌そうな表情をしたが、その顔を隠す様に耀哉に跪き頭を垂れて承諾した。

珠世は耀哉から治療の承諾を得ると、くいなに預けていた医療鞄を抱えて実弥に近付いて行く。すると、愈史郎も珠世に追随しようとした。

 

「愈史郎。貴方は其処から動かず、じっとしていなさいっ!」

 

「な、何故ですかっ!? 珠世様っ!!」

 

愈史郎は何故、自分が珠世に拒絶されるのか理解出来ずに大声を出して狼狽した。

 

「……愈史郎、本当に分からないの?」

 

「はいっ! 分かりません!! 俺は一度として、珠世様が御怒りになる様な事はしていませんっ!!!」

 

「……っっ。」

 

しかし、その態度が珠世の怒りと言う火に油を注ぐ事になる。

 

「もう良いわっ! 貴方はもう私が許可するまで大人しくしていなさいっ!! 良いわねっ!?」

 

「は、はいっ!?」

 

愈史郎は悲しそうな顔をしてその場を動かず、じっとしている他無かった。

珠世は愈史郎に一切目もくれず、真っ直ぐ実弥の下へ向かう。

 

「左腕を見せて下さい。」

 

「……」

 

実弥は珠世にそう言われると、身体を伏せたまま左腕を突き出した。

 

――これ程、希少な稀血はそうそうお目に掛かれないでしょうね……。

「……この傷の深さなら、"止血帯法"までせず"圧迫止血法"で済みそうね。」

 

珠世はそう呟きながら、実弥の稀血にものともせず治療を開始した。

 

愈史郎と実弥の治療をする珠世の間に挟まる形で立つ炭治郎は、何も言わずその状況を静かに見守った。

すると間も無くして、珠世は実弥の治療を終えた。

 

「治療はこれで終了です。後は暫くの間は患部に圧力を掛けて、腕を心臓の位置より高く維持して下さい。」

 

「……」

 

珠世は実弥に医者としてそう伝えたが、実弥は返答どころか顔すら合せようともしなかった。

愈史郎はそんな実弥の態度を見て激高しそうになったが、そんな事をすれば珠世の怒りを再び買う事になるのは火を見るより明らかだったため、大人しく自重した。

 

「……ごめんなさい。」

 

「「「っ!?」」」

 

珠世は唐突に、実弥の手を握って静かに実弥に対して謝罪の言葉を口にした。

その謝罪に対し、直ぐ傍で聞いていた炭治郎と実弥、そして愈史郎は驚きを隠せない。

 

()()()に無惨を倒せていたら、貴方の世代にまで不幸を撒き散らす事は無かった……貴方がその身体の傷だらけにする事無く、御家族と幸せに暮らせていたでしょうに……本当にごめんなさい。」

 

「っ!!」

 

珠世にそう言われた実弥は、今初めて珠世の方を顔を向けた。そして双眸を見開き、視線の先に在るものを見た。

 

実は珠世はこの時、らしからぬ致命的な失敗を犯していた。

珠世は無惨の手で作られた鬼であるため、愈史郎よりも血に対する耐性は低い。それでも禰豆子より遥かに高いものであるが。

そのため、珠世は実弥の稀血の匂いを嗅いで理性を失う事など無かったが、本人も気付かない失敗を犯していた。

 

普段は擬態により神秘的なれど人間として違和感を感じない暗紫色の瞳が、本人も気付かぬ内に擬態が解除されて本来の姿を表していた。

その暗紫色の瞳に猫の如き縦の裂け目が生まれ、口にも鋭い牙が隠れる事無くその姿を見せていたのだ。

 

一方、珠世と実弥の様子を見守っていた炭治郎は、突如として違和感を覚えていた。それは匂いだ。

カナエの猛特訓(スパルタ)の一つとして高速の斬撃を受け続けて来た炭治郎は、時折感じて取れる様になっていたものと同様の匂いである。

 

――あの時と同じだ……"隙の糸"とは全く違う……この匂い……っ!

 

炭治郎は直ぐに匂いの元を探り始めた。

 

――不死川さんの右腕……っ!

 

炭治郎はそう感じ取ったとほぼ同時に、頭よりも先に身体が動いていた。

 

 

 

 

 

 

鬼殺隊が誇る柱が一人、風柱・不死川実弥は思い出していた。

 

今や幾ら手を伸ばそうとも届く事が無い、遠く懐かしい幸せだった日々を。実弥にとって、この世の金銀財宝を積み重ねても代えがたい愛する家族との生活を。

 

実弥は不死川家七人兄妹の長男だ。酒癖が悪く暴力的だった実父の不死川恭梧が知人に私怨で刺殺されたのを機に、次男の玄弥と共に下の弟妹を支えると誓った。

そして何よりも、誰よりも力になると誓ったのは母親の不死川志津だ。

 

志津は近所でも評判の働き者で男顔負けに心が強かった。夫の暴力にも涙一つ流さず、当時幼かった実弥達を守るためにその小柄な身体を盾にして生きて来た。

実弥は志津が寝ているところも休んでいるところも生涯で見た事が無かった。常に家計を支えるために働き、弱音を一切吐く事無く自分達に笑顔を絶やさなかった優しくて温かい自慢の母だった。

 

実弥が最後に見た、そんな優しい笑顔が素敵な自慢の母・志津の顔は、

 

 

 

 

猫の如く縦に裂けた双眸で睨み付け、無かった筈の鋭い牙を見せて涎を垂らし大口を開けながら、自身に喰らい付こうとする志津の姿だった。

 

 

 

 

「うわあぁっ!?」

 

「珠世さんっ!!!」

 

実弥は悲鳴を上げて右手に持った日輪刀を咄嗟に振った。

 

 

 

ザシュッ!!!

 

 

 

産屋敷本邸で肉を裂く音が鳴り、鮮血が飛び散った。




あとがき
お待たせしました。蓋を開けて見れば、真に反目していたのは炭治郎君では無く愈史郎と言うオチでした。
血が流れた本祭ですが、誰が斬られたのかはっきり分かるのは次回です。

柱の皆は大好きだけど、本編の柱合会議で抱いたムカつき具合を思い出して書いてます。ずっと前から思ってるけど、鬼殺隊は組織としてガバガバなんだよなぁ……まぁ、無惨様一党の方が遥かにガバガバなんだけどね。

次回の更新ですが、皆様も気になって仕方が無いと思うので一週間以内に投稿します。頑張りますのでよろしくお願い致します。


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のねむ様
ハーメルンユーザー
https://syosetu.org/?mode=user&uid=225760
私が心の師と仰いでる炭しの至上主義の作者様です。ですが炭カナや炭アオにも理解があり好まれています。

鬼滅の刃 小話
https://syosetu.org/novel/215572/
炭しのssになります。一部炭アオや炭カナも有り。基本一話独立の短編集です。

~恋愛~ 温かい愛の話
~悲愛~ 悲しい愛の話
~歪愛~ 歪んだ愛の話

の三種類に分かれ、『淫』の文字が付く話はR-18作品になります。

互いに描写が似ている部分がありますが、それは双方合意の上で引用しておりますので気になさらないで下さい。


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第参拾話 本祭は日輪の血で染まる

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「えっ?……。」

 

『……っ!?』

 

しのぶは自身の双眸に映った光景が信じられなかった。それはしのぶだけではない。

その場に居る全員がしのぶと同様に、その光景が信じられなかった。

 

炭治郎が珠世を庇う様に前へ飛び出した瞬間、実弥が咄嗟に脇差型の日輪刀を振るった様に見えた。

しかし、幾ら脳が見ている光景の認識を拒絶しようとも、事実は変わらない。

 

本当は珠世に迫る筈だった実弥の凶刃だが、珠世が斬られる前に炭治郎が庇う様に前へ飛び出したのだ。

その結果、実弥の日輪刀の(きっさき)が炭治郎の右脇腹から入り左肩まで逆袈裟に素早く斬り裂いたのである。

 

その光景が紛れも無い現実なのだと、間も無くその場に居る全員が思い知る事になる。

 

 

 

ザシュッ!!!

 

 

 

「あっ……ぐっ……っ!」

 

 

 

ピシャアアアアァァァァァッ!!!!

 

 

 

炭治郎は実弥に逆袈裟斬りで斬られて出来た刀傷から、時間差で噴水の如く夥しい血が噴き出した。

 

「っ!?……っ!!!」

 

「んなっ!?……っ!?」

 

炭治郎に庇われた珠世は声にならない悲鳴を上げ、愈史郎はあまりの事態に思わず固まってしまう。

その時全員の視界は、世界の時間がゆっくりと遅くなった様に錯覚した。

 

 

 

バタンっ!!

 

 

 

そうしていると、炭治郎の身体が重力に従い、畳に叩き付けられる様に落ちて行った。

その際に周囲だけで無く、炭治郎が倒れた畳が血で赤く染まって行った。

其処から瞬き一つも経過しない刹那の時間が経ってから、世界の時間が再び元に戻った。

 

「た、炭治郎おおおおぉぉぉぉっ!!??」

 

愈史郎は血を流し倒れた炭治郎に向かって前のめりで駆け出し、炭治郎の身体を起こし始めた。

 

「うぅっ……あぁっ……はぁ……はぁ……っ!」

 

「おいっ! 炭治郎っ!……しっかりしろっ、意識を保てっ……っ!」

――呼吸で出血を抑えようとしているのか。斬られたばかりなのに、咄嗟にそれを行うとは……っ!

 

愈史郎は内心でそう感心すると、珠世から声を掛けられた。

 

「愈史郎、炭治郎さんの隊服(ふく)を脱がすのを手伝ってっ! 直ぐに治療しますっ!!」

 

「はいっ! 珠世様っ!!」

 

我に返った珠世は直ぐに炭治郎の下へ駆け付け、愈史郎は珠世に呼応して炭治郎を後方へ運び出してから、治療に邪魔な隊服を脱がし始めた。

雑魚鬼ならば破る事も貫く事も出来ない高品質の隊服だが、実弥の日輪刀の前では意味など無さず真っ二つに斬られていた。

 

実弥の剣術の腕前も有るが、その日輪刀もまた刀鍛冶の里で五本の指に入る名鍛冶師が打った業物だ。

幾ら隊服と言っても所詮は衣服。斬られるのは当然の結果だった。

 

炭治郎を後方へ運び出したのは実弥から炭治郎を遠ざけるためだ。

 

珠世達にとって実弥は最早、何をしでかすか予想が付かない爆弾でしかなかった。

まさかとは思ったが、治療を妨害される懸念が在ったため、実弥から距離を取ったのだ。

 

「……」

 

尤も、実弥はそれどころではなかった。

乱心して己がしでかした大失態への自責の念と、生まれて初めて生身の人間を斬った感触を感じて顔を俯かせて打ちひしがれていた。

鬼を斬った時と全く違う人斬りの感触に、実弥は今にも吐きそうだった。

 

「はぁ?……えっ……なにが……え?……。」

 

珠世と愈史郎が懸命に炭治郎を治療しているのを余所に、しのぶは未だに現状を理解出来ていなかった。

いや、正確にはしたくなかったと言うべきであろう。

 

しかし、たとえしのぶの脳が眼前の光景を拒絶しようとも現実は変わらない。

 

事実、精神より先に肉体が現実を受け入れていた。

 

実弥の稀血に禰豆子が反応しない様に、口元に押さえ付けていた手巾(ハンカチ)がはらりと畳の上に落ちて行った。

両足は立った状態を維持出来ず膝から崩れ落ちていた。

全身からは脂汗が吹き出し、紫色の双眸からは絶え間なく涙が溢れていた。

 

そう、しのぶは今、弱くなってしまったのだ。

 

竈門炭治郎と言う、しのぶにとってこの世で唯一無二の最愛の男性を得た事でしのぶは総合的には強くなった。

 

しかし、こと炭治郎に関しては動揺や感情の乱れが顕著に現れてしまったのだ。

 

炭治郎を傷付けたのが鬼ならば、狂う程に激昂して嬲り殺せていただろう。しかし、相手は鬼では無く信頼する同僚だ。

通常なら起こり得ない筈の現実を眼前にして、しのぶは思考を放棄して放心状態になってしまっていた。

 

「炭治郎君が……炭治郎君がぁっ!……しのぶちゃんっ! お願いだから立ってっ!? しっかりしてよぉっ!!??」

 

蜜璃は炭治郎が実弥に斬られた事に動揺し、悲しみから涙を流す。

そして自身が知るこの状況で最も頼れる人物が動かず、放心状態になっている事に焦燥しつつ、慌ててその身体を揺らしながら声を掛ける。

 

だが、しのぶの様に酷い状態になっている者はもう一人居た。

しのぶの義妹で継子のカナヲである。

 

「…………つ。」

 

「ちょっ!? カナヲっ!!」

 

斬られて崩れ落ちた炭治郎を見て、カナヲが失神してしまったのである。

あまりにも強過ぎる負荷がカナヲを襲ったため、その精神が崩壊しない様に肉体が本能的に防御態勢を取ったのだ。

 

白眼を剥いて泣きながら崩れるカナヲだったが、そんなカナヲを隣に居たアオイが受け止めた。

 

「ちょっとっ!? こ……こんな時に一人だけ気絶して逃げたりしないでっ!? お願いだから起きなさいよぉっ! カナヲっ!!」

 

アオイは一刻も早く珠世達に合流して愛する炭治郎の治療に加わりたかったが、しのぶやカナヲの惨状を前にして放置する事が出来なかった。

失神しているカナヲを、アオイは身体を大きく揺らして必死で叩き起こそうとする。

 

「なんで……炭治郎が……風のおっさんに斬られてんの?……おかしいだろ……こんな……っ。」

――そうだっ! 禰豆子ちゃん!!

 

善逸は極度の混乱状態に陥っていた。炭治郎の脈動音はその超人的な聴力によって拾われていたため、その点では安堵していた。

またもう一つの懸念を感じて、急ぎ禰豆子を見た。最愛の実兄たる炭治郎が斬られたのだ。文字通り、本物の鬼になって暴れかねない。

 

「…………」

 

しかし、禰豆子は顔を俯いたまま、動こうとはしなかった。しかし耳に神経を集中すると禰豆子からは不気味な程、音が無かった。

 

――嵐の前の静けさ……的な怖さがあるけど、まだ大人しいだけ良かった……早く、何とかしないと。

 

そう考えていると、間も無く善逸の胸中にある感情が生まれる。

それは怒りだ。グツグツと湧き上がる溶岩の如き憤怒だ。

 

善逸は実弥が許せなかった。治療していただけの珠世に凶刃を振るった事も、尊敬する親友である炭治郎を傷付けた事も。

実弥から悲しい音や後悔の音が耳に入って来るが、今更遅過ぎる。現に炭治郎は実弥のせいで、不条理に苦しんでいるのだから。

 

しかし、善逸より先に、善逸以上に怒りを爆発させる者が居た。

 

「テ……メェ……テメェっ!! 俺の子分に何やってんだごらあ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」

 

伊之助は怒り狂っていた。ただ単純に、炭治郎が傷付けられた。その事実が許せなかったのだ。

 

猪頭の被り物で素顔は見えないが、その表情は怒りと悲しみの二色で彩られていた。

鋸状に刃毀れしている二振りの愛刀を構えて、伊之助は呆然と立ち尽くしている実弥に向かって突撃しようとする。

 

「止めろ伊之助ぇっ!!」

 

「っ!?」

 

しかし、伊之助の試みは実現されずに終わった。善逸が伊之助に抱き着く形で阻止したからだ。

思わぬ妨害を喰らい、水を差された伊之助は善逸に激昂した。

 

「おいテメェっ、善逸っ!? 俺の邪魔をする気かぁ!?」

 

「馬鹿野郎っ! 相手は柱だぞっ!? たとえ俺達が二人掛かりでも返り討ちに遭うのが関の山なんだよっ!」

 

「善逸っ! テメェは炭治郎が斬られたってぇのにっ、大人しくしてろってのかぁっ!?」

 

「お前がそんな事したらそれこそ収拾が着かなくなるだろうがっ!? そんなの炭治郎が望まないぞっ!」

 

「っ!……っっ。」

 

伊之助は名前を態と呼び間違える余裕も無くして激昂する。

伊之助本人は気付かれていない積もりの様だが、伊之助が炭治郎と禰豆子、そして善逸の名前を呼び間違えるのは意図的な愛情表現なのだ。

 

尤も、炭治郎も善逸もそれを理解しているし、態度がバレバレなので周知の事実と化しているのだが。

 

善逸の必死の説得により、伊之助は悔しさを滲ませながらも実弥に斬り掛かるのを諦めた。

 

「炭治郎……っ!」

 

『……っ。』

 

「炭……治郎……っ!」

 

この想定外の事態に、耀哉も流石に動揺を隠し切れなかった。

行冥達は動揺を押さえながらも、状況を見守る事しか出来ない。

柱の中でも義勇の動揺振りは一際大きかった。

 

「炭治郎……っ。」

 

「竈門様……っ!」

 

「皆、落ち着きなさい。慌ててはなりません。」

 

「「「「「っ!」」」」」

 

「……ひなき、にちか、くいな、かなた。貴女達は今直ぐ珠世様の御後ろに控えていなさい。何か仰られたら、御手伝いする様にっ。」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

「母上、私は?」

 

「輝利哉っ。袋に入っている私の()()、渡してくれる?」

 

「はいっ!」

 

耀哉の妻・産屋敷あまねの鶴の一声で、動揺する実子である輝利哉達を落ち着かせた。

落ち着きを取り戻した輝利哉達だが、まずはひなき達、耀哉の娘達が一斉に珠世の背後へ移動した。

 

それを見てから、あまねは輝利哉が持っていた袋を受け取った。

 

「ありがとう……お前もひなき達の下へ行きなさい。」

 

「はいっ!」

 

輝利哉はあまねの指示を受けて、ひなき達と合流した。それを見届けてから、あまねが動き出した。

 

「甘露時様、神崎様。胡蝶様と栗花落様の姿勢を正したまま固定して頂けますか?」

 

「あ……あまね様っ!?」

 

「は、はいっ!」

 

あまねは輝利哉達と離れて、しのぶ達の方へ近付いていた。

蜜璃とアオイに声を掛け、未だ放心状態のしのぶとカナヲを座った状態で固定した。

 

「ほんの少しの間、そのままでお願い致します。」

 

「「っ?」」

 

蜜璃とアオイはあまねが何をしようとしているのか理解しないまま、あまねの指示に従った。

するとあまねが袋を左手に持ち替えると、右手を構えて力一杯込めて振るった。

 

 

 

バシィィィィッッッ!!!!! バシィィィィッッッ!!!!!

 

 

 

『っ!?』

 

あまねは先ずカナヲの頬を引っ叩いた後、続けてしのぶの頬を引っ叩いた。

この光景には全員が双眸を見開いて驚愕した。尤も、炭治郎に珠世と愈史郎、実弥はそれどころではなかったが。

口内を斬り、殴られた頬が赤く腫れる程の強力なビンタを受けて、流石のしのぶとカナヲも意識を取り戻した。

 

二人から涙の痕が残る双眸に僅かだが光が戻ったのをあまねは確認する。

口から一筋の血を流すしのぶを真っ直ぐ見詰めると、あまねはしのぶに怒号を浴びせた。

 

「しっかりなさいませっ! 蟲柱様っ!!」

 

『っ!』

 

驚きながら左頬を押さえ、しのぶは双眸を見開いてあまねを見た。カナヲも同様である。

否、それどころか一部を除いて全員があまねを凝視した。耀哉も驚きのあまり、口を僅かだが開けている程だ。

 

それ程までに、あまねが激情を露にしてする事など滅多に無い出来事なのだ。

しかし、そんな全方位からの視線などあまねは微塵も気にする素振りを見せない。

ただ、しのぶのみを真っ直ぐ見詰めていた。

 

「貴女様の手は、鬼から人々を守る手で御座いましょう!……しかしそれ以上に貴女様の手は、死の淵に立っている方々の怪我を癒し、病を治す手では無いのですか?!」

 

「っ!」

 

其処まで言うと、あまねはしのぶだけに真っ直ぐ向けていた双眸をカナヲにも何度か向け、しのぶとカナヲを交互に何度か見てから続けた。

 

「貴女方は愛する方が苦しんで倒れている時に、こうして何もせずじっとしたまま動かぬ御積もりですか?」

 

「「っ!!」」

 

しのぶとカナヲはハッとした様子で、二人同時に炭治郎を見た。

体感で長い時間が経過したと思われたが、まだ珠世と愈史郎が斬り裂かれた隊服を炭治郎から脱がしたばかりだった。

その炭治郎は未だ、斬られた苦痛に苛まれ呻き声を上げながら苦しそうに呼吸を繰り返していた。

 

「……炭治郎君の治療を始めます! アオイ、カナヲ、甘露寺さん、手伝ってっ!!」

 

「「「っ!……は、はいっ!」」」

 

しのぶは乱暴に涙を拭うと、アオイ達に声を掛けて共に炭治郎の下へ駆け付けた。

その際にしのぶはあまねに目配りをして、一礼した。あまねは返礼として、軽く頷いて見せた。

 

それを見て善逸と伊之助は互いに一度視線を合わすと、伊之助がしのぶに声を掛けた。

 

「おい、しのぶっ! 俺達も何か手伝うぞっ!!」

 

「うん……あっ、そうだっ! 禰豆子ちゃんっ! 禰豆子ちゃんも俺達に……えっ?」

――何っ!? この音っ!?

 

立っていたまま動かなかった無音の禰豆子の存在を思い出して振り向いたが、ある音を聞いて絶句した。

善逸が良く知っている音だ。先刻、自身の胸中でなっていた音なのだから。

 

善逸にも鳴っていた音。それは、グツグツと湧き上がる溶岩の如き憤怒の音だ。

 

「フッ――! フッ――! フッ――!」

 

 

 

ミシ……ミシミシ……ミシッ!

 

 

 

荒い気を繰り返しながら、禰豆子は実弥を睨み付けていたのだ。

口に常に装着している竹製の口枷から、禰豆子の咬合力で軋む音が静かに産屋敷本邸に響き渡る。

 

禰豆子が沈黙していた時、二年前の冬に起きたあの血生臭い元凶の一時を思い出していた。

故郷の雲取山で、無惨に襲われ眼前で母と弟妹達が次々と惨殺されて行くところを。

無力な自身を嘲笑う様が如く、愛する家族が嬲り殺されて行くところを。

 

この世に残された唯一にして最愛の実兄(あに)が血を流す光景が鬼化に選って封印されていた記憶を呼び起こした。

その呼び起こされた、悪夢の如き記憶が禰豆子の身に憤怒と憎悪を宿す。

その苛烈な感情が、禰豆子の肉体に大きく影響する事をこの場に居る全員が思い知る。

 

「フッ――! フッ――! フッ――! フッ――!」

 

 

 

ミシミシ!……ミシミシミシミシ!!……バキッ!!!

 

 

 

『っ!?』

 

 

竹製の口枷が砕け散って畳の上に落ちたのを合図に、禰豆子の身体に急激な変化が起きた。

 

まずその整った禰豆子の容姿端麗な顔に変化が起きていた。

尤も大きな特徴は二つ、その美顔から見て取れた。

一つは額の右側、右眼上に鬼と一目瞭然と分かる程の角が生えていた。

次に反対側、左眼の周囲に浮かんだ黒い罅割れ状の紋様だ。

 

次に変化が表れたのはその年相応の身体である。

 

身長五尺一寸(百五十三cm)と、しのぶより二cmしか違わない小柄な体型だったのだが、今では植物の紋様が描かれたスラリとした手足が伸びていた。

身長が六尺(百八十cm)以上になり、柿の実二個分程度の大きさしか無かった乳房も手足と同様、大きく成長していた。

その大きさはアオイと同等かそれ以上有り、着ている着物を大きく押し退けて今にも零れ落ちそうである。

 

まだ子供としての面影が残っていた美顔から幼さが無くなり、鬼の禍々しさと妖艶さが混じった大人の女性に成長していた。

 

「グルルルルルゥゥッ!!!」

 

しかし、その表情には憤怒と憎悪を宿していた。威嚇の唸り声を上げる姿は猛獣の如き威容だ。

その鋭い鬼特有の双眸を、実弥に向かって真っ直ぐ捉えていた。

 

『……!!』

 

「禰豆子ちゃん?」

 

「ね、禰豆子ちゃん……?」

 

「禰豆公……っ?」

 

蜜璃と善逸は当惑しながら、禰豆子に声を掛けた。善逸は、その妖艶さに頬を赤く染めていたが。

耀哉達も、禰豆子の急激な鬼化に当惑を隠せない。

 

しかし、禰豆子には義勇と炭治郎の師である元水柱・鱗滝左近次に選って暗示を掛けられている。

それは人間を家族と、鬼を怨敵と思い込む暗示だ。

 

禰豆子が人間に危害を加えさせないために左近次が行った保険とも言える苦肉の策だが、暗示自体は禰豆子の意思が大きく割合を占めている。

そうでなければ、禰豆子が鬼である珠世と愈史郎に懐いたりなどしないからだ。

 

その暗示が掛けられている筈の禰豆子だが、人間である実弥に向かって強烈な憤怒と憎悪、そして殺意を抱いて睨み付けていた。

禰豆子の殺気に当てられて、実弥は日輪刀を構えた。

 

その瞬間、誰にとっても最悪の事態が発生する。

 

「なっ!?」

 

最初に反応出来たのは行冥だった。

禰豆子が瞬間移動で実弥の前に移動し、右足を天高く掲げていた。

 

このままだと、禰豆子が力一杯で振り下ろした右足を踵落としの要領で実弥を殺害してしまうだろう。

 

因みに、急激な身体の成長で着物が小さくなったため、右足を高く上げた際に秘部は丸見えになっていた。そんな事を気にする余裕など、誰にも有りはしなかったが。

 

「っ!……逃げろ三下あああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

禰豆子の目的が実弥の殺害だと気付いた愈史郎が、実弥に向かって突撃してそのまま実弥を抱き抱え、二人でその場を離脱した。

 

 

 

ドゴォォォン!!!

 

 

 

次の瞬間、禰豆子の強烈な踵落としが炸裂する。鬼化により脚力が増幅されたその一撃は、実弥が立っていた畳周辺を粉砕し爆撃の如き轟音が産屋敷本邸に鳴り響いた。

 

「不死川さんっ! 禰豆子ちゃんっ! 愈史郎君っ!」

 

轟音の後、蜜璃は煙が立ち籠る中、禰豆子達を心配して大声で名前を叫んだっ。

 

「不死川っ!!」

 

手元に日輪刀が無い事に苛立ちながら、小芭内は実弥を心配して名前を呼ぶ。そして驚きながら、実弥の隣に視線を向けた。

それは天元や義勇、無一郎もだ。行冥は気配だけ察している。

 

愈史郎が実弥を助け出した際に、そのまま実弥を産屋敷本邸から叩き出す様に、実弥を突き飛ばしていたからだ。

勿論、愈史郎が実弥を嫌いだからではない。

 

いや、実弥の事は実際に嫌いだが禰豆子の手に掛かって死なせる訳には絶対に行かなかった。それでは、これまでの炭治郎の苦労が全て水泡に帰してしまう。

そのために、禰豆子が手出し出来ない様に陽光が出ている中庭まで突き飛ばしたのだ。

 

しかし、太陽が天敵なのは鬼である愈史郎も同様である。愈史郎は実弥だけを突き飛ばす筈が、勢い余って自身も中庭へ飛び出してしまった。

鬼が陽光に当たる場所に出たら最期、例外は無い。それは"原初の鬼"たる鬼舞辻無惨も同様の運命を辿る。

 

「っ……ぐわああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『っ!!!』

 

愈史郎は陽光灼けに選り、肌が焼け爛れ始めた。このままだと数秒から数十秒も経たずに衣服だけ残して身体は灰燼に帰すだろう。

 

「っ……ったく! 地味に世話焼かせんじゃねぇよっ!!」

 

愈史郎の窮地に天元が素早く動いた。悪態を突きながらも、愈史郎の服を掴んで日陰になっている産屋敷本邸へ向かって愈史郎を投げ飛ばした。

 

「「ぎゃあぁっ!?」」

 

しかし、鬼殺隊第二位の力自慢である天元の膂力の限りを使って愈史郎を投げ飛ばしたため、弾丸の如く愈史郎は飛んで行き直線上に居た善逸と伊之助に直撃した。

二人は愈史郎を受け止め切れずそのまま一緒に飛んで行き、奥の襖をぶち破って大音を立てながら消えて行った。

 

「し、しのぶ姉さんっ、アオイっ!」

 

「珠世さんっ!……あっ! 愈史郎君っ! 大丈夫っ!?」

 

カナヲと蜜璃はこの想定外の緊急事態に動揺し、珠世達に助けを求める様に名前を呼んだ。

投げ飛ばされた愈史郎は焼けた肌を再生させながら、治療に加わっていた。

しかし、珠世達はそれどころでは無く、蜜璃達に答える余裕など無かった。

 

「しのぶさん、先ずは傷口の洗浄から始めるわっ!」

 

「はいっ! ですが傷口が広過ぎてこの水筒の水ではとても足りません!」

 

「っ!……追加の水は私達が持って来ます! 少しばかりお待ち下さい!」

 

「おい待てっ! 水よりお湯だっ!! それから有りっ丈の清潔な布を持って来い!!」

 

「お湯なんか沸かしている暇なんてありませんよ! とりあえず水を持って来て下さい!!」

 

「はいっ! にちかっ! 私達は水をっ!!」

 

「えぇっ! ひなき姉様っ!!」

 

「でしたら私達は布を持って来ます! かなた、行きましょう!!」

 

「はいっ! くいな姉さんっ!!……あぁ、竈門様っ! どうか御無事でっ!!」

 

「「……」」

 

珠世達は禰豆子の変化にも目もくれず、炭治郎の治療に集中していた。輝利哉達は母・あまねに言われた様に、珠世達の手伝いを率先して行っていた。

 

「炭治郎さんっ、貴方をこんな形で死なせませんからっ!」

 

「お願いっ、炭治郎君……貴方まで私を置いて逝かないでっ……っ!!」

 

「「……っ。」」

 

その状況を見た蜜璃とカナヲは声を掛けるのを止めて、誰の妨害も入らない様に動く事を決めた。

 

あまねは輝利哉達の行動を見守りつつ、耀哉の前に素早く移動すると手に持っていた袋の中身を取り出した。袋を畳に落としてから、それを広げる。

 

それは二つに折り畳まれていた、折り畳み式の特殊な薙刀だった。

あまねは刃に包んでいた袋も外して落とす。そして薙刀を構えると、あまねはそのまま耀哉に話し掛けた。

 

「耀哉様、お下がり下さい。」

 

「あまね……すまない。」

 

「いえ、どうかお気に無さらず。」

 

「いいえ、あまね様もどうか御下がり下さい。」

 

「「っ!!」」

 

耀哉とあまねの前に、行冥が音も立てずに現れた。その羆の如き巨躯をしているにも関わらずだ。

 

「御館様、あまね様。御二方は私の傍を離れませぬ様に。ですが状況次第では直ぐに、この場から御離れ下さいませ。」

 

行冥は、既に土足のまま産屋敷本邸に上がり耀哉とあまねの盾になるべく前に移動して禰豆子を警戒していた。

行冥専用の日輪刀は鬼殺隊一の超重量を誇る特殊な日輪刀であるため、『隠』達が持って来るのを待っていられなかった。そもそも、持って来れる気がしなかった。

 

「ひ、悲鳴嶼さんっ! 俺もっ!」

 

愈史郎に突き飛ばされた実弥は、日輪刀を持って耀哉を守るために行冥の隣へ移動しようとした。

だが、それを許さない者達が居た。

 

「があぁっ!?」

 

「お前は動くな。黙ってろっ。」

 

起き上がろうとした実弥は義勇にそのまま地面に伏せられた状態で拘束されていた。

毛嫌いしている義勇に拘束されている事を理解して、実弥は全身の血管を浮き上がる程に激昂する。

 

「冨岡ァァァァァァ!? 邪魔すんじゃねェェェェェェッ!!!」

 

「……黙れと言っているっ!」

 

「があぁっ!?」

 

抵抗して暴れる実弥に対し、義勇は更に力を込めて拘束力を強めた。

呻き声を一度上げる実弥だったが、再び暴れて義勇の拘束から逃れようとする。

そうしていると、禰豆子を警戒しながら行冥が二人に話し掛けて来た。

 

「冨岡、そのまま不死川を拘束していろ……不死川、お前は陽光(其処)から動くな……()()()()()こんな事態になっていると思っている?」

 

「っ!……はい……すみません。」

 

行冥のドスの効いた低声を聞いて、実弥は漸く大人しくなった。

 

「……ふんっ。」

 

顔を俯かせて沈黙する実弥を見ても、義勇は気を抜かず実弥を拘束していた。

実弥を拘束している内に、義勇はある事に気付いていた。

 

――ああっ、俺は……炭治郎を傷付けられて、怒っているんだな……っ。

 

そう思った義勇は、ふと炭治郎を見る。見てみると、しのぶ達が心配そうに治療していた。

しのぶ達なら任せられると考え、義勇もまた禰豆子に注視する事にした。

 

――禰豆子に()()()()()()()が気になるが……禰豆子なら大丈夫だろう……。

 

そう心配しつつ、義勇は禰豆子を見た。

 

「フッ――! フッ――! フッ――!」

 

陽光へ立てない苛立ちを抱えながら、禰豆子は荒い息遣いで地に着いて拘束されている実弥を睨み付けていた。

しかし、その禰豆子の側頭部にはある物が刺さっていた。それは一本の苦無であった。

禰豆子は側頭部が苦無に刺さり血を流しながら、その場を動こうとしなかった。

 

そんな状態の禰豆子の様子を注視しつつ、日輪刀が運ばれて来るのを待ちながら天元と小芭内が話し合っていた。

 

「おい、宇随っ。あの()は暫く、竈門禰豆子に効くんだろうな?」

 

「地味な疑いかけんな。良く見ろ、あいつはあの場から動いていないだろう?」

 

「確かにそうだが……にしてもあの愈史郎と言う男、咄嗟に良くやったな。」

 

「ああ、その借りは直ぐに俺が派手に返してやったがな。」

 

そう言って天元と小芭内は愈史郎を評価していた。

 

実は禰豆子が実弥を襲った時、愈史郎は天元に投げ付けられていた藤の花の猛毒付きの苦無を禰豆子に投げ付けていたのだ。

 

愈史郎が禰豆子に投げ付けた毒付きの苦無は、禰豆子の側頭部に直撃して動きが鈍らせる事に成功したのである。

その隙に愈史郎が実弥を抱えて離脱したため、救出が間に合ったのだ。

 

しかし、余裕を見せていた天元達だったが、此処で禰豆子に変化が起こる。

 

「ふんっ!」

 

『っ!』

 

禰豆子は忌々しそうに、自身の側頭部に刺さっていた苦無を抜き取ってその場から棄てた。

しかし、天元は余裕の笑みを崩さない。

 

「今更地味に抜いたって遅いぜ。その毒はもう派手にお前の身体ん中に回ってるだろうからなぁっ!」

 

自信満々にそう言って天元は格好つけて見せた。しかし次の瞬間、そのまま固まる事になる。

 

「すうぅぅぅぅ…………がああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『っ!!??』

 

禰豆子は一度深呼吸すると、産屋敷本邸に響き渡る様な雄叫びを上げた。

 

 

 

ドゴォン!!!

 

 

 

『っ!!」

 

雄叫びが終わると、禰豆子は右足を少し上げて大きく踏み込んだ。

すると力を入れ過ぎたせいか、畳を砕いて大きな音が鳴った。

 

「……おい、宇随っ!? 毒はどうしたぁっ!?」

 

「嘘だろ、おい……っ!?」

――何でもう効いてねぇんだよっ!? 俺が自分で調合した、下弦級の鬼すら派手に完封する藤の花の猛毒だぞバカタレェェッ!!!

 

天元と小芭内は、禰豆子が僅か数秒で猛毒を解毒した事実を直ぐには認められなかった。

特に天元がそうだ。

 

天元自らが調合したこの猛毒は、雑魚鬼はおろか十二鬼月の下弦の鬼すらその動きを封じる事が出来る天元の自信作だったからだ。

だからこそ、禰豆子の回復力の速さに双眸を見開いて驚いていた。

 

天元と小芭内の会話や禰豆子の様子、全体の状況を鑑みて行冥は状況を整理していた。

――あの宇随の猛毒を物ともしないとは、それは即ち上弦級の鬼に匹敵する能力や再生力が竈門禰豆子には有るのかもしれぬ……。

 

そう判断し、行冥は禰豆子への警戒度を上げた。

 

「ハァ――ッ! ハァ――ッ!」

 

しかし、禰豆子もまた疲弊していた。急激な身体の成長と解毒で、自身の体力を大きく消耗していたからだ。

通常状態の禰豆子であれば、消耗し切ったなら直ぐに就寝して睡眠を確保するだろう。禰豆子は睡眠で体力を回復し、成長する唯一無二の鬼なのだから。

ところが、禰豆子はそうはしなかった。鬼としての本能が強化された状態の禰豆子が選んだ体力回復のための手段とは何か。

 

それは手短な人間の血肉を喰らう事だと言う、最も鬼らしい手段であった。

 

「がああああっ!!!」

 

『っ!!!』

 

禰豆子は雄叫びを上げながら、耀哉とあまね、そして行冥の三人に襲い掛かった。

 

「御館様っ!」

 

「あまね様っ!」

 

「悲鳴嶼さんっ!」

 

それぞれが三人の名前を呼ぶ中、行冥が産屋敷夫婦を守るべく拳を構えて禰豆子の前に立ちはだかった。

 

――ああっ。()()あの地獄の感触を味遭わなければならないのか……。

 

行冥がそう思ったのも束の間。直ぐに苦悩を押し殺し思考を切り替えて禰豆子に殴りかかろうとした、その瞬間だった。

 

「止めてっ禰豆子ちゃんっ!!」

 

『っ!?』

 

耀哉達を襲い掛かろうとした禰豆子を、背後から羽交い締めにして禰豆子の拘束を試みる者が現れた。

 

「甘露寺っ! 危ないから離れろっ!!」

 

禰豆子を拘束している人物の名を、小芭内が焦燥感を交えた様子で叫んだ。

しかし、蜜璃は小芭内の声に反応出来る余裕など、一欠片も有りはしなかった。

 

「駄目よっ! 絶対に駄目っ!! お願いだから耐えてっ!!!」

 

「がああああああぁぁぁぁぁっ!! があ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

蜜璃が必死で禰豆子を押さえ込む中、禰豆子もまた蜜璃から逃れ様と激しく抵抗していた。

藻掻く様に腕を動かした結果、伸びた鋭い爪が蜜璃を傷付けた。

 

「甘露寺っ!……おのれ竈門禰豆子っ、貴様ぁっ!!」

 

「なに、ごと……ですかっ!?」

 

産屋敷本邸の外に居た『隠』達が、禰豆子の叫声を聞いて漸く駆け付けて来た。

 

「見て分からんのかこの馬鹿者共っ!!」

 

『っ……。』

 

漸く駆け付けて来た『隠』達に小芭内は早速、激昂したまま苛立ちの籠った毒舌をぶつける。

しかし、それも直ぐに収まった。絶句する小芭内が見たのは眼前に居たのは、ボロボロ状態の『隠』達だったからだ。

 

唯一露出している目元から青痣が見える者、隊服がしわくちゃで土塗れの者、中には折れた腕を押さえながらも駆け付けてくれた『隠』も居た。すると天元が補足する様に説明を始めた。

 

「竈門禰豆子の鬼化が派手に進んじまってな、今ド派手に暴れてるんだよ。」

 

『っ!?』

 

『隠』達は驚いて、禰豆子の方を見た。其処には自分達の知らない禰豆子の姿が在った。

 

「ね、禰豆子ちゃん……っ。」

 

「……惚けるなっ! さっさと俺達の日輪刀を持って来いっ!!」

 

「は、はいっ!……あっ! 今、仲間が持って来ましたっ!」

 

「っ!……寄越せっ!!」

 

小芭内に怒鳴られて、『隠』達は急いで下がろうとしたがその後に他の『隠』達が天元達の日輪刀を持って現れた。すると小芭内は、自身の日輪刀を持っていた『隠』に近付き、奪う様に日輪刀を回収した。

 

「甘露寺っ! そいつから離れろっ! 今助けるぞっ!!」

 

小芭内は直ぐに日輪刀を構え、呼吸を使って禰豆子を斬ろうとした。

 

「駄目っ! これ以上っ、禰豆子ちゃんを傷付けないでっ!!」

 

「っ!?」

 

小芭内の言葉に、蜜璃は強く拒絶してより強く禰豆子にしがみ付いた。

この蜜璃の行動に、小芭内は足を止めざるを得ない。

 

「甘露寺っ……頼むから離れてくれっ! 今更手遅れだっ。竈門禰豆子は既に不死川を襲っているんだぞっ!」

 

「っ!」

 

小芭内は蜜璃を禰豆子から引き離すべく、説得を始める。

 

しかし、この一言が蜜璃を激昂させた。

 

「巫山戯ないでよっ!!??」

 

『っ!』

 

小芭内に反論するために吐いた、蜜璃の憤怒に満ちた絶叫に小芭内ばかりかその場に居た多くの者達が双眸を見開かせて驚いた。

温和で怒る場面など殆ど見せない蜜璃の姿に、全員が驚きを隠せなかった。

 

「禰豆子ちゃんはっ!……禰豆子ちゃんは眼の前で炭治郎君を傷付けられたんだよっ!! たった一人のお兄さんを……家族を傷付けられて、怒らない訳無いじゃないっ!!」

 

『っ!!』

 

「私、許さないからっ!……禰豆子ちゃんをこれ以上傷付けるなら、誰だろうと許さないから!!……絶対に許さないからっ!!!」

 

『……っ!』

 

「……っ。」

 

大暴れする禰豆子を押さえ、傷付き泣きながら反論する蜜璃を見て、小芭内は沈黙して立ち尽くした。

小芭内は、蜜璃の言葉の意味が理解()()()()()()からだ。そんな自分に愕然としていた。

 

「があ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁっっ!! があ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

しかし、そんな蜜璃の頑張りなど知るものかとばかりに、禰豆子は手足を振り回して暴れ続けた。

蜜璃の膂力は成人男性約十人分に匹敵すると言うのに、それでも禰豆子を押さえ切れなかった。

 

「……っ?」

 

姿勢を変えて禰豆子は四つん這いになって大人しくなった。漸く大人しくなってくれたのかと、蜜璃は安心したのも束の間。

禰豆子が四肢に力を籠めると、そのまま跳び上がった。

 

 

 

ドキャッ!!!

 

 

 

「があっ!?」

 

『っ!!』

 

禰豆子が跳び上がって天井に蜜璃を叩き付けた。蜜璃は背中から天井に叩き付けられた衝撃で、白眼を剥く程の激痛が背中に走った。

 

 

 

ミシミシミシミシ!!!

 

 

 

「あぐうぅっ!?」

 

天井と蜜璃の背中が軋む音が鳴り響く中、天井は衝撃に耐えきれず破れる様な事は無かった。

そしてその様な衝撃を受けても、蜜璃は決して禰豆子を離さなかった。

 

この時、炭治郎が禰豆子に送った貝殻の髪飾りが外れて、畳の上に落ちた。

 

衝撃が収まると、禰豆子と蜜璃は重力に従って落下して行く。

しかし、畳に衝突する寸前に禰豆子がクルリと身体を回すと蜜璃が背中から畳に叩き付けられた。

 

「あがぁっ!?」

 

「甘露寺……っ!」

 

再び背中から今度は畳に叩き付けられた衝撃で、同様に白眼を剥く程の激痛が背中に走った。この時に貝殻の髪飾りは砕けて壊れた。この時に蜜璃は一瞬、禰豆子を離してしまう。

 

その隙をついて禰豆子は体勢を立て直したが、今度は禰豆子の腰に抱き着く様に飛び付いて抱き締めた。今度こそ、それこそ死んでも禰豆子を離さないと自分自身に誓って。

 

「御願い禰豆子ちゃん……もう止めてぇ……。」

 

「っ!……がぅあ"あ"あ"ぁぁぁっ!!」

 

「がぅあ"あ"あ"ぁぁぁっ!!」

 

『っ!!』

 

しつこい程にしがみ付く蜜璃に禰豆子は苛立ちを隠さず、今度は立ち上がって叫びながら右手で自身の腰にしがみつく蜜璃の頭を掴もうとする。このままだと禰豆子の長く鋭利な爪が、蜜璃の頭に喰い込んでしまう。

 

「甘露寺ぃっ!!」

 

しかし、そうはならなかった。小芭内が蜜璃を心配して叫ぶ中、四人の影が禰豆子に向かって飛び込んで来た。

カナヲを筆頭に、炭治郎の治療から離脱したアオイ、そして天元に吹き飛ばされて戻って来た善逸、伊之助の四人だ。未だ暴れる禰豆子を見かねて、アオイ達も蜜璃の加勢に来たのだ。

 

「禰豆子さんっ! もう止めて下さいっ!!」

 

「お願い禰豆子ちゃん、落ち着いてっ!」

 

「頼むから止めてくれっ! 禰豆子ちゃんっ!!」

 

「止めろぉ! ガーガー言うなぁっ! これ以上蜜璃に怪我とかさせんじゃねぇっ!!」

 

「っ!……皆っ!!」

 

アオイ達四人はそれぞれ、禰豆子の四肢をしがみつく様に押さえ始めた。

しかし、それでも禰豆子の暴走は収まらない。

 

 

 

「ううぅぅ~~……っ!!」

 

 

 

 

だが、思わぬ人物が禰豆子の前に現れた。

 

 

 

 

『これ以上の暴走は許しません。今直ぐ鬼化を解きなさい。』

 

「っ!?」

 

禰豆子の前に現れたのは、しのぶの最愛の実姉であり元花柱・胡蝶カナエだった。カナエが禰豆子の眼前に現れた事で、禰豆子は驚愕するあまり動きを止めた。

 

「っ?……禰豆子ちゃん?」

――やっと……落ち着いてくれたの?

 

蜜璃は動きが止まった禰豆子を見て、漸く安堵の息をした。しかし、油断はしていない様でまだ身体から離れなかったが。

それはアオイ達も同様であった。

 

「ううぅぅぅっ!! ううううぅぅぅぅぅっ!!!」

 

「っ!……禰豆子ちゃんっ!」

 

唸り声を上げて、視線で射殺さんばかりに睨み付ける禰豆子が居た。しかし、睨み付けている前方の先には誰も、何も居なかった。

 

――禰豆子ちゃんはどうしたんだ? 誰かが見えているみたいだ。

 

善逸は禰豆子の行動に、疑問を感じながらも暴走が止まってくれている事に感謝していた。

 

『炭治郎君が傷付けられたから? 苦しんでいるから?』

 

『関係有りません。鬼の貴女は何時如何なる状況になろうと陥りようと、人間(ひと)を手に掛ける事も、反撃する事も、傷付ける事も、況してや殺す事など許されないのだと自覚しなさい。竈門禰豆子。』

 

「っ!」

 

禰豆子以外に見えないカナエは周囲に一切関心を持たず、真っ直ぐ禰豆子を見詰めて説教をしていた。

 

「ううぅぅっ……っ!」

 

カナエの厳しい説教に、禰豆子は再び唸り声を上げる。

しかし、その言葉は正しいのだと理解しているのか、悔しそうに、苦しそうに顔を俯かせた。

 

するとカナエが双眸を潤わせながら、禰豆子に近付いて行く。

そしてしゃがんで互いの額をくっつけた。その瞬間、カナエの双眸から涙が溢れて流れ落ちて行く。

 

『愛する人を傷付けられて苦しい、悲しいと思う気持ちは痛い程、理解している積もりよ。でもどうか堪えて。』

 

『貴女のためにも、炭治郎君のためにも、此処は耐えて。』

 

『貴女なら絶対大丈夫。きっと出来る。』

 

『頑張って、禰豆子ちゃん。』

 

「っ!!!」

 

カナエの激励に、禰豆子は双眸を見開かせてそのまま動かなくなった。

 

「……落ち着いたの……?」

 

「ね、禰豆公?」

 

カナヲと伊之助がそう呟くも、警戒を緩めなかった。もし再び暴走すれば、取り押さえられないからだ。

 

「んなっ!?」

 

「嘘……たっ……っ!!」

 

「おいっ!? 無理をするなっ!!」

 

『っ!?』

 

すると蜜璃達の背後から、珠世としのぶ、そして陽光灼けから回復した愈史郎の驚く声が聞こえて来た。周囲の空気もどよめいている。蜜璃達は気になって振り向きたかったが、禰豆子に全神経を集中させている今、その様な余裕は皆無だった。

しかし、次の瞬間。否が応でも反応せざるを得ない声が、蜜璃達の耳に入って来た。

 

「禰豆子。」

 

『っ!?』

 

禰豆子を優しく呼ぶ声を聞いて、禰豆子達は一斉に声のした方向へ首を動かした。

 

其処には、上半身裸で逆袈裟斬りで受けた裂傷から血を流す炭治郎が立っていた。裂傷の大きさの割には出血量が極少量なのは簡易的な縫合が施され、更に呼吸で出血を抑えているからであろう。

しかし、それも止血とまでは行かず血が流れている事に変わりない。出血による身体の異変は避けられない。

 

その証拠に額を始め、全身からは脂汗が滲み出ており、裂傷が激しく痛むのか、呼吸も荒々しいものだった。

炭治郎は笑顔で取り繕っているが、痩我慢なのは火を見るより明らかであった。

 

「皆、禰豆子を離してやってくれないか?」

 

『っ!?』

 

炭治郎の提案に、周囲はギョッと双眸を見開かせた。

 

只でさえ暴走状態と手に負えないのに、炭治郎は流血している。

そんな状況で禰豆子を解き放つなど、飢えた猛獣の前に血の滴る新鮮な肉を置くも同然の危険行為だ。

 

当然、炭治郎の提案に反発する者が出た。

 

「そんな真似、認められる訳が無いでしょう!?」

 

「炭治郎さん、私も反対よっ。それより貴方は治療に専念して頂戴っ。」

 

しのぶと珠世が真っ先に炭治郎の提案に反対した。しかし、炭治郎は穏やかな笑顔で珠世達を宥めた。

 

「禰豆子をこのままにしておく方が問題です。俺なら大丈夫ですよ。直ぐに終わらせますから、ね?」

 

「「……」」

 

炭治郎の言葉に反論したかったしのぶと珠世であったが、炭治郎の言う事にも一理在ったため、黙り込んだ。

すると、しのぶが炭治郎に睨み付けながら断言した。

 

「禰豆子さんが再び暴走したら、力付くで取り押さえます! 良いですねっ!!」

 

「……ありがとうございます。しのぶさん。」

 

『……』

 

炭治郎はしのぶに礼を言うと、周囲の心配を余所に禰豆子に接近する。そして禰豆子を拘束している蜜璃達に、炭治郎は目線で解放を促した。

 

『……』

 

咄嗟に拒絶しようとした蜜璃達であったが、互いに視線を交わすと禰豆子から手を離して拘束を解除した。

 

「あああぁぁぁぁっ!!」

 

『っ!?』

 

禰豆子が叫びながら炭治郎に接近したため、全員に緊張が走る。しかし、それも間も無く杞憂に終わった。

何故なら禰豆子が炭治郎の眼前まで進むと、炭治郎に促されるまでも無く自らの意思で立ち止まったからだ。

 

「ああぁぁぁっ……ああああぁぁぁぁっ!!」

 

「っ!」

 

禰豆子は膝を畳に付けて座り込んだ。双眸を潤ませながら、炭治郎を見詰め続ける。炭治郎は禰豆子から悲しい匂いを嗅ぎ取った。

 

「ごめんなぁ、禰豆子……お前に心配掛けて、不安にさせて、駄目な兄ちゃんでごめんな?」

 

「っ!……あうぅぅっ!……ううぅぅぅっ!!」

 

「うんうんっ、分かってるよ。禰豆子は優しいからな。こんな頼りない兄ちゃんだけど……絶対にお前を一人、先に置いて逝ったりしないから……だからもう安心しておくれよ、禰豆子。」

 

炭治郎はそう言うと、右手に引き摺っていた少し血に塗れた市松模様の羽織を禰豆子に覆い、頭を優しく撫でて上げた。

 

「っ!!……うわあああぁぁぁぁん!!! ああああああぁぁぁぁぁんっ!!!」

 

『っ!』

 

禰豆子が炭治郎に撫でられた途端に、禰豆子の双眸に溜まっていた涙が溢れ出した。泣き始めて間も無く、禰豆子は腹を空かせた乳飲み子の如く号泣して泣き叫んだ。

 

「よしよーし。我慢しないでいっぱい泣けよ、禰豆子。全部、俺が受け止めてやるからな。」

 

炭治郎はそう言ってから、休む事無く禰豆子の頭を撫で続けた。

すると間も無くして禰豆子の身体は小さくなって行き、静かに眠りについて完全に大人しくなった。

 

 

 

 

 

 

「すぅ……すぅ……すぅ……っ。」

 

「ね、寝た?……っ。」

 

「や、やっと落ち着いてくれたぁ……っ。」

 

目尻に涙が残っていたが、泣き止んだ禰豆子が通常形態に戻ったのを見て、皆が安堵の息を吐いた。

 

「……(カクッ)」

 

「っ!……炭治郎君っ!!」

 

安堵したせいか、気を張り詰めていた炭治郎が膝から崩れ掛けた。それを見て蜜璃は咄嗟に炭治郎を支える。

 

「炭治郎君っ!」

 

「炭治郎さんっ!」

 

「炭治郎っ!」

 

倒れ掛けた炭治郎を見て、しのぶと珠世、そして愈史郎が炭治郎の下へ駆け付けた。

炭治郎は駆け付けた珠世を見て、自身から声を掛けた。

 

「甘露寺さん、ありがとうございます……それから珠世さんにしのぶさん……愈史郎さんも、勝手に動いてすみません。」

 

「……もう良いですから、早く安静にして下さい。」

 

「しのぶさんの言う通りよ。炭治郎さん。」

 

「怪我人の分際で、無茶をし過ぎだ!」

 

「……」

 

三人の最もな指摘に、炭治郎は沈黙する。しかし、炭治郎は耀哉に向かって膝を着いて嘆願した。

 

「御館様、御無理を承知でお願い申し上げます。俺を最後まで柱合会議に参加させて貰えないでしょうか?」

 

『っ!?』

 

炭治郎の嘆願に、しのぶを中心に驚愕する。直ぐに怒号に近い反論が飛んで来るかと思われたが、耀哉が人差し指を口に当てて「静かに」の身振り(ジェスチャー)だけでその場を鎮めて見せた。

耀哉は周囲が静かになったのを見計らって、困った様子で炭治郎に答えた。

 

「……炭治郎の傷は決して浅くない様に見えるけど、珠世さん。どうなのかな?」

 

「っ!……はい、臓腑まで刃が届かなかったのは不幸中の幸いですが……決して浅いとは言えません。縫合も簡単なものでしか無く、あまり動き過ぎると再び傷口が開く恐れが在ります。」

 

「ふむっ……炭治郎、珠世さんはこう言ってるけれど?」

 

耀哉は内心、大いに迷っていた。耀哉としては、当事者の一人である炭治郎をこの緊急柱合会議から外すのは断腸の思いだ。

 

実妹の禰豆子が鬼であるためか、些か鬼側贔屓と言えるが鬼殺隊の理念や本質を忘れる程では無い。寧ろ、鬼への憎悪で思考が凝り固まっている行冥達を合わせると丁度良いくらいだ。

またその温和で優しさと善意に満ちた人格は、間違い無くこの柱合会議を良い方向に導いてくれると確信している。

 

しかし、今の炭治郎は怪我人である。それも決して軽傷とは言えない。

珠世の診察結果を聞かされては外すのもやむを得無い。無理をさせるなど以ての外であった。

 

実はこの時、誰もが炭治郎の身に起きていた幾つもの幸運に気付いて居なかった。

 

その幸運とは、炭治郎が実弥に()()の日輪刀で斬られた事だ。もしもこれが普段愛用している長刀の日輪刀か散弾銃(ショットガン)ならば、炭治郎の命は既に無かった。

 

散弾銃(ショットガン)で撃たれていたら最悪の場合、炭治郎の遺体は原型を留めていなかった。

もしも長刀で斬られていたら、その刀身は炭治郎の背中まで斬り裂いて文字通り真っ二つとなり臓腑と血を産屋敷本邸に撒き散らしていただろう。

 

そして何より、実弥は十四歳から鬼殺隊に入隊し、七年間で他の柱達の中でも数少ない一千体を超える鬼狩りの達成者だ。

 

寝ながらでも鬼の頸を斬れると豪語している実弥だが、今回は咄嗟に振り払う様に日輪刀を振るったため、炭治郎は首を斬られずに済んだのだ。でなければ如何に刀身が短い脇差と言えど、首を斬られていたら只の人間でしかない炭治郎は即死する他に道など存在しない。

 

それらの事実と幸運に気付いていない炭治郎は、毅然と自身の望みを輝哉に伝えていた。

 

「はい、それは承知の上です。でも俺、最後までこの柱合会議に残りたいんです。お願いします。」

 

「……」

 

炭治郎の言葉に、耀哉は言葉を詰まらせる。しかし、次の瞬間に怒号が飛んだ。

 

「駄目ですっ! これ以上の我儘は許しませんっ!」

 

「しのぶ様の仰る通りです、炭治郎さん。もう安静にされて下さい……っ!」

 

「炭治郎、お願いっ。もうこれ以上無茶はしないでっ!!」

 

しのぶ、アオイ、カナヲの順番に、炭治郎を諌める言葉が続いた。その他の者達は何も言わず沈黙していたが、同様な思いをしている事がその双眸から見て取れた。

しかし、一度決めたら頑なになりがちな炭治郎である。この状況に置いてもそれは変わらなかった。炭治郎は黙ったまま首を横に振った。炭治郎の態度に苛立ったしのぶが、珠世と愈史郎にも声を掛けた。

 

「珠世さんっ! 愈史郎さんからも炭治郎君に言ってやって下さいっ!!」

 

「お、おう……炭治郎。こいつらの言う通り、お前は安静にするべきだと思うぞ。」

 

「分かってますよ……でも其処は曲げてお願いします。」

 

「……どうして、貴方は其処までするの?」

 

あまりに強情な炭治郎に、珠世は思わず質問した。炭治郎は一度瞼を閉じて閉眼すると、再び双眸を見開いて珠世を真っ直ぐ見詰めた。

 

「珠世さんと愈史郎さんは、俺を信頼して鬼殺隊(此処)に足を運んで下さいました。なら俺はその信頼に答えて誠意を見せなければなりません。いざと言う時はこの身を盾にしてでも守ると誓った……それだけですよ。」

 

「……だから、珠世様を守ったのか?」

 

「……でも炭治郎さん。私達は日輪刀で頸を斬られない限り……。」

 

「分かってます。それでも痛みが無い訳じゃない、傷付かない訳じゃない……。」

 

『っ!』

 

炭治郎はそう言うと、「いや、違うな……。」と苦笑して一度首を左右に横へ振った後にこう答えた。

 

「そう言った諸々の理由もありましたけど、本当はもっと単純な理由で……正直に言うと、俺はただ……ただ、珠世さんにも……愈史郎さんにも傷付いて欲しくなかっただけなんです。ごめんなさい……迷惑を掛けて……。」

 

『っ!』

 

恥ずかしそうに笑って炭治郎がそう言ったが、珠世と愈史郎は双眸を潤ませて胸が打たれた様子を見せた。

 

しかし、その言葉に反発して怒る者も居た。

 

「それで貴方が傷付いたら、元も子も無いじゃないっ!!」

 

『っ!?』

 

炭治郎の言葉に、しのぶが顔を真っ赤に染める程に激昂して怒鳴り付けた。

しのぶは拳を震わせて炭治郎を睨み付けた。しかし、次に想定外の行動をしのぶが取る。

 

「うぅぅっ……いっくっ……ひっくっ……ううぅっ……っ。」

 

『!?!?!?』

 

しのぶが炭治郎の治療で真っ赤に染めた袖で溢れる涙を拭きながら、嗚咽を漏らす。

人前にも関わらず、幼子の様に泣きじゃくり始めたので周囲が騒然となる。中には絶句して固まっている者が何人も居た。

 

「ひっくっ……ばかぁ……たんじろうくんの……ばかぁっ……えっくっ……うぅっ……。」

 

「し、しのぶさんっ……泣き止んで?……俺が悪かった……悪かったですからっ!……。」

 

炭治郎はしのぶを抱き締めたかったが、血塗れの自分がそんな事をすればしのぶの隊服も自身の血で汚してしまうのを恐れて出来なかった。

そのため炭治郎は右手でしのぶの頭を撫でながら、左手で涙を拭って必死にしのぶを宥め始めた。

 

『……』

 

耀哉達は黙ったまま、炭治郎としのぶの様子を見守る。具体的には、何も出来なかったからなのだが。未だに固まって戻らない者もいた。

 

「「……っっ。」」

 

勿論、アオイもカナヲも例外では無かった。姉分のしのぶの思わぬ様子に絶句したが、時間が経つにつれて嫉妬で苛立ち始めた。

しかし、二人が行動に移る前に愈史郎が炭治郎にある提案をした。

 

「分かったよ、炭治郎……なら珠世様の新薬を投与して、その後をお前の様子次第で決める、と言うのはどうだ?」

 

「珠世さんの新薬?」

 

炭治郎が復唱してそう言うと、視線を珠世に移した。しのぶも愈史郎の提案が気になったのか、泣き止んで様子を窺っていた。

しかし、当の本人である珠世は動揺していた。

 

「愈史郎っ!? あの薬は……っ!」

 

「しかし、珠世様。このままでは埒が空きませんよ? それから炭治郎は未だ出血が続いている事を忘れないで下さい。」

 

『っ!』

 

愈史郎の指摘で、全員がその事実を思い出した。確かに悪戯に時間が過ぎれば、炭治郎が危ないのは確かだ。

 

「……致し方ありませんね。」

 

珠世は仕方無く医療鞄から注射器を取り出して、更に瓶を一本取り出して中身の液体を注射器に入れ始めた。

空の注射器の中身が、血の如く赤い液体で満杯になる。

 

「……その薬、大丈夫なんでしょうね?」

 

「心配無用だ。珠世様が人体に危険を及ぼす薬を作るものか!……まぁ劇薬なのは間違いないが。」

 

「劇薬っ!?」

 

愈史郎の呟きにアオイが強く反応した。しのぶも同様である。

カナヲに至っては鋭く愈史郎を睨み付けて、刀に手を掛けていた。

そんなしのぶ達の様子に、珠世が声を掛けた。

 

「投薬しても炭治郎さんの命を奪う様な結果にはなりません。それだけは医者の矜持に掛けて誓います。」

 

「……っ。」

 

自身より格上の医学者である珠世の言葉に、しのぶは反論する言葉が思い浮かばなかった。

 

「では、炭治郎さん。今から始めますが、よろしいかしら?」

 

「はい、珠世さん。何時でも大丈夫です。」

 

「……炭治郎、横になって安静にしろ。」

 

「分かりました。」

 

炭治郎は愈史郎に言われた様に、仰向けになって横になった。

それから珠世と視線を交えると、炭治郎の右側に回り込んだ。一方の珠世は注射器を持って炭治郎に近付いて行く。

しかし、その前に珠世は何故か注射器を愈史郎に渡してしまう。

 

「珠世さん?」

 

「炭治郎さん。始める前に、この簡易縫合を解く必要があります。止血に使う呼吸を強めて下さい。」

 

「っ!……分かりました。」

 

『……』

 

珠世の言葉にしのぶ達は何か言いたげだったが、珠世を信じて沈黙を貫いた。

 

「では……始めますっ!」

 

珠世は宣言すると同時に、素早く縫合を解き始めた。それと同時に出血量が徐々に増して行く。

しかし、珠世が神業とも言える速さで全ての縫合を取り除くと同時に、愈史郎が右手に注射器を差し込んだ。

 

『っ!!……っ?』

 

全員で見守る中、赤い液体が炭治郎の体内に入って行く。

 

「……っああぁっ……くぅっ……。」

 

「薬が効き始めた様です、珠世様。」

 

「そうみたいね。」

 

投薬されてから三分程が経過し、炭治郎が熱に魘され汗を掻き始めたのを見て、珠世と愈史郎は安心した様子を見せた。

 

「愈史郎君……炭治郎君に何の薬を打ち込んだの?」

 

熱に魘される炭治郎を見て、蜜璃が堪らず不安そうに愈史郎に尋ねた。蜜璃の質問に対し、愈史郎の代わりに珠世が答えた。

 

「私達は人間の血肉を喰らわず、少量の血だけで餓えを凌げます。しかしその分、鬼としての再生能力は比較的低いのです……その劣位性をどうにかするため、私は再生力を高める鬼専用の回復薬を作りました。この薬は、人間用に転化した回復薬なのです。」

 

『っ!』

 

薬の薬効を聞いて驚く輝哉達を余所に、今度は愈史郎が補足するために珠世に変わって解説を始めた。

 

「どんな生物にも、傷を癒やすための自然治癒力と言うものを持っている。この薬は投薬対象者の体力と引き換えに、代謝を促進させてその自然治癒力を高める薬なんだよ。」

 

『っ!?』

 

薬の具体的な薬効を聞いて、その様な薬が作れるのかと誰もが驚愕した。

愈史郎が如何に素晴らしい薬かの如く補足説明したが、珠世は少し困った様子で補足が足りない部分の説明を始めた。

 

「と言っても過度な効能は期待しないで下さい。

潰れた眼や失われた手足、欠けた身体の部位が元通りに戻る訳ではありません。ただ、傷口を塞ぐだけです。

骨を骨折させた場合も正しく固定してから投与しないと、正常に戻らない場合もあります。

それに体力と引き換えに効能が発揮されるので、対象者が重傷過ぎると却ってこの回復薬は使用出来ません。

下手すると良くて寿命を縮めるか、最悪その場で命を落としてしまいますからっ。」

 

『っ!』

 

珠世の説明で、全員が珠世が先刻言っていた"劇薬"の意味を理解した。確かに使いどころを見極める事が出来れば大勢の命を救えるであろうが、判断を間違えると救える命も救えなくなってしまう。

 

去年起きた、鬼舞辻無惨から竈門兄妹へ送り込まれて来た刺客である朱紗丸と矢琶羽の襲撃時に、珠世が禰豆子に使用した回復薬。

これは珠世が炭治郎のために少しでも役に立てればと思って人間用に作り変えた新薬だ。

まさか臨床実験を除いて、最初に使う事になる患者が炭治郎とは、珠世も予想外の出来事では在ったが。

 

「炭治郎にそんな劇薬(くすり)、投与して大丈夫なの?」

 

「炭治郎さんはあの傷のままで自力で立って歩き、会話が可能な程に丈夫な人です。投薬しても問題無いと判断しました。」

 

カナヲの心配する声に対し、珠世は医者としてその様に断言した。しかし、炭治郎に投薬してから十分程の時間が経過しようとした時、事態が急変する。

 

「あがぁっ!? があぁぁっ!?」

 

『っ!?!?』

 

炭治郎が唐突に苦しみ出した。白眼を剥いて身体中の血管を浮かび上がらせ、身体を跳ねさせ暴れ出した。

 

『炭治郎っ!?(君っ!?/さんっ!?)』

 

しかし、珠世と愈史郎に選って身体を取り押さえられているため、禰豆子の様に暴れ回る様な事は無かった。

咄嗟に力を込めて取り押さえた珠世と愈史郎だったが、その顔には困惑の色が見て取れた。

 

「炭治郎さんっ!? 一体どうしたのっ!?」

 

「炭治郎っ!? おい、大丈夫かっ!?」

 

「がああああああぁぁぁぁぁっ!! あぐぅあああああああぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 

珠世達は炭治郎の名前を呼んだが、炭治郎は反応する余裕も無く七転八倒して苦しみに耐えていた。

そんな炭治郎を見て、珠世と愈史郎は慌てた様子で更に力を込めて炭治郎の身柄を拘束した。

 

「ちょっとっ!? 本当に炭治郎さんは大丈夫なんでしょうね!?」

 

「五月蠅い黙れっ! 引っ込んでろっ!!」

 

「っ!?」

 

アオイが責める様に愈史郎に問い詰めたが、愈史郎がアオイを黙らせる。

暴れまくる炭治郎を押さえるのに必死だったからだ。

 

「うぐぅあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!?……ああああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!?」

 

「くっ! た、珠世様っ!?」

 

「これは……想定外だわ……っ!」

 

『……っ!?』

 

珠世と愈史郎が焦燥感を抱きながら炭治郎を押さえて続けていた。

炭治郎が叫び続ける中、動揺が広がり始めた。

 

「くっ……珠世さんっ! 鎮静剤有りますっ!?」

 

「くぅっ……鞄の中にっ!!」

 

しのぶは珠世に鎮静剤の在り処を聞き出すと、急いで鞄の中を漁り始める。鎮静剤と書かれた瓶を見つけ、空の注射器に急いで満タンになるまで注入する。

 

「しっかり炭治郎君を押さえてて下さいっ!」

 

しかし、しのぶが炭治郎に鎮静剤を打ち込もうとしたその時、炭治郎の容態は急変する。

 

「ああああぁぁぁぁぁっ!……っ!!」

 

『っ!?』

 

炭治郎は叫ぶのを唐突に止めた。しかし、荒々しく呼吸を繰り返していた。

そして全身の水分が抜ける勢いで汗を掻く炭治郎の身体に、急激な変化が起きた。

 

 

 

シュウウウウウゥゥゥゥゥゥッ!!!

 

 

 

炭治郎の傷口から蒸気が上がり鬼の再生力を見るが如く、瞬く間に炭治郎の裂傷が回復されて行く。

とは言え、斬られて出来た裂傷痕はくっきりと残されていた。

 

『っ!?!?!?』

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っ!!!」

 

荒々しく息継ぎを繰り返す炭治郎を余所に、周囲は騒然としていた。人間が鬼の如き再生力を見せれば、動揺するのは致し方無い状況ではあるのだが。

 

しかし、此処で先ずは耀哉が全員を落ち着かせるために声を上げる。

 

「皆、落ち着きなさい……輝利哉、かなた、炭治郎にゆっくりと水を飲ませておやり。」

 

「はい、直ちに。」

 

「は、はいっ!」

 

実父の輝哉に言われて輝利哉が炭治郎の身体を起こすと、かなたが水の入った湯呑み茶碗をゆっくりと炭治郎の口へ運んで行った。

 

ゴクゴクとゆっくりと確実に、水を飲み干して行く炭治郎。それを後四回程繰り返してから、漸く呼吸が安定し始めた。

 

「禰豆子が炭治郎の悲鳴を聞いて飛び起きなくて良かったよ。それにしても珠世さんの薬は凄いね……誰に投与してもこうなるのかな?」

 

耀哉は珠世の焦燥振りを見てそれは無いなと内心では思いつつも、僅かに抱いた疑問を珠世に振って見る。

耀哉の質問に対し、珠世の代わりに愈史郎が何かを思い出しながら答えた。

 

「いや、四ヶ月間の月日を使い、六十四人もの怪我人に報酬を支払って臨床実験を兼ねた治療を行った結果……全治二週間までの怪我なら一日で完治する程度の結果しか出てないぞ。」

 

『っ!!!』

 

愈史郎の言葉に、驚愕しない者は皆無だった。二週間掛かって完治する怪我が一日で治るなど、先ず有り得ないからだ。感嘆する耀哉達を見て、珠世は慌てた様子で開口した。

 

「お待ち下さい。愈史郎っ、その言い方では齟齬を生じます。正確には一日で傷が癒え、もう一日使って体力を回復させないといけません。

ですので、"完治"と言う意味では二日は見なくては駄目です。それに薬効には個人差がありますから、その点は御留意下さい。」

 

珠世が行った補足説明に、全員が耳を静かに傾ける。しかし、それを耳にしても更に感嘆する他無かった。いずれにせよ、この新薬が在れば、隊士の現場復帰が劇的に早くなるのは間違い無いからだ。

 

「あの傷は全治二週間程度で完治する様な簡単な傷じゃなかった……つまり、炭治郎のこの回復力は尋常じゃない。特別なものなのだと、そう言う訳だね?」

 

「はい、耀哉さんの仰る通りです。」

 

耀哉の指摘に、珠世は大いに頷いて見せた。そうしていると、愈史郎が横から話に加わる。

 

「珠世様。この"疲労・体力回復薬"を併用すれば、一日巻けますよ?」

 

「……確かにそうだけど、薬漬けは極力避けるべきだと思うわ。」

 

「ですが、やはりこの先の会議には炭治郎が居てくれた方が俺達のため、ひいては全員のためにもなります。飲むよな? 炭治郎っ。」

 

「そうですね……珠世さんが許可してくれると嬉しいです。」

 

「……分かったわ。許可します。」

 

「ありがとう……ございますっ……珠世さん……っっ。」

 

珠世の許可が得られたため、愈史郎は早速、"疲労・体力回復薬"を炭治郎に飲ませた。

 

この薬についても輝哉から説明を求められたので、避妊薬や精力増強剤に関してはその他で十把一絡げに説明してその場を誤魔化したのだった。

 

無論、耀哉達は再び珠世の作った薬に深く感嘆したと言うのは言うまでも無く、利益は珠世に還元されるがこれらの薬は産屋敷家が一手買取して販売する事が決定したのだった。




お待たせしました。

これで緊急柱合会議編前半戦終了です。

回復薬は作中でも言っていますが、刺客襲来編の回復薬を参考に作りました。これは勿論、炭治郎君の回復・復帰を原作より早くするためです。療養中の話も勿論書きたいですが、あまりネタが思い浮かばないもので。

禰豆子の身体については原作より盛ってますが、しのぶ達への対抗心でこうなったと思って下さい。

それから治療シーンですが、裂傷の処置って作中の表現であってますかね? 医療に詳しい方、良ければご助言下さいませんか?

今回の更新は早く出来ましたが、次回の更新はその分遅くなります。今月中とは断言しますが……取り敢えず頑張って更新します。

お詫びと言っては何ですが、第伍話の一人称(しのぶ視点)を三人称視点に総書き換えした上で三千字以上程加筆しました。
それで暫くお楽しみ下さい。変更前からこの話には一部伏線を貼っているのですが、漸く回収出来そうです。

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バハザ様
pixivユーザー
https://www.pixiv.net/users/39922350

もっと炭治郎としのぶさんを関わらせてみた シリーズ
https://www.pixiv.net/novel/series/1355288
しのぶさんが原作よりもっと炭治郎君と関わっている原作改変シリーズ。
拙作が一部参考にされているそうで、光栄な話です。今後の展開に期待。


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第参拾壱話 美蝶は日輪への愛と覚悟を表明す

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・産屋敷邸

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時間帯:朝

天気:晴れ

 

「炭四郎、もう大丈夫か?」

 

「うん、もう一人でも立てるよ。伊之助。」

 

何時も通り態と呼び間違える伊之助の心配に、炭治郎は困った様子で答えた。

現在の炭治郎は、隊服を斬られてしまったので今は耀哉の少年時代の古着を貸与して貰っている。

 

「……だって?……カナヲちゃんは炭治郎から離れた方が問題無いんじゃないの?」

 

善逸が嫉妬心を抱きながらそう尋ねたのは、炭治郎にべったりと引っ付いている一人の女性であった。

炭治郎の恋人の一人であるカナヲだ。あまねにきつく引っ張たかれて赤く腫れていた左頬は、既に珠世の治療で元通りになっている。

 

「大丈夫っ、問題無い。私は炭治郎を支えているからっ!❤」

 

「あ、あははははははっ。善逸、問題無いみたいだよ。」

 

自身を抱き締めているのか支えているのか分からない状態のカナヲを見て、炭治郎は思わず可笑しくて笑みが溢れる。

 

「……しのぶさんと言い、アオイちゃんと言い、本当に良い御身分だな……っ!!」

 

「えっと……自覚してるよ。」

――本当は其処に、カナエさんと禰豆子も入るんだけどな。

 

炭治郎はそう心中でのみ、真実を吐露した。

 

そんな炭治郎の内情など露知らず、善逸は嫉妬心全開で双眸を血走らせて、炭治郎を睨み付けた。尤も、病み上がりの炭治郎に襲い掛かるなどと言う真似はしないが。

 

現在、緊急柱合会議はどうなっているのかと言うと、昼食を挟んでの小休止に入っていた。

驚異的な回復力を見せた炭治郎であったが、それでも休息を入れるべきだと判断した耀哉の決定である。耀哉としては全員揃っての食事としたかったのだが、不可能と判断して使用人達に命じて個別で食事を運ばせた。尤も、大半の者達は先刻の大騒動で食事を取りたいと思う者はおらず、居ても軽食で済ます者ばかりであった。一部の大食らいには、気にせず食事に有り付いたのだが。

 

そしてこの小休止にはもう一つ理由が有った。負傷した蜜璃と『隠』達の存在である。

 

禰豆子に怪我を負わされた蜜璃はしのぶと珠世から入念に検査を受けて治療されていた。何度も叩き付けられたため、特に背中の骨の異常の有無は念入りに検査された。

 

そして『隠』達は怒り狂った実弥が無理矢理にでも日輪刀を奪おうとしたため総出になって激しく抵抗したのだ。

そのため死人こそ出なかったが、重軽の差はあれど負傷者が幾人も出たのである。この『隠』達は現在、しのぶを筆頭に珠世、愈史郎、アオイの四名から治療を受けていた。

 

脇差は一本奪われてしまったが、結果的に「竈門炭治郎の殺害及び喪失」と「珠世達と鬼殺隊の今後の関係の崩壊」と言った鬼殺隊にとって最悪の事態を水際で食い止めたと言う、陰ながらも『隠』史上最高の大手柄を立てたのだ。

 

尤も、全員死にもの狂いだったのでその様な自覚は無い。寧ろ、『隠』の中には自分達が不甲斐無いから炭治郎が傷付いたのだと自責の念に駆られている者も居るくらいだ。

 

事実、四半刻(三十分)前に後藤隊士を筆頭に数名の『隠』達が治療後に炭治郎の下へ謝罪に訪れている。

中には泣きながら炭治郎に詫びる者もおり、炭治郎が貰い泣きしてしまった程だ。

 

だが耀哉はこの功績の大きさを十ニ分に理解している。『隠』達はまだ知る由も無いが、後々に全員が手厚い褒賞を直接、耀哉から受け取る事になっている。

 

その影の立役者たる『隠』達の治療を終えて、先ずアオイが帰って来た。

 

「只今戻りましたぁ……ちょっ!?……カナヲっ!? あんた私達に仕事押し付けて一人で炭治郎さんを独占(ひとりじめ)してんじゃないわよっ!?」

 

アオイは炭治郎を抱き締めて幸福に浸っているカナヲを見て、嫉妬心全開で対抗する様にカナヲを押し退け炭治郎を反対側から抱き着いた。

 

「炭治郎さんっ! 私、カナヲと違って患者さんの治療を頑張ってやり遂げて来ました! ほ、褒めてくれませんか!?」

 

「勿論だよ、アオイさん……それから俺の治療も頑張ってくれて、ありがとう。」

 

そう言うと、炭治郎は「偉い、偉い。」と褒めながらアオイの頭を優しく撫でる。

 

「…っ❤」

 

アオイは炭治郎の手が後頭部を撫でる感触を感じ取ると、うっとりとしながら身体を炭治郎に預けた。

 

「アオイっ!……チッ!」

 

アオイが炭治郎に頭を撫でられて幸せそうにうっとりとした表情をしているのを見て、カナヲの心中に嫉妬の炎が燃え盛る。カナヲは轟々と嫉妬の炎を燃やしながら、小さく舌打ちをしてアオイを睨み付けた。

 

「はっ! なぁにがチッ!……よっ!? あんた真面目に包帯くらい、一人で巻ける様になりなさいよね!?」

 

「うぐっ……っ!」

 

アオイの真っ当な指摘に、流石のカナヲも反論の糸口を失った。カナヲの様子を見て、炭治郎も話に加わる。

 

「そうだね。アオイさんの言う事も尤もだよ、カナヲっ。」

 

「っ!」

 

「ふふんっ♪」

 

炭治郎にまでそう言われたカナヲは、項垂れて意気消沈してしまう。カナヲとは対照的に、アオイはその豊満な胸を張ってみせたが。

 

「別に出来ない事は恥ずかしい事なんかじゃないよ? これから学べば良いんだから。何だったら、俺で良ければ教えてあげようか?」

 

「本当っ!?」

 

「えっ?」

 

カナヲは驚愕と歓喜の二色が混じった表情をし、アオイは思わぬ炭治郎の提案に一瞬、言葉を失った。

だが、横から見ていた善逸が指摘する。

 

「でも炭治郎が教えるったって……無茶苦茶下手じゃん。」

 

「「あっ!」」

 

浮かれたり沈んだりしていた二人だったが、善逸の指摘で思い出していた。

炭治郎は生粋の感覚派であるため、教えるのが超絶に下手なのだ。

 

しかし、炭治郎は善逸の指摘に対して、怒りもせず苦笑していた。

 

「自覚はしているよ。だから直接、俺がやり方を見せて教えるって教え方になるかな? それだったら俺でも出来そうだから。」

 

「……そうか。黙って教えるなら、口下手な炭治郎でも出来そうだ。」

 

「紋逸。お前は褒めてんのか? それとも貶してんのか?」

 

善逸の呟きに、思わず伊之助がツッコミを入れた。炭治郎は苦笑するだけだったが。

 

「じゃあ、カナヲ。どうする? 俺でも良い?」

 

「うんっ! むしろ炭治郎じゃなきゃ嫌っ!!」

 

「ははっ、光栄だよ。それなら時間が出来た時にね?」

 

「うんっ!❤」

 

炭治郎はカナヲに改めて確認を取ると、カナヲは大歓迎と言わんばかりに快諾した。

カナヲは喜びのあまり、炭治郎に力一杯抱き着いた。

 

「……」

 

思わぬ援護射撃をしてしまい、アオイは項垂れて意気消沈してしまった。それでも炭治郎から身体を離さなかったが。

すると、今度はアオイに炭治郎が声を掛けた。

 

「アオイさん。俺がカナヲに教える前に、良かったらアオイさんが俺の包帯法を見てくれないかな? それで間違っていたら是非とも教えて欲しいんだ。」

 

「っ!?……私で良いんですか!?」

 

「うんっ、良いかな?」

 

「是非っ!!」

 

炭治郎の提案に、アオイは即断した。快諾と共に強く炭治郎に抱き付いた。そうしていると、アオイとカナヲは視線を交える。

 

「「……(コクッ)」」

 

二人は視線だけで互いの言わんとしている事を理解した。それぞれの幸福のために、競い合うのではなく協力する道を選んだのだ。

二人は炭治郎から離れるのが惜しいのでする積もりなど毛頭無いが、もし炭治郎が此処に居なければ、互いに固く握手を結んでいたに違いない。

 

「随分とまぁ賑やかですねぇ〜。」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

炭治郎達は此処にいない筈の女性の声を耳にして、声がした方へ一斉に顔を向けた。

 

其処には医療行為を終えて帰って来たしのぶが居た。カナヲと同様、赤く腫れていた左頬だったが、既に珠世に治療されて元通りになっている。

 

何故、しのぶとカナヲが元通りになっているかと言うと、珠世の新薬を投薬して治療して貰ったからだ。この騒動で負傷した者達全員、投薬されて既に完治していた。炭治郎の治療で立証された新薬の実力が、改めて証明された形となった。

 

「お、おかえりなさい、しのぶさん。でも何時の間に……音なんてしなかったぞ……。」

 

「お、俺も感覚なんて感じ取らなかった……。」

 

「俺も藤の花の匂いが……っ!」

――ああっ、愈史郎さんの『紙眼』かっ!

 

炭治郎は直ぐにその絡繰りに気付いたが、敢えて指摘せず黙ったままにした。

 

「包帯法の実践なんて、勉強熱心で感心です♪」

 

「「っ!」」

 

しのぶの心にも無い言葉に、アオイとカナヲは顔を強張らせる。

 

――何時から聞いてっ……っ。

 

――しのぶ姉さん、何を言う心算なの?

 

アオイとカナヲは嫌な予感を感じつつ、黙ってしのぶの言う事を待つしか無かった。

 

「でもね、炭治郎君。アオイが炭治郎君を指導して、炭治郎君がカナヲを指導するのは回り諄いし非効率だと思うんですよ。」

 

「えーっと、まぁそう言われたら反論出来ないかも……どうしたら良いですか?」

 

炭治郎の質問に、しのぶは満開の華の如くパッと笑みを浮かべ提案した。

 

「其処で私からの提案です。アオイがカナヲに、私が炭治郎君に指導するのは如何ですか!」

 

「「っ!?」」

 

アオイとカナヲの目論見を根底から叩き潰すしのぶの提案に、二人は双眸を見開いた後に激昂した。

 

「「そんなの「何デスカ? 貴女達、私ニ何カ文句デモ有ルンデスカ??」……ありません。」」

 

手伝いもせず最初から炭治郎と過ごしていたカナヲと、自分だけ先に終えて抜け駆けを画策したアオイに対し、嫉妬に狂ったしのぶは殺意の炎を激しく燃え盛らせる。

アオイとカナヲはしのぶの様子を見て大人しく、無条件降伏をする道を選んだ。既に善逸と伊之助は正座してガクガク震えている。

 

妹分二人の返事を聞いて、しのぶは満面の笑みを浮かべつつ二人を炭治郎から引き離して自分が抱き着いた。

 

「二人ともそう言ってくれると信じてましたよ! では炭治郎君。今度時間を作るのでいっぱい勉強しましょうね!」

 

「えぇーと……。」

 

しのぶの言葉に、炭治郎は困った様子で言葉を濁した。しかしそんな炭治郎の様子が想定内だったのか、しのぶは耳元に近付いて囁いた。

 

「最初は私と貴方の二人きりで……それからアオイとカナヲも後から仲間に入れましょう?」

 

「っ! それでしたら喜んでっ!!」

 

炭治郎は快諾してしのぶを抱き締めた。そして羨望の眼差しを送る二人に、炭治郎は来る様に合図をした。

アオイとカナヲは炭治郎に従うと、そのまま炭治郎に抱き締められた。

 

「ふふっ❤ 三人一緒にだなんて強欲なんですから❤」

 

「はい、強欲で結構です! 誰にも渡しません!」

 

「「……っ❤」」

 

断言する炭治郎に、しのぶ達は嬉しそうに笑みを浮かべた。暫くそうしていた四人だったが、しのぶがふと思い出した様にこう言った。

 

「ああっ、そうでした。皆に伝えなければならない事が在りました。何でも、御館様から柱合会議を再開させるとの通達が来たんですよ。と言う訳で、急いで集まりましょう。」

 

『っ!……はいっ!!』

 

「おうっ!」

 

しのぶの言葉に、全員が柱合会議に参加するべく移動を始めた。ただ一人を除いて。

 

「……いや、絶対優先順位はそっちが先でしょっ!? そんな大事な事を忘れて何イチャついてんの!?……って俺を置いて行かないでよっ!? ねぇってばぁっ!?」

 

渾身のツッコミも虚しく、炭治郎達に置いて行かれた善逸は駆け足で付いて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時間帯:昼

天気:晴れ

 

「御館様。蟲柱・胡蝶しのぶ以下六名、遅ればせながら参上致しました。」

 

「やぁ。しのぶ、炭治郎、アオイ、カナヲ、善逸、伊之助。待っていたよ。……炭治郎、良く似合っている。」

 

「あ、ありがとうございます。何から何まですみません、御館様。」

 

炭治郎達は耀哉の居る大広間へ到着した。既に産屋敷家は勿論、行冥を筆頭に柱達も集結していた。

しかし、大広間と言っても最初に居た場所では無い。

 

何故ならば、最初に集結していた大広間は禰豆子が暴走したせいで半壊し、このまま継続して使用するのは不可能と判断されたからだ。

現在、復帰した『隠』達が大広間の損害具合を調査している。

 

因みに、日輪刀は勿論の事、武器になる物全てが没収された。そればかりか、針の一本も行冥達は所持する事が許されなかったのである。

あれ程の事態が発生したのだから、当然の処置である。

 

「やっほー! しのぶちゃん! 炭治郎君っ!……身体はもう大丈夫?」

 

「んーっ!」

 

「禰豆子っ!それに、甘露寺さん……っ。」

 

禰豆子とべったりくっつく蜜璃に元気な声を掛けられた炭治郎は、思わず笑みを浮かべる。しかし、蜜璃が禰豆子に傷付けられた事を思い出して、直ぐにその明るい顔を曇らせた。

 

「甘露寺さん……禰豆子がすみませんでしたっ!」

 

「えっ?」

 

『っ!』

 

炭治郎が勢い良くその場で蜜璃に向かって土下座した。勢いが過ぎて畳に頭を激突させる寸前であった。

蜜璃は土下座する炭治郎を見て一瞬惚けた様子だったが、土下座の意味を理解して静かに炭治郎に声を掛けた。

 

「頭を上げて、炭治郎君。私、謝られる事をされたと思ってないよ?」

 

「でも、禰豆子が暴走したせいで甘露寺さんが傷付いてしまったから……。」

 

「確かに傷付けられたけど、言う程大した事じゃないから気にしないで。鬼殺隊に居るんだから、傷なんて当たり前だよ。」

 

「それにね? 大好きな禰豆子ちゃんに人を傷付けて欲しくなかったし、このまま理不尽に殺されて欲しくなかったんだもの。もしそうなったら私、炭治郎君に一生謝っても償い切れないから……。」

 

「……っ。」

 

蜜璃の言葉に、炭治郎は頭を上げる。しかしその表情には、納得出来ない様子が有り有りと在った。

しか璃し、何か妙案が思いついたのか炭治郎の顔に決意の色が宿る。

 

「甘露寺さんっ! 俺に責任を取らせてくれませんか!?」

 

『っ!!??』

 

「……えっ!?」

 

「えっ?」

 

「へ?」

 

「はぁ?」

 

「ちょっ……っ!?」

――何言い出してんの炭治郎っ!?

 

周囲の困惑を余所に、炭治郎は大真面目にそう言った。

だが、その発言に怒りを覚える者が現れた。蛇柱・伊黒小芭内だ。

 

「おい、竈門炭治郎っ!……貴様それは「どう言う意味ですか炭治郎君っ。」……おい胡蝶っ。」

 

「うっさい人ですねぇ、黙っててくれます? 今忙しいんで。」

 

「貴様……っ。」

 

青筋を立てて小芭内が炭治郎に問い詰めようとしたが、喋っている途中でしのぶが割り込んで来た。

その事に不愉快に感じて、小芭内はしのぶに文句を言おうとしたが、しのぶに無碍にされて黙らせられた。

しかしそれで黙ったままで居られる程、小芭内は人柄が良くない。そのまま互いに睨み合いを始めた。

 

「た、炭治郎……っ。」

 

「炭治郎さん……っ。」

 

カナヲとアオイが不安そうに双眸を潤ませて、焦燥感を抱きながら愛する恋人の名前を呼んだ。

その一方で、蜜璃は頬を赤くしながら当惑していた。

 

「えっ……えぇっ!? 責任、責任って……っ!?」

 

「はいっ! 禰豆子の代わりに、俺に出来る範囲で何でもさせて頂きますっ!」

 

『……』

 

炭治郎の一言で、大広間に沈黙が広がる。

アオイとカナヲの焦燥感も蜜璃の頬を染めていた赤も波が引く様に引いて行く。

しのぶは「やっぱりね。」と最初から分かっていた様な態度を取るが、妹分達と同様に焦燥感を抱いていたのは火を見るよりも明らかだった。

 

「あれ? 皆さん、どうされました?」

 

「……いえ、何でも無いですよ。」

 

「貴様……紛らわしい言い方をするなっ!?」

 

「っ?」

 

周囲の反応とげんなりとした様子のしのぶと、激昂する小芭内を見て炭治郎は何が悪かったのか理解出来ず首を傾げる。

 

「なぁ~んだ、ははっ。」

 

「……っ!」

 

其処に蜜璃の明るい声が大広間に響いた。

しかし、その声色には安堵の色が在ったが本人は残念に思っていた。自覚は無かったのだが。

そんな蜜璃の様子を見て、小芭内は双眸を見開いて蜜璃を見ていた。

 

「俺に出来る事なんてたかが知れてますが、甘露寺さんの気が済むまで何でもさせて頂きます!」

 

「もう、炭治郎君ったら大袈裟なんだからっ。」

 

蜜璃は遠慮深そうにそう言ったが、蜜璃自身はまんざらでも無かった。

 

――何でも……何でもかぁ……。

 

心中でそう呟いた蜜璃の脳裏には、蝶屋敷で思わず妄想した自身と炭治郎の情交(セックス)だった。

 

「(ブンブンッ!)」

 

「甘露寺さんっ?」

 

『っ?』

 

突如として、何かを振り払おうと首を千切れんばかりに左右に振り回す蜜璃に、炭治郎達は疑問に思った。

すると、煩悩を脳裏から追い出した蜜璃は赤面したまま炭治郎に言った。

 

「え、えーと……この案件は一度持ち帰って検討させて頂きます!」

 

「……ぷっ……あはははははははっ!!」

 

蜜璃が大真面目にそう言うと、見守っていた耀哉が楽しそうに笑い出した。

 

「お、御館様?」

 

「いや、炭治郎と蜜璃のやり取りがとても微笑ましかったからね。」

 

「「……っ。」」

 

耀哉の言葉に、炭治郎と蜜璃は二人揃って赤面した。

しかし、直ぐに立ち直って炭治郎はちらっと蜜璃を見た。

 

「甘露寺さん、遠慮せず、何時でも言いに来て下さいね。」

 

「……うん。」

 

炭治郎が微笑みながらそう言うと、蜜璃は照れながら小声で答えた。

 

「……」

 

炭治郎と蜜璃のやり取りに、小芭内は何も言えず見守るしか出来なかった。

しかし、小芭内の心情など露程にも気を掛けず一人の男が動き出した。

 

「炭治郎。」

 

『っ!』

 

水柱・冨岡義勇が沈黙を破り、炭治郎に態々近付いてから声を掛けた。その両手は包帯が巻かれていた。

炭治郎は声を掛けられた事に驚きつつも、喜びながらそれに答えた。

 

「はいっ! 義勇さんっ!!」

 

「……不死川に斬られた身体の傷は……もう大丈夫なのか?」

 

「……っ。」

 

「はいっ! 珠世さんと愈史郎さんの御蔭ですっかり治りました!」

 

炭治郎が満面の笑みでそう答えたが、義勇の表情に変化は無い。

義勇はそのまま炭治郎の前に座ると話を淡々と続けた。

 

「そうか、それを聞いて安心した。……お前は水柱にならなければならない男だ。こんなつまらない死に方など、許される筈が無い。」

 

『っ!』

 

義勇の言葉に、皆が驚いた。その言葉の現す意味など、一つしかないからだ。

 

「冨岡さんは炭治郎君を継子にする御心算ですか?」

 

全員の思いを代弁する様に、しのぶが義勇に質問した。

すると、別の人物から声が飛んで来た。

 

「水柱はともかく、炭治郎を柱にするのは賛成だ。」

 

『っ!!』

 

そう答えたのは座らず壁側に寄り掛かっていた愈史郎だった。愈史郎はそのまま耀哉に向かって話し掛ける。

 

「おい、耀哉。炭治郎は半月以上前に十二鬼月の魘夢(下弦の壱)を討ち取っているんだろう? 十分、条件を満たしている。それに丁度、柱の席も一つ空いているしな。さっさと炭治郎を柱に任命したらどうだ?」

 

『っ!』

 

愈史郎はそう提案したが、その提案に反論したのは耀哉でも他の柱達でも無く炭治郎本人だった。

 

「待って下さいっ、愈史郎さん。俺が魘夢(下弦の壱)を倒せたのは禰豆子と杏寿郎さん、そして善逸と伊之助の力が合わさって倒す事が出来たんです。だから俺だけが柱になんてなれませんよ。」

 

炭治郎は一人の力で成し遂げたものではないと、愈史郎にそう断言する。しかし愈史郎の考えは変わらず、続ける様にこう言った。

 

「だったら、善逸も伊之助も……其処にいるカナヲも纏めて、全員を柱に任命してしまえば良いだけだろう? 下弦級の鬼が倒せれば、柱になる条件を満たせるんだ。お前達は全員、それを証明しているじゃないか。」

 

『っ!』

 

愈史郎の素直な称賛に、大広場に居る全員が驚愕する。珠世に至っては、双眸をパチクリさせてきょとんとしていた。

しかし愈史郎はそんな珠世に気付かず、耀哉に話し掛ける。

 

「ずっと疑問に思っていたんだ。何故、鬼殺隊の柱の上限が九名と定員が設けられているのかと……はっきり言ってそんな必要性が何処に在る? さっさと撤廃してしまえ。」

 

「……しかしだね、愈史郎さん。この九名と言う上限は、階級制度が成立した時から今日まで続いているんだよ。」

 

耀哉が諭す様にそう愈史郎に言ったが、愈史郎は鼻で嗤って一蹴する。

 

「昔から続いているから、何だ?……そんなの九人以上、同時に柱に成れる程の逸材が現れなかっただけだろ? 無惨を倒す事が一番の目標だぞ。あの腰抜けの臆病者を倒すのに何の役に立たん。そんな昔からの慣習なんて、それこそゴミ以下の価値しか無いだろうが。」

 

『っ!』

 

愈史郎の暴言に、大広場に緊張が走る。珠世は既に頭を抱えていた。

 

「愈史郎さんの言う事にも一理あるけれど、あんまり柱をホイホイ増やしてしまうと柱の威厳が損なわれてしまう可能性が出て来るんだよ。」

 

耀哉は諭す様に再び愈史郎にそう言ったが、帰って来たのは先刻以上の暴言だった。

 

「ホイホイ増えない様に誰を選んで誰を弾くか見極めるのがお前の仕事だろう? 情けない事を抜かすな……第一、百年以上に渡って上弦の鬼共に敗れて喰われてる柱に今更、威厳や尊厳なぞ一欠片も残っていないんだよっ! この小休止の小一時間で寝惚けたか、間抜け。」

 

『っ!!』

 

愈史郎のあまりな暴言に、行冥達は怒りを覚え始めた。珠世の顔は既に顔面蒼白になっていた。

一触即発の空気が漂った大広間だが、それが一瞬にして霧散する。

 

「俺はその男の意見に賛成だ。」

 

『っ!?』

 

そう言って周囲を驚かせたのは義勇だった。義勇はそのまま話を続けた。

 

「しかし、俺が賛成するのは柱の上限撤廃に関してだけだ。」

 

『……』

 

義勇の意見に、行冥達も愈史郎への怒りを捨てて静かに耳を傾ける。

 

「上限撤廃をするにしても、当然だが柱になるための条件を今より一層厳しくするべきだと俺は考える。柱への昇格条件の厳格化……これが無ければ上限撤廃は賛成出来ない。何故なら……っ。」

 

其処で義勇は一旦、閉口して沈黙した。しかし直ぐに意を決した様に開口する。しかし、それは強烈な威力を誇る爆弾発言だった。

 

「今在るこの寛容な条件の所為で、柱になる資格の無い者が柱に成り、その地位に胡坐を掻いているからだ。これは決して許されるべき事では無い。」

 

『っ!!!』

 

義勇の爆弾発言に、大広間は騒然となる。そして、この発言に怒りを覚える者が現れた。

 

「おいィ、冨岡……その資格のねぇ奴ってのは誰だっ! ああァッ!?」

 

風柱・不死川実弥だった。義勇の発言に激昂して青筋を立てる。しかし、義勇は止まらない。

 

「そんなもの、一々言わなくても分かるだろう?……俺は事実しか口にしていない。」

 

「冨岡……貴様は違うとでも言う積もりか?」

 

小芭内も怒りながら、義勇にそう問い詰める。小芭内の問いに、義勇は答えた。

 

「ああっ。俺はお前達とは違う。一緒にするな。」

 

『っ!!!』

 

「気に喰わねぇぜ……テメェ、以前(まえ)にも同じ事を言っていたなァ……俺達を見下してんのかァ?!」

 

義勇の物言いに、実弥は激昂して睨み付けていた。

 

「義勇さんを誤解しないで下さいっ!」

 

『っ!』

 

その時、炭治郎が大声を上げて実弥の動きを牽制した。

先刻起きた事件の二の舞など、炭治郎としては願い下げとしか言い様が無いからだ。

実弥が押し黙ったのを見て、炭治郎が義勇に質問した。

 

「義勇さん。今、貴方が仰っていた"柱に成る資格が無い人"って……それ、間違い無く義勇さん御自身の事ですよね?」

 

『……っ!?』

 

「……」

 

炭治郎の指摘に、大広間に驚きが広がった。

それと同時に一部の人間から発せられていた敵意や反発と言った負の感情が消滅して行き、その変わりに当惑の色が見て取れた。

 

しかし、炭治郎は周囲の反応に構わず義勇を真っ直ぐ見詰めて話を続けた。

 

「失礼ですけど、沈黙は肯定と解釈させて頂きます。何か異論があれば、遠慮無く仰って下さい。」

――義勇さんから来るこの匂い……罪悪感と卑屈の匂いだ。間違い無い……っ。

 

「……」

 

義勇は未だ何も答えず、双眸を閉じて沈黙を貫くばかりだった。義勇の態度を見て炭治郎は、遠慮無く続ける事にした。

 

「大きなお世話かもしれません。でも俺、義勇さんが皆から誤解されたまま、嫌われて欲しく無いんです。……どうして貴方が御自分に対してそう思うのか、今此処で俺達に教えてくれませんか?」

 

「……」

 

『……』

 

炭治郎の問い掛けに対し、義勇は未だ沈黙を貫く。これを見て炭治郎は諦念を抱き始めた。

 

――そうだよな……義勇さんにも、いや誰にだって……況してや鬼殺隊に居る人なら口にしたくない過去は在るよな……。

 

義勇からその理由を聞く事が出来ないと諦めかけた炭治郎だったが、其処に耀哉が助け舟を出した。

 

「義勇……どうしても言いたくないなら無理にとは言わない……でも此処に居る子達で人の過去を聞いて嗤う者は一人も居ないよ。正直に言うと、私も知りたいと思っている。君さえ良ければ、話してみてはくれないだろうか?」

 

「っ!……っ……御意っ。」

 

敬愛する耀哉の説得に、義勇は根負けしてゆっくりと開眼してから開口した。

 

「俺は水柱じゃない……六年前、十五歳の時に御館様から恐れ多くも水柱に任命されたが、俺は自分でそうだと思った事は一度として無い……何故なら俺は"最終選別"を突破していないからだ。」

 

『っ!?』

 

耀哉を除く全員が、最後に義勇が言った言葉の意味を理解出来なかった。

義勇は"最終選別"を突破していないと口にしたが、この時点で大いなる矛盾を生じている。このは"最終選別"を突破していない者とは、鬼に敗北した死人を意味しているからだ。

 

しかし、義勇は見事に"最終選別"を生き残り更に修練を重ねた結果、水柱の地位を得ているのだ。

この結果が、義勇の発言を根底から否定している。

 

困惑する周囲を余所に、普段の無口な様子からは想像も出来ない程、開き直った様に義勇が饒舌に語り始めた。

 

「十三歳の時に実姉(あね)を鬼に喰い殺された俺は、紆余曲折の末に師である鱗滝左近次先生に拾われた。其処には実父(ちち)を鬼に殺されて俺と同様に天涯孤独になった錆兎と言う少年が居た。」

 

『っ!!』

 

「錆兎は強くて優しかった。俺より遥かに才能が在った凄い剣士だった。蔦子姉さんを失って最初は泣いてばかりいた俺を、厳しく叱咤して励ましてくれた。

俺達は互いに鬼殺隊の柱になり、多くの鬼を倒して同様の被害者を一人でも減らそうと誓って切磋琢磨して共に"最終選別"に挑んだ。」

 

『……』

 

義勇は其処まで言うと一旦口を閉ざし、右側の羽織の絵柄を左手で掴んだ。そして再び開口して語り出した。

炭治郎達は何も言わず、ただ黙って義勇の話を聞き続ける。

 

「錆兎は本当に凄かった。傷一つ追わず、衣服に染み一つ作らず鬼を倒しながら他の参加者の命すら救って回った。あの時の"最終選別"で居た大半の鬼を彼が一人で殲滅してしまったくらいだ。自分の事で手一杯だった挙げ句、頭に傷を負わされ意識が朦朧としていた俺とは全然違った。」

 

義勇はそう言って更に強く、羽織を握り締めた。

 

「錆兎は俺の窮地を救った後、村田と言う少年にオレを預けてから助けを求める声の下へ走り去って行った……その後姿が、俺が見た錆兎の最期だった。」

 

『っ!』

 

「っ!」

――やっぱりこの時に……それから村田さんも義勇さんと一緒だったんだ……。

 

「気が付いたら何時の間にか"最終選別"は終わっていた。その時の死者は錆兎一人だけだった……確かに俺は七日七晩を生き延びたが、鬼を一体も倒さず、生涯無二の親友(とも)一人救えず救われただけの男に、"最終選別"を突破したなどと言えるのだろうか?」

 

「俺は本来、水柱に選ばれる様な男じゃない。そもそも柱達と肩を並べて良い人間ですら無い。親友を救えずのうのうと生きている俺は本来、鬼殺隊に居場所すら無いんだ。」

 

『……』

 

「「……っ。」」

 

義勇の過去を知り、大広間には沈痛が広がった。炭治郎と実弥は義勇の顔が見れず顔を俯かせた。

 

「なぁ、あんた。」

 

「……?」

 

そんな痛々しい空気が漂う中で、意外にも最初に開口したのは善逸だった。善逸は義勇に聞かずには居られなかった。

 

「もしかしてさ……その錆兎って人の代わりに、あんたが死ねば良かった……って思ってない?」

 

『っ!』

 

「……そうだな。少なくとも、もしも俺ではなく錆兎が生きていたら……俺より遥かに多くの罪無き人々の命が救えただろう、とは思っている。」

 

『っ!!』

 

「巫山戯けた事を言ってんじゃねぇぞ半々羽織っ!!」

 

『っ!?』

 

義勇の自虐的な言葉に激怒したのは伊之助だった。

 

「い、伊之助?」

 

思わぬ人物が激怒した事に、炭治郎達は皆面食らう。

しかし、伊之助は構わず義勇に向かって怒鳴りつける。

 

「死んだ生き物は土に還るだけなんだよっ! 何時までもべそべそしたってそいつは帰って来やしねぇんだよっ! もしもの話なんて考えるだけ時間の無駄なんだよっ! そいつと誓いを立てたんなら、生きてそいつの分まで誓いを果たす事以外、考えるんじゃねぇっ!」

 

『っ!』

 

そう叫ぶと伊之助は泣き出してしまった。それを見てアオイとカナヲが咄嗟に伊之助を慰めに掛かった。

 

炭治郎達には知る由も無いが、伊之助は義勇に那田蜘蛛山で窮地を救われて以来、義勇の強さに対抗心と憧憬の入り混じった感情を抱いていた。

そんな義勇の自虐的で弱気な態度を見て、伊之助は思わず怒りを覚えてしまったのだ。

 

「……」

 

伊之助の叱咤を受けて、義勇は顔を俯かせた。そんな義勇を見て、炭治郎は躊躇しながら声を掛ける。

 

「あの、義勇さん……伊之助がああ言った後に聞くのも何ですけど……義勇さんは、お姉さんから守られた命を、錆兎……さんから託されたものを、繋いで行かないんですか?」

 

「っ!」

 

炭治郎にそう問われた瞬間、義勇の脳裏を強烈な衝撃が襲った。それは身体の自己防衛本能から忘却の彼方に封印されていた、錆兎とのやり取りの記憶であった。

 

『自分が死ねば良かったなんて、二度と言うなよっ。』

 

『お前は絶対に死ぬんじゃない。』

 

実姉(あね)が命を賭けて繋いでくれた命を、託された未来を。』

 

『今度はお前が繋いで行くんだ。義勇。』

 

――あぁっ、痛い……何故今の今まで忘れていた? 錆兎との一番大事なやり取りだったと言うのに……。

 

――いや、分かっている。俺は思い出したく無かった。思い出すと悲しみのあまり涙が止まらなくなって動けなくなるからだ。

 

――蔦子姉さん、錆兎。未熟でごめん……。

 

「……」

 

『……』

 

炭治郎が義勇に尋ねてから義勇はピタリと動きを止めてしまい、炭治郎を筆頭に何人かが焦り出した。

 

「お、おいィ……冨岡?」

 

沈黙に耐え切れず、実弥が義勇を呼んだが返答は無かった。

 

「……義勇。」

 

『っ!』

 

すると、今度は耀哉が義勇の名前を優しく呼んだ。耀哉の声を聞いて、義勇はハッとした様子で頭を上げる。耀哉は続けて義勇に優しく話し掛けた。

 

「義勇。君がどう思っていようとも、私の水柱が冨岡義勇で良かったと……私は心からそう思っているよ。それはきっと、この先もずっと変わらない。そして忘れないで欲しい。君でなければ救えなかった命達が、少なくとも此処には二人、居るのだと言う事を。」

 

「っ!!!」

 

義勇は耀哉の言葉に、双眸を見開かせた。そして気配を感じたのでは視線を向けると、其処には炭治郎と禰豆子が真っ直ぐ義勇を見詰めていた。

 

「義勇さんっ。」

 

「うーっ。」

 

「っ……炭治郎、禰豆子……っ!」

 

「わあっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

『っ!?』

 

義勇は唐突に竈門兄妹を強く、頭を抱き抱える様に抱き締めた。二人は義勇の行動に驚いたが、それ以上に驚く出来事が在った。

 

「っ……っ……っ。」

 

義勇は静かに嗚咽を漏らしていた。しかし、其処に悲しみは無い。炭治郎の鼻が嗅ぎ取ったのは、歓喜と感謝の匂いだった。

 

「……っ。」

 

「うっ!」

 

炭治郎は涙が涙腺から零れ落ちそうになるのを堪えて、義勇の背中に手を回した。禰豆子もまた、義勇が泣いているのを見てあやす様に背中に手を回して撫で始めた。

竈門兄妹の優しさに包まれながら義勇は五分程の間、嗚咽を漏らし続けた。

 

 

 

 

 

 

「……御館様……お恥ずかしいところをお見せしてしまい、誠に申し訳御座いませんっっ!!」

 

義勇は赤く腫れた双眸と、真っ赤に染めた顔を隠す様に平伏して謝罪した。

しかし、羞恥心は否めないのか声も全身もプルプルと震わせていた。

 

「「……」」

 

しかし、義勇以外にも全身を震わせている者達が居た。天元としのぶである。

普段の様子から想像も付かない義勇の一面を見て、大爆笑したいのを必死で堪えていた。

身体は堪え切れずに全身が震えていたが。

 

しかし、しのぶはそうばかりしていられないと判断して、何度も深呼吸を繰り返して平静を取り戻した。

 

「ふぅ~~っ!……いけませんね。普段見れない光景を眼にして、平静さを保てませんでしたよ。」

 

自己反省する様にそう独語すると、何か思い付いた様に右手に拳を作ってそのままポンッ! と左掌を叩いた。

 

「御館様。忘れる前に皆さんに事後報告を済ませておきたい事が一件と御館様に御願いしたい事が一件、合計で二件あるのですが……今、伝えても宜しいでしょうか?」

 

「うん、構わないよ。しのぶ。」

 

「ありがとうございます。」

 

『っ?』

 

しのぶの言葉に疑問を抱く行冥達を余所に、しのぶは淡々とその報告を始めた。

 

「報告します。現在、蝶屋敷には禰豆子さん、珠世さん、愈史郎さんの他に第四の鬼、草薙要さんと言う方を保護してますので勘違いして斬らない様にお願いします。」

 

『っ!?』

 

しのぶの報告に、大広間に騒めきが発生した。しかし、驚いているのは行冥達、鬼殺隊の柱達だけであり産屋敷家と蝶屋敷組、珠世と愈史郎は何一つ驚かない。

実行した側と許可した側の人間なのだから、当然である。しのぶは反発が起きる前に牽制するべく、先手を打って開口した。

 

「それからこれは決定事項なので、苦情は受け付けませんから。」

 

『っ!』

 

毒の籠った笑みを浮かべるしのぶに、行冥が尋ねた。

 

「つまり、御館様は御承認されていると言う事か?」

 

「そう言う事です。保護の経緯を今から説明しますが、文句は聞きません。嫌なら今後、蝶屋敷に来て下さらなくて結構です。お相手するのも面倒なので。」

 

「胡蝶、テメェ……。」

 

笑顔で毒を吐くしのぶに対し、実弥が睨み付ける。しかしこれにはしのぶもまたその笑みに青筋を立てて応戦する。

 

「不死川さんに発言権などありませんので、黙っててくれますかね?……まさか先刻、自分がしでかした大失態をお忘れですか?」

 

「……ちぃっ……。」

 

「ふんっ……。」

 

実弥が悔しそうに舌打ちすると、しのぶはその様子を鼻で嗤う。そして要の経緯について、天草で起きた事を簡潔に説明を始めた。

 

「……と言う経緯が有って珠世さんの下で奥方の綾さん共々匿っていました。禰豆子さんの血で作った血清で凶暴性が消えましたから、問題無いと判断しています。

それから鬼舞辻無惨の呪いに関しては既に解呪済みですから、追跡の心配もありません。最後にもう一度だけ言っておきますが、これは御館様の御許可を得ています。感情的で無駄な意見以外……つまり建設的な意見に関してなら受け付けますが、何か御意見は?」

 

『……』

 

しのぶが異議は唱えさせないとばかりに、周囲を黙らせる様に理論武装してそう言った。

そのため反論の糸口を見つけられない行冥達は、沈黙を貫いた。

 

「つまり何だ? 蝶屋敷には今後、四匹の鬼が常駐する訳か?」

 

「そうなりますね。伊黒さん、それが何か?」

 

粘着質な視線をしのぶに向けて睨み付けながら、小芭内がそう言うとしのぶが淡々と答える。

小芭内はしのぶの肯定を聞いて、鼻で嗤いながら呟いた。

 

「ふんっ……その調子だと、一体何匹の鬼が住み着く事になるのやら……おい、胡蝶。これからは"蝶屋敷"ではなく、"鬼屋敷"と改名したらどうだ?」

 

『!』

 

小芭内の暴言に、何名かが顔を顰めて青筋を立てる。しのぶも青筋を立てながら、笑顔で応戦した。

 

「あら、それは良い御意見ですね。それなら不死川さんや伊黒さんの様な、良い歳して感情の制御が出来ないお馬鹿さん達の同類も相手をせずに済みそうです。検討しておきましょう。」

 

「貴様……っ!」

 

苛立つ小芭内を無視して、しのぶは耀哉に向かって話し掛ける。

 

「次に……私、胡蝶しのぶからお願いしたい儀が御座います。御館様。」

 

「何だい? しのぶ。」

 

耀哉が興味深そうにしのぶに尋ねると、しのぶは一瞬の間を置いてから意を決して話し始める。

 

「はい、今後ですが……禰豆子さんに炭治郎君の()()を摂取する許可を頂きたいのです。」

 

『っ!?!?』

 

「しのぶさんっ!?」

 

しのぶの提案に、大広間に激震が走った。事情を知る者も含めてだ。

秘密裏に行う筈だったこの事実は、誰にも知られてはならない筈だったからだ。尤も、アオイとカナヲは平然としていたが。

しかし、しのぶはそれを暴露する形で皆の前で言い放った。

 

「しのぶさんっ!」

 

「おいっ! しのぶっ!!」

 

「大丈夫です、お二人共……此処は私に任せて下さい。」

 

珠世と愈史郎の二人がしのぶに思い留まらせ様と声を掛けたが、しのぶは首を横に振って落ち着かせた。

 

「御館様に先ずは謝らねばなりません。実は五日程前から、禰豆子さんに炭治郎君の()()を摂取させ続けていました……先刻起きた禰豆子さんの急激な鬼化も、炭治郎君の()()を摂取させたがために起きたものと思われます。」

 

『っ!』

 

「そうか……それで禰豆子がああ変化を起こした訳だね?」

 

「はい。御館様にも報告せずに黙って行っていた事を、この場で伏して御詫び申し上げます。誠に申し訳ありませんでした。」

 

しのぶはそう言って頭を下げて耀哉に謝罪した。隣に居たアオイとカナヲも、姉分のしのぶに倣って耀哉に頭を下げた。

これに慌てたのは炭治郎だった。炭治郎もしのぶ達と同様に頭を下げながら、叫ぶ様に耀哉に話し始めた。

 

「お、御館様っ! この件についてはっ「炭治郎、落ち着きなさい。」……っ!!」

 

炭治郎は話している途中で、耀哉が割り込む様に炭治郎を宥めて落ち着かせた。

 

「皆も、一々騒ぎ出さない様に。」

 

『……』

 

耀哉に釘を指されるが如く牽制された行冥達は、耀哉の言い付けに従い沈黙する。

 

「胡蝶様。状況を整理致しますと……禰豆子様が竈門隊士の()()を摂取した結果、その血で作られた血清により草薙様や耀哉様への治療薬が出来たと言う功利を得た一方で、鬼化が急激に促進されたと言う問題点が生まれた……と言う認識でよろしいでしょうか?」

 

「はい、あまね様。その認識で間違いは御座いません。」

 

あまねの質問に対し、しのぶは強く頷いて肯定した。しのぶの解答を受けて、あまねが珠世に質問をする。

 

「珠世様。単刀直入に御伺い致しますが、耀哉様の御身体はどうなるのでしょうか?」

 

『!!!』

 

炭治郎達、大広間に集結している全員があまねの質問内容を耳にして珠世に注目した。

敬愛して止まない耀哉の身体の具合について、この事に気に掛けない訳が無かった。注目するあまり、もはや珠世を射殺し兼ねない程の鋭い視線を炭治郎達が浴びせる中、珠世がその重い口を開いてあまねの質問に答える。

 

「正直に申し上げますと……私では現状維持が精一杯でして、耀哉さんの御身体を完治するどころか、延命治療も叶わないと思います。」

 

『!!!』

 

珠世の結論に、大広間には落胆と失望の溜息が溢れた。あまねは表情にこそ出ていないが、良く目を凝らせば落胆の色が見て取れた。

そんな母の様子を見た輝利哉が、あまねに代わって珠世に質問した。

 

「あのっ……この先の禰豆子さんの血の濃さ次第で、何とかならないのですか?」

 

「輝利哉さんの御気持ちは良く分かります。ですが、禰豆子さんが進化して血が成長するのに比例して、御父上を蝕む呪いもまた進行しています。現状はイタチごっこに等しい状況なのです。」

 

『……』

 

「ただ……一つだけ、耀哉さんが助かる方法が、無い事もありません。」

 

『っ!?』

 

珠世が小さく呟いたその一言が、大広間に激震を齎した。

 

「本当ですか! 珠世さんっ!?」

 

炭治郎が驚愕と歓喜を以て、珠世に勢い良く尋ねる。

しかし、珠世は炭治郎に答えず沈黙する。

少しすると、珠世が重い口を開いて話し始めた。

 

「私は独自の方法を生み出して愈史郎を鬼にしました……その方法とは私が開発した鬼化薬を使用して、人を鬼に変える事なんです。」

 

『っ!!!???』

 

珠世の告白が、大広間に嘗て無い以上の衝撃を齎した。最初に我に返った行冥が、珠世に尋ねた。

 

「すると珠世とやら……まさか、その鬼化薬を使って御館様を鬼に変えれば完治するとでも……?」

 

「そのまさかです。今は手元に無いので、製薬のために少しばかり御時間を頂きますが……。」

 

『っ!!!』

 

「貴様っ!……そんな真似が許されると思っているのか!?」

 

小芭内が珠世の発言を受けて、激昂して珠世を睨み付ける。

 

「許すも許さないもありませんっ!」

 

「っ!」

 

しかし、珠世は小芭内に一切怯む事無く毅然とした態度で返した。珠世は冷静に話を続ける。

 

「私は医者です。私が出来る事は、治療法を提案してそれを行うだけ……選ぶか選ばないかは患者である耀哉さんが決める事……全て耀哉さんの意思一つです。」

 

『っ!』

 

珠世さんがそう言うと、大広間に居る全員の視線が自然と耀哉へと向かう。

 

「……」

 

『……』

 

耀哉は答えず、沈黙を貫く。沈黙する耀哉を見て、周囲は一抹の不安を抱き始めた。

 

「……珠世さん。」

 

『っ!』

 

耀哉が珠世を呼んだ事で、全員に緊張が走る。

 

「はい、何でしょうか?」

 

「その鬼化薬(くすり)を飲んで、成功しているのは愈史郎さんだけだね?」

 

「はい。私は鬼化薬(くすり)を使用してこれまで三十三人もの人間に試して、成功したのは愈史郎だけです。それでも試されますか?」

 

「ふむ……私が鬼化に成功すれば健康な身体を取り戻し、皆みたいに日輪刀(かたな)を振るって戦える様になれるかな?」

 

『っ!?』

 

『御館様っ!!!』

 

耀哉の台詞に、行冥達に極限の不安が襲った。しかし、耀哉は右手を出して行冥達を制止する。

 

「はい……耀哉さんが鬼化に成功すれば、それも可能になるでしょう。」

 

「それが出来れば私にとって素晴らしい未来が待っている……しかし、どんな禁忌をも躊躇無く犯すと言ったけれど、鬼殺隊の頭領たる私が鬼になってしまっては本末転倒と言うものだ……珠世さんには悪いけれど、その申し出は断らせて貰うよ。」

 

『……っ。』

 

耀哉が辞退した事で、大広間に安堵の空気が流れた。行冥達からすれば敬愛する耀哉が鬼に変貌を遂げるなど、悪夢以外の何ものでも無い。行冥達が安堵するのも無理は無かった。

断られた珠世も、行冥達と同様に安堵していた。

 

「はい。伝えた私が言うのも何ですが、耀哉さんが鬼になる方法を選ばなく良かったと思います……耀哉さんの御身体に対して、何の解決策にもなっておりませんが。」

 

「珠世さん……やはりこうなると、鬼舞辻無惨を倒さない限り……父上も産屋敷家もこの呪いから解放される事は無いのですね……。」

 

「残念ながら、私からはそうとしか言えません。しかも耀哉さんが御存命中に無惨を倒せても、その呪いが消滅する保証も有りません。」

 

『……っ。』

 

珠世がそう輝利哉に断言すると、再び大広間に重い空気が漂った。一筋の希望が見えたと思えば悪魔の誘いに等しい只の錯覚、蜃気楼の様なものに過ぎなかったと断言されれば、落胆は隠せない。

 

「しかし、私ははっきりと分かって良かったと思っているよ。」

 

『っ!』

 

珠世程の名医の医術を持ってしても完治しないと断言された耀哉だったが、当の本人は炭治郎達と違って落胆などしていなかった。

 

「珠世さんは残念そうに言うけれど、昨日までは一人で歩くどころか、立つ事さえままならなかったんだ……それが今はこうして一人で動ける様になり、身体中から発生していた痛みからも解放されている。」

 

「更には視力が戻って愛しい家族や剣士(こども)達の顔が見れる様にすらなった。これ以上の望みを口にしたりすれば、罰が当たってしまうと言うものだ。」

 

「っ……しかし……。」

 

「珠世さん、愈史郎さん。どうか自分を責めないで欲しい。私は貴女達に心から感謝しているんだ。本当にありがとう。」

 

「「っ!」」

 

耀哉に自身の不甲斐無さを謝罪して詫びようとしたが、逆に感謝され、そして多謝に満ちた感謝の言葉に、珠世と愈史郎は何も言えずただ頭を下げて答える他に無かった。

頭を下げる珠世と愈史郎を見てから、耀哉はしのぶに話し掛ける。

 

「しのぶ、他に禰豆子について何かあるかな?」

 

「はい。話が少々逸れましたが、最後に禰豆子さんの鬼化についてです。あの上弦の鬼に匹敵する力を今後、禰豆子さんが完全に使い熟せる様になれば炭治郎君の死亡率は勿論、負傷率が大きく下がります。それはつまり、鬼殺隊にとって大きな戦力増強に繋がる事を意味しているのです。」

 

「……そいつぁちと、派手に都合の良い方向にばかり目を向け過ぎてやしねぇか?」

 

『っ!』

 

しのぶの主張に対し、反論したのは天元だった。水を差されたと苛立ち笑顔で青筋を立てるしのぶなど目にもくれず、天元はしのぶの考えについて続けて反論する。

 

「考えても見ろよ? 竈門禰豆子が鬼化する度に、毎回ああやって派手に暴走すんのを止めんのか? 甘露寺一人ですら止められなかった奴を、竈門炭治郎が一人で止められやしねぇだろ?」

 

『っ!』

 

「音柱様、それは……っ。」

 

「くっ……っ!」

 

「……っ。」

 

痛い事実を指摘され、しのぶ達の顔から笑みが消えて不快感で歪んだ。炭治郎も反論の糸口が掴めず唇を悔しそうに噛むしかなかった。

そんなしのぶ達の様子を見て、蜜璃が焦りながらも天元に反論を始めた。

 

「で、でも宇随さんっ! 禰豆子ちゃんが暴走したのは炭治郎君が傷付けられたからですもの!……だから……だからき、きっと大丈夫だと思います!」

 

「甘露寺の言う事も一理有ると思うぜ……でもよ、だからって竃門禰豆子が怒っていない状態でも暴走しないって保証にはならねぇさ。」

 

「っ!……そ、それはぁ……そのぉ……っ。」

 

『……っっ。』

 

天元の指摘に、蜜璃は困り果てた様子で口を籠らせた。それを見て、しのぶ達は益々焦燥感に身体が埋め尽くされた。苛立ちも隠せず、天元を悔しそうに睨み付ける。

 

「おいおい、そんな派手に怖ぇ顔して睨むなっつの。竈門禰豆子の暴走を何とか出来るなら、俺も地味に反対する気はねぇって言ってるんだからよ?」

 

「「「「……っ。」」」」

 

天元は炭治郎達の反応に対し、肩を竦めながらそう言った。しかし、炭治郎達の反応は変わらない。

 

「むぅ~~~~っ!」

 

しのぶ達が、何より最愛の実兄(あに)である炭治郎が怒っている、または困っている様子を見てその原因が天元だと悟ると、禰豆子は唸り声を上げて天元を睨み付けた。

禰豆子が睨み付けて来るのに気付いた天元は、あろうことか禰豆子に近付いて視線を合わせて話し掛けた。

 

「あのなぁ……お前がしっかりすれば良いだけの話なのに、それが地味に出来ねぇからこいつらはお前のせいで派手に困っているんだぞ? お前に人間襲わせて、人殺しだの人喰い鬼にする訳には行かねぇからな。地味に分かってるかぁ? おい?」

 

「うぅっ!」

 

『っ!!』

 

天元そう言って禰豆子の額をツンツンと小突きながら、禰豆子に説教を始める。禰豆子がその内容を理解しているのかは不明だが、不服そうに唸りながら小突かれた額を両手で押さえた。

 

「おっ!……どうした?……悔しかったら以前(まえ)みたいに派手に証明してみせな? 別に難しくねぇだろ? お前が人間を襲わねぇって証拠を俺達に見せりゃ済むんだから。」

 

「ううぅ~~~~……むっ!」

 

『っ!』

 

天元に嗾けられる様に説教された禰豆子が突如、立ち上がって炭治郎の前まで近付いた。禰豆子の行動に、大広間に居る全員が注目する。

 

「……えっと、禰豆子?」

 

「すうぅぅぅはあぁぁぁぁ……すうぅぅぅぅはあぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」

 

禰豆子が閉眼して深呼吸を繰り返すと、意を決して開眼した。すると間も無くして事は起こった。

 

『っ!?』

 

「禰豆子っ!」

 

禰豆子の身体に急激な変化が発生する。先刻暴走した状態の、成長した肉体を持った禰豆子が出現した。

 

『禰豆子ちゃんっ!?』

 

『禰豆子さんっ!?』

 

しのぶや蜜璃、そしてアオイとカナヲがその姿を見て焦燥感を抱き始めた。先刻、禰豆子の暴走した姿が鮮明にしのぶ達の記憶に残っている。

今、禰豆子が再び暴走したら擁護は不可能。今度こそ庇い切れないからだ。

 

「しのぶさんっ。待ってっ!!」

 

「っ!……善逸君?」

 

最悪の事態を阻止すべく動こうとしたしのぶ達に、善逸が唐突に声を掛けて制止した。しのぶはそんな善逸に怪訝に思うも、気になって動きを止めて善逸に振り返った。

 

「禰豆子ちゃん……また鬼化が進んでいるけど、音が凄く澄んでいて穏やかなんです……。」

 

「っ!?……それは本当ですかっ!? 善逸君!!」

 

善逸が超人的な聴力の持ち主だと言う事は、既にしのぶは知っている。また、幾ら禰豆子に好意を抱いて居るとは言え、咄嗟に庇うために嘘を吐いているとは思わなかった。

しのぶは善逸が強く頷いたのを見て、一先ず動かず状況を見守る事を選んだ。

 

炭治郎も立ち上がり、互いに触れるか触れないかと言う距離まで禰豆子と接近する。すると禰豆子が両手を大きく広げて見せた。

 

『っ!』

 

禰豆子が咄嗟に何をするのかと警戒したしのぶ達は一瞬身構えたが、その心配も杞憂で終わる。

大きく広げた両手で、炭治郎を包み込む様に抱擁を始めたからだ。身長差が逆転しており、炭治郎の顔が禰豆子の大きく成長した乳房に当たった。

 

「禰豆子……っ。」

――あぁっ……禰豆子から甘い匂いがする……。

 

「んんっ❤……。」

 

炭治郎を抱擁した禰豆子は、そのまま愛おしそうに炭治郎の頭を優しく撫で始めた。それは母親が我が子を宥める様にも、恋人同士が抱擁を交わしている様にも見えた。

優しく抱擁されている炭治郎もまた、禰豆子から発する甘い匂いにクラクラしながら甘んじて抱擁を受けていた。

 

『……』

 

「「「……っ。」」」

 

突然の竈門兄妹の抱擁を見て言葉が出ない耀哉達だったが、状況を静かに見守った。しのぶ達も同様である。

しかし、実妹とは言え見目麗しい美女に炭治郎が抱擁されているこの光景は見ていて内心では気が気では無かった。

因みに、善逸は双眸を血走らせて炭治郎を凄まじい形相で睨み付けていた。

 

「……んっ!」

 

禰豆子は炭治郎の頭を撫でるのを止めて、その手を頭に置いたまま天元に視線を戻す。その姿は「どうだっ!」と言わんばかりであった。

 

「っ……あー分かった分かった、降参だよっ……派手に俺の負けを認めるぜ、竈門禰豆子。」

 

禰豆子の意図に気付いた天元は敗北を認める様に、両手を上げて禰豆子に降伏宣言をした。

天元の言葉を気に、耀哉が続けて開口する。

 

「これでこの状態でも禰豆子は人間としての理性を保てると証明された……しのぶっ。」

 

「っ!……はい、御館様。」

 

先刻(さっき)から()()()()()()とばかり言っているけれど……詳しい説明をお願い出来るかな?」

 

「勿論です。只今より説明させて頂きます。」

 

耀哉に説明を求められたしのぶは、直ぐに承諾してこれまで行った禰豆子の実験について説明を行った。

 

「……と言う訳でして、禰豆子さんは炭治郎君以外の()()には反応しないのです。この件に関して、何か質問が有る方は居ますか?」

 

「……胡蝶、一つ……いや、二つだけ聞かせて貰いたい。」

 

「何ですか? 悲鳴嶼さん。」

 

沈黙を守っていた行冥が、しのぶにある事を尋ねるために開口する。

 

「一つ目だが……竈門禰豆子の強化、そしてその姿のままでも人間を襲わぬ理性は認めよう。しかし竈門禰豆子の鬼化が一層進んでしまえば、人間に戻すのは益々困難になるのではないか?」

 

『っ!』

 

行冥の指摘に周囲はあっ! とでも言いたい様な反応が起きた。しのぶは行冥の指摘に苦々しく感じながらも丁寧に答える。

 

「その懸念は重々承知しています。禰豆子さんを人間に戻す方法に関しては今後、珠世さんと詳細に話し合って考える予定です。」

 

「そうか、では二つ目だが……このまま竈門炭治郎の()()を摂取し続ければ、鬼化が進んで竈門禰豆子が強力になって行くのは間違いない。しかし、そのせいで鬼の本能が人間(ひと)の理性を凌駕してしまう危険性は無いか?」

 

「悲鳴嶼さん。その事でしたら禰豆子さんが今から何もしなくても、誰が禰豆子さんはこの未来(さき)人間(ひと)を襲わないと保証出来るのです? 禰豆子さんが鬼である限り、人間を襲わないとは誰も断言出来ないのですよ?」

 

行冥の懸念に対し、しのぶは正面から正々堂々と反論する。しのぶはそのまま、言葉を紡いて行く。

 

「しかし、私が言い出した禰豆子さんの提案が鬼殺隊にとって、吉凶どちらに転ぶか分からない大博打である事は認めます……ですから、凶に転んだ時の代償を支払う覚悟は出来ています。冨岡さんの二番煎じだと言う事実が私的には大いに癪ですが……。」

 

『っ!』

 

「代償だと……っ?」

 

行冥の呟きを余所にしのぶは姿勢を正して耀哉と向き合い、懐から一枚の折り畳まれた紙を取り出した。その際にアオイとカナヲもしのぶに倣い、しのぶの左右後ろで姿勢を正して耀哉と向き合った。

 

「しのぶ。その紙は何だい?」

 

「はい、御館様。私からの誓約書に御座います。お納め下さい。」

 

『っ!』

 

しのぶが誓約書を耀哉に渡そうとすると、その前に輝利哉が動いてしのぶに接近する。そして一礼してからしのぶの誓約書を受け取ると、再び一礼してからその誓約書を耀哉に手渡した。

 

「この誓約書とやらには、何が書かれているのかな? しのぶ。」

 

「はい、御館様。もしこの禰豆子さんの試みを行ってから、禰豆子さんが人間を襲って傷付け殺したりした場合ですが……。」

 

しのぶは其処まで言った後、一度深呼吸してからはっきりと断言した。

 

「その時は私、蟲柱・胡蝶しのぶ以下継子・栗花落カナヲ及び神崎アオイの三名。潔く自害して御館様に御詫び申し上げます。」

 

『っ!!!』

 

しのぶはそう言って深く、耀哉に向かって頭を下げた。アオイもカナヲもしのぶに倣って頭を深く下げた。

耀哉を筆頭に皆が驚く中、耀哉は一足先に我に返って考え始めた。

 

「ふむ、鬼殺隊の戦力増強は急務……そしてその禰豆子も理性を保てると自らの手で証明した……しのぶ達が命を賭けてのこの提案。私は喜んで受け入れようと思う。」

 

『っ!』

 

「ありがとうございます。御館様ならば、分かって下さると思っておりました。」

 

しのぶはそう言って深く頭を耀哉に向けて下げた。それは耀哉への感謝は勿論有るのだが、それ以上に自身の思惑が叶った事で隠し切れない笑みを隠すためであった。

 

絶対に禰豆子との精液摂取を目的とした炭治郎との情交(セックス)は表沙汰には出来ない。

しかし、禰豆子に変化が起き続けては隠し切れないとしのぶは判断した。

 

其処でしのぶは炭治郎の()()を禰豆子が摂取しているとはっきり公表するのではなく、()()と言葉を濁す形で真実を事実で隠す事に決めたのだ。

 

珠世と愈史郎の存在も、直に耀哉が自ら鬼殺隊に発表する予定だ。

二人が吸血行為で空腹を満たしていると知れば、禰豆子の件も聞いた者達が勝手に連想してくれるだろう。

 

「しのぶさんっ!……そのっ……っ。」

 

炭治郎はしのぶの思わぬ提案に、禰豆子から離れてしのぶ達に近付いて行く。その表情には感謝と罪悪感の色が見て取れた。

そんな愛する恋人の優しさに愛おしさを覚えながら、しのぶは微笑んで答えた。

 

「炭治郎君、別に気にしなくて良いのよ?……これで私達は一蓮托生。これからも一緒に力を合わせて頑張って行きましょう。」

 

「炭治郎のためなら私達、命が惜しいなんて思わないっ!」

 

「カナヲの言う通りです。私もしのぶ様も、炭治郎さんのためなら喜んで全てを捧げます。」

 

しのぶに続けて、カナヲもアオイも炭治郎に自身の想いを告げる。

 

「しのぶさん……アオイさん……カナヲも……っ……ありがとう。」

 

しのぶ達に謝罪したかったが、炭治郎は逆にしのぶ達の覚悟に泥を塗る侮辱行為になると考えた。そのため、炭治郎は頭を下げて心からの感謝を口にしたのだった。




お待たせしました。何とか一週間以内に投稿出来ました。
中編一話目ですが、まぁ小休止回です。前半戦は息詰まる展開でしたので。
尤も、CP要素がそれぞれ少なくてすみません。

炭治郎君の格好ですが、耀哉様十四歳時に着ていた着物をそのまま着ていると想像して下さると助かります。

次回は本当に遅くなると思います。と言っても今月中の更新が可能だとは思いますが、本当にすみません。

今回こそ比較的穏やかに終わりましたが、次回はまた荒れます。実弥の処罰について話が中心になるので。まぁ前半戦よりはまだ大人しいとは思いますけどね。


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第参拾弐話 日輪は荒れ狂う風を鎮める

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*超辛口表現有り。苦手な方ご注意ください。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「炭治郎。これで君は、左近次と義勇に加えて合計で五人の命がその双肩に掛かった事になる訳だけれど……私は大丈夫だと思っている。しかし、気は抜かない様に気を付けなさい。良いね?」

 

「はいっ!」

 

耀哉にそう激励と戒めを受けて炭治郎は再び抱き付いて離れない禰豆子に抱き締められたまま、重々承知と元気良く返答した。

炭治郎の返答を聞いて、耀哉は切り替えて自分から議題を切り出した。

 

「では、今度は私からある議題を始めよう……実弥、君の処分についての事だ。」

 

『っ!』

 

耀哉の切り出した議題に、大広間に緊張が走った。実弥は唇を僅かに噛む。

しかし、しのぶだけは禰豆子への苛立ちを抑えて、満面の笑みを浮かべながらその議題に先陣を切って話し始めた。

 

「御館様、不死川さんを処分する事に私は大賛成です……まさか皆さん、あんな大騒動を引き起こしておいて、処罰の一つも無いとでも本気で思っていたと?……個人的には、今直ぐこの手で殺してやりたいくらいなのですがね。」

 

『っ!』

 

「……っ!」

 

笑みが消え、しのぶは濁った双眸で静かに実弥を睨み付けた。日輪刀を手に掛けて何時でも抜刀出来る様にしており、顔中に青筋を立て濁った双眸は憤怒と憎悪と殺意で染まっていた。

 

しのぶの行動に、アオイとカナヲも同様に日輪刀に手を掛けた。アオイ達もまた、炭治郎を傷付けた実弥に強烈な怒りを覚えていた。

 

「あの……しのぶさん、そのっ……。」

 

しのぶ達の憤怒の匂いに咽そうになりながら、炭治郎がしのぶ達に声を掛けた。

炭治郎の声を聞いて、しのぶは手に掛けていた日輪刀から手を離した。しのぶは満面の笑みを浮かべながら、手を叩いて炭治郎に顔を向ける。

 

「冗談ですよ❤ 炭治郎君っ❤ 大真面目な話、そんな愚断を犯せば鬼舞辻無惨を喜ばすだけです。感情の制御が出来ない其処らのお馬鹿さん達と違ってそんな真似など致しませんよ❤」

 

「そ、そうですか……ほっ。」

 

愛情に満ちた笑みを浮かべて、しのぶは炭治郎にそう話し掛けた。炭治郎は匂いを嗅いで嘘ではないと知ると、安堵の表情を浮かべる。

 

しかし次の瞬間、炭治郎はしのぶの発言を聞いて固まってしまう。そうなるとはまだ知らない炭治郎を余所に、しのぶは再び耀哉に向かって話し掛ける。

 

「ですので、御館様。私、蟲柱・胡蝶しのぶが不死川さんの処罰について献策致します。不死川さんに関しては柱の地位を剥奪っ! 階級も一番下の『(みずのと)』に降格して死ぬまで使い潰すべきです。それこそ散々使い倒して、使いものにならなくなったらボロ雑巾の様に捨ててやりましょう!」

 

『っ!?』

 

妙案だと思っている自身の思い付いた提案を、満面の笑みで耀哉に献策する。これには行冥達も面食らって絶句してしまう。

何の反応も示さない行冥達に、しのぶはきょとんとした表情を浮かべた。

 

「どうなさいました、皆さん? 今後、珠世さんと愈史郎さんに手を出せば柱でも処罰されるのだと言う、良い見せしめが出来ますでしょう? それをすれば、不死川さんと同じ過ちを犯すお馬鹿さんが居なくなります。

不死川さんも柱として柵が無くなって動き易くなりますから、罰則と言っても利のある判断です。

御本人自ら言ってましたけど、自分は鬼を狩る事しか能が無いらしいですからねぇ?」

 

しのぶは未だ俯いて沈黙を貫く実弥を横目で睨み付けながら、そう言って持論を展開した。

 

「……っ。」

 

「何ですか、その薄汚い目線は? 死罪になって犬死する訳でも無く、謹慎なんて中途半端な処罰で飼い殺しにされて暇を持て余す事も無い、極めて妥当な提案をした心算なんですけどね。私に対して感謝の一言も無いんですか?」

 

塵芥でも見る様な蔑んだ視線で、しのぶは実弥を睨み付けた。しのぶは続けて吐き捨てる様に、実弥に向かって断言する。

 

「それから不死川さん。貴方は今後、蝶屋敷を永久に出入り禁止です。今後の治療や薬の入手等は、自分で勝手に医者や薬師を手配して下さい。蝶屋敷の敷居を一歩でも跨いだら、不埒な不法侵入者としてその場で処断してやりますからその心算で。」

 

「胡蝶……貴様、調子に乗るなよ……。」

 

しのぶの一方的な言い分に対して、ついに小芭内が怒りを込めて忠告する。しかし、しのぶは怯まず鼻で嗤う。

 

「何ですか? 伊黒さんに何か代案があるなら言えば良いだけでしょう? 御館様も仰いましたが、信賞必罰は組織を運営する上で必定です……まさかこのまま有耶無耶にして凌げるなんて、誰も思っていないでしょうね?」

 

「言葉を慎め、胡蝶……御館様に向かって無礼だぞ。」

 

熱り立って口調がきつくなって行くしのぶに対し、見兼ねた行冥が注意する。しかし、この行為がしのぶの怒りの炎に油を注ぐ。

 

「何故、御館様への無礼になるのか理解出来ないのですが? はっきり言っておきますけど、不死川さんが御咎め無しとなっては、無駄に傷付いた炭治郎君や『隠』の皆さんが報われないではありませんか?

「柱なら何をしても許されるのか。」と隊士達から反発を招きますよ?

珠世さん達へ危害を加えても処罰されないと、勘違いするお馬鹿さんの出現や対応も懸念されますし……第一、私は不死川さんや伊黒さんと同列に見られるなどごめん被ります。迷惑極まりないっ!」

 

「しのぶっ!!」

 

「おいっ! 胡蝶!!」

 

「……っ!」

 

行冥と天元が、大声を上げてしのぶに注意をする。二人のその大声に苛立ち、しのぶは青筋を立てる。

 

「しのぶさん。」

 

「っ!」

 

最愛の恋人である炭治郎に声を掛けられて、しのぶはハッとなる。しのぶの左手は、炭治郎の右手で優しく包まれていた。冷静さを取り戻したしのぶは三回程、深呼吸を繰り返してから耀哉に話し掛けた。

 

「御館様。御見苦しいものを御見せしてしまい、誠に申し訳御座いません。」

 

「いや、良いんだ。しのぶの言う事も一理有るのは事実。そもそも、眼前で大切な恋人(ひと)を傷付けられて、怒るのは当然の事だよ。」

 

「御館様……ですがっ。」

 

しのぶの謝罪に対し、耀哉は穏やかな声で先刻のしのぶが行った言動を擁護した。それに対し、行冥はしのぶのあまりに強硬な態度に異議を唱えようとする。

しかしそれに輝哉は一切構う事無く、実弥の処分についての議題を話し続ける。

 

「そう目鯨を立てる事は無い。しのぶの言う様にあれだけの醜態を引き起こしておいて、実弥が処罰の一つも受けずに済む筈が無いじゃないか……被害者が炭治郎だから、こうして内々で片付けられるんだよ?」

 

行冥達を宥める様にそう言った耀哉だったが、言い終わった途端に静かになった。しかし次の瞬間、実弥はブルっと身体を本能的に震わせた。

 

耀哉の目線は『紙眼・視』で隠れていると言うのに、その耀哉から丸で蛇に睨まれた様な鋭い視線を感じたからだ。『紙眼・視』の中心に描かれている瞳の部分が、不気味に上下左右に動き回る。

そして実弥の感じた、耀哉からの視線が錯覚では無かったと耀哉の発言から確信する事になる。

 

「……もし実弥が珠世さんを傷付けていたら、私は迷う事無く実弥を処刑していただろうから。」

 

『っ!?!?』

 

耀哉の口から直接、"処刑"の二文字が出た事に行冥達に戦慄が走った。妻のあまねも、実子の輝利哉達も驚愕を隠せない。炭治郎もまた、思わず固まってしまう。

そのためか、炭治郎はしのぶもアオイもカナヲも耀哉の言葉を耳にして暗い笑みを浮かべていた事に気付かなかった。

 

「お、御館様……御戯れを……。」

 

「……」

 

「「っ!?」」

 

行冥がその巨躯を僅かに震わせながら、耀哉を諫める様に諫言した。その瞬間、炭治郎と善逸が身体をブルっと震わせた。行冥がそう言った直後、耀哉の憤怒の匂いと音が強くなったからだ。

 

「行冥……まさか私がこんな事を冗談で言うと、本気で思っていないだろうね?」

 

『っ!?』

 

行冥達は耀哉の言葉に震え上がった。何故ならはっきりと分かる程に、憤怒を隠す事無く曝け出しながらそう言ったからだ。しかし、耀哉は行冥達に構わず話を続ける。

 

「私が招待した客人達に対して、『隠』の仲間(子供)達に暴力を振るってまで日輪刀(かたな)を奪い、感情のままに凶刃を振るうなど、許されると思っているのかな?」

 

「っ……しかし、こいつらは鬼で「小芭内っ。」……っ!」

 

耀哉が実弥のために弁論を吐く小芭内に対して、黙らせる様に強い口調で小芭内の名前を呼んだ。そのため小芭内は弁論の途中で、閉口して沈黙せざるを得なかった。

 

「殺意も敵意も抱かず、慈悲と慈愛を持って治療を施してくれた(珠世さん)と只々、憎悪に支配され感情の奴隷となって凶刃を振るった人間(実弥)……果たしてどちらが醜悪な存在なのだろうね?」

 

「っ!……そ、それは……っ。」

 

「私には、後者が人間の姿形をしている化け物にしか見えない訳だが……君は、皆はどうなのだろうね?……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()私に共感してくれる筈だ。そもそも、答えは一目瞭然だと思うよ?」

 

『っ!?』

 

明確に憤怒を露わにしながら、耀哉は実弥を断罪する様にそう断言した。

 

 

 

バッ!!!

 

 

 

憤怒する耀哉に恐れをなして、行冥達は咄嗟に平伏して頭を垂れた。その中には汗をダラダラと絶え間なく流す者が幾人も居た。

 

「私はね。心の何処かで珠世さんと合流する事を諦めていたんだよ……炭治郎が尽力してくれるまでは。」

 

『っ!』

 

しかし、その様に戦慄する行冥達に一切気に掛ける事無く、淡々と語り始めた。

 

「無惨から隠れている珠世さんを見つけられたとしても、鬼を深く憎悪している君達がその存在を許容出来るとは思えない。

しかし、君達が鬼によって味合わされ来た艱難辛苦を考えれば、それも仕方が無いと私は諦めるしかなかった。」

 

「また、珠世さんからして見れば鬼殺隊(私達)を信じられる要素など一つも無かった。

愈史郎さんが先刻(さっき)言っていた様に、話も聞いてくれずに問答無用で殺される危険性を考えれば、合流など出来なかっただろう……。」

 

『……』

 

耀哉の語った本音に、行冥達は沈黙したまま耳を傾ける。

 

「だが、私は愈史郎さんの叱責で目が覚めた心地だよ。私の心中で、本当の意味で持つべき覚悟が決まったからだ。」

 

耀哉がそう言うと、強い決意を持って断言した。

 

「私が成さなければならない大望とは、鬼殺隊の創設者たる先祖からの悲願である"鬼舞辻無惨の討滅"。そのために剣士(子供)達に慮ってばかりいてはその大望も、未来永劫に渡って達成出来ないのだとね。」

 

『……』

 

「そして猛省もしている。私は今の今まで、剣士(子供)達に対して親馬鹿が過ぎていた様だ。私の自己満足でしかないこの親馬鹿のために、救えた筈の命が一体幾つ失われたのかと思うと、恥ずかしくて……情けなくて仕方が無い気分だよ。」

 

『……っ。』

 

行冥達は耀哉の言葉を受けて、沈黙が沈痛に変わった。自分達の行動が、立ち振る舞いが耀哉を煩わせていたのだと、漸く自覚したからだ。行冥達は大いに自身に恥を感じ、自己嫌悪に陥った。

 

「御主人様に此処まではっきり言われないと自覚も出来ないのか、この役立たずの駄犬共は。」

 

『っ!?』

 

沈痛する行冥達に対して、死者に鞭打つが如き苛烈な罵倒が襲った。それを口にしたのはやはりと言うべきか、当然と言うべきか、座らず壁側に寄り掛かっていた愈史郎だった。

 

「ゆ、愈史郎君……。」

 

「愈史郎っ!」

 

蜜璃が焦燥して困り果てた様子で、愈史郎に声を掛けた。珠世も語気を強めて愈史郎を呼ぶ、しかし、愈史郎は珠世に一礼するだけで止まる気配が無かった。

珠世は青褪めながら、愈史郎への視線を逸らさず見守った。

 

「耀哉に其処まで言わせるんだ。お前らは一体、どんな過去を持っているんだ? 家族を鬼に皆殺しにされて、そのまま喰われたか? それとも家族を鬼に変えられたか? はたまた両方か?」

 

『っ!!!』

 

「ちょっ!? ゆ、愈史郎さんっ!」

 

傷口に塩を塗るが如き、無遠慮で無神経な口撃が大広間に響き渡る。

炭治郎も流石に拙いと感じたのか、堪らず愈史郎に声を掛けた。しかし愈史郎は止まらない。

 

そして間も無く大広間に居る全員が、愈史郎の最初の口撃はほんの挨拶代わりでしかなかったのだと心胆まで思い知る事になる。

 

「貴様ら、柱共がどんなに惨めな過去を経験したか知った事では無いし、興味も無いがな……はっきり言って下らん負け犬の感傷だな!!!」

 

『!!!!!』

 

愈史郎は行冥達の過去を土足で踏み躙るが如き残酷な断言を下した。しかし、愈史郎は火が着いた松明の如き勢いを保ったまま止まろうとはしない。

 

「鬼殺隊が千年間敗北に敗北を重ね続けて来た所為で、鬼の被害者なぞ巨万(ごまん)と居るんだよっ! 自分だけこの世の不幸を背負った、三文小説に出て来る悲劇の主人公気取りかっ!? 貴様らが舐めた辛酸苦渋なんざ、其処ら中に転がっているわっ!!」

 

『……っ!』

 

激昂した愈史郎の発言に、行冥達は怒りで拳に力が籠もる。しかし、愈史郎は行冥達の様子を見てただただ鼻で嘲笑う。

 

「薄汚い憎悪を発散する理由付けも、好い加減にしろ! 無惨を探して倒すのに貴様らの身の上話が何の意味を持つ? 一体、何の役に立つと言うんだ?」

 

『……っ。』

 

挑発的な愈史郎の罵倒に、行冥達は怒りに身体を震わせるが、それしか出来なかった。

言葉は悪いが、愈史郎は正論しか吐いていないからだ。

 

耀哉に言われて自分達の立ち振る舞いが、結果的に鬼殺隊全体の足を引っ張っていたと自覚させられては、反論の仕様が無かった。

その事を重々承知している愈史郎は、更に行冥達の傷口を抉って広げるために更に苛烈な口撃を行う。

 

「貴様らの薄汚い憎悪を無惨本人にぶつける刻ならいざ知らず、今は何の役にも立たないんだよっ!! 身勝手な復讐心を胸中に抱いて憎悪の憂さ晴らしが許されるのは、あくまで一般隊士(下っ端)までの話だ!」

 

一般隊士(下っ端)ならば、眼前の鬼を如何に倒すかを全力で考えれば良い!……だが柱ならば! 如何に鬼の被害を食い止めるか!……無惨を、上弦の鬼共を如何に探し出して、どうやって倒すか!……もっと広い視野でものを見て考えろっ!

一般隊士(下っ端)共の上に立たねばならない(貴様ら)が、何時までも同じ土俵に立つ事が許されるなんて思うなよ?!」

 

『っ!』

 

愈史郎の鋭い指摘に、行冥達は反応するも未だに何も答えられない。愈史郎は、更に侮辱の念を込めて行冥達を断罪した。

 

「柱の責務を理解せず、只々眼前の鬼を倒して憎悪の憂さ晴らしを優先している貴様らに、柱の肩書を背負う資格は無い!

産屋敷本邸(此処)は理性を持って情報を共有し、無惨一党の対策を練る大人の場だ! 感情に振り回されてチャンバラごっこをしている餓鬼共の遊び場じゃないぞ!!」

 

幾度も鬼と戦い抜いて来たその結果、柱の地位を得た行冥達に向かって柱として相応しい資格が無いと無慈悲に斬り捨てると、止めとばかりに侮辱と軽蔑の念を込めて吐き捨てた。

 

「耀哉の言葉を今一度噛み締めてその胸に刻み込んでおけ!……それでも尚、理解出来ない、納得出来ないと言うのなら、さっさと柱の地位を捨てて産屋敷本邸(此処)から消え失せろ! 存在自体が邪魔だっ!! この糞餓鬼共っ!!!」

 

『!!!!』

 

愈史郎の止めの一言に、大広間はシンと静まり返った。

 

『……』

 

しかし、行冥達は沈痛したまま黙して行動に移る事は無かった。先刻と違って天元の様に武器になる物を持っていないと言うのもあるが、耀哉に叱責されて自身の不甲斐無さを嘆いていたのだ。

 

「愈史郎さん、其処までにしてあげておくれ。」

 

『っ!』

 

大広間を支配していた沈黙を破ったのは、耀哉であった。耀哉は先刻と違い、憤怒が消え去り穏やかな口調で愈史郎に話し掛ける。

 

「かなり乱暴な口調ではあったけれど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、心から感謝しているよ。ありがとう、愈史郎さん。」

 

『っ!?』

 

耀哉の言葉に、行冥達は強い衝撃(ショック)を受けていた。愈史郎の口調にこそ苦言していたが、内容には同意していたからだ。どん底に突き落とされた行冥達は、強烈な羞恥心をその身に叩き付けられる結果となった。

 

「さて……()達へのお小言もこの辺で切り上げるとしようか?……十二分に反省しただろうし、これ以上は時間の無駄になるからね。」

 

『……』

 

耀哉の言葉に、行冥達は返答する気力も無く只々頭を垂れる他に無かった。

 

「さぁ、議題(はなし)を続けようっ……もう一度言うが、流石に御咎め無しと言う訳には行かないし、そうする心算も無い……況してや有耶無耶にするなど、有り得ないんだよ。理解しているだろうね、実弥?」

 

「御意……。」

 

耀哉に話し掛けられて、実弥が初めてその重い口を開いた。

 

「己がしでかした醜態の罪深さ、重々承知しております。如何なる処罰も、甘んじて受ける所存に御座います。何卒、厳正なる処分を……っ!」

 

「そうか……なら、炭治郎。」

 

「は、はい! 御館様。」

 

耀哉の呼び掛けに、炭治郎は即座に応じた。そして周囲の驚愕させる言葉を口から走らせた。

 

「実弥の処分に関してだけど、君に全て一任しようと思っているんだ。」

 

『っ!?』

 

驚愕する周囲を余所に、耀哉は炭治郎を真っ直ぐ見詰めて淡々と続ける。

 

「俺に一任……ですか?」

 

「ああっ。『隠』の子供達も、皆が炭治郎の判断を尊重すると言ってくれているんだよ。

だから君が実弥への処罰を望まないと言うのなら、これ以上は実弥を咎めず不問にしよう……逆に死罪を実弥に求めるならば、今この場で私が実弥に切腹を言い渡そう……但し、介錯は炭治郎、君の手で実行して貰う事になっても良ければ、の話だけどね?」

 

『っ!!!』

 

耀哉の口から死罪の二文字が出て来た事に、行冥達は大いに驚愕した。先刻、"処刑"の二文字を聞いているとは言え、やはり驚愕を隠せない。

 

「御待ち下さいっ! 御館様っ!!……それはあまりにも……っ!」

 

「あまりにも?……小芭内、その言葉は炭治郎と実弥、どちらのために言っているのかな?」

 

「……っ。」

 

思わず立ち上がって抗弁する小芭内に、耀哉は指摘する。その指摘に小芭内は口を噤んだが、それも一瞬の間だけ。直ぐにはっきりと耀哉に向かって反論する。

 

「恐れながら、蛇柱・伊黒小芭内が御館様に申し上げます。被害者である竈門炭治郎に不死川の生殺与奪の権利を一方的に握らせるなど、それではあまりにも公平性に欠ける様に思われます。

胡蝶も先刻、指摘した様に柱を自らの手で欠けさせるなど、鬼舞辻無惨を喜ばせるだけ。何卒、御再考下さい。」

 

小芭内は自身の主張をはっきりと耀哉に伝えた。しかし、耀哉は『紙眼・視』で上半分が隠れた顔からはっきりと分からない笑みを浮かべるだけだった。

その不気味な笑みを浮かべたまま、耀哉は小芭内の主張に答えた。

 

「小芭内。君はちゃんと先刻(さっき)起こった大騒動を見ていなかった様だね?……そして未だに君は炭治郎と禰豆子、そして珠世さんと愈史郎さんの重要性が分からないみたいだ。」

 

『っ!』

 

「……御館様、それはどう言う……っ?」

 

先程の激怒した耀哉の様子を思い出して、小芭内は震えが止まらなかった。鏑丸も怯えて、顔を隠している。周囲もまた、耀哉の様子を見て動揺が走る。

 

「君達は"始まりの呼吸の剣士"以来の逸材だと、私は誇りに思っているよ。そんな皆にはっきりと言って置くけれど、私は君達と同等かそれ以上に珠世さんと愈史郎さん、そして炭治郎と禰豆子はこの先の鬼達との戦いと無惨との決戦時に無くてはならない存在だと認識しているんだ。」

 

『っ!』

 

耀哉の炭治郎達に対する評価に、全員が驚愕する。何より炭治郎達本人が一番驚いていた。禰豆子はよく分かっていなかったが。

 

「命を天秤に掛けるなど以ての外だけれど、実弥一人のためにこの四人は失われて良い命では無いんだよ。危うくこの先の対無惨、対上弦の鬼、対鬼用の戦略や作戦、計画が全て台無しにされるところだったんだ。

それに被害者と加害者……両者を天秤に掛ければ、加害者の権利が被害者の権利より凌駕してはならないのは自明の理だと思っているんだけど、小芭内の考えは違うのかな?」

 

「っ!……御館様の仰る事は御尤も……ですがっ!」

 

「もう良い……止めろ、伊黒。」

 

「っ!」

 

未だ耀哉に対して抗弁する小芭内に対し、制止する者が現れた。加害者として糾弾されている実弥本人である。

 

「庇ってくれんのは嬉しいけどよ、ケジメを着けなきゃならねぇのは事実なんだ。これ以上、俺に恥を掻かせないでくれ。」

 

「不死川……分かったっ。」

 

そう言って小芭内を実弥は制止した。すると別の人物も声を上げた。

 

「伊黒。その辺で諦めたらどうだ?」

 

「冨岡……。」

 

抵抗する小芭内に対し、声を掛けたのは羞恥心が抜けた義勇だった。義勇は更に続ける。

 

「(炭治郎が私情や私怨に満ちた判断を下す筈が無いだろう……)俺は好い加減にしろと言っている。これ以上の弁解は時間の無駄だ。見苦しい事この上無い。」

 

「何だとっ!?……冨岡、貴様……っ!」

 

「はいはい、喧嘩なら鬱陶しいんで余所でやって下さいねー。」

 

一触即発状態になる義勇と小芭内に対し、しのぶがウンザリとした様子で邪険する様に仲裁した。

しかし、そんな義勇達を置いて耀哉は強引に話を進めた。耀哉は少し強い口調で、小芭内に断言した。

 

「小芭内、これは決定事項……もう決まった事なんだよ。炭治郎っ。」

 

「……っ。」

 

「はいっ!」

 

小芭内を黙らせた耀哉は優しい声色で炭治郎の名前を呼んだ。炭治郎は元気良く返答すると、耀哉が炭治郎に尋ねた。

 

「実弥に下す処分は決まったかい?」

 

『っ!』

 

耀哉の質問に、大広間に居る全員が炭治郎に注目した。

 

「はいっ! 決めましたっ!」

 

『っ!!』

 

「……ほう。」

 

耀哉は炭治郎の言葉に、興味深そうに注目した。

炭治郎は耀哉の視線と興味の匂いを察して答えた。

 

「御館様、俺は……不死川さんへの処罰を求めますっ!」

 

『っ!!!』

 

振り下ろされる断頭台(ギロチン)の処刑刃が如き炭治郎の断言に、行冥達は驚愕した。

アオイ達一部の者達に至っては、優しさと善意の塊である炭治郎なら無罪放免にするだろうと思っていただけ、炭治郎の断言を耳にして固まっている。

尤も、しのぶだけは双眸を輝かせて炭治郎が次に何を言うのか期待していたが。

 

「……っ。」

 

そして実弥は、炭治郎の断罪の如き発言に顔を俯かせて拳を強く握りしめた。

そんな様子の実弥や固まる耀哉達を横目に、炭治郎は更に主張を続ける。

 

「ですが、死罪までは求めません。しのぶさんが仰った様に、無惨を喜ばせる様な真似はしたくは有りません。」

 

「だとしたら、炭治郎。君は実弥にどんな処罰を望むのかな?」

 

「はい、俺が望む不死川さんへの罰は……。」

 

其処まで言うと、炭治郎は一度深呼吸をしてからはっきりと断言した。

 

「絶対に俺の質問に正直に答える事と、絶対に俺のお願いに文句を言わずに承諾する事です!」

 

『っ!?』

 

炭治郎の想定外過ぎる要望に、大広間は騒然とした空気が流れた。

一方で、耀哉としのぶは非常に楽しそうに、興味深そうに笑みを零した。

 

「成程……確かに実弥にとって炭治郎に絶対服従を強いられるのは屈辱の極みだからね……分かった、許可しよう。」

 

『っ!』

 

「っ!……御館様、他の処罰ならば如何様にも謹んでお受け致しますっ!……ですが……ですがそれだけは……。」

 

実弥は懇願する様に、耀哉に対してそう言った。しかし、耀哉は変わらなかった。

 

「実弥……罰と言うものは受ける本人が嫌がるものでなければ本来の意味を無さないんだよ……この産屋敷邸に居る間は、炭治郎の言動は私の言動も同然だと思って接する様に。」

 

「…………」

 

「実弥っ。」

 

「っ!……御意っ。」

 

耀哉に強い声で呼ばれた後、実弥は内心では不承不承としながらも耀哉の言葉に従い、頭を垂れて承諾した。

 

「……すみません、失礼しますっ!」

 

『っ!』

 

炭治郎は実弥が耀哉の命令を承諾したのを見てから、一度立ち上がって実弥の眼前まで移動する。

実弥の周囲に居た者達は、空気を読んで道を開けて炭治郎を通した。

すると実弥の眼前に立った炭治郎は、姿勢を正してから対峙する様に実弥の前に座り込んだ。

 

「不死川さんっ! 早速ですが、俺には貴方に御尋ねしたい事が二つ程有ります!」

 

「……っ!」

 

実弥は視線すら炭治郎と交えるのが嫌なのか、顔を横に背けた。しかし、実弥のそんな態度にも大して気にする事も無く、炭治郎は質問を始めた。

 

「先ず一つ目……貴方は本当なら、珠世さんを殺す気も傷付ける心算も無かった。そうですよね? 不死川さん。」

 

『っ!』

 

「……っ。」

 

炭治郎の質問に対して、実弥は答えようとしない。尤も、炭治郎は気にしないのだが。

 

「不死川さんが珠世さんを斬ろうとした時……いや、それより前に珠世さんの顔を見て視線を交えた瞬間、俺は不死川さんから強い恐怖と拒絶の匂いが感じたんです。」

 

「でも、殺意の匂いは一切しなかった。ただ珠世さんを遠ざけたくて、珠世さんから離れたくて腕を振ったんだと思います。

もし本気で殺そうとしていたら、不死川さんなら咄嗟の動きでも頸を狙って斬ろうと思えば出来たと思いますからね。」

 

『っ!!』

 

「……」

 

「あぁ、もしそうなっていたら俺、冗談抜きで死んでいたかもね……色んな意味で紙一重で無事に終わって良かったんだなぁ……あはははっ。」

 

「笑えませんよ、炭治郎さん……。」

 

炭治郎が軽口を叩いて笑うと、珠世が苦言を呈した。もし炭治郎が死んでいたら、この緊急柱合会議は破綻していたのだから茶化して済む話では無かった。

 

「珠世さんの言う通りだよ、炭治郎……それはそうと実弥、炭治郎の指摘に間違いは無いかな? 有るならはっきり言う様に。」

 

「……御意。御館様の仰る通りで間違い有りません。」

 

炭治郎の質問には一切答え様とはしなかった実弥は、耀哉に尋ねられて初めて開口した。

 

「……っ。」

 

そんな実弥のあからさまな態度に、しのぶは青筋を浮かべて苛立っていたが、しのぶの様子に気付いた炭治郎が一度しのぶに声を掛けた。

 

「しのぶさん、落ち着いて下さい……それがはっきりしたなら結構です。俺はその件で貴方を責める心算はありませんので。」

 

「……」

 

炭治郎がそうはっきりと実弥に告げたのだが、実弥は再び顔を俯かせて炭治郎を無視した。しかし、炭治郎の一言が、実弥を無視出来ない事態に至らせた。

 

「ですが、不死川さんが珠世さんに危害を加えようとした事実に変わりありません。

なので、その償いとして……今後は定期的に不死川さんの稀血を珠世さんと愈史郎さんの御二人に提供する事を求めます。」

 

『っ!』

 

炭治郎の提案に、響きが大広間に広がった。しかし、耀哉だけが楽しそうに笑みを浮かべて炭治郎に話し掛ける。

 

「実弥の血を、珠世さん達に渡すのかい?」

 

「はい、御館様。どうせ摂取するなら、普通の血より稀血の方が珠世さん達の力になりますから。」

 

「成程、妙案だね……良いだろう、実弥。今後は定期的に珠世さんと愈史郎さんに、その稀血を提供しなさい……言っておくが、拒否する事など許さない。良いね?」

 

「っ!……っ……御意。」

 

実弥は絞り出す様に、苦しそうな声で耀哉に承諾した。しかし、それを見た珠世が遠慮がちに炭治郎に話し掛けた。

 

「あの……炭治郎さん。私達は別に無理に稀血を求める心算は無いわ。気を使わなくても良いのよ?」

 

「いいえっ! これは不死川さんの罰なんです! 珠世さん達こそ、御遠慮無さらないで下さいっ!」

 

珠世の言葉に対して、炭治郎は実弥への配慮など一切する事無くそう断言した。

 

「でも……。」

 

「珠世様、此処は炭治郎と耀哉の好意に甘えましょう。炭治郎の言う様に、俺達が遠慮する必要など何処にもありません……おい、三下。血を抜いても倒れずに済む様に、今後は怪我なんぞする事無く無惨の鬼共を倒せよな? まぁそんな実力もお前に無いのなら、話は別だがな。ふんっ。」

 

「っ!……ちっ。」

 

愈史郎が珠世を説得した後、実弥に向かって挑発的な言動をしてから鼻で嗤う。それを見た実弥は一瞬、青筋を浮かべるも何も出来る事はないため、舌打ちして顔を反らすしか出来なかった。

 

実弥と愈史郎の遣り取りが終わったのを見て、既に実弥から言質を取った炭治郎はしのぶに話し掛けた。

 

「しのぶさん。不死川さんの承諾を得たので……血も貰うにしても、新鮮な物に限ります。不死川さんの蝶屋敷出禁を解いてやって貰えませんか?」

 

「!……ええ、そうね。炭治郎君の言う通りだわ……不死川さんの出禁を解きましょう。不死川さん、先刻(さっき)の事は前言撤回します。ちゃんと蝶屋敷へ()()()通って下さいね。」

 

「…………ちっ。」

 

意地の悪い笑みを浮かべて、しのぶは実弥に向かって先刻と正反対の言葉をサラリとしたり顔で言ってのけた。しのぶの発言に、実弥は忌々しそうに舌打ちする。

 

これで実弥は今後、自身の稀血を提供するために毛嫌いしている鬼が何体も滞在している蝶屋敷へ通わなければならなくなったのだ。

 

その事に気付いたしのぶは内心で実弥の心情を嘲笑って敢えて"足繁く"と心にも無い事を笑って言いのけてみせた。しのぶの心情に気付いた実弥もまた、苛立ちながら舌打ちする他に無かったのだ。

 

一方の炭治郎は、実弥の事など一切気に掛ける事も無く二問目に入った。

 

「では、続けます。二つ目……と言うかこれが本題なんですけどね。単刀直入にお聞きします。貴方は()()と言う男を御存知ですよね?」

 

『っ!』

 

『っ?』

 

炭治郎の質問に、大広間は二つの反応に別れた。首を傾げる者と双眸を見開かせて驚く者でだ。尤も、前者の方が多く、後者の方が少なかったが。

 

「……いや、知らねぇ……。」

 

「不死川さん、嘘は吐かない約束ですよね? 真偽なんて、匂いで直ぐに分かるんです。無駄に時間を取らせない下さい……もう一度言いますが、()()を御存知ですよね?」

 

顔も合わせず小声で否定する実弥に対し、炭治郎は少し怒りを覚えながら声を強め、改めて実弥に質問した。

 

「っ……知らねぇって言ってんだろうがァ!……俺には()は居ねぇんだからよ!」

 

『っ!』

 

苛立ちが頂点に達した実弥が、炭治郎を突き放す様にそう否定した。

しかし、この時に口にした言葉を実弥は自覚していなかった。

 

「……今、貴方は"()"と口にしましたね? 不死川さん。」

 

「っ!?」

 

実弥は炭治郎の指摘を受けて、あっと言わんばかりに右手で口を押さえた。

炭治郎は動揺する実弥を見て、思わず笑みを零した。

 

「俺は"不死川玄弥"と姓名で言わず、名前しか口にしませんでした。それなのに御自分から"弟"と口にした……俺は玄弥が家族なのかすら、一言も言いませんでしたよ? 引っ掛けた俺も悪いですが、語るに落ちましたね? お兄さん?」

 

「テメェ……っ。」

 

炭治郎が意地悪い笑みを浮かべながら、実弥にそう言うと苛立ちから青筋を浮かべる。

しかし、炭治郎はそのまま畳み掛ける積もりは無かった。その理由は、カナエからの助言が理由に在る。

 

『あなた。不死川君に弟君の事を単刀直入に言っても、絶対に認めないと思うわ。前にしのぶがその事を不死川君に言ったら、頑なに弟だと認めなかったんですもの。

あっ! それから"鬼喰い"の能力についても知らないみたいよ。だから気を付けてね? 知ったら不死川君、ブチ切れるのが目に浮かぶから。』

 

――……なら別方向で攻めて認めさせれば良い。でも()()()を言ったら不死川さん、ブチ切れるだろうなぁ……。

 

炭治郎は激昂する実弥を脳裏で想像しながら、心中で覚悟を決めて話を続けた。

 

「不死川さん。改めて尋ねます。玄弥は貴方と血の繋がった弟ですね?」

 

「……違うっ!……あんな奴は俺の弟じゃねェ!!」

 

『っ!』

 

実弥は先刻よりも大声で炭治郎の質問に対して、強く否定した。

 

「……そうですか、分かりました。」

 

『っ?』

 

炭治郎は実弥の否定に対して、何か言う訳でも無かった。此処から炭治郎が実弥に怒涛の追求が始めるのだと思っていたばかりに、大広間には拍子抜けの雰囲気が広がる。

 

実弥もまた、怪訝そうに炭治郎を見た。

そんな雰囲気に押される事無く、炭治郎は冷静に淡々とした様子でゆっくりと言葉を吐いた。

 

しかし、炭治郎は冷静に、淡々としながらゆっくりと答えた。

 

「不死川さんがあくまでも「玄弥は弟なんかじゃない、赤の他人だ。」と否定し続けるなら、俺もこれ以上追求しません。」

 

『っ!』

 

「っ!……っ?」

 

「寧ろ俺としても、不死川さんに謝罪する手間が省けるから逆に良いくらいですよ。」

 

「……謝罪だァ……?」

 

満面の笑みを浮かべた炭治郎の一言に、実弥は益々怪訝そうに炭治郎を見た。自身が炭治郎に謝罪される謂れなど、実弥には心当たりが無かったからだ。

 

『……っ?』

 

『っ!』

 

行冥達は頭を傾げていたが、炭治郎の一言に心当たりが有るのかあっとした表情をする者達が居た。

産屋敷家と善逸の八人だ。そして善逸だけが顔色を青くしていた。

 

「お、おい! 炭治郎っ!! その話は……。」

 

「善逸、良いから黙っててくれ。」

 

善逸が思わず声を荒げて炭治郎を止めるが、炭治郎は逆に善逸を黙らせると自分から話を切り出し始めた。

 

「俺、"最終選別"を玄弥と一緒に参加したんですが……終わった後に少し喧嘩をしてしまいまして。で、その刻に玄弥の右腕を俺が圧し折ってしまったんですよ。」

 

『っ!?』

 

「なっ……!!」

 

炭治郎の思わぬ過去の暴露話に、行冥達は驚愕する。実弥も炭治郎の暴露話が一瞬、理解出来なかったのか双眸を見開かせて驚愕した。

 

「玄弥の腕を圧し折った事に後悔や罪悪感は一欠片も無いんですけど、ちょっと遣り過ぎたかなぁって思わなくも無かったんです。だから代わりにお兄さんに謝罪しようと思ったんですが、手間は省けました。ありがとうございます。」

 

「……テメェ……今何つったァ?……玄弥の腕を、圧し折りやがっただァ?」

 

実弥は炭治郎の言葉を、もう一度尋ねた。すると炭治郎は自身の行いに何とも思う事無く、左腕を前に出してから右手で掴んで説明を始めた。

 

「はい、ですからこうやって俺が玄弥の右前腕部分を掴んでからミシッ!……って感じで圧し折ったんですよ。握り潰す勢いでやったんですけど、人間の骨って存外硬いですよねぇ……ってあれからもう半年以上経つと思うと懐かしく感じるなぁ。あはははは。」

 

炭治郎が体験した、嘗て起きた出来事を懐かしそうに語ると、楽しそうに笑って見せた。

 

「……っ。」

 

この挑発的な炭治郎の態度が、実弥の堪忍袋の緒を引き千切る事になる。

そして実弥がそうなると予想した炭治郎はもまた、匂いで実弥の気配が変わったのを察知した。

 

――凄い怒りの匂いだっ!……っとまた不死川さんの右腕っ!!

 

「おわっ!?」

 

「っ!」

 

『っ!!』

 

実弥が激昂するのが予想出来たので、匂いを察した瞬間に身体を右側へ動かした。

すると既に実弥は唐突に身体を僅かに起き上がらせて、風の如き速さで炭治郎に接近していた。炭治郎の首が在った位置へ、実弥の右手が空を切った。

 

――速っ!?

 

しかし、それも紙一重だ。一呼吸でも炭治郎が遅れていたら、今頃は実弥に首を握られて鷲掴みにされていたに違いない。炭治郎はそれを理解して背中に冷や汗を流した。

 

「……フザけた事抜かしやがってェ糞餓鬼がァ! あァ!?」

 

実弥は顔どころか、首の血管をも浮かせる程に怒り狂っていた。あまりの殺意の強さから、もし首を掴まれていたらそのまま圧し折られていた可能性を考える程だ。

 

空振りに終わった実弥の初撃だったが、だからと言って諦められる程、実弥の怒りは浅くない。もう一度炭治郎の首を狙って動こうとした、その瞬間だった。

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

「っ!……テメェは!」

 

「止めろ、不死川……これ以上の狼藉は俺が許さん。」

 

『っ!』

 

実弥の肩を掴んで制止したのは義勇だった。実弥に警告した様に、これ以上の狼藉は許さないと義勇が実弥を睨み付けた。普段は何を考えているか分からない、その容姿端麗なれど無表情な顔には怒りで青筋が浮かんでいた。

 

「邪魔ァすんじゃねぇよ冨岡ァ! こいつは俺とこの餓鬼の問題だァ!!」

 

それに対して実弥もまた、妨害されている怒りから炭治郎から視線を外し顔を横に向けて義勇を睨み付ける。

 

「不死川。自分が今、どの様な立場に立たされているのかを未だに理解していない様だな?……(周囲(まわり)を良く見渡して見ろ、頼むから落ち着いてくれ。このままだとお前は本当に殺されるぞ。)……お前は何処まで恥を晒せば気が済むんだ?」

 

「あ"ァ!?」

 

双眸を血走らせて怒り狂う実弥だったが、義勇の言葉を聞いて前方の異変に気付いた。

 

「しのぶさん、禰豆子っ……皆……っ!」

 

「炭治郎君、貴方は下がってて……っ!」

 

「うっー!!」

 

「三下、貴様!!」

 

「「「「……」」」」」

 

『っ!』

 

炭治郎を庇うためにしのぶを筆頭に、禰豆子、カナヲ、アオイ、珠世、愈史郎、そして善逸と伊之助が実弥の前に立ちはだかった。愈史郎、善逸と伊之助は警戒心と敵意を抱きながら実弥を睨み付けたが、しのぶ達女性陣に至っては、殺意すらその宝石の如き双眸に宿していた。

 

「……っ。」

 

しのぶ達の殺気に気付いた実弥だったが、だからと言って自ら手を引く事は出来なかった。愛する家族を傷付けられたと聞いて、黙って居られる事など実弥に出来る筈が無かったのだ。

 

導火線に火が着いたが如き、何時爆発してもおかしくない一触即発の空気が大広間に広がる。

 

しかし、此処で誰もが思わぬ人物がこの火が着いた導火線に水を掛けて鎮火する働きを見せた。

 

「ど、どうか! もう御止め下さいっ! 不死川様っ!!」

 

『っ!?』

 

実弥の暴走を止めるために、炭治郎の下へ駆け出したのは耀哉の四女で末っ子の産屋敷かなただった。これには実弥も面食らって動揺する。

 

「かなた様っ!?」

 

「かなた様っ!? 何故……。」

 

「……っ!」

 

しのぶと実弥は当惑しながら乱入して来たかなたに尋ねたのだが、かなたは答える事無く炭治郎を庇う様に抱き着いた。

 

『っ!?』

 

「っ……竈門様は……竈門様はただ私を助けて下さっただけなので御座います。お願いですからもうこれ以上、竈門様を傷付けないで下さい!!」

 

『……っ!?』

 

「かなた様を……助けた、だと?」

 

疑問符を思い浮かべながら、かなたが口にした内容を義勇が復唱する様に呟いた。

義勇の呟きが、水面に波紋を広げる様に大広間に広がって行く。

しかし、そんな周囲を眼中に入れる事無くかなたは炭治郎に心配そうに声を掛けた。

 

「竈門様……御怪我は御座いませんか?」

 

「はい、かなた……様。今度は俺がかなた様に助けられちゃいましたね。」

 

炭治郎の腰に抱き着きながら心配するかなたに、炭治郎は安心させるべく笑顔でかなたにそう答えた。

 

『……』

 

事情を知らない行冥達は、沈黙して炭治郎達を見守る事しか出来なかった。一方でしのぶ達は、半眼で炭治郎を睨み付けていた。

 

「ふむ……私はかなた本人からこの話を何度も聞いているけれど、皆は……と言うか行冥すら何も聞いていないとは意外だね。」

 

「私が……ですか、御館様。」

 

耀哉に名前を呼ばれた行冥は、少し当惑しながら耀哉に答えた。

 

「うん……しかし、事情を知らないと話に着いて行けないだろう。輝利哉、当事者の一人として皆に当時の状況を説明してあげなさい。」

 

「はい、父上。」

 

耀哉に促されて、かなたと共に当時の現場にいた輝利哉が状況を説明するべく前に出た。

 

「これは去年の八月上旬に行われた"最終選別"で起きた出来事です。竈門炭治郎様、我妻善逸様、嘴平伊之助様、栗花落カナヲ様、不死川玄弥様、合計で五名様が見事に七日七晩を生き残り合格されました。」

 

『……』

 

輝利哉が口火を切る様に、炭治郎達が参加した"最終選別"について語り始めた。

行冥達は輝利哉の話を聞くために、閉口して話に傾聴する。

 

「事が起きたのは"最終選別"が終わった八日目の朝です。私達が鬼殺隊へ入隊するに当たって説明をしていたのですが、不死川玄弥様は説明を聞かず「早く日輪刀を寄越せ。」と言いながらとても苛立っていました。私達はそれを無視して説明を続けると苛立ちが限度を超えたのか、不死川玄弥様がかなたを何度も殴って乱暴を働いたのです。」

 

『っ!?』

 

想像を超える話題の内容に、事前に知っていた産屋敷家及び炭治郎と善逸を除いた面々は絶句する。

 

「なん……だと……私は何も聞いていないぞっ。」

 

行冥は度々流している涙を止める程に絶句し、怒りに震えた。額には青筋が立っており、新しく持って来た数珠が力を込め過ぎたせいか早速、ピシッと音を立てて一筋の罅を入れていた。

 

「っ……其処へ不死川様を見兼ねた竈門様が、私を庇って不死川様を止めて下さったのです……っ。」

 

かなたは実兄の輝利哉を説明に補足を付け足す様にそう説明しながら、炭治郎に抱き着く力を強めた。

微かに震えるかなたを察して、炭治郎は優しくその頭を撫で始めた。

 

「げ、玄弥が……かなた様に、そんな狼藉を……っ。」

 

実弥は輝利哉とかなたから実弟の玄弥が"最終選別"でしでかした愚行を聞かされたせいか、炭治郎への憤怒は当の昔に霧散し、その心中は動揺を中心に怒りや罪悪感などがぐちゃぐちゃに混在していた。

 

輝利哉とかなたから話を聞いて、しのぶ達もまた動揺を隠せない。しのぶは目撃者であろうカナヲ達に即刻、この一件について尋ねた。

 

「カナヲ、善逸君、伊之助君。貴女達はそれを目撃したの?」

 

「いいや、俺は速攻で山を降りたから何も知らねぇぜ!」

 

「えっと……私も知りません。いえ、何も覚えていません。」

 

「ちょっ!? 何でカナヲが知らないのよ?! 伊之助さんはともかくあんたは当事者の筈でしょうが!?」

 

「そーだよっ!? アオイちゃんの言う通りだよっ!! て言うか、何で覚えていないのさ!? カナヲちゃんの眼の前で起きた事じゃん!? 其処はちゃんと覚えていようよっ!?」

 

「……はあ。」

 

伊之助は当時の現場に居なかったため、開き直った様に胸を張って答えた。カナヲもまたキョトンとした顔で首を傾げるので、当時について何も覚えていないと言うのは間違いない様であった。

 

不在だった伊之助はともかく、カナヲが何一つ覚えていないと言う事にアオイと善逸は激しくツッコミを入れ、しのぶは思わず溜息を零した。

 

「……不死川の弟がかなた様に狼藉を働くとは……成程、深い血の繋がりを感じるな。」

 

『っ!』

 

しみじみとした様子で、義勇がぼそっと呟いた。その声量は呟きとは言えない程、大きな声ではあったが。

 

「義勇さん、どうしてこの一件が不死川さんと玄弥の間に深い血の繋がりを感じるんですか?」

 

炭治郎は率直に疑問を浮かべて、義勇に質問した。

 

「おい、待ちやがれェ……っ!」

 

実弥は慌てた様子で義勇を阻止しようとした。しかし、義勇が先にその理由を口にしたことから失敗に終わる。

 

「不死川は柱になって初めて参加した柱合会議で、御館様に聞くに耐えない悪口雑言を吐いたからだ……不死川は御館様に、不死川の弟はそのお嬢様に……兄弟揃って産屋敷家への無礼千万の狼藉、とても良く似た兄弟だと俺は思う。」

 

『っ!?』

 

「……っ。」

 

義勇によって思わぬ過去を暴露された事で、その過去を知らなかった面々は絶句した。同時に実弥ならやりかねないと納得もしてしまったのだが。

 

「派手だったなーあん時は。」

 

「南無……私は不死川に悪霊でも取り憑いているのかと思い、真面目に御祓いを勧めた程だ。」

 

当時、その柱合会議に参加していた行冥と天元は懐かしそうに呟いた。

 

「不死川……っ!」

 

「"血は争えない"とはこの事ですねぇ。」

 

「酷いよ、不死川さんっ!」

 

「えっと、"同じ穴の狢"って言うんだっけこう言うの?」

 

まだその当時、柱に就任していなかった小芭内達は、実弥の狼藉に非難轟々だった。

 

「……(絶句)」

 

「三下、昔っから見境無く人に噛み付く奴だったんだな。と言うか今より酷いとか、良く考えたら相当だなっ。」

 

「だからって御館様にまで噛み付くのは、如何なものかと……。」

 

「……最っ低。」

 

「え、うわぁ……何それ超ドン引きなんですけど……っ。」

 

「見た目通りの狂犬野郎だったてぇ訳だなっ!」

 

そして珠世達もまた、実弥を非難しながら散々に罵倒していた。

 

「……っ……っっ……っっ。」

 

抹消したい過去を大暴露され、針の筵に座った状態に陥った実弥は羞恥心と憤怒で震えながら、顔を真っ赤に染めて耐える他に道は無かった。

 

 

 

ポン

 

 

 

「っ!」

 

身体を震わせる実弥に、誰かが肩を軽く叩いた。実弥は振り返って見ると、実弥の肩を叩いたのは義勇だった。

 

「不死川……(別段、そんなに気にする必要は無い。)確かにお前は御館様に悪口雑言の限りを吐いたが、(それも過去()の話だ。お前は本当は優しい奴だから、未だに気にしている様だな。だが少なくとも御館様と)俺は気にしていない。気にしたところで、事実は消えないからな。潔く諦めろ。」

 

「冨岡、テメェ……っ。」

――テメェなんざどうだって良いんだよっ! 余計な事だけベラベラ喋りやがってェ……っ。

 

実弥は激昂して義勇を殴り倒したい衝動に駆られたが、同時に更に強烈な羞恥心を抱えて沈黙する。しかし、ムフフと笑って話し掛ける義勇の表情が実弥にとって実に立腹ものであった。

 

憤怒や羞恥心と言ったあらゆる感情を全て押し殺しながら、実弥は炭治郎とかなたの前へ移動し始めた。それを見てアオイ達は騒ぐのを止めて警戒したが、しのぶに言われて道を開けた。

 

実弥は炭治郎とかなたの前に、正確にはかなたの前に立つと、勢い良く膝を尽き頭を垂れて土下座した。

 

「玄弥がかなた様に対して、その様な狼藉を働いたとは露知らず……誠に申し訳御座いません!」

 

『っ!』

 

実弥は悲壮な面持ちで、かなたに向かって謝罪した。

 

「……」

 

かなたは炭治郎から離れると、実弥の真正面に立った。

 

「何故、不死川様が私に御謝りになられるのですか?」

 

『っ!』

 

「っ!」

 

かなたの質問に対して、実弥は答えられなかった。

 

「不死川様は先程、不死川玄弥様は実弟(おとうと)ではないと仰られました。であれば、不死川様が御心を痛めて私に謝罪する必要など無い筈です。不死川玄弥様は、貴方様にとってどう言う御方なので御座いますか?」

 

『っ!』

 

「っ!!……それは……っ。」

 

毅然とした様子のかなたの姿は、僅か八歳の童女の姿では無かった。

 

かなたの質問に動揺した実弥は咄嗟に何か答え様とした。しかし結局、実弥はかなたに何も答えず沈黙を貫いた。

 

「……不死川様、お頭をお上げ下さいませんか?」

 

「……っ?」

 

かなたに促されて、実弥は頭を上げた。そして間髪入れる事無く、事は起こった。

 

 

 

パシィッ!

 

 

 

『っ!!??』

 

突如、大広間に響いた音に周囲は騒然となる。

 

何故ならば、かなたが思い切り右手で実弥の顔に平手打ちをしたからだ。殴られた実弥は、左頬を小さい範囲で赤く染める結果となった。

 

「か、かなた様……。」

 

動揺が深まった実弥は、声を震わせながら殴られた左頬を左手で押さえた。

 

「っ……私は……私はっ! 御自分の弟を素直に"家族"と認められない方に、謝って貰いたくなどありません! その様な謝罪など、最初からなさらないで下さいっ!!」

 

『っ!』

 

かなたは実弥に一切慮る事無く、実弥を睨み付けながら大声で怒号を浴びせた。

普段の気が弱いかなたとは思えない、別人の様な姿に対して産屋敷家を筆頭に周囲は反応し切れず固まった。

 

「…………」

 

かなたに怒号を浴びせられた実弥は強い衝撃(ショック)を受けて打ちひしがれていた。

 

「……もう結構で御座います。早く下がって下さい……。」

 

「……御意っ。」

 

かなたは実弥の顔を見るのも嫌になったのか、顔を反らしながら突き放す様にそう断言した。

実弥もまた、顔を俯かせたまま消えそうな声で返答した。

 

すると、この二人の間に割って入る者が現れた。

 

「待って下さい、不死川さん。俺の話はまだ終わってはいませんよ? そんな勝手に下がって貰ったら、俺が困ります。」

 

『っ!』

 

立ち上がろうとした実弥に向かって、今まで状況を見守っていた炭治郎が阻止するためにそう言った。

 

「かなた様はああ仰いましたが、俺の言動は今だけなら御館様の言動も同然です。どちらが上か、考えるまでもありませんね?」

 

「……っ。」

 

食い下がろうとした実弥に対し、炭治郎は一言で一刀両断して黙らせる。これに耀哉も加わった。

 

「実弥、炭治郎に従いなさい……だけど、流石に自分を危険に晒す挑発は感心しないよ? 炭治郎、今後は慎む様に。」

 

「はい……すみません、御館様。ですが、これで玄弥が不死川さんにとって大切な家族なんだと、自分から証明してくれました。」

 

『っ!』

 

『……』

 

炭治郎の意図に気付いた者達は、炭治郎に感嘆した。それと同時に、しのぶ達は無茶をした炭治郎に怒っていたが。

 

「不死川さん……もう聞くまでもありませんが、貴方の口からはっきり聞いておきたいんです。玄弥は貴方の大切な家族……弟ですね?」

 

炭治郎は、この質問に嘘は吐かないで欲しいと実弥に願いながら尋ねた。すると実弥はストンと胡坐を書いて畳の上に座ってから、重い口を開いた。

 

「……あぁ、そうだ。あいつはァ……玄弥は俺に残された、たった一人の……どうしようもねぇ弟だッ!」

 

『っ!』

 

「……」

 

実弥はついに、玄弥が自身の実弟である事を炭治郎に認めた。それを聞いて、炭治郎もまた実弥の前にゆっくりと腰を下ろして座り込んだ。

 

「不死川さん。やっと認めてくれましたね。ここから先はもう逃げ回るのは止めて、俺と腹を割って話しましょう。」

 

「っ!」

 

「不死川さんは……玄弥の何が気に入らないんですか?」

 

炭治郎が実弥に、玄弥の何に怒っているのかその理由を明確に知るために質問した。

 

「……玄弥(あいつ)が鬼殺隊に入隊した事そのものが気に入らねェ……呼吸の一つも使えねぇあんな愚図野郎に、鬼殺隊に居場所なんざねぇんだよ……っ!」

 

『っ!』

 

「……」

 

血の繋がった実弟への言葉とは覚えない実弥の暴言に、周囲は驚愕した様子で実弥を見た。

しかし、炭治郎は事前に予想出来ていたため動揺は少なく、更に冷静にある一点に気付いていた。

 

――不死川さんのあの様子だと、鬼喰いについて知らないみたいだな……よしっ!

「……御館様。一つ御聞きしたいのですが、玄弥の今の階級は幾つなのでしょうか?」

 

『っ!』

 

「玄弥の階級かい?……確か、この前の討伐任務で『(ひのと)』に昇進したばかりだよ。」

 

炭治郎は実弥の回答を聞いて、耀哉に鬼殺隊における玄弥の階級を尋ねた。

鬼殺隊の隊士全員を我が子として愛情を注いでおり、どんな些細な情報も逐次記憶している耀哉にとってその質問は即答するのに問題など一切無かった。

耀哉から玄弥の階級を聞き出した炭治郎は、耀哉に感謝してから実弥に話し掛けた。

 

「そうですか。ありがとうございます、御館様……不死川さん。玄弥って凄いですね!」

 

「……何ィ?」

 

炭治郎の唐突な玄弥への称賛の言葉に、実弥は怪訝そうに炭治郎を見た。その視線に気付いた炭治郎は、実弥にその理由は話し始めた。

 

「考えても見て下さい。呼吸が使えないのに、俺と同期で入った人が柱を除いてもう上から四番目の階級を手に入れているんです……きっと玄弥は凄い努力家で、沢山頑張ったんだと思います。」

 

「……」

 

心から炭治郎が玄弥を称賛する言葉に、実弥は黙って聞き入れる。実弟が称賛されて、嬉しくない訳では無かったと言う内情も有る。次の炭治郎の一言で、そうも思っていられなくなったが。

 

「まぁ、玄弥の場合……()()()()()()も含めての結果だとは思いますが。」

 

『っ!?』

 

「っ!?……()()()()……()()だとォ……っ!!」

 

大広間に驚愕が広まる中、激昂した実弥が顔どころか首にまで青筋を立てて憤怒していた。

 

「はい、文字通り、鬼の肉を食べる事で一時的に鬼化して自分を強化する能力らしいですけど……えっ? 不死川さんは御存知無かったんですか?」

 

炭治郎は実弥の怒りを無視しながら質問した。その態度は事前に承知していて聞いている様な、態とらしいものであったが。

 

「っ……知ってる訳ねぇだろうがァ!……おい、悲鳴嶼さんよォ! こいつが言っている事は本当なのかァ!?」

 

実弥が乱暴にそう答えると、そのまま行冥を睨み付けてそう尋ねた。

 

「……あぁ、本当の事だ。玄弥は鬼喰いの能力の持ち主だ。」

 

『っ!』

 

涙を流しながら、数珠をジャリジャリ擦り合わせて行冥がそう言った。それを聞いて、実弥の憤怒が増大する。

 

「あんたはァ!……んな真似をする玄弥を野放しにしてたってのかァ!?」

 

「……あぁ、そうだ。」

 

「っ!……好い加減、止めて貰えませんか? 不死川さん。」

 

「「っ!」」

 

行冥が肯定した事で炭治郎は実弥が激昂すると容易に予想出来たので、炭治郎は先手を打って実弥を牽制した。そして炭治郎の予想通り実弥が激昂して立ち上がろうとしたのだが、出鼻を挫かれた形で不発に終わった。

 

「悲鳴嶼さんに怒る理由も分からなくもありませんが、玄弥を無視し続けて突き放して来た貴方にとやかく言う資格など無いんです。こんな時だけ、お兄さん面して怒らないで下さい。見苦しいだけですよ、あまりに身勝手過ぎて。」

 

「……っ!!」

 

炭治郎の辛辣な言葉に、実弥の憤怒具合は上昇する。しかし、炭治郎は視線を逸らす事無く、一切怯まず実弥と対峙する。

 

「ですが、不死川さんが玄弥をとても大切に思っている……そう分かって安心しています。」

 

「っ!」

 

炭治郎の一言に、実弥は双眸を見開いて驚いた。炭治郎は実弥に構わず話を続ける、

 

「今の貴方からは火傷しそうなくらい、大きな怒りの匂いがします。ですが、憎しみの匂いは一切無い。そして深い愛情の匂いが常にしています。」

 

「……」

 

炭治郎の指摘に、実弥は答えず沈黙を貫いた。しかし、その沈黙が炭治郎の指摘を肯定している事は、誰の眼から見ても一目瞭然であった。

 

「……"大切なものの守り方"って人それぞれだと思うんですけど、俺は大きく二つに分けられると思うんですよ。」

 

『っ?』

 

炭治郎は実弥に言う訳でも無く、独言の様に一人で話し始めた。唐突な炭治郎の様子に、周囲は怪訝そうにしながら耳を傾けた。

 

「一つは、俺みたいに"常に自分の眼に入って手に届く範囲に、大切なものを置いておく"方法です。俺は自分が居ないところで家族を失いましたから、禰豆子を常に傍に置いておかないと安心出来なくなりました……自分勝手な話ですけどね。」

 

『……』

 

自嘲する様に、苦笑しながら炭治郎はそう言って話を続ける。

 

「もう一つの方法ですが……それは"危険な目に遭わせないために、大切なものを遠くへ遠避ける"方法です。不死川さんが玄弥にしている様にね。」

 

「っ!」

 

そう言った炭治郎に、実弥は一瞬動揺して自身の身体を震わせた。

 

「玄弥が心配だから、気に入らないんですよね? 命を懸けて鬼と戦う、この鬼殺隊に入隊している事実が。」

 

「……あぁ。」

 

実弥は力無く炭治郎の質問に答えた。

 

「御気持ちは家族を持つ者として良く分かります……ですが、はっきり言って貴方のやり方は根本から間違っています。」

 

『っ!』

 

「……あ"ァ?」

 

炭治郎が格上の実弥を断罪する様に容赦無くそう断言すると、大広間に響きが静かに広がった。

自身のやり方を全面的に否定された実弥は、静かに怒りの火を灯して青筋を立てた。

 

「そもそも、大前提から貴方は大間違いを犯しています。」

 

「っ!」

 

しかし炭治郎は一切構わず、実弥に怯む事無く実弥を見る。そしてゆっくりと話を始めた。

 

「先ず……貴方が本当に玄弥の事が大切なら、分かった段階で止めるべきでした。

何時、どの任務で玄弥が命を落とすか分からないからです。

口で説得して鬼殺隊を辞める様に促す、せめて剣士としてではなく『隠』として仕事してくれと説得するとか……最悪、極端な話ですが玄弥の手足を圧し折って再起不能にして、戦えない身体にするとかして鬼殺隊そのものを辞めさせるべきだったんです。」

 

「っ!……っ。」

 

炭治郎の手厳しい言葉に、実弥は沈痛する他無かった。炭治郎は実弥の様子に胸を痛めたが、それでも炭治郎は言葉を止める積もりは無かった。

 

「鬼殺隊の柱の一人として、御多忙な日々を送っている事は勿論分かっています……ですが、残されたたった一人の家族の命の大切さを考えれば、そんなものは何の理由付けにもなりません。

不死川さんは玄弥について、何一つ自ら知ろうとはしなかった。玄弥がかなた様に暴行を働いた事も、鬼喰いの能力についても、今日の今日まで貴方は何も知らないままだった。」

 

「それなのに貴方は玄弥に会っても暴言だけ吐いて突き放して、分かって貰えない身勝手で独り善がりな願いを押し付けるだけ……そんなもの、無意味な自己満足を満たしているだけで何もしていないのと一緒です!

冷たく突き放して邪険にされ続けたからって、たったそれだけの理由で鬼殺隊を辞める訳が無いっ!! それだったら最初からお兄さんを追い掛けて鬼殺隊へ入隊なんてしませんよ!! 大切なお兄さんが命懸けで鬼と戦っているのに、自分だけのうのうと平穏を謳歌出来ると思いますかっ!!!」

 

炭治郎は蝶屋敷に滞在していた際に、すみから玄弥について聞く事が出来ていた。

そしてカナエから玄弥の情報を更に詳細に貰っている。その御蔭で炭治郎は実際に見ていた様に話す事が出来ているのだ。

尤も、何割かは炭治郎の想像任せなところが有る事は否めない。今回の場合、それが功を奏しているが。

 

「……っ……だったら俺にどうしろってんだよォ!?」

 

『っ!』

 

実弥は痛い点を容赦なく指摘されて、反論出来ず感情の赴くままに激昂して炭治郎の胸元を掴む取った。

胸元を実弥に掴まれた炭治郎だったが、抵抗する事無く実弥に目と鼻の先まで引き寄せられた。

 

『……』

 

実弥がそんな行動を取ったのを見て、しのぶ達は殺気立って日輪刀に手を添えた。

 

「テメェや胡蝶みてぇに、兄弟で仲良く鬼退治をしろって言う心算かァ?! あァ!?」

 

「……」

 

実弥は射殺す勢いで炭治郎を血走った双眸で睨み付けながら、そう叫んだ。実弥に問い詰められた炭治郎は、一度双眸を閉じると、ゆっくりと開眼して実弥を宥める様に話し掛けた。

 

「……そうするか否かは結局……貴方達、御兄弟の問題です。俺は別に、貴方の想いを否定したい訳じゃない。貴方のやり方が間違っていると言いたいんです。」

 

「っ!」

 

炭治郎の言葉に、実弥は僅かだが冷静さを取り戻した。炭治郎は話を続ける。

 

「不死川さんが玄弥に鬼殺隊を辞めて欲しいなら、はっきり本人に御自分の意志を伝えるべきです。」

 

「……それで辞めてくれんなら、俺ぁ苦労なんざしねぇんだよォ!……あいつは、玄弥はどうしようもねぇ程、優しい奴なんだからなァ……っっ。」

 

「っ!」

 

実弥は力無くそう言うと、炭治郎から手を離して顔を背けた。

 

「優しい……ですか? そうでしょうね。じゃなきゃお兄さんを追って鬼殺隊に入隊なんて普通、出来る筈がありませんから。」

 

「……」

 

炭治郎が実弥の呟きに肯定すると、実弥は沈黙した。

 

「……そう言えば、俺は不死川さんにもう一つだけはっきりさせたい事が有るんですよ。」

 

「……?」

 

炭治郎の呟きに、実弥は首を傾げる。間髪入れず、炭治郎はその疑問を口にした。

 

「不死川さんの御気持ちは良く分かりました……ですが、貴方は玄弥が今日まで倒した鬼や救い守った人々の命……玄弥の貢献や働きまで否定する御心算ですか?」

 

「っ!?」

 

炭治郎の思わぬ質問に、実弥は逸らしていた顔を戻して炭治郎を真っ直ぐ見た。炭治郎の表情から、この質問から逃げる事は許さないとばかりに強い視線を感じていた。

 

「不死川さんっ。」

 

「……いや、俺は……そんな心算はねェ……。」

 

『っ!』

 

「っ!……良かったです。そう思って頂けて。」

 

炭治郎は実弥の言葉に嘘は無いとその嗅覚で感じ取ってから、安堵した様に呟いた。

それから炭治郎は実弥に対して、自身の要求をはっきりと口にした。

 

「では不死川さん。これが俺が要求する、二つ目のお願いです。もう予想が付くとは思いますが……不死川さんは玄弥と直接会って、今後について二人で良く話し合って下さい。一回とは言わずに、何回でも。」

 

『っ!』

 

「……っ。」

 

炭治郎の言葉に、実弥から拒否感は感じなかった。しかし、まだ覚悟が決まっていない、恐怖の匂いが僅かにしたのを炭治郎はしっかりと感じ取っていた。

 

「このお願いに関してですが、一つだけ絶対に約束して欲しい事があります。」

 

「約束?……っ?」

 

炭治郎の口から出た言葉に、実弥は疑問を浮かべる。

 

「はい……たとえ玄弥との話が平行線で終わろうとも、仲直りだけはして下さい……お願いします。」

 

「っ!」

 

炭治郎はそう嘆願すると、深く実弥に頭を下げた。実弥は炭治郎が頭を下げた事に当惑する。

自分の事でも無いのに、こうも躊躇無く他人に頭を下げられるその姿勢が理解出来なかったからだ。また実弥の心情には、互いに毛嫌いしていると言う考えも在った。

 

「何で……テメェは俺や玄弥のために其処まで出来るんだ……?」

 

「……俺は別に、玄弥と仲が良い訳ではありません。蝶屋敷で玄弥に何回声を掛けても無視され続けて、未だに一言も喋れてませんからね。それから……。」

 

思わず呟く様に口にした疑問は、はっきりと炭治郎の耳に入って行った。炭治郎は双眸を一度閉じてゆっくり語りながら頭を上げると、実弥を真っ直ぐ見詰める。

 

「不死川さん。はっきり言わせて頂きますと、俺は貴方の事が嫌いです。禰豆子を刺した事は今でも許してはいません。」

 

『っ!』

 

真顔で飾る事無く、躊躇無く実弥に向かって炭治郎は断言した。

 

あの日の事を炭治郎が思い出してしまうと、火が着いた様に炭治郎は怒りの炎が燃え盛ってしまう。あの日は炭治郎の無力さを思い知らされた日でもあるからだ。可能ならば思い出したくも無いのである。

 

「っ……だったら尚更解せねェ……テメェに何の利が有って此処まで……っ。」

 

「俺には一利の利益も有りませんよ。誰かに褒められたい訳じゃない、見返り欲しさにやっている訳でも無い……そもそも、禰豆子の一件とこの一件は関係が有りません。」

 

「っ!」

 

実弥が疑問を浮かべて益々困惑する様子を見て、炭治郎は語り始めた。

 

「俺は人の一面だけを見て、その人の全てを否定する様な恥ずかしい真似はしたくない……そんな小さい人間になりたく無いんです。たとえ俺が嫌いな人でも苦手な人であっても、その人達の凄いところは凄い、良いところは良いとちゃんと認められる、そんな人間になりたいと思っています。」

 

『っ!』

 

炭治郎は恥ずかしそうに赤くなった頬を人差し指で掻きながら淡々と、されどはっきりと断言した。

炭治郎は顔から赤が引いてから、続きを語る。

 

「家族とは仲が良くて当たり前だと思ってました。でも故郷を出て、それが当たり前の形では無い事を知った。血が繋がっているからこそ憎しみ、啀み合う悲しい家族の形も在存在すると知ってとても悲しかった……。」

 

「だけど貴方と玄弥は違います。お互いに想い合っているのに、擦れ違い続けているのはとても悲しいと思います……折角、血が繋がった家族として生まれて来たんです。どんな最期がこの未来(さき)待っているにしても、やっぱり仲良しで居て欲しいじゃないですかっ。」

 

「っ!」

 

炭治郎の言葉に、実弥は双眸を見開かせて炭治郎を見詰めた。炭治郎は実弥を真っ直ぐ見ながら言う。

 

「良いですね、不死川さん。ちゃんと玄弥と仲直りして下さい。「良くやった。」とか「頑張ったな、偉いぞっ。」って玄弥を褒めて上げて下さいね。約束ですよ?」

 

「……」

 

炭治郎が子供を注意する親の様にそう言って釘を刺すと、実弥は思わず視線を炭治郎から逸らした。

五つ数える程の沈黙が過ぎた後、実弥は行動に移った。

 

「っ!」

 

「っ……約束は必ず守るっ……。」

 

そう言って実弥は両拳を畳に着けると、炭治郎に勢い良く頭を下げた。実弥が承諾したのを見て、大広間には安堵の溜息が広がった。

 

「……」

 

しかしその中で唯一、行冥だけが一抹の不安を抱いて状況を感じ取っていた。




お待たせしました。

耀哉の憤怒&柱への叱責シーンは無惨と十二鬼月のオマージュです。まぁ元を辿れば同じ血筋ですからねぇ。

初期構想の一つで書きたかった、不死川兄弟の原作における矛盾を突いた話を何とか書けました。これで和解への道も開かれたかなぁと思います。

ですが、実弥に厳罰を期待した方が居たらすみません。炭治郎君の性格では、やはり厳しく断罪するのは無理だろうと言う判断です。事前にカナエさんから色々聞かされていますのでね。

最後に、未だ言葉足らずで火に油を注ぎ続ける義勇さん(笑)。書いてて楽しかったです。

次回の更新は9月中です。お楽しみに。


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第参拾参話 日輪は霞の迷人を優しく照らす

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「御館様。以上で不死川さんへ処罰は終わります。」

 

炭治郎は平伏しながら、耀哉へ報告した。

 

「そうか、随分と優しい結末で終わったものだ……産屋敷邸(此処)に居る間はまだ効力があるけれど、炭治郎はこれで()()()良かったのかい?」

 

「……御館様。あの、恐れ入りますが……どう言う意味でしょうか?」

 

炭治郎は耀哉の言葉に疑問に思い、率直に尋ねた。炭治郎の疑問に対して、耀哉は答えた。

 

「いや……君ならば先ず、禰豆子に謝罪する事を実弥に求めるのではと思ってね。」

 

『っ!』

 

「……」

 

耀哉の言葉に、炭治郎は微笑むだけだった。そして微笑みながら、炭治郎はゆっくりと開口する。

 

「確かに、最初はそれも考えました……でも無理矢理な形で心の籠もっていない謝罪なんて、されても嫌だと思ったんです。不死川さんも、鬼の禰豆子に謝罪なんてしたくないでしょうからね。」

 

「……」

 

炭治郎の言葉に罰が悪いのか、実弥は露骨に顔を反らしてしまった。そんな実弥を見て、炭治郎は苦笑を隠せない。

 

「不死川さんは、本当は優しい人だと聞いたものですから……だから禰豆子が人間に戻れたら、言わなくても自分からしてくれると思います。……ですから禰豆子が人間に戻るその日まで、その話は取って置く事にしました。」

 

『っ!』

 

炭治郎が口にした決意は、絶対にこの手で叶えて見せると言う強い意志がその表情から見て取れた。

 

「っ……テメェは、妹が人間に戻れると……本気で信じてんのかァ……?」

 

『っ!?』

 

炭治郎に不覚にも圧倒された実弥が思わずそう尋ねた。実弥に炭治郎を愚弄する意志は無い。

 

しかし聞く者が聞けば、炭治郎の夢を馬鹿にしていると解釈出来る実弥の質問に、しのぶを筆頭に何人かが青筋を立てて苛立った。

 

「はいっ! 勿論ですっ。」

 

「……っ!」

 

しかし、炭治郎は実弥の質問に対して真顔で即答して見せた。そのまま炭治郎は、自身の決意について語り始める。

 

「俺のこの願いが雲を、否、星を掴む様な無謀なものなのは重々承知しています。たとえ俺一人でも、一生掛かっても成し遂げる心算でしたし、その覚悟は最初から在りました。」

 

『……』

 

「ですがこの無謀だった願いも、手を伸ばせば何時の日か届くまでに現実的なものに変わりつつあります。何故なら……俺には百万の味方を得たに等しい、とても頼りになる協力者の方々が出来ましたからっ……。」

 

『っ!』

 

炭治郎はそう言って、その協力者達に顔を向けて微笑んだ。

 

『……』

 

炭治郎に微笑まれたしのぶと珠世、アオイにカナヲ、そして愈史郎の五人だった。珠世達、女性陣は少しばかり照れた様に頬を赤く染めたが、その表情は誇らしげに笑みを浮かべていた。愈史郎だけは、誤魔化すかの様に鼻を鳴らしてそっぽを向いていたが。

 

しかし、この炭治郎達の遣り取りを見て行動に移る者が現れた。

 

「おい炭九郎! 俺も禰豆公を元に戻すのに協力すんぞ! 何せお前らの親分だからなっ!」

 

「お、俺だって禰豆子ちゃんの役に立ちたいんだっ!」

 

『っ!』

 

「っ……ありがとう、二人とも。」

 

最初に声を上げたのは伊之助と善逸だった。善逸にとっても伊之助にとっても、炭治郎と禰豆子の兄妹は大切な存在だ。協力するなど、嫌な訳が無かった。そして声を上げたのは、この二人だけでは終わらない。

 

「はいっ! 私も応援するだけじゃなくて、炭治郎君に協力したい! 私に出来る事が有ったら、何でも言ってね!!」

 

「……今更な話かもしれないが、俺にも手伝わせてくれ。炭治郎。」

 

「っ!……甘露寺さん……義勇さんもっ……ありがとうございます。」

 

義勇と蜜璃もまた、善逸達に触発されて炭治郎に協力を申し出た。尊敬する二人からの協力の申し出に、炭治郎は感動を禁じ得ない。

炭治郎は義勇達に対して、深々と頭を下げて礼を述べた。

 

「炭治郎、これはとても喜ばしい事だね。」

 

「はいっ!……っ!」

 

耀哉の言葉に、炭治郎は大声で肯定した。すると、元気良く返答した炭治郎にしのぶが話し掛けた。

 

「炭治郎君……御館様も仰いましたけど、本当にそれだけで良いんですか?」

 

「しのぶさん?……はい、もう良いですよ。」

 

「でも、炭治郎君は不死川さんに斬られたと言うのに、なぜか不死川さんに利益が出る結果になってしまって……これでは炭治郎君は痛い思いをしただけで、何一つ報われないじゃないですかっ。」

 

しのぶが不服そうに炭治郎にそう伝えた。本意では無いとは言え、自発的に炭治郎へ謝罪もしない実弥などしのぶから見れば敵に等しい存在に成り下がっていた。

 

「しのぶ様の仰る通りです。被害者の炭治郎さんが、加害者の風柱様に遠慮される必要なんて何処にも有りません!」

 

「そうよっ! 優しい炭治郎も素敵だけど、()()にまで優しくする必要なんて無いと思うの!」

 

しのぶの言葉に、アオイとカナヲも強く同調する。カナヲに至っては通常、柱を呼ぶ際に様付けしていたのが実弥だけ外れていた。カナヲの心中では、実弥の位置付けは既に最底辺であった。

 

「……」

 

只管に実弥を加害者と強調するしのぶ達に、実弥は顔を逸らして沈黙する他に道は無かった。

全て事実に他ならず、悪戯に口を開けば自身にとって災いになって還って来る結果になるのは目に見えていた。そのため実弥は沈黙を貫くしかなかったのだ。

 

「ぷっ……あははははははっ!!!」

 

『っ!』

 

炭治郎はおかしくて仕方が無い様子で、楽しそうに大声で笑い始めた。少し笑い続けて、漸く治まると眼尻に溜まった涙を人差し指で拭きながら話し始めた。

 

「あ~面白かったぁ……しのぶさん、アオイさん、カナヲ。俺が斬られた事なんて、どうでも良いんですよ。あの一件の御蔭で不死川さんは玄弥と仲直りする切っ掛けが作れたんですから、"怪我の功名"って奴です。俺はこうして無事で居るんですから、もう良いじゃないですか。」

 

「「「……」」」

 

自身の事にも関わらず、何時も通り蔑ろにして関心を一切持つ事無い、無頓着な炭治郎にしのぶ達はあから様に不満を表情で表した。しのぶ達から漂う不満の匂いに、炭治郎に苦笑せざるを得なかった。

 

「まぁ……先刻(さっき)も言いましたけど、不死川さんが玄弥と仲直りしてくれたら、俺も多少は報われますよ。少なくとも、俺が斬られ損する事もありませんし……あっ、そうだっ!」

 

『っ?』

 

炭治郎は何か閃いた様子で、双眸を一度見開かせた。そして楽しそうに笑いながらその閃きを口にする。

 

「不死川さんと玄弥がちゃんと仲直りしてくれないと、文字通り俺が斬られ損です。だから二人がちゃんと仲直り出来る様に、舌が滑らかに回る様に俺が美味しいお茶請けでも用意しましょうか?」

 

『っ!?』

 

炭治郎が茶化す様に言った内容に、大広間は僅かながら困惑を抱いて反応した。特に実弥の反応が顕著だった。

 

「いきなり何言ってやがんだァ?……テメェ、巫山戯てやがるなァ…。」

 

「っ? 俺は大真面目に言っているんですけど……そうだな、お茶請けは不死川さんがお好きなおはぎで良いですか? 緑茶も一緒に付けて。大好きですよね? おはぎ。」

 

『っ!?』

 

炭治郎の口から予想だにしない単語が出て来た事に、大広間は些か騒然となる。

 

「ずっと気になっていたんですけど……不死川さんの口から今も仄かに餅米と餡子と緑茶の良い香りがしてますから、産屋敷邸(此処)に来る前に沢山おはぎを召し上がって来たんじゃないかなぁって思いまして。」

 

『…………』

 

炭治郎の推測により、大広間の視線は実弥一人に集中した。好奇の視線に晒された実弥は沈黙してやり通す事しか窮地を脱する方法が思い浮かば無かった。

 

「……その強面で、おはぎが好きって面かよ……。」

 

「ぎゃはははははははっ! 似合わねぇもんが好きなんだなツギハギ野郎っ!!」

 

「……さ、三下。お前も人の子だったんだな……。」

 

するとその沈黙を破る様に、善逸が化け物でも見るが如き表情で実弥を見ながらボソッと呟いた。

善逸の呟きを聞いて、伊之助が耐え切れず爆笑しながら実弥に言った。伊之助は笑い過ぎて猪の被り物から涙が溢れている。

愈史郎もまた意外だと思った様で、おはぎが好きなだけで無意識に凄まじく無礼な発言をしていた。

 

「不死川は……おはぎが好きなのか……。」

 

『っ!!!』

 

義勇が興味深そうに呟いた。しかし、この迂闊な一言が大広間の薄氷が如き空気に対して渾身の一撃を与えてしまい、大広間では大きく分けて三つの反応が確認された。

 

「「「「……っ……っっ……っっ……。」」」」

 

『……』

 

実弥の好物がおはぎであると言う事実が面白かったのか、それとも義勇のこの迂闊な一言がツボに入ったのか、はたまた両方か、それは不明であった。

しかし行冥、天元、しのぶ、蜜璃の四名は腹部を抑えて震えている。そして笑うまいと、必死で笑い声を押し殺して耐えていた。

 

行冥達以外の面々は笑わずに居たが、産屋敷家は微笑ましそうに状況を見守り、小芭内や珠世、アオイとカナヲは呆れながら何とも言えず黙って見守る事にしていた。無一郎は何時も通り、惚けて無関心を貫いていた。

 

「……っっ……っっ……っっっ……。」

 

実弥はおはぎが好物である事を、積極的に隠していた訳では無い。他人に知られても別段、何かしらの支障が出たりする訳でも無かったのだ。

 

しかし、下手に知られて他人や同僚の柱達に妙な反応されるのも鬱陶しいと思っていた。そのため、自分から知られる様な行動を実弥は今まで取らなかっただけである。

 

尤も、その今までの行動が裏目に出る結果となった。

炭治郎の超人的な嗅覚とそのお人好しとも言える善意により、実弥にとって最悪の瞬間(タイミング)で好物が暴露されたのだ。

 

それまでならまだ良かったのだが、義勇の一言が導火線に火を付けた爆弾となり爆発させてしまったのである。

 

――この糞馬鹿水兄弟弟子がぁ……っっ!

