D.C.~ダ・カーポ~神界からやって来た魔法使い (望夢)
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出逢い

念願のD.C.のキャラソンCDを最近買い漁り捲った所為で筆が乗ったので雑に書き上げました。もう15年くらい前になるD.C.の二次創作全盛期の感覚でも思い出しながら書いてるので扱うネタは古いと思いますがどうぞ。


 

 風に吹かれて桜が舞っていく。

 

 その光景を、どこかもの悲し気に感じてしまうのは、そこにとても大切な思い出があるからだろう。

 

 一年中桜の咲き誇る島で過ごした日々

 

 その思い出が今でも自分の胸に深く残り続けているからだろう。

 

 夢のような出来事だった。

 

 それは桜の魔法が叶えてくれた夢なのかもしれない。

 

 願いを叶えてくれる魔法の桜。

 

 その桜のお陰なのかはわからない。ただ自分は確かにあの桜の咲き誇る日々に居たのだ。

 

 たくさんの思い出を貰った時間が嘘ではない事を、舞い散る桜の花びらを目で追って思い出していた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 肌寒さを感じて眼を覚ましたのは大きな桜の木の根本だった。

 

 まるで天幕の様に頭上を包む桜色の天井は幻想的だった。

 

 夜の暗闇の中で、月明かりに照らされている桜の花びらがそんな美しさを演出していた。

 

 此処がもしかしたらあの世なのだろうか。

 

 ボーッとして回らない頭でそんなことを考えていた。

 

 自分の身体は病に冒されていた。それこそ寝たきりになってどれくらいの時が過ぎてしまったのか忘れてしまった程だった。

 

 窓から見える景色が唯一の世界だった。

 

 生まれ変われたら鳥になりたいと思っていた。自由に世界を飛び回りたいと願っていた。

 

 自分の細い枝のような腕を見る。殆どが骨と皮の様な手だ。

 

 こうしてこのまま、誰にも看取られる事なく次の命に生まれ変わるのだろうか。それは出来れば遠慮したい。この命を繋いでくれた彼女の分まで生きる義務が自分にはあるのだから。でもこの身は確実に死に向かっている。それをどうすることも出来ない。

 

 ただ意味もなく、桜を見上げていると少し虚しくなってくる。

 

 普通に学校に行ってみたかった。友達と遊んで、笑って、勉強に悩んで、進路を決めて、誰かに恋をして、ありふれた人生を過ごしてみたかった。

 

 叶わない願いだ。自分の命がそう長くはない事は自分が知っている。

 

 ただ、桜の木を見上げていたら願いたくなった。

 

 桜の木は願いを叶えてくれる魔法の桜が存在する。

 

 そんなアニメやゲームの話が、自分は好きだった。

 

 寝つけなくて偶々深夜に見たアニメでやっていた枯れない桜の咲き誇る島の物語り。

 

 普通のありふれた青春の学園物語りに、少しだけ魔法というファンタジーが存在する甘酸っぱい物語り。

 

 学校には通えない身体の自分は、その物語りに自分の姿を投影する事は少なくなかった。

 

 だから桜を見ていたら思い出したのだ。

 

 だから願ってみたくなった。

 

 自分も彼らの様に過ごせたら。

 

 心の底から求めた。それのみを願った。

 

 結果として無意味であるとしても、その時の自分はそれで満足できたのだから良いのだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 初音島に帰ってきた。

 

 昔と変わらず、島の桜は美しく咲き誇っている。

 

「にしても。相変わらず花びらの掃除は大変そうだねぇ…」

 

「にゃあ…」

 

 一年中桜が咲いていれば、散っていく花びらの掃除はそれこそ一年中だ。

 

 その花びらの一枚一枚に人の想いが込められている。小さな願いから大きな願いまで。

 

 それでも桜はすべての願いを叶えることはしない。

 

 多くの願いを糧に、本当に叶えるべき小さな願いを叶えるだけだ。

 

 それすらも本当に正しい事ではなくて、本当は――。

 

「にゃにゃあ」

 

「あ、ちょっとうたまる! どこ行っちゃうの!?」

 

 うたまるが走り出して、その後を追っていく。

 

 海岸から島の中央の方へ。公園まで走る。

 

