俺が信じる道 (アイリエッタ・ゼロス)
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プロローグ

「はぁ、これで全部だな」

 俺はある人の頼みで買い物に出ていた。

 

「....にしても、暑いな」

 空は快晴で、影になっているところは殆どなかった。

 

「(はぁ、さっさと帰るか....)」

 そう思って俺は家に向かって歩こうとしたら....

 

「ちょっと、離しなさいよ!」

「そんなつれないこと言うなよ〜」

「そうそう」

 裏路地の方から言い争いの声が聞こえた。

 気になって様子を見に行ってみると、そこにはチャラそうな

 男二人が女の子の腕を掴んでいた。

 

「(....今時いるんだな、あんな男って)」

 そんな事を考えながら、俺は男達に話しかけた。

 

「おい、何やってんだ」

「あぁ! なんだテメェ」

「ただの通りすがりだ。....それよりも、その子の手離してやれよ。

 嫌がってるだろ」

「はっ、正義の味方のつもりか? 痛い目にあいたくなかったら

 とっととどっか行きな」

「そうだぜ。兄貴を怒らせると怖いぜぇ」ニヤニヤ

「....そんな雑魚みたいな見た目で痛い目か」

「....テメェ、今なんて言った?」ピキピキ

 俺の言葉に兄貴と呼ばれた男の顔には青筋が立った。

 

「聞こえなかったのか。雑魚みたいな見た目って言ったんだよ」

「テメェェ!!」

 俺がそう言った瞬間、男は俺に殴りかかってきた。

 俺はそれを慎重に見極め、右手で受け止めた。

 

「なっ!?」

「兄貴のストレートを簡単に!?」

 男達は俺が受け止めた事に驚いていた。

 そして、俺は男の腕を捻り始めた。

 

「い、痛い痛い痛い!」

「その子から手を引くか?」

「そ、そう簡単に....」

「はぁ....」

 俺は捻る力をさらに強めた。

 

「わ、わかった! 手を引くからこの手を離してくれ!」

「....本当か?」

「あ、あぁ! 神に誓う!」

「....なら、とっとと失せろ」

 俺は手を離した。

 その瞬間....

 

「はっ! 油断したな!」

 男は俺に向かって殴りかかってきた。

 

「....はぁ」

 俺はそれを軽く躱し、逆に腹を一発殴った。

 

「ぐはっ!?」

 男はその場で倒れた。

 

「あ、兄貴!?」

 取り巻きみたいな奴は倒れた男の元に近づいた。

 

「失せろって言ったよな? ....これを見てもまだ失せない気か?」ギロッ

 俺は取り巻きみたいな男を睨みつけた。

 

「ヒィィィ! すいませんでしたぁぁ!!」

 取り巻きみたいな男は男を引きずって逃げていった。

 

「....大丈夫か?」

 俺は絡まれていた子に手を差し伸べた。

 

「え、えぇ」

 女の子は手を掴んで立ち上がった。

 

「そうか。....もう少し人通りの多い道を通った方が良いぞ。

 じゃないと、ああいう輩に絡まれるからな」

「....そうするわ。あの、助けてくれてありがとう….」

「気にすんな。....じゃあな」

 俺はそう言って立ち去った。

 

 

 

 〜〜〜〜

 

「ただいま....」

「おかえり、一海君!」

「頼まれたもの買ってきました」

「ありがと〜! 助かるよ〜!」

 俺が裏口から入ると、俺の義理の親である甘菜さんが迎えてくれた。

 

「いえ。....ホールの方を手伝えば良いですか?」

「うん! お願いね」

「わかりました」

 俺はそう言って服を着替え、ホールの方に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 




胡蝶 一海 (17) 7月7日(旧 神谷 一海)
幼少期に両親を亡くした少年
その際、祖父母が亡くなっていたため、両親の友人の胡蝶 甘菜、
胡蝶 空夜に引き取られた
あまり感情を表に出さない性格だが、根は優しく、困っている人には
手を差し伸べる

文武両道で学校のテストでは一位を取るほど
さらに、格闘技を習っていたため喧嘩慣れもしている

継父、継母である二人には感謝しているが、未だに父さん、母さんと
呼べずにいる

胡蝶 甘奈
一海の母親の親友で、一海の育ての親
一海の事を実の息子のように思っている
最近の悩みは一海が母さんと呼んでくれない事


胡蝶の夢
甘菜が経営しているケーキ屋
かなりの人気で、デリバリーサービスも行なっている
一海もよく手伝いをしている


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転校生

「焼肉定食、焼肉抜きで」

「....お前、相変わらずだな」

 俺は目の前でそんな注文をする奴にそう言った。

 

「っ! なんだ一海か。知ってるだろ、俺の事情も」

「あぁ。....俺の唐揚げ分けてやろうか?」

「い、いらん!」

「....そうか」

 そう言いながら俺は上杉の後ろを歩いた。

 そして、上杉がいつもの席にトレーを置いた瞬間、同じタイミングで

 別の生徒が同じ席にトレーを置いた。

 相手の方を見てみると、黒薔薇女子の制服を着た生徒だった。

 

「あの! 私の方が先でした。だから隣の席に移ってください」

「ここは俺が毎日座っている席だ。あんたが移れ。

 それに連れがいる」

 そう言って上杉は俺の方を見た。

 

「関係ありません。早いもの勝ちです!」

「....はぁ。上杉はそこに座れ。俺が隣に座る。

 あんたもそれでいいだろ?」

 そう言って俺は隣の席に座った。

 

「....わかりました」

「別にお前が動く必要はないだろ....」

 そんな事を二人は言いながら席に座って昼飯を食べ始めた。

 すると、黒薔薇の生徒は飯を食べながら勉強をしている上杉に

 注意をしていた。

 そして上杉の見ていたテストを見て固まっていた。

 

「上杉風太郎君。得点は....100点....」

「あぁぁ〜〜! めっちゃ恥ずかしい!」

「....やめてやれ上杉」

「わざと見せましたね!」

「さて、何の事だか」

「うぅ....勉強が出来ないので羨ましいです」

 すると、黒薔薇の生徒は何かを思いついたのか手を叩いた。

 

「そうです! せっかく相席になったんです。勉強を教えてくださいよ」

「ごちそうさまでした」

 上杉はその子の言葉を無視して席を立った。

 

「えぇ!? お昼それだけで足りるんですか? 私の少し分けましょうか?」

 黒薔薇の生徒は少し心配したようにそう言った。

 

「満腹だね。むしろあんたが頼みすぎなんだ。太るぞ」

「ふとっ....」

「おい上杉、今のは....」

 上杉に少し注意をしようとしたら、上杉はポケットから携帯を

 取り出してどこかに行ってしまった。

 

「何ですか! あの無神経な人は!」

「俺の連れがすまなかった....」

 俺は黒薔薇の生徒に謝った。

 

「あ、あなたは悪くないんですから! 気にしないでください!」

「そうは言ってもだな、って....」

 俺が黒薔薇の生徒をよく見ると、昨日男に絡まれていた女の子に似ていた。

 

「どうかしました?」

「あんた、俺とどこかで会ったことがないか?」

「? いえ、あなたは初めて会ったと思うんですが....」

「そうか....」

「(他人の空似か?)」

 そんな事を考えながらも、俺は飯を食べ終えた。

 

「じゃあな転校生。....後、上杉が悪かった」

 俺はそう言って立ち去ろうとしたら....

 

「待ってください! あの、名前教えてもらってもいいですか?」

「....胡蝶 一海だ」

「胡蝶君ですか。私は中野 五月です。同じクラスだったらよろしく

 お願いしますね」

「あぁ。じゃあな中野」

 俺はそう言って立ち去った。

 

 

 〜教室〜

 

 教室でしばらくイヤホンで音楽を聴いていたら担任が教室に

 入ってきていた。

 

「全員席につけー。後、胡蝶はイヤホンを外せ」

 俺はイヤホンを外してケースに直した。

 

「えぇー、何人かは知ってると思うが今日からこのクラスに

 転校生が入ってくることになった」

 担任がそう言うと、教室内は騒がしくなった。

 

「少し静かにしろー。転校生が入りにくいだろー」

 担任がそう言うと教室内は静かになった。

 

「よし、じゃあ入ってきてくれ」

「失礼します」

 そう言って教室に入ってきたのは....

 

「え....」

 俺が昨日助けた女の子だった。

 

「じゃあ中野、自己紹介を」

「はい。中野 二乃です。今日からよろしくお願いします」

 そう挨拶すると、教室内は拍手が巻き起こった。

 

「じゃあ中野は....胡蝶の横に座ってくれ」

「はい」

 担任がそう言うと、中野は俺の隣の席の方に歩いてきた。

 そして、俺の顔を見ると驚いた表情になった。

 

「君は昨日の!」

「....昨日ぶりだな」

「....まさか、同じ学校だなんて」

「それは俺もだ。ま、よろしくな中野」

「えぇ、こちらこそよろしくね。えっと....」

「胡蝶 一海だ」

「胡蝶君ね。よろしく胡蝶君」

「なんだ、胡蝶の知り合いか。色々教えてやれよ胡蝶」

 そう言って担任は授業を始めた。

 

 

 〜授業中〜

 

「えぇ〜、ここはじゃあ....中野」

「は、はいっ!」

 数学の授業中、担任が中野に問題を解く様に言った。

 だが、中野はわからないのか困惑していた。

 

「....中野」コソッ

 俺は自分のノートに問題のところに赤丸を書いて、こっそり中野に渡した。

 

「! えっと....」

 中野は赤丸をしたところを読んでいった。

 

「おっ、正解だ。えぇ、中野が言った通りにだな、この問題は....」

 担任は中野の答えを聞いて答えを黒板に書いていった。

 

「ありがとう」コソッ

「....気にすんな」コソッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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五つ子

 次の日

 

 ♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 学校に向かっている途中、急に携帯が鳴った。

 

「....朝からなんだ、上杉」

『一海か! ちょっと相談があるんだが....』

「....何だよ」

『実はだな、家の借金問題が解決しそうなんだ』

「それはおめでとさん」

『それで、ここからが重要なんだが、雇い主が俺に出す給料が

 相場の五倍なんだ』

「....マジか?」

 俺はそれを聞いて耳を疑った。

 

『あぁ、マジだ』

「俺的には闇営業にしか思えないんだが....」

『俺もそう思ったんだが、雇い主は親父の知り合いだから

 問題ないんだ。ただ、生徒に問題があってな....』

「不良か?」

『昨日、食堂で会った女だ』

「....成る程。つまり俺に仲を取り持って欲しいと」

『話が早くて助かる!』

「....はっきり言って、自業自得だと思うんだが」

『ぐっ!? それはごもっともなんだが....』

「一度謝ろうとしてみろ。それで無理だったら手伝ってやる」ピッ

 俺はそう言って電話を切った。

 

「(....めんどくさい事に)」はぁ

 そう思いながら、俺は学校に向かって歩き出した。

 

 

 〜授業中〜

 

「(....アイツ、謝ったんだろうか)」

 国語の授業中、出された課題のプリントを解きながら上杉の事を考えていた。

 

「(アイツ、コミニケーション能力に関しては皆無に等しいからな。

 状況を悪くしないと良いんだが....)」

 そうやって考えていると、誰かに肩を叩かれた。

 見てみると、叩いてきたのは中野だった。

 

「ねぇ、ちょっと良い?」

「何だ」

「この問題ってどうやって解くの?」

 中野が見せてきたのは、文章題の記述問題だった。

 

「あぁ、これはな....」

 俺は問題と文章の所に線はいくつか引いた。

 

「まず、何を問われているかをよく見ろ。今回のだったら、

 作者の考えを書かないといけないだろ?」

「えぇ」

「で、ここに“しかし”ってあるだろ。この逆接があると

 だいたい次の文から作者の考えが始まる」

「なるほど....」

「後は必要な部分を抜き出して、字数に合うように書けば解けるはずだ」

「そうなのね。教えてくれてありがとう」

「別に良い....てか、言って悪いんだが遅すぎないか?」

 中野に聞かれた問題は大問1の(3)だった。

 

「べ、勉強は苦手なのよ....」

「(苦手ってレベルじゃないだろ....)」

 口には出さなかったが、俺は心の底からそう思った。

 

「(ちょっと手を貸してやるか....)」

「取り敢えず、中野。記述は飛ばして記号と漢字のところを先に

 終わらせろ。記述で時間をかけて解けない方がもったいないからな。

 それが解け終わったら記述のところをやれ。わからなかったら

 ヒントは教えてやる」

「わ、わかったわ」

 そう言って中野は漢字と記号問題の所を解き出した。

 

「(....俺もわかりやすい説明を考えるか)」

 俺は自分のプリントに線や重要な所に丸を書き始めた。

 

 

 〜昼休み〜

 

「ねぇ、胡蝶君。一緒にお昼食べない?」

「....はい?」

 昼休みになり、俺は食堂に向かおうとしたら横から中野にそう言われた。

 

「国語の時間、教えてくれたお礼がしたいのよ。アレ、授業中に

 終わらなかったら宿題になるんでしょ? 先生から聞いたわ」

「(あのおしゃべり教師め....いらんことを....)」

「....別に礼なんて要らないんだが」

 俺は断ろうとしたが....

 

「いいから! 胡蝶君が気にしなくても私が気にするの!」

「....はぁ、わかった」

 中野の圧に負けて断りきれなかった。

 

「じゃあ早く行きましょ! みんなも待ってるわ」

 そう言って俺は腕を掴まれて食堂に歩き始めた。

 その時に、クラスの男どもは恨めしそうに俺の方を見ていた。

 その時、俺はある言葉が気になった。

 

「(みんな....?)」

 

 

 〜食堂〜

 

「....あ」

「あ、こんにちは胡蝶君」

「五月、胡蝶君の事知ってるの?」

「はい。昨日一緒にお昼を食べた時に知り合ったんです」

「へぇ、そうだったのね」

「なぁ、二人は知り合いなのか?」

 二人の会話に俺はついていけなかった。

 

「あ、ごめんね。五月は私の妹なのよ」

「あぁ、双子ってわけか」

「違いますよ。私達は五つ子なんです」

「....悪い、もう一回言ってくれないか」

「五つ子なんです」

「(聞き間違えじゃなかったか....)」

 俺はそれを聞いて、一瞬思考が停止した。

 

「五つ子....五つ子?」

「言っておくけど、嘘じゃないわよ」

「いや、別に疑ってるわけじゃないんだが....」

「二人ともおまたせー!」

「....その人誰?」

 話していると、急に後ろから声が聞こえた。

 振り向いて見ると、そこには中野に似たようなカチューシャを

 つけた女とヘッドホンをつけた女がいた。

 

「中野の姉妹か」

「はい! 中野 四葉です!」

「....中野 三玖。あなたは?」

「胡蝶 一海だ。中野 二乃と同じクラスだ」

「そうなんですね!」

「....よろしくカズミ」

「おう。....これで後一人か」

「はぁ。一花、何してるのよ....」はぁ

「ごめんごめん! おまたせ!」

 そう言って二乃がため息をついた時、ピアスをつけた女が現れた。

 

「遅いわよ一花!」

「いや〜、ちょっと話し込んでてね。それで、そこにいる少年は?」

「私のクラスメイトの胡蝶 一海君よ」

「そっか、よろしくねカズミ君。私は中野 一花。一花って呼んでくれていいよ」

「わかった。よろしくな一花」

「さてと、じゃあお昼食べよっか」

「ですね! いただきます」

「「「「「いただきます」」」」」

 

 〜〜〜〜

 

「じゃあねカズミ君」

「また一緒に食べましょうね!」

「....バイバイ」

「二乃の事、よろしくお願いします」

 そう言われて、俺は四人と別れた。

 

「....スゲェ似てるな、お前ら姉妹」

 俺は隣にいた二乃にそう言った。

 

「まぁね。....あ、そうだ。私の事も名前で呼んでくれて良いわよ」

「良いのか?」

「中野呼びだと誰かわからないでしょ? それに、四人の事を名前で

 呼んで私だけ名字呼びは嫌なんだけど」

 そう言って、二乃はふてくされたように言ってきた。

 

「わかった、二乃」

「それで良いわ。さ、早く教室に戻りましょ」

 そう言われ、俺は二乃と一緒に教室に戻った。

 

 

 〜放課後〜

 

「一海!」

 帰るために靴を履き替えていると、急に後ろから上杉に呼ばれた。

 

「どうした上杉」

「五月を見なかったか!」

「五月? 五月ならさっき門の外に出て行くのを見たぞ」

「そうか! ありがとな!」

 そう言うと上杉は、門の方に走っていった。

 

「(何するつもりなんだアイツ....)」

 そんな事を考えながら、俺は門を出て家に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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100点(五人合わせて)

 次の日

 

「それじゃあ。いってきます」

「「いってらっしゃーい」」

 俺は二人にそう言って家を出た。

 そして、しばらく歩いていると後ろから声をかけられた。

 

「よぉ、一海....」

「上杉か。....どうした朝から」

 俺に声をかけてきた上杉の声には覇気がなかった。

 