 

実弥は思わず、義勇と炭治郎をしこたま殴り倒したい衝動に駆られた。しかし、義勇にも炭治郎にも悪意など皆無、一切その様なものは無いのだ。

 

第一、炭治郎に至っては善意からの進言である。にも関わらず実弥が炭治郎に暴力を振れば、それは只の身勝手な八つ当たりでしかない。

 

実行すれば最期、全方面から非難轟々で大いに責められる。今以上に針の筵に晒される事は、火を見るより明らかであった。

 

そのため実弥は顔を俯かせて、本来なら感じる必要が無い羞恥心や屈辱、憤怒を全身に満たし、顔を真っ赤に染めて震えながら耐える他に道は無かったのだった。

 

「?」

 

炭治郎はどうして実弥から羞恥と怒りの匂いがするのか、全く理解出来ない様子で首を傾げながら実弥を見詰めていた。そんな炭治郎に、アオイが接近して行く。

 

「炭治郎さんっ。」

 

「アオイさん?……どうしたの、何か怒っていひゃひゃひゃひゃひゃ……っ!?」

 

炭治郎がアオイからも怒りの匂いを感じて、その理由を聞こうとした。しかしその前にアオイが両手で炭治郎の両頬を思い切り引っ張った。

 

「人様の口臭について、人様の前でベラベラ喋ったら駄目じゃないですかっ……!」

 

「い、いひゃいよっ!……わ、わりゅかったきゃらっ!!!」

 

炭治郎は両頬を力一杯引っ張られた痛みから、涙目になりながら謝罪した。アオイは炭治郎が謝罪する様子を見て、両手を両頬から離す。炭治郎は痛みから解放されて、両手で赤くなった頬をゆっくりと撫でた。

 

「実弥、そう恥ずかしがる事は無いよ。おはぎ、美味しいじゃないか。私も味覚が戻った今、食べたいと思っている食べ物の一つだ。」

 

『っ!』

 

炭治郎とアオイを余所に、耀哉が実弥を庇う様にそう言った。するとその一言で、大広間の空気は真面目なものに入れ替わった。そのまま耀哉は話を続ける。

 

「話が変わるが……実弥と玄弥について、私からも一言だけ言っておこう。二人の話し合いの場所だけど、蝶屋敷でどうだろう?」

 

『っ!?』

 

「っ!……不死川さんの御屋敷ではなく、蝶屋敷でするんですか?」

 

耀哉の提案を聞いて、炭治郎が逆に耀哉に質問した。炭治郎の質問に対し、耀哉が答える。

 

「ああ、その方が行冥も安心出来るだろうからね。」

 

『っ!』

 

耀哉の言葉を聞いて、自然と視線は行冥に集中した。行冥は数珠をジャリジャリ鳴らしながら、耀哉の言葉の意図を説明し始めた。

 

「……皆も知っている通り、不死川は稀血で玄弥は鬼喰いの能力者だ。故に私はもし玄弥が不死川に会った時にその稀血に反応しないか危惧し、接触禁止を言い渡していたのだ。」

 

『っ!』

 

行冥の危惧する理由を知って、周囲は息を呑んだ。しかし、一人だけ行冥の言葉を鼻で嗤う者が居た。愈史郎である。

 

「ならそれも今日までだな。さっさと撤廃しとけ、デカブツ。」

 

『っ!』

 

周囲が息を呑む中、愈史郎は話を続けた。

 

「鬼喰いの能力者と言っても、何処まで行こうと人間だ。人間が稀血に触れた、匂いを嗅いだからって、何か異変が起きる筈が無いだろう? 折角、仲違いしている兄弟が仲直りすると言うのに、無粋な真似をして邪魔するのは止めろ。」

 

「……たとえ無粋であろうと、万々が一に考えての事だ。もしそれで玄弥が稀血に反応して不死川を襲おうものなら、玄弥は一生、それこそ死ぬまで自分を責め続ける。玄弥の師として、彼にそんな責め苦を負わせる訳に行かないのだ。」

 

愈史郎と行冥の論争は平行線を辿り続けていた。其処へ二人の論争を見守っていた炭治郎が割って入る。

 

「あの……でしたら二人の様子を監視してはどうでしょうか?」

 

「「何っ?」」

 

炭治郎の提案に、愈史郎と行冥は異口同音で反応した。炭治郎は二人の視線を浴びながらも、話を続行する。

 

「はい。不死川さんには悪いですけど、部屋の壁に愈史郎さんの『紙眼()』を貼って監視出来る状況作ってから二人を見守ってはどうでしょう? そうすれば部屋に直接居座って二人の邪魔をしなくて良いですし、何かあれば即時対応が可能な筈です。」

 

「……ふむ、妥当な線だな。おい、デカブツ。これ以上の譲歩案は無いと思うが?」

 

「……」

 

愈史郎は納得した様子で炭治郎の提案に賛成し、行冥に意見を求めた。

 

「……私も邪魔をしたい訳ではない。安全を考慮した上でなら、喜んで応援しよう……それから私の名前はデカブツではない。悲鳴嶼と呼んでくれ、愈史郎とやら。」

 

「……分かった。」

 

行冥が賛成した事で不死川兄弟の話し合いの場が蝶屋敷と決まり、炭治郎は想像以上に思惑が解決した事を内心で歓喜していた。

 

しのぶ達に怒られて説教される未来が目に見えているため決して口外する事は出来ないが、自分が実弥に斬られて良かったとすら思っていた。

 

炭治郎は成功の余韻もそこそこに、炭治郎はチラッと行冥を見た。しかし直ぐに目を逸らすと、耀哉に話し掛けられた。

 

「炭治郎、君から何か他に意見やしたい事は有るかな?」

 

「御館様……はい、実は正直に言うと……二つ程有りましてっ。」

 

「ほうっ……君の事だから、期待は有れど心配はしていない。遠慮無く言いなさい。」

 

遠慮しがちに遠避かろうとする炭治郎に、耀哉はそう言って議題の催促を求めた。

 

「ありがとうございます、御館様!……じゃあ……っ。」 

 

炭治郎は耀哉に話し掛けて許可を得ると、珠世に眴せ(アイコンタクト)をする。珠世は無言で承諾した。炭治郎は直ぐに、珠世に向かって尋ねた。

 

「珠世さん、一つ御聞きして良いですか?」

 

『っ!』

 

「何かしら? 炭治郎さん。」

 

唐突に炭治郎に質問を投げられた珠世は、分かっていた様に間髪入れずに対応する。

 

「珠世さんは()()()()()()()さんの治療をされた事は有りますか?」

 

『っ!!!』

 

炭治郎の内容に、大広間は驚きから息を呑む。自然と、珠世に注目が集まった。

 

「記憶喪失……ええ、過去に何人か治療を施した事が有ります。」

 

『っ!!』

 

「炭治郎さん、貴方が言いたいのは……()の治療ですね?」

 

「はい……珠世さんは流石ですね。話が早くて助かります。」

 

炭治郎と珠世の話の成り行きを見守っていた耀哉は、炭治郎達に話し掛けた。

 

「炭治郎……君は無一郎の治療を珠世さんにお願いする心算かな?」

 

「はい、御館様の仰る通りです。珠世さんにしか出来ない治療法が有るんじゃないかと思って……。」

 

「ふむ……。」

 

耀哉が右手を顎に置いて思考すると、珠世に尋ねた。

 

「珠世さん。記憶喪失と言うものは治療に時間が掛かるものだと認識しているんだけれど……何か特別な治療法は御持ちかな?」

 

「はい……私は幻術系の血鬼術を使うのですが、それで時透さんの脳内に眠る記憶を呼び起こすと言う方法になります。」

 

『っ!!!』

 

炭治郎達一部の者を除いて、珠世が提示して方法に驚愕する行冥達が開口する前に輝哉が続けて珠世に質問した。

 

「その方法で、無一郎の身に危険が及ぶ事は無いのかな?」

 

「はい。この血鬼術は人体に悪影響を及ぼしませんので。ですが少しばかり強引に記憶を呼び起こすので、先刻(さっき)時透さんを襲った頭痛の様な痛みは経験すると思います。ですがそれ以外に症状や後遺症が遺ると言う事は有りません。」

 

『……』

 

「それを聞いて私は少しばかり安心出来るよ。後は無一郎……君はどうかな?。」

 

「はい。」

 

今まで視線のみ動かして不動と沈黙を貫いていた無一郎が、此処で初めて反応した。

 

「俺は個人的に言うと嫌ですけど……御館様がしろと仰るなら僕は受け入れます。本当に記憶が戻るかまだ信じられませんが……。」

 

「ん?」

――俺?……僕?……なんか安定しない……これも記憶喪失が理由なのかな?……。

 

炭治郎は無一郎の一人称に違和感を覚えたものの、些末な事だと頭の隅に追いやって一先ず、珠世の治療を無一郎が受け入れた事を素直に喜んだ。炭治郎は珠世に質問する。

 

「珠世さん、治療は何時始めますか? 俺達は下がった方が良いですよね?」

 

炭治郎は珠世が施す治療の邪魔をしてはいけないと、そう慮って確認を取る。聞かれた珠世は炭治郎に即答した。

 

「下がらなくても大丈夫です。治療の妨げになる様な行動を取られなければ、問題無いので。」

 

「だったら、皆が居るところで治療を始めて欲しい。」

 

『っ!』

 

衆人環視の前で治療を受けても問題が無いと知った無一郎は、珠世にそう頼んだ。周囲は無一郎のその意図を知るべく注目する。

 

「皆が居るところでかい?」

 

「はい……この珠世と言う鬼の血鬼術を見る、皆にとっても良い機会ですから。」

 

「確かにそうだが……珠世さん、私達が見学しても治療の邪魔にならないかな?」

 

「いいえ、別に構いませんが……先刻(さっき)、私が言った様に治療を妨げる様な行動はしないで下さると……。」

 

「それは私の名に懸けてさせないとこの場で約束しよう。皆も、決して治療の邪魔はしない様に。」

 

『御意。』

 

珠世の嘆願に対し、耀哉は誓約すると行冥達にも強く釘を刺した。

行冥達は耀哉に強く言われて異口同音に答える。尤も、無一郎の治療を妨害する心算など、毛頭無かったが。

 

話の結論が着いたと察した炭治郎は無一郎に話し掛けた。

 

「時透君、良かったね!」

 

「……」

 

「?」

 

無一郎は不思議なものを見る様な視線で、炭治郎を見詰めた。炭治郎は無一郎の視線に気付いて、首を傾げる。

 

「……炭治郎、だよね? 君の名前。」

 

「?……うん、そうだけど。」

 

「……」

 

「えっと……どうしたの?」

 

炭治郎は自身を見詰めたまま、沈黙する無一郎に少々困惑しながら話し掛けた。

 

「何で君はそんなに人に構うの?」

 

「えっ?」

 

『っ?』

 

無一郎の質問に、炭治郎は答えられず戸惑う。そんな質問をされるとは、炭治郎も思わなかったからだ。無一郎は更に続ける。

 

「君は妹を人間に戻すってやるべき事が有るのに、傷付いてまで不死川のために働いたり、何の接点も無い僕に構うのはどうして?……意味が分からないんだけど? もしかして只の馬鹿?」

 

『っ!?』

 

「ちょっ……っ!」

 

「か、霞柱様っ!?」

 

炭治郎は無一郎のために動いていると言うのに、感謝もせずそう罵倒した無一郎に当惑の声が大広間から漏れた。しのぶに至っては既に青筋を立てて笑顔のまま、無一郎を睨み付けていた。

しかし、当の炭治郎は微笑みながら無一郎にその質問を答える。

 

「時透君、それはね……俺は人のために働いて、役に立てるのが大好きだからだよ。」

 

「人の役に立つ事が好きなの? 自分の事じゃなくて?……君は召使いか奴隷か何かなの?」

 

『っ!?』

 

「と、時透君っ!」

 

「ちょ……あんた何言ってんだよっ!?」

 

「糞餓鬼、貴様……っ!」

 

どんどん度合いが酷くなって行く無一郎の罵倒に、ついに怒って声を荒げる者が出て来た。

蜜璃と善逸は思わず立ち上がって無一郎に抗議し、愈史郎もまた無一郎に苛立ちながら、鋭い視線で睨み付けていた。

 

「皆、落ち着いて下さい。」

 

『っ!』

 

「大丈夫ですよ、俺はちっとも気にしてませんから……このまま俺に任せて下さい。御願いします。」

 

『……』

 

再び大広間が荒れそうになるのを察して、炭治郎が制止するために行動に移った。そして炭治郎は大広間が静かになったのを確認してから、再び無一郎と正面から向き合った。

 

「俺は別に召使いでも奴隷でも無いよ、時透君。でも人間と言う生き物はね、自分じゃない他人のために、特に大切な人のために、信じられない力を出せる生き物なんだ。」

 

「えっ?……っ。」

 

「そして人のためにする事は結局、巡り巡って自分のためになる。"情けは人のためならず"って言葉が有る様にね。」

 

「…………えっ!?……えっ?!」

 

「んっ?」

 

炭治郎の言葉に、無一郎は双眸を見開いて驚愕した。無一郎は当惑して声を震わせながら、話し始めた。

 

「何……今何て言ったの?……今……今……っ。」

 

「へっ?……えっと、人のためにする事は結局、巡り巡って自分のためになるからだよ。"情けは人のためならず"って言葉が有る様にね……って俺は言ったんだけど……っ?」

 

「情けは……人のためならず……。」

 

 

ズキッ!!!

 

 

「――っ!!!」

 

無一郎が脳味噌に直接刻む様にそう呟いた後、頭に鋭い痛みが一瞬の間に走り去った。

咄嗟に無一郎は右手で頭を押さえ込んだ。

 

「時透君っ!? 大丈夫っ!?」

 

炭治郎は痛みに苦しむ無一郎を見て駆け付け、心配そうに見詰めた。

炭治郎が無一郎の身体に触れそうな距離まで接近すると、無一郎が左腕を前に出して炭治郎を止める。

 

「っ!」

 

「良いから……俺なら大丈夫……っ。」

 

無一郎がそう言って左腕を下ろすと、側頭部に置いていた右手も下ろした。

其処には何時もの無表情の無一郎に戻っていた。

 

「……何だっけ? 僕の治療の話だよね?……ならさっさと始めてしまおうか……珠世、俺は何をすれば良いの?」

 

「おい糞餓鬼っ! 貴様、先刻(さっき)から糞餓鬼の分際で珠世様を呼び捨てに……「愈史郎っ! 貴方は下がっていなさい!」はい、すみません! 珠世様っ!!」

 

無一郎が珠世に質問する際に、珠世を呼び捨てにした事に激怒した愈史郎が額に青筋を立てて激昂すると、珠世が制止して宥めた。

 

愈史郎が静かになったのを確認してから、珠世が愈史郎の質問に答える。

 

「大した事ではありません。仰向けの姿勢で横に寝転がってくれれば大丈夫です。」

 

「それだけ?……分かった。」

 

『っ!』

 

無一郎は珠世に言われて早速、身体を仰向けの姿勢にして寝転がった。珠世は横になった無一郎を見て、無一郎の右肩側に座って姿勢を正した。

周囲に居た炭治郎達は自然と治療の邪魔にならない様に、珠世と無一郎を囲う様に座る場所を変える。

 

「心の準備は宜しいですか……っ?」

 

「うん……さっさと始めてよ。」

 

「……分かりました。」

 

催促される様に無一郎に急かされた珠世は、左腕の着物の袖を捲る。其処には陶器の様に、白くて美しい肌をした細い腕が姿を表した。

 

――やっぱり珠世さんの肌、綺麗だよなぁ……顔が綺麗なんだから当然なのは分かっているんだけどっ。

 

珠世の白い腕を見てから、次に珠世の横顔を見た炭治郎は僅かに頬を赤くして見惚れていた。

 

『……』

 

しかし、炭治郎が珠世に見惚れている様子をしのぶ達は見逃さなかった。全員、青筋を一本立てて苛立ちを覚えていた。

 

そんな炭治郎達を余所に、珠世は擬態を一部解除して右手の爪を僅かに伸ばす。

そしてそのまま左腕に爪を立てて下ろす。左腕は右手の爪に裂かれて流血を始めた。

 

『っ!』

 

「ちょっ!? 珠世さん何やってんのっ!?」

 

珠世が唐突に、自傷行為を始めた事に耀哉達は驚きを覚える。善逸に至っては声を出して心配そうにツッコミを入れていた。

 

「おい、珠世様に近付くなよっ?」

 

「善逸。安心して見ててくれ。」

 

だが、炭治郎と愈史郎だけは動揺していなかった。尤も、これが珠世にとって血鬼術を行使する上で必要な手順だと、理解しているからに他ならないが。

 

そうしていると、間も無く珠世の血に変化が訪れた。

 

 

 

血鬼術 惑血(わくち) 幻日(げんじつ)白香(びゃっこう)

 

 

 

『っ!?』

 

珠世の血が白霧へと変化し、無一郎に向かって飛んで行く。耀哉達は驚き、興味深そうに凝視していた。

 

無一郎もまた耀哉達と同様に珠世の血鬼術を凝視していたが、直ぐにしなくなった。白霧が無一郎の整った顔に殺到すると、そのまま耳鼻や口から脳内へ侵入したからだ。

 

「っ!……っ……。」

 

無一郎は一度だけ双眸を見開くと、ゆっくりと瞼を閉じて眠りに着いてしまった。

 

「っ!……おい、本当に時透の身体に害は無いんだろうな?」

 

小芭内が珠世の血鬼術を見て、思わず呟く様に質問した。無一郎を心配して思わず口にした事だが、珠世と愈史郎への不信感は、小芭内にはまだ拭い切れていなかった。

 

「貴様……まぁ良い。何度もやっているがこれで死んだ奴も後遺症が残った奴も一人と居ないっ!……ただちょっとした副作用と記憶を取り戻した時間は個人差は有ったがな。」

 

『っ!』

 

「時間差に個人差が有るんですか?」

 

炭治郎が皆を代表する形で、愈史郎に質問すると直ぐに回答が帰って来た。

 

「ああ……三時間くらいで記憶を取り戻した奴も居れば、三日も続ける羽目になった奴も居る。」

 

『っ!!??』

 

「三日も……ですか……っ。」

 

「……だが逆に言えば、三日で記憶を取り戻せるとも取れるね。」

 

『っ!』

 

「っ!……確かにっ!」

 

個人差の振れ幅に炭治郎達は驚いたが、耀哉の指摘に全員の顔に期待の色が宿った。炭治郎達を余所に、愈史郎は呟いた。

 

「盛り上がっているところ悪いがな……結局のところ、時透無一郎(こいつ)の気力しだいだ。」

 

愈史郎はそう言って珠世と無一郎を見た。

 

『……』

 

耀哉達は愈史郎に倣って、眠っている無一郎を見た。その場に居る誰もが、無一郎の記憶が戻る事を願って心中で祈っていた。

 

 

 

 

 

 

「……んっ?」

 

無一郎が目覚めると、其処は辺り一面が霞の世界であった。何処を見渡しても霞しか見えず、地面すら霞で覆われて見る事が出来なかった。

 

無一郎は諦めてじっと立ったまま動かない事にした。

 

「……」

 

暫く沈黙したまま惚けていた無一郎だったが、それも直ぐに終わった。

 

「このまま居ても仕方無いや……ちょっと歩いて見ようか。」

 

無一郎はそう言うと、ゆっくりと歩み出した。

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時間帯:昼

天気:晴れ

 

『……』

 

緊急柱合会議を再開させてから、既に一時間が経過していた。

また珠世が血鬼術を無一郎に掛けて、既に十分程の時間が経過している。

 

しかし、大広間で二人を見守る炭治郎達に出来る事など無かった。

行冥を筆頭に何名かが場所を変えて、緊急柱合会議を再開してはどうかと耀哉に提案したのだが、耀哉が「無一郎を仲間外れには出来ないよ。もう暫く様子を見守ろう。」と言ったため、全員が沈黙したまま様子を見守っていたのだ。

 

すると、炭治郎が不意に開口して珠世に話し掛けた。

 

「珠世さん、すみません。ちょっと良いですか?」

 

『っ!?』

 

「おいっ!? 炭治郎っ!!」

 

炭治郎が突然、珠世に話し掛けたため愈史郎が怒って注意しようとする。しかし、それを珠世本人が止めさせた。

 

「愈史郎、構いませんよ。炭治郎さん。別に構いませんが、御用件ならば手短に御願い出来るかしら?」

 

「はい、勿論ですっ! 珠世さんにお願いなんですけど……決して邪魔はしませんから、時透君の手を握っていても良いですか?」

 

『っ!』

 

「っ! ええっ、勿論良いわっ。寧ろ、御願いしても良いかしら?」

 

「はいっ! 喜んでっ!!」

 

珠世が炭治郎の提案を快諾すると炭治郎は珠世の反対側、つまり無一郎の左側に移動して座り込んだ。

 

「時透君、頑張って。」

 

炭治郎はそう無一郎を激励してから、左手を両手で優しく包む込む様に握り締めた。

 

炭治郎自身はこの行動自体に、特に何か効果を齎すとは考えてはいない。耀哉達も炭治郎の優しさから来た行動であるとしか、解釈する事が出来なかった。

 

そしてこの炭治郎の行動は、無一郎の役に立てない事実から来る罪悪感や、何も出来ない自分を慰めると言う利己的な意味が有る程度だ。

 

しかし炭治郎ばかりかこの産屋敷本邸に居る誰もが炭治郎が取ったこの行動により事態を好転させ、無一郎のための一筋の光明になる事など知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

「っ!?……眩しっ!!」

 

霞の中を歩き回っていた無一郎だったが、不意に強烈な光の眩しさを浴びて思わず双眸を瞑ってから右腕で目元を隠してた。

 

少しして復活すると無一郎は右腕で目元を隠したまま、右目だけを少しばかり開けて、様子を確認した。

 

すると光は少しばかり弱まっており、また少しばかり上方へ上がって円を描いていた。その姿が無一郎にとって太陽そのものに見えていた。

 

「……闇雲に歩いていても拉致が開かないな。あの光を目指して歩いて見よう。」

 

そう判断したと同時に、無一郎は光の方向へと足を進めて行った。歩き始めて少し立つと、まだまだ先に有った筈の光の正体とは、光の球体だと分かった。

 

その光の球体は霞の中でもしっかりと、その存在感を主張していた。無一郎はその光の球体と目と鼻の先まで距離で近付く事が出来た。

 

「……綺麗だなぁ。それにとても暖かく感じる……ちょっと触ってみようかな?」

 

迂闊に触れれば、無一郎は火傷するかもしれなかった。しかし、何と無くその暖かさに惹かれた無一郎は右腕を伸ばして光の球体に触れる。

 

「っ!」

 

その瞬間、炎の球体は大きな光を発生して無一郎を包み込み、覆っていた霞を全て吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

無一郎は不意に閉じていた双眸を見開いた。其処には雲一つ無い晴天が広がっていた。

 

――青空?……っ!?

 

無一郎は霞が晴れた先の光景が青空だった事に困惑して、咄嗟に周辺を見渡した。

 

――此処……何処だ?……周辺は木が沢山有って、地面が少し傾斜になってる……山なのか、此処は。

 

何時の間にか、山に居た。その事実だけでも困惑を隠せないが、それ以上に無一郎を困惑させる事実が幾つも有った。

それらの事実に気付いた瞬間、無一郎は困惑だけでなく大いに動揺した。

 

――身体が縮んでる!?……それに服装も鬼殺隊の隊服じゃない。当然だけど日輪刀(かたな)も無いし……これは、斧?……何で僕、斧を持ってるの?

 

無一郎は自身の身体を見渡して見ると、粗末ではないが御世辞にも上等とは言えない、水と白色の二色の霞模様の着物を着用していた。袖が無く二の腕まで露出している珍しい物だった。

無一郎は霞模様が描かれたこの服を見て、無一郎は妙な縁を感じていた。

 

「無一郎?」

 

「っ!……っ!?」

 

無一郎は声がした方へと振り向いた。しかし振り向いた瞬間、無一郎は驚愕した。

 

「どうしたんだい、無一郎?」

 

其処には一人の比較的長身の男性が立っていた。その顔は霞が掛かっていて素顔が見れず、鳥の尾の様に肩まで有る長髪を一つに纏めて結んでいる事しか分からない。

 

しかし、もう一つだけ無一郎には男性について分かった事が有る。それは男性からは、敵意も悪意も見当たらない事だ。

何故自分が小柄になったかは不明だが、こんな身体で大の大人と戦って勝てる訳が無い。無一郎はその事実に安堵していた。

 

安堵していた無一郎だが、また新たな事実が発覚する。

 

「ごめんなさいっ、何でも無いよ!」

――っ!?

 

「そうか?……今日は色々教えたから、疲れたろ? 無理しなくても大丈夫だぞ。」

 

「ありがとうっ! でも僕、まだまだへっちゃらだよ!」

――……っ!

 

幼い無一郎が男性に向かって笑顔で親しそうに話していた。しかし、これは無一郎本人が喋った訳では無いのだ。

 

――身体が言う事を聞かない……まるで別の誰かが身体を乗っ取っているみたいだ……。

 

無一郎は困惑しながら、男性と無一郎の身体の遣り取りを見ていた。すると前方から、自分達を呼ぶ声が聞こえて来た。

 

「あなたぁ――!」

 

「おーいっ! 無一郎――!」

 

「「っ!」」

 

無一郎は声がした前方に視線を向けた。視線の先には一人の女性と同世代の少年が居た。少年は無一郎と色違いの黒色を基調に同様に水色の霞模様が描かれた、袖の無い着物を着用していた。

 

「迎えに来てくれたんだ! ただいま――っ!」

 

「遅くなった、今帰ったぞっ! ***! ***!」

 

――っ!……誰だろう?……この二人も()()……()()()()()()()()なんて……。

 

無一郎は新たに登場した二人の顔も霞掛かって見る事が叶わず、そればかりか男性の口から二人の名前らしきものが飛び出たにも関わらず、自分では聞き取る事が出来ないと分かった。

 

呆然としながら無一郎はその微笑ましい光景を見ていると、無一郎の身体が男性と、少年は女性と手を繋ぐと仲良く歩き始めた。

すると女性が男性と無一郎に向かって話し掛けて来た。

 

「あなた、無一郎。今日ね、町へ行ったら大根とお味噌をお裾分けして貰ったの! だから今日は皆が大好きな風呂吹大根を作ってあげますね。」

 

「おっ! 聞いたか、無一郎っ! 今日は風呂吹大根だぞっ!」

 

「うんっ! ちゃんと聞こえたよっ、()()()っ! ()()()もありがとう!!」

――っ!?!?

 

無一郎は自身の身体が言い放った言葉に、強烈な衝撃を覚えた。この顔が分からない得体のしれぬ男女が、自身の両親だと言うのだ。無一郎が衝撃を覚えるのも、無理は無かった。

 

――この人達が……俺の父さんと、母さん……っ!

 

無一郎は呆然としながら、横目で少年を見た。

 

――じゃあ……じゃあこの男の子は誰なんだ?……。

 

無一郎は少年の全身を隈無く見渡したが、自身と同じ腰まである同色の長髪をしている事以外に、分かる者は無かった。

 

四人でその後、談笑しながら家に帰宅したのだが、無一郎は話の内容が一切頭に入ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

帰宅した時透家は四人全員で夕食の支度に入り、全員で仲良く食卓に着いた。この際に無一郎は様々な情報を得る事が出来た。

 

――……僕の父さんは杣人だったんだ……母さんは父さんの幼馴染で父さんの仕事を良く理解している。だから山の暮らしにも慣れていて、御蔭で息一つ切らせず行動出来るのか。でもこの男の子の事は何も分からないな……それから僕はこの身体で自由に動いたり喋ったりするのは不可能みたいだ。過去の出来事だから、干渉出来無いのかも……。

 

無一郎は不意にこの夕食を食事しながら、この少年を見ていた。

 

「……何だよ、無一郎? 俺の風呂吹大根ならやらないぞ。」

 

「其処まで食い意地張ってないよっ!? もう、***の意地悪っ!!」

 

――状況証拠だけを見れば、俺の兄弟なんだろうけど……お互いに名前で呼び合っているんだよなぁ……。

 

無一郎は少年の事を不思議そうに見詰めていた。だが無一郎の身体は不貞腐れた様に頬を膨らませると、ふろふき大根に箸を伸ばして食べ始めていた。

 

――あっ、この風呂吹大根美味しい……それに何だか懐かしいなぁ……っ。

 

無一郎は好物の風呂吹大根の味に喜んでいた。無一郎の身体もまた、風呂吹大根を口にしてから一瞬にして機嫌が直っていた。

そんな単純な無一郎に、少年は呆れた様子で見ていた。

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ、時透家は厳しい夏の暑さに耐えながら、次に来る秋を迎えようとしていた。しかし相変わらず、霞は三人の顔を覆って隠していた。無一郎は未だに両親の顔を、思い出す事が出来ずにいたのだ。

 

そんな残暑が残る日々に、時透家にとって大事件は起きてしまう。

 

「ゴホッ……ゴホッゴホッ!……っ。」

 

「母さん、大丈夫?」

 

「お水は飲める? 母さん。」

 

無一郎の母が、風邪を拗らせて肺炎を患ってしまったのだ。風邪の身のまま、無理を押して仕事していた事実が状態を悪化させた。

無一郎達は懸命に看病したのだが、肺炎は悪化の一歩を歩み続けた。

 

看病を続けて数日、嵐がやって来た。

 

暴風は吹き荒れ、その強さは木々を軋ませた。更に大雨が大地に住む者達を襲った。普段ならば恵みの雨となって受け入れられる雨も、この強さでは命を奪いかねないものであった。

 

そんな嵐の日に、無一郎の父は決断した。

 

「***の……母さんの病気を治せる薬草を取って来るよ。」

 

「父さんっ!! 待ってよっ!? 本当に行っちゃうの!? 」

 

「こんな嵐の中に飛び出したら危ないよっ! 御願いだから考え直してっ!!」

 

無一郎の父は、愛する妻を救うべく薬草を採取すると決断したのだ。しかし、嵐の中の山内を歩くなど自殺行為に等しい。

 

まだ若いながらも熟練の杣人である無一郎の父ならば、普段は絶対にしない愚行であった。

しかし、その愚行を決断せざるを得ない程、無一郎の母の容態は深刻であった。

 

無一郎も少年も、必死で父の無謀な試みを阻止しようと着物を掴んで引き留めていた。

そんな二人に対して、無一郎の父は二人の頭に手を置いて優しく諭し始める。

 

「無茶なのは分かってる。でも許して欲しい。二人に約束するよ。父さんはちゃんと、二時間(一刻)以内には帰って来るから。」

 

「……っ。」

 

少年は父にそう諭されると、唇を少し噛んで口を噤んだ。愛する父に其処まで言われては、もう止められないと思ったからだ。しかし、無一郎は違った。

 

「駄目だよ! 行ったら父さんが死んじゃうよっ! どうして其処までするの!?」

――嗚呼、父さん。そんな事出来っこ無い……こんな嵐の中、外に出る薬草を採取するなんて自殺行為だよ。

 

無一郎は心中で制御出来ない幼かった頃の身体の言う言葉に同意した。すると無一郎の父は身体をしゃがんで無一郎と視線を合わせてから語り始めた。

 

「良いかい、無一郎。それは母さんが父さんにとってとても大切な人だからだ。」

 

「"情けは人のためならず"。人のためにする事は、巡り巡って自分のためになる。」

 

「そして人は自分ではない誰かのために、愛する人のために信じられない力を出せる生き物なんだよ、無一郎。」

 

「っ!」

――っ!

 

無一郎は父の言葉に双眸を大きく見開かせて、一人の少年を思い出していた。少し前に同じ言葉を言った炭治郎の笑顔が脳裏を過ぎった。

 

結局、無一郎達は父を黙って見送る他に無かった。

無一郎の父は家の(ドア)を開けると、一度振り返った。外は雨風で木々が激しく揺れていた。

 

 

 

ピカッ! ゴロゴロゴロッ!!

 

 

 

――っ!?

 

大きな落雷音が響き渡ると、何と父の顔に纏わりついていた霞が晴れたのだ。

其処には端正な顔立ちと特徴的な赤い瞳をした父の顔が在った。

 

「行って来る。***、無一郎、母さんの事を頼んだよ。」

 

「あっ……。」

 

無一郎の身体は背を向けて、山へ向かう父に向かって右手を伸ばしていた。

一方の無一郎は、待ち望んでいた両親の顔を思い出したにも関わらず、感動はしなかった。否、それどころでは無かった。無一郎は父の顔を見たと同時に、記憶の一部が蘇ったからだ。

 

――そうだ……母さんは肺炎で死んだんだ。その時に、父さんは母さんを治したくてこの後、薬草を採りに行って()()()()()()()()()()()……。

 

其処まで思い出した無一郎は、発狂した様に叫び始めた。

 

――待って父さんっ! もう母さんは助からないんだっ!! 御願いだよ父さんまで僕達を置いて逝かないで!!!

 

父を止めるべく、狂った様に父を引き留めるために叫んだ。しかしそれは現在の無一郎の意識の中の出来事でしかなかった。

一方の無一郎の身体は、泣きじゃくりながら零れ落ちる涙を必死で拭っていた。

 

「ひっく……えくえっぐ……どうしよう、***。父さんが、父さんが行っちゃったよぉ……うぅっ。」

 

「馬鹿っ! お前が泣いていたってしょうがないだろう! もうこうなったら父さんが無事に戻って来るのを祈って、母さんを看病しよう。」

 

「うえぇん……うん……うんっ。」

 

無一郎の身体は少年に叱咤されて、泣きながらも母の看病を共に始めた。

 

無一郎の身体の方は寝込んでいる母に対して何とか食べて貰おうと作った粥を母の口元へ匙を使って運んだのだが、何度試しても口元から粥が溢れるばかりだ。

 

たとえ口に入れたとしても、咳と共に吐き出してしまう。

これには無一郎も少年もお手上げ状態であった。

 

――嗚呼……母さんの笑顔……見たかったなぁ。

 

無一郎は霞が晴れて母の顔を見る事が叶ったと言うのに、その母は病で苦しんでいる表情しか見れなかった。その笑顔も、思い出の中のものでしかないものとなった。

 

無一郎には分かっていた。この不幸は始まったばかりなのだと。

 

父は結局、戻って来る事は無かった。

夜通し看病しても一向に母の病状は回復せず、嵐が過ぎ朝になってから息を引き取った。

 

時透一家の様子を心配して駆け付けた一部の知人達が家にやって来て、無一郎の母の死を目の当たりにして心を痛めた。

 

父は何処か尋ねられて答えると、焦燥した様子で捜索を買って出てくれた。そして崖から転落死した父の遺体を発見した。

 

頭から落ちた様で、その端正な顔は原型を留めて居なかったらしい。父の知人達は頭を覆った布は絶対に外すなと念押しされた。

 

その後、父の知人達に手伝われて簡素な葬式が行われ、両親を火葬してから無一郎達は故郷の景信山に遺骨を埋めて小さな墓を作った。

 

――この日から、十歳の僕達は二人で生きて行かなきゃならなかった……でも未だに思い出せない。兄弟なのは分かるんだけど……何だろう? とても大事な事を忘れている気がする……。

 

疑問を抱き胸中にモヤモヤとした感情を抱きながら、無一郎は隣の少年を見ていた。

 

 

 

 

 

 

両親が死んでから、半年以上もの月日が過ぎ去った。

 

無一郎と少年は二人で暮らしていたが、その生活は四人で暮らしていた頃の幸せな暮らしには程遠く、息が詰まって窒息しかねない程心苦しいものだった。

 

その最大の理由として、無一郎と一緒に生活する少年に有った。

 

『"情けは人のためならず" 人のために、誰かのために何かしてもろくな事にならない。』

 

『父さんが嵐の中を外に出なけりゃ死んだのは母さん一人で済んだのに、一人で無駄死にせずに済んだのに。』

 

『無一郎の無は"無能"の"無"。無一郎の無は"無意味"の"無"。無一郎の無は"無駄"の"無"。』

 

――……こいつ、あの愈史郎に負けないくらい言葉がきつくて容赦が無いんだよな……って、何だか俺を見てるみたいだ……っ。

 

無一郎は少年の言動に辟易しながら、その様子を観察し続けた。

 

そして春の季節に入りから春と夏の間で、思いも選らぬ人物が無一郎達に訪問して来た。

 

「もし……こちらは時透様の御自宅で間違い有りませんでしょうか?」

 

「えっ……っ?」

――っ!?……あ、あまね様っ!?

 

無一郎の前に一人の美女が現れた。

 

産屋敷家現当主・産屋敷耀哉の妻である産屋敷あまねだ。

 

「……」

 

「どうかされましたか?」

 

呆然とする無一郎に対して、あまねが心配して尋ねた。これに無一郎は過剰反応してしまう。

 

「っ!……は、はい! ごめんなさいっ! 白樺の精様!」

 

「えっ?」

 

「あっ。」

――えっ? 嘘でしょ?

 

間髪入れず、無一郎の身体は自身の失言に気付いて赤面した。

 

 

 

 

 

 

――まさか、僕があまね様の初対面であんな反応してたなんて……。

 

無一郎は火が出そうな勢いで湧き上がる羞恥心を抑えながら、今起きている状況を見ていた。

あまねが何故、自らの足で時透家に訪問して来たのかが分かった。

 

何でも、時透家は"始まりの剣士"と呼ばれた高名な剣士が祖先におり、その血筋から優秀な鬼狩りの剣士になれる可能性があるらしい。

 

あまねは無一郎達を鬼殺隊に勧誘するために態々、自らの足で時透家まで足を運んだそうなのだ。

鬼殺隊は基本的に志願制であり、勧誘する事などまず有り得ない異例の事態である。

 

――なっ。こいつっ……あまね様に暴言を……。

 

しかし、あまねの目論見は成功しなかった。あの少年があまねに暴言を吐いて追い出してしまったからだ。

これには無一郎も流石に怒りを覚えて少年を睨み付けた。

 

暴言を吐かれたあまねは顔色一つ変えず、一礼してからその場を去って行った。

 

――あっ……今度は二人で口喧嘩を始めた……っ。

 

無一郎と少年が口論をしていた。無一郎は自分だけに飽き足らず、あまねにまで暴言を吐いた事に泣きながら怒っていた。

 

一方の少年の方も激昂しながら、無一郎に反論していた。

 

「自分達はそんな大層な事が出来る選ばれた人間じゃない。」

 

「あの女は何か企んでいる。甘い言葉に誘われて散々利用された挙げ句、犬死にするのがオチだ。」

 

少年はそう言って無一郎の言葉を無碍に退いた。その日から毎日ではないとは言え、あまねが時透家に訪問しては少年に追い出され、無一郎と喧嘩するのが日常となっていた。

 

月日が経過して行くにつれて口を開けば口喧嘩や口論しかしなくなり、互いに口数が少なくなって行った。一月もすれば、互いに口すら聞かなくなっていた。

 

そんな険悪な関係のまま時透家は夏の季節を迎えた。初めて二人で過ごす最初の誕生日を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その年の夏の暑さは一際厳しい酷暑であり、残暑になっても通年の真夏に匹敵する暑さだった。

酷暑に加えて自身の子孫を残そうと必死になって将来の番に呼び掛ける蝉の鳴く声も煩わしかった。

 

少しでも涼みたかったのだろう。無一郎達は窓は勿論、戸も全開にしてから就寝していた。蚊が入って来るが少しでも涼めるなら大した問題では無かった。

 

しかし、この判断が後に大間違いだったと死ぬまで後悔する事になる。尤も、戸を締めていても結末は同様だったかもしれないが。

 

――っ!?……鬼っ!!!

 

開けていた戸から鬼が侵入したのである。鬼はすぐさま襲い掛かって少年の左腕を切断した。

少年は二の腕の切り口から多量の血を流しながら、絶叫して倒れ込んだ。無一郎は呆然としながら倒れた少年を庇う様に抱え込む。

 

鬼は加虐心と悪意に満ちた笑みを浮かべながら、無一郎達を嘲った。

 

「うるせぇうるせぇ。騒ぐな。どうせお前らみたいな貧乏な樵は生きていたって何の役にも立たねぇだろ?」

 

「居ても居なくても変わらない様な、つまらねぇ命なんだからよ。」

 

――っ!……こい……つっ!!

 

無一郎は鬼が言い放った存在否定の言葉に、強烈な憤怒と憎悪を抱いた。そしてそれは身体の方も同様だった。

 

「――っ!!!!!」

 

「っ!?」

 

無一郎の身体は山全体に轟く様な、強烈な雄叫びを口から解き放つ。其処からは一瞬であった。

 

無一郎自身も覚えていない。一瞬にして鬼を地面に固定してズタズタにした方法など、一も十も覚えていない。

 

ただ分かっているのは、鬼が無一郎の手で薪や刃物で身体を地面に固定され、頭を大岩で潰されていた事だったくらいだ。

 

鬼はその後、日出と共に焼かれて塵となったが、無一郎からして見れば、心底どうでも良い話であった。

 

しかし、無一郎も無傷では居られなかった。満身創痍になり歩くどころか立つことも出来ず、四つん這いになりながら自宅に辿り着いた。

 

無一郎はボロボロになった身体を見ながら、焦燥していた。それはあるものを見てから、更に強くなった。

 

――あっ!? 彼が生きてるっ!……でもこのままだとどっちも助からない……っ!……今日は、今日はあまね様は来て下さらないのかっ?……いや、誰でも良いから早く来てくれっ!!……っ!?

 

焦燥しながらそう叫ぶと、無一郎は少年についてある事に気付いた。それは身体の方も同様だった。

少年が譫言の様なものを口にしていたからだ。

 

「神……様……仏……様……どうか、どうか……弟の、無一郎だけは……御助け、下さい……弟は……俺とは違う……優しい、子です……。」

 

「っ!」

 

「人の……役に……立ちたい……と言うのに……俺が……邪魔を、した。……悪いのは……俺だけ……です。罰を当てるなら……俺だけに……して下さい……。」

 

「……っ。」

 

「分かって……いたんだ……無一郎の……無は……っ。」

 

 

 

「"無限"の"無"なんだ。」

 

 

 

「っ!!!」

――っ!!!

 

無一郎は少年の言葉で、封印されていた記憶が完全に蘇った。次々と洪水の如く、記憶の濁流が脳裏を駆け巡った。

頭が真っ二つに割れる様な痛みが襲ったが、それすら無一郎は気にならなかった。

 

無一郎の記憶が復活したと同時に、少年の顔にしつこく纏わりついていた霞も晴れた。その顔は無一郎と瓜二つだった。

 

――嗚呼…………嗚呼っ! 何故、どうしてっ!……何で僕は忘れていたんだっ……僕の片割れを……双子の兄弟を……っ!!

 

無一郎は悔恨する様に、その後悔の言葉を口にしていた。身体は無く意識しか無いと言うのに、落涙する感覚をはっきりと自覚した。そして身体の方も、涙を流しながら少年の身体へ手を伸ばす。

 

「有一郎……兄さんっ!」

――っ!

 

「……っ。」

 

無一郎の呼び掛けに少年の、否、有一郎もまた残った右手を伸ばして触れた。有一郎は顔を無一郎に向けて、微笑して最期の言葉を口にした。

 

「無一郎……お前は……自分ではない……誰かのために……無限の力を出せる……選ばれた人間なんだ…………っ。」

 

「!!!」

――!!!

 

有一郎はそう言うと、双眸を閉じて息を引き取った。

 

其処から無一郎は、身体を指一本動かす事も叶わなかった。真夏に劣らぬ残暑の中、腐敗して行く有一郎の遺体に蠅が群がり卵を産み付けて蛆を湧かせた。生きている自分の身体にも、蠅は卵を産み付けて蛆を湧かせた。

 

其処へ偶然あまねが愛娘のひなき達を連れて時透家へ訪れたため、死の淵に居た無一郎は危ういところで一命を取り留めた。己の愛する家族との記憶と引き換えに。

無一郎はその後に起きた事を整理する様に、ゆっくりと回想を始めていた。

 

――僕は半年以上、意識が朦朧とした寝たきりの状態が続いた。そして身体を元通りに動ける様になるのも半年近く掛かった。それから偶然、"最終選別"が行われる事を知った。

 

――戦い方なんて何一つ知らない癖に、僕は日輪刀(かたな)も持たず丸腰で挑んだ。丸腰の僕を他の参加者は馬鹿にしていたけど無視したなぁ。

それから必要だった日輪刀(かたな)は死んだ参加者から奪って鬼と戦った。僕を馬鹿にした参加者が、真っ先に鬼に殺られて喰われてた。

 

――剣術なんて習っていないのに、鬼を豆腐みたいに簡単に斬れた。斬る事は難しく無かった。記憶を失っても身体が覚えていた。

死ぬまで鬼を滅ぼして、否、奴らを根絶やしにするまで消える事が無い程の怒りだ。僕は傷一つ負わずに"最終選別"を生き残った。其処から血反吐を吐く様な鍛錬をやり続け、鬼を倒し続けて二ヶ月で柱になれたんだ。

 

無一郎は其処まで思い出した所で、自身に変化が起きている事に気付いた。何時の間にか身体は現在まで成長し、隊服を身に着けていた。

だが、立っている場所は景信山だった。兄の有一郎と共に建てた、両親の小さな墓が其処に在った。そしてその隣にもう一つ、似た形の墓が建てられていた。

 

――おかしいなぁ……僕は記憶を失ってから、一度も故郷の景信山に帰っていない。それに兄さんの墓が建っている事も知らない……嗚呼、そうか。

 

無一郎は納得した様子で、一度頷いてから両膝を着き両手を合わせて合掌した。

 

――これは僕の願望だ。景信山に帰って、家族()に「ただいま、勝ったよ。」って報告したいんだ……本当は今からでも帰って、立派な墓を作って上げたい。

 

「っ!」

 

無一郎はある気配に気付いて、後ろを振り向いた。其処には光の球体が凛々と光りながら浮かんでいた。しかし熱くは、無い。最初に感じた暖かさと優しさを確かに感じていた。

 

無一郎は光の球体を見て笑みを浮かべた後、再び三人の墓に顔を向けた。そして三人の墓に向かって新たに抱いた夢を、否、思い描いていた夢を口にした。

 

「けど僕が動く事で、救える命があるのなら……そっちを優先したい。だから父さん、母さん、兄さん……ごめん、行って来ます。」

 

無一郎は頭を下げて、家族に謝罪して詫びを入れた。その後、後ろ髪を引かれる感覚を感じながら、背を向けて歩き始めた。

 

 

 

『無一郎なら大丈夫。行って来なさい。』

 

 

『気を付けてね。行ってらっしゃい。』

 

 

『無茶はすんなよ、行って来い。』

 

 

 

「っ!?!?」

 

もう聞ける筈の無い愛しい声を耳にして、双眸を見開いて勢い良く振り向いた。

しかし、其処に愛する家族の姿は勿論、存在しなかった。

 

「……っ。」

 

しかし、無一郎は先刻聞いた愛しい声が幻聴だとは思わなかった。何故なら、家族の声を聞いて自身の胸が確かに暖かくなったのを感じたからだ。そして目尻には涙が溜まり始めて、今にも零れ落ちそうになっていた。

 

「っ!」

 

無一郎は急いで涙が溜まった目尻を袖で拭き取ると、勢い良く駆け出した。

 

光の球体まで近付くと、勢いのまま光の球体に手を伸ばした。無一郎が光の球体に触れると、強烈な光が無一郎を包み込む様に輝いた。




お待たせしました。

今作は無一郎君中心の記憶復活回でしたね。珠世さんの血気術を見て、「これ記憶喪失の治療に応用出来ね?」と考えたのがきっかけで生まれた話でした。これも一種のご都合血鬼術と言えるでしょう。因みに、この話も初期構想に有った話の一つです。

これで無一郎君は新たな目標が出来たし、原作より半年以上早く記憶が戻って幸せを積み重ねられるのは大きいと私は思っています。
それから分かると思いますが、炭治郎君と炭吉さんの憑依のオマージュです。

次回の更新は九月中に行います。お楽しみに。

オリジナル血鬼術

血鬼術 惑血(わくち) 幻日(げんじつ)白香(びゃっこう)

珠世が生み出した、催眠療法による対記憶喪失患者用血鬼術。患者の細胞に眠る記憶を蘇らせて、患者に見せる事で記憶復活を促す。
患者によって効果に個人差は有るが、失敗者は出した事が無いと言う優秀な血鬼術。

"幻日"とは"幻の日々"を掛けている。

余談だが"幻日"と言う、太陽の左右もしくは片方にのみ幻の太陽が映し出されると言う希少現象が実際に存在する。月でも同様の現象が実在し、その場合"幻月"と言う。


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第参拾肆話 巌の陰に優しき日輪の陽が差す

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*超辛口表現有り。苦手な方ご注意ください。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


バァッ!

 

 

 

「うわぁっ!?」

 

『っ!?』

 

眠っていた無一郎が唐突に、勢い良く起き上がったため炭治郎は驚愕して大声を上げた。耀哉達も、無一郎の想定外の事態に驚きを隠せないでいた。

 

「何だと……まだ四半刻(三十分)過ぎたばかりだぞ……。」

 

今までの記録を大きく塗り替える無一郎の復活の速さに、愈史郎も驚きを隠せないでいた。

 

「時透君っ!」

 

「……あっ……此処……っ。」

 

そんな周囲を余所に起き上がった無一郎は、ゆっくりと周囲を見渡して現況の把握に努めた。そこで炭治郎が自身の左手を包む様に、両手で握り締めている事に漸く気が付いた。

 

「あっ……その……ごめん……。」

 

炭治郎は無一郎の視線が自身の両手に向けているのだと気付くと、申し訳無さそうに謝罪した。

 

「僕が寝ている間、炭治郎はずっと僕の手を握っててくれたの?」

 

「……うん、何もせずにはいられなかったから……ごめんね、時透君。」

 

無一郎の質問に炭治郎が答えると、再び申し訳無さそうに謝罪して両手を離そうとする。

 

「……っ?……時透君?」

 

炭治郎は無一郎から手を離そうとしたのだが、逆に無一郎は左手に力を込めて強く握り返した。

思いがけない反応に炭治郎は、疑問に思って無一郎の名前を呼ぶ。無一郎は双眸を潤ませながら、炭治郎を真っ直ぐ見詰めていた。

 

「炭治郎っ!」

 

「わぁっ!?」

 

『!?』

 

無一郎は炭治郎の名前を大きく呼ぶと、そのまま炭治郎に飛び付く様に抱き着いた。

抱き着かれた炭治郎は押し倒されるのを必死で堪えると、当惑しながらも無一郎を抱き締め返した。

 

「と、時透君? どうしたの?」

 

「ありがとうっ、ありがとう……炭治郎、君の御蔭で……僕は大切なものを取り戻す事が出来たんだ……っ。」

 

「っ……そんな……俺は何もしてないよ……これも全部、珠世さんの御蔭だから……。」

 

無一郎から香る多大な感謝の匂いを嗅ぎながら、炭治郎は謙遜して無一郎の言葉を受け止めた。

 

「うん、知ってる……勿論、分かってるよ。」

 

無一郎はそう言うと、炭治郎への抱擁を解いて珠世と向き合った。

 

「僕の記憶を……大切なものを取り戻してくれてありがとう、珠世()()。」

 

『っ!』

 

無一郎はきちんと礼節を忘れる事無く、珠世を真っ直ぐ見ながら礼を伝えてから、ゆっくりと頭を下げた

 

「あっ、いえ……私は医者として出来る事をしただけで……元はと言えば炭治郎さんの提案で実現したものですから……。」

 

礼を言われた珠世は、少し狼狽しながら謙遜してみせた。元々は心根の優しい珠世である。

これまで何千何万と言う患者を診察して来たが、やはり治療した患者や家族に心から感謝を伝えられると、自身の心に来るものがあった。

 

「うん。だからとても……心から感謝しています。二人とも、僕のために……本当にありがとうっ。」

 

『っ!!』

 

「「……っ。」」

 

無一郎は改めて炭治郎と珠世の二人に礼を言うと、満面の笑みを見せた。人形同然に無表情だった無一郎の、初めて見る笑顔を見て大広間に居る多くの者は驚きを隠せない。炭治郎と珠世は無一郎の感謝の言葉に、再び胸を熱くした。

 

「無一郎。君の記憶が無事に戻って来た様だね?」

 

「はい、御館様……御心配をお掛けしました。申し訳有りません。」

 

耀哉が嬉しそうに尋ねると、無一郎は罪悪感を抱きながら謝罪した。三年以上に渡って記憶喪失の状態が続き、耀哉を心配させた事実が原因であった。

無一郎の謝罪に、耀哉は笑って受け止めた。

 

「気にしなくて良いんだよ、無一郎。……だけど、私の予想では記憶喪失(それ)が治るのはもっと先になると思っていた。炭治郎、良く思い付いたね?」

 

「はい。()()ですが、時透君が記憶喪失なのを知りまして……実は柱合会議が始まる前に珠世さんに時透君の治療して貰えないかと、事前に相談しました。もし治す方法を珠世さんが持っていない場合、土壇場で聞いても落胆させるだけでしたから。」

 

『っ!』

 

炭治郎の告白に、珠世と愈史郎の二人を除いた面々が驚いた。炭治郎の告白に、愈史郎が付け足す様に補足する。

 

「お前らが朝飯を食ってる時に、炭治郎が一度抜け出してるだろう? その時に炭治郎が俺達の下へやって来てな。時透無一郎(そいつ)の記憶喪失の治療は出来ないか、何とか治療して貰えないかと頼みに来たんだよ。「助けてあげたいんです。御願いします。」って珠世様に頭を下げてな。」

 

「炭治郎……っ!」

 

「おわっ!?」

 

其処まで自分のために尽力してくれた炭治郎に、無一郎は感動を隠せない。歓喜のあまり、無一郎は炭治郎に再び抱き着いた。

 

先刻は炭治郎の首に両手を回して抱き着いたが、今度は炭治郎の胸に顔を埋める様に飛び付き、両手を腰に回していた。

 

炭治郎は再び抱き着いて来た無一郎に面食らって動揺したが、二度目なため直ぐに落ち着きを取り戻した。

そして無一郎の無邪気な様子は、炭治郎は生前良く甘えてくれた実弟の竹雄達を連想させた。

 

「……ふふっ。」

 

目頭が熱くなりそうになるのを長男力で抑えると、無一郎の頭に手を置いて腰まで届く長髪をゆっくりと撫で始めた。

 

「っ!……んっ。」

 

無一郎は炭治郎の手の温もりに一瞬驚くも、直ぐにその心地良さに双眸を細めてうっとりとし始めた。

 

『……』

 

行冥達は唖然とした様子で、炭治郎達の遣り取りを目の当たりにしていた。それも当然の反応である。

 

行冥達の知っている無一郎と言えば、常に惚けて人形以上に無表情な一面しかないからだ。声を掛けても良くて二回目で反応し、一回目では先ず反応が無い。

たとえ返事をしても一言二言で終わる場合が多く、殆ど会話にすらならないのだ。

 

しかし、今の無一郎はどうだろう。母犬に子犬が甘えるが如く、無防備になって炭治郎と戯れているのだ。

このあまりの変化に、行冥達は驚かざるを得なかった。

 

アオイとカナヲは無一郎を見て羨望こそ抱いたが、嫉妬はしなかった。自身が無一郎なら、同様の行動を取ったに違いない。

否、最低でも抱き着いた後に熱い口付け(キス)を炭治郎に御見舞いしている事だろう。

 

何より、無一郎が男性だと言う点が大きかった。

無一郎の容貌はそれこそ中性的で女性と勘違いしかねない程の美貌だが、何処まで行こうと男性である事に変わりない。

 

炭治郎の愛を巡って、自分達と競い合う恋敵(ライバル)足り得ないのだ。尤も、もし万々が一、億が一、炭治郎が男性にまで守備範囲(ストライクゾーン)を広げたら嫉妬を爆発させる事になるのは間違いないのだが。

 

「……っ。」

 

しかし、しのぶだけは違った。記憶を取り戻す前はあんなに無関心かつ無碍に扱っていた炭治郎に対して、今ではまるで再会した恋人同士の如く抱擁を交わしている無一郎に深く嫉妬していた。

 

未だ態度にこそはっきり出していないが、日輪刀に手を伸ばすのをしのぶは笑顔のまま必死で抑えていた。尤も、青筋は全開であったので、隠れた感情でも隠し切れていなかったのだが。

 

少なくとも、善逸と伊之助は音と気配でしのぶの憤怒を察して、二人仲良く震えていた。

 

「時透君。俺、まだ御館様に言う事があるから、ちょっと良いかな?」

 

「うんっ! 勿論だよ炭治郎っ!!」

 

炭治郎が控えめに無一郎に言うと、無一郎は直ぐに抱擁を解いた。炭治郎の隣に控えて、離れようとはしなかったが。

 

無一郎から解放された炭治郎だったが、直ぐに姿勢を正して平伏すると、耀哉に尋ねた。

 

「御館様。最後の一つ、良いでしょうか?」

 

「勿論だとも。」

 

「ありがとうございます。だったら早速……善逸。」

 

耀哉から了承を得た炭治郎は、礼を述べてから善逸に声を掛けた。声を掛けられた善逸は予想していなかったのか、驚きから動揺した。

 

「えぇっ!? 俺っ!?……な、何。炭治郎。」

 

「別に大した事じゃないよ。俺が預けた()()、まだ持ってるか?」

 

動揺する善逸を宥めながら、苦笑した炭治郎は尋ねる。

 

「手紙?……えーっと、これの事だよな?……その、炭治郎が風のおっさんに斬られる前に俺に渡した奴。」

 

「そう、それだよ! ありがとう、善逸! 預けて良かったぁ……じゃなきゃ今頃、俺の血で汚れて読めたもんじゃないよ。」

 

炭治郎は歓喜しながら、善逸に預けていた手紙を回収してそれを抱き締めた。この事から、余程大事な事が手紙の内容に認められているのだと見て取れた。

 

炭治郎は抱擁を解くと、今度は愈史郎に声を掛けた。

 

「愈史郎さん。()()、もう一枚持ってますか?」

 

「当然、有るぞ。ほら。」

 

「ありがとうございます! 愈史郎さんっ! 頂きますね!」

 

炭治郎は愈史郎に礼を述べてから、『紙眼・視』を一枚受け取った。目当ての物を手にした炭治郎は、そのまま目的の人物の下へと歩き出した。

 

「失礼します、悲鳴嶼さん。」

 

『っ!』

 

炭治郎が腰を下ろしたのは、行冥の前だった。きちんと姿勢を正してから行冥と向き合う。

 

「悲鳴嶼さん。唐突ですみませんが、こちらをどうぞ。」

 

「っ!」

 

炭治郎はスッと一枚の紙を、行冥の前に差し出した。それは耀哉が着用する事で視力を取り戻した『紙眼・視』の符であった。

 

「……竈門炭治郎、これは?」

 

「はい。『紙眼・視』と言って愈史郎さんの血鬼術で作られた符です。この『紙眼・視()』を着ければ、悲鳴嶼さんも視力を得られる様になります。」

 

『っ!』

 

「っ!!……おっさん、目が……。」

 

行冥の言葉で、伊之助は漸く行冥は盲目なのだと気付いた。一方で、耀哉達は行冥の心痛を察して胸を痛めた。しかし、炭治郎だけは別の事を考えてながら行冥の話を聞いていた。

 

「私に着けろと言うのか……?」

 

「はい、そうです。」

 

「断る。」

 

『っ!?』

 

「……」

 

視力を取り戻せると言う、願っても無い話にも関わらず行冥は即答で炭治郎を拒絶した。そのため大広間は一部の者達がざわめき出した。

 

しかし、炭治郎は冷静だった。こめかみすらピクリとも動かす事無く、炭治郎は冷静さを保って行冥を尋ねた。

 

「……拒絶する理由を御伺いしても?」

 

「無論、その『紙眼・視()』とやらが、鬼の血鬼術で作られた物だからだ。私は鬼の力を借りてまで、視力を得ようとは思わない。そんなものに手を出す心算など、何が在ろうと私には無い。」

 

「……」

 

鰾膠(にべ)も無い行冥の言い方に、炭治郎は沈黙した。すると横から嘴を挟む者が出て来た。

 

「酷いよっ! 悲鳴嶼さんっ!!」

 

『っ!?』

 

行冥に抗議の声を上げたのは、記憶を取り戻した無一郎だった。無一郎は立ち上がって、更に行冥への抗議を続けた。

 

「炭治郎が折角、悲鳴嶼さんのためにと言ってくれているのに、その優しさを無碍にするなんて、幾らなんでも酷過ぎますっ!!」

 

「……っ。」

 

無一郎のあまりの変貌振りに行冥は当惑するも、それ以上に無一郎の正論に行冥も咄嗟に反論が出来ない。

 

「時透君、俺なら大丈夫だよ。」

 

「炭治郎、でも……。」

 

炭治郎が自分の代わりに、行冥に怒る無一郎に声を掛けて宥める。すると無一郎はまだ言い足りないのか、炭治郎に不満を隠さず見詰めた。炭治郎は更に苦笑しながら、無一郎を説得する。

 

「庇ってくれて嬉しかった。ありがとうね?……大丈夫だから、後は俺に任せてくれる?」

 

「……うんっ。」

 

『……』

 

炭治郎に微笑まれた無一郎は、何故か頬を赤くしてその場を下がった。無一郎のあまりの変貌振りに、改めて周囲は理解が追い付かず困惑を隠せない。

 

周囲を気にせず、炭治郎は再び行冥と向き合う。実は炭治郎は、行冥が受け取るのを拒絶する事そのものは予想が付いていた。

とは言え、その言い方までは予想外であった。炭治郎は行冥の言い方に、心中に怒りの火が着いた。

 

「言葉を慎んで貰えますか? 幾ら貴方であっても、そんな言い方は許されませんよ。悲鳴嶼さんっ。」

 

『っ!?』

 

炭治郎が怒った様子で、行冥に反論した。思わぬ炭治郎の強気な言葉に、大広間に響きが広がった。

 

「ちょっ……っ!?」

――炭治郎っ!? 何でいきなりそんな喧嘩腰でもの言ってんのっ!?

 

善逸は焦燥感を露わにしながら、内心で炭治郎にツッコミを入れていた。

 

行冥は思わぬ炭治郎の反論に面食らったが、内容を理解して行く内に両手に込める力が増して行く。そして数珠に一筋の罅が入った。

 

「許されないとは……どう言う意味だろうか?」

 

「御忘れですか? 現在(いま)、御館様は全く同じ物を着けて視力を取り戻しているんですよ。」

 

「っ!」

 

炭治郎の指摘で、行冥は自身の言い放った言葉が如何に失言だったかを漸く理解した。しかし、炭治郎は間髪入れず話を一方的に始めたのだった。

 

「悲鳴嶼さん。貴方は誰よりも長く御館様に御仕えして来たのに、御館様が取られた手段を否定するんですか? 御館様が鬼の力で視力を取り戻した事が、そんなにいけない事ですか?」

 

「貴方も根本的に間違っています。道具や力とは、全て使い方一つでしかありません。包丁は正しく使えば美味しい料理を生み出しますが、間違って使えば誰かを傷付けて命をも奪います。それも結局、包丁を握った人の使い方次第です。」

 

「時透君は珠世さんの血鬼術で、失くしていた記憶を取り戻しました。御館様は愈史郎さんの御蔭で視力を取り戻されて、奥方様のあまね様や御子息、御息女の輝利哉様達の御顔を、悲鳴嶼さん達の御顔を再び見れた事に、世界を再び眼にする事が出来た事に大変喜ばれました。それでも貴方はその事実を祝福せず、それを否定するんですか?」

 

「……」

 

炭治郎の怒涛の勢いで来た言葉の数々に、行冥は一切の反論が出来ずに沈痛した。行冥から悲しい匂いを感じ取った炭治郎は、ハッとした表情をしてから勢い良く頭を下げた。

 

「すみません、言い過ぎました……ごめんなさい。」

 

『っ!』

 

「っ!……いや……私も軽率だった……御館様。何卒、愚かな私を御許し下さいっ。」

 

炭治郎からの謝罪を受けた行冥は一言そう言ってから、耀哉に向かって自身の失言を謝罪した。

 

「良いんだよ、行冥。そんなに気にしないでおくれ。」

 

「はっ……時透も、すまなかったな……。」

 

「いや……僕は別に気にしてませんよ。」

 

耀哉に続いて行冥は無一郎に謝罪すると、無一郎は別段、気にした様子も無く行冥の謝罪を受け取った。それを見届けてから、耀哉が炭治郎に話し掛けた。

 

「炭治郎。君はただ単純に、行冥に眼が視える様になって欲しいだけでは無いみたいだね?……その手紙が関係しているのかな?」

 

「っ!……はい、御館様の仰る通りです。」

 

『っ!』

 

炭治郎は耀哉の質問に肯定して答えると、その手紙を行冥の前に差し出した。

 

「悲鳴嶼さん。俺は貴方へ宛てた手紙を一通、預かっていました。」

 

「っ!」

 

行冥は炭治郎の言葉に驚きを隠せなかった。自身に手紙を送って来る相手に、心当たりが無かったからだ。

 

「私に手紙だと……一体、送り主は誰だ……?」

 

行冥は考えても送り主が誰か見当が付かなかったため、炭治郎に手紙の送り主について尋ねた。

 

「"沙代ちゃん"から手紙を預かっていました。」

 

「っ!!??……沙代……だと……。」

 

『っ?』

 

炭治郎の口から出た思わぬ人物の名前に行冥は激しく動揺した様子で、身体を僅かに震わせながらそう呟いた。岩柱の肩書通り、常の如く不動で動揺する事が無い行冥の動揺する様に、大広間に居る全員が注目した。

 

「はい。悲鳴嶼さんは勿論、あの娘を覚えていますよね?」

 

「……あぁ、勿論だ。忘れる訳が無い……。」

 

『……』

 

行冥から喜びや恐怖、悲しみが複雑に混じり合った匂いと音を炭治郎と善逸は確かに感じた。声色からも

それが滲み出ており、大広間に居る全員がそれを感じ取っていた。

 

それを確認した炭治郎は一度だけ深呼吸して息を呑み込んでから、意を決して行冥に語り始めた。

 

「今から八日程前に、俺は御館様から御指名を受けて鬼の討伐任務に行きました。緊急と言われていたので可能な限り、急いで現地に向かったんですが……その鬼が、沙代ちゃんの住む家を襲っていたんです。」

 

『っ!!??』

 

炭治郎の言葉に、大広間に居る者全員が息を呑んだ。特に行冥の反応は、顕著なものだった。

 

「沙代はっ!?……沙代は無事なのかっ!? あの娘はどうなったんだっ!?」

 

「っ!?……うぐっ!?」

 

『っ!?』

 

行冥は身体を起こすと、両手で炭治郎の二の腕を掴んで問い詰めた。炭治郎は行冥の質問に答えたかったのだが、七尺(二m三十cm)近い稀有な巨躯から繰り出される剛力で握り締められて骨までミシミシと音を立てていた。

 

「あ"っ……ぐぅっ……っっ!」

 

その痛みで炭治郎は行冥に答えるどころか、呼吸するのがやっとであった。

 

「ちょっとっ!? 悲鳴嶼さん止めてよっ!?」

 

「悲鳴嶼さんっ!!」

 

「い、岩柱様っ!?」

 

「おい、数珠のおっさんっ!!」

 

無一郎としのぶ、そしてアオイと伊之助が行冥を止めるために大声で呼んだ。

 

「っ!……すまぬ。」

 

しのぶ達に大声で呼ばれた行冥は我に返ると、咄嗟に炭治郎から両手を離した。

 

「っ……はぁっ……。」

 

炭治郎は行冥から解放されると、二の腕から来るジンジンとした痛みに耐えながら呼吸をした。

呼吸を整えた炭治郎は行冥に視線を向けると、しっかりとした口調で話し始めた。

 

「今から言いますね?……結論から言うと、沙代ちゃん()無事です。」

 

『っ!』

 

「そうなんだ……。」

 

「良かったぁ……。」

 

炭治郎の報告に、大広間には安堵の空気で包まれた。しかし、それも直ぐに立ち消えになる。

 

「……んっ?」

 

「えっ?……炭治郎?」

 

「……竈門炭治郎、沙代()無事とはどう言う意味だ? 何やら含んだ言い方をしたが……。」

 

「……っ。」

 

炭治郎は行冥からの質問を受けて、思わず顔を逸らして口を噤んだ。

 

「……炭治郎君?」

 

炭治郎の様子に一抹の不安を覚えたしのぶが、炭治郎に呼び掛けた。呼び掛けられたと同時に、炭治郎は重い口を開いた。

 

「沙代ちゃんの御両親は……鬼の手に掛かって亡くなりました。」

 

『っ!?』

 

最悪の結末を知って、全員が息を飲んだ。

 

「すみません……後少し、俺達が早く到着していれば……。」

 

炭治郎はその時に感じた後悔や罪悪感を思い出して、拳を固く握り締めて小さく震えた。

 

『……』

 

しかし、沙代の両親を救えなかった事を失態として炭治郎を責める者など一人も居なかった。

鬼殺隊の隊士ならば、誰もが経験している事だからだ。救出が間に合わなかった事例など、枚挙に暇が無い。

 

「……それでは沙代は……沙代は現在(いま)、どうしている?」

 

行冥もまた、炭治郎を責める様なみっともない真似はしなかった。ただ、静かに沙代の無事を確認したくて尋ねる。

 

「沙代ちゃんですが、現在(いま)は"藤の花の家紋の家"に預かって頂きました。」

 

「……」

 

炭治郎からの報告を聞いて、行冥からは安堵の匂いが漏れた。炭治郎はそれを確認すると、罪悪感を抱きながらも行冥に伝えた。

 

「……実は俺、沙代ちゃんから"九年前の事件"について聞いています。」

 

「なっ!?」

 

「「……っ。」」

 

『……?』

 

炭治郎の一言に、行冥は露骨に動揺し驚愕した。炭治郎が言ったこの"九年前の事件"と言う単語に行冥が反応したため、自然と注目が集まる。この言葉の意味が分かる者は、炭治郎の他に産屋敷夫婦しか居なかった。

 

「悲鳴嶼さん。後で構いませんから、貴方からもお話を聞かせて貰えませんか? "九年前の事件"(その事)について、話したい事が有るんです。」

 

「……」

 

沈黙する行冥を見て、炭治郎は罪悪感を抱かざるを得なかった。

 

――早まったなぁ、悲鳴嶼さんを晒し者みたいにしちゃったよ。でも皆の前で話さないと、はぐらかされて終わるかもしれないと思ったし……まぁ俺の我が儘なんだけどさ、悲鳴嶼さんの事を皆に知って欲しいと、視力を取り戻して欲しかったって思ったのは……。

 

「待てっ。」

 

「っ!」

 

炭治郎が心中から沸き上がりそうになる後悔の念を押し殺していると、行冥がそんな炭治郎の心情を察した様に声を掛けた。声を掛けられた炭治郎は、行冥に顔を向ける。

 

「私も今、知りたい。君が沙代からどの様にあの話を聞いたのかを……だがその前に、先ずは私から昔話をさせて貰うとしよう。」

 

『!』

 

行冥がそう言うと、自然と静寂が大広間に広がって全員が行冥に耳目を集中させた。行冥はゆっくりと語り始めた。

 

「私は九年前まで、親代わりだった住職から寺を受け継ぎ、其処を孤児院として身寄りの無い孤児達を引き取って育てていた。皆、血の繋がりこそ無かったが仲睦まじく、お互いに助け合い生きて来た……私は一生、死ぬまでそうやって生きて行く心算だった。」

 

「私はある事に毎晩、細心の注意を払っていた。それは毎晩欠かす事無く、鬼除けのために藤の花の香炉を焚く事だった。何故なら私の住んでいた地域では鬼の脅威の伝承が根強く残っており、亡くなった住職から念入りに注意されていたからだ。私もまた孤児(子供)達には、門限だけはキツく言付けていた。」

 

『……』

 

其処まで行冥が言うと、炭治郎達は行冥の纏う空気が変わった事を察した。また、行冥が手に持っている数珠に力を僅かに込めた事も見逃さなかった。

 

「だがある晩、門限を守らず夜になっても寺に戻らなかった少年が鬼と遭遇した。少年は命惜しさに鬼に命乞いし……自分が助かる代わりに寺に居た私と他の八人の子供達、合わせて九人を喰わせると言って鬼と悪魔の取引をしたのだ。」

 

『っ!?』

 

「なっ!?」

 

「んだとぅっ!?」

 

「なん……だそりゃっ!?……屑野郎じゃねぇかそいつァ……っ!」

 

「……その少年は私が鬼除けに焚いた藤の花の香炉の火を消して、鬼を寺の中へ招き入れてから逃走した。直ぐに孤児(子供)達が鬼に殺された。残った四人の孤児(子供)達だけでも、私は命に代えてでも何とか守ろうとした。しかし四人の内、三人は私の言う事を聞いてはくれなかった。」

 

全員が絶句する中、善逸が憤慨した様にそう呟いた。行冥は額に青筋を立てながらも、静かに語り続ける。

 

「あの当時の私は少ない食べ物を孤児(子供)達に優先して食べさせていた。そのため、私は痩せ細っていて気も弱かった……大声なんて出した事も無かった。更には目も見えぬ様な盲目の大人など何の役にも立たないと言う、あの子達なりの判断だったのだろう……。」

 

『……っ。』

 

「……」

 

耀哉達は行冥の心痛を察して胸を痛めた。しかし、炭治郎だけは別の事を考えながら行冥の話を聞いていた。

 

「私の言う事を聞いてくれたのは、一番下の沙代だけだった。沙代だけが、私の後ろに身を屈めて隠れてくれた。私を当てにせず逃げた三人の孤児(子供)達は、暗闇の中で鬼に咽喉を掻き斬られて死んだ。……私はぁっ!……何としてでも沙代だけはこの命に代えてでも、鬼の魔の手から守らなければならないと思い、決死の覚悟で鬼と戦った。」

 

行冥はあの当時に抱いた怒りを思い出し、数珠に罅を入れる程の力を入れながら語り続けた。

 

「生き物を殴る感触は地獄の様だった……あの気色の悪さを私は死ぬまで忘れない……生まれて初めて全身の力を込めて振るった拳の威力は、自分でも恐ろしくなるぐらいに凄かった。鬼に襲われる事が無ければ、私は自身の強さに生涯気付く事は無かった。私は夜が明けるまで、鬼の頭を殴り続けた。……その結果、私は沙代を守り抜く事が出来た。しかし、あの夜に私は山ほどの大切なものを奪われて失い、傷付いた。」

 

『……』

 

「「「……っ。」」」

 

天元達は行冥の心情を察するに余り有る事だった。しかし、産屋敷夫婦と炭治郎は知っている。これはまだ行冥にとって、地獄の釜の蓋が開いたに過ぎない事なのだと。

 

「日出と共に鬼が塵となって消滅した頃、騒動を聞き付けて大人達が寺に駆け付けて来た。沙代は……沙代は駆け付けて来た大人達に向かってこう言った。」

 

 

 

『あの人は化物……みんなあの人が……みんなを殺した。』

 

 

 

『っ!?!?』

 

「う……そ……?」

 

「そんな……。」

 

「「「……っっ。」」」

 

 

沙代の発言を知って、大広間に居る誰もが絶句した。しのぶに至っては口元を手で押さえ、蜜璃は一筋の涙を流していた。

事情を知っている産屋敷夫婦と炭治郎もまた、直接その惨事を耳にしては、顔を曇らせざるを得なかった。

 

「まだ四つの子供が、あれだけ恐ろしい目に遭わされたのだ。混乱するのも無理は無い。」

 

行冥はそう言って沙代を責める事は言わなかった。しかし、行冥から悲しい匂いと音を確かに炭治郎と善逸は感じ取った。

 

「……しかし頭でそれが分かっていても、私はそれでも沙代にだけは労って欲しかった。私の為に戦ってくれてありがとう、守ってくれてありがとうと言って欲しかった。その一言が有れば私は救われた、報われる事が出来た……しかし、子供と言う者は何時でも自分の事で手一杯だ。」

 

「鬼の屍が消滅した事で、孤児(子供)達の亡骸と惨劇の現場だけが残された。私は大量殺人の罪で、牢屋に投獄された。私は幾ら真実を言っても信じて貰えず、親しくしていた大人達から人殺しよ、人非人(にんぴにん)よと責められ続けた。私は失意と絶望の中で、処刑されるのを待っていた。」

 

「……私はこの事件を耳にして、急いで駆け付けて行冥を牢から解放したんだよ。無論、無実も勝ち取り容疑を晴らした上でね。」

 

『っ!……っ。』

 

耀哉が行冥を見兼ねて、代わりに結末を説明した。天元達は最後に行冥が耀哉の働きで救われたのだと知って安堵し、敬意と感謝の念を抱いた。

 

「……」

 

炭治郎は行冥の話を聞き終えると、沙代から聞いた話を脳裏で照合していた。

 

「……っ。」

 

そして悲しい事実を知った炭治郎は、静かに涙を流した。尤も、直ぐに手巾(ハンカチ)で涙を拭き取ると、毅然とした真剣な表情で行冥を見た。

 

「悲鳴嶼さん。御辛い御話をさせて、申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございました。」

 

「っ!」

 

炭治郎は先ず、辛い過去を話してくれた行冥に謝罪と感謝の言葉を送った。其処から炭治郎は沙代から聞いた話を、行冥に一語一句余すこと無く伝えるために話し始めた。

 

「ですが……貴方は一つ、悲しい勘違いをしています。沙代ちゃんから教えて貰ったんですが……当時(あのとき)、沙代ちゃんが言った"()()()"ですが……それは悲鳴嶼さんの事では無く、寺を襲った鬼を指して言っていた事なんだそうです。」

 

『っ!!!』

 

炭治郎から真実を聞かされて、大広間に驚愕の空気が広がった。行冥も動揺を隠し切れ無かった。

 

「な……に……っ?……それは、本当なのか?……っ。」

 

「はい。それから沙代ちゃんは悲鳴嶼さんが投獄されたと知って、悲鳴嶼さんを助けたくて必死で弁明したそうなんですが……気が動転していると判断されて、大人達に聞き入れて貰えなかったそうなんです。」

 

「っ……沙代……っ。」

 

行冥は自分のために尽くそうとした沙代の事を知って、涙を流しながら沙代の名前を呟いた。

 

「……それから、沙代ちゃんが悲鳴嶼さんに謝りたいのは、その事だけではありませんでした……もう一つ、あの娘が謝りたい事が有るんです。」

 

「沙代が私に謝りたい事……だと?」

 

行冥は炭治郎から伝えられた内容が気になったのか、感傷に浸るのを止めて炭治郎の方へ顔を向ける。

 

「はい……沙代ちゃんに教えて貰いました。あの事件は私達の所為で起きたのだと……そう嘆いていました。」

 

「……っ?」

 

行冥は炭治郎の言っている言葉の内容が理解出来ず、首を傾げて疑問が絶えなかった。この事件が起きた発端は、門限を守らなかった少年に有る筈だからだ。炭治郎は行冥が疑問を浮かべる様子を察して、続けて語る。

 

「状況だけ見れば、門限を守らなかった少年の所為に見えます。実際、そうなのでしょう……ですが、この少年が門限を守らず外に出ていたのは……沙代ちゃん達、他の八人の孤児(子供)達が悲鳴嶼さんに相談せずに、その少年を寺から追い出したからなんです。」

 

『っ!?』

 

「なん……だと……。」

 

炭治郎に選って衝撃の事実が知らされた事で、大広間に響めきが広がった。行冥もまた、動揺を隠し切れない。

 

「何故……沙代達があの子を追い出したのだ……っ?」

 

行冥は声を震わせながら、炭治郎にその理由を知りたくて尋ねた。

 

「悲鳴嶼さんは当時、御布施や御仕事で稼いだお金をコツコツ貯めていたんですよね?……沙代ちゃんから教えて貰いましたが、その少年がお金を盗んだところを沙代ちゃんが目撃して、それを知った他の孤児(子供)達がその少年を咎めて独断で寺から追い出したんだとか。悲鳴嶼さんは盲目だから、気付かなかったのでしょうね。」

 

「なんと……嗚呼、そうだったのか……。」

 

炭治郎の説明と考察を聞いて、行冥は納得した様に呟いた。炭治郎は行冥を見て胸に痛みを覚えたが、その痛みを押し殺して呟いた。

 

「もう詮無き事で、想像の中の話でしかありませんけど……もし鬼が現れず、明日を無事に迎えられていたら……きっと、何時も通りの掛け替えの無い日常を過ごせていたのかもしれませんね……。」

 

「そう……だな……。」

――嗚呼、そうだ。何時も通り……明日が来ていれば……。

 

もはや起こり得もしない"もしも"や"たられば"の話である事は、炭治郎も行冥も充分過ぎる程に理解していた。

想像するだけ非生産的で無意味な妄想でしか無い事は頭で理解していても、考えずにはいられなかったのだ。

 

『……』

 

そんな炭治郎と行冥の様子を察して、大広間に居る誰もが何かしら声を掛ける事が出来なかった。

すると炭治郎が漸く、その重い口を開いて再び語り出した。

 

「沙代ちゃんは、酷く自分を責めていました。あの事件は私達が彼を……()()を勝手に追い出したからあんな事件が起きたんだと、私達の所為で、私の所為で先生に辛い目を遭わせてしまったんだと……そう泣きながら()()()()()説明してくれました。」

『っ!?』

 

炭治郎が語った言葉に、思わず動揺する言葉が混じっていた。すると炭治郎はある違和感に気付き、それを見逃さなかった。

 

――……善逸?

 

炭治郎が気になったのは、善逸だった。善逸から強い動揺と焦燥の匂いがしており、また善逸から大量の汗が溢れ出ていた。そして事実、善逸はある単語を耳にして動揺していたのだ。

 

――な、何で炭治郎の口から"()()"の名前が出てくるんだよぉっ!?……い、いやっ!……他人の空似だっ! そうに決まってる!!

 

善逸は必死で自身を落ち着かせようと、小さく呼吸を繰り返して冷静さを取り戻そうとしていた。

 

「……」

 

炭治郎は善逸のそんな様子を見逃さなかった。しかし、それよりも優先すべき事がある。そう自身に言い聞かせていると、行冥は炭治郎が言い放った言葉の真相を知るために、炭治郎に問い詰めた。

 

「竈門炭治郎、沙代が()()()()()君に説明したとは……どう言う意味だ?」

 

「……すみません、言ってませんでしたね……沙代ちゃんはあの事件以降……声を失って喋る事が出来なくなってしまったそうなんです。」

 

『っ!!!』

 

炭治郎から齎された新たな情報に、大広間は衝撃が走った。

 

「沙代が声を……失っただと?」

 

「はい。」

 

「……っ。」

 

炭治郎にそう断言され、行冥は沙代の身に起きていた不幸を知って動揺した。

炭治郎は身体を震わせながら、更に語り続ける。

 

「沙代ちゃんはその事で現在(いま)も苦しんでいます。「先生は目が見えないのに、喋れない私はどうやって先生に謝れば、罪を償えば良いんだろう。」って……この九年間、ずっと自分を責め続けているんです。」

 

「――っ!!!」

 

沙代の苦しみを知って、行冥は思わず嗚咽を漏らした。

行冥の心中には、後悔の念が渦巻いて行く。

 

――嗚呼……私は心の何処かで自分は哀れな被害者なのだとばかり考え、己の感情を優先して他者への思い遣りが欠けていたのやもしれぬ……。

 

炭治郎は沈黙する行冥に向かって、意を決した様子で懇願した。

 

「俺がこの手紙を悲鳴嶼さんに持って来たのは、俺が沙代ちゃんに書いてくれる様に頼んだからです……悲鳴嶼さん。どうか、愈史郎さんの『紙眼・視()』を着けて、この手紙を読んでくれないでしょうか?……そして沙代ちゃんに会ってあげて欲しいんですっ! 御願いします。」

 

「っ!……っ。」

 

炭治郎が行冥に頭を下げて懇願する。盲目の行冥でも、炭治郎が自分に頭を下げているのは理解出来た。

 

「話は分かった……だが、私は手紙を読む事は出来ない。」

 

『っ!?』

 

行冥が拒絶の言葉を口にした事に、大広間には衝撃が走った。炭治郎もまさか拒絶されるとは思わず、愕然としてしまう。

 

「どうして……ですか? 悲鳴嶼さんっ。」

 

悲しみを隠せず、落胆した様子で炭治郎は行冥に尋ねた。すると行冥は驚きの理由を口にした。

 

「何故なら、私は生まれ付き盲目故に読み書きを習った事が無いからだ。だからたとえ、私が視力を取り戻したとしても、文盲な私ではこの手紙を読む事は出来ないのだよ。」

 

『あっ!?』

 

行冥が口にした尤もな理由に、全員が納得した。行冥の言う通り、文盲では視力を取り戻しても意味が無い。炭治郎達は完全に、その大前提を失念していた。

 

「す、すみませんっ! 悲鳴嶼さんっ!……で、では俺が手紙を読んでっ「落ち着きなさい、竈門炭治郎。」っ!……はいっ。」

 

狼狽した炭治郎は咄嗟に代案を出そうとしたが、行冥に宥められたため、素直に閉口する。それを感じて行冥は微笑みながら炭治郎に話し掛けた。

 

「君の思い遣りと優しさに満ちた気遣い、私はとても嬉しく思っている……この手紙は読み書きを覚えてから、私が自分で読む事にするよ。」

 

『っ!!』

 

「っ!!……そ、それじゃあ……っ!」

 

行冥の言質を聞いて炭治郎は歓喜と期待を胸にすると、行冥は続けて断言した。

 

「うむっ……それから近日中にあの娘に会いに行くとしよう。後で沙代が住んでいる"藤の花の家紋の家"が何処なのか、教えて貰いたい。」

 

「は、はいっ! 喜んでっ!!」

 

炭治郎は行冥が承諾してくれた事に歓喜しながら、自身も行冥の頼みを快諾する。そして炭治郎を喜ばす出来事は、まだ終わらなかった。

 

「最後に……君の言う、この『紙眼・視()』の使い方だが……教えて貰えないだろうか?」

 

『っ!!!』

 

行冥の頼み事を耳にして、大広間には改めて歓喜が広がった。その空気を察して、行冥が照れた様子で開口する。

 

「うむ……君と話をして、この世界を見てみたいと……今はそう、思えるようになった。」

 

「……っ!」

 

自分が切っ掛けで、一度は拒絶した愈史郎の『紙眼・視』を着ける決意をした事に、炭治郎は感動する。

 

「おい、悲鳴嶼。別段、難しい事じゃないぞ。ただ目元に……否、お前の場合、額に着けた方が良さそうだな。そうしないと、直ぐに濡れて駄目になりそうだ。」

 

「……そうかっ。御教授、感謝するぞ。愈史郎。」

 

「あっ!……悲鳴嶼さん、俺が着けますねっ!」

 

炭治郎は『紙眼・視』を手に持つと、行冥の額に向けて丁寧に貼った。それと同時に、再び愈史郎が行冥に助言する。

 

「いきなり光が有る方を見るなよ? 脳が驚いて頭痛を起こすかもしれんからな……暗闇の方から、ゆっくりと慣らして行け。それから絶対に陽光に『紙眼・視()』を当てるなよ。燃えて塵になるからな。」

 

「承知した。」

 

行冥は変わらず双眸から涙を流しながら、愈史郎の助言に従い光の強い場所を避けつつ、周囲をじっくりと見渡す。そしてゆっくり立ち上がった。

 

『っ!』

 

行冥は立ち上がると、縁側の近くまで移動して外の景色を見た。行冥は身体を震わせながら、声を漏らした。

 

「これが空かっ……あれが雲か……これが大地か……あれが木か……そして……あの丸く眩い光が、太陽か……っ!!」

 

そう言うと右手で目元を押さえながら、行冥は絞り出す様に口にした。

 

「世界とは、こんなにも美しいものだったのか……。」

 

『っ!!!』

 

行冥はそう言うと、何も言葉に出来ず沈黙したまま外の景色を見続けた。炭治郎を始め、一部の者達は行冥に貰い泣きして涙を流した。

 

 

 

 

 

 

行冥が外を見続けて五分程が経過した後、再び元の位置へ戻ると耀哉へ向かって平伏した。

 

「御館様……私個人のために貴重な御時間を費やさせた事、誠に申し訳御座いません。」

 

「良いんだよ、行冥。それより皆の顔を、もっと良く見ておかなくて良いのかい?」

 

謝罪する行冥に対して、耀哉は行冥に尋ねた。行冥ははっきりとした口調で答える。

 

「はっ……それはこの柱合会議の後に、取っておこうと思います。それから、御館様の御尊顔を拝見出来ました事、恐悦至極に存じます。」

 

「ふふっ。初めて君と会った頃なら、まだ綺麗な顔を見せれたのだけどね。」

 

「御館様……。」

 

行冥は耀哉の自虐的な物言いに何か言いたげだったが、敢えて何も言わない事にした。耀哉は其処まで行冥と話し終えると、ある人物に向かって視線を飛ばした。

 

「炭治郎の話を聞いて、ある事がとても気になっているんだよ……君もそうは思わないかい、善逸?」

 

「っ!?……えっ?……その、俺ですか?……御館様っ?」

 

耀哉にいきなり話し掛けられた善逸は、動揺を隠し切れ無かった。

 

「……」

 

炭治郎もまた、鋭い視線で善逸を注目する。善逸の普段とは違う様子が、炭治郎にとって気掛かりだった。

すると、耀哉が善逸にとって爆弾となる単語を口にした。

 

「……獪岳。」

 

「っ!?」

 

耀哉が呟く様にその単語を口にすると、善逸が大きく動揺した。しかし耀哉は善逸に気に掛ける事無く、炭治郎に話し掛けた。

 

「炭治郎、君は間違いなく"獪岳"と……そう言ったんだね?」

 

「はい、沙代ちゃんから間違いなくそう教えて貰いました。」

 

「……っ。」

 

耀哉の質問に対して、はっきりと炭治郎は断言した。すると善逸から動揺と焦燥の匂いが強くなった事を、確かに感じ取っていた。

そして間も無く炭治郎が、大広間に居る全員が善逸は何故動揺しているのかその明確な理由を耀哉から直接知る事になる。

 

「実は……『(きのえ)』の隊士にその"獪岳"と同名の子が居るんだよ。その子は"雷の呼吸"の使い手でね、元鳴柱で今は育手の慈悟郎に拾われて育てられた、善逸の兄弟子に当たる子なんだ。」

 

『っ!?』

 

「……っ。」

 

耀哉が齎した事実は、大広間に衝撃を齎した。炭治郎が双眸を見開きながら善逸を見ると、善逸は汗を滝の様に流していた。しかし、その善逸が立ち上がって反論する。

 

「違うっ!!」

 

『っ!』

 

唐突に大声を出す善逸に、全員が驚いて注目する。息を荒くしながらも、善逸ははっきりと言葉を紡ぐ。

 

「獪岳は……確かに傲慢で自分勝手な奴だけど、そんな事をする奴じゃない!……口は悪いけど、人一倍真面目で努力家なんだっ!……だ、だから……別人っ! 別人に決まってるっ!!」

 

『……』

 

善逸はそう言って獪岳を弁明するが、一度抱いた疑惑は証拠が無い限り晴れる事は無い。炭治郎は冷静に一考すると、行冥に尋ねた。

 

「悲鳴嶼さん。お聞きしたいのですが、貴方が知る獪岳の特徴……何か覚えていますか?」

 

「っ!……っ。」

 

炭治郎の質問に、行冥は沈黙するも意を決して話し始めた。炭治郎を筆頭に、全員が行冥に注目する。

 

「獪岳は……黒の短髪で、翡翠色の瞳をしていると聞いている。子供達の中でも年長者で、真面目な働き者だった……私は良く働いてくれる獪岳に報いたくて、勾玉の首飾りを彼に贈った事がある。」

 

「っ!!」

 

行冥が知っている獪岳の特徴を聞いて、善逸の反応が決定的なものとなった。行冥が獪岳について話し終えた瞬間、善逸が尻餅を搗いて座り込んだからだ。

 

炭治郎は心を痛めながらも、真相をはっきりさせるべく善逸に獪岳について尋ねた。

 

「善逸……どうなんだ? 悲鳴嶼さんが言う人物像と照合するものはあるのか?」

 

「っ……はぁっ……はぁっ……お、俺が知っている獪岳も……青い勾玉の首飾りを肌身離さず、身に着けているんだ。」

 

『っ!!!』

 

善逸が震えながら口にした一言、疑惑を確信へと導くものとなった。次々と、大広間に居る者達から憤怒の感情が湧き上がる。

 

「んな屑野郎が……何だってこの鬼殺隊に籍を置いてやがんだァ……ッ!!」

 

「……その元鳴柱と言う御仁は……その男の過去を知っていて弟子にしていたのか?」

 

「だとしたら許されん大罪だ……師弟諸共、さっさと処分すべきだろう。」

 

「派手に罪を償わせねぇとならねぇだろうなぁ。」

 

『っ!?』

 

実弥、義勇、小芭内、天元が続けて意見を述べる。一つを除けば、処罰を求める事を肯定する様な意見ばかりだ。それらの意見を耳にして、今度は愈史郎が意見を耀哉に意見を述べた。

 

「耀哉、どうする心算だ? 追い詰められて我が身可愛さに他人を売り渡す奴は……何度でも同じ事を繰り返すぞ?」

 

『っ!!』

 

愈史郎の意見を聞いて、注目が耀哉に移った。耀哉は五つ数える程の間を置いてから、結論を述べた。

 

「慈悟郎と獪岳、二人を産屋敷邸(此処)に召喚しよう……今からでも急げば、明日の朝には二人とも集められる筈だからね。」

 

『っ!!!』

 

耀哉の決定に、全員が息を呑む。その言葉の意味とは即ち、糾弾をするためのものに他ならないからだ。

 

「お、御館様っ! 待って下さいっ!!」

 

『っ!』

 

善逸が慌てた様子で、耀哉に抗弁しようとした。すると、耀哉が右手を翳して善逸を宥めた。

 

「善逸、落ち着きなさい。」

 

「っ!」

 

「私は二人から話を聞こうと思っているだけだよ……流石に放置出来る内容じゃないからね。もし君も気になると言うのなら、一緒に参加しなさい。良いね?」

 

「っ!……は、はいっ……っ。」

 

「……あまね。」

 

「はいっ。」

 

善逸は耀哉からの説得で、黙って承諾する他に無かった。耀哉は善逸が静かになったのを見計らって、あまねを寄せて耳打ちした。

 

「っ!……御意、仰せの通り致します。輝利哉、ひなき、にちか。私に付いて来なさい。」

 

「「「はいっ!」」」

 

あまねはそれから直ぐに立ち上がると一礼してから、輝利哉、ひなき、にちかの三人を連れて一度大広間を退室する。それから直ぐに()()の鎹烏をそれぞれの腕に乗せて戻って来た。

 

「あまねから聞いている通りだ。頼んだよ。」

 

「「「「カァ―――――!!」」」」

 

耀哉の言葉を受けて、鎹烏達は甲高く鳴くと飛んで行った。だが、炭治郎は鎹烏が気になった。

 

――二人に連絡をするなら二羽で良いだろうに、御館様はどうして鎹烏を()()も送ったんだろう?

 

「……炭治郎っ。」

 

「っ! は、はいっ!」

 

炭治郎が疑問に思っていると突然、耀哉に声を掛けられたので炭治郎は声を上ずらせて返答した。

 

「それにしても、どうして炭治郎は沙代の事を気付けたのかな?」

 

「はい、それは沙代ちゃんからとても悲しい匂いがしたからです……自分を引き取ってくれた義理の両親が亡くなったんだから当然だとは最初、思ったんですけど……どうしても放って置く事が出来なくて、沙代ちゃんに話し掛け続けたらあの娘の方から真相を全部教えてくれたんです。」

 

炭治郎は当時の様子を思い出して悲しそうにしながらも、毅然とした態度で耀哉からの質問に答えた。

 

「そうか……やはり私の勘は間違っていなかった。君が齎した二つの提案で、私は素晴らしいものを見せて貰った。君にあの緊急任務を任せたからこそ、私の予想を遥かに超える結果が齎された。心から感謝するよ。ありがとう、炭治郎。」

 

「っ!……いえっ、勿体無い御言葉です……っ。」

 

炭治郎は耀哉から直々に謝辞を述べられた事で、恐縮して平伏した。そんな炭治郎を見て、今度は珠世に話し掛けた。

 

「珠世さん。予定より大きく狂ってしまったけれど……貴女が持つ無惨一党の情報を、鬼殺隊(私達)に齎して貰えるかな?」

 

『っ!!!』

 

「っ!……勿論です。私が知っている事は、全て話したいと思います。」

 

珠世がそう言うと、耀哉は珠世を自身の隣へ座る様に促した。すると自然と愈史郎もまた珠世に付いて行く。その際に行冥達に向かって言い放った。

 

「これから珠世様が御話しされる。横から口を挟まず、黙って聞け。お前ら鬼殺隊の柱共が、今日まで死んで逝った役立たずの能無し共が屍山血河を築いても、その一欠片すら得られなかった貴重な情報源だ。はっきり言って、お前らの命よりも重く唯一無二なものだ。精々、その耳の穴をかっぽじって良く聞く事だなっ!」

 

『っ!!!』

 

愈史郎の情け容赦無い言い方に、行冥達は怒りを覚えた。しかし、何一つ情報を得られていない事実がある以上、反論する術は無く沈黙する他に無かった。しかし、この愈史郎の毒舌に対して声を返す者が居た。

 

「愈史郎っ!」

 

あまりの毒舌に、流石の珠世も反発して声を荒げながら愈史郎の名前を呼んだ。しかし、そんな大声を押し退ける凛とした声が大広間に響いた。

 

「愈史郎さん。」

 

『っ!』

 

「っ!……どうした、炭治郎?」

 

愈史郎は声を掛けられるとは考えていなかったのか、少しばかり驚いた様子で声がした方を見た。それは炭治郎だった。耀哉達もまた、炭治郎と愈史郎に注目した。

 

しかし、待ち構えていたのは炭治郎からの愈史郎への非難だった。

 

「流石にその言い方はちょっと……と言うか先刻(さっき)から酷過ぎませんか?」

 

「ちょっと酷い?……まさか、俺の言動の事を言っているのか?」

 

炭治郎の非難に愈史郎が首を傾げると、愈史郎にとって炭治郎の非難で思い当たるものが自身の言動しか無かった。そのため、愈史郎がそれを口にすると炭治郎が肯定した。

 

「そうです……と言うかそれ以外に有りません!」

 

「……そう言うがな、俺は事実しか口にしていないぞ?」

 

キョトンとした表情で愈史郎は首を傾げるが、これが炭治郎の不満と怒りに油を注いで燃え上がらせる事になる。

 

「はい、愈史郎さんは事実しか言っていません!……ですが、こう……配慮が一切無くて残酷だと思います!」

 

『っ!』

 

「配慮……残酷だと?」

 

愈史郎は炭治郎が言い放った重要な単語を理解するために復唱した。愈史郎は思わず顔を顰めた後、溜息を吐いてから炭治郎に反論する。

 

「炭治郎っ。お前は優しい奴だから、この程度で残酷だと思っているだけだ。俺は事実しか口にしていない。配慮して優しく言い直したところで、それが何になる? 鬼殺隊(こいつら)は小石で山を築き上げる様な、小さい勝利しか積み重ねていないのは事実なんだからな。」

 

「鬼殺隊が、鬼狩り共が、特に歴代の柱共がしくじり続けて来た所為で、千年と言う途方も無い無駄な歳月を悪戯に費やし、何千……いや万を超える尊い命を犠牲にしても無惨の影すら掴めないまま犬死にを続けているんだ。」

 

愈史郎は吐き捨てたい程の嫌悪感と軽蔑の念を抱いて、耀哉達を見下して断罪する。愈史郎の罵詈雑言は終わらない。

 

「そして犠牲の大きさの割には手の内を知り尽くされた挙句、自力では無惨一党(敵側)の情報を鬼殺隊(お前達)は殆ど得られていない! 鬼に殺されて喰われて惨めな最期を迎えただけだ。この変える事が出来ない無様な事実を前にして、配慮なんぞする必要は無いっ。無能無才を責められて当然だ!」

 

『……』

 

恥部とも言える冷徹な事実を指摘され、耀哉達は沈黙する。

しかし一切気に掛ける事無く、其処まで言い切ると愈史郎は止めとばかりに最後の罵詈雑言を口にする。

 

「鬼を狩れない鬼狩りなんぞ、塵屑(ゴミ)以下だっ!……そして上弦の鬼如きを倒せない柱など、更に価値が無いっ! 役立たずの能無し共が! 無駄死にして無様な最期を迎えた挙句、無意味で無価値な、つまらない……くだらない人生で終わりやがって、()()()()()生まれて来たんだよ!!」

 

『!!!』

 

今日まで戦い、死んで逝った隊士達を無価値と吐き捨てて断罪した。

流石のこの発言を耳にして、炭治郎達の表情は強張った。中には青筋を立てて、愈史郎を睨み付ける者も少なく無かった。

 

「ふっ。文句が有るなら言い返してみろ。それとも先刻(さっき)みたいに暴力に訴え出るか? もしその心算ならはっきり言って鬼以下だぞ?」

 

尤も、愈史郎はそんな者達を逆に睨み付けつつ鼻で嘲笑った。

 

「お前も一々死んだ奴ら相手に気に掛けるな、炭治郎。お前を守って死んだ炎柱を含む一部を除けば、どいつもこいつも何も残せず、何も成し遂げられずに死んだ惨めな負け犬に過ぎん。そんな恥知らずの面汚し共なぞ、気に掛けてやる価値も無い。」

 

「……っ。」

 

そして炭治郎も愈史郎の罵詈雑言に怒りを覚えつつも、それを表に出さない様に冷静さを保っていた。しかし、自身にとって大切な者も侮辱された悔しさからか、双眸には涙が浮かんでいた。

 

「……好い加減にしてよ……っ!」

 

『!』

 

ある震えた声が大広間に響き渡った。炭治郎達は声を主を探して首を動かす。その人物とは、無一郎だった。無一郎は全身を震わして、双眸に涙を浮かべながら愈史郎を睨み付けていた。

 

「皆が何のために生まれたのかって、そんなの決まっているじゃないか……っ!」

 

「……あっ? だったら何だと言うんだ、言って見ろ?」

 

愈史郎は理解不能とばかりに、無一郎に訊ねた。

 

「皆……皆っ、幸せになるために生まれて来たんだっ!」

 

『!』

 

無一郎ははっきりと、そう断言した。無一郎は更に続ける。

 

「僕は、死んだ皆が無価値で無意味な人生を送ったとは思わない……きっと、辛い事も苦しい事も悲しい事も沢山有ったと思うけど、それでも幸せだと思う瞬間は数え切れない程有ったと信じている。笑顔になれた瞬間が、嬉しいと思った瞬間が沢山有ったと信じてるっ!」

 

「……僕達の事は、幾らでも好きなだけ言えば良い。無能とか能無しとか役立たずとか、不甲斐無いから今も鬼が野放しになっているとか、全部事実だから気が済むまで言いたい事を言いたいだけ言えば良い! でもっ!……でも死んだ人達の事まで、そんな風に言わないでよっ、御願いだから……っ。」

 

『……』

 

無一郎は其処まで言うと、耐え切れず嗚咽を漏らして泣き始めた。耀哉達は、無一郎が初めて自身の意思で言葉を発した事に、驚きを隠せなかった。

 

「時透君っ!」

 

炭治郎は直ぐに無一郎の下へ駆け付けると、無一郎は炭治郎に向かって抱き着いた。炭治郎は自身が無一郎に抱き着かれた事に驚きはしたものの、直ぐに抱擁を返した。

 

無一郎の嗚咽が小さくなったのを見計らって、炭治郎が愈史郎に向かって開口する。

 

「……愈史郎さんが仰った事は全部、事実です。紛れも無い正論です! 全て正しいと思います!……ですが、同時に間違っていると思いますっ。」

 

『っ!』

 

炭治郎の反論を聞いて、耀哉達は無一郎から炭治郎に注目した。全員が静かに、炭治郎の言葉を待って耳を傾ける。

 

「……どう間違っているか言って見ろ。炭治郎っ。」

 

愈史郎も炭治郎の言葉の意味が気になって尋ねた。炭治郎が其処まで言うのだから、きっと相応に理由が有るのだと判断して。

 

「はいっ。先ず、愈史郎さんはその場凌ぎの人助けと仰いましたけど、それの御蔭で今日を生きている人達が居ます。」

 

『っ!』

 

「そして今日まで戦って亡くなった方々で、無駄死にや犬死にされた方は一人も居ません。いえ、今日までの戦いで無駄だったものなんて、一つも無い! これらの戦いや経験の全てが何時の日か訪れる、鬼殺隊の勝利に繋がる礎になると俺は信じています!」

 

「っ!……っ。」

 

愈史郎は炭治郎の言葉に、反論する事はしなかった。事実、炭治郎は杏寿郎に選って命を救われており、その炭治郎が幾人もの人の命や心を救っているからだ。炭治郎は更に語り続ける。

 

「俺達、鬼殺隊の隊士は階級に関係無く命を懸けて、罪無き人達を鬼から守り戦っています。皆が自分の手で無惨を倒して、この戦いを終わらせたいと、自分と同じ被害者を増やしたくないと強く願っています……だから戦いの最中で死ぬ覚悟は当然、有ります。だけど、だからって死にたい訳じゃない。決して、鬼殺隊(俺達)は死にたがりの異常者じゃない!」

 

「今日までの戦いで亡くなった柱達、柱じゃなかった隊士達もそうだ。彼らも死にたかった訳じゃない。きっと……もっと生きていたかった。大切な人の幸せを願っていた。大切な人と一緒に幸せになりたかった。」

 

『っ!!!』

 

「愈史郎さんは過去に居た柱達を"役立たずの恥知らず"と斬り捨てたけど……その柱達が上弦の鬼に敗れて亡くなるまで、多くの鬼を倒して沢山の人々の命を救ったんだと俺は思っています。柱達に命を救われて、幸せに過ごせた、過ごせている人はきっと大勢居ます!」

 

歴代の柱(その人)達も……本当なら、自分の手で無惨を倒してこの戦いを終わらせたかった。対峙した鬼を、自分の手で倒したかった。生きて、家に帰りたかった。大切な人達が待つ家に帰って、その人達と掛け替えの無い日常を過ごしたかった筈なんです。」

 

炭治郎が語った言葉の数々に、大広間に居る者は息を呑んで唇を噛んだ。炭治郎の口調から感じる憐憫と悔恨の情に、全員が同調したからだ。愈史郎もまた、例外では無かった。

 

「愈史郎さんにはっきり言っておきます。此処に居る多くの人達が……ううん、鬼殺隊に居る殆どの人は、好きで鬼狩りになった訳じゃない。皆、誰かに称賛されたいとか、名誉やお金が欲しいとか、そんな事はちっとも考えていない。」

 

炭治郎はそう言って、大半の鬼殺隊の隊士は名誉欲や金銭欲などといった俗物的な欲望を持っていないと断言した。そして少し悲しそうな表情を浮かべて、炭治郎は話を続ける。

 

鬼殺隊(俺達)は英雄になったと勘違いして愉悦に浸っていると、愈史郎さんは罵ったけれど、現実はそうじゃない。確かに命の恩人と感謝される事も有るけれど、全部が全部、そうじゃない。」

 

炭治郎はそう言うと、一呼吸おいてから鬼殺隊の現実を語り始めた。

 

「鬼を倒しても、誰にも感謝されないだけならまだ良い。それどころか、早く助けに来なかった事や守れなかった事を責められて、鬼に殺された人達の遺族に「役立たず」とやり場の無い怒りから罵られる事も有れば、鬼にされた人達の遺族に「人殺し」と恨み言を言われて石を投げ付けられる事だって有るんだっ!」

 

『っ!』

 

炭治郎が鬼殺隊の隊士に起きた現実を語ると、何名かが顔を強張らせた。それは、自身が経験しているからであろう。炭治郎もまた、其処まで語ると顔を俯かせて沈黙する。

 

炭治郎は幸運にもこれに近い経験をしても、実際に経験をした訳では無い。ならば何故実際に経験した様に語れるのかと言うと、その理由はこれらの逸話は全てカナエから直接聞いた逸話だからである。

 

炭治郎はこれらの逸話を聞いた時、涙が溢れそうになった。今も涙を流したいのを堪えて、炭治郎は沈黙を解いて再び語り始める。

 

「俺達だって本当の事を言えば、普通に生きたかった。日輪刀(かたな)なんて持ちたく無かった。血の匂いなんて知りたくも無かった。ただ……ただ大切な家族や人達と一緒に暮らして、普通に幸せになりたかった。」

 

炭治郎はそう言い終わると、一度双眸を閉じて沈黙した。炭治郎の脳裏には、既に此の世を去った最愛の家族と大恩有る四人の人間の顔が過ぎっていた。

 

修行を手伝ってくれた亡き兄弟子の錆兎や姉弟子の真菰、自分に大きな影響を与えてくれた杏寿郎、そして愛する恋人の一人であるカナエの四人だ。

 

錆兎と真菰も、恩師である左近次の待つ狭霧山に生きて帰りたかった。

 

杏寿郎も生きて帰れたなら、父の槇寿郎と和解出来たに違い無かった。

 

カナエも生きていたら、何時もの幸せな日常が続いていて、しのぶ達はその心にぽっかりと穴が開いて闇が巣食う事は無かった筈なのだ。

 

炭治郎は其処まで想うと、カナエを想って開眼してから愈史郎を真っ直ぐ見詰めた。

 

先刻(さっき)、愈史郎さんはカナエさんをしくじった、柱としての責務を果たさなかったと言いましたよね?」

 

「……あぁ、確かにそう言った。だが撤回する心算は無い。紛れも無い事実だからな。」

 

『……っ。』

 

愈史郎は毅然と、そう断言した。この無情な発言に対して、生前のカナエを知る行冥達は唇を噛み、拳を強く握りしめた。しのぶ達、カナエの妹達に至っては悔しさから身体が震えていた。

 

「そうですね、悔しいですけど……結果論から見れば、カナエさんは最期に大きな過ちを犯しました。しのぶさんにとって、強烈な"呪い"になった事実は否定する事が出来ません。」

 

『っ!?!?』

 

てっきり炭治郎は愈史郎に反論するのだと思ったばかりに、大広間は騒然となった。しのぶ達も、双眸を見開いて愕然としていた。

 

「……っ。」

 

しのぶ達から悲しい匂いを察した炭治郎は、直ぐにしのぶ達の方へ顔を向ける。そして一度深く頷いてから、強い眼差しでしのぶ達を見詰めた。

 

『っ!』

 

炭治郎の「大丈夫、俺に任せて。」と言わんばかりの表情に、しのぶ達は冷静さを取り戻した。善逸や伊之助も何か言おうとしたが、炭治郎の強い眼差しを見て沈黙を貫く。

落ち着いたしのぶ達を見て、炭治郎は愈史郎に再び顔を戻すと再び開口した。

 

「ですが……カナエさんが死に際に思ったのは柱としての責務を果たす事では無く、しのぶさんの幸せだった……それだけカナエさんがしのぶさんを愛していた、紛れも無い証拠です。」

 

『っ!』

 

「っ!……炭治郎、だがそれは「愈史郎さんっ。」……っ。」

 

愈史郎が炭治郎の言葉に反論しようとすると、炭治郎は遮る様に愈史郎の名前を呼んだ。これには愈史郎も、途中で沈黙する事しか出来なかった。

 

「柱として、正しい判断では無かったでしょう。ですがその他大勢の人の命よりも、血の繋がった一人の家族の幸せを優先して息を引き取るまで、強く願い続けたカナエさんの行動はとても人間的で……家族への愛に溢れている尊い行動だったと、俺は心から思っています。」

 

『っ!!!!』

 

「っ……。」

 

炭治郎の言葉に、全員が強い衝撃を受けて沈黙した。確かにその他大勢の命と一人の家族を天秤に掛けて、後者を取るのは客観的に見れば大間違いだ。

 

しかし、人間とは大勢の他人より一人の大切な者、愛する者を優先する生き物だ。そう言われては、愈史郎も無碍にカナエの行動を愚断と斬り捨てる事は出来なかった。

 

もし自分が「珠世とその他大勢の人間、どちらが大事か。」と問われたら、珠世だと即答する自信しか愈史郎は持っていないからだ。

 

炭治郎は言いたい事を全て言い終えると、愈史郎に向かって強く断言した。

 

「改めて、断言させて頂きます。俺はカナエさんやこれまでの柱や隊士達が、しくじって無駄死にしたとは絶対に思いません! 愈史郎さん、どうかお願いします。既にこの世に居ないカナエさん達まで、悪く言うのは止めて下さい。もう彼女達は、やり直す事も、反論する事も出来ないんですから。」

 

『っ!!!!!』

 

「……っ。」

 

炭治郎の断言に、大広間に居た者達は様々な想いが巡った。ある者は無惨討滅を改めて誓い、ある者は生前親しくしていた肉親や親友を思い浮かべ、ある者は恩師や親友の言葉を思い出していた。

 

愈史郎は炭治郎の正論に、ばつが悪そうに後頭部を掻いていた。数度、頭を掻いてから意を決した様に開口した。

 

「……そうだな。俺が言い過ぎた……俺も大概、感情に振り回されて人並みに制御出来てない様だった。これでは他人に偉そうにものが言えないし、その資格も無いな。」

 

『っ!』

 

愈史郎はそう自嘲すると、大広間の角に移動した。そして姿勢を正すと、両手を着いて頭を深く下げて土下座の姿勢を取った。

 

「……言い過ぎて、すまなかった。申し訳無い。」

 

『っ!!!』

 

愈史郎は静かに、だが確かに大広間に響き渡る声量で謝罪した。愈史郎の謝罪の言葉は、水面に一滴の水が落ちて波紋を広げる様に炭治郎達の胸にストンと入って行った。

 

「……っ!……私からも謝罪させて下さい。皆さん、愈史郎が申し訳ありませんでした。」

 

『!』

 

我に返った珠世が愈史郎に続けて謝罪の言葉を口にして、頭を深く下げて謝罪の意を口にした。

 

「……頭を上げてくれるかい? 愈史郎さんっ。珠世さんも頭を上げておくれ。」

 

「「っ!」」

 

すると沈黙していた耀哉が、愈史郎と珠世に頭を上げる様に促した。愈史郎は耀哉の言われた通りに頭を上げると、耀哉は話を続けた。

 

「愈史郎さんの謝罪の言葉は、確かに受け取ったよ。だが、愈史郎さんは私や剣士(子供)達を叱咤激励するために、態ときつく言ったのだと私は理解している。」

 

『……』

 

「人と鬼の違いはあれど、無惨を倒したいと言う想いは一緒の筈だよ。それから私は、鬼殺隊は何時でも忌憚無き意見を必要としている。たったの一言が、運命を変える事もあるからだ。だから遠慮せず、言いたい事は言って欲しい。そして珠世さん共々、どうか鬼殺隊(私達)の力になっておくれっ。」

 

耀哉はそう言って、愈史郎に向かってゆっくりと頭を下げた。それを見て、愈史郎もまた即座に答えた。

 

「約束するっ。最大限、俺は……俺の力の限りを尽くして、鬼殺隊に尽力すると此処に居る全員に誓う……っ!」

 

愈史郎は毅然とした表情で、そうはっきりと断言した。

 

 

 

 

 

 

夢幻世界

 

 

「~~~~~~~っ!!!!」

 

炭治郎の恋人兼師匠である胡蝶カナエは、夢幻世界の草原で転げ回っていた。

林檎よりも真っ赤に染めた顔を両手で押さえながら、悶絶していた。

 

――もうっ……もうっ!❤ 炭治郎君の馬鹿っ!……格好良過ぎよぉっ!!❤❤

 

禰豆子の暴走を止めるために出しゃばった後、炭治郎が心配で一瞬たりとて視線を外す事無く見続けた。

 

珠世を守るために、身代わりになって実弥に斬られた後も禰豆子を宥めて暴走を止めた。

 

鬼殺隊のために、その身を惜しまず参加を希望した。

 

内心では苦しんでいた義勇を察して、それを救って見せた。

 

斬った実弥を許して、更には弟の玄弥との仲を取り持った。

 

無一郎の記憶を取り戻すために尽力した。

 

心を閉ざしていた行冥の殻を、見事に破って見せた。

 

この時の炭治郎もカナエにとっては言葉に出来ないぐらいに格好良かったが、それ以上に喜ばせる一件がカナエには有った。

 

――炭治郎君が、私を庇ってくれた……守ってくれた……凄く……嬉しいっ❤

 

自身の生前の行いは、晩節を汚すと言っても過言ではない失敗だった。愚行だと後悔しているあの行動のせいで、しのぶを苦しめたのは事実だ。童磨(上弦の弐)の情報を残せなかった事も大いに悔やんだ。

しのぶに伝えていたら、自身の遺体を解剖するなどと言う辛い役目をさせずに済んだと、ずっと後悔していた。

 

それを炭治郎が尊い行動だったと庇い、認めてくれたのだ。最愛の恋人がそう行動してくれたからこそ、カナエの喜びは一入だった。

 

――んもぅっ!!❤❤ 炭治郎は何度、私は惚れ直させたら気が済むのよっ!❤……帰って来たらこの御礼はたっぷりしてやりますからね!❤ 覚悟していなさいよっ!❤

 

カナエはそう決意すると、身を起こして再び緊急柱合会議を、正確には炭治郎を見守るべく視線を今世に戻した。




お待たせしました。

初期設定の一つで、第伍話で沙代ちゃんを炭治郎が助ける緊急任務の話が漸く生かせました。
ご都合主義は承知の上。どうしても、行冥さんが沙代ちゃんと仲良くなって欲しかったんです。御了承下さい。

尤も、その結果として善逸に影が差してしましましたが……ぶっちゃけ、善逸をこの緊急柱合会議に参加させたのはこの話で生贄にするための様なものです。獪岳の事も詳細に分かるのは、善逸だけですから。
今は善逸どころか雷一門を影が覆っていますが、ちゃんと晴れるので御安心下さい。

カナエさんはあんな事言っているけど、ぶっちゃけ何も思い付いていません。あの世界って出来る事限られてるし(爆)

これにて中編は無事に終了しました。簡潔にまとめると、特定の柱にスポットライトを当てて救済する回でしたね。義勇、実弥、無一郎、行冥と炭治郎君の御蔭でその心を救済する事が出来たと思います。

余談ですが、行冥さんが作中で言った「世界とは、こんなにも美しいものだったのか……。」の台詞は実際に色盲の方が色覚補助眼鏡を付けた際、泣きながら「世界とはこんなに美しかったのか。」と仰られたシーンがあり、それを使いたかったから言って貰いました。

次回から後編。鬼殺隊が望んでも得られなかった無惨様の情報を共有します。原作に添った真面目な回がもうちょっと続きますが、御了承下さい。

て言うか、原作では一応、珠世さんと合流したのに何故、何一つ情報を共有してなかったんだ……。

次回の更新は大変申し訳ありませんが、十月中に行う予定です。気長にお待ち下さい。


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第参拾伍話 日輪と鬼殺隊の柱は共有す

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


――愈史郎さんへの反発や敵意、嫌悪の匂いが皆から薄れて行く……完全に無くなった訳じゃないけど、良かった……それにしても、愈史郎さんの方も()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()()だよ……。

 

炭治郎は内心でホッとした様子で一息付き、達成感の余韻を静かに味わっていた。

 

炭治郎はカナエが愈史郎に断罪された時、自分達を夢幻世界で傍聴しているであろうカナエの事を想うと、内心では愛する恋人を侮辱されて穏やかで居られなかったのだ。

そのため、炭治郎は何としてでもカナエの名誉を守りたかったのである。

 

炭治郎は不意に、チラッと天井へ視線を向けてみた。今世には居なくとも、夢幻世界で愈史郎の罵詈雑言を聞いて落ち込んでいるかもしれないと心配だった。

自分の反論で、少しでもカナエの心情が良くなった事を願った。

 

尤も、カナエが狂喜して身悶えている事など知る由も無い。それは炭治郎が眠りに就き、夢幻世界に行かなければ分からない事であったが。

 

炭治郎は不意に視線の先を珠世に変えると、珠世も自身と同様にホッとした様子で安堵していた。

 

「炭治郎、悪かったな。」

 

「?」

 

炭治郎に向かって、愈史郎が不意に謝罪の言葉を掛けた。炭治郎はそれを聞いて、首を傾げる。愈史郎はそんな炭治郎の様子に苦笑して説明する。

 

「お前が斬られた一因が、俺にも有る。だから、此処で謝らせてくれ。炭治郎、すまなかった。」

 

『っ!!』

 

愈史郎が頭を下げて炭治郎に謝罪する様子に、再び耀哉達が驚愕した。

炭治郎も同様に驚愕したが、それよりも喜びが大きかった。

 

「そ、そんな……俺は気にしてませんよ! 愈史郎さんっ。」

 

「……そうか。お詫びと言っては何だが、改めて尽力すると約束しよう。」

 

「ありがとうございます! 珠世さんと一緒に愈史郎さんが鬼殺隊(俺達)の力になってくれると、とっても頼もしいです!」

 

「……っ。」

 

炭治郎の感謝の言葉に、愈史郎は思わず笑みを零した。

 

「シュウウウゥゥゥゥ、シュルルルルル!」

 

『?』

 

突如、謎の声が大広間に響き渡った。全員が気になって音源を探って見る。

 

「鏑丸、どうかしたか?」

 

それは蛇柱・伊黒小芭内の相棒にして親友である白子個体(アルビノ)のアオダイショウの鏑丸であった。

 

「シュルルルルル。」

 

『?』

 

鏑丸は半身程、身体を炭治郎に向かって伸ばし始めた。

 

「え?……俺に用が有るの? 鏑丸?」

 

鏑丸の匂いと動きで察した炭治郎は首を傾げながら、身体を伸ばす鏑丸を見た。すると間髪入れず、鏑丸はある行動に出る。

 

「痛っ!? 痛たたたたたっ!!??」

 

『っ!?』

 

なんと左耳に付けている炭治郎の髪飾りに鏑丸が噛み付いて、引っ張り出したのである。

鏑丸の思わぬ行動に輝哉達全員が驚く中、炭治郎は痛みから少しでも軽くするために鏑丸の方へ移動する。

 

鏑丸が満足するまで炭治郎が接近すると、耳飾りから口を離して真っ直ぐ炭治郎を見詰めた。

 

「痛かったぁ……いきなり何をするのさ?」

 

炭治郎が左耳を押さえ涙目になりながら、鏑丸を半眼で抗議の視線を送る。

 

「シャ――ッ! シュルルルル!!」

 

「おい、鏑丸!……っ。」

 

炭治郎に向かって鏑丸が鳴くと、何故か小芭内が少し焦燥した様に鏑丸を呼んで諫めた。

 

「っ?……えっ?……えぇっ!? そうなの?!」

 

『っ?』

 

鏑丸を見詰めていた炭治郎が突如、驚愕した様子で双眸を見開きながら小芭内を見詰めていた。

炭治郎のそんな様子に、耀哉達が首を傾げながら不思議そうに見ていた。尤も、それも炭治郎の一言で態度が覆るのだが。

 

「伊黒さんの右眼って、実は見えてないの!?」

 

「シュルルルルル!! シュルルルルルルルル!!」

 

「なっ……っ!?」

 

『っ!?』

 

炭治郎の呟いた一言で、大広間に響めきが広がった。当人の小芭内は炭治郎の指摘に動揺し、次に怒りに染まった。

 

「竈門炭治郎、貴様……何故その事を知っている!?」

 

「うぐぅっ!?」

 

『っ!?』

 

隠していた秘密を暴露された小芭内は、激昂して炭治郎の胸倉を掴んだ。不意に胸倉を掴まれた炭治郎は、思わず声が漏れた。

 

「ちょっとっ!? 伊黒さんっ!!」

 

「っ!……チッ!」

 

「っ!……ふぅ……。」

 

蜜璃から咎める様に声を荒げて名前を呼ばれると、小芭内は冷静さを幾分か取り戻して苛立ちながら炭治郎を離して解放した。小芭内から解放された炭治郎はゆっくりと一度、呼吸して息を整えた。

 

「……俺が知っている理由は……と言うか鏑丸に今、教えて貰っただけです。」

 

「……何だと?」

 

「信じて貰えないかもしれませんけど俺、動物と意思疎通が出来るんです。」

 

『っ!?』

 

炭治郎が唐突に暴露した自身の特技に、大広間はどよめいた。小芭内もまた、怪訝そうにネチっこい視線を炭治郎にぶつける。

 

「……それを真面に信じろと?」

 

「事実なんですけどねぇ……そうだ! "百聞は一見に如かず"って言いますし……鏑丸っ! 君と伊黒さんしか知らない秘密、何か簡単なものでも良いから教えてくれないかな?!」

 

炭治郎は困った様子で笑みを零すと、不意に妙案を思い付いた様にそう呟いてから鏑丸に質問した。

 

「シュルルルルルル! シュルルルルルルル!!」

 

「えーと、何々……『昨日出した甘露寺さんへ宛てた手紙に、『今度、浅草に有る天ぷら屋さん"天籐屋"へ一緒に食事へ行かないか?』って小芭内が書いていた。』って言っています!」

 

『!』

 

「き、貴様っ!?」

 

小芭内が炭治郎の言い放った一言に、赤面して狼狽する。

小芭内は羞恥心と怒りから炭治郎に再び掴み掛りそうになるが、再び蜜璃の怒りを買う事を恐れて行動に移せない。小芭内が動揺しているその事実が、内容の真偽を証明していた。

 

「小芭内、炭治郎の言った事は本当かい?」

 

「……っ。」

 

耀哉が真偽をはっきりさせるために、敢えて小芭内を尋ねた。小芭内は赤面しながら、言葉を詰まらせた。

 

「……御意。竈門炭治郎が言った内容は、全て事実です。」

 

『っ!!』

 

小芭内が静かに、炭治郎が言った内容に肯定した。炭治郎が小芭内の手紙の内容を知っている筈が無く、事前に見る方法など有る筈も無い。

炭治郎が動物と意思疎通が出来る事が証明された瞬間であった。

 

――伊黒さん……手紙出してくれてたんだ。となると手紙は今頃、私の屋敷かなぁ。

 

蜜璃は内心で、そう呟いていた。蜜璃はしのぶ達と一緒に産屋敷本邸に居たのだから、手紙を受け取れる筈が無かった。

 

「驚いた……炭治郎は超人的な嗅覚だけで無く、動物と意思疎通も出来るなんてね。感嘆したよ、炭治郎。」

 

「……いや、この能力の所為で家族には苦労させました。俺の父は炭焼きの他に狩猟で獲った獲物を捌いてくれたんですけど、俺は動物の言葉が分かるからとても狩猟なんて出来無くて……竹雄達は秋冬に獲れる獣肉が大好きだったのに本当、悪い事したなぁ……。」

 

『……』

 

炭治郎が悲しそうに家族の話を口にして感傷に浸ると、耀哉達は掛ける言葉が見つからず沈黙する。

 

「コホン……それで竈門炭治郎、何故鏑丸はお前に俺の右眼について話した?」

 

『っ!』

 

「えっ?……あ――……それはぁ……っ。」

 

小芭内が感傷に浸る炭治郎に半ば無理矢理、話を振る形で質問した。炭治郎もまた、我に返って困った様子をしながらも小芭内に回答した。

 

「はい。鏑丸は俺に「『小芭内にも御館様や悲鳴嶼さんと同様の『紙眼()』を用意しろ。』と言って来ました。」

 

『っ!』

 

「っ!……っ。」

 

炭治郎が通訳した鏑丸の要望に耀哉達が反応する中、小芭内は反論した。

 

「必要無い。俺には無用の長物だ。」

 

「……でも両眼が使えた方が、視覚が開かれて便利な筈です。そもそもこれは俺の要望では無く、鏑丸の貴方への気遣いから来る要望(もの)です。それは重々承知ですか?」

 

「シャ――。」

 

「……この眼は生まれ付きのものだ。そして鏑丸が俺の右眼の代わりになってくれている。何の不自由も無い。」

 

「そうですか……だから鏑丸は常に貴方の右側に控えているんですね。」

 

小芭内が意固地に拒絶するために、炭治郎は尋ねる相手を変えた。

 

「鏑丸っ。伊黒さんはそう言ってるけど?」

 

「シャ――! シャ――――!!」

 

「っ!」

 

「……伊黒さん。『自分では援護に限界が有るから。やはり己の眼で戦ってくれるに越した事は無い。』と鏑丸は言っていますが?」

 

「……」

 

鏑丸の強気な言葉に、流石の小芭内も即座に反論出来なかった。五つを数える程の沈黙が訪れると、再び小芭内が開口する。

 

「おい、愈史郎。」

 

『っ!』

 

「っ!……何だ?」

 

小芭内は炭治郎では無く、愈史郎に話し掛けた。驚いた愈史郎だったが、即座に対応する。

 

「お前の血鬼術の能力で"視覚同調"と言うものが出来る。間違いないな?」

 

「あぁ、間違いない。」

 

「……ならば条件だ。()()()()()()調()()()()()()()()()使()()()()()()。」

 

「!!」

 

「……何っ?」

 

小芭内の出した条件に、愈史郎は怪訝そうに小芭内を睨み付けながら反論を始めた。

 

「お前のその白蛇は、お前に気遣ってそう自分の意志を伝えたんだろうが……そんな事をして何の意味が有る?」

 

「そ、そうですよ、伊黒さん! 第一、蛇と人間では視覚が異なります。視覚を共有したら却って戦い悪くなりませんか?」

 

愈史郎の反論に炭治郎が加わって、小芭内の説得を始めた。しかし、小芭内の意思は固かった。

 

「鏑丸は俺の右眼の代わりなだけの存在じゃない。俺と出会ってからずっと、今日まで俺を支えてくれた。鏑丸は俺にとって唯一の親友であり、相棒だ。死んでも蔑ろには、絶対にしない。」

 

『!』

 

小芭内は断言する様に、そう炭治郎と愈史郎に向かって言い放った。炭治郎が困った様に愈史郎を見ると、愈史郎は数回、後頭部を掻いてから開口した。

 

「……分かった……お前と鏑丸、一人と一匹だけが使う専用の『紙眼()』を作って見よう。」

 

『!!』

 

愈史郎は折れた様子で、そう提言した。すると小芭内が初めて笑みを零した様に見えた。尤も、顔半分下は包帯で隠れているため分からなかったが。

 

「シャ――。」

 

「良いんだ、鏑丸。お前の気持ちは嬉しかったよ。」

 

鏑丸が鳴くと、小芭内が感謝の意を込めてそう言った。続けて愈史郎に、そして炭治郎に面と向かって開口する。

 

「愈史郎、感謝する……竈門炭治郎、お前にも礼は言っておく。」

 

「!」

 

「!……ふん、礼なら出来てから言うんだな。」

 

感謝されるとは思わなかったのか、炭治郎は驚き、愈史郎は思わず顔を背けた。その様子を見て、不意に善逸を開口する。

 

「そう言えば……俺のチュン太郎の通訳、何時もしてくれてたもんなぁ……炭治郎は本当に動物の言葉が分かるんだな。」

 

「……はは。チュン太郎って可愛い名前で呼んでるけど、あの子は女の子で本当の名前は"うこぎ"だよ。ちゃんと名前で呼んであげなよ、善逸。」

 

「でも、うこぎって可愛く無いじゃんよ……。」

 

「一昨日も、本当は好物のうこぎ御飯が食べたいのに豆しか食わせてくれないって、愚痴零してたよ?」

 

「うっ……。」

 

善逸が鎹烏役のチュン太郎の逸話について話していると。続けて愈史郎も話に加わる。

 

「確かに、炭治郎は茶々丸と仲が良かったな……そうか、そんな理由が有ったのか……っ。」

 

『?』

 

愈史郎の呟きに、耀哉達は首を傾げた。茶々丸とは何者なのか分からないのだから、当然の反応である。

そんな行冥達の様子に気付いた様で、珠世は苦笑しながら答えた。

 

「あのドタバタの大騒動で、茶々丸の紹介が遅れました……出て来て良いわよ、茶々丸。」

 

 

 

みゃおぅ

 

 

 

『っ!?』

 

唐突に猫の鳴き声を耳にして、耀哉達は驚いて鳴き声の場所を探すと珠世と愈史郎の間に皮製の背嚢を背負った一匹の三毛猫が居た。

胸元には愈史郎の『紙眼』を着用していたため、珠世に関する猫だと何人かは気付いた。

 

「キャ――――ッ!!❤ 可愛いっ!!!❤❤」

 

「南無……可愛い猫が……。」

 

「……」

 

猫好きの行冥と蜜璃が茶々丸の登場に歓声を上げる。その一方でしのぶは身体を小刻みに震わせながら、じりじりと炭治郎に近寄っていた。

 

そんな大広間の騒動を余所に、茶々丸は大広間に入室して愈史郎の下へ近付いて行った。

愈史郎は茶々丸に着用していた『紙眼』を剥がす。茶々丸の『紙眼』は鳴くと、血鬼術が発動し、また解除される様に作った特製の物だ。鳴く度に姿が出たり消えたりするのは、はっきり言って面倒である。

 

「紹介します。この子の名前は茶々丸。人間並みの知性を持つ賢い子で、私達と炭治郎さんとの間の連絡係……分かり易く鬼殺隊(そちら)風に言うと、鎹烏の役割を果たしてくれていました。」

 

「俺達が鬼殺隊(お前ら)と合流した以上、これから先の連絡は鎹烏の方が早いからな。これで茶々丸はお役御免って訳だ。」

 

「みゃうぅぅっ!」

 

珠世が茶々丸の紹介をした後の愈史郎の言い分に、茶々丸が抗議する様に一度鳴き声を上げた。すると、行冥と蜜璃が茶々丸に声を掛ける。

 

「茶々丸君! おいでおいで!!❤」

 

「南無……良ければ、私の方に……。」

 

「……みゃおぅ。」

 

茶々丸が二人の声に反応して、珠世から離れて行冥の方に接近した。

 

「っ!!……おおぉぉぉっ。猫とは、斯様な可愛らしく愛くるしい姿をしていたのか……っ!」

 

盲目だった頃は形から物の姿を想像する他に無かった行冥は、愈史郎の『紙眼・視』を通して見れた事に感動を隠せなかった。一心不乱に、茶々丸をモフモフと触りまくり始める。

 

「ああぁぁっ!……悲鳴嶼さん、良いなぁ……。」

 

茶々丸が自分では無く、行冥の下へ向かった事に蜜璃は指を咥えて羨望の視線を送る。すると蜜璃のその視線が気になったのか、行冥から離れると一直線に蜜璃の下へ向かって行った。

 

「きゃああっ!!❤ きゃああああっ!!!❤ 茶々丸君可愛いっ!!❤❤」

 

自身の下へ来てくれた事に歓喜の声を抑え切れない蜜璃は、無我夢中で茶々丸の相手をし始めた。

 

『……』

 

茶々丸の登場で、何人かが茶々丸に気を取られ始めていると珠世から声を掛けられた。

 

「皆さん、そろそろ……私から無惨一党の話を始めても宜しいでしょうか?」

 

『!!!』

 

珠世からの鶴の一声で、大広間の空気は一瞬にして引き締まった。耀哉が代表して、珠世の質問に回答する。

 

「勿論だとも、珠世さん。お待たせして悪かったね。」

 

「いえ……では、改めて鬼殺隊の皆さんに話したいと思います。私が持つ無惨とその一党の鬼共の情報を。」

 

『っ!!!』

 

輝哉達は表情にこそ出していなかったが、珠世の言葉に内心では興奮を抑え切れなかった。

 

数え切れない程の犠牲を払って死体の山を、血の大河を築き千年と言う膨大な年月が掛かっても得られなかった、歴代の鬼狩り達が渇望し欲して已まなかった無惨の情報が今この瞬間に聞く事が出来るのだ。

 

それも側近として無惨の傍に仕えていた鬼からの情報である。その情報の精度は、推して知るべしと言うものであった。

 

「では、早速ですが……先ずは最大にして最終標的である私達の共通の宿敵、"原初の鬼"たる鬼舞辻無惨から話したいと思います。愈史郎、()()をっ。」

 

「はいっ! 珠世様。」

 

「!!!」

 

珠世の一言で、大広間の気温が上昇した錯覚に陥る。否、大広間の気温が上昇したのではなく、大広間に居る全員が感情を高揚させ興奮から体温が上がったのだ。

 

何人かに至っては頬を紅潮させていた。一方で何人かは冷静さを保っている様に装っているが、その瞳孔は凛々と輝いていた。

 

全員の視線が珠世に集中する中、愈史郎が大広間の片隅に置いて合った大箱を三つすべて重ねて持って来た。そして重ねた箱を珠世の背後に置く。

 

 

 

ドン! ガシャン!

 

 

 

『っ!』

 

愈史郎は重ねて運んでいた二つの箱を畳へ降ろすと、一番下の箱から道具がぶつかりあった音を立てた。

しかし、その音を愈史郎は一切気にする事は無い。

 

愈史郎は大小二つの箱を横一列に並べてから、大箱を珠世の左隣に置き、小箱を自身の近くに置いた。

珠世が愈史郎に礼を述べてから大箱の蓋を開ける。顔を顰めて青筋を浮かべる程の怒りを覚えながら、綺麗に丸められた一枚の和紙を取り出した。

 

「愈史郎。悪いけれど、これを皆さんに見える様に広げて頂戴。」

 

「はいっ!」

 

珠世に元気良く返答してから愈史郎は和紙を受け取ったが、今度は愈史郎が苦虫を嚙み潰した様に顔を顰めたまま、忌々しそうに丸められた和紙を大広間に居る耀哉達、全員の目に行き渡る様に場所を移動してから両手で和紙の上端を持って広げて見せた。

 

「っ!?……き、鬼舞辻無惨っ!?」

 

愈史郎が広げた和紙は一枚の肖像画であった。炭治郎が驚愕した様子で、肖像画に描かれた人物の名前を大声で口にした。

 

闇の如き漆黒の短髪。

猫の如く縦に裂けた、血を連想させる様な紅梅色の瞳孔。

肖像画なので正確な身長は判断出来ないが、細身の筋肉質な体型をしている。

肉体年齢が二十代半ばから後半の若い美青年だ。見た目だけでは千年以上生きているとは思えないし、そう判断出来ない程若々しい。

炭治郎が浅草で遭遇した無惨は小洒落た洋装を着用し、絵では黒を基調とした着物の和装をしていると言った違いは有ったが、間違い無く"原初の鬼"鬼舞辻無惨本人であった。

 

『!!!!!』

 

炭治郎が言い放った言葉に、全員が驚愕して再び無惨の肖像画を見る。すると、耀哉が炭治郎に話し掛けた。

 

「炭治郎、君は浅草で無惨と遭遇しているね……この肖像画()と全く同じ姿形をしていたかい?」

 

「はい、浅草では洋装を着ていましたから服装は異なりますが……間違い無く、俺が浅草で見た鬼舞辻無惨そのものです!!」

 

――!!!!……コイツがァ!!!

 

――これが……!!

 

――この男がっ……!!

 

――肖像画()に描かれた奴が……!!

 

――鬼舞辻無惨!?

 

――鬼共の親玉かっ!!

 

炭治郎が確信を以て言い放った言葉に、今度は大広間に居るほぼ全員が憎悪を抱きながら無惨の肖像画を睨み付けた。

その殺意と憎悪が籠もった視線は、目を合わせただけで人を殺害出来そうな程に鋭いものだった。

 

――やはり耀哉と無惨の容姿は瓜二つだな。双子の様にそっくりだ。耀哉の痣で分かり辛いがな。

 

愈史郎は耀哉と無惨の顔を比較して、内心でそう呟いた。決して口にしない理由は、行冥達の憤怒を爆発させないためだ。

珠世のためならいざ知らず、無惨の所為で怒りの矛先が自身に向けられるのは迷惑極まりない。

 

一方、行冥達とは逆に耀哉に声を掛けられた炭治郎は、冷静さを取り戻していた。炭治郎は何とかこの殺伐とした空気を変えようと、珠世に話し掛けた。

 

「そ、それにしても、随分と上手な肖像画()ですね……珠世さん、どうやってこんな立派な肖像画()を用意出来たんですか?」

 

「この無惨の肖像画()は私が描いたものよ、炭治郎さん。」

 

『っ!』

 

「えっ!? そうなんですか!?」

 

肖像画の出処を聞いた炭治郎は、珠世自身が描いた物だと知って驚愕する。

 

「その……とても御上手です。珠世さん。」

 

「ふふっ、ありがとう。気分転換に始めたら、何時の間に上達しただけなのだけど。」

 

『……』

 

炭治郎の他意無き素直な称賛に、珠世は少し照れながら受け取った。だが、この些細な遣り取りもしのぶ達にとっては面白くない光景だった。

 

「……うん、炭治郎や伊之助が描く絵画とは大違い。」

 

「んだとぅ!? 紋逸っ! テメェもう一度言ってみろ!!」

 

先刻の一件から頭を切り替えた善逸がボソッと呟くと、伊之助が怒って善逸に絡み始めた。

 

善逸の言っている事は間違ってはいない。炭治郎も伊之助も画力が皆無で、見るに堪えない物だからだ。かと言う善逸もまた、炭治郎達とは違う意味で画力が悪いのだが。

 

「黙りなさいっ!」

 

「「がぁっ!?」」

 

苛立ったしのぶが善逸と伊之助の鳩尾に向かって、鋭い正拳をぶつけた。

しのぶの正拳をまともに喰らい、善逸と伊之助はその激痛に悶絶して静かになった。

 

「ふんっ……。」

 

「……続けます。この無惨ですが、先ず今日(いま)まであなた方が狩って来た鬼達の様に鬼殺隊(そちら)日輪刀(かたな)で頸を斬っても、無惨を殺す事は出来ません。」

 

『!!』

 

激痛で悶絶する善逸と伊之助を鼻で嗤うしのぶを横目に、珠世が鬼殺隊にとって最も重要な情報を口にした。

大広間に居る大半の人間がその情報に驚愕する中、耀哉を筆頭に一部の人間は驚愕している様子では無かった。それはまるで予め予想していた様であり、その様子に珠世が気付いて指摘した。

 

「あまり驚かれてませんね?……もしや、耀哉さんはそうではないかと思っていたのですか?」

 

「あぁ……半信半疑だったけどね? ただ、無惨を配下の鬼達を同一視するのは危険だと思っていただけだよ。」

 

「素晴らしい洞察力かと。貴方の仰る通り、無惨は普通の鬼とは次元が違います。」

 

『っ!』

 

「無惨は何時の間にか、頸の弱点を克服していました。私が鬼にされる前からか、鬼にされた後かは最早永遠に分かりませんし、分かりたいとも思いませんが……無惨を倒すには、陽光灼けによる焼殺の他に方法が有りません。」

 

「では、必然的に持久戦と言う事になるね?」

 

「はい。太陽が出る場所に引き摺り出して拘束しなければ、絶対に無惨には勝つ事が出来ません。」

 

『っ!』

 

炭治郎達は珠世が伝えてくれた無惨の倒し方を、しっかりと脳髄に直接刻み込む勢いで記憶した。

しかし、炭治郎達はこの貴重な情報すら始まりに過ぎない事を知る。

 

「無惨と戦う上で、皆さんに知っておいて欲しい事は他にも幾つも有ります。先ず、無惨の再生力についてですが……っ。」

 

『っ!?』

 

「た、珠世さんっ!?」

 

「珠世様っ!?」

 

珠世が説明している最中に、炭治郎達が驚きの声を上げた。何故なら珠世が腕の袖を捲ると、爪を立てて一本の血筋を立てたからだ。

珠世の白い腕に一本の赤い血筋が生まれ、重力に従い流血した。そして数秒も経つと、再生して傷口が塞がった。

 

珠世は再び、炭治郎達に向けて無惨について語り始めた。

 

「私達、鬼は通常……この様に傷が出来ると自然と再生が始まります。そしてこれは禰豆子さんみたいな例外を除けば、無惨の血が濃い鬼であればあるだけ高い再生力を誇ります。再生力が高ければ高い程、間隙が少ないのです。」

 

『っ!』

 

「……珠世殿。つまり、無惨の再生力は上弦の鬼ですらその比では無いと?」

 

「はい、冨岡さん。無惨の再生力は異常です。無惨ならば、斬った事すら自覚出来ないぐらいの速さで再生します。

切断は()()()日輪刀では不可能……それこそ刃を入れて動かした瞬間から、傷口が癒着して再生するでしょう。」

 

『っ!?』

 

「……()()()?」

 

斬撃が無効とも言える事実に、炭治郎達は驚愕する。だが、耀哉だけは珠世が言った意味深な言葉を聞き逃さなかった。珠世は続けて、更なる事実を告げる。

 

「それから無惨にとって強みであり、弱点とも言える特徴が一点有ります。これは知っているか否かだけでも戦いに大きく影響します。」

 

『っ!!』

 

珠世の言葉に、炭治郎達は息を呑んで耳を傾けた。

 

「無惨の無限に等しい再生力を支え、その驚異的な生命力の源となっている秘密が、要因の一つが無惨の身体には有ります。それは通常の臓器を心臓と脳に造り変えており……その結果、無惨の体内には七つの心臓と五つの脳が存在しているのです。」

 

『っ!!??』

 

『鬼舞辻無惨は頸を斬られても死なない。』と珠世に知らされた刻とは比較にならない衝撃が、炭治郎達を襲った。炭治郎達は何も言えず、双眸を見開き口を半開きにして言葉を口に出来なかった。

数えて五つの数字に届こうとした沈黙が続くと、漸く行冥が心情に思った言葉を口にした。

 

「脳と心臓が複数有るなど、言葉にされても俄かに信じ難し。臓器と言う複雑な物を一個体の限界保有数を容易く凌駕して、造り出す事が出来るとはとても……なれど、此処まで来て珠世殿を信じない理由も無い。疑う必要もまた、何処にも有りはしない。」

 

『!!』

 

行冥の言葉で、一部の柱達に生まれていた疑心が払拭された。耀哉もまた、行冥の言葉に肯定して頷いた。

 

「行冥の言う通りだ。疑う必要など、何処にも有りはしない。それにしてもこの情報は、鬼殺隊(私達)がどれだけ望んで得たいと思っても決して得られなかった……大変貴重な、唯一無二のものだ。」

 

『……(コクッ)』

 

輝哉が断言して行冥に同意すると、炭治郎達は一斉に静かに頷いた。炭治郎達のその反応を見て、珠世は続けた。

 

「本来なら二ヶ所で済む急所を、その六倍の十二ヶ所に増やした事だけでも厄介な話ですが……無惨は更にこの無駄に増やした脳味噌と心臓を体内に自由自在に移動させられるので、位置が定める事が出来ません。

外からでは一見しても位置を特定出来ず、攻撃の難易度が極めて高いのです。」

 

「……チィッ。厄介って一言で簡単に済ませられる話じゃねぇなァ……。」

 

『……っ。』

 

「……」

 

実弥が舌打ちしてから忌々しそうにそう言った。自然と何人かが、実弥に同意して頷く。珠世もまた双眸を閉じて同意の意思を伝えたが、それを脳裏で振り払って語り続ける。

 

「無惨の身体について、私から報告すべき事が他にも有ります。愈史郎、今度はこれを」

 

「はいっ! 珠世様っ!!」

 

愈史郎は無惨の肖像画を放り投げる様に投げ捨てると、珠世から別の和紙を一枚受け取った。

 

それから愈史郎は再び顔を顰めて青筋を浮かべる程に怒りながら、苦虫を嚙み潰した様に顔を顰めたまま、忌々しそうにその和紙に描かれている絵が大広間に居る耀哉達、全員の目に行き渡る様に場所を移動してから両手で紙の上端を持って広げて見せた。

 

『!?』

 

愈史郎が広げた和紙にもまた、無惨が描かれた肖像画であった。しかし、只の肖像画ではない。両腕が変化している。

 

両腕を鞭の如き肉塊の触手に変化させており、先端は歪で鋭利な刃物状に鋭く尖っている。更には鋭利な牙が隙間無く生えた無数の口が形成されている。

 

「この肖像画()は一体……っ?」

 

小芭内が疑問に思って、無意識にそう呟いた。珠世はその小芭内の呟きを耳にして、即座に答えた。

 

「この肖像画()に描いた無惨の両腕が、無惨の基本的な攻撃手段になります。無惨は血鬼術を使った搦め手よりも、自身の人智を凌駕した己の身体能力を駆使した肉弾戦を好みます。」

 

『!!!』

 

珠世の報告を聞いて、炭治郎達は肖像画の無惨を凝視した。正確には、その鋭利な両腕をだが。

すると耀哉が肖像画から視線を外して、珠世に尋ねる。

 

「無惨の事だ。この攻撃手段には何か、絡繰りでも有るのではないかい? 珠世さん?」

 

『っ!』

 

「……御明察。これだけでも直撃すれば即死しますが、実は掠っただけでも大変危険です。」

 

「っ!……どう危険なんですか? 珠世さんっ。」

 

耀哉の指摘に答えた珠世の返答に対し、蜜璃に疑問が思い浮かんだため、珠世から更なる回答を望んで質問した。すると珠世から、衝撃の返答が齎された。

 

「無惨は攻撃する際に、自身の血を大量に混ぜるんです。伸縮自在で間合いは三十三尺(十m)程。攻撃速度ははっきり言って神速の領域に達します。柱級の剣士で漸く、攻撃を躱せると言っても過言では有りません。」

 

「そしてその攻撃で掠り傷でも受けようものなら……瞬く間にその猛毒同然の穢れた血に身体を犯されて、全細胞を破壊され苦しみながら死に絶えます……もしも逆に、無惨の血に耐えてしまったら最悪……鬼に変貌して無惨の手先に成り果ててしまうでしょう。」

 

『なっ!……っ!!』

 

珠世が報告した情報は、周囲が思わず声を漏らしてしまう程の衝撃を齎した。中にはあんぐりと、口を半開きになっている者も居た。珠世はそんな周囲に構わず、更にある事実を口にした。

 

「今から四百年以上前に……そんな無惨の神速の攻撃を一度も掠る事無く、一人で十二ヶ所の急所を斬って後一歩のところまで追い詰めた伝説的な剣士が居ました。」

 

『っ!?』

 

『……』

 

珠世が語った昔話に、大広間は二つの反応に分かれた。

 

一つは驚く事無く冷静で居る者達である。炭治郎や蝶屋敷組、愈史郎に産屋敷家だ。輝利哉達、耀哉の実子達はある程度、教育されているので驚いてはいなかった。

 

そして炭治郎達は愈史郎が作成した『紙眼・視』で耀哉が視力を取り戻した際に全てでは無いにせよ、珠世からある程度の詳細な話を聞いていた。

 

炭治郎達以外の者達は信じられない様子で、双眸を見開いて驚愕していた。珠世は行冥達の反応を見てから、愈史郎に話し掛けた。

 

「愈史郎、此方を。」

 

「はいっ! 珠世様っ!!」

 

愈史郎は無惨の肖像画が傷付かない最低限の配慮をしつつ乱雑にしまうと、珠世から貰った別の和紙を受け取って広げた。

 

『っ!!!』

 

其処には一人の男性が描かれていた。腰まで届きそうな長髪をポニーテールで纏め、額の左側に炎の如き痣が特徴的であった。

 

「この方こそ、継国縁壱さん。全ての"呼吸法"の原点にして頂点たる"日の呼吸"の使い手であり、鬼殺隊(あなた方)に"呼吸術"を伝授し、当時は剣術の流派だった水・炎・風・岩・雷を今日の"呼吸術"にまで昇華させた中興の祖。」

 

『!!!』

 

「この人が……っ!」

 

珠世から緑壱の紹介を受けて炭治郎がそう呟いてから、肖像画をマジマジと凝視する。耀哉達も同様であった。

珠世は縁壱を思い出す様に語り始めた。

 

「あの当時の頃の私は人間としての正気と理性を取り戻していたのですが、呪いのせいで無惨の呪縛から逃れられず絶望していました。

そんな矢先に、私は無惨と一緒に行動した際に、縁壱さんと遭遇した。これが、私と縁壱さんの最初の出会いでした。」

 

『……』

 

「縁壱さんと無惨の戦いは凄かった。私でも、とても眼で追う事が出来なかった……そして縁壱さんが無惨の神速の攻撃を搔い潜り、無惨を切り刻んだあの瞬間は未だに忘れられない……っ!」

 

『っ!!』

 

珠世が些か興奮した様子で語り始めたのを見て、行冥達は少しばかり驚きながら、その内容を聞き漏らさない様に耳を立てていた。

一方で、炭治郎達に驚きはあまり無く、同様に話を聞き続ける。

珠世の表情から興奮の色が更に濃くなり始めた。

 

――嗚呼……興奮する珠世様も美しい……。

 

一方の愈史郎は、珠世を見詰めるのに忙しかった。きちんと話の内容を聞いている辺りは流石であったが。

 

しかしそれも次の瞬間、珠世の端麗な美貌に憤怒の色で宿る。珠世は忌々しそうに口にした。

 

「しかし、其処まで追い詰めたのに……追い詰められた無惨は縁壱さんから逃げて生き延びるために、身体を分裂させて逃亡を図ったんです!」

 

『!!??』

 

珠世が叫ぶ様に言った内容に、炭治郎達は驚愕する。炭治郎達は想像もしなかった無惨の逃走方法に、暫しの間、理解が追いつかなかった。

 

「分裂、したんですか?……あの無惨が逃げるためだけに……?」

 

自尊心が高い筈の無惨が見下している人間から逃走するとは、炭治郎は想像する事が難しかった。

 

「私が言った言葉通りです、炭治郎さん……無惨は自分の身体を一千八百個もの肉片に分裂すると、縁壱さんは即座に対応して次々と無惨の肉片を細切れにして行った。

幾ら縁壱さんでもそれだけの肉片を一人で斬り尽くせ無かった。一千八百個の内の一千五百個を斬って残りの三百個近い肉片を、人間の頭部程の大きさになる量の肉片を逃してしまったのです……っ!」

 

『!!』

 

「え、えっと……珠世さん、それだと鬼殺隊(俺達)が無惨を倒すには……(ゴクッ)。」

 

説明して感情が高ぶり始めた珠世に向かって善逸が震えながら、一度唾を呑み込んで自己理解させるためにその必要条件を口にし始めた。

 

「太陽が当たる場所に無惨を引き摺り出した上で、掠り傷でも受けたらいけない間合いも速さも反則な攻撃を避けつつ、十二ヶ所の急所を狙って攻撃し、肉体の分裂に選る逃走を阻止しなきゃいけないって事ですよね……どうしよう、自分で言ってて出来る気がしない。

その縁壱って剣士、本当に人間かよ……。」

 

『……っ。』

 

善逸が青褪めながら、無惨と緑壱に畏怖に近い恐怖感を覚えて呟いた。炭治郎達は善逸の呟いた言葉に答えなかったが、その沈黙が善逸に同意していた。

 

「……珠世さん?」

 

炭治郎が顔を上げて、珠世に声を掛けた。珠世から憤怒の匂いがして、徐々に強くなったからだ。事実、珠世は怒りで身体を強く震わせていた。

 

「あの日を思い出すと、今でも身体が溶けて無くなってしまいそうな怒りを覚えます。

無惨は縁壱さんに斬り刻まれて、再生しない自身の身体に当惑していた。切断された頸を支えるのに精一杯だった。

私は無惨がこれから死ぬのだと、これでこの世に生きる()()()()()()()のだと思うと興奮せずには居られなかった!……本当に、後もう少しだったのに……あの生き汚い臆病者がっ!!」

 

『っ!?』

 

「っ!?……珠世さんっ、どうか待って欲しい……っ!」

 

ある言葉が憤怒している珠世の口から放たれた事で、大広間に響めきが広がった。耀哉もまた、その言葉を無視出来ず語っている最中の珠世を制止する。

 

「っ?……どうかしたのですか? 耀哉さん。」

 

語っている最中に制止された珠世は水を差されたと少し不機嫌になったが、御蔭で冷静さを取り戻せたため感謝しつつ耀哉に制止させられた理由を尋ねた。

耀哉は震えながら、珠世に確認する。

 

「珠世さんは言ったね……『()()()()()()()』と……無惨が死ねば鬼は滅ぶ……それは本当かい?」

 

『……』

 

耀哉が尋ねると同時に、嘘なら許さんと言わんばかりの剣呑な空気が大広間に漂った。大広間に居る全員の注目が、珠世に集まった。

一方の珠世はと言うと、きょとんとした表情で首を僅かばかり傾げていた。

 

「私、言いませんでしたか?……はい、本当の事です。無惨は支配下に置いた全ての鬼に、裏切り防止のための呪いを掛けてあります。ですから無惨が死ねば掛けられている呪いの所為で、自動的に鬼は道連れにされて滅ぶのです。」

 

『っ!!!』

 

珠世が断言すると、大広間に居る一部の者達が歓喜して拳を強く握り締めた。

 

「っしゃぁっ!! やる事が派手に決まったなっ!」

 

「うむ。これで"推測"が"確信"へと変わった。」

 

「醜い鬼共は全部殲滅してやる心算だったがァ、手間が省けたってもんだぜェ……!」

 

「……やる事は当初と変わらない。」

 

「だが、推測でやるのと確信を持ってやるのとでは、士気の差に雲泥の差が有る。」

 

「この事実を知ったら、皆の喜ぶ顔が浮かぶわね!」

 

「……」

――少しばかり空元気で喜んでいるわね、けれども気持ちは分かる。無惨を倒せば鬼との戦いに勝利出来ると分かっても、その無惨を倒す事そのものが至難の業だと分かってしまったのだから。

 

珠世は行冥達の心情を察して同情した。しかし、直ぐに感情を切り替える。

 

――しかし、私個人のこんな同情なんて何一つ、何の役にも立たない。だから出来るだけ多く、無惨側の情報を炭治郎さん達に提供しなくては……。

 

珠世は自身にそう言い聞かせると、再び開口して語り始める。

 

「皆さんが喜んでいるところを、水を差す様で誠に申し訳無いのですが……更に一つだけ、無惨に関して懸念事項が有るのです。」

 

『っ?』

 

「っ?……珠世さん。一つだけとは言わず、俺達に遠慮しないで欲しいです。寧ろ、有るなら有るだけ仰って下さい。無惨一党の情報なんて一つでも多く欲しい……寧ろ幾ら有っても足りないくらいなんですから。」

 

珠世が躊躇しながら言い放った内容に対して、炭治郎が発言を促す様に気遣った。

炭治郎の言葉に何人かが同意して無言で頷いた。珠世はその反応を見て、自身が抱く懸念を口にする。

 

「私が懸念する事項についてですが、これはあくまで私が知っている今から四百年以上前の無惨の戦闘方法になります。

しかもあの当時、無惨は縁壱さんを侮って斬り刻まれたので全力で戦ってはいませんでした……もしかすると、無惨は現在(いま)では両腕以外に攻撃手段を幾つも持っている可能性が大いに有ります。」

 

『!!!』

 

珠世が口にした懸念事項に、炭治郎達は"目から鱗が落ちる"思いがした。

 

「珠世さんの言う通りだ。この情報はとてもありがたいけれど、固定観念になってしまっては命取りになるかもしれない。皆もその心算で頼んだよ。」

 

『御意……。』

 

耀哉が念押しする様に炭治郎達に忠告すると、全員が了承する。そして今度は別の忠告をするために、愈史郎が開口する。

 

「この戦いは先刻(さっき)俺が言った様に、人間と鬼の戦争だ。大将首を取って終わりなんて、簡単に出来る話じゃない。」

 

「将棋で例えるなら現状、互いに歩兵の駒をすり潰し合っている様なもの。

それで時折、金銀飛車角の駒がでしゃばってるくらいで王手なんて掛ける機会が無い……それに無惨を倒す云々言う以前に、どうしても無視したり放置したりなんてする事が出来ない()()が存在している。」

 

「上弦の鬼達……の事だね?」

 

「そうだ。上弦の鬼は柱と同様、そんなポンポン湧いて来る様な存在じゃない。鬼自身が無惨の血に順応出来ないと死ぬからだ。

無惨との決戦に勝つためには、先手を打って如何に上弦共を一体でも多く討ち取って有利な状況に持ち込めるかに掛かっている。」

 

『!!』

 

耀哉が呟いた指摘に炭治郎達の表情は緊張が走り、怒りの色で染まる。

全ての元凶たる無惨への怒りと憎悪の念は強い。

 

現状、最も直に仲間に手に掛けているのは無惨の手足と言える上弦の鬼達である。

無惨と同様、さして変わらぬ怒りと憎悪の念を抱くのは当然の事であった。

 

「それも結構ですが……上弦の鬼の話に進める前に、まだもう少しだけ、あの当時起きた過去の出来事を話さなければなりません。」

 

『!』

 

「それも気になるね……珠世さん。縁壱が無惨を逃した後はどうなったのだろう?」

 

『!!』

 

珠世の発言と耀哉の質問で、全員の視線が珠世一人に集中した。珠世は再び過去について語り始めた。

 

「無惨が逃亡した後、当時はまだ掛けられていた呪いが弱まった事を知り、縁壱さんに私が知っている事を全て話しました。」

 

「それから死ぬ心算でしたが、縁壱さんは私を信じて『後の剣士達が無惨を倒せる様に、彼らの手助けをして欲しい。』と言って下さった。だから私はその頼みに答えるために、今日まで生き恥を晒して来ました。」

 

『っ!!』

 

縁壱の英断と言って差し支えない行いに、耀哉達は感嘆する。

 

「待って下さいっ!……もし珠世さんが縁壱さんに無惨の情報を提供していたなら、鬼殺隊はとっくに知っていた筈では無いんですか?」

 

『っ!!』

 

炭治郎の質問で、耀哉達はハッとなった。確かに縁壱が鬼殺隊に所属していたならば、報告している筈だ。縁壱が報告を怠ったとは、考えにくかった。

 

「それについても、これから話しましょう。」

 

『!』

 

「私は縁壱さんに頼まれた後、()()()()をしようとしましたが……その直後に他の鬼狩りが駆け付けて来たため、縁壱さんに言われて逃走しました……。」

 

()()()()?」

 

炭治郎がオウム返しの様にそう呟いた後、珠世が頷いてから続けた。

 

「縁壱さんには双子の兄が居ました。名前は継国巌勝。当時、"日柱"だった緑壱さんに次ぐ、月の呼吸の使い手……"月柱"だった鬼狩りです。」

 

『!!』

 

『!!……っ。』

 

耀哉達は縁壱に兄弟が居てそれが双子だった事に驚いたが、それ以上に兄弟揃って鬼殺隊の柱をしていた事に驚いた。

しかし炭治郎を筆頭に、何人かが怪訝そうに珠世を見詰める。それは珠世が、何故か深刻そうな表情と声色をしていたからだ。

 

「……それで? その月柱様がどうしたってんだ? 珠世さんよぉ。」

 

『っ!』

 

天元に尋ねられた珠世は、意を決して衝撃的な真実を耀哉達に伝える。

 

「この巌勝ですが……縁壱さんを、鬼殺隊を裏切って無惨に寝返り、鬼になってしまったのです……!」

 

『!?!?』

 

無惨の情報を得た時と変わらぬ衝撃が、耀哉達を襲った。

 

「柱が裏切って、鬼になったってのかァ!?」

 

「そりゃねぇだろ……んなもん有りかよ……。」

 

「しかも鬼にされたのではなく、自ら望んで鬼になっただと!?」

 

「馬鹿な……有り得ぬっ!!……有ってはならぬ事態だっ!」

 

「……とても……この情報は公開出来る物では無い。」

 

「そんな……そんなっ!」

 

「「……っ!!」」

 

行冥達は動揺を隠せぬまま、次々と開口して狼狽した。しのぶと無一郎だけが何も言わなかったが、明らかに動揺していた。ただ、しのぶと無一郎の違いは無一郎が青褪めていた事だった。

 

『っ!?……っ!!』

 

炭治郎達に至っては、言葉に出来ない程の動揺っぷりであった。

 

「巌勝は鬼に変貌した後、無惨への忠誠の証として当時の第六十五代目産屋敷家当主の首を刎ねて首級として捧げました。

この際に産屋敷一族を皆殺しにしたと直接、私は無惨と共に巌勝の報告を受けています。実際は一人息子で当時六歳だった後の第六十六代目産屋敷家当主とその母親は別行動を取っていたため、殺されずに済んだのですが。」

 

『……っ!!!』

 

「……四百年前と言えば、丁度『隠』が設立された時期と重なる。産屋敷邸の隠蔽がより厳重になったんだよ。」

 

産屋敷家の当代当主と一族が柱の裏切りに選って殺害されたと知り、全員が愕然となった。その後は一部の者達は口元を押さえながら涙を浮かべ、一部の者達は憤怒に震えた。

 

「酷ぇ真似を……ッ!!」

 

「外道がっ!!」

 

実弥と小芭内が怒りを抑え切れず、激昂して叫ぶ。尤も、誰もその事について注意しない。大広間に居る、全員が同じ気持ちを抱いていたからだ。

 

「……こうして巌勝は無惨から"黒死牟"の名前を与えられ、忠実な配下に加わりました。

私が居た頃は十二鬼月の制度など在りませんでしたから、推測でしか有りませんが……柱としての実力に加えて、鬼になった事も加味すると恐らく十二鬼月筆頭、最強の"上弦の壱"に君臨しているものと見て間違いないでしょう。」

 

『!!!』

 

珠世の推測に対して、異論を挟む者は居なかった。柱が鬼になったともなれば、鬼舞辻無惨麾下筆頭であっても決して不思議では無いからだ。

推測を終えると、珠世が箱の中から一枚の和紙を取り出して愈史郎に手渡した。

 

「此処から先は、巌勝を黒死牟と呼ばせて頂きます。先ずは、この肖像画()をご覧下さい。」

 

『!』

 

愈史郎が広げた肖像画には、一人の男性が描かれていた。

 

その外見は緑壱と瓜二つの外見であった。

服装は紫の袴下に黒の袴という侍然とした物を着用していた。

髪型は黒色の長髪を後ろに束ねたポニーテール。

額の左側頭部側に緑壱と同様の炎の如き赤黒い痣が有った。縁壱と異なるのは、右側の首筋にも赤黒い痣が見える事ぐらいか。

 

しかしその容貌は双子の弟である縁壱とは、否、人間とは掛け離れていた。

三対計六つの赫眼金瞳をした、視線を合わせた者全てを戦慄させる様な禍々しい眼が均一に並んでいた。

肖像画にも関わらず、その姿は重厚にして威厳に満ちていた。

 

「この男が……黒死牟……っ。」

 

炭治郎が圧倒された様に、黒死牟の肖像画を見て呟いた。

 

『……っ。』

 

それは炭治郎だけで無く、柱として何百体、中には一千体以上もの鬼と対峙して来た行冥達も同様であった。

 

「……チィッ!……おい、この鬼は"月の呼吸"ってぇのを使うって言ってたよなァ?……聞いた事もねェ呼吸だッ……実際にどんなもんか知らねぇのか、鬼……じゃなかった、珠世さんよォ?」

 

『っ!』

 

一瞬でも圧倒され、怯んでしまった事実に苛立ちながら実弥が珠世に質問した。その質問内容が気になって炭治郎達が視線を珠世に向けた直後、珠世が実弥の質問に回答する。

 

「はい。無惨は鬼になったばかりの黒死牟に"月の呼吸"がどんなものか見たかったので、私も隣で見せて貰った事が有ります。その当時の一面を絵画に描いたので、それを見ながら説明しましょう。」

 

『!!』

 

珠世がそう言うと新たな和紙を一枚、箱から取り出した。間髪入れず、愈史郎が手に取ってその和紙の両端を持って広げて見せた。

 

『っ!!』

 

愈史郎が広げた絵画には、黒死牟が真横に描かれ居合斬りを放っている。

鞘や鍔、目釘に無数の眼が浮かんだ、持ち主同様眼の存在が目立つ不気味な造形の刀を持ち、横薙ぎに真向斬りを放っていた。不気味な造形の刀から一振りの斬撃が放たれ、その周辺には三日月の如き無数の月輪が描かれている。

 

「……珠世さん。これが"月の呼吸"の剣技で間違いないかな?」

 

「はい。早速ですが説明させて頂きます……この"月の呼吸"ですが、剣閃に沿って長さも大きさも数も不定形かつ無作為に、三日月状の無数の斬撃が襲い掛かって来ます。黒死牟に迂闊に接近して斬り合えば、斬り刻まれて刀の錆になるのがオチでしょう。」

 

『!!……っ!』

 

「っ……でェ?……この気色の悪ィ刀は何だァ?……まさか日輪刀じゃねぇだろうなァ?」

 

「この刀は本人の血肉から精製された物です。壊れても直ぐに再生するので、武器破壊を狙っての弱体化は望めません。血肉から出来ているが故に、形も自由自在に作り替えれるものと考えられます。」

 

「四百年以上前の"月の呼吸"の型は四つしかありませんでしたが、今もそうとは思えません。相手は剣士ですが、間合いは剣士のそれを遥かに凌駕している事に留意して下さい。」

 

珠世はそう言ってから、更に三枚の和紙を順番に広げた。最初の和紙に描かれたのが壱の型であり、残り三枚の和紙には壱の型と同様、弐から肆の型が描かれていて、珠世がそれらの剣技を丁寧に説明した。

 

『……』

 

想像を超える難敵の存在が発覚した事に、炭治郎達は沈痛する。すると炭治郎が何かに気付いた様子で、ハッとした様子で焦燥感を抱きながら珠世に尋ねた。

 

「お兄さんが鬼になったと知らされて、縁壱さんはその後どうなったんですか!?」

 

『!』

 

「……」

 

当初は妹の禰豆子を自分諸共処刑しようとした程、鬼殺隊の鬼に関する隊律が厳しい。それが鬼殺隊を裏切って自らが鬼となり、産屋敷の当代当主を殺害したとなればどんなとばっちりを受けるか想像も出来なかった。

 

他人事ではない縁壱の境遇に、炭治郎は焦燥感を抱かざるを得なかったのだ。炭治郎の質問を聞いて、耀哉達も気になって珠世に強い視線を向ける。注目された珠世は双眸を閉じてから強く見開くと、縁壱について再び語り始めた。

 

「縁壱さんは無惨を仕留められなかった事と私を討たずに逃がした事……そして黒死牟の三件について責任を糾明され、鬼殺隊を追放されました。鬼殺隊はこの時、混乱の極みに居たので私が縁壱さんに伝えた情報も受け取らず、時の流れと共に失われたのでしょう。」

 

「縁壱さんは多くの鬼狩り達に責められ、当初は自刃する様に他の鬼狩りから要求されたそうなのですが、それは第六十六代目産屋敷家当主が取り成して追放に留めたそうです。」

 

「私は縁壱さんが五十代の頃に再会し、その時の事を『母君を除く家族を一夜にして全て失い、心の弱っている幼子に更なる心労を掛けて本当に申し訳無かった。』と苦しそうに言っていました。」

 

『……』

 

「縁壱さんは悪く無い……。」

 

縁壱が受けた処遇を聞いて、耀哉達は言葉が出なかった。質問した炭治郎は増々焦燥しながら、そう呟く他に無かった。

 

「チィッ! 救えん馬鹿共だっ! 自らの手で最高戦力を手放すとはなっ!!」

 

『!!』

 

青筋を立てる程の憤怒を露にしながら、愈史郎がそう罵倒する様に呟いた。それを聞いて、珠世は静かに宥める。

 

「愈史郎、止めなさい……敬愛する主人を殺された当時の鬼狩り達の怒りは推して知るべしだわ。本人に怒りのぶつけ様が無ければ、親族に怒りの矛先が向かうのは古今東西の道理と言うものよ。」

 

「……はい、珠世様……っ。」

 

珠世に注意された愈史郎は三回程深呼吸をして心情を安定させると、珠世に返答して頭を下げた。

 

「……無惨と黒死牟の件については、以上になります。此処から私が持っている他の上弦の鬼に関して話したいのですが、その前にお願いが有ります。」

 

『!』

 

「お願い……?」

 

「珠世様、お願いとはどの様なものでしょうか?」

 

無惨と黒死牟の説明を終えた珠世はある頼み事を口にした。その頼み事の内容を知るべく、あまねが珠世に質問する。

 

「私が持つ上弦の鬼の情報と、鬼殺隊(あなた方)の持つ上弦の鬼の情報には齟齬が生じている様に思うのです。ですから、先ずは鬼殺隊(あなた方)の持つ上弦の鬼の情報を開示して頂けないでしょうか?」

 

「っ!……確かに珠世さんばかり語らせるのは、申し訳無い事だ。あまね、頼めるかい?」

 

珠世の頼み事を承諾した耀哉はあまねに自身に代わって答えてる様に頼むと、あまねは承諾して語り始めた。

 

「御意……珠世様、そして皆様方に申し上げます。先ず上弦の肆・伍・陸に関して、鬼殺隊は一切の情報を持ってはおりません。」

 

『……』

 

「!!……そうですか。では、上弦の弐と参の情報は御持ちなのですね?」

 

「はい、仰る通りです。」

 

あまねがどの上弦の鬼に関しての情報を持っているか答えると、珠世の視線を察して回答する。

 

「上弦の参の名前は"猗窩座"。格闘術を使い越す武道家で……と言う報告を受けております。」

 

『!』

 

「……ちょっと待てっ。鬼殺隊(お前ら)が持っている情報ってそれだけか!?」

 

あまねが口にした報告内容の質量の無さに、たまらず愈史郎がツッコミを入れる。あまねは顔色一つ変えず、真顔で愈史郎に答えた。

 

「はい。この猗窩座(上弦の参)の情報自体は百年以上前……正確には百十年以上前から有るのです。」

 

『!!』

 

「何?……期待した俺が馬鹿だったな。そもそも鬼殺隊は上弦の鬼共の情報なんて碌に得られていない癖に何故、猗窩座(上弦の参)に関しては情報を持っているんだ? しかも何故、その情報を共有していない?」

 

珠世が感嘆と疑念を抱きながら、そして次に愈史郎が怪訝そうにあまねに尋ねると、予想外の回答があまねの口から飛び出して来た。

 

「情報を公表しなかった最大の理由は……猗窩座(上弦の参)が女性だけは殺さない……いえ、傷付けようとすらしないからです。」

 

『!?』

 

上弦の参(猗窩座)が……女性だけは殺さないから……っ!?」

 

情報源獲得の理由を知って、行冥達は驚きを隠せなかった。炭治郎もまた、信じられない様子であまねを見詰めた。

 

「はい、私が伝えた情報も嘗ての花柱が生還して持ち帰った物……その花柱が残した報告書によると、『私との戦いでは猗窩座(上弦の参)は逃げ回り躱し続けるだけで攻撃せず、最後は日輪刀を圧し折るだけで、最後の最後まで私を傷付けようとすらしないまま逃走した。』との記述が残っています。

 

「それから幾人もの女性隊士が猗窩座(上弦の参)と遭遇した際も同様の結果でした。見向きもせずに逃走するか、日輪刀(かたな)を砕くだけで殺さず傷付けず、逃走しております。」

 

『!!!』

 

行冥達はあまねの言った内容に驚愕する。だが愈史郎は益々、怪訝そうにあまねを睨み付けていた。

 

「それで?……それの何処が鬼狩り共にまで、猗窩座(上弦の参)の情報を秘匿にする理由にする理由になるんだよ?」

 

「……女性は殺さない、傷付けない。この情報を事前に持っていた場合、無意識に相手を侮り油断する可能性を考慮して、今日まで秘匿にされていました。」

 

「……っ。」

 

『……』

 

「何を馬鹿な。」と愈史郎を筆頭に何人かは口にしたかったが、そうはならなかったと断言する自信も持ち合わせていなかった。そのため、反論せず沈黙する他に選択肢は無かったのである。

 

炭治郎も愈史郎達と同様であったが、それよりもある事に気付いた。

 

――アオイさん?

 

炭治郎は振り向いて、アオイを見た。アオイから恐怖の匂いを感じて、気になったからだ。

 

「っ……っ!……。」

 

「「……」」

 

アオイは上弦の参(猗窩座)の名前を聞く度に、恐怖で身体を震わせていた。

必死で身体の震えを押さえようと自身を強く抱き締めている。しのぶとカナヲはそんなアオイの様子を見て、何も言わずアオイを辛そうに黙って見詰めていた。

 

「アオイさん。」

 

「っ!……た、炭治郎さんっ!」

 

炭治郎はアオイから恐怖の匂いが出ている事に感付いて、ゆっくりと接近する。そして右手でアオイの左手を優しく握った。

 

「何か遭ったか分からないけれど……大丈夫だから、ね?」

 

「は……はいっ❤」

 

最愛の恋人である炭治郎が自身を気遣い、手を握ってくれた事にアオイは歓喜していた。アオイの心には既に恐怖心は無く、ただ炭治郎の温もりを感じる事に集中していた。

 

「「……」」

 

その様子を見ていたしのぶとカナヲだったが、先ず抱いた感情はアオイが落ち着きを取り戻してくれた事に関する安堵と炭治郎への感謝だけであった。

 

しかし、其処に羨望や嫉妬が無かった訳では無かった。

 

「炭治郎君っ❤」

 

「っ!……炭治郎!❤」

 

「おおっ!?……っ!!」

 

「っ!?」

 

しのぶは炭治郎の背中を目掛けて抱き着き、出遅れたカナヲは空いていた炭治郎の左手を右手で握り締めた。

 

炭治郎は奇襲の如きしのぶとカナヲの襲来に驚いたが、直ぐに口を閉ざした。その理由は炭治郎が背中から感じるものに、強く意識が向かったからだ。

 

しのぶの乳房が、衣服越しにむにゅっと形を変えて炭治郎の背中に押し付けられたからだ。

 

しのぶは実は先刻の小休止時に、普段はキツく締めている晒を外していた。そのためしのぶの乳房を衣服越しとは言え、炭治郎は直接(ダイレクト)に感じていたのである。

 

「し、しのぶさん……その……っ。」

 

「何ですか、炭治郎君? ふふっ❤」

 

情交(セックス)する際は、時にしのぶが気絶するまで乳房から手を離さず執拗に揉み続けている炭治郎だ。

 

しかし、それでもその柔らかさに慣れる事が無い。寧ろ知っているからこそ、想像が容易く感情を揺さぶられる要因となっていた。

 

――嗚呼❤ 意識しちゃって、炭治郎君は可愛いなぁ❤ えい❤ えい❤

 

そんな炭治郎の様子に、気が付かないしのぶでは無い。愛おしさを覚えながら自身の乳房を押し付けて、愛する恋人の反応を楽しんでいた。

 

「「……っ!!」」

 

最愛の恋人が姉と仲睦まじくしている様子を見せられて、アオイとカナヲは面白い訳が無い。二人仲良く青筋を立てて、炭治郎としのぶを睨み付けていた。

 

「「……ふんっ!」」

 

「おゎっ!?」

 

アオイとカナヲは炭治郎に密着すると、握っていた手から腕に握り直して、自身の谷間に腕を押し付ける様に抱きしめていた。

 

「「っ!」」

 

「……これでしのぶ姉さんと御相子。」

 

「良いですよね? 炭治郎さんっ、しのぶ様。」

 

有無を言わせないとばかりに、更に強く炭治郎の腕を自身の谷間に押し付けてそう断言した。

 

「むー。」

 

そんな炭治郎と胡蝶姉妹の遣り取りを面白く無さそうに、睨み付けている者が居た。炭治郎の実妹、禰豆子だ。禰豆子は早速、兄の炭治郎譲りの行動力を発揮する。

 

「「「「!」」」」

 

「うっ!」

 

禰豆子は素早く炭治郎の前へ移動すると、普段は陽光避けの専用箱に入るための最小化の体型になって炭治郎の膝上に占領したのである。

これは禰豆子が現状、最も炭治郎に迷惑を掛けない決断であるとの英断であった。

 

――ぐっ!……こんなあっさり炭治郎君の膝上を奪うなんて、流石は禰豆子さんだわっ。

 

――禰豆子ちゃん、やるなぁ……。

 

――恐ろしい、やはり禰豆子さんは油断出来ない相手ねっ。

 

そんな禰豆子に、しのぶ達は感嘆と僅かながらの畏怖を抱きながら禰豆子を見詰めていた。

 

「……」

――しのぶちゃん達、楽しそうだし幸せそう……良いなぁ……。

 

蜜璃はしのぶ達の幸せそうな遣り取りの様子を見て、自身でも気付かない内に羨望の眼差しで見詰めていた。

 

「……コホン。」

 

するとそんな洒落合いを続ける炭治郎達を余所に、一度咳払いをしてから珠世が開口する。

 

「そうですか……あまねさん、ありがとうございました。……炭治郎さん。それから伊之助さん。貴方達二人は上弦の参(猗窩座)の姿形、容貌を覚えていますか?」

 

「っ!……はい、勿論覚えていますっ!」

 

「忘れる訳ねぇだろうが!」

 

炭治郎と伊之助が珠世の質問に即答すると、珠世は一度頷いてから行動に移り始めた。

 

「お二人が遭遇したと言う上弦の参(猗窩座)ですが……この男ではありませんか?」

 

『!?』

 

『!!!』

 

珠世は大箱から一枚の丸められた和紙を手に取って広げると、其処には一人の男性が描かれていた。

 

容貌は細身で筋肉質な美青年である。

服装は素肌に直接袖無しの羽織に砂色の洋袴(ズボン)、両足首に数珠を着用しているだけの軽装。

髪型は紅梅色の短髪。身体には藍色の線状の紋様が全身を走っており、足と手の指先も藍色で染まっている。

扁桃(アーモンド)の如き釣り目。罅割れ模様が特徴的な藍眼黄瞳。左眼の黄瞳には"()"、右眼の黄瞳には"上弦"の文字が刻まれていた。

 

「っ!!……上弦の参(猗窩座)ァァ!!」

 

『!』

 

炭治郎が憎悪を剥き出しにして、顔中の血管を浮かせて唸った。

 

「炭治郎君っ!」

 

「炭治郎っ!」

 

「炭治郎さんっ!」

 

「むうぅ!」

 

そんな炭治郎を見て、禰豆子と胡蝶姉妹が声を荒げて注意する。

 

「っ!!……ごめん、皆……ありがとうっ。」

 

注意されて我に返った炭治郎は、四人に感謝の言葉を送った。そんな炭治郎を他所に、伊之助が立ち上がって叫び出した。

 

此奴(コイツ)だぁ!! 列車ん時にあのギョロ目をぶっ殺した鬼野郎に間違いねぇ!!」

 

『!!』

 

伊之助の証言で上弦の参(猗窩座)の容貌に確信が得られると、耀哉達は再び上弦の参(猗窩座)の肖像画を凝視した。

その中で一際、憤怒と憎悪の感情を抱きながら睨み付けている男が居た。

 

――この男が、杏寿郎の仇敵(かたき)っ!……っ!!

 

それは小芭内であった。ブチ切れそうな程に顔中の血管を浮かせて、肖像画を睨み付けていた。

 

「……けっ! 紳士気取りの自己陶酔野郎がァ……ッ!」

 

実弥は苛立ちを隠す事は一切せず、そう吐き捨てる様に口にした。

 

――煉獄さんを殺した鬼……くっ!…………んっ?

 

蜜璃も穏やかな顔が紅潮して冷静さを失いかけたが、ある違和感に気付いたために理性を保つ事が出来た。

 

「あ、あれ?……珠世さん、猗窩座(上弦の参)の眼の文字が"弐"になってますよ?」

 

『!』

 

蜜璃の指摘で、漸く肖像画に描かれた猗窩座(上弦の参)の眼の文字が"参"では無く"弐"である事に耀哉達は気付いた。

珠世もまた、蜜璃の指摘に対して即座に返答する。

 

「はい、良く気付かれましたね……ですが、これには明確な理由が有ります。その明確な理由を答える前に……私はしのぶさんに一つだけ、お聞きしたい事が有るのです。」

 

『!!』

 

『っ!……はい、何でしょうか? 珠世さん。」

 

突如、話を振られたしのぶだったが、即座に珠世に対応する。そんなしのぶを見て、珠世は上弦の参(猗窩座)の肖像画を仕舞ってからある質問をしのぶにぶつけた。

 

「鬼殺隊が持つ上弦の弐に関する情報ですが……その鬼の名前はもしや"童磨"と言うのではありませんか?」

 

『っ!?』

 

「っ!?……ど、どうして珠世さんがそれを知っているんですか!?」

 

炭治郎は驚愕した様子で、珠世に尋ねた。すると珠世がその美しい顔を歪ませる程、顔を顰めて呟いた。

 

「そうですか……しのぶさんの御姉さんを殺したのは、あのいけ好かない男でしたか……っ!」

 

『っ!!??』

 

「た、珠世様……もしや、童磨(上弦の弐)を御存知なのですか?……でも一体何処で……っ!?」

 

耀哉達は驚愕した様子で珠世を見た。しのぶに至っては固まった様子で珠世を真っ直ぐ見詰めている。

 

愈史郎も同様に心底、驚愕した様子で珠世に尋ねた。耀哉達も気になって少し姿勢を前のめりにして珠世を凝視した。

 

珠世はそんな視線を受けながら、驚くべき事実を口にした。

 

「知っているも何も……私は一度だけ、無惨の刺客として送られて来たあの男と交戦した事が有るのですよ。」




お待たせしました。今回で珠世さんによる無惨一党の講義の話でした。

炭治郎×鬼滅女子成分が最後辺りに有ったと思いますが、量少なくて本当にすみません。

と言うか何故原作はもっと情報の共有をしなかった?(汗)

猗窩座に関しては、私的な願望も含まれた設定です。でもこれが許されるなら、かなり無惨様から厚遇されている事になるんだよなぁ。でも情報を共有していない理由付けははっきり言って強引です。本当に申し訳無い。

実は「鳴女が珠世と同期」って設定にして無限城の情報も提供しようと思いましたが、やりすぎだと思って止めました。もし実際にそうなら生き恥ポップコーンする前に鳴女が無惨様を救出していると思うので。

次回ですが、情報共有の続きです。原作ではカナエさんがしのぶさんに伝えていた童磨の情報は、珠世さんが代わりに話してくれます。情報量も精度も段違いですが。

更新は十月の予定です。お楽しみに。


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第参拾陸話 日輪と鬼殺隊の柱は対策す

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


『っ!?!?』

 

「こ、交戦したぁっ!?」

 

無惨の時に匹敵する驚愕の事実が、珠世に選って明らかとなった。その事実が、早速ある人物に多大な影響を齎した。

 

「っ!……ぐっ!!」

 

「珠世さんっ!! 童磨(アイツ)と戦ったのは本当なの!? どんな容貌をしていたの!? 得物は何っ!? どんな血鬼術を使って来るのよっ!?」

 

『っ?!?!』

 

それはしのぶであった。炭治郎から一瞬で離れると、普段の笑顔も冷静さもかなぐり捨てて、珠世の胸元を掴み何度も揺らす。自身も身体を震わせ憎悪を剥き出しにしながら、質問の嵐を浴びせていた。

 

「しのぶさんっ!!」

 

「しのぶ姉さんっ!」

 

「しのぶ様っ!」

 

「おいこらっ!? しのぶっ!!」

 

「っ!!!……っ。」

 

必死の炭治郎達に声を掛けられて、しのぶは我に返り珠世から両手を離した。

 

「っ……すみません、珠世さん。私、どうかしていました。」

 

「お気になさらないで、しのぶさん。愛する家族の仇敵(かたき)の情報と知って、冷静で居られる筈が無いもの。」

 

珠世に謝罪するしのぶに対し、珠世は優しく声を掛けた。しのぶはもう一度、珠世に頭を下げてから元の場所へ戻ろうとした。

 

「うっ!」

 

「っ!……禰豆子さんっ?」

 

「禰豆子っ!?」

 

すると年齢相応の状態に戻った禰豆子が、しのぶの手を握っていた。驚きの声を上げる炭治郎としのぶを他所に、禰豆子はしのぶを引っ張り始めた。

 

「禰豆子さん……何をっ……っ!」

 

「んっ!!」

 

しのぶの抗義に対して、禰豆子は聞く耳を持つ事無く無視すると、ある場所にしのぶを押し付けた。

其処は先刻まで自身が座っていた、炭治郎の膝上であった。

 

「っ!!……炭治郎君?」

 

「し、しのぶさん。大丈夫ですか?」

 

しのぶは愛しさを思い起こさせる温もりを感じて、最愛の恋人の名前を呼んだ。しのぶに名前を呼ばれた炭治郎もまた、しのぶを慮って声を掛ける。

 

しのぶは禰豆子に押し付けられる形で、炭治郎の膝上にすっぽりと座り込んでいた。

 

「うっ!」

 

それを行った禰豆子は、実に満足気に二人を見ていた。

 

「っ……禰豆子さん。」

――大好きな炭治郎君を譲られる程、私は焦燥していたのかしら……何だか、禰豆子さんには悪い事をしたみたいだわ……。

 

しのぶは先刻の自身の取り乱し様を思い出して、その醜態振りに羞恥心を抱いて猛省した。思わず禰豆子に謝罪しようとしたが、しのぶはそれが正しい答えではないと咄嗟に閉口して、別の言葉を口にした。

 

「禰豆子さん、ありがとう。」

 

「んっ!!」

 

しのぶが飾りではない本物の笑顔で感謝の言葉を口にすると、禰豆子もまた満面の笑みでそれに答えた。

それからしのぶは炭治郎にもたれかかる。

 

「っ!」

 

「ごめんなさい、炭治郎君……もう暫くこうしてても良いかしら?……そうじゃないと私、また冷静で居られないかもしれないから……っ。」

 

「っ! 駄目な訳無いじゃないですか。寧ろ喜んでっ! ですよ!」

 

しのぶの嘆願に対し、炭治郎は喜んで受け入れた。

 

「しのぶ様っ。」

 

「しのぶ姉さんっ。」

 

アオイとカナヲが二人に近付いて、しのぶの手を優しく握る。

 

「アオイ、カナヲ。取り乱してごめんなさい。」

 

「どうか謝らないで下さい。しのぶ様。」

 

「アオイの言う通りよ。しのぶ姉さんの気持ち、私達も痛い程分かってる心算だからっ。」

 

「……っ。」

 

しのぶが妹分の二人に謝罪すると、アオイ達は固辞して更に強く、されど優しく手を握る。二人の気遣いに、しのぶは嬉しさが胸中に湧いていた。

 

「……んっ。」

 

しのぶを見て安心したのか、禰豆子はちょこちょこと炭治郎の背後に移動して、勢い良く抱き着いた。しのぶと禰豆子の位置が、真逆になった瞬間であった。

 

「……コホン。」

 

そんな落ち着きを取り戻したしのぶを見て、珠世が一度咳払いをしてから開口を始めた。

 

上弦の弐(童磨)について語る前に、少し昔話をさせて頂きます。それは今から、凡そ百十三年程前の事になります。」

 

『!!!』

 

――百十三年前?

 

珠世が語り始める内容に行冥達が集中する中、耀哉を筆頭に一部の者達だけはその時期が()()()()と重なっている事に気付いた。珠世は語り続ける。

 

「その時、私は薬草を採取するために夜中に行動していたのですが……其処へ()()()"上弦の弐"と"上弦の伍"が襲撃して来たのです。」

 

「っ!!……上弦の鬼が、二体同時に!?」

 

炭治郎は驚愕しながら、珠世の言葉を反芻した。上弦の参(猗窩座)一体と遭遇した時でさえ、言葉に表現出来ない程の絶望感が有った。

それが二体と来ては、如何に絶望的な状況か分からない筈が無かった。

 

「私の前に現れた()()()上弦の弐ですが……それは皆さんが上弦の参と言っている猗窩座の事です。」

 

『!?』

 

「っ!?……だから、珠世さんの肖像画()には"弐"の文字が入って居た訳ですね!!」

 

蜜璃が合点がいった様に、そう呟いた。蜜璃に対し、珠世は笑みを浮かべて答える。

 

「甘露寺さんの仰る通りです。何故今は"参"の数字なのか、それは後で説明します……上弦の弐(猗窩座)は直ぐに私を当時の上弦の伍に任せて立ち去りました。……『女と戦うのは好かん。』とそう言って立ち去っていましたから言葉通り、私が女だったから手を出さなかったのでしょうね。」

 

『……』

 

「……当時の上弦の伍ですが、火炎系の血鬼術を使う大男でした。私は苦戦の末、呪いを発動させて勝利を得ました。」

 

『!?』

 

「上弦の鬼を相手に戦って勝ったんですか、珠世さん……っ!!」

 

柱ですら返り討ちに遭い続けている上弦の鬼を相手に、逆に返り討ちにして勝利したと聞いて驚愕する。

 

『……』

 

耀哉達一部の者達は()()()()を珠世に尋ねたかったが、今は話を遮るのは得策では無いと判断して沈黙を貫き通す。珠世は語り続ける。

 

「前にも炭治郎さんには言いましたが、鬼同士の戦いなどはっきり言って不毛です。互いに相手を殺せる決定的な手段を、持ち合わせてなどいませんから。」

 

「ですが、私と愈史郎は違う。私達は無惨の呪いに縛られないがために、相手の鬼に植え付けられた呪いを発動させると言った勝利を得る手段が有る。鬼との戦いにおいて、私達は絶対的な利点を持っているのです。」

 

「成程……因みに愈史郎さんは、どうやって鬼の呪いを発動させるんだい?」

 

珠世の説明に納得した耀哉だったが、不意に気になって愈史郎に尋ねた。炭治郎も気になって、愈史郎に注目する。刺客が放たれた時に、愈史郎が直接戦っているところを見ていないからだ。

 

「簡単な事だ、造作も無い……ふっ!」

 

 

 

ズブブッ!

 

 

 

『っ!?』

 

愈史郎が突如、自身の頭に十指を頭を抱えるが如く揃えると、そのまま十指を頭に突き刺して脳を抉る。

 

「うえ――――っ!? 何してんだキッショオッ!!」

 

伊之助が驚愕して、そう叫声を上げる。愈史郎の蛮行に顔を青くする者や、双眸を見開いて驚愕する者もいた。

 

当の本人である愈史郎は、双眸を流血させながらしれっとした表情で解説を始めた。

 

「何って……俺流の鬼の倒し方を見せてるんだよ。

俺は鬼の頭をこうやって突き刺して脳味噌を乗っ取ってから、無惨の名前を口に出させて呪いを発動させる。それで鬼は自滅しておしまいって寸法だ。」

 

「愈史郎はこのやり方で、今日まで下弦級の鬼も含めて三十体以上もの鬼を返り討ちにしているんですよ。」

 

「珠世様、正確には三十七体です。」

 

『……』

 

愈史郎流の鬼の倒し方を知って、絶句から言葉が出ない炭治郎達。其処へ逸早く我に返った耀哉が、称賛の言葉を愈史郎に掛ける。

 

「日輪刀も無しに、鬼を倒すなんて凄い事だ。珠世さんと愈史郎さんはとても強いんだね。」

 

「……世辞なぞ言われても、何も出んぞ?」

 

耀哉に称賛された愈史郎はそう言ったが、表情はまんざらでも無かった。

 

「っ!……話が逸れてしまいましたね。続けさせて貰います。」

 

『っ!』

 

珠世の一言で、大広間の空気に再び緊張感が宿った。

 

「私は無惨の呪いを発動させて、当時の上弦の伍が死亡した事で勝利し、安堵しました……しかし、其処へ新たな上弦の鬼が襲撃して来たのです……っ!」

 

『っ!!』

 

「っ!!……それが……上弦の弐(童磨)だったんですね? 珠世さん。」

 

珠世が口にした新手の襲撃者を察して、そうしのぶは指摘した。珠世はしのぶの指摘に対して、ゆっくりと首を縦に振って肯定する。

 

「その通りです。ですが童磨はあの当時"上弦の陸"でした。」

 

『っ!?』

 

「上弦の……陸!?」

 

炭治郎が驚愕する中、珠世は新たな和紙を大箱から一枚取り出して広げて見せた。其処には一人の男性が描かれていた。

 

容貌は女性受けしそうな細身の美青年だ。

両手には蓮の花が描かれた金色の鉄扇を二つ持っている。

服装は血飛沫模様が描かれた赤と黒の服装。

髪型は白橡色の長髪に服装と同様、血を被った様な血飛沫模様が有る。

そして特徴的な虹色の瞳をしており、右眼の虹瞳に"陸"、左眼の虹瞳には"上弦"の文字が刻まれていた。

 

「こ、この男が上弦の弐(童磨)……っ!!」

 

「カナエ姉さんの……仇敵(かたき)っ!!」

 

「「……っ!」」

 

炭治郎としのぶは憤怒から、額に青筋を浮かべて睨み付ける。それはアオイとカナヲも同様であった。

 

――っ!?……何でだ?……童磨(コイツ)の顔を見てると胸がゾワゾワするぞ……?

 

伊之助は胸中に説明出来ない不快感を覚えて、胸に右手を置いた。幸い、猪の被り物の御蔭で悟られる事は無かった。

 

そんな五人を他所に、珠世は肖像画を掲げながら語るのを再開する。

 

「この当時の上弦の陸(童磨)は上弦の鬼で最弱の筈にも関わらず、その戦闘能力は最初に戦った当時の上弦の伍よりも遥かに上だった。力も速さも血鬼術の精度も比較するのも烏滸がましい程、高かった……っ!」

 

「っ!!……どんな血鬼術を、使うのでしょうか?」

 

しのぶが憤怒と憎悪を抑えながら、珠世に尋ねた。珠世は持っていた肖像画を仕舞うと、今度は一度に複数の丸められた和紙を手に取って畳の上に置くと、その内の一枚を愈史郎に渡して広げさせた。

 

『!』

 

上弦の陸(童磨)が使って来るのは、氷雪系の血鬼術です。特に注意しなければならないのは、この鉄扇から放たれる目視不可の霧状の凍てついた血です。これを吸い込んで肺に入ってしまうと、肺胞が壊死して呼吸が出来なくなってしまいます。」

 

『っ!?』

 

あからさま過ぎる程、対鬼殺隊仕様の血鬼術の存在を聞かされて、炭治郎達は驚愕する。其処から珠世は知りうる限りの上弦の弐(童磨)の血鬼術を絵画と共に解説を続けた。

 

生み出した蓮華状の氷から大量の冷気を生み出す血鬼術。

蓮葉状の氷から氷の蔓を伸ばして拘束する血鬼術。

煙氷霧を生み出し、対象を氷漬けにする血鬼術。

氷の巫女を二体生み出し、その吐息で広範囲を凍結させる血鬼術。

頭上や正面から氷柱が雨霰と降り注ぐ血鬼術。

対の鉄扇を使った氷の斬撃を伴う高速斬撃。

 

「……以上が、私が上弦の陸(童磨)と戦った時に見た血鬼術です。本気では無く私を甚振って楽しんでいたから、大技と言った物は無いと思います。それでも、もし私が人間だったら……少なくとも十回は、死んでいるでしょうね。」

 

『……』

 

珠世の説明を受けて、炭治郎達は沈痛した。上弦の弐(童磨)の恐ろしさや強さが、珠世の丁寧な解説で良く理解出来たからだ。すると耀哉が感嘆した様子で、珠世に尋ねた。

 

「しかし……良く珠世さんはその上弦の陸(童磨)から逃げられたね?」

 

「はい……実はこの時、戦いの途中で炎柱と名乗る鬼狩りが乱入して来たんです。」

 

『っ!!??』

 

珠世が言い放った内容に、炭治郎達は驚愕する。耀哉もまた驚いたのだが、直ぐに納得した様子で頷いた。

 

「ふむ……続けて貰えるかい?」

 

「はい……その炎柱が乱入して来た時に、私は上弦の陸(童磨)に血鬼術を仕掛けてから逃走しました。

追い詰められていた私は逃走する前にその炎柱と共闘して上弦の陸(童磨)を倒す、などと言った発想は出来ませんでしたし、たとえしたところで実現出来無かったでしょう……この様な結果だけを見れば、命を救われたと言っても過言では有りません。」

 

「成程……そして現在(いま)の状況を考えると、当代の炎柱は上弦の陸(童磨)に敗死した。

だけど上弦の伍の死亡も知った当時の第八十九代目産屋敷家当主は鬼殺隊の士気向上のために、それを利用した……と言う事になるね?」

 

『!!!』

 

「恐らく……そうなるかと。」

 

『……』

 

「ふんっ! 珠世様の功績を奪うとは、厚顔無恥な図々しい奴だな!!」

 

隠されていた真実に、炭治郎達は沈痛する。百十三年前に柱の手で上弦の鬼を倒していたと言う記録が実は真っ赤な偽りだと知らされれば、衝撃(ショック)も大きい。

一方の愈史郎は、珠世の功績が鬼殺隊に奪われた事実に激昂していた。

 

そんな思いを振り払って、しのぶは上弦の弐(童磨)について知るべく更に質問した。

 

「珠世さん。他に上弦の弐(童磨)に関しては何か覚えていませんか?」

 

「この血鬼術は全て厄介な物ばかりですが、上弦の陸(童磨)は他人の神経を逆撫でして冷静さを奪う事に関しては天才的でした。

尤も、あれは素で性格が悪いのだと思いますが……それから私に向かって『鬼じゃなかったら、喜んで食べていた。』と言っていて、どうやら女性を喰らう事に執念深いところが有ります。

確かに男性より女性の方が、栄養価が高いので理に適ってはいますけどね。」

 

「……チィッ!」

 

しのぶに質問されて珠世が語った内容に、愈史郎が苛立って舌打ちをしてから開口した。

 

「これでお互いの無惨一党の情報は出し切った訳だ。おい、余韻に浸っている暇は無いからな?……これから無惨一党にどう対抗するか、議題()を切り替えるぞ。」

 

『!』

 

「ちょっと待って下さい、愈史郎さんっ! その前に……珠世さん。良いですか?」

 

炭治郎が愈史郎を止める様に、横から嘴を挟んだ。

 

「何かしら? 炭治郎さん。」

 

「はい。何故、童磨は上弦の陸から弐に昇格出来たんですか?」

 

『!』

 

「……上弦の陸(童磨)は言っていました。『逃れ者の珠世を捕らえた暁には、褒美として無惨(あの方)に"入れ替えの血戦"をする許可を得る。』のだと。」

 

「"入れ替えの血戦"……?」

 

珠世の言葉に、炭治郎は首を傾げる。珠世は直ぐに続けた。

 

「何でも、下位の鬼が上位の鬼に一騎討ちを申し込む試合の事らしいです……上位の鬼が勝利すればそれまでですが、下位の鬼が上位の鬼に勝利出来ればその地位を奪えるそうです。」

 

「っ!?……じゃあ……上弦の参(猗窩座)は……。」

 

「はい。推測でしかありませんが、上弦の陸(童磨)上弦の弐(猗窩座)に"入れ替えの血戦"で勝利して、"弐"の数字を奪ったと考えられます。」

 

『!!!』

 

「……くっ!」

 

炭治郎は上弦の参(猗窩座)を相手に勝利した上弦の弐(童磨)の強さに戦慄し、悔しそうに唇を噛んだ。そんな炭治郎に、愈史郎が話し掛ける。

 

「炭治郎。悔しがっている暇は無いぞ? 無惨との決戦までにどれだけの上弦共を減らせるかが勝利に繋がる。これからそいつらを纏めて倒さなければならない事を、肝に銘じておけっ。」

 

「っ!……そうですね、愈史郎さん。」

 

愈史郎に喝破を掛けられて、炭治郎は直ぐに立ち直った。

 

「あの……僕からもちょっと良いかな?」

 

『!』

 

恐る恐る右手を上げて挙手したのは、今まで沈黙していた無一郎だった。耀哉達の視線が自身に向かったのを確認して、無一郎は珠世にある質問をした。

 

「えっと、珠世さん……最初に話してくれた縁壱って人にはさ、子供は居たんだよね?」

 

「っ!……えぇ。お子さんなら居たそうですよ。」

 

「っ!! そ、そう!……ほっ、良かった。」

 

『?』

 

『……』

 

無一郎の質問に珠世が答えると、望んでいた回答だったのか炭治郎は無一郎から安堵の匂いを感じ取った。

 

しかし、そんな無一郎の安堵も、束の間の儚いものでしか無かったと思い知らされる事になる。

 

「縁壱さんには"うた"さんと言う、奥さんがいました。その方との間に子供が出来たのですが、出産に備えて産婆を呼びに外出して帰って来た時に……鬼に襲われて二人とも亡くしています。」

 

「えっ!?」

 

『っ!?』

 

衝撃的な事実を聞かされた炭治郎達は、驚愕して双眸を見開かせた。無一郎に至っては、驚愕して岩石の如く固まってしまっている。

 

「珠世さん。だったら縁壱さんは……。」

 

「はい。縁壱さん御本人は『私が愛する女性は後にも先にも、うた一人だけだ。』と言っていましたから、恐らく別の女性との間に子を設けたとは考え難い話です。

この一件が鬼狩りになる事を縁壱さんに決意させた程ですから、よっぽど大切で、深く愛していたのだと思います。」

 

『っ!!』

 

縁壱が鬼殺隊へ入隊した理由が自分達と然程変わらない事に、一瞬だけ親近感が湧いたがそれも直ぐに霧散した。無一郎に至ってはそれどころでは無く、ある一考のせいで今にも失神しそうな程に青褪めていた。

 

「……時透君、大丈夫っ!?」

 

そんな無一郎の様子を見て、炭治郎が心配そうに声を掛けた。其処へ珠世が罪悪感を抱きながら、ある報告を行った。

 

「黒死牟も鬼狩りの道へ進む前に、家も妻子も捨てて来たそうです。恐らく……そう言う事かと……。」

 

『……っ!!』

 

珠世が口籠る意図を察せない者は、大広間には居なかった。すると無一郎が震えながら、ボソボソと語り始めた。

 

「僕は……僕()は四年前、あまね様に『『始まりの呼吸の剣士』の子孫の力を貸して欲しい。』って言われたのが切っ掛けで、鬼狩りを始めたんだ。」

 

『!』

 

「そ、それが……蓋を開けてみれば……鬼殺隊史上、最低最悪の裏切り者の子孫だったなんて……っ……っ!」

 

『……っ。』

 

無一郎は両手で頭を抱えながら、倒れ込む様に身体を畳の上に倒した。

暫くして直ぐに身体の全身を震わせながら、耀哉に向かって平伏する。

 

「御館……様っ……僕の先祖が、取り返しの付かない大罪を犯してしまい、誠に申し訳御座いません……っ!……罪を償うために、如何ある処分も甘んじて受ける心算です……っ!」

 

『!!』

 

「無一郎……。」

 

無一郎はそう言って耀哉に向かって深く謝罪すると、右眼から一筋の涙を流す。その涙は悔恨で染まっていた。

 

「……」

 

謝罪された耀哉はゆっくりと立ち上がると、真っ直ぐ無一郎の下へ歩みを進めた。

無一郎の眼前まで進むと、腰を下ろして右手を優しく無一郎の頭に乗せた。

 

「そんなに自分を責めては駄目だ。無一郎、君が罪の意識に苛まれる必要なんて無い。」

 

「っ!」

 

無一郎は耀哉の言葉で頭を上げると、耀哉はそのまま撫でながら左頬に右手を添えた。

 

「確かに君の血筋を当てにした、その事実は認めよう。だけど先祖が犯した罪を、子孫である君が贖罪する必要は無いんだ。良いね? 無一郎。」

 

「っ!……っ……あっ……ありがとう……御座いますっ……っ!!」

 

耀哉の優しい言葉を聞いて、無一郎は嗚咽を漏らし溢れ出る涙を拭きながら感謝の言葉を紡いだ。

 

――良かったぁ……。

 

炭治郎は無一郎の様子を見て、安堵していた。

 

「ふん……。」

 

状況を見守っていた愈史郎もまた、鼻を鳴らしながら安堵した表情を見せる。

 

「今度は俺から言いたい事、聞きたい事が幾つか有る……先ず一つ、炭治郎達を守って上弦の参(猗窩座)に殺された煉獄杏寿郎って柱の実力はどれくらいのものだったんだ?」

 

『っ!』

 

愈史郎の質問を聞いて、自然と耀哉達の意識が愈史郎一人に集中する。そんな視線に怯まず、愈史郎は続けた。

 

「具体的である必要は無いんだ。大体で構わんから、誰か分からないか?」

 

『……』

 

「……絶対勝てるって派手に断言出来るのは、其処に居る悲鳴嶼さんくらいだろうな。」

 

『!』

 

愈史郎の問いに対して回答したのは、天元だった。天元は愈史郎が言葉を返す前に、独言の様に呟きながら続けた。

 

「そんで、五分五分って言えるのは……冨岡、不死川、伊黒の三人くらいだな。」

 

「……見た目に似合わず、謙虚な事だな? お前の名前が入っていないが?」

 

「はっ! 俺程度が、あの煉獄と互角な訳ねぇだろ?」

 

天元の回答を聞いて愈史郎が茶化す様に言うと、天元が自嘲する様に両肩を竦めながら答えた。

愈史郎は予想外の天元の言葉に少し驚いたが、関心を持ったのは別の事だった。

 

「現柱の実力は分かった……はっきり言おう。お前らは上弦共に遭遇しても、一対一(サシ)での戦闘は絶対にするな。」

 

『!!』

 

「理由は分かるだろう? 上弦共と一対一(サシ)で殺り合えば、お前らが確実に負けて死ぬからだ。最低でも二対一に持ち込めなければ、お前らに勝機が有るとはとても思えん。」

 

愈史郎は臆する事無く堂々と、行冥達が単独では上弦の鬼に勝てないと冷酷に判断して戦闘は避ける様に警告した。

 

「……俺達に背を向けて逃げろと言うのか、愈史郎?」

 

沈黙していた義勇が愈史郎に尋ねる。しかしその口調には威圧感と怒りが滲み出ていた。

 

「ああ、そうだ。一般隊士(下っ端)は元より一般人(カタギ)も見殺しにしてでも、お前ら柱は生き延びる事を最優先事項にするんだ。」

 

『……っ!!』

 

愈史郎は其処まで言うと、浅く頭を下げた。そんな愈史郎の態度に虚を突かれて、咄嗟に反論する機会を行冥達は失ってしまう。愈史郎は更に話し続けた。

 

「お前らに酷な事を言って、悪いとは思っている。だが、上弦共を相手に一般隊士(下っ端)なんて、それこそ千人ぶつけても勝率なんて無いに等しいっ。」

 

「上弦共は"量は質を凌駕する"なんて常識が通じる相手じゃあないんだ。猗窩座(上弦の参)以下の肆・伍・陸も本当に猗窩座(そいつ)より弱いのか、それも分からんのが現状だ。」

 

「だが俺の推測では柱級の実力者に限り、二人か三人もぶつければ、勝機も生まれて来る。だからもっと自分の命の価値を、良く自覚する事だっ。」

 

『……』

 

愈史郎が義勇の言葉に怯む事無く、自身の持論を語り続けた。時折、先刻の一方的な暴言からの反省からか、謝罪の言葉も織り交ぜながら穏やかに語ったためか、反発を覚える者は居なかった。

 

「……愈史郎君はそう言うけど、私……眼前で誰かが命を落としそうになってたら、やっぱり見捨てる事なんて出来ないよ……!」

 

『!』

 

蜜璃が愈史郎の持論に対して、悔しそうにしながらもそう言って反論する。しかし、愈史郎もまた頭を掻きながら、蜜璃に説得する様に話し始めた。

 

「その高潔な考えは尊重するがな、甘露寺。たとえお前が自分の命を引き換えに百人救えたとしても、それは一時的な救済措置でしか無いんだ。

その百人の中に炭治郎みたいな存在が居るならまだ良いが、もし居なかったらお前は犬死に等しい結末で終わる。無惨を倒す日が、また遠退いてしまうんだぞ。」

 

「っ!……でもっ!……でもぉっ!」

 

愈史郎の持論に反論する術を持たないのか、蜜璃は涙を目元に浮かべながら愈史郎を睨み付ける。

 

「愈史郎、貴様……っ。」

 

「何だ、伊黒。異論が有るなら、聞いてやって良いぞ。俺を納得させられる異論が有るならな。」

 

蜜璃を泣かせたからか、小芭内が苛立ちを隠さず青筋を立て殺意を込めて愈史郎を睨み付ける。

愈史郎も小芭内の殺意を感じ取って、負けじと小芭内を睨み付けた。

 

「……みゃおぅ。」

 

『!』

 

そんな一触即発の大広間の空気に耐え兼ねて、茶々丸が一度鳴いてからゴロゴロと喉を鳴らしながら、身体を蜜璃に擦り寄せて慰める様な行動に出ていた。

 

「茶々丸君……。」

 

「其処までにして貰いたい。」

 

「っ!……悲鳴嶼か。」

 

蜜璃が落ち着きを取り戻したのを見計らって、愈史郎に意見して来たのは行冥だった。行冥はそのまま蜜璃に代わって、愈史郎と言葉を交わし始める。

 

「お前の意見も尤もなのだろうが、私は甘露寺を支持する。少なくとも私は、人助けをする前に各々に助けるに値するかの有無を計算し、その価値を算盤で弾く様な器用な真似は出来ないからだ。」

 

『っ!』

 

「煉獄が無限列車で炭治郎達のために、その命を燃やし尽くして守り抜いてから死んで逝った。あの場に煉獄では無い他の柱が居たとしても、きっと同じ事をしただろう。

若い芽は摘ませない。

命を賭して他人や後輩を守り抜くのは、柱として当然の責務。強さだけではない。それらを無意識に出来る者だからこそ、柱となる資格が有るのだ。」

 

行冥の持つ持論に、大広間に居る全員が口を挟まず耳を傾けた。行冥が語り終えると、はぁと溜め息を吐く声が聞こえた。

 

「分かった。俺の意見を押し付ける心算は無い。だが、頭に入れておけ。一般隊士(下っ端)共と違って、柱の代替なんてそうは居ない。

柱が少なければ、それだけ無惨を倒せる確率が減る。柱が欠ければ欠けた分だけ、残された奴の負担が増えるんだ。」

 

「今日まで百十三年間、いや二百八年間か……とにかく、上弦共を一匹も狩れずに返り討ちに遭っている(お前ら)では、どれだけ立派な事を言ってもはっきり言って説得力が無い。力無き崇高な想いや正義など、悪にも劣ると言う事実を良く肝に銘じておけ。」

 

『……』

 

愈史郎の正論に対してぐうの音も出ないのか、今度は行冥すら何も言い返せず、大広間を沈黙が支配してしまう。

其処へ耀哉が大広間の雰囲気に耐え兼ねて、開口した。

 

「……普通に考えれば、柱の君達が一般隊士(子供)達を鍛え上げるべきだろう。常識的に考えれば、それが一番の近道だからね。

だが多忙な柱に一般隊士(子供)達を鍛えるなんて、そんな贅沢な時間は無い。

只でさえ警備担当地区の管轄が広大な上に自身の鍛錬、一般隊士(子供)達に出来ない任務の肩代わりとやって貰わなければならない仕事が多過ぎるからだ。」

 

「御館様。それから、鬼の情報収集も(俺達)の仕事です。」

 

「そんな仕事、今まで(お前ら)は一度も遂行出来ていないだろうが! 

どさくさに紛れてしてもいない、やった事も無い仕事をしているなどと……先刻(さっき)まで柱の自覚が足りず、大局も見れず感情のままに行動していた未熟者共が、生洒々(いけしゃあしゃあ)と寝惚けた事を抜かすな。」

 

『……っ。』

 

耀哉に補足する様に進言した天元に、愈史郎が激昂して叱責した内容に、耀哉達は再び口を閉ざさるを得なかった。鬼殺隊の情けない現状を、改めて責められては反論する言葉も無かった。

 

「……お前が言っている事は一理有る。しかし、これも一般隊士(若手)の連中が次々と死に続け、死に過ぎているから起きている問題だ。

一般隊士(若手)が使えないのだからその分、柱が仕事をやらざるを得なくなる。」

 

「育手の連中も、もっと見込みの有る奴らを育ててくれれば良いんだがなァ。はっきり言って、見る目が無さ過ぎる。」

 

「時間さえくれりゃ、俺が派手に一般隊士(ヒヨッコ)共を性根から鍛え直してやるんだがな。

まぁこんな事を言うと、「無いモン強請りすんな。」って何処ぞの口の悪い誰かさんに地味に言われるかもしれねぇけどよ。」

 

次々と愚痴が混ざった意見が、大広間に飛び交って行く。それをしっかり耳にしてから、愈史郎がぼそっと呟いた。

 

「……実力の底上げにはならないが、一般隊士(下っ端)共の生存率と討伐成功率を上げる方法なら、俺から一つ提案が有る。」

 

『!!』

 

「興味深い話だね? 愈史郎さん。その夢の様な提案、早速教えて貰えるだろうか?」

 

耀哉が無意識に身体を少し前のめりにする程、愈史郎の議題に食い付いて来た。隊士を我が子以上に愛情を注いでいる耀哉は、普段から隊士の訃報に心を痛めている。この愈史郎の提案に、興味を抱かない訳が無かった。

 

「言う前に、俺から一つ問題だ。人間の二本の腕と十本の指は何のために在ると思う?」

 

『?』

 

愈史郎の唐突な質問に、耀哉達の脳裏に疑問符が思い浮かんだ。すると沈黙していた、厳密には閉口を厳にしのぶから命じられていた伊之助が愈史郎の質問に答えた。

 

「んなもん決まってるだろう! 獲物を取ったり飯を食うためだ!」

 

「正しいが間違ってるぞ。と言うか、お前はもっと箸を使い熟す訓練をしろ!」

 

愈史郎は伊之助の回答を呆れながら一蹴する。

 

――危な……『美味しい御飯を食べるために。』とか思わず言いそうになっちゃった……。

 

蜜璃が内心、伊之助と類似した回答を口にしそうになったため思わず両手で口を押さえる。

そんな蜜璃に気に掛けず、今度は天元が答えた。

 

「だったら一つしかねぇだろ? そいつぁな?……愛する嫁の手を握って離さねぇためさ。」

 

「そんな甘酸っぱい甘美な答えは求めていない!……頼むから、巫山戯るのは見た目だけにしてくれ。」

 

天元の回答に思わず頭痛を覚えながら、愈史郎は伊之助の回答と同様に即座に一蹴する。

 

――宇髄さん。奥さんが三人いるんだっけ? とっても大切に思っているんだなぁ……。

 

天元の発言と同時に愛情の匂いを察した炭治郎は、三人の妻への愛情の深さに感心しながら愈史郎に回答する。

 

「愈史郎さん、無難な答えですみませんけど……道具を使うとか、そう言う時のためじゃないんですか?」

 

「っ!……やっと真面な答えが来たな。炭治郎、ありがとう。」

 

愈史郎は炭治郎の回答に、思わず感謝の言葉を口にした。愈史郎は更に続ける。

 

「炭治郎が言った回答が概ね正解だ。俺が求めた正しい答えは『道具を生み出して使い熟すため。』だ。」

 

「つ、つまり……?」

 

「道具の最大の利点はな……『使い方を学べば、誰にでも扱う事が出来る。』と言う事だ。」

 

『!!』

 

愈史郎がそう言い終わると、懐から紙の束を取り出して炭治郎達に配布する。

 

「こいつはもう知っての通り、俺の血鬼術『紙眼』だ。お前らは勿論だが、先ずは一般隊士(下っ端)共にも全員に行き渡る様に配布する。」

 

愈史郎の思惑とは他所に、配布された『紙眼』を、天元達は各々で着けたり外したりしながら、性能を確認していた。

 

「成程、『紙眼(こいつ)』を着けている者同士は互いに見える訳か。」

 

「当たり前だ、同士討ちなんぞされてたまるか……余程の馬鹿でなければ、この『紙眼()』が如何に今後の戦いに便利か、それが分かる筈だ。」

 

実弥が呟いた事に反応して回答した後、愈史郎が挑発する様にそう言ってみせる。そして直ぐ様、反応が帰って来た。

 

「俺と違って他の奴らも夜目が利くってだけでも、戦い易さに天と地ぐらいの派手な違いが有るな。」

 

「この人間には無い鬼の超視力を使えば、索敵範囲も大きく幅を広げられるだろう。」

 

「姿を消して鬼を撹乱させたり、気付かれずに接近して首を刎ねる事も可能かもしれん。尤も、連中にそんな技量があれば良いが。」

 

「……」

 

小芭内が口にした言葉を最後に、全員が『紙眼』の性能確認を終了していた。それを見計らって、耀哉が愈史郎に話し掛けた。

 

「愈史郎さんの『紙眼()』は、確かに素晴らしい。数多の可能性が秘められている事は間違いない……しかし、道具の利点である『使い方を学べば、誰にでも扱う事が出来る。』は同時に弱点にもなる。鬼に奪われた時の対策は有るかい?」

 

『!!』

 

炭治郎達がハッと息を呑んで、耀哉の指摘に反応する。

 

「安心しろ、抜かりは無い。」

 

炭治郎達の注目が行く前に、愈史郎が不敵に笑って断言した。

 

更に愈史郎は断言した事に嘘偽りは無いと証明する様に、一枚の『紙眼』を取り出して空中に放つ。

 

『紙眼』が空中でゆらゆら舞う中、愈史郎がパチンと指を鳴らす。すると『紙眼』に描かれた眼の紋様が光り輝く。

 

 

 

ボン!