 そしてうたまるは公園の雑木林に入っていってしまう。その後をひたすら追っていく。まだ家の場所も教えていないから、今ここでうたまるを見失ったら、うたまるが家に帰ってこれない。友だち兼飼い主としてそれは大変な事なので必死に追い掛ける。

 

 辿り着いた場所は、そこだけ別の世界の様に開けた場所だった。そこに一際大きな桜の木が存在している。

 

 うたまるはそこに向かっている。

 

「おばあちゃん……」

 

 逃げないと決めた。それでも島に帰ってきていきなり向き合う事になるとは思わなかった。

 

 だから一瞬、脚を止めて躊躇ってしまう。それでもうたまるを連れ戻すために歩き出す。

 

「もう、ダメじゃないかうたまる! 急に居なくなったりしたら心配する…じゃ、ない…か……」

 

「にゃにゃあ~」

 

 うたまるを叱りつけようとした言葉は最後までハッキリとは紡げなかった。

 

 桜の木の根本。そこに人が居た。その肩に掛かる銀髪は絹糸を一本ずつ梳ったかのように滑らかで見ていて羨ましくなるくらいサラサラしていそうだった。

 

 桜の花びらに埋もれて死んだように動かないその姿に近寄って鼻もとに手を翳せば静かな鼻息が当たる。肩も胸も動いていないから見た目では生きているとはわからない程の穏やかな姿だった。

 

「よかった。生きてる人だった」

 

「にゃあ~」

 

 うたまるがペロペロと眠っている人の頬を舐めた。

 

「んっ……なんですか先生。もう検診の時間ですか?」

 

 それがボクと彼との出逢いだった。

 

 患者服に身を包んだ、触れれば折れてしまいそうな華奢な身体に優しさを、紅い瞳に強い魔力を詰め込んだ魔法使いとの対面だった。

 

「芳乃…さくら……?」

 

「ふにゃ? なんでボクの名前を知ってるの?」

 

「あ、え、えっと……」

 

 ボクの言葉に眼を逸らした彼は次の言葉を紡いだ。

 

「実は魔法使いなんだ、僕」

 

 自称魔法使いの彼の第一声はそんなものだった。

 

 

 

 

to be continued…



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芳乃家へ

これを書くのに改めて色々と調べていたらシャッフルの新作が出る予定らしいですね。ちょっと気になります。




 

 青いリボンで金髪をツインテールに結ぶ女の子。

 

 魔法使いの芳乃さくらに、自称魔法使いと嘘を吐いてしまった自分のアホさ加減に溜め息が出る。

 

「へぇ。キミも魔法使いなんだ。でもどうしてこんなところにいるの?」

 

「それは……」

 

 屈託のないニコニコ顔で迫られて胸が痛くなる。本物の魔法使いの彼女にはバレるだろう嘘を吐いてしまった事を後悔した。

 

「……わからない」

 

「どういうこと?」

 

 そもそも何故目の前に芳乃さくらという創作物の女の子が居るのだろうか。

 

「わからないんだ。僕はベッドから自由に動ける身じゃないのに」

 

 動けなくはない。でも独り歩きは禁止されているし、長距離を移動するにはそれこそ車椅子か最低でも杖を必要とする。そうでもなければひとりで動ける身体じゃない。それ以前に自分は決して彼女とこうして会話をする、出来る人間じゃない。

 

 ただその事をどう説明したら良いものか。

 

 それこそいきなり「キミは物語の登場人物だから名前を知っているんだ」と素直に話した所で信じては貰えないだろう。それこそ救急車を呼ばれてしまうかもしれないし、彼女の機嫌を損ねてしまうだろう。

 

「取り敢えず病院に電話しよっか。患者さんが居なくなっちゃったら、お医者さんも困っちゃうよね」

 

「あ、待って」

 

 踵を返そうとするさくらを呼び止める。さくらが連絡するのならば初音島にある水越病院だろう。

 

 そこに僕という患者は存在しない。

 

 そもそも神界の医療技術でも治せない自分の身体が、人間界の医療技術で治るとも思えない。

 

 というより身分証明も出来ない自分が医者に掛かっても、とんでもないお金がかかってしまう。そんなお金を払える財力もない自分に医者を呼ばれても困ってしまう。

 

「病院は、いいよ。行っても、治らないから」

 

