異世界救済RTA (猫毛布)
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まずはエルフの森を焼きます

RTAの皮を被ってる一次創作です。
RTAは初投稿です。
何かアレばTwitterとかもありますので、ください。
よろしくお願いします。


 異世界救済RTAはーじまーるよー!!

 はい、よーいすたーと。

 先駆者を探した所、この世界での走者がなーぜーか、居なかったので私が世界一位です……。

 レギュレーションは都合上、記憶の継承有り、経験値継承無しで計測開始はいつものスタート地点に立った瞬間から!

 今回は王道を往く聖人ルートや勇者ルートでは無く、異世界掌握エンドを目指します! これも全てタイムの為……卑怯とは言うまいな……。

 

 まずは目を覚ませばいつもの森なのでそこらに落ちている木の棒をなるべく早く取得します。時間的に少し余裕はありますが転生者よろしくな「ここは……どこだ?」なんて思考は必要ねぇんだよ!(二敗)

 木の棒を素早く取得したのには理由がありまして、まずは木の棒の状態を確認します。葉が付いていない状態の木の棒を拾ったなら祈祷タイムですが今回は運良く葉が4つも付いている良個体なのでこのまま進みます! 3つ以上付くまで再走してるから当たり前だよなぁ!

 さて、ここで戦闘チュートリアルです。目の前に出てきたいつもの猪くんですね。実はこの猪くん、正式名称ストレングス・ボアなのですが、ここの位置ではこの個体以外が出てきません。この異世界を体験したことのある聡明な諸兄はご存知でしょうが、森の奥では経験値効率もドロップもクソ雑魚で不意打ちの如く突進してくるストレンクソ・ボアです。けれどここは森の入り口に近い場所であり、普通は出てきません。やっぱりクソじゃないか!!

 その猪くんですが、現在のレベルでは普通勝てません。素手なら装甲を抜くことも出来ずに倒されてしまいます。聖者ルートや勇者ルートでは負けイベントですが、今回のチャートは掌握エンドへ向かう為に無駄な経験値はありません。初期レベルを少しでも取得したいので倒します。

 

 魔法について、お話します。

 みんな「魔法」って、知ってるかな?

 魔法っていうのは例えば生命力を消費して発動するとか、或いは魔力を世界に支払って発動することを「魔法」というんだ。

 重要なのはこの生命力という点ですね! 実はこれ代用出来ます! 諸兄は覚えているだろうか、魔法剣を初めて使ったあの時の感覚を。検証した結果、あれも魔法剣にある魔力を代用して魔法を起動しているわけですね。杖や魔導書とかはまた別なので、その時になればお話しましょう。

 今は目の前に迫っている猪くんを対処しなくてはいけません。

 代用出来る。生命力。記憶継承あり。あっ(察し

 

 木の棒を構えて記憶にある呪文を唱えましょう! 木の棒の生命力では属性魔法は打てませんが硬化などの呪文は唱えられます! 突進してくる猪くんに向けて硬化した枝を突き立てて、横に避ければあとは勝手に猪くんが木にぶつかって死にます!

 

LEVEL UP!!

 

 経験値効率クソのストレングソ・クソでも初期状態での経験値は膨大です! これでこの辺りの敵は素手で対処可能になりました! だから木の棒を拾っておく必要があったんですね。

 何度も言うようにこのイベントは半分負けイベントでこのままここに突っ立っていると女騎士さんであるリンダさんが来ますが、女なんて必要ねぇんだよ!! ということで急いでこの場所から脱出します!

 

「君! 大丈夫か!?」

 

 はい! 無理でした!! 見つかってしまいました! お前ポケ○ントレーナーかよ!! 目があった瞬間に駆け寄ってくるんじゃねぇよ!

 明らかなロスですが、これ以降ノーミスの可能性もあるので通します。

 さて本当はかなーり後の方で登場する女騎士であるリンダさんですが、この時点ではガッチガチに武器と防具を固められた厨キャラです。諸兄の中にもお世話になった人も多いと思います。私はこのRTAをし始めてから嫌いになってきました……。

 レベル補正は無いものの、中盤の店売りレベルでの武器防具はこの時点でうまテイストです。邪道である賊王ルートではひん剥いて防具を売りさばけば初期資金としては十分ですし、奴隷商に売り飛ばせば市民権を買い取れるぐらいにはお金が手に入りますし、リンダさん自身が貴族出身なので実家に脅しを掛ければ無料で爵位と嫁も手に入りますが残念なことにこの時点で彼女に勝つことは辛いです……。勝てなくはありませんが、再走回数も増えるし経験値も美味しくないので見送りです。

 

「ここは危険な森だ。よければ私が」

「結構です」

「しかしだな」

「結構です」

「なら、森の入り口まで案内させてくれ」

 

 安定を取るならリンダさんと一緒に街に行くのですが、残念ながらこれは世界掌握チャートなので街に向かう必要もねぇんだよ! リンダさんが物凄く顔を顰めますが、彼女も任務で来てますので森の入り口で即座に離れればロスもありません。これはロスじゃない、イイネ?

 

 

 森の入り口まで少し時間があるのでリンダさんの話を無視しながらリンダさんの話をしましょう。

 リンダ・ローゲルト。職業騎士の女の人です。物理攻撃に特化していて、防御面もそこそこ高いです。そしてなんといってもクリティカルの確率! 上位に食い込む人です! 他は運極振りしてる運ゲー占い師や公式チート姫ですね! 戦闘面のみを考えれば総合順位でも上位に入るでしょう。伊達に勇者チャートでは終盤近くまで一緒に旅をしてませんね。斧を持たせて蛮族させると安定する稀有な存在ですが、王道を往く魔法剣を持たせれば中盤まで無双し続けますねぇ!! 残念なことに速度が遅いのでこのRTA中では仲間になるのはコレっきりです。

 彼女の髪は赤髪ですが、通し練習中に王家古文書を開いて確認したのですが王家との繋がりはありませんでした。まあ王家を見ればわかりますが、このおっぱいで王家は無理でしょ(畏怖)

 お姫様が何度か妬ましく見ていたのが懐かしいですね。まあその貧乳お姫様も今回会うのは最低限なのですが……。

 

「よし、ここまでくれば大丈夫だろう」

「ありがとうございます」

「……本当に大丈夫か?」

「では」

「あ、おい!」

 

 急いで逃げましょう! これ以上話をすれば、彼女のことなのでコチラを掴んででも止めてきます! 今の腕力値や敏捷値を考えれば逃げ切れないのでさっさと逃げましょう。敏捷ワースト5位には負ける訳ねぇよなぁ!!

 イレギュラーなこともありようやく森を抜けましたが、ここから街に向かうのではなく西へ進みましょう。食料などはそこらにある魔物が落としますし、野営をする暇も無いのでさっさと移動する必要があります。安定を取る為に移動途中の狩りで武器をドロップする必要もありますが、祈祷力でカバーしましょう!

 

 

 

 オイィィィィイイイイッス!! どうもぉ~私でぇ~す!

 まぁ今は、目的地周辺ですけども、えー……武器のドロップは、何一つ……ありませんでした……!

 再走も視野に入れながらようやく到着したのはエルフが住む森ですね。普通に入っても幻影魔法で誤魔化しているので入れませんが、危険時にはその幻影魔法が解けて人間種でも顔パスって理由、が出来ます。

 

 だからエルフの森を焼く必要があったんですね!!

 

 ここの木は魔力も生命力も大量に溜め込んだモノが多いので、代用して火炎呪文を唱えましょう!

 安心してください! エルフの森が焼けるだけです!!

 いい感じに火が広がればエルフの村に入って必要なモノを取得したりするのでその間暫く時間がありますので、エルフの森を焼く理由について、お話します。

 まず特筆すべきモノはエルフの特産品ですね。魔法付与がされているモノが多いです。ぶっちゃけ普通に来るのは勇者チャートでは中盤初期なのでエルフ産の武器は必要ないですし、防具もしょっぱいですが今の段階ではうま味です!

 じゃあ「もっと武器のいいドワーフ村襲撃したら?」と言われると思いますが、ドワーフ種はこの時点で攻めても攻略するのが難しいです。何度かした事もありますが、残念な事に経験値もまず味で住んでる所も鉱山地帯という事もあって火攻めができません。少しレベルと武器を揃えて虐殺するのもいいですが、相手の防具が硬すぎてリターンの少ない祈祷になります。

 他にも多数の選択肢があったんですが、人族はそもそもの経験値が不味いのと武器も知れてます。竜種は負け確定しているので攻めれません。魔族は遠すぎる。だからエルフの森を焼く必要があったんですね。

 これでも検証に114514回は各生活圏を襲撃してたので、たぶんこれが一番早いです。

 

LEVEL UP!!

 

 さて、焼き死んだ者の経験値も入ったので本格的にエルフの森を襲撃しましょう。こちらは素手ですが、エルフは混乱状態から始まるのは検証済みですので、さっさと小剣を拾って取捨選択をしながら殺しましょう。ではイクゾー! デッデッデデデデッ!!(カーンッ!)

 

 


 

 

 それは唐突にやってきた。

 白い黄色の肌に草臥れた衣服。火炎に照りかえる黒の髪が熱でふわりと持ち上がり、黒の瞳が火炎を映し出した。年若い、人族の少女であった。少女と呼べる年齢でありながらソレは確かにこの地獄で君臨していた。

 手に持ったのはエルフの里で作られる変哲もない短剣。美しい刀身を赤で汚し、汚れを振り払うように手首を返し短剣を弄んだ。

 確かにエルフ達にとってソレは敵であった。火炎に包まれる里も恐らくこの敵の行動である事は容易に想像できた。それを証明するように敵は次々にエルフ達を殺した。刺して、掻っ切って、斬り伏せた。その動きに無駄という無駄はない。外見にそぐわない技量。けれども長命な種族ではない。確かにそれは人族の少女であった。

 

「なんだ、貴様は……」

 

 エルフの問いかけに、少女は答えない。ただ問いかけてきたエルフを見て、少しばかり目を細めて、微笑んで短剣を構えた。

 一歩、二歩と距離を測るように緩やかに足を進め、自身の速度が最も乗るであろう距離で踏み込んで急速にエルフとの距離を縮めた。

 弓で対処するには遅すぎ、近すぎる。踏み込みを見たエルフは腰に備えていた短剣を抜いて迫っていた短剣を防ぐ。近くに寄れば少女がどれほど幼いかを判断できた。エルフの換算ではなく、人間として幼い少女である。

 同時にその理解を覆すが如くの連撃がエルフを襲う。

 防いだと思えば足が踏まれそうになる。足を避ければバランスを崩した所を押されて反撃に転じれない。けれど人族の少女の膂力など――。

 

「フェメールはやっぱり甘いな」

「ッ!?」

 

 少女の声がエルフの耳を揺らす。少女らしい可愛らしく小さな声であったけれど、その声はたしかにエルフの耳に届いた。

 自身の名前を言い当てられた。人族のように名乗りを上げた訳ではない。何よりこれは正式な場の決闘ではない。だからこそ少女がフェメールの名を知れる道理などありえない。

 その驚愕は一瞬の隙となった。否、隙など必要なかったのかもしれない。少女にとってはただの児戯であったようにフェメールの短剣は中程から折られた。同じ――いいや、フェメールの短剣の方が丈夫であるというのに、ただ力任せに、叩き折られた。

 轟々と燃え盛る火炎の音。木々の弾ける音。エルフ達の叫びと泣き声。周りの音達よりも小さく折れた刀身が草地に落ちた音がフェメールを支配する。

 拙い、と咄嗟に判断出来たのはフェメール自身がエルフの戦士として熟達していたからだろう。けれどその判断する時間すら遅い。少女の蹴りが腹部を捉え、少女の蹴りらしからぬ衝撃がフェメールを吹き飛ばし、まだ燃えていなかった家屋の壁を突き破った。

 肺にあった空気が押し出され、胃の中がひっくり返る。立とうとしても力が入らない。けれど、今立たねば自身は死ぬだろう。あの人の形をした魔物に殺される。

 

「あぁっぁぁああああああ!!」

 

 叫び、自らを鼓舞して力を入れる。全身に魔力を通わせて無理に身体を活性化させる。けれども、それは無意味だ。

 フェメールが突き破った壁の穴に影が差し込む。黒い髪を揺らし、少女はフェメールを見下した。

 その瞳は様々な感情が内包されていた。少なくとも勝利を手にした者の瞳ではない。感嘆も、歓喜も、狂気も、嗜虐も、愉悦も。家畜を殺すような哀れみもない。

 黒の瞳はどこまでも底が見えない闇であった。

 

「もう立てない。そういう風に蹴ったから」

 

 まるでそれが当然であるように語りかける少女であるが、フェメールはそれを否定するように全身に力を入れて立とうとする。通わせた魔力が抜けていく。力が思ったように入らない。

 死んだ。自身は死んでしまうだろう。けれどフェメールにはまだする事がある。

 

「なぜ、我々を襲った……?」

「時間稼ぎだっけ? 他のエルフを避難所に向かわせる為に必死だね」

 

 少女は何かを思い出すように口を開き、フェメールは息を飲み込んだ。この魔物は自身の心を読むことができるのだろう。ならば、自身はどうすればいい。村の皆を守る為に。エルフの未来を守る為にはどうすればいい。

 

「避難所はここから東の洞窟かな」

「待て! 私はどうなってもいい! だから村の皆は助けてくれ!」

「ん? 今なんでもするって言ったよね?」

 

 少女はその言葉が聞きたかったと言わんばかりに笑みを浮かべる。けれどその瞳は変わらず喜悦に緩む事はない。ただ口元に笑みを浮かべるだけの、仮面のような笑みが貼り付ける。

 

「じゃあ残ったエルフ達を纏めてもらおうかな。四日もあれば貴女は出来るよ」

「四日……。しかし長老達が――」

「はい」

 

 少女が自身の衣服を弄り、取り出して転がしたのは指輪であった。このエルフを司る者が持つべき指輪であり、受け継がれていた物であり、証であった。

 少女は顔に笑みを貼り付ける。次は有無を言わせないように、口を開く。

 

「エルフを掌握しろ。四日後に見に来る」

 

 フェメールは答える事ができない。いいや、了承以外の答えは種族としての死である事は容易に想像が出来た。

 けれど終ぞフェメールは燃え盛る森へと踵を返した少女に声を掛ける事など出来ずに、意識が沈んでいった。



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いまこっちの事チラチラ見てただろ

くそでかレベルアップ君すき


LEVEL UP!!