 

 

 

『!?』

 

赤く光り輝き出した『紙眼』は突如爆発を起こしその結果、粉々になって四散した。

 

「どうだ? これで分かっただろう? もし無惨の鬼共が俺の『紙眼()』を奪って身体に着けたらその瞬間、俺が遠隔操作で爆発させてやる。殺せはしないが、頭を吹き飛ばすくらい訳は無い。」

 

『……』

 

「……うん、安心したよ。疑って悪かったね、愈史郎さん。」

 

懸念事項が消えたのは良かったが、何時でも愈史郎に生殺与奪の権利を握られてしまった様な感覚に襲われ、咄嗟に言葉が出なかった。

 

そんな耀哉達を気にも掛けず、愈史郎は更に別の『紙眼』を懐から取り出した。

 

「最初に配布した奴は、はっきり言って一般隊士(下っ端)共用の常備品だ。柱のお前らには、この特化型の『紙眼()』を試験運用として使って貰いたい……それがこの三枚の方になる。早速だが、説明させて貰う。」

 

『!』

 

愈史郎が配布しながら説明したのは、通常の白の『紙眼』とは異なる三色の黒・灰・黄色の『紙眼』だった。

 

「愈史郎さん。黒色は私と行冥が付けている物だけど、他の二色の『紙眼()』はどんな機能に特化しているのかな?」

 

「灰色の方は透明化と隠密特化の『紙眼・(いん)』。そして黄色の方は『紙眼・(でん)』だ。これを『耳』と呼称する。それから額や目元じゃなくて、耳に着ける。こんな感じにな。」

 

愈史郎はそう説明してから、片耳に貼り付けた。それを見ていた炭治郎達は、愈史郎を真似て装着する。

 

「炭治郎。一旦退室して、俺達と耳目の届かないところまで移動してくれないか。産屋敷本邸(やしき)の端まで行っても良いぞ。」

 

「離れれば良いんですか? その後は何をすれば?」

 

「喋る前に人差し指と中指をこうやって揃えて伸ばしてから、『紙眼・伝()』に触れて見てくれ。そうだな……俺の名前を呼んでくれ。その後は指を離して良いぞ。」

 

「分かりました。」

 

炭治郎は愈史郎を頼まれた通り、大広間から退室した。炭治郎は一礼してから退室して屋敷の端まで移動する。それを目視で確認出来る様に、愈史郎が茶々丸に『紙眼』を着用させて炭治郎に同行させた。

 

「耀哉、それから悲鳴嶼。悪いが、『紙眼・伝()』を着けている間は『紙眼・視()』を外せ。理由は後で説明するから、今は聞くな。」

 

「っ?」

 

「分かったよ、愈史郎さん。」

 

耀哉と行冥は、愈史郎に言われた通りに行った。着用していた『紙眼・伝()』をそのままに、『紙眼・視()』を外して再び暗黒世界の住人に戻った。

 

愈史郎は耀哉と行冥が自身の望んだ行動を取ったのを確認してから、双眸を閉じて炭治郎と茶々丸を確認した。これは炭治郎と茶々丸が現在、何処まで産屋敷本邸の邸内を移動したかを確認するためだ。

 

「……良し。」

 

茶々丸と視界同調して炭治郎が産屋敷本邸の端に移動したのを確認した頃に、炭治郎は左手の人差し指と中指の日本を伸ばして黄色の『紙眼・伝』に触れた。

 

「(愈史郎さん?)」

 

『!?』

 

「(……聞こえたよ、炭治郎っ。)」

 

『!?』

 

炭治郎達、全員が驚愕する。まるで声が脳内に直接響いている様な感覚に陥ったからだ。尤も、愈史郎だけは気にした様子も無く、炭治郎に話し掛け続けた。

 

「(炭治郎、もう茶々丸と一緒に戻って来て良いぞ。)」

 

「(……分かりました。)」

 

そして間も無く、炭治郎が茶々丸と一緒に大広間へ入室して来た。

 

「もう説明しなくても分かるよな? この『紙眼・伝()』の性能が。」

 

「……離れた所でも、会話が可能って事だね?」

 

「そうだ。触れない時に聞いて、触れる時に話す。これだけ覚えて置けば良い。」

 

「すげぇな……鎹烏要らずじゃねぇか。」

 

愈史郎の解説に、天元が感嘆した様子で称賛した。それは言葉にしないが炭治郎達も同様の思いであった。そんな炭治郎達に、愈史郎が慌てて一点だけ説明を付け加えた。

 

「それは過大評価と言うものだ。言い忘れていたが、通話可能距離は凡そ半径『十町(一km)』ってところだぞ。それ以上離れてしまうと通話は不可能だから、忘れるなよ。」

 

『……』

 

愈史郎の『紙眼・伝』の性能は、現代でいう『無線』や『電話』に等しいものだった。その性能の凄さに、炭治郎達は驚嘆して言葉を失った。

 

大正時代の日本と言えば、まだ電話が普及され始めて久しい。

 

米国(アメリカ合衆国)のグラハム・ベルが電話の発明者とされているが、それは勘違いである。最初に電話をこの世に生み出した電話の父とは、一八五四年(明治十三年)に電話の装置を開発した伊国(イタリア)のアントニオ・メウッチだ。

 

日本では一八六九年(明治二年)に東京~横浜間の電信線架設工事に着手し、一八九〇年(明治二十三年)に東京~横浜間で日本初の電話サービスが開通された。

 

しかしその電話料金は非常に高額で、月間基本料金は四十円。当時の一円=五千六百円であるため、現代の金額に換算すると二十二万円以上になった。

 

そのため加入者は非常に少なく、当初の加入数は産屋敷家を含めて東京で百五十五世帯、横浜で四十二世帯の僅か百九十七世帯と、二百世帯に満たない数だった。

 

その後、警察と軍の要望で電話回線網が急激に普及し、一八九七年(明治三十年)以降に電話加入権と呼ばれる電話加入制度が始まる。

一九〇〇年(明治三十三年)にこれまで電信局・電話局内などといった電話所にしか無かった公衆電話が初めて東京の街頭に登場し、日本全国の登録者数が十万人を超えた。

 

しかし、電話が普及しても相変わらず電話の月間基本料金が低落するどころか、逆に高騰するという意味不明な現象が起こる。明治期末期には月間基本料金が六十六円と言う金額になり、この時点の貨幣価値は一円=四千二百円となっていたがそれでも三万円以上の値上がりとなっていた。

 

明治末期の銀行員の初任給が四十円。五円で人としての必要最低限の生活、十円で人並みの生活を送れた当時の金銭事情の事を考えれば、如何に電話の月間基本料金が高額だったかが、良く理解出来るだろう。

 

そんな大正期の時世で、東京~横浜間の二十七分の一程度の距離程度とはいえ、たった一枚の紙で金も掛からず設備の設置も要らず、遠距離通話が可能というのは有り得ない現象だからである。

 

「……解せねぇなァ。」

 

『!!』

 

愈史郎が提示した高性能な特化型の『紙眼』に対して、実弥が怪訝そうな表情で愈史郎を睨み付けた。

思わぬ反応を示され、愈史郎は不快感を隠す事無く額に青筋を立てて実弥を睨み付けた。

 

「なんだ? 文句が有るなら言って見ろ。」

 

「あぁ、有るぜッ。なんで、()達に『色付き』の試験運用なんてさせやがんだァ? 最初っから全員に配布すりゃ良い話じゃねぇかァ……テメェ、何考えてやがる?」

 

「っ!……あぁ、そんな事か。」

 

実弥が自身を怪訝そうな表情で睨み付けていた理由が分かったのか、あっさりと力を抜いて肩を竦めた。

 

「何ィ?」

 

「それにしても『色付き』か……馬鹿にしては面白い呼称を思い浮かんだものだな。」

 

「んだとコラァ!?」

 

毒気が抜かれた様に気を抜いた愈史郎に、実弥は苛立ちながら更に強く愈史郎を睨み付け、侮辱されて激昂した。

そんな実弥も眼中に無い愈史郎は、独言を吐く様にその理由を語り始めた。

 

「何でも都合良く、事は運ばないものだ。この特化型の……『色付き』だがな? 機能だけなら通常型の二倍以上は有るんだ。だが二枚以上同時に身体に装着すると、両方の効果が相殺されて無効化してしまう。つまり、只の紙屑になってしまうんだよ。」

 

『!?』

 

思わぬ『色付き』の弱点が露見した事に、炭治郎達は驚愕した。義勇も驚いたが、納得した様に一人で呟いた。

 

「成程……つまり、この三枚の『色付き』を使おうと思えば、状況に応じて着脱を繰り返さなければならないと言う訳か……。」

 

「そう言う事だ。」

 

義勇の独言に、愈史郎が肯定する。そして行冥が続けて愈史郎が言いたい結論を口にした。

 

「南無、つまり……汎用性に富み、たった一枚で全ての機能が使える通常型に比べて、機能こそ優れているが臨機応変に使い熟さなければならない特化型の『色付き』とでは、初見で……しかも戦闘中に着脱を繰り返し行うなど通常の剣士では至難の業だと言いたい訳だな?」

 

「そうだ。戦闘補助のための道具が原因で、人死にが出ては敵わんからな。」

 

行冥の分析した結論に、愈史郎は大いに同意した。

 

「事情は把握したよ、愈史郎さん。では、この『色付き』だけれど……柱と腕利きの剣士(子供)達にのみ、試験運用として試そう。」

 

「ああ、そうしてくれ。」

 

熟考の結果、愈史郎の血鬼術で編み出した『紙眼』は通常型を一般隊士に、特化型の『色付き』は柱を筆頭に準柱級の実力が有る剣士にのみ、試験運用を名目として配布される事となった。

尚、愈史郎が遠隔で爆破出来る事は、非公表となった。

 

『紙眼』の議題が終了すると、愈史郎は今度は別の議題を話し始めた。

 

「実はな、『紙眼()』以外にもう一つ開発した道具が在る。柱級、準柱級の剣士には不要な道具かもしれないがな……一つだけ、珠世様の御提案で武器を試作して来た。」

 

『っ!?』

 

愈史郎が言い放った一言に、炭治郎達は驚愕しながら珠世に視線を移す。特に耀哉は興味津々と言った様子で、珠世を見詰める。

 

基本的に鬼が死ぬ、殺す方法は太陽光か日輪刀の二つの他に無い。特殊条件としてしのぶの毒殺と言う、新たな第三の方法の他に、無惨の呪いを発動させると言う第四の方法も有るが特殊過ぎて現実的では無い。

 

過去に武器開発を考えた者は何人も居たのだが、やはり日輪刀で鬼の斬首と言う基本的な結論に戻ってしまうのである。

 

「武器と言っても、鬼を殺せる武器ではありません。どちらかと言えば、しのぶさんを参考に……結果的には、宇髄さんの派生と言うべきでしょうか。」

 

「俺の派生だぁ……っ?」

 

「っ!……私を参考に?」

 

天元が珠世の発言に驚き、しのぶは無意識に顔を顰めた。天元は珠世の発言の意図が理解出来ず、しのぶもまた参考にされる理由が理解出来なかった。

 

しのぶが毒の開発に着手したのは、自身の非力さから来る苦肉の策である。叶うならば、他の隊士と同様に戦いたいのだ。しのぶが珠世の発言に不愉快になるのも、無理は無かった。

 

そんな天元としのぶを他所に、珠世が愈史郎から二つの小箱を受け取ってその中身を取り出した。

 

「こちらは、愈史郎が作ってくれた"吹き矢"とそれを飛ばすための"吹き矢筒"です。」

 

『っ!!』

 

珠世の紹介を受けて、炭治郎達の視線は自然と吹き矢道具二点に移る。

 

吹き矢筒の長さは一尺(三十センチ)程で、吹き矢は先端が鋭く尖っている。凝視すると、吹き矢は簡単に抜け無い様に返しの細工がされていた。

 

「!」

 

耀哉は珠世の意図に気付いたのか、楽しそうに吹き矢筒と吹き矢を持つ珠世に質問する。

 

「珠世さん。この吹き矢を作ってくれた理由は剣士(子供)達の呼吸術を活かすためかな?」

 

『!!』

 

「御明察の通りです。」

 

珠世は耀哉を称賛する様にそう言うと、道具二点の説明を始めた。

 

「この吹き矢筒は飛距離を犠牲にして、携帯性を優先して短く作ってあります。それでも隊士の皆さんが吹けば、十間(五十m)は飛ぶでしょう。

吹き矢の方には返しがついているので、撃ち込まれた鬼が抜くのに時間が掛かる様に作りました。と言っても一、二秒の誤差だと思いますが……。」

 

「待って欲しい。珠世さん、そんな事をするより、鬼の頸を斬った方が早いんじゃない? 狙ったところで、躱されるだけだし……。」

 

珠世の説明が終わるのを見計らって、無一郎が質問する。珠世は直ぐに返答を始めた。

 

「これは鬼を狙撃するための物では無く……在る程度の距離まで近付いて撃ち込む事を想定して作っています。狙撃するためなら、もっと長大な吹き矢筒が必要になりますから。」

 

「となると……胡蝶みたいに鬼を毒殺するのでは無く、宇髄みたいに動きを止める、或いは鈍化させるための小道具と言う訳だな?」

 

無一郎の次に小芭内が珠世に指摘すると、珠世もまた直ぐに返答を始める。

 

「仰る通りです。この吹き矢は、鬼を怯ませ動きを止めるための物です。

柱の様に、実力が有る人にこんな小手先の道具は必要有りません。

それ以外の剣士達が片手で撃ち、動きを止めている間に鬼の頸を斬る手助けになればと思って開発しました。」

 

「っ!!……ですが、珠世さん。毒の扱いは素人には難しいのではありませんか? 藤の花の毒は、人間にとっても有害なのですよ?」

 

「そうだぜ。ド素人が毒なんか使えば、却って思わぬ災難に遭っちまう可能性も有る。」

 

薬毒の専門家(スペシャリスト)であるしのぶと天元が、自身の抱く懸念を珠世に伝えた。

しかし、珠世はその懸念も想定済みだったのか、微笑みながら直ぐに二人に返答した。

 

「吹き矢の先端にしか塗りませんから、問題は無いでしょう。念のために、解毒薬の方も作っておきましたから。」

 

「それに毒とは言っても、所詮は痺れ毒だ。大袈裟な事にはならんだろう……ふっ!」

 

『っ!?』

 

愈史郎が突然、一枚の和紙を床の間に向かって投げ付けると同時に吹き矢筒を口に加えて中に装備された吹き矢を射出させた。

 

吹き矢は勢い良く飛んで行き、和紙に突き刺さってそのまま壁に固定された。

愈史郎が投げた和紙は無惨の肖像画であり、吹き矢は見事に無惨の額に命中していた。

 

「おおっ!……これは狙っても当たらないところに当たったなぁ。」

 

愈史郎はそう言って機嫌を良くしながら、固定された無惨の肖像画を見る。それから、炭治郎達に話し掛けた。

 

「どうだ? 威力も速さも申し分無いだろう? これに呼吸術が加われば間違い無く鬼には躱せず命中する筈だ。」

 

自負心から自信を持って愈史郎がそう言うと、耀哉が同意する様に答えた。

 

「確かにそうだね……珠世さん、愈史郎さん。吹き矢の件はありがとう。実物を目の当たりにして、私は目から鱗が出る思いだよ。

これ程、呼吸術を活かした手段は存在しないと言うのに、どうして思い付かなかったんだろうね?」

 

愈史郎の試射の結果を見て、確信を得た耀哉が珠世と愈史郎に感謝の言葉を伝えた。

 

「……お気になさらず。どんな発想でも気付けば数秒で思い付く物であっても、気付かなければ千年経とうと気付かないものです。……これで少しでも、柱の皆さんの御負担が減ってくれれば良いのですが。」

 

「珠世様が仰る通り……と言いたいところだが、耀哉。今度はこちらの頼みを聞いて貰えるか?」

 

『!』

 

謙遜した珠世に対して、愈史郎が耀哉に頼み事を始めた。

 

「私に出来る事が有るなら、喜んでさせて貰うよ。」

 

「別に大した事を頼む訳じゃない。」

 

 

ガシャン!

 

 

愈史郎はそう言ってから、小さい方の箱を手に取って畳の上に置いた。箱の中身がぶつかり合って音を立てる。

愈史郎は鳴った音を気にする事無く、箱の蓋を開けた。

 

「っ!……それは……っ!」

 

「"採血の短刀"?」

 

『?』

 

炭治郎としのぶが箱の中身を見て反応した。箱の中には、百本以上の採血の短刀がびっしりと入っていたのだ。

 

「禰豆子を人間に戻すために、炭治郎は倒した鬼の血を採血して俺達に提供している……だがこいつ一人だと限界が有るし、研究が延々と進まないんだよ。」

 

「南無……つまるところ、私達も炭治郎と同様……倒した鬼から血を採血して提供しろと言うのだな?」

 

「その通りだ。雑魚鬼共の血でも構わんが、可能なら上弦共の血が一番欲しいところだ。」

 

愈史郎と行冥の話し合いを聞いて、耀哉が回答した。

 

「その道具で血を採血出来るんだね?……見たところ、頸を斬った後に投げて刺す物かな?」

 

「そうだ……別にしたくない奴はしなくても構わん。炭治郎に協力したいと言う奴だけ手伝ってくれ。」

 

「本当に刺しただけで、採血など出来るのか?」

 

『!』

 

小芭内が少し疑問を思いながら、確認のために愈史郎に質問した。するとその言葉に反応したのは、愈史郎では無く別の人物だった。

 

「……不死川?」

 

スッと立ち上がった実弥に、義勇が気になって声を掛けた。しかし、実弥は義勇に反応せず真っ直ぐ採血の短刀が入っている箱に向かった。

 

それから実弥は腰を下ろして採血の短刀に右手を伸ばすと、六本程度の採血の短刀を鷲掴みにして手に持った。

 

そして、そのまま自身の左腕に向かって突き刺したのである。

 

『!?』

 

『なっ!?』

 

『ちょっ!?……っ?!』

 

実弥の唐突な行動に炭治郎達が驚愕する中、実弥は気にする様子も無かった。採血の短刀に自身の稀血が容量一杯になるのを見てから、ぶっきらぼうに愈史郎に突き出した。

 

「ちゃんと血は採れるみてぇじゃねぇかァ……ほらよ。」

 

「……」

 

採血の短刀を投げると、青筋を立てた愈史郎は一つも落とさず受け取る。それから愈史郎の怒りが爆発した。

 

「……こぉらぁっ!? 自分に刺す奴があるかぁ!?」

 

愈史郎がそう言って激昂すると、今度は医療箱を持って来て実弥の左腕の治療を始めた。

 

「……珠世さん、鬼の血の研究は無惨を倒す上でも役に立つだろうか?」

 

「言うまでも無く。」

 

珠世が即答するのを見て、耀哉は刹那の間のみを置いて即決した。

 

「吹き矢道具と共にこの採血の短刀も、『隠』の技術班に送って作らせる。剣士(子供)達には血の採取も行う様に指令を打診しておくよ。」

 

「っ!」

 

「御願いします、耀哉さん」

 

「製造方法を載せた設計図も有るから、そいつもついでに送っておいてくれ。」

 

「……っ。」

 

炭治郎は禰豆子を人間に戻す事は、自分にしか出来ないと思っていた。自惚れからそう思ったのではなく、誰も協力してくれるとは思わなかったからだ。寧ろ不可能だと馬鹿にされ、嘲笑される覚悟だった。

 

それが今ではどうだろう。珠世と愈史郎と出会い、禰豆子を人間に戻す中核の役割を担ってくれている。そして最愛の恋人であるしのぶが協力を申し出て、今では鬼殺隊全体で協力体制を整えてくれた。

 

炭治郎の胸中で、熱が上昇して行くのが分かった。下手すると、目頭まで熱くなってしまいそうである。

炭治郎はそれを隠す様に、深く耀哉に向かって頭を下げた。

 

「御館様、何から何までありがとうございます……本当に。」

 

「良いんだよ、炭治郎。寧ろ今の今まで鬼殺隊が君に協力しなくて、悪かったね。」

 

耀哉は炭治郎に、今まで鬼殺隊が非協力的だった事に謝罪する。炭治郎はそんな謝罪の言葉を耳にして、一度頭を上げてから再び平伏した。

 

「これで柱じゃない剣士(子供)達の練度不足が解決した訳じゃないけれど、愈史郎さんが言った様に生存率と討伐成功率の向上が見込める算段が付いた。

柱の剣士(子供)達の負担も大いに減ると言うものだよ……次はその柱の剣士(子供)達について、私達から一つ話そうか。」

 

『!!』

 

その一言で、自然と注目が耀哉に集中する。それを見て耀哉はあまねに話し掛けた。

 

「あまね。頼んだよ。」

 

「御意……皆様についてこれからお話するのは、"痣"についてで御座います。」

 

『!』

 

『?』

 

あまねが切り出した議題に、大広間の反応は二つに分かれた。知っている者は驚いた様子で注視し、知らない者は首を傾げながらあまねを見ていた。

 

「戦国時代……"原初の鬼"鬼舞辻無惨を後一歩のところまで追い詰めた始まりの呼吸の剣士と当代の柱達……彼らは全員、鬼の紋様に似た痣を発現していました。これを"痣者"と呼称しています。」

 

『!?』

 

あまねの説明に、痣について知らなかった者達は驚愕する。

 

「伝え聞くなどして、御存知の方は御存知です。」

 

「俺は初耳です。何故、伏せられていたのです?」

 

実弥の質問に対し、あまねが答えた。

 

「鬼殺隊は今日まで何度も壊滅状態になり、その過程で伝承と継承が途絶えたと思われます。産屋敷家でも曖昧な伝承しか伝わっていないのです。」

 

「そうでしたか……あまね様。痣とは何なのか、詳しい説明を御願い致します。」

 

義勇があまねに軽く頭を下げて御願いをすると、あまねは承諾して答え始めた。

 

「この痣ですが、発現に成功した時に身体の何処かに痣が生まれるそうです。発現者によって痣の位置は千差万別。しかし一番重要なのは……痣者は鬼に匹敵する身体能力を得られると言う事です。」

 

『!?!?』

 

あまねの言葉に、炭治郎達は驚愕した。その事実を知って益々、痣への興味が湧いて出て来ていた。

 

「痣とは、そんな都合の良い存在ではありませんよ。」

 

『!!』

 

水を差す様に辛辣な声色で珠世が吐き捨てる様に言い捨てた。驚く炭治郎達だったが、産屋敷家の反応は違った。そんな周囲の反応など一切眼中に入れず、珠世は痣について語る切っ掛けを口にした事を責める様に、耀哉に尋ねた。

 

「……耀哉さん。痣について語るのは、まだ早計だったと思うのですが?」

 

「私は共有出来る情報は全て、今の内に話しておくべきじゃないかと思うよ。」

 

不機嫌に表情を歪める珠世に、耀哉が宥める様に優しく反論した。

 

「何故、お前は痣の事を隠そうとする? 俺達に知られては不都合な事でも有るのか?」

 

珠世の態度に不信感を抱き、睨み付けながら珠世に問い詰めた。この小芭内の態度に愈史郎は額に青筋を浮かべる。

 

「私個人に不都合な事情など、一切有りません。この痣はただ単純に、代償が大き過ぎるのです。」

 

『!』

 

珠世はその言葉を切っ掛けに、痣について説明を始めた。説明を始める前に一度産屋敷夫婦に目配りすると、二人揃って頷いた。頷いてから、耀哉が不機嫌な珠世に説明を始めた。

 

「私が話そうと思った理由はね。柱では無いのだけれど、不完全ながら痣を発現させた剣士()が居るからだよ。」

 

『なっ!』

 

『っ!』

 

「……炭治郎さんですね?」

 

「えっ!?」

 

『っ!?』

 

名前を呼ばれるとは思わなかったのか、炭治郎は戸惑った様子で声を上げた。周囲も驚きながら、炭治郎に視線を移した。珠世は再び溜息をすると、炭治郎に優しく尋ねた。

 

「炭治郎さん、此処最近……今まで体温が上がって、逆に身体の調子が良い時はありませんでしたか?」

 

「えっ?……あ、はい。そんな時も有りました。」

 

「!」

 

炭治郎の返答に、耀哉はピクっと反応を示した。

 

「……そうですか。もう此処まで耀哉さんもあまねさんも話してますから、痣について今から話しましょう。」

 

炭治郎達の耳目が自身に集中する中、珠世は溜め息をついて痣について語り始めた。




おまたせしました。どうしてもこの日に投稿したかったんです。めっちゃ中途半端で遅いですけど。

無惨一党の情報は喋り尽くし、これから鬼殺隊強化の話に移ります。
愈史郎の血鬼術も含め、これから現状有る物だけで可能な限りの強化を行います。だから、チートと判断される様な極端な物は出さない予定です。
尤も、この時点で愈史郎の『百眼符』はかなりチート臭いですが(汗)。

吹き矢は呼吸術を生かせる一番の武器だと判断しました。短筒なら片手でも扱えますからね。

変更点:第弐拾話 夢幻の桜蝶は日輪を督励す
変更理由:しのぶが杏寿郎より先に柱になっていたため。

正直に言うと、私はワニ先生の柱就任系列を信用していません。義勇とカナエの矛盾の件があるからです。ですが原作を尊崇している一ファンとして何とか折り合いをつけます。

活動報告でも載せましたが、こちらにも載せておきます。





リクエストキャンペーン(常時)

ちょっとしたネタバレになりますが、拙作の緊急柱合会議編が終了後、拙作は『閑話』『閑談』とよく言われる幕間の場面になります。尤も、文字通りではなく本編も関わっておりますが。

鬼滅の刃原作では無限列車編→空白の四ヶ月以上五ヶ月未満→吉原遊郭編となっており、現状、拙作の半月間はこの『空白の四ヶ月以上五ヶ月未満』の一部となっております。

其処でこの残り『四ヶ月以上の空白の月日』を、リクエスト作品で埋めたいと作者は強く望んでいます!

先に説明するその理由も、このリクエスト投稿の順番はリクエスト順で投稿する予定では無いからです。

リクエストして下さった方の順番を例えとしてⒶ→Ⓑ→Ⓒ→Ⓓ→Ⓔとします。
ですがネタの内容と本編のストーリーの辻褄合わせを第一に考えておりますので、
投稿の順番が 例)Ⓐ→Ⓓ→Ⓑ→Ⓔ→Ⓒだったり、 例)Ⓐ→Ⓔ→Ⓓ→Ⓒ→Ⓑになるかもしれない訳です。リクエストが増えれば、それだけ順番も変わり前後する可能性があります。

私としても後からリクエストを受けて「嗚呼、このネタならあのネタの前にしたかったなぁ……」って後悔せずに済むので、もしリクエストしようか悩んでいる方は是非、リクエスト内容を『メッセージ』にて御送り下さい。コメントでのリクエストは受け付けておりません。

キャプションでも投稿する度にしつこく説明していますが、此処でも必要最低事項は載せておきたいと思います。

※100%受け付けられると保証された訳では御座いません。リクエストのネタ次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。ですのでネタの打ち合わせは密になる事を御了承下さい。

※炭治郎×鬼滅女子のみ。それ以外または他CPとの合わせは断固拒否。例:炭カナ+伊アオや炭しの+おばみつetc…

※CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。

※ネタの内容次第で、遊郭編後に持ち込む可能性が有ります。その点も御留意下さい。

※ネタの打ち合わせの為、何度もメッセージを送ると思います。リクエスト投稿者の方は対応よろしくお願い致します。

※作者は恥ずかしながら遅筆です。それでも良ければリクエスト下さい。
※※一年近く待たせている方々へ、投稿の遅さをお詫び申し上げます。申し訳ございません。

※※大正時代のみ受け付けております。キメツ学園はNGです。

2020年10月16日(金)0時時点でpixiv・ハーメルン両サイトから頂いたリクエストは

全年齢 2作 R作品 14作

合計で16作品となっております! 現在、その内の13作品をこの『四ヶ月以上の空白の月日』に執筆・投稿予定です。リクエストして下さった方々に心から御礼申し上げます。

※2020年11月14日(水)0時の時点で全年齢 3作 R作品 21作 合計で24作品に増加。

その内の20作品を執筆予定。


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第参拾漆話 日輪と鬼殺隊の柱は検証す

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「最初に縁壱さんと黒死牟の肖像画()を見て頂いたから覚えていると思いますが二人共、痣者でした。

縁壱さんが呼吸術を齎したあの戦国期は、鬼殺隊にとっての黄金期だったのでしょう。九人の柱以外にも、痣者の鬼狩りが多数居ました。痣者の鬼狩り達は、怒涛の勢いで次々と鬼を狩り続けたそうです。」

 

其処まで珠世は語ると、暗い顔をして溜息を吐いてから語り続けた。

 

「しかし……それは消える寸前の蝋燭の炎が放つ、最後の灯の様な儚い物でした。

痣を発現出来れば、身体能力や反射神経などが急激に向上するのは事実です……しかし、それは寿命を前借りにして得られる両刃の剣……発現したら最後、()()の痣者はその代償として二十五歳を迎えると同時に落命するのです。」

 

『っ!?!?』

 

痣の代償の大きさを聞いて、炭治郎達は驚愕する。

 

「珠世さんっ! それは本当!?」

 

その中でも一際、焦燥していた女性が居た。それは意外にも、カナヲであった。

 

「信じたくないでしょうけど、本当の事です。」

 

珠世は罪悪感を抱きつつも、心を鬼にして残酷な事実を断言する。

 

「じゃあ……じゃあ炭治郎はもう、後十年しか生きられないの!?」

 

『!!』

 

珠世の説明を受けてカナヲは叫ぶ様にそう言うと、双眸から涙を溢れ出した。カナヲは勿論、しのぶとアオイからも悲しい匂いが漂って来ていた。

 

「カ、カナヲ……泣かないで?」

 

「っ!……無理よぉ……だ、だって炭治郎がぁ……っ!」

 

炭治郎が身体を起こして手巾(ハンカチ)でカナヲの涙を拭くが、益々涙は溢れ出て行く。カナヲは耐え切れず、炭治郎の胸に顔を埋めて嗚咽を漏らす。

 

最愛の恋人の余命を何の前触れも無く唐突に聞かされて、動揺しない者などいない。それがたとえ、明日の命も保証が無い鬼殺隊の隊士であろうとだ。

 

「炭治郎さん……っ!」

 

「うぅ……。」

 

涙を流して悲しむカナヲを見て、アオイと禰豆子も双眸に涙を浮かべながら二人揃って炭治郎に寄り添っていた。しのぶもまた悲しかったが、必死で泣き出さない様に堪えていた。

 

「……」

 

しかし、この質問に関しては珠世から別の反応が有った。

 

「……炭治郎さんに関しては、悲観的になるのはまだ早いと思います。」

 

『っ!?』

 

珠世がしのぶ達にとって一筋の光明と成り得る発言をしたため、しのぶ達は一斉に珠世に注目した。

 

「っ!?……珠世さん。それはどう言う意味でしょうか?」

 

「っ……嘘だったら……承知しませんよっ?」

 

アオイは珠世の言っている内容の意図が理解出来ず、怪訝な表情を浮かべる。

しのぶに至っては、脅迫じみた言葉を吐いて珠世を睨み付けた。

これは殊更、炭治郎の件に関しているためだ。その表情は、真剣そのものであった。

 

そんな視線だけで何ものも射貫きそうな鋭いしのぶの視線を、珠世は微笑を浮かべて受け止めるだけであった。それから珠世は、全員の顔を見渡してから語り始めた。

 

「これから語る内容の中には、少しばかり楽観的で希望的観測を交えた話も含まれます。御了承下さい。……先ず始めに、皆さんは炭治郎さんが"ヒノカミ神楽"と言う独特の呼吸を使っている事は御存知でしょうか?」

 

「っ!……それは知っている。無限列車でも、その呼吸で魘夢(下弦の壱)の頸を刎ねたらしいな……珠世殿、その"ヒノカミ神楽"がどうかしたのか?」

 

珠世が口にした質問に、義勇が代表する形で答えた。同時に疑問を感じたので質問をすると、行冥達にとって驚くべき回答が待っていた。

 

「はい、この"ヒノカミ神楽"ですが……この呼吸の正体が、実は縁壱さんが使っていた"日の呼吸"だと言う事実が判明しました。」

 

『!?』

 

珠世の報告を聞いて、行冥達は驚愕する。それも無理は無かった。"始まりの呼吸"と称される"日の呼吸"は、失伝されて久しいと言うのが鬼殺隊の定説だったからだ。

 

「炭治郎の"ヒノカミ神楽"を珠世さんに見て貰い、縁壱が使っていた"日の呼吸"そのものだったと断言しているからね。珠世さんが言っている事は、間違いないと思うよ。」

 

嬉しそうに耀哉が珠世を援護する様にそう言うと、行冥達も納得して信じる他無かった。

 

耀哉に援護された珠世だったが、その頬は少し赤みを帯びていた。炭治郎の"ヒノカミ神楽"を初見した時の様子を思い出して、羞恥心が少しばかり湧いたからだ。

 

炭治郎が珠世に"ヒノカミ神楽"の剣舞を確認して貰っていた時まで時間が遡る。

 

この時、炭治郎は想定以上の時間が掛かった事に罪悪感を感じていた。可能ならば、一度に"ヒノカミ神楽"の全ての型を綺麗に舞いたかったのだが、体力と呼吸が続かず小休止を取りながらの剣舞だったからだ。

 

申し訳無く思う中、炭治郎は珠世から二種類の匂いを嗅ぎ取っていた。それは興奮と歓喜の匂いである。

表情こそ平静さを保って変わりはしなかったが、型を一つ舞う度にその匂いは強くなって行った。

 

そして炭治郎が漸く"ヒノカミ神楽"の剣舞が終わった直後に、珠世が全身を震わせながら言葉を発した。

 

『た、炭治郎さん……い、今貴方が舞ったその"ヒノカミ神楽"は……縁壱さんが無惨を斬り刻んだ"日の呼吸"そのものです!! 間違いない間違いない間違いない間違いない間違いない!!!!』

 

その場に居た全員が双眸を見開いて驚愕する程、珠世が興奮しながら断言したため、"ヒノカミ神楽"は"日の呼吸"であると認定した。

 

そしてこの時、誰にとっても想定外の出来事が発生した。

 

『嗚呼っ! あの美しい御業が失伝する事無く、此の世に残っていただなんて……ありがとうございますっ! 炭治郎さんっ!! 本当にありがとうっ!! 嗚呼っ! なんて素晴らしい奇跡なのかしらっ!!』

 

『た、た、珠世さんっ!?』

 

大興奮した珠世は炭治郎に強く抱擁して、"日の呼吸"を継承していた事を心から感謝していた。

 

珠世のこの突発的な行動は愈史郎を気絶させる程の衝撃(ショック)を齎し、しのぶ、アオイ、カナヲの三人を大激怒させて更に現場を大混乱に陥れてしまった。

 

一方で炭治郎は尊敬している珠世からの抱擁を受けて、動きが取れず固まっていた。

挙句の果てに無意識に珠世の細い腰に両腕を回して抱き締め返していた事が、しのぶ達の憤怒の業火に油を注ぐ結果となった。

 

因みに耀哉はこの混沌とした状況を止める事はしなかった。

今まで生きて来た二十三年間の人生で初めて腹痛が起こるぐらいに大爆笑して、炭治郎達を眺めるだけで終始貫徹したのだった。

あまねもまた、そんな耀哉を見て微笑するだけで炭治郎達を止める事は無かった。

 

珠世は脳裏で自身が生み出してしまった黒歴史を脳裏に葬り去ると、頬を僅かに赤く染めてコホンと一度咳払いしてから再び語り始めた。因みに、しのぶ達もその時の醜態と苛立ちを思い出して、炭治郎の腕や膝を軽く抓っていた。

 

「炭治郎さんは間違い無くこの世で唯一無二の"日の呼吸"の選ばれた使い手です。

何故、一介の炭焼き職人でしかない竈門家に"日の呼吸"が伝えられたのか、皆さんは疑問に思われる事でしょう……その経緯について、これから私の方から説明させて頂きます。」

 

『!』

 

『……っ。』

 

大広間に居る者達の中には、何名かが生唾を呑み込んで珠世の開口を待った。

 

珠世が説明した継国縁壱と竈門家の交流は以下の通りだった。

 

・縁壱は鬼殺隊追放後、打ち捨てられた亡き妻・うたの生家へ出向いていた。

・其処に炭治郎の祖先である"炭吉"と"すやこ"と言う夫婦が鬼に襲われていたため、縁壱が鬼を斬って救った。

・話を聞くと、戦火で故郷を追われて放浪していると、打ち捨てられていたうたの生家を見つけて住んでいたらしい。

・すやこは身重で出産を間近に控えていた事から、縁壱が三日三晩往復して産婆を連れて来たため、無事に長女・すみれが誕生した。

・それ以来、深い交流を果たし別れ際に炭吉は縁壱の"日の呼吸"を後世に残すと誓い、縁壱もまた自身が着けていた母の形見である耳飾りも預けた。

 

「以上が、縁壱さんと竈門家の繋がりの顛末になります。……縁壱さんは炭吉さんの事を『此の世で唯一の親友。』と呼び、また『全てを託して来た。』とも言っていました。

まさか、私が聞いていたこの炭吉さんが炭治郎さんの御先祖の方だったとは、気が付きませんでしたよ。」

 

『……』

 

「……っ。」

 

「炭治郎さん、大丈夫ですか?」

 

炭治郎の様子が気になって、アオイが尋ねた。炭治郎はアオイに顔を向けて答える。

 

「うん。俺の御先祖様は、なんて凄い人に認められていたんだろうって思ったんだ。

それから思ったんだけど……もし縁壱さんが居なかったら、俺も禰豆子もこの世に生まれていなかった。御先祖様の炭吉さんが"日の呼吸"を"ヒノカミ神楽"として伝承していなかったら、後世に残っていなかったんだと思うとね……何て言うか、言葉に表せないよ。」

 

『っ!』

 

炭治郎は多謝の念を抱いて、心から感動していた。炭治郎の目元には、潤んで涙が溢れそうになっている。

アオイはそんな炭治郎の様子に気付いて、手巾(ハンカチ)で優しく目元を拭った。

 

「それから珠世さんの話で、黒刀は"日の呼吸"の適合者の証であると言う事実も判明した。

『黒刀の使い手は出世が出来ない。』などと言う逸話は昔から有ったけれど、無惨が黒刀持ちの剣士(子供)達を狙って優先的に殺していたのだとすれば、納得が行く話だ。」

 

『!!』

 

そう推察すると、珠世も耀哉の推察に強く頷いて同意する。

 

「無惨ならば、有り得るかと思います。あの臆病者にとって"日の呼吸"は恐怖の代名詞そのものですから。」

 

「なぁ、先刻(さっき)からちょっと言ってる事おかしくねぇか?」

 

『!』

 

今まで沈黙していた伊之助が突如、疑問を抱いて珠世に質問した。

 

「痣が出来た奴は二十五で死ぬって言ってたのによ、その縁壱って奴が五十過ぎた(ジジイ)の時に珠世は再会してんだろ? どう考えたっておかしいじゃねぇかよ。」

 

『!?』

 

伊之助の疑問に、耀哉達は珠世の説明に矛盾が生じている事に気付いて驚愕した。一方の珠世は、伊之助の指摘に対して嬉しそうに笑みを零しながら答える。

 

「良く気が付かれましたね、伊之助さん。その矛盾に答える前に……炭治郎さん、貴方にお聞きしたい事が有ります。」

 

「っ!……はい、珠世さん。俺に何が聞きたいんですか?」

 

炭治郎は珠世から唐突に尋ねられて、少し動揺したが直ぐに冷静さを取り戻して確認を取った。

 

「貴方の一族は"ヒノカミ神楽"を……"日の呼吸"を四百年以上に渡って使い熟し代々伝えて来たと聞いています。その一族の中に、痣を持っていた方は居ませんでしたか?」

 

「居ました。死んだ父が、俺の額の痣と同じ位置に痣を持っていました。」

 

『!』

 

珠世の質問に対して、炭治郎は即答した。何故ならこの質問をされたのは、今が初めてでは無いからだ。

 

実は炭治郎が"ヒノカミ神楽"を披露した後に、珠世がこの質問を炭治郎に尋ねているからである。それは産屋敷夫婦としのぶ達も直接、耳にしている。

 

珠世は何故この質問を再びして来たのか、炭治郎は疑問に思いながらも答えていた。珠世は続けて、炭治郎に最後の質問をする。

 

「失礼だとは思いますが……炭治郎さんの御父上は、御幾つの時に亡くなりましたか?」

 

「父さんは、四十歳を迎える前に肺の病気で亡くなりました……あっ!」

 

『!!!』

 

炭治郎は自身の答えを聞き直して、有る重大な事に気付いた。それは耀哉達も同様であった。

珠世はその時と同様の回答を得られた事と、炭治郎達が自身の質問の意図に気付いてくれた事に微笑を浮かべながら、珠世は自身の自説を語り始める。

 

「皆さんもお気付きでしょう? この"日の呼吸"を使っていた縁壱さんと炭治郎さんの御父上……二人は痣者で在りながら、二十五歳で死なずに生きている。ですので、私はこう仮説を立てました。

『"日の呼吸"の選ばれた使い手の体質の者だけが、痣の呪いを受けない。痣の呪いに対して免疫を持つのではないか。』と。」

 

『!!!』

 

珠世が立てた仮説に、大広間に驚きの声が広がった。特にしのぶ達、炭治郎を愛する女性達の反応は顕著だった。

 

「でしたら珠世さんっ! 炭治郎君は……っ!」

 

「はい。油断は出来ませんし、我ながら楽観的な仮説ですが……炭治郎さんなら、痣について心配は無いかと。」

 

「しのぶ様っ!……っ!!」

 

「やった……やった!!」

 

名医たる珠世の診断結果に、しのぶ達は歓声を上げる。最愛の恋人が短命で死なないと分かったのだから、その歓喜の程は一入だ。

 

そんなしのぶ達に微笑みながら見ていた珠世だったが、今度は責める様な視線で耀哉を睨み付けて愚痴を零した。

 

「私は痣の呪いに免疫が有ると思われる、炭治郎さんの身体をもっと調べて特効薬を作ってから……せめて作れる可能性の有無を確認してから、痣の件について話すべきだと思っていたのですが……それもこれも全てが台無しです……っ!」

 

「……珠世さん、ごめんね。」

 

珠世に凄まれて、耀哉は思わず謝罪の言葉を口にした。

 

「っ!……珠世殿の御心遣い、痛み入る。」

 

『!』

 

珠世の言葉と耀哉の謝罪を聞いて、行冥が感謝の言葉を口にした。それから、行冥は力強く宣言の言葉を口にする。それは自身の覚悟を、改めて決意する様子であった。

 

「なれど、珠世殿。たとえ痣が出なかったとしても鬼殺隊である限り、明日の命の保証は無い。何を今更、己が命など惜しもうか。

その様な生半な覚悟で柱に、鬼狩りになる者などおらぬ。私達を慮る御優しさは嬉しく思うが、その様な気遣いは無用です。どうか、無惨を倒す事にだけ集中して力を注いで頂きたいと私は考えています。」

 

「悲鳴嶼さんの言う通りだ。痣者を助けるためでは無く、無惨を倒す事にのみ専念して頂きたい。珠世殿、貴女が痣の発現方法を御存知ならば、是非とも俺達に御教授して欲しい。」

 

行冥の宣言に義勇が賛同し、二人揃って珠世に頭を下げて痣の発現方法について尋ねた。そんな行冥と義勇を見て、天元達他の柱もまた痣の発現方法を知るべく、珠世に一斉に平伏して頭を下げた。

 

珠世は鬼殺隊の最高戦力である柱が一同に頭を下げて鬼の自分に頼み込むのを見て、一度だけ小さく溜息を吐いてから痣の発現方法を話す事を決意した。

 

「確かに、私は痣の発現方法を知っています。」

 

『!』

 

珠世の言葉に、行冥達は無意識に身体が僅かに前のめりになった。それ程、興味の有る話だからだ。

回想する様に、ゆっくりと珠世は語り始める。

 

「縁壱さんと再会した時に痣の力を発現させて頂き、その時に診察させて頂いた結果……縁壱さんの体温は三十九度以上を、心拍数は二百以上を超えていました。」

 

「!?……そんな状態で戦えと言うんですか? 命に関わりますよ?」

 

医道に精通している者として、しのぶはその状態が如何に危険かを良く理解していた。

そんなしのぶに同意する様に、珠世が頷くと話を続けた。

 

「常人ならば、身動き一つ取れないでしょう。ですがそれが痣者になれるか否かを、篩に掛ける目安となるのでしょうね。」

 

珠世の言葉に、最初に反応したのは実弥だった。

 

「チッ……そんな簡単な事で良いのかよォ。」

 

「これを簡単と言ってしまえる、簡単な頭で羨ましい。」

 

実弥の言葉にボソッと呟いたのは義勇だった。本心からの言葉で義勇に悪意や他意など無いのだが、実弥にそんな義勇の心情を察する力は無かった。

 

「何だと?」

 

実弥は青筋を立てながら、義勇を睨み付けた。これを見て愈史郎が仲裁に入る。

 

「おい、冨岡。そんな事を言ってやるなよ。馬鹿の頭は構造が単純だからって、本当の事を言ったら流石の不死川も怒るぞ。」

 

「テメェらァ!」

 

愈史郎の一言が逆に火に油を注ぐ形になり、実弥の憤怒の炎は益々燃え上がって行く。

そんな愈史郎達三人を無視して、しのぶが結論を口にした。

 

「では、今後は痣の発現が柱の急務となりますね。」

 

「それに関してですが……悲鳴嶼さん()()は絶対に、痣を発現させないで下さい。」

 

『!』

 

珠世がしのぶの結論に対し、そう言って行冥に強く警告を発した。

 

「何故、私()()痣を発現させてはならないのか……珠世殿が其処まで強く仰るのだ。それ相応の理由が在るのだろう?」

 

行冥は怪訝な表情を浮かべながら、その理由を知るべく珠世に尋ねた。行冥の声色には、苛立ちは一切無かった。

 

「はい。先刻(さっき)も言いましたが、痣者は二十五歳で落命します。悲鳴嶼さんは見たところ、二十七か二十八歳と御見受けしますが……二十五歳を過ぎた者が痣を発現させれば、一日……もしくは一晩で命が尽きてしまうのです。」

 

『……っ!?』

 

『なっ……っ!?』

 

思わぬ情報を耳にして、炭治郎達は絶句する。

 

「それは本当なの? 珠世さん。」

 

動揺していた無一郎だったが、真偽を確かなものにするべく珠世に質問する。

 

「これも直接、私が目撃した訳ではありません。緑壱さん曰く……当時、齢二十九歳だった水柱が漸く痣を発現させた後、次の日の朝には死亡していたそうです。尤も、その当時は痣が原因で死亡したとは思っていなかった様ですが……。」

 

『……っ。』

 

珠世の情報に、炭治郎達は事実が確定されて沈痛する。しかし、当人である行冥には動揺は無かった。

 

「南無……私は一体どうなるのかと気になったが……道理と言えば道理である。」

 

「……冷静だね。流石……と言うべきかな? 行冥。」

 

まるで他人事の如く言ってのける行冥に、耀哉は感心した様子で話し掛けた。対して行冥は、平伏して耀哉に返答する。

 

「私の痣の件は私自身が何とか致します故……御館様と珠世殿は何卒、御気になされませぬよう。」

 

「良いだろう、行冥。」

 

「……其処まで仰られるなら……っ。」

 

行冥に其処まで断言されては、珠世もこれ以上何か言うのは憚られた。珠世は意を決して、痣について新たなる情報を提供する。

 

「皆さん。此処まで話した以上、先に御伝えしておきます。……痣の発現に成功し、更に極めると二種類の能力を得る事が可能になります。」

 

『!?!?』

 

珠世の新たな痣の情報に、大広間は色めき立った。耀哉もまた、痣の更に先に隠された情報が有ったとは思わず、興奮を隠せなかった。

 

「珠世さん、痣の力を極めると……どんな能力がっ?」

 

耀哉の顔が綺麗ならば、顔が紅潮しているのが分かっただろう。尤も、そうでなくても良く目を凝らせば、身体が僅かに震えている事が良く分かった。

 

「痣の力を使い熟す事で得られる二種類の能力とは……その一つが"赫刀"。そして更に痣の力を境地の境地にまで極める事が出来た一握りの痣者……"覚醒者"と呼ばれる存在にのみ、獲得が許された能力が"透き通る世界"と言います。」

 

『!!』

 

珠世は二種類の能力の名称を報告すると、炭治郎は驚愕で双眸を見開いた。

 

――"透き通る世界"!?……あれっ? この言葉、何処かで……??

 

当惑する炭治郎を余所に、珠世は二種類の能力の説明を始めた。

 

「先ず一つ目の赫刀(かくとう)、もしくは赫刀(しゃくとう)とも呼ばれる能力についてです。厳密に言うと能力では無く現象なのですが……皆さんの持つ日輪刀(かたな)が深紅の如く赫くなります。」

 

「!……赫くなると、どうなる? 炎の呼吸の使い手も日輪刀(かたな)は赤刀な訳だが……一体この二つの何処に違いが有ると言うんだ?」

 

小芭内が怪訝そうに、珠世に自身が投げ掛けた異なる点の説明を求めた。

 

「"炎の呼吸"は"水の呼吸"と並ぶ"最古の呼吸"にして最も"日の呼吸"に近いらしいな?……聞いたところによると、『"炎の呼吸"を"火の呼吸"と呼んではならない。』なんて厳しい掟が有るとか?」

 

「それは"日の呼吸"と勘違いされて、殺されるのを防ぐためでしょうね。……たとえ見た目が少しばかり似ていようと、その二つの間では天と地ぐらいの大きな差が有ります。決定的に違うのは、日輪刀(かたな)から繰り出される()()です。」

 

()()……?」

 

蜜璃は珠世が言っている言葉の意味が理解出来ず、首を傾げた。

そんな蜜璃を見て、珠世は微笑を浮かべた後に説明を始めた。

 

「はい、()()です。通常の日輪刀(かたな)では、鬼の頸以外の部位を斬っても直ぐに再生を始めてしまいます。

ですが、赫刀で鬼を斬れば……その鬼は内臓を炎で直に炙られている様な激痛に襲われ、再生が遅延します。それは無惨であろうと例外ではありません。」

 

『!!』

 

珠世が説明した赫刀の能力に、炭治郎達は驚愕した。其処へ炭治郎が珠世に尋ねる。

 

「赫刀で斬られた鬼は、強烈な激痛を覚えて再生が遅くなる……"日の呼吸"が使えない剣士でも、無惨に対抗出来ると言う事ですか?」

 

「そうです。赫刀ならば、無惨の再生力を阻害して消耗を強いる事が可能です。」

 

『!!!』

 

無惨への数少ない対抗手段の一つを、珠世から知る事が出来た耀哉達は思わず色めきだった。

 

「派手に良い事が聞けたぜ……けど珠世さんよ。その赫刀って奴は、どうやったら出来るんだ? 痣者ってだけが条件じゃねぇんだろう?」

 

天元が珠世へ冷静に、赫刀の発動条件の方法を尋ねた。

 

「痣者以外の条件として……それは圧倒的な圧力、万物を握り潰せる程の、"万力の握力"が必要になります。」

 

「っ!?……万力の……。」

 

「握力……?」

 

珠世が伝えた赫刀の意外な発動条件を聞いて、その意味が良く理解出来ていないのか炭治郎達は首を傾げた。

 

珠世は疑心の孕んだ視線を受けて、苦笑しながら説明を続けた。

 

「私が縁壱さんから発動条件を聞いた時は、もっと酷かったんですよ? 『この様に日輪刀(かたな)の柄をしっかり握り、グッと思い切り力を込めれば必然的に赫くなる。』なんて言い出すんですから、最初はどう反応したら良いか分かりませんでしたよ。」

 

『……』

 

珠世はその当時の自身と縁壱のやり取りを思い出して可笑しそうに、楽しそうにコロコロと笑い始めた。

 

――こんな楽しそうな珠世様は始めて見たぞ……これもまた美しい……。

 

愈史郎は脳裏に直接焼き付ける勢いで、珠世がコロコロと楽しそうに笑う姿を記憶し始めた。

 

「……」

 

炭治郎もまた、珠世の様子を見て頬を赤くしながら見惚れていた。

 

『……っっ。』

 

一見すると間抜け面を晒す、そんな炭治郎に彼女達が気付かない訳が無い。彼女達は素早く、行動に移った。

 

「いたただだだだっ!?!?」

 

『!!』

 

しのぶが炭治郎の左頬を、アオイとカナヲは炭治郎の耳を、そして禰豆子は炭治郎の髪の毛を背後から両手で引き千切らんばかりに引っ張り出した。

アオイとカナヲが炭治郎の耳飾りを直接引っ張らない辺りは、せめてもの慈悲なのだろう。

 

「「むぅ――。」」

 

炭治郎の様子に、頬を膨らませて蜜璃と何故か無一郎まで不貞腐れて拗ねていた。

 

『ふんっ……。』

 

炭治郎を制裁して少しばかり気が済んだのか、しのぶ達は不機嫌ながらも炭治郎から手を離した。

炭治郎は涙目になりながら、抓られた箇所を優しく撫でる。

 

しのぶ達による炭治郎への制裁が終わるとほぼ同時に、珠世も真面目な表情を取り戻して赫刀の話を再開する。

 

「この結論は、私なりの解釈です。その理由ですが、縁壱さんに頼んで込める力を知るべく、私の手を思い切り力を込めて握って貰ったのですが……。」

 

『!』

 

――珠世様の白くて美しいその御手を握っただとっ!? なんて羨まけしからん奴だっ!?

 

愈史郎が青筋を立てて、縁壱の行った所業に憤怒する。

 

別に咎められる様な事は縁壱はしていないのだが、其処が愈史郎と言う男である。

珠世以外の関する案件に関しては冷静沈着なのだが、珠世が関わった瞬間ポンコツと化すのが、この愈史郎の最大の弱点にして所以である。

 

そんな愈史郎に気付かず、珠世はその後を語り始めた。

 

「その結果、私の腕が握り潰される程の握力でした。」

 

『!?』

 

人間より遥かに強靭な鬼の身体を握り潰す程の膂力とは、炭治郎達には想像しがたかった。

 

『……』

 

炭治郎達は赫刀の発動条件を知って、難しい顔をする。珠世はそんな炭治郎達を見て、慌てて補足する様に説明を付け足した。

 

因みに愈史郎は珠世が縁壱に腕を砕かれたと知って、その表情は名状しがたきものになっていたが、全員からものの見事に無視されていた。

 

「いえ、その……何も赫刀を発動させるのに、其処までの握力は必要無い筈です!……因みにもう一つだけ、赫刀の発動方法を縁壱さんから聞き出す事に成功しました。」

 

『!!』

 

驚く炭治郎達は先刻の発動条件に関しては頭の隅に一先ず追いやり、もう一つの発動条件を知るべく珠世に再び視線を集中させた。

 

「そのもう一つの発動条件ですが……日輪刀(かたな)に強い衝撃を与える事です。」

 

『……!』

 

炭治郎達は珠世から二つ目の赫刀の発動条件を聞いて、思わず面食らった。内容だけを聞けば、其処まで難しい方法では無かったからだ。

珠世は再び補足するために、説明を始めた。

 

「衝撃と言っても、ただ日輪刀(かたな)を何かに打ち付ければ良いと言う話ではありません。下手なやり方をすれば、日輪刀(かたな)の方が耐え切れず圧し折れてしまいますから。

そうね……一番理想的なのは、痣者同士が持つを日輪刀(かたな)をぶつけ合う事だと思います。」

 

「南無……そちらの方が現実的では有るな。」

 

「だなぁ……強く握りゃ良いってんなら、とっくの昔に誰かが地味にやってんだろうよ。」

 

行冥と天元は握力よりも、日輪刀に衝撃を与えると言う方法を肯定した。そちらの方が現実的だと、そう判断したのだろう。

 

二人の判断に他の何人かが同意する様に頭を縦に振って頷き、話の流れが握力より衝撃への支持が上回りそうになったところへ、静観していた耀哉が開口した。

 

「赫刀の条件だけを聞くならば、痣が無くても出来そうなものだけどね……そうだ。此処に日輪刀を持って来て、検証してみるのはどうだろう?」

 

『!!』

 

耀哉が思い付いた赫刀の検証に、炭治郎達は驚いた。しかし、直ぐに否定的な意見が出る。

 

「っ!……耀哉。そんな検証をする意味など、とても有るとは思えんな。」

 

耀哉の提案に対して、先ず否定したのは愈史郎だった。愈史郎は続けてその否定する理由を話し始めた。

 

「第一、お前は珠世様の御話を聞いていなかったのか? 痣者でも何でも無い奴が、赫刀を引き出せる訳無いだろう? 時間を無駄に消費するだけで、何の成果も無く終わるのが目に見えているぞ?」

 

そう言って愈史郎は、耀哉の提案を時間の無駄と否定して鼻で嗤い飛ばした。

 

「確かに愈史郎さんの言う通り、無駄で終わるかもしれない。」

 

耀哉は愈史郎の否定的な意見を聞いて、怒る事無く起こり得る可能性は十分に有ると肯定した。

しかし、次に耀哉は赫刀の検証を行う意味について、その肯定的な意見を話し始める。

 

「でもどうせ無駄だからと決め付けて最初から何もしないのは、果たして正しい行動なのだろうか? もしかしたら、少しでも何かの手掛かりを得られるかもしれないとは思わないかい?」

 

「……っ。」

 

愈史郎は耀哉の正論と取れる言葉に、否定も反論も出来なかった。何も答えられない愈史郎に対して、代わりに珠世が答えた。

 

「私も正直に言うと、愈史郎と同意見です……けれどその検証を行えば、最低でも『赫刀は痣者でなければ使えない。』と言う結論が得られるのもまた、紛れも無い事実です。」

 

『!』

 

珠世の意見を聞いて、炭治郎達は双眸を見開いた。実験をすれば如何なる結果が待っているにせよ、確実に成果が約束されている事に気付いたからだ。

 

「耀哉さん。その赫刀の検証、やってみましょう。」

 

「うん。そうと決まったなら、善は急げだ。」

 

珠世が赫刀の検証に同意した事で、検証が決定された。耀哉が言い終わったと同時に、行冥が立ち上がった。

 

「御館様。では私が『隠』達と共に、皆の日輪刀を持って参りましょう……私の日輪刀(かたな)は自分で運びます。『隠』達では運ぶのも一苦労でしょうから。」

 

「分かった。頼んだよ、行冥。」

 

「御意、直ぐに戻ります。」

 

行冥は一礼してから、大広間を退室した。それから間も無く、行冥が『隠』を連れて中庭の方から日輪刀と天元達の履物を持って来た。

 

「お待たせ致しました、御館様。」

 

「ありがとう、行冥。」

 

耀哉は行冥に礼を述べた後、炭治郎が身体を起こして行冥に話し掛けた。

 

「悲鳴嶼さんっ!」

 

「!……どうしたのだ、炭治郎。」

 

突然、炭治郎に名前を呼ばれた事に内心驚きながらも、行冥は応える。

 

「その……悲鳴嶼さんがこの赫刀の検証に参加して大丈夫なんですか……これでもし痣が発現するなんて事になったら……。」

 

「っ!」

 

炭治郎が遠慮しがちに、自身が考えうる懸念を行冥に伝える。炭治郎が抱く懸念を理解した行冥は、微笑みながら炭治郎を宥め始めた。

 

「炭治郎。これしきの事で痣が発現すると言うのなら、寧ろ僥倖だ。その時は君達、後進に後を託して御館様達と今生の別れを笑って出来ると言うものだよ。」

 

「っ!!……でもそれだと沙代ちゃんが……っ。」

 

「……その時は、君にあの娘宛の遺言を残そう。私は御館様の御役に立ちたいのだ。どうか、頼まれて貰えないか、炭治郎?」

 

「……分かりました。」

 

炭治郎は行冥に押し切られる形で、渋々承諾した。こうして鬼殺隊による赫刀の検証が始まった。

 

 

 

 

 

 

「はぁああああああぁぁぁぁぁっっ!……っ!!」

 

小芭内が深く呼吸をしながら、自身の桔梗色の愛刀を握っていた。鏑丸も応援する様に、小芭内を静観する。

 

「フウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥッッ!!」

 

無一郎が青筋を浮かべる程、深い呼吸をして自身の純白に染まった愛刀を強く握っていた。

 

「があああああああああああぁぁぁッッ!!」

 

実弥は青筋を浮かべるだけでなく、双眸を血走らせて緑色の愛刀を握っていた。

 

「……っっ!……っっ!!……っっ!!」

 

義勇は何も言わず、されど力を込めて愛刀の柄を握り締めていた。

 

「冨岡ァァァァァァッ!! 本気でやってんのか、テメェェェェェェェッッ!?」

 

無言の義勇に対して、実弥が激昂して怒鳴り付けた。それでも愛刀を握り締める力を緩めはしなかったが。

 

「んにいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!」

 

密璃が顔を引き攣らせて、両手で渾身の力を込めて愛刀の柄を握った。

 

「ぬおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」

 

天元は両腕の上腕が盛り上がる程に力ませて、愛刀の柄を握った。

 

「ぬうんっ!…………ぐぅっっっっっっ!!」

 

行冥は愛刀の柄を、片手で握って力を籠める。片手なのは両手で握れるだけの柄の長さが無いからだ。因みに、『紙眼・視』は外してある。

因みにしのぶは自身の非力さを理由に、この赫刀の検証への参加を辞退している。

 

「凄い……悲鳴嶼さん達から凄まじい気迫を感じる……っっ!!」

 

「半々羽織はともかく、気合の入りっぷりを肌で感じるぜぇ……っ!」

 

「伊之助、良く見て。水柱様の手首、血管が浮かんでるわ。それだけ水柱様が力んでいる証拠よ。」

 

「て言うか、柱の皆の日輪刀……半分以上が"日本刀(かたな)"の形状(かたち)をしていないんですけど……。」

 

炭治郎と伊之助とカナヲが感嘆する中、善逸だけは行冥達の持つ日輪刀の形状にツッコミを入れていた。

 

義勇・実弥・無一郎の三人が所持する日輪刀は、通常の"日本刀"の形状をしている。

しかし、行冥・天元・小芭内・蜜璃の四人が所持する日輪刀は"日本刀"の形状から逸脱していた。

 

しのぶの刺突特化の日輪刀も含めれば、柱の半数以上が"日本刀"の形状から逸脱している。これは杏寿郎が生きていても、結果は変わらない。

 

行冥達の中で最も"日本刀"に、最も近い形状をしている日輪刀が天元の愛刀だ。

とは言え、二振りの大刀で全長は炭治郎の身の丈に匹敵する。その巨大さは、"日本刀"の範疇から大きく逸脱していた。日輪刀の色は橙色に染まっており、柄尻は頑丈で太い鎖に繋がれていた。

日輪刀の鍔は、金色をしている。天元はその内の一振りを両手で握って、赫刀の検証に挑んでいた。

 

小芭内の日輪刀は一目で刀剣だと理解出来る物だが、その形状は"日本刀"では無く西洋に実在する刀剣の一種"フランベルジュ"の如く波を打った形状をしている。日輪刀の色は桔梗色で、鍔は緑色をしている。

 

蜜璃の日輪刀は、非常に特殊な形状をしている。しのぶと同様、刀鍛冶の里の長である鉄地河原鉄珍が自ら製作した自身の"最高傑作"と呼ぶ日輪刀である。蜜璃の愛刀は鬼殺隊で二番目の長さを誇り、薄鋼は布の如くしなやかで有りつつ振っても折れない剛柔併せ持つ名刀である。

常人が扱えばその長過ぎる刀身で扱う自身が斬り刻まれかね無いが、其処は非常に柔軟な身体を持つ蜜璃だからこそ扱える名刀である。日輪刀の色は桃色で、鍔はハート状の四葉(クローバー)と可愛らしい意匠をしている。

 

行冥の日輪刀は、そもそも刀剣ですら無かった。片手用の戦斧に大鉄球を非常に太い鎖で繋いだ"鎖鎌"ならぬ"鎖斧"である。盲目の行冥はこの鎖の金属擦過音を全周囲へ響かせる事でアクティブソナーとして用い、広域空間を立体的に把握するための“目”としても利用している。

 

そんな行冥達を見て、伊之助が強い刺激を受けるのは無理ならぬ話であった。

 

「おいお前らぁっ!! 俺達も負けてねぇでやんぞおらぁ!!」

 

「ちょっ!? 伊之助ぇ!?」

 

行冥達に感化された伊之助が、炭治郎と善逸を大広間から引っ張り出して中庭に飛び出して行った。

しのぶはそれを見て溜息を吐きながら、カナヲとアオイにも赫刀の検証に参加する様に命令を下した。

 

「うらあああああぁぁぁぁぁっっ!」

 

飛び出した伊之助は、刃毀れが特徴的な二振りのノコギリ状の日輪刀を両手に持って叫声を上げた。

 

「…あいつ、二刀同時にやるつもりか?」

 

柱である天元ですら、一刀だけ両手で持って赫刀の検証に挑んでいるのだ。それを伊之助が片手でするなど、無謀の極みであった。善逸はそう思って、怪訝そうな表情で伊之助を見ていた。

 

「伊之助!日輪刀(かたな)を両手で持つんだ!」

 

「お、おうっ! 分かったぜ炭五郎っ!!……うぐあああああぁぁぁぁぁっっ!!」

 

炭治郎は見ていられず、伊之助に助言をする。伊之助は炭治郎の助言を受けて、一刀を投げ捨てて残ったもう一刀だけに集中した。

 

「……アオイさん、カナヲ、善逸。俺達もやろう。」

 

「わ、分かりました。」

 

「うん。」

 

「うへぇ……俺も本当にやるのぉ?」

 

炭治郎がアオイ達三人にも声を掛けて、赫刀の検証に加わった。

 

「はあああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「「フウウウウウゥゥゥゥゥゥッッ!!」」

 

「ぎいいいぃぃぃぃぃぃあああ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁぁぁ(汚い高音)無理無理無理無理無理無理!!!」

 

産屋敷本邸の大広間に、幾つもの声が轟いていた。

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時刻:15:40

天気:晴れ

 

炭治郎達は大粒の汗を流し、息を整えながら休憩していた。検証を始めて十分程の時間が経過したが、日輪刀には何一つ変化を起こす事は出来なかった。

 

「(ゴクッゴクッ!)……プハッ! 糞がァ……何一つ変化が起きねぇッ!」

 

『……』

 

あまね達が持って来た井戸の冷水で乾いた喉を潤し、水分を補給しながら悪態を吐いた。天元達もまた、何も言わなかったが実弥の悪態に同意していた。そんな中、行冥が何も言わずに立ち上がった。

 

「……悲鳴嶼さん?」

 

無一郎が行冥の様子に気付いて、思わず声を掛けた。しかし行冥は無一郎に答えず、炭治郎達から一定の距離を取った。

 

「……フンッ!」

 

 

ガチィン! ガチィン! ガチィン!

 

 

『!』

 

行冥は気合を入れると、鎖を巧みに動かして戦斧と大鉄球を激突させた。轟音が産屋敷本邸になり響く中、行冥は三度ばかりこの行為を続けた。

 

「……そう言う事かっ! 協力するぜ、悲鳴嶼さんっ!」

 

行冥の意図を察した天元は行冥にそう言うと、両手に愛刀を持ちながら行冥に向かって愛刀を構えた。

 

「フッ――!……行くぞっ、宇髄っ!」

 

行冥はそう天元に声を掛けると、渾身の力を振るい鉄球を天元に向かって投げ付けた。

 

「派手に打ち返してやるぜっ! ぬおりゃあああああぁぁぁぁぁっっ!」

 

天元は雄叫びを上げながら、自身に向かって跳んで来る大鉄球に向かって愛刀を叩き付けた。

 

 

 

ガギイイィィン!!!

 

 

 

金属が激突し合う轟音が産屋敷本邸に鳴り響いた。

 

「ぬおおぉぉっ!……だっしゃああぁぁぁっ!!」

 

天元は限界まで愛刀を握っている両手に力を込めると、行冥の大鉄球を打ち返した。

跳ね返された大鉄球は一度地面に衝突後、跳ね返って行冥の横を跳んで行き再び地面に落下した。

 

「チィッ!……地味な結果で終わっちまったな……。」

 

「衝突を与えて日輪刀(かたな)が赫くなるか試したのだが……上手くは行かなかった様だな。」

 

『!』

 

行冥が呟いた一言で、炭治郎達は行冥の目的を察した。

だが、この検証も失敗で終わった事も理解した。

 

「御館様、珠世さん。もうこれ以上の検証は、はっきり無意味では無いでしょうか?」

 

しのぶは赫刀の検証が上手く行かないのを見て、検証の中止を提言した。しのぶの提言を受けて、珠世は何も言わずに耀哉を見る。耀哉は顎に手を置いて、静かに一考していた。

 

「……いや、もう少し続けてみよう。今度は一本の日輪刀を、二人で握って試すと言うのはどうだろう?」

 

『!』

 

耀哉の提言を受けて、炭治郎達は思わず互いの顔を見合わせた。

 

「御言葉ですが、御館様。仮にそれで赫刀が発動出来ても、実用性は無いのではありませんか?」

 

耀哉の提言に異議を唱えたしのぶは、次に赫刀について珠世に質問する。

 

「珠世さん。赫刀ですが、永続的に強い握力で握り続けなければならないのですか? それでは戦いに支障を来たしてしまいますが……?」

 

「いえ、その必要は有りません。赫刀は発動さえさせてしまえば、暫くの間は持続して使用が可能です。」

 

『!!』

 

炭治郎達は朗報とも言えるその情報を聞いて、再び赫刀の検証を行う気力を取り戻した。

 

「よーし! 頑張るぞー!!……炭治郎君っ! 一緒にやろう!」

 

「えっ?」

 

『っ!?』

 

気合を入れ直した蜜璃が炭治郎に抱き着きながら誘った事で、一部の者達が騒然となる。大広間に居るしのぶも、思わず青筋を立てる。

 

「か、甘露寺。何故……竈門炭治郎を選んだんだ?」

 

小芭内は蜜璃を誘おうとした矢先に、その張本人の手によって目論見が木っ端微塵にされた事に動揺しながら、困惑を露にしつつ蜜璃に尋ねた。

 

「何故って……私が炭治郎君と組みたいと思っただけよ? 伊黒さん。」

 

「……っ。」

 

何故炭治郎を誘った理由を語らねばならないのかと、そう言わんばかりにキョトンと惚けた表情を蜜璃は見せた。それも小芭内から炭治郎を守る様に、優しく抱き締めながらだ。

 

これには小芭内も下手に何かを言おうものなら、大火傷をしかねないと考え、舌打ちしてから炭治郎を睨み付けるだけに留めた。

尤も、殆どの者は小芭内の心情を察していたが。

 

「「……」」

――出遅れた……っ!

 

アオイとカナヲは嫉妬で内心怒りの炎を滾らせながら、蜜璃を睨み付けていた。

 

「アオイちゃん、カナヲちゃん。炭治郎の事なんか放っておいてさ、どう? 俺と組「「ああ"ッ!?」」……みませんよね。はい、すみません。」

 

善逸はちゃっかりアオイとカナヲを誘ったが、殺意の籠もった視線を受けて即座に全面降伏して謝罪した。

 

二人一組(ツーマンセル)を作った結果、この様な人選となった。

 

壱:竈門炭治郎・甘露寺蜜璃

弐:悲鳴嶼行冥・宇髄天元

参:不死川実弥・伊黒小芭内

肆:富岡義勇・時透無一郎

伍:神崎アオイ・栗花落カナヲ

陸:我妻善逸・嘴平伊之助

 

以下の十二人六組がこうして、無難な人選で分けられたのは、不幸中の幸いであった。

 

「んにいいいぃぃぃぃっ!!……炭治郎君も頑張って!」

 

「は、はいっ!……ふうぅぅぅぅっ! ふううぅぅぅぅぅぅっっ!!」

 

背後から抱き着く様に炭治郎を抱き締めながら、蜜璃は炭治郎の愛刀を握り締めていた。

そのため炭治郎は別の意味で体温が上昇しそうになっていたが、同時に集中出来ずに居た。

 

――ううぅっ!……甘露寺さんから凄く良い匂いがするっ! 背中に当たる乳房も柔らかくて……あああっ! 駄目だ駄目だっ! 集中っ! 集中しないと……だああっ! 落ち着け俺っ! 俺なら集中出来るっ! 俺が次男だったらきっと集中出来無かったけど、長男だから絶対集中出来るっ!!

 

炭治郎は蜜璃を意識し過ぎて最早、赫刀の検証どころでは無かった。炭治郎は更に自身が所有している、()()()()()()()()が臨戦態勢にならない様に堪えていた。

 

『……っ。』

 

一部の者達は炭治郎と蜜璃のやり取りを見て、怒りを力に変えて赫刀の検証に挑んだ。

だが結果としては、最初の単独での検証と何も変わらない結果で終わった。其処へ耀哉が、三人での検証で最後にすると決定した。

 

「炭治郎さんっ! わ、私を仲間に加えて下さいませんか!?」

 

「ねぇ、私としようよっ! 炭治郎っ!!」

 

耀哉の決定から間髪入れずにアオイとカナヲの二人が炭治郎と蜜璃の下へ向かい、積極的に売り込み(アピール)を始めていた。

 

「え、えーとっ……。」

 

炭治郎はアオイとカナヲの気迫に圧されて決断しかねていたが、其処へ炭治郎に救いの手を差し伸べる者が現れた。

 

「炭治郎君。どっちかなんて言わないで、私は抜けるから二人と一緒にしたら良いわよ。」

 

「「「っ!」」」

 

この蜜璃の言葉に、炭治郎は元よりアオイとカナヲが驚いて双眸を見開いた。

 

「こ、恋柱様。良いんですか?」

 

「勿論よ、カナヲちゃん。遠慮なんてしなくて良いからね?」

 

カナヲは譲ってくれるとは考えられなかったのか、当惑しながら蜜璃に尋ねた。

 

「……ありがとうございます。恋柱様。」

 

「どういたしまして、アオイちゃん。」

 

アオイは直ぐに頭を下げて蜜璃に礼を言った。カナヲもアオイに続けて頭を下げた。二人が頭を下げたのを見てから、蜜璃は笑顔で炭治郎を激励してからその場を離れた。

 

「……甘露寺、良かったら俺と「おーい、甘露寺っ!」……っ。」

 

小芭内が一人になった蜜璃に声を掛けようとしていたが、天元に横槍を入れられる形で妨害された。小芭内は思わず憎悪の籠もった視線を、天元に無遠慮にぶつけるが天元本人は一切気にしなかった。

 

「なぁ、甘露寺。俺達と組まねぇか?」

 

「宇髄さんと……悲鳴嶼さんとですか?……でも二人が柄を掴んだら、私に持つところ有ります?」

 

天元に誘われた蜜璃だったが、鬼殺隊で一、二を争う巨漢の二人では、第三者が入り込む余地が有るのかと疑問に思った。

 

「その辺は地味に心配しなくて良い。俺の日輪刀(かたな)なら、もう一人加える余地が有る。こうなったら、力自慢で固めて成功させるぞ。」

 

「わ、私にとってあんまり自慢じゃなかったんですけど……分かりました、行きます!」

 

「……っ!」

 

蜜璃は少しばかり一考して、行冥と天元の下へ向かった。小芭内はそのまま取り残された。

 

「……っ!」

 

小芭内の様子を見て同情していた実弥だったが、在る重大な事実に気付いて慌てて行動に移り始めていた。

 

「おい、時透っ! 俺達と組めぇッ!」

 

実弥は大声で無一郎を呼んで、組む様に誘い出した。

 

「ねぇ、君達。良かったら僕を加えてくれない?」

 

「え、えーとっ……はい、良いですよ。」

 

「良ーしっ! これでわかめ頭を加えて三人だっ! 行くぞ紋逸っ!」

 

無一郎は実弥を思い切り無視して、善逸と伊之助の下へ向かい手を組んでそそくさと離れて行った。

 

「「……」」

 

「……」

 

実弥と小芭内に残されたのは、義勇一人だった。

 

三人一組(スリーマンセル)を作った結果、この様な人選となった。

 

壱:竈門炭治郎・神崎アオイ・栗花落カナヲ

弐:悲鳴嶼行冥・宇髄天元・甘露寺蜜璃

参:時透無一郎・我妻善逸・嘴平伊之助

肆:冨岡義勇・不死川実弥・伊黒小芭内

 

以下の十二人四組がこうして無難な人選で分けられた。一組を除いて。

 

「頑張ろうねっ!❤ 炭治郎っ!!❤❤」

 

「炭治郎さんっ!❤ 力を合わせて一緒に頑張りましょう!!❤❤」

 

「う、うん。頑張ろう、二人とも。」

 

アオイとカナヲは蜜璃に対抗してか、炭治郎の斜め後ろから抱き着いて乳房を押し当てていた。

 

「……っ。」

 

大広間から見学しているしのぶは、理由など付けずに自分も赫刀の検証に参加すれば良かったと内心で地団駄を踏んで後悔したが、後の祭りであった。

 

「ム――ッッ!」

 

禰豆子も大広間の日陰から炭治郎を見ていたが、嫉妬から不満しか無かった。

 

しのぶと禰豆子の様子を余所に、三人一組(スリーマンセル)での赫刀の最終検証が始まった。

 

「うがああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

「ぎいいいやあああああああぁぁぁっっ!!!」

 

「……フウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥッッ!」

――この二人五月蠅い……僕も炭治郎と組みたかったなぁ……。

 

無一郎は内心、善逸と伊之助の騒々しさに辟易としながらも集中していた。

この四組の中で、ある組が一際、熱を入れてこの検証に取り組んでいた。

 

「シイイィィィィィアアアアァァァァァァァァッッッ!!!」

 

「クオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッッッ!!!」

 

「ハアアアアアアアァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」

 

それは実弥と小芭内、そして義勇の組であった。

 

義勇の表情は一見すると分からないが、実はとても楽しそうにしている。本人は普通の対応をしている心算だが、その誤解を招き易い言動で常に人から誤解を受け易く、特に実弥と小芭内とは折り合いが悪かった。

義勇本人は実弥や小芭内と仲良くなりたいと常々思っているのだが、常に誤解され失敗していた。今回の検証で実弥達と組めて、機嫌が良かった。

義勇の声色からも、非常に分かり難いがそれは察する事が出来た。

 

しかし、一方で実弥と小芭内の心情は義勇とは真逆であった。自身の行動の遅さが招いた事態とはいえ、毛嫌いしている義勇と組むのは腹に据えかねる思いであった。

その不機嫌さは二人の声色と青筋が浮かんだ表情から、明確に察する事が出来た。

 

心情はさておき、気合を入れた義勇達三人が握る日輪刀は何一つ変化が起きなかった。しかし、それは表面上だけの話である事が、間も無く分かった。

 

 

「シュルルルルルルルルゥ!! シュルルルルルシャー―――!!」

 

小芭内の首に巻き付いていた鏑丸が、日輪刀に向かって身体を伸ばし刀身を舌で舐めた。その直後、騒ぎ立てる様に鳴き始めたのだ。

 

「っ!……っ!?……伊黒さんっ! 鏑丸が『日輪刀(かたな)から不自然な熱を感じる。』って言っていますよ!」

 

「アアアアァァァァ……何ぃっ!?」

 

『っ!?』

 

炭治郎の一言で、義勇達を除いた全員の注目が義勇の日輪刀に集中した。

 

「気合入れろおらァ!!!」

 

 

 

「「「ガアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッッッ!!!」」」

 

 

 

義勇と小芭内は実弥の掛け声で、更に気合を入れ力を込めて日輪刀を握った。当然だが、実弥も渾身の力を込めて日輪刀を握った。

 

 

 

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時刻:16:04

天気:晴れ

 

結論から言うと、義勇の日輪刀は赫くなる事は無かった。しかし日輪刀の刀身の温度を確認すると、通常では起こり得ない程の熱を持っていた事が発覚した。

 

汗を拭き終えた炭治郎達が大広間に再集結するのを待って、珠世は先ず炭治郎に労いの言葉を掛けてから語り始めた。

 

因みに、炭治郎の身体を拭くまたは拭いて貰うでアオイとカナヲで争いが在った。しかしこれをしのぶが一喝して二人を黙らせた後、炭治郎の汗をしのぶが拭き、アオイとカナヲで互いの身体を拭いたのだった。

 

「皆さん。赫刀の検証、大変お疲れ様でした。この御協力の御蔭で良い意味で、想定外の結果が得られました。大変申し訳無いですが、正直に言うと何一つ成果が上がらないと思っていましたから。この検証結果を見て、私はある仮説に思い付くまでに至りました。」

 

『っ!』

 

「その仮説……詳しく御聞かせ下さいますか? 珠世様。」

 

あまねが珠世に促す様に、仮説の解説を依頼した。珠世はコクリと頷いてから、仮説の解説を始める。

 

「はい。先ずは皆さんが御使用されている日輪刀の原材料は年がら年中、太陽光が差す"陽光山"で採れる"猩々緋砂鉄"と"猩々緋鉱石"の二種類の特殊鉱物を使用して製造されています。」

 

珠世は初頭に、日輪刀の基本知識をお浚いのために解説した。其処から間髪入れず、珠世は本題に入った。

 

「其処で私が考えたのは、赫刀が発動する要因です。

痣者は呼吸を極め、全身の体温を上昇させます。そして万力の握力から発生する強烈な高熱に、日輪刀に含まれる陽光が反応して、赫刀に変化するのではないか? と私は考えています。」

 

『!!!』

 

「となると……やはり赫刀の発現には、痣者になる事が大前提と言う訳だね?」

 

「そうですね。予想通りとも言えばそれまでですが、はっきりしたとも解釈出来ます。」

 

耀哉と珠世のやり取りを聞いて、炭治郎達は多少は報われた様に感じた。赫刀の議題は、これで終了する筈であった。

 

「うぅ――!!」

 

「禰豆子?」

 

禰豆子が突如、声を上げて炭治郎に近付いて行ったのだったその行動の意図が理解出来ず、怪訝そうに全員が禰豆子に注目する。

 

「うぅ――! うっ!」

 

禰豆子は所作(ジェスチャー)をする様に、手足を使って身体を動かした。それは日本刀を持って抜刀する侍の、鬼殺隊の剣士の所作そのものであった。

 

「禰豆子……もしかして、俺に日輪刀(かたな)を抜いて欲しいのか?」

 

「(コクコクッ!)」

 

炭治郎の質問に、禰豆子は肯定する様に頸を縦に勢い良く振って頷いた。そんな禰豆子を見て、炭治郎は困った表情を浮かべる。大広間で日輪刀を抜刀する事は、流石に躊躇われたからだ。

 

「炭治郎。私達に気を使わなくても大丈夫。日輪刀(かたな)を抜いても構わないよ。」

 

「っ!……分かりました。」

 

炭治郎は耀哉の許可を得て、行冥達から少し離れて距離を取る。炭治郎が日輪刀を抜刀しようとした、その瞬間に事は起こった。




お待たせしました。

今回は痣と赫刀の話でした。とりあえず、痣者にも光明が出来ましたが、勘違いされても困るのではっきり言っておきます。助かった訳では無いのでその様に御理解願います。一先ず寿命の事は先送りで考えて頂けたらと思います。

変更点:時刻の変更。

時刻を早めたのは夜のイベントの時間を稼ぐためです。読者の皆様にとってこちらの方が大本命では無いでしょうか? もう少し先になりますが、御了承下さい。

最後にリクエストの件ですが、一人一回なんて制限は設けておりません。 何個でもして下さって大丈夫ですので、お待ちしております。

次回の更新は11/11(水) 0時です。お楽しみに!


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第参拾捌話 日輪と鬼殺隊の柱は結束す

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*超辛口表現有り。苦手な方は御注意下さい。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


ガシッ!

 

 

 

『!?』

 

『禰豆子っ!?』

 

『禰豆子さんっ!?』

 

「「禰豆子ちゃんっ!?」」

 

「禰豆子ちゃあああああああんっっっ!!??」

 

「禰豆公っっ!?」

 

何と禰豆子が突然炭治郎の日輪刀を抜き、刀身を両手で鷲掴みにしたのだ。これには炭治郎達は騒然となった。禰豆子は力を込めて日輪刀の刀身を握っているため、両手から流血を始めていた。

 

「何をするんだ禰豆子っ!」

 

「何をしているっ!? 禰豆子っ、早く日輪刀(かたな)から手を放せっ!!」

 

炭治郎と義勇が動揺しながら、血相を変えて禰豆子の自傷行為を止めようとした。しかし、禰豆子はそれらの言を聞き入れる事無く、更に力を込めて日輪刀の刀身を握り締める。両手から更に出血量が増して、日輪刀の刀身が血で染まり始めていた。

 

「禰豆公もうやめろぉ!!」

 

「止めて止めて禰豆子ちゃんっ! 御願いだからっ!?」

 

「どうしてこんな……禰豆子さん早く止めなさいっ!」

 

「禰豆子さんっ! それ以上は指が斬れます!!」

 

「御願いだから止めて禰豆子ちゃんっ!!」

 

伊之助に善逸、しのぶとアオイとカナヲも動揺しつつ禰豆子の自傷行為を止めるために呼び掛けた。埒が明かないと力付くで禰豆子を止めようとした、その瞬間であった。

 

 

 

ボッ!

 

 

 

『っ!!??』

 

「っ!? 馬鹿な……竈門禰豆子の出した炎で、日輪刀(かたな)が燃えている、だと……っ!」

 

小芭内が指摘した様に、炭治郎の日輪刀が突如として炎で包まれた。炎に包まれた炭治郎の日輪刀に、更に変化が起こる。

 

「っ! 見てっ! 日輪刀(かたな)の色が赫くなってるっ!!」

 

「南無っ……炎熱で日輪刀(かたな)の温度が上昇しているからか……っ!」

 

炭治郎達が見守る中、炭治郎の日輪刀に起きていた変化が終了した。黒曜石の如き漆黒の黒刀は、赫く染まり深紅の赫刀へと変化していた。

 

「珠世さん……これは……。」

 

「この灼けた様な匂いと熱……()()()()()()()()、間違い無く赫刀です……っ!」

 

『!』

 

珠世が赫刀と断言した事で、炭治郎の日輪刀に視線が注目する。その中で、珠世と愈史郎だけは禰豆子の炎に注目した。

 

――あれが炭治郎さんから報告の有った、禰豆子の血鬼術"爆血"かしら?

 

――鬼だけを焼く叛逆の鬼火……俺達にも害するって点だけは厄介だな。

 

そう思い僅かに、珠世と愈史郎は禰豆子の血鬼術に警戒心を抱いた。自身を害する力なのだから、警戒するのは当然である。

 

「しかし……これは赫刀なのかな? それだと第三の方法が誕生した結果になるけれど……赫刀とは違うだろうから、これは"爆血刀"とでも呼ぶべきかもね?」

 

耀哉の考察に、炭治郎達の間に疑問が生まれた。この日輪刀を果たして赫刀と断言して良いのか、という疑問が。しかしこの疑問を明らかにする方法を、珠世は口にした。

 

「これが赫刀かどうか、判別する方法なら有ります。」

 

『!!』

 

珠世の一言で、炭治郎達の注目は赫刀から珠世に移った。珠世はその視線を受けながら、左腕の着物の袖を捲り、白くて細い腕を露にした。

 

「私がその日輪刀(かたな)に斬られて内臓が灼ける様な痛みを覚え、再生力の遅延が起きれば間違い無く赫刀です。」

 

『っ!?』

 

珠世が提案した赫刀の判別方法に、炭治郎達は驚愕する。そして真っ先に反対する者が現れた。

 

「駄目ですっ! そんな方法など、俺は認めない!!」

 

『!』

 

「どうしてもやると言うのであれば、俺が斬られます! 珠世様は御下がり下さい!!」

 

愈史郎は血相を変えて、反対を口にした。愈史郎からすれば、眼前で尊崇する珠世が傷付く光景など、耐えられるものでは無い。反対するのは、当然の成り行きであった。

代わりに斬られ役を買って出るという、愈史郎の代案に対して珠世はゆっくりと頸を横に振って却下した。

 

「っ!……何故ですか、珠世様……っ!」

 

「貴方は赫刀の痛みを知らないからよ。私は縁壱さんに無理を言って赫刀で斬られた事が有り、その痛みを良く覚えています。これは私で無ければ、出来ない事です。」

――尤も、緑壱さんの赫刀で斬られた傷は薬を作っても完治させるのにニ百年以上掛かったのよね……でも、炭治郎さん達に緑壱さん並みの威力を求めるのは、きっと酷な話だわ。

 

珠世は内心で縁壱との思い出を回想しながら、愈史郎の代案を却下した。しかし、反対するのは愈史郎だけでは無かった。

 

「珠世さん。俺は愈史郎さんと同じ意見です。」

 

炭治郎である。幾ら検証のためとはいえ、誰かが傷付くなど言語道断であった。

 

「炭治郎さん。貴方の優しさは嬉しいわ。でも私も死ぬ訳では無いし、再生も遅くなるだけだから気にしなくても良いのよ?」

 

「嫌ですっ!……俺は珠世さんに傷付いて欲しく無いんです!」

 

珠世の説得に対して、炭治郎は頑なに拒絶した。一度決めたら、何が起きようと絶対に曲げない頑固な一面を持つ炭治郎である。こうなってしまっては、たとえ死んでも意見を代えようとはしないだろう。

そんな炭治郎を見て、ある人物が珠世に話し掛けた。

 

「珠世殿……それは絶対にしなければならない事なのか……?」

 

珠世に質問をした人物は、義勇であった。珠世は質問の内容に対して、頸を縦に振って頷いてみせた。

 

「"推測"よりも"確実"な情報の方が、価値が有るのは確かです。」

 

「……承知した。」

 

珠世からの回答を得た義勇の行動は素早かった。

 

「えっ!? 義勇さんっ!?」

 

義勇は炭治郎が持っていた爆血刀を素早く奪取すると、珠世の下へ瞬時に動いていた。その速さには柱を除いて、追い付くどころか目視で追跡する事も出来なかった。

 

「珠世殿……ごめんっ!」

 

義勇は珠世に謝罪してから、爆血刀を珠世の左腕に向かって振り下ろした。

 

『!?』

 

上腕から斬られた珠世の左腕はそのまま宙を飛び、中庭まで飛び出て陽光を浴びて消失した。

 

「うぐっ!……ああぁぁぁっ!!」

 

珠世は義勇に斬られて、激痛から叫声を上げて右手で左腕を押さえた。

 

「珠世様ぁっ!!」

 

「珠世さんっ!!」

 

大広間に炭治郎と愈史郎の悲痛な叫声が鳴り響いた。しかし、そんな二人に珠世が一喝する。

 

「落ち着きなさいっ!!」

 

『!』

 

珠世にそう一喝された炭治郎と愈史郎は、驚きから静止する。珠世はそれを見て微笑を浮かべて、優しく二人に話し掛けた。

 

「私なら大丈夫よ。落ち着いて、ね?」

 

「「……っ。」」

 

珠世にそう言われては、炭治郎達は動かずにその場を静止している他に無かった。

 

「珠世さん……苦しんでいるところを、無粋だとは思う。結果を聞いても良いかな?」

 

『!』

 

「はい……この灼けた傷口からの出血量の無さ、炎で身体を直に炙られる様な激痛、そして再生力の遅延……赫刀そのものと言っても過言ではありません。」

 

『!!!』

 

耀哉の質問に対して、珠世は確証を以て赫刀であると断言した。そのため、大広間には響めきが広がった。

 

珠世からは激痛からか玉の如き大粒の汗が流れ落ちているが、既にあまねが手巾(ハンカチ)で汗を拭っている。それを見て耀哉は珠世をあまねに任せて、今度は禰豆子に視線を向ける。

 

「禰豆子。悪いんだけど、他の日輪刀(かたな)でも同じ事は出来るか、試して貰えないかな?」

 

「うっ?……うっ!!」

 

「っ!……御館様っ!!」

 

炭治郎は耀哉の頼み事を耳にして、抗議する様に耀哉を呼んだ。たとえ敬愛する耀哉であろうと、唯一にして最愛の家族である禰豆子が傷付く様な真似はさせられなかった。

 

「ううっ!」

 

そんな炭治郎の心情など露にも掛けず、禰豆子はしのぶの下へと駆け寄った。

 

「っ!……禰豆子さん。」

 

「うっ! うっ!」

 

禰豆子はしのぶの日輪刀に向かって指を差す。先刻の行動を鑑みれば、しのぶの日輪刀を爆血刀に変えようとしている事は明らかだった。

 

炭治郎は禰豆子の積極的な行動振りを見て、止めようとするのを諦めた。そんな炭治郎を見て、しのぶは日輪刀を抜刀して禰豆子の前に差し出した。

 

「うっ!」

 

禰豆子は差し出された日輪刀に指先を触れさせると、日輪刀が勢い良く燃え上がり、爆血刀が出来上がった。

 

『!!』

 

「……どうやら最初は力み過ぎていただけで、実際は軽く血を塗り付けるだけで充分みたいだね?」

 

耀哉は驚きながら、禰豆子の行動を冷静に分析した。それから更に無一郎とカナヲの日輪刀でも検証した結果、全て爆血刀に変える事に成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

「禰豆子、頑張ったな。」

 

「ん~~❤」

 

炭治郎は赫刀の検証を終えた禰豆子がトコトコやって来たので、抱き締めながら頭を撫でてその貢献を労った。

禰豆子流の赫刀の発現方法だが、過度な流血を必要としない事が明確となり、炭治郎も内心複雑ながらも安堵していた。

 

幾ら再生するからといっても、心情としては唯一にして最愛の家族である禰豆子が傷付き流血する姿など、炭治郎は極力見たく無かった。

 

炭治郎と禰豆子を一度見てから、珠世が爆血刀から受けた傷が回復するのを見計らって耀哉が声を掛けた。

 

「珠世さん。怪我の方はもう大丈夫かな?」

 

「えぇ、もう大丈夫です。心配は要りません。」

 

「……珠世殿。先刻(さっき)は大変申し訳無かった。深く、御詫び申し上げる。」

 

珠世が耀哉に答えると、今度は義勇が珠世に向かって、平伏して謝罪した。

 

「冨岡さん……良いんです。寧ろ、この件は此方が感謝しなければなりません。冨岡さん、ありがとうございました。」

――痛みは完全に無くなっている……やはり縁壱さんに匹敵する赫刀では無かったわね……。

 

珠世はそう言って、義勇に頭を下げて礼を述べた。それを見た行冥は突如、数珠を持っている手を合わせ音を立てて合掌した。

 

「珠世殿。貴女が御身を呈して鬼殺隊(我々)に尽力して下さる事に、改めて心から敬意を評したい。今一度、この場で深く御礼申し上げる。」

 

行冥はそう言って、珠世に向かって平伏した。そんな行冥を見て、耀哉も倣う。

 

「珠世さん。私からも礼を言わせて欲しい。本当に、ありがとう。」

 

耀哉はそう言って、珠世に頭を下げた。あまねと実子の輝利哉達も耀哉に倣い頭を下げる。それを見た天元達も行冥と同様に平伏して、珠世に感謝を示した。

 

「皆さん、頭を御上げ下さい。幾ら何でも大袈裟過ぎます。」

 

珠世は耀哉達の多謝に少しばかり困った様子を見せながら、楽になる様に促した。それから珠世は一度咳払いをしてから、新たに語り始めた。

 

「皆さん。早速ですが、次に赫刀よりも上位の、痣の力を極限まで引き出しその境地に達して覚醒した者だけが得られる"透き通る世界"について説明したいと思います。」

 

『!』

 

珠世はそう言って"透き通る世界"の説明を始めた。

 

"透き通る世界"とは、それも痣者の中から選ばれし覚醒者にしか獲得できない、赫刀とは違ってはっきりとした"能力"や"異能"と呼ばれるものである。

 

覚醒者は他者の身体が透けて見える"透視"が可能になり、他者の骨格や筋肉の動きは勿論、内臓から神経の一本一本、血流すら見える様になると言う。

 

「……それだけ身体の構造が見えると言う事は、相手の"起こり"を見て対応が可能と言う事です。」

 

「"起こり"?」

 

炭治郎が聞き慣れぬ単語を耳にして、首を傾げながら呟いた。そんな炭治郎に微笑みながら、珠世は起こりについて説明を始めた。

 

「例えば、人が物を掴む時に腕を動かしますね? 実はその時に、腕より肩が先に動きます。そして肩よりも本当は先に、腰が僅かに動いています。物事の始まり、目的のための事前動作。これが"起こり"です。」

 

「つまり……相手の動きを予測、いや予知して先読みが可能と言う事ですか?」

 

しのぶが驚いた様子で、珠世が言わんとしている意図を察して指摘した。

 

「可能です。更に言えば、神経や血流の流れを見て予知が可能だそうです。縁壱さんはこの力を使って、無惨の不死身の秘密を知りました。だから死の一撃を躱しつつ脳と心臓を、的確に攻撃する事が出来たんです。」

 

『……』

 

緑壱の偉業を知って、炭治郎達は感嘆から何も言えずに沈黙した。

 

「……この"透き通る世界"ですが、戦国期に多数居た痣者の中でも、覚醒者にまで辿り着いた者はたったの五人しかいなかったそうです……そして境地に達したこの五人の覚醒者の中には、あの黒死牟も含まれていました。」

 

『!!!』

 

黒死牟の更なる力を知って、炭治郎達は驚愕しその警戒度を更に一段階、いや二段階上げた。その中でも、無一郎の反応は顕著に現れていた。

 

「くっ!……何でっ!……其処まで剣も技も……呼吸も極めておきながらっ!!……どうしてっ……鬼なんかにっ!!……っ!!!」

 

無一郎は掌の皮を爪で突き破りそうになる程強く握り締め、唇から血を滲まさんばかりに強く噛んだ。無一郎からは、強い憤怒と悲痛の匂いと音がしていた。

 

「時透君……。」

 

炭治郎も悲しげに無一郎を呼んだが、掛けてやれる言葉が見つからなかった。そして唐突に、炭治郎の脳裏にある記憶が過る。炭治郎はたまらない様子で、珠世に話し掛けた。

 

「あの、珠世さん。」

 

「どうしました? 炭治郎さん。」

 

「実は……生前、父が言っていた事を思い出したんです。」

 

『!』

 

その一言で、大広間に居る者達の注目は炭治郎に集中した。顔を俯かせていた無一郎も、炭治郎の言葉を耳にして視線を向ける。

 

炭治郎の父親といえば、"日の呼吸"を極めた痣者である可能性が高かった。耀哉達が炭治郎に注目するのは、無理も無い話だった。

 

「父は生前、俺によく言い聞かせていました。」

 

炭治郎はそう言ってから一度深呼吸すると、父・竈門炭十郎が言い残した言葉を復唱し始めた。

 

「『"ヒノカミ神楽"は幾度も幾度も繰り返して形を覚えて"出来る"様になり、無駄な動きを削ぎ落として"使い熟せる"様になり、正しい呼吸と動作を覚え、血管の隅々まで動作を認識し"極める"事が出来る様になれば……最小限の動きで最大限の力を無意識に引き出せる。そうする事で余計な思考を排除して頭の中が透明になって行く。これを弛まぬ努力を以てやり遂げれば、"透き通る世界"に辿り着く事が出来る様になる』と。」

 

『!!??』

 

炭治郎が口にした炭十郎の遺した言葉の内容に、耀哉達は驚愕した。この言葉が意味するところは、炭十郎が境地である"透き通る世界"にまで極めた事に他ならないからだ。

珠世も驚愕していたが、納得した様子であった。

 

「やはり炭治郎さんの御父様は、覚醒者に間違いありませんでしたか……っ!」

 

「そう、なりますね……父さんは細身でしたけど、身体能力は同じ人間とは思えない程、高い人でした。」

 

炭治郎はそう言うと、ある逸話について語り始めた。

 

それは炭十郎が病死して此の世を去る十日前の、満月が印象的な冬の夜の出来事であった。

 

炭治郎の故郷である雲取山から一つ隣の山で、一家六人が大熊に襲われ皆殺しにされる惨劇が起こった。

 

竈門家もまたその大熊に警戒して、生家の周辺に篝火を焚いて鈴を付けた縄を幾重にも張り巡らした。

 

すると突然、炭十郎が起床して炭治郎を連れて生家の外へ出た。何かに警戒しながら、右手に手斧を持ったまま。

 

起こされた炭治郎の疑問は、間も無く絶望へと変わった。其処には巨大な熊が、涎を垂らしながら歩いて来たからだ。炭治郎は匂いで直感的に、件の人喰い熊だと悟った。

 

大熊は威嚇のために立ち上がると、それはそれは天をも突く様な大きさだった。実際に、その大熊の体長は十尺(三m)に迫る巨躯であった。

 

「えっ? ちょっと待って、炭治郎君。大熊の大きさが……えっ?? 十尺(三m)??」

 

蜜璃が当惑した様子で、炭治郎が口にした大熊の体長を口にした。そんな蜜璃に同意する様に、アオイも開口する。

 

「炭治郎さん。この関東一帯に出没する熊って、ツキノワグマって言いまして……体長は大体が六尺(百八十cm)ぐらいが平均で、大きいものでも六尺六寸(二m)超えないくらいの筈なんです。北国の羆でも無ければそんな大熊が居る訳が……。」

 

最愛の恋人に対して遠慮しがちな様子でアオイが語ると、炭治郎は困った様に笑いながらそれに答えた。

 

「うん。正直、俺も信じられなかったよ。でもね、本当なんだ。後から知ったんだけど、その大熊は"穴持たず"って言って冬眠出来なかった熊みたいでね。

父さんはこの巨躯だから、冬眠に適切な場所が作れなかったんじゃないかって言っていたのを覚えているよ。」

 

炭治郎が真顔で嘘が言える筈が無いので、それが事実なのだと分かると、耀哉達は驚きを隠せなかった。

炭治郎は他に質問などが無いのを確認すると、逸話の続きを語り始めた。

 

大熊はそのまま炭十郎に襲い掛かろうとしたため、炭十郎は大熊の首に目掛けて跳ぶと、斧を二回振って首を斬り落とした。

大熊の首はコロンと雪原の上に落ちると、大熊の胴体から血が泉の如く吹き出してから、ズドンと大音を立てて崩れた。

 

『!?』

 

炭治郎が語った大熊の末路を聞いて、大広間に居る誰もが言葉を失う程の驚愕を齎した。

 

「ちょ、ちょっとまて。炭治郎。」

 

今度は義勇が当惑した様子で、炭治郎の語りを止める。

 

「何ですか? 義勇さん。」

 

「……お前の父は、その……猟銃でも使ってその大熊を仕留めたんじゃないのか?」

 

義勇は信じられない様子で、炭治郎が何か言い忘れたのではないかと思い、そう尋ねた。しかし、待っていたのは炭治郎の否定の言葉だった。

 

「俺の生家(いえ)には、猟銃なんて有りませんでしたよ。」

 

「っ!……しかし、お前の父は秋冬に狩猟で獲物を仕留めてお前や弟妹に獣肉を振る舞ったと……。」

 

「父さんは秋冬になると定期的に荷車を引いて、それから手斧(おの)と短刀だけ持って一人で山中に入って行くんです。

そして生家(いえ)に帰って来る時には、既に血抜きがされた首無しの獲物を荷車一杯に乗せて持って帰って来ていたんですよ。」

 

「……」

 

炭治郎が語った炭十郎の逸話に、今度こそ義勇は言葉を失った。

炭十郎が野生動物を相手に、手斧で仕留めていたとはっきりしたからだ。短刀でも仕留めていたかもしれないが、どちらかと言えば解体向けだ。

少なくとも、常人に出来る所業では無かった。

 

「その取って来た獣肉を焼いたりお鍋にしたり、後は毛皮と一緒に肉を町まで持って行って、売ったり他の物と物々交換をしたりしてました。ふふっ、懐かしいなぁ……。」

 

炭治郎はそう言って、過去の記憶に少しばかり身を浸かせた。しかし、直ぐに頭を切り替えて語るのを再開する。

 

「父さんは大熊を仕留めた後、俺に「ちゃんと動きを見たか?」と尋ねました。

父が感情を震わせず、植物みたいに静かに気配無く動いた様子を見た俺は頷く事しか出来ませんでしたけど、現在(いま)になって分かりました。」

 

「あれは俺のために、父さんなりの"見取り稽古"だったんだと。俺が何時か"透き通る世界"に辿り着くための、その一助になる様に力の一端を開放して見せてくれたのだと、俺は思っています。」

 

「……炭治郎。君の御父上は、凄い人だったんだね。」

 

炭十郎の逸話を語り終えた炭治郎に、耀哉が称賛の言葉を送った。耀哉は話を続けて語る。

 

「これ程の御仁が在野に埋もれていたとは、痛恨の極みだ。」

 

「はっ。御館様の仰る様に、かの御仁が一介の炭焼き職人では無く、鬼狩りであったならば……どれだけ鬼殺隊の力となり、多くの罪無き人々を救えた事でありましょう……。」

 

耀哉の言葉に、行冥が賛同する様に炭十郎を惜しんだ。耀哉と行冥の言葉に炭治郎は嬉しく思ったが、同時に困った様に頬を掻いた。

流れが妙な事になって来たため、珠世が阻止するべく耀哉に話し掛けた。

 

「耀哉さん。他に何かお聞きしたい事などは有りませんでしょうか?」

 

「っ!……そうだね。珠世さんはどうやって無惨に対抗するか、考えている対策方法を鬼殺隊(私達)に教えて貰えると嬉しいかな? 鬼殺隊(私達)も何か、珠世の御手伝いが出来るかもしれないからね。」

 

『!』

 

耀哉の要望を聞いて、反射的に炭治郎達の視線は珠世に集中した。無惨への対策方法など、鬼殺隊にとって咽喉から手が出る程に渇望している情報だからだ。

 

しかし、珠世は難しい顔をして双眸を閉じながら首を横に振った。

 

「大変申し訳ありませんが……私は今、産屋敷本邸(此処)でその件について鬼殺隊(あなた方)に話す心算は一切有りません。」

 

『っ!?』

 

珠世が強い拒絶感を以て、耀哉の要望を拒否した事に炭治郎達は騒然となった。

 

「ど、どうして、鬼殺隊(俺達)に話せないんですか? 珠世さんっ。」

 

戸惑いを隠せず、吃りながら珠世に拒絶の理由を知りたくて尋ねた。

 

現在(いま)、こうして御集まり頂いている皆さんが、決戦までに無惨と遭遇せず生きている保証が無いからです。

"謀は密なるを良しとす"の故事曰く、直接関係する方以外は最後の最後まで秘密にさせて頂きます。御了承下さい。」

 

『!!!』

 

珠世が言い放った理由に、炭治郎達は一度息を呑むも尤もな理由は反論出来ず納得した。しかし、この期に及んで納得していない者が居た。

 

「珠世……貴様は鬼殺隊(俺達)が無惨に捕まり拷問でもされれば、ベラベラとあっさり情報を吐いて味方を売る様な恥知らずだと、そう言いたいのか?」

 

『!?』

 

吐き捨てる様にそう言ったのは、青筋を立てて憤怒する小芭内だった。

 

「シャ――!?」

 

「ちょっと!? 伊黒さんっ!!」

 

これを見て鏑丸と蜜璃が、諫める様に小芭内に向かって声を荒げた。

 

「大丈夫です、甘露寺さん。」

 

そんな蜜璃に、珠世は優しく声を掛けて落ち着かせる。そしてそれから、小芭内に向かって真剣な表情で語り始めた。

 

「私はその様な考えなど、微塵も持ち合わせていませんよ。伊黒さん。

そもそも無惨は情報を得るのに相手を拷問するなど、その様な回り諄い方法など取る事は有り得ません。」

 

『!!』

 

「っ!!……ほう、実に気になる情報だね。珠世さん、無惨はどんな方法で情報収集するのかな?」

 

沈黙したまま成り行きを見守っていた耀哉だったが、珠世の一言が気になって質問をした。珠世は返答するために、語るのを続ける。

 

「無惨の持つ能力の中に、"記憶を読む"と言うものが有ります。これは喰い殺した対象の細胞に含まれている記憶を読み取る事で、情報を得る事が出来るのです。」

 

『!?』

 

珠世が言い放った無惨の新たなる情報に、炭治郎達は驚愕した。その情報を聞いた耀哉もまた、納得が行った様子で深く頷いていた。

 

「それなら……尋問も拷問の必要も無いね。どれだけ剣士(子供)達が頑張って貝の如く口を閉ざそうと、其処までされては何の意味も無い訳だ。」

 

「はい。無惨は臆病者ですが、手下の鬼達に全部任せて自分は何もしていない怠け者ではありません。

闇夜の中で蠢動しながら、手駒に成り得る人材の発掘と太陽克服の手段を探しています。其処で無惨と遭遇しないと言う保証は、誰にも存在しないのです。」

 

『!!!』

 

珠世の言葉に、炭治郎達は胸が引き締められる思いがした。

 

「分かった。無惨の対策方法に関しては、言わなくて大丈夫だよ……その対策方法は、しのぶと今後練る訳だね?」

 

耀哉の質問に対し、珠世は静かに頷いた。珠世としのぶの二人で練る対策方法など、薬毒による対策方法としか思えなかった。

だが先刻の無惨の能力を聞かされては、その事実すらも直接、口にする事すらしたいとは思えなかった。

 

僅かな間、沈黙が大広間を支配したが再び耀哉の開口で珠世への質問が飛んだ。

 

「珠世さんの一言で、私も聞きたい事がもう一つ出来たよ……教えてくれないだろうか?」

 

『?』

 

「?……私に答えられる事でしたら、何なりと。」

 

耀哉がこれから言う質問の内容が気になるのか、耀哉へ一斉に炭治郎達が注目する。

 

「私は知りたいんだ。無惨は()()()()()、太陽の光を克服しようとしているのかをね。」

 

「っ!……()()()()()……ですか?」

 

「うん。恥ずかしい話だけど、鬼殺隊(私達)は無惨の目的は確かに分かっている。

だが、その講じようとしている手段までは分かっていないんだ。……珠世さん、無惨は如何に、太陽を克服しようとしているんだろうか?」

 

『!』

 

耀哉の質問内容を耳にして、炭治郎達の珠世を注目する視線は益々強くなった。

 

そんな視線を一身に受けつつ、珠世は冷静に返答を始める。

 

「無惨が講じ様としている方法は、二つ程有ります。一つは、『太陽を克服した鬼を創り、これを喰らう』事です。

これが人間(ひと)を鬼に変える主な目的であり、手駒となる上弦級の鬼に成り得る逸材の発掘は二の次になります。」

 

『!』

 

珠世が最初に口にした方法に、炭治郎達からは其処までの驚きは無かった。

推測すること事態、そんなに難しい事では無いからだ。そうでなければ、無惨も鬼を創る必要など無いだろう。

 

しかし、推測と確信では擁する意味に天と地程の差が生じている。千年もの間、曖昧で推測でしかなかった、無惨が人間を鬼に変える理由が明言された瞬間であった。

 

「第二の手段ですが……それは"青い彼岸花"の捜索です。」

 

『!?』

 

初めて耳にする単語を聞いて、炭治郎達は双眸を見開いて反応する。

 

「彼岸花……別名では"曼珠沙華"とも言う赤い花だったね?」

 

「えぇ。ですから、区別を付けるために"青い"彼岸花です。」

 

「……彼岸花は確か基本色が赤色で、他に現存するのは黄色、桃色、紫色、そして白色の五色の筈です。青色の彼岸花なんて、そんな植物が実在するのですか?」

 

耀哉が呟いた彼岸花の豆知識を肯定する珠世に、しのぶが疑問に思って質問した。

 

「私も無惨から捜索を命じられただけで、真偽は不明なのです。因みに、側近級の鬼のみ捜索を命じられていました。現状を推察すると……恐らく、上弦の鬼がこの任務を担っているかと。」

 

「あの……珠世さんは何故、無惨が青い彼岸花なら太陽を克服出来るって根拠を持っているのか、御存知なんですか?」

 

蜜璃が遠慮がちに、珠世に青い彼岸花について質問をする。

 

「えぇ、知っています。その理由を話すとなると、無惨が人間だった頃の昔話までする必要が有りますが、聞きますか?」

 

『!!??』

 

無惨の人間時代の情報と聞いて、大広間に響めきが広がった。無惨の人間時代となると、千年以上前。平安期の時代の話である。聞きたいと思っても聞ける話では無い。

 

珠世の問いに対して拒否する者は一人もおらず、大広間に居る全員が無言で首を縦に振った。それを見て珠世は、無惨の人間時代の話を語り始める。

 

無惨は生まれた時から重度の虚弱体質であった。生まれ落ちた瞬間から死産と勘違いされ、荼毘される寸前で産声を上げて助かった。

それでも一日の大半は薄暗い日陰の有る室内に、敷いてあった布団の上で過ごした。身体に陽光が当たれば、直ぐに肌が焼け爛れた。

 

二十歳までしか生きられないと宣告され、兄弟達が日の当たる庭で楽しく遊んでいるのを眺めながら、嫉妬心を抱え鬱屈とした日々を過ごしていた。

 

其処へ無惨の下へ、一人の医者が現れた。

無惨が少しでも生き長らえられる様にと苦心していたにも拘らず、一向に治療の効果が出ない現状に癇癪を起こした無惨の手によって、背後から鉈で頭部を叩き割られて殺害された。

 

『なっ……っ!?』

 

口を挟まず黙って聞いていた炭治郎達だったが、医者の予想外過ぎる末路に思わず声を上げる程に絶句してしまう。

 

「……ふん。どうやら人間だった頃から、既に無惨の性根は腐り果てていた様だな。」

 

愈史郎は珠世が伝えた内容を聞いて、吐き捨てる様にそう言い放った。

嘗ての自身と同様、虚弱体質だったと言う共通点が有った事実が更なる苛立ちを募らせる原因になっていた。

 

珠世はそんな周囲の反応を他所に、更に無惨について重大な事実を語り始める。

 

無惨が医者を殺害してから間も無く、医者から投与された薬の効能が効き始め虚弱体質だった身体は一転して強靭な肉体に変貌した。

 

しかし、此処で二つの問題が生じた。食人欲求と太陽への恐怖である。前者は人間を喰らえば治まるため、無惨にとって大した問題では無かった。だが、後者が無惨にとって一番の問題であった。

 

無惨は本能的に悟った。太陽の下には出られない。一歩でも出たら死ぬのだと悟り恐怖で震えた。

 

その事実が屈辱的だった無惨は、太陽の下でも死なない身体を得るべく医者の資料を読み漁った。

その結果、無惨に投与された薬は試作段階の物であり、最終的には"青い彼岸花"と言う植物が調合に必要だった事が明記されていた。

 

日誌などを調べた結果、青い彼岸花は実在する植物だと言う事が分かった。しかし、此処で一つ問題が生じた。

その日誌には、青い彼岸花がどの季節に咲くのか、何処に生息しているのか、栽培は可能なのか、その記述が一切残されていなかったのである。

 

無惨は青い彼岸花を得るべく日本中を練り歩いて捜索したが、発見には至らなかった。

そのため無惨は青い彼岸花の捜索と太陽を克服出来る体質の鬼の発見、この二つの目標を大願成就のための最優先事項と定めたのである。

 

「……チィッ! 鬼殺隊(俺達)なんざ、その気になりゃ何時でも潰せる。眼中にねぇって事かよォ。」

 

珠世の話を聞き終えて、実弥が苛立ちを隠す事無くそう言い捨てた。この実弥の発言に、珠世が同意する。

 

「そうですね。私が居た頃も無惨は自分自身を『天災と同等の存在。』と称して、鬼狩りを『時折現れる、目障りな害虫(虫けら)。』としか見ていませんでしたから。」

 

『!』

 

珠世から無惨の鬼殺隊への印象を聞いて、炭治郎達は怒りに震える。しかし、天元だけは額に青筋を浮かべながらも、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「そりゃ派手にありがてぇ話だな。敵に警戒されるより、侮って油断して貰えるに越した事はねぇ。

それから、派手に感謝してるぜ。鬼舞辻無惨(馬鹿)が油断している御蔭で、鬼殺隊(俺達)現在(いま)まで存続出来ているんだからな。」

 

『!』

 

天元の一言で、炭治郎達に募った怒りが消失する。その内の何人かは天元に同意して、不敵な笑みを浮かべた。

 

大広間の雰囲気が落ち着いたのを見て、耀哉が開口する。

 

「天元の言う通りだ。だけど鬼殺隊が今日まで存続出来ている最大の理由は、皆が思う『誰かを、愛する人を傷付け奪う鬼が許さない。』と言う強い想いだ。」

 

「鬼殺隊は真っ当では無い、歪な組織だろう。しかしその歪さが、鬼殺隊が幾度も叩き潰され壊滅されようと不死鳥の如く復活して存続させている。」

 

「鬼殺隊が生きている。これが想いは不滅なのだと、何よりも証明している。」

 

耀哉の言葉に、炭治郎達は静かに頷いた。耀哉は其処まで言うと、珠世に向かって話し掛ける。

 

「珠世さん、ありがとう。御蔭で千年間、確信に至れなかった無惨の目的とその手段を知る事が出来た……となると、鬼殺隊(私達)が先手を打ってその青い彼岸花を手に入れる必要が出て来たね。」

 

耀哉が珠世に感謝の言葉を伝えて、新たに達成しなければならない目的を口にした。すると、伊之助が耀哉に思った事を正直に伝え始める。

 

「探すったってよ、無惨の野郎が探せねぇもんをどうやって探し出すんだよ? 千年も探して見つけられねぇんなら俺達は鬼共だけに集中しといて、青い彼岸花(そっち)は放っといても良いんじゃねぇか?」

 

青い彼岸花への対策に否定的な伊之助は、捜索せず放置して鬼への対策に集中すべきだと伊之助は進言した。

柱を差し置いて恐々する事無く耀哉に意見出来るのは、伊之助が持つ生来の素直さと無遠慮さ故である。

 

そんな伊之助に好感を抱いた耀哉だったが、伊之助の青い彼岸花に対する意見に関しては首を横に振るい却下した。

 

「いいや、そう言う訳には行かなくなった。良いかい、伊之助? 確かに今日まで、無惨は青い彼岸花を見つけられなかったかもしれない。

でも今宵も見つけられないなんて、この世の誰が断言出来る? 神や仏すら、それは出来ないだろう。なら、先手を打って阻止するしか道は無いんだ。」 

 

もし無惨が太陽を克服してしまった場合、鬼殺隊ですら手の付け様が無い無敵の存在になってしまう。この世に夜明けが来ない、永遠の暗黒時代の幕開けとなるだろう。

その様な最悪な事態は、全てを犠牲にしてでも避けなければならなかった。

 

耀哉が言った様に、千年以上掛かっても唯一の弱点を克服出来ないからといって、明日も克服出来ないなどと誰が断言出来ると言うのだ。神仏ですら、その様な事は出来る筈が無かった。

 

炭治郎達は耀哉に諭されて、その危機感を明確に自覚した。

もし先手を打って潰せる手段ならば、絶対にそうしたい。

 

皆がそう思ったが、青い彼岸花について手掛かりが一つも無い状態だ。言う慣れば砂漠の中から、一粒の金剛石(ダイヤモンド)を探すに等しい状況である。

 

「……っ!」

 

すると大広間に居る一人が、ハッとした表情をして両眼を見開かせた。そして身体を少し震わせてから、耀哉に向かって平伏して進言した。

 

「御館様に……私から申し上げたい事が一件有ります!……発言を御許し願えませんでしょうか?!」

 

「カ、カナヲ!?」

 

その様な行動に移った人物とは、カナヲだった。

炭治郎の御蔭で銅貨(コイン)を投げずに物事を判断出来る様になっただけで無く、性格すら明るくなったカナヲだ。

 

まさか炭治郎が関連しない案件で、人前でものを言う事が出来る程の急成長を遂げていたとは思わなかったのか、しのぶが動揺した様子でカナヲの名前を呼んだ。

 

緊張から全身を震わせるカナヲに、耀哉は微笑みながら答えた。

 

「勿論だとも。遠慮なんて無用だよ、カナヲ。思った事を言ってみなさい」

 

「は、はいっ!」

 

耀哉から快く快諾されたのを見て、カナヲは一度深呼吸してから自身の考察を語り始めた。

 

「あの……生前のカナエ姉さんに一度、蝶屋敷の図書室に置いて有った外国の花の図鑑を読んで貰った事があるんです。

それで描かれていた花の中には一年に一度、何十年に一度……中には百年に一度しか咲かないと言う、希少な花の解説も在りました。」

 

『っ!!』

 

カナヲが説明した考察から、炭治郎達はカナヲが言わんとしている事を察した。当然、耀哉も察してそれを口にし始める。

 

余談だが、蝶屋敷は入院している隊士が退屈しない様にと、図書室が屋敷内に設けて在った。

其処には多数の本が陳列されているのだが、利用率ははっきり言って芳しく無かった。

 

「カナヲ、つまり君は青い彼岸花はその決まった周期にしか咲かない……希少な類の花であると、そう言いたい訳だね?」

 

「はいっ! 御館様の仰る通りです!」

 

耀哉が口にした言葉の内容が、自身の結論と同意見な事に歓喜しながら、元気良く肯定した。

 

「御館様。俺からも一つ具申してよろしいでしょうか?」

 

『!』

 

其処へ、耀哉へ新たに進言する者が現れた。天元である。天元はカナヲの意見に対し、こう異論を述べ始めた。

 

「胡蝶の継子が今言った考察は、一考の価値が有ると思います。しかし、例えばの話ですが……もしそうなら五十年に一度なら二十回、百年に一度でも十回、無惨には青い彼岸花を見つける機会があった。

それを『()()()見つけられずに済んだ。』と、単純に片付けて良いものでしょうか?」

 

『!!』

 

天元の異論を耳にして、耀哉は右手を顎に置いて一考を始めた。

 

「……天元。すると君は決まった周期以外にも、無惨が青い彼岸花を見つけられない理由が有ると、そう言いたいんだね?」

 

「御意っ。……まぁ、俺が地味に考え過ぎかもしれませんがね。」

 

『……』

 

炭治郎達は天元の考察を耳にして、頭を悩めた。無惨や鬼に見つけられない理由となると、簡単には思い付かなかった。

 

「っ!……御館様っ! 恐れ多い事ですが、神崎アオイからも具申したい事が御座います……っ!」

 

『っ!』

 

抱き着いていた炭治郎から離れて、一歩前に出て平伏しながらアオイが耀哉へ進言していた。

 

「良いとも、アオイ。何か思い付いたのかな?」

 

「はい。と言っても自分でも荒唐無稽な考えだと思いますが……。」

 

アオイはそう言って僅かに頬を赤く染めて頭を俯かせると、意を決して顔を上げてから具申を始めた。

 

「無惨が、元い鬼が青い彼岸花を絶対に見つけられない理由ですが……決まった周期で咲くだけで無く、日中にしか咲かないのでは無いでしょうか?」

 

『!!!!!』

 

アオイが具申した内容に、炭治郎達は双眸を見開いて驚愕した。

確かにそれが理由ならば太陽が天敵の鬼では、絶対に青い彼岸花を発見出来ない。しかし、炭治郎達は同時にこう考えた。『その様な特殊条件を持つ花が、この世に実在するのだろうか?』と。

 

「……それだっ。」

 

『!!』

 

耀哉がボソッと小声で、身体を震わせながら呟いた。小声ではあったが、一滴の水が水面に落ちて波紋を広げるが如く、大広間に広がった。

 

「あっははははは! あっははははははははっ!! それだよ、アオイ! そうだっ! きっとそうだっ! そうでなければ、無惨が千年もの長い年月を使って探し出せない筈が無い!!」

 

『!?』

 

昂揚した様子で、興奮気味に耀哉が叫ぶ様にアオイの考察を肯定した。炭治郎達、特に柱の行冥達は初めて見る興奮気味の耀哉を目撃して、驚愕から固まっていた。

 

少し時間が経ってから我に返った耀哉だが、少しばかり深呼吸を繰り返してから、普段通りの落ち着きを取り戻した。

 

「ふぅ……柄にも無く興奮してしまった様だ。珠世さん。アオイの考察だけれど、私は正しいと思っている。珠世さんは、どう思うか教えて欲しい。」

 

「っ! そう、ですね。私も彼岸花が咲き誇る残暑から秋の夜にしか捜索しませんでしたから……もし日中の間にしか咲かないとなれば、鬼には未来永劫、青い彼岸花を発見する事は出来ません。アオイさんのその考察を、荒唐無稽と斬り捨てるのは乱暴だと思います。」

 

珠世の一言が、決定的なものとなった。これを受けて耀哉が青い彼岸花に対する対応策を発表した。

 

「では、飽くまでも仮定の話である事を承知で推し進めるけれど……全国で彼岸花が咲いている場所を調査し尽くしてから、青い彼岸花の回収を行う事にする。」

 

『!』

 

耀哉の発表に反応した炭治郎達だったが、その発表に疑問を抱いて質問する者が現れた。それは珠世であった。

 

「それは、大いに構いませんが……まさか、鬼殺隊の皆さんだけでその計画を実行する御心算ですか?」

 

珠世は怪訝な表情を隠そうともせずに、耀哉に向かって質問した。その数百人だけで行おうものならば、一体どれ程の歳月が掛かるのか、はっきり言って計算したくも無かった。

 

「いいや、違う……産屋敷家の人脈と財力を活かして、人海戦術を行使する予定だよ。鬼殺隊の剣士(子供)達には、鬼との戦いに集中して貰わなくてはならないからね。」

 

「それを聞いて、安心しました。」

 

珠世は耀哉の選んだ手段の内容を知って、ホッと安堵して一息ついた。

 

「耀哉、仮にだぞ? もしもお前が青い彼岸花を発見と回収が出来たとして、その後はどうする予定なんだ?」

 

愈史郎は青い彼岸花の行方が気になって、耀哉に質問をした。その質問を受けて、耀哉は笑みを零した。

 

「愈史郎さん。それはまだ、秘密だよ。」

 

「はぁ?」

 

思わぬ回答に愈史郎は動揺したが、耀哉に限って悪用するとは思えなかったのか、これ以上聞くのは止める事にした。

 

「まぁ、青い彼岸花についてはお前に任せてやる。悪用したりはせんだろう……話が変わるんだが、俺達の今後の処遇はどうなるんだ?」

 

『!』

 

愈史郎が口にした疑問を切っ掛けに、議題は青い彼岸花から珠世と愈史郎の鬼殺隊における待遇へと議題が変更された。

 

「それは有耶無耶になりそうだったけど、私は二人を賓客として……。」

 

「その件なんだがな、耀哉。」

 

「耀哉さん。私達を慮って下さるのは嬉しいですが、それは拙い対応だと思うのです。」

 

『!』

 

耀哉が最初に決定した処遇に関して、珠世が申し訳無さそうに異議を唱えた。愈史郎を頭を抱える様に、悩んでいる様子だった。

 

「拙い対応、とは?」

 

「はい。鬼への復讐心や罪無き無辜の人々を守りたいと言う、義憤や憎悪などの感情面を全面的に押し出している組織としては歪な鬼殺隊を鑑みれば……只でさえ鬼を迎え入れると言うだけでも、予想される反発は大きい筈です。」

 

「っ!……確かに実弥みたいに暴走する子が、出るとも限らないけれど……其処は産屋敷家当主として、絶対に珠世さんと愈史郎さんには危害は加えさせないよ。」

 

耀哉は断言する様に、珠世に誓ってそう言った。しかし愈史郎は耀哉の誓約を鼻で嗤って、ある宣言をした。

 

「お前が動く頃には、そいつらは俺達に危害を加えようとした後だろうがな。その時はそいつらを半殺しにさせて貰う。馬鹿共を殺さないだけ、ありがたいと思え。」

 

「……っ。」

 

耀哉は愈史郎の宣言が正しいと思っているからか、その事について何も言えなかった。

 

「……そうだね。正当防衛は勿論、認めるよ。だけど、せめて五体満足にして貰えるかな?」

 

「その点は問題無いぞ。再起不能なんて、そんな勿体無い事はしない。そんな馬鹿な奴らでも、死ぬまで使い潰した方が効率的だからな。」

 

万が一、暴走した隊士に襲われた際の事を話し合った結果、愈史郎は自身が満足する結果で終わった。すると愈史郎は、何かを思い出した様に開口する。

 

「話が逸れた。耀哉、俺にとって非常に癪な話なんだが……熟考の結果、鬼殺隊に生じる混乱や動揺を少しでも抑えるために、俺達は正式に鬼殺隊へ入隊するべきだと珠世様は御判断された。」

 

『!!』

 

愈史郎が言い放った内容に、炭治郎達は驚愕した。耀哉もまた、驚きを隠せない。

 

「……良いのかい? 正直に言うと、私としては願っても無い話だけれど……。」

 

「構いません。耀哉さんの体面も考えれば……やはり私と愈史郎は正式に耀哉さんの、産屋敷家の傘下に有るのだと、はっきりと内外に示すべきです。」

 

「まぁ私情を捨てて大局を見ろなんて言った俺が、私情を全面に出して文句を言う訳にはいかんだろう? 大いに癪だが、俺もお前の下に着く決心が出来たからな。」

 

珠世にそう強く進言され、愈史郎の後押しも有って耀哉は思考するために一瞬の間だけ沈黙する。そして耀哉は決断を下した。

 

「分かった。では、今この瞬間から二人は鬼殺隊の一員であり、私の隊士(子供)達だ。君達を侮辱し傷付ける者が居るなら、私が必ず報いを受けさせる。

先刻(さっき)も言ったけど……鬼と人の違いは有れど、無惨を倒したいと思い願う気持ちは同じだ。皆で力を合わせて、結束して事に当たろう。皆も、良いね?」

 

『っ!……御意っ。』

 

威圧感すら含んだ耀哉の宣言に、行冥達は一瞬慄いてから平伏した。炭治郎はとても喜んでいたが。

 

「御館様。恐れ入りますが、鬼殺隊での珠世さん達の階級はどうなるのでしょうか?」

 

『!』

 

しのぶの何気無い質問に、炭治郎達の興味は集中した。何より、耀哉の判断が気になった。

 

「良い質問だね、しのぶ。珠世と愈史郎に関してだけど……新たな部署を、『隠』に次ぐ第二の部署を設立する事にする。」

 

『っ!?』

 

耀哉の決定に、炭治郎達は驚愕した。たった二人のために、部署の新設まで行うとは考えられなかったからだ。耀哉は更に続けた。

 

「部署の名前は『反鬼衆』。名前の由来は『鬼舞辻無惨に反する鬼』もしくは『反旗を翻す』を捩っている。私の直轄の部署にして、権限は柱と同等のものにさせて貰うよ。」

 

『!?!?』

 

炭治郎達の間に激震が走った。厚遇されるものだとは予想していたが、やはりいざ言葉に直接されるのとでは、その衝撃の度合いが違ったからだ。

 

耀哉はそんな炭治郎達に眼中に無い様子で、炭治郎達を余所に当惑している珠世と満足げな愈史郎に話し掛けた。

 

「耀哉、本当に良いのか? 俺としては願ったり叶ったりだが……?」

 

「勿論だとも、遠慮する必要なんて無いよ。それから皆に合わせる必要も無い。君達の好きな様に、自由に振舞ってくれて構わない。君達の功績を考えれば、これだけも足りないくらいだ。」

 

「しかし……本当に良いのですか?」

 

「珠世様。耀哉がこう言っているのですから、俺達の方から遠慮する必要は無いでしょう?

それに俺達は鬼殺隊(此処)に来て一日しか経っていませんが……少なくとも何年も鬼殺隊に在籍している癖に、禄な戦果も挙げられず無駄な歳月ばかり過ごしている何処ぞの柱共よりも、俺達の方がずっと貢献しているではありませんか。」

 

『っっ!!!』

 

愈史郎の露骨過ぎる程にあからさま過ぎる挑発的な言動に、流石の行冥達も青筋を浮かべて苛立った。しかし全てが事実であるため、言い返す事が出来なかった。

 

そんな行冥達など歯牙にも掛けず、愈史郎は耀哉に礼を述べた。

 

「耀哉。礼を言うぞ。俺個人で言えば、後にも先にも様付けするのは珠世様だけだ。

お前の下でも就くだけでも嫌だと言うのに、柱共(こいつら)の下など腸が煮えくり返るぐらい業腹な話だったからな。」

 

行冥達の下に就くなど想像するだけでも腹立だしいのか、愈史郎は鼻で嗤って行冥達に更に挑発的な言動を続ける。

 

「何だ、どうした? 俺はこれ以上無い事実しか口にしていないが、何か文句でも有るのか? 俺達を上回る功績の一つでも、お前らは何か残せたか? 何も成し遂げられてやしないだろう?」

 

『……』

 

「少しでも悔しいと思うなら、さっさと鍛錬に励んで少しでも力を付けろ。その力で上弦の鬼共の頸を、一つか二つでも獲って来い。青臭い理想論はそれからだ。」

 

「珠世様の御薬が、鬼狩り共の傷を癒す。そして俺の『紙眼()』が、鈍重な鬼狩り共に代わって無惨も上弦の鬼も雑魚鬼共も一匹残らず炙り出してやる。」

 

「更には小道具支給のオマケ付きと、至れり尽くせりの大判振る舞いと来た。

自分の腕しか頼れず負けに負け続けて負け犬根性が染み付いた、負けっぱなしの鬼殺隊(お前ら)に、俺達が此処まで御膳立てはしてやったんだ。

分かったらさっさと柱の責務とやらを果たし来い。無惨一党(向こう側)に傾き続けている天秤を、少しでも鬼殺隊(こっち)に引き寄せてみろ。」

 

「此処までして何も成し遂げられずに『鬼に挑んだけど勝てずに返り討ちに遭って、喰い殺されてしまいました。ごめんなさい。』なんて間抜け極まり無い無様で巫山戯た報告でもしてみろ。その時は、俺がお前らを殺してやるからなっ。」

 

『っ!』

 

行冥達はこの言動の数々の中には、自分達への配慮や激励が含まれている事を理解していた。

しかし、あまりに情け容赦の無い愈史郎の言い分に、更に青筋を濃くして苛立ちを覚えざるを得なかったが。

 

「……チィッ!」

 

「ふんっ……。」

 

「……御二人の御尽力、無駄にはしないと御約束しよう。」

 

「感謝する。」

 

「今に見とけよ。上弦の頸を獲って、派手に吠え面掻かせてやるからな。」

 

「言われっ放しは、僕の趣味じゃない。」

 

「え、えーと……ありがとうございますっ! 珠世さんっ! 愈史郎君っ! 私達、頑張ります!」

 

愈史郎の挑発的な激励に行冥達、鬼殺隊の柱が七人七色の反応を見せる中、珠世は罪悪感から静かに行冥達に頭を下げて謝罪した。

 

耀哉は珠世に頭を上げる様に言ってから、あまねに視線を向ける。それだけで耀哉の意図を察して、あまねは一本の日輪刀を持って来た。

 

「愈史郎。君には、この日輪刀(かたな)を貰って欲しいんだ。これは私が幼少期に無理を言って、刀鍛冶の里から一本取り寄せた物だ。

尤も、適正が無かったのか私は日輪刀(かたな)の色が変わる事は無かった。病弱な私は十回素振りをしただけで、体調を崩してしまったけれどね。」

 

「っ!……それで? 何故、俺に日輪刀(かたな)を譲渡する話になる? 俺も剣術は扱えないぞ?」

 

愈史郎は戸惑いながらも、耀哉にそう言って日輪刀の受取りを拒否しようとした。拒否された耀哉は、優しく愈史郎を宥めて日輪刀を手渡した。

 

「まぁ良いから、日輪刀(かたな)を持って抜いて見て欲しい。」

 

「……」

 

愈史郎は仕方無く、日輪刀を耀哉から受け取って抜刀する。すると日輪刀の刀身は、根本から鮮やかな緑色へと変化して行った。

 

『!』

 

「色が変わったっ?! それにその色は……。」

 

「ある程度の鍛錬を受けないと通常は色は変わらないものだけれど、鬼だからかな? 直ぐに色が付くとはね……それから愈史郎の適正は、"風の呼吸"なんだね。」

 

耀哉は愈史郎をそう評価した後、日輪刀を持たせた理由を話し始めた。

 

「私はね。君と珠世に他の剣士(子供)達と同様、"全集中の呼吸"を初めとした呼吸術を覚えて欲しいと思っているんだ。」

 

『っ!!』

 

「……私達がですか?」

 

珠世は耀哉の言葉に少し面食らった様子で、そう質問をした。耀哉は微笑みながら、珠世の質問に肯定する。

 

「そうだよ。鬼の身体能力なら、造作も無い事だろう? 人間に出来て、鬼に出来ない筈が無いからね。」

 

「……まぁそうだな。」

 

耀哉にそう言われて、愈史郎は静かに肯定した。

愈史郎の返答を聞いて、耀哉は更に話を続ける。

 

「珠世には研究が有るから、鬼狩りに出て貰う心算は無い。それでも、呼吸術が使えればそれだけ有利だろう?

でも愈史郎には、他の剣士(子供)達と同様に最前線で鬼と戦って貰いたい。」

 

『っ!』

 

「っ!?」

 

耀哉の提案に、行冥達は驚いたが納得もした。愈史郎の身体能力は一般隊士の基準を大きく凌駕している。もし呼吸術を使い熟せる様になれば、相応の戦力になるに違いなかった。

 

一方で、炭治郎を筆頭に愈史郎の性格を熟知している者達は嫌な予感を覚えて冷や汗を一筋流した。その予感は、間を置く事無く的中した。

 

「絶対に断るっ!!」

 

『!」

 

愈史郎はそう言って、抜刀していた日輪刀を鞘に納め耀哉に日輪刀を突き出した。

 

「俺は珠世様の御傍を、少しの間でも離れたくないんだっ! 誰が鬼狩りなぞするかっ!?」

 

「っ! おい、テメェ!!」

 

愈史郎の拒絶っぷりに、実弥が青筋を浮かべながら激昂して睨み付ける。

 

「耀哉さんに……御館様に従いなさい、愈史郎。」

 

「珠世様っ!?」

 

背後から撃たれたとばかりに、困惑しながら愈史郎は狼狽した。それから珠世は鬼殺隊所属になったという自覚からか、耀哉への呼称も変えていた。

 

「俺は珠世様から離れたくは……それに俺が居なかったら、助手はどうするんです!?」

 

愈史郎は動揺を隠せないまま、珠世に抗議する。しかし、珠世は冷静に愈史郎の懸念を打ち消す理由を話し始める。

 

「今後の研究に関しては、しのぶさんとの共同研究になります。それに蝶屋敷なら保護した綾さんもいますし、アオイさんにも手伝いを頼めるわ。だから、別に愈史郎が無理に必要って訳では無いのよ。」

 

「!?」

 

暗に自身の存在は不要と、そう解釈出来る珠世の言葉に対して、愈史郎はまるで飼い主に捨てられた子犬の如き表情を浮かべる。

 

――うわぁ……愈史郎さん、可哀想……。

 

炭治郎は愈史郎から漂う悲しい匂いを感じ取って、思わず愈史郎に強く同情した。そんな愈史郎に、珠世は微笑みながら優しく諭し始めた。

 

「愈史郎。私はもう、一人でも多くの罪無き人々が無惨の餌食にならないで欲しいと、切に願っているわ。貴方が鬼を一体斬ればそれだけで百人もの命が、上弦の鬼を狩れたなら千人……いいえ、万人の命と未来が救われるの。だから、どうか分かって頂戴。」

 

「っ!……しかしっ……。」

 

珠世の説得に対して尚も食い下がろうとした愈史郎だったが、珠世が更に言葉を重ねた。

 

「愈史郎の存在が必要になった時、私は必ず貴方を呼びます。だから今は、御館様の力になってあげて。」

 

「……分かりました。」

 

珠世に其処まで懇願されては、愈史郎も折れる他に無かった。愈史郎は渋々ながら了承して、珠世に頭を下げる。

其処から愈史郎は、苛立ちを隠さないまま耀哉の方へと顔を向けて話し掛ける。

 

「おい、耀哉。珠世様たっての願いだ。頼みは引き受けてやるから精々、珠世様と俺に深く感謝をするが良い。分かったらさっさとお前が用意出来る、最高の師を連れて来い。」

 

「愈史郎。良い加減、少しは己の言動を慎んだらどうだ?……身の程を弁えろ。御館様に向かって無礼だぞっ。」

 

行冥が流石に愈史郎の言動に看過出来ず、数珠をピシッと音を立てて罅を入れながら注意した。そんな行冥に対して、耀哉は優しく宥める。

 

「良いんだよ、行冥。気にしないでおくれ……愈史郎、それなら大丈夫だ。もう用意が出来ているからね。」

 

「用意が出来ている?」

 

愈史郎は耀哉の言っている内容が一瞬、理解出来ていなかった。"風の呼吸"の適正が有る事が判明したのは、つい先刻の事だからだ。

 

――この展開も予知で知っていて?……いや、そんな素振りなど耀哉は見せていない……そうなると、どの適正になっても良い様に予め全ての流派の育手と、事前に連絡でも取っていたのか?

 

愈史郎が疑問に思っていると、直ぐにその答えが分かった。

 

「実弥。愈史郎の指導は任せたよ。」

 

「……は?」

 

「えっ?」

 

『!?』

 

耀哉からの言葉に、誰もが一瞬理解出来なかった。間を置くと、言葉の意味を理解して大広間に居る全員が狼狽した。

特に激しく困惑を隠せなかったのは、耀哉に指名された実弥だった。

 

「な、何故っ!?……俺なのですかっ?! 御館様っ!!」

 

実弥は困惑しながらも、耀哉に尋ねた。

 

「決まっているだろう? 君が鬼殺隊において、"風の呼吸"の中では最高の使い手だからだよ。だから愈史郎への教育は任せたよ、実弥。」

 

「……御言葉ですが、御館様。不死川が"風の呼吸"の中で最高の使い手なのは事実ですが、最高の使い手である事と最高の師が直結するとは思えません。」

 

耀哉の決定に対して、小芭内が恐る恐る異議を唱えた。そんな小芭内に、実弥も愈史郎も期待から、双眸を輝かせて小芭内を見詰めていた。

 

「確かに、小芭内の言っている事もまた正しい。しかし、愈史郎を育手に預けて悠長に修行を付ける時間の余裕など、何処にも存在しない事もまた事実だ。」

 

「……っ。」

 

耀哉の言葉に、小芭内は反論の糸口を見つけられず沈黙した。耀哉は更に自身の意見を認めさせるために、語り続ける。

 

「其処で、愈史郎に実弥を付けるんだ。実戦で手っ取り早く呼吸術を身に着けて貰うのが、現状では一番の近道だと思う。幸い、愈史郎は丈夫な身体の持ち主だ。無惨でも出てこない限り、最悪の事態が起こるとは考え難いからね。」

 

『っ!』

 

耀哉が暗に『鬼なんだから、少しばかり手酷くやっても大丈夫だろう。』とも解釈出来る発言に、炭治郎達の顔は若干引き吊った。

一方の実弥は、打って変わって獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「御館様……確認致しますが、多少手酷くやってもよろしいので?」

 

「其処は実弥に任せる。ただし、つまらない八つ当たりでしか無く何の身にも付かない指導だったり、万が一愈史郎を死なせる様な真似をしたら……その時は君の命で償って貰うよ、実弥。」

 

「っ!!……御意。」

 

耀哉に警告された実弥は、一瞬動揺しながらも直ぐに合意して承諾した。一方の愈史郎は、我を取り戻して耀哉に抗議しようとしていた。

 

「おいっ!? 俺が何時、不死川の指導を受ける事を「愈史郎っ。」……珠世様っ。」

 

抗議しようとしていた矢先に、珠世に呼び止められた愈史郎は沈黙した。

 

「愈史郎。貴方は『鬼殺隊に尽力する。』と宣言したわよね?……貴方は自分自身の口から吐いた言葉を、無かった事にする様な真似はしないと私は信じています。……頑張って来れるわね?」

 

「っ!!……はい。」

 

珠世にそう言われては、愈史郎も頷く他に無かった。俯く愈史郎に対して、珠世は間髪入れずに激励の言葉を送る。

 

「愈史郎が一人でも多くの罪無き人々の命が救える、立派な鬼狩りの剣士に成れる事を私は心から祈っているわ。頑張って来てね、愈史郎。」

 

「っ!!!……は、はいっ! 珠世様っ!!」

――くそ。珠世様にこうまで言われては、受けるしかない……。

 

珠世の激励を受けて、愈史郎は内心では悪態を吐きながらも元気良く返答した。これにより愈史郎は風柱・不死川実弥の継子として、鬼狩りの剣士の道を進む事が決定した。

 

愈史郎の思わぬ決定が終わってから珠世は、耀哉に話し掛ける。

 

「御館様。私達を信頼してのこの厚遇、大変嬉しく思います。ですがこの会議を設け、誰よりも尽力したのは間違い無く炭治郎さんです。どうか、彼にもこの働きに見合った褒賞を与えて欲しいのですが……。」

 

「っ!……そんな、珠世さん。俺は何もしていませんよ?」

 

珠世からの嘆願の内容が自身の事であると理解して、炭治郎は遠慮しがちにそれを否定した。

しかし、炭治郎の言葉を否定したのは珠世からの嘆願を聞いた耀哉だった。

 

「炭治郎、そんな事は決して無いよ。君からの鬼殺隊(私達)への貢献は、過去を遡っても類を見ない程のものだ。」

 

「っ!……っ?」

 

耀哉はそう炭治郎を称賛した後、炭治郎はある事に気付いた。耀哉から罪悪感の匂いを感じ取ったからだ。

事実、耀哉は申し訳無さそうに炭治郎に開口する。

 

「しかし、そんな大功労者である君に私は、()()頼み事をしなければならない。聞いて貰えるかな、炭治郎?」

 

『???』

 

――()()頼み事?

 

柱を差し置いて一般隊士の炭治郎に()()とまで言わせる程の重要な指令とは、一体何なのだろうか?

そうしのぶ達、炭治郎を愛する女性陣を筆頭に大広間に居る全員が耀哉がこれから口にする内容が気になった。

 

「は、はいっ、御館様っ! 俺に出来る事でしたら喜んでっ!!」

 

炭治郎はどんな指令が来るか気にしながらも、自身で耀哉の力になれるならと快く快諾した。

 

「……そうか。では、心して聞いて欲しい。」

 

耀哉は炭治郎の快諾を得ると、内心で罪悪感を抱きながらこの緊急柱合会議で有る意味、一番の爆弾発言を耀哉は口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「炭治郎。君にはね、今日付けで鬼殺隊を辞めて貰いたいんだよ。」




お待たせしました。

甘々と真面目を混ぜられると思いましたが、今回は真面目成分が多めの回でしたね。爆血刀(拙作では爆血赫刀)と透き通る世界、青い彼岸花、そして珠世陣営の最終的な厚遇の話でした。

愈史郎に関しては完全に因果応報。今まで言いたい放題言って来たツケを支払う時が来ました。
それは何と実弥の継子として、正式に鬼殺隊の剣士になりました。こんな奇想天外な展開、数ある原作改変ssでも拙作だけではないでしょうか?

"風の呼吸"の適合者なのは、愈史郎の性格とか諸々私の自己判断から来るものです。珠世さんは日輪刀を振り回すイメージが湧かないので、常中だけの習得予定です。研究を最優先で進めないといけませんから。

最後に出ました、耀哉の発言のその意図とは一体何なのか……。

次回の更新は11月20日(金)を予定しております。暫くの間、お待ち下さい。


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第参拾玖話 日輪は本祭を成し遂げる

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
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※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「えっ?」

 

炭治郎は耀哉が自身に言い放った言葉の内容が理解出来なかった。何より信じられなかった。

 

それは炭治郎だけではない。

その場に居る全員が炭治郎と同様に、耀哉の言葉に自身の耳を疑った。そして炭治郎達よりも先に我に返った。その反応は二種類に分かれた。

 

 

『はあぁぁっ!?』

 

 

しのぶを筆頭に、何人かが立ち上がって耀哉の言葉に驚愕し反発した。

 

 

 

――何で?

 

 

 

一方で義勇を筆頭に、当惑しながら何人かが茫然自失としていた。しかし、最も当惑していたのは他ならぬ炭治郎だ。

 

「えっ?……どうして……御館様……何で俺が……。」

 

鬼殺隊と珠世。関係性だけを考えれば鬼狩りと鬼の相容れない反目し合う両者が、鬼舞辻無惨と言う共通の宿敵を倒すために大同団結し結束したばかりだ。

 

この目出度い門出の日にも言えるその日に、何故自身は用済みと言わんばかりに追い出されるのか、炭治郎は理解出来無かった。

 

「フッ――、フッ――……あの、御館様……俺が何か、してしまったのでしょうか……。」

 

炭治郎は必死で取り繕っているが、内心では何時恐慌状態(パニック)に陥ってもおかしくない状況であった。

また顔中から脂汗が噴き出ており、涙腺は涙が溜まって崩壊寸前だった。

 

「た、炭治郎君っ! 大丈夫よっ! きっと大丈夫だからっ!!」

 

そんな焦燥しきっている炭治郎を見兼ねて、蜜璃が慰める様に炭治郎を優しく抱き締めた。

 

「炭治郎君っ……くっ!……御館様っ!! それはどう言う意味なのですか!?」

 

しのぶは炭治郎の悲しむ様子を見て、初めて殺意を込めて耀哉を睨み付けながら強く問い詰めた。

普段は尊崇している主君であるが、最愛の恋人を悲しませるなら誰であろうと許せなかった。

アオイとカナヲも、事と次第では許さないとばかりに、耀哉を睨み付けていた。

 

「皆、落ち着きなさい。」

 

『!』

 

耀哉の言葉で、一先ず大広間の騒然とした空気は霧散した。しかし青筋を浮かべた愈史郎が、耀哉を睨み付けながら悪態を吐く。

 

「誰の妄言の所為で、こんな事態になっていると思っている? 御託は良いから、さっさと説明しろこの間抜け。」

 

愈史郎は苛立ちを隠す事無く、耀哉に回答を急かした。

耀哉は愈史郎の様子に苦笑しながら、炭治郎に話し掛ける。

 

「確かに結論を急ぎ過ぎるあまり、言葉足らずだった事は認めるよ。先ずは謝らせて欲しい。炭治郎、ごめんね?」

 

「っ!……い、いえっ!……でもどうして、俺にそう言ったんですか?」

 

耀哉に謝罪された炭治郎は、最初より幾分か冷静さを取り戻す事が出来たため、耀哉が口にした言葉を意図を知るべく尋ねた。それから炭治郎は蜜璃に一言礼を述べると、蜜璃は笑顔で返答して元の席へ戻った。

 

「その質問に答える前に……私から炭治郎に一つだけ、君に聞きたい事が有るんだ。」

 

「何でしょうか?」

 

質問を質問で返された炭治郎は、先刻の事も有って身構えた。

 

「炭治郎、仮定の話だけれど……鬼殺隊(私達)が無惨との戦いに勝利した際に、最高の結果で終わったとしよう。この"最高の結果"とはどの様なものかな?」

 

「"最高の結果"……ですか?」

 

耀哉の質問を受けて、炭治郎は一考する。それから間も無く答えた。

 

「"最高の結果"とは……『無惨を倒して、一人でも多く生き残っている。』事です。」

 

「その通りだ。そうで終わって欲しい。一人でも多くの剣士(子供)達が死なずに済んで欲しいと、私は心から願っている。」

 

炭治郎の回答を聞いて、耀哉は満足する。しかし、顔色を少し沈めてゆっくりと語り始めた。

 

「だが、私は鬼殺隊の頭領として常に"最悪の結果"も考え、それらに備えなければならない……その一つが『無惨を倒す前に、炭治郎を失う事。』だ。」

 

「っ!」

 

炭治郎は耀哉から其処まで思われているとは思わなかったのか、大いに驚愕していた。耀哉は語り続ける。

 

「鬼殺隊の歴史を鑑みても、黒刀持ちの剣士(子供)達は少ない。"日の呼吸"の適合者なら、当然の結果だ。

だから四百年以上に渡って"日の呼吸"を受け継ぎ使い熟して来た君の血筋は、君が思う以上に尊い存在なんだよ。」

 

『!』

 

耀哉が竈門一族に対して非常に高い評価を下した事に、炭治郎達は驚きを隠せない。

 

「御言葉の意味が、愚鈍な私にも漸く理解出来ました。御館様は炭治郎を前線から遠避けて、保護する御心算ですかな?」

 

「えっ……?」

 

『なっ!』

 

行冥が耀哉にある程度確信をもって指摘すると、一斉に耀哉に視線を向けて注目する。耀哉は、ゆっくりと頷いて見せた。

 

「その通りだよ、行冥。私はね、炭治郎。君には鬼狩りを引退して貰って、妻を設けて子供を作り"育手"になって貰いたいと思っている。」

 

『っ!?』

 

耀哉の思惑を聞いて、大広間は騒然とした空気が流れる。しかし、そんな澱み始めた空気など気にする事無く耀哉は珠世にある質問をした。

 

「珠世、しのぶの容態はどうだろう? 身体を毒に蝕まれているしのぶは、子を産めるかな?」

 

『!!!』

 

耀哉の質問に対し、何名かが息を呑んだ。それは知りたいと同時に、知りたくない情報だったからだ。

藤の花の毒を呷り続けたしのぶの身体は、素人から見てもとても正常では無い。それを考えると、自分から知りたいとはとても言い出せるものではなかったのだ。

 

しのぶは耀哉の質問を受けて、無意識に身体を震わせて自身を抱き締めた。珠世から一度診察は受けているが、その場では答えて貰えなかった。

 

確かに炭治郎から、妊娠出来ない身体でも構わないとは言われた。だが結ばれてからしのぶは内心では炭治郎の子の妊娠への渇望と、嘗ての自身の愚行への後悔が膨らんでいた。

 

自身の診断なら、まだ耐えられる。覚悟の上だから、諦めが付く。だが第三者からの診断結果を聞かされるのは、はっきり言って怖かったのだ。

 

何よりも人間の身体とは存外、頑丈だが繊細な一面も在る。そして一度壊れたものを治すのは、壊す時よりも何倍もの力が必要だという事もしのぶは知っているのだから、心中に抱いている恐怖心は計り知れないものだった。

 

「しのぶさん……」

 

立ったまま震えるしのぶを見て、堪らず炭治郎はしのぶに声を掛けた。しのぶの身体からは、不安と罪悪感の匂いがした。

 

「しのぶさんの容態ですが……。」

 

しのぶの容態、その診断結果について珠世が口にしようとした。炭治郎達は息を呑むだけで無く、生唾も呑み込んで結果を待った。珠世は一瞬沈黙したが、直ぐに微笑を口に浮かべた。

 

「安心して下さい。しのぶさんの解毒薬と私の解毒薬、そして呼吸術を併せれば蓄積された毒は無くなるでしょう。

それから内臓機能を回復させれば、そうね……大目に見越しても一年間、治療を続けて行けば健康な身体を取り戻せます。元気な稚児を産む事だって、決して夢では有りませんよ。」

 

『っ!!!』

 

炭治郎達は驚愕から一瞬、脳内が真っ白になる。珠世から齎された診断結果を反芻して、信じられない様子で隣に居る者と顔を見合わせた。

 

 

 

ストン

 

 

 

『!』

 

立ち上がっていたしのぶは腰が砕けた様に、畳の上に座り込んだ。珠世は心配して、しのぶの正面に移動する。陽光に当たらない様に気を付けながら。

 

「たまよさん……ほんとう……ですか……。」

 

弱弱しい声で、しのぶは見上げる様に珠世に真偽を確認した。しのぶは解毒を続けていたが、それでも内臓、子宮は毒に一度犯されている。

 

そのため妊娠は不可能、手遅れだと諦念を抱いていたのだ。そんなしのぶに一筋の光明が舞い降りたのだから、縋ろうとするのも無理は無かった。

 

そんなしのぶの様子を見た珠世は優しくしのぶの頭を撫でてから、そっと左頬に右手を添えて微笑んで見せた。

 

「嘘じゃないわ、本当よ。諦めなくても大丈夫。だから頑張って、一緒に治療を続けていきましょうね。」

 

「っ!!……――っっ。」

 

 

 

バッ!

 

 

 

「っ!……しのぶさんっ。」

 

「~~~~っ!!!~~~~~~っ!!!!」

 

しのぶにとって、珠世が下したこの診断結果は感謝の言葉も出ないぐらい歓喜に満ちたものだった。

珠世に抱き着いたしのぶは、声を押し殺す様に珠世の胸元に顔を押し当てて泣き崩れた。

しのぶの唐突な行動に驚いたが、珠世は女神の如き優しい表情を浮かべてしのぶの頭を優しく撫でた。

 

「しのぶ姉さん……良かったぁ……よかったよぉ……っっ。」

 

「珠世さん……ありがとうございます!……ありがとうございます!!」

 

しのぶが泣き崩れる様子を見て、カナヲとアオイが貰い泣きしながら珠世に深い感謝の意を伝えた。

 

「しのぶぢゃん……よがっだねぇっ!!……っ。」

 

「南無……実に喜ばしい事だ。」

 

蜜璃が鼻水を垂らすぐらい号泣しながら、しのぶを祝福していた。小芭内が隣で必死に手巾(ハンカチ)で蜜璃の涙と鼻水を拭き取っていた。

行冥も何時もの倍に当たる量の、滂沱の涙を流していた。

 

「……」

 

炭治郎は双眸を潤ませながら、珠世に頭を下げた。感動屋な炭治郎ならアオイ達の様に号泣してもおかしく無いが、それには理由が有る。

 

炭治郎は緊急柱合会議の前に、珠世からこの診断結果を聞かされているのだ。その際に既に号泣している。それも声を上げる程の、凄まじい泣きっぷりだったのだ。

 

愈史郎が予め炭治郎には伝えた方が良いと、その進言有っての報告であった。炭治郎が愈史郎に深く感謝の意を伝えたのは、言うまでも無い。

 

「おめでとう、しのぶ……珠世も、素晴らしい情報をありがとう。」

 

耀哉はしのぶに祝福を送ってから、珠世に感謝の意を伝えた。耀哉の祝福と感謝の言葉を聞いて、しのぶは珠世から離れた。その双眸は赤く腫れていた。

 

「だが……贅沢な話だとは思うけれど、()()()妊娠出来ないのは実に残念な話だね。」

 

『!!』

 

耀哉が呟いた言葉に、炭治郎達はその意図を理解した。しのぶに炭治郎の子供を妊娠して欲しいと、暗に言っているのだと。

 

「無いもの強請りなどしても仕方無い、か……アオイ、カナヲ。君達は炭治郎の子供を妊娠して欲しいと私が言ったら、頼まれてくれるかな?」

 

「「!!」」

 

耀哉に名指しで指名されたアオイとカナヲは、双眸を見開いて耀哉を見詰めた。しかし、それも直ぐに収まる。

 

炭治郎の正室と言えるしのぶが現状、妊娠出来ないとなれば側室である二人に声が掛かるのは当然の流れだ。

動揺を収めたアオイとカナヲは互いに見合わせた後、小さく頷いて耀哉に平伏した。

 

「御館様。御身から直々に御頼みされる事、大変光栄に思います。」

 

「ですが、謹んで御断りさせて頂きます。御無礼の段、どうか御許し下さい。」

 

『!!!』

 

一般隊士でしかないアオイとカナヲの二人は、鬼殺隊の頭領である耀哉の頼みを正面から拒絶した。

その事実だけでも驚きだが、驚愕した理由はもう一つある。最愛の男性の子供を妊娠する事を拒絶した。この事に純粋に驚愕したのだ。

 

「ふむ……二つ返事で受けて貰えると思ったけれど、理由を聞いても良いかな? しのぶに気を使っていると思うが。」

 

耀哉から質問されたのを受けて、平伏していたアオイとカナヲは頭を上げて開口する。

 

「御意。正直に言うと、それもあります。ですが私は一人の鬼殺隊隊士として、しのぶ姉さん達と最後まで戦いたいんです。」

 

「鬼狩りとして戦えなくなってしまった私ですが、そんな私を炭治郎さんは凄い人だと言って下さいました……この戦いが終わるまで、私も私なりに戦い続けたいんです。」

 

「「御館様。どうか、私達の我が儘を御許し下さい。」」

 

そう言ってアオイとカナヲは、再び平伏して耀哉に謝罪した。

 

正直に言えば、アオイもカナヲも炭治郎の子供の妊娠願望は有る。本心では「喜んでっ!!」と、大声で叫びながら快諾したかった。

 

しかし、しのぶを差し置いて先に妊娠する気など無かった。二人にとって、しのぶは大恩人だからだ。

 

カナエが亡くなってから、本心を押し殺して自分達を支え導いてくれた。

そして炭治郎の恋人になる事を許してくれたのだ。しのぶに対してそれらの大恩を仇で返す様な恩知らずな真似など、死んでもしたくなかった。

 

「ふむ……二人が其処まで言うなら、強制なんてとても出来ないよ。では、今後もしのぶと共に君達の力を貸して欲しい。」

 

「「御意っ。」」

 

アオイとカナヲは耀哉の頼み事を聞いて、一度頭を上げてから頷いて承諾した。

 

――これで何とかなったかしら?

 

――炭治郎さんもこれで、鬼殺隊に残れる筈だわ。

 

この時二人は、これで炭治郎の相手が誰も居なくなったので辞めさせられる事は無いと考えた。その考えは浅慮なものであったと、直ぐに思い知らされる。

 

「では、わたしとしてはこの手だけは使いたく無かったんだけど……仕方が無い。あまね、炭治郎に()()を。」

 

「はい。」

 

耀哉一度だけ重い溜め息をついてから、あまねに指示を出した。あまねは明言しなかった耀哉の曖昧な指示に対して、その意図を承知した様子で直ぐに動き出した。

 

「皆も一度座ると良い。」

 

『?』

 

炭治郎達はこれから耀哉が何をしようとしているのか分からず、首を傾げた。そんな炭治郎達に、耀哉が座る事を促すと全員が座り込んだ。

それから間も無く、あまねが一つの黒箱を運び込んで来た。あまねはその黒箱を、炭治郎の眼前に設置し一礼してから耀哉の下へ戻った。

 

「実は無限列車の任務前に、しのぶからある程度"ヒノカミ神楽"の報告は受けていたんだ。半信半疑だったんだけど、それも珠世の御蔭で確信へと変わった……炭治郎、箱を開けて見て御覧。」

 

「は、はい……。」

 

炭治郎は嫌な予感を感じながらも、拒絶する事など出来ず耀哉に言われた通りに黒箱を開けた。

 

「……写真?」

 

炭治郎の背後から少し立ち上がったカナヲが首を傾げながら、黒箱の中身について口にした。炭治郎が黒箱の中身を手に取った。

 

「御館様。この写真は一体、何なのでしょうか?」

 

嫌な予感を感じたしのぶが青筋を浮かべて不機嫌な態度を隠す事無く、炭治郎に代わって箱の内容についての説明を求めた。

 

「それは炭治郎と縁談をする事になるだろう、私が用意した御令嬢達の写真だよ。」

 

 

 

 

 

 

『!?!?!?』

 

 

 

 

 

 

耀哉の爆弾発言により、炭治郎達は強い衝撃を受けた。大広間に居る全員が、石化したと表現して良い程に固まってしまった。輝利哉達も知らされていなかったのか、炭治郎達と同様に衝撃を受けて固まっていた。

 

「まぁ私の最大の誤算は、炭治郎が先に恋仲になる女性達を作ってしまった事だけれど……。」

 

固まって石化している炭治郎達に向かって、耀哉がボソッと呟いた。すると一足早く我に帰った炭治郎が、手に取った写真を次から次へと捲り始めた。白黒の写真がなんと五十枚も入っていた。

 

写真に写っていた女性は皆、美人であった。白黒なため色までは分からないが、品の有る着物を着ている。

一部の写真に至っては、炭治郎が付き合っているしのぶやアオイ、カナヲに似た女性達も居た。

 

「お、御館様っ! 俺にはしのぶさん達が……っ!」

 

「そう言わずに、会ってあげるだけでも出来ないかな? 彼女達の家には、既に炭治郎は産屋敷家の遠縁と紹介してあるんだ。

向こうも「産屋敷家の縁者との縁談ならば、娘を妻にとまでは言いません。妾の末端(はし)に加えて頂いても光栄な話です。」って乗り気なんだよ。」

 

『!?』

 

『!』

 

耀哉と独断と縁談の相手側の主張を聞いて、大広間に者達は驚愕から絶句する。

 

「……まぁ正直に言うと俺も耀哉の意見、分からなくも無いんだよなぁ。」

 

『!!?』

 

驚愕する出来事が更に続いた。愈史郎が耀哉に賛成を表明したのである。

 

「愈史郎っ、貴方はどうして賛成なの?」

 

愈史郎が呟いた言葉の意味に興味が出来た珠世は、愈史郎に賛成の理由を訊ねた。愈史郎は即座に、珠世に答えた。

 

「はい。理由を説明しますと……実はこの一ヶ月で俺が返り討ちにした鬼共を殺す前に、情報収集の足しになればと思って記憶を奪いました。それで鬼共が無惨に受けている指令内容が分かりました。」

 

『!!!』

 

愈史郎の報告を受けて、炭治郎達の視線は熱を帯びて愈史郎に注目する。すると愈史郎が照れた様子で、慌てて一言付け足した。

 

「言っておくが、予想が付くものばかりだぞ? あんまり内容に過度な期待はするな。」

 

「それでも構わない。教えてくれないか、愈史郎。」

 

耀哉は強い興味があるのか、愈史郎に催促する様に促した。それを受けて、愈史郎は淡々と話し始めた。

 

「下弦級の鬼共の記憶には、青い彼岸花の情報は無かった。鬼共に下された指令は、鬼殺隊の殲滅。産屋敷家は勿論だが……柱と炭治郎・禰豆子の竈門兄妹が名指しで標的になっている。」

 

『!?』

 

愈史郎は其処まで言うと、更に一言付け加えた。

 

「どうやら無惨にとって炭治郎と禰豆子の首の方が、柱よりも価値が上らしいぞ? 尤も、首を取れば褒美として大量の血が分け与えられるのは共通しているが……鬼共には『花札に似た耳飾りの剣士』と『私に楯突く鬼の小娘』と伝えられているらしい。」

 

『!!!』

 

報告を受けて驚愕する炭治郎達を余所に、愈史郎は耀哉に自身の意見を伝えた。

 

「今後、炭治郎達が狙い撃ちにされる事を考えれば……まぁ耀哉の懸念も間違ってはいない。」

 

「愈史郎、貴重な情報をありがとう……私は此処に居る君達こそが無惨を倒すと、心からそう信じている。でも失敗した時の備えとして、炭治郎の実子を確保して命脈を保つ必要性も感じているんだ。」

 

愈史郎が自身の意見を伝えた後、耀哉が補足して語った。其処へある人物が耀哉に異議を唱えた。

 

「御館様……御言葉ですが、御館様は竈門炭治郎に対して依怙贔屓が過ぎるのでは有りませんか?」

 

『!』

 

「っ!……伊黒さん……っ。」

 

炭治郎が驚いた様子で双眸を見開いて、耀哉に反論する声の持ち主を見た。それは小芭内であった。小芭内は続けて耀哉に反論する。

 

「命を狙われていると言っても、それは鬼殺隊に所属する者全員がそうです。別に特別な事でも何でも無い……その理論が通用するならば、稀血の不死川も引退させなければならなくなります。」

 

「っ! 俺だァ……?」

 

小芭内は実弥を例題に出して、炭治郎の鬼殺隊除隊に異議を唱え始めた。

 

「御館様。通常の稀血でも、百人の人間と同等の価値が在りますっ。不死川さんの稀血なら更にその倍……いえ、十倍の千人に相当する価値が在ります。伊黒さんの言う事も尤もかと。」

 

しのぶが小芭内に同調して、耀哉に異議を唱える。小芭内はしのぶの援護を受けて、更に異議を唱え続けた。

 

「それに血筋を残すと言う観点だけを考えれば、竈門禰豆子も対象になる筈です。

竈門炭治郎如きに其処まで過大な厚遇をするなど、その様な必要性が有る様には見えません。」

 

「ちょっ!? あんた何言って……禰豆子ちゃんもってどう言う意味だよっ!!」

 

小芭内から禰豆子の名前が出た事で、禰豆子に想いを寄せる善逸が動揺しながらも怒って小芭内に問い詰めた。

 

「黙ってろ格下の愚図が。俺は今、御館様と話をしている。自分可愛さに他人を見殺しにする、薄汚いロクデナシの身内は身の程を弁えていろ。」

 

「!」

 

兄弟子の獪岳諸共、小芭内に侮辱された善逸は怒りから額に青筋が浮かび上がる。睨み合う小芭内と善逸だったが、耀哉が右手を振ってその険悪な空気を振り払った。

 

「小芭内、それは禰豆子が鬼だからだよ。鬼の身体のままでは、生殖能力が有るとは思えない。

何より、他にも不確定要素が多過ぎる。だから炭治郎に白羽の矢が立ったんだ。」

 

「……"日の呼吸"を継承させるだけなら、五大流派と現存している呼吸術と同様、書物に記述すれば良いだけの話です。」

 

耀哉は禰豆子が指名されなかった理由を、明確に話した。小芭内はその理由に内心、納得感を抱いたが直ぐに別の理由で耀哉に反論した。

 

小芭内が口にした反論の材料とは、書物である。五大流派はそれぞれ育手が指導しているが、各々で"炎ノ書"、"水ノ書"、"風ノ書"、"雷ノ書"、"岩ノ書"と言う指南書を保管している。

 

五大流派から派生した亜流である"霞の呼吸"を記した"霞ノ書"や"花の呼吸"を記した"花ノ書"も在る。

嘗ては百種類以上の呼吸術が生まれたとされるが、それらは"日の呼吸"と共に鬼の襲撃や時代の流れ、後継者不足から失伝していった。

 

小芭内は"日ノ書"を復刻させる事を提案したのだ。しかし、耀哉は首を横に振ってそれを否定する。

 

「勿論、それも忘れずに作るよ。だが一度言った様に、"日の呼吸"の使い手は数が非常に少ない。確実に使い熟せる血筋とは、非常に希少な存在なんだ。」

 

「たとえ"日ノ書"を遺したとしても、適合する使い手がいなければ無用の長物でしか無い。

黒刀の使い手も、炭治郎を除けば最後の一人が四日前に鬼に殺されて死んでしまったからね。」

 

「……っ。」

 

耀哉は小芭内の主張を認めた上で、炭治郎の存在の希少さを説いた。その内容に、小芭内は苛立ちを隠せなかった。

 

「御館様。竈門炭治郎の功績は認められて然るべきですが、それは幾ら何でもやはり過大評価……過保護が過ぎると思います。」

 

小芭内は毅然と、耀哉の判断に異議を申し付けた。小芭内は更に続ける。

 

「隊士が死に続けている今、竈門炭治郎ははっきり言ってまだマシな方に分類されます。

如何に強力な呼吸術の適合者であろうと、実力が二流ならそれも意味は無い。」

 

「無惨に狙われていると言うのなら、寧ろ積極的に任務を与えて囮にでも何でも利用して鬼共を釣るべきだと俺は考えます。

そもそも特別扱いなどせず他の隊士と同様に扱い、死ぬか戦えなくなるか自分から鬼殺隊を辞めるまで戦わせるべきです。」

 

飽くまでも余計な依怙贔屓はせず、炭治郎をこれまでと同様に通例通りに扱うべきだと小芭内は主張する。そして最後に、小芭内は本音を一言漏らした。

 

「御館様。俺達は今日まで、痣にも"日の呼吸"にも頼る事無くやって来れたではありませんか。本当に鬼殺隊の利益になるか分からない力を盲目的に頼りにするのは、良い事だとは思えません。」

 

小芭内にとって、その発言は自身の自負が込められたものだった。しかし、この迂闊な発言が耀哉の逆鱗に触れる。

 

「小芭内……それは今日まで負け続けて来たの間違いじゃないかな?」

 

「っ!……それは……っ。」

 

耀哉の指摘を受けて、小芭内は動揺する。

 

「愈史郎が言っていた様に……鬼殺隊(私達)は今の状態のままだったから、千年に渡って負け続け百年以上もの間、上弦の鬼に柱を討たれ敗北を重ね続けているのだろう? まさか、もう忘れたと言う訳じゃないだろうね?」

 

「……っ。」

 

耀哉は叱責する様にそう言うと、小芭内の動揺は更に深まる。しかし、そんな小芭内に耀哉は気にも掛けなかった。

 

「それから……小芭内は私が炭治郎を依怙贔屓にしていると言ったけれど……君は自分なら炭治郎と同じ事が出来たとでも?」

 

小芭内にそう問い掛けた耀哉は、小芭内の返答を聞く事無く炭治郎が挙げた功績を一つ一つ、指を折りながら耀哉はゆっくりと数え始めた。

 

「この会議の間だけでも……炭治郎は珠世と愈史郎を鬼殺隊(私達)の下へ招き入れ、無惨一党と青い彼岸花、痣とそれに付随する情報に戦力増強の知恵と道具を齎してくれた。」

 

「そして私の体調を改善させて行冥共々視力を取り戻し、行冥の過去を清算し、義勇の闇を祓い、実弥と玄弥の兄弟の仲を取り持ち、無一郎の記憶まで取り戻した素晴らしいおまけまで付いて来ている。果たして炭治郎以外の他に誰が、この功績の一つでも成し遂げられただろう?」

 

『……』

 

問い掛ける様に語った耀哉に対して、誰も答える事は出来なかった。代わりに耀哉自身が自問自答の如く、自らの結論を答える。

 

「柱の君達が全員で力を合わせても、出来なかっただろうね。この偉業は、炭治郎にしか成し遂げられなかった。何故ならこれは鬼への復讐心や憎悪、鬼から罪無き人々を守りたいと言う感情ばかりしか持たない者には出来ないからだ。」

 

『……っ。』

 

耀哉の問い掛けに、行冥達は誰も答える事は出来なかった。炭治郎が挙げた功績は、大喝采を浴びて絶賛されるべきものだ。

 

眼前の鬼を斬る事しか今日まで出来なかった歴代の柱では、先ず成し遂げる事など不可能。行冥達に至っては、最早言うまでも無い。沈黙する他に、行冥達に道は無かった。

 

耀哉は沈黙する行冥達を一度見詰めてから、更に語り続ける。

 

「炭治郎は肉体的または剣術の腕でまだまだ柱の君達に劣っているけれど、その欠点を補って余りある強靭な理性と優しくて強い心の持ち主だ。」

 

「鬼や人間の垣根を超えて善悪の区別が付き、鬼も嘗ては人間だったと、無惨の被害者なのだと考え死んで行く鬼達のためにも涙を流せる……そんな人格者で誰よりも強い心を持つ優しい炭治郎だからこそ、この偉業は成し遂げられたのだと私は思っている。」

 

「強さというものは、肉体に対してのみ使う言葉では無いんだよ。炭治郎は強い子だ。それは柱の君達にも劣らない。この子が弱いなどと、私が絶対に言わせない……小芭内は現実を直視し、現状を今一度見直す様に。」

 

『!!』

 

「っ!……御意。」

 

耀哉に注意された小芭内は、力無く承諾した。

 

――……っ!

 

炭治郎は耀哉の発言から、ある事を思い出していた。

 

――嗚呼っ……杏寿郎さんと一緒だ……っ。

 

杏寿郎が生前、自分のために言ってくれた同様の内容の言葉を言ってくれた事に、炭治郎は感激していた。

 

「お、御館様っ!……嬉しいですけど、それは言い過ぎです。それに柱の皆さんは優しい人達です。しのぶさんも甘露寺さんも義勇さんも悲鳴嶼さん達他の柱も皆、優しい人達ばかりですよ。」

 

我に返った炭治郎だったが、耀哉から絶賛されるのが居た堪れなくなったのか、赤面しながら耀哉に反論した。

 

「行冥達が優しい子達だと言う事は、私が一番良く分かっているさ。だが、それは()()()()()()だけだよ。それが本来、普通なのだけどね。」

 

耀哉は炭治郎の公言に対して、そう言い終えてから一度首を横に振るって行冥達を見る。

 

「鬼殺隊は名前通り、鬼に対して見敵必殺を信条としており鬼を憎んだり恨んだりする剣士(子供)達は多い。だが……その想いの強さが結果的に、勝利から遠避けていたのもまた事実。痛烈過ぎる程の皮肉だねぇ。」

 

『っ!……っ。』

 

耀哉が口にした言葉の内容を耳にして、行冥達は顔を俯かせて口を噤むしか出来なかった。

 

「どうか勘違いしないで欲しい。君達がその事で罪悪感を抱いたり、炭治郎に劣等感を抱く必要は無い。君達と炭治郎とでは神様より与えられた、成し遂げるべき役目が違う。それだけの話に過ぎない。」

 

「役目……?」

 

炭治郎が不思議そうに、耀哉が呟いた言葉を復唱する。耀哉は炭治郎に微笑みながら、それに答えた。

 

「そう。役目だよ、炭治郎。人は何かしらの役目や使命といったものを、持って生まれて来るものだ。炭治郎は一足先に、その役目の一つを成し遂げたに過ぎない。」

 

耀哉はそう言い終えると、今度は行冥達に視線を変えた。

 

「そして君達は君達に課せられた役目を成し遂げるために、今日まで生きて来た。それは決して、無駄な歳月などでは無い。

だから私は期待して待っているよ。君達が神様から与えられた、それぞれの役目を成し遂げてくれる事をね。」

 

『!!!』

 

行冥達は反射的に、耀哉に平伏して頭を垂れた。

 

「御意……我ら柱一同。今まで以上に御館様の御為、鬼殺隊のために粉骨砕身の働きをして御覧に入れましょうぞ。」

 

行冥は柱を代表して、耀哉にそう固く誓いを立てた。耀哉は満足した様子で深く頷くと、炭治郎と向き合った。

 

「っと……話が逸れてしまった。炭治郎。悪いけどこの縁談、受けてくれるね?」

 

『!』

 

炭治郎は再び耀哉から縁談の話を持ち掛けられて、炭治郎は露骨に顔を歪めた。

 

「別に一人しか選ばないといけない訳じゃない。何なら全員、選んでくれても構わないよ。掛かる経費は全て、産屋敷家が負担するから遠慮は無用だ。」

 

「御館様……っ。」

 

普通の男にとっては夢の様な話だが、炭治郎にとってはそうではなかった。

 

「しかし、このままだと君も納得出来ないのもまた事実だ。そうだね……身も蓋も無い話をすると、私は君の血を受け継いだ実子が確保さえ出来ればそれで良いんだ。炭治郎の実子がある程度の人数を確保出来れば、君の鬼殺隊の復帰を認めよう。」

 

『!!!』

 

耀哉の本音とも解釈出来る発言に、炭治郎達は騒然となる。それは縁談する女性達と婚姻に関係無く、炭治郎に子供を作れと言う事を意味するに他ならないからだ。

 

――本当は珠世の話を聞いて、()()()()から禰豆子共々戦場に出したくないのだけど……現時点では私の妄想でしかないからね。余計な事を言うのは拙い、か……っ。

 

耀哉は()()()()から竈門兄妹を保護しようと画策していたが、まだ秘密にするのが吉と判断し沈黙を貫いた。

 

「……」

 

炭治郎は一度深呼吸してから、双眸を閉じて沈黙した。

 

『……』

 

しのぶ達は青筋を立てて耀哉を睨みつけた後、炭治郎を見守った。双眸を閉じて一考していた炭治郎だったが、カッと見開いて耀哉を真っ直ぐ見詰める。

 

「御館様の御気持ちは分かります。ですが俺は会った事も話した事も無い見知らぬ女性達と関係を持ったり、目的を成し遂げるためだけに子供を設ける事は出来ません。」

 

炭治郎は耀哉の子作りの指令に対して、真正面から拒絶した。耀哉は炭治郎の答えが想定内なのか、特に反応を示さなかった。

 

「私の頼みだと、そう言っても受ける事は出来ないかい? 炭治郎っ?」

 

「はい。そもそも、たとえその女性の方々と子供を作る事になっても、俺はその子供達に鬼狩りになる事を強要させたく無いんです。

もし俺の子が此の世に生を受けて誕生するその頃には、既に鬼の存在に怯えなくて済む、鬼が居ない世の中で在って欲しいと思っていますから。」

 

『!!!』

 

「ですので……御館様には大変申し訳無いとは思いますが、この縁談の話をお引き受けする事は出来ません。」

 

再度質問された炭治郎は、毅然と耀哉の言葉を明確に拒絶した。

静かに炭治郎と耀哉、二人が睨み合う様に顔を合わせていると、炭治郎が開口した。

 

「……俺は常日頃、御館様には深く感謝をしています。」

 

『!!』

 

炭治郎が口にしたのは、耀哉への感謝の言葉だった。炭治郎は更に続けた。

 

「御館様とその御先祖の皆様が鬼殺隊を創設しているから、家族を失った俺は居場所を失わずに済みました。御館様が認めて下さったから、鬼の禰豆子も俺とこうして一緒に生きていられます。

珠世さんと愈史郎を仲間に加えて下さった御蔭で、無惨を倒せる可能性が大きくなりました。」

 

炭治郎は其処まで言うと、一度深呼吸をして呼吸を整えた。

 

「何より、御館様の御蔭で……俺は俺の生涯を賭けて幸せにしたい、心からそう思える大切な女性(ひと)達と出会う事が出来ました。」

 

『!!!』

 

炭治郎はそう言うとしのぶ達に顔を向けて、優しく微笑んだ。

 

「「「~~~っ!」」」

 

しのぶ達は炭治郎に微笑まれて、歓喜から顔を赤く染める。アオイに至っては、涙腺に涙が溜まっていた。炭治郎は其処から再び、耀哉の方へ顔を向ける。

 

「御館様から頂いたこの大恩! 俺が一体でも多くの鬼を倒し、一人でも多くの人を救い、鬼に殺される人を減らす事で……無惨を倒す事で恩返しをして見せます! どうか、俺をこれまで通り、鬼殺隊の隊士として働く事を御許し願えないでしょうか!? 御願いします!!!」

 

『!!!』

 

炭治郎はそう言って、額を畳に叩き付けて平伏し耀哉に嘆願した。

 

「……もう良いではありませんか、御館様。」

 

「っ!……珠世。」

 

炭治郎の嘆願に対して、最初に開口したのは珠世だった。珠世はそのまま、耀哉にある指摘をした。

 

人間(ひと)が嘘を付く時、無自覚に身体が反応します。その癖は人間(ひと)によって千差万別です……御館様が嘘を付く時は左耳がピクピク動くのですが、その縁談の話……真偽の方は如何程でしょうか?」

 

『!?』

 

珠世の指摘に対して、大広間は騒然となった。一方で、納得している者達が何名かいた。

 

「やっぱり、嘘だったんだ……でも本当の匂いも混じっていたから、何処まで信じて良いのか分かりませんでしたよ。」

 

炭治郎は納得した様子で、そう安堵しながら呟いた。

 

「やれやれ、バレてしまったねぇ。」

 

耀哉は珠世に指摘されて、クスクスと笑声を上げた。笑い終えた後、耀哉は真相について話し始めた。

 

「確かに縁談自体は私の嘘だよ。でも炭治郎が承諾してくれれば、直ぐにその写真の御令嬢達の家に連絡を入れて、縁談の準備をする予定だったんだ。」

 

『!』

 

「「「……」」」

 

耀哉の暴露とも言える真相を聞いて、炭治郎達は驚いた。炭治郎の回答しだいで、本当に縁談が行われる可能性があったからだ。

 

しのぶ達の心中には、驚愕の他に安堵が広がった。もし自分達が炭治郎と結ばれていなければ、何処ぞの馬の骨とも知れぬ小娘と結ばれていたかもしれなかったのだ。

 

「「「……っっ。」」」

 

そう考えると憤怒の炎が、心中で生まれ始める。

しのぶに至っては今直ぐ炭治郎の持つ写真をバラバラに引き裂き、油を掛け火を付けて焼き払い、灰に変えてしまいたいとすら考えていた。

 

「炭治郎、もう無理強いはしないよ。驚かせて悪かったね?」

 

「い、いえ! 御館様の御事情を考えれば、仕方が無かったと思います!」

 

耀哉に謝罪された炭治郎は、恐縮した様子で頭を下げた。

 

「良かったわね、炭治郎さん……皆さん、不束者ですが、愈史郎共々、これからもよろしくお願いします。」

 

珠世は炭治郎に声を掛けてから、行冥達に改めて挨拶をして頭を下げた。

 

「あ、はいっ! よろしくお願いしますねっ、珠世さんっ!…………。」

 

「はい、甘露寺さん……どうかしましたか?」

 

蜜璃と挨拶を交わした珠世だったが、蜜璃からの視線が気になって尋ねた。

 

「あっ!? いやぁ……そのぉ……っっ。」

 

蜜璃は珠世から尋ねられて、困った様子で顔を逸らした。そんな蜜璃を見て、珠世は微笑を浮かべて話し掛ける。

 

「甘露寺さん、私に遠慮なんて無用です。お聞きしたい事があれば、何でも仰って下さい。」

 

「えっ?……えっと、それじゃあ……。」

 

珠世に促された蜜璃は、意を決してある事を尋ねた。

 

「どうして、珠世さんみたいな優しくて頭も良くて素敵な人が、鬼になんかになってしまったんですか?」

 

『!?!?』

 

蜜璃が無垢な表情で、思わぬ質問(特大の爆弾)を珠世に投げ掛けた。その内容に、炭治郎達は絶句して騒然となる。

 

「甘露寺ぃぃっっ!!!」

 

「きゃっ!?……ご、ごめんなさいっ!!」

 

愈史郎が青筋を立て双眸を血走らせて激昂しながら、蜜璃に怒鳴り付けた。愈史郎に怒鳴られた蜜璃は、慌てて謝罪の言葉を口にした。

 

「止めなさい、愈史郎……甘露寺さんも、私に謝らなくても良いですから。」

 

『!』

 

激昂する愈史郎を宥め、自分に謝罪する蜜璃の頭を上げさせた珠世は、大広間が静まったのを見計らって語り始めた。

 

その事を愈史郎は止めなかった。

 

愈史郎自身も、珠世が鬼になった経緯を聞いていないからだ。本音では、知りたいと思っていたため止めなかったのである。

 

「何百、いえ何千もの命を奪った私が理由を語ったところで言い訳に過ぎませんが……私は誘い手を間違えて取ってしまったんです。」

 

「誘い手を、間違えて取った……?」

 

蜜璃が良く理解していない様子で、珠世が口にした内容を復唱した。

 

「はい。私は夫と共に医者をしていました。庶民より裕福な暮らしが出来ていたし、息子を産んで幸せでした。ですが年月が経って私は死病に身体を犯され、死の淵にいたところを無惨がやって来たんです。」

 

『!!』

 

珠世の過去を聞いて、炭治郎達は嫌な予感に駆られ胸騒ぎを覚えた。その予感は、間も無く珠世によって的中する。

 

「『二度と病に侵されない身体が欲しくは無いか?』……私はとにかく生きたかった。病を治してあの日常を取り戻したかった。無惨の甘言に乗ってしまった私は鬼に変えられ、見守っていた夫と息子を喰い殺してしまった……っ。」

 

『えっ?』

 

『なっ!?……っ!!』

 

珠世の悲痛な告白に。炭治郎達は言葉を失った。

 

――鬼になった者は、体力を消耗して身近に居る者を食料として襲ってしまう傾向がある。禰豆子と違って、珠世殿は抗えなかったんだな……。

 

義勇はそう考えながら、珠世の話を黙って聞いていた。

 

「自暴自棄になった私は只管、遣り場のない憎悪を罪無き他人にぶつけ続けました……あの時、私は潔く死んでおけば良かったと、今でも後悔しているのっ…………っっ。」

 

語り終えた珠世は涙こそ零さなかったが、身体を小刻みに震わせ頭を俯かせていた。そんな弱弱しい珠世を見て、炭治郎は思わず動いた。

 

「珠世さん。」

 

「っ!」

 

「……っ?」

 

炭治郎は珠世の前まで移動して座り直すと、珠世の両手を優しく包む様に握った。

 

『!?』

 

「っ!……炭治郎さん?」

 

「俺は、珠世さんを尊敬しています!」

 

「っ!」

 

戸惑う珠世に、炭治郎は真っ直ぐ見詰めてから言った。炭治郎は更に語り続ける。

 

「鬼にされても御自分で人間(ひと)としての理性を取り戻し、愈史郎さんと出会うまで四百年以上も一人で無惨と戦い続けて来た珠世さんを、俺は心から尊敬しています!……そんな珠世さんを見て、旦那様とお子さんは珠世さんを恨んだりなんかしないっ! 俺達には見えないだけで、きっと……いや絶対に珠世さんの背を今日(いま)も支えてくれているに決まってます!!」

 

『!!!』

 

炭治郎はそう断言して、珠世を激励した。炭治郎は純粋に幽霊の存在を信じている。

それは狭霧山で今は亡き兄弟子の錆兎と姉弟子の真菰に鍛えられた一件と、カナエとの出会いが根拠となっている。炭治郎は、珠世の夫と息子が今も珠世を愛しているのだと信じたかった。

 

「っ……ふふっ。ありがとう、炭治郎さん。」

 

炭治郎が何を言いたいかその意図が読めない程、珠世は鈍感では無い。顔を見上げた珠世は双眸を濡らして、炭治郎に微笑んだ。其処から珠世は思わぬ行動に出る。

 

握られていた両手を炭治郎から解放すると、両手を伸ばして炭治郎の頭を掴み、包み込む様に自身の胸に抱きしめたのだ。

 

『!?』

 

珠世の行動に、大広間は騒然となる。炭治郎は双眸を見開いて驚く事しか出来ず、愈史郎としのぶ、アオイとカナヲは双眸を見開き大口を開けて唖然としていた。

そんな炭治郎達に構わず、珠世は炭治郎の頭を撫でながら双眸を閉じて呟いた。

 

「私はこうして息子を抱き締めたかった……ただ、息子が大きくなるのを見届けたかっただけなの……。」

 

「珠世さん……。」

 

『っ!』

 

珠世の呟いた内容に、炭治郎は名前を呼ぶ事しか出来なかった。苛立っていたしのぶ達も思わず、嫉妬の炎を収めた。

 

「……俺、似てたりしますか? 珠世さんの息子さんに?」

 

炭治郎は頭を優しく撫でる心地良さを感じながら、珠世に尋ねた。自分を息子と思ってしてるのだろうと、そう考えてだ。

 

「……いいえ。多分、息子には似てないと思うわ。」

 

「え?」

 

『?』

 

だが、炭治郎の予想とは異なる回答が返って来る。炭治郎と同様の予想だった様で、耀哉達も首を傾げた。

 

「どちらかと言うと、夫の方に似てるわね。」

 

「……えっ!?」

 

『!?』

 

当惑する炭治郎達を余所に、珠世は抱き締めていた炭治郎を解放する。そして右手で炭治郎の頬を優しく撫でた。

 

「鬼化の影響で記憶は殆ど摩耗して、もう名前も顔も思い出せないけれど……これだけは覚えているわ。私の夫は、炭治郎さんみたいに優しくて、太陽みたいな笑顔をする素敵な人だった。」

 

『!!』

 

「……っ!!」

 

頬を赤くしながら、炭治郎に珠世は優しく微笑んだ。炭治郎は初めて見る珠世の表情に、沸騰する勢いで赤面する。

 

「なっ……あっ……。」

 

「ぬぅっ……。」

 

「っ……っ……。」

 

しのぶ達はそんな炭治郎と珠世のやり取りを見て、炭治郎とは異なり憤怒と嫉妬から赤面する。

 

「……」

 

一方で愈史郎は、二十年以上の歳月を珠世と共に過ごして初めて見る珠世の表情に、茫然とした様子で見詰めていた。

 

「……ふふっ、あはははははははははっ!」」

 

『!』

 

大広間に突如、大きな笑声が響き渡った。それは耀哉が爆笑する声であった。

 

『!?』

 

行冥達は生まれて初めて見る耀哉の様子に、茫然としながら得体のしれないものを見る目で耀哉を見た。

 

「……っっ。」

 

耀哉の笑声を聞いて我に返った珠世は、赤面したまま慌てて炭治郎から距離を取った。

耀哉の笑いが収まると、二人の男性に声を掛けた。

 

「炭治郎。君は本当に、女性にモテるんだね。……此処はやはり、"鬼殺隊一の色男"の称号も、炭治郎に譲渡しないといけなくなったんじゃないかな? 天元?」

 

『!』

 

「っ!……ははっ。」

 

耀哉に話し掛けられて、苦笑したのは音柱・宇髄天元だった。そんなやり取りをする二人に、善逸が凄まじく怪訝そうな表情で耀哉に言った。

 

「御館様……冗談ですよね? こんな奇想奇天烈な格好したおっさんが、女の子からモテる訳無いでしょう?」

 

『!?』

 

「ちょっ!? 善逸っ! 柱に向かってそんな……!」

 

天元に向かって暴言を吐いた善逸に、炭治郎が慌てた様子で諫めた。

 

「冗談でも嘘でも無いよ、善逸。天元は本当にモテるからねぇ。」

 

「まぁ、そんな事を自分から自称した覚えはありませんが……尤も、俺は派手で華やかな色男ですから当然の話です。女房も三人居ますからね。」

 

「「!?」」

 

天元が複数の妻を持っている事は、鬼殺隊では周知の事実だ。炭治郎もカナエから知らされているため、今更驚きは無い。しかし初耳な情報に、善逸は驚愕する。因みに、伊之助は関心が無かった。

 

「 三人!?  嫁……さ……三!?  テメッ……テメェ!! 」

 

善逸は顔を崩す程に激昂しながら、天元を睨み付けた。最早、階級など眼中に無かった。

 

「 なんで嫁三人もいんだよ炭治郎じゃあるまいしざっけんなよ!!! 」

 

善逸は嫉妬心から、遂に暴走寸前になる。しのぶが苛立ちながら、炭治郎は慌てながら善逸を止めようとした。

 

「善逸、落ち着いて。」

 

「!」

 

耀哉が善逸に声を掛けた瞬間、暴走寸前だった善逸がピタッと静止した。

 

「そんな顔をしていたら、女の子にモテないよ? 善逸は折角整った良い顔をしているんだから、もっと冷静にね?」

 

「え、あっ……はい、すみませんでした。御館様。」

 

善逸は赤面しながら、正座して身を縮こまらせた。炭治郎はそんな善逸を見て、ホッと安堵の息を吐いた。

 

「……っ!」

 

すると、炭治郎はある事に気付いた。それは耀哉の末っ子で四女の産屋敷かなたが、悲しい匂いを出しながら自分を見詰めていた事に気付いたからだ。

かなたは炭治郎と視線が合うと、露骨に顔ごと視線を逸らした。

 

「……炭治郎君?」

 

しのぶは突如、立ち上がった炭治郎を見て声を掛けた。しかし炭治郎はしのぶに反応せず、そのままかなたの前まで移動する。そしてかなたと視線を合わせる様に、腰を下ろして話し掛けた。

 

「竈門様……。」

 

「かなた様、大丈夫ですか?」

 

「……っ。」

 

炭治郎はかなたを心配して、声を掛けた。かなたは逸らしていた顔を戻したが、再び視線だけは炭治郎から逸らしてしまう。かなたから悲しい匂いを感じた炭治郎は確信する。

 

――俺の所為……だよなぁ。

 

炭治郎は自分自身が、かなたを悲しませている元凶だと悟り、謝罪の意を込めて話し掛けた。

 

「すみません、かなた様……複数の女性と付き合っている男なんて、幻滅されましたよね?」

 

「……」

 

炭治郎はそう言ってかなたが悲しんでいる原因を語ったが、かなたは何も答えない。それでも炭治郎は意を決して話し掛けた。

 

「ですが……俺にとってしのぶさんもアオイさんもカナヲも……禰豆子と同じ位、俺の命より大事な人達なんです。誰に何と言われようと、思われようと、これだけは絶対に誰にも譲りません。」

 

『!』

 

炭治郎は誓約するが如く、そう断言した。それを聞いてしのぶ達の心中は、歓喜と幸福で包まれた。しのぶに至っては良く良く観察してみれば、鼻の穴が広がっている。

 

「……っ。」

 

炭治郎からそう聞いたかなたは、逸らしていた視線を思わず戻して今度は顔を少し俯かせた。

 

――かなた様が悲しんでいるのは見ていて辛い……ん?……でもこの匂いは……?

 

炭治郎はかなたから在る事に気付いて、首を傾げた。

 

『……』

 

炭治郎とかなたのやり取りを見ていた行冥達は、疑問を抱きながら二人を見守っていた。因みに耀哉達産屋敷家は二人の関係を知っているのか、何も言わなかった。

 

――炭治郎君とかなた様は、"最終選別"で縁が出来た事は知っているけれど……それにしても親し過ぎる様な……。

 

しのぶは怪訝な表情を浮かべて、炭治郎とかなたを見守っていた。すると突如、かなたが動き始めた。

かなたが意を決した様な、強い輝きを瞳に宿して炭治郎を見詰めていた。

 

「あの、竈門様……貴方様に、お聞きしたい事が御座います!」

 

「っ!……はい、何ですか?」

 

炭治郎はかなたの様子に驚きながらも、笑顔で答えた。かなたは一度だけ小さく深呼吸して、ある事を炭治郎に質問した。

 

「竈門様……いえ、炭治郎様っ……炭治郎様はもう一人だけ、御傍に置く御心算は御座いませんか?」

 

「えっ?」

 

かなたが口にした言葉の内容に理解が追い付かなかった炭治郎だったが、かなたは気にせず炭治郎の両肩に両手を置くと、ゆっくりと顔を近付けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュッ❤

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

『!?!?!?!?』

 

かなたはそのまま吸い付く様に、炭治郎と口付け(キス)を躱した。かなたは無意識にきつく双眸を閉じたが、炭治郎は逆に驚愕から限界まで見開いたままだった。

 

かなたが炭治郎にしたのは舌を入れたりせず、啄む様な触れるだけの口付け(キス)であった。しかし口付け(キス)に夢中になって少し吸い付いたため、離れる時に小さく銀色の虹を作った。

 

「か……かなた様……。」

 

「う、産屋敷かなたは……藤襲山で貴方様とお会いしたあの日から……竈門炭治郎様を深くお慕いしております……❤」

 

雪の如く純白の肌を熱した鋼鉄の如く赤く染めて、かなたはその小さな胸中に抱き続けていた想いを炭治郎に告白した。

 

「これは……まさか、()()かなたが此処まで行動に出るとは……。」

 

「はい……。」

 

耀哉とあまねは、かなたの行動力に驚いていた。

かなたは五つ子の中でも、一番気が弱く臆病な性格の持ち主だ。嘗ては天井から糸を垂らして降りて来た蜘蛛が片手に乗った時、極限の恐怖心から失神してしまったという逸話が在る程である。

 

そんなかなたが人前で初恋の想い人に自分から口付け(キス)を交わし、想いを告白するなど想像だにしていなかった。

 

「あらあら。」

 

「まぁ。」

 

「か、かなた……っ!」

 

「嘘……っ!!」

 

かなた以外の耀哉の実子達も、かなたの行動力に驚きを隠せなかった。その反応は、四者四様であったが。

 

「「……竈門炭治郎様っ❤」」

 

すると長女のひなきと次女のにちかの二人が顔を合わせた後に、輝利哉とくいなを置いて行動に移る。

 

「えっ?……ええっ!?」

 

『!?』

 

炭治郎達の混乱が冷めやらぬまま、更に大広間に混沌を促す出来事が起こった。

ひなきとにちかが、それぞれ炭治郎の腕に抱き着いたからだ。それも炭治郎に逃げられない様に、しっかりと両腕を回して抱き締めた。

 

「ひ、ひなき姉さんっ! にちか姉さんまでっ!!」

 

かなたは怒った様子で頬を僅かに膨らませながら、姉二人の行動を非難する。しかし、何処吹く風と言わんばかりにひなきとにちかは気にもしない。

 

「ふふっ❤ ()()()から御人の良さは分かっていた心算だったけど……今日の一連の炭治郎様を見て、私達の想像以上に素敵な殿方だと知ってしまったんですもの❤❤」

 

「えぇ。もっともっと貴方様の事を、私達に教えて下さいませんか? 炭治郎様❤」

 

 

 

 

チュッ❤

 

 

 

 

ひなきとにちかは楽しそうにそう言うと、首を伸ばして炭治郎の両頬に口付け(キス)を落とした。

年齢不相応に大人びて余裕そうな口調ではあったのだが、二人は照れ臭いのか頬を赤くしながら、されど嬉しそうに炭治郎に絡んでいた。

 

「かなたってば何て破廉恥な……それにひなき姉さんににちか姉さんまで……。」

 

そんな姉二人の行動を見て、不満を覚える者がかなたの他にもう一人いた。三女のくいなである。

 

「狡い……わ、私も混ぜて下さいぃっ!!」

 

『!?』

 

くいなは弾丸の如く走り出すと、そのまま炭治郎の胸元に飛び込んで行った。

 

くいなは耀哉の五人の実子の中で、最も身体能力が高く活発的だ。かなたを失神させた蜘蛛を、素手で掴んで中庭に放り出すなど勇敢な性格もしている。

勢いに任せているとはいえ、炭治郎の胸元へ飛び込むのはくいならしい行動と言えた。

 

「ちょっ!?……わっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

炭治郎は咄嗟にかなたを庇うために、ひなきに抱き着かれている左手を半ば無理やり動かしてかなたを抱き寄せた。するとくいながかなたとは反対側に飛び込み炭治郎に抱き着いた。

 

――わわっ! 私、何て事を……っ❤

 

炭治郎に抱き着いたくいなは我に返って羞恥心を抱いたが、それでも自分から炭治郎と離れようとはしなかった。

 

こうして、炭治郎は左腕にひなき、右腕ににちか、胸元にくいなとかなたに抱き着かれているおしくら饅頭状態となった。

 

「おやおや……。」

 

「……っ。」

 

「嘘でしょ……っ。」

 

耀哉は楽しそうに炭治郎達を見詰め、あまねは開いた口を右手で隠し、輝利哉は額に右手を置いて頭を抱えた。

 

「姉上っ! くいなもかなたもっ! 炭治郎に迷惑ですよっ!」

 

頭を抱えていた輝利哉は我に返ると、ひなき達を注意して炭治郎から離れさせようとした。しかし、ひなきとにちかは可笑しそうにクスクスと笑い始める。

 

「そんな事言って、本当は貴方も私達が羨ましいのでしょう?」

 

「前々から「炭治郎様みたいな兄が欲しかった。」って言ってましたものねぇ。此処は見栄を張らずに、素直に炭治郎様に甘えたら如何かしら?」

 

「うっ……っ!」

 

輝利哉はひなき達からそう指摘されると、自身の心情を勝手に暴露されたからか、赤面して顔を露骨に反らした。

 

『!?!?!?!?』

 

一方で、大広間には混乱と衝撃が齎され、鎮火どころか拡大の一途を辿っていた。

石化する者、顎が外れる寸前まで開口する者、出血するのではないかと思わせる程に双眸を血走らせた者に溢れ混沌の極みに立っていた。

 

「……ん? ()()()……だと?」

 

『!』

 

そんな中で、一足先に我に返った義勇がひなきの呟いた一言に反応した。

義勇の一言を聞いて、行冥達も連鎖して我に返った。するとその手紙の件について、耀哉が説明を始める。

 

「炭治郎は藤襲山の"最終選別"以降、輝利哉とかなたの文通相手になってくれてね。其処にひなきとにちかとくいなも加わって、頻繁に手紙のやり取りをしていたんだ。

尤も、炭治郎は前回の柱合会議の時まで輝利哉達が私の実子だとは知らなかったみたいだけど、変わる事無く手紙を送ってくれたんだよ。」

 

『!!!』

 

炭治郎と輝利哉達の関係を知って、行冥達は驚愕した。

 

「テメェ……何つー恐れ多い真似を……ッ。」

 

炭治郎が輝利哉達にしていた事を知って、実弥は戦慄していた。

 

神にも等しい存在である耀哉の実子である輝利哉達に気軽に手紙を送るなど、柱である行冥達には考えられない事であった。尤も、多忙過ぎてそんな時間はそもそも無かったりするのだが。

 

「構わないよ、実弥。炭治郎の手紙は、今では輝利哉達にとって一番の楽しみなのだから……そうそう、炭治郎。輝利哉達に()()()を贈ってくれてありがとう。皆、とても喜んでいたよ。」

 

『!』

 

耀哉の説明を受けて、特に顕著な反応を示したのはカナヲだった。

 

「か、髪飾りって……一昨日、私が炭治郎と銀座に出掛けた時の……っ?」

 

「うん。輝利哉様達の御土産にと思って、買って贈ったんだよ。」

 

炭治郎は耀哉の説明に補足をして、カナヲに真相を伝えた。

 

「喜んでくれていたなら、良かったです。もし気に入らなかったらどうしようって心配でしたから……。」

 

「そんな事は無かったよ。輝利哉達はとっても喜んでいて、『着けるのが勿体無い。』なんて言って部屋に飾っているんだから。」

 

不安そうな表情を浮かべていた炭治郎に、耀哉は輝利哉達が髪飾りを受け取った時の反応を伝えた。輝利哉達の歓喜に満ちた感想を聞いて、炭治郎は安堵した。

 

「私達の所為で、炭治郎様にご不安を抱かせてしまってごめんなさい。」

 

「炭治郎様から贈り物を頂いた時、私達は本当に嬉しかったんですよ。」

 

ひなきとにちかの二人が、謝罪の意を込めて炭治郎にギュッと強く抱き着いた。それを見てくいなとかなたも姉二人に対抗心を抱いて、炭治郎を強く抱き締めた。

 

『!!!』

 

「「「……っ!!!」」」

 

「むぅ~~~~~~っっ!!!」

 

しのぶ達、炭治郎を愛する女性達が嫉妬心から青筋を浮かべて苛立つ中、禰豆子も面白く無さそうに唸り声を上げた。禰豆子は不満を隠す事無く、炭治郎達に接近して行く。

 

「っ!!……お前達、早く竈門様から離れなさい。早くっ……っ!」

 

「っ! は、はい!」

 

あまねが禰豆子の行動を見た後、ひなき達を連れて急いで炭治郎から離れた。

 

「むぅ~~~~~~っっ!!!」

 

 

パチン

 

 

禰豆子は不満そうに唸り声を挙げながら、両手で炭治郎の頬を挟んだ。力を込めていないとはいえ、炭治郎の顔が小さい火男の如く唇が突き出た顔になる。

 

「ね、ねじゅこ?」

 

「……んっ!」

 

禰豆子に問い掛ける炭治郎を無視して、何か妙案を思い浮かんだ様子であった。すると間髪入れずに禰豆子は身体を変化させて、長身で肉感的(グラマラス)な体型になる。

 

「んっ……ふふっ❤」

 

魅惑的な大人の女性になった禰豆子は、妖艶な笑みを浮かべると双眸を閉じて唇を突き出しながら、炭治郎に顔を近付けていった。

 

 

 

 

 

 

 

チュッ❤

 

 

 

 

 

 

 

「んぐっ!?」

 

『っ!?!?』

 

「んっ……❤」

 

なんと禰豆子はそのまま、炭治郎に向かって口付け(キス)をしたのだ。歓喜から頬を赤く染める禰豆子に対して、炭治郎は困惑から双眸を見開いて、呆然と禰豆子の瑞々しい唇の感触を体験するだけであった。

 

っ!?………私のっ……炭治郎君なのにっ!……炭治郎君はっ!……私のものなのにっ!……どいつもこいつもっ!……私の許しも得ずにっ!……私のっ!!

 

炭治郎と禰豆子の情熱的な口付け(キス)を見たしのぶが、顔を俯かせながら全身を震わせてぶつぶつと呟いていた。この緊急柱合会議で溜まりに溜まった鬱憤と苛立ちが、ついにしのぶの怒りの臨界点の限界を超える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブチッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しのぶの頭の中で、何かが盛大に切れる幻聴が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の炭治郎君にっっっ!!! 何て事してくれてんのよこの糞餓鬼(クソガキ)ッッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンッ!!  バキッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔中の血管を浮かび上がらせて激昂したしのぶは渾身の踏み込みを入れると、畳を踏み砕いてから弾丸の如く電光石火の速さで駆け出した。

 

『っ!?!?!?』

 

しのぶの勢いに理解が追い付かず、行冥達は茫然としのぶを見送るしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

 

 

 

「離れろっ!? 離れっ……なさいよっっ!!! このっ……離れろって言ってんでしょうがあぁああああああああああああぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

「んっ~~~~~~~~~~~~~~!!!!」

 

しのぶは禰豆子の髪の毛と新たに生えた角を鷲掴みにすると、引き千切らんばかりに引っ張って必死の形相で禰豆子を炭治郎から引き剥がそうとする。対して禰豆子も青筋を浮かべながら、死んでも炭治郎を離すものかと言わんばかりに、口付け(キス)をしたまま炭治郎にしがみついた。

 

「んぐっ!?……んんっ!!??……んぐぐっ!?」

 

炭治郎は更に禰豆子に強く唇を押し付けられて、徐々に呼吸が継続出来なくなっていく。

禰豆子の膂力に抗えずされるがままであった炭治郎は、禰豆子から離れようと両手を突き出す。

 

炭治郎の両手は、大きく成長した禰豆子の豊満な乳房に直撃した。

 

「んんっ!❤……んぁん❤……んっ!❤」

 

「っ!? この助平餓鬼(エロガキ)ィィッッ!!!!」

 

炭治郎と口付け(キス)している口から僅かに漏れる嬌声を聞き、零れ出る唾液を見てしのぶの憤怒が上昇していく。

 

「ね、禰豆子さんっ!? 早く炭治郎さんを離して下さいっ!! このままだと炭治郎さんが窒息してしまいます!!」

 

「姉さんっ!! お願いだから落ち着いてよっ!? しのぶ姉さんったら!?」

 

禰豆子が炭治郎に口付け(キス)をしたのを見て激昂しそうになったアオイとカナヲだったが、大激昂したしのぶの大暴走を見て最早それ所ではなかった。

この混沌を収拾すべく、急いで力を合わせていた。

 

「ね、禰豆子ちゃあああああああぁぁぁぁん?! テメッ、炭治郎、テメェッ!? 自分の妹まで手籠めにするとかおかしいだろぉっ!? 何処までとんでもねぇ炭治郎なんだよオメェはよおおおぉぉぉ!!!」

 

善逸は想い人の禰豆子が炭治郎に情熱的な口付け(キス)をするのを目の当たりにして、双眸を血走らせて激昂した。

 

「何だ!? 喧嘩か?! 俺も混ぜやがれ!!」

 

伊之助は状況を見ず結果だけ見て判断し、自身も混ざろうと善逸と共に炭治郎達に突撃しようとする。

 

「…五月蝿いっ。」

 

「「ぐえっ!?」」

 

無一郎が苛立ちを隠す事無く、善逸と伊之助の鳩尾に一撃を見舞いして一瞬で沈黙させた。無一郎に殴られた善逸と伊之助はそのまま白目を剥いて失神した。

 

「……」

 

無一郎は禰豆子としのぶを睨み付けると、苛立ちを隠す事無くゲシゲシと気絶する善逸と伊之助に八つ当たりを始めた。

 

「おーおー、派手に情熱的な口付け(キス)じゃねぇかっ!」

――いーなー、俺も攻められて―なー、でも力の差がなぁ……一遍に襲ってこさせたら行けるか?

 

禰豆子の情熱的な口付け(キス)を見て、天元も自身の愛妻達に同様の事をさせたいと一考していた。

 

「(このままだと炭治郎が窒息する……その事に禰豆子も胡蝶も気付いていない。此処は俺達も胡蝶の継子達に加担するべきだろうか?)不死川、お前はどう思う?」

 

「…何の感想を求められているんだよ俺はよォ?……つーか何なんだよこの状況はァ、どうしろっつーんだよぉ?!」

 

義勇は炭治郎に迫る危機を把握していたが、心中でそう分析するだけで動き出そうとはしなかった。

実弥は唐突に義勇に訊ねられたが、眼前の状況を見て何をすれば良いか判断に困っていた。

 

「きゃああああああああっ!?❤ キャ――――――ッッ!!!❤」

――えっ!? ええぇっ!? 何で炭治郎君と禰豆子ちゃんがキス……えええぇぇぇぇっ!?!?

 

蜜璃は禰豆子の情熱的な口付け(キス)を見て、黄色い歓声を上げていた。一方で内心では炭治郎と禰豆子の関係性に半ば確信を抱いて混乱していた。

 

「甘露寺、頼むから落ち着け。君まで暴走しないでくれ。」

 

そんな蜜璃の意図など読める筈も無く、小芭内は必死で蜜璃を落ち着かせようとした。

 

「嗚呼……しのぶのあの姿は、まさにカナエが生きていた頃そのものっ。まるでしのぶが生き返った様だ。あの頃の様に伸び伸びと感情を表に出せる日が来ようとは、こんなに喜ばしい事は無い。」

 

行冥だけは炭治郎と禰豆子の情熱的な口付け(キス)に眼もくれず、しのぶの様子だけを見て歓喜から滂沱の涙を流して心から喜んでいた。

 

「ああああっ!? どうしましょう、どうしましょう。このままだと炭治郎さんが!……ゆ、ゆしろうっ! わ、わたしたちはいったいどうしたらっ!?」

 

「珠世様、落ち着いて下さい。それから急いで少し下がりましょう。炭治郎の事だから、大丈夫です。此処は放っておきましょうっ!」

 

珠世は狼狽しながら、炭治郎達の騒動を見て愈史郎に解決の為の助言を求めた。

すると愈史郎は冷めた眼で炭治郎達を見ながら、珠世を落ち着かせてから少し距離を取って静観を決め込んだ。

 

「プッ……くくっ……くくくくっっ……っ!……も、もう駄目だっ……くふっ……堪え、切れないっ……ぷくっ……あっはっはっはっ! あーはっはっはっはっはっはっ!!!」

 

眼前で起きている騒動を見て、耀哉が堪え切れず非常に楽しそうに大爆笑する笑声が産屋敷本邸に響き渡った。

 

「あははははははははっ!! あーはっはっはっはっはっ!!!」 

 

耀哉の愉快な笑声が産屋敷本邸に響き渡る中、波乱万丈な展開が間髪入れずに次々と訪れた緊急柱合会議は、こうして無事に幕を閉じたのだった。




お待たせしました。

ある読者様からのQ:輝利哉様達は炭治郎に堕とされるの?
作者のこの時のA:炭治郎は堕とす心算は無いです。(だってもう堕としているし。)

忘れた方のためにも書きますが、第拾捌話で登場した「五つの髪飾り」ですが、正体は輝利哉達への炭治郎からの贈り物でした。
勘の鋭い方はもうとっくに見抜いていたのではないでしょうか? まぁかなたが炭治郎を庇ったあのシーンで察した方々もいるとは思いますが……。

それからはっきり断っておきますが、幼女であるかなた達とのエロシーンはありません。拙作の竈門炭治郎君はおっぱい星人であって、ロリでもショタでもペドでもありません。
拙作の竈門炭治郎君はおっぱい星人であってロリショタペドではありません。(大事な事なので弐回書きました。)

漸くですが、半年近く掛かった緊急柱合会議が終了しました。まだ全てが終わった訳じゃないけれど、大筋が終了出来て非常に安堵しております。そしてしのぶさん書いてて滅茶苦茶楽しかったです(笑)

次回は……二次会ですかね。この騒動を引き摺る……かもしれません(笑)。

更新予定は11月29日(日)です。お楽しみに!


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第肆拾話 日輪は鬼殺隊に処刑される

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*超辛口表現有り。苦手な方ご注意下さい。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・産屋敷邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時間帯:夜

天気:晴れ

 

大日本帝国有数の大名門・産屋敷家の邸宅で、一組の男女が満月を眺めて月見を楽しんでいた。

産屋敷家現当主・産屋敷耀哉とその妻・産屋敷あまねである。

 

「こんな風に、また君と月見を楽しめる日が来るとはね。人生、何が起きるか分からないものだ。」

 

「はい。」

 

耀哉は失った視力を愈史郎の手で取り戻した事で、一年振りに夜闇に浮かぶ夜景を楽しんでいた。

耀哉本人は月見酒と洒落込みたかったが、やはり体調に配慮して大人しく緑茶で我慢している。

 

最初の会話から沈黙が続いたが、暫くしてから再び耀哉の方から開口する。

 

「今日は鬼殺隊にとって、最も長い一日になった。」

 

「はい。」

 

「そう……最も騒々しく、忙しく、刺激的で……楽しく愉快な一日だった。」

 

耀哉はそう言うと、嬉しそうに微笑を浮かべた。

 

「炭治郎がね……見ていて、とても楽しかったよ。何時まで見ていても飽きない……寧ろ、目が離せないし放っておけないくらいだ。」

 

「っ!……仰る通りだと思います。」

 

炭治郎の話題になって、あまねも先刻よりほんの僅かだが強く反応した。自身の愛娘達の初恋相手なのだから、やはり気にはなるのだろう。

 

「そうなると……今流れている噂は炭治郎達にとって良くないね。何とかしてあげようか。」

 

「と言いますと……?」

 

「それはね、まだ秘密だよ。あまね。」

 

耀哉は何か思い付いた様子で、悪戯心が見える笑みを浮かべた。それから耀哉はあまねに頼んで、ある人物を呼んで貰った。

 

「あまね、()を呼んで貰えるかな? 少しばかり話したい事が有るんだ。それに先刻(さっき)行われた()()()は最高だった。また見せて貰いたいからね。」

 

「分かりました。早速、呼んで参ります。」

 

あまねが一礼してから退室するのを見届けてから、耀哉は月を眺めながら嬉しそうに、楽しそうに少し前に起こった出来事の回想を始めた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時間帯:夕方

天気:晴れ

 

緊急柱合会議が無事に閉幕となり、産屋敷本邸にて豪勢な晩餐会が開催された。

夕方から産屋敷本邸に勤める優秀な使用人達によって夕食の準備が行われ、全員の席に出来立ての料理が次々と並べられた。

 

因みに、晩餐会が行われたのは別の部屋だ。何故かと言うと、竈門炭治郎の恋人である胡蝶しのぶが畳を一部踏み砕いてしまったからである。

 

「……」

 

しのぶは一人、先刻の嫉妬に狂った衝動から引き起こした大醜態を振り返って、羞恥心から赤面していた。しのぶはあの後、大広間の一部を破壊した事を耀哉に土下座して謝罪をしていた。

 

そんなしのぶを他所に使用人達が料理が並び終えた事で晩餐会が始まったのだが、今度は炭治郎が当惑したまま落ち着きを失っていた。そんな炭治郎に、近くで座っている耀哉が声を掛ける。

 

「炭治郎。先刻(さっき)も言ったけれど、君は今回の立役者なのだから、遠慮せずに上座に座ってくれて良いんだよ?」

 

「でも、だからって御館様を差し置いて俺が上座になんて……。」

 

「竈門様。耀哉様がこう仰られているのですから、寧ろ甘んじて受けるべきです。竈門様の美徳ではありますが、謙遜も過ぎれば却って傲慢になります。どうぞ、御遠慮無く。」

 

「っ!……分かりました。」

 

あまねに諭された炭治郎は仕方無く、言われた様に大人しく胸を張って上座に座る事にした。

 

炭治郎が当惑していたのは、鬼殺隊の頭領で主君たる耀哉が上座に座る事を炭治郎に勧めたからだ。直ぐに固辞した炭治郎だったが、耀哉に押し切られて上座に仕方無く座っていた。

 

この事で異論や文句を言う者は出なかった。正確には、文句を言い出せなかったというのが正しい。もし口にしてしまえば、耀哉の顰蹙を買う事が分かり切っていたからである。

 

この晩餐会には鬼であり、通常の人間の食事が摂れない珠世と愈史郎、そして炭治郎の妹である禰豆子も出席して大人しく過ごしていた。

 

珠世はともかく愈史郎が大人しく出席している理由は、珠世のために耀哉が最高級の紅茶を用意しているからだ。

 

珠世にとって紅茶とは、血以外で唯一口にする事が出来る唯一の飲料である。

珠世は用意された紅茶を楽しんでいるから、愈史郎もそんな珠世を楽しく眺めながら大人しく過ごしているのである。因みに、禰豆子は炭治郎の背中から抱き着いて大人しくしていた。

 

一方でそんな珠世と愈史郎以上に、この晩餐会を楽しんでいる者達が居た。

 

「はい、炭治郎様。あーん❤」

 

ひなきがタラの芽の天麩羅を箸で掴むと、炭治郎の口元まで運ぶ。

 

嫡男の輝利哉を除く耀哉の実子達、ひなき達耀哉の愛娘達が炭治郎を取り囲んでいた。

 

ひなき達全員が、普段とは異なる髪飾りを付けている。

ひなきが桜の髪飾りを、にちかが菊の髪飾りを左側頭部に着用し、くいなが梅の髪飾りを、かなたが椿の髪飾りを右側頭部に着用している。

 

炭治郎は似た様な事がこの前有ったなと内心で思いながら、拒否出来ずに口に入れてタラの芽の天麩羅を食べ始めた。

 

「あ、あーん……み、皆さん。俺の事は構わなくても良いですからっ。」

 

「そんな遠慮など、どうか無さらないで下さい。私達は、好きでやっているのですから。」

 

「でもそれだと御自分が食べられないんじゃ……。」

 

「でしたら……炭治郎様が食べさせてくれると、嬉しいです……っ❤」

 

炭治郎は何かと理由を付けてひなき達と離れようとしたが、結局それが出来ず終始食べさせ合いに終わった。

 

『……』

 

そんな炭治郎達を、行冥達は何も口出し出来ずに見守る事しか出来なかった。尤も、一部の者達の行動は違ったが。

 

「……」

 

禰豆子は炭治郎の食事を邪魔しないためか、動かず大人しくしていた。

 

――……ふんっ!

 

しのぶは苛立ちながら、自棄(ヤケ)喰いに走っていた。

 

「んっ〜〜〜❤ どれも全部美味しい〜〜❤❤」

 

蜜璃は晩餐会に並べられた御馳走を、夢中になって堪能していた。

 

「甘露寺、これも美味いぞ。食べてみたらどうだ?」

 

「っ……わあっ! 伊黒さん、ありがとう!」

 

小芭内は食事に全集中する蜜璃のために、次々と料理を勧めていた。

 

「……ムフッ。」

 

義勇は大好物の鮭大根を出されて、滅多に見せない満面の笑みを浮かべて御満悦であった。

 

「…………」

 

そんな義勇の満面の笑みを目の当たりにしてしまった実弥は、青褪めた顔で食事を黙々と続けた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

大正二年(一九一三年) 三月十五日(土)

時刻:19:00

天気:晴れ

 

鬼殺隊随一の大喰らいである蜜璃が漸く箸を止めた事で、晩餐会は程無く終了した。

空になった大皿を始め食器が次々と撤去されていったが、卓子(テーブル)が素早く拭かれると今度は食後のデザートとして老舗から取り寄せた銘菓が次々と並べられた。

 

その中には、炭治郎が蛍と一緒にみたらし団子を食べた"朝田屋"の団子各種も有った。

 

――あっ、この団子は"朝田屋"の……何時かあの二人には、しのぶさんと御礼を言いに行きたいなぁ……。

 

在る意味、炭治郎としのぶが結ばれる切っ掛けを作ってくれた浅田夫婦の顔を思い出して、炭治郎は感謝の念を抱きながら必ず報恩すると心中に誓った。

 

各々で好きな銘菓を取って食べる中、上座に居る耀哉が不意に開口した。

 

因みに何故、先刻まで上座に座っていなかった耀哉が炭治郎と入れ替わっているのかというと、それは炭治郎が晩餐会終了後に耀哉へ急いで譲渡したからである。また、これ以上炭治郎を誂うのも可哀想だという理由も有った。

そして炭治郎と禰豆子が席を変わった時、そそくさとその隣をしのぶ、カナヲ、アオイの三人が移動して席を確保していた。

 

「そう言えば……もう()()()()、はっきりさせなければならない事が在った。」

 

『!』

 

耀哉の一言に、炭治郎達は注目した。

 

「御館様、はっきりさせなければならない事とは何でしょうか?」

 

炭治郎が全員を代表する形で、耀哉にそう訊ねた。訊ねられた耀哉は、笑みを浮かべて炭治郎に答える。

 

「勿論、炭治郎の事だよ。」

 

『っ!?』

 

耀哉の一言で、大広間は騒然となった。先刻の炭治郎追放未遂事件の一件も有って、誰もが緊張感を抱いていた。

 

「えっと……あのっ……。」

 

特に炭治郎に至っては眼の焦点が合わず、脂汗を滲ませていた。

 

「心配しないで、炭治郎。別に君を取って食おうって訳じゃないから。」

 

「当たり前です!」

 

しのぶは怒りを隠す事無く、炭治郎を抱き抱える様に抱擁した。そんなしのぶを見て、耀哉は不快に思う事無く微笑みながら話を続けた。

 

「私がはっきりさせたいのは、炭治郎への褒賞だよ。私の所為とは言え、先刻(さっき)の騒動で有耶無耶になってしまったからね。」

 

『!』

 

「っ!……っ。」

 

耀哉の意図を知ったしのぶは納得出来たのだが、それ以上に自身が先刻の騒動の元凶であるため、治まっていた羞恥心が再びぶり返し始めていた。

 

「俺の褒賞ですか?……でも、御館様。俺は別に欲しいとは思いません。それは全部、珠世さんと愈史郎さんに……。」

 

「そう言う訳には行かないんだよ、炭治郎。信賞必罰は此の世の常。一度言った様に、君の大功績は鬼殺隊の歴史を振り返っても類を見ない程の素晴らしいものなのだから。」

 

「……」

 

炭治郎は褒賞を固辞しようとしたが、耀哉に説得されて炭治郎は閉口して沈黙する。耀哉は異議を唱えなくなった炭治郎を見て、話を進めた。

 

「先ず最初に、護衛の任務を全うしてくれた五人の働きを称えたい。其処でカナヲ、善逸、伊之助の三人の階級を一つ昇進させる。アオイは……()()()()()()()()()()()()()からね。悪いけど、金銭で報いても良いかな? 望みが有れば、出来る限り答える心算だけれど……?」

 

『!』

 

「っ!……でしたら私の分の褒賞も炭治郎さんに上乗せしてお与え下さるなら、私にとってこれ以上の喜びはありません。」

 

――アオイさんの階級……?

