提督になるには (我が心は不動、しかして働かなければならぬ)
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如何にして彼は提督になったか

日を分けまくって書いたから書き方チグハグだし内容もズレたりしてるかもだけど許してヒヤシンス


 

「おめでとう、少年。君には人類を救う素質がある。」

 

 

 海軍のお偉いさんにそう言われたのは果してどれ程前の事だっただろうか。

 数日前か、それとも数ヶ月前か、あるいは、既に一年経っているのかもしれない。

 あの日、白い軍服を着込んだ見た目穏やかそうな、しかしピリピリとした雰囲気を纏うその恰幅の良い男に、君は人類を救える、と言われて、僕は堪らずその場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

『君も、人類を救う提督になろう!』

 

 そう大きく書かれているポスターには、夏の青海を背景に、白い提督服に身を包む今流行りの俳優と、所詮、艦娘と呼ばれている女の子達が並んで敬礼している写真が使われていた。

 そのポスターに写っている艦娘達は皆、見た目麗しく、その時女に飢えていた僕は、提督になったら女の子に囲って貰えるのか、と浅はかな考えで直ぐに本営の窓口に連絡した。

 そしてわかったのは、どうやら誰でも提督になれる訳でもなく、なれるのは極一部の選ばれた人間のみである、という事だった。

 素質があるか検査をする、と係りの者が言う。僕は一か八か、検査を通るかはわからないが受ける事にした。

 インターネットの掲示板でその事について調べてみると、『こんなん詐欺やろ』『3秒で不合格って言われた、なんやあのハゲェ!』『せめて艦娘には会わせて欲しいわ』『吹雪ちゃんかわいい…アッ!』とかそんなものばかりで、合格した者は居ないようだ。…或いは情報が規制されているからかもしれないが。

 

 数日後、自宅のポストに、《提督素質検査のおしらせ》と書かれたA4サイズの白封筒が入っていた。

 開封してみると中には書類が何枚か入っており、そして何故か、小さな頭でっかちな小人まで入っていた。

 

「わたしがみえますか、こえはきこえますか?」

 

 水兵帽に半袖のセーラー服を着て、伸びた猫のぬいぐるみを持ったその小人は、出てきて開口一番そう口を利いた。

 その事に驚いた僕は思わず、うわぁ、と情けない悲鳴を上げ尻餅をついてしまった。

 

「みえてますね、よかった。」

 

 それを見て如何にも嬉しそうに胸を撫で下ろした小人は、驚いている僕を尻目に拙い話し方で自己紹介を始めた。

 

「こんにちは、わたしは【ようせい】といいます。ていとくさんの、さぽーと?をしています。」

 

 そう言って頭を下げると、にこにこ笑顔で、よろしくおねがいしますね、とその小さな手を差し出してくる。

 僕は動揺しながらも、これが噂に聞く妖精か、と驚嘆しながらも、妖精の小さな手を人差し指と親指で挟んで握手をした。

 妖精と握手をして漸く冷静さを取り戻してきた時、妖精が思い出したかのように話し出した。

 

「えーと、あ、そうだ!わたしといっしょに、はいっていたかみに、けんさびがかいてありますから、そこにわたしも、つれていってくださいね!」

 

 書類を見てみると、検査日は2週間後の水曜日のようだ。そして持ち物は筆記用具のみ、と書かれていた。この人形のような同行者を連れていく等と、少しも書かれていなかった。疑問に思い、それを伝えた所、わたしはにんぎょうじゃないですよ、ただのどうこうしゃです、と答えにならない答えを頂いた。

 

 検査当日、妖精を肩に乗せて書類に書かれた場所に向かうと、大勢の男女が居たが、僕のように妖精を連れた者は見える限りは居ないようだった。

 なんとなく恥ずかしい気持ちになりながらも会場を見渡すと、ただ雑多に集まっているのではなく、列を成しているのがわかった。最後尾に並び順番を待つと、厳つい顔の憲兵さんが三〇センチ四方の上部に孔の空いた木箱を持っていた。恐らく中には籤が入っているのだろうか。少しだけボーッとしていると、早く籤を引け、と急かされた。すみません、と謝って焦りながらも籤を引くと、【ヘの一組 四五番】と書かれていた。どうやら受験番号のようなものらしい。待機部屋へ案内され、そわそわしながら待っていると、やがて僕の番になった。

 

「四五番、入れ。」

 

 その声で部屋に入ると、ヘルメットを被った妖精を肩に乗っけた、白い軍服の男が一人。僕は部屋に入り一礼すると、妖精が僕の側から男の元へ駆けていった。

 

「ただいまです、ちゅうしょう!」

 

 妙に様になっている敬礼を妖精がすると、中将と呼ばれた男はニヤリと口元を弛めた後に、僕を見てこう言ったのだ。

 

「おめでとう少年。君には人類を救う素質がある。」

 

 その言葉には重みがあった。

 鋭く射抜かれるような視線と、冗談めかした言い方で無いことから、揶揄っているのでは無いとわかった。

 人類を救う、それがどれだけ厳しく、難しいか、教え込まれているようだった。

 たった一言、しかし僕は艦娘に囲われるという目的すら忘れ、彼から静かに発せられるプレッシャーに耐えきれず、その場から逃げ出してしまった。自宅に戻り部屋で閉じ籠もり、独りでその事だけを考えていた。