 

 Any%ならそろそろ終盤のRTAはーじまーるよー。

 エルフの森は強敵でしたね。必要以上エルフを狩ると掌握する寸前にフェメールが叛逆しだすので火災で死ぬ分と殺す分の調整が必要だったんですね(n敗)。

 必要以下だった場合はエルフ老害会がなーぜーかー発足しだすので掌握に時間が掛かります。具体的に言うと60年ぐらい掛かります。エルフの時間間隔狂いすぎぃ!

 だいたいここで走者の5割が脱落します。脱落した後も通しはしますが、掌握チャートは使えないのでリカバリーをしながらエルフを抹消、しようね! 救済エンドどこ……ここ……?

 滅亡エンドはラストに伝説の竜種が待ち受けているので大変ですが、もはや竜種とはツーカーの仲です。なので滅亡エンドを走る時は連続四回攻撃で殺してくるのやめちくり~。

 

 さて、エルフの森を焼いた後にもまだまだすることはあります。とりあえず目的としては魔王城の踏破です。このレベルで行けるのか? と疑問に思われるかと思います。確かに通常では魔王幹部を四体みんな倒す必要があり、その経験値を足しても魔王には届きません。しかし、魔王は現在寝起きです。便利な設定、寝起きなのです!

 通常魔王と比べて強さは3割減! 真・魔王と比べれば8割減の破格の弱さです! しかし開始当初はレベルが足りない。だからエルフの森を焼く必要があったんですね……。

 勇者ルートでは真・魔王と戦うのが必須となり、聖人ルートではそもそも魔王の攻撃を回避しながら会話するだけなので、この事を知るまで中々掛かりましたよ……。お の れ 魔 王 !

 

 魔王城へと向かうまで倍速しても時間がありますので、

 

 みーなーさーまーのためにー……

 

 このようなー……

 

 動画は準備できなかったので掌握ルートで仲間になる人達の説明をしておこうと思います。

 

 まずはエルフのフェメールですね。エルフなので貧乳です。当たり前だよなぁ!!

 性格は生真面目ですね。融通が効かないと言えばそうですが、期限さえ設ければ命令を遂行するので前回は殺さずに逃した訳ですね。ちなみにエルフ救済ルートではフェメールが上司になるのですが、クソクソ&クソの命令しかしてこないのでストレスが貯まるので、やめようね!

 前回の戦闘では魔法を使わせてませんでしたが、魔法のスペックはエルフの癖にクソザコナメクジなので見ないであげてください。やめろぉ! 他のエルフなら大魔法を四発以上打っても余裕なのに一発打ったらガス欠するような能力値を見るんじゃない!!

 彼女が特筆しているのはその器用さです。この時代のエルフ魔法で強化魔法を扱えるのは彼女だけなんですよ。基本的に近接攻撃をしない種族なのでフェメール自身も苦肉の策なんですけどね。

 エルフの癖に近接特化のフェメールですが、強化魔法を使用後は単独で人族国家の軍を相手出来るほど燃費と性能がいいです。だから叛逆させてはいけないんですね……(4敗)

 叛逆ルートで戦う狂化フェメールはその時点なら悠々と倒せるスペックですが、自分と周りのレベルに差がありすぎて即座に対処しないと軍が崩壊します。もうフェメール一人でいいんじゃないかな?

 

 次に魔族サイドですね。ご存知四天王の皆様です。

 特筆して言うべきは獣人族を統べているハクメンと夢魔族のユディアですね。

 他二人は力によって種族と統べている火炎公のブレザムと全であり一の群であるトーンズ。魔王を殺せばこの二人は従ってくれますが、ハクメンとユディアは別で従わせる必要があり、何度繰り返してもこの二人には悩まされます。

 

 ユディアは気付いたら従ってくれているのですが、問題はコチラの夢を覗いてくる事なんですよね。対策はしているのですが、ユディアは竜種の血が僅かに入っているので時空間魔法を齧っていて平行世界を無意識で観測しています。ユディアは気付いてないですが。コチラの脳内を平行世界と一緒に読み取られると発狂必至だから……(再走回数)。

 何よりユディアは仲間にしていれば安心です。彼女は一度主と仰いでくれるとずっと裏切らないのでとても良いです。どこかのクソ狐も見習ってほしいですね!

 夢魔特有のエッチな姿もポイント高いです。ソレ以上脱いだら発禁じゃねぇか! ってなるボンテージと紫白色の髪、お腹の淫紋もよきよきのよきです。ノンケ兄貴もこれには大満足ですよ。

 さらに彼女はこの見た目でエッチなお姉さんみたいな言動ですが、良妻なのです。コチラの精気を奪ってくるだけで良妻賢母なんですよ。精気は奪われますが……。

 戦闘スペックに関しては魔法はだいたい使えますし、近接技術はクソ雑魚ですが竜種の血が入っているので油断していると手痛い反撃をもらいます。そんな油断はしませんけどね(1敗)

 因みにこの先、魔王と戦うまでに彼女と会ったならデスエンカです。魔王は倒せますが彼女は倒せません。ユディアは対策しないと死ぬってはっきりわかんだね……。

 おとなしくリセットするか、我らの父にお祈りしましょう。そもそも会わない事を祈りましょう。ここで祈祷力が試されます……このRTAリセポイント多い……多くない?

 

 次にハクメンですが……。

 なんで等速に戻す必要があるんですかね?

 

「あらぁ? こんな所に人間がいるなんて不思議ねぇ」

 

 はい。思わずFワードを吐き出したくなる状態ですねェ! ユディアじゃん、なんでこんな魔王領の端で会うんですかね? やめてください死んでしまいます。

 ちゃんとレベリングついでに対策必要な夢魔族とはエンカしない所から入ったんですけど……。

 気まぐれこい! 気まぐれこい! お前、私は知ってるんだぞ! 魔王失脚狙ってるって知ってるから! 今はやめて! 助けてくださいお願いします! なんでもしますから!

 

「……ふ~ん、貴女、とってもいい匂いだわ。殺さないでいたら楽しい事になりそう♪」

 

 ペッ! あまちゃんが!

 やっぱり我らが父に願うのが一番だってハッキリわかんだね……。乳にも祈りたい。祈りたくない?

 因みに現時点で戦闘になった場合、彼女の行動は完全ランダムでこっちの状況見えてんのかよってぐらい弱点付いてくるので祈りましょう。何千回戦っても彼女のパターンは組めませんでした……。

 このまま立ち去りましょう。逃げるんだよぉ!

 

「あらぁ。お姉さんも一緒に着いていくわ。魔族も沢山いて危ないし」

 

 お前が一番怖い定期。

 このクスクス笑って背中におっぱい押し付けてくる夢魔のお姉さんですが、戦闘には参加してくれません! 見てるだけです! 本当に危険になっても手助けせずに死んだ場合「この程度だったのねぇ」って言って立ち去るので本当に面白半分で着いてくるだけです。

 (あとお姉さんっていう年齢じゃ)ないです。

 

「何か言ったかしらぁ?」

 

 ヒェッ……。

 ここから先のガバを今清算したと思えばむしろチャート通りだから……。じゃけん、魔王を討伐しましょうねぇ……。

 

 


 

 本当に、最初は単なる好奇心であった。

 夢魔族の長となり、魔王に仕えているユディアは退屈こそが死に至る病であると自覚していた。こうして公務を部下に押し付けて魔族領を散歩するのも半ば日課になった。勿論、同じく夢魔である部下達もユディアの公務に手を付けることはないので、帰れば積み上がった書類がユディアを待っているのもまたユディアにとっては退屈を潰す刺激となった。

 そんな散歩中に見つけたのは人族の少女であった。

 珍しい、と最初は思った。同時に何故? と疑問にも思った。そして湧き出たのは好奇心である。

 少なくとも、人族の少女になど負けはしない魔獣達が徘徊する魔族領であるが、その少女は当然の如く歩いていた。

 知った道を歩くように、ただ一直線に目的地へと向かっていた。その目的地が魔王城である事はすぐにユディアは理解した。同時に彼女が人族に勇者と呼ばれる存在なのでは? それとも自殺志願の英雄志願か。どちらにせよ、少女は魔族領においては異物であった。

 

 だから、声を掛けたのは好奇心に負けたからだ。殺す事など容易い、とも感じた少女であるけれど、どこか違和感はあった。

 少女には”匂い”と表現したけれど、正確に言うならばそれは雰囲気である。自殺志願という訳ではない。英雄になろうとしている訳でもない。そして勇者と呼ぶべきでもない。なぜか懐かしさも感じる雰囲気であった。ユディアには理解できない、初めての感覚であった。

 好奇心が更に擽られる。一緒に着いていけば面白い事になるであろう事も即座に理解出来た。何をするかが楽しみになった。退屈な日常が覆されると期待もした。

 

 

 この少女を殺す事が容易いと感じたユディアであるが、その感想は一気に払拭される。

 少女らしからぬ技術。判断力。膂力。少ない魔力の効率的な運用。戦闘において自身と対等……いいや、戦闘狂である火炎公ブレザムと同等だろうか。

 あらゆる手を用いれば勝てるが、それは辛勝と呼ぶべき勝利であろう。最初に感じていた完勝とは程遠い。

 なるほど、歪である。歪だからこそ、面白い。

 ユディアは内心を隠しながら少女へと抱きついて戯けてみせる。この少女を食べてみたい本能と見ていたい好奇心がせめぎ合う。それも魔王と戦うまでであろうが。魔王に負けた少女は自身が貰い受けてじっくりと嬲ればいい。

 それまではこの少女の思うがままに進ませてみよう。

 

 魔王城へと迷うことなく到着したのは少女はユディアにとってやはり歪であった。見ず知らずの土地であるというのに、見知った庭を散歩するように、或いは帰路につくが如く魔王城へと到着した。その道中でユディアによる妨害もそこそこにした筈であるが、全くそれを意に介さずに到着したのである。

 知っていた、とユディアは思えない。少なくとも情報統制によって人族領地では魔王城がどこにあるかなど明確にわかるわけもない。運任せ、というには迷いが無さすぎていた。知っていたにしろ情報はどこから得たのか不明のままだ。他の魔族領地で知ったのか? 否である。少女の行動の一部始終をユディアは監視していた。抱きついていた、或いはじゃれついていたと言い換えてもいいが。

 それでも少女は迷う事なく魔王城へと到着した。黒い瞳で巨大な門を見上げ、少女は一呼吸する。

 

「開けてあげましょうか?」

「……必要ない」

 

 少女には――人の身には大きすぎる金属製の扉である。ユディアはこれが特定の魔力反応によって開閉する事は知っている。少女は知らない事実である。

 故にユディアは少女がこの扉を如何にして開くかが楽しみで仕方がなかった。もしも魔力反応で開くのならば、少女は誰かの子なのであろう。それにしては何もかもが歪であるが。

 少女は扉から三歩下がり、その場でステップを踏む。身体が跳ね、少女の髪がふわりと舞う。瞬間ユディアの口が笑みに染まった。笑うしかなかった。

 少女の身には有り余る魔力が脚へと集中していくのが外からでもわかる。轟々と耳鳴りになるほどの風が少女の脚に纏わりつく。単なる魔力量の多さではない。精錬された純度も、洗練された術式も、選択された方法も。何もかもが度を越していた。

 

 ユディアの肌を余波とも呼べる風が撫で、風が一瞬だけ止んだ。音も、置き去りにされた。

 右足を軸にグルリと反転した少女の肉体から左脚が槍の刺突の如く突き出された。巨大で分厚い金属扉が泣き喚き、その顔が拉げる。破城槌でも何度も突き当てねば歪みもしない金属扉が少女の蹴りにより穿たれた。

 金属扉はギィギィと啜り泣いているが、少女は蹴り出した左足を接地させ、右足で更に踏み込む。整えられた石畳に亀裂が入り、練り上げられた魔力が少女の身体を疾走る。僅かばかり肉体から漏れ出した魔力の飛沫が少女の肩から散っていく。魔力により淡く光る両の掌底が門へと突き出される。

 金属扉は誇りを捨て、その役割を放棄した。身の丈通りの蝶番を引き千切り、宙へとその身を踊らせて、金属塊は埃を巻き上げて、存在を叫びながら墜落した。

 

 ユディアは笑顔を引き攣らせた。

 完勝できる? 辛勝になるかもしれない? 何を世迷い言を口にしていたのだ。こんな怪物をマトモに相手取るなど血に酔った戦闘狂のする事だ。

 少女を見れば、扉を突き破る前後での変化はない。まだ余力を残している。当然だ。この少女は今から魔王を討伐しようとしているのだ。扉を開いて限界などありえない。

 故に、惜しい。この少女が魔王に殺されるなど惜しい。

 故に、見たい。この少女が魔王に勝つ瞬間を見たい。

 故に、欲しい。この少女をどうしても自分だけの物にしたい。

 

「おぉん! なんだぁ! テメェ! 侵入者か!」

 

 そんなユディアの欲望の邪魔をするように火炎が少女の目の前に降り立った。轟々と燃え盛る焔の髪を揺らし、歯を剥き出しにして凶暴な目で少女を見下す。少女は火炎公を見上げた。視線を逸らす事はない。その必要性すら無いことをユディアは理解していた。

 

 自身よりも弱い存在の威嚇になぜ怯えなくてはならない?