 

アオイは一度だけ耀哉の言葉に反応すると、小さく頷いて承諾した。炭治郎はアオイの階級が気になったが、今はそれどころでは無かった。

 

「ふむ、ではアオイの要望通りにしよう……炭治郎、君に一つだけ聞きたい事が有るんだ。」

 

「は、はいっ! 何ですか、御館様?」

 

炭治郎は一度息を呑んで、耀哉から訊ねられるであろう質問に備えた。その質問の内容とは、驚愕すべきものだった。

 

「炭治郎、君は柱になる心算……いや覚悟は有るかな?」

 

『!?』

 

「えっ?……えぇっ!?」

 

炭治郎は元より、行冥達も驚きを隠せなかった。しかし、耀哉は笑みを浮かべてその話を繰り返した。

 

「私は本気だよ? 愈史郎の提案通り、柱の上限数は撤廃しようと思ってね。……尤も、そうでなくても杏寿郎の席が空いている。

鬼殺隊に残るならその席には是非、炭治郎に座って欲しいと思っているんだ。当初は君を辞めさせようとした、私が言うのも何だけどね。」

 

『っ!』

 

耀哉の口振りから本気で断言する様にそう言うと、行冥達の視線は自然と炭治郎に集中した。大広間に居る人間全員から視線を一身に受けた炭治郎は、無意識に生唾を呑み込んだ。

 

炭治郎は匂いで周囲の反応が複数に別れていると分かった。

 

賛成から歓迎する者と反対から反発する者、心配や不安の匂いを発する者や嫉妬する者と少なくとも四種類の反応が有った。

すると炭治郎だけでなく耀哉もその空気を察したのか、牽制する様に言葉を発した。

 

「言っておくけれど、周囲に慮る必要は無い。確かに君が柱になるための基本条件を達成しているとは、言い難いかもしれない。」

 

「だが杏寿郎達の援護有りきとはいえ、十二鬼月の魘夢(下弦の壱)を葬っているのもまた事実。その成熟した人格とまだ秘められている潜在能力を考えれば、君は認められて然るべき特別な子供なんだ。そもそも、基本条件など君が今日打ち立てた大功績の前では些末な事に過ぎない。」

 

「珠世と愈史郎を味方に引き入れ、薬と吹き矢……そして『紙眼()』を手に入れられた。無惨に関する情報を筆頭に、上弦の壱・弐・参に関する情報。"青い彼岸花"に"痣"、"赫刀"と"透き通る世界"といった情報も得る事が出来た。これらは全て、君の働き失くして得られなかった。この事実は誰にも否定などさせないし、私が許さない。君は柱になるに相応しい子だ。そしてこれは飽くまでも、君自身がどうしたいかだよ。炭治郎。」

 

「っ!……っ。」

 

柱になる事を推薦されたと解釈しても決して過言ではない耀哉の言葉に、炭治郎は双眸を閉じて一考を始めた。

 

耀哉達はそんな炭治郎を静観する中、ついに結論が出たのか炭治郎は双眸をゆっくりと開いて耀哉を真っ直ぐ見詰めて自身の結論について答えた。

 

「御館様、やはり俺はまだ柱になる事は出来ません。いいえ、そもそも俺には柱に資格すら有るとは思えません。」

 

『!』

 

炭治郎が出した結論とは、柱への就任を拒否する事だった。耀哉は炭治郎の結論を聞くと、耀哉が装着している『紙眼・視』の眼の部分が細くなって炭治郎を見詰める。

 

「ふむ、やはりそう来たか……では、その理由を聞こう。君は柱になりたいと、そう聞き及んでいるのだけれど?」

 

「はい。俺は御館様が仰る様に俺は柱になりたいと、心からそう望んでいます。」

 

耀哉の訊ねられた炭治郎は、正直に自身の願望を素直に答えた。

 

「ですが、俺が本当に欲しいのは柱に成れる程の強さです。柱はそのための目標や指針に過ぎません。柱の地位そのものになんか、興味なんて微塵も有りませんから。」

 

「ほう……?」

 

しかし、直ぐに炭治郎は自身が柱を目指す本当の理由を語った。本当に必要なのは強さであり、地位から得られる特権や名誉など、炭治郎にとって何一つ価値が無かった。

 

炭治郎はゆっくりと語り始めた。

 

「俺は禰豆子を人間に戻せれば、それで良かった。鬼殺隊に入隊したのも、罪の無い人達が俺と同じ悲劇を味わって欲しくないと思ったと同時に、一番人間に戻せる手掛かりが得られると思ったからです。」

 

「その目的さえ達成出来れば、他に望みはありせんでした。鬼殺隊での出世なんて何一つ関心が無かったし、正直言ってどうでも良かった。柱なんて、眼中にも有りませんでしたし、あけすけも無く言うと関わり合いたくも無かった。」

 

「君の場合、柱への第一印象なんて最低最悪のものだったろうからね。」

 

「えぇ、まぁ……普通に考えれば皆さんの見解が当たり前で正しかったのは事実ですし、無断で鬼を連れている俺がそもそもの原因なんですけどね。

当時の俺は身勝手にも最初、「なんて分からず屋しかいないんだろう。」って思ってました。今思うと、本当に恥ずかしいです。すみませんでした。」

 

炭治郎はそう言って、当時の自身の言動に関して謝罪した。

 

「そんなに自分を卑下する必要は無いよ、炭治郎。」

 

炭治郎の謝罪を受けて、耀哉は優しく窘めた。其処から耀哉は、ゆっくり語り始める。

 

「確かに長年、数多の鬼と対峙し戦って来た柱の剣士(子供)達が、鬼の禰豆子に反発する気持ちは正しいものだ。

罪無き人々から大切な人を奪い殺す鬼の存在を許さないと想うその気持ちは、鬼殺隊の隊士として何も間違ってはいない。」

 

耀哉は先ず、柱として抱く感情や私情、そして個人の事情を配慮してそう言って評価し擁護した。

 

「しかし、禰豆子に対してそれは誤りだった。大前提からして、間違いを犯している。非常識な存在に対して、常識に当てはめて対応しようとした事自体が大間違いだからだ。」

 

『!』

 

耀哉は刹那の間も置かず、直ぐに行冥達の判断は禰豆子の存在を理由に否定した。耀哉は、更に語り続ける。

 

「彼女が人間を襲わない事を誰よりも理解し、ずっと兄妹で力を合わせて傷付き血を流しながら共に鬼と戦って実績を重ねて来た炭治郎が、柱の剣士(子供)達の言動に不満を覚えるのもまた、当然の反応だ。」

 

耀哉は炭治郎が行冥達に反発した言動や態度を取った事実に対して、やむを得なかったと肯定する。

 

「第一……本来なら絶対的な力を持っている筈の柱の剣士(子供)達が、あろう事か寄ってたかって人の話や言い分すらも聞こうともせず、自分達より圧倒的な弱者であり、拘束され抵抗出来なかった炭治郎を一方的にかつ、頭ごなしに否定して独断で断罪しようとするなど、許されて良い筈が無い。」

 

「あの様な弱い者虐めの如き、醜悪で稚拙で愚かな言動と行動そのものに問題が有った。この醜い事実を前にしては、誰にも否定のしようが無いだろうね。」

 

耀哉はそう言い終えると、行冥達を一度ゆっくりと見渡してから、一度だけ耀哉は深い溜息を吐いた。

 

「鬼殺隊を支える柱とは、鬼を斬る刃だけの存在では無い……何よりも自分より弱き者達を支え、罪無き人々を守る盾でならなければならない。」

 

「「鬼だから構わない。何をしても良い。」などと思い上がった愚考を抱き、鬼を斬る事で悦楽や快楽を覚えるなど、人殺しで快楽を覚える殺人鬼と何ら変わらない。鬼を殺す事で達成感や充足感、満足感を得るなど、以ての外だ。鬼もまた、鬼舞辻無惨の手によって生まれた哀れな被害者であり犠牲者なのだから。」

 

「鬼殺隊の暗黙の鉄則。にも関わらずその基本中の基本を忘却の彼方に追いやり、柱の責務を放棄して愚かにも個人的な感情を優先した。」

 

「愈史郎が最初に言っていた様に、はっきり言って柱としての自覚がまるで足りていない、実に相応しくない戯言と愚行だったと評価せざるを得ないね。」

 

『…………』

 

耀哉に当時の自身の言動を戯言と、行動を愚行を責められ咎められた行冥達は、何も言えず顔を俯かせて沈黙を貫いたまま、身を小さくする事しか出来なかった。

そんな行冥達に一切気に掛ける事無く、耀哉は一人、こう呟いた。

 

「そして何よりもこの一件に関しては……禰豆子の対応を誤り、穏便に周知徹底を成す努力も怠り黙認だけで済ませていた、私の不手際と怠慢と無能が全ての元凶としか言えないだろう。」

 

『!!』

 

耀哉は特定の誰かに言う訳でも無く、自責の念から自身の愚行と愚断を責めた。それから、耀哉は炭治郎に向かってはっきりと断言した。

 

「今更私が後悔したところで、詮無き事だけれど……私がもっと、君達兄妹のために根回しを済ませて舞台を整えてさえいれば、あの様な見苦しい事態にはならなかった。全ての責任は私に在る……炭治郎、禰豆子、あの時は私の所為でごめんね。」

 

『!!!』

 

耀哉が竈門兄妹に頭を下げて謝罪した事に、大広間はザワついた。

 

「そ、そんな! 御館様が俺達に謝る必要なんて無いです!! どうか頭をお上げ下さい!!!」

 

炭治郎は慌てた様子で、耀哉に頭を上げる様に説得した。

 

『…………』

 

耀哉が頭を下げて謝罪する様子に行冥達も炭治郎と同様の事を言いたかったが、自身達がそもそもの原因である事を理解してか、何も言う事が出来ず沈黙するしかなかった。

 

行冥達はその後も沈黙したまま何とも言えない表情を浮かべる事しか出来ず、その中で三名程が顕著であった。

蜜璃は縮こまりながら、「ごめんね、ごめんね。」と小さく謝罪の言葉を繰り返し、しのぶと無一郎は青褪めて顔を俯かせていた。

 

蜜璃は終始中立を貫いていたのだから自責の念に駆られる必要性など皆無なのだが、竈門兄妹に味方しなかった事自体を自身の失態と解釈していた。

 

「し、仕方ないと思いますよ? 禰豆子さんはあまりにも特殊過ぎる……本当に奇跡的な存在なのですから。」

 

見兼ねた珠世が思わず、行冥達を擁護する発言を発した。しかし、鬼の珠世に擁護されたためこれが却って行冥達は更にいたたまれない気持ちを抱かせた。

 

「珠世様、別に擁護する必要など無いでしょう?

良い歳をした何処ぞの柱共が、大人に成り切れずに自分達の何一つ価値が無い、至極下らない些末な感情を優先して可能性の芽を自らの手で摘もうとしたんです。はっきり言って、阿呆の極みかと。」

 

「愈史郎っ!」

 

珠世の擁護を台無しにして傷口に塩を塗るが如く甚振る愈史郎の言動に、珠世は思わず声を荒げた。

 

「……まぁ禰豆子の場合、鬼の素質の高さだけで無く、家族である兄の炭治郎への深い愛情も鬼の本能を抑えて理性を保てた理由だと思うけれどね?

それに過ぎた事を色々後から言ったところで、今更意味は無い。ただ言えるのは、禰豆子の特性を常人が見抜くのは不可能と言っても過言では無い筈だ。」

 

「未熟で役立たずで愚図な(ボンクラ)共の言い訳作りも大変だな。下が馬鹿ばかりだと、上は無駄な苦労も多い事だろう? お前には心底同情するよ。」

 

『……』

 

不本意な人事を押し付けられた腹癒せのためか、愈史郎は毒舌な言動を緩める気など一切無かった。炭治郎は雰囲気を変えるべく、議題の軌道修正を試みる。

 

「コホン……最初こそ、義勇さん以外全然良く見てませんでしたけど……今は違います。しのぶさんと蝶屋敷で過ごした日々と……特に杏寿郎さんとの無限列車での合同任務が、俺にとっての契機になりました。」

 

「杏寿郎……最初こそ君達兄妹の斬首を求めていたけれど、同時に死に際で禰豆子を最初に認めた柱でも在る。尤も、義勇を除いてだけどね……あの子が炭治郎に送った言葉は、ちゃんと私にも届いているよ。杏寿郎は、本当に凄い子だった。」

 

「……っ。」

 

杏寿郎への称賛の言葉を聞いて、炭治郎は胸に熱が籠る感覚を覚えた。

 

炭治郎は深い感謝の念を抱いて、耀哉に平伏した。そして耀哉の宣言を聞いて、炭治郎もまた自身が抱いた抱負を公言する。

 

「俺は杏寿郎さんの遺志を紡ぐために、これ以上誰も悲しまなくて済む様に、俺は柱になります。なってみせます!……ただし、それは相応の力を得てからです。」

 

「その心意気はとても立派だけれど、十二鬼月はもう上弦の鬼しか居ない。新しい基準では、柱になる方法が厳しくなるよ? 炭治郎、君はそれでも良いのかな?」

 

炭治郎の抱負と誓約を聞いて、耀哉は優しさから気遣う様に忠告した。しかし、炭治郎の決意は変わらない。

 

「はい、良いんです。御館様からお褒め頂き、御評価して下さるのは嬉しいです。でも俺は皆と比べたら凄くないし特別でもありません。ただ、運良く今日まで誤った道へ足を踏み外さずに済んでいるだけでしかない。」

 

「それも自分の意志で、決断を下して来た訳じゃない。何時も誰かの導きの御蔭で、俺は誤った道を進まずに済んでいるだけで……明日も間違えないか、正しい道を歩めるか怯えているのを隠しているだけなんです。」

 

「そんな弱い今の俺に、柱になる資格などありません。でも御館様に誓いますっ。俺は何時か、今よりも強くなって上弦の鬼を倒して柱になります。

今日までの柱達が血反吐を吐く程の努力をして、幾つもの死線を潜り抜けて頑張って来た様に俺もそうします。だから御館様も、俺の事は簡単に認めないで下さい!」

 

『っ!!!』

 

『……』

 

大広間に居る者達は各々で反応しながら、炭治郎の啖呵をしっかりと耳にした。炭治郎は姿勢を正して、耀哉に平伏する。

 

「改めて、ありがとうございます。御館様から御褒めの御言葉を沢山頂いて、とても嬉しかったです。ありがとうございました。」

 

『……』

 

炭治郎は心から多謝の言葉を口にして、耀哉に感謝の念を捧げた。

 

「……分かった。其処まで言うなら、炭治郎の柱就任は保留にしよう。」

 

『!』

 

耀哉は炭治郎の意思を尊重して、柱の就任は諦めた。しかし、耀哉は炭治郎への褒賞を取り止めた訳では無かった。

 

「だが、階級は昇進させるよ。そうだね……『(ひのえ)』まで位上げする事にしようか。」

 

『!!』

 

「そ、そんなっ! 俺は一番下の『(みずのと)』なのに、いきなりそれは……っ!」

 

炭治郎は耀哉の言葉に動揺を隠せなかった。それもそうだろう。

 

頂点の柱になり掛けた事実を考えれば、どうしても印象(インパクト)が下がってしまうものの、いきなり一番下の階級である『(みずのと)』から、上から三つ目の『(ひのえ)』にまで昇進させようと言うのだ。

 

異例とは言え、この様な形の出世は別に前例が無い訳では無い。

過去十年に遡って例題を挙げるならば、行冥と無一郎が代表的な事例になる。

そして鬼殺隊の歴史を紐解けば、これまで柱の中でも飛び級で何度も階級を昇進させて柱になった例は何十人と存在している。

 

そして最も異例とされている事例は、元花柱のカナエである。カナエに至っては『(みずのと)』から、いきなり柱に昇進という前代未聞の出世を成し遂げているのだ。

 

だが、それでも炭治郎にとっては衝撃的な出世だった。鬼殺隊では遺族が居る場合、殉職後に二階級特進した階級の給与が遺族年金として支払われる制度がある。

 

それを考えると、炭治郎が三回殉職して二階級特進を繰り返しても届かない階級である。それを考えれば、驚くのも無理な話では無い。

 

遺族が路頭に迷わずに済む様にと言う産屋敷家の配慮から始まっているこの殉職制度だが、実はかなり時代を先取りしている先駆的な制度であった。日本軍では出来たばかりで、当時の警察には無かった制度なのだから。

 

余談ではあるが、そもそも殉職制度とは一九〇四年(明治三十七年)に勃発した日露戦争において、軍神と称賛された二人の名将、広瀬武夫海軍少佐と橘周太陸軍少佐が戦死した後、その軍功が大々的に称賛され、両者共に特進した事が殉職制度の始まりと言われている。

 

しかし、この時の両者は一階級特進のみに留まっており、最終的な階級は中佐であった。

 

この殉職制度が二階級特進にまで制度が改定されるまでには、一九三二年(昭和七年)に起こる第一次上海事変まで時代を待たなければならなかった。

 

「何言ってんだ、炭六郎。俺達の階級、『(みずのえ)』だぞ? 下から二番目。」

 

「えっ?」

 

驚きっ放しの炭治郎を余所に、伊之助が立ち上がって右手に握り拳を作ってからある言葉を唱えた。

 

「階級を示せ。」

 

すると手の甲に、『(みずのえ)』の文字が浮かび上がった。惚ける炭治郎に、しのぶが説明した。

 

言葉と筋肉の膨張によって文字を浮き出すこの技術は、"藤花彫り"と呼ばれる鬼殺隊専用の特殊技術である。因みに柱になれば、柱名が刻まれる。

 

「階級が上がる度に、文字は彫り直されるの。炭治郎君は蝶屋敷で、『隠』に彫り直されたのを……それより"最終選別"の後で藤襲山でされたのを覚えていない?」

 

「……すみません、全然覚えていないです。」

 

恥ずかしそうにそう言う炭治郎、しのぶは微笑みながら慰める様に頭を撫でた。

 

「……炭治郎。御館様が其処まで、お前の事を評価しているんだ。御館様を思うなら、謹んで受けろ。辞退は却って、御館様を侮辱する事になる。」

 

「っ!! 義勇さん……はい、分かりました。」

 

義勇に説得され、炭治郎は昇級を受ける事を決意した。これにより炭治郎は、鬼殺隊第三位階『(ひのえ)』に。カナヲは鬼殺隊第五位階『(つちのえ)』に、善逸と伊之助が鬼殺隊第八位階、『(かのと)』に昇進を果たしたのである。

 

――炭治郎に追い越されちゃった……階級なんてどうでも良いけど、どうせならもっと偉くなって炭治郎の役に立ちたいなぁ。

 

この結果にカナヲはそう思い、自身の精進を更に強化する事を決意した。

 

「分不相応、だと言わんばかりだね。炭治郎?」

 

「えっ!?……えーと、はい……。」

 

炭治郎は耀哉に心情を見抜かれて、困った表情をしながらも肯定した。

 

「君の謙虚な姿勢はとても好感が持てるけれど、これは信賞必罰を守って鬼殺隊の秩序を守るためだけじゃない。この昇進は、君のためでも在るんだよ。」

 

「俺のため……?」

 

耀哉が言っている言葉の意味が理解出来ず、炭治郎は首を傾げた。耀哉は苦笑しながら語り始めた。

 

「今後、鬼殺隊において珠世と愈史郎に何かあれば、炭治郎にも責任が及ぶだろう。君は珠世と愈史郎を鬼殺隊と合流させた、立役者だからね。」

 

『!』

 

耀哉の言った内容に、一部の者達は双眸を見開いて驚いた。

 

「おいっ!? 炭治郎にこれ以上、要らん責任背負わせる気か!?」

 

愈史郎が青筋を浮かべて激昂しながら、耀哉に問い詰めた。だが耀哉は一度だけ微笑を愈史郎に向けると、再び炭治郎に語り始めた。

 

「何かをすれば、責任が生じるものだ。そして目的を成し遂げたければ、相応の力が必要だ。そのためには権力を持つ事が、一番の近道になる。」

 

『!!』

 

「っ!……権力……鬼殺隊で、俺に偉くなれと?」

 

「そうだよ、炭治郎。珠世と愈史郎を、禰豆子を、何より君自身を守るためには、鬼殺隊で確固たる地位が必要だ。その地位が高ければ高い程、それだけ発言力も比例して高くなるからね。」

 

耀哉が炭治郎に如何に権力を得る事が大事か説明を終えると、微笑を浮かべてこう言い放った。

 

「と言う訳で、今からでも柱に成る心算は無いかい?」

 

「っ!?……い、いやぁ……それは、ちょっと……。」

 

耀哉からの提案に、炭治郎は困った様子を隠さず口籠った。それから三つを数える程の沈黙の後、コホンと一度咳払いしてから耀哉に向いて返答した。

 

「御館様の御言葉、肝に銘じたいと思います。ですがやはり、今の俺はまだ柱には相応しくありません。」

 

「……そうか。では楽しみに待っているよ。私が君を柱に任命するその日をね。」

 

「はいっ! ありがとうございます!! 必ず柱になるので、どうか待ってて下さい!」

 

炭治郎は勢い良く誓約を口にすると、頭を下げて平伏した。

 

「炭治郎、頭をお上げ……しかし、君が斬られて血を流してまで成し遂げたこの大功績に対して、この程度の褒賞では割に合わないと言わざるを得ないね。」

 

微笑みながら炭治郎に頭を上げる様に言うと、耀哉はそう言ってから顎に右手を当てて一考を始めた。それから耀哉は何か妙案を閃いたのか、ある事を炭治郎に伝える。

 

「そうだっ。良しっ……禰豆子の鬼殺隊入隊も、今日付けで正式に認めようじゃないか。」

 

『!!』

 

「んー??」

 

耀哉が思い付いた提案に、大広間は再び驚きが広まった。特に驚いたのはやはりというべきか、炭治郎であった。

因みに、炭治郎に膝枕されていた禰豆子は話の内容が理解出来て居なかった様だが、名前を呼ばれた事が気になったのか、起き上がって耀哉を見詰めた。

 

「い、良いんですか? 御館様っ。」

 

「良いも悪いも無いよ、炭治郎。既に珠世と愈史郎の二人が、正式入隊を果たしているんだ。そもそも順序で言えば禰豆子こそが、鬼殺隊に入隊した記念すべき鬼第一号だよ。」

 

耀哉はそう断言してから、更なる発表を行う。

 

「禰豆子の階級だけど、総合的に評価して……『(つちのと)』にしようか。」

 

『!』

 

「なっ!?」

 

「な、何ぃっ!?」

 

驚き様が顕著だったのは、善逸と伊之助だ。当然と言えば、当然かもしれない。

何故ならば、自分達が漸く、鬼殺隊第八位階『(かのと)』に昇進したと言うのに、禰豆子は『(かのと)』よりも更に自分達よりも二段階階級が高い、鬼殺隊第六位階『(つちのと)』になろうというのだから。

 

「それから、これはお詫びと言う心算は無いけれど、炭治郎が前に言っていた言葉を引用して、鬼殺隊全体に宣言しておくよ。その前に、産屋敷本邸(此処)に居る全員には先に言い聞かせておこうか。」

 

『!』

 

耀哉が言い放った発言の内容が気になって、炭治郎達は必然と耀哉に注目した。耀哉は自身に視線が集中して集まっている事を確認してから、はっきりと断言した。

 

「必要があればこの先、私は何度でも言おう。

禰豆子は、延いては珠世も愈史郎も鬼だけれど、人の心を持ち罪無き人々のために戦い続けてくれる限り、私にとって大切な隊士(子供)だ。この事実を認める事は強制しないけれど、否定する者は誰であろうと私が許さない。」

 

「善い鬼と悪い鬼の区別すら付かず判断も出来無い者など、誰であろうと鬼殺隊には必要としない。此の期に及んでその様な真似をする者など、最早私の隊士(子供)でも何でも無い。」

 

『!!!』

 

炭治郎達は瞬時に理解した。改めてこの瞬間から、禰豆子と珠世と愈史郎の三人は鬼殺隊の隊士として正式に認められたのだという事を。

炭治郎は思わず、目頭が熱くなる感覚を覚えた。

 

『……っ。』

 

一方的で、炭治郎以外の一部の者達は戦慄に近い驚きを覚えていた。

 

耀哉の宣言した内容の意味を考えれば、禰豆子達に不当な手出しをした者は厳罰に処されると解釈出来る内容だからだ。

特に小芭内と実弥の反応は顕著だった。どちらかと言えば、小芭内の方の反応が大きかったのだが。

 

「炭治郎。引き続き、禰豆子の手綱を頼んだよ。」

 

「は、はいっ! ありがとうございます! 御館様っ!!」

 

炭治郎は姿勢を正すと、改めて頭を深く下げて耀哉に感謝の念を捧げた。

 

「んーっ。」

 

『?』

 

禰豆子が突然、脈略も無く立ち上がった。そしてそのまま耀哉に向かって行くと、そのまま耀哉の首に両腕を回して抱き着いた。

 

「おっと……っ。」

 

『!?』

 

「禰豆子っ!?」

 

禰豆子の突拍子も無いこの行動に、炭治郎達は大口を開けて固まった。

 

因みに誰も禰豆子を阻止しようとしなかったのは、単純に炭治郎の下へ向かったと最初に思ったからだ。殺気も殺意も敵意も無かったのもまた、理由の一つである。

 

「うっ!!」

 

「おやおや……女の子の方から抱き着かれるなんて、私もまだまだ捨てたものでは無いらしい。」

 

禰豆子に抱き着かれた耀哉は不愉快に思う事無く、寧ろ嬉しそうにそう呟きながら禰豆子の抱擁を受け入れた。

 

「禰豆子、今日まで良く頑張ったね。でも今日からは一層、炭治郎共々よろしく頼むよ。」

 

「んっ!」

 

耀哉の言う事に禰豆子が元気良く承諾すると、耀哉への抱擁を解いて炭治郎の下へ向かって行った。

 

「炭治郎。最後にもう一度、君にお礼の言葉を言わせて欲しい。本当に、ありがとう。」

 

『っ!』

 

耀哉が言い放った言葉を聞いて、全員が鋭く耀哉を注視した。

 

「別に不思議に思わなくて良い。私は前に言ったね? 炭治郎が来てくれるまで、珠世との合流を諦めていたと……それは一段と諦念を私に抱かせる程の事件が、鬼殺隊で起きてしまったからだ。」

 

「御館様……その出来事とは、まさか……。」

 

行冥が心当たりを思い付いた様子でいると、行冥が口にする前に耀哉が答えた。

 

「行冥の思った通りだよ。その事件とは、カナエが亡くなってしまった事だ。」

 

『っ!!』

 

カナエの名前が出て来た事で、生前のカナエを知る者が大きく反応した。耀哉は更に語り続ける。

 

「カナエは鬼殺隊に入隊する前から鬼に対して同情的で、その存在に憐憫の情を抱いて居た。

私は直ぐにその考えも変わってしまうだろうと思っていたけれど、そんな事は無かった。カナエは鬼殺隊に入り、柱になって一年、二年、三年と年月が経過しようとその想いは強くなれど薄まる事は無かった。」

 

『……』

 

耀哉が語ったカナエの人柄を知って、カナエを知らない者達は思わず共通の考えが浮かんだ。とても炭治郎に似ている、と。

 

「そんなカナエを見て、私は決意したんだ。今まで秘密にしていた珠世の存在をカナエに伝え、合流するための極秘任務を任せよう、とね。」

 

『!!!』

 

「っ!?……御館様、カナエ姉さんは……珠世さんの存在を認識していたのですか?」

 

しのぶにとって初耳である情報を知らされて、気になって耀哉にしのぶはそう訊ねた。耀哉はしのぶの質問に対して、ゆっくりと首を横に振った。

 

「いいや、認識していない筈だ。私が任せる前に、カナエは亡くなってしまったからね。あの時は私も一縷の望みが断たれたと思い、とても悲しかったよ。」

 

「っ!……そうですか。」

――姉さんが珠世さんの存在を知る事無く亡くなった事は、果たして良かったのか悪かったのか……私には永遠に分からないわね。

 

しのぶは内心でカナエの事を考えると、簡単には表現出来ない複雑な感情を覚えた。

 

「……っ!……っっ!……っっ。」

 

「炭治郎様っ!?」

 

かなたが突然、悲鳴に近い声で炭治郎の名前を呼んだ。何故なら、顔を俯かせていた炭治郎が大粒の涙を流していたからだ。

 

「すっ!……ぐずっ、すみませんっ!!」

 

炭治郎はかなたの声を聞いて、慌てて袖で涙を拭った。涙を拭ってから炭治郎は潤んだ双眸をそのままに、頭を下げて耀哉に自身の心情を伝えた。

 

「カナエさんに任される筈だった大任を無事に遂行出来て……俺は、とても光栄に思います。」

――嗚呼、カナエ。聞こえてる? 御館様は貴女の事を、心から信頼していたよ。

 

炭治郎は心から歓喜していた。カナエは耀哉から本当に信頼されていて、珠世の事を任せようとした事が分かったからだ。飽くまで時間だけが足りなかったのだと、証明された事が嬉しかったのだ。

 

「……ふふっ。」

 

『!』

 

耀哉が唐突に、楽しそうな笑声を上げた。炭治郎はその笑声を聞いて、頭を上げて耀哉を見詰めた。

 

「もう起こり得ない事なのだけれど……もし炭治郎とカナエが生きて出会う事が出来ていたら、きっと仲良くなれていたに違いないって思ったんだよ。」

 

『!!!』

 

耀哉が思い付いた「たられば(もしも)」に、炭治郎達は反応した。尤も、炭治郎だけは大広間に居る他の全員とは異なる考えであったが。

 

「まぁ、考えるまでも無く仲良しになったんじゃないか? 俺はそれだけで済むとは思えんがな。」

 

そう答えたのは、愈史郎であった。その内容が気になった耀哉は、愈史郎に訊ねた。

 

「最後のはどう言う意味だい? 愈史郎。」

 

「お前の炭治郎に対する認識は甘過ぎる……決まっているだろう? もしカナエが生きていたら、炭治郎が侍らせている女が一人増えていただろうよ。」

 

「ぶっ!?」

 

『!?』

 

愈史郎が予測した「たられば(もしも)」を聞いて、炭治郎は思わず吹いてしまい、結果として思わぬ視線が集まってしまう。愈史郎はそんな炭治郎に構わず、語り続けた。

 

「い、いやそんな……幾ら炭治郎君でもカナエ姉さんとは……っ。」

 

「分からんぞ? カナエは炭治郎と考えが似ている上に、しのぶに負けない美人だったんだろう? そうはならなかったなんて、誰が断言出来る?」

 

「うっ……。」

 

愈史郎の「たられば(もしも)」を聞いて、しのぶが動揺しながら反論するも、愈史郎の一言を聞いて反論の糸口を失う。そんな二人を見て、炭治郎は冷や汗を掻きながら右往左往していた。

 

「い、いや。あの……それは……っ。」

――い、言えない……今まさにその通りになっていますだなんて、絶対に言えない……っ!

 

何か言おうとした炭治郎だったが、沈黙は金雄弁は銀とばかりに、これ以上の弁解はせず閉口した。

 

「……此の世に居ない者で、その様な想像しても答えは出ない。もう止めてあげなさい。」

 

「「!」」

 

しのぶと愈史郎の会話に、炭治郎の反対側の真正面に座り沈黙を貫いていた行冥が割って入りこれを終了させた。収拾がつかないと、そう判断しての事だ。

 

しのぶと愈史郎は行冥の正論を聞いて、一理有るとして話題を終了させた。それを見届けてから、行冥は突如、両手を大きく叩いてパァン! と大音を鳴らして合掌すると、行冥は断言した。

 

「最早、疑いの余地など有りはしない。誰が何と言おうと、私も絶対に君を認めるぞ。炭治郎。」

 

『!?』

 

行冥が突然、炭治郎を認める発言をした事に大広間に居る全員が驚いた。炭治郎達の視線が自然と、行冥に注目する。

 

「えぇっ?……わ、分からない……どうしてですか、悲鳴嶼さん?」

 

炭治郎は抱き着いて来る禰豆子を受け止めながら、何故自身が認められたのかその理由が分からなかったため、行冥にその理由を訊ねた。

行冥は炭治郎の問いに対して、ゆっくりと回答した。

 

「私の過去を覚えていると思うが……あの一件で私は自分でもウンザリする程に猜疑心が強く、人に対して疑り深い性格になった。

人間の建前と本性は硬貨の如く表裏一体であり、状況一つで一瞬にして変わってしまうと悟ったからだ。」

 

「……っ。」

 

「炭治郎、勿論君の事も疑っていた。普段は如何に善良な人間であっても土壇場で本性が出る……だが君は逃げず、目を逸らさず、嘘を吐かずひたむきだった。鬼殺隊の隊士として、君は誰よりも最善の行動を取り続けた。」

 

「今私が言った事は口にするのは簡単だが、どんな状況でも変わる事無くそう居られる者は多くは無い。御館様が仰られた様に、君は特別な子供なのだ。」

 

炭治郎をそう評価すると、行冥は更に語り続ける。大広間に居る誰もが、口を挟む事無く耳を傾けた。

 

「今日まで私が出会って来た人間の中で、君は御館様に次いで立派な人間であり……誰よりも素晴らしい鬼殺隊の隊士だ。

鬼は人間だったのだと、その事実を忘れる事無く罪と鬼を考え分け、人斬りをしている覚悟を持てる君は隊士の鏡と言っても、決して過言では無いのだ。」

 

「大勢の人間を心の目で見て来た私が言うのだから、これは絶対だ。未来に不安が有るのは、誰しも同じ。

君が道を踏み間違えぬ様に、妹が人間に戻れる様に、今日からは私も手助けをすると約束しよう……君達を疑って申し訳無かった。」

 

『っ!!!』

 

「っ!!……っ……っ……っっ。」

 

行冥からの称賛と謝罪を聞いていた炭治郎は、思わず双眸を濡らして声を詰まらせた。

 

「……頑張ります……ありがとうございますっ……。」

 

嗚咽を漏らしながら、鼻を赤くした炭治郎は何とか行冥に感謝の言葉を口にした。

 

「うっ!」

 

「よしよし、炭治郎君は本当に良く頑張りましたね。」

 

炭治郎を労う様に、禰豆子としのぶが優しく炭治郎の頭を撫で始めた。

 

「「……っ。」」

――出遅れた……っ!!

 

左からアオイ、カナヲ、しのぶ、炭治郎の順番で座っており、禰豆子がしのぶの反対側に割り込んで来た事も相まってアオイとカナヲは行動に移せず、羨望の眼差しを向ける事しか出来なかった。

 

「…………」

 

そんな炭治郎達を、何を考えているのか全く読めない表情で義勇が見詰めていた。

 

「ん?」

 

「……っ?」

 

「……何ですか、冨岡さん? 言いたい事が有るならさっさとどうぞ?」

 

義勇の視線に苛立ちを覚えたのか、しのぶが鬱陶しそうに義勇に訊ねた。

 

「いや……ただ、炭治郎と胡蝶は仲睦まじいなと思っただけだ。」

 

「っ!……うふふっ。当然じゃないですか。私と炭治郎君ですよ?」

 

しのぶは義勇の感想を聞き、一転して機嫌が良くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが有頂天になっていたしのぶの機嫌は、義勇の余計な一言の所為で地獄の底にまで叩き落とされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。嘗ては炭治郎の眼前で禰豆子を殺害しようとした胡蝶が、その炭治郎と恋仲になるとは考えてもみなかった。人生、何が起きるか分からないものだ。」

 

『!?!?』

 

しみじみと感慨深げに、義勇はうんうんと頷きながらそう語った。それを聞いたしのぶは、笑みを浮かべたまま石化したが如く固まってしまう。

 

「あの、えっと……ぎ、義勇さん?」

 

義勇が言い放った内容に、炭治郎は当惑を隠せない。そんな炭治郎の様子に、義勇は首を傾げながら更に無意識に口撃を続行した。

 

「どうした? もう忘れたのか? あれは何時だったか……ああ、そうだ。確か那田蜘蛛山で、炭治郎の言い分も俺の言い分も聞かずに、胡蝶は禰豆子を殺そうとしてただろう?……確かお前は、こうとも言っていたな? 『苦しまない様に、優しい毒で殺してやろう。』だったか? なぁ胡蝶?」

 

『ッ!!!』

 

懐かしそうにそう呟く義勇とは裏腹に、大広間には戦慄が走る。

 

「あっ、あの……その……それは……。」

 

特にしのぶに至っては、笑顔のままダラダラと冷や汗が流れていた。だが義勇の無意識な口撃は止まる事無く、更に別の人物にまで飛び火する。

 

「それから……確かあの後、胡蝶の継子が炭治郎の顎を蹴り砕いた後、禰豆子を斬り殺そうとしたという報告を後から知ったぞ。成程、義理とは言えまるで血が繋がった様に行動が似ている。流石はお前の妹だな、胡蝶。」

 

『っ!?!?』

 

感嘆した様子でそう言った義勇だが、この発言を聞いてカナヲは青褪めてしのぶ同様に冷や汗をダラダラと流し始めた。

 

「……っ……っ……っ……。」

 

「どうしたんだ、炭治郎? お前は覚えていないのか?」

 

そんなカナヲの様子など眼中に無く、義勇は自身の発言に何一つ反応しない炭治郎に向かって怪訝そうな表情を浮かべて訊ねた。

 

「っ!!……いや、しのぶさんの事は覚えていますよ?……でも俺、禰豆子の事で必死で、その後の事は何も覚えて無くて……カナヲの事は、今初めて知りました。そうか……あの時に俺の顎を蹴り砕いたのって、カナヲの仕業だったんだ……。」

 

「「っ!!!」」

 

嘘を吐けない炭治郎は、困った様子で義勇に正直にそう返答し、顎を撫でながら呟いた。炭治郎はしのぶとカナヲに一度視線を向けたが、直ぐに逸らしてしまう。その行動が、しのぶとカナヲにとって酷く悲しかった。

 

「……っっ……っっ……っっ……。」

 

「か、カナヲ?」

 

カナヲが今にも失神しそうな程に青褪めながら、カタカタと身体を震わせていた。

 

「……がう……」

 

「し、しのぶさん? うわっ!?」

 

『!』

 

カナヲと同様、身体をカタカタ震わせていたしのぶだったが突如、炭治郎の胸元へ飛び込む様に抱き着いた。

 

「違う……違うのぉ……っっ。」

 

「っ!」

 

しのぶは身体を震わせながら、途切れ途切れに言葉を漏らしていた。

炭治郎はしのぶが涙腺が決壊寸前まで涙を溜めている事と、強い罪悪感と後悔の匂いを漂わせている事に気付いた。

 

「あ、あの時は私……私、炭治郎君の事も禰豆子さんの事も何も知らなかったから……知ってたらあんな真似……ごめんなさいっ、お願い許して……っっ。」

 

「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……っっっ。」

 

しのぶは俯かせていた顔を上げると涙腺がついに崩壊して、大粒の涙をポロポロ流しながら炭治郎に許しを懇願した。カナヲに至っては、泣きながらお経の様に謝罪の言葉を繰り返していた。

 

那田蜘蛛山での経緯は、しのぶにとってもカナヲにとっても一番に葬り去りたい黒歴史であった。

 

あの時まで時間を遡れるならば、迷う事無く当時の自分を殴り倒している。否、気が済むまで殴ってから竈門炭治郎という存在が如何に尊いのか延々と教育していたに違いない。

 

第一印象は、最低最悪のものだった。何故、他にもっと良い出会いは無かったのかと何度、運命や神仏を呪ったか分からない位だ。

 

二人はこの件について何時か炭治郎に謝罪しようとは思ってはいたが、思うだけで藪を突いて蛇を出す失態を恐れて、実行出来ずに今の今まで先延ばしにしていた。

 

その怠慢と臆病の代償として、最悪の形で義勇によって掘り返されたのだ。

こんな事になるなら、さっさと自分の口から切り出せば良かったと心底後悔したが、最早後の祭りである。

 

「しのぶさん、落ち着いて?……カナヲも、こっちにおいで?」

 

「「っ!!」」

 

何時もの優しい声色で炭治郎に呼び掛けられたしのぶとカナヲは、一瞬だけ身体をビクッと身体を震わせる。

それからしのぶは涙を流すのは止め無かったが一先ず動揺を落ち着かせ、カナヲもゆっくりと炭治郎へ近付いて行った。

カナヲが自身に近付いたのを見てから、炭治郎は手を伸ばしてカナヲをしのぶ諸共優しく抱き締めた。

 

「気にしないで……って言われても気にしちゃいますよね? だから俺は御二人を許します。この話は、もう水に流して終わりにしましょう。だからこの事に負い目を感じて、自分を責めないで下さいね。」

 

「炭治郎君……っ。」

 

「たんじろうっ……たんじろぉ……。」

 

しのぶとカナヲは炭治郎の優しい言葉を聞いて、より一層泣きながら炭治郎に抱き着いた。

 

「……うっ!!」

 

禰豆子もしのぶとカナヲが泣いているのを見て、慰めるために背後から二人を優しく抱き締めた。

 

「っ!……禰豆子さんっ。」

 

「ね、禰豆子ちゃんっ!」

 

「ん~……っ!」

 

しのぶとカナヲは背後の禰豆子から抱き締められた事に気付いて、首を動かして横目で禰豆子を見る。二人から視線を受けた禰豆子は、優しく微笑むだけだった。しのぶとカナヲにとって、その笑みは大いに救われるものだった。

 

「禰豆子さん……あの時はごめんなさい……っ。」

 

「ごめんね……禰豆子ちゃん。本当に、ごめんね……っ。」

 

「んんっ!」

 

二人から謝罪された禰豆子は、一切気にした様子も無く満面の笑みを零した。炭治郎はそれを見て、同様の笑みを零した。先刻までは炭治郎を巡って、二人で争っていたとはとても思えない光景である。

 

「禰豆子も何とも思っていないみたいですよ。だからもう、気にしたりなんかしないで下さいね?」

 

炭治郎はそう言うと、禰豆子共々しのぶとカナヲの気が済むまで抱き締め続けた。

 

「……フッ、"雨降って地固まる"と言う奴だな。炭治郎達が仲直り出来て良かった。」

 

「冨岡ァ。テメェはもう今後一切喋るんじゃねェ。」

 

「……?」

 

自分自身が雲取山で竈門兄妹に最初に出会った時に仕出かした所業を棚に上げて、一仕事したと言わんばかりにどや顔をする義勇に対して、不本意ながら近くに居た実弥が思わずツッコミを入れた。

 

義勇はしのぶとカナヲの姉妹と炭治郎の三人の関係に感心しているだけであり、悪意など一切無いのである。にも拘らず実弥に何故その様にツッコミを入れられたのか、義勇には理解出来なかった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

義勇の所為で引き起こされた騒動だったが、何とか尾を引く事無く無事に収拾をつける事に成功した。

耀哉はそれを見てこの晩餐会も閉会しようと考えたが、其処へある男が割って入って来た。

 

「耀哉。閉会する前に俺の方から一つだけ、『紙眼()』に関して説明したい事が有る。」

 

『!』

 

「それは何かな? 愈史郎。」

 

耀哉は興味津々といった様子で、愈史郎に訊ねた。

 

「俺が説明を始める前に全員、『紙眼()』を着用して貰おうか。話はそれからだ。」

 

愈史郎がそう言うと、炭治郎達は緊急柱合会議で配布された『紙眼』を額に着用し始めた。全員が『紙眼』を着用したのを見計らって、愈史郎は説明を始めた。

 

「会議の時に説明しなかったが……実はこの『紙眼()』には、もう一つだけ使える能力が有るんだ。」

 

「使える能力……それって何ですか? 愈史郎さん。」

 

炭治郎が使用出来る能力が何なのか、気になって愈史郎に訊ねた。

 

「能力とは"記憶共有"。俺の記憶限定だが、その記憶を他人と共有する事が出来るんだ。」

 

『!!』

 

炭治郎達はその能力の内容を聞いて驚いた。

 

「ほう……愈史郎は無惨と似た様な事が出来るんだね。」

 

「おいこら、無惨みたいとか言うな……業腹な話だが、耀哉の言っている事は間違っていない。まぁ奴と比べれば、下位互換も良いところだがな。」

 

愈史郎は耀哉に気にしている事を言われて苛立ちながらも、その事実を素直に認めた。

 

「……愈史郎さん。この能力を特化させれば、他人の記憶を共有する……なんて真似、出来ませんか?」

 

『!!!』

 

炭治郎が思い付いた発想に、耀哉達は驚愕する。そして一部頭の回転が早い者達は、其処から齎される可能性と利益に自然と期待感を抱いた。

 

一方で訊ねられた愈史郎は、眉間に皺を寄せて首をゆっくりと横に振って炭治郎の発想を否定した。

 

「それは俺も思い付いて、作ろうとしたんだ。だが結論から言うと、作れ無かったんだよ……もしそんな物が出来ていたら、とっくに会議の時に使って珠世様の御記憶を全員で共有していただろうな。」

 

『……』

 

愈史郎の言葉を聞いて、炭治郎達は残念そうに溜め息を吐いた。言葉で説明を受けるだけのと実際の映像を見るのとでは、その価値に雲泥の差が有る。炭治郎達が残念に思うのも、無理は無かった。

 

――もしそれが可能だったら、杏寿郎さんの最期を皆に見せてあげられたのになぁ……。

 

炭治郎は思惑が思い通りにならない事を、心から嘆いた。

 

「無い物強請りをしていても、仕方が無い。因みにこの能力を説明しなかった理由としては、使う機会が無かったからだ。」

 

「でも今後、俺の『紙眼()』は大勢の奴らが使用する。だったらこの記憶共有の能力も日の目を見れるかもしれんと、そう思ったんだ。」

 

炭治郎達は愈史郎の話を聞いて、納得して頷いた。

 

「折角だから、御披露目ついでにとっておきの記憶を見せてやろう。」

 

『?』

 

愈史郎はそう言うと、右側頭部に人差し指を当ててみせた。すると、直ぐに眼前の光景が変化した。

 

『!?』

 

突然、眼前に或る光景が浮かび上がったのだ。否、正確には脳裏に映像が映っていると、そう言うべきなのか。その映像には、鬼殺隊の隊服では無く薄紫色の浴衣を着用している炭治郎としのぶが、何処かの屋敷の中庭を歩いていた。

 

「「!?!?」」

 

この映像を見て、最も動揺したのは炭治郎としのぶである。二人はこの場面に心当たりが有った。否、心当たりが有り過ぎた。

 

【あ、あの、しのぶさん。良かったら俺、お水でも持って来ましょうか?】

 

【………………】

 

『!』

 

そんな動揺している二人を余所に、映像は進行していた。炭治郎が気遣っているが、しのぶは無視していた。

 

「ふむ……愈史郎。これはもしかしなくても……?」

 

「ああ。今から一週間前に起きた、"藤の花の家紋の家"で在った炭治郎としのぶのやり取りだよ。」

 

『!!』

 

「「なっ!……っ!?」」

 

愈史郎の回答を聞いて、大広間は驚愕の渦に包まれた。炭治郎としのぶの動揺は、更に増してゆく。

映像は進んで行き、炭治郎がしのぶに謝罪して去ろうとしてしのぶに阻止されていた。それからお互いに、責任を取る取らなくて良いと押し問答の様なやり取りをしている。

 

「あ、あの……愈史郎さん。何処で、この時の様子を……。」

 

炭治郎は動揺を必死で抑えつつ、身体をカタカタ震わせながら愈史郎に訊ねた。しのぶもまた、非常に気になっている様子で炭治郎に追随している。

 

【ほら、私なんかより若くて健康的な娘達が蝶屋敷には居るじゃない? カナヲなんてどう? 

あの娘ね、炭治郎君は気付いてないかもしれないけれど、貴方の事がとっても大好きなのよ。きっと、貴方無しではこの先、生きて行けないくらいにはね……。】

 

【何だったらアオイも炭治郎君にはお似合いじゃないかしら? 

家事全般何でも上手に出来るし、細かい気遣いも出来るからきっと貴方にとって素晴らしい良妻賢母(つま)に成れると思うのよっ……だからね、炭治郎君は私の事なんか忘れて、他の素敵な女の子と幸せになって? それが私の一番の願いなのっ……。】

 

「「っ!?」」

 

映像は続いていた。炭治郎の告白を拒否したしのぶは、炭治郎にカナヲとアオイを勧めていた。この映像を見て、二人は双眸を見開いて驚愕している。

そんな映像を余所に、炭治郎としのぶを見て愈史郎は苦笑しながらその理由を語り始めた。

 

「実はあの時、お前らの真後ろに茶々丸が居てな……其処へ俺が偶然、"視覚同調"をしたんだよ。」

 

『!!!』

 

愈史郎の説明を受けて、炭治郎としのぶを除く全員が理解した。この当時、炭治郎としのぶは愈史郎に覗き見されていたのだと。其処へ耀哉が、愈史郎に訊ねた。

 

「では、愈史郎は結末を知っている訳だね?」

 

「おう、勿論だ。……全部、一切合切、一部始終を魅させて貰った。特に最後なんかは必見物だぞ。炭治郎が、これから凄く漢らしいところを魅せてくれるからな。しのぶ……お前、本当に良かったなぁ。」

 

愈史郎はうんうんと頷きながら、その時の様子を思い出していた。見た目は十代半ばの少年だというのに、その視線は我が子を微笑ましく見る親のそれであった。

 

『!!!!!』

 

そんな愈史郎を見て、耀哉達の期待度は膨れ上がって映像に全集中して鑑賞している。

 

「「…………………」」

 

だが当事者である炭治郎としのぶは、今にも失神寸前な程、半ば放心状態であった。愈史郎の言葉が頭に入っていないのではないかと、そう思わざるを得ない程だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボォォン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ぎぃいやゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!?????」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを理解したその瞬間、一瞬にして全身を沸騰させる程に真っ赤に染めた炭治郎としのぶが、羞恥心に満ちた大絶叫を上げる。

 

その大絶叫は産屋敷本邸中ばかりか、産屋敷本邸の外にまで轟いたのだった。




お待たせしました。

炭治郎君以下、五感組(玄弥除く)の柱就任には至りませんでした。今後の活躍に期待をしましょう。

そして炸裂した義勇のコミ症、しのぶさん達の今後の義勇さんへの心情が心配です。有る意味、義勇さんによる胡蝶姉妹への公開処刑でもあります。

そしてメインですが
題目(タイトル)の真実:「日輪(と藤蝶)は鬼殺隊(の愈史郎)に(公開)処刑される。」が真実でした。

愈史郎が何故、炭治郎君としのぶさんに対して優しく気遣うのか疑問に思われた読者の方々は何名もおられましたが、お待たせしてすみません。

陸話の二人のやり取りを見て、感化されたというのが優しくしている理由になります。(ただし、『紙眼』の悪用の件は除く。)

はてさて、公開処刑された二人に明日は有るのか……?

最後に、私事ですがpixivに第一話を投稿してブックマークが千人を突破しました。ハーメルンでも拙作をお気に入り登録して下さる方が千五百人を突破しています。
最初は此処まで集まるとは思っていませんでした。ありがとうございます。

ついでにpixivに第一話を投稿して丁度一周年になりました。……でも素直に喜べませんね。何故なら予定では拙作の連載が終わっている筈だったのに、予定の半分にも到達していません。どうしてこうなった?

いえ、理由は分かっております。これも全て、私の更新速度が亀以下である事が全ての原因です。読者の皆様、大変申し訳御座いません(土下座)。

ですが連載を始めた瞬間から、完結を目指して頑張る決意はしていますので、どうか最後までお付き合い下さいますと嬉しいです。今後ともよろしくお願い致します。

長くなりましたが、次回の更新は十二月中になります。お楽しみに!


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第肆拾壱話 日輪と鬼殺隊の柱は交流を始める

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
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【……ああああああああああああああああああああああああああああっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!】

 

優しい慈雨の中、紫色の蝶々の髪飾りが特徴的な少女が、赤みがかった瞳と髪色、そして額の痣が特徴的な少年に抱き着いたまま泣き叫んでいた。

まるで体内を蝕んでいた何かを吐き出す様に、少女は泣き続けた。少年はそんな少女を邪険にする事無く、対照的に静かに涙を流しながら抱擁を返していた。

 

【ひっく……うぅぅ……わ、わたしも、たんじろうくんが、うぐぅ、すき、です、だいすき、です……わたしを、あ、あなたのつ、つまに、してください!】

 

【……はいっ!】

 

魂の絶叫とも言える声が収まると、美少女は泣きながら炭治郎という名前の少年にそう告白して、口付け(キス)を交わした。

 

愛する両親を鬼に殺され、此の世で唯一の肉親となった最愛の姉をも失った。

偽りの笑顔の仮面を被り、心を深い闇の中へと沈めた。

そんな少女が愛する想い人の温もり()に触れ、初めてその身に抱えていた闇が祓われた瞬間であった。

 

「ぉお……おおっ……今だからこそ分かる。やはりあの時のしのぶと今の生き生きしたしのぶの姿とでは、最早別人の様だ。」

 

畳に染みを作る程の滂沱の涙を流しながら、行冥が歓喜に満ちた感想を述べた。

生来の感動屋で日常的に涙を流している行冥だが、今回は一段とその流している涙の量が凄まじかった。尤も、それは行冥だけでは無かった。

 

「ひぐっ……あうぅ……しのぶ、様ぁ……っ。」

 

「姉、さんっ……しのぶ姉ざぁん……良かったぁ……よがったよぉ……っっ。」

 

アオイとカナヲが号泣しながら、愈史郎に流されている映像を鑑賞していた。

 

「しのぶさん……っ。」

 

珠世はしのぶの姿を見ながら、手に持っている手巾(ハンカチ)で静かに涙腺から溢れる涙を拭った。

 

「しのぶちゃんっ……しのぶちゃぁ~~んっっ……っ!!!」

 

蜜璃に至っては、鼻水を垂らしたまま号泣して鑑賞していた。

 

「…………っ。」

 

小芭内は何故か、二人の様子を見て苦々しい表情を浮かべていた。

 

「…………甘露寺、そのままでは見っともないぞ。ほら、ちーんだ」

 

すると小芭内は映像を振り払う様に頭を一度振るってから、蜜璃の世話を甲斐甲斐しく始めていた。

 

「……っ!……っっ!……ひぐっ!……ぐずっ!……っっっ!!」

 

伊之助は食事のためにその端正な美顔を晒していたが、鑑賞が始まってから必死で堪えても涙が止まらず、泣き顔を誤魔化すために猪頭の被り物を着用した。

 

だがそれの行為が逆に涙を更に止め処無く溢れさせ、被り物から涙が溢れ出る始末であった。

 

「ぐずっ……二人揃って老衰で死ねバカヤロー……っ。」

 

善逸は炭治郎への嫉妬心から不器用な祝福の言葉を、泣きながら送っていた。

 

「……不死川、泣いているのか……っ?」

 

「んなッ!?……お……俺ァ……な、泣いてなんかねェッ!!」

 

表情筋が死んでいるのか問い詰めたくなる程、何一つ変化を見せない義勇が実弥に訊ねていた。実弥は動揺しながら、泣いている事を否定する。

 

確かに実弥は、泣いてはいなかった。鼻を赤くし、涙腺に溜まっている涙が決壊しない様に天を仰ぎ見ていたが。

 

――って、なんであんな無表情のままそんな優しい音が出せんの? 表情筋死んでんのかあの人っ!?

 

善逸が義勇から鳴り響く優しい音に気付き、それに反比例した対照的な表情を見比べていた。

 

「随分と熱烈で派手な告白じゃねぇか。」

――後で愈史郎(あいつ)に頼んで、雛鶴達にも見せてやりてぇな。つーか、派手に金を取れるぞこれ。

 

天元は笑みを浮かべてそう言いながらも、冷静に映像を見て感想を心中に述べていた。

 

「…………」

――炭治郎……格好良いなぁ……。

 

無一郎はしのぶを説得し、自身の想いを正面から告白する炭治郎を見て憧憬や尊敬の念を抱いていた。しのぶの事は、眼中に無かった。

 

「炭治郎……凄く格好良い……しのぶも、本当に良かった……。」

 

輝利哉は無一郎と違って素直に想いを吐露し、更にしのぶの事も祝福していた。

 

「炭治郎様……❤」

 

「なんて、お優しくて、嬉しいお言葉……❤」

 

「……素敵っ❤」

 

「嗚呼、私……惚れ直してしまいます……❤」

 

ひなき達は炭治郎を見て、その言動に見惚れていた。

 

「「……」」

 

産屋敷夫婦の二人は、行冥達と違って何も言わず静かに鑑賞を続けていた。しかし、二人が握り拳を作り手汗を掻いてるところを見れば、熱心に鑑賞している事は明らかであった。

 

「………………」

 

当事者の一人である、炭治郎は姿勢を正して正座して大人しくしていた。

 

当初こそしのぶ共々鑑賞を阻止するために愈史郎を気絶させようとしたが、速攻で取り押さえられた。

 

それも何とあまねの手によって実行されたのである。

 

愈史郎に向かって突撃する二人の真正面に立ちはだかると、二人は動きを止めざるを得なかった。あまねはその隙に制止した二人の肩を掴んで、畳の上に叩き付ける様に正座させたのである。

 

我に返った炭治郎としのぶはあまねから逃れようとしたが、其処へ耀哉が二人を説得したため、渋々首肯したのである。それを見てあまねも、二人から離れていった。

 

尤も、本人達に選択の権利など有りはしなかったのだが。

 

そして炭治郎が姿勢を正したまま大人しくしている最大の理由としては、自身の行為に炭治郎が恥辱を感じなかったという事実が有る。自身にとってしのぶに告白した、あの瞬間は胸を張れる出来事だからだ。

 

尤も、羞恥心は有るのか顔は林檎の如く真っ赤の染めており、身体は小刻みに震えていた。

 

「……っっ……っっ……っっっ!……っ……」

――嗚呼っ……穴があったら入りたい……っっ!!

 

一方で、しのぶは更に重症であった。

最初こそ炭治郎と同様、姿勢を正して正座していた。しかし映像が進むにつれて徐々に上半身を崩していき、ついに正座した状態で俯せになった。

所謂"ごめん寝"状態である。更に頭を抱えて炭治郎以上に、身体を震わせて羞恥心に悶え苦しんでいた。

 

――早く終われ。

 

炭治郎としのぶは二人して、そう念じながら必死で耐えていた。そしてついに、『紙眼』を通して脳裏に映し出されていた映像が消える。

 

『!』

 

「「っ!」」

――終わったっ!!!

 

恥辱に耐えていた炭治郎としのぶは自身に、一筋の光明が差した感覚を覚えた。其処へ耀哉は、二人に話し掛ける。

 

「炭治郎、しのぶ。素晴らしいものを見せて貰ったよ。ありがとう。」

 

「「!」」

 

「……恐れ入ります。」

 

「お目汚し、大変失礼致しました。」

 

耀哉の感謝の言葉に、炭治郎としのぶは何とも言えない表情を浮かべるしかなかった。

 

「この映像だけど、是非他の剣士(子供)達にも見て貰いたいね。」

 

『っ!?』

 

無邪気な笑みを浮かべてそう口にした耀哉に、周囲はギョッとした表情を浮かべる。特に炭治郎としのぶの反応は顕著だった。

 

「お、お、御館様……っ!」

 

「それだけは、どうか……どうか、お許し下さい……っ!」

 

炭治郎としのぶは脂汗をダラダラ流しながら、土下座して平伏し耀哉に懇願した。そんな二人を見て、耀哉はおかしそうに笑声を上げた。一頻り笑い終えると、耀哉は二人に話し掛けた。

 

「冗談だよ。二人とも、安心しておくれ。」

 

『!』

 

耀哉が笑みを浮かべてそう言うと、炭治郎としのぶは安堵の溜息を零していた。

 

「!……御館様、お戯れは程々に……。」

 

「あぁ。私が悪かったよ、行冥。」

 

見兼ねた行冥が耀哉に苦言を呈した。行冥の苦言を聞いて耀哉も反省の弁を述べた。

 

「しのぶが炭治郎の事を、心から想っている理由が良く分かった……でも、だからと言って継子のカナヲと殺し合うのは、流石に拙いと私は思うよ?」

 

『!?!?』

 

耀哉の爆弾発言に、大広間は騒然となった。特に関係している炭治郎達は思わず、固まっていた。

 

「鬼殺隊の長い歴史で、師弟が対立してその関係を解消した記録は有っても、想い人の異性を巡って師弟が殺し合うなんて前代未聞の大事件だよ。……しのぶとカナヲは、もっと理性を保つ努力をしなさい。

炭治郎も、故意にやっている訳では無く、無自覚なのだろうけれど……背中を刺されない様に気を付けてね?」

 

「「「…………御意。」」」

 

炭治郎としのぶ、そしてカナヲの三人は林檎の如く赤面しながら耀哉の言葉に了承した。

 

「「……っ……っっ……っっ……。」」

 

行冥と天元は、笑声を漏らすのを必死で堪えていた。

 

――殺し合う程って事は、それだけ炭治郎君の事が大好きって事よねっ!? きゃあ~~~っ!! 私もそんな燃え上がる様な恋がしたいわっ!!!

 

蜜璃は初めて聞いたしのぶとカナヲの事件を聞いて、逆にときめいていた。

 

「しのぶさんとカナヲちゃんが、殺し合ったぁ!?」

 

「おいっ!? そんなん知らねーぞどう言う事だ!?」

 

蜜璃と違い、善逸と伊之助は驚愕しながら声を上げた。

 

「何だよ、お前ら蝶屋敷にいるのに地味に知らねーのか? つーか、この乱闘騒ぎを知ってるから産屋敷邸(おやしき)に呼ばれたんじゃねぇのかよ?」

 

乱闘騒動の一件を知らなかった様子の善逸と伊之助に対して、天元が驚いた様子で尋ねた。

 

「音柱様。あの乱闘は御二人が帰って来るほんの少し前に起こった出来事でしたし、しのぶ様も緘口令を敷いていましたので知らなかったのも無理も無い話かと……」

 

善逸と伊之助に代わって、アオイが困った様子で天元の質問に回答する。

 

――三人の関係を考えたら無理も無いんでしょうけど……確かに、無理も無いんでしょうけど……。

 

珠世は苦笑しながら、心中で理由を考察していた。

 

「まあ、そうなるな。」

――仲直りの経緯は知っているが……禰豆子の一件も絡んでいるから教える訳にはいかん。それにもし教えたら、今度こそしのぶかカナヲのどちらかが俺を殺しに掛かって来るかもしれんからな。

 

愈史郎は心中でそう結論付けると、沈黙を貫く判断を選んだ。

 

「胡蝶、栗花落。(そんな真似をすれば、炭治郎が悲しむのだから)お前達もいがみ合うのは、大概にしておけ。」

 

「「……っ。」」

 

「ど、どうどうっ。二人とも、落ち着いて下さい。」

――ああっ、もうっ! 義勇さんも余計な事を言わないで下さいよっ!!

 

炭治郎は怒りの匂いを全身から発して、青筋を浮かべながら抜刀しようとするしのぶとカナヲを制止していた。心中では、義勇への愚痴を零しながら。

 

愈史郎を切っ掛けに引き起こされた騒動は、僅かに燻る火種を残しつつも晩餐会は無事に終了したのであった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「あの……。」

 

「何だ?」

 

産屋敷本邸の廊下を、二人の男性が歩いていた。否、正確には一人だ。何故ならば、もう一人の男性は肩に担がれる様に運搬されていたからだ。所謂、"お姫様抱っこ"ならぬ"お米様抱っこ"である。

 

担がれている方が炭治郎であり、担いでいる方が天元であった。

天元は平然としていたが、炭治郎は未だに困惑を隠せていなかった。

 

「どうして、俺は貴方に担がれているのでしょうか?」

 

「そりゃお前、俺がお前を派手に誘拐したからに決まっているだろう?」

 

困惑する炭治郎に対して、しれっとした表情で天元はそう言い放った。

 

この一件について説明するには、些か時間を遡らなければならない。

それは晩餐会が閉会し、耀哉の妻であるあまねの一言から事の起こりは始まっていた。

 

「……皆様。丁度良いお時間ですから、温泉で汗をお流ししては如何でしょうか?」

 

『!』

 

あまねが提案した一言に、炭治郎達は注目した。

 

産屋敷本邸の大浴場は産屋敷一家と使用人で、区別など付けたりせず分け隔て無く利用されている。産屋敷家にとって、使用人達も家族同然だからだ。

 

その様に大切に厚遇されているからこそ、使用人の中には百年単位で仕えている一族の出の者も少なくは無かった。

 

「お召し物も脱衣場にて、用意させて頂いております。このまま向かわれても構いません。」

 

「分かりました。あまね様のお心遣いに、深く感謝致します。」

 

行冥が代表して、あまねに礼を述べた。行冥の礼を聞いてから、耀哉は炭治郎に話し掛けた。

 

「炭治郎。君がこの中で一番疲れている筈だよ。ゆっくり湯船に浸かって、溜まった疲れを取っておいで。」

 

「はいっ! ありがとうございます、御館様。」

 

炭治郎は耀哉に礼を述べてから、徐に立ち上がった。

 

「御館様、それでは私も失礼させて頂きます。」

 

「しのぶは待ちなさい。」

 

「?……何でしょうか?」

 

しのぶも炭治郎に続いて立ち去ろうとしたが、耀哉に呼び止められたために足を止めた。

 

「ちょっと残って貰えるかな?……禰豆子の件について、聞きたい事が有るんだよ。特に()()の事とかね。それから……他の皆の目の届く所での、おイタは流石に自重しようね?」

 

『!?』

 

耀哉の苦言とも言える最後の一言に、しのぶは思わず固まってしまう。また驚きもあったが、炭治郎とアオイ、カナヲもしのぶに匹敵する程驚いていた。

 

「えっと……それは、その……。」

 

しのぶは何と返答すれば良いか分からず、動揺を隠せない。目を泳がせながら、必死に脳内でこの窮地を打破するための打開策を思い浮かべては却下を繰り返していた。

 

――こりゃ地味に長引きそうだな。

「胡蝶。お前らの旦那、借りてくぞ〜。」

 

「は?」

 

「えっ?……うわっ!?」

 

「!?」

 

天元が突如、炭治郎の隣に立つと一言だけそう言ってから炭治郎を担いで去っていった。その速さにしのぶ達は着いていけなかった。

 

「ちょっ!? 音柱様ぁ!?」

 

「し、しのぶ姉さんっ。私達先行くね!」

 

唖然となったアオイとカナヲだったが、我に返ると直ぐに追跡しようとした。

 

 

ポン

 

 

「「えっ?」」

 

「御二方も、胡蝶様とお残り下さい。」

 

立ち上がろうとしたアオイとカナヲの背後に、あまねがそっと肩に手を置いて二人を制止した。

 

「「……はい。」」

 

拒否したかった二人だったが、あまねの眼力や肩に置かれた手から有無を言わさぬ力強さを感じて、渋々承諾する他に道は無かった。

 

こうして、晩餐会は一部を除いて解散となった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「よーし。着いたぞ。」

 

「はい?」

 

天元の言葉を聞いて、炭治郎の脳裏には疑問符しかなかった。何故なら着いた場所は大浴場ではなく、天元に当てられた部屋だったからだ。

 

そんな炭治郎を気にする事無く、天元は炭治郎を担いだまま室内へと入室していく。

 

「あっ! 天元様ー!♥」

 

「天元様、お疲れ様です。」

 

「おかえりなさい。晩餐会は如何でしたか?」

 

「!」

 

二人が入室した部屋には、三人の先客が居た。全員が女性であり、すらりとした手足を持つ長身痩躯の極上の美女であった。

 

三人共、共通して谷間がくっきり見える程の豊満な乳房を強調した、露出度の高い服装をしていた。炭治郎は谷間へと視線誘導された眼差しを、急いで外した。

 

「……ほらよっ。」

 

「がぁっ!?」

 

しかし、それに気付かない天元では無かった。

天元は炭治郎を畳の上に叩き付けると、炭治郎は潰された蟇蛙(ヒキガエル)の如き声を出した。

 

「う、宇髄さん。この方達は……?」

 

「俺の自慢の女房達だ。」

 

「!」

 

起き上がった炭治郎が天元に尋ねると、天元は口にした様に自身にとって自慢の妻達を紹介した。

 

「はじめまして、宇髄雛鶴よ。」

 

「私は宇髄まきを。よろしくね。」

 

「よろしくお願いします! 宇髄須磨って言います!」

 

天元の妻達の自己紹介が始まった。

 

雛鶴は前髪を上げて黒髪の長髪を一つ結びをした髪型をしていた。左目の下に泣き黒子があり、これが色気を増大させている。

一目見ただけで品格や知性を感じさせる、落ち着きのある態度を取っていた。

 

まきをは肩までの長さが有る黒髪を、雛鶴と同様に一つ結びにしている。

最大の特徴は前髪部分だけ、善逸と同様に金髪になっている。炭治郎が見た限り、活発で勝ち気な性格の持ち主の様に見えた。

 

須磨は二人と違って、腰まで有る黒髪の長髪をそのままにしていた。二人と比べると、末っ子感が強かった。

 

「は、初めまして! 竈門炭治郎と言います!!」

 

「「「!!」」」

 

炭治郎は頬を少し赤く染めて自己紹介すると、雛鶴達は双眸を見開いて驚いた様子を見せた。

 

「あの、天元様……この子って()()()……。」

 

「ああ、その()()()だよ。」

 

「?」

 

まきをが驚きながら、天元に炭治郎の事を確認していた。会話の意図が読めず、炭治郎は首を傾げる。

 

「ふえええぇぇぇぇんっ! ごめんなさ〜〜いっ!!」

 

『!』

 

「!?」

 

すると突然、須磨が鼻水を垂らして泣きながら炭治郎に謝罪を始めた。脈略も無い唐突な謝罪に、炭治郎は困惑を隠せない。

 

「須磨さん。ど、どうして俺に謝るんですか?」

 

「ぶええええぇぇぇぇぇぇんんっ!!」

 

炭治郎は須磨に謝罪する理由を尋ねたが、須磨は泣くだけで答えようとしない。

 

「ちょっと、須磨! あんたちゃんと説明しないから、炭治郎が困ってるじゃないのよ!!」

 

するとまきをが須磨に怒鳴りつけて、泣くのを止めようとした。

 

「だ、だって〜〜〜味噌っかすの私がしっかりしなかったからぁ〜〜〜。」

 

まきをに怒鳴られた須磨だったが、自身を卑下する様に責めながら泣くのを止めなかった。

 

「二人共、落ち着きなさい。炭治郎君が困っているわ……ごめんなさいね、騒々しくって。」

 

「い、いえ! お気になさらず。」

――どうしてだろう? 凄い既視感が有る。初めて会ったとは思えない……。

 

雛鶴に困惑させられた炭治郎だったが、三人のやり取りが何かを連想させるも、それが何なのかは分からなかった。

 

「実はよぉ、須磨がああやって派手に泣いている理由なんだがなぁ。」

 

「……っ!?」

 

閉口して状況を見守っていた天元が、炭治郎に須磨が泣いて謝罪するその理由を語り始めた。

 

先刻の緊急柱合会議で、炭治郎が実弥に斬られた一件に関して、炭治郎が知らなかった真相が存在していた。

 

『隠』達の努力で最悪の事態が免れたと思っていたが、実は一部、真実が異なっていた。

 

それは実弥が日輪刀を求めて暴れていた時に、雛鶴、まきを、須磨の三人が一部を除いて保管していた日輪刀を持って実弥から逃走していたのである。

 

一部とは、行冥や蜜璃の特殊な日輪刀の事だ。この日輪刀は本人で無ければ、たとえ手に入れても振る事すら難しいと判断された。そもそも、行冥の日輪刀に至っては本人で無ければ持ち運ぶのも難しい。

 

三人が日輪刀を実弥から遠ざけている間に、『隠』達が身体を張って実弥を足止めしていたと言うのだ。

 

しかし、此処で想定外の出来事が発生した。

 

須磨が持っていた実弥の脇差を、途中で落としてしまっていたのである。そしてその事実に気付く事無くそのまま須磨は走り去り、『隠』達を薙ぎ倒した実弥によって回収されたのだという。

 

『隠』達は実弥から脇差を奪還しようとしたが、失敗に終わったのは結果を見れば明らかであった。

 

「そうだったんですか……でも気にしないで大丈夫ですよ!」

 

「「「「っ!」」」」

 

真相を知った炭治郎は、笑顔でそう答えた。炭治郎は更に続ける。

 

「皆さんは、俺の命の恩人です。助けて頂いて、ありがとうございました。」

 

炭治郎はそう言ってから、姿勢を正して礼を述べた。

 

「「「……っ。」」」

 

「わああああんっ! 天元様ぁ、この子凄く良い子ですよぉ~~!」

 

「おわっ!?」

 

須磨は炭治郎に礼を述べられると、泣きながら炭治郎の頭を抱き抱えて抱擁した。

 

咄嗟の須磨の行動に、炭治郎は思わず狼狽する。

 

「おう、まぁ確かにな……それより須磨。早くそいつを離してやんな。炭治郎が困ってんぞ。」

 

「わっ!? ご、ごめんなさいっ!!」

 

天元に言われて、須磨は谷間に押し付けていた炭治郎の頭から手を離して解放する。

 

「い、いいえ! そんな……えっと、宇髄さん……すみませんでした。」

 

「?」

 

須磨に解放された炭治郎は須磨の謝罪を固辞すると、隙かさず天元に謝罪した。謝罪された天元は何故自身が謝罪されるのか理解出来ていなかったが、それを察した炭治郎が説明を始める。

 

「俺、宇髄さんの奥さんにあんな事しちゃって……すみませんでした! 宇髄さんの気が済むまで、俺の事を煮るなり焼くなりして下さい!」

 

「「「「!」」」」

 

炭治郎は取り返しの着かない大罪でも犯したが如き、真剣な表情で天元に頭を下げて謝罪した。そんな炭治郎を見て、天元は思わずポカーンとした表情を取る。

 

すると、天元が自身の巨体を小刻みに震わせながら、炭治郎に尋ねた。

 

「おまえ……もしかして、須磨に抱き締められた事が悪い事だと思って、こうして俺に派手な謝罪してんのか?」

 

「はい、そうです。」

 

天元の質問に対して、炭治郎は真顔で肯定した。

 

「……ぶっ! だーはっはっはっはっ!! あーっはははははっ!!」

 

「!?」

 

天元は耐え切れないとばかり、大声で笑い出した。炭治郎は何故、天元がそうやって爆笑するのか理解出来ずにいた。一通り笑った後、天元は目尻に溜まった涙を吹きながら、話し始めた。

 

「俺がそんな些細で地味な事で、派手に怒ると思ってんなら大間違いだぜ。其処はなぁ、役得と思ってりゃ良いんだよ。」

 

「で、出来ませんよそんな事っ! もし他の男性をしのぶさん達が抱き締めてたら、俺は怒っちゃいますもん!!」

 

天元の寛容さに、炭治郎は怒って抗弁した。天元はそんな炭治郎を見て、少しだけ双眸を丸めて見詰めた。

 

「お前、結構地味に嫉妬深いのな……良いんだよ。この程度の事で、俺達の関係は変わったりしねぇから。」

 

「変わったり、しない……?」

 

天元の言葉に、炭治郎は首を傾げる。対して天元は首肯してからこう言い放った。静かに状況を見守っていた雛鶴達も、天元の言葉に黙って首肯する。

 

「おう。この先の一生、俺にとって一番大切なのはこいつらだから。」

 

「「「私達にとっても、一番大切なのは天元様だから。」」」

 

「ちょっとやそっとの事くらいで、俺達の絆は断ち切れたりしないのさ。」

 

「!!!」

 

天元達の言葉を聞いて、炭治郎は双眸を一度見開いた。そして感嘆の溜め息を吐く。

 

「素敵な関係ですね。宇髄さん。」

 

「そうだろそうだろう? もっと派手に俺を褒め称えろ。」

 

天元は自画自賛すると、再び派手な高笑いを始めた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

炭治郎と宇髄夫婦は少しばかりの談笑を終えた後、一緒に大浴場へと向かっていた。

 

「どうだ、炭治郎。俺の女房達は、お前の食指が動くくらい良い女だろう?」

 

「宇髄さん。あのですね、凄く素敵な女性なのは認めます……でもだからって流石に人妻に手を出そうなんて思いませんし、出来ませんからっ!」

 

炭治郎は首を横に振って、そう否定した。だが次の天元の発言は、炭治郎にとっても想定外の代物だった。

 

「そうなのか? 炭治郎は人妻が範囲外、と……そうか、つまり未亡人なら有りって訳だな? 次に狙うのは珠世か? ん?」

 

「ぶっ!?」

 

天元からの思わぬ質問に、炭治郎は思わず吹いてしまう。慌てた様子で、炭治郎は天元に抗弁する。

 

「未亡人でも狙いませんよ!? 第一珠世さんにそんな事したら、俺が愈史郎さんに殺されますっ!!」

 

「……確かにあれを見りゃそうなるかもな。だが、珠世は地味にお前に気が有ると、俺は派手に見たがな。」

 

天元は炭治郎の抗弁に納得した様子を見せつつも、自身が結論付けた考えを口にする。その天元の考えに、炭治郎はキョトンとした表情を見せる。

 

「珠世さんが、俺に……?」

 

キョトンとした炭治郎の脳裏に、珠世の姿が幾つも思い浮かぶ。

 

『炭治郎さん。私を庇ったために斬られて傷付いてしまって、ごめんなさい。』

 

『……ううん、先ずはお礼を言うのが先よね?……私を守ってくれて、ありがとう。人として私達を守ってくれて、とても嬉しかったわ。』

 

『私はこうして息子を抱き締めたかった……ただ、息子が大きくなるのを見届けたかっただけなの……。』

 

『多分、息子には似てないと思うわ。……どちらかと言うと、夫の方に似てるわね。』

 

『私の夫は、炭治郎さんみたいに優しくて、太陽みたいな笑顔をする素敵な人だった。』

 

「……っ!!」

 

炭治郎は珠世の姿を思い出して、瞬時に顔を沸騰したヤカンの如く真っ赤に染める。

 

「いやいやいやいやっ!? 珠世さんは俺を通して旦那様の面影を見詰めてるだけですからっ!!」

 

そう言って炭治郎は直ぐに勢い良く、首を何度も左右に振った。そんな炭治郎(格好の獲物)を、天元が見逃す筈も無い。

 

「お前……そう言いながらも今、珠世の事を思い浮かべていただろう?」

 

「うぐっ……っ!」

 

天元の指摘を受けて、炭治郎は動揺を隠せない。天元の追撃は続く。

 

「まぁ確かに元旦那の姿を、炭治郎を通して投影しているのかもしれん。だけどな? たとえ地味であろうと、お前に気を向けている事実は変わらねぇっ!……だから隙あらば、逃がさず突いてけ? 若人が遠慮するんじゃねぇぞ。」

 

「しませんってば!? たとえ隙が有ろうと()()()()手を出しませんよ!! 第一、宇髄さんだって若人でしょうが!?」

 

天元の揶揄い混じりの助言に対して、炭治郎は不服と言わんばかりに大声で抗弁する。

 

()()()()?……あっ? お前受け専門なの?」

 

「はいぃ?」

 

炭治郎は訳が分からないと言いたげな様子で、天元を見詰めた。炭治郎は溜め息を吐いてから、天元に反論する。

 

「受け専門とは何の事か分かりませんが、少なくとも俺の方から先に告白したのは、しのぶさんだけです。アオイさんとカナヲは二人の方から、俺に告白してくれました。」

 

『!』

 

天元達は炭治郎が伝えた内容に驚きを覚えた。それから天元は、一人で納得した様子で独言を言い始める。

 

「……ほう、そうかい。何もしなくったって獲物の方からお前の下へやってくるたぁ恐れいった。こりゃ、誰も敵わんわ。」

 

「……あの、宇髄さんは俺を何だと思っているんです?」

 

炭治郎は疲れ果てた様子で、天元に質問をした。すると天元はお前は何を言っているんだと言いたげな様子で、炭治郎を見詰めながら開口する。

 

「そりゃ、お前。"鬼殺隊一の色男"だろ? それとも"鬼殺隊一の女たらし"かぁ? 派手な浮名だな、おい。」

 

「違いますっ! 俺、其処まで見境無しじゃないですよっ!?」

 

「説得力が欠片も無いっつの。」

 

こうして大浴場へと向かう道中、天元が炭治郎を揶揄って楽しんでいた。

 

炭治郎は顔を真っ赤に染めて反論すると、逆に天元は楽しいのか頭をワシワシと撫でて遊んでいた。天元に頭を撫でられた炭治郎はというと、何も抵抗出来ずに上目遣いで睨み付けるしか出来ない。

 

「天元様。意地悪はその辺でお止し下さい。」

 

「あんまりやり過ぎると炭治郎が可哀想ですよ、天元様。」

 

見兼ねた雛鶴と須磨の二人が、炭治郎を庇って軽く天元に向かって苦言した。

 

「!」

 

すると炭治郎達が通り過ぎ様とした部屋の襖が開き、一人の巨漢が出て来た。岩柱の行冥であった。

 

「むっ!……炭治郎に、宇随達か?」

 

「はいっ!……あれ? 悲鳴嶼さん、『紙眼()』はどうしたんですか?」

 

行冥に声を掛けられた炭治郎は元気良く返答したが、行冥の額に愈史郎特製の『紙眼・視』が着用されていない事に気付いた。

 

これでは以前の盲人状態に戻ってしまっている。気になった天元達も、行冥に注目した。

 

「ああ。『紙眼()』は敢えて外してあるんだよ。」

 

「どうしてですか?」

 

行冥の返答を聞いて、炭治郎は益々疑問に思った。行冥は苦笑しながら、炭治郎に答えた。

 

「確かに視力が戻った事は喜ばしい事だ。しかし私の日輪刀(かたな)を見れば分かると思うが、視力に頼り過ぎると他の感覚が鈍って今後の戦いに支障を来たしかねないのだよ。」

 

『!!』

 

行冥から『紙眼・視』を外している理由を知って、炭治郎は漸く理解した。自身で例えるなら、嗅覚が鈍る事に匹敵する程の大事である。

 

「……すみません。俺、もしかしたら余計な事を……。」

 

「それは違う。世界をこの目で見れた事に、私は心から感動し感謝している。それだけは分かってくれ、炭治郎。」

 

自身の行いが危うく行冥の弱体化に繋がると危惧した炭治郎は思わず謝罪するが、それを行冥は止める。

 

「地味な青二才が、余計な心配すんな。」

 

「ぐふっ!?」

 

頭を下げて俯いた炭治郎に、天元が拳骨で腹部を殴る。天元に手加減無しで殴られた炭治郎は、腹部を押さえながら膝を付いた。

 

「悲鳴嶼さんはなぁ、鬼殺隊で一番強いんだぞ。ちょっとくらいの事で弱くなったりしねぇよ。今のお前じゃあ、地味に分からんかもしれないけどな。」

 

「……悲鳴嶼さんは他の柱とすら匂いの質が違いますから、凄く強いって事くらいは今の俺でも分かりますよ。」

 

涙目のまま、炭治郎は天元に抗議した。そんな炭治郎と天元のやり取りを余所に、雛鶴が行冥に尋ねていた。

 

「悲鳴嶼様も、今から御風呂ですか?」

 

「ああ……折角だ。御一緒しても?」

 

「拒否する理由がありませんよ。」

 

「一緒に行きましょう!」

 

まきをと須磨が快諾すると、行冥も炭治郎達に加わって大浴場へ向かう事となった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「!」

 

行冥を加えて少しばかり歩くと、炭治郎は大浴場の前に三人の男性が立っている事に匂いで気付いた。

そして直ぐに姿が見えた事で、炭治郎はその三人の男性に声を掛ける。

 

「時透君! 善逸に伊之助も!!」

 

「炭治郎っ!」

 

ほぼ同時に互いに声を掛け合う炭治郎と無一郎。無一郎は満面の笑みを浮かべて、炭治郎に駆け寄った。

 

『……』

 

記憶喪失だったとはいえ、まるで人形の様に無機質だった無一郎が満面の笑みを浮かべている姿を見て、思わず行冥達は固まってしまう。尤も、行冥と天元は無一郎の変化に喜んでいたが。

 

「て、天元様。あれって時透様ですか? それとも別人ですか?」

 

「こら須磨っ!? 時透様に失礼でしょう!!」

 

「いたたたっ!? まきをさん引っ張らないでぇ~~。」

 

須磨が天元に質問した内容を聞いて、まきをが怒って須磨の片耳を引っ張る。片耳を引っ張られた須磨は、涙目になりながらまきをに抗議していた。

 

「二人共、人前で落ち着きなさい。」

 

まきをと須磨を見て、雛鶴は仕方無く仲裁に入った。そんな雛鶴達に気付く事無く、炭治郎は無一郎に話し掛けていた。

 

「時透君達も、今来たところ?」

 

「うん。入る前に炭治郎達の気配に気付いたから、一緒に待っていたんだ。」

 

無一郎は炭治郎の質問に、そう言って答えた。

 

「「……」」

 

善逸と伊之助は何か言いたげな表情を浮かべながら、ジト目で無一郎に視線を送っていた。

 

実は善逸と伊之助が大浴場に来た時には既に、無一郎は大浴場の扉の前で待っていたのだ。

善逸が無一郎に尋ねると、「炭治郎を待っている。一緒に入りたい。」と答えた。

 

伊之助は無一郎に構わず大浴場に入ろうとしたが、柱の無一郎が待っている手前、善逸も伊之助を止めて炭治郎を待つ他無かった。そして待つ事十分、善逸と伊之助の二人にとって永遠とも感じ取れた時間が、漸く登場した炭治郎達によって終わる事が出来たのだ。

 

因みにその事で伊之助は無一郎に文句を言うと、無言で無一郎に鳩尾を殴られて沈黙を強いられた。それを善逸は伊之助の二の舞は演じまいと、沈黙を貫いたのだ。

 

そんな二人を余所に、炭治郎達は男女で別れて大浴場の前にある脱衣所に入る。全員が入って服を脱ぎ始めた瞬間、更に一人の男性が大浴場の脱衣所に入って来た。

 

「んあァ?……揃いも揃って今から入んのかよ?」

 

『!』

 

炭治郎達は出入口が開く音と男性の声がしたので、振り返ると其処には風柱・不死川実弥が入って来ていた。

 

「不死川、お前も大浴場を利用しに来たのか?」

 

「まぁ、な……充てられた部屋に居ても、やる事ねぇしよォ……。」

 

そう言いながら実弥も服を脱ぎ始めた。

 

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

 

『!?』

 

再び出入口の扉が開くのを見て、炭治郎達は驚きから双眸を見開いた。何故なら、誰も居ないというのに扉がひとりでに開いたからだ。出入り口の扉はそのまま誰も姿を見せる事無く、バタッと音を立てて閉まった。

 

「……義勇さん?」

 

炭治郎が半信半疑な様子で、恐る恐る義勇の名前を呼ぶ。すると間も無く反応が起きた。

 

「……どうして、俺だと分かったんだ? 炭治郎。」

 

『!』

 

スッと音を立てる事無く、水柱・冨岡義勇が脱衣所に姿を現した。右手には愈史郎の『紙眼』を手に持っていた。義勇に尋ねられた炭治郎は、困った様子を見せながらも答えてみせた。

 

「えっと、『紙眼()』を持っている人を脱衣所(此処)に居ない義勇さんと伊黒さんの二人に絞って、更に付けたまま入って来るとしたら、その……伊黒さんがするとは思えないし、そうなると義勇さんしか思い当たる人が居なくて……。」

 

『……あ――っ。』

 

炭治郎の説明を受けて、行冥達が納得した様子で声を上げた。その様子は、呆れ果てていた様子であったが。

 

――それにしても……

 

そんな行冥達を余所に、炭治郎と善逸はそれぞれある匂いと音に気付いていた。

 

――義勇さん。楽しそうな匂いを出しているのは何でだろう?

 

――何で無表情のまま、滅茶苦茶楽しそうな音出してんだこの人っ!?

 

心中でそう呟きながら理由を探ろうと義勇を観察していたのだが、結局のところ観察しただけでは、炭治郎と善逸にも察する事は出来なかった。

 

――……良しっ! 取り敢えず聞いてみよう!

 

炭治郎は前向きに考えて、義勇に尋ねる判断をした。

 

「義勇さん、どうして『紙眼()』を付けたまま来たんですか?」

 

『!』

 

炭治郎の質問に、行冥達は注目する。炭治郎の質問を受けて、義勇も少しばかり時間を置いてから回答を始めた。

 

「……『紙眼()』の性能試験をしていたんだが、其処に(お前達と)不死川が大浴場に入って行くのを見て、俺も(皆と)一緒に風呂に入りたいから追って来た。」

 

『!?』

 

爆弾発言とも解釈出来る義勇の発言に、脱衣所は騒然となる。

 

「……っ!?……っ……っ?!」

 

名指しされた実弥に至っては、声も出ない様子で義勇から後退っていた。炭治郎と善逸は実弥から、困惑と恐怖の匂いと音が感じ取れた。

 

「……すんすん。」

 

一方でそんな様子の実弥など一切気にする事無く、炭治郎は引き続き義勇の匂いを嗅いで真意を探ろうとしてた。炭治郎はそうしている間に、耀哉から言われていた言葉を思い出していた。

 

 

 

 

 

『炭治郎。義勇はね? 言うべき言葉は口にしないのだけど、言ってはならない言葉は平然と口にしてしまう、ちょっと困った子なんだよ。弟弟子である君が、彼の一番の理解者になってあげておくれ。』

 

 

 

 

 

炭治郎もまた義勇の爆弾発言に驚いていたが、直ぐに冷静になれたのはこの耀哉の一言を事前に聞いていたからである。そして匂いを嗅ぎ終えた炭治郎は、恐る恐る自身が考え出した推察を質問する形で義勇の真意を探り始めた。

 

「義勇さん。見たのは不死川さんだけですか?」

 

「?……いいや、最初に炭治郎、お前達が大浴場に向かっているのを見て、それから不死川も目撃した。その後を、俺は追っていたんだ。」

 

「っ!」

――やっぱり……っ!

 

炭治郎は確信を得た様子で、更に義勇に尋ねた。

 

「つまり……不死川さんだけじゃなくて、俺達全員と一緒にお風呂に入りたかったんですよね?」

 

「そうだ。」

 

「そうですか。分かりました。」

――…………

 

質問を終えた炭治郎は義勇に一度だけ軽く会釈をすると、クルッと回れ右して行冥達と正面から顔を合わせてからこう言った。

 

「だ、そうです。」

 

『いや、分かるかぁっ!!??』

 

炭治郎がそう言ったのも束の間、脱衣所に居る一部の者達を除いて天元を筆頭に何名かが異口同音で声を揃えてそうツッコミを入れた。

 

「……?」

 

そんな天元達の様子を見て、義勇は終始理解出来ない様子で首を傾げていた。




お待たせしました。

皆様、明けましておめでとうございます。

鬼滅の刃はアニメを残して終了してしまいました。嬉しい反面、とても寂しく思います。
それから最終巻を知っている方のみ御存知でしょうが、敢えて断言させて頂きます。

「公式と二次元創作は別次元」です。

公式は公式で、炭治郎君達の幸せな結末を盛大に祝福しましょう。

此の世の全ての作品に言える事ですが、公式を否定したり不当に罵詈雑言を浴びせたりするのは論外です。かと言って公式に縛られては二次元創作は自由を失ってしまいます。(不満を口にしたり、矛盾を責めるなという話ではない。非難するのも自由。)

要は拙作「優しき日輪と鬼殺隊の美蝶」は、「炭治郎愛され」から一切ブレる事無く、最後まで貫き通す予定です。

ワニ先生が「鬼滅の刃」を完結させた様に、私もたとえ読んで下さる読者が居なくなろうとも、私が望む鬼滅世界を完結させていく所存であります。

予定としては今年中に完結を目指します。

こんな遅筆で無才な私の駄文拙作で良ければ、皆様もお付き合い下さいますと大変嬉しく思います。

どうか、今後ともよろしくお願い致します。

それともう皆様はお気付きかと思いますが、前話の参拾参話に書き忘れていた炭治郎と耀哉の会話を加筆しています。

最後にもう一つ報告させて頂きますと、拙作では一万字以上が投稿基準となっております。

緊急柱合会議編では毎回二万字以上になっていましたが、そうしないと都合上、区切りが悪かったからです。今後はその基準に戻すと思うのですが、どうかご了承下さい。

一万字ではボリュームが足りないと思われたらすみません。なるべく投稿期間が短くなる様に頑張ります。

次回の更新は一月中です。お楽しみに!


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第肆拾弐話 日輪と鬼殺隊の柱は交流を楽しむ ★

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「うおおおぉぉぉぉぉすげええええぇぇぇぇっ!!!」

 

伊之助が興奮した様子で、大浴場に一番乗りを果たしていた。普段着用している猪の被り物は入浴のために外してあるため、顔だけ見れば女性と見間違えるその端正な美貌が見えていた。因みに、清々しい程の全裸状態である。

 

「これは……凄いな……っ。」

 

伊之助を追ってやって来た善逸もまた、眼前の光景を見て驚きを隠せず圧倒されていた。因みに善逸は伊之助と違って、脱衣所に用意されていた黄色い湯浴みを腰に巻いている。

 

善逸の目の前には、大浴場とは名ばかりの、それは何処ぞの最高級の旅館かと、十人が十人口を揃えて言いたくなる程に素晴らしい温泉風景があった。

大名門とはいえ、これ程までに凝った大浴場が在るのには理由が有る。

 

それは"原初の鬼"たる鬼舞辻無惨の不倶戴天の怨敵である産屋敷家が、一生涯を常に鬼から狙われている存在であるからだ。そのため表世界に出る事は殆ど許されず、修験者の如く、否それ以上の隠棲生活を強いられている。

 

そのため娯楽は非常に少なく、数も数えられる程に限られている。そのため、少しでも楽しめる様にと遠い昔に作られ、時折造り変えられているのがこの大浴場に広がる温泉風景だ。産屋敷家にとって、温泉は数少ない娯楽の一つなのである。

 

同時に、湯治が目的でもある。呪いの所為で代々病弱な産屋敷家の人間が少しでも身体を良くするために、薬湯でもあるこの温泉に入るのだ。

 

「よっしゃああああ伊之助様一番乗りぃぃぃっっっ!!!」

 

「おい待て伊之助ぇっ!?」

 

伊之助は善逸の静止の声を振り切って、温泉に飛び込もうとした。

 

「待ちやがれッ。」

 

すると音も無くスッと現れた実弥が、伊之助の首根っこを掴んで温泉への飛び込みを阻止する。不意に首を掴まれた伊之助は、潰された蟇蛙(ヒキガエル)の如き声を上げた。

 

「グエッ!?……何すんだよっこのツギハギ野郎!?」

 

伊之助はゴホゴホと咳を繰り返しながら、実弥に抗議した。

 

「馬鹿野郎ッ。風呂とか温泉に入る前に、先ず最初に全身を洗うのは礼儀ってもんだろうがッ。」

 

伊之助の抗議など何処吹く風とばかりに無視した実弥は、入浴の作法を守らない伊之助に説教をする。

その事に対して実弥は正論であるため、伊之助は口を詰まらせて沈黙した。

 

「温泉は逃げねぇから、パパっと洗っちまえ。背中は流してやるからよォ。」

 

「っ!?……お、おう! そうだなっ!!」

 

実弥の思わぬ優しい気遣いに、伊之助は困惑しながらもそそくさと身体を洗い始めた。時折身体の洗い方に実弥に指導して貰いながら。

 

「……」

――何この光景!? 風のおっさん、何か変なモンでも喰ったのかっ!?

 

善逸が実弥の面倒見の良さを目撃して、驚愕し過ぎて戦慄していた。

 

「おい、黄色いの。」

 

「っ!」

 

善逸が声のした方に顔を向けると、其処には天元が立っていた。用意されていた湯浴みは着用せず、伊之助と同様に堂々たる全裸であった。

 

「このまま派手に飛び込みたいところだが、先ず最初に身体を洗って汚れを落とすのは温泉の作法ってもんだ。不死川が派手に言った通りにな。」

 

「つー訳で、流せ。」とそう言って自身の広い背中を、天元は善逸に向けて見せた。唐突な展開に善逸は啞然としていたが、我に返ると天元に向かって猛然と猛抗議を始める。

 

「俺は黄色いのじゃなくて、我妻善逸って名前が有るんですぅっ!! 第一何で俺が、あんたの背中を流さなきゃならないんだよぉっ!? 自分でやりゃ良いだろうがっ?!」

 

「うるっせえぇっ!! 上官命令ださっさとしやがれっ。」

 

「ひっ!?……くうぅぅ~~何で俺があああぁぁぁぁっ……っ!!」

 

天元に凄まれた善逸は、一度だけ小さい悲鳴を上げる。それから涙目になりながら、不承不承とばかりに天元の背中を流し始めた。

 

すると天元達に遅れる形で、炭治郎を除く面々が大浴場へと現れた。義勇の言葉足らずに対して、行冥が説教を始めたためだ。尤も、先に入っていた天元達は我関せずとばかりに早々と立ち去ったが。

 

皆、脱衣所に用意されていた湯浴みを着用している。行冥は茶色の、義勇は青色の、無一郎は白色の湯浴みを着用していた。

 

「わぁっ! 凄い温泉だっ!」

 

そう言って感嘆の声を上げたのは、行冥達に遅れて最後に入ってきた炭治郎だ。市松模様の湯浴みを着用している

 

「義勇さんっ! お背中を流すのと、髪を洗うの手伝いますよ!」

 

「っ!……いやそれは…………頼んで良いか?」

 

「はいっ!」

 

炭治郎の好意からくる申し入れに対して、義勇は承諾して背中と髪の方を洗う手伝いを受け入れ任せる事にした。

 

当初、義勇は炭治郎の申し入れを咄嗟に断ろうとしたのだが、炭治郎が時折見せる頑固さと強引さを思い出して申し入れを受け入れる事にしたのだ。

 

もし義勇が炭治郎の申し入れを断っていたら、炭治郎と義勇の間で収拾の着かない押し問答が始まっていたに違いない。

 

「兄弟弟子同士、仲が良いのは良い事だ……。」

 

「…………ムゥ。」

 

行冥は涙を流しながら炭治郎と義勇を見た後、自身も身体を洗うべく行動に移った。無一郎は何故か少しばかり拗ねた様子を見せながらも、続けて身体を洗い始めた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「いってぇぇっ!?」

 

男性用の大浴場に突如、悲鳴が上がった。悲鳴を上げたのは実弥であった。右手を後ろに回しながら、背中を擦っていた。

 

「あぁっ? 柱の癖に、情けねぇ悲鳴なんか上げんじゃねぇ。紋逸でもあるまいし。」

 

「テメェッ!? 背中を強く擦り過ぎなんだよッ! もうちったぁ優しくしやがれッ!!」

 

伊之助の言葉を聞いて、実弥が背後に振り返りながら伊之助に苦情を言っていた。

 

この様な状況になった経緯を簡潔に説明すると、伊之助は実弥に身体を洗うのを手伝った礼として、「背中くらい流してやらぁ!」と叫んで実弥の背中を流す事を提案したのだ。

 

実弥は当初こそ遠慮無用と拒否しようとしたが、折角の好意を無下にするのも失礼かと結論を付けて快諾したのである。

 

尤も、その結果がこの様な事態を招いてしまったのだが。

 

「あの二人、お互い派手に落差のある絵面だなぁ。」

 

「その点に関しては、全面的に同意せざるを得ない。」

 

天元と善逸が実弥と伊之助のやり取りを見て、そう言葉を口にした。すると善逸が会話に集中したせいか、手の方が疎かになる。それを天元は見逃さない。

 

「おい、気合が地味に入ってねぇぞ? もっと派手に力を入れろおらぁ!」

 

「もう良いでしょおぉぉぉぉっ!? 何時までこうしてなきゃいけないんだよぉぉっ!!」

 

天元が善逸に苦情を言うと、善逸もまた天元に文句を言っていた。きちんと背中を流しながらだが。

 

「うしっ!……おい、そんくらいで良いぞ。」

 

善逸が天元の背中を流して少し経った頃、顔を洗い終えた天元が満足した様子で善逸にそう言った。

 

「ああ、やっと終わっ……たぁっ!?」

 

天元から解放された善逸は安堵した声を上げた瞬間、その声が素っ頓狂なものへと変わった。

 

「?」

 

天元は善逸の素っ頓狂な奇声を耳にして、天元が頭を傾げた様子で善逸を見詰める。

 

「なっ?!……えっ?……はあぁっ!?」

 

善逸はある方向へ指差しをしながら、続けて素っ頓狂な奇声を上げていた。その右手の指先は、微かにふるえている。

 

「な、何っっじゃその顔!? あんなケバケバしい化粧の下にそんな男っ前な顔が隠れてたのかよ!?」

 

其処には普段の派手な化粧が落ちており、天元の端正な容姿が姿を表していた。

 

「俺がド派手に男前なのは当然だろう? つってもすっぴんのこの顔は地味だから、俺はあんま好きじゃねぇんだけどな。てか、ケバケバしいとは何事だぁ? ド派手にイケた化粧だろうがっ!」

 

天元はさも当然の様に自身の容貌が優れている事を認めた後、自身が施している化粧スタイルを否定する善逸に抗議した。

 

「そう思っているのは此の世であんただけだよっ!? 俺はてっきり痣の真似して態とあんな化粧をする事になったと思ってたのに、タダの化粧でアレかよっ!?」

 

「…………あー悪いな、痣の事は全然、何一つ知らなかったわ。つーかあの時初めて知ったわ。」

 

天元は悪びれる様子も無く、痣について無知だった事を威張りながら開き直った。そんな天元の態度に、善逸は更に双眸を血走らせて青筋を浮かべる。

 

「偉そうに威張んな! ムカつく! タダでさえ嫁三人もいて腹立つのに、更に男前とかふざけんな! て言うかそんな良い顔してるのに地味だから好きじゃないとか、幾ら何でも贅沢過ぎるわっ!?」

 

善逸はそう言って、益々双眸を血走らせて青筋を濃く浮かべた。そんな善逸に、天元も異論を唱える。

 

「おいおい? 炭治郎だってもう既に嫁が三人居るし、これから先はもっと増えそうだろうが。」

 

「アイツは別なの!」

 

「酷ぇなおい。」

 

天元が同類とばかりに炭治郎の名前を引き合いに出したが、善逸はそれを一蹴する。そんな善逸の露骨極まりない依怙贔屓に、天元はただただ苦笑するしかない。

 

「でも禰豆子ちゃんを手篭めにしたのは許さん。」

 

「どっちだよ!?」

 

秒速で掌を返して炭治郎へ恨み言を呟いた善逸には、流石の天元も即座にツッコミを入れた。

 

「そう言ってやるなって。禰豆子もかなた様に嫉妬して対抗しただけだろう? 子犬に唇舐められた様なもんだ。」

 

「うっ……そう言われると……。」

 

炭治郎を擁護する天元の言葉に、善逸は口を詰まらせた。しかし、同時にその時の様子を思い出す。

 

――でもあの時の禰豆子ちゃん……一瞬だけ、愛情の音がしたんだよなぁ……それも家族じゃなくて夫婦や恋人同士に鳴る様な音が。でも邪魔をしたしのぶさんの所為で直ぐに怒りの音に変わったから、真相は分からないんだけど……やっぱり俺の気のせいかな?

 

善逸は天元に頭をガシガシと乱暴に撫でられながら、自身にそう言い聞かせる様に心中で呟いた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「義勇さん、終わりましたよ。」

 

「そうか……すまないな。」

 

義勇はそう言って、炭治郎に礼を述べた。義勇の胸まで届く程伸びた長髪の洗髪を、炭治郎が手伝ったからだ。

 

洗髪が終わったのを見計らって、義勇が大雑把に髪を纏め始めた。

 

「……」

 

炭治郎はそんな義勇を見て、特に行動には移らない。何故なら、人の髪を纏める事が出来ないからだ。そもそも、その様な機会に恵まれる事そのものが無かった。

 

禰豆子は常に今は亡き母・葵枝に髪を纏めて貰っていたし、直ぐに自分自身の手で出来る様になった。

末の妹・花子は禰豆子や葵枝に憧れて、自身の髪を伸ばしている最中に亡くなった。

 

こういった経緯から、炭治郎自身が人の髪を纏める経験もやり方を習う機会も得られずに終わった。

 

――そう言えば、禰豆子は甘露寺さんにとても懐いているよなぁ……同じ三つ編みにでもしてあげたら喜ぶかな?

 

尤も、最近では禰豆子が蜜璃に憧れているためか、三つ編みが出来る様に練習をすると決意していたが。

 

「……冨岡さん。」

 

「っ!」

 

「……時透?」

 

炭治郎が回想している間に、義勇に声を掛ける者が現れた。其処に居たのは義勇と同様に腰まで髪を、対照的に綺麗に纏めた無一郎だった。身体が濡れており、身体は既に洗い終えた様だ。

 

「そんな乱雑な纏め方だと、髪を痛めるよ?……僕がやってあげるから、任せてくれる?」

 

「……頼む。」

 

無一郎の進言に、義勇は一任する事にした。それを見て炭治郎は無一郎に話し掛けた。

 

「時透君。髪を纏めるの上手だね?」

 

「うん、身体が覚えていたみたいなんだ。」

 

炭治郎の問いに、無一郎は笑顔で即答する。無表情で義勇に話し掛けた時とは、かなり態度に差が有る。

 

炭治郎は無一郎に義勇の事を任せて、今度は自分が身体を洗おうとした。しかしその前に、ある事に気付いたため後回しにする。

 

「悲鳴嶼さん、お背中流しますよ。」

 

「っ!……頼めるか?」

 

「はい。」

 

炭治郎は快諾して早速、行冥の背中を流し始めた。

 

「……」

 

行冥は背中を炭治郎に洗って貰いながら、ある記憶が脳裏を過ぎった。

 

『先生っ! 私が先生の背中を流してあげるね!』

 

『遠慮しないでよ。僕達、まだ子供だから出来る事が少ないけど……少しでも先生のお役に立ちたいから。』

 

それは嘗て共に暮らしていた、本当ならばまだ別れの日は先であった筈の、孤児達との戻らない掛け替えの無い日常。

 

『悲鳴嶼様。私達姉妹が育手の下へ向かう前に、少しでも恩返しをさせて下さい。今宵だけで良いのです。せめてお背中だけでも、私共に流させては下さいませんか?』

 

『姉さんと私に身体を洗って貰えるなんて、光栄に思ってよね! 悲鳴嶼さん!!』

 

八年前、柱になったばかりの自分が救った美しい姉妹。後少しばかり到着が早ければ、両親の死に目を見ずに済んで、鬼とは無縁の生活を今も送れていたに違い無かった。

 

そればかりか、自分の所為で鬼殺隊に入隊して鬼狩りの道を歩ませてしまった。その結果、片や一人は此の世を去り、片や一人は己を殺して変貌を遂げてしまったのだ。

 

「……っ。」

 

今まで二十七年間生きて来て、後悔した事は沢山有る。その中でも一際大きな後悔が、この二つの出来事だ。

それをたった今、自身の背中を流してくれている太陽の如き少年が清算し救済してくれた。その事実が、行冥にとっては何よりも嬉しかった。

 

「っ!……悲鳴嶼さん?」

 

巌の如き行冥の巨躯が僅かに震えている事に気付き、炭治郎は思わず声を掛けた。

 

「何でも無い……本当に、何でも無いんだよ。炭治郎。」

 

「……」

 

行冥にそう言われた炭治郎は、それ以上尋ねる様な真似はしなかった。何故なら、行冥からは悲しい匂いでは無く歓喜の匂いがしたからだ。

その理由が何なのかは分からなかったが、無粋に知ろうとする様な愚かな真似など、炭治郎にはする気は一切無かった。

 

 

♦︎

 

 

 

身体を洗い終えた行冥は炭治郎に一言礼を述べてから温泉へと向かう。それを見送った炭治郎は身体をまだ洗っていなかったため、一人残る。

 

――さて、俺も身体を洗おうかな?

 

「炭治郎。」

 

「えっ?」

 

炭治郎が声を掛けられたので振り向くと、其処には無一郎と髪を纏め終えた義勇が居た。

 

「良かったら、僕が君の背中を洗おうか?」

 

「えっ!? 良いの!?」

 

「勿論だよ。」

 

炭治郎が確認する様に無一郎に尋ねると、無一郎は笑顔を浮かべて快諾する。

 

「……炭治郎、一つ聞いて良いか?」

 

「?」

 

「?……はい、何ですか?」

 

無一郎の背後に居た義勇が、炭治郎に尋ねた。炭治郎と無一郎は唐突に質問をして来た義勇に、首を傾げる。

 

「お前の身体だが、その赤い痕はどうした?」

 

「っ!?」

 

 

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「……」

 

義勇の質問に、炭治郎はギョッとした表情を浮かべる。それを隣で聞いた無一郎は、何を言っているんだと言わんばかりの表情を浮かべて義勇を見詰めた。そしてこの会話の内容を聞いていたのは、炭治郎達だけでは無かった。

 

「あの人、炭治郎に何聞いてんの……?」

 

「あれで態とじゃねぇってんだから、派手に凄ぇよなぁ。」

 

「!?」

 

善逸が困惑を隠せない様子でそう呟くと、天元が同意した様に頷いた。その天元の様子に、善逸は驚きを隠せない。

 

「はい……って、あんたも聞こえてんすか?」

 

「ああ、普通に聞こえるぞ。」

 

ある程度距離が有り、炭治郎達も決して大声で会話している訳では無いので、常人では聞き取るのが難しく自分と行冥くらいしか聞こえていないと思っていたので善逸は驚いていた。

 

「……宇髄は常人よりも遥かに、聴力が優れているからな。」

 

「悲鳴嶼さんだって、あれくらい聞こえるだろう?」

 

「うむ、このくらいならばな。」

 

聴力に優れた三人はそう会話を続けていると、実弥だけ面白く無さそうにジト目で行冥達を睨み付けていた。

 

「……なぁおい。どうでも良いけどよォ、あいつら何喋ってんだァ?」

 

「どうでも良いって思ってるなら、聞く必要無いですよね?」

 

「あ"っ?」

 

「ひぃっ!?」

 

実弥が尋ねた際にその聞き方に善逸がツッコミを入れると、実弥が青筋を浮かべて睨み付けたため、善逸は震え上がった。

 

「不死川、よせ……炭治郎達はこう会話をしていた。」

 

「……っ!?……態と言ってんのかあいつァ……。」

 

行冥が実弥を止めて説明をすると、実弥はゲンナリとした表情を浮かべて炭治郎達に視線を移した。

 

「態とか否か、そんな地味な事ぁどうでも良い。俺は今、派手に楽しいからなっ!……おっ! 冨岡から話し始めるみたいぞ。」

 

「「「!」」」

 

天元の言葉に、行冥達は揃って炭治郎達に注目した。

 

「どうしたんだ? 炭治郎?……その赤い痕は虫刺されか何かじゃないのか?」

 

――えっ? 本気で言ってんのこの人?

 

無一郎は義勇の質問を聞いて、呆れ返った表情を浮かべて義勇を見ていた。それから面白く無さそうに、炭治郎の赤い痕を見た。そんな無一郎など知らず、炭治郎も大口を開けて義勇の言葉に反応していた。

 

「ん、んんっ!……そう、ですね!……これは虫刺されみたいなもんです。」

 

炭治郎は口を詰まらせながらも、義勇の指摘を肯定した。

 

「そうなのか……身体中に刺されているが、どんな虫に刺されたんだ?」

 

「!?」

 

続けて質問されるとは思わなかったのか、炭治郎は思わず固まってしまう。

 

「炭治郎。」

 

「は、はい!……えーと、ちょ……蝶々だったと思います!」

 

急かされる様に義勇に名前を呼ばれた炭治郎は、咄嗟にそう答えた。しのぶ達を蝶々と表現して。すると義勇は双眸を見開いて炭治郎を見詰めた。

 

「蝶々に?……蝶々が人を刺すなど、初めて聞いたぞ?」

 

「あ――……蝶屋敷には、そんな特殊な蝶々が居るんです。」

 

疲れた様子を見せながら、炭治郎はそう答えた。そんなおかしな状況を、無一郎が茫然としながら見守る。

 

――……冨岡さんは何で炭治郎が胡蝶さん達の事を、あそこまで匂わせて言ってるのに分かんないのかな? 此処まで来ると、純粋な疑問にしかならないよ。

 

無一郎がそう思うのを余所にゲンナリしている炭治郎だったが、次に来る義勇がそんな心情を一瞬で吹き飛ばす。

 

「そうか、なら……一層の事、俺の屋敷で一緒に住まないか?」

 

「はいっ!?」

 

義勇の提案に、炭治郎は素っ頓狂な声を上げる。義勇は更に話を続けた。

 

「そんなに虫に刺されては、住み辛い事この上無いだろう? 俺の屋敷ではそんな目には合わないから、どうだ? 一緒に住まないか? 勿論、禰豆子も一緒に。」

 

義勇はそう言って、竈門兄妹で同居する事を提案する。それに対して、炭治郎は最初こそ目を泳がせるも、直ぐに答えた。

 

「え、えーと……お誘いは、大変嬉しく思います。……ですが、俺はしのぶさん達と離れて暮らしたくありません。」

 

尊敬する義勇から一緒に同居を勧められた炭治郎は、喜びを感じつつも毅然と拒否した。第一、そんな事をしたらしのぶ達が泣いて悲しむだろう。そもそも今の炭治郎にとって、しのぶ達と離れて暮らすなど考えられない事だったからだ。

 

「そうか、分かった。」

 

「はい。すみません、義勇さん。」

 

義勇に申し訳無いと炭治郎は罪悪感から、頭を下げて謝罪した。しかし、次の瞬間。

炭治郎は、次に来る義勇の一言を聞いて抱いた罪悪感を跡形も無く吹き飛ばされる程の衝撃を受ける事になる。

 

「では……俺がお前や胡蝶達のためにも今度、休みを取って蝶屋敷の害虫駆除をしてやろう。」

 

「!?!?」

 

義勇の決意を聞いて、炭治郎は限界まで双眸を見開いた。

 

「それは絶対に止めて下さいっ!?」

 

炭治郎は義勇に嘆願して、しない様に強く求めた。そんな必死な炭治郎を見て、義勇は首を傾げる。すると炭治郎が咄嗟に義勇が納得出来る理由を口にし始める。

 

「え、えーと……蝶屋敷の害虫駆除は鎹烏達が普段、食事も兼ねてやって貰っているんですよ! だから義勇さんの手を煩わせるまでもありません!!」

 

炭治郎は咄嗟に言った理由だが、これも嘘では無い。冬を除いた季節の間は、鎹烏が花園に巣食う害虫を駆除している。中には飛んでいる蝉を、羽搏きで叩き落として食べる猛者も存在して居るのだ。尤も、蝶々には手を出さない様にしのぶが厳命しているため、鎹烏も蝶々にだけは手出しはしない。

 

「……そうか、炭治郎が其処まで言うなら、止めておこうか。」

 

「はい、ありがとうございます。義勇さん……さぁ、遠慮せず温泉に入って来て下さい。」

 

義勇が害虫駆除の宣言を撤回すると、炭治郎はあからさまな様子で安堵して、義勇に先に温泉に入る様に促した。義勇は承諾して温泉に向かうのを見て、漸く炭治郎は安心する。しかし、義勇が背中越しに口にした次の一言で、再び炭治郎の心情は荒れる事になる。

 

「炭治郎は聞いた事が有るか? 俺が(農業を営んでいる人達から)聞いた話によると……実は蝶々は見た目ばかり綺麗なだけで、実際は只の害虫らしいぞ?」

 

「それ、絶っっっ対にしのぶさん達の前では言わないで下さいねっ?! 本当に嫌われますからっ!!」

 

炭治郎は何時に無く真剣な表情で、義勇に強く釘を刺してその発言を封印させた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……はぁ。」

 

「炭治郎、お疲れ様……大変だったね?」

 

「あ、あはははは……別にそんな事は無いよ、時透君。」

 

温泉に向かう義勇を、炭治郎が疲れ果てた様子で見送る。

それから二人のやり取りを見守っていた無一郎が炭治郎に労いの言葉を掛けると、炭治郎は力無く礼を述べた。炭治郎が身体を洗う間、無一郎が背中を流して炭治郎を手伝った。

 

「時透君、ありがとうね。」

 

「っ!」

 

炭治郎は背中を流してくれる無一郎に、改めて礼を述べた。すると無一郎は少し目を見開くと、ゆっくり首を横に振ってから開口する。

 

「お礼を言うのは、僕の方だよ。炭治郎。」

 

「えっ?」

 

聞き返す様に呟いた炭治郎に、無一郎は続けて自身が礼を言うその理由を語り始める。

 

「炭治郎が珠世さんを連れて来てくれたら、僕は今こうして記憶を取り戻す事が出来た。

たとえ二人の力を借りずに何時の日か記憶が戻っていたとしても、それが明日なのか、一週間後だったのか、一ヶ月後か、半年後だったかなんて今となっては誰にも分からない。いや、記憶が戻る前に死んでいたかもしれなかったんだ。」

 

語り終えた無一郎は、改めて炭治郎への感謝と好意を言葉に込める。

 

「これも全部、君のお蔭だよ。本当にありがとう、炭治郎。」

 

「……っ。」

 

無一郎からの感謝の言葉に、炭治郎は胸がいっぱいになる。

 

「……」

 

「……っ?……時透君?」

 

炭治郎は自身の肩に重みを感じて、少しだけ後ろに首を回すと其処には頭を預けて凭れている無一郎が居た。しかし、その事に不快感など在りはしない。

 

――……そういえば、竹雄達も偶にこうやって静かに俺に甘えに来てくれる事があったな。ふふっ……懐かしいなぁ。

 

炭治郎は今は亡き家族である、竹雄達との家族の一面を思い出して旧懐の情を浮かべた。その中に有る、僅かな哀愁は悟られない様にしながら。

 

沈黙している炭治郎に身を預けていた無一郎は、双眸を閉じてその温もりを感じていた。そして少ししてから、無一郎は開口する。

 

「僕ね、新しい夢が出来たんだよ。炭治郎。」

 

「夢?」

 

炭治郎の肩に凭れたまま、無一郎が叶えたい夢について話し始めた。炭治郎は復唱する様に呟いてから、静かに耳を傾ける。

 

「僕は景信山って山で生まれた、杣人の子の出身でね……鬼を倒す事しか考えて無かった僕だけど、今は違うよ。この戦いに勝って生き残れたら、景信山に帰って亡くなった父さんや母さん、そして兄さんの墓を作ってあげたいって夢が出来たんだ。」

 

「……っ。」

 

炭治郎は無一郎の願望を聞いて、胸を打たれた様な感覚を覚えた。炭治郎はこの時、先刻の緊急柱合会議で無一郎は発言した一言と、事前にカナエに言われた一言を思い出していた。

 

『僕は……僕()は四年前、あまね様に『『始まりの呼吸の剣士』の子孫の力を貸して欲しい。』って言われたのが切っ掛けで、鬼狩りを始めたんだ。』

 

『何でも、鬼に家族と襲われた時に記憶を失ったそうよ。生き残ったのも彼だけで記憶を共有している人が全員いなくなってしまったから、取り戻し様が無くて……。』

 

――嗚呼、俺は何て馬鹿なんだ……事前にカナエに情報を教えて貰ったのに、何も生かせて無いじゃないかっ……。

 

炭治郎は悔恨して、自身の気の使えぬ不甲斐なさを呪った。

 

鬼に殺されたのは、兄の有一郎だけだ。しかし実はこの時に、炭治郎は無一郎が家族全員をその時に失ったと勘違いしていた。そんな炭治郎の心情など知る由も無い無一郎は、炭治郎を気にして声を掛ける。

 

「炭治郎?」

 

「っ!……ごめん、何でも無い。とても素敵な夢だと思うよ。」

 

無一郎に声を掛けられた炭治郎は、頭を左に振り向いてから流し目で無一郎を見ながらそう肯定した。

 

「うんっ! ありがとう、炭治郎っ!」

 

そんな炭治郎の言葉に、無一郎は嬉しそうに頬を笑みを浮かべてから続けて語る。

 

「そ、それでね……もし一緒に生き残る事が出来たら、君さえ良かったら……景信山に招待したんだ。……何も無い山だし、生家(いえ)も残っているか分からないんだけどね。」

 

「!」

 

無一郎は語っている途中で、恥ずかしそうに炭治郎に提案した。

 

「良いに決まってるよ!」

 

しかし、炭治郎は一切嫌な表情など浮かべず、身体ごと振り返ってから笑みを浮かべて無一郎に答える。

そして今度は炭治郎の方から、無一郎にある提案をした。

 

「実は俺も時透君と一緒で山生まれでね、雲取山ってところで代々炭焼き職人をしていたんだ……時透君も良かったらさ、俺の生家(うち)においでよ?……血塗れでボロボロのままだと思うけど。」

 

「っ!……うんっ! 喜んで行くね。」

 

炭治郎から故郷への招待を受けた事に歓喜しながら、無一郎は快諾した。そんな無一郎を見て、炭治郎も僅かに影が見えた笑顔から普段通りの満面の笑みへと変わる。

 

そして炭治郎は右手を無一郎に向かって差し出すと、無一郎もまた炭治郎に向かって左腕を差し出した。それぞれの手の小指だけを真っ直ぐ向けて。

 

「「無惨を倒して、一緒に生き残ろう。」」

 

二人は異口同音にそう言うと、指切りを交わしてお互いに生存を固く誓い、笑みを浮かべて同意した。

 

「っ!」

 

その際に無一郎は、炭治郎の身体中に浮かぶ赤い痕、口付け痕(キスマーク)が目に付いた。

 

「……っ。」

 

無一郎は何故か、その赤い痕に嫉妬心を抱き苛立ちを覚えた。

 

「時透君?」

 

炭治郎は無一郎から僅かに怒っている匂いを嗅ぎ取り、疑問に思って無一郎に声を掛けた。

 

 

 

 

 

ガブッ!

 

 

 

 

 

「あいったっ!?」

 

炭治郎は突如、軽いとは言い難い痛みを覚えて悲鳴を上げた。当然である。何故なら無一郎が指切りを解くと、自身の頭を炭治郎の左肩に近付けて、凭れた際に思い切り左肩に噛み付いたからだ。

 

痛みが引いてから炭治郎が視線を少しばかり下へ向けると、左肩に歯形がくっきりと刻まれているのが僅かに見えた。幸い、出血してはいなかった。

 

「と、時透君。今、俺を噛んだよね?」

 

困惑しながら、炭治郎は無一郎に尋ねた。

 

「うん。こう「ガブッ」って噛んだよ。」

 

「あ、あのねぇ……何で?」

 

しれっと悪びれる事無くそう答える無一郎に、炭治郎は言い返す事が思い浮かばず言葉に詰まり、漸く尋ねた。無一郎はそれに対して、笑みを浮かべてこう答えた。

 

「炭治郎が美味しそうだったから……色んな意味で。」

 

「お、美味しそうだったぁ?……それに色んな意味って、どう言う事なの?」

 

そんな楽しそうな様子でそう言った無一郎に、炭治郎は益々困惑しながら尋ねる。尋ねられた無一郎は再びニヒヒと笑いながら、楽しそうにこう言った。

 

「秘密♪」

 

そう言ってから炭治郎の両手を握って、無一郎は炭治郎に謝罪する。

 

「いきなり噛んだりなんかしてごめんね? 僕が悪かったよ。」

 

「あ、うん。別に良いよ。気にして無いから。」

 

無一郎に謝罪された炭治郎は、そう言って気にしない様に気遣った。そんな炭治郎の優しさに、無一郎は喜びから微笑んだ。

 

「良かった! じゃ一緒に温泉に入ろうよ、炭治郎!」

 

「うん。時透君、行こうか。」

 

そのまま無一郎は炭治郎と手を繋いだまま、温泉へと向かった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「た、炭治郎。大変だったな……プヒヒヒ。」

 

「派手な災難だったな、炭治郎……ぷっ、くくくくっ。」

 

「……」

 

善逸と天元が、温泉に入って来る炭治郎に向かって声を掛けた。それを必死で込み上がる、笑いを噛み殺しながら。炭治郎はそんな二人を見て、無言のままジト目で睨み付ける。

 

「時透、人の肩を噛んだりしては駄目だろう?」

 

「はい、すみません。悲鳴嶼さん。」

 

無一郎は先刻の行動について、近付いて来た行冥に注意を受けていた。シュンとした無一郎を見て、炭治郎が堪らず行冥に声を掛けた。

 

「悲鳴嶼さん。俺はもう、気にしてませんよ。別に血を流す程の怪我(もの)でも無いですし。」

 

「むぅ……炭治郎本人がそう言うなら、もうやめておこう。」

 

行冥は炭治郎の無一郎を擁護する発言を聞いて、説教を取り止めた。

 

「炭治郎、ありがとう。」

 

「どういたしまして、時透君。」

 

無一郎は炭治郎に礼を述べてから、軽く頭を下げた。それから無一郎は、再び炭治郎に声を掛けた。

 

「炭治郎。一つだけ、お願いしても良い?」

 

「勿論っ。俺に出来る事なら何でも。」

 

温泉に身を入れたまま、無一郎は炭治郎にある懇望をする。炭治郎は無一郎の懇望に対して、快く快諾する。

 

「難しいお願いじゃないんだ。ただ、胡蝶さんや冨岡さんみたいにさ……僕の事も、名前で呼んでくれないかな?」

 

『!』

 

無一郎は少し恥ずかし気に、頬を僅かに赤く染めながら苗字では無く、名前で呼んで欲しいと懇望した。

 

肩まで温泉に浸かっているため、一見すると美少女が意中の男性を相手にして照れている様な、そんな錯覚に陥りそうになる。

 

「良いの?……えっと、じゃあ……無一郎君?」

 

「っ!……うんっ!」

 

炭治郎が初めて無一郎の名前を呼ぶと、無一郎は頬を赤く染めたまま満面の笑みを浮かべて歓喜した。

それから笑顔では無いが、表情を柔らかくしたまま今度は善逸と伊之助の方へそれぞれ顔を向ける。

 

「君達は炭治郎のお友達なんだよね?」

 

「と、友達?……は、はい。そうです。」

 

善逸は無一郎に突然話を振られて戸惑ったが、無一郎の質問に肯定する。

 

「炭六郎とは親分と子分の関係だっ! 勿論、俺様が親分だ!」

 

「……友達じゃないの?」

 

無一郎の伊之助からの回答を聞くと、怪訝そうな表情を浮かべて伊之助を半眼で睨み付けた。

 

「ま、まぁ……友達でもある!!」

 

すると伊之助が口を詰まらせながら、遅れて無一郎の質問に肯定した。明らかに照れている様子だったので、友達と口にするのが純粋に恥ずかしかっただけであった。

 

――何を恥ずかしがっているんだろうね? 僕からしてみれば、炭治郎と最初に友達になった事が羨ましいくらいなんだけどなぁ……。

 

それを聞いた無一郎は、嫉妬心を心中に抱きながらも表に出す様な真似はしない。表向きは柔らかい表情を維持しつつ善逸と伊之助にこう伝えた。

 

「炭治郎のお友達なら、別に良いや……君達も僕の事は、無一郎って名前で呼んで良いよ。ついでに、僕に敬語なんて使わなくて良いから。」

 

『!』

 

無一郎が善逸と伊之助に名前で呼ぶ事を許した事に、行冥達は驚きを覚えた。善逸と伊之助もまた、度合いに差は有れど驚いていた。

 

「えっ? 良いんですか?……じゃなかった。良いの?……じゃあ、俺も善逸でよろしく。」

 

「おうっ! だったらそう呼ぶわ! お前も俺の事は名前で良いぞ!!」

 

善逸と伊之助はそう言って、無一郎に名前で呼ぶ事を許可した。

 

「……」

 

炭治郎に顔を向けていた行冥は何かを考え込む様に、沈黙を貫いていた。

 

「……うーむ。」

 

そんな無一郎の反応を見て、天元が顎に手を置いて一考する。すると結論が出たのか、天元が開口を始めた。

 

「おい、炭治郎。俺の事も今から天元で良いぞ。その代わり、お前は俺の弟分だからな。」

 

天元が些か尊大な態度で自身を名前で呼ぶ事を炭治郎に許可した。そんな天元を見て、炭治郎は苦笑しながら開口する。

 

「分かりました。改めて、よろしくお願いしますね? 天元さん。」

 

「おうよ。」

 

炭治郎に名前で呼ばれた天元は、嬉しそうに笑みを浮かべた。それから天元は何かを思い出した様に、善逸と伊之助が居る方向へ振り向いた。

 

「善逸、それと猪……伊之助だったか? お前ら二人にも特別に、この俺を「天元様」と呼ぶ事を許してやる。何なら俺は祭りを司る神だから「祭りの神」でも良いぞ。」

 

「あんたは脈略も無く、いきなり何言ってんの?!」

 

善逸は何一つ嬉しそうにする事無く、尊大な天元にツッコミを加えた。すると天元が堂々と言い放った、冗談なのか本気なのか判断が付かない発言に伊之助が喰い付いた。

 

「俺は山の王だ! よろしくな祭りの神。」

 

伊之助が普段から炭治郎達に言っている自称を、天元に伝える。

 

「何言ってんだお前……顔に似合わず気持ち悪い奴だな勿体無い……。」

 

「ああ"っ!?」

 

天元が冷めた様子で伊之助の発言を無碍に斬り捨てると、伊之助が激昂して天元を睨み付ける。

 

――なんつー五十歩百歩……どっちもお互いどっこいどっこいだろ!? それで引くのかよっ!?

 

――似た様な次元に……つーか同じ次元なんだけど、住んでる奴に対して嫌悪感が有んだな……これが同族嫌悪って奴か……。

 

善逸は口に出さない様に、心中で天元に対してツッコミを入れ続けていた。

 

「……不死川。」

 

「何だァ、冨岡ァ?」

 

そんな炭治郎達のやり取りを見ていた義勇は、実弥に向かって話し掛ける。実弥は、ぶっきらぼうに義勇に返答をした。

 

「お前も、炭治郎に名前で呼んで貰わなくて良いのか?」

 

「……ケッ。俺は別にあいつに、名前で呼んで貰いたい訳じゃねぇよ。」

 

義勇にそう言うと、実弥はプイと首を横に振るった。そんな二人を他所に、炭治郎は在る事に気付いた。

 

「……っ!……そう言えば、此処には柱では伊黒さんだけ居ないんですね。」

 

『!』

 

炭治郎が残念そうにそう言うと、行冥達が反応する。其処へ天元は炭治郎の呟きに答える。

 

「ああ。伊黒は何時も、口に包帯巻いてるだろう? 伊黒は食事中だろうが何だろうが、人前では絶対に包帯を外そうとはしねぇんだ。実際、飯の時に一口もご馳走を口にしなかったろ?あいつの素顔を知っているのは、幼馴染の煉獄とその親父……つーか、煉獄家の連中だけだろうな。」

 

「そう……ですか。教えて下さり、ありがとうございます。俺は別に素顔を無理に知りたいとかじゃないですけど、一緒に温泉に入れないのは残念ですね。」

 

炭治郎は天元に礼を述べると、改めて小芭内と一緒に温泉に入れない事を残念に思った。




お待たせ致しました。

温泉回が漸く本格導入です。

炭治郎君は義勇に振り回されていますね(笑)。それと行冥達と親しくなっていく炭治郎君の姿を掛けて満足しています。

鬼滅女子とイチャつく炭治郎君を書くのが好きなのですが、こうして男性陣と友情を深めるのも悪くないですね。

書いてて思ったけど、やっぱり実弥はハードル高いですねぇ(;^ω^)。

炭治郎と無一郎のやり取りですが、実は第肆話のオマージュが入っている事に気付いた方が居られたら嬉しいです。

更新予定は二月中です。お楽しみに!


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椿様
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イラストも漫画も小説も御出来になる、素晴らしく万能なお方です。良ければTwitterの方も訪問してみて下さい。


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第肆拾参話 日輪と鬼殺隊の柱は交流を深める ★

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*未成年飲酒と未成年喫煙は犯罪行為です。絶対に真似しないで下さい。お酒と煙草は二十歳になってから。
*超辛口表現有り。苦手な方ご注意下さい。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「楽しそうだな、お前ら。」

 

『っ!』

 

男性用の大浴場に入っていたのは、愈史郎であった。水色の湯浴みを着用している。

 

「にゃおぉ。」

 

更に愈史郎の足元には、茶々丸も同行していた。

 

『!!』

 

茶々丸の存在に気付いた炭治郎達は、驚きを隠せない。基本的に動物は立入禁止の大浴場に居るのだから、炭治郎達の反応は至って常識的である。そんな空気を察してか、愈史郎が咄嗟に茶々丸に関して話を始めた。

 

「茶々丸に関しては、耀哉から許可を得ている。好きにしてくれて良いそうだ。先ず外で洗うがな。」

 

そう言って茶々丸を擁護してから、自身の身体を洗い始めた。

 

「……愈史郎さん。身体を洗うんでしたら、背中を流すの手伝いますよ。」

 

温泉から出た炭治郎が、愈史郎の下へと向かって身体を洗うのを手伝いに向かった。

 

「別に気を遣わなくても良いんだぞ? 炭治郎。」

 

「俺が好きでやっていますから、気にしなくて大丈夫ですよ。」

 

炭治郎はそう言って、愈史郎に遠慮無用と胸に手を置いた。

 

「分かった。お言葉に甘えさせて貰うとしようか。」

 

「はいっ! 存分にお任せ下さいっ!!」

 

炭治郎は愈史郎から快諾されると、嬉しそうに喜色満面の笑みを浮かべた。しかしそれも愈史郎の一言で、間髪入れずに消滅する事になる。

 

「その前に炭治郎、お前……随分と喰われたんだなぁ……それ。」

 

「っ!?……あ、あのっ! えっと、その……あ、ははは……っ。」

 

 

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提供:椿様 

 

愈史郎が炭治郎の口付け痕(キスマーク)を指摘すると、炭治郎は困った様子で頭を掻いて、誤魔化す様に身体を反らした。

 

尤も、炭治郎の全身至るところに口付け痕(キスマーク)がところ狭しと存在するのだから、はっきり言って意味の無い無駄な抵抗である。

 

すると、愈史郎は新たに在る事実に気付いた。

 

「炭治郎、その歯形はどうした? しのぶかあの二人の誰かに噛まれたか?」

 

「!?」

 

愈史郎は炭治郎の左肩に在る歯形に気付いて、興味本位から炭治郎に尋ねるとあからさまな様子で炭治郎が狼狽した。

 

「えっと……その……違います。」

 

「っ!?……何だと?」

 

愈史郎は炭治郎から思わぬ返答を受けて、心配そうに炭治郎を見詰める。そんな愈史郎を見て、炭治郎は慌てて答えた。

 

「た、大した事じゃないんです! その……無一郎君に、付けられました。」

 

「無一郎?……まさかっ。」

 

炭治郎から歯形を付けた犯人を聞いて、愈史郎は温泉の方へ視線を向ける。そして再びゆっくりと、正面から炭治郎と向き合った。

 

「……時透か?」

 

「はい、そうです。」

 

「……」

 

歯形を残した犯人の名前を炭治郎の口から直接聞いた愈史郎は、ゆっくりを双眸を閉じて一瞬の間だけ沈黙する。

 

そして双眸を閉じたまま、炭治郎の両手をゆっくりと両肩に置いた。それから双眸を見開いて、炭治郎に淡々と愈史郎は忠告する。

 

「炭治郎。俺は他人(ひと)にとやかく言うのは好きじゃない。はっきり言ってしまえば、俺にとって珠世様以外の全てが基本的にどうでも良い事だからだ。」

 

そう言って愈史郎は、珠世の至高の位置に添えている事をはっきりと宣言した。愈史郎は語り続ける。

 

「忠告だ。俺とお前の仲に免じて、一度だけ忠告してやる。これだけは言っておくぞ。」

 

愈史郎は事前にそう言いはしたが、次に発せられる言葉は心底炭治郎の事を慮っていた。

 

「……同性愛(衆道)だけは、止めておけ。しのぶ達が泣く。」

 

「愈史郎さん、それは誤解です。」

 

炭治郎が愈史郎の忠告内容を聞いて、心底心外だとばかりに抗議する。

 

「炭治郎。確かに時透は初見だと、女と見間違わんばかりに整った顔をしている……だが男だ。服を剝いで全裸(はだか)にしても、お前の日輪刀を収める鞘なんて何処にも無いぞ? あいつの前に有るのは、一本の竿と二つの玉だけだ。……後ろなら無理矢理入れようと思えば、入れられる穴は有るには有るが……。」

 

しかし、愈史郎は聞く耳を持たない。真剣な表情で炭治郎の説得を続けていた。

 

「愈史郎さん、落ち着いて下さい。俺は衆道(その道)を歩む心算なんてありませんからっ……全っったくありませんからっ!!!」

 

愈史郎が真剣な表情で伝えた忠告に、炭治郎もまた真顔で返答を行った。

 

「ぷっ! くくくくくっ!!……いひひひっ!!……だーはっはっはっ!!!」

 

炭治郎と愈史郎の二人のやり取りの一部始終を見守って盗み聞きしていた天元は、堪え切れずに大爆笑して愉快な声を大浴場中に響かせていた。

 

「愈史郎。」

 

「「っ!」」

 

突然呼ばれた声を聞いて、炭治郎と愈史郎は声がした方へと顔を向ける。其処には何時の間にか温泉から上がっていた行冥が居た。

 

「……何だ?」

 

「茶々丸は私が洗おう。自分の身体を洗う事を、優先すると良い。」

 

「いや、そんな気遣いは別に要らん。」

 

行冥の提案に対して、愈史郎はそう言って断った。

 

「遠慮する事など無い。私に茶々丸は任せて貰いたい。」

 

「いやだから、別に要らんと……。」

 

「一切抜かり無く、茶々丸の身体の隅から隅まで、余さず洗ってみせる。」

 

「お前は先ず、俺の話をちゃんと聞け。俺は必要無いと最初から「全て、任せろ。」……お、おう。」

 

「うむっ! 任された!」

 

「「……」」

 

愈史郎は行冥に強引に押し切られる形で、茶々丸の洗浄を委託する事となった。愈史郎の傍に居た炭治郎も何も口を横から挟む事が出来ず、沈黙する他に無かった。

 

「茶々丸よ。じっとしているのだぞ? だが、痛ければ我慢せず鳴く様にな。」

 

「にゃおぉ。」

 

「南無。お前は良い子だな。」

 

行冥は緩み切っている頬を隠す事無く、茶々丸を洗い始めた。

 

「「……」」

 

一方の炭治郎もまた、愈史郎の背中を流し始めた。その動きを合図に、愈史郎も身体を洗い始める。

 

「愈史郎さんは、どうして大浴場(此処)に?」

 

「珠世様に先に行けと言われて、仕方無くな。」

 

そう話している間に、炭治郎は愈史郎の背中を流し終えて次に洗髪も行う。愈史郎が身体を洗い終えた頃に、その洗髪が終了した。愈史郎はお湯を頭から何度か被り、身体に付いた水滴を払う。

 

「……炭治郎。運ぶ物が有るから、手伝ってくれないか?」

 

「良いですよ。」

 

頼み事を依頼された炭治郎は快諾して、愈史郎の後に付いて行った。

 

「こんなものだろうか?……不満は無いか? 茶々丸。」

 

「にゃおぉ。」

 

「そうかそうかっ! ならば良いっ。」

 

行冥は笑いながら、茶々丸を機嫌良く抱き上げて少しばかり笑った。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「おっ!? おいお前らっ! それってまさか……っ!」

 

天元が興奮した様子で、炭治郎と愈史郎を凝視していた。正確には、手に持っている物を凝視していたのだが。

 

因みに茶々丸を洗い終えた行冥は再び温泉に身体を浸かり、茶々丸は温泉で犬掻きならぬ猫掻きをして優雅に泳いでいた。

 

「耀哉とあまねからの差し入れだそうだ。……飲み過ぎるなよ?」

 

愈史郎がそう言った瞬間、大浴場で歓声が挙がった。尤も、歓声を挙げたのは主に天元であり、それに釣られた伊之助であったが。

 

しかし敬愛する産屋敷夫婦からの差し入れに、行冥達は心無しか喜んでいた。

 

「はい、皆さん取って行って下さい。」

 

炭治郎と愈史郎が持っていたのは、御盆に載せられていた徳利と酒盃であった。

 

「かあぁぁぁっ! 御館様もあまね様も気が利くねぇ。」

 

天元は嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら、徳利に手を伸ばそうとする。すると愈史郎がその前に口を開いた。

 

「言っておくが全部が全部、中身は日本酒では無いからな。」

 

『!』

 

愈史郎の一言に、行冥達は驚いた。全て徳利なのだから、日本酒では無いのはおかしいからだ。愈史郎はその事について早速、説明を始めた。

 

「耀哉の趣向でな、空の徳利に何種類もの酒を入れてあるんだ……まぁ湯気が出てるのは熱めの酒だと見れば誰でも分かるし、炭治郎に至っては匂いで分かるだろうがな。」

 

「うーんっ……愈史郎さん。確かに幾つかの徳利からは、果物の匂いがするのは分かります。」

 

愈史郎の言葉に炭治郎は肯定した。しかし同時に、困った様子で愈史郎に異議を唱え始める。

 

「待って下さい、すんすん……けど何個かは何の匂いかはやっぱり、原材料が何なのかそれすら分からないんですけど……いや、麦とお米かな? でも、それだけな訳じゃなくて、俺も初めて嗅ぐ匂いです。」

 

炭治郎は匂いを何度も嗅ぐが、どんな酒の匂いかまでは分からなかった。

 

「間違ってはいないぞ。寧ろ正しい……ああ、そうか……。いくら炭治郎でも流石に初見だと、何か分かる訳無いよな。種明かしをすると幾つかの洋酒……外国の酒も含まれているぞ。」

 

清酒や単純に酒と呼ばれていた日本酒が一般的な名称とされ始めたのは、明治時代以降である。それは様々な洋酒が日本に輸入され、国産も作られていったからだ。

 

其処で古来より作られていた清酒を諸外国への宣伝も兼ねて"日本酒"と呼称される様になったのである。

 

「そうでしたか……俺、外国のお酒の匂いなんて、生まれて初めて嗅ぎましたよ。」

 

愈史郎の言葉に納得した様子で、炭治郎は頷いた。

 

「大判振る舞いだねぇ……それにしても、御館様も面白れぇ事を思い付くじゃねぇか。」

 

「あのお方らしい……。」

 

天元は楽しそうに、行冥は納得した様にそう口にした。

 

「風呂場で酒を飲むと酔いが早く回るから、本音で言うと止めて貰いたいんだがな。」

 

愈史郎は医療関係者の立場からか、苦言する様に炭治郎達にそう言った。

 

「地味な心配すんな。この程度の酒の量で酔い潰れる奴ぁ居ねぇよ。よっしゃ飲むぞ~~。」

 

天元の言葉を口火に、全員が次々と徳利に手を伸ばし始めた。

 

「おおっ! こいつぁ初めて飲む酒だぜぇ!! 最初にツンと来るが、後引く味が何とも言えないっ。」

 

「その匂いは確か……火酒(ウイスキー)だな。麦が基本原料である洋酒の一つで、何種類かあまねが収集した酒も入って居るらしいぞ。」

 

「っ!……あまね様の収集品かっ……。」

 

行冥は愈史郎の話を聞いて、合点が行った様子で頷いた。愈史郎は酒を持たされた際に、説明が出来る様に珠世と共に酒の匂いを嗅がされているのだ。炭治郎はそんな行冥を見て、在る疑問を尋ねた。

 

「悲鳴嶼さん。あまね様ってお酒を集めたりするんですか?」

 

「うむ。あまね様はああ見えてお酒を嗜まれる……二時間(一刻)飲み続けても顔色一つ変えない蟒蛇なのだ。」

 

『!!!』

 

行冥からあまねの逸話を耳にして、炭治郎達は驚愕する。義勇と実弥も初耳なのか、双眸を見開いて驚愕していた。すると天元が火酒(ウイスキー)をもう一杯飲み干してから、同意する様に会話に参加する。

 

「悲鳴嶼さんの言う通りだ。一度だけ御館様に頼まれて一緒に酒を飲んだ事が有るんだが、嫁共々派手に潰されちまったなぁ。」

 

「「……っ。」」

 

義勇と実弥が信じられないものを見る様な目で、天元に視線を集中させた。

 

「ゴクッ……梅酒か……優しい喉越しだ。」

 

行冥は炭治郎程に優れている訳では無いが、嗅覚を使って比較的好んで飲む梅酒を選び、その味を楽しんでいた。

 

「……」

 

義勇は何も言わずに、井戸水で冷やされた日本酒の冷酒をチビチビと飲んでいた。

 

「……っ!……最初に苦みが有るが、その分後から来る甘さが際立つなァ……。」

 

葡萄酒(ワイン)だな。葡萄が原材料の甘味の強い酒だぞ。」

 

実弥は初めて飲む葡萄酒(ワイン)の味に驚きながらも、気に入ったのか僅かに笑みを浮かべていた。

 

「……あっ……僕、このお酒好きかも……。」

 

生まれて初めて酒を口にした無一郎は日本酒の熱燗を飲み干してから、熱燗の味を気に入った様子で笑みを浮かべた。すると自身が口にした酒盃を置いてから、もう一つの酒盃を取って炭治郎に渡した。

 

「炭治郎も飲んでみなよ? 僕が注いであげるから。」

 

「え……じゃあ、頂きます。」

 

炭治郎は無一郎から酒盃を貰って熱燗を注いで貰うと、礼に頭を軽く下げてから一気に呷った。

 

「……くぅ~~っ! 辛いなぁっ!……あっ、でもこの味、癖になるかも……。」

 

炭治郎は喉を焼く熱さを感じながら、熱燗の余韻に浸っていた。

 

「……」

 

するとそんな炭治郎を見た義勇が、徐に徳利を持って炭治郎に接近し始めた。

 

「炭治郎。今度はこの酒を飲んでみたらどうだ?」

 

「あ、はいっ。頂きますね、義勇さん。」

 

義勇に冷酒を酒盃に注いで貰った炭治郎は、一礼してから一気に呷った。

 

「……ふぅ……冷やすのと温めるのとでは、結構違うんですね……。」

 

「どっちが美味しかった? 炭治郎?」

 

無一郎が興味深そうな様子で、炭治郎に尋ねた。すると炭治郎は両方の酒の味を思い出しながら、結論を口にした。

 

「うーん。両方共美味しかったけど、どちらかと言うと……俺は熱燗の方が好みかな?」

 

「……そうか。」

 

「っ!……そっか! 僕達気が合うんだね!」

 

何故か無一郎は嬉しそうにそう言って喜んだ。義勇は何とも思っていなかったが。

 

「しゃあ!……俺も飲むぞぉ!!」

 

伊之助が手をわちゃわちゃと動かすと、徳利を一つ取って選択した。すると自身の酒盃は取らずに、徳利から直接飲もうとし始めた。

 

「何やってんだ、馬鹿たれェ。」

 

「いってぇ!?」

 

そんな伊之助の品の無い蛮行とも解釈出来る行動を見てすかさず、実弥が伊之助の頭に拳骨を落とす。

その際に伊之助は徳利を離して落としてしまうが、実弥が徳利を掴んだために温泉内に酒が零れる事は無かった。

 

「てぇ~~~っ……殴るこたぁねぇだろ!?」

 

「徳利から直接飲むんじゃねぇ。注いでやるから酒盃を持てェ。」

 

「……おう。」

 

実弥にそう諭された伊之助は、一転して大人しく酒盃に酒を注いで貰い、炭治郎を真似て一気に酒を呷った。

 

「っ!……ふぃ~~~。甘くて美味ぇ……。」

 

「お、おいっ!? 大丈夫か、おいっ!?」

 

伊之助は実弥と同じ葡萄酒(ワイン)を口にして、顔を赤くしながらフラッと身体を揺らした。実弥はそんな伊之助を見て、思わず声を掛けた。

どうやら毒耐性が強い伊之助も、酒精(アルコール)の耐性は低かった様だ。

 

「ゴクッ……この酒、美味いなぁ……ねぇ愈史郎。これも葡萄の味がするけど、同じ葡萄酒(ワイン)なの?」

 

善逸は選んだ徳利から酒を酒盃に注ぐと、一口飲んで味を確認した。その酒の味を気に入った善逸は、愈史郎に確認のために尋ねた。

 

「ん? すんすん……同じ葡萄で作られた酒でも、これは葡萄酒(ワイン)じゃなくて、葡萄地酒(ブランデー)だな。」

 

「そっちも旨そうだな。おい、善逸。その酒くれよ。」

 

善逸の名前を天元が呼ぶと、善逸の葡萄地酒(ブランデー)を催促した。すると善逸は天元の催促に対して、露骨に顔を顰めた。

 

「えぇ~~~……人のモン取ろうとしないで下さいよぉ。」

 

「ケチ臭い事を地味に言うなって。交換条件つーか、俺の火酒(ウイスキー)をやるからさ。」

 

「あんたのじゃないでしょうに……ほら、入れますよ。」

 

「おうよ。」

 

善逸は不承不承としながらも、了承して互いに酒を酒杯に注いだ。

 

この大浴場で広がる酒宴を見ると、初見では双眸を見開いて驚愕を覚える事だろう。炭治郎を含む四人の未成年者が、一切の躊躇を覚える事無く酒を口にしているのだから。

 

しかしこれは決して炭治郎達が不良だからとか、倫理観が欠如しているなどという訳では無い。

 

大正時代初期まではこれが当たり前の光景だったのだ。飲酒年齢という、現代社会では常識的な概念が存在しなかったからである。居酒屋などで親と幼い子供が酒を飲むなど珍しくも無い、ありふれた光景であった。

 

この未成年飲酒が法律違反という概念が生まれるには、『未成年者飲酒禁止法』が制定される一九二二年(大正十一年)まで待たなければならない。

 

因みにこの『未成年者飲酒禁止法』だが、実は一九〇一年(明治三十四年)に一度帝国議会に提出されているのだ。しかし、何と『屋内での飲酒の取り締まりは困難』という、通常では考えられない理由で否決されている。

 

尤も、もし可決されていればこれから起きる交流は存在しなかったのだから、この場においては吉と出たと判断しても過言では無い。

 

更に余談だが、この『未成年者飲酒禁止法』と対なる法案である『未成年者喫煙禁止法』は一九〇〇年(明治三十三年)に帝国議会で提出され可決となり、正式に制定されている。

 

尤も、呼吸術が隊士の生命線と言っても過言では無い鬼殺隊において、肺を著しく傷付ける煙草など許される趣味では無いため隊律で厳しく禁じられている。

 

もしこの隊律違反を犯した場合、一度のみ許されるが二度目を破ると鬼殺隊から追放される事になっている。

 

またこの隊律は未来の鬼殺隊の隊士達を育てる育手にも適用され、隊律違反を犯した育手は育手の権利を失い追放処分を受ける。育手としての心構えや資格が無いと判断されるのだから、妥当な処分では有るのだが。

 

尤も、炭治郎は煙草の匂いを毛嫌いしているので、はっきり言ってどうでも良い、無関係な話である。

 

 

 

*未成年飲酒及び未成年喫煙は犯罪行為です。絶対に真似しないで下さい。お酒と煙草は二十歳になってから。

 

 

 

そんな法案が将来成立する事など知る由も無い炭治郎達は、酒の批評を楽しんでいた。

 

「あまね様がお酒に強いなら、輝利哉様達もお酒に強いのかなあ。」

 

『!』

 

炭治郎が不意に疑問に思った様に、それと無くそう呟いた。炭治郎の呟きに、次々と反応が起きる。

 

「流石にあの歳では、まだ分からんと思うぞ。」

 

何を言っているんだと言わんばかりに、愈史郎は炭治郎にそう言った。

 

「輝利哉様達が(もうちょっと成長してから)飲めば分かる事だろう。」

 

義勇がボソッとそう呟くと、実弥が青筋を浮かべてツッコミを入れる。

 

「おいテメェ、冨岡ァ。今何を端折りやがった? もう騙されねえからなァ。」

 

実弥がそう言って義勇を睨み付けるが、義勇は何も答えず実弥を無視する。そのため実弥は酒杯を持っている手に、力を籠める程に苛立ちが増す。

 

――あの二人、仲が悪いなぁ……と言うより、不死川さんが一方的に義勇さんが気に入らないって感じかな?

 

義勇と実弥のやり取りを見ながら、炭治郎はそう分析した。しかし炭治郎は困った表情を浮かべながらも、二人の間を割って入る様な真似はしない。自分が割って入ったところで、状況が悪化すれど良くなる事は無いと理解しているからだ。

 

炭治郎は結局、義勇を心配しつつ不干渉を選択してその場を離れた。それから行冥の下へと向かう。因みに、無一郎も炭治郎の後から付いて行った。

 

「悲鳴嶼さん、お酌しますね。」

 

「っ!……そうか。ありがとう、炭治郎。」

 

炭治郎は徳利を一つ選ぶと、行冥の酒盃に注いだ。酒を注がれた行冥は、炭治郎に礼を述べてから一気に酒を呷った。

 

「ふぅ……ありがとう、炭治郎。」

 

「?」

 

すると行冥は一呼吸おいてから、再び炭治郎に礼を述べた。その事に、炭治郎は首を傾げる。それから炭治郎は少し困った様子で、もう一度酒を酒盃に注いでから行冥に開口した。

 

「悲鳴嶼さん。俺……二回もお礼を言われる様な事なんて、してませんよ?」

 

「酌をしてくれた事では無い……いや、酌をしてくれた事も礼を言うが、他の事で私は君に礼を言いたいんだ。」

 

「他の事?」

 

炭治郎の隣に居た無一郎が、炭治郎に代わって行冥の言葉を復唱した。それから行冥は、自身が炭治郎に礼を述べる理由を語り始めた。

 

()()()、沙代の事だ……君達兄妹が沙代を鬼の魔の手から救ってくれなければ、あの娘の命は既に此の世に留まっては居なかっただろう。」

 

「!」

 

行冥は炭治郎に沙代の命を、鬼から守り救った事に感謝を述べた。更に沙代について、行冥は語り続ける。

 

「何より……君が沙代から真相を聞き出してくれなければ、私は生涯に渡ってその真実を知る事は無かったに違いない。

私は昨日まであの娘に会いたいとも、もう一度話したいとも思っていなかった。況してや、和解しようなどと思う気持ちさえも抱いていなかったのだから。」

 

『……』

 

行冥の酒盃に入って居た酒が、僅かに揺れて酒盃の中で小さく波紋を広げる。

 

「そして()()()……君がしのぶを救ってくれた事は、私は幾ら感謝してもし切れない。」

 

『!』

 

しのぶが話題に出た瞬間、炭治郎達全員の注目度が沙代の時よりも格段に増した。

 

「しのぶが語っていた事を補足すると、あの娘がカナエと共に眼前で両親が鬼に殺された。その時の鬼を倒して二人を救ったのが、この私だ。」

 

『!?』

 

「……」

 

思わぬ過去を聞いた天元達は、驚愕しながら行冥を凝視する。

 

一方で炭治郎だけは冷静に、行冥の語った話に耳を傾けていた。カナエから夢幻世界で事前に話の一部始終を聞いているのだから、当然と言えば当然の話なのだが。

 

「その後、姉妹揃って私の屋敷にやって来た。鬼殺隊に入隊するための方法を、私から知るためにな……あの時に私は、二人から恨まれてでも市井の人として暮らさせるべきだったのではないか? 私の所為で、カナエとしのぶの運命を狂わせてしまったのではないかと……ずっと心の奥底で思っていたのだ。」

 

行冥が長年、心の奥底で抱き続けていた後悔の念を苦しそうに吐露した。しかし、これだけで今日まで抱いていた行冥の後悔の念は終わらない。

 

「何より辛かったのは……しのぶの身体が毒に蝕まれている事を知っていながら、私は何もしようとはしなかった事だ。否……何も出来なかった。私にはしのぶを止める資格も権利も、有りはしなかった……。」

 

『!!』

 

行冥の告白を聞いて、炭治郎達は驚愕した。継子のカナヲ達でさえ知らなかった事実を、行冥が知っていたとは思わなかったからだ。

 

尤も、一人だけ驚いていない人物が居た。愈史郎である。

 

「何だ。やっぱり悲鳴嶼はしのぶの身体の秘密を知っていたのか。」

 

『!?』

 

愈史郎が納得した様子を浮かべて呟いた一言に、炭治郎達は再び驚愕する。そんな炭治郎達を無視して、愈史郎は天元に向かって指摘した。

 

「それから、宇髄。お前もしのぶの身体の事に気付いていただろう?」

 

『えっ……?』

 

『何っ!?』

 

『!』

 

愈史郎の指摘を受けて、炭治郎達は驚愕しながら天元に注目を移した。

 

「バレちまうたぁ地味に驚きだ……何処で気付いたよ、愈史郎?」

 

「別に確信なんぞ有った訳じゃない。俺がしのぶの件を暴露した時に、お前と悲鳴嶼だけ動揺していなかった。それだけだ。正直に言うと、半信半疑だったよ。」

 

「そうかよ。」

 

愈史郎が二人を見抜いた理由を聞いて、天元は肩を竦めた。

 

「悲鳴嶼は感覚で察知したみたいだが、お前はどうやって知ったんだ?」

 

天元がどうやってしのぶの身体の秘密を知った理由が気になって、愈史郎が天元に尋ねる。

 

「おいおい、地味に忘れたのかぁ? 俺がお前に投げ付けた、あの苦無に塗られていた藤の花の毒をよ。」

 

「っ!……お前は毒に精通していたから、しのぶの身体の秘密に気付いたとでも?」

 

愈史郎は天元が言いたい事を察して、敢えて口に出してみた。

 

「その通りだ。俺を誰だと思ってやがる? "元忍び"の宇髄天元様だぞ。その界隈では派手に名前を轟かせた男だ。」

 

「あーもう良い。凄まじく頭の悪い発言を聞いた所為で頭が痛くなって来たわっ。何だ、その矛盾しかない発言は? 幾ら何でも巫山戯け過ぎだろうがっ。」

 

「嘘でも無いんだがなぁ。」

 

「「「……っ!」」」

 

天元の発言を聞いた愈史郎は、濡れた手で頭を抱えながら天元を睨み付けた。

 

しかし、天元は嘘は吐いてなどいない。事実、炭治郎達も各々の特化した感覚で真偽を見抜いていた。

 

「……炭治郎。」

 

『!』

 

天元と愈史郎のやり取りを余所に、沈黙していた行冥が炭治郎の名前を呼んだ。それを聞いて、天元と愈史郎も会話を止める。

 

次に行冥は憑き物が落ちた表情を浮かべて、炭治郎に顔を向ける。

 

「……ありがとう、しのぶを救ってくれて……心から感謝している……っ。炭治郎。本当に、ありがとう。」

 

「……っ。」

 

行冥の深い感謝の言葉に、炭治郎は咄嗟に何も言えず沈黙する事しか出来なかった。しかし、一度息を整えてから炭治郎は、行冥に向かって言葉を掛けた。

 

「悲鳴嶼さんのお役に立てて、とても嬉しいです。ですが……俺の方こそ、貴方に感謝しなければなりません。」

 

「!」

 

炭治郎は続けて、行冥に感謝をする理由について語り始めた。

 

「悲鳴嶼さんがカナエさんとしのぶさんを救ってくれたから、俺は巡り合う事が出来たんです……だから悲鳴嶼さん。二人を助けてくれて、俺達を結んでくれて、ありがとうございました。」

 

炭治郎は酒盃を温泉に浮かべているお盆に戻し、姿勢を正してから行冥に深々と頭を下げた。温泉に顔を着けない様に、気をつけながら。

 

「……」

 

そんな炭治郎を感じ取った行冥は、ゆっくりと片腕を炭治郎に向けて伸ばした。その際に水音が大浴場に響き渡る。

 

「!」

 

炭治郎が閉じていた双眸を見開く。頭に自身と異なる感覚が有ったからだ。それは行冥が片手をポンと、炭治郎の頭に乗せた感覚であった。

 

「……鬼の妹を背負いながら、たった一人で良くぞ此処までやり遂げて来た。改めて言うがこれからは私も、君の助けになるぞ。炭治郎……。」

 

「ありがとうございます……えへへっ。」

 

行冥が優しく炭治郎の努力と苦労を労うと、炭治郎は少しだけ涙を浮かべながらも、懐かしい感覚を覚えて笑みを零した。そんな炭治郎を見て、嘗ての自分と沙代の一面を懐かしんで行冥もまた優しく微笑む。

 

「……行冥で良い。」

 

「えっ?」

 

炭治郎の頭を撫でながら、行冥がボソッと呟いた。聞き取れなかった炭治郎は、反射的に聞き返す。行冥は今一度、はっきりと炭治郎に告げた。

 

「私の事も冨岡達と同様、名前で呼んでくれても構わない。寧ろ、その方が私も嬉しい。」

 

「っ!……じゃあ、お言葉に甘えますね。行冥さん。」

 

炭治郎は行冥の名前を呼んでから、嬉しそうにはにかんだ様な笑顔を見せた。『百眼符・視』を着用していない今の行冥だが、それでも炭治郎が笑顔で居る事が分かる様につられて微笑みを返した。

 

「……悲鳴嶼さん()()、そんな後悔が有るんだな。」

 

『!』

 

そんな二人のやり取りを余所に、義勇がボソッと一言呟いた。その義勇の呟きを耳にして、炭治郎と行冥が我に返る。その時には、大浴場に居た全員の視線が義勇に移っていた。其処へ無一郎が全員を代表する形で、義勇に尋ねた。

 

「冨岡さんも、悲鳴嶼さんと同じ後悔をした事が有るんですか?」

 

「ああっ。」

 

義勇は無一郎の質問に、力無く肯定する。

 

「だが、その前に……。」

 

義勇は炭治郎をしっかりと視線を合わせてから、一度その双眸を閉じる。

 

『?』

 

「……」

 

炭治郎達が疑問に思う中、義勇が閉じていた双眸を開いて再び炭治郎に視線を合わせた。

 

「炭治郎。鱗滝先生から、手紙で話は聞いている。お前が"最終選別"の時に、錆兎達を喰い殺した仇敵(かたき)の鬼を倒してくれていたそうだな?」

 

『!』

 

義勇が話した内容に、行冥達は注目した。その内容は義勇の事情を既に耳にした皆には、直ぐに理解出来た。

 

「遅くなって済まなかった。錆兎達の、俺の親友(とも)仇敵(かたき)を討ってくれて……ありがとう、炭治郎。」

 

義勇はそう言って、炭治郎に頭を下げて感謝の意を示した。

 

「義勇さん……。」

 

炭治郎は尊敬する義勇からの感謝の言葉に、胸が熱くなった。

 

「それから……正直に言うと、お前と禰豆子の事で俺は後悔している事が有る。」

 

『!?』

 

「えっ……?」

 

唐突な義勇の告白に、炭治郎は少し当惑した様子を見せる。しかし、その当惑が深くなる前に義勇がその理由について語り始めた。

 

「炭治郎は良く俺のお蔭で、禰豆子と共に救われたと言ってくれているが……俺は二年前のあの日の事で後悔している。もっと早く……せめて半日早く雲取山に到着していれば、間に合ったかもしれない。」

 

「俺が盾になっていれば、炭治郎は家族を失わずに済んで、禰豆子も鬼にならずに人間の少女にままで居られたんじゃないか……そしてその不甲斐無い俺の所為で、鬼狩りの道を歩ませてしまったと、本当に……本当に申し訳無く思っている……。」

 

『……』

 

義勇はそう言うと、気持ちが沈んだ様子で僅かに炭治郎へ頭を下げた。炭治郎は慌てて、義勇に答えようとした。

 

「義勇さんっ! 俺はっ「真面目に話を聞いて見れば、どいつもこいつも全く持って馬鹿馬鹿しい……。」……っ!!!」

 

『!!!』

 

炭治郎の言葉を遮断して吐き捨てる様に言い捨てたのは、黙って話を聞いていた愈史郎だった。

そんな愈史郎に、炭治郎達は双眸を見開いて反応する。

 

「おいこら、愈史郎。どう言う意味だよそりゃっ。」

 

天元が苛立ちを隠す事無く、青筋を浮かべて愈史郎を睨み付けた。天元に同意する様に、困惑する炭治郎を除いた行冥達全員が不愉快そうに愈史郎を睨み付けた。しかし、愈史郎は怯む事無く鼻で嗤う。

 

「はっ、聞こえなかったのか? 俺は悲鳴嶼の話も冨岡の話も、全部馬鹿馬鹿しいって言ったんだよ。」

 

再びそう吐き捨てると、愈史郎はその馬鹿馬鹿しいと思う理由について炭治郎達に説明を始めた。

 

「先ず、そんな『たられば(もしも)』なんて話して何になる? 考えるだけ時間の無駄だろうが。どんなに過去は変えたくても、誰にも変えられないんだからなっ。」

 

『……っ。』

 

愈史郎は正論を言うと、炭治郎達は何も反論出来ず沈黙するしか無かった。愈史郎はそんな炭治郎達を見てから、行冥に向かって話し始めた。

 

「悲鳴嶼。お前は色々ほざいていたがな、今度は俺が思い付いた『たられば(もしも)』を話してやる……もしお前がしのぶ達の鬼殺隊への入隊を許さなかったところで、別の方法で鬼殺隊に入隊する道を探していたさ。絶対にしのぶ達は諦めなかっただろうよ。」

 

『!』

 

愈史郎が語った『たられば(もしも)』に行冥達は思わず睨み付けるのを止めて、愈史郎の話に耳を全集中して傾けた。

 

「そして仮にお前の救出が間に合って、しのぶの家族全員で生き残れて万々歳だったとしよう……カナエについて俺は何も知らんし分からんが、しのぶを見れば俺でも分かる。」

 

愈史郎は一呼吸おいてから、己の推測を断言した。

 

「あいつらが自分達の知らないところで、鬼に殺される人々が居る。大切な人を奪われ、幸福を壊されている人々が居る。そんな残酷な事実を知って、何もしなかったとは思えないな。」

 

「っ!……それは……っ。」

 

『……っ。』

 

しのぶの性格を知った上で考え出した『たられば(もしも)』の話に、炭治郎達は思わず頷きそうになった。

 

鬼の事を知れば、たとえ家族が健在だったとしても鬼殺隊の門を勢い良く叩く胡蝶姉妹の姿が容易に目に浮かんだからだ。

 

そんな炭治郎達を見て一通り満足した愈史郎は、今度は義勇を標的にして語り始める。

 

「それから冨岡……お前は随分と、()()()()()()()()()()()を考えているよな?」

 

『!』

 

「っ!……何だとっ……愈史郎。()()()()()()()()()()()とは、どう言う意味だ……?」

 

義勇は不快感を隠す事無く、青筋を浮かべて愈史郎を睨み付けた。

 

「あっ? そのままの意味に決まっているだろうが。筋金入りの馬鹿か、お前は。」

 

愈史郎は義勇にそう言って鼻で嗤いながら反論し、一方的に語り始める。

 

「お前がもし雲取山に間に合っていたら、死体が一つ余計に増えていただけだぞ? その余計な死体とは無論、お前の事だ。この間抜け。」

 

「っ!……っ。」

 

愈史郎は当然の如く、もし間に合っていたら義勇は死んでいたと断言した。愈史郎の言葉を聞いて、義勇は悔しそうに唇を噛みながら反論を試みる。

 

「っ……だが俺が盾になる事で、炭治郎の家族を無惨から逃がせた可能性が……っ!」

 

「無い。そんな可能性は万どころか、億に一つも無い。」

 

義勇が語った『たられば(もしも)』を、愈史郎は無碍に斬り捨てる。

 

「分かっているのか? 無惨は最初にして最強の鬼だぞ?……たかだか上弦の鬼如き一人で倒せない奴が、無惨を相手にたった一人で挑んで勝利する事も、足止めのための時間稼ぎも、出来る訳が無いだろうがっ! 無惨にその程度の実力しか無いのなら、初めから珠世様も耀哉もこんなに苦労なんかしないんだよっ!!」

 

上弦の鬼を倒せる力を持たないというのに、無惨相手に何とか出来ると考えた義勇の一考を愈史郎は根底から否定する。

 

「これで分かったか? 分かったら自惚れも大概にしとけ。この役立たずの雑魚がっ。」

 

『!!!』

 

「……っ……っ……。」

 

鬼殺隊の頂点に位置する柱の一人である義勇を雑魚呼ばわりする、愈史郎の傍若無人な罵詈雑言に炭治郎達は絶句して固まる。

 

そして一方的に罵倒された義勇は、悔しそうに更に唇を強く噛んで愈史郎を睨み付けた。そんな義勇に、愈史郎は溜め息を吐いてからゆっくりと語る。

 

「はぁ……そもそもだ、冨岡。お前はどうして()()()()()()()()を見事に掬い取ったという、その自覚が無いんだ? 其処はもっと胸を張っとけば良いだろう?」

 

()()()()()()()()を掬い取った、だと……?」

 

義勇は愈史郎の言葉を理解し切れていない様子で、愈史郎が言い放った言葉を復唱した。愈史郎は再び溜息を吐いてから、ゆっくりと語り始める。

 

「耀哉も言っていたじゃないか。冨岡義勇だから、炭治郎と禰豆子を救う事が出来たんだと。」

 

「っ!」

 

義勇は愈史郎の指摘を受けて、ハッとした表情を浮かべる。

 

「耀哉の言葉を借りれば、禰豆子の特異性はお前じゃなかったら見抜けなかったと言っても過言じゃないという事だ。」

 

愈史郎はそう言って、義勇の英断を称賛する。

 

「……そう言われて見れば、俺でも簡単に想像出来るぞ? もし他の柱が炭治郎と禰豆子に出会っていたら、どんな結末が待っていたかをな。考えただけでもゾッとするわ。」

 

呟く様に断言した愈史郎は身体をブルっと震わせてから、忌々しそうに次の言葉を吐き捨てた。

 

「ああ、何て事だ。他の(馬鹿)が馬鹿な事を吐き捨てた挙句、大馬鹿をやらかすところが簡単に想像出来るぞ。炭治郎。二年前に出会った鬼狩りが冨岡で、本当に良かったな。」

 

『!!!』

 

愈史郎の称賛の含まれる指摘に、炭治郎達は双眸を見開いて驚愕する。言われた義勇に至っては、口を僅かに開ける程の驚き様だった。

 

「そ、そうですよ! 義勇さん!! 愈史郎さんの言う通りですっ!……俺も禰豆子も……あの時に出会えたのが義勇さんで、本当に良かったと思ってますから……。」

 

炭治郎はそう言って、もう何度目か分からない感謝の言葉を義勇に送った。

 

『……』

 

すると行冥と天元が、特に無一郎がバツが悪そうに困った表情を浮かべた。愈史郎の指摘に、一つとして反論出来なかったからだ。むしろ心中では正直に、その任務を自分が担当しなくて良かったと考えていた。因みに、実弥だけは小さく舌打ちをしていた。

 

――まぁ冨岡以外に可能性が有ったとしたら、カナエとしのぶの姉妹と、甘露寺の三人くらいか。しかし、見事に女しか居ないな。

 

愈史郎は炭治郎達の話を聞き流しながら、炭治郎の下へ駆け付けた鬼狩りが義勇以外だった場合を想定して、同様の結末を迎えられた可能性の有無について考察していた。

 

――……駄目だな。カナエは四年前に死んでいるから、考えるだけ時間の無駄だ。

しのぶも那田蜘蛛山とやらで禰豆子を殺そうとした前科が有るから、はっきり言って論外だ。

甘露寺も……駄目か。馬鹿力で炭治郎を片手で押さえ付けながら、もう片方の手で禰豆子を殺していたかもしれん。

やはりこの炭治郎と禰豆子の案件は、冨岡にしか裁けなかったんだな。

 

結局のところ、幾ら考察しても義勇だけがこの英断が下せたのだと結論付けた愈史郎は、無駄な考察をしたと内心で愚痴を零す。

 

「まぁ、酒が入って感傷的になったのか知らんが、無駄な事はもう考えない事だ。後ろを振り返るなとは言わんが、人間の時間なんて限られているんだから、なるべく前を向く事だな。特に冨岡、()()()()()()()()を掬い取ったのは、紛れも無い事実なんだ。今はそれだけで十分だろ。」

 

そう言って愈史郎はほぼ強引にこの話を打ち切らせた。炭治郎は続けて、行冥と義勇に向かって頷いてから軽く頭を下げる。

 

――……愈史郎の言い方はキツイけど、全部正論なんだよな。炭治郎も禰豆子ちゃんも無事で何よりだよ。

 

善逸が心中でそう思い見ながら葡萄地酒(ブランデー)をちびちびと飲みながら、善逸は感想を心中で述べていた。

 

「ああ、忘れていた。」

 

『?』

 

すると愈史郎が何かを思い出した様子で、徐に温泉から立ち上がった。そして義勇へと接近していく。

 

「っ?……まだ何か用か? 愈史郎?」

 

「ああ、有るともさ。」

 

 

 

ゴンッ!

 

 

 

『!?』

 

「〜〜〜っ!?」

 

愈史郎が何の前触れも無く、唐突に義勇の頭に向かって拳骨を落としたのである。

 

炭治郎達は予想外の展開に驚愕しており、また殴られた義勇も眼前に火花が散った様な錯覚を覚えて困惑した。

 

「……いきなり何をする、愈史郎……。」

 

自分が愈史郎に殴られる理由に心当たりが無い義勇は、頭頂部を押さえながら愈史郎に訊ねた。

 

「……っ。」

 

するとその一言が気に入らなかったのか、愈史郎は青筋を浮かべて義勇を睨み付けた。

 

「冨岡、お前……俺の『紙眼()』を着けたまま、大浴場(此処)に入って来ただろう?」

 

『!』

 

「……?」

 

愈史郎の質問を聞いて、何名かが愈史郎が怒っている理由を察して納得した。尤も、義勇は理解していなかったが。

 

「お前は何をしたのか、まだ分かっていない様だな?……」

 

そんな義勇の態度に、愈史郎が抱く憤怒の炎が益々燃え上がって行く。更に青筋を濃くした愈史郎は、激怒している理由について語り始めた。

 

「俺がちょっと気になって『紙眼()』を確認したら、着用して透明になったまま大浴場に向かう反応が見えた。俺の『紙眼()』を犯罪行為(覗き)に使う馬鹿が出たかと、本気で焦ったわぁ!」

 

『!』

 

少し青褪めた表情を浮かべながら、愈史郎は更に語り続ける。

 

「慌てて『視覚同調』して調べたら、本人にその気が無かったから良かった……まぁこれでもし女湯に入ろうとしていたら、迷わず頭を吹き飛ばしてやったがな。」

 

『……』

 

炭治郎達は義勇の頭が爆散する光景を脳裏に思い描いて、思わず冷や汗を流す。しかし、義勇は愈史郎の説明を受けても変わらなかった。

 

「……俺が女湯に間違えて入ったり、況してや分かって入ったりする訳が無いだろう? お前は一体、何を言っているんだ?」

 

「お前は! そう! 誤解! されかね! ない! 行動を! したと! 俺は言っているんだよこの朴念仁柱があぁぁぁっ!?」

 

愈史郎は怒り狂うあまり、言いたい言葉が一気に出て来なかった。

 

「ゆ、愈史郎さんっ! 落ち着いて下さいっ!?」

 

激昂して義勇に飛び掛かろうとする愈史郎を、炭治郎が必死で羽交い締めにして制止する。

 

「……冨岡さんのあれ、本気で言ってるのかなぁ?……本気で言っているんだろうなぁ……はぁ。」

 

「うむ……彼にはもう一度、説法を説く必要がありそうだな……南無。」

 

無一郎は何とも言えない表情をして、そう呟いた。行冥もまた、呆れた様子で無一郎に同意していた。

 

「良いぜェ……そのままやっちまえェ!!」

 

「ははははっ! 派手にやれぇ〜〜っ!!」

 

実弥と天元が酒を呷りながら、愈史郎に向かって煽る様に歓声を上げる。

 

「これでちったぁあの馬鹿も、反省してくれりゃあ万々歳なんだがなァ。」

 

「いや無理だろ。そりゃ派手に無理だわ。」

 

「二人共っ!? 面白がって火に油を注がないで下さいっ!?」

 

歓声を上げた後、対岸の火事とばかりに傍観者を決め込む実弥と天元を見て、炭治郎は愈史郎を羽交い締めにしたまま抗議の声を上げた。

 

「炭治郎、僕達も手伝うよ。」

 

「冷静になれ。落ち着くのだ、愈史郎。」

 

状況を見兼ねた無一郎と行冥が、炭治郎の助太刀に加わって愈史郎を宥め始めた。覗き見行為自体、既にしのぶや蜜璃がやらかしているのだが、男女では対応そのものが違うのは当然だ。尤も、蜜璃の場合は貰い事故に等しいものだが。

 

「……」

 

義勇は沈黙したまま、愈史郎の怒号を聞き流していた。

 

「ひっく……あぁ〜〜こっちのもうめぇな〜〜。」

 

伊之助は会話にも気付かず次々と用意された酒を一杯ずつ飲んで、益々酔いが身体を回っていた。

 

「……ぐびっ。」

――俺は関係無い……俺は関係無い……。

 

善逸は巻き込まれては堪らないと、必死で存在感を消そうとしていた。

そうしていると、不意に善逸は耳をピクっと一度だけ震わした。

 

――っ! この音は……っ!!!

 

「……」

 

天元は火酒(ウイスキー)が入っていた徳利を空にすると、今度は葡萄酒(ワイン)が入っている徳利を選んで飲み始めた。

その間も、善逸の様子の変化を敏感に察していた。

 

――あいつ……女湯の音を聞き取りやがったな……すげぇ派手にだらしない顔してやがる。

 

天元は心中でそう思いながら、善逸を注意深く見ていた。

もし口元が緩んで涎でも温泉内に垂らそうものなら、その見るに堪えない緩み切った馬鹿面を派手に殴り飛ばしてやろうと心に決めて。




お待たせ致しました。

男性陣の和気藹々は一旦終了です。今回の内容、少し退屈だったかもしれません。
ですが区切りが良いので此処で終了させて下さい。
私としては、珠世命だったのが竈門兄妹に続けて鬼殺隊に気遣える様になった愈史郎の成長を見せれた事に満足しています。

予告ですが二月四日(木)に鬼滅公式ガイドブックが発売されるので、この本に書かれている内容次第で拙作を一部修正します。ご了承下さい。

次回は二月中に更新します。
やっっっと鬼滅女子会に入ります。正直、此方の方が多分……いや絶対楽しい内容となっております。お楽しみに。


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れもんさわー様
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https://www.pixiv.net/users/63287764

炭しの漫画を描かれている作者様です。どの漫画も甘酸っぱくて見ていてほわほわする事間違い無しの至高の作品ばかりとなっております。是非ご覧になって下さい。


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第肆拾肆話 鬼殺隊の美蝶も日輪に続けて交流す ★

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


時間は少し前まで遡る。

 

「はあぁぁ……極楽極楽ぅ……。」

 

産屋敷本邸に在る大浴場にて、一人の女性が満ち足りた表情で温泉に浸かっていた。天元の愛妻の一人、須磨である。

 

「そうねぇ。」

 

「ええ、気持ち良いわね。」

 

須磨の言葉に、同じく天元の愛妻である雛鶴とまきをも頷く。すると、隣の男性用の大浴場から何やら会話が聞こえていた。

 

「話題になっているのは、やっぱり炭治郎君みたいね。」

 

「あの子は今回の中心人物で立役者でしたからねぇ。」

 

雛鶴達はそう言って笑顔を浮かべた。まだ僅かな時間しか交流出来ていない雛鶴達だが、炭治郎の稀有とも言える人柄の良さを見抜け無い訳が無い。炭治郎が認められて受け入れられている事実が、とても嬉しかった。

 

「炭治郎。天元様だけじゃなくて他の柱の方々からも認められて、名前で呼んでって言われるなんて凄いわ。」

 

「本当ですねぇ。」

 

「天元様が炭治郎君にお名前をお許しになるのは予想通りだけど、そのお友達の善逸君と伊之助君って子はどんな子かしらね?」

 

隣の会話内容を耳にして、雛鶴達が楽しそうにクスクスと笑う。

 

「……天元様が喜んでいる声が聞こえて来るわね。」

 

「本当だ……って、そりゃ喜びますよ、まきをさん。良いなぁ〜〜お隣、お酒飲んでるみたいです。天元様達だけ狡くないですか?」

 

天元の歓声を耳にしながら、須磨は不服そうにプクッと河豚の如く頬を膨らませて不満を露わにする。そんな須磨の態度に、雛鶴は苦笑しながら宥め始めた。

 

「我慢なさい。お酒は此処には無いんだから……でもお隣のご様子を見ると、私達にもお酒を持って来て貰えるんじゃないかしら?」

 

「本当ですか?! 雛鶴さんっ!!」

 

「確証は無いけど……御館様は不公平な真似はされない方じゃない。それは貴女も良く知っているでしょう? 須磨。」

 

「……そうですね。じゃあ待ちます!」

 

酒が自分達にも配られる可能性を知った須磨は、一転して大人しくなった。そうしている間にも、隣の会話が再び雛鶴達の耳に入って来た。

 

「「「っ!」」」

 

隣の内容を聞いて、雛鶴達は一転して静かになる。隣から入って来た会話の内容に、どんよりと重みが含まれている事に気付いたからだ。不真面目な態度で傾聴するのは、流石に憚られた。

 

それから隣で落雷の如き怒号が一時響き渡ったかと思えば、一転して水が流れる様な落ち着いた声が響き渡った。このどちらの声は共に、同一人物から発声させられていた。

 

「この声って確か……。」

 

「この声、あの大騒動の引き金を引いた例の男の方の鬼の声ですよね?」

 

須磨がそう言った瞬間、露骨に落ち込み始めた。自身の失態で炭治郎が傷付き流血する羽目になったのだから、須磨からすれば無理も無い話だった。

 

「須磨、炭治郎君は気にしないって言ってくれた事を忘れたの? 貴女が負い目を感じていたら、それを見た彼もまた居心地を悪くするわよ。」

 

「はぁ〜い。」

 

雛鶴に説得された須磨は、無事に元気を取り戻した。

 

『ゆ、愈史郎さんっ! 落ち着いて下さいっ!?』

 

「「「!」」」

 

それから間も無い内に、炭治郎が必死に嘆願する声が雛鶴達の耳に入った。

 

「……隣で冨岡様が殴られてたみたいだね。」

 

「大声では言えませんけど、本当に困ったちゃんなんですねぇ冨岡様って。」

 

「ちょっと、須磨。言い過ぎよ……っ!……誰か入って来るわ。」

 

男性用の大浴場から聞こえるやり取りと会話を聞いて感想を各々で口にしていると、雛鶴が不意に出入口に視線を向けた。

 

「「!」」

 

雛鶴がそう言った瞬間に、一人の女性が女性用の大浴場に入って来た。

 

「ああっ――っ!! 雛鶴さんだぁ〜〜っ! まきをさんに須磨さんもっ! こんばんわっ! お疲れ様です!!」

 

最初に入ってきたのは、恋柱・甘露寺蜜璃であった。蜜璃は元気良く、その豊かな乳房を揺らしながら右手を振って雛鶴達に挨拶をする。因みに湯浴みは着用せず、全裸であった。

 

「か、甘露寺様っ!」

 

「お疲れ様です!」

 

「お、お疲れ様ですぅっ! 甘露寺様っ!!」

 

雛鶴達は蜜璃の存在を認識すると、勢い良く温泉から立ち上がる。

 

「あっ! 私達に気を使わなくても大丈夫ですよっ! そのままで居て下さい!」

 

そんな雛鶴達を見て、蜜璃はそう声を掛けて温泉に留めた。そうしている間に、二人の女性が蜜璃に続けて大浴場に入って来た。

 

「禰豆子さん。先に行っては駄目よ。」

 

「んっ!」

 

「「「!!」」」

 

大浴場に入って来たのは、禰豆子と珠世の二人であった。蜜璃の下へ走ってその傍に行こうとする全裸状態の禰豆子を、紫の湯浴みを着用している珠世が止める。普段は纏めている髪も解いたため、腰まで伸びた長髪が目に付いた。

 

「ふふっ。こうして温泉に入るなんて、一体何百年振りかしらね。」

 

珠世は嬉しさを隠し切れない様子で、嬉々とした満面の笑みを浮かべていた。

因みに前日は迫り来る緊急柱合会議に備えていたため、身体を拭くのがやっとでとても大浴場を利用する余裕など皆無であった。

 

そもそも、珠世が所有する物件はあくまで無惨一党の追跡から逃れ隠れるための隠し拠点であり、あまり大きな風呂など所有出来なかった。

 

風呂から湧き出る湯気まで、隠し通す事など出来ないからだ。たとえ考え過ぎだと言われようと、切っ掛け一つが自分達の命運が変わると考えれば用心に用心を重ねる必要性は有って然るべきものであった。

 

珠世自身、最後に温泉に入ったのは何処の山に湧いていた天然の温泉である。鬼である事を露呈させないためにも、市町村の銭湯など利用出来る筈が無かった。

 

そんな珠世の事情を考えれば、大浴場で堂々と温泉に浸かるのは最大級の贅沢と言っても決して過言では無かった。

 

「珠世さん、禰豆子ちゃんも、産屋敷家ご自慢の温泉は凄いでしょう? お肌もスベスベになるのよ〜❤」

 

蜜璃が我が事の如く、大浴場について嬉しそうに語る。尤も、鬼である禰豆子達にも人間と同様の効果が得られるとは考え難いのだが。

 

「「「……」」」

 

雛鶴達は蜜璃に言われて温泉に留まったが、禰豆子と珠世に視線を集中していた。二人の美しさも目を引くものがある。しかしそれ以上に鬼であるからか、やはり気になるのも無理も無い話だった。

 

「……んっ!」

 

『?』

 

禰豆子は雛鶴達の視線を気にする事無く突然、何かを決意した様子を見せた。

 

「……んっ。」

 

禰豆子は手拭いを握り締めると、直ぐ様行動に移る。

 

「ん!」

 

「ね、禰豆子さん?」

 

珠世が困惑している間に、禰豆子は珠世の湯浴みを脱がす。すると其処には美しくて瑞々しい痩身(スレンダー)な身体を洗うのを手伝い始めた。

 

『!!』

 

「んっんん〜〜♪♪♪」

 

戸惑う珠世を尻目に、禰豆子は手際良く隅から隅まで珠世の身体を洗っていく。禰豆子と珠世を見ながら、蜜璃がボソッと呟いた。

 

「何だか、二人が本当の親子みたい……私も昔、お父さんやお母さんと一緒にお風呂に入ったのを思い出すわぁ……。」

 

懐かしそうに、蜜璃がそう口にして微笑みを浮かべた。そうしている間に、珠世は洗い終わったようだ。

 

「あ、ありがとう。禰豆子さん。」

 

「んっ!」

 

照れた様子で珠世は、背中を流してくれた禰豆子に礼を述べた。それに対して、禰豆子も一声上げて答える。それから、禰豆子はそのまま蜜璃の下へ向かった。

 

「私の背中も流してくれるの? 禰豆子ちゃん?」

 

「んっ!」

 

蜜璃の質問に笑顔で答えた禰豆子は行動で示さんと言わんばかりに早速、蜜璃の背中を流し始めた。

 

「えへへ、嬉しいなぁ。私に新しい妹が出来たみたいで楽しいわ。」

 

蜜璃は非常に嬉しそう笑みを浮かべながら、自分もまた身体を洗い始めた。

 

「~~♪~~♪♪~~~♪」

 

蜜璃は鼻歌を歌いながら、身体を洗い終えた。

 

「禰豆子ちゃん、ありがとうっ!」

 

「んっ!」

 

蜜璃が禰豆子に礼を述べると、禰豆子もまた笑顔で返答をした。

 

「……鬼って聞かされたけど、一見だけではとてもそうは見えないわ。」

 

「炭治郎の妹の禰豆子ちゃんと、例の女の方の鬼……確か珠世だっけ?」

 

「天元様と炭治郎が大丈夫だって言ってましたし、心配するだけ損ですよ。」

 

雛鶴達は禰豆子と珠世を見て、心の奥底でほんの僅かに燻っていた警戒心が霧散していた。

 

すると其処へ新たな人影が三人、大浴場に入って来た。

 

「っ!……あっ! しのぶちゃんっ! それにアオイちゃんにカナヲちゃんもっ!!……っ!」

 

大浴場へ入って来たのは、しのぶとアオイ、そしてカナヲの三人であった。笑顔で呼び掛けた蜜璃だったが、三人の様子を見て思わず口を詰まらせた。

 

「「「……はぁ。」」」

 

顔色を見ればしのぶ達が見るからに疲弊した様子なのは、火を見るよりも明らかだったからだ。その中で一番被害が少なかったアオイですらどんよりと気落ちしているのだから、しのぶとカナヲに至っては相当なものだ。

 

傍から見ていれば、アオイとカナヲがお盆に乗せて持って来た徳利と酒盃を落とさないか心配になる位だ。

事実、しのぶ達は疲れた様子を隠す事無く大浴場に入って来た。

 

耀哉に小言を喰らったのが、余程堪えた様子だった。その時の様子を回想する。

 

『しのぶ。私にまで騒動の時の事を隠そうとするなんて、幾ら何でも無謀過ぎると思わなかったのかな?』

 

『カナヲ。君が感情を表に出せた事は、私にとっても素晴らしく喜ばしい事だ。だからって、しのぶに斬り掛かるなんて酷いじゃないか。炭治郎の事を愛しているからって、それは幾ら何でもやり過ぎだ。』

 

『それから禰豆子の件だけど……()()だなどと曖昧な報告をして、本当は炭治郎の精液を取り込んでいると、どうして私にそう正直に報告しないのだろうね? 真相を知っても別邸(離れ)ぐらい貸したのに、除け者扱いされたら私も寂しいよ……。」

 

『『『本当に、本当に申し訳ございませんでした……!!』』』

 

耀哉から淡々と、されど捲し立てる様にやって来るお小言の雪に、しのぶ達は終始土下座して謝罪する他にこの窮地を切り抜ける方法を思い出せ無かった。

 

叩き付けられる様な威力や威圧は無い。

 

しかし『塵も積もれば山となる』の故事の如くゆっくりと積もって圧殺されて行く様な、正しく拷問に等しい時間であった。

 

実はしのぶは珠世の件を報告した後に大騒動の一件を報告しようとしたのだが、耀哉が珠世の件に関して興奮して尋ねて来たため、しのぶも思わず報告しそびれたのが真相なのだ。

 

しかしそんな事を耀哉に説明したところで、しのぶにとって事実であろうと最早誰が聞いても見苦しい言い訳に過ぎない。

そればかりか耀哉にも非が有ると言わんばかりの言い訳など、不忠にも程がある。口が裂けようと、しのぶがその様な進言が出来る筈が無かった。

 

結局しのぶ達は耀哉からのお小言が終わるまで、沈黙するか謝罪の言葉を口にするかのどちらかに終始徹底した。決して長い時間では無かったのだが、しのぶ達には永遠とも感じられる時間であった。

 

『さて、君達も懲りた事だろう……しのぶ、後日で構わないから竈門兄妹に関して詳細な報告書を纏めて私に提出する様に……下がって良いよ。』

 

『……御意。』

 

『『……失礼……致します。御館様。』』

 

しのぶが報告書の提出を命じられたのを最後に、耀哉の説教は終了したのだった。

 

「あ、アオイちゃんっ! カナヲちゃんっ! それ私が持つよっ!!」

 

其処へ蜜璃がアオイとカナヲへ駆け寄って、二人が手に持っているお盆をヒョイと両手でそれぞれ一つずつ手に取った。このままでは落としてしまうのではないかと、そう蜜璃が二人を心配したからだ。

 

「す、すみません。恋柱様っ。」

 

「恋柱様。お手数をお掛けして申し訳ありません。」

 

アオイとカナヲは、自分達が持っていたお盆を代わりに持ってくれた蜜璃、申し訳無さから謝罪した。

 

「良いのよ。二人共、気にしなくて良いからね?」

 

蜜璃は二人の謝罪に対して、笑顔で気にしない様にと気遣った。

 

「…………」

 

『!』

 

其処へ新たに大浴場へ入って来たしのぶとアオイ、カナヲの三人を禰豆子が意味深にじっと見詰め続けている事に、漸くしのぶ達が気付いた。

 

「禰豆子さん?」

 

「どうかしました?」

 

「禰豆子ちゃん?」

 

しのぶ達はずっと見詰められ続けて気になったため、禰豆子に声を掛けた。

 

「…………」

 

しかし、禰豆子はしのぶ達の呼び掛けに答えず、理由は分からないまでもキラキラと期待の籠った目でしのぶ達を見詰めていた。

 

「……っ!……そうだわっ! きっとそうよっ!」

 

『?』

 

蜜璃が禰豆子としのぶ達を交互に見て、禰豆子の狙いが何なのかを察して声を上げた。

しかしその禰豆子の狙いが分からないしのぶ達は、蜜璃の歓声に近い声を聞いても首を傾げるだけだった。

 

そのため、蜜璃はしのぶ達に解説することにした。

 

「禰豆子ちゃんはね、しのぶちゃん達の背中を流してあげたいんだと思うわ。だって、先刻(さっき)まで私と珠世さんの背中を、嬉しそうに流してくれたんですもの。」

 

「「「っ!」」」

 

蜜璃から禰豆子の狙いを聞いて、しのぶ達はお互いの顔を見合わせた。

 

「「「…………」」」

 

しのぶ達は()()()()から、禰豆子に背中を流して貰う事を望んでは居なかった。如何にかしてこの場を切り抜けようと、三人で視線を合わせて共に一考する。

 

「……しのぶちゃん……アオイちゃんにカナヲちゃんも……。」

 

「「「!」」」

 

沈黙するしのぶ達に、蜜璃が声を掛けた。その声色には悲しみが含まれており視線には不安の色を宿していた。

 

「禰豆子ちゃんに背中を流して貰うの……もしかして、嫌なの?」

 

「「「!!」」」

 

しのぶ達は蜜璃の指摘を受けて、当たらずと雖も遠からずだと言わんばかりに露骨に視線を逸らした。

 

「うぅっ……。」

 

蜜璃の感情が伝染したのか、禰豆子もまた不安そうにしのぶ達を見詰めた。もう少し時間が経てば、その双眸には涙が浮かぶ事だろう。

 

――どうして、しのぶちゃん達は禰豆子ちゃんに背中を流して貰うのを嫌がるのかしら? まさか鬼だから……って訳じゃないよね……?

 

蜜璃は禰豆子の様子を心配そうに見ながら、何故しのぶ達が禰豆子に対して、拒否気味な態度を抱いて居る事に首を傾げていた。

 

「……あっ。」

 

「「「っ!」」」

 

珠世と雛鶴達は、何故かしのぶ達が禰豆子に背中を流して貰う事を渋っている理由について、察する事が出来た。

 

しのぶ達の真意を知って四人の顔は、僅かばかりに赤く染まっている。その理由は、しのぶ達の身体に存在していた。

 

「「「……」」」

 

【挿絵表示】

 

提供:椿様 ※遠近法です。

 

そんな騒々しい外野を余所に、「お前が行けよ。」と言わんばかりに、互いに目線で背中を流して貰う役割を押し付け合うしのぶ達。

 

しかし何時まで経っても名乗り出ようとしないため、しのぶがアオイとカナヲに妥協案を提案した。

 

「ではこうしましょう……三人で同時に脱ぐのは如何ですか?」

 

「「!?」」

 

「遅かれ早かれ脱ぐんです……それにもう既に()()、見えているではありませんか。好い加減、覚悟を決めなさい。」

 

「「っ!……はい。」」

 

しのぶが叱咤する様にそう言うと、驚いていた二人は覚悟を決めて承諾する。

 

「……禰豆子さん。良かったら、私の背中も流してくれるかしら?」

 

「しのぶ様の後は、私達もお願いします。禰豆子さん。」

 

「んっ!」

 

禰豆子はしのぶ達に快諾すると、直ぐにしのぶの背後へ移動した。頬を赤く紅潮させて、禰豆子は喜色満面の笑みを浮かべていた。

 

「……」

 

その一方で禰豆子と同様に、しのぶ達もまた顔を赤くしていた。しかし、それは禰豆子の喜びとは異なる、単純に羞恥心から来る紅潮だ。認めはしたものの、内心では抵抗感が残っていたからだ。

 

――……ええぃっ! もうどうとでもなれっ!!

 

三人は自暴自棄気味にバッと音を立てる勢いで、湯浴みを脱いで全裸になる。それから間髪入れずに両腕を乳房の前に交差させて、乳房の露出を咄嗟に防いだ。

 

 

【挿絵表示】

 

提供:椿様

 

「!?」

 

しのぶ達の全裸姿を見て、蜜璃は三人が背中を流して貰う事に抵抗感を抱いて渋っていた理由を漸く理解する。

 

三人の全身に、赤い虫刺されの如き痕が在ったからだ。正確には頸から下の全身である。それから確かにきちんと見れば、手足や胸元にもしっかりと赤い口付け痕(キスマーク)は存在していた。

 

そしてその赤い口付け痕(キスマーク)以上に、しのぶ達の顔は羞恥心から真っ赤に染まっていた。

 

「し、しのぶちゃん……今気付いたけどその赤い痕って、まさか……。」

 

「お願いです、甘露寺さん。……何も言わないで……。」

 

「う、うんっ!……。」

 

蜜璃が顔を赤く染めながらしのぶに尋ねようとすると、遮る様にしのぶに聞かない様に嘆願された。

 

我に返った蜜璃は、直ぐに承知して沈黙した。しかし、その沈黙は蜜璃にとって耐え難いものであった。

 

「あ、あはははははははは……こ、このお酒っ! 持って行くね!!」

 

蜜璃は一方的にそう宣言して、両手に持っていたお盆に乗せた徳利を温泉まで持って行く。

 

温泉まで速足で歩く蜜璃だったが、その心中は更に興奮で満ちていた。

 

――あ、あれって口付け痕(キスマーク)よね!?……覗き見した時は良く見て無かったけど、三人とも滅茶苦茶付いてるし……そ、それだけ炭治郎君に愛されまくっているって事よね!? 凄い凄いっ!! きゃぁあああああああ~~~~っ!!!❤️

 

 

【挿絵表示】

 

提供:椿様

 

しのぶ達の口付け痕(キスマーク)の数を見て、蜜璃は炭治郎の情熱的な愛情を想像してときめいていた。そうしている間に、禰豆子は既にしのぶの背中を流し始めていた。

 

「んんっ~~。」

 

「んっ……。」

 

背中を流されているしのぶはその心地良さに双眸を閉じて感じながら、身体を洗いつつある光景が脳裏に浮かんでいた。

 

――私も姉さんと一緒にお風呂に入っていた頃は、姉さんの背中を流していたわね……すると禰豆子さんにとって、私は姉という認識なのかしら? もしもそうなら、私は……嬉しい……っ。

 

しのぶが心中で喜びに浸りながら、自身も身体を洗い始めた。

 

「……んっ!」

 

「っ!……ありがとう、禰豆子さん。」

 

しのぶは背中を流してくれた禰豆子に礼を述べてから、木桶に入れたお湯を肩から被って身体を洗い流す。

 

 

【挿絵表示】

 

提供:椿様

 

しのぶの礼を受けた禰豆子は、次にアオイとカナヲの方へと向かう。禰豆子が狙いに定めたのは、アオイだった。

 

「んっ。」

 

「禰豆子さん……すみません、お願いします。」

 

「んっ!」

 

アオイにそう言われた禰豆子は、快諾してアオイの背中を流し始めた。

 

「禰豆子ちゃん、手慣れてますよねぇ。」

 

「そうね、須磨。」

 

須磨とまきをは禰豆子を見ながら、彼女の振る舞いにある考えがよぎった。

 

――炭治郎君に聞いた話だけど……まだ人間だった頃は、禰豆子ちゃんはしっかり者で下の弟妹達の面倒を率先して見ていたって言っていたわね。

 

雛鶴はそう思うと、その名残とも言える禰豆子の行動を見て思わず目頭に熱が籠もった。

 

「ありがとうございました、禰豆子さん。」

 

「んっ!」

 

背中を流し終えた禰豆子に、アオイは頭を下げて礼を述べた。禰豆子がアオイの礼に答えた後、最後にカナヲの下へ向かった。

 

「ね、禰豆子ちゃん……お願いね!」

 

カナヲは楽しみと言った表情で、禰豆子にそう言った。

 

「……んっ。」

 

ところが禰豆子はカナヲの番となり背後に移動し終えた瞬間、双眸を閉じたまま立っていた。

 

「あれ……?」

 

「禰豆子さん?」

 

「どうかしたの?」

 

しのぶ達が首を傾げながら、禰豆子の名前を呼んで様子を伺った。自分達と同様、進んでカナヲの背中を流しに行くと考えていたからだ。

 

まさか何もせず立ち往生同然の姿勢になるとは、その場にいる全員にとって想定外であった。

 

「禰豆子ちゃん……私の背中を流すのは……嫌?」

 

カナヲは自分が禰豆子に嫌われているのではないか、とそう考えて不安と恐怖から身体を震わせる。

しのぶ達もカナヲの様子を心配しつつ、禰豆子に視線をやって状況を見守った。温泉に浸かっている、雛鶴達も同様である。

 

「んんっんんっ!」

 

禰豆子はカナヲの質問に対して、勢い良く首を横に何度も振った。それから間も無く、禰豆子の身体に変化が起きた。

 

『!』

 

「……ふふっ。」

 

禰豆子が鬼化を行い、変身して魅惑的な長身の美女になる。

 

「「「!?」」」

 

禰豆子の変化を見て、雛鶴達はギョッと驚いて双眸を見開いた。しかし、雛鶴達の反応に対してそれを責める事は出来ない。

 

そもそも、禰豆子が額に一本角を生やしてより一層鬼らしくなったのだから、雛鶴達がそう反応するのも無理も無い話だった。

 

「大丈夫ですよ。禰豆子ちゃんは正気を失う事はありませんから。」

 

蜜璃は禰豆子がを見て当惑する雛鶴達を見て、安心させるためにそう言って宥めた。

 

「えっ?……え?」

 

「んっ♪」

 

カナヲが困惑しているそうしている間にも、禰豆子は行動に移っていた。

 

「んっ〜♪」

 

『……』

 

禰豆子は機嫌が良さそうにしながら、カナヲの背中を流している。実はこの時、カナヲと珠世達とで明確な違いが現れていた。

 

「……っ。」

 

「んっ!!」

 

『!』

 

禰豆子が珠世達の背中を流していた時は、併せて各々で身体を洗っていた。しかし、カナヲに限っては身体を洗う事を許さなかったのだ。

 

事実、背中を流している時にカナヲが身体を洗おうとしたら、その度に背中を流す手を止めて両手を掴み制止するのである。これでは、カナヲも身体を洗う手を止めざるを得なかった。

 

しかし背中を流すのを放棄してまでカナヲの身体を、執拗に洗うのを止めていた理由が此処で漸く判明する。

 

「んんっ~~♪」

 

『!!』

 

禰豆子がカナヲの背中を流し終えると、間髪入れずに今度はカナヲの身体を自ら洗い始めたのである。どうやら、自分の手でカナヲを洗いたかった様子であった。

 

流れる様に素早く丁寧にかつ優しく身体の隅から隅まで洗い、お湯を掛けて泡を流した。しかし、これで禰豆子は終わらなかった。

 

「んっ!」

 

カナヲの身体を洗い終えた禰豆子は、透かさずカナヲの美しい長髪を自らの手で洗い始めた。

 

「んっ……んっ!!」

 

「……」

――……あっ。

 

黙して何もしていなかったカナヲは、脳裏にある光景が浮かび上がった。

 

――これって……嗚呼、しのぶ姉さんに髪を洗って貰った頃を思い出すなぁ……。

 

カナヲが人買いの手で売り飛ばされそうになっていた時に、カナエとしのぶの姉妹に救われその後しのぶの手によって髪を洗って貰った日を思い出していた。

 

 

 

バシャン!

 

 

 

思い出に浸っている間に、禰豆子は何度かお湯が入った桶をカナヲの頭から浴びせて洗髪を終了した。

 

「んっ!」

 

禰豆子は任務完了と言わんばかりに、鬼化によって大きくなった豊満な乳房を強調しながら胸を張った。

 

「あ、ありがとう。禰豆子ちゃん。」

 

カナヲは濡れた髪を絞りながら、洗髪までしてくれた禰豆子に礼を述べた。しかし、カナヲにはある疑問が有った。

 

――しのぶ姉さんやアオイは背中しか流さなかったのに、どうして禰豆子ちゃんは私だけ洗髪までしてくれたんだろう?

 

カナヲは禰豆子の、自身としのぶ達との扱いの違いに首を傾げるしかなかった。

 

「禰豆子さん、お疲れ様。今度は私が洗ってあげるわね。」

 

「んっ♪」

 

珠世が禰豆子を労い返礼とばかりに身体を洗う事を提案すると、禰豆子は喜色満面の笑みを浮かべて快諾した。

 

『!』

 

珠世の前まで移動すると、禰豆子は再び身体を変化させて元の体型に戻ったのだ。

 

「んっ……んっ!!」

 

「っ!……ごめんなさい、禰豆子さん。直ぐに綺麗にしましょうね。」

 

「うんっ♪」

 

驚く珠世達を余所に、禰豆子は珠世が背中を流しやすい様に自身の髪を掴んで背中を露わにした。

 

――記憶なんてもう何処にも残っていない筈なのに、とても懐かしく感じる……私には息子しか居なかったけれど、もし私に娘が居たら……こんな感じだったのかしらね……っ。

 

そう感傷に浸っていた珠世だったが、直ぐに思考を切り替えた。

 

其処から、珠世の行動は素早かった。手際良く背中を流し終えた後、次に身体を洗ってから最後に臀部まで届く禰豆子の長髪の洗髪を始めた。

 

「んんっ〜〜♪」

 

「禰豆子さん、気持ち良いかしら?」

 

「んっ!」

 

珠世の質問に、禰豆子は気持ち良さそうに双眸を細めて応えた。

 

「……っ!?」

 

「カナヲ?」

 

「どうかしたの? カナヲ?」

 

突然、カナヲが何か重大な事に気付いた様子でハッとした表情を浮かべた。そんなカナヲの様子に気付いたしのぶとアオイが、何事かとばかりにカナヲに尋ねる。

 

「しのぶ姉さんっ!……アオイっ!……っ。」

 

「「?」」

 

ワナワナと身体を震わせたカナヲは、やっとの思いでその重い口を開いた。

 

「私……私っ……私だけ禰豆子ちゃんに妹扱いされてるっ!?」

 

「「!?」」

 

カナヲが絞り出す様に口にした言葉の内容を聞いて、しのぶとアオイは絶句する。それは内容の重さが想像以上に軽かったからだ。

 

「「……」」

――何だ、そんな事か。

 

カナヲ本人は余程悲しい事だったのか、ガーンという音が背後から聞こえそうなくらいに落ち込んでいた。しかし正直に言えば、二人の間では拍子抜けと言わんばかりの空気が漂っていた。尤も、その事を表に出すなどという真似はしない。

 

もしその様な事をすれば、カナヲが余計に拗れる可能性があるからだ。蝶屋敷でやらかした様に、暴走すれば何をしでかすか分からないカナヲである。

 

何より、尊崇する耀哉に叱咤説教されて早々に再び面倒な目に遭うのはごめん蒙りたかった。

 

「気落ちしちゃ駄目よ、カナヲ。」

 

「カナヲ、気にする事無いわよ。」

 

「うぅ……私の方が年上なのに……っ。」

 

しのぶとアオイは落ち込むカナヲの肩に、各々で手を置いて慰めの言葉を掛けた。しかしその一方で、二人してある事実に感嘆していた。

 

――全ての事に無関心だったあのカナヲが、誰かの家族になりたい、そう思われたいと願う日が来るなんて……。

 

――カナヲが成長出来たのも全部、炭治郎君のお蔭ね。流石は私の未来の旦那様だわ。

 

カナヲの成長を見て、二人は胸中に感動を抱いて居た。

 

――それはそうと禰豆子さん、カナヲを妹扱いって……これが姉の本能なのかしらねぇ? 間違ってはいないし、正しいのだけれども……。

 

――本来の禰豆子さんはしっかり者だったって炭治郎さんも仰ってたし……第一、カナヲは姉って柄じゃないものね……何処からどう見ても世話の焼ける妹よね。

 

しのぶとアオイの心中は、禰豆子に完全に同意していた。カナヲにとって、それに気付かなかった事は、不幸中の幸いなのだろう。




お待たせ致しました。

鬼滅女子編になります。何気に炭治郎がはっきりと登場しない回というのは初めてでは無いでしょうか?

そして皆様もお気付きでしょうが、以前宣伝した椿様から何と挿絵を頂きました!! https://www.pixiv.net/artworks/87609627

拙作のために挿絵を描いて下さるなど、拙作を初めた頃では考えられない程の幸運です。最初は読者が十人も居れば御の字と思っていたのに……凄く感慨深いです。

因みに挿絵は前々回の第参拾伍話、第参拾陸話にも追記されています。良ければもう一度読み直されては如何でしょうか?

炭治郎のイラストについても一言頂けたら嬉しいです。

それと作者連絡させて頂きますが、鬼殺隊見聞録が発売され愈史郎の血鬼術が「紙眼」と発表されました。

そのため『百眼符』は今後『紙眼』・『紙眼・視』・『紙眼・隠』・『紙眼・伝』とそれぞれ折を見て修正します。

ただ、ハーメルンには「誤字報告」機能がありますので、読者のどなたかお手伝い下さると大変助かります。親切な方、どうかよろしくお願い致します。

次回の更新は二月中です。お楽しみに!


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第肆拾伍話 藤蝶は日輪の手練手管を披露する ★

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*未成年飲酒は犯罪行為です。絶対に真似しないで下さい。お酒は二十歳になってから。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


カナヲを慰めたしのぶ達は、珠世と禰豆子を連れて温泉に入った。

 

「あ~っ! 禰豆子ちゃんっ! こっちこっち~!!」

 

先に温泉に入って居た蜜璃が、手招きに禰豆子を誘う。既に酒が入っていた所為か、その顔は少しだけ赤く紅潮していた。

 

「んっ~!」

 

蜜璃に誘われた禰豆子は、喜んでその隣へ移動した。

結果、蜜璃が禰豆子の左側におり、自然と右側に集まった。そして初対面の雛鶴達が禰豆子の真正面に居た。

 

「……医者の観点から見ると、あまり感心出来ない光景ですね。」

 

「そうですね。珠世さん。……もう、甘露寺さんったら、普通にお酒を飲むのと温泉やお風呂に入った状態でお酒を飲むのとでは、全然違うんですよ? 後者だと、普通に飲むより酒精が早く回って来て酔い易いんですからね? だから雛鶴さん達も、あまり飲み過ぎてはいけませんよ?」

 

「は~い。」

 

「まぁまぁ、そう固い事を言わず。さぁ胡蝶様も一杯どうぞ。」

 

珠世としのぶが医療の観点から感心しない様に苦言を漏らすと、まきをがしのぶを宥める様に酒盃をしのぶ達に渡して徳利から酒を注いだ。しのぶ達は顔を見合わせると、溜息をついてグイっと酒を呷る。

 

「あっ……美味しい。」

 

「そうね、美味しいわ。」

 

「流石はあまね様が収集されたお酒ね。」

 

カナヲの評価にアオイとしのぶも同意して、口内に残っていた酒の味の余韻を堪能する。

 

もう一杯続けて酒を酒盃に注ぐ。匂いを嗅げば、豊かな果物の香りが鼻の中へと入って行く。しのぶ達は違う意味で溜息を吐いて、再びその味を堪能していた。

 

「その徳利、中身は日本酒では無いみたいですね?」

 

「はい。中身は果実酒や葡萄酒、柚子酒など果物が中心のお酒になります。」

 

珠世が質問をすると、アオイが肯定して酒の種類について伝えた。

 

「……ムゥ。」

 

「?……どうかしたの? 禰豆子ちゃんっ?」

 

縦に割れた鬼特有の両眼を細めて不機嫌な声を上げる禰豆子に、蜜璃は怪訝そうに尋ねた。

禰豆子が不機嫌な理由だが、それは彼女の眼前の光景に在った。

 

禰豆子が見渡せば、其処には八人の見目麗しい美女が居る。その美女達が誇る女性の象徴が、温泉に浮かんでいたのだ。

 

「……ムゥ。」

 

大草原に生える小さな丘の如き自身の乳房とは異なる、合計で十四もの豊満な乳房。唯一、珠世だけが慎ましいものを持っていたため、数には含めていない。それでも禰豆子よりは、明らかに大きいものであったが。

 

胸に手を当てて己の乳房の大きさを再度確認した禰豆子が不機嫌になったのは、其処から生じる嫉妬心が理由であった。

 

「……んっ!」

 

『!?』

 

禰豆子は再び、鬼化して美少女から魅惑的な美女へと変貌を遂げる。その際に大きく成長した豊満な乳房が、たぷんと音を立てて温泉に波紋を広げた。

 

「……ふふっ。」

 

一転して機嫌を良くした禰豆子は得意気に、豊満になった乳房を両手で持ち上げた。無論、しのぶとアオイ、そしてカナヲの三人を横目で見ながら。

 

そんな禰豆子の視線に気付いたしのぶ達は、声を顰めながらヒソヒソと話し始めた。

 

「……あからさま過ぎませんかねぇ?」

 

「……昨日しのぶ様が禰豆子さんに「貧相で退屈な身体」なんて言うからじゃないんですか?」

 

「私もそう思う……でも今の禰豆子ちゃんの乳房(おっぱい)、本当に大きいなぁ……。」

 

しのぶがイラッとしながらそう言うと、アオイはしのぶの所為だと非難し、カナヲはアオイに同意しつつ禰豆子を羨望の目で見ていた。尤も、カナヲも十分な大きさを持っているのだが。

 

しかし、しのぶが苛立っていたのは禰豆子に風貌(スタイル)を見せ付けられている事だけでは無かった。

 

――禰豆子さんだけ真っ白な素肌ね……私達は身体中に付けられた炭治郎君からの口付け痕(キスマーク)の所為で、とても恥ずかしい思いをしたのに……いや、凄く嬉しいんだけどこう言う状況では気恥ずかしいわ。

 

しのぶは禰豆子と身体を比較して、自分達に付けられた口付け痕(キスマーク)について嬉しい反面、人前に素肌を晒せない事情が出来た事を複雑に思っていた。

 

「わぁ~~禰豆子ちゃんのその姿、やっぱり色っぽいなぁ。」

 

そんなしのぶの心情など知る由も無く、蜜璃は禰豆子の鬼化した姿を見て素直に称賛していた。

 

「……あっ! 忘れてたっ!!」

 

『?』

 

蜜璃は何か大切な事を思い出した様子で、ポンと掌を打った。そこから透かさず蜜璃は実行に移す。

 

「禰豆子ちゃん、珠世さん、紹介するね? この綺麗なお姉さん達。左から雛鶴さん、まきをさん、須磨さんよ。皆、宇髄さんの奥さんなの。綺麗でしょ~~。」

 

『!』

 

雛鶴達を自己紹介した事で、蜜璃の行動理由を漸くしのぶ達は理解した。確かに禰豆子と珠世の二人は、雛鶴達とは初対面だ。一体誰なのか、訳が分からなかったに違いない。

 

「珠世です。既にご存知かと思いますが、改めてよろしくお願い申し上げます。」

 

珠世は天元に妻が三人居る事に少しばかり驚くも、その驚きは刹那にも満たない間であった。戦国期の生まれであるため、男性が複数の妻妾を持つ事に抵抗感や違和感は比較的少なかったのだ。

 

「あっ、はい! 甘露寺様よりご紹介頂きました、天元様の妻の宇髄雛鶴です。こちらが同じく天元様の妻のまきを、もう一人が須磨になります。」

 

三人を代表して、雛鶴が珠世に挨拶を行う。まきをと須磨もまた、珠世に向かってお辞儀をした。

 

「んっ!」

 

禰豆子が挨拶する様に声を上げる。その際に、少しばかり身を前に乗り出した。

 

「「「!!」」」

 

すると、雛鶴達はビクッと身体を震わせて身を後ろに引いた。

 

「……っ。」

 

その様子を見た禰豆子は、直ぐに動きを止める。その双眸は不安に揺れていた。

 

「えっ?……もしかして、禰豆子ちゃんが怖いんですか?」

 

「「「っ!」」」

 

蜜璃がまさかと言わんばかりに、雛鶴達に尋ねた。すると図星だったのか、雛鶴達は再びビクッと身体を震わせて視線を逸らした。

 

「……っ。」

 

禰豆子は雛鶴達の態度が衝撃的(ショック)だったのか、シュンと項垂れてしまう。

 

「ね、禰豆子ちゃんっ! 気にしちゃ駄目よ?」

 

蜜璃は慌てて禰豆子を慰めに走った。しのぶ達もまた、心配そうに禰豆子を見守る。

 

「……」

 

『!?』

 

するとその視線も、一瞬で驚愕に早変わりする。禰豆子が身体を縮ませ始めたからだ。それは通常の身体に戻るどころか更に小さくなっていった。

 

「禰豆子ちゃんっ!?」

 

禰豆子は日中の間、炭治郎が抱えている日除け箱の中へ入れる程に小さく変化すると、そのまま温泉の中へと沈んでいき、ぶくぶくと泡を起こした。その様子を見た蜜璃が、慌てた様子で禰豆子を引き上げた。

 

「……ぶうぅっ!」

 

「っ!……ほっ!」

 

禰豆子は鬼であるため、溺死する心配は無い。しかしそれとこれは別である。禰豆子を引き上げた蜜璃を筆頭に、温泉に居た誰もが安堵の溜息を零した。

 

「ね、禰豆子ちゃん? ごめんなさいね?」

 

雛鶴が罪悪感を胸一杯に抱きながら、禰豆子に謝罪した。まきをと須磨もまた、同様であった。

 

「……」

 

その様子を黙って見ていた珠世が、顎に手を置いて一考してから開口する。

 

「禰豆子さん。もう一度、鬼化して貰えないかしら?」

 

『!』

 

「う?」

 

珠世が鬼化を禰豆子に頼んだことに、しのぶ達は驚いた。禰豆子もまた何故珠世がその様な事を頼むのかと、首を傾げていた。

 

「……うぅ~。」

 

「「「!」」」

 

禰豆子は困った様子で、雛鶴達を見た。どうやら再び雛鶴達を怖がらせないか、その事を心配しているみたいであった。そんな禰豆子の様子を気付かない雛鶴達では無かった。最初に行動に移したのは、須磨だった。

 

「大丈夫よっ! 禰豆子ちゃん。私達、もう慣れたからっ!!」

 

「っ!……ええっ! だから私達に遠慮なんてしなくても良いのよ。」

 

「最初は初めて見たから吃驚しただけ。もう平気だから、安心してね?」

 

須磨に続けて、まきをと雛鶴もまた禰豆子を安心させる様にそう言って声を掛けた。

 

「……んっ。」

 

禰豆子は雛鶴達の言った言葉を信じて、再び鬼化を行う。瞬時に幼児体型から、魅惑的で妖艶な美女へと変貌を遂げる。

 

「……」

 

珠世はその姿を見て、再び沈黙して一考する。しかしそれは長くは続かず、暫くして開口した。

 

「禰豆子さん。その姿ではやはり他の人達に警戒されるのも仕方が無いと思うわ。」

 

珠世はそう言って雛鶴達を擁護した。珠世は鬼化した事で出て来たある部位に注目していた。

 

「やはり……この角と爪牙が問題ですね。珠世さん。」

 

「ええっ、しのぶさんの仰る通りよ。ついでに言うと左目も何とかしたいわね。身体中の紋様は衣服で隠せるから良いとして。」

 

しのぶは珠世が察した様に、禰豆子が鬼化した事で額の右側に生えた一本角と鋭く生えた牙、鋭利な両手の爪と左目の罅割れ模様に注目していた。珠世はしのぶの指摘に頷いて、禰豆子に尋ねた。

 

「禰豆子さん、その姿で居たい?」

 

「……んっ!」

 

珠世に尋ねられた禰豆子は、力強く頷いて肯定した。しかし、その事に珠世は困った表情を浮かべた。

 

「……だったらそのままでは不味いわ。一目で鬼だと、少なくとも人間ではない何かだと分かってしまうもの。」

 

「珠世さん。その通りですけど、何とか出来ないんですか?」

 

珠世の苦言は尤もだと蜜璃も同意するも、何とか禰豆子の願いを叶えたいと考えて珠世に尋ねた。すると珠世から直ぐ様、返答が返って来た。

 

「だったら、擬態能力を磨くしか無いと思います。」

 

『!』

 

珠世が考え出した対策に、しのぶ達は注目する。

 

「私の様に一目では鬼と見抜かれず人間なのだと思わせられる程の、高い擬態能力が禰豆子さんには必要よ。百歩譲って身体と左目の紋様は別に良いとして……最低でも、その一本角と爪牙は隠せなくては駄目ね。」

 

「……んっ!」

 

珠世が禰豆子に擬態能力の強化を提案すると、禰豆子は納得する。そして直ぐに行動に移し出した。

 

「んんっ~~!! んんっ~~~~!!!」

 

『!』

 

禰豆子は双眸を強く閉じて、念じる様に唸り始めた。どうやら擬態を試みている様だ。

 

「禰豆子ちゃんっ! 頑張って!!」

 

蜜璃が全員を代表する様に、禰豆子を応援する。禰豆子は五分程奮闘したが、姿を変える事は出来なかった。

 

「んん……っ。」

 

禰豆子はシュンとした様子で、項垂れてしまう。そんな禰豆子を見て、珠世が励ますために声を掛けた。

 

「そんな一瞬で出来るものでは無いから、落ち込まなくても良いのよ。」

 

「ん……。」

 

珠世に励まされた禰豆子だったが、不満は隠し切れなかった。しかし、珠世はある事実を見逃してはいなかった。

 

「禰豆子さん。貴女は私達の背中を流してくれた時、カナヲさんの頭を洗った時に、爪は伸びて無かったでしょう?」

 

『!……っ。』

 

珠世の指摘を受けて、しのぶ達はハッとした表情を浮かべた。あの一時の様子から其処まで観察していた珠世の洞察力に、しのぶ達は思わず感嘆した。

 

「禰豆子さん。爪だけ短くして貰える?」

 

「ん?……んっ!」

 

禰豆子は珠世に言われた通りに、爪の長さの調整を始める。すると二十秒も掛からない内に、剃刀の如く鋭かった爪が通常の丸みを帯びた人間の爪と変わらない長さになった。

 

「ん!」

 

禰豆子は爪の長さの調整に成功して、嬉しそうに両手の指を珠世に見せ付けた。

 

『おぉっ!』

 

禰豆子が爪を調整出来た事に、大浴場では小さく歓声が上がった。続けて珠世は禰豆子にある事を求めた。この成功を見て、珠世はある可能性に気付いた。

 

「爪の長さの調整は大丈夫みたいね? 爪の長さは元に戻して良いから、今度はもう一ヶ所だけ集中してやってみましょう。試しに角を収めてみてくれる? それから左目の紋様、最後に牙と行きましょうか?」

 

「んっ!」

 

『……』

 

しのぶ達が二人を見守る中、珠世が提案した通りに禰豆子が一ヶ所だけ擬態に集中する。

結果、爪より時間は掛かるものの他の三ヶ所も擬態に成功した。

 

しかし、これが二ヶ所以上同時に行うとなると、爪の長さは維持出来なかったり、出来ても他の部位で失敗に終わってしまった。この実験結果を見て、珠世は確信を抱いて禰豆子を褒めて激励する。

 

「今の段階でも一ヶ所の爪だけ、上手に擬態する事が出来る……そう分かっただけでも大収穫よ。禰豆子さん、少しずつで良いから精度を高めましょう。それが出来ればきっと炭治郎さんも喜ぶわ。」

 

「んっ!」

 

禰豆子は珠世の激励を受けて、満面の笑顔を浮かべる。そして内心で、擬態能力の精度を上げると禰豆子は強く決意した。

 

 

 

 

 

 

「あの、珠世……様。私から一つお聞きしたい事が有るのですが、構いませんか?」

 

「!」

 

珠世の話が終わったのを見計らって、雛鶴が珠世に尋ねる。珠世も質問の内容が気になって、逆に聞き返した。

 

「何でしょうか? 私に答えられる事でしたら何でも……それから私に様付けや敬語など不要ですよ?」

 

珠世は質問を答える事に承諾すると、雛鶴に自身への丁寧な言動は不要だと伝える。しかし、この事に雛鶴は頸を横に降って拒絶した。

 

「いいえ、そういう訳には参りません。珠世様と愈史郎様のお二人は、鬼殺隊において柱に相当する方々です。その点はご自覚下さい。」

 

「っ!……分かりました。」

 

珠世は雛鶴に強くそう注意されて、仕方無く了承する。それを見て、雛鶴は改めて珠世に尋ねた。

 

「珠世様。先刻(さっき)の話の続きですが、一瞬では不可能とはいえ……禰豆子ちゃんの擬態能力の向上にはどれだけの時間が掛かると思われますか?」

 

『!』

 

禰豆子の擬態能力に関する質問と知って、しのぶ達も真面目に自然と耳を傾ける。

 

「一概に断言する事は不可能です。……私が断言出来る事が有るとすれば、一朝一夕では出来ない。現状では、全て禰豆子さんの才能と努力次第としか言う事が出来ません。」

 

禰豆子の擬態能力を向上させるのに必要な時間がどれくらいかと雛鶴に尋ねられた珠世は、申し訳無さそうに頸を横に振って自身の見解を述べた。

 

「人間の私達に、その苦労が分かるとは思わないけど……元の状態から変化させた上でそれを維持したまま、一部だけまた変化させる部分限定の擬態なんて想像以上に難しいかも……。」

 

まきをがこれから禰豆子が習得しなければならない擬態能力について考えると、その苦労を察して禰豆子に同情する。

 

「そうですね。まきをさんが今仰った様に、難しいと思います。」

 

「珠世様。何かコツとか無いんですか?」

 

まきをの呟きに同意した珠世に、須磨が擬態能力のコツの有無について尋ねる。

 

「いいえ、私から助言出来る事など特には……身体全体を変化させてる禰豆子さんと違って、私は元の状態から目と牙、そして乳房の三点を変えているだけですから。」

 

「そうですかぁ……ん?」

 

『!?』

 

須磨が珠世の説明を聞いて頷き掛けたところを、一点だけ引っ掛かる言葉を耳にして首を傾げた。そして珠世の説明に反応したのは、須磨一人だけでは無かった。

 

「乳房……?」

 

「えっ? 珠世さん、其処変えているんですか?」

 

アオイとカナヲが純粋に疑問に思って、珠世に尋ねてみた。この時になって初めて、珠世は自身の失言に気が付いた。

 

「……っ!」

 

珠世は咄嗟に右手で口を覆う様に押さえるが、一度吐いた言葉を戻す事など出来はしない。況してや、無かった事にする事など不可能だ。

 

聡明な珠世は直ぐに諦念を抱いて、静かに溜息を吐いた。

 

「珠世さん、別に隠す事でも無いのではありませんか? そもそも、変える必要すら感じませんけど。」

 

しのぶは慰める様に、珠世に言葉を掛ける。その一方で内心では、有る疑問を抱いていた。

 

――珠世さんって、私と殆ど変わらない身長よね……乳房の大きさなんて、一体どういった理由で変えているのかしら?