 物心ついたときから僕は病室のベットの上に居た。10年前の「開門」の時、まだ生きていた両親が最後の希望を懸けて回復魔法を得意とする神界の病院に僕を移した。でもダメだった。治る見込みがない。それでも延命は可能だと言われて、せめて多くの時間を生きてほしいという願いから、自分は人間界にはない魔法という奇跡の力によって、今日までを生きている。

 

 1度門が閉じてしまったものの、再び門は開かれた。そして両親は僕の医療費を遺してこの世を去っていた。

 

 それは今はいい事だとして、問題は自分の処遇だ。

 

 この世界に自分の戸籍があるはずがない。しかも病を抱えた人間を保護してくれる様な場所もないだろう。

 

 万事休すとはきっと今みたいな状況を指すのだろう。

 

「その腕…」

 

「んにゃ? あらら、ちょっと擦りむいちゃったかな?」

 

 さくらの腕に、白い服の袖に染み出す赤いものを見つける。赤というより赤黒いそれは血だろうか。

 

 この桜の木のある場所の周りは雑木林で囲まれている。ここに来るまでに引っ掻けて傷つけてしまったのだろうか。

 

「ちょっと見せてもらえるかな」

 

「うーん。別にこれくらい放っておいても大丈夫だよ」

 

「ダメだよ。痕が残ったら大変だし」

 

 そう言いながらさくらの腕を取って、傷口に手を翳す。手から溢れる光がさくらの腕に当てられて行く。

 

 長い入院生活で暇を持て余していた自分が覚えられた数少ない魔法。回復魔法は神族の得意分野だ。

 

「スゴい。本当に魔法使いだったんだ…」

 

 ただ、魔法という非科学的な物が淘汰されて久しい世界だと、こんな小さな魔法でも充分魔法使い認定はされたらしい。魔法使いと言えば魔族の攻撃魔法みたいにもう少し派手だったり、眼に見えてスゴい事をしないとダメだと思っていただけに少しだけ肩の荷が降りた気分だった。

 

「これくらいしか出来ないけどね」

 

 他にも色々と出来ることはあるけれど、僕自身の魔力適応は神族の回復魔法よりも魔族の攻撃魔法の方が高いから、実は言うと回復魔法はあまり得意な方じゃない。

 

「それでもスゴいよ。今の世の中、魔法を使える人の方が少ないんだから」

 

 そう言われると、彼女を騙している様で少し気が引けてしまう。自分が魔法を使えるのも、今もこうして生きていられるのも、大切な友達だった彼女のお陰であるからだった。でも褒めて貰えて悪い気はしない。それは自分を通して彼女を褒めて貰えた気分になるからだった。

 

「でも本当に魔法使いさんだったんだ。同じ魔法使いのよしみとして放って置くわけにもいかないし。ケガを治して貰って知らんぷりは人情が廃るってもんさ♪」

 

 少しだけ後半がセリフ掛かっているのはさくらの時代劇好き故の事だろう。少し恩着せがましくなってしまっただろうかと思いつつも、彼女の厚意に甘えるしかない自分が辛い。

 

「取り敢えず病院はやめにして。となると、落ち着くまでボクの家に居ても良いけど?」

 

「よろしくお願いいたします」

 

 そういうわけで僕は彼女のお世話になる事となる。さくらが優しい女の子で助かった。

 

 ともかく、さくらの下に腰を据えながら元の世界に帰る方法を探そう。でないと神王様にも心配を掛けてしまう。

 

 門が閉ざされた事で人間界と連絡の取れない間、神王様はなにかと自分を気にかけてくれた人である。両親の死を知り、身元引受人になってくれた人の良いあの人の事だ。姿を消して居なくなったと知ればきっと心配されるだろう。

 

 だから先ず自分がこの世界に居る原因を突き止めようと思った。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ボクが保護する事に決めた男の子は魔法使いだった。枝で引っ掻けてしまったボクのケガを治したのは魔法だと思う。確かに感じた魔力は間違いない。

 

 その身なりと様子から行く宛がないのかもしれない事もなんとなく察する事も出来た。

 

 同じ魔法使いとして放って置くわけにもいかないし。それに魔法使いならあの桜の事を知って此処に来たのかもしれない。様子を見る上でも目の届く範囲に居た方が良いと思って、彼を家に連れていく事にした。

 