 

「ブレザム公、やめておきなさい。貴方でも死ぬわよ」

「ユディア、テメェ! 俺様が負けるって言うのか!?」

「負けるのならいいけれど、死ぬと言ってるのよ」

 

 ブレザムはその一言にギロリと少女を見下す。少女は意に介さず、ただ成り行きを見ているだけであるが、その視線はやはりブレザムの瞳へ向けられていた。

 ユディアにとってはこんな所で少女を消耗させたくはない一心である。当然、ブレザム如きには負けはしないだろうが、その後に魔王と戦うとなれば不利になるであろう事は明白である。

 

「……テメェ、魔王のヤツを裏切るつもりか」

「私が自由なのはいつもの事でしょう?」

「死ぬぞ」

「死なないわよ」

 

 短いやり取りであった。それほど会話のない……というよりはユディアがブレザムを怒らせるので会話の少ない二人であるが、長い時を生きている仲である。よく怒らせるが。

 ブレザムは盛大に溜め息を吐き出した。ガリガリと髪を掻いて踵を返す。

 

「わぁーったよ。魔王の元へ案内してやる」

「あら、いいのかしら? 弱火公にでもなったのかしら?」

「うっせぇ淫売! 元々テメェが言い出した事だろ!」

「もう、そうかっかしないでよ。火だけに、ってね」

「ぶっ殺すぞ!」

「いやん! 助けて!」

 

 先程の雰囲気など霧散させるように戯けて少女の背へと隠れたユディアに髪の炎を猛らせて怒りを露わにするブレザム。

 そんな二人を見ながら少女は目を細めて、歩みを進めた。



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ガバのカバーがRTAの見せ場って一番言われてるから……

魔王討伐にイクゾー デッデッデデデッ!!


 ガバの修正をしようと思ったらガバが発生したRTAの続きはーじまーるよー!

 前回はなーぜーか、魔王城の扉が開いていたところでしたね。お、あいてんじゃーん!

 実は魔王城の正面突破は魔王との戦闘前に幾つか戦闘が挟まるのでチャート上は行う予定ではありませんでした。まさか夢魔のユディアと一緒に魔王城に入るとかチャート組める訳ないんだよなぁ……幾億と走った試走の時ですらユディアと初めて会うのは魔王を討伐してからですし。

 ユディアと一緒に魔王城にくるチャートもあったのですが、夢魔族の街を経由する為に経験値得て対策であるアクセサリーを購入する必要があり、それも商人が夢魔族で購入するともれなく精力を吸い取られる訳ですね。だからそのチャートはボツにする必要があったんですね……。

 ユディアが居なければ魔王城の裏口から侵入して魔王即殺するチャートだったのですが、ここでオリチャー発動! ユディアを仲間に入れて予定よりも狩りの時間を増やし、魔王城の扉破壊のボーナス経験値と事前戦闘で目標レベルまで上げる! 酔狂でこのRTAを走っていますが、試走の数だけ私には経験があるのです。

 扉破壊後に登場したのは火炎公ブレザムですね。近接攻撃すると火炎属性の反撃をもらいますがコチラが死ぬ前に殺せばいいのでこのレベルでも殴り殺せます。何より勇者ルートで戦うブレザムの妻が今はいないので楽勝で勝てますねぇ!! 経験値も美味しいです!! これは勝ち申した……。敗北が知りたい。

 が、ダメ!! ユディアがブレザム公を抑えましたね! なんでだろうね! お前ら仲悪いじゃん! 普段言い合いして戦闘してるクセにこういう時だけ息合わせて私を妨害するのやめてください死んでしまいます!! タイムが死ぬぅ!

 

 いや、こんな所で再走したくないというか、魔王討伐に関してはパターン組めているのでバグとかガバが無い限り必勝なんですよ。ここに来るまでの道中の方が事故が多かったのと、時間の兼ね合いでエルフの森を焼きましたが、初期レベルでも時間さえあれば魔王は倒せます。Any%で直接魔王討伐に向かうのはそういう事ですね。

 魔王城でレベルを上げようにも二人がいるからエンカウントもありません! 魔王直行です! 馬鹿野郎私は勝つぞお前!

 

「ククク、何やら騒がしいと思えば小さなガキではないか」

 

 玉座に腰掛けているのが魔王様ですね。魔族生粋の魔法才能と悪逆非道を行う人類種の敵であり、戦争を拡大化させている愚か者です。魔力圧が目でわかりますね。バッシバシ威圧してきますねぇ! 真・魔王ならデバフ効果が何重にも掛かる魔力圧ですが、現在は寝起き魔王なので見た目だけです。

 

「ユディア、ブレザム。貴様らが叛逆を起こすとはな」

「あらぁ、新しい刺激も与えられない人に着くなんて元から言ってなかったわよ?」

「俺様はこっちの方が面白ェと思ったからだ」

「ふん、まあよい。貴様らを罰するのはそこのガキを殺してからで」

 

 さて、魔王がコチラを本格的に威圧してきます。ウワーツヨソーダー。

 現在の魔王のステータスは真・魔王に比べて8割減ですが、腐っても魔王です。コチラの装備はエルフ領地で拾った短剣と属性防御の高いエルフの布。対してあちらは装備だけはガチです。幸いな事に勇者再来イベントが発生していないので武器は弱めです。エルフの短剣よりも強いですが。

 うわーもうおしまいだー。

 

 はい。

 

「ガキ、貴様は勇者では無いな? なんだ、貴様は」

 

 答える必要はありません。答えた所で意味はありません。時間の無駄です。これはRTAなんです。そして魔王は到達点ではなく、通過点なのです。

 故に、会話中にバフを掛けておきましょう。肉体強化、魔力アップ、エルフ短剣にエンチャント。第二形態魔王まではノーダメで倒しますが、第二形態魔王の初撃は運も絡むのでこの程度で十分です。

 

 さて、戦闘開始ですが。もはや第一形態は語る事など無いです。

 奇襲を防がせて、魔法障壁を張らせます。この魔法障壁なのですが、物理反射か魔法反射の二択でして、最初は物理攻撃奇襲を防がせたので物理反射になります。手に魔力を込めて即座に障壁を割って、更に魔法障壁を張らせます。次は魔法反射ですね。物理で割りましょう。

 二度程このループをしますと、魔王が焦って距離を取ろうとしますが離れると才能にモノを言わせた魔法連打をしてくるので絶対に離れてはいけません。そのまま追います。下級魔法を使う魔王のクズですが、牽制程度なのでエンチャしたエルフ短剣で魔法を両断できます。だからエルフの森を襲撃する必要があったんですね。

 先んじて下級魔法をなんでもいいので魔王へ投げつけます。そうしたら魔王様は馬鹿なので魔法障壁を貼ってくれるので、玉座から離れてくれた魔王様の顔面を障壁を割ったその腕で掴んで思いっきり床に叩きつけます。

 魔王がコチラの腕を掴んできますが、それは回避しましょう。まだ魔王の筋力値に勝てないので、エルフ短剣を魔王の胸部に刺して、戦闘終了です。急いで離れましょう。

 

「貴様、貴様貴様きさまキサマキサマ貴様ぁ!! 人間のガキ如きが我に歯向かいおって!!」

 

 距離をとった事で魔王様がキレていらっしゃいます。怖いですね。胸にエルフ短剣を刺したまま魔力を練っています。物凄く巨大な最上級魔法を扱うようで大変魔力を練っております。

 エルフ短剣は魔力の通りが伝説武具である勇者専用剣や魔王剣を省けばトップクラスです。それが店売りしているエルフの森はやっぱり頭がおかしい。エンチャの倍率が上昇するのですが、元々の攻撃力が貧弱です。けれど、一発限りですが、魔王戦において必須になります。

 魔王の胸に刺したエルフ短剣が魔王の魔力に反応して甲高い音を鳴らしてますね! 見てくださいよあのエルフの短剣! パンッパンでしょぉ? 魔王の胸を開けてみたいでしょ? いきますよー。

 

「喰らえ、そして絶望せよ! 貴様が歯向かった相手がどれほど偉大であるかを頭に刻みつけて死ねぇぇぇえええ!! ”カオス・オ、ガハッ」

 

 あ^~魔王が弾ける音^~!

 聞き慣れたカオス・オブ・ガハッですが、あのまま魔王固有技のカオス・オブ・テンペストとかいう闇属性なのか風属性なのかわからない複合属性増々でコチラの属性防御絶対貫くマンが発動したら私は死にます。再走でしたね! いやーコワカッタナー。

 

 

LEVEL UP!!

 という事で第一形態魔王が終了した所で経験値が入ってきます。おいしい!! できるなら魔王第一形態をあと100回ぐらい狩りたいぐらいにおいしいです! おまえ経験値はぐれシリコンかよ! ってぐらいくれます。狩りやすいクセに、おいしい! だから魔王は一度だけしか殺せないんですね……。

 自身の爆発で瓦礫に埋もれた魔王ですが、これから第二形態が始まります。始まる前に防御方面バフを掛け直しましょう。ついでに神に祈りましょう。今から瓦礫がショットガンの如く迫ってきて、喰らえばダメージ、回避すれば魔王からの攻撃というクソみたいな運ゲーが始まります。だから避けた方がリスクが高いので、マトモにダメージを貰うか防御するかの二択になるのですが、過去に四回程瓦礫が避けてくれたので祈りましょう。もう再走はいやだ再走はいやだ再走はいやだ再走はいやだ。

 

「――貴様を侮っていた我が悪かった。まずは謝罪をしよう」

 

 いやぁ、瓦礫は強敵でしたね……。瓦礫クリティカルで死んだ私もいたのでハラハラしました。物理防御は現状低いので瓦礫クリティカルであっさり死ねますねぇ!!

 

「貴様、名はなんという」

 

 さて、武器もなくなってしまった戦闘ですがご安心ください! 第二形態魔王もしっかりとチャートを組んできました! パターンは多かったですし、ダメージも少しだけもらいますがどのパターンでも死に至る可能性はありません!

 

「……名乗らんか。まあ、それも良い。

 名もなき勇者よ。貴様の事は覚えておいてやろう。我を本気にさせた事を。そして勇者として辱めることなく、殺してやろう」

 

 さて、第二形態魔王の初手はバフから開始します。初手以外はバフを掛けていれば「純粋な肉体で勝負せよ」とか言って自分はバフ掛けてる癖にコチラのバフ解除をしてくるクソの魔王ですが、初手だけはバフ固定です。

 そして次はコチラのバフを見て解除をしてくるのですが、このバフは瓦礫対策のバフで魔王対策ではありません。先程のレベルアップのお陰で第二形態魔王も、ギリギリ勝てるレベルにはなっています。

 

 第二形態魔王解体ショーのはじまりや!