 

しのぶは心中で疑問を抱きながら、珠世の身体的特徴について分析していた。其処へ、珠世から衝撃的な理由が伝えられた。

 

その……大きいからです。」

 

「……はい?」

 

しのぶは理解出来ず、咄嗟に聞き返した。すると珠世が少しばかり恥ずかしそうに、先刻よりも大きな声でその理由を述べた。

 

「わ、私の乳房は少しばかり大き過ぎるので、そのままでは悪目立ちしてしまうからっ! 態と小さくしているのですっ!」

 

『!?』

 

思わぬ理由を聞いて、しのぶ達は驚愕を隠せない。しかし、納得する者も現れ始める。最初に頷いたのは、アオイだった。

 

「そうなんですか……確かに乳房が大きいと、着物を着るのに苦労しますよね……帯の上に乳房が乗って、太って見られたりするし。そうでなくても、嫌らしい目で見られるし。」

 

アオイが自身の着物に関する苦労話を、愚痴を零すが如く話し始めると同意する者達が次々と現れる。

 

「だからって晒でキツく締め上げたら、呼吸をするのもしんどいのが困ります。」

 

「私も着物なんてものを市井の女性はよくきっちりと着てられるなぁって、思いました。」

 

「だから、どうしても私達は何時もの格好を好んで着てしまうのよね。慣れているから。」

 

普段から胸元が開いている扇情的な衣装を着ている雛鶴達が、珠世やアオイに同意して次々と自分達の苦労を話し始める。

 

黙って話を聞いていたしのぶ達も、その内容が理解出来るのか度々うんうんと頷いていた。その姿を見て、珠世が微笑みながら話し始めた。

 

「ですが、私の見識は狭かったみたいです。四百年以上もの時を生きて、大勢の患者を診て来ましたが……はっきり言って皆さんの様に乳房が大きい人は、数える程しか居ませんでしたから。」

 

珠世は仲間を見つけられたとばかりに、嬉しそうに自身の苦労を理解出来るしのぶ達を見ながらそう言って喜びを露わにした。

 

「それなら良かったです!……珠世さん、でしたら私達しか居ないんですから、隠さなくても良いんじゃないですか?」

 

「!」

 

蜜璃から暗に擬態を解いてはどうかと提案された珠世は、少しばかり思考してからその提案に同意した。

 

「そう、ね……打ち明けた以上、隠す必要性など何処にも無いわね。」

 

珠世は自身を納得させる様にそう呟くと、擬態を解いて本来の乳房の大きさに戻した。

 

『!?』

 

「ふぅ……何だか、すっきりした気分だわ。でもやっぱり重いわね。隠さなくても良いのは嬉しいけれど。」

 

たっぷんという幻聴が耳に入って来そうな程の、大きな乳房が温泉に浮かぶ。ただ大きいだけで無く、形も綺麗に整った乳房だ。

 

『……』

――……でかっ!?

 

しのぶ達は心を一つにして、全く同じ感想を浮かべた。

 

「おお〜〜っ。」

 

「おっきいですねぇ〜。」

 

ただし、禰豆子と須磨の二人は驚愕ではなく感嘆していた。

 

両眼を見開いて固まっているしのぶ達とは対象的に、見開いた両眼を感嘆してキラキラと輝かせていた。

 

「「「……」」」

 

しのぶとアオイ、カナヲは思わず自身の乳房に手を置いて触れる。

 

小さくなど無い。それどころか、万人に聞けば万人が大きいと評価するだろう。否、これを小さいなどと言おうものなら、此の世の貧乳の女性全てを敵に回すに違いない。最愛の炭治郎が手に触れても、その手からはみ出る程の大きさは有るのだから。

 

しかし眼前の二人の、合わせて四つ在る巨大な母性の象徴を見せられれば、自分達の乳房は大したものでもないと勘違いしそうになる。

 

「「「……っ。」」」

 

しのぶ達は炭治郎と結ばれるまでは常々邪魔だと思っていた乳房を、今では正反対に大切に重宝しているのだから、自分達の心変わり具合に苦笑せざるを得ない。

 

――今の禰豆子さんと珠世さんの大きさ……私もお母さんと姉さんの二人しか見た事が無いわね。

 

『殿方の視線が気にならないかですって? 別に気にしないわよ。見られて減るものでも無いし……まぁ流石に手を出して来たら張り倒しちゃおうかしらね?』

 

『邪魔だとは、其処まで思わないけれど……文句が有るとしたら、強いて言うと肩が凝り易いわね。でも何時の日か愛する殿方の赤ちゃんを産んだ時に、お乳をあげるのに好都合だと思わない?』

 

生前の姉のカナエの話していた事を思い出して、しのぶは再び苦笑する。あの当時の自分は一体何を言っているのかとカナエに文句を言っていたが、今ではその気持ちが良く理解出来ていた。

 

子供を産む事も無く、また子供を産みたいと思う事も無く仇敵の鬼に喰われて死ぬのだと想定して生きていたしのぶだ。それが今となっては、全く違う別人となっていた。

 

――まさか、それが今では愛する殿方と結ばれて……その人の、炭治郎君の赤ちゃんを産んであげたいとすら思っているなんて、当時の私に言っても絶対に信じないでしょうね。もう、珠世さんのお蔭で益々欲張りになって困っちゃうわ。

 

炭治郎と結ばれて生まれた新たな願望に、しのぶは困った様に、嬉しそうに幸せな笑みを浮かべながら酒を一杯勢い良く呷った。

 

「大きいわね。」

 

「うん、二人共凄過ぎだわ。」

 

「私達の乳房(おっぱい)が、普通の大きさに見えますね」

 

しのぶ達とは対象的に、雛鶴達は禰豆子と珠世の乳房を見ても何とも思わなかった。否、初見こそ驚いてはいたが、それだけであった。

 

何故ならば、最愛の天元ならば乳房の大きさに関係無く自分達に愛情を注いでくれると確信しているからだ。

 

たとえ大草原の如き真っ平らで貧相な乳房を持っていたとしても、きっと天元の愛情は変わらない。

尤も、天元を楽しませる事が出来るだけの大きさを持っている事に誇りを持っているのは確かだが。

 

なお余談ではあるが、実はこの大正時代はまだ痩身(スレンダー)な女性がより美人とされていたので、しのぶ達の様な肉感的(グラマラス)体型(スタイル)はまだ少しばかり特殊であった。

 

大勢の一般的な男性から見れば「顔は凄く良いけど、身体がちょっとなぁ……。」というのが主な評判だったのである。

 

逆に言えば、炭治郎の様な好みを持っている男性は感覚が先進的とも言えた。

 

更にもう一つだけ、大正時代における結婚事情には余談がある。

 

この大正時代では恋愛結婚でもなければ、基本的にお見合いによって年下の女性が年上の男性の下へ嫁ぐ事が主流であり一般的であった。二周り以上年上の男性に嫁ぐ女性も、決して珍しく無かったのだ。

 

そんな大正時代の結婚事情を鑑みれば、炭治郎の年上好きも、しのぶ達の年下好きもまた、感覚が先進的とも言えるものであった。

 

これらの要因もまた、時代や世界情勢に囚われない鬼殺隊が生み出す気風によって生まれ、促されたといっても決して過言では無いだろう。

 

逆にいえば鬼が居たからこそ生まれた可能性も有る訳なのだが、誰もその点について認める事は万に一つ、億に一つとして無い事だろう。

 

「珠世様、ちょっとお願いがあるんですけど、良いですか?」

 

「あら、何かしら? 須磨さん。」

 

『?』

 

唐突に、須磨は珠世に近付いて嘆願をして来た。珠世も不思議そうに、逆に須磨に尋ねる。

 

「そのご立派な乳房(おっぱい)、触らせて貰っても良いですか!? ほんのちょっとの間だけで良いんでっ!!」

 

『!?』

 

須磨が口にした嘆願の内容を聞いて、しのぶ達は呆気に取られた。

 

「ちょっと、須磨っ!?」

 

「あんたいきなり何言いだしてんのよっ!」

 

須磨の嘆願の内容を聞いて絶句していた雛鶴とまきをだったが、我に帰った二人は急いで須磨を止めようとする。そんな二人に、須磨は不服と言わんばかりに抗弁する。

 

「だって二人共見て下さいよ! この珠世様の乳房(おっぱい)っ……大きさは勿論ですが形といい張りといい、弾力も凄そうです。触らなきゃ逆に失礼ってもんですよっ!」

 

「どう言う理屈よそれっ!?」

 

須磨の助平(セクハラ)全開な言い分に透かさず、まきをは鋭くツッコミを入れた。

 

「珠世様、こちらの須磨がすみません。」

 

須磨にまきをがツッコミを入れている間に、雛鶴が珠世に頭を下げて謝罪する。

 

「……くすっ。あはははははっ!」

 

『!』

 

雛鶴達のやり取りを見て少しばかり呆気に取られて固まっていた珠世が突如、可笑しそうに笑声を上げた。笑い終えた珠世は、目尻を拭ってから須磨に話し掛けた。

 

私の乳房(こんなもの)で良かったら、好きなだけ触っても構わないわよ?」

 

「良いんですかっ!?」

 

最初こそ驚いていた珠世だったが、須磨の願望を知って笑いながら快諾する。

 

珠世から承諾を得られた事で、須磨は露骨な程に歓喜の表情を浮かべる。油断していると、今にも口元から涎が垂れ落ちそうである。

 

「珠世様……本当に良いのですか?」

 

「別に甘やかさなくても良いんですよ、珠世様。」

 

申し訳無さそうな表情を浮かべる雛鶴とまきをに、珠世は微笑みながら二人を宥めた。

 

「ええ、本当に良いの……でもあまり強く揉まないでくれると嬉しいわ。」

 

「合点承知の助です! ご心配無くっ!」

 

冗談でも言う様にそう珠世が須磨に言うと、須磨は当然とばかりに頷いてから答えた。それから早速、須磨は素早く行動に移る。

 

「それではお言葉に甘えて……失礼しま〜すっ。」

 

 

 

もにゅ!

 

 

 

「あっ……っ。」

 

「おぉ~~。」

 

須磨は感嘆した様子で声を漏らしながら、正面から両手を伸ばして珠世の乳房に触れていた。遠慮無く珠世の乳房に触れまくっていた須磨だったが、力一杯鷲掴みにする様な乱暴な真似はせず、優しく労わる様に珠世の乳房を揉んでいた。

 

 

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提供:椿様

 

「如何かしら? 須磨さん。」

 

「……凄いですよっ! 珠世様っ!! 硬過ぎず柔らか過ぎない適度な弾力が有って、これは至宝と言っても過言では無いですっ! はいっ!!」

 

「そ、そう……お気に召したなら良かったわ。」

 

須磨から想像以上の絶賛を受けた珠世は、少し困惑しながらも返答した。尤も、須磨は珠世の乳房を愛撫するのに夢中で何も聞いてはいなかったが。

 

因みに何故須磨が同性である珠世の乳房を揉むのに此処まで興奮出来ているのか、その理由は須磨が男女どちらも大好きな、両刃使い(バイセクシャル)であるからに他ならない。

 

尤も自身が身体を許す男性など、此の世で宇髄天元唯一人しか未来永劫、存在しないと須磨は考えている。他の男性に身体を許すくらいなら迷わず自害するだろうと、そう即答出来る程に天元の事を心から愛しているのだ。それは当然、雛鶴もまきをも同じ想いである。

 

「珠世様、お肌スベスベですよねぇ……もしかしなくてもお身体の方は、私達と大して年齢(とし)は変わらなかったりします?」

 

「っ!」

 

男性が女性に聞けば行儀(マナー)に反すると叱責されても、仕方が無い質問である。

 

炭治郎が以前指摘して愈史郎に殴られた年齢に関する質問を、須磨は躊躇無く口にして珠世に尋ねた。乳房を揉む手は、止めないままであったが。

 

『!』

 

須磨が気になる質問を口にした事で、しのぶ達は興味深そうに二人に注目した。珠世が四百年以上生きている事は珠世自身が口にした事なので、その事実に関しては既に全員が認識済みだ。

 

しかし、珠世が何時無惨の手によって鬼に変えられたのかは、非常に繊細(デリケート)な質問であり個人的な興味は抱けども大して重要でも無いため、誰も知ろうとはしなかった。

 

――珠世さん、一体お幾つなのかしら?

 

――折角だから、知っておきたいわね。

 

――珠世さんって大人っぽい人だから、私より年上だと思うなぁ~。

 

しかし須磨が質問した事で、折角だから知りたいとしのぶ達は強く思った。そう思っていると、珠世からその回答を得る。

 

「……私の肉体年齢だけを言うなら、年齢(とし)は十九歳です。だから女湯(此処)に居る面々を考えると……私は甘露寺さんや須磨さんと同い年……と言う事になるわね。」

 

『えっ?……っ!?』

 

しのぶ達は珠世から肉体年齢を聞いて、驚愕から両眼を見開いた。

 

「「ええっ――ッッ!?」」

 

特に同い年と知った蜜璃と須磨は、しのぶ達以上に驚愕していた。だがそれも直ぐにその驚愕振りも形を潜めて、二人は笑顔になった。

 

「私、凄く身近に感じちゃいます!! 雛鶴さんやまきをさん共々、仲良くして下さいね!」

 

「私もですぅ~憧れちゃうなぁ……。」

 

「ふふっ。私の方こそ、どうかよろしくお願いします。」

 

蜜璃と須磨の言葉を聞いて、珠世は照れ臭そうに少し頬を赤く紅潮したまま二人に答えた。

 

だがその頬の紅潮も、別の意味で赤く染まって行く事になる。

 

「……あっ……っぁ❤……んんっ。」

 

『!?』

 

須磨が珠世の乳房を揉み始めて少しすると、珠世の口から僅かに色気を含んだ嬌声が漏れて来て、それを耳にしたしのぶ達は仰天して珠世を見詰めた。

 

珠世を見て見れば、声をあげまいと頑張っていた様子だったが、その姿が逆にしのぶ達を赤面させる程に艶めかしく映っていた。

 

そんなしのぶ達の様子に気付いた珠世が、慌てて弁明する様に口を開いた。

 

「あっ、あのっ!?……違っ!……これはっ……ぁんっ!❤……す、須磨さんが、結構……んっ……お上手だから……んんっ!……んっ!……っ❤」

 

『……』

 

引き続き無遠慮に自身の乳房を揉みまくって楽しむ須磨の愛撫を感じながら、珠世は必死で耐えて弁明した。

 

弁明の最後辺りは中指まで噛んで声を抑えていたのだが、その姿が更に凄艶なものにしていた。事実、しのぶ達は珠世の姿を見詰めたまま固まっていた。

 

一方で自身の愛撫に感じている珠世を見て、須磨は乳房を揉む手を緩める事無くご機嫌な様子で声を掛けた。

 

「気持ち良いですか、珠世様ぁ? 遠慮なんてしなくても大丈夫ですから、思いっ切り気持ち良くなって下さいね?」

 

「す、須磨さ……んああっ!❤」

 

『!?』

 

須磨はもみもみと珠世の乳房を揉んでいた両手に、少しばかり力を込める。珠世は須磨の動きを察して止めようとしたのだが、突如襲来した快感に一際大きな嬌声を上げる。

 

「あぅっ……ぁあっ!❤……んっ!」

 

「……(ゴクッ。)」

 

しのぶは珠世と須磨の痴態を目を逸らしながら、誤魔化す様に酒を一気に呷る。だが気になるのか、チラチラと二人を見ていた。

 

「おぉ~~っ。」

 

「!」

 

そんな風に横目で珠世と須磨をチラチラと見続けていると、禰豆子が感心している様子でキラキラと目を輝かせて二人を凝視している事に気付いた。しかし、しのぶが目に付いたのはそんな禰豆子の様子では無い。

 

「……っ。」

 

しのぶが目を逸らす事が出来なかったのは、鬼化によって大きく成長した禰豆子の身体そのものだ。

 

特に胸部に生えたと表現出来る、禰豆子の豊満な乳房だ。欲しい訳では無いのだが、明確な危機感がしのぶの心中にはあった。

 

――もし今度一緒に炭治郎君と愛される事になったら、私より禰豆子さんに夢中になってしまうのでは……っ。

 

しのぶ自身が最高位に位置する絶世の美女だ。自身の容姿が常人より優れている事に自覚はしている。第三者から見れば『隣の花は赤い』だけなのだが、しのぶにとってはそうではない。

 

しのぶの目には大真面目に、今の禰豆子の方が自身よりも美しい美女に見えていた。自身より大きな乳房はどうでも良い。だがしのぶが望んでも得られなかった長身が、自身の劣等感(コンプレックス)を刺激していた。

 

「……」

 

顔を俯かせたしのぶは、苛立ちながら持っていた徳利を酒盃に注いで一気に呷る。

 

「……っ!……っ。」

 

続けて注ごうとしたが、徳利が空になっている事にしのぶは気付く。しのぶは苛立ちながら空になった徳利を空入れ用のお盆に乗せると、適当な徳利を取って何と酒盃に注がず直接口に付けて一気に呷った。

 

「……っ!?……ね、姉さんっ!?」

 

「しのぶ様っ!?」

 

「ちょっ!? しのぶちゃーんっ!?」

 

しのぶの行動に仰天したカナヲ達が、慌てた様子でしのぶの名前を呼ぶ。だが、しのぶは構う事無くゴクゴクと喉を鳴らして一気に中身の酒を飲み干した。

 

 

 

 

 

※お酒の一気飲みは危険行為です。絶対に真似をしないで下さい。

 

 

 

 

 

「……ふぅ。」

 

『……』

 

酒を飲み終えて空になった徳利を、しのぶはそのまま温泉の外に放り投げる。それから間髪入れずにある行動に出た。

 

「えいっ♪」

 

「ひゃああぁぁっ!?」

 

『!?』

 

しのぶは突如、禰豆子の背後に回るとそのまま両脇に腕を差し入れて、その豊満な乳房を鷲掴みにしたのだ。禰豆子は自身を襲う唐突な快感に、些か困惑を隠せない。

 

 

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提供:椿様

 

しのぶの突拍子も無い行動に、アオイ達は仰天して目が点になり、須磨もまた珠世の乳房を愛撫していた手を止める。

 

「あっ!?……うっ?」

 

「はあぁ……やれやれ。」

 

禰豆子は困惑しながら首を動かして横目でしのぶを見ると、しのぶは何故か呆れた様子であった。モミモミと禰豆子の乳房を揉みながら、しのぶは禰豆子に語り始める。

 

「ひゃぁあっ……あんっ……ああぁん❤……。」

 

「ねぇ、禰豆子さん? 鬼化して強くなる……戦闘力を上げるために、高身長になる理由は分かるんですよ。筋力も増えるし、間合いも伸びる……でも。」

 

「あっ!?❤……ああぁっ……んあっ!!……っ。」

 

しのぶは語るのを止めて一度口を閉ざすと、力を入れて乳房を揉んだ。禰豆子はその快感に堪らず声を上げる。しのぶはその嬌声を聞きながら、再び語り出す。

 

「どうして、乳房(おっぱい)を大きくする必要があるんですかねぇ? 天然の盾のお心算です……かっ!?」

 

「んああああぁっ!❤」

 

しのぶが非力な自身が出せる最大限の力を出して禰豆子の乳房ごとその先端の赤い蕾を揉むと、禰豆子には丁度良かったのか一際大きな嬌声を上げて仰け反った。

 

「あうぅん……んふっ❤……ああぁ……はぁん」

 

「やれやれ、同姓()の私の愛撫でこんなに感じちゃって……。」

 

しのぶは相変わらず愛撫する手を緩める事無く、唇が耳に触れる寸前まで顔を耳元に近付けた。

 

これが()()()の手だったら、どんなに感じるんでしょうね……。」

 

「っ!……あっ……あっ!……ああんっ!❤」

 

禰豆子の耳元に囁くそうに、しのぶはそう呟いた。しのぶの言葉の意図を理解した禰豆子は、内側からじわっとした快感を感じてビクッと身悶えた。

 

「あぁっ……っっ❤……あっ!」

 

「おお~っ。禰豆子ちゃん、凄く気持ちよさそうです。」

 

「ふふっ。炭治郎君に随分と仕込まれちゃいましたから。炭治郎君の手練手管には敵いませんけど~。」

 

『!』

 

恥ずかしそうに、されど嬉しそうに笑みを浮かべてしのぶは須磨にそう答えた。その回答に、心覚えがある者は赤面して顔を俯かせた。

 

「私も負けてられませんね……っ!」

 

「あっ!……す、須磨さんっ!」

 

何故かしのぶに対抗心を燃やし始めた須磨が、再び珠世の乳房を鷲掴みにして愛撫を再開する。須磨は満足して終わったのだとばかり思っていた珠世は、再びやって来た微小の快感の波に困惑しながら、須磨に抗弁する。

 

 

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提供:椿様

 

「も、もう満足したのでは、無かったの?……。」

 

「すみません、珠世様。こんな機会じゃないと経験出来ませんし……代わりと言っては何ですけど、いっぱい気持ち良くしてあげますからっ!……くノ一仕込みの手練手管、どうぞご存分にご堪能あれ。」

 

「まっ!……ああっ!❤」

 

水面を走る波紋の如き微弱なれど確かな快感の波を受けて、珠世は身悶えて嬌声を上げる。

 

「はい、それそれ♪」

 

「あぅっ……はぁっ❤……んっ。」

 

「あらあら、私も負けてられませんねぇ。……ふんっ!」

 

「ああんっ!❤……んふぅっ……んんっ!」

 

 

【挿絵表示】

 

提供:椿様

 

何故か妙な対抗心を抱いたしのぶが、更に気合を入れて禰豆子への愛撫に力を籠める。

 

「んっ!……はぅっ……くぁっ!……んんっ!❤……ああっ……ああんっ❤……あああっ!」

 

「くひぃっ!……ひぃあっ!!❤……ああんっ!……あぅっ!……あぁぅんっ!!❤」

 

『…………(ゴクッ!)』

 

禰豆子と珠世の官能的な二重唱(デュエット)が女湯で響き渡る中、アオイ達は両頬を紅潮させながら二人から目を離せずに居た。

 

「んくぅっ!……ああっ!……あぅっ~❤!……あっ!❤……あああんっ!」

 

「ああ……禰豆子さん、凄く色っぽいです……普段の禰豆子さんからは想像も出来ません……っ。」

 

アオイはしのぶに愛撫されて嬌声を上げる禰豆子の、その妖艶な姿を凝視していた。

 

「あんっ!❤……須磨っ……さんっ!……もう、そろそろ……止め……てっ、んぁああっ!❤」

 

「珠世さん、綺麗……私には無い大人の色気が有って……羨ましいなぁ……。」

 

一方でカナヲは珠世から放たれる大人特有の色気を感じて、羨望の念を隠せなかった。

 

「……」

――カナヲちゃんは見てないから知らないけど、しのぶちゃんもアオイちゃんも珠世さんに負けず劣らず色っぽかったよ。カナヲちゃんも、別に気にしなくて良いんじゃないかな……?

 

蜜璃は以前に蝶屋敷で覗き見た炭治郎達の情交(セックス)を思い出して、カナヲが羨望の念を抱く理由など別に無いと考えていた。

 

「「「……っ。」」」

 

二人の凄艶な嬌声を耳にして、アオイとカナヲ、蜜璃の三人は股をモジモジと擦り合わせていた。

 

「「ああああっっ!!❤」」

 

『!!』

 

すると禰豆子と珠世が二人同時に、一際大きな嬌声を上げる。二人は仰け反ってしのぶと須磨に凭れかかっており、瑞々しい唇からは一筋の唾液が垂れていた。

 

「ふぅ~~満足しました。ご馳走様でしたっ!……って珠世様、大丈夫です?」

 

「あらあら、禰豆子さんも珠世さんも、そんなに気持ち良かったんですか?……きっと隣にも……炭治郎君にも聞こえちゃいましたよぉ~。」

 

『っ!』

 

「あっ……うっ……っ。」

 

「うぅっ~~。」

 

禰豆子と珠世はしのぶの指摘を受けて、羞恥心が頂点に達した所為か顔を俯かせて赤面していた。

 

 

 

 

 

 

『ゆ、愈史郎さんっ!? しっかりして下さい!!』

 

『善逸テメェッ!? 汚ねぇモンを派手に撒き散らそうとすんじゃねぇ!!!』

 

なお、既にこの時の隣の男湯では大惨事が起きており、怒号も時折響く程の混沌とした状況であったのだが、しのぶ達は誰も一切その事について考える事も、関心を持つ余裕も無かった。




お待たせ致しました。

やはり男性陣より、女性陣の方が華が有って書き易いです。盛り上がるし楽しい。
何より男性陣だと少しでもじゃれ過ぎると直ぐ腐臭が漂って来ますが、女性陣だとよっぽど行き過ぎなければ百合臭くならないという利点があります。

しかし、珠世と須磨なんて拙作で無ければ出来ない組み合わせだと我ながら思います(笑)

そして再び椿様から挿絵を頂いてしまいました!! 何時もお世話になりっぱなしです!!! 本当にありがとうございます!!!!!

椿様:https://www.pixiv.net/users/61503296

それから今回のイラストで乳房のランクがほぼ確定しましたね。

『優しき日輪と鬼殺隊の美蝶』におけるバストピラミッドがこちらになります。


超:竃門禰豆子(鬼化)・胡蝶カナエ・珠世
爆:神崎アオイ
※巨:胡蝶しのぶ・栗花落カナヲ・甘露寺蜜璃
普:該当者無し
小:竈門禰豆子(通常)
※「巨」は「爆」寄りか、真ん中か、「普」寄りかはご想像にお任せします。
※変更の可能性は微レ存ながら有り。どうなるかは見守って下さい。


現状、この様な形が現状となります。はっきりとバストサイズ(カップ)を決める心算はありません。其処は読者の皆様方の想像力を働かせた方が楽しいでしょうから。

それと雛鶴・まきを・須磨の三人はヒロイン、もとい炭治郎ラヴァーズでは無いので、バストピラミッドには記載していません。「爆」か「巨」かはご想像にお任せします。

ただ、書いてて思いました。もし私にこの先、炭治郎君以外でエロssを書く機会が有るなら、宇髄夫婦か狛恋だけだなと。積極的に書こうとは思いませんが。

因みに今回の須磨は鬼殺隊見聞録・弐で出て来た情報を活用してみました。
もし須磨の情報が無ければ、禰豆子が珠世の乳房を揉んで、戯れる二人を見たしのぶが乱入、一人で二人を相手にするという構図になる筈でした。

ついでに言うと私の欲求不満の発散も兼ねています。濡れ場が書けなくて久しいので……皆様、如何だったでしょうか? 腕が錆びついてやしないか心配です(-_-;)

次回の更新ですが、男性陣に視点は戻らず女性陣のままです。しかも今回の戯れは前座に過ぎません。次回は女子会クライマックスです。お楽しみに!

その前に読者の皆様に拙作について重大な発表があります。pixivでは改めて投稿連絡、ハーメルンでは活動報告で連絡させて頂きます。必ず目を通して下さいます様、ご協力をお願いします。
(※安心して下さい、打ち切りや更新停止の連絡ではありません。)


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第肆拾陸話 美蝶は愛する日輪への想いを語る ★

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*未成年飲酒は犯罪行為です。絶対に真似しないで下さい。お酒は二十歳になってから。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「はぁ……はぁ……はぁっ……っっ。」

 

快楽の波から解放された珠世は、自身を落ち着かせようと呼吸を繰り返して息を整えていた。

 

「珠世様……大丈夫ですか?」

 

雛鶴は罪悪感からか、心配そうにかつ申し訳無さそうに珠世に声を掛ける。

 

「いたっ!? いたたたたたっ!? ちょっと、まきをさん痛いですよっ!?」

 

「あんたねぇ!……やり過ぎなんだよこの馬鹿須磨っ!!!」

 

しのぶ達の痴態の一部始終を見学していたまきをは、羞恥と憤怒でその整った顔を真っ赤に紅潮させながら須磨の片耳を引っ張って怒鳴り付けていた。片耳を引っ張られている須磨は、痛みから涙目になってまきをに抗議する。

 

「まきをさん……須磨さんを離してあげて下さい。」

 

『!』

 

其処へ息を整え終えた珠世が、須磨を助けるべくまきをに声を掛ける。珠世に声を掛けられたまきをは驚いた表情を浮かべながら、須磨の片耳を引っ張るのを止めて珠世を見る。

 

「でも珠世様……良いんですか?」

 

「構いませんよ。私が良いと言いましたし、別に気にしてませんから。」

 

「……分かりました。珠世様……うちの須磨がすみませんでした。」

 

まきをは須磨の片耳から手を離すと、今度は頭を押さえ付けてお辞儀を強要させる。

 

「ほら、須磨っ! あんたも珠世様に謝るんだよっ!!」

 

「は、はいぃ~~っ。珠世様ぁ、すみませんでしたぁ。それから改めてその、ご馳走様でしたっ! すっごく素晴らしかったですっ!!」

 

「ごち……あんたねぇ……っ!」

 

須磨が涙目になりながら珠世に謝罪したのだが、続けて言った発言を耳にして、まきをが呆れながら須磨を睨み付けた。

 

「……くすっ。」

 

『!』

 

珠世が笑声を零す様に口にするとその瞬間、喧噪としかけた雰囲気が霧散する。珠世に視線が注目する中、少しばかりクスクスと笑声が女湯に響き渡る。

 

「……ふぅ。」

 

『!!』

 

落ち着いた珠世が温泉の壁側に凭れかかると、短く溜息を吐いて髪を撫でる。その姿は、凄艶な色気に満ちていた。

 

「ね……ねぇ! 私から聞いてみたい事が有るんだけど、アオイちゃんとカナヲちゃんに聞いて良いかな?」

 

「「!」」

 

些か欲情的な空気が大浴場に漂い始めたのを感じた蜜璃が、何とかこの雰囲気を変えようと不意にアオイとカナヲを尋ねた。

 

「は、はい、恋柱様。私達に答えられる事でしたら。」

 

「恋柱様、お聞きしたい事とは何ですか?」

 

一体何を聞かれるのだろうと心中では思いながらも、アオイとカナヲは承諾して質問に備えて耳を傾ける。

 

「二人は何が切っ掛けで、炭治郎君の事が好きになったの?」

 

『!』

 

「「!?」」

 

蜜璃からの思わぬ内容の質問に、アオイとカナヲは口に入れていた柚子酒を思わず吹き出しそうになる。吹いて温泉を汚すまいと必死で堪えるも、酒が気道に入ってしまい思わず咽せてしまう。

 

「「げほっ!……ごほごほっ!!」」

 

「ふ、二人共しっかりしなさい。」

 

「大丈夫ですか?」

 

咽せて咳き込む二人に、しのぶと珠世が背中を擦って落ち着かせる。漸く落ち着いたアオイとカナヲは息を荒げながら、頭を下げてしのぶ達に礼を述べてから蜜璃と向き合った。

 

「ご、ごめんね?」

 

「はぁ、はぁ……お気に無さらず。」

 

「私達なら、はぁ……大丈夫ですから。」

 

この事態を招いたのは己の質問が原因だと蜜璃は自覚して、アオイ達に謝罪する。蜜璃の謝罪に対して、二人は咳き込みながらも気にしない様に伝えた。

 

「……ん、んんっ!……それで恋柱様は、私達が炭治郎さんを好きになった理由がお知りになりたいのですか?」

 

「うん!……あっ! 答えたくないなら無理にとは言わないよ?」

 

アオイは気恥ずかしさを誤魔化す様に咳き込むと、改めて蜜璃の質問を確認するために尋ねた。アオイに尋ねられた蜜璃は、少し困った様にそう言ってアオイ達を気遣った。尤も、自身が招いた種なので自業自得とも言えるのだが。

 

「「……」」

 

アオイとカナヲは互いに目配せ(アイコンタクト)をして視線を合わせる。答えるかどうか、自身だけでは決め兼ねていたからだ。しかし、目配せ(アイコンタクト)をしても互いに決断する勇気など持って居なかった。

 

以前のカナヲならば透かさず銅貨によるコイントスに頼っただろうが、今は手元に銅貨など無い。

 

そもそも、炭治郎と結ばれ産屋敷本邸に招かれる直前にカナヲは「もう銅貨に頼ったりなんかしない。」と固く誓約し銅貨を自身の手で封印したのだ。一度誓約をした手前、昨日の今日でその誓約を破るなど出来る筈も無かった。

 

二人は困り果てた様子で、周囲を確認する。全員の視線から、興味と期待の色が見て取れた。

 

「「……っ。」」

 

アオイとカナヲは揃って、周囲に助けを求める視線を出したが悉く無視され徒労で終わった。

 

「で、では……私、神崎アオイが先に炭治郎さんとの馴れ初めについて語らせて頂きます。」

 

『!』

 

アオイは仕方無く覚悟を決めて、愛する炭治郎との馴れ初めについて語る決意をした。そんなアオイを見て、しのぶ達も自然と耳に力が入る。

 

「え、えーと……最初の出会いは……すみませんが省きます。無駄に長くなりますから……。」

 

緊張を隠せないアオイは、誤魔化す様にそう言って話を切り出し始めた。

 

「私が炭治郎さんを意識し始めたのは、炭治郎さんが無限列車の任務に向かう当日でした。私は未だに戦えない、復帰出来ない……そんな自分への自己嫌悪と自己否定に苛まれていました。」

 

アオイは当時の卑屈な自分を思い出して、少し顔色が暗くなる。しかし、その顔色は直ぐに変化した。

 

「でもそんな私を炭治郎さんは否定する事無く「手助けしてくれたアオイさんはもう俺の一部だから、アオイさんの想いも俺が戦場に持って行く。」と言って下さったんです。」

 

「っ!……まぁ!……まぁまぁ!!」

 

蜜璃はアオイが炭治郎を意識する切っ掛けとなった逸話を聞いて、頬を赤くしてときめいていた。雛鶴達も同様である。

 

――炭治郎君とアオイの間にそんな事が……。

 

――炭治郎らしいなぁ……。

 

――本当に、優しい人ね……。

 

しのぶとカナヲ、そして珠世までもがその逸話を聞いて、炭治郎を評価していた。アオイは更に語り続ける。

 

「それから……自分の気持ちが決定的になったのは、炭治郎さんが無限列車の任務から帰還した直後です。しのぶ様もカナヲも炭治郎さんに好意を持っていたから、私は諦めなきゃって当初は思ってました。」

 

アオイは口ではそう言ったが、当時の自分を思い出して自嘲気味に吐き捨てていた。其処から数回程の深呼吸を繰り返した後、覚悟を決めた様子で断言する。

 

「でも私が熱を出して倒れた時に炭治郎さんが私の仕事を肩代わりしながら一生懸命看病してくれて、改めて炭治郎さんの優しさと暖かさに直接触れて……やっぱり私はこの人の事がす、好きなんだって、愛してるんだって自覚して……想いを止める事が出来ませんでした!!」

 

『!!!』

 

アオイが顔を真っ赤に赤面しながら、叫ぶ様に炭治郎への愛を言葉にする。

 

しかし赤面こそすれど炭治郎への想いを断言した事に、アオイは後悔の念など一切無かった。その豊満な乳房を自慢する様に張って、アオイはしのぶ達を牽制した。

 

「うぅ……。」

 

「……むっ。」

 

そんなアオイの様子を見て、しのぶとカナヲは思わず怯んで気後れしてしまう。二人の炭治郎への想いもまた、アオイに負けない程強いものだ。しかしこの時ばかりは、炭治郎への想いの差に自分が負けているのでは無いかと錯覚していた。

 

「きゃ〜〜〜〜!!!❤❤」

 

アオイが抱いている炭治郎への想いを聞いて、蜜璃は再度ときめいていた。

 

「わ、私だって……私だってアオイに負けて無い! 負けて無いもん!!」

 

『!』

 

カナヲはアオイに対抗して、跳ね除ける様にそう叫声を上げた。カナヲは息を荒くしながら、自分と炭治郎との馴れ初めを語り始めた。

 

「はぁ、はぁ……私が炭治郎の事を好きになった切っ掛けだけど、アオイと一緒で炭治郎が無限列車の任務に向かう当日だったの。」

 

『!?』

 

奇しくもアオイと同じ日に炭治郎に好意を抱いた事を暴露すると、その偶然にしのぶ達は驚愕した。

そんなしのぶ達を余所に、カナヲは語り続ける。

 

「私は……私は当時、何もかもがどうでも良かった。言われた事を言われた通りするだけで、自分で決めなければならない事は銅貨を飛ばしてその表裏で決めてた……。」

 

当時の自分の事を苦々しく語ったカナヲは、一転して笑顔になって機嫌良く続きを語る。

 

「でもそんな時に炭治郎が私の前に現れて、「この世にどうでも良い事なんて無い。」「カナヲの心の声が小さいだけ」って諭してくれて……そ、その日から炭治郎の事が気になって仕方がありませんでしたっ!」

 

語っていたカナヲであったが、羞恥心が上回って来たのか後半は早口になって素早く語り終えた。

しかし嘗ての人形の如きカナヲを知っている者ならば、今のカナヲが如何に生き生きとしているか一目瞭然というものだ。

 

――……以前目にして久しいけど、同一人物には見えないわね。

 

――自分で言うのも何だけど、人間(ひと)って此処まで変われるのねぇ。

 

――まさに乙女って感じで、微笑ましいなぁ~。

 

蝶屋敷へ訪れた際にカナヲに何度か会った事が有るのだが、人形の様だと言うのが印象であった。それが愛する男性への想いから、興奮して紅潮しながら語る様は正に恋する乙女だ。雛鶴達はカナヲの成長を微笑ましく見守っていた。

 

――同じ日に二人共口説き落とすなんて、とんでもない炭治郎君だわ……何だか、無性に腹が立って来た。

 

しのぶは笑みを浮かべつつも、青筋を浮かべて炭治郎の無節操さに立腹していた。その苛立ちを抑制するが如く、酒を酒盃に注いで一気に呷る。それを間髪入れずに二回続けて、一瞬にして徳利を一本空にした。

 

「分かりますっ!!」

 

アオイとカナヲが炭治郎を好きになった切っ掛けと炭治郎への想いを語り終えると突如、須磨が大声で二人に強く同意したのだ。

 

『!?』

 

興奮した様子で頬を赤く染め鼻息を荒げる須磨を見て、しのぶ達はギョッと双眸を見開いて驚愕する。しのぶ達には、須磨に対してある懸念があったからだ。

 

「「……」」

 

尤も、雛鶴は困った様子で笑みを浮かべ、まきをは呆れ果てた様子で溜息を吐いていたが。

 

――えっ? どういう意味なの……?

 

――須磨さん、まさか……。

 

――炭治郎さんの事が……?

 

「大好きな人への想いって、自分じゃ抑え切れませんよね!? 私も天元様の事が大好きで、この想いは抑え切れませんからっ! 抑えようだなんて、ちっとも思ったりしませんけどっ!!」

 

『!』

 

須磨はそう言って自身が最愛の夫である天元を強く想っている様に、アオイとカナヲの心情に強く同意していたのだ。

 

そして須磨からこの一言を聞いて、しのぶ達は心底安堵する事になる。

 

――何だ、そういう意味か。

 

――須磨さん、驚かせないで下さい。

 

――はぁ……安心しました。

 

心中でそうつくづくそう思ったしのぶ達は、安心感からか胸を撫で下ろす様に小さく溜息を吐いた。

 

「其処でですねぇ! 男女の付き合いに関しては天元様と夫婦になって八年以上経っている、私達の方に一日の長が有ります! お姉さん達に何でも聞いて下さいよっ! ばっちり答えてあげますからっ!!」

 

『!!』

 

須磨の背後からドーンという、幻聴が聞こえそうな程に胸を大きく張ってみせた。この事態には雛鶴達も再び、溜息を吐いてしまう。

 

――須磨さん、酔ってるのかしらねぇ?

 

一方的に先輩面されながら須磨に言われたしのぶは、頬を赤くなっている須磨の状態を見てその様に判断した。

 

――まぁ良いわ……だったら答えて貰いましょうか?

 

須磨の宣言に対して、先刻の意趣返しを望んだしのぶはニヤッと笑みを浮かべてからこの様に切り出し始めた。

 

「でしたら須磨さんに……いえ、雛鶴さんとまきをさんにも聞きたいと思います。」

 

「はいっ! 何ですか?」

 

早速頼りにされたと思った須磨は、ワクワクした様子でしのぶを見詰めた。雛鶴とまきをもまた、名指しされた事が気になってしのぶの方を見詰める。

 

そんな三人に待っていたのは、しのぶからの特大級の爆弾発言であった。

 

「お三方と宇髄さんの間の夜の営みって、どんな具合なんですか?」

 

「「「「!?!?」」」」

 

「「ちょっ!?……っっ!?」

 

「ぶふぉっ!?」

 

「?」

 

しのぶからの爆弾発言を聞いて、雛鶴達は赤面したまま固まってしまう。珠世もまた同様であった。

 

アオイとカナヲもまた絶句して固まってしまい、漸く動いたと思えばあんぐりと口を開けたまま錆び付いたブリキ人形の如く、ギギギと頸を動かしてしのぶを見詰めていた。

 

そして口に入れたばかりの果実酒を、蜜璃は盛大に吹き出してしまう。吐いた果実酒は温泉の外に落ちて温泉内に入らなかったのは、唯一の不幸中の幸いであった。

 

最後に禰豆子だが、何の事か分かっていない様で首を傾げていた。

 

「えぇ……とぉっ……そのぉ〜〜。」

 

先刻までの先輩面は何処へ行ってしまったのか、思わぬ不意打ちを喰らった須磨は、しのぶの質問内容に答えられず狼狽していた。

 

「……ああ、聞く前にこちらから言うのが礼儀でしたね。すみません、須磨さん。失礼しました。」

 

そんな須磨の様子を見て、しのぶは笑顔のまま畳み掛ける様に語り始めた。

 

「因みに私達と炭治郎君との夜の営みですが……この身体中に有る口付け痕(キスマーク)を見れば分かる様に、炭治郎君はとっっっても情熱的なんですよ。」

 

『!!!』

 

情交(セックス)している時の様子を思い出しているのか、当初は羞恥心を抱く原因となっていた口付け痕(キスマーク)を見せ付ける様に身体をくねらせてそう言った。

 

 

 

 

 

バシャアン!!

 

 

 

 

 

『?』

 

すると突然、隣の男性用の大浴場から大きな水音が鳴り響いて来た。それから何やら騒々しい声が聞こえて来たが、しのぶは気にする事無く語り続ける。そのため蜜璃達もしのぶの話が気になるためか、しのぶと同様に隣の男湯を気に掛ける事はしなかった。

 

「炭治郎君ですが、男の子らしくって乳房(おっぱい)が大好きなんです。手が空いていたらずっと揉んでいますし、口が空いていたら赤ちゃんみたいにちゅうちゅう吸って来ます。その姿がとっっても愛おしくてたまらないんですよねぇ。」

 

『……』

 

しのぶが捲し立てる様に炭治郎の性癖を口にするのを、蜜璃達は内心ドキドキと胸を高鳴らせながら聞いていた。隣の男湯からは更に大きく水が跳ねる音が聞こえたが、蜜璃達には最早どうでも良い事だった。

 

「あっ! でも舐めたり優しく甘噛みする時もあって、力加減が絶妙に上手くて身悶えるくらい気持ち良いですよ。赤ちゃんはそんな事しないから、赤ちゃんと例えるのは不適切でしたね。訂正します。てへっ❤」

 

『っ!?…………ゴクッ。』

 

 

【挿絵表示】

 

 

しのぶが酒盃を手放して自分で乳房を持ち上げ舌を舐めずりながらそう言うと、しのぶの妖艶な姿に蜜璃達が生唾を飲み込みながら話を聞くのに集中していた。

 

しのぶが手放した酒盃が、温泉の上でプカプカと浮かんでいた。

 

「それから炭治郎君は犬の如く嗅覚が優れているのですが、そのお蔭なのか私達の感じているところや喜ぶところを的確に把握して愛撫して来るんですよ。

同時に私達の喘ぎ声を聞くのが楽しいのか、意地悪もして来るんですよねぇ……ねぇアオイ、カナヲ? 貴女達もそうは思わない?」

 

「「……はっ!?」」

 

眼前の怒涛の展開に着いて行けず硬直していたアオイとカナヲだったが、しのぶに声を掛けられた事で漸く意識を取り戻す事が出来た。しかし耳の方はきちんと機能していた様で、しのぶの言葉をきちんと脳味噌に届けていた。

 

「「っ!?……は、はいっ。」」

 

脳裏で繰り返したしのぶの問い掛けに対して、かああっという幻聴が聞こえて来そうな程にアオイとカナヲは赤面しながらしのぶに同意した。これを受けてしのぶは我が意を得たりとばかりに、更に語る勢いが増していく。

 

「続けて炭治郎君の日輪刀についてお話しましょう。いや……此処ははっきりと逸物、いえ……おち×ちんというべきでしょうか?」

 

『!?!?!?』

 

しのぶの口から飛び出た爆弾発言に、蜜璃達は驚愕のあまり石化する。アオイとカナヲに至っては、あんぐりと顎が外れそうになる位に大口を開けて、白目を剥いていた。

 

それから今まで以上の騒音が隣から聞こえて来るのだが、それが今のしのぶ達の耳に入る事は無かった。

 

「勃起すれば七寸(二十一cm)以上の長さが有り、火傷しかねない程熱く、太さも口に咥えれば顎が外れそうなくらいありましてね。私の小さい手では親指と人差し指で輪っかにしても、指が届かないんです。」

 

しのぶはそう解説を続けながら、両手を乳房から放してから身振り手振り(ジェスチャー)を駆使して炭治郎の逸物の太さや長さについて説明した。

 

「飛び出る精液はとっっっても濃厚で量も多くてですね?……普通、精液って苦かったり生臭かったりするらしいじゃないですか?……いやね、炭治郎君以外の男共の粗チンから出る精液の味なんて、死んでも知りたくありませんし、興味もありませんけど……炭治郎君の精液だけは砂糖とか蜂蜜みたいに、すっごく甘くて美味しいんですよぉ。」

 

「「「……(ゴクッ。)」」」

 

「「「……」」」

 

しのぶが次に炭治郎の精液について解説すると、実際に炭治郎の精液の味を知っているアオイとカナヲは、その味を思い出して生唾を飲み込み、蜜璃はしのぶ達が精飲しているところを見たのを思い出して生唾を飲み込んだ。

 

そんなアオイ達三人とは対照的に、雛鶴達の顔色には少しばかり困惑の色が見て取れた。

 

「……精液(あれ)って、美味しいものだったかしら?」

 

「あたし、結構気合入れて飲んでるけどなぁ……。」

 

「天元様のだから、勿体無くて飲んでますね。……美味しいって思った事無いですけど。」

 

雛鶴達は天元との情交(セックス)での状況を思い出しながら、しのぶとの精液に関する認識の違いに困惑していた。

 

――男性の精液は本人の体調や食生活で味が甘かったり塩っぱかったり、苦かったりすると聞いた事があるけれど……炭治郎さんは普段、甘党だったりするのかしら?

 

この中で唯一、珠世だけが冷静に炭治郎の精液は何故甘いのか静かに分析を重ねていた。

 

そんな少しばかり混沌とした女湯の状況を余所に、しのぶは炭治郎の逸物の解説の締め括りを始めた。

 

「炭治郎君のおち×ちんを挿入(いれ)られたらですね。凄い圧迫感なんです。でもそれが気持ち良くって子宮口と鈴口がくっついた瞬間なんて、「ああ、一つになったんだ。」って事をこれでもかって位に実感出来ます。」

 

「特に膣奥(おく)をゴリゴリってされると、発狂するんじゃないかってくらい気持ち良くって……ふふっ❤……これらの複数の要素を鑑みれば、炭治郎君の日輪刀は女を悦ばせる……いえ、まさに女を堕として孕ませるための妖刀なんです。」

 

『…………』

 

其処まで言うとしのぶは次に右手を離して腹部に移動させる。右手の人差指が、鍛えられたしのぶの腹筋を擦る。

 

「私もこんな毒塗れの身体で無ければ、とっくに炭治郎君の稚児をこのお腹に宿していますよ。先刻(さっき)も言いましたけど、飛び出る精液も濃厚で、量も多いですからねぇ。ふふふっ❤」

 

『……(ゴクッ。)』

 

一際妖艶な雰囲気を醸し出したしのぶに、話を聞いていた蜜璃達は再び生唾を飲みながら圧倒される他に無かった。

 

「……」

――しのぶさん。大分、酒精が回って酔いが進んでいるわね……大丈夫かしら?

 

唯一人、珠世だけがしのぶの様子を見て心配していた。するとしのぶが珠世の視線に合わせた後、くすっと笑った。

 

「そうだっ……珠世さん。私から一つ、お聞きしたかった事が有るのですが……構いませんか?」

 

「っ!……私に?……何かしら、しのぶさん。」

 

「はい……。」

 

『っ?……っ!』

 

一体しのぶは珠世に何を尋ねる心算なのだろうとそう思っていた蜜璃達だったが、しのぶの視線が鋭くなり青筋を浮かべたのを見て、思わず緊張から身体を硬直させた。蜜璃達がそうしている間に、しのぶは珠世に尋ねた。

 

「炭治郎君の事を、「夫に似ている。」と仰ってましたが……亡くなられたご主人に似ているのかどうかはともかく、珠世さんは個人的に炭治郎君の事をどう思っているんですか? 私達への気遣いなど無用ですから、正直に言って下さい。」

 

『!?』

 

珠世への思わぬしのぶの質問内容に、蜜璃達は驚愕する。しかし、同時に興味も直ぐに抱いた。特にアオイとカナヲの興味の度合いは蜜璃達の比では無かった。

 

「……」

――しのぶさんの問いに、私はどう答えるべきかしら?

 

一方で警察から尋問を受ける容疑者の如く、しのぶに尋ねられた珠世は、しのぶの質問内容に対してどの様に答えるべきか悩んでいた。

 

――適当な事を言っても状況が悪化するだけね……それに私は炭治郎さんの事で嘘なんて吐きたくないわ。

 

しかし現況で下手に嘘や誤魔化しなどしては、却って火に油を注ぐ事態になりかねないと珠世は判断した結果、自身が正直に思った事を話す事にした。

 

「炭治郎さんは、その……凄く優しくて、誠実で……とても素敵な殿方だと思います。」

 

『!!!』

 

珠世が口にした炭治郎への評価を聞いて、女湯の緊張が高まる。そしてしのぶの目線がスッと細くなるのを、珠世は見逃さなかった。

 

「ですが、それは炭治郎さんの人間性や人柄に惹かれているという具合です。殿方としてというのは、私の場合は違います。」

 

『!』

 

珠世は抗弁する様に、自身が炭治郎を好いている理由は飽くまで炭治郎の人間性や人柄であって異性としてではないと公言した。最後に珠世は続けて、この様に公言した。

 

「それに私は無惨の手で鬼に変えられて、もう四百年以上の歳月が経ちます。一体私と彼の間に、幾つ歳が離れていると思って?……とても男女の関係にはなれないし、その様な目で彼が人喰い鬼だった私を女として見たりはしないでしょう。」

 

「……はい?」

――何言ってんの()()()

 

珠世は駄目押しとばかりに、自身との年齢差と種族の違いを理由に否定した。しかし、この公言の所為で珠世はしのぶの顰蹙を買う。

 

「っ…………(ぐびっ。)」

 

しのぶは水面に落とした酒盃を拾い、酒を注いで直ぐに酒を呷ってから珠世を問い詰める。

 

「ふぅっ……珠世さん。それ、本気で言っているのですか?」

 

「……?……えぇ、そうよ。」

 

「……」

 

睨み付ける様にしのぶが珠世に確認を取ると、珠世もまた否定せず肯定する。

 

「……分かっていませんねぇ。」

 

「はい? しのぶさん?」

 

しのぶが小声で呟いた一言を逃さず聞き取った珠世だったが、意味が理解出来なかったのでしのぶに聞き返した。するとしのぶが吠えた。

 

「貴女は竈門炭治郎という男を分かっていません!」

 

『!?』

 

しのぶが吠える様に断言した内容を耳にして、アオイ達は驚愕から身体を硬直させる。

唯一、身体を硬直させなかった珠世だったが、しのぶの豹変振りに困惑していた。

 

「私が炭治郎さんを、分かっていない……?」

 

「えぇ、分かっていませんよ。それとも分からない振りをしているのか……。」

 

「!」

 

珠世が復唱した言葉を肯定した後、しのぶがボソッと呟いた一言に珠世が反応する。

 

しかし、しのぶは間髪入れずに珠世に語り始めた。

 

「死んだ姉の理想の、その上っ面しか引き継げなかった私と違って、炭治郎君は鬼の本質を理解して本心から慈悲を持って涙を流せる優しい子なんです!……そんな彼が鬼だの人だのなんて小さい枠組みに拘ったりなんかしないし、況してや年齢の差なんてものに炭治郎君がとやかく言うと、珠世さんは本気でそう思ってます?」

 

「っ!……っ。」

 

しのぶの指摘を受けて、珠世は咄嗟に反論出来ずに口を閉ざした。言い返して反論しようとしない珠世の様子を見て、しのぶは更に珠世にとって爆弾級の衝撃的な事実を告げる。

 

「その様子だと、お気付きでは無いみたいですねぇ?……珠世さん。ご存知無い、お気付きでないなら教えてあげますけど、炭治郎君ですが……何度も貴女を見詰めては、顔を赤くして見惚れていたんですよぉ?」

 

『!』

 

「えっ?……えっ!?」

 

しのぶが伝えた事実に、珠世は露骨に驚いてみせた。珠世の様子を見れば、初耳である事は明らかだった。

 

「珠世さん、本気で気付いて無かったんですか……?」

 

「そっちに驚くんですけど……。」

 

アオイとカナヲは珠世の驚く姿を見て、しのぶと同様、呆れ返っていた。

 

「炭治郎さんが、私に……?」

 

珠世は困惑しながら、しのぶから知らされた事実を理解するために繰り返していた。

 

「……っっ!」

 

その事実を完全に理解した瞬間、珠世の顔は赤く紅潮した。鬼であるため飲酒は出来ないので、頬を赤くした理由は一つしか有り得なかった。

 

「……っ。」

 

そんな珠世を見て、しのぶは内心で愚痴を零す。

 

――そもそも珠世さんは炭治郎君と禰豆子さんの関係をご存知なんだから、鬼だの何だのと! そんなチンケな事を彼が気にする訳が無い事くらい、分かるでしょうがっ!? 全くっ、()()()は今更何を言っているのか……っ!

 

珠世の言い訳に対して、しのぶは心中でそう愚痴を零す。この時のしのぶは、自身の一連の言動に気付いていなかった。

 

禰豆子に触れる事に一切躊躇が無くなっていた事と、自分が珠世を人呼ばわりしている事に気付かなかったのだ。

 

「そんな、まさか……でも炭治郎さんが……っ。」

 

珠世はしのぶ達を余所に、炭治郎に一人の女として見られていたという事実を理解して未だに狼狽していた。

 

実はこの珠世、そういった恋愛観に関してはかなり鈍感であった。

 

無惨からの追跡を受けて追われているという重圧(プレッシャー)の下、無惨討滅の研究に必要不可欠であった資金繰りのために、人間と偽って医療に従事していた珠世である。

 

一歩間違えれば自身の命を危うくする道を歩んでいたため猜疑心が強く、悪意や敵意、疑心といった負の感情に満ちた視線は非常に敏感であった。それに反して、好意といった真逆の感情には非常に鈍くなっていたのだ。

 

何人もの患者からの好意も、医療による恩義によるものと半ば決め付けていた。中には恋文を送る猛者も何人か居たのだが、珠世は相手にしなかったのである。

 

因みに、愈史郎が仲間に加わってからはそういった好意的な感情は愈史郎が牽制していたため、更に他者からの好意という感情を受ける機会は無くなっていた。

 

患者からの恋文も愈史郎の手によって、例外無く破られた後に燃やされて灰になった。そのため、炭治郎の視線といったものにも、珠世は気付かなかったのである。

 

「いいえ、駄目よ。私には亡くなった夫が居るのだから……でも無碍に断ったら炭治郎さんに失礼よね?……だけど私、炭治郎さんになんて言えば良いのかしら……っ。」

 

『……』

 

 

【挿絵表示】

 

 

炭治郎はまだ何もしていないと言うのに、珠世は片手を赤面している頬に添えて、どうしたら良いのか分からない様子であった。

しかしその端麗な容貌や神秘的な紫水晶(アメジスト)の瞳から漏れる幸福感に満ちた歓喜の情念は、今更どう取り繕うと既に誤魔化せるものでは無かった。

 

「ふっ、全く……世話が焼けるんですから。」

 

しのぶは珠世の様子を見て、不思議な達成感を味わいながら満足感に浸っていた。その満足感を余韻に、再び酒を一杯口にする。

 

「「……っ!?」」

 

そんな珠世の様子を見て、しのぶとは対照的に焦燥していたのはアオイとカナヲである。思わず二人は同時に、ドヤ顔を披露するしのぶを睨み付けた。

 

――何やってくれてんの姉さんっ!?

 

――あれじゃ牽制どころか、珠世さんの背中を押してしまっているじゃないですかっ!?

 

心中でそうしのぶを責めながら睨み付けてくる二人に、しのぶは気付いた様子も無くあっけらかんとした様子で酒を呷り続ける。

 

「(グビッ)……あら、お酒が無くなっちゃったわ……カナヲ、もう一本貰える?」

 

「っ!……ね、姉さんっ! もうその辺で止めとこうよ!」

 

「しのぶ様、幾ら何でも飲み過ぎです。」

 

酒を催促するしのぶを見て、カナヲとアオイは好い加減に飲酒を止める様に苦言を呈した。

 

「……チッ。」

 

しのぶは二人から強く言われたため、小さく舌打ちをした後に不本意ながらも飲酒を止める。そして一度深呼吸をしてから、ある女性達に話し掛けた。

 

「さて……私達は色々語りましたけど、雛鶴さん達は宇髄さんとはどうなんです? 参考までにくノ一仕込みの手練手管を色々と伺いたいのですが、良かったら教えて貰えませんか?」

 

「「「!」」」

 

しのぶに尋ねられた雛鶴達三人は、思わず顔を見合わせて視線だけで相互意識の共有を図る。すると須磨が意を決した様に口火を切った。

 

「胡蝶様にだけ語らせるのは不公平ですから、私も話をさせて頂きます!」

 

「ええ。是非、お願いしますね? 須磨さん。」

 

待ってましたとばかりにしのぶが興味深そうに須磨に耳を傾けると、須磨が天元との生活について語り始めた。そしてそんな須磨に交えて、雛鶴とまきをも開口する。

 

「「……」」

 

アオイとカナヲもまた、今後の参考になるかも知れないと考え、静かに雛鶴達の話に耳を傾けていた。

 

――しのぶちゃんもアオイちゃんもカナヲちゃんもっ、本当に炭治郎君の事が大好きなのね~。恋してるってのがはっきり分かってキュンキュンしちゃう❤

 

幸せそうに、愛おしそうに炭治郎について語ったしのぶ達を見て、蜜璃は雛鶴達の話を聞きつつときめきながら感心していた。

 

――こんな平和な光景が、しのぶちゃん達が生き生きとした姿が見れる様になったのも、全部……炭治郎君が頑張ってくれたお蔭なのよね。炭治郎君だけが頑張った訳じゃないけど、彼が一番頑張ってくれたのは、間違いないよね。今日は本当に大変な一日だったなぁ。

 

蜜璃は今日の緊急柱合会議で起きた大騒動を思い出して、心中で炭治郎を労い称賛する。

 

――……うん。炭治郎君、格好良いわよね。私より年下なのにしっかりしてて、しのぶちゃん達を愛する姿勢に一切ブレが無くて、意志が固くて真っ直ぐで、それでいて太陽みたいに温かくて優しい子だもんね……それにしのぶちゃんに告白したあの時の炭治郎君、凄く素敵だったなぁ……。

 

その際に炭治郎自身の事を思い浮かべながら、蜜璃は炭治郎の慈愛に満ちた人格を評価していた。

 

 

 

 

 

ドクン

 

 

 

 

 

 

――えっ?

 

蜜璃は不意に、自身の胸の奥から強い高鳴りを感じ取った。

 

 

 

 

 

ドクン ドクン

 

 

 

 

 

――な、何これ? 今まできゅんきゅんした事なら有るけど、ドクンって何? 何で?

 

此の世に生を受けて、十九年間生きて来て、生まれて初めて覚えた感覚に蜜璃は困惑を覚えていた。持っていた酒盃を温泉の上に落とすと、酒盃はちゃぽんと水音を立てて温泉に浮かぶ。

 

如何したら良いか分からず、熱を帯びて行く両頬に両手を添えて困り果てる蜜璃。しかし、一つだけ蜜璃には理解している事が有った。

それは炭治郎の事を脳裏に思い浮かべると、胸の奥から強い高鳴りを覚えるのだ。

 

――ううぅぅっ! 顔が熱いよぉ~~~!!!

 

 

【挿絵表示】

 

 

蜜璃は顔を真っ赤にしながら、顔半分を温泉の中に沈めてブクブクと泡を立てた。その整った美貌が紅潮しているのは、間違い無く酒精(アルコール)だけが原因では無かった。

 

――……でも……でも、この感覚……私、分からないけど嫌いじゃないかも……っ❤

 

幾分か冷静さを取り戻した蜜璃は、改めてその高鳴りについて思考していた。少なくとも、嫌悪感は抱かなかった。

 

寧ろ居心地の良さすら感じており、少し油断するとそのまま身を委ねてしまいそうな誘惑すら存在していた。

 

蜜璃がこの感情が何なのか、自分で理解するのはまだ、もう少しばかり先の未来の話。今のままでは、まだ幾許か時間が足りていなかった。

 

「甘露寺さん、どうかしましたか?」

 

「!」

 

蜜璃の挙動不審な様子を見て、冷静さを取り戻した珠世が心配して声を掛ける。

 

「だ、だだだだ大丈夫です! 問題無いです!!」

 

そんな珠世の声を聞いた蜜璃は、ザバンと水音を立てて勢い良く姿勢を戻した。それから何かを誤魔化すかの様に、落とした酒盃に拾い酒を注いで一気に呷る。

 

「っぷはあぁぁぁっ!……ねぇ? 私、大丈夫でしょう?」

 

「……こほん、甘露寺さんが大丈夫なのは分かりましたから……そんなに一気にお酒を呷らないで下さい。良いですねっ?」

 

「は、はーい。分かりました。ごめんなさい。」

 

珠世に少しばかりキツめの口調で注意された蜜璃は、素直に了承して珠世に謝罪した。




お待たせ致しました。

椿様、今回も挿絵の方をありがとうございました。

椿様:https://www.pixiv.net/users/61503296

炭治郎、まさかの二回目の公開処刑(笑)
語っていたしのぶさん自身も、手の込んだ自殺だったりします(爆笑)

そして何気に拙作における、記念すべき性器発言だったりします(伏せてはいるけれど)。
急遽ですが、アンケートを設置しておきます。上記に関してです。

すみません、重大発表の前に普通に更新する事にしました。その重大発表も、三月中に発表を予定しております。よろしくお願い致します。pixivでは改めて投稿連絡、ハーメルンでは活動報告で連絡させて頂きます。必ず目を通して下さいます様、ご協力をお願いします。
(重ね重ね申し上げますが、打ち切りや更新停止の連絡ではありません。)

拙作に関してですが次回、男性陣に視点を一度戻します。女性陣と違って華はありませんが、阿鼻叫喚地獄を楽しんで頂ければ幸いです(笑)

最後に東日本最震災で被災された皆様の多幸多福、そして亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。拙作で少しでも元気になれましたら幸いです。

宣伝

kor様(pixivユーザー)
https://www.pixiv.net/users/55846409
炭しのと炭ナエを中心に、炭治郎×鬼滅女子を執筆活動されている作者様です。

もし、あの時雲取山に来たのがカナエさんだったら
https://www.pixiv.net/novel/series/1373326
炭治郎の下へ向かったのが義勇では無く、カナエだったら?……というカナエ生存ifによる原作改変。
ただ、あの運命の日がもっと早く到来していて且つ禰豆子も死亡している家族全滅√だったりするので、竈門兄妹・禰豆子好き注意。

MASA様(pixivユーザー)
https://www.pixiv.net/users/62769506
炭しのを中心に執筆活動をされている作者様です。

大晦日の夜
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14369433
題名通りの現代ss。恋人同士の炭しのが大晦日の夜に二人で甘く過ごします。


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第肆拾漆話 日輪は混沌の渦から脱出す

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*未成年飲酒は犯罪行為です。絶対に真似しないで下さい。お酒は二十歳になってから。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「………………」

 

実弥は呆れ果てた様子で、自分を取り巻く惨状に硬直していた。呆然としながらも、見渡す様に周囲を確認する。

 

「う~ん……う~~~ん……っっっ。」

 

「愈史郎さんっ! 大丈夫ですかっ!?」

 

炭治郎が焦燥した様子で、痙攣しながら仰向きに倒れている愈史郎を看病していた。愈史郎は白目を剥いて横に倒れている。

 

炭治郎がもし冷静で居たならば、湯浴みが勃起した逸物で天幕(テント)を張っていた事に気付いた事だろう。尤も、炭治郎にそんな余裕などある筈も無く、それ故に気付いてはいない。

 

「フヒッ……フヒヒヒヒヒッ……っ。」

 

「こ、こいつ……気絶してる癖に鼻血垂らしながら派手に笑ってやがる……っ!」

 

天元がドン引きした様子で、愈史郎と同様に白目を剥いて更に鼻血を噴き出している善逸を見ていた。しかし愈史郎と違って、万人が見れば鳥肌が立つ様な気色の悪い笑みを浮かべていた。腹部は赤く色が変わっている。

 

大千世界(だいせんせかい)説誠実言(せつじょうじつごん)汝等衆生(にょとうしゅじょう)当信是称賛(とうしんぜしょうさん)不可思議功徳(ふかしぎくどく)一切諸仏(いッさいしょぶつ)所護念経(しょごねんぎょう)…………。」

 

「いたいっ……痛いよっ。悲鳴嶼さん……っっっ。」

 

一心不乱に浄土宗が持つ仏経の一つである阿弥陀経を唱えながら無一郎の両耳を両手で塞ぐ行冥と、自身の両耳を塞ぐ行冥の両手を外そうと血管が浮かぶ程に力一杯出し切って必死で抵抗する無一郎が居た。しかし鬼殺隊随一の怪力を持つ行冥に抗うには、無一郎はあまりに非力過ぎた。

 

「ヒック……ウィ~~~。」

 

そして最後に泥酔していた伊之助が、温泉の外で酔い潰れて眠っていた。

 

「…………」

 

因みにこの男性陣で唯一、義勇だけは我関せずと騒動に関わる事を拒絶する様に男湯の現況を無視していた。とは言え耐性がある訳でも無い様で、耳が赤く染まっている。

 

「…………」

 

実弥は混沌と化した男湯を前に、呆然とした様子で見詰める事しか出来ない。

 

「…………お前らァ、騒ぎ過ぎだ。」

 

実弥はそう呟いた後、眼前の惨状から現実逃避する様に此処に至るまでの経緯を回想し始めた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

愈史郎が持って来た酒で、男性陣が大いに盛り上がっていた男湯。

 

『ああっ――っ!! 雛鶴さんだぁ〜〜っ! まきをさんに須磨さんもっ! こんばんわっ! お疲れ様です!!』

 

 

 

ピタッ!

 

 

 

 

其処へ蜜璃の元気な声が、隣の女湯から炭治郎達の耳に聞こえて来た。すると何故か、自然と男湯は声を抑えて静かになった。

 

興味の大小には差はあれど、本能から異性の声に反応した様だ。温泉と言う特別な環境がその本能を強くしていた。

 

『禰豆子さん。先に行っては駄目よ。』

 

『んっ!』

 

「「っ!?」」

 

蜜璃の後から聞こえて来た声に、男湯に居た二人の男性が過剰反応した。愈史郎と善逸である。

 

「ね、禰豆子ちゃ~んっ……フヒヒッ。」

 

間仕切りあるとは言え、禰豆子と同じ空間に居る事を喜ぶ善逸。自身の超人的な聴覚は勿論、鼻穴すら大きく開けて仕切り越しの女湯の空気を体内に取り込まんとしている。

 

『…………』

 

そんな善逸の様子を見て、男性陣は呆れ果てた様子でドン引きしていた。炭治郎も呆れた様子を見せてはいるが、日常なのか既に慣れていた。そんな男性陣の中で唯一、善逸如きの相手などしていられない人物が居た。

 

『ふふっ。こうして温泉に入るなんて、一体何百年振りかしらね。』

 

「た、珠世様っ……っっっ。」

 

愈史郎である。敬愛し初めて出会ったその日から淡い恋心を抱いている女性が温泉と言う空間に居る事実が、愈史郎を動揺させていた。愈史郎は必死で平静さを装うとしているが、赤面しているその表情を見ればその心情を察するのは造作も無かった。

 

「珠世さんが、禰豆子と一緒に温泉に……?」

 

炭治郎が珠世の名前を呟いた後、咄嗟に脳裏にある光景が浮かんだ。それは陶器の如く白い肌を輝かせた、全裸姿の珠世であった。

 

「~~~~っ!!!」

 

炭治郎は慌てて沸騰したが如く赤面した顔ごと、身体を温泉に潜らせた。温泉の水面に、水泡が連続して浮かび上がる。

 

そんな炭治郎の様子を、彼が見逃す筈が無かった。

 

「おいおい。珠世の事、派手に意識しちまったのかぁ?」

 

「っ!!」

 

音も立てずに接近して来た天元が、そのまま炭治郎を引き上げると背後からその鍛え抜かれた逞しい腕で炭治郎を引き寄せた。

 

「そ、そんな事は……ありますね。」

 

「正直だな、おいっ。」

 

尋ねられた炭治郎は、天元の質問に正直に答えた。誤魔化されると思っていた天元は、予想外だったのか思わずツッコミを入れる。

 

「まぁ、悪い事じゃあないがな。女を意識しない男とか、男として派手に終わってるからなっ。」

 

天元はがっはっはっと愉快気に笑うと、炭治郎の左耳に顔を近付かせた。

 

「んで? 女湯(向こう)はどうなんだよ? 楽しそうな匂いを出してるか?」

 

「えっ?」

 

天元から尋ねられた質問に、炭治郎は答えられずに戸惑う。刹那の間を置いてから、炭治郎は困った表情を浮かべる。

 

「天元さん……そう言うのってやっぱりよくないんじゃ……。」

 

「俺は聞いただけで、別に何もしてねぇぞ。女湯(向こう)には、雛鶴達も居るんでな。やっぱり気になるもんは気になるんだ。楽しくやってるかだけでも、地味に分かればなぁ~。」

 

「う、うーん……。」

 

天元は困った様子を見せながら、炭治郎に気付かれない様に遠回しに嗅覚を行使する様に誘導する。

天元にとって本心でもあり、嘘は一切含んでいない。

 

天元の思惑に気付かない炭治郎は、困った表情を浮かべながらもその超人的な嗅覚を行使する。

 

「……っ!!」

 

「どうした? 炭治郎?」

 

表情を変えた炭治郎に、天元が尋ねた。

 

「あ、いえ……どうやらお互いに背中を流しているみたいですね。それから……し、しのぶさん達も入って来ました。」

 

「っ!……ほほう。」

 

炭治郎からの報告に、天元は感嘆した様子で声を漏らした。

 

「……(ゴクッ)」

 

そんな天元を他所に、ゴクッと無意識に生唾を飲み込む者が居た。しのぶ達の最愛にして、唯一の恋人である炭治郎である。

 

何度も身体を重ねたとは言え、やはり女湯に居ると思うと自然と意識してしまう。逸物が勃起しない様に集中するが、代わりに何度も炭治郎は鼻をヒクつかせた。

 

「おい、炭治郎。続けてくれよ。」

 

「えーと、はいっ……禰豆子がしのぶさん達の背中を、流して回っているみたいですね。仕切りで匂いが若干嗅ぎ難いですけど、先刻(さっき)より楽しそうな匂いがします。」

 

炭治郎は実況する様にそう報告すると、笑みを浮かべた。微笑ましい光景を想像した事も理由ではあるのだが、やはり鬼である禰豆子が受け入れられている事実が、炭治郎にとっては喜ばしい事であった。

 

「そいつぁ派手に良かったな……思ったんだがな、炭治郎よ。」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「思ったんだが……お前のやってる事って、地味に覗き見も同然だよな?」

 

「んなっ!?」

 

ニヤッと意地悪い笑みを浮かべてそう尋ねる天元に、炭治郎は周章狼狽して動揺した。

 

「て、天元さんがしろって言うからしたのに……っ!」

 

「んっ~~? 何の事だか分からねぇなぁ? 俺は聞いただけで、「しろ」だの「やれ」とは地味に言った覚えすら無いんだがっ?」

 

「うぅっ……。」

 

天元の言葉を聞いて、論破されてしまった炭治郎は悔しそうに唸りながら沈黙する他に無かった。

 

「……宇随さん。炭治郎を困らせるんだったら、そうやって馴れ馴れしくしないで下さいよ。」

 

そんな炭治郎の様子を見て、動く際に波打つ温泉で音を立てながら何やら不機嫌な無一郎が近付いて来た。

 

「炭治郎も、嫌ならはっきり言わなきゃ駄目だよ?」

 

無一郎はそのまま、比較的広さが残っている炭治郎の左腕に抱き着いた。一瞬だけ嬉しそうに笑みを零した後、直ぐに真顔で天元を睨み付ける。

 

「あーわあったわあった。悪かった、炭治郎。なぁ許してくれよ?」

 

「……良いですよ。気にしてませんから。」

 

天元が謝罪すると、炭治郎もその謝罪を受け取った。

 

「……炭治郎がそれで良いなら、もう良いや……覗き見同然とか言いましたけど、炭治郎のは()()より絶対マシですからね?」

 

()()?」

 

「……あー確かになぁ。」

 

無一郎の視線の先が気になって、炭治郎と天元は釣られて無一郎の視線の方向へ顔を向ける。其処で映っていた光景を見て、二人は瞬時に理解した。

 

「フヒッ……禰豆子ちゃ~~ん……フヒヒヒッ。」

 

其処には竹製の間仕切りに、ピタッと耳を貼り付けて盗聴している善逸の姿があった。酷くだらしのない表情を浮かべており、今にも涎が口元から垂れそうである。口元から涎が垂れる度に、ズズッと音を立てて唾を飲み込んでいるが。

 

「……」

 

そんな親友である善逸の姿を見て、普段の言動から時折見せる奇行を何度も見ている炭治郎でさえ、呆れながら溜息を吐かざるを得なかった。

 

「っ!」

 

そんな炭治郎だったが、直ぐに善逸から意識が逸れる事になる。女性陣の声が、自身の耳にも聞こえて来たからだ。

 

「此処の間仕切りって、そんなに厚くねぇからな。胡蝶達が温泉の中にまでやって来たから、会話の内容も()()()()()()耳を澄ませば聞こえるだろう。」

 

天元がそう言うと、炭治郎は反射的に耳に力を入れてしまう。

 

「……ねぇ宇随さん。」

 

「どうした、時透?」

 

炭治郎と同様に天元の言う事を聞いていた無一郎だったが、無一郎は疑惑の眼差しを向けながら天元を呼んだ。無一郎の声色を感じ取った天元は、自身を呼び掛けた無一郎に返答する。

 

()()()()()()って……どう言う意味?」

 

「んっ?……ああ、あそこで阿保面晒してる善逸程でも無いが、俺は生まれ付き耳が良いんでな。この程度の薄い間仕切りじゃあ、派手にあって無い様なもんだ。」

 

「……」

 

天元の聴力自慢に対して、疑惑から確信に変わった無一郎はジト目で天元を睨み付ける。

 

「炭治郎の事、とやかく言える立場じゃないと思う。」

 

「がっはっはっ。まぁ気にするなっ!」

 

無一郎が苦言を聞いても、天元は豪快に笑って誤魔化した。

 

「……っ。」

 

一方で炭治郎は自身の左右で会話している天元と無一郎を余所に、女湯で聞こえて来た会話の内容を集中して聞いていた。

 

――……珠世さん、しのぶさんに皆さん……ありがとうございますっ。

 

炭治郎は女湯から、禰豆子の擬態能力の向上方法に関して話し合っていたのを、耳を澄ませて聞いていたのだ。禰豆子に関わる案件となれば、炭治郎自身にとっても重要案件で合った。

 

炭治郎は親身になって禰豆子に尽力してくれる珠世やしのぶ達は勿論、即座に受け入れてくれた雛鶴達にも深く感謝していた。後で改めて礼を述べようと、炭治郎は心中で決意する。

 

「禰豆子ちゃん……良かったね。」

 

当初から女湯の会話を盗聴している善逸も、直前まで晒していただらしのない表情を消して嬉しそうに笑みを浮かべた。そうして嬉しさの余韻に浸っていると、事態は急変する。

 

『わ、私の乳房は少しばかり大き過ぎるので、そのままでは悪目立ちしてしまうからっ! 態と小さくしているのですっ!』

 

 

 

ピシッ!

 

 

 

『っ!!?』

 

女湯から聞こえて来た珠世の唐突な告白に、男性陣は石化したが如く思わず硬直してしまう。声が大きかった為、耳を澄ませ無くても男湯にまではっきりと聞こえてしまったのだ。

 

「た、珠世様……?」

 

愈史郎は赤面しながら、当惑した様子で珠世の名前を口にした。

 

『…………』

 

愈史郎以外の男性陣は何も言わず、時折自身の耳をピクピク動かしていた。

 

女湯で繰り広げられている会話を聞いてみると、女性ならではの苦労や悩みに関して話しており、男性陣は聞いていて居た堪れない気持ちとなった。

 

『珠世さん、でしたら私達しか居ないんですから、隠さなくても良いんじゃないですか?』

 

『そう、ね……打ち明けた以上、隠す必要性など何処にも無いわね。』

 

『!?』

 

――甘露寺さんっ!?

 

珠世を慮った蜜璃の進言を聞いて、炭治郎達は心中で驚きを隠せない。

 

『ふぅ……何だか、すっきりした気分だわ。でもやっぱり重いわね。隠さなくても良いのは嬉しいけれど。』

 

『おお~~っ。』

 

『おっきいですねぇ~。』

 

『…………』

 

女湯から感嘆する声が男湯にまで聞こえて来ると、男性陣は否が応でも意識し想像してしまう。

 

――珠世さんのっ……どんなに大きいのかなっ……(ゴクッ)

 

炭治郎は珠世の乳房の大きさを想像して、静かに一塊の唾を飲み込んだ。

 

「おい、愈史郎。何を驚いてんだ? 珠世が乳房(ちち)のデカさを隠していた事は、お前なら知っているじゃないのか?」

 

「知っている訳無いだろうがっ!? 珠世様から教えて頂いた事も無いのに、俺が知っていたら逆にヤバいわっ!!?」

 

炭治郎達と同様の反応を見せている愈史郎に対して、天元が指摘すると怒りの反論が愈史郎から飛んで来た。そうしている間に、事態は更に急変した。

 

『そのご立派な乳房(おっぱい)、触らせて貰っても良いですか!? ほんのちょっとの間だけで良いんでっ!!』

 

『!!!??』

 

須磨が興奮した様子で、とんでもないお願い事を珠世にしていた。耳を澄ませなくても隣の男湯まで聞こえる程の大声で言った為、男性陣で須磨のお願い事を聞き逃した者は一人も居なかった。

 

「ちょっ!? 須磨さん、何を言ってっ!……んぐっ!?」

 

「待て、炭治郎っ。今は地味に黙ってろっ。」

 

炭治郎が須磨を止めるべく大声を出そうとしたが、天元に片手で口を塞がれてそれは失敗してしまう。炭治郎からは天元の顔が見えなかったが、非常にニヤついた笑みを浮かべていた。

 

――良いぞっ! 須磨っ!! 派手によくやったっ!!

 

天元は心中で、須磨の発言を心底絶賛していた。もし傍に居たならば、今直ぐ須磨を抱き締めて口付け(キス)の雨を浴びせている所だ。

 

『……凄いですよっ! 珠世様っ!! 硬過ぎず柔らか過ぎない適度な弾力が有って、これは至宝と言っても過言では無いですっ! はいっ!!』

 

「っ!!?」

 

天元に口を塞がれた炭治郎は必死で抵抗していたのだが、不意に動きを止めた。須磨が珠世の乳房を揉んでその感想を口にしたのを聞いたからだ。須磨の感想の内容に、炭治郎は固まってしまう。

 

「ほう~~聞いたか? 珠世の乳房(ちち)は至宝級だそうだぞ、炭治郎。良かったなぁ?」

 

「んんっ~~~っ!!?」

 

心底意地の悪い笑みを浮かべて、天元が炭治郎に囁いた。天元の囁きを聞いて、炭治郎は動揺を誤魔化す様に抵抗する。しかし天元の膂力を前にしては、炭治郎の抵抗は無いに等しいものであった。

 

『珠世様、お肌スベスベですよねぇ……もしかしなくてもお身体の方は、私達と大して年齢としは変わらなかったりします?』

 

『……私の肉体年齢だけを言うなら、年齢(とし)は十九歳です。だから女湯(此処)に居る面々を考えると……私は甘露寺さんや須磨さんと同い年……と言う事になるわね。』

 

――珠世さん、十九歳なんだ……意外と近いんだなぁ…。

 

珠世と須磨の会話を聞いて、珠世の肉体年齢を知った炭治郎。だがそれ所ではない事態が発生する。

 

『……あっ……っぁ❤……んんっ。』

 

『っ!!!??』

 

女湯から聞こえて来る珠世の艶やかな嬌声を聞いて、男湯に居る男性陣は最大級の衝撃を受けて再び石化したが如く固まった。その際に炭治郎達は自身の脳裏から、ピシッと言う幻聴が聞こえた気がした。

 

『あっ、あのっ!?……違っ!……これはっ……ぁんっ!❤……す、須磨さんが、結構……んっ……お上手だから……んんっ!……んっ!……っ❤』

 

珠世が弁明する様に口にした言い訳と須磨の余裕な声を聞いて、天元はほくそ笑んだ。

 

――須磨ぁっ!! 良いぞもっとだっ! もっと派手にやれぇっ!!

 

天元は引き続き須磨を絶賛しながら、心中で須磨の行為を更に応援する。女湯では今まさに、天元の期待通りの展開が始まっていた。

 

『気持ち良いですか、珠世様ぁ? 遠慮なんてしなくても大丈夫ですから、思いっ切り気持ち良くなって下さいね?』

 

『す、須磨さ……んああっ!❤』

 

『ぶっ!!!??』

 

珠世が一際大きな嬌声を上げると、男湯に居る男性陣の何人かがあまりの衝撃に口に含んだ酒を噴出した。唯一、温泉の外に酒を吐き出した事が不幸中の幸いであった。

 

「~~~~~っっ……~~~~~~っっっ。」

 

善逸は逆に声を出さない様に、口元を片手で強く押さえていた。しかしいやらしくニヤけた表情は完全には隠せておらず目元が波の如く変化している。

 

「悲鳴嶼さん、どうして僕の耳を塞ぐの?」

 

「時透。この世には見えなくても良いものや、聞こえなくても良いものが時には存在するのだ。この場合、お前にはまだ少しばかり早いものだ」

 

無一郎の背後に近付いた行冥が、珠世の嬌声が聞こえない様に無一郎の両耳を両手で塞いで遮断していた。

 

――珠世さん……(ゴクッ!)

 

天元に口を塞がれたまま、炭治郎は珠世の嬌声にドキドキとしながら一塊の唾を飲み込んだ。

 

こうして混沌と化して来た男湯であったが、畳み掛けるように更に想定外の事態が始まった。

 

『ひゃああぁぁっ!?』

 

『っっっ!!!!???』

 

珠世では無い第三者の嬌声が、女湯の方から聞こえて来た。男湯に居る男性陣はその嬌声を上げた張本人が、誰か咄嗟には特定出来なかった。ただし、唯一人を除いて。

 

しかし炭治郎(唯一の聞き覚えのある一人)が特定しなくても嬌声を上げたのは誰で、また誰がその原因を作ったのかは直ぐに判明する。

 

『ねぇ、禰豆子さん? 鬼化して強くなる……戦闘力を上げるために、高身長になる理由は分かるんですよ。筋力も増えるし、間合いも伸びる……でも。』

 

『どうして、乳房(おっぱい)を大きくする必要があるんですかねぇ? 天然の盾のお心算です……かっ!?』

 

『んああああぁっ!❤』

 

『………………』

 

暫く女湯に耳を澄ましていた男性陣は、漸くその嬌声が禰豆子のものと理解した。尤も、理解する事に暫く時間が必要であったのだが。

 

「……この声、胡蝶と禰豆子か……珠世殿と須磨と言い、(皆は仲が良くて)羨ましい事だな。」

 

義勇は女湯の賑やかさを聞いて、酒を呷りながらフフンと小さく微笑んだ。

 

『……』

 

相変わらず勘違いを招く発言をしている義勇であったが、炭治郎達には律儀にその発言に対してツッコミを入れる余裕など無かった。正確に言えば、誰も聞いてはいなかった。

 

――しのぶさあああんっ!? 禰豆子に何やってんですかぁっ!!?

 

炭治郎はしのぶと禰豆子の痴態に、赤面しながら心中で盛大にツッコミを入れていた。

 

――こりゃ益々派手に面白くなってきやがったっ!!

 

自身の鍛えられた逞しい腕から逃れようと藻掻く炭治郎を更に力を込めて押さえつけながら、歓喜して興奮している天元は空いているもう片方の手で徳利を掴んでそのまま酒を呷る。

 

「南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏っ……っっ。」

 

「あの……悲鳴嶼さん。ちょっと頭が痛くなって来たんだけど……っ。」

 

行冥は無一郎の両耳を押さえながら、何かを振り払うように仏経を唱えていた。両耳を行冥に押さえられている無一郎はと言うと、行冥の押さえる力が強いのか少し痛みを感じ始めていた。

 

「知らねェ……俺ぁ関係ねェ……っっ。」

 

巻き込まないでくれと言わんばかりに、実弥はチビチビと酒を呷っている。

 

実弥としては一秒でも早く、この男湯(混沌)から離脱したかった。しかし自身の愚息が女湯から聞こえる艶やかな嬌声に反応してしまい、自身の意志に反して温泉内で反り立ってしまっていた。

 

其処で実弥は愚息が静まり返るまで、男湯に残留すると言う不本意な方法を取らざるを得なかったのだ。

 

「ふぃ~~……ヒック……ヒック。」

 

伊之助は嬌声に反応する事無く、既に泥酔し切っていた。それでも酒を飲む手を緩めなかったが。

 

「……」

――嘴平伊之助(こいつ)みてぇに酔い潰れてりゃあ、どんなに良いかっ。

 

泥酔している伊之助に、実弥は苛立ちながら羨望の視線を向ける。

 

「……チクショウッ……おい、しっかりしやがれェ。酒から手ぇ放せェ。」

 

実弥は気を紛らわせる様に悪態を吐きながら、泥酔して酔い潰れている伊之助の世話は始めた。

 

『ふふっ。炭治郎君に随分と仕込まれちゃいましたから。炭治郎君の手練手管には敵いませんけど~。』

 

『私も負けてられませんね……っ!』

 

――負けて良いッ! 早く止めろォッ!?

 

須磨がしのぶに対抗心を燃やす様な発言を聞いて、実弥は泥酔している伊之助を抱えたまま強くツッコミを入れた。しかし実弥の願いは、虚しくも叶う事は無かった。

 

『くノ一仕込みの手練手管、どうぞご存分にご堪能あれ。』

 

「ぷはっ!?……えっ? くノ一?」

 

天元の拘束が緩んで一気に呼吸をした炭治郎は、須磨が口にした単語が気になって思わず復唱した。

 

「地味に気にする事じゃねぇ。今は隣の演奏を派手に楽しもうぜ。」

 

『んくぅっ!……ああっ!……あぅっ~❤!……あっ!❤……あああんっ!』

 

『あんっ!❤……須磨っ……さんっ!……もう、そろそろ……止め……てっ、んぁああっ!❤』

 

「…………」

 

天元にはぐらかされた炭治郎はジト目で静かに睨み付けたが、女湯で聞こえる嬌声が気になって自分から耳を澄ませてしまう。天元に強くものが言えない炭治郎は、結局何も言えずに終わってしまった。

 

そうしている間にも、女湯からは二人の美女が奏でる二重唱(デュエット)が男湯にまで響き渡る。そして

暫くすると、最高潮(クライマックス)は前触れ無くやって来た。

 

『『ああああっっ!!❤』』

 

『!!』

 

禰豆子と珠世が二人同時に、一際大きな嬌声を上げる。声量の大きさを考えれば、絶頂したと解釈出来る艶やかな声色であった。

 

又舍利弗(うしゃりほつ)極樂國土(ごくらくこくど)有七宝池(うしっぽうち)八功徳水(はっくどくすい)充満其中(しゅうまんごちゅう)地底純以(ちたいじゅんに)金沙布地(こんしゃふじ)四辺階道(しへんかいどう)金銀瑠璃(こんごんるり)玻璃合成(はりごうじょう)上有楼閣(じょううろうかく)亦以金銀瑠璃(やくいこんごんるり)玻璃硨磲(はりしゃこ) 赤珠瑪瑙(しゃくしゅめのう)而厳飾之(にごんじきし)池中蓮華(ちちゅうれんげ) 大如車輪(だいにょしゃりん)青色青光(しょうしきしょうこう)黄色黄光(おうしきおうこう)赤色赤光(しゃくしきしゃッこう)白色百光(びゃくしきびゃッこう)微妙香潔(みみょうこうけつ)舎利弗(しゃりほつ)極楽国土(ごくらッこくど)成就如是(じょうじゅにょぜ)功徳荘厳(くどくしょうごん)又舎利弗(うしゃりほつ)彼仏国土(ひぶッこくど)常作天楽(じょうさてんがく)黄金為地(おうごんいじ)昼夜六時(ちゅうやろくじ)而雨曼陀羅華(にうまんだらけ)其国衆生(ごこくしゅじょう)常以清旦(じょういしょうたん)各以衣裓(かくいえこく)盛衆妙華(じょうしゅみょうけ)供養他方(くようたほう)十万億仏(じゅうまんのくぶつ)即以食時(そくいじきじ)還到本国(げんとうほんごく)飯食経行(ぼんじききょうぎょう)舎利弗(しゃりほつ)極楽国土(ごくらッこくど)成就如是(じょうじゅにょぜ)功徳荘厳(くどくしょうごん)…………。」

 

「あ、あの……悲鳴嶼さん。そんなに力入れなくても良いと思うんですけどっ……っ??」

――あれっ? 僕って現在(いま)、凄くヤバかったりする?

 

煩悩を根絶やしにせんと言わんばかりに、行冥は一心不乱に阿弥陀経を唱え続けていた。只管に阿弥陀経を唱え続けるだけの生ける仏像と化した行冥であったが、無一郎の両耳を押さえている両手にも無意識に力が掛かりつつあった。

 

徐々に強くなって行く痛みに危機感を感じて、無一郎は焦燥しながら行冥を止めようとする。行冥の両手首を掴んで自身から引き離そうとするが、無一郎の力では行冥はビクともしなかった。更に行冥は無一郎の静止が聞こえない上に抵抗すら感じていないのか、只管に阿弥陀経を唱え続けていた。

 

「…………」

 

現況に介入する事無く、静かに佇んでいた義勇。しかしその顔は赤く紅潮しており、とても酒だけが原因であるとは考え難かった。

 

「いやぁ、派手な幕切れだったなぁ。なぁ、炭治郎?」

 

「えっ? あ、そのっ……えーとっ……そうでしたね。はい……。」

 

天元からの振りに、炭治郎は口を濁らせながらも肯定した。

 

――珠世さん、あんな綺麗な声で……っ。

 

既に炭治郎の脳内では、幾度となく珠世の嬌声が反芻されていた。少ししてから振り払う様に何度か左右に頭を振って少し頭を冷やすと、妙に二人(・・)が静かな事に気が付いた。

 

――…………はっ!? 珠世さんと禰豆子に夢中ですっかり忘れていたけど、愈史郎さんはっ!? それから善逸ぅっ!!?

 

炭治郎は愈史郎と善逸の存在を、漸く思い出していた。珠世と禰豆子に淡い想いを抱いている二人が、想い人の嬌声を聞いて平然としていられる筈が無いのだ。

 

「愈史郎さんっ!? 善逸ぅっ!!?」

 

炭治郎は立ち上がりながら、愈史郎と善逸の名前を呼んだ。いきなり温泉から立ち上がった為、結果的に天元の腕から解放された。

 

「んだぁ? 愈史郎に善逸だぁ?……っ!!?」

 

天元は唐突に立ち上がった炭治郎に面食らいながらも、愈史郎と善逸の名前を聞いて、猛烈に嫌な予感がした。

 

炭治郎と天元は、ほぼ同時に同じ方向へと振り返る。

 

「あっ……かっ……おぉっ……た、たまよ……さ、ま……っ。」

 

「はひっ……うひひひひっ……ねずこちゃ~~んっ……ふひょほほほほほっ。」

 

其処には全身を真っ赤に染めて立ったまま気絶している愈史郎と、間仕切りに片耳を貼り付けたまま気色の悪い笑みを浮かべている善逸の姿があった。

 

善逸に至っては鼻の両穴から鼻血が垂れており、今にもその鼻血が重力に従って落ちそうであった。

二人の姿を見た炭治郎と天元は、脱兎の如く即座に動き始めた。

 

「ゆ、愈史郎さんっ!? しっかりして下さい!!」

 

「善逸テメェッ!? 汚ねぇモンを派手に撒き散らそうとすんじゃねぇ!!!」

 

炭治郎は急いで立ったまま気絶している愈史郎を抱き抱えて、温泉の外に出た。一方で天元は善逸の鼻血で温泉を穢させるものかと言わんばかりに、善逸を温泉の外へ乱暴に放り投げた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……はぁ。」

 

実弥は溜息を吐きながら善逸と伊之助、そして愈史郎の世話を務めていた。愈史郎と善逸を温泉の外に連れ出した炭治郎と天元だが、温泉に戻って湯に浸かっていた。

 

「……頭が痛いよ。」

 

無一郎は漸く行冥から解放されたのだが、頭を挟み潰さん勢いで力を込められていたので、未だに痛みを引き摺っていた。

 

「無一郎君、大丈夫? 無理はしちゃ駄目だからね。」

 

「うん。ありがとう、炭治郎。」

 

炭治郎は無一郎の頭を優しく撫でると、無一郎は気持ち良さそうに両眼を細めて炭治郎の手を堪能する。無一郎の頭を撫でながら、炭治郎は天元に話し掛けた。

 

「天元さん。不死川さんに全部、任せて良かったんですか?」

 

「良いんだよ。あいつはああ見えて、結構世話焼きだ。全部押し付けとけ。」

 

結果的に愈史郎達を実弥に押し付けてしまい、その事実に罪悪感を覚えて天元に思わず尋ねた炭治郎。そんな炭治郎に対して天元は、気にしない様に言ってそのまま実弥に愈史郎達を押し付けていた。

 

「そんな事はどうでも良いだろう。気にすんな…………それよりこれからもっと派手に、そんでもって面白そうな事が起きそうだぞ。」

 

「はいっ?」

 

天元の言っている意味が理解出来ず、炭治郎は首を傾げる他に無かった。

 

ただ全てが理解出来なかった訳では無く、女湯でこれから何か起きるのだろうと言う事は辛うじて理解出来たので、自然の女湯の方へ炭治郎は耳を澄ませた。

 

『二人は何が切っ掛けで、炭治郎君の事が好きになったの?』

 

「!?」

 

蜜璃からの質問の内容を聞いて、炭治郎は思わず両眼を見開いた。

 

「おっ? 恋話か? やっぱり派手に面白くなって来たぞっ!」

 

天元は自身の予想が的中した事に歓喜しながら、期待しつつ状況を見守る。

 

「えっと……お、俺っ! 先に上がりますねっ!!」

 

炭治郎は天元に断りを入れて、先に温泉から上がろうとする。しかし、それが叶う事は無かった。

 

「おわっ!?」

 

「馬鹿野郎っ。自分の嫁の口から本音が派手に聞ける、貴重な瞬間だぞ。地味に逃げ出す奴があるかっ。」

 

天元は立ち去ろうとする炭治郎を捕まえて、無理やり温泉の湯に浸からせた。

 

「て、天元さんっ!」

 

「しっ! そろそろ始まんぞ。耳を澄ませとけ。」

 

「っ!」

 

天元にそう言われた炭治郎は、反射的に耳に力を入れてしまう。すると女湯の方から、アオイの声が聞こえて来た。

 

『私が炭治郎さんを意識し始めたのは、炭治郎さんが無限列車の任務に向かう当日でした。私は未だに戦えない、復帰出来ない……そんな自分への自己嫌悪と自己否定に苛まれていました。』

 

『でもそんな私を炭治郎さんは否定する事無く「手助けしてくれたアオイさんはもう俺の一部だから、アオイさんの想いも俺が戦場に持って行く。」と言って下さったんです。』

 

「っ!」

 

アオイが話した逸話を聞いて、炭治郎は咄嗟に無限列車の任務に着く直前であった蝶屋敷でのやり取りを思い出していた。

 

「炭治郎。お前は神崎にそんな事を言っていたのか?」

 

「義勇さんっ。えーとっ……はい、言いました。」

 

アオイが言っている内容が聞こえたのか、義勇は真偽確認の為に炭治郎に尋ねた。炭治郎は義勇から質問されるとは思っていなかったのか、驚きながらも正直に答える。

 

「良い話じゃねぇか。派手に格好良くてよ。良い男なら、咄嗟にそれくらい言えないとな。」

 

「炭治郎らしいと、僕は思うよ。」

 

炭治郎とアオイの逸話を聞いて、天元と無一郎はそう評価していた。

 

『それから……自分の気持ちが決定的になったのは、炭治郎さんが無限列車の任務から帰還した直後です。しのぶ様もカナヲも炭治郎さんに好意を持っていたから、私は諦めなきゃって当初は思ってました。』

 

『でも私が熱を出して倒れた時に炭治郎さんが私の仕事を肩代わりしながら一生懸命看病してくれて、改めて炭治郎さんの優しさと暖かさに直接触れて……やっぱり私はこの人の事がす、好きなんだって、愛してるんだって自覚して……想いを止める事が出来ませんでした!!』

 

「っ!」

 

アオイの告白を聞いて、炭治郎は両眼を見開いた。それから自然と、自身の表情から笑みが零れた。

 

――アオイさん、俺も愛しているよ。

 

炭治郎は一度両眼を瞑ると、心中でアオイからの告白に返答した。後でアオイに直接会って、想いを伝えようと思いながら。

 

『わ、私だって……私だってアオイに負けて無い! 負けて無いもん!!』

 

「!」

 

するとカナヲの大声が聞こえて来たので、炭治郎は両眼を開けてカナヲの声に反応した。

 

『はぁ、はぁ……私が炭治郎の事を好きになった切っ掛けだけど、アオイと一緒で炭治郎が無限列車の任務に向かう当日だったの。』

 

『!?』

 

カナヲの告白を聞いて、炭治郎達は驚きを覚えた。特に炭治郎の驚きは、天元達よりも大きいものだった。

 

『私は……私は当時、何もかもがどうでも良かった。言われた事を言われた通りするだけで、自分で決めなければならない事は銅貨を飛ばしてその表裏で決めてた……。』

 

『でもそんな時に炭治郎が私の前に現れて、「この世にどうでも良い事なんて無い。」「カナヲの心の声が小さいだけ」って諭してくれて……そ、その日から炭治郎の事が気になって仕方がありませんでしたっ!』

 

「!」

 

炭治郎はカナヲの為に銅貨を飛ばしたあの時のやり取りを思い出していた。そんな炭治郎に対して最初に無一郎がボソッと呟いた。

 

「炭治郎って、やっぱり凄いね。」

 

「俺はお前に派手に敬意を表すぜ。炭治郎。」

 

「いやあの、無一郎君。天元さん。これには理由が……。」

 

焦燥しながら無一郎と天元に反論する炭治郎だったが、第三者の横やりでそれも遮られてしまう。

 

「炭治郎。一度に二人の女性を口説くのは、流石にどうかと思うぞ。」

 

「義勇さんっ!? 誤解ですからっ!!?」

 

義勇が炭治郎を非難する様にボソッと呟くと、思わぬ人物から思わぬ非難を受けて炭治郎は更に焦燥しながら反論した。

 

『お三方と宇髄さんの間の夜の営みって、どんな具合なんですか?』

 

『!?』

 

炭治郎が義勇に反論している間に、女湯の方では話が進んでいた。しのぶが雛鶴達に天元との間にある、夜の営みに関する事情を聞き出そうとしていたのだ。

 

しのぶに質問された雛鶴達は答えに窮している様で、困った様子でしのぶの質問に答えかねていた。

 

――雛鶴、まきを。派手に答えちまえ。須磨も戸惑わなくて良いんだぞ。

 

天元はしのぶの質問に羞恥心から答えない様子を見て、心中で静かに三人を応援する。しかしそれも直ぐに我慢出来なくなり、雛鶴達の代わりに天元が大声を出して答えようとした、その時であった。

 

『因みに私達と炭治郎君との夜の営みですが……この身体中に有る口付け痕(キスマーク)を見れば分かる様に、炭治郎君はとっっっても情熱的なんですよ。』

 

『!』

 

「なっっっ!!?」

 

強調する様にそう言ったしのぶの発言を聞いて、炭治郎はこれまで以上に動揺を覚える。その衝撃の大きさは、これまでの比では無かった。

 

「まっ!!……。」

 

「おっとそうは問屋が卸さねぇっ。」

 

「っ!!?」

 

 

 

 

 

ガシッ! バシャアン!!

 

 

 

 

 

「!!!??」

 

しのぶにこれ以上言わせない為に、炭治郎は大声を出そうとした。しかしその直前、後頭部を鷲掴みにされて湯の中へと強引に沈められた。

 

「がぼぉぁっ!!? うぼぼぼぉっ!!!?」

 

口から大量の泡を吐き出しながら、水面から上がろうと必死で藻掻く。しかし炭治郎の必死の抵抗も虚しく、天元の膂力の前には無意味であった。

 

「邪魔は野暮ってもんだぜ。炭治郎……っ!」

 

一方で天元の方はと言うと、必死で藻掻いて抵抗する炭治郎を片手で抑えつつしのぶの話す内容に耳を傾けていた。その表情からは、二や付いた笑みが張り付いているのが見て取れた。

 

しのぶの話す内容が、天元にとっては非常に楽しいものだったからだ。本当ならばこんな事はせず、しのぶの話に集中していたかった。

 

「……良しっ、そらよ。」

 

天元はしのぶの話をある程度聞いた天元は、温泉に沈めていた炭治郎の顔を勢い良く引き揚げた。

 

「ぶはっ!?……はぁっ! はぁっ! はぁっ……。」

 

漸く顔を水面から引き揚げられた炭治郎は、新鮮な空気を肺に送り込むべく何度も呼吸を繰り返した。それから天元に文句を言おうとした炭治郎だったが、またしてもその目論見は失敗に終わる。

 

『続けて炭治郎君の日輪刀についてお話しましょう。いや……此処ははっきりと逸物、いえ……おち×ちんというべきでしょうか?』

 

『!!!??』

 

しのぶから思わぬ単語が聞こえて来たので、炭治郎達はそのまま生きた彫刻と化して固まってしまった。

 

「し、しのぶっ……っ?」

 

特に子供の頃のしのぶを知っている行冥の衝撃は、一際大きいものであった。

 

『勃起すれば七寸(二十一cm)以上の長さが有り、火傷しかねない程熱く、太さも口に咥えれば顎が外れそうなくらいありましてね。私の小さい手では親指と人差し指で輪っかにしても、指が届かないんです。』

 

「っ!!? しのぶさんっ!!! どうかこれ以上は……っ!?」

 

 

 

 

 

ガシッ! バシャアアアン!!

 

 

 

 

 

「ごぼあぁっ!!? ごぼぼぼぼぼっ!!!? ぐぉぼぼぼぼぼぼっ!!!?」

 

「こらっ! 邪魔すんなって! 今凄ぇ面白い所なんだからなっ!!」

 

ニヤッとした笑顔を浮かべながら天元は、先刻以上に激しく抵抗して暴れる炭治郎に今度は両手で温泉に抑え付けた。

 

『………………』

 

じゃれ合う炭治郎と天元を余所に、行冥達は好奇心を抑えられずしのぶの話に耳を澄ませていた。特に無一郎は頬を染めながら、しのぶの話に集中して耳を澄ませている。

 

「炭治郎……大丈夫なのか? ある種の病気なのでは?」

 

「いや、そんな事はあるまい。身体に見合わぬ大きさだと思うが。」

 

「……ちょっと見てみたいかも? 怖いもの見たさ感覚で。」

 

炭治郎が温泉で溺れている中、炭治郎の逸物について行冥達は好き放題批評をしていた。

 

「ごぼぼぼっ!! ごぼっ!!!……。」

 

「……おっと。俺とした事が、話を聞くのに夢中で忘れていたぜ。こりゃいけねぇ。」

 

ニヤッとした笑みではなく、何故か真面目な表情を浮かべていた天元は直ぐに炭治郎を引き揚げた。

 

「ぶはぁっ! えっほけほっ!!」

 

炭治郎は間違って飲んでしまった温泉の湯を、温泉の外へ吐き出した。それから呼吸を整えると、元の位置へ戻ってから天元を静かに睨み付けた。

 

『炭治郎君の事を、「夫に似ている。」と仰ってましたが……亡くなられたご主人に似ているのかどうかはともかく、珠世さんは個人的に炭治郎君の事をどう思っているんですか? 私達への気遣いなど無用ですから、正直に言って下さい。』

 

「なっ!!?」

 

天元に文句を言おうとした炭治郎だったが、しのぶの一言が一瞬にして炭治郎の関心を奪った。

 

――ッ!

 

この際、壁際に凭れて倒れている愈史郎が身体をビクッと動かしていた事は、男湯にいる誰もが気付かなかった。

 

――しのぶさんが、何でそんな事を珠世さんに聞くんだろう?

 

普段のしのぶの嫉妬深さは、まだ短期間の付き合いしか無くても炭治郎は熟知している自信がある。自分なら絶対に聞かないであろう質問を、何故珠世にぶつけたのか炭治郎は気になった。

 

――ふぅ~~助かった。ありがとよ、胡蝶。

 

天元は炭治郎がしのぶの一言を聞いて怒りの矛先が一時的でも収まった事に、思わず笑みを浮かべた。炭治郎の意識は既に自身ではなく、明らかに珠世としのぶに向けられている。

 

天元もまた珠世が何を言うのか期待しながら、片手を伸ばして徳利を掴むとそのままゴクゴクと葡萄酒(ワイン)を美味しそうに飲み干して行く。

 

『炭治郎さんは、その……凄く優しくて、誠実で……とても素敵な殿方だと思います。』

 

「……素敵な殿方だって、炭治郎。」

 

「えっと、その……。」

 

何故かジト目で睨み付けられながら、無一郎にそう言われた炭治郎は、返答に困ってしまう。

 

『ですが、それは炭治郎さんの人間性や人柄に惹かれているという具合です。殿方としてというのは、私の場合は違います。』

 

「「っ!……。」」

 

「おっ?」

 

珠世が続けて言い放った言葉を聞いて、炭治郎と無一郎は会話を中断して傾聴に専念した。天元もまた、二人と同様に静かに見守る。

 

『それに私は無惨の手で鬼に変えられて、もう四百年以上の歳月が経ちます。一体私と彼の間に、幾つ歳が離れていると思って?……とても男女の関係にはなれないし、その様な目で彼が人喰い鬼だった私を女として見たりはしないでしょう。』

 

「……だそうだぞ。どうなんだよ、炭治郎。」

 

珠世の否定的な発言を聞いて、天元は興味深そうに炭治郎に尋ねた。天元に尋ねられた炭治郎は、首を傾げながら質問に答える。

 

「いや……鬼とか人とか、どうでも良いです。と言うより珠世さんは人間を食べた鬼特有の腐臭が無くて、可憐な花の良いが匂いするんですよね。」

 

炭治郎にしか嗅ぎ取れない珠世特有の体臭を思い出して、僅かながらも笑みを溢した。炭治郎は続けて、年齢に関する自身の価値観について答えた。

 

「年齢もそうですね……しのぶさん達は全員俺より年上ですけど、はっきり言って気にした事も無いですね。もししのぶさん達が俺より十歳年上か年下だったとしても、俺はきっとまたしのぶさん達の事を好きになったと思います。」

 

炭治郎は断言する様に、はっきりと天元に答えた。

 

「見境が無いぞ、炭治郎。」

 

「冨岡さん、その言い方は身も蓋も無さ過ぎだよ……。」

 

義勇が炭治郎の発言に対してそう指摘すると、無一郎は呆れた様子で静かにツッコミを入れていた。

 

『貴女は竈門炭治郎という男を、ちゃんと分かっていません!』

 

『!』

 

すると突然、叫び声に近い大声が女湯から聞こえて来た。どうやらしのぶが珠世に叱咤している模様であった。

 

『死んだ姉の理想の、その上っ面しか引き継げなかった私と違って、炭治郎君は鬼の本質を理解して本心から慈悲を持って涙を流せる優しい子なんです!……そんな彼が鬼だの人だのなんて小さい枠組みに拘ったりなんかしないし、況してや年齢の差なんてものに炭治郎君がとやかく言うと、珠世さんは本気でそう思ってます?』

 

『!!』

 

「……しのぶは君の事を良く理解しているな。仲睦まじいのは素晴らしい事だ。」

 

仏経を唱えるのを止めていた行冥が、しのぶが口にした炭治郎への評価を聞いて相互理解を深めている事に素直に感心していた。

 

『その様子だと、お気付きでは無いみたいですねぇ?……珠世さん。ご存知無い、お気付きでないなら教えてあげますけど、炭治郎君ですが……何度も貴女を見詰めては、顔を赤くして見惚れていたんですよぉ?』

 

「だっはっはっ! 炭治郎っ、お前、胡蝶にしっかり派手に見られてんぞっ!」

 

「うっ……俺、そんなに珠世さんに見惚れてたかなぁ……っっ。」

 

天元に茶化された炭治郎は、反論せずに頭を掻いて誤魔化す事しか出来なかった。

 

「……炭治郎は美女に弱いな。」

 

「これが普通ならば懸念するべき案件だが、その超人的な嗅覚があれば、炭治郎が女性型の鬼に騙される心配は無かろう。」

 

「あ、あはははははっ……っ。」

 

義勇と行冥が言った内容を聞いて、炭治郎は笑う事しか出来ない。炭治郎がそうしていると、女湯から僅かにある声が聞こえて来た。

 

『いいえ、駄目よ。私には亡くなった夫が居るのだから……でも無碍に断ったら炭治郎さんに失礼よね?……だけど私、炭治郎さんになんて言えば良いのかしら……っ。』

 

「っ!?」

 

珠世の呟きとも言える微かな発言の内容を聞いて、炭治郎は驚いていた。正確に言うと驚いたのは、発言の内容を聞いたからではない。

 

――珠世さん……っ!

 

炭治郎が驚いたのは、珠世から発していると思われるその匂いであった。珠世の呟きを聞いたと同時に、炭治郎は反射的に嗅覚を総動員していた。其処から炭治郎が感じ取った匂いは困惑の匂いが大部分を占めていた。

 

しかし炭治郎の超人的な嗅覚は、その困惑の匂いに混じって良く知っている匂いを確かに感じ取っていた。それはしのぶやアオイ、そしてカナヲから日頃感じ取っている、好意と愛情の匂いであった。しのぶ達程の強さは無かったが、確かに存在していたのだ。

 

――うぅ……俺は一体どうしたら……っっ。

 

炭治郎は嬉しさと同時にどうすれば良いのか悩んでいると、ポンと自身の肩を軽く叩かれた。

 

炭治郎の視線の先には、満面の笑みを浮かべる天元の姿があった。

 

「て、天元さん……。」

 

「なっ? 俺の予想通りになっただろう? それも派手に。」

 

厳密には予想通りとは言い難がったが、それでも大体は天元の予想通りに事態になった為、炭治郎は何も言えなかった。

 

「まぁ。俺から言える事は、一つだけだ。後悔しない様に、正直になれや。隠して後悔する位なら、派手に当たって砕けちまえよ……それに弟子は師匠を超えるもんだ。頑張りな、炭治郎。」

 

「すみません、天元さん。良い事を仰っている御心算でしょうけど、俺は貴方の弟子になった覚えは無いです。」

 

天元から貰った明らかに揶揄い混じりの激励に対して、炭治郎は真顔でキッパリと言い放った。尤も、言い返された天元は苦笑するだけであったが。

 

それから炭治郎は視線を動かして、倒れている愈史郎達に視線を向ける。

 

「俺、愈史郎さん達を部屋まで運ぼうと思います。なので、お先に失礼します。色々ありがとうございました。」

 

炭治郎はそう言って行冥達一人一人に頭を下げて礼を述べてから徐に、温泉から立ち上がった。

 

「そうか、私もそろそろ上がろうかと思っていた。」

 

「手伝うよ、炭治郎。」

 

「……俺も、もう良い。」

 

炭治郎が温泉から上がろうとすると行冥と無一郎、義勇の三人も炭治郎に続けて温泉から上がる事にした。

 

「おいおい、もう上がるのかよ。まだまだ祭りは終わってねぇぞ?」

 

「すみません、これ以上温泉に居ると逆上せそうなので……っ。」

 

天元は炭治郎を止めようとしたが、炭治郎は申し訳無さそうに頭を軽く下げて残留を拒否した。

 

「……チッ。」

 

愈史郎達を看病していた実弥も、黙って温泉から立ち去ろうとした。それも、泥酔している伊之助を担ぎながらだ。

 

それに続いて炭治郎が愈史郎を、行冥が善逸を担いで共に温泉から立ち去って行った。

 

男湯には、天元と大量の徳利だけが残されていた。

 

「……おいぃっ!? 俺一人でこれ全部地味に片付けるのかよぉっ!!?」

 

天元は理不尽だと言わんばかりにそう叫んだが、聞く者は誰一人として居なかった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「「「……」」」

 

天元の愛妻達である雛鶴とまきを、須磨の三人は赤面して沈黙していた。何故ならしのぶに半ば煽られて天元との私生活を延々と語ってしまったからだ。

 

それも夜の営みも含めてである。寧ろしのぶ達にとって其処が重要であったため、夜の営みについて重点的に語らせられてしまったのである。

 

しかし、雛鶴達に後悔は無い。それどころか別の事すら考えていた。

 

――……こ、今夜は久し振りに天元様に慰めて貰えないか、頼んでみよう。

 

しのぶの色気に当てられた雛鶴達は、温泉から上がった後に久方振りの夫婦の営み(セックス)をしないかと天元に直談判をすると固く決意をするのだった。




お待たせ致しました。

約半年振りの新作です。お待たせして大変申し訳ありません。

私事でのトラブルの連続に陥った挙句、スランプにまでなってしまい此処まで遅くなってしまいました。

此処からロケットスタートをして後からまた更新が遅くなる事は避けたいので、そう大した頻度は保てませんが、なるべく月日に偏らずに更新して連載を再開して行きたいと思います。

今後も『優しき日輪と鬼殺隊の美蝶』を読んで頂けたら嬉しく思います。

次回の更新予定日は9/9(木)です。どうかお楽しみに。


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第肆拾捌話 鬼殺隊の柱は日輪を回想す

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「ごおおぉぉぉぉ……ごおおぉぉぉぉっ。」

 

鬼殺隊の頭目である産屋敷家の本邸にある一室で、敷かれた布団の上で大きな鼾を掻いて寝ている伊之助が居た。寝相も悪いのか、着衣が乱れて半裸になっている。

 

「……チッ。」

 

そんな伊之助の姿を見て、苛立たしく小さな舌打ちをする男が居た。耀哉からこの一室を与えられている実弥である。

 

「たくッ……世話の焼ける餓鬼だぜェ……。」

 

実弥は壁際に凭れながら、そう言って溜息を吐いた。温泉での大騒動の後、泥酔している伊之助を放置出来ず寝間着を着せた後にそのまま担いでいた。しかし伊之助に与えられた部屋が何処にあるのか分からなかったので、仕方なく自身の部屋まで運んでいたのだ。

 

「……」

 

それから何も言わず、実弥は物思いに耽っていた。伊之助の騒々しい鼾だけが、室内には響き渡っていた。

 

「…………だあああああッッッ!!!」

 

すると突然、実弥は片手で頭を掻きむしりながら叫声を上げた。一通り頭を掻き毟ると、思い切り舌打ちをした。

 

――今更、あいつにどの面下げて会えってんだよッ。

 

心中で悪態を吐く実弥。その脳裏には、一人の男性の姿が浮かび上がっていた。

その男性とは此の世で唯一、血の繋がりがある弟の玄弥であった。

 

実は緊急柱合会議の前に玄弥は一度、周囲から"風屋敷"と呼称されている自身が所有する屋敷に訪問して実弥に会いに来てくれていたのだ。しかしその時の対応は、誰が見ても顔を顰める聞くに堪えない言動であった。

 

『テメェみたいな愚図、俺の弟じゃねぇよ。』

 

『鬼殺隊なんか辞めちまえ。』

 

実弥は玄弥と目が合った瞬間、そう言い放って一方的に玄弥を拒絶して風屋敷から突き放す様に叩き出しているのだ。

 

発言は許さないと言わんばかりに、視線だけで射殺さん程の殺意に満ちた眼力を実弥は玄弥に容赦無く向けた。その眼力に怯えた玄弥は身体を一度震わせた後、眼尻に大粒の涙を溜めてから立ち去る事しか出来なかった。

 

両眼から涙を零しながら走り去った玄弥の背中を、見えなくなるまで実弥は黙ってそのまま見送る事しか出来なかった。

 

「……玄弥(あいつ)に会って、俺はなんて言やぁ良いんだか……ッ。」

 

実弥は愚痴る様にそう呟いた後、顔を俯かせて溜息を吐いた。

 

『良いですね、不死川さん。ちゃんと玄弥と仲直りして下さい。「良くやった。」とか「頑張ったな、偉いぞっ。」って玄弥を褒めて上げて下さいね。約束ですよ?』

 

『っ!』

 

その瞬間、実弥は緊急柱合会議で自身を糾弾する際に炭治郎が諭す様に言っていた内容を思い出した。実弥は思い出した瞬間、思わず両眼を見開いて驚いた表情を見せた。

 

「チッ……面倒臭ぇ餓鬼に、でっけぇ弱みを握られちまったもんだ。なぁおいッ……。」

 

煩わしそうにそう愚痴を零した実弥だったが、その口元には笑みが浮かんでいた。

 

――それにしても、あの鬼共……愈史郎……それから……珠世……かっ。

 

実弥は今回の緊急柱合会議で鬼殺隊に入隊し共闘する事が正式に決まった二体の鬼の事を、不意に思い出した。

 

『私はこうして息子を抱き締めたかった……ただ、息子が大きくなるのを見届けたかっただけなの……。』

 

「!!!」

 

実弥の脳裏にどれだけ望んでも得られなかった、珠世が口にした願望と悔恨の言葉が唐突に過ぎった。

 

「っっ……クソッ……。」

 

実弥は玄弥の時とは比較にならない程、苦々しい表情を浮かべた。それだけで無く、胸には強く締め付けられる様な錯覚を覚えた。

 

実弥の顔色には、憎悪や怨恨と言った色は無い。そもそも何故これ程に胸が締め付けられるのか、実弥自身が理解出来なかった。

 

しかしそれでも、実弥はふと自嘲する様に笑みを浮かべた。

 

――いや、分かってる……俺は珠世(あいつ)の境遇に同情してんだッ…………チッ。俺とした事が、随分とヤキが回ったもんだぜェ。

 

実弥にとって如何なる事情があろうとも、人間が鬼になった時点で罪人に等しい存在である。切っ掛けも境遇も悲劇も、情状酌量の余地にならなかった。ならなかった筈であった。

 

しかし曲がりなりにも緊急柱合会議での経験が、実弥に大きな変化を与えていた。

 

「……」

――…………もし……もし俺がお袋を殺さなかったら……お袋は正気を取り戻していただろうか……正気を取り戻せていたら、珠世(あの女)みたいにああやって自分がやっちまった事を、泣きながら後悔していたのかな……。

 

心中で思わず無意味な「たられば」(もしも)を想像して、実弥は思わず感傷的になる。それだけ珠世の存在は、実弥にとって禰豆子を凌駕する程の衝撃的な存在であった。

 

そしてもう一つだけ珠世を意識してしまう理由が、実弥にはあった。

 

――似てる……んだよなァ。珠世(あの女)と、お袋が……。

 

実弥は無意識に、心中でそう呟いていた。自覚が無いまま、実弥は珠世に母である志津の面影を重ねていたのだ。

 

「ってッ、何寝惚けた事言ってんだ馬鹿野郎がァ……ッ!」

 

口外していないとは言え、心中であってもとんでもない事を考えている事を漸く自覚した実弥は、思わず自身の手で側頭部を殴り付けた。

 

ガンッ! と言う鈍い音が室内に聞こえた。

 

「ふぅ~~……まぁ似てねぇ事はねぇかなァ……。」

――身体は小柄だが、身の丈に合わない勇気の持ち主だ。働き者で、頭も良い……違いと言えば……殺されてない事だな。それから……。

 

実弥は並べ立てる様に、珠世と志津の共通点を見つけていた。しかし、この二人の間にある一点だけは、実弥は認めようとは思わなかった。

 

「……俺のお袋の方が、遥かに美人だったわ。ボケナスッ……。」

 

誰にでも言う訳でも無く、実弥はそう呟いてから、新たに布団を敷いて眠りに付いた。

 

相変わらず伊之助の鼾が室内に響いていたが、実弥も疲れていたのか気にする事は無かった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「うっ……うーん。」

 

男湯で鼻血を噴き出しながら気絶していた善逸が、声を漏らしながらゆっくりと身体を起こした。

 

周囲を見渡すと、現在居る場所は温泉では無く産屋敷本邸にある一室の様であった。自身の身体を見渡してみれば、全裸では無く寝間着を着せられている。

 

「目が覚めた様だな?」

 

「っ!」

 

善逸は声が聞こえた方に振り向くと、其処には行冥が座っていた。

 

「っ!?……い、岩柱……悲鳴嶼さんっ……っ!」

 

善逸は思わぬ人物の登場を見て、反射的に立ち上がった。

 

「……っ。」

 

立ち上がった善逸は改めて行冥の姿を見ると、負い目を感じた様子で咄嗟に目を反らした。行冥は盲目なので表情は見えないが、視力を除いた五感から善逸の恐怖心を察した。

 

「座れ。そう怯える必要など無い……君は無意識に私を避けていた様子だったが、私は君に何かする心算は無い。」

 

「…………」

 

行冥は善逸に座る様に促すと、善逸は行冥に従ってその正面に座った。しかし座った瞬間、善逸は唐突に行動に出た。

 

「お願いしますっ!! 獪岳を、見逃してやってくれませんかっ!?」

 

「!!!」

 

善逸は悲壮の覚悟を抱いた様子で、行冥に土下座をした。それも土下座までする必要性を作った、ある一人の男性に関して嘆願しながらであった。行冥は善逸の行動とその嘆願内容を聞いて、驚かざるを得ない。

 

そんな驚いている行冥を他所に、善逸は嘆願を続けていた。

 

「獪岳がやった事を考えれば、悲鳴嶼さんが怒るのは当然です……でも一回だけ……一回だけ見逃してやって欲しいんですっ!」

 

「……君は、獪岳を慕っている様だな?」

 

獪岳の事で必死に嘆願する善逸に、行冥は善逸と獪岳の関係性について良好なのか、確認の為に善逸に尋ねた。しかし善逸から帰って来た回答は、行冥にとって予想外のものであった。

 

「いやいや、とんでもないっ! 獪岳は俺の事を嫌っているし、俺だって獪岳が嫌いですよ。」

 

「何っ?……っ!!」

 

善逸はうんざりする様にその口からはっきり獪岳が嫌いだと公言したので、行冥は驚愕と共に大いに困惑した。そんな行冥を見て、善逸は念押しする様に開口する。

 

「大事な事だからもう一回言いますけど……俺は、獪岳の事が嫌いです。目障りだの消えろだの暴言ばっかり吐くし、桃とか色んな物を、俺に向かって投げ付けてくるんですから。それもしょっちゅう。」

 

「……では何故、その嫌っている獪岳を庇う? 君の兄弟子だからか?」

 

行冥は善逸が獪岳から受けて来た所業を聞いて、益々解せない様子で善逸に尋ねた。行冥の質問を聞いて、善逸は真剣な表情でその質問に答える。

 

「兄弟子だからじゃない……家族だからです。」

 

「っ!」

 

善逸が断言した回答を聞いて、行冥はビクッと反応を示した。善逸は思い出す様に時折両眼を閉じながら、獪岳について語り始めた。

 

「嫌いですけど……尊敬しています。じっちゃんの厳しい修行にも文句一つ言わずに、常に努力をしていて只管に真面目で直向きなんです。俺はずっと、そんな獪岳の背中を見て来ました。」

 

「……」

 

善逸が尊敬する獪岳の長所を、何も言わず行冥は聞いていた。

 

「俺にとっても、じっちゃんにとっても、獪岳は特別で大切な存在なんです。だから()()()()……()()()()で良いんで、獪岳を見逃して下さいっ!!」                                                                                                                                    

 

「……」

 

善逸は三度目の嘆願を行うと、行冥は善逸を見極めんばかりにその盲目の両眼を真っ直ぐ向けた。

 

「……その()()()()とは、どう言う意味なのだ?……。」

 

「っ!……っ。」

 

善逸の言っている内容が気になった行冥は、その言葉の真意を知るべく善逸に尋ねる。善逸は小さく唇を噛むと、行冥の疑問に答えた。

 

「もし獪岳がまた人の道を外れる様な真似をしたら、その時は……その時は俺が獪岳を斬りますっ!」

 

「!!」

 

善逸の覚悟を聞いて、行冥は再び驚く事になった。盲目である行冥であったが、善逸が身体を震わせている事に気付いた。

 

「……明日の朝、予定通り柱合会議が開かれる。獪岳がどうなるかは結局の所、君の育手である桑島慈悟郎氏と共にこの産屋敷本邸(おやしき)に召喚される獪岳()次第だ。」

 

「!」

 

善逸の覚悟に対して、行冥は肯定とも否定とも解釈出来る返答をする。善逸はその超人的な聴覚で怒りなどと言った負の感情を行冥は抱いていないと察してはいたが、真意まで見極める事は出来なかった。

 

「「……」」

 

二人の間で、厳密には室内には重い空気が漂った。

 

「……獪岳は……。」

 

「!」

 

そんな空間の中で、最初に開口したのは行冥だった。驚く善逸に構わず、行冥は話を続ける。

 

「私と獪岳の最初の出会いは、町中だった。路地裏の出入口辺りで飢えて倒れていた獪岳を、私が背負って寺まで運んだのだ。」

 

「……」

 

「獪岳は当初こそ、此の世の全てを疑って生きている様な猜疑心の塊だった。当然、私の事も疑っていた。何故助けたのか、何が目的だなどと言ってな。」

 

行冥は其処まで話すと、懐かしそうに思いながらフッと小さく笑った。

 

「……だが共に過ごす内に、獪岳は私に心を開いてくれる様になった。最初こそただ食事を済ませると寝ているだけの惰性を貪る様な暮らし振りであったが、ある日から率先して畑仕事や薪割り、水汲み等の仕事を手伝う様になってくれたのだ。」

 

「……」

 

行冥が話し始めた獪岳の過去に、善逸は唯々傾聴する。その際に行冥の声色が、穏やかになって行くのを善逸の超人的な聴覚はしっかりと捉えていた。

 

「我妻善逸。良ければ私に聞かせてくれないか? 君と過ごした獪岳は、どんな人間だったのかを。」

 

「っ!!……はっ、はいっ!!」

 

行冥の頼み事に、善逸は喜んで承諾した。しかしその直後、善逸は真顔で行冥に話し掛けた。

 

「あの……前以て言っておきますけど、俺の主観バリバリ入りますよ? 口が荒くなったり悪くなったりするかもしれないですけど、大丈夫ですか?」

 

「そんな心配などしなくても大丈夫だ。君が思う様に正直に話してくれれば、それで良い。」

 

「んじゃ、遠慮無く。」

 

善逸の言葉を皮切りに、それから二人は夜遅くまで獪岳談義を行うのであった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ったく。後始末を全部、俺に派手に押し付けやがってあいつらぁ……。」

 

天元が悪態を吐きながら、耀哉に与えられた部屋で敷かれた布団の上で横になっていた。

 

あの後は一人で散らばっている徳利と酒盃を片付ける羽目になり、折角の楽しい気分を台無しにされていた。

 

――……まぁ派手に楽しかったけどな。それと()()()()は、地味に何かと役に立ちそうだ。何かありゃ、あいつらを使って見ても良いかもな。

 

若干のほろ酔いを覚えつつ、ある人物達に目星を付けて楽しそうな笑みを浮かべた。其処へ二人の女性が、天元に話し掛ける。

 

「まぁまぁ天元様。もう良いではありませんか。」

 

天元の背後、正確には真上から声が聞こえて来た。天元の愛妻の一人であるまきをが、天元を宥めていた。まきをは天元に膝枕をして、更に頭を優しく撫でて慰める。

 

「そうですよ~。過ぎた事を言ったって、何も始まりませんっ!」

 

天元が考えを察する事など出来る筈も無く、不貞腐れていると思っている天元の下へ須磨もやって来る。

そのまま天元の隣に座ると、天元の左手を両手でギュッと握り締めた。

 

「失礼致します。天元様。」

 

其処へ雛鶴もやって来た。その手には二本程の徳利と、四つの酒盃を載せたお盆を手に持っている。

 

「天元様。良ければ私達だけで、飲み直しませんか? 二本しか無いので、言う程の量はありませんが。」

 

「おう。そりゃ良いな。まきをと須磨は、どうする? 一緒に飲むか?」

 

雛鶴の提案を喜んで受け入れた天元は、まきをと須磨も誘う。

 

「勿論、お付き合いしますっ!」

 

「御一緒します~❤」

 

まきと須磨は天元の誘いを拒否する筈も無く、一緒に酒を飲み始めた。

 

雛鶴が徳利を一本取ると、自分も含めて四つの酒盃に酒を注いだ。四人はその酒を飲み干した後、雛鶴達で一人ずつもう一本の徳利を順番に天元の酒盃に酒を注いで天元を楽しませた。

 

「大勢でワイワイ言いながら飲む酒は格別だが、やっぱりお前等と一緒に飲み酒が、一番美味ぇな。」

 

天元は徳利一本分の酒を飲み干すと、満足しながらそう呟いた。

 

「そう言って頂けると、私も嬉しく思います。天元様。」

 

「あたしも天元様と一緒に飲むお酒が、一番好きです。」

 

雛鶴とまきをは、頬を赤く紅潮させながら天元の左右に抱き着いた。

 

「あっ――ッ!! 二人とも狡いですよぉっ!!」

 

須磨は二人に先を越された事に反発しながら、真正面から天元に抱き着いた。

 

「おいおい、俺は逃げだりしないぜ。」

 

プンスカ怒る須磨を宥めながら、天元は三人の温もりを堪能する。そして無防備になった天元に、それは起こった。

 

「……えいっ!」

 

「「!」」

 

「っ!?」

 

須磨が天元の胸元に両手を置くと、力一杯押し込んだ。すると天元の左右に居た雛鶴とまきをも、須磨に協力して天元を押し込む。その結果、天元を布団の上に押し倒す事に成功した。

 

「お前等?」

 

天元は雛鶴達の思わぬ行動に、困惑する声を上げる。押し倒されたまま天元は、頸を動かして前方を見た。

 

其処には紅潮していた両頬を更に赤く染め、両眼を潤ませて荒い息遣いをしている雛鶴達が居た。雛鶴とまきをはその豊満な乳房を、天元の胸板に押し付けており、須磨は天元の腹部の上で馬乗りになっていた。

 

「天元様ぁ……っ❤」

 

「あたし達……胡蝶様のお話を聞いて、すっかり当てられてしまって……っ❤」

 

「御館様の産屋敷本邸(おやしき)でこんなはしたない真似……でもとても、我慢出来そうに無いのです……どうか、私達に御情けを……っ❤」

 

寝間着が乱れ半裸の状態で、雛鶴達は三人で協力して天元の寝間着を剥いで行った。どうやら女湯でしのぶとの間に繰り広げられた壮絶な猥談に当てられて、すっかり()()()になっている様子であった。

 

「……奇遇だな。」

 

「えっ?……あっ!❤」

 

「きゃっ!❤」

 

「あんっ!❤」

 

天元は呟いた後、カバっと上半身だけ身体を起こした。両手を雛鶴とまきをの乳房に置き、顔を須磨の谷間に埋める。天元はその状態で、ニヤッと笑った後に開口する。

 

「俺もお前等と愛し合いたいと、ずっと思っていたよ。…………今夜は寝かせねぇからな?」

 

「「「きゃ――っ!!!❤❤❤」」」

 

天元の宣言を聞いて、雛鶴達は歓声を挙げた。天元の愛撫を受けて、雛鶴達が嬌声を上げ始める中で、天元は心中で二人の人物に感謝の念を抱いて居た。

 

――この俺が雛鶴達に押し倒される日が来るたぁねぇ……これも炭治郎と胡蝶の御蔭だな。後で派手に礼をしないとなぁ……。

 

天元は炭治郎としのぶの二人に、強く感謝していた。

 

「ちゅうっ……んんっ。」

――でも今は、俺の愛しい嫁達を可愛がる事にしよう。地味な話は、それからでも遅くはねぇからなっっ。

 

しかし炭治郎としのぶに感謝する事は後回しにすべしと判断して、天元は雛鶴達との夫婦の営み(セックス)に集中する事にした。

 

その結果、産屋敷本邸の一角では朝日が昇るまで、天元が指揮する事で奏でられる妖艶な三重奏(トリオ)の音色が止む事は無かった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……ふぅ。」

 

温泉から上がった無一郎は、静かに産屋敷本邸の外の景色を眺めていた。晴れている御蔭で、星々と満月が夜の空を照らしていた。

 

――今日は、色んな事があったなぁ……。

 

無一郎は今回の緊急柱合会議で起きた大騒動の数々を、一つずつ思い出していた。そして数ある大騒動の中でも、無一郎にとって一際印象深いものが存在していた。

 

――鬼の血鬼術(ちから)で記憶喪失が治るなんて……考えてもみなかった。以前(まえ)の僕に言えば、きっと頭がおかしいと思うだけで終わるだろうな。

 

二年以上もの間、どの様な手段を講じても戻らなかった記憶を、怨敵である筈の鬼の血鬼術で治療した事実は、当事者でもある無一郎にとって最も印象深い出来事であった。

 

「……珠世さんには、後でもう一度御礼を言っておかなきゃ駄目だよね。」

 

無一郎は感謝の念を抱きながら、改めて珠世に礼を述べようと静かに決意した。そして無一郎はふと、ある場所に視線を向ける。

 

「僕が記憶を取り戻した御蔭で、()()()が手元にあるんだから。」

 

そう言った無一郎の視線の先には、綺麗に折り畳まれている黒色を基調に水色の霞模様が描かれた、袖の無い着物があったと束ねられた一房の黒い髪の毛、そして白い布に包まれた箱らしき物があった。

 

「……」

 

無一郎はその着物を受け取った際の状況を、脳裏に思い出した。

 

『こ、これは?……っ。』

 

『はい、時透様。三年前に亡くなられた、貴方様の兄君。時透有一郎様が着用していた着物でございます。そして……こちらは兄君の遺灰と遺髪です。』

 

温泉から上がった無一郎は一人で耀哉から当てられた部屋で過ごしていると、唐突にあまねが部屋を訪問して来た。あまねの後ろには、控える様に愛息子の輝利哉が傍らに居た。

 

その際にあまねが両手に抱えていた物が、有一郎の遺灰及び遺髪。そして唯一の遺品である、有一郎の着物だったのだ。

 

有一郎の遺体はあまねが駆け付けた時には既に蛆虫が湧く程に酷く腐敗していたので、故郷の景信山で即刻火葬となった。しかしせめて何か形になるものを残したいとそう思ったあまねは、腐敗臭に塗れた着物を根気良く洗い清め、髪の毛も切り取って保存していた。

 

有一郎の遺灰もまた何時か記憶を取り戻した無一郎の手にあって然るべきだと、大切に保存していたのだ。

 

『先ずは……この御家族の遺品を今になって貴方様に御返しする、私共の無礼をお許し下さい。』

 

『そ、そんなっ! あまね様っ、輝利哉様もお頭をお上げ下さいませっ!!』

 

有一郎の着物を隣に置いた後、あまねと輝利哉は無一郎に向かって土下座して謝罪した。そんな産屋敷親子の行動を見て、無一郎は慌てて止めさせた。

 

『その……あまね様にお聞きしますが、どうして今になって遺品(これ)を僕の下へ持って来たのでしょうか?』

 

『……記憶を失われた時点で、御家族の御遺品を御返しする事も考えてはいました。しかし……そうする事で逆に時透様に悪影響を与え、記憶を取り戻す事を妨げてしまうのでは無いかと、そう耀哉様が懸念されたのです。』

 

『っ!』

 

無一郎はあまねから得られた耀哉の懸念を知って、どうして有一郎の着物の返還が遅れたのか漸く理解出来た。

 

凄惨な出来事であったが故に、耀哉は無一郎の隠された記憶(心の傷)をいきなり掘り返す要因になりかねない。無一郎を守る為に、耀哉は有一郎の遺品を隠していたのだと察する事が出来た。

 

『……こんな若輩者の僕を、此処まで御気遣い頂き、感謝の念に耐えません。後々、御館様には直接御礼申し上げますと、そうお伝え下さい。』

 

『畏まりました。それでは、良い夜を。』

 

あまねは無一郎に一礼してから、部屋から退室して行った。続けて輝利哉も無言で、無一郎に一礼してからあまねに付いて行き退室する。無一郎の部屋には、有一郎の遺品が残っていた。

 

――お帰り、兄さん。

 

無一郎は脳裏に再現していた当時の状況を掻き消すと、有一郎の遺品に向かって心中で、その帰りを歓迎していた。

 

無一郎は続けて、今度は有一郎の遺品に向かって話し掛ける。

 

「僕……今まで生きて来た中で、最高のお友達が出来たんだ。」

 

嬉しそうに頬を赤く紅潮させながら、無一郎は嬉しそうにそう言った。無一郎の脳裏には、炭治郎の姿が思い浮かんでいた。

 

「……他にも話したい事はあるけど……それはこの鬼との戦いが終わってからの、お楽しみに残しておくよ。その時までには、もっと幸せだった事や嬉しかった事を経験しておくね。辛い事や悲しい事もきっと沢山、経験すると思うけど…………大丈夫。だって僕は。」

 

其処まで言うと、無一郎は一度だけ深呼吸を行った。

 

鬼殺隊(みんな)の御蔭で、耐えられる。」

 

無一郎は芯の強さを感じさせる様な、そんな笑みを浮かべてそう力強く断言した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

――今日は、大変な一日だった。

 

義勇はそう思いながら、敷かれた布団の上で横になっていた。

 

――しかし、その大変さに見合った……いやそれ以上の収穫が齎された日でもあった。今日開催された緊急柱合会議で起きた出来事は、必ず勝利に向けて鬼殺隊に大きく天秤が傾く事だろう。

 

言葉に出す事無く、義勇は緊急柱合会議で得られた有益な情報の数々をそう高く評価した。

 

――……尤も、あの愈史郎が言っていた様に……まだ鬼側の方が優勢と言えるだろう。柱としての責務を果たす為にも、今後は更なる精進を行わなければならないな

 

戒める様に自身にそう言い聞かせた後、緊急柱合会議で得られた情報の内容を、自身の為に反芻して再認識を行った。

 

――……っ!……っ……っっ。

 

再認識を終えた後、義勇は不意にある事を思い出した。それと同時に、自身の両眼を覆い隠す様に左腕を目元に乗せた。義勇の身体は、僅かだが震えていた。

 

――俺の判断は、正しかった。間違っていなかった。炭治郎と禰豆子を、助けて良かった。殺さなくて良かった……っ。

 

()()()()()()()()を掬い取ったのは、紛れも無い事実なんだ。今はそれだけで十分だろ。』

 

――ッ!

 

今回の緊急柱合会議では、立役者の一人と言っても過言ではない人物、いや鬼である愈史郎が温泉で口にした、あの不器用な励ましの言葉を思い出した。

 

――愈史郎……炭治郎達もそうだが後日、返礼をしなければ不義理にも程がある。珠世殿もだ。

 

義勇は珠世と愈史郎に返礼したいと、強くそう思った。しかし其処で問題が生じてしまう。

 

――だが……鬼である二人に、俺は何を送れば良い? 金品に興味は無いだろう。食べ物に至っては、論外と言っても良い。

 

珠世と愈史郎への返礼方法に、義勇は頭を悩ませた。

 

――………………っっっ!!!

 

すると思案する義勇の脳裏に、ある方法が思い浮かんだ。その方法を見て、義勇はぐっと拳を握った。義勇が思い付いた二人への返礼方法とは、とんでもないものであった。

 

――二人は血を飲むだけで食欲が済むと言う。ならば明日の朝、俺が二人の下へ行きこの血を提供してみよう。俺は不死川の様に稀血と言う訳では無いが、喜んで受け入れてくれる筈だ。

 

義勇の脳裏には自身の手で作った傷口から流血する左腕を差し出す義勇と、その左腕の前に立っている珠世と愈史郎の姿であった。義勇のやり方は、実弥の行動を参考にしている。参考として正しいのかと言われると、話は別だが。

 

義勇のそんな光景を想像してムフフと笑いながら、そのまま就寝に着いた。

 

しかし、義勇は気付いていない。そんな想像の中ですら、珠世は驚きながら片手で空いている大口を隠す様に覆い、愈史郎は青筋を浮かべながら白眼視で義勇を睨み付けていた。

 

余談だが次の日の朝、産屋敷本邸の一角で屋敷中に聞こえる程の怒号が鳴り響いた。その怒号に驚いた使用人が殺到すると、其処には右腕に血の付いた短刀と左腕から流血する義勇が居た。そしてそんな義勇の左腕を治療する珠世と、激怒して義勇に説教を行う愈史郎の姿があった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

産屋敷本邸にある研究室で、一人の女性が万年筆を片手に紙に書き込んでいた。

 

その女性とは珠世であり、嘗ては無惨の側近として仕えていた鬼にして自らの意思で無惨に翻した反逆者だ。

 

今回の緊急柱合会議において中心人物の一人であり、鬼殺隊に無惨一党に関する多くの貴重な情報を齎した女傑である。

 

――今回行われた緊急柱合会議が無事に終わって、諦めていた念願の鬼殺隊との協力体制を築く事に成功した。これからは更に多くの鬼の血が採取される事でしょうし、しのぶさんも協力してくれるから研究も今まで以上に進む見込みが生まれたわ。

 

珠世は緊急柱合会議で自身の想像以上の成果が生まれた事に歓喜しながら、更に万年筆に力を入れて紙に書き進めていた。

 

――今まで得られた研究結果を整理して、今後の研究の段取りを付けましょう。無惨との決戦も、何時行われるかは分からない。だから一日でも早く、半刻(一時間)でも早く研究を完成させなくては……っ!!!

 

温泉から上がった珠世は、睡眠を必要としない鬼の体質を生かして既に研究の段取りを付け始めていた。

 

「……っ。」

 

すると不意に紙に書き込んでいた万年筆を、紙からゆっくり離した。万年筆は珠世の右手に握られたまま、宙に浮かんで静止した。

 

――……炭治郎さんっ。

 

万年筆を宙に浮かせたまま、珠世の脳裏に映っていたのは炭治郎の姿であった。

 

――柱の皆さんとの話し合いは、当初から何事も無く進むなんて甘い考えは無かった。当然、柱の皆さんから猛反発を受ける事は想定内だった。……でも炭治郎さんが血を流す事までは、迂闊にも予想出来なかったわ。炭治郎()が居なかったら、あの緊急柱合会議は一歩間違えていれば最悪の場合、大失敗で不幸な結末を迎えていた可能性も、十分にあった……っ。

 

珠世は炭治郎を失い、緊急柱合会議が決裂した結果で終わったたられば(もしも)を想像して、思わず顔を青褪めさせて身体をブルッと震わせた。緊急柱合会議が最悪の結末では無く、最高の結末を迎えられた事実に、珠世は改めて安堵の溜息を落とした。

 

――炭治郎さんには、本当に頭が上がらないわっ。勿論、口頭で御礼は済ませているけれど……改めて、私から御礼がしたい。それも口だけじゃなくて、何か形になる方法で御礼を……。

 

珠世は炭治郎への感謝の念を改めて再認識すると、何時の間にか今後の研究に関する段取りから炭治郎への御礼はどうするかと言う考えに変わっていた。そう変化した事実を珠世は自覚しておらず、また疑問にも思っていなかった。

 

炭治郎への御礼を考えていた珠世だったが、その内にとんでもない事を思わず口走ってしまう。

 

「…………私の身体を差し上げたら、炭治郎さんは喜んで下さるかしら……。」

 

愈史郎が聞いたら卒倒を通り越して、突然(ショック)死を起こしかねない事を口走る珠世。もししのぶ達も聞いていたら、その場が修羅場と化す事は間違いない。この場においては幸いな事だったが、研究室内には珠世しかいない為、他の誰の耳にも入る心配は無い。

 

当の珠世は、無自覚な為に自身の口から何を呟いたのか理解出来ていない。その呟きは、自身の耳を除いて誰にも入る事無く、ただ研究室内に響き渡った。

 

「…………っ!!!??」

 

一拍置いて、珠世は自身がとんでもない事を呟いたと自覚した結果、思わず周章狼狽していた。その美貌を林檎の如く真っ赤に紅潮させながら、魚の如く何度も口をパクパクと動かしている。

 

「わ、私は……一体何をっ……っ!!!」

 

漸く珠世が口にした言葉は、自分自身に戸惑うものであった。何を、そしてどうして先刻の様な言葉を呟いたのか、まるで理解出来ていなかった。動揺する珠世の右手に持つ万年筆が、ミシミシと音を立てている。

 

そうしている内に、ある二人の人物が珠世の脳裏に過ぎった。

 

『珠世さんにも……愈史郎さんにも傷付いて欲しくなかっただけなんです。ごめんなさい……迷惑を掛けて……。』

 

『何度も貴女を見詰めては、顔を赤くして見惚れていたんですよぉ?』

 

「!!!」

 

珠世は炭治郎を顔を思い出して、胸中に強い高鳴りを覚えた。それからしのぶが女湯で自身に伝えた言葉が、更に胸中の高鳴りを強くした。

 

「……あぁっ! もうっ!! 集中出来ないっ!!」

 

珠世は空いていた左手を、苦しそうに胸元に強く押し当てた。右手に持つ万年筆は、最初より更にミシミシと強く音を立てた。

 

 

 

バキッ!

 

 

 

「っ!? あああぁぁぁ~~~っ!!!!??」

 

珠世はその膂力を以て、右手に持って居た万年筆をへし折ってしまった。万年筆の中にある墨汁(インク)が、珠世が書き並べた今後の研究の計画書の上からぶちまける様に飛び散ってしまう。

 

「………………」

 

少なくない時間を掛けて書き進めていた研究計画書が、万年筆からぶちまけられた墨汁(インク)によって台無しになった光景を、珠世は蒼褪めた表情を浮かべながら呆然と見詰める事しか出来なかった。

 

その後掃除を行い汚れた研究計画書を処分した後、気を取り直した珠世は再び研究計画書の執筆を再開した。しかし度々炭治郎の顔が脳裏に浮かぶ度に、失敗を幾度も繰り返した。

 

珠世がどう言った失敗を繰り返したのかと言うと、誤字脱字を繰り返したり、うっかり力を入れ過ぎて万年筆の先端で紙を貫通させてしまったり、ボーっとして動かなかったりした。

 

それは研究室に愈史郎が入室して来るまで、その数々の失敗を起こすのであった。




お待たせ致しました。

美蝶が一頭混じってますが、実質柱なのでタイトル詐欺ではない…筈(笑) こうしてみると、珠世さんも時間の問題だなぁ。

次回の更新予告ですが、9/15(水)を予定しております。お楽しみに。

宣伝
桜庭❀様 https://www.pixiv.net/users/3018098

私が尊敬する炭しのファンの一人であり、非常に可愛らしい絵を描かれる神絵師様です。是非ご覧になって癒されて下さい。

根菜様 https://www.pixiv.net/users/13161453

同じく尊敬する炭しのファンの一人であり、原作と遜色ない絵力の持つ神絵師様です。神絵師様は大勢いますが、この方は群を抜いていますね。


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第肆拾玖話 鬼殺隊の美蝶も日輪を回想す

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
*超辛口表現有り。苦手な方ご注意下さい。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「あははっ。禰豆子ちゃん。もうちょっとで終わるから、良い娘で待っててね~?」

 

「んんっ~~~♪」

 

産屋敷本邸にある一室で、鈴を転がす様な美しい女性の声が聞こえて来た。

 

女湯で酒をそれなりに飲んだ所為か、酒精が回って少し酔っている蜜璃が楽しそうに笑いながら、禰豆子の美髪を三つ編みに編んでいる。禰豆子も蜜璃にやって貰えて嬉しいのか、蜜璃に釣られて楽しそうに声を上げている。

 

「ヒック……た~~んじろうくぅ~~ん。にひひひっ。」

 

「あの、しのぶ様……私は炭治郎さんではありません。アオイです……この部屋に炭治郎さんが居てくれたら、とは思いますけど。」

 

一方でしのぶは炭治郎の名前を呼びながら、アオイに抱き着いて頬摺りをしていた。

炭治郎と勘違いされてしのぶに頬摺りをされているアオイは、酒臭さとしのぶからの絡みに耐えつつ相手をしている。

 

「……あぁ~~……アオイィッ~~此処って何処ですかぁ~~?」

 

「……此処は御館様が手配して下さった、私達の御部屋ですよ。しのぶ様。」

 

女湯で最も多く飲酒していたしのぶは、泥酔した様子でアオイに抱き着きながらしつこく絡む。

アオイはそんなしのぶを見て鬱陶しいとも疎ましいとも一切思わず、しのぶの絡みを適当に流しつつ苦笑しながら相手を努めていた。

 

アオイはカナエが殉職して以来、炭治郎と結ばれるまでの間にしのぶがどれだけの苦労を背負って来たかを、最も間近で見て来た人物である。故にこんな無防備な姿を晒してくれるのは、寧ろ大変喜ばしい事態であった。

 

しのぶを微笑ましく見ていたアオイだったが、其処へ部屋の襖が開かれた。其処には水の入っていると思われる人数分の湯呑茶碗と、薬らしき錠剤をお盆に乗せて持って来たカナヲが入室して来た。

 

「しのぶ姉さん。お水を持って来たわ。それと珠世さんがね、私達の為に二日酔いのお薬を処方してくれたのよ」

 

カナヲは泥酔しているしのぶを心配しながら、禰豆子を除いた全員にお盆に乗せていた湯吞茶碗を取って渡した。水が入った湯吞茶碗と二日酔いの薬を受け取ったアオイ達は、目礼してカナヲに礼を述べてからしのぶに手渡そうとする。

 

「しのぶ様、どうぞ。」

 

「んんっ~~~。」

 

しのぶは身体をフラフラとしながら、アオイが持つ湯吞茶碗に手を伸ばして取ろうとした。しかし受け取り損ねてしまい、水が入った湯吞茶碗はしのぶの小さな手から零れ落ちた。

 

「あっ……。」

 

「「あぁっ!?」」

 

しのぶが受け取り損ねた湯吞茶碗は、ゆっくりと畳の上に落下して行く。アオイと蜜璃はその様子に声を上げて動揺するが、咄嗟に動けなかった。

 

「!」

 

しかし、カナヲだけは違った。その身体能力と持ち前の超人的な視力を以て、二人が声を上げて動揺している間に湯呑茶碗を受け止める事に成功した。

 

「やっ、やったっ!?」

 

「流石カナヲちゃんねっ!」

 

それもただ受け止めるのではなく、一滴も水を零す事無くである。これにはアオイと蜜璃も感嘆の声を上げて、カナヲを称賛する。

 

「?」

 

一方で禰豆子だけは状況を理解しておらず、一人で首を傾げていた。

 

「もう……姉さん。飲ませて上げるから、お口開けて?」

 

「んっ……あ――んっ。」

 

しのぶはゆっくり口を開けると、カナヲは口に親鳥が雛に餌を与えるが如く、しのぶの開いた向かって錠剤を放り込んでから水をゆっくりと流し込んだ。

 

「(ゴクッ!)……ふぅ。」

 

「御粗末様でした。姉さん。」

 

薬と水を飲み干したしのぶに、カナヲはそう言ってから湯吞茶碗を下げてお盆の上に乗せた。アオイ達も各々の薬を摂取した。

 

「カナヲ……ごめんねっ。」

 

「っ!……姉さん、別に謝らなくても良いのよ?」

 

しのぶがシュンとした様子で謝罪の言葉を口にしたのを聞いて、カナヲは気にしていないと言わんばかりに笑顔で答えた。

 

「ううん、違うの……アオイも、ごめんなさい。」

 

「「?」」

 

カナヲ続けてアオイもしのぶから謝罪されて、二人は何故自分達にしのぶが謝罪するのか分からず、首を傾げるしかなかった。そんな二人を他所に、しのぶは悲しそうな表情を浮かべながら、二人をゆっくりと抱き寄せた。

 

「「……」」

 

しのぶの様子が気になった禰豆子と蜜璃も、静かにしのぶ達の様子を見守った。禰豆子達から視線を受けながら、しのぶはゆっくりを語り始めた。

 

「私……私ね、カナエ姉さんを殺した童磨(上弦の弐)を討つ為に、毒を飲み続けたと言ったけれど……それは嘘。本当は違うの。」

 

「「「っ!!?」」」

 

しのぶの唐突な告白を聞いて、禰豆子を除いた三人は驚愕した。驚愕するアオイ達を他所に、しのぶは自身の告白の真意を語り始める。

 

「今だから、はっきり分かるの……仇敵(かたき)討ちは勿論したい。姉さんの無念を晴らしたい……でもそれは尤もらしい言い訳を言っているだけで、そんなものは本当に只の建前でしかなくて……。」

 

しのぶは其処まで言うと、一度口を噤んで沈黙した。少しの間を置いてから、しのぶは重い口を開いて話を再開させた。

 

「私はただ単に……さっさと死にたかっただけ。……早く楽になって、お父さんやお母さんの……姉さんの傍に行きたかっただけなの……っ。」

 

「「「!!!」」」

 

しのぶが心の奥底で隠していた、その悲しい願望を聞いたアオイ達。しのぶが隠し持っていた自身達の想像を遥かに超える悲しい願望を聞いて、思わず絶句して身体を硬直させてしまった。

 

「大切な人に置いて逝かれる悲しみを、誰よりも分かっている筈なのに……ごめんね。姉さんと違って、駄目なお姉ちゃんで、ごめんねっ……。」

 

しのぶは何時の間にか、身体を震わせながら涙を流して泣いていた。しのぶは泣きながら、アオイとカナヲの強く抱き締めて謝罪の言葉を口にする。

 

「「!!」」

 

そんなしのぶの謝罪の言葉を聞いて、二人は両眼を見開いた。そして咄嗟に、しのぶに抱擁を返す。

 

「そんなっ! そんな、事っ……ないよっ! しのぶ姉さんッ!」

 

「そうですっ! カナヲのっ……カナヲの言う通りですっ! しのぶ様はっ! 私達の最高の姉様ですっ!!」

 

敬愛する姉分のその様な言葉を聞いて、黙っていられる筈も無い。アオイとカナヲは涙腺に溜まっていた涙を決壊させる様に流しながら、力一杯しのぶを抱き締めた。

 

「うわぁ――んっ!! しのぶちゃああんっ!!」

 

蜜璃も貰い泣きしながら、しのぶ達の下へ駆け寄って三人纏めて強く抱き締めた。

 

「……」

 

そんな四人に向かって、今まで黙って状況を見守っていた禰豆子も動き出した。普段と異なり、蜜璃と同様の三つ編みの状態のまま、しのぶ達の下へ向かった。

 

「あっ! 禰豆子ちゃんっ……っ!」

 

蜜璃が禰豆子に気付いて声を掛けると、一瞬驚いた表情を浮かべる。自分達の下へ向かいながら、鬼化して妖艶な大人の姿になっていたからだ。髪型が三つ編みの為、普段とは違う魅力が見て取れた。

 

「「「「!」」」」

 

「んんっ!!」

 

禰豆子は我が子を抱擁する母の如き、優しき慈母を連想する様な笑みを浮かべてしのぶ達を優しく抱き締めた。しのぶ達は一瞬驚いたが、抵抗する事無く禰豆子の抱擁を受け入れる。

 

「…………ふふっ。」

 

すると不意に、しのぶから零れる様な笑声が漏れた。其処からアオイやカナヲも、可笑しそうに笑声を上げる。泣き声が響いていた室内は瞬く間に、室内は明るい笑声に包まれていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「すぅ……すぅ……。」

 

「んっ……。」

 

「すぴぃ――。」

 

暫くして禰豆子としのぶ、そして蜜璃が敷かれた布団の上で寝着いていた。

 

「ねぇ、アオイ。」

 

「なぁに? カナヲ。」

 

カナヲがアオイに話し掛けると、アオイは即座に応えた。

 

「しのぶ姉さん……()()()私達に弱音を吐いてくれたね。」

 

「っ!……うんっ。」

 

カナヲの指摘を聞いて、アオイは驚きながらも強く同意した。

 

この緊急柱合会議では、幾度かしのぶの本音と言う名の弱音を聞く事が出来た。

 

しかしそれは、全て愈史郎の手によって間接的に知る事が出来たものばかりである。

何れにせよ、しのぶから直接聞いたものは一つも無かった。

 

「今回はお酒の力を借りてたってだけかもしれないけど、信頼されてるって……頼られてるって嬉しいわね。」

 

「っ!……うんっ!」

 

アオイの言葉を聞いて、カナヲは笑顔で強く同意した。

 

「「……」」

 

それから僅かな間、沈黙するアオイとカナヲ。すると二人は自然と禰豆子達がしっかり寝入っている事を、目視で念入りに確認していた。

 

「……アオイ、あのね……。」

 

「奇遇ね、カナヲ。私も丁度、貴女に言いたい事があったの。」

 

「っ!」

 

カナヲが決意を秘めた様子でアオイに話し掛けようとすると、アオイは察した様子でそれを静止した。

驚くカナヲに、アオイはある提案をした。

 

「提案なんだけど……一緒に炭治郎さんと愛し合いに行かない?」

 

「!!」

 

アオイの提案を聞いて、カナヲは驚いた様子で両眼を見開いた。そんなカナヲの様子を見て、アオイは微笑を浮かべる。

 

「やっぱりそう思っていたのね。」

 

アオイは予想通りとばかりに、カナヲを見た。カナヲはアオイの指摘に肯定する様に、力強く首肯して答えた。

 

「しのぶ姉さんに一番は譲ったけど……私だって女だもの。愛される好機をむざむざ逃がす心算なんて、毛頭無いわ。」

 

「同感ね。それに此処でお互いに潰し合うなんて、馬鹿馬鹿しいわ。だから……一緒に炭治郎さんに、目一杯可愛がって貰いましょう?」

 

「…………大賛成。」

 

カナヲは満面の笑みを浮かべて、アオイの提案に賛成した。それからアオイは医療箱から()()()()を取り出した後、カナヲと仲良く室内から退室して行った。

 

廊下を二人仲良く並んで歩くアオイとカナヲは、再び相談を始めた。

 

「炭治郎だけど……どうする? 待つ? それとも……捕まえに行く?」

 

「…………」

 

カナヲの物騒な提案に対して、アオイは無言で懐からある物を取り出した。

 

それは愈史郎から貰った、二枚の『紙眼』であった。

 

「……(ニヤリッ)」

 

アオイの手にある『紙眼』を見たカナヲは、ニヤリッと艶めかしくも恐ろしい笑顔を浮かべていた。そんなカナヲの笑顔を見て、アオイも同様の笑みを浮かべていた。

 

二人が浮かべていた笑顔は、獲物を定めた肉食動物に等しいものであった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「糞っっ!!」

 

産屋敷本邸の一角で、怨嗟に満ちた声を上げて壁を殴り付ける男が居た。尤も、その声は正確に言うと怨嗟と言うより悔しさに近いものであったが。

 

その男とは、晩餐以降姿を現さなかった蛇柱・伊黒小芭内であった。その頸には、愛蛇の鏑丸の存在もあった。

 

「……っっ。」

 

小芭内は悔し気かつ立腹した様子で、もう一度壁を殴り付けた。顔の下半分を包帯で覆っているその顔は、幾つもの青筋が浮かび上がっている。その脳裏には、直前の出来事を思い出させていた。

 

『っ!……お前は……』

 

『んっ?……何だ、伊黒か。』

 

小芭内が(トイレ)から戻った際に、愈史郎と遭遇していた。

 

『……こんな所で、何をしている?』

 

愈史郎はあの後、何事も無かったかの様に身体を起こしていた。それから看病などをしてくれた炭治郎達に礼を述べた後、単独行動をしていた。

 

『炭治郎達と風呂から上がった所だな……その後であまねから耀哉の奴が俺を呼んでいるらしいから、今から耀哉(あいつ)の部屋に向かう所だ。』

 

『!』

 

敬愛する耀哉の名前が愈史郎の口から出たのを聞いて、小芭内は思わず愈史郎を睨み付けた。

 

『お前が、御館様の御部屋に……っ?』

 

『そうだが、何か問題でもあるのか?』

 

愈史郎が小芭内を睨み返すと、小芭内は忌々しそうに小さく舌打ちをした。そんな小芭内を見て、愈史郎は鼻で嗤った。

 

『お前如きに止められる理由なんざ、一つも無いんだよ。もう良いよな? 俺はさっさと耀哉の下へ……と思ったが折角の機会だ。あいつの下へ行く前に、伊黒に話しておきたい事がある。』

 

『……何だと?』

 

愈史郎の言葉を聞いて、小芭内は怪訝そうな表情を浮かべた。そんな小芭内に構わず、愈史郎は質問を行なった。

 

『伊黒は甘露寺の事が、好きな様だな? 当然だが、一人の女として。』

 

『!!?』

 

愈史郎は単なる質問ではなく、ある種の確信を持って小芭内に尋ねた。小芭内にとって愈史郎の質問内容は想定外だった様で、明らかに動揺していた。

 

――分かり易い奴め……。

 

愈史郎は動揺する小芭内を見て、ある種の同族嫌悪に陥りながらもそれを無視して話を続ける。

 

『一々否定とかしてくれるなよ? 面倒臭いだけだからな。お前が甘露寺に好意を抱いている事くらい、見れば誰でも分かるわっ。気付いていないのは、肝心の甘露寺だけだろ。』

 

『……』

 

先手を打つ様に愈史郎が一方的に言い終えると、小芭内は愈史郎に答えずに沈黙を貫いた。しかし愈史郎からすれば、その沈黙は肯定に等しいものだった。

 

『言いたく無いなら言わなくても良いぞ。……ただ俺がこの先、()()()()甘露寺の前で口を滑らせても、一々文句なんて言って来るなよ?』

 

『っ! 貴様っ!!』

 

愈史郎からの脅迫を受けて、小芭内は額に青筋を浮かべて睨み付けた。鏑丸も小芭内の憤怒に同調して、威嚇の声を上げる。しかし愈史郎からすれば、そんなものは微風程度のものでしかない。

愈史郎は小芭内と鏑丸に構わず、聞こえる様に独言を呟いた。

 

『まぁこの口を閉ざすだけの()()があれば、墓場まで持って行ってやっても良いがな。』

 

『!』

 

暗に答えろと言わんばかりに、愈史郎は小芭内を再び挑発した。小芭内は再び愈史郎を睨み付けた後、周囲を見渡して誰も居ない事を確認してから、諦めた様子で愈史郎に答えた。

 

『……ああ、そうだ。俺は甘露寺の事が好きだ……彼女には()()()()()()()()()と、()()()()()()()()。』

 

小芭内は一度深呼吸をしてから胸を張って、その様にはっきりと断言した。

 

『そうか。ならそんなまどろっこしい言い方をしていないで、四の五の言わずにさっさと告白したらどうだ? お前と甘露寺の間を妨げる、邪魔な障害なぞ無い筈だろう? まさか恋に現を抜かしていられないなんて、真面目腐った戯言を間違ってもほざくなよ? それは甘露寺に対する立派な侮辱だぞ。』

 

『!!』

 

小芭内の退路を事前に塞ぐ様にそう忠告した愈史郎は、こう言われて小芭内は何と言うのか気にしながら返答を待った。

 

蜜璃は素敵な恋をしたいと常々口にしている事は、鬼殺隊で知らぬ者などいない程、有名な話だ。恋愛を否定する事は、即ち蜜璃を否定する事に繋がってしまう。

 

五つを数えるまでの間が開いてから、小芭内は絞り出す様に開口する。

 

『……穢れた俺では、彼女の傍に居るこそすら憚られる。だから俺は甘露寺にこの想いを伝える事は、絶対に無い。』

 

『……つまり、お前は飽くまで傍観者として、甘露寺を見守る事に徹すると?』

 

『……そうだ。』

 

愈史郎が真偽を見極める為に質問すると、小芭内は首肯して即答した。しかし、そんな小芭内を見た愈史郎の反応は想像を超えるものであった。

 

『はっ、よくもまぁ其処まで嘘偽りを並べ立てられるもんだ。』

 

『!?』

 

愈史郎は小芭内の決意に対して、根底から全否定して嘲笑した。小芭内はその嘲笑を聞いて、怒るよりも先に茫然としてしまう。

 

『だったらお前……何故甘露寺と仲良くしていた炭治郎を、ずっと睨み付けていたんだ?』

 

『!!!』

 

愈史郎の指摘を受けて小芭内は反論する所か、顔を逸らしてしまった。そんな小芭内の態度が、益々愈史郎の憤怒の炎に油を注ぐ。愈史郎の神経を逆撫でしている事に気付かず、小芭内は漸く反論の言葉を口にした。

 

『それは……あんな複数もの女と同時に交際して居る様な不埒な奴が、甘露寺に近付く事など許されないからだ』

 

『炭治郎とどう接するかを判断するのは甘露寺本人がする事で、お前の仕事じゃないよな? 宇髄の事も侮辱しているが、あいつの事などどうでも良い……伊黒、尤もらしい言い訳を並べて、誤魔化そうとするは止めて貰えるか?……お前は誰であろうと、自分以外の男が甘露寺に近付く事が許せないだけだろうがっ。』

 

『!!!』

 

愈史郎が咎める様に指摘した内容を聞いて、小芭内は両眼を見開く程に動揺した。小芭内の動揺を見て、愈史郎は鼻で嗤って嘲笑する。

 

『言動を見るからに、陰湿なお前の事だ。甘露寺に近付く男は可能な限り、裏で排除していたんだろう? 違うか?』

 

『なっ!?……っっ。』

 

『……フンッ。』

 

愈史郎の追撃を受けて、小芭内はこれまで以上に動揺した。小芭内が見せたこの動揺こそ、愈史郎の指摘を肯定したも同然であった。そんな小芭内の動揺を見て、愈史郎は鼻を鳴らして苦々しい表情を浮かべた。

 

事実、蜜璃は本人が思っている以上に、鬼殺隊では非常に高い人気を得ている。その天真爛漫な性格は殺伐とした鬼殺隊に置いて、日常を思い出させてくれる稀有な存在として男女問わず愛され、大いに慕われている。蜜璃の人気の高さはしのぶと双璧を成すと言われているが、実際はしのぶを凌駕する程だ。

 

それ故に何十人もの隊士が蜜璃に告白しようとしたのだが、それは全て事前または直前に隊士達を小芭内が牽制して、実行すらさせなかったのである。

 

愈史郎が何故小芭内が裏で行っていた牽制行為を見抜けたかと言うと、自身にも心当たりが有り過ぎたからだ。

 

過去二十年間もの間で珠世に好意を抱く患者を、遠ざけたり追い出したりした経験が愈史郎自身にはある。その回数も既に、軽く百回を超える。時には恋文を破り捨てたり、燃やしたりした事もあるのだ。

 

当然だが追い出したのは飽くまでその患者達が完治してからであり、其処は医療従事者として道を外れる様な愚行は犯してはいない。

 

兎に角、自身が過去に陰湿な行為を行っていたからこそ、小芭内の行動を見抜く事が出来ていた。尤も、愈史郎が正直にそんな過去を小芭内に暴露する様な真似はしないのだが。

 

『……お前は甘露寺の幸せを、心から願っていたりなんかしていない。お前は、甘露寺と一緒に幸せになりたいんだ。そうだ。自分の手で、甘露寺を幸せにしたいと思ってる。醜い嫉妬心を心の奥底で燃やして、自分以外の男が甘露寺の傍に居るのが許せないだけだろ? 健気な傍観者を気取っているが、結局お前の本心はそれなんだよ。』

 

『……』

 

愈史郎が看破した小芭内の本心を口にすると、小芭内は完全に口を閉ざして、俯いてしまう。愈史郎が口にした事は、全て事実であったからだ。

 

しかし愈史郎の口撃は止まらない。そればかりか、止めと言わんばかりに小芭内に向かって最大の叱責を正面から言い放った。

 

『想いを告げる勇気も無い意気地無しの(カス)如きに、嫉妬心も独占欲も抱く資格は無いっ! この腰抜けの臆病者がっ!! 身の程を弁えろっ!!』

 

『!!!!!』

 

愈史郎にそう言われた瞬間、小芭内の頭の中で何かがキレる音が聞こえた。それから我に返るまで、小芭内の記憶は残っていなかった。ただ頭の中の何かがキレる音が聞こえたと同時に、頭の中が真っ白になった事だけ小芭内は覚えていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

『っ!!!』

 

いざ我に返って見たら、左手で愈史郎の衣服を鷲掴みにして壁際に叩き付けていた。よくよく見渡してみれば、血痕らしき物が衣服を汚している。そうなっている要因は自身の赤く染まった右手が、雄弁に物語っていた。

 

『……事実を指摘されて、だんまりを決め込んでやり過ごす事も出来ず、癇癪を起こして暴力を振るとは、躾のなっていない餓鬼だな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

小芭内に殴られたであろう愈史郎は、懲りもせずに小馬鹿にする様に小芭内を嘲笑する。鬼である愈史郎からすれば、男性にしては非力な小芭内に殴られても蚊に刺された程度の取るに足らない些事である。

 

戦闘能力では愈史郎に圧倒していようと、鬼としての身体能力や膂力だけを見れば愈史郎に分がある。事実、愈史郎は小芭内を脅威とは見ていないので反撃する様な真似はしなかった。

 

『……そう言うお前はどうなんだ?』

 

『はぁ?』

 

小芭内は今にも射殺しかねない程に鋭い視線で愈史郎を睨み付けると、愈史郎は理解不能と言わんばかりに声を上げた。

 

そんな愈史郎の態度に苛立ちで額に青筋を浮かべながら、小芭内は言い放った。

 

『お前が珠世に想いを寄せている事だって、見れば分かる。その珠世が竈門炭治郎と親しくしていたが、お前は何とも思わないと言えるのか?』

 

『!』

 

鼻で嗤いながら、愈史郎を小芭内は挑発した。

 

『……フッ。』

 

しかし愈史郎は小芭内の挑発に対して、不敵な笑みを浮かべて嘲笑う。

 

『俺としては、歓迎すべき事だな。』

 

『っ!?……何だとっ。』

 

愈史郎の想定外の発言を聞いて、小芭内は動揺を覚えた。そんな小芭内を見て、愈史郎は嘲笑しながら自身の想い口にした。

 

『お前が甘露寺を愛している様に、俺は珠世様を愛している。だが珠世様がもし炭治郎に想いを寄せていてそれで結ばれると言うのなら、俺は喜んでそれを祝福しよう。』

 

『っ!』

 

愈史郎が清々しい表情を浮かべてそう宣言すると、小芭内は両眼を見開いていた。次に愈史郎は再び嘲笑する様な笑みを浮かべてから、小芭内を見下して言い捨てた。

 

『俺の願望は、珠世様が幸せになって下さる事だ。それが叶うなら、俺はこの命だって喜んで捧げよう。俺と一緒に幸せをだなどと、畏れ多い願望なんて抱いていない……想いを告げる勇気も無い癖に、叶いもしない身の程知らずな欲望を抱いているお前とは、根本的に違うんだよ。この俺をお前如きと一緒にするな。このどっち付かずの、見るに堪えない見苦しい(カス)め。』

 

『!!!……チッ!』

 

愈史郎の嘲笑を聞いた小芭内は、忌々しそうに舌打ちをすると突き放して壁際に叩き付ける様に愈史郎を解放した。それからは愈史郎と口を聞く事も無く、その場を早々と去ったのである。

 

「……っっ。」

 

小芭内は不快感で吐きそうになるのを、必死に抑え込む為に血が滲まんばかりに唇を思い切り噛んだ。尤も、それは顔の下半分を常に覆っている包帯で見えはしないのだが。

 

「シャ――っ。」

 

主人である小芭内を心配して、鏑丸が声を上げる。そんな健気な様子を見せる鏑丸を片手で撫でながら、小芭内は笑みを浮かべて話し掛けた。

 

「鏑丸。俺なら大丈夫だ、問題無い……さぁ、一緒に温泉へ入りに行こうか。」

 

小芭内はそう言うと、鏑丸と共に男湯へと向かって行った。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「…………って事があったんだよ。」

 

「あははははっ。大変だったんだね、愈史郎。」

 

小芭内との悶着を愚痴る様に語る愈史郎に、耀哉は楽しそうに笑う。因みに愈史郎は耀哉の自室へ来る途中で使用人に頼んで、着替えを貰って衣服を着替えていた。その為、衣服に血などは付いていない。

 

「……」

 

「耀哉、どうかしたのか?」

 

楽しそうに笑っていた耀哉だが、不意に神妙な表情を浮かべて沈黙する。そんな耀哉の様子を見て、愈史郎は声を掛ける。

 

「君達が鬼殺隊(私達)に提供してくれた吹き矢だけど、『隠』の隊士(子供)達では量産は荷が重かったらしい。だから刀鍛冶の里に、量産の方をお願いしたよ。」

 

「そうか、其処は勝手にしてくれ。」

 

吹き矢に関して変更点があった事を愈史郎は聞いたものの、然程関心が無さそうであった。

 

「……愈史郎、ありがとう。君には感謝しても仕切れない。」

 

「!」

 

耀哉は愈史郎に向かって、深く感謝しながらゆっくりと頭を下げた。唐突に耀哉に感謝された愈史郎は、小恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

「まさか、()()()を言っているのか?……俺には俺の目的があった。だから感謝なんて、必要無いと言った筈だぞ。耀哉。」

 

「それでもだよ。君が自ら憎まれ役を買って出て矢面に立ってくれた御蔭で、私達は結束出来たと言っても過言では無いのだから。」

 

耀哉はそう言うと、緊急柱合会議が行われる前の密談を思い出した。愈史郎も密談の内容を思い出しながら、話を続ける。

 

「俺からすれば、言いたい事を遠慮無く言いたい放題言えて大満足なんだがな……そして尚且つ、俺の目的も果たせた。それはお前にとっても、都合が良かったんだからそれで良いだろう?」

 

「君が行冥達を挑発し罵詈雑言を浴びせる事で、怒りを一身に受けて珠世への反発を防ぐ。珠世が君の言動を非難する事で、逆に行冥達の印象を良くする……か。」

 

耀哉は愈史郎から事前に提案を思い出す様に、その内容を呟いていた。

 

「鬼舞辻無惨と言う共通の敵が居ようと、そう単純に呉越同舟と言う訳には行かないさ。鬼殺隊(お前等)(俺達)が手を組もうとすれば、どう考えたって反発も禍根も残る。一般隊士(下っ端)共はどうとでもなるが、柱は流石に不味い。」

 

愈史郎は其処まで言うと、嘲笑とも自嘲とも解釈出来る様に鼻で嗤った。

 

「……なら、珠世様ではなく俺が憎まれた方が遥かにマシと言うものだ。珠世様は御優しい御方だ。表面上では何とも思われなくても、やはり気にされる事だろう。対しては俺は、何とも思わない。あいつらに嫌われようが憎まれようが、はっきり言ってどうでも良い。」

 

「……」

 

愈史郎が其処まで言うと、耀哉は静かに愈史郎に向かって頭を下げた。耀哉が自分に向かって頭を下げる様子を見て、愈史郎は可笑しそうに笑う。

 

「ははははっ。まぁ最悪の場合、殺されるのは俺の頸一つで済ませないといけないって計算もあるからな。俺なんざ居なくても大局に影響はしないだろうが、珠世様は違う。あの御方無くして、無惨に勝利を得るなんて有り得ない。」

 

「珠世が無くてはならない存在だと言う事は認めるよ。そしてそれは愈史郎、君にも該当する。君の存在も、鬼殺隊(私達)にとっては代替えの利かない逸材なのだからね。」

 

愈史郎が自身を過小評価する様な発言を聞いて、耀哉は怒る様にその発言を否定した。

 

「……だがやはりこれは、恥ずべき行為だったね。これでは君ばかりが、損を被ってしまう。無惨を倒す為には固く結束しなければならないのに、君が嫌われる事で結束するなど……。」

 

耀哉は後悔する様に、愈史郎ばかりが不利になった事実も呟いた。そんな耀哉に、愈史郎は苦笑する。

 

「本当に今更過ぎる話だ。無惨を誘き出す為に炭治郎と禰豆子を、囮として利用する為に優遇していた策士の言葉とは思えないな。鬼への憎悪やら何やらを持ち過ぎるあまり、大局を見据えられない悲鳴嶼達にお灸を据えて叱責するという意味でも、お前にも利はあった。何よりお前も俺に罵られて、十分痛い目に遭っただろう? 俺の事なら、気にするな。少なくとも俺は後悔していない。」

 

「……分かったよ。愈史郎が其処まで言うなら……。」

 

愈史郎に言われて、耀哉はこれ以上は無粋と謝罪を止める。だが心中では、心の奥底から感謝の念を愈史郎に捧げていた。

 

「ただ、俺の所為で炭治郎が斬られてしまったからな。その補償はしてやってくれ。俺からも、後で炭治郎(あいつ)に償いたい。」

 

「勿論だよ。私だって炭治郎への御礼は、まだ十分にしたとは微塵も思っていないからね。」

 

炭治郎の事を思い出して、二人は申し訳無さそうな表情を浮かべる。因みに愈史郎の罵詈雑言の真意については唯一、炭治郎だけが事情を知らされていた。

 

『うぅ……分かりましたよ。皆が悪く言われるのを聞くのは辛いけど、それも鬼殺隊の為だと思えば俺も我慢出来ますから……』

 

耀哉と愈史郎は炭治郎が二人の真意を知った時、複雑な表情を浮かべていた事を思い出していた。

 

もし炭治郎が真意を知って居なければ、良くも悪くも真っ直ぐな彼だ。きっと愈史郎を止めようとしたに違いなかった。炭治郎が愈史郎の罵詈雑言を止めなかったのも、二人の真意を知っていたからである。

 

「……それにしても小芭内、か……。」

 

其処まで話すと、耀哉は小芭内の名前を不意に呟いた。愈史郎も小芭内の名前を聞いて、僅かに眉を動かす。

 

小芭内(あいつ)だけ、何か蚊帳の外と言った感じがするな。」

 

「皆と一緒に居る事は、あまり好まない子だからね。それに過去の事情もある。」

 

「事情なら、誰でも持っているだろ。そんなものが言い訳になるかっ。」

 

吐き捨てる様に愈史郎がそう言うと、耀哉は怒る訳では無く苦笑する。

 

「そんなに小芭内の事を、悪く言わないで上げておくれ……小芭内()に殴られた君が、そうやって嫌うのも無理は無いかもしれないけれど。」

 

「ふん……小芭内(あの馬鹿)を見ていると、少し前の自分を思い出すんだよ。」

 

「っ!……ほう?」

 

愈史郎が忌々しそうに呟いた内容を聞いて、耀哉は興味深そうに愈史郎を見詰めた。

 

「言わんぞ。誰が好き好んで自分の恥部を晒すか。」

 

「おやおや、それは残念。」

 

本当に残念に思っているか分からないからかい交じりの楽し気な声を上げる耀哉に、愈史郎は忌々しそうに睨み付けた。

 

――まぁ……本当に少し前までの俺は、小芭内(あの馬鹿)と同類だったがな。しかし、女湯の会話を聞いてしまったら、なぁ……。

 

愈史郎は心中で、静かにそう思った。そう、珠世の嬌声を聞いて気絶してしまった愈史郎だったが、途中で目を覚ましていたのだ。そして鬼の超人的な五感により、炭治郎達みたいに耳を澄まさなくても会話は丸聞こえであった。

 

――珠世様が望まれるなら、俺は応援しなければならないだろう。俺の我が儘の為に、珠世様を不幸にしては本末転倒だ……ふっ。ほんの少し前の俺なら、絶対にそうは考えなかった。考えられなかっただろうな。

 

愈史郎は少し自虐的な感情を抱いて、思わず笑ってしまう。

 

――だが、今の俺なら大丈夫だ……何故なら俺には俺と珠世様の間にしかない絆と、約束がある。あんな小芭内(腰抜けの臆病者)とは違う。

 

愈史郎はそう言うと、ある光景が脳裏に浮かんだ。

 

『珠世様。"たられば(もしも)"……"たられば(もしも)"の話です。此の世に生まれ変わりと言うものがあるならば……もし同じ時代に生まれて、再び出会えたら……貴女がまだ独り身だったらで良い。その時は、俺と夫婦になって下さいませんか?』

 

『っ!』

 

――……珠世様は何も答えて下さらなかったが、静かに頷いて下さった。だから大丈夫……この約束があるから、俺は素直に珠世様の幸せを願い祝福出来る……。

 

愈史郎は珠世と交わした、此の世で自分と珠世だけが知り得る約束を思い出して、密かに喜びに浸った。

 

「……」

 

愈史郎が何も言わずに静かに笑みを浮かべているのを、耀哉は暫く静かに見詰めていた。

 

「愈史郎。君は今、とても良い笑顔をしているね。」

 

「っ!……そうか?……そうかもな。」

 

耀哉がそう言うと、愈史郎は否定せずに機嫌良く答えた。

 

「それはそうと……伊黒は大丈夫なのか。小芭内(あの馬鹿)を散々罵った、俺が言うのも何だがな。」

 

「……気にしなくても、良いんじゃないかな? 如何にかなると、私はそう思っているよ。」

 

愈史郎が小芭内について懸念を覚えると、耀哉は楽観的とも取れる発言をした。そんな耀哉に、愈史郎は肩を竦めた。

 

「それはお前のお得意の勘とやらか?」

 

「ああ、勘だね。」

 

愈史郎の質問に、耀哉は即答して肯定した。

 

「お前が言うなら、本当にそうなるんじゃないのか? まぁ、俺にとってはどうでも良いが。」

 

「小芭内を気に掛けている時点で、どうでも良いとは思っていないだろうに。愈史郎は本当に、優しい子だねぇ。」

 

耀哉がそう言うと、愈史郎は少し頬を赤くして反論する。

 

「茶化すなよ。」

 

「茶化してなどいないよ……愈史郎、君は私の大切な剣士(子供)達の一人になったけれど……そんな不器用な優しさと思い遣りの心を持つ君の事を、私は対等な友人……いや親友の様に思っている。」

 

「!!」

 

耀哉の告白を聞いて、愈史郎は驚いて思わず両眼を見開いた。それから少しして、恥ずかしそうに頬を少し紅潮させてからフンと鼻を鳴らした。

 

そんな愈史郎を見て、耀哉は楽しそうに笑った。

 

「愈史郎、今後ともよろしく頼むよ。」

 

「ああ、よろしくな。」

 

耀哉と愈史郎は互いにそう言ってから、二人は固く握手を仲良く交わした。

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

「さて……いきなりで悪いんだけど、君に早速相談したい事があるんだ。」

 

「本当にいきなりだな……何だ? 力になれるかは内容によるぞ?」

 

愈史郎は興味深そうに、耀哉の相談内容を聞くべく傾聴する。

 

「実はね……炭治郎の風評被害を、如何にかして払拭させようと思ってね……。」

 

「……無理だろ。嫉妬って奴は持ってない奴が抱くもんだ。炭治郎には有名税とでも思って、潔く甘受させろよ。第一、お前は無関係だろうが。」

 

耀哉の相談内容を聞いた愈史郎は、馬鹿馬鹿しいとばかりに一蹴する。そんな愈史郎に、耀哉は苦笑する。

 

「そう言わずに、付き合っておくれよ。これでもし炭治郎が他の剣士(子供)達に刺されたりなんてしまったら、一大事じゃないか。頼むよ、我が親友(とも)よ。」

 

「どうしろってんだよ、たくっ……。」

 

愈史郎は悪態を零しながら、耀哉の相談に乗った。それから二人して炭治郎の風評を払拭すべく、ああでもないこうでもないと夜遅くまで考える事となった。




お待たせ致しました。

小芭内の誕生日だというのに、小芭内だけ受難が続いていて申し訳なく思います。
救済……になるかは分かりませんが、それは続きにご期待下さい。

出会った当初は直ぐ炭治郎に暴力を振るいまくっていた愈史郎ですが、原作には無い経験を積んだ御蔭で、かなり大人になっています。
愈史郎なら自分の事よりも、珠世を第一に考えるだろうという私の願望も入って居ますが、御了承下さい。

次回の更新ですが、少し伸びて9/25(土)を予定しております。それまでお待ち下さいませ。

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唯翔様 https://www.pixiv.net/users/5377104

鬼滅の刃関連で素晴らしい絵を描かれる神絵師様です。Twitterのお題箱でリクエストを常時受け付けておられます。

唯翔様ご自身は何でもいける派なので、BL作品も多いですから苦手な方は御注意を。またリクエスト内容がBL作品が多いので、是非炭治郎×鬼滅女子をリクエストされては如何でしょうか? 私もして頂いております。


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第伍拾話 日輪は白蝶と交流す

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


産屋敷本邸のある一室では、琴の音色が優雅に鳴り響いていた。演奏者であるかなたは琴を演奏する手を止める事は勿論、手を緩める事も無いまま両眼を閉じてある日の出来事を思い出していた。

 

それは今から、半年以上遡って起きた出来事だ。

 

鬼殺隊の入隊試験である"最終選別"。

それは産屋敷家の私有地である、鬼が忌み嫌う藤の花が年がら年中咲き狂う"藤襲山"で定期的に開催される入隊試験である。

 

合格基準は唯一つ、"生き残る"だけ。

 

何から生き残るのかというと、それは鬼殺隊の隊士達が生け捕りにした雑魚鬼からだ。藤の花の牢獄とも比喩される藤襲山で、人肉に飢えた鬼から七日七晩生き残る。

 

普通ならば観光名所または大日本帝国を代表する名山の一つとして、その名が此の世に広く知れ渡っても良い筈の藤襲山はその理由から終日、一般人は立入禁止となっている。

 

もしこれを破って藤襲山に入山しようものなら、最初こそ咲き誇る藤の花に圧倒され魅了される事だろう。

しかし更に山奥へ進めば最後、鬼に骨一つ残らず喰われて死ぬ事になる。そう、食虫植物が醸し出す匂いに誘われて、捕食される哀れな昆虫の如く。

 

事実、この数百年で何百人もの人間がその事情を知らずに入山し、行方不明になっている。

 

これは発覚している人数だけであり、実際の行方不明者総数は一千人を超えると言われている。

 

行方不明者が減らない理由は、大きく三つある。

 

最大の理由は、鬼の存在を公言していないからだ。故に鬼の存在を信じない者にとって、警告も只の古臭い言い伝えに過ぎないのである。

 

他の理由の一つは、藤襲山の敷地面積が広大過ぎて、入山防止用の柵を建設したり監視役を置く事が非効率だからだ。

 

他所の土地に勝手に侵入する侵入者の為に余計な費用を費やす位ならば、鬼と命懸けで戦う隊士達に費用を費やす方が良いに決まっている。

 

最後の理由は、藤襲山から生きて戻った無自覚の生存者達が藤襲山について自慢気に公言するからだ。

 

鬼が潜む山奥まで行かず、自重して下山した生存者達が目撃した狂い咲いている藤の花を素晴らしさを酒を呷りながら語るのである。

 

それを聞いてしまった者達が、自分も見てみたいと藤襲山に足を運んでしまい、結果的に自らの意思で鬼の餌食になるのだ。

 

そうした呪われた経緯がある事から、地元では"鬼が巣食う呪われた山"として非常に恐れられ、子供を叱る常套句として"悪い子は藤襲山に送られる"と言う殺し文句が存在する程だ。

 

実態も真相も何一つ知らないと言うのに、世間で流れる都市伝説の如き噂話は大体合っているのが、面白い所ではある。

 

この"最終選別"では入隊希望者が鬼を倒す事が目的では無く、飽くまで生存する事がこの"最終選別"の唯一の合格条件だ。

 

これがとても難しく、時には"育手"の下で厳しい修行を積んだ鬼殺隊への入隊希望者が一人も生き残らずに全滅する事も珍しく無い。

 

しかし死んだ入隊希望者達を負け犬と責めて、敗北を嘲笑する資格は誰も持ってなどいない。

 

殆どの入隊希望者は生まれて初めて鬼と直接、命を懸けた殺し合いを行うのだ。中にはこの"最終選別"で初めて鬼を見る初見者も、決して珍しくなど無い。

 

なら鬼を一度見た者は生存率が高いかと言われると、そうでも無かった。鬼を初めて見た時の恐怖感が蘇り、身体が硬直してそのまま鬼に喰い殺される者も少なくないからだ。

 

入隊希望者の事情はどうあれ、鬼にとってはどうでも良い事だ。そもそも事情があろうが無かろうが、鬼には一切関係が無い。共通点は極上の餌である、と言う事だけだ。

 

この"最終選別"では鬼を見ただけで恐怖心を抱き戦意喪失する臆病者、鬼の動きについていけない弱者は篩に掛けられる形で呆気無く落命する残酷な運命が待っている。

 

実力も無いのに生き残れる幸運な者も稀には居るが、そんな事例など殆ど存在しない。居たとしても、運を使い果たして初任務で落命するだけである。

 

そして炭治郎の兄姉弟子である錆兎や真菰の様に、何れは柱にも成り得る将来性に満ち溢れた実力の有る強者もまた、運に恵まれず命を落としてしまう悲しい事例も存在する。こればかりは、人為的に変えようが無かった。

 

そんな地獄を見事に潜り抜けたのだから、余程の実力者でも無ければ大抵の合格者は満身創痍で疲労困憊である。中には気持ちが荒ぶって、心身が荒廃している者も当然存在する。

 

今回の"最終選別"においては、該当者が一人出てしまった。実弥の弟である玄弥である。

かなたは数発、玄弥に殴られたのだが炭治郎の咄嗟の働きの御蔭で軽傷だけで済んだ。

 

それから鬼殺隊への入隊に関する説明事項を聞き、日輪刀に使用する玉鋼を選び、更に体格に見合った隊服の為の身体の採寸を終えると、合格者の玄弥、カナヲ、善逸の三人は藤襲山から下山して行った。

 

ただ、炭治郎一人を除いて。

 

『どうかなさいましたか? 既に貴方様が今後鬼殺隊に必要な事項は全てして頂きましたから、皆様と同様、藤襲山を下山して下さって結構ですよ。』

 

かなたは玄弥に殴られて出来た痣など気にも留めない様子で、そのまま炭治郎に下山を勧めた。

 

すると炭治郎は顔を歪めて、両眼を震わせた。

 

『ごめんねっ。助けるのが遅くなって……痛かったよね?』

 

炭治郎は身を屈めてかなたと視線を合わせながら、そう言って謝罪した。

 

『いいえ、私なら大丈夫です。"最終選別"に御参加された皆様が受けた苦労や傷の痛みに比べれば、何という事もございません。』

 

しかし、かなたは玄弥に殴られて赤くなった右頬をそのままに、表情を変える事無くそう言ってのけた。それから、隣にいた輝利哉も続けて開口する。

 

『妹の言う通りです。どうかご心配無く……これから私達に代わって命を懸けて鬼と戦いに身を投じる合格者の皆様にとって、こんなものは瑣末な事でございます。』

 

そう言って、輝利哉とかなたは炭治郎に頭を下げた。

 

輝利哉とかなたは炭治郎を安心させるためだけに、この様な発言をした訳では無い。

 

これは無力な自分達に代わって、命を賭して鬼と戦う鬼狩り達への罪悪感から生まれた紛れも無い本心である。

 

何より"最終選別"と称して七日七晩も鬼が巣食う藤襲山へ放り込んだのだから、生還したばかりに気持ちが昂った玄弥の言動も責める事など出来無いという諦念も有った。

 

『嘘だよ。』

 

『『!?』』

 

炭治郎の一言で一見、人によっては不気味とも気持ち悪いとも言えた、輝利哉とかなたの能面の如く無表情な容貌に初めて感情が浮かび上がった。そして二人の今までの人形の如き立ち振る舞いに、初めて綻びが生まれる。

 

両眼を見開いて驚愕する輝利哉とかなたを余所に、炭治郎は満身創痍なボロボロの身体を引き摺りながら二人の前まで移動し、膝を着いて身を屈めると優しく二人を抱き締めた。

 

『『!!』』

 

これには輝利哉とかなたも驚きを隠せない。両眼を見開いて驚愕する。

 

何故なら自分達とこれまで抱擁を交わした事が有るのは、実の両親と他の三人の姉妹だけ。家族では無い第三者、つまり赤の他人から初めて受けた抱擁であった。

 

そんな驚愕して固まる二人に、炭治郎は肩に手を添えたまま一度抱擁を解いてから話し掛けた。

 

『そんなのは、嘘。全部、嘘。二人から強い嘘と悲しい匂いがしているよ?……当然だ。隠す必要なんて、何処にも無い。大切な家族を目の前で傷付けられて、平然としていられる訳が無いっ! そんなの悲しくて辛いに決まっているじゃないかっ……っっ!』

 

炭治郎は声を震わせながら其処までそう言うと、再び輝利哉とかなたを優しく抱き締めた。

 

『痛かったよね? 辛かったよね?……守ってあげられなくてごめん。辛い思いをさせてごめんっ。ごめんねっ!!……。』

 

『『っ!!』』

 

言葉を詰まらせながら、炭治郎は悔恨の念が詰まった涙を流す。炭治郎の嗚咽を耳にして、輝利哉とかなたは炭治郎の温もりを感じながら思っていた。

 

――どうして?……御自分の事でいっぱいいっぱいの筈なのに、どうしてこの方は初対面の私達のために、此処まで泣いて悲しんでくれるの?

 

――七日七晩もの間、鬼共が巣食う藤襲山に放り込まれて満身創痍の身に陥ったのに、どうして其処まで私達の事を気遣ってくれるのだろう?

 

そう考えている間に、輝利哉とかなたは自分達でも気付かない内に何時の間にか炭治郎の事を強く抱き締めていた。

 

――嗚呼、なんて温かくて優しくて尊い方なのだろう。

 

――辛い目に遭わせてごめんなさい。何も出来ない私達の代わりに戦わせてごめんなさい。

 

『っ……っ……っっ。』

 

『~~~っっ……~~~っっっ。』

 

輝利哉とかなたは炭治郎の胸に顔を埋めながら、声を押し殺して泣いていた。そんな二人を、炭治郎は優しく頭を撫でていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

一頻り泣いた後、炭治郎は近くにある大岩に腰を掛けて、輝利哉とかなたとの談話を楽しんでいた。

 

『竈門様は、妹様の為に鬼狩りになられたのですか?』

 

『うん。禰豆子って言う名前でね。俺に此の世で唯一()()()()、俺の命より大切なたった一人の妹なんだ。』

 

かなたに質問された炭治郎は、隠しておく事でも無いので正直に話した。尤も、禰豆子が鬼である事は、絶対に話す訳には行かなかったのだが。

 

()()()()……と言うと、他の御家族の皆様は……っ。』

 

『…………うん。お母さんも弟達も、もう鬼に…………っっ。』

 

炭治郎は其処まで言うと、気持ちが沈んだ様に顔を俯かせた。

 

『『…………』』

 

そんな炭治郎に、輝利哉もかなたも声を掛ける事は出来ない。自分達が生まれる前から、鬼に大切な家族や友人、恋人を奪われ続けている無辜の民が居る。炭治郎もまた、その中の大勢の一人に過ぎないのだ。しかしだからこそ、輝利哉達は何も声を掛ける事など出来なかった。

 

『……でも大丈夫っ。』

 

『『!!』』

 

顔を上げた炭治郎が、真っ直ぐ輝利哉とかなたを見詰めた。赤みがかっている炭治郎の瞳からは、強い意志が宿っているのが見て取れた。二人は炭治郎の瞳から、視線を外す事が出来ない。

 

『まだ俺には、禰豆子が居る。母さん達はもう此の世には居ないけれど……確実に、俺達の中で生き続けているから。』

 

『『!』』

 

炭治郎はそう言うと、自身の胸元に強く手を置いた。

 

『……あのっ……鬼殺隊に入隊される方は、鬼への憎悪や誰かを守る為とか、様々な理由や事情を持っておられます。竈門様は、どの様な理由で鬼殺隊に入隊されたのでしょうか?……やはり、御家族の復讐ですか?』

 

『!』

 

かなたから再び尋ねられた炭治郎は、質問の内容を聞いて少し思案した後、明確に答え始めた。

 

『そうだね……復讐心が無い訳じゃないよ。だけど……それより俺みたいに、大切な人を奪われる人が、一人でも多く減って欲しいと思っている。』

 

一番の理由が鬼になった禰豆子を人間に戻す方法を探し出す為などとはとても言えず、炭治郎は本心でも思っている事を口にした。決して嘘と言う訳でも無いので、間違ってはいない。

 

先刻(さっき)からずっと気になっていたんだけど……俺は様付けで呼ばれる様な、大層な存在じゃないよ。俺の事は炭治郎で良いから。』

 

『『!!!』』

 

炭治郎は様付けで呼ばれている事実に、背中がむず痒くなるのを感じながら訂正を求める。

 

――こうして話してみれば、なんて事は無い。二人共、普通の子供じゃないか。

 

談話をしている内に、炭治郎は輝利哉とかなたの感情の豊かさが見て取れた。第一印象で人形の様だと思った事を、炭治郎は心底恥ずかしく思った。

 

『『……』』

 

炭治郎から名前で呼んで欲しいと言われた輝利哉とかなたは、少し緊張した面持ちで互いに視線を合わせた。それから輝利哉が、炭治郎に向かって正面から開口する。

 

『じゃあ……炭治郎っ。』

 

『うん。輝利哉……君だよね? 君、男の子でしょう?』

 

『『!』』

 

炭治郎は申し訳無さげに、女性の着物を着用している輝利哉の性別を指摘する。

 

『凄い……初見では今まで誰も輝利哉兄様の性別に気付かなかったのに……。』

 

『うん……いや、気付く人は居るには居たけど……こんなに早く気付いた人は初めてだと思うな。』

 

『いやぁ、俺って鼻が利くからさ。匂いで分かったんだよ。』

 

輝利哉とかなたが感嘆する様に声を上げる中、炭治郎は照れ臭そうに後頭部を掻いた。

 

余談だが、産屋敷家では魔除けの風習として、男児は十三歳まで女性として育てられる。その為、輝利哉は女性の着物を着用しているのだ。

 

当然の話だが、炭治郎はそんな産屋敷家の事情など知っている筈が無い。そもそも二人が産屋敷家の出身である事すら、炭治郎はまだ知らないのだから。

 

『っ……かなた。そろそろ炭治郎を帰らせないと、日が落ちてしまうよ。』

 

『あっ!……っ。』

 

輝利哉は名残惜しそうしながらも、日が落ちる前に帰って貰おうとかなたに注意する。かなたは輝利哉に指摘されて、名残惜しそうに顔を背けた。

 

『炭治郎、この藤の花の御守りをあげるね。もし日が暮れたとしても、この藤の花の香りを沁み込ませた鬼除けの御守りが、炭治郎を必ず守ってくれるよ。』

 

『ありがとう、輝利哉君。』

 

炭治郎は輝利哉に感謝しながら、藤の花の御守りを受け取った。

 

『あのっ……こっ、こちらもどうぞっ!』

 

『『!』』

 

かなたは少し重そうに、杖代わりの大きな木の棒を持って来て炭治郎に渡そうとする。

 

『か、かなたちゃん。ありがとうっ! 無理しなくても良いよっ!!』

 

炭治郎は慌てて、かなたから杖を受け取る。その際に、かなたを支える様に抱き締めた。

 

『っ!……っっ。』

 

かなたは再び炭治郎の温もりに包まれて、嬉しそうに赤面する。しかしそれと同時に、両眼に悲しい色が宿った。これから炭治郎と別れる事になるのだ。正式な鬼殺隊の隊士になるので、これが最初で最後になったらどうしようと言う懸念が、かなたの心中にはあった。

 

『……っ!』

 

するとかなたは、何か強い決意を抱いて炭治郎に話し掛けた。

 

『た、炭治郎様っ! 今後の指令は鎹烏を通して行われます……鎹烏はとても賢いので、そのっ……伝書鳩みたいに、手紙の配達も可能なのですっ! だから……だからお時間があれば、お手紙を下さいませんかっ!?』

 

『!!』

 

捲し立てる様に赤面しながらそう言ったかなたに、炭治郎と輝利哉は驚いて見ていた。特に輝利哉の驚きは、炭治郎の比では無い。かなたが普段は控えめで引っ込み思案な性格をしている事を、普段から知っているからだ。

 

『……うん。分かった。俺が無事に帰ったら、直ぐに手紙を書いて送るね。』

 

『『っ! はいっ!!』』

 

炭治郎が快くかなたとの文通を承諾すると、かなたも輝利哉も嬉しそうに満面の笑みを浮かべて返事をした。

 

そんな二人に気を良くした炭治郎は、徐に小指を突き出した状態で両手を差し出した。

 

『『?』』

 

炭治郎の行動を見て、輝利哉とかなたは首を傾げた。炭治郎が何をしているのか、理解していなかったのだ。二人の様子を察した炭治郎は、苦笑しながら説明を始めた。

 

余談だが、炭治郎はこの時に輝利哉達は裕福な家庭の出なのだろうと、見当を付けていた。庶民の出なら、指切りげんまんを知らないとは思えなかったからである。

 

『指切りをしよう。約束を守る為の御呪いだよ。輝利哉君、かなたちゃん。二人共、手を出して。』

 

『『あっ、はいっ。』』

 

輝利哉とかなたはそれぞれ、小指を突き出した状態で片手を差し出して小指を絡めた。

 

『それじゃ、俺が言う事を一緒に言うんだ。内容はこうだよ……。』

 

炭治郎は指切りげんまんの歌詞を、輝利哉とかなたに教えた。

 

『……良しっ! それじゃあ、行くよ?……せーのっ!』

 

『『『ゆびきりげんまん うそついたら はりせんぼんのーます ゆびきった!』』』

 

炭治郎達は異口同音に、指切りげんまんを行った。因みに炭治郎の音程は、少し外れていた。

 

『……ちょっと怖いですね。針を千本飲ませるとか……。』

 

かなたは歌詞の内容を聞いて、少し怖がっていた。そんなかなたに、炭治郎は優しく頭を撫でて宥める。

 

『怖がらなくても、大丈夫だよ。約束をちゃん守れば良いんだから……だから絶対に手紙を送るね。約束するよ。』

 

『『っ!!……はいっ!!』』

 

炭治郎がそう断言すると、輝利哉もかなたも再び嬉しそうに頬を紅潮させて喜んだ。

 

それから炭治郎達は、藤襲山で別れを告げた。そしてこれが炭治郎と輝利哉とかなたの三人の間で行われる、秘密の文通の始まりでもあった。そして暫く三人で続けて行く内に、ひなきとにちかとくいなの三人も加わって、合計で六人の文通になるのであった。

 

因みに炭治郎はこの時点では輝利哉達は幼いから隊士になれないが故に、この様な雑用紛いの仕事を請け負っているのだとばかり思っていた。

 

その為か竈門兄妹の為に開かれた柱合会議が行われるまで、炭治郎が輝利哉達の正体を知る事は無かったのである。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……炭治郎様。私の琴の音は、如何でございましたでしょうか?……って、ああぁ~~~~っ!!??」

 

演奏を終えて達成感と一種の高揚感を覚えながら、かなたはハッと熱い吐息を吐いてから炭治郎に感想を尋ねた。しかし両眼を開けて視線に移った先の光景を見て、思わず悲鳴を上げた。

 

「えっと……あのっ……ひなき様。」

 

炭治郎は困惑した様子で、俯せの体勢で寝ていた。炭治郎は行冥達と別れて一人になった直後、かなたに引っ張られる形で輝利哉達の自室へ招かれていた。

 

因みに炭治郎は、かなたと二人きりと言う訳では無い。

 

「炭治郎様、遠慮なんて、どうかなさらないで下さいまし。」

 

「御加減は如何ですか? 炭治郎様。」

 

「やはり凝ってますね。もう少し体重を乗せて行いますが、痛かったら言って下さいね?」

 

ひなきは炭治郎の頭部を自身の膝の上に乗せて、炭治郎の髪を優しく撫でていた。

にちかは炭治郎の背中に乗って、全体重を乗せて足で背中を揉んでいる。

くいなもまた、炭治郎の足を両手で揉んでいた。

 

「それと様付けや敬語だなんて、寂しゅうございます。どうか御手紙の様に、ちゃん付けで呼んで下さいませ。」

 

「あっ……うん。分かったよ。」

 

「どうして……えぇっ!?」

 

かなたはそんな炭治郎達の様子を見て、思わず困惑の声を上げる。

 

琴の演奏を始めた当初は、炭治郎達は横一列に並んで居たのだ。

 

しかし演奏を始めて少し時間が経過した頃に、かなたが両眼を閉じて演奏に集中している隙に、ひなき達が動いたのである。炭治郎はかなたの演奏の妨害になるのを嫌って、あれよあれよとひなき達の手で寝かされる事となったのだ。

 

「「「……ふふっ❤」」」

 

ひなき達は三人共、一瞬だけかなたに視線を向けて楽しげに笑うと、再び炭治郎に視線を戻した。ひなき達はとても幸せそうに且つ優越感を漂わせていた。

 

「ううぅっ!……っっ!!」

 

当然だが、かなたは面白くない。この日の為に兄の輝利哉の補佐をする傍ら、空いた僅かな時間をかなたは全て琴の修練に充てていたのだ。

 

それも全て、炭治郎に最高の演奏を聴いて褒めて貰う為である。にも拘らず、その待望の時間を邪魔されて、かなたは怒り心頭であった。

 

「むぅっ!!」

 

かなたが勢い良く立ち上がってひなき達に猛抗議しようとした瞬間、それは起こった。

 

 

 

スパァンッッ!!

 

 

 

「「「「!!」」」」

 

「姉上っ!! くいなっ!! かなたっ!!」

 

其処へ勢い良く襖を開けて入って来たのは、耀哉の実子の黒一点である嫡男の輝利哉であった。左側頭部には、炭治郎から贈呈された太陽の髪飾りが付けられていた。

 

輝利哉の声色からは、炭治郎が匂いを嗅がずともはっきりと怒気が含まれている事が分かる。

 

「私が居ない間に、炭治郎を独占(ひとりじめ)して……っっ!!」

 

嫉妬心を隠す事無く、輝利哉はひなき達を睨み付けた。母のあまねの手伝いをしていたので、一人だけ室内には居なかったのだ。

 

自分が居ない所で炭治郎を独占するひなき達に、憤る輝利哉。しかし、ひなき達は輝利哉に怯まない。

 

「輝利哉は何を言ってるの? 炭治郎様が来れられたんだから、おもてなしをするのは当然でしょう。」

 

「それとも貴方は、炭治郎様におもてなしをするなとでも言うの?」

 

「輝利哉兄様が私達の立場なら、同じ事をなさっていたでしょう? 居なかった兄様が悪いのです。そんな事を言われる筋合いなど、全くありません。」

 

「っ!……うぅっ……っっ。」

 

ひなき達からあっさりと反論されて、輝利哉は論破出来ずに沈黙してしまう。

 

「えっと……あっ! そうだっ! 皆、温泉に入って来たらどうだろう? もう俺は行冥さん達と上がったばかりだから、今なら誰も居ないしゆっくり出来ると思うよ?」

 

「「「「!」」」」

 

「!……っ。」

 

炭治郎は何とか話題を逸らそうと、輝利哉達に温泉へ入る事を提案した。尤も、ひなきに頭を預けながら提案する炭治郎の姿は、些か間抜けて見えたが。

 

すると何故か、輝利哉は残念そうな表情を浮かべた。

 

「輝利哉……君っ?」

 

「炭治郎は、もうお風呂を済ませてしまったんだよね?……行冥達が羨ましいなぁ。私も、炭治郎と一緒に温泉に入りたかったよ。」

 

「っ!」

 

輝利哉は心底残念そうな表情を浮かべて、寂しそうにそう言った。

 

「……」

 

輝利哉が口にした内容を聞いて、炭治郎は咄嗟に思案を行った。

 

「……よしっ!……にちかちゃん。ちょっと降りて貰えるかな?」

 

「炭治郎様?……はい、分かりました。」

 

炭治郎は何かを固く決心した様子を見せた。それからにちかに背中から降りて貰うと、徐に身体を起こした。

 

「輝利哉君。良かったら俺と一緒に、温泉に入ろうか?」

 

『!』

 

炭治郎は輝利哉と視線を合わせると、一緒に温泉に入らないか提案した。

 

炭治郎の提案を聞いて、ひなき達は驚いていた。特に輝利哉は、一際驚いていた。

 

「でも、炭治郎……君はもう、温泉に入っただろうに。」

 

「温泉は何回入っても、気持ち良いものだし……それに一緒に入れる機会なんて、早々無いじゃないか。だから俺に遠慮なんて、しなくても大丈夫だよ。」

 

「!」

 

炭治郎が微笑みながら、輝利哉に面と向かってそう言った。すると気落ちしていた輝利哉の表情に、自然と笑顔が生まれる。

 

「ありがとう、炭治郎っ。」

 

輝利哉は歓喜から両頬を紅潮させると、炭治郎の左手を掴んで手を握った。

 

「良し、それじゃあ……っと、その前に……かなたちゃん。」

 

「っ! は、はいっ!」

 

炭治郎は輝利哉と手を繋いだまま、かなたの方へと視線を顔ごと向けた。突然炭治郎から名前を呼ばれたかなたは、驚きながらも返答をする。

 

すると炭治郎の一拍子間を置いてから、ゆっくりと話し始めた。

 

先刻(さっき)の琴の演奏は、とても素晴らしかったよ。琴の音色も素敵だったけど、それ以上に演奏するかなたちゃんが凄く素敵で、大人びてて、眩しい位にキラキラしていたんだ。そうなれるまで、かなたちゃんは沢山努力を重ねて来たんだと思う。」

 

炭治郎が笑顔でそう言うと、空いている右手をポンとかなたの頭に乗せた。

 

「頑張ったんだね、かなたちゃん。俺の為に此処までしてくれて、本当にありがとう。」

 

「!!!」

 

炭治郎は深く感謝をした後、優しくかなたの頭を撫で始めた。

 

「~~っっ……っっ……ふぇっ。」

 

「え?」

 

炭治郎に頭を撫でられたかなたは、炭治郎に褒めて貰った嬉しさのあまり、涙腺が緩んでしまう。炭治郎が戸惑う様に困惑の声を漏らした瞬間、かなたは既に動いていた。

 

「ふえぇぇんっ! たんじろうさまぁ!!……あうぅっ、ひっくっ……だ、だいすき、ですぅっ……っっ。」

 

『!』

 

かなたは炭治郎に褒めて貰えた事実が嬉し過ぎて、号泣しながら炭治郎に強く抱き着いていた。そんなかなたを見て、炭治郎はかなたが落ち着くまで頭を優しく撫で続ける事にした。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「あの……先程は取り乱してしまって、申し訳御座いませんでした。炭治郎様っ。」

 

かなたは泣いて目を赤くしたまま、恥ずかしそうに炭治郎に謝罪した。かなたは炭治郎の右手を握って抱き着いている様に手を繋いで居た。

 

「ううん。とっても嬉しかったよ。ありがとうね。かなたちゃん。」

 

気恥ずかしそうに若干を顔を俯かせるかなたに、炭治郎は気にしない様にと慰めていた。それを証明する様に、炭治郎はかなたの左手に少しだけ力を込めて強く握った。

 

「っ!……っっ❤」

 

自身の左手に感じていた炭治郎の熱が強くなったのを感じたかなたは、うっとりとしながら炭治郎に凭れ掛かった。

 

現在、炭治郎達は温泉に向かって、仲良く一緒に廊下を進んでいる。炭治郎が先頭に立ち、輝利哉とかなたの二人と手を繋いで仲良く歩いていた。

 

炭治郎達の背後には、控える様にひなきとにちか、くいなの三人が続けて歩いて来ている。

 

ひなき達は輝利哉とかなたの行動に、羨望の念はあれど抗議や文句を言う様な真似はしない。

 

何故なら先刻までは、自分達が良い思いをしていると正直に思っているからだ。此処は輝利哉とかなたに譲らないと不公平だろうと言う、思い遣りの念も其処にはあった。

 

「……っ!」

 

すると炭治郎がいきなり、両眼を見開いて足を止めてしまう。

 

「「「「?」」」」

 

「きゃっ……っ?」

 

炭治郎が足を止めた事で、輝利哉も必然的に足を止めてその場に立ち止まった。炭治郎の真後ろを歩いていたにちかは、炭治郎の背中にぶつかる形で足が止まって静止した。

 

「炭治郎様……?」

 

「どうかしたのかい、炭治郎?」

 

かなたと輝利哉は炭治郎が急に立ち止まった事が気になって、静止したまま動かない炭治郎に声を掛けた。

 

「……っ❤」

 

「にちか……ちゃっかりしちゃって。」

 

「狡いですっ。にちか姉さん。」

 

炭治郎の背中にぶつかったにちかは、炭治郎から離れなかった。寧ろ炭治郎から離れる所か、ぶつかった炭治郎の背中に思い切り抱き着いていた。

 

そんなにちかの大胆な行動力を見て、ひなきは感心した様子で感嘆の声を上げくいなは妬まし気に抗議の声を上げていた。

 

そんな背後から聞こえて来るにちか達の戯れも、両脇に居る輝利哉とかなたの呼び掛ける声も他所に、炭治郎はクンクンと匂いを嗅いでいた。

 

――この匂い……伊黒さんと鏑丸の匂いだっ。……匂いの先を辿ると……男湯? 温泉に入っているのかな?