「あぁ、実はな....」

 話を聞くと、家庭教師に行った上杉を待っていたのは地獄と

 形容してもいいものだった。

 生徒は中野姉妹五人で、四葉を除く四人はまるで授業を受ける気配がなかったらしい。

 さらには二乃に睡眠薬を盛られ、五月には家の事情も知られたらしい。

 

「....なんて言うか、災難としか言いようがないな」

「全くだ! だが俺は一つ思いついた」

「何を」

「雇い主からは五人を卒業させるように言われた。ならば、赤点候補だけに

 授業をすればいいことになぁ!」

「へぇ....」

「(多分、二乃はOUTだな....)」

 二乃には失礼だが、俺はそう思ってしまった。

 

「そこで一海に頼みがある。今日、テストをやってもらうんだが

 一緒に来てくれないか?」

「....は?」

「俺一人で行ったら、また睡眠薬を盛られるかもしれない。

 それに俺は五人全員に警戒されてるが、昨日一緒に昼飯を食べていた

 お前を連れて行けば警戒が緩くなるかもしれない」

「安直だな....てか、何で知ってる」

「俺が食べてた所から見えてたからな。....それで、頼めないか?」

「(....今日は手伝いもないしな)」

「わかった....その頼み、聞いてやるよ」

「本当か! じゃあ放課後にPENTAGONっていうタワーマンションに来てくれ」

「了解」

「じゃあ頼んだぞ!」

 そう言いながら、俺達は学校の中に入った。

 

 

 〜放課後〜

 

「ここか....」

「(高級マンションじゃねぇか....)」

 俺は上杉に言われた通り、PENTAGONというタワーマンションの

 前に来ていた。

 

「てか、なんで上杉はいないんだよ....」

 マンションの前に来たのはいいが、上杉の姿はどこにも見えなかった。

 

「あれ、胡蝶さん!」

「....何してるのカズミ」

 すると、後ろから声をかけられた。

 振り向くと、そこには三玖と四葉がいた。

 

「三玖と四葉か」

「こんな所でどうしたんですか?」

「....上杉って奴にここに来てくれって言われて待ってるんだよ」

「上杉....もしかして、フータローの事?」

「あぁ」

「そうなんですね! あ、だったら私達の家で待ってますか?」

「良いのか?」

「はい! 私も胡蝶さんとお話ししたいですし。三玖も良いよね?」

「....うん」

「....じゃあ、お邪魔させてもらうな」

「はい! どうぞどうぞ!」

 そう言われ、俺は中に案内された。

 

 

 〜中野邸〜

 

「ただいまー!」

「ただいま....」

「お邪魔します」

「おかえり、って、何で胡蝶君がいるのよ!?」

「胡蝶君!?」

「あ、やっほー」

「来てくれたか一海!」

 俺が家の中に入ると、私服姿の一花、二乃、五月と制服姿の上杉がいた。

 

「来てくれたか、ってどういう意味よ!」

「お前にまた睡眠薬を盛られるかもしれないからなぁ! 

 その対策の為に来てもらったんだよ!」

「....そういう訳だ。急に邪魔して悪いな」

「い、いえ! 気になさらないでください!」

「よし! これで全員揃ったな!」

 そう言って上杉は仁王立ちした。

 

「お前達、昨日家庭教師はいらないって言ったな」

「えぇ、確かに言ったわ」

「ならそれを証明してくれ」

 そう言って上杉は机の上にプリントを置いた。

 

「昨日やろうと思っていたテストだ。このテストで合格ラインを

 超えた奴には金輪際近づかないと約束しよう」

「「「「「!」」」」」

 上杉がそう言うと、五人の表情は変わった。

 

「勝手に卒業していってくれ」

「....その約束を守るという保証は?」

「一海だ」

「....は?」

「あいつが証人だ。俺でダメなのはわかっていたからな。

 あいつが証人なら文句はないだろ?」

「(なんか勝手に証人にされた....)」

「....いいでしょう」

「....五月、あんた本気?」

「合格すればいいだけです。それでこの人の顔も見なくて済みます」

「そういう事ならやりますか....」

「みんな頑張ろ!」

「....合格ラインは?」

「60、いや50あればいい」

「....はぁ、別に受ける義理はないけど。あんまり私達を見くびらない事ね」

 そう言って五人は机の周りに座った。

 

「よし、なら試験かい....」

「あ、ちょっと待った」

 上杉が言おうとした瞬間、二乃が止めた。

 

「何だ」

「ちょっと待ってなさい」

 そう言って二乃はキッチンの方に行った。

 

 そして五分ぐらいするとティーカップとポットとクッキーを

 乗せた皿を持ってきた。

 

「胡蝶君、これでも食べて時間潰して」

「良いのか?」

「お客様にお茶も何も出さないのは流石にね」

「....なら、ありがたく頂く」

「えぇ」

 そう言って二乃はさっきまで座っていた場所に戻った。

 

「よし、今度こそ試験開始!」

 そう言って五人の試験は始まった。

 俺はそれを横目に見ながら椅子に座ってクッキーを食べ始めた。

 

「(美味いな....見たところ手作りみたいだが、二乃が作ったのか?)」

 そんな事を考えながら、俺は五人の様子を呑気に観察していた。

 

 

 〜1時間後〜

 

「試験終了だ」

 試験を始めて1時間が経ち、上杉の言葉で試験が終わった。

 

「今から採点をするから待ってろ」

 そう言って上杉は採点を始めた。

 

「上杉、半分やろうか?」

 クッキーも食べ終わり、ゲームをして暇を潰していた俺はそう言った。

 

「あぁ、なら半分頼む」

 上杉から二枚の解答用紙と模範解答を受け取り、俺は採点を始めた。

 

「(まずは四葉か....)」

 俺は解答を見ながら丸付けを始めたが....

 

「(....何だこの解答)」

 四葉の解答は、言っちゃ悪いがわけのわからない解答が多かった。

 

「(どうやってこんな答えになるんだよ....)」

 俺は口には出さなかったが、お世辞にも勉強が出来る出来ない以前の

 問題だと思ってしまった。

 そして最後まで丸付けをした結果、四葉の点数は6点だった。

 

「(頭痛がするような点数だな....)」

 俺は咄嗟に頭を押さえた。

 

「(まさかと思うが....)」

 俺は次のテストの丸付けを始めた。

 解答の名前のところを見ると、一花の物だった。

 そして、採点の結果、一花の点数は10点だった。

 

「(....)」

 俺は何も言わずに上杉にテストを返した。

 そして、全ての丸付けが終わり上杉は立ち上がった。

 

「凄いぞお前達! 100点だ! ....全員合わせてなぁ!!」

「....はぁ」

 俺は少し呆れて溜息が出た。

 

「お前ら、まさか....」

「逃げろ!」

 上杉が何かを言おうとした時、五人は一斉に逃げた。

 そして各々部屋に入り鍵をかけてしまった。

 

「....逃げられたな」

「....あいつらァァ!」

 

 

 〜〜〜〜

 

 結局、上杉は諦めて帰っていった。

 そして、俺も帰ろうと思ったが....

 

「(一応、礼は言わないとな....)」

 そう思い、俺は二乃が入っていった部屋の扉を叩いた。

 

「二乃、少し良いか?」

「....なに」

 二乃は扉越しから不機嫌そうに言った。

 

「俺も帰るが、クッキーと紅茶、ご馳走さま。美味かった」

「....そ。なら良かったわ」

「あぁ。じゃあまた明日」

 俺はそう言って扉から離れ、中野邸を出た。

 

 

 〜〜〜〜

 

 二乃side

 

「(二人とも、帰ったみたいね)」

 私は外の様子を確認して部屋を出た。

 

「(それにしても、私のクッキー、口に合ったんだ....)」

 私は、さっき胡蝶君に言われた事を思い出した。

 

「(ちょっと嬉しかったな....)」

「えへ、えへへ」///

「....二乃?」

「どうして笑ってるんですか....?」

「っ!?」

 私が少しニヤついていたら、後ろには三玖と五月がいた。

 

「あ、あんた達いつの間に!」

「....二乃が急に笑いだした時から」

「それで、何もないところで笑ってどうしたんですか?」

「あ、あんた達には関係ないわよ!」///

 私はそう言って逃げるようにキッチンの方に向かった。

 

「どうしたんでしょう?」

「さぁ....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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花火大会

 あのテストを受けて数日が経った。

 上杉に現状を聞くと、現在真面目に受けているのは

 三玖と四葉らしい。

 

「....で、普通に考えたら上杉って奴マズイんじゃね?」カチカチ

「だよな....」カチカチ

 そんな話を俺は隣にいる中学時代からの友人の龍牙に話していた。

 

「てか、よくそんなバイトを受けたよな」カチカチ

「まぁ、あいつにも事情があるんだよ。....てか貰ったぞ」

「あ!? しまった!」

 俺の使っていたゲームのキャラクターは龍牙のキャラクターを吹っ飛ばした。

 

「これで俺の7連勝だな」

「くっそー! もう一回、もう一回だけ!」

「そのセリフ何回目だよ....」はぁ

「頼むって! 次負けたら自販機でアイス奢るから!」

「....わかった」

 そう言って俺は100円を入れた。

 

「よっしゃ! 次こそ勝つ!」

 

 〜数分後〜

 

「アイスご馳走さん」

「なぜ勝てねぇんだぁぁ!!」

 俺は龍牙に奢ってもらったアイスを呑気に食べていた。

 

「そういや、最近小倉とはどうなんだ?」

 俺は不意にそう言った。小倉は龍牙の彼女の名前だ。

 

「香澄か? そんなもん、バリバリ仲が良いに決まってるだろ! 

 この前も遊園地にデートに行ったばかりだ」

「へぇ、お熱いことで....」

「ほんと、お前には感謝してるぜ。あの時お前が背中を

 押してくれなかったら香澄とは付き合えてなかったからな」

「よせよ。俺は何もしてねぇって」

「謙遜すんなって!」

 そう言って龍牙は俺の背中を叩いてきた。

 

「....そういや、今日花火大会だけどお前行くのか?」

「あぁ、当たり前だ! もちろん香澄とな」

「そうか。なのに、こんな呑気に俺とゲーセンにいて良いのかよ?」

「しゃあねぇだろ。夕方まで暇だったんだよ」

「....はぁ、たまたま俺が暇で良かったな。暇じゃなかったら

 どうしたんだ?」

「んなもんジムに行く」

「この脳筋め....」

 そう言って話していたら龍牙の携帯が鳴った。

 

「悪りぃ、香澄からだ。もしもし香澄か?」

 龍牙は電話をしながら離れていった。

 

「(....さて、どうしたもんか)」

 俺は携帯を触りながら上杉の家庭教師の事を考え始めた。

 

「(数日経って二人だけしか受けてないって相当マズイな。

 五人教えないといけないのにまだ半分もいってない....

 バレたら最悪クビの可能性もあるな)」

 上杉は五人の家庭教師を頼まれているのに、未だに二人だけしか

 受けていない。

 そもそも二乃と五月に関しては上杉の事を毛嫌いしている。

 一花に関しては謎でしかない。

 

「(二乃、俺には普通に聞くのにな....)」

 同じクラスの二乃は、授業の時に分からないところがあれば

 俺には普通に聞いてきたりしていた。

 

「(....一度話を聞いてみるか)」

 そう思いながらアイスの棒を捨てたら龍牙が帰ってきた。

 

「終わったのか?」

「あぁ。それとスマン! 今から香澄の家に行ってくる!」

「そうか。ならさっさと行け、このリア充」

「悪りぃな。今度昼飯奢るわ」

「おう。じゃあな」

 そう言うと龍牙は手を振って去っていった。

 

「(さて、どうすっか....)」

 そう思ってゲーセンの中を歩いていたら後ろから声をかけられた。

 

「あれ、胡蝶君?」

「....五月か」

 後ろにいたのは五月だった。

 

「五月さーん、どうしたの? って、胡蝶さん! こんにちは!」

「一海!」

「よう、らいはちゃん。てか、上杉も一緒か。こんなとこで

 何やってんだ?」

 五月の後ろから上杉と、上杉の妹のらいはちゃんが現れた。

 

「実はな....」

 今日の朝、上杉は五月から家庭教師代を貰ったらしい。しかも、かなりの金額を。

 そして、いつも苦労させているらいはちゃんの行きたいところを

 聞いた結果、ゲーセンに来たらしい。

 

「で、なんで五月もいるんだ? デートか?」

「「誰がこいつ(この人)と!」」

「息ぴったりだな」

「胡蝶さんも一緒に遊びませんか?」

「良いぜ。何する?」

 そう言って俺は三人についていった。

 シューティングゲームをやり、UFOキャッチャーでらいはちゃんと

 五月にぬいぐるみを取ってやったりした。

 そうしていたら、既に外は夕方になっていた。

 

「はぁ、せっかくの日曜日が....」

「そう言うな。らいはちゃんも喜んでたんだ。てか、今から

 帰ってやったら良いんじゃないか?」

「それもそうだな。五月、お前らも夜は勉強しろよ」

 上杉が五月に向かってそう言うと、五月は突然方向転換した。

 

「おい、怪しいな。宿題は出ただろ。終わらせたのか」

「つ、ついてこないでください!」

 そう言ってごちゃごちゃしていたら、らいはちゃんが俺に聞いてきた。

 

「胡蝶さん、五月さんが四人いる....」

「何言ってんだらいはちゃん?」

 俺はらいはちゃんの方を見ると、そこには浴衣姿の二乃達がいた。

 

「って、お前らか....」

「おまたせ五月。早く行こ」

「あれ、デート中だった。ごめんね〜」ニヤニヤ

「五月! 何で上杉と一緒にいるのよ!」

「わ〜、上杉さんの妹ちゃんですか? これから一緒に花火大会に

 行きませんか?」

「花火!」

 四葉の言葉に、らいはちゃんは目を輝かした。

 

「お、おいらいは!」

「お兄ちゃん、ダメェ?」ウルウル

 らいはちゃんの言葉に、上杉はたじろいて....

 

「....そ、そうだな。行くか、花火大会」

「やったー!」

「ただし! お前ら五人は宿題を終わらしてからだ!」

「「「「「えぇぇー!!??」」」」」

「ほら、とっとお前らの家に行くぞ! すまんが一海、もしもお前も

 花火大会に行くなららいはを一緒に連れて行ってくれないか?」

「わかった。じゃあ行くか、らいはちゃん」

「はい! じゃあお兄ちゃん、また後でね」

「おう」

 そう言って上杉は五人とマンションの方に向かっていった。

 俺も俺で、らいはちゃんと神社の方に向かって歩き出した。

 

 

 〜数時間後〜

 

「あ、お兄ちゃーん! こっちこっち!」

「遅かったな」

 らいはちゃんとしばらく神社で出店を回っていたら上杉から

 電話があり、俺とらいはちゃんは神社の待ち合わせ場所で待っていた。

 

「お兄ちゃん、見て見て!」

 そう言ってらいはちゃんは射的で取った花火セットと金魚すくいで

 取った金魚を見せていた。

 

「らいは、それ今一番要らないやつだぞ....」

「えぇー、せっかく胡蝶さんが取ってくれたのに〜」

「お前が取ったのか!」

「いや、らいはちゃんが欲しいって言ったからな」

「そうだったのか....らいは、ちゃんとお礼言ったか?」

「うん!」

「そうか。悪いな一海」

「別に良い」

「さてと、これからどうするんだ?」

 上杉が五月に聞くと....

 

「まずはアレを買いに行きます」

「アレ?」

「えぇ、アレを買わないと」

「アレがないと....」

「そうですよ!」

「そうだねぇ」

「さっきから言ってるアレって何なんだ?」

 俺は気になって五人に聞いた。

 

「かき氷」

「りんご飴」

「人形焼き」

「チョコバナナ」

「焼きそば」

「全部買いに行こー!」

「....アイツら、本当に姉妹か?」

「疑わなくてもいいだろ....」

 そう言って俺と上杉も五人の後ろをついていった。

 

 〜〜〜〜〜

 

「なぁ二乃」

 買う物を買って、俺は二乃の隣を歩いていた。

 

「なに?」

「花火大会、そんなに楽しみだったのか?」

「....まぁね。ママとの思い出だから」

「お母さんとのか?」

「えぇ。ママが花火が好きで毎年揃って見に行ってたの。

 ....ママが亡くなってからも毎年揃ってね」

「そうだったのか....」

「(俺と一緒か....」

「えっ?」

「っ! ....何でもない。気にするな」

「え、でも今....」

 二乃が何かを聞こうとした時、俺は視線を逸らした。

 すると、さっきまで後ろにいたはずの六人が消えていた。

 

「おい二乃。アイツらどこにいった?」

「っ! な、なんで皆いないのよ!」

 そう言っていると、急に周りの人間が動き出した。

 

「ちょ、ちょっと!」

「二乃!」

 俺は人の波に流されている二乃の腕を掴んだ。

 

「あ、ありがとう....」

「ひとまず、どこか目立つ所に移動するぞ。そこで電話して

 全員集める」

「それなら良いところがあるわ。こっちよ」

 そう言って二乃は俺の腕を掴んできた。

 

「あの、二乃....?」

「....はぐれたら困るから。ダメ?」

「っ! い、いや、大丈夫だ」///

 一瞬、二乃の表情に見惚れてしまった。

 

「じゃあ、早く行きましょ」

 そう言った二乃に連れられて来た場所はあるお店に前に来た。

 

「毎年どこかの屋上を借り切ってるの。もしかしたら....」

「(ブルジョワか....)」

 俺はそんな事を考えながら階段を駆け上がった。

 しかし....