 

 

 


 

 強大な魔力の余波がユディアとブレザムの肌を突き刺す。目も開けていられない程の余波に冷や汗が吹き出る。これが自身が仕えていた王の本当の力であると即座に理解出来た。

 対して人族の少女には何も感じない。先程まであった魔力による強化すら今は無く、ただ純然たる人間の少女がそこに在るだけである。

 凶悪とも言える魔力の暴を振るう魔王に対して少女はちっぽけな存在であった。

 けれども少女は悠然とその場に立っていた。受けている魔力圧もユディア達とは比べ物にならないというのに。

 

「……なんじゃ、勇者襲撃の報を聞き、急いで飛んできたというのに。単なる戯れではないか」

 

 ユディア達の側に現れたのは獣人族に伝わる和装を着崩して肌を露出させている花魁風の美女である。金色の髪の上には三角形の獣耳が生え、自身が狐の獣人である事を在々と証明する。人族に紛れる為に隠す必要もなく晒された尻尾の数は九つ。

 

「あら、ハクメン。貴女ってそんなに魔王様にご執心だったかしら?」

「彼奴が勇者にでも負ければ我ら獣人族が戦火に見舞われるじゃろう」

 

 ユディアの誂うような口調も扇を広げて口元を隠しながら否定する。その細い瞳はユディアに向く事もなく鋭く戦いを睨めつける。

 魔王の攻撃を辛うじて捌いている人族の少女は所々に傷を作り、対して魔王はその肉体に負った傷は既に癒えている。圧倒的だという戦況にハクメンは落胆する。

 けれど、ふと違和感が脳裏を過ぎる。

 なぜ、少女は立っていられる? 見た所、魔法による強化は行われていない。人の身である筈なのに、魔王の攻撃を辛うじて捌いている。膂力の差も、生物としての格も何もかもが劣っているというのに。勝負は一瞬でつかなかった。

 

「のう、ユディア。どうせアレはお主が連れてきたのじゃろう? 誰じゃ?」

「さぁ? 私も知らないわぁ。ただ魔族領にいて、面白そうだからついてきただけ」

 

 ハクメンの脳が静かに思考する。

 勇者、という訳ではないだろう。人類の希望というには装備が整えられていない。そこらの少女と大差無い。

 英雄、という訳ではないだろう。人類の至宝というには無謀が過ぎる。そこらの少女が子供たちの御山の大将を相手取るとは訳が違う。

 けれど何も持っていない少女は確かにその場に在った。絶対的な強者を前にして、立っていた。

 違和感の正体などわからない。誰ともわからない。現実からの推察も、不明瞭だ。

 

 魔王に相対する少女を見る。魔王からの攻撃を捌く。防御ではない。最小限の動きで、最低限の怪我で、最高の結果を求め、そして与えられた。

 武術を修めている。人族に伝わる、武器を主体とした物ではない。あの動きは肉体強度が勝る者が他者を圧倒する為の武術……その改変だろうか。節々に見える動きがハクメンの記憶を過ぎり、そして獣人族に伝わる武術の一つへと行き着く。

 何故? と疑問が生じると同時に少女が人族である事を再度確認する。少なくとも獣人の出ではない。けれど、その少女は確かにその武術を行使していた。差異は確かにある。人の身に合うように調整されたのだろう。ならば少女には師が存在する。その師が獣人である可能性は、無い。獣人族と人族には埋まらない溝がある。

 それより以前。武術の開祖と共に、であるのならば納得できる。けれども獣人族でも自身以外は使わなくなった武術の一端である。人族の集落でも、街であろうとその名残などは無かった。それに、修めるにしても少女の年齢にはありえない程の研鑽である。

 

 全ての条件を無視して、少女は確かに在った。それが現実というのならば、ハクメンは受け入れよう。だが、そこまでなのだ。いくら武術を極めようが、隔絶された肉体の差には手が届かない。

 

「その腕、貰うぞ」

 

 魔王の低い声が響き、振るう剣が少女の右腕を切断した。赤い液体を撒き散らしながら飛来する腕を少女は見る事なく、戦うべき魔王へと視線を向けている。

 深い黒の瞳は絶望などしていない。何かに希望を見出している訳ではない。ただまるで()()()()()()()()受け入れた。

 二の腕の半ばから切断された腕を衣服の端で縛り上げ、これ以上の出血を強引に少女は止めた。魔王はそれを見るだけの余裕が確かにあった。

 

「惜しいな。我が配下にならぬか? そうすれば貴様はここで死なず、腕もユディアに治療させよう」

「……」

「ああ、惜しい。この戦いを終わらせなくてはならない。実に、惜しい。人族の少女よ。貴様は我を封印した勇者に匹敵する敵であった」

 

 既に勝敗は決したように語る魔王に少女は答えない。細く、長く息を吸い込んで、大きく吐き出した。肉体が淡く光る。魔力による発光である事は魔王ではなくともわかる。それが少女が未だに諦めていない事を示している事も。

 故に魔王は呆れ果てる。未だに立ち向かう少女の気概は買おう。けれども魔法による強化は自身が解除するので無意味である。そんな事を一度で学ばなかった少女に呆れてしまう。知性を持った人族ではない、目の前にいるのは絶望の象徴へと歯向かう獣でしかない。

 魔王は手を払う。その所作だけで全ての強化は解除される。魔力の余波が砂埃を巻き上げて、少女をもう一度絶望へと落とす。そこから勧誘しても遅くはない。それでも聴かぬというのならば、殺せばよい。魔王はそう思考する。自身と相手の力量を正しく見極めた結果である。

 

「のう、ユディア。今一度聴くが、アレはなんじゃ?」

「人族の少女でしょう?」

「なら、何故アレは儂しか知らぬ筈の()()()()を完成させておる? 儂ですら成功しない技法を、誰にも知られてなどいない技法を、儂だけの技法を、何故人族の少女如きが十全に行使しておる」

 

 それはハクメンが積み上げた研鑽の頂きであった。魔法の効果で肉体を強化するのではなく、魔力を全身に流動させ、練り上げた魔力を攻撃と共にぶつけ、練り上げた魔力により相手の攻撃を防ぐ、理論上攻防一体の技法であった。

 理論上でしかない技法。未だハクメンですら届かない頂きに少女は立っている。百数歳であるハクメンよりも、遥かな研鑽の頂きに少女は立っていた。

 

「クク、ハハハハ!! 良いな、やはり貴様はよい! 来るがいい! 名も知らぬ勇者よ! 我が貴様を絶望させてやる!」

「……おやすみなさい、――――」

 

 少女の口から小さく吐き出された言葉は確かに魔王の耳に届いていた。驚愕する。言葉を吐き出したからではない。自身の真名など数千年は聴かなかったというのに、少女は口にした。

 少女の姿が消える。距離の開いた魔王の前へと一瞬で到達し、左拳が構えられている。魔力の飛沫が少女の節々から舞い散った。

 同時に少女の左拳が発光する。淡い光全てを集めて、術式が展開され、完成する。

 流動していた魔力を打撃と共に魔法へと昇華させ、対魔法防壁も対物理防壁も無視する極一の頂き。

 

 魔王の腹部に少女の拳が当たる。魔王のマントが突き抜けた魔力により舞い上がり、紅蓮が魔王の背中に咲き誇る。

 

「、おぉ、おぉ……これが貴様の本気か」

「…………」

「我との戦いは、楽しかったか? 我はお前に死を、感じさせたか?」

「……ええ。楽しかったわ。次はお互い本気で戦いましょう、――――」

 

 それが叶わない再戦の約束である事は魔王ではなくともすぐに理解できた。けれども魔王はそれで納得して、笑みを浮かべて膝を付いた。

 少女は魔王の身体を容易く抱え上げ、玉座へと()()

 右腕はない。年端もいかぬ人族。傷だらけの少女。人族の子供であっても容易く勝負をしかけるであろう存在に魔族の三人は跪く。立ち向かう事などない。それほど愚かなのは人族の子供だけでよい。

 

「手厚く埋葬して」

「御意に」

 

 以前の魔王を受け取ったブレザムは少女の命令を聞き入れた。魔王のマントを剥ぎ取り、切り飛ばされた右腕を隠すように羽織った少女は玉座へと腰掛けた。

 

「ハクメン、私が何かを知りたがっていたわね。

 私はこの時より魔王よ」

 

 それは絶対的な力を持つ者の総称である。それは魔族という存在の王である。それは正しく世界を掌握しうる存在の名であった。

 

 魔王は微笑みながら玉座から三人を見下ろした。



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内政パートはー、語る事がないのでー、みーなーさーまのためにー

動画は準備できませんでしたので本編をどうぞ。


 人族を襲撃するまで内政をしなくちゃいけないRTAはーじまるよー……。

 さて、腕に関しては一晩寝ている間にユディアに接着してもらったので、何も問題ありません。ユディアが秘書官かよぉ!? ってぐらい相変わらず近いだけですので何も問題ありません。

 

 まずは魔王の地位を戴いたので現状の確認ですね。魔族領は大陸の東端に位置しており、この大陸大部分に分布している人族と敵対しております。国力的には人族よりも劣りますが、人族の国は多数に分裂してますので現状は無事です。魔族領をA国が攻めてきたらA国をB国が攻めるとかいうクソみたいな三つ巴状態が多数で行われている訳ですね。人側から見ても魔族側から見ても「何やってんだアイツら……」状態ですねぇ!! もう嫌になりますよ戦争……。

 魔族側は戦争とかやってる場合ではないです。交易はそこそこありますが、魔族相手に人族の商人はこちらの物品を安く買い叩いて、人族の物品を魔族に高く売りつけるという行為が横行してます。商人ルートで魔族領の出入りを楽にするのはその為ですね。

 魔族領の特産品はなんといっても純度の高い魔力石です。行けませんが人族の魔法使いに売れば今の交易一ヶ月分ぐらいの儲けになります。それを安く買い叩ける商人達は当然高く売る訳ですね! 笑いが止まらない程の利益になります。そんなクソ取引であろうと魔族にとっては大切な交易です。すぐに見直しますが。

 魔族の収益といえば夢魔族達もそうです。基本的に彼らは人族に紛れて食事をしてくるので討伐対象になることもありますが、娼婦などになっている事も多く、商人達との伝手を作っているのも彼らですね。魔族領の生命線なので好き勝手させておきましょう。下手に命令を出すと急にやる気をなくして本格的に魔族領への援助もなくなります。ユディアの命令も聞かなくなります(一敗)。

 他にも農作も色々していますが、特筆すべきものはその二つ。もう一つ、獣人族の奴隷販売とかいう裏技もありますがもれなくハクメンとバッチバチに敵対するのでNGです。ハクメンと敵対した場合、彼女は表面上は付き従ってくれますが、気付くとコチラを包囲して為す術なく殺してきます。彼女はそういう女性なので丁重に扱ってさしあげろ。年齢の事も言ってはいけない。いいね?

 

 次に出資に関してですが、魔族領の基本的な出資は防衛による被害の補填です。なんで戦争してるんだよ、って話にも繋がるのですが、魔族は大人しくはないですが、国力的に勝っている人族へ戦争をふっかける程馬鹿ではありません。前の魔王様も自身が万全の体制になるまでは守備重点で国を守っていた訳ですし。

 じゃあなんで戦争してんだよ、って事ですが人族が攻めて来ています。もう一度いいます、人族が攻めてくるのです。先程も言いましたが、A国が攻めてきたらA国にB国が攻めるという図式なのですが、二つの国が同盟を組めばあっさりとその条件はクリアされます。戦争がなくなって平和なのはいいことですね、魔族側だとそれが言えないのですが。

 人族の目的は先程も上げた純度の高い魔力石です。交易に使えば国庫が潤いますし、美味しいです。その代わりに魔族と戦わなければいけませんが、人族は魔族と戦い負けても大手を振るって「魔族が悪い、魔王が悪い」と喧伝する訳ですね。その後に待つのは国家を超えた種族間での戦争です。

 勝てば純度の高い魔力石。負ければ他国との同盟への足がかり。何もかも得しかありません。兵士が死ぬぐらいでしょうか?

 ともあれ、攻める国力もなく、守るしかない魔族ですが、ひたすらに個人が強いのでそれでどうにかなっている状態ですね。

 という事でミニゲーム感覚で既に覚えている政策を布きましょう。何、安心してください。何度も再走して実証している政策です。伊達や酔狂で多数の国でハンコをポンポン押していた訳ではありません!

 

 秘書ユディアさんですが、お前性癖の坩堝かよ! っていう感じにどこから仕入れてきたのかタイトスカートを履いたスーツ姿でOL風です。胸部のボタンが悲鳴上げてるじゃん。おっぱいの北半球見えてるじゃん。エルフに謝って! 王族に謝って!

 

「それで、魔王様ぁ。目を覚ましてからずっと執務室に籠もりきりですけど、私達を繋ぎ止めなくて大丈夫なんですぅ?」

 

 それに関しては何も問題がない。裏切るにしても今暫くは時間があるし、現状を打破するためには内政処理を進めなくては話にならない。目下一番裏切りそうなユディアがこの場にいるのも強運である。過去のガバがここで清算されている可能性が……? ガバ量は常に一定である可能性が……?

 内政パートですが、前の魔王が寝起きでバッチリ仕事をサボっていたのは知っているのでサクサクと終わらせなければいけません。素早く終わらせる事により秘書からお褒めの言葉とアイテムも貰えますので早急にクリアをしましょう。魔王はこの為に仕事を残していた可能性が……?

 

「おぉう!! 魔王様! 俺様と戦え!」

 

 扉を蹴破って来たブレザムに対しては一枚の命令書を渡します。このまま彼の願いを聴いても問題ないのですがアイテム取得が出来なくなる可能性もあるのでさっさと出撃の命令書を渡します。今魔族領に遊ばせている戦力なんてねぇんだよ!! 守衛とか必要、ないです。魔族領のど真ん中にあるんだから、多少はね?

 

「……中々面白そうじゃねぇか」

「あらぁ? こんな所攻めて大丈夫なのかしらぁ?」

 

 何回も検証したので問題など無い。というか、ブレザムがここじゃないと納得できないって反抗してくるから仕方なく渡すしかない。苦渋の選択とかじゃなくて必然的に選択肢など無い。他の選択肢は総じて遅くなります。言うとブレザムが反抗してきて戦闘に入ります。経験値もまずテイストなので意味が無いわけですね。

 命令書を見て楽しみなのか髪の熱量をあげたブレザムを見送っても私の仕事は終わりません。ウチさ、残業あるんだけど、やってかない? いやです……。

 魔王領ですべきことは内政の管理と未だに姿を見せてくれないトーンズへの命令です。トーンズへは魔王城改築の命令を出さなくてはいけないのですが、ランダムイベントなのでそれほど重要視はしていません。最悪今日に会えなければトーンズへと招集命令を出して、エルフの森への再訪問前に会いたいです。必須にすると再走回数が加速度的に上昇するので必須にならないようにチャートを組みました(半ギレ)。

 あと避けるべきイベントも幾つかあります。

 魔王ルートを走っている際に突然勇者が来訪するとかいうクソみたいなイベントがありましたが、現在の日程では起こり得ないイベントなのでスルーする(激ウマギャグ)。試走の時も起きなかったし、大丈夫でしょ。

 他にもユディアが急に私を攻撃するとか、突発的な遊びがありますがそれもユディアとの好感度に左右されるので魔王城への道中が一緒だったユディアの好感度は問題ありません。ガバ中の幸いですね。

 大凡ありえそうなイベント群ですが、現状はそれらに抵触しないように調整しているので、この掌握ルートにこれ以上のガバは決してない! と思っていただこうッ!