 

炭治郎はその超人的な嗅覚で、小芭内と鏑丸が温泉に居る事に気が付いた。

 

「……炭治郎っ!」

 

「っ!!……嗚呼、ごめんごめん。早く行こうか?」

 

輝利哉から比較的強めに呼び掛けられた炭治郎は、我に返って輝利哉達に謝罪した。

 

それから炭治郎達は再び、温泉に向かって再度歩き始めた。

 

「邪魔をしてはいけないわ、にちか。」

 

「にちか姉さん、炭治郎様に迷惑を掛けないで下さい。」

 

「残念です。」

 

炭治郎が再び歩き始めた事で、炭治郎の背中に抱き着いていたにちかは、炭治郎から離れて距離を取った。

 

――伊黒さん、か……。

 

炭治郎は歩きながら、再び思案を再開させていた。考えていた事は勿論、小芭内の事であった。

 

――会議が終了した後から、何かギクシャクしているんだよなぁ……。

 

気難しい小芭内と一緒に温泉に入るとなったら、常人ならば敬遠するだろう。しかし、炭治郎は違った。

 

――良い機会だっ。これを切っ掛けにして、伊黒さんと仲良く出来たら良いなっ。輝利哉君達と一緒に、温泉に入りに来て良かった。

 

炭治郎は小芭内と温泉に入れる機会を、好機と捉えていた。炭治郎としては、小芭内であっても仲良くしたいと言う思いがあった。小芭内が炭治郎自身をどう思っているのかも知らない事実が、炭治郎にとっては幸なのか不幸なのかは分からかった。

 

脳裏の中で結論付けた炭治郎は、晴れ晴れとした表情を浮かべながら自然と進む足を速くして温泉へと向かった。そうしている内に、炭治郎達は温泉の出入口である(ドア)の前まで到着したのであった。

 

「それじゃ、行こうか?」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

「はいっ!……んっ? ちょっと待ってっ!?」

 

『?』

 

輝利哉が制止したので、炭治郎達も必然的に静止せざるを得ない。何故輝利哉が制止したのか分からなかったので、ひなきは輝利哉に尋ねた。

 

「輝利哉、どうして止めるの?」

 

ひなきは僅かに不機嫌な様子で、輝利哉の答えを待つ。それはにちか達も同様の様子を見せており、輝利哉にジト目で睨み付けていた。

 

しかし輝利哉の方も負けじと、ひなき達をジト目で睨み付けてから開口する。

 

「何故、姉上達は普通に私達と男湯に入ろうとするんです?」

 

「……あぁっ、そう言う事か。」

 

状況を静かに見守っていた炭治郎が、輝利哉の指摘を聞いて漸く輝利哉が制止した理由を理解した。

 

輝利哉に尋ねられたひなき達は、各々で質問に答え始めた。

 

「おもてなしの続きをしようと思って……。」

 

「炭治郎様のお世話をしなくては行けないから……。」

 

「私は炭治郎様の御背中を、流したいだけでです。」

 

「……炭治郎様と一緒にお風呂に入りたいなぁって思いました。」

 

ひなき達は順番に男湯に入ろうとする理由を、眼を泳がせながら答えていた。ひなきとにちかは取り繕う様に尤もらしい建前を口にしていたが、くいなとかなたは自身の欲望が露骨なまでに丸出しである。

 

「……っ。」

 

当然の話だが、ひなき達の返答を聞いて輝利哉は納得する訳が無い。輝利哉が怒って開口しようとした瞬間、先手を打ったのはかなただった。

 

「あのっ……炭治郎様は、お嫌でしょうかっ?」

 

「えっ? 俺っ?」

 

『!』

 

かなたは炭治郎に、混浴する事に異議は無いか炭治郎に尋ねた。炭治郎が許可してくれるなら、如何にかなると言う考えなのだろう。輝利哉達も炭治郎が何を言うのか気になって、自然と炭治郎に視線が集中した。

 

「う――ん……俺は……別に気にしないかなぁ。」

 

炭治郎は思案している様子を見せながら、許容する発言を行った。炭治郎は禰豆子や今は亡きもう一人の妹である花子と一緒に入浴した経験もあってか、幼いひなき達と混浴する事に其処まで大きく考えていなかった。

 

尤も、これがしのぶ達の前で同様の発言を出来たかと言われたら、恐らく不可能だったと思われるが。

 

「「「「!」」」」

 

「!?」

 

炭治郎が混浴を許容する様な発言を聞いて、ひなき達は驚きつつも思わず口元に笑みが浮かんだ。一方の輝利哉は想定外と言わんばかりの様子で、両眼を見開いて炭治郎を見詰めていた。

 

「駄目だっ! 絶対に駄目っ!! "男女七歳にして席を同じうせず"と言うでしょうっ!? 姉上達は大人しく女湯に入って下さいっ!」

 

「「「「えぇっ――。」」」」

 

「えぇっ――、じゃないっ!!」

 

ひなき達の非難の声(ブーイング)を聞いても、輝利哉は異論は認めずにひなき達をそのまま女湯の方へ押し込んで行った。炭治郎はそんな輝利哉達のやり取りを、ただ眺める事しか出来なかった。

 

「ふぅ……っっ。」

 

輝利哉はひなき達を漸く女湯の方へ押し込めると、疲れた様子で溜息を吐いた。それから直ぐに炭治郎に視線を向けた。その眼光は普段より鋭く、炭治郎を責めている様であった。

 

そんな輝利哉の視線を一身に浴びている炭治郎は、苦笑しながら頬を掻く事しか出来ない。

 

「其処まで、目鯨を立てなくても良いと俺は思うんだけどなぁ。皆で温泉に入った方が、一番賑やかで楽しく過ごせるだろうし。」

 

「…………炭治郎。此処で起こった事の一部始終を、父上と母上に……それとしのぶ達にも後で全部話して来ようか?」

 

「すみませんでしたっ!」

 

輝利哉が脅迫する様に口にした内容を聞いた炭治郎は、その石頭を額から床に叩き付ける勢いでその場で土下座をして、輝利哉に許しを請う事しか出来なかった。

 

炭治郎はしのぶ達がもし此処で起こった一部始終を聞けば、間違いなく説教の嵐が吹き荒れる事は想像するのに難しくなかったからだ。

 

耀哉とあまねであれば怒りこそしないだろうが、災いではなくても何が自分に降り掛かって来るのか想像も付かず、その事実が炭治郎には心底恐ろしかった。

 

「フンダッ……早く温泉に入りに行くよ、炭治郎。」

 

「…………はい。」

 

輝利哉はそんな炭治郎の様子を見て一回だけ鼻を鳴らすと、炭治郎の手を引っ張って共に男湯の方へと入って行った。

 

炭治郎も輝利哉達も、此処からゆっくり温泉に浸かってゆっくり出来ると考えていた。

 

しかしそれは非常に甘い考えであったと後に思う程の、想像を超える事態が発生する事になるとは、この時点では考えもしなかった。




お待たせ致しました。

炭治郎と産屋敷姉妹との関係が気になっていた方々、長らくお待たせして申し訳ございませんでした。

こんな感じで、炭治郎と輝利哉達との交流が本格的に始まって行きます。炭治郎と産屋敷家が深く交流しているのは、拙作位ではないでしょうか?w まぁ探せばあるかもしれないですけど、私は読んだ事がありません。

産屋敷家は資料も登場回数も少ないから、キャラが崩壊し過ぎない程度に自由に設定出来るのがありがたいですね。

最後に、また温泉回に逆戻りになってしまってすみません<(_ _)>
今後にとっても必要な展開になって来るので、どうかお付き合い下さいませ。

次回の予告ですが、まだ最終調整などが終わっていない始末ではっきり申し上げられません。更新準備が整い次第、前日に更新予告を出させて頂きます。どうかよろしくお願い致します。


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第伍拾壱話 日輪は白き禁忌を目撃する

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


炭治郎と輝利哉は、男湯の中にある脱衣所へと入って行く。

 

――あっ……伊黒さん、本当に温泉に来てるんだ。

 

炭治郎は脱衣所に残る小芭内の匂いに気付いて、心中でそう呟いていた。

 

因みに、匂いだけが確信を持てた要因では無い。小芭内の着衣が、脱衣所にある竹製の籠の中に残っていたからだ。高低差の関係からか、輝利哉の身長では見れなかったが。

 

「炭治郎。」

 

「!」

 

輝利哉に声を掛けられた炭治郎は、小芭内への関心を隅に置いて輝利哉の方へ視線を向けた。

 

「言うのが遅れたけど……この太陽の髪飾り、贈ってくれてありがとう。」

 

「!」

 

炭治郎の視線の先には、自身が贈呈した太陽の髪飾りを嬉しそうに手に持っている輝利哉の姿があった。

 

「女の子用の髪飾りだから、最初はどうかと思ったんだけど……十三歳まで女の子として過ごすって言うから贈る事にしたんだ。輝利哉君が気に入ってくれたなら、俺も嬉しいよ。」

 

輝利哉から礼を述べられた炭治郎は、照れ臭そうに笑いながらその感謝に応えた。

 

「うん……一つだけ、聞いて良いかな?」

 

「ん?、何だい?」

 

輝利哉が何か炭治郎に対して尋ねたい疑問があるみたいで、その疑問について輝利哉は炭治郎に尋ねた。

 

「姉上達は皆、花を象った髪飾りだけど……私だけ太陽なのは、何か理由が有ったりするのかな?」

 

「!」

 

輝利哉から尋ねられた質問の内容を聞いて、炭治郎は一瞬驚きから両眼を見開くも、直ぐに微笑みながらその質問への回答を始めた。

 

「そうだなぁ……御館様は鬼殺隊(俺達)にとって太陽みたいな存在だから、輝利哉君もそうなれます様に……って思いながら買ったと思う。」

 

「!!」

 

炭治郎が浅草に立ち寄った高級店でカナヲと買い物をした様子を、懐かしそうに思い出しながら語った。

 

「……そうだね。私も、父上と同じ位……は言い過ぎだとしても、その次くらいに立派な当主になれる様に頑張るよ。」

 

輝利哉が少しばかり遠くを見る様な眼をしながら、炭治郎にそう言って応えた。すると炭治郎から、思わぬ発言を輝利哉は耳にする。

 

「でも髪飾りを買って直ぐに、その考え方は間違っていると思い直したよ。……だからって返品するのも悪いから、結局そのまま買って帰っちゃったんだけどさ。」

 

「?」

 

炭治郎から自己否定する発言の内容を聞いて、輝利哉は言っている内容の意図が分からず頸を傾げながら炭治郎の顔を見上げた。そんな輝利哉の反応を見て、炭治郎は苦笑しながら膝を曲げて視線を合わせた。

 

「俺はね、こう思い直したんだ。そして決意もしたよ。……絶対に輝利哉君が産屋敷家の御当主様になる前に、無惨を倒そう。ってね。」

 

「!!!」

 

炭治郎の決意を聞いて、輝利哉は驚いた様子を見せた。

 

「輝利哉君……いえ、輝利哉()。」

 

「!!!」

 

炭治郎は引き続き、話を続ける。しかしその前に主君に忠誠を誓う武士の如く、炭治郎は輝利哉に跪いて頭を垂れた。

 

そして頭を上げて、輝利哉を真っ直ぐ見詰めた。その真剣な表情と眼差しは、輝利哉が思わず見惚れる程であった。

 

「輝利哉様が余計な重圧なんて背負わなくても良い様に、年相応に子供らしく過ごせる様に……そして御家族と一緒にお爺ちゃんやお婆ちゃんになれる位、幸せになりながら長生き出来る様に、鬼殺隊隊士・竈門炭治郎は自分が持てる全てを懸けて戦う事を、輝利哉様に御約束致します。」

 

炭治郎が誠心誠意を込めて、輝利哉に誓約の言葉を口にした。

 

「……って、まだ柱にもなっていない俺が、こんな事を言うのも烏滸がましいんだけどね。あはははっ。」

 

自身が口にした誓約の内容を心中で反芻して、少しばかり照れ臭そうに炭治郎は苦笑した。

 

「…………」

 

しかし、炭治郎の笑声に輝利哉は反応しなかった。輝利哉は炭治郎が口にした誓約の言葉を聞いて、今にも涙腺から涙が溢れ出そうな位に両眼を潤ませていた。

 

「輝利哉く、んっっ!」

 

炭治郎は輝利哉の名前を呼ぶ途中で、遮られる様に閉口した。輝利哉が勢い良く炭治郎に抱き着いたからだ。

 

「たんっ……じろうっ……っっ…あ、りが……とう……っっ。」

 

「!……っ。」

 

炭治郎は輝利哉の唐突な行動と口から漏れる感謝の言葉を聞いて驚きながらも、何も言わずに優しく輝利哉を抱き締め返して受け止めた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ごめん。みっともないところを見せたね、炭治郎。」

 

一通り泣いた輝利哉は、両眼を赤くしながら炭治郎に謝罪した。炭治郎は何も言わずに、微笑む事でその謝罪を受け取る。

 

「……今の言葉を姉上達が聞いていたら、きっと炭治郎に惚れ直していたと思うよ。」

 

「そう? でも格好付ける為に、俺は言った訳じゃないから。」

 

「それが格好良いんだと思うよ……なら、この話は私と炭治郎だけの秘密になる訳だ。」

 

輝利哉は自分と炭治郎だけが持つ共有の秘密を得られた事実が、心底嬉しそうだった。

 

輝利哉は太陽の髪飾りを丁寧に竹製の籠の中に入れると、着用している着物に手を付け始めた。

 

「炭治郎、先に入ってて良いよ。私は少ししてから、温泉に入るから。」

 

「?」

 

輝利哉はそう言って、炭治郎に先に行って温泉に入る事を促した。

 

「何かあった? 輝利哉君。」

 

炭治郎は輝利哉の言葉に疑問を抱いて尋ねた。すると炭治郎の視線に入ったのは、羞恥心で頬を赤く紅潮させる輝利哉であった。

 

「…………改めて思ったんだけど、家族以外の人と温泉に入るのは、今回が初めてなんだ。だからちょっと、緊張している……少しの間だけ、一人にしてくれると嬉しいな。」

 

輝利哉にとって、他人と温泉に入るのは今回が初めての体験である。数える程しか無いが、父の耀哉と一緒に温泉に入って以来だと輝利哉は記憶していた。

 

「っ!!……そ、そう言う事なら……。」

 

炭治郎は輝利哉の言い分を聞いた後、そそくさと脱衣してから温泉へと一足先に向かって行った。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「鏑丸、もう少しだけ待っててくれっ。」

 

「シュルルルルルゥ。」

 

炭治郎達が温泉に向かっている事など知る由も無い小芭内は、微温湯を入れた湯桶に鏑丸を入浴させてから身体を洗い始めていた。

 

常に顔の下半分を覆っている素顔が、この時ばかりは晒されていた。

 

小芭内の素顔は、両頬が耳まで大きく人為的に裂けていた。その表情は、まさに蛇を連想させるものであった。

 

「…………」

 

水が跳ねる音だけが、一滴の水が垂れて水面に波打つが如く男湯で響き渡った。小芭内の脳裏には、愈史郎に吐き捨てる様に言われた罵詈雑言が響き渡っていた。

 

『想いを告げる勇気も無い意気地無しの(カス)如きに、嫉妬心も独占欲も抱く資格は無いっ! この腰抜けの臆病者がっ!! 身の程を弁えろっ!!』

 

『想いを告げる勇気も無い癖に、叶いもしない身の程知らずな欲望を抱いているお前とは、根本的に違うんだよ。』

 

『俺をお前如きと一緒にするな。このどっち付かずの、見るに堪えない見苦しい(カス)め。』

 

「…………っっ!!」

 

小芭内は歯が砕けんばかりに歯軋りし、両手も皮膚を破って血を流さんばかりに握り締めていた。

 

「シャ――っ! シャ――っ!!」

 

「……心配するな。大丈夫だ。」

 

すると鏑丸が何かを知らせる様に鳴いていたのだが、頭を洗っていた小芭内は自身を心配していると勘違いして宥めていた。この時の小芭内は頭を洗っており、両眼も閉じていた。

 

これだけが要因と言う訳では無いが、これも含んだ幾つもの要因が重なったが為に小芭内は炭治郎が接近して来ている事に気付かなかった。

 

「伊黒さんっ! お疲れ様ですっ!」

 

「っ!」

 

「っ!?」

 

小芭内は聞こえて来る筈が無い炭治郎の声を聞いて、思わず硬直してしまう。両手に持って居たお湯が入った湯桶も咄嗟に落としてしまい、小芭内の両手から離れた湯桶はそのまま重力に従って床に落下した。

 

音を鳴らして、湯桶は床に落下する。小芭内は急いで両眼を拭いてから、炭治郎の声がした方に顔を向けた。

 

「なっ!?……竈門……炭治郎っ!!?」

――何故こいつが男湯(此処)に居るっ!? 既に悲鳴嶼さん達と入ったばかりじゃなかったのかっ!!?

 

「はいっ! ちょっと理由(わけ)有りで俺は今、男湯(此処)に居まして……っ!」

 

炭治郎が当惑する小芭内に自身が男湯に居る理由を話すと、唐突に息を呑んで両眼を見開いた。

 

「伊黒さん、そのお口は……っ?」

 

炭治郎は小芭内の斬り裂かれた口元を見て、心配する様な声色で小芭内に尋ねた。

 

「「っ!」」

 

炭治郎の指摘を聞いて、小芭内は即座に口元を隠した。蕪丸も微温湯が入った湯桶から脱出して、定位置である小芭内の頸回りに巻き付いた。

 

「っっ!!……っっっ!!!」

 

小芭内は其処で漸く、想い人である蜜璃にすらひた隠しにしていた素顔を、よりにもよって大嫌いな炭治郎に見られてしまった事に気付いた。

 

 

 

ブチッ!!!

 

 

 

小芭内は愈史郎の時を凌駕する、それこそ岩すら溶かす程の怒りが心の奥底から湧き出るのを感じ取った。そして小芭内の脳裏では、何かが千切れた様な恐ろしい幻聴を耳が聞こえていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「がっ!!!?」

 

炭治郎はいきなり左頬に強い熱を感じると、そのまま床に叩き付けられていた。

 

床に叩き付けられた勢いで、背中に強い衝撃と苦痛が襲って来た。更に肺に溜まっていた空気が、一度に排出された。

 

「グァッ!……ぁあっ!!?」

 

炭治郎は背中の次に、今度は頸から強い圧迫感を感じていた。

 

何故炭治郎がその様な強い圧迫感を頸から感じているのかと言うと、それは小芭内が両手で炭治郎の頸を絞めていたからだ。

 

炭治郎が左頬に強い熱と背中から強い衝撃と苦痛を感じたのも、小芭内に殴り飛ばされて床に押し倒されたからであった。

 

「きっ、さまっ!?……貴様っ!! よくもっ、見たなっ! 俺のこのっ……醜い素顔をっ……っ!!」

 

「っ!?」

 

呼吸もままならない息苦しい状況に耐え、小芭内の表情を見てみると両眼は血走っていた。更には炭治郎の鼻腔が火傷しかねない程に、憤怒していたのである。

 

「いっ!?……いぐろ、さ……っっ!」

 

そんな激昂状態の小芭内を、炭治郎は必死で制止させようとした。

 

しかし炭治郎は口で止める様に言いたくても、小芭内に頸を絞められているのでそれは不可能だった。

 

其処で炭治郎は生存本能に従って、小芭内の両手を頸から遠避けるべく両腕を掴んで引き剥がそうとしていた。

 

互いに持っている膂力を比較すれば、本来なら炭治郎の方が単純な力では上である。

 

その事実があるにも関わらず、炭治郎は小芭内を引き剥がす事が出来なかった。炭治郎が小芭内に力負けした要因は二つある。

 

一つ目の要因は小芭内が怒り狂っていた事で、火事場の馬鹿力に等しいものが働いて本来より力が出ていた事だ。

 

そして二つ目の要因は、炭治郎が単純に力を発揮出来ていなかった事であった。

 

理由としては飲酒をした事で、出せる力が本来より弱くなっていたのである。

決して飲酒量は多かった訳では無く、酔っていた訳でも無かったのだが、その僅かな要因が大きな結果に繋がっていた。

 

その為に炭治郎は小芭内を引き剥がせず手首辺りを掴む事しか出来なかったので、意識が少しずつ薄れて行った。

 

――拙いっ……このままだと意識が……っっ。

 

炭治郎は自身の意識が薄れて行くのを感じて、焦燥感に駆られる。そんな危機的状況をある意味、実に意外な存在に救われる事になる。

 

「シャ――っ!……シャ――っっ!!」

 

「「!!」」

 

小芭内の頸元に巻き付いていた鏑丸が、炭治郎の頸を絞めている右手首にパクっと噛み付いたのだ。

 

「なぁっ!?……鏑丸っ!?」

 

痛みを感じた小芭内は鏑丸の行動に驚くと同時に、両手から力が緩んで行った。

 

「っ!……はぁっ!……はぁっ!!」

 

炭治郎は小芭内の力が緩んだ隙に、急いで呼吸を整える。

 

「……っっ!」

 

呼吸を整えた炭治郎は、再び小芭内を引き剥がすべく力を込める。

 

其処へ炭治郎にとっても小芭内にとっても、そして鏑丸にとっても想定外の事態が発生する。

 

「炭治郎?……っ?」

 

炭治郎達の下へやって来たのは、白い湯浴みを腰に巻いている輝利哉であった。炭治郎達の状況を見て、輝利哉は呆然としていた。輝利哉は現況を即座には把握出来ていなかったのだ。

 

「「っ!?」」

 

「きっ……輝利哉様っ!?」

 

一方で、炭治郎と小芭内も驚いていた。特に小芭内の驚き様は、一際大きいものであった。

 

「?……っ!!?」

 

其処で漸く現況を把握した輝利哉の日本人形の如き美しい容貌に、青筋と共に憤怒の色が宿った。

 

「っっ!!」

 

輝利哉は小芭内を睨み付けると、歯を食いしばって右腕を思い切り振り上げた。

 

 

 

ドコッ!

 

 

 

「っっ!!?」

 

肉を叩く音と同時に、小芭内が身体を大きく反らした。輝利哉が振り上げた右手を振り下ろして、小芭内を殴り付けたからだ。とは言え八歳の子供の力では、身体を飛ばす程の力は無かった。

 

「炭治郎に何て事をするんだっ!? 今直ぐ離れろっ!!」

 

「なっ!?……ぁっ?!…………っっ。」

 

小芭内は輝利哉に殴られた事実を把握するのに、刹那とは言え時間の猶予が必要であった。そして現況を漸く理解すると、直ぐに馬乗り状態を解除して炭治郎の隣に移る。それから輝利哉に向かって両膝を床に付けてから、深々と頭を下げて土下座をした。

 

「どうしてっ、こんな酷い真似を……っっ!!」

 

小芭内を問い詰めようとした輝利哉だったが、此処で初めて目にした小芭内の素顔を思い出した。すると輝利哉の脳裏で浮かんでいた叱咤の言葉が全て、一瞬にして消滅した。

 

年齢不相応に聡明な輝利哉は、素顔を見られた小芭内が何故炭治郎に対してあの様な行動に出たのかを直ぐに察したからだ。

 

輝利哉からすれば小芭内が犯した、炭治郎を傷付けたという事そのものは許せない愚行だ。

 

非は明らかに小芭内にあり炭治郎には一切無いのだが、輝利哉は小芭内が炭治郎に激昂した理由を察して、一方的にその非を責める事は出来なかった。

 

「っ……輝利哉様っ、お見苦しい所をお見せしてしまいっ……誠に申し訳ございません……この罪の償いは、何れ必ず……っっ!」

 

「!」

 

「あっ!? 伊黒さんっ!!」

 

小芭内はその痩躯な身体を震わせながら其処まで言うと、急いで男湯から足早に立ち去ろうとした。

足早に立ち去る小芭内に慌てて声を掛けた炭治郎だったが、小芭内が足を止める事は無い。

 

しかし炭治郎の呼び掛けを受けても止まらなかった小芭内は、炭治郎達の想像さえも超える事態によって足止めを喰らう羽目になる。

 

「炭治郎様っ!?」

 

「何かございましたかっ!?」

 

「「「「っ!!??」」」」

 

脱衣所から、鈴が鳴る様な可憐な声が複数聞こえて来た。その声の持ち主は、何と女湯に居た筈のひなき達であった。

 

「な、何故……皆様方が男湯(こんな所)に……」

 

「シャッ!?」

 

「姉上達、どうして……?」

 

男湯に居る筈の無い、寧ろ居てはならない美少女達の登場で、小芭内は元より輝利哉ばかりか鏑丸すら固まっていた。ひなき達は身体も髪も洗い終えていたのか、全身を余す事無く湯で濡らしていた。

 

因みにひなき達を認識した時点で輝利哉と小芭内は視線を頭ごと反らしていたので、二人()ひなき達を直視していない。

 

「どうしたんだい? そんなに慌てて……と言うか、皆して何で男湯に?」

 

唯一、炭治郎一人を除いて。

 

「間仕切り越しから炭治郎様が苦しんでいる声と、伊黒様と……輝利哉兄様が珍しく怒る声を聞いたから思わず……。」

 

「これは只事では無いと判断して、心配して来てしまいました。」

 

炭治郎達の疑問に、くいなとかなたが答えた。

 

「そうなんだ……。皆、心配を掛けてごめんね?……その、さ……折角来てくれた所を悪いんだけど……早く湯浴みだけでも着てくれると助かるかな?」

 

「「「!!」」」

 

炭治郎が困った様子で、ひなき達にそう頼み込んだ。輝利哉達は顔を逸らしたまま、その言葉に反応する。

 

「「「「?」」」」

 

炭治郎が言った頼み事の内容を理解出来なかったひなき達であったが、肌寒さを感じて頭を下げた視線の先には、全裸状態の自分達の姿があった。

 

因みに湯浴みはひなき達が各々で、片手に持って居る状態で床に湯浴みを引き摺っていた。

 

「「「「…………」」」」

 

自分達の状態を知ってひなき達は、思わず固まってしまった。

 

男湯から聞こえて来る騒動を耳にして、炭治郎を心配するあまり湯浴みを着用する暇も無いまま全裸で男湯に突撃して来たのだ。

 

今となっては、来る道中の廊下で誰かに見られていないかすら、最早定かでは無かった。

 

ひなき達の新雪を連想させる白き肌が、赤茄子(トマト)の如く赤くなって行くのがはっきりと目に見えた。

 

「「「「%$@¥&❤♪#〆*☆!?!」」」」

 

次の瞬間、男湯にひなき達の声にならない悲鳴が響き渡ったのだった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「えっと……大丈夫?」

 

「……まだ大丈夫ではありません。」

 

炭治郎が心配そうに声を掛けると、くいなが絞り出す様に炭治郎の質問を否定した。

 

「あぅっ……。」

 

「恥ずかしい……ですっ。」

 

「~~~っっ。」

 

炭治郎の視線の先には、声にすらならない悲鳴を上げていたひなき達が居た。既に湯浴みをきちんと着用している。

 

あの後、冷静さを取り戻したひなき達は女湯に戻ろうとしたが、湯浴みがあるとは言え実質半裸状態で女湯に戻るのは些か億劫であった。

 

男湯に来れたのも炭治郎の為であったから出来た事で、いざ自分達の為となると足が竦んだ。

 

するとくいなが赤面したまま、恥ずかしそうにしながらも炭治郎にある事を望んで提案した。

 

「あの、折角ですから……もうこのまま炭治郎様と、御一緒してもよろしいでしょうか?」

 

「!!?」

 

くいなのお願いを聞いて、輝利哉達は両眼を見開いて驚愕した。其処へ炭治郎が自身の意見を述べた。

 

「……このまま帰らせるのも可哀そうだし、一緒に過ごそうか。」

 

炭治郎の鶴の一声で、ひなき達は炭治郎と混浴する事となった。この瞬間、ひなき達が歓喜したと言うのは、最早言うまでも無かった。

 

――しのぶ達が知ったら、どう思うだろうね?……考えない方が良さそうだ。

 

輝利哉は炭治郎の意見に押される形でなし崩し的に賛成したが、炭治郎を愛するしのぶ達の反応を想像して一瞬全身を震わせた。

 

「……」

 

因みに男湯から離脱しようとした小芭内だったが、輝利哉に制止された。

 

「小芭内。まだ温泉に入っていないよね?」

 

「……はっ。しかし、俺が居るのも無粋ですから……。」

 

小芭内はそう言って足早に去ろうとするが、輝利哉は聞く耳を持たない。

 

「私達に気を遣わないで、一緒に入って行きなよ……嫌なら、其処まで強制はしないけど。」

 

「……御意っ。輝利哉様の御言葉に甘えて、残らせて頂きます。」

 

輝利哉の誘いを無碍に断る事など出来ず、小芭内は不承不承ながらも男湯に残留する事を選んだ。

 

「「「「…………」」」」

 

炭治郎と図らずとも混浴する事が出来たひなき達。

 

入浴前は余裕すら感じる事が出来ていたのだが、いざ実行出来たら心臓が破裂するのではと思う程に高鳴って緊張感を増大させていた。

 

幸い、身体の方は女湯で丁度洗い終えていたので、再び想い人である炭治郎の眼前で全裸姿にならずに済んだのは幸運な事であった。

 

炭治郎も先刻までは行冥達と共に入浴していたので、ささっと身体にお湯だけ流し終わらせていた。因みに小芭内は炭治郎と輝利哉が男湯に入るまでには、身体を洗い終えていた。

 

唯一出遅れていたのは、輝利哉だけだった。炭治郎は輝利哉の髪と身体を洗おうのを手伝おうとしたが、其処は輝利哉が断った。

 

「炭治郎は姉上達を慰めてあげて。」

 

輝利哉は正直に言えば、炭治郎に身体を洗って貰いたかった。しかし今は自分よりもひなき達を立ち直らせるのが先だと、輝利哉はそう言って炭治郎から身体を洗って貰う事を諦めたのだ。

 

――きっと、また機会はある……無いと嫌だよ、炭治郎。

 

鬼殺隊では昨日会って別れた仲間が、その日を境に今生の別れになる事は多い。しかしそれでも炭治郎と再会出来る事を、心から願い祈りながら身体と髪を洗って行った。

 

輝利哉を置いて先に温泉に入った炭治郎達。小芭内は何も言わず一番端に、鏑丸と共に居た。

 

「「「「……」」」」

 

温泉に入ってから、ひなき達は互いに視線を交える。ひなき達は何も言わず、以心伝心した様子で互いに頷いた後、長女のひなきが一歩前に出て炭治郎に近付いた。

 

「……炭治郎様。」

 

「何だい? ひなきちゃん。」

 

赤面しているひなきが、炭治郎の名前を呼ぶ。ひなきのその表情には、ある種の悲壮感が見て取れた。

 

「私達の全裸(はだか)を、その……ごっ、御覧になられましたかっ!?」

 

「「「!」」」

 

ひなきは少し声を張りながら、炭治郎に恥ずかしそうに尋ねた。普段の長女としての余裕のある態度など、最早何処にも見当たらなかった。

 

にちか達はひなきの質問内容に驚きながらも、気になるのか一斉に炭治郎に視線を移した。

 

「!……うん、見たよ。」

 

「「「「!」」」」

 

炭治郎は質問の内容に驚きながらも、特に気にする事無く平然と答えた。炭治郎とは対照的にひなき達は炭治郎に全裸を見られた事実を理解して、益々顔を赤く紅潮させた。かなたに至っては、今にも失神しそうである。

 

其処へ炭治郎が、ひなき達に思わぬ追い打ちを掛ける失言を言い放ってしまう。

 

「まぁ、その……そんなに気にしなくても、良いんじゃないかな? 皆はまだ子供なんだからさ」

 

「「「「!!!」」」」

 

炭治郎は何と、ひなき達に気にするなと言ったのだ。それだけならばまだ良い。しかし、子供である事を理由にしたのは拙かった。

 

「「「「……」」」」

 

「?……あれ?」

 

炭治郎の失言を聞いて、ひなき達は思わず身体を震わせる。炭治郎はそんなひなき達から怒りの匂いを嗅ぎ取って、困惑する様な声を上げた。

 

「おい……。」

 

「シャ――ッ。」

 

炭治郎達の話している内容が聞こえていたのか、端で静かにしていた小芭内が思わずツッコミを入れた。鏑丸も呆れながら、炭治郎を見ていた。

 

「気にするに決まっていますっ!!」

 

『!』

 

すると身体を震わせていたかなたが、大声を出して炭治郎の言葉を否定した。炭治郎達は驚きながら、かなたに視線を向ける。

 

其処には赤面したまま涙目状態で、炭治郎を上目遣いで睨み付けるかなたが居た。

 

「た、たとえ私が子供であろうと、乙女の全裸(はだか)を見たのですっ!!……責任っ、取って下さいましっっ!!」

 

『!!!』

 

叫ぶ様にそう、炭治郎にかなたは言い放った。言い放った瞬間、男湯は静寂に包まれた。

 

『…………(ジー)』

 

ねちっこいとも刺す様なとも表現出来る、そんな視線が三方向から炭治郎に真っ直ぐ注がれた。

 

「うぅっ……。」

 

炭治郎はそんなかなた達の視線を受けて、困った様子で声を漏らした。しかしだからといってかなたの言葉を適当に流そうとする程、炭治郎は適当な男でも無かった。

 

「分かった。責任は取る。」

 

意を決した炭治郎は、かなたに自身の言葉を告げる。

 

『!』

 

炭治郎が断言する様にそう言ったのを聞いて、かなたは勿論、ひなき達も僅かながらの緊張と大きな期待感を抱いた。

 

「かなたちゃん達のお願いを、一つだけ何でも聞くよ。俺に出来る範囲で、と言う条件付きだけど。」

 

『!!』

 

炭治郎が口にした責任を取る方法を聞いて、ひなき達は両眼を見開いた。

 

――っっ……ちょっと思ってた結果とは違うけど……。

 

かなたは望み通りの結果とは行かなかった事に心底残念そうにしながらも、折角の好機を放棄する様な愚かな真似はしなかった。

 

「で、でしたら……っ!」

 

かなたはそう言うと、唇を突き出して両眼を閉眼した。

 

『!』

 

病的なまでに鈍感でもなければ、かなたが何を望んでいるかは察する事が出来る筈だ。かなたの行動そのものが、口に出さずとも望みを雄弁に物語っている。

 

「……」

 

当然の話ではあったが、かなたが何を望んでいるかは炭治郎も察している。と言うよりしのぶ達と毎日行っている事であり、今日に至ってはかなたからされている事だ。

 

これで分からなければ炭治郎はしのぶか珠世辺りに、自身の頭を診察して貰う必要があったに違いない。

 

「かなたちゃん。」

 

「っ!?」

 

『!!?』

 

炭治郎はかなたの名前を優しく呼ぶと、かなたの小さな体躯を包み込む様に抱き締めた。

 

先刻(さっき)はごめんね? 心配してくれてありがとう。」

 

炭治郎はかなたの耳元に囁く様にそう感謝の言葉を口にすると、優しく触れる程度に右頬に唇を落とした。

 

「❤!!」

 

『!!?』

 

かなたは炭治郎の唇の感触を感じて、益々赤面して硬直した。いざ炭治郎からされたら、想像以上の衝撃を受けてしまった様だ。もしこれが唇であったなら、かなたは失神してしまっていたかもしれなかった。

 

「……かなたちゃん? 大丈夫?」

 

「……はぅっ❤」

 

炭治郎が抱擁を解いて無反応なかなたを心配して声を掛けると、かなたはほんの僅かながらも年齢不相応な色気のある声を漏らして炭治郎の鍛えられた胸板に凭れかかった。

 

「❤」

 

かなたは只管嬉しそうに笑みを零しながら、炭治郎に強く抱き着いて何度も頬をスリスリと擦り付けていた。嬉しい匂いと幸せな匂いを全身から出しているかなたを見て、炭治郎は拒否する事無く好きにさせた。

 

――こんな幼い女の子に、俺から口付け(キス)をするのは流石に憚られるからなぁ……かなたちゃんも、これで満足してくれて良かったよ。

 

炭治郎は心中でそう思いながら、かなたが喜んでくれている現状に安堵しつつ、かなたの頭を優しく撫でた。

 

「あらあらっ。」

 

「かなた、幸せそう……。」

 

ひなきとにちかは、炭治郎への恋心を脇に置いてかなたの様子を微笑ましく見ていた。

 

「かなたっ! 長いわよっ!!……炭治郎様っ! 次は私っ! 私もっ!!」

 

しかし、くいなは違った。羨望の眼差しをかなたに向けて、炭治郎に同様の行為を熱望した。

 

「くいなっ!」

 

「そんなにがっついたら、炭治郎様が御迷惑ですよっ。」

 

そんな積極的なくいなに、ひなきとにちかが見兼ねて注意する。

 

「うっ。」

 

姉二人に注意されたくいなは冷や水を掛けられたと内心で思いながらも、注意された内容は間違っても居ないので異議など唱えず大人しく沈黙した。

 

「俺は別に気にしてないから、大丈夫だよ……でもかなたちゃん、もう良いかな?」

 

「はいっ。ありがとうございました。炭治郎様。」

 

かなたは高揚感と満足感を味わいながら、されど少しばかり名残惜しそうに炭治郎との抱擁を解いて離れて行った。

 

「でしたら炭治郎様。今度は私がして頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「では、ひなき姉様の次は私で。」

 

「なっ!?」

 

すると間髪入れずに、ひなきとにちかは炭治郎にかなたと同等の待遇を希望した。ひなき達の予想外の行動に、くいなは面食らう。

 

「えっと……(チラ)」

 

炭治郎は気になる様子で、くいなに視線を向ける。先に要望していたくいなを除いてひなき達を優先すれば、今度こそくいなが癇癪を起こすと心配したのだ。

 

「うぅっ!……もう結構でございます。私は最後で良いですからっ!!」

 

くいなが拗ねる様にそう叫ぶと、ぷいっと顔を反らしてしまった。そんなくいなの態度を見て、炭治郎は益々困り果ててしまう。

 

――ちょっと、意地悪をし過ぎたかしら?

 

――でもこれでやっぱり良いわってくいなに譲ったら、もっと拗らせると思いますよ。姉様。

 

ひなきは反省する様にそう小さく口にすると、にちかがこのまま行くべきだと助言した。

 

「……炭治郎様。私とにちかは、一緒にお願い致します。」

 

炭治郎に頭を下げながら、ひなきがそう言うとにちかも少し遅れながらひなきと同様に頭を下げた。

そんな真面目な表情を浮かべる二人に、炭治郎は少し戸惑いながらも承諾した。

 

「え?……うん、分かった……けどその前に、一つだけ聞いても良いかな?」

 

「?……はい、なんでしょうか?」

 

炭治郎が何を自分に聞くのかと思いながら、ひなきは炭治郎からの質問を待った。

 

「ひなきちゃんとにちかちゃん、それにくいなちゃんもそうだけど……どうして俺の事を好きになってくれたの? 三人の気持ちは勿論、凄く嬉しい。けど……かなたちゃんは輝利哉君と一緒に俺と藤襲山で過ごした事はあっても、三人とは手紙でしかやり取りをした事が無いよね?」

 

「「「!!!」」」

 

炭治郎は何故ひなき達三人が、自分の事を其処まで好意的に思ってくれるのか不思議であった。その為、つい気になってその理由を尋ねたのだ。

 

「……そうですね。確かに炭治郎様が疑問に思われても、それは致し方ございません。現に私達が抱いている炭治郎様への想いもきっとかなたが抱いているもの程、大きくも無ければ深くも無いでしょう。」

 

「「!!」」

 

「「!!……っ。」」

 

ひなきは取り繕う真似などせず、かなたに想いの大きさでも深さでも負けている事を正直に話したのだ。

 

このひなきの発言を聞いて、炭治郎とかなたは驚きを隠せない。にちかとくいなも驚いていたが、事実なのか異議を唱える真似はしなかった。

 

「ですが……これだけははっきりと、炭治郎様に申し上げられます。」

 

「っ!……何だい?」

 

ひなきは一度深呼吸をすると、炭治郎に向かって断言した。

 

「これまでの御手紙でのやり取りと、先刻(さき)の緊急柱合会議を経て私の……私達の心の奥底には確かに炭治郎様が好きだと言う想いが宿っているのです。たとえ現在(いま)はかなたが抱いている想いの大きさに比べれば、蠟燭の火の如き小さいものであっても……これから大きく深く育んで行きたいと、そう切に思っております。」

 

「!!」

 

ひなきは両頬を赤く紅潮させながらそう断言すると、炭治郎の右手を掴んで両手でぎゅっと握り締めた。

 

「ひなき姉様の仰る通りです……それに私も炭治郎様に一度、お伝えしたではございませんか。『もっともっと貴方様の事を、私達に教えて下さいませんか?』と。」

 

にちかもひなきの言った内容に賛同すると、空いている炭治郎の左手をひなきと同様に両手でぎゅっと握り締めた。

 

「……私の事も、もっと知って下さい。御教えしたい事も、御話ししたい事も……沢山あるのですから……っ❤」

 

笑みを浮かべながらにちかはそう言ったが、流石に羞恥心があるのか両頬を紅潮させていた。

 

「……私も、負けませんからっ。」

 

そんなひなきとにちかの言動に、くいなは嫉妬心を燃やしながら睨み付けていた。

 

「……うぅ~~っ。最初は私を応援してくれるって、そう言っていたのに……。」

 

かなたは現況に反発しながら、小さく悪態を吐いていた。しかしその悪態はしっかりとひなき達の耳に入ると、クスクスと可笑しそうにひなきとにちかは笑った。

 

「かなた、ごめんなさいね。確かに最初は面白そうって、そう思って応援していたのだけど……。」

 

「かなたが惚れた殿方なら間違いないし……それにひなき姉様も仰ってましたけど、炭治郎様は私達の想像以上に素敵な殿方だったんですもの。好きにならない訳無いじゃない。」

 

にちかは両頬を紅潮したまま、凭れ掛かる様に炭治郎の胸元に頭を寄せた。

 

「……」

――嗚呼、此処まで言われたら……ちゃんと一人の女の子として向き合わないと失礼だよなぁ。

 

炭治郎は心中で強くそう思うと、覚悟を決めた様子でにちかを抱き締めた。そしてひなきもそのまま、自身の胸元へ抱き寄せる。

 

「「!!

 

「ひなきちゃん。にちかちゃんも、俺の為にありがとう。」

 

「「❤!」」

 

炭治郎は感謝しながら、ひなきとにちかを抱き締めた。

一頻りそうやって過ごした後、炭治郎は抱擁を解いて二人の耳元へ囁いた。

 

「余計な心配を掛けて、二人共ごめんね?」

 

炭治郎はそう言ってひなき達に囁くと、それぞれの頬に唇を落とした。

 

「「❤!!」」

 

炭治郎から頬に口付け(キス)を落とされたひなき達は、何を言わず炭治郎の胸板に顔を埋めながら抱き着いた。

 

「えっ?……二人共、大丈夫?」

 

口付け(キス)してから雰囲気が変わったひなきとにちかに、炭治郎は心配しながら声を掛けた。

 

「あの、その……すみません、想像以上に嬉しかったからっ……っ❤」

 

「炭治郎様ぁ❤……ありがとうございますっ❤」

 

「!!!」

 

ひなきとにちかは幸せそうな表情と声色を出しながら、顔をスリスリと擦り付けて余韻に浸っていた。

 

「うぅ~~っ。」

 

そんな炭治郎達の様子を見て、かなたの時以上に嫉妬心を燃やしながらくいなは羨望の眼差しを向けていた。

 

「……正直に言えば、もっと堪能したいのだけれど……。」

 

「これ以上くいなを待たせたら、悪いですものね。」

 

妹のくいなの為に炭治郎に礼を述べてから、ゆっくりと名残惜しそうにしながらも炭治郎から離れて行った。

 

「炭治郎様っ!❤」

 

くいなは姉二人が炭治郎との抱擁を解いて離れた瞬間、炭治郎に向かって飛び込む様に抱き着いた。

 

『!』

 

「おっと。」

 

くいなが動いた事で、温泉の中で波が起こった。炭治郎は少しも均等(バランス)を崩す事無く、くいなを抱き締めた。

 

「!……炭治郎様、私は左頬にして下さいませんか?」

 

「うん、良いよ。……くいなちゃん。俺を心配して駆け付けて来てくれて、嬉しかったよ。ありがとう。」

 

「❤!!」

 

炭治郎はかなたの時と同様、くいなに感謝の耳元に囁く様にそう感謝の言葉を口にしてから優しく触れる程度に左頬に唇を近付けて行く。しかし、此処からくいなを除く全員に取って想定外の事態に発展する。

 

「っ。」

 

「んっ!!?」

 

『!!?』

 

炭治郎がくいなの左頬に唇を落とそうとした瞬間、くいなが顔を動かしたのだ。左に向かって顔を動かした為、炭治郎はくいなの唇に向かって口付け(キス)をする事になったのである。

 

――やった❤

 

くいなは自身が脳裏で描いていた理想が思い通りに実現した事に、心中でほくそ笑んだ。左頬を指定したのも、顔を動かして外れてしまう懸念を無くす為であった。

 

妹のかなたがなけなしの勇気を出して炭治郎と口付け(キス)を行い、姉のひなきとにちかは二人揃って頬にとは言え口付け(キス)をする事に成功している。

 

自分だけが置いてけぼりを喰らっている現状に、くいなは大いに不満を抱いていたのだ。

 

しかし炭治郎がかなたに行った返礼を見て、くいなは咄嗟にこの策を思い付き、見事に実現して見せたのである。

 

「んっ❤……」

 

炭治郎の頸に両手を回して炭治郎が離れない様にしながら、くいなはがっちりと唇を押し付けて炭治郎との口付け(キス)をしっかりと堪能する。

 

「……ぷはっ❤」

 

漸く満足したのか、くいなは炭治郎から唇を離し両腕を解放して口付け(キス)を解いた。その際に銀色の細い糸が二人の唇の間に出来たが、視認したと同時に消滅した。

 

「くいなちゃん……。」

 

「私だけ、炭治郎様と口付けをしてませんでしたから……っ❤」

 

大胆且つ積極的な行動を実行されて驚いている炭治郎に、くいなはしれっと口付け(キス)をした理由を口にした。両頬を紅潮させながらも、勝ち誇った笑みを浮かべている。

 

くいなはしてやったりと言わんばかりに、幸せそうな様子でその幼い身体を名一杯張って見せた。

 

「「「……」」」

――その手があったぁっ!?……っっ!!!

 

ひなきもにちかもかなたも、くいなの行動は目から鱗が落ちる思いであった。しかしそう思ったのも束の間、悔し気に唇を噛んだ。

 

もし再び好機が訪れたとしても、それはくいなの二番煎じでしかない。そして炭治郎もまた、それに引っかかるとは思えなかった。

 

「私達はまだ、炭治郎様から()()して頂いていないのに……。」

 

「くいな。流石に狡くありませんか?」

 

唇と唇を合わせる口付け(キス)が未経験なひなきとにちかは、羨ましそうに半眼でくいなを睨み付けた。

 

「くぅぅっ!……っっっ。」

 

しかしそんなひなき達以上にくいなの行動を見て、最も苛立っていたのはかなたであった。

 

「かなたちゃん……その、落ち着いて……。」

 

炭治郎は困り果てながら、かなたを宥めようとする。

 

「炭治郎様っ……っ。」

 

一方で炭治郎に正面から向き合うと、半眼視しながらかなたは肝の据わった声を上げた。かなたからは、明らかに嫉妬と憤怒の匂いが出ていた。

 

「っ……炭治郎様っ!」

 

「!」

 

かなたは一度深呼吸をすると、炭治郎の名前を呼びながら炭治郎に勢い良く抱き着いた。

 

「かなたちゃんっ!?」

 

動揺する炭治郎に構わず、かなたは炭治郎の両手に肩を置いて見詰め合う。

 

「っっ……消毒しますっ!!」

 

『!!』

 

互いの瞳に自身の顔が鏡の如く映るのを一瞬だけ見詰め合った後、今度はかなたが勢い良く顔を炭治郎に近付けて行った。

 

 

 

ガチコンッ!!!

 

 

 

『!!!?』

 

「「~~~~~~!?!?!?」」

 

次の瞬間、固い物同士が激突した様な鈍い音が、温泉内に響き渡った。

 

かなたはくいなとの口付け(キス)を上書きしようとしたのだが、勢い余って歯と歯をぶつけてしまったのだ。

 

嫉妬と憤怒に加え、羞恥心に背中を押すばかりか突き飛ばされる形で起きた出来事であった。

 

互いの歯が折れる様な事態にはならなかった事が不幸中の幸いであったが、火花が散り脳が一瞬揺れる様な感覚と後から来る鈍痛に炭治郎とかなたは悶絶していた。

 

「かっ!?……かなた様っ!?」

 

「シャ――ッ。」

 

かなたを心配して、小芭内は動揺しながらかなたに声を掛けた。鏑丸も小芭内に続いて、かなたを心配する声を上げる。

 

「んなぁっ!? 二人共、大丈夫っ!!?」

 

ひなきは眼前で起きた想定外の出来事を見て、慌てた様子で炭治郎とかなたを心配した。

 

「あのね……何やってんの? かなた……。」

 

其処へ漸く身体と髪を洗い終えた輝利哉が、呆れた様子で声を掛けながら温泉へと入って来た。炭治郎とかなたが特に怪我をしていない様子を見て、心配するよりも起こった事態に呆れてしまっていた。

 

「うわぁ…………っっっ。」

 

くいなは炭治郎とかなたが受けた痛みを想像して、幻痛を感じてしまい思わず両手で口を覆う様に備えた。

 

「……~~~っ……~~~~っ。」

――だ、駄目よ。笑っちゃ駄目……プッ……ククククッ。

 

にちかだけは、温泉内で起こった出来事が面白かったのか、必死で声を押し殺して笑っていた。

 

これで怪我人が出て居れば笑っていられなかったが、炭治郎もかなたも痛い思いをしているだけなので、それが笑いを堪える事が出来なかった要因となっていた。

 

「に、にちかちゃん。笑うなんて酷いよ……本当に痛かったんだから……ウゥッ、イタタタッッ。」

 

「クスクスッ……炭治郎様、ごめんなさい。あまりにも面白かったものですから……。」

 

炭治郎は涙目になってかなたとぶつかった歯を撫でながら、笑いを堪え切れていないにちかに抗議した。

 

そんな炭治郎に対して、にちかは近付いてから涙腺に溜まった涙を指で掬いながら謝罪した。

 

「まだ痛みますか? 炭治郎様。」

 

「うん。まだジ~ンって感じの痛みがあるよ。」

 

炭治郎はそう言いながら、激突した歯を自身の指で撫でた。それを聞いて、かなたは申し訳ない気持ちを胸中に抱かざるを得なかった。

 

「フフッ……でしたら不肖、にちかめが炭治郎様のお気を紛らわせして御覧に入れましょう。」

 

『?』

 

にちかがそう言い終わると、即座に行動に移した。それは炭治郎達の理解が及ぶ前に実行に移すと言う、電光石火の如き速さであった。

 

 

 

チュッ❤

 

 

 

『!!!??』

 

にちかは炭治郎の両頬を優しく挟む様に添えると素早く、されどかなたと違って焦らず丁寧に唇を炭治郎の口元へと近付けて口付け(キス)を行ったのだ。

 

「っ!?」

 

「んっ❤……んんっ~~❤❤」

 

にちかは両眼を見開いて驚く炭治郎を熱い視線を向けながら確認すると、楽しそうに両眼を細めてから直ぐに閉眼して口付け(キス)を堪能する。

 

「ぷはっ❤……如何ですか? 炭治郎様。痛みこそ取れませんが、気は紛れましたでしょう?」

 

にちかはくいなの時以上に勝ち誇った笑みを浮かべながら、ある種の確信を持ちつつそう尋ねた。その笑みは僅か齢八歳の少女が持っているとは思えない程、艷やかで大人びたものであった。

 

「……うん。痛みもどっか行っちゃったよ。ありがとう、にちかちゃん。」

 

「うふふっ❤ どう致しまして、炭治郎様❤」

 

呆気に取られた様子で、炭治郎は半ば上の空状態のままにちかに答えた。にちかは楽しそうに笑いながら、そんな炭治郎の様子を見て微笑んでいた。

 

「に~ちぃ~かぁ~~?」

 

しかしそんなにちかを見て、ひなきは苛立っていた。普段の余裕のある態度は跡形も無く消滅し、青筋を浮かべながらひなきはにちかを睨み付けていた。

 

「ひなき姉様。私は炭治郎様の事を、第一に思って行動したのです……私の事など、二の次でございますよ。」

 

「ウフフフ……さらっと、嘘を吐かないで下さる?」

 

炭治郎が匂いを嗅いで真偽を確認するまでも無く、にちかの白々しい嘘を聞かされたひなきは益々青筋を濃くして怒っている。

 

「ひなきちゃん。」

 

「!」

 

炭治郎が冷や汗を掻きながら、ひなきの名前を呼ぶ。炭治郎に名前を呼ばれたひなきは、一時的に憤怒を抑えて我に返った。

 

するとひなきは一度だけ深呼吸をして呼吸を整えると、漸く怒りを完全に抑える事に成功し普段の冷静さを取り戻した。

 

「炭治郎様。妹のかなたとにちかが大変失礼な真似を致してしまい、誠に申し訳ございませんでした。」

 

「!」

 

ひなきが妹二人の行いに対して、炭治郎に頭を下げて謝罪した。

 

「全然気にしてないから、大丈夫だよ。」

 

「炭治郎様、ありがとうございます。」

 

炭治郎の返事を聞いて、ひなきは感謝の言葉と共に再び頭を下げた。

 

――はぁ……かなただけだったのに、にちかにもくいなにも先を越されちゃった……三人共、良いなぁ。でも此処に来て炭治郎様に我儘なんて言ったら迷惑だし、そうする訳には行かないわよね。私は長女なのだから、我慢しなくっちゃ……っっ。

 

普段通りの笑みを浮かべているひなきであったが、心中では溢れ出んばかりの羨望の念と嫉妬心で埋め尽くされていた。

 

「……」

――ひなきちゃんから凄い嫉妬と羨望の匂いがする……でも此処で俺が何かやったら、また面倒な事が起きると思うと……。

 

炭治郎はひなきの様子を匂いで勘付いていたが、再び事を蒸し返すのを避けて、何か行動に移ろうと言う気にはならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……随分と良いご身分だな、竈門炭治郎。」

 

『!』

 

苦悩している炭治郎を他所に、ねちっこい声が男湯に響き渡った。鏑丸と共に温泉の片隅に居た、小芭内の声であった。




お待たせ致しました。

投稿するのに半月も掛かってしまいました。申し訳ございません。

二つの意味で禁忌を目撃した炭治郎君は、如何でしたでしょうか?

この通りは結構デリケートなので、念入りに確認と調整をしております。御了承下さい。

次回の更新ですが、一応今回と同様にその前に予告をお知らせするという形でお願い致します。宜しくお願い致します。


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第伍拾弐話 日輪は白蛇の不信の皮を剥ぐ

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「色々貴様には言いたい事が山程あるが……輝利哉様の手前、止めておく。しかしこれだけははっきり、言っておくぞ。如何なる手練手管を使って輝利哉様達を篭絡したかは知らんが、輝利哉様達を悲しませる様な真似をしてみろ。その時は、その命は無いものと思えっ。」

 

本音を言えばもっと他に炭治郎へ言いたい事が沢山あったのだが、言えば輝利哉達の不興を買うと判断して呑み込むことにした。

 

しかし小芭内には一件だけ、どうしても炭治郎に念押ししておかなければならない事があった。

 

「それから「伊黒さん。お顔の事でしたら、伊黒さんが良いって言うまで言いませんからっ!」……っ!。」

 

小芭内が念押しして口止めしようとした自身の容貌について話そうとした瞬間、その事を察した炭治郎が先に口外しない事を約束する。

 

「……」

 

出鼻を挫かれる形となってしまった小芭内だったが、とりあえず言質を取る事には成功した。しかし、本当にその約束を守るのかと疑いの眼差しを、小芭内は炭治郎に向ける。

 

「私からも約束するよ。小芭内。」

 

『!』

 

会話の内容が聞こえていたのか、自身も小芭内の容貌について口外しないと約束した。

 

「小芭内にどの様な事情があったかは知らないけれど……産屋敷輝利哉の名前に懸けて、今此処で見た事は誰にも口外しない。姉上達とくいなとかなたも、それは約束する。」

 

輝利哉は胸を張って断言すると、ひなき達も同意する様に一斉に頷いた。

 

「……っ。」

 

「?」

 

輝利哉達からも口止めの言質を手に入れた小芭内であったが、その表情には困惑の色が見て取れた。

 

「……輝利哉様は、御館様かあまね様から俺の事情を聞いておられないのですか?」

 

小芭内は確認する様に、輝利哉にそう尋ねた。小芭内の様子を見れば、輝利哉達は知っているものだとばかり思っていた事を察するのは簡単だった。

 

「……私も姉上達も、何一つ知らされていないよ。父上や母上が他人(ひと)様の事情を……自分の剣士(子供)が隠している秘密をペラペラと気安く喋るなんて無礼で軽率な真似をすると思う?」

 

「!……いえ……大変失礼、致しました。御無礼の段、どうか平に御許し下さいませ」

 

小芭内は慌てて、輝利哉に向かって深く頭を下げて詫びを入れた。自身に頭を下げる小芭内に、輝利哉はクスッと微笑を浮かべる。

 

「気にしてないよ……ただね。」

 

輝利哉は其処まで一度区切ると、真剣な表情で小芭内に告げた。

 

「もしこの先知る事になるなら、小芭内本人の口からその事実を聞きたい。私は……そう思っているよ。」

 

「!」

 

輝利哉がそう言うと、小芭内は顔を俯かせて口を噤んだ。両眼も閉じて、沈黙する小芭内。その表情からは、幾分かの葛藤が見えた。

 

「…………分かりました。つまらぬ私事で良ければ、どうかお聞き下さい。」

 

『!!』

 

「!!?」

 

小芭内を漸く意を決した様子で、輝利哉達に自身の秘められた過去を話す事を決意した。小芭内のそんな様子を見て、炭治郎はあたふたと慌てていた。

 

「あの、えーとっ!……俺、席を外してますねっ!?」

 

炭治郎は自身に小芭内の過去を聞く資格など無いと判断して、自主的に男湯から退室しようとしていた。

 

「待てっ。竈門炭治郎っ。」

 

「!」

 

しかし男湯から出て行こうとする炭治郎を止めたのは、他ならぬ小芭内本人だった。

 

「」

 

小芭内に止められた炭治郎は、驚きながら静止して小芭内を見詰めた。

 

「伊黒さん。俺は聞かない方が良いんじゃ……。」

 

「お前には忌々しい事に、既にこの素顔を見られている……半端に気にされたままよりも、事情を教えた方がまだ口止めになる。」

 

「!!」

 

未だに小芭内から信頼されていない事実を理解して、炭治郎は思わずムッとした不満げな表情を浮かべた。

 

「……分かりました。でしたら伊黒さんの御言葉に甘えて、謹んで拝聴させて頂きます。此処で御聞きした事は、口が裂けても言わない事を御約束します。」

 

炭治郎は不満気ながらも、意地を張って口論するのは得策では無いと判断して文句は口にしなかった。炭治郎は頭を下げながら、小芭内に向かって誓約の言葉を口にする。

 

「……フンッ。」

 

炭治郎の誓約を聞いて、小芭内は小さく鼻を鳴らした。小芭内は少しずつ、徐に自身の秘められた過去を語り始めた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

小芭内の出身地は関東地方の海を越えた、最南端に位置する八丈島であった。島と言っても人口が八千人前後居る、準都市規模を誇る大きな島である。

 

八丈島は古くから人が住み着いては居たが、嘗ては島流しの刑罰を受ける罪人達の流刑地でもあった。

 

罪人と言っても生類憐みの令を犯して理不尽に逮捕された町人や武士であったり、乱闘や博打を犯した微罪を咎められて流された罪人ばかりであった。

 

この八丈島で流刑に遭った歴史の偉人の中には、平安時代では猛将と名高かった源為朝。

戦国時代において中国地方でその謀略の才能を遺憾無く発揮した中国の三大謀将の一人に数えられる宇喜田直家の一人息子、豊臣政権五大老の一人であった宇喜多秀家も含まれている。

 

江戸時代では現在の半数に満たない人口しかおらず、年に二回しか船舶が運行していなかった八丈島であった。それでも出稼ぎの為に、人流と物流の行き来はあった。

 

そして明治二十年(一八八七年)に漸く小笠原航路が開設された事で年に四回、明治三十二年(一八八九年)には月に一回以上の寄港が行われる様になり、人流と物流の行き来が従来より盛んになる。

 

そんな歴史のある八丈島で小芭内の生家である伊黒家は、実に八百年以上の歴史を持つ名家にして八丈島随一の大富豪であった。

 

そんな伊黒家には、他の家系には無い特徴があった。

 

それは女性ばかりが生まれると言う、非常に特殊な家系であったのだ。男性も生まれない訳では無いのだが、何十年または百年以上も男児が誕生しない事など珍しくも無かった。

 

そんな伊黒一族において小芭内は、三百七十年以上振りに生まれた男児であった。

 

「俺は産まれ落ちた瞬間から……は些か言い過ぎだとしても、物心が付く前から……太陽の光が一筋も入らない、暗くて冷たい地下の座敷牢の中で過ごしました。」

 

『!?』

 

小芭内の思わぬ告白を聞いて、輝利哉達は自分の耳を疑った。炭治郎に至っては、何故その様な事になるのか何一つ理解出来なかった。

 

「だから朝も夜も区別が付かなくて……外の世界と言うものを、俺が知る事が出来るのはまだ当分先の話でした。」

 

愕然とする炭治郎を他所に、小芭内の話は続いていた。

 

実母や姉妹、叔母や従姉妹と言った一族は全員が猫撫で声で気色悪さを感じる程に親切そうに接していた。それ故か、兎に角毎日の様に無駄に食事を運んで来ていたらしい。

 

換気もままならぬ地下の座敷牢では充満する油の匂いに苛まれ、却って食欲を無くしていたそうだ。

 

――嗚呼、その口を晒したくないから人前では食べないだけだと、俺は思っていたんだけど……伊黒さんが華奢な理由って、そう言う過去があったから食事が好きじゃないんだなぁ。

 

炭治郎は小芭内の話を聞いて、食事に関心が薄い理由が分かった様な気がした。

 

小芭内の座敷牢での話は、これだけでは終わらなかった。

 

一族がやって来なくなる夜ですら、いや夜の方が更に小芭内にとっては恐ろしかった。

 

巨大な()()が這い回る不気味な音に、小芭内は常に苛まれた。

それに加えて粘り付く様な視線も、肌で感じない時は一回として無かった。全身から汗が吹き出し音が鳴り止むまでまんじりとも出来なかった。

 

そんな地獄の日々が十二歳まで続いた頃、小芭内は何の前触れも無く座敷牢から引き摺り出された。

 

小芭内が連れて行かれた場所は屋敷内にあった、ゴテゴテとした絢爛豪華で煌びやかな大広間だった。

その大広間の奥には顔貌と下半身が蛇で上半身だけ人間の形態をしているおぞましい女性鬼が、何十個もの髑髏を並べて御神体の如く鎮座していた。

 

蛇鬼は小芭内に、自分の名は蛇羅尼と名乗った。七百年以上もの歳月を生きており、自分を鬼に変えた偉大なる主人、つまり鬼舞辻無惨が自ら名前を与えてくれたと誇らしげに語っていた。

 

『!』

 

「……俺もこの時に漸く、一族の本性を知ったのです。俺の一族は長年に渡って蛇羅尼が殺した人間の財産を奪って生計を立てていたのだと知りました……その見返りの一環として、自分達が産んだ赤ん坊を生贄として捧げていたのです。蛇羅尼は赤ん坊の肉が、大好物でしたから」

 

「「なっ……っ!?」」

 

伊黒一族の穢れ切った本性を知って、炭治郎と輝利哉は大口を開けて愕然とした。

 

「生まれたばかりの、何も分からない赤ちゃんを生贄にしたなんてっ……っ!」

 

「なんという、悍ましい真似をっ……っ!!」

 

「……(ガギリッ)」

 

「……っっ。」

 

ひなきとにちかは口に出して、伊黒一族と蛇羅尼の所業に怒りを覚えた。くいなは何も言わなかったが、怒りのあまり奥歯を噛み砕かんばかりに歯軋りをしていた。かなただけは自身の身体を抱き締めて、恐怖を必死で抑え込もうとしていた。

 

「っ!……かなたちゃん。無理をしないで。」

 

「炭治郎様っ……はい、ありがとうございます。」

 

炭治郎はそんなかなたの様子に気付くと、かなたを優しく引っ張ってから包み込む様に優しく抱き締めた。

かなたは炭治郎の優しさに感激しながら、ゆっくりと炭治郎に凭れ掛かった。

 

「「「……」」」

 

ひなき達はかなたが羨ましかったが、そう思ったのは刹那の間だけであった。それ以上に、小芭内の境遇の話の方が気になっていた。

 

小芭内は何故他の赤ん坊達の如く生贄にされなかったのかと言うと、伊黒一族にとって希少な男児であり更には虹彩異色症(オッドアイ)である事を理由に蛇羅尼に大層気に入られ、成長して喰える肉の量が増えるまで生かされる事となっていたからだ。

 

伊黒一族が執拗なまでに大量の食事を運んでいたのも、小芭内を肥やそうとしている為に過ぎなかった。小芭内もまた伊黒一族にとって、今まで生贄として差し出された赤ん坊達と同様に蛇羅尼の機嫌を取る為の家畜に過ぎなかったのだ。

 

「……蛇羅尼は俺の口の形を自分と揃えると言って斬り裂いてから、溢れ出た血を盃に溜めてから飲みました。この口の傷は、その時に出来た古傷です。」

 

『!!?』

 

小芭内は口の古傷を撫でながら、傷の経緯について話した。余興感覚で残酷な真似をした蛇羅尼の所業に、炭治郎達は愕然とする他に無かった。その後止血を受けた後に地下の座敷牢に戻された小芭内は、生きる為にどうやって座敷牢から抜け出し逃げるかだけを考える様になった。

 

脱牢する為の第一段階は、隙を付いて伊黒一族から盗み取った簪で分厚い木の格子を削り始める事だった。

 

この行為は、小芭内の神経を酷く擦り減らすものであった。

 

消極的な栄養補給による体力不足と、脱牢を目論んでいる事が発覚するのではないかと言う恐怖心が絶え間無く襲っていた。

 

それでも小芭内が簪を使って座敷牢の木の格子を削り続ける事が出来たのは、偏に生きたいと言う生存本能からだ。

 

そして伊黒一族に囲まれながら孤独な小芭内を、心身共に支えてくれる存在があったからこそ諦める事は無かった。

 

「座敷牢に迷い込んで来た鏑丸と、この時に偶然知り合えたのです。鏑丸が居なければ、俺はあの座敷牢での地獄の生活に耐えられなかったかもしれない。鏑丸だけが、俺にとって信じられる存在だった。」

 

「シャ――ッ。」

 

小芭内がそう言って鏑丸を優しく撫でると、気持ち良さそうな鳴き声を鏑丸は上げた。

 

鏑丸と言う唯一無二の味方を得た事で小芭内は、木の格子を削る速度を速める事が出来た。鏑丸が伊黒一族や蛇羅尼が来る事を、事前に察知してくれる様になったからだ。

 

小芭内は蛇羅尼と初めて会ってから三ヶ月後、遂に座敷牢の格子を破って突破口を開ける事に成功した。

 

それでも出来た穴は小さいものであったが、皮肉にも小芭内が小柄であったが為に通り抜ける事に成功した。小芭内は座敷牢を脱牢すると、鏑丸と共に伊黒邸から脱出した。

 

伊黒邸を脱出した小芭内に、歓喜や達成感と言った感情は無かった。あるのは少しでも伊黒邸から、蛇羅尼から離れたいと言う考えだけだった。

 

小芭内の脱牢が発覚次第、蛇羅尼は自ら自分を捕まえる為に追い掛けて来るに違いないと懸念していたからだ。

 

事実、小芭内が恐怖と共に抱いていた懸念は当たっていた。小芭内が鏑丸と共に人目を避けて森を通っていると、それは起こった。

 

木々を薙ぎ倒す轟音が、突如森の中で響き渡った。蛇羅尼は元々の恐ろしい形相を、更におどろおどろしいものにしながら小芭内を追跡して来たのだ。

 

小芭内はそんな蛇羅尼を見て悲鳴を漏らしながら、更に自身の虚弱な身体に鞭を打って走った。しかし鬼の速度に只でさえ虚弱な小芭内が逃げ切れる筈も無く、あっさりと蛇羅尼に捕まった。

 

鏑丸は蛇羅尼に捕まった小芭内をその魔手から救おうと噛み付いたのだが、蛇羅尼は一切関心すら持たず意にも介さなかった。

 

このまま小芭内は蛇羅尼の手によって弄ばれた挙句、縊り殺されるかと思われた。

 

「あのまま俺は殺されるかと思いましたが、間一髪の所を先代の炎柱・煉獄槇寿郎様によってこの生命を救われました。俺の目の前で、あの蛇羅尼を一刀両断してくれたのです。」

 

『!』

 

――槇寿郎さんがっ!……ってそう言えば、カナエもそんな事を俺に教えてくれていたな……こんな風に助けられているとは、思ってもみなかったけど。

 

『彼も本当は優しい人なのよ……故郷で鬼に凄惨な目に遭わされて、其処を煉獄君のお父さんに救われて、そのまま煉獄家に引き取られて過ごしていたらしいわ。』

 

炭治郎はカナエから聞いている小芭内に関する情報を思い出しながら、自身の想像を絶する事態が小芭内の身に起こっていた事実に、改めて驚きを隠す事が出来なかった。

 

尤も、小芭内の様に鬼と結託して私服を肥やしていた一族と暮らしていた特殊過ぎる状況など、優しい家族に恵まれていた炭治郎に想像出来る筈も無いのだが。

 

槇寿郎によって命拾いした小芭内は、漸く脅威が取り除かれたと思われた。しかし命を脅かす程の脅威は無くなっても、悪意はまだ小芭内の近くに存在していた。

 

その悪意とは、()()()()()()()()()()親族である従姉妹の存在であった。

 

『あんたの所為よっ! あんたが逃げた所為で、皆は殺されたのよっ!!』

 

『五十人死んだわっ! あんたが殺したのよっ!!』

 

『生贄の癖にっ!! 大人しく喰われてりゃ良かったのにっ!!!』

 

「「なっ!?……。」」

 

「「「「!!?」」」」

 

炭治郎達は小芭内の従姉妹が口にした理不尽が過ぎる罵詈雑言を聞いて、愕然とした様子で思わず自身の耳を疑った。

 

しかし小芭内の苦々しい表情を見れば、その事実に誇張も嘘偽りも無い事は明らかであった。

 

「従姉妹の罵詈雑言には、正当性など欠片もありません。それでも……それでも俺の心を嫌でも抉った。他人を犠牲にして生きて来た一族を、俺は心底軽蔑していたのに……その俺が一族を犠牲にして生き延びてしまった。結局、俺も同じ穴の狢だと……屑の一族から生まれた俺も屑なのだと心底思い知らされたのです。」

 

其処まで言うと小芭内は、その裂けた口で強く歯軋りをした。裂けている為か、奥歯の歯茎までくっきりを目に映っていた。

 

『……っ。』

 

小芭内の従姉妹の罵詈雑言を聞いて、炭治郎達は露骨に強い不快感を露わにしていた。全員が額に、幾つもの青筋を浮かべる程であった。

 

「……」

 

炭治郎は自身を落ち着かせる為に一度深呼吸をすると、小芭内にある事を尋ねた。

 

「その後は、どうしたんですか?……もしかしたらそのまま、槇寿郎さんに引き取られたとか?」

 

『!』

 

炭治郎は小芭内のその過程を知っているが、何処でその情報を入手出来たかなど言える筈も無い。なので敢えて、予想する様に小芭内に尋ねたのだ。

 

「……そうだ。お前が言う通り、行く当てを失った俺を槇寿郎様は自分の屋敷に来ないかと誘って下さった。直ぐに承諾した俺は()()()()()全て捨てて八丈島を出た。」

 

「っ!……()()……()()()、ですか?」

 

反芻する様に呟き返した炭治郎に、小芭内はそう言ってから再び語り始めた。

 

「そうだ。屑の一族に生まれた俺もまた屑だ。一族の罪を忘れない為にも、これだけは捨てたくても捨てられなかった。……この小芭内と言う名前は、()()()()が付けて下さったものだ。」

 

()()()()……?」

 

「これから話してやる。黙って聞いてろ。」

 

再び反芻する様に呟き返した炭治郎に、小芭内はそう言ってから再び語り始めた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

小芭内は槇寿郎に救われた後、直ぐに八丈島を出た。

 

十二年以上も地下の座敷牢に監禁されていたにも関わらず、船酔いも波による船の揺れで転倒する事も一度としてしなかった事から、三半規管や運動神経が優れているのではないかと、この時に槇寿郎に船上で指摘されたらしい。

 

大日本帝国本土に船が到着した後、小芭内を気遣って槇寿郎は煉獄邸まで背負ってくれたそうだ。

煉獄邸に到着後、庭先で木刀を振って鍛錬をしていた杏寿郎とまだ物心も付いていない熟睡していた千寿郎と出会った。

 

しかし其処である人物の登場で、事態は大きく急変した。

 

「明るく無遠慮な杏寿郎に戸惑っていた俺は、槇寿郎様が御連れしたある御方が出て来たのを見て恐怖心から悲鳴を上げてしまった。その御方とは、槇寿郎様の奥方様で杏寿郎と千寿郎の母君であられた瑠火様だった。」

 

「杏寿郎さんのお母さんを見て、悲鳴を?……どうしてですか?」

 

炭治郎は小芭内の行動が理解出来ず、思わず尋ねた。炭治郎は杏寿郎の死後に煉獄邸を訪問した際、槇寿郎と乱闘騒ぎを起こしている。

 

しかしその後、槇寿郎から謝罪と感謝が綴られた手紙を受け取っているのだ。その手紙の内容の中には、瑠火の事も触れられている。

 

天女の生まれ変わりと言っても過言では無い瑠火を前にして悲鳴を上げるなど、一体何があったのか思わず炭治郎は小芭内に尋ねた。

 

「……瑠火様は本土に来てから、俺にとって初めて出会った女性だった。する訳が無いのに一族の連中と同じ態度を取るのではないかと、俺は反射的に怖がってしまったんだ。」

 

『!』

 

小芭内の言い分を聞いて、炭治郎は漸く小芭内の行動に対して理解が及んだ。八丈島で十二年間もの間、女性から家畜に等しい扱いを受けていたのだ。必然的に女性と言う存在に対して、恐怖心や嫌悪感と言うものを抱いても責める事など出来る筈も無かった。

 

「……だが、瑠火様はそんな無礼な態度を取った俺に、瑠火様は怒ったり傷付いたりする事は無かった。」

 

小芭内曰く、瑠火と目が合った瞬間、悲鳴を上げながら庭先で育てられていた芭蕉の下に身を隠したと言う。そんな怯えて身体を震わせる小芭内に、瑠火はゆっくりと刺激しない様に接近して行った。

 

『初めまして。私は槇寿郎様の妻で杏寿郎と千寿郎の母、煉獄瑠火と申します。貴方の御名前は?』

 

『ぁ……っ……い、伊黒と言います。』

 

瑠火に名前を尋ねられた小芭内は、身体を震わせながらも名字だけを名乗った。

 

『良かったら、下の名前も聞いて良いかしら?』

 

『っ……な、名前は……ありま、せん……八丈島(故郷)を捨てた際に、名前も……す、捨てて来ましたから……っ』

 

『……そう。』

 

瑠火は小芭内から名前は捨てたと知ると、右手を顎に添えて静かに思案を始めた。

 

『……決めました。』

 

『?』

 

少ししてから芭蕉と小芭内に一度視線を向けた後、ゆっくりと小芭内に微笑み掛けた。尤も、槇寿郎達は瑠火が何を決めたのか分からず、首を傾げるばかりであったが。

 

『……小芭内。』

 

『えっ?』

 

『"芭蕉の下の小さな男の子"……貴方は今日から、伊黒小芭内と名乗りなさい。』

 

『っ!!…………伊黒……小芭内……っっ。』

 

小芭内は瑠火に与えられた新たな名前を、ゆっくりと反芻した。小芭内と言う名前は、瑠火が咄嗟に思い付いた名前だったのだ。自身が育てていた芭蕉に、包まれる様に隠れていた小芭内があまりに印象的だったからである。

 

自分の新たな名前を実感している間に、小芭内は柔らかい温もりに包まれた。瑠火が小芭内に接近して、優しく抱擁をしたからだ。

 

『小芭内。夫から貴方の事は聞いております。過去に囚われる事無く、今日から私達が家族だと思ってこの煉獄邸(やしき)で過ごして下さい。遠慮など無用です。煉獄家の血など継いで居なくても、貴方は私達の大切な息子……家族なのですから。』

 

『!!!』

 

穢れた思惑も薄汚い下心も無い、真に優しい言葉を生まれて初めて耳にした小芭内。

 

『……~~~っ……~~~~っっっ。』

 

気付くと小芭内は怖がっていた筈の瑠火に、自らの意志で抱き着いていた。そして瑠火の胸元に顔を埋めて、声を押し殺しながら泣いていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「こうして俺は新たな名前を瑠火様から頂いて、新たな生活が煉獄邸で始まった。煉獄家の誰もが、赤の他人でしか無かった俺を快く受け入れてくれた。」

 

『…………』

 

輝利哉達は小芭内の名前の由来と、瑠火の慈愛に満ちた一面を知って深く感動していた。

 

「ぐじゅっ!……ひぐっひっくっ……っ!!」

 

「……おい、竈門炭治郎。」

 

炭治郎に至っては号泣していて、今にも涙ばかりか鼻水すら温泉に落としそうな危機的状況を齎していた。そんな炭治郎の様子を見て、小芭内は辟易しながら睨み付けた。

 

「温泉が穢れる。間違っても落とすなよ。」

 

「ぐずっ!……わっ、わがっでますよぉ……ぐすっ!!」

 

炭治郎は片手で温泉の湯を掬って顔を洗い始める。当然だが、涙や鼻水が温泉内に落ちない様に顔だけ温泉の外に出して、両手を交互に使って顔を洗う。

 

「っ!……良しっ!」

 

炭治郎は両眼を赤くしながらも、何とか涙を流すのを止める事が出来た。それから両頬をパンパンと両手で叩いた。

 

「……伊黒さん。もっと杏寿郎さんとの御話を、俺に聞かせてくれませんか?」

 

「断る。何故、俺がお前になど……。」

 

「お願いしますっ!」

 

「……」

 

炭治郎は温泉に顔を付ける勢いで、頭を深く下げる。最初こそ拒否しようとした小芭内だったが、そうまでされては無碍に拒否する事は出来なかった。

 

「フンッ……っ。」

 

小芭内は面倒臭そうに鼻を鳴らして、炭治郎から視線を逸らした。

 

「……俺は杏寿郎より年上だが、身体はあの時から身長差で負けていた。だから年上と認識されず、「小芭内も家族ならば、俺の弟になるなっ! 何しろ、俺は煉獄家の長男なのだからなっ!!」と一方的に断言された事がある。」

 

「っ……ぷっ!」

 

炭治郎はその様子を幻視して、思わず吹き出してしまった。しかし湧き出る笑いも直ぐに治まると、小芭内が徐に語り始めた杏寿郎との逸話に炭治郎は両眼を輝かせながら傾聴する。

 

「……俺は弟が出来たと勝手に喜ぶ杏寿郎に、俺の方が一つ年上なのだと教えても、面倒な事に杏寿郎(あいつ)は頑なに信じなかった……だが以前の生活を忘れそうになる位、毎日が騒がしくて、楽しい毎日だった。」

 

そんな炭治郎の姿に気分を良くしたのか、小芭内は無自覚に饒舌になって行った。しかし明るい話題は、そう長くは続かなかった。

 

「……煉獄家の方々は、まるで俺が最初から居たかの様に扱ってくれた。俺にとっても、一日一日が、何物にも代え難い宝物だった。ずっと……ずっと煉獄家(彼ら)とこの先も一緒に暮らして行きたいと、俺は心底そう思っていた……そうなって、欲しかった。」

 

『!』

 

小芭内の声色が急激に変化した事に気付いた炭治郎達は、些か嫌な予感に駆られた。そしてその嫌な予感は、間髪入れずに的中してしまう。

 

「俺が煉獄家に来てから半年もの刻が経過した頃、瑠火様は御身体を崩される様になった。それからもう半年……俺が十三歳になり、既に杏寿郎が十二歳を迎えた頃……瑠火様は御自身の死期を悟られた。」

 

『!』

 

「……っ。」

 

炭治郎は槇寿郎から貰った謝罪の手紙で瑠火の事はある程度知っている為、悲しい顔を浮かべた。

 

「槇寿郎様は金に糸目を付けずに瑠火様に患う大病を治す為に、国中の名医と呼ばれる医者を全て呼び集める心算で医者を呼んだが……治療の甲斐も無く瑠火様は亡くなられた。」

 

小芭内は瑠火が逝去した当時を思い出して、悲しそうに唇を噛み、拳を強く握り締めた。

 

「……瑠火様の死後、俺は煉獄家を出て行った。」

 

『!?』

 

炭治郎達は小芭内が口にした唐突過ぎる展開を聞いて、自身の耳を思わず疑った。驚愕する炭治郎達に、小芭内は直ぐに説明を始めた。

 

「あの当時の俺は、自分が煉獄家に来た所為で瑠火様が死んだのだと思い込んでいた。罪悪感を抱いていた俺は、そんな折に瑠火様の御葬儀に参加した元隊士の"育手"と出会った。」

 

「俺は衝動的にその"育手"に弟子入りを懇願すると、"育手"は困惑しながらも俺の無茶な頼みを承諾してくれた。俺は直ぐに荷物を纏めて、そのまま煉獄家を去った。」

 

「出て行く前に、槇寿郎さん達には何も言わなかったんですか?」

 

炭治郎は気になってその点を尋ねると、小芭内は炭治郎を見ながら話を再開させた。

 

「言うと止められると思ったからな。置き手紙だけして、直ぐに煉獄家を去った。……"育手"が良い御仁で、熱心に指導してくれた。だから現在(いま)はこうして、柱になれたと思っている。」

 

小芭内は煉獄家との生活を話す時は、炭治郎は初めて見る程穏やかだった。しかし、此処から小芭内の表情にも声色にも陰が差し始める。

 

「鬼殺隊の隊士として鬼と戦う内に、心の奥底で封印していたやり場の無い思いを思い出してしまった。俺は全て、鬼にその思いをぶつけた。鬼を憎んで恨まずにはいられなかった。そして他の誰かの為に命を懸けて戦う事で、自分が"良いもの"だと思えた。」

 

「だが何時まで経っても恨みがましい濁った目をした五十人の腐った手が、俺を身体を掴んで爪を立てて離そうとしない。……だから無惨を倒して一族の罪を清算して死にたい。鬼の居ない平和な世の中を作ってから死んで、この穢れた血が浄化される事を心から望んでいる。」

 

『…………』

 

小芭内の重苦しい過去と悲痛な覚悟を聞いて、炭治郎達は何も言えず口を噤んだ。

 

「?…………炭治郎様っ。」

 

「んっ? かなたちゃん。どうかした?」

 

沈黙していた炭治郎は、自分の身体にすっぽり包まれているかなたに声を掛けられて反応した。

 

「何か……伊黒様のお話に何か、()()()を感じませんか?」

 

()()()……っ?」

 

炭治郎はかなたの指摘を聞いて、思わず首を傾げた。自分が小芭内の話を聞いた所、違和感を感じなかったからだ。

 

しかし、小芭内の話を聞いて違和感を感じていたのは、かなただけでは無かった。尤も、それは最初から感じたのではなく、かなたが疑問に思って連鎖する様に感付いたと言う様子であったが。

 

「……あれ?  でも、うーん……。」

 

「姉様。やっぱり、何かおかしいですよね?」

 

「伊黒家は蛇羅尼の隠れ蓑でしょう?…それを簡単に放棄?」

 

「……」

 

ひなきが悩む様に声を上げると、にちかが肯定する様に声を掛ける。くいなも、自身が疑問に思っていた事をはっきりと口にした。輝利哉だけは、右手を顎に添えて何も言わずに思案していた。

 

「っ!……まさかっ。」

 

唯一沈黙を貫いていた輝利哉は、ある可能性に気付いて両眼を見開きながら声を上げた。

 

「如何なさいましたか? 輝利哉様。」

 

小芭内はそんな輝利哉の様子が気になって尋ねる。ひなき達の様子も気になっていたのか、小芭内を追随する様に輝利哉を見詰めた。

 

「……小芭内。これは私の考察に過ぎない。後で妄想だと一蹴してくれても構わないから、聞いてくれないか?」

 

「っ!? とんでもございませんっ。一蹴だなどと恐れ多い……俺で良ければ、輝利哉様の御話を聞かせて頂きます。」

 

小芭内は輝利哉に一礼して、話を聞く事を承諾した。すると輝利哉は一度深呼吸すると、小芭内と視線を合わせてから話し始めた。

 

「結論から言うと……伊黒一族を五十人も蛇羅尼に殺されたのは、少なくとも小芭内の脱牢がその理由である可能性は無いと思うよ。」

 

「「!?」」

 

「「「「……」」」」

 

輝利哉の考察を聞いて、炭治郎と小芭内は大きく両眼を見開いて驚愕した。一方でひなき達は同意見だったのか、輝利哉の考察に口を挟まずに傾聴していた。

 

「う~ん。無いは言い過ぎたかな? でもその可能性も、私は限り無く低いと思うんだ。」

 

「……輝利哉様。何故その様な事が言えるのでしょうか? 少なくとも、俺が脱牢した後に殺されている事実に変わりはありません。」

 

小芭内は真剣な表情を浮かべて、輝利哉にそう強く断言した。そんな小芭内の気迫に怯える事も圧倒される事も無く、輝利哉は小芭内に反論した。

 

「考えても見て欲しい。蛇羅尼にとって、伊黒一族は便利で都合の良い駒だ。小芭内を脱牢させてしまった失態を償わせるって名目で二、三人程度なら見せしめに殺したりしても、いきなり全員を殺すなんて馬鹿な真似をするとは思えないよ。」

 

「っ!!……恐れながら、輝利哉様。竈門禰豆子を筆頭に、珠世や愈史郎と言った特殊過ぎる鬼は兎も角……蛇羅尼の如き普通の鬼を人間の定義で当て嵌めるのは、間違っているかと思います。」

 

輝利哉の仮説を聞いても、小芭内は頑なにそれを強く否定した。これもまた一方的では無い主従関係だからこそ得られる、明確な意思を持った論議であった。

 

「そうだね。確かに小芭内が言っている事は、誰も否定出来る要素が無い。蛇羅尼が怒りに任せて殺戮を繰り広げたと、普通に考えれば誰もがそう思う筈だ。」

 

輝利哉は小芭内が思っている殺戮の要因について、そう肯定した。

 

「……それでもね、小芭内。私の仮説には、もう一つだけ根拠があるんだよ。」

 

「っ!……では、その根拠が原因で蛇羅尼は五十人もの人間を殺害したと言うのですか? 輝利哉様。」

 

小芭内は食い入る様に見詰めながら、仮説についてそう尋ねた。その言動を鑑みれば、明らかに輝利哉が打ち立てた仮説に興味を惹かれていた。

 

『……』

 

小芭内だけで無く、炭治郎達も輝利哉が打ち立てた仮説には興味があった。一切口を挟む事無く、輝利哉が語り出すのを静かに待っていた。

 

「私の仮説だけど……蛇羅尼は腹癒せや見せしめに五十人を殺したんじゃない。自分が其処に居た痕跡を消したくて、口封じの為に伊黒一族を根絶やしにしようと考えたんだと思うんだ。」

 

「「!?」」

 

輝利哉の大胆な仮説を聞いて、炭治郎と小芭内は驚愕した。しかし同時に疑問もまた、その胸中に生まれた。

 

「口封じって……何の為に?」

 

「炭治郎。考えられる理由は、唯一つだ。槇寿郎が八丈島に来たからじゃないかな?」

 

「っ!!……槇寿郎様がっ?」

 

炭治郎が疑問に思うと、即座に輝利哉が答えた。輝利哉が答えた内容に小芭内が驚いていると、輝利哉は首肯してから自身の仮説について話を続けた。

 

「蛇羅尼が十二鬼月でも無いのに七百年以上も生きて来たと言う事は、それだけ鬼殺隊の網に引っ掛からない様に極めて慎重に活動をしていたと想定出来る。」

 

「つまり頭の回転が速く、情報収集や探知探索能力に長けていた。人間(ひと)を殺しても鬼の仕業とバレない様に工作して、鬼殺隊とは発見しても戦わずに逃げる事に徹していたんじゃないかな?」

 

「「!」」

 

輝利哉の推察に、炭治郎と小芭内は息を呑んだ。しかし輝利哉の仮説に対する説明は、まだ終わってなどいない。

 

「もしそうなら、今の今まで発覚していなかったと納得出来る。鬼殺隊も鬼の姿が無ければ、狩り様が無いからね……そうして慎重に生きて来た蛇羅尼だけど、ついに捜査の網が八丈島に広がって槇寿郎が調査をしに来た。」

 

「此処まで来ると、もう八丈島は放棄するしか生き延びる術は無い。そして蛇羅尼にとって自分の存在を知り尽くしている伊黒一族は、どんなに便利な手駒であろうと此処に来てはただ自分の足を引っ張る、邪魔な存在に成り下がった。だから口封じの為にも、伊黒一族を皆殺しにした……これが実際の真相なんじゃないかって、私は思うよ。」

 

「……」

 

輝利哉の仮説の全容を聞き終えた炭治郎は、素直に感嘆する他に無かった。吟味すればする程、その仮説が的を射ているのではないかと思う程だ。

 

「……っ。」

 

小芭内もまた、輝利哉が立てた仮説の全容を聞いて感嘆していた。しかし炭治郎の如く素直に受け止めれず、また納得している様子は見せなかった。

 

「尤も、これは私が語った事は飽くまでも仮説だ。父上にお尋ねすれば、もう少し事件の真相が分かるかもしれないけれど……それでも想像の域を超えないだろうね。つまらない妄想だと、はっきり言ってくれても構わないよ。」

 

「っ!?……いえ、とんでもない。」

 

苦笑しながら自嘲する輝利哉に、小芭内は恐縮した様子で頭を下げた。

 

「でもね、これだけははっきり言わせて貰う。小芭内の考えと私の仮説……どちらも肯定する事など出来なければ、明確に否定するだけの証拠も存在しないと言う事がね」

 

『!』

 

輝利哉は開き直る様に、真相は誰にも分からないのだと笑って見せた。要するに、気にし過ぎるなと言いたいのだと炭治郎達にも分かった。

 

しかし、実はと言うとこの輝利哉の仮説は大いに的を射ていたのだ。

 

蛇羅尼は通常の鬼に比べて少食であった。また弱者に対しては強気で傲慢に振る舞えても、強者には只管に媚び諂い平身低頭な姿勢を見せる小者であった。

 

これらの理由だけで無惨に嫌われそうなものだが、蛇羅尼は熱を感知する血鬼術を用いての情報収集や探知探査能力が非常に優れていたのだ。

 

この血鬼術を駆使する事で強者や稀血を無惨や上弦の鬼に知らせて譲渡するなどして、無惨に評価されていた。また青い彼岸花の捜索にも役立つのではないかと期待されたので、通常の鬼よりもある程度気に入られていた。

 

尤も、この血鬼術は青い彼岸花の捜索には何一つ役に立たない代物であった。更に血を与えても蛇羅尼の見かけ倒しの身体では耐えられないだろうとも酷評され、血を分け与えて貰う事は終生無かったのだが。

 

他には強奪した金品も伊黒一族だけでなく、無惨にも献上していた事で無惨の財源確保の一端を担っていると言う献身も評価されていた。

 

蛇羅尼は人間を狩る際も細心の注意を払い、鬼の仕業と勘付かれない様に気を付けた。八丈島では極力事件を起こさず、なるべく本土で人間狩りと金品の強奪を行っていた。

 

それも殺害対象が突然の失踪を起こした。または強盗殺人に遭ったと見せ掛けた。時には放火殺人を起こした上で、人間を狩っていたのである。そして一度事件を起こした場所には、少なくとも数年単位は絶対に近付かなかった。

 

そうして慎重に生きて来た蛇羅尼であったが、その綻びは唐突に生まれた。

 

現代の財務省の前身である大蔵省に勤務する役人が、伊黒一族の不審な大金の流れを発見してこの事実を纏めた報告書を、上司である高官に報告したのである。

 

収入が不透明であるにも関わらず、する必要性など全く無い無駄に派手で贅沢三昧な生活をしている事実が、行政に目を付けられた原因であった。要するに、支出が収入を遥かに上回っていたのである。

 

高官は役人の報告書を元に詳細な調査を行うと、大金の出処の一部が価値のある骨董品や宝石類、黄金や貴金属の売却で得られた利益である事が発覚。そしてそれらの一部の品々を所有していた嘗ての所有者は、不自然な失踪を行った行方不明者や強盗殺人事件の被害者と分かったのだ。

 

これが普通の高官ならば警察に通報して捜査を依頼する所だが、小芭内にとっては幸運で蛇羅尼にとっては不幸な事にこの調査を行った高官は産屋敷家傘下の人間であり、鬼の関与を疑い警察では無く産屋敷家に直接報告を行った。

 

高官の報告を受けた当時十四歳だった耀哉は、当時の炎柱・煉獄槇寿郎に直様、八丈島へ出立する様に指令を下す。

 

産屋敷家が手配した臨時船に揺られて八丈島に到着した槇寿郎だったが、その直後には蛇羅尼が動いていた。

 

熱探知により槇寿郎の存在を知った蛇羅尼は嘗て無い程の生命の危機を覚え、自身が八丈島に居た痕跡を跡形も無く抹消すべく伊黒一族の抹殺を目論んだのだ。

 

金品の見返りの為とは言え、長年自身の世話を甲斐甲斐しく熟し、大好物の赤ん坊を定期的に提供してくれた伊黒一族であったが、自身の生命に比べれば然程の価値などある筈も無く、全てを抹殺する事に躊躇など一切無かった。

 

伊黒邸に居た伊黒一族を皆殺しにした蛇羅尼だったが、その時になって漸く小芭内が脱牢している事に気付いた。

 

同時に小芭内の従姉妹の姿も見えなかったので、蛇羅尼は二人を殺害して八丈島を脱出するべく、先ずは小芭内を優先する事にしたのだ。

 

結局間に合わず、槇寿郎に頸を斬り落とされて結局死亡する事になるのだが、それは因果応報と言うものである。

 

結果論としては先に小芭内の従姉妹を殺害してから小芭内を狙ってくれた方が、要らぬ心的外傷(トラウマ)を植え付けられずに済み、後々の小芭内の為になったのだが其処は運命だと思って諦める他に無かった。

 

――伊黒さんの従姉妹の人……その後はどうなったんだろう?……とてもじゃないけど聞く勇気が持てないや……。

 

炭治郎は小芭内の従姉妹がどうなったのか思わず聞きたかったが、如何に時折空気を読まずにズカズカと恐れず質問する炭治郎でも、この場においてはその禁断の議題を口外する勇気は無かった。

 

実はこの疑問を抱いたのは炭治郎だけではなく、小芭内自身も抱いていた疑問でもあった。

 

小芭内は柱になった後、大金を払ってその従姉妹がどうなったのか密かに調査を行っていた。

 

すると従姉妹は何ら社会的な罰を受ける事は無く、家族を一夜に失った悲劇の主人公(ヒロイン)となって八丈島の全島民から同情されていた。従姉妹もその様に振る舞う事で島民達から愛され支援されながら育った。

 

大蔵省から税金として幾分か徴収されたものの、他人から強奪し続けて集めに集めた莫大な資産はそのまま相続され、屋敷にもそのまま居座った。それから優しい且つ有能な男性と見合いで出会い結婚し、子宝にも恵まれて幸せに暮らしている事実を小芭内は知ったのだ。

 

その事実を知ってしまった当時の小芭内の心境は、推して知るべしとしか言い様が無い。

 

「……実情はどうだろうと、俺は……俺が穢れた血の一族の血を引いている事実に、何も変わりはありません。無惨を倒して死にたい。それで俺の、一族の大罪が浄化される事を心から願っている。」

 

『……』

 

「……小芭内。無惨を倒すと言う大願成就や一族どうこうの罪の意識などに関係無く、ただ単に君が死にたがっている様にしか私には見えないよ。」

 

小芭内の自殺願望を見抜いた輝利哉は、もの悲しそうな表情を浮かべながら小芭内を見詰めていた。

 

「……」

 

輝利哉からそんな憐憫な視線を向けられて、小芭内は感じ悪気に露骨に視線を逸した。

 

――うーん。どうしたら良いかな?……この事実を話したら、小芭内の考えも変わるだろうか?……でも私の一存で、産屋敷家の恥部を晒して良いものか……。

 

小芭内の様子を見て、輝利哉はどうすれば良いのか悩んでいた。しかし、その葛藤も刹那と言っても良い程の短いものであった。

 

――……悩むなんて馬鹿馬鹿しい。それで小芭内一人救えるなら、安いものじゃないか……父上っ。輝利哉の勝手を御許し下さい。

 

輝利哉は心中で耀哉に謝罪し、意を決してある事実を話す事をした。そして小芭内は輝利哉がこれから発した衝撃の一言を聞いて、思わず騒然としてしまう。

 

「小芭内が言っている事が道理なら私達、産屋敷家は此の世で最も罪深い一族になるだろうなぁ。」

 

「「っ!?!?」」

 

不意に呟いた輝利哉の一言を聞いて、炭治郎と小芭内は限界まで両眼を見開いていた。

 

「「「「……っ。」」」」

 

ひなき達は輝利哉の言おうとする内容の意図を理解しているのか、何も言わなかったが眉だけ一瞬顰めていた。

 

「あの、輝利哉君。それはどう言う意味なのかな?」

 

炭治郎は輝利哉の言っている内容が未だに理解出来ず、思わず輝利哉に尋ねた。小芭内も気になるのか、咄嗟に同意する様に炭治郎を一瞥してから、再び輝利哉に視線を戻した。

 

「炭治郎。実はね…………鬼舞辻無惨は、産屋敷家の人間だったんだよ。」

 

「「…………!!!!??!?!?」」

 

炭治郎と小芭内は刹那の間、輝利哉が何を言っているのか分からなかった。そして漸く脳が輝利哉が口にした衝撃発言の内容を理解して、天地がひっくり返ったかの様な衝撃に見舞われた。

 

炭治郎と小芭内は輝利哉に向かって何か言いたかったが、あまりの衝撃に両眼と口を動かすのが精一杯で何も言う事が出来なかった。

 

滑稽とも言える炭治郎と小芭内の行動を見て、輝利哉はクスクスと笑いながら話を続け始めた。

 

「これは紛れも無い事実だよ。無惨が生まれた鬼舞辻家は、産屋敷家の分家の一つでその筆頭だった。そして無惨を輩出してしまったが為に、産屋敷家は短命の呪いを受けてしまったのだから。」

 

「「!!!」」」

 

切なそうにそう言った輝利哉を見て、炭治郎と小芭内は輝利哉がこれから語るであろう産屋敷家にとって秘中の秘である黒い歴史に備えて、騒がずにただ静かに傾聴する事を決意した。

 

輝利哉が口にした産屋敷家の黒い歴史は、要点を纏めると以下のものであった。

 

・栄華を極めていた産屋敷家で突然、宗家分家問わず幼くして死ぬ人間が続出。神主が占うと『同じ血筋から鬼が出ている。その不届き者を倒す為に心血を注げば、産屋敷家が断絶する事は無い。』と宣告された。

・産屋敷家が調査した結果、鬼舞辻無惨の存在が発覚。無惨は既に逃走。無惨の存在を隠蔽していた罪で、鬼舞辻家は取り潰しになった。

・無惨を倒す為に表舞台から消えた産屋敷家は神職から代々妻を娶る事で、寿命を少しずつ伸ばして来た。それでも三十歳まで生き延びた者は皆無。あまねの実家も神職の名門である神籬家出身。

・男性は一人のみしか、生存不可能。男性が複数居る場合は幼少期に、急病による突然死や事故死と言う不運に見舞われて一人しか生存出来ない。

・女性は十三歳までに婚姻して産屋敷の姓を捨てなければ、何らかの要因で死亡してしまう。

 

「そんな……っっ。」

 

炭治郎は産屋敷家に掛けられた呪いについて真実を知ると、思わず悲しそうに顔を歪めた。

 

「この事実は他の皆には、内緒にしておいてね?……小芭内。」

 

「っ!……ぎょっ、御意っ! 口が裂けても口外致しません。」

 

「!!……フフッ、そういう意味で声を掛けた訳じゃなくてね……。」

 

小芭内が口にした返答の内容が面白かったのか、輝利哉は笑いながらそう答えた。

 

「小芭内。無惨を輩出してしまった産屋敷家は……父上も母上も私も姉上達も、全員が罪深い存在だと思う?」

 

「っ!!?……とんでもございません。罪深いのは鬼舞辻無惨一人であり、産屋敷家の方々に罪などあろう筈が無いっ……っ!」

 

小芭内は輝利哉が言っている内容に狼狽しながら、慌ててそれを否定した。

 

尊崇している産屋敷家に罪など一欠片も無いと思っている上に、無惨を倒す為に全身全霊を捧げている産屋敷家を侮辱するなら小芭内は誰であろうと容赦はしないであろう事は、即答して見せたその姿から見て取れた。

 

「そう言ってくれて嬉しいよ……でもこれで小芭内も自分に罪が無いって思ってくれる様になったら、もっと嬉しいかな?」

 

『!!!』

 

輝利哉が口にした言葉の意図を理解出来ない愚者は、温泉内には居なかった。秘匿されていた産屋敷家の黒い歴史を口にしてでも、小芭内の意識を変えたかったのだ。

 

「輝利哉様の御優しい御気持ち、恐悦至極に存じます……しかし恐れながら、産屋敷家と伊黒家では全てにおいて天地の次元を凌駕する程の差があります。」

 

『!!』

 

「一千年も前から鬼舞辻無惨を倒す為に全身全霊を注ぎ、人々の為に御貢献されている産屋敷家と……他人(ひと)様から強奪した金品で屋敷を構え無駄飯を食らい、する必要性も無い贅沢をする。その恥を恥とも思わない、業突く張りで見栄っ張りの醜い伊黒家とは、存在価値が違うのです。」

 

しかし小芭内は飽くまでも頑なであった。産屋敷家と伊黒家では全く違う存在だと言って、飽くまでも自意識を変えようとはしなかった。

 

「……()()()が悲しむよ。」

 

「!!!」

 

そんな無意識に意固地になっている小芭内に対して、輝利哉もまた簡単に諦める様な真似はせずその様に言って諭した。

 

輝利哉が言葉に発したその一言は、小芭内に衝撃を齎すのに十分だった。

 

「輝利哉様っ……俺にはそんな母親など居ません。そんな家族は、望んでも得られやしなかったっ!」

 

「そんな事は無いっ!」

 

「!」

 

小芭内が叫ぶと、今まで沈黙を貫いていた炭治郎が負けじとそう叫んで小芭内が言った事を否定していた。

 

「竈門炭治郎……。」

 

「家族って言葉は、何も血が繋がった人達の事だけを指す言葉じゃないっ!!……自分で先刻(さっき)まで楽しそうに語っていた煉獄家の人達は、伊黒さんにとって大切な家族じゃないんですかっ!!?」

 

「!!」

 

炭治郎がそう叫ぶと、小芭内はハッとした表情を浮かべた。其処へ間髪入れずに、輝利哉も話に加わった。

 

「炭治郎の言う通りだよ、小芭内……たとえ一緒に過ごした時間が僅かであっても、産みの母以上に大切な育ての母が、君には居るじゃないか。」

 

「っ!!」

 

輝利哉の説得を聞いて、小芭内が尊敬してやまない唯一の女性、瑠火の姿が脳裏に鮮明に浮かび上がった。

 

「もし小芭内に罪があるなら、蛇羅尼の生贄にされる為だけに生まれて死んだ赤ん坊達にも罪がある事になってしまう。だからその赤ん坊達の名誉の為にもはっきり言わせて貰う。」

 

「此の世の誰が何と言おうと、小芭内に罪などありはしない。此の世に小芭内を誕生させた神仏の英断に、私は心から感謝したい。そしてそんな小芭内を鬼殺隊に迎え入れられた事を心から光栄に思っているし、それを誇りにも思っている。」

 

『っ!!!』

 

父親の耀哉を連想させる輝利哉の凛々しい姿を見て、炭治郎達は圧倒されていた。また輝利哉が口にした称賛と感謝の言葉の数々が、小芭内の心の奥底に封印されていた、ある出来事を不意に思い出させていた。

 

『小芭内。貴方に罪はありません。どうか自分を追い詰めないで下さい。』

 

『此の世の誰もが、正道(みち)を外れない限り、幸せになる権利があります。だから小芭内も幸せになる事を、諦める必要など無いのです。』

 

『誰が何と言おうと、貴方も私の大切な息子です……小芭内の親にも成れて、私は幸せでした。』

 

――っっ……瑠火様っ……義母上っ。俺も貴女の様な素晴らしい女性(ひと)に、息子と認められて光栄でした。

 

小芭内は逝去する前に瑠火に言い聞かされた言葉の数々を思い出して、思わず胸に手を置いた。

 

「…………良しっ! 決めたっ!!」

 

『?』

 

炭治郎が何かしらの決断を下した様子で、温泉から勢い良く立ち上がった。すると小芭内の正面まで移動して、正座してから小芭内と向き合った。

 

「俺、今後は……いやっ! 今から伊黒さんの事は、小芭内さんって名前で呼びますからっ!!」

 

「っ?…………はぁっ!?!?」

 

『!』

 

炭治郎の唐突過ぎる決断の内容を聞いて、小芭内は酷く周章狼狽する他に無かった。輝利哉達も驚きはしたものの、何も言わずに状況を見守った。

 

「巫山戯るなっ!? 何故俺が、貴様に名前で呼ばれなければならないっ!!?」

 

「だって小芭内さんっ! 伊黒って苗字は大嫌いだけど戒めの為に名乗っているだけで、小芭内って瑠火さんが名付けてくれた名前は大好きなんですよね? だったら俺は小芭内さんが大好きな名前の方を呼びますっ!!」

 

「っ!?……ぐっ!!?」

 

自分は正しく何も間違ってはいないのだと言わんばかりに、曇り無きキラキラとした視線を炭治郎から受けて小芭内は思わずたじろいだ。

 

「っ!……っっ!!?」

 

炭治郎に反論したかった小芭内であったが、安易に否定すればそれは瑠火を否定する事に繋がってしまう。

 

その為に小芭内は炭治郎に対して何も言う事が出来ず、酸欠状態の魚の如く口をパクパクと動かす事しか出来無かった。炭治郎が言っている内容は正しかった上に、瑠火を否定する事などたとえ死んでもしたくなかった。

 

「っ!(ガリッ!)」

 

結局炭治郎の言い分に対して、小芭内はその斬り裂かれた口で名一杯歯軋りして苛立ちを抑える他に無かった。

 

「……プッ!……あっはははははっ!!」

 

「「!」」

 

其処に楽しそうな笑声が温泉内に広がった。炭治郎と小芭内は直ぐに、その笑声の下を辿る様に視線を向ける。

 

「あはははっ!」

 

其処は面白可笑しそうに爆笑する、輝利哉の姿があった。その姿は先刻までの年齢不相応な大名門の嫡男としてでは無く、何処にでも居る普通の美少年であった。

 

「輝利哉様……。」

 

「「「「クスクスッ……あはははっ!」」」」

 

「!」

 

するとひなき達も輝利哉に釣られて、同様に楽しそうな笑声を上げ始めた。その姿もまた、何処にでも居る年齢相応な普通の美少女にしか見えなかった。

 

「ぐっ……ひなき様達まで……。」

 

「クスクスッ……小芭内、君の負けだね。」

 

「………………はっ。」

 

輝利哉は引き続き笑いたい衝動を必死で抑えながら小芭内にそう言うと、小芭内は炭治郎に言い負かされた事実を悔しく思えば良いのか、輝利哉達を喜ばせた事実を嬉しく思えば良いのか分からない、複雑な表情を浮かべていた。

 

「シュルルルルルルルッ。」

 

そんな葛藤している小芭内を、鏑丸だけが静かに慰めていた。しかし鏑丸の顔は蛇であるが為に判り難いながらも、何処か嬉しそうな表情を浮かべている様に見えた。




お待たせ致しました。

今回ですが小芭内を救う為の仮説、皆様はどう思われますでしょうか? 賛同して下さったならば、私としては嬉しく思います。

宣伝
日の出様 https://www.pixiv.net/artworks/85188695

今作でアイデアを参考にさせて頂いた、素晴らしい絵師様です。多くの鬼滅ファンを感動させた名作を、是非ご覧になって下さい。他にも義勇中心の鬼滅漫画が多数あります。そちらも是非どうぞ。


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第伍拾参話 日輪は白蛇に託される ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「……所で竈門炭治郎、俺はお前に一つだけ聞きたい事がある。」

 

「はいっ! 小芭内さんっ! 俺が答えられる事なら、何だって聞いて下さいっ!!」

 

「……」

 

炭治郎から名前を呼ばれた小芭内は、内心げんなりしながらも気を取り直して聞きたい事を尋ねた。

 

「随分と、甘露寺と馴れ馴れしくしていたな……何時からだっ?」

 

「……はいっ?」

 

「何度も言わせるな。お前は俺の質問に正直に答えれば良い……何時から甘露寺と親しくしている?」

 

小芭内は苛立たし気に青筋を浮かべながら、再び同様の質問を炭治郎に行った。

 

「そうですね。銀座でお会いした頃からです……と言っても、一昨日の話になりますから、そんな前の話でもありませんけど。」

 

「一昨日……銀座だと?……詳しく聞かせて貰おうっ。」

 

小芭内が据わった眼をしながら、炭治郎に詳細を尋ねた。

 

「えーっと……少し長くなりますけど、良いですか?」

 

「ならばさっさと話せ。今話せ直ぐ話せ。それも簡潔に、されど詳細にだっ!」

 

「はっ、はいっ!!」

 

クワッと両眼を見開きながら迫って来る小芭内に、炭治郎は当惑を隠せないながらも銀座で自分達に起こった出来事について話し始めた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……以上になります。」

 

「そうか。これで何故甘露寺が俺達より先にこの産屋敷本邸(おやしき)に来ていて、珠世達の護衛に付いていたのかは分かった……それはそれとして、だ。」

 

小芭内は一度閉口すると、ネチッこい視線を炭治郎に向けた。

 

「栗花落カナヲとのデート(逢引)の途中で、甘露寺と会うなど……まさか分かっていたのか?」

 

「分かる訳無いでしょう!? 偶然ですってば。そもそも"煉瓦家"なんて御洒落(はいから)な西洋料理専門店の名前も、その時にカナヲに教えて貰って初めて知ったんですからっ!!」

 

炭治郎はあらぬ疑いを小芭内に掛けられて、慌てた様子で弁明していた。

 

「ふん、まぁ良い……しかし平穏で楽しいお食事会とは、すんなり行かなかった様だな?」

 

「……えぇ、まぁ……。」

 

小芭内からそう指摘されて、炭治郎は眉を一度顰めてから困った表情を浮かべつつ答える。

 

「何故、甘露寺を侮辱した豚を始末しなかった?」

 

「……はいぃっ?」

 

炭治郎は小芭内が口にしている言葉が意味する内容が理解出来ず、思わずその様に返答をした。

一見すると惚けた様子を見せる炭治郎に、小芭内は青筋を浮かべながら更に問い詰め始めた。

 

「何故その豚を始末しなかったのかと聞いているっ。甘露寺が沢山食べるのはその体質故であり、彼女の美点でもある。

食事を美味しく食べる姿だけでも周囲を幸せにすると言うのに、それを豚と例えるだと?……全く以て許し難い。万死に値する。

そしてその馬鹿豚に制裁する事無くノコノコ生かしたお前の怠慢も、実に許されざる大罪だ。どう処分する。どう責任を取らせる。どんな目に遭わせてやろうか。」

 

「お、小芭内っ!……っ!!」

 

ひなき達と黙って話を聞いていた輝利哉が、小芭内の言動を見て流石に制止に入った。しかしそんな輝利哉を、逆に片手を翳して炭治郎が静止した。

 

「小芭内さんの御気持ちはよーく分かりますけど、落ち着いて下さいよ。」

 

炭治郎は小芭内を宥めると、更に話を続けた。

 

「あの後は直ぐに甘露寺さんに謝罪して、お詫びに食事代を全部奢ってくれましたし……第一、甘露寺さん御本人が許すって言っているのに、俺が口出し出来る訳が無いじゃないですかっ! 一々無茶言わないで下さいよっ。」

 

「ぐっ!?…………まぁ良い。」

 

炭治郎の正論を聞かされて、小芭内は反論する事が出来なかった。小芭内は苛立ちを抑えつつ、頭を切り替える。

 

「そんなに甘露寺さんが好きなんでしたら、好きだとはっきり告白したら良いじゃないですか。」

 

『!』

 

炭治郎は呆れ果てた様子で、小芭内に蜜璃へ告白する事を推奨した。炭治郎は更に話を続ける。

 

「甘露寺さんと一緒に居る時、何か刺さる様な視線を頻繁に感じてましたけど・・・それって小芭内さんだったんですね。甘露寺さんに好きって言うか、もう大好きとか愛してるって言える程強い匂いを常に出しているから、今思うと納得です。かなりと言うか、俺からしたら本当に大迷惑な話ですけど。」

 

『!!』

 

小芭内に対して一切取り繕う様子も無く、無遠慮且つ馬鹿正直に自身の感想を述べる炭治郎。

 

「……」

 

「何ですか? 言いたい事があるなら、はっきり言って下さいよ。それで? 甘露寺さんの事、小芭内さんはどう思っているんですか?」

 

「シャ――ッ。」

 

炭治郎に言いたい放題言われた小芭内は、沈黙したまま炭治郎をねちっこい視線で睨み付けるしかなかった。しかし炭治郎は、一切怯む事無く、小芭内に対して苦情を述べる様に言ってのけた。そして驚く事に小芭内至上主義の筈の鏑丸すら、炭治郎に同調する様に小芭内に声を上げる。

 

小芭内の事情を理解しつつも、蜜璃との関係には鏑丸も思う所があった模様であった。

 

「……っ。」

 

相棒の思わぬ裏切りに、小芭内は咄嗟に何も言う事が出来なかった。しかし、一度溜息を吐くと諦めた様子で炭治郎にはっきりと言った。

 

「ああ、好きだ。お前が言う様に、俺は甘露寺を愛している。」

――チッ……喩史郎(あの鬼)に続けて、嫌いな奴に連続して同じ事を言う羽目になるとはな。

 

「っ!……そうですか。」

 

炭治郎は小芭内の告白を聞いた後、即座に小芭内に尋ねた。

 

「言って貰った所を悪いですけど、それって俺達に言うべき事じゃないですよね? 早く甘露寺さんに言ってあげて下さい。」

 

『!』

 

炭治郎の無碍とも解釈出来る発言に、小芭内は思わず額に青筋を浮かべる。しかし、其処へある人物の言葉が脳裏を過った。

 

『想いを告げる勇気も無い意気地無しの(カス)如きに、嫉妬心も独占欲も抱く資格は無いっ!』

 

「……っっ。」

 

それは小芭内の心を深く抉った、喩史郎の発言であった。両眼を閉じた小芭内は湧き上がる怒りを抑えつつ、小芭内は思いを巡らせた。そして少ししてから、小芭内はカッ! と勢い良く開眼した。

 

「……俺が甘露寺に告白する事は……無い。絶対に無い。」

 

『!!』

 

小芭内はゆっくりと、されどはっきりと炭治郎達に聞こえる様にそう断言した。その断言の内容を聞いて、輝利哉達は驚かざるを得ない。

 

「どうしてそうなるんですかっ!?」

 

炭治郎も勿論驚いたが、それ以上に別の感情が炭治郎を支配していた。それは怒りであった。

 

炭治郎は小芭内を睨み付けていた。それは小芭内が蜜璃に想いを告白しない事実に対してであり、同時に小芭内から嘘や虚勢などの匂いなどなく、本心である事に怒りが湧き上がってきた。

 

「分不相応な俺が甘露寺に告白する資格など無い……輝利哉様はあれだけ仰って下さったが、どうしてもその考えだけは拭う事が出来ない。だから俺は、甘露寺に何も言う心算は無い。」

 

「そんなっ!!……小芭内さんはっ! 本当に小芭内さんはそれで良いんですかっ!?……っっ。」

 

炭治郎は小芭内の決意を聞いて、今にも泣きそうな表情を浮かべながら小芭内に尋ねた。心中で小芭内が考えを変えてくれる事を、心底祈りながら。

 

「本当にお前は、他人(ひと)の事ばかり五月蠅い……っっ。」

 

小芭内は自分以上に気に掛けて来る炭治郎に、そう言って悪態を吐いた。しかしその表情は、普段よりも大分柔らかいものとなっていた。

 

「っっ……そ、そんな事を言っていたらっ! 甘露寺さんが他の男性(ひと)に盗られちゃいますよっ!!……たっ!……例えば俺とかっ!!」

 

炭治郎は小芭内に殴られる覚悟で、挑発する様に小芭内を焚き付けた。炭治郎はどうしても、小芭内の考えを変えたかった。

 

「……ふっ。」

 

しかしその様な見え透いた炭治郎の思惑を看破して、小芭内は鼻で炭治郎を嗤った。

 

「なら、お前は甘露寺を手に入れようと言うのか?……竈門炭治郎、お前は甘露寺を何と思っている? 甘露寺はお前にとって、どんな女性なんだ?」

 

「!?」

 

小芭内から想像もしていなかった、思いもよらぬ質問に炭治郎は困惑を隠せない。

 

――下手な誤魔化しなんてしたら、逆に怒るよなぁ……自分に気持ちに嘘なんて吐きたくないし、それで殴られるなら構わない。

 

「……」

 

炭治郎は自分の気持ちを形にすべく、閉口したまま思案していた。

 

「……小芭内、君は本当にそれで良いの?」

 

「はい、輝利哉様。此処に来て漸く、俺も自分に区切りを付けられそうです。」

 

炭治郎が思案している間に、輝利哉が小芭内に質問をしていた。その表情は、小芭内の気持ちを慮って心配そうにしていた。

 

そんな輝利哉の思い遣りに感謝しつつ、小芭内は清々しさすら感じる表情を浮かべてはっきりと断言した。

 

「……はいっ! 甘露寺さんの事は、勿論好きですっ。」

 

『!』

 

其処へ炭治郎の、単純明快な肯定の返答が聞こえて来た。小芭内は勿論、輝利哉達も反応する。しかし、炭治郎の肯定はこれだけでは終わらなかった。

 

「とっても明るくて、優しくて、本当に満開のお花みたいに綺麗で可憐な女性(ひと)ですよね。桃色の髪の毛と大食漢な一面は普通の人には受け入れがたいかもしれませんけど、あれこそ甘露寺さんの美点ですから変だなんて思いません。あんなに可愛くて外面も内面も素敵な甘露寺さんを、好きにならない訳が無いじゃないですか。」

 

炭治郎は其処まで言うと、一旦沈黙して小芭内を真っ直ぐ見た。

 

「甘露寺さんを手に入れたいなんて傲慢な考えを、俺は微塵も持ち合わせていません。ただ、甘露寺さんに素敵な出会いがあればと、心から願っています……甘露寺さんは、俺達が失ってしまった掛け替えの無い日常を象徴する様な方だから……そんな女性(ひと)だからこそ、生き残って幸せになって欲しい。そう思っています。」

 

「…………そうか」

 

「まぁ、その……生き残って欲しいって言葉は、皆に当て嵌まる事なんですけどねっ!」

 

照れ臭そうに笑う炭治郎。しかし炭治郎が持つ蜜璃への考え方を聞いて、小芭内は一言だけ呟いた後はただ思案する為に沈黙していた。

 

「……及第点、だな……こんな奴でも、他の奴らよりマシか……。

 

「えっ?」

 

小芭内が小声で一言呟いたのだが、炭治郎は内容が聞き取れず聞き返した。

 

「何でも無い。お前が気にする事じゃない。」

 

内容を聞きたそうにする炭治郎に、小芭内は無視して沈黙させた。それから小芭内は一度身体を動かして、背中を壁際に凭れ掛けた。

 

「俺は改めて、人生の目標が出来た。と言っても、実際は何も変わっていないがな。再認識した、とでも言うべきか。」

 

小芭内は其処で一旦言っている事を止めると、決意を新たに語り始めた。

 

「鬼舞辻無惨を、この手で倒す。そして甘露寺が生き残って、幸せな人生を歩める様に守り抜く。ただそれだけだ。」

 

「っ!…… ええっ! そうですねっ!!」

 

小芭内の悲願とも言える決意を聞いて、炭治郎は笑みを浮かべながら心底同意した。

 

「小芭内さんっ! 俺と一緒に無惨を倒して、甘露寺さんを守りましょうねっ!!」

 

「!」

 

炭治郎にそう呼び掛けられた小芭内は、しばし沈黙したまま炭治郎を見詰めた。

 

「……」

 

しかしそれは殆ど刹那とも言える僅かな間だけで、直ぐにジト目に炭治郎を睨み付けた。

 

「お前は先ず柱になれるだけの強さを手に入れてから、そう言った大口を叩け。この足手纏いの厄介者がっ。」

 

「はいっ! 日々精進しますっ!!」

 

「っ!…………フンッ。」

 

小芭内の叱咤激励が混じった悪態を聞いて、炭治郎はただ精進する事を約束した。そんな炭治郎の調子を受けて、小芭内は小さく鼻を鳴らした。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「炭治郎様、おめでとうございますっ……。」

 

炭治郎と小芭内が一頻り話し合いを終えたのを見計らって、ひなきが炭治郎に祝福の言葉を掛けた。

 

「ひなきちゃん?……っ?」

 

「うふふっ……炭治郎様が伊黒様……いえ、小芭内様と仲良くなられて、私達は嬉しいと思っているのです。」

 

「「!」」

 

ひなきが嬉しそうにそういうと、炭治郎と小芭内で二者二様の反応を見せた。

 

「「……」」

 

炭治郎こそ嬉しそうに笑みを浮かべたが、小芭内は顔を顰めそうになるのを必死で堪えていた。何か言えば藪をつついて蛇を出す様な真似だと分かっているのか、沈黙を貫いていた。

 

「姉上、小芭内を揶揄わない様に……。」

 

「ごめんなさい、あははっ。」

 

輝利哉がひなきを注意すると、ひなきは笑いながら謝罪した。

 

「……っ!」

 

炭治郎は輝利哉達の様子を見て、ある事に気付いた。そして徐に立ち上がった。

 

「輝利哉君っ。ひなきちゃん達も。長風呂になっちゃったね。もう急いで上がろうか?」

 

『!』

 

小芭内の話が思うよりも長引いてしまったので、思うよりも長風呂になってしまったのだ。まだ小柄な子供である輝利哉達が、年上の炭治郎と小芭内と同じ時間も温泉に入っていられる訳が無い。

 

炭治郎は輝利哉達の匂いと顔色を見て、温泉から上がる事を推奨した。これ以上居れば、輝利哉達がのぼせかねない。そう心配した炭治郎は、急いで温泉から上がろうとしたのである。

 

「炭治郎様、お気遣い下さってありがとうございます。でも……っ。」

 

ひなきは炭治郎の優しさと心遣いに、感謝して頭を下げた。輝利哉達もひなきに続けて、炭治郎に頭を下げる。しかしひなき達が頭を上げると、困った顔色を宿していた。

 

「ひなきちゃん、皆もどうかしたのかい?」

 

炭治郎はひなき達の困った様子に気付いて、何故困っているのか理由を知るべく尋ねた。

 

「……はい、そのっ……。」

 

ひなきが口を詰まらせていると、くいなが代わりに開口する。

 

「炭治郎様、私達は全裸(はだか)男湯(此処)に来てしまったので……そもそも着替えがっ……っっ。」

 

「あっ!?」

 

くいなにそう言われて、漸く炭治郎はひなき達が困っている理由を思い出した。

 

そもそもひなき達が男湯に居るのも、炭治郎達の騒動を聞き付けて炭治郎を心配するあまり衝動的に駆け付けて来たのだ。咄嗟に飛び出して来てしまったので、着替えは女湯の更衣室に置き去りにしてしまっていた。

 

「じゃあ……ひなきちゃん達の着替えは女湯の更衣室にある訳だね?」

 

「……はいっ。」

 

「ですが、恥ずかしくてとても着替えを取りに行く勇気が……っ。」

 

ひなきが恥ずかしそうに肯定すると、にちか達も続けて首肯した。更にかなたが取りに行く事が出来ない理由も、恥ずかしそうに炭治郎に伝えていた。

 

「…………良しっ! 分かったっ!」

 

『!』

 

ひなき達が困っている様子を見て、炭治郎は自身を鼓舞する様に大声を上げた。そんな炭治郎の大声に、輝利哉達も反応する。

 

「俺が女湯に忍び込んで、ひなきちゃん達の着替えを取りに行って来るよ。」

 

「……えぇっ!?」

 

『!?』

 

炭治郎の決意に、輝利哉を筆頭にひなき達全員が驚きの声を上げる。しかし、炭治郎はそんな輝利哉達に声を掛けた。

 

「ひなきちゃん達を、このままにしておく訳には行かないでしょう?……俺は鼻が利くから、他の誰か来ないか事前に分かるし……何だったら間仕切り越しを飛び越えて、男湯(此処)に戻って来るよ。」

 

『!』

 

炭治郎が成功する根拠を口にして、輝利哉達を説得した。炭治郎の言い分も正論である為、輝利哉達は反論出来ない。

 

「炭治郎様、御迷惑をお掛けして申し訳ございません……お手数ですが、どうかよろしくお願い致します。」

 

ひなきが謝罪した後、ゆっくりと頭を下げて炭治郎に依頼した。ひなきが頭を下げると、にちか達も遅れて頭を下げた。

 

「炭治郎、姉上達がごめんね?……頼んだよ。」

 

「うん。輝利哉君、任せておいて。」

 

輝利哉が詫びる様に炭治郎に謝罪した後、託す様に依頼を行った。

 

「……早く行け。これ以上、騒ぎを起こすなよ。」

 

「分かってますよ、小芭内さん。」

 

沈黙を貫いていた小芭内が、激励なのか忠告なのか、解釈が難しい言葉を炭治郎に掛けた。炭治郎はそれを激励と解釈して、笑顔でそれに答えた。

 

「行ってきます!」

 

炭治郎はそういうと、一足先に男湯から上がって行った。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……つ、疲れたっ……っっ。」

――もう、二度としたくない……っ。愈史郎さんの『紙眼()』が一枚でもあれば、こんな苦労なんてせずに済んだのに……っっ。

 

炭治郎は疲労困憊と言わんばかりに、ぐったりとした様子で廊下を歩いていた。

 

他人が更衣室に近付いていないかを神経質な程にその超人的な嗅覚で確認しながら、見事更衣室でひなき達の着替えを回収する事に成功した。

 

しかし来ないと分かっていたとは言え、女湯に忍び込む事は想像以上に神経が磨り減る行為であった。

 

そんな疲弊している炭治郎と共に、輝利哉達も全員共に廊下を歩いていた。

 

「炭治郎、姉上達の為にありがとう。」

 

輝利哉が代表して、炭治郎に礼を述べた。ひなき達も続けて、炭治郎に頭を下げた。

 

「ううん、ひなきちゃん達の為だもの。当然だよ…………っ。」

 

炭治郎はそう言って、輝利哉達の礼に答えた。しかし、同時にある事も回想していた。

 

――良い匂い……してたんだよなぁ。やっぱりしのぶさん達が居たんだと思うと……っっ。

 

炭治郎は女湯で僅かに残っていたしのぶ達の残香を明確に嗅ぎ取って、しばしその場を動けなかったのである。

本人の方が勿論良いのだが、炭治郎だからこそ僅かな香りだけでしのぶ達本人を明確に連想出来ていた。

 

「……炭治郎様?」

 

そんな惚けている炭治郎の様子を、輝利哉達が気付かない筈が無い。歩きながら上の空状態である炭治郎に、にちかが思わず炭治郎を呼び掛けた。

 

「はいっ!? な、何かなっ? にちかちゃん。」

 

我に返った炭治郎が、慌てた様子でにちかに返答した。炭治郎本人はこれで誤魔化せた心算であったが、逆に不審さが強調されていた。

 

「竈門炭治郎……何を考えていた?」

 

「!?」

 

小芭内が炭治郎を睨み付けながら、問い詰める様に強く訊ねた。

 

「えっ!? お、小芭内さんっ!? 俺はっ!? あのっ! そのっ!?……えっーと、あぁ~~。」

 

『……』

 

炭治郎は慌てながら弁解するが、口を何度も詰まらせて挙動不審な様子を見せては弁解の意味が無かった。

 

「どうやら、良からぬ事を考えていた様です……状況を考えて、女湯に関する事でしょう。」

 

「!!?」

 

『!』

 

小芭内が輝利哉達に告げ口をする様にそう報告すると、炭治郎は顔を赤茄子(トマト)の如く紅潮させた。更に酸欠状態の魚の如く、口をパクパクと動かしている始末だ。

 

これは小芭内の推測が的中しているからこそ、反論出来ないという事実を表している事に他ならなかった。

 

「……っ❤」

 

かなたが照れた様子で、顔を紅潮させた。しかしそんなかなたを見て、ひなきが声を掛けた。

 

「かなた……照れてる所を悪いけど、きっと私達の事ではないと思うわ。」

 

「私達が女湯に入る前に、胡蝶様達が先に入っていたのですものね。」

 

ひなきが口にした指摘に、にちかも同調してその理由を推測した。

 

「炭治郎。」

 

「「「「炭治郎様っ。」」」」

 

「竈門炭治郎。」

 

『何かやましい事を考えて(いたな)(いましたね)(いたよね)?』

 

「!!!??」

 

輝利哉達が異口同音に炭治郎に訊ねると、炭治郎の緊張感は頂点に達した。

 

「ソッ!……ソンナコトナイデスヨ。」

 

『!?』

 

炭治郎は咄嗟に嘘を吐いたが、口調が普段と異なっていた上に顔が凄まじい変顔になっていた。その変貌振りに、輝利哉達は呆気に取られてしまった。

 

「……貴様、嘘を吐けないにも限度があるだろう。」

 

小芭内は炭治郎の変顔に、呆れ果てた様子で指摘せざるを得なかった。

 

「放っといて下さい。俺、昔から嘘は付けない性質なんです。馬鹿正直なもので。」

 

元の顔貌に戻った炭治郎が、小芭内の指摘にそう言って抗弁した。

 

「……ぷっ。あははは。もう……炭治郎様が面白いから、怒る気も無くしちゃいました。」

 

ひなきが笑いながらそういうと、にちか達も長子のひなきに同調した。

 

「でもっ……ほんの僅かでも良いから、私達の事も意識して欲しいです。」

 

くいながそう言って、しのぶ達に嫉妬心と対抗心を静かに燃やしていた。そんなくいなに、炭治郎は即座に反応した。

 

「勿論、くいなちゃん達もそうだよ。凄く素敵で可愛い女の子なんだから。」

 

「本当ですか?……嬉しいっ❤」

 

炭治郎がくいな達も素敵な女子だと褒めると、くいなは嬉しそうに両頬を紅潮させた。ひなき達も炭治郎の称賛を聞いて、嬉しそうに両頬を紅潮させた。

 

「……スケコマシめ。」

 

小芭内が小声で炭治郎にそう悪態を吐くと、今度は輝利哉に声を掛けた。

 

「輝利哉様……俺は此処で失礼させて頂きます。御館様からお借りしている部屋に戻らなくては。」

 

「っ!……分かったよ、小芭内。今回はありがとう。君の事が沢山知れて、私はとても嬉しかった。」

 

「俺の方こそ輝利哉様からの数々のありがたい御言葉、生涯忘れは致しません。ありがとうございました。」

 

小芭内は輝利哉に向かって、頭を深く下げて感謝の意を示した。それからひなき達にも、小芭内は順番に頭を下げる。

 

「……」

 

「……っ。」

 

小芭内は炭治郎に一度だけ視線を向けると、そのまま炭治郎に背中を向けて歩き出した。炭治郎は小芭内が何も言ってくれなかった事を寂しいと思いながらも、何も言わずにその背を見送っていた。

 

すると歩いていた小芭内が、不意に足を止めて立ち止まった。

 

「……炭治郎、感謝する。」

 

『!!!』

 

小芭内が炭治郎に背中を向けたまま、炭治郎に感謝の言葉を伝えた。自身にも感謝の言葉を言ってくれた事実に、炭治郎は理解が遅れてしばし呆然とする。そして漸く現況を理解すると、炭治郎は直ぐに行動に出た。

 

「小芭内さんっ! 俺の方こそっ!! ありがとうございましたぁっ!!!」

 

炭治郎は小芭内に向かって、廊下の床に頭を叩き付けかねない勢いで頭を下げて最敬礼した。

 

「シャ――――ッッッ!!!!!」

 

小芭内は炭治郎の言葉に何も反応せず歩き去ったが、その際に小芭内の頸にとぐろを巻いている鏑丸が代わりと言わんばかりに大声を上げて反応したのだった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「炭治郎、疲れたね。」

 

「色々あったよね、輝利哉君。」

 

炭治郎達が居る部屋には、既に六人分の布団が二列で均等に並べられていた。ひなき達は既に、それぞれの布団の上に座っている。

炭治郎は去ろうとしたのだが、輝利哉達に懇願されて今夜は共に寝床に着く事にしたのだ。

 

――輝利哉君達、皆疲れてるなぁ……あれだけの事があれば、そりゃ疲れるだろうけど。

 

炭治郎は心中でそう思いながら、不意にひなきの方へと視線を向けた。

 

「……っ!」

 

ひなきを見た炭治郎は、ある事を思い出した。すると徐に炭治郎は、立ち上がらずに匍匐前進してひなきへ接近して行った。

 

「まぁ、炭治郎様。如何かなさいましたか?」

 

炭治郎が自身の下へやって来てくれる事に嬉しく思いながらも、ひなきは何故炭治郎が自分の下へやって来たのだろうと思って尋ねた。

 

「ひなきちゃん。」

 

「はい、炭治郎様。……んっ!?」

 

「「「「っ!?!」」」」

 

ひなきの名前を炭治郎が呼んだ後、直ぐにひなきの唇に向かって口付け(キス)を行ったのだ。

 

まさか炭治郎の方からしてくれるとは夢にも思わなかったひなきは、炭治郎から口付け(キス)されているにも関わらず両眼を見開いたまま固まってしまう。

 

そしてそれ以上に、輝利哉達の方が炭治郎の思わぬ行動力に驚愕していた。

 

「……フゥ。ひなきちゃん、どうだった?」

 

「あっ❤……た、炭治郎様ぁ❤」

 

炭治郎からの思わぬ贈り物に、ひなきは感激していた。しかしひなきがこうも幸福に身を浸かっていると、逆に幸福に餓えてしまう者達が居る。

 

「「「……っ。」」」

 

それはひなきの妹であるにちか達だ。にちか達は当然、炭治郎の行動は依怙贔屓であると抗議しようとしたが、それに関しては炭治郎が先手を打った。

 

「これで全員、俺と一回は口付け(キス)した事になるね。」

 

『!』

 

炭治郎は有無を言わせない凄みを含んだ笑みを浮かべてそう言うと、全員がハッとなって現況を理解した。特ににちか達はこれ以上我儘を言えば、流石に炭治郎に嫌がられるだろうと思うと行動に移せなかった。

 

「うぅっ……でしたら炭治郎様との添い寝を希望しますっ!」

 

『!?』

 

かなたは涙腺に悔し涙を溜めながら、炭治郎の右側に抱き着いた。咄嗟のかなたの行動に、炭治郎も反応が遅れてしまう。

 

「妙案です。では私は反対側に……。」

 

かなたの行動力を見て、にちかは称賛しながら空いている炭治郎の右側に抱き着いた。

 

「かなたっ! にちか姉上もっ!……っ!!」

 

にちかとかなたの様子を見ていた輝利哉が、抗議する様に二人の名前を呼んだ。それは炭治郎を盗られた嫉妬心からではなく、単純に炭治郎が迷惑ではないかと思っての事である。

 

「いや、大丈夫だよ……添い寝で良ければ、一緒に寝ようか?」

 

『!』

 

炭治郎は添い寝に関して肯定的に受け取ると、それが実質的に鶴の一声となった。

 

結果、布団を三つ程くっつけて炭治郎を中心に左側にひなきとにちか、右側にくいなとかなたが寄り添って寝る事となった。にちかとかなたが炭治郎の胴体に抱き着く様に寝転んでおり、ひなきとくいなは炭治郎の両腕を枕にする様に寝転がっていた。

 

輝利哉だけはこれ以上は炭治郎の迷惑になるからと、名残惜しさを押し殺して一人だけ炭治郎との添い寝に参加しなかった。

 

「炭治郎様。私の無理を聞いて頂き、ありがとうございます。」

 

冷静さを取り戻したかなたが、申し訳無さそうに炭治郎に感謝の言葉を述べた。

 

「ううん、俺も家族とこうやって固まって寝ていた頃を思い出すよ。皆、ありがとう。」

 

『!』

 

炭治郎の哀愁を感じる感謝の言葉を聞いて、ひなき達は何も言わずにただ炭治郎の身体に優しく触れる事で応えた。

 

「!……炭治郎様。」

 

「何、かなたちゃん?」

 

「「「「?」」」」

 

優しい眼差しを向けていたかなたが、何故か射抜く様な鋭い視線に変えながら炭治郎に呼び掛けた。そんなかなたの様子に、炭治郎と輝利哉達は怪訝な様子で見詰めた。

 

「小芭内様の一件もあって、聞きそびれていたのですが……その赤い痕は何なのでしょうか?」

 

「……えっ!?」

 

「「「「!!」」」」

 

かなたの一言で、輝利哉達の視線は炭治郎に注がれる事となった。一方の炭治郎は、かなたの質問に何と言えば良いのか分からなかった。

 

「……恐らくですが、胡蝶様達が口付け(キス)をして付けた痕なのでしょうね。違いますか? 炭治郎様っ。」

 

「うっ。」

 

くいながジト目でそう鋭く指摘すると、炭治郎は露骨に顔を逸らした。

 

「でしたら、一つだけ疑問があります……身体中にこの赤い痕はあるのに、何故お顔と頸には無いのですか?」

 

「それはね……顔と頸は隠せないから、しのぶさん達と話し合って其処だけは付けない様に決めているんだ。」

 

ひなきの質問を受けて、炭治郎は素直にそう答えた。

 

「そうなのですか。そう仰られますと、合点がいくと言うものです……炭治郎様。お手数をお掛けしますが、一度御身体を起こして下さいませ。」

 

「え? う、うんっ。」

 

にちかに身体を起こして欲しいと頼まれた炭治郎は、何も疑問を抱く事無くにちかの言う通りに身体を起こした。その為、にちかの思惑には気付いていない。

 

「「「「!」」」」

 

逆に輝利哉達は炭治郎とは対象的に、にちかの思惑に直ぐに気付いた。そして輝利哉を除いて、ひなき達は互いに一瞬だけ視線を交わした後に行動に出る。

 

 

 

ちゅっ❤

 

 

 

「!?」

 

ひなき達は一斉に、炭治郎の頚筋を目掛けて吸い付く様に口付け(キス)をしたのだ。炭治郎は呆気に取られて硬直状態の間にいる内に、ひなき達は一斉に炭治郎から離れた。

 

ひなき達は炭治郎から離れた後、自分達がが口付け(キス)を行った炭治郎の頚筋に視線を向ける。

 

其処には、くっきりとが口付け痕(キスマーク)が残されていた。

 

「フフッ❤」

 

「上手く行きましたっ……っ!」

 

「やったっ❤」

 

「ホッ❤」

 

ひなき達は炭治郎の頚筋に各々で付けた口付け痕(キスマーク)が残っている事実に、歓声と安堵の溜息を吐いた。

 

「えっ……なっ……あぁっ!」

 

我に返った炭治郎は、困惑した様子で自身の頚筋を撫でた。

 

「姉上達にしてやられたね? 炭治郎。」

 

其処へ何時の間にか、炭治郎の背後にまで移動していた輝利哉が炭治郎に声を掛けた。

 

「私からも一つだけ、良いかな? 聞きたい事があるんだけど……。」

 

「聞きたい事?」

 

炭治郎は何を聞いて来るだろうと、輝利哉の方に顔を振り向こうとした。しかしその前に自分の両肩に、輝利哉は炭治郎を制止する様に両手を置いた。

 

「温泉に入った時から、実は気になっていたんだ。この無数の口付け痕(キスマーク)はもう良いとして……その左肩の噛まれた痕も、しのぶ達が付けたの?」

 

『!』

 

輝利哉は炭治郎の寝間着を開けさせながら、左肩の歯型に付いて指摘した。

 

「……この噛まれた痕は、しのぶさん達の仕業じゃないよ。温泉に入った時に、無一郎君に噛まれたんだ。理由は分からないけれど……。」

 

「無一郎がっ?……フーン。」

 

輝利哉は炭治郎の噛まれた痕を凝視しながら、何故か思案していた。しかしそれも、直ぐに終わった。

 

 

 

カプリッ!

 

 

 

「いたっ!?」

 

「「「「!?」」」」

 

前触れも無く訪れた右肩に痛みを感じて、炭治郎は思わず声を上げる。急いで振り向くと、其処には口を開けたまま炭治郎から離れる輝利哉の姿があった。

 

右肩に視線を変えると、くっきりと歯形が残されていた。状況を考えれば、輝利哉が炭治郎の右肩に噛み付いた事は間違い無かった。

 

「油断大敵だよっ、炭治郎っ♪」

 

「……」

 

仕込んでいた悪戯が成功した悪戯っ子の如く、輝利哉はニヒヒと楽しそうに笑った。炭治郎は輝利哉の茶化す様な発言に、何も言う事が出来ない。そんな事よりも、炭治郎は自身を悩ませる問題に頭を抱えていた。

 

――口付け痕(これ)……どうやってしのぶさん達に誤魔化したら良いんだろう……っっ。

 

しのぶ達からは身体中に口付け痕(キスマーク)を付けられているが、顔と頚筋には付けて貰ってなどいない。

 

だからこそ、頚筋の口付け痕(キスマーク)を見れば自分達の物では無い事は一目瞭然であり、追求されるのが目に見えていた。

 

これから起こるであろう災難を想像すると、炭治郎は溜息を吐かざるを得ない。思案しても対策など思い浮かぶ筈が無いので、炭治郎は諦めて寝床に就く事しか出来なかった。

 

「……炭治郎、今日は本当にありがとう。おやすみなさい。」

 

「うん。輝利哉君も、おやすみなさい。」

 

「「「「炭治郎様、おやすみなさいませ。」」」」

 

「おやすみなさい。ひなきちゃん、にちかちゃん、くいなちゃん、かなたちゃん。」

 

炭治郎達は互いにそう声を掛けた後、漸く眠りに就いたのだった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

男湯で思わぬ騒動に遭遇した所為か、炭治郎達は両眼を閉じてから百も数えない内に全員が深い眠りに就いた。すると其処へ突如、襖が人知れず音を立てる事無く開かれた。

 

開かれた襖からは、何故か人影の姿は一切無かった。しかしほんの僅か、本当に僅かな音だが耳を澄ませば畳を踏んだ際になる軋んだ音が聞こえる。姿こそ不可視であったが、確かに誰かが存在していた。

 

どうなの、カナヲ? 炭治郎さん達はちゃんと寝てる?

 

アオイ、大丈夫よ。ちゃんと炭治郎は寝てる……でも動かせば、炭治郎は起きると思う。そっちこそ大丈夫なの?

 

普段通り行けば、大丈夫だと思うけど……もしもの時は手伝ってっ。

 

分かった。任せてっ。

 

室内に入って来ていたのは、何とアオイとカナヲであった。炭治郎達を起こさない様に、なるべく声を小さくして話し合っていた。

 

何故アオイとカナヲがこの部屋にいるのかと言うと、実は炭治郎達の後を付けていたからだ。

 

『紙眼』を着用して炭治郎の捜索に当たっていたアオイとカナヲであったが、其処へ偶然廊下を歩いている炭治郎達を発見。迂闊に接近して炭治郎に気付かれない様に、細心の注意を払って尾行していた。

 

そして部屋の前まで辿り着いた二人は、炭治郎達が就寝に就くまで辛抱強く待っていたのである。二人の態度こそ冷静であったが、抑え込んでいる欲情から両眼はギラギラと妖しい光を輝かせていた。

 

欲情を抑えつつ無事に炭治郎達の前まで来たアオイは、懐から一枚の布を取り出していた。その布からは、薬品の匂いが感じ取れた。

 

「ん?……んっ~~っ。」

 

「「!」」

 

『紙眼』を使ってなお漏れ出す僅かな薬品の匂いを感じ取った炭治郎が、無意識に声を漏らした。

そんな炭治郎の反応に、過剰に反応するアオイとカナヲ。しかしまだ、炭治郎は起きてはいなかった。

 

「……っ!」

 

このままもたつけば炭治郎が起きると思ったアオイは、急いで薬品の付いた布を炭治郎の顔に押し当てた。

 

「んぐっ!?……んんっ!!??……~~~っっっ?!?!?」

 

炭治郎さん、ごめんなさいっ!

 

アオイは小声で炭治郎に謝罪すると、更に布を強く炭治郎に押し付けた。それから間もなく、炭治郎から呻き声が聞こえ無くなった。

 

一見すると殺人現場の様に見える、この光景だが実際は全く違う。布に付いている薬品の正体は、睡眠薬である。

 

これは炭治郎を穏便に連れて行く為に、アオイが用意した物だ。

 

これまで行って来た治療の中には、患者が暴れる者も少なくない。しのぶならば暴れて動きまくる患者であっても、注射針を正確に狙った場所に刺せるがアオイはまだそうは行かない。

 

間違った場所に注射針を刺して患者の神経等を傷付けずに済む様に、この方法が編み出されたのだ。

 

「……」

 

「……フゥ。」

 

炭治郎を再び眠らせる事に成功したアオイは、安堵の溜息を吐いた。

 

アオイ、お疲れ様……上手く行ったね。

 

えぇ、早く運び出しましょう。

 

うん。

 

アオイとカナヲは炭治郎の傍で眠っているひなき達を起こさない様に注意しつつ、炭治郎を慎重に運び出した。炭治郎が居なくなった室内には、輝利哉達の寝ている姿だけが残されていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……じゅずちゅっ❤……ちゅちゅるるっ❤……はぁんんっ❤……炭治郎ぉ❤」

 

「ちょっとっ……ちゅるるっ❤……もっと向こうに行ってっ……私が、舐められないじゃない……はむぅ❤……じゅちゅるるるっ!❤❤」

 

「……んっ?」

 

炭治郎は水音と下半身から感じる快楽に気付いて、ゆっくりと目を覚ました。頭を上げて視線を下半身に向けると、炭治郎は驚愕する。

 

「なっ!? アオイ、さんっ……それにカナヲッ!?」

 

「ちゅぅっ❤……あっ❤ 炭治郎さんっ❤」

 

「炭治郎ぉ❤……れろぉ❤……っっ❤」

 

炭治郎の視線の先には、競う様に自身の逸物に口淫(フェラチオ)をしているアオイとカナヲの姿が見えた。先刻まで輝利哉達と同じ部屋で一緒に寝ていただけに、炭治郎は現況が把握出来ず混乱するばかりであった。

 

「どうしてっ……俺は輝利哉君達と一緒に居た筈じゃ……っ。」

 

「じゅるる❤……ちゅうっ❤……すみません。輝利哉様達を起こさない様に、炭治郎さんをお連れしました。此処は禰豆子さんの一件でお借りしていた、別邸です。」

 

「!」

 

炭治郎はアオイからそう教えられると、直ぐに周囲を見渡した。部屋こそ暗くて視界では分かり辛かったが、匂いでアオイが言っている事が正しいと分かった。禰豆子達との乱交した名残が残っていたからだ。

 

「ちゅるううぅぅっ!❤……しゅきありっ!❤……はむぅっ!!❤」

 

「ああっ~~~っっ!?」

 

二人で協力して口淫(フェラチオ)をしていたが、アオイが現況の説明に為に炭治郎の逸物から口を離すと透かさずカナヲが口一杯に広げて逸物を咥えて独占した。そんなカナヲの行動に、アオイは大声を上げた。

 

「ぢゅぶぶぶっ!!❤……ひりゃにゃいっ……じゅぢゅるるっ!❤……ぢゅちゅうううぅぅっ!!❤❤」

 

「ああっ!❤……カナヲ、そんなに激しくされたら……出るっ!!」

 

 

 

ビュビュビュルルッ!!! ビュリュルルルルウウウウウウゥゥゥゥゥッッッ!!!!

 

 

 

カナヲが吸い込む様な口淫(フェラチオ)によって、炭治郎は生じた快楽に耐え切れず射精した。

 

「んぐむぅっ!!❤……ゴクッ!!❤❤……ゴクゴクゴクッ!!!❤❤」

 

口内を埋め尽くす精液の濁流に多少咽ながらも、カナヲは嬉しそうにその白濁の溶岩を体内へと流し込んで行った。

 

「うぅっ、カナヲの馬鹿ぁ……っっ。」

 

アオイはカナヲに抜け駆けされた為か、涙腺に悔し涙を貯めながら炭治郎の精液を飲み干すカナヲを睨み付けていた。

 

「ゴクッ!❤……むぐっ!……んんんっっ!!❤」

 

精液を飲んでいたカナヲだったが、ある程度飲み干すと何故か両頬に精液を貯め込み始めた。

 

「……っ?」

 

「カナヲ?」

 

そんなカナヲの行動を見て、炭治郎とアオイは首を傾げる。しかしカナヲは疑問に思う二人を他所に、カナヲは精液を両頬に貯め込んで行った。炭治郎の射精が終わった頃には、カナヲの両頬は餌を咥えている栗鼠(リス)の如く膨れていた。

 

「……ちゅっ❤」

 

「んんんっ!!?」

 

「!?」

 

カナヲは両頬に炭治郎の濃厚な精液を貯め込んだまま、何とアオイに口付け(キス)を行ったのである。

 

「……んんっ……んんっ……んっ。」

 

「「!!」」

 

アオイに口付け(キス)を行ったカナヲは、両頬に貯め込んでいた精液をアオイの口内へ流し込んで行った。その姿は丸で幼い雛に飲み込んだ餌を、口移しで与える鳩の如き姿であった。

 

「っ!?……ゴクッ!?……ゴクッ……ゴクゴクッ!❤……っっ❤」

 

カナヲの行動に戸惑っていたアオイであったが、自身の口内に愛する炭治郎の味を感じ取ると大人しくカナヲから与えられる白濁の溶岩を飲み干して行った。

 

「ゴクッ!❤……はぁはぁっ❤……カナヲ、貴女……っ。」

 

「えへへっ❤……お裾分けよ、アオイ。」

 

「!」

 

カナヲが達成感に満ちた様子でアオイにそういうと、アオイはカナヲの気遣いに感激した。

 

「……そうね。折角しのぶ様も禰豆子さんも出し抜いたのだもの……。」

 

「争っている暇なんて無い。そうだよね?」

 

「うんっ。」

 

カナヲの確認にアオイが肯定すると、二人は同時に寝間着を脱いで全裸になった。

 

「炭治郎っ❤」

 

「炭治郎さんっ❤」

 

「「いっぱい愛し合おうねっ!!❤❤」」

 

アオイとカナヲは口を揃えて異口同音にそう言うと、満面の笑みを浮かべてから二人仲良く抱き着いた。




お待たせ致しました。

自身の感情に区切りを付ける事が出来た小芭内でした。と言っても、かなり限り限りですけどね。異論は甘んじて受け付けます。

そしておませな産屋敷家子女の皆さんでした。

最後に今作は本編更新でのR作品なのに、全体の一割未満の描写しかない……しかも前戯のみと言うジャブを食らわせた程度の内容で申し訳ございません。

次回作は本番まで行きますので、どうか御了承下さいませ。
次回作の更新は11/11(木)になります。どうかよろしくお願い致します。


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第伍拾肆話 日輪は淫靡な後夜祭に臨む ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ・タグ編集大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


寝間着を一気に脱ぎ捨てると、全裸で同時に炭治郎へ抱き着いて頸に両腕を回す。

 

「炭治郎さぁんっ❤」

 

「あぁっ❤ 炭治郎ぉ❤」

 

アオイとカナヲは抱き着いた事で炭治郎の体温を直に感じて、その熱に酔い痴れながら炭治郎の名前を愛おしそうに呼んだ。

 

「っ……アオイさんっ! カナヲッ!!」

 

炭治郎は耳から入って来る色気がたっぷりと含まれた艶やかな声と、抱き着かれた事で感じる二人の体温と乳房の柔らかさに理性が外れない様に耐えながら、二人の括れた腰に手を回して抱き締め返した。

 

「ちゅっ。」

 

「んちゅうっ!?❤」

 

アオイとカナヲを抱き締めた後、炭治郎はアオイの後頭部に手を添えると口付け(キス)をした。アオイは自分が先に口付け(キス)をされた事に驚きながらも、直ぐに炭治郎からの口付け(キス)を喜んで受け入れる。

 

「ぢゅちゅっ!……れろくちゅっ……ぢゅろれろっ……じゅぢゅっっ!!」

 

「ちゅぢゅっ!❤……っんんぅっ!❤……ぢゅぢゅるるるっ!❤❤……れろれろちゅろっ❤」

 

アオイに口付け(キス)を行った炭治郎だが、それも直ぐに口吸い(ディープキス)へと変化して行った。炭治郎がアオイの口内に舌を侵入させたからだ。

 

アオイもまた侵入して来る炭治郎の舌を、自身の舌と絡めて迎え入れる。炭治郎とアオイは舌同士で抱擁するが如く、互いの唾液を吸引していた。

 

「ぷはっ!」

 

「っ!❤……ぁあっ❤」

 

アオイと口吸い(ディープキス)をしていた炭治郎だったが、暫くすると自分からアオイとの口吸い(ディープキス)を止めた。炭治郎との口吸い(ディープキス)が終わってしまったアオイは、名残惜しそうな声を漏らす。

 

「今度はカナヲに……ちゅっ。」

 

「っ!!❤」

 

炭治郎はアオイとの口吸い(ディープキス)を終えると、直ぐに隣に居たカナヲと唇を重ねて口付け(キス)を行った。

 

アオイと同様に不意打ち気味の口付け(キス)をされて、カナヲは驚きから両眼を見開いた。しかしそれも束の間の一時だけであり、直ぐにうっとりと両眼を細めて抱擁に力を入れながら炭治郎からの口付け(キス)を喜んで受け入れていた。

 

「んちゅううぅぅぅっ!❤❤ ぢゅぢゅぢゅぅううっ!❤……ははぁっ❤……はあぁっ❤」

 

「んぐちゅうぅっ!……ちゅれろるるるっ!!……れろじゅるっ!」

 

カナヲは炭治郎と口付け(キス)が余程嬉しかったのか、自分から舌を炭治郎の口内に侵入させて貪り始めた。先手を打たれた炭治郎はカナヲの積極性に驚きながらも、直ぐにカナヲの舌を自身の舌と絡ませる。

 

「ぷはっ……カナヲってば、激しいなぁ。」

 

「うぅっ……だってぇ❤」

 

炭治郎は口を離して口付け(キス)を止めた後にそう言うと、我に返ったカナヲは恥ずかしそうに顔を反らした。

 

「っ!……ふ~ん。」

 

アオイとカナヲに関して、ある事に気付いた炭治郎。二人の括れた腰に回していた両手を解放して、炭治郎はある場所に両手を移動させた。

 

「「?……あぁっ!?❤」」

 

炭治郎が抱擁を解いた事に不満気な様子で眉を顰めたアオイとカナヲだったが、クチュと水音が鳴ったと同時に異口同音に嬌声を上げる。

 

炭治郎はアオイとカナヲの秘部に向かって、優しく指を挿入していたのだ。既に泉の如く愛液を出し続けていた為、僅かながらも水音が鳴ったのである。

 

「二人共、もうこんなに濡らしてる……まだ口付け(キス)位で、殆ど何もしていないのに……。」

 

「「~~っ❤」」

 

炭治郎が茶化す様にそう言うと、アオイとカナヲは閉口して悶絶した。そんな照れている様子の二人を見て、炭治郎は自身の胸中が高鳴るのを自覚しながら口にした。

 

「と言っても俺だって長男だけど、もう我慢出来そうに無い……正直言って、早くアオイさんとカナヲと一つになりたい。」

 

「「っ!!❤❤」」

 

炭治郎は射精する前よりも更に逸物を固くしながら、自身の欲望を口にした。アオイとカナヲも炭治郎の告白と自分達の太腿に感じる逸物の熱を感じて、更に秘部から愛液を分泌させて炭治郎の指を濡らしていた。

 

「っ……アオイ、先にしても良いよ……。」

 

「っ!?……良いの? 私が先に炭治郎さんと愛し合っても……っ。」

 

カナヲは生唾を一度飲み込むと、何とアオイに先手を譲ったのだ。このカナヲの気遣いに、アオイは驚きながら確認を取った。

 

「うん、私も後でいっぱい炭治郎に愛して貰うから……。」

 

カナヲはそう言うと、炭治郎への抱擁を解いて少し距離を取った。アオイはそんなカナヲの様子を見て、炭治郎へと視線を変える。

 

「……分かったわ。炭治郎さん、先に私とお願いします。」

 

アオイは先に自分が出来る事を喜びながら、カナヲの気遣いに感謝した。感謝の意を示す様に目礼すると、アオイは炭治郎に抱き着いた。

 

「炭治郎さん…………っっ。」

 

「っ!……分かった。アオイさん、良いよ。」

 

アオイは炭治郎に抱き着いていたのだが、実はこの際にカナヲに見えない様に炭治郎に耳打ちをしていた。炭治郎はアオイが口にした耳打ちの内容に両眼を見開いて反応した後、笑みを浮かべて承諾する。

 

「では、炭治郎さんは横になって……私が上に乗りますから……っ❤」

 

「うん、お願いします。」

 

炭治郎はそう言うと、仰向けになって横になる。アオイは片手で炭治郎の逸物の先端を優しく握ると、馬乗りになりながら自身の膣口に宛がった。

 

「はあぁっ❤……はあぁっ❤……ん、んんあああっ!❤」

 

「くぅっ!」

 

「っ!」

 

逸物を膣内に挿入すると、炭治郎の長大な逸物は一気に子宮口まで攻め上がった。アオイはその衝撃を受けて大きな嬌声を上げ、炭治郎もアオイの膣圧を感じて喘いだ。そんな二人の嬌声を聞いて、傍で見学しているカナヲも反応する。

 

「ああぁぁっ❤……はぁっ❤……はぁっ❤……ふうぅっ。」

 

アオイは漸く快楽が落ち着いたのか、身体の全身を震わせながらもゆっくりとカナヲの方へと振り向いた。

 

「!」

 

普段の生真面目なアオイとは懸け離れた、涎を一筋垂れ流している色気に満ちたアオイの表情を見てカナヲは思わずドキッとした。

 

「カナヲ……貴女もどう?……口付け(キス)しても良いし、乳房(おっぱい)でも秘部(小股)でも舐めて吸って貰って良いのよ……っ?」

 

「えっ?……でもっ……。」

 

アオイの提案を聞いて、カナヲは遠慮がちに断ろうとした。しかし本心では自分も少しでも炭治郎に愛撫されたいと言う欲求があったのか、無意識に生唾を飲み込んでいた。

 

「炭治郎っ……私も良いぃ?……っ❤」

 

「う、うん。勿論さ……っ。」

 

カナヲが炭治郎から許可を得ると、そそくさと移動を始めた。それも炭治郎に濡れている秘部を押し付ける為に、馬乗りになって顔面騎乗を行った。

 

「んっ……あはぁんっ!!❤」

 

「れろっ……れろろじゅるっ。」

 

炭治郎は顔面騎乗で跨れた瞬間、カナヲの秘部を舐めて吸い岩清水(クンニ)を始めた。カナヲも岩清水(クンニ)をされて湧き上がる快感に、身体を震わせて嬌声を上げる。

 

「あぁんっ!❤……あああぁんっ!❤……炭治郎さんのっ❤……おち×ちんっ❤……固くて、大きくて気持ち良いぃ!!❤」

 

アオイは炭治郎の胸板に両手を付いて体勢を保ちつつ、腰を激しく動かして百閉(騎乗位)の体位で攻め始めた。

 

「あああっ!❤……私もぉ❤……炭治郎にペロペロ舐められて、気持ち良いよぉ❤」

 

炭治郎の秘部を舐められ続けて、カナヲも身体を震わせながら歓喜の嬌声を上げる。身体の体勢が崩れそうになったので、体勢を保とうと炭治郎の胸板に両手を付こうとした。

 

「「!」」

 

カナヲがアオイに続けて炭治郎の胸板に手を置こうとしたが、その際に先に両手を付いていたアオイの両手に重なる様に両手を置いたのだ。

 

「っ!……あっ……アオイ……()()()っ。」

 

「っ!?……カナヲ?」

 

カナヲに姉さんと唐突に呼ばれた事に、アオイは驚きを隠せなかった。

 

「あっ……ご、ごめんっ……。」

 

「謝る事じゃないわっ……どうして……んんっ❤……私をそう呼んでくれたの?」

 

「……っ。」

 

アオイは腰を動かす速度を緩めつつも、動かしたままカナヲに尋ねた。するとカナヲは、照れ臭そうにしながらアオイに話し始める。

 

「ぁん❤……だってっ……アオイはたった一人の親友でっ……私にとって大切な姉さんだからっ!!……ひゃぅっ!❤」

 

「っ!!」

 

カナヲが抱いている自身への心情を知って、アオイは感激した。カナヲの苗字を決める時、自身と同じ神崎の姓名を強く推奨して、胡蝶姉妹に制止された程だ。尤も、これはアオイが待望の妹か弟を妊娠した母親を、出産目前で鬼に父親共々殺害された苦い過去も影響しているのだが。

 

アオイは思わず、炭治郎の胸元に置いていた両手を離して、カナヲを強く抱き締めた。

 

「私、カナヲにそう思われてて凄く嬉しいっ……。」

 

「ほ、本当っ? 何時も迷惑ばっかり掛けてっ、ごめんねっ……っっ!」

 

「気にした事も無いわよっ……カナヲは私にとって、大切な妹なんだからっ!」

 

「っ!……姉さんっ! アオイ姉さんっ!!」

 

カナヲは感激のあまり、アオイを抱き締め返した。互いの豊満な乳房がぶつかりあって、その形を変えた。

 

――ひゃああっ!❤……カナヲの陥没乳首(ちくび)と擦れて、感じちゃうっ……っ❤

 

――あんっ!❤……アオイ姉さんの乳首がっ、私の乳頭の中にっ!……あぁっ!❤

 

互いの乳首が擦れ合う事で生じる快感に、アオイとカナヲは身悶えた。

 

「ぁあんっ!❤……あああんっ!❤…………お、膣奥(おく)まで、グリグリ抉られてっ❤……気持ち良いっ!!❤❤」

 

それから再びアオイは腰の動きを取り戻すと、カナヲを抱き締めたまま嬌声を上げていた。

 

「ひぃぅっ!❤……炭治郎っ❤……アオイ姉さんっ❤……私、もう……もうっ❤……ぁっ!❤」

 

「あぁっ❤……私もっ❤……イクッ❤……イクうううぅぅぅっっっ!!❤❤」

 

 

 

ビュビュリュルルルウウゥゥゥッッッ!! ビュルルルルルウウウウゥゥゥゥッッッ!!!

 

 

 

「「ああああぁぁぁぁぁぁ~~~~っっっ❤❤❤」」

 

アオイは炭治郎に膣内に射精された事で絶頂し、カナヲも炭治郎に秘部を舐めて吸われ続けてほぼ同時に絶頂した。

 

「はぁ❤……はぁ❤……炭治郎さん、ありがとうございましたっ……っっ❤」

 

子宮に貯まる愛おしい熱の余韻に浸りながら、アオイは炭治郎に礼を述べる。それからアオイは名残惜しそうにしつつも、カナヲとの抱擁を解いて立ち上がり秘部から逸物を抜いた。

 

「本当はもうちょっと余韻に浸りたかったけど……カナヲ、次は貴女の番よ。」

 

「……うんっ。」

 

アオイが絶頂の余韻に浸っていたカナヲに声を掛けると、カナヲは徐に立ち上がった。

 

「ぷはっ……そうだ。カナヲ、四つん這いになってくれる?」

 

「っ!」

 

漸く口の自由を取り戻した炭治郎は、口にカナヲの愛液を付けたままカナヲに頼み込んだ。

 

「でも、炭治郎。」

 

「俺も動きたいんだ……カナヲは嫌?」

 

奉仕する心算だったカナヲが炭治郎に異議を唱えようとしたが、炭治郎に頼み込まれては拒否出来ない。

 

「……っ。」

 

カナヲは羞恥心を抑えながら、四つん這いの姿勢になって炭治郎に自身の形が整った臀部を向ける。既に秘部からは愛液が、太腿に垂れるまで分泌されていた。

 

「ふぅ……行くよ、カナヲ。」

 

「来てっ❤ 炭治郎っ❤……あっ!❤……あああぁぁっっ!❤❤」

 

炭治郎はカナヲの臀部を鷲掴みにした後、一気に逸物を秘部へと挿入した。腟内を掻き分けて侵入して来る逸物の熱と感触を感じて、カナヲは大きな嬌声を上げる。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「ああぁっ!❤……ああんっ!❤……何これぇ!❤……凄いぃっ!!❤」

 

「カナヲ?……気持ち良いかい?」

 

「気持ち良いっ❤……気持ち良いよぉ❤」

 

初めて経験する鵯越え(後背位)から齎される快楽に、カナヲは酔い痴れていた。口元から涎を垂らしながら、カナヲも腰を動かして炭治郎の逸物を刺激する。

 

「ぐっ!……カナヲの膣内(なか)もっ……気持ち良いっ……っ!!」

 

炭治郎は歯を食いしばりながらカナヲの膣圧に耐えつつ、腰を動かして反復動作(ピストン)を続けていた。

 

「あぁんっ!❤……あんっ!❤……あああっ!❤」

 

「……くっ!……カナヲ、すっかり夢中になってるね……あぁっ!」

 

炭治郎は反復動作(ピストン)をしたまま、上半身を倒してカナヲの耳元に囁いた。

 

「愛しているよっ、カナヲ。」

 

「あんっ!❤……嬉しいよぉ❤……炭治郎っ❤……私も愛してるぅっ❤❤」

 

炭治郎に愛を囁かれたカナヲは、嬉しさのあまり髪を振り回す程に激しく腰を動かし始めた。そんなカナヲの腰付きを感じて、炭治郎も負けじと反復動作(ピストン)を行う。

 

「あぁっ❤……炭治郎さんもカナヲも、凄く気持ち良さそう……っ❤❤」

 

アオイは炭治郎が放った白濁の溶岩が溢れ出ている自身の秘部と大きく育った豊満な乳房で自慰しながら、そんな炭治郎とカナヲの情交(セックス)を羨望の眼差しで見詰めていた。

 

しかしそれも束の間の一時だけであり、我慢出来なくなったアオイが行動に出た。

 

「炭治郎さんっ❤」

 

「おっと……アオイさん。」

 

炭治郎の側面から、アオイが抱き着いたのだ。アオイが炭治郎に抱き着いた事で、アオイの豊満な乳房が押し付けられる形で姿を変える。

 

「お口が空いてますよ?……何か御所望なものはありませんか?❤」

 

「!」

 

アオイが期待する様に炭治郎に向かってそう尋ねると、炭治郎の視線が自然とアオイの乳房の方へと向かった。

 

「っ!……ふふっ。」

 

直ぐに炭治郎の視線に気付いたアオイは、身体を動かして炭治郎から僅かに距離を取って離れた。

 

それから右乳房を挑発する様に下から持ち上げると、勃起している乳首を炭治郎の口へと近付けた。

 

しかしそれも触れる直前までだ。アオイの乳房は、炭治郎の口から目と鼻の先で静止した。

 

「はぁっ❤……はぁっ❤ どうぞっ❤ 召し上がれ❤❤」

 

「っ!!……はむっ!」

 

「んあああんっ!❤❤❤」

 

炭治郎が直ぐに口を開けてアオイの乳房を口に咥えると、アオイは電流が走ったが如き快感を覚えて頭を仰け反らせた。

 

「あああぁぁっ❤❤……まだ咥えられたばかりなのに、私ぃ……っ❤」

 

身体の全身を震わせながら頭を戻したアオイだったが、次に来る快楽に期待してその両眼は凛々と輝いていた。

そしてその期待は、炭治郎の手で直ぐに叶えられる事になる。

 

「ちゅううぅぅっ……ちゅるるっ……んっんんっっ!」

 

「ああぁぁんっ!❤……ひゃううっ!❤……ひゃあっ!❤ あああっ!!❤」

 

貪る様に乳房を吸う炭治郎の愛撫に、アオイは歓喜の嬌声を上げる。身体全体を震わせながら、炭治郎の頭を抱き締めて自身の乳房に押し付けていた。それでも炭治郎が窒息しない様に、無意識に力加減を調整していたが。

 

「ああんっ!❤……はああんっ!❤……炭、治郎ぉ❤……私っ❤……もう……もうっはあああんっ!!❤❤」

 

「んんんんっ!!!」

 

 

 

ドビュウウウッ!! ドビュルルルルウウウウゥゥゥゥッッッッ!!!

 

 

 

「んああああぁぁぁぁぁっっっ!!!❤❤❤」

 

叩き付ける勢いで流れてくる白濁の溶岩を受けて、カナヲは歓喜しながら大きく絶頂した。

 

「んちゅ……ちゅるぅ~っっ。」

 

「ああぁんっ!❤……私もっ……軽くイッちゃいましたぁ❤……。」

 

炭治郎も絶頂した後、漸くアオイの乳房から口を離した。アオイは炭治郎の涎塗れになった右乳房を愛おし気に見詰めた後、優しく炭治郎の頭を撫でる。

 

「ちゅぶ……アオイさんっ、口付け(キス)しても良い?」

 

「っ!❤……そんなのっ……良いに決まってますっ!❤ んんぅっ!❤❤」

 

炭治郎は乳房から口を離して、アオイに口付け(キス)をしても良いか尋ねると、アオイは逆に自分から炭治郎の両頬に手を添えて口付け(キス)をした。

 

「!」

 

アオイの行動に炭治郎は一瞬だけ両眼を見開くも、直ぐに閉眼してアオイとの口付け(キス)に集中した。炭治郎は口付け(キス)をしたまま、左手をアオイの括れた腰に回して抱き締めた後に右手でアオイの左乳房を鷲掴みにした。

 

「んうぅっ!❤」

 

アオイは乳房を揉まれて驚いたが、アオイも炭治郎に抱き着いて自身の乳房を押し付ける。

 

「ぢゅっるっ!……ぢゅちゅっっ!!……ぢゅうちゅぅぅっ!……んぢゅるっ!」

 

「ぢゅぢゅちゅうぅっ!❤……んっちゅっ!❤……んんんちゅっ!!❤……ぢゅるるぅっ!❤」

 

炭治郎はアオイの乳房を揉んだり乳首を愛撫したりして口吸い(ディープキス)するので、アオイはその快感に悶えながらも負けじと炭治郎に口吸い(ディープキス)をしていた。

 

「ぢゅるっ……っっ。」

 

炭治郎はそんなアオイの様子を感じて、心中で笑みを浮かべる。炭治郎の脳裏に、意地悪な思案が生まれた瞬間であった。

 

「ちゅうぅっ……ちゅちゅっ。」

 

「ぢゅるちゅちゅっ!!❤……くちゅっ❤……んちゅちゅっ❤」

 

口吸い(ディープキス)から口付け(キス)に変わると、アオイの勢いは軽減して大人しいものになる。アオイが口付け(キス)に夢中になっている間にも、炭治郎は下半身を動かしていた。

 

「っ!……ぁあんっ❤」

 

「……」

 

カナヲの膣内に挿入していた逸物を引き抜くと、余韻に浸っているカナヲから声が漏れた。

 

「あっ❤……あっ❤……~~っ❤」

 

カナヲはビクビク身体を震わせていると、秘部からは収まり切らなかった白濁の溶岩がドロッと敷布団の上に垂れて行った。

 

炭治郎はカナヲに構わず、口付け(キス)している事で目視出来ないまま混合液塗れで白く染まった逸物を、アオイの秘部に目掛けて挿入しようとしていた。

 

「ちゅっ❤……ちゅちゅうっ❤……ちゅうんっ!?❤」

 

炭治郎との口付け(キス)をじっくりと堪能していたアオイだったが、下腹部に熱量のある物が当たって事に驚いて声を上げた。その熱量がある物とは、アオイが愛おしさを覚える物であった。

 

――バレたっ!? 早く済ませないと……見つけたっ、此処だっ!

 

焦燥感を覚えた炭治郎だったが、目視不可の状態でもアオイの秘部の位置を特定すると、一気に逸物を挿入した。

 

「んふうううぅぅぅぅっっ!?❤❤❤」

 

アオイは閉眼していた両眼を一気に見開きながら、自身の秘部に侵入し腟内を掻き分けて挿入されて行く炭治郎の逸物の熱量と快楽を感じて口付け(キス)をした状態のまま絶頂した。

 

「ちゅるっ……やっと、挿入(いれ)られた……。」

 

「あっ❤……あぁっ❤……炭治郎さんのっ、馬鹿っ❤……馬鹿ぁっ❤❤」

 

アオイは全身を震わせながら、炭治郎を罵倒した。アオイに罵倒された炭治郎だったが、ただ嬉し気に笑みを浮かべているだけであった。

 

「そうは言うけど……アオイさんからは、嬉しい匂いしかしないんだけどなぁ……ふふっ。」

 

「っ!!……ぁぅっ❤」

 

アオイの真意を炭治郎が指摘すると、事実だったのかアオイは赤面して顔を反らした。そんなアオイの顔に炭治郎は手を添えて真正面に戻すと、軽く触れるだけの口付け(キス)をした。

 

「ちゅっ……アオイさん、動いて良い?」

 

「っ!❤……はいっ❤……でもその前に一つだけ、お願いがありますっ。」

 

「っ?……何かな? アオイさん。」

 

アオイが赤面しながらも真剣な表情でそう言って来るので、炭治郎も真面目に答えた。

 

「私の事も……さん付けせずに呼び捨てにして欲しいんですっ。年上だからって気にしないで下さい。」

 

「呼び捨て……うん、分かった。良いよ。」

 

「ありがとうございます……っ!」

 

炭治郎が承諾すると、アオイは心底嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。其処へ炭治郎が頭を動かして、アオイの左耳に囁いた。

 

「その代わり……俺の事も呼び捨てにしてよ。敬語も勿論無し……俺達は恋人同士なんだから、良いよね? ()()()。」

 

「!❤……はいっ❤ 炭治郎❤」

 

炭治郎が耳元に囁いた御願いに、アオイは胸中をときめかせながら炭治郎を呼び捨てにして応える。

 

「!」

 

炭治郎はアオイに初めて、呼び捨てで呼ばれた事に興奮した。その興奮は、炭治郎の逸物が代わりに表現していた。

 

「あぁっ!❤……炭治郎のおち×ちんがっ❤ 私の腟内(なか)で固く、大きくなってっ❤……あぁんっ!❤」

 

そんな炭治郎の逸物の反応に、アオイは敏感に反応した。自身の逸物の様子を実況された炭治郎は、即座に行動に移った。

 

「アオイが俺を興奮させるからだよっ! それっ!!」

 

 

 

パンッ パンッ パンッ

 

 

 

「あひぃっ!❤……ああぁっ!❤……あああんっ!!❤❤」

 

炭治郎はアオイを押し倒すと、身体を少し前のめりの体勢になり網代本手(正常位)反復動作(ピストン)を始めた。

 

「あぁっ!❤……んあっ!❤……たんじろうっ❤……たん、じろぉっ!❤……はぁああんっ!❤」

 

アオイは両手で敷布団を鷲掴みにし、炭治郎の名前を連呼しながら喘いでいた。口元からは幾筋も涎が垂れており、跳ねた涎が敷布団を濡らしていた。アオイの豊満な乳房も、上下に激しく揺れている。

 

「アオイッ……好きだっ……っ!」

 

「っ!❤……あっ!❤……ああああっ!❤……私もっ!……あぁんっ!❤」

 

「……」

 

炭治郎とアオイが互いに夢中になる中、二人を見守っている第三者が居た。その第三者は、二人に対して羨望と恨めしそうな視線を向けている。

 

「……二人共、お互いしか眼中に入って無いね。」

 

「「っ!」」

 

ボソッと聞こえた呪詛交じりの悪態を聞いて、炭治郎とアオイは我に返った。二人は一度だけ視線を交えた後、声がした方へ顔を向ける。其処に居たのは絶頂の余韻が漸く収まった、カナヲである。

 

「カ、カナヲッ……っ!」

 

「い、いやっ! そのっ!……。」

 

炭治郎とアオイは何とか言葉を紡げて行こうとしたが、言葉が思う様に口から出なかった。

 

「……私も混ぜてよぉっ!」

 

「「!!」」

 

カナヲは飛び込む様に、炭治郎とアオイの元へ突撃して行った。そんなカナヲの行動力に、二人は驚かざるを得ない。しかし更に驚くべき事は、間も無く起きた。

 

「えいっ❤」

 

「きゃああっ!?」

 

「!?」

 

突撃したカナヲは、炭治郎に抱き着かずにアオイの下へ向かったのだ。カナヲは斜めからアオイに抱き着いて行き、左乳房を顔を埋めて左手を右乳房に添えた。

 

そんな思いもよらぬカナヲの行動に、アオイは驚愕の悲鳴を上げ炭治郎も驚きから両眼を見開いた。

 

「ふふっ❤……驚いたっ? アオイ姉さんっ。」

 

「え、えぇっ……てっきり炭治郎さんに可愛がって貰おうとばかり……っ。」

 

「うん、それも勿論最高なんだけど……。」

 

してやったりと悪戯が成功した悪戯っ子の如き笑みを浮かべたカナヲは、アオイの疑問に同意しつつもこれが回答と言わんばかりに行動に移った。

 

「触ってみたいって思ってたのよ。アオイ姉さんの乳房(おっぱい)……どう?……痛くない? 気持ち良い?」

 

「あっ!❤……ああっ!❤……カナヲッ! いきなりそんなっ!……っっ❤」

 

「炭治郎が揉んでる訳じゃないのに、こんなに感じて……アオイ姉さんって、乳房(おっぱい)弱いのねっ。」

 

カナヲがアオイの乳房を揉むと、アオイは当惑混じりの嬌声を上げ始めた。どうやらカナヲに愛撫されるなど、想像もしていなかった様だ。

 

「あああっ!!❤……ちょっ、とぉっ!?……カナヲっ!」

 

「アオイ姉さんのお肌……私と違ってモチ肌よね。モチモチしてるから、触ってて気持ち良いっ。」

 

カナヲはアオイを肌質を味わいながら、アオイの豊満な乳房をモミモミと揉んでいた。

 

「はっ、はぁっ!? あんたっ……何を言ってっ……んんっ❤」

 

「はむっ❤……ちゅうううっ!❤……ちゅううちゅう!!❤」

 

「んひいぃっ!?❤ そ、そんなに強く吸わないでぇ!? あああんっ!!❤」

 

カナヲは顔を埋めていた左乳房の乳首に吸い付くと、アオイは大きな嬌声を上げた。そしてその余波は、炭治郎にもしっかり及んでいた。

 

「ぐっ!?……腟内(なか)の圧がっ、先刻(さっき)より強くなってっ……っっっ!!」

 

炭治郎はアオイの括れた腰を掴んだまま、畝る様に動く膣内に身悶えていた。快楽を感じていると、炭治郎は無意識の内に反復動作(ピストン)を再開させていた。

 

「おぉぉんっ!?❤ あひぃっ!❤……んぁあああっ!❤……待ってぇっ!❤……今イったからっ!❤……イったばかりだからぁっ!!❤ いひぃいいっ!!❤❤」

 

炭治郎とカナヲに同時に愛撫されて、小さいとは言え絶頂を何回か繰り返して快楽に悶えていた。其処へ、炭治郎にも限界の時が訪れる。

 

「ぐっ!……射精()るっ!!」

 

 

 

ビュルルルルルウウウウウゥゥゥゥゥゥッッッ!!! ビュルビュルルルビュビュウウウウウゥゥゥゥゥッッッッ!!!!

 

 

 

「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!❤❤❤」

 

アオイは膣内に大量の白濁の溶岩が打ち付けられている感触を感じて、これまで以上に大きな快楽に襲われて身体を弓反りにする程に大きく絶頂した。

 

「あっ❤……あぁっ❤……はぁっ❤……はぁっ❤……~~っっ❤❤」

 

アオイは絶頂からか、半ば放心状態で荒く呼吸を繰り返していた。同時に片手で子宮に感じる愛おしい熱量を、腹部の上から優しく撫でていた。

 

「ぷはっ❤ ふうぅ❤…………炭治郎っ!❤」

 

「んっ!」

 

満足した様子のカナヲはアオイの乳房から口を離すと、炭治郎の頸に両腕を回して抱き着いて口付け(キス)をした。不意を突かれた炭治郎だが、直ぐにカナヲの背中に両腕を回して抱きしめながら口付け(キス)を返した。

 

「んんっ❤……今度は私に、ね?❤」

 

「うん。」

 

炭治郎は抱擁を解いた後、逸物をアオイの秘部から抜き取った。先刻よりも白く濡れた逸物が精液の糸を引きながら、カナヲに見せ付ける様に姿を現した。

 

「っ!❤……っ❤❤」

 

炭治郎の逸物の姿と、噎せ返る程の淫臭を嗅いだカナヲは興奮から秘部から分泌される愛液の量が増した。

 

「はぁっ❤ はぁっ❤……炭治郎っ❤」

 

カナヲは興奮が増して来ている自覚を持ちながら、炭治郎の逸物に跨って自身の秘部に目掛けて挿入しようと動いた。

 

「はぁっ❤……ひゃああっ!?❤❤」

 

唐突に、カナヲは大きな嬌声を上げた。それはカナヲの秘部に、炭治郎の逸物が挿入されたからでは無かった。

 

「……フンッ。」

 

絶頂の余韻が収まったアオイが、背後からカナヲの両脇に自身の両腕を通してカナヲの乳房を鷲掴みにしたのだ。カナヲは驚きと不意打ちで襲って来た快楽に、大きな嬌声を上げていたのである。

 

「ああっ!❤ あんっ!❤……ね、姉さんっ……っ!」

 

「カナヲ……先刻(さっき)はよくもやってくれたわねっ……っっ。」

 

カナヲの乳房を鷲掴みにしていたアオイはそう言うと、報復と言わんばかりに行動を開始した。

 

「んああぁぁんっ!!?❤」

 

「……ふふっ❤」

 

「!」

 

アオイはカナヲの埋まった陥没乳首に、自身の指を挿入したのだ。第一関節の半分程、カナヲの陥没乳首に中指を挿入して弄り始めた。

 

「ああぁぁぁっ!❤ そ、そんな所に指なんて入れちゃっ!……んんあっ!?❤」

 

「私より乳房(おっぱい)弱い癖にっ……こんなに感じて……えいっ♪」

 

「あああぁぁんっ!!❤」

 

アオイは更に力を込めて両中指を陥没乳首に押し込むと、カナヲは絶頂を覚えた。そんなカナヲを見て、アオイは満足感を覚えて中指を抜いた。

 

「……カナヲの陥没乳首(恥ずかしがり屋)がやっと顔を出したわね。もっと可愛がってあげる。」

 

カナヲを絶頂させたアオイだが、まだ愛撫する手を止める様子は無い。アオイは姿を現したカナヲの乳首を、両手で摘まむ様に握った。

 

「カナヲの肌ってスベスベね……女として羨ましいっ……っ。」

 

「いひいぃぃっ!?❤❤……アッ、アオイ、姉さんっ!!……お願いだからっ……もっと優しくしてええぇぇっっ!!?❤」

 

カナヲの肌質に羨望の念を抱きながら、アオイが乳牛の乳絞りの如き手付きでカナヲの乳首を愛撫する。するとカナヲは先刻よりも、大きな嬌声を上げて見悶えた。

 

「それっ!」

 

「んあああぁぁぁぁっ!!?❤❤❤」

 

アオイはカナヲの嘆願を無視すると、乳首にもう少し力を入れてから両乳房を伸ばす様に引っ張った。するとカナヲは頭を仰け反らせて、大きく絶頂した。

 

「ひっ❤……ひぃっ❤……ああぁっ❤……ああぁ~~っ❤❤」

 

「カナヲ、気持ち良くなってくれて嬉しいわ。」

 

カナヲは半ば放心状態で仰け反った頭を、アオイの肩に乗せていた。アオイは仔馬の尾を連想する、カナヲのサイドテールの髪の感触を感じながら好きな様にさせていた。

 

「はあっ……はあっ……っっ。」

 

アオイとカナヲの痴態を見学していた炭治郎が、息を荒くしながら二人を見詰めていた。炭治郎の逸物も今にも射精しそうな程に、力強く勃起していた。

 

「っ!……炭治郎、ごめんなさいっ……お詫びって心算は無いけど……どうぞっ。」

 

「!」

 

アオイは炭治郎の様子に気付いて、カナヲの乳房を下から鷲掴みにしてからカナヲの両方の陥没乳首を真ん中に寄せた。

 

「はあっ……っっ……あむっ!」

 

「ああぁぁんっ!?❤❤」

 

カナヲが反応する前に、炭治郎は飛び込む様にカナヲの乳房に顔を埋めた。それからカナヲの両方の陥没乳首を、一度に口に咥える。

 

「ちゅぢゅちゅうううぅぅっ!!…………ちゅううぅっ!……ちゅぶちゅぶぶっ!」

 

「あああぁぁぁっ!❤❤……そんなっ!❤……一度に、吸われたらぁっ!!❤……私っ❤……んひいいぃぃっ!❤❤❤」

 

「あはっ❤……カナヲ、凄く気持ち良さそうっ❤……っ❤」

 

カナヲは余りの快楽に悶えて、頭を左右に何度も振るった。その度に顔に自身のカナヲのサイドテールの髪が当たるが、アオイは一切気にしなかった。

 

「ちゅうううぅぅぅっ!」

 

「んんああぁぁぁっ!!❤❤❤」

 

炭治郎がダメ押しで強く吸うと、カナヲは呆気無く絶頂した。その証拠にアオイの秘部からは勢い良く愛液が潮を吹いて、炭治郎の逸物を白く濡らしていた。

 

「っ!……んんっ……んんっ~!!」

 

炭治郎は自身の逸物に掛かる愛液の熱を感じて、思わず反射的に噴火したが如く射精しそうになった。しかし如何にか射精を耐える。

 

「んんっ!!」

 

「あひいいぃぃぃっ!!!❤❤❤」

 

炭治郎はカナヲの陥没乳首を咥えたまま、逸物を秘部に挿入した。その挿入した衝動だけで、カナヲは絶頂する。

 

「んんちゅちゅっ!……ちゅぢゅるるるるっ!」

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「あああんっ!❤❤……あああっ!❤……激しっ!❤……んあああっ!!❤❤」

 

炭治郎は陥没乳首を吸引しつつ、腰を激しく振って反復動作(ピストン)を始めた。カナヲは何度も襲って来る快楽の大波に、ただ無防備な身を晒すしか出来なかった。そして立て直しも出来ないまま、一際大きな快楽の大波にカナヲは襲われる。

 

 

 

ビュビュビュルルルルルルルルウウウウウゥゥゥゥゥゥッッッ!!! デュビュルルルルルルウウウウウゥゥゥゥゥゥッッッ!!!

 

 

 

「あああああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~っっっ!!!❤❤❤」

 

「うぅっ、ああぁぁっ……っっ!!」

 

カナヲの子宮を目指して怒涛の勢いで流れる、白濁の溶岩を受けてカナヲは大きく絶頂した。炭治郎も逸物から勢い良く放たれる白濁の溶岩の勢いに、全身を震わせて絶頂する。

 

「……ふぅっ……はあっ……はぁっ……っっ。」

 

「炭治郎っ、お疲れ様っ❤……私、見ていただけなのに一緒にイきそうだったわ……っ❤」

 

アオイは熱で潤んだ両眼で炭治郎を見詰めながら、炭治郎に労いの言葉を掛けた。口にした内容は嘘では無いみたいで、既に自身の愛液と炭治郎の精液が混ざった混合液が、愛液に押し出されて太腿に垂れていた。

 

「ふうっ……っ。」

 

「っ! あぁっ❤……っ❤」

 

炭治郎が逸物をカナヲの秘部から抜き去ると、カナヲは喪失感から思わず声を漏らした。

 

「アオイ、カナヲ……俺のを、綺麗にしてくれる?」

 

「「っ!❤」」

 

炭治郎がアオイとカナヲにそう頼み込むと、二人は喜んで炭治郎の逸物に口を付けて綺麗に舐め取り始めた。先にアオイが炭治郎の逸物に口を付け、遅れてカナヲが慌てながらアオイに続いた。

 

「ぢゅぢゅるるっ!❤……しゅれろろれろっ❤」

 

「れろれろっ❤❤……じゅるぢゅぢゅじゅっ!❤」

 

室内に舌を動かす事で鳴る水音が鳴り響いていたが、暫くするとその水音も収まった。アオイとカナヲが顔を上げると、その先には二人の唾液塗れになった炭治郎の勃起した逸物の姿があった。

 

「ありがとう……まだ時間はたっぷりあるから……もっと愛し合おうね。アオイ、カナヲ。」

 

「「はいっ!❤」」

 

アオイとカナヲは炭治郎の言葉に、強く歓喜した様子で勢い良く抱き着いた。それから再び、産屋敷別邸で嬌声が聞こえ始めた。




お待たせ致しました。  

先ず謝罪致します。投稿予告を守れず申し訳ございませんでした。

ただ、これには訳が……ございまして。



身内が急死しました。


あまりに唐突な死で悲しむ間も無く、葬儀が終わってもその後の手続きやトラブルで今までの日常が終わりました・・・私が主導と言う訳では無いのですが、ぐったりしてますね。家族共々毎日が辛いです。終わりが見えないので……( ;∀;)

炭治郎君達はこんな喪失感を味わっていたのだろうと思いながら、自分を奮い立たせています。

後書きに愚痴を書いて申し訳ありません。どれだけ経とうと、頑張って完結させますのでどうかお付き合い下さると嬉しいです。

そうだなぁ……鬼滅の刃アニメが最終回を迎えるまでに終わらせたいですね。頑張ります。


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第伍拾伍話 藤蝶と撫子蝶は日輪の後夜祭に闖入す ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
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「…………っ!!!」

 

産屋敷本邸のとある一室で、ガバッと勢い良く布団を跳ね上げる一人の女性が居た。

 

炭治郎の最愛の恋人にして、鬼殺隊・蟲柱の胡蝶しのぶである。

 

「……っ……っっ。」

 

左手で僅かに感じる頭痛を押さえながら、しのぶはこれまでの経緯を回想していた。

 

「…………あぁっ。」

 

しのぶは小声で声を漏らすと、空いていた右手も頭に乗せた。

 

「あああぁぁっっ……あああっっ~~~っ!!!」

 

しのぶは形容出来ない声を上げながら、両手で頭を思い切り掻き始めた。その表情からは、悔恨や後悔の色が見て取れた。

 

「……っっ……どうして、私は敵に塩を送る様な愚かな真似を……っっ!!」

 

しのぶはそう言うと、奥歯をギリッと悔しげに噛み締めた。先刻の女湯で酩酊していたとは言え、珠世に炭治郎への恋心を焚き付けた事を後悔していたのだ。

 

しのぶは飲酒していた時の行動が、全て記憶に残っていたのである。一層そんなものは消えていればとも思ったが、後の祭りであった。

 

「もう良いわ……その時はその時よ。」

 

諦観を抱いて溜息を吐いたしのぶは、珠世については自業自得だとして悪態を吐くのを止める事にした。

 

この時にしのぶは自覚していなかったのだが、炭治郎と珠世が結ばれる事に其処まで忌避感や嫌悪感など抱いていなかったのである。

 

これが一昔前の自分ならば、珠世を自分の手で殺してでも認めなかっただろう。

 

「…………っ…………っっ?」

 

気分転換も兼ねて室内を見渡したしのぶであったが、其処である重大な事実に気付いた。

 

「アオイとカナヲが……居ない?」

 

室内を見渡せば自分以外には就寝中の禰豆子と蜜璃しか居らず、アオイとカナヲの姿が無かったのだ。

 

「厠かしら?……でも二人揃って?…………まさかっっっ!!?」

 

しのぶは疑問に思いながら独白すると、ある可能性が脳裏に浮かび、鮮明に反映された。

 

「っっ!……っっ!?……フフッ。」

 

脳裏に浮かんだ可能性を見て、しのぶは小さく笑った。しかし笑っているのは口だけであり、その両眼は一切笑ってはいない。そればかりか、額には青筋を浮かべている。

 

「フフフフッ……うふふふっ…………あいつらぁっ!?」

――この正室()を差し置いて、二人だけで炭治郎君とっ!!……っ!!!

 

しのぶは瞬時にアオイとカナヲの抜け駆けを察して、沸騰した様に激昂した。妹分である二人の事を知り尽くしているからこそ、しのぶは二人の行動を一瞬にして読み取れたのである。

 

「……(ギリッ!)」

 

歯茎から血が噴き出しそうになる程の勢いで思い切り噛んだ後、急いで部屋から退室しようとした。

 

「!」

 

「……んっ――。」

 

部屋から退室しようとしたしのぶであったが、急に左手が引っ張られる感覚を覚えて足を止める。振り返ると、其処には起床している禰豆子の姿があった。

 

「禰豆子さん……私はある場所に用が出来たので、失礼しますね。甘露寺さんと一緒に、この部屋に居て下さい。」

 

しのぶは冷静さを装って、ある種媚びる様な猫撫で声で禰豆子の説得を試みた。

 

「んっ~~!」

 

「……」

 

しかし、しのぶの説得も禰豆子には通じなかった。本能的に、しのぶが嘘を吐いていると悟ったのだろう。握っているしのぶの左手に、禰豆子は更に力を込めた。

 

尤も、しのぶを痛めたりしない様に力に加減を咥える事は忘れてはいない。「疑わしい」と言わんばかりに、ジト目で睨み付けてはいるが。

 

「…………行きますか? 炭治郎君の下へ。」

 

「んっ!」

 

しのぶは溜息を吐いてから禰豆子に提案すると、快諾した様子で笑みを浮かべながら禰豆子はしのぶに答えた。

 

それから禰豆子としのぶは、蜜璃を起こさない様に気を付けながら一緒に部屋から退室した。

 

「…………」

 

こうしてこの部屋には、蜜璃一人が残される事となった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……っ!……っ!!」

 

しのぶは禰豆子を連れて炭治郎達が居ると思われる、産屋敷別邸へと真っ直ぐ向かっていた。産屋敷別邸に近付くに連れて、しのぶの足音は荒々しいものになって行く。

 

何故しのぶが迷わずに産屋敷別邸を目指しているのかと言うと、産屋敷本邸から少しばかり離れている産屋敷別邸ならば、人目や声を気にせずに情交(セックス)が出来るからだ。

 

しのぶも自分がもし同じ立場ならば、迷う事無く同じ判断をしたと断言出来た。なので、寄り道せずに真っ直ぐこの産屋敷別邸に来れたのである。

 

「…………アオイッ!! カナヲッ!!」

 

襖を勢い良く開けたしのぶは、最初にアオイとカナヲに怒鳴り散らそうとした。自分を差し置いて炭治郎と愛し合おうした事に、しのぶはどう制裁を加えるべきか考えていた。

 

そして炭治郎も事情を聞いてから、どれだけの制裁を加えるかもしのぶは考えていた。

 

この時点では炭治郎は二人に誘われて情交(セックス)を承諾したのか、それとも二人に誘拐されて情交(セックス)を始めたのかが、しのぶには分からなかったからである。

 

「っ!?」

 

そんな思案をしていたしのぶであったが、開けた襖の先にある光景を見てそんな思案は跡形も無く消し飛んだ。

 

「あっ……あうぅっ……っ❤」

 

「おっ……あぁっっ……っ❤」

 

しのぶの視線の先には、白目を剥きだらしなく舌を伸ばし切って無残なアヘ顔を晒す失神状態のアオイとカナヲの姿があった。更に二人の秘部からは、子宮や膣内に収まり切らなかった白濁の溶岩がドロっと一塊で敷き布団の上に垂れ落ちていた。

 

「うっ――。」

 

――うわぁ…………すっかり炭治郎君に抱き潰されているわ……(ゴクッ)。

 

しのぶはアオイ達がどれだけ炭治郎と激しい情交(セックス)を繰り広げたのかを想像して、両頬を紅潮させながら一塊の生唾を飲み込んだ。一方で禰豆子は興味深そうに、失神しているアオイ達の様子を見ていた。

 

「あっ! しのぶさんっ! 禰豆子も……っ。」

 

「「!」」

 

しのぶと禰豆子は声をした方向へ顔を向けると、其処には結樽に入っている水を柄杓で掬って水を飲む炭治郎の姿があった。

 

「「っ!!!」」

 

しのぶ達が炭治郎の顔に視線を向けたのは刹那の間だけであり、直ぐに別の場所に凝視せざるを得なかった。二人の視線の先にあったのは、未だに力強く勃起している炭治郎の逸物であった。

 

「……あぁっ❤」

 

「……(ゴクッ❤)」

 

アオイとカナヲを快楽の海原に沈めたであろう炭治郎の逸物を見て、禰豆子は物欲しそうな声を漏らししのぶは再び一塊の生唾を飲み込んだ。

 

既に室内全体を漂う淫気な空気に当てられて、二人の秘部は少しずつ愛液を漏らし始めていた。

 

「!」

 

そしてそんな禰豆子としのぶの様子を、察せない炭治郎では無い。その超人的な嗅覚で二人から欲情と愛液の匂いを感じると、炭治郎はただ嬉しそうに微笑んだ。

 

「しのぶさん。」

 

「っ!❤」

 

炭治郎はしのぶの名前を優しく呼んで、微笑みを向ける。それだけでも、しのぶの理性の箍を外すには十分だった。

 

「……炭治郎君っ!!」

 

「「っ!」」

 

しのぶは辛抱たまらないと言わんばかりに、炭治郎に勢い良く抱き着いた。

 

「っ!!」

 

炭治郎に抱き着いたしのぶは、炭治郎から淫臭を更に強く嗅ぎ取った。その淫臭を嗅いだだけで、しのぶの秘部からは更に溢れ出る愛液の量が増した。

 

「っ……はぁっ……はぁっ!……炭治郎君っ……私も、私も愛して下さいっ!……アオイ達と同じ位に……いいえっ、二人よりももっとっ……っっ!!」

 

アオイとカナヲへの羨望からか、息を荒くして炭治郎の胸板を舐めながらしのぶは炭治郎に情交(セックス)を懇願した。

 

「しのぶさんっ……はいっ!!」

 

炭治郎はしのぶの懇願を聞いて、感激のままにしのぶを強く抱擁し返した。そのまま手を伸ばしてしのぶの右足を上げると、即座に行動に移る。

 

 

 

ズブッッッ!!!

 

 

 

「んあああぁぁぁっ!!❤」

 

しのぶは既に愛液で濡れていた秘部に、炭治郎から対面立位(立ちかなえ)の姿勢で挿入した。しのぶは不意打ちで逸物を挿入され、それだけで絶頂した。

 

「はぁっ……しのぶさんの、膣内(なか)……っっ。」

 

自身の逸物をしのぶの秘部に挿入した炭治郎だったが、まだその長大な逸物は半分程しか挿入されていない。逸物の残り半分は、まだかまだかと血管を浮かせて待っている。

 

「しのぶさんっ……俺にしっかり捕まって下さいっ……ふんっ!!」

 

炭治郎はそう言うと、更に逸物をしのぶの膣奥にまで挿入する。すると炭治郎の逸物は膣内を掻き分けて、一気に子宮口にまで激突した。

 

「あひいいぃぃぃっ!!?❤❤」

 

しのぶは子宮口を殴られる様な衝撃を受けたにも関わらず、しのぶは先刻よりも強い快楽を受けて絶頂した。

 

「凄くトロトロですっ……しのぶさんっ。とっても気持ち良いっ……。」

 

「ああうぅっ!❤……私もっ……炭治郎君のお×んちん、気持ち良いのぉっ❤……。」

 

炭治郎はしのぶの膣圧を堪能しながらそう言うと、しのぶも炭治郎の逸物から感じる快楽にうっとりとしながらそう答えた。しのぶの口から卑猥な単語も出たとあって、炭治郎は益々興奮を覚えて逸物を固くした。

 

「……動きますねっ……行きますっ!!」

 

 

 

パンッ パンッ パンッ!

 

 

 

「ああぁっ!……ああんっ!……良いっ……良いのぉっ!❤……もっとっ❤」

 

「はいっ!……しのぶさんが良いならっ!……っっ!!」

 

しのぶから更に強く求められて、炭治郎は直ぐに承諾し更に腰を打ち付ける速度を上げる。

 

「あああぁっ!……んはああんっ!!❤」

 

更に強くなった快楽が、しのぶの全身を貫いた。更にしのぶを強く肉同士がぶつかる音が、しのぶの鼓膜に響いて揺らした。

 

しのぶが快楽に翻弄されて酔い痴れる姿が、炭治郎にとっては嬉しくも愛おしかった。羽織っていた寝間着が、突きによる衝撃で徐々に開けて行く。そんな着崩れして煽情さが増して行くしのぶを見て、炭治郎は益々興奮して行く。

 

「ああぐぅっ!……しのぶさんっ、俺っ!……もうそろそろっ……っっ!!」

 

「炭治郎君っ……ああっ!❤」

 

 

 

ビュビュビュルルルルルルルウウウウゥゥゥゥッッッッ!! ドビュルルルルルウウウウウゥゥゥゥッッッ!!!

 

 

 

「ああああぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!❤❤」

 

子宮に炭治郎の白濁の溶岩を受けたしのぶは、口を大きく開けて絶頂の嬌声を上げた。

 

「あっ……ああっ❤」

 

しのぶは身体を痙攣させて、幸せそうに絶頂の余韻に浸る。そんなしのぶを、心底羨ましそうに見詰める美少女が居た。

 

「むぅ~~っ!」

 

炭治郎の妹である、禰豆子だった。炭治郎としのぶの間に立っており、上目遣いで不満をはっきりと表明している。

 

「!……禰豆子……はぁっ……はぁっ……ふぅっ。」

 

「っ!!」

 

息を整え終えた炭治郎に、しのぶは何故か敏感に反応した。そして直ぐ様、しのぶは行動に移る。

 

「駄目っ!!」

 

「「!」」

 

しのぶは両足を炭治郎の腰に回す様に絡め、両腕もしっかりと炭治郎の頸に回して強く抱き着いた。

 

「炭治郎君……今、私からおち×ちんを抜こうとしたでしょう?」

 

「っ!!……えっと、だって……。」

 

しのぶの指摘に、炭治郎は何と答えれば良いか分からず言葉が続かない。

 

「嫌っ!……嫌なのっ!」

 

「しのぶさん……。」

 

「お願い……もっと私を愛してっ……っ。」

 

「!!」

 

吐息が当たる寸前まで顔を近付けて、炭治郎に懇願するしのぶ。最愛の恋人であるしのぶの懇願を、炭治郎に拒絶出来る筈が無かった。

 

「禰豆子、ごめんっ!……しのぶさんっ!!」

 

「あああんっ!❤」

 

「!?」

 

炭治郎は禰豆子に一言だけ謝罪すると、しのぶの臀部を両手で鷲掴みにしてから櫓立ち(駅弁)の体位で激しく

反復動作(ピストン)を始めた。

 

「はあんっ!……ああぁっ!❤……うれっ、しいぃっ……炭治郎君っ……好きっ……好きっ!❤」

 

炭治郎が禰豆子より自身を優先してくれた事実を見て、歓喜の渦に飲まれて悶絶していた。非力な自身が出せる精一杯の力で、炭治郎に強く愛を囁いていた。

 

「しのぶさんっ……俺も好きですっ!……しのぶさんが好きですっ!!……うおおっ!!」

 

 

 

パンッ! パンッ! グリグリグリッ!! パンッ! グリッ!!

 

 

 

「あああんっ!!❤……そんなっ……そんなに膣奥(おく)まで、グリグリってされたらああっ……んあああっ!!❤❤」

 

膣奥を削らんばかりの炭治郎の攻めに、しのぶは先刻以上に快楽で悶絶していた。事実として秘部から垂れる愛液の量は増して行くばかりであり、畳の上に垂れ落ちて愛液溜まりを作っている。

 

炭治郎の精液も混じっているが、大半が子宮に留まっているのかあまり混じってはいなかった。

 

「うぅっ……はぁっ……はぁっ……っっ。」

 

禰豆子は激しく愛し合う炭治郎としのぶに、正確には炭治郎に愛されているしのぶに羨望しか無かった。

 

「しのぶさんっ……愛してますっ……んぢゅっ!……じゅじゅちゅるるるっ!……ちゅうううぢゅちゅっ!」

 

「ぢゅんじゅちゅうっ!……じゅずずずぢゅるっ!❤……ぁあんっ❤……愛して、ますっ……ちゅちゅっ……愛していますっ❤……ちゅううううっ!!」

 

そんな禰豆子を他所に、炭治郎としのぶは互いに愛を囁きながら口吸い(ディープキス)をして舌を絡めて唾液を貪り合った。

 

 

 

ドビュルルウウッッ!!! ドビュビュルルルルウウウウゥゥゥッッッ!!!

 

 

 

炭治郎はしのぶの口を封じたまま、腰を打ち付けて勢い良く射精した。

 

「んんんんうううううううぅぅぅぅぅぅぅっっっっっ!!!❤❤❤」

 

炭治郎に零距離で子宮に目掛けて白濁の溶岩を撃ち込まれたしのぶは、口を塞がれていたので口籠った声を漏らしながら絶頂した。

 

「っっ……ぷはっ……しのぶさん、気持ち良かったぁ……。」

 

「んああっ❤……お腹、温かぁい……っっ。」

 

銀色の糸を垂らしながら二人は口を離すと、余韻に浸って互いを見つめ合った。

 

「うぉっ!?」

 

「!」

 

炭治郎は背中から衝撃を覚えて、身体を少しよろめかせた。炭治郎に抱き着いたまま宙に浮いているしのぶも、必然的に身体が揺れる。

 

「ううううぅぅぅっ~~~っ!!」

 

炭治郎に衝撃を与えた人物は、ずっと放置されていた禰豆子だった。禰豆子は文句を言いたげな唸り声を口にして、炭治郎に背後から抱き着いたのだ。

 

「禰豆子……。」

――うおっ……や、柔らかい……。

 

炭治郎は背後から柔らかい感覚を覚えて、思わず心中で動揺する。禰豆子は鬼化して大人化しており、身長差の関係もあってその豊満な乳房が炭治郎の頭部を挟む様に当たっていたのである。

 

「っ……しのぶさん、流石にもうそろそろ禰豆子にも……。」

 

「っ!……そ、そうね……。」

 

炭治郎は禰豆子を蚊帳の外に出していた事を思い出して、罪悪感からしのぶに交代を遠回しに要求した。しのぶも炭治郎と同様の事を思っていたのか、異議を挟む事無くあっさりと同意した。

 

「禰豆子。しのぶさんを下ろすから、離れているんだ。」

 

「!……うっ!」

 

炭治郎がそう言うと、禰豆子は炭治郎への抱擁を解いて離れて行った。禰豆子が下がったのと同時に、炭治郎はしのぶをゆっくり床に下ろす。それから秘部に挿入していた逸物を、ゆっくりと抜き取った。

 

「ぁ……っ。」

 

「ふぅっ……っ。」

 

しのぶの心情を表現する様に、膣内は離れたくないと炭治郎の逸物を膣圧で押さえていたが、炭治郎が力を入れると逸物は完全に抜けて白く染まった状態で姿を現した。

 

炭治郎の逸物が抜けたしのぶの秘部からは、僅かに精液が零れて淫靡な姿を現している。炭治郎は逸物を抜いてから、しのぶを布団の上に優しく下した。

 

「んんっ!」

 

「「!」」

 

禰豆子が突撃する様に、割って入って来た。そして炭治郎の逸物に、徐に口に咥える。

 

「んんっ~~! ちゅぼっ! ちゅぶっ!!」

 

「ああっ! ね、禰豆子……っ。」

 

禰豆子は炭治郎の逸物を咥えて一通り舐めると、白かった逸物は禰豆子の唾液で濡れた状態になった。

 

「ちゅっ!……あっ……はぁっ……はぁっ❤」

 

禰豆子は自身の唾液で濡れた逸物に熱い視線を注ぎながら、しのぶの隣で仰向けになって開脚すると秘部を大きく開いた。

 

「禰豆子……はぁっ……はぁっ……。」

 

炭治郎は夢中になって、禰豆子の身体を視姦していた。昼間は着物で隠れていた、鬼化した事で大きく成長している身体が余す事無く炭治郎の前で露わになっている。

 

大きく成長した乳房。よりはっきりと分かる縊れた腰。しなやかに伸びた細長い手足。元々の美貌も、幼さが消えてより大人っぽく成長している。左眼の罅割れ模様や右側の額に生えている角など、炭治郎にとって問題にはならない。

 

次に洪水を起こしている禰豆子の秘部に、視線が釘付けになっていた。炭治郎は直ぐに禰豆子の下へ向かうと、その縊れた腰を両手で掴んだ。

 

「行くよ、禰豆子。」

 

「あぅ……(コクッ)」

 

炭治郎は逸物を宛がうと、禰豆子に事前に声を掛ける。禰豆子は秘部に当たる亀頭の熱にビクッと身体を震わせると、一度だけ首肯した。

 

「はぁっ……ぐっ、あああっ!」

 

「ああああっ!!❤」

 

先端の亀頭を挿入すると、一気に残りも膣内へ逸物を挿入した。

 

「ぐああっ!? な、何だっ? これぇっ……っ!!」

 

昨日の禰豆子とは全く違う膣内に、炭治郎は困惑する。

 

「ああっ!……くあああっ!」

 

膣圧は以前よりも、単純にきつくなっていたのだ。想定外の膣圧に、炭治郎は見悶える。

 

「あっ……うっ?」

 

そんな炭治郎の様子が、禰豆子にとって逆に不安を招いた様子だった。心配した様子で、炭治郎を見詰めていた。禰豆子の様子を察した炭治郎が、微笑みながら安心させるべく声を掛ける。

 

「大丈夫……気持ち良いよ、禰豆子。」

 

「……あぁっ❤」

 

炭治郎に微笑み掛けられて、禰豆子は胸中が熱くなるのを感じた。

 

「動くよっ……うぅっ!!」

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「ああっ!……あああっ!」

 

「はぁっ……ああっ!」

――きついっ……けど……。

 

炭治郎は反復動作(ピストン)を行うと、禰豆子が嬌声を上げ始める。炭治郎は禰豆子の膣圧に耐えていると、其処にある変化に気付いた。

 

――何だか、包み込まれている様な……そんな安心感があるなぁ。

 

炭治郎は膣内を突き続けながら、最初よりも余裕を持ち始めた。

 

「んあああっ! ああんっ!! あああんっ!」

 

そんな炭治郎とは対照的に、禰豆子は激しさを増して行く反復動作(ピストン)から生まれる快楽に酔い痴れている。頭を左右に振り回して、快楽に悶えていた。

 

「禰豆子っ……うぅああっ!」

 

 

 

ビュビュルルルルルルウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!! ビュルビュルルルルルドビュルルルルウウウウウゥゥゥゥッッッ!!!

 

 

 

「ああああぁぁぁっっ~~~~~!!!❤❤」

 

禰豆子は子宮に押し寄せて来る白濁の溶岩を感じながら、身体を弓状に仰け反らせて大きく絶頂した。

 

「おおっ!……ああっ!!」

 

炭治郎も腰を震わせながら、次々と白濁の溶岩を膣内に流し込み続けた。口元から一筋の涎を垂らして、快楽を全身で感じている。

 

「あぁんっ❤…………んっ❤」

 

「んぐっ!」

 

禰豆子は炭治郎の頭を両手で抱き寄せると、鬼化した事で身長に比例して大きく育った乳房で挟む様に抱き締めた。

 

――禰豆子の乳房(おっぱい)、大きくて柔らかい……こんなに実ってっ……。

 

炭治郎は両手を禰豆子の括れた腰から、その豊満な乳房に移して揉み始めた。

 

「ああぁんっ!❤……んはぁんっ!❤……ああっ!❤」

 

炭治郎に乳房を揉まれて、禰豆子は歓喜の混じった嬌声を上げ始めた。炭治郎が乳房を揉み易い様に、抱擁する力を緩める。

 

「あむっ……ちゅううぅぅぅっ。」

 

「んあああぁぁぁっ!?❤」

 

炭治郎が口を左乳房に目掛けて動かすと、勃起している乳首に吸い付いた。両眼を閉じて余韻に浸っていた禰豆子は、不意打ちを喰らった様子で両眼を見開いて身体を跳ねらせた。

 

「ちゅううっ……ちゅうちゅぶっ。」

 

「ああんっ!……はああぁぁぁんっ……っ❤」

 

禰豆子は快楽に酔い痴れながらも、炭治郎の後頭部を優しく撫で続ける。炭治郎も強弱を付けて、禰豆子の乳房を夢中になって吸っていた。

 

「…………」

 

しかしそんな二人の姿を見て、快楽から漸く立ち直ったしのぶは面白いと思う訳が無い。当初こそ禰豆子を除け者にして炭治郎と愛し合ったので、その負い目から大人しく身を引いていた。しかしそれも、最早我慢の限界であった。

 

「た~~ん~~じ~~ろ~~う~~く~~んっ。」

 

「っ!!」

 

炭治郎は背後から柔らかい感触と、藤の花の匂いを感じ取った。その匂いの中には、怒りと嫉妬も含まれていた。

 

「し、しのぶさん……。」

 

炭治郎は慌てて禰豆子の乳房から口を離して、頭を動かしてからしのぶの名前を呼んだ。

 

「……むぅ。」

 

炭治郎に乳房を吸って貰えなくなった禰豆子は、不満そうな声を漏らした。

 

「禰豆子さんの乳房(おっぱい)にそんなに夢中になって……私の乳房(おっぱい)より好きなんですか?」

 

「そっ!? そんな事は……っ!!」

 

しのぶが不貞腐れた様子でそう言うと、炭治郎は慌てて否定する。尤も、最後まできちんと言葉に出来ていなかったが。

 

「……ふんっ!」

 

「ああっ!??」

 

「?」

 

しのぶが何か行動に移ったと同時に、炭治郎は困惑した声を上げた。

 

「しっ、しのぶさんっ!? そ、其処は……っ!!」

 

「どうですか? 炭治郎君?……これが何時も私達にしている事ですよ?」

 

しのぶは炭治郎の背後から両腕を前に回すと、炭治郎の胸板にある乳首を弄り始めたのである。初めての感覚に、炭治郎は困惑気味で見悶えていた。

 

「ああぁぁっ……くうぁっ!……っっ!!」

 

「男性でも、乳首を触られると感じるんですねぇ……れろれろっ。」

 

しのぶは興味深そうに炭治郎の反応を見ながら、首筋を舐めて愛撫していた。汗の所為か、少し塩味がした。

 

「ちゅれれろっ……炭治郎君。早くもう一回禰豆子さんの膣内(なか)に、そのドロドロの精液を射精()して下さいよ……ちゅううれろっ……もっと、愛し合いたいんですからっ……ちゅるるっ。」

 

「っ!!……しのぶさんっ……はいっっ!!」

 

炭治郎は乳首を愛撫され、背中や首筋を舐められながらもしのぶから本音を告白されて、直ぐに行動に移った。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「あああんっ!? あああぁぁっ!?❤」

 

突然再開した反復動作(ピストン)に、禰豆子は驚きながら嬌声を上げる。炭治郎から外れた視線を元に戻すと、炭治郎はしのぶと会話をしていた。

 

「あああっ! しのぶさんっ……あんまり弄られると、直ぐ射精()しちゃいそうですっ!!」

 

「ちゅううぅぅっ……それそれっ♪……早くイっちゃえっっ。」

 

しのぶに舌と両手で愛撫されて、炭治郎は反復動作(ピストン)をしながらも意識や関心はしのぶに向かっていた。

 

「ああんっ!……あううっ。」

 

炭治郎は反復動作(ピストン)を絶えずしてくれているが、意識は明らかにしのぶに向かっている。そんな事実が、禰豆子には面白く無かった。

 

「むううぅぅぅっ!」

 

「んっ!?」

 

禰豆子は両手で、炭治郎の両頬を挟むと強引に自分に向ける。炭治郎が驚いている間に、禰豆子は素早く行動に移った。

 

「ちゅううっ!!」

 

「むぐっ!!」

 

「!」

 

炭治郎の顔を引き寄せて、炭治郎と口付け(キス)をした。炭治郎は驚きながらも、即視感(デジャブ)を感じる。

 

――っ!……禰豆子、ごめん。

 

炭治郎は禰豆子から独占欲の匂いを感じて、心中で禰豆子に謝罪しつつ罪滅ぼしとばかりに禰豆子との口付け(キス)との口付けに集中する。

 

「ちゅううっ!……ちゅちゅぢゅるっ!……はうちゅるっ」

 

「じゅぢゅうううっ!……れろちゅれちゅろろろっ!!……はぅっ……ずぢゅうううっ!!❤」

 

炭治郎は禰豆子の口内に舌を侵入させて、歯茎も念入りに舐め回す。鬼化して伸びた犬歯もだ。禰豆子も負けじと炭治郎の舌に自分の舌を絡ませ、同じく唾液を貪った。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

炭治郎は禰豆子と口付け(キス)を続けたまま、反復動作(ピストン)を休まず続けていた。しのぶからの愛撫も続いていた為、限界は直ぐにやって来た。

 

 

 

ビュビュビュルルルルウウウウウゥゥゥゥゥゥッッッッッ!!! ビュジュルルルルルルウウウウウウゥゥゥゥゥッッッッ!!!

 

 

 

「~~~~~~~っっっっ!!!❤❤❤」

 

炭治郎との口付け(キス)の最中で白濁の溶岩を注ぎ込まれた禰豆子は、声を上げる事が出来ないまま絶頂した。

 

炭治郎は一滴でも多く禰豆子の子宮に白濁の溶岩を流し込もうと、腰を打ち付けたままその状態で固定していた。

 

「……ぷはっ。気持ち良かったか? 禰豆子?」

 

「はあぁぁっ……ああうっ……(コクッ)」

 

炭治郎に尋ねられた禰豆子は、恍惚とした表情を浮かべて頷いた。そんな禰豆子の様子を見て、炭治郎も嬉しそうに微笑みを浮かべる。

 

「……余韻に浸っている所をすみませんが、今度は私の番ではありませんか?」

 

「ああっ!?」

 

炭治郎は背後のしのぶに尋ねられた後、驚く様な声を上げた。それはしのぶの質問の内容に、驚いたからではない。不意打ちで両方の乳首を抓られたから、その感触に驚いて声を上げたのである。

 

「……し、しのぶさん……そうですね。お待たせしてすみません。」

 

炭治郎は乳首から来る快感と少しの痛みに身体を震わせながら、しのぶに謝罪した。禰豆子の膣内から逸物を抜いて、炭治郎はしのぶと向き合おうと試みた。

 

「……やっ!」

 

「「!?」」

 

しかしその展開を望まない者が居た。炭治郎に愛されていた禰豆子である。禰豆子はしのぶに渡すまいと、炭治郎を抱き締めた。

 

「……っっ。」

 

当然、待たされているしのぶがそんな禰豆子の我儘を許せる筈が無い。しのぶの額に、自然と青筋が浮かんだ。

 

「禰豆子さんっ。私も炭治郎君に、二回愛して頂きました。一回で交代しなかった件については謝りますが……貴女も二回共、十分に愛されたでしょう? だったら私に代わるのが筋と言うものではありませんかっ!?」

 

「……やぁ――っ!!」

 

「むぐっ!?」

 

しのぶの正論に対して、禰豆子は感情的に反抗する。禰豆子は更に抱き寄せる様に、炭治郎を強く抱きしめた。炭治郎の頭は禰豆子の谷間に、乳房で挟まる様に収まってしまう。

 

「こっ、のっ!? 好い加減にしなさいよっ!? 私にだけ我慢を強いて、自分だけ炭治郎を独占する心算!? そうは問屋が卸しませんからっ!!」

 

「ううぅっ!!」

 

炭治郎の頭上で、禰豆子としのぶが言い争う声が聞こえて来た。それは鎮まる気配は無く、益々熱を帯びて行った。

 

「……っ……っ。」

 

炭治郎は禰豆子の谷間に顔を埋めながら、二人の争いに耳を立てていた。最初は自分が出しゃばれば余計に悪化すると考えたが、埒が開かないと即座に判断して行動に移った。

 

「……あああもうっ!!」

 

「「!?……きゃっ!?」」

 

炭治郎は勢い良く起き上がると、しのぶと禰豆子を同時に抱き寄せた。その結果、しのぶが左側で禰豆子が右側に納まる結果となる。二人は炭治郎の不意の行動を察せず、同時に小さな悲鳴を上げてそのまま炭治郎に抱き寄せられた。

 

「ひゃああんっ!❤……ああぁっ!❤」

 

「たんじ、あああっ!……ああんっ!❤」

 

禰豆子としのぶが同時に、嬌声を上げ始めた。それは炭治郎が二人の脇から腕を通して、乳房を揉んでいたからだ。炭治郎に強弱を付けて乳房を揉まれ、二人は絶えず嬌声を上げ続ける。

 

「良いですかっ? この問題ですけど……あむっ、ぢゅうっ……ちゅうちゅうっ。」

 

「はうああぁぁっ!!❤……んふうぅっ❤……あぁんっ❤」

 

「ぷはっ。埒が明かないから、俺が二人を纏めて愛します……んむっ。じゅぢゅう……ちゅぅっ。」

 

「んあぁんっ!❤……あぁぁ❤……あぁぁん❤」

 

炭治郎は乳房を揉む手を緩めないまま、しのぶと禰豆子のもう片方の乳房を交互に吸い始めた。炭治郎に乳房を攻め立てられ、二人は嬌声を上げて快楽に悶絶する事しか出来ない。

 

「それで文句はっ! ありませんよねっ!! ちゅううううぅぅぅぅっ!!! んぢゅううううぅぅぅっ!!!」

 

「「ああああぁぁぁぁっ!!❤❤……あぁっ!❤……んああああああああぁぁぁぁっ!!❤❤」」

 

散々吸われて攻められていた乳首を、炭治郎は二人同時に思い切り強く吸い付いた。しのぶと禰豆子は同時に乳首を吸われた快感で、ほぼ同時に絶頂する。

 

「「ああぁぁぁっ……はああぁぁぁんっ……っっっ。」」

 

禰豆子としのぶは絶頂した所為か、荒く呼吸を繰り返しながら二人揃って仰向けに倒れた。その二人の前に、炭治郎も逸物を勃起させたまま接近して行く。

 

「しのぶさん、禰豆子の上に乗せますよ。禰豆子、しのぶさんを上に乗せるけど、じっとしているんだぞっ?」

 

「あぁっ……っ!」

 

「あぁん……っ!」

 

炭治郎はしのぶの身体を、優しく俯せの姿勢で禰豆子の上に乗せた。禰豆子の方も炭治郎に言われてか、しのぶが乗って来ても何も言わなかった。

 

それから炭治郎はしのぶの身体の微調整を行い、禰豆子としのぶの秘部が丁度重なる位置になる様に調整を終えた。

 

「ああぁっ……恥ずかしいっ……っ。」

 

「あぁっ!……ああぁっ!!……っ!!」

 

しのぶは俯せ状態のまま、羞恥心で表情が赤面する。しのぶの秘部は炭治郎に丸見えなだけでなく、しのぶの子宮に注がれた精液が塊となって重力に従い下に向かって落ちて行く。

 

その真下には禰豆子の秘部があり、しのぶの愛液が混ざった炭治郎の精液がなぞる様に禰豆子の秘部に落ちる。その感触を感じて、禰豆子は身体を震わせていた。

 

「良し……入れますね。」

 

炭治郎はそんな眼前の光景に興奮しながら、自身の逸物の中程を握って秘部に宛がった。

 

「行きますよっ!……しのぶさんっ!」

 

「「!」」

 

炭治郎が最初に選んだのは、しのぶだった。二人が炭治郎の判断に反応する前に、炭治郎は先に行動に移った。

 

「ああぁっ!❤……炭治郎君のが、入って来るぅっ……っっ。」

 

しのぶは膣内に炭治郎の逸物が侵入して来るのを感じて、腰を震わせて歓喜を表現した。しのぶからして見れば、自身に欠けていた部分が自ら戻って来てくれたとさえ錯覚してしまう程だ。

 

「ふぅっ……っっ……ふううぅっ!」

 

「はぁっ❤……ああぁっ❤、お帰りなさいっ❤」

 

しのぶは膣内に帰って来た愛おしい圧迫感を感じて、嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

しかしその余裕すら感じ取れる笑みも、直ぐに炭治郎の手によって消滅する。

 

「ふんっ!……ふぅっ……ふんっ!」

 

炭治郎は逸物が抜ける限り限りまで抜くと、一気に叩き付けた。

 

 

 

パァンッ! パァンッ! パァンッ!