 

 そして、今日、玄関の戸が叩かれる。

 

 

 

 

 

「御免くださーい!」

 

 このボロアパートには似合わない、若い女の子の声だった。僕は元来人見知りなので、あまり関わりたくは無いなぁと、億劫に思いながらも、部屋の前に居る彼女に応答する。

 

「どちら様ですか。」

「あ、私は大本営の者です。少しお話が有りますのでお邪魔させて頂けないでしょうか。」

 

 その声は何処か疲れているようで、どうしたのかと疑問だったが、それ以上に、また逃げ出してしまいたい、等と云う仄暗い思いが僕の中で立ち込めた。携帯電話を見ると、今日は検査日から六日後の日曜日のようだった。あまり経っていないようで少し驚いた。

 胸に燻る厭な気持ちを出来るだけ表に出さないようにして、扉の前の彼女を部屋に入れる。

 彼女は凡そ高校生辺りの年齢であろうか、とても若い風貌で、こんな若い子も休日の昼間から本営で働いているのか、と少し驚いた。だが、恐らく艦娘だろう。額に大粒の汗を垂らしており、少し息が上がっている。そんなに外は暑いのだろうか。

 部屋に入っても少し暑そうにする彼女を見て、換気の為に開けていた窓を閉めると冷房のスイッチを押す。少し待ってて下さい、と伝えてから、戸棚から二つ硝子のコップを取り出し、氷を入れたら冷蔵庫で冷やした麦茶を注ぐ。何も出さないよりはマシだろう。

 小さなちゃぶ台を挟んで向かい合わせになると、漸く汗が止まった彼女は、こほん、と一つ咳き込み話始めた。

 

「先ずは改めまして、検査通過おめでとうございます。私は白露型駆逐艦の一番艦、白露と言います。」

「…これはどうも、白露さん。」

 

 駆逐艦、という事は矢張り、艦娘だ。黒い制服に、外に跳ねた長い茶髪の、艦娘。

 白露さんは何と無く喋り辛そうにしながらも、僕にこれからの事を説明してくれる。

 

「これから貴方は【提督養成學校】で、提督としてのイロハを学んでもらいます。」

「提督育成學校?」

「はい。誰もが初めから鎮守府に着任して、指揮を執れる訳ではありません。なので学校に一定期間通って頂き、戦術や各艦種の特徴等を覚えて頂きます。」

 

 成る程、と思った。

 確かにあの大将も言っていた。僕は提督になる【素質】があるだけだ。決して提督として指揮を執れる訳ではない。

 それに軍艦と艦娘は違うのだ。戦術や艦種毎の特徴も違ってくるだろう。

 つまり、どれだけ軍艦に詳しかろうが直ぐに提督になれる訳ではないという事だ。

 今の海軍の関係者であれば別だろうが。

 話は続く。

 

「学校には最低半年間、長くても二年間通う事になります。」

「大分差がありますね。」

「はい、私はよく知りませんが、元々持ってる素質と学習力の差だとかなんとか。」

 

 素質の差か。確かに素質がある・ない、だけで決まる訳ではないだろう。きっと強弱もある筈だ。それに学習力とは…流石に学校であるから当たり前か。

 

「貴方がどれ位の間通う事になるかは、学校への到着日にわかるので現在伝える事は出来ません。」

「そうですか。」

「学校には来週にも通う事になりますが、よろしいですか。」

「はい、特に友人も居ませんし。」

「そ、そうですか。」

 

 ボソッと、うわっ、とか聞こえたが聞かなかった事にする。

 

「こちらが入学案内の書類になっていますのでご査収下さい。」

「はい。」

 

 机の上で差し出された書類を受け取り、表紙を見詰める。

 

「これで話は終わりです。なにかご質問はありますか?」

 

 そう言われて、素朴な疑問が浮かんだ。

 

「えっと、一つだけいいですか。」

「はい、どうぞ。答えられる事ならお答えいたします。」

「あのこれって、一々配って回ってるんですか。」

 

 すると白露さんは、口をモゴモゴさせてから気まずそうに口にした。

 

「あのー、あれです。貴方があの場から飛び出して…直ぐに帰宅してしまったので、ここまで届けに来たのです。あの日合格した方は貴方を含めて三名なのですが、他二人はもうその場で受け取って帰られました。」

「あっ…」

「…別に気に病む事は無いですよ、私も久し振りに出掛けられましたし。」

 

 白露さんがそう言うが、僕は物凄く申し訳なく感じた。何かしら礼でもしなければ気が落ち着かない。…そういえば今はランチ時だ、と思い出した。もしまだ昼食を摂っていないのであれば、ご馳走出来ないだろうか。

 

「し、白露さんはもうお昼摂られましたか。」

 

 我ながら変なことを訊いているものだ、と少し呆れた。突然そんな事を訊かれた白露さんは困惑しているようだ。

 