 

「すまんの。よいか?」

「あら、ハクメンまでどこかに攻め入るのかしら?」

「儂は今朝に求められておった仕事の報告じゃ」

 

 あぁぁぁぁあああ!! なんでなんでなんでなんでなんで!

 どこでイベントフラグ踏んだんだよ……お前ェ!! 試走の時は私が呼ばないと来なかっただルルォ!? なんで通しの本走の時に限って来やがるんだ!! ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁああああん!!

 …………。

 

 ふぅー。私は取り返しのつかないガバが発生した時こうして泣き叫んで頭を冷静にすることにしているのだ。

 はい、という事でハクメン叛逆イベントですね……正確にはその一歩前なので対処はできます。ただ政務をほっぽりだす必要があるので……今日のアイテムやお褒めの言葉は無しだ!

 

 

 

 

 


 

 ()()()()()()()()()羊皮紙がユディアの視界を覆った。

 反応が遅れたといえば、確かにそうである。けれど、もしもこの羊皮紙が無かったとしてもユディアは今の魔王への攻撃を防ぐ事はなかったし、防ぐことも出来なかったであろう。それに、今のように防ぐ必要もない。

 ハクメンの拳速によって積まれていた羊皮紙が舞い落ちる。鋭く伸ばされた細腕は一直線に魔王の顔を捉えている筈であった。

 

「ッフ、やはりやるのぉ」

 

 獣人族をもってして達人と呼ばれるハクメンの一撃を魔王は容易く受け流して、筆を走らせていた羊皮紙にピリオドを打ち、持っていた羽ペンを立てかける。ハクメンへと視線をあげたのは、そこでようやくであった。

 

「ハクメン、何をしているのかしらぁ?」

「何、儂の上に立とうというんじゃ。ちぃっとぐらい試しても罰など当たらん」

「それを決めるのも魔王様なのだけれど?」

 

 ユディアの問に対して魔王は溜め息を吐き出して身よりも大きな椅子へと深く腰掛け直した。相変わらずその瞳は黒黒と奥が見えずに、表面にハクメンとユディアを映すだけである。

 ここで自身を罰するというのならば、まあそれも良い。ハクメンとしては自身の行動に悔いはない。自身の種族を抱えて魔王から逃げるのも一興である。それに自身の疑問は早期に解決すべきだと判断もした。

 

「で、何用?」

「忙しいのにすまんのぅ。何、少しばかり話に付き合ってほしいと思ってのぉ」

 

 魔王はその小さな顔を左右に動かして鳴りもしない首をほぐす。肘掛けの先まで届かない手を置いて、完全に仕事は放棄したようだ。

 その様子にハクメンは満足げに微笑んでから口を開く。

 

「お主、未来から来たんじゃろぅ?」

「は?」

 

 咄嗟に声が出たのは魔王ではなくユディアであった。魔王はさしたる反応も見せずにアクビを一つだけしてハクメンに話を促す。

 ハッキリと言えば、今の魔王は異常であった。

 その小さな体躯もそうであるし、自身が修めている武の頂点に存在するのも、身一つで前の魔王を打倒したのも。何もかもが異常であった。ハクメンとて自身の武術には誇りがある。その頂点である自負もあった。研鑽の先もある事もわかっていた。その頂きに最も早く手を掛けるのも自身である、と信じて疑わなかった。

 けれどもそれは目の前の魔王に覆される。

 この魔王が老齢であるのならば理解できた。そうであるのならば頂点へと手に掛けていてもおかしくはない。けれども魔王は少女であった。

 この魔王が人族でないのならば理解できた。そうであるのならばあの魔王種を倒した事にも納得はした。けれども魔王は人でしかない。

 武の頂点。それが未来に存在する研鑽の頂きであるのならば、少女はその粋を集めた存在であり、どういった理由かは不明であるが未来から現在へとやってきた。そう考えるのならば、辻褄は合う。

 少女が魔族領に来てからは調べさせた。何故魔王城の所在を知っていたか。それは未来から来たからである。

 

「どうじゃ? 中々的を射た推論であると思うが?」

「ハクメン、貴女ねぇ。時間跳躍がどれほどの魔力を使うか計算した事あるかしら?」

「後学の為に聴いておこうかの」

「今、魔族領のいる全ての生命体を枯らしても無理よ」

「――その計算に、そこな魔王は入っておるのか?」

 

 ユディアは言葉に詰まる。魔法に適正を持った種族で随一であるユディアであるが、魔王の正確な魔力は測ってなどいない。少なくとも、自身よりも、あの以前の魔王よりも大きな魔力を持っているのは確かである。けれど、それでも、である。

 

「入れた所で誤差にしかならないわ」

「ほう。しかし儂の推論は遠い未来かもしれん。そこまでに時間跳躍が簡易になった可能性や魔力の貯蓄といった方法もあるかもしれんじゃろう?」

「時間跳躍の簡易化は不可能よ。そもそも人に行える魔法ではないわ」

「他ならば行える、と聞こえたが?」

「……竜種よ。それも伝説と呼ばれてる」

「ふむ……」

 

 それはお伽噺にも語られる竜と呼ばれる種族であった。

 世界を創造したという神と竜。神は世界の行く末を見守る為に生物達へと未来を託し、竜は神がいた事の証明に地上へと居座り世界を見続ける。そんなお伽噺だ。そんな物が存在している訳がない。

 そんなお伽噺の存在でしか、時間は跳躍できない。それはこの世界に生きている生物に許された魔法ではない。

 

「……まあ、ユディアの仮説はよい。して、どうじゃ?」

「……私は()()()()来ていない」

「ほう、ではお主の武術はどこで? あれは獣人族に古く伝わる武じゃろう」

「師は……愛しい人でもういない」

 

 黒々とした瞳に初めて見えたのは哀傷の感情であり、それも一瞬にして読み取れなくなる。ユディアだけに読み取れたその感情が向けられた先は正しくハクメンであった。けれど、ハクメンは生きている。ハクメンの外見的特徴と類似する獣人など存在している訳がない。九尾の狐という強大な存在があればどこかで気付くだろう。隠遁していた、というのならば少なくとも次世代であろうハクメンが知らない訳はない。

 けれど、ハクメンは何かを考える素振りを見せるだけで、前世代に関しては思い当たってはいない。

 

「……そうか。よい師じゃったようじゃの」

「ええ。理知に富んだ、いい女性(ヒト)だった」

 

 その師は全てを少女に授けたのだろう。自身の死を悟ってか、それとも別の理由であるかはハクメンにはわからなかった。既にこの世にいないであろう存在に敬意を向ける。同時にこの怪物に心が備わっている事に安堵する。歪である。怪物であるが、心がある。それは恐らく同門である自身と同じ物である事も、わかる。

 

「……獣人族に関して話がある」

「戦場には極力出さない。人族の奴隷になっている獣人族の解放。」

「……知っておったのか?」

「貴女が吹き飛ばした報告書にあったわ。他には何か必要かしら」

「……儂に出来る事であれば、なんなりと主様」

「うん。頭のいい貴女は好きよ」

 

 先程書き終えたばかりの羊皮紙をハクメンへと差し出し、手に取ったハクメンは目だけで文字を追いかけて頭を下げて踵を返した。

 残った魔王は椅子を降りて飛び散った羊皮紙達を集めていく。それを見てようやくユディアは慌てて近くの羊皮紙を集め始める。

 

「魔王様、知っていたのかしら?」

「獣人族?」

「えぇ。特に魔王様にそんな様子は無かったでしょぉ?」

「言ったでしょ。書いてあったのよ」

 

 張り付けたような笑みを浮かべた魔王は何も書かれていない羊皮紙を持ち上げて一瞬で燃やし尽くした。

 まるで証拠を見られないように。

 

 まるで証拠を隠すように。

 

「さぁ、仕事を再開するわ。何か飲み物を持ってきて」

「ええ、美味しいお茶を入れてあげるわぁ」

「砂糖は二つ。ミルクと睡眠薬は抜いてちょうだい」

「……かしこまりましたぁ」

 

 気を取り直して、と言わんばかりに机に向かいだした魔王はしっかりとユディアに釘を刺してから羽ペンの先をインク壺へと突き刺した。



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お前のことが好きだったんだよ!!(迫真

本作はRTAの皮を被った一次創作です。
淫夢要素はありません。

夢魔要素はありますあります!

※遊び要素ぶち込んだので、読みにくければご意見ください。修正します。


 これは夢の中だ。夢魔としての感覚がユディアをそう感じさせた。

 誰かの夢の中に入った瞬間特有の浮遊感。幾度も経験したその浮遊感は微睡みにも似ていた。身体に重い水が纏わりついたような。けれども身動きは容易くとれる。

 夢の中は、誰と比べても正しく夢の中であった。

 

「さぁて。今日の魔王ちゃんの夢はどんなのかしら?」

 

 ユディアにとって夢とはその人物の過去、あるいは未来であった。

 当然、突拍子もない夢もある。子供が描いたようなドラゴンに襲われる、なんて夢もある。けれどそれが全てではない。誰かの過去、未来を観測できる。この特性をユディアは生まれ持った才として所持していた。

 だからこそ、あの歪な少女の夢に入ろうと思った事はなんらオカシクはない。最初の行動原理と同じ、好奇心である。彼女に就けば更に好奇心は湧いた。

 眠る時は無抵抗というべきか。警戒心の薄い少女はユディアが隣で眠っても起きはしなかった。初日で実践した結果である。

 

 ふわりと現実世界と変わりない空を浮き漂いながら夢の主を探す。夢の中を軽やかに浮く半透明の自身を風に流して、目的の人物を探す。多数の夢に潜った経験のあるユディアはすぐに目的の人物を見つけた。

 

 少女が森の中にいた。人族の街も近い、森の中だ。その中で少女は猪に追われて逃げ惑っていた。

 ユディアは思わず微笑んでしまう。あの怪物にもこんな時期があったのだと、まるで母のように笑みを浮かべた。

 今と年端の変わらないであろう少女。この少女がどういう経緯で今に至るのか、ユディアは楽しみであった。人には言えない愉悦であるし、悪趣味でもあるが、他の存在に対してはそれほど深く執着しないユディアにとっては唯一の存在であった。

 逃げていた少女は女騎士に助けられて一命を取り留めた。それでも少女は目を白黒させて女騎士を見ている。助けられた事で頭を下げてから、どうやら騎士に連れられて森を出るようだ。

 

「さて、どうやってあの子になったのかしらぁ?」

 

 騎士に守られて森を抜ける少女は怯えながら周りをキョロキョロとしているし、今と似ても似つかない。いや、容姿は殆ど一緒であるが。違う所と言えばコロコロと変化する表情やキラキラと輝く瞳であろうか。

 今の魔王と比べればオカシクて笑ってしまう程の差異である。

 

 街に連れられた少女はそれはもう目を輝かせていた。まるで見たことのない物を見た子供のようだ。女騎士はそんな少女を呆れる事なく連れて自身の務めている部署へと送り届けた。

 

 

 

 砂嵐がユディアの視界を覆い、世界を変える。

 

 ユディアが目を開いた時、そこには成長した少女の姿があった。先程よりも少しばかり筋肉が付き、剣を握っている。その近くにはあの女騎士が居て、剣を振るう少女を見て微笑んでいた。場所は、貴族の館だろうか。

 少女の振るう剣はへっぴり腰がようやく直った程度の熟練度で後方にいた方がマシというレベルである。魔王も剣術は――と考えた所でユディアが視界と自身の感覚を疑う。

 どうして()()()()()()()()()? 目の前にある少女よりも幼い魔王は、確かに同一の存在であるというのに、どうして少女は成長している。

 咄嗟に身体を空へと飛ばして頭を冷静にする。大きく深呼吸を繰り返して、意識を鋭くする。

 変化は無い。変化など無い。夢魔族随一と誇っている自身がこの分野において負ける訳がない。少なくとも違和感は感じる筈である。けれども、違和感などない。これは正しく()()である。そう、自身の感覚が告げている。

 ならば少女が成長しているのは――。

 

 砂嵐がユディアを襲う。飛ばされそうになる身体をどうにか世界に繋ぎ止め、砂嵐が晴れた。

 

 

 そこは、地獄であった。

 目下で行われた戦争。魔族と人族の戦争である。魔族側には自身の紋章も並んでいる。どうして自分がこんな所にいる?