 

「誰もいないな....」

「あ....」

「どうした」

「今年のお店の場所、私しか知らないんだった....」

 

 

 

 

 




万丈 龍牙
一海の中学時代からの友人
裏表のない真っ直ぐな人間で友達も多い
小倉 香澄という恋人がいる


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走る一海

「ど、どうしよう!」

「焦るのはわかるが落ち着け! とりあえず電話するぞ」

「う、うん....」

 そう言って俺と二乃はそれぞれ電話をかけ始めた。

 と言っても、俺は上杉の番号しか知らないが....

 

「上杉」

『一海か!』

「お前、今どこに誰といる?」

『今、四葉とらいはと時計台のところにいる』

「わかった。今からそっちに行くから絶対に動くなよ!」

 俺はそう言って電話を切った。

 

「そっちは電話繋がったか?」

「ダメ。誰も出ない....」

「そうか。とりあえず、四葉は上杉とらいはちゃんといるみたいだから

 こっちに連れてくる。少しだけ待ってろ」

 俺はそう言って屋上を出ようとした時....

 

「ちょっと待って!」

 俺は二乃に呼び止められた。

 

「なんだ」

「私も上から皆を探す。見つけたら電話するから連絡先教えて」

「わかった」

 俺は携帯を二乃に渡した。

 そして二乃が登録をしている時....

 

「え....」

 二乃は俺の携帯を見て何かに驚いていた。

 

「どうした?」

「な、何でもないわ....ありがとう」

「あぁ。じゃあ行ってくる」

 俺は携帯を受け取って屋上を出た。

 

 

 〜〜〜〜

 

「らいはちゃん、四葉!」

 俺は走って時計台のところに来ていた。

 

「胡蝶さん!」

「待ってましたよ!」

「そうか。で、上杉は!」

 時計台のところには、何故か上杉がいなかった。

 

「お兄ちゃんなら、三玖さんを見たからって追いかけて行きました」

「そうか....」

「(あの野郎....)」

「それで、二乃は今どこにいるんですか?」

「二乃はあの店の屋上で待ってる」

 俺はさっきまでいた店の屋上を指差した。

 

「そうですか! じゃあ私達は先に向かった方が良いですか?」

「そうだな。って....」

 俺がそう言うと携帯が鳴った。電話をかけてきたのは二乃だった。

 

「どうした?」

『五月を見つけたわ。今、人形焼きのお店の近くにいる』

「わかった」

「どうしたんですか?」

「五月を見つけたらしい。俺が迎えに行ってくるから二人は先に

 屋上に向かってくれ」

「わかりました!」

「らいはちゃん、四葉から離れんなよ」

「はい!」

「では胡蝶さん、また後で!」

 そう言って、二人は手を繋いで店の方に向かっていった。

 

「(人形焼き屋か....こっちの方だったな)」

 俺は人形焼き屋の方に走り出した。

 

 

 〜〜〜〜

 

「見つけたぞ五月!」

 五月は人形焼き屋のすぐ近くでウロウロしていた。

 

「胡蝶君!? どうしてここに!」

「二乃が店の屋上から教えてくれたんだよ。急いで店の屋上に行け。

 今ならまだ間に合うだろ」

「店の屋上って....どこのお店ですか?」

「あそこだ」

 俺は店の方を指差した。

 

「あの、どうやって行ったら良いんでしょうか?」

「は....?」

「道がわからないんですが....」

「お前、まさか方向音痴か?」

「....」

 俺がそう言うと、五月は目をそらした。

 

「はぁ....じゃあ、とりあえず俺についてきてくれ」

 俺はそう言って店の方に歩き出した。

 

「ま、待ってください!」

 五月は俺の後ろを追いかけてきた。

 

 

 〜〜〜〜

 

「ここの屋上だ。急いだらまだ間に合うはずだ」

「そうですか。ありがとうございます」

「じゃあ俺は残りの二人とアホを探してくる」

 そう言って立ち去ろうとしたら....

 

「あの、一つ良いですか?」

 五月に呼び止められた。

 

「なんだ」

「どうして、そこまでしてくれるんですか?」

「どう言う意味だ?」

「胡蝶君は、どうしてそこまで私達に協力してくれるんですか?」

「....お前らに取っては、花火大会は母親との大切な思い出なんだろ? 

 家族との思い出が大事なのは俺もよくわかる。だから、少し助けて

 やりたいと思ったからだよ」

「それだけの理由で....」

「あぁ。....ほら、さっさと行けよ。今ならまだ間に合う筈だ」

「....ありがとうございます」

 五月は頭を下げて店の中に入っていった。

 

「(さてと、アイツら何処にいるんだよ....)」

 俺は探しに行こうとした時、携帯が鳴った。

 電話をかけてきたのは上杉だった。

 

『一海か!』

「お前さぁ、動くなって言ったよな? 何勝手に動いてんだアホ」

『そ、それは悪かった....』

「はぁ....お前、今どこにいる」

『今、三玖と駐車場の近くにいる』

「駐車場!? 何でそんなところにいるんだよ!」

『い、色々事情があってな....』

「その事情ってのは後で聞くから、二人とも絶対に動くなよ!」

 俺は電話を切って駐車場の方に走り出した。

 

 

 〜〜〜〜

 駐車場

 

「(どこだアイツら....)」

 駐車場についた俺は二人を探した。

 

「あ、カズミ」

 すると、ベンチに座っている三玖がいた。

 

「三玖! ....あのアホは」

「一花を迎えに行くって車を追っていった」

「はぁ?」

「一花、女優の卵なんだってさ」

「....悪りぃ、一から説明してくれ」

 三玖の言葉に俺の頭はフリーズした。

 そして、三玖の説明によると一花は少し前から女優をしており、

 後少しでオーディションが始まるらしい。そのオーディションは

 一花にとってはまたとないチャンスで、そのチャンスを掴むために

 オーディションに向かっていったらしい。さらに上杉の応援も受けて。

 

「....とりあえず事情はわかった。で、何でお前はついて行かなかったんだ?」

「足怪我したから」

 三玖の足を見ると、包帯の様なものが巻かれていた。

 

「なるほどね....」

「それよりも、花火終わっちゃったね」

「え....」

 そう言われ、俺は携帯を見ると既に花火終了の時間になっていた。

 

「マジかよ....」

「まぁ、今回は仕方ないよ。色々とトラブルもあったから....」

 そう言った三玖の表情は悲しそうだった。

 

「三玖....」

「ねぇ、二乃達って今どこにいるの?」

「....多分、花火を見るはずだった所だ。ちょっと待ってろ」

 俺はそう言い二乃に電話をかけた。

 

「....二乃か?」

『胡蝶君....』

「すまなかった。あんだけ大口叩いたのに集めらなくて....」

『いいのよ。あれだけの人混みの中、二人を連れてきてくれただけでも凄いわ』

「....そうか」

『それで、今どこにいるの?』

「今、三玖と駐車場の近くだ」

『駐車場ね。....一花とアイツは?』

「....実はだな」

 俺は三玖から聞いた事を全て話した。

 

『そう....あのバカ一花、少しぐらい話してくれてもいいじゃない....』

 そう言った二乃の声は寂しそうだった。

 

「二乃....」

『....ひとまず、そっちに向かうわ。そこで待っていて』

 そう言って電話は切れた。

 

 

 〜10分後〜

 

「三玖〜、胡蝶さ〜ん!」

 しばらくすると、四人が駐車場にやって来た。

 

「お待たせしました、って三玖、その足どうしたんですか?」

 五月が三玖の足を見てそう聞いた。

 

「ちょっと怪我しただけ。もう普通に歩けるから」

「そうですか....」

「さて、これからどうする? 一花とバカを待つか?」

 俺は五人にそう聞いた。

 

「えぇ、公園で待とうって話になったのよ」

「公園?」

「実はね....」

 俺は二乃から話を聞いた。

 

 

 〜〜〜〜

 

「て事でね」

「そうか。良いのからいはちゃん?」

「はい! あんなに凄いところで花火を見せてもらいましたから

 そのお礼がしたいんです!」

「....良い子だならいはちゃん」

「それで、胡蝶君も一緒にどうかしら?」

「俺もか?」

「えぇ。....その、嫌だったかしら?」

「っ!」

 二乃は上目遣いで俺にそう言ってきた。

 

「....そんな事ねぇよ。じゃあ俺も参加させてもらう」

「そうこなくっちゃ。それじゃあ先に行って準備を始めましょう」

 そう言って俺達は公園に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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花火大会終幕

 一花side

 

「ねぇ、フータロー君。私達どこに向かってるの?」

 オーディションが終わった私は、フ―タロー君と夜の道を歩いていた。

 

「良いからついてこいって。アイツらも待ってる筈だ」

「アイツら?」

「お前の妹と一海だ」

「四人とカズミ君が?」

「あぁ」

「そっか....みんなに謝らないと」

「そうだな。....だが、それはアレが終わってからでも良いんじゃないか?」

 そう言って、フータロー君は前を指差した。

 すると、そこには....

 

「あ、上杉さ〜ん! 待てなくて先に始めちゃいました!」

 花火をしている私の妹達とカズミ君がいた。

 

 

 〜一海side〜

 

「やっと来たか....」

 俺は一花の方を見てそう言った。

 

「こ、これは....」

「らいはちゃんに買った花火だ。事情を聞いたらいはちゃんが

 譲ってくれたんだよ」

「らいはちゃんが....」

「あぁ」

「一花」

 すると、二乃が一花の前に立った。

 

「事情は三玖から全部聞いたわ。....ほんと、一言ぐらい言ってくれも良かったじゃない」

 二乃は少し不機嫌そうに言った。

 

「ごめん....」

「....でも、謝らないといけないのは私もよ」

「えっ?」

「私も、花火を見る場所を教えるのを忘れたわ。そのせいで胡蝶君にも

 迷惑かけちゃったし....」

「私も、自分の方向音痴には嫌気がさしました」

「私も今日は失敗ばっかり....」

「私も屋台ばかり見てしまいました」

 二乃が言うと、他の三人も申し訳なさそうに言っていった。

 

「みんな....」

「ほら、あんたの分」

「お母さんがよく言っていましたよね。誰かの失敗は五人で乗り越えること」

「誰かの幸せは五人で分かち合うこと」

「喜びも」

「悲しみも」

「怒りも」

「慈しみも」

「私達全員で五等分ですから」

「だから、あんたの悩みも少しぐらい私達に背負わせなさいよ」

「....ありがとう、みんな」ポロポロ

 

 〜〜〜〜

 

「さてと、お前もご苦労だったな」

 俺は上杉の隣に座ってそう言った。五人は楽しそうに花火をしていた。

 

「あぁ。全くだ」

 そう言った上杉の表情は少しだけ嬉しそうだった。

 

「....お前、変わったな」

 俺は不意にそう言った。

 

「何がだよ」

「....色々だよ色々」

「はぁ?」

 そんな事を話していたら小さい打ち上げ花火が上がった。

 

「しょぼい花火....」

「そりゃな。....ま、五人にとってはあれでも十分なんだろうな」

 そう言いながら、俺と上杉は五人の事を眺めていた。

 

 

 〜〜〜〜

 

「カズミ君、今日はありがとね」

 花火が終わり、五人を家まで送っていると一花が言ってきた。

 

「礼なら俺じゃなくてらいはちゃんに言え。これを考えてくれたのは

 らいはちゃんだからな」

「そっか。なら今度お礼をしないとね」

「そうしておけ」

 そう言っていると五人のマンションに着いた。

 

「じゃあねカズミ君。また明日」

「胡蝶さんさようなら〜!」

「バイバイ....」

「今日はありがとうございました」ペコッ

 四人はマンションの中に入っていった。

 

「....入らないのか?」

 俺は一人残っていた二乃に聞いた。

 

「入るわよ。でも、その前に一つ聞かせて」

「何をだ?」

「どうしてあそこまで協力してくれたの? 胡蝶君に取っては

 そこまで関係がない事のはずなのに」

 二乃は不思議そうに聞いてきた。

 

「そうだな....家族との時間を大切にして欲しいと思ったからだ」

「家族との時間....」

「あぁ。いなくなったら、そうやって同じ時間を生きることができないからな....」

「えっ....?」

「っ!」

「(余計な事を話しちまった....)」

 俺はすぐに視線を逸らした。

 

「悪りぃ、今のは忘れてくれ」

「....え、えぇ」

「....それじゃあ、また明日」

 俺はそう言って逃げるようにその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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中間テストに向けて

「一海、俺はどうしたらいいんだ!」

「いや、俺が知るかよ....」

 花火大会が終わって少し経ち、一週間後には中間テストが迫っていた。

 そして、今俺は屋上で上杉の相談を聞いていた。

 

「てか、五人の中で一人でも赤点なら解雇って....いくらなんでもハードルが

 高すぎるだろ。しかも五人中、一人は無視されてて、一人は喧嘩中って」

 昨日上杉は、雇い主から電話で今度の中間テストで一人でも赤点を取ったら

 解雇と言われたらしい。そしてすぐその後、五月と大喧嘩をして話を聞いて

 貰えない状況になったそうだ。

 

「お前、この状況どうすんだよ」

「それが分からないからお前に相談してるんだよ....」

 そう言った上杉の表情は暗くなった。

 

「....何か良い案はないか?」

「良い案って言われてもな....」

 俺は必死に考えた結果....

 

 〜〜〜〜

 

「二乃、少し良いか?」

「どうしたの胡蝶君?」

「中間テストの勉強、良かったら一緒にやらないか?」

「えっ!?」

 俺が思いついたのは、二乃に上杉の代わりに勉強を教える事だった。

 

「ど、どうして急に!?」

「来週中間試験だろ。なのに二乃、上杉の家庭教師受けてないんだろ?」

「そ、それは....」

「このままだと、赤点はほぼ確実だと思うぞ」

「っ、よ、余計なお世話....!」

 俺がそう言うと、二乃は言い返そうとしてきたが....

 

「そうか? もしも、アイツら四人が赤点回避して自分だけ赤点だったら嫌だろ? 

 家族の事を誰よりも大切にしてるお前なら尚更な」

 俺は半分脅迫まがいな事を言った。

 

「それは....! そうだけど....」

「だろ? だからさ、一緒にどうだ?」

 俺がそう言うと、二乃は....

 

「....わかったわよ。でも、一つ条件があるわ」

「条件?」

「もしも、もしも私が赤点回避できたら何かご褒美が欲しいわ」

「ご褒美か....じゃあ何か一つ言う事を聞くとかで良いか?」

「っ! えぇ! じゃあ約束よ」

「あぁ。じゃあ今日の放課後からやるからな」

 そう言って、俺は二乃を勉強させる事に成功した。

 

 

 〜放課後〜

 中野邸

 

 放課後になり、俺は中野邸にお邪魔していた。

 

「二乃、その公式は別のやつだ。そこで使う公式はこっちだぞ」

「えっ....」

 そして、今俺は二乃に数学を教えていた。だが、二乃の数学の出来はあまりにも

 酷いものだった。

 

「(....数学でこれって、他の教科を見るのが恐ろしいな)」

 俺はそんな事を考えながらも、二乃にテスト範囲のところを教えていった。

 

 〜〜〜〜

 

「うぅ....頭が痛い....」

「まぁ、お疲れさん....」

「(....このペースだとマズイな。範囲の所が全部終わる気がしねぇ....)」

 そう考えながらも、俺は片付けを始めた。

 

「じゃあ今日はここまでな。今日やった所の復習はしておくんだぞ」

「ま、まだやらないとダメなの....!?」

「あぁ。せっかくやったのに抜けるのはもったいないからな。出来る範囲で

 復習はしておいてくれ」

「うぅ....わかったわよ....」

「頼むぞ。....じゃあ俺は帰るな。また明日」

「えぇ....明日もよろしくね」

 そう言われて、俺は中野邸を出た。

 

 〜外〜

 

「あ」

「あれ、カズミ君?」

「どうしてここにいるのカズミ?」

「こんばんは胡蝶さん!」

「胡蝶君?」

 俺が外に出ると、丁度一花達が帰ってきた。

 

「よう。今帰りか?」

「そうだよ。それで、カズミ君はどうしてここにいるの?」

「さっきまで二乃に勉強を教えてたんだよ」

「二乃にですか?」

「あぁ。定期テストのな」

「へぇ〜、そうだったんですねぇ」

「二乃、カズミには教えてもらうんだ」

「まぁ二乃、面食いな所あるからねぇ。カッコいい男の子に教えてもらうのは

 嬉しいんじゃないかな?」

「面食い?」

 俺は一花の言葉に疑問を持った。

 

「あ、カズミ君は知らないよね。二乃って面食いなんだよ」

「....そうだったのか」

「(だから俺には聞くんだな....)」

 二乃が俺にわからないところを聞く理由がようやくわかった。

 

「ま、そういう訳だから。二乃を狙うならチャンスだよ?」ニヤニヤ

 一花はすごく悪い笑顔をしていた。

 