「ごめん。世話をかけて」

 

「なんのなんの。というより、ちゃんと食べなきゃダメだよ? 軽すぎるよ」

 

「少食なんだよ」

 

 見た目からして折れてしまいそうな華奢な身体は、見た目以上に軽くて、こうして身体を支えているのに苦もない力だけで支えきれてしまう。何らかの病気なのは見ていてわかる。魔法使いでも病気に勝てる例は非常に少ない。魔法は人が思っている様に便利には出来ていない。

 

「にゃあ~」

 

「うたまるに気に入られたみたいだね」

 

「そうかな。そうだったら良いな」

 

 肩に乗って擦り寄るうたまるを撫でながら彼は優しく微笑んだ。

 

「キミは猫が好きなんだね」

 

「どうなのかな。今まで動物を触ることもなかったから、よくわからないな」

 

「ご、ごめん」

 

「気にしてないよ。普通の人と違う事は理解してるから。でも、猫は好き、かな」

 

 そういう顔は本当に気にしていない様で、逆に此方を気遣う様な顔を浮かべて。最後はどこか遠い昔を思い出す様な、そんな顔を浮かべていた。

 

 当たり障りのない会話をするのは結構難しい。どんな話題でなら気を使わせずに話せるかという距離感もまったくわからないからだ。

 

「はい。此処がボクの家だよ」

 

「ここが…」

 

 そうこうしている間に家に着いてしまった。

 

「待っててね。今拭くもの持ってくるよ」

 

「あ、うん。ありがとう」

 

 裸足だった彼の足を拭くタオルを探すために、ボクは先に家の中に上がる。荷物の中から適当なタオルを見つけて、それを濡らすために腕を捲る。

 

「傷跡もない」

 

 彼が魔法で治してくれた傷は、どこにも跡がない。ケガをしたと言っても誰も信じないだろう。それほど最初から跡形もなく傷が消えていた。

 

 彼はこれがとてもスゴい魔法とは思っていない。ここまで傷跡もない高度な魔法を使える人はそう多くもない。

 

 少し話してみて、彼が魔法を悪い様に使う人間ではないというのは確かだと思う。決めつけるのは速いかもしれないものの、それは信じても良いかもしれない。だとすると、何故彼はあの桜の木の下に居たのだろうか。

 

「お待たせ。ごめんね、中々タオルが見つからな、く…て……」

 

 パタパタと玄関まで戻ると、彼は隅に身体を寄せてうたまるを膝に乗せて眠っていた。

 

 格好からして病人で、そして少ないやり取りでわかったのはあまり動けるような身ではないこと。そうなると余程重病なのかもしれない。玄関で眠らせていて症状が酷くなってしまうと大変かもしれない。

 

 それでも、その穏やかな寝顔を邪魔する気分にならない。その眠りを妨げてはならないように感じる。

 

「触らぬものになんとやらかな?」

 

 心配になるものの、こういう場合は触らない方が良い。

 

 だから書置きと、目が覚めた時に出前が取れる様にお金を置いて。荷物からマントを取り出して、毛布代わりに掛ける。ちょっとした魔法が掛かっているから寒くはないと思う。

 

「じゃあ、少し出かけてくるね」

 

 帰ってきたら名前を聞こうと思いながら、ボクは家を出て来た道を戻るように歩いて行く。公園を抜けた先にある学校へ向かう為に。

 

 

 

 

to be continued…



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夢の中で

 

 夕方の黄昏時。オレンジ色の夕焼けが照らし出すのは小さな公園。僕自身は公園にすら行ったことはない。この景色は彼女の記憶が作り出しているものなのだろう。

 

 彼女にとって大切な記憶の光景に足を踏み入れるというのは、それだけ自分が彼女に受け入れられているという嬉しさと安心を感じる。

 

 その公園のブランコにはひとりの女の子が座っていた。

 

 透き通る様な綺麗な声で、その子は歌っていた。優しくすべてを包み込んでくれるような、そんな聞き心地の良い、いつまでも聞いていたい歌。

 

「あ…………」

 

 その歌が途切れる。歌を聞くために閉じていた瞼を開けると、女の子が嬉しそうに微笑みながら手を振っていた。

 

 まだ耳に残る残響に誘われるように彼女のもとへと歩み寄る。

 

