転生アラガミの日常 (黒夢羊)
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第1話 さようなら人生。ようこそ神生

どうも、初めての方は初めまして。黒夢羊と申します。
とあるお方のアラガミ転生のお話に強く感化されこの作品を書き始めた次第です。
見切り発車となってしまいますがどうか宜しくお願いします。


拝啓、お父様お母様。お元気でしょうか?

息子である自分はこの度……人間をやめてしまいました。

 

 

「…………じゃないよ!なんで!?」

 

慌てて周囲を見渡す。そこは見慣れた、しかし現実世界ではなくデータ上の架空の世界として見慣れていた光景が広がっていた。

少し周りを見れば広がるビルと思わしき残骸の数々と広大な自然。

 

自分は確信した。ここは俺が夢中になってプレイしていたGOD EATERの世界で、俺はその世界に転生したんだと。

そしてひょんな事に神機使いとしてでなくアラガミとして。

 

どうしてこうなった?霧がかかったようにぼやけている記憶を少しずつ思い出していく……

 

 

 

 

2018年12月30日、俺は雨が降りしきる中傘を差しながら行きつけの家電量販店へと向かっていた。

そう、今日はなんと言っても楽しみにしていたGOD EATER3を買う日なのである!……発売日に買えなかったのは学生特有の財布の薄さが原因でして……。

 

うちの学校はバイト等にかなり厳しく、テストの点で上位に入りつつ内申が良いと判断された後に専用の用紙を手に入れ、そこにバイトをする「正式な」理由とそのバイト先等を記入した後に学年担当の先生5人以上から判子を貰わなければいけない。

……なんでこんなに厳しいのかは分からないが、都内でも有名な進学校だからだろうか「社会勉強よりも学力を上げろ」と言いたいのかもしれない。

 

俺の場合は家庭での突出した問題もなくバイトできても夏休みや冬休みの長期休暇中のみ。

つまり2学期の期末テストを逃したら死ぬのである。

それが分かってからは死ぬほど勉強した、それはもう幼稚園の頃からの親友から「来年は世界が滅ぶのかもな」と言われるほど。

不幸中の幸いか俺はボランティアや委員会などの活動にはほぼ(強制的に)参加しているので、内申は中の上はあると思う……多分。

 

努力が実りなんとかバイト許可証なるものを入手することができた。

そんなこんなで冬休みに入ってから知り合いのおじさんが勤務しているホームセンターに本当に短期間だがバイトとして働くことになったのだが、働くと言ってもやることは品出しと使い終わった段ボールやケースの整理だけ。それでも普段家でゲーム三昧の時期に体を動かすのはかなりキツかった。

まぁそんなこんなで苦労して手に入れた初給料を手にGOD EATER3を買いに行くのである。

 

お年玉を待てばいいだろとかいうが……違う、1日も早くプレイしたいのだ!特に年末の特番をBGMにしながらゲームをする何とも言えないあの気分を味わいたい!

そんなわけで今寒い空気に身を晒しながら外出しているわけだ。

 

交差点の赤信号で止まったが、沸き上がる高揚感を抑えきれず思わず両足が小刻みにリズムを刻む。

そして青信号になりいざ進もうと前を向くと、向こう側から母親とまだ幼稚園くらいだろうか、歩く姿が可愛らしい男の子がこちら側へと渡ろうとしていた。

早く行きたいが、この交差点の歩道は細く傘がぶつかって何かあるかもしれない。平時なら別に構わないが今は大事な時、トラブルでも起こしてマイナスな気分でゲームをしたくはない。その為渡りきるまで少し避けて待つことにした。

 

しかし、その道半ば。男の子が母親に追い付こうと脚を早めようとしたその瞬間。猛スピードでトラックが交差点へ突入しようとしていた。

突然の事に対応できていない男の子、何故かそれを見て俺の体は勝手に動いていた。

棒立ちしている男の子を突飛ばし自身もそのまま向こう側へ走り抜けようとする─が、視界の端に強い光が迫ってきて────

 

 

……思い出した。そうだ、俺は男の子を助けようとしてトラックに引かれ……たのか?

そこで記憶が止まっていて審議の程は不明だが、今自分が置かれている状況からして死んだのだろう。

もしくは夢か。

だが夢にしては異様な程太陽の光の暖かさや風に揺れる草の音があまりにもリアルだ。

 

一先ずは自分がアラガミになり、この世界が現実だと言うことにしよう。次に大事なのは自分の身の安全である……つまり自分はなんのアラガミか?という事で、オウガテイル等の小型であればハードを通り越してルナティックモードまで難易度ゲージが天元突破である。

感覚的には2本脚で自立していて尻尾でバランスを取っているような気がする。

そして肩を動かそうとしてみると、確かに確り肩から腕先まで動く感覚があった。

 

取り敢えずオウガテイルでは無いようだ。となると他の小型アラガミを思い出せるだけ思い出してみるがどれも特徴が当てはまらない。と言うことは中型~大型のアラガミである可能性が高い。

両手があるという事で思い浮かぶのはコンゴウ系だが後ろ足(?)で自立出来ていそうな事から違う筈だ。

となるとなんだ?首と体を少し捻って尻尾と思われる部位を確認しようとする。

そして目に飛び込んできたのは日の光を受けて白く輝く純白の尾。

 

……ん?

急いで両腕を確認する。自分の両腕は白の表面に金色の筋繊維のような見覚えのあるモノへと変わっていた。

この見た目に合致するのは自分の中で1体だけ存在する……ハンニバルだ。しかも色合いからみて通常の個体ではなく神速種と言われる個人的にトラウマの1つである個体……。

おいおい、何てヤツに転生してるんだよ俺!

これ見つかったら絶対に狩られるヤツだ!主人公を始めとした化け物が襲いに来るヤツだ!うわぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

──────……

 

 

少し経って落ち着きを取り戻した。そしてよくよく考えてみればハンニバルということは比較的他のアラガミから襲われにくいと言うことだ。

そういう面ではかなり安全なのではないか?

敵いそうにない大型は逃げれば良いだけだ。

そう自分が安堵していると、ふとハンニバルにしては視線が低いことに気が付いた。

 

……いやな予感がする。首を思いっきり持ち上げるがそれでも自分の思っているハンニバルよりは小さい。

確かビルのこの辺りよりは高かった筈だ。

以下の事から考えられる予想としては……自分はハンニバルの幼体なのでは?

 

そう考えた瞬間体から冷や汗がどっと溢れ出たような感覚に陥った。

いやいや洒落になってないぞこれは!?ハンニバルってだけで狙われるのにハンニバルの幼体だと?絶対に捕獲または調査対象じゃねーか!!

俺が人間の博士みたいなんだったら色々と興味あるわ!絶対捕獲かコア回収してきてとか命令する!そして俺が主人公だったら絶対に行く!

しかもよーく両腕確認したら片手にしか無い筈の籠手が両腕にあるじゃん!!完全に変異種じゃん!!余計に狙われるじゃん!!

 

神機使い達から恐れられるハンニバルが両腕で頭を抱え「うおおおおおおお!?」と言い様の無い不満を何処かへ晴らそうとするその光景は端から見ればかなり滑稽だったのではないだろうか。

しかし今はそんなどうでも良いことで、ある程度保証された筈の自分の身の安全がガラガラと音を立てて崩れかけているのである。

 

そうして自分が悩んでいると何かの足音が聞こえた。瞬間体が跳び跳ねるように建物の影に隠れる。

そーっと除くとそこにはオウガテイルが数匹で徘徊していた。餌でも探しに来たのだろうか?

 

それから少しの間オウガテイル達を眺めているとお腹から間抜けな音がなった……ような気がした。

どうやら俺の体はご飯をご所望のようで、目の先にいるオウガテイル達が御馳走に見えてくる。

 

かといってこのオウガテイル並のこの体で複数体に挑むのも少々怖い。

どうするか……と唸っているとハンニバルの技の1つを思い出した。あれが出来れば遠い距離からもなんとか出来るかもしれない。

 

そう思い力を込めると腹の中に少し温かいものが溜まっているのを感じ、それを吐き出すよう喉元へと戻していく。そうしてスイカの種を吹き出す要領で口元までやって来たそれを吐き出す。

 

すると口から何度もゲームの中で見たことのある、しかしゲームとは比べ物にならない程リアルな火球がオウガテイル達に向かって放たれた。

そして火球は1匹のオウガテイルに直撃し、その爆発の余波で他の奴らも軽く吹き飛ばされた。

おお!これならなんとかなるのでは?

続けて1発、2発と吹き飛ばされて倒れているオウガテイル達に向けて火球を放つ。

あっという間に丸焼きのオウガテイルが出来上がった。

……うーん、一方的なのも申し訳ないな……。

そう思いながらも空腹には勝てず丸焼けの餌を食べようとしたのだが……。

 

「これって……美味いのか?」

 

そう、ここに来て味の問題である。アラガミを食べた経験なんぞ当たり前だが生まれてから1度もない。

人間が食べるならまだしも今の自分はアラガミな訳で、腹を下すとかそう言うことはない筈だ……多分。

しかし、1度意識してしまうとアラガミを食べることに対しての謎の抵抗感が自分の行動を制限する。それは人間の頃の名残かそれともこの世界の知識を有しているが故なのか、はたまたその両方か。

 

少しの間悩んだが、生命の本能には勝てず焦げた肉を骨付き肉を持つ要領で持ち、腹の部位を喰らい、咀嚼する。

……美味い。噛み答えがあり、かつ自分の吐いた炎で焼かれたのかジューシーな肉汁らしきものが溢れてくる。

例えるならステーキだろうか?取り敢えず美味い。

 

こうして始めて食べたアラガミの美味さを実感しつつ、この世界での始めての1日を終わろうとしていた。

 

 




最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。
GOD EATERは初代から続けていて、この間3をやり始めた次第です。
噂話で「難しい」と耳にしているのでクリアできるかかなり不安ではありますが頑張りたいと思います。
宜しければ感想や評価などをしていただけると有り難いです。
それではまた次の話で。


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第2話 やりすぎは良くない

どうも黒夢羊です。
GOD EATER3を初めて余り経っていないのですがヘヴィムーンにハマっています。
格好いいですねヘヴィムーン。
私は前作まではバスターを使っていたのですが今回はヘヴィムーン一色になってしまいそうです。









 

朽ち果てた廃墟に出来た無数の穴から朝日が体に差し込み、目を覚ます。

体の冷たい感覚が自分にこの世界は夢でないということを知らせる。

一先ず体を持ち上げて背伸びをしようと両手を上げると天井に思いきりぶつかり、ガラガラと大小様々な瓦礫が落ちてきた。

 

痛い痛い。しかしそう思うだけで体に破損は勿論のことだが擦り傷すらついていない。やはり本来のサイズより小さいと言えどハンニバルということだろうか。

それにしても当たり前のことなのだろうが人間の習慣が抜けない、いや抜けてもそれはそれで寂しいのだが。

 

外を見ると太陽が昇って来ており、いやがおうでも朝の知らせを全ての生命に等しく届けようとしている。

こう見ると

 

現在自分は黎明の亡都のとある廃墟の中を寝床にしているのだが、どうしてここなのかは理由がある。

 

1つ、入り口が小さいため中~小型位のアラガミしか入れないため。

2つ、ビル内からの外の見張らしは良く観察に向くため。

3つ、綺麗(見たところ)な水が飲めるため。

4つ、朝差し込む日差しが暖かいため。

 

こんなところだ。

 

 

現在、自分には確認しておかないといけないことが1つある。

それは『今の時間軸はどこの作品なのか』ということである。

 

ハンニバルである自分が存在している以上、恐らくバーストの途中、もしくは以降だと思われる。いや、確か神速種はリンドウさんが大量に狩りすぎて急速に進化した個体として誕生したのだっけ?そうとしたらレイジバーストの件も含めて、まだ主人公がハンニバルと交戦してない事も考えれたりするのか?

 

そうなると1の主人公達が初めて遭遇するハンニバルが自分になる可能性もあるのか……。

え、それはそれでなんかイヤ。自分が主人公達と戦闘……多分へっぴり腰でドラマチックも糞もない戦闘になるだろう。

 

それに向こうはこっちを新種のアラガミ程度にしか認識しないだろう。こっちだってこれが万が一億が一兆が一京が一夢だとしても死にたくはない。

まぁただここは初代では無かったステージ。メタ的な意味合いも含めてしまうが、恐らく初代メンバーとの初戦闘はないだろう。

しかしどうにかして戦闘経験は身につけるべきだな、逃げるだけではいつかは限界が来てしまう気がする。

 

一先ず心のメモに戦闘練習を書き留めておき、身を屈めながら廃墟の外へと足を運ぶ。

先程とは違い太陽光が全身に当たり程よい気持ちよさが体を包み、引っ込んだと思われた睡魔が再び甦ってきそうだ。

 

流石にそのまま寝て神機使いに見つかるのも間抜けなので、目を覚ますのもかねてゲーム時には多くのアラガミと対峙した広場へと身を運び、大きな水面に頭を突っ込み水を飲む。

少し冷えた水が体の中に入っていくのが分かり、ぼやけていた頭がクリアになっていく気がした。

 

水中から頭を出すと付着した水滴を首を振って吹き飛ばす。それでも残った水滴は太陽が乾かしてくれるだろう。

さて……どうするか。

 

 

───────────────

 

 

ゲームのフィールドから少し外れたビル群を渡りつつ、何処か使えそうな広場を探していく。

流石にあそこで練習してたら見つかる可能性が高い気がした。

 

それから少しすると程よい広場を発見、周りのビルは程よく崩れており、丁度良い的になりそうである。

さっそく練習を開始することにした。

今日の目標は両手から炎を出して剣や槍に変化させることと、火球を吐くスピードを上げることである。

 

炎の剣と槍については比較的早く達成できた。ゲームの時に散々みていたのもあってか、イメージがしやすかった。

問題は火球の吐くスピードである。最初オウガテイル達に放ったときよりはスピードも間隔も良くなっている自覚はあるが、炎を吐き出すという奇術師ですらやったことが無いだろうことをやっているのだ。未だに慣れない。

 

それからどれだけたったのだろうか。気付けば的にしていたビル達は炎で切られ貫かれ焼かれのオンパレードだった為か、幾つかは見る影もなくなっていた。

やり過ぎた……そう反省するのも大事だが、空を見ると日が沈んでいき夜が近づいて来ているので、急いで寝床に戻ることにした。

 

 

次の日も同じようなことを繰り返して、数日後には火柱の修得に加えてビルの残機と引き換えに火球のスピードもどんどん上がっていった。

 

 

───────────────

 

 

その頃フェンリル極東支部では。

 

「ふむ……黎明の亡都の一部地域で異様なほどの破壊痕が発見されたと」

 

上がってきた報告書を極東支部局長ペイラー・榊は興味深そうに読み進める。

 

それは数日前の出来事。夜間に黎明の亡都の哨戒任務を行っていたとある神機使い達が発見したものだった。

前に確認した際には確認されなかったのだが、突如一部地域で異様な程の破壊行動の痕が発見されたのだ。

 

それはビル等の廃墟に集中されており、所々溶断されたかのような箇所が発見されている。

このような芸当が出来るのは神機使いかアラガミのどちらかだろう。

しかし神機使いが出来る範囲を越えているし、なによりする意味が見つからない。

アルダノーヴァのような新しい兵器が出来たと考えるべきかもしれないが、そうであるならば何処かで動きを察知できている筈だ。

 

そうであるならば必然的にアラガミの仕業だと考えるべきだろう。だが、何故?

アラガミは基本的に「補食」という行動の為に活動する。しかし、これは報告書にも書いてあるが補食ではなく破壊だ。

つまりアラガミの行動として少々おかしいのである。

 

「ふむ……実に興味深い」

 

眼鏡を人差し指で直しつつ、榊博士は神機使い達にとある任務を依頼した。

 

 

 

 




読者の皆様どうも。
まずは今回も読んでいただいて誠にありがとうございました。
設定においての原作知識等の違いは主人公はそこまでガチプレイしていなかった……ということでお許しください。
もし宜しければ感想や評価などをしていただけると嬉しいです。

それではまた次回で。


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第3話 逃げます、何処までも

どうも黒夢羊です。
昨日灰域種のラーと戦ったのですが強いですね。
クリアできるか不安になっています。
それは置いておくとしてフィムちゃんは可愛いですね。
どこかの特異点のような結末にならなければ良いのですが……。





不味いことになった。

 

森の中にそびえ立つ木々のように役目を終えた今も周囲から生えているようなビルの合間を急いで駆け抜けていく中、自分はそう思った。

後ろからは4つの人の叫び声が聞こえる。そのうち3つは聞き覚えのある声。

 

時折後ろから銃弾などが飛んで来る。通常の弾であればアラガミである自分が気にすることはないが、今現在後ろから迫るそれは自分を殺傷するには十分すぎる威力を持っている。

 

唐突に迫る命の危機。

どうしてこうなったのかは少し前に遡る──

 

 

その日も自分は何時ものようにもしもの時の為の訓練を行うためにいつもの練習場へと向かった。

すると……だ、幾つも佇むビルが囲む程よい空間の広場、その中心にゲームでお馴染みのメンバーがそこにはいた。

それぞれが個性的な衣装を来ており、それを象徴する神機も皆が多種多様。

GOD EATER2の物語、その中心メンバーであるブラッドがそこにはいた。

 

 

……

…………

………………

嘘だろおいいいいいいいいいいいいいいい!?

 

 

いやいや、確かに自分がアラガミだからいつかは神機使いと会うってのは分かってたよ?うん!

だけどこっちに来てから数日ってのは想像してないし、なによりブラッドってのはないだろとっつぁん!!

全身から冷や汗が溢れるような感覚に陥っていたが、あることに気付く。

 

視認できるメンバーは恐らく主人公、ロミオ、ジュリウス、ギルの4人。

ってことは、これはまだ2が始まったぐらいの世界か?

いや、レイジバーストが終わった後にはロミオとジュリウスも帰還していたからな……どっちだ?

 

アラガミであるハンニバルがビルに張り付き人間を凝視しているその姿は、端から見ればかなりおかしな光景だったと思う。

 

それにしても会話を聞けば何か分かるかもしれないが、ここからだと何か話しているのは分かるのだが詳しいところまでは分からない。

もう少し近づいて聞いてみるか……と思い近づこうとした時だ。

 

オープン音声にしていたのだろうか?機械を挟んでいるからか少し電子的な女性の声が聞こえた。

そして瞬間、4人が一斉にこちらを見た。

 

そしてバッチリ目が合いました。

それはもう確りと。

 

自分にはこの瞬間の沈黙が一時間にも1日も感じたが、現実はそうではない。

瞬時に地面を蹴ると来た道を全速力で戻る。

 

 

こうして自分の命を賭けた地獄の鬼ごっこが始まったのである。

 

 

───────────────

 

 

「いやぁー今回も楽勝だったな!」

 

そう言いながらバスターソードを地面に突き立て爽やかな笑顔を浮かべるのは、たくさんのバッジが付いたニット帽やジャケットを着こなす金髪の少年ロミオ。

 

「楽勝って言うが中型1体とそれに従う小型の排除だ、そこまで難しいって訳じゃねぇだろ」

 

明るさマックスなロミオとは正反対の、ギラついた青紫色のジャケットと同色の帽子を着て頬にある切り傷が印象的な青年のギルバートが、ロミオの言葉に少々厳しく返す。

 

「おいおいそんなこと言うなよー、俺の支援でお前も助けられただろ?」

 

「あれはお前が他のやつにやられそうになってたのを助けたから出来た隙だ」

 

「なっ、なんだと!じゃあ俺のせいだって言いたいのかよ!」

 

「そのままの事を言ったまでだが?」

 

「なんだと!」

 

言葉の応酬の度に険悪になる二人。そして睨み合いに発展し一触即発かと思われたその時。

 

「はーいそこまで!」

 

両手を叩きながら二人の間に割って入る存在がいた。

男性にしては少々長いと思える茶髪に青色の目を持つ穏やかそうな少年─神威 ヒロ。

突然の乱入者に驚いた二人を交互に見つめ、ご立腹だと言わんばかりに左手を腰に当て余った右手でギルを指差す。

 

「ギルは意地悪を言い過ぎ。仲間内で助け合うのは当たり前の事だし、何より先輩の件は奇襲だったんだから仕方ないだろ」

 

そう言われたギルは動揺したように慌て、謝罪の言葉を述べる。

 

「わ、わりぃな相棒」

 

「やーい、怒られてんの」

 

「ロミオ先輩も!」

 

「え?俺も!?」

 

まさか自分にも怒りの矛先が向くとは思っていなかったのだろう。

指差された途端にロミオは先程の余裕の笑みは消え、慌て出した。

 

「ギルじゃないけど、もうちょっと油断してなかったらあそこまでピンチには陥ってなかったと思うから気を付けてくださいね?」

 

「ご、ごめん…」

 

気まずそうに帽子を触りながらうつむき加減で謝罪の言葉を述べるロミオ。それを見て満足したのかヒロは再び穏やかそうな顔に戻り、先程から事の顛末を眺めていた傍観者に向かって文句を言った。

 

「隊長も見てるだけでなくて止めるの手伝ってくれませんかね?」

 

「ハハッ、お前なら何とかしてくれると思ってな」

 

ヒロから飛ぶ非難の視線を軽く笑いながらいなすのは、金髪の美少年ことブラッドの隊長ジュリウス。

目一杯の非難をいなされ&ジゴロが使いそうな言葉の返しにヒロは元々怒る気もなかったのか、不満気な表情を残しつつも少し満更でもなさそうだった。

 

その微笑ましい空気を引き締めるようにジュリウスが再び口を開く。

 

「さて、皆任務前に話を聞いて分かっていると思うが今回の本当の仕事はこれからだ、所定のポイントに向かうぞ」

 

「「「了解」」」

 

ジュリウスの言葉に3人とも了承の意味を示す。切り替えの早さは流石ブラッドと言ったところだろうか。

こうして四人は任務前に話されていた所定のポイントに向かうのだった。

 

 

───────────────

 

 

「破壊痕の調査……ですか」

 

「ああ、そうだ」

 

フェンリル極東支部局長室にてジュリウス、ヒロ、ロミオ、ギルの4人は局長のペイラー・榊から招集されていた。

集まった4人に対して榊博士はある資料を渡す。

それはここ数日の間に確認されている謎の破壊痕についての報告書だった。

 

「それを読んでくれると分かると思うけど、つい先日黎明の亡都の一部地域で謎の破壊痕が発見された。その規模などから見てアラガミの仕業と思われる」

 

「君達には、それを改めて調査してきて欲しいんだ」

 

眼鏡を人差し指で戻しつつ真剣な表情で頼む榊博士に対してロミオが質問を投げかける。

 

「でもなんで俺達なんですか?もっと他に対応出来そうな人居ると思うけど」

 

「それはだね……」

 

「……感応種、ですか?」

 

ジュリウスのその問いに対して榊博士は静かに頷く。

 

「その通りだ。もしかしたらこの痕の主が新種のアラガミ、しかも感応種だという可能性だってあり得るんだ」

 

「それで感応種にも対応できる俺達が呼ばれた……そういうことだな?」

 

「ああ、現状普通の神機使いは感応種の放つ強力な感応波によって神機が機能停止にまで追い込まれてしまう……」

 

「しかし、血の力を持つ君達なら感応種の神機への干渉を受けずに戦える。だから君達にお願いしたい」

 

そう言いながら榊博士は頭を下げる。それを見たジュリウスは少しの間考え、答えを出す。

 

「分かりました、その調査引き受けさせてもらいます。皆もそれでいいな?」

 

ジュリウスの言葉に3人は頷き同意する。

榊博士は顔を上げながら細い目を更に細め、笑顔で4人の神機使いに感謝しつつ任務の詳細を告げていくのだった……。

 

 

───────────────

 

 

「にしても、新種のアラガミかぁ……どんなのだと思う?」

 

目標のポイントに向かう途中、ロミオが溢した言葉に先程と同じようにギルが反応する。

 

「まだ新種がいるとは決まったわけじゃねぇし、そもそもアラガミがやったかどうかさえ分かってねぇんだ。考えるだけ無駄だろ」

 

「無駄ってなぁ……俺はお前と違っていろんな可能性を考えてるんだよ!」

 

「あーもう二人ともストップ!!」

 

ギルのその現実を捉えた言葉に先程同様にロミオが噛みつき、それにまたギルが噛みつき返し、いがみ合う二人を副隊長であるヒロを始めとした他のメンバーが諌める。

最近のブラッドでは良く見慣れた光景であり、副隊長の悩みの種の1つでもあった。

 

『皆さん、間もなく目標地点です』

 

オペレーターのフランが無線で今回の任務のもう1つの目標が近いことを知らせる。

 

「だ、そうだ。皆気を引き締め直せ」

 

ジュリウスの言葉に言い争っていた二人も真剣な面持ちに代わり、先程とは打って変わってチーム内には張り詰めた空気が漂い始めた。

 

 

───────────────

 

 

「な、なんだよこれ……」

 

固まった空気を切り裂いたのはロミオが喉から振り絞った声だった……。

 

 

榊博士から教えられた広場にたどり着いた4人は、目の前に広がるその光景に言葉を失った。

 

広場を囲うようにしてそびえ立つビルの残骸……いや、残骸だったもの。

ほぼ全てのビルに巨大かつ無数の切り傷が刻まれており、中には巨大なクレーターが出来ているモノもあった。

 

「破壊痕……確かにその通りだな」

 

ギルが周囲を見渡しながら珍しく驚いたかのように呟く。それに同意するようにジュリウスもあり得ないものを見たかのように辺りを見回す。

 

「ああ、予想していたものよりも遥かに凄いな……読んだ報告書通り……いや、それ以上だ」

 

3人がまじまじとその破壊痕を眺めていると、ヒロが1つのビルに近づいて行く。

近くまで来ると、付近の瓦礫を踏み場にして傷痕の近くまで上っていく。

 

「ナイフで切ったってよりかは、溶断したみたいな切り傷だけど、火か炎を扱うアラガミでこんな芸当が出来るのっていたっけ?」

 

彼がそう呟くと、無線の向こうからフランの声が聞こえる。

 

『少し調べてみましょうか?』

 

「頼めるかな?」

 

『分かりました。少々お待ち下さい』

 

フランの返答を聞くと同時に高場から飛び降り、3人に合流する。

先程近くで見た傷について情報の共有を行う。

 

「成る程、お前は炎または火を使ったアラガミの仕業じゃないかと言うわけだな?」

 

「ああ、それを考えた上でなんだけど、炎や火を扱ってこんな芸当が出来るアラガミっていたっけ?」

 

「んー、シユウの変異種とか?アイツって掌みたいなところから火球出すしさ」

 

ヒロの問いに対してロミオが自分なりの答えを返すが、それに反応したのは彼ではなくジュリウスだった。

 

「いや、確かにシユウは炎を使えるが、ここまで一本の鋭利な切り傷は付けれない筈だ。第一シユウの爪とこの傷の切り口の大きさが合わない」

 

「違うかー」と体ごと前にかがめ落ち込んだ様子を見せるロミオに変わって、今度はギルが意見を述べる。

 

「だとしたら切り口から考えるとボルグ・カムランの尾辺りか?あれが赤熱する個体とか居ればあり得なくはないか?」

 

「確かに……ギルの言うとおりかもしれないね」

 

納得しかけたヒロに対して、未だに考えるそぶりをしているジュリウス。

疑問に思ったロミオがどうしたのかと問うと、

 

「いや、榊博士も言っていたが、アラガミが補食と関係ない行動をするのだろうか?」

 

「確かにそうだよな。これを見たら何かの練習台としてここのビルを相手にしてるみたいだぜ」

 

そうして意見を交わしあっていると、突如無線からフランの焦った声が聞こえた。

 

『付近に突如大型のアラガミ反応!近いです!』

 

「何っ!?」

 

しかし辺りを見回しても目に映るのは痛々しい傷が刻まれたビルの成れの果てで、アラガミの姿は一切見当たらない。

焦ったかのような声でジュリウスが叫ぶ。

 

「フラン!場所の特定はできるか!」

 

『現在特定中です!……特定できました!座標を送信します!』

 

フランから送られてきた座標を見た先には、ビルとビルの間から竜のような顔を持つアラガミがこちらを観察するかのように見つめていた。

 

と、思った瞬間そのアラガミは踵を返し逃走した。

 

『アラガミ、逃走を開始しました!』

 

「追うぞ皆!」

 

「「「了解!」」」

 

急いで神機を持ち直し全速力で追いかけるが、人とアラガミ。元々の能力が違うからなのかだんだん引き離されて行く。フランのナビゲーションでなんとか見失わないでいるのが現状だ。

 

「副隊長!ギル!フランのナビに従って逃走経路を先回りしてくれ!挟み撃ちにする!」

 

「了解した!」

 

「OK!」

 

そう言うが早いか、直ぐ様二人は横道へと逸れて行きその姿はビルと自然の木々によって見えなくなった。

ジュリウスは後ろのロミオへと視線をやり、檄を飛ばす。

 

「ロミオ、あの二人が待ち伏せするまで俺達はアイツとの追いかけっこだ、行くぞ!」

 

「よっしゃー、負けないぜ!」

 

それから暫くして、フランから二人が前方に待機完了したことを知らされる。

もうすぐだ。それから目標を追い続け、そして遂にアラガミを挟み撃ちにすることができた。

 

そのアラガミは純白の装甲と金色の筋繊維のようなものが合わさった体を持つ、人と竜が合わさったかのようなアラガミだった。

 

道は一本道ではなく、幾つか横に抜けることはできるが、それは人にとっての話であり、大型のアラガミには難しい話であった。

 

困惑したかのように前後を見るアラガミだが、逃げることが難しいと判断したのか雄叫びを上げ、その体を屈めて独特の構えを取る。

 

「全員、来るぞ!」

 

再度アラガミは雄叫びを上げ、両腕に炎の剣のようなものを発生させる。

この炎の剣はまさかっ!?

そうジュリウスが思うのと同時に、アラガミが両腕を振るいビルを切り刻む。

それを皮切りに、ギルとロミオが銃形態に変形させた神機でアラガミに向かって発砲する。

数発がアラガミに命中し、アラガミが苦悶の声で叫ぶが、切り刻むその腕を止めなかった。

 

すると切り刻まれていたビルはぐらつき始め、それを見たアラガミはそれをジュリウスとロミオに向かって蹴り倒す。

二人は倒れてくるビルから逃れるが、道が塞がれてしまいヒロとギルと分断されることになる。

 

「ぐっ!?二人とも無事か!?」

 

『ああ、こっちは大丈夫だ!だが、砂煙で前が見えねぇ』

 

「フラン!アラガミは!?」

 

『アラガミ、先程倒されたビルと反対側のビルの上に居ます!』

 

「何っ!?」

 

言われたように上を見ると、そこにはジュリウス達を見下ろすように佇む竜のアラガミの姿。

しかし、こちらを襲ってくるわけでもなくそのまま姿を消した。

 

『アラガミの反応消失……見失いました』

 

フランの動揺した声を聞きながら、倒れたビルを避けて二人と合流したジュリウスはこれ以上の追跡は難しいと考え、回収ポイントに向かった。

 

 

───────────────

 

 

い……

 

 

 

痛えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

 

うっかり見つかった後なんとか振りきろうとしたんだが、挟み撃ちにされてしまってどうしようかとテンパった頭で考えた結果、ビルを倒してどうにか逃げれないかとがむしゃらにやったら逃げれたのは逃げれたが、背中に何発か銃弾を食らってしまった。

 

未だに受けた部位がジンジンと痛んで涙が出そうだ。いや涙はでないんだけどもね?

ただし不死身とは伊達に言われてなく、傷は既に無くなっていて逆に打ち込まれた銃弾を取り込んでいた。

 

タフだな俺の体、と思いつつも、自分の思っていたよりも向こうの対応やらが早いことに焦りを覚える。

恐らくここら一体も探索の範囲内になってしまうだろうから、新しい寝床を探さなければ。

 

あー、結構お気に入りだったんだけどなーここ。

そう思いつつも、未だに体に響いている痛みを堪えながら俺は寝床を後にしたのだった。

 

 




今回の最後まで読んでいただきありがとうございました。
正直ブラッドの皆の口調がどうもしっくり来なくて(今もですけど)皆さんにはかなり違和感を感じると思いますが、どうかお許しください。
あと早速グダッてますがなんとかしていけるように頑張りたいと思います。

それではまた次回で。


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第4話 異なる存在として

どうも、黒夢羊です。
気付いたらUAがなんと1500を突破していました……。
しかもお気に入りが40件以上も!!
そして感想まで頂いてしまって!!

本当にこんな作品とも呼べるか怪しいモノを読んでくださってる皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。
今後もエタってしまわないように頑張っていきたいと思いますのでどうか宜しくお願いします。
近々とあるアンケートを取ろうか悩んでいるのでもし取る際には投票お願いします。

PS:GOD EATER3が難しいです。


※水棲さん誤字報告ありがとうございます。



フェンリル極東支部ブリーフィングルーム。

そこには榊博士によって精鋭揃いの神機使い達が集められていた。

榊博士は皆を一度見渡すと椅子に腰かける。

 

「さて、皆良く来てくれたね。ここに皆を呼んだのは他でもない先日発見された破壊痕と、ブラッドが遭遇したその主と思われるアラガミについてだ」

 

「「「「──っ!」」」」

 

榊博士のその言葉にその場にいた殆どの神機使いが緊張した面持ちに変わる。

そんな彼らを尻目に榊博士は手元にある装置を操りプロジェクターを起動させる。

プロジェクターが起動するとスクリーンにブラッドが目撃した破壊痕の映像が写し出される。

 

「まずは2日前に黎明の亡都の一部で、異様なまでの破壊痕が発見された。」

 

「そして、私は新種のアラガミの可能性があると考え極東支部に残っていたブラッドのジュリウス君、ギル君、ロミオ君、そしてレンヤ君に調査を依頼した」

 

そこまで喋ると博士は一息ついて眼鏡を上げ直し、プロジェクターに次の画像を写し出す。

そこには竜と人を足して割ったかのような純白の体を持つアラガミが写し出された。

そのアラガミを見た極東支部の面々は目を見開く。

 

「これは……ハンニバル?」

 

面々を代表して言葉を発した第1部隊隊長である藤木コウタ。それに頷きながら博士が情報を加えていく。

 

「ああ、まずは極東支部の皆は既に知っているとは思うが、ブラッドの皆は初めての相手だから少し説明をしよう」

 

「まず、このアラガミの名はハンニバル。極東支部にて発見されたアラガミで、コアを補食されても短時間で再生することから別名『不死のアラガミ』とも言われていた、もっとも今は対策を施して対処できるようになっているけどね」

 

そして、その後主な行動や弱点部位などの簡単な説明を終えて博士はさてと、と佇まいを直す。

 

「そしてこれからが本題だ。まずこのブラッドが遭遇したハンニバルを見てもらいたい……どこかおかしくないかね?」

 

そう言いながら先程の画像に加えて複数枚の画像がスクリーンに写し出されていく。

それを見たアリサが何かを見つけたように呟く。

 

「籠手が両腕についている……でしょうか?」

 

「それと体の色も少し違うな……」

 

アリサに続いてコウタも目を細めて言及する。

二人の意見を聞き博士も同意する。

 

「二人の言うとおりだ、見たようにハンニバルの籠手は常に左腕部に付いていて、その堕天種的立ち位置にある侵喰種も反転しているだけで両腕に付いていることはないし、今までのデータにもそのような事例は見受けられない……そして」

 

「この体色と過去のデータベースを照合したところ1つだけ合致するデータが見つかった。……それがこれだ」

 

手元の装置を操作しプロジェクターに新たに1枚の画像を写す。

そこには籠手は左腕のみだが、先程の見せられたハンニバルと瓜二つの体色を持つ個体があった。

 

「榊博士、コイツは?」

 

ジュリウスがプロジェクターから榊博士の方に視線を直す。

ジュリウスだけではなく、その場にいた全ての神機使いが博士へと向けられ、次の言葉を待っていた。

それに答えるように博士は口を開く。

 

「ハンニバル神速種。かつてリンドウ君が対峙したと言われるハンニバルの変異種だ」

 

「「「!?」」」

 

「ここからはリンドウ君の記憶に基づく説明になるため、確たるものでは無いことを予め伝えておくよ……いいね?」

 

そう伝え、皆を見回し、皆が頷くのを確認して再び語り始める。

 

「まず遭遇した場所は『鎮魂の廃寺』。動作、攻撃方法などは通常のハンニバルと差はほぼ無く同一と見て問題ないとのことだが」

 

そこで一旦言葉を区切り、息を吐き出す。

皆の視線が向けられているのを感じながらも眼前に表示された文字の羅列を読み上げていく。

 

「速度が通常のハンニバルとは違い圧倒的に早いとのこと。当時のリンドウ君が疲弊していたのもあるが、剣先を目で追いかけることが出来なかったとのことだ」

 

「ま……マジかよ」

 

その説明を聞いてコウタを始めとした極東支部の面々は絶句する。

極東支部に置いて最強クラスの戦力であるリンドウが例え疲弊してたとしても目で追いかけることすら出来ない早さを誇るアラガミとはいったいどれくらい危険なのだろうか。

 

そしてリンドウのことを詳しく知らないブラッドの面々は具体的な強さが分からないのか頭に?マークを浮かべている。

それを見たコウタはブラッド達にリンドウがいかに優秀かつ手練れの神機使いなのかを説明した。

その説明を聞いてやっとブラッド全員が極東支部の面々と同じように目を見開き驚愕の意を示した。

 

「なお、この個体はリンドウ君と当時居合わせた神機使いによって討伐はされているらしい」

 

「「えぇ!?」」

 

その情報にまたしても室内にいる博士を除いた全員が驚く。

リンドウですら追い付けない速さを持つアラガミを共闘とは言えど討伐しているのだ、驚くのも無理はないだろう。

 

ザワザワと室内が騒がしい中、恐る恐るといったようにコウタが手を上げる。

 

「あ、あのー質問ひとつ良いですか?」

 

「ん?どうしたんだい?」

 

「その神機使いってどこの所属とか分からないんですか?」

 

確かにその通りだ。もし、先程の情報が1つも間違っていない事実だとするならその神機使いはリンドウと同等もしくはそれ以上の実力者ということになる。

しかし、博士はため息を付き眼鏡を再び上げながら残念そうに口を開く。

 

「それがだね……分からないんだよ」

 

「えっ……?」

 

「分かっているのは男性というぐらいで、他のことは一切不明。当時のリンドウくんの事も考えると無理はないけどね」

 

「なんだ……まぁでもそうだよな。リンドウさんと同じくらいの実力だったらもう既に有名になってても可笑しくないよな」

 

コウタの言った通りで確かに当時それだけの実力があるとするなら嫌でも広まっていくであろう。

しかし、今の今までそんな神機使いの話は耳に挟んだことがない。

 

「まぁ問題はそこではないんだ。少し話を戻させてもらうけど、彼の話では確かにコアを補食したらしい」

 

「本来であればその時点で活動を停止するのだけど、当時はハンニバルのコアの再生に対処できていない時期だった……コレが何を意味するか分かるかな?」

 

「つまりは、その時倒した神速種がコアを再生して復活し、進化を遂げた可能性があると?」

 

「その通りだ、シエル君」

 

ブラッドの参謀的役割を担っているシエルの発言に博士は少し興奮したように頷く。

 

「これならば、先日ジュリウス君達が遭遇した際に戦う意思を見せずに真っ先に逃走したのにも理由がつく」

 

「つまりはー、神機使いが怖いって覚えてるってこと?」

 

「ああ、ナナ君の言うとおりで、神機使いを警戒すべきもしくは戦うべき相手ではないと認識している可能性がある」

 

榊博士の論に室内の多くの人が納得していたが、一人疑問を投げ掛ける人物がいた。

 

「じゃあさ?それがもしそうだったんなら、まだ対処できてなかった頃のハンニバルだって同じような行動を取ったんじゃないの?」

 

ブラッド内のムードメーカーの一人であるロミオがふと思い付いたかのように博士に質問する。

しかし、それは博士が望んでいた質問であり、この個体がいかに重要視されているかを伝える為に必要なものだった。

 

確かに……と他の神機使いも疑問を思い浮かべ始めているがそれを無視して博士は先程よりも言葉に熱を込めて語りだす。

 

「良くぞ聞いてくれた。ロミオ君の言うとおり本来であればアラガミは考えて補食をする存在で、例外はあるがほぼ全てのアラガミには我々のような学習能力があるとは言えないだろう」

 

「しかし、この個体は違う。当時のハンニバルは復活しても神機使いを餌としてしか認識していなかった……が!」

 

「この個体は神機使いを見た瞬間に逃走を開始したんだ!これがどういうことかというと、このハンニバルは他とは違う何かしらの特異性を持っているということなんだ」

 

「そもそも神速種がなぜ誕生したのかも未だに確固たる証拠は掴めていないから、元々神速種は特異体だったのかもしれないけどね」

 

「まぁ何が言いたいかと言うとこのハンニバルを研究することでアラガミの新たな事実が分かる可能性があるということなんだ」

 

息も付かないままに一気に喋り続けた博士は大きく深呼吸をし、再度目の前に集まったレンヤを始めとした神機使い達に本題をぶつける。

 

「このハンニバルのコアを解析することで、新たなアラガミに対する対抗策、ひいては人類の新たなる希望が得られるかもしれない。その為にこの個体の捕獲及びコアの摘出作戦を今後練っていこうと私は思っている」

 

「詳しい詳細はまだ決まってはいないが、その際には皆の協力が必要不可欠なんだ、是非協力してほしい」

 

榊博士は頭を下げて協力を願った。

レンヤを始めとした神機使い達の答えは決まっていた。

 

 

この時からこのハンニバルは特務対象『ハンニバル特異種』として登録され、本格的な情報収集などが開始された。

 

 




最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。
今回は主人公の出番は一切なかった訳ですが、レイジバーストをプレイしていて時間軸的に神速種に対しての対処ってなされてなかったと思い『実は復活してるんじゃないかな?』と思った次第です。

記憶や知識などが非常に曖昧な為に事実とは違う可能性もありますが、そこはどうか暖かい目で見守っていただけるとありがたいです。

では、次の話で。


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第5話 先生、成長期がやって来ません

どうも、黒夢羊です。
この度2000UAを突破しました!(パチパチ)
これまでハーメルン様を始めとした投稿サイトでいろんな作品を書いてきましたがここまで多くの方に読んでいただける事がなかったのでとても嬉しいです。
本当に読んでくださってる皆様、ありがとうございます。




どうも、アラガミのハンニバル神速種こと禊です。

久々に自分の名前を出した気がするな、思い出すのに案外時間がかかってしまった……。

 

まぁそんなことはどうでも良くて、この度新しい寝床を探しているんだが、どうにも良いところが見つからない。

実際は前の寝床での生活が充実し過ぎていて他の寝床になりそうなところを見つけても満足出来ないって言う我が儘な理由なんだけどね。

 

取り敢えず今は愚者の空母の辺りに住まいを移してるんだが、現在自分には寝床を探す以上に大事なことがある。

 

 

それは、『体の成長が止まった』と言うことである。

 

 

「成長期の男子の悩みかっ!」っていうツッコミも出来そうだがそんなのはどうでも良い。

まずこの世界に転生していた時、自分は通常のハンニバルの3分の2以下の大きさだったのだが、今ではどうにか通常個体と同じくらいの大きさまでに成長できた。

 

しかし、いくらアラガミを食べても以前に見られた体の成長が一切ないのである。

もしかしたらアラガミの大きさってのは既に遺伝的に決められているのか?と思ったのだが、前例として金色のヴァジュラがいた。

 

金色のヴァジュラは読んで字のごとく金色に変化したヴァジュラで、通常の個体と大きく違うのはその体の大きさだ。

脳内に残ってる映像記憶が曖昧な為に具体的な大きさを思い出せないが通常のヴァジュラの2倍はあったんじゃないかなと思う。

 

このように前例があるのだから、自分も巨大化ないし体を進化or変化させることが出来るのではないか?と考えている。

しかし現状はいくらアラガミを食っても変化しておらず先程の述べたように遺伝的な何かで成長が限界に達しているのでは?と思っている所だ。

 

大きさや特性の変化による多様性というのは多くの場合が、この弱肉強食の世界で生き抜くのに強い武器となる。

弱い小型のオウガテイル等は中型や大型のアラガミから狙われる格好の餌となる。それは対抗手段を持たず、体格差等による力の開きがあるからで、ヴァジュラ程の大きさに複数体がなって群れで暮らしていれば襲いにくくなるはずだ。

 

……ん?小型?

ふと、自分がこの世界に来てから食したモノを思い出そうとする。

オウガテイル、コクーンメイデン、ドレッドパイク、ナイトホロウ(不味い)、ザイゴート……

 

……

…………

……………………

……小型ばっかりじゃん!!

 

 

 

そうだ、自分はこの世界に来て自分が圧倒的優位に立てる小型のみを狙って補食を行ってきた。

はいそこ!ビビりとか言わない!

 

もし、小型のみを食べ過ぎて「体がそれを摂取することになれてしまった」及び「小型のオラクルでは足りないほどに成長してしまった」と考えるなら、これから大型や中型を食べていけば体の巨大化か性質の変化等を起こせるかもしれない。

 

……どれもこれも仮定ばかりで希望的過ぎるか。

こうなることならもう少しGOD EATERの世界について詳しくなっておけばよかったな……と思うが、こんなことなんて普通起きないだろ!と脳内で一人漫才を行う。

 

取り敢えず、これからは大型や中型を積極的に狙う方針で行こうと思う。

それに必要なのはまず最初にどいつから狩るかなどを決めないといけないのだがそれはまぁ後でも良いだろう。

 

まぁなんでいきなり強くなろうとか思ったのかというと、自分は転生者に良くありそうな特典である、この世界の未来を知っている。

そしてこの世界は物語が始まってから、あまり時間は経っていない。

つまりは、自分がこの物語に介入してハッピーエンドに出来るのではないかという話だ。

具体的に言うとロミオとか助けれるんじゃないかなって思ってる。

やっぱり生き返るって分かっても悲しいし、それにアイツとの『約束』も果たせそうだからな。

 

 

それに、いくらアラガミでも人を助けるとなれば極東支部の人達も自分が無害だってことを分かってくれると思う。

それに体はアラガミだとしても自分は人間だ、アラガミの皆には申し訳ないが人間の味方をさせてもらう。

……そもそもアラガミ達に仲間意識があるか怪しいんだが。

 

ついでに下心として自分はリッカちゃんとかオペレーターのフランちゃんとかが好きなので嫌われたまんまでいるのもなんか悲しいからなぁ……。

 

 

そうしてハンニバル特異種と名付けられたハンニバルは巨大な空母に出来た穴の中で胡座をかきながら今後の活動方針を練るのであった。

 




今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
私としてはNPCでは看護学生のヤエさんとか本文にもある通りリッカさんとかが好きなんですね。あとダミアンさん。あのイケメンは格好良きですよ……一緒に戦いたかった。
皆さんは誰が好きとかありますか?

それではまた次回で。


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第6話 よし、中型を狩ろう

どうも、黒夢羊です。
まさかの3000UA&80お気に入りです!?
有難う御座います!本当に有難う御座います!
これからも書き続けていきますので、どうか宜しくお願いします。
では、本編にどうぞー。






 

自分の身を守る&ついでに運命を変える為に強くなろうと決心した昨日から1日が経った。

 

今現在自分は空母の成れ果ての甲板の上で準備体操をしている。ほら、体育の授業とかでしたアレですよアレ。

やっぱり人間のときの習慣が抜けないというか、もし何処かが攣ったりしたら大変だからね!多分無いと思うけど!

 

それで、何を狩るかと言いますと今回はシユウを狩ろうと思う。

 

強さ的な面も考えてコンゴウにしようかと考えたんだが如何せん複数体で来ても困るしな……。

その点シユウは(ゲームの頃だが)比較的少数で戦いを挑んで来るし、攻撃方法も多いため戦闘の経験値も高めだろうと勝手にふんでいる。

後シユウは翼(もしくは翼腕?)が生えていて某有名狩ゲーに出てくるティガなんとかさんみたいに滑空みたいなのが出来る。

もし上手く取り込めれば空を飛べる(滑空)ハンニバルになれるのでは?という個人的な興味も含まれている。

 

基本シユウ及びシユウ神属は脚には斬撃は効きにくいのだが、それはあくまでも神機使いの時の話で、ハンニバルの自分の攻撃はどう通るのだろうか?

いや、そもそも自分の炎を使用した攻撃に物理属性が付属されているのか?

 

そうなると炎や神属性に耐性を持つタイプのアラガミには自分の持つ攻撃の半分ほどが効果が薄くなるので、ハンニバルお得意の体術になるのだが、こちら中身は何処にでもいる一般の高校生。勿論体術なんて習ってないし出来ると言えば中学の頃授業で受けた受け身と背負い投げの真似事みたいなものだけだ。

これ実際にやると「相手の骨が逝くから正しく投げろ」って柔道部の先生から言われたけど、正直力の受け流し方とかそこら辺の知識が全くさっぱりピーマンなので見よう見まねでやるしかない。

まぁ相手はアラガミだし、多少力任せにぶん投げても良いだろう。

 

さて、色々と検証すべきことがあるのでそろそろ探しに向かうか……。

朝を告げるために日も昇り始めようとしている。シユウがいると思われる場所まで向かうために自分は足を走らせた。

……やっぱり飛べるようになりたい。走るのスッゴい面倒くさい。

 

まずはシユウの生息地とか言われている『煉獄の地下街』に来たんだが、暑い。

体感的に真夏日に延々と太陽に照らされ続けているような感覚に陥るが生憎ここは地下。太陽光の暑さと錯覚したのは周りから溢れている溶岩とここら一帯の空間に充満している熱気である。

自身が元々炎属性であったハンニバルの変異種な為か我慢できない暑さではないが、好んで住処にしようとは思わない。

ここでバリバリ動ける神機使いは体に『あべこべクリーム』かなんかでも塗ってるのか?

 

暫く周囲を歩いてシユウを探したが、その影は1つもなかった。

何処の誰だシユウがここ住処にしてるってほざいた奴!……思い出せねぇよこんちくしょう!

 

 

───────────────

 

 

続いて『蒼氷の峡谷』にやって来た。

先程とはうって変わって辺り一帯が凍っており、鎮魂の廃寺同様に寒さしか感じない。

だが、彼方では感じはしなかったがダムということもあり地面が凍っていそうで怖い。

す、滑らないよね?バラエティ番組のローション相撲みたいに転倒しないよね?ギャグ漫画みたいにオーバー気味に転ばないよね?

コンクリートにちょんちょんと感触を確かめるように軽く何回か足で触れてみる。

 

……どうやら滑らなそうだな。ならば話は早い!

自分がいま必死にしがみついていた山から近い部分から飛び降りダムのコンクリートの地面に着地する。

着地時に大きな振動と音が鳴り一瞬「やべ……」と思ったが何事も無くほっと一安心。

 

危ない危ない、自分の着地の衝撃で辺りが砕けたりとかしたら本当に危ない。

いやまぁダムだし砕けないだろうけど、それでも大分経つだろうから万が一があるかもしれないからなぁ……。

 

そんなこんなで辺りを見回してみるがシユウらしき影は見当たら……なくないな!シユウ発見!

 

思わず笑みを浮かべた自分の視線の先にはゲームの時に出発する地点の近くにある洞窟から姿を現したシユウの姿が。

 

そのまま、所々に雪が残る地面を走りシユウへと近づいていく。

足で地面を踏む度に人間とは明らかに違う重さの足音が鳴る。

その音に気づいたのかシユウが此方を向き、シユウの特徴的な翼腕でお馴染みの挑発ポーズを取るがそんなことは知るか!

高く飛び上がり両手の炎の勢いを利用してシユウへと高速で接近する。

 

先手必勝!右手でシユウの顔面を掴み、勢いを利用して思いっきり地面に叩きつける。

そして押さえつけたまま掌から全力で炎を噴出させる。

 

「グオオオオォォォォォォオオ!?」

 

炎が得意なシユウでも流石にこれは堪えたのか、苦悶の声をあげつつも翼腕を使い必死に自身の頭を掴み続ける腕を外そうとする。

しかし同じアラガミとはいえど大型と中型、元々の膂力の差があるのか一向に外せる気配はない。

 

ぎゃあああああ!怖い!めっちゃ怖い!

翼腕がスッゴい掴んできてる!がっしりと掴んできてるって!!

早くお亡くなりになってくれませんかねぇぇぇぇ!?

内心シユウが思ったよりもしぶといので冷や汗が止まらない。

炎の勢いを強くしたいがどれだけ踏ん張っても今出せるこれが最大火力で、これも小型ばかり食べていた弊害なのか。

 

すると力では外すことが無理と悟ったのかシユウの翼腕の掌が淡い光を放ち始め、 それと同時に掌に接している腕の部位が少し暖まって──

 

ヤバイ!

そう思った自分は地面に押さえていたシユウを持ち上げ全力で放り投げる。

シユウが腕から離れた直後、先程から光を放っていた翼腕から淡いレモン色をしたような火球が此方へ2発放たれる。

 

そのままだと勿論直撃コースなので、自身の体を横へ回転させてそれを避けようとしたが─

1発目は回避できたが、1発目より少し下に放たれていた2発目が左肩に命中する。

 

焼けるような痛みが体を襲うが、神機の弾よりは遥かにマシな威力だ。

でもやっぱり痛いです。

体勢を立て直し、先程火球が命中した肩は表面が少し溶けていたものの、既に再生を開始している。

やだ、回復力高すぎない?

「ヴゥ"ゥ"ヴゥ"ゥ"ゥ"ゥ"……」

 

そう自分の体に若干恐怖していると、ダムの通路の方から唸り声が聞こえたので、そちらへ顔を向けると顔の殆どが溶けてしまいグチャグチャになったシユウの姿が在った。

うわー……やったの自分だけどありゃ酷い……。

 

此方にバリバリの敵意ある視線を向けているが、先程の攻撃がかなり効いたのかその姿は息も絶え絶えと言った様子。

このままにしておくのも申し訳ないし、トドメを刺してあげよう。

ゆっくりとシユウに近づき、左手に炎剣を出現させて弱々しく抵抗しようとするシユウの胸に深々と突き刺す。

 

「ギャッ……」

 

短い断末魔を上げて、ぐったりとする体。

炎剣を引き抜くと、そのまま地面に前のめりになって倒れた。

 

絶命したシユウに手を合わせる。自分が殺したんだ、アラガミとは言え感謝せねばね。

確りと合わせた後にシユウ胴体を貪る。

う……美味い。

 

小型とは比べ物にならないくらいに美味い。

食べたことで似たものならローストチキンだろうか?

取り敢えず美味い。

気づけばあっという間に平らげてしまった。

 

さて、後は体の変化があるかどうかなんだが……。

暫く待ってみたが変化は無さそうだ。

薄々分かってはいたが、それでも空が飛べるかもしれないという可能性があった為に少しへこむ。

まぁ、中型を食っても変化は無いようだし、次は大型かなぁ……。

 

と、思っていたら背中に何かがぶつかった。それと同時に先程感じた焼けるような痛みが背中を中心に襲う。

振り替えるとそこには先程のシユウの叫び声を効いてやって来たのか2体のシユウが翼腕を此方に向けて「来い」とばかりに挑発している。

 

んー、2体か。

さっきも食らったけどダメージは軽いし、戦闘経験を積むためだ、ここは戦うか。

シユウの挑発に乗るようにこちらも威嚇と自身のやる気を高めるために腹から全力で叫ぶ。

 

「グルゥアアアアアアアアアア!!」

 

自分の叫び声が開始のゴングとなり1対2の変則デスマッチが始まった。

まずシユウAがこちらに滑空しながら突撃してくる。

近づいてくる体を右手で掴もうとするが横に避けられてしまい体をすれ違う瞬間足で横っ腹を蹴られてしまう。

 

蹴られた事で少し体勢を崩した所に間髪いれずにシユウBがサイヤの王子が如く火球を連射してくる。

それを両手の籠手で防ぎながら、接近しパンチをお見舞いしようとすると、ギリギリの所でバックステップで避けられる。

その直後見計らったかのようにいつの間にか接近していたシユウAが翼腕で数発体に拳を叩き込んでくる。

 

本体へのダメージはそこまでだが精神的に痛いものは痛いのである。

体を捻りもう一度Aを掴もうとするが、逆にBに邪魔をされてしまう。

……コイツら戦いなれてる?

 

そう思えるかのようにコイツらの連携は確りと取れている。こうして他のアラガミや神機使いを倒してきたのだろうか?

いやそんなことは自分にはどうでもいい。

取り敢えず片方を潰せばいいのだ。

幸い体の方へのダメージはほぼ無いに等しい。ただ、自分の精神の方が痛みに耐えれるかの問題だ。

 

右足を軸にして体を回転させ、2体のシユウを一旦離す。

そこからAに振り向きさまに火球を2発放ち、着地した直後のBへと手に炎槍を発生させて飛び掛かる。

流石に対処しきれなかったのかシユウBは翼腕で防ぐが、目的は槍ではなく接近することだ。

炎槍をまともに受けた翼腕は一部結合崩壊を起こすが未だ健在。

飛び掛かった勢いのまま押し倒し、その体を守った翼腕の両腕を掴む。

 

そして、思いっきり引っ張る。

ブチブチブチッ!と嫌な音がした後にシユウの絶叫が辺りに木霊する。

あーもう静かに!片足で叫び声を上げる顔面を踏みつけ声を塞ぐ。

ちぎった翼腕を放り投げ、右手に出した炎剣で胸を刺す。

 

先程と同じようなものだ、こっちは叫び声も上げれず死んだけど。

物言わぬ骸と化したBを此方に向かって走ってくるAに向かって放り投げる。

それは予想外だったのか、死体とぶつかり動きが止まる。

その瞬間にこちらは走りだし、数秒も経たぬ内に接近。

そのまま足払いを行い、体勢を崩したAに炎を纏った拳を叩き込み、そのままの勢いでAの体と地面をキスさせる。

こちらは先程みたいに避けることは出来ず、見事に地面にヒビが入る。

そして空いた片方の手で作った炎槍を胴体に突き刺して終了。

 

 

おお……戦えた。

なんかそれっぽい戦闘できた!

それにしても速いなこの個体。自分が思っているよりも結構早く動く。

普通なら足払いの後にパンチかますとか出来ないだろ……。

まぁそれでも出来ることが多いということはそれだけ自衛の手段が増えるということなのでヨシとしようではないか。

 

それよりも食事だ食事。

早くしないと消えちゃうからな。

そうしてぶん投げてしまったBも回収して食事をしたが、全くと言って良いほど体に変化はなかった。

 

 

───────────────

 

 

「おいおい……」

 

双眼鏡から見えるその映像に思わず言葉を漏らすのは極東支部で働く神機使いのマツリだった。

 

今回自分達はフェンリル支部各所で騒がれていた二体のシユウの調査及びそれの討伐任務を受けここにやって来ていた。

その二体のシユウはアラガミとは思えないほどの連携で大型さえも相手取り、倒してしまうらしい。

そんなシユウらが最近はここ『蒼氷の峡谷』のダム付近を縄張りにしているという情報が入ったのが理由。

 

そして情報通りその2体のシユウは見つかったのだが……。

先に大型アラガミであるハンニバルとの戦闘に入り、最初こそ連携を上手く活かし優位にたっていたがそれから直ぐにとてつもないスピードで動くハンニバルによって2体とも絶命した。

その速さと強さに5年以上神機使いを続けている自分でさえ脂汗が止まらなくなる。

 

「こ、これは局長に知らせなければ……」

 

幸い向こうは補食するのに夢中だ。ならば今の内に逃げるのが得策だろう。

そうして俺は、任務を想定外の存在によって潰され撤退を余儀なくされた。

 

 

後日この事が榊博士の元に届き捜査網が強化されたのは言うまでもない。

 

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき有難う御座います。
最近は3で難易度4まで言ったのですが、遺された神機集めでわちゃわちゃしています。
今回はレイジバーストみたいに優しくないんですね……。
まぁそれでも楽しいので全然気にならないんですけどね。

さて、またある程度整ったらオンラインプレイをしようと思いますのでもしご縁があれば宜しくお願いします。


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第7話 人はそれを進化ではなく変化という

どうも、黒夢羊です。
感想を頂けて私は感謝感激アマテラスでございます。
一応現在物語のラストはどうしたいかなどは決まっているのですが、それが二つともあるのでどうしようか悩んでいるところです。
まぁそれよりも続きが書けないといけないんですけどね。


では、本編にどうぞ。

※デスペインさん誤字報告有難う御座います。




お早う御座います皆さん。今日も元気にラジオ体操のお時間です。

 

何て冗談は置いといて、少しいいニュースが飛び込んで……いや発生?しました。

なんとこの前シユウ君を3体ほど食らった事で足の部分が少しシユウっぽくなりました。

具体的に言うと太ももの前側がシユウの同部位と酷似したモノに変わってた。

後は爪がなんか昨日より伸びて固くなってる気がする。

色も変わった……?いやまぁそんな些細な違いはいいや。

それよりも中型を食べたことでその中型の特徴が一部ではあるが体に現れた。ということは大型を食らえば更に良い変化が体に現れるのではないだろうか?

そう思えるとやる気が湧いてきた。柄でもなく朝日が登り始めた空に向かって思わず「グルゥアーー!(頑張るぞー)」と言ってしまった。

 

 

 

因みに翼は生えてなかった……なんでや。

 

 

───────────────

 

 

さて、今後の方針をどう決めるかだ。

取り敢えず中型や大型のアラガミを食べればそのアラガミの特徴もしくは特性が体に発生?するっぽい。

そこでだ、まずは自分がこれから生き抜くのに必要になりそうな能力を持っているアラガミを考えていこう。

 

 

 

まず思い付くのはマルドゥーク。

ガルムというアラガミが感応種という種類のアラガミに変化した存在。

感応種はそれぞれが周りのアラガミに影響を与える能力を持っているんだが、コイツの能力は周りのアラガミを自分の元に連れてくるって事だ。

従えるとはちょっと違うのかもしれない。

コイツの能力が手に入れば、神機使いに襲われた時にも周囲のアラガミを盾にして逃げることが出来るかもしれない。

問題はコイツ自体が普通に強いこと、それに加えて必ずコイツの能力もふまえて多数との戦いを強いられるからまず現状じゃ無理に近い。

 

 

 

次はイェン・ツィー。

コイツは昨日頂いたシユウの感応種で、なんか良く分かんないけど感応波を利用して周囲のアラガミにターゲットばかりを狙うように仕向けられる。

コイツはマルドゥークとの能力の併用前提なんだが、自分に従わずとも狙いを相手に絞ってしまえば勝手に戦ってくれるように出来ると思う。

更に言えばマルドゥークと戦う際にあっちの能力で集まったアラガミを逆に利用してマルドゥークに攻撃を集中させるようにすれば戦闘を優位に進められると思う。

問題は何処にいるかが分からん。

 

 

 

そんでもって次はタカシ……じゃないスパルタカス。

コイツは自分と同じハンニバルの感応種なんだが、コイツは周囲のアラガミのパワーを吸収して自身をパワーアップ出来る。

ただ、パワーアップ時には隙が多いのと、周囲のアラガミが軒並み弱体化してしまうのでそれを利用して多数対1の状況で使えばこちらが優位に勝負を進められるようになる……はず。

こいつも何処にいるか分からん。それに同じハンニバル神属だから動きも機敏で倒すのに苦労しそうだ。

 

 

 

こうやって見ると感応種ばかりだな……。

しかもどいつもこいつも面倒くさい奴らばかりですしおすし。

うーん、他に倒しやすくて使いやすい特性とか持ってるアラガミとかいないかね……。

 

そう空母の中で元々無いに等しい頭を捻っていると、1つの疑問が浮かんだ。

 

 

ん?そういえば何で小型アラガミの能力は使えないんだ?

 

 

いやだってシユウを3体食べてその見た目が体に現れたのなら自分とっくにザイゴートとかの能力使えてもおかしくないのでは?

小型と中型で必要な量が違うとしても結構な量を食べていたから、全く反映されていないというのもおかしいのでは?もしかしてゲームの遺された神機みたいに抽選なのか?

そう思ったのだが、ふいに正解かもしれない考えを思い付いた。

 

……そういえば、小型食べてる時は体を大きくしたいってだけで食べてたな。

んんー?つまりはアラガミを頂く際にそのアラガミのどの特性が欲しいかとか具体的な成長案が頭にないとただの食事になっちゃうわけ?

 

 

 

 

 

……これじゃね?これ正解なんじゃね?

そう、そもそもアラガミは補食するのがメインの細胞が集まって出来た生物だ……確か。

自分みたいなどうすれば強くなれるか考えて食べる事をする個体なんてまずはいない。いたとしてもここまで具体性を持っているかどうか。

 

ヴィーナスというアラガミがいるが、あれはあまり考えずに手当たり次第アラガミを補食し続けた為にすべての特性を取り込んだような姿になったのだろう。

ということはさっき考えたように確りとそのアラガミの欲しい所を意識して補食すればそれが手に入るかも知れないってことだな。

 

ただ、そう考えるとカリギュラとかは何であんな感じに進化したのか分からんけど、そこは別にどうでもいい。

ひとまず大事なのは自分が強くなって生き抜く力を身に付けること。

 

よし!……取り敢えず何から襲おうか。

 

 

───────────────

 

 

フェンリル極東支部局長室。

そこに設けられた簡素だが確りとした作りの椅子に腰掛けながら極東支部局長であるペイラー・榊は手元にある報告書を興味深く眺めていた。

 

それは以前ブラッドがとある任務で遭遇したハンニバル神速種の変異体と思われる個体が再び目撃されたと言う内容。

それには以前からフェンリルの各支部で多数の神機使いやアラガミの命を奪っていた二体のシユウの調査と可能ならば討伐の任務を極東支部でも十分な実力を持つマツリ達に任せていたのだが、本人達が任務目標らしきアラガミを発見し追跡していると、これまたそこには特務対象とされるハンニバルがいたと言うことである。

 

シユウがハンニバルに向かって攻撃を行い、それによって2体とハンニバルは交戦を開始。

自慢の連携能力で本当に序盤こそ優位に立っていた2体だがそれも一瞬の事でアラガミは2体を同時に相手取るのではなく、各個撃破へと戦い方を変えたと書いてある。

そこからは一瞬の出来事で一体を軽く足止めし、そこからはもう片方に急接近、翼をもいで胸に剣を刺してトドメ。

そして残った片割れに死骸を投げつけ動きを止めた後に足払いからの打撃、そしてトドメは前者と同じように決めたとのこと。

 

……ふむ、実に興味深い。

 

まずは最初に発見された場所から身を隠して移動していたこと。

しかし、これはある程度のアラガミになれば見られる特徴であり、さして特筆すべき事ではない。

 

次に体格。資料の画像を見れば目測でしかない上にハンニバル特有の背を屈めている為詳細は分からないが、シユウと同等、またはそれよりも少し高くなっている。

最初の発見から約数日。その短い期間にここまでの大きさになっているとは……。

 

最後にその戦い方。最初は2体同時に相手取ろうとしていたが、それが難しいと分かったかは不明だが各個撃破へと目標を変えている。

ただ、あくまでもこれを見ていた当事者である彼らの主観だし、実際はどうかは分からない。

しかし、もしこれが正しいとするならば、このアラガミは文字通り「思考している」と言うことであり、他のアラガミにはまず見られない最大の特徴である。

 

榊は机の上に備え付けられた受話器を手に取り『とある人物に』電話をかける。

それは少しの間を置いて、電話に出た。

 

『……どうした、榊のおっさん』

 

「どうしても君に聞きたいことがあってね」

 

『俺に……?』

 

「ああ、それと『彼』を呼んでくれるかな?これは彼にも少なからず関係性がある……あるというよりは出来たなのかもしれないけどね」

 

『……分かった、一先ず落ち着いたら改めて連絡する』

 

「ありがとう、じゃあ待っているよ」

 

そう榊が言うとプツッという音と共に通話は切れた。

受話器を元の位置に戻し、ふと、榊は天井を見上げる。

 

 

そこに何を見たのかは彼以外は分からないだろうし、彼にも分かっていないのかもしれない。

少しして頭を元に戻し、ずれた眼鏡を人差し指で直す。

そして1人静かに呟く。

 

「赤い雨……そしてこのハンニバル」

 

「これは新たな特異点なのか……それとも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ……」

 

車椅子に乗った美しい金の髪の女性は1人画面に映るアラガミを見ながら笑みを浮かべる。

 

その笑みは人を惑わす魔性の笑みだが、それが向けられるのは荒ぶる神。

 

「これは、きっと贈り物なのかも知れませんね」

 

何度も何度も竜と人が融合したかのようなアラガミ──ハンニバルがシユウを相手取り瞬殺していく動画を再生する。

何度も、何度も何度も何度も何度も何度も。

 

動画が繰り返される度に深まる笑みに何が込められているのか、それは彼女しか知り得ないものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──少しずつだが運命は動き出す。

それが悲劇的なものなのか、はたまた喜劇的なものなのか。

それは荒ぶる八百万の神々しか知り得ぬ事。

変えるのか変えないのかも彼ら次第。

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき有難う御座います。
さて、アンケートの結果見てみるとアラガミ×人が圧倒的ですね。
やっぱり異種族カップルっていいんですかね?
もう1つの方はキュウビが書いてる現在一位ですが、どうなんでしょうね。

GOD EATER3を楽しくプレイしていますが、皆さんはオススメの武器とかありますか?
私は殆どがヘヴィムーンとバスターなのでそろそろ他の武器とかも使ってみたいなーと。

それではまた次のお話で。


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第8話 中型(シユウ神属)も数ありゃ化ける……かも

どうも黒夢羊です。
まさかまさかのお気に入りが100件を越えました!
お気に入りに入れてくだった皆様本当に有難う御座います。
感想はこの後返していこうと思いますので、感想を書いていただいた方、遅れてしまい大変申し訳ありません。
まさかここまで多くの方に見ていただけるとは書きはじめた当初は想像していなかったので本当に嬉しいです。
これからも頑張っていくので宜しくお願いします。


この黒夢羊、感想や評価を頂いた日には悶え苦しむのだ……喜びでなっ!!




では、本編へどうぞ。





空母の中に朝日が差し込んでくる。

寝そべった体を起こし、頭を天井にぶつけないように屈みながらばっくり割れた空母の中から、甲板の上に上がり背伸びをする。うーん!朝日が気持ちいい!

さて、今日の活動の前に確りと準備体操をしなければ。

いっちに、さんしー、ごーろく──

 

 

……さて!今日は何をするかと言いますと……散歩をしたいと思います!!

────いや、ふざけてないよ?至って真面目も真面目、超大真面目。

あれから暫く考えたのだが、どれだけ食べたいアラガミを考えたところでそう都合良くあるとは限らないのである。

ゲームの頃はミッション受けるだけで行けたのになぁ……こういうところは若干不便だと感じざるを得ない。

 

 

という訳で何処にいこうかという訳なんですけども、一先ず1つくらいは一昨日行ってないところにでも行こうかなーと思っております。

という訳で今日は『鉄塔の森』と最初に寝床にしていた『黎明の亡都』ですね。

さーて、行きますかね!

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

さて、そうやって辿り着きました『鉄塔の森』!

しかし意気揚々とやって来た自分を出迎えたのは思わず鼻を手で覆いたくなる悪臭……。

いやこれくっさ!なにこれ本当にくっさ!!

原因は中央にある排水だろう……、これがある中で戦ってたのか神機使い……鼻栓でもしてたのかね?

 

 

そうやって辺りを見回す。何処かに目的のアラガミは居ないかねー?

そうやって首を持ち上げて探していると、エグい排水の臭いに混じってつい2日前に嗅いだ事のある臭いが漂ってきた。

 

 

臭いを辿ると、アラガミの集団と出会った。

それは珍しくシユウを複数体連れた接触禁忌種の1体セクメト。

うん?『セクメトって何?』だって?しょうがないここは解説をしなければならないな!うん!