 

 

 

「あひいぃぃっ!? あああぁぁぁっ!?」

 

しのぶは長大な逸物を叩き付けられて、しのぶは禰豆子の上で喘ぎ乱れていた。

 

「んあああぁぁっ!!……あああぁぁんっっ!……っっ!!❤」

 

最初はゆっくりだったのだが、少しずつ反復動作(ピストン)の速さが増して行く。その変化によって増して行く快感の強さに、しのぶはただ感じて嬌声を上げていた。

 

「あぅっ!……あぁっ!❤……はうぁっ……ああぁっ!」

 

しのぶの下で仰向けで寝ている禰豆子も、もどかしさを感じつつもしのぶに触発されて快感を味わっている。何故なら炭治郎が反復動作(ピストン)をする度に、膨大な精子を保管しているであろう貯蔵庫である巨大な睾丸が何度も跳ねて禰豆子の秘部をぺちぺちと当たっていた。

 

その感触が禰豆子に快楽を齎す一方で、その快楽が非常に微弱なので不満が募って行く。

 

「……」

 

腰を動かしてしのぶを突きまくっている炭治郎だったが、禰豆子の不満の匂いを感じて行動を変える。

 

「ああぁんっ!❤……ああっ!?」

 

「ぁっ……んぅっ?」

 

しのぶは突然、不満の声を漏らしたのだ。何故しのぶがその様な反応をするか理解出来ず、首を傾げそうになった禰豆子。

 

「っ?……あひいぃぃっ!?」

 

すると突然、禰豆子は両眼を限界まで見開いて悲鳴に近い嬌声を上げた。炭治郎はしのぶの膣内から抜いた逸物を、禰豆子の秘部に挿入したからだ。

 

「待たせたな、禰豆子……行くぞっ!」

 

「おあああぁぁっ!?……うぁああんっ!❤」

 

しのぶの時と同様に炭治郎から教え込まれる様な、そんな激しい反復動作(ピストン)を受けて禰豆子は動物の咆哮の如き嬌声を上げる。微弱な快楽で焦らせれた手前、禰豆子はより一層激しくその快楽を感じていた。

 

 

 

パァンッ! パァンッ!

 

 

 

「おおっおおぉぉんっ!! ああああぁぁぁっ!!❤」

 

「はぁっ❤……はぁっ……禰豆子さんっ……。」

 

何時もよりも獣じみた嬌声を上げて、快楽に酔い痴れる禰豆子。そんな禰豆子を息切れの状態のまま、しのぶは見詰めていた。

 

――うぅっ……あそこが疼くっ……早くっ……早く挿入(いれ)てぇっ……っっ。

 

その視線には明らかに、炭治郎に逸物を挿入されている禰豆子への羨望と嫉妬が宿っていた。中途半端な状態でお預けを喰らっているしのぶは、膣内の疼きに必死で耐えながら禰豆子を見詰めていた。

 

「あうううっっ!!❤……ああぁっ!?……。」

 

「ひぎいぃぃぃっ!?❤」

 

禰豆子に少しでも同調しようと全神経を集中させていたしのぶは、炭治郎は再び不意打ちの挿入を受ける。身体が火照っていた事もあり、先刻よりも強い快楽を諸に受けた。

 

「おおっ!……はおおうぅっっ……っ!!」

 

不本意ながら自分だけ絶頂してしまったしのぶは、秘部からプシュプシュと音を立てて潮吹きした。その飛んだ愛液が、禰豆子の秘部に掛かって濡れた。それから炭治郎は、腰を動かして反復動作(ピストン)を行う。

 

「…………そろそろ試してみようかな?」

 

「「?」」

 

暫くしのぶの膣圧を味わっていたが炭治郎はそう呟くと、直ぐに思い付いた事を早速実行に移した。

 

 

 

パンッ! ズチュッ! ズボォッ! パンッ! ズチュッ! ズボォッ! パンッ!

 

ズチュッ! ズボォッ! パンッ! ズチュッ! ズボォッ! パンッ! ズチュッ!

 

 

 

「あふぅうぅっ!❤……ああぁんっ!❤……あうぅぅんっ!❤」

 

「うおああっ!❤……あぐぅああぁっ!❤……うああぁあぁんっ!❤」

 

炭治郎は禰豆子としのぶの膣内を交互に、一度挿入したら子宮口まで突いてから抜いてを繰り返していた。

 

――ふぅっ……ふぅっ……思っていたより簡単に出来るな。……ならもっと早く、速く……。

 

「ひゃあああっ!?❤ ああああぁぁぁんっ!!?❤ あううぅぅぅんっ!?❤」

 

「あぐううぅぅっ!?❤ んああぁぁんっ!!?❤ はああぁぁぁんっ!!❤」

 

炭治郎は鶯の谷渡りの如く、更に器用に素早く禰豆子としのぶに膣内に交互に出し入れしていた。そして速度は、最初の頃よりも早くなっている。これには禰豆子もしのぶも、互いの身体を抱き締めて嬌声を上げる他に何も出来なかった。

 

「いあああぁぁぁっ!❤……ああぁぁっ!……あうぅっ!……あううぅっ!!」

 

「ひゃあああんっ!!❤……っっ!……くあぁぁっ!……ねっ、禰豆子さんっ!……っ!!」

 

炭治郎から快楽を叩き付けられる様に感じている禰豆子としのぶは、嬌声を上げながら互いに見詰め合い視線を交える。

 

「「……んぅぅっ!!❤」」

 

互いの瞳に鏡の如く姿が写る程の距離で見詰め合った後、どちらも自分達から顔を近付けて口付け(キス)を行った。

 

「「ちゅううぅぅ、ちゅぶっ……ぢゅぢゅづづっっぅぅ!!……じゅるるるっ!!」」

 

互いにこれでもかと、まるで炭治郎に口付け(キス)をしている様に激しい口付け(キス)であった。

 

「ぐっ!……射精()るっ!!」

 

 

 

ドビュウウルルルルルルウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ!!! ビュジュルルルルルルルルウウウウウウゥゥゥゥゥッッッッ!!!

 

 

 

「んんんうううううううぅぅぅぅっっっ~~~~!!!❤❤❤」

 

「あっ! ぐうぅっ!……フッ――!! フッ――!!」

 

 

 

ジュボッ! ビュルルルルルウウウウウウゥゥゥゥッッッ!! ビュビュビュルルルルルウウウゥゥゥッッッッ!!!

 

 

 

「~~~~~~~~~~~っっっっっっっ!!!❤❤❤」

 

炭治郎は最初にしのぶの膣内に射精すると、しのぶは禰豆子と口付け(キス)をしたまま絶頂した。しかし今回ばかりは、炭治郎の行動はそれだけではなかった。

 

射精している最中で息を呑んで射精を止めると、直ぐにしのぶから禰豆子に移って挿入したと同時に一気に白濁の溶岩を禰豆子の子宮に叩き付けた。禰豆子は殴られた様な快楽の衝撃に、両眼を限界まで見開いて連続的に絶頂を繰り返した。

 

「はぁ……はぁっ……はぁっ。」

――と、途中で止めるって辛かったな……でもそうしないと不公平だったし……ふぅ。

 

炭治郎は想像以上に体力を削られて、呼吸を荒く繰り返していた。その状態のまま、炭治郎は前方に視線を向ける。

 

「「はぁっ❤……はぁっ❤……っ❤❤」」

 

其処には唇を離して、揃って呼吸を荒く繰り返している禰豆子としのぶが居た。抱擁も解いて禰豆子は仰向けに、しのぶは横向けで寝転がっていた。

 

二人の裸体を見て、炭治郎の逸物は新たな血液が逸物に溜まって行く感覚を覚える。同時に火が灯る様に、炭治郎の性欲を刺激した。

 

「禰豆子、しのぶさん。もっともっと抱いて……骨の髄まで二人共、俺の色に染めてあげますからね。」

 

「「っ!!❤」」

 

禰豆子としのぶは炭治郎の宣言を聞いて、ビクッと腰を大きく震わせた。そして熱で潤んでいる瞳で炭治郎と炭治郎の逸物を交互に見詰めながら、モジモジと身体を動かしてゆっくりと股を開いた。二人の秘部は、炭治郎を待ち焦がれている様に愛液が溢れ出ていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

あれから禰豆子としのぶは、休むばかりか息継ぐ暇も無く炭治郎に抱かれ続けた。二人は何度も膣内に白濁の溶岩を注ぎ込まれ、注ぎ込まれた回数の三倍以上も絶頂させられ続けた。

 

「おおぉっ……お”ぉっ……っっ。」

 

しのぶは既に白目を剥き、涙や涎だけでなく鼻水まで垂れ流して意識も半分飛んでいた。身体の方は絶えず、痙攣を起こしている。

 

「あぁっ――あぁっ――っっっ。」

 

禰豆子もしのぶと似た様な状況で白目を剥き涎や涙を垂れ流しながら、炭治郎に乳房を両手で揉まれる度に嬌声を上げている。更に炭治郎は禰豆子の腹部に、自身の混合液塗れの逸物を乗せていた。

 

「禰豆子、もう一回行くよ……。」

 

炭治郎は禰豆子の乳房を揉みながら、腹部に押し当てていた逸物を移動させる。狙うは勿論、禰豆子の秘部だ。

 

このまま炭治郎は再び禰豆子に逸物を挿入して、情交(セックス)を再開させる筈であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ、駄目よっ! 血の繋がった兄妹同士でだなんて、絶対に駄目っ!!」

 

「!?」

 

其処へ襖を勢い良く開けてこの淫臭塗れの室内に飛び込んで来たのは、甘露寺蜜璃であった。




お待たせ致しました。

ねずしの回になります。そして最後に投じられた爆弾により、宴は更に盛り上がって来る……筈です(^_^;)




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第伍拾陸話 桃蝶は日輪の後夜祭で哀願す ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり。
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「えっと、確か……こっちだったかな?……。」

 

深夜を回った時間帯に、産屋敷本邸を歩き回る一人の女性が居た。桃色の髪色が特徴的な美女であり、鬼殺隊の柱の一人である甘露寺蜜璃だ。

 

蜜璃は記憶を頼りに、ある場所へと向かっていた。

 

「……初めて来た時に迷った事が、こんな形で役に立つなんてね。」

 

蜜璃はそう呟いた後、そう言って苦笑した。

 

これは蜜璃は柱に就任した際、自己紹介も兼ねて柱合会議に出席する為に産屋敷本邸に招待された時の話だ。

 

産屋敷本邸内があまりに広かった為、道に迷ってしまったのだ。そして実はこの時に道に迷って泣いていた蜜璃と出会ったのが、小芭内であった。小芭内はこの時に初めて蜜璃と出会い、そして一目惚れに陥ったのである。

 

「懐かしいなぁ……ふふっ…………っ!」

 

蜜璃は回想した後に楽しげに笑ったが、唐突に石化したが如く硬直した。

 

蜜璃の前方には、産屋敷別邸が存在している。この産屋敷別邸こそが、蜜璃が目指していた目的地であった。

 

「ちょっと遠いけど、声が……()()()()しのぶちゃん達が……?」

 

蜜璃はそう言うと、ゴクリと唾を一塊飲み込んだ。

 

就寝していた蜜璃は寝返りを打った際に、自分以外誰も室内に居ない事実に気付いたのだ。一人または多くても二人だけならばまだしも、しのぶ達全員が居なくなるのは流石に蜜璃もおかしいと思った。

 

蜜璃はしのぶ達が居なくなった理由を考えると、思わず両頬に熱が籠もった。禰豆子を除けば、全員が炭治郎と恋仲関係にある。尤も、蜜璃は炭治郎と禰豆子の関係を知らないだけだが。

 

そんな蜜璃は、次に考えたのが場所であった。考え無しに下手な場所で行えば、声が漏れて第三者の耳に入ってしまう可能性がある。

 

その懸念を考えると、蜜璃の脳裏には一箇所しか心当たりが無かった。それが産屋敷本邸から少し離れた、産屋敷別邸である。

 

――いやいや、まさか御館様が住んでる敷地内でなんて……。

 

蜜璃はそう思って自身の考えを一蹴したが、気になって就寝する事が出来無かった。其処で自信の耳目で直接、真偽を確認しようと決意したのである。

 

「……はぁっ……はぁっ……っ。」

 

蜜璃は足を進める度に、呼吸が荒くなっている事に気付いた。そして同時に微かにしか聞こえなかった声が産屋敷別邸に近付くに連れて、大きくなっている事にも気付いている。

 

蜜璃の脳裏には、蝶屋敷で炭治郎達が繰り広げた激しい

情交(セックス)の様子が鮮明に再現されていた。

 

――これって……やっぱり……っ。

 

確信を抱いた蜜璃であったが、足を止める事は無かった。寧ろ速度を速めて、産屋敷別邸へと接近して行く。

 

「……っっ……っっ……。」

 

蜜璃は左手で口を抑えて息を殺しながら、右手で襖をゆっくりと開ける。それも片眼だけで、室内が見える範囲だけだ。

 

すると其処には蜜璃の想像を遥かに凌駕する、そんな光景が映し出されていた。

 

「あひいぃぃっ!? おあああぁぁっ!! あああぁぁっ!!❤」

 

「!!?」

 

室内から、野獣の咆哮かと勘違いしかねない声が聞こえて来た。蜜璃は慌てて、その咆哮が聞こえた方向へ視線を向ける。

 

「ああぁっ……はああぁぁっ❤」

 

「良いぞ、禰豆子っ。そのまましのぶさんをっ、しっかり支えているんだっっ」

 

「おおおっっっ! んほおおおおっっ!!❤」

 

舌をだらしなく垂らしながら白目を剥いている禰豆子が、下からしのぶの両足の太腿を掬い上げる様に持ち上げて秘部が炭治郎に良く見える様に開脚させていた。

 

其処へ炭治郎が逸物を腟内に奥深くまで挿入し、更には子宮口すらゴツンゴツンと殴る様に逸物で突き上げていた。

 

「んひいいぃぃっ!? まっへぇぇぇっ!! つぶれりゅっ……きょわれちゃううぅぅっ!!❤」

 

しのぶがあまりの強い快楽に襲われて、炭治郎に止める様に懇願していた。

 

しかしその言葉とは裏腹に、炭治郎を離すまいと言わんばかりに頸に両腕を巻き付けて強く抱擁していた。

 

――し……しのぶちゃん……っっ。

 

間近で見るしのぶの情交(セックス)に、蜜璃は言葉を失っていた。

 

「はぁっはぁっ……ううぅっ! もう、射精()るっ!!」

 

 

 

ビュビュビュビュウウウウウウゥゥゥゥッ!!! ビュルルルルウウウウゥゥゥッッッッ!!!

 

 

 

「あああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!❤❤」

 

炭治郎から白濁の溶岩を子宮に向けて注がれたしのぶは、身体を仰け反り大きな嬌声を上げて絶頂した。

 

「はあぁぁっ……はあぁぁっ……しのぶさん、とっても気持ち良かったです……ちゅうっ。」

 

炭治郎は射精を終えると、しのぶに余韻の口付け(キス)をした。しのぶは炭治郎の口付け(キス)を、されるがままに受け入れる。

 

「ちゅっ❤……ちゅうっ❤……あああっ!」

 

炭治郎と口付け(キス)をしていたしのぶが、大声を上げる。其処にはしのぶの秘部から、逸物を抜く炭治郎の姿があった。炭治郎の逸物は、しのぶの愛液と自身の精液が絡まって白濁に染まっている。

 

「禰豆子、しのぶさんを移すぞ。」

 

炭治郎はしのぶを、優しく禰豆子の隣に移動させた。

 

「おおぅっ!!」

 

炭治郎に数え切れない程に絶頂させられたしのぶは、全身が性感帯となっていた。少し触れただけで、ビクッと身体を痙攣させる。その振動で、しのぶの秘部からは炭治郎の精液が溢れ出始めていた。

 

「おおぉっ……お”ぉっ……っっ。」

 

しのぶは既に白目を剥き、涙や涎だけでなく鼻水まで垂れ流して意識も半分飛んでいた。身体の方は絶えず、痙攣を起こしている。

 

「!?」

 

その姿を見て、蜜璃は驚愕していた。声が漏れない様に、両手で口を押えて声を殺している。

 

――しのぶちゃんが、あんな表情を……っっ。

 

普段ならば絶対にしないであろう表情を見せているしのぶに、蜜璃は驚愕せざるを得ない。そして蜜璃が驚愕しているのは、何もその無惨なアへ顔だけが理由では無かった。

 

――凄く……幸せそう。そんなに、気持ち良いのっ……っっ。

 

蜜璃は無意識の内に、生唾をゴクッと飲み込んだ。既にこの光景を見ているだけで、蜜璃の秘部は濡れ始めている。

 

そうしてしのぶを観察していた蜜璃だったが、蜜璃にとって更に驚愕の事態が発生する。

 

「禰豆子。」

 

「ああっ!」

 

「!?」

 

炭治郎は禰豆子の名前を呼ぶと同時に、鬼化した事で大きく成長した乳房を両手で揉み始めていた。

 

――炭治郎君っ……噓でしょっ!?

 

驚愕する蜜璃を他所に、炭治郎は禰豆子の乳房を揉み続ける。

 

「あぁっ――あぁっ――っっっ。」

 

禰豆子もしのぶと似た様な状況で白目を剥き涎や涙を垂れ流しながら、炭治郎に乳房を揉まれる度に嬌声を上げている。更に炭治郎は禰豆子の腹部に、自身の混合液塗れの逸物を乗せていた。

 

「禰豆子、もう一回行くよ……。」

 

炭治郎は禰豆子の乳房を揉みながら、腹部に押し当てていた逸物を移動させる。狙うは勿論、禰豆子の秘部だ。

 

――ま、待って……本当に挿入(いれ)る気なのっ!!?

 

炭治郎が禰豆子と近親相姦する寸前の光景に、蜜璃の思考は混乱していた。そして蜜璃は衝動のままに行動に出てしまう。

 

「だ、駄目よっ! 血の繋がった兄妹同士でだなんて、絶対に駄目っ!!」

 

「!?」

 

蜜璃は自分でも意識しない内に、自分からこの淫臭が充満する室内に飛び込んだのだった。

 

「か、甘露寺さんっ!?」

 

炭治郎は想像だにしなかった人物の登場に、驚愕しながら蜜璃の名前を呼ぶ。

 

「あっ!?……しまっ!?……え、えーっと……と、とにかくっ!! 禰豆子ちゃんと情交(セックス)なんてしちゃ駄目だよっ!!」

 

 

 

♦︎

 

 

 

蜜璃はビシッと人差し指を差し向けながら、炭治郎に向かって正論を吐く。

 

「あっ、えーと……そのっ……。」

 

炭治郎は想定外の人物の登場に、動揺を隠せない。勃起していた逸物も、血の気が引く様に少しずつ収まって行く。

 

「おぉっ……ふえぇっ?」

 

其処へ意識が朦朧としているしのぶが、何か異常を察して虚ろな目でチラッと視線を移す。するとその虚ろな目に、蜜璃の存在がはっきりと映った。

 

「ぇ…………甘露寺さんっ!!?」

 

「「「!!」」」

 

しのぶは一気に意識が覚醒した様子で、ガバッと身体を勢い良く起こした。その顔面は液体塗れだが。

 

「~~~!!!」

 

しのぶはその事に、自覚があった様子だった。水が入った樽についている柄杓で水を掬うと、乱暴に顔に掛けて顔を洗った。それを何回か繰り返して、漸くその手を止める。

 

「……甘露寺さん。どうして、貴女が産屋敷別邸(此処)に居るのですか?」

 

普段の凛とした表情を取り戻したしのぶであったが、両頬は羞恥心で赤く染めたままであり、身体も僅かに震えていた。

 

「あーうん、そのぉ…………一回座っても良い?」

 

「…………どうぞ。」

 

蜜璃のお願い事に、しのぶは力無く頷く他になかった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

それから井戸端会議の如く、円形の様に四人は対面して座った。蜜璃を除いて炭治郎達は、軽く毛布を羽織って全裸を隠している。

 

「……はぁっ。」

 

誰からともなく、溜息が漏れた。蜜璃が何故産屋敷別邸に辿り着いたかが、蜜璃本人が説明した事で判明したからだ。それが只の山勘だったと知れば、溜息しか吐けない。

 

「あ、あはははははははっ…………私の事は良いから、それより炭治郎君と禰豆子ちゃんっ!!」

 

蜜璃は笑って誤魔化した後、炭治郎と禰豆子の名前を呼んだ。

 

「し、しのぶちゃん達と言う素敵な女の子達と関係を結んでおきながら、禰豆子ちゃんにも手を出すのはいけない事だと思いますっ!!」

 

そう言って蜜璃は炭治郎に向かって、実に真っ当な正論を吐く。

 

「違うんですよ、甘露寺さん。これは深ーい事情があるのです。」

 

「えっ? しのぶちゃん?」

 

しかし、その正論も通常であればの話だ。竈門兄妹に関しては、状況が実に特殊過ぎる。そう思ってしのぶは蜜璃を宥めた。

 

まさか炭治郎からでは無くしのぶから弁解を聞くとは思っておらず、蜜璃は思わず面食らってしまう。

 

「禰豆子さんに関して何ですけど、実はですね…………。」

 

しのぶはそんな蜜璃の様子を見て苦笑しながらも、禰豆子に関してその特殊な状況の説明を始めた。

 

「……えぇっ!!? そうなのっ!!?」

 

禰豆子の特殊な状況をしのぶから聞いた蜜璃は、驚愕の声を上げた。

 

「じゃ、じゃぁしのぶちゃんが言っていた炭治郎君の()()って……。」

 

「御推察の通り、精液の事ですよ……要らぬ混乱を招きかねないので、この真実については他言無用でお願いします。」

 

「う、うん。」

 

これで似た様な台詞を吐くのは二回目だなと、頭痛を覚えながら蜜璃に釘を差すしのぶ。そんなしのぶの心情など露知らず、蜜璃は赤面した状態で禰豆子をチラ見していた。

 

「でも……それって炭治郎君のじゃなきゃ、駄目なの?」

 

「駄目なんですよ。禰豆子さんが、炭治郎君以外を拒絶するんですから……尤も、血でしか試してませんけどね。」

 

しのぶが肩を竦めて言うと、蜜璃は禰豆子を今度ははっきりと見た。

 

「……やっ!」

 

禰豆子は蜜璃と視線を交えると、はっきりと頸を横に振って拒絶の意を示した。

 

「こ、こう言う訳なんですよ。甘露寺さん。禰豆子にとって、これは情交では無く食事なんです。禰豆子の為にも、見逃して貰えませんか?」

 

「えっ? あ、うん。御館様は……御存知みたいね。分かったわっ! 絶対に誰にも言ったりしないからっ!!」

 

蜜璃は胸元の前に両手を移動させると、笑みを浮かべながら拳を作って懇願して来る炭治郎に力強く断言した。そんな蜜璃の笑顔を見て、炭治郎は安心感を覚えてホッと安堵の息を漏らした。

 

「でも、その代わりに……一つだけ、私のお願いを聞いてくれないかな?」

 

笑顔だった蜜璃は突如、一転してソワソワしながら炭治郎にある頼み事を始めた。

 

「はい、何でしょうか? 俺に出来る事なら、()()()しますよっ!!」

 

蜜璃が自分に頼み事をして来る事に対して、今度は炭治郎が笑みを浮かべながら承諾する。

 

「……甘露寺さん?」

 

「?」

 

そんな蜜璃の様子を見て、何故か胸騒ぎを覚えるしのぶ。一方の禰豆子は、ただ頸を傾げるだけだった。そんな三者三様な反応の前に、蜜璃は何度か深呼吸を繰り返してから炭治郎に向かって強く言い放った。

 

「えっとね…………わ、私に()()()()を教えてくれませんかっ!!?」

 

「「!?」」

 

蜜璃は頼み事をはっきりと言うと、羞恥心からなのか顔が一気に赤く染まって行った。

 

「えっ……えぇっ!?」

 

「甘露寺さんっ!!?」

 

そして蜜璃に頼み事を言われた炭治郎と、聞いていたしのぶは両眼を見開いて驚愕している。

 

「っ……どうして、俺なんですか?」

 

「……」

 

炭治郎はやっとの思いで、絞り出す様な声で蜜璃にそう尋ねた。しのぶも炭治郎と同様、蜜璃が何と返答するのか注目している。

 

「自分で言うのも何だけど……私って気が多い女なの。男の人の良い一面を見ただけで、キュンキュンしちゃう様な女で……ずっと、そう思ったのが好きって感情なんだって思ってたわ。」

 

「……今は違うと?」

 

蜜璃が語り始めた内容を聞いて、しのぶが確認する様に尋ねた。その質問に対して、蜜璃はしのぶに向かって首肯して答える。

 

「うん……それでね。今日になって初めて、ドキドキって胸を打つ様な感覚を覚えたのよ。そういう時は何時だろうって考えたら……炭治郎君の事を思い浮かべると、胸がドキドキして止まらないの。」

 

「!!」

 

蜜璃が語る内容を聞いて、しのぶは両眼を見開いた。蜜璃の症状に、心当たりが有り過ぎたからだ。

 

「では、甘露寺さんは炭治郎君にどうして欲しいのですか?」

 

「!」

 

しのぶは回り諄い質問などせず、単刀直入に蜜璃に尋ねる。蜜璃はしのぶに尋ねられた内容を聞いて、生唾を一塊飲み込んでから答えた。

 

「わ、私も……炭治郎君にしのぶちゃん達と同じ事をして欲しい……もしこの感情が好きとか恋なのなら、炭治郎君と一緒に育んで行きたい……。」

 

「「!!」」

 

蜜璃は両手を胸元に愛おし気に添えると、はっきりと自分の願望を炭治郎としのぶに伝えた。その強烈な眼差しには、普段の穏やかな雰囲気など一切含まれていない真剣な様子であった。

 

「…………おばっ……っっ。」

 

小芭内はどうするのか。と炭治郎は蜜璃に尋ねたかった。しかし小芭内自身が秘密にしたいと思っている事を、炭治郎の口から伝えるのは憚られた。

 

「伊黒さんは良いんですか?」

 

「!?」

 

すると炭治郎の意志を汲み取ったのかはたまた偶然に過ぎないのかは不明だが、結果的に炭治郎に代わってしのぶが蜜璃に小芭内の事を尋ねた。驚愕する炭治郎を他所に、蜜璃は首を傾げていた。

 

「どうして、其処で伊黒さんの名前が出て来るの?」

 

「!?」

 

蜜璃はしのぶの質問の意図が何一つ理解出来ていないのか、逆に何故小芭内の名前を聞く事になっている現況に疑問を抱いていた。

 

「……」

 

蜜璃の反応を見たしのぶは、思わず小芭内に同情した。

 

「いえ……甘露寺さんは伊黒さんと仲が良いので、そう思ったんですよ。」

 

其処で念には念を入れて、更にしのぶは小芭内について蜜璃に尋ねた。

 

「伊黒さんかぁ……。」

 

蜜璃は顎に手を添えて、小芭内について考えてみた。すると直ぐに、返答はやって来た。

 

「伊黒さんは良い人よ。言葉遣いはきついから誤解されがちだけど、人の事を良く観察して長所も短所も見てくれる人だわ。これまでいっぱいご飯に連れて行ってくれたし、縞々の長い靴下も送ってくれた、とっても優しい人……でも私は……炭治郎君と結ばれたいなぁ❤」

 

「!!?」

 

蜜璃は恥ずかしそうに呟いた一言に、炭治郎を思わずドキッとした。両頬を赤くして自身を見詰めて来る炭治郎を見て、蜜璃は優しく微笑んだ。

 

「…………はぁ。」

――また、増えた……。

 

しのぶは蜜璃の想いを聞いて、溜息を吐く事しか出来なかった。

 

「……良いですよ。」

 

「本当!?」

 

しのぶが眉を顰めつつも溜息を吐いて、蜜璃と炭治郎の仲を認めた。

 

「!?」

 

まさかしのぶが認めてくれるとは思わず、炭治郎は両眼を見開いて驚いていた。

 

「甘露寺さんが考えた末に、決めた事ですからね。私も甘露寺さんの事は好きですし、幸せになって欲しいですもの。」

 

「しのぶちゃんっ……!」

 

しのぶが蜜璃の両手を優しく握り締めてそう言うと、蜜璃は感激した様子でしのぶを見つめ返していた。しかし次の瞬間、しのぶの額に青筋が一本浮かんだ。

 

「いたっ!?」

 

「ですが、炭治郎君の一番は私です。……その事だけは、忘れないで下さいね?」

 

しのぶが蜜璃の手の甲を軽く抓ると、蜜璃はその痛みで顔を歪めた。

 

そして吐息が掛かる位に、しのぶが蜜璃に顔を近付けて真っ直ぐ蜜璃を見詰める。

 

しのぶは青筋を浮かべながら笑顔と言う矛盾した表情で、蜜璃に釘を差した。

 

「はっ、はいっ……。」

 

蜜璃は言い様の無い圧力を感じゾクッと背筋が凍る様な感触を覚えつつも、コクッとしのぶの警告に頷いた。

 

「分かってくれれば、良いのです……それから薬を渡しますから、情交を始める前に飲んで下さい。」

 

「薬?」

 

蜜璃は首を傾げている間に、しのぶは脱いだ寝間着を探る。すると瓶が二つ出て来て、丸薬を幾つか取り出した。丸薬はそれぞれ一つは紫色をしており、もう一つは白色だった。

 

「一つは藤の花の解毒薬です……私も居る以上、中毒の懸念がありますから。白い方は、珠世さんが調合した避妊薬です。こちらは絶対に飲んで下さい。良いですね?」

 

「う、うん……。」

 

しのぶに凄まれた蜜璃は、当惑したながらも丸薬をそれぞれ一粒ずつ受け取り、直ぐに口内に放り込んで飲み込んだ。

 

「結構……あっ!?」

 

「「「?」」」

 

蜜璃が丸薬を飲み込んだ様子を見て、納得した様子のしのぶ。しかしその後にしのぶは何かに気付いた様子で、慌てて炭治郎の方に向かった。

 

「炭治郎君、ごめんなさいっ! 薬も渡さずに私と始めさせてしまって……何処かお身体に異常はありませんかっ?」

 

「「「!」」」

 

しのぶは心底、心配した様子で炭治郎に両手を握った。炭治郎はしのぶの一変した態度に驚きながらも、自分を想っての言動に歓喜の笑みを浮かべる。

 

「……大丈夫ですよ。今の所は、何も異常を感じません。」

 

しのぶを安心させる様に、炭治郎は優しく宥める様に返答した。

 

「……分かりました……っっ。」

 

しのぶはそう言うと、丸薬を一つ口にした。

 

「んっ!❤」

 

そしてそのまま炭治郎の両頬に両手を添えながら、しのぶは炭治郎と口付け(キス)をした。

 

「ちゅちゅるぅっ!……ちゅううっ……んじゅるるうぅぅっ!……ふうぅっ。」

 

唾液と共にしのぶは丸薬を炭治郎に流し込むと、達成感に満ちた吐息を漏らした。

 

「それでは炭治郎君。私は禰豆子さんと少し休ませて頂きますから……もしお身体に少しでも違和感を覚えたら、直ぐに言って下さいね。」

 

「は、はいっ。」

 

しのぶはそう言うと炭治郎の両頬に口付け(キス)を落としてから、禰豆子と共に名残惜しそうに後ろに下がった。それから漸く、炭治郎と蜜璃は互いに向き合った。

 

「「ええっと……っ!」」

 

炭治郎も蜜璃も開口しようとして、思わず異口同音で同じ言葉を口にした。

 

「ど、どうぞっ!」

 

「いやいやっ! 甘露寺さんの方こそどうぞっ!」

 

先に開口する様にと、互いに譲り合う炭治郎と蜜璃。

 

「ぷふっ……分かったわ。」

 

先に折れたのは、蜜璃だった。必死になって譲って来る炭治郎に、蜜璃は苦笑した。そして少し笑ってから、蜜璃は正面から炭治郎に伝える。

 

「私、甘露寺蜜璃は竈門炭治郎君の事が好きです。こんな私で良ければ、お付き合いして下さいっ。」

 

「!」

 

蜜璃は姿勢を正した上で、頭を下げて炭治郎に自身の想いを伝えた。すると蜜璃は、両肩に何かが当たる感触を覚えて頭を上げる。

 

「あっ……。」

 

「俺も……竈門炭治郎も明るくて優しくて天真爛漫な、そんな甘露寺蜜璃さんの事が大好きですっ! 貴女を幸せにさせて下さいっ!!」

 

「!❤」

 

炭治郎は蜜璃の両肩を手を置くと、力強くそう言って蜜璃の告白に返答した。炭治郎の告白を聞いて、蜜璃の両頬は歓喜から来る興奮で赤く染まって行く。

 

「嬉しいっ❤……んっ❤」

 

「!」

 

蜜璃はそう言うと、唇を前に差し出して両眼を閉じた。炭治郎は蜜璃が望んでいる事を察すると、直ぐに行動に移った。

 

「……んっ。」

 

「!?」

 

炭治郎は触れ合うだけの、優しい口付け(キス)を行う。蜜璃は口付け(キス)をされた際に、反射的に閉じていた両眼を見開いた。

 

「……❤」

 

しかし直ぐにうっとりとした表情を浮かべながら、再び両眼を閉じて蜜璃も炭治郎に唇を押し付ける。

 

それから暫く炭治郎と蜜璃は、触れるだけの口付け(キス)を続ける。そして炭治郎の方から、唇を離した。

 

「ぁ……。」

 

「……フフッ。」

 

蜜璃は炭治郎の唇の感触と温もりが消えて行く寂しさから、名残惜しそうに声を漏らした。蜜璃から漏れた小声を聞き逃さなかった炭治郎は、思わず笑みを零した。

 

「如何でした? 甘露寺さん。」

 

「あっ……何か、フワって気持ちが……今は胸がポカポカして心地良いわ。」

 

蜜璃がうっとりとした表情を浮かべた後にそう言うので、炭治郎も満足気に笑みを浮かべる。

 

「炭治郎君、もっと……それから、私の事は蜜璃って呼んで?」

 

蜜璃は口付け(キス)をもっと強請った後、三つ指を合わせながらモジモジと照れ臭そうに名前で呼ぶ事を要求した。

 

「っ!……はい、分かりました…………好きです、蜜璃さん。」

 

「うぅんっ!?❤❤」

 

炭治郎は蜜璃に頼まれた事を承諾すると、告白しながら口付け(キス)を実行した。思わぬ不意打ちに面食らった蜜璃だったが、先刻以上にうっとりとした表情を浮かべていた。

 

「れちゅろっ……ぢゅりゅちゅるっ……れろれろっ。」

 

「んふぅっ!?……ちゅちゅるちゅっ❤……れろれろっ❤」

――初めて、名前で呼ばれた……嬉しいっ❤

 

炭治郎は舌を入れて蜜璃の口を抉じ開けると、直ぐに口内を舐め回し始めた。蜜璃は口内に侵入して来る炭治郎の舌に驚いたが、直ぐに迎い入れて自身の舌と絡め始めた。

 

「ちゅじゅうぅっ!……れちゅれろろっ……ちゅるっっ。」

 

炭治郎は蜜璃と口吸い(ディープキス)を続けながら、チラッと目を開けて周囲に目を通した。それから優しく蜜璃を押し倒す。

 

「ぷはっ!……はぁっ❤……はぁっ❤」

 

炭治郎に押し倒された蜜璃は、口吸い(ディープキス)を解いて荒く呼吸を繰り返した。唇からは、一筋の唾液が溢れている。

 

「蜜璃さん……脱がしますね。」

 

「あぁっ!❤」

 

炭治郎は興奮しながら、蜜璃が着用している半ば脱げている寝間着を完全に脱がした。

 

其処には鍛えられた実に美しい裸体が、炭治郎の両眼にはっきりと映った。

 

「やぁっ……恥ずかしいっ……。」

 

既に蝶屋敷で自身の迂闊さから炭治郎に全裸を見られているのだが、炭治郎への恋心を自覚した現在の方が以前よりも強く視線を意識してしまう。

 

蜜璃は羞恥心から、両手で顔を覆い隠した。しかしそれは一瞬の事で、両頬に両手を添えてから炭治郎に視線を真っ直ぐ向ける。

 

「でも私っ……私……これから炭治郎君に抱かれるんだ……嬉しいっ❤」

 

「!」

 

これから炭治郎と情交(セックス)出来る事実が嬉しいのか、うっとりとした表情を浮かべる。その魅惑的な表情だけで、炭治郎の理性の糸を斬るなど容易い事だった。

 

「蜜璃さんっ!」

 

「ふああぁぁっ!❤」

 

炭治郎が蜜璃の名前を呼びながら右手で乳房を鷲掴みにすると、蜜璃は電撃の如く走る快感に歓喜の声を上げる。

 

「蜜璃さん……柔らかいけど、弾力もあって気持ち良い……。」

 

「ああぁぁっ……はああぁっん!!❤」

 

炭治郎は蜜璃の乳房を堪能しつつ、今度は左手も使って両方の乳房を愛撫する。蜜璃は大きくなった快楽に、身体をくねらせて悶絶する。

 

「はぁっ……っ!……あむっ、ちゅううっ……ちゅううっ!」

 

「ひゃああんんっ!❤……あううぅんっ!❤」

 

炭治郎は蜜璃の乳首が勃起したのを見て、炭治郎は揉み続けながら迷わず吸い付いた。蜜璃は乳房を揉まれる以上の快楽を感じて、身体を弓状に仰け反らせた。

 

「ああぁぁっ……はぁっ……はああぁん❤……っっ。」

 

炭治郎はまだ乳房を吸っていたが、蜜璃は快楽に耐性が付き始めたのか身体を震わせつつも余裕が生まれ始めていた。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ❤」

――炭治郎君、私の乳房(おっぱい)をこんなに夢中で……ああっ、可愛いなぁ❤

 

蜜璃は呼吸を荒く繰り返しながら、心底愛おしそうに炭治郎の頭を撫で始めた。

 

「ちゅっ……ちゅうっ……んんっ。」

 

「いぃっ!?」

 

炭治郎は乳房を吸いながら、片手をある場所に移動させた。炭治郎がそうした瞬間、蜜璃は驚きの声を上げる。

 

――凄く濡れてる……それに締め付けも凄い……っ。

 

炭治郎は左手を乳房から秘部に移し、指を一本挿入したのである。溢れ出る愛液の量と締め付けに、炭治郎は驚きながらも興奮していた。

 

「ふうぅっ……このままでも良いけど、今度は秘部(下の口)も……。」

 

「ああぁっ……はぁっ……ひぇっ!? た、炭治郎君っ! 其処は待ってぇっ!?」

 

炭治郎は乳房から口を離して、身体を少し動かし始めた。

 

蜜璃も炭治郎からの愛撫が緩んだ事で、快楽が収まったのか正気を取り戻す。そして炭治郎がしようとしている事に気付き、慌てて制止しようとする。しかし快楽で痺れた所為か、身体が思う様に動かなかった。

 

「蜜璃さん……下の毛も綺麗な桜色をしているんですね……。」

 

「やああああぁぁぁっ!? みっ、見ないでっ!?」

 

蜜璃は炭治郎に秘部をマジマジと凝視され、思わず羞恥心に満ちた悲鳴を上げた。蜜璃は両足を閉じようとするが、両足の付け根をしっかりと炭治郎に押さえられているので閉じる事が出来ない。

 

蜜璃の本来持って居る膂力を以てすれば、炭治郎の力など押し退けて閉じる事など造作も無い筈なのだ。

 

しかし快楽で力が入らないので、蜜璃は両足を閉じる事が出来ない。そしてこの時の蜜璃は自覚していなかったが、心中の奥底では炭治郎の愛撫に期待していたので邪魔する気持ちは一切無かったのである。

 

「綺麗ですよ。そんなに恥ずかしがる事なんて、全くありません。……れろれろ……ちゅうぅ。」

 

「あひいぃっ!?❤」

 

炭治郎は徐に、蜜璃の秘部を舐めて口淫(クンニリングス)を始める。秘部から炭治郎の舌の感触と熱量を直接感じて、ビクッと身体を浮かせた。

 

「れろれろれろっ……じゅぢゅううううっ!……ちゅるぢゅるちゅるっ!」

 

そのまま口淫(クンニリングス)を続けていた炭治郎だったが、今度は貪る様に秘部に激しく吸い付いた。

 

「ああぁっ!❤……あああぁっ!❤……そ、そんなに激しく吸われたらあああぁぁぁいひいいぃっ!?っ!!?」

 

炭治郎の口淫(クンニリングス)をが激しくなった事で増幅された快楽を受けた蜜璃は、両眼を見開きながら悶絶する。

 

「いあぁぁっっ!! 私っ、もうイくっ……イっちゃうううぅぅぅっ!!」

 

「わぁっ!?」

 

嬌声を上げ続けていた蜜璃だったが、遂に限界に達したのか身体を仰け反らえて絶頂する。その際に秘部が潮吹きして、炭治郎の顔に愛液が直撃した。

 

「あぁっ❤……はあぁっ❤……はあぁっ❤」

 

「気持ち良かったですか? 蜜璃さんっ。」

 

荒く呼吸を繰り返しながら、絶頂の余韻に浸る蜜璃。其処へ顔に付いた愛液を拭き取りながら、炭治郎が蜜璃に感想を求めた。

 

「えへへっ❤……凄く、気持ち良かったぁ❤」

 

「それは良かったです……でもっ……。」

 

気持ち良さそうな蜜璃から望み通りの感想を聞けた炭治郎だったが、炭治郎自身は満足していない。その証拠とばかりに、炭治郎はある行動に移った。

 

「……あっ!?」

 

熱く硬い感触を覚えた蜜璃は、頭を少し起こして下腹部に視線を移した。すると其処には炭治郎と、下腹部に擦り付けられる逸物が大きく存在感を主張していた。

 

「まだまだ、本番はこれからですよ?……俺に身を委ねて貰っても、良いですか?」

 

「あぁっ❤……(コクッ)」

 

真っ直ぐ見詰めて来る炭治郎とその優しい声色に、蜜璃は鼓動が早くなるのを感じながら静かに頷いた。

 

「ありがとうございます、蜜璃さん……優しくしますね……ちゅっ。」

 

「んんっ!❤」

 

炭治郎に口付け(キス)された蜜璃は、再びうっとりとしながらその口付け(キス)を黙って受け入れた。

 

ただの唇が触れ合うだけの口付け(キス)だったが、互いに唇を押し付けていたので離れた際に小さな銀色の橋が出来て直ぐに決壊した。

 

「……行きますっ!」

 

「!」

 

 

 

ズブッ!

 

 

 

「!? んああああっ!!?」

 

炭治郎は一気に逸物を蜜璃の腟内に挿入すると、蜜璃は大きな嬌声を上げる。しかしその嬌声は、悲鳴に近いものであった。

 

「み、蜜璃さんっ!?」

 

炭治郎は蜜璃の悲鳴を聞いて、動きを止めて心配そうに声を掛ける。

 

「あぁっ❤……だいじょうぶ、よ……心配しないでっ。」

 

「でも……。」

 

炭治郎は蜜璃を心配して、動こうとはしない。そんな炭治郎に、蜜璃は再び声を掛ける。

 

「吃驚しただけだから……動いて欲しいなぁ。」

 

「……分かりました。動きますっ!!」

 

蜜璃にこうまで求められては、石頭の炭治郎も尊重せざるを得ない。蜜璃に何かあれば直ぐにでも動くのを止めようと、そう思いながらも動き始めた。

 

 

 

パンッ パンッ パンッ

 

 

 

「ふぅっ……ふぅっ!」

 

「ああぁっ❤……はあぁぁっ❤」

 

炭治郎はゆっくりと、しのぶ達とした時の半分以下の速さで腰を打ち付ける。蜜璃は反復動作(ピストン)によって生まれ始めた快楽に、少しずつ感じて嬌声を上げ始めた。

 

「どうですかっ、蜜璃さん……。」

 

「ああぁん❤……気持ち良いっ❤……。」

 

口から唾液を一筋垂らしながら、蜜璃は生まれる快楽に酔いしれる。すると蜜璃が炭治郎の頸に両腕を回して、ゆっくりと抱き締めた。その際に蜜理が炭治郎に密着した事で、その豊満な乳房が炭治郎の胸板に押し付けられて形を変えた。

 

「炭治郎君っ……もっとっ❤」

 

「っ!……はっ、はいっ!!」

 

蜜璃は、炭治郎にせがんだ。炭治郎は蜜璃の要望に応え、更に早く腰を振るう。

 

「んあああぁぁっ!❤……良いっ……先刻(さっき)よりっ、気持ち良いっ……っっ!!」

 

「蜜璃さんが感じてくれて俺っ、嬉しいですっ!」

 

蜜璃から強くなった歓喜の匂いに満たされながら、炭治郎は腰を突き続ける。

 

「あああぁっ!……くうぅぅっ!……ひゃああぁぁぁっ!?」

 

蜜璃は更に強くなった快楽に酔いしれていたが、実はある事実に困り始めていた。

 

――どうしようっ……気持ち良くてっ…………気持ち良過ぎてっ、力加減出来なくなっちゃうっっ!!

 

蜜璃は感じ過ぎるあまり、このまま炭治郎に抱擁を続けていたら力加減に失敗して傷付けてしまう事を危惧した。

 

――あぁっ……名残惜しいけど、しょうがないよねっ……。

 

蜜璃は理性を総動員して、炭治郎から両腕を離して敷布団に凭れ掛かった。

 

「っ!……蜜璃さんっ。」

 

蜜璃の気遣いに気付いていない炭治郎は抱擁が解けた事に残念に思った。其処で炭治郎は逆に自分から、蜜璃に強く抱き着いた。

 

「はああんっ!?❤……嘘っ……炭治郎君っ❤❤」

――あぁっっ❤……好きな男の子に抱き締められるって、こんなに気持ち良いんだっ❤……。

 

炭治郎に強く抱き着かれた蜜璃は、家族以外で初めて異性に抱き締められた感覚を知り喜びに震える。蜜璃の秘部からは、更に愛液が分泌されて炭治郎の逸物を包んでいた。

 

「蜜璃さん……気持ち良いですっ……ちゅっ……ちゅうっ。」

 

蜜璃を抱き締めながら、炭治郎は蜜璃の身体に吸い付いて口付け跡(キスマーク)を落として行く。勿論その場所は、蜜璃の隊服できちんと隠れる位置を選んで口付け(キス)をしている。この様な状態であっても、炭治郎は蜜璃を慮る事は忘れなかった。

 

「蜜璃さんっ! 蜜璃さんっ!」

 

炭治郎は蜜璃の名前を繰り返し呼びながら、腰を動かし始めた。

 

「はぁんっ!❤……良いっ❤……もっとぉっ❤」

――あうぅっ❤……一突きされる度にっ……私が炭治郎君のモノになっていくのが分かるっ……このまま炭治郎君の色に染まっちゃうううぅぅっっ。

 

ゾクゾクとした感覚が全身を貫き、更に蜜璃の感度は上昇して行く。

 

そうしている間に、蜜璃に限界の時間がやって来る。

 

「あああっ!……私、イきそうっ……おね、がいっ……一緒にイってええぇぇっ!!❤」

 

「はいっ!……はいっ!!…………うぐううっ!!」

 

 

 

ビュルルルルルルウウウウウゥゥゥゥゥゥッッッ!! ドュピュルルルルルルウウウウゥゥゥッッッ!!

 

 

 

「ああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!❤❤」

 

蜜璃は初めて感じる射精された精液の熱を子宮に感じて、今まで以上に大きな快楽を受けて深く絶頂した。

 

「ああぁぁっ。」

 

炭治郎もまた、腰を震わせながら白濁の溶岩を絞り出して蜜璃の子宮に送り込んで行く。

 

「はぁっ❤……はぁっ❤……いっぱい出たね……炭治郎君っ❤」

 

蜜璃は労う様にそう言うと、炭治郎と余韻の口付け(キス)をした。炭治郎も直ぐに両眼を閉じて、蜜璃との口付け(キス)に集中した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

時間は少しばかり遡る。

 

――な、何でっ……恋柱様と炭治郎がっ……っ!?

 

失神から目覚めたアオイは、心中で当惑しながら炭治郎と蜜璃の情交(セックス)に聞き耳を立てていた。

実は炭治郎と蜜璃が情交(セックス)を始めた頃には目覚めていたのだが、その所為で状況が理解出来なかったのだ。

 

――っ!?……っ!!?

 

それは顔合わせで横になっている、カナヲも同様である。寧ろカナヲの方が、アオイよりも当惑気味であった。そして二人の当惑具合を更に加速させる人物が、この室内にはまだ二人程残っていた。

 

「れろっ……ちゅうちゅるるっ。」

 

「あんっ……禰豆子さん。早く舐め終わって下さいっ。好い加減くすぐったいわっ……。」

 

何時の間にか室内に入っている、しのぶと禰豆子の存在だ。禰豆子はあろう事か、しのぶの秘部に顔を埋めて口淫(クンニリングス)をしているのだ。幾らしのぶが禰豆子に慣れて来たとはいえ、やはりそう簡単に信じられる光景では無かった。

 

「「……」」

 

起き上がりたくても起き上がる勇気が湧かない二人は、狸寝入りをしたまま互いに顔を合わせて声を出さない口話だけで会話を始める。

 

――アオイ姉さん、どうしたら良いの?

 

――と、取り敢えず……このままで居ましょう。

 

縋る様なカナヲの目線を受けて、アオイは口話でカナヲに指示を出した。

 

「一旦抜きますね、蜜璃さん。」

 

「うんっ……ああぁんっ❤」

 

アオイとカナヲがそうしている間に、炭治郎と蜜璃の方で動きがあった。炭治郎が挿入していた逸物を、蜜璃の秘部から抜いたらしい。じゅっぽっという水音が、微かに耳に入って来た。

 

「……ねぇ炭治郎君。炭治郎君にばっかりして貰うのも悪いから……今度は私からしても良い?」

 

「っ!……はい、勿論ですよ。」

 

「やった❤ ありがとう……しのぶちゃん達みたいに上手く出来ないと思うけど……私、頑張るからね?」

 

蜜璃がそう言った後に、連続して水音が聞こえ始めた。直接見ている訳では無いので確証は無いが、恐らく蜜璃は炭治郎の逸物に、口淫(フェラチオ)をしていると思われた。

 

――恋柱様、良いなぁ……。

 

――……私も、もう一回炭治郎に愛されたい……御奉仕したい。

 

失神させられるまで炭治郎に辞める様に懇願していたと言うのに、いざ炭治郎の手が離れると途端に強く求めてしまう。そんな現金な自分達に呆れながらも、偽る心算は毛頭無かった。

 

――何時、起きたら良いかしら?

 

――難しいね……。

 

「……」

 

しかしアオイもカナヲも、何時起き上がれば良いのか判断に迷っていた。そんな様子の二人を、しのぶは見逃さなかった。

 

……禰豆子さん。私のが舐め終わったら今度は、アオイとカナヲの分も摂取してはどうかしら? このまま布団の上に垂れ流してしまうのも、勿体無いと思うわ。

 

「……うんっ!」

 

しのぶは禰豆子にそう提案すると、禰豆子は快諾した。

 

「「?」」

 

小声でしのぶが話していたので、二人は疑問符しか心中で思い浮かぶ事しか出来ない。そしてそんな二人が反応する前に、しのぶと禰豆子は行動に移った。

 

「二人を重ねれば、一度に二人共出来る筈よ。」

 

「んっ!」

 

「「!?」」

 

しのぶに言われた通り、禰豆子はアオイを軽々と持ち上げてカナヲの上に優しく乗せた。その際にアオイの乳房がカナヲの乳房の伸し掛かり、鏡餅の如く姿が重なった。二人は現況が理解出来ず、固まっていた。

 

「さぁどうぞ。召し上がれ。」

 

「まっ!?……。」

 

「じゅるるるっ!……ぢゅぢゅちゅうううっ!!」

 

「ひぎいぃぃぃっ!? まぁっ!!? やめっいひいぃぃっ!?」

 

禰豆子がアオイの腰を両手で掴んでから、秘部に向かって顔を埋めて口淫(クンニリングス)を行う。するとアオイは当惑気味に、悲鳴に近い嬌声を上げる。

 

「ああぁぁっ!? 何これえぇぇっっ!!?」

 

アオイは頸を嫌々と左右に振るって、快楽に悶えていた。禰豆子の伸縮した舌が膣内に入っている感触と生まれる快感に、当惑している様子だった。

 

「あわわわわっ……あ、アオイ姉さんっ……っ。」

 

カナヲはアオイの様子を見て、身体を震わせながら見守るしか出来なかった。自身が動きたくとも、アオイが重なっている所為で身動きが取れないのだから。

 

アオイが禰豆子から口淫(クンニリングス)を受けてると、その時は不意にやって来た。

 

「ふぅっ……れろれろっ。」

 

「あああぁぁぁっ!?」

 

禰豆子は今度はカナヲに近付き、そして秘部に顔を埋めて口淫(クンニリングス)を行う。カナヲは禰豆子の伸縮している舌の感触に驚き、アオイと同様に悲鳴に近い嬌声を上げる。しかし圧し掛かっているアオイが邪魔で、カナヲは逃げる事は出来ない。

 

「ひゃあっ!……ああぁんっ!……禰豆子ちゃんっ……あぁっ!」

 

「あぁっ……はぁっ……はぁっ……。」

 

カナヲが嬌声を上げる中、アオイは何度も荒く呼吸を繰り返していた。アオイの心中には、漸く終わったと言う安心感があった。

 

「お疲れ様でしたね、アオイ。」

 

「し、しのぶ様ぁ……。」

 

些か疲弊しているアオイに、しのぶは軽口気味にアオイの名前を呼んだ。そんなしのぶを、アオイは思わず睨み付ける。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……。」

 

しのぶとアオイが睨み合っている間に、カナヲも禰豆子からの口淫(クンニリングス)が終わっていた。それを見たしのぶは、アオイを睨むのを止めて開口する。

 

「二人共、状況が分からないでしょうから説明してあげましょう。面倒なので一回しか言いませんから、よく聞く様に。」

 

「「!」」

 

しのぶは其処まで言うと、アオイとカナヲの承諾を待たずに状況の説明を始めた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ちゅちゅちゅうううっ❤……じゅおう?……ひもひいいっ?」

 

「はいっ、蜜璃さん……良いです。もっと舐めて下さい。」

 

禰豆子達の痴態を他所に、炭治郎は蜜璃の口淫(フェラチオ)を堪能していた。蜜璃は流石にしのぶ達の様に経験は無かったが、感覚派ならではの習得速度でコツを掴んでいた。

 

「蜜璃さんっ……俺っ……そろそろ限界ですっ……お口に出しても良いですかっ!?」

 

炭治郎は腰を震わせながら、必死で射精するのを我慢していた。思わず蜜璃に尋ねた際に、早口になる程だ。

 

「ちゅぢゅううっ!!……じゅじゅちゅうううっっっ!!!」

 

蜜璃は答えない代わりに、吸引を強くする事で炭治郎に肯定を表現してみせた。

 

「!!……あああぁぁっ!!!」

 

当然、それに気付かない炭治郎では無い。更に匂いでも蜜璃から拒否感などが無い事も念入りに確認すると、炭治郎は勢い良く射精を始めた。

 

 

 

ビュルルルルウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥッッッッッ!! ビュビュリュルルルルルウウウウゥゥゥゥゥッッッッ!!

 

 

 

「んんんっっっっ!!??」

 

喉を穿つ様に侵略して来る白濁の溶岩を前に、蜜璃は狼狽する。しかし蜜璃も気合だけで、次々と流れ込んで来る白濁の溶岩を喉を鳴らしながら飲み込んで行った。

 

「んぐっ……ごくっ……ごくごくごくっ……ぷひゃあぁ~凄かったぁ。」

 

蜜璃は初見で一滴も零す事無く、炭治郎の白濁の溶岩を飲み込む事に成功した。そんな蜜璃に、炭治郎は感謝の言葉を贈る。

 

「蜜璃さん……お疲れ様でした。すみません、俺のを飲ませちゃって……。」

 

「ううんっ、良いのよ。私も望んでした事だし……それに炭治郎の精液、とっても甘くて美味しかったわっ!……今度、蜂蜜の代わりにパンケーキに付けて食べてみたいかもっ……?」

 

「え”っ?」

 

蜜璃の思わぬ願望を聞いて、炭治郎は思わず固まった。そして不意に脳裏で、その光景を想像してしまう。

 

――いやいやいやっ!? 駄目だろっ。食べ物を侮辱してるし……第一、俺がパンケーキを食べられなくなるってっ!!?

 

カナヲと銀座に逢瀬(デート)で行った際、蜜璃と共に”煉瓦家”で食後の甘味(デザート)にパンケーキを食べているので、鮮明に想像出来てしまったのが仇となっていた。

 

「……ねぇ、炭治郎君。」

 

「っ! はいっ!?」

 

蜜璃に呼ばれた炭治郎は、脳裏に描いていた想像を消し去って蜜璃に応えた。すると其処には両頬を赤く染めてモジモジとしている、蜜璃の可愛らしい姿があった。

 

「その、ね……炭治郎君のを飲んだ所為かな?……身体が火照っちゃって……また、したいなぁ❤」

 

「!!」

 

三つ指を突いてそういう蜜璃の仕草を見た炭治郎は、反射的に逸物を固く勃起させた。

 

「は、はいっ! 喜んでっ!!」

 

炭治郎はそう言うと、蜜璃を押し倒そうとした。しかし、それは叶わなかった。

 

「はい、其処まで~~。」

 

「いだたたたたたたたっ!!?」

 

其処へしのぶが炭治郎の背後に回り込むと、炭治郎の勃起した逸物を片手で握り締めたのだ。幾らしのぶが非力とは言え、急所である逸物を乱暴に握られては炭治郎も痛みで悶絶せざるを得ない。

 

「しのぶちゃんっ!?」

 

「誰も続けてやって良いとは許可してませんよ~……私()だって、愛されたいんですから。」

 

「う~~~っ!!」

 

其処には不貞腐れているしのぶと、禰豆子の姿があった。そして不満を表明しているのは、この二人だけでは無い。

 

「私も、忘れないでよ……。」

 

「私だって……。」

 

其処へ禰豆子に口淫(クンニリングス)をされて悶絶していた、アオイとカナヲの姿もあった。二人は蜜璃が何故この別邸に居て炭治郎と情交(セックス)をしている理由の真相を知り、不満と嫉妬心を抱いていた。

 

「「「「「……」」」」」

 

「えっと……。」

 

しのぶ達からマジマジと見られては、炭治郎も言葉が出ず何も言えなかった。するとしのぶが炭治郎の頬に片手を添えると、直ぐに口付け(キス)をした。

 

『!?』

 

「んっ❤」

 

驚く炭治郎を他所に、しのぶは両眼を閉じて口付け(キス)を続ける。そして唇を離すとほんの少しだけ、炭治郎から離れた。

 

「今夜は、寝られると思わないで下さいねっ❤」

 

「…………はいっ。」

 

しのぶからそう言われた炭治郎は、観念した様子でそう言うしか無かった。




お待たせ致しました。

遅くなりまして申し訳ございません。初めての本格的な炭蜜、如何だったでしょうか?
もし楽しめましたなら、幸いでございます。

最後ですが、漸くこの緊急柱合会議編が最終話を迎えます。

更新予告ですが12/31(金)0時と設定しておきます。
もし間に合わなかった場合は……遅いお年玉と言う形で投稿する事になるかと。しかし区切りを付ける上で、今年中に投稿出来る様に頑張ります。


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第伍拾漆話 日輪は後夜祭を堪能す ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と作品内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。創作意欲次第で承諾する場合もお断りする場合も御座います。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「全く……っ。」

 

「おわっ!?」

 

炭治郎はしのぶの手で、仰向けに押し倒された。炭治郎本人は横に寝ているが、逸物は天を突かんばかりに勃起していた。

 

「愛撫させて頂きます……色んな女の子を食べ続けて、お疲れでしょうからね!」

 

「いぐっ!?」

 

しのぶは額に青筋を浮かべながら笑顔で、炭治郎の逸物を思い切り力を込めて握り締めた。炭治郎は先刻よりも大きな痛みを感じて、大いに悶絶する。

 

「……んもう、節操が無いんですから。れろれろっ。」

 

「あぁっ……しのぶさんっ、すみません……っっ。」

 

炭治郎は自身の節操の無さを責められると、自身が全面的に悪いので申し訳無さそうにしのぶに謝罪した。

 

「……言ってみただけですから、そんなに気にしなくて大丈夫よ。でもちゃんと、私も愛して貰いますからね?……ちゅっ❤」

 

しのぶはクスクスと笑いながらそう言うと、炭治郎の逸物にそっと優しく口付け(キス)をした。そしてそのまま続けて口淫(フェラチオ)を行う。逸物をしのぶに愛撫されて炭治郎は、ビクッと全身を痙攣して体を震わせた。

 

「むうぅっ!」

 

『!』

 

「あっ!?」

 

其処へしのぶに対抗心を抱いた禰豆子が、飛び込む様にしのぶの隣で炭治郎への口淫(フェラチオ)に参加した。禰豆子が参加する姿を見て、アオイは焦った様子を見せた。

 

「ぢゅるちゅちゅっ……はむっ、ずちゅううぅっ!」

 

「んんぅれろれろっ!……ぢゅずちゅちゅちゅっ!!」

 

禰豆子としのぶによって、室内では口淫(フェラチオ)をする事で発生する水音が鳴り響いていた。

 

「うぅっ……。」

 

「……」

 

「わぁっ……そうやるんだ。勉強になるなぁ……。」

 

アオイは悔しそうに禰豆子としのぶに先を越された事を憤っていた。カナヲは身体を震わせるだけで、表情は見えない。そんな二人とは対照的に、蜜璃は禰豆子としのぶの口淫(フェラチオ)を興味深そうに観察していた。

 

「……私もっ……っ!」

 

『!』

 

唐突にカナヲが沈黙を破って、二人の下へ駆け寄り口淫(フェラチオ)に参加した。

 

「んんっ❤……姉さん……邪魔だからもっと詰めて……」

 

「あっ?……何生意気言って……ちゅちゅるっ❤……ぢゅつつっ!」

 

「れろれるるっ❤……ぢゅぢゅうううっ!」

 

カナヲとしのぶが押し退け合いをしながら、炭治郎の逸物に口淫(フェラチオ)をする。そんな二人を他所に、禰豆子だけは関わったり対抗心を抱いたりせずに炭治郎への口淫(フェラチオ)に手中していた。

 

「うっ……出遅れちゃった。」

 

「もう、これ以上の参加は難しいでしょうね……。」

 

蜜璃とアオイは、口淫(フェラチオ)をしているしのぶ達を羨望の眼差しで見詰めていた。しかしカナヲの様に、飛び込んで無理やり参加しようとはしない。仮に自分達が参加した所で、人数の多さから口淫(フェラチオ)が出来ないと思ったからだ。

 

「でもっ……。」

 

しかし幾ら口淫(フェラチオ)に参加出来ないからと言って、このまま指を咥えてじっとしているのも癪であった。そう思ったアオイは、早速行動に移った。

 

「炭治郎ぉ……っ❤」

 

「「!」」

 

アオイは愛おしそうに炭治郎の名前を呼ぶと、そのまま右隣まで移動して座っている炭治郎に抱き着いた。アオイが炭治郎に抱き着いた事で、アオイの豊満な乳房が炭治郎の鍛えられた逞しい胸板に押し潰されて形を変える。

 

「ぁっ❤」

 

「あっ……っ。」

 

更に互いの乳首が擦れ合った事で、二人は揃って嬌声を零らせた。それから直ぐに、二人は互いに視線を交える。そして磁石が引き合う様に唇を近付けて、口付け(キス)した。

 

「あっ!?」

 

「んっ……んちゅっ❤」

 

蜜璃が動揺する声を漏らす中、アオイは顔を赤面しつつも、炭治郎との口付け(キス)を堪能する。一方で炭治郎もアオイとの口付け(キス)を続けつつ、右手を密かに動かしていた。

 

自身に凭れ掛かって来るその身体を触れつつ、右手の指をある場所へ目指して動かしていた。そして目的の場所へ右手を動かした後、クチュッと水音が鳴った。

 

「んんぅっっ!!?」

 

アオイは炭治郎と口付け(キス)をしたまま、両眼を見開いて秘部から生まれる快感に身体を震わせた。炭治郎がアオイの秘部に、指を二本挿入したからだ。

 

それだけならまだ快感まで生まれないのだが、何度も炭治郎に絶頂させられた所為でアオイの身体は非常に敏感になっていた。更に炭治郎の指である事もまた、快感を生む要因になっている。

 

「た、炭治郎っ……。」

 

「せめて、指だけでもね……。」

 

炭治郎は口付け(キス)を止めてアオイと見詰め合うと、そう言って微笑んだ。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ。」

 

そんな二人のやり取りを、呼吸を荒く繰り返しながら見詰めている人物が居た。現在一人だけ取り残されている蜜璃だ。

 

「はぁっ……炭治郎君……アオイちゃんばっかりずるい……私も、良いよね?……。」

 

蜜璃が四つん這いで炭治郎の左隣に移動して、自分への愛撫を催促した。その際に蜜璃の豊満な乳房が、炭治郎の左腕に収まった。

 

「はいっ……んっ。」

 

「っっ!?」

 

炭治郎は蜜璃の後頭部に左手を回すと、蜜璃の頭を寄せて口付け(キス)をする。

 

「……っ❤」

 

蜜璃は炭治郎に口付け(キス)されて一度両眼を見開いた後、直ぐにトロンとうっとりしながら両眼を閉じて口付け(キス)を堪能する。

 

少しの間、口付け(キス)をした後に炭治郎は蜜璃と目を合わせた。

 

「……」

 

「っ!……(コクッ)」

 

炭治郎は蜜璃の後頭部に添えていた左手を離すと、蜜璃の秘部の前まで移動させる。そして優しく指を二本挿入して動かし始めた。

 

「あぁっ!❤……炭治郎の指、熱いっ……っ!」

 

「蜜璃さんの膣内(なか)も、熱いですよっ!……っ。」

 

炭治郎の指の感触を感じて、蜜璃は快楽に悶えていた。

 

「ふうぅぅっっ!❤……んはあぁぁぁんっ!❤」

――凄いっ……自分でするのとっ、全然違うよぉっ……っ!!

 

蜜璃は自慰をする時に自分でする時と、炭治郎にされる時の明確な違いに驚いていた。

 

「はぁっ……はぁっ……あむっ。ちゅううぅぅっ……ずちゅううぅぅっ!」

 

「んひぃぃっ!?❤」

 

炭治郎は呼吸を整えた後、涎を一筋垂らしたまま蜜璃の右乳房に吸い付いた。更なる快楽の増大に、蜜璃は益々身体を悶えさせた。

 

「そんなっ❤……んっ……乳房(おっぱい)まで吸われちゃっ……んはあぁんっ❤」

 

「ああぁっ……くうぅっ!……蜜璃様っ……羨ましいっっ……ううぅっ。」

 

アオイは秘部への愛撫を感じながら、自分よりも集中して炭治郎から愛撫を受けている蜜璃に羨望の念が隠せなかった。自身の乳首がジンジンと、微弱な電流の様な感覚が流れるのを感じながら炭治郎と蜜璃を見詰めていた。しかし間も無く、アオイは見詰めているだけでは物足りなくなってしまう。

 

「駄目……私もっ……っ。」

 

「んんっ!?……っ……。」

 

「ぺろぺろっ……ちゅうぅっ❤」

 

アオイは炭治郎に抱き着くと、その豊満な乳房を炭治郎の胸板に押し付けた。そしてそのまま首筋を口付け(キス)をして舐めたり吸ったりを繰り返し始めた。

 

「んむっ……れろろ……ちゅれろっ……。」

 

「ぢゅっちゅううっ………ちゅううぢゅううっ!」

 

「はむちゅぅんっ……ぢゅるるるっ!」

 

炭治郎が蜜璃とアオイに愛撫している間にも、しのぶ達の口淫(フェラチオ)は継続していた。口淫(フェラチオ)から生まれる快楽を、炭治郎は勿論敏感に感じ取っていた。

 

「ちゅうぅ……ちゅううぅっ……。」

――ぐっ……そろそろ出そう……っっ。

 

蜜璃の乳房を吸っていた炭治郎は、下半身から断続的にやって来る快楽に身体を震わせてる。そして自身の快楽の耐久度を、超過する時が寸前まで来ていた。

 

――炭治郎のお×んちん、膨らんでるっ……っ!

 

――ふふっ❤……射精()す心算なのね。

 

カナヲとしのぶは炭治郎が射精寸前になっている事を察して、更に口淫(フェラチオ)に力を入れる。

そして炭治郎が射精しようと思った瞬間、カナヲが突如行動に出た。

 

「駄目っ!」

 

「きゃあっ!?」

 

「うぅっ!?」

 

しのぶと禰豆子を、カナヲが突き飛ばして炭治郎の逸物から遠ざけた。そして再び炭治郎の逸物を、パクッと大きく口に咥える。

 

 

 

ドビュウウウルウルルルルルウウウウゥゥゥゥゥゥ! ビュルルルルルウウウウウウゥゥゥッッ!!!

 

 

 

「んぐうううぅぅっ!!?」

 

「んむううぅっ!?」

 

炭治郎は勢い良く、カナヲの口内に白濁の溶岩を流し込んだ。その際に炭治郎は、蜜璃とアオイへの愛撫の力加減を間違える。

 

「あああぁぁんっ!❤」

 

「あああぁぁっ!?❤」

 

炭治郎は二人の秘部に挿入していた指二本を、勢い良く奥まで捻じ込んだのだ。そうした事で絶頂寸前だった二人は耐え切れず絶頂したのである。

 

「んんっ……んふううぅぅっ。」

 

蜜璃とアオイが絶頂している間にも、カナヲは口内を埋め尽くそうとする炭治郎の白濁の溶岩を飲み込まずに溜め込んでいた。徐々にカナヲの両頬は膨らんで行き、餌を溜め込んだ栗鼠の如き姿になる。

 

「んっ……んんっ。」

 

カナヲは少しその白濁の溶岩を飲み込んだが、大半を口内に留めたまま口を炭治郎の逸物からゆっくりと離した。そしてわざとらしい程に、クチャクチャと咀嚼音を室内に響き渡らせる。

 

「「……」」

 

カナヲに突き飛ばされたしのぶと禰豆子は、最後を横取りされた事実に立腹していた。見せ付ける様に咀嚼するカナヲが、何とも憎らしかった。

 

「……調子に乗るなぁっ!!?」

 

「んぐぅっ!?」

 

激昂したしのぶはカナヲの両頬を挟む様に叩くと、そのままカナヲに口付け(キス)をした。

 

『!?』

 

しのぶの思わぬ行動に、炭治郎達は一様に面食らう。そんな炭治郎達に構わず、しのぶは更に行動を継続する。

 

「じゅるううぅっ!……ぺろちゅるるるっ!!」

 

カナヲの両頬を押す事で、口内に溜め込んでいる炭治郎の精液を自身の口内に移したのだ。更に舌も侵入させて、精液を舐め取って行く。

 

「んぐっ!? んぐぐっ!!?」

 

しのぶの口撃に必死で抵抗するが、抵抗虚しく次々と精液を奪われて行く。そしてカナヲの口内にあった精液の量が半分になった所で、しのぶはカナヲから口を離した。

 

「ちゅうっ……ごくっ……ふぅっ。御馳走様でした。」

 

しのぶは艶めかしい仕草をしながら、カナヲに向かってそう言った。そしてカナヲの災難は、これだけでは終わらない。

 

「んっ!」

 

「むぐううぅぅっ!!?」

 

間髪入れず、今度は禰豆子がカナヲに向かって口付け(キス)をした。更に肉体変化で伸縮している舌を侵入させて、喉にまで舌を入れながらカナヲの口内に残っている精液を吸い尽くした。

「んんっ……ふうぅっ。」

 

「ぷふううっ!!?……はぁっ……はぁっ……っっ。」

 

カナヲから口を離した禰豆子は、満足そうに吐息を漏らす。対してカナヲは、呼吸を荒く繰り返した後にしのぶと禰豆子を睨み付けた。

 

「うぅっ……。」

 

「何よ? 炭治郎君のを独占しようとした、カナヲが悪いんじゃない。」

 

カナヲに睨み付けられたしのぶだったが、何とも思っていない様子でそう反論した。正論なので、カナヲは何も言えず引き続き睨み付ける事しか出来ない。

 

「あ、あのっ……。」

 

そんな睨み合うしのぶとカナヲを、如何にか宥めようと炭治郎が声を掛けようとした。

 

「まぁまぁ、二人共。炭治郎の前で争わないで下さい。」

 

「アオイちゃんの言う通りだよっ。此処は一緒に、仲良く炭治郎君に愛されましょうっ!」

 

「「「!」」」

 

其処へ先にアオイが二人を宥め、蜜璃が同意する様に言葉を重ねて提案を行った。

 

「……そうね。蜜璃さんの言っている事が、最もだわ。」

 

しのぶが蜜璃の提案に賛同し、自然と炭治郎に視線を向ける。それはアオイ達も同様であった。

 

「「炭治郎君。」」

 

「「炭治郎。」」

 

「「「「誰から愛してくれる?」」」」

 

「うっ――。」

 

しのぶ達は異口同音にそう炭治郎に尋ね、禰豆子も興味深そうに炭治郎に視線を向けた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ふぅっ……ふうぅっ!」

 

「はあああんっ!❤……ああああんっ!!❤」

 

産屋敷別邸の室内で、しのぶの心地良さそうな嬌声が響いていた。そしてしのぶの嬌声と共に、肉を打ち合う音も聞こえている。

 

「はぁっ……はぁっ❤……炭治郎君、凄いっ……まだあんなに激しく出来るなんてっ……。」

 

「あうぅっ❤――。」

 

そんなしのぶを、蜜璃は情熱的な眼差しで見詰めていた。禰豆子もまた、蜜璃に同意する様に唸る。蜜璃の秘部からは、炭治郎の白濁の溶岩が溢れて畳を汚していた。

 

「炭治郎……次は私の相手をして欲しいっ……っ❤」

 

「はぁっ❤……ああぅっ❤……わ、私はもう少し休ませてっ……。」

 

カナヲとアオイも蜜璃と同様に、情熱的な視線で二人を見詰めていた。二人もまた秘部から、白濁の溶岩が零れて畳を汚していた。カナヲは羨望の眼差しでしのぶを見ていたが、アオイは未だに身体を痙攣させて震えていた。

 

実は炭治郎はしのぶ達と情交(セックス)を繰り返して、既に五週目に入っていた。この大乱交が始まる前から情交(セックス)を行っていた事実を鑑みれば、炭治郎の精力振りが人外染みていると言える。

 

尤も、しのぶ達からすれば炭治郎のその人間離れした絶倫振りは大歓迎すべきものであった。

 

「ああんっ!❤……良いのっ……もっと、もっと私を強く抱きしめてぇっ!!❤……」

 

「はいっ、分かりましたっ!……っっ!」

 

炭治郎はしのぶの要望に応え、更に力強くしのぶを抱き締める。

 

炭治郎としのぶは深山本手(屈曲位)の体位で、情交(セックス)を行っていた。この体位は正常位から更に男性が女性に向かって身体を押し倒して密着する体位で、しのぶは炭治郎から感じる重みと体温を全身で味わっていた。

 

更にしのぶは禰豆子達に横槍を入れられる形で参加させるのが嫌だったので、この体位を希望していた。

 

「はああぁぁっ❤……嬉しいぃっ❤❤……好きっ、大好きっ❤」

 

しのぶは炭治郎から発せられる圧力を感じて、譫言の様に炭治郎への愛を囁いて行く。

 

「おっ、俺も大好きですっ!……しのぶさん、愛していますっ……。」

 

「!❤」

 

炭治郎から愛を囁き返されて、しのぶの胸中は歓喜で埋め尽くされる。反射的に、膣内の締め付けも不意に強くなった。

 

「ぐっ! ああぁぁっ!!」

 

 

 

ビュルルルルルルウウウウウウゥゥゥッッ!!! ビュルウウウウウゥゥゥゥッ!!

 

 

 

「んはあああああぁぁぁぁぁぁっっ!❤」

 

しのぶは子宮に目掛けて白濁の溶岩を流し込まれて、炭治郎に力一杯抱き着きながら絶頂した。

 

「はぁっ❤……気持ち良かったですっ……ちゅうぅっ❤……んちゅううっ❤」

 

しのぶは炭治郎から出された熱を愛おしく感じながら、感謝を込めて何度も唇が触れるだけの口付け(キス)を繰り返した。

 

「炭治郎ぉ……。」

 

「あうぅっ……。」

 

「「!……っ。」」

 

しのぶの次に情交(セックス)をして貰おうと、禰豆子とカナヲが同時に動いた。そして互いの意図を察して、視線を交えた。

 

「禰豆子ちゃん……ど、どうぞっ……。」

 

「!」

 

カナヲは身体の疼きを抑えつつ、禰豆子に順番を譲渡した。そんなカナヲの心遣いに、禰豆子は驚く。

 

「……んっ!」

 

「えっ? きゃっ!!」

 

禰豆子はカナヲを抱き寄せると、カナヲの頭を自身の谷間に押し付けた。

 

「禰豆子ちゃん……。」

 

「ふふっ……っ。」

 

カナヲは禰豆子の豊満な乳房から視線を上げると、禰豆子が微笑みながら右手を後頭部に添えた。

 

「ふぇっ?……きゃぁっ!?」

 

しかし左手は別の動きをしていた。左手で臀部まで伸ばすと、秘部を片手で広げたのだ。カナヲは禰豆子の意図を察して、思わず赤面した。

 

「禰豆子……うん、分かった。」

 

禰豆子がカナヲに気遣って逆に順番を譲ったと察した炭治郎は、白く染まっている逸物をそのままにカナヲの秘部に宛がった。

 

「ふんっ!」

 

「ああぁっ!❤……また来たああぁっ!❤」

 

逸物を挿入すると、カナヲは歓喜に満ちた嬌声を上げる。炭治郎は挿入して早々、腰を動かして強く打ち付け始めた。

 

「カナヲッ……好きだよっ。」

 

「んあああっ!?❤……しょんなぁ……耳元で囁かないでぇ❤」

 

炭治郎は全体重をカナヲに掛けながら、後背位でカナヲを攻め立てる。

 

「あああぁっ!……はああうぅっ!!❤……んひいいっ!!」

 

「んんっ……くすくすっ。」

 

カナヲは炭治郎に愛を囁かれて、身体をビクつかせながら嬌声を上げる。その際に禰豆子に抱き着いて乳房に顔を埋めた為、禰豆子は嬉しそうに笑いながらカナヲの頭を撫でていた。

 

「ああんっ!……あああっ!❤……っっ……ねず、こ……ちゃん」

 

「ん?」

 

炭治郎に逸物を突かれながら、カナヲは禰豆子に言葉を紡ぐ。カナヲに名前を呼ばれた禰豆子は、頭を撫でるのを続けつつ反応した。

 

「言っておくけどっ!……私の方が、お姉ちゃん……なのよっ……お姉ちゃんっ、何だからっ!!」

 

カナヲは大きい声でそう言うと、両手を禰豆子の乳房に置いて乳首を思い切り抓った。

 

「んあああぁぁぁっ!?……ふええぇっ?」

 

いきなり乳首を両方とも抓られた禰豆子は、不意打ちで襲って来た快楽に当惑の声を漏らす。しかしカナヲの攻勢は、これだけでは終わらない。

 

「んちゅっ。」

 

「んんううううっ!?」

 

カナヲは押し付ける様に、唇を禰豆子に押し付けて口付け(キス)を行う。禰豆子はカナヲの行動に、両眼を見開いて驚く事しか出来なかった。

 

「ちゅううううっ!……ちゅちゅるうううっ!!……ちゅりゅるちゅるるるっ!!」

 

「はふううっ!?……んんんっ!!……んふっ!……うふうぅぅっ!!」

 

炭治郎から逸物を突かれながら、禰豆子と口付け(キス)をしたまま乳首を重点的に両手で弄る。カナヲに口を封じられた禰豆子は乳首を強く愛撫されて、籠った声を上げて悶絶するしかない。

 

そして炭治郎と禰豆子に挟まれて両者の熱を、快楽と共に感じているカナヲ。そうしている内に、最高潮の時はやって来る。

 

 

 

ドビュビュビュルルルウウウゥゥゥッッ!!! ドビュウウビュルウウウウウゥゥゥッッッ!!

 

 

 

「んふううぅぅぅぅっっ~~~~っっ!!❤❤」

 

「~~~~~~~~っっ!!!??」

 

炭治郎の逸物から白濁の溶岩を子宮に目掛けて発射されたカナヲは、禰豆子と口付け(キス)を続けたまま絶頂した。その際にカナヲは反射的に、禰豆子の両方の乳首を思い切り抓る様に摘まんだ。

 

普通の人間ならば痛みすら覚える強さでも、鬼である禰豆子にとっては快楽しか生まれずカナヲに遅れて絶頂する。更にカナヲに強く唇を押し付けられた事で呼吸が困難になり窒息していてもおかしく無かったが、其処は鬼の身体である事が幸いして無事であった。

 

「ぉっ……ぉおんっ……。」

 

「っっ~~……はぁっ❤……はぁっ❤……ごめんねっ、禰豆子ちゃんっ……。」

 

快楽の波から漸く解放されたカナヲは、虚ろ目をしたまま禰豆子に謝罪した。しかし禰豆子は小さく呼吸を繰り返しているだけで、反応らしい反応は無かった。

 

「ふううぅっ……ふうううっ……カナヲ、ちょっとごめん」

 

一方でカナヲに白濁の溶岩を欲望のまま流し込んだ炭治郎は、呼吸を整えてからカナヲを禰豆子の隣に優しく退かした。

 

「っ!!……はぁっ……はぁっ❤。」

 

禰豆子は自身の身体に圧し掛かっていた重みが消えたのを感じた後に、自身の秘部に近付く大きな熱量を感知した。其処には未だに勃起したままの逸物の姿があった。

 

「はぁっはぁっ❤……はぁっはぁっはぁっ❤❤」

 

禰豆子はその姿を見て、呼吸を荒く繰り返しながら挿入し易い様に両足を持ち上げて秘部を限界まで広げた。禰豆子の秘部からは、唾液を零すが如く愛液が大量に流れていた。

 

「禰豆子っ!!」

 

「あっ!❤……あああぁぁぁっ!!❤❤」

 

炭治郎は対して休憩の時間を挟む事無く、続けて禰豆子の秘部に逸物を挿入して揚羽本手(正常位)情交(セックス)を続行した。直ぐに自分を愛してくれる炭治郎に、禰豆子は歓喜の嬌声を上げながら逸物を自身の秘部で包み込んだ。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「ああんっ!❤……あんああんっ!!❤」

 

「禰豆子っ!……禰豆子っ!!」

 

炭治郎は背中に走るゾクゾクとした感覚に身体を震わせながら、子宮を押し潰さんばかりに逸物を突きまくって行く。禰豆子はそんな炭治郎の激しい攻めで生まれる快楽に、ただ悶絶する以外出来ない。

 

「何時見ても、凄いなぁ……ゾクゾクしちゃうっ。」

 

そんな禁断の近親相姦を目の当たりにして、蜜璃もゾクゾクとした感覚を覚えて身体を震わせながら竈門兄妹を見詰めていた。

 

「んなあぁぁっ!❤ はああぁんっ!❤」

 

「禰豆子……こんなに実ってっ、兄ちゃんは心配だぞっ……んんっ、ちゅうううっ。」

 

炭治郎が何を心配しているのかは不明であるが、禰豆子の乳房を見ながらそう言う。それから両手で乳房を揉み乳首を摘みながら、左側の乳房に吸い付いた。

 

「くひいいぁぁっ!!❤……ああっ❤ あああんっ!❤」

 

禰豆子は腰を浮かせる程の快楽を受けながら、更に激しくなって行く炭治郎の愛撫と突きを感じていた。

 

 

 

ビュルルルドビュリュウウウウウゥゥゥッッ!!! ビュルビュドュリュウウウウゥゥゥッッッ!!

 

 

 

「ああああぁぁぁぁぁっっっっ!!❤❤❤」

 

禰豆子は自身の乳房に押し付ける様に炭治郎を強く抱き締めながら、一際大きな嬌声を上げて絶頂した。

 

「んんぐううぅぅっ!……っっ!」

 

力強く抱き締められた炭治郎であったが、何とか気道を確保しつつ同じく絶頂して白濁の溶岩を禰豆子の子宮に向けて流し込んでいた。

 

それから暫くして漸く絶頂が収まり、炭治郎は逸物を禰豆子の秘部から抜くとそのまま横に寝転がった。禰豆子の秘部からは、炭治郎が放った白濁の溶岩が一滴も零れる事は無かった。

 

「はぁっ……はぁっ……ふうぅぅっ。」

 

仰向けの姿勢になりながら、炭治郎は息を整える。如何に人間離れした絶倫と言えど、体力には限界がある。炭治郎は呼吸を整える為に、ただ呼吸を繰り返していた。

 

「お、お疲れ様。炭治郎君。」

 

「蜜璃さん……はぁっはぁっ……ありがとう、ございます。」

 

炭治郎は蜜璃に労いの言葉を掛けられて、炭治郎は呼吸を繰り返しながら礼を述べる。そんな炭治郎に、蜜璃はただ優しく微笑んだ。

 

「流石にちょっと疲れるよね……そのっ……私がするから、そのままじっとしてて良いよ。」

 

「あっ、はいっ!……っ……お願いします。」

 

蜜璃は炭治郎にそう言って気遣うと、炭治郎の身体の上に跨った。それから自身の秘部と炭治郎の逸物が、丁度上に来る様に宛がった。

 

「あはっ❤……炭治郎君のお×んちんっ、まだ硬くて熱い……んっ❤」

 

蜜璃は挿入し易い様に炭治郎の逸物を優しく握ると、自身の秘部の入り口に改めて宛がう。それだけで、蜜璃は興奮して体温が上昇した様に感じた。

 

「んんっ……ああああぁぁぁっ!❤」

 

「うぐううぅっ!」

 

蜜璃は滑り込ませる様に一気に逸物を挿入したので、衝撃的とも言える快楽を受けて大きな嬌声を上げた。

 

「はああぁ❤……気持ち良いっ❤……上手く出来るか分からないけど、私が動くね……んんっ!」

 

 

 

 

パン パン パン

 

 

 

「あああぁっっ❤……んあああぁぁぁっ❤」

 

蜜璃は腰を上下に動かして、生まれる快楽をじっくりと堪能する。

 

「くぅっ……うんっ……っっ。」

 

炭治郎は膣圧から来る快楽を感じて声を漏らすが、何処かぎこちない。しかし蜜璃は快楽を堪能する事に夢中で、炭治郎の様子に気付かなかった。

 

「蜜璃さん……。」

 

「ああんっ❤……んっ? なぁに? 炭治郎君。」

 

「もっと、激しくしても良いですか?……と言うか、激しくしますっ!!」

 

「えっ?」

 

炭治郎は蜜璃の桃の如き整った臀部を両手で鷲掴みにすると、下から上へ勢い良く突き上げ始めた。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「あああぁっっ!! ひいぃぃっっ!?❤」

 

蜜璃は自分で動いた時よりも激しい動きと強い快楽に、悲鳴に近い嬌声を上げる。蜜璃は身体の体勢が崩れそうになるのを防ぐ為に、両手を炭治郎の胸板に置いて固定した。

 

「待ってぇぇぇっ!? そんなに激しく動かれたら、イっちゃう……私、直ぐに何回もイっちゃうからああぁぁっ!!?❤」

 

炭治郎の激しい腰遣いに、蜜璃は抗議した。蜜璃の動きがゆっくりだったのも、何度も絶頂してしまうからだった。ゆっくりと余裕を持って快楽を堪能したかったというのに、炭治郎が逆に激しく動くので快楽に翻弄されていた。

 

「良いんですっ! 何回でも気持ち良くなってイって下さいっ! 蜜璃さんがいっぱい感じてくれると、俺も嬉しいですからっ!!」

 

炭治郎はそう言うと、更に腰の動きを早くし始めた。そしてそれだけでは無い。炭治郎は一旦両手を蜜璃の臀部から解放すると、そのまま眼前で激しく跳ねる蜜璃の豊満な乳房を鷲掴みにした。

 

そして両方の乳房を真ん中に寄せると、先端の乳首を同時に口に咥えて吸い付いた。

 

「んむっ! ちゅるるるううぅっ! ぢゅるるるっ!」

 

「んああああぁぁぁっ!?❤ 待っ、てぇぇっ! そんな一度にされたらっ、感じ過ぎちゃうううのおおぉぉっ!!❤」

 

炭治郎は蜜璃の両方の乳房に吸い付きながら、再び蜜璃の臀部を鷲掴みにして強く逸物を押し付けた。

 

一度に複数個所を愛撫された蜜璃は、強過ぎる快楽に悶絶して嬌声を上げ続ける。そして間も無く、蜜璃に限界が訪れた。

 

「あああぁぁぁんっ! イクイクイクッ❤……イっちゃうううぅぅぅっ!!❤」

 

「ぢゅっ!……ちゅうぅぅっ!!」

 

 

 

ビュビュルルルルルルルウウウウウゥゥゥッッ!!! ビュルルルルルウウウウウゥゥゥッッ!!!

 

 

 

「ひぃあああぁぁぁっ!! んああああぁぁぁぁぁ~~~っ!!❤❤」

 

地面から湧き出る泉の如く、炭治郎は蜜璃の膣内に勢い良く白濁の溶岩を発射した。子宮内に高熱が溜まるのを感じながら、蜜璃は連続して絶頂していた。

 

「ちゅぶっ……ぷはっ!……気持ち良かったですか? 蜜璃さんっ。」

 

「あぁっ……あうぅっ❤……しゃいこうぅっ❤❤」

 

少し呂律が回らなくなった舌で、虚ろ目になっている蜜璃は炭治郎に感想を述べた。

 

「……蜜璃様。何時まで炭治郎とくっ付いているんですか? 早くどいて下さい。」

 

一番最後まで待たされたアオイが、ビクビクと身体を震わせている蜜璃をジト目で睨みながら急いで退かせた。

 

「やぁん。 もっと一緒に居たいのにぃ……。」

 

炭治郎とまだ繋がっていたかった蜜璃はアオイに抗議の声を上げるが、アオイは気にせず脱力して本来の力を発揮出来ない蜜璃をそのまま炭治郎から引き剝がして横に移動させた。

 

蜜璃が炭治郎から離れた事で、膣内に収まっていた逸物が解放されその姿を見せた。蜜璃に射精した事で、益々白く染まる逸物は未だに真っ直ぐ日輪刀の刃の如く、その硬さと大きさを維持していた。

 

「あんなに出しているのに、まだこんな……とっても素敵っ❤」

 

アオイはうっとりとしながら、混合液塗れの逸物に労う様に触れるだけの口付け(キス)をした。それから炭治郎に背中を向けて片足を少し上げながら、自身の秘部に逸物を宛がう。

 

「炭治郎っ……あああっ!❤」

 

逸物を挿入させたアオイは、絞り芙蓉(背面座位)で直ぐに腰を動かし始めた。それも蜜璃の様にゆっくりでは無く、可能な限り激しくだ。事実、室内には激しく肉がぶつかり合う音が響いていた。

 

「はぁっ……くぁっ……アオイッ!」

 

「あああんっ!❤」

 

アオイは唐突に、頭を仰け反らせて一際嬌声を上げた。仰向けに寝ていた炭治郎が上半身を起こして、背後からアオイの乳房を揉んだからだ。

 

「ふうっ……アオイ。こっち向いてくれる? アオイと口付け(キス)がしたいから……。」

 

「はっ、はいぃっ❤……喜んでぇっ❤」

 

アオイは腰を動かしつつ、顔を可能な限り後ろに向ける。炭治郎もまた顔を前に出して、アオイと口付け(キス)を重ねた。

 

「はむっ……ぢゅるるっ……むちゅちゅろっ……れろれろっ……じゅるるっ」

 

「んんむちゅううっ!❤……れろちゅるる!❤……じゅるるれろれろっ!!❤」

 

炭治郎は軽く舐めたり吸ったりしながら口付け(キス)を行っていたが、アオイはもっと貪る様な激しさで口吸い(ディープキス)を行っていた。積極的に自分を求めてくれるアオイに、炭治郎は思わず嬉しさから両頬が緩む。

 

「アオイ……一度抜いて、顔合わせしようか?……もっと密着しようよ。」

 

「!❤」

 

炭治郎はアオイの耳元に囁く様に、そう言った。しかしアオイの返事は、炭治郎の予想外のものだった。

 

「やぁんっ❤……だぁ~めぇ~❤❤」

 

「えっ?」

 

炭治郎の提案を拒否して、アオイは再び正面を向いて腰を打ち付ける事に改めて集中した。するとアオイの方から、疑問を感じている炭治郎に理由を話し掛けた。

 

「だってっ……だってっ!❤……もし顔を合わせたら乳房(おっぱい)を滅茶苦茶舐めたり吸われたりして、いっぱいイっちゃうと思うからぁ❤」

 

「!」

 

「だからっ……私が動くのっ……私が炭治郎を気持ち良くするのぉっ❤」

 

「アオイッ……っ。」

 

アオイの健気な奉仕精神に、炭治郎は思わず感動してしまう。

 

「あっ!……炭治郎のおちん×んっ……私の膣内(なか)で、大きくなったぁ❤……。」

 

「それはっ……アオイが嬉しくなる事を言ったからだよっ……ぐっ……もう、射精し()そうだっ!!」

 

「っ!❤……だっ、射精()してぇっ! 射精()してぇっ! 炭治郎の全部、欲しいっ!!」

 

「ううぅっ!……あっ!……あああぁっ!!」

 

 

 

ドビュリュリュリュウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!! ビュルルルルウウウウウうウウウウウウゥゥゥゥゥッッッッッ!!!

 

 

 

「んあああああああぁぁぁぁぁぁっっっ~~~~!!! 熱いいいぃぃぃっっっっ!!! イっくううううううぅぅぅぅぅっっっっっ!!!❤❤❤」

 

アオイの膣内に大量の白濁の溶岩が、噴火した火山の如く昇って襲い掛かった。アオイはその強烈な熱量を感じて、頭を限界まで海老の如く仰け反らせて身体を凭れ掛かっていた。

 

「うああぁぁっ……っっ!!」

 

炭治郎が白濁の溶岩をアオイの膣内に発射した際、両手でアオイの乳首を強く摘まんでいたのでアオイは一際強い快楽に襲われて絶頂していた。

 

それから暫くの間、炭治郎とアオイは全身を震わせて快楽の余韻を感じていた。

 

「はぁっ……はぁっ……気持ち良かったよ。アオイ。」

 

「私もっ、気持ち良かったです…………お腹っ、あったかい……ありがとう、炭治郎っ。」

 

アオイは炭治郎に全体重を預けて凭れ掛かる。炭治郎はそんなアオイを受け止めつつ、両手で腹部と頭を優しく撫でた。

 

「もしもーし。」

 

「「!?」」

 

余韻に浸って仲睦まじく過ごす炭治郎とアオイの二人を、呼び掛ける声が室内に響いた。その声色は優し気だが、怒りも同時にはっきりと感じ取れていた。

 

「あっ……。」

 

「し、しのぶ様……。」

 

炭治郎とアオイが同時に振り向くと、其処には青筋を浮かべているしのぶが居た。

 

「むっ――。」

 

「炭治郎っ……。」

 

「炭治郎君、お疲れ様♪」

 

しのぶ以外にも、禰豆子達も無事に復帰を果たしていた。全員の様子を見ると、まだ余力が残っている様に見えた。そしてこのまま、炭治郎達は六週目に入るかと思われた。

 

「うぅっ……?……ぎゃあああああぁぁぁぁっ!?」

 

『!?』

 

突然禰豆子が悲鳴を上げて転げ落ちる様に身体を小さくすると、混合液塗れで汚れている布団の中に潜り込んだ。よくよく見てみれば、既に日が昇り始めていた。

 

「何時の間に……。」

 

「……もう朝になっていたの。」

 

「だから禰豆子さんは、布団の中に潜り込んだんですね。」

 

「全然、気付かなかったわ。」

 

各々でそう感想を述べながら、昇って来る朝日を見ていた。尤も、炭治郎だけはそれ所では無かった。

 

――ぐっ!?……か、身体が重い……。

 

興奮が冷めた炭治郎は、身体が一気に重くなる感覚に襲われていた。興奮状態から半ば忘れていたが、炭治郎の身体は確実に疲労を蓄積していた。

 

――うぅっ……鬼退治よりきついぞ、これっ…………あれっ? えっと……何だろう? そう言えば大切な()()を、いや()()を忘れている様な……っ?

 

加えて、眠気まで少し炭治郎を襲って来た。炭治郎だけがこの面々で一睡もしていないので、疲労の度合いは違っていた。

 

「……皆。取り敢えず、先ずは身体を綺麗にしましょう。カナヲ、身体を拭いたら禰豆子さんの箱を取って来て。蜜璃さんは身体を綺麗にしたら、先に行って朝ご飯を食べに行って下さい。私達は後から行きますから」

 

「分かったわ、姉さん。」

 

「え?……う、うん。了解。」

 

先刻の色惚けていた様子が嘘だったかの様に、意識を切り替えたしのぶはテキパキと炭治郎達に指示を出して行く。そして炭治郎達は身嗜みを整えた後、産屋敷別邸を後にした。

 

 

 

♦︎

 

 

 

東京府・産屋敷本邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十六日(日)

時間帯:朝

天気:曇り

 

『…………』

 

産屋敷本邸にある一室で、耀哉達は全員で朝食を摂るべく集結していた。既に長大な机には、大皿で朝食となるおかずが並べられていた。

 

既に耀哉を筆頭に、大半が集結している。其処には蜜璃も含まれていた。それから間も無く、襖が徐に開いた。

 

「おはようございます。遅くなりました。」

 

其処へしのぶを先頭に、アオイとカナヲがやって来た。

 

「「おはようございます。御館様。」」

 

「うん。おはよう。」

 

アオイとカナヲは、輝哉に一礼して朝の挨拶を済ませた。

 

「すみませんっ! 遅れてごめんなさいっ!」

 

『!』

 

其処へ、炭治郎が遅れてやって来た。

 

『……』

 

炭治郎を室内に居る、全員が凝視する。そして炭治郎の登場が、大騒動の引き金となる。

 

「へっ?」

 

襖の前に来た炭治郎が目撃したのは、喉仏がはっきり見える程に大きく開けた善逸の口だった。

 

「ふぁんじろうっ! へめぇっ!? ひひょうはおふぁのふぃみしぇしたぬぇってかぁっ!? ああぁんっ!? (炭治郎っ! テメェッ!? 昨日はお楽しみでしたねってかぁっ!!? ああぁんっ!?)」

 

「アッ――――ッ!!?」

 

善逸に思い切り頭を嚙まれた炭治郎は、余りの痛さに悲鳴を上げる。自他共に認める石頭の炭治郎であるが、こう言った形の攻撃には耐性が無いのか、普通に痛みに悶絶していた。

 

「「「…………っっっ」」」

 

善逸の指摘に、しのぶ達は自然と両頬を赤く染める。その表情が、事実を雄弁に物語っていた。

 

「はむはむっ! はむはむはむっ!!!」

 

一方で蜜璃は、朝から丼で一心不乱に朝食を掻き込んでいた。それは炭治郎との情交(セックス)に関わった事を、誤魔化す為の行動でもあった。丼をどければ、赤面している顔が露見する事だろう。

 

「…………」

 

すると其処へ、一人の男性が静かに席から立ち上がった。風柱の実弥である。実弥は既に、破裂せんばかりに青筋を浮かべていた。

 

「…………テメェらッ!? 御館様の御屋敷で盛ってんじゃねェッ!!?」

 

実弥の正論極まりない叫声と鈍い音が二つ程、産屋敷本邸全体に轟いたのだった。

 

余談だが実弥の叫声に、天元は自分は無関係だと言わんばかりに他人事を装っていた。




お待たせ致しました。

遅くなり申し訳ございません。諸事情遭って色々滞ってしまいました。

そして待たせた割には大して長くも無い。その点についてもお詫び申し上げます(-_-;)

取り敢えず……長かった緊急柱合会議編が今作で終了し、新たな区切りをつける事が出来ました。

次回からリクエスト作品の消化に入りますので、リクエスト主の皆様は良ければお待ち頂けますと嬉しいです。

どうか今年も「優しき日輪と鬼殺隊の美蝶」をよろしくお願い致します。


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幕間
第伍拾捌話 日輪と美蝶は歓迎会の準備をする


※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月十六日(日)

時間帯:昼

天気:曇り

 

「えーっと……それでは早速歓迎会も兼ねてお茶会に出す、お料理作りを始めたいと思いますっ!」

 

「おおっ――!」

 

「お、おおっ……。」

 

「……」

 

「クスクス……。」

 

蜜璃の掛け声で、呼応する様に返事があった。尤も、はっきり呼応したのは炭治郎だけで、カナヲは控えめに呼応していた。そんなカナヲを見て、何も言わずしのぶとアオイは微笑ましそうに笑っていた。カナヲの当時の様子を知る二人からすれば、そうなるのは必定であった。

 

炭治郎達は蝶屋敷にある、厨房に集結していた。

 

厨房に居るのは炭治郎、しのぶ、アオイ、カナヲ、蜜璃の五人だ。そして厨房には料理に使用するであろう、小麦粉や卵、牛酪(バター)と砂糖に牛乳と言った材料がずらりと置かれていた。

 

「思ったけど、こんな風に皆で料理するなんて初めてかも。」

 

「そう言えば、そうね。」

 

「私、炭治郎と一緒に料理出来て嬉しい……」

 

「私も久しぶりに、炭治郎一緒に料理出来て嬉しい。」

 

しのぶ達は炭治郎を見ながら、一緒に料理が出来る事実に嬉しそうに笑っていた。

 

「俺も、しのぶさん達と一緒に料理出来て嬉しいですっ! 幸せですっ!」

 

炭治郎がしのぶ達の呟きを聞いて、そう言って同意した。当然の如く満面の笑みでそう言うので、しのぶ達の幸福度は只管に増幅する一方であった。

 

「……あれ? そう言えば……きよちゃん達はどうしたの?」

 

蜜璃はきよとすみとなほの三人が、蝶屋敷の厨房に居ない事に疑問を感じてしのぶ達に訊ねた。きよ達はアオイを補佐して料理も出来る料理上手であり、何より甘い物好きのすみ達が、この行事に参加していない事実が信じ難かった。

 

「ああ、なほ達でしたら……。」

 

『だっはははははははははっっ!!』

 

『きゃあああああぁぁぁっっっ~~~!!!♪』

 

蝶屋敷の厨房の外から、伊之助の大声ときよ達の歓声と更には車輪を走らせた時に鳴る音が聞こえて来た。

 

「……居ましたね。」

 

「うん……あれかな? 俺がひささんの御屋敷で譲って貰った人力車で、伊之助がすみちゃん達を乗せて走り回っているんだと思う。」

 

『……ああぁ~~っ。』

 

炭治郎の推測を聞いて、しのぶ達は納得した様子で声を上げた。

 

「伊之助君、大丈夫かしら……?」

 

「調子に乗らないと良いんですけど……。」

 

「まぁ、まぁ……伊之助はああ見えて気遣いが出来るから、大丈夫じゃないかな?」

 

伊之助の暴走を心配したしのぶ達だが、炭治郎がそう言うので一先ず放置する事にした。

 

そんな伊之助達以上に、自分達の方が重要だと考え直していた。しのぶ達にとって、炭治郎と過ごせる時間は掛け替えの無いものなのだから。

 

そんな幸福を再自覚していたしのぶ達であったが、此処でしのぶ達の幸福に罅が入る事態に突入する。

 

「お邪魔します。」

 

『!』

 

蝶屋敷の厨房に、炭治郎達とは違う声が聞こえて来た。炭治郎達は声が聞こえた出入口の方に向かって、ほぼ一斉に視線を向ける。

 

「あっ! 無一郎君っ!」

 

蝶屋敷の厨房に入室して来たのは、鬼殺隊の柱の一人である霞柱の無一郎だった。

 

「どうしたの? 何かあった?」

 

「ううん。何かあった訳じゃないよ。」

 

炭治郎がそう尋ねると、無一郎は頸を横に振って否定した。

 

「でしたら、部屋で大人しくして頂けますか? 今から私達は、料理をするのですから。」

 

その直後、しのぶが蝶屋敷の厨房から無一郎に退室を促した。表情は見惚れる程の笑顔であったが、その口調は暗に出て行けと言わんばかりであり、明らかに棘が見て取れた。

 

「それが部屋で居ても、暇で退屈なんだ。皆は皆で、()()()みたいだし……それに鍛錬って、気分になれなくてね。胡蝶さん。」

 

その無一郎だが、しのぶの様子にも何一つ動じない。何時ものスンとした表情をしながら、そう答えた。

 

「だからね、炭治郎。僕も君のお手伝いをしたいんだ。お料理なんて殆どした事が無いけど……僕も参加して良いかな?」

 

そして今度はウルウルと両眼で訴えながら、炭治郎にそう頼み込んだ。あまりの変わり身の速さに、しのぶ達は驚く外に無い。

 

「そんな真似っ「勿論良いよっ!」……っ!!」

 

しのぶは即座に拒絶しようとしたが、炭治郎が先に承諾してしまった。

 

「良かった。僕、頑張るねっ!……胡蝶さん達もよろしく。」

 

笑顔で炭治郎にそう言った後、再びスンとした表情でそう言った。そんな無一郎の態度に、蜜璃を除いてしのぶ達は青筋を浮かべる。

 

――何時もみたいに、空でもボーッと眺めていれば良いものをっ……っっ!

 

しのぶは苛立ちながら、表情には出さない様にしつつ無一郎を睨み付けた。アオイとカナヲもお邪魔虫だと言わんばかりに、ムスッとした表情を浮かべて無一郎を睨み付けた。

 

「それで甘露寺さん。今から何を作るんですか?」

 

そんなしのぶ達から注がれる殺意交じりの睨みなど無一郎はどこ吹く風と、蜜璃にこれから作る料理は何なのか尋ねた。

 

「ふふんっ! 無一郎君。それはね……皆が大好きパンケーキですっ!」

 

「おおおっ!」

 

蜜璃の宣言を聞いて、炭治郎は歓声を上げた。興奮しているのか、少し頬も赤く染まっている。

 

「……ふふっ。」

 

そんな炭治郎の姿を見て、愛おし気にしのぶ達が炭治郎を見詰める。先刻まで無一郎に向けていた、殺意交じりの視線とは雲泥の差がある。

 

「ごめん。パンケーキって何?」

 

『!』

 

無一郎は蜜璃が言うパンケーキの存在が分からず、思わず尋ねた。無一郎がパンケーキを知らなかった事実に炭治郎達は驚きながらも、まず炭治郎が説明を始めた。

 

「無一郎君。パンケーキって言うのはね……ああ、何て言えば良いんだろう?……そのっ、ふわふわしていて甘くて美味しいお菓子だよっ!」

 

説明下手な炭治郎にしては、非常に上手に説明出来た内容を聞いて無一郎は納得した。

 

「そのパンケーキってお菓子が、炭治郎は好きなの?」

 

「うんっ! 初めて食べた時はこの世にこんな柔らかくて美味しい食べ物があるんだって思って、感動しちゃった位だよっ!」

 

炭治郎は"煉瓦家"で初めてパンケーキを食べた時の感動を思い出して、胸がジーンとなるのを覚えた。

 

「ふふんっ♪ 材料なら沢山あるから、お寺みたいな高さのパンケーキだって作れちゃうわっ!」

 

蜜璃は蝶屋敷の厨房の机に並べられてある、パンケーキ作りに必要な大量の材料を見渡しながらそう言った。

 

「先ず第一に、注意事項がありますっ!……お菓子作りはだけじゃなくて料理全般にも言える事だけど、分量はちゃんと量ろうね。」

 

ビシッと人差し指を差しながら、炭治郎達に蜜璃は告げようとする。特にカナヲに対して、注意深くだ。

 

炭治郎達は蜜璃の忠告に対して、一度だけ深く頷いた同意した。それから炭治郎達は、パンケーキ作りを開始した。

 

蜜璃の指示に従い、炭治郎達が小麦粉と砂糖が入った器に卵と牛乳を入れて生地作りを始めた。

 

「あっと……卵割るの失敗しちゃった。」

 

『!』

 

炭治郎が卵を割った際、力加減を間違えて両手が少し卵で濡れた。炭治郎のそんな姿を見て、しのぶ達はビクッと反応する。

 

「あ、あははははっ……ごめんなさい。気を付けます……。」

 

炭治郎は少しシュンとしながら、頭を小さく下げて卵を割る事に失敗した事実を謝罪した。

 

「え~とっ、別に気にしなくても良いわよ……炭治郎君。大丈夫? やっぱり疲れてない?」

 

蜜璃が炭治郎を心配する様に、そう言って声を掛けた。しかし自身がその疲労の要因の一人である自覚があるのか、その尋ねる声は少し控え目の小声であった。

 

「炭治郎なら、そう言うよね。でも無理なんてしない方が良いよ……はむっ。」

 

炭治郎の失敗を見て無一郎は励ます様に声を掛けながら、炭治郎の左腕を掴むと左手の指を口に含んだ。

 

『!?』

 

そんな無一郎の行動を見て、しのぶ達は両眼を見開いて無一郎を見る。特に驚いていたのは、左手の指を口に咥えられた炭治郎だ。

 

「むっ、無一郎君っ!?」

 

「ちゅうちゅっ……食べ物は無駄にしたら罰が当たるからね。頂きます。ぺろぺろ……。」

 

無一郎はそう言うと、左手に残っている卵を舐め取り始めた。量が言う程無かったので、程無くして左手に付いていた卵は直ぐに全て舐め取られた。

 

「……時透君。君は一体、何をやっているんですか?」

 

しのぶは無一郎の行動を見て、青筋を浮かべながら笑顔で睨み付けた。常人ならば背筋が凍りそうだが、無一郎は歯牙にも掛けなかった。

 

「ちゅっ……見て分からないの? 炭治郎の手に付いてる卵を、舐め取ってあげてるんだよ。ぺろっ」

 

しのぶをチラッと横目で一度だけ視線を向けた後、無一郎は挑発する炭治郎の指を一舐めした。

 

『……っ。』

 

女性よりの美貌を持って居るだけに、無一郎の行動は些かの色気すら感じられた。その事実が、しのぶ達の神経を逆に逆撫でさせていた。

 

「ふっ……。」

 

青筋を浮かべるそんなしのぶ達を鼻で嗤いながら、無一郎は自然と今度は炭治郎の右手を舐めようと手を伸ばそうとした。

 

「駄目っ!」

 

『!』

 

カナヲはそんな無一郎を見て、奪う様に炭治郎の右腕を抱き抱えた。

 

「んふうぅっ❤……ちゅうぅぅっ!……ぺろぺろぺろっ。」

 

カナヲは周囲が眼中に無い様子で、炭治郎の右手に付いている卵を一心不乱に舐めていた。その様子を見ると余程、無一郎は炭治郎の左手を舐めたのが悔しかった様に見えた。

 

「栗花落さん……変わったね。」

 

「ぺろっ……負けないもん。ましてや、男の霞柱様になんて……。」

 

カナヲは炭治郎の右手に付いていた卵を舐め終えると、無一郎を睨み付けた。無一郎は炭治郎と出会って変わる前の無気力なカナヲの姿と比較して、現在の変貌振りに改めて驚いていた。

 

 

 

パンッ!

 

 

 

「はい、其処までっ!」

 

『!』

 

蝶屋敷の厨房で、乾いた音が鳴り響いた。蜜璃が手を叩いて注目を自分に集中させたのである。このままでは収拾が付かないと判断しての、素早い行動である。

 

「炭治郎君。両手をしっかり洗ってね。それまでは、何も触らないで。」

 

「……はい、すみません。」

 

普段は常人よりも温厚で寛容な性格をしている蜜璃であるが、料理に関しては常人よりも真剣で真面目である。真顔で炭治郎に両手を洗う様に命じると、炭治郎はその声色と匂いで察して直ぐに行動に移った。

 

「料理を再開するけど、良いよね?」

 

『……はいっ。』

 

蜜璃から普段は感じぬ凄みを察して、しのぶ達も流石に牽制を止めた。そんなしのぶ達を見て、蜜璃はほっとする。そうしている間に、炭治郎が両手を洗い終えて戻って来た。

 

その僅かな時間の間に、蜜璃の指導の下でしのぶ達は生地作りを終えていた。

 

「こほん……ちゃんと混ざったら、高い所からフライパンにゆっくり垂らして行ってね。そうすると、重さで勝手に綺麗にムラ無く広がって行くの。」

 

「はいっ! 分かりました!」

 

炭治郎がそう言って返事をすると、無一郎とアオイはなるべく高い位置からゆっくりと生地をフライパンの上に流し込んだ。

 

「後は、両面を適度に焼いたら完成っ!!」

 

そんな蜜璃の解説を聞きながら、炭治郎はパンケーキを焼く温度を真剣な表情で調整する。

 

「炭治郎って、火の扱い方が上手よね。ずっと前からそう思っていたけど……。」

 

「ふふん。俺は炭焼き職人の息子だからね。料理は火加減っ!」

 

炭治郎と料理経験があるアオイが感嘆しながらそう言うと、炭治郎はドヤ顔で勝ち誇った様な表情を浮かべた。

 

「流石ねっ! 今日は人数が多いから、ジャンジャン焼いて行きましょう~!」

 

『おおっ!』

 

蜜璃の掛け声に、炭治郎達は呼応した。そして間も無く、最初に焼いたパンケーキが完成した。

 

「良い焼き加減だわっ!……そうだ。此処は効率化の為にも、役割分担をしましょうっ!」

 

それから蜜璃は、炭治郎達に各自で指示を出し始めた。

 

「しのぶちゃんとアオイちゃんで、生地作りをお願い。炭治郎君と無一郎君で、パンケーキを焼いてねっ!」

 

「はいっ!」

 

「分かりました。甘露寺さん。」

 

炭治郎は元気良く返事をし、無一郎も嬉しそうな表情を浮かべて返答した。

 

「「……はい。」」

 

対照的にしのぶとアオイは少し悔し気にチラッと無一郎を睨み付けた後、直ぐに生地作りを始めた。後は、カナヲだけが残された。

 

「後は……私とカナヲちゃんは、付け合わせを用意しましょうっ!」

 

「付け合わせ……ですか?」

 

「うんっ! パンケーキはそのまま焼いても良いけど、牛酪(バター)と蜂蜜で食べたら最高でしょう? だけどそれだけじゃ単調で寂しいから……。」

 

蜜璃は其処まで言うと、ある食材を並べてカナヲに見せた。

 

「これが私が作った蜂蜜に……私が以前(まえ)に蝶屋敷に送った、各種ジャムッ!」

 

其処には自家製の蜂蜜以外に林檎、苺、桃、杏、葡萄、柿のジャムが用意されていた。

 

「わぁっ! 凄く甘くて良い匂いがしますっ! それに綺麗ですねっ!」

 

「うふふっ。そうでしょう? この柿のジャムは作るの、すっごく難しかったんだよ~~下手な作り方をすると味が渋かったり変色しちゃったりしたから。」

 

炭治郎の称賛の言葉を聞いて蜜璃は機嫌良さげに懐かしそうに、柿のジャムでの苦労話を少しだけ口にした。其処へカナヲが、蜜璃に尋ねる。

 

「恋……いえ、蜜璃様。其処まで用意したんでしたら、もう良いんじゃ……。」

 

「う~ん。折角だからね。餡子も用意したいと思っているの。それから一緒に、変わり種でみたらしタレも作りましょう。」

 

「えっ? あっ、はいっ。分かりました。」

 

カナヲは言われるがままに、蜜璃と共に餡子とみたらしタレを作り始めた。そうしている間に、炭治郎はふとある事を考えながら呟いた。

 

「そう言えば…………皆、上手く行っているのかな?……上手く行っていると良いなぁ。」

 

炭治郎はそう言い終えると、誰か対して祈る様に()()を願っていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

因みに何故炭治郎達が蝶屋敷に戻って料理を始めているかと言うと、それには理由がある。

 

『珠世さんと愈史郎君の為に、歓迎会をしませんか!』

 

蜜璃が産屋敷本邸での朝食会後に、炭治郎達にそう提案したのだ。後から来た珠世は不要だと辞退しようとしたが、蜜璃はより親密になる為にも開くべきだと頑なに進めた。

 

『良いんじゃないかな? 君達が交流を重ねるのは重要な事だ。蝶屋敷でやっておいで。』

 

耀哉の一言が鶴の一声となり、珠世と愈史郎の歓迎会が開催される事となった。

 

『……そうなってくれたの方が、()()()()()()()()。』

 

最後に呟いた耀哉の一言は、誰の耳にも入る事は無かった。しかしその言葉の意味は、特定の何人かが直接その身で感じる事になる。

 

 

 

♦︎

 

 

 

『ぎゃはははははっ!!! しっかり掴まっていろよ、チビ助共ッ!!……猪突猛進っ!! 伊之助号っ! 発進んんんんっっっっ!!!!』

 

『きゃああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!』

 

それは炭治郎達が蝶屋敷の厨房で集結して、パンケーキ作りを始める前に遡る。

 

「……」

 

伊之助が外で人力車を走らせ始める中、鬼殺隊の現柱でも筆頭格とされている岩柱の行冥が『隠』の後藤隊士の案内で蝶屋敷のある一室に向かって歩いていた。そして目的地であるその部屋に、間も無く行冥達は打擲する。

 

「……」

 

その部屋は襖越しでも分かる程に、静寂に包まれていた。

 

「岩柱様、この部屋になります……()()()が待っていますよ。」

 

「っ!……案内、感謝する。」

 

案内役の後藤隊士に行冥は礼を述べると、後藤隊士は一礼してからその部屋の前から足早に立ち去って行った。

 

「……入るぞ。」

 

行冥が襖越しに声を掛けてから、ゆっくりと襖を開ける。其処には一人の少女が座っていた。

 

その人物は十代前半の少女であり、身体を震わせながら座ったまま動こうとはしない。

 

「……っ。」

 

「…………沙代。」

 

「!」

 

行冥が声を掛けたのは何と自身が冤罪の濡れ衣を被せられる要因となった、沙代本人であった。

 

「……っ。」

 

沙代は行冥に声を掛けられて、益々顔を俯かせて身体を震わせた。

 

何故沙代がこの蝶屋敷に居るのかと言うと、耀哉が獪岳と慈悟郎を産屋敷本邸に召喚する時にまで遡る。

 

耀哉はあまねに頼んで、沙代()を蝶屋敷に届ける様に鎹烏を派遣したのだ。鎹烏が二羽では無く、()羽飛んだのがその理由であった。

 

因みに沙代は近くで控えていた『隠』の下へ鎹烏が指令を届けたので、その『隠』は沙代を連れて蝶屋敷まで案内したのである。

 

「……」

 

行冥は何も言わない沙代に対して、同様に黙って室内へ入室した。

 

この沙代だが、『隠』から行冥と再会する事は事前に伝えている。『隠』も沙代を蝶屋敷に届ける前に、行冥についてきちんと伝えたのだ。鎹烏からの指令で、沙代の意志を踏み躙ってはならないときつく伝えられていたからである。

 

沙代も当初は怯えの表情を浮かべていたが、長い沈黙の末に覚悟を決めて行冥と再会すべく蝶屋敷へ訪問する事を承諾したのであった。

 

しかしやはり行冥本人を前にしては、沙代に恐怖や罪悪感から自身の覚悟に罅が入りそうになる。自身が至らぬ所為で行冥に冤罪を被せてしまったのだから、そう思うのも無理は無い話だ。

 

そしてそんな沙代の心情を、行冥が察せない筈は無かった。

 

「……君が怯える必要は無い。事件(こと)の真相は全て、炭治郎を通して私は知っている。」

 

「!!」

 

行冥の告白を聞いて、沙代は俯かせていた頭を漸く上げて行冥を見上げた。その瞬間、沙代の全身は優しく行冥に抱き締められた。

 

「辛かった事だろう。私が不甲斐無い所為で、君の小さな身体に要らぬ辛苦を味合わせてしまった……本当に、済まなかった。」

 

行冥は涙を流しながらそう言うと、沙代の頭を優しく撫でた。その大きな手は、微かに震えていた。

 

「……っ……~~~~っっ。」

 

行冥は何も悪くないと、沙代は言いたかった。しかし口が利かなくなってしまった現在の自分には、そう声に出して伝える事は出来なかった。

 

その為、沙代は全身で自身の想いを表現するしかなかった。沙代は全身の力で強く行冥に抱き着き、声を上げずに泣き始めた。

 

「……沙代っ。」

 

行冥にとって、それで十分だった。更に涙を流しながら、行冥は沙代の頭を優しく撫でる。

 

八年の月日を超えて、漸く二人のわだかまりが解けた瞬間であった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「「……」」

 

此処もまた、蝶屋敷にある和風な一室である。其処には二人の男性が、口を開かずに畳の上で向き合っていた。一人は実弥であり、もう一人は何と唯一血の繋がりがある実弟の玄弥であった。

 

「「…………」」

 

実弥は玄弥を睨み付けながら、だらしなく床に座っていた。対して玄弥は実兄である実弥とは対照的に、正座をして行儀良く座っている。

 

実は()羽の鎹烏の一羽は、玄弥を蝶屋敷に向かう様に指令を届けていたのである。これは耀哉が炭治郎の説得で玄弥と正面から向き合うと決意した姿を見て、実弥の為に用意した気遣いであった。

 

「……」

 

玄弥は実弥に睨まれて、汗を隠す事が出来なかった。常人ならば失神していそうな重圧を浴びている玄弥であったが、それでも何とか耐えていた。

 

「「…………」」

 

未だに互いに一言も語らず、重苦しい空気が室内をしていた。しかしその息苦しい雰囲気を、ある人物が根こそぎ吹き飛ばす。

 

『ヤッフ――!!』

 

「「!」」

 

ガラガラと車輪の音を立てながら、伊之助が人力車を引っ張って走っていた。庭に繋がる障子は開きっぱなしなので、伊之助達の姿ははっきりと映っている。砂埃を立てながら爆走している伊之助は、そのまま不死川兄弟の視線を一度通り過ぎた。

 

伊之助が空気を呼まずに遊び回った為か、不死川兄弟に漂う息苦しい雰囲気が吹き飛ばされた。

 

「「…………」」

 

その代わり、何とも言えない微妙な空気に変化して不死川兄弟はどうすれば良いのか、却って分からなくなった。

 

『ヤッフ――!!』

 

不死川兄弟が困った様子で固まっていると、今度は伊之助が道を引き返して来た。そしてその時に、それは起きた。

 

 

 

ドゴッ!

 

 

 

「うおっ!?」

 

伊之助は地面に埋まっていた石かか何かに、人力車を引っ掛けて態勢を崩した。

 

「きゃああああっ!?」

 

『!?』

 

その際に人力車に乗っていた、すみが人力車から弾かれる様に吹き飛ばされた。悲鳴を上げながら、宙に浮かぶすみ。

 

()()ちゃんっ!」

 

「!!?」

 

きよが焦燥し切った表情を浮かべながら、宙に浮かぶすみを心配して声を上げた。このままでは、すみは地面に激突すると思われた。

 

「――」

 

その瞬間、一筋の風を吹いた様に感じた。

 

「えっ?」

 

するとすみは、何か包まれる様な感触を覚えた。その感触は力強く逞しい、されど確かな温かさを感じていた。

 

「大丈夫かぁ?」

 

「!!」

 

其処には室内で不機嫌に座っていた実弥が、瞬間移動とも言える速さですみを抱き抱えていたのだ。部屋とはある程度距離が離れていたと言うのに、一瞬にして移動したのは鬼殺隊の柱に相応しい動きであった。

 

――い、何時の間に……。

 

――はぇ……全く気付かなかったぞ……。

 

玄弥と伊之助は、実弥の動きに驚嘆しながら凝視していた。そんな二人の視線など気にもせず、実弥はすみを下ろした。

 

「気ぃ付けろよなぁ。」

 

実弥はそう言うと、そのまま部屋に戻って行った。すみは呆然としていたが、直ぐに去って行く実弥に頭を下げて見送った。

 

「……」

 

「……」

 

再び顔を合わせる不死川兄弟。すると意を決した玄弥が、漸くその重い口を開いた。

 

「兄貴。俺、俺……ずっと…………ずっと話したかった事があるんだ。」

 

玄弥はそう言ったのだが、肝心の話したい事が話さず再び俯いたまま口を閉ざした。此処から先は、玄弥も話すのは容易では無かったのである。

 

「はぁっ~~~~~~~っっ。」

 

「!」

 

すると実弥が徐に、意図的過ぎる程にわざとらしい溜息を零した。そんな実弥を見て、玄弥はビクッと身体を震わせた。しかし次の実弥の言動は、玄弥の予想を裏切るものであった。

 

「テメェは本当に……どうしようもねぇ()だぜぇ……。」

 

「!?」

 

玄弥は実弥の口から飛び出して来た、思わぬ単語を耳にして俯いたまま両眼を見開いた。そんな玄弥など気にも留めず、実弥は話し続ける。

 

「テメェはどっかで所帯を持って、家族を増やして老い耄れ爺になるまで、のうのうと生きてりゃあそれで良かったんだよ。」

 

「鬼になっちまったお袋にしてやれなかった分も……死んじまった弘や寿美達にしてやれなかった分も、お前が……玄弥が女房貰って作った子供を幸せにすりゃ、それで良かっただろうが。」

 

実弥は其処まで言うと、刹那の間だけ沈黙した。玄弥は気になって少しだけ顔を上げると、実弥の身体は僅かに震えていた。

 

「其処には絶対に俺が……俺が鬼なんか来させねぇから……。」

 

「っ!!…………ごめん兄ちゃん……ごめん……。」

 

実弥の玄弥へ思い遣りに満ちた言葉を聞いて、玄弥はただ涙を流しながら謝罪していた。

 

泣いている玄弥に向かって実弥が近付くと、優しく包み込む様に玄弥を抱き締めた。

 

「玄弥は頑張ったんだなぁ……流石は俺の自慢の弟だっ……。」

 

「~~~っっ……~~~~っっっ。」

 

玄弥の苦労を労う実弥に向かって、玄弥はしがみ付く様に抱き締め返して静かに泣いていた。腹部に感じる熱を持った液体の感触を感じながら、そんな玄弥を実弥は優しく背中を撫でていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「「「…………」」」

 

また蝶屋敷のある一室では、三人の男性が沈黙したまま鎮座していた。

 

この面々で一番目立っているのは、雷で黒髪が金髪に変色した善逸である。その善逸以外に、見慣れぬ二人の人物があった。

 

一人は左頬の傷と右足が義足になっている、特徴的な小柄な老人であった。

 

この老人こそ嘗ての鳴柱であった、善逸の育手にして親代わりの桑島慈悟郎である。

因みにこの右足は、下弦の伍を倒す際に喪失した名誉の傷であった。この傷が下で、慈悟郎は柱を引退している。

 

もう一人は、善逸より年上の青少年であった。この青少年こそ行冥とも因縁深い、善逸の兄弟子の獪岳であった。

 

「「「…………」」」

 

奇しくも善逸達は三人揃って、朝の産屋敷本邸での出来事を思い出していた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

東京府・産屋敷本邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十六日(日)

時間帯:朝

天気:曇り

 

『獪岳。君が八年前に起こした事件の事は、きちんと思い出してくれたかな?』』

 

現産屋敷家の当主であり産屋敷本邸の主人にして、鬼殺隊の頭目でもある耀哉が獪岳に向かってそう言った。その獪岳本人は、縄で縛られて拘束された状態で引き摺り出されていた。当然の話だが弟弟子の善逸と同様に雷模様が刀身に走る愛刀の日輪刀も、『隠』達の手によって没収されていた。

 

『っ?!……っ!?』

 

獪岳は初めて目にする主人に声を掛けられたが、その内容まで耳には明確に入っては来なかった。ただ只管に、脂汗を流して顔を俯かせていた。獪岳の脂汗が滴れて、中庭に落ちて行く。

 

まだ季節は春に入ったばかりであり、其処までの暑さはまだ来ていない。しかし獪岳の身体から出る汗の量は、まるで真夏の日差しの下に居るが如きものであった。

 

『獪岳……っ。』

 

そして其処には育手である、慈悟郎も居た。慈悟郎は拘束されている愛弟子の獪岳の存在に姿を痛めて、耀哉に嘆願しようとしたが事前に止められていたので何も出来なかった。

 

それ以前に慈悟郎自身も、唐突に召喚命令が来たので大急ぎで産屋敷本邸に向かったのだ。召喚される理由も分からないまま、当惑状態で着の身着のままで産屋敷本邸に召喚されていた。

 

『……っ。』

 

慈悟郎の隣に居る善逸だけは、苦しそうに顔を背けるだけで何も言わなかった。

 

『屑野郎がぁ……悲鳴嶼さんや他の奴等を犠牲にして良くもまぁ、今日までのうのうと生きて来られたもんだなぁ……。』

 

実弥が青筋を浮かべながら、獪岳に向かって罵倒する。その視線は明らかに軽蔑と憤怒の色が宿っている。今にも帯刀している日輪刀で、獪岳を斬り捨てかねない勢いだ。

 

『…………』

 

対照的に天元達は獪岳に対して何も言ったりはしないが、明らかに軽蔑の念を抱いて睨み付けていた。尤も、蜜璃はそうではなかったし、しのぶや無一郎は半分無関心であった。

 

『……』

 

何より、当事者である行冥は何も言わず反応せず沈黙を貫いていた。その行冥の様子が、却って不気味に映った。

 

『……っ。』

 

『うっ……っ。』

 

獪岳が罵倒されるのを聞いて、慈悟郎と善逸は顔を顰めるも反論する事が出来ず沈黙するしか無かった。しかし、実弥の次の一言で、二人は沈黙していられなくなる。

 

『でぇ?……この屑はどうすんだぁ?……取り敢えず、とっとと頸でも撥ねるか?』

 

『!!?』

 

実弥の些か乱暴とも言える処遇の提案を聞いて、炭治郎達は一斉に実弥に注目した。俯いていた獪岳も、更に焦燥した様子で顔を上げて実弥を凝視した。

 

『不死川は、この下衆を始末しろと言うのか?』

 

『あぁっ。命惜しさに、他の奴を平気で売る奴だからなぁ……後顧の憂いを断つ意味でも、此処で始末した方が良いんじゃねぇのかぁ? こいつぁこのままだと命惜しさに、鬼に堕ちるかもしれねぇからなぁ。』

 

『!!!』

 

実弥は日輪刀の柄に手を掛けながら、何時でも抜刀出来る様にそう言った。実弥の殺害予告とも解釈出来る発言を聞いて、炭治郎達の間に緊張が走る。

 

『……果たしてそれは、正当な処罰になるだろうか?』

 

『!』

 

しかし、其処へある人物の呟きが広間に響いた。その呟きを口にしたのは、義勇であった。義勇は、更に言葉を続ける。

 

『俺も別に、この男を庇いたい訳では無い。しかし犯した罪は、鬼殺隊に入隊する前のものだ……(きのえ)まで上り詰めた隊士をこうも簡単に処分して良いものかどうか、と言う問題もある。この男に関する情報と功績を纏めた書類を見たが入隊以降、特に問題を起こしている訳では無い様だからな……その辺に俺は疑問を感じる。』

 

『!』

 

義勇の一言で、斬首刑に傾きそうな雰囲気に停滞が生じた。その貴重な瞬間を逃さずに、今度は別の人物が声を上げた。

 

『どうか、どうか獪岳をお許し下さらぬかっ?』

 

『!!』

 

今まで沈痛の表情を浮かべていた慈悟郎が、懇願する様に声を上げてそう言った。

 

一斉に炭治郎達が慈悟郎に注目すると、慈悟郎は獪岳を庇う様に中庭に移動していた。慈悟郎は悲壮な覚悟を持った表情を浮かべているのが、炭治郎達にははっきりと見て取れた。

 

慈悟郎は更に、獪岳の助命の為に言葉を紡ぎ続ける。

 

『皆の為に鬼に殺されて死ねだなどと、獪岳に死ぬ事を強要し生きる事を放棄させる権利が此の世の誰にありましょう。』

 

『獪岳はただ生きたかった……生きたかっただけなのです。』

 

『それでも獪岳の行いに罪があると言うのであれば、此度の件はこの老いぼれの頸一つでどうか……どうか、お許し下さいませぬか。お許し頂けるならば、直ぐにこの場で腹を斬ってご覧に居れます。』

 

慈悟郎は其処まで言うと、頭を強く中庭の地面に叩き付けて土下座をした。両手も中庭に敷かれている敷石を掴んで握り締め、そのまま掌に強く爪を立てておりその覚悟が伺い知れた。

 

『……』

 

元鳴柱として威厳も相まって、強硬に獪岳の斬首刑を求めた実弥を筆頭に柱達は沈黙した。

 

『お、俺からもお願いしますっ!!』

 

『!!』

 

其処へ善逸も加わって、慈悟郎の隣で中庭に頭を叩き付けて土下座をした。善逸の唐突な行動に、炭治郎達は驚いた。そんな周囲の反応を他所に、善逸は言葉を続けた。

 

『もし獪岳が鬼殺隊を裏切ったり、皆が懸念する様な事をやった時は……その時は俺が獪岳を斬ってから、腹を斬ってお詫びしますっ!! だから今回だけは、獪岳を許してやって下さいっ!! お願いしますっ!!』

 

『!』

 

善逸は自身の覚悟を明確に口にして、最悪の場合は獪岳と一蓮托生になる覚悟で獪岳の助命を嘆願した。

 

『!?』

 

善逸にとって兄弟子に当たる獪岳は両眼が飛び出さんばかりに驚愕しながら、土下座状態の善逸を凝視していた。自分が嫌っておりかつ嫌われていると疑わない善逸からこうまでされて擁護されるとは、夢にも思わなかったからだ。

 

『勘違いすんなよ。』

 

『!』

 

『俺はあんたが嫌いだ。あんたも俺を嫌っているだろうしな。』

 

善逸は土下座を説いて顔を上げて獪岳を見ると、嫌なものでも目にする様に顔を顰めた。しかし直ぐに、真剣な表情を浮かべて真顔になった。

 

『でも尊敬している。心から……あんたは何時も努力を怠らなかったし、直向きだった。俺は何時もあんたの背中を見続けていたし、ずっと俺の目標なんだ。』

 

『!!?』

 

善逸から初めて聞く本音を耳にして、獪岳は驚愕しながら両眼を見開いた。

 

『ふむ……慈悟郎と善逸は、獪岳の為なら言葉通り命を懸けられる訳だね?』

 

『御意。』

 

『はいっ!』

 

最初に獪岳に訊いてから沈黙を貫いていた耀哉が、慈悟郎と善逸に確認した。耀哉にそう聞かれた二人は、即答して肯定した。

 

『分かった。……しかしこの一件は、当事者に委ねるのが一番だと私は思う。……どうする? 行冥?』

 

『!!』

 

耀哉が行冥に話を振って、炭治郎達は思い出した様に行冥を見た。何故なら当事者である筈の行冥が、一番に無口な態度を貫いて何も言おうとしなかったからだ。

 

寧ろ気配を殺す様に控えていたので、熊の如き巨躯の持ち主であるにも関わらず皆が行冥の存在すら忘れ掛けていた。

 

『はっ……獪岳。』

 

『!』

 

『……っ。』

 

行冥はその見えない両眼を、真っ直ぐ獪岳に向ける。炭治郎達は行冥と獪岳を見守る。そして獪岳の方は、思わず生唾を一塊飲み込んだ。獪岳の心境は例えるならば、死刑執行を待つ死刑囚の如き状況であった。

 

『……君の処遇を決定する前に、一つだけ訊こう。何故、皆で集めた金を盗もうとした?』

 

『!!』

 

行冥に訊ねられた質問の内容を聞いて、獪岳は両眼を見開いて驚いた。炭治郎達も驚いたが、直ぐに獪岳が何を言うのか気になった。実弥を始め一部の者達は、どの様な言い訳を並べるのかと嘲笑を含む笑みを浮かべていたが。

 

『……信じて貰え無いかもしれない。でも俺は、盗んだ心算なんてこれっぽっちも無かったんだ。』

 

産屋敷本邸に召喚されて、獪岳は初めてその重い口を開いて封印されていた過去を語り始めた。

 

『…………』

 

獪岳の言い分とも言える話の内容を要約すると、この様になる。

 

獪岳は翡翠の匂玉を後生大事に持って居たのだが、行冥に買い物を頼まれたある日に不良達に絡まれて買い物のお金と翡翠の勾玉を奪われて質屋に売り飛ばされた。

 

獪岳は質屋で奪われた翡翠の勾玉を見付けた時は、店主に事情を説明して返して貰おうとした。

 

しかしその翡翠の勾玉が自分の所有物である証拠は無く、如何なる手段であれ商品となっている以上は買い戻す他に方法が無かった。

 

行冥から貰った翡翠の勾玉は獪岳にとって唯一無二の宝物だったので、どうしても他人に購入されるのは避けたかった。獪岳は行冥に事情を説明しようとしたが、都合が悪い事にその時は行冥は不在であった。

 

焦燥していた獪岳は、後で事情を説明しようと無断で寺の貯金を拝借した。獪岳の素早い判断により、翡翠の勾玉は買い戻す事に成功した。

 

しかし不運な事にその時の様子を沙代に目撃されたらしく、獪岳の事情を知らない沙代はただ単に獪岳が金を盗んだ様にしか思えなかった。他の子供達も獪岳は金を盗んだと思い込み、行冥に無断で一方的に獪岳を寺から追い出した。

 

そして夜に追い出された獪岳は鬼と遭遇し、生き残りたいが為に行冥達を鬼に売り渡したと言う。

 

『…………そうか。』

 

獪岳の話を聞き終えた行冥は、それだけ言うと盲目の両眼から涙を流した。

 

『獪岳。』

 

『!』

 

行冥が再び、獪岳の名前を呼んだ。それと同時に、炭治郎達に緊張が走る。行冥が獪岳の言い分を聞いて、どの様に判決を下すのか気になったからだ。

 

『……っ。』

 

そして獪岳もまた、行冥が何を自分に言い渡すのかが気になった。しかし何処かで諦観があったのか、恐怖心から大粒の汗を流して頭を俯かせているだけだった。

 

その姿が、今から斬首される死刑囚が刑の執行を待っている様にも見えた。

 

しかし次の瞬間、炭治郎達は行冥から全く想定していなかった判決を、自身の耳目で知る事になる。

 

『君を私の継子に指名する。』

 

『!!!???』

 

行冥は何と次期柱の代名詞とも取れる柱の直弟子である、継子に獪岳を指名したのだ。炭治郎達は驚愕のあまり、声すら咄嗟に出ない。そしてそれは、獪岳も同様であった。

 

そんな炭治郎達を他所に、行冥は淡々と獪岳に話を続ける。

 

『君がした事は、許されない事だと周りは見るだろう。当事者である私も、そう思っていた……しかし慈悟郎殿が仰る様に、獪岳に生きる事を否定し犠牲を強いる権利は誰だろうと持ち合わせては居ない。』

 

『君が生きたかったと言う人間が持つ当たり前の願いを、誰が否定出来ようか……そして君は今やどの様な思惑を持とうと、鬼殺隊の鬼狩りとして罪無き命を守るべく今日まで戦って来た。その事実もまた、誰にも否定する事は出来ない。』

 

行冥は其処まで言うと、一呼吸置いてから獪岳に言い渡す様に告げた。

 

『獪岳。私の下で、更に強くなれ。柱になれる程に、強くなれ。一体でも多くの鬼を斬り、一人でも多く鬼の餌食になる人々を減らせ。それが君が歩める、唯一の償いの道だ。』

 

『!!!』

 

行冥が諭す様にそう言い終えると、炭治郎達は自然と獪岳に視線を向けた。獪岳が行冥の言葉を聞いて、何と反応し返答するか気になったからだ。

 

『……』

 

獪岳は変わらず、俯いた状態で汗を中庭に垂らしていた。しかし何人かは各々の五感で、異なる事実を察していた。汗以外の体液が、獪岳から流れ出ている事を気付いていた。

 

『……俺は今日まで生きて来て、自分より他人を優先した事なんて無い。全部、全部自分の為だ。』

 

獪岳はそう言うと、顔を上げて行冥を見た。その両眼からは、大粒の涙が流れ続けていた。

 

『それでもあんたが……先生がそう言ってくれるなら、望んでくれるなら……っっ!!』

 

獪岳は其処まで言い終えると、毅然とした真剣な眼差しを行冥に真っ直ぐ向ける。紙眼を装着していない行冥だが、それでも常人離れした残りの感覚でしっかりと獪岳の視線を感じていた。

 

『御意。俺は必ず、今よりも強くなって柱になります。』

 

獪岳はそう言って、行冥に頭を下げた。

 

行冥が獪岳を許した事で、獪岳の裁判は誰も死者を出す事無く無事に終了した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「「「……」」」

 

回想が終わり、沈黙していた善逸達の中で善逸と獪岳の育手である慈悟郎が漸く口を開いた。

 

「獪岳……お前の過去を知らなかった事を、これ程まで後悔した事は無い。済まなかった……。」

 

「慈悟郎先生……」

 

慈悟郎に初めて頭を下げられるのを見て、獪岳は驚きながら慈悟郎を見詰めていた。

 

それから慈悟郎は、頭を上げて今度は善逸を見た。

 

「善逸も、御館様方を前にして堂々と良く言ってくれた。」

 

「じっちゃん……。」

 

慈悟郎に褒められて、善逸は照れ臭そうに笑う。そんな善逸を見て一度微笑んだ後、慈悟郎は真剣な表情を浮かべて二人にはっきりと断言した。

 

「これだけは、忘れないでくれ……善逸と獪岳…………これから先、何があろうと……お前達は儂の誇りじゃっ。」

 

「「!!!」」

 

慈悟郎が泣きながらそう言うと、善逸と獪岳も遅れて涙を流した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……話が終わった筈だったのに、まさかこんな事になるとか…………誰が想像出来たってんだよっ。」

 

獪岳は呆然とした様子で、蝶屋敷の大広間を見渡していた。その様子は明らかに疲弊しており、かつげんなりとした表情を浮かべていた。




後書き

お疲れ様です。大変お待たせ致しました。
佑季洋様(https://www.pixiv.net/users/11394230)のリクエスト「炭治郎愛され(炭しの蜜強め)でお食事会」……を少し内容を濃くしてみました。当然ですが、佑季洋様から許可は得ております。
拙作における記念すべきリクエスト一作目……なのですが、長くなったので前編と言う形になります。

後編の方ですが、5/5(木)に投稿予定です。無理だった場合、前日に変更を知らせます。

今後も更新を頑張りますので、どうか宜しくお願い致します。


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第伍拾玖話 日輪と美蝶の歓迎会

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「うおぉっ! 何だこれはっ! 美味ぇっ! そして甘ぇっ!!」

 

伊之助が塔の如く幾枚も積み重ねられたパンケーキの塔から、一枚を突き匙(フォーク)で自身の口内に放り込んだ後にそう言って感激していた。

 

パンケーキにはたっぷりと牛酪(バター)と蜂蜜が塗られていたので、当然伊之助の口元はべたべたになっていた。しかし伊之助はそれに構わず、どんどんパンケーキに突き匙(フォーク)を刺して夢中で食べて行く。

 

――あいつ、あの猪仮面だよな……信じられねぇ。何だよ、あの女みたいなキレーな顔……身体が男だから不自然過ぎてきめぇな。

 

何とも言えない様子で、獪岳は伊之助を見ながらそう思っていた。それから視線を逸らすと、ある兄弟の下へ視線が移った。

 

「兄ちゃん。蜂蜜より餡子が良いよな?……乗せて良いか?」

 

「……おうっ。」

 

憑き物が取れた様子の玄弥が少し照れながら、パンケーキの付け合わせに用意された餡子を掬って実弥に用意されたパンケーキの上に乗せた。

 

「……ありがとなァ」

 

玄弥の気遣いに実弥もまた照れた様子で、頬を掻きながら礼を述べた。玄弥もまた、嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

しかしそんな仲の良い不死川兄弟の雰囲気を、ある人物が跡形も無く消し飛ばす事になる。

 

 

 

ドンッ!

 

 

 

「「!!?」」

 

鈍い音が不死川兄弟の耳に入り、二人揃って何事かと音がした方を見た。すると実弥のパンケーキには、大量の餡子が無造作に乗せられていた。

 

「……えっ?」

 

「んなッ……っ!?」

 

玄弥は呆けて唖然とした様子で、実弥は両眼を血走らせ額に青筋を浮かべながら自身のパンケーキを睨み付けていた。玄弥は照れながらも勇気を出して実弥の為に持った餡子が、無造作に盛られた餡子の山で埋もれて姿が跡形も無く消失していた。

 

――誰だァッ!? こんな馬鹿な真似をしたクソは……ッ!

 

実弥は苛立ちを隠す事無く、餡子を盛った元凶を探し始めた。すると実弥が思うよりも早く、その元凶を発見した。

 

「……最初の餡子だけだと足りないだろう? (不死川が喜ぶ様に)俺が盛ったぞ。」

 

ムフフと重要な任務を完遂したが如き達成感に満ちた様子で、義勇が口元に笑みを浮かべて不死川を見ていた。

 

「……ありがとよォ……。」

 

そんな義勇の様子を見て、実弥は義勇が自身の為に善意と好意で餡子を盛ったので怒るに怒れなかった。怒りつつも案分呆れながら、そして疲れた様子で礼を述べた。

 

「……ムフフッ。」

 

実弥に初めて礼を述べられた義勇は、再び口元だけ気持ち悪い笑みを浮かべていた。

 

「……」

 

そんな義勇と実弥のやり取りを、玄弥は口を挟まずに黙って見守るしか出来なかった。

 

――あれが水柱……何っ時も無表情で何考えてるか分からねぇって聞いていたが、本当だったんだな。つーか、風柱怖ぇ。

 

獪岳もまた玄弥以上に呆れつつ、それでいて戦慄しながら義勇と実弥のやり取りを見ていた。

 

慌てて視線を変えたが、其処には恐らく獪岳が一番見たくない人物が自身の視線に映った。

 

「えへへへっ。禰・豆・子、ちゃ~ん。突然だけど、この突き匙(フォーク)を持って欲しいんだ。」

 

善逸がデレデレと情けない顔を晒しながら、蜂蜜と牛酪(バター)がたっぷり塗られたパンケーキが突き刺さった突き匙(フォーク)を手渡していた。

 

「むっ?」

 

禰豆子は要領を得ないと言わんばかりに首を傾げていたが、善逸が言った通りにパンケーキが刺さった突き匙(フォーク)を持って居た。

 

「そのままで居てね。それじゃ早速、頂きま~す。パクッ!」

 

善逸は急いで頭を動かして、禰豆子が持つ突き匙(フォーク)に向かって口を含んだ。そしてパンケーキを食べて味をじっくりと味わう。

 

「う~~んっ! 禰豆子ちゃんに食べさせて貰うと、格別に美味しくなるねっ!」

 

善逸は口元にパンケーキの食べカスを付けながら、御機嫌な様子でそう言った。それから善逸の要求は、更に一段多くなって行く。

 

「禰豆子ちゃん。今度は禰豆子ちゃんの方から、俺に食べさせて欲しいなぁ~……あそこに居る天元さん達みたいにさ。」

 

「うっ?」

 

御機嫌だった善逸が一転して恨めしそうな表情を浮かべながら、ある方向へ指差しをした。自然と善逸が指差しをする方向へと、禰豆子は視線を向ける。

 

「天元様、どうぞ。」

 

「あぁっー! 雛鶴さんばっかりずるいっ! 天元様、私もっ!」

 

「こらっ! 急かすんじゃないわよっ!……あたしのも食べてくれますよね! 天元様っ!」

 

「おいおい、地味に落ち着けよ。ちゃんと全部食うから。派手に。」

 

其処には宇髄夫婦が、仲睦まじい様子でパンケーキを食べている光景だった。善逸にとって、それは嫉妬心を抱かせる光景だったらしい。

 

「……良いもんね。俺だってこれから、禰豆子ちゃんに食べさせて貰うから。禰豆子ちゃんっ! あーん。」

 

善逸は自身に対して言い聞かせる様にそう言うと、口を喉仏が見える位に大きく開けて禰豆子がパンケーキを食べさせてくれるのを待っていた。

 

「……んー。」

 

善逸が大口を開けて待っている姿と、自身が持つ大き目に切られた蜂蜜塗れのパンケーキが突き刺さっている突き匙(フォーク)に視線を交互に向ける。禰豆子が持って居る間にも、パンケーキから蜂蜜がポタポタ机の上に落ちていた。

 

「……………んっ!」

 

決意した禰豆子は、善逸の口に向かってパンケーキが突き刺さっている突き匙(フォーク)を突き出した。

 

 

 

むにゅ

 

 

 

「ん?」

 

しかし禰豆子が持つパンケーキが突き刺さっている突き匙(フォーク)は、軌道がズレて善逸の頬に直撃した。

 

パンケーキが突き匙(フォーク)の先端を覆う様に突き刺さっているので、貫通して善逸の頬に刺さる心配は無い。しかしパンケーキには蜂蜜がたっぷりと塗られていたので、善逸の顔は蜂蜜塗れになっていた。

 

「えへへへへぇ~~~禰豆子が俺にあーんしてくれてるぅ。ふひひひひ。」

 

しかし善逸は一切気にする事無く、自身にとって至福な現状に酔い痴れていた。

 

「うぅっ~~♪」

 

禰豆子は善逸にパンケーキを押し付けるのが面白くなって来たのか、楽しそうにパンケーキを善逸の頬に押し当て続ける。その度に、善逸の顔は蜂蜜塗れになって行った。

 

「……色惚けてやがんなぁ。あのカ……善逸の野郎は……。」

 

獪岳は呆れ果てながら、弟弟子である善逸の様子を見ていた。

 

善逸に対する印象は、自身の裁判時からある程度変化していた。修行を逃げ出す泣き虫の恥知らずと言う印象は、既に消失しつつある。流石にあの時の言動を見れば、善逸にも成長があったと認めざるを得なかったのだ。

 

尤も、禰豆子との間に繰り広げられる見苦しい醜態を見れば、若干疑わしくもなりそうなものであったが。

 

因みに鬼である禰豆子の存在に最初こそ面食らっていた獪岳であったが、絶対に傷付けるなと言う厳命と事情の説明を受けていたので現在は何とも思ってはいない。

 

そもそも獪岳は鬼と言う存在に対して、自身の過去故に怒りの対象ではあっても嫌悪や憎悪は他の隊士達と比べて非常に少ない。

 

「……っ!?」

 

獪岳は見るに堪えんとばかりに、禰豆子と善逸から視線を反らした。その矢先に、ギョッとした表情を浮かべて眼前の光景に愕然とした。

 

その時、身体は自分の意志より先に反応していた。その鋭く早い動きは、鬼殺隊の一般隊士の頂点に位置する筆頭位階『(きのえ)』の階級を得ているに相応しい精度であった。

 

「テメェッ!?  いきなり何をしやがるっ!?」

 

「あっ? さっきからボーッとしやがって。どうせ食わねぇんだったら、俺が貰ってやるよっ!」

 

何と大広間の騒々しいやり取りに呆れていたので、パンケーキを食べる手が進まなかった 伊之助は獪岳の隣に座っていた事もあり、伊之助は獪岳はパンケーキを食べないと解釈して横取りを試みたのである。

 

「そいつを俺様によこしやがれっ!」

 

「ふざけんなよクソ猪野郎っ!?」

 

双方共に譲らないので、此処から獪岳と伊之助の取っ組み合いが始まろうとしていた。しかし其処へ、パンッ! と手を叩く音が大広間に鳴り響いた。

 

「……喧嘩なら外でやりなさい。」

 

「「……はい。」」

 

行冥の威圧を全身で感じて、獪岳と伊之助はその場で平謝りするしかなかった。冷静さを取り戻した獪岳と伊之助は、互いに何も言わずに再び席に付いた。

 

「……岩柱殿。お手数をお掛けして申し訳ない。」

 

「いえ。慈悟郎さんもお気になさらず……。」

 

獪岳と伊之助の騒動を止められなかった慈悟郎が、行冥に謝罪も兼ねて頭を下げた。しかし行冥は気にした様子は一切無さ気で、慈悟郎の頭を上げる様に促した。

 

「沙代。美味しいか? 遠慮せずに、沢山食べると良い。」

 

「……(コクコクッ。)」

 

それから慈悟郎は元より、獪岳と伊之助の事など一切気にも掛けずに行冥は美味しそうにパンケーキを食べる沙代に夢中になっていた。長年の誤解を解き、和解出来たのだから当然とも言える。

 

本来ならば獪岳と伊之助の様な喧嘩を仲裁するのは、炭治郎が主に担う役割なのだが炭治郎本人はそれ所では無かった。

 

「炭治郎君……はい、あーん❤」

 

しのぶは愛おしそうに笑みを浮かべながら、切り分けられている蜂蜜と牛酪(バター)がたっぷりと塗られたパンケーキを突き刺した突き匙(フォーク)を向けて炭治郎の口に移そうとしていた。

 

「い、頂きます……あーん。」

 

炭治郎はしのぶの手に持つパンケーキが突き刺さった突き匙(フォーク)に顔を近付けると、口を開けてそのパンケーキを食べ始めた。炭治郎の口内からは、パンケーキの柔らかく甘い生地と蜂蜜の味が広がって行く。

 

「美味しいですか?」

 

「はい。美味しいですっ。」

 

しのぶの質問に、炭治郎は笑顔でそう言って応える。しのぶはそんな炭治郎からの返事と笑顔に、自然と笑みを浮かべた。しかし炭治郎は笑顔にも関わらず、汗を一筋流していた。何故なら炭治郎はしのぶの反対側になる右隣から、眼に見えない圧力をヒシヒシと肌で感じ取っていたからだ。

 

「炭治郎。私のも食べて。」

 

其処へ炭治郎の右隣に居た、アオイがしのぶと同様にパンケーキが突き刺さった突き匙(フォーク)を持って炭治郎に食べさせようとしていた。

 

「……うん。あーん。」

 

アオイは笑顔なのだが、其処からは言葉に出来ない圧力が明確に感じられた。しかし炭治郎はそれを表情には出す事無く、笑顔でアオイから差し出されたパンケーキを口にした。

 

「……ふふっ❤」

 

炭治郎が自分のパンケーキを食べてくれるだけで幸せなのか、それだけで愛おしそうな笑みを浮かべるアオイ。その一方で、炭治郎は未だに眼に見えない圧力を感じ取っていた。

 

「はい、次っ! 次は私っ!!」

 

そう大声で言っていたのは、しのぶの隣に座っていたカナヲである。カナヲはパンケーキを乗せた皿を片手に持ちながら、もう片方の手には切り分けたパンケーキが突き刺さった突き匙(フォーク)を持って居た。乗せた蜂蜜が机上に零れ落ちない様に、パンケーキを乗せた皿を持って居たのである。

 

「あーんっ!❤」

 

「むぐっ!?」

 

カナヲは待てなかったのか、炭治郎の口内に目掛けてパンケーキが突き刺さった突き匙(フォーク)を突き出した。

 

不意打ちを喰らった炭治郎はあーんとすら声に出せず、動揺から当惑の声を漏らした。

 

それでも直ぐに平然とした表情を作って取り繕うと、そのままモグモグとパンケーキを食べた。

 

「お、美味しかったよ。カナヲ。」

 

「良かった……っ❤」

 

炭治郎がそう言うと、カナヲは幸せそうな笑みを浮かべて喜んだ。

 

「……うわぁ。必死だなぁ。」

 

そんな炭治郎達の様子を見て、少し離れた所で無一郎はそう言って内心で嘲笑した。無一郎が嘲笑したのはしのぶ達であり、炭治郎は含まれていない。

 

最初こそ羨望の眼でしのぶ達の行為を見ていたが、炭治郎に心労を掛けたくないと考え直して自重していたのである。

 

それからある人物が気になったのか、無一郎は一瞬だけ炭治郎から視線を逸らしてその人物を視界に納めた。

 

「どう? すみちゃん。なほちゃん。きよちゃん。美味しい?」

 

「「「はいっ! 凄く美味しいですっ! 恋柱様っ!」」」

 

一方で蜜璃はしのぶ達に便乗せず、なほ達にパンケーキの味に関しての感想を聞いていた。すみ達は初めて食べるパンケーキの味に感激しており、両眼を輝かせてパンケーキを味わっていた。

 

「……(チラッ)」

 

蜜璃は炭治郎達の様子気が気になって、流し目でチラっと視線を一瞬だけ向けた。

 

より正確に言えば蜜璃もしのぶ達と同様の行為を炭治郎にしたかったのだが、しのぶ達から怒りを買ってしまい許されていなかった。その発端は、蝶屋敷の厨房にて起こっていた。

 

『炭治郎君……良かったらこのジャム、一口味見してる?』

 

『えっ? 良いんですか?!』

 

『ええ。一口だけね。はい、あーん❤』

 

『頂きますっ! あーん。』

 

そんなやり取りが、その時炭治郎と蜜璃の間で行われていたのだ。

 

『…………』

 

あまりに自然に行われていたので、しのぶ達も咄嗟に反応出来なかった。

 

『蜜璃さんっ!?』

 

『蜜璃様っ、ズルいですっ!』

 

『抜け駆けしないで下さいっ!?』

 

しかし我に返ると、蜂の巣を突いた様な騒動になる。しのぶ達は一斉に炭治郎と蜜璃、正確には蜜璃に詰め寄った。

 

『えっ、えっ?~っっ……。』

 

蜜璃はしのぶ達のあまりの反応速度に、咄嗟に言い訳すら考え付かずに両眼を泳がせるしか無かった。

 

『……蜜璃様がそうするなら、私だって……っ!』

 

『私もっ!』

 

『そうですね。それが一番公平です。』

 

しのぶ達も蜜璃の物真似をしようと、各種ジャムに手を伸ばした。しのぶ達が各々でジャムを手に取った瞬間、現況に何も口も手も挟まずに見守っていた無一郎が徐に開口した。

 

『……そうするのは胡蝶さん達の勝手だけど、そのジャム? って奴はそんなに量がある訳でも無いよね? 皆の分もそうやって減らす心算なの? 皆も待っているし、このままだとパンケーキも冷めるよ?』

 

『!』

 

無一郎の冷静な一言を聞いて、しのぶ達は我に返った。そして互いに顔を合わせると、悔しそうな表情を浮かべながらジャムの瓶を机にゆっくりと置いた。

 

そんな経緯もあってか、しのぶ達は躍起になって炭治郎にパンケーキを食べさせていた。そして蜜璃は抜け駆けしたと言う負い目もあったので、羨望こそすれど参加は諦めていたのである。

 

因みに結果的にしのぶ達を妨害した無一郎は、しのぶ達から忌々しそうに睨み付けられたと言うのは最早言うまでも無い。反対に無一郎はしのぶ達に睨まれた事等一切、気にも掛けなかった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「良いなぁ……。」

 

しかし幾らしのぶ達を慮って諦めこそすれ、炭治郎と甘い一時を過ごしたいという願望が無い訳では無い。蜜璃は無意識の内に、その羨望の念が口から零れ出ていた。

 

「!?」

 

その無意識の呟きは、蜜璃から比較的近くに座っていた小芭内の耳にしっかりと入っていた。蜜璃が呟いた一言に、小芭内は驚きを隠せない。

 

「…………」

 

小芭内としては今直ぐにでも炭治郎に突撃したい位であったが、幾ら何でもそれは暴威が過ぎる話であった。

 

「か、甘露寺……それは一体どう言う……。」

 

蜜璃が炭治郎と甘い一時を過ごす事に羨望の念を抱いているのか、それともこの行為自体に対する純粋な憧憬なのか、小芭内には判別が付かなかったのである。

 

其処で蜜璃に真意を聞こうと小芭内は身体を僅かに震わせながら、蜜璃にその呟きの意図に付いて尋ねようとした。しかし小芭内が尋ねる前に、その真意は蜜璃の真意が明確に判明する事になる。

 

「ねぇ炭治郎君。今回の歓迎会、どうだった?」

 

『!』

 

蜜璃は炭治郎にしっかり聞こえる様に、少し大きい声でそう尋ねた。蜜璃に尋ねられた炭治郎は、パンケーキを食べるのを止めて蜜璃に顔を向けた。その表情は、少しだけ困った様子だった。

 

「はいっ! 俺は楽しいし、開いて良かったと思いますっ!……後はご本人達はどう思っているかどうかですけど……。」

 

「本当っ?!」

 

自身の感想を述べた後に炭治郎が珠世達の反応が気になると思いながら話していたが、蜜璃は炭治郎が口にした言葉を聞いて少し身体を前のめりにして再度確認を取った。

 

「ほ、本当です。パンケーキは美味しいですし、み……甘露寺さんと料理するのは楽しかったですし……もしまた機会があるなら、またしたい位ですよ。」

 

「……そっかぁ……。」

 

炭治郎からそう言われて、蜜璃は嬉しそうに表情を含羞ませた。それから蜜璃は炭治郎の近くまで移動すると、アオイを押し退けて炭治郎の右腕を抱き抱えた。

 

『!?』

 

「えっ……えっ!?」

 

その中で炭治郎が一番困惑しながら、蜜璃に視線を向ける。その際に炭治郎はチラッと右腕に視線を向けると、右腕は蜜璃の谷間にすっぽりと嵌って包まれる様にその豊満な乳房の感触を右腕全体で感じていた。

 

そして直ぐに蜜璃の谷間から視線を外して蜜璃を見ると、その表情は羞恥心から少し両頬を赤く染めていた。それが逆に、蜜璃をより魅力的な女性に魅せていた。

 

「だったら何時かね、私の御屋敷に来て欲しいな……私も炭治郎君とお菓子作りが出来て楽しかったわ。またしようよ……今度は二人きりでね。」

 

『!?』

 

蜜璃は囁く様に炭治郎にそう言ったが、声量が思ったより大きく大広間も静まり返っていた為に大広間全体に蜜璃の声が広がっていた。

 

蜜璃に誘われた炭治郎であったが、蜜璃の提案を聞いて最初に反応したの炭治郎では無かった。

 

「無理です。駄目ですっ!」

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

『!!』

 

しのぶはそう叫ぶと共に、炭治郎の左腕に強く抱き着いてそのまま抱き抱えた。

 

「しのぶさんっ!?」

 

炭治郎は左腕に感じる新たな柔らかい感触に動揺しながらも、しのぶに返事した。

 

「っ!……コホン。」

 

炭治郎に名前を呼ばれたしのぶは少し照れ臭そうに頬を赤く染めた後、軽く咳払いをして何時もの微笑を浮かべながら蜜璃を真っ直ぐ見詰めた。

 

「炭治郎君は任務以外は蝶屋敷で過ごしているんです。他の方の屋敷へなんて、行っている暇はありません。そうですよね。炭治郎君❤」

 

「えっ、えっと~~。」

 

威圧感すら感じるしのぶの笑みを目と鼻の先から感じ取った炭治郎は、冷や汗を流しながら回答に詰まっていた。

 

「えっ~~しのぶちゃん。それって束縛だよぉ。炭治郎君の行動を制限するなんて、私は駄目だと思うな。」

 

そんな困っている様子の炭治郎を見て、蜜璃が代わりにしのぶへ抗議した。

 

「ねぇ炭治郎君。良いでしょう? 今直ぐって話じゃなくて、お互いに時間が出来た時で良いから。」

 

しかし蜜璃はしのぶの返答に興味は無いのか、直ぐに視線を再び炭治郎に向けて囁き掛ける。それも先程よりも強く、炭治郎の右腕を抱き寄せながらだ。

 

「っ!」

 

そんな蜜璃の行動が、しのぶの怒りの炎に油を注ぐ。直ぐにしのぶは青筋を浮かべながら、蜜璃に対抗する様に左腕を強く抱き寄せた。

 

「あら。それでしたら、また蝶屋敷ですれば良いだけじゃないですか……炭治郎君も蝶屋敷に、と言うより私と一緒が居る方が嬉しいに決まってますよね?」

 

優しい口調でそう言うしのぶであったが、否定したら承知しないと言わんばかりの眼光を宿した上目遣いで炭治郎を見詰めていた。

 

「……私も、炭治郎が蝶屋敷に居てくれなきゃ嫌。」

 

カナヲはそう言うと、炭治郎の背中から思い切り抱き着いた。それも単純に抱き着くのだけは無く、自身の服越しの乳房の感触を炭治郎の背中に押し付ける様にである。

 

「それでしたら、蜜璃様が蝶屋敷へ御越し下さい。何時でも大歓迎致しますから……。」

 

アオイはしのぶとカナヲの二人と比較して、控え目に蜜璃を拒絶しながら右手を伸ばして炭治郎の左手を握り締めた。

 

「むぅ!……っ!」

 

蜜璃が不満そうに両頬を蛙の如く膨らませたが、しのぶ達は炭治郎から離れようとはしない。

 

『……』

 

そんな炭治郎達を、行冥達は静かに見守っていた。しかしそれは、見守るだけでは終わらなかった。

 

「甘露寺、君は「取り合うのは勝手だけど、炭治郎に迷惑が掛かっているって分かってる?」……っ!」

 

小芭内が蜜璃に質問をしようとしたのだが、其処へ無一郎が無粋にも割り込んで問い詰めて来た。

 

小芭内は青筋を浮かべて無一郎を睨み付けたが、無一郎は小芭内の事など眼中にも無かった。無一郎は小芭内を無視すると、そのまま言葉を続けた。

 

「全く、盛りの付いた犬猫じゃないんだから……炭治郎も大変だね。」

 

無一郎はそう言って、炭治郎を労った。炭治郎が無節操なのがそもそもの原因なのだが、無一郎は炭治郎に非があるとは思っていない。無一郎は更に、ある事について指摘する。

 

「全く、()()にまで痕なんか付けて……隠せないんだから炭治郎の事も、もうちょっと考えてあげなよ。」

 

「うぅっ…………うん?」

 

「……あれ?」

 

無一郎の指摘を聞いて、アオイとカナヲは頸を傾げた。心当たりが無かったからだ。

 

「首筋?」

 

「……?」

 

しのぶと蜜璃もまた、心当たりが無く無一郎の指摘に疑問を感じる。

 

「!?」

 

一方で炭治郎だけは無一郎の指摘を聞いて、慌てて片手で頸を覆い隠した。しかしその行動は、却って墓穴を掘る事になる。

 

「「「「……」」」」

 

「っ!」

 

しのぶ達四人は静かに視線を合わせて目配りをした後、スッと視線が据わったと炭治郎は感じた。

 

「炭治郎……その首筋、誰に犯られたの? 私達じゃないよね?」

 

「っ!」

 

カナヲがしのぶ達を代表して、炭治郎に訊ねた。カナヲの表情は能面の如く無表情で、それが逆に炭治郎を戦慄させた。

 

「「……」」

 

一方でアオイは責める様な視線で炭治郎を睨み付け、しのぶは逆に笑顔を浮かべていた。二人に共通していたのは、どちらも額に青筋を浮かべていた事であった。

 

「み、皆。ちょっと落ち着こうよ……。」

 

逆に蜜璃だけは、炭治郎を守る様にしのぶ達を宥めようとした。尤も、現在のしのぶ達にはあまり効果は無かった様だが。

 

「あの……えっと……っっ。」

 

炭治郎は困った様子で、視線を右往左往させていた。言いたい事があるのだが、上手く言葉に出来ない様子であった。しかし一度生唾をゴクリと飲み込むと、話し始めた。

 

「か……かなたちゃん達が、俺の頸に付けたんだよ。」

 

『!』

 

炭治郎の証言を聞いて、しのぶ達は驚きから両眼を見開いた。するとアオイとカナヲが、納得した様子で声を上げた。

 

「そう言えば炭治郎、輝利哉様達と一緒に寝てたっけ?」

 

「そうだったわね。其処を私達が連れ出し……ん、んんっ!……輝利哉様達がお休みになってから、一緒に行動したのよね。」

 

『……』

 

カナヲが同意を求める様にアオイに尋ねた後、アオイは一瞬真実を口にしそうになって慌てて自身の口を噤んでから、事実に近い嘘を口にした。

 

しかし嘘は飽くまでも嘘であり、それを見抜けない人物はパンケーキを貪っている伊之助となほ達の三人娘だけであった。アオイの嘘を聞いて、しのぶ達は半眼になってアオイとカナヲを睨み付けた。

 

「……ふーん。そう……じゃその様子だと、()()にも気付いてないみたいだね?」

 

『?』

 

無一郎が呟いた一言に、しのぶ達は疑問に思った。無一郎が口にする()()とは一体何を指し示しているのか、分からなかったからだ。

 

「……ふふっ。」

 

そんなしのぶ達を見て、無一郎は少し笑う。それから満面の笑みを浮かべて、優越感たっぷりに自身の白くて綺麗な歯を見せ付けながらある事実を口にした。

 

「炭治郎の左肩に歯形が残っているんだけど……それ、僕が付けた痕なんだよ。」

 

『!?』

 

『!』

 

「~~」

 

無一郎の爆弾発言とも暴露を聞いて、しのぶ達は驚愕する。しかし驚愕していたのは、しのぶ達女性陣だけであった。

 

「あ~そう言や俺達が温泉に入った時に、時透が派手に炭治郎の肩に噛み付いてやがったな。」

 

「そんな事があったのですか? 天元様。」

 

「おうよ。派手に面白かったぜ。」

 

雛鶴に尋ねられた天元は、当時起こった事を思い出して笑いながら話していた。

 

そんな天元達であったが、炭治郎はそれ所では無かった。

 

「ちょっ!? カナヲッ! 何をして……って!? アオイ、しのぶさんまでぇっ!?」

 

「炭治郎っ! じっとしてて!」

 

「直ぐ終わるからっ!」

 

「二人の言う通りです。()()を見せて下さい。それに()()とか()()が入ったら、大変ですからね。」

 

「傷口とか黴菌とか雑菌とか、先刻(さっき)から胡蝶さんって好き勝手言ってくれるよね。」

 

其処には炭治郎の隊服を脱がそうとする、アオイとカナヲの姿があった。

 

しのぶも炭治郎が無一郎に噛まれた痕を確認したいのか、二人の行動に賛同して制止しようとはしなかった。

 

そしてしのぶの発言を聞いて、無一郎は両眼を据わらせながら苛立ち気に反応していた。

 

「……(ギシギシ)」

 

そんな炭治郎達の戯れとも茶番とも言える一面を見て、善逸は両眼を血走らせながら歯軋りを繰り返していた。

 

「おいっ……。」

 

そんな弟弟子である善逸の姿を見て身を引きながら、兄弟子である獪岳は善逸に声を掛けた。

 

「……(ギシギシギシギシ)」

 

「……っ。」

 

しかし善逸は炭治郎達の様子に集中している所為か、獪岳の声が聞こえていなかった。そんな善逸の反応と耳障りな歯軋りを感じて、獪岳は苛立ち気に青筋を浮かべる。

 

「おい、善逸!」

 

「!」

 

獪岳に強く名前を呼ばれた善逸は、漸く炭治郎達から視線を外し歯軋りするのを止めた。

 

「……あの噂って、本当だったのかよ。」

 

「あの噂って何だよ。」

 

「蟲柱と継子が男取り合ってるって噂だっ!……見た限りだと、本当にしか見えねぇが。」

 

獪岳と善逸は、炭治郎達をチラチラと横目で見ながらヒソヒソ話をしていた。ヒソヒソ話の議題は、蝶屋敷から鬼殺隊全体に広がった噂である。

 

その噂とは当然、炭治郎を巡ってしのぶとカナヲが殺し合いをしたと言う話だ。強ち間違っても居ないので、当事者達以外は修正されないままに噂は広がる一方であった。

 

善逸も真実を知っているのだが、修正しようとは思わなかった。

 

「まぁ、間違っちゃ居ないかな……ちくしょうっ! 炭治郎の奴っ!! 女の子が自分の為に取り合ってるとか、そんな羨ましい経験しやがってぇっ!!……。」

 

「……」

――まぁ、見苦しいって一言で片づけられねぇわな。男にしちゃ、羨ましい話なのは間違いない。

 

嫉妬心を燃やしている善逸の様子を見て、こればかりは流石に否定する気にはならなかった。尤も、それを開口して口に出す事は無かったが。

 

「……」

 

そんな獪岳と善逸の二人を、育手である慈悟郎は何も言わずに黙ってみていた。しかしその両眼は、僅かに潤んでいた。

 

――二人共、仲良くなったなぁ……。

 

二人の不仲具合を知っている慈悟郎は、僅かでも歩み寄っている事実に密かに感動していた。

 

「もう……皆していきなり隊服(ふく)を脱がしに掛かるなんて、酷いじゃないですか……。」

 

獪岳と善逸がヒソヒソ話をしている間に、其処には半裸状態でぐったりしていた炭治郎が隊服をいそいそと着替え直していた。

 

炭治郎は無一郎からの爆弾発言を聞いたしのぶ達に、隊服を脱がされて噛まれた痕の確認を半ば無理矢理させられたのである。

 

炭治郎は抵抗したのだが、数の差もあって抵抗虚しく隊服を脱がされていたのであった。

 

「炭治郎ってば、同性(同じ男)だからって油断し過ぎだと思うわ」

 

「輝利哉様もおんなじことをするなんて……」

 

「ふ、二人とは別に何も無かったからっ!?」

 

ジト目で自身を睨み付けて来るアオイとカナヲに、炭治郎は慌てて釈明した。

 

「当然です。寧ろあったら困ります。」

 

炭治郎の釈明を聞いて、しのぶは溜息を吐きながらそう言った。しのぶ達にしても、炭治郎が同性にまで興味を持っては今後の死活問題なので真剣な様子であった。

 

「カァァ―――ッ!!」

 

『!!』

 

其処へ一羽の鎹烏が、蝶屋敷の大広間に飛んで来た。鎹烏は甲高い鳴き声を上げながら、炭治郎の前に止まった。

 

「竈門炭治郎ッ! 手紙ダッ!!」

 

「……手紙?」

 

炭治郎は鎹烏の言葉を復唱する様に独りでに呟くと、自然と鎹烏の足元を見た。確かに鎹烏の右足には、手紙と思われる紙が括り付けられていた。

 

――誰からだろう?

 

炭治郎は手紙の存在に疑問も覚えつつも、鎹烏の右足に括り付けられている手紙を丁寧に取り外した。

 

鎹烏は右足に括り付けられていた手紙が炭治郎の手に渡ったのを確認すると、その場で反転して炭治郎に背を向ける。

 

「手紙ノ持ち主ハ言ッテイタ! "皆ノ前デ読ミ上ゲロ"ト!」

 

「えっ? 読み上げる?」

 

「サラバダッ! カァァ―――ッ!!」

 

炭治郎は鎹烏の言葉の内容が一瞬だけ理解出来ず、復唱してから理由を聞こうとした。しかし鎹烏は言いたい事を言うと、その場から直ぐに飛び上がり、窓から蝶屋敷を立ち去って行った。

 

『……』

 

「……炭治郎、取り敢えずその手紙だけど……言われた通り読み上げてみたら?」

 

炭治郎達は蝶屋敷から飛び去って行く鎹烏を、黙って見送る事しか出来ない。其処へ無一郎が、普通に手紙の内容を読み上げる事を推奨する。

 

「無一郎君……そうだね。そうするよ。」

 

炭治郎は無一郎の提案に賛同して、手紙を読み上げる為に手紙を広げて行く。手紙の全容が眼に入る様に、全て広げると炭治郎は徐に手紙を読み始めた。

 

 

 

やぁ炭治郎。輝利哉だけど、突然のお手紙ごめんね。

 

他の皆と一緒に、蝶屋敷の歓迎会は楽しんでいるかな?

 

参加出来ないのは少し残念だけど、僕も元気になった父上と前みたいに過ごせて嬉しいんだ。

 

それにこれでまた珠世さん達だけじゃなくて、皆との親睦が深まってくれたら言う事は無いよ。

 

突然だけど、僕から提案と言うかお願いがある。

 

本人の意志の事も考えたけど……やっぱり普通に人前でも、小芭内の事は名前で呼んであげても良いよ。

 

小芭内の事だから、本当は皆にも名前を呼んで欲しいのに恥ずかしがって自分から言おうとしないと思うので、炭治郎の口から伝えて欲しい。

 

これでもっと小芭内が皆と今より親密になってくれたら僕も嬉しいから。

 

じゃあ、またね。お手紙待ってるよ。

 

産屋敷輝利哉

 

 

 

『…………』

 

炭治郎が手紙を読み終えると、蝶屋敷の大広間はシーンと静かになっていた。炭治郎を除いたしのぶ達の面々は、反応に大小あれど手紙の内容に驚愕している事は分かる。

 

「っ!?……っっ?!」

 

特に当事者である小芭内は、声も出ない程に動揺していた。蜜璃の炭治郎への好意に呆然としていたのだが、最早それどころでは無かった。

 

「あの……炭治郎君から動揺が見られませんが、何か事情を把握しているんですか?」

 

「はい? いやぁ事情と言うか、輝利哉……様と一緒にお風呂に入った時に偶然、小芭内と鏑丸が温泉に居て其処で仲良くして頂いたんですっ!」

 

しのぶに尋ねられた炭治郎は、楽しそうに温泉での出来事を話していた。

 

「お、おい炭治郎っ! あまりベラベラ喋るなっ!」

 

炭治郎が躊躇無く温泉での出来事を暴露するのを見て、小芭内は炭治郎に注意した。しかし咄嗟に行ったからか、ある事実に気付いていない。

 

『!?』

 

その一方で、行冥達は気付いていた。小芭内が炭治郎の事を名前で呼んでいた事実にだ。

 

小芭内がこれまで、人前で誰かを名前で呼んだ事は無い。それは生前、幼馴染同然の杏寿郎の前でもだ。

 

小芭内からすれば公私混同をしてはならないし、鬼狩りの職務に専念する為に互いに決めた取り組みであった。

 

これは小芭内の故郷である八丈島の酷遇が招いた、人間不信により引き起こされていると言う事実もあった。

 

その様な小芭内の個人的な事情を行冥達は知る由も無いが、どうあれ気難しい小芭内が炭治郎を名前で呼んだ事実に驚愕せざるを得なかった。

 

しかしこの行冥達の驚愕を、ある人物の行動の所為で跡形も無く吹き飛ばされる事になる。

 

「……おばない。」

 

『?』

 

不意に蝶屋敷の大広間から、ボソッと小芭内の名前を呼ぶ声が響いた。決して大きな声では無いと言うのに、その声は蝶屋敷の大広間に居る炭治郎達全員の耳にきちんと聞こえた。

 

「……ムフフッ。」

 

炭治郎達は漸く、小芭内の名前をボソッと呟いた人物を特定出来た。その人物とは、義勇であった。

 

『……!?』

 

義勇が小芭内の名前を呼んだ事実に、炭治郎達は驚愕していた。その驚愕の大きさは共通なのか、変顔になっている者達も少なくない。

 

「!? !!?!?! ?!!?!?!?」

 

「シャッ!? シャッ、シャア――ッ!!」

 

特に驚愕していたのは、義勇に名前を呼ばれた小芭内であった。あまりの動揺振りに、言葉にならない声を上げている。そんな小芭内を見て、鏑丸も心配する声を上げる程だ。

 

「お、おいッ。伊黒っ。」

 

続けて小芭内と親しくしている実弥も、小芭内を落ち着かせようと声を掛けた。しかし小芭内は聞く耳を持とうとはしない。

 

このまま騒動に発展すると思われたが、其処は別の人物の思わぬ機転によって防がれる事になる。

 

「……小芭内さんっ!」

 

『!!』

 

其処へ再び、小芭内の名前を呼ぶ声が蝶屋敷の大広間に響いた。その声は、義勇では無く蜜璃であった。

 

「!!??」

 

すると小芭内は、頸を痛めるのではないかと心配する程の速度で蜜璃の方へ顔を向けた。既に義勇の事は、小芭内の頭の中には無かった。

 

「か……甘露寺っ?」

 

小芭内が動揺しながら、蜜璃を呼んだ。小芭内の両眼には、照れ臭そうにしている蜜璃の姿があった。

 

「えへへっ。何だか照れるね……私の事も、蜜璃って呼んで良いよ。小芭内さん。」

 

蜜璃は両頬を僅かに赤く染めながら、楽しそうに再び小芭内の名前を呼んだ。

 

「……(フラッ)」

 

しかしそれだけでも、小芭内には効果は抜群だったらしい。唐突に力を失って後ろ向きに身体をよろめた。

 

「おいィィィッ!?」

 

「…………」

 

其処へ実弥が慌てて、小芭内を支えた。小芭内の顔を覗き込むと、包帯で顔の下半分が隠れているとはいえ、明らかに幸せそうな表情で呆然としていた。

 

『……』

 

「……何とかなったみてぇだな。」

 

「そうだな。」

 

力無く呟いた獪岳に、善逸は静かに同意した。こうして珠世と愈史郎の為に開催された歓迎会は、紆余曲折の末に如何にか無事に終了した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「はぁ……。」

 

「ふふっ。流石にお疲れみたいですね? 炭治郎君。」

 

溜息を吐く炭治郎に、しのぶは背後からクスクス笑いながら声を掛けた。

 

「しょうがないよ。でも、楽しかったわね。炭治郎君。」

 

「……ええ。そう思います。蜜璃さん。」

 

続けて蜜璃の声も、炭治郎の背後から聞こえて来た。炭治郎は同意するも、振り向こうとはしない。

 

炭治郎の様子をよく見ると、少し困った様子で右手で頬を掻いていた。

 

実は炭治郎達は現在、蝶屋敷の大浴場で入浴しようとしていたのだ。それにしのぶと蜜璃も参加している。

因みに炭治郎達が居るのは、女風呂の方だ。全員が湯浴みを着用している。

 

「しのぶちゃん。今更だけど、他に人が入ってこないかしら?」

 

「大丈夫ですよ。アオイ達は料理中だし、他の女隊士は蝶屋敷に居ませんから。だから誰か他の人が入って来る事はありません。」

 

「そうなの。分かったわ……それにしてもしのぶちゃんったら、ふふっ。」

 

蜜璃がしのぶに尋ねると、しのぶは自信を持ってそう言った。しのぶが言う様に、アオイ達は現在、夕食に向けての調理中であった。本来ならば其処に、炭治郎達も加わる筈であったのだ。

 

妹分であるアオイ達に面倒な仕事を全て押し付けて抜け駆けするしのぶの様子に、蜜璃は苦笑せざるを得ない。

 

因みにしのぶはアオイ達に対して、罪悪感等は一切無い。寧ろ産屋敷別邸で抜け駆けをした罰だとさえ思っている。そんなしのぶの様子を見て苦笑する蜜璃に、しのぶはジト目で睨み付けた。

 

「全く……私と炭治郎君の二人だけで、ゆっくりお風呂に堪能する筈でしたのに……。」

 

「え~~そんな事言わないでよ。二人が何処かに行こうとするんだもん。後を付けるに決まっているじゃない。」

 

しのぶが文句を零すと、蜜璃は少しだけ両頬を膨らませてしのぶを見付けた。

 

しのぶが言う様に、本当は炭治郎と二人で大浴場に向かう筈だったのだ。其処を蜜璃が気付いて後を付け、そのまま大浴場の前にある脱衣所に乱入したのである。

 

「言っておくけどしのぶちゃん。お風呂は()()()()()をする場所じゃありません。炭治郎君もよ……自重してね?」

 

「も、勿論ですっ!」

 

「……分かってますよ。」

 

炭治郎は焦った様に承知すると、しのぶも少し眼を逸らしてから承知した。以前に薬師寺邸の浴場で我慢し切れず情交(セックス)に至った経緯は、とても蜜璃に話す事は出来なかった。

 

「別に大浴場(こんな所)でしなくても……私は蜜璃さんより遥かに炭治郎君に愛されてますからね。焦ってする必要は無いのです。」

 

自分に言い聞かせる様にそう言ったしのぶであったが、その内容はまるで蜜璃を挑発している様であった。

 

「……はいっ?」

 

「しのぶさん?」

 

当然だが蜜璃が、しのぶの声色の意図を気付かない筈が無い。そして炭治郎も、困った様子でしのぶに声を掛けた。二人の反応に対してしのぶは、フフンと鼻を鳴らしながら話を続けた。

 

「事実ではありませんか。私は昨日今日に炭治郎君と結ばれた蜜璃さんと違って、一番最初に結ばれた正室ですので。何か異論でもお有りですか? 蜜璃さん。」

 

「うぅっ……。」

 

しのぶの正論に、蜜璃は後退って俯いた。しのぶが言う様に、昨日結ばれたばかりの蜜璃では、回数に置いてしのぶには敵わなかった。

 

「…………回数も大事だけど、やっぱり質が一番大事なんじゃないかな?」

 

「はい?」

 

一瞬だけ俯いていた蜜璃だったが、それだけ言うとしのぶの反応を待たずに行動を始めた。

 

 

 

バサッ!

 

 

 

「「!!」」

 

蜜璃は脱ぎ捨てる様に、着用していた湯浴みを脱ぎ捨てた。蜜璃の湯浴みは、そのまま大浴場の床に落ちる。

 

「其処の椅子に座って、ちょっと待っててね。炭治郎君。」

 

蜜璃はそう言うと、設置されてある石鹸を手に取って身体を洗い始めた。

 

「……っ。」

 

炭治郎は直ぐに視線を逸らすと、言われた通りに蜜璃の隣に座った。

 

「……」

 

しのぶは蜜璃が何をする心算なのかと警戒しながら、炭治郎の隣に座った。炭治郎は蜜璃としのぶの間に、挟まれる様に座る事となった。

 

「良し。こんなもので良いかな?」

 

「「……?」」

 

その間に、蜜璃は身体を洗い終えた様だった。しかし蜜璃の身体を見ると、全身が泡だらけにのままであった。

 

しのぶは視覚でその様子を確認し、炭治郎はその優れた嗅覚で石鹸の濃い匂いを嗅ぎ取った御蔭で分かる事が出来た。

 

炭治郎はとしのぶが疑問を抱いている内に、蜜璃は行動に移った。

 

「えい!❤」

 

「「!?」」

 

蜜璃は泡塗れの裸体のまま、何と炭治郎に抱き着いたのである。蜜璃は炭治郎の首筋に両腕を回し、その豊満な乳房を炭治郎の背中と左腕に押し付ける形で横から抱き着いていた。

 

「おわぁっ!?」

 

「……はあぁっ?」

 

蜜璃の唐突な行動に炭治郎は素っ頓狂な声を上げ、しのぶは青筋を浮かべて蜜璃を睨み付けた。二人共揃って、蜜璃の行動に思考が付いて行けなかった。

 

「炭治郎君。私が君の身体を洗ってあげる。だからじっとしてて? 尤も……。」

 

蜜璃は其処まで言うと、口元を炭治郎の左耳にまで近付けて魅惑的に囁いた。

 

「気になるんだったら、好きなだけ触っても良いからね。炭治郎君だったら私、大歓迎だから……んちゅっ❤」

 

「っ!……蜜璃さんっ。」

 

炭治郎は直ぐに顔を蜜璃に向けると、蜜璃は両頬を赤く染めて少し恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに炭治郎に微笑んでいた。そして蜜璃はそのまま炭治郎の左頬に、優しく口付け(キス)を落とした。

 

「……(ゴクッ)」

 

身体から感じる蜜璃の豊満な乳房の感触と優しい口付け(キス)に気になるが、それ以上に可愛らしく愛おしい蜜璃の表情に炭治郎が意識しない筈が得なかった。

 

「蜜璃さんっ! お風呂場で()()()()()は無しでは無かったのですかっ!?」

 

しのぶは激昂しながら、蜜璃に問い詰めた。しかし蜜璃は悪びれる事無く、石鹸の付いた身体を擦り付けながらしのぶに反論を始めた。

 

「しのぶちゃん。私が言った()()()()()って勿論、情交の事だよ? でもこれはただのお触りだし、私は炭治郎君の身体を洗っているだけだもん。」

 

「!!」

 

「しのぶちゃんは回数に拘るけど、私はどれだけ深く愛して貰っているかが重要だと思うなぁ。」

 

蜜璃の一方的な言い分を聞いて、しのぶは更に青筋を濃く浮かべて激昂した。そんなしのぶを無視して、蜜璃は持論を述べた後に引き続き石鹸塗れの身体を炭治郎に擦り付けていた。

 

「どうかな? 炭治郎君? 気持ち良いっ?」

 

「は、はい。とっても、気持ち良いです……。」

 

炭治郎は背中に抱き着いて石鹸塗れの身体を擦り付ける蜜璃の柔らかい身体の感触と甘い匂いを感じて、平常心を保つのが精一杯であった。

 

「……っ。」

 

しかし炭治郎の愚息は、炭治郎の我慢に反比例して勃起していた。湯浴みからもはっきりと、天幕を作っている事が丸分かりであった。

 

「あらっ。」

 

そんな炭治郎の愚息の様子を、蜜璃が気付かない筈が無い。蜜璃は両眼を見開いた後、思わず舌を魅惑的にペロッと舌なめずりした。

 

「……もう背中はこれ位で良いよね。じゃあ、今度は前の方を……。」

 

「えっ!? それは、待っ……っ!?」

 

炭治郎は自身の前方に移動しようとする蜜璃を、思わず立ち上がって制止しようとした。

 

「させませんっ!」

 

「「!」」

 

すると炭治郎は右側から衝撃が飛んで来た。その衝撃の正体は、しのぶであった。

 

「しのぶさんっ。」

 

「ふふん。お待たせしました。炭治郎君❤」

 

立ち上がっていた炭治郎に抱き着いたしのぶは、前方に移動しその鍛えられた胸板に改めて抱き着いた後に上目遣いで炭治郎を見詰めていた。

 

蜜璃が炭治郎に身体を擦り付けている間にしのぶもまた掛け湯をして身体を濡らすと、大急ぎで石鹸を身体中に塗っていたのである。漸く準備期間を終えて、しのぶは炭治郎に抱き着いたのであった。

 

「むぅ。私が全部洗ってあげようと思ったのにぃ~~。」

 

「残念でした。此処からは私も参加しますから。」

 

残念そうな声を上げる蜜璃に、今度はしのぶが優越感たっぷりに勝ち誇った様子で蜜璃にそう言った。

 

「「……ふふっ❤」」

 

しかし互いに視線を交えると、同時に笑声が漏れた。

 

「あっ……えっ、とっ……。」

 

「炭治郎君。このままじっとしててね❤」

 

「此処から先は、二人でおもてなしをさせて頂きますから❤」

 

蜜璃としのぶに前後で抱き着かれて固まっている炭治郎に、蜜璃としのぶは愉快そうにそう言った。

 

それから炭治郎は、長時間に渡ってしのぶと蜜璃から濃厚な接待を大浴場で受ける事となった。

 

尤も、蜜璃が忠告した様に最後の一線までは超える事は無かった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「今日は賑やかで、楽しい一日だったわね。」

 

蝶屋敷のある一室で、楽しそうな笑いを含む声が響いた。そう言っていたのは、今回の歓迎会の主役であった珠世である。

 

「お言葉ですが、珠世様……あれは賑やかだったのでは無く、騒々しかったと言うべきです。馬鹿騒ぎとも言えますが……。」

 

珠世が呟いた一言に対して、そう反論したのは珠世唯一の従者である、助手兼護衛役の愈史郎であった。

 

二人は歓迎会の主役であったのだが、炭治郎達の間で起こる騒動ですっかりその存在感は影に隠れてしまっていた。

 

更には鬼である二人は人間の食事に付き合えないので、夕食会には欠席して用意された一室で休息を取っていたのである。

 

愈史郎は溜息を一度吐くと、そのまま言葉を続ける。

 

「俺達への歓迎会と称して、ただ騒ぎたかった様にしか思えませんね。単純に出汁にされた感が否めません。全く、騒ぐだけ騒ぎやがって……。」

 

「そう言う弄れた事は言わないの。でも良かったじゃない。少なくとも、悪い人達では無いわ……そう。鬼が居なければ、きっと普通に生きていられた。普通の良い人達よ。愈史郎は嫌だった?」

 

「……否定は、しませんよ。珠世様。別に嫌じゃありませんでしたから。」

 

珠世が口にした感想に、愈史郎は否定せず同意した。分かっていたとは言え、そう言ってくれた愈史郎に、珠世は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

其処へ扉がコンコンコンと、優しくノックされる音が扉の向こうから聞こえた。

 

「誰だ?」

 

「あの……入って良いですか?」

 

「ええ、どうぞ。」

 

愈史郎が誰だと尋ねると、比較的幼い声が扉越しに聞こえて来た。訪問者が予想出来た珠世は、入室を許可すると徐に扉が開いた。其処に入って来たのは、なほとすみときよの三人であった。

 

「あら、どうしたの?」

 

「そのぉ……改めてご挨拶に来ましたっ! 寺内きよですっ!」

 

「中原すみですっ!」

 

「高田なほと言いますっ!」

 

「「「珠世様っ! 愈史郎さんっ! よろしくお願いしますっ!」」」

 

きよ達は部屋に入室した後、珠世と愈史郎の前に並んで立ってから頭を下げて挨拶をした。

 

――こいつら、姉妹かと思ったが本当に違ったのか……いや、肉質から違う事は分かってはいたが。

 

愈史郎は見当違いな事を黙って思っていると、珠世はすみ達に答礼する。

 

「まぁ、ご丁寧にありがとう。改めて、珠世です。こちらは愈史郎。暫くの間、お世話になるわね?」

 

「は、はいっ! 私達に出来る事でしたら、何でも言って下さいねっ!」

 

なほがそう言って珠世に応えたのだが、珠世はそんななほ達の様子を見てある事実に気付いた。

 

――鬼の私達を前に、少し緊張しているみたいね……そうだ。()()()()()()()()()

 

珠世は徐に立ち上がると、布を被せていた物を取り出した。それは三枚の和紙であった。

 

「はい。これを貴女達にあげるわ。お近付きの印に、貰って下さる?」

 

「「「?」」」

 

珠世は三枚の紙を一人ずつ渡す。きよ達は真っ白な和紙を見て疑問に思ったが、裏返した瞬間にわぁと声を漏らした。

 

「これ、私達だ……。」

 

三枚の和紙の正体は、絵画であった。それぞれにすみ達が描かれていたのである。

 

――まさか、こんな形で役に立つなんて……炭治郎さんに、感謝した方が良いかしら?……。

 

珠世は心中で、そう思っていた。

 

実はこの絵画は、珠世が産屋敷本邸で描いた物だ。炭治郎の事が頭に浮かんで何も手に付けられなかった珠世は、気を紛らわそうと絵を描く事にした。その対象が、偶然にもなほ達であったのである。

 

「気に入って貰えたかしら?」

 

「はいっ!」

 

「凄く嬉しいですっ!」

 

「ありがとうございますっ! 珠世様っ!!」

 

きよ達は直ぐに、珠世に礼を述べて頭を下げた。すみ達は思わぬ贈物を貰い、とても喜んでいる事が良く分かった。それと同時に、目に見えて緊張感が解けていた。

 

それから他愛の無い会話を少しした後、すみ達は貰った絵画を大事そうに抱えながら退室した。

 

そんな無邪気なきよ達を見て、珠世は御機嫌な様子でこう考えていた。

 

――今度、紅茶でもご馳走しましょう。

 

珠世に、新たな楽しみが出来た瞬間であった。

 

――珠世様のはにかんだお顔っ!……素晴らしいっ。この眼に焼き付けねば。

 

会話に加わらなかった愈史郎は、いつもの様に珠世の美貌を見詰めるのに忙しかった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「珠世様、素敵な方だったね。」

 

「こんなに良い物を貰っちゃった。」

 

「そうだね。なほちゃん。きよちゃん。」

 

なほ達は珠世から貰った自分達の肖像画を見ながら、珠世に感謝していた。

 

するとすみが、ある事をなほ達に提案した。

 

「私、珠世様にお礼がしたいな。一緒に買い物に行って、御礼をしようよ。」

 

「良い考えだねっ! すみちゃんっ!」

 

すみの提案に、きよが賛成した。一方でなほは、少し難色を示した。

 

「私も御礼がしたいけど……天気、大丈夫かな?」

 

「雨が降る前に、帰って来たら大丈夫じゃないかな? なほちゃんは嫌?」

 

「嫌な訳無い。しのぶ様に許可を貰ってから、買い物に行こうっ!」

 

「「うんっ!」」

 

すみ達は廊下を歩きながら、珠世に渡す返礼の為に買い物に行く事を決めた。

 

それからきよ達は、アオイ達の料理を手伝うべく蝶屋敷の厨房へと足早に戻ったのであった。




お待たせ致しました。

佑季洋様(https://www.pixiv.net/users/11394230)のリクエスト「炭治郎愛され(炭しの蜜強め)でお食事会」の後編になります。

寧ろこちらが本命と言うか主菜と言う感じです。佑季洋様のリクエストに応えられていたら良いのですが、どうでしょうか?

難産でしたが、書いてて楽しかったです。
素敵なリクエストをありがとうございました<(_ _)>

次回作ですが、まだ日程ははっきりしておりません。ですがまだ比較的執筆し易いリクエスト作品なので、早めに投稿出来ると思っております。暫くお待ち下さいませ。


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第陸拾話 日輪は桜蝶の不満を解消す ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


夢幻世界

 

 

「っ…………何処だっ?」

 

様々な花々が咲き誇る幻想的な世界で、炭治郎は嗅覚を中心に五感を使って何かを探していた。

 

蜜璃としのぶのおもてなしと言う名の歓待を大浴場で受けていた炭治郎は、その後あまりの睡魔の強さに夕食を欠席してしのぶから与えられた自室で一足先に就寝に就いていた。

 

そして夢幻世界に意識が到着した瞬間、炭治郎は重大な事実に背筋が凍った感覚を覚えた。

 

「カナエの事……すっかり忘れてたっ。」

 

炭治郎はしのぶ達との情交(セックス)に夢中になり過ぎて、徹夜してしまいカナエに会いに行く事を忘れていた。その事実に、漸く気付いたのである。

 

耀哉からカナエの事実を新たに知った時、炭治郎はカナエに会いに行って直ぐにその喜びを共有したいと当初は考えていた。しかしその考えもしのぶ達との情交(セックス)で、すっかり忘却の彼方に追い出してしまったのだ。

 

炭治郎は慌ててカナエを探して夢幻世界を歩いていたのだが、未だにカナエを発見する事に至っていない。

 

普段ならば夢幻世界に到着した瞬間にカナエと会っていると言うのに、何時まで経ってもカナエが炭治郎の前に出て来てくれていないのだ。

 

「……っ。」

 

すると炭治郎は力尽きた様に、膝を付き両手を地面に付けて四つん這いの姿勢になった。

 

「カナエ……謝るから出て来てくれっ……。」

 

炭治郎は泣きそうになりながら、カナエに対して謝罪の意を言葉にして土下座した。

 

 

 

ザッ!

 

 

 

その瞬間、影が炭治郎に向かって飛び付いた。

 

「うわっ!?……っ!」

 

炭治郎は突如飛び掛かって来た陰に対処し切れず、成す術も無くそのまま影に押し倒された。しかしその瞬間、炭治郎は心地良い香りを自身の鼻で感じ取った。その香りは、炭治郎が求めてやまないものであった。

 

「カナエ!……っ!!」

 

「ふふっ。捕まえたっ❤」

 

炭治郎が視線を向けた先には、自身を押し倒したカナエが楽しそうに笑っていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「カナエ……一体何処に居たの?」

 

「こらっ。手が止まっているわよ。」

 

「あっ。ごめん……。」

 

カナエに押し倒された炭治郎はカナエに気になった事を質問したが、カナエに叱られて再び手を動かしていた。

 

カナエに押し倒されていた炭治郎だったが、いつの間にか立場が逆転していた。カナエが寝転がっており、炭治郎が座っていた。しかし主導権はカナエが握ったままであった。

 

炭治郎が正座しており、カナエは炭治郎の膝の上で横向きに寝転んでいた。そして炭治郎はカナエの頭を優しく撫でていたのである。

 

「よろしい……それにそんな事を聞く前に、私に何か言う事があるんじゃあ、無いかしら?」

 

「!」

 

炭治郎に頭を撫でられて御機嫌な様子のカナエが意地悪な表情を浮かべてそう言うと、炭治郎はバツが悪そうな表情を浮かべて露骨に目を逸らした。

 

「……ごめん。」

 

逃げる心算など毛頭無かったが、観念した様子の炭治郎はそのまま頭を下げて謝罪した。更に炭治郎の額からは、一筋の汗すら流れていた。

 

「クスクス……。」

 

そんなあからさま過ぎる炭治郎の態度を見て、カナエは可笑しそうにクスクスと笑声を漏らした。しかしその声色には、怒りの色は宿ってはいなかった。

 

「別に気にしてはいないわよ。しのぶ達があなたに愛されているのは、私にとっても喜ぶべき事だし……と言っても、寂しく無かったと言えば嘘になるけどね。」

 

「やっぱり、気にしているじゃないか。」

 

「もう良いのよ。こうしてあなたに会えたら、そんなモヤモヤ吹っ飛んじゃったから。」

 

カナエは仰向けになりながらそう言うと、愛おしそうに両眼を細めながら右腕を伸ばして右手を炭治郎の右頬に優しく添えた。

 

「っ。」

 

炭治郎はカナエの柔らかな右手の感触を感じて、気持ち良さそうに自然を頸を右に傾けた。

 

「それに……私の名誉も守ってくれて、御館様から特別の信頼や期待を受けていたのを知れて、凄く嬉しかった……嬉しかったの。」

 

「!!」

 

カナエが両頬を赤く染めながら言うと、炭治郎はハッとした表情を浮かべてカナエを見詰めた。カナエの両眼は、僅かながら潤んでいた。

 

「……」

 

カナエは両眼を閉じると、徐に体勢を変えて炭治郎の隣に座り込んだ。それから自身の右手を、炭治郎の左手と重ねる様に優しくそっと置いた。

 

それからカナエは息が掛かる程に、炭治郎の顔に自身の顔を近付けた。

 

「全部、あなたの御蔭よ……ありがとう、あなた。」

 

「!……どういたしまして。」

 

炭治郎は嬉しそうに両頬を染めてそう言うと、二人は自然と唇を重ねて口付け(キス)をした。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ん。」

――カナエ……。

 

炭治郎はカナエとの口付け(キス)を暫く不動のまま堪能していたが、直ぐに両手を動かし始めた。

 

自身の両腕が目指す先は、カナエの豊満な乳房だった。隊服で姿こそ見えていないが、それでもその存在感圧倒的であった。

 

「ちゅっ❤……駄目よ♪」

 

「えぇっ!?」

 

しかし炭治郎の動きを察したカナエが、唇を離すと即座に炭治郎の両手首を掴んで阻止した。カナエの行動を見て、炭治郎は露骨に戸惑いの声を上げた。そして水を差されたとばかりに、不満気な表情でカナエを見詰めていた。

 

「そんな物足りなそうな顔をしても、触らせてあげません……始めちゃったら、今回の訓練が出来なくなるでしょう?」

 

「うっ……。」

 

しかしカナエはそんな炭治郎の不満を、一切気にする様子も無く一蹴して正論を吐いた。夢幻世界で行う訓練は炭治郎を強くする為に行う必要不可欠なものであるので、快楽に感けてサボる訳にはいかなかった。

 

「分かったよ……今回はどんな訓練をするの?」

 

「ふふん♪ 良くぞ聞いてくれました。」

 

炭治郎に訓練内容を尋ねられたカナエは、何故か自信有り気にその豊満な胸を張った。

 

「今回は……鬼ごっこをしましょう♪」

 

「……はい? 鬼ごっこ?」

 

カナエの提案を聞いて、炭治郎は思わず頸を傾げた。これまで直接、カナエと刃を交えた真剣を用いての訓練をしている炭治郎からすれば、鬼ごっこによる有用性が見出せなかったからだ。

 

「あー炭治郎君っ。今、心の中でやる意味あるのって思ったでしょ?」

 

「うっ……はい。正直に言うと、そう思いました。」

 

カナエから名前で呼ばれた炭治郎は、敬語に切り替えて正直にカナエに返答した。

 

「じゃあ聞くけど、蝶屋敷でやったカナヲとの鬼ごっこの訓練は無駄だったと思う?」

 

「えーと、無駄だっただなんて思いませんけど……カナエさんとカナヲは違うし。」

 

元花柱で女性隊士最強と謳われたカナエと、次期柱候補と言われど一隊士に過ぎないカナヲとでは話の次元が違うと言う炭治郎。

 

そんな炭治郎に、カナエは真面目な表情を浮かべて炭治郎に説き始めた。

 

「別に違いなんて無いわ。相手の動きを捉えられるか。最低でもその動きに付いて行けるか否か。それを見極めて慣れるだけでも、全く違って来る……貴方は猗窩座(上弦の参)と煉獄君の動きを、眼だけでも追える事は出来た?」

 

「!!!」

 

炭治郎はカナエに自身の心傷とも言える出来事を問われて、思わず顔の表情を歪めた。無限列車の時に自身が目の当たりにした上弦の参(猗窩座)と杏寿郎の死闘では、その姿を全く眼で追う事が敵わなかった。

 

「……いいえ。何も出来ませんでした。」

 

「見栄を張らない、正直なあなたが好きよ……だから上弦の鬼と戦って勝とうと思うなら、せめて私の動きに付いて行けなきゃ駄目だわ。童磨(上弦の弐)相手に敗けた、私じゃあんまり参考にならないかもしれないけどね。」

 

「そ、そんな事はありませんっ! よろしくお願いしますっ!!」

 

少し自虐が混じったカナエの一考に、炭治郎は大声で真っ向から否定して頭を下げた。そんな炭治郎の姿を見て、カナエはクスっと笑みを零した。

 

「じゃあ、早速始めましょうか。」

 

カナエのその一言が切っ掛けで、炭治郎とカナエの鬼ごっこの訓練は始まった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「だぁっ!?」

 

炭治郎はそんな奇声を上げながら、前のめりになって地面に倒れ込んだ。その際に草花が、バサッと散って一部が炭治郎の頭の上に落下する。

 

「もう、焦り過ぎよ……がむしゃら過ぎてグダグダになっちゃってるじゃない。」

 

「うぅっ……言葉もありません……。」

 

カナエの指摘を受けて、炭治郎は情けなさそうに声を漏らした。それから炭治郎はチラッと上目遣いに近い形で、カナエを見上げた。

 

――カナヲよりも、遥かに動きのキレが凄いんだよなぁ……指先一つ掠りもしない……。

 

炭治郎はカナエとの鬼ごっこでの動きを思い出して、思わず溜息を吐いた。

 

基本的に蝶の如く優雅で軽やかな足取りなのだが、時に蜂を連想させる程の目にも止まらぬ速さを見せる剛柔合わさった洗練された動きであった。

 

炭治郎は無限列車で杏寿郎から柱まで後一万歩掛かるかもしれないと言われたが、果たして一万歩で済むのだろうかとその評価基準に疑問を想わざるを得なかった。

 

「ふふっ……そんなに触りたい? 私のか・ら・だ❤」

 

「!!」

 

カナエが自身の両頬を照れ臭そうに赤く染めながら、自身の豊満な乳房を強調する様に身体を前に屈めて炭治郎に見せ付けた。

 

そんなカナエの仕草を見て、炭治郎は思わず反射的に赤面してしまう。そして返答出来ずに、顔を僅かに逸らす事しか出来なかった。

 

「ふふっ。今更隠さなくても良いのに……。」

 

カナエはそう言うと、体勢を変えて立ち上がると徐に隊服の(ボタン)に手を掛け始めた。

 

「!?」

 

カナエの行動を見て驚く炭治郎であったが、そんな炭治郎を他所にカナエは次々と(ボタン)を外して隊服を脱ぎ捨てて行った。

 

そしてカナエは豊満な乳房を締めるその晒を除いて、カナエは全裸に近い半裸の姿になった。

 

「……(ゴクッ)」

 

炭治郎は眼を逸らす事が出来ず、生唾を飲み込んでカナエの半裸をマジマジと凝視してしまう。晒によって乳房こそ全容を見せていなかったが、秘部の方は綺麗に整えられた陰毛が僅かに濡れているのが見て取れた。

 

――もう、炭治郎君ったら❤……そんなに熱い視線を向けられたら私、それだけで濡れちゃうわっ……❤

 

カナエは炭治郎から向けられる視線を感じて、嬉しそうにモジモジと下半身を僅かに動かしていた。

 

――駄目よ。耐えなきゃ……頑張れ私。耐えればその分だけ、幸せも大きくなって帰って来るから……。

 

本音を言えば訓練など投げ捨てて早く炭治郎と情交(セックス)がしたかったのだが、カナエは心を鬼にして訓練の続行を心中で決意していた。

 

「さぁ炭治郎君。貴方が私に指先でも触れる事が出来たら、その瞬間から私の事を好きにしても良いわよ。」

 

「!!!」

 

カナエが両手を広げてそう宣言するとカナエの宣言を聞いた炭治郎は、自身の心臓の鼓動が早くなり心拍数が上昇した事を自覚した。

 

「痛っ!?」

 

カナエの半裸に視線が釘付けになっていた炭治郎であったが、股間に痛みを感じて思わず顔を顰めた。

 

炭治郎が下半身に視線を向けると、其処には勃起して洋袴(ズボン)から隆起している愚息の姿が見えた。愚息の巨大さも相まって、洋袴(ズボン)との間で起きた摩擦で痛みが走ったのだ。

 

「あらあら、おませさん。」

 

「……っ。」

 

カナエに勃起した事を茶化された炭治郎は、赤面して顔を逸らした。

 

「……そうだわっ。一層、炭治郎君も全裸(はだか)になれば良いじゃない! 私だけ脱いでいるのも不公平だもの。私達しか居ないのだから、ね?」

 

「……はい。」

 

名案だと言わんばかりに両眼を輝かせてそう言うカナエからの、有無は言わせないと言う静かな威圧感を炭治郎はしっかり感じ取ったので抵抗せずに隊服を脱いだ。

 

「!」

 

カナエの両眼が一気に見開いたかと思うと、両頬が赤くなると同時に瞬く間に細くなった。その熱い視線は炭治郎の身体に、特に力強く勃起している逸物に集中していた。

 

――わぁ、もうあんなに……あんなの見たら、身体が熱くなっちゃう……っ❤

 

カナエの自身の子宮の奥から、じわっとした熱が全身に回るのを感じた。

 

「……おっと。いけないいけない……炭治郎君。続きをしましょうっ!」

 

カナエは誤魔化す様に大声で、鬼ごっこの続きを宣言した。しかしカナエの秘部からは、愛液が太腿へ一筋垂れる程に溢れ出ていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「せいっ!」

 

「ざんねーん。ちょっと遅いわよ。」

 

「はぁっ!」

 

「あら、今のは惜しかったわね。」

 

炭治郎とカナエは体感的に言えばそれから三十分程、鬼ごっこの訓練が継続されていた。それは即ち、炭治郎がカナエを捕まえる事に失敗し続けている事を意味していた。

 

――くそ、くそっ!……速く捕まえたい。早くカナエを抱きたいっ。

 

炭治郎はカナエを未だに捕まえられない苛立ちを抑えながら、必死で身体を動かしていた。

 

――ああ、早く炭治郎君に抱かれたい。私の乳房(おっぱい)を、いっぱい舐めて吸って欲しい。あの大きくて硬いお×んちんを荒々しく挿入(いれ)て、熱くて濃厚な精液を私の子宮に出して欲しいっ……っっっ❤

 

その一方で、カナエももどかしさと身体の疼きに必死で耐えていた。最愛の男性が眼前に居ると言うのに、訓練に手は抜いてはいけないと言う板挟みの中でカナエは炭治郎から逃げ続けていた。その間にも秘部からは、愛液を垂れ流し続けていた。

 

カナエが手加減して態と炭治郎に捕まる事も可能だが、その様な手抜きは炭治郎もカナエも許さないし許せない為、互いが出せる全力を出していた。

 

「隙ありっ!」

 

「こらっ。相手に隙を教えたら、何の意味も無いでしょ?」

 

炭治郎が最大の隙を漸く見つけたと言うのに、それを口に出したが為にカナエに結局避けられてしまった。怒ったカナエは炭治郎を避けた際に、思わずその石頭をパンと叩いた。カナエから触れたので、炭治郎触った事には決してならない。その為、鬼ごっこは継続するのであった。

 

「炭治郎君っ! 頑張ってっ!」

 

「はいっ!」

 

カナエは炭治郎を激励すべく、応援の声を掛けた。これも炭治郎の頑張りに、期待しての事だ。

 

――捕まえたいのに捕まえられない……実力差が圧倒的なんだから当然の話だ。でも、捕まえたい。早く……速くカナエをこの手で……でもどうすれば……。

 

しかし炭治郎の苛立ちは、溜まる一方であった。炭治郎は心中で苛立ちとは別に、更に焦燥感も塵が積もる様に少しずつ蓄積していた。

 

『雷の呼吸ってさ。現存する呼吸の中でも一番、足に意識を集中させるんだよな。』

 

「!」

 

打開策を必死で練る炭治郎の脳裏を、突如として過去の善逸の会話が過った。

 

『自分の身体の事ってさ。案外自分自身でも、ちゃんと把握とか出来て無いもんなんだよなぁ。』

 

『身体の寸法とか、筋肉の形一つ一つ。それ等全てを認識してこそ真の"全集中"なり……って育手の爺ちゃんが良く言っていたんだよ。』

 

それは蝶屋敷での鍛錬を終えた後、磯辺餅を食べていた時に出た何気無い会話であった。しかし呼吸に関する話であったので、炭治郎は良く覚えていたのである。

 

――筋肉の繊維一本一本……血管の一筋一筋まで、空気を巡らせる。力を足だけに溜めて、溜めて……。

 

炭治郎は善逸が言っていた言葉を思い出しながら両足に全神経を、意識の全てを集中させる。

 

そして炭治郎は空気を切り裂く雷鳴の如く、一息でその全てを爆発させた。

 

「えっ?」

 

炭治郎の動きに慣れていたカナエは、これまでと比較にならない速度で突進して来る炭治郎に面食らって身体を硬直させた。一瞬の隙としか言えない些細なものであったが、今の炭治郎には充分であった。

 

 

 

ドンっ!

 

 

 

「きゃあぁっ!」

 

炭治郎は真っ直ぐカナエに向かって突撃し、そのまま正面からカナエに衝突して押し倒す様に倒れ込んだ。カナエは炭治郎に押し倒されて、小さく悲鳴を上げて地面に倒れた。

 

「はぁ……はぁ……。」

――やった、か?……。

 

炭治郎は倒れた瞬間、両眼を反射的に閉じてしまったので結果が分からなかった。しかし、直ぐに自身の身体に温かく柔らかい感触を感じて両眼を見開いた。

 

「あぁんっ❤……捕まっ、ちゃった……っ❤」

 

「!!!」

 

カナエの口から嬉しそうに漏れた一言を聞いて、炭治郎は漸くカナエを捕らえる事に成功したと実感した。そして同時に自身の脳裏で、理性の糸がプツンと切れた音を確かに聞き届けた。

 

「カナエッ! んんんっ!!」

 

「んふうううっっ!❤」

 

炭治郎は枷を解かれた餓えた獣の如く、カナエを抱き締めてその瑞々しい唇に向かって貪る様に口付け(キス)をした。カナエはいきなりの口付け(キス)に驚いたが、直ぐに両眼を閉じて炭治郎を抱き締めながら口付け(キス)を返した。

 

「ちゅううぅっ!❤ ちゅうじゅうううっ!❤❤ んちゅうるちゅううっ!!❤」

 

カナエも炭治郎に負けじと唇を強く押し付けると、炭治郎の口を抉じ開けて舌を侵入させた。そして勢い良く炭治郎の唾液を吸い取り、逆に自身の唾液を炭治郎の口内へと交換し始めた。炭治郎も当然拒否する事無く、カナエとの唾液交換に喜んで応じていた。

 

「ぷはっ!……はぁはぁはぁっ……カナエッ。もう挿入(いれ)るよ! 挿入(いれ)るからね!?」

 

「っ!❤ あ、あなたぁ❤ 来てぇっ! 早くっ……速くぅ❤」

 

炭治郎は我慢の限界だとばかり、最早建前同然の承諾をカナエから貰おうとする。するとカナエも両足を限界まで広げて、炭治郎に逸物を自身の秘部に挿入する様に強く求めた。炭治郎の視点からは見えなかったが、既にカナエの秘部では愛液が洪水の如く溢れ出ていた。

 

「カナエッ……くうっ!」

 

「あああぁぁぁんっ!!❤❤」

 

炭治郎は感覚だけで自身の逸物を、カナエの愛液塗れの秘部に挿入した。勢い良く挿入した為、カナエはそれ衝撃だけで絶頂した。

 

「ああぁっ! きつい……でも、もっと……!」

 

炭治郎はカナエの膣圧にたまらず感じていたが、実はまだ半分も挿入出来ていなかった。

 

「すううっ……ふんっ!」

 

炭治郎は逸物を全てカナエの膣内に挿入しようと、膣圧に抵抗する様に逸物の残り半分を一気に挿入した。勢い良く挿入された逸物は、一気に膣壁を掻き分けて子宮口にまで激突した。

 

「あひいいぃぃっ!?❤❤」

 

これまでとは比べ物にならない衝撃と快楽を受けて、カナエは背中を海老の如く仰け反って再び絶頂した。

 

「ぐううっ!」

 

その際に炭治郎は更なる圧縮された膣圧の快楽に悶絶したが、カナエと違って絶頂する事は無かった。寧ろカナエが絶頂している事を嬉しく思い、更に声を掛ける余裕すらあった。

 

「気持ち良いんだね、カナエ……もっと気持ち良くしてあげるよっ!」

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

炭治郎はそう言うと、勢い良く腰を打ち付け始めた。肉を叩き水を跳ねる音が、周囲に響き始めた。

 

「あああぁぁっ!❤ んあああぁぁぁっ!❤」

 

炭治郎に反復動作(ピストン)されたカナエは、叩き付けられる様にやって来る快楽に身悶えていた。嬌声を上げながら、必死で快楽に耐える。唇からは、涎が一筋溢れ出ていた。

 

「ふうううっ! ふんっ! ふんっ!」

 

「はあぁんっ!❤ あああん!っ❤ あああぁっ!❤❤」

 

何度も反復動作(ピストン)を繰り返した炭治郎であったが、鬼ごっこの訓練で我慢を強いられた分だけ逸物の耐久度が下がっていた。

 

カナエの膣内で、炭治郎の逸物は少しずつ膨張し始めている。

 

「っ!!……腟内(なか)で、大きく……ああ❤ あなた❤……射精()してっ! 射精()して射精()して射精()して射精()してぇ!!」

 

「うおおおぉぉっっ!! 射精()すっ! 射精()すよっ!……ぐっ! あああぁっ!」

 

 

 

ドビビュルルルルルルウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッ!!! ドビュビュビュルルルウウウウウウウウゥゥゥゥッッッッ!!