「おはよう、ユーくん」

 

 もう夕方だと言うのにおはようと言うのは少し不思議かもしれない。ただ、その挨拶はもう8年も続いているものだから今更変えようとは互いに思わないし、実際彼女と会うのは今日ははじめてになるのだから、その挨拶がおはようでも構わないと僕は思っている。

 

「おはよう、リコ」

 

 僕が眠っているときにだけ会える大切な友達。

 

 僕の命を繋いでくれた女の子――リコリス。だから「リコ」と、僕はそう呼んでいる。

 

 今はもういない彼女に会えるのはただの夢なのか。それに僕は異を唱える。彼女は確かに僕の中で生きていると思うから。

 

「よかったぁ。昨日は会えなかったからちょっと心配しちゃった」

 

「うん。僕も、ちょっと不安だった。でも今日会えてよかった」

 

 8年間ほぼ毎日会っている彼女と会えないときは僕の体調が悪いときだ。あるいは他の夢を見てしまう時や、夢を見ないほどの深い眠りに就いてしまった時。

 

 自分が物語の世界にやって来てしまったとしても変わらず彼女と会えるのなら、神界に必ず帰れると信じる事が出来る。

 

「なにかあったの?」

 

 リコリスと会えたことでほっと安堵していると、そう彼女は僕に問い掛けてくる。

 

「……こんなこと、信じられないかもしれないけど」

 

 それこそ自分がいつもと変わりなく彼女と会えているのだから、さくらとの出逢いの方が夢だと言われた方が納得出来る。

 

 けれど、小さな身体で僕を支えてくれたさくらの優しさや温かさを夢だと断じる事は出来なかった。それは彼女に対してとても失礼だ。

 

 僕はリコリスに今日の不思議な出逢いを話した。自分が今、一年中桜の咲く不思議な島がある物語の世界に居て、そこで出逢った魔法使いの女の子の話を。

 

「そうなんだ…。よかったね、優しい子に逢えて」

 

「うん。でも……」

 

 考えてしまうのは、これからさくらが辿るだろう悲しくて辛い未来。大好きな人への想いが、その人の大切なものを傷つけてしまう物語。

 

 知っているからと、それで彼女に干渉してしまうのは、彼女の人生を狂わせてしまう様で、僕はそんなことをしたくなかった。

 

「わたしに難しい事はわからないけれど、ユーくんはいつものユーくんのままで良いと思うな」

 

「いつもの、僕…?」

 

「温かくて、優しくて、誰かの事を想える。そんなユーくんが、わたしは好き。だからその子もきっと、ユーくんの事を好きになってくれるよ」

 

「別に、僕は…」

 

 他人に優しくするのは、自分が優しくされたくて、嫌われたくないからだ。

 

 本当に優しいのは、リコリスや、神王様や魔王様、シアやネリネみたいに打算なんてなく人の事を思いやれる人の事を言うのだと思う。優しくされたいからという理由を持って他人に優しくしている様な自分は、リコリスが思うような人間じゃない。

 

「ユーくんはもう少し自分の事を大切にしても良いと思うな」

 

「どういうこと?」

 

 リコリスの言葉に首を傾げる。これでも自分の身は大切にしている方だと思う。それこそ余計な負荷を掛けて、周りのみんなに心配をさせないために。

 

「せっかくの病室の外の世界なんだから、少しは楽しんでも誰も怒らないよ」

 

「それは……」

 

 確かにほとんど病室の中ばかりが自分の世界だった。でも、もし本当に初音島に居る事が夢でないのなら、外の世界を楽しむよりも早く神界に帰って、それから病室の外を楽しめば良い。みんなを心配させてまで楽しめる程、自分の神経は図太く出来てはいない。

 

「っと、今日はここまでかぁ……」

 

 夢から覚める時特有の意識の浮遊を感じて、もう少しリコリスと話をしていたかったのに残念に思う。いつもならまだ時間は長いものの、今日は昼寝であるから少し時間が短いのは仕方がない。

 

「また明日待ってるから」

 

「うん。また明日ね、リコ」

 

 リコリスに別れを告げると意識がフラッシュアウトする。

 

 リコリスと話せたから少し元気になれた気がする。起きたら早速動こうと決めて、意識の浮上に身を任せた。

 

 

 

 

to be continued…



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