 

 

説明しよう!セクメトとは前に戦ったシユウ神属の第ニ種接触禁忌種である。見た目は獅子の頭にエジプトとかそこら辺の壁画とかに描かれてそうな冠を被ってる上半身はナイスバデェな女性の体を持つアラガミだ。

他?シユウと一緒だよこんちくしょう。でも自分はリッカさんとフランさん一択なんで関係ないね!

え?二人で一択っておかしいって?知らん!!

参考にならないって?ならばアーカイブを見てね。

 

 

しかしまぁ……2日前にシユウと戦ったばっかなのに早くも派生種とご対面ですかコノヤロー、こっちは排水の臭いで気分だだ下がりだっていうのに。

 

 

セクメトは此方を見つけると、翼腕を器用に動かし此方を指差す。

すると周囲を固めていたシユウ数体が此方に向かってくる。

まずは真正面から飛んで来る奴に思いっきり右の拳で1発かまして叩き落とす。

次に走ってくる奴に殴って今叩き落とした奴を蹴り飛ばしてダブルヒット。

蹴りあげた足を前に落とし、そのまま体重を前にかけて空中一回転しつつ両手に炎剣を作り出しそのまま空中で別の2体をぶった切り、着地した後立ち上がろうとする2体の胸に突き刺す。

 

 

セクメトはどうやら分が悪いと判断したらしい。

更に数体此方に向かわせて自分はいそいそと撤退を始めた。

火炎を口から吐き出し、敵の勢いを弱める。

動きが止まった瞬間体を回し体と同等、いやそれ以上の長さを持つ尾を勢いに任せて横凪ぎし、地上にいた3体を巻き込み近くのビルの壁へとぶつける。

重たい物がぶつかった衝撃音に続いてメキメキ…と鈍い音が響く。

尾をビルから離すと3体ともその場に力が抜けたかのように崩れ落ちる。

周りを見渡すと前方に此方を明らかに警戒し、攻めあぐねているシユウが2体。

 

 

まぁ当然警戒するよな、アイツらの立場に立てば誰だってそうする、俺だってそうする。

しかし、逃げ出そうとしないのは接触禁忌種(セクメト)が怖いからか、だとしたら意外と上下関係しっかりしてるのね。

 

 

とまぁそう自分がぼやっとしているとシユウ達は左右ニ手に別れて襲いかかってきた。

悪い手段ではないが……。

意図的かそうではないのか少しタイミングをずらして襲い来る2体の頭部をそれぞれの片手でがっしり掴む。

そしてそのまま地面へヒビが出来る力で叩きつけたあと、炎を手から放出。

顔面に火炎放射をくらう当のアラガミ達はさぞ辛いだろう。しかしそんなことな知らぬ存ぜぬで、そのまま顔面に炎槍を突き刺す。

 

 

やった後に気付くんだが、某有名ゾンビパニック映画とかでありそうな殺り方だなこれ。

まぁそれはいいんだ。一先ずセクメトが差し向けたシユウの死骸を回収する。

中型と言えど、その背丈は成人男性の約2倍もあり、大型のハンニバルと言えど複数体運ぶのはキツい。

かといってこのまま放っておくのもコイツらを殺した自分としては勿体ない。

というか食い物を粗末にするのは誰であろうとギルティである、それがアラガミだとしても。

 

 

……仕方ない、食うか。

セクメトの後を追いかけるのを諦め、目の前に積み重ねられたシユウ達を胃袋に納めていった。

 

 

 

……暫くの間はローストチキンの味は思い出したくない。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

あれだけの量を腹に納めたのに体の重さを感じない辺りやはりアラガミ。常に空腹なのだろうか?

 

まぁそんなことより山盛りシユウ丼を頂いた後にセクメトの追跡を開始したのだが、シエルさんの血の力やフェンリルの施設よろしくアラガミ発見レーダー何てものを持っていない自分が見付けられる筈もなく、ただいたずらに時間が過ぎていた。

 

流石にもうそろそろやめて帰ろうかな……なんて思っていたら、ふと何かを感じ取った。

漫画とかアニメでいうニュータイプの『キュピィィィィン』である。

どうせ見つからない物を探している訳だ、自分の中のニュータイプに身を任せてみよう。という事でニュータイプが感じ取った方向へと足を進めた。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

──で、今自分は『黎明の亡都』のビルの上に居るんですけどね、何処かって言うとほら、2で主人公がマルドゥークに1発入れてマルドゥークが逃げおおせたあのビルの上ですよ。

 

 

それで今自分の眼下でセクメトと感応種イェン・ツィーが神機使い達と戦ってるんですね。

神機使い達はどうやらヴァジュラの討伐が任務だったらしく、奥にはヴァジュラが2体倒れている。

追加で辺りに散らばるシユウの死体から見て『任務完了後にシユウを引き連れてセクメトが乱入。セクメトを処理していたところに更に感応種であるイェン・ツィーまでもが登場』……と言ったところだろうか。

見るからにベテランそうなナイスガイな第1世代のおじ様がリーダーでそれに第2世代の若者3人のチーム。

動きからしてかなり戦いなれている動きでセクメトやイェン・ツィーの攻撃を見事に捌いている。

 

 

因みにブラッド以外の一般の神機使いは感応種が居るとなんか感応波の影響がなんちゃらかんちゃらで神機が使えなくなる。その証拠にスタングレネードやホールドトラップでの足止めしか出来ておらず、かなりジリ貧である。

そんな訳で今かなり神機使いの人がピンチ!という事で、助けに入りたいんだが……。

自分自身が感応種の影響を受けないか若干の心配がある。

いやまぁここまで近くに居るんだから影響受けないだろうとは思うんだが、感応種の意識の問題かもしれない。

例えば自分が把握している奴のみ標的へと誘導できるとか、アラガミも生命体だからそういう縛りがあってもおかしくはない……と思う。

 

 

そうこう自分がうだうだ悩んでいるうちに銀髪の女性がリーダー(仮)が受けるはずだったセクメトの攻撃からリーダー(仮)を庇った為に倒れてしまう。

慌ててスタングレネードをなげて──まぶしっ!!

……そこから離脱したけどかなりヤバそうだ。現にかなり深く入ったようでそのままうずくまって何やら言い合いをしている。

その隙を逃さないかのようにセクメトが襲い掛かろうと走り出す。もう悩む時間はない、助けなければ。

 

 

 

……ええい!ままよっ!!

 

 

そう決心しビルから飛び降りて襲い掛かろうとしていたセクメトを足で踏みつけ着地する。

大型の体重が落下のスピードに乗ってそのまま奴自身の背中にのし掛かる。

奴の体からはミシィ……という鈍い音と、小さい呻き声のようなものが聞こえたが無視。

 

「なっ、なんだ!?」

 

「また新手かよ!!」

 

なんか神機使いの方々が騒いでいるが取り敢えずはコイツらを倒すことに集中する。

セクメトを踏みつけている足を退けて、思いっきりビルの壁目掛けて蹴り飛ばす。

 

 

……うん、体は自分の意思でしっかり動かせる……どうやら感応種の影響は受けないっぽいな。

ただ、こいつだけなのかもしれないから油断はできないけど。

 

直後、物凄い音と共にビルに無数のヒビが入るの確認すると、イェン・ツィーの方へ向き直る。

イェン・ツィーは自身の能力が効いていない事に驚いているのか、僕であるチョウワンを複数体召喚し、こちらへ差し向ける。

どうやら敵認定されたようだ、いやまぁ事実敵なんだが。

襲い掛かってくるチョウワンを炎剣を振り回し、一掃すると、持ち前の速さを活かしてイェン・ツィーに瞬く間に接近。

右の拳を腹の部分に下から叩き込みそのまま宙に飛ばす。追いかけるように左手に炎槍を作り出しジャンプ。

空中へと飛ばされたイェン・ツィーが立て直そうとする前に地面へと蹴り飛ばし、その勢いで1回転。

そして地面に叩きつけられたイェン・ツィー目掛けて空いた右手から炎を噴出させ、接近。

そのまま炎槍をぶっ刺して終了。

 

 

ふいー、緊張した。

初めての感応種だったからな、一先ずはヨシ。

後は……アイツ(セクメト)だけだな。

視線の先には叩きつけられたビルから落下しながらもフラフラと立ち上がるセクメトの姿。

流石中型と言えど接触禁忌種。通常のシユウは1発で御陀仏だったぞ……確か。

 

 

だが、反撃の隙は与えない。

そこからクラウチングスタートの要領で地面を蹴る。

地面が抉れた感触がするが気にはしない。てか、気にしてたらキリがない。

そのまま助走を付けてセクメトに向かって右ストレート。

ビルに刻まれたヒビが更に広がる。

右の拳でビルに押さえつけたままのセクメトを左手で掴み地面に叩きつける。

……なんか叩きつけてばっかだな自分。

 

 

そして宙へ軽く放り、右から軽い1発の後にワンツー・パンチを決めて最後にコークスクリュー!

見事に拳はセクメトの腹にねじ込まれ勢いよく吹き飛び、多くの土を抉りながら滑っていく。

そして少し待ってみたが、セクメトが起き上がることはなかった。

 

 

よーし、取り敢えずは助けられたな。

神機使いの人達は大丈夫か……な……。

視線を向けると感応種が倒された事によって神機が使えるようになったのか、絶望したかのような顔をしながらこちらへ神機を向ける神機使いの皆様。

いやいや、敵対しませんから!今あなた方を助けたじゃないですか!私良いアラガミ!無害だから!そう言葉に出そうとすると

 

「グルゥゥゥウウウウ!」

 

いやぁぁぁぁあああああ!?よりによってなんでそんなに低い声が出るんですかー!!

威嚇だよ!完全に威嚇しちゃってるよ!

ほら見なよ!めっちゃ死を覚悟したかのような顔してるよ!

リーダーの人なんか「すまないな……俺みたいな奴の部隊に入ったせいで」とか言い出しちゃってるよ!?

他の人も「何言ってんですか!隊長には最後まで着いていきますよ!」とか言わないで!襲わないからっ!!

 

 

ああもう!戦わないって!襲わないって!

早くイェン・ツィーとセクメト回収して撤退しよう。

そう言いながら左手にイェン・ツィー、右手にセクメトを握りながらいそいそとその場から逃げ出した。

 

 

 

因みにイェン・ツィーは手羽先、セクメトは塩唐揚げの味がした。

美味しかった。

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き有難う御座います。
3をプレイしていて思うのがやはりバーストアーツが3つ使えるのがとても楽しいですね。
こう……様々な動きが出来るようになるので動きの幅が出来たと言いますか……。
まぁ、楽しいと言いたいんです。

オススメの武器をご紹介してくれた方、本当にありがとうございます。
あれから少しずつ使っていってるのですがロングとショートは中々に楽しいですね。
いずれは他の武器も使っていけたらなーと思っています。

それではまた次のお話で。


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第9話 とある神機使いの不幸な日(アンラッキー・デイ)

どうも皆様、黒夢羊です。
3で最近はのこじんを集めまくってますがその前にさっさとストーリークリアしろよって声が聞こえてきそうな気がします。
ソロでカリギュラとかと戦うのが好きでやっているのですが、アイテムをフルで使って評価がB+なので、改めて自分の下手さとユウゴ達のありがたみを感じています。

という訳で本編へどうぞ。


※龍爺さん誤字報告ありがとうございます。




唐突だと思うが俺の名前は八秦(やはた) ジン。極東支部に8年以上神機使いとして勤めている一応ベテランの神機使いだ。

なんで一応かって?それは俺が平凡の中の平凡な人物だからである。

防衛班の奴らのように何かを守るためや持久戦などの戦術的知識もなく、かつ友人のリンドウのように任務の生還率が高いわけでもないし、それに加えて神機は第1世代。

最近極東にやって来た「血の力」とかいうものを使えるブラッドみたいに特殊な能力も持ち合わせていない。

無駄に歳を取っただけの神機使いだ。

だが、そんな俺でさえ未だに難度の高い任務を任せられるほどこの極東支部はかなり忙しい。

 

 

これも前の支部長……いや、前の前だったか?ま、そんな細かいことはどうでも良いさ。

以前極東支部の局長を勤めていたヨハネス・なんちゃら・なんとかザール局長がエイジス計画とかいう裏で色々とヤバイ事をしていてこの世界は1回終わりかけたんだよ。

あ、これ機密情報だから他の奴には内緒だぜ?

 

 

短くまとめるとこのヨハネスの野郎の計画のせいで極東にはアラガミがうじゃうじゃ集まるようになったと言うわけ。

細かいことが知りたいなら色々と頑張れ。俺は面倒くさいからパスだ。

さて、今日も俺に……というか俺の部隊に任せたい任務が入ってるようなので受付のヒバリちゃんの所まで向かうとしよう。

 

 

エントランスの階段を降りて鉄鋼の床を靴底で鳴らしながら我らが受付嬢のヒバリちゃんに話しかける。

 

「やぁヒバリちゃん」

 

「あ、ジンさん」

 

「俺になんか任務があるみたいな事を聞いたんだけど?」

 

「はい、ジンさん……と言うよりもジンさんのチームにはヴァジュラ2体と付近の小型アラガミの討伐の任務が来てますね」

 

「ほほん、ヴァジュラね……分かった、準備してから向かうとするよ」

 

「分かりました、出撃の際には一言お願いしますね」

 

「オーケーオーケー」

 

そう言いながら階段を再び登りラウンジへ。

ここのキッチンの支配者であるムツミちゃんに何か手頃な腹がふくれるものを依頼する。

激しい運動は中年のおっさんには来るものがあるので、しっかりと体力をつけなければならない。かといって食べ過ぎると今度は横腹が痛くなるので加減が必要だ。

おいこらそこ、中年のおっさんだけだろとか思うなよ?

 

ムツミちゃんからパスタを頂く。

熱々の麺だがそれでも味はしっかりとつけられていて俺好みの味だ。

うーむ、嫁にほしい。が、しかし年齢差がなぁ……

 

「なに睨んでるんですか変隊長」

 

「へぶっ!?」

 

そうやってムツミちゃんを見つめていると不意に後頭部に強烈な痛みが。

痛みを堪えつつ後ろをみるとそこには薄い青みがかかった白髪の美少女が俺をジト目で睨み付けていた。

コイツは俺の部隊に所属する一人、夜鍵リヴ。

 

 

先にも言ったが見てくれはかなりの美少女なので広告担当とか行けるんじゃないかって割りと本気で思う。

ただ、コイツは事あるごとに俺を貶してくるからいくら鋼のメンタルをしてる俺でもキツイ時がある。

取り敢えず、リヴの明らかに誤解の色が混じっている視線に弁明するために慌てて口を開く。

 

「おいおい、ちょっと待て誰が変隊長だ」

 

「ラウンジで一生懸命頑張っているいたいけな少女をイヤらしい理由でジロジロ見ていた目の前の男の事ですが何か?」

 

「まてまてまて!お前が考えているのは冤罪だ」

 

「ほう?」

 

「ただ将来結婚するならムツミちゃんみたいにしっかり料理のできる奴だと良いなーと思っただけで」

 

「つまり幼女を妻にしたいと。このロリコン隊長」

 

「ロリコンちゃうわ!ちゃんと話聞いてたかお前!?」

 

「勿論バッチリ聞いてましたよ」

 

「じゃあ俺が今さっき言った事を一言一句間違えずに言ってみろ」

 

「なんだそんな簡単なことですか……ゴホン、『グヘヘ、やはり自分の女にするにはムツミちゃんみたいな小さくて可愛らしい女の子がいいなぐへへへへ』です」

 

「全然あってねーじゃねーか!おい、どうして『余裕ですよ、こんなもの』みたいな顔してんだ!?間違ってるから!お前今言ったこと全部間違ってるからな!?」

 

「余裕ですよ、こんなもの」

 

「実際に言っちゃったよ!」

 

「煩いですよロリコン」

 

「もはや隊長すらつけられなくなったよ!あとロリコンちゃうわ!」

 

「そんなに強情にならなくても貴方がロリコンなのは周知の事実ですから。ね?ムツミちゃん」

 

「え!?え、えーーーと……はい!ジンさんはロリコン……ですね?」

 

「ムツミちゃんんん!?おいてめぇ俺の癒しになんてことしてくれてんだ!」

 

「やっぱロリコンじゃないですか」

 

「だからロリコンちゃうわ!何回すんだよこれ!!」

 

「貴方が認めるまでですが?」

 

「そんな一方通行ゲー認めんぞ俺は!」

 

そうして俺が何時ものようにリヴの罵倒を必死に返しているとドアの方から明るく若い男と女の声が聞こえた。

 

「オー相変わらず夫婦(ふうふ)漫才ですか、隊長?」

 

「リヴも毎度毎度よくやるね」

 

そこにいたのはこちらをニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべる薄いレモン色をした少々刺々しいヘアースタイルのイケメンことキルスと、赤いストレートヘアーが特徴的な美女イース。

因みにどちらも俺の隊の所属で、初陣の頃から面倒を見ている。

 

 

……というか、面倒を押し付けられた気がする。

 

 

ん、んんっ!そんなことよりもだ、先のキルスの発言に聞き捨てならない台詞があった。

それを問いたださねばなるまい。

 

「おい、キルス」

 

「何ですか隊長?腰痛ですか?頭痛ですか?」

 

「アホどっちも違うわ」

 

「じゃあ痔ですか?」

 

「違うっつってんだろ!?心当たりはねぇのか!」

 

「ありすぎてどれか分かりません!」

 

「よし分かった、一先ず他は後で聞くとして取り敢えずは夫婦漫才のところ訂正しようか」

 

「え?……ああ、分かりました」

 

「ん?今回は珍しく素直に引きs」

 

夫婦(めおと)漫才ですね!」

 

「読み方変えただけだ馬鹿野郎!!」

 

「え!よく分かりましたね!?」

 

「普通分かるわど阿呆!」

 

いけない、コイツらの相手をしているとソロで任務に行った時と同じレベルぐらい疲れる……っ!

俺が肩でゼーゼーと息をしているとイースが心配そうに声をかけてきた。

 

「だ、大丈夫ですか隊長?」

 

「ああ、ありがとうイース……もうやだお前本当に好き」

 

「え、ええっ!?」

 

ああ、優しさが心に染みる。

彼女はこの小隊唯一の癒しだ、他の二人の相手は平凡な神機使いたる俺の手には負えない……、はやく何処かの奴らに任せたいものだが。

 

 

と、気付くと何やら寒気が背筋を襲う。

俯いていた視線をあげるとそこには先程よりも更に冷たくこちらを見つめる2つの目が。

 

「リ……リヴさん?」

 

「何ですかゴミ」

 

「せめて隊長とか付けてっ!?」

 

「黙ってくださいこの女誑しのゴミ」

 

「まてまて、俺のどこが女誑しだ!あとゴミはやめてくれ」

 

「は?気付いてないとか余計重罪ですねゴミ」

 

「いい加減ゴミをやめてくれっ!キルスもなんか言ってくれ!」

 

「んー……いやー今のは全面的に隊長が悪いと思いまーす」

 

「何ぃ!?」

 

くそっ!キルスに味方を依頼した俺がバカだったか!?

ならイースなら!イースならしっかりと俺の味方をしてくれるはずだっ!

 

「イースも何か──」

 

「いやいやそんな隊長ってば二人がいる前でそんなこと言われても私はまだいきなりだからどうして良いか分からないっていうかいや別に隊長のことが嫌いって訳じゃなくてというかむしろ今まで出会った男性のなかでは結構好きな部類に入るというかいやむしろ入るんですけどねでも隊長さんって他にもいろんな人から好かれてるし自分なんかでいいのかなって思ったりもするんですけどそれでも隊長さんが私を選んでくれるなら私も喜んでとお願いしたいんですけど──」

 

いかん!何処かへ思考がトリップしている上に圧倒的な早口で何を言ってるか全くわからん!

しかもなんかリヴの目が更に冷たさを増している気がする!

 

「まぁいいです」

 

「え?」

 

「言葉で分からないなら暴力で教えるまでなので」

 

「お、おいまてやめろそんなことするnぎゃあああああああああああああああああああああ!?」

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き有難う御座います。
まさかのオリキャラを出してしまいました……まぁ原作キャラは書きにくいのでどうかお許しを……。
えーと、因みにリヴさんの髪型は3の女性の6をイメージしてます。キルス君はジーク君を少し派手にしたイメージでイースさんは女性の3です。

え?GE2の方じゃないのかって?……すいません。

では、また次回で


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第10話 とある神機使いの不幸な任務(アンラッキー・ミッション)

どうも皆様、黒夢羊です。

あ、ありのまま今起こった事を話します!
『私は2日ぶりくらいに続きを書こうとしたら、何故かお気に入りが200以上に加えてUAが8000越え、更には感想が3つほど書かれていた』
な… 何を言っているのかわからないと思いますが、私も何をされたのかわからなかった…。
頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わいました…。

皆さん本当に有難う御座いますっ!!
未だに信じられませんっ!

それでは本編へどうぞっ!!





 

「ああ……酷い目にあった」

 

「自業自得です」

 

あの後リヴの容赦ない暴力が特に理由もなく俺を襲ってきた。

中年のおっさんには堪えるんだから本当にやめて欲しいものだが……まぁ、俺が悪いらしいんで仕方ないのだろう、勿論納得はしてないがな。

 

まぁそんなこんなで極東支部を出ていつも通り任務を遂行する為にヘリで目的地まで送ってもらう、いやー楽だね本当に。

ただ、ここでのんびりしている時間はなく、作戦前の簡単なブリーフィングを開始する。

先程までの呑気な雰囲気は何処へやら、そこにいるのは若いながらに多くの経験を積んだ歴戦の勇士。

そこに頼もしさを感じながら詳細を説明していく。

 

「事前に知って入ると思うが、改めて確認するぞ。場所は『黎明の亡都』、任務内容はヴァジュラ2体の討伐」

 

ヴァジュラ2体という単語にキルスが嫌そうに顔をしかめる。

 

「えー、ヴァジュラ2体ですかー……ちょっときつくないっすかね?」

 

「お前はいつまで初陣のトラウマを引っ張っているんだ。少しは立て直せ」

 

「えー」

 

「『えー』も『がー』も『しぇー』も無い、いい加減なれろ、お前たち素質は良いんだ」

 

そう言うと「へいへい」と良いながらしぶしぶではあるが大人しくなった。

 

「さて、作戦の内容だが………俺が2体の内1体を離れたポイントへ引き寄せて、時間を稼ぐ。その間にお前ら3人が迅速にもう1体を討伐し、その後合流。そして最後に2体目を討伐する」

 

「「「了解」」」

 

そしてヘリのパイロットから降下予定地についたことを知らされ、俺を先頭に一気に降りていく。

常人ならお陀仏の高さだが、俺達神機使いにとってはなんてことはない。

着地の瞬間膝を折り曲げて衝撃を殺す。続いてリヴ、キルス、そしてイースも続いて降りてくる。

 

 

さて、任務の対象は何処かね……っと、探すまでもなかったな。

コンクリートの破片に身を隠しながら先に広がる広場へと視線を向けると、そこにはヴァジュラが2体お互いに周囲を警戒するかのように辺りを見渡している。

 

 

さてさて、かなり面倒くさい状況だなこれは……分断しなければ確実に乱戦になる。

かといって片方を攻撃すれば、もう片方も気付く。

時間をかけて分かれるのを待っても良いが、生憎ここ最近アラガミの乱入が相次いでいるらしく、この前も予想外の乱入で1人死にかけたらしい。

更にいうと、新たに発見されたハンニバルの新種が少し前までここら辺りを住みかにしていたとかいう情報も流れてきている。

そのため出来るだけ時間はかけずに倒したい……。

少しの間思考を巡らした俺は同じくコンクリートに身を隠す3人に向かって作戦の変更を命じた。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

2体のヴァジュラが互いの死角を補いつつ、自らが捕らえた小型のアラガミを食している。それはなにかを警戒するようで、知性を蓄えた獣の本能なのかもしれない。

そこに突如ビルの上から飛び降りる人影が。

人影は自らが持つ大きな得物を1体のヴァジュラの頭上に降り下ろす。予想外の奇襲にヴァジュラは痛みと共に吠える。

そしてもう1体のヴァジュラも敵に気付いたのか威嚇をするために吠える。

 

「アプローチはバッチシだな」

 

そう言いながら突如奇襲した人影─ジンは予め持ってきていた挑発フェロモンの錠剤を1つ口に入れて一気に噛み砕く。

それによりヴァジュラ2体の意識がより深くジンに向けられる。

 

「そーら!こっちだ!」

 

そう言いながらビルとビルの小道を走り抜けていくジン、それを追う為にヴァジュラ達は走り出す──が。

 

「ざーんねん、お前の相手はこっち!」

 

1体目が小道へと入ったのを皮切りにビルの中に潜伏していたキルスが2体目に向けて飛び出す。

そして空中で自身の神機であるブーストハンマーのブーストを起動させ、それをヴァジュラの頭へ叩き込み、叩き込んだその反動で、空中で体を1回転させ地面へと着地する。

 

 

重い一撃を食らったものの既に体制を立て直したヴァジュラがキルスに向かって襲い掛かるが、キルスはそれをなんなくかわす。

そしてヴァジュラが彼に向き直った瞬間、対面に位置する箇所からイースのスナイパーによる正確無比な銃弾が2発ヴァジュラの目元へと撃ち込まれる。

両目を撃ち抜かれたヴァジュラは苦悶の声をあげるが、それを歯牙にもかけずに音もなく現れたリヴがロングブレードで喉元を切りつける。

一寸の迷いもない動きでヴァジュラに致命的なダメージを与えた3人。

目が見えずに依然苦しむヴァジュラに向けて、ただ静かにリヴが告げる。

 

「時間は掛けない。直ぐに終わらせる」

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

「おっと、危ない」

 

ヴァジュラの前足でのボディーブローをステップでギリギリの所で避ける、本来なら安全のために大きく距離をとるのが彼─ジンの何時もの戦い方なのだが、少しでも向こうに行く確率を減らす為、近くでヘイトの管理をする必要があった。

 

「ガァァァァアアアアアアア!」

 

幾ら攻撃を仕掛けても一行に当たる気配の無い相手に痺れを切らしたのかヴァジュラが、自身の周囲一帯を放電する。

それを察知したジンは直ぐ様放電の範囲から離脱するがそれがヴァジュラの狙い。直後ヴァジュラが自身のマントから無数の雷球を発射してくる。

通常であればガードをするなり横に避けるなりの方法があるだろう。

しかし、ジンは迷わず雷球へと向かって走っていった。

 

 

雷球と雷球の僅かに出来た合間をくぐり抜け、無防備となった本体へと接近。ヴァジュラは咄嗟に右前足でジンに攻撃しようとするが──

 

「甘いね、お前さんは」

 

突如背を向けたジンはシールドを展開し、ヴァジュラの前足での攻撃を防ぐ。

そしてそこから流れるように回転して──

 

「どっ──せいっ!」

 

下から上へと、ボクシングのアッパーの様に自身の得物であるバスターソードを切り上げる……パリング・アッパー。盾で敵の攻撃を防ぎその後反撃に転じるというバスターソードを使う者には習得が必須になる技術である。

振り上げられたバスターソードによってヴァジュラの喉元から鼻先までが深く斬り込まれ、鮮血が飛び出す。

 

「ガルルルアアァァァァァアア!?」

 

「おっと、痛かったか?そりゃあ悪いことをしたな」

 

苦悶の叫びを上げるヴァジュラに対して謝罪をするジンだが、そこに悪びれる様子は皆無。

言葉こそおちゃらけているがその目はただ淡々と獲物を狩る狩人の目である。

 

「残念だが……もう少しだけ付き合ってもらうからな!」

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

「ふうー……ようやく終わったか」

 

俺は目の前で倒れる2体のヴァジュラを相棒である神機に寄り掛かりながら見つめる。

あの後3人が担当していたヴァジュラが3人の予想以上に粘った為に当初の予定よりも長く1人でヴァジュラを相手にしていた為無駄に疲れた……おっさんには辛いよ。

 

「まぁ、なんともなしに終わって良かったじゃないっすか」

 

「そうですね。取り敢えずはコアを回収して帰還しましょ……う!?」

 

リヴがヴァジュラからコアを回収しようとした瞬間ヴァジュラとジン達の間に上空から何者かが割り込んだ。

それは雄々しき獅子の頭にそこだけをみれば妖しく揺らめく女体、そしてそこから生える真紅の翼腕を携えた人型の異形。

 

「おいおい……嘘だろ?」

 

その姿に心当たりがある俺は焦りによる引き笑いを浮かべながら、急いで3人に指示を出す。

 

「3人とも下がれっ!俺が相手をする!」

 

俺の焦った声に反応した3人は直ぐ様俺の後ろへ引き、神機を構える。

こういう時は普段の訓練の賜物なのか素直に言うことを聞きやがる……いつもこれだったらどれだけ楽なんだろうな。

俺がそう考えていると、キルスが何時ものおちゃらけた声ではなく若干恐怖の混じった声で問いかけてくる。

 

「隊長……アイツはもしかして」

 

「ああ、接触禁忌種の1体。セクメトだ……」

 

 




今回も最後まで読んで頂き有難う御座います。
一気に延びていたので嬉しさで歓喜していますが、少しだけ怖くもあります……(´・ω・`)
これからも少しずつですが頑張っていくのでどうか宜しくお願いします。

では、また次のお話で


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第11話 とある神機使いの不幸な後日談(アンラッキー・レタートーク)

どうも皆様、黒夢羊です。

書き始めた当初からは全く想像が出来ないくらい多くの方にこの作品を読んでもらい、それだけではなく評価や感想まで……。
まだまだ始まったばかりですが、読んでくださりお気に入りにしてくれた方や、感想と評価をくれた皆様にはそれでも感謝してもしきれないくらいです。
本当に有難う御座います。


それでは本編へどうぞ。




接触禁忌種。それは読んで字の如く、接触が禁忌とされるアラガミ。

接触禁忌種と言えど第一種接触禁忌種と第二種接触禁忌種がおり、第一種の方が強いとされるが、第二種も俺達普通の神機使いからすれば絶望すらできる凶悪な強さを持つ。

このセクメトはシユウ神属の第二種接触禁忌種。通常のシユウよりも硬い装甲に加えて、スタン攻撃などを行ってくる非常に厄介な存在だ。

 

俺は急いでヒバリちゃんに通信を入れる。

 

 

「ヒバリちゃん!こちらジンだが、たった今接触禁忌種のセクメトと遭遇した!至急増援を求める!」

 

「ッ!?分かりました、今から接触禁忌種に対応できる方は……作戦地域近辺にブラッドの方々が居ますので対応に向かってもらいます!!」

 

「了か……いっ!」

 

通信に気を取られた一瞬の隙をついてセクメトが肉薄し、翼腕を用いてこちらの体を切り裂こうとする。

それを間一髪バスターソードで防ぐと、後ろに軽くステップで後退し3人に指示を出す。

 

「いいか?お前らは撤退しろ!」

 

「で、ですがッ!」

 

「ここでお前らが死んだら俺が困るんだよ!」

 

そう言いながら過去の景色が、言葉がフラッシュバックする。

もう何度も見てきた。目の前でかつての同僚が、そしてその次は後輩が死んでいくのを。

もう何度も聞いてきた、死を前に俺に「思い」とかいう厄介なもんを託してきたり、俺の預かり知らぬところで死んでいった奴らの遺言を。

 

 

まだ未熟ではあるが、コイツらの実力は確かだ。

成長すればきっと俺よりも多くの仲間を助けられる神機使いになれるはずだ。

なら、ここで金……は過大評価だな、銀の卵を潰してたまるかってんだ!!

 

 

3人が逃げるのを手間取っている間にもセクメトは絶え間無く攻撃を仕掛けてくる。

しかし、未だにフェロモンの効果が残っているのか狙ってくるのは俺ばかり。

キツイがそれでも今この時ばかりはありがたかった。

 

「いいから早く走れ!俺がいつまで持つかわからん!」

 

「────ッ!行きましょう二人とも!」

 

そう言いながら苦虫を噛み潰したかのような顔をしながら二人をつれて逃げようとする。

そうだ、それでいい。

やっとこさ3人が逃げるのを視界の端に捉えた俺は少しだけ安堵──

 

「グォォォォォ!」

 

「何ッ!?」

 

──しかけた所で、人間のモノでも眼前のセクメトのモノでもない獣の叫び声が聞こえた。それに続いたのは、キルスの動揺の色を含んだ声。

3人を庇うようにセクメトの前に立ち塞がりつつ後ろを見ると、そこには2体のシユウが3人を挟むように降り立っていた。

 

 

セクメトの腰巾着か!腰巾着というにはずいぶん厄介なモノだが。

しかし、そんな悠長なことを考えている暇は無い。俺は3人を信じて指示を出す。

 

「お前ら!お前ら3人でそいつらを相手しろ!」

 

「逃げろって言う話じゃないんですかねっ!」

 

「馬鹿かキルス!俺に3体も相手しろってのか!」

 

例え接触禁忌種のスサノオを相手にしたとして耐えるだけならば俺でさえ万全の状態で10分、疲弊していたとしても5分は稼げる。

しかし、こういう数に物を言わせてくるタイプはキツイ。

コイツらを逃がす為には、最悪シユウ2体にはご退場願わないと行けない。

隊長だと言うのに情けない話だよ畜生。リンドウならこんな時は一人で相手するんだろうけどな。

 

「そのシユウらを倒したらすぐに逃げろ!コアの確保なんてほっとけ!」

 

「…了解!」

 

返ってきたのはキルスの返事のみ。後の二人からは返ってこなかった……しかし、気配はしっかりと感じているので生きているはずだ。

返事が出来なかったのはここから俺を置いて逃げることが何を意味しているかを理解しているからなのかもしれない。

 

 

それでもやらなければならない。

俺はコイツらを生かさなきゃいけない。ガラじゃあないが、人類の未来のためにも。これからアイツらが救うだろう多くの命の為にも。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

「これで……終わりっ!」

 

「ヴォォォォオオオオ!?」

 

ドサリ。と後ろから先程も聞いた何かが倒れる音がする。

どうやら2体とも倒し終えたようで、そのまま足音が遠ざかる──筈が、音が無くなる。

何があった──そう俺が聞く前にキルスが大声で叫ぶ。

 

「隊長!」

 

「何……だっ!忙しいってのが見てわかんだろうが!!」

 

「後で会いましょう!絶対に!」

 

「……おう」

 

……馬鹿だな、アイツは。そんなものをしたら悲しくなるのは分かっているだろうに。

ああ、仕方ないな──ブラッドが来るまでどうにか持ちこたえ──!?

 

 

今まで難無く振るえていた神機が、突如重くなる。それは俺だけに起こっている訳では無いらしく、後ろの3人も同様に驚愕しているようだ。

そうしている間にもセクメトは攻撃の手を緩めようとはせず、翼腕を此方へ向けて殴りかかってくる。

俺はそれを防ごうとシールドを展開──できない!?

 

「うおっ!?」

 

咄嗟の判断で横に転がり攻撃を避けるが、未だに今起きた異常な状態に理解が追い付いていない。

視界にセクメトを捉えつつ3人の方を見るが自分に起きている状況と同じように感じる。

 

「お前ら!神機は動くか!?」

 

「いいえ、全く動きません!」

 

「同じく!」

 

「私もです!」

 

俺の問いかけにリヴ、キルス、イースの順に答える。

その答えはどれもこの状況において絶望を知らせるものであり、3人を無事に生還させる難易度が大幅に上がったことを示していた。

 

 

一体どういう事だ……?突然神機が動かなくなるなんて──っ、まさか。

依然俺に対して苛烈なアプローチを続けるセクメトを捌きつつ、周囲を見渡すがその面影は見受けられない─と思えばヒバリちゃんから通信が入る。

 

『近くに感応種の反応があります!至急撤退の準備を!』

 

「そういうことかい!生憎だがそいつぁ……厳しそうだ」

 

『どういう意味「すぐそこに居るんだよ!件の感応種とやらがな!」──ッ!』

 

昔は車が通っていたと思われる道路だったものの上に佇むのは、先程話していた感応種だろう。

あれは資料で見た覚えがある。確か・・・イェン・ツィーだったか?奴の能力は─なんだったか。

セクメト同様にそこだけ見れば女性特有の艶かしい体は、鮮やかな体毛に覆われ要所要所を隠している。

もしこれがアラガミじゃなければナンパぐらいしていたと思う。

 

 

そんな感応種──イェン・ツィーが指差すのは、後ろにいるリヴ。

イェン・ツィーが指差した数秒後、セクメトがいきなり俺から標的を変えてリヴの方へと向かった。

 

「何ッ!?」

 

それはリヴ達も同じだったようで、動きが一瞬固まる。

ちっ!そこはすぐに動け馬鹿!

持てる体力を総動員し、セクメトとリヴの間に入り込みポーチから1つのアイテムを持ち出して、叫ぶ。

 

「目ぇ瞑れ!」

 

反応を聞く前に栓を抜いて地面に叩きつける。

スタングレネード。爆発すると辺り一帯を光で包み込み相手の視界を一瞬奪い取り、その動きを止める事が出来る万能アイテムである。

セクメトの動きが止まった所で、ポーチに残っている挑発フェロモン剤を全て口の中に入れて無理矢理噛み砕く。

その効果は抜群なようで眼前のセクメトだけでなく、高みの見物をしていたイェン・ツィーまでも引き付けたようだった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

左右から迫る連撃をひたすら避ける。避け続ける。

一手間違えれば即死に繋がる綱渡りをかれこれ1分近く続けている。

通信は集中が切れてしまうので、こちらから無理矢理切った。

ブラッドが来るまで耐えるつもりだが一向に来る気配がない。何かしら妨害が入ったのか。

 

 

残りの3人と共に一定の距離を保ちつつトラップとスタングレネードでひたすら時間稼ぎを行っているが、これはあくまでもブラッドの増援を期待しての事だ。

もし来なければジリ貧以外の何でもなく、その先に待つのは死だけだろう。

 

「いい加減来いよっ……てんだ!」

 

イェン・ツィーの足払いを飛んで避けるが、苛立っていたのか、それとも続く連戦に頭が消耗していたのか。

このとき良く考えればセクメトの攻撃を受けないように、もしくは受け流しやすいように後ろに下がれば良かったものを。

飛んだことによって出来た無防備な瞬間をセクメトは見逃さず翼腕による一撃を神機の刀身で防いだとはいえ衝撃をモロに受けて、後ろへ吹っ飛ばされる。

 

「あっ、ぶっ、ねっ!?」

 

空中で何とか体制を立て直して地面に受け身を取らずに直接ドカンは避けられたが、顔を上げた俺の眼前にはセクメトの爪が迫っていた。

──ああ、俺死ぬんだなって思った俺は静かに目を閉じた。

 

 

 

しかし、来るはずの痛みはやってこず、不思議に思った俺が目を見開き見たのは、セクメトの爪が俺ではなく俺をかばったリヴの肩を引き裂いていた光景だった。

 

「くっ、このバカが!」

 

持っていた最後のスタグレを使い、目をくらましたその瞬間リヴを担いでセクメトから離れる。

 

「何をしてるんだ!この馬鹿!」

 

「馬鹿はどっちですか!」

 

「!?」

 

リヴの思いがけない返しに思わず身を竦めてしまう。

 

「『最後まで諦めるな』──そう教えたのは貴方なのに何で貴方が諦めるんですか!」

 

「──ッ!」

 

そう、俺はリンドウみたいに優秀じゃない。

だから教えられるのは1つだけだった……それが『最後まで諦めるな』。

最後まで諦めなければきっとこのクソッタレな世界を生き抜くことが出来ると。

 

 

……まさか、後輩に叱られるとは思っても見なかった。羞恥心と反省の念が渦巻く。

しかし、それと同時に覚悟を決めることが出来た。

眼前には飛びかかってくるセクメト。

きっとそれは難しいことなのだろう。だが、それを口にする。それはいままで諦めてきた自分に渇を入れるために。

 

「お前ら……生きて帰るぞ」

 

「「「了解!!」」」

 

そう四人で覚悟を決めた直後、上空から突如巨大な何かが降り立ちセクメトを踏み潰した。

その衝撃は思っていたよりも強かったらしく、下敷きにされたセクメトからは骨や筋肉が折れたり千切れたりするような鈍く嫌な音と酷く苦しみに満ちたような声が聞こえてきた。

 

「な、なんだ!?」

 

「また新手かよっ!!」

 

リヴとキルスが今日何回目か分からない驚きを含めた声をあげる……キルスはどちらかと言うと怯えの色が強い気もする。

 

 

俺はその姿に見覚えがあった。竜と人が混ざったかのような姿に、汚れの無い純白の表皮に包まれた威光を放つかのような黄金の体。

そこに差し色のように存在を際立たせる紫色の体毛。

そして通常の個体とは違う両腕に装備された文明的な装飾が施された籠手。

 

 

──ハンニバル特異種。

ハンニバルの中でも突然変異したと言われる神速種。それが更に進化したとされる個体。

極東でも未だに遭遇したゴッドイーターが限られる為、情報が圧倒的に不足している謎の存在。

良くも悪くも現在の極東支部に置いて中心的な位置に座しているアラガミが目の前にいた。

 

「くっ!このっ!」

 

「待て!」

 

身の危険を感じた為かキルスがスタングレネードを投げようとするがそれを慌てて制する。

奴は神機使いと遭遇した際に戦わずに逃走したと聞いた、つまりコイツの目的は俺達ではなく……。

 

 

俺の考えた通り、特異種は踏み潰していたセクメトを思いきり壁に蹴り飛ばしてイェン・ツィーへと向き直り接近する。

イェン・ツィーの方もオウガテイルのようなものを産み出して足止めさせようとするが、文字通り瞬殺され接近を許してしまった。

その後人間のような、しかし人外であるアラガミの身体能力が可能にしたような格闘術で俺達が苦戦していたイェン・ツィーを屠る。

 

 

イェン・ツィーが絶命したことによって先程まで重かった神機が軽くなり、再び動くようになった。それを確認していると、その間に奴は瀕死のセクメトに接近し叩き落としを食らわせて空中へと放り投げ、セクメトに反撃の余地を与えず容赦の無い拳を連続で叩き込み、最後の一撃で向かい側の通路まで吹っ飛ばしていた。

どう見たって絶命していたのは明らかであったが、慎重な性格なのか少しの間目線を逸らすことはなかった。

 

 

さて……どうするか。とは言っても、やることは1つだ。

逃げた所で、コイツの速さだと全員捕まえるってことも余裕だろう。ならばもうすぐ来るであろう希望の早い到着を祈りつつ、コイツと戦って時間を稼ぐしかない。

 

 

セクメトの死を確認し終えたのか、此方へと視線を向き直してくる。その威圧感に思わず後ずさりそうになるが、どうにかして堪える。

こちらの敵意が伝わったのか、特異種は低い唸り声を上げて威嚇のような行動をとった。それが怯えからか、それとも新たに獲物を見つけた歓喜から来るのかは分からない。ただ、俺は言い忘れていた事を3人に伝えた。

 

「すまないな……俺みたいな奴の部隊に入ったせいで」

 

「何言ってんですか!隊長には最後まで着いていきますよ!」

 

俺がそう自己嫌悪に陥っていると、キルスが何時ものように明るく返事をする。ただ、声は震えていたが。

 

「何真面目そうに振る舞ってるんですか変隊長。あと今更反省した所でどうしようもないです」

 

「そうですねぇ、まだ諦めるには早いですよ?」

 

リヴが血の流れる片腕を押さえながら立ち上がる。

それに続いて、イースも震えながらも軽口を叩く。

……最後の最後に俺は後輩に恵まれたのかもな。

 

「よし、覚悟は良いな?行くぞお前ら!」

 

そう己を鼓舞しながら神機の持ち手を強く握りしめ、特異種と戦う決意をする。

 

 

が、その特異種は戦闘とは真反対の行動をとった。逃走……しかも、自分が仕留めたセクメトとイェン・ツィーをちゃっかり小脇に抱えながら。

思わず拍子抜けした俺の口がぽかーんと半開きになってしまったのは仕方無いと思う。

 

 

そのすぐ後にブラッドの増援がやって来たが、俺達は全員思った。

 

『遅いわッ!!』

 

口に出さない辺り、そこら辺はしっかりしてると思う。

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

あれから1日経った俺達は疲労困憊の身だと言うのに榊博士にひたすら質問攻めを食らってしまった。

おいおい、こちらは怪我人だぞテメー。

 

 

まぁソレは良いんだ、まだな。今俺は大変面倒くさい事になっていてだな……こうして現実逃避しているんだが、そうもうまくは行かないらしい。

 

「隊長、こちらを食べてください」

 

そう言いながら、笑顔でフォークに刺さったお肉を俺に向けてくるイース。反対側から放たれるとんでもない威圧感を感じながらも引きつった笑みで答える。

 

「イ、イース?俺は一人で食えるから大丈夫だ」

 

「ダメです。隊長は安静にしてなきゃ行けないんですから私が食べさせてあげます!はい、あーん♪」

 

瞬間、背中の方から発せられる威圧感が殺意に近いものへと変わっていく。

もうこれに耐えきれる自信がなかった俺はその殺意を発している人物──リヴに話しかける。

 

「ど、どうしたんだリヴ?」

 

「は?何もありませんけどクズ」

 

「アッハイ」

 

文面だけみると、いつもなら軽口で返せるはずが返せる雰囲気ではない、絶対に。

そうして俺が再びイースに向き直ると、イースが「私不満です」とでも言いたげな位に不満げな顔を浮かべていた。

 

「ド、ドウナサレマシタイースサン?」

 

「別に何でもないですよ?はい、あーん」

 

「ヒィッ!!」

 

おかしい、笑顔な筈なのにイースが怖い。めっちゃ怖い。何故だ、日頃は問題児(リヴとキルス)に振り回される俺を気遣ってくれる癒しなのに今はその笑顔に癒しではなく恐怖しか感じない!!

しかもリヴさんの威圧感もとい殺意が凄いです!もうやめてリヴさん!それやったら後ろがヤバイんですって!

 

「照れなくても良いですよ?はい、あーん」

 

「……………………」

 

や、やめてくれ……俺は平凡な神機使いで平凡に生きたいんだ……。

 

 

因みに後から来たキルスがニヤニヤしながら「で、どっちなんすか?隊長?」とか意味がわからんことを腹が立つ顔で言ってきやがったから思いっきりビンタと蹴りをかましておいた。

 

 




今回も最後まで読んで頂き、本当に有難う御座います。
さてさて、今回は3話通してオリキャラの話だった訳なんですが、今後はこんなバックボーン?みたいな話を書くかどうか悩んでいます。
まぁ、それは置いておくとして、感想などで自分はこのアラガミが良いと思う!等の意見を言ってくださる方が居まして、私としては出来るだけそれに答えれるように話を作っていくつもりです。

今後とも頑張りますので宜しくお願いします。

それではまた次のお話で。


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第12話 チャンスを狙え

どうも皆様、黒夢羊です。

沢山のご感想を頂いて感謝しかありません。
面白い、続きを楽しみにしている……これだけで次への活力に繋がります。
勿論読んでくださるだけでもやる気は出ます、というかでない方がおかしいです。

最近はのこじん集めの他にオリジナルバレット作成を楽しんでいるのですが、頭が痛い……。
あれを考えられる人達は本当に凄いなーと思います。

それでは本編へどうぞ。




セクメトを追いかけて、まさかの捕食したいアラガミリストに載っていたイェン・ツィーと出会った、あの日から何日か経過した今日この頃。

あれから自分の体に変化が…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

起きませんでしたー。

何でだ……しっかりとイェン・ツィーの感応能力を得られるようにイメージしながら食べたぞ?

いやでもあれか?食う前にちょっとだけ「イェン・ツィーって体付きエッチじゃない?」とか思ったからか?

でも食う前だからセーフじゃない?食うときにはそんな雑念持つ余裕なかったですし?

 

さて、前に仮設した捕食する際に得たい能力や特性をイメージしながら捕食すれば得られるという仮説は失敗か……。

ではなぜ自分の脚の一部がシユウのように変化したんだ?シユウでしてイェン・ツィーにしなかったこと……しなかったこと……。

 

 

……量?食った量とか?

シユウの一部を得た時には3体を捕食したが、イェン・ツィーの時には1体しか捕食していない。

同じ中型という分類にカテゴリされていて、なおかつイェン・ツィーはシユウ神属……ということはあれか?イェン・ツィーの能力を得るためには最低でもあと2体は探して食わないといけないのか?

 

 

め、めんどくせぇ……ッ!!

え、何?そんなにめんどくさいのアラガミの体って?自分だけ?もしかして自分だけ?だったらキレるよ?何処にぶつけたら良いか分かんない怒りがボンバーするよ?

しかもこれよくよく考えたら一定の期間空いた場合無効になったりしない?

この前捕食したイェン・ツィーの能力を得たいというものがストック1としてスロットに残されていると仮定して、次のイェン・ツィーを見つけて同じように捕食するまでの期間の間にそのスロットからストック1が消えたりしない?したら泣くよ?

 

 

う、ううむ……その仮説が立つなら最低でも3体同時にイェン・ツィーが出現する状態に出会わなければ行けないのだろう?そんな都合の良いこと存在するか!!

しかも後々に得ようと思ってたマルドゥークの感応能力だってマルドゥーク3体を同時に、もしくは短期間の間に捕食しないといけないんだろ?

保存しておくって事ができたら良いんだが、絶命したらある程度の時間経過で消えてなくなるからな……。

エイジスとかあのフェロモンとかを利用すれば効率良く手に入るんだがね……そうもいかないだろ。

 

 

取り敢えず分かったことを整理しよう。

・1体を捕食しただけでは特性をコピーできない

・2~3体以上を捕食することで特性を得ることができる

・上記二つは個体差があると考えるべきであり、小型10だと仮定して中型が3、大型が1体捕食することで得られる可能性がある。

 

 

……こんなところだろうか?

1体で良いならって……あー!この前助けた神機使いの人達ヴァジュラ2体討伐してたじゃん!

あれ1体だけ食べて能力を得たら証明できたじゃん!

得れなくても可能性というか考察の幅増えたじゃん!

うわー……勿体無いことしたなぁ……。

 

 

う、うーん……ヴァジュラのマントとかは確か帯電器官だったからあれが使えるようになればより高度かつ精度の高い炎の制御を出来るようになるのでは?

あと翼のように生えるマントとか見た目的に格好良いしね。……自分の姿見えないけれど。

 

 

さてさて、今日もひとまず探索に行きますかね……。

じゃないと感応種も大型も見つけられないし、検証も出来ない。

あ、その前にストックの期限を確かめておこう。

えーと、あれから何日経った……?

記憶を巡らせる。この頃思い出すことが何故か難しくなっている。今を生きるのに精一杯だからだろうか?

ただ、難しいだけで思い出せない訳じゃない。

現に友人や家族の顔、好きなアーティストや曲など全然余裕で思い出せる。

 

 

……アレ?なんか違和感を感じたが、まぁ良いだろう。

一先ず3~4日は経過しているはずだ。

時期を曖昧に見積もるのはあまり良くはないが今回は自分の体内時計と感覚を信じよう。

自分の凡ミスに凹みながらも俺は今日も散歩と言う名の獲物探しを開始するのだった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

極東支部局長のペイラー・榊は自身のラボでつい数日前に例の特異種と遭遇したジン達の事情聴取を元に作られた資料に改めて目を通していた。

 

 

既に何回も目を通した資料だが、何度読んでもそこに書かれている事が今までのアラガミの常識を覆すようで一切飽きることがない。

寧ろ読むたびに研究者としての好奇心が掻き立てられ、研究や考察などに熱が入るのだ。

 

 

因みに事情聴取の内容として榊が特に興味を持ったのは神機使いよりもアラガミを優先したことではなく、体の一部が変質していた事である。

ジン達の記憶であり、かつ特異種は高速で動いていた為にそれが正確な情報かは定かではないが現場の、しかも実際に遭遇した人物の証言はどんなデータよりも真実味があると思う。特に情報が不足しすぎているこのアラガミについては。

変化していた部位はたった1つ、脚部の人間で言うと太ももにあたる部位が通常のハンニバルのモノではなく、シユウ独特のひび割れた岩石のようなモノへと変わっていたのである。

 

 

これだけであれば結合崩壊した部位がそう見えたなどと言えるかもしれないが……。

榊は机に置いてあるもう1つの資料を手に取る。それはこの特異種がシユウと交戦していた際の資料で、彼はこれこそがこのアラガミが異質であると証明するに至る物だと信じている。

 

つまり考察するとこう言うことだ。『このアラガミは捕食したアラガミの能力を吸収もしくは見た目の一部を模倣できる可能性がある』……ということで、これは過去のアラガミにおいて他の事例がなく、新たなアラガミの誕生の瞬間に立ち会うのかもしれない。

 

 

しかし、それと同時に彼の頭をよぎるのはとある存在と、それに関しての思い浮かべる最悪の事態で、榊は視線をラボの壁に移す。

そこに居たのはかつて世界を終焉に追い込みながらも世界を救った特異点──シオが居た部屋である。

 

 

終末捕食を防ぎ、リンドウをアラガミ化から救い出したその後極東支部に現れた第2のノヴァ。

幾多の策を巡らした上でのギリギリの撃破だったが、またもや世界は救われた。

 

 

……しかし、第2のノヴァが消えたのなら第3のノヴァが出現してもおかしくはない。

もし、この特異種が第3のノヴァだとするならば今までの行動には半ばこじつけに近い気もするが一応の説明がついたりはする。

 

まず最初に神機使いを発見した次第にすぐに逃走を開始した点だが、これは過去の第2のノヴァが撃破された最大の要因が神機使い達であると認識され、完全体になるまでに撃破されないよう接触を本能的に避けていると考えれる。

 

そして通常のハンニバルとの差違だが、第2のノヴァは四足歩行のどちらかと言えばヴァジュラやディアウス・ピター等と体格は似ていたように感じられる。

これは第2のノヴァがリンドウ君を始めとして極東支部の主力神機使いを苦戦させたディアウス・ピターの見た目を一部模倣したのでは……という前に捨てた仮説なのだが、これがもし事実ならこの特異種にも当て嵌まるのではないだろうか?

ハンニバル神速種はリンドウ君を1対1であれば仕留められていたと本人が言うほどの強敵だ。それをノヴァが模倣したのでハンニバルと姿が酷似していると考えられるのではないだろうか?

 

最後に神機使いではなくアラガミを優先……というよりもアラガミのみを捕食している点だが、これも第2のノヴァと行動が酷似している。

ただ、第2のノヴァとは違い大型を捕食している様子が見受けられていないが、これは第2のノヴァが撃破された要因である「アラガミがコアを取り込んだ直後に限り、体内の偏食因子の働きが一定以下に制限される」 と「偏食因子を制限する効果は取り込んだコアが強力なほど強く、長く発生する」を出来る限り最小限に収めるためではないかと考えられる。

 

 

こうして考えをまとめていると特異種が第3のノヴァである可能性は決して低くないように見える。

本来であれば脅威がまだ低いうちに討伐をするべきなのだろう……だが、現在の極東は感応種の出現と頻発するアラガミの乱入によってこの個体に対しての人員を割くことが容易でない状況に陥っている。

 

 

それに、第2のノヴァはオラクル技術を使用した機材に多大な影響を与える偏食場を発生させていたが、特異種は現在その兆候が見られない。

それゆえ第3のノヴァと断定するのは早計……と榊は自分に言い聞かせる。

 

 

しかし、このアラガミは赤い雨の発生後から突如として姿を表している。

それもそこに突如出現したかのように。

この赤い雨が第2のノヴァの偏食場の代わりではないのか……と考えてしまう。

 

「ふむ……実に、実に面白い」

 

端から見れば研究者として興味をそそられたように思えるが、その言葉を放った姿はどこか強がっているようにも見えたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玲瓏と輝く月は、二度も闇の世界を孤独にありながら救う。

 

だが――絶望の淵に沈む世界は、その救いを受け入れることはない。

 

どこまでも深く、暗く、命がもがくほどに肥大する闇。

 

今――新たな終わりが目醒める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き有難う御座います。
GOD EATERにおいては色々と不透明と言いますか分からないことが多い(私が勉強不足なだけ)ので考えるのが楽しいです。

さてさて、最後の文はとある文をコピペ……じゃなくてベースにして少しだけもじったんですが、分かりましたかね?
いやまぁ原型破壊した気もするんで分からない方が当たり前な気もします。たぶん私は分かりません。


では、また次のお話で。


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第13話 竜虎相打つ


どうも皆様、黒夢羊です。
……ま・さ・か・の!日間ランキングにランクインしてしまいました!
それに加え!10000UAも突破しました!
いや、本当にこうやって書いてる今でも信じられません。
これも読んでくださり、お気に入りにしてくれたり、感想や評価などをしてくださった皆様のお陰です。
本当に有難う御座います。

では、本編へどうぞ!




 

 

早朝に目を覚まして、改めて自分以外のアラガミの能力を手に入れられるのかを考察し直して、当面の目標を見直し、大型アラガミの1体であるヴァジュラを見つけて捕食しようと思う。

あくまでも捕食するのはヴァジュラであり、ヴァジュラ神属ではない。間違ってもディアウス・ピターやプリヴィティ・マータ、居るか分からないがバルファ・マータなどには喧嘩は売ってはいけない。

ピターの方に関してはほぼ完全にヴァジュラの上位互換なので何時かは捕食してその力を得たいが、それをするのは最低でもマルドゥークとイェン・ツィーの感応能力を手に入れてからだ。

 

 

自分の立てた新たな仮説を検証する意味でも、新しい能力を得るためでも、そして将来対峙するであろう強敵に少しでも慣れる為にも、ヴァジュラというのはうってつけのアラガミだった。

 

 

そのヴァジュラを探し求め、自慢の俊足で様々な場所を駆けるが、今のところ見つかる気配は皆無。

太陽の位置も──自分がそれ専門の知識を身に付けているわけではないので定かではないが──行動を開始した時よりも高く上がっており、もう少しで昼の時間を告げるであろう場所まで到達している。

今までシユウやコンゴウの中型や、大型だとクアドリガは発見したがヴァジュラは未だに見つからない。

探したいものを探している時に限って見つからないこの現象について誰か名称とかを付けて欲しかったりする。

 

 

現在、自分の寝床として住んでいる『愚者の空母』とこの前に場所を把握した『鉄塔の森』『黎明の亡都』までは足を運んだ。

……他に行っていない所があるとすれば『蒼氷の峡谷』辺りか?あとはあの地下か……、どちらも行きたくは無いが行くしかない。そう心の中でため息を付きながら、自分は再びその足を早めた。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

視界に入るのは何度見ても圧倒的としか言い様のない水面が凍った巨大なダム。

中まで凍っているのかを確かめる勇気は今のところ自分には一切ありはしないが。

 

 

ここに来るまでにも一応注意は払っていたのだが、ヴァジュラらしき影は見当たらなかった。

また外れか……そう思い、後にしようとすれば

 

「ガァァァアアアア!!」

 

と、自分が今いる真反対の方角からアラガミの咆哮が聞こえてきた。そちらへと向き直ると、ソイツは執拗に岩肌に向かって猫パンチよろしく前足で叩いたり顔をぶつけていた。

まぁあれがサイズが小さくなったら可愛らしいと思うのだが、それはこの際どうでも良い。今自分にとって大事なのはそれを行っているアラガミが自分が目標にしていたアラガミ……ヴァジュラだと言うことである。

 

 

今自分は歓喜で震えているッ!しかし、逆に怯えてもいるッ!なぜならッ 約半日もかけてやっとの思いで見つけたアイツを逃してはならないからだッ!!決してッ!!

……ハッ!?何故かエセジ○ジョ風なナレーションが頭を流れてしまった。いかんいかん、そんなふざけている場合ではない……急ぐか。

 

 

そうして反対側へと全速力で駆けていく。

そしてあともう少しで飛び上がってヴァジュラに新技ライダーキックモドキをお見舞いしてやろうと思ったその瞬間。

ヴァジュラが行っていた奇行の説明がついた。岸壁の一部に小さな空洞があるのだ。奥行きはここからだと分からないが、確かにそこには小さな空洞があり、ヴァジュラはそこにある何かにご執心なようである。

 

 

アラガミがそこまで夢中になるものとは……?

自分にはそれが一切分からなかったが、もしこのままライダーキックモドキをヴァジュラにかましていればそのままヴァジュラが自分の体重を加えながら壁に激突。

そして穴は塞がってしまう……そんなことだってあり得るかもしれない。

 

……仕方ない、ここは真っ向から戦うことにしよう。

あり得ないとは思うがもし彼処に人でも居たら寝覚めが悪いし、何より人の味方をしようとする自分に反する。

 

 

佇まいを直して、一度深呼吸をする。そして大きく息を吸って…………

 

グルウォォォォオオオオオオオオオオッ!!

 

全力で叫ぶ。威嚇でもなく、意思を伝えるでもなく。ただただ全力で。

心なしか辺りがビリビリしている気がする……やだ、自分ってば声だしすぎ?

 

 

そんなふざけたことを考えたら、ヴァジュラがこちらに気付いたようで彼方も負けじと大きく吠える。ひえぇぇぇ……怖っ!

だが、そんなことは言っていられない。この(人間にも自分にとっても)クソッタレで理不尽な世界を生き抜くには必要な過程なのだ。

ハンニバル特有の屈んで片腕を少しあげているポーズではなく、どちらかと言うとボクシング選手のような、かといってそれとは少々型が異なる我流のファイティングポーズを取る。

 

 

それに臆することはなくヴァジュラはこちらへ向かって走りだし、こちらとの距離が段々と近づいてくる。

もはやその間が3~4mと言う距離でヴァジュラが突如後ろへ高く跳躍し、それを自分も目で追う為に顔を上げると、空中でヴァジュラは中型くらいの──それでも充分な大きさを誇る雷球を発生させ、それをこちらに向けて放つ。

緊張からかなのか一瞬体と思考が停止するが、直ぐ様後ろへ大きく飛び退く。その直後自身がいた場所にヴァジュラから放たれた雷球が直撃し、バチバチィッ!!という静電気の放電の音を何十倍にも膨らませたかのような音が後から響く。

 

 

それを見て、下手したら自分が食らっていて丸焦げでないにしろそれに近しいショックは受けていたと思うと冷や汗が出そうだ……アラガミだから汗でないけど。

そんなことよりもヴァジュラは着地の体制へと移ろうとしている。もし、この後の行動が自分の予測通りなら……ッ!

自分は迷うことなく地面を蹴り、ヴァジュラへと接近する。一方のヴァジュラは着地した後に威嚇の意味を込めてか咆哮を行う。

バックステップ雷球からの咆哮。それは自分の予想通りであり、ゲームで培った些細な知識……しかしそれは今ここにおけるヴァジュラと自分との命を賭けた戦いにおいて非常に有利になるものであった。

 

 

ヴァジュラが咆哮をあげた直後、その開いた顎を身を屈めながら助走のついた右腕のアッパーで下から持ち上げ強制的に閉じさせる。

突如頭部に予想だにしない衝撃が襲ってきた為か、ヴァジュラが脳震盪を受けたかのように体をぐらつかせる。

更に振り切った上半身から倒れかかり、体重を乗せたエルボードロップを頭部へ叩き込む。

大型アラガミの体重を乗せたエルボードロップをまともに、しかも頭部に受けたヴァジュラはそのまま己の顎を地面と思いっきり密着させる。

 

 

次の攻撃に備える為に、そしてすぐ後ろにある空洞から遠ざけるために少し大きめのバックステップを取る。

 

 

助走を付けたアッパーと体重を乗せたエルボードロップ。その重たい2撃を生命の共通の弱点の1つでもある頭部にまともに食らった為に少しふらついているが、その目は依然として衰えておらず、寧ろ輝きを増しているように思える。

 

 

まだ、まだだ……相手は諦めていない、寧ろこっちを殺る気でしかない。

と言うことはダメージが思ったより通ってないか、それとも自分を捕食することでより強い個体にでもなろうとする生命の本能か。

なんにせよ、目の前の虎は今まで戦ってきた中型とは違う。「油断をするな、自分の特性を活かせ」そう自分に言い聞かせる。

 

虎は吠える。目の前に現れた予期せぬ強敵に。

 

竜は吠える。己をより強く、強固な存在へとなる為に。

 

 

「ガァァァアアアアッ!!」

「グルウォォオオオオッ!」

 

 

今ここに、竜虎相打つ。

 

 

 

 





今回も最後まで読んで頂き有難う御座います。

補正つきののこじんが全然出ません……わたしはのこじんに嫌われているんでしょうか?
……そう言えば今日やっとランク5に行きました。遅いとか言わないでください……。
いつストーリーが終わるんでしょうか?ちょっと楽しみです。

それでは、次のお話で


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第14話 ハンニバル様といっしょ!!

どうも皆様、黒夢羊です。
えー、作者昨日は若干微熱の状態で書いていた為かかなりの怪文書を投稿していたようです。
それに全く気付かないあたり重症だったような気もしますが。

改めて直した作品を投稿させて頂きます。
誠に申し訳ありませんでした。


では、本編へどうぞ。


 

 

 

ヴァジュラは雄叫びを上げ、自身の前方に小サイズの雷球を5つ作り出す。

作り出された雷球は自身の主を守るかのようにその場から離れようとはしない……が、次の瞬間一斉に雷球が前方へと発射される。

これは広範囲に渡る攻撃だが、ホーミング性能も低い上に通路に遮られてせいぜい2球程しか届かないだろう。

 

 

そう思い跳び跳ねて躱し、雷球が自分の下を通りすぎようとしたその時、強い衝撃が自分の体を襲った。

訳がわからないまま、受けた衝撃に押されるように吹っ飛ばされ、

何度も地面と激しく衝突する時の体の痛みで気を失いそうになった。

何回かぶつかったところで速度が収まったのか、地面を少し滑った後に停止した。

 

 

……いったい何が起きた?そう思いながら体を持ち上げると、眼前にヴァジュラの姿が。

思考がそうしろと命令する前に体が勝手に両腕を交差させ、ヴァジュラのタックルを正面から受ける。

本来であれば眼前に迫った敵の攻撃を本来防ぐことは難しいだろう。だがそれは通常のハンニバルだったらの話で、自分が通常の個体を遥かに凌駕する速さを誇る神速種であるからこそ防御が間に合ったのだ。

その代償に、防御に使った両腕がビリビリと痺れている。体を回転させて勢いをつけた尻尾でヴァジュラの頭部に反撃を叩き込もうとするが、バックステップで避けられてしまい、空中で放たれた雷球が背中に直撃してしまった。

 

 

衝撃による痺れではない、きっとドラマとかでみるスタンガンを物凄く強くしたようなショックを体が襲う。

ヴァジュラは先程と同じように威嚇を行っているが、今の自分にそこに攻めに行ける心理的余裕はなかった。

そう、先程自分が飛び上がった際に受けた衝撃は、確証が持てないがおそらくヴァジュラが跳躍しこちらへと突進か何かをしたのだろう。

これはゲームの頃にはなかった行動、予想外のことに思考を巡らせる……が出てくる答えは1つだけだった。

 

 

『生きているから』

 

 

そう、目の前のヴァジュラは命の危機なんて滅多にないこの世界に比べれば温室のような生ぬるい世界にいた自分が、ゲームという媒体を概して何度も殺してきたデータの塊ではなく、オラクル細胞というものが集合し形成された1つの生きる命。

データ通りの行動ばかりをするわけがない……自分はどこかでこの世界がゲームの延長だと思っていた。

だから空中であの攻撃を食らってしまった。

…………………………。

 

 

深呼吸をして、思考を落ち着かせる。

相手は同じ生物、データじゃない。さっき「油断をするな」と言い聞かせたばかりだというのに、自分はアホなのかもしれない。

ただ、ここで意識を変えれたのは大きい収穫だ。

もし相手が自分と互角いや、それ以上のスピードとパワーを誇るアラガミだとしたら間違いなく死んでいたと思う……息を軽く整えて、改めて眼前に映る巨大な虎──ヴァジュラを睨む。

ゲームの頃のヴァジュラの行動パターンはおおよそ頭に入っているが、それを過信するのは危険だ。

だが知っているのと知らないのでは大きな違いがある。

 

 

 

 

だが、やることは1つ──奴を殺して食べるだけだ。

ヴァジュラが再び雄叫びと共に小サイズの雷球を自身の前と召喚する。本来隙だらけなこれは奴にとって上空へ飛ばして接近するため──もしくは横にそれた相手に追加の雷球をかますためか。

今思い付くのはこの二つだ、そして前者は自分が経験しているから別の行動を取るとアイツは考える筈……なら。

 

 

ヴァジュラが雷球を放つ。それと同時に立ち幅跳びの感覚で前へ飛ぶ。

ヴァジュラはこれは好機とばかりに再び跳躍し、タックルをかましてこようとする。成る程、さっきのは飛びながらタックルしてきたのか……だが、もう見切った!

人で言う右肩からこちらへとタックルしてくるヴァジュラの頭に手を置き、跳び箱の要領で更に高く飛び上がる。

さて、高さは充分。相手はこちらと違い空中での小回りはあまり効かない……なら、さっきは使えなかったこれをお礼にお見舞いしてやろう。

 

 

両腕を横に広げて掌は自身から背を向けるように、そして足は昔憧れたあのヒーローのあの技の構えを取り、掌から炎を最大噴射する。

ロケットエンジンさながら噴出される勢いでぐんぐんとスピードを上げてあっという間にヴァジュラとの距離が1m程に。

食らえ!必殺の──

 

 

ライダーキィィィィィィィィック!!

 

 

突き出した右足は見事にヴァジュラの背中を捉え、地面に食い込ませる。

そして地面に食い込むだけでは飽きたらず、ヴァジュラの肉体組織を破壊しながら確実に食い込み、爪が肉を貫通していく。

 

 

このままではヤバイと悟ったのか、ヴァジュラのマントから小さな放電が起こるのが視界に映ったので、掌を反転させ一気に後方へと離脱する。

直後ヴァジュラが地面に這いつくばりながらも自身の周囲に放電する。

放電中に体制を立て直したヴァジュラがこちらへと向き直ろうとするが、向き直る前に接近しこちらを向いたタイミングで炎を纏った右ストレートを顔面にお見舞いする。そして仰け反ったヴァジュラの顎にもう一度アッパーをかまして更に上半身を仰け反らせる。

上半身が仰け反りすぎたことで露になったヴァジュラの腹に全力で出来る限りの炎の拳ラッシュを叩き込む。

 

 

「グヴルゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

そして何発目から分からない拳を叩き込んだ後にシメの右ストレートを全力でぶちこむ。

漫画の再現のようには行かなかったが後ろ足で1、2歩後ろへよろめいたヴァジュラはそのまま流れるように地面へと横たわり、動かなくなった。

まさかとは思うが死んだフリをしている可能性もあるので炎槍を作り、ヴァジュラの心臓部分へと突き刺すが、ピクリとも反応が返ってこないことから本当に絶命したのだろう。

 

 

なにか目的を忘れている気もするが、それよりも大事なのは食事だ。

自分が今欲しいのはヴァジュラのこのマント……いや、正確に言うと雷を放電したり制御しているこのマントの機能が欲しい。

果たして1体だけで足りるのかは分からないが、それでも食べておくにこしたことはない。

両手を合わせて感謝の意を示す。自分の腹に収まり、自分の生きる糧となってくれることに感謝をすることは大事なことだと教わった。

……誰から教わったのかはちょっとすぐには思い出せないが。

 

 

ヴァジュラの腹を一口かじる。

……味は、なんと言ったら良いのだろうか?ステーキに近い味と食感なのだがステーキよりも少し硬い。

だが、旨い。どちらかと言うと高級な3つ星レストランとかで出される奴じゃなくて全国チェーン店とかで出されるやつに近いと思う。

…………3つ星レストラン何て行ったことないから分かんないけど。

 

 

そうやってヴァジュラの体が消えないうちに急いで食べた。大型なのもあって意外と全部食べ終わるのに時間がかかったから少し焦ったのはここだけの話だ。

さて、ヴァジュラも食べ終えたし、神機使いに見つかる前にさっさと寝床に帰るとしよう。

 

 

と、自分がそう寝床の帰路へと付こうとした時。

ふと、尻尾が何かに引っ張られる感触がした。

……新手の敵か!と思い、思いっきり後ろを振り返ったがそこには何もおらず、ただ白い雪が降り積もった山々と凍りついたダムの光景しかなかった。

気のせいか……と、思ったが再び尻尾が何かに引っ張られる感触がする。しかも今度は先程よりも強い力で。

 

 

子供か何かか?と思い尻尾を自身の顔の近くまで寄せてその先端を見てみると────

 

「キュ、キュイー!?キュイー!?」

 

自分の尻尾にかぶりつきながらジタバタと暴れる小さな何かがいた。

それは濃い紫と黒を足したかの体色をしており、その顔は神機の捕食形態をデフォルメしたかのような形をしている。

──自分の尻尾にかぶりついて居たのは、神機使いからは幸運のアラガミと呼ばれ、見つかれば追いかけ回される当のアラガミからしてみれば不幸以外のなにものでもない。

 

 

小さな捕食者、アバドンだった。

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、本当に有難う御座います。
改めてこの物語は誤字の指摘や修正などをしてくださる方、そして評価をして感想をかいてくださる方。
そして読んでくださる方。
皆様が居てくれるお陰で書き続けています。
本当に有難う御座います。


では、また次の話で


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第15話 拾ったアラガミが可愛すぎて対処に困るのだがどうしたら良い?