「別にそういう事はしねぇよ」

「ホントかな〜?」

「めんどくせぇなお前....俺はもう帰るからな」

 俺はそう言って歩き出した。

 

「ま、いっか。じゃあねカズミ君」

「おやすみ」

「胡蝶さんまた明日!」

「さようなら胡蝶君」

「おう」

 俺は手を振って家に帰った。

 

 

 〜自宅〜

 

「あ、おかえりなさい一海君!」

「一海君おかえり」

「ただいま甘菜さん、空夜さん」

 俺が家に帰ると、甘菜さんと空夜さんは晩ご飯を机に並べていた。

 

「さ、ご飯はできてるよ!」

「ありがとうございます、甘菜さん」

 俺はそう言って、服を着替えて晩ご飯を食べ始めた。

 

「テスト勉強はどう? 順調?」

 俺が晩ご飯を食べていると、急に甘菜さんがそう聞いてきた。

 

「はい。まぁ、ちょっと問題はありますけど....」

「問題?」

「何かあったのか?」

「えぇ。実は....」

 俺はさっきまでの事を話した。

 

 

「あらら....」

「それは確かに問題だね....」

「ですよね....」

 話を聞いた二人は表情が引きつっていた。

 

「ま、誘ったからには最後まで面倒は見ようと思いますけどね」

「あはは....頑張ってね」

「はい」

 そう言って食事は続いた。

 

 

 〜自室〜

 

 食事も終わり、風呂に入った俺は自分の部屋にいた。そして、俺はある男に

 電話をかけていた。

 

「あ、上杉。今良いか?」

『どうかしたのか一海?』

「二乃と中間試験の勉強をする事に成功したぞ」

『何!?』

 電話越しにでもわかるほど、上杉は驚いていた。

 

『それは本当か!』

「あぁ」

『ありがとな一海!』

「別に良い。それよりも、お前はさっさと五月と仲直りしろよ」

『うっ....わかっている....』

「なら良い。じゃあな」

 そう言って俺は電話を切った。

 

「さてと....」

 俺は自分の机の上に広げたノートを見た。

 

「明日からどうするか....」はぁ

 

 

 

 

 

 



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結果と二乃の変化

 中間テストが終わり、今日はテストの返却日だった。

 俺は今、上杉と図書室にいた。

 

「それで、二乃はどうだった?」

「理、数、社は赤点。国、英はセーフだった」

「そうか....」

「まぁ、最初の頃に比べたらだいぶマシだろ。五人揃って100点の時と比べたらな」

「まぁな。ありがとな一海。二乃の事見てくれて」

「俺は別に良いが....お前、これからどうするんだよ」

「決まってるだろ。他のバイトを探すだけだ」

 そう言って話していると、図書室に五人が入ってきた。

 

「二人ともお待たせしました。四人を連れてきました」

「そうか。とりあえず全員そこに座ってくれ」

 上杉がそう言うと五人はそれぞれ座った。

 

「ひとまず集まってもらって悪いな」

「今更どうしたの? 水臭いなぁ」

「中間テストの報告。間違えたところ、また教えてね」

「....あぁ。とにかくまずは答案用紙を見せてくれ」

 上杉は三玖の言葉に少しだけ申し訳なさそうな表情をしたが、すぐにいつもの

 表情を戻してそう言った

 

「....見せたくありません」

 だが、五月はそう言って拒否した。

 

「テストの点数なんて他人に教えるものではありません。個人情報です。

 私は断固拒否します!」

 五月は俯いて申し訳なさそうな表情になった。

 

「五月ちゃん?」

「五月?」

 それを見て一花達は心配したような表情になった。それを見て上杉は....

 

「五月。俺も覚悟はしてる。だから教えてくれ」

 そう言って上杉は覚悟を決めた表情になった。

 

「....わかりました」

 そう言って五月は答案用紙を机に置いた。それを見て他の四人もそれぞれ

 答案用紙を机に置いた。

 

「一花は数学と英語、二乃は英語と国語、三玖は社会と理科、四葉は国語と社会、

 五月は理科と数学か....」

「ま、初めの頃と比べたら確実に成長はしているな」

 五人の点数を見た上杉に俺はそう言った。

 

「まぁな。....三玖、今回のテストで70点は大したもんだ。これからは四人に

 教えられるところは自信を持って教えてやってくれ」

「え?」

「四葉はイージーミスが目立ちすぎるぞ。焦らず慎重にな」

「了解です!」

「一花は一つの問題に拘らなさすぎだ。最後まで諦めんなよ」

「はーい」

「二乃、お前は最後まで一海に任せっぱなしだったな。だが、話しを聞く限り

 しっかり勉強はしてくれたみたいだな。これからもしっかりやれよ」

「....余計なお世話よ」

 上杉は四人にそう言ってアドバイスをしていた。

 

「フータロー! 他のバイトってどういう事? 来られないって....

 どうしてそんなこと言うの?」

 三玖は悲しそうな表情でそう言った。それを聞いて上杉は目を背けた。

 

「三玖。とりあえず先に上杉に話させてやってくれ」

「カズミ....」

 俺はそう言って三玖を止めた。

 

「....すまん一海。さて、最後に五月。お前は本当に不器用だな!」

「なっ!?」

「一問に時間かけ過ぎて全部解けてねぇじゃねか」

「....っ、反省点なのは分かってます」

「....なら良い。次からは気をつけろよ」

 上杉がそう言い終わると誰かの電話が鳴った。鳴った電話は五月の物だった。

 

「....父です」

 五月はそう言って上杉に携帯を渡した。

 

「上杉です。はい....はい....」

 上杉は五人の父親と話していた。

 

「分かっています。ただ、次からは俺なんかよりもっと良い家庭教師をつけて

 やってください。コイツらは出来る奴等ですから」

 上杉がそう言って、次の言葉を言おうとしたその瞬間....

 

「....」パシッ

「え?」

「(二乃....?)」

 二乃が急に上杉の通話していた電話を取り上げた。

 

「もしもしパパ? 二乃だけど。隣から話しは聞こえていたんだけど何となく

 事情がわかったんだけどどうしてこんな条件を出したの?」

 二乃は事情がわかったかのように父親と話していた。

 

「そう....私達のためってことね。ありがとうパパ。でも、相応しいかどうかなんて

 数字だけじゃわからないと思うけど?」

 二乃がそう言って少しすると、一瞬三玖の方を見てこう言った。

 

「....そ。じゃあ教えてあげる。私達五人で五教科全ての赤点を回避したわ」

「なっ!?」

「二乃!?」

 二乃がそう言った瞬間、俺と上杉は二乃の方を見た。

 

「嘘じゃないわ。本当よ」

 二乃はそう言って少しすると電話を切って五月に携帯を返した。

 

「おい二乃....今のは....」

 上杉は二乃に近づいて恐る恐る聞いた。

 

「私は英国、一花は英数、三玖は理社、四葉は国社、五月は理数。五人で五教科クリアで

 嘘をついてないわ」

「んなのありかよ....」

「言っておくけどこの手は二度と通用しないわ。だから、次は実現させてみなさいよ」

「....あぁ、やってやるよ」

 上杉がそう言うと、上杉に一花と四葉が近づいていった。五月も五月で三玖に近づいて

 何かを言っていた。俺は二乃に近づいて聞いた。

 

「二乃、どういう風の吹き回しだ?」

「別に....アイツが解雇になったら三玖が悲しむと思ったから。ただそれだけ」

「....良かったのかよ?」

「わからない。でも、今は良かったと思ってるわ」

「そうか....」

 俺はそれ以上何も言わなかった。

 

「それよりも。勉強教えてくれてありがとうね胡蝶君。初めてあんなに良い点数を取れたわ」

「そうか。一応上杉にも礼を言っておけよ。教材作ったのは上杉だからな」

「....気が向いたらね」

 そう言って話していると四葉が手を挙げてこんな提案をした。

 

「せっかくですし、このまま復習しちゃいましょう!」

「えっ....普通に嫌なんだけど」

 そう言って二乃は逃げようとした。

 

「こらこら。逃げない逃げない」

 だが、一花が二乃を捕まえて逃さなかった。

 

「そうだな。テストが終わった後の復習は大切だ。だが、直後じゃなくてもいいな」

「はっ?」

 上杉の発言に俺は驚いた。そして上杉は顎に手を置いて目を逸らしてこう言った。

 

「ご褒美....だったか? 確かパフェとか言ってたよな....」

 そう言った瞬間、五人は笑い出した。

 

「何故笑う....!」

「いや! フータロー君がパフェって!」

「超絶似合わないわ!」

「そ、そんな事ないだろ! 一海も何か言ってくれ!」

「いや、二乃の言う通りだろ。少し前のお前なら絶対聞かない単語の一つだぞ」

 上杉の言葉に俺は冷静にそう返した。

 

「お、お前までそう言うか....」

 上杉は少しショックを受けた表情になった。

 

「ほら、ショックを受けてるのはわかりましたから。早く行きましょ」

「駅前のファミレスで良いよね?」

「そうだね! お店が混む前に行かないと!」

「だってよ。さっさと行ってこい」

 俺はそう言ってカバンを持って帰ろうとしたが....

 

「ちょっとちょっと! カズミ君も行こうよ!」

「そうですよ! せっかくなんですから!」

「うん。カズミのお陰でもあるんだから」

 そう言って一花、四葉、三玖に道を防がれた。

 

「そうだぞ一海....一人だけ逃げようとはさせねぇぞ」

 そう言って上杉は肩を掴んできた。

 

「....はぁ。わかった。行けばいいんだろ、行けば」

 俺は諦めてそう言った。

 

「では早速行きましょう!」

 四葉の言葉で俺達は図書室を出て学校の外に出た。

 

 

 〜数時間後〜

 

「....悪いな一海。アイツらの分奢ってもらって」

 ファミレスでパフェを食べた帰り道、上杉がそう言ってきた。

 

「別にいい。この前給料入ったばかりだからな。それほど痛い出費でもねぇよ」

「将来、出世払いで返す」

「まぁ楽しみにして待っておく」

「二人とも何の話しをしているんですか?」

 俺と上杉が何か話しているのを不思議に思ったのか、五月が聞いてきた。

 

「ちょっとした世間話だ。気にすんな」

「?」

「ほら、さっさと行くぞ」

 上杉はそう言ってどんどん進んでいった。

 

「俺らも行くぞ五月」

 そう言って俺も上杉の後を歩いた。そして俺達は五人を家まで送った。

 

「じゃあなお前ら」

「二人とも、また明日」

「上杉さん、パフェごちそうさまです!」

「二人ともまたね〜」

 それを聞いて上杉は帰ろうとしたが、俺は帰ろうとせずに二乃に近づいたこう聞いた。

 

「二乃」

「なに?」

「ご褒美のこと覚えてるか?」

「ご褒美って....何か一つ言う事を聞くって事?」

「あぁ。何か考えておいてくれ」

「ちょ、ちょっと待って! 私は赤点回避してないわよ!」

 二乃は慌ててそう言ってきた。

 

「まぁな。でも、英語と国語は回避しただろ? 俺も全教科とは言ってないからな」

「そ、それは....」

「それに、何だかんだ言いながらもちゃんと勉強してたからな。今回は特別にな」

「....良いの?」

「あぁ」

「....わかったわ。じゃあ決まったらまた電話するわね」

「了解。じゃあな」

 俺は五人に手を振って家に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 



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買い物と一つの疑問

「ねぇねぇ、あの人! すごくカッコ良くない?」

「ホントだ! 俳優の人かなぁ?」

「(....スゲェ見られてるな)」はぁ

 テストが終わって三日後。俺はある駅で人を待っていた。その待っている人物というのは....

 

「こ、胡蝶君!」

「よぉ、二乃」

 二乃だった。今日、俺は二乃の買い物に付き合う事になっていた。

 理由は中間テストのご褒美で言うことを一つ聞くと言った結果、二乃は

 俺に買い物に付き合って欲しいと言ったからだ。

 

「ごめんなさい。待ったかしら....?」

「別に。俺も今来たばかりだ」

「そう。なら良かった....」

 そう言って二乃は安心していた。そして、二乃は俺の方を見てこう言ってきた。

 

「胡蝶君、その服よく似合ってるわね」

「ありがとな。でも、二乃の方がよく似合ってる服着てて可愛いぞ」

「かわっ....!」///

 俺は礼を言って二乃そう言い返すと、二乃の顔は真っ赤になった。

 

「顔が赤いけど、どうかしたのか?」

「べ、別に何でもないわよ! は、早く行きましょ!」///

 そう言って二乃は歩き始めた。

 

「(甘菜さんの言われた通りに服を褒めてみたけど、何かマズかったか....)」

 そんな事を思いながら、俺は二乃を追いかけた。

 

 

 〜〜〜〜

 

「まずはここね」

 俺達が着いたのは服屋だった。

 

「何を買うんだ?」

「今度の林間学校に着ていく服を買おうと思ってね」

「そういやもうすぐだったな」

 そう話しながら、二乃は服を見ていた。

 

「胡蝶君。これとこれどっちが似合いそう?」

 二乃は二つのスカートを持っていた、一つは黒色で、一つは紫色のスカートだった。

 

「そうだな....紫の方だな」

「そう。じゃあこれは買いね」

 そう言って二乃は俺が選んだ方をカゴに入れた。その後も、二乃は俺に

 どちらが似合うか聞いてきて、俺が選んだ方をカゴに入れていった。

 

「ふぅ、こんなものかしら」

 そして、一時間ぐらい経つと、カゴがいっぱいになるほどの服やらスカートが入っていた。

 

「結構買うんだな」

「まぁね。今日はセールの日だから」

 そう言って二乃はレジに向かっていった。俺はレジの外で待っていたが、二乃は支払いを

 現金ではなくカードで払っていた。

 

「(スゲェなおい....)」

 俺は会計の時に出た合計金額に驚いたが二乃は特に表情を変えずに平然としていた。

 そして、二乃は大きめの袋を持ってレジから出てきた。

 

「おまたせ胡蝶君」

「おう。その荷物持とうか?」

「えっ? でも胡蝶君に迷惑じゃ....」

「気にしねぇよ。ほら」

「....あ、ありがとう」

 俺は二乃から服の入った袋を持った。

 

「さて、次はどこに行くんだ?」

「えっと、次は....」

 

 

 〜〜〜〜

 

「ふぅ。こんなものかしら」

「結構買ったな....」

 あれから二時間ほど経ち、俺の両手に三つ、二乃の手に一つ袋があった。

 

「ごめんね、こんなに荷物持ってもらって」

「別に良い。気にすんな。それよりも、買うものはこれで全部か?」

「えぇ。これで全部よ」

「そうか。....にしても腹が減ったな」

 俺は携帯の時計を見てそう言った。

 

「そうね。それじゃあお昼ご飯食べに行きましょ」

「どこに行くか決めてるのか?」

「えぇ。ついてきて」

 そう言われ、俺は二乃についていった。

 

 

 〜〜〜〜

 

「....へぇ、こんなところに店あったんだな」

 俺と二乃はある洋食店にいた。

 

「この前五月とランチに食べに来て美味しかったのよ」

「そうだったのか」

 そう言って話していると注文した料理が運ばれてきた。

 

「へぇ、美味そうだな」

「でしょ? じゃあ温かいうちに食べましょ」

「あぁ。いただきます」

「いただきます」

 そう言って俺は注文したランチのパスタを食べた。そして、たわいのない話しを

 しながら食べ終わると二乃は何かデザートを頼んでいた。そして、注文し終わると

 二乃は俺の方を見てこう言ってきた。

 

「ねぇ胡蝶君。少し前から気になってた事があるんだけど....」

「気になっていた事?」

「えぇ。胡蝶君が言いたくないなら言わなくても良いから....」

 そう言った二乃の表情は真剣な表情だった。

 

「....わかった。それで、俺に聞きたい事って何だ?」

「....あのね、花火大会の時に言っていた”『俺と一緒』“ってどういう意味なの?」

「っ!」

 その言葉を聞いて、俺は身体に電気が走ったような感覚になった。

 

「(まさかそれについて聞いてくるとはな....そもそも覚えてたのか)」

 俺は過去の自分の失言に頭を痛めた。

 

「ずっと気になってたの。その言葉を言った時の胡蝶君、すごく辛そうな

 表情をしてたから....」

「マジか....上手いこと隠してたつもりだったんだがな」

 俺は自分でもわかるぐらい苦い表情になった。俺は適当にはぐらかそうと

 思ったが、二乃の真剣な表情を見て諦めた。

 

「まぁ、二乃なら良いか。口も硬いだろうし」

「じゃあ....」

「あぁ。話してやるよ。ただし、姉妹の四人にも言わないでくれ」

「わかったわ」

「なら良い」

 そう言って、俺は二乃の方を真っ直ぐ見た。

 

「俺のあの時言った言葉の意味はそのままの意味だ」

「そのまま意味って....もしかして....」

 二乃は何かを察した表情になった。

 

「二乃の思ってる通りだ。....俺の母さんはな、もう亡くなってるんだよ」

 

 

 

 

 



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一海の過去

「まぁ、正確に言うと父さんも亡くなってるがな」

「やっぱり....そうだったんだ」

 俺がそう言うと、二乃は納得したような表情になった。

 

「やっぱりってどういうことだ」

「花火大会の時、私に携帯を貸したでしょ? その時に、胡蝶君の携帯には

 ご両親の電話番号が無かったから」

「なるほどな....」

 そう言いながら、俺は携帯を取り出し一枚の写真を見せた。

 

「....これは?」

「俺の父さんと母さんだ」

「そう....すごく優しそうな人ね」

「....実際すごく優しかった。だからこそ、俺が今生きていられるのかもな」

「どういう事?」

「....五年前、俺の誕生日の七月七日に父さんと母さんと花火大会を見に行ったんだ。

 その帰り道、父さんと母さんは車に轢かれて、そのまま亡くなった....」

「っ!」

「今でも覚えてる。轢かれる瞬間、父さんと母さんが俺を抱きしめて守ってくれた事....