 あの子は――。

 少女――いいや、成長して女性と呼べるような体躯になった夢の主はそこに居た。

 泥と血だらけ汚れた鎧を纏い、自身の武器である剣を放り投げて女騎士を抱えて泣いていた。どうして、どうして、と何度も叫びながら、涙を流して、喉を枯らす。

 その女に近づいた影は敵を両断すべくハルバードを持ち上げてグルリと頭上で回転させる。

 

「待ッ!」

 

 ユディアの静止を咎めるように砂嵐がユディアを襲った。視界を覆い尽くす鬱陶しい砂嵐を手で払いのける。

 

 そこは、森であった。

 

「……どういう……ことなの」

 

 混乱する頭を抱えて、ユディアは夢の主を見つけた。突進してくる猪から逃げている少女。けれどその動きは逃げ惑っていた以前の少女とは違う。明確に猪が進みにくい、直進しにくい所を通り、近くにある石などを投げつけている。

 

 違う。過去ではない。

 否。これは過去である。

 意思と本能が矛盾する。

 

 少女は女騎士に助けられた。よほど怖かったのか――否、ユディアは正しく少女が泣いている理由を知っている。理解してしまった。たじろぐ女騎士をよそに少女は泣いて()()()を喜んだ。

 焼き増しの如く少女は成長していく。以前よりも数倍の速さで、技術を体得した。

 少女が女性になった頃には女騎士と同じ程の地位へとなっていた。けれども戦争は起こってしまう。

 以前よりも強かった女は戦った。以前とは違い、戦争の覚悟もあった。兵を見捨てる覚悟も、生かす覚悟も、殺す覚悟も、何もかもがあった。

 

 けれど女は全てが終わって泣いた。どうして女騎士が死ななくてはならないのか。

 女の慟哭は空へと響き渡り、女はまた戦場へと立った。手には女騎士の剣を握って。

 

 長きに渡って、女は戦場を練り歩き、全てを殺した。目に着く魔族は全て殺した。

 武器が無くなれば他の武器を用い、いつしか何故戦っていたかなどわからなくなるほどに。

 

 兵は尽きた。女の息が細くなっていく。けれど女はどこか満足そうに笑みを浮かべた。

 

 砂嵐がユディアを襲う。

 

 また森であった。少女はすぐさま身体を起こして移動を始めた。猪など無視して、移動をする。

 女騎士に出会う前に、移動して、少女は王へと宣言した。

 自身は――勇者である、と。

 

 勇者は類稀なる戦闘技能を保持していた。年齢らしからぬ技能だ。

 少女は勇者となった。旅先の魔物を殺す存在へと、成った。それこそが唯一戦争をしない道のように。

 

 けれど勇者は魔王に負けてしまう。流れる血が勇者を汚したが、勇者は笑いながら殺された。

 まるで蘇るように。

 

 砂嵐がユディアを襲う。

 

 女勇者は恋をした。相手が同性である聖女であった。

 それでも魔王を倒す旅は続き、聖女と旅をした女勇者は聖女と沢山言葉を交わした。

 聖女は少しだけおかしかった。こうして魔王を倒す為に旅をしているというのに、魔王とお話がしたい、などと言い出すのだ。聖女は少しだけオカシクて、女勇者はそんな聖女を笑った。

 

 聖女は念願叶って、魔王と会話を交わした。やはりおかしい聖女であったけれど、平和を望む声は正しくそして純粋であった。そんなおかしな聖女と一緒に旅をしていた勇者は、きっと毒されていたのかもしれない。

 魔王が否定し、攻撃をしても勇者は聖女を守るだけで魔王に対して攻撃はしなかった。

 幾度も隙があったというのに、攻撃はしなかった。

 魔王は聖女を信じてみせた。きっとそれが平和に繋がると、和平に繋がると信じて。

 

 砂嵐がユディアを襲う。

 

 そこは地下牢であった。

 縛られた女の前には聖女が――聖女と呼ばれていた魔女が居た。

 勇者と呼ばれていた女には通じなかった拷問が魔女に行われた。それこそが女への拷問になると知っていたから。

 魔女の手は爪を剥がされ、沢山の穴が空いていた。

 脚は力が入らないのかだらりとしており、関節でもない部分が違う方向へと曲がっていた。

 肌は至る所が青く黒く染まり、美しかった髪は短くされてささくれている。

 歯の削られた口からはもはや何も語られない。

 だから、これが最後の拷問であった。

 

 魔女に対してではない。女に対してだ。

 自身の結末がわかったであろう魔女は鎖を鳴らす女へと微笑む。表情などもはや判別つかないというのに、女には――ユディアには確かに微笑んだように見えた。

 

 女はこの時より狂い出した。

 

 

 砂嵐がユディアを襲う度に少女は聖女を助けた。

 

 なんども、なんども、なんども、何度も何度も何度も。気が狂っていても、それでも聖女を助けた。

 聖女はそんな少女を見て微笑んだ。きっと世界が嫌いになってしまっている少女に唯一の癒やしを聖女は与え続けた。

 

 それでも――聖女は世界に殺される。

 

 断頭台に登った偽りの聖女はやはり笑っていた。

 そして少女に呪いを与える。

 

「世界を好きでいてね。愛しているわ」

 

 きっとそれは世界が好きな彼女だから。きっとこれからも生き続ける少女が世界を恨まないように。

 少女が声を出そうとした瞬間に、断頭台の縄は切り落とされ、世界は歓声で包まれた。

 

 砂嵐がユディアを襲う。

 

 目を開いた時、そこは森の中であった。

 少女は慣れたように立ち上がり、息を吐き出した。迫る猪が居た。少女はその猪を正面で受け止めた。

 

 砂嵐がユディアを襲う。

 

 目を開いた時。そこは森の中であった。

 少女は慣れたように立ち上がり、溜め息を吐き出して武器になる物を探した。木の枝であった。その枝へと硬化の魔法を掛けて、猪へと突き刺した。

 少女は嗤った。

 

 声を出して、嗤った。

 嗤うしかなかった。

 幾度も繰り返された世界。

 幾度も人を愛した。幾度も平和を願った。幾度も世界を救った。幾度も他者を愛した。

 

恩人で恩師で高潔であった女騎士を。

商人を。彼女とは平和を共に買うと誓った。

占い師を。彼女は遠い未来に絶望していた。

狂っていた偽りの平和を愛した姫を。

ただ平穏を願っていた村娘を。

他者と分かり合いたいと叫んだエルフの女戦士を。

夢魔の首領を。彼女は自由も愛していた。

民を守る為に研鑽を積んだ九尾の頭目を。

炎の公爵を。彼は戦いに誇りを持っていた。

自然の群を。彼は世界が崩れるとわかっていた。

人を信じられなくなった

魔王を。

全てをただ愛していた

聖女を。

 

 

 

 けれど、

 幾千と平和にしても。

 幾万と救ってみせても。

 幾億と世界を巡ってみせても。

 その回数だけ世界に裏切られたとしても。

 少女は世界を愛そうとした。

 

 その回数だけ聖女が世界を愛してみせても。

 世界は聖女を愛さなかった。

 

 狂うには遅すぎた。

 正すには遅すぎた。

 

 何もかもが遅かった。

 

 少女は一頻り嗤った後に木の枝を頭部へと差し込んだ。

 

 砂嵐が、ユディアを襲う。

 

 そこは、森の中であった。

 少女は口を開く。

 

異世界(聖女)救済あーるてぃーえー はーじまーるよー」

 

 それはまるで陽気な声色であった。けれども確かに少女の表情には笑みなど張り付いてはいなかった。

 

 


 

 内政のパート2はーじまーるよー!!

 前回の私は予測可能回避不可能なイベントにぶち当たりましたがこれより先、私に精神的動揺によるミスはない! と思っていただこうッ!

 さて前回から朝起きたらユディアが目の間にいる不思議イベントがあり、なーぜーか、前回事ある毎に私にちょっかいを掛けていたユディアが凄く献身的に私をサポートしてくれてます。よもや豪運チャートでは……? ガバの揺り返しが来たか……風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、私のほうに。

 いいや、ここで安心してはいけない。そんな感じで死んだ走者を私は知ってる。ユディアが裏切りを企ててるとか……ありえるぅ……。

 ちらりとユディアを見たらこっちに目があってにっこり微笑まれた。だれぇ……こわいぃ……。

 いや、とにかく政務を終わらせる必要があります。頑張らないと……昨日の遅れを取り戻すと共にトーンズへ帰還命令を出しておかなくちゃ……。

 

「おぉ……ん? オレのいにゃぁ間に魔王様がなして変わってンダ?」

「好き!!」

「魔王様!?」

 

 お前の事が好きだったんだよッ!!

 溢れる感情が声に出てしまった。苔むした小石の精霊が机の上に乗る。間延びした喋り方であるがコレが魔王四天王の最後の一柱であるトーンズ。これ以外にも身体があり、群衆であり、一人である彼だが建築や改装に関しては全てを任せられる超スーパー存在です! お世話になった諸兄も多い事でしょう! 彼がいれば魔王城の改築とか木下藤吉郎もびっくりのスピードです!

 思わず小石を掲げたくなる気持ちを抑え込んで、冷静になってからトーンズへと改修命令を出す。で、出ますよ……!

 

「ぉぉ、ん? こりゃぁまた。いーいのかぁ?」

「構わない。できればすぐに取り掛かってほしい」

「んん……わがっだぁ」

 

 その改修工事が終わったら他の工事もあるからな! 安心してくれ!!

 さて、トーンズには残業増々の工事を頼んだけれど、彼は残業好き、というか工事大好きーな存在なので逆に休みを与えると勝手に改修してしまうのだ。これは決してサービス残業などではない。進捗……増える工程……サービス、ウッ……頭がッ!!

 本当にガバの揺り戻しなのか、それとも運が向いてきたのか。これならば崩れかけたチャートにも改めて乗る事が出来ますねぇ!

 

「……魔王様の考えは察しかねます」

「そうかな?」

「早く人族を攻めればよろしいかと」

 

 あら珍しい。あのユディアがちゃんとした段階を踏まずにコチラを敬っているのもそうであるし、何より人族に攻め入る事に賛成しているのも中々珍しいイベントですね。試走中に一度ぶつかった事もありますが、あの時はユディアのご機嫌取りと思って攻めて大変な事になったので、ちゃーんとチャートに乗っ取ります。

 なーので。ブレザムが帰ってくるまではとりあえず内政を整えます。

 

 もっと内政して! やくめでしょ!

 

 

 

 

 

 

「おう、魔王様。今帰ってきたぜ」

 

 お前の事を待ってたんだよ!!

 翌日になって帰ってきたブレザムが執務室に無断で入ってきました。このイベントは必然です。

 相変わらず戦闘力はトップクラスのブレザム君ですが戦争になるとその効率は激減します。仕方ないね。全部燃やす訳じゃないもんね……。しかしながら将としてもその才覚は高く、魔族の中ではハクメンと対等です。しかも攻め方が二人とも違うので魔族はバリエーションの宝庫なんです。攻めに強いブレザム君を使ったのはそういう意味なんですねぇ。

 さて、報告は聴くまでもありません。魔族軍の勝利です。あたりまえだよなぁ!

 ブレザムを出したら中盤の終わりぐらいまでは無双状態ですし、運悪く勇者に出会ったとしても、ブレザムなら兵士は逃すので安泰です。ブレザムは死んでしまいますが、奥様であるフリィドが人族に恨みを持って魔族軍に参加してくるので問題ありません。むしろフリィド姉貴は終盤でも猛威を振るうので最強の一角です。普段ニコニコしてる人が怒ると怖いって真理って、はっきりわかんだね。

 

「で、次の戦場はどこだ?」

 

 と意気揚々なブレザム公には悪いですが、君には休暇が必要だ。言い渡した瞬間に思いっきり眉間を顰められましたねぇ!

 でもご安心ください。ここでブレザム公が怒ったとしても全員で取り押さえられますし、何より私が負ける要素がありません。トーンズと合わせて三人に勝てるわけないだろ! をしてもいいのですが、その後のフリィド姉貴が怖いので決してしてはいけない。

 

「どういうことだ魔王、俺様が使えないってか?」

 

 十分な働きなんだよなぁ……。人族への牽制と魔王の復活をさし示す攻勢な訳であって、ここから先にブレザムが活躍するような戦場はない。むしろその戦場を作る理由もない。そんな戦場作るとタァイムが死ぬぅ!

 けれどここでブレザムに邪魔される訳にもいかない。結果として休暇が彼には必要なのだ。

 休み明けに私と戦おうね! 私も経験値とか色々欲しいよ!

 

 そう約束すればブレザムが引くことは知っている。安心安定の戦闘狂だけれど、基本的には紳士なのでお互いに最高の状態である事を彼は望んでいる。戦士だもんね。

 その間にフリィド姉貴とイチャイチャして、どうぞ……。

 

 さて、人族が魔王復活を知ればどうなるか。勇者を探しながら魔族領へと進行してきます。

 けれど、ここでネックになるのが以前もいった三つ巴の関係性です。人族社会は非常に鬱陶しい関係で出来上がっているので同盟を組まなきゃいけない訳ですね。

 それもお互いがお互いに牽制しあうクソの化身という訳です。

 ともあれ、人族対魔族という構図ができあがるので、二つの国家間だけで同盟を組んだ所で無意味になります。だから全ての人族と同盟を組む必要があったんですね。

 エルフとの交易を結んでから行っても余裕で間に合います。道中エンカウントに関しても今の私が道中で詰まる事はないです。安心、安全。

 

 人族同盟カクゴー^^



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序盤中盤終盤、隙が無いよね。

データが消し飛んでいたので執筆RTAは再走しました(半ギレ

20/1/28
奴隷数の修正。ご意見くださった方ありがとうございます。


 そろそろ終盤に差し掛かるRTAはーじまーるよー!!

 ブレザム君が帰ってきたのでようやく人族への侵攻を始める事が出来ます。まあ人族への物理的な侵攻はブレザム君がしていたので始まるというのは語弊がありますが……。

 人族同盟の邪魔に関してはハクメン率いる獣人族達がしてくれているので時間は稼げています。ある程度同盟関係の話を進めていないと面倒ですが、ハクメンならばその辺りを上手く調整してくれるでしょう。謀略関係トップの力ですからね……あれで戦争も個人戦力としても最高峰なハクメンさんの能力値おかしい……おかしくない?