どうも皆様、黒夢羊です。

今回やっとこさ原作キャラが登場します。
ですが、キャラ&口調崩壊がもれなく発生していますのでご注意下さい。
そして、アバドンくんちゃん(仮)はどうなるのかー(棒)

GOD EATER3のヌァザが凄い苦手です。
立ち回りとか上手くなろうと練習していますが未だにダウンするときがあるので自分の下手さ具合にへこんでいます。


それでは本編へどうぞ。




 

どうも皆様お早う御座います。

ヴァジュラを倒してから次の日の朝なのですが、2つほど自分からご報告があります。

 

「キュ!キュ!!」

 

まず最初に、背中からヴァジュラのマントみたいなものが生えた。より細かい場所を言うと逆鱗を中心としてそこから生えてるって感じ。

だが、ヴァジュラと違って4対……つまり合計8枚(?)生えているんだが、多すぎないですかね?

あと、大きさもそれぞれ異なっていて上から段々と縮んでいくと言うのか……まぁ、小さくなっている。

心なしかハンニバルの逆鱗を破壊した時、背中に現れる光輪みたいな感じに見える。因みに色は本体との色を合わせたのか、首の辺りに生えている毛と同じ少し暗めの紫色だ。

 

「キュキュイー!キュイー!」

 

ん?どうやって確認したかって?水の反射を利用して見たんだが、光も反射してかなり見辛かった。自分の姿を確認する鏡の存在がどれだけ大切かをアラガミになって身に染みるほど実感したのでいつか探さねば。

因みに何かが生えてるって違和感は全然なく、寧ろずっと前から生えてるって感じで、最初は違和感に気付かなかったレベル。

基本は布みたいに垂れたままなんだが、攻撃しようとか戦う意思を持ったりすると勝手に持ち上がるようになっている……エリマキトカゲみたいだな。

 

「キュー!?」

 

炎の制御ができるようになったのか、それとも単にヴァジュラの雷を受け継いだのか……それとも見た目だけなのか。

それは後でじっくりと検証するとして、問題は今自分にかぶりついて遊んでいる奴だ。

 

 

そう、2つ目の報告が何かっていうと「キュイー!」……ああもう五月蝿いっ!!

 

「キュッ!?」

 

唸り声を上げると、先程から自分の感情に合わせて上下に動くマントに興味を示し周囲をグルグルと回っていた幸運のアラガミ──アバドンがビクッ!!っと跳び跳ねてオロオロとし始める。

 

 

──そう、2つ目の報告って言うのが自分の周囲を彷徨くこのアバドンの事。

 

 

あの後、寝床に帰ろうとした自分を引き留めるように視界を邪魔してきたのだが、それを無視して走って帰ろうとしたら尻尾にかぶりついて離れようとしなかったのでここまで連れてきた──いや、付いてこられたと行った方が良いか。

 

「キュ……キュウウウ……」

 

怒られたとでも感じたのか(実際怒ったのだが)暫くオロオロし続けた後に胡座を掻いている自分の足元にゆっくりと寄ってきて、甘えたような鳴き声でその体をすり寄せてくる。

……なにこの可愛い生き物、本当に自分と同じアラガミなのだろうか。友人が言っていた「可愛すぎて尊い……もう尊死ですわこれ」とはこの事なのかもしれない。

あの時は意味がわからず冷たく返して本当にすまない──名前は思い出せないがよく遊んだ友人A(仮)よ。

いや、本当になんだったかな……

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

さてさて、本当にコイツをどうするべきか。

自分は膝の上に乗ってよく分からない歌かどうかも分からない何かを歌っている、アバドンを見る。

はっきりと言ってしまうとこれからも自分が生き抜く上ではこのアバドンの存在はかなり邪魔である、恐らくヴァジュラが熱心だったあの穴にいたのはこいつで、自分がそのヴァジュラを倒したものだから助けてくれたとでも勘違いしているかもしれない。

 

 

正直な話、自分はそんなつもりはなかったし、寧ろ目的はヴァジュラだったのだ。コイツを助けるつもりなんてさらさら無かった。

ならその場で食ってしまえば良かったと言うかもしれないが、ヴァジュラから攻撃を数発受けてしまったし、何より精神的に疲れた。初戦闘というのもあるのだろうが大型と戦うのがあんなに辛いとは……これはもう極東以外の神機使いをバカには出来ない。

あんなのと何回も戦いたくない。

だが自分は『あんなの』とあと何回も戦うだろうし、アレを遥かに凌駕するような奴とも戦わなきゃいけない。

 

 

そんな命を賭けた事をしなきゃならないのに、コイツのお守りまでするって言うのは絶対に無理だろう。

少なくとも自分にはそんなことは出来ないし、やれたとしてもやるつもりだってない。

それにだ、コイツは神機使いからしてみれば『幸運のアラガミ』だ。見つかれば即刻討伐対象になるだろう……ついでに自分も。

そうなったらいい迷惑だ、あくまでもこっちは人間に協力するつもりなのだ、その前に討伐されては困る。いや、そもそもされたくないのだが。

 

 

だから、さっきも行ったが目の前のこいつを殺すか食べてしまえば良いのだ、良いのだが……。

眼に映るのは楽しそうに膝から膝へとコロコロと転がりながら「キュ!キュ!」と鳴いているアバドン。

 

 

 

 

……

…………

………………

……………………いや、別にいいだろう。

 

 

 

 

自分だって、こうして触れ合う前は「ヒャッハー!アバドンだぁ!待てよ!マテヨォォォ!チケットオトセヤゴラァァァァ!!」……的な感じで宝くじ程度にしか捉えてなかった。

だから罪滅ぼしじゃないが、少しの間コイツの面倒を見ようと思った。決して可愛いからとかそんな理由ではなく、あくまでも自分の認識をしっかり改めるための材料

としてしか扱うつもりはないし、邪魔になるなら見捨てればいいんだ。

 

(まぁ……宜しくな?アバドン)

 

「キュ?……キュキュー!!」

 

自分の言葉が通じたのか、アバドンが嬉しそうにぴょんぴょんと膝の上を跳ねる。痛くはないのだが少しだけくすぐったく感じるな……。

一先ず、自分とコイツの餌を探すために出掛けるか……コイツ(マント)の使い方にも慣れておきたいしな。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

─ここ、ネモス・ディアナはフェンリル独立支援部隊であるクレイドルが滞在していた。

極東支部と違い一部のみに展開されたアラガミ防護壁の外。そこで煙草を吹かし一服している、右腕にゴテゴテとした金色の籠手をした男─雨宮リンドウと大型のトレーラーから荷物を運びだしている白髪の青年─ソーマが何かを話していた。

 

「──で、結局榊博士からの伝言はなんだったのよ?」

 

「極東付近に少々特殊なアラガミが出現したらしい」

 

「ふーん……と言うことは俺達に討伐の依頼か?」

 

「いや……どうやらそれとは少し目的が違うらしい」

 

「ん?目的が違うってのはどういう──「白いハンニバル」っ!?」

 

「お前が半アラガミ化してハンニバルを狩っていた時に出会った白いハンニバルが再び現れたかもしれないらしい」

 

ソーマのその言葉を聞いて先程まで面白半分に聞いていたリンドウの目付きが厳しいものになる。

それもそのはず、その白いハンニバルは暴走しアラガミ化が進むリンドウを死の間近へと追いやった存在で、リンドウとは因縁があるアラガミである。

 

「……そいつぁ本当なのか?」

 

「まだ確証は持てないが、つい最近までそれらしい個体はそいつ以外発見されていないらしい」

 

「ついでにだが、従来のハンニバルとは大分行動が異なるらしい」

 

「異なるってのは?」

 

「どうやらゴッドイーターを異常な程に避けているみたいだ……何処かのゴッドイーターに殺されたからなのかどうかは知らないがな」

 

榊の話が本当なら、そいつがゴッドイーターを避けているのは高確率で自分が関係しているのだろう。

ただ、アラガミがゴッドイーターを避けるなんて話は滅多に聞いたことも見たこともない……あるとしても幸運のアラガミとか言われてるアバドンくらいだ。

それにしても今になってそれが現れたと言うことは一体何が目的なのか……もし、自分が目的だとしたら。

 

「全く……随分と熱烈なファンだな、そんなものを持った覚えはないんだがね」

 

リンドウがそう呆れたようにぼやくと、ソーマは同じく呆れたように呟く。

 

「本当に……熱烈すぎて巻き込まれる俺達としてはいい迷惑だ」

 

はいはい、すいませんね──とリンドウはソーマの皮肉に適当に流しながらまだ青い空を眺めながら煙草を吹かす……思い出すのは雪が降り積もる廃寺で敵対した白いハンニバル。

そいつはあまりにも速く、暴走しアラガミ化が進んで身体能力が上がっていたリンドウでさえその動きに追い付くのに必死だった。段々と追い込まれていく中で、突如現れた謎のゴッドイーターと共に戦いなんとか勝利した。

 

 

(途中で助けてくれたあのゴッドイーターが居なければ俺はきっとアイツに喰われていただろうな……)

 

 

そう名も分からぬゴッドイーターに感謝をしながら、それと同時に先程知ったあの白いハンニバルが復活したかもしれないという事実。

ゴッドイーターを避けているのは単純に俺を恐れているからか……それとも、俺を今度こそ喰らうために力をつけているのか。

……どちらにせよ、これは自分が決着をつけなければいけない。

 

 

だが、今はまだ極東へと向かうことは出来ない。

人類の揺り籠を目指すクレイドル。その目的に大きく近づける可能性を見つけたのだ……。

 

「レトロオラクル細胞……」

 

それは限りなく純粋なオラクル細胞。

そして、それを持つアラガミの存在。

今はまだその後を追うだけだが、近い将来きっと見つけて見せる……だから。

 

「今はまだ、その時じゃない……首を長くして待ってな、俺の熱烈なファンさんよ」

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、本当に有難う御座います。
ソーマさんはともかくリンドウさんの口調がオラわかんねぇだ…本当に初代からやっとるんか私。

それはそうとアバドンくんちゃん(仮)の名前をどうしようか悩んでいます、それはもうめちゃくちゃに。
そろそろ原作キャラと戦わせたいんですけどねー。
誰がいいんでしょう?


それでは、また次のお話で、



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第16話 神速種は過保護さん

どうも皆様、黒夢羊です。

この度25000UAと900お気に入りを突破しました。
皆様本当に有難う御座います。

さて、感想とメッセージにて色んな方から楽しみにしていること、そしてそれと同じく「こうしたら良いのでは?」とアドバイス等を頂きます。
まずはそれに感謝をしたいと思います。本当にこのような作品に多くの感想と評価をつけてくださり身に余る思いです。

出来る限りそれらを活かせるように頑張りたいと思いますが、私自身の実力不足でそれを実現できるかは怪しいところでございます。
本当に申し訳ありません。

ですが、これからも未熟なりに少しずつ更新していくので読んでいただければ幸いです。




それでは本編へどうぞ。





さて、一先ず餌を探しに『黎明の亡都』に来たんだが……

 

「キュキュー!」

 

何故着いてきたし。

あのな!ちょっと待ってろって言わなかったっけ!?…………言ってなかったね!!ごめん!!

よくよく考えればコイツからしてみれば、自分が行きなり出ていってから「置いていかれた」とか酷いもんだと「見捨てられた」とか思ったんだろう……多分。

 

 

そもそも自分以外のアラガミでそこまで認識する奴っているのか?いや、一応アラガミも生命であるし、雛鳥のように本能的に察知したのか?

こんな時自分が榊博士みたいな研究者だったら……とは思ったがそもそも原作の時点で細かいことはあまり分かってなかったようにも思う。

やはりこんなことになるならちゃっかり設定とか読んでおけば良かったなぁ……とこの世界に来て何回目か分からない後悔をする。

 

 

まぁ、後悔しても仕方がない。

コイツが自分の言うことを聞いてくれるかどうか分からないが、少なくとも自分に恩を感じているのなら少しくらいは働いて貰おうと思う。

 

「キュ?」

 

まぁ、それはまた後にして取り敢えずコイツの安全を確保しないと行けないな。

ふよふよと自分の周りを漂うアバドンを手の中に納めながら、眼下に佇む5体のオウガテイルを睨む。

 

さて……行くか。

 

そういいながらアバドンを握り潰さないように力加減をしつつ手を丸め包み込む。

少し酔うかもしれないが我慢してくれよ。

 

「キューーーー!?」

 

そして、ビルから飛び降りる。空いている右手で近くに居たオウガテイルの頭部を殴り飛ばし、続いて何が起きたのかまだ理解ができていないもう1体に回し蹴りを決めて同じく吹き飛ばした。

 

さて、今の自分にはヴァジュラのマントに酷似した器官が付いている訳だが、ヴァジュラのマントは雷を発生させる器官とされている。因みにこの雷は球状に発射することは勿論、自身の周囲を囲むように放電することだって容易。さらには自身から距離をとった相手がいる地点に向かってピンポイントで雷撃をかますことだって出来る。

 

 

もし、本当に自分がヴァジュラのマントの器官の能力を得ているとするなら、これに近しい事が自身の炎で出来る筈である。

たった今自分がぶん投げて、仲良くごっつんこした2体のオウガテイルを対象にして、その地面から自身のオラクルで作り出した槍が突き出るように念じる。

すると、地面から突如槍が出現し2体の内1体を貫く。

 

……あれ?

 

目の前で起きたことが一瞬信じられず思わず瞬きをする……いや、槍は確かに地面から突き出てオウガテイルを貫いた。そこはいい寧ろ喜ぶべきだと思う。

だが、今自分が信じられずにいるのはその槍だ。

自分は『オラクルの槍が突き出るように』念じた……が、いましがた突き出たのは『バチバチと放電しながら燃え続ける炎の槍』だった。

……分かるだろうか?いましがたオウガテイルを貫いた槍は炎と雷、その両方の属性を宿していると言うことなのだ。

 

 

いやいや、それはちょっといけないだろう!?

なにそれ2属性攻撃!?そんなの原作に居たか!?

自分が今起きた出来事に気を取られていると、それをチャンスと見たのか残った2体のオウガテイルは逃走を開始した。

おっと、流石に逃すわけには行かないな……球でも作って発射してみるか。

再び『小サイズの炎の球を発射する』ように念じる。

すると今度は何故かイメージ通りの炎の球が複数作られ、作られるとほぼ同時に逃げ出した2体に見事命中し、食らったオウガテイルは吹き飛ばされ、そのまま動かなくなる。

 

 

んー?どういうことだ?さっきの槍は炎と雷で、この球は炎単体。

同じくマントという器官を介して作り出したモノで、そこに大きな差違は……いや、合ったな。

最初の槍は自分のオラクル……というかほぼ無意識で作り出すことが出来る炎剣や炎槍を作り出す感覚で作り出したが、しかし後者の炎球は先の炎雷槍を見てより強く炎の球をイメージした。

つまりは自分のイメージによって属性のスイッチが出来る?

 

 

試しに今度はヴァジュラが撃っているような雷をイメージして壁に撃とうとしてみる。

すると紫の雷球が生み出され、目の前の壁に激突して球と同等サイズの窪みを作った。

……………………うわぁお、マジですか。

 

 

これはかなり自分の生存率が上がったと思う。

敵の視覚外からの一撃を与える事で他の攻撃も当たり易くなる上に、自身が放つ火球に加えて新たな遠距離攻撃が増えたのは撤退する際にかなり使えるだろう。

ただし、問題は発射までにタイムラグが有ること。

これはかなり痛い。ゲーム内でもヴァジュラの雷撃の回避は、比較的ゲームがそこまで上手くない自分でも出来ていた。

 

 

だがそれはこれ(マント)しか攻撃方法がない場合の話で、今の自分はハンニバル神速種。高い身体能力となんちゃって格闘術に加え、一部の神機使いからトラウマ扱いになる程の速さを持つ。

ラグのカバーはある程度出来ると思うし、練習を重ねれば今よりも少しぐらいは発生までのタイムラグを縮められるはずだ。

 

 

……と、そうやって自分が今後について考えていると何やら左手の中にいるアバドンが暴れている。

それを見てふと、今の自分は餌もとい自分の飯を取りに来ているのを思い出し、慌てて手の中からアバドンを解放してやった。

解放されたアバドンは少し辺りをくるくると見渡していたが、倒れているオウガテイルを見ると物凄い勢いでそちらへと向かった……が、途中で止まりこちらをチラチラと見てくる。

 

 

一瞬なんの意図か分からなかったが……これはあれか、食べてもいいの?って感じか。

良いという意思表示をするために人差し指で軽くアバドンを押してやる。

しかしそれでもアバドンは食べようとはしない。

んー、いまいち伝わらないな。どうするかね……あ、これなら行けるか?

オウガテイルの1体に近づいてその体を半分に千切り、未だに食べるか迷っているアバドンの前に置いてやる。

すると、アバドンにも意味が伝わったのかこちらと体が半分になったオウガテイルに視線を往復させると恐る恐るかぶりついた。

 

最初はこちらを確認しつつだったが、自分が何も怒鳴ったりしない事が分かるとムシャムシャと一心不乱に食べ始めた。

おー……やはり腹が減っていたのか?

まぁそれは良い、アバドンのあの体のサイズならあれで充分だろう……それよりも自分も飯にするか。

 

そうして倒れているオウガテイルをかき集めて、重ねると両手を合わせて「いただきます」と心の中で呟く。

そしてオウガテイルの1体の尻尾を噛み砕きながら腹に納めていくのだった。

 

 

積み重なったオウガテイルを全て腹の中に納めた後、アバドンの方を向くと、先程の3分の1程削られたオウガテイルの半身と満足げに口を開けているアバドンが居た。

 

……流石に多すぎたか。

 

アバドンの元へ近寄ると、アバドンはこちらに気付き足元へすり寄ってくる。

可愛i……じゃない、もういいのか?と確認を取るためにオウガテイルの半身をアバドンに寄せるがアバドンは頭(というか体?)を左右に振り、答えを出す。

残すのも勿体無いのでそのオウガテイルの半身を頂く。

うむ、これで綺麗さっぱりだな。

 

 

さて、飯を食べて腹も膨れたしマントの検証もできた。

少しだけ練習して今日は寝床に帰るとするか。

 

 

そうして、球や槍を始めとした遠距離の攻撃の射程距離の確認などを少しした後、寝床へと戻った。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

……おい、どういうことだこれは?

次の日の朝、今自分は激しく動揺している。

それが何故かを説明する前に、アバドンの色を思い出してほしい……アバドンは黒と紫が混ざったような暗い色だったはずだ。

しかし、今自分の目の前にいるアバドンは……

 

「キュ!」

 

体色が自分と同じく真っ白になっているのだ。

 

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき本当に有難う御座います。

さて、冒頭とは話が変わりますが皆様はGEシリーズをプレイする際に属性武器を使ったりしますか?
私は付けたいスキルと補正付きののこじんの量が圧倒的にないため今のところレシェフしか使っていません。

やり込み度が違う方はやはりプレイスキルや神機とかもかなり強化なされているので……。


それではまた次の話で。


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第17話 その血の運命

どうも皆様、黒夢羊です。

まさかの30000UA突破とお気に入り1000件越え、本当に有難う御座います。
この作品を書き続けられているのもご感想や評価を始めとした読んでいただいている皆様あってのことです。
本当に有難う御座います(2回目)

さて、書いている間BGMで東方projectの曲やボーカルを聞いていたのですが、それに伴って東方projectの二次創作を書きたくなってしまった次第です……まぁ書くかは未定ですが。
皆様は落ち着きたいときは作業に集中したい時に聞いている曲はありますか?あったら是非とも教えていただきたいです。




では、本編へどうぞ。今回はちょっと長めです……




さてさて、どういうことだってばよ……。

そんな某有名忍者漫画の主人公の口調になってしまうほど今の自分は動揺している。

それは何故か、目の前のアバドンが何故か真っ白になっているのである。

 

 

おいおい、リザレクションに出てくるアモルじゃないんですから……とは思ったがそのアモルとは大きな違いがあった。

それは口の中(もしくは体内)、通常のアバドンはオレンジ、先に言った白いアバドンことアモルは青なのだが、目の前にいる純白のアバドンは紫なのだ……自分の炎や毛と同じ。

 

 

という事で現在考えられる原因はたった1つ。というか大半の人間はそう考えるだろう、いや自分アラガミだけどな!

それは、この目の前にいるアバドンが自分を食べて何かしらの変化が起きた……とまぁこんなところだろう。

いや、寧ろそれ以外にパッと思い付くものがない。

 

 

心なしかアバドンの動きが速い気が……いや、速い。

元々速かったアバドンの動きが更にアップしている……アバドン神速種とか絶対に捕まえられる気がしないな……メテオとか使えば別かもしれないけど。

 

 

まぁ、見た目が変わったからといってもこいつを保護することには変わりがない。

取り敢えず飯とコイツの餌でも探しにいきますかね……っと、後で帰ってくるから付いてくるなよ?

自分が出ていこうとしたのを察知したのか、アバドンがこちらに近寄ってくる。

それを見て無駄だと思いながらも片手でここにいるようジェスチャーをした……すると

 

「キュ……キュッ!」

 

なんということだろうか。アバドンがそれ以上こちらに近づく事はなくその場で止まった……一緒に行こうと未練タラタラのように感じるが。

昨日は通じなかったよな?試しに今度はこちらに来るように手招きする。因みに国によって手招きの仕形で意味が変わるらしい……どうでもよかったな。

アバドンは明らかにこちらの意図を理解したかのように自分の足下へ近寄ってくる。

 

「キュ♪キュ♪」

 

これは理解してかのように……ってよりも完全に理解しているよな?

その後も掌や頭の上に乗るようにやらその場で回ってみろやら色々と指示を出してみて分かったことだが、ジェスチャーは関係なかった。いや、一応は関係していたのだがほぼ意味が無かった感じだ。

 

 

このアバドンはどうやらこちらの意思を感じ取れるようで、こちらが軽い命令をすると出来る限りそのように動いてくれるようである、なにそれどこのニュータイプ?

ただ、コイツ自身の自我……といって良いかは分からないが本能みたいなものもあるのでイヤな命令とかは効かないみたいだが。

こちらの意思を感じ取れるようになったのは自分の体を食べたからか?それによって感応能力かなんかが働いて自分の意思をアバドンが受信しているとか。

これに関しては全くわからない……だがまぁ、助けてもらったと思っているから言うことを聞いている……って感じだな多分。

 

 

まぁそれは一旦置いておくとして、これなら中々に面白い事が出来るかもしれない。

『行くぞ、さっさと掌に乗れ』そう頭の中で指示するとアバドンは開いた右の掌の上に乗った。

うんうん、こちらの意図が分かってくれて本当に楽だ。

さてと、餌を探しにいきますかね。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

そんなこんなで昨日ぶりにやって来ました『黎明の亡都』へ!

さて、適度なカモは……っといたな。

ビルの上から見下ろすとビルとビルの間のその奥、ヴァジュラテイルがいるではないですか、しかも雷。

まぁ何をするかというと……自分は掌で眼下に広がる光景を眺めているアバドンにとある指示を出す。

 

 

今更だがこの時もし自分が人間だったらまぁまぁゲスな笑いを浮かべていたのかもしれない。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

「キューッ!?」

 

ビルの間を上手くすり抜けながら何かから逃げ続ける白いアバドン。そしてそれを後ろから追いかける3匹のヴァジュラテイル達。

本来であればアバドンの持ち前の速さを活かして振りきれる筈だが何故かそれをしようとはしない。

 

「ガァアアアア!」

 

ヴァジュラテイルの1匹が逃げる白いアバドンの前方に雷を落とすが雷が落ちるよりも速くアバドンがその地点をすり抜ける。

 

「キュー?キュキュッ!キュー!」

 

すり抜けた後、アバドンは振り返りその小さな体を左右に揺らしながら特徴的な声をあげる。

すると、ヴァジュラテイル達は更に足の速度を上げアバドンを追い掛ける。

それを見たアバドンは再び逃走を開始する。慌てているようでしかしその速さは先程よりも少し速い程度で相手がこちらを見失わないギリギリの距離であり、その為かヴァジュラテイル達は本来であれば興味を失うはずがそれでも依然として追い続けているのである。

 

 

そしてかつて道路であった箇所を駆け抜けていきそこから続く大きな広場へとたどり着く。

ヴァジュラテイル達も同じくたどり着くと、側に河が流れる広場の奥、蔦が絡まり朽ちた図書館の壁で狙っていたアバドン右往左往していた。

今がチャンスだと感じたのか、広場へと降り立ちアバドンへと一直線で駆けていく。

 

 

しかし、広場の中心まできたところで上空から無数の炎球と雷球がヴァジュラテイル達に降り注ぎその命を奪っていく。

最後に倒れる1匹が目にしたのはアバドンの遥か上。

図書館の上からこちらを見下ろす白き体躯を持つ未知のアラガミであった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

よし、上手くいったな。

図書館の壁を越えて自分の足下までやって来たアバドンを見ながら、得られた結果に満足する。

 

 

アバドンに出した指示は端的に言ってしまうと『囮になってここの広場までつれてきてくれ』である。

少々危険なものだった為に嫌がるかと思ったが、意外なことに1つ返事でOKしてくれた……といっても元気良く「キュイ!」と返しただけので正しいのかは分からないが。

 

 

だが、その結果は今見ての通りである。

しかも囮をする際にこちらが具体的な内容を伝えていないのにスピードの調整など、相手に見失わせないように上手くしていた。

これは予想外だった、いや具体的な指示を出し忘れて内心ヤバくねっ!?って思ったとかないから!アバドンが帰ってきた時あーよかったー!とか安心してないから!

……ゴホン。

 

 

まぁある程度の中型アラガミであれば、今の自分であれば比較的倒しやすい。そこら辺りをアバドンの誘導する際の練習台にして、ゆくゆくは大型や捕食したいアラガミを連れて来てもらうようにする。

……自分で動けば速いだろって思うかもしれないが、多分今全速力で動いたらアバドンの方が速いと思う。

 

 

まぁそんなこんな言っている間に倒したヴァジュラテイルが消えてしまったら困る……当事者としてしっかりとその命は頂かないといけないしな。

自身が待ち伏せていた図書館の屋上から飛び降りてヴァジュラテイルの体を貪る。

オウガテイルよりも柔らかい食感で、ステーキで表すとオウガテイルがミディアムとするとこれはレア……じゃないなえーと……ミディアム・レアだと思う。

いや、普通にうまい……なんかアラガミを美味いと言ってしまっている時点で人間を逸脱してるなーと思ったが、今の自分はアラガミなのだからそりゃそうだと勝手に疑問に思って勝手に納得。これぞまさに自問自答。

 

 

まぁそんな事を考えながら一体を食ってしまった。

一応コイツのために餌を分けておいてやるか……そう思い、2体目のヴァジュラテイルの足を引きちぎりアバドンの前に置いて『食べたいなら食べろ』と念じる。

しかし、アバドンは顔(というか体?)を左右に振りそれを食べようとはしない。

……はて、どうした?『本当に良いのか?』と念のために聞いては見るが反応は同じであり、自分の目がイカれて無いことは分かった。

 

 

自分みたいに雑食性ではないのか…?と考えたがそもそもアラガミは超がつくほど雑食だ。人間動物昆虫なんて何のそのでコンクリートや地面、果てには戦車なんてものも食ってしまう。

アバドンも例に漏れない筈だが……とヴァジュラテイルの足を美味しくいただいていると、何やら横から視線を感じる……視線の主はアバドン。

やはり食べたいのか?と思い再度片方の足を引きちぎりアバドンの前に置いて『食べるか?』と促してみるが頭を振って否の回答を出す。

どう言うことだ……と悩んでいるとアバドンが自分の指に噛みついてきた。

驚いて腕を払おうとする前にアバドンは口を離し、再びこちらを見る……まさか。

 

 

自分を指差し『自分を食べたいのか?』と恐る恐る確認してみる。

すると返ってきたのは頭を左右に振る否定でなく、上下に振る肯定の回答……えぇ、嘘やん?

 

 

流石に自分を食べさせるのには若干の抵抗がある。それはアバドンが今後どんなアラガミになるか分からないからである。

アバドンがアバドンのままなら良い。だが、この世界ではアラガミが外的要因……つまり摂取するものや自身が住まう環境によってその性質を変えることだってある。

もし万が一にもアバドンが自分ないし自分の一部を摂取したことで突然変異なんかしてみろ、自分の手に負えないアラガミになる可能性大だ。

 

 

だが、コイツに今後も働いて貰わないといけない。

ゆくゆくは大型を分断する等の仕事をしてもらうつもりなのだ、ここで報酬を提示しなければ作戦途中で逃げる可能性だって上がるだろう……しかしなぁ。

 

 

そうやって自分がうんうん悩んでいると、その悩みを理解したのかアバドンが自分の眼前までやって来て体を左右に振る。

それが『食べさせたくないなら無理しなくていい』か、『裏切ることなんてしない』なのか、それともそれ以外なのか。

自分には理解できなかったが、それを見て答えは出た。

 

 

マントを手が届く距離まで曲げ、炎剣で端を一部だけ切り取り、それをアバドンの前に置いてやる。

アバドンがマントの切れ端とこちらを交互に見るが思っていることは『え?食べてもいいの』だろうか。

 

『ああ、食べてもいいぞ』

 

そう自分が促すとアバドンはそのマントの切れ端を少しずつ大事そうに食べていく。

まぁ、自分みたいなアラガミの一部なんて滅多に食えるもんじゃないからな、戦闘能力のあるオウガテイルとかならまだしもアバドンだし。

 

 

それに……それにだ。もしアバドンが変異し、自分の手に負えないようになるのならその前に食べればいい。

『不穏分子は常に排除する』何処かの有名な人も言っていた……気がする。

 

 

依然として大事そうに自分のマントの切れ端をいただいているアバドンから目を離し、残っているヴァジュラテイルをいただく事にする。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

ふぅーご馳走様でした。

両手を合わして自分の糧になってくれたヴァジュラテイルに再度感謝の念を送る。

それを見たアバドンも手なのか足なのか良く分からないが頭の横についたヒレを前に合わせて頭を下げている。

……普通に可愛いと思ったのは仕方ないと思うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─今思えば多分この時自分は油断していたんだと思う。

ヴァジュラとは言え大型を倒し、その力を得たことで対応出来ることも増えた。

元々のスペックも合わせてかなり強い部類に入る存在になっていたと、油断していた。

だから次に起こることは神様か、もしくはそれに該当する何かが起こしたお叱りだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、いざ帰ろうとしたその時、何処かで聞いた覚えのある音が鳴った後に何かによって自分の足下近くの地面が抉れる。

一瞬何が起こったのか理解できなかったが、先の音と同様の音が鳴ったと共に敵だと理解し、アバドンを回収した直後自分の角に何かが命中する。

 

「グルゥオオオオオ!?(痛ぇぇぇぇぇ!?)」

 

多分右の角が欠けたか砕けたのだろう、人間で言うおでこの右上部分が異常な程に痛む。

ここから角を撃ってくるってことは上か?

そう思い視線を上げる──それが間違いだった。

3発目の何かが同様の音ともに放たれ今度は自分の右目を撃ち抜く──いや、撃ち抜かれたのだろう。

 

「グルゥアアアアギャアアアアアア!!」

 

視界が狭まるの同時に右目が角とは比べ物にならないぐらい痛み始める。

取り敢えずここから離れないとヤバイ!そう思い振り返り逃げようとした自分の眼前にピンクと黒に彩られたのハンマーを振りかぶる露出の激しい少女の姿が。

避けれないと感じ、アバドンを守っている右手ではなく左手で防御する。

 

 

籠手とハンマーがぶつかり、ガァン!という金槌で鉄板を思いっきり叩いたかのような音がなる。

というか籠手にハンマーは効くからちょっとやめてくれないかねぇ!

全方位に炎柱を発生させて目の前の露出高めハンマー少女──香月ナナを後退させる。

 

 

ナナは自分(アラガミ)が前だと言うのに誰かへ連絡を取っている。

まぁ普通アラガミは言葉を理解できないからな。

 

「ごめん!ちょっと火傷しちゃったかも!」

 

あ、そうなの?ごめんなさいまだ火加減が──って言っている暇は無い!さっさッと撤退するべきだ。

そう思いナナを避けて迂回しようとすると、植物園へ続く通路2つにホールドトラップが仕掛けられている事に気付く。

普通のアラガミなら引っ掛かるんだろうが、生憎こちらはゲームの中とは言え元神機使い。それがあるなら──

 

「えっ!?」

 

背後でナナが驚きの声をあげる。

それもそうだろう、植物園に通じる通路を通るのではなく、その隣のビルへと飛んだのだから。

一回のジャンプでビルの屋上へと上がった自分は振り返るつもりもなく隣の図書館の屋上へと飛び乗り来た道を逃げようとする──が。

 

「残念だが、そうはさせねぇよ!」

 

図書館の屋上から青と黒のチャージスピアを持ったイケメン─ギルがこちらに向かって飛んでいる最中の自分にブラッドアーツによるものだろう、鋭い突きを食らわせる。

それは見事に無防備になっている自分の横腹を抉り、抉られた自分は地面に墜落する。

痛い──痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

 

 

今まで生きてきた中で体験したことのないような痛みが全身を襲う。

なんとか体制を整えると視界の先には最初の射撃の主であろう銃形態の神機の銃口を此方へと向けている─君おっ○い少女シエルと先程攻撃をしかけたナナ。そして……

 

「遂にご対面だな!」

 

「油断するなよロミオ、既にダメージを与えているとは言え相手は特務対象だ」

 

「しねーって!前の俺とは違うんだよ!」

 

「どうだろうねー」

 

「おい!」

 

そう軽口を言い合うロミオ、ジュリウス……そして主人公。

そこへビルから降りてきたギルも合流する。

 

 

おいおい……最悪だよこれ。

そう、目の前にはこの世界の中心人物とも言えるブラッドのメンバーが揃っていた。

しかも特務対象だと?いつの間にそこまでランク上げされてるんだよ自分は!?

 

「目標は対象のコアを確保、全員生きて帰るぞ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

……うだうだ言っても仕方ない。

こんなところで自分は死んでたまるか!絶対に逃げて生き抜く!!

 

「グルゥオオオオオオオオオ!!」

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

ブラッドとハンニバルが交戦を開始したその光景をモニターから眺める一人の女性。

 

「ふふふ……」

 

その笑みは妖しく、大半のものであれば美しく儚げな姿に映り、虜にしてしまうだろう。

そんな笑みの主──ラケル・クラウディウスはその笑み同様……いやそれ以上の興奮を抱きながらモニターを見つめる。

 

「さぁ、見せてください。荒ぶる神でありながら慈愛の心を持ち合わす貴方様の本当の力を──」

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき本当に有難う御座います。

さてさて、いよいよ本編キャラとの本格的な絡み(戦闘)が起き始めました!
主人公死なないで!「次回、主人公死す!」デュエルスタンバイ!!

とまぁ冗談はさておき、本編にどう絡めるか悩んでいる次第であります。
いや、どう絡むかは決めているんですがそこに至るまでの過程を色々どうしようか悩んでいる感じですね。
まぁまったりと考えていきます。
次回は私の苦手な戦闘パートですが、案の定グダグタになりそうなので先に謝っておきます。申し訳ありません!!


では、また次のお話で。


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第18話 神たる人と人たる神

どうも皆様黒夢羊です。

なんかこう……本当にすいません。
感想欄で『さでぃすてぃっく』な皆様のご要望通りには書けませんで……私基本そういう描写苦手のてのてなんです。


取り敢えず本編へどうぞ、今回は短めです






震える自分を鼓舞するように雄叫びを上げたのと同時にジュリウスとギル、そして主人公が飛び出す。

そして3人が飛び出した直後ロミオがポーチから球状の何かを取り出して叫ぶ。

 

「スタグレ行くぜ!」

 

スタグレ──その単語に反応した自分は直ぐ様眼前で両手を交差し両目を─右目は失明中だが閉じる。

その後自身の周辺に炎の渦とそれを中心とし数本の柱を地面から放出させる。見事にそれは相手の隙を付けたようで「何ッ!?」など驚きの声が上がっている。

というか速く右目よ治ってくれ!片目じゃ色々とカバーできるもんも出来ない!

 

ズキズキと痛みが収まってきたが依然回復しない自分の体に愚痴を言い、心の底から襲ってくる恐怖に耐えながらも右手のアバドンをどうするか悩む。1日前のアバドンであれば平然と見捨てたであろうが、今のコイツは自分の一部とは言えオラクル細胞を取り込んでいる。

もしコイツを見捨ててコイツが捕獲されでもしてみろ、自分の細胞が入っているのだから当然解析されてそれ専用の武器でも作られてしまう可能性がある。それだけは勘弁願いたい。

かといってコイツを庇いながらは、両腕が使えないので死ぬ確率が上がってしまう……なら

 

『おい、良いか?』

 

「キュ?」

 

『今からお前をぶん投げるから、そのまま逃げろ。いいな?』

 

「キュ!?……キュゥゥゥ」

 

『良いな!?』

 

「……キュ!」

 

それが何を意味したのかは分からない。肯定なのか否定なのか、だがもとより返事を聞くつもりはない。

炎を渦の勢いを更に増しながら奴らの攻撃を防ぎつつ体を半回転させて、その勢いで右手のアバドンを図書館の方向へと思いっきり投げる。

 

「キュゥゥゥーー!?」

 

「何を投げやがった!」

 

「あれは……アバドン!?」

 

「え?でもアバドンって黒っぽい色じゃ……」

 

「そんなこと考えている暇は無い!今はこいつに集中しろ!」

 

突如としてアバドンを投擲した自分に驚きの声を上げたギル、シエル、ナナだがジュリウスの一言で再び此方へと意識を向ける。

チームワークが良すぎるんだよ!もうちょっと慌ててくれよ……。

泣き言なんて意味がないと分かっているが、それでも漏れでるのは仕方ないと思う。

さて、そうこうしている内にどうやら右目が回復してきたらしい。狭まっていた視界がどんどん広がっていく。

完全に視界が回復したのを確認する。

……こういう時この体って便利だよな本当に、神機使いだとこうはいかないかもしれない。

 

 

未だに自身を守るように広がる炎の渦を片足へ収束させ、大きく跳躍する……さぁシエル、今の自分は良い標的だぞ?狙うだろ?

そう自分の狙い通りシエルはその銃口を跳躍する此方へと向けて2発続いて放つ。1発目が放たれるのと同時にジュリウスとギルがシエルの銃撃後の追撃として飛び上がる。

 

しかし、そんなのは目にも止めない……いや止める暇は無い。足底に収束させた炎を一気に広げ、その形をドーム状のバリアにし2発の銃弾を溶解させる。

 

「なっ!?」

 

シエルの驚きの声が上がるがすまんね、こっちは一応知恵があるもので。

そして広げた炎を再び収束させ、螺旋を描きながら回るドリルへと姿を変える……今度は両腕を使う必要はない。推進力は背中に8つも付いているのだから。

マントを八方向に広げ、各部先端から炎を全力で放出。そのまま勢いを増して空中を飛んでいる途中のギルとジュリウスを熱風で吹き飛ばす。

 

「ぐうう!?」

 

「ぐはっ!!」

 

二人を吹き飛ばした後にそのまま地面へと足からダイブする。着地は見事成功、そして着地時の衝撃で足に集まっていた炎が周囲へ放出され、その熱波がナナと主人公を巻き込む。

 

「きゃあ!?」

 

「くっ!」

 

……主人公にはガードされたか。というか勝手に神機がガードしたかあれ?クロガネだからオートガードは無いとは思っていたがどうやら搭載されてるみたいだな……なにそれ卑怯にも程があるだろ。

戦闘が開始してからどのくらい経ったかは分からないが既に腹部の抉られた傷と砕かれた角も治っている……よしよし、まだちょっと痛みはするがこのくらいの痛みは前世で幾らでも経験してきてるから平気だ。

 

「ジュリウス見て!傷が!」

 

主人公が何やら叫んでいる、ああでも傷って以外と速くなおるんだろ?結合崩壊しているわけでもあるまいし……そんなことを考えていると

 

「馬鹿な……結合崩壊した筈だ!何故!?」

 

……え?嘘でしょジュリウスさん?

 

「ありゃあかなり厄介な相手だぞ……ここで仕留めなきゃ余計やばそうだ」

 

……え?え?ギルさんや普通は逃げません?

 

「ええ、更に力をつける前にここで決着をつけます!」

 

いやいや、決着とかそんな物騒なのやめません!?

しかし、あくまでも平穏に終わらせたい自分とは違い全員の目はやる気だ……。

アラガミに近づいた人とアラガミとして生まれた人。

似ているようなのに何故分かり合えないのか。

……十中八九見た目が原因だろうがな!!

 

 

まぁ、そっちがその気なら仕方がない。

先に仕掛けたのはそっちだ、この世界に……というかアラガミに正当防衛が適用されるのかは分からないが、多少の怪我は覚悟してもらおう……メッチャ怖いけど。

 

「グルゥアアアアアア!」

 

「ッ!来るぞ!」

 

まずはブラッドの各自の足元に炎棒を作り、突き出す。まぁこれは予兆が見え見えなので避けられるのは確定で、本命は次だ。

両手に炎剣ではないが、炎と同じく紫色の雷で出来たオラクルの剣を作り出し接近する。

神速種の名に恥じることのない速度で直ぐ様ブラッド達の近くに来るとその剣を振るう。すると剣に切られたシエル、ナナ、ロミオ、ギルの4人は切られた痛みから苦悶の声を上げようとするが、体が痺れてしまい発することは出来ない。

 

「皆ッ!?」

 

主人公──ええい、副隊長で良いわ面倒くさい……副隊長とジュリウスの2人は接近に気付きシールドでガードしていた……副隊長の場合はオートガードに助けられたのかもしれないが。

反撃を食らう前に両手の掌から炎を噴射し大きく背後に飛び退く、その際にマントから小サイズの炎球と雷球を2人に向けて発射する。

しかし流石は主人公でもある副隊長とラスボスのジュリウス、見事にそれら全てを避けている。

だが、こちらはその間に両腕に雷槍を作り出し上空へジャンプ。

そして先程のキックのようにマントから出る炎を推進力に急降下、着地地点はジュリウスと副隊長。

まずは着地と同時にジュリウスの近くに雷槍を突き刺す。球の対処で精一杯だったジュリウスは雷槍から発生した電流を受けてしまい他の4人と同じくスタン状態になってしまう。

さて、時間がないからさっさと決める!

着地したその後体を翻し、副隊長の元へと飛び掛かりジュリウスと同じように副隊長の近くに雷槍をぶっ刺す。

主人公も同様に電流を食らってしまいスタン状態になる。

 

 

……これで全員鎮圧完了だな。

 

そうやって自分は先程は失敗した図書館の屋上へと飛び上がり、振り返る。

眼下にはスタン状態にありながらまだなお動こうとしているが動くことができない現状に表情を歪めるブラッドのメンバー。

いつスタン状態が解けるか分からないのでさっさと逃げるに限る。

そうやって自分は初めての人との戦闘を乗り越えることが出来た。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

寝床にしている愚者の空母へと戻ってきた自分をアバドンが心配そうに迎えてくれた。

 

「キュ!?キュキュキュー!!」

 

『ありがとう』と感謝をしつつも、先の戦闘を思い出す……。

 

 

 

 

────本気で殺しに来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

思い出すと同時に腹部と右目が痛んだ気がした……まだ完全には治っていないのかもしれない。

それよりもあの目を思い出すと恐怖で体が震えてしまいそうなほど鋭かった……いや、鋭いとは違う。

……そう、『自分を殺すのが当たり前だと言うような目』だった。

 

 

自分の両手を見てみる。その目に映るのは少しぼやけているがマメが出来て何回も潰れたゴツい……だが、しっかりと人間の手だと分かる自分のものではなく、白い表面に金色の筋繊維のような組織で作られた異形の手。

明らかに人のモノではない。

 

 

……この世界に来て、いやアラガミとして生まれ変わって初めて感じた孤独。

自分と似た個体という意味では仲間はいる。だがそのどれもが自分のような存在ではい。

もし──もしも人間であったのなら……いや、せめて人型のアラガミであったのなら、自分の未来は変わっていたのだろうか。

 

 

自分の寂しさを理解してくれたのか、アバドンが小さく鳴きながらその体を擦り寄せてくる。

とても小さく少し煩わしく感じる時もあるその行動が、今は何よりも嬉しく、自分の心を暖めてくれる大切なモノに感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──あの日までは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

はい戦闘は一瞬!グロい描写も特になし!主人公は葛藤しない!
……なんかもう期待されていた方を裏切るようで本当に申し訳ないです。
私にはそんな酷い描写を書く気力はなかとです……。

次回は多分ラケル先生回になると思います。
そしてキャラ崩壊注意の回でございます。
ラケル先生好きなのは好きなんですけどねぇ……どうしてもロミオやらを○したのがバッドポイント……。


では、次のお話で。


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第19話 不完全な終わりと焦がれる乙女

どうも皆様、黒夢羊です。

ラケル先生回と言ったな……あれは嘘だ。
すいません本当に……本当にすいません。
いや書こうとしたんです。でもラケル先生ってどうやって書くねん!キャラ崩壊激しいぞこれ!?っとなってしまいました。本当に申し訳ないです。

私がGOD EATERの小説を書くのに向いていないなどを厳しいご指摘を頂きましたが、まさにその通りだと思っています。
私自身まだまだ未熟であり、文章や言葉の選び方など細かいところは全て読者の皆様に直してもらっている現状です……。

未熟な身でありながらこんなことを皆様にお願いするのは本当に不躾だと思いますが、どうか……どうか最後までこのお話に付き合っていただけたら幸いです。


それでは本編へどうぞ








それは今から1時間程前の事。

 

 

僕たちブラッドは極東支部から一旦移動要塞フライアへと戻り、感応種等を始めとした討伐任務を行っていた。

戻ると言っても少しの間で、長くても1週間くらいとのことらしい。

ナナや先輩は賑やかな極東支部から離れるのが寂しかったみたいで、少し落ち込んでいた。

因みに僕も寂しかったんだけど、副隊長だからしっかりしないとって思ったのとナナや先輩が落ち込んでたのを見て、慰める方に回ってたから落ち込む暇もなかった。

 

ただ、やっぱり極東支部に比べてフライアは静かだからちょっと物足りなさは感じてしまう。

あと苦手なグレム局長もいるのがそれに拍車をかけたりする……まぁ滅多に会わないんだけどね。

 

極東支部にいる間に先輩と色々と一悶着あって、その時は赤い雨やらなにやらで色々とあったんだけど今はギスギスしてたギルとも仲が良く……なったと思う。

実際まだ先輩は血の力に目覚めてないけど、それを補う程にサポートをしてくれるようになった、いやサポートの鬼って言っても良いと思う。

格段に戦闘も楽になったし、本当に先輩様々だ。

 

さて、ここフライアに来て3日目なんだけど、ブラッドの皆がラケルさんの所へ呼ばれているみたいだ。

何かあったのかな?

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

フライアのエレベーターを使ってラケルさんの居る階層へとやって来る。奥にはグレム局長の局長室があるからここにはあまり来たくないんだけどなぁ……。

 

そんな事を思いながらラケルさんの部屋の扉を開ける。

するとそこには既に僕以外のブラッドのメンバーが揃っていて、先生を含めた6対の目が僕へと同時に向けられる……言い表しようのない恥ずかしさが込み上げてくるが、それと同時に遅れたことへの申し訳なさから先に来ている皆へと謝罪する。

 

「すいません、遅れました」

 

「俺達もさっき来たばかりだ、気にするな相棒」

 

そうやってギルが慰めてくれる。

やっぱりこう……頼りになるお兄さん的ポジションだから、相棒って言われるのに実はまだ慣れてなかったりする……信頼されてるってことなんだけどね。

 

 

僕がやって来たのを見た、ラケルさんが優しい微笑みで揃ったことの確認をとる。

 

「さて、皆揃いましたね」

 

「それで先生、頼みたい事とは?」

 

どうやらジュリウスはラケルさんから事前に何か聞いていたみたいで、今回皆を集めた目的を問いかける。

 

「ええ……今回あなた達にお願いしたいのはこのアラガミのコアの奪取です」

 

ラケルさんはそのまま良くわかんないボタンとかがダーッと並んでいる機械を弄って丸型のモニターにとある画像を投影する。

 

「なっ!」

 

「コイツは……」

 

それを見た僕達は一様に息を飲んだ。

そこに投影された画像のアラガミはかつて僕達が遭遇し、逃してしまった特務対象のアラガミ──ハンニバル特異種だった。

 

 

実をいうと最初の遭遇から僕達はこの特異種とは一切遭遇していない。前に極東支部の皆と一緒に榊博士の話を聞いたときには僕達ゴッドイーターを恐れているとか何とか言ってたけど、まさにその通りでこの前なんかジンさんっていうベテランのゴッドイーターが負傷している状態にも関わらず自分が倒したアラガミを回収して何処かへと消えたらしい。

 

 

そんなこんなで未だに謎が多いこのアラガミだけど、どうしてこれのコアが要るんだろう?

というかそもそも何処にいるかも分からないから見つけるところから始めないと。

 

「先生、このアラガミは現在捜索中で発見すら出来ていないのですが、その発見からが任務……と言うことでしょうか?」

 

シエルもそう思ったのかラケルさんに進言している。

それを聞いたラケルさんは「あぁ……確かにそうでしたね」とクスクス笑いながら再び機械を操作して二つ目の画像を表示する。そこに映っていたのは対象となる場所をマップ上に『 』で現したものと、その周辺のマップ。更に、その対象に現在進行形で向かって動いている1つの赤い点だった。

 

「先生これは……?」

 

「この赤い点があなた達のいう特異種の現在位置です」

 

「なっ!?」

 

あんなに見つかることのなかった特異種を…?

どうやったのかとか色々と気になる点が多いのだけど、そんなことは知らぬ存ぜぬの態度でラケルさんは話を続ける。

 

「この特異種は現在『黎明の亡都』へと向かっているようです。なのであなた達にはここで特異種を待ち伏せし、討伐してほしいのです」

 

「どうして特異種の討伐が必要なんだ?それに俺達よりも適任は多くいるだろう」

 

ラケルさんの言葉にギルが疑問をぶつける。というかちょっと言葉足らずじゃないかなぁ……多分「自分達よりも強い人達はいるのだからその人達に任せるべきだ」なんだろうけど、それだと「自分達は忙しいから他のやつに任せればいい」とかに取られかねないよ……。

ただ、ギルの疑問は最もだ。今の今まで特異種による目立った被害報告は無い……というか些細な被害さえ聞いたことがない。

だから極東支部でも捜索はしているし、特務対象にはなっているけどそこまで優先順位は高く扱われていない……それよりも今発生している感応種等の対応に追われていて、ごく一部のゴッドイーターしか捜査などに回されていないのが現状だと榊博士から聞いた。

 

そのギルの疑問も最もだと思ったのかラケルさんが、今回何故この特異種を討伐するのかの理由を話した。

 

「それは……この特異種のコアが神機兵の開発に役立つ可能性があるのです」

 

「どういう事です?」

 

「詳しくは仮定段階なので話すことはできませんが『アラガミを捕食し、新たな力を身につける』…このアラガミが持つかもしれないこの特性を、このアラガミのコアを解析することで神機兵に応用できるかもしれないのです」

 

「んー……えっとー、つまりどういうこと?」

 

ナナが頭に?マークを沢山浮かべながらラケルさんの話を分かろうと努力している。因みに僕も理解している風に振る舞ってるけど全くわからない!!

するとシエルがナナに解説を始めたので、ちゃっかりと聞き耳を立てる……盗み聞きじゃないよ?横から聞こえただけだもん。

 

「『アラガミを捕食し、新しい力を身につける』……つまりこれが本当で、神機兵に搭載できるのならそのアラガミを倒すことに特化した神機兵等を作ることができる……と言うことですね?」

 

「ええ、シエルの言う通りです」

 

ラケルさんの肯定を聞いて、それだと本当に凄いことじゃないか……と実感する。

局所的に進化したアラガミや接触禁忌種だってそれを倒すのに特化した神機兵を用意すれば通常の神機兵よりも遥かに倒しやすい。

それならこれが発見された今、早急に討伐するのが良いだろう……けどなんで僕たちなんだろう?

 

「アンタの言いたいことは分かった……だが、まだもう1つある。俺達がやる意味はあるのかって話だ」

 

だからギル!それじゃあ勘違いされるって!

本人に悪気はない分余計に悪質だ、いや悪質って言ったらギルに失礼かな?

そんな知らない人から見たら高圧的な態度なギルにも微笑みで返す度胸があるラケルさんは、事前に用意していたかのようにスラスラと理由を話した。

 

「それは前に他のゴッドイーターと遭遇した際に、感応種を持ち帰っていました……もしこのアラガミに他のアラガミの能力を得る事が出来るのであれば感応能力を手に入れていたとしてもおかしくはないでしょう」

 

「…………」

 

「そうなると、通常のゴッドイーターでは神機は使えずただ喰われるか、逃げるのを眺めているだけになってしまいます」

 

「だから、感応種にも対抗できる俺達がやる必要があるって訳か」

 

「はい……それに」

 

「それに?」

 

「もし、このアラガミが他のゴッドイーターの手によって討伐されコアを回収された場合、神機兵の為ではなく他の事に応用されてしまう可能性があります」

 

「そんなことが?」

 

「ええ、本部は権力の奪い合いなどは日常茶飯事。そのなかで未だに争いながら成功するかも不明な段階の神機兵に貴重なコアのデータを使うよりも、新しい神機に使った方が良い……と感じる人もいるでしょうから」

 

その顔は何処か悲しみの色が出ていて、本気で神機兵を作って多くの人を助けたいと思っているのだろうなと感激した。やっぱいい人だなーラケルさん。

そんなラケルさんの説明に納得がいったのかギルは一言「わかった」とだけ告げてそれ以上は何も言うことはなかった。

 

 

そんなギルに代わって口を開いたのは我らがジュリウス。

 

「分かりました……皆。今から直ぐに準備を始めろ……特異種を討伐しに行くぞ!」

 

ジュリウスのその力強い言葉に僕を含めて皆が頷く。ラケルさんはそれを見て「ありがとうございます」と笑顔で感謝してくれた。

 

 

その後僕達は各々の準備を追えて、特異種への討伐へと向かった……。

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

あの子達が特異種……いえ、彼の元へと向かう為に部屋から出ていくのを見届けると、私は直ぐ様手元の機械を操作し、壁に取り付けられた幾つもの画面に彼の姿を捉えた画像を表示させる。

改めてみるその姿に頬が熱くなるのは何故なのだろうか……これも私の中の声が彼に興味を示しているのだろうか?

 

最初はただただ変わったアラガミが居るのだと聞いただけであった。しかしジュリウス達を『見守る』為に用意していたカメラにそれが写った時、私は一気に心引かれた。

……今から少し前、ジンという極東支部のゴッドイーターが感応種と接触禁忌種の2体に遭遇し、窮地に陥っていることをオペレーターが聞き、近くにいたあの子達へ増援が依頼された。

私は何故かその場所に置かれていたカメラへと『偶然にも』回線が繋がったので、あの子達が到着するまでジンとやらがどこまで持ちこたえるのかを眺めるつもりだった……しかし、私は見つけてしまった。

 

 

ゴッドイーターが武器である神機を使えないながらに必死に生きようとするその様を嘲笑うかのように眺める1体の白いアラガミを。

それはデータベースで見たことのあるアラガミ、ハンニバルの変異種のようであったが、彼はアラガミらしからぬ知恵を持っていた。

その証拠にゴッドイーターが消耗しきった所を狙い2体のアラガミを瞬く間に排除し、そしてその牙はジンという有象無象のゴッドイーターを食らう──かと思ったのだが、彼は私の予想に反してゴッドイーターに手をつけることは無く、そのまま自身が倒したアラガミの死体を抱えながら消え去っていった。

その行動は私には人を食らうのを避けているように見えていた。

 

 

それからの私はおかしくなってしまった。

終末捕食を起こすために行動する傍ら『彼』の事を考えてしまう。彼は今どうしているのだろうか?何を好んで捕食するのだろうか?生息地は?意思の疎通は?──など、思い出すとキリがない。

お姉様からは「どうしたのラケル?顔が少し赤いようだけど」などと心配されてしまった。

その時は何でもないと誤魔化したけれど、はっきり言って異常だ。

 

 

このままではいけないと思い、今一度自分の彼に対する意識を確認してみることにした。

すると、彼に対する想いはジュリウスと似た──いや、それでいて少し違うような……?

そう、ジュリウスに対するのが「母親」としての愛しさならば彼に対してのこの想いは……。

 

 

私は私の気持ちを確かめるためにあの子達に集まってもらうことにした。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

そうして今、彼がブラッド全員を殺さずにそのまま何処かへと姿を消したのを見届けている。

そして私は理解したこの気持ちが何なのか。

 

 

きっとこれは『彼を食べたい』と言うことなのだろう。

彼の全てを知りたい、彼と一緒になりたい。

そう思うのであれば私が彼を捕食すれば良いのだ。

その為にはどうすればと考えたが……幸いちょうど良い事に彼を手に入れるための道具が私にはある。

なら……やることは1つだ。

 

 

私は手元の機械を操作し、新たに彼を手にいれる為の計画を練ることにしたのだった。

 

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき本当に有難う御座います。

……まず最初に全国のラケル先生ファンの方々に心から謝罪したいと思います。
しかしこれは二次創作!皆様もお気に入りのラケル先生を書いてはいかがでしょうか?

さて、そんなこんなは置いておくとして。
前にも話したかもしれませんが、私としては書きたいエンディングはもう決まっています。というかもう既に書いてます。
ただ、そのエンディングは2つあって今現在どちらにしようか大変悩んでいる所なんですけどね。
ただ、どちらも主人公にとっては幸福でもあり不幸でもある終わりです。
もしかしたら両方書くかも知れませんが、私の気力的に無理な気がしてます。

グロ描写はなんとか頑張りますのでお許しくださいませ……、実際に体の骨がぱっくり逝くのを経験したりするとうちの子ならまだしも原作キャラにさせて良いものか……と思ってしまいます。


それではまた次のお話で。


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第20話 可能性から確定事項へ

どうも皆様、黒夢羊です。

皆様の暖かいお言葉、本当に有り難う御座います。
私自身まだまだ未熟ですのでこれからも色々と変になってしまうかもしれませんがどうかお許しください。

さて、今回は私の考察回というか妄想回というか説明回というか……まぁ色々な回です。
時系列とかちょっとずれていたりしますがどうかご愛嬌、これも世界線の1つという事でお許しください。

できるだけ原作に沿おうとするとかなり難しいですね……やっぱり


では、本編へどうぞ。






 

フェンリル極東支部。

その局長でありアラガミの研究者でもあるペイラー榊は、昨日上がってきた報告書とそれに関連するとある調査書の内容に頭を悩ませていた

 

 

その報告書の内容と言うのがブラッドとハンニバル特異種が交戦したという内容だった。

任務の途中に遭遇し交戦したのではなく、最初から特異種のコアの獲得を目的とした作戦のようで、アラガミを捕食していた特異種に対して攻撃を仕掛け交戦を開始。最初こそ特異種の隙を突きダメージを与えられたもののその後は終始圧倒され全員が重度のスタン状態に陥り特異種を逃してしまったのである。

 

 

榊は眉をしかめながら今回の事態が招くであろう今後を考える。

まず最初に特異種はアラガミとしては異常なほどにゴッドイーターを避けていた。その理由についてははっきりとはしていないが、自分ではゴッドイーターには敵わないと認識していると考えられた。そう、天敵を相手にした生き物のように。

それに人数も最悪だ。規定メンバーの最大人数である四人であれば特異種は襲うのを躊躇うか襲わない可能性だってあったかもしれない。

 

 

さらに最悪な事態へ拍車を掛けているのが、ブラッドと特異種の戦闘に偶然居合わせたジン君が書いた特異種についてのレポートだ。

彼の下手なスケッチにはハンニバルらしきアラガミの背中に8つの帯状の何かが足されており、それに付随する説明を読めば「ヴァジュラ神属に見られたマントと形状が極めて類似している」と記載されている。

現に戦闘記録にも帯状の部位から幾つもの炎球と雷球をブラッドに向けて発射していることが確認されている。

 

 

……そしてアラガミに少しでも詳しい人物であれば気付いたであろうが、この報告書は普通であれば可笑しいのである。ハンニバルは基本炎を自在に操り、それを武器として使い持ち前の体術と合わせながら戦う傾向にある。

つまり、雷属性を用いる攻撃をするハンニバルはいないのである。

 

 

新種のハンニバルか?と思うのだが、生憎それで終わる話では無いようで、このハンニバルと同形状の個体で現在発見されているのはこの特異種ただ1体のみであり、同個体は発見されていない。

たとえもし仮に特異種と同じ能力と見た目を持つ個体がいたとして……全ての個体がゴッドイーターを避けるような行動を果たして取るだろうか?

 

 

答えは否だ。

現在我々人類に牙を向いていないのは希少なアラガミであるアバドンと……シオ君くらいだろう。

では、このハンニバルは一体何なのか?という疑問が浮かび上がってくる。

その疑問を解決する為のアイテムを彼は手に入れていたが……それは同時にあのハンニバルが人類にとって最悪の存在となりうる事を証明したモノになる。

 

 

ブラッドのシエル君とギル君が特異種に対して直接ダメージを与えた際にギル君のチャージスピア、そして、その周辺に辛うじて破損した際に散らばった特異種の細胞の欠片が残っていた。

それをジン君に回収してもらい調べてみて分かった最悪の結果が

 

 

『このアラガミはノヴァの残滓を取り込んでいる』

 

 

……と言うことだ。ハンニバル神速種がリンドウ君と対峙し、倒されたのとほぼ同時刻に人工ノヴァが地球を離れ月へと飛び立った。その証拠にノヴァの……いやシオ君が与えた青いコアの能力が消失。

それによりアラガミ化が進行……黒いハンニバルとなった……と。

 

 

そしてその場に残ったのは神速種の亡骸と後から各地に飛び散り、我々が回収したであろうノヴァの残滓。

アラガミを構成するオラクル細胞はなんであれ取り込む能力がある……たとえそれがノヴァの残滓だろうと。

恐らく修復を開始していた神速種が付近に飛び散って来たノヴァの残滓を取り込んだことによって現在の特異種が生まれたのではないかと考えられる。

 

 

ただ、第2のノヴァと比べて体内にあるノヴァの残滓の量はかなり低い。あくまでも特異種は『ノヴァの残滓で作られたアラガミではなく、ノヴァの残滓を取り込んだアラガミ』だということだ。

しかし、何故ノヴァの残滓の量が低いのか。

現段階で考えられる考察としては

 

・既にコアがほぼ修復しかけていたため、ノヴァの残滓を取り込むスペースがなかった。

 

・ノヴァの残滓を食らおうとしたが付近にリンドウ君もといハンニバル侵食種が居たために少量しか接種できず何処かへと撤退した。

 

この2つが上げられるが後者の場合はリンドウ君が記憶していてもおかしくはない。

アラガミ化していた状態でもうっすらとではあるが記憶は残ってたいたようなので、それも含めて報告書に載せているだろう……ただリンドウ君なので忘れていたという可能性も捨てきれないが。

 

 

そして次の疑問は『何故第2のノヴァは特異種を襲わなかったのか?』だ。

これは他に超弩級アラガミの存在がいたことで、それよりもこの特異種が劣っていた為優先目標から外れたか、もしくは特異種がこの極東支部から逃げた為に近場のアラガミを捕食することを第2のノヴァが優先したのか。

 

──それとも、第2のノヴァが倒された時のことを想定して予備策として意図的に捕食しなかったのか。

 

 

つまりは1度終末捕食を我々が回避した為に再び終末捕食を起こすためにノヴァの残滓が第2のノヴァを作りだした……しかし、1度辛うじてとはいえ終末捕食を防いだ我々を警戒したアラガミという概念が万が一を考えて第3のノヴァへとなる可能性のある特異種を放っておいたのか。

 

 

いずれにせよ、これで特異種の「捕食した対象の姿や能力の一部を自分のものに」するという特性がノヴァの残滓によって得られたものであると判明した。

恐らく背部に生えた帯状の物体はジン君が書いているレポートの通りヴァジュラかヴァジュラ神属のディアウス・ピターを捕食して得たのだろう。

 

 

ただ、そうだとすると少し疑問に思うところがある。

以前ジン君の前に現れた際に特異種は感応種であるイェン・ツィーを持ち帰っていたはず。

ならばイェン・ツィーの外的特徴や感応能力を今回ブラッドとの戦闘で使っていてもおかしくはない筈だ。

しかし、それを使わなかった……もしくは使えなかったのだとすると一体何が原因なのだろうか?

 

 

……体内にあるノヴァの残滓が少ないために摂取するアラガミの量が一定以上必要なのかもしれない。

第2のノヴァはその全身がノヴァの残滓で形作られていたといっても過言ではない、それに対して特異種はノヴァの残滓の量はあくまで少量しか取り込んでいない。

つまりアラガミの特性を分解・そして会得できる能力が第2のノヴァに比べてかなり低くなっていると思われる。

数から推測するに1体ではまず会得は不可能だと仮定し2~3体で会得可能と仮定しよう。

 

 

……そうなるとかなり不味い状況だ。

特異種がアラガミを捕食すれば捕食するほど能力が増えていくのであれば、いずれ特異種が現存する感応種を含めたアラガミの全能力が使えるようになってしまう可能性がある。

 

 

しかし、まだそれだけならいい。

第2のノヴァは様々なアラガミを摂取し続け、神機による攻撃が通用しない体を得てしまっていた。

特異種が如何に不完全で未完成な状態とは言え、このままいけばいずれ神機の攻撃が効かなくなっていくであろう……そうなる前に手を打たなければ。

 

 

榊博士は自身のデスク上に膨大な数の資料と周囲のディスプレイを総動員し第3のノヴァ──もとい特異種の対策を練り始めるのであった。

 

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき本当に有難う御座います。

さてさて、主人公の能力と言いますか特性?の詳細が判明しました。
やっぱり飛び散ってノヴァの残滓をほぼ同時期に討伐された神速種が取り込んでる可能性もあるのでは?
……と私の妄想が爆発しました。

色々とガバカバ知識の披露会となっている今回ですかどうかご容赦くださいませ…。


では、また次のお話で。


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第21話 名前という言霊の楔

どうも皆様、黒夢羊です。

なんと日間ランキング13位にランクインしてました……。
前は90位とかでしたのに……本当に皆様のお陰です。
感謝しかありません。

さて、今回はほぼストーリーは進むことはありません。
え?元々そんなに進んでないだろうって?
やめてくださいよ~……はい、一人茶番はやめます。

最後の辺りは本編とはほぼ関係ありません。
これからの布石と言いましょうか、下準備的なモノなので本編とはほぼ関係ありません。大事なことなので2回言いました。


では、本編へどうぞ。


 

 

 

ブラッドと交戦してから数日が経過した。

あれから神機使いを見かけることが増えていて、少し肩身が狭いというか、行動範囲が少々狭くなって来た……やはり自分を探しているのだろうか?

 

そろそろこの寝床も捨てて新しい寝床を探さなければいけないかもしれない。かといってこれ以上の物件とか中々見当たらないのは事実で、自分1人ならまだしも今はコイツがいるからな……。

 

そう考えながら胡座をかいている自分の足の中で体をコロコロと転がしながら遊んでいるアバドンを見つめる。

ふと、思ったのだがいつまでもアバドン呼びではこう……味気ないな。

折角だしなにか名前でもつけてみようか。

 

「キュ?」

 

不思議そうに顔を傾げるアバドンはスルーしながら名前の候補を考えてみる。

安易にホワイトとかはちょっと可哀想だし……んーなんかそこそこ格好良くて呼びやすい良い名前が無いものか……。

こういう時に他言語とか勉強しておけば色々とアイデアが出たのかもしれないが生憎と勉強は必要最低限しかしていない。からっぽの頭から必死に名前っぽいのを引っ張り出そうと体をゆらゆらと左右に揺すってみる。

自分に釣られてアバドンもゆらゆらと左右に揺れる……何これ可愛い──じゃなくてはよ考えろ自分。

 

 

 

 

……あ、一個それっぽいのがあった。

 

 

ルイン。何でそれが思い浮かんだのかって言うと……ほら、男子なら中学生とかの頃に色々と妄想する時ってあると思うんだ。それが自分にもあって、まぁまぁ痛い思い出なんだが……その時に覚えた単語の1つだった筈……意味はなんだっけ?廃墟とかそんなんだった気がする。

 

廃墟を意味する言葉をつけるのも申し訳ないかなーと思いつつも発音はしやすいし、1度出てしまうと他に納得のいくものが出てこない。

それからしばらくの間捻り出してみたが、結局ルインにすることにした。

 

『おい』

 

「キュ?」

 

『これからお前はルインだ。アバドンじゃなくてルインだからな?確りと覚えろよ』

 

「…………」

 

あれ?反応が悪い?もしかしてこっちの意志が理解できてないのか?固まったままのアバドン──改めルインが少し心配になり、出ることは無いが冷や汗が流れる。

いよいよ本格的に大丈夫なのか……?と思ったその時、アバドンが再起動した。

 

『お、大丈夫か?』

 

「キュ……」

 

『ん?どうした』

 

「キュ!」

 

『ああ、飯か?少しまt──』

 

「キューーーッ!!」

 

『うおっ!どうした!?』

 

膝の上で何やら不満そうにしていたルインが思いっきり顎に頭突きをしてきたようだ──。

ようだと言うのは咄嗟の事で目でその動きを捉えるのが出来なかったから、そして今現在自分の顎に頭突きをくらわしているのだが……生憎全く痛くない。

寧ろポヨポヨと音を立ててゴムボールみたいだなぁーと考えれるくらい柔らかい……いや、自分が無駄に頑丈なのかもしれない。

 

 

そう変な考えをしている間もルインはポヨポヨ、ポヨポヨと音を立てながら顎に攻撃をしている。

しかし、これではまるでルインが怒っているみたい……ハッ!まさか!

 

『なぁ』

 

「……キュ~?」

 

心なしか声が何時もよりも低い気がする。

人なら多分睨み付けているんだろうな、これ。

しかし聞かない限りこれが原因なのか分からない、今後の関係を良好に保つためにも今のうちに修正しておくのが良いだろう。

 

『もしかしてルインって呼び方は嫌か?』

 

「キュ!?キュキュキュキュキュキュ!!」

 

そう聞くと物凄い速さで頭を左右に振り始める。それを見てふと、昔話した火起こしの装置を思い出した。ほら、あの木の棒をグルグル高速で回して火を起こすやつ……あれって本当は火がつかないんだっけ?