 そして、父さんと母さんが冷たくなっていく感触も....」

「....ご両親を轢いた人は?」

「逃げたよ。轢き逃げだ。だけど、警察には事故って事で処理された」

「嘘でしょ....」

 二乃はありえないと思ったような声でそう言った。

 

「本当の事だ。近くの監視カメラにも轢いた瞬間は映ってなかったし、目撃者も

 いなかったからそうなったらしい」

「酷い....そんな事って....」

「....俺も当時は諦めたさ。だけど、父さんと母さんの学生時代の友人の人が犯人を

 探してくれるって言ってな。それを聞いて、俺も自分なりに犯人を探してる」

「そうなんだ....」

 すると、二乃は不思議そうに聞いてきた。

 

「じゃあ、胡蝶君は今一人暮らしなの?」

「いや、父さんと母さんの親友だった人に引き取られた。二人が亡くなってから

 ずっと世話になりっぱなしだ」

「そうなのね....」

「....さてと、これで終わって良いか? あまりこの話はしたくからな....」

「えぇ。聞かせてくれてありがとう」

 そう言っていると店員が二乃のデザートを持ってきた。

 

「さて、さっさと食って買い物の続きに行こうぜ」

「そうね」

 

 

 〜〜〜〜

 

 その後、昼飯を食べた俺は二乃の買い物に再び付き合った。

 そして今、俺は二乃とある所に向かっていた。

 

「胡蝶君、これどこに向かっているの?」

「着いてからのお楽しみ、というかもう着いてるんだけどな」

 そう言って、俺はある店の前で止まった。

 

「ここって....」

「“胡蝶の夢”。聞いた事はないか?」

「そんな事あるわけないじゃない。この街で超有名なケーキ屋さんでしょ」

「その通り。ま、とりあえず入るぞ」

 そう言って俺は店の扉を開けた。

 

「いらっしゃいませ! って、カシラ!」

 店に入ると、店の制服を着た黄色のドックタグを付けた男がそう言った。

 

「聖吉....店の中で大声で叫ぶな」

「す、すいません....」

「....まぁ良い。次から気をつけろよ」

「は、はい....それよりも、隣にいる人は?」

 聖吉は二乃の方を見てそう聞いてきた。

 

「俺の友人だ。土産にケーキでも買ってやろうと思ってな」

「そうなんすね。じゃあこっちに来てください」

 そう言って聖吉はショーケースの方に案内した。

 

「じゃあ俺は戻りますね」

「おう」

 聖吉は元の場所に戻っていった。

 

「胡蝶君、今の人は?」

「学校の後輩だ。何でかわからんがカシラって呼ばれててな」

「そ、そうなのね....」

「あぁ。さて、二乃。好きなの選んで持って帰ってくれ。俺が代金を払うから」

「良いの?」

「あぁ」

「ありがとう。それじゃあ....」

 二乃は五つのケーキを選んだ。

 

「この五つだな。すいませーん!」

 俺は厨房の方に向かって店員を呼んだ。

 

「はいはーい! って、おかえりなさい一海君!」

「甘奈さん」

 出てきたのは店長の甘奈さんだった。

 

「思ったより早かった....」

 甘奈さんは二乃の方を見ると固まった。

 

「甘奈さん?」

「っ! な、何かな?」

「あの、土産にケーキを渡したいんで今から言うケーキを箱に入れてください」

 そう言って、俺は二乃が選んだケーキを言った。

 

「わかったよ。ちょっと待ってね」

 甘奈さんはすぐにケーキを持ち帰りの箱に入れてくれた。

 

「あ、代金は俺の給料から引いておいてください」

「わかったよ」

「じゃあ俺は家まで送って来ます」

 そう言ってケーキの入った箱を受け取って外に出ようとしたら....

 

「ちょっと待って」

 俺は甘奈さんに呼び止められた。

 

「あなた、名前はなんて言うの?」

 甘奈さんは二乃の方を見てそう聞いてきた。

 

「な、中野 二乃です。胡蝶君とは仲良くさせて貰っていて....」

「....二乃さんね。私は胡蝶 甘奈。一海君と仲良くしてあげてね」

「は、はい!」

「一海君、ちゃんと送ってあげるんだよ」

「わかりました。行くぞ二乃」

 そう言い、俺は二乃とともに外に出た。その時、俺は甘奈さんの呟きに

 気づかなかった。

 

「あの子....まさか....」

 

 

 〜〜〜〜

 

「今の人って....」

「俺の親代わり人だ。後、あの店は俺のバイト先兼家だ」

 二乃の家に向かっている途中、二乃にそう言って話していた。

 

「そうなんだ。優しそうな人ね」

「まぁな」

「(だけど何だったんだ....二乃を見た時に驚いてたみたいだが....)」

 俺は甘奈さんが二乃を見て驚いていた事に疑問を持った。

 

「なぁ二乃。甘奈さんとどこかで会ったことあるか?」

「あの店員さんと? 会ったこと無いと思うけど....」

「そうか....」

 そう話していると、二乃の住むマンションに着いた。

 

「ここまでで良いわ」

「そうか?」

「えぇ。今日はありがとう。私の買い物に付き合ってくれて」

「別に良い。俺も楽しかったからな」

「....そう。だったら、また買い物に付き合ってくれる?」

「あぁ」

「ありがとう! じゃあまた明日!」

「おう。じゃあな」

 そう言い、俺は家に向かって歩き出した。

 

 

 〜〜〜〜

 二乃side

 

「あ、二乃おかえり」

「おかえり〜。結構買ってきたね〜」

 家の中に入ると、一花と三玖が出迎えてくれた。

 

「二人ともただいま。これお土産」

 私は一花にケーキの入った箱を渡した。

 

「これは?」

「ケーキよ。胡蝶君がお土産で買ってくれたのよ」

「そうなんだ。後でお礼のメール送らないと」

「それよりも! カズミ君とはどうだったの? 何か進展はあった?」

「進展って....」

 私は今日一日あった事を思い出そうとした。

 

「まぁ、服とか褒めてくれたわ。後、胡蝶君の事について少し知れたわ」

「えぇー、それだけ?」

「そうよ。何か文句でもあるの?」

「文句はないけどさぁ....もうちょっと面白い話を聞けると思って

 期待してたんだけどなぁ〜」

「....あんた晩ご飯抜きにするわよ」

 私は一花にそう言うと、一花は慌てていた。

 

「や、やだなぁ〜。冗談だって」

「はぁ....まぁいいわ。一旦私は部屋に戻るから」

 そう言って、私は荷物を持って部屋に入った。

 

「(ふぅ、今日は楽しかったな....)」

 私は自分の持っていた袋を見てそう思った。

 

「(それにしても、胡蝶君にあんな過去があったなんて....)」

 私はお昼に聞いた胡蝶君の話を思い出していた。

 

「(....私達と同じ、か)」

 そんな事を思いながら、私は部屋を出た。

 

 

 

 

 




三原 聖吉
胡蝶の夢でバイトをしている少年
一海の学校の後輩で一海に恩があり、カシラと呼んで慕っている
普段は一海と同じ学年の大山 勝と相河 修也と行動している
一海からは何でも真面目にする良いやつと思われている


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林間学校 初日

「診察したが、いつもと変わらなかったよ一海君」

「そうですか」

 俺は今、病院に来て診察を受けていた。

 

「この一ヶ月、何か調子が悪くなった事は?」

「特に無いですね」

「そうか。薬はいつも通りの量で良いかい?」

「いえ。一日分多く出してもらっても良いですか? 明日から林間学校なんで」

「そうか。わかった、出しておこう」

「ありがとうございます」

 俺がそう言うと、先生は思い出したかのようにこう言ってきた。

 

「....あれからもう五年か。君も大きくなったね」

「....急にどうしたんですか」

「いや。子供が成長するのは早いものだと思ってね」

「そうですか」

「....あの二人も、今の君を見たらとても喜んだ事だろうね」

 そう言った先生の表情は悔しさに満ち溢れていた。

 

「....だと良いんですけど」

「....」

 俺と先生の間にはしばらく沈黙が続いた。

 

「....今度、二人に会いに行くよ」

「そうですか....父さんと母さんも喜びますよ」

 そう言って俺は席を立った。

 

「じゃあ、ありがとうございました。また来月来ます」

「あぁ。何かあればすぐに来るといい」

 その声を背中に聞き、俺は診察室から出た。

 

 

 〜〜〜〜

 

「あれ? カズミ?」

「三玖? それにお前ら....」

 俺が病院を出てからしばらくすると、偶然三玖達と出会った。

 

「胡蝶君、何してるんですか?」

「さっきまで病院に行ってたんだよ」

「病院って....どこか悪いの?」

 俺がそう言うと、二乃が心配そうに聞いてきた。

 

「まぁちょっとな。別に命に関わるような事じゃないけど」

「そう....」

「てか、お前らは何してたんだ?」

「私達はさっきまで上杉君の服を買いに行っていたんです」

「上杉の?」

 五月の言葉に俺は疑問を持った。

 

「上杉さん、全然服を持ってないらしいんです。だから、明日からの林間学校の

 ために服を買いに行っていたんです」

「そうだったのか。よく上杉も行ったな....」

 普段の上杉の事を思うと、珍しい事もあるんだなと俺は心の底から思った。

 

「まぁ無理矢理だったけど....」

「....そうか」

「(あいつも大変だな....)」

「でも明日から楽しみですね!」

「そうだな。じゃあさっさと帰った方がいいんじゃないか?」

 四葉の言葉に、俺はそう返した。

 

「それもそうですね」

「じゃあ帰ろっか! 胡蝶さん、また明日!」

「じゃあね」

「おう。じゃあな」

 そう言って、俺は四人と別れた。

 

 

 〜〜〜〜

 二乃side

 

「あ、そうだ二乃」

「何よ」

 家に帰って晩ご飯を食べていると、急に一花が何かを思い出したように

 私に声をかけてきた。

 

「カズミ君、キャンプファイヤーのダンスに誘えたの?」

「〜〜っ!? ゴホッ、ゴホッ!」

 一花の言葉に私は驚いてむせてしまった。

 

「大丈夫....?」

「きゅ、急に何聞いてくるのよ!」

 私は三玖から水の入ったコップを受け取って飲むと、一花にそう叫んだ。

 

「いやぁ、ちょっと気になってねぇ」

「べ、別にアンタには関係ないじゃない」

「でも、早く言わなくて良いの? カズミ君、私のクラスの女子にダンスに誘われてたよ」

「えっ....」

 一花の言葉に私は固まった。すると、それを聞いていた三人もこう言ってきた。

 

「....そういえば、この前私のクラスの女子にも誘われてた」

「あ! 私のクラスの人にも誘われてたよ! 五人ぐらい!」

「私のクラスの人も誘っている人はいましたね....」

「....嘘」

 三人の言葉を聞いて、私は信じることができなかった。

 

「嘘じゃないよ。でもその時返事はしてなかったけどね」

「まぁ、カズミ優しいから人気なんだろうね....」

「それに運動神経も良いもんね!」

「後カッコいいからね」

「成績も優秀ですからね」

「てか、よくよく考えてみるとカズミ君ハイスペックだね」

 そんな話を聞いていると、私はどんどん焦りが出てきた。

 

「ま、カズミ君の周りはそんな感じ。後は二乃次第だよ」

「う、うるさいわね....」

 そう言いながら、私は自分の携帯を見ていた。

 

 

 〜〜〜〜

 次の日

 

「はぁ....」

 結局私は、胡蝶君をダンスに誘えずじまいだった。

 

「(誘うだけでこんなに悩むなんて....どうしたら....)」

 そう考えていたら....

 

「二乃?」

「っ!? こ、胡蝶君!」

 急に後ろから胡蝶君が声をかけてきた。

 

「どうかしたのか? さっきから何か考え込んでたが....」

「な、何でもない....っ!」

「(これ、もしかしてチャンスなんじゃ....!)」

 ちょうど今、私達の周りには人が少なかったからダンスに誘うには絶好のチャンスだった。

 

「ね、ねぇ胡蝶君」

「なんだ?」

「あ、あの....もし良かったらなんだけど....キャンプファイヤーの時、私と....!」

 そう、続きを言おうとしたその瞬間....

 

「あ! 二乃いた!」

 四葉がそう言って私の腕を掴んできた。

 

「四葉!?」

「二乃、ここにいたんですね」

「五月! それに一花と三玖まで!」

 四葉の後ろには一花と三玖、五月がいた。

 

「胡蝶君も一緒だったんですね。ちょうど良かったです」

「ちょうど良かった?」

「説明は後でするから。今は一緒についてきて」

「はぁ?」

 一花はそう言って胡蝶君を連れて行った。

 

「ちょ、ちょっと一花!」

「ほら、二乃も行くよ」

「急いで急いで!」

 私も三玖と四葉に背中を押されてどこかに連れて行かれた。

 

 

 

 

 

 

 



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旅館

「(何故こうなった....)ドロツー」

「ま、またですか!?」

 俺は今、中野家の車に乗ってU◯Oをしていた。

 何故俺が中野家の車に乗っているかというと、上杉を林間学校に連れて行くためだ。

 上杉はらいはちゃんが風邪を引いた為、林間学校に行こうとしなかったが、勇也さんが

 どうにか説得して俺が上杉を車の中に連れ込んだ。

 そして今、俺達は学校のバスを追いかけているのだが....

 

「てか、いつになったら動くんだろうな....」

 俺達は今、猛吹雪の影響で道を進めていなかった。

 

 

 〜〜〜〜

 

「おぉ! 良い部屋だな!」

「言っとる場合か....」

「そうですよ。ここ五人部屋ですよ」

 あの後、結局先に進めず俺達はある旅館で一泊することを決めて旅館の部屋に来ていた。

 

「なんで他の部屋が空いてないのよ!」

「団体のお客さんが急に入ったらしいよ」

「車は?」

「仕事があるって言って帰ったよ」

「じゃあ外は?」

「....二乃、それはマジで死人が出るぞ」

 二乃が言っているのは犬小屋の事だった。

 

「まぁまぁ、一晩だけだって」

 一花はそう言って二乃をなだめるが、二乃は怪訝そうな表情で上杉を見ていた。

 

「そうだぜ二乃! 文句を言ってないで楽しもうぜ! こんなに良い旅館なんだ!」

「....女子集合」

 上杉がそう言った瞬間、二乃達は端っこの方に集まった。

 

「(こんなにテンションが高い上杉は見た事がないな....)」

 俺は上杉の様子を不思議に思った。すると、上杉はカバンから何かを取り出し見ていた。

 

「何見てるんだ?」

「ん? あぁ、これか」

 上杉が見ていたものはらいはちゃんからの手紙だった。

 

「らいはちゃんからか」

「あぁ。楽しんで来てくれってさ」

「良い妹だな」

「あぁ」

 すると、上杉はカバンからトランプを取り出して五人に近づいて行った。

 

「やろうぜ!」

「へっ!?」

「トランプ! やろうぜ!」

「(....何かテンションが空回りしてるような)」

 心でそう思ったが、俺は口には出さずに一緒にトランプをした。

 

 〜数時間後〜

 

「スゲェな! タッパーに入れて持ち帰りたい!」

「やめろ」

「やめてください」

 上杉の言葉に、俺と五月はそう言った。

 

「でも、こんなの食べたら明日のカレーが見劣りしそうだね」

「言うなよ四葉....」

「そういえば、林間学校のスケジュール見てなかったかも」

「二日目の主なイベントはオリエンテーリングに飯盒炊飯、夜は肝試しで、三日目は自由参加の

 登山にスキー、釣り、そしてキャンプファイヤーだ」

 一花の不意な発言に、上杉は滑らかにそう言った。

 

「何で全部暗記してるの....?」

 一花は上杉がスラスラと言ったことに驚きながらも少し引いていた。

 

「あ! 後、キャンプファイヤーの伝説の詳細がわかったんですけど....」

「またその話か」

「伝説?」

「伝説って何だ?」

 四葉の言葉に、俺と一花はそう返した。

 

「知らないんですか! 林間学校のキャンプファイヤーのフィナーレで踊った

 ペアは生涯を添い遂げる縁で結ばれるんです!」

「そんなジンクスがあるのか....」

「でも、本当はですね....」

「そんな話はいいでしょ。胡蝶君以外、誰からも誘われてないんだから」

 二乃の発言に部屋は静まった。

 