「えっ?いや、まだですけど…」

「じゃあ何か…お昼をご馳走しますよ。」

「いや、ですが…」

「まぁまぁ、遠慮なさらずに。」

「あー、はい、わかりました。」

 

 や っ た ぜ、なんだか胸がすくような気持ちがする。

 無理矢理話を付けたみたいだが、相手にも損は無いだろう。

 …ん?よくよく考えたら、年頃の女の子と一緒に平日の昼から飯というのは、かなり不審者な気がする。しかもこの子は制服を着ているのだ。

 いや、多分まあ、大丈夫だろう。

 白露さんが恐る恐る僕に訊いてくる。

 

「あ、あの…敬語を止めても良いですか…?」

「ええいいですよ、無理して話してたんじゃ会話になりませんし。」

「ほんと?やった!ようやく素で喋れるよ!」

 

 白露さんはキラキラとした顔で堰を切ったように話を始めた。僕はその勢いのある喋りに少し圧倒されてしまった。

 最初は、外は暑過ぎて干からびそうだった、とか、駅から此処まで長い、だとか愚痴から話し始めた。

 それから、何でも一番に僕に会いに行きたかったらしい。その後も一番、一番と連呼しているので、一番に拘りを持っているのだろう。

 それにしても、敬語の時とはかなり印象が違う。この方が敬語で話されるよりも、少し好感が持てる気がする。

 

「あ、そうだ!今度は私から質問していい?」

「アッハイ、良いですよ。」

「どうして提督になろうと思ったのか聞かせてよ!」

 

 机に腕を組んで突っ伏しながら、白露さんが質問してくる。

 ふむ、どうしようか、流石に女の子に囲われたかったからとは言えないよなぁ…。

 

「んー、あ~、秘密です。」

「えー、教えてくれても良いでしょ?別に減るもんじゃないしさ。お願いー!」

 

 まるでゴシップ好きな高校時代の同級生だなぁ、そんな事を考えたが、見た目からして多分、その位の年齢なのだろうな。

 しかし、女の子に強請られるのには弱い。おじさんは女の子に弱いのだ。でもあんな理由を年頃の女の子に聞かせる訳にはいかないしなぁ。もう少し年齢が上なら、笑い飛ばしてくれただろうが。

 よし、なんかそれっぽい理由でもつけることにしよう。

 

「まあ、あれですよ。誰にも話さないで下さいね?」

 

 流石にこの場で咄嗟に出た言い訳を広めて欲しくはない。

 

「教えてくれるの!わかった、秘密にするよ!」

 

 めっちゃ良い子やん!しかも可愛いし、こんな子に囲われてぇなぁ。なんだか目もキラキラと輝いているし、これから話す内容にすごい期待とかしてんだろうなぁ。

 少し位は考えて話すか。顎を右手の親指の腹で擦りながら思考する。

 

「なら良かったです。…それで、僕が提督になろうと思った理由なんですが…」

「ごくり…」

「…あー、少し恥ずかしいんですけど、端的に説明すると格好つけみたいなもんですよ。皆を見返したかったんです。」

「やっぱり提督を目指している人達は皆、人類を救う為~とか、この海を取り戻す為~とか、そういうのを志して大本営の門戸を叩いて、それで提督になるんでしょう?」

「だったら僕みたいな格好つけなんて筋違いじゃないですか。だからあの軍人さんに、人類を救える、と言われた時はその言葉の重みを確かに感じて。それで、あまりに恥ずかしくって逃げ出してしまったんです。」

「でも…それでも選ばれたのは確かです。ならば男として、ちゃんと提督をやろうと思います。」

 

 なんか色々変な事を口走ってしまったな。ちょっと、いやかなり、ものすごい恥ずかしい。穴があったら入りたい気分だ。

 

「まあ、忘れてもらえれば良いですけどね。」

 

 最後に付け足す。

 白露さんは少しだけ笑って、私は忘れないよ、と一言口にすると、此方を見てニヤリとした。

 

「そっかー、皆を見返す為に提督になったのか~。」

 

 掘り返さないで欲しい、おじさん死んじゃう。

 

「じゃあこれから頑張って良い提督にならないとね!」

「そ、そうですね…あはは…」

「ん?もしかして逃げちゃった事をバラされないか心配してるの?大丈夫!誰にもバラさないよ、だって格好よくならないとだもんね!」

「そうですか、あ、ありがとうございます。」

「そんな礼を言われるような事じゃないよ!」

 

 本当に良い子だなぁ、改めてそう思う。

 さて、昼を誘ったは良いものの、何を食べるかは決めていなかった。

 

「白露さんは何か食べたいものとかあります?」

「ん~?この辺初めて来たから何があるかわからないし、任せるよ!」

 

 任された。と言っても、僕もこの辺りをそんなに詳しく知っている訳ではない。適当に散策しながら決めようか。

 ……これはもしかして、で、デートという奴では…?

 

「それで、いつご飯行くの?」

 

 白露さんは目を輝かせながら僕に訊ねる。

 現在の時刻はヒトフタヨンニ、つまりは12時42分だ。昼には丁度良い時間だろう。早速、昼を食べに近くの繁華街へ繰り出す事にしようか。

 

 

 




白露型すこ


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