ただ、今のルインが棒ならワンチャン火がつくんじゃないかって程にその動きは素早い。

 

一応首というか頭を横に振ってるってことは、ルインって呼ばれるのはルイン的には良いのか。

なら、何が問題なのか……。

 

 

…………あ、もしかして。

 

『名前で呼んで欲しかったのか?』

 

「……キュ!」

 

今まで一番大きく頷いたルイン。頷く勢いが強すぎて1回転しそうになっていたのはさておき……そうか。

なんかだんだんペッt……じゃない、人間っぽくなってないか?言葉を理解しかつ自身の名前を(自分が一方的に名付けただけだが)呼ばれたいなどと思考がアラガミにしては随分と人間に近づいている気が……。

 

 

 

 

……まぁ、良いか。

こいつはルインだ、誰がなんと言おうと自分の仕事の仲間のルインだ。

さて、明日からはいよいよ本格的に寝床探しを始めるとしよう。その為にも人目が少ないであろう夜から動き始める必要があるだろうから、今日は少し早く寝よう。

 

 

体を横にして縮こまるように体を曲げ、目を閉じる。

近くにルインが寄ってくる気配がする。

だから思わずこう呟いてしまった。

 

『おやすみ、ルイン』

 

そうして自分の意識は少しずつ沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。

そこは海外の有名なよくわからん建築家やデザイナーが関わったような教会と図書館が合わさったかのような巨大な空間だった。

 

延々と続く赤いカーペットと空間を照らし続けるシャンデリアに壁のように規則正しく並んでいる本棚。

時たま見えるステンドグラスには女神のような女性や何処かの神話を表しているのかドラゴンなどが描かれていた。

 

そんな歩き続けていたら気が狂いそうな道を『俺』はそこを歩いていく。まるで誰かが呼んでいるかのように……まるでそこに居るのを知っているかのように……。

 

 

それからどれくらい経過しただろうか。

目の前に開けた空間が現れた。本棚も円上に並び真ん中には木の机が置いてある。

そこには椅子に座りながら何やら考え込んでいる一人の少年……その少年が俺の方へ振り替えると、俺は驚きで声が出なかった。

 

黒髪で無駄に延びた後ろの髪を適当に結んだヘアースタイルに、目元まで延びている前髪から時折覗く鋭い目付き。

見るからに「暗そう」と思わせるようなその少年は、俺の親友である────

 

 

……誰だっけ?

 

 

いや、顔は思い出せる。こいつと一緒にGOD EATERを始めとしたゲームをプレイしたことや、一緒に出掛けた事だって。

2年生の始めに行った修学旅行だって、自由行動の時はコイツと一緒に秋葉原を含め、東京を回ったんだ。

……だけど、思い出せない。こいつの名前が。

 

 

俺が思い出せずに立ち止まっていると、向こうが俺に話しかけてきた。

 

「やぁ、久し振りだね禊君」

 

「あ……ああ、久し振り…だな?」

 

「……もしかして忘れちゃってる?僕の事」

 

「い、いや忘れてはないんだ!ただ……ただ」

 

「……ただ?」

 

「……名前が思い出せないんだ……ゴメン」

 

俺は心から謝罪する。今まで一緒に遊んできた親友の名前を忘れるなんて糞野郎だ。

どう罵られても受け止める気でいた……が。

 

「ああ、そっか……仕方ないね」

 

「え?」

 

そいつは何も怒ることはなく、笑っていた。

唖然とする俺を見て、余程可笑しかったのか笑い声が大きくなる。

何がなんだか分からない俺に、笑い疲れたのかヒーヒー言いながら、少しだけ悲しそうな笑顔で理由を話し始めた。

 

「仕方ない……っていうか『そういう風に出来てる』みたいだから」

 

「出来てるって何が?」

 

「僕の口からは言えないよ。それに僕だって最近聞いたばっかりだしね」

 

「すまん、お前が何をいってるのかさっぱり分からんのだが……」

 

「うん、分からないように話してるからね。ただ、別に落ち込む必要は無いよ。僕だって禊君のようになるかもしれないし、なったとしても困らない程度に配慮してるって話だし」

 

「う、うーん……良く分からんぞ?」

 

本当に何を言っているのか全く分からない。

前世ではそこまで頭は悪くなかったと思うんだがなぁ……。

と、そうして俺が腕を組みながら唸っていると溜め息をついて少年は椅子から立ち上がった。

 

「……まぁいいよ。それよりも僕は行くとこがあるみたいだしそろそろ行くね」

 

「そっか、分かった……最後に名前だけ聞いてもいいか?」

 

それは今度こそ忘れないために。

自分の記憶のなかにこいつの名前という楔を撃ち込む為に、目の前の少年の名前を聞かなければならない。

すると、少年は少しだけ呆れたような顔をしながらも、その名前を教えてくれた。

 

「……荒月(あらつき) (れん)だよ」

 

「荒月 蓮な……よし!覚えた!今度は忘れないから安心してくれ!」

 

「……うん、ありがとう。じゃあ行くね」

 

俺が返事をする前に蓮は行ってしまった。

蓮の姿見えなくなると俺の意識はだんだんと遠のいていって…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき本当に有難う御座います。

投稿頻度をなるべく落とさないように頑張ってはいるのですがこれが中々難しいです。
毎日投稿とかなされてる方々はバケモ…ゲフンゲフンもとい凄い方ですよ。
そろそろGE2の本編も終わりに向けていこうと思っているので何とかしなければ……。


では、また次のお話で。


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第22話 赤い雨と神と病

どうも皆様、黒夢羊です。

何とか日間ランキングまさかの9位にランクインしました!……嘘かと思うレベルですよね。
さらにさらにUAが遂に50000を突破しました!

本当に何から何まで皆さんがいてくださったお陰です。
まさかここまで行くとは……。
さてさて、主人公達は待ったり進みますがゴッドイーターの皆の時間は結構早く流れていってます。
何が良いたいかってそろそろランク4辺りの話まで進めないと……。


という訳で本編へどうぞ。


アバドンことルインに名前をつけてからはや2日が経ち。

あれから自分達は『贖罪の街』の中心部からある程度外れたビル群へと足を運んでいた。

因みに今の寝床は大きな入り口がある2階建ての建物で、大型の自分でも確りと動けるスペースがあるのがナイスポイントだ。……まぁ、周囲に水らしきものが見当たらないのが欠点ではあるが、元々アラガミはそこまで水を必要としない存在……のはず。それにここまで神機使いは探しに来ることは無いだろう。

 

それにここは辺りに似たようなビルや建物が多いから、きっと丁度良い隠れ蓑になるはずだ。

こうしてみると子供の頃を思い出すな……良く親友と一緒に裏山で秘密基地ごっことかしてたっけ。

……まぁ名前は忘れてるし、顔もちょっと怪しいんだけどな。そんなに忘れやすかったか自分?

 

こんな世界に来て何回も死にかけてるようなもんだしビックリして記憶の整理がちょっとできてないのかも知れない。一先ずは落ち着いて生活が出来るまで強くなって、隠居……は違うな、身を隠しながら生活しよう。

 

 

取り合えずは……ここらにどんなアラガミが居るか餌探しのついでに見ておくか……。あわよくば自分の有益になるアラガミを食っておきたい。

 

 

そういえば……今の自分ってスタンとかヴェノムの耐性ってどれくらいあるんだろうか?

アラガミって確かそれぞれの種族というか神族?によってスタンやヴェノムとかに対する耐性値が違ったような覚えがある……とはいってもそんなこと関係なしにぶん殴ってたから確証はないけど。

もしあるのだとしたら自分の耐性値はどのくらいになっているのだろうか?ハンニバルと同じ?それとも神速種と同じ?いや、そもそもハンニバルと神速種が同じだってことも考えられるよな……?

 

 

一応成長するまでにザイゴートはまぁまぁの数は食べている。自分の体がアラガミの能力とかを手に入れられるのならザイゴートのヴェノムを付与する能力や耐性とかを持ってそうだが……いや、あくまでも他のアラガミの力を手に入れられるのは自分がそのアラガミの得たい部位や能力をハッキリとイメージしないと現状ではただの食事になっている。

 

 

ザイゴートを捕食したのはこっちの世界に来て最初の頃で、あの頃は体を大きくしたいから……という理由のみでザイゴートや他の小型アラガミを捕食していた。

だから今の自分に備わっているかは怪しいところだな……。

というかそもそも意識せずに炎などを使って攻撃をしようとすると自身が持つ他の属性も同時に発動してしまうみたいなので、毒を持っているならとうの昔に発動しているはずだ。

 

 

まぁ、未だに自分のこの能力については人間である自分の意志が関係しているのか、それともアラガミ及びオラクル細胞本来の能力なのかは分からないが。

さて、考え事をしていても変わることはない……さっさと探しにいきますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ルインを忘れかけていたので、ルインがその後拗ねてしまって色々と面倒くさかった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

そうやって、土地の把握やらアラガミの捜索をしていると足音が何処からか聞こえてきた。

さてさーて?いったい何者かね?そうして足音が聞こえた方角へと足を運ぶ。

足音へ近づいて行くと次第にその足音の主もこちらの足音に気付いたのだろう。足音が聞こえる頻度が少なくなり、警戒しながら進んでいるのようだ……。

ビルとビルの間を駆けるのを一旦止めて近場のビルの屋上へと飛び乗り、次はそれよりも高いビルへの屋上へと飛び乗っていく。

ある程度の高さのビルへ上がると辺りを見渡してみる。

音の方角からして多分ここら辺じゃないかとアタリをつけて重点的に探していると……いた。

 

 

美術に疎い自分でも鮮やかな色と分かる、緑色の体毛に覆われた白い肌を持つアラガミ……イェン・ツィーだ。

今現在最も会いたいアラガミの一体、しかも2体一緒にいるという素晴らしいセット内容で。

こう言うところでは運が良いのに、何故命の危機に瀕したりする時とか大事な時のクジ運は悪いのか。

 

前のブラッドとの遭遇もどうしてだったのか。

まぁ、シエルの血の力の直覚……だったっけ?あれで見つけられたのかもしれない。

さて、落ち込むことは後でも出来る。今は自分の目に映っている幸運を手に入れることに集中しろ。

 

 

見る限り2体ともチョウワンを4体ずつ召喚している。

確かゲームだと4体が限界だった筈だが、ここはゲームの世界ではない。前に戦ったヴァジュラのように自分の知っている行動とは違うことをする可能性もある。

チョウワンだってもっと多く召喚することだって出来るかもしれない……小型と言えど数という戦力差は戦いに置いてかなりのアドバンテージになる。

 

 

昔歴史の先生に聞いたが、戦争において満たす事が出来ればほぼ確実に勝てる条件があると。それは数。

相手よりも圧倒的に多い数を用意して数の暴力で押し潰せば勝てる……と。

油断はしない、それはヴァジュラで痛いほど学ばせて貰ったのだから。

 

 

だからこちらも数で勝負させてもらうことにする。

イェン・ツィー達は周囲を見回しているが、あくまでも周囲。自身の上空等は確認していない。

その為こっそりとイェン・ツィー達の近くにそびえ立つ一際高いビルの屋上へと移動。

8つの大小異なる背中のマントを展開させ、小さな銃弾サイズの炎球を作り出していく。向こうはまだ気付いていない……が、いくら微量でも大量のオラクルが集まればそれは大きな個となる。所謂塵積もだ。

だから50を越えた所で遂にイェン・ツィーがこちらに気づいた。同じくチョウワン達もこちらを向く。

 

 

気付かれたと同時に各炎球に注いでいた炎を一気に増加させ、ハンドボールサイズの炎球へと変化させる。

そして、その炎球をイェン・ツィー達に目掛け一斉に放つ。50を越える炎球がイェン・ツィー達の元へと降り注いで次々とその体を貫き、燃やしていく。

圧倒的数による質量押し。某有名な金ピカの王様みたいな技で、一見すると強そうにみえるこれにも色々と問題がある。

 

 

まず第一に時間がかかること。

今回みたいに相手に気付かれないようにするためには微量のオラクルで小さな球を作り、そこから一気にオラクルを注入し増幅させる……のだが、一気に多くの球に入れられるオラクルも限度があるようでせいぜい今撃ったハンドボール程度の大きさが限度である。まぁそれでも十分だと思うが。

 

次に精度の問題。

ヴァジュラのように5発ほどならターゲットを狙い続けるホーミング性能の高い球も撃てたりするが、このホーミング性能はどうやら自分の意思と連動しているようで、自分の集中力が低下していくとそれに応じて球のホーミング力は無くなっていってしまう。

5発でもまぁまぁ難しいのに50発を越えるとどうなるか?精々今のように各方向に真っ直ぐ飛ばすとかぐらいしか出来ない。某金ピカさんのゲ○ト・オブ・バ○○ンは四方八方に出せるが、これはそれに劣化に劣化を重ねたようなものでパチモンとすら言えるか怪しい。

 

ただ、数の暴力というのは実際強いもので欠点はあるが決まればかなりのダメージを期待できる。

当たるのがランダムなのであまり小型には向かないが、今回は敵が密集していたので使ってみた。

まぁまぁの数が当たっているようなので、密集地帯でも使えそうではあるな……まぁ、その前に撃てるかどうかだが。

 

 

オラクル球の雨を食らった事で互いのチョウワンはどうやら全滅。そしてイェン・ツィー達も翼腕に風穴が空いていたり所々焼けていたりと酷い有り様だった。

まぁ、それでも容赦はしないんだがな。

屋上から飛び降りながら右腕に炎を纏い、ビルの壁を蹴って2体の内、自分から離れている方へと向かう。結構力を入れて蹴った為かヒビが少し入ったが、どうか許してほしい。

そしてそのままフラフラとよろめくイェン・ツィーに向かって加速をつけた拳をキメる。

見事に食らったイェン・ツィーは吹っ飛んでいき壁に激突。

そして呆気に取られている(ように感じた)もう1体のイェン・ツィーには試したいモノがあった。

自分は手から炎や雷を出すことができる。いや、マントの性質で足や尻尾からも出せるのだがそれは割愛。

 

と言うことはもし自分の手が相手の体内に入っていた場合、内部へ炎や雷をぶちこむことで内側から破壊できるので無いか?という疑問である。

寧ろなんでこんなの思い付いたかって……とある格ゲーにいたんだよ、名前はG・ル○ールっていうんだけどな?

 

まぁそんな訳で残ったイェン・ツィーの腹に速度をつけた手刀を差し込み、地面に倒す。

本当は持ち上げるんだが、そんな余裕は今の自分にはないのでしない。

そしてそのまま手の先からイェン・ツィーの内側に炎と雷を同時に放つ。するとイェン・ツィーが苦しみだし数秒後に絶命した……強くない?

やはり内側は血肉の通る部分なために弱いのか?

そうなると自分もそれに当てはまるかもしれない、幾ら外皮が強くなろうと内側が弱ければそこを突かれた時点で負けになるだろうしな。

 

 

さて、もう1体の方は……もう動いてないな。

いやいや、念のためにもう一発当てて反応を見てみるか、死んだふりとかしていて近付いて目をグサリッ!とか笑えないからな。

 

 

マントから炎球を1つ作り出し、それを壁にもたれ掛かるようにして倒れるイェン・ツィーに向かって放つ。

炎球はイェン・ツィーに命中したが、苦しむような反応は返って来なかった。

周囲の安全を確認して、屋上に待機させていたルインを呼ぶ。最近こっちの意思を読み取る力が強くなっている気がする……距離的にも内容的にも。

程なくしてルインが到着し、何かをねだるようにその場で止まる。

いや、分かってる。分かってるんだけどな……最近コイツは自分と一緒に飯を食べることに固執している気がする……この前もちょっと様子を見てくるから先に食べてろって念じたら結構怒ったしな。

 

 

しかし、どうすることもない現状、ため息をつくことしか出来ず再びマントを炎剣でカットして、その切れ端をルインに提供する。

そして自分はイェン・ツィーを回収し、ルインの隣で食べ始めた。勿論糧になるコイツらに感謝をしてから。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

ふぅ、腹も満たされたな……御馳走様でした。

両手を合わせ、改めて感謝を告げる。

 

 

すると、ポツ……と冷たい何かが頭の上に何かが落ちてくる感覚がした。

ん?何だ……と上を見上げるとそこには真っ赤な雲が上空を漂っていた……赤乱雲か。

 

 

赤乱雲。

それは文字通り赤い雲で、難しいことは分からないがコイツがかなりヤバイやつなのだ。こいつから降ってくる雨は雲と同じく赤く人間がこれに濡れてしまうと感染したら死、あるのみ。とまで言われる致死率100%の「黒蛛病」に感染する可能性がある……確か。

 

 

じゃあアラガミには被害がないのかって?被害は無いが影響はある。

これに濡れたアラガミの中には感応種に進化する個体も現れるらしい……これを自分が知ったのはレイジバーストをクリアした後だったりする。

 

 

だから自分が濡れても問題はない……はずなのだが、ハンニバルの感応種であるスパルタカスにはなりたくないんだよなぁ……スピードとか諸々で戦力ダウンになる気がする。伝説のオウ○バトルだと外れのクラスに変化してしまった感じだ。

そんな感じで前にも降ったことがあるのだが其のときはずっと空母の中で雨宿りしていた。

……さて、イェン・ツィーは食べ終えたし濡れすぎる前にさっさと撤退するか。赤乱雲もそこまで大きくないようだし多分直ぐに止むだろう。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

途中で雨宿りしながら寝床へ帰宅していると赤乱雲はいつの間にか止んでいた。思ったよりも短かったな……。

まぁこれでわざわざ濡れるのを心配しながら帰ることもない。さっさと帰ろう。

左手のルインに配慮しながら最短ルートで帰宅した。

 

 

ロミオが離脱するタイミングはさっきよりも大きな赤乱雲が来たとき……。

そこでラケルの奴の策略に巻き込まれてロミオは死んでしまう……。そしてロミオとジュリウスが相対したのはマルドゥーク、今まで戦ったことがない相手だし、恐らく強さもヴァジュラの比じゃ無いだろう。

 

 

マルドゥークを倒さなくても良い、ロミオとジュリウスを助けるだけで良いんだ。

そう……助けるだけで良いんだ。

 

自分にそう言い聞かせないと、恐怖で決めた意志が揺らぎそうだった。

自分の恐怖の感情が伝わったのだろうか?ルインが心配そうに自分の懐にやってくる。

その行動が嬉しくて暫くの間ルインを撫で続けてしまった……。

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、本当に有難う御座います。

そろそろ私はフェンリル本部の奪還作戦のために連続ミッションを受けるところです。
遅いって言わないでください、事実なのでへこみます。
やっとこさ終わりが見えてきたので安心してます。

あとネタで分かったかもしれませんが私格ゲー大好きです……下手ですけど。
だからこれからもちょくちょく格ゲーネタが入るかもしれません。


ではまた、次のお話で


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第23話 変異体と感応能力

どうも皆様、黒夢羊です。

最近GOD EATERの小説がまた増えてきたのでちょっと嬉しいです。
ついでにいうとアラガミ転生も増えてほしいです(我儘)
この間Twitterで知り合いの物書きさんがコラボの話をしていて面白そうだなーって思ったんですが、他の世界線の設定とかと会わせるの大変そうだなーって思いながら聞いてました。

あとアンケートはラケル先生大人気ですね。
捕食ラスボス系ヒロイン……。


下らない話で長引かせるのもあれなので。
では、本編へどうぞ。








謎の激痛で目が覚めた。

今までの中でも余裕で上位にランクインするであろう痛みが全身を襲っている。

外から受けた痛みではなく、中から食い破られるような痛み。叫ぶことすら出来ずに、ただ荒い呼吸と止まることのない痛みに対する苦しみの掠れた声しか出てこない……いや、出せない。

 

 

視界の端にはルインが映る……どうやらまだ夢の中のようだ。

ルインに心配させる訳にもいかないので寝床である建物から外へと出る。

何時もは起きない時間、外は暗闇に覆われているがそれらの光を遮る余計な灯りが消えたからだろうか、空には満天の星が広がっていた。

 

 

普段であれば幻想的なその光景に目を奪われたのであろうが、今は痛みがそれを許してくれない。

体の関節が全て砕かれ、千切られ、そしてそれらを全てぐちゃぐちゃに混ぜられるような異様な感覚とそれに伴う激痛が吐き気を催す。

幸か不幸か、頭はそれの対象ではないようで未だにマトモな思考ができる……と言ったら聞こえが良いがこの痛みと言い様のない気持ち悪い感覚をダイレクトに味わうことになるのだ。

吐きたいが、吐くことが出来ない。叫んで痛みを誤魔化したいが、叫ぶと余計に痛みが増す。

いっそのこと頭も痛めばこんな感覚をマトモに受けずに済んだかもしれないのに……などと考える。

痛みはまだ、収まりそうになかった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

あれからどのくらい経ったかは分からないが、痛みは完全に収まったようで体は何事も無かったかのように軽やかだ。一応頭や体を触れる範囲で触ってみるが、伝わってくる感触的に大した変化は無さそうである。

 

 

まだ空も暗い……さっさと寝床へ戻って寝るとしよう。

今日起きた痛みの考察とかは起きた後にすれば良いだろうし、今は何よりも眠たい。

そうして自分はまだ寝ているルインを起こさないようにゆっくりと寝転び眠りにつくのだった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

「キューー!!」

 

耳元(?)で叫ぶルインの声で目が覚め、体を起こす。

改めて両腕を見てみるが手や籠手、尻尾は変化が無かったし、首元とかも触ってもう一度確認してみるが変わった所は無いようだ。

ルインにも何処か変わったところがあるか確認してみるが、返ってきたのは頭を横に降る否定。

 

と言うことはアレはなんだったんだ?

自分が摂取した他のアラガミの部分が暴走した?……いや、それなら既に起きていておかしくないだろ?

そう思ったがあの激痛が起きた心当たりが昨日2つ起きていた。

……それは、感応種を(おそらく)規定数捕食したこと、そして赤い雨を浴びたこと。

 

 

感応種の能力を取り込もうとしたから体の性質が変化した?いや、体というよりも自分のオラクル細胞か?

赤い雨に関しては出来る限り当たるのを避けたつもりだが、それでも大型のためか当たるところは当たっていたと思う……だとしたら、あの痛みは感応種になるときに生じた成長痛みたいなものか?

しかし、そうだとするとスパルタカスになっていてもおかしく無いのだが何回も確認したようにスパルタカスのパーツと思われる部位は何処にも無い。

だからスパルタカスになったというわけでもないと考えるが、どうなのかは分からない。

 

 

まさかとは思うが自分が黒蛛病に感染したとか?

いやいや、それはあり得ないだろう。自分はアラガミで赤い雨は黒蛛病はアラガミには感染しないはず。

……でも、作中でそう明言されていたのか?レイジバーストをしたのだって大分前の話だから思い出せるものも思い出せない。

それに今の自分は中身は一応人間だ、赤い雨が自分を何かしらのシステム的なので人間と判断した可能性だってあり得る。

 

 

何にせよ、今の段階では分からないことが多い。

これは少し自分なりに調べてみる必要があるようだ。

ひとまずはイェン・ツィーの感応能力を手に入れることが出来たかどうかだ。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

手頃な実験体はいないか辺りを歩き回っていると、本当にちょうど良い奴らがいた。

そこにはボルグ・カムランと、それに襲いかかる大量の中型アラガミのコンゴウ達が居た。視線を周囲に映すと、ボルグ・カムランとコンゴウ達が戦っている所から少し離れたところに、複数のコンゴウを取り巻きで連れているハガンコンゴウが2体おり、どうやら奴らが群れのリーダーのようだ。

 

 

それにしても凄い数だな……ざっと20はいるんじゃないか?まぁ中型が大型を倒す為には数を用意するのが一番手っ取り早いからな。コンゴウはそれでいうとかなり大型を倒すことに向いているんじゃないかと思う。

現にボルグ・カムランも空気砲やらでダメージは食らっているみたいだし、このままコンゴウの数が減らなければ倒されるんではないだろうか。

 

 

……と、そんなことはぶっちゃけどうでも良い。

イェン・ツィーの能力は周囲のアラガミの攻撃対象を1体に決められること……偏食場パルスとかなんとかは分からないが、見よう見まねでやってみることにする。

意識をボルグ・カムランとコンゴウ達を眺めるハガンコンゴウの1体に集中させ、周囲のアラガミへ向けて命令を下す「そいつを攻撃しろ」……と。

 

 

すると先程まで隣で眺めていたハガンコンゴウがターゲットにしていたハガンコンゴウへと攻撃を仕掛け始めた。おお!これは成功じゃないか?

いきなりの事で理解が追い付いてないのか、呆然とするハガンコンゴウ(A)に対して先程まで交戦していたコンゴウ達が次々に襲いかかり軽いリンチ状態に。

 

 

 

 

 

 

 

 

うわー……能力を得たのは凄い嬉しいんだが、なんか複雑だなこれ。

 

 

 

 

暫くして団子になっていたコンゴウ達がその場から退けるとそこにはボロボロになって動かないハガンコンゴウの姿が。一応接触禁忌種なのだがあそこまで囲まれてボコボコにされてたら抵抗できないわな。

さて、能力は手に入れたみたいだが、あとは色々と検証してみるか。今度の対象はボルグ・カムラン。

攻撃しろと命令するとコンゴウ達は勿論だが、ハガンコンゴウまでもが攻撃に参加し始めた……とはいっても後ろで雷球撃ってるだけだが。

 

この時点で、自分がボルグ・カムランから意識をそらしたり、この場から離れるとどうなるのだろうか?

一旦この場を離脱し、少しの間を置いて戻ってみる。

すると未だにボルグ・カムランとコンゴウ達は戦っていた……ボルグ・カムランはボロボロだが。

対するコンゴウ達も数は減っては居るが怯んでいる様子はない……ん?

 

 

ちょっと待て?あくまでもターゲットを1体に絞って他のアラガミにそいつを集中して攻撃させるのがイェン・ツィーの感応能力だったはずだ。

あくまでも攻撃を誘導するだけで、アラガミの意思は残っているから、ある程度ダメージを受けたりしたアラガミは餌場へと捕食をしに行ったり、逃走したりの行動を取る。

だが今のコンゴウ達を見ていると、とてもイェン・ツィーの能力で攻撃対象を攻撃しているのではなく、なにか別の能力で攻撃することを強制……いや洗脳されているような……?

 

 

しかし、辺りを見回しても感応種らしきアラガミは発見することはできず、ここで今目の前で起こっている事を起こせるのは自惚れかもしれないが1体……いや、1人しかいない。

もしかしてもしなくても、十中八九自分であろう。

どうやら「ターゲットを決めて攻撃を集中させる」感応能力が「周囲のアラガミを強制的にターゲットへ攻撃させる」感応能力へと変化しているみたいだ。

これが自分の感応能力なのか、それともイェン・ツィーの感応能力をこの体が手に入れる際に変異が生じたのかはまだわからないし、もしかしたら先に述べた能力も実は違うのかもしれない。

 

 

ただ、もし今この場で起きている感応能力が自分のであるのなら、生き抜く上でかなり強力な武器を得たのではないかと思う。

それから暫くしてボルグ・カムランが倒れ、その場には目の前のボルグ・カムランと同じように所々が結合崩壊しているコンゴウ達とハガンコンゴウが残った。

対象が絶命したために能力が切れたのかハガンコンゴウが他のコンゴウ達を差し置いてボルグ・カムランを捕食しようとしている。

 

 

よし、自分が倒した訳じゃないが、無駄になるのならそれは自分が食べないといけないからな。

コンゴウ達が確りと食べてくれるのならそれはとても良いことだ。

……でも、これってアラガミに味方していることになるのか?いやいや、そんなことはない。現に大型のアラガミだって1体と言えど倒して、中型もその時に数体命を亡くしてるんだ。これは人に味方している筈だ。

 

 

そう言い聞かせながら、掌の中に収まるルインを思い出す──そういえばこいつは自分の感応能力に影響されなかったのか?

ルインを見つめ問いかける。

 

『あのサソリみたいなアラガミを攻撃したくなかったか?』

 

「キュー」

 

ブンブンと頭を横に降る否定との解答。

はて?ならばどういうことなのだろうか……?

コンゴウ達やボルグ・カムランとルインの違いと言えば自分の肉片を摂取しているくらい……!?

 

 

そう、ルインは自分の体を食べている状態だ。

つまり自分の感応能力は自分の肉体を与えたアラガミ等には効かないと言うことなのか?

そうなるとそれはそれで油断できないな……与えると言わずに攻撃されもし一部でも食べられでもしてみろ。

そいつもルインのように神速種になって自分の感応能力が効かなくなるかもしれないのだ。

洒落になってない。

 

 

未だにボルグ・カムランを捕食しているコンゴウ達に背を向けながら今後の自分の戦い方等を改めて再検討する必要性が出てきたな……そう思いながら自分は今日の餌を求めて再び走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──同時刻『贖罪の街』一帯で活動していたアラガミの行動が変異したとの報告が極東支部に上がることになる。

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、本当に有難う御座います。

私は昨日PS2でカプエス2を起動させながらギースとGルガールで遊んでいましたが、やっぱり良いですねブラウン管。
個人的にPS2とかはブラウン管でやりたいです。

さてさて、最近はレトロゲーといいますかスーファミとかを押し入れから持ってきてプレイし続けているので、色々と他の趣味の時間が削られて来ている気がします。
もっと色々やりたいんですが時間がない……。

また一段落したらGOD EATER以外のお話も書きたいなー何て思ってますが、腰が重いので多分書きません。


ではまた、次のお話で。


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第24話 すれ違う志と脆弱な決心

どうも皆様、黒夢羊です。

今回はちょっと再び妄想回となっております。
今回の妄想は本当にない頭を引き絞って考えたのですが、如何せん頭が空っぽな為に何も出なかったです。

という訳で、多分納得のいかない事が多いと思いますことを先に注意書きとしてお知らせしておきます。


では、本編へどうぞ。




 

 

 

「何てことだ……」

 

極東支部局長であるペイラー・榊は自身の研究室で大きなため息をつく。

何時もは怪しい笑みを浮かべるその顔も今回ばかりは歪んでおり、それが見るものからすればことの重大さを知らせるのには充分だっただろう。

 

 

榊博士の手元に寄せられたのは昨日生じた大規模な偏食場である。発せられた偏食場は『贖罪の街』の中心から少し外れた所を中心として『贖罪の街』ほぼ全域に発せられており、この偏食場の中に居た確認できた全てのアラガミが偏食場の中心地へと移動を開始、もしくは中心地へ意識を向け続けていたという報告が入っている。

 

そしてその中心地ではハガンコンゴウを群れのリーダーとしたコンゴウ神属の群れがボルグ・カムランを捕食していたらしい。

 

 

データを見る限り感応種イェン・ツィーの発する感応波に酷似しているが、一致はしなかった。

一般的にはイェン・ツィーの変異種もしくはゴッドイーターとの戦いを生き抜いたイェン・ツィーが変化し、その感応波に変化が生じた……と、前の自分であればそう考えるだろう。

 

 

だが、今の自分……ひいては『あのアラガミ』が持つ特異性を知るごく少数の人物であれば今回の異常な偏食場の主が誰だろうかと、言われればすぐに思い付くであろう存在。

ハンニバル特異種──捕食したアラガミの能力を得ることが出来るノヴァの残滓を取り込んだ第3のノヴァへと至る可能性があるハンニバルの変異種。

恐らくだが特異種がイェン・ツィーを規定数捕食し、その感応能力を得たと見て良いだろう。

 

 

勿論イェン・ツィーの変異種という可能性も捨てきれないが、それよりかは特異種がイェン・ツィーの能力を得たと仮定する方が現状ではより現実的であった。

しかし、気になるのはその偏食場の影響を受ける位置に居た神機使いの神機が機能を停止していなかったことだ。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。これが何を意味するか分かるだろうか?

 

 

まず、偏食場及び偏食場パルスというのは『アラガミが発する偏食因子やオラクル細胞を不安定化させる特殊な力場』の事。

通常種のものはさほど問題無いのだが、第一種接触禁忌種と呼ばれるアラガミが放つ偏食場は神機使いの肉体や精神にも影響すると言われていて、感応種の感応能力はこれをさらに凶悪化させたものとも言え神機を停止させてしまう為、基本感応種は禁忌種相当にカテゴリされている。

……少し話が脱線したが、ひとまず偏食場というのはアラガミが放つ、オラクル細胞に影響を与える可能性のある特有の周波とでも覚えてもらえれば良い。

 

 

さて、ここから本題なのだが、感応種の感応波は周囲のオラクル細胞を支配しようとする傾向があり、ブラッド──第3世代の神機使いでなければ先にも述べたが、神機が停止してしまう。

第3世代の血の力が感応種の干渉を防いでいるため、第2世代で感応種を討伐することになると最低1人はブラッドのメンバーを連れていかなければいけないのが現状である。

しかし、特異種が放ったと思われるこの偏食場は感応種のものとは違い、その範囲に居た神機を停止させることは無かった。つまりこの偏食場は感応能力によるものではない可能性が非常に高いと言える。

 

 

つまりはイェン・ツィーを捕食し、その感応能力を得たのだが、それを『体内で解析し、自身に最も適応するような偏食場及び偏食場パルスへと変化させた』可能性が考えられる。

荒唐無稽、そんなことがあり得るわけがないと言われるかもしれないが、そもそもオラクル細胞が起こす事象を未だ明確に解析と証明することが出来ていないのだ。

我々の人智を越えた現象が起きたとしても何らおかしくない。

 

 

そもそも他のアラガミの部位を体に増設しているという点で少々可笑しいのだ。自身とは全くとは言えないが、異なる構造を持つアラガミの能力を摂取し会得するのは自身の血液と適合することのない血液を無理やり輸血するのに例えられるのではないだろうか?

だとしたら、大きな拒絶反応が起こるだろう。

 

 

現にアラガミが他のアラガミを捕食したとしてもその特性を得ている事例は少なく、あくまでも栄養を得るためや元からある特性を伸ばすなどの既存するものを伸ばす傾向にあり、それと異なる進化があったとしても自身がなれない環境に適応するために変異した進化などが多い。

 

 

……まぁ何が言いたいかというと、特異種はノヴァの残滓を取り込んでおり、感応種の感応能力を変化させ自分のものにしたとしてもなんらおかしくないと言うことである。

そのため何度もいうが感応種のように神機使いの神機は停止していない為、感応能力から通常の偏食場へと表現は正しくないかもしれないが書き換えた可能性が高い。

そして、最も恐ろしいのは以上の事から特異種は『オラクル細胞を持つ生命体』という括りではなく、『アラガミ』と『オラクル細胞を持つ人間及び神機使い』と別個で認識している可能性が出てきたのだ。

 

 

元々その傾向は出ていた、アラガミを率先して捕食しており神機使いを目にしても一向に目もくれず逃走するという生態……。

本当にリンドウ君が倒したハンニバル神速種が復活したのなら神機使いを目の敵にしてもおかしくない。

現に執拗に神機使いや神機に固執するようなアラガミだっているのだ、神機らしきものを見たら率先して襲いかかってくる可能性は高い筈。

 

 

しかし、特異種はそれをしない。

それどころか間接的とは言え神機使いを助けてさえいる……これでは人類と敵対するつもりはないという意思さえ感じられるだろう……だが。

 

 

 

 

赤い雨……赤乱雲という赤い雲から降らされる雨、それによってアラガミは感応能力という新たな力を得た、中にはアラガミを統率する能力を持つ存在が現れるようになる。そして感応種は既存の神機使い殺しと言えるような神機を停止させる性質を持つ。

更に人類に対しては黒蛛病という感染すれば致死率100%を誇る恐ろしい病を発病させる。

 

 

もし、もしも特異種の元来持つ偏食場がこの赤い雨だとするならば、特異種はこれによって神機使いを封殺する能力を持つアラガミを作り、更にそのアラガミを喰らい自身も力をつける。そして人類には非常に驚異となる致死性の病気を発病させ、徐々にその数を減らして行き、これによって次代の神機使いを減らしていく……それに黒蛛病は黒蛛病を発病した患者との接触によっても発病することもある……。

 

 

 

 

もし、もしも特異種がこの赤い雨を発生させる赤乱雲を起こしているのだとしたら、何処かで姿が確認されても良い……いやまて!?

『贖罪の街』では大規模な偏食場が発生した前日に赤い雨が降っていた筈……。

 

 

徐々にピースが繋がっていく感覚がする。

特異種が赤乱雲に関わっている可能性がグンと高まった……しかし、それを断定するにはピースが、情報がまだ揃いきっていない。

仮に特異種を倒す為に最大戦力を用意したとして、激しい損耗の末に特異種を倒せたとしよう。

もしその後に赤い雨が止まなかったらどうする……明らかにこちらの大損害でしかない。

 

 

今はまだ確定したわけではない。

内心冷や汗が止まらない焦り続ける自分に言い聞かせながら手元の書類を整理し、データへ打ち込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなペイラー・榊に今までに類を見ない超巨大赤乱雲が極東支部へ近づいていることを観測班が伝えに来たのはそれから二時間後の事であった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

今日は何もない平和な朝だ。

あれから感応種の能力を得たから、これでマルドゥークともなんとか戦える気がしてきた。

 

 

さて、ご飯を探しにちょっと出歩きましょうかね……最近神機使いの姿を見なくなったのは、やはり赤い雨が影響していたのか?

まぁ濡れたら神機使いでも死ぬ確率100%の病気にかかってしまうのだから無理もない。自分だったら正直施設の中に引きこもっていると思う。

 

 

適当に見つけたオウガテイルを倒し捕食する……うん、安定の美味しさ。

ルインは申し訳ないけど寝床においてきた、もし何かあったらすぐ逃げるようには言ってるし、これからやろうとしていることに巻き込んでしまったりしたら怖い上に注意を払わないといけないから集中出来ない。

 

 

そんなルインを置いてきたことに対しての言い訳みたいな理由を心のなかで必死に言いながらも、大きく深呼吸をして、息を整える。

マルドゥークは炎属性、ヴァジュラとは違って属性による優位は見込めない……だが、それは相手も同じ。

となると次は戦闘経験の差だ、マルドゥークが対アラガミ戦を経験しているならかなり厄介なことになる……特にハンニバル神属と。

 

 

このスピードも初見殺しには使えるが、マルドゥークなら直ぐに対応してくると考えた方が良いだろう……それに戦う場所は恐らくアラガミ防壁のすぐ側、市民もまだ残っているだろうから下手に大振りに動けば市民にも被害が及ぶかもしれない。

 

 

条件はあちらが圧倒的とは言えないかもしれないが有利な方へと傾いている。イェン・ツィーの時は大丈夫だったが、大型の感応種の能力の影響を受けるかどうかもまだ分からない。

そんな分からないだらけで戦いに行くのが正直バカらしい、怖くてしかたがないが、人類に味方をするって決めたのだからそこは頑張らなければ。

 

 

両手に紫の雷を放電させながら自分は新たな獲物を探しに行くのだった。

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き有難う御座います。

さて、結局のところ半分ほどが榊博士の勘違いになってしまうのですが、それが主人公に対してどう働くかは今後次第ということで。

偏食場とか感応現象の資料を読んでいると他のアラガミ化小説とかを書いてらっしゃる人の理解力の凄いことですよ……私のガバガバ過ぎる設定で本当に申し訳ないです。
たまにコメント欄で考察(?)とかをされる方がいらしてそれを見てもう嬉しいのなんのって話です。
自分の作品を他の方がどうなのかって考えていただけるなんてもう……ね。

さてさて、最近私は生活の時間が一身の都合上ズレたので体調が悪くなることが増えました。
コロナウイルスも段々と広がりを見せながらもインフルの影もある……皆様も体調を崩さないようにどうかお気をつけ下さい。


ではまた、次のお話で。



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第25話 運命の時計と抗う歯車

どうも皆様、黒夢羊です。

改めてこの作品を書き始めて、皆様に読んでいただけた事を本当に感謝したいと思います。
自分の書きたいように書いているので、納得されない方も多く居ると思います。
ですが、これが私の書きたかったアラガミのお話なのです……。
それでも読んでくださる皆様に再度感謝致します。


では、本編へどうぞ。







 

 

 

あれから暫くの間、中型のアラガミを狩り続けた。

腹は満腹になるどころか依然餌を寄越せと言っているかのように感じる。アラガミがひっきりなしに壁やら車やら何やらを捕食している気持ちが少しだけ理解できた気がする。

 

 

そんな中、顔を上げるとここからは遠い遥か向こうの上空に巨大な赤乱雲が出来ていた。

それを見たとき心のなかで「ついに来たか」と呟くと同時に背筋がゾワッとそそり立つような感覚を覚えた。

これが武者震いなのか……いや、絶対に違う。これから戦うであろう今までの神生史上最強のアラガミと戦わなければいけないのだ、武者震いなんて起こるわけがない。

 

 

一旦寝床へと戻り、ルインに暫く帰ってこないこと、そして何かあったらすぐに逃げるように。と伝え赤乱雲の元へと向かっていった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

走り続けてどのくらい経ったのだろうか。

時折上空を見るがその大きさは未だに広がり続け、止まる様子を見せない。

恐らくだが、これがロミオを失うときに出来た赤乱雲なのだろう。

 

 

正直極東支部の正確な場所は分かってはいない、近づけば市民を不用意に怖がらせるだろうし、何よりも神機使いに見つかる可能性が一気に高まる。

だが今回は好都合なことにあの赤乱雲がおおよその位置を知らせてくれる。あの赤い雲の何処かに極東支部があるはず。もしなかったらそれはそれでロミオが居なくなるイベントではないということだ。

 

 

どちらにせよ、あの超巨大赤乱雲の下に行かなければ何も分からないのだ。

こうしている間にも着々と赤乱雲の規模は拡大の一途を辿っているようで、自分が近づいたということを考慮したとしても、その大きさは先程より存在感を増しているだろう。

 

『間に合ってくれよ……ッ!!』

 

そう心で呟きながら更に足を早める。

もっと、もっと早く。神速の名の通り人間を越えた神の……いや、その神をも越えた速度で。

自分は赤乱雲の下へ進んでいくのだった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

観測史上類を見ない超巨大赤乱雲が発生し、勢力を拡大させながら今自分達がいるこの極東支部へと向かっている──

それは榊博士から知らされた突然の報告だった。

 

 

それから僕達は急遽ゴッドイーターと神機兵による大規模な市民誘導作戦を開始。

無人化に成功した神機兵が主に瓦礫の撤去や市民の誘導等を行い、僕達ゴッドイーターが市民の皆が避難する際のアラガミの排除と市民を誘導する神機兵の補助。

 

 

赤乱雲はぐんぐんとその大きさを増していっているようで、最初は赤い点状に見えた雲が今ではハッキリと空を覆い尽くして、こちらへと向かってきている事が分かる。

 

 

赤い雨が降り始めてしまうと、僕達ゴッドイーターは活動を大きく制限されてしまう。幾らオラクル細胞を体に取り込んでいるとは言え赤い雨に濡れてしまえば黒蛛病に感染する可能性だって大いにある。

 

 

その点神機兵は赤い雨の影響を受けていないし、更には無人だからもしもの時があっても今のところは大丈夫なんだけど……いまいち戦闘能力に不安がある。

だから神機兵とゴッドイーター、その両方が揃っている今のうちに避難を完了したいんだけど……

現実はそう上手くはいかないってことを身をもって知らされることになる。

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

先程から異様なほどに襲い掛かってくるアラガミ達をイェン・ツィーの感応能力を駆使してかわし続ける。

この前とは違い、赤い雨に全身を打たれながらもその足を止めることはしない。

……ゲームの時もこんなに数が居たのか!?

ひっきりなしに姿を表し続ける中型と大型のアラガミ達だが、その動きは意外にも揃っておりまるで何かに統率されていているかの──!?

 

 

異様な現状に対して呟いた統率という一言。それをきっかけに自分の中で1つの可能性が紐解かれる。

……まさか、マルドゥークか!?もしこの群れの長がマルドゥークで、このアラガミ達が向かう方向に極東支部があるとしたら、自分が攻撃され続けているのにも少し納得する。自分はマルドゥークの感応能力の対象になっていないから敵として認識されているのだろう。

赤い雨で全身が濡れながらも体と、そして頭を動かすことをやめることはしない、そんなことよりもこの規模のアラガミの群れが極東支部を襲撃すればロミオどころじゃない、大勢の人が犠牲になる可能性もある。

 

現在進行形で自分が知っているものとは全く異なる展開が起きている事に言い様の無い焦りを感じる。

自分の考えが全部間違いであれば良いと願うが、もし間違いだとしてもこのアラガミの大群は防衛班やリンドウを始めとした主力が不足している現時点での極東支部にはかなり辛いものだ、故にこのままであれば犠牲者も史実よりも遥かに増えるだろう。

 

どうすれば良い?自分に何ができる?

アラガミ達の猛攻を回避し、応戦しながら必死に頭を回し続ける。

「幾ら力をつけても1が100に勝てることはない」……こんなことは無駄だと頭の中の自分が囁く。

──違う、そんなことはない。

必死に否定しながらも、1度沸き出た諦めという甘い言葉は、隙を見せれば心の全てを支配するかのようにその存在感を残し続ける。

 

 

考えろ、単純に犠牲を少なくする方法を。

 

 

……………………………………………………

…………………………………………

………………………………

………………………

……………

 

 

悔しいが……今自分に出来るのはこの大群を押し留めて、マルドゥークの到着を遅らせること。もしくはマルドゥークの意識をこちらに向かせて標的を変えること。

どちらの条件も同時に達成しようとする場合の最短ルートは、コイツらを全て蹴散らすこと。

ボルグ・カムランを対象に発動していた能力を解除し、自分を対象に発動させる。すると自分の視界に広がる大から小までのアラガミの視線がこちらへと向けられる。それを確認してから再度能力を解除し使用、対象は目の前のヴァジュラ。そして指定すると同時に攻撃をするように命令を下す。

 

すると一斉に周囲のアラガミか攻撃をヴァジュラへ開始する。そして背を向けた奴らに向けて炎球と雷球を作り出し、放つ。また作り出し、放つを繰り返す。

そして能力の対象が倒れたら次の対象を指定し、襲わせる。そして自分は背後から球を作り出して放つ。

放たれた球はヴァジュラを襲っているアラガミ達に命中し、倒れるアラガミを踏みつけて新たなアラガミがヴァジュラに襲いかかる。

そんな光景をゾンビ映画みたいだな……と他人事のように考えながらも、マントを広げ再び炎と雷の双球を作り出し始めた。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

どのくらいの時間が経過したのか分からない。しかし同じ手段を使い続け、目の前に広がるアラガミを目分量だが3分の1を減らすことが出来た。しかし、その代償として少し連続してオラクルを使いすぎたのか、意識が朦朧としてくる。

そのせいかターゲットが倒れて能力が解除されたのに気付かずに、近付いていたガルムの一撃を顔に食らってしまい吹っ飛ばされる……が、すぐに体勢を立て直し、新たなターゲットに今殴ってきたガルムを指定するのだが、意識が途切れ途切れになっている為か、ターゲットへ攻撃を開始せず、逆にこちらに向かって攻撃してくるアラガミが表れる。

 

更にそれに対処することに頭を割くようになり1体、また1体とこちらへ攻撃を開始するアラガミが増える。

今まだコンゴウやウコンバサラ、オウガテイルの中型と小型のみだが、少しずつ大型の意識もこちらへと向き始めている。

 

このままではどう考えてもジリ貧だろう。持ち前の高い回復力をもってしても既に体の節々が痛みを訴えていて、頭も休みなくひたすら回り続けているので悲鳴をあげている。

体のオラクルの残量─というか残量とかあるのね──も底をつきかけているのか一度に出せる球の量や炎と雷の出力が減少している。

捕食でもすれば回復するのだろうが、そんな暇はあるわけがない、想定して見てほしい……常に死が張り付いて来ている終わりの見えない組み手を。

終わりが見えるのなら気力とかも多少は回復するかもしれないが、依然としてアラガミの攻撃の波は止まることを知らず、寧ろ自分の能力が弱まったお陰で攻撃の手数が増えていっている始末だ。

 

現に防げていた攻撃も受けるようになり目に見えて被弾率が増加の一歩を辿っている。

寧ろ今の今まで捌けている……と言えるかは分からないが捌けていると仮定した自分を誉めてほしい。

──そんな無駄なことを考えていたからかグボロ・グボロ達の砲撃を横からまともに受けてしまい、体がよろけた所にガルムの全力ブローが襲い、いつぞやのエミールのように遥か後方へと吹き飛ばされる。

 

 

今度は受け身を取ることは出来ず、成すがままに地面に何度か体をぶつけた後に仰向けの状態で止まる。

赤乱雲は最初の頃よりも比べ物にならないほど肥大化していて、目線を上に向けると遥か向こうの空まで赤い雲で覆われていた。

一目見ても時間がかなり経過しているのが分かるだろう、なら早くロミオの所へ助けに行かなければ……。

 

 

そんな自分の意思に反するように、体がこれ以上動いてはいけないという危険信号をあげている気がするがそんなものは全て無視する……というかそもそもここまでアラガミに喧嘩を売ったんだ。今のうちに数を減らさないと自分が後でどうなるか分かったものじゃない。

 

それに、ロミオを助けてハッピーエンドにすると決めたのだ。もしここでこの大群を極東支部に向かわせてしまえばロミオが大好きな爺さん婆さんを含めた市民達が死ぬかもしれない……それだけはごめんだ。

仮に名前だけだとしても神になったんだ…それくらいやらなくてどうする。

その為には早くコイツらを片付けて──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分が再びアラガミの波へ向かおうとする時、眩く赤い光が自分達を包みこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

何が……起こった?

目の前で今しがた起きた事を理解できずに立ち尽くす……いや、『理解したくない』と本能が拒絶している。

 

先程、赤い光のようなものが自分達を包み込んだと思ったら、あんなに殺気立っていたアラガミ達が大人しくなり引き返して行ったのだ。

それが意味するのはこの世界の結末を知っている自分からしてみれば先の光は救いの光でもなんでもない。

絶望と終わりを知らせる最悪の光だった。

 

 

 

 

…………まだ、まだだ。

まだ、『そうなったと』決まっている訳じゃない。

そうだ、丁度良いじゃないか。これでロミオを助けに行ける……手間が省けたんだ。

震える足を無理を言わせて1歩、また1歩進ませる。

 

その歩みは最初は生まれたての小鹿のように覚束なかったが、段々と早くなっていき、何時もの早さを取り戻したのだが、何かにすがるような足取りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未だに降り止まない赤い雨に体を打たれながら走り続け、たどり着いたのは辺りにビルだったものが並び、視界の奥に見るからに人の手では空けることが難しい穴が空いた巨大な壁。

 

 

 

 

……そして、壁から少し離れたところで自分と同じく赤い雨に打たれながら横たわる2つの人影。

 

 

 

 

自分が近づこうと歩を進めようとすると、そのうちの1人──ジュリウスが体を持ち上げた。

ジュリウスはもう1つの倒れている人影に気付くと覚束ない足取りでその人影──ロミオの元へと近寄り、目の前まで辿り着くと膝を付き、ロミオを抱き起こすと震える声で声をかける。

 

「ロミオ……しっかりしろ……」

 

声をかけられて目が覚めたのか、ロミオが弱々しい声でジュリウスに言葉を返す。

 

「ジュリウス……ごめん……アイツ、倒せなかったよ……」

 

その言葉には悔しさと申し訳なさで埋め尽くされていて、それがどれだけ彼にとって悔しかったのかが、聞いたものには伝わってきただろう。

ふと、思い出したかのようにロミオがジュリウスに問いかける。

 

「あ、爺ちゃんたちは……?」

 

先とはうって代わり心配そうにするロミオを安心させるようにジュリウスが答える。

 

「ああ、無事だ……お前のお陰でな」

 

それを聞いて安心したのか、笑みを浮かべながらロミオは段々とか細くなっていく声で言葉を紡いでいく。

 

「そっか……良かった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ジュリウス……ごめんな」

 

「ロミオ……それ以上、しゃべるな……」

 

安堵の次にジュリウスに謝罪をするロミオの言葉をジュリウスは震える声で塞ごうとする。

それは、これから待つであろう結末を信じたくないからだろうか。

だが、ジュリウスの命令に背きながらもロミオは口を開く。

 

「勝手に飛び出して……」

 

一言、一言に万感の思いを込めて。

 

「皆に迷惑かけて……」

 

それは悔いの無いように。

 

「良いんだ……それ以上しゃべらないでくれ」

 

ジュリウスはロミオの謝罪を受け入れ、優しく、そして静かに喋るなという命令を下す。

もうすぐそこまで迫っている『ソレ』から必死に逃れるように……だが。

 

ロミオは朧気な意識の中でも分かっていた。

もう……皆とは会えないだろうと。

だから……最後の最後に、本当に謝りたかった。

自分が配属についた時から憧れで、大事大事な……そして、大好きな仲間のジュリウスに。

 

「弱くて……ごめんな……」

 

そうして、ロミオの意識は暗闇の中へと眠って行くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロミオ……?」

 

 

問いかけるも、答えは返ってこない。

 

 

「頼む……逝くな」

 

 

願っても、応じてはくれない。

 

 

「目を開けてくれ」

 

 

その青い瞳は、もう皆の顔を見ることはない。

 

 

「一人でも欠けたら……意味がないんだ」

 

 

大好きな仲間の声さえ、届かない。

 

 

「だから……頼む……」

 

 

永遠に、届かない。

 

 

「逝くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──それを自分はただ、眺めていた。

 

 

 

 

──眺めるだけしか、出来なかった。

 

 

 

 

──泣くことも、ジュリウスのように叫ぶことも。

 

 

 

 

──自分には……出来る筈もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今回も最後まで読んで頂き、本当に有難う御座います。

とりあえず1つの山場を越えかけているのですが、情けない話、この話を書くために再度ロミオのシーンを見返していて少し目が潤んでしまいました。

それほどまでにロミオの存在は強かった……と言うことだと私は思います。
真面目な回にふざけた話は無しということで。


では、次のお話で。


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第26話 孤独から救われ、英雄に憧れた少年は天使の少年を救う夢を見るか?

どうも皆様、黒夢羊です。

最初の2~5の何処かで地味ーに書いてた主人公が言う『約束』についてのお話です。
まぁタイトルで察しがつくところではありますが……。
まぁ、タラタラと昔話が続くだけなので適当に読み進めてもらっても構いません。

では、本編へどうぞ。






 

 

 

 

 

 

 

──変わっている

 

 

 

 

子供の頃の自分の周りの評価はそんな感じだった。

周りが男子が流行っているゲームには興味を引かれず、父が溜め込んでた昔のゲームを遊んでいた。

皆が夢中になるアニメには目もくれず、その反対でしていたドキュメンタリーやバラエティ番組を見ていた。

皆がゲラゲラと笑っている漫画雑誌を買わずにライトノベルを買っていた。

言動も冷めていて、感情を顔で表現したことがあまりなかった。

 

 

 

 

今思えばそんな些細なこと……と思うが、趣味を共有し仲間を作っていた小学生の頃に皆と違うことしかしていなかった自分はかなり浮いていたと思う。

事実陰口を言われた時期もあるし、なんなら物理的に手が出てきそうになったこともある。

……まぁその度に何故か第三者が偶然居合わせて事なきを得ていたんだけどな。

 

まぁそんな自分が普通という枠組みに入れたのは──顔はともかく名前を思い出せないが──ある友人のお陰だった。

そいつは自分と違って、スポーツも出来て明るくて、何時もクラスの……学年の中心だった。

片や学年で有名な変わり者、片や学年の人気者。

そんな真反対にいる自分がソイツを関わりをもったのは皮肉にも自分を友達という枠組みから外した「共通の趣味と話題」だった。

 

 

それはある日の平日。自分は何時も通り学校から近くの図書館へと向かっていた。

正直小学校の図書室で自分の読みたいものはあらかた読み尽くしたし、ライトノベルも録に置いてない。己の小遣いで買えば良いと言う話だが、ライトノベル1巻の値段は小学生の小遣いではそうホイホイ気楽に変える値段では無いのだ。

そういう意味では無料でライトノベルや小説を読むことができて、かつ条件さえ守れば借りることが出来る図書館は当時の自分にとっては最高の場所だった。

 

そんなこんなで今日も図書館にやって来て、何時も通り手提げ袋に入れた本をカウンターで返却して、新しい本を探しに行く。

カウンターのおばさんが新しい本が入ってるよ、と教えてくれたのでワクワクしながらライトノベルが置かれてあるコーナーへ小走りで向かう。

さてさて──何処にあるのかな……?

 

 

来ているという新刊を探そうとワクワクしていた自分は、本来そこにいるはずが無いであろう人物の姿を目の中に捉えて、停止してしまった。

 

「うーん……どうしよっかなー」

そこには学年の人気者■■ ■■がラノベを片手に一人唸っていたのだ。

グラウンドでサッカーに明け暮れている彼にとっては真逆の場所に近いだろう図書館。

しかもライトノベルのコーナー。

 

……この時普通なら見つかることを恐れて隠れたり身を潜めたりするのだろうが、残念ながらその時の自分は興味の方が強く刺激されてしまい、思わず声をかけてしまった。

 

「……何してんの?」

 

「うぉ!?……伊麻川か」

 

最初こそ大声を出したものの、ここが図書館だと思い出したのか声を潜めてこちらの名前を呼んで来る■■。

しかし、こちらの質問には一切答えられてないのでもう一度同じ言葉で問いかける。

 

「……何してんの?」

 

多分ここで彼を見た大体の人間がそう聞くだろう。そんな聞かれた当の本人は少しバツが悪そうに「あー」とか「えー」だのマトモな答えを彼なりに必死に探しているようだ。

それから暫くして、もうなんか面倒くさいし自分も他のヤツ探しに行くかなーと考えてたら遂に■■が口を開いた。

 

「……好きだから」

 

「……は?」

 

──いや、許してほしい。誰だってそう思うだろう。

一度定着したイメージというのは中々払拭することが出来ないのだ。だから今目の前で■■が言った事に対して理解が追い付かず「は?」で返してしまった自分は悪くないだろう。

そう自分が自分の反応に対してやってしまったなーと幼心ながらに思っていると、いきなり目の前の■■が自分の肩を掴んできた。痛い。

 

「なあ、頼む。この事は皆には言わないでくれ」

 

妙に必死な彼を見ていて自分は思う。

まぁ確かに普段からクラスで散々馬鹿にされてるライトノベル(自分が100%原因)を読んでいたり好きなんてバレたら一気に地獄行きになるだろうな。

だが、彼は勘違いしていることがある。それを正すために肩を掴んでいる彼の手を払いのける。

 

「言わないよ」

 

「え?」

 

「言わないって言ってる」

 

「本当n「うん」……」

 

「良かった……」

 

心底安心したように息を吐く■■。

事実そうなんだろう。充実してきた彼の生活が自分の一言で終わるかもしれないのだから。

ただ、彼は知らないのだろう。

 

「そもそも……」

 

「そもそも?」

 

「俺が言っても、信じてもらえないと思う」

 

そう、これに尽きる。

学年のカーストトップに居る彼の言葉と最下層に居るであろう自分の言葉、一体どっちをクラスの皆や先生は信じるだろうか。

もし自分の言葉を信じるヤツが居たとしたらそれは■■の人気を落としてやろうと考えるヤツらだ。

そんな自分の考えは露知らず、自分の言ったことが分かっていないのか首をかしげる■■。

 

「どうしてだ?」

 

「……■■君が人気者で、俺は人気者じゃないから」

 

「んー?どうしてそうなる?」

 

「もし、■■君がヒーローの敵が『ヒーローは■■君の敵だ!』とか言ったらどう思う?」

 

「嘘だっ!!って思う」

 

「そう、それと同じ」

 

「あっ……」

 

自分の中で思ったよりも理解が早い■■をイヤな奴からマトモな子へと脳内でランク付けする。

やはり中心人物だから頭も周りも早いのだろう。

ただ、自分の興味は既にラノベに移りかけており、■■を無視して本棚から目的の最新刊とこの前読んでいたシリーズの続きの刊を手に取る。

目標を確保できたので、もうここには用はない。

最後に忠告として■■に一言だけ。

 

「あまり、来ない方がいいよ……ここ」

 

「……」

 

それは■■も分かっていたのだろう。

現に自分にですらあんなに怯えていたのだから。

下を向いて黙りこむ人気者についでにどうでも良い情報を教える。

 

「土曜日の朝は人が少ないから、借りるのならその時がいいと思うよ…どうでもいい情報だけど」

 

「……!!」

 

さて、どうでも良い事を話したしさっさと家に帰って借りたコレでも読もうかな……と思っていたら肩を捕まれた、痛いです。

振り向くとさっきまで数歩後ろに居た■■が肩を掴んできてるじゃ無いですか。音無かったよ?アレ?君忍者?……いや、床元々音鳴りつらいヤツだ。

そんなアホな事を考えていると■■が口を開いた。

 

「あのさ……もしで良かったらなんだけど」

 

「お前のオススメ教えてくれねぇ?」

 

 

 

 

これが、自分─伊麻川 禊と■■ ■■が友達となる始まりだった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

2014年 8月2日

 

自分──いや、自分達は■■の家に集まってゲームをしていた。

しているゲームは自分達ではお馴染みGOD EATER2。

周囲が某狩りゲーで騒がしくも自分達はコレを集まってはしていた。

前作の理不尽さはかなり収まっており、逆に今度はこちらが狩る側へと変わっている。

まぁ前の方が命かかってる感があって自分は好きだったんだが。

 

勿論某狩りゲーも自分達二人はやるにはやっているのだが、■■は知らないが自分の中であれは他のメンバーとやる時用にしているだけなので二人の時はもっぱらコレである。

ある程度プレイした後、一旦休憩と眼をほぐしながら■■は呟く。

 

「あのさぁ……ヒーローって居ると思う?」

 

「は?」

 

彼の中で自分の返答があらかじめ予測していたものと同じだったのかケラケラと笑ったあとに真面目な顔で話始める。

 

「俺さ、お前と図書館であった事覚えてる?」

 

「あー、必死に言わないでくれーってやつ」

 

自分の誇張に誇張を重ねたような物真似を見て苦笑いしながらも話続ける。

 

「おう、それそれ……でさ、あの時ぶっちゃけ死んだと思ったのよ」

 

「今生きてる……まさかゾンビっ!?」

 

「違うって、お前があの時言わないでくれて、しかも安全な時間を教えてくれて。俺のなかでお前がヒーローに見えたんだ」

 

何コイツはそんなこっ恥ずかしい事を言っているんですかね。言われてるコッチが照れるんですよ。

そんな自分の心情を理解しているのかしてないのか、■■の口は止まらない。

自分もこっちを助けたいと思っただの。

だから、まずは見て見ぬふりをしていたイジメを無くそうと次の日から自分に声をかけ続けただの。

 

自分は凄くないと、当たり前だと言っている事がどれだけ凄いのかをわかっていないのだコイツは。

たった一回、しかも自分の安全はそこまで揺るがない相手に対してクソどうでもいい恩を返すためにあそこまでやる小学生がどのくらい居るのだろうか。

少なくとも自分は絶対に見て見ぬ振りを続けるだろう、その方が安全だからだ。

 

 

寧ろ、恩を返さなきゃいけないのはこちらだ。

そんなこんなで話は続いていき、最後に「だから自分が助けられそうな人は助けてあげたいんだ」……とそう締め括られた。

■■がこちらを見る……どうやら感想を求めているらしい。1つ軽き咳払いをして思ったことをそのまま伝える。

 

「アホだと思った」

 

「えぇ……」

 

「ぶっちゃけ見捨てれば良いはずの奴を助けるところもそうだし、俺に恩を感じる必要なんてないのに感じてた所とか本当にアホだって思った」

 

「…………」

 

「更にこれからも助けられる人を助けたいとか自己犠牲も程ほどにしろよ?ソレでお前が倒れたら皆がお前が助けた人を責めるぞ「お前のせいだって」……な?」

 

「そんなこと」

 

「あるんだよ、それが。お人好しのお前は分からないかもしれないけどな」

 

「…………」

 

自分が生きてきた道と近いけど、異なる道を歩んできた■■。

そんな自分の昔を知っているからこそ自分の「分からないかもしれないけどな」という言葉が強く染みたのだろう。悔しさでなのか拳を強く握りしめている。

今まで言った言葉に嘘偽りは全くない。

コイツには自分の味わった苦しみは分からないだろうとずっと昔から思っている──けど。

 

「でも、そんなお前だから救われた奴だって多いと思う」

 

「禊……」

 

そう、こんな奴だったから自分はあの時救われたのだ。コイツは自分をヒーロー何て言うけど全く違う。

コイツの方がヒーローなんだ。

 

「俺はお前と違って他人を助けるつもりなんて更々無いし、寧ろ嫌だと思ってる──でも、もしお前が助けて欲しいなら、出来る限り手を貸そうとは思う」

 

「そこで貸してやるって断言しないんだな」

 

「するわけないだろ?したらやらなきゃいけない」

 

「お前らしいな」

 

今度は紛れもなく笑顔で、こちらを■■は向く。

こんなこといってるヤツに「お前らしい」なで片付けるお前が凄いわ。

 

「まぁ……あれだ、お前には恩があるからな」

 

「……じゃあ、その恩とやらで頼みたいことがあるんだがいいか?」

 

急に真面目な顔になった■■は、こちらに体を向き直して真剣な表情でこちらを見つめる。

それに少しびびった自分は吃りながらもなんとか返事を返す。

 

「お、おう……どうしたいきなり、そんな真面目そうに」

 

「いや……『もしも』って時があるからな、その予防作っていうか、しこりは残さないようにしとかないとな……って」

 

今の■■が何を言っているのかは正直長い付き合いの自分でも分からない。

だけど、大事なことを伝えようとしていることは自分じゃなくても理解できた……だから、その『頼みたい事』を聞き逃さないように次の言葉を待つ。

 

暫く言葉を選んでいるのか、それとも言うのを躊躇っているのか悩んでいたが、ついに意を決したのか、深く息を吐いて口を開く。

 

 

 

 

「将来……俺なんかじゃ助けることすら出来ない人が出てくると思う」

 

 

「だから、お前は……()()()()()()()の中で良い」

 

 

「お前が助けられる、と思ったヤツだけで良い」

 

 

「俺の代わりに……そいつを助けてやって欲しい」

 

 

 

それは、まるでこれから何が起こるかを分かっているかのように口振りで。普段であれば「厨二病乙w」みたいに茶化して終わらせようとするのに、その時は■■は本気の顔していた。

だから、こっちもしっかりと答える必要がある。

 

「分かった……と、同時に断る」

 

「どういうことだ?」

 

己の言ったことが肯定されたのか否定されたのか分からず首をかしげる■■。

そんな■■に自分は、自分なりの考えを話す。

 

「お前がそうして欲しいっていうなら俺もそうする……けど、俺はなりふり構わず人を助けるのは嫌なんだ」

 

「だから助けられる人じゃない。助けたいと思ったヤツしか助けない」

 

「ただ、一度助けると決めたら絶対に助ける。それは約束する」

 

胸に手を当てて『約束』する。

それがどれだけ重たい鎖として自身を縛るのかを当時の自分は理解しないまま。

ただ、それを聞いた■■は安心したような顔で一言。

 

「うん、やっぱりそっちの方がお前らしいからそれで良い」

 

「……というか俺は人助けとか嫌いなんだ」

 

自分のその一言に反応したのか、■■が突然ニヤニヤしながら「そーいえば」と話始める

 

「お前この前道端で困ってる婆さんの荷物運び手伝ってたよな?」

 

「知らん」

 

「あと、捨てられてた猫もこっそり家に持って帰って飼ってるよな?」

 

「……なんでそれを知っている」

 

「この前見たから」

 

「はぁ!?あの時いたのかよお前!だったら──」

 

「他にもあるぞーお前の助けてるエピソード」

 

「うおおお!?やめろぉぉぉぉ!!」

 

違う、違うんだ!

婆さんの件は単に邪魔だったんだ。猫は家に持って帰って痛め付けてやってストレス解消しようとしただけだから!!違うから!別に可愛いとか思ってないから!

それかあれだ……コイツの自己犠牲菌が感染したに違いない。

そうだ、そうとしか考えられない。

くそっ、最悪だ……。

 

 

 

 

ただ、コイツと最初で最後に交わしたこの約束はどれだけ経っても守り続けようと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 





今回も最後まで読んで頂きありがとうございます。

今回のタイトルは昔私がやっていたゲームの中の一文をもじって使わせていただきました。
まぁそのゲームの一文も元ネタがあるみたいなんですが。

■■君が誰かについてはここでは言及はしません。
というかしても多分誰も気にならないですし。
続きの話も書いているので早めに上げられると思います。


では、次のお話で。


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第27話 ディオニュソスの誓い

どうも皆様、黒夢羊です。

連続投下です。

なんと日間ランキング6位になりました。
…まぁそのあとすぐに落ちてしまいましたが。
それでも皆様が読んでくださっているお陰です。
本当に有難う御座います!!


さて、前もって今回の話の注意です。
今回はかなりのご都合主義が働いています。
ですので、もしかしたら主人公が嫌いになる方も居ると思います。
本当に申し訳ありません。




では、本編へどうぞ。







それからどうやって寝床へ帰ったのかは覚えていない。

途中でアラガミと遭遇した気もするが、どうしたのかさえ覚えていない。

 

心配そうにするルインを気遣う気力すら無い。

近寄ってくるルインを手のサインで止めながら、座り込む。

 

 

いま、自分の中に残っているこの言い様のない感情はなんなんだろうか。

絶望……なんてのは多分違うんだろう。

それはロミオの仲間達が持つべき感情だ。

自分みたいな化け物が持って良いものじゃない。

 

 

 

 

自分が……多分中学生だった頃、約束をした。

名前はもう思い出せないが……自分が、今の自分が居たのはアイツのおかげと言っても過言じゃない。

そいつは一言で言えば良いヤツだった。

 

どこぞの赤髪の少年みたいに全てを救おうとは思っていないが、それでも自分の手が届くところは全て助けてあげようと言う信念を掲げるくらいのお人好し。

自分もそんなアイツに助けられた一人だが、アイツから言えば自分がそう思う切っ掛けだったらしい。

 

 

そんなある日、アイツは自分に頼み事をしてきた。

普段なら受けはするが、自分からはしないであろう頼み事をだ。

真剣な表情も相まってなんだと思ったら「俺の代わりに助けられる人を助けてくれ」……だと。

 

勿論アイツには恩があったしそれくらいなら一言でOKを出してやろうと思った。

でも、真剣なアイツを見て自分も自分なりの答えを出すべきだと思った。

だからこう言った。

 

「自分が助けたいと思ったヤツを助ける」

 

「そして、一度助けるって決めたヤツは絶対に助ける」

 

最初で最後になるだろうアイツとの約束はずっと守ってきた。

高校が別になっても助けると決めた相手はどんな手段を使ってでもとことん助けた……それが相手から嫌われる方法だとしても。

 

 

他人からすればどうでもいいと思えるようなガキの、しかも契約書すら用意していないお粗末な決め事だ。

でも、自分の中でその約束は。言葉では言い表せない程大事なものだった。

 

 

 

……きっと自分は、心のどこかで天狗になっていたのかもしれない。

不意を付かれたとは言え傷を負いながらもブラッドを圧倒できる速さと大型アラガミと対等に渡り合える身体能力。

一度ヴァジュラで油断しないと言ったがとんだ大間違いだった。自分の力を過大に評価して、録に考えることもせずに成り行きに身を任せて軽々しく助けようなんてほざきやがる。

 

何よりも、ロミオを助けられなかったくせに『後で蘇るから大丈夫』とか考えている自分が居るのが嫌だ。

こんなヤツが人を助けるなんておこがましい……

寧ろこのまま神機使いに殺された方が役に立つんじゃ──「キュ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………ルイン?