「....意外だな。上杉はわかるが、五人とも誰からも誘われなかったのか」

「「っ!」」

「あ、あはは....」

 俺の発言に一花と三玖は一瞬驚いたような表情をし、四葉は苦笑いしていた。

 

「胡蝶君は誰かと踊る約束をしたんですか?」

 五月は不思議そうに聞いてきた。

 

「いや。誘われはしたが全部断った」

「全部ですか!」

「あぁ。あんまり話したことのない奴等ばかりだったからな。それに、踊るんだったら....」

 そう言いながら、俺は二乃の方を見た。

 

「っ、何?」

「っ! いや、何でもない....」

 俺はすぐに視線を逸らした。すると、一花は旅館のパンフレットを見ていて急にこう言った。

 

「へぇ、ここ露天風呂があるんだ。....え、混浴?」

 一花がそう言った瞬間、二乃と五月の手が止まった。

 

「お風呂まで一緒なの!?」

「言語道断です!」

「いや別で入れば良いだろ」

 俺は二乃と五月にそう言った。

 

「あ、ごめん。温浴だった」

「おい一花....」はぁ

 俺は一花の勘違いに呆れてため息が出た。

 

 〜〜〜〜

 二乃side

 

「いやぁ、広いねぇ」

 湯船に入るや否や、一花はそう言った。

 

「そうだねー」

「それに、みんなでお風呂に入るなんて何年振りでしょうか」

「確かに....」

 四人は呑気にそう言っているが、私はある事が気になって仕方がなかった。

 

「二乃、どうかしたの?」

 私の様子がおかしいのを気づいたのか一花がそう聞いてきた。

 

「今日のアイツ、明らかにおかしいわよね」

 アイツというのは上杉のことだ。

 

「上杉さん、普段旅行とか行かないのかな?」

「まるで徹夜明けのテンションでしたね....」

「それが問題なのよ。あの狭い部屋にお布団が七枚....誰がアイツの隣で寝るか」

 私がそう言うと、四人はそれぞれ考え始めた。

 

「....二乃、考えすぎじゃない? 私達、ただの友達なんだし」

「そうだよ! 上杉さんはそんな人じゃないよ!」

 一花の発言に四葉は同感だという様子でそう言った。

 

「じゃああんたが隣で良いのね?」

「うえっ!?」

「アイツはそんな奴じゃないんでしょう。なら心配ないでしょ?」

「そ、それは....どうなんだろう....」

 私が四葉にそう言うと、四葉は顔を赤らめて湯船に沈んでいった。さらにリボンも

 垂れていった。

 

「(ダメなんじゃない....)」

「では二乃で良いんじゃないですか?」

 私がそう考えていると、急に五月がそう言ってきた。

 

「五月! なんで私なのよ!」

「二乃なら殴ってでも抵抗してくれそうなので」

「ご飯抜きにするわよアンタ....一花、あんたなら気にしないんじゃない?」

「おっと、私に来たか....」

 私は五月を睨みながら一花にそう言った。

 

「ただの友達なんでしょ」

「....うん。フータロー君は、いい友達だよ」

 一花は一瞬何かを考えていたが、すぐにそう言った。

 

「そう。じゃあアンタが....」

「待って!」

 すると、さっきまで静かだった三玖が急に立ち上がった。

 

「平等! みんな平等にしよう!」

「平等....?」

 三玖の言葉に、私達全員意味がわからなかった。

 

 

 〜〜〜〜

 

「なるほど....考えたわね」

「誰も隣に行きたくないなら....」

「全員が隣に行けば良い....」

「まぁ、誰かもわからない相手に手も出さないだろうし....」

「少なくともフータローから見たら....」

 私達五人の姿は前髪を両サイドに分けて誰が誰か分からない状態だった。

 

「それよりも、一つ思う事があるんですが....」

 部屋に戻って歩いている時、急に五月がそう言った。

 

「どうしたの?」

「上杉君ばかり言いますが、胡蝶君はどうするんですか?」

 それを聞いて私達の足は止まった。

 

「....今の今まで普通に忘れてたね」

「本当だね....」

「だ、大丈夫でしょ。胡蝶君だし....」

「いやぁ、どうだろ? 意外にカズミくんの方が危険だったりして....」

 一花の言葉に私達は困惑した。

 

「....と、とにかく部屋に着いてから決めましょう!」

「そ、そうだね....」

 五月の言葉に私達は賛成して部屋の前まで歩いた。

 

「....じゃあ、行くわよ」

 そう言って私は扉を開いて中に入った。だが、既に上杉と胡蝶君はそれぞれ

 眠りについてしまっていた。

 

「....私達も寝ましょうか」

「そうだね....」

 そう言って私達はそれぞれ布団に入ろうとした。すると、一花が肩を叩いてきた。

 

「二乃」

「何よ一花」

「....カズミ君の隣だからって襲っちゃダメだよ」

 一花は私の耳元でそう言ってきた。

 

「〜〜〜〜っ!? ア、アンタ何言って....!」////

「じゃあおやすみ〜」

 一花は私の様子を見て笑いながら布団の中に入ってしまった。

 

「(な、何で余計なことを言うのよ....!)」///

 私は逃げるように布団に潜ったが、隣に胡蝶君がいる事を思い出して

 なかなか眠りにつけなかった。

 

 

 

 

 

 



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二乃の怒り

「....ぁ、はぁ、はぁ」

「(....? 何、この苦しそうな声....)」

 真夜中に、私は誰かの苦しそうな声で目が覚めた。その声は私のすぐ隣から

 聞こえてきた。

 

「(胡蝶君....?)」

 私は寝返りを打って胡蝶君の方を見ると、胡蝶君は身体を起こして顔を半分

 押さえていた。そして押さえていない方からキラリと光る何かが見えた。

 

「胡蝶君....?」

「っ!?」

 私が胡蝶君に声をかけた瞬間、胡蝶君は肩を震わせた。そして、胡蝶君は私の方を見てきた。

 その時、私は光ったものの正体がわかった。

 光ったものの正体は胡蝶君の涙だった。

 

「っ! 胡蝶君!」

 私は起き上がって胡蝶君に近づいた。

 

「どうしたの! 大丈夫?」

「っ、二乃か....悪い、起こしたか?」

「そんな事はどうでも良いわ。それよりも、急に泣き出してどうしたの?」

「....大丈夫だ。ちょっと夢見が悪かっただけだから」

 胡蝶君は普段と変わらない様な様子でそう言うが、その声は普段と比べ物にならないほど

 悲しそうで寂しそうな声だった。

 

「っ、そんな声で大丈夫なんて言わないでよ! ちょっと来て!」

「お、おい二乃....」

 私は胡蝶君の手を引いて部屋を出た。

 

 

 〜〜〜〜

 

「....水で良かった?」

「....あぁ。悪いな」

 私と胡蝶君は旅館の入り口の近くにある自販機の前で座っていた。

 胡蝶君は既に涙は止まっていたが、目は真っ赤に腫れていた。

 

「....本当に悪いな。こんな時間に起こして....」

 胡蝶君は申し訳なさそうに言ってきた。

 

「別に良いって言ったじゃない....それよりも、どうして泣いていたの?」

「....」

「それに、いつもとは想像できないような声をしてたけど....」

「....分かるものなのか」

「まぁね....」

「そうか....」

 胡蝶君がそう言ってからしばらく沈黙が続いた。そして....

 

「....夢を見るんだ」

「えっ....?」

 胡蝶君は不意にそう言った。

 

「一ヶ月に一回か二回な....父さんと母さんが死ぬ夢を」

「っ!?」

 胡蝶君の言葉に驚いて私は言葉を失った。

 

「車に轢かれて、二人は血だらけになって....俺はそれを近くで見てるのに何もできなくて....」

「....」

「それに、轢いた犯人の顔すら見えないんだ....すぐ近くなのに....!」

 胡蝶君は悔しそうに手を握りしめていた。

 

「....俺は自分が嫌いになるんだ。あの時、俺が何か出来ていれば父さんと母さんは

 生きていたんじゃないか。犯人は捕まっていたんじゃないかってな....」

「....」

「それに、あの時死んだのが俺だったら....」

「っ!」

 胡蝶君がそう言った瞬間、私は立ち上がって胡蝶君の頬を叩いていた。

 

「っ....!」

「やめてよ....そんな事言わないでよ!」

「二乃....」

「自分が死んだら良かったみたいな事言わないで! そんな事を言ったら、命がけで

 胡蝶君を守ったご両親が報われないわ!」

「....っ」

「それに、胡蝶君が死んでたら私はこうして胡蝶君と出会えなかった。私は、胡蝶君の

 お陰で色々と変われた気がするの。だから、そんな悲しい事言わないでよ....」ポロポロ

 私はそう言いながら、気づけば涙を流していた。

 

「....すまない。確かに、二乃の言ってる事は正しいな....」

「....私に謝る前に、ご両親に謝ってあげて」ポロポロ

「あぁ。林間学校が終わったら謝りに行ってくる」

 胡蝶君はそう言うと、私にハンカチを貸してくれた。

 

「あ、ありがとう....」

「礼を言うのは俺の方だ。....二乃のお陰で、少し気が楽になった」

 そう言った胡蝶君の声はいつもの様な声に戻っていた。

 

「そろそろ戻ろうか。寝ないと明日に響くからな....」

「そうね。じゃあ....」

 私は胡蝶君の前に手を出した。

 

「?」

「手、握って」

「えっ....」

「こんなに暗いと怖いから。だから....」

「....わかった」

 胡蝶君はそう言って私の手を握ってくれた。

 

「じゃあ行こうか」

「えぇ」

 そう言って、私達は部屋に向かって歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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肝試しのひと時

 次の日

 

「....にしても驚いたな。まさか同じ旅館に他の生徒も泊まってるなんて」

「そ、そうね....」

 俺と二乃は暗い森の中を歩きながらそう話していた。

 俺達が泊まっていた旅館には、偶然にも同じ学校の生徒達も泊まっていた。

 生徒達の乗っていたバスも雪で足止めを食らったらしい。

 俺達はその旅館で合流してバスに乗って林間学校先にきて、飯盒炊爨と

 オリエーテーションを行い、現在肝試しを行なっていた。

 そして、俺の隣では二乃が震えながらも俺の腕に抱きつきながら歩いていた。

 

「てか二乃、肝試しとか苦手じゃないのか? 昨日の夜も怖がってたし....」

「そうよ....でも、一人で残るのはもっと嫌だった....」

 二乃がそう言っている時、急に草むらから音が聞こえた。そして、そこから

 ゾンビのメイクをした男が現れた。

 

「い、いやぁぁぁ!?」

 二乃は俺の背中に回って俺の服を掴んで震えていた。だが、俺はその

 メイクをした男に見覚えがあった。

 

「....修也、その辺にしておいやってくれ」

「....ん? カシラじゃねぇか!」

 ゾンビのメイクをした修也は俺がいる事に驚いていた。

 

「カシラも参加してたのか!」

「まぁな。....それよりも、よく似合ってんじゃねぇか。まるで本物だな」

「おいおい! それは俺がゾンビみたいって意味に聞こえんだが?」

「....」

 修也の言葉に俺は目をそらした。

 

「目をそらすな!」

「....あぁ、悪りぃ悪りぃ」

「ったく....で、そっちの人は?」

「クラスメイトの二乃だ。二乃、コイツは三組の相河 修也だ。顔は悪人ヅラだが

 良い奴だから安心しろ」

「ど、どうも....」

 二乃は怯えながらも、俺の背中から挨拶していた。

 

「どうも。にしても、カシラが参加するなんて意外だな」

「まぁ、俺にも色々あるんだよ....」

「へぇ。そういや、キャンプファイヤーのダンスの相手って決まってたか?」

 修也はふと、そう聞いてきた。

 

「....まだ決まってねぇよ」

「参加するならさっさと決めてくれよ。クラスの女子にカシラの相手がいないかって

 聞かれてんだよ」

 修也は疲れたようにそう言ってきた。

 

「わかってる。それに、一応誘おうと思ってる奴はいるんだよ」

「えっ....」

「マジか!」

 俺の言葉に、二乃は言葉を失い、修也は声を上げて驚いた。

 

「誰なんだよ? 俺のクラスか?」

「....言わねぇ」

「はぁ....だと思った。ま、勝にも伝えておくぜ」

「好きにしろ。....じゃあ俺達は行くぞ」

「おう。....アンタも気をつけろよ。脅かすのは後一人だが、そいつめちゃくちゃ気合い

 入れてたからな」

 修也は二乃にそう言って、自分の隠れている場所に戻っていった。

 

「....二乃、行くぞ」

「....えぇ」

 二乃はどこか寂しそうな声でそう言った。その時、俺は二乃の悲しそうな表情に

 気づく事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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キャンプファイヤーと過去の記憶

 次の日

 

 俺は修也、勝、龍牙、小倉とゲレンデにいた。

 

「どうだ! 俺の方が速いだろ!」

「はっ! 舐めてんじゃねぇ!」

「負けるかぁぁ!」

「....そういえば、中野さん相手いたの?」

 修也、勝、龍牙が滑るスピードを競争している時、不意に小倉がそう聞いてきた。

 

「今のところいないらしい」

「へぇ、良かったね。このまま行けば、私の案が使えるね」

「あぁ。....ありがとな小倉」

「良いよ良いよ。龍牙の時、すごく助けてもらったから。それのお返しだよ」

 小倉は笑顔でそう言ってきた。

 

「それにしても驚いたよ。今まで女子の告白全部断ってきた胡蝶君に好きな人ができるなんて。

 どうしてそんなに好きになったの?」

「そうだな....可愛いし、優しいし、料理は上手いし、気遣いもできるし、家族思いだし、

 それに....」

「それに?」

「....真剣に、俺のことを怒ってくれるとこだな」

「....へぇ」

 小倉は少し驚いた表情でそう言った。

 

「何だか、憑き物が取れたような表情だね」

「そうか?」

「うん。....上手く行ったらいいね」

「あぁ....」

 そう話していると、急に携帯が鳴った。

 

「悪い」

 俺は小倉に一言謝って電話を出た。

 

「もしもし」

『はぁ、はぁ....一海、今何処にいる?』

「上杉か。俺は今上級者コースの所にいるぞ。てかお前、動いて大丈夫なのかよ」

 上杉は昨日、キャンプファイヤーの道具を置いている小屋に一花と閉じ込められて、

 スプリンクラーを大量に浴びて今日の朝、顔色が悪そうだった。

 

『あぁ....それよりも、そこに五月はいるか?』

「五月?」

 俺は周囲を見渡したが、五月の姿はなかった。

 

「俺の周りには見当たらないが....五月がどうかしたのか?」

『実は、五月が遭難したかもしれないんだ』

「遭難って....」

『俺や一花達も探してるんだが、何処にもいないんだよ』

「....とにかく話しはわかった。俺の方でも探してみる」

『すまん....頼んだぞ』

 そう言って電話は切れた。

 

「電話、何だったの?」

 携帯をポケットに直すと小倉がそう聞いてきた。

 

「何か、五月が遭難したらしい」

「五月って、中野さんの妹さん?」

「どの中野だよ....」

「えっと....三玖さん」

「そうだ。とりあえず俺はこの近くにいないか探して来るから、龍牙達に伝えて

 おいてくれないか?」

「わかったよ。それと、龍牙が戻ってきたら私達も探してみるよ」

「そうか....ありがとな」

 俺はそう言ってゲレンデを滑り始めた。

 

 〜〜〜〜

 

「ここにはいないか....」

 三回ほど滑り辺りを見渡したが、五月の姿は何処にもなかった。

 

「ここじゃないとすると、他のコースかロッジの中だな....」

 すると、急に携帯が鳴った。電話をかけてきたのは勝だった。

 

『あ、カシラ! 今俺達、中級者コースにいるんだが中野さんは見当たらなかったぜ』

「そうか」

『それと、小倉さんも初級者コースを見てくれたらしいんだがいなかったって

 さっき連絡が来た』

「わかった」

 俺がそう言うと電話は切れた。

 

「(となると、探してないのはロッジの中だけか)」

 そう思い、俺はロッジの方に向かって走り出した。

 

 〜〜〜〜

 

「ここにもいないのか....」

 俺はロッジの中を見回ったが、五月の姿は何処にもなかった。

 

「胡蝶君!」

 すると、前から二乃が走ってきた。

 

「二乃....五月は見つかったか?」

「....まだ見つかってないわ。居そうな所は全部探したんだけど....」

「そうか....上杉の方は」

「わからないわ」

「なら、一度何処かで集まるぞ。情報を共有しておいた方がいい」

 そう言って、俺は上杉達に連絡した。そして十分後、上杉達四人はロッジに集まった。

 

「五月は?」

「はぁ....はぁ....俺達が探した所にはいなかった」

「コッチも隅から隅まで探したんですけど見つかりませんでした....」

 上杉と四葉は気落ちしたようにそう言った。

 

「そうなってくると、後探していないのは....」

 俺は机にスキー場のマップを広げた。すると、四葉がある場所を指差した。

 

「そういえば、ここはまだ調べてません」

「ここって....」

「確か、立ち入り禁止の場所じゃ....」

 四葉が指を差した場所は整備をされていない危険な場所だった。

 

「流石にそこにいたらどうしようもないな....レスキューの部隊の人に頼みに行くか」

「そうね。それが一番だわ」

「じゃあ私は先生に言ってきます!」

「ちょ、ちょっと待って!」

 すると、突然一花が俺達を止めた。

 

「もう少しみんなで探してみようよ」

「何でよ。胡蝶君が言った通り、最悪レスキューが必要になるかもしれないのよ」

「えっと....五月ちゃんもあまり大事にしたくないんじゃないかなぁと思って」

 一花は、どこか歯切れが悪そうにそう言った。

 

「....大事って、呆れた。五月の命がかかってんのよ! 気楽にしていられないわ!」

 二乃は一花の胸ぐらを掴んでそう言った。

 

「....ごめんね」

 一花は申し訳なさそうに二乃に謝った。

 

「....もういいわ。私が先生を呼んで....」

「待ってくれ二乃」

 二乃が歩き出そうとした時、今度は上杉が二乃を止めた。

 

「....何よ」

「俺に心当たりがある。だから少しだけ待っていてくれ」

「上杉....」

「頼む」

 上杉は真剣な表情で俺達に頭を下げた。

 

「....わかったわ」

「二乃....」

「ただし十分だけよ。十分を超えたらすぐに先生に言いに行くわ」

「それだけあれば十分だ。悪いが一花、付いてきてくれ」

 上杉はそう言うと、一花を連れて何処かに歩いて行った。

 

 〜〜〜〜

 

「はぁ....」

「(後味が悪いな....)」

 あの後、上杉は五月を発見した。だが、無茶をして五月を探したため風邪が悪化し、五月を

 見つけた瞬間に倒れたらしい。その後、俺は五月から電話をもらって上杉をロッジまで運んだ。

 そして、上杉は現在部屋の中で眠りについていた。そして、俺はキャンプファイヤーの炎を

 眺めていた。

 

「(こんな中で誘うのは、アイツに少し気が引けるな....)」

 あの時、無理にでも上杉を止めていればアイツは倒れる事は無かったかもしれない。

 そう考えると、どうにも俺は二乃を誘おうとする事が出来なかった。

 すると....