 エルフとの交易関係に関しては私自身が動くしかないのでいつもの魔王不在の魔王城が完成します。内政関係はユディアに任せましたし、改築もトーンズに任せているので何も問題ありません! ガバはありません!

 予定通りエルフの森を燃やしてから四日が経過したのでフェメールも掌握が完了している事でしょう。魔王を倒していないとエルフ独裁ルートという誰の得にもならないルートに入ってしまいますので魔王討伐は必須だった訳ですね。他にも理由はありますが。

 エルフとの交易は有用な物が多いです。何よりも特産品であるエルフ織が最高すぎます。エルフ織と魔族特産の魔法石があれば大凡の魔法攻撃は防げますし、何より軽いので鎧の下に仕込める訳ですね。そんな状態で無双しても魔王の特殊魔法は防げないので速攻撃破の為に小剣を持ち出したんですけどね、初見さん。

 

 さて、エルフの森に到着した訳ですが、先日燃やしたのにも関わらず緑々とした木々が眼前に広がっています。幻影魔法への対策はまったくしていないので仕方ないです。

 

「あらぁ、魔王様? 人族の街へ行く予定でしたよね?」

 

 なので隣にいるユディアもきっと幻影魔法に違いない。そうだと言ってよ……。なんで居るんですかねぇ……。内政を頼んだユディアはどこ……ここ……? どうして……。

 いいえ、取り乱しました。ここでユディアを帰そうとしても時間の無駄ですし、何よりよくわからないけどユディアからの好感度が高い事も運が良かったです。この状態のユディアはコチラの命令を遵守はします。……遵守されましたか?

 ともあれ、内政を任せたので、きっと魔王城ではユディアに命令されたそこそこ能力値の高い夢魔達が挙って内政を仕上げている筈です。ありがとー中居さん!! フラッシュ!!

 四割ぐらいの確率でユディアからの命令も聞かない事は考えてはいけない。こんな所でガバとかRTA壊れちゃ^~う。

 

「だってお城に籠もっているよりも、魔王様の側にいた方が楽しいでしょ?」

 

 幹部の自覚とか、ないんですか?

 私に魔王の自覚があるかどうかは置いておくとして。ユディアの事なので仕事はキチンと熟してくれている筈です! それを信じないとここで再走案件です! 運ゲーは嫌いなので掌握ルートで安定を取っているというのに!

 ユディア一人ぐらい誤差なので続行します。長時間のRTAなので多少はね?

 

「それで、魔王様はこんな森に何用なのかしらぁ?」

 

 こ ん な 森 !

 いや、ユディアから見れば普通の森に映っているんだろう。たぶん幻影魔法が掛かってる事はわかっている筈なので何回か森を見ては眉を寄せてます。当たりを付けて排他的なエルフを想像して嫌になってるんですね。

 そんな排他的エルフは先日皆殺しにしたのでここには先進的なエルフが出来上がってます。やったぜ!

 ただここでフェメールがエルフ族を掌握出来ていない場合はエルフ族は次の朝を迎える事はないでしょう! 一つぐらい潰しても、バレへんか。

 フェメールなのできっかりと期日に間に合うように動いている筈ですのでその辺りは安心してます。彼女は元々エルフ族を率いるだけのカリスマはあるのですが老害達に押さえつけられていたので……。今はその老害達はいないので安心ですね!

 

 とにかくフェメールに私達が来たことを伝える必要があります。当然この世界には携帯電話なんて利便性の高い物が無いので扉をノックしましょう。

 目の前にある幻影障壁をですね、魔力を込めてノックしましょう!! 力加減も関係なく、力いっぱい殴りましょう!! そうしたら障壁は割れるのでそれに察知したフェメールが飛んでくる筈です。ノックしてもしもーし!!

 

「……あら、正体見たり、って所かしらぁ? 誰がしたのかしら?」

 

 おっそうだな! まったく! こんな酷い事を誰がしたんだろうな!

 広がる黒々とした樹木だった物を見ていると涙が出てきそうになります! 暫く出した事なんてありませんが。 ともあれ、そんな事はどうでもいい。重要な事ではない。今はフェメールが来るのを祈るだけです。頼むよぉ。

 エルフの森へと入るにも出入りが面倒なのでここで待つことにします。私が出て入るよりもフェメールが来る方が早いです。あと入ると普通にエルフから怯えられてエルフ族自体の好感度が減ってクソ展開になる可能性もありますあります!(一敗)

 さて、ぼんやりと待っていれば慌てて来たのかフェメールが息を切らしながらようやく到着しました。お前の到着を待ってたんだよ!

 

「まさかとは思ったが、やはり貴女だったか……それに後ろにいるのは、夢魔か? なるほど、貴女が魔王だったか」

 

 ならあの行動も理解できる、とか呟いているフェメールと後ろで私をジト目で見ているであろうユディアは無視しましょう。フェメールに関しては落ちる好感度がありませんし、ユディアの好感度はこの程度で落ちない事は知ってます!

 ここに来た理由はエルフの掌握が完了しているか否か、それとフェメールを含んだエルフ族を魔族の支配下に置くためです。正確には支配する訳ではなくて管理すると言ったほうがいいかもしれません。長命なエルフは事なかれ主義が多く、現状で魔王の庇護下に入っていなければそのまま生活した挙げ句に魔王へと矢を向けてくるので防ぐ必要があるんですね。

 

「……エルフ族の統治は出来た。が、魔族への屈服は少しだけ待って欲しい」

「あらぁ、ここで滅ぼされるのがお好みかしらぁ」

「既に死に体……殺されたエルフ族を魔族が庇護する真意を知りたい」

 

 金! 暴力! 交易! って感じでぇ。

 実際、エルフ族を庇護下にする意味はエルフ織以外にはそれほどない。エルフ織に関しても交易の利率がいいというだけで利益としては魔法石だけで事足りる。族長になって色々見えてきているフェメールだからこそ、そこに疑問を感じているし、族長としてエルフ族を簡単に差し出す訳にもいかない。滅びか衰退か、それも繁栄か隷属か。エルフ族にとって瀬戸際であるし、その言葉によって衰退の道は閉ざされているのも理解しているだろう。それでもフェメールは聴いてしまうのだ。彼女はそういう女性(ヒト)である。

 

「エルフ織の交易よ。エルフを支配下に置くのはそうしないと私に怯えて生活できないでしょ?」

「……よもや交易の為だけに族長達を殺した訳ではないな?」

「否定しておくわ。アレらは私にとって邪魔だったの。何よりも――」

 

 言っても意味がない事に気付いて口を閉ざす。これはフェメールに言った所で仕方がない。あの老害共のお陰で再走回数が増えてるんだよぉ! 無駄に生きて魔力溜め込んでるくせに魔王には屈服しないとか言いやがるしそのクセ人族にはすぐに助力する! 再走回数コワルルゥ。

 まあ既にいないエルフの事に関して言っても仕方ありません。鋳型も無いので他のエルフは安心です。ご安全に!

 

「……なるほど。わかった。そもそもコチラに選択肢は限られているしな。よろしく頼む魔王殿」

「えぇ、よろしく。エルフの長」

 

 これでエルフとの交易は結べたのでこれで残りの問題は人族だけになりました。ハクメンが上手く調整している筈ですが、なるべく急いで人族の街であるセルンラトへと向かいましょう。

 イクゾー! デッデッデデデデッ!

 

 

 

 


 人族に魔王復活の報は風の如く伝わった。当然その報せは民達には広まらないように王達により箝口令が布かれ、王達を悩ました。王達にとって魔王という存在は脅威であった。少なくとも魔族という相手に対しては強く出る事のできる人族ではあった。故に戦争という手段を用いて金銭を稼いでいた。兵力は金食い虫であったが、対魔族という大義名分は等しく人を騙し尽くしたし、戦争という物は技術の発展と同時に金銭を湯水の如く沸かしたのも事実である。

 けれど魔王という存在はその全てを否定する。人族全てへと牙を剥く。何より魔王へ対抗する為の兵力や兵站などが湯水の様に湧く訳ではない。限られた資源である。故に人族は勇者に頼るし、対抗策として聖女の準備もしていた。

 現状唯一魔王と対抗する手段である聖女を保持しているセルンラト王は魔王復活の報を喜びはしなかったも好機であると捉えた。争いの多い人族全ての同盟を築ける好機であった。

 

 国力の高いセルンラトだからこその思考であった。魔王という要素を無駄に使うつもりは無かった。少なくとも、聖女を保有しているセルンラトへ救助を求められるのは時間の問題であったし、魔王が動く前にセルンラト王は動く必要があった。

 報せを聞いたセルンラト王は即座に人族の王達へ向けて手紙を送る。内容は人族同盟の誘いである。これを蹴るのならば魔王に潰してもらえばいい。断られる可能性は限りなく少ないのだから考えるに値しない。

 

 運良く、というべきかある程度は当然のように各国からの返信はすぐに来た。全て了承の報せであったのもセルンラト王にとって僥倖であった。同盟内容はある程度決定しているも、他国の申し出を聞いておかなければ同盟を上手く使われる可能性もあった。

 綿密に、けれども迅速に。元々思い描いていた同盟図を描ききった。

 

 後に王族同盟と称される同盟である。

 

 人族は勇者が出現するまで耐えればいい。更に言えば人族全てが団結すれば魔王の侵攻も防ぐ事ができるだろう。今まで魔族領へと攻め入っていた軍の情報。そしてそれに対抗していた魔族軍の情報。人族へと攻め入った魔族軍の情報。そこから推察される魔族軍の総数と戦力。

 勝てはしない。魔王を倒さなくては勝ちではないというのならば、人族は魔王に勝つ事は出来ない。それこそ勇者が必要だ。聖女を出す事でも勝てるかもしれないが、あの少女にそれほどの力が無い事をセルンラト王は知っていたし、何より人族の同盟を結ぶ要因にしても魔王を倒してしまってはそれが崩れてしまう。

 

「待たせたな」

 

 開かれた扉の先には巨大な円卓が鎮座し、それを囲うようにして人族を治める各国の王達が椅子に座している。上座などない、それぞれが平等である証である円卓を囲う王達。

 空いた一席に座るセルンラト王は王達の顔を見渡し、ようやく自身の願いである同盟と平和が締結するのだと気を引き締める。小さく、気付かれないように息を吐き出す。

 セルンラト王が王達を見渡していると一人だけ異質な存在が何食わぬ顔で椅子に座っていた。金色の髪を頭頂から流した美しい女である。和装と呼ばれる艶やかな衣服を身にまとった女は懐から取り出した煙管を咥えて指の先で刻み煙草を丸めている。

 

「……失礼ながら、貴女は?」

「ほう? 儂の名はハクメン。主の代役じゃ」

「代役? 貴様は王では無いのか」

「然り。魔王への対策の方が儂よりも重要じゃろうて。案山子とでも思っていろ

 

 やはりその美しい顔はこの同盟にさっぱり興味が無いように思えた。刻み煙草を火皿へと乗せたハクメンは指先に小さな青白い焔を灯し、口から白い煙を細く吐き出した。

 セルンラト王は美しすぎる案山子から意識を外し、改めて意を決する。ようやく人族の夢が叶うのだ。案山子などに構う必要などはない。

 

「では人族の為に同盟の話をしよう」

 

 同盟の主目的として、魔族への防衛が上がる。その中には魔族への攻勢も入り、勇者や聖女に頼らない戦争が前提となっていた。人族の兵力を総合すれば魔族の軍を押し返す事も可能である事はセルンラト王もわかっている。彼の目的はソレではないけれど。

 それぞれ、各国への交易。救援。人族同士での戦争を一時的に停戦。

 各国の王達が自身が如何に得をすべきか、腹を見せる訳でもなく耳心地のいい言葉の裏に隠された真意を突き出す。けれども他の王とてそれは本意ではない。当然、自分こそが得をすべきなのだ。

 聞くに堪えない言葉達を聞きながら、セルンラト王は王達の意見を纏め上げて人族にとって利益になるように折衷案を出す。案山子はそれを見てほくそ笑みながら白い煙を吐き出した。

 大凡の案はセルンラト王の予測通りであった。その中で唯一予測の外側にいる案山子へとセルンラト王は視線を向ける。記憶をどう捲ってみてもその存在に似た存在は在らず、けれどもこの場に当然の如く居座る()()。どの血統とも異色であるし、揃えた情報の中には存在しない美女。

 違和感が無い。彼女がいるのは当然である。そう判断する意識が僅かばかりの引っかかりを覚える。客観視した事実として、彼女がどこの出であるかなどわからない。確か「主の代役」と名乗っていた彼女はどこの国から来たのか。

 けれど、違和感が無い。それこそがセルンラト王に引っかかりを覚えさせた。

 話が一区切り着き、僅かばかりの間が開く。

 

「――さて、そろそろ貴女の事を聞かせてもらおう」

「儂は案山子じゃよ。そう思えと言ったじゃろう?