沈んだ思考を再び浮かせたのは今の自分の気持ちとは正反対の色を持つルインの鳴き声だった。

ルインを見ると何を考えているのかは分からないが、唸り声をあげている。

 

『どうした、餌か?』

 

「…………」

 

そうだ、確かに半日近く餌をあげていない。

それはルインも困るだろう。

そう思いマントの端を切り落とそうとしたその時

 

「キュー!!」

 

ガブリ。ルインが自分の指に噛みついてきた。

何時もなら痛くはないそれは自分にダメージが蓄積されていたからか、それとも精神がやられていたからか。

微かな痛みがあった。

 

『痛っ!』

 

「ギュ!?」

 

思わずそう声が出て、反射的に手を振るってしまう。

高速で振るわれた手からルインが吹き飛ばされて壁にぶつかってしまう。

 

『ルイン!大丈夫か!?』

 

すぐに我に返り、慌ててルインの元へ駆け寄り身の安全を確認する。

大きな外傷は無さそうだが、衝撃は大きかったみたいで苦しそうに掠れた声をあげている。

 

 

クソッ!

こうして自分は面倒を見るって言った奴にさえ暴力を振るうカスなのか……。

いや、それは後だ。どうすれば良い?どうすればルインを助けられる!?

考えてみても今自分に出来ることなんて自分の体を食べさせることしか出来ない。

マントを切り取りルインの口に入るくらいまで小さくカットし僅かに開いた口のなかに入れてやる。

頼むから……生きてくれ。お願いだ……

 

 

 

 

そんな自分の願いが通じたのかは分からないが、その後ルインは体力も回復し、少し立てば再び小さな唸り声を上げ始めた。

前に似たような光景を見たのを思い出した──名前で呼ばなかった時にルインは同じように唸り声を出していた気がする。

あの時は拗ねていた……なら今も拗ねているのか?

そう考えたが今はそういう状況ではない。なら、なんなのだろうか……向こうは理解できているのにこちらが理解できない……言葉が通じないというのはこんなにも大変なんだなと関係ないことを思う。

 

ルインは暫く唸り声を上げていたが、段々とその声は静まっていき、今度はこちらへ近づいてきた。

自分の元へ来ると、顔の高さまで上がってきてその体を自分の頬へ擦り付けてきた。

 

その時、少しだけ。

もしかしたら気のせいなのかもしれない。

逃げという自分の思いが産み出した幻聴だったのかもしれない。

けど……その声はとても暖かくて、優しさに……そして悲しみに溢れた声で一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『死なないで』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、聞こえた。

驚きに満ちた目で頬から離れて正面に移動したルインの方を見ると、静かに頭を上下に動かした。

……なんで、何でなんだ。

 

─餌が無くなるのが困るからか?

 

ルインは首を横に振る。

 

─自分の身が危なくなるからか?

 

またしても横に振る。

 

 

 

 

 

──自分が、死ぬと悲しいからか?

 

 

 

 

今度は頭を横に振ることはなかった。

代わりに返ってきたのは上下に動かした、肯定の意。

 

……そんなことを、言わないでくれ。

まだ、生きていても良いって。そう思うじゃないか。

 

 

ルインはまた再び頭を上下に動かす。

 

 

 

そんなルインを見て……………………自分は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

次の日の朝がやって来た。

目覚めは最悪だ。

 

 

自分の体を触ってみる、昨日はボロボロだったところもほぼ完璧というレベルで回復している。

体内の底をつきかけていたオラクルも何故か半分近くまで回復している。

……まるで自分の体まで死ぬなと言っているように錯覚するのは傲慢だろうか。

 

 

 

 

あれから自分は生きることを決めた。

そして、マルドゥークを倒すために協力する。

助けるなんて言葉は、自分が負けないアラガミになるまで使わない。アイツとの約束を、アイツに誓った言葉を二度と違えないために。

 

 

 

 

これは偽善で、傲慢で、自意識過剰な愚かな元人間が自分勝手に誓う約束だ。

きっと人様から見たら同情なんてもっての他、罵詈雑言の嵐だろう。それを責めることなんて誰も出来ないし、自分を責めることが正義だ。

 

それでも自分はその歪みきった偽善を通し続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、今日は何を食らうとするかね。

 

 

 

 

 




最終回も最後まで読んで頂き、本当に有難う御座います。



……冗談です。
ただまぁ転生アラガミの日常のプロットを練っていた最初の時はここが終わりでした……。

まだまだこの話は続いていくので、どうか宜しくお願いします。
ここまで読んでいただいた方に改めて心からの感謝を。



では、次の話で。



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第28話 作戦会議という名の思考整理

どうも皆様、黒夢羊です。

えー、若干というかかなり迷走しましたが、今回から確りと通常運転に変わると思います。
こう……私メンタル豆腐以下なんで結構ズバズバこられると精神が結構抉られます。

ただ、そのほとんどが作品の事を思って言ってくれていると信じているので、それらを私が書きたいように取り入れて書こうと思います。
……なんか毎回言ってますね。


では、本編へどうぞ。
今回はちょっと短いです。




さて、改めて何を食べるか。

そう考え改めて自分の強化をするために必要なアラガミの能力を考えていく。

 

 

自分の現在の能力は

・ハンニバル神速種のスピード。

・なんちゃって体術。

・ハンニバルの炎(神)。

・ヴァジュラの雷。

・上記二つの属性を操り武器や攻撃に転用する。

・イェン・ツィーに酷似した感応能力。

 

この6つだ。

……なんかもうこれだけで充分強いとも思えるが、そうはいかない。

まず思い付くのは氷属性の取得。

マルドゥークの弱点属性は氷な為これを覚えればかなり戦いを優位に運べる筈だ。

ただ、これを食べるときに気を付けたいのがひとえに氷属性と言っても種類が多いのだ。

 

ゲームでは水を発射するグボロ・グボロと氷の柱などで攻撃をしてくるプリティヴィ・マータ&バルファ・マータは同じ属性として括られているが、その時から「いや、それはおかしい」と思っていた。

 

 

確かに氷だって元々は水分なのだから同じと言えるかもしれないが、水鉄砲と氷柱だとどちらが殺傷能力がありそう?と言われたら多分半分以上が氷柱と答えるんじゃあないだろうか。

水鉄砲の容器で殴ったら早いとか言う話はナシで。

……話が少し脱線したが、戻すとして。

まぁマルドゥーク相手だとやはりグボロ・グボロには申し訳ないが水鉄砲では少々心もとない。ならば必然的に凍らすなどのマータ系を捕食したいのだが、問題が幾つか。

 

まず1つ目。

あちらの属性がこちらの弱点であること。

いや、ヴァジュラの雷も弱点じゃないかって言う声もあるが、ヴァジュラと違ってマータ様達は第二種とはいえ接触禁忌種、しかも小型と違って大型。

攻撃力や耐久性等もヴァジュラの比では無いだろう。

ただ、救いなのは向こうの弱点がこちらの炎だと言うことだ。

不安なのは硬質化した場合に体術や炎剣がどこまで通じるのかというところ。こればっかりは分からない。

 

次に2つ目。

それは戦力差の問題。

向こうは設定だと単体の場合もあるが、最悪ディアウス・ピター様が引き連れていたりする。

今の状態でも戦えはするだろうが、勝てるって言う保証はほぼない。

というか中型ならなんとかなるが、大型との多数対一はもう経験したくない。

 

……と、こんな感じだ。

 

 

 

次の候補として考えていたのが神機の捕食だ。

アラガミ用の武器として作られただけあってその性質?というかオラクルを手に入れれば、神機を再現できるようになるのでは……という考えだ。

問題なのは自分がアラガミな為、果たして神機を食えるのだろうか?と言うところだ。

 

一応スサノオという神機を好んで捕食するアラガミが居るのには居るが、あれは神機使いがアラガミ化したりボルグ・カムランの突然変異だと言われているから、多分食べれないと思う。

それに、自分の体はルインが食べるのだから神機が混ざってしまえば不味くなってしまったり最悪体に害を及ぼす可能性だってある。

 

 

そして更なる問題点として神機の確保である。

神機を手にいれる為にわざわざ神機使いを襲うのは勿論今のところはダメだ。

一応遺された神機というフィールドに持ち主不明の神機もあるらしいが、見たことがない。

それに仮に手にいれたとしてもその形や性質は千差万別な為、手に入れたとしてもまともな形になるか怪しい。

という事で神機を喰う案はいろんな意味で却下である。

 

 

他にも考えたのはウロヴォロスの手……というか触手が伸びるという性質を取り込むという案だ。

これは単純に腕のリーチを広げたりマントを伸ばして形を変えたり等色々と応用が効くと思う。

ただ、ウロヴォロス自体がデカい上に強い。

更に自分の予想通りにその性質を手に入れられるかどうか……。

 

 

 

さて、改めて欲しい能力をリストアップしたが……どれもこれもかなり厄介だぞ?

特にマータ系は複数体で行動して……る……?

ん?いやいやまてよ?今自分はイェン・ツィーの能力を得ているよな?

それで、この能力は大型にも効くことはすでに実証済みな訳だ。

そしてマータ系はピターや同じ個体と群れをなして行動していることも多い……。

……これはワンチャン行けるのではないか?

いや、油断は禁物だ。能力が効かない可能性だって視野に入れなければ。

 

 

……ひとまず第一の目標はマータ系の氷を生成する能力の獲得しよう。

 

 

 

 

次に考えるのは──背中の逆鱗についてだ。

実はこの世界にアラガミとしてやって来て、1度も背中の逆鱗を破壊されたことがない。

ハンニバルは逆鱗という背中の突出した部位を破壊されることで強制的に活性化され、攻撃が激化する。

……今の人としての意思を持った自分がもし、逆鱗を破壊されたらどうなるのだろうか?

 

理性を失い、完全に獣として暴れるようになるのか。

それとも体内のオラクルが活性化して炎や雷の火力が上がるだけなのか。

後者なら万歳案件だが、前者だと見境ナシに暴れる可能性もある。そうしたら状況によってはルインも巻き込む可能性だってある。

まぁただ、神機使いも逆鱗の事は知っているだろうから狙ってくることは無いだろうが、問題はアラガミの方だ。そんな「ここの部位を破壊すれば~」なんて考えを持つアラガミはいないだろうし、居たとしてもかなり少ない筈だ。

 

……当面は背中に注意しよう。

 

 

 

 

……そういえば作品内では結合崩壊したアラガミの部位は戻っている描写は無かったが、自分の体は結合崩壊したと思う傷も回復して元通りになっているのだが、どうなのだろうか?

現にブラッドと因縁があるマルドゥークも目に刻まれた切り傷は結局癒える事はなかったし、これも自分特有の能力なのか?

アラガミを複数種類取り込むことで新陳代謝?的な何かが働いてそこらのアラガミよりも回復が強いのかもしれない。他のアラガミがポーションならこっちはハイポーション的な。

 

 

やはりこの体について色々と疑問点は多い。

神速種の変異種で、両腕に籠手があるところやアラガミを取り込んで能力を得れること。そして回復能力が(今のところ)他のアラガミよりも高いように思えること。

赤い雨だって、沢山浴びたあの後には前のような痛みは襲ってこなかった。やはり感応能力を手に入れたことによって体が変化したから生じた痛みだったのだろうか?

 

 

 

考えれば考えるほど謎というか考察することが増えてくる。自分はあまり頭がよくないからこういうのを考えるのは苦手なのだが──

あ、……よくよく考えれば手に入れられる能力の限界数とかありそう。

もしそうだとしたらもう1度最初から考え直すべきか?後から変更できたりするのか?上書き制?

うーん……。

 

 

 

新たに生まれた疑問について悩んでいる内に自分の朝は過ぎていくのだった。

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、有難う御座います。

さてさて、GOD EATER3をプレイしてアヌビスも倒して。
やっと平和になったと思ったら……嘘でしょ。
あとアインさんってやっぱりソーマさんなんですかね?
ソーマさんだ!って最初思ってたんですけど、なんか段々と自信を無くしていって……。

まぁ、基本ネタバレを見ずにやって来ているので見れば良い話なんですけどね!!


では、また次のお話で。


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第29話 零からではなく壱から

どうも皆様、黒夢羊です。

たった1つの感想で感情が乱高下するコピー用紙メンタルの私です。
最近他の作者様が投稿されたGOD EATERの年表がすごい見やすくて参考にさせていただいてます。
あと、アラガミ化小説流行れーハヤレ~……



では、本編へどうぞ






フェンリル極東支部局長である、ペイラー・榊は自分の研究室にて先の超巨大赤乱雲及びマルドゥーク率いるアラガミの侵攻の被害についての報告書を読み進めていた。

 

そこには今回の雨での市民からの死者はゼロという数字だけ見れば素晴らしい結果だが、そう喜んでも居られない。

作戦途中で全ての神機兵が突如行動を停止するという緊急事態が発生した為に、赤い雨から身を守る盾が無くなった市民の中から黒蛛病を発症したと思われる人物が少ない数出ているのである。

 

更に、感応種アラガミ マルドゥークの襲撃から市民を守るために出撃したロミオ君が死亡してしまった。

極東支部に置いても彼の存在は大きくなっていたようで、特に仲良くしていたコウタ君などは人知れず涙を流していたと言う。

 

 

少なくとも私にもその影響は大きく、命を賭けて戦場へと向かう彼らに対して、一人安全な所でアラガミを解析するだけの自分の無力感に苛まれた。

しかし、自分はアラガミを解析し、その謎を解くことが仕事なのだ。アラガミについて分かることが多ければきっと彼らの生存率も上がるだろうし、いずれはアラガミと人間が共存できるような世界だって出来る。

 

そう信じて今まで研究を続けてきたのだ。

今さらやめたところで悪い方にしか結果は向かないだろう。

 

 

ジュリウス君や副隊長─レンヤ君を始めブラッドの皆には今回の襲撃の主とロミオ君を殺害したのがマルドゥークだとは伝えている……だが。

私はもう1つ彼らに伝えるべきか悩んでいることがあった。

 

 

それは観測レーダーが一瞬だけ捉えたアラガミ。

レーダーの範囲ギリギリに収まったお陰でその存在を知ることができた。

そのアラガミはハンニバル特異種。

微弱ながら以前『贖罪の街』で観測された偏食場に類似したものを別のレーダーが感知しているからほぼ間違いがないと言って良い。

 

何が言いたいかと言うと、『贖罪の街』での件も含めて赤い雨が発生している場所に1体しか居ないと見られるアラガミが現れているのだ。

通常であればただの偶然と考えられるかもしれないが、特異種はノヴァの残滓を取り込んだアラガミ。

 

第2のノヴァのように特異的な偏食場を形成してもおかしくないという考えのもと、特異種──第3のノヴァの偏食場は赤乱雲ではないか?と仮説を立てたのだ。

現に特異種と思わしきアラガミの存在が赤乱雲の発生と一緒に2回連続で発見されている。

ということは少なくとも、赤乱雲と特異種にはなんかしらの関係があると見て良いのではないだろうか。

 

 

更に特異種は独自の偏食場パルスによって攻撃対象を決め、他のアラガミに強制的にその攻撃対象を攻撃させるというイェン・ツィーの感応能力の上位互換とも言える能力を得ている。

……もし仮にだ、この攻撃対象がオラクル細胞を用いたものであれば生命の有無関係なしに選択できるものと考えたらどうだろうか?

現在極東支部を囲む対アラガミ防壁はオラクル細胞を用いて作られている……つまり自分の仮説が正しいとするならば特異種の能力の範囲に入ってしまう。

エリア一帯を覆うほどの偏食場を作ることができるのなら遠距離からでもターゲットを指定することは出来るはず。自分が認知されないような遠距離から対アラガミ防壁に攻撃をするようマルドゥークに命じ攻撃をさせた……。

 

防壁が破壊されればいやでも我々は対応しなければならない為、戦力が割かれる。

外に出れば赤い雨に打たれながらマルドゥークとの戦いを強要され、辛うじて勝てたとしても待っているのは黒蛛病の発症による死だ。

かといって外に出なければ市民の避難が遅れるだけでなく、防壁内にアラガミの侵入を許してしまうだろう。

そうすれば被害は目に見えて増加する。

 

 

マルドゥークという感応種を使うことで感応種に対抗する事が出来るブラッドの皆を引きずり出す。

そして仮にマルドゥークが倒されたとしても、マルドゥークを倒せるだけの実力者はそのあと遅かれ早かれ死ぬことになる。そうすると、終末捕食に向けての弊害が減ることになる。

 

非常に悪趣味な……だが、効率的なやり方だと思う。

どちらを引いても確実にババという駆け引きとも言えないレベルの出来レース。

もしこれが全てあの特異種が仕向けた事ならば、あの特異種は早急に倒すべき存在である。

 

証拠は揃い始めているのだから、討伐すれば良い……と言うが今はマルドゥークの後を追うのが先になりそうだ。

正直幾ら高く見積もっても今の戦力では特異種と戦って確実に勝てるとは、前と同じでやはり言えない。

慎重になりすぎとも言えるかもしれないが、現状感応種に対抗するためにはブラッドの皆がいなければならない。それなのに勝てるか勝てないかの勝負に出るほど彼は博打打ちではなかった。

 

 

 

だが、1つ気になることがある。

第2のノヴァはかなり広範囲のオラクルを使った機材を活動停止に追い込む偏食場を作っていた。

確かにオラクルを使った機材に神機も含まれているから神機を機能停止に追い込まれるなどの驚異はあった。

しかし、赤乱雲のように他のアラガミに影響を与えたり、直接人を死に至らしめるようなモノではない。

 

 

特異種の偏食場が本当に赤乱雲なのだろうか?

もし、そうであるならば常に赤い雨を降らせておけばもっと効率良く人類を滅ぼせるだろう。

そうしない理由があるとするならば、赤乱雲を連続して作り出すことが出来ないのだろうか?

例えば特異種自身の体内のオラクルを大量に消費して赤乱雲を作り出しているとするならば連続して作り続けることは難しいだろう。

 

もしも赤乱雲が特異種の偏食場ではないとしたら、なんだというのだろうか?

改めて時系列で整理してみよう。

 

 

1度目の終末捕食が発生。

これを当時の第1部隊隊長とアリサ君達、そしてシオ君の協力により回避。

 

この時に特異種の元となったハンニバル神速種と半アラガミ化していたリンドウ君、そして正体不明の神機使いが交戦し、辛くも勝利を納める。

 

そしてアラガミ化したリンドウ君もといハンニバル侵食種が出現したものの、第1部隊や他の皆の協力もあってリンドウ君を救出することに成功。

(おそらくこの時には特異種は誕生していたものと考えられる)

 

終末捕食を回避した際に各地へと飛び散ったノヴァの残滓を回収している際に、ノヴァの残滓が集結し第2のノヴァとして行動を開始することになる。

後に人工コアの使用によるノヴァの特性を利用した短期決戦によって撃破に成功。

 

そして……赤乱雲と感応種の発生。

 

 

こう見ると赤乱雲が特異種の偏食場であるとは考え辛いものがあるが、それならばなぜ特異種は赤乱雲と共に出現しているのか?今はまだ証拠が少ない為に断言は不可能だが、それでも2回連続して赤乱雲の発生場所にその姿を捉えている為に関連性は無いとは言い切れない。

 

……いや、関係は逆なのではないか?

つまり『特異種が赤乱雲を作り出している』のではなく『赤乱雲が特異種を作り出している』と考えたらどうだろうか?

赤乱雲から降らされる赤い雨にはアラガミを感応種へと変化させる性質がある。しかし、特異種はこの雨を受けても感応種への変化は最初の発見から今に至るまで無いように見える。

ノヴァの残滓を取り込んだアラガミやノヴァの残滓自体には赤い雨の影響が及ばないとして、別の特性があるのでないのか?

 

 

例えば通常のアラガミを捕食し、その力を得る事だけでは障害を退けることが出来ないと判断し、アラガミを変異させる赤乱雲を何かが作り出した。

その変化したアラガミ──つまり感応種を喰らい、ノヴァの力でその力を得ることで終末捕食を邪魔されたとしても充分に対応できる能力を特異種に与えることが目的としたならば……?

 

つまり、赤乱雲と赤い雨は『特異種を第3のノヴァへと進化させるための装置』と考えられるのではないか?

 

 

 

……いやいや、落ち着くんだ。

一度考え出したら思考がいろんな方向へ飛んでしまうのは研究者としてあまり良くない。

ただ、今一度赤い雨と黒蛛病について詳しく調べてみる必要は出てきた。

三度訪れるかもしれない世界の終わりを回避する鍵になり得るかもしれないのだから。

 

 

 

 




今回の最後まで読んで頂き、有難う御座います。

私の作品の榊さんは天然というか少し原作よりも知能が低い気がしてきました……でも、まだまだ分からないアラガミのことですし、許してください。

さてさて、GOD EATER3を最近やる時間が少なくなってきているのでそろそろまとまった時間を取りたいですね……。


では、次のお話で。


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第30話 ご注文は帝王と女王ですか?

どうも皆様、黒夢羊です。

最近私の所だけかもしれませんが気温の上がり下がりが激しくて体調を崩しかける事が多いです……。
皆さんも気を付けてくださいね。

最近一気にアラガミ化小説が増えて気分なウハウハ状態なんですが、体が追い付いてない感じです。
読む楽しみが増えて生きる気力が沸いてきてます。
やはり他の方のを読むのが一番楽しいですからね。


では、本編へどうぞ。







 

 

 

 

『贖罪の街』の中心部、プレイヤー達が何度も見たことのあるであろう場所から少し離れたビル群の間を自分は走り抜けていた。

数日前、一晩悩みに悩んで決めた事として取り敢えず優先順位を決めた。能力のスロットの枠とかがあるのかもしれないと若干気になるが、対マルドゥーク用の能力はある程度揃っているし、この能力だけでも生き延びるだけならなんとかなることも多い。

 

 

少々楽観的かもしれないが一先ずは氷属性の能力を得るためにマータ系を狩って捕食することにした。

ただ、問題なのは未だにマータが見つかってないことと、バルファ・マータとプリティヴィ・マータの見分け方である──ぶっちゃけて、アイツらの見分け方ってあるのだろうか?

 

ここでバルファ・マータについて説明しよう。

プリティヴィ・マータよりも遠距離とかの火力がアップした隙のない個体……以上!!

え?これじゃあ分からない?いやいや、これで終わりなんですよ皆さん。いや、確かに詳しい人はもっと細かい解説入るかもしれないんだが、自分からしてみればそれだけしか違いがないのだ、見た目同じだし。

 

さて、本題に戻ろう。この通りバルファ・マータというアラガミはほぼ……というか完全に?プリティヴィ・マータの上位体なのだが、見分けが付かないのである。

それはもう双子か!ってくらいには。

で、今自分が一番恐れているのはこのバルファ・マータをディアウス・ピターが連れている可能性である。作中などでもディアウス・ピターはプリティヴィ・マータを連れている光景がある。

つまりプリティヴィ・マータを探そうとしている今、ディアウス・ピターと出会う確率も上がっていて、更には発見したプリティヴィ・マータがバルファ・マータな可能性があるのだ。

 

 

しかし、今回の場合は実は群れの方が助かったりもする。それは前に捕食して手に入れたイェン・ツィーの感応能力だ。

何があったか分からないが、自分のは本来の能力よりも少し変異していてターゲットへの攻撃を『強制』させるようなのだ。たいして変わらないと思うかもしれないがこれがどっこい大きな変化で、イェン・ツィーのはダメージを与えればそのアラガミは回復するために逃走したりするのだが、自分のはそれをさせないらしい。傷付いている者に回復をするための撤退を許さないとか完全に暴君のそれであると当事者だが思う。

 

で、今は自分の他にもルインにプリティヴィ・マータを探してもらっている。

悲しい話だが現状のルインの方が走るスピードが自分の全速力より速いのだ。さらに小さいために小回りが効くため撤退しやすい。対して大柄な自分はこうやって建物の中や外から目標らしきものがいないか探しているのだ。

 

 

戦闘面で幾ら勝っているとはいえこうやってほとんど任せっきりなのは自分の精神的に来るものがある。

しかし、これの方が探しやすいというか効率が良いのだ、もし自分とルインが同時に探し回って片方が見つけた場合どうやって報告すれば良い?自分が見つけたならまだ良いが、途中でルインが戦闘に巻き込まれた場合かなり厄介なことになるかもしれない。

ならばこうして動けない片方が待っている方が集合地点もはっきりしているし、何よりルインのスピードであれば自分のいるここにすぐに戻ってこれるからタイムラグが少ないのである。

 

 

因みにこの方法で2日前くらいから探しているのだが一向に見つかる気配がない。

下手に動き回ると他のアラガミだけじゃなくて神機使いにも見つかる可能性があるし、何よりも先に述べた危険性があるので、それを避けるためなんだが……それでもこうも見つからないとそろそろ場所を変えた方が良いのではないかと思う。

あと一日はやってみて見つからなかったら変えるか……そう考えながらため息を付いていると──

 

「キュイー!」

 

……どうやら見つかったようだ。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

ルインの道案内に従いながら走り続けるとビル群から抜けた大きな広間がそこにあり、形ある時代はきっと公園か何かだったのだろうと思う。

その広間の中心には確かに目標のプリティヴィ・マータが居た……ディアウス・ピターと一緒に。

 

 

…………。

それを遠目に確認したあと、ルインに視線を向ける。こちらに視線が向いたのに気付いたルインは何故か頭を上にあげてヒレを器用にくの字に折り曲げた。

……これはあれか?「自分出来たよ!凄いでしょ!」的なあれか?人間で言うところのドヤ顔か?

 

 

うん、確かにルインはしっかりと仕事をした。それは確かだ。自分は『こいつを探してきて』と念じただけだし仕方ないとは思うんだ……だが、こうも予想通りに複数体+ピターと居なくて良いだろ……ハッ○ーセットかなんかかあんたらは。

まぁ悩んでても仕方はない。ルインには寝床へ帰っているように指示し、近くにあった建物の屋上に上り体を伏せながら様子を見る。

見たところ数はピター1体、そしてプリティヴィ・マータが4体か……初代主人公達が最初に出会った時ほどじゃないがかなりの数だな。しかもこの中にバルファ・マータが混ざってる可能性もある……と。

……というか、よくよく見てみればあのピターリメイク版の奴じゃないか?外見の特徴が自分の記憶が正しければリメイク版の方に寄っているから多分そうだと思う。

いやまぁバルファがいるならリメイク版のピターだっているだろう……とは言っても初戦でリメイク版か。

ん?いや、リメイク版のピターしかもしかしてもしなくてもこの世界に居ない?

……かなりキツいですねこれは。

 

 

 

と、まぁ前であれば無理だと諦めていたが、今はあれに対処できる力も一応ある。

それにマルドゥーク戦までに力をつけて、ある程度はこなせるようになっておかなければ手助けをするどころか神機兵やブラッド達に殺されかねない。きっと小型とかなら監視網を掻い潜って誘導やらなにやら出来るのかも知れないが今の自分は大型でセンサーに引っかかる可能性が高い。ならバレても凌げたり逃げれる程の力は最低限必要なのだ。

 

……なんか色々と無茶苦茶な事を言っている気もするが、目標ははっきりしている『マルドゥーク戦に置いてブラッドの皆を助ける、そしてそのために強くなる』だ。だから目の前のコイツらを倒して捕食するのはその一歩になる。

 

 

戦う覚悟を決めて、能力を発動。

対象はあの中で一番厄介であろう『帝王』ディアウス・ピターを選択し、周囲のアラガミへ攻撃するよう命令する。

すると、周囲を囲んでいたマータが一斉にピターに向けて攻撃を開始した。まずはピターを囲っていた2体のマータが右から左と順に襲いかかり、その体を引き裂こうとする。

奇襲は成功。右に居た個体の攻撃が命中し、ピターの右肩に傷を付けたが、それに続いた左の個体の一撃はピターの雷撃によって体ごと吹き飛ばされるという形で失敗に終わった。

 

しかし、ピターが左の個体へ雷撃を行うその瞬間に右の個体は後ろへ跳躍。するとピターが雷撃を終えると同時に後方に居た2体のマータがそれぞれ5つずつ、合計10個の氷弾をピターに向けて放つ。

しかし、ピターはそれを読んでいたのか体を回転させ後方の2体に体を向けそのままバックジャンプしながら、ヴァジュラとは比較出来ない程にバチバチと雷を迸らせる雷球を5つ生み出しそれを相殺するように放つ。

5の雷球と10の氷球、本来であれば後者が数の元に勝つのであろう……しかし、相手は帝王。

 

 

帝王が放った雷球は3つの球がそれぞれ密集していた2つの氷球を道連れにし、残りの2つは1つの氷球と相討ちになる。辛うじて残ったのは端に放たれた2つのみで、それを帝王は生ぬるいとばかりにその体で受け止める。

氷球は両肩の鎧に命中するが、少し先端が欠けた程度で対してダメージは無いように見える。

 

 

4体の女王の攻撃を凌ぐと反撃開始と言うように正面の2体へ襲い掛かろうと飛び上がるが吹き飛ばされたマータが復活し、自身の体を使い飛び上がったピターにタックルをかまし空中から地上へと引きずり降ろす。

地上へ落とされた帝王へ先程攻撃を与えたもう1体が氷の柱を飛ばしマントの1つを中から真っ二つにする。

落とされてマントを1つもがれた帝王はダメージを受けながらも即座に体を起こすと、地面から赤白い光を放ちながらマントを収納し、その代わりに蝙蝠の羽の骨組みのような……しかしそれよりも遥かに禍々しい翼が姿を表す。

 

 

そして帝王たる己を地に尽かせた愚かなる女王に向けて駆け、接近するとその翼で体を切りつける。

切りつけられた女王は絶命し、フラっと地に伏せる。

そして警戒する3体へと向き直り、跳躍を開始するがこれ以上戦力を減らされても困る。

 

 

ピターが通るその下から神属性の炎槍を突き出し、腹から貫こうとしたが、少しタイミングがずれたのか槍は腹ではなくピターの正面に突き出てその顔に垂直の傷をいれる。

自身の苦手な属性だからか飛び掛かるのをやめて、直ぐに着地したピターは苦しそうに翼で顔を覆う。

その間にビルの隙間へマータを運び直ぐ様捕食する。この時ばかりは神速種で良かったと思う。

味は申し訳ないが分からなかった。

 

マータを殆ど捕食し、顔を覗かせるとそこには倒れた1体のマータと、互いに距離を置いて共倒れをしないようにしている2体のマータ。そしてそれを見つめる黒の帝王ピターが居た。

 

 

……目標は既に達成しているんだが、今後ピターと出会う確率を考えると今ここで倒して捕食しておいた方が良いだろう。次に会うときの供回りが減っているかもしれないしな。

さて、そうなればさっさと準備を始めないとな。

自分はそう言いながらマントから神属性の炎球と、左手に炎槍を作り出しながら奇襲の準備を始めるのだった。

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き本当に有難う御座います。

個人的にはリザレクションのピターさんは好きです。
でもピターさんリメイクするならバルファ・マータさんももう少し外見変えて欲しかったですね……、まぁ私開発者でもなんでもないただの一般人なんでこんなこと言うのもアレなんですけどね。

さて、今回は前後編です。
書く気力がありませんでした、すいません。
最近ここのあとがきをディスガイアっていうSRPGの次回予告風にでも使おうかと思ったんですけど、ネタが切れそうなんで考え中です。


では、また次のお話で。


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第31話 紫白の支配者 VS 神翼の帝王

どうも皆様、黒夢羊です。

この前友人から例年通り種芋を頂いたので、自宅の庭で今年も栽培したいなーと思う次第です。
それはそうと前回も言ったんですがアラガミ化小説が4つ?程最近上がってきているので、本当に楽しく読んでます。私なんかよりよっぽど面白いので是非読んでない方は読んでみてください。


それでは、本編へどうぞ






 

 

 

ディアウス・ピターが、翼を広げ2体のうち片方のマータへと攻撃を仕掛けようと駆け出すのと同時にマントから20程の神属性の炎球をピターに向けて放つ。

先程の炎槍で警戒をしていたのか球がもう少しというところでピターが振り返り右の翼で6球程打ち消すが、それでも数はまだある。

 

14の神炎球がピターの体に命中していく。流石に弱点だった為に効いたのか、ピターが苦悶に満ちたような唸り声を上げる。そして、そこを逃さないように自分はビルの上から跳躍し、マントをブースターとして扱いピターの背中目掛けて一直線で加速する。

ピターの背中が目前に迫ると、左前足と左後ろ足の付け根に両足を置いて体を固定しつつ加速したスピードで横へぶっ飛ばしながら左手に作り出していた炎槍を深く、背中から腹まで貫通するよう力を込めて突き刺す。

体の肉質が硬いのか、それとも炎が実態ではないからなのか全て刺さるわけではなく、どちらかというと接触した部位を溶かして刺さっていったように感じた……因みにこの間約十数秒。

 

激痛が走った為かピターが暴れるので、コイツの背中を踏み台にして離れる。いまの自分だとコイツの翼はくらってしまうとちょっとシャレにならない。

背中に大きな痛みを負ったピターがこちらを睨む……改めて思うのだが人面獣体のアラガミほど気味悪いものはないと思う……ぶっちゃけ最初にマータとピターを見たときには恐怖とかよりも気持ち悪さが勝った。

今ではそこまでじゃないが、こうして実際に対面してみるとその気持ち悪さが蘇ってきそうだ。

 

そんな考えをしているとピターがこちらに駆けてくる、今いる2体よりも自分の方が危険と判断したらしい……まぁ一応神属性持ちですしね。

ピターの翼から放たれる一閃を横に大きく逸れることで回避し奴の足元に複数の炎槍を発生させ、敢えてそれを避けさせようとする。こちらの予想通り炎槍をピターはバックステップで避けたので、その着地するであろう予想地点の周囲に炎で出来た鎖……とは言うには少々不格好な先が分銅のような形で出来ている紐を無数に作り出し地面に着地したピターに絡み付かせ、拘束する。

 

「グオアァアアアアアア!?」

 

紐状の炎がピターの全身に強く食い込み、その身を焦がして行く……このままで終われば良いと思っていたが、そうはいかなかった。ピターが翼を振り回しながら暴れ、炎から逃れてしまった。

やはり炎に実体がないからダメージだけしか与えられないか……どうにかして実体を持たせることができたら良いんだが。

縄文土器のように全身に紐状の火傷を負ったピターは完全にこちらに集中しているため、気付かない。後ろから女王が襲い掛かっている事に。1体のマータがピターの背後から前足で帝王の体に傷をつける。

未だに残る敵の存在を忘れていたのだろう……だから、そちらに気を取られて、近づいているこっちに気付く事が遅れた。

 

 

持ち前の速さでピターに接近すると、コイツの一番の武器であろう一対の翼の内右側を右手を掴み、左手の炎剣で根元から溶断する。

 

「グ……グオオオオオ!」

 

「ガァ!?……グゥゥウウウアアアアア!」

 

やはり隙が出来たのか、ピターに残った左の翼で横腹を切りつけられてしまう。切られた箇所が異常な熱さと痛みを訴えるが、溶断した翼を投げ捨て自身切りつけ未だに体に食い込んでいる翼を掴み、先程同様に溶断するし、苦しむピターの顔面を蹴り飛ばし後方へ吹き飛ばす。

……咄嗟に攻撃に転じられたのは良かったけど、痛みにそろそろなれないとな、攻撃を食らう度に怯んでちゃ良いマトでしかない。吹き飛んだピターに向かってマータ達が追撃をしようと向かうのを確認すると先程投げ捨てた翼を回収して口に運ぶが、こんな時もこの翼を使えるようにと願うのは忘れない。

翼を捕食し終えると、回復に回す栄養を手に入れた為か傷口の熱と痛みが収まる速度が早くなったのを感じる……つくづくこの回復速度には助けられる。

 

 

まだ痛みはするが動くには充分だ。最大の武器である翼を失ったピターにマターが2体がかりで交互に攻撃を仕掛けており、じわじわと先程まで己達を圧倒していたピターにダメージを与えていっている……まぁそれも微々たるものなのだが。

 

2体が善戦している間に半分消えかかっているマータを頂くことにする。

こうも大型の……しかも接触禁忌種を捕食できることなんて数ないだろうから確りと自分の力にさせて貰おう。卑怯とでも何度でも言ってもらって構わない、こちらは自分が生き残るのに必死……弱肉強食の世界で生きているのだ。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

ご馳走でした……さて。

 

 

閉じた目を見開き二種類の鳴き声がする方向へと視線を向ける。そこには帝王の威厳はどこへやら、体の所々が欠けて見るからにボロボロのディアウス・ピターとこちらもダメージは追ってはいるが軽症のマータが居た。

 

……正直驚いた。結果的には今の状況と真逆になっていると個人的に予想していたのだが、それを良い意味で裏切ってくれたのは嬉しい。

完全に癒えた体を起こし両腕に炎剣を、自身の周囲には無数の炎球を作り出して堕ちた帝王に向けて走る。暫くの間放置していた為に距離が開いており、その間を埋めるために炎球をピターに向けて一斉に放つ。

 

 

ピターは炎球を避ける手段が自分の思いつく限りだが、己の体を動かすか広範囲の雷撃による壁を作るの2択。

だが、その両方はマータによって邪魔されることは必須だろう。しかし、しないわけにはいけない。

結果帝王がとった行動は雷撃を自分の周囲に向けて放つ──であった。その結果炎球の殆どは撃ち落とされてしまい、残りの数発も近くに居たマータに当たってしまう。

 

まぁ仕方ないよな?スピードを調節して雷撃が止んだ直後のタイミングで接近し、無防備のその顔に炎剣の乱舞による無数の傷を刻み込み、怯んだところに右ストレート!そして回し蹴りで体制を崩させ、下からのアッパーで顎を捉え体ごと浮かせる。

チラリと見えた人で言う胸骨よりも少し上部分であろう場所へ向かって両手を添え──直後、一瞬貯めた炎を掌の1ヶ所から弾丸のように発射するイメージで放つ。

 

 

放たれた神炎の弾丸は見事に帝王の体を貫くと同時にその命を奪い取る魔弾ともなった。

弾丸を受けた衝撃で後ろに倒れ、そのまま仰向けになって倒れたピター。自分は次の攻撃が来るかと警戒して以前炎剣を作りながら待っていたのだが、ピターはそれ以降動くことは無く。幾つか攻撃を与えたが、それでも動かなかった為に絶命を確認した。

 

と、同時に後ろから咆哮が聞こえる。

振り替えると2体のマータが此方を警戒しながら唸り声を上げていた……ああ、対象が死んだから効果が切れたのか。

ならばと能力を再度発動。対象は2体の内左のマータにし、攻撃を開始しろと頭の中で命令する。するとピターの時同様に右のマータがいきなり襲い掛かる。

まさか味方に襲われるとは思っていなかったのか見事に猫パンチ…もとい前足での一撃を食らってしまう。そしてそのまま2体は戦いを続けるが、それを食事しながら眺めるつもりは一切無い。

 

 

2体を照準を当て無数の炎球を作る。今度は神属性を乗せないようにして……だ。そして、2体が丁度近づいたところを狙って一斉に発射。

球は見事に前段命中し、2体のマータはその体を地面に付き動かなくなるが、何時ものように念には念をで炎槍を作り2体同時に突き刺すと左側のマータが叫び声を上げた、うぉ……生きてた。ただ、その叫びも死に際の断末魔だったようでその後は一切動くことは無くなった。

 

 

うーん、やっぱりピターで沢山消耗してくれたのが助かったな……ピター万歳、マータ万歳。

さーて、ピターを持ってきて食事といきますか。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

──ふぅ、御馳走様でした。

流石に大型5体……正確には4.5体くらいか?は腹に来るな、今回は前みたいに常に動き続けた訳でもないしな。

因みにピターは最上級の牛肉?のステーキみたいな感じだった、ただ自分が3つ星レストランとかA5ランクの肉食ったこと無いから分からないけど。

なんであんなに硬い体してるくせにこんなに柔らかいんだろうな……いや、死んだ後だから筋肉が弛緩したとか?まぁ別にそんなことはどうでもいい。

 

マータはなんと言うんだろうか……シャーベットの味がした。シャーベットって言い方は可笑しいかもしれないが食感が肉で味が……アイス?シロップがかけられたかき氷とかのああいうところの味……まぁかき氷のシロップって全部同じ味なんだけどな!

でもかき氷も違うよな……んー、何が最適解なんだろうか……あー!あれだ。鹿児島県発祥の白○まアイス。

味はアレに近いと思う、食感肉だけど。

 

 

そんなこんなで食べた肉の味と似ている味を自分の記憶の中から思い出していると、足音がした。

すわっ!何奴と思いそちらを見るとそこには壁に張り付きながら此方を見ている一人の男性が。

 

……迷子かね?いやでもそのわりには神機使いとかと同じ装備がしっかりしているようなしてないような……いや、それよりも滅茶苦茶こっちを見て怯えてるよね?

まぁ、自分も同じ立場だったら絶対に怯える自信がある。見てたかは分からないが接触禁忌種……しかも3体も倒れていて、さらにそこに1体だけ生きていながらそれを貪る大型のアラガミ……うん。原作の主人公とかならともかく普通の神機使いは逃げる。

 

うーん、あの人の硬直というか震えを解くなら自分がここからスタコラサッサとした方が良いのだが、他に仲間は見受けられないようだしこのまま消えたらアラガミにパックンチョされないだろうか……?

そうして顎に手を当てながら悩んでいると、いきなりその人が通路から広場へと出て来て腕輪をこちらに見せて来た。

 

 

……ん?なんだ?神機は……無いよな?

でもあの腕輪は神機使いがつけるモノだ……ということはアラガミとの戦いで壊れたりしたのか?それで回収して貰おうとここを回収ポイントにしていたら自分達が居て動けなかったと、それでどうしようかと悩んでいたら多分自分が神機使いを避けていることを知っていて、それでこれで追い払えるかな的な賭けに出たのか。

 

 

あーそれは本当に悪いことをした!

よし、さっさとここを離れるとしよう。それにブラッドや他の神機使いが来るかもしれない。

そうなったらこっちが圧倒的不利になるし、何よりもこっちの対策は確りと取っているだろうから、今度あったら確実に半殺しくらいにはなりそうな気がする。

と言うわけなんで……逃げる!!

 

 

 

 

 

 

その後、帰りが遅いことを心配していた(ように思える)ルインが自分からくっついて離れなかったのでその後はぐっすりと寝ました。

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、有り難う御座いました。

最近3でひたすら灰域種を狩っているのですが、自分の立ち回りが改善しないのに絶望しています。
ついつい攻撃が当たるところに飛び込んじゃったりしてしまってダウン……とか良くある話で。
避けたと思った捕食攻撃も見事にヒット!灰域種がバースト……とかも。

もっと上手くなりたいですね。


では、また次のお話で。


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第32話 偵察班の男は静かに暮らしたい

どうも、皆様黒夢羊です。

最近気温の変化が激しすぎて体調を良く壊してしまいます……今も鼻水とくしゃみと涙が止まらない……ってこれ花粉症ですかね?
皆さんも体調を崩したりしないように気を付けてくださいね?あとそろそろ地獄の季節が来るので私と同じ花粉症の方は頑張りましょう!


では、本編へどうぞ。







 

 

偵察班──それは読んで字の如く、偵察を己の任務とする部隊。決して表舞台に出ることはなく、英雄達を影から支える立役者……何てご立派なものではない。

少なくとも偵察班所属のゴッドイーターである、俺─ルドガー・ロックヘッドはそう思っている。

 

 

 

そう……そう思っているからこそ、もう自分以外全滅した部隊の仲間の分も含めて、こんな状況に陥らせた原因のフェンリルに向けて少し震えた声で毒を吐く。

 

「本当にクソッタレな職場だぜ……なぁ?」

 

お前らもそう思うだろ──そう目の前の人面の獣達に対して言おうとしたが、その声は群れのリーダーであろう黒い獣……ディアウス・ピターの咆哮にかき消される。

インカム等をして耳を塞いではいるがその音は強く響きキーンという耳鳴りがするのに加えて、真正面に立つ自分には咆哮による空気の揺れなのかビリビリと衝撃のようなものが感じられる。

そしてそんなディアウス・ピターに付き従うように後方から此方を見ている4体のこれまた人面の獣。ディアウス・ピターとは体つきは同じだが前者が意地の悪そうなジジイの顔に対して、こちらは女神像の顔を少し不細工にした感じである。それに加えて体毛やマント色など所々が黒いあちらとは異なる青い人面獣。

 

 

その名はプリティヴィ・マータ。

ディアウス・ピターが天空の帝王であるのならばプリティヴィ・マータは地上の女王であろうか。

そんな仰々しい名を持つ奴らが俺の目の前にいるのは、つい先程のことだ。俺らは『贖罪の街』にて最近話題のアラガミである特異種を目撃したという情報の真相を調べるためにやって来ていたのだが、そこへ何処から現れたのか突如コイツらが襲撃。連中達から少し離れた所で痕跡などを探していた俺以外は皆揃ってアイツらに殺されてしまった。

 

最悪なことに死体をいたぶる趣味でも持っているのか足元には仲間達だった死体が転がっており、自分の気が付かない間に何回か弄ばれたのだろうか、体の損傷が全員激しく、何体かは腕と胴体が分離しているのもあった。

辛うじて神機を持っていた俺は仲間の元へ戻ってきた時に不意打ちに近い形で放たれた雷撃を間一髪防ぐことができたが、それでも相手は接触禁忌種。

その威力はヴァジュラの比ではなく防いだというのにその雷撃が俺の体を焼き、今に至る。

 

 

しかし、痺れを切らしたのかディアウス・ピターがこちらに向かって大きく跳躍しまともに食らえば見事に3枚下ろしにでもされるであろう鋭い爪を持つ前足で此方を切り裂こうとする。

体が悲鳴をあげている為に生半可に避けようとすると間違いなく上か下に致命傷を負う、しかし装甲を展開し己の身を守るのも良いだろうが、それでも今の装甲では防げるかどうか……。

 

一瞬の間、これ以上選択が遅れれば死に繋がるだろう──そんな中で俺が選択したのは。

 

「クソっ!!」

 

展開した神機の装甲が帝王の一撃を防ぐ……が、その衝撃までは防ぐ事が出来なかったようでそのまま後ろに吹っ飛ばされ、背中からビルに激突する。

……今ので骨が何本かイカれたか?こんなことなら装甲は頑丈なタワーシールドにでもしとけば良かったな。

そんな今さらどうしようもない後悔をしながら目の前に迫る巨大な口に喰われるのを──

 

「キューー!」

 

「……は?」

 

直後に来るであろう痛みを堪えるために俺が目を瞑った直後、この場に似つかわしくない小動物のような声が聞こえ、つい間抜けな声が出てしまった。

おそるおそる目を開けると、俺を喰らおうとしていた帝王サマは俺から視線を外し己の後方……俺の視界の先へと視線を向けていた。そしてその先には白い体を持つアバドンのようなアラガミが依然として高い声で鳴きながらくるくると回っていた。

 

 

ボロ雑巾の俺よりも希少なコアを持つソイツに興味を抱いたのか、帝王サマは叫び声を上げ白いアバドンに襲いかかったが、当の攻撃された白いアバドンは尋常じゃない速さでそれを軽々と避け、まるでディアウス・ピターを挑発するように2~3回鳴いた後に奴らにお尻を向けフリフリと振った。

 

人間で言えば明らかに小馬鹿にした態度に帝王と女王達がキレない訳がなく、5方向からの無慈悲な雷撃と氷球と氷柱が襲い掛かるがそれら全てをまるでお遊びと言うかの如く避けきる白いアバドン。

帝王達の一斉攻撃を避けきったと思いきや先程同様に挑発するかのようにディアウス・ピターの眼前まで行き笑ったかのように「キュ、キュ、キューー」と鳴いたかと思えば直ぐにマータ達の隙間を縫って離脱し、俺の視線の遥か前方でもう一度鳴く。

 

 

2度も小馬鹿にされた帝王達が取った行動は、自身のプライドを傷つけた愚かなアラガミに死を持って償わせる事らしく、俺を放っておいてそのまま白いアバドンを追いかけていきやがった。

 

残ったのは、死に損ねた俺と半壊状態の神機……そして仲間達だったもの。ここで救援を待つのもいいか……?インカムは……まだ動くか。なら、やることは1つだ。

俺はインカムを起動させ雑音だらけの音の中から心配しているであろうオペレーターの声を拾い上げる。

 

『──!──!応と──さい!』

 

「あー、ヒバリちゃん。こちらロックヘッド」

 

『!?ロッ──さん!!』

 

耳障りな電子の砂嵐の音のせいで何を言っているのか全く分からないが、恐らくこっちを心配しているのは分かる。だから、短く結果と目的を伝え行動を起こす。

 

「4体のプリティヴィ・マータを連れたディアウス・ピターの襲撃が発生。俺以外は死亡、そんで持って妙なアバドンが出現し、ディアウス・ピター達はそれを追っていったみたいだ」

 

『そ──!?』

 

「今俺がいるのは分かってはいると思うが『贖罪の街』のN地点を中心としてAを南とした場合の北西部8kmぐらいの少し広い広場だ」

 

「そして、俺はこれからディアウス・ピターと妙なアバドンの捜索を続行する」

 

その一言を発した途端に向こうの空気が変わったのを感じる。分かりやすいなぁヒバリちゃんは……。

まぁ、そこが良いらしいんだが?

 

『!?──ックヘッ─ん!無茶─す!』

 

「取り敢えず増援と回収部隊を要求する。相手は接触禁忌種の群れだ、死ぬことのないメンツにしておいてくれよ?」

 

そう言ってこちらから一方的に通信を切る。

砂嵐が煩くってなんのっての……さて、行くとするかね?回復錠を5つ一気に口へと運び、噛み砕く。

急速に体の痛みが和らいでいくが、それでも和らぐだけで折れた骨までは完治とは行かないようだ……。

 

しっかしまぁ、この状態で追跡なんてヤキが回ったかね?知らず知らずの内に社畜根性がついてしまったのかも知れないな……。

思わず苦笑いするが、いや違うなと首を降る。

仲間達の死を無駄死にしたくないだけだ。俺が死んでしまってはどうしようもないかも知れないが、それでもあのアバドンの情報を持ち帰ればきっと何かの役に立つだろう。

念のために録画機器のチェックを行い、まだ使えることを確認すると、俺は地面に残った巨大な足跡という痕跡を元に追跡を開始するのだった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

痕跡を辿り俺はディアウス・ピター達を発見したが、そこには帝王と女王の他にももう一体、下手したら前の2体よりもヤバい奴がそこに居た。

ハンニバル特異種。ハンニバルの変異種である神速種が変化したらしい個体。先の超巨大赤乱雲の際にも出現が確認された事で赤い雨との関係性を疑われてるらしいが……。

そんな特異種が……いや、特異種と敵対している筈のプリティヴィ・マータがディアウス・ピターと戦っていた。どういう事だ……?先程は確かにディアウス・ピターに従っていた筈だが……。

何もかくにもこの状況は残さなければ。俺は録画機器を再起動させ、その光景を壁を背にしながらその光景を撮り続けた。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

あれから少し経過したんだが、結果だけ言おう。

ディアウス・ピター及びプリティヴィ・マータ4体全てが特異種によって倒された。俺の証言だけを聞いたらまさかとは思うだろうがこの映像が何よりの証拠だ。

何よりもあの特異種、どうやったかは知らないがプリティヴィ・マータを使ってあの群れの中で一番強いディアウス・ピターを仕留めにいきやがった。そんでもってディアウス・ピターに殺られた個体とかを回収して、戦いは他の奴らに任せて自分は捕食と来た。

 

 

かといって弱い訳じゃねぇ、確実にあの中でアイツが1番に強いだろう。何よりも厄介なのがディアウス・ピターを倒し終わった後に残った2体のプリティヴィ・マータを同士討ちさせたって事だ。

何が起きたかは分からないが突然2体が特異種を警戒し始めたと思えば片方がもう片方を襲い初めて同士討ちが始まった。そこを特異種が2体にトドメを刺して美味しいところを全部かっさらった……。

 

 

今特異種は広場の中心で食事を終えて満足げにしているが、いつこちらに来るかわからん……この映像を届けるためにもさっさとズラかろう……。

と、その時。ビビっていたからかなんなのか分からないが、足元にあったコンクリートの破片を強く踏みつけてしまい、思ったよりも大きな音が出てしまった。

 

……おそるおそる特異種の方を見ると、完全に此方を見ていた。確実に俺がいることに気がついているのだろう。

特異種は人を今まで襲ったことがないとされているが、そのどれもがゴッドイーターだったからだ。奴がゴッドイーターと認識しなければどうなるのかはいまだに不明で、つまり今自分はかなりピンチであるということ。

 

 

どうする……神機は半壊しているから、これを見せれば逆に警戒対象から外れて襲われるかもしれない。かといってこのままだと言うわけにも行かない。

少し悩んだ末に俺は博打に出ることにした。

神機を壁に隠して特異種に姿を見せる。顎に手を当てて、まるで人間が考え事をしているような行動を取っている特異種の視線が直接自分に突き刺さる。その視線を振り払うように自分の右腕を特異種に向けて見せつける……いや、正確には右腕についているゴッドイーター特有の赤い腕輪をだ。

もし、もしも奴がゴッドイーターを認識しているのであれば神機だけでなくこの腕の赤い腕輪も認識のひとつに入っているのではないかという希望的観測に基づいた大博打。

 

 

時間だけが過ぎていく……特異種は何かを値踏みするかのようにジロジロと俺を見た後に、慌ててその場を離れた。

……どうやら賭けには勝ったようで、それを理解すると思わず腰からへたり込むようにして地面に腰を降ろす。体がその時に悲鳴を上げるが今はそんなことはどうでもよかった。

 

 

……助かった。

 

 

そう、生き延びたのだ。自分勝手な行動とはいえ、あの特異種とディアウス・ピター達から。

何とも言えない気持ちになりつつも、無駄死にはならなかったこと。これで、今回の任務にも意味が生まれて、アイツらの死が無駄ではないと証明できたのではないか。

まぁ……なによりも

 

「本当に……クソッタレだよな」

 

それは自分の所属するフェンリルに対して、そして同時にこんな生活を強いるこの世界に対して、俺は何時ものように毒を吐くのであった。

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、有り難う御座いました。

安定の支離滅裂文章クオリティですね。
本当にすいません。
一応次回は榊博士と主人公回になります。
主人公はどんな能力を手に入れたのか?果たしてロックヘッドが持ち帰った映像は榊博士に何を考えさせるのか?


ではでは、また次のお話で。


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第33話 勘違いは時として真実となる

どうも皆様、黒夢羊です。

ついに、ついに10万UAを突破しましたー!!
有り難う御座います!本当に有り難う御座います!!
嘘かと思い頬を実際につねりましたが痛かったので夢ではないと思いたいです。

これからも自分なりにこの作品を頑張って書いていきたいと思っているのでどうかよろしくお願いします。


では、本編へどうぞ!!






 

 

 

 

何時ものように目覚まし時計のように耳元で聞こえるルインの声で目を覚まし、体を起こす。

体の方には違和感は感じず、前に起きた体を蝕むような激痛は今のところ感じていない……ということは、やはり感応種を捕食した事があの激痛のトリガーだったのか?

感応種は通常のアラガミとは何かしらの骨格やオラクル細胞の構造が違うのかもしれない……だから感応種ではない自分が感応種を捕食し、その力を得ようとしたら自分の体が適応せずに悲鳴を上げたとしよう。

 

そうすると自分がイェン・ツィーの能力を手に入れた際に、本来の能力から変化していたのも、自分の体では感応能力を扱うことができないから無理矢理それっぽい能力に作り替えたと考えられるんじゃないか?

 

 

現につい最近発生した超巨大赤乱雲の中で長時間活動をしていても痛みは起きなかった。つまりあの激痛は赤い雨の影響ではないと考えられるだろう。ならばやはり、あの激痛の正体は感応種を規定数捕食したことによる一種の成長痛のようなものだろう。

ついでに言うとあんだけ赤い雨を浴びておきながらスパルタクスにならない事も少し疑問だが、ひょっとすると感応種を捕食したことで自分のオラクル細胞が少し変化していたのかもしれない。

 

 

赤い雨は確か特異点を作り出す為に産み出されたシステムとかなんとかと聞いた覚えはあるが、詳しくは覚えていないので確証はない。だが、自分が雨に濡れても感応種へとならないのは感応種を捕食したからなのだろうか?

……いくら考えたとしても赤い雨が感応種へと変える基準が良くわからない以上、あまり赤乱雲の発生時に外に出るのは控えた方が良いだろうな。

 

 

それよりも新しく頂いたプリティヴィ・マータとディアウス・ピターの力を試すため&今日の自分の飯のために手頃なアラガミを探しに行くとするか。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

……この世界に来て何回目か分からない困惑を今自分は感じている。

順を追って説明をすると、まずは手頃なアラガミを見つけるために辺りを散策していると、これまた都合の良いようにヴァジュラが居たのである程度近づいてからプリティヴィ・マータから得られたと思う氷を生成する力を使うイメージをしてヴァジュラの腹の辺りに氷山のようなものを作ろうとしたのだが、するとアラ不思議。

 

プリティヴィ・マータのそれとは比べ物にならないサイズの氷の山が下から現れヴァジュラの腹を貫き、貫通したのだ……え?ピターやマータのように硬化したりしないとは言え大型の腹を貫通するって……えぇ……?

呆然としていると、貫かれたヴァジュラがそこから脱出しようと踠いているのが目に入り我に返る。どうやらまだ息はあったようで、苦しい声を上げながらも必死に何とかしようとしている。

 

その光景に少しだけ申し訳なさが浮かぶがそれも直ぐに消える。それは自分が人間だったからか、それとも命を奪うことに慣れてしまったからか。

 

それは分からないが、せめて速く終わらしてやろうという歪んだ優しさがあることは確かだ。氷の山のヴァジュラの内部に突き刺さっている部分を木々の枝のように変形させ内部から突き破るように、飛び出させる。

一際大きな絶叫を上げたヴァジュラは声が段々と掠れていき、やがてぐったりとその頭を垂れた。先程まで必死に抵抗していた足もブラブラと空しく揺れている。

 

 

 

 

そして、今に至るのだが……はっきり言ってプリティヴィ・マータの比ではない威力だと思う。いや、下手したらバルファ・マータすら凌駕しているのではないか?

いやいや、落ち着け自分。それはちょっと自惚れが過ぎると言うものだ……そう、プリティヴィ以上バルファ以下の威力だと考えよう。

いや、それでもこの威力は少々可笑しいんじゃないか?プリティヴィを捕食したにしては威力が上がっているのも不思議だし、かつバルファを捕食したなら威力が下がっているのも謎だ。

 

……いや、もしかしてあれか?プリティヴィを複数体捕食したから威力が上がったとかそういう感じなのか?

大型の能力を手に入れるのに1体捕食すれば得られると現状は考えているが、それを越えて捕食したのならその能力が上乗せされるのか?

現にあの時は全てのマータを捕食していた時に氷の生成する能力を得られるように考えていた……つまり手に入れた能力が+4だか×4だか分からないが、加算されたのだと考えれば今の氷山の威力にも納得が行く。

 

 

と言うことは同種、もしくは同属性の攻撃を行うアラガミを食べれば攻撃力は増加する……?

……もし、そうであるならばこれからの捕食するアラガミ全てを厳選する必要があるのでは無いだろうか?それに自分の炎を強くするためにはハンニバルを探さなければいけない……と。

 

…………マジですかい?

自分の中で思い浮かんだ新たな仮説にため息を付きながらも、その仮説を試す為に眼前に絶命し、地面に伏せているヴァジュラを捕食するべく自分は再び動き始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

極東支部局長であるペイラー・榊は先日接触禁忌種であるディアウス・ピター及びプリティヴィ・マータの襲撃から生還した偵察班のルドガー・ロックヘッドが提出した撮影用機材に記録されていた映像を見ながら最近増えたと言われるため息を吐いた。

 

 

その映像には最近特異種らしき影が観測された地域を調査している際に、突如現れたディアウス・ピターが映され、直後映像が乱れる。

少しして画面が暗闇から回復すると、機材自体が横たわっているのか、画面が横になった映像が写し出されて画面右を振り替えるディアウス・ピターが占拠していて、空いている画面左から見える画面の奥に、極東支部で目撃されたアモルと酷似する体色を持つ白いアバドンがピターを挑発するように動き回り、逃げていくまでの過程が映されていた。

 

そして暫く暗転した後に再び起動した時には、レンズが捉えるその先にはプリティヴィ・マータ達と共にディアウス・ピターを追い詰める特異種の姿が。

そしてそれから暫くしてディアウス・ピターを仕留めると、突如特異種を突如警戒しだす2体のプリティヴィ・マータ。しかし、特異種が視線を向けると突如片方のプリティヴィ・マータが襲いかかり、2体が密集しているところに特異種がトドメを刺した。

 

最後にロックヘッド君の腰に付いた状態の機材が彼を値踏みするように顎に手をやりながら眺めた後に撤退した特異種の姿が映されていた。

 

 

 

 

……この映像を見て私は確信した。

特異種は確実に我々人類を脅威と認識しなくなっていっている……ッ!

 

切っ掛けは何時だったのか、ブラッドの皆との交戦か?それともジン君達と遭遇した時か?いや、あの超巨大赤乱雲の際か?いや、もっと前からかもしれないし、つい最近かもしれない。

ただ、相手がゴッドイーターだと認識しなければ逃げなくなっているという点はかなり問題だ。もし仮にアラガミを神と崇める宗教団体の団員と遭遇してみろ、間違いなく捕食されるだろう。

更に言えば人間を捕食し、それをノヴァの残滓の影響で解析されてしまえば人間の知識を得ることに……ん?

 

 

人間の……知識を……?

 

 

 

……………………………………………

………………………………

…………………

…………

 

 

 

……いや、特異種は既に人間を捕食しているのではないか?

 

今までの資料を見てみる。そう、特異種は1度も人間を捕食したことがない。しかしそれは資料での話だ。もし、過去に迷子になった子供や、戦死したとされるゴッドイーターの死骸を捕食していたとするのなら。

今までこちらの動きが読まれているかのように姿を見せなかった事も。そしてゴッドイーターを発見すると逃走することも……全てとはいかないが、殆どの事に当て嵌めれるのでは無いか?

 

改めてブラッド達と特異種の戦いを見直してみることにする。するとスタングレネードを警戒するような動きや仕掛けられたホールドトラップをまるでそれが何か分かっているかのように回避した動き。

これらがもし神機使いを捕食した事で得た知識から来る行動なら説明がつく。

 

 

更に、気になるのは白いアバドンの正体だ。

自分よりも遥かに巨大なアラガミに対して挑発するかのような行動、そしてその攻撃をすべて避けきる尋常ではないほどのスピード。

体色からしてハンニバル神速種を彷彿とさせるが、特異種と何かしらの関連性があると考えて間違いないだろう……何故ならこのアバドンを追いかけたディアウス・ピターの先に特異種が現れたのだから。

 

 

私が現在考えているのは擬似餌説。

釣りに使われる擬似餌のようにあのアバドンが餌となるアラガミを誘導する。そして、待ち構えていた特異種がそれを襲撃し、複数であるならば偏食場を発生させて1体を集中して攻撃させる。

対象が死亡すると偏食場は解除されるようで、ディアウス・ピターが死んだとほぼ同時にプリティヴィ・マータ達が特異種を警戒していたと言うのはそう言うことだろう。

 

 

最後に今回特異種はディアウス・ピターとプリティヴィ・マータを捕食したことで最低でもプリティヴィ・マータの氷を生成する力を付けたことだろう。

この時点で特異種は元の神属性に加え炎、氷、雷の全属性を使うことが出来る個体へとなってしまったと言うわけだ……。

ゴッドイーターを狙わなかったのは我々からの警戒の視線を向けさせないためか、何にしろ特異種は着々と力をつけ始めている……これは特異点としての力が高まって

いると考えられ、観測史上三度目の終末捕食が起こされる日も近いかもしれない。

 

しかし、現状特異種に戦力を割けば間違いなく極東支部は危機に陥ってしまうだろう。それだけ感応種の影響が強いのだ。寧ろアラガミを率先して捕食している特異種を討伐すれば被害が増えることだって考えられる。

前のように確実にジョーカーを引かされるような気分に陥るこの状況。これも特異種……いや、アラガミ達の策略とでもいうのだろうか?

 

 

 

 

 

だが、特異種がもし人を捕食していて、人の言葉……いや、人の行動を理解できるのであれば。

諦めかけていた自分の理想の光景が脳内で再び蘇るのを彼は感じていた。

 

 

 

 

だが、それでも警戒を解く訳にはいかない。

榊博士は手元の機械を動かしながら何かを執筆していくのだった。

そして後日、極東支部のデータベースには以下の情報が掲載され、共有されることとなる。

 

 

 

《ハンニバル特異種》

 

素材名 : ???

 

攻撃属性 : 炎・氷・雷・神

弱点属性 : 不明

 

結合崩壊部位 : 既存種と同様とみられる

 

 

【概要】

極東支部にて観測されたハンニバルの変異種であり第一種接触禁忌種。

本個体は数年前にフェンリル独立支援部隊所属の雨宮リンドウが交戦したと思われるハンニバル神速種が何かしらの要因で変異し、復活した個体と思われる。

 

 

本個体は外見的特徴としてまず神速種と同様の体色に加え、通常片腕にしかない籠手が両腕にあることに加え太腿に当たる部位がシユウ神属のものと酷似しており、そしてヴァジュラ神属にみられるマントと同様の器官が背部から見られる。

また、このアラガミは捕食したアラガミの特性や攻撃属性等を吸収することが出来るため、前述の外見も該当するアラガミを捕食したことで得たものと思われる。

 

 

主に通常のハンニバル同様体術や炎を武器のように扱い攻撃してくるのだが、その速度が通常よりも遥かに速いこと。そして属性が炎の他にも3属性が追加されていることを覚えておかなければならない。

また、通常のハンニバルよりも炎や他の属性に扱うことに長けており観測されただけでも

 

・炎を縄状に変形させ攻撃対象を締め付ける。

・離れた距離から動作なしで属性に応じた槍等を出現させる

・ヴァジュラ神属のように属性に応じた、もしくは2つ以上の属性を含めた球を生成し、放ってくる。

 

等があり、近~遠距離に対応しているためこれと言って有利な距離がない。

 

 

更にこのアラガミは尋常ではない程の回復能力を有しており、結合崩壊を発生させても一定時間の経過及び他のアラガミを捕食することで、結合崩壊部位を回復させる事が出来る上に、ゴッドイーターが使用するアイテムについての理解を示しているようであり、現在判明しているだけでも【スタングレネード】と【ホールドトラップ】は仕掛けても通常では回避される事が判明している。

 

 

上記の事からこのアラガミは現在の極東支部では討伐が不可能と断定されており、更に『ゴッドイーターに対しては今のところ敵対する事はない』と判断されているため、発見したとしても直ぐ様に攻撃を行うことは禁止されている。

 

しかし、万が一このアラガミと戦闘を行うことになったとすれば全ての物資、戦略を駆使して逃走することが現状で考えられる中で唯一生存できる方法である。

 

 

また、このアラガミが現在捕食していると思われるアラガミのリストを掲載するので、ゴッドイーター及びオペレーターは随時目を通して置くように。

 

シユウ神属

・シユウ

・セクメト

・イェン・ツィー

 

ヴァジュラ神属

・ヴァジュラ

・ディアウス・ピター

・プリティヴィ・マータ

 

 

 

※またこのアラガミが出現した付近で白いアバドンが目撃されており、もし該当するアラガミを発見したとしても追跡をしないよう心掛けるように。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、有り難う御座います。

そろそろ主人公のスペックとか載せておかないと色々こんがらがりそうなので最後の方に自分での整理も含めて載せてみました。

改めて見ると化け物ですね、禊君。
それはそうと最近空気な副隊長の名前が覚えられているのか若干不安になってきたので容姿とかもろもろ書き直して名前も神威 ヒロ君にしようかなーと思っていたりします。


ではでは、また次のお話で。


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第34話 レクターの白い果実

どうも皆様、黒夢羊です。

GOD EATER3をプレイしていた『AGE喰い』と戦ったんですが、あれを主人公に食べさせたらろくなことにならなさそうだなーとか思った今日この頃です。
ヴェルナーさんイケメン過ぎて惚れそう……しかしダミアンさんには負けますねっ!

注意としていつも以上にグダっている回になるのでお気をつけくださいませ。


では、本編にどうぞ。






 

 

 

 

 

今日もまたルインの声で目を覚ます。

最近すっかりモーニングコール役になってしまったルインと、それに慣れてしまって受け入れている自分は色々とアラガミとして間違っているのだろうなーと常々思う。

 

正直言うと煩いな……とも思わなくはないのだが、それでも人間であった頃の生活を思い出すので別に嫌ではない。というか寧ろ……こう、あれだよ。心地いい……的な感じ?

自分で考えておいて疑問系になるのはどうかとも思う……しかし、本当に最初は自分の偽善と気紛れで拾って邪魔になったら捨てるつもりだったのだが、それが今ではどうだろうか?逆に自分の方が世話になりっぱなしではないだろうか。

 

こう言ってはなんだが、自分は大型アラガミの中ではまぁまぁの実力はついてきたと思うが、それでもただパワーと手数でごり押しするだけである。

それに大型ゆえに餌を探して動き回れば、神機使いや他の人達に見つかる可能性がグンと上がる。だからもしルインがいなければこうも都合良く目的のアラガミ達を探しだして捕食出来なかったのではないかなーなんて思ったりもする。

 

 

……なんか、これは前にも思ったんだが自分って実質ヒモに近いのではないか?いやだって実行班は自分とはいえ、索敵や誘導などはルインがやることだし、ルインは自分の一部が食べれれば良いんだから実質他のアラガミを食う必要ないからほぼタダ働きと言えるだろう。

 

つまり、食材を買ってきて貰って、かつそれを調理する道具など諸々の環境や準備を整えてながら高級レストランとかのシェフを用意したアフターケアも万全にしてもらった状態で炒飯の素を使った飯を作ってる状況なのではないだろうか……ッ!!

 

無駄……圧倒的無駄っ!!確かに生き抜くために何でも利用と考えているのは変わらないし、今のイメージもなんか違うかもしれないが、こう……虚しい何かが心に広がるのを感じ、頭をぐったりと力なく下に降ろし大きくため息を付く。

 

「キュー?」

 

自分の気持ちの変化を感じ取ったのだろうか、ルインが近くまでよってきて自分の周囲を慌ただしく動き回っているのが何となく分かる。

更にこれなのだ……、少量とはいえ自分の欠片を食べ続けて来たからなのだろうかルインが自分の感情やら考えを汲み取る精度が上がってきている気がする。

 

最近はこうやって落ち込んでいたりすると直ぐに寄ってきてどうしたら良いのか考えている節がある……漫画とかゲームでキャラ化したら絶対に某聖杯戦争の赤い弓兵やら某艦隊擬人化ゲームのとある駆逐艦のようにオカン属性が高いキャラとして認知されると思う。

 

事実自分だってブラッドに襲われて恐怖と孤独を感じた時も、ロミオを助けることができなくて自分の無力さと愚かさを責めていた時も側に寄り添ってくれて癒してくれたのはルインだった。

それが助けられた恩から来るものだって言うのは自分だって分かってはいるが、それでも助けられたのは事実だった。

 

 

……アラガミを喰らい続けて人類に味方しているアラガミが本来食べるべきアラガミに助けられてるってのはいい笑い話ではないだろうか。

それはそうとして自分の肉体しか食して無いからなのか、自分もルインの考えていることがほんの少しだけだが分かり始めた……これが感応現象ってやつなのだろうか?

 

ただ本当に少しだけで、ルインが強く念じた……いや感じた、なのか?……まぁ何はともあれ、こいつが伝えたいと強く思ったモノがぼんやりと伝わるようになったのだ。

あちらだけ一方的に回線が良いというのも少し複雑なのだが、こちらの回線を良くするにはルインの欠片を食べれば良いのだろうが、圧倒的に量が足りない上に別に聞こえなくても困ることは今のところは無いので別に良いかと思っている。

 

 

 

 

というか……最近思ったことが1つあって、時折聞こえるルインの声が完全に女性のそれなんだが、これは自分の欲望が反映された結果なのだろうか?