 

「....胡蝶君?」

 突然後ろから二乃の声が聞こえてきた。

 

「二乃....」

「こんな所で何してるの? 誰かをダンスに誘うんじゃ....」

「あぁ....上杉の事があったからやめた」

「....良かったの、それで?」

 二乃は俺の隣に座り、不思議そうに聞いてきた。

 

「親友がぶっ倒れてんのに俺一人で楽しむのは流石に気が引ける」

「....そっか」

 そう話しているうちに、キャンプファイヤーはフィナーレを迎えようとしていた。

 

「....そろそろロッジの方に戻りましょうか」

「....そうだな」

 そう言って二乃は階段を下りようとした瞬間、足を踏み外した。

 

「っ、二乃!」

 俺は咄嗟に腕を伸ばして二乃の腕を手を掴んだ。

 

「あ、ありがとう....」

「....気にするな。それよりも、足とか捻ってないか?」

「え、えぇ。大丈夫よ」

「そうか....なら良かった」

 そう話していた時に、ちょうど花火が打ち上がった。

 

「....綺麗ね」

「....あぁ、そうだな」

 その時、俺と二乃の手は固く握られていた。

 

 

 〜〜〜〜

 

「つぅわけで、悪いな。せっかく一緒に色々考えてくれたのに....」

『良いよ良いよ。気にしないで』

 キャンプファイヤーが終わり、俺は駐車場から小倉に電話していた。

 

『また何かあったら遠慮なく言って。私も精一杯協力するから』

「あぁ。ありがとな小倉」

 俺は一言礼を言って電話を切った。そして、俺はロッジの方に戻ろうとした時、ふと

 とある車が目に止まった。その車は何処にでもありそうな白い軽自動車だった。

 そして次の瞬間、あの時の記憶がフラッシュバックした。

 

「っ....!」

 俺は急な頭痛で地面に膝をついた。そして、次に俺が見たのは父さんと母さんに

 抱きしめられている子供の頃の俺の姿だった。そして、すぐ近くには白色の軽自動車がいた。

 その車のボディの下の部分には赤い液体が付いており、車は逃げるように走っていった。

 俺は車に手を伸ばしたが、車の姿は消え、俺は元の駐車場にいた。

 

「今のは....俺の記憶なのか....?」

 俺は車に向かって伸ばした手を見てそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 



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少しの進展

 林間学校が終わった次の日、俺は父さんと母さんの墓掃除をしに墓地に行った。

 そして、その帰り道、俺はとある喫茶店を訪れていた。

 

「いらっしゃっい....って、一海君」

「美空さん。幻さん来てますか?」

 俺は厨房でコーヒーを淹れている店員の美空さんにそう聞いた。

 

「奥のテーブル席に座ってるよ」

「分かりました。あ、それとカフェオレ一つお願いします」

「はーい」

 俺は美空さんにそう言って奥の席に向かった。そして、奥の席に行くと一人の

 男性が座っていた。

 

「幻さん、お久しぶりです」

「あぁ、久しぶりだな一海君」

 そこに座っていたのは、俺の父さんと母さんの同級生で、私立探偵をしている

 氷室 幻徳さんだった。

 

「また少し背が大きくなったか?」

「そんなに変わってないと思いますよ。幻さんは....何か、髭が伸びましたね」

「最近伸ばし始めたんだよ。....それで、俺に話しておかないといけない事って?」

「....実は、父さんと母さんを轢いたかもしれない車を思い出したんです」

 そう言うと、幻さんの表情は変わった。

 

「....その車はどんな?」

「白の軽自動車です。確かメーカーは〇〇〇でした」

「〇〇〇か....わかった。今受けている依頼が終われば俺の方でも調べておこう」

「お願いします。....それともう一つ。車が走っていった方向的に、恐らく大府市の方に

 行ったと思います」

「そうか。貴重な情報をどうもありがとう」

「いえ、礼を言うのは俺の方ですよ」

 そう話していると、急に幻さんの携帯が鳴った。

 

「すまない。少し出てくる」

「はい」

 幻さんは携帯を持って席から離れていった。すると、入れ違いで美空さんがやって来た。

 

「あれ、氷室は?」

「電話がかかってきたみたいで外に行きましたよ」

「そ」

 美空さんは俺の前にカフェオレを置くと、幻さんの座っていた席に座った。

 

「....犯人、見つかりそう?」

 すると、美空さんは心配そうな表情で聞いてきた。

 

「....絶対に見つけますよ。絶対に」

「....無茶はしないでね。一海君、一樹と似てるから心配だよ」

「....大丈夫ですよ。犯人を見つけるまでは、死んでも生き返ってやりますよ」

 そう言って話していると、幻さんが戻ってきた。

 

「すまない一海君。少し用事ができてしまった」

「わかりました。わざわざ時間を取ってくれてありがとうございます」

「何か分かったらまた連絡してくれ。石動、釣りは一海君にあげてくれ」

 そう言って、幻さんは財布から千円札を二枚取り出して机に置き、カバンを持って

 店の外に出て行った。

 

「....アイツ、最近忙しいらしくてね。この前も紗羽ちゃんと仕事の話ししてたよ」

「紗羽さんですか....」

 紗羽さんとは、父さんと母さんの同級生でフリーのジャーナリストの人だ。

 

「大変ですね。探偵って仕事も」

「ま、警察にいた時よりは良いんじゃない? 人間関係はそこまで困らないし」

 そう話しているうちに、俺はカフェラテを飲み終わった。

 

「お代わりいる?」

「いえ、今日はこの辺で。ちょっと上杉の見舞いに行かないといけないので」

「風太郎君、何かあったの?」

「熱出てるのに無理して倒れたんですよ」

「そうなんだ。お大事にって言っておいて」

「分かりました。それじゃ、また来月に来ますね」

 俺はそう言うと、店の外に出て上杉がいる病院に向かった。

 

 

 

 

 




氷室 幻徳
一海の父親、神谷 一樹の小学校時代からの友人
元々は警察官だったが、ある事件をキッカケに退職
それからは私立探偵として一海の両親の犯人を追っている

石動 美空
一海の母親、神谷 奈緒の友人
実家のカフェであるnascitaで働いており、一海や幻徳が集めた
事件の情報を他の同級生に伝えている
同級生には毒を吐く事が多いが、奈緒の息子である一海には優しい


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見舞い

「だいぶ顔色は良くなってるな」

「あぁ。かなり体調は良くなったからな」

「そうか。あ、これ見舞いの品な」

「わざわざ悪いな」

 俺は上杉が入院している病院に来ていた。そして、俺はポカリやらフルーツが入った袋を

 ベッドの横にある荷物置きに置いた。

 

「今更だが、よくこんな高そうな部屋に入院できたな」

「アイツらの親父さんが入院費を出してくれるんだとよ。俺としては助かったけどな」

「へぇ....」

「(二乃の親父さん、医療関係の仕事だったのか)」

 そう考えていると、突然扉が開いた。

 

「はぁ、はぁ....」

 中に入ってきたのは、何故か汗をかいている二乃だった。

 

「二乃」

「こ、胡蝶君!」

 二乃は俺がここにいる事に驚いている様だった。

 

「どうした? そんな汗だくで」

「ちょっと厄介な事に巻き込まれてるの。悪いけど、私がここにいるのを黙ってて」

 そう言うと、二乃は上杉が寝ているベッドの向かいのベッドに隠れた。

 

「何だったんだ?」

「....さぁ?」

 そうして話していると、再び扉が開かれた。

 

「上杉さん! ここに二乃が来ませんでしたか?」

 入院室の外から顔を見せたのは四葉だった。その後ろには、何故か一花と三玖もいた。

 

「お前ら....」

「あれ? カズミ君もいたんだ?」

「学校を休んでフータローのお見舞い来てたの?」

「違う。用事の帰りにここに寄っただけだ」

 そう言いながら俺は立ち上がった。

 

「ま、渡す物は渡したし俺は先に帰るぞ。上杉、さっさと治せよ」

 俺はそう言うと上杉の病室から出た。そして、俺が病院を出ようとした時、自販機で何かを

 買っている五月を見かけた。すると、五月は俺に気づいたのか俺に近づいてきた。

 

「こんにちは胡蝶君。こんなところで何をしているんですか?」

「上杉の見舞いだ。お前も一花達と同じで上杉の見舞いか?」

「....まぁそんなところです」

「そうか。....んじゃ、また明日」

 そう言って俺が立ち去ろうとした時....

 

「あ、胡蝶君」

 俺は五月に呼び止められた。

 

「何だ?」

「あの、体調は大丈夫なんですか?」

「体調?」

「その、林間学校の帰り、顔色が悪そうだったので....」

「....あぁ。もうすっかり良くなった。明日は普通に学校に行く」

「そ、そうですか....」

「....んじゃ、また明日な」

 そう言って、俺は五月にそう言ってその場から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜その頃〜

 

「もしもし。今大丈夫か?」

『えぇ。大丈夫ですが、どうかしたんですか? 氷室さん』

「....今日、神谷達を轢き殺した車のメーカーと車体が分かった」

『っ!? 何処からその情報を....』

「一海君だ。記憶が少しだが戻ったらしい」

『一海君が....』

「悪いが、お前の方でも調べておいてくれないか?」

『分かりました。何か分かったら連絡しますよ』

「あぁ。頼んだぞ、()()

 

 

 




内海 成彰
警視庁特別捜査官 サイバー犯罪捜査官の巡査部長
氷室や石動、神谷夫妻の同級生
警察を退職した氷室の代わりに警察内部で神谷夫妻を殺害した犯人を追っている


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五人を見極めろ

「....何やってんだお前ら」

 上杉が退院して数日後、俺が中野家に来ると二乃達五人は何故か髪型を一緒にして

 上杉の前に立っていた。

 

「一海! 良いところに来てくれた! お前も手伝ってくれ!」

「いや何をだよ....」

「コイツらを見分ける方法をだ! コレを見てくれ!」

 そう言って、上杉は俺の前に0点のテスト用紙を五枚見せてきた。そのテスト用紙の

 名前の部分は破り捨てられていたが....

 

「これはさっき、お前が来る十分前に来た時に会ったやつが落とした物だ。顔は

 見たんだが風呂上がりで誰か分からなくてな....」

「へぇ....」

 そう言いながら、俺は五人の方を見た。

 

「とりあえず、一番左は二乃だろ」

「「「「「っ!」」」」」

 そう言った瞬間、上杉以外の五人は驚いた様な表情をした。

 

「ん? もしかして違ったか?」

「い、いえ....胡蝶君の言う通り、私が二乃よ」

 俺が言った場所にいた二乃はそう言ってきた。

 

「マ、マジか....何で分かったんだ?」

「....まぁ、普通に見てそう思ったからか」

「じゃ、じゃあ残りの四人はどうだ?」

 上杉にそう言われ、俺は残りの四人の方を見た。

 

「(....とりあえず、髪の長さ的に一番右が一花。その横が四葉だな。服に428って

 あるし。問題は五月と三玖だが....左の方が三玖っぽいな)」

「右から一花、四葉、五月、三玖だな」

「おぉ!」

「胡蝶さん大正解です!」

「っ! 凄いですね....」

「よく分かったね....」

 俺の言葉に、四人はそれぞれ驚いた様にそう言ってきた。

 

「す、すげぇ....一海! どうして分かったんだ!」

「一花は五人の中で一番髪が短い。四葉は一花の次に髪が短くて服に428があった。

 五月と三玖は悩んだが服装を見てわかった」

「そ、そんな見分け方が....」

「まぁ、言っちゃ悪いが上杉、お前だとこの見分け方は難しいぞ。周りにあまりにも

 興味がないお前じゃ」

「ぐっ....確かに....」

「うわぁ....カズミ君容赦ないね」

 一花は呑気そうにそう言っていた。

 

「事実そうだからな。というか本人達に聞けよ。良い見分け方を」

「それならありますよ!」

 すると、髪型を戻しリボンをつけた四葉が手を挙げた。

 

「本当か!」

「はい! 私達の見分け方はお母さんが昔こう言ってました。”愛さえあれば自然と分かる“って」

「....なら俺では無理なわけだ」

「諦め早いな....」

 そう呟きながら、俺は例の解答用紙を見た。

 

「物の見事に0点だな....」

「くそっ....こうなったら最後の手段だ」

 すると、上杉は紙の束を机に置いた。

 

「これは0点のテストの問題を集めた問題集だ。これを解けなかった奴が今回の0点の

 テストの犯人だ」

 そう言った瞬間、五人からは不満の声が出た。だが、上杉の最後の奴が犯人という

 言葉により、五人は慌てて問題を解き出した。その間、上杉は何食わぬ顔で五人の

 筆跡を見比べていた。

 

「(そういえば....)」

「なぁ上杉。お前って俺の十分前に来たんだよな?」

「あぁ」

「それで、このテストを落としたのは風呂上がりだったんだよな?」

「そうだが....それがどうかしたのか?」

「あぁ。もしもお前の言う通りなら、俺は犯人が分かったぞ」

 俺がそう言った瞬間、五人の中の一人の肩が動いた。

 

「本当か!」

「まぁな。ま、それはテスト終わりにでも話そうか」

 そう話してしばらくすると、一花が上杉にテスト用紙を渡した。すると....

 

「なるほど....犯人はお前だな一花」

 上杉はテスト用紙を見て一花にそう言った。

 

「な、何で私....?」

「....bの書き方。筆記体で書くことを覚えていたのはお前だけだ。俺は一海みたいに

 お前達の顔を見分けれないが、お前達の文字は嫌という程見てきたからな」

「ぐっ....で、でも証拠がそれだけじゃ....」

「おい一花。お前、風呂から上がったらドライヤーするよな」

 諦めが悪い一花に向かって俺はそう聞いてみた。

 

「えっ....?」

「良いから答えろって」

「....ま、まぁするけど。それがどうしたの?」

「上杉がテストを落とした女と会ったのは十分前。つまりその十分の間に髪を乾かせて

 服も着替えられるのは一花....お前しかいないんだよ」

「っ....! ま、参りました....」

 俺の言葉を聞き、一花は諦めた様に膝から崩れ落ちた。

 

「諦め悪いな....上杉の時に自白すれば良かったのに....」

「ぐっ....まさかこんな近くに伏兵がいるなんて....」

 そう言っている間に、他の四人が上杉にテストを渡していた。すると....