「そうはいかない。俺はこの同盟の盟主として聞く権利と義務がある」

 

 セルンラト王の鋭い言葉にハクメンはキョトンとした顔をして、クツクツと喉を震わせた後に堪えきれずに声を上げて笑う。その笑い声にようやく王達は驚いたようにハクメンへと視線を向ける。その姿すらハクメンの笑いを誘う。

 一頻り笑ったハクメンは溢れる涙を細指で拭いながら呼吸を整える。

 

「いや、すまなんだ。なるほど、滑稽と思っていたが儂の()()を破るか。これは愉快じゃ」

 

 整えた呼吸で煙管を咥えたハクメンは今までよりも深い煙を吐き出していく。吐き出した煙はまるで遺志を持つようにハクメンの周囲を囲い、隠す。煙の中からヌルリと出てきた煙管が円卓を叩き、煙が両断されてその纏まりを広げる。

 そこに在ったのは人ではない。九つの金色の尻を持ち、頭頂には三角の毛深い耳が一対生えている、見目麗しい獣人が在っただけだ。

 

「敬意を払い改めて自己紹介じゃ。儂の名はハクメン。金毛九尾の狐であり獣人族を治めておる」

 

 その九尾は改めて名乗り、いままでどのように隠していたのか有り余る存在感を身から溢れさせた。ゾクリと王達に冷や汗が流れる。よもや、と思った。この重圧こそが魔王だと、一人を除く王達は確信した。

 そんな中、たった一人だけセルンラト王だけはハクメンに対して内心で毒を吐き出す。このタイミングで、と。冷や汗も流れ出ている。王達のように重圧も感じている。自身ですら敵うか危うい存在。けれど、彼女は魔王なのではない。

 彼女は()()なのだ。彼女自身がそう言っていた。故に彼女は魔王ではない。

 

「もしや、貴様が魔王なのか?」

「クハッ! それは面白い冗談じゃが、残念な事に儂は魔王様では無い」

 

 愉快そうに煙管を指で弄ぶ九尾の狐はその細い瞳をセルンラト王にだけ向けていた。

 そう。けれどここにいる理由が問題なのだ。同盟締結前に現れた魔族軍の一角であろう人物。セルンラト王にとって最悪の事態であるのならばこの九尾の狐は人族の希望たり得てしまう。人族にとってそれは束の間の希望であるだろう。けれど、しかしであるこの同盟自体の意味を失い、先に待っているのは恐らく戦火。

 セルンラト王にとって、それは避けるべき事態である。この同盟締結が完了していれば問題は無かった。

 

「……して、貴女はこの同盟に何用で?」

「なんじゃ、儂が魔王様を裏切ったとは考えんのか?」

「それは嬉しい報告だが、この同盟が締結してからでも遅くはない筈だ」

「……なるほどのぉ。まったく、どれほど見えておるのか」

「何の話だ?」

「安心せい、セルンラトの王よ。儂はこの魂の一欠片すら主に託しておる。裏切りなどはせんよ」

「なら貴様はなぜここに来た! もしや我々を殺しに――」

「儂がこの席にいるのは最初に言った筈じゃよ」

 

 セルンラト王だけはすぐにその言葉の意味がわかった。同時に席を立ち上がろうとしたが足に纏わりつく紫煙がそれを許してはくれない。ようやく焦った表情を見せたセルンラト王を見てやはり愉快そうに口で弧を描いたハクメンはゆるりと席を立ち上がる。

 

 重苦しい音を鳴らしながら扉は開かれた。

 扉に手を掛けていたのは紫銀の髪の美女である。男ならば誰しもが目を奪われてしまう美女。局部しか隠されていないような服とも言えない黒い革。くびれた腰からひょろりと伸びる太い尻尾と背中に宿る一対の翼が人間離れした美しさの証明のように揺れ動く。

 その後ろには、少女が居た。

 夜よりも黒い髪と黒曜石と同じほど底の見えない瞳の少女。身の丈に合っていない黒いマントを羽織った少女は裾で床を撫でながらハクメンが座っていた席に向かい、まるで元々自分の席であったかのように当然として座る。

 

「こんにちは、人族の王達。戦争を終わらせにきてあげたわ」

 

 そうして魔王は人族の王達へ口を開いた。

 ハクメンの時よりも正確に、そして強烈な恐怖。それが魔王である事の証明であるように。

 首筋に刃を突きつけられている感覚。明確な死という恐怖。セルンラト王の手が震え、それを隠すように拳を握りしめて平静をよそおう。

 これが魔王である。そう確信しているのはセルンラト王だけではない。全ての王が、この少女がこの場に存在しうる最強の生物である事を本能的に理解していた。

 

「……魔王殿、よろしいか?」

「この城にいる人ならユディアの力で少し眠っているだけよ。命に別状はない。当然、街も一緒よ」

「……そうか。なら良い」

 

 まるで先が見えているかのような物言いであったがセルンラト王の口から出なかった問の答えは提示された。最悪ではない。けれども自分達の答え一つで全てが最悪に転ぶ可能性など誰しもが理解した。

 生きている人、という存在は正しく人質である。

 

「さて、私は貴方達を今すぐに殺して人族を滅ぼせる訳なのだけれど。貴方達は一人でも私を殺す事ができるかしら? 簡単でしょう? 私のような少女の首を手折る事ぐらい」

 

 決まりきっている答えを求めるように魔王はそう口にした。

 この円卓を囲んでいる存在の中で魔王に相対する者などいない。彼らは勇者ではなく、王なのだ。自身が死ねば、歯向かえばどうなるかなど予想に難くない。

 数秒ほど、瞼を閉じて待ち、誰も立ち上がりもしない事を確認した魔王は驚きも彼らを窘める事もない。当然の事象を驚くほど少女は子供ではなかった。

 

「ではコチラの要求を三つ言うわ。一つ、奴隷になっている獣人族の返還」

「なッ!? そんな事をすれば我が国の労ど――」

「……ユディア、何か聞こえたかしら?」

「はて? 私には何も聞こえませんでしたわ」

「そう。ごめんなさい、セルンラト王。円卓を汚してしまったわ」

 

 肉塊に成り果てた王であった物は僅かばかりに生きていた証として痙攣を起こし、円卓に赤黒いテーブルクロスを広げていく。その肉塊の左右にいた王は顔を青くしながら魔王を見ているが当の本人はさっぱりと表情を変化させずに座っていた。

 

「ああ。何か意見や異論があるのなら言ってちょうだい。私は優しいから聞いてあげる」

 

 決して王達が動転する事を許さない意思のある声が鼓膜を揺らす。そしてその言葉の意味を履き違えような存在もこの場にはいない。

 

「そこの肉の国はセルンラト王が統治なさい。国境も近いでしょう? ああ、確か息子が居たわね。ソレに引き継がせてもいいけれど管理は必ず貴方がすること」

「……わかった。獣人族の奴隷の返還も了承するが、何人いるか確認する為に時間がほしい」

「726人よ。後で名簿も渡すわ。迅速な動きをお願い」

「なるほど……。それで、2つ目は何だ?」

「この同盟よ。私が貰うわ」

「巫山戯るな! 貴様は魔王であろう!」

「そうよ。私に屈服なさい、人族の王達よ」

 

 それは事実上の降伏宣告である。ザワつく王達の中でセルンラト王だけは魔王へと視線を向けていた。その真意を探る為に。

 もしも魔王が御伽噺のように混沌を求めるのならば、この同盟自体を反故にすればいい。もっと言えばこのように問答などせずに自分たちを刈り取ればそれで済む話である。それを出来るだけの力が魔王にはある。けれどそれはしない。

 

「魔王殿。貴女の目的が聞きたい」

「最初に言ったわ。この戦争を止める事。ああ、この同盟にある最初の一文は消させてもらうわ」

 

 手から溢れ出した黒い魔力が同盟書の文言全てを宙空に形作り、書き始めにある文言の一つが一閃される。

 それは魔族に対するという文言である。それが無ければ結束しない人族が形を変えて魔王という鎖で繋がれる。この場においてセルンラト王が取れなかった手段を魔王は迷わずに選択した。

 

「質問に答えるのが面倒だから言うけれど、魔族側が求める事は同盟の維持と奴隷の返還の二つ。ソレ以上は同盟の文言に従った交易もするわ。一方的に税を納めろとも言わない。貴方達にとって得しかないでしょう? さっさと首を縦に振ってくれるかしら」

 

 それは魅力的な言葉であった。人族にとって勇者が現れるまで間延びさせる為の、魔王が倒されるまでの同盟であったけれど、それが魔王の手によって握られ、勇者が現れるまでの時間を稼ぐ事ができる。

 加えて言うのならば、同盟という形を保っているのも王達にとって都合が良い。一方的な征服ではなく、同盟なのだ。人族は魔族に屈せず、面子を保つ事も出来る。

 人族の王達が断る理由など、何一つない。彼らは勇者ではない。民を抱える王なのだ。

 

「今、二つと言いおったな? 最後の一つは何だ?」

「これは私個人がセルンラト王に求める事よ」

「今更拒否はしないが、内容を聞こう」

「聖女をくださる?」

 

 ゾクリとセルンラト王の背中に怖気が走る。なぜソレを自分個人に言われているかが理解出来なかった。隠していた存在である。王達すら話に上げなかった聖女の話。情報は完全に掴まれていなかった筈である。

 けれど、それでも目の前の魔王は確かに唯一その存在を知り得ている自身に問うている。最初の獣人族は彼女の背後にいるハクメンが要因している。そして人族への希望は二つ目の同盟締結。これはセルンラト王の望みでもある。そして魔王への対策である聖女を求められる。

 もしも聖女が魔王の手に渡れば、人族は本格的に魔王への対応がなくなってしまう。けれど安寧を得る。聖女を渡さなければ待っているのは一筋の希望を残した滅亡である。

 故に、セルンラト王は負けを確信した。どうにかして出し抜く方法を頭の中で巡らせていたが、コレには勝てないと判断して笑ってしまう。

 

「同盟の仲だから言っているだけで、勝手に攫ってもいいのよ」

「いや。いい。場所を教えよう」

「それは構わないわ。通達だけしておいてくれるかしら?」

「ああ。わかった。……さてさて、どこから俺たちは魔王殿の手の平の上なのだ?」

「安心なさい。今からは手の中よ」

 

 同盟書の主の名前を自身に書き換えた魔王はその羊皮紙を丸めてユディアへと渡し、ユディアがセルンラト王へと渡した。羊皮紙はやはり先程決めた内容と寸分違わない。違うのは盟主の名と一番最初の文言のみ。これを魔王が元から準備しているのだからセルンラト王は笑うしかない。

 あの魔族軍の攻勢。魔王復活の報。王達の反応速度。どれもが自身の流れだと思っていた。けれどそれは違う。全てはこの少女の手の上でしかなかった。

 敗北、であるがセルンラト王にとってそれは新鮮で心地良い感触であった。

 

 笑みを薄っすらと浮かべながら羊皮紙に署名をするセルンラト王を静かに見ながら魔王は表情を変える事なく細く息を吐き出して、小さく吐き出す。

 

「……貴方に勝つのは時間が掛かったわ」

 

 署名を募るユディアにも、後ろに控えいたハクメンにも、そして本人であるセルンラト王にすら届かない言葉は煙管の煙のように宙空に浮いていた同盟の文言と共にかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は静寂に包まれる教会が好きだった。

 日課になった神への祈りも好きであった。聖女と謂われる少女は軟禁にも近い状態であったけれど、教会のシスター達も好きであったし、この生活に不満など無かった。

 自分の存在意義を考えた。聖女と持て囃される自分は遠くない未来で魔王と相対するのだろう。そして魔王を倒せと命じられている。けれど、それが本当に正しいのかが聖女にはわからなかった。

 もしかしたら、と考えた。きっと御伽噺で語られるような魔王であっても平和を愛する筈であると確信していた。

 聖女は世界を愛していた。だから平和を願い、そして自分にはソレを叶えるだけの役回りもあった。だから平和を願い続けた。

 

 静かに舞う埃が月光に反射される。神にどれほど願っても通じないかもしれない。現に戦争は起きている。そして人族同士の争いは終わる事がない。

 けれど少女には神に祈る事しかできない。この教会から出る事など世界が許しはしない。

 苦しそうに、扉が声を上げながら開く。

 普段ならば誰もこない夜だというのに、扉は開かれた。影になって見えない姿を少女は目を凝らして見つけようとする。

 小さな足音と布を引き摺る音。影から現れたのは夜の帳を一身に映した少女であった。表情をどこかに忘れてきてしまったのか気怠げに開かれた瞳を聖女へと向けていた。

 

「約束を守りに来たわ」

 

 約束。聖女にとってそれは魔王を倒すというセルンラト王との約束以外に無い言葉であった。けれど、それは自身が守る物であり他者が守る物ではない。故に、それは違う。

 ならば彼女の言う約束という物を聖女に心当たりはない。なんせ少女の顔をいくら見ようが初めて見た顔なのだから。

 

「あの、失礼ですが……どなたですか?」

 

 黒の少女はその言葉に歩みを止め、二回ほど瞬きをして、小さく頭を振った。

 

「はじめまして、聖女様。()()()は魔王と呼ばれる存在よ」

「は、はじめまして魔王様。えっと、聖女、です?」

 

 なるほど、彼女が魔王なのか。と聖女は思う。本当にそれだけを思い、自己紹介を交わした。魔王と聖女の初会話というのは随分と間の抜けた会話であるが、魔王は慣れているのか言葉を続ける。

 

「私が貴女を拐うわ」

「セルンラト王が許さないと思います」

「許可は貰っているわ。あとは貴女だけよ」

 

 それが何を示しているのかは聖女は理解出来なかった。

 外の世界は見てみたい。どれほど世界を愛してみても外の世界は知らないのだ。それでも、世界は愛するに値した。だから愛する世界がどんな世界かを見てみたかった。

 聖女は差し伸べられた手へと視線を向け、魔王の顔へと視線を向ける。

 自分と同じぐらいの年齢の少女。その表情はさっぱり変化がないけれど、瞳の奥底が揺れ動くのがわかった。

 

 だから、聖女はその手を重ねた。

 



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