いやでも、もしも自分の欲望が反映されるたのだとしたらリッカさんとかフランさんの声になるのでは……いや実質リッカさんとかフランさんに慰めてもらったら元気が出ると思うんですよね……。

 

そんなことを考えていると、先程まで心配そうに周囲を彷徨いていたルインの気配が止み、ずっと一ヶ所に止まっているのに気付き、顔を上げてみるとそこには見るからに不機嫌そうに目を吊り上げるルインが居た。

え、えーと……何事でしょう?一応怒っていると言うことはぼんやりとだが分かる。だが、怒る理由が何だか正直分からない……あれか?アラガミだから人間の事考えてたのが気にくわないのか?

 

 

そうやって見てみたが、どうやらそれは違うらしく頭を左右に振って否定の意を示す。

はて……ならばなんというのか?今までで機嫌を損ねること……あれか?ルインを食べなくて良いとかのくだりか?と、思ったがどうやらそれも違うらしい。

だとしたら、あれか?慰めてるのは自分なのに他の奴の名前を出すのは気にくわないって感じか?

 

すると、どうやらギリギリ正解だったのか左右に頭を振りそうにはなっていたが、頭を今度は上下に軽く振って頷いた。

これでもギリギリなのか……。

 

 

 

 

しかし、こうなった後のルインを宥めるのは少々面倒くさいのだ。前は自分の一部を与えれば収まっていたが、今となってはそんなのは寧ろ逆効果で余計に機嫌を損ねる事になってしまう。

これを解決する方法はあるにはあるが、如何せん面倒くさい。というか必要性が個人的には理解できないのだがこのままだと次の獲物やらを捜索や誘導するときに手伝ってくれない可能性があるので、自分は仕方なく尻尾を動かして依然として目を吊り上げているルインの体に巻き付ける。

そして巻き付けた尻尾の先端を自分の手元まで持ってきて掌の中に落とし、空いたもう片方の人差し指でルインの頭を軽く撫でる。すると、吊り上がっていたルインの目元が段々と緩んでいきしまいには頭を指に擦り付けてきた。

 

 

……簡単だとか思った奴は前に出てこい。

自分もといハンニバルとルインのサイズを比較して欲しいが明らかにサイズが違う。そしてパワーも違うだろう。

更に言えば今の自分の爪は通常のハンニバルよりもシユウの翼腕のように鋭利になっているためちょっとでも間違えればルインを傷つけ、その痛みでルインが再び不機嫌になることだってあるのだ。

それに、自分が自身の爪で軽く引っ掻いた傷の1つだって、ルインにとってはかなり大きな切り傷になるから、回復するのにも時間がかかる。下手したらコアを傷つける可能性だってあるのだから意外とこの一連の行動は精神を消耗するのだ。

 

 

 

 

 

もう一度言うが、傷付けないように気を使わなければいけないのでかなり面倒くさいが……。

 

「キュ~♪」

 

……理由はさっぱり分からないが、それでもここまで喜んでくれるのであれば少し、ほんの少しくらいはやって良かったとは思えるような気がする。

 

 

 

 

 

 

結局あの後、何時もよりも長くルインの頭を撫で続ける作業が続いて疲れきったので散策に行く気にもなれず、近くを通ったシユウを喰らい今日の食事は終えることにした。

……肉体の回復速度はかなり素晴らしいのだが、精神面の回復速度を上げてくれるようにはなってくれないものだろうか。

 

そう一人愚痴を思いながらも今日は散策できなかったので、明日はしっかりと獲物を探しに行こうと心に決めてルインと共に眠りに付く。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……ッ!!」

 

夜空に星が光り輝く時刻、『黎明の亡都』を駆け抜ける一人の影があった。

右腕には赤い腕輪をしており、その人物がゴッドイーターだと言うことをこの世界に生きる者であれば誰もが知っていることだろう。

だが、その人物の──ゴッドイーターの唯一にして相棒とも呼べる武器である神機は異様な状態に陥っていた。そのゴッドイーターの神機はロングブレード、アサルト、シールドで構成された第二世代神機なのだが、そのロングブレードが真ん中から上が綺麗さっぱり無くなっていたのである。

 

無くなったといってもアラガミに喰われたようではなく、なにか鋭いモノで一刀両断された……と表した方が適切。そう言えるほどロングブレードの断面は綺麗であった。

最早人間技では無いことは明らかであり、人ではない異形の何かが行ったとしか思えないその有り様……そして、この世界でそんな芸当が行える存在と言えばたった1つしかあり得なかった。

 

「くそっ!なんなんだよあのアラガミは!」

 

そんな異形の中の異形に出会ってしまったこの不幸なゴッドイーターは悪態を付きながらもただひたすら逃げ続ける。

 

「通信も繋がらねぇ……ジャミングでも起きてんのかよ!?」

 

その声は震えを通り越して涙ぐんで来ており、先の出会いによるこの人物の恐怖がどれだけのものだったかを伝えるには充分で合っただろう……しかし、その伝えるべき仲間は既に死んでしまっているようだが。

 

 

もうどれだけ走っただろうか?流石のゴッドイーターでも無尽蔵のスタミナを持つわけではなく、息も切れる。

恐怖から逃げるので精一杯だった為にスタミナ管理なんてものは出来ておらず、糸が切れたようにその場に倒れ込んだ。

 

「ハァ……ハァ……流石に……撒いただろ……」

 

そう言うのとほぼ同時に暗闇から巨大な影が姿を表した。その姿を視界に捉えたゴッドイーターは再び腰を上げて逃げようとするが、足が震えて言うことを聞かない。

 

「……お、おい?嘘だろ……?」

 

そんなゴッドイーターの言葉に耳を貸す気もなくその影は1歩、また1歩とゴッドイーターに歩み寄っていく。

暗闇に輝く2つの赤い眼。そして月の光りに照らされ光る黒い硬質な皮膚はさながら死を告げるような死神のよう。

 

「や、やめてくれよ……俺はまだ死にたくない!」

 

その願いは聞き入れられず。

 

「無理矢理こんな仕事をやらされて!なんで俺がこんな目に合うんだよ!」

 

その叫びはなにも響かず。

 

「くそっ!くそっ!くそっ!!お前らが!お前らが生まれたせいで俺達はこんな目にあってんだ!」

 

月明かりに照らされた巨大な無数の刃が妖しく煌めく。

この影が死神だと言うのなら、まさしくこれは死神の鎌であろう……鎌と言うには少々数が多すぎる気もするが。

 

「くそがァァァァァァァァ!!」

 

そして、月明かりに照らされた大地で1つの命が刈り取られた。

その刃に返り血を浴びた死神は赤い眼を爛々と輝かせながら、月に向かって吠える。

 

 

 

 

その咆哮は暗闇に暗闇に呑まれ、消えていく。

その己の咆哮に続くように死神は再び月の光を嫌うかのように暗闇の中へと消えていったのだった。

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、有り難う御座いました。

ルインがヒロインのようですが、今後まだまだヒロインが出てきます……アラガミですけどねっ!
最後に犠牲になったゴッドイーターさんは本当に名もなきモブさんと言うことで……申し訳ないです。

40話までにある程度物語を進めたいですが……果たしてその通りになるのかどうか……。


では、また次のお話で。


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第35話 特務『月下の死神』

どうも皆様、黒夢羊です。

最近主人公の腕の籠手を残すかどうかで色々悩んでいて……籠手も格好良いけどガントレットとかも良いですよねっ!……的な思考を繰り返しています。

GE2の時間軸では人型アラガミが現れない(というか私の世界線では登場させない)ので主人公が意思疏通を図るのはほぼ不可能に近いですが、GE3の時間軸ではフィムがいるので会話はできるんでしょうかね?

あと、そろそろオリキャラ注意のタグを追加しないといけないなーと思っています。


それでは、本編へどうぞ。







 

 

 

 

「さて、まずは君達を急に呼び出したことを謝罪させて欲しい」

 

極東支部の榊博士のラボに急に呼び出された俺─八秦 ジン……いや、俺達は入っていきなりここの部屋の主であるペイラー・榊その人に頭を下げられた。

 

「いや、大丈夫ですよ榊博士……それよりも顔をあげてください」

 

いきなりの事に固まり対応が遅れた俺達だったが、呼び出されたうちの1人であるレオン・フィエールが榊博士に顔をあげるようお願いをする。

顔は優しそうな目付きを始めとし、高いレベルで整っている上に柔らかい物腰、所謂内外共にイケメンという奴だ。極東支部内でも何人かに告白されたとかなんとか。

 

そんなコイツの柔らかい声に影響されたか、もしくは最初からその謝罪は形式的なものだったのか……恐らく後者だと思うが、榊博士はそう言われ下げていた顔をあげた。

 

 

「いや、本当にすまないね……さて、時間も惜しい事だし本題に入らせてもらうよ」

 

 

そう言い榊博士は手元の機材を動かし天井からスクリーンを呼び出す。そして更に手元を動かすとスクリーンに地図が映し出され、俺達がそれを確認したのを見ると口を開いた。

 

 

「先日の夜、『黎明の亡都』にて3人の神機使いが行方不明になったのは知っているね?」

 

「ああ、知ってるぜ。何せ捜索に駆り出された身なんでな?」

 

 

榊博士の言葉に返したのは偵察班所属のゴッドイーターであるルドガー・ロックヘッド。

おちゃらけた言動が目立つが、実力やとっさの機転は申し分なく何度も危険な任務を生き抜いて来た優秀なゴッドイーターと言っても良いだろう……そして先のディアウス・ピターの襲撃で生き残った唯一の生存者であり、俺と同じ特異種と直接相対した人物でもある。

 

そんなことを考えていると、目の前の榊博士の言葉によって自分の意識はスクリーンへと戻される。

 

 

「そう、ロックヘッド君も捜索に参加してもらった3人だが……3人の死体と神機が今朝発見、そして回収された」

 

「「「「……ッ!」」」」

 

 

薄々分かっていたが、こうも直接死んだことを告げられると苦しいものがあるな……いや、まだ発見されただけマシなのだろうか。

そんな俺の考えを読んだかのように、榊博士は「だが」と一言呟き、こちらの意識を集めてから話し始める。

 

 

「その死体と神機がかなり酷い状態でね……、神機は全て真っ二つに切られ、死体の方は全身穴だらけという状態だ」

 

「それは……また」

 

 

悔しそうに歯を食い縛るのは俺の2つ後輩の大石(おおいし) カエデ。

かの英雄様やブラッドの副隊長さんとまでは行かないが、その実力は身内贔屓を抜きにしても極東支部に実力はかなり高いと思う。

しかし、コイツはロックヘッドや俺と違い特異種と遭遇した事はなかった筈だが……ん?それを言えばレオンもそうか。

 

俺が今回集められた人選について悩んでいると、沈黙に痺れを切らしたのかロックヘッドが口を開く。

 

 

「死んだ奴らの事は仕方ねぇ、ならそいつらの分を次に繋げるのが最優先だろ……で、なんで俺達を呼んだ?」

 

「そうだったね、まず今回3人が襲撃された時の状況から説明させてくれ」

 

 

そう言うと博士は両腕を組み、何時にない真剣なオーラを出しながら俺達に語りかける。

 

 

「まず、3人は夜間のミッション中に謎のアラガミによって襲撃を受けた……その際に恐らくそのアラガミの偏食場か何かだと思わしき、強力なジャミングが発生した」

 

 

ジャミングを発生させる偏食場持ちのアラガミか……聞いたことは無いがそれはかなり厄介な話じゃないか?

……ん?偏食場?

 

 

「偏食場となぜ断言できるのでしょうか?感応種か何かの感応能力等では……?」

 

 

俺と同じ事を思ったのか、レオンが手を上げて質問をする。確かにその通りだ……ジャミングが発生したのであればあちらの情報はこちらには届かないはず。

何故感応種ではないと判断したのか。

 

 

「それについてはそのアラガミと本格的な接触を行う前に3人が神機の不調を訴えていなかった事からそう判断している」

 

「なるほど、感応種が接近した際特有の神機の不調等の報告が無かったからそう判断したというわけですね」

 

 

榊博士の回答に納得したのか、2度3度頷きながらレオンは上げていたその手を下げる……しかし、レオンと同じく納得していた俺は続けて放たれた榊博士の言葉に脳内の警戒レベルが一気に跳ね上がった。

 

 

「その通りだ……それに仮に感応種が現れたとしても、君達なら撤退することは可能だと判断した」

 

「倒すではなく撤退……ですか?」

 

 

再び疑問に思ったのか、レオンが今度は首を小さく傾げながらオウムのように聞き返す……が、それに答えたのは博士ではなく、ロックヘッドだった。

 

 

「当たり前だろ、今回の作戦は恐らく未知のアラガミの情報をここへ持って帰るのがメインだ……だが、かといって何時ものように調査班や偵察班を使って見ろ。確実に全滅だ」

 

 

ロックヘッドの言葉に便乗するように俺も自分の意見を述べる。

 

 

「それに今回殺られたゴッドイーターは確か全員極東支部に置いて中堅クラスの実力を持っていたはず……なら、言い方は悪いがそれ以下の力しか持ってない調査班や偵察班だと今回のはちと分が悪いだろうな」

 

「それに今回はそのアラガミに加えて強力なジャミングが付いてくる。ならば、低い確率を何回も繰り返して人材を消費するよりも、オペレーター等との通信が途絶したとしても充分に成果を持って帰ることの出来る可能性のある高い確率を叩き出せる奴らに任せた方が良いって判断したんだろうよ」

 

 

ロックヘッドの言いたいことは、どうやら俺と同じだったらしく、俺が言い終えた後に補足の説明はなかった。

すると、もう俺達が口を開くことはないと確認したのか、榊博士が困ったような小さな笑い声を上げながら眼鏡を直す。

 

 

「いやー、私が言いたいことを大体言われてしまったね。そう、ロックヘッド君やジン君の言うとおりさ」

 

「だから、今回のアラガミの討伐は可能であればなんだ。成功条件がアラガミの外見や行動の確認……そして出来れば体の破片などを採取してそれを持ち帰ること」

 

「それならば、本部から来ているブラッドの方々では駄目なのでしょうか?彼らならば例え感応種だとしても対応は出来ますし、実力も申し分ないと思います」

 

 

榊博士から告げられた今回の未知のアラガミに対する調査の内容に不安を覚えたのかカエデがレオンに吊られたのか、小さく手をあげながら提案する。

しかし、その案は恐らく却下されるだろう。

 

俺の予想通り──とは言ってもカエデ以外の二人も予想出来ていたであろうが──榊博士は首を横に振ってその提案を却下する。

 

 

「すまないね、現在ブラッドの皆には感応種であるマルドゥークを討伐するために動いてもらっている状態でね……この為に動かせないんだ」

 

 

というのは事実ではあるのだろうが恐らく建前であり、現状では感応種と戦うためにはブラッドの存在が必要不可欠で、その貴重な資源を失うわけには行かないのだろう。

なら『感応種を倒すことができる存在』と『感応種に対応する事が出来る存在』であればどちらが優先されるかなんて事は余程の馬鹿かお人好しでなければ簡単すぎる問題だ。

 

もしこのアラガミが感応種であったならばブラッド達を寄越しただろうが、生憎今はそうではない可能性の方が高い。なら先程俺とロックヘッドが言ったように『高い確率を叩き出せる奴』が行くのが現状では比較的マシな判断だろう。

 

 

その事をこの場に居る全員が理解したのか、少しの間沈黙が降りる……。

そして、その沈黙を破ったのは、最初の時のようにロックヘッドだった。

 

 

「……しゃあない。その任務俺は受けるぜ」

 

「「「!!」」」

 

 

信じられない物を見たかのように目を見開くレオン、それに対してロックヘッドは鋭く睨み返す。

 

 

「俺らが降りたところで、新しい候補者が呼ばれるだけだ……なら、現状で一番可能性が高い奴らが行くしかねぇだろ?」

 

 

そう、確かに俺達よりも先に呼ばれた奴らが居るのかもしれないし、もしかしたらそいつらの方が成功する確率が高かったのかもしれない……。

だが、俺達が呼ばれたってことは現在動かす事が出来る人材の中で一番可能性が高いという事。もし、俺達が断れば次に呼ばれる奴らは今よりも成功する確率は更に低くなるのだろう。

 

……人の心を上手く使った汚いやり方だ。だがそれでも自分が行くことで、助かるかもしれない奴らがいるのなら腹を括るしか無いだろう。

自分がいたところよりも1歩前に出て声を発する。

 

 

「俺もその任務を受けるとするかね」

 

「ジ……ジンさんまで」

 

 

困惑したようなレオンに向かって一言だけ、自分の気持ちを述べる。

 

 

「命は惜しいが、俺が行くことで助かる命の方が多いなら行くしかないだろう?……今まで犠牲になった奴らの分も仕事しなきゃならんしね」

 

 

その言葉を聞いて、レオンの表情が変わった。俺よりも若いが、同じくらい修羅場を潜っては来ているし、他の奴よりも優しい分、死んでった奴らに思うところでもあるんだろ。

俺と同じように1歩先に進み、口を開く。

 

 

「……分かりました、俺も行きます」

 

 

その表情は困惑等に染まっていた先程とは違って決意に満ちており、その意思はもう揺るぐ気は無いようだ。

……少し単純すぎて心配だが、まぁこれもコイツの個性としておこう。

まぁ、作戦に参加させるために死んだ奴らを引き合いに出す時点で榊博士の事は悪くは言えないな……。

 

 

──と、3人が参加を表明したわけなんだが……そうなると残るは1人という事で、俺を含めた全員の視線がカエデに向けられる。

向けられた当の本人は既に覚悟が決まっていたようで、閉じていた瞼を開き、強い意思を宿らせた瞳を見せる。そして、1歩前に進み俺達と同じように口を開く。

 

 

「私も参加させていただきます」

 

 

こうして、集められた4人全員が任務の参加を表明した事になる。

これには榊博士も予想していなかったのか驚いたようにその狐のような糸目を微かに開いた数秒後、再び元に戻るが、その代わりに口元には笑みが浮かんでいた。

 

 

「ありがとう。君達ならそう言ってくれると思っていたよ……では、現在分かっているだけの資料を配布するから、確りと目に通しておいて欲しい」

 

「そしてこれは特務として扱う事になる。だからくれぐれも情報を漏らしたりしないようにしてくれ」

 

 

釘を指す一言に全員が静かにうなずく。

そんなことは言われなくても全員が分かっていることだ……しかし、形式上言わなければならない。

 

 

「それらしきアラガミの姿が確認され次第、君達には出撃してもらう事になる。だから今のうちに確りと準備やブリーフィングを忘れないようにしてくれ」

 

「「「「了解!」」」」

 

 

こうして俺達は準備とブリーフィング等を重ねて、今できうる限りの万全の対策を練った。

あとは出目次第だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、この日から約4日後。

 

俺達の元に特務対象となるアラガミらしき影が『贖罪の街』で確認されたとの情報が入る事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、本当に有難う御座います。

いい加減原作キャラと絡ませたいとは思うんですけど、下手したらコレキュウビのところ辺りまで絡まないんじゃ……とか思ってしまってるのでちょっと怖いです。

いや、流石にマルドゥークとかで絡ませるとは思うんですけど……多分。
どうにか気を付けたいですね………。


では、次のお話で。


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第36話 疑われし新星の原型

どうも皆様、黒夢羊です。

改めて時間軸とかを見直してみたりすると「あれ?自分のコレってもしかして間違い?」みたいな感じになることが増えました。
一応原作の設定通りに進めていきたいのは行きたいのですが、やはりどうしても知識不足な面で原作との乖離が生じる事があると思いますが、どうかご容赦くださいませ。

こういう世界線もあるよね!程度に捉えてくださると嬉しいです……。


では、本編へどうぞ。







 

 

 

さて、お早う御座います……じゃなくて今晩は。

 

今自分は夜の『贖罪の街』を渡り歩いています。

何故夜かと言うと……昼間にここら辺で頂けるであろうアラガミは軒並み頂いてしまった(ただし、直接成長や能力強化に繋がるアラガミ限定)ので、夜間だと見かけないアラガミが居ないだろうかと探している次第です。

 

もし居ないのであれば、ここら一帯でのアラガミ探しはやめて他の地域に向かおうかな……とは思っている。

ただ、寝床を他に移すかどうかは現在思案中で、この大きな体を隠すのには『贖罪の街』のビル群はかなり適しているのだ。

今のところはあくまでもアラガミを頂く場所を他の場所に移すだけで、寝床はここにし続けようと思う。

 

ただ、ここから他の場所に動いて戻ってくるのは他の神機使いに見つかる可能性が高いのでそこのリスクを考えると寝床を移動した方がいい気もするが。

 

 

 

 

まぁ、そんなことは後で幾らでも考えられるから別に良いんだ。問題は今で、ここ2日程探しているが全く昼間と違うアラガミを見つけることが出来ていない。

そもそも居ないってこともあり得るから仕方ないんだが、アラガミも生物であることは変わりないから夜間の行動を主とするアラガミだっていると思ったんだけどなぁ……現実はそう上手くはいかないらしい。

 

 

そろそろここも潮時かな……と諦めかけていた自分の視界に月明かりに照らされた、ここらで見かけたことのない青い人型が映った。

……金属質の長髪に天使を思わせる頭部に浮かぶリング。そしてマネキンのようなのっぺりとした顔の中心に鏡のような円形のパーツが目立ち、人とは思えないような細長い体を持つ接触禁忌種アラガミの1体、ツクヨミがそこに佇んでいた。

 

 

 

 

居たよ、かなりのレアリティ(?)を持ってるアラガミが……。

 

しかし、ツクヨミは攻撃しなければこちらを攻撃してくることはないが、1度攻撃してしまえばバリエーションに富んでいながら火力の高い攻撃を連発してくるようになるので戦うのは結構面倒なアラガミである。

それに加えて視界もかなり良く、1度戦闘になれば撤退しようとしても追跡される可能性が高いだろう……自分が今いるビル群のような場所ならともかくツクヨミがいる場所は思ったよりも開けていて、人間ならまだしもアラガミのサイズなら見通しは良いから、幾ら自分が足が速いとは言え少々厳しいか……。

 

 

ただ、ツクヨミは原作を知っている人ならば間違いなく知っているであろうがあのアルダノーヴァのプロトタイプらしい……いや確かに姿は女神の方に似てるけど顔はなんでのっぺりにした?

もし本当にプロトタイプならシックザール元局長の趣味を疑ってしまいそうだが、顔の製作コストが高かったのかもしれないから一概にそうとは言えないのかもしれない。

 

話が少し脱線しているから少し戻すが、仮にプロトタイプとは言えあのアルダノーヴァの力に似た何かを得れる事には変わりないし、何よりあのオラクルの攻撃や伸縮するあの機能は手に入れて損は無いだろう。

それにツクヨミを見かけたのはこの世界に来てもう大分経っているのだが、今回が初めての発見である。

ここで逃したら今後見つけれないかもしれない……そうだとすると、リスクは少々高いが戦う方が良いだろう。

 

 

 

 

追従してきていたルインにここで待っておくよう、そして何かあれば逃げるように指示し、ツクヨミの元へ向かう。

ツクヨミは静かに月明かりの下、静かに佇んでおり動くことはない……原作と同じようにこちらから攻撃を仕掛けなければ攻撃はしてこないようだな。

だとすればかなり好都合だ。

 

マントを展開し、無数の雷球を作り出す。

ディアウス・ピターを補食した影響か、以前よりも雷球の威力が上がったのに加えてこれは他の属性球でも同じなのだが、球の生成量が増えた。ただこれはピターをだけでなくプリティヴィ・マータも補食しているから、どちらかと言えばヴァジュラ神属を多く補食したから球の生成量が増えたと言うべきだろうか?

 

 

そう考えている内に球は現状保っていられる最大数にまで達したようなので、生成を打ち切る。

その数約80個。球のサイズによって出せる数は異なるが普段から撃っているハンドボールサイズならこのくらいで、これよりも小さいものであればより多くの数を生成できる。

 

コレだけの球を生成しても襲ってこない……。やはり完全に受け身に徹底するようだが初代の時みたくいきなりは攻めてこないんだな。

まぁ、こっちにとっては有り難いことだから遠慮なく行くが──なっ!!

 

 

80以上の雷球をツクヨミに向かって放つ。

そして機関砲の様にツクヨミの体に当たっていく雷球を眺めながら、腕部に雷を纏わせておく。

最初は動こうとも雷球の雨に撃たれ続けて動くことが出来ないツクヨミだったが、球の勢いが弱まると同時に 行動を開始。既に無数の雷球によってボロボロになった天輪を光らせて怒りを示す。

 

直後雷球が切れたのを確認しツクヨミに接近し、腹に雷撃をまとった右拳を1発叩き込み、グラついて下がった頭に左でジャブを入れ、最後に顔面に向けて右ストレートを決めて吹き飛ばし、吹き飛んでいくツクヨミに向かって先程よりも大きい雷球を数発生み出し、追撃させる。

しかし、ツクヨミは空中で体を1回転させて体勢を立て直し、迫り来る雷球を天輪からのオラクルのレーザーで打ち消し、そのままそのレーザーを自分に向かって放ってくる。それを弧を描きながら走り、レーザーを避けつつ接近していく。

 

当たらないことを理解したのかレーザーの発射を中断し、腕を伸ばしてオラクルの刃を数発飛ばしてくるが、それらを両腕の籠手で弾くと硬質な音を立てながら消滅していく。

全ての刃を弾き終えた時には目標は目の前までに近づいており、回避をしようとするツクヨミの脚部を掴むと、自分の体を回転させ、その勢いを乗せながらツクヨミを思いっきり投擲して近くの壁に叩きつける。

衝撃から一瞬動きが止まるツクヨミにダメ押しの一撃を助走を付け、雷撃を纏った渾身の右ストレートを胴体に叩き込む。

 

拳による衝撃でビルにヒビが入り、ツクヨミが機械的な悲鳴のような声をあげる……だが、まだ生ぬるい!

左の拳にも雷を纏わせ、ただガムシャラに壁に張り付けられたツクヨミを殴り続ける。

 

 

 

 

お前が!死ぬまで!殴るのを止めはしないっ!!

 

 

 

 

 

そして何発目だったか、ツクヨミの頭部に拳を叩き込むと頭部にヒビが入り、そのままグッタリと魂が抜けたように倒れた。

毎度の事だが念のために雷槍を作り出し腹の辺りに差し込むが、対して反応が無かったので捕食を行うことにした。

 

さてさて、貴重な接触禁忌種。しかもなかなか見かけなかった奴だ。

確りと自分の力にするとしよう。

 

いただきます。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

ふぅ──ご馳走さまでした。

 

食った感想だが……こんなことを言うのは本当に自分の力に糧になったツクヨミには申し訳ないが……マズい。

どんなマズさと言われたらこう……食べたことはないんだが、黒毛和牛やオマール海老、トリュフなどの高級な食材をふんだんに使ったスムージーだろうか?

 

 

アラガミになって全てとは言わないが、それでも多くのアラガミを捕食してきた中で一番マズい。いや、そもそもアラガミは今まで食べた中でマズいと感じたことは無かった。

 

こんなにマズいのは人工アラガミのプロトタイプだからなのだろうか?

だとしたらノヴァであるアルダノーヴァやアリウスノーヴァも不味いのか?いや、そもそも食べる機会なんてそうそうないだろうから確めることも無いのだが。

 

 

まぁ、貴重なコアや栄養であることには変わりはないから幾ら不味くても見つけたら確りと頂くつもりなのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことを考えていると、視界の端に此方へ飛び込んでくる黒い巨大な影を捉えた。

それは、人間だった頃の知識から来る行動なのか、はたまたアラガミとしての本能かは知らないが突如襲撃してきた黒い影の一撃を両腕の籠手で自分は防いだ。

 

先程のツクヨミのオラクル刃よりも硬質な、鉄板を刃物で切りつけた音をまんま大きくしたような若干耳障りな音が辺りに響く。

咄嗟とはいえ確りと防いだつもりなのだが、刃物から来るものとは思えないような重たい衝撃が体を襲い、直接それを受け止めた両腕はビリビリと痺れている。

 

 

奇襲が失敗したからか、はたまた元からそのつもりだったのかは分からないが直後その黒い影は後ろへと跳躍し、自分との距離を作る。

そのお陰で咄嗟の事もあり近くでは分からなかったが、月明かりに照らされて、黒い影が正体を表す。

 

 

 

 

 

 

その姿を見た時、自分は一瞬思考が止まってしまった。

自分と同じように情報だけでしか知らないが、きっと誰もがその姿を想像したであろう。

 

月の光に照らされて黒く輝く硬質な金属を思わせる皮膚。自分と同じように半人半竜のような肉体に、所々にアクセントのように光る金色の装飾。

そして悪鬼のように赤く光る2つの眼孔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────黒いカリギュラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔の自分にとってはかつて戦ってみたかった相手。

そして、今の自分にとっては戦いたくはない最悪の超弩級アラガミであった。

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、本当に有難う御座います。

さてツクヨミさんの設定なのですか、これはGE2の設定を優先させていただきました。
やはり時間軸はGE2の方なので不思議ちゃん属性の方を使おう……と。
黒いカリギュラに関しては今後こじつけに近い考察やらを用意していますので少々お待ち下さい。

さて、次回は真面目な戦闘回です。
ただし、表現がグダグダになると思いますので先に謝っておきます……本当に申し訳ありません。


では、また次のお話で。


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第37話 黒き竜帝

どうも皆様、黒夢羊です。

今回書いていてやはり自分の書きたいことを文字にするのって難しいなぁ……と思った次第です。
まぁ真面目な回なので今回はこれくらいで。


では、本編へどうぞ。




 

くそっ、最悪過ぎる。

いまの自分はハンニバル神属との戦いを経験してない……対ハンニバルとしては動きはある程度理解してはいるが、立ち回りは素人に近い。

 

神機使いとしての立ち回りならまだ分かるが、アラガミとしての立ち回りなんて知らない……というか知るわけがない。

一先ずは多用するであろう右腕の仕込み刃から破壊していくしかない

 

 

逃げるという選択肢はあるにはあるが……逃げ切れる確率は決して高くないだろう。

カリギュラはハンニバルと違い逆鱗の部位にブースターがあり、このブースターを使い急発進することが出来る。そのスピードは通常のハンニバルだとしても神速種の速さにも勝るとも劣らない。

 

いま目の前にいる黒いカリギュラがどのくらいの身体能力を持っているかは分からないが、少なくとも通常のカリギュラの身体能力を遥かに凌駕していると考えた方が良いだろう。

ならば、逃走を選択し無防備な背中を晒して致命傷を負うよりかはいまここで立ち向かって生き残る可能性に賭けることにした。

何より、コイツを捕食する事が出来れば自分は確実に強くなる事が出来る……強くなればアラガミとの戦いで捕食する事が出来る種類も増えるだろうし、何より神機使いとも無駄な戦いを避ける事ができる筈だ。

 

 

 

 

──覚悟を決めろよ、自分。

両腕を前に軽く突き出し、カリギュラの苦手属性である炎を両腕に纏わせ、牽制用に背部にも数発の炎球を産み出しておく。

彼方も此方を警戒しているのか、自分を威嚇するかのように仕込み刃を出し入れして金属と金属が擦れ会うような若干耳障りな音を鳴らす。

 

……こう言うのは先に動いた方が隙を晒すからやめといた方が良い気もするが、なら逆に相手に対処されなければいい。

 

 

 

 

黒いカリギュラは突如前方に跳び跳ねる。直後先程黒いカリギュラが居た地面に複数の炎の渦が生まれ、その渦から炎柱が突き出す。

それくらい避けるのは造作もないよな……だから、次の一手を打つ。マントから産み出された炎球を空中にいるカリギュラに向けて放ち、自分は前方へと走り出す。

 

弾丸のように真っ直ぐに目標に向かって飛んでいく炎球は巨大な3対の仕込み刃によって全てかき消されてしまう……どんな馬鹿力と速度、硬度があればそんな芸当が出来るんだか、ディアウス・ピターの体を焼くレベルの熱だぞ?

全部消されたのは誤算だったが、まだ本命ではないだけマシと考えろ……そして、カリギュラが炎球をかき消すのと同時に下に来ていた自分は真上に向かって跳躍し、カリギュラの無防備な腹に向かって炎を纏った拳を叩き込む。

 

カリギュラは更に上空へと吹き飛ばされ、その反対に自分は地面へと落下していく。未だに距離が離れていく相手に向かって先が尖った円錐形の炎柱を産み出して数発放ち、地面に着地する。

 

見事に全弾命中したのかどうか、暗闇に紛れ込んでその姿を見ることが出来ず、目を細めて確認しようとした次の瞬間。暗闇の空に1つの煌めきが生まれた直後、自分の視界に先程吹き飛ばしたカリギュラがその仕込み刃を展開させて迫ってくる姿が映った。

避けれないと判断し、両腕を交差させて防御する。

 

先程受け止めた時と同様の音が鳴り響くが、その衝撃は比べ物にならないほどに重く、自分の体を襲う。

衝撃に押され地面に足が食い込み、そこを起点に辺りに亀裂が走っていく。

 

 

これ以上は無理と判断したのか後方へとバックステップを踏んだカリギュラを見て、一息付けると思ったのだが、相手はそれすらさせる気は無いようで再び刃を展開させてこちらに突撃してくる。

巨大な3対の刃による連続切り。画面越しと実際の違いなのか、それともコイツが桁違いなのかは分からないがその剣撃の速度に防戦一方に追い込まれてしまう。

 

籠手から伝わる衝撃が段々と積み重なり腕の感覚が段々とイカれて来ている……いい加減どうにかしなければと思った次の瞬間、カリギュラの下からの一撃に両腕が上にはね除けられてしまい、籠手によるガードが遂に崩される。

そして次に待っていたのは、追い込まれた自分には不可避の一閃。

 

 

カリギュラの刃が自分の腹を斜めに切り裂いた。

 

 

 

いっ…………てぇ……!!

痛みが強すぎて意識が一瞬飛びかけるが、直ぐに立て直そうとする……しかし、黒き竜帝はそれを許してはくれない。

左手で顔を捕まれ、そのまま壁に叩きつけられて、背中から全身に強い衝撃が流れ息が詰まる。

そしてそのまま壁から離されると空中へ放り投げられる。そこでどうにか整えようとした自分の視界にブースターから赤い炎を吹き出し、右腕に赤い雷槍を纏った竜帝の姿が映った。

 

そして次の瞬間自分の腹に異物が入り込む感覚が生まれ、続いて先程切りつけられた時よりも激しい痛みが体を走る。

そしてその痛みに抗うことすら出来ずに地面へと叩きつけられ、息が再び詰まる。

 

 

マウントを取られた状態で、今度こそ息の根を止めようとしているのか、持ち上げた右腕の刃を展開させる竜帝。だが、ここで死ぬわけにはいかないのだ。

自身の周囲に炎球を出現させ、それら全てを相手の顔面目掛けて放つ。

咄嗟の事で対処できなかったか、左腕で顔を守るがその合間から2発ほどが左角と右顎を撃ち抜き、砕いた。

 

するとカリギュラはマウントの姿勢から大きくバックステップを取ってボロボロの自分から距離をとる。

まだ意識や、体が動かせる分コアは殺られていないようだが、アラガミを摂取していないからか体の傷の治りが遅い。

お陰で頭をハンマーで思いっきり殴られているような感覚と体に無数の刃物が刺さったかのような激痛が続いており、足は小鹿レベルで立ってるのがやっとの状態だ。

 

しかし、まだ反撃の力が残っているのを警戒したか。相手は攻めあぐねているよう……ではないな。

 

 

黒き竜帝は赤い雷を自分と同じように両腕に纏い、刃を展開させる。

今の自分からしてみれば死神の鎌にも見えるその刃は腕と同様に赤い雷を纏っており、先程よりも威力が上がっている事は意識が朦朧としている自分でも分かる。

 

ああ……クソ。

こうなるならさっさと逃げ出せば良かったな。

いや、そもそもの話夜に獲物を探そうなんて考えが間違っていたのかもしれない。

そんな諦めにも近い後悔が朦朧とした意識の中、幾つも浮かんでくる。

 

 

そんな事を考えて居たからか、相手からしてみれば牽制のつもりで放った赤い雷球が迫って来ているのに気付いた時には、今の体で回避が不可能な所まで到達した時だった。

 

 

──これから来るだろう痛みに耐えるために目を閉じる。

 

 

 

『今まで、色んな奴を食ってきたから罰が当たったのかもしれないな……いや、欲張りすぎたから身を滅ぼしただけか?』

 

暗闇の中、そんな思いが浮かぶ。

そして走馬灯のように人間だった頃の記憶が駆け巡る。

 

 

 

 

自分を育ててくれた両親。

 

親切を突っぱねて無駄に衝突していた。

この世界に来る前に自分が死んだのか消えたのかは分からないが、親不孝で本当に申し訳ない気持ちで一杯だ

 

 

名前を思い出すことの出来ない友人達。

 

毎日ばか騒ぎして、周りから呆れられたり怒られたりもした。

でもそれが楽しくて仕方がなかった。

他から見れば糞みたいなモノだったかもしれないが、自分からしてみれば充実していた。

アイツらとGOD EATER3ができなかったのが残念で仕方がない。

 

 

他にも色々と迷惑をかけた周りの人達や、自分を信じてくれた先生。

色んな人との思い出が朧気だが頭の中を駆け巡っていく……。

 

 

 

 

そして最後に思い浮かんだのは……

 

この世界に来て初めて共に過ごした相手。

短い間だったが傷ついた時も隣に居てくれた。

名前をつけたのも理由を色々と考えていたが、そんなの関係なく仲良くしたかったからかもしれない。

 

アイツ……ルインは大丈夫かな。

攻撃できないから……いや、速いから大丈夫か。

でも……心配だなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

ああ……やっぱり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ぬのは……嫌だなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キューーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識を手放そうとした自分の耳に聞こえた、聞きなれた叫び声。

そして閉じた目を開け、映ってきたのは。

 

「キュ……キュー!」

 

雷球に体を焦がされたルインの姿だった。

 

 

お前、なんで……。

そんな自分の問いに答える間もなくルインはカリギュラに向かって突撃していった。

後ろの自分を切ろうと思っていたカリギュラは予想外の存在に驚きながらも、躊躇うことなくルインを切り付ける。

 

切り付けられ、その勢いで吹き飛ばされてこちらへ戻ってくるルインを自分は眺めることしか出来なかった。

そう、ロミオを助けれなかった時と同じように。

 

 

 

 

大型の自分でさえ未だに治る気配のないあの刃による一撃をアバドンであるルインが受けたらどうなるか。

間違いなく死が待ち構えているだろう。

 

 

「……キュ……ウ」

 

 

地面に伏せたルインが鳴き声をあげる。

どう見たって助からないだろう。

 

 

何故こうなった?

 

 

 

 

自分が原因か?

 

 

 

 

いや……目の前のアイツが。

 

アイツさえいなければ。

 

 

 

 

朦朧としていた意識は覚醒し、その代償かドロドロとした感情が沸き上がってくる。

それは瞬く間に自分の意識を染め上げ、残ったのはたった1つの感情。

それはきっと現実から目を背けたいが為に生まれた責任転嫁のようなもの……そして、人間だった頃に生まれていた漠然としたモノではなく確かにそうしたいと芽生えた感情。

 

 

 

 

──殺す。

 

 

 

 

 

殺意。

この世界に生まれて、いや。自分という存在が出来てから1度も行動に起こそうとは思わなかった感情。

 

体の中を何かが駆け巡っていく感覚。

痛みが急速に無くなっていき、それに代わり重かったはずの体がどんどん軽くなっていく。

 

 

内から溢れでる殺意を相手にぶつけるように、体の底から声を張り上げ、叫ぶ。

 

 

 

 

 

グルウォォォォオオオオオオオオオオッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──いつぞやに聞いただろう。

 

 

 

 

玲瓏と輝く月は、二度も闇の世界を孤独にありながら救う。

 

 

 

 

だが――絶望の淵に沈む世界は、その救いを受け入れることはない。

 

 

 

 

どこまでも深く、暗く、命がもがくほどに肥大する闇。

 

 

 

 

今――新たな終わりが目醒める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き本当に有り難う御座います。

今回は主人公覚醒(?)回でした。
ルインに関して色々あると思いますが、一人で過ごしていた中、一緒に生活をする理解者が目の前で殺されたと考えたら怒りが沸く人もいると思います。

これから3話くらいはちょっとぶっ飛ぶ事が起きると思いますのでご容赦ください。
まぁ、全てはノヴァが原因となすり付けておきます。


ではまた、次のお話で。


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第38話 侵世の胎竜

どうも皆様、黒夢羊です。

更新が遅れてしまい本当に申し訳ありません。
本当は昨日投稿しようと思ったのですが、色々ありまして今日となりました。

今回は私の苦手な戦闘パート、しかもほぼ全てそれでございます。読みにくいとは思いますが、どうかご容赦くださいませ。


では、本編へどうぞ。






 

 

俺──八秦 ジンを含めた4名は『贖罪の街』で観測された強力なジャミング波が発生した場所に向かっていた。

その目的はこのジャミング波を発生させているとされている特務対象である謎のアラガミの調査、及びその素材の回収。

 

今はまだジャミング波の影響を受けておらず、榊博士が用意してくれた専用のナビが続いているが、それもいつまでも持つかは分からない以上、この特務に参加している4人全てがここら周辺の地理を頭に叩き込んできている。

 

 

緑化の進んだ月が煌々と輝く夜。

美しいと思う反面、それの美しさは俺たち人間を食い散らかし滅ぼそうとしたモノの副産物だと思うのと少しゾッとするものがある。

そんなことを考えながらバギーのハンドルを握っていると、助手席に座っているカエデが話しかけてきた。

 

「ジンさん……ちょっと妙だと思いませんか?」

 

「あん?何がだ」

 

別に移動中に不振な点は見受けられなかったし、そもそも特務事態情報が不明瞭なことも多い。

それに不振なアラガミに遭遇した訳じゃ……いや、そう言うことか。

 

「静かすぎるって言いたいのか」

 

俺の質問に対してカエデが返したのは小さな肯定の言葉と声量と同じく小さな頷きだった。

……確かにその通りかもしれない、普段はオペレーターの指示に従って移動するため基本アラガミとの遭遇は対象以外に無かったりすることが多い。しかし、『遭遇しない』だけであって『アラガミが居ない』と言うわけでは無い。

 

その為、どれだけ周囲に配慮しても予期せぬアラガミが乱入してくることだってある。

だが、今俺達が進んでいるルートも幾らナビのお陰でアラガミが居ない、もしくは少ないであろうルートを選んでいると言えどアラガミの気配が一向にしないのである。

まぁ、しないだけなら気配を消すことに長けたアラガミだっているだろうから気にはしないが、レーダに映ることすら無いのはちょいと異常である。

 

 

一度浮かんだ不安は消えることなく、その大きさを増している。先程までは何ともなかったこの静けさが、逆にこれから自分達が向かう場所の恐ろしさを警告しているような気がして寒気が走った。

 

そして、最悪な事にその不安は見事命中する。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

グルウォォォォオオオオオオオオオオッ!!

 

ジャミング波の影響が遂に及び、その機能を果たさなくなり、ただ耳障りな砂嵐を鳴らすナビの電源を切り、地図等によるアナログの方法で目的地へと向かっていた俺達の耳をつんざく様な咆哮が響いてきた。

俺達は互いに頷き合い、覚悟を決めるとその咆哮の発生源であろう場所へとバギーを走らせた。

 

 

そしてたどり着いた俺達がそこで見たのは、両腕に真紅の雷を纏い、地の底から発せられるような低い唸り声を上げる黒いカリギュラと──

 

グルウゥゥゥゥギィアアアアア!!

 

かつて俺が見た時とは違い、砕けた逆鱗からディアウス・ピターと形状が似ている禍々しい紫白の翼と紫色に輝く刺々しい天輪が産み出され、叫び声を上げる特異種であった。

聞くものに不快感を与えるような、耳を塞いでも聞こえてくる不協和音の叫び声は、獣というよりも何処か人の嘆きが混ざっているかのように感じた。

 

「お、おい……アイツは」

 

震えながら呟くのは実際に特異種と相対したロックヘッド……そう、ロックヘッドが合った時は分からないが、少なくとも俺の会った時の特異種から感じた印象とはかけ離れている。

前にあった特異種が理解が出来ない故の恐怖だったのに対して、今の特異種はまるで極東に伝わる悪鬼や修羅のそれである。

 

だが、それと同時に背中の天輪や紫白の翼などから恐怖の中に一抹の神々しさを感じる。

 

 

その姿はまさに荒ぶる神と言っても過言ではない。

 

 

特異種からある程度離れている俺達ですら恐怖で動けていないのだ、その特異種に直接相対しているあのカリギュラは恐怖という感情があるかは分からないが、確実に良くない何かを感じているだろう。

 

そして長く続くかと思えた硬直は予想よりも速く崩れ去った──特異種の攻撃によって。

 

 

ギィルルルッ!

 

 

特異種が背中の天輪から無数のオラクルのレーザーをカリギュラに向けて放つ。その軌道はサリエルが放つレーザーのように……いや、それよりも複雑な軌道を描きながら全方位からカリギュラを襲う。

 

しかし黒いカリギュラもただ黙って殺られるわけではなく、その両腕の巨大な仕込み刃を展開し、それを振るいほぼ全てのオラクルレーザーを弾き飛ばす。

 

 

ただ……カリギュラよりも特異種の方が1枚上手だったようで、カリギュラが刃を振るう中迷わず接近し素早く、正確に黒き竜帝の頭部目掛けて右の拳を付き出す。

そしてその拳は見事に顔面を捉え、黒き竜帝を後ろに仰け反らせるが、竜帝も負けじと右腕の仕込み刃を振るい特異種の首を掻き切ろうする。

 

本来であれば速度や2体の距離から考えて確実にダメージを通すであろうその刃は特異種の左手に刃を捕まれ、動きを止める。

手に深く刃が食い込んでいるのだろう、刃を握る手から鮮血が垂れているのが分かる。

 

だが次の瞬間、特異種の手から膨大な出力の炎が吹き出す。その炎は次第にカリギュラの刃を溶かしていき、黒き竜帝がそれに気づいた時には既に遅く、右腕の3枚連なる仕込み刃の内、1番前方の巨大な刃が真ん中から溶断される。

 

 

瞬時にその場から距離を置いた竜帝に見向きもせずに特異種は溶断された刃を躊躇うことなく噛み砕き、己の腹の中に納める。

そして未だに刃を展開させているカリギュラに向かい一直線に走り出す。

突然向かってきた相手に一瞬動きが止まるも、直ぐ様仕込み刃で応戦しようとするカリギュラ。

しかし、その刃は再び防がれる事となる……ただし、今度は手ではなく背部から生えているその翼で。

 

見た目はかの帝王と色意外は同様の翼に思えたそれは竜帝が誇る刃と同等の硬さを誇っているようでその翼を使い竜帝へと剣撃を仕掛ける。

 

そこからはただ、無限とも言える切り合いが続いた。

特異種が翼を振るえば、それをカリギュラが受け止め、逆にカリギュラが刃を振り下ろせば、特異種の翼がそれを受け止める。

切る、防ぐ。切る、防ぐ。切る、防ぐ……。

言葉で表せば同じ行動だが、その実は一つ一つが己の死に繋がるであろう瀬戸際の攻防。

 

刃と刃がぶつかる硬質な音が月明かりに照らされた世界に響きわたる。

そして永遠に続くと思われたその切り合いにも終わりが見えてきたようだ。

 

 

 

 

考えて見て欲しい。腕と一体化し振るう刃と、それ自体が独自に動き、体を静止しても動かすことの出来る刃であればどちらが有利になるだろうか。

次第にカリギュラが生物故にスタミナが切れてきたのか動きが少しづつ鈍くなり押され始める。そして一瞬出来たがら空きの胴体に特異種の下から拳を決められて怯んだ所を蹴り飛ばされ、俺達が居るビル群の壁へ叩きつけた。

 

 

「中型ならまだしも大型をひと蹴りで……!?」

「おいおい、どんな馬鹿力だよ……ッ!」

 

 

愕然とした声でレオンとロックヘッドが呟く。

俺やカエデの内心を代弁してくれた二人を尻目にこちら側へゆったりと向き直るその姿は何かに取りつかれた悪鬼そのものに思えてくる。

 

そして倒れた竜帝サマが起き上がろうとした時、それを許さないように両手に紫色の冷気を纏うと、それを地面に叩き付ける。

叩きつけた所を起点として無数の三角錐型の氷柱が発生しそれらが段々と大きさを増して黒いカリギュラへと迫る。

 

 

しかし黒いカリギュラは欠損したとは言え、依然その大きさを誇る仕込み刃を展開させ迫り来る氷柱を全て砕き切る。そしてブースターを起動させあっという間に特異種へと接近し、その刃を振るう。

それは見事に特異種の首の根本に食い込み刃が血で濡れるが直後特異種の拳が黒いカリギュラの顔面を再び捉え、体をよろめかす。

 

よろめいた隙に首に食い込む刃から逃れ、足払いを仕掛けて転ばせる。カリギュラが転び地面に伏せる数秒の滞空時に再度蹴りを決めて同じように吹き飛ばす。

今度はより力を込めていたのか、それとも二度の衝撃に耐えれなかったのか、カリギュラがぶつかったビルがガラガラと音を立てながら崩れていき、砂煙が辺りを覆う。

 

 

俺達は目を腕で隠し、逃れたが……。

砂煙が晴れた時、そこには特異種の姿はいなかった。

 

「何処に行きやがった?」

 

周囲を見渡して見るがその姿らしき影は見当たらない……逃走したかと考えたその時、カエデが叫ぶ。

 

 

 

 

「上です!!」

 

カエデのその言葉に弾かれるように上を向くと、そこには月の光を背中に受けながら背中にあったはずの天輪を頭上高くに昇らせ、その天輪を包むかのように翼を展開し夜空に浮かぶ特異種の姿があった。

 

 

グギィオオアアアアアアアア!!

 

 

そう叫ぶと天輪と翼が同時に薄紫色に輝き始める。

何が起こるかは分からない……だが、これから行われる事がかなりヤバイ事だというのは長年の直感で分かった。

そう思った時、俺は既に叫んでいた。

 

 

「逃げろぉぉぉぉぉッ!!」

 

 

俺がそう叫び、其れに弾かれるように全員がその場から離れるのと輝きを増した特異種の翼と天輪から大量のオラクル弾が地上のカリギュラが居たであろう箇所周辺へ放たれたのはほぼ同時だった。

 

暴力的なまでの密度を誇るオラクル弾の嵐が逃げる俺達すら許さぬように降り注ぐ。

その雨は約20秒も続き、止んだときには辺り一体がオラクルの雨粒によって良ければ蜂の巣、悪ければ原型を留めないレベルまで破壊されていた。

 

 

その中心地域にいれば間違いなく死が待っているだろうオラクルの雨。されどその雨が降り止んだ瞬間夜空へ浮かぶ特異種へ向かって飛び込む黒い影。

 

「……あの中でも生きていたんですか?」

 

カエデが信じれない、と言ったように震えた声でそう呟く。それは両腕に巨大な刃を持ち竜帝の名を関するアラガミのカリギュラ。

白と黒。相反する存在が空中であるにも関わらず再び切って防いでの切り合いを始めている。

 

その光景は何人たりとも邪魔するものを許しはしないと言った、1つの神話に例えれるような恐ろしくも見る者を色んな意味で釘付けにするであろうもの。

そこには俺達が介入する余地は無く、また介入しようとすればきっとすぐに死んでしまうだろう。

 

「……今すぐ帰還するぞ」

 

俺のその呟きに反論する声はなく、俺達は目標を達成することが出来ぬまま極東支部へと戻ることになった。

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き本当に有り難う御座います。

黒いカリギュラと紅蓮のオロチがタッグを組んだミッションという地獄レベルの難しさを誇るであろうDLミッションとか来ませんかね?

皆さんは苦手なアラガミとかミッションはありましたか?私は基本全部苦手ですが、GE3でいうと今はドローミが大の苦手です。


それでは、また次のお話で。


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第39話 残酷で美しく

どうも皆様、黒夢羊です。

今回はかなり短いです。
あと次回もかなり短いです。


それでは、本編へどうぞ。




 

 

 

 

内から涌き出る怒りに身を任せて目の前のカリギュラと殺し合いを始めて数分が経過した。

 

 

既に今持てる力の全てを使って挑んでいるが、一向に倒れる気配すら見せない上に結合崩壊しやすい顔さえ一部が欠けたりヒビが入る程度で止まっている。唯一破壊できたのは右の仕込み刃1枚だけ。

 

対する此方は首と右の掌に新しく傷が出来て、此方も痛みは感じないが相も変わらず治りが遅い。

首に至ってはまぁまぁ深く入っているようで無理に動かすと首がもげそうな気がしなくもない──まぁ、そんなのは関係ないが。

 

 

自慢の剣捌きを2回も凌がれた事が効いたか。

向こうからは仕掛ける気は無いようで、先程から唸り声を発するだけだ。

ならこっちから仕掛けて強引に終わりに持ち込むしかない。そう決めるとレーザーを複数放ち、カリギュラがそれに対処している間に接近する。

シンプルだが、これが1番相手にとって接近を許しやすいようで直ぐに眼前まで移動することが出来る。

 

あらかた対処を終えたレーザーの危険度よりもこちらの方が高いと判断したか近づくこちらに向けてそのまま両腕の仕込み刃を降り下ろしてくるが、それを両腕の籠手で防ぎ、両腕が上がったことにより空いた横腹から翼を

伸ばして腹をかっ切る。

……ツクヨミを食べた性か、翼や両腕、そして尻尾がほんの少しだが伸縮する能力を得たようで、ある程度のリーチであれば補うことが出来るようである。

その為本来この距離なら浅くしか斬り込めないだろうが翼は見事にカリギュラの両横腹に食い込み、ここに来て始めてカリギュラが苦悶の声を上げる。

 

 

するとカリギュラが顔を上げて雷球を口から放ってきた。それを避けるために瞬時に翼を戻しながらそのまま後ろへ大きく跳躍、自分に迫ってきている雷球を同じく口から雷球を吐き出す。

赤と紫。2つの異なる色を持つ雷球は自分の前方でぶつかり合い2色の眩い光を放ち相殺される。

それの光に視界を奪われてしまい、一瞬だけ眼を細めながら両腕を交差させて奇襲に備える……が、その奇襲は来ることは無く。

自分が腕を退けるとそこに黒いカリギュラの姿は無く、焦り周囲を見渡す……が同じくその姿は見えず。すると自分の前方、より詳しく言うと斜め上だろうか、そこから先程聞いたうなり声が聞こえた。

 

そしてその声の方向へ顔を持ち上げた自分の視界に映ったのは、ビルの屋上へ佇みながら2つの紅蓮の眼差しをこちらに向けている黒いカリギュラが居た。

互いが互いを睨み付ける時間が続く……それは数秒の出来事だったが、自分にとっては数十分、数時間のようにも感じられた。

そんな睨み合いの末に先に動いたのは自分ではなく相手……何か未練がありげに背中を向け逃走を開始する。

勿論逃がす気は微塵もなく、翼を使い飛翔しようとすると

 

「……キュ……」

 

この世界に来て聞きなれた声が耳に聞こえた……いや、実際は発しておらず、自分の幻聴だったのかもしれないが。

直ぐ様追跡を中止しルインの元へ駆け寄る。

ルインの体に刻まれた切り傷は改めて見るとかなり深く、体の中央まで届いているようだった。

 

自分が近付いたのに気付いたのかルインが此方へ寄ろうと体を無理矢理動かそうとしたので、慌ててルインを掌に乗せそれを止める。

自身が自分の掌の上に居ることに気付いたのか、ルインが顔を上げて此方を見る……持ち上げるその行為すら今のルインにとって拷問に等しい苦痛を味わうのだろうか、その体は震えていて今にも事切れそうな程に弱々しかった。

 

「……キ…ュ」

 

掠れた声で何かを伝えようとするルイン。

こんな時ぐらい分かってやれば良いのに、自分にはルインの伝えたいことが分からなかった。

コレも自分のツケが回ってきたのか。

そんなことを考えるくらい自分は自責の念を感じていた。

 

「キュ……」

 

そんな中、ルインが再び動こうと体を起こし始める。しかし傷が深いのか浮くことすらできない。

いまだ何を伝えたいのか分かることが出来ない自分は、もしかしたらこれで分かるかもしれない……と、あの時と同じようにルインを自分の顔近くに寄せる。

 

すると本当に、本当に聞きなれた小さな声で。

 

 

 

 

 

 

 

 

最初、それを聞いた自分は気のせいかと己の耳を疑った。アラガミになった故に遂に可笑しくなったのか……と。

 

しかし、ルインを見れば此方に全てを任せると言ったようにもう動くことすらしない……いや、動けないと言った方がいいのかもしれない。

こうなれば最早消えていくのは時間の問題だ。

ならば自分がするべきなのは何なのか。

 

 

それはルインが最後に願ったであろう『願い』を叶えてやるのが、コイツを看取るであろう自分の責任なのかもしれない。

だが……本当にそうなのか?

今まで聞こえてきたルインの声は全て偽物で。

自分はありもしない声に慰められていたのでは?

 

そんな事が頭の中に思い浮かぶ……だが。

 

 

 

 

幻聴だったのかもしれない。

ルインにとって自分と共に居たのは己を守るためだけだったのかもしれない。

自分の考えが通じたのだって偶然が重なり続けた奇跡に近いものだったのかもしれない。

 

だが、本当に……本当にそうだったとしても、自分が救われたのは事実だ。

それだけは揺るがない、いや揺るぐわけにはいかない不変の事だ。

 

 

こんなのはエゴだ。

自分を慰めるだけの偽善でしかない。

アラガミにもなれず、かといって人としても生きることが出来ないただの出来損ない。

 

そんな自分だから出来ることなんだと、意思を汲み取る事をしない他のアラガミや、汲み取ることが出来ない人のどちらにも当てはまらない自分だからこそ。

 

 

 

 

 

 

動かないルインを両手で優しく包む。

もうこれ以上他の者に傷つけられないように。

 

 

静かに持ち上げていく。

その眠りを妨げぬように、そして自分の決意を揺るがさないように。

 

 

 

 

自分自身の口を開く。

 

 

そして、ルインを口の中に入れ捕食する。

 

 

 

 

 

 

捕食は経った数秒で終わった。

今までの神生で1番短い捕食だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………こんな時でも味を確かめようとする自分が嫌になりそうだ。

 

 

 

 

 

ルインは前世を含めて今まで食べた中で最高の味であり、同時にもう二度と口にしたくない味だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルイン……意味、『廃墟』『廃止』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして──『破滅』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今回も最後まで読んで頂き、有り難う御座います。

ルインの意味を間違えているとか言わないでくださいお願いします。

今回と次回で一先ずルインは退場することになります。
ぶっちゃけた話ルインが死ぬか死なないかは結構悩んでいて、あることが切っ掛けで死ぬルートへ突き進むことになりました。
もしifの物語を書くことになればルインが生きていた時の話も書いてみたいなーと思っています。


それでは、また次のお話で。



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第40話 やさしいかいぶつさん

どうも皆様、黒夢羊です。

以前友人に「感動できる系の小説とか無い?」と言われたので、自分の好きな本を幾つか紹介したのですが。
最近返事が来て、どうやら全部泣いたそうです。
感動するといってもな涙が出る作品や、良い意味で何も言えないという作品だって言えます。

皆さんにもオススメの本とか紹介したいという気持ちはあるのですが、やっても良いものか…という感じですね。



では、本編へどうぞ。




 

──ある日、私は生まれました。

生まれた場所はとっても寒い場所で、辺りが真っ白でした。

 

生まれた私はとっても小さくて、お腹が空いていました。お腹が空いて仕方がなくって、ご飯はないか探しました。

すると、目の前に美味しそうなご飯がありました。

私はそれを食べようとかじりつきました……今思えばそれが大きなミスだったんだなって……でも、正解だったのかなって。

 

 

当時の私がかじったのは大きな大きな怪物でした。

怪物は私の方を向くと大きくガオーッて吠えました、私はそれがとっても怖くて逃げました。

 

私は速く逃げることができたみたいでなんとか追い付かれずに逃げれてたんですけど、行き止まりについてしまいました。

どうしようって思ったら目の前の壁に小さな穴があって、私はそこに逃げ込みました。

 

奥まで逃げ込んだけど、怪物は追いかけてきていて穴を大きな足を使って穴を壊そうとしてました。

どんどん入り口が広くなっていったからとっても怖くてプルプルと震えるだけしかできませんでした。

すると、怪物の向こうから大きな大きな叫び声が聞こえました。

 

 

とってもとっても大きな叫び声。今そこにいる怪物よりもよっぽど怖そうな声。私はますます怖くなってしまいました。

 

でも、その声を聞いた怪物が声の聞こえた方へ向いて、私は助かりました。

それでもまだ近くは離れてなくて、私は怖くて穴の中から外の様子をこっそりと見てました。

 

すると、そこには白い怪物さんがいました。

私を追ってきた怪物と同じくらい……いやそれよりももうちょっとだけ大きな怪物でした。

白い怪物さんは怪物に向かって攻撃してました。

私は思いました。「私を助けてくれてるんだ!」って。

 

そのあと白い怪物さんはやられそうになったけど最後はパンチをたくさんして勝ちました。

怪物さんはお腹が空いたのか倒して怪物をムシャムシャって食べてました。私はお腹が空いていたのを思い出して、こっそり近づいてちょっとだけ食べました。

 

怪物さんはこっちに気付いてないみたいでただひたすらムシャムシャと食べてました。

 

 

だから私は待ちました。怪物さんがご飯を食べ終わるまでしっかりと待ちました。

怪物さんはご飯を食べ終わるとなんにも無かったかのように帰っていこうとしました。私は慌てて尻尾を噛んで私を忘れてるよって知らせようと思って引っ張りました。

 

すると怪物さんは何かに気付いてくれたのか動きを止めるといきなりこっちに振り返りました。

私はそのままかぶりついてた尻尾と一緒にブーンと飛ばされて地面をコロコロと転がっちゃいました。

 

やっぱりなにも気づいてないみたいで、怪物さんはまたまたそのまま帰ろうとしました。

私はさっきみたいに尻尾にかぶりつきました。

すると、怪物さんは今度は尻尾を動かして私を見つけてくれました……私はいきなり動いたから慌ててそれどころじゃなかったけど。

 

それでも怪物さんは私は助けてくれたから連れてってくれるかなって思ったら、怪物さんは私を無視してそのまま帰り始めました!途中何回も尻尾を右に左にブンブン動かすから離れないように必死でかぶりついてました。

 

 

 

それから大分たって怪物さんの寝るとこについたら怪物さんはそのまま寝ちゃいました。

私は暫くどうしたらいいかわからなくてオロオロしてました。

でも外が真っ暗になっていくのを見て怖くなったから怪物さんの腕の中に潜り込んで寝ました。

とっても大きくて安心できました。

 

 

次の日の朝、怪物さんは何やら座ってジーッとしていました。

どうしたんだろうって辺りを動き回っているといきなり怪物さんがこっちを向いて唸り出したからビックリしました。何かしたのかなって思って近寄って聞いてみると唸り声をやめて何も言わなくなりました。

 

その後はずっと怪物さんの足の上でゴロゴロしました。怪物さんの足が思ってたよりもずっと広くて楽しかったです。

それから暫くして怪物さんが動き始めたので、付いていきました。私がついていくと怪物さんは何か困ったように頭を抱えました……でも、少しすると元に戻って私を手の中に入れて2本足の怖い化け物を3匹倒しました。

 

 

そのあと怪物さんは手の中から私を解放してくれました、その時私の視界に映ったのは美味しそうな化け物でした。私は思わず食べようと思ってそちらに向かいます。

 

すぐにたどり着いた私は早速食べようとしましたが、後ろの視線が気になって振り向きました。すると怪物さんがこっちをじっと見ていました。

私はどうしたらいいんだろうと悩みました。でも、まだまだ頭が良くなかったこの頃の私はどう考えても答えが出ずに何回も怪物さんの方を見ることしかできませんでした。

 

私がそれを繰り返していると、怪物さんが私を軽く押してきました。それは「食べて良い」という合図だったんだと思います、けど怒った怪物さんは怖いから本当に良いのかまだ迷ってました。

 

すると怪物さんは化け物内の1つを半分にするとこっちの目の前に置いてくれました。流石にこれは食べても良いと言ってくれているんだなーと思って……でも、怖いからゆっくりと食べました。

そのときに怪物さんを見ても怒ることはしなかったから、本当に大丈夫なんだと安心すると減ったお腹を満たすように食べ続けました。

 

 

今思えばはしたないなーなんて思ったりします。

 

 

その夜、怪物さんは住みかに帰ったら、なにやら炎や雷を出した後に寝てしまいました。

私も寝ようと思いましたが、そこまで眠いという感覚がなくて寝ることが出来ませんでした。その為、怪物さんの辺りをうろうろしたりゴロゴロしていると、不意にお腹が空いてきたのです。

 

でも私じゃあ怪物さんみたいに強くないからご飯を捕まえることも出来ません。だからどうしようかなーと思っていた自分の目に、怪物さんのヒラヒラと小さく動いているマントが入ってきました。

それがとても美味しそうに見えて思わず欠片だけ食べてしまいました……味はとっても美味しくて、もう一回だけ食べようかなーっと口を開こうとした時です。

 

体が熱くなってきて、最終的には火で焼かれるような熱さまでになりました。

熱い!熱い!そう叫ぼうとしても声がでなくて辺りを這いずり回ることしか出来ません。

 

ずっと続くと思えた拷問のような熱は次第に消えていって、その代わり私の体はとても軽くなりました……試しに飛び回って見れば何時もよりも速く動けました。

 

 

それに何よりも驚いたのはその日の朝でした。

私を見た怪物さんがこっちを見て驚いてるのが分かりました……何で分かったかって?

 

それは怪物さんが「驚いてる」って言う気持ちを私が感じ取ったからです!えへん。

どうやら怪物さんから見た私は真っ白になっているようで、怪物さんとお揃いの色らしいです!

 

そんな感じで喜んでいると怪物さんは餌を探しに行く見たいで、私もついていこうとしました。

 

すると怪物さんは私にここで待っていて欲しいみたいだから、待っておこうと思いました……すると、私が怪物さんの考えを分かっていることに驚いたのかそのあと色んなお願いをされました。でも私は全部こなしたのです!えっへん。

 

そのあとお礼の代わりなのか、怪物さんに怪物さんの欠片が食べたいってお願いしたら食べてもいいって。許してくれました!

 

 

 

 

 

……それからは沢山色んなことをしました。

怪物さんと一緒にご飯を食べたり寝たり。ある時は餌を一緒に探したり、ある時は餌を釣るための囮になったりしました。

神機使いっていう怖い人にも襲われたけど、今となっては良い思い出で、こんな日が続くのかなって思ってました。

 

 

 

 

でもある時、怪物さんはボロボロになって帰ってきました……体も心も。

どうやら大事な人を助けられなかった事が辛かったみたいで、その沈んだ思いが私にも伝わってきました。

それでも苛められた相手と同じ人間を助けるなんて、私には分かりません。けど、怪物さんが悲しんでいるのは私も悲しいです。

 

だから怪物さんに届くか分からないけど、一生懸命生きてほしいってお願いしました……すると、怪物さんはこっちを見て不思議そうに考えました。

どうやら怪物さんは生きてくれるみたいです。

ただ、悲しいのが私が怪物さんが居なくなったら困るからっていう考えみたいです……困るんじゃなくて悲しいんです。

 

 

だから私は、怪物さんが困らないように。悲しまないように一生懸命手助けしようって頑張りました。

だからおっきな化け物の誘導だって恐くないって訳じゃないけどへっちゃらでした。

 

 

 

 

怪物さんの欠片を食べれば食べる程、怪物さんの考えていることが詳しく分かってきて、私が怪物さんと同じようにもっと難しく考えることができるようになりました。

だけど怪物さんには私の気持ちがあまり分かりません……怪物さんが考えているのは私の体を怪物さんが食べてないから見たいです。

 

怪物さんが私の体を食べるのを想像すると、ちょっとだけ恥ずかしい、ぽわぽわした気持ちになります。

きっと痛いんだろうけど、でもそれも怪物さんならいいかなぁーって考えちゃうくらいに変な気持ちです。

それがなんなのか私には分からなかったけど、とっても良いことだって思ってました。

 

 

怪物さんといる時間が楽しくて、嬉しくて。

ずっとこの時間が続けばな……って思いました。

 

 

 

 

 

でも……それも終わりみたいです。

 

怪物さんが黒い化け物に襲われている時、助けたいって気持ちだけで動きました。

化け物が吐いた何かが体に当たってとても痛かったけど、怪物さんを守るために頑張りました!えへん。

 

 

……なんて事も怪物さんには伝わらなくて。

ただただ、怪物さんの悲しい気持ちだけが伝わってきました。

 

泣かないで。

私は、怪物さんに泣いてほしくないです。

私は、怪物さんに笑っていてほしいです。

 

 

どんなに私が想っても怪物さんは自分で自分を怒り続けています。

どうすればいいんだろって。悩み続けました……でも、前みたいに私には時間がなくて、段々と私が消えていくような感じがします。

 

それを私は必死に繋ぎ止めて、悲しんだり、怒ったりと忙しい怪物さんに最後の我が儘を言いに行きます。

前に自分を食べてくれたらと考えたとき、とてもポカポカしました……だから私が消えても、私だったものは怪物さんと一緒にいたいです。

 

 

 

 

怪物さんは悩んでました。

私が段々と眠くなって来るときも、ずっと。

 

……起きてるのも辛いです。

だから……もう、寝ちゃいます。

 

 

 

 

 

あ……、どうせなら。

 

最後くらい……褒めて欲しかったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

……まぁ、仕方ないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はルイン。

アバドンでもアモルでもない。

ルインっていう素敵な、とっても素敵な名前。

 

 

 

 

こんな素敵な名前をつけてくれて、ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そして、おやすみなさい。怪物さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、有り難う御座います。

ルインとはGE2編ではお別れとなります。
感想でもルインが死んだことに対して皆さんが色々と言ってくださり、本当に嬉しかったです。

さてさて、次回は考察回か主人公視点のどちらかになります。
考察は……まぁいつものガバガバ&こじつけですので、どうかお許しください。


では、また次のお話で。


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第41話 仕組まれ芽吹いた新星の種

どうも皆様、黒夢羊です。

今回は考察回……というか、説明回?みたいな感じになっています。
はい、いつもの安定ガバガバな知識と妄想披露会です。

色々と面倒くさいと思いますが、どうかお付き合いくださいませ……。


では、本編へどうぞ。





 

 

 

 

眩い光が差し込み目を覚ます。

 

外に出て見れば太陽はもう空の頂上付近まで昇りかけており、自分がどれだけ寝坊しているのかを自覚する。

前までは目覚まし時計の代わりをしてくれる奴が居たんだが、今はもういない。

 

だから改めて自分で起きれるようにならなければな……と心の中で意気込みつつ、餌を探しに『贖罪の街』の外へと向かった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

心の中に残った言い表し辛い感情を吐き出すように目の前のアラガミ──ガルムへと攻撃を仕掛ける。

ガルムはガントレットから爆破などを繰り返して避け続けるが、その避ける先々に氷の槍を無数に出現させ続けているため、段々とその体に傷が増えていく。

 

 

そうこうしている内に、ずっと守るだけではジリ貧だと判断したのだろう。ガルムが一転してこちらに飛びかかって来た。

右前足のガントレットによる強烈な一撃が自分の顔面を襲う──なんてことはなく、その一撃を左腕でいなしながら懐に潜り込み、ガラ空きの顎に掌底を入れる。

 

見事に決まった為にガルムは一瞬ふらつき、そこを逃さずに左腕に作った氷剣を喉元に差し込み、そこにオラクルを流し込み氷の刃をガルムの体内で急速に巨大化&展開。

数秒も経たぬ内にガルムあちこちから氷剣が体内を食い破って突き出してくる──これは実体を持つ氷だからこそ出きる技で、炎や雷だと何故か体内を焼いたりすることしか出来ない……まぁ、それでも十分殺傷能力は高いが。

 

体内を氷剣で破壊し尽くされたガルムはそのままぐったりと倒れ、己の命の炎が消えたことを自分に教える。

 

 

本来なら背中の翼やらを使えば良いのだが、生憎今の自分にはそれが出来ない。

何故かというと壊れたはずの逆鱗が再生しており、翼と天輪が消えて、その代わりに再びマントが生えているのだ。これも無駄に高い再生能力の影響なのかもしれない。

 

更に言えば、この逆鱗は自分の意思で破壊することが出きるんだと思う……いや、思うというよりも直感が近いのだろうか?体内のオラクルを逆鱗に集中させ、内側から爆発し、破壊する。

こうすることで人為的に逆鱗を破壊し、あの翼と天輪を出現させることが出来るようになったみたいだ……多分。

 

 

ただ、解放した後に自分がどうなるかは分かっておらず、恐らくは活性化と言うように怒りに支配とまでは行かないが、怒りが沸き上がって破壊衝動が抑えきれなくなる可能性が高い……何よりも逆鱗が任意的に破壊された時のトリガーが自分の怒りだったのだから。

殺意の波動に目覚めた何処かの格闘家もこんな感覚だったのだろうか──?