 

 

 

炭治郎が絶頂の嬌声を上げたと同時に、逸物からは大量の精液がカナエの子宮目掛けて怒涛の勢いで流れ込んで行った。

 

「あああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!❤」

 

白濁の溶岩とも言える精液の高熱を受けて、カナエは歓喜の嬌声を上げながら大きく絶頂した。

 

「ぐうううううぅぅぅっ……絞り取られるっ……っっ!」

 

カナエの子宮目掛けて射精している炭治郎は、射精の快感に悶えながら腰を震わせていた。

 

「「はぁ……はぁ……はぁっ。」」

 

普段よりも長い射精が終わり、炭治郎とカナエは呼吸を整えながら余韻に浸っていた。それから二人は自然と、大概の視線を交える様に見詰め合った。

 

「凄く、気持ち良かったよ。カナエ……。」

 

「私もよ。とても素敵だったわ、あなた……。」

 

それから二人はそのまま惹かれ合う様に、そのまま口付け(キス)を行った。

 

「っ……あっ!」

 

唇を離して口付け(キス)を解くと、カナエは少し驚いた様子で声を上げた。

 

「……」

 

何故なら炭治郎が、晒越しにカナエの豊満な乳房を揉んでいたからだ。しかしその表情は、今一つ物足りなそうであった。

 

「……邪魔だな。」

 

「!」

 

炭治郎はボソッとそう呟くと、両手で握り締める様に晒を掴んだ。そして自身に出し得る限りの力で、思い切り晒を引き千切った。

 

「あぁっ!」

 

晒によって些か窮屈そうに押さえ付けられていたカナエの豊満な乳房は、解放される様にぷるんと大きく揺れてその全容が炭治郎の前で露わになった。更に先端の赤い蕾とも言える乳首は、既に勃起して存在感を遺憾無く炭治郎に示していた。

 

「はぁっ……はぁっ……あむっ。ちゅうううぅぅっ。」

 

それに炭治郎が放っておける筈も無く、涎を一筋口元に垂らしながら炭治郎は左乳房の乳首に吸い付いた。

 

「んああぁぁんっ! あうぅっ、ああぁんっ!❤」

 

炭治郎に乳房を吸われているカナエは、頸を左右に振りながらその快楽に悶絶していた。

 

「ちゅううぅっ!……かりっ。」

 

「んひいいいぃぃぃっ!!❤❤」

 

炭治郎が乳首を甘噛みすると、カナエは悲鳴に近い嬌声を上げて身体を仰け反らせた。

 

「……はむはむ。ぢゅうううぅぅぅっ!かりかりっ。ちゅぶちゅぶぶぶっ……ぢゅううっ! ぷはっ、んむぅ……あむれろれろっ。」

 

「んあああんっ!❤ いひぃぃん!❤……良いっ……あああぁぁっっ!❤❤……んはぁあぁぁっ❤」

 

炭治郎が左右の乳房を何時もより強く揉みながら、交互に乳首を強弱を付けて吸い続ける。更に何度も甘噛みを繰り返した。カナエは少し強く乳房を揉まれ吸われたり甘噛みされても、気持ち良さそうに快楽に酔いしれる。

 

「ちゅううぅっ……ふうぅっ……ふんっ!!」

 

「ああああぁぁっ!❤」

 

炭治郎は乳房から口を離すと、カナエの身体を動かして左足を持ち上げる様に抱き上げた。柔軟なカナエの身体は半開脚する形で、姿勢が変わった。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ。」

 

「あううぅぅっ! さっきより、深いっ!❤ はああんっ!❤」

 

炭治郎は側位の姿勢で、カナエに反復動作(ピストン)を始めた。カナエは逸物が先刻より深く挿入され、その快楽に再び身悶える。

 

「カナエの膣内(なか)……先刻(さっき)より締め付けがきついよ。側位(こっち)の方が、好きかいっ?」

 

「はううぅっ!……好き、よっ…………んんっ!❤ でもっ……。」

 

「?」

 

炭治郎に尋ねられたカナエは、素直に肯定したが何故か口を噤ませた。そんなカナエの様子に、炭治郎は反復動作(ピストン)を続けながらも疑問を覚える。

 

「好きだけど、側位(これだと)……あなたと口付け(チュー)が出来ないから、ちょっと寂しいわっ……あんっ❤」

 

「!!」

 

カナエの指摘を聞いて、炭治郎はハッとした。側位は体位の中でも逸物を深く挿入出来る体位だが、炭治郎とカナエの身長差では口付け(キス)を行うのが難しい。正常位でも、炭治郎は頸を伸ばして口付け(キス)を行っているのだから。

 

「……」

 

その事実に気付いた炭治郎は男性として、少し悔しさと劣等感を抱きながらも少し周囲を見渡した。

 

「!」

 

それから炭治郎はある事を思い付いて、直ぐに行動を開始した。

 

「カナエ。俺の頸に両腕を回して。それからちょっと地面を盛って、段差を作ってくれる? 俺とカナエの身長差が埋まる程度の。」

 

「えっ?……うん、良いわよ。」

 

カナエは直ぐに身体を起こして、炭治郎の頸に両腕を回して抱き着いた。それからカナエは脳裏で念じると、近くの地面が盛り上がって二人の高さが埋まる程度の段差が出来た。

 

「しっかり俺に捕まっててね。」

 

「ええ。……あっ!❤」

 

炭治郎はカナエの大きく形の良い臀部をしっかり掴むと、一歩でその段差の上に立った。そしてカナエに右足だけゆっくりと、段差の下に降ろした。これにより、カナエと炭治郎の身長差の問題は解決された。

 

「カナエの足って、長くて細くて綺麗だよね。ちゅっ。」

 

「んっ!❤」

 

炭治郎は上がったままのカナエの左足の太腿に、そっと口付け(キス)をした。それから炭治郎は、カナエの左足を自身の右肩に乗せた。

 

「続けるね……ふんっ! ふんっ! ふんっ!」

 

「あああぁぁぁっ!❤ 嘘っ……先刻(さっき)より、深いぃぃっ!!❤❤」

 

炭治郎はカナエの左足を抱えたまま、立った状態で反復動作(ピストン)を始めた。カナエは後にY字バランスと呼称される姿勢で、炭治郎の逸物を深く膣内に受け入れる事になった。

 

「カナエ、知っている? この体位って、対面立位(立ち鼎)って言うんだよ。と言っても本当はもっと、足はこれだけ上げずに下がっているらしいけど……カナエって名前が付いてる所に親近感を感じるよね。」

 

「んあああぁぁぁ~~!❤ 知らないっ!……そんなの、知っている訳無いでしょっ! いひいいぃぃっ!❤❤」

 

カナエは普段より感じる子宮口からの衝撃を受けながら、茶化す様に解説して来た炭治郎にそう言って否定した。

 

「何処でっ……そんな事を知ったのよっ! ああぁっ!❤」

 

「えーと、確かアオイと結ばれた後だったかな? アオイがお部屋に隠し持って居た艶本にね、載っていたんだよ。二人で一緒に読んだんだけど体位の名称とか、一覧表で掲載されていて……他にも色んな豆知識が載ってたなぁ。」

 

「あううぅっ❤……アオイってば真面目な顔して、本当にムッツリなんだからっ!……あぁんっ!❤」

 

厳密に言うと入院患者が隠し持って居た艶本を取り上げた物だが、そんなものは言い訳にもならない。炭治郎にとってもカナエにとってもその事実は重要では無く、更にアオイが私物化しているのが実情だったので本当は言い訳にもならなかった。

 

互いに楽しく話をしながらも、炭治郎は反復動作(ピストン)を続けて行った。そうしている間に、炭治郎に限界が再びやって来た。

 

 

 

ビュルルビュルルルルビュルルルルルルウウウウゥゥゥゥッッッッッ!!! ビュビュルルルウウウゥゥゥゥッッッッ!! ビュルビュビュルルルウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!

 

 

 

「ああああああぁぁぁぁぁ~~~~っっっ!!!❤❤」

 

カナエは天を仰ぐ様に頭を上に向きながら、白濁の溶岩の如き大量の精液を子宮に受けて大きく絶頂した。

 

「あぁっ……あぁっ❤……。」

 

強い絶頂による快楽を受けたから、若干放心状態で舌をだらしなく口から出して快楽の余韻に浸るカナエ。そんなカナエに、炭治郎は構わず攻勢を掛ける。

 

「よっと。」

 

「ひゃあああんっ!❤」

 

今度はカナエの大きく形の整った臀部を両手で荒々しく鷲掴みにすると、今度は駅弁(櫓立ち)の体位になった。カナエの左足は降ろしたので、そのまま自然とカナエは両足を炭治郎の腰に回してしっかりと身体を固定した。

 

「ああんっ!❤ あああんっ!❤」

 

「ふうっ……絶景だなぁ……。」

 

炭治郎は腰を叩き付けて反復動作(ピストン)を続けながら、上半身を引いた姿勢である一点を凝視していた。それは炭治郎の激しく荒々しい反復動作(ピストン)を受けて揺れるカナエの豊満な乳房であった。

 

「じゅうっ! ぢゅぢゅううっ! かりっ……んむぅちゅぢゅうううっ!」

 

炭治郎は再び、カナエの豊満な乳房に貪る様に吸い付いた。カナエの右乳房を乳輪ごと乳首を口に含むと、吸付きと甘噛みを交互に繰り返す。

 

「あああぁぁんっ! またっ……乳房(おっぱい)を、そんなに吸われたらぁっ……ああぁっ!❤」

 

カナエは炭治郎に荒々しく乳房を愛撫されると、更に大きな嬌声を上げて快楽に悶絶した。

 

「!!……かりかりっ……ぢゅちゅるううぅっっ!」

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

カナエの乳房を愛撫すると同時に、膣圧が増したのを炭治郎は明確に感じた。しかし負けじと乳房への愛撫を続けながら、反復動作(ピストン)を緩める事無く継続した。

 

「もう、駄目ぇっ❤……イくっ……イくイくイっちゃうううっっ!!!❤❤」

 

「んんっ!」

 

 

 

ビュビュビュビュルルルルルルルウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!! ビュルルルウウウウウウウウウウビュビュビュルウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!

 

 

 

「んんんんっ!!!」

 

「んんあああああああぁぁぁぁぁ~~~~~っっっ!!!❤❤」

 

カナエは背骨が圧し折れんばかりに、身体を仰け反らせて今まで以上に大きく絶頂した。

 

「んむぅっ……ちゅううっ。」

 

炭治郎は絞り取られる感覚と射精の快楽に絶頂しながらも、乳房から口を離す事は無かった。

 

「ぷはっ……。」

 

そして漸く長い射精が終わると、炭治郎は乳房から口を離した。その際に大量の唾液がカナエの乳輪と乳首に付着しており、銀色の糸が出来て直ぐに途切れて消滅した。

 

「ああんっ……凄くっ、良かったぁ❤……。」

 

「……」

 

絶頂から正気に戻ったカナエが、快楽の余韻に浸りながら片手で腹部を愛おしそうに撫でていた。そんなカナエの様子を見て、ある考えが炭治郎の脳裏に浮かんだ。

 

「………………良しっ、決めた。」

 

「え?」

 

炭治郎がそう呟くと、腰を引いて一気に逸物を叩き付けた。

 

「あんっ!❤ あなた、何を……。」

 

「カナエ。俺、今回はずっと休まずに抱き続けるからっ。」

 

「!?」

 

炭治郎の決意を聞いて、カナエは両眼を見開いて驚愕した。

 

普段の炭治郎とカナエは、ある程度の情交(セックス)を行った後に小休止を挟んで会話を楽しむのが習慣になっていた。その習慣を捨てて、餓えた獣の如く情交(セックス)だけすると言うのだ。炭治郎の言葉を聞いて驚くカナエを他所に、炭治郎は少しずつ反復動作(ピストン)を速めながら話を続けた。

 

「今まで途中で休んでお喋りとかしてたけど……今回は違うから。しのぶさん達みたいに、失神するまで抱き続けるからねっ。」

 

「嘘、本気っ……ああんっ!❤」

 

カナエは話をしている途中で、比較的大きな嬌声を上げて話すのを中断された。炭治郎が反復動作(ピストン)を最大速度で繰り返しながら、左乳房を思い切り吸い付いたのだ。

 

「ああんっ!❤ ああぁぁんっ!❤……本気、なのね…………私を気絶させられるものなら、やってみなさいっ。言っとくけど私はしのぶ達みたいに甘くは、ひゃああんっ!❤ 乳首ぃっ、噛んじゃ駄目ぇぇっ❤ ひいいぃぃんっ!❤」

 

炭治郎の野望を聞いてカナエは凛々しい表情で言い返そうとしたが、直ぐに快楽に負けて表情を崩して嬌声を上げ続けた。炭治郎はカナエに愛おしさを抱き続けながら、駅弁(櫓立ち)の体位でカナエを抱き続けた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……うん? そろそろ起きそうだな。カナエ。残念だけど、此処までみたいだ。今回は俺の負けだけど、今度は本当にカナエが気を失うまで抱き続けるから。またね。愛しているよ。」

 

炭治郎はそう言うと、その姿を夢幻世界から消失した。炭治郎の身体が覚醒したので、意識が夢幻世界から消滅したのだ。

 

「ああっ……あああっ❤……いって、らっしゃい。あなた……っっ。」

 

夢幻世界には、半分意識が飛んでいるカナエが仰向けの状態で倒れていた。その身体は初期妊娠状態の妊婦の如く、腹部が大きく膨らんでいた。

 

暫くその状態で居ると、意識が完全に回復したカナエの脳裏に炭治郎の言葉が過った。

 

『今回は俺の負けだけど、今度は本当にカナエが気を失うまで抱き続けるから。またね。愛しているよ。』

 

「……っっ❤……あぁっ❤❤……次の夜が、楽しみだわ……本当に……っ❤❤」

 

カナエはそう言いながら、愛おしそうに膨らんだ腹部を優しく撫でていた。




お待たせ致しました。

是非様(https://syosetu.org/user/270158/)のリクエストで「炭ナエの鬼ごっこ(十八禁)」になります。

大体ご要望に応えた心算ですが、満足の出来る仕上がりになっていれば幸いです。

久しぶりに十八禁作品が書けたし、書いてて楽しかったです。
リクエストありがとうございました<(_ _)>

次回作ですが、六月中に仕上げられたら良いなぁって思ってます。前より書き難いネタなので……どうかのんびりお待ち頂けたら幸いです。

今後も拙作をよろしくお願い致します。

感想欄にコメントがあると嬉しいです。お待ちしております。

最後に是非様は鬼滅ssを連載されておりますので、良ければ一読下さい。
蝶を守り抜く日輪 https://syosetu.org/novel/210136/


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第陸拾壱話 日輪は主命に従い月蝶を堕とす ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり

・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・産屋敷邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十六日(日)

時間帯:早朝

天気:曇り

 

「い……おいっ。」

 

「ん……。」

 

炭治郎は耳に入って来る声を聞きながら、眠気が支配する脳裏を覚醒をさせようとした。

 

「ん……。」

 

しかし眠気が勝ったのか、炭治郎は覚醒する事無く再び沈黙しようとした。

 

「……っ。」

 

そんな炭治郎の呑気な様子に、声を掛けていた人物は額に青筋を浮かべる。

 

「何時まで寝てんだっ! さっさと起きねぇかっ!?」

 

「うわっ!?」

 

炭治郎は殴られたが如く入って来た怒声に、身体を勢い良く起こして起床した。

 

「……えっ?」

 

起床して炭治郎が目の当たりにしたのは見慣れた蝶屋敷の自室の天井では無く、分厚い雲に覆われた空であった。匂いも畳の井草の香りでは無く、自然の草木の香りであった。

 

「やあぁっと起きやがったな。炭治郎。」

 

「はいっ? えっ? ご、後藤さんっ?!」

 

炭治郎に声を掛けていたのは、鬼殺隊の下部組織『隠』に所属する後藤隊士であった。更に炭治郎が周囲を見渡すと、二つの事に気が付いた。一つは、自身を背負っている後藤隊士の存在。

 

「此処って……御館様の御屋敷?」

 

「そうだ。御館様がお前を連れて来いってさ。だから寝てる所を悪いけど、俺が背負って運んだんだよ。」

 

炭治郎は驚きながら産屋敷本邸の正門を見ていると、後藤隊士が炭治郎を運んだ理由を説明した。

 

「…………」

 

炭治郎は後藤隊士の説明を聞いて、ある疑問が脳裏に浮かんだ。直ぐに炭治郎は、後藤隊士にその脳裏に浮かんだ疑問を尋ねた。

 

「後藤さん。その……しのぶさん達はこの事は?」

 

炭治郎の疑問は、其処であった。しのぶ達に断って連れて来るなら、自分を起こしてから運ぶだろうと言う考えがあるからだ。単純に寝ていた自分に気を遣ってと言う事情もあるかもしれないが、やはりしのぶ達がこの事実を知っているかどうか知りたかった。

 

「……」

 

炭治郎の質問に、後藤隊士は答えなかった。後藤隊士に背負われている炭治郎の視点からでは後藤隊士の後頭部しか見えなかったが、視線を思い切り勢い良く逸らす後藤隊士の表情が明確に脳裏に反映されていた。

 

「もしかして……しのぶさん達は知らないんですか?」

 

「……置手紙は残しておいたから、大丈夫だと思うぞ。」

 

「…………」

 

後藤隊士が後ろめたそうに口にした発言内容を聞いて、炭治郎は静かに頭を抱えた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

東京府・蝶屋敷

 

大正二年(一九一三年) 三月十六日(日)

時間帯:朝

天気:曇り

 

「「「…………」」」

 

「むぅ――。」

 

蝶屋敷にある炭治郎の自室で、炭治郎の恋人達であるしのぶ達と実妹の禰豆子が居た。

 

しのぶ達の視線の先には、蛻の殻となっている炭治郎が使用していたと思われる布団一式があった。禰豆子はその布団一式の上に乗って、面白く無さそうにぽふぽふと叩いていた。

 

「!」

 

更に視線を向けていると、カナヲはある事に気付いた。布団の上に、一枚の紙が落ちていたのである。カナヲが指摘するとアオイがその紙を拾い、中身を広げて見せた。

 

 

おはようございます。御機嫌は……良く無いっすよね。

 

単刀直入に言うと、炭治郎を御館様の御屋敷に連れて行きます。

 

これは御館様直々の御命令ですんで、悪しからず。

 

『隠』の後藤より

 

 

次の瞬間、しのぶ達による声無き怒号が蝶屋敷にある炭治郎の一室で響き渡った。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「いきなりで悪かったね。炭治郎。」

 

「い、いえ。別に俺は気にしていませんから。」

 

炭治郎は耀哉と共に、整備された道を歩いていた。炭治郎と耀哉の二人だけでは無い。耀哉の愛妻であるあまねが耀哉を支える様に右側に控えており、輝利哉とかなたは炭治郎と手を繋いで歩いていた。

 

更に炭治郎の後ろを、二人の姉妹であるひなき、にちか、くいなの三人が羨ましそうに控えて歩いていた。

 

雨雲が厚く上空に展開しているので、『紙眼()』が日光に当たって焼け散る心配も無い。

 

「あの、御館様。どうして俺をお呼びになったんですか?」

 

「うん。輝利哉達がもっと炭治郎と一緒に居たかったみたいでね……それに蝶屋敷では、あまりゆっくり休めないんじゃないかと心配して呼んだんだよ。休暇だと思って、ゆっくり過ごして欲しい。」

 

「!……ありがとうございます。御館様。」

 

炭治郎は耀哉の配慮を聞いて中らずと雖も遠からずと思いながら、耀哉に向かって頭を下げた。

 

「えーと……これから俺達は、何処へ行くんですか?」

 

「うん。墓参りをするんだ。」

 

「お墓参り……ですか?」

 

炭治郎が復唱する様に呟いた後、耀哉が静かに頷いた。

 

「そう。今日まで戦って散って逝った、隊士(こども)達の墓参りだ。」

 

「!」

 

耀哉の説明を聞いて、炭治郎はハッとなった。

 

「耀哉様は毎日、お亡くなりになられた隊士の皆様の墓参りをなさるのが日課なのです。お身体が悪化してそれも難しくなっていたのですが……。」

 

「珠世が治療をしてくれた御蔭で、またこうして歩ける様になった。彼女には感謝しなくてはね。」

 

あまねが補足する様に説明をした後、耀哉は身体を動ける様になった事を珠世に感謝した。

 

「……でしたら、少し急いだ方が良いと思います。まだ大丈夫だと思いますけど、雨の匂いは確かにしますからっ!」

 

炭治郎は自身の胸中が少し熱くなった感覚を覚えた後、足を速めて先に進んだ。耀哉の体調を慮って無理の無い速度ではあったが。

 

 

 

♦︎

 

 

 

それから炭治郎は耀哉が鬼殺隊に所属する隊士の名前を一人残らず覚えていると言う事実を知って驚きながら、産屋敷家と墓参りを続けた。

 

墓参りを終えた後に、産屋敷本邸の使用人達が用意した朝食を堪能した。その際に炭治郎は次々とひなき達から食事を食べさせられて、少し困った様子ながらもそれを甘んじて受け入れた。

 

耀哉とあまねはそんな炭治郎達の様子を見て、嬉しそうに微笑んでいた。尤も、あまねの表情はあまり良く分からなかったが。

 

朝食後に炭治郎はひなき達と遊戯に専念した。当初は炭治郎達全員で手鞠を楽しんで遊んでいたが、雨が降って来たので早々に邸内に退避した。

 

それからままごとやカルタ取りなど邸内で、可能な室内遊戯に炭治郎達は切り替えた。ままごとでは誰が炭治郎の妻役をするかで少々揉めたが、結局全員が順番ずつ行った。その間、輝利哉が非常に退屈な時間を過ごす羽目になったと言うのは、最早言うまでも無い。

 

かくれんぼもしようと炭治郎が提案したが、嗅覚で何処に隠れても直ぐにバレてしまうと輝利哉達から指摘を受けて却下となった。

 

炭治郎は昼食を終えた後も、輝利哉達との遊びに専念した。日課の鍛錬を疎かにするのはどうかと一時悩んだが、休むのも鍛錬だと輝利哉達に説得されたので、炭治郎は鍛錬を忘れて輝利哉達との遊戯を楽しんだ。

 

それから夕食を共にした後、炭治郎は輝利哉達に共の風呂をせがまれた。室外の温泉は雨で入れなかったが、室内用の浴場があるので其処へ行こうと誘われたのである。

 

しかし耀哉が炭治郎と大事な話があると言って輝利哉達を止め、先に自分達だけで入浴を済ませ就寝に就く様にと強く言われてしまった。

 

流石の耀哉にそうと言われては輝利哉達も従わざるを得ず、残念そうにしながらも耀哉の言い付けに従った。

 

 

 

♦︎

 

 

 

東京府・産屋敷邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十六日(日)

時間帯:夜

天気:雨

 

「……」

 

額に特徴的な痣を持つ鬼殺隊の隊士、竈門炭治郎は産屋敷本邸の邸内を歩いていた。

 

床を踏んだ際にギシギシと音が鳴るが、ザーザーと強い降雨の音が炭治郎の足音を掻き消していた。

 

「…………っ……。」

 

炭治郎は途中で足を止めて立ち止まったが、再び歩き出した。その表情からは、困惑と緊張が見て取れた。

 

それから暫く産屋敷本邸の邸内を歩いていると、ある場所へ到着した。

 

「着いた……着いちゃったよ……。」

 

炭治郎が困った様子でそう呟きながら、前方にある建物を見た。

 

その建物とは炭治郎が最愛の恋人達であるしのぶ、アオイ、カナヲ、蜜璃、そして実妹の禰豆子と身体を重ねた産屋敷別邸であった。

 

「スゥ――――ハァ――――」

 

炭治郎は深呼吸をした後、ゆっくりと襖を開けた。産屋敷別邸の室内には、既に炭治郎以外の人物が先に入室していた。

 

「お待ちしておりました。竈門炭治郎様。」

 

其処には炭治郎達の主人とも言える、鬼殺隊の首魁にして産屋敷家現当主、産屋敷耀哉の愛妻のあまねが正座して座っていた。そんなあまねが、正座をしたまま炭治郎に一礼する。

 

――どうして、こんな事に……。

 

炭治郎は単純な動作にも関わらず、気品すら感じるあまねの姿に見惚れながら、これまでの経緯を思い出していた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「炭治郎、今日は輝利哉達と沢山遊んでくれてありがとう。」

 

「いえ。俺も楽しかったです。何も気にせずにあんなにのんびりとした日を過ごせたのも、久しぶりですから……。」

 

炭治郎はそう言うと、ちらっと後ろを見た。その視線の先は、自身の背中を見ようとしている様に見えた。

 

「禰豆子が居ない事が気になるかな?」

 

「えぇ、まぁ……。」

 

耀哉の指摘を受けて、炭治郎は言葉を濁しながらそう言った。

 

「でもしのぶさん達が禰豆子の面倒を見てくれてるから、心配は一切してません!」

 

炭治郎がキリっとした表情を浮かべてそう言うと、耀哉は面白そうにクスッと笑みを浮かべた。

 

実は炭治郎達が朝食の最中に、しのぶから鎹鴉を通して手紙が届いたのである。其処には一行だけ、「禰豆子さんのお世話は私達が全力でしますから、ゆっくりお過ごし下さい。」と書かれてあったのだ。

 

常に禰豆子を傍に置いておきたいと考えている炭治郎であったが、最愛の恋人達であるしのぶ達にそう告げられては全面的に信頼も信用もしない訳が無かった。

 

「それ以上に……その後の皆の事で、俺は驚きましたよ。」

 

「そうだね。」

 

炭治郎がそう言うと、耀哉が静かに首肯して頷いた。しのぶ達の手紙は、朝食の時だけでは無かったのだ。その後、昼食の最中にしのぶ達から再び鎹鴉を通して一通の手紙が届いた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

その内容は、珠世と愈史郎の歓迎会に出席した行冥達のその後について書かれてあった。

 

行冥は獪岳と沙代を連れて、自身が住む岩屋敷と呼称されている自身の屋敷に帰ったと言う。獪岳には次期柱候補の一人として、自ら修行を課すらしい。

沙代は住む当ても無く、また行冥と再び一緒に暮らしたいと言う本人希望もあって移住が決定したそうだ。

 

次に天元は何と、善逸を継子に指名して半ば強制的に自身と愛妻の雛鶴達と住む音屋敷と呼称されている自身の屋敷へ帰ったそうだ。

その際に善逸が五月蠅く喚き散らしていたらしいが、天元が拳骨を一発喰らわして気絶させて沈黙させたとの事だ。

 

次に実弥は和解した実弟の玄弥、そして耀哉に強制的に継子に指名された愈史郎、最後に何と伊之助も連れて自身が住む風屋敷と呼称されている自身の屋敷に帰ったと言う。

しのぶ達の手紙曰く、天元に継子に指名されて連れて行かれた善逸の様子を羨ましそうに見送ったらしく、そんな伊之助の様子を見て自分の下で修業しないかと実弥が誘ったらしい。伊之助が駆使する獣の呼吸も、風の呼吸の派生である事も大きな理由であった。

伊之助は実弥の誘いを喜んで受け入れ、嬉々として実弥の後を付いて行ったそうだ。対照的に、愈史郎はかなり嫌々とした様子で実弥と共に蝶屋敷を出て行ったと手紙には書かれてあった。

 

特筆されていた柱はこの三人だけで、他の義勇、小芭内、蜜璃、無一郎に関しては何も書かれていなかった。

 

その代わり、獪岳と善逸の育手である慈悟郎は何と蝶屋敷にそのまま滞在する事になったそうだ。

曰く、自身の屋敷に帰っても何もする事は無く、それならば負傷から復帰に向けて訓練する隊士達の訓練教官になった方が有意義ではないかと珠世に提案されたのだと言う。

しのぶも滞在許可を出した事もあって、慈悟郎も初日から鬼教官となって隊士達を扱いていると手紙には書かれてあった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「珠世と愈史郎が来てくれて、鬼殺隊は一気に変貌を遂げた。それも、大変良い方向へ……。」

 

「はい。御館様が仰る様に、とても良い方向へ向かっていると思います。これも全部、珠世さんと愈史郎さんの御蔭です。」

 

耀哉の言葉を聞いて、炭治郎は直ぐに賛同した。

 

「……あまね」

 

「はい。」

 

耀哉の賛同を聞いた後、背後に静かに控えていたあまねを近くまで呼び寄せた。すると耀哉はあまねの耳元まで、顔をゆっくりと近付けた。

 

()()に手紙を出しておいてくれ。それから君は、()()()()へ……。

 

「!!……承知致しました。」

 

あまねは一瞬だけ両眼を見開いた後、直ぐに元の無表情に戻って一礼してから部屋を退室した。

 

「……」

 

炭治郎は耀哉があまねに何を言ったのか気になったが、声が小さくて聞こえなかった。其処へ意識が囚われた炭治郎を他所に、耀哉は炭治郎に話し掛けた。

 

「炭治郎。早速だけど、本題に入っても良いかな?」

 

「え? 本題?……はい、大丈夫ですっ。」

 

耀哉に声を掛けられた炭治郎は、慌てて背筋を伸ばして耀哉と正面を向いた。

 

「私が君を呼んだのは、他でも無い。君にしか頼めない頼み事があるからだ。」

 

「!!」

 

耀哉から頼み事があると聞いた瞬間、炭治郎の表情に緊張感が宿った。炭治郎が緊張するのも、無理も無い。

 

鬼殺隊の頂点に立つ首魁であるから、と言う理由だけでは無い。これまでの経緯から炭治郎はこれまで二度に渡って、自身の度肝を抜く提案を耀哉から受けている。

 

やれ血脈保存の為に鬼殺隊を辞職しろだの、その血脈保存の為にお見合いを受けろだのと自身の判断力の許容範囲を容易に超えて来る無理難題を言われているのだ。

 

「ごめんね。炭治郎。何度も君に無理な事を言って。」

 

「……いえっ。大丈夫です。御館様からの頼み事でしたら、喜んで引き受けます。」

 

炭治郎が耀哉にそう言ったのは、何も上辺だけの返事では無い。本心から敬愛する耀哉に、炭治郎は尽力したいと願っている。

 

「……と言っても、俺に出来る事なんて限られてますけど。」

 

尤も、炭治郎の力に叶えられる頼み事と言う範囲に限定されるが。幾ら炭治郎がお人好しと言っても、出来ない事を出来ると言える様な不誠実な性格はしていないのだ。

 

「あはははっ。大丈夫だよ……これは()()()()()()()()()()事だから。」

 

「えっ? 俺にしか?」

 

耀哉が口にした内容を聞いて、炭治郎の胸中に疑問が宿った。耀哉は一体、自分に何を頼む心算なのだろうと。

 

「うん。その通りだ……実はね。」

 

耀哉は一呼吸置いてから、頼み事と言う本題を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耀哉が口にした炭治郎への頼み事と言うのは、これまでとは別の意味で比較にならない程の驚愕すべき内容であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「炭治郎。君にあまねを抱いて欲しいんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………………は?」

 

炭治郎が耀哉の内容を聞いて、理解するのに時間が掛かった。否、炭治郎は未だに内容を理解出来てない。寧ろ言われた内容を飲み込む事すらやっとであった。

 

「……炭治郎。君にあまねを抱いてやって欲しいんだ。匂いで分かるだろうけど、私は言っている事は冗談でも何でも無い。大いに真面目な話だ。」

 

「冗談、な訳ありませんよね……っ……本気で言っているんですかっ。」

 

「ああ、本気だとも。」

 

「っっ。」

 

耀哉の声色からその真剣さを感じ取った炭治郎は、何も言えずに口を噤んでしまう。

 

「スゥ――ハァ――。」

 

炭治郎は自身を落ち着かせる為に、一度深く呼吸を吸って深呼吸を行った。

 

「っっ……御館様は、あまね様を愛していないのですか?」

 

「いいや、愛しているよ。心から彼女を、私は愛している。」

 

「だったら、どうしてっ……っ!」

 

「愛しているからこそ、手放さなければならないんだよ。炭治郎。」

 

「!?」

 

耀哉が応えた内容を聞いて、炭治郎は再び驚愕する。そんな炭治郎に、耀哉は畳み掛けて行く。

 

「例えば炭治郎。君が死んだとして……しのぶ達には自分への貞操を貫いて一生独り身を貫いて最期まで生きて欲しいかい? それとも……自分の事など忘れて、幸せに生きて欲しいと願うかな?」

 

「そ、それはっ!……っっ。」

 

耀哉の質問に、炭治郎は即答する事が出来なかった。

 

「私はあまねが生きて、幸せになって欲しいと思っている。例え他の男性と結ばれ、私の事を忘れてしまっても私は構わない。」

 

耀哉は其処まで断言すると、一呼吸おいてから『紙眼()』で闇夜に降り注ぐ雨を見ながら話し始めた。

 

「炭治郎。君は産屋敷家に関して、輝利哉から聞いているね?」

 

「っ!……え、えぇ。輝利哉君から聞いてます。」

 

「なら産屋敷家の人間(私達)が短命である事も、知っているかな?」

 

耀哉から尋ねられた炭治郎は、静かに首肯した。そんな炭治郎の様子を見て、満足気に耀哉は一度頷いた。

 

「なら良いんだ。それを踏まえて聞くけど……私の母や祖母、曾祖母はどうなったと思う? 因みに言うともう皆、もうこの世には居ないんだ。」

 

「御館様のお母さんやお祖母ちゃん、ですか? それは…………あれ?」

 

炭治郎は耀哉の質問に答えたが、自分自身で思い付いた回答を口にしようとして、即座に疑問を浮かんだ。

 

「えっ? あれ? でも……何でっ?」

 

炭治郎は自身の胸中で、困惑が生まれている事をはっきりと自覚していた。そう、耀哉の母や祖母に当たる女性達は、産屋敷家の外部の人間である。呪いとは関係無いため、耀哉の年齢を考えれば存命の筈なのだから。

 

「すみません。分かりません……御病気か何か、でしょうか?」

 

「いいや、違うよ……その方が、どれ程良かっただろうね。」

 

「!!」

 

耀哉は寂しそうに、そう言った。炭治郎は余計な事を言ってしまったかと後悔したが、それ以上に耀哉が口にした言葉の内容が気になった。

 

「鬼舞辻無惨と千年以上戦い続けて来た産屋敷家に、生まれてしまった忌むべき悪習……何時から始まったかまでは分からないけれど、当主が死んだ場合、その妻は殉死する事になっているんだ。」

 

「!!?!?」

 

隠されていた産屋敷家の闇と言える悪習を知り、炭治郎は驚愕し愕然となった。

 

「ただ、勘違いしないで欲しい。これは誰も強制をした訳でも無い。ただ、歴代の当主の妻は自主的に後を追って殉死している。そして悲しい事に、この流れは今日まで止められていないんだよ。私の母も祖母も曾祖母も皆、父と祖父と曾祖父の後を追って毒を飲んで死んだ。」

 

「……っ。」

 

罪悪感の匂いを漂わせながらそう言った耀哉に、炭治郎は悲しい気持ちを抱いた。

 

「……あまね様も、御館様の後を追うと言ったんですか?」

 

「私はしないで欲しいと伝えたのだけどね……あまねは意外と、頑固な一面があるから……。」

 

耀哉はそう言うと、疲れた様子で溜息を一息吐いた。耀哉の様子から自身を想ってくれる事を嬉しく思う反面、生きて欲しいと言う願いが複雑に織り交ざっている様に炭治郎は感じた。

 

「其処であまねに一つ、私から賭けを持ち掛けたんだ。」

 

「賭け?」

 

炭治郎は耀哉の意図が理解出来ず、思わず首を傾げた。

 

「そう、賭けだ……あまねが炭治郎に抱かれて私への想いが揺らがなければ、殉死を認める。もし少しでも炭治郎に心変わりしたなら、殉死はしないという賭けをね。」

 

「…………」

 

炭治郎は耀哉からあまねとの賭け事の内容を聞いて、思わず頭を抱えた。

 

「と言う訳で、炭治郎。私の事は気にせず、人助けも兼ねてあまねを可愛がってやっておくれ……しのぶ達が夢中になる程の君の手練手管に、私は期待しているんだ。よろしく頼んだよ。ああ。それから風呂には入らずに、真っ直ぐあまねの下へ向かって欲しい。その方が良いと、私が思うから。」

 

「………………はい。」

 

話の一連を聞き終えた炭治郎は、力無く耀哉に返答して一礼するのがやっとであった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「おっ……お邪魔させて頂きます。」

 

炭治郎は緊張しながら、産屋敷別邸の室内に入室した。それからあまねの正面に、炭治郎は正座して座った。

 

「竈門様。」

 

「ひゃいっ!!」

 

あまねに呼ばれた炭治郎は、思わず飛び上がりそうになりながら急いで返事をした。その際に少し噛んでしまったが、この際どうでも良かった。

 

「先ずは私達夫婦の問題に巻き込んでしまった事を、心よりお詫び申し上げます。誠に申し訳ございません。」

 

「!!!」

 

あまねが土下座をして炭治郎に謝罪をしたので、炭治郎は大いに慌てた。

 

「頭を上げて下さいっ! 俺だって、断れば良いのにこうして何だかんだ言いながら引き受けてしまってますからっ!……っ!!」

 

炭治郎が慌てながらそう言うので、あまねはゆっくりと頭を上げてた。

 

「いえ。私の方こそ、引き受けて頂けて感謝しているのです……これで竈門様に抱かれても何とも思わなければ、好きにして良いと耀哉様からお言葉を頂いておりますので。」

 

「…………」

 

あまねが炭治郎に抱かれる事がまるでどうでも良い様に聞こえて、炭治郎は男としての『何か』に響くものがあると思いながらも敢えて聞き流した。

 

「……それから、一つだけお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」

 

「っ! はい。何でしょうか?」

 

「……私は身体は、竈門様の好きになさって頂いて構いません。……ですが接吻だけは、しないで頂きたいのです。どうかお許し願えないでしょうか?」

 

「……分かりました。」

 

あまねの懇願に等しい頼み事を聞いて、炭治郎は直ぐに力強く首肯して承諾した。

 

「感謝致します。では……。」

 

あまねは僅かばかりに安堵の表情を浮かべると、着用していた寝間着を脱いだ。

 

「!?」

 

炭治郎は両眼を見開いて驚愕しながら、全裸になって座るあまねの姿を見た。

 

僅かな蝋燭の明かりで照らされているあまねの裸体は、逆に幻想的に映っている様に見えた。これで天気が晴れて月明りであまねの裸体が照らされていたならば、更に神秘的な光景だっただろうと炭治郎は思った。

 

「胡蝶様達と比べたら、歳を食い張り艶も無い身体でしょう。竈門様も食指が動かないであろうと思われますが……。」

 

「そんな事は無いですっ! 全くありませんっ! あまね様は、とっても美しいですっ。」

 

卑屈に自身を評価するあまねに、炭治郎は慌ててそれを否定してあまねの美しさを評価した。

 

「と言うか、あまね様はまだ二十七歳じゃないですか。まだ十分、お若いですよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

炭治郎の称賛を聞いて、あまねは頭を下げて感謝を述べた。

 

「見るだけでなく、お好きな様にどうぞ。」

 

「……はい。」

 

あまねに促された炭治郎は、右手を伸ばしてあまねの左乳房を揉んだ。

 

――張りがあるな……でも硬いだけじゃない。揉んでて気持ち良い……。

 

炭治郎は右手だけで左乳房を何度か揉んだ後、左手も伸ばしてもう片方の右乳房も同時に揉み始めた。それから時折、親指と人差し指で優しく乳首を挟む様に摘まむ。

 

「……」

 

自身の乳房を揉むそんな炭治郎を、あまねはただ静かに見下ろしていた。

 

「……はむっ。」

 

そんな様子のあまねに気付かないまま、炭治郎は乳房を揉んだまま右乳房を口に咥えて吸い始めた。

 

「ちゅうっ……ちゅううっ。」

――……んっ?

 

そのまま吸っていると、炭治郎は漸くこの状況に違和感を覚えた。

 

――凄く静かだ。何故?

 

産屋敷別邸の室内では、炭治郎が乳首を吸う水音しか聞こえない。

 

これがしのぶ達であれば、熱い吐息と幸福の香りを共に嬌声を上げている場面だ。だと言うのに、とても炭治郎が知っている情交(セックス)とは思えない程の静寂であった。

 

「(チラッ)……っ!?」

 

炭治郎が乳首を口に咥えたまま、両眼だけを動かしてあまねの表情を伺った。すると其処には、無表情に炭治郎を見下ろしているあまねの姿があった。

 

「はっ……っ……あまね様、気持ち良く無かったですか?」

 

「いえ、別にその様な事は……ただ、赤ん坊の頃の輝利哉達に母乳(ちち)を与えていた頃を思い出しておりまして。」

 

乳首から口を離した炭治郎がそうあまねに尋ねると、あまねはそう言って炭治郎がにそう応えた。

 

「!!」

 

その際に炭治郎は、あまねから嘘の匂いを感じ取った。輝利哉達に母乳を与えていた頃を思い出していたのは、嘘と言う訳では無い。炭治郎の質問に否定した際に、嘘の匂いを感じ取ったのだ。

 

つまり、あまねは炭治郎の愛撫に何も感じていなかったのである。更に輝利哉達に母乳を与えていた頃を思い出す余裕すらある事が、炭治郎の自信に傷を付けた。

 

「っ…………あまね様。仰向けに横になって、足を広げて頂けますか?」

 

「分かりました。」

 

炭治郎は乳房への愛撫を止めて、あまねに秘部を広げる様に頼んだ。あまねは抵抗する事無く、無造作に両足を広げて秘部を炭治郎の前に広げて見せた。

 

「これでよろしいでしょうか?」

 

「はい。綺麗ですね……此処から、輝利哉君達が生まれて来たんだ……。」

 

「その通りです。」

 

炭治郎が口にした感想を耳にしても、あまねは羞恥心を抱く事無く応えた。

 

「……」

 

炭治郎は何も言わず、あまねの秘部に顔を埋めて口淫を始めた。それも態と音を立てて、嫌らしく秘部を嘗め回し始めた。

 

「……何だか、子犬に舐められているみたいですね。」

 

「!!?」

 

しかし先刻と同様、室内に炭治郎が立てる水音が鳴り響くだけであまねから一切の嬌声は上がらなかった。それどころか、あまねは何とも思っていない様子でその様に感想を述べた。

 

――あまね様、もしかして感じないのか?

 

炭治郎はあまねの特異性を感じて、困惑しながらも秘部への愛撫を続ける。しかし、あまねからは一向に変化が起きる様子が無い。

 

――……ううん。不感症……かと思ったけど、もしかして経験が無いからかな。御館様、激しい動きは出来ないだろうし。

 

炭治郎はある書物で不感症の文字を思い出してそうなのかと思ったが、考えを改めた。余談だがアオイが所有していた艶本に、不感症に関しても記述があった。しかし当時は他人事と思っていたので、まさかこの様な形で関わるとは炭治郎も思ってはいなかった。

 

そして炭治郎が後から予想した考えが、実は的中していたりする。

 

耀哉とあまねの初夜は実に淡白なもので、愛撫らしい愛撫の無く挿入して射精するという実に呆気ないものであった。それでもあまねが輝利哉達を授かる事が出来たのは、あまねの危険日を正確に計算し更に産屋敷家に代々伝わる排卵剤を摂取していたからであった。

 

この日以降、耀哉があまねと情交(セックス)をする事は無く、あまねも半ば女を捨てていたのである。子を作って早死にするという事情があれば、それも仕方がないものだと思われる。しかしそれは夫婦としてはあまりにも、淡白過ぎるものだった。

 

――いや、まだ何とかなる筈だ。

 

炭治郎は気を取り直しつつ、あまねの秘部から口を離した。

 

「あまね様、失礼します。」

 

炭治郎はあまねの身体を頭から足まで一度見渡した後、優しく確認する様に触れ始めた。

 

――何処にある? あまね様が敏感に感じる場所は……。

 

炭治郎はあまねの反応に注意しながら、身体をあちらこちらを触ってあまねの反応を確認し始めた。

 

炭治郎はこれまでしのぶ達と情交(セックス)をする時も、身体を触れて敏感に感じる場所を探しその反応を楽しんでいた。尤も、しのぶ達は敏感で何処に触れても感じてくれていたので、その必要性も薄れて忘れ掛けていたのだが。

 

「……」

 

炭治郎があまねの身体をあちらこちら触る中、あまねはただ炭治郎を無言で見下ろすだけだった。そんなあまねの態度が、炭治郎に焦燥感を抱かせて行く。

 

――……あっ!

 

対応に難儀している炭治郎であったが、その際にある事を思い出した。

 

それは不感症に関して書かれてあった、同じ書物に書かれてある事でもあった。

 

「……あまね様。すみませんが、身体を起こして下さい。」

 

「分かりました。」

 

両足を広げて秘部を晒していたあまねは、炭治郎に言われるがまま身体を起こしてそのまま座った。

 

「失礼します。そのままじっとしてて下さいね」

 

「?」

 

炭治郎はあまねの左側にそのまま移動すると、ゆっくり座り込んだ。そして徐に、あまねの左腕を掴んで上に上げた。

 

「……!? 竈門様、何を。」

 

「失礼します。れろっ……。」

 

「!!」

 

炭治郎はあまねの左腕を掴んで上げると、あまねの左側の脇が露わになった。炭治郎は直ぐ様、顔を埋めて左脇を舐め始めた。

 

「あっ!……かま、ど……さまっ!」

 

「!!!」

 

炭治郎は産屋敷別邸に入って初めて、あまねから感情の乗った声を耳にした。その声色には、困惑と快感が宿っていた。

 

――やっぱり……此処が、あまね様の性感帯なんだ。

 

炭治郎はあまねの脇を舐めながら、嬉しそうにそう思った。

 

のだ。しかし不感症と見せ掛けて、常人よりも感度や性感帯が異なる事に関しても記述があった。

 

其処で炭治郎はあまねの性感帯がしのぶ達と異なる場所にあるのではないかと考え、先ずは脇を攻める事にしたのである。

 

――さて、他には無いかな? あまね様の性感帯……。

 

炭治郎はあまねの脇を舐めながら、ゆっくりと右手をあまねの背中に回した。そして右手を添えると、そのまま指を密着させる様に背中を優しく撫で始めた。

 

「んんんっ!!?」

 

「!」

 

炭治郎が背中を撫でると、あまねはビクッと身体を震わせた。それを見て、炭治郎は再び嬉しそうに微笑んだ。

 

――二つ目、見付けた……何かお宝探ししているみたいで、楽しくなって来たなぁ♪

 

当初抱いていた焦燥感などは何処へ行ったのかと問い詰めたくなる程、炭治郎は一転して機嫌が良くなっていた。

 

それから炭治郎はあまねの性感帯が他にも無いか、注意深く探し始めた。

 

その結果、耳の裏と首筋もあまねの性感帯である事が分かったのである。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「あまね様っ……ちゅっ、ぢゅうっ……ちゅううっ。」

 

「んふぅっ!? んんっ!……あっ、あぁああっ!?」

 

炭治郎はあまねの首筋に顔を埋め、執拗に舐めたり吸い付いたりしていた。調子を取り戻し始めた炭治郎は、愛撫の最中に考え事を行う余裕すら出てき始めている。

 

――確かあの艶本(ほん)には、感度が低い人の治し方も書いてあったな。今回はその応用が利きそうだ。

 

炭治郎は更に右手であまねの乳房を揉み、先端の乳首を優しく摘む。そして左手は優しく中指の腹で背中を撫で続けていた。

 

「ああっ!……嘘っ、何か来るっ…………~~っっ!!!」

 

「!!」

 

あまねは突如、身体を大きく震わせた後に動かなくなった。そんなあまねを見て、炭治郎も愛撫するのを止めてあまねを見た。

 

「はぁっ……はぁっ……一瞬、視界が真っ白に染まって……い、今のは一体……。」

 

「あまね様は、イったんです。つまり絶頂したんですよ。それだけ、気持ち良くなってくれたって事ですよね?」

 

「!!」

 

息も絶え絶えにしながら困惑するあまねに、炭治郎はあまねの現況に関して指摘した。炭治郎に指摘されたあまねは、驚愕するのを隠せなかった。

 

「あまね様は、身体の一部分だけ敏感みたいです……だから暫くの間、他の部位でも感じられる様に愛撫を続けますね。」

 

「か、竈門様っ。どうかお待ちを、あぁっ!」

 

炭治郎を静止しようとするあまねの声を無視して、炭治郎は再び愛撫を続けた。

 

炭治郎は敏感な部位と鈍感な部位を同時に愛撫する事で、鈍感な部位の感度を回復させようと試みているのである。この方法も、アオイが所有していた艶本の一冊に記載されていた方法であった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

それから暫くの間、炭治郎は執拗なまでにあまねに愛撫を続けて行った。そしてあまねは、休む間も無く幾十回と絶頂を繰り返す事となったのである。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……っっっ。」

 

炭治郎の手で繰り返し絶頂させられたあまねは、肺に新鮮な酸素を送り込もうと荒々しく呼吸を繰り返していた。

 

「気持ち良かったですか? あまね様。」

 

「!……っ。」

 

炭治郎は他意など一切無く質問した事であったが、あまねは答えずにそっぽ向いてしまった。しかしその行動自体が、肯定していると言っても過言では無かった。

 

「なら良かったです。それにしても……っ。」

 

炭治郎は何かを言おうとしたが、逆に口を噤んでしまう。その理由は、あまねの全裸にあった。

 

あまねの全裸を見た当初は、彫刻などの芸術作品の様な美しさを感じていた。逆に言えば、色気が感じられず人形の様であった。

 

しかし、現在のあまねは違った。炭治郎によって何度も愛撫をされて絶頂を繰り返した結果、その裸体には赤み掛かった熱量が生じていた。薄っすらと見える汗も相俟って、より肉感が表現され人間らしい美しさと色気を発生させていたのである。

 

「……(ゴクッ)」

 

炭治郎としては、現在のあまねの方が好みであった。あまねの裸体を見て生唾を飲み込み、自身の逸物が膨らむのを感じ取った。

 

「あまね様だけ全裸(はだか)なんて、不公平ですよね。すみません。俺も今から脱ぎますから。」

 

炭治郎はそう言うと、急ぎ隊服を脱ぎ捨てて行く。

 

「はぁ……はぁ……っ……ひっ!?」

 

呼吸が落ち着いて来たあまねであったが、自身の両眼にある光景が写った時、思わず悲鳴を上げてしまった。

 

「どうかしました?」

 

「そ、それは何なのですかっ?……っ!」

 

あまねの短い悲鳴を聞いた炭治郎が心配そうに尋ねると、あまねが身体を少し震わせながらある一点に向って右人差し指で指差しをした。

 

右人差し指の先には、炭治郎の勃起した逸物の存在があった。

 

「何って……俺の男性器ですけど?」

 

「嘘っ……そんなっ。私が知っている男性器(もの)とは、全然違う……っっ。」

 

キョトンとしながら答える炭治郎に、あまねは当惑を隠す事が出来ずに思わず呟いてしまう。その呟きを、炭治郎ははっきりと耳にしていた。

 

――御館様と比べられたのかな?……どうしてだろう? 勝っても嬉しく無いや。ははっ。

 

心中で複雑な笑みを浮かべつつも、表面には出さずにゆっくりとあまねに接近し左手の指を優しく挿入する。

 

「あっ!?」

 

「これだけ濡れていたら、大丈夫ですね。じゃあそろそろ……。」

 

炭治郎はあまねの秘部の濡れ具合を確認した後、左手で自身の逸物を握ってあまねの秘部へと狙いを定めた。

 

この炭治郎の行動に、あまねは焦燥感を抱いた。

 

「なっ!?……そっ……まっ。」

 

「あまね様は、好きにして良いと言いましたよね?……なので、好きにさせて頂きますっ!」

 

あまねが制止の声を上げようとするのも黙殺し、炭治郎は自身の逸物をあまねの秘部へと挿入した。

 

「あああぁぁぁぁっ!!??」

 

炭治郎に規格外の逸物を自身の秘部に挿入されたあまねは、その逸物から発生する圧迫感と熱量を直に感じてこれまでは比較にならない嬌声を上げた。

 

「ふうぅぅっ……思っていたよりも、きついですね……。」

 

「あっ……あぁっ。」

 

炭治郎はあまねの秘部の締め付け具合を感じて、思わず腰を震わせる。一方のあまねは、挿入時の衝撃に両眼が点になっていた。

 

そんなあまねに構わず、炭治郎は即座に次の行動に移った。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「んああっ!……くうふぅっ!?……ああぁんっ!」

 

炭治郎が始めた反復動作(ピストン)を受けて、あまねは我に返り幾度と襲って来る衝撃に嬌声を漏らし続ける。

 

「あまね様……気持ち良いですか?」

 

「ひぃあんっ! ああぁっ! んふうぅっ!?」

 

炭治郎の問いに、あまねは答える余裕が無い。自身の愛撫でも何も感じなかった当初とは違い、現在では自身の反復動作(ピストン)に感じてくれている事を嬉しく思いながら、炭治郎は続けていた。普段ならばもっと激しくしているが、今回はあまねに考慮して比較的優しめであった。

 

「あぁっ! あうぅっ!!……っっっ!!!」

 

その為か暫く炭治郎が反復動作(ピストン)を続けていると、あまねに耐性が僅かながら付いた様で顔を動かすと炭治郎と目が合った。

 

「嫌っ! 見ないでっ……見ないで下さいっ……っっ!」

 

「!!?」

 

しかし次の瞬間、あまねは明確な拒絶を示しながら顔を隠す様に両手で顔を覆った。あまねがそう言うのを聞いて、炭治郎は思わず動かしていた腰を止めてしまう。

 

「あまね様っ?……。」

 

「っ!!……すみません。竈門様……っっ。」

 

あまねはそう言って炭治郎に謝罪したが、自身の顔から両手を離そうとはしなかった。

 

「……いえ、大丈夫ですよ。あまね様。」

 

炭治郎はあまねから罪悪感の匂いも同時に嗅ぎ取った。其処で炭治郎の脳裏では、ある推測が浮かんでいた。

 

――御館様じゃなくて俺に抱かれてるから、顔を見られたくないし俺の顔も見たくないのかな。

 

炭治郎はそう思うと悲しくなるが、同時にあまねの気持ちも理解出来るので何も言えなかった。

 

――……そうだっ!

「あまね様、こうしましょう!」

 

「はい? んあぁっ!?」

 

炭治郎は逸物を挿入したまま、クルリとあまねの身体を器用に動かして俯せの態勢にした。それからあまねの豊満な乳房を、両手で鷲掴みにする。

 

「これで俺の姿を見る事はありません。御館様に抱かれてると思って、気持ち良くなって下さいっ!!」

 

「んあああぁぁっ!? 待って、駄目っ……あっ! ああああっ!!」

 

炭治郎は鵯越え(後背位)で再び、勢い良く反復動作(ピストン)を再開させた。肉がぶつかる音が産屋敷別邸の室内で響く中、あまねの嬌声も更に声量が大きくなって室内に響いていた。

 

「はうぅっ! あううぅっ!!」

――駄目っ……後背位(この体勢)だと却って、竈門様の逞しい御身体を……殿方の匂いを、男性器の大きさを意識してしまう……何とか、しないと……。

 

炭治郎から責められているあまねは、襲って来る快楽に抗いながら何とかこの状況を打開しようと思考を巡らせていた。

 

「ああぁぁっ! あああぁぁんっ!」

一ああ、何も出来ないっ……竈門様に一突きされる度に、私の中で何かが上書きされて行くっ……。

 

しかし快楽に抗えず、あまねはただ嬌声を上げる事しか出来なかった。

 

「ああんっ!……あっ!? 何か、私の膣内(なか)で膨らんで……。」

 

「あまね様っ……うぅっ! そろそろっ、射精()しますっ!」

 

「ひっ!? ま、待って下さいっ! そんな事をされたら、私はっ!……あっ!?」

 

あまねは炭治郎が射精すると聞いて、慌てて止めようとした。しかしそれで炭治郎も止まる筈も無かった。更に自身の子宮が異様な熱を帯びた事に困惑し、声を止めてしまう。

 

 

 

ビュルルルルルルルルウウウウウウウウウゥゥゥッッッッ!!! ビュルルルルウウウウウウウウゥゥゥぅぅぅッッッッ!!!

 

 

 

「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!???」

 

其処へあまねは白濁の溶岩と表現出来る様な、炭治郎の精液の熱量を子宮に浴びて大きく絶頂した。

 

「う……そっ。何なの……この量……あぁっ……ああぁぁぁまたんああぁぁぁっ!!!」

 

あまねは耀哉とは比較にならない子宮が溺れる程の精液を受けて、絶頂したばかりにも関わらず再び絶頂した。

 

「があぁっ……絞り取られる……。」

 

炭治郎は口元から涎を一筋零し豊満な乳房を鷲掴みにしながら、射精の快感に腰を震わせて精液をあまねの子宮に目掛けて射精を続けていた。

 

――あぁ……膣内(なか)に……出されてしまった……信じられない量…………っっっ。

 

あまねは半分放心状態になりながら、自身の現況について見詰めていた。そして分かってしまった事が二つ程あった。

 

――っ!!……何なの。この感覚は……私は……っっ。

 

一つは、自分の中で何かが満たされた様な満足感であった。例えるならば、乾いた大地に恵みの雨が降り注いだ様な渇きの解消だった。

 

「……っ!?」

――まさかっ、そんな……どうしてっ。まだ固くて大きいっ。一回出したのに……っ!

 

もう一つは炭治郎の逸物が未だに臨戦態勢にある事に、あまねは内心で戦慄していた。それは耀哉に一回射精されただけで終わった事実が、全ての男性に共通する事だという思い込みによるものであった。

 

「ふううぅっ……ふううぅっ!」

 

「あぁっ! んぁっ! そんなっ! またっ……んんんっ!!」

 

炭治郎が再び反復動作(ピストン)を始めた事で、絶頂の余韻が冷めやらぬまま、あまねに再び快楽の波が波状攻撃の状態で襲って来た。

 

「……っ!? えっ!?」

 

すると炭治郎が突然、驚愕の声を上げながらあまねの豊満な乳房から両手を離した。炭治郎の両手は何故か、白く染まっていた。

 

「すんすん……この匂い……母乳?」

 

「!」

 

炭治郎が懐かしさすら感じる母乳の匂いを指摘すると、あまねが横顔を炭治郎に向けていた。あまねの表情は、羞恥心から僅かに赤面していた。

 

「実は……輝利哉達を産んでからも、母乳は止まらず……定期的に絞っていたのです。でもどうして? この前、絞ったばかりなのに……。」

 

「……っ(ゴクッ)。」

 

あまねは乳首から零れる母乳に当惑の声を上げるが、炭治郎には聞こえなかった。あまねの母乳事情よりも、甘味すら感じる母乳がどんな味なのかが炭治郎にとって重要であった。

 

「あまね様っ!」

 

「ひゃああっ!?」

 

炭治郎によって、あまねは再び体勢を変えられた。そしてあまねは身体をクルリと仰向けの体勢に変えられ、更に臀部を両手で掴まれて身体を強制的に起こされた。

 

炭治郎の眼前で、あまねの豊満な乳房が再び姿を見せる。その乳房の先端の乳首からは、白色の母乳が溢れ出ていた。

 

「頂きます。あむっ。ちゅうううっ。ちゅうううぅぅっ!」

 

炭治郎はあまねの乳房に向かって、勢い良く吸い付いた。

 

「ああっ! かっ、竈門様ああぁぁぁっ……そんなにっ……吸われたらああぁぁっ!! はあぁぁんっ!」

 

炭治郎が吸い付いた事で、母乳が炭治郎の口内へと入って行く。当初は炭治郎に吸われて何とも思わなかったのに、感度が上昇した事で天を仰ぐ程の快楽にあまねは悶絶していた。

 

「ちゅううぅっ……んくんくっ……。」

――ほんのり甘い……それに何だか、懐かしい味な気がする……。

 

炭治郎はあまねの母乳を堪能しながら、再び腰を動かし始めた。産屋敷別邸の室内で、再び肉がぶつかる音が響き渡る。

 

「あああぁぁっ! あああぁぁぁっ!」

 

あまねはこれまで以上に強烈な快楽に、涎を一筋垂らしながら嬌声を上げつつ嫌々と頸を左右に振る事しか出来なかった。

 

 

 

ドビュビュビュビュルルルルルルルウウウウウゥゥゥッッッ!!! ビュビュビュルビュルルルルウウウウウウウウゥゥゥぅぅぅッッッッ!!!

 

 

 

「んあああああああぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」

 

炭治郎から白濁の溶岩を受けて、あまねは再び大きく絶頂した。

 

それからこれだけでは終わらず、炭治郎に続けてあまねは延々と攻められ続けられた。あまねは何度も絶頂を繰り返し口元は涎塗れであったが、後々に涎以外のあるものも流れ出ていた。

 

「ごめん、なさいっ…………あなた。」

 

あまねの右目からは、一筋の涙がゆっくりと目尻から流れ、ゆっくりと頬を伝う様に落ちて行った。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……んっ。」

 

あまねは気怠そうな声を上げながら、意識を取り戻した。

 

「!!」

 

意識が完全に覚醒したあまねは、飛び上がる様に勢い良く身体を起こした。どうやら炭治郎に抱かれている内に、意識を失ってしまった様だった。外からは雨音が聞こえるが、まだ暗いので朝を迎えた様では無かった。

 

「起きたんですね。あまね様。」

 

「!」

 

声が聞こえた方にあまねが顔を向けると、其処には炭治郎が居た。炭治郎の手には、水入りの茶碗が一杯あった。

 

「水、飲みますか?」

 

「……ええ。頂きます。」

 

あまねは炭治郎から茶碗を受け取り、一気に水を飲み干した。

 

「ありがとうございます。」

 

「如何致しまして。」

 

あまねは炭治郎に礼を述べると、炭治郎は笑みを浮かべながら空になった茶碗を受け取ってそれを片付けた。

 

「「……」」

 

それから炭治郎とあまねは何も話さず、沈黙だけが続いていた。それが五分ほど経過した後に、漸く変化が訪れる。

 

「「あのっ……っ!!」」

 

炭治郎とあまねが、異口同音に開口した。その事実に、二人は驚く。

 

「あっ、あまね様がどうぞっ!」

 

「……分かりました。私の話を、聞いて下さいませんか?」

 

炭治郎があまねに譲渡すると、あまねは礼を述べた後に炭治郎に尋ねた。

 

「勿論です。」

 

「ありがとうございます……これは一人の女の、他愛の話です……。」

 

炭治郎は即答で了承すると、あまねはある事を語り始めた。それは自身の半生に関してだった。

 

あまねの生家である神籬家は神職の名門であり、古くから産屋敷家に使える傘下の一つであったそうだ。

 

産屋敷家が妻を迎えるに辺り、神籬家の様な傘下の神職を十数家ほど抱えているらしい。

 

代替わりで各神職の名門が娘を産屋敷家当主の妻として嫁がせており、丁度自身の生家である神籬家がその順番に当たっていたとの事だ。

 

「ですが、私は耀哉様とは結ばれる予定はありませんでした。」

 

「!!」

 

衝撃の事実を知って驚愕する炭治郎を他所に、あまねは更に話を続けた。

 

当初は耀哉と同年齢の妹が、お見合いの後に耀哉と結婚する予定であった。長男である兄が神籬家の後継者である以上、自分に出来る事は無かった。

 

其処であまねが考えた産屋敷家への貢献方法が、鬼殺隊への入隊であった。

 

「あまね様、鬼殺隊の隊士だったんですか?」

 

「はい。これでも『(きのえ)』にまで、上り詰めていたのですよ。」

 

鬼殺隊で順調に出世して行ったあまねであったが、此処で想定外の事態が発生してしまう。

 

何と耀哉とお見合い予定だった妹が、生家の石階段から足を踏み外し転落死してしまったと言うのだ。

 

其処であまねが急遽、耀哉とお見合いをする事となったのである。

 

「耀哉様とお会いしたのは、その見合いの席が初めてでした……半ば強制的に見合う事になった私を耀哉様が『貴女が嫌なら私からこの話を断ります。』と仰って下さったのです。」

 

「私を思い遣るあのお言葉で、私は耀哉様との結婚を決意致しました……そして同時に決意したのです。この方が死ぬ時は、私も御傍に居ようと。」

 

「!!!」

 

あまねの決意を聞いて、炭治郎は思わず表情を強張らせた。

 

「ですがその決意も、無に帰してしまいました……夫を愛している、死んでも御傍に居るのだと言いながら、遊郭の遊女の様に快楽に溺れてしまったのですから……。」

 

「!」

 

表情が乏しかったあまねの顔色に、自嘲が宿った様に炭治郎には見えた。

 

「耀哉様に殉死をお許し頂く予定でしたのに、それも出来なくなってしまった……耀哉様が亡くなられた後は、私はどの様に生きて行けば良いのでしょう……。」

 

「……」

 

其処まで言ったあまねは、今にも泣きそうな様子である様に炭治郎には思えた。

 

「……俺は、それで良かったと思っています。」

 

「!!」

 

炭治郎の一言を聞いて、あまねは驚きながら炭治郎を見た。その表情には、僅かながら怒りがある様に見えた。炭治郎はそんなあまねに臆する事無く、あまねを真っ直ぐ見詰め返した。

 

「あまね様は御館様の事ばかり仰ってますけど……輝利哉君達の事を忘れ過ぎだと思います。」

 

「!!……あの子達には耀哉様と共に、厳しく教育を施しました。それこそ、私達が居なくなっても自立出来る様に……。」

 

「いいえ。それは間違ってます。あまね様。」

 

「!」

 

あまねの意見に対して、炭治郎は毅然と反論しそれを明確に否定した。

 

「どれだけ大人びて居ようと、輝利哉君達はまだ八歳の子供なんです。お母さんに甘えたいに決まっています……貴女も母親としての自覚があるなら、輝利哉君達の傍にいてあげるべきです。」

 

「……」

 

炭治郎の正論に、あまねは反論出来ずに俯いてしまう。

 

「すみません。あまね様の事を考えない言い方をして……だけどそれでも俺は、あまね様に生きていて欲しいです。」

 

炭治郎はそう言うと、申し訳無さそうに頭を下げた。

 

「……頭を上げて下さいませ。竈門様。」

 

「!!」

 

あまねに促されて、炭治郎は下げていた頭を上げる。すると自然と、あまねと視線を交えた。

 

「確かに、竈門様の仰る事は尤もでした。私があまりにも、身勝手過ぎました……。」

 

「い、いえ。其処まで言いたい訳じゃなくてですね……あまね様にも、生きて幸せになって欲しいんです。俺に出来る事でしたら、何でもしますからっ!!」

 

「!」

 

炭治郎は力強くあまねにそう宣言した。あまねは炭治郎の宣言を聞いて、思わず両眼を見開いた。

 

「何でも、して下さるのですか?」

 

「はい、勿論ですっ!」

 

炭治郎から確認を取ったあまねは、炭治郎にある事を尋ねようとする。

 

その内容は、炭治郎の背筋を凍らせるものであった。

 

「でしたら竈門様……此度の一件は、どの様に償って下さるご予定ですか?」

 

「……えっ?」

 

あまねが尋ねた内容を聞いた炭治郎は、内容が理解し切れずに当惑するしか無かった。

 

「私の身体をあれだけ弄び、欲望のままに子種を注いだのです。どの様にして、償って下さるのですか?」

 

「ええっと……それは、その……っっ。」

 

あまねの質問に、炭治郎は咄嗟に答えられなかった。焦燥感からか、炭治郎は全身から冷や汗が流れ続けている。

 

「……クスッ。」

 

「え?」

 

「あははははははっ!」

 

「!!」

 

突如あまねが声を上げて笑い出した事に、炭治郎は驚愕を隠せない。普段は表情が乏しいあまねがその様に笑うなど、普段から傍に居る耀哉達ですら見れば驚愕するに違いなかった。

 

其処で漸く、炭治郎は気が付いた。あまねからは怒りなどの匂いが一切していない事に。その意味は即ち、あまねはこの一件に関して怒ってなど居ないと言う証明でもあった。

 

「すみません。私はこうしろとか、何かを要求する心算はありません……でも。」

 

「でも?……っ!!」

 

あまねは其処まで言うと、両腕を炭治郎の頸に回して抱き着いた。

 

「竈門様……いえ、()()()様。」

 

あまねはそう言うと、右手を優しく炭治郎の頬に添えた。あまねの表情は、恋の味を覚えたての乙女の様に炭治郎には見えた。

 

「私に極上の快楽を……至極の熱を……女の喜びをこの身に焼き付け覚え込ませた責任、取って下さいましね? た・ん・じ・ろ・う・様❤」

 

「!!!」

 

あまねはそう言うと、優しく炭治郎と口付け(キス)を交わした。炭治郎は唯一拒絶されていた口付け(キス)に驚きながらも、直ぐにそれを喜んで受け入れた。

 

「ちゅっ…………はいっ! でしたら、早速っ!!」

 

「ああんっ! 炭治郎様ぁ❤」

 

あまねとの口付け(キス)を解いた炭治郎は、直ぐにあまねを押し倒して情交(セックス)を再開した。あまねも喜々とした様子で炭治郎を受け入れ、嬌声を上げ続けたのだった。

 

炭治郎はこれから定期的に、産屋敷家に訪問する事になる。日中は輝利哉達の遊び相手として。夜はあまねの情夫として、炭治郎は熱心に足を運ぶ事になるのである。




お待たせ致しました。

pixivユーザーだったSaiHaruki様のリクエスト『炭あまで寝取らせ』です。

当初はこのリクエストは不受理の予定でした。何せ、寝取られ系が嫌いな純愛派だからです。

しかしこうでもしないとあまねが救われない、私以外にこの先書いてくれる作者は居ないから頼むと懇願され、受理して執筆した次第です。と言ってもリクエスト主様とは半年以上連絡が取れておらず、肝心の御本人が読んで下さっているか分かりませんが……読んで下さっているなら幸いです。遅れて申し訳ございませんでした。

まぁその結果、読者の皆様の反応が怖い拙作一の問題作が誕生してしまいましたが……書いて後悔はありません。どちらかと言うと、意地でも書いてやろうと思いながら書き切りました。

日本情勢が大変な状況になりましたが、私は皆様が一時でも気を紛らせる事が出来たり気分転換の一環になれる様に、一層の執筆を頑張ります。

皆様。どうか改めて宜しくお願い致します。御一読、ありがとうございました。

宣伝
鏡花水月様
pixivユーザーID
https://www.pixiv.net/users/37498144

日堕(蟲)
https://www.pixiv.net/novel/series/1375857

拙作を執筆する大きな切っ掛けになったR指定炭治郎愛され作品。炭しのも炭カナも炭アオもある盛沢山のssで、何と炭あまの先駆者でもあります。


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第陸拾弐話 日輪は紫蝶の実験に協力す ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・産屋敷邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十七日(月)

時間帯:早朝

天気:雨

 

「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」

 

大雨が降り注ぐ中、息を切らして苦しそうに呼吸を整える一人の男性が居た。

 

「はぁっ!……はぁぁっ……ふうぅっ。」

 

その男性とは、鬼殺隊の下部組織『隠』に所属する後藤隊士であった。後藤隊士は背中に背負っていた物を、ゆっくりと降ろす。

 

それは炭治郎が所有している、禰豆子専用の日除け箱であった。しかし、その日除け箱から出て来たのは禰豆子では無かった。

 

「到着したみたいですね。雨の中、お疲れ様でした。後藤さん。」

 

「いえ。仕事ですんで。」

 

日除け箱から出て来たのは、珠世であった。この日除け箱は左近次が製作した禰豆子専用の日除け箱では無く、それを参考にアオイが製作した予備品だったのである。

 

「……それにしても御館様は、どう言った御用件で私をお呼びしたのかしら? 呪いなどは関係無いけどから、心配はしないで欲しいとお手紙には書かれてあったけれど……。」

 

珠世は唐突に耀哉に呼び出された理由が分からず、頸を傾げながらも産屋敷本邸へと入って行った。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ちゅうっ。ちゅうちゅぅっ。んちゅうっ。」

 

「あぁんっ!❤……た、炭治郎様ぁっ……んんあっ❤」

 

産屋敷別邸に併設されている、室内浴場で甘い嬌声が上がっていた。炭治郎があまねの縊れた腰に右腕を回して、左乳房に吸い付いて母乳を口にしていたからだ。

 

「そんなに吸われるとっ……お身体が洗えません。んんっ!❤」

 

「ちゅっ……そうは言いますけど、あまね()()。そんなに俺のを熱心に扱かれたら、俺もその気になっちゃうんですよ……。」

 

「っっ!……そ、それはっ……っ。」

 

炭治郎の指摘に、あまねは気恥ずかしそうに顔を逸らした。事実、あまねの右手は炭治郎の逸物を優しく握っていた。

 

実はあれから炭治郎とあまねは一睡もせずに情交(セックス)を続け、朝を迎えたと同時に流石に止めなければと中断した。あまねが失神しなかったのは、途中で意識を失って休む期間があったからだ。

 

その際に炭治郎はあまねを様付けからさん付けに呼称が変わっているのは、あまねからの要望によるものだ。あまねとしては呼び捨てにして欲しかったのだが、流石に其処まで出来ないと炭治郎がさん付けで呼称する形となった。

 

尤も、炭治郎としてはそう呼ぶのは、二人切りの時だけでの予定であるが。

 

互いの体液と汗塗れになったのを見て、あまねが炭治郎を室内浴場へと誘ったのである。最初こそ炭治郎の身体を普通に洗っていたあまねだったが、最後に残った炭治郎の逸物を何時までも触って離そうとしなかったのである。

 

中途半端なあまねの愛撫を受ける形になった炭治郎は、仕返しとばかりにあまねの乳房に吸い付いたのだ。

 

「あぁっ……だから、駄目ですっ……浴場(此処)情交(そう言う事)を、する場所(ところ)ではぁっ……ああんっ!❤」

 

あまねは口でこそ拒絶や制止の言葉を炭治郎に伝えているが、その行動力には説得力が一切無かった。相変わらず右手は炭治郎の逸物を握っており、左手は炭治郎の後頭部に回して愛おしそうに優しく撫でていたからだ。

 

「れろっ……あまねさん。上の口は素直じゃないですね。ちゅううっ……下の口は、こんなに正直な反応をしているのに……。」

 

炭治郎はあまねの乳房を愛撫しながら、揶揄う様に右手の指をあまねの秘部に挿入した。あまねの秘部は未だに残っている炭治郎の精液と、大量に分泌されている愛液で混合液の洪水を起こしていた。

 

「あああっ!?」

 

炭治郎に指を挿入されたあまねは、嬌声を上げビクッと身体を震わせて炭治郎に倒れ込んだ。其処へ透かさず、炭治郎が頭を伸ばしてあまねの耳元に囁いた。

 

「しましょうか? 一回だけで良いですから、ね?」

 

「っ!!……(コクッ。)」

 

炭治郎の言葉にあまねも欲望が抑え切れなかったのか、何も言わずに首肯してから立ち上がると、そのまま木製の浴槽の縁に座り両足を広げて秘部を炭治郎に見せた。

 

「あまねさん……凄く、色っぽいです。」

 

「っっ!……あまり、見ないで下さいましっ……炭治郎様、早くっ……どうかっ。」

 

炭治郎が口から漏らした感想を聞いて、益々あまねは赤面しながら炭治郎に挿入を急かした。

 

「言われなくてもっ。」

 

「んあああぁぁぁっ!❤」

 

炭治郎が一気に逸物をあまねの秘部に挿入すると、あまねは仰け反って歓喜の嬌声を上げた。

 

「はううっ!❤……あれだけ射精()したのに、まだこんなに硬くなるなんてぇっ!! あああんっ!❤❤」

 

あまねは炭治郎の絶倫振りに半分戦慄しながら、反復動作(ピストン)によって次々と襲って来る快楽に酔い痴れていた。

 

「そりゃあまねさんみたいな、とっても綺麗な美女(ひと)を前にしたらっ、こうなりますよっ!!」

 

炭治郎は素直にそう思いながら、激しく腰を動かして反復動作(ピストン)を行う。

 

「っ!!…………そんな事を仰っても、私は騙されませんっ…………胡蝶様達にもっ、似た様な事を、仰っておられるのでしょう?」

 

炭治郎の言葉に、あまねは素直に喜ばなかった。炭治郎がしのぶ達にも似た様な甘い言葉を掛けていると思うと、あまねは嬉しく思えなかったからだ。

 

「うっ!?……そ、それはっ……そのっ……。」

 

炭治郎は事実を指摘されて余裕が一瞬で霧散し、腰を動かすのも止めて口籠ってしまう。

 

「……クスッ。その様な女泣かせの悪いお口など、こうして差し上げますっ。んちゅうううっ❤ ちゅっちゅうっ!❤」

 

「!!!」

 

あまねは面白そうに笑声を零すと、両腕を炭治郎の頸に回して熱烈な口付け(キス)を行った。あまねはそれだけで終わらず、自身の舌を炭治郎の口内へ侵入させ、唾液を舐め回して行く。

 

――あまねさん、嫉妬してる?……だとしたら、凄く可愛いっ……。

「ぢゅりゅちゅうぅっ! ぢゅちゅううっ! ちゅろれろちゅっ!!」

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「あふちゅううぅっ!❤ んぢゅるうぅっ!❤ ちゅうううっ!❤❤」

 

再び始まった反復動作(ピストン)にあまねは両眼を見開いて当初は快楽に悶絶したが、徐々に両眼をトロンと蕩けさせながら炭治郎との口付け(キス)を継続させた。

 

 

 

ドッビュルルルルルルルウウウウウゥゥゥゥゥッッッッ!! ビュビュルルルウウウウウウゥゥゥゥゥッッッッッ!!!

 

 

 

「んふうううぅぅぅぅっっっ!!!❤❤❤」

 

膣内を埋め尽くす程の白濁の溶岩を注ぎ込まれたあまねは、炭治郎と口付け(キス)をしたまま両眼を見開き両足をピンと伸ばし切りながら絶頂した。

 

「んふっ……ぷはっ。気持ち良かったぁっ……。」

 

炭治郎は唇から涎を一筋垂らしながら、恍惚とした表情を浮かべて絶頂の余韻に浸った。

 

「あぁっ❤……はぁっ……はぁんっ❤……っっ❤」

 

あまねもまた、甘い吐息を零しながら絶頂の余韻に浸っていた。そんなあまねの様子を見て、炭治郎の獣欲に再び火が付きそうなっていた。

 

「あまねさん、もう一回……んっ。」

 

炭治郎はそう言って更に情交(セックス)をもう一回、強請りながら口付け(キス)をした。炭治郎はあまねの様子から、このまま情交(セックス)を喜んで受け入れてくれると考えた。

 

 

 

ガブッ

 

 

 

「いたぁっ!!?」

 

しかしそんな色呆けしている炭治郎に襲い掛かって来た感覚は、快楽では無く痛覚であった。炭治郎はあまねによって、舌を噛まれていたのだ。

 

「流石に駄目です。これ以上はいけません。」

 

「!」

 

炭治郎の前には快楽に酔っていた先刻と違い、通常の凛々しい表情を浮かべているあまねであった。

 

「炭治郎様。私達の関係を、他の者達に知られる訳にはいかないのですよ? どうか御自重下さい。」

 

「っっ!……すみません。」

 

あまねの正論に、炭治郎は自分の言動を反省しながら賛同した。

 

炭治郎は行冥達、鬼殺隊が誇る柱を筆頭に多くの隊士に敬愛されている耀哉の愛妻であるあまねと姦通しているのだ。

 

幾ら双方の合意があろうと、この事実が発覚すれば鬼殺隊を揺るがす程の大事(スキャンダル)になりかねない。そうなると当事者である炭治郎も、只では済まないのである。

 

「……」

 

その事実を改めて認識した炭治郎は、自身の言動を猛省するしか無かった。

 

「……クスッ。」

 

先刻と打って変わってシュンとしな垂れる炭治郎の様子を見て、あまねはクスッと笑声を零した。そして直ぐに顔を寄せて、炭治郎の耳元に囁いた。

 

「今夜また、喜んでお相手致します……それまではどうか、御辛抱下さいまし。」

 

「!!!……はいっ!」

 

あまねの言葉を聞いて、炭治郎は再び機嫌が良くなって元気良く返事を返した。機嫌を取り戻した炭治郎は、あまねの秘部に挿入していた逸物を勢い良く抜き去った。

 

「んっ……っ!」

 

すると其処にはあまねの愛液と炭治郎の精液で白く濁った、炭治郎の逸物が姿を現した。逸物の先端には、蜘蛛の糸の如く混合液が糸を引いて伸びていた。

 

「……っ❤」

 

あまねは炭治郎の白濁に染まった逸物を見て、愛おしそう且つ名残惜しそうに見詰めていた。

 

「あまねさん。綺麗にして頂けますか?」

 

「……はい。喜んで。」

 

炭治郎に逸物を綺麗にする事を頼まれたあまねは、喜んで逸物をそのまま口に咥えた。

 

「あむっ……ちゅろれろっ……ぢゅちゅううっ。」

 

あまねは炭治郎の逸物に纏わり付いている混合液を舐め取りながら、口淫(フェラチオ)で炭治郎への愛撫も行う。しのぶ達と比べれば技巧さは一切無かったが、一生懸命な様子ははっきりと伝わって来るものであった。

 

「んっ。あまねさん……。」

 

炭治郎はあまねの口内を堪能しながら、優しくあまねの頭を撫でていた。

 

「❤」

 

炭治郎に撫でられているのが嬉しくて、あまねは更に口淫(フェラチオ)に力を入れて、それでも傷付けない様に注意しながら愛撫を行う。

 

 

 

ビュルルルルルルルウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!! ビュビュルウウウウウゥゥゥゥゥッッッッ!!!

 

 

 

「んんんっっっ~~~!!!」

 

あまねは口内に洪水の如く流れ込んで来る炭治郎の精液を、あまねは面食らいながらも必死で飲み込んで行く。そして一滴も零す事無く、射精された精液を全て飲み干した。

 

「……はぁっ。大変、美味しゅうございましたっ❤」

 

口淫(フェラチオ)を終えたあまねは、恍惚とした表情を浮かべながら炭治郎にそう言った。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ふぅ。さっぱりした……。」

 

炭治郎はあまねに身体を洗って貰った後、暫くしてから産屋敷別邸を離れて産屋敷本邸内を歩いていた。

 

因みにあまねは先に、炭治郎とは別れて行動していた。その理由は、不用意に二人だけで居る所を見られるべきではないというあまねの判断によるものだ。

 

更にあまねは用心を重ねて、『紙眼』による隠密まで行って人目に付かない様に産屋敷本邸に戻っていた。炭治郎はあまねの用心深さに、ただただ感心するしか出来なかった。

 

「……えっ!?」

 

炭治郎が産屋敷本邸内を歩いていると、ある匂いに気付いたのだ。その匂いは現在、する筈が無いものであった。

 

「……あら? 炭治郎さん?」

 

「珠世さんっ!……おはようございます。いらっしゃって居たんですか?」

 

「そうなんです。昨日の夜に御館様から手紙が来て、急いで来たのだけれど……。」

 

「!」

 

珠世から産屋敷本邸にやって来た経緯を聞いて、炭治郎の顔色に心配の色が宿った。珠世が耀哉の主治医を担当している事は最早、周知の事実だ。珠世を急遽、召喚するとは耀哉の容態が急変したのかと心配になった。

 

「それが、何も無かったんです。御館様に理由を聞いたら、「必要だったから。」とだけ。でも……。」

 

「でも?」

 

「……」

 

炭治郎は珠世が呟いた言葉が気になって復唱したが、珠世は反応せず炭治郎を見ていた。

 

「えっと……珠世さん?」

 

珠世の様な美女に真っ直ぐ視線を向けられた炭治郎は、少し頬を赤く染めて珠世の名前を呼んだ。

 

「……炭治郎さん。朝食を頂いてからで良いので、後でお時間を頂けますか?」

 

 

 

♦︎

 

 

 

「はぁっ! はぁっ!……はぁっ~……はぁぁっ~。」

 

産屋敷本邸の比較的広い一室で炭治郎が片手に木刀を持ちながら、上半身だけ裸の半裸状態で荒く呼吸を繰り返していた。

 

「お疲れ様でした。炭治郎さん。」

 

其処へ疲弊している炭治郎に、珠世が慰労の声を掛けた。

 

「炭治郎様。汗の方を拭かせて頂きます。」

 

「あ、ありがとう。」

 

其処へかなたとくいなが、手拭い(タオル)を持って炭治郎の身体の汗をいそいそと拭き始めた。

 

「どうぞ。」

 

「お疲れ様でした。」

 

一方でひなきとにちかも、同様に手拭い(タオル)を手渡した。しかしそれを受け取ったのは、炭治郎では無かった。

 

「ありがとう。」

 

炭治郎の反対側には、あまねが立っていた。左手でひなきから手拭い(タオル)を受け取り、流れる汗を拭きと取って行く。その右手には、木製の薙刀を所持していた。

 

実は炭治郎は現在、珠世の眼前でヒノカミ神楽こと日の呼吸の技を披露していたのである。その相手役に、あまねが協力してくれていた。型を一つ実行する度に小休止を入れなければならなかったが、それでも何とか十二の型全てを珠世の眼前で再び披露する事が出来ていた。

 

「……? 母上。その頸の赤い痕は、どうされました?」

 

「!?」

 

突如、ひなきがあまねの異変に気付いて指摘した。確かに良く見てみると、首筋に一点の赤い痕が残っている。ひなきの指摘を聞いて、炭治郎はぎょっとした。

 

「……鏡を見ないと分からないけど、何時の間にか虫に刺されたみたい。ひなき。悪いけど、塗り薬を持って来て貰えるかしら?」

 

「あ、はい。分かりました。」

 

しかし当事者であるあまねは、一切の動揺を見せずに平然とした様子でひなきに塗り薬を持って来る様に頼んだ。ひなきもあまねを疑うことなく、直ぐに塗り薬を取りに走った。

 

本来ならばひなき達はこの赤い痕の正体に気付ける筈なのだが、まさか実母であるあまねが自分達の想い人である炭治郎と先に結ばれているなどとは流石に考えられてなかったのである。

 

「……っ。」

 

「!」

 

ひなきが居なくなってから手拭い(タオル)顔を拭いた際、あまねが炭治郎を一睨みした。それからあまねは直ぐに、目元を手拭い(タオル)で隠した。

 

「……」

 

あまねに睨まれた炭治郎は、心中であまねに謝罪するしか無かった。

 

「……珠世様。如何でした? たっ……竈門様の型は?」

 

「……」

 

あまねが危うく炭治郎の名前を口にしそうになりながらも、珠世に炭治郎の現状について尋ねた。珠世は一考してから、あまねの質問に答える。

 

「やはり、私が今一度見た所……炭治郎さんの日の呼吸の動作には、()()がある様に見えました。」

 

()()?」

 

珠世が呟いた言葉を、炭治郎が復唱した。珠世は炭治郎の呟きに首肯してから、話を続ける。

 

「はい。炭治郎さんの動きは、縁壱さんと比べて無駄な動きが散見しています。僅かな手首の角度の違い、足運びの違い、呼吸の感覚……これらに違和感を私は感じました。」

 

「……」

 

珠世の説明を受けた炭治郎は、頭を抱えた。珠世に指摘を受けても、どの様に修正すれば良いか分からないからだ。

 

「私が日の呼吸を舞う事が出来れば、話は早いのですが……それは出来ないので、正しい型に修正出来るまで指摘させて頂きます。それこそ、何百回でもです。」

 

「……はいっ! よろしくお願いしますっ!!」

 

 

 

♦︎

 

 

 

それから炭治郎は珠世の説明を受けながら日の呼吸の動作の修正に入ったが、この日は壱の型である円舞の修正に留まった。

 

これは一度十二ある型を全て行った上に、珠世の指摘を受けながら何度も小休止を挟んで繰り返し疲労困憊となったからだ。

 

珠世も無理はすべきでは無いとして、炭治郎に休息を促した。その結果、炭治郎は室内浴場で汗を流した後に夕食を取る事となったのである。

 

「失礼します。」

 

夕食を終えた炭治郎は、産屋敷本邸のある一室を訪れていた。

 

「炭治郎さん。来てくれてありがとうございます。」

 

その一室には、既に珠世が待っていた。珠世は入室して来た炭治郎に、来てくれた事に感謝して一礼する。

 

「此処が、研究室ですか?」

 

「ええ。聞いた話によると、以前いたある当主が『隠』の隊士達と一緒に鬼の研究をする為に作っていたそうだけど……『隠』専用の研究室を作ってから、放置されていたそうよ。」

 

炭治郎は研究室を見渡しながら、珠世の話を聞いていた。

 

「それで珠世さん。どう言った御用件でしょうか? 俺は何をすれば良いんですか?」

 

「……」

 

珠世に呼ばれた理由が分からなかったので、炭治郎は珠世に尋ねたのだが、何故か珠世は何も答えずに沈黙していた。

 

「珠世さん?」

 

「……あぁ。すみません。炭治郎さん……実は。」

 

珠世は其処まで言うと口を噤んだが、意を決して開口する。その内容は炭治郎にとって、衝撃的なお願い事であった。

 

「炭治郎さんの精液を、どうか頂きたいのです。お願い出来ないでしょうか?」

 

「………………はいっ?」

 

珠世のお願い事を聞いて、炭治郎の脳は理解が追い付かなかった。

 

――…………昨日といい、今回といい……どうしてこう無茶なお願いばっかり……。

「……理由を教えて下さい。お願いします。」

 

珠世のお願い事を理解した炭治郎は、眩暈がしそうな感覚を覚えながらも必死で開口した。

 

「理由は単純です。禰豆子さんの栄養補給になっている炭治郎さんの精液、是非調べてみたいと思いまして……なのですみません。早速、出して頂けると助かります。」

 

「無理です。」

 

「!?」

 

珠世が開き直った様に炭治郎の精液を要求すると、炭治郎は即答で拒絶した。炭治郎にこうも早く拒絶されるとは思わなかったのか、珠世は驚きながらも炭治郎に尋ねた。

 

「駄目ですか?」

 

「駄目と言うか……そんな直ぐに出せるものでも無いんですけど……。」

 

炭治郎は困った様子で片手で頬を掻きながら、珠世にそう言った。

 

「そう、ですよね。」

 

珠世は炭治郎の返答に同意すると、がっかりした様子で溜息を吐いた。

 

「……しのぶさん達が居れば、協力して頂けるのですが……いや、拒絶されるのがオチね。でしたら自慰でも良いので、お願いします。急ぎませんから。」

 

「えーと……自慰ってやった事が無いし、やり方も分からないんですよね。何より、しのぶさん達に絶対にするなって言われているんで……。」

――あまねさんが居るから、出来ない事も無いんだけど……言う訳にはいかないよなぁ。

 

珠世から自慰による精液採取を頼まれた炭治郎であったが、取り付く島も無い様子で再び珠世の提案を却下する。あまねが居るから不可能ではないのだが、迂闊にこの重大事項を漏らす訳にもいかなかった。

 

更に炭治郎はこの事実に関して、嘘など一切言ってはいない。自慰に関してはアオイが所有していた艶本にも載っていたが、やり方までは記載されていなかった。

 

そもそもしのぶ達から「自慰なんて勿体無い! 私達が必ず相手をします!」と言って、速攻で厳禁命令を炭治郎に下していた。炭治郎としても一人でやって何が楽しいのか理解出来なかったので、やってみたいという興味すら湧かなかったのだが。

 

「……そうですか。分かりました。」

 

――ほっ。珠世さんも分かってくれたみたいだ。

 

珠世は溜息を吐きながらそう言ったので、炭治郎は珠世が精液採取を諦めたのだと胸を撫で下ろす。

 

しかしその思い込みが、些か早計であった事を炭治郎は思い知る事になる。

 

「では私が炭治郎さんに協力します。今直ぐ隊服(ふく)を脱いで下さい。」

 

「……はいっ?」

 

 

 

♦︎

 

 

 

「これが……炭治郎さんの男性器ですか。」

 

珠世は炭治郎の逸物を右手で包む様に触りながら、興味深そうに凝視していた。

 

炭治郎と珠世が居る部屋は、研究室に隣接して造られた仮眠室であった。睡眠が不要な珠世ならば普段は必要としない部屋であるが、この時ばかりは非常に役に立っていた。

 

――どうして、こうなった?……っ。

 

炭治郎は洋袴(ズボン)のみを脱がされ、下半身を露出した状態で立っていた。

 

あれから炭治郎は拒否する事も出来ず、半ば強引に洋袴(ズボン)を珠世に脱がされていたのである。

 

「……」

 

炭治郎は下半身のみ裸になった半裸状態から、既に数分が経過していた。しかし珠世は炭治郎の逸物を観察しているだけで、右手で少し触る以上の事はしなかった。

 

「……っ。」

 

変化が起きない現状に、流石の温厚な炭治郎も苛立ちを覚え始めていた。これがしのぶ達ならば直ぐにでも口淫(フェラチオ)などの愛撫が始まっているだろうに、珠世は何もしようとはしないのだから。

 

この現状に苛立った炭治郎は、待ち兼ねて自分から行動に出る事にした。

 

「珠世さん。協力してくれるって言いましたけど……具体的に、何をしてくれるんですか?」

 

「!」

 

炭治郎が口にした質問を耳にして、珠世は漸く我に返って炭治郎を見た。珠世の表情には、明らかな動揺の色が見て取れた。

 

「そ、それは……っっ。」

 

珠世の視点から見た炭治郎の表情からは、期待感が無いのは明白であった。

 

先刻から炭治郎の逸物に顔を近付けては、再び離れて距離を取るのを繰り返して何も出来て居なかったのだから無理も無い。

 

――珠世さん。何て言うのかな?

 

自身が口にした質問に何も言えず閉口する珠世に、炭治郎は気にしながら待った。

 

すると珠世は炭治郎が思ってもみなかった、想定外の台詞を口にした。

 

「炭治郎さん。恥ずかしながら……御教授して頂けると助かります。」

 

「!!?」

 

炭治郎にとって想定外過ぎる台詞が珠世の口から聞こえて来たのを理解した炭治郎は、両眼を見開きながら珠世を見た。さらに両眼だけでなく、口も限界まで大きく開き切っていた。

 

珠世は恥ずかしそうに左手で頬を掻きながら、更に話を続ける。

 

「性行為は人間だった頃しか経験が無く、それも殆ど覚えておらず……鬼になってからは無縁でしたから、知識も積極的に集めませんでした……其処で百戦錬磨の炭治郎さんから、教えて頂ければ私も失敗を恐れなくて済むのです。」

 

――百戦錬磨って……っっ。

 

褒められても嬉しくないと思いながら、炭治郎は頭を抱えて悩まざるを得なかった。

 

実はこれが、珠世の強みの一つであった。

 

人間が年齢を重ねるに連れて自身より年下の相手に何かを教わる事には、気持ちの大小問わず躊躇したり嫌ったりする傾向がある。炭治郎を含めそんな感情を抱かない部類の人間も一定数居るが、やはり少数派と言えた。

 

「……無論、私の事は……その、炭治郎さんの好きにして頂いて構いませんから。」

 

「!!」

 

珠世が恥ずかしそうに両頬を僅かに赤く染めながらそう言うと、炭治郎は驚きつつもその発言の意味に生唾を一塊飲み込んだ。

 

「でも……うぅん。その……俺の精液が、必要なんですよね?」

 

「はい。禰豆子さんにのみ影響するのか、私の様に他の鬼にも作用するのか、知っておく必要がありますから。」

 

「……っ……分かりました。」

 

珠世が炭治郎に精液採取の必要性を説くと、炭治郎も自身を納得させて覚悟を決める事にした。

 

「それじゃあ…………珠世さんの乳房(おっぱい)で、俺のを挟んでくれませんか? 無理に口に咥えなくても良いですから。」

 

「!!」

 

炭治郎の頼みを聞いて、珠世は両眼を見開くと同時に更に両頬を恥ずかし気に赤く染めた。

 

これは炭治郎からすれば、自身が抱く欲望を叶えると同時に珠世への気遣いも含んだものでもあったが、更に切実な理由があった。炭治郎自身への安全、正確には逸物への安全確保の為だ。

 

炭治郎は夢幻世界でカナエに初めて口淫(フェラチオ)をされた時、誤って逸物を噛まれた事があった。鬼の噛合力をもって珠世にうっかり噛まれては、勃起時は鋼鉄の如き硬さを誇ろうと無事では済まない。野生の猛獣が行う甘噛みが、人間にとって致命傷になりかねないのと一緒である。

 

「……少し、待って下さい。」

 

珠世は未だに逸物を握っていた右手を離すと、自身の着物に手を掛け始める。そして先ず帯に手を掛けると、珠世はそのままスルスルと着物を脱ぎ捨てた。

 

「!」

 

炭治郎が床に落下した着物に一瞬の間だけ視線を向けた後、再び視線を珠世に戻すと驚く事が起きていた。

 

まだ着物を羽織っていた時に見えていた乳房の大きさが、明らかに変化していたのである。

 

「珠世さんっ。」

 

「言わないでっ……隠す意味など無いと思ったからっ。」

 

珠世は熟した林檎の如く顔を赤面させながら、両手で乳房を抑えて乳首を隠した。

 

「っっ。」

 

すると炭治郎にも変化が起こった。珠世の全裸姿を見ての興奮からか、一気に血液が逸物に集まって力強く勃起したのである。

 

「……!」

 

最初に見ていた時と全く違う炭治郎の逸物の姿に、珠世はゴクッと生唾を一塊飲み込んだ。

 

――私の全裸(すがた)を見て、興奮してくれたって事かしら?……っ。

 

珠世は胸中で湧き上がる喜びの熱を自覚しながら、胸を両手で抑えつつゆっくりと炭治郎の逸物に近付いて行った。

 

「それじゃあ……は、挟むわね?」

 

「っ……お願いします。」

 

少し緊張しながら、珠世は自身の豊満な乳房で炭治郎の逸物を挟んだ。

 

「うぁっ!?」

 

「あぁ!……っ!」

 

珠世が自身の豊満な乳房で逸物を挟んだ瞬間、炭治郎と珠世が同時に嬌声を漏らした。

 

――珠世さんの乳房(おっぱい)っ、やっぱり柔らかい。それにお肌がモチモチしてて気持ち良いっ……。

 

――私の乳房でも、先端が隠れない程大きい……それに何て熱量なのっ! まるで熱した鋼鉄(てつ)みたい……それに、こんなに脈を打っててっ。

 

炭治郎は珠世の豊満な乳房の柔らかさと肌質に悶絶し、珠世も炭治郎の逸物から感じる熱量や大きさに人知れず興奮していた。

 

「炭治郎さん。気持ち良いかしら?」

 

「はいっ。凄く気持ち良いです。珠世さん……。」

 

炭治郎がうっとりとしながら珠世の乳房を堪能する様子を見て、珠世も嬉しくなって自然と頬が緩んで行く。

 

――凄く気持ち良さそうね……嬉しいわっ。

 

珠世は炭治郎の顔を見ながら、自身の豊満な乳房を動かして紅葉合わせ(パイズリ)をして炭治郎の逸物を扱き始めた。

 

「ぁ……ぅあっ……っっ。」

 

炭治郎は紅葉合わせ(パイズリ)でムニュムニュ動く珠世の豊満な乳房からやって来る乳圧に、益々小さく嬌声を漏らす。

 

――ふふっ。ビクビクして可愛いわね……あっ。

 

炭治郎がビクビクと小さく痙攣しながら快楽に悶えていると、珠世は先端だけ露出している逸物の亀頭部分がプルプル震えているのが眼に留まった。

 

――……口で気持ち良く出来る自信は無いけど、ちょっと舐めてみたいかも。

 

「れろっ……。」

 

「うっ!」

 

珠世は舌を出すと、炭治郎の逸物の亀頭部分を一舐めした。思わぬ感触を受けて、炭治郎はビクッと身体を震わせて嬌声を漏らす。

 

それから珠世は続けて何度か、炭治郎の逸物の亀頭部分を舐め続けた。そしてパクッと珠世が口全体で咥えた瞬間、炭治郎の逸物に変化が起こった。

 

 

 

ビュルウウウウウウゥゥゥゥゥッッッッッッ!!! ビュビュビュルウウウウウゥゥゥゥゥッッッ!!!

 

 

 

「んんんっ!!?……!!」

 

限界を超えた炭治郎の逸物は、大量の精液を珠世の口内目掛けて射精した。

 

珠世は白濁の溶岩とも言えるその熱と量に面食らいながらも、研究対象として興味深い炭治郎の精液を残らず飲み込んで行った。

 

「はぁっ……っっ。」

 

珠世は全ての精液を飲み干した後、吐息を漏らしながら炭治郎の逸物から口を離した。珠世の表情は、うっとりとした様子で艶が増していた。

 

「珠世さん……?」

 

炭治郎はドキッと胸を高鳴らしながら、珠世の名前を呼んだ。しかし珠世の耳には、炭治郎の声が届かなかった。

 

「っっ!……なんて美味しさ……これだけ美味な物は口にした事が……それこそ、今まで摂取して来たどの稀血よりも……。」

 

我に返った珠世は驚愕しながら、炭治郎の逸物をマジマジと凝視していた。そんな様子の珠世に、炭治郎は再び声を掛ける。

 

「えっと、珠世さん?」

 

「……もっと……もっと射精()して下さい。炭治郎さん。」

 

「うぁあっ!!」

 

再び両眼をうっとりとさせた珠世は、今度は炭治郎の逸物を大きく口に咥えて吸う様に口淫(フェラチオ)紅葉合わせ(パイズリ)を行い始めた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ふぅっ……。」

 

珠世は満足した様子で、自身の豊満な乳房を炭治郎の逸物から離した。

 

「凄い……もう五回以上も射精()したのに、まだこんなに元気だなんて……。」

 

珠世は未だに元気に勃起している事実に、驚愕せざるを得なかった。それと同時に、炭治郎の絶倫振りに感嘆もしていた。

 

「はぁはぁっ……珠世さん。満足出来ました? お身体の具合は?」

 

炭治郎は少しばかり息を切らしながら、珠世の具合を伺った。結局珠世は自身が言う様に口淫(フェラチオ)紅葉合わせ(パイズリ)を行い続けて、炭治郎から十回以上も精液を搾り取っていたのである。

 

しかしその搾り取った精液を採取する事無く、全て一滴残らず飲み込み続けたのであった。

 

「ええ、満足……っ!」

 

「?」

 

珠世は炭治郎の質問に答えようとしたが、その時にある事に気が付いた。自信の下腹部、正確には子宮が火照った様に高熱を帯びている事実にだ。更に秘部からは、太腿に垂れる程の愛液らしき体液も絶えず垂れ堕ちていた。

 

「っっ……身体の方は、何だか力が漲っている様です……ですが実験の結果には、まだ満足出来ていません。此処から更に続行します。」

 

「!!」

 

珠世はそう言うと、仮眠室に設置されている寝台(ベッド)に腰を下ろした。

 

「……っ。」

 

珠世は少し気恥ずかしい炭治郎から視線を逸らすと、両足を広げて見せた。

 

「!」

 

炭治郎は両眼を見開くと、其処には愛液で溢れた秘部の姿があった。秘部は桃色で、陰毛も整えられていた。これは人間時代から身なりに気を遣っており、鬼化した際にこの形で固定されたと言う事実に違い無かった。

 

「……今度はその逸物を私の膣内(なか)に挿入して直接、精液を注いで下さい。口で飲むのと膣内(なか)射精()されるので違いの有無は無いか、その確認がしたいのです。」

 

「!!!」

 

続行された実験の内容を聞いて、炭治郎は驚愕せざるを得なかった。

 

薄々こうなるかもしれないとは心中でこそ期待感があったが、いざ珠世本人の口から聞かされると平静ではいられなかったのである。

 

「もし私が嫌でしたら、しのぶさん達を抱いていると思って目隠しをしてから御願いします。野良犬にでも噛まれたと思って、今回だけでも……。」

 

「い、嫌な訳が無いじゃないですかっ!!」

 

「!!」

 

珠世が罪悪感の匂いを漂わせながら弱弱しくそう言うので、炭治郎は慌てて珠世の両肩に手を強く置いた。

 

炭治郎の発言を聞いて、珠世は驚きながら正面を見る。其処には炭治郎が真剣な表情を浮かべながら、珠世を真っ直ぐ見詰めていた。あまりの距離の近さから、炭治郎の赫灼の瞳に自身の赤面した表情が鏡の如く姿を見せていた。

 

「珠世さんの様な、素敵な女性と()()()()()なんて……嬉しいに決まっています。だからそんなに、御自分を卑下しないで下さい。」

 

「あ、()()()()()っ……っっっ。」

 

炭治郎の真っ直ぐ過ぎる発言を聞いて、珠世は恥ずかしそうに思わず顔を逸らしてしまった。

 

しかし炭治郎は、その超人的な嗅覚で全てを察していた。

 

珠世からは歓喜と好意と羞恥の匂いしかしておらず、嫌悪や拒絶の匂いなど一切していない事に。

 

「……行きますっ!」

 

「あっ!」

 

 

 

ズブウウゥッ!!

 

 

 

「んああああぁぁぁっ!!!??」

 

珠世は逸物を秘部に挿入された衝撃で、身体を海老の如く仰け反らせる程の快楽の衝撃を受けた。

 

「はぁっ……これが、珠世さんのっ……気持ち良いっ。」

 

包まれる様な安心感を覚える珠世の膣圧を、炭治郎はじっくりと味わっていた。しかし決して緩いと言う訳でも無く、それどころか搾り取ろうと締め付けて来る膣圧に炭治郎は同時に耐えていた。

 

「珠世さん。動きますね?」

 

「あっ……はぁっ……んあぁっ…………っ!!」

 

炭治郎は形ばかりの確認を取った後、腰を引き始めた。放心状態だった珠世は、膣内から抜けて行く逸物の感触を感じて我に返った。しかし珠世が炭治郎に声を掛ける前に、炭治郎は先に先手を打つ様に行動に出る。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「あぁっ!? ああんっ! ああぁぁんっ!!?」

 

膣内を蹂躙する様に反復動作(ピストン)を始めた炭治郎に、珠世は身体を仰け反らせたまま両眼を見開いて波打つ様に襲って来る快楽に悶絶していた。

 

「あんっっ!……そんなっ……こんな、快楽がっ……この世に、存在するなんてぇっ!!……。」

 

珠世は自身の豊満な乳房を上下に跳ねながら、未知の快楽に悶絶するしかなかった。

 

「珠世さんが気持ち良くなってくれて俺、嬉しいですっ!……でもまだまだ、こんなの序の口ですよっ!!」

 

「んあぁぁんっ! 嘘っ!?……これ以上のっ……っっっ!!?」

 

炭治郎の言葉を聞いて、珠世は両眼を見開き驚愕するしか無かった。しかしだからと言って、炭治郎は反復動作(ピストン)を緩める様な真似はしない。

 

何故なら炭治郎の言葉を聞いた瞬間、珠世から期待の匂いが出たのを炭治郎は見逃さなかったからだ。

 

炭治郎は緩める所か益々反復動作(ピストン)の速度を速めて腰を打ち付け続けると、炭治郎の逸物を遂に限界を迎えた。

 

 

 

ビュビュビュウウルルルルルウウウウウゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!! ビュビュルウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥッッッッ!!!

 

 

 

「あああああぁぁぁ~~~~~~っっっ!!!?」

 

珠世は背骨を圧し折りかねない程に身体を仰け反らせながら、炭治郎の逸物から射精された大量の精液を受け止めて大きく絶頂した。

 

「ああぁっ!……ふぅっ……ふぅっ……っっ!!」

 

炭治郎も射精時に起こる絶頂に全身を震わせていると、ある違和感に気付いた。射精時にある精液の逆流を炭治郎の逸物が感じなかったのである。

 

また珠世の腹部も、僅かとも膨れ上がる様子を見せなかった。これは禰豆子の時と、同様の現象であった。

 

「珠世さん。どうですか? 俺の精液の味は……?」

 

「ふぅっ……ふぅっ……はぁっ……っっ。」

 

炭治郎は珠世が膣内から自身の精液を吸収したのだと察して、珠世に感想を尋ねてみた。珠世は呼吸を整えながら、炭治郎の質問に答える。

 

「…………満たされました。口で直接、炭治郎さんの精液を摂取するよりも……そ、そのっ。」

 

「?」

 

「もっと、欲しいのっ……続けてくれませんか?」

 

珠世は両手を炭治郎の両肩に置くと、炭治郎に情交(セックス)の続行を強請った。そんな珠世の様子に、炭治郎は笑顔で答えた。

 

「勿論です。珠世さんさえ良ければ、喜んでっ!」

 

「あああんっ!」

 

炭治郎は承諾すると同時に、珠世の子宮口目掛けて逸物を一突きさせた。その衝撃を受けて、珠世は嬌声を上げた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「はあんっ! はうぅっ! ああぁぁっ!!」

 

珠世は炭治郎に強く抱き着きながら、炭治郎の力強い反復動作(ピストン)で逸物を突かれていた。

 

あれから炭治郎は更に四回程、珠世の膣内に射精していた。そして五回目、合計で十回目となる現在は抱き地蔵(対面座位)の体位で情交(セックス)を行っていた。

 

――珠世さんの乳房(おっぱい)、気持ち良いっ……。

 

炭治郎は珠世に抱擁される事で、自身の鍛えられた胸板に珠世の豊満な乳房を押し当てられていた。その乳房の感触を、炭治郎は気持ち良さそうに堪能していた。

 

「ああんっ!……炭治郎さんっ! 私、また……ああっ、またっ!!……っ!!!」

 

「っ!……珠世さんっ! もう少しだけ、耐えて下さいっ!……どうせなら、一緒にイきたいですっ!!」

 

珠世が絶頂寸前になっているのを理解した炭治郎は、更に反復動作(ピストン)の速度を上げて珠世に逸物を打ち付ける。

 

 

 

ビュビュルルルルルルルウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!! ビュルルルルルルウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!

 

 

 

「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」

 

珠世は炭治郎に強く抱き着きながら、自身の子宮に大量の精液が溜まっていくのを感じつつ大きく絶頂した。

 

「はううっ!……気持ち良いっっ。」

 

炭治郎は一筋の涎を口元から垂らしながら、絶頂の余韻に浸りつつ珠世へ抱擁を返していた。

 

「はぁっ……はぁっ……ああぁっっ!!?」

 

「!!?」

 

呼吸を整えていた珠世が、唐突に悲鳴を上げる。炭治郎はその悲鳴に驚いて、思わず珠世への抱擁を解いて距離を取った。尤も、逸物は膣内に挿入したままだったが。

 

因みに炭治郎の逸物は、あまねに続いて珠世との連戦で流石に萎え始めていた。

 

「ああぁっ!……くぅっ!……ああぁぁっ!」

 

「た、珠世さんっ!? どうしたんですかっ!?」

 

珠世は炭治郎と繋がったまま、仰向けに寝台(ベッド)に倒れ込んだ。そんな珠世の様子を見て、炭治郎は心配して声を掛けた。

 

「む、乳房(むね)がっ……乳房(むね)が熱いのぉっ!?……ああんっ!」

 

「……乳房(むね)が、熱い?」

 

珠世は頭を左右に振りながら、両手で自身の乳房を揉みしだいていた。

 

「珠世さんっ! 大丈夫ですかっ!?」

 

炭治郎は逸物を秘部から抜くと、急いで珠世の隣に移動した。しかし炭治郎はただ蠱惑的に形を変える珠世の豊満な乳房を、何も出来ないまま黙って凝視するしか出来なかった。

 

「ああぁっ! ()()っ!!」

 

「えっ?……で、()()?」

 

炭治郎が困惑している内に、珠世の身体に明確な変化が起こった。

 

 

 

ビュッ! ビュビュッ!!

 

 

 

「あああんんんっ!!」

 

「!!!??」

 

珠世が自身の豊満な乳房を揉んでいると、先端の乳首から白い液体が炭治郎目掛けて勢い良く飛び出したのだった。




お待たせ致しました。

pixivユーザーだったSaiHaruki様のリクエスト『炭あまのお風呂セックス+炭珠で実験セックス』です。
使用予定のネタと一部重なっていたので、快く受理させて頂きました。

昨日まで前振りばかりしていた炭珠を、今日で漸く形にする事が出来て満足してます。

と言ってもこの炭珠も始まったばかりで、本格的なものは次回以降になります。よろしくお願いします。

次回の更新予定は8/8(月)0時予定です。今暫くお待ち下さい。


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第陸拾参話 日輪は紫蝶を篭絡す ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「あああぁぁっ!!?」

 

「!!!??」

 

珠世が自身の豊満な乳房を揉んでいると、先端の乳首から白い液体が炭治郎目掛けて勢い良く飛び出して来た。

 

「えっ……母乳っ!?」

 

飛び出た母乳は重力に従って珠世と寝台(ベッド)を汚したが、炭治郎にとってはどうでも良い事だった。それ以上に、炭治郎にとって目の前の珠世が重要だった。

 

「珠世さん。どうして母乳が……妊娠した、なんて訳ありませんよねっ。鬼なんですから……。」

 

炭治郎が半分自問自答しながら、何故珠世の乳房から母乳が噴き出たのかその原因を探求し始めていた。

 

「…………っ!」

 

其処で炭治郎は珠世が母乳を出すまでの経緯から、一つの結論に辿り着いた。

 

「あのっ、珠世さん。」

 

「……ええっ。炭治郎さんも、お気付きになったみたいですね。」

 

「!」

 

炭治郎が珠世に声を掛けた所、丁度珠世も謎の高熱から解放されて我に返っていた。尤も、珠世の豊満な乳房からは、未だに母乳が噴き出していたが。

 

「私の乳房から母乳(ちち)が出た理由ですが……恐らく、炭治郎さんの精液を摂取したからだと思います。」

 

「やっぱり……。」

 

珠世の考察は、炭治郎としても予想していた内容だった。それと同時に、炭治郎にある疑問が思い浮かぶ。

 

「でも珠世さん。禰豆子にはあれだけ射精()しても、母乳とかは一滴も出ませんでしたよ?」

 

「……」

 

炭治郎の疑問は、禰豆子に関してであった。禰豆子にはこれまで珠世の数倍の回数は射精して精液を注いでいるが、禰豆子の乳房からは母乳が出る事は無かったのである。

 

「この案件に関してですが、やはり個人差としか言い様がありません。何しろ、私と禰豆子さんしか事例がありませんもの。炭治郎さんに、他の女鬼を抱かせるなどと言う訳にもいかないから……。」

 

「!」

 

珠世が口にした何気無い発言に、炭治郎はギョッとした表情を浮かべた。

 

もしそんな事態になろうものなら、流石のしのぶ達も黙っていないだろう。問答無用で見敵必殺になる女性鬼の未来しか、炭治郎には見えなかった。同時に、自分と珠世にも火の粉が及ぶのは、火を見るよりも明らかであった。

 

「……珠世さん。流石にそんな機会は、訪れないと思いますよ。」

 

「そう願います。他に考えられる仮説を立てるとしたら……知っての通り、私は少量の血だけで生存が成り立ちます。其処へ大量の精液を接種した……体の許容範囲分を超えてしまったから、母乳として排出された。と言った具合でしょうか?」

 

「!!!」

 

珠世が顎に手を添えながら、真面目な表情でそう考察していた。一方で炭治郎の方は珠世の考察をきちんと傾聴しつつも、未だに止まる事なく噴き出続ける母乳から視線を外す事が出来なかった。

 

あまねよりも明確に噴き出る母乳の量が多く、更に蠱惑的な甘く淫らな匂いを発していたからだ。

 

「はぁっ……はぁっ……(ゴクッ)」

 

炭治郎は口元から一筋の涎を垂らしながら、唾を一塊飲み込んで誘惑に耐えていた。

 

「っ!」

 

そんなもの欲しそうな炭治郎の様子に、珠世が気付かない筈が無い。恥ずかしそうに両手で自身の豊満な乳房を隠すが、隠し切れていなかった。それ所か、両腕を押し付けてた所為で益々母乳の勢いが強くなった。

 

「……炭治郎さん。」

 

「っ!! はいっ!?」

 

唐突に珠世に声を掛けられた炭治郎は、背筋をピンと伸ばして珠世に視線を移しつつ急いで返事を返した。その際に再びチラッと乳房に視線を戻して再び逸らしたので、珠世はクスクスと可笑しそうに笑った。

 

「良かったら、飲んでみますか? 私の母乳(ちち)を。」

 

「!?」

 

炭治郎は珠世の発言が一瞬だけ理解出来ず、両眼を見開いて驚きながら珠世を見た。

 

珠世は少しばかり挑発的な微笑を浮かべながら、両手で両方の乳房を下から持ち上げていた。乳首からは、珠世が掴んで圧迫した所為で更に母乳が吹き出ていた。

 

「……飲んでみたいです。良いんですか?」

 

「……やっぱり駄目っ。」

 

「!!?」

 

炭治郎は飲みたいと珠世に伝えたが、当の珠世が拒絶してしまった。珠世の言葉を聞いて先刻以上に当惑する炭治郎を他所に、珠世は炭治郎に拒絶の理由を伝える。

 

「すみません。炭治郎さん。私から提案しておいて……個人的に言えば、飲んで頂いても構わないんです。でもこの母乳を飲んだら、炭治郎さんにどの様な症状を齎すか分かりません。先ずはそれを調べないと……。」

 

珠世は炭治郎に拒絶した理由を説明し終えた後、意識を母乳の成分分析に意識を傾けていた。

 

「……」

 

しかし直前でお預けを喰らってしまった炭治郎としては、溜まったものではない。そして即座に炭治郎は行動に出た。

 

「きゃぁっ!?」

 

珠世は唐突に、小さく悲鳴を上げた。珠世が炭治郎の手で、寝台(ベッド)に押し倒されたからだ。

 

「炭治郎さんっ! 何を……っ。」

 

「頂きます。珠世さん。」

 

珠世は炭治郎に抗議しようとしたが、炭治郎の方が行動が素早かった。

 

「あむっ。ちゅううっ。」

 

「ああぁっ!?」

 

炭治郎は両手で珠世の豊満な乳房を揉むと、そのまま左乳房に吸い付いたのだ。唐突に快楽が差す様に襲って来たので、珠世は身体をビクッと振るわせて嬌声を漏らした。

 

「ちゅうちゅううっ……(ゴクゴクッ)……っ! ちゅうっ……甘くて濃厚で……凄く美味しいっ……ちゅううっ!」

 

炭治郎は珠世の母乳の美味さに驚きながら、夢中になって飲み干して行った。

 

「だ、駄目ですっ! 私の母乳を飲んだらっ、炭治郎さんの身体にどんな症状がっ……っ!」

 

「ちゅぶっ……その時は……珠世さんが俺を治療して下さいっ! ちゅうううぅぅっ!!」

 

珠世は慌てて炭治郎を止めようとしたが、炭治郎は珠世の制止など物ともせずに今度は両方の乳首を真ん中に寄せて同時に吸い付いた。

 

「あああぁぁぁぁそうやって一度に吸い付いたら駄目ぇぇぇっ!!」

 

先刻よりも快楽が増大して押し寄せて来たので、珠世は絶頂して大きな嬌声を上げながら悶絶していた。

 

「ちゅうちゅうううぅぅっ……んんっ、ゴクゴクゴクッ。」

 

「ああぁぁっ……そんなにっ……音を立てて飲まないでっ、んあああっ❤」

 

珠世は喉を鳴らして母乳を夢中になって飲んでいる炭治郎を見て、背筋がゾクゾクと疼く感覚を覚えた。言葉でこそ拒もうとしているが、身体は炭治郎を欲して疼いていたのである。

 

「……っ❤」

 

珠世はその事実に目を瞑りながらも、自身の豊満な乳房に吸い付いて離れない炭治郎の頭を、愛おしそうに優しく撫でていた。

 

「ゴクゴクッ……んんっ!!?」

 

「!!」

 

珠世の母乳を夢中で飲んでいた炭治郎であったが、突然両眼を見開いて驚いた様子を見せると、直ぐに珠世の豊満な乳房から口を離した。

 

「はぁっ……はぁっ!」

 

「炭治郎さんっ! 大丈夫ですかっ!? お身体に、どう言った症状が起きてますかっ?」

 

炭治郎が胸を押さえて荒く呼吸をするのを見て、珠世は慌てた様子で炭治郎の身体に触れて触診と問診を行う。

 

「はぁっ……はぁっ……大丈夫です。……身体の方ですけど、寧ろ気分が良い位です。疲労も取れて、体力が戻った様に感じます。」

 

「!!」

 

炭治郎が口にした症状を、珠世は克明に脳裏に記憶する。自分自身でも不謹慎には思うが、やはり医者として炭治郎の身体に起こっている症状には関心があったのだ。

 

「……うぁっ!?」

 

「っ! 炭治郎さんっ! どうしました?!」

 

炭治郎が当惑の声を出したので、珠世は少し焦燥しながら確認するべく声を掛けた。

 

「うぅっ……下半身に、血が集まって来る感覚があります。何だか興奮して来ました……っっ。」

 

「っ!!」

 

炭治郎が両頬を紅潮させながらそう言うと、珠世は即座に脳内で自身の母乳について考察と分析を始める。

 

――炭治郎さんの症状を考えると、起こっている症状は体力の回復と疲労の軽減。それから……精力剤の役割も果たしている。いえ。この場合は……媚毒とでも言うべきかしら?

 

珠世は冷静に炭治郎に齎した、自身の母乳の成分を分析していた。

 

「……っ!!」

 

其処で珠世は、ある感覚に漸く気付いた。

 

自身の膣内で少し萎えた状態で挿入されていた炭治郎の逸物が、硬さと大きさを取り戻して珠世に存在感をはっきりと示していたのだ。

 

「……っっ。」

 

珠世は自身に子種を注ぎたいと脈を打つ炭治郎の逸物を意識して、思わず両頬を紅潮させた。

 

「ううぅっ、すみません。珠世さん……。」

 

炭治郎は暴れん棒となりつつある自身の逸物の節操無さに、珠世に謝罪する。

 

「謝る必要なんて、ありませんよ。」

 

「!」

 

珠世は両頬を紅潮させたまま、炭治郎の両肩に手を置いた。

 

「よ、良かったら……このまま抱いて下さい。炭治郎さんがこうなってしまった原因は、私にありますから……。」

 

「!!!」

 

珠世はそう言って、炭治郎に情交(セックス)する事を促した。更に珠世の豊満な乳房は興奮して母乳を何度も噴出しており、更に秘部も炭治郎の逸物を圧迫して締め付けていた。

 

「はぁっ……はぁっ……。」

――早く……速くっ……っ!!

 

珠世は動かずに固まっている炭治郎にもどかしさを覚えつつも、情交(セックス)が一秒でも早く再開される事を期待していた。

 

しかし此処で炭治郎が、珠世にとって想定外の言動を取る事になる。

 

「すみません、珠世さん。俺は良いですから……んっ!!」

 

「!!!??」

 

炭治郎は拒否の言葉を口にしながら何と、逸物を秘部から抜いて挿入状態を解いてしまったのである。

これには珠世も両眼を白黒させながら、唖然とする他に無い。

 

「どっ、どうしてっ……。」

 

珠世は自身の愛液塗れになった炭治郎の逸物に視線を奪われながら、強烈な喪失感を覚えつつ炭治郎が情交(セックス)を続行しようとしない理由を尋ねた。

 

「珠世さんのお役に立つならと思って協力しましたけど、やっぱり情交って()()()()()()恋人(ひと)同士でやるべきだと思うんです。」

 

「!」

 

炭治郎が断った理由を聞いて、珠世は何とも言えない表情を浮かべた。

 

「しかし……炭治郎さん()、そのままではお辛いのではないですか?」

 

「大丈夫ですよ。珠世さん。俺に気を遣わなくても……時間が経てば、収まると思いますし……。」

――それにあまねさんも居るし。

 

珠世はさり気無く炭治郎が情交(セックス)を続行する様に誘導するが今夜、炭治郎は産屋敷別邸で待っているであろうあまねの様子を脳裏に浮かべながら、やんわりと拒否した。

 

「……っ。」

 

炭治郎に拒否された珠世は、身体の疼きを抑えながら顔を俯かせた。

 

「……でも、勘違いはしないで下さいっ!」

 

「!!」

 

そんな悲しい匂いを出す珠世に、炭治郎は罪悪感を覚えながら両手を取って包む様に優しく握り締めた。

 

「……俺は、珠世さんの事が好きです。」

 

「えぇっ!?」

 

炭治郎からの告白を聞いて、珠世は両眼を見開いて驚いた様子で炭治郎を見た。その際に炭治郎の赫灼の瞳が鏡の如く赤面した自身の姿を映していた。

 

「鬼とか年齢差とか、そんなものは一切関係がありませんっ!……綺麗で聡明で頭が良くて優しくて、誰よりも努力家で芯が強い珠世さんの事が、俺は大好きです。今日まで何百年も罪を背負って戦って来た珠世さんだからこそ、幸せになって欲しいっ……ううん。俺が幸せにしたい。貴女を守りたいんです。」

 

「っっ!!……~~~~❤❤!!!」

 

炭治郎が続けて口にした告白に、珠世は両手で口を覆う様に隠した。それから両眼を潤ませると、大粒の涙が涙腺から漏れ頬を伝い寝台(ベッド)に落ちて行った。

 

「ッッ……狡いわっ。こんな時に、私に告白するなんて……。」

 

「すみません。どうせなら、始める前に言うべきでした……ふふっ。何だか、順番が滅茶苦茶になっちゃいましたね?」

 

自分より遥かに年下の炭治郎が、余裕の笑みを浮かべていた。炭治郎の様子を見ると、自分の反応を見て楽しんでいるのではとすら思えた。

 

「……もう。」

 

主導権を握っている様子を見て、珠世は不満の表情を浮かべて口を尖らした。

 

「炭治郎さんっ。」

 

「!!!」

 

炭治郎に強く抱き着いた。その際に珠世の豊満な乳房が、炭治郎の鍛えられた胸板に当たって形を変えた。

炭治郎は珠世の行動に驚きながらも、直ぐに抱き着いて来た抱擁を返した。

 

「後悔するかもしれませんよ? 私の様な大年増を惚れさせて……。」

 

「無い無い。それは絶対に、無いですっ……と言うか温泉で耳にしましたけど、珠世さんの肉体年齢は十九歳なんですよね? だったら、しのぶさんと大差無いじゃないですかっ。……そもそも俺は年齢に、拘りなんてありませんからっ!」

 

珠世との年齢差など、炭治郎は物ともしなかった。

 

「……ごめんなさい。分かってはいたのだけれど。」

 

「だったら良いです。もし不安だったら、何度でも言いますっ! 珠世さんは外も内もとっても美しい、素敵な女性ですっ!」

 

「!」

 

炭治郎は再度、珠世に告白を送る。炭治郎の告白に再び両頬を紅潮させる珠世に、炭治郎はゆっくりと額を合わせて問いかける。

 

「それで、珠世さん? お返事を頂けませんか?」

 

「言う必要が、あるのですか?……どうせ炭治郎さんなら、匂いで分かっている癖に……。」

 

「それでも、はっきりと言葉が欲しいです。珠世さん。お願いします。」

 

「……もうっ。」

 

炭治郎が強請る様に珠世からの返事を欲しがると、珠世は仕方が無いと言わんばかりに一度閉眼してから、ゆっくりと開眼して炭治郎を正面から見詰めた。

 

「私も、好きですっ。」

 

「!」

 

珠世は遂に、自身でも気付かない内に心中の奥底で育まれていた炭治郎への想いを告白した。珠世は、間髪入れずに更に続ける。

 

「……言っておきますが。性欲に負けて言っている訳ではありません。夫に似ている部分があるから、と言う理由でも無い……私を初めて人間(ひと)として見てくれた、貴方の優しさや器の大きさに私は惹かれたんです。私も……私もっ、炭治郎さんと一緒に幸せになりたい。」

 

「珠世さんっ!!」

 

珠世の告白を聞いて感極まった炭治郎は、額合わせをしていた珠世を接近してそのまま口付け(キス)を行った。

 

「ちゅううっ!……珠世さん。好きですっ……大好きですっ! ちゅううっ。」

 

「んんうぅっ! っっ!!! んんふうぅっ!?」

 

炭治郎から行われた初めての口付け(キス)に、珠世は両眼を見開いて身体を硬直させた。

 

「ちゅうっ……ちゅぢゅ、ちゅうううっっ。」

 

しかし我に返ると直ぐに両眼をトロンと蕩けさせて、珠世は直ぐに炭治郎の口付け(キス)を堪能する。

 

「んちゅうっ……はぁっ……珠、世さんっ。ちゅるちゅちゅっ、珠世、さんっ!!……じゅちゅううっ!!」

 

炭治郎は口付け(キス)だけでは留められず、更に舌を侵入させて口吸い(ディープキス)を行った。

 

「んんんんっっっ!??❤……ぢゅちゅるううっ!❤」

 

舌が口内に侵入して来ると言う、生まれて初めて体験する感触に両眼を見開く程に驚きながらも、直ぐに自身の舌を絡ませて唾液を吸い付き始めた。

 

「ぢゅくちゅううぅっ! じゅみゅぢゅっ……んぢゅちゅううっ!……ぢゅくちゅるちゅっ。」

 

「んんぢゅううっ!……くちゅぢゅううっ……じゅくちゅくちゅうっ……じゅぢゅるちゅうっ!!」

 

研究室の仮眠室で、卑猥な水音だけが室内に響き渡っていた。炭治郎と珠世はそれだけ、口吸い(ディープキス)に夢中になっていた。

 

それから炭治郎は、口吸い(ディープキス)を続けたまま珠世を寝台(ベッド)に優しく押し倒した。

 

「「……ぷはっ! はああっ……はぁっ、はぁっ……っっ。」」

 

それから呼吸が続かなくなって漸く、炭治郎と珠世は唇を離した。その際に太い銀色の橋が構成されたが、直ぐに決壊して消滅した。既に二人の唇の周辺は、唾液塗れになっていた。

 

「珠世さん……。」

 

「炭治郎さん……っ❤」

 

最早二人の間には、余計な言葉は不要であった。互いに見詰め合いながら名前を呼び合った後、炭治郎は身体を動かして逸物を珠世の秘部に一気に挿入する。

 

「~~~~~~っっっ!!?❤❤❤」

 

膣内に逸物を挿入された珠世は、背中が浮く程に身体を仰け反らせて母乳を吹き出しながら声にすらならない程の絶頂を体験した。

 

「ぁあっ!……今までより、締め付けが凄いっ!……。」

 

絡み付く様に密着して膣圧を加えて来る珠世の膣内に、炭治郎は思わず声を凝らしながらも絶頂しない様に必死で耐えていた。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「あああぁっ!❤ んあああぁぁっ!❤」

 

炭治郎は腰を小刻みに震わせながらも、気を確かに持って反復動作(ピストン)を開始した。

 

「あぁっ!……ああぁっ!……どうしてっ、先刻(さっき)よりっ……ずっと気持ち良いのっ!!」

 

珠世は炭治郎の反復動作(ピストン)に耐えながら、今までよりも強い快楽が襲っている事に当惑していた。そんな珠世に、炭治郎はその理由を伝える。

 

「ええっ、俺も気持ち良いですっ!……きっと、心も結ばれたからですよっ!……くぅっ!!」

 

「っ!!……こ、心もっ……結ばれたからっ?……っっ。」

 

珠世が炭治郎の言葉を、途切れ途切れながらも復唱した。まるで、自分自身に言い聞かせる様に。

 

「はいっ! 俺たちはもうっ……恋人同士ですからっ!!」

 

「――――――ッッ!!❤❤」

 

炭治郎が口にした恋人同士という一言に、珠世はそれだけで強く絶頂してしまった。

 

そして珠世が絶頂した事で、一気に炭治郎の逸物を圧迫する珠世の膣内の膣圧も急上昇した。

 

「うぁぁっ!……出るっ!!」

 

 

 

ビュルルルルルウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!! ビュビュビュルルルルルウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!

 

 

 

「んんあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!❤❤❤」

 

炭治郎の逸物から射精された大量の白濁の溶岩を子宮に直接浴びせられた珠世は、これまでで最も大きい嬌声を上げて絶頂した。その際に珠世の豊満な乳房からは、噴水の如く母乳が噴き出て寝台(ベッド)の真上の天井にまで命中した。

 

――あぁっ……幸せっ……っっ❤

 

舌をだらしなく伸ばしながら、半分意識を失っている珠世は無自覚にそう心中で呟いていた。

 

「はぁっ。はぁっ。はぁっ……っ。」

 

長い射精が終わった炭治郎は、呼吸を整えてから珠世にゆっくりと顔を近付けて行った。

 

「珠世さん。」

 

「っ!!……っ❤」

 

炭治郎は珠世の名前を呼ぶと同時に、優しく珠世に口付け(キス)を行った。炭治郎の口付け(キス)を受けた珠世は同時に意識を取り戻して我に返ったが、両眼を細めると喜んで受け入れた。

 

「っ……珠世さん。一つ、お願いがあります。」

 

「はい……何でしょうか?」

――私に出来る事なら、何でも……っ❤

 

珠世は心中でそう思いながら、炭治郎の言葉を待った。

 

「こういった関係になった訳ですから……そもそも年下の俺に、敬語もさん付けも要らないです。炭治郎って、呼んで欲しいな。」

 

「っっ❤……はい、喜んで。……炭治郎。」

 

珠世は炭治郎に頼まれた通り、呼び捨てにして愛する男性に名前を、嬉しそうに且つ愛おしそうに炭治郎と口にした。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「……」

 

産屋敷別邸の一室で、あまねが姿勢良く座って居た。

 

「……炭治郎様。」

 

暫くは沈黙したままであったが、遂に寂しさを覚えてしまったあまねは炭治郎(愛人)の名前を口にする。その際に隣で敷いてあった一式の布団が、あまねの視線に入った。

 

「っっ!!」

 

唐突に昨夜の情交(セックス)の体験が洪水の如く、あまねの脳裏に回想される。その瞬間、あまねの身体は発火したが如く全身に強い熱を帯びたのを感じた。

 

「あっ……っ!」

 

あまねはその熱に魘されるかの様に、そのまま布団の上に寝転がった。

 

「……んっ……んんっ。」

 

布団の上に、倒れ込む様に寝転がったあまね。徐に寝間着を開けさせると、何と乳房を揉み出して自慰を始めたのである。

 

「んぅっ!……んっ!……あんっ!!……ぅぁんっ……あぁっ!」

 

あまねは悩まし気な嬌声を上げながら、引き続き自身の乳房を揉んでいく。更に単純に揉むだけでなく、先端の乳首を摘まんだり引っ張ったりしながら、変調を自身で加える事も忘れない。

 

「うぅっ……くうっ!」

 

しかし乳房を愛撫するだけでは物足りなくなったのか、右手を乳房から離して真っ直ぐある箇所に向かって伸ばした。右手の先にはある目的地は、あまねの秘部であった。

 

「あぁっ!……んぅっ!……はぁっ、はぁっ……んっ!! んんうぅっ!」

 

あまねの秘部は、既に愛液が溢れ始めていた。あまねが右手の指を挿入すると、くちゅくちゅと嫌らしい音が室内に鳴り響いた。

 

「んんっ!……あっ!……っっ……もの、足りないっ……っっ!!」

 

産屋敷別邸の室内で水音が響く中、あまねから不満の声が漏れた。その不満の声が漏れたと同時に、あるものがあまねの視線に留まった。

 

「くぅっ!……んんぅっ!!」

 

あまねは乳房を愛撫し続けていた左手を解放すると、視線の先にある物に左腕を伸ばして掴む。あまねの左手にあったのは、炭治郎の特徴の一つになっている黒緑の市松模様が入った炭治郎の羽織であった。

 

「あぁっ。んんっ。すうぅっ……っっっ!!!……すううっ!!」

 

あまねは鼻に炭治郎の羽織を当てて匂いを嗅ぐと、本能的に炭治郎の匂いを感じた。その瞬間、先程よりも感度が上昇して快楽が増した感覚を覚えた。

 

「すううぅっ!……すううぅぅっ!!……ふふっ。クスクスッ。」

 

あまねは更なる快楽を欲して、更に強く炭治郎の羽織の匂いを嗅ぎ続けた。すると途中で。何故かあまねは可笑しそうに笑い出した。

 

――女を捨てた筈の私が……クスッ。一体誰がこの様な未来を想像出来たのでしょうか?

 

あまねは心中でそう思いながら、不意に一昨日までの自分を回想し始めた。

 

鬼殺隊に入隊して、命を惜しまず鬼と戦い続けた。

 

死亡してしまった妹に代わり、初めて会った耀哉に全てを捧げる覚悟で生きて来た。

 

そして後継者である輝利哉達を産んでから、残された自分の役目は最期まで耀哉の傍で過ごし、見届けてから自身も後を追うのが自分に定められた運命だと疑わなかった。

 

――耀哉様への、愛を忘れては決してないっ……けれど自分より一回りも年下の少年に、私はこんなにも夢中になってしまっている。

 

耀哉達を脳裏に思い出してたあまねだったが、一瞬にしてその光景がある人物によって上書きされた。

 

炭治郎である。あまねの脳裏は、直ぐに炭治郎の笑顔と若々しく筋肉質な逞しい身体で埋め尽くされた。

 

「んんんんぅぅぅぅっ!!!」

 

炭治郎を思い出したと同時に、あまねは絶頂した。暫くビクビクと全身が痙攣していたが、少し時間が経過するとそれも収まって落ち着きを取り戻した。

 

「炭治郎……様っ❤……っ❤」

 

炭治郎を思い出して幸福感に包まれたあまねは、愛おしそうに炭治郎の市松模様の羽織を両手で抱える様に抱き締めた。

 

「…………すぅっ……すぅっ。」

 

すると炭治郎と情交(セックス)した時の疲労が残っていたのか、そのまま睡魔に抱かれてあまねは就寝に就いた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「珠世さんっ! 珠世さんっ!!」

 

「ああんっ! んああぁっ!!❤」

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

あまねが炭治郎を待って自慰を行っていた頃、炭治郎と珠世は研究室に隣接されている仮眠室で情交(セックス)を続けていた。

 

当初はあまねの事も気に掛けていた炭治郎だったが、心も身体も結ばれた珠世を抱く事に夢中になっていた。

 

現在の炭治郎と珠世は、寝台(ベッド)から離れて後櫓(背面立位)の体位で情交(セックス)をしている。

 

炭治郎が珠世の腰を掴んで立ったまま、反復動作(ピストン)で珠世を攻め続ける。一方で珠世は壁に手を突いて、自身の豊満な乳房を揺らしながら嬌声を上げていた。上下に激しく揺れる珠世の豊満な乳房から、撒き散らす様に母乳が溢れ出て来る。

 

「あああぁぁっっ!! 珠世さんっ! 射精()しますっ! 射精()しますからねっ!」

 

「あああぁぁんんっっ!!❤ は、はいぃぃっ!!❤ 何時でも射精()してえぇぇっ!!」

 

炭治郎は珠世の腰を掴んでいた両手を離す。そして激しく揺れる乳房に狙いを定めて、両手を伸ばして鷲掴みにした。更に珠世の背中に密着する様に抱き着いた。

 

「うぅっ! あああぁぁぁっ!!」

 

 

 

ビュビュルルルルルウウウウウウゥゥゥゥゥゥッッッッ!!! ビュビュルルルルルウウウウウウゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!

 

 

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁまたいっぱい出てるううううぅぅぅぅっっ!! いっ、イクうううぅぅぅぅぅっっっ!!!」

 

珠世は舌をだらしなく伸ばして、半分白目になりながら大きく絶頂した。その際に珠世の乳房からは、一際大量の母乳が噴水の如く飛び出て床を大きく濡らした。

 

「ふぅっ……ふぅっ……ふうぅ~っ。」

 

やがて射精も射精後の余韻も収まった炭治郎は、珠世の脇を抱える様に抱き上げた。

 

そして珠世と繋がったまま、炭治郎は後ろ向きに一歩ずつゆっくりと歩く。そしてそのまま、炭治郎は足に当たった寝台(ベッド)に腰を掛けて座った。

 

「~~~~っっ!!?」

 

炭治郎が寝台(ベッド)に座った事で、繋がっていた逸物が珠世の子宮口を抉る様に刺激した。その強烈な快楽を受けて、珠世は声にならない嬌声を上げて再び絶頂した。

 

「流石にっ……ちょっと疲れて来たかもっ。」

 

炭治郎は自分の身体が、重くなるのを感じた。そして動きが鈍っている様に感じた。

 

あれから珠世と心も無事に結ばれる事が出来た炭治郎は、嬉しさから珠世を欲望のままに抱き続けていた。

 

既に抜かず休まずに、珠世へ二十回以上の射精を繰り返していた。そして炭治郎が射精する事で珠世は母乳の分泌も止まらず、既に仮眠室の一部は母乳塗れになっていた。

 

あまりに分泌される母乳が多いので、一時は窓を開けて其処から母乳を排出する程であった。これは雨が降っているので、それで誤魔化しが効くだろうという考えからだ。尤も、危険な試みである事に変わりは無いのだが。

 

「でも……それを解決する方法が一つ。それに俺、もう我慢出来ないや。」

 

炭治郎はそう言うと、未だに母乳を分泌している珠世の豊満な乳房に狙いを定めた。繋がったまま珠世を器用に動かして、炭治郎は珠世と抱き地蔵(対面座位)の体位になった。

 

「あっ……んっ?…………た、炭治郎?」

 

漸く放心状態から正気に戻った珠世は、炭治郎の名前を咄嗟に呼ぶ。珠世が状況を把握する前に、炭治郎が行動に移っていた。

 

「ちゅぶっ! ちゅううぅぅっ!! ゴクゴクッ! ちゅうううぅぅぅっ!」

 

炭治郎は珠世の左乳房を持ち上げる様に支えると、そのまま圧し掛かる勢いで左乳房に吸い付いて母乳を飲み始めた。

 

「あああんっっ!?❤」

 

炭治郎に母乳を吸われた珠世は、快楽に身悶えて背中を仰け反らせる。

 

「ああんっ❤……はああぁんっ!❤……駄目よ、炭治郎っ……私の母乳(ちち)を飲んだら……んはあぁんっ!❤」

 

「ゴクゴクゴクッ……ちゅちゅぢゅうううっ!!……ぷはぁっ!!」

 

暫く母乳を飲み続けていた炭治郎は、一先ず満足した様子で珠世の乳房から口を離した。そして直ぐに、珠世の母乳の効能は効果を表した。

 

「!!……身体が、熱くなってきました。やっぱり珠世さんの母乳って凄いですね。」

 

「っっ!!……もうっ。私の母乳(ちち)を貴方が飲んでしまったら、延々と終わらないわよ?」

 

炭治郎の体力と精力が回復した事で、再び情交(セックス)が継続する事を珠世は即座に察した。珠世が呆れた様子で炭治郎にそう言うと、炭治郎はシュンとした様子で珠世にある事を尋ねた。

 

「珠世さんは、俺としたくないですか?」

 

「!?……ちっ、違うわっ! 違いますっ!!…………ただ、私は貴方の身体を心配して……っ。」

 

珠世が炭治郎の質問を即座に否定したので、炭治郎は明らかに安堵した。

 

「大丈夫ですっ! 寧ろ我慢したら、俺にとって逆に毒になっちゃいますからっ!」

 

炭治郎は元気良くそう言うと、珠世にある事を強く宣言する。

 

「ですから、珠世さん。朝になるまで、沢山愛し合いましょうね?」

 

「!!!?」

 

炭治郎の宣言に、珠世は両眼を見開いて驚愕する。それからうっとりとした様子で、両眼をトロンとさせていた。

 

「そんな事を言われたら、私もその気になってしまうわ……。」

 

「はいっ! なって下さいっ! んちゅうんちゅうううっ!!」

 

「んちゅぢゅうううっ!!?❤……っっ❤……ちゅりゅれろっ!……えぇっ、来てっ❤ いっぱい、ちゅううっ……愛してっ❤ んちゅううっ!!」

 

炭治郎と珠世は繋がったまま、熱い口吸い(ディープキス)を始めた。それにより、仮眠室は二種類の嬌声と水音の三重奏が響き渡った。更には、何かを吸う音と肉がぶつかる音も加わる事になる。

 

そしてこれらの音は、炭治郎が宣言した通り朝まで鳴り続けるのであった。




お待たせ致しました。

ハーメルンユーザーのdldbsrl1様とpixivユーザーだったSaiHaruki様のリクエスト『炭珠で母乳+あまね自慰』です。
リクエストネタがダブっていたので、重ねて紹介させて頂きます。

今回で珠世を完全攻略する事が出来ました。この珠世の母乳がどう言った影響を齎すのか、それは今後にご期待下さい。

まぁ炭治郎の嗜好で終わるかもですけどね(笑)

次回の更新予定ですが、取り敢えず八月中と宣言しておきます。よろしくお願い致します。


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第陸拾肆話 日輪は紫蝶に獣欲をぶつける ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


東京府・産屋敷邸

 

大正二年(一九一三年) 三月十八日(火)

時間帯:昼

天気:雨

 

 

 

ガンッ!

 

 

 

「あいっった!?」

 

鈍い音と共に、炭治郎の悲鳴が室内に響き渡った。そして右手に持って居た木刀を落として、打たれた頭を両手で押さえた。

 

「…………竈門様。私はそう強く打ち込んだ覚えはありません。早く立って下さい。」

 

そんな炭治郎に、木製の薙刀を構えたあまねが容赦無く続行を催促した。

 

「うぅっ、はいっ……。」

――あまねさんから怒ってる匂いがする。……俺が珠世さんに夢中になって、放ったらかしにしたからだよなぁ。

 

炭治郎はあまねの様子に戦々恐々としながら、涙目になりつつも木刀を拾った。未だに頭が痛いのか、左手で頭を押さえたままだったが。

 

普段のあまねでは、人形の如き喜怒哀楽の表現が乏しく産屋敷家に仕える使用人達ですら判断が下せない程だ。

 

そんなあまねの異変に炭治郎は自身の超人的な嗅覚を以て、敏感に気付いていた。

 

実は炭治郎は結局、あまねの事はすっかり忘れて珠世と朝まで情交(セックス)を続けた。一方の珠世も炭治郎は求められる事を喜び、炭治郎と終始繋がったままであった。

 

朝になったのを時計で確認した炭治郎と珠世は、名残惜しそうに互いを見詰めた後に身体を離した。

 

そして身体を拭いて互いの身体を綺麗にしたのだが、珠世は最後に労いと称して炭治郎に口付け(キス)をした。珠世から思わぬ労いを受けた炭治郎は、感激して珠世を強く抱き締めて口吸い(ディープキス)を返した。

 

驚いた珠世であったが、拒否する事無く炭治郎からの口吸い(ディープキス)をそのまま受け入れて炭治郎の唾液を吸った。

 

それから理性を失って情交(セックス)に発展するとまでは行かなかったものの、結局三十分もの間、二人は口吸い(ディープキス)を続けるのだった。

 

それから漸く珠世との口吸い(ディープキス)を終えて余韻に浸りながら朝食を食べる為に廊下を歩いていた頃になって、漸くあまねの事を思い出して炭治郎は一瞬にして背中が濡れる程の冷汗を掻いて焦燥したのである。

 

炭治郎は罪悪感のあまり、朝食の時にあまねと視線を合わせる事が出来なかった。

 

「あの、あまねさん。」

 

「「!」」

 

其処へあまねに声を掛ける人物が現れた。それは昨夜、炭治郎と心身共に結ばれた珠世であった。

 

「何やら誤解が生じている様なので言わせて頂きますが……これは日の呼吸の動作修正が主目的であって、打ち込み稽古ではありません。受け止める事に専念し、反撃などは行わない様にお願いします。」

 

「!!」

 

珠世は半分睨み付ける様にあまねに対して強い視線を向けながら、あまねが炭治郎に強く打ち込みを入れた事に苦言を呈した。

 

「……そうでした。申し訳ありません。」

 

「分かって頂ければ、それで構いません。次からはお気を付けて。」

 

「はい、珠世様。」

 

あまねからの返事を聞いて珠世は満足そうに頷くと、そのままその足で炭治郎の下へ向かった。

 

()()()。大丈夫? 何処も痛くない?」

 

「!!」

 

珠世は炭治郎の身を案じて炭治郎の右頬に片手を添えて、炭治郎に痛みの具合を尋ねた。

 

「はいっ。大丈夫ですよ。珠世さんっ!」

 

自身を心配する珠世に、炭治郎は笑顔で大丈夫である事を伝えた。

 

「……っ。」

 

炭治郎の笑顔を見て、珠世は両頬を僅かに赤く染めた。

 

「っ……!?」

 

同じく炭治郎に見惚れていたあまねであったが、それでも珠世の変化に気付かない筈が無い。珠世の反応を見て表面上は平静を装いながらも、内心では驚かざるを得なかった。

 

「こほんっ……炭治郎。続けられる? それとも、休憩を挟みましょうか?」

 

珠世は誤魔化す様に咳払いをすると、炭治郎の体調を気遣って尋ねた。"日の呼吸"は凄まじい負担を、使い手である炭治郎に強いてしまう。医者である珠世が、その事実を懸念して心配するのは当然であった。

 

「えーとっ……じゃあ、休憩しても良いですか?」

 

炭治郎は意地を張らず、素直に休憩を望んだ。あまねの一撃を受けたと言うより、"日の呼吸"の消耗がそれだけ激しかったと言う事であった。

 

「分かりました。しばし小休止と致します。」

 

あまねは炭治郎の要望に応え、小休止を取る事となった。

 

「あの……珠世さん。少しお話があります。」

 

「炭治郎?……分かったわ。あまねさん。少し失礼しますね。」

 

「はい。珠世様。」

 

炭治郎と珠世は、あまねに一度断りを入れてから部屋を退室した。

 

「……」

 

あまねは二人が去った襖の前を、両眼を細めて見詰め続けていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「炭治郎……話って?」

 

珠世は炭治郎と二人切りになった室内で、珠世は炭治郎に尋ねた。

 

「話と言うか……お願いがあります。」

 

「お願い?」

 

炭治郎が頬を片手で照れ臭そうに掻いた後、意を決した様子で珠世に近付いて耳元に囁く様にそのお願い事を口にした。

 

「珠世さんの母乳(おっぱい)……飲ませてくれませんか?」

 

「……は、はいっ!?」

 

炭治郎のお願い事を聞いて、内容を理解した珠世は一瞬で赤面して狼狽した。

 

「炭治郎っ!! こ、こんな明るい内から盛らないでっ!? どうしてもしたいと言うなら、せめて夜になってから……。」

 

「いやっ、待って下さい。他意とか下心は無いんです!」

 

珠世が拒否すると、炭治郎は誤解を解こうと珠世へ弁明を始めた。

 

「どう見れば、下心が無いと言うの!?」

 

「はいっ! 珠世さんの母乳には、体力を回復させたり疲労を軽減させる効果があるじゃないですかっ!!……だから飲ませて貰えば、鍛錬に早く復帰出来るんじゃないかって思って……。」

 

珠世の詰問に、炭治郎は明確な理由と利点を述べて珠世を説得する。

 

「……」

 

炭治郎から母乳の摂取する事で得られる理由と利点を聞いて、珠世は頭を抱える。炭治郎本人はあくまで真面目に言っているだけに、尚更性質が悪いと珠世は思った。

 

「……確かにそうだけれど、精力が増す点はどうするの?」

 

「はいっ! 其処は我慢して見せますっ! これでも長男ですからっ!」

 

「…………はぁ」

 

珠世は母乳の摂取による欠点の対策を炭治郎から聞いて、再び頭を抱えた。そして軽く、溜息を吐いた。

 

「分かりました。準備しましょう。茶碗か何か容器を用意して……。」

 

珠世は諦めて、炭治郎の為に母乳を用意する事にした。其処で母乳を入れる為の容器を用意しようと考えた。

 

「あの、珠世さん……どうせなら直接飲みたいです。」

 

「!?」

 

炭治郎は少し躊躇しながらも、自身の欲望に従って珠世に要望を口にした。

 

「……」

 

珠世は咄嗟に拒否しようとしたのだが、炭治郎が両眼を輝かせて自身を見詰める様子を見て口に出来なかった。

 

――…………はぁっ。これも惚れた弱味ね。

「分かったわ。脱ぐから少し待って。」

 

「!!」

 

珠世が渋々承諾したのを聞いて炭治郎の表情に、あからさま過ぎる程に喜色満面と言った様子で歓喜を露わにしていた。

 

そんな視線を正面から浴びつつ、珠世は帯を解いて着物を脱ぎ始めた。

 

「!」

 

珠世は帯を解いて、乳房を露わにした。しかしそれも右側の乳房だけで、全裸状態にはならなかった。

 

「別に全裸(はだか)になる必要は、無いでしょう?」

 

「……そうですね。」

 

炭治郎はそう言ったが、残念と言う風には思わなかった。右乳房だけ露出した半裸状態でも、珠世の色気は十分に炭治郎は感じ取っていた。

 

「……クスクスッ。炭治郎。さぁ、どうぞ❤」

 

「!」

 

炭治郎が自身の露出した右乳房を凝視しているを見て、珠世が苦笑しながら片手で右乳房を持ち上げて炭治郎に近付けた。

 

珠世はこれから来る快楽に期待しているのか、既に右乳房の先の乳首は勃起して既に母乳を僅かながらも滲み出していた。

 

「あむっ。」

 

「あっ……❤」

 

炭治郎が乳房に吸い付くと同時に、珠世は嬌声を漏らしてビクッと身体を震わせた。

 

「ちゅっちゅううっ。ちゅうぅっ! ちゅうううっ。ゴクゴクッ。」

 

「あっ❤ ああっ❤ ああぁぁっ❤❤」

 

吸い付かれた刺激により、珠世は譫言の様に嬌声を漏らしてその快楽を味わっていた。

 

――きっ、気持ち良いぃっ……っっ❤

 

珠世は快楽にビクビクと身体を震わせつつ、炭治郎に視線を戻す。そして炭治郎を愛おしそうに見詰めながら、優しく頭を撫で始めた。

 

「っ!……ちゅううぅっ!」

 

「んんっ!❤」

 

炭治郎を後頭部に当たる優しい感触を感じて一度両眼を見開くも、再び母乳を飲み続ける事に専念する。珠世は快楽に身体を痙攣させながらも、炭治郎の頭を愛おし気に撫で続ける。

 

――あぁんっ❤ ああぁっ!❤……駄目っ。そろそろ、イクッ……。

 

快楽を感じて高揚して来る珠世は、時を置かずして絶頂しそうになるの自覚していた。珠世はやって来る筈の絶頂に期待して、興奮から既に口元から涎を一筋垂らしていた。

 

「……ぷはっ。ご馳走様でした。珠世さん。」

 

「!?」

 

しかし珠世が抱いていた期待は、ものの見事に裏切られてしまう。

 

炭治郎が珠世の乳房から口を離して、母乳を吸うのを止めてしまったからである。これには珠世も我に返って愕然としてしまう。

 

「た、炭治郎?」

 

「……えっと。」

 

珠世が当惑した様子で、炭治郎の名前を呼んだ。すると炭治郎は申し訳無さそうに右手で頬を掻きながら、珠世に母乳を飲むのを止めた理由を言い始めた。

 

「あんまり飲み過ぎると、あそこも興奮してしまうから……この辺で止めた方が良いと思ったんです。体力も、元に戻ったと思いますし。」

 

「!」

 

炭治郎は少し照れた様子で、視線を下に向けた。炭治郎の視線の先には、今は沈黙している自身の逸物であった。

 

「それだったら、私が処理を……。」

 

「すみません。御言葉だけ、貰っておきます。始めちゃったら、夢中になっちゃいますから。」

 

珠世は性処理を買って出ようとしたが、炭治郎はやんわりと断りを入れた。

 

「そ、それも……そうね。」

 

炭治郎に拒否された珠世は、如何にか自分を納得させて着物を直し始めた。

 

「じゃ、じゃあ俺は先に戻りますね。失礼します」

 

珠世に視線を入れない様に、急いで襖を開けて退室する炭治郎。このまま室内に残っては、我慢出来なくなるかもしれないと思ったからだ。

 

「……?」

 

部屋から退室して廊下に出た炭治郎は、突然周囲を見渡し鼻を動かして匂いを嗅いだ。違和感を感じ取って咄嗟に出た行動であった。

 

「……気の所為か」

 

しかし視覚でも嗅覚でも違和感の正体を見つける事が出来なかったので、炭治郎は気の所為だと思って廊下を歩き出した。

 

「…………っ。」

 

そして炭治郎がいなくなった室内には、着物をほぼ着直した珠世だけが残されていた。

 

その珠世は炭治郎が出て行ってから、明らかに不満気な表情を隠していなかった。

 

「……そうだわ。こうしましょう。」

 

すると珠世は何かを思い付いた様子を見せながら、炭治郎に遅れて部屋から退室したのだった。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「すみません、戻りました。」

 

『!』

 

炭治郎はなるべく平静を装って、あまねの下へ戻って来た。

 

「……御帰りなさいませ。」

 

「!」

 

あまねは通常通りの人形の如き表情を浮かべていたのだが、炭治郎だからこそ普段のあまねと違う事実に気付いた。

 

「あまねさん、怒ってますか?」

 

「!!」

 

炭治郎の指摘を受けて、あまねはピクッと眉を動かしてた。

 

「……いいえ、怒ってなどいませんよ。私も()()()()()()()()ですから、大して待っておりませんので。」

 

「……そうですか。」

――今度は嘘の匂いだ。ん? ()()()()()()()()?……俺達が部屋を出た後、あまねさんも部屋を出てたのか?

 

炭治郎はあまねから嘘の匂いがした事が気になったが、それ以上にあまねの言葉が気になった。

 

「……っ!!」

 

炭治郎が思案していたのだが、それは途中で遮られてしまった。炭治郎の下へ、木刀が一本飛んで来たからだ。

 

「何もしていない時間が勿体ないですから、それなら少しでも時間を有意義に使うべきです。珠世様が戻られるまで、壱の型の円舞の練習でも致しましょう。」

 

「……それが良いですね。咄嗟でも正しい型を出せる様に、俺も練習をしておきたいです。」

 

あまねが提案した内容に、炭治郎は賛同して直ぐにあまねと鍛錬を始めた。

 

すると円舞の型を三回繰り返した後、炭治郎の動きは止まった。

 

「はぁっ……はぁっ……っっ。」

 

「正しい型の動きをしているので、連続して使える回数は増えてますね。」

 

「は、はいっ……はぁっ。」

 

あまねは炭治郎の成果を賞賛すると、炭治郎は息を切らしながらそれに答えた。

 

「すみません。お待たせしました。」

 

其処へ珠世も、炭治郎に遅れて戻って来た。珠世の表情は、少し頬を赤く染めた状態であった。

 

「御帰りなさいませ、珠世様……その両手にある物は?」

 

珠世の両手にある物が気になって、あまねは珠世に尋ねた。炭治郎も気になっている様で、珠世の両手に持っている物に注目していた。

 

「ああ、これですか?……炭治郎の為に用意した飲み物です。使用人の方に頼んで、空きの水筒をなるべく多く用意して頂いたのですよ。」

 

珠世はそう言って両手に持っている水筒を、そのまま持ち上げた。その水筒の数は、二十個はあった。

 

「……私が不在の間にも、鍛錬を続けていたみたいですね。実に関心です……しかし疲れたでしょう? 炭治郎。早速だけど、一本飲んでは如何かしら?」

 

珠世は十個の水筒を床に置くと、一本だけ取って炭治郎に手渡した。炭治郎は困惑した表情を浮かべながら、珠世からの水筒を受け取った。

 

「頂きます……っ!?」

 

炭治郎が水筒に口を着けた瞬間、飲み慣れた濃厚な甘味が喉を通った。

一口その飲み物を喉を鳴らしながら飲み干した瞬間、直ぐに水筒から口を離してその水筒を炭治郎は見詰めた。

 

「っ!……珠世さんっ。これって……。」

 

炭治郎は何度も水筒と珠世を交互に見ながら、珠世からの返事を待った。

 

「ええっ……炭治郎専用の、体力回復に役立つ飲み物です。手間が省ける様に、纏めて用意しましたよ。」

 

「あっ、その……ありがとう、ございますっ……っ。」

 

炭治郎は感謝の言葉こそ述べたが、その声色と表情には複雑な感情が渦巻いていた。

 

炭治郎が口にしたのは、珠世の母乳であったのだ。用意した水筒に、珠世が母乳を入れたと想像するのは容易だった。

 

しかし珠世にこの事実に関して伝える事は出来なかった。珠世からは明らかな怒りの匂いが身体全体から醸し出されており、かつ不満の匂いも混ざっている事に気付いたからだ。

 

珠世を欲求不満な状態にしたのは、間違いなく炭治郎に原因があった。そもそも珠世に欲求不満の理由を聞く訳にも行かない。

 

炭治郎は自業自得と自身の行為に関して諦める他無く、只管に水筒に入った珠世の母乳を定期的に補給しながら鍛錬を限界まで継続した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「もうこの辺りが限界でしょう。炭治郎は汗を流したら休んでて。」

 

「は、はい……ありがとう、ございました……。」

 

炭治郎は鍛錬を続けた結果、肆の型である灼骨炎陽までの修正を行う事に成功した。今後の炭治郎に課せられる課題は、この四つの型の完全修正となった。

 

両頬を赤して火照った様子を見せながら、炭治郎は珠世とあまねに一礼した後に部屋を退室した。

 

「ふぅっ……ふぅっ……っっ。」

 

部屋を退室した炭治郎は、急ぎ足である場所に向かって全速力で走り出した。

 

「……私もやるべき事があるので、先に失礼しますね。あまねさん、お付き合い頂きありがとうございました」

 

「ええ。珠世様こそ、お疲れさまでした。」

 

炭治郎が退室して暫くすると、珠世も部屋から退室した。

 

「……」

 

あまねは珠世が出て行ったその跡を、ただ両眼を細めて静かに見詰めていた。

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ぐうぅっ!……はぁっ……はぁっ!」

 

炭治郎は倒れ込む様に、産屋敷別邸の一室に倒れ込んだ。その呼吸は非常に荒く、更には股間も衣服から分かるも分かる位に勃起していた。

 

珠世の母乳を鍛錬継続の為に飲み続けたので、只管に精力が増強し続けていた。

 

「ああぁっ……身体が熱くて、隊服(ふく)なんて着てられないっ……っっ!」

 

炭治郎は脱ぎ捨てる様に、無造作に隊服を脱いで全裸になった。すると自身の逸物が、血管が強く浮き出る程に力強く勃起していた。自身の状態を鑑みて、切っ掛け一つで逸物が暴発するとすら思った。

 

「っ!」

 

そうしていると炭治郎は、一室に接近して来る人影に気付いた。慌てて脱ぎ捨てた隊服を下半身に被せて、勃起している逸物を隠した。しかし脱ぎ捨てた隊服からでも、その存在感までは隠し通せなかったが。

 

「失礼します……炭治郎、大丈夫?」

 

「!!!」

 

其処へ一室の障子が開かれて、一人の女性が入室して来た。その女生徒は、珠世であった。

 

炭治郎の後を追って、珠世が付いて来たのだ。純粋に炭治郎の体調を心配して、産屋敷別邸まで追って来たのである。

 

「……」

 

珠世の存在に気付いた炭治郎は、自身の脳裏でピンと張っていた理性の糸がプツンと切れる音をしっかりと聞いた。

 

「きゃあっ!? たんじ、むぐぅっ!!?」

 

炭治郎は唐突に立ち上がると、珠世を屈ませて勃起した逸物を徐に口へ突っ込ませた。

 

「あっ……珠世さんの口の中、温かい……っ。」

 

自身の逸物から伝わる珠世の口内の温もりを感じて、炭治郎は恍惚とした表情を浮かべていた。

 

しかし炭治郎は珠世の口内に逸物を突っ込ませるだけでは、とても満足出来なかった。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ。」

 

「んぐぅっ!? んうぅっ!! んむううぅっ!!?」

 

炭治郎は腰を引かせると、一気に腰を突き動かして逸物を珠世の喉奥まで侵入させた。

 

 

 

パンパンパンッッ!!!

 

 

 

それも一度だけでなく、膣内に挿入しているが如く何度も連続で反復動作(ピストン)を繰り返した。

 

「んんううぅぅぅっ!! んむふうぅぅっ!!?」

 

炭治郎の規格外の逸物に口ばかりか喉全体を占領されて、窒息寸前になる珠世。しかし鬼である珠世だからこそ窒息による失神も窒息死もする事無く、この様な特殊な状況でも耐える事が出来た。

 

「うぅっ!……あぁっ!」

 

普段の炭治郎ならば、この様な乱暴で身勝手と言える自分本位な愛撫は通常行わない。しかし現状の発情し切った炭治郎は、溜まりに溜まった性欲を発散する事しか頭に無かった。

 

しかしこれがしのぶ達の様な通常の人間であれば、下手をしなくても相手を傷付けかねない愛撫はきっと死んでもしなかっただろう。

 

これが鬼である珠世への信頼があってこそ、炭治郎は我慢するのを止めて性欲を発散させる行動に移ったと言える。

 

 

 

ビュウウルルルルルウウウウウゥゥゥッッ!! ビュビュリュルルルルウウウゥゥゥゥッッッ!!!

 

 

 

「~~~~~~~~~~~っっっ❤❤❤」

 

炭治郎が射精した事で、白濁の溶岩たる精液が大量に珠世の胃袋へ直接流し込まれて行く。珠世は射精の勢いと精液の熱量に目を点としながらも、直ぐに恍惚とした表情を浮かべつつその大量の精液を受け入れた。

 

「ああっ、珠世さん。気持ち良いですっ……。」

 

炭治郎は珠世の後頭部に両手を置いて、更に強く逸物に珠世の口内に駄目押しとばかりに押し付けた。その様に乱暴とも取れる炭治郎の行動であったが、珠世は決して嫌がる事は無かった。

 

「ふぅっ……気持ち良かった。」

 

一度射精して落ち着きを取り戻したのか、腰を小刻みに震わせながらゆっくりと腰を引き始めた。

 

「んっ……ちゅぶぶっ❤」

 

口内から去り始める炭治郎の逸物に、珠世はただ舌を動かして逸物を舐め続けた。炭治郎の逸物は珠世に舐められながら、ゆっくりと口外へ出る。その結果、炭治郎の逸物は珠世の唾液塗れの状態で姿を現した。

 

「っ……炭治郎っ。全くもう、貴方と言う人は……。」

 

未だに勃起が止まらない炭治郎の逸物を、うっとりと熱が帯びた眼差しで見詰めていた珠世。

 

しかし我に返ると、直ぐに炭治郎にその強引さを叱咤しようとした。

 

しかし珠世が言葉を口に出す前に、炭治郎の方が先に行動に出た。

 

「珠世さんっ!」

 

「きゃっ!?」

 

炭治郎は珠世に飛び付く様に抱き着くと、そのまま珠世を畳に押し倒した。

 

「珠世さんっ……はぁはぁはぁっ。」

 

「あっ、炭治郎っ……っ!!」

 

呼吸を荒く繰り返しながら、炭治郎は珠世の着物を半ば乱暴に脱がして行く。

 

最初こそ手間取ったが、炭治郎は直ぐに珠世の着物を脱がして全裸の状態に変えさせた。

 

「……~~っっ。」

 

珠世は羞恥心からか、両頬を赤く染めながら顔を反らした。

珠世の身体は所々汗ばんでおり、秘部からは大量の愛液が既に溢れ出していた。

 

「あれだけじゃ、全然足りない……も、もう挿入(いれ)ますからねっ。珠世さんっ!」

 

其処まで言うと炭治郎は、自身の逸物を握ってから珠世の秘部に宛てがって狙いを定めた。

 

炭治郎の逸物は、直ぐに珠世の秘部の入り口に触れてクチュっと小さく音を立てた。

 

「あっ、待ってっ……慌てないでっ。私は逃げたりは……んあああぁぁっ!?」

 

珠世は炭治郎を落ち着かせようと説得したが、炭治郎に逸物を挿入されてその説得を中断させられ大きな嬌声を上げた。

 

「はぁぁっ。珠世さんの膣内(なか)、トロトロで気持ち良いですっ。」

 

炭治郎は心底気持ち良さそうに恍惚とした表情を浮かべながら、珠世の膣内から齎される膣圧を堪能していた。

 

しかし挿入しただけで満足出来る筈も無く、炭治郎は直ぐに腰を動かして反復動作(ピストン)を始めた。

 

「ああぁっ! ああぁぁっ!?」

 

パンパンと肉がぶつかる音を耳にしその感触も直接味わいながら、珠世は押し寄せて来る快楽の波を受けて悶絶していた。

 

「凄、いっ……んああぁっ!」

 

「珠世さんっ……っ……すみませんっ! もう射精()しますっ!!」

 

快楽で身体を仰け反る珠世だったが、それ以上に炭治郎の耐久度は既に限界を迎えていた。

 

 

 

ドビュビュビュルルルルルルルルルウウウウウゥゥゥッッ!! ビュルルウウゥゥゥゥッッッ!!!

 

 

 

「ああああぁぁぁぁっっ!!!❤❤」

 

先刻よりも多量の精液を膣内に射精された珠世は、強烈な快楽を浴びて嬌声を上げながら大きく絶頂した。

 

「うぅっ。はぁっ……はぁっ。」

 

ゆっくりだが荒く呼吸を繰り返す炭治郎は、珠世に伸し掛かってゆっくりと珠世を抱擁した。

 

「はぁっ……あっ…………っ❤」

 

呼吸を整えていた珠世は、炭治郎の重みを感じて心地良さと愛おしさを胸中に抱きながら両腕を回して炭治郎に抱擁を返した。

 

「……っっ!?」

 

暫く静かに炭治郎と抱擁を交わしていた珠世だったが、ある場所に視線を向けた途端にそれ所ではなくなってしまった。

 

「いけないっ!……障子が開いたままだわっ!」

 

障子を開放したまま放置していた事実に、珠世は今更ながら気付いたのだ。

 

入室した瞬間に興奮状態の炭治郎に引き釣り込まれて口淫(フェラチオ)を強制されていたので、障子の事はすっかり脳裏から彼方へ消し飛んでいた。

 

「炭治郎。一旦抜くわね。あぁっ、早く閉めないと……これでは嬌声(こえ)も漏れてるし、丸見えじゃないっ。」

 

珠世は身体を動かして自身の秘部から炭治郎の逸物を抜くと、四つん這いの状態で障子まで移動を始めた。

 

余談だがこの産屋敷別邸には、声が漏れない様に愈史郎の紙眼が四方に貼られている。

 

しかしその紙眼も只の紙眼では無く、紙眼・隠と名称付けられた種類の紙眼だ。

 

紙眼・隠は文字通り、隠密特化の能力を持つ紙眼である。

 

通常の紙眼よりも隠密性が高くなったのが特徴なのだが、致命的な弱点がこの紙眼・隠にはあった。

 

それは紙眼・隠は着用したまま一歩でも動くと、その隠密性が消滅してしまうという弱点だった。

 

なので紙眼・隠の着用者は、不動を絶対遵守しなければならないのである。

 

もう一つの特徴としては、紙眼は着用者同士で感覚共有が可能と言う機能がある。

 

しかし紙眼・隠を使用しての感覚共有は不可能だ。その機能も排除したからこそ、隠密性の能力が向上したのだから。

 

因みに紙眼の大元たる愈史郎だけは、紙眼の種類に問わず感覚共有が可能である。

 

兎に角そう言った特徴から、基本的に盗撮や盗聴の懸念が消滅したと言えるので、施設への設置には適していると言える紙眼であった。

 

蝶屋敷にある炭治郎の自室にも通常の紙眼からこの紙眼・隠に変更されて四方に設置されて、情交(セックス)での声漏れや盗聴及び盗撮の危険を排除されている。

 

唯一盗聴も盗撮も可能である愈史郎としても、炭治郎の情交(セックス)を覗き見る趣味は無い。それを証言するまで、しのぶ達からしつこく釘を差される破目になってしまったが。

 

そんな高い隠密性を持つ紙眼・隠も、四方の何処かに穴が開いていてはその性能が発揮出来ない。

 

つまり産屋敷別邸での炭治郎と珠世の情交(セックス)は、完全に外部に筒抜けになってしまっているのだ。

 

不幸中の幸いにも、誰もこの産屋敷別邸に近付く人物はおらず、更に外は強い雨が音を遮断していた。

 

しかし何時誰が此処の近くまで来るとも限らないので、珠世は急いで障子を閉めて安心したかった。

 

「ぁっ……んんっ。」

 

情交(セックス)の余韻で快感が時折身体を走らせるが、珠世は四つん這いの状態で一歩ずつ前に進んで障子にまで接近して行った。

 

「…………」

 

一方の炭治郎は、空いている障子に対して何一つ関心を抱いていなかった。

 

何故なら炭治郎の視線は揺れ動く珠世の臀部とその間にある、愛液が垂れ続ける秘部に集中していた。

 

「えっ!?……んほおおおっ!!?」

 

下半身に小さな衝撃を感じた珠世は、唐突に大きな奇声を上げた。更に両眼を見開いており、舌もだらしなく口から伸ばしていた。

 

「あっ……えっ?……っ!!?」

 

珠世は舌を伸ばしたまま頭を少し動かして背後に視線を向けると、自身が奇声を上げる原因を漸く理解した。

 

「ふううぅっ……ふううううぅっ。」

 

其処には興奮した状態で、荒く呼吸を繰り返す炭治郎が居た。炭治郎は珠世の煽情的な姿を見て、理性が耐えられず背後から一気に逸物を挿入したのだ。

 

「炭治郎っ! まっああぁぁんっ!❤ あぁっ!❤ ああぁんっ!!❤」

 

珠世は炭治郎を制止する様に言おうとしたが、炭治郎は問答無用で背後から珠世の上半身を押さえ付けてしまう。

下半身を強調したつぶし駒掛け(後背位)の体位になった炭治郎は、素早く反復動作(ピストン)を始めた。

 

「ああうぅっ!❤ あひいいっ!!❤ 炭治郎、お願いっ……せめて障子を、障子を閉めさせてっ! んあああぁぁぁっ!!」

 

珠世は襲い掛かって来る快楽を必死に耐えながら、炭治郎に障子を閉める事を懇願していた。

 

「お願いだからっ……あぁっ。もし誰かにこんな状況を見られたらぁっ……っ。」

 

「……」

 

珠世は一筋の涙を流して、炭治郎に再び懇願した。そんな珠世の姿を見て、流石に炭治郎も反復動作(ピストン)を止めた。

 

「あっ……。」

 

珠世は無くなった快楽に安堵と落胆と言う。相反する二つ気持ちを抱いた。そんな珠世に、炭治郎は上半身を倒して珠世の耳元に囁き始める。

 

「珠世さん。安心して下さい。御館様には使用人の方々や輝利哉君達には、産屋敷別邸(此処)に近付かない様に配慮して貰ってます。……それに仮に見られたとしても、俺は構いませんよ。珠世さんとの関係を、隠す心算はありませんから。」

 

「……えっ!!?」

 

炭治郎が口にした言葉を聞いて、珠世は再び両眼を見開いて驚愕していた。そんな珠世に微笑みながら、炭治郎は両手を伸ばして珠世の豊満な乳房を揉み始める。

 

「あっ……あぁっ❤」

 

自身の豊満な乳房を揉まれて、珠世は再び嬌声を漏らし始める。更に揉まれる事で生まれる快楽から、珠世の乳房から母乳が何度も間欠的に噴き出して畳を濡らした。

 

炭治郎は珠世の豊満な乳房を堪能しながら、更に続けて珠世に告白した。

 

「珠世さんは余計な事を考えず、もっと自分が幸せになる事を優先して下さい……愈史郎さんでしたら、何度殴られる事になっても俺が説得します。俺は珠世さんと、胸を張って恋人同士でありたいから。」

 

「――っっ!!❤❤」

 

炭治郎の告白を聞いた珠世は、全身に電流が走る様な歓喜を覚えて身体を大きく震わせた。

 

「うおぉっ!? 珠世さんっ、締め付けがっ……っ。」

 

唐突に逸物を捩じ切らん勢いの膣圧が炭治郎の逸物を襲い、その快感で炭治郎は思わず腰を震わせた。

 

そのまま珠世の子宮目掛けて炭治郎は射精しそうにすらなったが、気合で如何にか射精せずに我慢する事が出来た。

 

「珠世さんっ。行きますよっ!」

 

「!!」

 

炭治郎は珠世の二の腕を鷲掴みにすると、珠世の身体を少しばかり持ち上げて鵯越え(後背位)の体位で反復動作(ピストン)を始めた。

 

 

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

 

 

「あああぁぁぁっ!!❤ んあああぁぁぁっ!!!❤❤」

 

今までで一番強い反復動作(ピストン)を受けて、珠世は障子を閉める事などすっかり忘れてただ襲い掛かって来る快楽にその身を委ねていた。

 

「おあうううぅっ! あああぁぁっ!!❤」

 

更に珠世の上半身が半ば宙に浮いた状態なので、解放された珠世の豊満な乳房が激しく上下に揺れていた。先刻よりも勢い良く乳房から母乳を噴出し続け、室内の畳ばかりか障子まで母乳で汚して染みを生み出していた。

 

「くっ……珠世さん。もうっ……射精()しますっ!!」

 

「は、はいっ!❤……好きな時に射精()してっ……ぁ…………ああああぁぁぁぁっっ!!!❤」

 

珠世は子宮に注ぎ込まれる精液の白濁の溶岩の如き熱量と勢いを受けて、珠世は思い切り身体を仰け反らせて声を抑える事無く大きく絶頂した。

 

珠世が絶頂した際に、珠世の乳房と秘部からそれぞれ母乳と愛液を勢い良く噴出した。

 

「はぁっ……はぁっ……気持ち良かったです。珠世さん。」

 

「はぁっ❤……はぁっ❤……えぇっ……私も、凄く気持ち良かったっ……っ❤」

 

身体を密着させて、情交(セックス)の余韻を楽しむ炭治郎と珠世。二人は口付け(キス)を求めて、互いに身体を動かしてそのまま唇を近付けて行った。

 

「とても仲睦まじい御様子でいらっしゃいますね。」

 

「「!!?」」

 

其処へ第三者の声が、炭治郎と珠世の頭上に響いた。二人は驚愕しながら、声のする方へ急いで顔を向けた。

 

其処には普段通り表情が読めない無表情なあまねが、その場所に立っていて炭治郎と珠世を見下ろしていた。




お待たせ致しました。

pixivユーザーだったSaiHaruki様のリクエスト『炭珠で母乳によるドーピング+炭治郎の強引プレイ』です。

長らくお待たせした挙句、今回の投稿は比較的文字数が少なくて申し訳ありません。

ですが少しでも楽しく且つ興奮して一読頂けましたら、幸いに思います。

最後に二つだけ報告事項があります。

一つは生存報告ですが、半月に一回とさせて頂きます。しつこいと言うお声を頂いたので。

最後にあまねの登場により、次回はより楽しい展開になるとだけ宣言しておきます。

次回の投稿予定は十月中に投稿出来ると思っております。

異なる場合はその様に事前に連絡をさせて頂きますが、投稿出来る目途が出来た場合は投稿予定日の前日にも連絡する形を取らせて頂きます。

宜しくお願い致します。


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第陸拾伍話 日輪は紫蝶と月蝶の奉仕を受ける ❤

※キャプション必読・リクエストに関しての説明あり
・鬼滅の刃原作に関するネタバレあり。原作未読の方は閲覧注意。
・鬼滅の刃二次創作小説です。
・原作・キャラクターの性格・設定等改変の可能性大。一部キャラ崩壊注意。
・思い付き次第で何度も編集を繰り返す可能性大。お時間がある時で良いので、良ければ読み返してみて下さい。
・誤字脱字等のミス・内容の矛盾等の指摘は大歓迎。理不尽なクレームは受け付けません。
・コメント・メッセージ大歓迎。創作意欲の燃料になります。コメント・メッセージの返信は必ずさせて頂きますのでどしどし御投稿下さい。
・SS内容に関してはネタパクリと言う名の盗作を間違えてしないよう気を付けてますが、もし私が投稿した作品が既に別の作者様と内容が酷似していた場合、メッセージにて御連絡下さい。

※リクエストに関して
メッセージにてリクエスト内容を御連絡下さい。
以下規約参照
・100%受け付けられると保証された訳では御座いません。
・炭治郎×鬼滅女子のみ。
・作者は遅筆で怠惰癖あり。またリアルの都合や他SSの執筆で投稿が遅くなる可能性大。
・CP、全年齢かR作品か、ネタの内容を御記入下さい。ネタの内容が詳細で有れば有る程、筆が進むので御協力をお願い致します。


「失礼致します。」

 

あまねは驚愕して硬直する炭治郎と珠世を他所に、そのまま入室してから障子を閉めた。

 

「あまねさん……っ!」

 

「どうして、と言うか何時のまに……っ!」

 

困惑する炭治郎と珠世に、あまねは右手に持つ紙を見せた。あまねの右手には、愈史郎の紙眼があった。

 

その紙眼を見ただけで、あまねが気配を殺して接近出来た理由を察した。

 

「あーその、えっと……。」

 

「あまねさん。これには理由(わけ)が……。」

 

炭治郎と珠世は繋がったまま、あまねに対して冷や汗を流しながら如何にか抗弁しようと必死で舌を動かそうとしていた。

 

しかしあまねが炭治郎と珠世より先手を打つ形で、先に話を始めた。

 

「お二人がこの様な関係なのではないかと、薄々気付いておりました。」

 

「「!!」」

 

あまねが口にした内容を耳にして、炭治郎と珠世は驚愕の表情を浮かべる。

 

「……昨夜も楽しんでおられたと、私は思っているのですが?」

 

「えっ……っっ。」

 

「うっ……。」

 

あまねの鋭い指摘を受けて、炭治郎と珠世は異なる反応を見せた。

 

珠世はただ驚いており、炭治郎は図星とばかりに顔を反らした。そして先に行動に移ったのは、炭治郎だった。

 

「すみません。あまねさん。」

 

炭治郎は言い訳する事無く謝罪の言葉を口にしてから、珠世の膣内から逸物を抜き去った。

 

珠世の秘部から、愛液で濡れた炭治郎の逸物が姿を見せる。炭治郎の逸物は、未だに勃起した状態を維持していた。

 

「……っ。」

 

そんな炭治郎の逸物を見てあまねは小さく生唾を飲み込むと、炭治郎に抱き着いて口付け(キス)を始めた。

 

「えっ?……あまねさんっ!?」

 

「ちゅちゅううっ……ぢゅちゅううぅっ!!……んちゅりゅううちゅうううっ!!」

 

あまねの行動に困惑する珠世の事など気にせず、あまねは炭治郎の両頬を挟む様に手を添えて口吸い(ディープキス)を行う。

 

そんな激情的なあまねの行動に、珠世は言葉を失うしか無かった。

 

「ぢゅちゅうううっ!?……ぢゅじゅるちゅうううっ!!……んちゅりゅううちゅうううっ!!」

 

あまねの行動に同じく驚いた炭治郎だったが、直ぐにあまねの腰に両手を回してあまねを抱き締めながら口吸い(ディープキス)に応えた。

 

そのまま暫く口吸い(ディープキス)を行っていた炭治郎とあまねだったが、その最中に着物に手を掛けて脱ぎ出し始めた。

 

「「ぢゅうちゅるうううっ!……ぷはぁっ……はぁっはぁっ。」」

 

炭治郎とあまね口吸い(ディープキス)を終えた頃には、あまねの着物は全て脱がされて足元に落ちていた。

 

その結果、口付け跡(キスマーク)が多く付いたあまねの美しい裸体が姿を見せていた。

 

「あまねさん。一体何を……。」

 

「珠世様。困惑されている御気持ちは良く分かります。説明でしたら、後々に必ず致しますので……。」

 

あまねは珠世に顔を向けてそう言うと、あまねは炭治郎に強く抱き着いた。

 

「今は只、炭治郎様に激しく抱かれたいのです。」

 

「っ!!……っ。」

 

自身に抱き着いて情交(セックス)を切望するあまねに、炭治郎は優しく抱擁を返した。

 

それから抱擁を解いて、炭治郎とあまねは見詰め合う。

 

「その……俺と珠世さんの関係は、何時から気付いていたんですか?」

 

「珠世様が炭治郎様の御名前を、呼び捨てで呼ばれた時からです。」

 

――そんな前から……。

 

炭治郎はあまねの洞察力の高さに内心では戦慄していたが、表情には出さずにあまねに話し掛ける。

 

「昨日の夜は、すみませんでした。待って頂いていたのに。」

 

「……寂しくて、一人で自分を慰めていました。」

 

あまねは拗ねる様に顔を反らしてそう炭治郎に応えると、炭治郎にそっとあまねを優しく押し倒した。

 

「あまねさん。お詫びと言っては何ですけど……何も考えられなくなる位、激しくしますね。」

 

「あっ!❤」

 

炭治郎は微笑みながらそう言うと、あまねの豊満な乳房を両手で鷲掴みにした。

 

「あぁっ……あぅっ!……はあぁっ……。」

 

「あまねさんの乳房(おっぱい)、柔らくて気持ち良いです。」

 

揉む事で形を変え続けるあまねの豊満な乳房を凝視しながら、炭治郎はそう感想を口にした。

 

「うぁぅっ……しかし私の乳房より、珠世様の方が大きいですけど……あぁんっ!」

 

あまねは嬌声を漏らしつつも、自身の乳房よりも大きい珠世の乳房をチラッと見ながらそう言った。

 

「っ!」

 

あまねの視線を感じた珠世は、羞恥心から咄嗟に両手で自身の豊満な乳房を隠した。その両腕の圧力で、豊満な乳房から母乳が滲み出て乳房から垂れていた。

 

乳房(おっぱい)に貴賤なんてありませんよ。」

 

「んんっ……っ!」

 

炭治郎に執拗に揉まれ続けて、あまねの豊満な乳房からも母乳が少し噴出した。

 

「えっ!? どうしてあまねさんの乳房から母乳がっ……っ!?」

 

珠世はあまねが母乳を出す事実に、驚きを隠せなかった。

 

「まさかあまねさん、妊娠を……」

 

そして自分と違って人間の女性が母乳を出す理由が一つしか無い為、思わぬ勘違いを珠世はしていた。

 

「違いますよ、珠世さん。あまねさんは輝利哉君達を出産した後も、ずっと母乳が止まらないそうです。」

 

「なっ……そんな事がっ?」

 

炭治郎は勘違いをしている珠世に、あまねの乳房を揉みながらその理由を説明した。珠世は今まで見て来た患者でその様な事例を聞いた事が無い為、炭治郎の説明を聞いて驚いていた。

 

「あまねさんの乳房(おっぱい)も、とても大きくて綺麗で大好きです……頂きます。んっ。」

 

「あああんっ!❤」

 

炭治郎は珠世の反応を他所に、噴出して身体に少し掛かった母乳を見てあまねの豊満な乳房を真ん中に揉み寄せた。そして両方の乳房を纏めて口に加えてあまねの母乳を吸い始めた。

 

「あぁぁっ! ぃああぁっ! そんなっ!❤ 同時に吸うなんてっ……んああぁっ!!❤」

 

あまねは襲い掛かって来る快楽に身悶えて、何度も身体を妖艶にくねらせていた。口でこそ抵抗感はあるものの、身体は対照的に両腕を回して炭治郎の頭を抱き締める様に抱えて強く要求していた。

 

「ちゅううぅっ……っっ……ぢゅうううぅぅっ!!」

 

「ああああぁぁぁぁっ!!!❤❤」

 

炭治郎が一際強く両方の乳房に吸い付くと、あまねは大きく絶頂し頭を仰け反らせて大きな嬌声を上げた。

 

「んっ……ふぅっ。」

 

あまねを絶頂させて満足したのか、炭治郎は漸くあまねの両方の乳房から口を離した。その際に両方の乳房に付いていた唾液が、一瞬だけ銀色の橋を作って直ぐに消滅した。

 

「はぁっ……はぁっ……あっ。」

 

絶え絶えながら呼吸を整えていたあまねだったが、炭治郎の手で優しく仰向けで畳の上に倒された。

そして覆い被さる様に、炭治郎が身体を動かし始める。

 

「炭治郎様ぁっ……あぁっ!」

 

「痛く無いですか?……沢山、濡れてますね。俺の愛撫で感じてくれて、嬉しいです。」

 

炭治郎はあまねに微笑みながら、愛液で絶えず流れているあまねの秘部に指を二本挿入してクチュクチュと音を立てていた。そして炭治郎が愛撫を行った事で、あまねの秘部からは益々流れている愛液の量が増えて行った。

 

「じゃあ俺もそろそろ……。」

 

存在感を主張するあまねの秘部に対抗する様に、炭治郎も指を離して勃起した逸物を見せ付ける様に前面に出した。

 

「「!!」」

 

炭治郎の勃起した逸物を一目見ただけで、あまねばかりか珠世すら心臓の鼓動を大きく鳴らした。

 

「んんっ!!❤……はぁはぁっ……炭治郎様っ。始める前に一つだけ……お聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

 

「えっ? 何ですか?」

 

あまねは炭治郎に抱かれる直前で、興奮を抑え理性を取り戻して炭治郎に質問の許可を貰った。炭治郎は情交(セックス)を直前で中断させられた事に驚きながらも、あまねが質問をする事を直ぐに許可を出した。

 

「炭治郎様は何回、珠世様でお出しになったのですか?」

 

「珠世さんで、ですか?……口で一回して貰って、膣内(なか)射精()しました。」

 

「つまり三回も……そうですか」

 

炭治郎は思い出しながら、素直に何回射精したかをあまねに答えた。するとあまねは静かに、両眼をスッと細める。

 

「いたたたたたっ!?」

 

「!?」

 

唐突に炭治郎が、悲痛な悲鳴を上げた。炭治郎の悲鳴を聞いて珠世も動揺する中、炭治郎と珠世は悲鳴を上げる原因を探った。

 

「……」

 

其処には珠世の愛液で濡れたままの逸物を、力加減無しに握り締めるあまねの姿があった。

 

「えっ?……その……あまねさん?……」

 

「斯様な他の女の愛液(えき)に塗れた逸物を、私の膣内(なか)挿入(いれ)る事は許しません。先ずは清めさせて頂きます。」

 

あまねはそう言うと、口を大きく開けて炭治郎の逸物を口に含んで口淫(フェラチオ)を始めた。

 

「んっ……あまねさん、良いです……。」

 

「うぅんっ……ちゅるるっ……ぢゅちゅるるっ……んふちゅうっ❤」

 

炭治郎の心地良さげな嬌声を聞きながら、あまねは口淫(フェラチオ)を続ける。

 

「ちゅちゅううっ!……んちゅるっ……んぢゅうっ!…………炭治郎様……んちゅっ……好きな瞬間(とき)に、射精()して下さいっ!……じゅるるるっ!」

 

「はいっ……そう、しますっ……うぅっ!」

 

 

 

ビュルルルルルウウウウウウゥゥゥゥッッッ!!! ビュビュビュルルルルルウウウウウウゥゥゥッッッ!!!

 

 

 

「~~~~~❤❤❤」

 

炭治郎が射精すると、あまねは両眼を細目ながら嬉しそうに精液を飲み干して行った。

 

「っぁ……はぁぁっ……私っ……飲んだだけで軽くイってしまいました……っ❤」

 

あまねは恍惚とした表情を浮かべながら、精飲の余韻に浸っていた。

 

「……(ゴクッ)」

 

そんな妖艶さが漂うあまねの表情を見て、炭治郎は思わず生唾を一飲みした。それと同時に炭治郎の逸物に、血が集まり力強くピンと張ってその存在感をあまねに見せ付けていた。

 

「……クスッ……次は、こちらに御馳走して下さいまし。炭治郎様。」

 

そんな炭治郎の様子を見てあまねは微笑を浮かべた後に、畳の上に座り込んで両足を左右に広げて見せた。

其処には既に愛液が零れ落ちている、あまねの濡れた秘部が炭治郎に姿を見せていた。

 

「はいっ! 頂いて下さいっ!!」

 

炭治郎は飛び込む様にあまねの下へ駆け寄り、あまねの括れた腰を両手で鷲掴みにしてから逸物をあまねの秘部に挿入した。

 

「あああぁぁぁんっ!!❤」

 

あまねは炭治郎を抱き締めながら、歓喜の嬌声を上げた。

 

「あまねさんっ。放ったらかしにした分、一杯気持ち良くしてあげますからねっ……!」

 

「ああぁっ嬉しいっ❤……炭治郎様も、私で沢山気持ち良くなって下さいませっ……っ❤❤」

 

炭治郎の言葉を聞いたあまねは、両眼を潤ませて炭治郎に合わせて腰を動かし始めた。

 

 

 

パン! パン! パン!

 

 

「ああぁっ! んああぁぁんっ!!❤ 良いっ……気持ち良いですっ……はあぁぅっ! 其処っ……もっと、突いて下さいましっ……あんっ!❤」

 

炭治郎からの激しい反復動作(ピストン)を受けて、あまねは快楽に悶えながら嬌声を上げていた。そんなあまねを見て益々興奮し、更に反復動作(ピストン)の速度を速めて行く炭治郎。

 

炭治郎とあまねはすっかりお互いに夢中で忘れてしまっていたが、この状況を見て呆然とした様子で見詰めている第三者が居た。それは先刻まで炭治郎と情交(セックス)をしていた、珠世である。

 

――し、信じられない……あのあまねさんが一回りは年下であろう少年の炭治郎に、喜んで抱かれているだなんて……。

 

困惑する珠世にとって自身の両眼に映る光景は信じ難いものであったが、耳目から入って来る情報は否が応でも事実を珠世に突き付けていた。

 

「あぁんっ! ああぁぁんっ! 凄いっ! んああぁぁっ! んああああぁぁぁっ!!❤」

 

あまねは自身の豊満な乳房を上下に揺らし、両眼から歓喜の涙を流しながら炭治郎の反復動作(ピストン)を感じていた。更に乳房からは断絶的に母乳が吹き出て炭治郎の胸板を染めており、全身で歓喜を表現していた。

 

「あああぁっ! あまねさん。俺も、気持ち良いですっ!」

 

そんなあまねを見て、炭治郎も更に勢いを増して反復動作(ピストン)を継続させる。あまねの秘部を出入りする炭治郎の逸物が、更に熱を帯びて行った。

 

「…………」

 

炭治郎とあまねの関係を知って困惑していた珠世であったが、その事実が自身の胸中に浸透して行く内に新たな感情が宿っていた。その感情とは、嫉妬である。

 

――先刻(さっき)まで、炭治郎は私を抱いていたのにっ……私が炭治郎に愛されていたのに……うぅっ。そもそも何故御館様の奥方であるあまねさんが、炭治郎と肉体関係を結んでいるのっ。

 

浮気や不倫関係と言っても過言ではない炭治郎とあまねの関係に、珠世は怒っていたがそれは嫉妬心から来る大義名分の模索に過ぎない。

 

珠世はただ単に炭治郎が自分を差し置いて、あまねと情交(セックス)をしている事実に嫉妬しているだけだった。

 

「炭治郎……あまねさん……っっ。」

 

珠世は無意識に、胸を押さえる様に両手を胸元へ押し付けた。その際に珠世の豊満な乳房から、母乳が溢れて噴射され畳を汚した。

 

「あまね……さんっ! あああぁぁぁっ!!」

 

 

 

ビュビュビュルルルルルルルルウウウウウウゥゥゥゥッッッ!!! ドビュルルルルルウウウウゥゥゥッッッ!!!

 

 

 

「んああぁぁぁっっ~~~~!!!❤」

 

あまねは大きく身体を海老の如く仰け反って、子宮に炭治郎の溶岩の如き精液を受けながら大きく絶頂した。

 

「あはぁんっ♥……はぁっ……はぁっ……炭治郎、様……子種を恵んで下さり、ありがとうございますっ……。」

 

絶頂から意識を取り戻したあまねは、余韻に浸りながら恍惚とした表情を浮かべて炭治郎に精液を射精して貰った事に感謝を述べた。

 

「……っ。」

 

そんな幸せそうなあまねの表情を見て、珠世は胸中にチクッと痛みが走った。

 

「うぉっ!?……珠世さん?」

 

あまねの子宮目掛けて射精してその余韻に浸っていた炭治郎だったが、突然背中に感じる柔らかさに驚きの声を上げた。背中に感じる柔らかさから、珠世である事を察した炭治郎は背中越しに声を掛ける。

 

「炭治郎……今度は私を愛してっ。私、寂しくて……。」

 

「!!……珠世さんっ。」

 

炭治郎は珠世の切ない声を聞いて、罪悪感を感じながら今度は珠世と情交(セックス)をするべくあまねの膣内から逸物を抜こうと動いた。

 

「っ!? だ、駄目っ!……抜かないで下さいっ。」

 

「うおっ!?」

 

するとあまねは自身の膣内から去ろうとする炭治郎の逸物に対して、拒む様に締め付けて留めようとした。不意打ち気味に強い刺激を受けた炭治郎は、思わず声を漏らしたがそのまま逸物をあまねの秘部から抜き去った。

 

「あぁっ!……。」

 

あまねは膣内に生まれた空洞により、喪失感を強く感じた。直ぐに膣内が縮小してその空洞は埋まったが、あまねの秘部からは一筋の涙の如く炭治郎の精液が僅かに零れ落ちた。

 

「……っ。」

 

そんなあまねの態度に、珠世は思わず苛立った。小さく青筋を額に浮かべながら、珠世はあまねに問い詰める。

 

「あまねさん。貴女は産屋敷耀哉と言う夫がありながら、何故炭治郎にさも当然の様に抱かれているのですかっ?」

 

「私も、炭治郎様の女になったからです。この関係は、夫である耀哉も認めての事です。」

 

「な、何ですってっ!?」

 

あまねが当然の如くそう告げると、流石の珠世も驚愕の表情を浮かべてしまう。動揺した珠世は、反射的に炭治郎に視線を向ける。

 

「……あまねさんの言っている事は、本当です。珠世さん、実はですね……。」

 

炭治郎はあまねの言葉を肯定した後、自身があまねと男女関係を結んだ経緯に関して珠世に説明を行った。

 

「で、では……二人がそうなる様に、御館様が仕向けたと?」

 

「はい……御館様がそうしろって言わなかったら、俺はあまねさんと関係を結ぶなんてそんな発想すらしなかったと思います。」

 

「私もです。あのままだったなら私は耀哉様が亡くなったらただ産屋敷家の妻として、殉死する道を迷わず選んだ事でしょう。」

 

炭治郎とあまねは、迷う事無く珠世にそう断言した。

 

「……」

 

炭治郎とあまねの事情を聞いて、珠世と言えども返事が出来ずに沈黙する事しか出来なかった。

 

「……珠世様は、炭治郎様を自分だけのものにしたいのですか?」

 

「「!?」」

 

あまねの唐突過ぎる質問に、炭治郎と珠世は揃って両眼を見開いて驚愕する。 答える事が出来なかった珠世に、あまねは念押しする様に再度確認した。

 

「どうなのですか?」

 

「っ……その様な心算などありません。私は炭治郎に愛されているだけで、言葉に言い表せない程幸せです。」

 

珠世は少しだけ両頬を赤く染めながら、炭治郎への愛の強さを言葉にして見せた。するとあまねは、薄く笑みを浮かべた。

 

「それは、とても奇遇ですね……私も、心からそう思っております。」

 

あまねはそう言うと、胸中が熱くなって自然と片手を胸に添えた。

 

「でしたら珠世様。此処は竈門炭治郎(同じ殿方)を愛する者同士、共にすべき事は御分かりなのでは?」

 

「っ!!……えぇ。そうですね。」

 

あまねの質問に、珠世は笑みを浮かべて意味深に答える。そしてあまねと珠世は、自然と炭治郎の前に仲良く揃って向き合った。

 

「炭治郎様。これから二人で、貴方様に御奉仕させて頂きます。」

 

「もしくは貴方の望む様に、私達を抱いてくれて良いのよ。炭治郎。」

 

高揚からだろうか、あまねと珠世の乳房から母乳が滲み出て一筋の白い線を作った。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ぢゅううっっ、 ちゅうっちゅううっ。」

 

「あんっ、んっ、んんっ!」

 

「ああぁっ! んあ、ぁんっ。」

 

あまねと珠世に求められた炭治郎は、二人に即座に飛び付いた。

 

そして炭治郎はあまねの右側の乳房と珠世の左側の乳房を同時に揉みながら、母乳を垂れ流すあまねの右側の乳房を一生懸命吸い付いた。

 

「ああっ、炭治郎様ぁ❤…私から求めて下さって、とても嬉しいですっ。んんっ❤」

 

あまねは歓喜と快楽で身体を震わせながら、愛おしそうに笑みを浮かべて炭治郎の頭を撫でていた。

 

「んぅぅっ……炭治郎っ……気持ち良い、けどっ……私、切ないわっ……うぅっ。」

 

一方の珠世は炭治郎に乳房を愛撫されて気持ち良さそうではあるものの、何処か不満そうに且つあまねを羨ましそうに口を尖らせていた。

 

「ちゅうるぅっ、んはぁっ……ふぅっ……すみません、珠世さん……でしたら今度は、珠世さんの母乳(ちち)を……。」

 

あまねの乳房から口を離した炭治郎は一度深呼吸をすると、今度は珠世の母乳を噴射し続けている豊満な乳房を口に含む。

 

「んはあぁんっ!❤……良いっ。いっぱい吸ってぇっ。」

 

快楽で身体をビクビクと震わせながら、今度は珠世が炭治郎の後頭部を優しく撫で始めた。

 

そんな炭治郎を、あまねは余韻に浸りながら眺めていた。

 

「はぁっ、はぁっ……ふふっ、炭治郎様。母乳(ちち)比べがしたいだなんて仰いましたが、味に違いはありましたか?」

 

「!!」

 

あまねの何気ない質問を受けて、炭治郎は咄嗟に珠世の乳房から口を話して母乳を飲むのを止めた。

 

「あら……確かに気になるわね。炭治郎?」

 

珠世が両頬を紅潮した状態で、炭治郎に興味深そうにそう尋ねた。

 

「えっと、そうですね。あまねさんの母乳(ちち)はすっきりとした甘さがあって……珠世さんのは、濃厚な甘みがあります。」

 

「「!」」

 

炭治郎は何も考えずにただ正直に、珠世とあまねの母乳の味の違いをそう述べた。

 

「ふふっ、そうなの。」

 

「そうでしたか……。」

 

「?」

 

すると何故か珠世が勝ち誇った様な笑みを浮かべ、逆にあまねは少し寂しそうな表情を浮かべた。その理由が分からず、炭治郎はただ首を傾げる。

 

「となりますと、炭治郎様は珠世様の母乳(ちち)の方がお好みでしょうか?」

 

「はい?……はぁっ!?」

 

あまねが尋ねた質問内容が一瞬だけ理解出来なかった炭治郎だが、質問の真意を察して慌てざるを得なかった。それと同時に、あまねの寂しそうな表情の意味も理解した。

 

「違いますよっ! どっちが良いとか、そう言うのは無いんですっ!」

 

「「きゃあっ!?」」

 

炭治郎は叫ぶ様にそう言うとあまねと珠世の両脇から腕を通して、あまねの左側の乳房と珠世の右側の乳房を揉み始めた。そして顔を動かして、あまねの左側の乳房と珠世の右側の乳房に同時に口を付けた。

 

「ぢゅうううっ! ぢゅちゅるううっっ!! ぢゅううぢゅううううっ!!」

 

「「ああああぁぁぁっ!? んあああぁぁぁんっ!!❤」」

 

炭治郎は同時に二人の乳房に吸い付いて、二人の母乳を飲み始めた。珠世とあまねの母乳が、炭治郎の口内で混ざって体内に入って行く。

 

「ぢゅるるるっっ!……ぷはっ! それぞれ良さがあるから、優劣とか無くて……どっちも、俺は大好きなんですっ! ぢゅぢゅぢゅうううううっっ!!」

 

「ああんっ! ああぁぁっ!❤ わ、分かりましたっ……分かりましたからぁっ❤」

 

「そんなに慌てて吸わなくても、逃げたりは……あああぁぁぁんっ!❤」

 

必死で母乳を吸う炭治郎の弁明を聞いて、あまねと珠世は時折仰け反って襲って来る快楽に見悶えつつも必死で理解したと告げた。すると炭治郎からの吸引が弱まり、同時に襲って来る快楽も少しばかり和らいだ。

 

「ちゅうううちゅううううっ。ぢゅちゅうううぅぅっ。ぢゅぢゅううっ。」

 

しかし炭治郎は二人の乳房から口を話す事無く、そのまま母乳を飲み続ける。炭治郎は手前側では無く奥側の乳房に吸っているので、手前側の乳房に顔を埋めている形になっている。その所為か、炭治郎は手前側の乳房から噴き出る母乳で顔を汚していたのだが、炭治郎は構わず母乳を飲み続けていた。

 

「ああぁぅんっ❤ もう、二人同時にだなんて……欲張りなお方ですこと❤」

 

「ふふっ❤ それだけ気に入ってくれていると言う事ですから……炭治郎、美味しい? 私達の母乳は炭治郎専用だから、好きなだけ飲んで良いのよっ❤」

 

快楽に少しばかり耐性が付いたあまねと珠世は愛おしそうに、炭治郎の頭を同時に撫で続けた。

 

「!!」

 

二人の母乳を飲んでいた炭治郎だったが、珠世の何気ない台詞を聞いてビクッと震えた。

 

炭治郎が震えたのは身体ではなかった。珠世の母乳を飲んで勃起した逸物であった。

 

「「!!」」

 

珠世の台詞を聞いて興奮したのか、炭治郎の逸物がビュッビュっと断片的に射精したのだ。

 

射精して飛び出た精液は、そのまま宙を飛んで畳の上に落ちて畳を汚した。

 

「んくっ……ちゅぱっ……はぁっはぁっ……乳房(おっぱい)も良いけど、もうそろそろ……。」

 

乳房から口を離して母乳を吸うのを止めた炭治郎は、据わった目のままあまねを離し逆に珠世を引き寄せる。

 

「珠世さんっ!」

 

炭治郎は少しばかり強引に珠世の下半身に手を掛けると、側位の体位で珠世の秘部に逸物を挿入した。

 

「ひあああぁぁぁっ!!❤」

 

遠慮無く逸物を挿入された珠世は、身体を仰け反らせて大きく嬌声を上げる。同時に珠世の豊満な乳房から母乳が勢い良く噴き出し、畳を汚した。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ。」

 

炭治郎は左手で上がった珠世の右足を抱えながら、右手を伸ばして母乳を噴出し続ける豊満な乳房を揉む。そして忘れる事無く、腰を打ち付けて逸物を子宮口まで突き上げる。

 

「はぁっはぁっ。ふぅっふぅっ。」

 

炭治郎は口元から一筋の涎を垂らし且つ荒く呼吸を繰り返しながら、獣のような反復動作(ピストン)を実行する。珠世の豊満な乳房から噴き出た母乳で右手が白く染まるが、炭治郎は一切気にしない。

 

「はぐぅっ!? ああぁんっ! ひゃあああんっ!!」

 

珠世は両眼を白黒させながら、襲い来る快楽と反復動作(ピストン)の衝撃に絶えず嬌声を漏らしていた。

 

「あああぁぁっ! 凄いっ、良いっ、其処っ……もっと突いてぇっ❤ 炭治郎ぉっ❤」

 

「ぁっ……ふふっ。流石は炭治郎様です。珠世様も炭治郎様の前では、一人の女に過ぎないのですね。」

 

普段の知的で冷静沈着な一面をかなぐり捨てて、口元から涎を常に垂らして快楽に悶える珠世をあまねは感心した様子でそう呟く。

 

「あら、凄い……炭治郎様の逞しい逸物が、珠世様のお腹からはっきり盛り上がっているのが良く分かります。」

 

あまねは珠世の膣内に挿入している逸物が盛り上がって、形をはっきりと移しているのを発見した。

 

炭治郎が反復動作(ピストン)を繰り返す度に、珠世の下腹部は盛り上がったり沈んだりを繰り返していた。

 

「ひゃあんっ! あぁあんっ! あああぁぁっ!」

 

「……ふん(ツーン)」

 

あまねは右手を出して五指を揃えるとと、丁度炭治郎の逸物が刺さって下腹部が盛り上がっていた瞬間を見計らって珠世の下腹部を力の限り押さえ付けた。

 

「んひいいいぃぃぃっ!?」

 

「あっ! ぐぅっ!……珠世さん、急に締め付けがぁっ……あああぁぁっ!!」

 

 

 

ビュルビュルビュルルルウウウウウゥゥゥゥッッッ!!! ビュビュルルルルルルウウウウウウウゥゥゥゥッッッッ!!

 

 

 

「ああああああぁぁぁぁ~~~~~~~っっっ!!!❤❤❤」

 

珠世は子宮に大量の白濁の溶岩を浴び、母乳を吹き出しながら大きく絶頂した。

 

「あっ……はぁっ……あ、あのっ……あまね、さん……ちょっかいは、遠慮して頂けませんか?」

 

白濁の溶岩を受け止めた珠世が荒く呼吸を繰り返しながら、あまねの行動に苦言を漏らした。

 

「あら? 珠世様は、とても気持ち良さそうに見えましたが?……炭治郎様もです。気持ち良かったから、それだけ子種を出されたのでしょう?」

 

あまねは茶化す様に、別に良いではないかと珠世に答える。

 

「あはは……。」

 

「……っ。」

 

そんなあまねの主張に炭治郎は誤魔化す様な笑みを浮かべるだけだったが、珠世はタダで済ませる様な女では無かった。

 

「……このっ!」

 

「きゃっ!?」

 

珠世は起き上がると忽ち俊敏に動いて、あまねを拘束してしまった。

珠世に拘束されたあまねは、両太腿に珠世の両腕を通されて宙に浮いた様に持ち上げられた。

 

「あっ!?……っっ……珠世様っ! この格好はっ……。」

 

あまねは現状を理解して、羞恥心から赤面して珠世に抗議した。珠世に持ち上げられたあまねは両足を広く開いていて、秘部が大きく開いて炭治郎に丸見えの状態になっていた。

 

更にそのあまねの秘部からは炭治郎の精液が垂れており、そのまま一塊になって床に落下した。

 

「あらあら、勿体無い……折角炭治郎が注いでくれたでしょうに……炭治郎。あまねさんに注ぎ直してあげて?」

 

「「!!」」

 

珠世の言葉を聞いて、炭治郎とあまねは異なる反応を見せた。

 

あまねは益々羞恥心から赤面し、逆に炭治郎はあまねの秘部を見て珠世の愛液と自身の精液で混ざった混合液塗れの逸物を強く勃起させていた。

 

「……珠世さん。もう少し降ろして下さい。」

 

「ひっ!? 炭治郎様、まさか……この状態で、しようと言うのですかっ!?」

 

自身に接近して来る炭治郎に、あまねは驚愕した様子を見せていた。

 

「あまねさん、私への気遣いでしたら無用です。鬼である私からすれば、あまねさんの重さなんて綿を持ち上げている様なものですから」

 

自身より体格の大きいあまねを、余裕の表情を浮かべたまま持ち上げている珠世。

 

珠世が言う様に鬼の身体能力を持ってすれば、如何に長身と言えど人間であるあまねを持ち上げる事に苦労する筈が無かった。

 

「さぁ、お仕置きの時間ですよ。尤も、お仕置きになるのか些か疑問ですが……炭治郎っ、やっておあげなさい。」

 

「はいっ!」

 

珠世の言葉を合図に、炭治郎は逸物をあまねの秘部に勢い良く挿入した。

 

「ああああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

炭治郎に逸物を無遠慮に挿入されたあまねは、身体を仰け反らせて大きな嬌声を上げた。その際にあまねの乳房から、珠世程では無いが母乳が噴出して乳房を濡らした。

 

「あまねさん、いっぱい動いてあげますね。」

 

あまねの乳房を揉みながら、腰を動かして反復動作(ピストン)を続ける。

 

「ああぁっ! はああぅぁっ! んああぁぁっ!」

 

「あまねさん、炭治郎ばかり動いては申し訳ないでしょう……私も手伝ってあげますね。」

 

「ああぁんっ! 珠世様ぁっ……待っ、てっ……ひゃああっ!? ああああんっ!! はあぁんっ!❤」

 

あまねを持ち上げている珠世が、あまねの代わりに身体を上下させて動かして行く。自身の意思に反して身体が動いているので、何時もより感じて嬌声を大きくあまねは上げた。

 

「うわああっ……締め付け過ぎですっ……くうあっ、あまねさんっ!」

 

炭治郎は歯を食い縛りながら、只管に腰だけ動かして反復動作(ピストン)を継続する。しかし暫くすると、遂に限界が訪れた。

 

 

 

ビュルビュルルビュルルルルウウウウウゥゥゥゥッッッ!!! ドビュビュビュビュルルルウウウウウゥゥゥゥッッッッ!!!

 

 

 

「あひぃああああぁぁぁぁっっっ!!!?!?」

 

子宮に白濁の溶岩の如き精液を浴びせられ、あまねは頭を大きく仰け反らせて絶頂した。

 

あまねの身体は大きく痙攣を起こしていたが、珠世は動じる事無く抱え続ける。

 

「ふぅっ、射精()した射精()した……珠世さん。あまねさんを降ろして下さい。」

 

「分かったわ。」

 

炭治郎はあまねの秘部から逸物を抜くと、珠世にあまねを降ろす様に頼んだ。すると珠世は直ぐに、あまねをゆっくりと布団の上に仰向けの状態にして優しく降ろした。

 

「珠世さん……んちゅっ、ちゅううっ。ちゅうううぅっ!」

 

あまねを降ろした珠世に、炭治郎は直ぐに乳房に吸い付いて母乳を飲み始めた。

 

「あんっ!❤ もう、また欲しくなったの?」

 

珠世は炭治郎に乳房を吸われて驚いたが、直ぐに愛おしそうに頭を撫で始めた。

 

「ぢゅちゅるるうぅぅっ! ぢゅちゅううっ! んんちゅうううっ!!」

 

炭治郎はそのまま暫く、珠世の母乳を夢中になって飲み続けた。

 

「ぢゅううっ!……ぷはっ!」

 

炭治郎は漸く、珠世の乳房から口を話して母乳を飲むのを止めた。

 

「珠世さん、あまねさんに重なる様に俯せになって下さい。」

 

「えっ?」

 

炭治郎の言っている事に珠世が当惑すると、炭治郎は腰を少し上に向かって上げた。其処にはあまねの愛液を濡らした、炭治郎の逸物が強く勃起していた。

 

「後ろから、思い切り突きたいんです。」

 

「っ!……わ、分かったわ❤」

 

珠世は炭治郎に言われるがままに、あまねの身体の上に重なる様に俯せになった。

 

俯せになった事で、珠世の秘部が炭治郎の前に露になった。何度も見ていると言うのに、炭治郎は興奮を隠せなかった。

 

「あまねさんと交互で、いっぱいしてあげますからねっ。」

 

「ええっ、来てっ……❤」

 

炭治郎はそう言うと、珠世は秘部を広げて炭治郎の挿入に備えた。

 

炭治郎は遠慮無く、愛液で溢れている珠世の秘部に向かって逸物を挿入した。

 

「あああぁぁんっ!!」

 

珠世が嬌声を上げると同時に、炭治郎は腰を動かして反復動作(ピストン)を始めた。

 

産屋敷別邸の室内で、肉を打つ音と嬌声が響き続けた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ああぁっ、イクぅっ! またイっちゃうのぉっ!! んあああぁぁぁっ!!」

 

珠世は炭治郎に大量の精液を子宮に注がれて、何度目か分からない絶頂を感じていた。

 

「はぁっ……ああぁっ……あああぁっ……。」

 

珠世が射精されて絶頂している中で、下敷きにされている様に布団の上に寝ていたあまねは呼吸を繰り返しながら全身を震わせて放心していた。

 

そのあまねの秘部からは、子宮の許容範囲を当に突破して大量の精液が溢れ出ていた。更に圧し掛かっている珠世によって、顔を除く身体全体が母乳で白く染まっていた。

 

あれからあまねも、珠世と交互に何度も炭治郎に逸物を挿入され精液を注がれ続けていたのである。

 

その回数は合計で十六回に到達しており、珠世もまた現在で九回目の射精を受けた所であった。因みにあまねは七回程、炭治郎によって射精されているのだがその際に失神したので珠世に集中していた。

 

「はぁっ……ふぅっ……ふぅっ……こんなに沢山……幸せっ……っ❤」

 

「はぁっ……はぁっ……珠世さん。まだ、収まりが尽かないです。だから、もっと……っ。」

 

炭治郎は涎を口元から零しながら、もっと情交(セックス)を続けたくて再び反復動作(ピストン)を再開させ様とした。

 

 

 

バタン

 

 

 

しかし次に聞こえて来た音は炭治郎が腰を動かして肉を打つ打音では無く、何かが倒れて鳴った落下音であった。

 

「「!!?」」

 

その落下音を聞いて、余韻に浸っていた珠世と放心状態だったあまねが我を取り戻した。

 

あまねと珠世は落下音がした方に、二人同時に顔を向けた。すると其処には、隣で倒れている炭治郎の姿があった。

 

「炭治郎!?」

 

「炭治郎様っ!?」

 

珠世とあまねは焦燥した様子で慌てて身体を起こすと、炭治郎の下へ駆け寄り容態を確認した。

 

「すぅっ……すぅっ……すぅっ……。」

 

「「……はぁっ。」」

 

炭治郎の容態を確認すると、炭治郎は単に眠っていただけだった。あまねと珠世は刹那の間だけ呆気に取られたが、直ぐに安堵の溜息を吐いた。

 

「そう言えば、炭治郎様は私と珠世様を連日夜通し抱かれていましたので……。」

 

「単純に計算しても、二日は寝ていませんね。」

 

炭治郎の体調を鑑みて、珠世とあまねは驚きを隠せない。

 

そう思いながらも、珠世は俯せに倒れる炭治郎を仰向けにして布団の上に寝かせた。それからあまねと珠世は炭治郎を挟む様に、自身の乳房を炭治郎の胸板に乗せられる位に密着して添い寝した。

 

炭治郎の温もりを感じて、あまねと珠世の二人は自身の胸中に熱が帯びるのを感じていた。

 

「お疲れでしょうに……それでも私達の事を、沢山愛して下さいました。」

 

「ええっ。人間離れした精力もあるとは思いますが……夢中になって私とあまねさんを抱いてくれたわ。」

 

あまねと珠世は炭治郎に愛おしさを抱きながら、同時に炭治郎の頭を優しく撫でていた。

 

「!」

 

「?……珠世様、どうしたのですか?……っ!」

 

炭治郎の頭を優しく撫でていた珠世が視線を変えると、両目を見開いて視線の先を凝視していた。

 

同じく炭治郎の頭を優しく撫でていたあまねが珠世の様子に気付いて、疑問に思いながら珠世の視線を追うとその理由に気付いた。

 

あれだけあまねと珠世の二人と情交(セックス)をして精液を射精し続けたと言うのに、二人の愛液で濡れた炭治郎の逸物が真っすぐピンと天高く勃起していたからだ。

 

「「……(ゴクッ。)」」

 

あまねと珠世は、同時に生唾を飲み込んだ。それから二人は、視線を互いに合わせる。

 

「珠世様。私は七回目を終えた辺りから意識を失っていたのですが……炭治郎様に、何度愛されましたか?」

 

「っ!!……っ……あまねさんが失神した後に二回程、炭治郎に愛して貰いました。」

 

あまねに鋭く睨まれながら問い詰められた珠世は、諦念を抱いて正直に何回炭治郎と情交(セックス)したかを白状した。

 

「……」

 

珠世から話を聞いたあまねは、何も言わずに起き上がって移動を始めた。そして炭治郎の逸物に跨ぐ様に間に座り込む。

 

「あまねさん。」

 

「幾ら炭治郎様がお眠りになっておられるとは言え、これだけ熱り勃っているのをそのままでは可哀想ではありませんか……失神していた私が悪いですが、珠世様の方が多く愛されているのです。先鋒は頂戴させて頂きます。」

 

あまねは一方的に其処まで言うと、腰を浮かせて炭治郎の精液が溢れる秘部を反り立つ炭治郎の逸物に充てる。そして一気に腰を下ろして、自身の秘部に炭治郎の逸物を挿入させた。

 

「あああぁぁっ!……素敵っ。あれだけしたのに、まだこんなに熱くて固くて、大きくて……ああんっ!❤」

 

あまねはうっとりとした表情を浮かべながら、上下に腰を動かし始めた。

 

「そ、そう言えばこの体位でするのは、初めてねっ……んんっ! これも、気持ち良いっ……っ❤」

 

「あ、あまねさん。終わったら、私に代わって下さいね? お願いしますよ。」

 

長い白髪を振り回しながら激しく乱れるあまねを見て、下腹部に熱が入って熱くなるのを感じながらそう強くあまねに言い付けた。

 

それから寝ている炭治郎を他所にあまねはそれから七回、珠世もまた七回も炭治郎の精液を注いで貰った。

 

 

 

♦︎

 

 

 

夢幻世界

 

「ふふ~ふん、ふんふんふ~ん♪」

 

幻想的な自然が広がる現世とあの世の狭間にある夢幻世界で、しのぶ達の姉にして炭治郎の師匠であり妻と自負するカナエが、鼻歌を歌いながらある事に没頭していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは鬼殺隊の隊士となってから自身の相棒であった愛刀の日輪刀を、熱心に研ぐ作業をしていた事だ。

 

そして気が済んだのか、日輪刀を研ぐのを止めると布を取り出して刀身を拭き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ~~んっ……っっ!!」

 

続けて鼻歌を歌いながら日輪刀を拭いていたカナエだったが、刀身を握って仕舞い自身の手を斬ってしまった。

 

刀身を握った右手から、血が流れて草原に落ちる。しかしカナエが痛がる様子は無かった。寧ろ額に青筋を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっふふふっ……うふふふふふふふっ……あはははははははははははははははははははははっ。」

 

ただ只管に、カナエは笑っていた。しかしその笑声は楽しさなどを感じる明るいものでは無く、哄笑の部類に入る恐ろしいものであった。




お待たせ致しました。

二ヶ月以上も皆様をお待たせしてしまい、大変申し訳ありませんでした。深くお詫び申し上げます。

取り敢えずこれであまねと珠世がメインを務めるのは終わりです。

全っっったくリクエストが消化出来なくて、自分でも愕然としている次第です。

来年はなるべく早く更新して、早く連載を終わらせたいですね。だからと言って手抜きはする心算はありませんし、エタるなど論外なので。

来年の更新予定ですが、一月中の予定です。はっきりとした予定日は、後日お伝えさせて頂きます。

改めて、今年もお付き合い頂きありがとうございました。来年もどうか宜しくお願い致します。


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