 

「....ちょっと待て」

 上杉はさっきの0点のテストを見返していた。

 

「二乃の門構えに三玖の4、四葉の送り仮名に五月の“そ”....お前ら、一人ずつ0点の

 犯人じゃねぇか!」

 見返し終わった上杉は、一花以外の四人に向かってそう叫んだ。

 

「....バレた」

 上杉の叫びに、三玖は諦めた様にそう呟いた。

 

「俺が入院した途端にこれか....お前らやっぱり....」

 上杉がそう呟いていると、五月が上杉の耳元で何かを言っていた。

 

「(何を言ってんだ....)」

 そう思っていると、上杉が不意にこう言った。

 

「この中で昔、俺と会った事があるよって人ー?」

 そう言った瞬間、俺達の表情はきょとんとなった。

 

「....何言ってんのよ急に」

「どういう事?」

「....ははは、そりゃそうだ。お前らみたいな馬鹿があの子のはずねーわ」

「ば、馬鹿とはなんですか!」

「(あの子って、あの写真の子か....?)」

 俺は上杉の言葉を聞いてそう考えた。

 

「間違ってねーだろ五月。よくも0点のテストを隠してたな。今日はみっちり

 復習するぞ」

 そう言いながら上杉は三玖の肩を叩いた。

 

「おい上杉....わざと間違ってるのか?」

「えっ....?」

 上杉は肩を叩いた人物を見て固まった。

 

「....フータローの事なんてもう知らない」

「す、すまん! ワザとじゃないんだ!」

「あはは! まずは上杉さんが勉強しないといけませんね」

 そんな四葉の言葉を最後にして、俺達の勉強会は始まった。そして、数時間勉強をして

 帰ろうとした時、俺は二乃に声をかけた。

 

「二乃、ちょっといいか?」

「どうしたの胡蝶君?」

「悪いんだがこの時期店の手伝いとかが忙しくてな。今までみたいにこうして勉強会に

 参加する事が難しそうなんだ。だからしばらくの間上杉から教えてもらってくれないか?」

「え、えぇ....」

 そう言って二乃は見るからに嫌そうな顔をした。

 

「そんな嫌そうにしてやらないでくれ....たまには俺も顔は出しにくるし学校行ってる

 時間なら教える事はできるから」

「....ま、まぁ考えておくわ」

「そうか....じゃ、俺は帰るな。また明日」

 そう言って、俺は二乃の家から出た。そして、家を出たら上杉が外で待っていた。

 

「待っててくれたのか?」

「途中まで一緒に帰ろうと思ってな」

「そうか」

 そんな事を言って歩き出し、しばらくして俺は上杉にこう聞いた。

 

「なぁ、さっき言ってた事ってどういう事だ?」

「さっき?」

「昔、俺と会った事がある人って言っただろ」

「あぁ....たまたま五月の持ってたお守りが五年前の子の買ったお守りと似てたんだよ」

「五月の持ってたお守り?」

「入院してる時に見せてきたやつがな。それに、五年前のあの子、五月の持ってた

 お守りに似てた物を五個買ってたんだよ」

「っ! それって....」

「ま、偶然だと思うがな。五年前のあの子があんなに馬鹿じゃないと思うし」

 上杉は特に気にした様な様子がないようにそう言った。

 

「....そうか」

 そう言って、俺は今回の事にはこれ以上言及しなかった。

 

 

 

 

 



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勤労感謝の日

「....どうしたもんか」

 11月23日、世間一般では今日は勤労感謝の日だ。そんな勤労感謝の日、

 俺は実家の胡蝶の夢のキッチンでチョコを溶かしながら一人考え込んでいた。

 

「(今年のクリスマス限定ケーキの案、全然纏まってねぇ....)」

 俺のいるキッチンの台の上にはいくつかのケーキの案が書かれていた。

 

「(本当にそろそろ決めないとヤバいな....作って甘菜さん達の了解を貰わないと

 いけねぇし)」はぁ

 そうしてため息をついていると....

 

「すいません店長代理! レジの方のサポートお願いします!」

 ホールの方からバイトの子が俺にそう言ってきた。

 

「わかった、すぐに行く」

 俺はそう言ってホールの方に出た。

 

 ~~~~

 

「ありがとうございました」

 ホールに出たりキッチンに戻ったりを続けているうちに14時になった。すると、

 よく知った顔が店にやってきた。

 

「いらっしゃいませ....って、五月。それにらいはちゃん」

「こ、胡蝶君!?」

「胡蝶さんこんにちはー」

「これまた珍しい組み合わせで....」

「こ、胡蝶君、ここで何してるんですか....?」

「何って、見ての通り働いてるんだよ。ここ、俺の親の店だし」

「そ、そうだったんですか!?」

「あぁ。ま、とりあえず....店内でお召し上がりですか? それともお持ち帰りですか?」

 一応知り合いとはいえ、現状俺は店長代理のため失礼のないように店の店員として

 五月にそう聞いた。

 

「え、えっと、店内で....」

「そうですか。ではこちらへ」

 俺はそう言って二人を席まで案内した。

 

「ご注文が決まりましたらそちらのベルでお呼びください」

 そう言うと、俺はキッチンのほうに戻った。そして、戻った数分後....

 

「店長代理! 五番テーブルのお客様がこの店のすべてケーキを一個ずつって....」

「(....冗談だろ)」

 

 ~~~~

 

「ホントに全部食ったのかよ....」

「な、何ですかその目は!」

「別に....らいはちゃんもケーキ食べれたか?」

「はい! たくさん食べれました!」

 俺の言葉に、らいはちゃんは元気よく答えた。

 

「そうか。五月、会計はカードか?」

「はい。あ、それと持ち帰りでケーキが欲しいのですが....」

「そうか。それでどれにする?」

「それとそれと、あとあれと....」

 そう言って、五月は九個のケーキを選んだ。

 

「あ、胡蝶君。その三つは別の箱でお願いします」

「....? あぁ、分かった」

 俺は不思議に思いながら三つのケーキを別の箱に入れて五月に渡した。すると、五月は

 分けてケーキを入れた箱をらいはちゃんに渡した。

 

「らいはちゃん、これは上杉君とお父様と食べてください」

「良いの! 五月さんありがとう!」

「(....なるほど。そういうことか)」

 俺は箱を分けてと言われた理由が納得できた。そして、俺は会計をして五月にカードを

 返した。

 

「では、ごちそうさまでした」

「胡蝶さんまたねー!」

「あぁ。二人とも気をつけて帰れよ」

 そう言って、二人は店から出ていった。

 

「(さて、人も減ってきたし厨房のほうに戻るか....)」

 そう思いながら厨房に戻ろうとしたのだが....

 

「あれ、カズミ君じゃん」

「あ、ホントだ....」

「(....五月の次はお前らかよ)」

 店の入り口に一花と三玖がいた。

 

「こんな所で何してるの?」

「見ての通りバイト。てかここ、俺の親の店」

「そうなんだ」

「あぁ。で、店内か? それとも持ち帰りか?」

「持ち帰りで。えっと、三玖はどれにする?」

 一花と三玖は話し合いながらケーキを選んでいた。そしてケーキを選び終わり会計を

 していると一花がこんなことを言ってきた。

 

「そういえばカズミ君。最近二乃がカズミ君と話せてないから寂しそうにしてたよ。

 時間空いた時でいいから電話かメールしてあげて」

「....そうか。わかった」

「それじゃ、また学校でね」

「ばいばい、カズミ」

 そう言って、二人は店から出ていった。

 

「(今日の夜くらい、少しメールでもしておくか....)」

 そう思いながら、俺は他の人にレジを任せて厨房の方に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜....

 

「....あんた達ねぇ、どんだけケーキ買ってきてるのよ」

「あはは....」

 中野家の食卓には大量のケーキが並んだとか....

 

 

 

 

 

 



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家出娘

 甘奈side

 

「....? あそこにいるのは....」

 ある日の土曜日、雨の中の買い出しの帰りに私はある人を見つけた。

 

「....二乃ちゃん?」

 私が見つけたのはずぶ濡れの中、スーパーの屋根で雨宿りしている二乃ちゃんだった。

 

「あなたは確か....甘奈さん....?」

「こんな所でどうしたの? それにずぶ濡れになって....」

 私はそう言いながら二乃ちゃんの様子を見た。二乃ちゃんの服装は部屋で着るようなもので、

 財布や携帯を持っている様子はなかった。

 

「(....見たところ家出って言ったところかな)」

 そう思い、私は二乃ちゃんにこう言った。

 

「二乃ちゃん、ちょっとうちに寄っていきなさい」

 

 ~~~~

 

「ただいま」

「お、お邪魔します....」

 家に帰ってくると、店の前の看板などは片付けられていた。恐らく、一海君が全て片付けて

 くれていたのだろう。

 

「お帰りなさい甘奈さん....って、二乃!? お前どうしたんだよ!」

 一海君は二乃ちゃんがいる事と様子に驚いてそう叫んだ。

 

「一海君、取り敢えず二乃ちゃんに何か服貸してあげて」

「わ、わかりました!」

 一海君はそう言って、階段を上がって自分の部屋に戻っていった。

 

「二乃ちゃん、私についてきて」

 そう言って、私は二乃ちゃんをお風呂場まで案内した。

 

「一応シャンプーとかリンスは揃ってるから。好きに使ってくれたら良いからね。あと、

 お湯も溜まってるからゆっくり入って」

「あ、ありがとうございます....」

 私は二乃ちゃんにそう言うとお風呂場から出た。すると、一海君が着替えを持ってきた。

 

「あ、一海君。着替えは私が置いておくよ」

「わかりました」

 そう言って着替えを受け取った時、一海君の携帯が鳴った。

 

「すいません。ちょっと出てきます」

 そう言うと、一海君は上の階に行った。

 

 ~~~~

 一海side

 

 電話が鳴り、階段を上がって画面を見ると、電話をかけてきたのは一花だった。

 

「もしもし。どうした一花?」

『あ、ごめんカズミ君。忙しい時に....』

「別に今は大丈夫だが....どうかしたのか?」

『うん。その、二乃と五月ちゃんがケンカしちゃってさ....二人とも家出しちゃったんだよね』

「そうか。家出か....家出!?」

 一花の言葉に俺は大声が出てしまった。

 

『うん....』

「一体何があったんだよ!」

『その、二乃がフ―タロー君が作った問題集を破ってね。それに怒った五月ちゃんがビンタして

 大喧嘩になっちゃって....私や三玖も止めようとしたんだけど止められなくて....』

「....そうか。取り敢えず、二乃ならさっき俺の家に来た」

『ホントに!?』

「あぁ。甘奈さんに頼んでしばらく家に置いてもらうように頼んでおく」

『そっか。ごめんね、迷惑かけちゃって....』

「別に良い。後は五月だが....携帯は?」

『家に置きっぱなしだよ』

「そうか。なら、少し探してくる。後で折り返し電話する」

 そう言って電話を切り、濡れてもいい服に着替えて俺はバイクに乗って五月を探しに行った。

 

 

 

 



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居候

「あ、シャンプーとか分かった?」

「は、はい。ありがとうございました....」

「良いの良いの! 今コーヒー淹れるね」

 お風呂から上がった私に、甘奈さんはそう言った。そして、少しすると甘奈さんは

 私の前にコーヒーを置いてくれた。

 

「砂糖とミルクはいる?」

「は、はい」

「OK! ....はい、どうぞ」

「ありがとうございます....」

 私はコーヒーに砂糖とミルクを入れて一口飲んだ。

 

「っ! 美味しい....」

「口にあったのなら良かった」

 そう言いながら、甘奈さんは私の方を見て笑っていた。そして、甘奈さんは何も言わず

 テレビを見ていた。

 

「....あの。何も聞かないんですか?」

 私はこの空気に耐えられず甘奈さんにそう言った。

 

「....まぁね。見たところ、家出したって事はわかるからね」

「っ....」

「部屋着で財布も携帯も持ってないようだったからね。何となくすぐ家出だってわかったよ」

 甘奈さんの言葉に私は何も言えなかった。

 

「ま、一応家出した理由は私は聞かないでおくよ。二乃ちゃんが言いたくなったら聞かせて

 もらうね」

「....ありがとうございます」

「いいのいいの!」

 甘奈さんはそう言うと椅子から立ち上がりキッチンの方に向かっていった。

 

「二乃ちゃん、とりあえずしばらくはこの家にいて良いから。でも! ここの家にいるからには

 色々と手伝ってもらうよ! 二乃ちゃん料理できるんでしょ?」

「は、はい」

「よし。なら、少し晩御飯を作るの手伝ってもらうよ。良い?」

「わ、わかりました」

 そう言って、私はキッチンに連行された。

 

 ~~~~

 一海side

 

「疲れた....」

 バイクで二乃の家の周りやこの周辺に五月がいないかを探した俺は家に帰って来た。

 結局五月は見つからず、俺はずぶ濡れになっていたので風呂に入り部屋着に着替えて

 リビングに向かった。すると、リビングでは甘奈さんと二乃が料理をしていた。

 

「あ、おかえり一海君」

「お、おかえりなさい....」

「た、ただいま....何やってんだ二乃?」

「その、晩御飯のお手伝いを....」

「二乃ちゃんにはしばらく居候してもらうから。だから料理のお手伝いをしてもらってるの」

「へぇ....って、居候!? 良いんですか?」

 甘奈さんの言葉に、俺は驚きを隠せなかった。

 

「良いよ良いよ。この雨の中追い出す方が可哀そうだし。一海君、布団と毛布出して自分の

 部屋に持って行ってくれる?」

「わ、わかりました」

 そう言って、俺はリビングから出て布団を自分の部屋に持って行ったのだが、一つ気づく事が

 あった。

 

「(....ちょっと待て。布団をここに置くって事は二乃はここで寝る気か!?)」

 

 ~同時刻~

 

「(待って....布団を胡蝶君の部屋にって、私、胡蝶君の部屋で寝るの!?)」

 

 

 

 

 



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二人の夜ともう一人の家出娘

「あ、あの、お邪魔します....」

「あ、あぁ....」

 晩飯も食べ終わってそれなりに時間が経ち、俺の部屋には二乃が来ていた。だが、

 お互いの間にはどこか緊張した空気が漂っていた。

 

「(落ち着かねぇ....)」

「....そろそろ寝るか?」

 俺はこの空気に耐えられず二乃にそう聞いた。

 

「え、えぇ....」

「そうか。布団で大丈夫か?」

「大丈夫....」

「そうか。じゃあ、おやすみ....」

「おやすみなさい....」

 そう言って俺は電気を消してベッドに入ったのだが....

 

「(寝れるか....)」

 隣に二乃がいるというのを理解していたので眠るにも眠れなかった。すると....

 

「....一海君、まだ起きてる?」

 布団で寝ているはずの二乃がそう聞いてきた。

 

「....あぁ。どうかしたか?」

「....今日はごめんね。私のせいで迷惑かけて....」

「俺は別に気にしていない。....謝るのは俺じゃなくて、上杉と五月だろ? 二乃も、

 それぐらいはわかってるんだろ」

「っ! それは....」

「二乃。お前は優しい奴だ。だからこそ、お前がやった事が人を傷つける事ってのは

 わかってるだろ」

「....」

「謝れるなら、謝れるうちに謝ったほうが良いぞ....」

 俺のその言葉を最後に、二乃は何も言わなくなった。そして、俺はそのまま眠りに就いた。

 

 ~~~~

 次の日

 

「急に呼び出してごめん、カズミ....」

「別に良い....それよりも急に呼び出してどうした?」

 俺は三玖に呼ばれて中野家に来ていた。

 

「これ、二乃に渡して欲しくて」

 そう言って三玖が見せてきたものは学校のカバンとキャリーケースだった。

 

「学校の教科書とメイク道具と服。今カズミの家にいるんでしょ? だったら必要と思って」

「そうか。....お前が渡さなくていいのか?」

「....うん。二乃、今は私達に会いたくないと思うから」

「....そういえば、一花と四葉は?」

「一花は撮影、四葉は朝から出かけたからわからない」

「そうか....」

 そう言いながら、俺は部屋を見渡した。

 

「この部屋、こんなに広かったんだな....」

「私も思った....ケンカなんて今まで何度もあったけど、こんなに大きなケンカは初めて....」

「....五月は見つかったのか」

「まだ。カズミに渡したら探しに行こうと思ってた」

「そうか。なら俺も付き合うぞ。二人で探したほうが早いだろ」

「....ありがとう」

 

 ~~~~

 

「図書館にショッピングモールにはいない....」

「飲食店にも公園にもいない....あと行くとしたら何処だ?」

 三玖と共に、俺は五月がいそうな所を探していたのだが予想を付けた場所には五月の姿は

 無かった。

 

「仕方ない....最後の手段を使う」

「最後の手段?」

 そう言うと、三玖は髪形を五月の髪型に変えて近くを歩いている人に話しかけに行った。

 

「すみません、こんな子を見ませんでしたか?」

「あぁ、それならさっき....」

「(嘘だろ....?)」

 

 ~~~~

 

「向こうの方で見たって。黒髪短髪で目つきの悪い男の子といたみたい」

「それって....」

「うん。多分....」

 三玖と俺の脳内に出てきた人物は一人しかいなかった。

 

「取り敢えず、あっちの方って事は家だろうな....行くぞ三玖」

「うん」

 そう言って、俺と三玖はある人物の家に向かった。

 

 ~~~~

 

「あ! 胡蝶さん! それに三玖さん!」

 しばらく歩いて着いたのは上杉の家だった。

 

「ようらいはちゃん。上杉いるか? いるんだったら少しお邪魔したいんだが....」

「お兄ちゃんならいますよ! 三玖さんもどうぞどうぞ!」

「う、うん。お邪魔するね」

 そう言われ、家に入るとそこには....

 

「....いた」

「人が必死に探してる時に呑気にカレーとは....随分なご身分だな五月」

 皿いっぱいに盛られたカレーを食べている五月がいた。

 

 



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