 

 

まぁ、そんなことは今は重要ではない。今重要なのは目の前のガルム(こいつ)だ。そして自分はそのガルムを躊躇うことなく、一心不乱に口に運び続けた。

そしてあっという間に全てを腹の中に納め、新たな獲物を探しに再び足を進める。

 

 

 

他の場所に行こうとした時に首を捻りすぎたのか、カリギュラにつけられた傷が痛みだす。

あのカリギュラに付けられた首の傷はまだ治っておらず、無理に動かそうとすると傷が余計に悪化しそうなので少しだけ控えている。

掌と腹に受けた傷は完治はしているものの、その傷跡が残っており奴の攻撃の凄まじさを教えてくれる。

 

 

この傷は教訓だ。

忘れはしないだろう……いや、忘れない。

 

 

 

もっと、もっと強くならなければ…………。

その思いだけが、ただただ強くなっていった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

「成る程……そういうことか」

 

自身のラボにて無数の資料を広げたペイラー・榊は崩れていないにも関わらず眼鏡を直し、額から垂れてきていた汗をハンカチで拭いた。

 

そこには特務対象となっていた謎のアラガミこと黒いカリギュラの存在。そしてそのカリギュラと戦闘をしていた特異種の変化に関する報告書があげられていた。

 

 

先の調査で強力なジャミング波は黒いカリギュラが放つ特有の偏食場だと判明した……非常に厄介だが、それに関してはまだ良い、問題はそのカリギュラが持つかもしれないもう1つの能力だ。

 

あの黒いカリギュラに襲われ、命を落としたでろう3人の神機使いを弔った後に彼らの神機を詳しく解析した……すると見事に一刀両断された神機の切断面からある事が分かった。

 

 

その切断面に位置するオラクル細胞が『死にかけている』のだ。

説明するならば、オラクル細胞自身の活動を抑えるという言うよりかはその機能をほぼ無くしている。

これによりここの切断面のオラクル細胞は軒並み再利用不可になっており、ブレードなどの単体ならまだしも神機の内1つは神機自体が真っ二つに切断されている。

つまり、神機が文字通り『殺されかけた』。

 

今はまだ不明なことが多いが、この綺麗な断面からして炎などを使い溶断する特異種ではなく、鋭利な刃を持つ黒いカリギュラの方が、襲撃された当時の状況的に犯人である確率は遥かに高いだろう。

 

 

つまり、黒いカリギュラにはこの『オラクル細胞を殺す事が出来るオラクル細胞』……名付けるなら(キラー)ーオラクル細胞とでも言うべきものが備わっているということになる。

それが肉体全域に渡って存在しているのか、それともカリギュラ特有の仕込み刃や手足の爪や牙などの鋭利な部分にしか存在しないのかは分からないが、どのみちオラクル細胞を投与した神機使いや人工アラガミに近い神機を武器とし対抗する我々人類からしてみれば、かなり恐ろしい相手であることには代わりない。

 

第一種接触禁忌種であるスサノヲは「神機使い殺し」の異名を持っているが、この黒いカリギュラの方が遥かに「神機使い殺し」に近しい力を持っている。

ただ、特異種とも戦っている所をみると神機を偏食するなどの傾向は見られない為、神機使いのみを狙っていると言うわけではないようだ。

 

 

Kーオラクル細胞についての詳細な事はまだまだ不明だが、ひとまずそのような能力があるという事、そしてそれを振るう相手の正体を知ることが出来ただけでもかなりの収穫だ。

知らずに対策するよりも知っていて対策をする方が幾分かはマシになる……今回の場合はその特性的に本当に雀の涙程しか意味をなさないかもしれないが。

 

 

 

 

「それに……本当に厄介なのはこっちの方かも知れないしね」

 

机の一角に一纏めにしておいた資料の束を手に取りながら、榊はそう一人呟く。

その束の一番上には最新の報告書──つまり、黒いカリギュラと戦っていた際に見受けられた特異種についての特徴等が記載されていた。

 

その報告書に書かれていた情報は榊自身が理解したくないと思いながら何度も確認しながら見たものだから、今更そこに書かれている事が変わっているなんて夢みたいなことは起こらない。

 

 

『特異種が変化していた』

 

 

まずはこの一文だ。

続きの文によればまずヴァジュラ神属に共通するマントが消失していること、そして背部の逆鱗と呼ばれる部位が破損しており、そこからディアウス・ピターのものに酷似した白い翼と禍々しい天輪がマントの代わりに造り出されていた……とある。

 

そして2枚目は各々が描いた特異種の姿がある。

ジン以外の3人の絵は比較的分かりやすく、特にロックヘッドの特異種は本物を見続けて模写したかのような精度の高さだ。

翼に関しては確かにこの絵を見る限り、ディアウス・ピターのものと酷似……いや、確実に同じであろう。

それよりも気になるのは天輪の方で、榊はこの天輪を何処かで見た覚えがあるような気がしていた。

 

暫く自分の記憶と格闘し続ける中、ようやくそれに該当する記憶の引き出しを見つけることに成功し、それと同時に冷や汗が頬を垂れる。

 

 

その天輪は見覚えがある……いや、エイジス事件の際に『彼』と直接対峙した人物であればその天輪は誰もが見覚えがあるだろう。

アルダノーヴァ。始めて観測された終末捕食の際にその終末捕食のトリガーかつキーとなる巨大アラガミ『ノヴァ』を守護するためにある人物が造り出した人造のアラガミ。

 

そのアラガミが持つ天輪に似ている……いや、寧ろアルダノーヴァよりも禍々しくなっている。

 

 

──天輪は過去2回起きている終末捕食に関わるアラガミに見られた特徴であり、まず1回目は先に話したアルダノーヴァ。次にノヴァの残滓が集まり生まれたアリウスノーヴァ。こちらにも天輪のようなものが見受けられており、大きさ的には彼方よりでは無いが形状でいうなら幾分かはアリウスの方が似ている。

 

さて、この2体はオラクル細胞の再結合作用により再びそっくりそのままの姿や能力を持ったまま出現し、新たなアラガミとして定着していたのだが、ここ1年以上の間その姿を見せていないのである。

最初は数の減少による発見が少なくなったのか……とも思ったが、今ではハッキリそうではないと自身は断言できると思っている。

 

 

特異種が出現し、そして本格的に活動を開始したために姿を模倣しただけのこの2種類のアラガミは必要なくなったのではないだろうか?

そう考える榊は少し背中に寒気を感じる。まるでこれはアラガミという生物自体が特異種を完全なる『第3のノヴァ』へと生まれ変わらせようとしているようではないか?

 

もしかしたら、ただの偶然に偶然が重なっただけなのかもしれない。だが、そうだとしても段々と危険が迫って来ている事に代わりはない。

 

 

ブラッドからはジュリウスが脱退し、結果的に4名となってしまった。戦力は大幅にダウンし、何よりも空気が重くなっていっている……。

今もマルドゥークの捜索は続いているが、それも見つかるかは怪しい。

本来ならば見つかるか怪しいマルドゥークを追うよりも、確実に近くに潜む危険である特異種を処理する方が良いのではないのか……と、考える自分がいる。

 

だが、彼らの気持ちを分からない自分ではないし、何よりもロミオは極東支部に根付き過ぎた。

今ではあまり関わりのなかったジン達でさえ協力的になっている。

 

 

今自分に出来ることは特異種及び黒いカリギュラについての解析等しかない。

ならばそれを続けるだけだ。いずれ彼らが戦うであろう存在……その時のために少しでも有利になるように情報を束ね、攻略の糸口を見つけなければ。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

「ふふ……」

 

妖しい声が室内に響く。

声以外に聞こえるのは機械が鳴らす電子音とモニターに映し出された映像から流れる音声のみ。

 

その映像を恍惚の表情で眺めるのは、金の髪を持つ青き眼の女性。

何を思い映像を見ているのか、それは彼女自身にしか……いや、彼女自身も分からないのかもしれない。

そんな中、再び己以外が居ない空間で彼女は一人呟く。

 

 

「まさか、ここまで早く成長するなんて……」

 

 

驚きに満ちた台詞だが、その内容に反し浮かべているのは驚愕ではなく微笑み。

 

「一生懸命『アレ』を育てた甲斐がありましたね……言うことを聞かずに脱走した時は失敗かと思いましたが、これはこれで良いでしょう」

 

そんなことよりも、と彼女は再びモニターを見続ける。そこに映るのは漆黒の竜帝と怒り狂う紫白の真竜。

その映像を繰り返し、繰り返し眺めながら満足げに笑みを浮かべた後に口を開く。

 

「私のジュリウスと、貴方様……どちらがお早いか競争ですね」

 

そう彼女は恋する乙女のように頬を染めながら、空に翼を広げながら雄叫びをあげる紫白を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 





今回も最後まで読んで頂き、有り難う御座います。

最近見事に本編から脱線していってる気がします……まぁオリアラガミを主人公にしている時点で仕方ないのは仕方ないんですけどね……。

最後の人物の口調が難しくて難しくて……というか、そもそも原作キャラの台詞っぽくするのかなり難しいです……。
なんか個人的に納得がいっても、改めてみると「あれ?なんか違うくない?」となります……。


ではまた、次のお話で。



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第42話 蠱毒

どうも皆様、黒夢羊です。

なんとUAが15万を突破しましたー!
読んでくださってる皆様のお陰です!本当に有り難う御座います!!

……最近BLAZBLUEのスサノオが好きすぎてこれアラガミとして転生できないかな……とか考えてました。
人型ですし、外見と能力だけそのままにして中は別人にしたらなんかこう……面白そうと勝手に3話くらい書いていたら、5日位経ってましたね。
──はい、サボりです……本当にすいませんでした。

あと、今回は駄文率がかなり高いのでご注意下さい……まぁ、何時もの事なんですけどね。


それでは本編へどうぞ。





あの日から大分経過した。

 

最近はだいぶ1人の時と同じように起きる事ができてたが、今日は早く起きすぎたみたいで日の光はまだ寝床になっている此所に届いてきていない。

まだ眠気が残っていたり、時間がまだ遅かったのなら二度寝できたのだが、生憎眼は覚めてしまい、二度寝するにはちょっと時間的にアウトな気がする。

 

少しだけ背伸びをした後に外に出て軽く体を動かし、少し何時もよりも早いが、今日はやることがある為に少し気だるいが仕方あるまい。

 

 

そう自分に言い聞かせながら寝床近くにある廃墟の中へと歩みを進める。

 

 

 

 

──あれから大型を喰い続けたが、依然自分の力が強くなったとは思えないでいた。いや事実強くなってない可能性の方が高いから何も言えないのだが。

それに見かけるのが自分が捕食したことのある種類もしくは捕食したくない奴しか会わないので新しく能力を手に入れることも出来ない為に焦っていた。

 

手に入れたのは辛うじて発見したガルムの発火能力。これを上手く使って空中などで動きを強制的に変えることができるようになった……うむ。便利なのは便利だが、やはりどうしても自分の求めているようなモノではないので少し複雑である。

 

 

そこで自分は考えた、目標となるアラガミがいないのなら何をすればあのカリギュラに勝つ確率をあげれるのだろうか……と。

まず思い付いたのは通常のカリギュラとの戦闘をひたすらこなすことで、スピードやパワーはアイツに劣るかもしれないが、動きの癖やら何やらの練習相手にはもってこいではないかと思っている。

ただ、問題点があるとするならアイツ以外にカリギュラと遭遇できていないという点だ……いや、本当に何で1度も遭遇しないんだ?

 

まぁ、という事でこの案は現在進行中だ。

そして次に思い付いたのが……神機を捕食すること。そして神機こそ今自分が探している物である。

対アラガミ兵器である神機を捕食してその力を得ることが出来れば、確実に相手にダメージを与えることが出来るようになるのではないか?……と考えたのだ。

ただ、幾ら捕食したアラガミの力を得ることが出来る可能性があるとは言え、神機は確実に自分にとって毒でしかない。

 

それを捕食して取り込もうモノなら自分の体はどうなってしまうのか……その結果は想像するに容易いだろう。

だが、今のところ自分が手っ取り早く強くなるにはうってつけの方法だと自分的には思う。

勿論感応種やカリギュラを始めとした自分が取り込みたいアラガミは見つけ次第捕食していくつもりではあるが、全く遭遇していない所をみると一体何時出会えるのやら。

 

 

 

 

それはそうとしてどうやって神機を集めるかという話だが、フィールドというかこの世界には『遺された神機』というものが存在する。それらをかき集め、喰らうという方法をとろうと思っている。

 

当初神機使いを襲撃し、神機を喰らうという考えも浮かんだのは浮かんだのだが、それをすると完全に向こうに敵対していると思われるだろう。それに神機のすぐ近くには神機使いには無くてはならないアイテムである腕輪があるのだ、もし何かの手違いで腕輪を破壊でもしてしまえばその神機使いはアラガミ化の道をまっしぐらだ。

 

 

そんな事は起こしたくない。という事で、この案は脳内会議で却下され、必然的に安全に手に入る遺された神機を回収することになったのだ。

そしてそれからはフィールドを周りながらアラガミと神機を探し続けており、始めは中々見つからないと思っていた神機だったが意外にもその数は多く、刃先がロングブレード7、バスター3、ヴァリアント1に砲身がブラスト2、アサルトが1にスナイパー1、シールドはバックラー3、シールド5、タワーが1だ。

 

……うん、少々集まりすぎじゃ無いか?

種類は色々とは言えかなり集まってると思う。まぁ幾つかまとまった所にあったりしたので、恐らくチームでミッションに挑んで居たところ、突如想定外のアラガミに襲われて全員御陀仏……と言ったところだろうか。

 

まぁ、それなりの数が集まったので今日はその遺された神機を捕食する日なのだ。

 

 

 

 

廃墟の中へ入るとそこには先程頭に思い浮かべていた多くの遺された神機。

その中からロングブレードを1つ選び口に運びやすいように砕くと、口の中に入れ噛み砕いて飲み込む。

 

 

 

 

……今のところ体に変化は無いな。よし、もう一本食べてみるか。

そう思い、自分の近くにあった神機を手当たり次第に砕き口に運んでいった。

しかし、それでも体に変化は起こることはなく内心無駄だったか……と落ち込みかけたその時。

 

 

「────────ッ!?」

 

 

 

体に異常な程の激痛がはしった。

前にイェン・ツィーを食べたときに発生したものよりも遥かに越える痛みに耐えきれず地面に倒れ込む。

内側から自分の肉体を喰い破られるような感覚に耐えきれずのたうち回るも、そんな事で激しい痛みが薄れる訳もなく…ただひたすらに暴れ、何度も打ち当たる身体に周囲は次々と破壊されていく。

 

幻聴なのか分からないが体の筋繊維がブチブチと引きちぎられるような音が聞こえてくる。

声を出したいが、声帯すらも殺られているのか出てくるのは掠れきった弱々しい呼吸のみ。

 

 

激痛によって意識を手放しそうになるが……そうはいかない。

自分はあの黒いカリギュラに勝たなければならない。今こんなところで倒れるわけにはいかないのだ。

意識を必死に繋ぎ止めながら神機を自ら取り込むイメージを絶えず持ち続ける。自分が……自分の体がアラガミの力を手に入れる事が出来るなら、アラガミの素材から出来ている神機もモノに出来る筈なのだ。

 

 

 

痛みに必死に耐える。

 

耐え続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

痛みは段々と……少しづつ退いていった。

そして自分が何とか立てるようになった頃には空は暗闇に包まれており、自分がどのくらい痛みに苦しめられていたのか──まぁ、今もかなり痛むのだが──を知らせた。

 

まだ痛みが退かないと言うことはまだ完全にモノには出来ていないのだろう。

感応種の能力を手に入れるときでさえ、ここまでの時間を要していなかった……神機、恐るべし。

 

 

いや、そもそも1度に多くの神機を捕食しようとしたのがこの痛みが長引く原因ではないだろうか?だとすればチマチマと1つずつしっかりと消化していけば、ここまで苦しめられることはなかったかもしれないし、より早く取り込んだ結果を確かめられたかもしれない。

 

 

 

うん………いや、うん。馬鹿だ自分。

 

だが、規定量を摂取しなければその能力を得ることは出来ないと今のところ考えられているのだから、1度に全て捕食したのは間違いでなかった……と思いたい、いや思う。

 

それよりも夜間の為に寝なければならないのだが、痛みのせいで眠気が一行に来る気配がない……来たとしても寝ることは出来ないのだが。

 

 

 

 

その痛みに耐え続けながら、夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

そして、次の日の昼。

 

 

完全に痛みが収まり、体も問題なく動かせるようになっていた。それに嬉しいことに首の傷が完治していた。

そしてどっと押し寄せて来ている眠気と疲労感を抑えながら神機を捕食した結果を確認してみようとする。

まずは自分の外見だが特に変わった変化は見受けられ無かったので、と言うことは考えられる可能性としては神機やアラガミに対する耐性を得たか、それとも……。

 

ひとまず前者は神機かアラガミが居ないと確めることが出来ないので、必然的に確める事が出来るのは後者となる。

 

 

自分はあることをイメージする。

 

すると右手首から先が細い糸のようにバラけ始めて行き、完全に右手が消失すると次第に糸が互いに絡み出していき小さな短剣のような形へと変化した。

 

 

……イメージよりもかなり小さいな。

そう、自分がイメージしたのは神機のバスターブレード……といってもクロガネやノコギリの様なものではなく侵食されたリンドウさんが持っていたあれのような物である。

 

しかし、再現されたのはアレの刺々しい部分が幾らか無くなったシンプルな形状のミニサイズ……これはバスターというよりもショートブレードと言った方が納得行くのでは無いだろうか。

 

 

なぜこうなった?侵食リンドウさんのバスターはアラガミから見てもかなりのサイズだ。サイズのイメージは合っていると思うのだが……。

 

 

 

……いや、単純に捕食した神機の量が少ないのではないか?人間と自分ではサイズにはかなりの差がある。侵食リンドウさんが腕から生えていたと言っていたのならそれは、体内のオラクル細胞から形成されたものだろう。

それを自分で再現しようとすれば必然的に使用するオラクルの量が足りない……?いや、神機として扱うオラクルの量が足りないと言った方が正しいのか?

 

何にせよ、次は腕全体を使ってサイズの比較をしながら必要であればより多くの神機を集めなければならないな……。

 

 

 

 

 

 

だが、今は…………

 

 

 

寝る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして自分は寝床である廃墟の地面に横たわると襲い続けていた眠気に身を任せ、深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき有り難う御座います。

リンドウさんが腕から神機っぽいの生やしたんなら主人公もいけるんじゃないか?と思った結果こうなりました……。
それなら他のアラガミも出来そうだと思いますが、そこはノヴァ+人間の思考+神機を捕食したというトリプルコンボを成し得た主人公だからできた芸当……ということで1つ。


それではまた次のお話で。




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第43話 肥大化する偽意

どうも皆様、黒夢羊です。

最近花粉症のせいなのかくしゃみと鼻水、涙が止まらない地獄を味わっています。
早く終わって欲しいこの季節……と思いながらも庭にある桜の気が満開なるのはいつ見ても綺麗なものだなぁ……と思うので終わって欲しくなかったりもします。

みなさんはどうでしょうかね?



では、本編へどうぞ。




 

 

神機を取り込む事を決め、それを実際に行動に移してから数日が過ぎた。

あの後もアラガミと遺された神機を探しつつ、自身の体で実験を行っていたら、以下のことが判明した。

 

 

まず1つ目、自分の腕部はもはや完全に作り替えられているようで、その部位に徹するオラクル細胞の『在り方』を分解・再構築する指令を出すと、自分の思考する状態を内包されているオラクル細胞の量で再現可能な範囲の再現をする。

 

これは神機に体が慣れた時に既に試したことで、後に神機の銃形態を再現しようとしたら1つ問題が発生した。

外見は銃形態を模倣出来たとしても、中の構造を再現できておらず、オラクル弾を放つことができなかったのである。

ええ……ここで綺麗にそんなのを再現するのですか……と、思ってしまったのは仕方ないと思う。

自分は神機の種類についてはある程度知識があるとは言っても銃の構造は勿論、神機についての細かい仕組みなんかは知るわけがないド素人となので、再現なんて専門の人の手助けがあっても出切るかどうか怪しい。

 

と言うことなので、今のところは近接武器と盾の形を再現するだけに限る……まぁ、今は盾を時間を掛けてわざわざ作り出すことに意味を感じないので作らないが。

 

 

次に2つ目、先程言ったオラクル細胞を分解・再構築出来るのは自分の一部……より正確に言うならば、金色の筋繊維の様な部位しか変化させることできないと言うこと。

 

まだまだ取り込む数が少ないのか、それとも何処かで自分の原型を保たねばならないという考えが無意識で腕全体の変化を防いでいるのか。

どちらかの可能性もあるし、それ以外の可能性だって十二分にあり得る。まぁ、先程も言ったが自分は神機の専門家ではないから分かる訳がないのだから、考えるだけ無駄な事かもしれないが。

 

 

 

 

さて、神機を食らっていて思ったのだが。

量が少ない、圧倒的に足りない。

今も神機集めに勤しんでいるのだが、最初に食べた時にも部分的なモノとは言え、そこそこの量を捕食したと思うのだが、それでも再現できたのは神機のショートブレードにすら満たない可能性のあるちっぽけなもの。

 

あの量を捕食してあのサイズなら、同じ量を再び捕食したとしてもショートブレードよりも全長が大きい武器が作れるだけだ……勿論それは手のみを変化させた場合の話なので、腕ごと変化させればその限りではないが。

 

 

 

 

それよりも……無理だとは分かっていはいるが、安定する神機の供給源を確保したいところだ。

今は神機の欠片でさえも欲しい……が、欠片を食ったところでそれの効果が雀の涙程しか……いや、もしからしたらそれ以下しか得られないのだ。

 

出来ればなるべく多くの種類、そして量を欲するのだが、如何せん神機は人に合わせて作られた為に小さい。

一番効率良く手に入るのは極東支部を襲って神機保管庫の神機を全てを食べるのが思い付くのだが、これをすると自分の印象は完全に地に堕ちる上に極東支部の戦力が大幅にダウンする。

それに極東支部の神機使いと戦わなければいけないのはこちらの命が脅かされるので完全に却下だ。

 

 

……なんかいっそのことアラガミ専用の神機とか作られてないのだろうか。

 

そうありもしない考えをしていると……ふと、自分の頭にあるものがよぎった。

 

 

 

 

……ん?アラガミ専用の神機?

 

 

 

 

………………………………

…………………………

……………………

………………

 

 

 

 

…神機兵の武器を捕食すれば良いのではないか?

 

 

自分で思考するとかなりヤバイ考えだというのが分かる。そもそも神機兵というのは神機のオラクル細胞制御機構とかなんかを応用して作られた人工のアラガミだった筈……、ならその武器も神機ないし、その技術作られている可能性は大いにあるのではないだろうか?

現に銃形態に変形し、オラクル弾を放っているのだから、自分の仮説は間違っていないと思う。

 

 

それに無人の神機兵なら躊躇いなく襲える。

勿論、有人であれば襲いはしない。

 

 

 

それに、今後赤い雨の影響を受けて暴走した赤い神機兵が出てくれば、ソイツらを襲って人助けもできる……まさに一石二鳥ではないか。

しかし、無人の神機兵と明確に主人公達が敵対するのはマルドゥークとの決着を終えた後になる……。

そしてその後に暴走神機兵が現れる。

 

まぁ、その時には既に神機を作れる程になっておかなければならないのだが……。

 

 

 

 

 

 

うーむ、やはり今の自分に出来ることは欲張らず、地道に神機を集めるしか無いのだろうか?

 

 

 

ため息をつきながら今日もまた神機を集めることにするのだった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

極東支部がその異変に気付いたのはつい数日前の事だった。

 

切欠は任務に出ていたとある神機使いの一言。

 

「最近のこじん見つからないな……」

 

本人からすればただの日常会話だったのだろう。しかし、それを気に止めた同じチームの一人が報告書に記載したのだ。

 

それは勿論局長であるペイラー・榊の目に止まることになる。

最初は単に好奇心だった。

しかし、その好奇心のお陰で極東支部はその以上を発見することができたのだろう。

 

 

各地域での『遺された神機』……通称のこじんの回収量を改めて調べ直したのだ。

するとどうだ、まず真っ先に『贖罪の街』での遺された神機の回収が激減し、それから派生するように少しづつ周辺地域での遺された神機の回収数が減っているのだ。

 

 

 

単に見つかってないだけだ……以前の自分ならそう判断することも出来ただろう。しかし、『贖罪の街』はハンニバル特異種の根城になっているとして候補に上がっており、決してこの遺された神機の回収数の減少が偶然だと判断することは今のペイラー・榊には出来なかった。

 

故に榊は考える。

特異種は一体何を目的に行動しているのか。

前回観測された黒いカリギュラとの戦闘時に凶暴化していたが、それ以来特異種らしき影を見ていないのだ……いや、発見できていないといった方が正しいか。

 

 

『贖罪の街』及び特異種の姿が見受けられた各地域で、特異種を見つけようと観測しているのだが、そのどれにもかかる気配がないのだ。

その為、ペイラーは1つの仮説を立てた。

 

それは黒いカリギュラとの戦闘を観察した際の報告書に書かれていたことだが、特異種はカリギュラの仕込み刃を溶断し、それを捕食したのだ。

 

 

……黒いカリギュラは強力なジャミングを行う偏食場を作り出していた。

もし、一部をあの特異種が捕食し、その偏食場の力を少しでも受け継いでいるとしたら。

黒いカリギュラはその強力過ぎるジャミング故に自身の居場所を特定されてしまうという欠点があった。しかし、特異種は手に入れた能力をそのまま使用するのではなく、自身の扱いやすいように作り替えてしまう……例を上げるなら、感応種のイェン・ツィーの感応能力の上位版としか思えないような独自の偏食場がそうだ。

 

もしこれを用いてジャミングを自身の姿をレーダーから己の身を隠す光学迷彩……より寄せるなら過去に存在したチャフというレーダーによる探知を妨害する偏食場ないし能力を手に入れたとすれば合点がいく。

 

 

 

 

これによって特異種はレーダーに見つかることなく遺された神機を探し回ることが出来るようになるわけだ。

 

しかし、特異種が何故遺された神機を探しているのか……そこが気になる。

もし仮に神機自体が欲しいのであれば神機使いを襲えば良い。今の特異種の力であればそれは比較的容易だろう。

しかし、それをしないということは別のところに目的があると考えるべきか。

 

だとすれば未だに神機使いを驚異に感じており、仕方なく破片とは言え歴とした神機ではある遺された神機を探し回っている……か?

 

 

そして最初に戻るが何故神機を欲するかだ。

現状の特異種に我々が対抗できる術はほぼ無いに等しい。あるにはあるが、それは極東支部に所属する有力な神機使いを総動員しての討伐任務になるだろう。

そうすれば必然的に極東支部の防御は手薄になりアラガミの侵入を許し…………て……?

 

 

 

 

 

……まさか、特異種はこれを狙っていた?

我々が遺された神機の異様な回収数に気付く。そしてその一番回収数が少なくなっているのは自分の住みかとされる『贖罪の街』。

ならば自分が関わっているだろうかもしれない……と、自分を知るものなら考えられるだろう。

そこで自分が姿を現して我々は討伐するために人員を総動員させる。少なくとも隊長格の人物は極東支部からほぼ居なくなるだろう。

そこを襲撃し、神機保管庫にある大量の神機を手に入れる……完璧ではないが筋が通っているのではないだろうか?

 

 

そして、そこまでして神機にこだわる理由だが……もし、もしも仮に我々が特異種を討伐するためには今現在極東支部に不在の『彼ら』を呼ぶことが一番安全で確実な方法だ。

 

となると奴は彼らとの戦いを想定して少しでも神機に対する耐性を付けようとしている可能性があるということでないのか?

 

 

いや……彼らの中の一人の神機にはかつてノヴァだったシオ君を捕食し、白く変化したモノがある。

もしかして、奴はその事を知っていた?

ならば間接的とは言えシオ君を捕食することでその力を得てノヴァへと近づこうとしていた?

それとも因縁があるとされるリンドウ君との戦いに備えるために?

 

 

どれだけ考えてもこれだ!というものが出てこない。それだけ特異種というアラガミが異質であり異常なのだ。

ただ、ペイラーは1つだけ。本当に己しか抱いていないであろう弱々しい希望的すぎる考えを持っている。

 

 

 

それが、果たして真実なのかどうかは本人しか分からないし、確かめようもない。

 

ただ、運命の時は刻一刻と迫っている。

 

 

その事実だけは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、本当に有り難う御座います

博士の予想は当たっているところもあるんですが、外れることの方が多い……私の世界線の博士は少し妄想癖が強いようです。

他の作品もあるので週2投稿くらいで行こうかなーと思っているのですが、それすら出来るか怪しいですね……今書いてる奴の原作設定が練られ過ぎてて難しいんですじゃあ……。
泣き言を言っても仕方ないのですが、こればっかりはどうしようもないですね……六導玲霞さん(ボソッ



それではまた、次のお話で。



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第44話 『神』に振るわれる『機』械

どうも皆様、黒夢羊です。

いるかどうかは分かりませんが、待っていてくれた皆様……お待たせしました。
今回は主人公パワーアップ回です……多分。

主人公がどんどん強くなっていくと、それに応じてテキヲ強くしなければならないのですが、ほんわりほのぼの系で行っているこの作品なら特に気にしなくても良いですね(白目)



では、本編へどうぞ。




 

 

 

 

 

あれからまぁまぁの時間が過ぎたと思う。

 

 

……なんでこんなぼかしたような感じなのかって言うと自分の時間の感覚が少し曖昧になってきているのだ。

いや、考えてみても欲しい。

 

朝起きてする事と言えば、ひたすら神機とアラガミを探すだけ。

生きるためなら中型や小型をある程度捕食すれば良いし、ヴァジュラくらいなら『強化した能力』で初めて対峙した時とは比べ物にならないくらい速く、そしてダメージを受けずに狩り、捕食することが出来るようになった。

 

 

ディアウス・ピターやプリティヴィ・マータなどはまだまだ感応種から手に入れた能力を使わないと勝つことは難しいが、それでも以前に比べて物理的な攻撃手段が増えた為にかなり戦いやすくはなったと思う。

 

生き抜く力が強くなっていくのは良いのだが、今の自分に足りないのは戦いの経験値だ。

そのために自分と同じ神属に属しているハンニバルやカリギュラと戦いたいのだが、これが中々見つからない……いや、あの憎き黒いカリギュラ以外見かけた事がない。

 

 

経験値を手に入れるのなら、手当たり次第にアラガミを倒せば良いと思うかもしれないが、倒したアラガミは残さず腹に納めるのが自分の心情で、この体で変にクアドリガやコンゴウとかを食ってしまい、手足がキャタピラになったり短くなったりしたら困るので、どうしても困ったとき以外は襲わないようにしている。

 

瓦礫とか草を食うのは最終手段だ。

せっかくここまで厳選とまでは行かないが能力を選んで来たのだから、下手にそこら辺のモノを食って台無しにしないようにしなければならない……まぁ完全に自分の我が儘だ。

 

 

 

 

それで話を戻すが、一向に自分と同じ神属を見かけないので拠点を移すことにした。

 

勿論強いアラガミの能力を得るため、戦闘の経験値を手に入れるために動くのだが、その他に『贖罪の街』で遺された神機を段々と発見できなくなってきていた上に、神機使いを見かける頻度が高くなった気がしたので、身の安全も考えてのことだ。

 

 

 

 

 

 

 

という訳で今自分は『愚者の空母』の辺りで生活をしている。

……前に住んでいたろって思うかもしれないが、ここはあれ以来殆ど脚を運んでいないので、まだここに居ることはバレていないと思う。

 

 

そして、またここで遺された神機を集めようと思っていたんだが……予定を変更することに。

今現在、廃ビルに隠れている自分の視線の先に居るのは、トウモロコシのような体にドクロを思わせる頭部を持つ、ハンニバル神属の感応種スパルタカス。

 

スパルタカスは周囲のアラガミからオラクルを吸収し、己をパワーアップさせるという感応能力を持つ。

これを手に入れれば敵対するアラガミを弱体化させながら、己を強化して戦闘を優位に進めることができるだろう。

欠点としてはオラクルの吸収中は無防備になることだが、そんなもの隠れて行えば良いだけのことだ。

バレたらバレたで逃げるなり、周囲に他のアラガミが居ればイェン・ツィーから手に入れた感応能力を使って壁にして消耗させ、そこにトドメを刺すなり出来るのだから。

 

……さて、肝心のスパルタカスについては此方に気づいて居ないようなので、相手がここから立ち去る前にさっさと準備を進めるとしよう。

 

 

──因みにさっき話していた『強化した能力』の事だが、あれ以来ヴァジュラ神属等を捕食したことで既存の能力が更に強化された……が、それとは別にもう1つ、ようやく使えるようになった能力についてだ。

 

視界に依然アラガミの死体を頬張るスパルタカスを収めながら、右手を分解&展開させ、再構築する。

最初は幾多の細い黄金の繊維が次第に根元から黒く染まりながら片刃の太剣を形作る。それは何処かデザインされたようなしかし、禍々しい見た目をしており生物的な何かを感じさせる。

 

その太剣は神機使いであるリンドウが半分アラガミだった際に腕から生み出されたモノとほぼ同形状のものだが、本来のそれとは違うのはそのサイズである。

人であるリンドウが使っていたモノと、アラガミである自分が使っているモノは何倍以上の大きさを誇る。

 

 

その神機モドキの峰を屈めた背に乗せ、自身の背後に前よりも遥かに量が増えた炎球を従わせる。

そして『仕込み』が終わったことを確認すると姿を隠していた廃ビルから飛び出し、スパルタカスへと突撃する。

 

此方に気づいたスパルタカスが吠えるが、それを無視し

てスパルタカスの周囲から氷の柱を体の合間を縫うように発生させる。

パズルのように腕や脚を抑える氷柱に一瞬動きが止まるスパルタカスだが、止まったのはあくまで一瞬の事。

黄金の体を強引に振るい、氷柱を破壊する。

 

 

だが、一瞬止まったのなら良い。

自分の背後に従わせていた炎球の約半分を接近しながらスパルタカスに向けて放つ。

氷柱から抜け出した直後のスパルタカスに、弾丸のような速度で迫る炎球を避けることは出来ず、防御の姿勢をとることすら出来ないまま全てその体で受けてしまう。

 

そして炎の弾幕を受けて怯んだスパルタカスに片手で逆袈裟斬りを入れると、スパルタカスから鮮血が飛び散り、太剣の刃先に微量ながら肉片が付着する。

 

 

苦悶の声をあげながらバックステップするスパルタカスに追い討ちをかけるように残った炎球を放つ。

今度は後方に下がりながらも確りと両腕を交差させ炎の弾幕から身を守る……が、弱点の属性でもあるためにそのダメージは決して軽いものではない。

 

スパルタカスが地面に着地したのと同時に自分は地面を蹴り、接近する。普段なら届かない間合いであっても神機を用いれば充分攻撃範囲内に届く。

神機に炎を纏わせ片手で今度は袈裟斬り。

 

 

見事に刃の中央辺りから食い込んだので左腕も使い、そのまま一気に腹部の辺りまで神機を食い込ませる。

神機で体を裂かれ、炎で肉が焼かれ……と相手からしてみれば散々だが、この世界ではなにもしなければ死ぬは自分なのだ。

ならば仕方ない。

 

流石に腹の辺りまで来ると刃が通り辛くなり、そのまま食い込んでいる部位を焼きながら引き抜く。

するとスパルタカスは本体と別れを告げそうになっている左腕を必死に繋ぎ止めながら、自身の能力であるオラクルの吸収を始める。

 

 

少しずつ力が抜けていくのが分かるが、そう易々とさせる訳には行かないので顔面を左手で掴むと、そのまま持ち上げて勢いを付けながら地面にめり込ませる。

すると、抜けて行った力が体に戻ってくるような感覚を感じる……というかそんな簡単に解除出来るのか。

 

やはり不遇なアラガミだ……、まだ一部でマスコット的扱いのグボロの方がマシなのではないか。

そう思いつつも気絶したのか動く気配のないスパルタカスにトドメを刺すために神機で腹を貫き、そのまま引き抜く。

 

 

そして、スパルタカスの感応能力をイメージしながら久々に新しいアラガミの肉にありつくのだった。

 

 

 

 

……因みに味はキムチで炒めたというか、ちょっとピリ辛な肉だった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

「おらー!いい加減止まったらどうだ!」

 

……どうしてこんなことになったのだろうか。

 

 

背後から迫る敵の気配と殺意……そして声を感じ、聞きながら黄金の毛並みを持つ『彼女』は走る。

 

きっかけは自分の仲間が今住んでいるところから抜け出し、外の世界へ行こうとしたのに付いていった事からだった。

よく分からない建造物や、景色に驚きを覚えていた彼女はそのまま仲間とはぐれて居た所を昔得た知識にある『ゴッドイーター』とおもわしき人間がいきなり襲いかかって来た。

 

 

 

 

──そして、今に至る。

 

どれだけ引き離しても次々に現れる、現れる。彼女からしてみれば鬱陶しいことこの上なかった。

その中でもヤバイのが金色の腕、白い剣、赤い剣……この特徴を持つゴッドイーターだ。

コイツらだけは他のを引き離しても未だに自分を追いかけている。

特に金色と白のはヤバイ。赤はまだ対処できるが、金と白は今の彼女では本調子であったとしてもマトモな相手出来るかどうか怪しかった。

 

 

故に今彼女に出来ることは背後に向けてレーザーをやたらめったらに放ち、動きを遅くするだけ。

幸い、あの3人のゴッドイーター以外は撒けたようで、その姿をみることは無くなった。

この調子ならあの3人もどうにか撒ける筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く自分の命がかかった鬼ごっこを続けていた彼女は普段なら感じない疲労感を覚えていた。

しかし、いつあの化け物が襲ってくるか分からない以上、早めに仲間との合流を終えてもといた住み処へと戻るべきだろう。

 

そう思い、彼女は疲れた体に鞭を打ちながら再びこの世界を駆け抜けるのだった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

「ふふふ……」

 

己以外が存在しない部屋で儚げな美女は微笑む。

それは何も知らぬ可愛い我が子に対してか、それとも胸に宿るこの熱さを教えてくれた紫白の荒神か。

 

それは彼女にしか分からない。

暫く微笑み続けていた彼女は何を思ったのか、自分が座る車椅子を動かし、自らが操る機材の前へと向かう。

 

「ジュリウスには悪いですが……少しだけあの方に味方させてもらいましょう」

 

そう言いながらパネルやら何やら、何も知らぬ者が見れば理解が出来ないであろう数のシステムを解除し、そこで飼われていた『ナニか』達を解き放つ。

 

それを確認した彼女は再び満足げな微笑みを浮かべながら一言呟く。

 

「これは貴方様への供物……貴方様が完全なる身へと至るための果実達です……どうか、受け取ってください」

 

彼女からしてみればそれは愛を込めた贈り物で、もしそれがバレンタイン等に渡されるチョコ等であればどれだけ可愛らしかっただろう。

しかし、解き放たれたのは人類に仇なす者。

決して可愛らしさなどは感じないし、感じることすら出来ない。

 

彼女の脳内に思い浮かぶのはこの星が使わしたと言わんばかりの禍々しい紫白の翼と天輪を持つかの神の姿。

それがまだ人間でいう胎児の状態であることがもどかしくて堪らない。

 

 

だから彼女は贈るのだ。

彼という胎児を、生命を再分配する成人へと成すための供物という名の果実を。

 

 

 

 

「さぁ、私達も負けてられませんよジュリウス……フ、フフフ……」

 

 

 






今回も最後まで読んでいただき有り難う御座います。

あの人の口調って何処までだったらOKなんですかね……というか喋りすぎですかね?
彼女の言う供物がなんなのかはご想像にお任せします、本編に出てくるかどうか分かりませんし。

あと思ったんですけど、主人公レーザーとか無くてもオラクル球を弾丸のように放てるんで充分でしたね。


では、また次の話で。


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第45話 魔狼率いる百神夜行

どうも皆様、黒夢羊です。

いよいよGOD EATER2の中盤?ぐらいに差し掛かって来ました。
内容が原作と色々違うことになってますがどうかお許しください……というかそもそも主人公君が居る時点で原作通りにはいかないんですけどね。

この作品を書き始めた当初は人×アラガミのカプリングを考えていたのに今では「あれ?これ無理では?」となってます……良いんだ、アラガミ×アラガミのカプリングを書けば良いんだ……っ!!


そんなわけで本編へどうぞ。






 

 

 

その日、極東支部は何時になく慌ただしかった。

それもそのはず、以前超巨大赤乱雲が観測された際に大規模な避難作戦が行われた際にロミオとジュリウスの二人と相対し、ロミオを亡き者へと変えたブラッド、そして極東支部のゴッドイーター達にとって彼の仇とである感応種アラガミ マルドゥークの所在が遂に見つかり、急遽マルドゥークの討伐作戦が決まったのである。

 

マルドゥークは多数のアラガミを従えて進行を続けており、マルドゥークを叩くためには無数のアラガミが築いている包囲網を突破しなければならない。

 

 

これに対して極東支部は隊長格の神機使いを始めとした支部内でも指折りのメンバーとブラッドを中心としてマルドゥークが潜む渓谷奥地への突撃部隊が結成。

更にフライアのジュリウス・ヴィスコンティが戦闘データ等を収集するという名目で神機兵を本作戦に導入する事を提案してきた為に、極東及びフライア合同での大規模な作戦が展開されることになった。

 

 

 

そして作戦に参加するゴッドイーター達はブリーフィングルームにて今回の作戦についての詳細を聞くために集合していた。

そんなブリーフィングルームに集ったゴッドイーター達を見渡した極東支部局長であるペイラー・榊は満を持して口を開いた。

 

「さて、皆集まったね……では今回の作戦の説明を始めさせてもらうよ」

 

彼がそう言うと同時に、部屋の奥に備え付けられた巨大なスクリーンに作戦区域の地図と複数のアラガミの画像が映し出された。

各人の視線がスクリーンに集まっていることを確認した榊は手元の機械を操作し、地図を拡大化させながら喋る。

 

「今回の作戦目標はガルム神属感応種であるマルドゥーク」

 

するとスクリーンに複数のマルドゥークの画像が大小様々なサイズで映し出される。

 

「目標は現在は多数のアラガミを従えて『月影の霊峰』付近を通過中で、予想ではこのまま『黎明の亡都』越えて『愚者の空母』へと向かうものだと考えられている」

 

マルドゥークの画像を押し退け地図が拡大化され黄色い矢印が地図上で1つの道筋を描く。

そして矢印上の複数のポイントに点が表示され、それを囲むように複数の赤い矢印が現れる。

 

「そこでだ、我々はこのルートの先回り及び誘導を行い『黎明の亡都』にてマルドゥークとの決着をつけようと思っている……そこで、まずは今回の作戦を成功させるために置いて最も重要だとされる、マルドゥークを守るようにアラガミが形成している防衛システムの突破についてだ」

 

 

今回マルドゥークは何の為なのかは不明だが、多数のアラガミを引き連れた群れを作っている。

その群れは4つの層に別れており、これがまたアラガミとは思えない程厄介な障害となっていて、これを如何に攻略するかが本作戦の要と言われていた。

 

 

第1層目、つまり群れの一番外。

ここは小型と中型のアラガミが多く配置されており、それを少数の大型アラガミが引き連れているものと思われていて、多く見られるのは小型はオウガテイル神属とザイゴート神属、中型はコンゴウ神属とヤクシャ神属、更に大型はサリエル神属……と視覚・聴覚の感知能力が高いアラガミを主軸として構成されている。

 

次に第2層目。

小型のアラガミが減り、中型が多くの割合を閉めているゾーンだが、まず小型はザイゴート神属。

中型はコンゴウ神属、ウコンバサラ神属、ヤクシャ神属、シユウ神属、グボロ・グボロ神属で、大型はボルグ・カムラン神属、ヴァジュラ神属、……となっている。

 

そして第3層目。

小型のアラガミが消え、中型と大型のみで構成されているゾーンになる。

中型はコンゴウ神属とシユウ神属の2つで、大型はクアドリガ神属とヴァジュラ神属にガルム神属、そしてサリエル神属となっているが、ここでシユウ神属を感応種イェン・ツィーが、サリエル神属を同じく感応種のニュクス・アルヴァが率いている事が判明している。

 

最後に敵の本陣である第4層目。

大型アラガミのみの構成になっており、さらにマルドゥークによって統率が取られているため他のゾーンの比にならない程の激戦区になると想定される。

確認されているのはヴァジュラ神属、クアドリガ神属、そして多数のガルムを率いるマルドゥークの構成だ。

 

 

 

 

 

 

「……と、これが観測班と調査班によって確認できた敵の群れの全貌だ」

「「「…………」」」

 

室内に沈黙が満ちる。

無理もないだろう、ここに居る彼等にとって大半が狩りなれたアラガミだが、ここまで大群を成していることは非常に稀なのだから。

 

そもそも何故マルドゥークはこんな大量のアラガミを率いて進行しているんだ?

これ程の大群は極東支部史上初……いや、人類史初と言っても過言ではない程だと自分は思っているが。

そんな思考の海に落ちかけた自分の意思を一人の声が引き上げる。

 

「敵全体の規模は分かりました、次は作戦の内容をお願いします」

「ああ、敵がすげぇのは良く分かった……だが、それを突破する方法があるなら問題ねぇ」

 

そう手を上げながら静かな声でそう喋るのはブラッドのシエル君とギル君だった。その目には何処か決意に満ち溢れていて、それに当てられたのか他のメンバーも次々に声を上げていく。

 

 

それに最初は少し驚いていた榊だったが、口元に笑みを浮かべると眼鏡を直し再度口を開く。

 

「そうだね、では作戦の内容について説明していくよ」

 

 

 

まず、幾ら現時点での極東支部の最高戦力と多数の神機兵を用意しているからと言っても正面からマトモにやりあっては部が悪いのは確実だ。

だから今回は大群を崩し、その際にできた隙をついてブラッド隊を中心部に届けマルドゥークの討伐を狙うことになる。

まずは第1層目の感知能力の高さを利用し、誘導部隊による敵の誘導を行う。

これにより円形で作られた群れの一部を崩す。

続いて第2層目の一角を隊長格で構成された切り込み隊によって撹乱とルートの開拓を行ってもらい、第3層目からはブラッド隊と数人の部隊長による本陣急襲部隊がマルドゥーク目掛けて一直線に進むと言うものだ。

 

因みに神機兵には全ての部隊で協力してもらうようになっているので、本来よりも強固な布陣にはなる……とは言っても気休めにしかならないかもしれないが。

 

 

しかし、かなりこちらが不利な状態にも関わらず皆の目には不安といった色はなく、寧ろ先の二人のように決意に満ち溢れている。

 

これなら大丈夫か……そう思った榊は再び笑みを浮かべ、眼鏡を直すのだった。

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

太陽に照らされる中、『黎明の亡都』を自分は走り抜けていた。それというのも何時もの遺された神機集めと新しい能力の試運転の為の的を探している。

 

スパルタカスを捕食したその日の夜に体に激痛が走ったのだが、神機を捕食した時の痛みに比べたら遥かにマシだったのでイェン・ツィーの時よりもかなり余裕が持ててると思う……。

いや、というよりも一度感応種を補食しているから体が慣れているのかもしれない。

それなら神機を食っても体が痛まないようになって欲しいのだが、神機はアラガミである自分には毒物に近いものだから仕方ないのかもしれない。

 

 

さてさて、そんなこんなで遺された神機を発見する前に試し打ち出来そうなアラガミを見つけた……。

未だに捕食したことのない大型アラガミであるサリエル、女神のようにフヨフヨ浮かんでいるけしからん衣装のアラガミだ。

 

いや本当になんであんなえちぃ格好してるんだろうか?未だに謎なんだが。

とまぁそんなことはいい、幸いサリエルと自分の距離はかなり離れていて、向こうは気付いていないみたいだ。

それにオウガテイルやらの小型を引き連れているようだけど……あれか?サークルの姫的なあれか?それにしてはザイゴートも居るし……単に群れのボス的な感じか。

 

ともあれ小型も居るし能力を確かめるには申し分ない状況だな……それにサリエルの変則的なレーザーを撃つ能力は持っておいて困ることはないはずだ。

 

 

右手をバスターブレードへと変化させ、準備が終わったことを確認するとスパルタカスの能力……辺りのアラガミから力を奪うイメージを浮かべる。

すると体の中に段々と力がみなぎって来る感覚が生まれているのに、体が軽く感じる。

あの黒いカリギュラと戦った際に殺意を覚えた時と似ている感覚だ。

 

視線をサリエル達の方へ向かうと、力が抜けていることに動揺しているのか辺りを見回し警戒している。

暫くすると体の中には力がみなぎる感覚が止まった……これで取り敢えず第一段階強化が終わったということかな?

じゃあもう一度吸収させていただきますね!

 

 

再度能力を発動すると、再び体内に力がみなぎる感覚が生まれより一層体が軽くなる。

……某世界的に有名な配管工事の兄弟もスターを取ったときはこんな感覚だったのかもしれない。もしくはどっかの吸血鬼の「最高にハイッ!って奴だ」的な。

 

そんなこんなで吸収を続けていると、先程よりも早くオラクルの吸収が止まった。

……ん?これが今の容量なのか?それとも一体のアラガミから吸い取れるオラクルにも限界があるのか?

視線をサリエル達の方へ向けると、大型のサリエルはまだみた感じ平気そうだが、オウガテイルは脚が震え、ザイゴートは空を飛ぶのもやっと……と、言った感じになっている。

 

 

 

 

……原作だと弱体化するだけでピンピンしていた筈なんだけど、現実に見るとこんなにフラフラするものなんかね?

だがまぁ能力が無事発動することは確認できたし、そろそろ仕留めて狩りの時間にするとしましょうかね。

 

自分は大地を蹴り飛翔すると、真下に居るサリエルへ向かって己が生み出した神機モドキを降り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この光景を1体のコンゴウが見ており、その後直ぐ様撤退する。

 

そして、マルドゥークの群れの進行速度が速まった事を極東支部が知るのはこの時から約十数時間後の話である。

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき有り難う御座います。

最近他の作者様が書かれてるGOD EATERの話が結構更新されているので読んでいる私はウハウハです。
いやー本当に面白いんでついつい1話から読み返したりとかもしたりするんですよね……。

私も少しでも追い付けるように頑張りたいです。


それではまた、次のお話で。


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第46話 優しき灯火は狩人達を照らす




─ねぇ。

─どうしたの?



─キミはまた繰り返すのかい?

─ええ、私はまた繰り返すわ。


─結末は変わらないというのに?







─いいえ、今度こそ変わるわ。

─いいや、今度も変わらない。






 

 

 

 

──カイリ・フリンクは気が短い。

それが極東支部内で彼と少しでも接した者が抱くイメージで、彼自身も自分の気が短いという事は自覚していた。

 

現に今も目の前のアラガミの大群を相手取り、切れど撃てど減る様子の見えない光景に怒りが湧きかけて……いや、もう既に手遅れであった。

 

「あああああッ!ウッゼェ!どんだけ居るんだよコイツらはっ!!」

 

そう叫びながら銃形態の神機─アサルトの銃口─からオラクル弾を群れへ撃ち込み続ける。

それらは我武者羅に撃ったように見えて全て頭部や胸と、効率的に傷を負わせられる所へ当たっている辺り、流石隊長格の一人と行ったところだろうか。

 

 

そんな嵐のような弾幕をすり抜けて、1体のコンゴウが横からフリンクに殴りかかろうと飛び上がる……が、その拳は彼を吹き飛ばすことは無く、体に巨大な一太刀を浴び、切り伏せられた。

 

「お熱なのは良いことだが、もうちょい視野を広げるべきだな」

 

一瞬が命取りになり得るこの場に置いて、似合わない軽口を叩くのは極東支部第四部隊隊長、真壁ハルオミ。

バスターブレードに付いた血を神機を振るい落とすと、振り返り様に迫っていたオウガテイル2体を先程のコンゴウ同様に神機による横一閃の一撃を浴びせ、その命を断つ。

 

「ふぅー……どうよ?」

 

自信満々に聞いてくるベテランの神機使いに対してフリンクが掛ける言葉は何時とそんなに変わらない。

 

「うっせぇ!んなこと言わずにさっさと動きやがれください!!」

「おー怖い怖い、相変わらず辛辣だな」

 

そんな漫才を繰り広げながらも1体、また1体と周囲のアラガミ達を屠っていく二人。

そして中型と小型があらかた片付いた……と思ったその時。

 

「あぶねぇ!」

「おっと」

 

2人の体を狙うように数本のオラクルのレーザーが放たれる……1人は盾で防御を。もう1人は軽やかに避けた。

2人が視線を向けたその先には鮮やかなドレスを纏った美しく微笑む女性の姿をしたアラガミ サリエルがおり、その周囲にはまるで女王に侍る兵隊とでも言うように多数の小型アラガミを引き連れていた。

 

それを見て頭に血管が浮き出そうな、今にもイライラが爆発しかけているフリンク。

そんな彼の怒りを爆発させたのは先程攻撃してきたサリエルでも、ましてやその周囲の小型アラガミでもなく。

 

「うーん……80点だな」

 

何がとは言わないが、隣で点数をつけている真壁ハルオミだった。

 

「だぁぁぁぁぁ!なんでこんな時までアンタはそんな変態かましてんだ!!」

「変態とは失礼だな、これは聖なる探求の一環としてだな……」

「性なる探求の間違いだろ!しかもアンタ、アイツ襲って来たんだぞ!?何?そいつに対してもムーブメントやらを求めんの!?」

「当たり前だろ?ほら……見てみろあのサリエルも何処か照れた様子で」

「見てねーからな!?」

 

そんな2人に痺れを切らしたのかサリエルが再び多数のレーザーを2人に向けて放つが、それらは全て避けられる。

レーザーを避けきった2人はつい先程まで漫才をしていた人物とは思えないほど、真剣な目付きでサリエルを睨む。

 

「本来ならもっと眺めて居たいんだが、タイミングが悪かったな」

「アラガミに欲情するとかどんだけ守備範囲広いんだアンタは……ま、んなことはどうでも良いな」

 

2人の脳裏に浮かぶのは在りし日の極東支部の光景。命を賭けて戦う日々の中で心休まる穏やかな一時。

その輪の中に居た2人にとっても、もはや日常の一部と言っても過言ではなかった人物を。

 

今、彼の仇を討つときが来たのだ。

ならばこんなところでくたばるわけにはいかない。

 

「じゃあさっさと片付けるぜ!」

「了解……来いよ、狂わせてやる」

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

「やれやれ、露払いも楽じゃないんだけど……なっ!!」

 

そうため息混じりに神機を振るい、目の前で敵対していたヤクシャの命を刈り取った八秦 ジン。

そんな彼は今、マルドゥークが形成した陣の第2層と第3層の中間を他の隊長達やブラッド隊と共に進んでいた。

 

第1層近辺で多数の神機兵と極東支部のゴッドイーター達が誘導を行っており、第1層は問題なく通り抜ける事ができたが、第2層の中間地点からアラガミと接敵する機械が増え、第3層へ向かう今に至っては中型を主軸とした多くのアラガミに囲まれている状況である。

 

「すいません、ジンさん……僕らの為に」

 

そう申し訳なさそうに背中合わせに語るのは本作戦の要であるブラッド隊の隊長。

実力で言えばジンを余裕で越えているのに、それに傲らず謙虚な姿勢を崩さない彼に対してジンは何処か困ったように笑みを浮かべる。

 

「なに、君が気にすることじゃない」

「でも……」

 

気にするな、と言っても申し訳なさそうな態度を崩さずに居るブラッドの隊長にジンは何処か遠い何かを思い出すように呟く。

 

「俺もロミオ君の事が好きだった……ああ、勿論ソッチの意味でじゃあないぜ?」

「分かってますよ」

「そうかい?……まぁ、そんな彼の仇を君達が取る手伝いが出来るんだ。なら、協力しない訳がないだろう?」

「ジンさん……」

 

背中合わせに感じる彼の雰囲気が少し変わったのを感じながら「それに」と付け加えながらジンは目の前のコンゴウを切り伏せる。

 

「自分で大事な仲間の仇を取れるって言うのは、言い方は悪いが幸せなことだ……どれだけ取ってやりたくても取れないことなんてザラにあるからな」

「…………はい」

 

その言葉の裏にどれだけのジンの思いがあったのだろう。それを少しでも感じたのかブラッドの隊長は一言口にすると再び目の前のアラガミ達へと意識を集中させる。

 

 

 

「さぁ、しんみりした話は後だ……さっさとコイツらを片付けて本丸へ乗り込むぜ!ヒロ君!」

「ハイッ!」

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

「現在、強襲部隊は無事に第3層へ到達……このまま行けば目標へ到達出来るものと思われます」

 

オペレーターであるヒバリのその言葉を聞き、小さく安堵の息を漏らすペイラー・榊。

ひとまず今のところは突出したトラブルは無く、当初の計画通りに事は進んでいる。

 

しかし、榊の心中には何処か言い様の無い不安が渦巻いていた。

そう、それはマルドゥークを発見した際に判明した謎の大群。

 

 

何故、今まで姿を隠していたマルドゥークが見つけてくれと言わんばかりの大群を率いて移動を始めたのか。

まるでその大群は何かに対抗するためと言わんばかりの護衛にしては過剰すぎる戦力。

寧ろ己を守るために用意した……というよりも何かを確実に倒すために用意した……といった方があの大群を表す上ではしっくり来るのではないだろうか?

 

ならば、その前例の無いような大群を率いてまで『倒すべき』と認識された存在は何なのか?

 

 

情報が不足している今、それを考えるのは無駄に近いのかもしれない……だが、彼の中で何かが引っ掛かっているのだ。

マルドゥーク達の進行速度が速まったのは何故だ?何かを見つけたのか?

 

 

 

 

そして、彼は現在極東支部に置いて1つのイレギュラーが居たことを思い出す。

 

「そうか……特異種かっ!」

 

そう意図せずに叫んだ彼に部屋に居た人物達の視線が集まるが、思考の海に沈んだ彼にとっては些事ですらない。

 

 

アラガミ達が進行を行っている『黎明の亡都』は始めて特異種を発見した場所だ……だが、ならば何故『愚者の空母』へと向かう?

もしや、そこが現在の特異種の住みかとなっているのではないか?

 

そうだとしたなら、あの大群は特異種を倒すために集められたのか……いや、本当にそうなのか?

特異種はノヴァの一部をその身に取り込んでいて、尚且つアラガミを捕食することでその力や特性を取り込む事ができる。

それはかつての第2のノヴァと同じ特性であり、この事から特異種が第3のノヴァとなり得る危険性がある。

 

更に以前ジン君達が黒いカリギュラと戦闘を行っていた特異種はディアウス・ピターに酷似した翼を持っており、尚且つ凶暴性が増していた。

それがノヴァへと近づいている証拠だとしたのなら……これは、この大群は特異種をより早くノヴァへと至るための供物なのか?

 

 

いやいや、そんな訳がない。

……だが、あの黒いカリギュラが超弩級アラガミのようにノヴァへと至る為の鍵だとしたら、特異種はあの黒いカリギュラを倒せるようにならなければいけない。

ならこれは特異種が黒いカリギュラを倒し、捕食出来るようになるために用意された……?

 

そんな荒唐無稽な考えが彼の頭を駆け巡って行くが、そのどれもが確証はなく、どれもが真実のように感じてしまう。

そんな思考の海に沈み続けていた彼を呼び戻したのは、オペレーター ヒバリの焦りを含んだ一言だった。

 

 

「作戦区域に接近中のアラガミを感知!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……ハンニバル特異種です!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき有り難う御座います。

マルドゥーク戦はあと2~3話くらいで終わると思います……え、短いって?
仕方ないです、急展開が多いですからこのお話。
あと原作主人公の名前をヒロ君に変えました……まぁ、殆ど出番がないので対して意味がないかもしれませんが……すいません、原作主人公さん。



では、また次のお話で。


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第47話 朧月の咆哮─真説



─貴方が頑張っていることを知っています。


─これからも貴方は悲劇に嘆くでしょう、己の至ら無さに苦しむでしょう、絶望を味わうでしょう。

─でも、貴方はきっと救われる。

─私は待ちます。貴方が救われた世界のその先で。

─暖かな光を用意して、貴方を癒しましょう。




─だって。

─貴方には破滅なんて似合わないから。





 

 

 

 

マルドゥーク討伐作戦を開始してから数時間後。

 

 

作戦本部である極東支部では混乱が発生していた。というのも順調とは決して言えないが作戦通りに進んでいた所に新たなアラガミ反応が作戦区域に近づいている事が発覚。

 

そのアラガミと言うのが現在極東支部で一種の悩みの種になっているハンニバル特異種だったのだ。

 

 

 

 

 

 

──どういうことだ?

極東支部局長であるペイラー・榊は、頬を伝う冷や汗を拭うことすらせずに高速で思考を巡らせる。

考えられる可能性は先程自分が考えていた進化を促す贄を喰らいに来たか。

それとも、マルドゥークの感応能力によって集められたのか。

最悪のパターンは何らかの形で神機使いに対抗できる力を身に付けたと確信した上で、疲弊している神機使いを捕食しようとやって来た……というパターンだ。

 

どうする。

特異種は何が目的が不明だが、間違いなく作戦区域に侵入してくる。

相手にするために第1層目を担当している神機使い達を──いや、駄目だ。第1層を担当している神機使いの殆どは副隊長から下の実力だ。隊長格の神機使いも数名いるにはいるが、特異種との戦闘を経験していない者しかおらず進化を続けている特異種……特にあの黒いカリギュラと戦っていた時のままなら何も出来ずに殺されてしまうかもしれない。

 

 

そうであれば、やむを得ないだろう。

ペイラー・榊は神機兵を率いているブラッド隊の元隊長であったジュリウス・ヴィスコンティに通信を繋ぎ、特異種が接近している事と、それに付近の神機兵を対処に当てる事は出来ないかと要請する。

 

ジュリウスは榊の要請に対し待機させている神機兵数体を対処にあてると回答し、その後実際に6体程の神機兵が対処に向かっているのを作戦室に備えられた巨大なスクリーンに写し出された地図に表示される。

 

 

「特異種、神機兵に接近!!」

 

オペレーターであるヒバリの言葉につられスクリーンを見ると、特異種を表す点が配備された神機兵を表す点と接触する。

 

「特異種、神機兵と戦闘を開始!……嘘!?神機兵A大破!!」

「なんだって!?」

 

ヒバリが特異種と神機兵が交戦を開始したことを知らせた直後。同じくヒバリの動揺した声で特異種と戦闘を始めた神機兵の内1体が大破した事が作戦室内に知らされる。

 

その時間約数秒。

もはや極東支部の中堅クラス以上の神機使いが小型アラガミを討伐する速度と同程度である。

特異種にとっては神機兵など雑兵とでも言うのだろうか?

 

 

更に続いて神機兵が2機中破した事がオペレーターによって伝えられ、特異種の足止めに使われた神機兵全てが撃破されるまでに数十分もかからなかった。

それだけでも榊達は驚愕したのだが、更に次に特異種が取った行動に榊は再び目を疑った。

 

捕食しているのだ。

神機を……神機兵の巨大な神機を。

 

「………………」

 

室内に沈黙が流れる。

だがその沈黙の中でも一心不乱に特異種は神機兵の獲物である大型の神機を喰らい続ける。

 

今まで幾度と無く特異種に驚かされ、事前に予測を立てていた榊だが、それでも実際に特異種が神機を捕食している姿を目にすると小さく開いた口が暫くの間塞がらなかった。

 

 

少しして意識が戻った榊は再び思考を巡らせていく……神機はアラガミにとってあまり捕食したいと思える物ではない筈……スサノオという神機を好んで捕食するという偏食傾向を持つアラガミが居るが、それでも数少ない例だ。

 

特異種は今までアラガミを優先して捕食していた。だが何故いきなり神機を捕食し始めたのだろうか?

様々な可能性が考えられるが、やはりあの黒いカリギュラ……もしくは神機使いに対抗するためだろう。

 

 

前者はアラガミに有効打を与えられる神機を取り込むことで黒いカリギュラによりダメージを与える為。

後者は神機使いからの攻撃に耐えるため。

どちらも十分に考えられる理由だが、それよりも気になることが1つある。

もし仮に特異種が黒いカリギュラを倒し、捕食する為に神機を喰らおうとしているのなら、その大前提として黒いカリギュラが生きていなければならない。

 

おそらく特異種に大きな変化が見られていない為にまだ黒いカリギュラは生きているのだろう。

そうなると今後も黒いカリギュラに対しての対策は必須になってくるだろう……。

 

 

だが、もしも。

もしも黒いカリギュラを既に特異種が喰らっているとしたら……。

特異種が神機を取り込もうとしているのは本格的に神機使いに対抗するため……なのだろうか。

 

しかし、そうならば改めて特異種の思考レベルは他のアラガミを平然と凌駕していると思う。

やはりかつて神機使いを捕食し、体に宿したノヴァの特性によってその知識を得た可能性が高くなってくると考えれる。

神機使いは体内に偏食因子を取り込んでいるために、ノヴァの能力によって捕食した人の知識などを取り込むことも不可能ではない筈だ。

 

 

ならば……。

もし、人の知識があるのなら……。

 

 

「────特異種、第2層目突破!!」

 

 

 

 

榊はオペレーターの1人であるフランの叫びで意識を引き戻される。

ハッと反射的に顔を上げればスクリーンの地図にはとてつもないスピードで進行し続ける1つの点。

おそらく特異種なのだろう。

 

神機使いと神機兵を総動員して薄くした層をやっとこさ切り抜けた我々と違い、本来の──加えれば誘導に引っ掛かったアラガミ達が集まっているために本来よりも物量が多い箇所──層をあり得ない速度で進み続けている。

急速にアラガミが倒されている報告が増加しているのはおそらく特異種によるものであろう。

 

 

そうしてブラッド達と正反対……感応種、ニュクス・アルヴァが率いるサリエル神属の群れがいる。

案の定進んできた特異種を無数の点が囲み始めている。

しかし、特異種がサリエル達に囲まれたその直後、ヒバリが焦った声で叫ぶ。

 

「特異種を基点として強力な偏食場が発生!これはイェン・ツィーの感応能力と酷似しています!」

「対象は群れのサリエル1体!周囲のアラガミが対象になったサリエルに向けて一斉に攻撃を開始しました!」

 

特異種はどうやらイェン・ツィーの感応能力を取り込み、独自の能力に作り替えたものを使ったらしい。

だが、これは以前にあった事。

驚異だが、そこまで慌てるものではない。

 

しかし……。

 

「特異種を基点として新たに強力な偏食場が発生!!……こっ、これはスパルタカスの感応能力に酷似しています!!」

「特異種のオラクル濃度急上昇中!それにともない偏食場内のアラガミの生体反応が急速に弱まっています!!」

「何!?」

 

同時に2つの偏食場だと!?

今までに前例のない状況に作戦室内にざわめきが起きる。

……スパルタカスの感応能力に酷似した偏食場については少々驚きはしたが、何もおかしくはないことだ。

おそらく自分達が知らない場所でスパルタカスと交戦し、捕食を行いイェン・ツィー同様その感応能力を得たのだろう。

 

だが問題は、1体のアラガミが同時に2つの偏食場を産み出したと言うことだ。

従来のアラガミは偏食場は1体につき1つ。

あの第2のノヴァでさえ、非常に厄介ではあったが偏食場は1つしか持っていなかった。

それをあの特異種は2つ、しかもそれぞれ異なる偏食場を産み出した……。それが何を意味するかと言えば、あの特異種は第1、第2のノヴァを優に越える個体になり得る可能性が格段に高まったと言うこと。

 

榊は今後の特異種に対しての対策をどうするか考え出そうとするが、その前にある1つの事に気が付いた。

 

 

 

……今、特異種が相手にしているのは何だ?

 

そう、今現在特異種が相手にしているのは感応種であるニュクス・アルヴァ。

このアラガミは他のアラガミを体力や状態異常を回復する能力を持ち……そして、倒すまでは一切の近接攻撃がすり抜けるという体質がある。

 

通常のハンニバルであればそこまで焦ることはない。厄介であるし驚異ではある……だが、まだ対処はできる。

しかし、特異種はアラガミの能力や性質を取り込むことができるのだ。

もし、特異種がニュクス・アルヴァの近接攻撃を受け付けない性質を手に入れてしまったら。

 

それに加えてその先にはマルドゥークがいる。

この2体の感応種を捕食させてはいけない。

 

 

 

「ヒバリ君!強襲部隊からジン君とカエデ君を急いで特異種の元へ向かわせてくれ!!」

「えっ!?……分かりました!ジンさん、カエデさん。至急ポイントを指示しますので、そちらに向かい特異種の足止めをお願いします!」

 

榊はヒバリに指示を出す。

その指示にヒバリは最初動揺を示すが、直ぐ様立て直し、ブラッド達と共に行動を共にするジンとカエデに特異種の元へ向かうように要請する。

向こうからジンの困惑した声が聞こえるが、榊の説得により第3層を切り開きながら特異種の元へと向かうことになる。

 

 

そして、ブラッド隊含める強襲部隊が第3層目を抜けて、マルドゥークと対峙しようとするその時。

 

「特異種周辺のアラガミが全滅!特異種、捕食行動に移っています!!」

「遅かったか!」

 

フランのその言葉に榊は彼らしくない焦った声で叫ぶ。その姿に数名が驚きで目を見開くが、そんなのは今の彼には気にならなかった。

 

そして、その報告から少ししてジンからの通信が室内に入る。

 

 

『こちらジン!特異種を補足した……が、現在周囲のアラガミを捕食中だが……どうする?』

 

焦りと困惑した声のジンに榊はまず確認したいことを尋ねる。

 

「それよりも、周辺に感応種であるニュクス・アルヴァは居るかい?」

『いや、事前に確認したニュクス・アルヴァの資料と酷似する姿は確認できない、それとだな……』

 

ジンは榊の質問に対して答えた後に、少し困ったような声で言葉を続ける。

 

『全身に紫色のラインみたいなのが入っているんだが、心当たりはあるか?』

「ライン?」

『ああ、今見える所で言えば首・両腕の籠手・尾辺りに血管のような模様が見える』

 

それを聞いて榊はおそらくそれはスパルタカスの能力によって自身を強化したことによる副産物のようなものだろう。

その事を伝えるとジンから呆れたような返答が返ってくる。

 

『おいおい、マジかよ?……ハァ、取り敢えず出来る限りの足止めは行う』

 

そう言うとジンからの通信は切れる。

タイムリミットはマルドゥークが討伐され、そのコア等を回収するまで。

特異種の周囲にアラガミは居ない上に、粘る戦い方はジンの得意とする分野、きっと大丈夫だ。

 

お願いだ……そう珍しく心の中で祈りながら榊は彼らが無事に返ってきたらボーナスを出そうと決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き本当に有難うございます。

今回は主人公無双(本人のシーンは無し)の回になりました。
主人公は神機兵の存在も既に知っていますし、尚且つジュリウスの指導が入っているとは言えまだまだ未熟な強さを持つ神機兵には数を揃えても余裕で倒せる……と考えました。

そして、都合良く駆り出されるジンさんとカエデさん。
カエデさんが通信に出ないのは、ジンさんの方が榊達とコミュニケーションを取れるから……と考えているからです。決してコミュ症とかではありません、はい。


次回はブラッド隊とマルドゥーク戦……にしたいですが、多分飛ばすと思います。
まだまだブラッドの皆の口調が難しいんです。



それではまた、次のお話で。


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第48話 我らが神の為に

──少女は悩む。


──自分に力が無いことを。

──故に少女は力をつける。

──ただひたすら己が守りたいと心から願った(ひと)の為に。

──いつか2神(ふたり)で肩を並べて笑い会えるように。








『黎明の亡都』の大きく開けた広場にてブラッドは自らの大切な仲間であったロミオの敵である隻眼の巨狼、感応種であるマルドゥークと対峙していた……が。

 

「グルオオオォォォォォオオッ!」

「チィッ!?」

 

マルドゥークは発達した上に強固なガントレットを纏う前腕を振るい此方に突撃してくるブラッドの1人──ギルを壁に叩き付ける。

叩き付けられたギルはそのまま地面に倒れるが、直ぐ様その体を起こし、再び己の仲間が立ち向かっている隻眼のマルドゥークの元へと駆け出す。

 

そしてギルはマルドゥーク目掛けて駆けながら己の神機であるチャージスピアを構える。そして腹から声を出して叫ぶ。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

するとギルの体が赤い光を放ち、彼の血の力が今この場にいる仲間達を鼓舞する。ユウ達は体の底から力が湧いてくるのを感じ、より一層神機を握る手に、そして全身に力がこもる。

 

そしてギルは神機を前に突き出し、そのままマルドゥーク目掛けて全力の突きを見舞おうとする。

その速度は凄まじく。瞬く間に彼とマルドゥークの距離を詰めていき、その槍が腹を抉り取ろうと登り始めた朝日に照らされ光る。

 

 

 

 

しかし、その凄まじい速度の突きを読んでいたかのようにマルドゥークは前足から爆発を発生させ、その勢いで大きく後方へと飛んで行きそれを回避する。

自身の眼前を過ぎ去っていくギルを視界に納めるとマルドゥークは計画通りと言わんばかりに口を歪める……が。

 

発砲音と共に、後方へと下がっていくマルドゥークの失った左目付近に強い衝撃と痛みが走る。

それによって着地が上手くいかずに少し体制を崩してしまうが、直ぐ様立て直し、先程の音の主へと視界を向ける。

そこには銃形態の神機でビルの残骸の隙間から此方を狙っていた1人の少女──シエルが強い意思のこもった瞳でマルドゥークを見つめていた。

 

 

マルドゥークは先程ギルの攻撃を避けたように勘は鋭い方である。が、今しがた発砲した少女の一撃は当たるまで感知することが出来ず、見事に食らってしまった。

自身を取り囲むようにして攻撃をしてくるヒロ、ギル、ナナの3人よりも今自身が発砲した場所から姿を消そうとしているシエルの方が危険とマルドゥークは本能で判断する。

 

両前足を叩き付け、自身の周囲を爆破させると同時に自身を浮かせて3人の囲いを抜ける。

そしてその勢いのままシエルの元へと向かい、巨大な前足を持ってしてその小さな体を潰そうとするが、仲間がそう易々と見過ごすわけがない。

 

「ナナ!」

「オッケー!思いっきり行くよーッ!!」

 

ブーストハンマーに内蔵されたブースターを点火させ、それから生み出された推進力で跳躍し、シエルに迫るマルドゥークへ近付き頭上へと飛び上がったナナはそのままマルドゥークの頭部目掛けてハンマーを降り下ろす。

 

視角外からの一撃を受け、そのまま地面に落下するマルドゥーク。

既に戦闘を開始してからそれなりの時間が経過しており、4人の息の合ったコンビネーションが確実にその巨体にダメージを蓄積させていき、最早マルドゥークの命は風前の灯であった。

 

 

 

 

 

直接の配下であるガルムも全て倒れ、自身の命が終わりを告げようとしているのを自覚するマルドゥークだったが、それでもなお生きようと足掻く。

それは何故か?マルドゥークにはユウ達のように信念を持っている訳でもない、ただ生きる為。それだけの為に今こうして命を賭けた戦いをしているのだ。

 

自分は生きるために戦う。

そのために、自分は──────

 

 

 

 

 

 

そこでマルドゥークは気付く。

 

 

──そういえば何故、自分はこうして群れを率いているのだ?

 

──当たり前だと思っていた己の力を行使し、今まで作ったことの無かった巨大な群れを形成し、何をしようとした?

 

──配下に普段加えることの無いガルム以外のアラガミを何故自分は手当たり次第に群れに加えた?

 

命を削り合う戦いの最中、マルドゥークの中には人程とはいかずとも獣なりに思考を巡らしていた。

今まで自分がしたことの無いような行動の数々。それはまるで最初からそうするように仕込まれたかのように──

 

 

そんなことを考えていたからか。

目の前に迫る複数の光弾を全身に受けてしまい、体が焼かれていく。

そして、朦朧とする意識の中でマルドゥークが視界に納めたのは此方に向かって武器を振るおうとする4人の姿。

 

瞬間頭部と腹部に痛みと熱が走り、それがマルドゥークの残っていた意識と命を焼き付くす。

 

 

弱肉強食のこの世の法則に負けたマルドゥークは力無く地面に倒れ付し、己を負かした人間達の姿をとらえたまま息を引き取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、そろそろですね……では、始めましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──瞬間、途切れていた命に微かな炎が灯り、マルドゥークの意識が強制的に呼び戻される。

そして意識とは違い、一向に動くことがない己の体内を何かが急速に巡っていくのを感じる。

『それは』自身の細胞を喰らうのでは無く、ゆっくりと侵食していき、細胞の侵食が進む事に徐々に弱っていくだけだった体に力がみなぎって行くの感じる。

 

まだ体は動くことは無いが、このまま行けば体が動くようになるのも時間の問題だろう。

己のコアを起点として依然侵食を続ける『ナニか』は遂にマルドゥークの意識にまで到達し始める。

抵抗することも出来ないまま、マルドゥークは己の意識が何かに染められていき、それと同時に己の思考が消えていく感覚を味わいながら新たな生を手に入れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グルゥゥゥゥゥアアアアア!!」

 

回復した聴覚が己の頭上から何かが降ってくるのを感じ、その直後に大きな衝撃がマルドゥーク自身を襲った。

しかし、既にその肉体は自分の支配下に無く。

ただ衝撃と痛みが走っているな。という傍観した感想しかマルドゥークは懐く事が出来ないでいた。

 

そして、甦った視界から驚きと警戒が混じった表情をした4人を捉えながら体が浮く感覚を覚えた数十分後、今度こそ完全にマルドゥークの意識はこの世から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!こ、コイツは!!」

 

ギルが驚きに満ちた声でそう叫ぶ。

目の前に居る存在が放つおぞましいまでの威圧感に押し潰されそうになる。

ブラッドに配属されてからどのくらい経っただろうか、その中でも小型から大型、色んなアラガミを相手にしてきた。

その中には新たな驚異と言われた感応種だっていた、接触禁忌種と呼ばれる通常よりも遥かに強いと言われるアラガミもいた。

それでもナナ、ギル、シエル……そして、ジュウリス元隊長とロミオ先輩が……いや、極東の皆も含めた仲間達が居たから乗り越えれてきた。

 

けど、今目の前に存在する特異種は依然出合ったモノと同じとは思えないほどの驚異を僕や仲間達に与えている。

互いに動かない、いや……動けないのだ。

以前遭遇した時とは体格や見た目も、雰囲気も……そして身体能力も。

きっと何もかも桁外れなのだろう。

 

『皆─ん──────を───!』

 

電波が悪いのか先程まで明確に聞こえていたフランの声が途切れ途切れに聞こえる。何をいっているかは分からないが、普段からは想像がつかないほど焦った声。

 

「隊長……どうしますか」

 

後ろに来たシエルが僕にそう問いかける。

戦うという選択肢しか無いだろう……しかし、万全の状態でも今の特異種に勝てるか怪しいのに、今の僕達はマルドゥークの作り上げた陣形を突破するのと、マルドゥーク自身との戦いで完全に疲弊している上にアイテムだって底を尽きかけている。

 

 

「ここで、戦うよ」

 

 

だけど、ここで逃げる訳にはいかない。

それに今の僕達が逃げたとしてもすぐに追い付かれてしまうだろう……なら逃げることに労力を割くよりも戦うこと全てに注いだ方がまだ可能性はある。

 

「……分かりました」

「じゃあもうちょっと頑張ろっか!」

「ああ、最後まで付き合うぜ」

 

シエル、ナナ、ギルの3人が僕の隣に並び立ち、それぞれの神機を再度構える。

 

神機のグリップを握る力を強め、目の前の特異種を見つめる。竜の頭に埋め込まれたその2つの瞳はしっかりと此方を見つめていて、離れることはない。

互いに互いを見つめ続ける。

 

それがどのくらい続いたのかは分からない。

数分、数時間……もしかしたらたった数秒だったのかもしれない。

ぶつかり合っていた視線は特異種の方から外され、地に倒れ付しているマルドゥークを抱えると地を蹴って飛び上がり、瞬く間にその場から消え去っていった。

 

 

 

 

後に残された僕達に残っていたのはマルドゥークを倒したという達成感と、それを奪われたという言い様の無い感情……そしてどれだけ頑張っても、もう帰って来ないものがあるという悲しさだった。

 

 

 

 

──回復した電波によって繋がった回線で此方に呼び掛けてきたフランの声が聞こえるまで、ただ僕達はその場に立っていることしかできなかった。

 

 

 

 

 




どうも皆様、黒夢羊です。

2日前まで熱で倒れていたんですが、特にヤバイものではなかったので安心しました。
それはそうと遂にGE3のストーリーをクリアしまして、変な達成感で一杯です……フィム、本当によかった……。

GE3の小説が少ないので自分で補給しようかと思ったんですが、これを書ききるまでは書くのはやめておこうかなーって思ってます。
……でもイチャイチャ書きたい……めっちゃ書きたい。

まぁ、まったりとGE3をプレイしながらまた更新して行きたいと思いますので、どうか宜しくお願いします。



では、また次のお話で。



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第49話 意思の欠片『統括』

どうも皆様、黒夢羊です。

UAが210000とお気に入り登録が2700、更に感想が200件を超えました。

書き始めた当初はまさかここまでいろんな方に見ていただくなんて思っておらず、本当に読んでくださる皆様には感謝の気持ちしかありません。本当に有難うございます!!


それでは、本編へどうぞ!






 

 

 

サリエル達を捕食してから再びのこじんを探していたんだけど、その時感応現象ってやつなのかな?前にイェン・ツィーだったかの居場所を感知した時みたいに何やらここから離れた場所で3つの反応を感じ取ったので、どうせならと向かってみることにした。

 

 

すると、神機兵が6体くらい目の前に現れて足止めしてくるからビックリしたよね。撃ってきた弾を避けて拳が思わず出ちゃって一体破壊してしまったけど、コクピットとか探してみたけら無人だったからセーフと言う事にして、奴等が持っているデッカイ神機をいただくために正当防衛と言う形で戦うことにした。

 

 

結論から言うとまさかの圧勝。

弱くないけど、なんだろう……まだちょっと行動が規則的過ぎるって言うのかな?他のアラガミとかはゲームの頃の名残はあるけども、それでもゲームの頃には無かった動きばかりをするようになっている。

 

ただ、今の神機兵の行動は本当に決められた行動パターンの中から状況にあったものを選んで、その動きをそのままトレースして動いている感じで、行動を把握したら余裕で倒せそうな気がする。

でも、動きのキレって言うのか、それぞれの動き自体はかなり洗練されてるから、これに対応力が加わったりしたらかなーり厄介だと思う。

 

 

まぁそれもまだ後の話だから気にするのは後にすればいいだろう……問題だったのが神機兵の神機の不味さだ。

いや……不味いって言うよりも美味しくないっていった方が表現的には正しいのかもしれない。

食べれなくはないが、余裕があったり今回みたいに能力を強化したいとかいう必要性があるという時以外は優先して食べたいとは思わない感じだ。

 

 

まぁそれを6本全ていただいた後に今自分がいる場所から一番近い反応を感じる箇所に向うと、そこには大勢のサリエルを連れたサリエルの感応種であるニュクス・アルヴァを発見。

接近戦は無意味な事を知って居たためにイェン・ツィーの能力を発動させて、周囲を囲んでいたサリエル達の狙いを自分から外させ、続けてスパルタカスの能力を発動。

周囲のサリエル達からエネルギーを奪い取る。

 

前回とは違い、吸収はすぐに終わって第1段階の強化が終了。

そして強化が終わって直ぐに再び能力を発動させ、第2段階の強化を終わらせる。

そして三度目の能力を起動させ第3段階の強化を終える。

その時には体が異様な程に軽く、視覚や聴覚等は研ぎ澄まされているのか視野が広まり、視界に入り込んでいないアラガミの足音等も少しだけだが聞こえるようになった。

 

そして弱ったサリエルとニュクス・アルヴァを大量に作り出した火球をお見舞いさせ、終了。

 

 

後はニュクス・アルヴァとサリエルをある程度捕食して2つ目の反応がある場所へ向かおうと思ったのだが、強化していた聴覚が聞いたことのある声を拾い、そちらに広がった視野の中に捉えて見てみると、見覚えのある神機使いが耳に手を当てて何かを話していた。

 

どうやらあのオッサンともう1人の神機使いの会話から現在、マルドゥークをブラッドと極東支部、そしてフライアで仕留める作戦の最中であり、2人は自分を足止めすることが目的のようである。

 

 

 

それを聞いた自分は今まさに原作の山場の1つが起きている事を知り、強化された身体能力を駆使して2人をホールドさせた後にそこから離脱すると、2つある反応のうち、近い方へと改めて進行を開始。

 

そしてブラッドとマルドゥークの戦いを見届けた後にマルドゥークを回収して捕食しようとする今に至るんだが──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なんか、黒くない?

 

そう、マルドゥークと言えば白いモフモフとしてそうな体毛が特徴の1つに上げられると思うのだが、その白い毛が何故か生え際の所から少し先まで黒く染まってるんですよ。

加えて赤い触手というかヴァジュラのマントみたいな所も生え際辺りが金色に染まりかけているし……何があった?

 

 

まぁそれでもマルドゥークであることには変わり無いし、あの黒いカリギュラを殺すためにはこの力は必須になる……躊躇って捕食出来ないなんて事はあってはならない、だからさっさと頂くことにしよう。

 

マルドゥークの感応能力を思いながら捕食する。味はガルムの肉がより上質になった感じだろうか?筋肉質で噛みごたえがあり、今まで食べたアラガミの中でもトップクラスだと思う。

 

 

さてさて、当初の予定とはかなりズレてしまってはいるがマルドゥーク、イェン・ツィーの感応能力を手に入れ、神機モドキも作り出せるようになった。

あのアラガミの大群をマルドゥークが率いていたのは驚いたが、それでも原作通りブラッドがマルドゥークを討伐したし、何よりゲームでは詳しいアラガミの量は分かっていなかったのだから、もしかしたらこのくらいの量だったのかもしれない。

 

それよりもと言うことはこの後は神機兵が表に出てくることが増えてくるのか……そうなると赤い雨の影響を基本は気にしないで良いから常に武装した監視カメラが彷徨いている状況になるな。

それに自分が6対1という状況で圧勝してしまっているから、原作より教育が施された状態で出てくると考えた方が良いだろうな、ジュウリスなら念入りにやってそうだし。

 

 

 

 

マルドゥークを捕食し終えて、ひとまずその日は遺された神機を探した後に寝床へと帰っていった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

翌日の早朝、まだ朝日が顔を見せてすらいない時間帯に体中を走る激痛で自分は目を覚ました。

 

最初は今までの神機や感応種を捕食した時の痛みだと思ったがそれに加えて体が何かに染められていくかのような謎の気持ち悪さを感じる。

慣れてきた痛みが何時もよりも強く痛むのはおそらく神機と感応種を同じ日に、しかも神機は巨大なモノを6本、感応種は今まで捕食したことの無かったアラガミを2種類も捕食したからだろう。

 

だが、この気持ち悪さはなんだろうか?

神機兵の神機を捕食したから?それとも感応種を2体も捕食したから?

思い付く原因はこれくらいか。自分の体の1日の許容量を越えて摂取した為に二日酔いみたいなものになっている?それともいよいよ自分がストック……というかコピーできるアラガミの外見やその能力の量を越えたのか?

 

 

痛みと気持ち悪さに苦しめながらも必死に思考し続ける……以前であればここまで確りと考えることはできなかっただろう。そういう点で言えばある程度の耐性が自分の精神に付いて来ているのだろう……喜ぶべきではあるのだが、着実に人間だった頃のモノを捨てている気がして素直に喜ぶことが出来ない。

 

そんなどうでもいいことを考えながら自分の体の中で暴れ続ける痛みと不快感が収まるまで耐え続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、痛みと不快感が収まってから少し経過し。自分は何時も通りに体を動かしていた。

……よくよく考えればこの異様な回復がなければより酷いことになっているかも知れなかったんだよな。それこそ体が耐えきれずに内側から崩壊を起こしていたかもしれない。

 

そう思うと震えが止まらないが、それは無かったらの話だ。今の自分は持っているから別に大丈夫。

 

 

さて、今日は試したいと思っていることがあるからその実験だ。

まずは属性剣について。

ハンニバルは炎を剣や槍の形状に変えて攻撃をすることが出来るんだが、自分はその応用として相手を拘束しつつ炎や雷でダメージを与える鎖でアラガミを拘束しようとしたことがある。

 

この事から自分の意思によって自由自在とまではいかないが、ある程度炎や氷で剣や槍以外の武器を形作れるのではないか?と思ったわけだ。

という訳で早速実践だ。

 

 

イメージするのはハンマーでもなくスピアでもない、その次に現れた武器であるサイズ。まずは細長い棒状に炎を伸ばし、収束させる。続いて棒の上を鎌状に変化するようにイメージすると……おお、出来た。

 

試しに鎌を振るってみる。因みに鎌の形状だが、総てが炎で作られているために柄に当たってもダメージは入るようになっている……筈。

……ともかく、これで連撃に優れた剣と突進力に優れた槍に続く、新たにリーチに優れた鎌が武器に追加されたわけだ。

 

更に言えば実際のヴァリアントサイズの宜しく対応した属性の出力を強くすれば咬刃展開形態のようにリーチを延長しつつ攻撃することが出来るようになった。

 

 

とまぁ言ってもまだまだ剣や槍と違って形作るのに時間がかかっているから実戦向けではないが、それは剣や槍と同じく出せるように今後練習していけばいい。

 

 

 

 

さて、お次神機兵の神機を食ったことでどのくらいまで展開できるようになったかだ。

 

右手のオラクル細胞を分解&展開させ、再構築する。

最初は手の形をしていたものが、白の部分を残し、それ以外は幾多の細い黄金の繊維へと変わる。そして繊維は次第に根元から黒く染まりながらスパルタカスの時と同様に片刃の太剣を形作っていくのだが……。

 

 

ん……?神機へとなる展開速度が異様に速くなってないか?

前みたいに形作るのに数十秒かかっていたのが、今は十数秒に短縮されている……何故に?

十数秒でも隙が多いのは確かだが、仮に以前が20秒で現在が10秒だとしてもこれにはかなりの差がある。理想的な動きは神機の形態変化と同じ早さだが、流石にあそこまでは無理にしろ、どうにか展開速度を上げたかったのだが……これは運が良かったな。

 

ひとまず偶然ではないのか、念のために再び右腕を元の状態に戻し、再度展開する……時間にして14秒とちょっとか。速度が早まる前のタイムを計っていなかったからどのくらい縮んだか正確には分からないが、それでも充分だ。

まだ展開に覚束ない状態でこれなら、炎剣の時と同様に慣れるまで展開と変化を繰り返せばこれ以上無い武器になるのではないだろうか?

 

 

神機の量も太剣を作っている状態でもう片方の手にロングブレードを展開できるようになっているから、以前に比べてかなり増えている。

 

 

 

この結果に満足した自分は右手と左手を元の状態に戻すと、今日の食事兼新しい能力等を試すための実験台を探すためにアラガミ探しへと向かった。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

「ふふ……まずは1つですね」

 

惚けきった青い2つの眼がブラッドが倒したマルドゥークを持ち去っていく特異種を捉える。

静かなその声色からは隠しきれていない喜びの感情が漏れており、彼女を良く知る者や、彼女に恋する者がこの場に居れば確実に驚くだろう。

 

だが、驚く者は現れない。

この場にいるのは神に祈りを捧げるように胸の前で手を組む彼女1人。

その後ろ姿は敬虔な信徒のように見えるが、彼女の惚けた目と赤く染まった頬を見ればそれは違うと多くの者が思うだろう。

 

 

それは遥か高みに存在するモノに焦がれるようであり、かつ恋する少女のようでもある。

 

 

「ああ……待ち遠しいです」

 

絞り出すように声を発した彼女。

最早喜びの感情を隠すことは無く、最早別の光景を写し出している映像を気に止めず、その映像に映っていた神を幻視し、静かに身悶える。

 

「貴方様と私とジュリウスが出会うその日が……フフフ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき有難うございます。

着実に主人公がラスボスに近づいています。
因みに本作で登場予定のオリアラガミは主人公とルイン以外に後数体居るのですが、実際にこんな設定のアラガミが居たら面白そうだなーと思い考えました。
ただ、出来るだけ原作の設定からかけ離れたような感じのアラガミにならないようにしたいと思います……まぁ、主人公が既にそれを破ってしまっている気もしますが……。

因みに皆さんはGOD EATERの中で好きなアラガミは何がいますか?私的にはハンニバルとオロチです。


それではまた次のお話で。


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第50話 懸念事項

どうも皆様、黒夢羊です。


週一更新を目指しているのですが、なかなかに難しいです。
大まかな流れは決まっているのですが、そこに行き着くまでの過程を書くのにヒーヒー言っている状態です。

……早くBRまで、いやキュウビ辺りまでで良いのでキング・クリムゾンっ!したいです。


それでは、本編へどうぞ。




極東支部にあるペイラー・榊のラボでは、その部屋の主であり現在進行形で頭を抱え苦い顔をしている極東支部局長ペイラー・榊と頭は抱えていないが、榊同様に苦い面持ちの八秦 ジンを始めとした4人の神機使い。彼らが揃いも揃ってそのような暗い表情をしている理由は、マルドゥーク討伐作戦の途中に突如出現したハンニバル特異種についてである。

 

先の作戦は見事……とは言えないかもしれないが、死者が出ること無く成功した。それ自体はとても素晴らしいことなのだが、ここにいる榊やジン達を含めた極東支部の一部の人間はそれを素直に喜べないでいた。

 

 

それというのも特異種の進化が彼らが予想していたものよりも遥かに早いのである。

 

「まさか……ここまでとはね」

 

机に幾つも並べられた報告書やデータ等を見続け、眼鏡を直す仕草をする榊。何時もであれば不適な笑みが浮かぶであろうその表情には動揺の色が見えていた。

今回特異種と直接接触したのはジンとカエデ、そしてブラッド隊に数体の神機兵で、実際に戦闘を行ったのは前の二人と神機兵だけ。

 

神機兵については報告では足止めに使われた神機兵は全てメインの動力源が破壊されている為に戦闘データ等は取れなかったらしい。ちなみに細部のパーツなどは無事なために再利用できるようならするとのこと。

 

 

 

 

ならば、ここは直接対峙した二人の意見が一番重要になってくるのだが……。榊がそう2人に視線を向けると、察したのかジンが口を開く。

 

「特異種について、まずは外見的特徴としてもう既に報告しているが首・両腕の籠手・尾辺りに紫の血管のような模様が浮かび上がっていた」

 

確かにそれは足止めとして実際に特異種を相手した彼が無線で知らせていた事であり、それは既に報告書等にも記載されている。

 

「続いて戦った所感だが、俺としては以前よりも動きは格段に速くなっていた……具体的に言うなら以前は目で追えて対処がある程度間に合っていたが、今回は目でギリギリ追えるが対応は間に合わない……って感じだ」

「捕捉するとすれば、特異種は私達とは戦おうとはしてはいなかったと感じ、いざ本気の戦闘となればより速度は上がると思われます」

 

ジンの話に続くようにカエデが口を開き、特異種との戦闘で自身が感じた事を述べていく。

その内容に部屋に沈黙が降りるが、それを破るように榊が話し始める。

 

「……おそらく、特異種の身体に血管のようなものが浮かび上がったのはスパルタカスの感応能力によるものだと思う。スパルタカスは周囲のアラガミのオラクルを吸収して自身を強化する……その際に背部にオラクルの翼を形成している事から、血管のようなものがその翼に該当するのだと思う。それならば、ジン君が言っていた以前よりも特異種の速度が向上していたというのにも説明がつくからね」

「……ってことは、特異種自体の身体能力は以前とそんなに変わってないってことか?」

 

榊の説明に今まで黙っていたロックヘッドが腰に手を当て、疑問を投げ掛ける。それに対して榊は再度眼鏡を直す仕草をした後に口を開く。

 

「現時点では何とも言えないね。特異種は他のアラガミを捕食し、その能力を身に付ける……とすれば、身体能力さえも取り込んでいる可能性だって捨てきれないからね」

 

そもそも、特異種の元であろう神速種自体が雨宮 リンドウという極東支部において最高戦力の1つである神機使いを超える化け物だったのに、それが他のアラガミの能力を手にいれた事によって対応力が上がり、より厄介で凶悪な化け物へと進化してしまったのだ。

 

さて、と小さく呟いた榊は顎に手を当て、何かを考え込んでいるジンへ声をかける。

 

「ところで、ジン君に1つ聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」

「ん?……ああ、俺に答えれる事なら構わないが……」

 

思考の海に沈んでいたからか、反応が少し遅れたものの、榊の問いにジンはそう答える……それを聞いた榊は両腕を組み、見えているか分からないような細い目をジンへと向ける。

 

「君たちが今回特異種と相対した時に黒いカリギュラの時のように白い翼と天輪は確認できたかい?」

 

その質問に対してジンは悩むそぶりすら見せずに答える。

 

「いや、俺達が特務の際に見たあの翼と天輪は確認できなかった……ついでに言えば結合崩壊していた筈の逆鱗も復活していたな」

「成る程……」

 

ジンの回答になにか思うところがあるのか、榊は思考をひたすら回転させる。その末に幾つも浮かぶ仮説の中から1つの可能性の高い説を取りだし、この場にいる4人へ告げる。

 

「特異種は驚異的なまでの回復能力を持っていて、それによって結合崩壊していた逆鱗を再生させた……これは以前ブラッドの皆が特異種と戦った際に結合崩壊させた角が元に戻ったという報告とも合致する。そして、特異種は何らかの要因で翼と天輪を発生させる事が出来るようになり、その状態になると戦闘能力がさらに向上……今一番考えられるのは逆鱗が結合崩壊することだが──」

「──前述した驚異的な回復能力が結合崩壊した逆鱗を再生し、元の状態に戻ったと言うことですかね?」

 

榊がそこまで説明を終えた後に一息間を開けると、先程まで絶賛空気だった神機使いのレオンがようやく口を開き、先の言葉の続きを話す。

その内容に榊は静かにうなずき返す。

 

「ああ、その通りだ」

「……結局何が言いたいんだ?結論だけ言ってくれた方が俺は助かるんだが」

 

ロックヘッドはいまいち榊が考えていることが分かっていないのか、痺れを切らし結論を急がせる。

ジン達はそんなロックヘッドをまたか……と冷めた目で見るが、言葉を投げ掛けらた榊は真剣な面持ちで説明を始めた。

 

「特異種は何らかの要因で翼と天輪を出現させることができ、これによって能力が向上する。そして今回スパルタカスの感応能力によって別方法での強化手段を得ていることが判明した……つまり特異種は今回ジン君とカエデ君が相対した時よりも、最低でも後一段階能力が向上すると言うことだ」

 

その榊の言葉に薄々分かっていたジン達は勿論のこと、少し苛立っていたロックヘッドも沈黙する。ジン本人は謙遜しているが、彼はこの極東支部でもかなりの実力者だ。そんな彼が対応が間に合わないと言っている速度から更にもう一段階能力が向上するのであれば……。

 

 

そう沈黙した彼らに更に追い討ちをかけるように榊は更に口を開く。

 

「更に言えば、今回の作戦でマルドゥークの感応能力を特異種は手に入れた筈だ。

スパルタカスは周囲のアラガミのオラクルを吸収して自己を強化する能力を持ち、そしてマルドゥークは周囲のアラガミを呼び寄せる能力を持つ……となれば特異種は自身を強化するために必要なオラクルを供給する手段を得たことになる」

 

それに、と更に付け加えるように特異種は周囲のアラガミの攻撃対象を集中させることができるイェン・ツィーの能力まで有している事を話す。

これによって特異種はほぼ確実に自身に有利となる状況を作り出すことが出来るようになってしまった。

 

まだ捕食されていない感応種や、接触禁忌種など現在の特異種であれ苦戦するであろう強力なアラガミは数種類は存在している。だが、それはあくまでも『苦戦するだけ』であり『倒せない訳ではない』。

それに苦戦するのは1対1の状況であればの話であり、アラガミにしては異様とも言える程の賢さを持つ特異種であれば、前述した感応種の能力や他のアラガミの力を使い、自分な有利な状況へと持ち込み倒してしまうだろう。

 

そうなれば再び特異種はそのアラガミを喰らうことで力をつけ、ますます容易に討伐することが出来なくなる存在へとなってしまう。

 

 

かといって今から特異種を討伐する為にリンドウ達を呼び戻し、極東支部総出で事に当たるとしよう。

それならば特異種を討伐できる可能性は非常に高くなるが、今は敵対する意思を──こちらが分かる範囲でだが──一切見せていない特異種だが、自分の命の危機が迫ればそれこそ容赦なく攻撃をしてくるだろう。

 

そうなれば残るのは特異種の抵抗によって疲弊した極東支部。決して今ここにいるジン達以外が弱いとは言っているわけではないが、接触禁忌種や感応種などの対応が限られてくるアラガミを相手にするには不安が残るだろう。

 

 

それこそ今回のようなアラガミの大群が迫ってきた際に、なすすべもなく蹂躙されてしまうかもしれない。

更に言えば、いま彼らを呼び戻せばリンドウ達が進めている『レトロオラクル細胞』の研究だって進むことが無くなる可能性だってあるのだ。

 

 

 

いま目の前に置かれた手札は『広がる可能性を捨て、癌になりえるモノを排除する』か『癌になりえるモノを見逃し、それらを広がる可能性に任せる』かの2枚。

切れる手札は1枚、それをすればもう1枚は恐らく消えてなくなってしまうだろう。

 

特異種を被害を少しで討伐でき、レトロオラクル細胞の研究も進み可能性が広がっていく……なんて全てが上手く行き、丸く収まるなんて事があるかもしれない。

だが、それを信じ、実際に行動に移そうとする程、この世界のペイラー・榊はロマンチストではなかった。

 

 

 

 

しかし、打てる手は打たなければならない。

今後自分達が出来る事は限られてくるだろう。

だが、それでもしないと言うわけにはいかないのだ。

 

榊はジン達へ、出来る限りいつもの笑みを浮かべながらこれからの方針を伝えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ハンニバル特異種》

 

素材名 : ???

 

攻撃属性 : 炎・氷・雷・神

弱点属性 : 不明

 

結合崩壊部位 : 既存種と同様とみられる

 

 

【概要】

極東支部にて観測されたハンニバルの変異種であり第一種接触禁忌種。

本個体は数年前にフェンリル独立支援部隊『クレイドル』所属の雨宮リンドウが交戦したと思われるハンニバル神速種が何かしらの要因で変異し、復活した個体と思われる。

 

 

本個体は外見的特徴としてまず神速種と同様の体色に、通常片腕にしかない籠手が両腕にあることに加え、太腿に当たる部位がシユウ神属のものと酷似しており、ヴァジュラ神属にみられるマントと同様の器官が背部から見られる。

このアラガミは捕食したアラガミの特性や攻撃属性等を吸収することが出来るため、前述の外見も該当するアラガミを捕食したことで得たものと思われる。

 

また、何らかの要因で接触禁忌種であるディアウス・ピターの翼、そして禍々しい天輪を出現させることがあり、この状態になれば無差別に周囲を破壊するようになるため直ぐ様撤退をするように。

 

 

主に通常のハンニバル同様体術や炎を武器のように扱い攻撃してくるのだが、その速度が通常よりも遥かに速いこと。そして属性が炎の他にも3属性が追加されていることを覚えておかなければならない。

また、通常のハンニバルよりも炎や他の属性に扱うことに長けており観測されただけでも

 

・炎を縄状に変形させ攻撃対象を締め付ける。

・離れた距離から動作なしで属性に応じた槍等を出現させる

・ヴァジュラ神属のように属性に応じた、もしくは2つ以上の属性を含めた球を生成し、放ってくる。

 

等があり、近~遠距離に対応しているためこれと言って有利な距離がない。

 

 

また、このアラガミは神機を捕食することもあるために任務中に遺された神機を発見した場合は、出来る限り回収することが望ましい。

 

更にこのアラガミは尋常ではない程の回復能力を有しており、結合崩壊を発生させても一定時間の経過及び他のアラガミを捕食することで、結合崩壊部位を回復させる可能性が考えられる、ゴッドイーターが使用するアイテムについての理解を示しているようであり、現在判明しているだけでも【スタングレネード】と【ホールドトラップ】は仕掛けても通常では回避される事が判明している。

 

 

上記の事からこのアラガミは現在の極東支部では討伐が不可能と断定されており、更に『ゴッドイーターに対しては今のところ敵対する事はない』と判断されているため、発見したとしても直ぐ様に攻撃を行うことは禁止されている。

しかし、本アラガミをこれ以上進化させることは危険な為、下記に記載されているリストに無いアラガミを捕食しようとしている場合は捕食対象となっているアラガミの誘導や、アイテムを駆使した捕食の妨害を行う必要がある

 

 

また、このアラガミが現在捕食していると思われるアラガミのリストを掲載するので、ゴッドイーター及びオペレーターは随時目を通して置くように。

 

シユウ神属

・シユウ

・セクメト

・イェン・ツィー

 

ヴァジュラ神属

・ヴァジュラ

・ディアウス・ピター

・プリティヴィ・マータ

 

ハンニバル神属

・スパルタカス

 

ガルム神属

・マルドゥーク

 

サルエル神属

・サリエル

・ニュクス・アルヴァ

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂きありがとうございます。

主人公に対する極東支部も対応がほんの少しずつ変わってきていまして、色々と苦労しそうですが、まぁ仕方ないですよね。

いつかは主人公がゲームに実装された場合の解説とかを書きたいなーって思ってるんですが、需要がなさそうなので多分最終回以降になるんでしょうね。
その為にも最終回までたどりつけるように頑張りたいと思います。ルインとのイチャイチャも書きたいですしね。


……魚介さんの企画に参加したい。でもやったらネタバレに。


ではまた、次のお話で。


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第51話 鋼鉄の狩人、黒血の悪神

どうも皆様、黒夢羊です。

最近GEの小説がバンバン更新されているのを見て勝手にニヤニヤしてます。
だって、全部面白いんですもの……仕方ないですよねっ!!

というか他小説のアラガミさん達がマトモっていうか確りと過程を用意して進化しているので過程すっ飛ばして進化しているウチの禊君になんかスッゴい申し訳なさが……。



それはともかく、本編へどうぞ。




どうも、転生したハンニバルの──禊です。

この世界に来てから録に名前を使ったり名乗ったりしなかった為に思い出すのに少々時間がかかってしまった。

それに誰に向けてでもない一人言も増えたような気がするし……前は賑やかし役が居たから、気にはならなかったが、いつ自分に命の危機が迫るか分からないような世界に1人で居続けるってのもかなり辛いものがある。

 

そうなると、自然と寂しさや辛さを誤魔化す為に今のように誰に向けてでも無く呟くような1人言が増えるものだ。特に最近はマルドゥーク戦も終わって能力の強化も出来てきて、余裕が生まれたから余計に1人で居ることの寂しさを痛感する。

 

 

そんな事を思いながら今は『鎮魂の廃寺』付近で見つけた少し大きめの廃屋の中で、ここ最近集めた遺された神機を捕食しているんだが、その量は以前よりも遥かに少ない。

何故かって?……神機兵だよ、神機兵。

神機兵がいよいよ各地で行動し始めたんだよね、そのお陰で安心して神機を探すことは勿論、捕食するアラガミを物色することすら難しくなってきた。

しかし、前回戦った奴等が殆ど未完成でようやくジュリウスの指導が完成したのか、それとも自分との戦闘の結果を踏まえて原作よりも強化されたのか、以前とは比べ物にならないレベルに強くなってるのだ。

 

……決して勝てない訳じゃない。寧ろ1対1なら近距離も遠距離も余裕をもって対処出来る……強さで言うならヴァジュラ以上ピター以下といった感じだと思う。

ただ、何が厄介かと言うと神機兵らは常に複数でチームを組んだ上で行動しているのだ。

例え1体に苦戦しなくても、複数との戦闘になれば話は変わってくる………相手は機械とは思えない程の連携で立ち向かってくる。1体を潰そうと思えば他の個体が銃撃などで腕や頭を弾いてくる。

 

かといって全員を同時に相手にすれば近距離では四方八方からくりだされる神機による攻撃に意識を割かねばならず、遠距離戦になれば神機による無数の銃撃がこちらへと飛んでくる。

これだけでも厄介なのだが、神機兵には自分の使用する感応種から得た感応能力が効かないのである。

 

 

いや、確かに相手は機械なのだが、多少なりともその体にオラクル細胞は使われている筈だ……なのに感応能力は影響を受けないのは何故だ?

考えられるのはジュリウスの血の力で教育を施したことで感応種の能力に何らかの作用が働いたか?それとも体内のオラクル細胞が少なすぎるために効き辛いとか。

 

だが、よくよく考えれば神機兵は神機使いに変わる対アラガミ兵器として作られたんだっけ?それなら感応種にもある程度対抗できなければ意味がないか。

 

 

 

 

……しかし、あのゴリラ歩行とかで散々ネタにされがちだが、実際に相対してみると未完成だった時はともかく完成された個体の脅威がよく分かる。

というか、あれを人間の身で倒せる主人公達がおかしいと言うべきだろう?アラガミで体格は互角である自分が倒せるのは勿論なのだが、主人公達は体格差などのハンデがある状態だ。それに加えてジュリウスの教育が完了し、並みの神機使いを凌駕する強さをもつ神機兵を下すとか……えぇ?

 

 

やっぱり主人公達はバケモノと言うことは確定事項だが、本格的に今後はどうするか悩むな。

神機兵がうろつき始めたと言うことは、主人公達がフライアに乗り込んで神機兵と戦うのが近い事を示しているはずだ。勿論原作の時間だとあっという間だったが、それが実際にどのくらい経っているのかは分からない為、

断言できる訳じゃないけど。

 

それと無人機と言って、狩りすぎると何らかの被害が増大しそうだよな……うーん、暴走神機兵が出てくるまで以前から考えてた神機兵狩りはやめて暫くは能力をより使いこなせるようにするための時間にするか?

マルドゥークを食った後から腕や手を他の形状に変化させるスピードが僅かに上がっていたが、日に日に数をこなすことでその速度は未だに上がり続けている。

 

 

そして、自分が今新しく考えている方法が1つある。

今までは両手のみを変化させていたが、今度は両腕を変化させ巨大な砲身のようなモノへと変化させる事ができないかと思っている。

近接戦闘能力は大きく下がるが、強力な一撃を相手に決める事ができるようになると思うのでトドメや遠距離からの砲撃に使えるようになっていきたい。

 

……問題は自分が神機の砲身の仕組みを全く理解していないために弾丸を発射することが出来ないのだが。それさえどうにか出来ればスナイパーの砲身で超遠距離から狙撃を行い、アサルトで連射、ショットガン……はあまり使う旨味があるかは分からないけど近距離でぶっぱなし、ブラストで疑似メテオのようなモノを放つ事が出来るように…………なるかも知れない。

 

 

 

さて、それはまた後々の課題にするとして。

ブラッド達がフライアに突入するにはある程度の過程があったはずだ。

まずはユノのマネージャーのサツキがフライアに不信感を抱いて調査を始めるようになり、それから幾らか経過した後にフライアの発注記録だかなんだかは忘れたけど何かしらから医療系の物品が運び込まれて居ないことや、フライアに居た医療スタッフはすべて他の支部等に移動させられている事を突き止める。

 

それから友人命名の金髪腹黒女ことラケル先生のお姉さんであるレア博士がフライアから脱走し、ブラッド及び極東支部に保護される。

そして尋問によってラケル先生の本性というか、歪さ?を知ったブラッド達がなんやかんやでフライアに乗り込んで黒蛛病患者の扱いの実態を知ることになり、そこで初めて神機兵との戦闘になるわけだ。

 

 

と言うことは原作の話を守るために必要不可欠なのはレア博士の生存。

このまま放っておいても多分原作通りに無事に生き残ってブラッドに救助されるとは思うが、万が一と言うことがある。

それに黒いカリギュラのように本来なら原作には登場しない筈のアラガミの出現など、原作との違いは少しだが生まれている。なら、レア博士が死ぬ可能性だってあるわけだ。

 

そうなってしまえばラケル先生の野望は誰にも邪魔されることはなく終末捕食が起こってしまうだろう。

それだけはなんとしても阻止しなければならない。幾らチートスペックの肉体や能力を保持していても自分は特異点でも何でもない只のアラガミでしかないのだから、確実に死んでしまうだろう。

 

 

となるとレア博士をギリギリの所で助ける必要があるが、自分にはフライアが何処に居るかも知らないし、レア博士がどのルートを通ってどう逃げてきたかなんかも知らない。

だが、ムービーでレア博士は『黎明の亡都』でブラッドに発見されていた筈……となれば多少の危険はあるだろうがあそこらを中心に暫くは生活をするべきだろうな。

 

 

 

 

そうして、今後の生活方針を立てた自分は残った神機を平らげると直ぐ様その場から『黎明の亡都』へ向けて走り出した。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

太陽が沈み、辺りは暗がりに包まれた『愚者の空母』周辺。

そんな中で本来は見ることがないであろう光景が暗闇に紛れて作られていた。

 

それはひび割れたアスファルトの道路上に積み上げられた大量の荒ぶる神の死体。その中には使命を全うしようとしたであろう神機兵の姿も見受けられる。

そしてその山の前に立つのは漆黒の体に黄金のラインが刻まれた1体の悪神。

凶悪な人面は禍々しい程の笑みを浮かべながら3つの口が大きく開き、積まれた荒ぶる神と文明の亡骸を捕食していく。

咀嚼音と共に鋼が砕け、肉は裂かれ、骨は折れる。

長く続いた咀嚼音はようやく止み、代わりに荒ぶる神ではなく悪神の咆哮が緑の月が照らす夜空に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空に浮かぶは緑の月、全てを見守るように暗闇に染まった地球を照らしている。

 

そんな緑の光に照らされた地上を徘徊する1つの歪な怪物が居た。

漆黒の体に金の印を刻み、あまりにも巨大な女神──というには無理があるような黒き山の体躯を誇る悪神は我が物顔で『贖罪の街』を闊歩する。

 

そのような悪神を快く思う荒神はおらず、出会う神すべてが襲撃を仕掛けるがそれは無意味に終わる。

荒神が悪神に近づいた瞬間、その体は真紅の炎に焼かれ、ものの数秒で肉体を焦がされていく。

そして炎に焼かれ命の灯火が消え地に付した荒神を、手当たり次第に悪神は食らっていく。

 

健啖家と言えば聞こえはいいだろう。

だが、悪神のそれは最早暴食としか言いようが無い。

 

 

最初は構わずに襲っていた荒神も、今は目をつけられぬように息を潜め、静かになった街を悪神は高笑いを上げながら何事もなかったかのように歩き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂に包まれ、辺りには風の音しか聞こえぬ『嘆きの平原』。

 

その輪のような平原にポツリと浮かぶ1つの人影があった……いや、人影というよりは人型、といった方が正しいだろう。

何も考えていないような能面を天に向け、静かに浮かび続けるのは漆黒の体に金の刻印と髪を持つ悪神。

 

そんな悪神の周囲にはソレに歯向かったであろう無数の荒神の死体が散らばっており、その亡骸は全て無惨にもズタズタに切り裂かれ、バラバラにされた状態で放置されていた。

 

暗闇の中、照らすものは無い状況で黒く曇り続ける天を見上げ続ける悪神は、自身が散らした神が塵となり消えていくすら気に止めはしない。

 

ソレはただ静かに時を待ち続けるだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き、有り難う御座います。

思ったんですが、ゴッドイーターのバーストの仕組みってどうなってるんでしょうね?
アラガミだって捕食はする訳じゃないですか、なのにゴッドイーター達は捕食してバーストする。でもアラガミの捕食はバーストしない……あ、灰域種は別ですからね?

私が知らないだけの可能性が高いんでしょうが、そこら辺の違いってなんなんでしょう……って最近思います。



それではまた、次のお話で。


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第52話 レア博士って……あれだよね

どうも皆様、黒夢羊です。


感想欄にてバーストに対して多くのお答え、本当に有り難う御座います。
本当に助かりました……。

話は変わりますが、最近ダンボール戦機という作品にハマってしまいました……面白いですね。
プラモデルも買ったんですけど、あのイフリートって言うのがお気に入りです。


さて、今回はお話が短いです。
申し訳ありません。
次からは本格的に2のラストまで突っ走る予定ですのでどうかご容赦を。


では、本編へどうぞ。



 

 

 

早く来ないかなぁ……レア博士。

 

 

そうため息を付きながら自分は『黎明の亡都』のとあるビルの屋上にて周囲に視線を配っていた……どうしてこんなことをして居るのかって?そりゃあ勿論レア博士の無事を確認するためだ。

 

因みにレア博士とは、GOD EATER2の黒幕であるラケル先生の姉なのだが、OPの怪しさとかから一緒に黒幕説があったのだけど、その実はラケル先生が歪んだ原因を作っただけで、被害者側の人だった。

まぁここに関しては意見が別れるけど、個人的には被害者じゃないかなーって思ってる。

 

まぁそんなことは良いんだ……。

レア博士は何を隠そう……えっちぃのだ。

うん、えっちぃ。ソレはものすごく。

胸は大きいし、ガーターベルトだし、それを含めた動作すべてがえっちぃのだ。

個人的にはリッカさんやフランさんが好きだが、今の性別はともかく中の自分はやはり男だから、ああいうのに魅力を感じるのは仕方ないと思う、うん。仕方ない。

 

 

 

 

 

……話が逸れた。

 

取り敢えず、本来の自分の視力であれば見ることは出来なかっただろうが今の視力は人間だった頃とは比べ物にならないくらいに上がっているし、サリエルを捕食してお陰なのか以前に比べてより遠くを見ることが出来るようになった……ん?サリエルの視力が良いのってバーストまでだっけ?

2になってから視力は下がったのだっけ……まぁいいか。

視力が上がったのは事実だし、ソレによってこうして広範囲を見渡せる事が出来るようになったのだから問題なし問題なし……だと思う。

 

 

しかしまぁ、ここに来る道中にも神機兵がいるわいるわ……もう既に神機兵の量産は完了しているんだっけ。でもクーデターでジュリウスが黒蛛病患者を引き渡せとかなんとか言ってたよな……ってことはまだ完全に量産ラインが出来てるって訳じゃないのか?

 

うーん、そこは原作に書かれていたのかも知れないけど覚えてないなぁ……。

それはさておき、道中アラガミが結構な数駆逐されていたけど、まぁあの強さなら並大抵のアラガミは余裕のよっちゃんだよな。

いやいや、本当に人間に対してもアラガミに対してもこの世界はちょっと厳しすぎませんか。

 

 

そんなことを考えながら昼食代わりにヴァジュラテイルを頬張っていたら、何処からか車の音が聞こえてきた。

 

 

 

 

慌てて音の発信源を探すと、廃ビルが密集している地域を某頭文字や湾岸の車アニメ&漫画のように激しい軌道を描きながら1台の車両がゲームでも良く見る広場の方へ向かって走っている。

そして、その後ろをヴァジュラとガルムが仲良く一緒に追いかけている。

 

ん……?原作のミッションではガルム居たっけ。

 

 

 

 

 

あ、レア博士の車がガルムの溶岩で壊れた。

仕方なしに車から出て走って逃げるレア博士だけど、そっからハイヒールで走るのはちょっとキツそうだな……。

流石にここで死なれちゃあ自分としても困るし、見過ごしたら目覚めが悪い。

 

しかし、下手に感応種から貰った感応能力でも使ったらならオペレーターとかから場所を特定されかねないから、炎球とか打つだけに止めるけど。

 

 

中程度のサイズの炎球と氷球を複数作り出し、炎をヴァジュラに、氷をガルムに向けて放つ。

スナイパーの弾丸のような速度で放たれた2属性の球は見事に2体の胴体に命中し、意識外から放たれた攻撃に2体の意識がレア博士から姿の見えない敵(自分)へ向けられる。

レア博士もびっくりしているみたいだけど、2体の意識が自分から逸れたのをチャンスと見たのかそのまま広場の近くの廃ビルの中へ隠れていった。

あそこなら小型アラガミでも入ることは難しかった筈だから身を隠すのには丁度いいだろう……問題は、大型アラガミの攻撃で崩れて瓦礫の下敷きになる可能性が高いことだが。

 

さて、自分はヴァジュラとガルムの処理に移るとしよう。今回はレア博士が近くにいるからあまり全力を出して神機使いに対策を取られないようにしないといけないな……まぁ、神機モドキを使わないってだけなんですけどね。

 

 

遠距離から再び2属性球を生成し、以前捜索を続ける2体のアラガミに向けて放つと同時に自身も屋上から飛び上がり、自慢の速度を持って2体に急接近する。

属性球を食らい怯んだ2体の内、ガルムの頭部を掴み、地面に叩き付けた後にヴァジュラに向けてぶん投げる。

自身と同等、もしくはソレ以上の質量を持つ生物を投げつけられたヴァジュラは勿論受け止めきれること無く体勢を崩す。

 

そうして重なった2体の胴体を氷剣で貫き、体内で氷剣を変形させ体に内側から破壊する。

絶命したことを、少々打撃等を入れてしっかり確認するとそのまま捕食を始める。うーん、やっぱり小型よりも大型の方が美味いですね。

 

 

ちらっと、レア博士がこちらから覗いているのが見えたが……うん、ちょっとだけ可愛いなって思ってしまった。

 

……さて、そんなことは置いといて取り敢えずレア博士は助けることが出来たから、再びブラッドが来るまで見守ることにしますかね。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

一体なんだったの……。

 

廃ビルの中に身を潜める私は未だにバクバクと五月蝿い心臓と恐怖から荒れる息を必死に整えようとしながら先程起きた事を思い出していた。

 

フライアから逃げ出してきた私を逃がさないとでも言うように2体の大型のアラガミが追いかけてきた。慣れない運転の中、背後に迫る死を感じながら私は必死に逃げていた。

しかし、私のその意思を嘲笑うように、アラガミから逃げる私の足となってくれた車はアラガミの放った溶岩によって溶解してしまった。そして一歩また一歩と死に怯える獲物に愉悦を感じているかのように走り慣れないハイヒールで逃げる私との距離をゆっくりと詰めてくる。

 

そしてアラガミとの距離が間近になり、私が死を覚悟したその時。

 

 

私を追っていた2体の狩人に攻撃を仕掛けた何かが居た。

……逃げることに必死だった為に、どうやって攻撃をしかけたのか、そして何者がそれを行ったのかは私には全く分からなかったが、2体の追手の意識が私が逸れたのを感じ、今いる廃ビルの中に身を潜めたのだ。

 

 

そして、外で先程のアラガミの咆哮が聞こえ、先程のアラガミが追いかけてきたのかと思い、ゆっくりと外を覗くと……そこには純白と金の体に紫の体毛を生やしたアラガミ──ラケルが異様に執着していたアラガミが先程まで私の恐怖の対象だった2体のアラガミを相手取っていた。

 

 

2対1という数で言えば圧倒的不利な状況下であるのに、それをものともせずに軽々しく片方を持ち上げ振り回すと手に作り上げた氷の剣で重なった2体を貫き、その命を奪った。

 

そして絶命したであろうアラガミの生死を地面に叩き付けたり、踏みつけたりして確認するとその場で補食を始めたのだ。

空腹だったのか、瞬く間に2体の大型を平らげると、私が潜んでいるビルの方へ視線を一瞬向けた後に姿を消した。

 

 

あの白いアラガミが此方を見た時には生きた心地がしなかったが、私に気付くことは無かったのか、それとも興味がなかったのか。

そのどちらかにせよ、私はあのアラガミに助けられた形になるのだ。その事に感謝をすると共に、フェンリルの極東支部にいるであろうあの子達が私が送ったメールを見て、助けに来てくれる事を願いながら、遠くに聞こえるアラガミの咆哮に怯え続けた。




今回も最後まで読んでいただき有り難う御座います。


……あれから疑問に思ったんですけど、GE3のラー系のテレポートってどういう原理で行っているんですかねぇ?
いや本当にあれどうやってるんですかね……。
未だに考えているんですけど全くわかんないですよ。
私的にはオラクル細胞を分解→別の場所で再構成することで疑似テレポートのようになっている……とか。

皆さんはどんな風に考えていますか?


それでは皆様次のお話で。


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第53話 格好つけると大体負けフラグ

どうも皆様、黒夢羊です。

ダンボール戦機にはまり、友人から初代からWarsのDVD全巻を借りて一気見しながらプラモデル作っていたら遅れました。
本当に申し訳ありません。
……レックス、本当に格好よかった。
あと女の子はみんな可愛いですね、キャッホイ。

そしてラーのテレポートの考察、本当に貴重なご意見を有り難う御座います。出来る限り今後に生かしていきたいと思います。


それでは本編へどうぞ。




 

 

──それは、僕に宛てて送られてきた1通のメールからだった。

 

送り主は、ラケル先生のお姉さんであるレア博士。

メールの件名などはなく、たった一言だけが書かれていた。

 

 

 

 

──「たすけて」

 

 

 

 

明らかに何かがあったとしか思えないその内容を見た僕は直ぐさま榊博士にメールの内容を相談し、その結果レア博士の居場所を捜索することになった。

捜索が始まってから、あまり時間は掛からずにレア博士が居るであろうおおよその場所を割り出すことに成功した。

その捜索技術の高さに驚く暇も無く、僕らブラッドはレア博士の信号がキャッチ出来た『黎明の亡都』へ急行した。

 

 

 

 

 

『黎明の亡都』へたどり着いた僕たちはギルと僕、シエルとナナの二手に別れて信号付近を捜索することに。

そんな中、僕と同様に辺りに視線を巡らせながらレア博士を捜索しているギルが口を開いた。

 

「隊長……ちょっと変じゃねぇか?」

「うん……確かにそうだね」

 

ギルの言葉に僕はうなずき返す。

ソレもそのはず……戸々へ来て捜索を開始してからアラガミの反応が、そして姿が無さすぎるのだ。

通常であれば幾ら何でもオウガテイルを始めとした小型のアラガミが1体は居てもおかしくないのだけど、その小型アラガミの姿すらも見当たらない。

 

そしてギルと僕は広場の方面へ向かったナナとシエルとは反対側……ブラッドが最初に特異種を見つけた、ビルに囲まれた空間がある場所へと向かうことにした。

しかし、その歩みは件の空間へと近づくに連れて段々と遅くなっていき、しまいにはその場に立ち止まってしまった。

それは僕らの視界に否が応でも写り込んでくるあるものが原因だったのだが……。

 

「こいつは一体……?」

 

先程から口数が少なくなっていったギルが絞り出すようにそう呟く。その一言は僕の内心も表しており、おそらくここにシエルやナナが入れば同じような気持ちを抱いたと思う。

 

特異種との追跡と逃走を繰り広げた巨大な通路。

本来であればこの通路の両端には横道に逸れることを許さないかのように多くの廃ビルが並んでいた筈だった……しかし、その廃ビル達は殆どが大きく抉られるか粉々に砕かれ跡形も無くなっており、辛うじて姿形を保っているモノでさえ、灼熱の炎で焼かれたかのように真っ黒に焦げてしまっていたり、巨大な刃物で切られたかのように無数の切り傷が刻まれていた。

 

 

あまりの光景に、先程のギルが絞り出した一言から一切喋ることも、動くことも出来ていなかった僕達だったが、シエルからレア博士を発見したとの報告で金縛りから解かれたみたいに体は自由になり、声も出すことが出来た。

何はともあれ、今回の僕らの目的はレア博士の捜索と救出。この異様な破壊が成された跡地も気になったが、それよりもレア博士の安全を確保することを優先し、戸々の事は榊博士に相談することにした。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

………なんなんだコイツはっ!?

 

そんな焦りが多分に含まれた内心を、目の前で不敵に笑みを浮かべる蠍モドキ野郎に対して自分は思い浮かべる。

そう、それは自分がレア博士の安全を確保する為にビルの屋上からレア博士が潜んでいるビルへ近づくアラガミ達を排除していた時の事。

突如背後に焼けるような痛みが走り、この世界に来て無駄に鍛えられた本能が身の危険を感じ、振り返る事無くその場を離脱するとガオンッ!という独特の音が先程自分が居た場所から聞こえた。

適当な場所へと着地し、音の発生箇所へと視線を向けるとそこには見事に抉り取られたと表現すべきビルの屋上と、そのビルの側面に4つの脚を食い込ませこちらを睨む異形の姿。

 

騎士のような蠍の見た目をした大型アラガミ、ボルグ・カムラン。

それと酷似した骨格を持ちながらも、堅牢な盾を神機を捕食する獰猛な顎へ。強力な突きを放つ硬質な槍状の尾を他者を切り伏せる剣へと変え、憤怒の面構えをした頭部を持つ攻撃に特化した神機喰らいと言う異名を持つ第一種接触禁忌種アラガミ、スサノオ。

 

 

以前捕食したディアウス・ピターやツクヨミと同格に称されるアラガミの中でもトップクラスにヤバイやつが今まさに自分の視界の先に現れていた。

 

しかし、今自分が焦っているのは接触禁忌種であるスサノオが目の前に現れたからではない。

どれだけ強かろうが、ヤバかろうが攻撃の届かない遠距離から弾幕を張り、一方的に攻撃するなどの倒し方は幾らでもある。

 

 

だが、目の前に現れたスサノオは自分の知る従来のスサノオとは少々異なっているから焦っているのだ。

従来のスサノオも黒に近い体を持っているが、このスサノオは文字通り漆黒の体を持っているのだ。そこに存在感を示すように黄金のラインが入り、紫だった毛並みや両腕の口内は真紅に染まっている。

 

そして次に強さである。

神速種をベースとしているであろう自分の速度は接触禁忌種アラガミであろうと翻弄できるほどのモノだ。

本来であればスサノオであろうとも翻弄し、自分の有利な状態へと持ち込めたであろう……が、このスサノオは少なからず自分の速度へ追い付いてきているのだ。

同等ではない。しかし、明らかに遅いというわけではないその俊敏さは、他のアラガミとでは比べものにならないほどに速い。

 

最後に腕部の捕食形態の神機とも取れる口だが、抉りとるような捕食を行い、伸縮性がかなり高い為に広範囲を捕食することが出来るようだ。更に前述した俊敏さも合わさり、その速度は連続で攻撃されれば対処は困難である程。

 

 

 

 

……以上の事からこの世界でのスサノオとの戦闘経験がない自分だが、目の前のスサノオは自分が知っているモノとは明らかに違うと心の中で断定する。

更にその本来の個体から逸脱するような強さと、漆黒の体色から連想されるのは、かつて自分の相棒とも呼べるような存在の命を奪った憎き黒の竜帝。

 

……もしや、このスサノオはあの黒いカリギュラと何らかの関係性があるのだろうか?

自分との戦いで負傷した黒いカリギュラのオラクル細胞をあのスサノオが捕食した事でスサノオのオラクル細胞が変異し、黒いカリギュラ同様に異常な強さを手に入れた……と考えればかなり強引ではあるが説明は付くのではないだろうか?

 

 

だとすれば……この漆黒のスサノオを捕食することができればあの黒いカリギュラにも対抗できる力が手に入るのではないか?

そう思ったならば行動は早かった。

感応能力をフル活用し、ここら一帯のアラガミを出来る限り呼び寄せ、更にスサノオへ向けて襲撃させていく。

尾の剣の一振りで中型のアラガミを数体まとめて殺す事ができる黒いスサノオだが、絶え間無く迫り続ける数の暴力には流石に苦戦するようで、若干押されぎみになっていた。

 

しかし、幾らオウガテイルが噛みつこうが、シユウか火球をぶつけようが、ヴァジュラが雷撃を見舞おうが、その体にはマトモなダメージを与えられていない。

それほどあのスサノオの体が硬いのか、それとも何かしら別の要因があるのか。

 

 

自分がそう思考を巡らせている間にもスサノオの剣と神機によって命の炎をかき消されていくアラガミ達。現在進行形で増援を呼び続けているとは言え、数にも限界があるだろうし、このペースだと底をつきるのはそこまで長くないだろう。

……今この場で黒いスサノオ確実にダメージを与えられる可能性が高い存在は恐らくだが自分だけ。だとすれば、細心の注意を払って戦うべきだ。

 

 

スパルタカスの能力を使用し、周囲のアラガミ達から大量のオラクルを吸収していく……それによって、小型の中には息絶えるモノが現れ、中型は膝を付き、大型の動きは鈍くなっていく。

段々と強まっていく自分の存在に驚異を感じたのか、黒いスサノオは自身に群がるアラガミを無視していきなり此方へと向かって来ようとしたが、それを絶え間無く迫り続けるアラガミ達が許しはしない。

 

そして無事に3段階目──つまり最終段階までの強化を終えた時には自分の能力とスサノオの手によって命を奪われたアラガミの山が築かれていた。

オラクルを吸収できる対象が大量に居た状態で最終段階までに到達するのにここまで時間がかかるのはやはり不便というか、使いにくいと感じるな。やはり単体ではなく、他の感応能力と併用しなければ行けないか……。

 

 

まぁ、今はそんなことは後回しだ。

強化を継続できる時間は限られている。

その間に目の前のスサノオを喰らい、あのカリギュラに対抗できうる力を手にいれるのだ。

死の恐怖は今だってある。だが、自分は強くならなければいけない……死にたくない為に強くなるのに、それで死ぬような思いをするのはどこか矛盾している気もするが、この世界では仕方のないことだろう。

 

此方を憤怒に染まったように歪んだ表情で見つめるスサノオを確りと睨み、腹の底から叫ぶ。

 

 

 

 

さぁ、神を喰らう時間だ。

 

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき、本当に有り難う御座います。

感想などは今は返せてませんが、出来る限り返していきたいと思います。
いやもう本当に皆さん賢すぎませんかね……?

自分も追い付けるようにネットとVITAのGE2RBを見直しておきます。


それではまた、次のお話で。


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第54話 狂イ血濡レ求メル黒之草薙

どうも皆様、黒夢羊です。

更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
今回は苦手な戦闘パートと言うこともあり書き終わるのに時間がかかってしまいました。
しかし時間に反して内容は読み辛いものになっている可能性が高いので、そこはどうかお許しください。


では、本編へどうぞ。


まずはまだ生きている周囲のアラガミを盾にしつつスサノオの弱点である神の属性球を複数生成し、狙うはど真ん中の胴体も兼ねている口。

確か口は貫通が弱点だった筈……なので属性球の形状を球から氷柱のように先端を尖らせたものへと変化させる。

 

仕込みを終えると黒いスサノオに円上に群がるアラガミの壁を飛び越え、スサノオの視覚から外れると同時に上空から炎の噴出を利用した蹴りを相手の顔面に入れる。

スサノオは他のアラガミの対処に意識を裂かれていた為に見事に蹴りは決まり、憤怒に歪んでいる人面がよりグシャアと歪む。

 

そして今しがた蹴りをかまして絶賛歪んでいる最中のスサノオの顔面を踏み台にしながら、そのまま再度上空へと高く飛び上がる。

中々の速度と威力を込めた蹴りだったのだが、黒いスサノオはそんなもの知ったことかと言うように体勢を直ぐ様立て直すと、両腕の神機を空中で無防備を晒している此方へと向ける…………すると、真紅に染まった神機の内部が淡い赤の光を放ち始めていき、それは次第に強まっていく。

 

 

恐らくはスサノオの攻撃の1つであるレーザーだろう。相手の攻撃力がどのくらいのモノか分からない現状だと、敢えて受けてみるのも1つの手ではあるがリスクが高すぎるので却下──なので漆黒の神機から未知数のレーザーが放たれる前に迎撃と、本命の攻撃を通すことに決定。

 

空中で数発の神属性の球を作り、スサノオの顔面に向けて放つ。しかし、即席だが通常の大型アラガミでさえそこそこの威力が期待できる属性球は眼科で赤く神機を光らすスサノオには一切効く気配が無い。

だが、それはあくまでも囮であり本命ではない。

──直後。上空へ両腕と顔を向けていた黒いスサノオの体が大きく揺れる。

それの正体は先程戦う前に作り上げていた貫通と神属性を持つ属性球……いや、この場合は属性弾と言った方がいいだろうか。それが当初の目的通り相手の口へと全弾命中したのだ。

 

 

……最初に作った属性弾をその場に待機させ、自身のみで攻撃を仕掛け、意識を此方へと向けさせる。そして隙の出来た場所へ待機させていた属性弾を発射させる。

まぁ、言ってしまえば簡単な事だ。誰でも思い付きそうな方法だろう……実現可能かはほっといて。

 

そして全弾命中し、怯んだスサノオに上空から襲いかか──

 

「グルゥアアアッ!!」

「ッ!?」

 

──ろうと、背部のマントから炎を噴出させて接近しようとしたその時。属性弾が命中し、その威力で下がっていた両腕の神機が再び持ち上がり、漆黒の顋を命一杯に広げ、迫る自分を喰らおうとして来た。

先程特徴的な音と共に抉るように綺麗さっぱりその箇所だけ姿を消したビルが頭の中をよぎる。

そして状況を明確に理解した体の全細胞が危険信号を発し、マントからの噴出を停止。そして両手からガルムから得た爆発を用いて強引に着地する方向を変更する。

 

出来るだけスサノオから距離を開けて着地。そしてスサノオの方へ視線を向けると、視界の殆どが真紅で埋め尽くされる。

咄嗟の判断で左手から爆発を起こして体ごと左に逸れると、その横をスサノオの伸びた黒い神機が通りすぎる。

 

 

……おいおい、伸びるってのは分かってはいたが、その神機何処まで伸びるんだ、フ○フルかよ。

思わずそう内心で呟くが無理もない。今自分が居た箇所から神機を伸ばしたスサノオまでの距離はおおよそヴァジュラ2体分以上はある。そんな距離まで神機が届く程に伸縮性があるなんぞ想定しているわけがないだろう。

 

延びきった神機を戻すスサノオを見つめながら必死に頭を回転させる。

──全弾命中した口は、一定のダメージが見られるが結合崩壊してはいない……と言うことは、耐久力は通常のスサノオ2体分かそれ以上で、あの黒いカリギュラ以下と考えるべきか。

あのまま属性弾による攻撃を加えていけば、安全をある程度確保しながら間違いなく結合崩壊は狙えるが、その前に自分の強化が切れてしまう可能性が高い。

ならより強く、早くダメージを与えられる接近戦で行くか?……しかし、接近戦になれば間違いなくあの神機による攻撃が待ち構えている。あの神機の跡形もなく消し去る攻撃を常に警戒し続けながら立ち回らないといけないのはかなり辛いものがある。それに、尾が変化した剣に至っては未だに攻撃に使用していない為、その脅威は未知数。

 

 

 

 

どちらを取っても自分にとってあまりよろしくない状況になるのは分かりたくはないが分かった……ならば、この身体強化が続いている今の内に決着をつけるべきだろう。

そう結論を付けると、再び自分を喰らおうと伸びてきた神機を避け、両腕と両足に紫の炎を纏いながら円を描くようにスサノオへと向かって走る。

 

スサノオが伸びた腕を戻す頃には間近へ到達し、がら空きの胴体へ拳を叩き込もうとするが、その隙を消すために尾を使った回転切りを相手が放つ。

足元を狙ったそれを飛び上がり回避すると、そのまま右足の蹴りをスサノオの頭部へめり込ませ、直ぐ様両手から爆発を起こしてその場から離脱する。

空中を漂う数秒の間に神属性の球を複数作りだし、それを頭部へ向けて放ち、奴がそれに対処している間に着地する。

 

 

そして着地するとほぼ同時に地面を蹴り、再度スサノオへ接近する。自分が近寄るのを防ごうと2つの神機がその真紅の顋を広げて迎撃してくるが、強化された感覚をフル動員し、ギリギリの所で避けながら本体へと近づく。

そしてがら空きになった胴体へ拳を叩き込み、めり込んだ拳をそのまま喰らおうと本来の口がガバリと開き、此方へと向かって来たので直ぐ様腕を引き、嫌がらせも含めて口の至近距離でかなり強めの爆発を起こし、後方へと下がる。

 

……黒いスサノオの反応速度が思ったよりも早い。

全体的なスピードが高いこともあって、ある程度予測はしていたが、その想像よりも早い。

折角近づいても1発、良くて2発攻撃を当てることが限界だ。他のアラガミなら先程や開幕にかました蹴りを食らえば大なり小なり怯む筈なのだが、目の前のコイツは怯む様子すら無い。

 

怯むことが無いから直ぐに攻撃へと転じてくる……1発与えることにあの神機を始めとした攻撃に身が晒されるのは此方が与えるダメージ量と受けるリスクが見合っていない。

やはりここは遠距離からじっくりと結合崩壊を狙い、傷口に塩を塗り込むようにそこから崩していくべきだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──いや、そもそも結合崩壊を狙う必要はないんじゃ無いか?

 

そう……ここは自分が知っているゲームだった頃のGOD EATERの世界じゃない。

ならばゲームでは出来なかった事もできる筈だ……いや、出来る。現に今ここに生きている自分という存在がその証拠だ。

 

 

さて、そうと決まったのなら強化された体が維持されている間に勝負を決めにいかなければならない。

しびれを切らしたのか低く屈み、その後こちらへ向けて大きく跳躍し襲いかかってきたスサノオを炎の噴出と持ち前の俊足によって、宙を飛ぶその下をくぐり抜けていき、がら空きの背後目掛けて数発属性弾を放ち、真紅の鬣に全弾を命中させる。

流石にガルムやマルドゥーク、その2体の能力を手に入れた自分のように空中で爆破などを起こし方向を無理矢理変更する……何てことは出来ないようで、なすがままに受けた後に地面へ着地し、此方が『居た方向へ』振り向く。

 

しかし、スサノオは自分の姿を捉えては居ないだろう。それもそのはず、先ほど属性弾を放った後に空中へ飛び上がり、現在スサノオのほぼ真上にいるからだ。

自分の姿が見えない為に周囲を見渡しているスサノオだが、まだこちらに気づかれる訳にはいかない。

 

スサノオを中心にして四方八方から実態を持ち、先端が鋭利な氷柱を作り出し、スサノオに向けて飛び出させる。

それを尾を使った回転切りでなんなく対処したスサノオだが、お陰で此方に気付く時間を稼げた。

高く飛び上がった上空から落下していく中で砕け散っていく氷柱を眺めながら、両腕を分解させ、再構築していく。装飾のなされた黄金の籠手と純白の外皮を残しながら、バラバラになった細かい繊維が再び纏まっていき2振りの歪な……しかし、切れ味は高そうな太剣へと姿を変える。

 

 

いまだに此方に気付いていないスサノオの目掛けて背部のマントから炎を噴出させ、急加速する。

炎が噴出する音に気付いたのか、ようやくスサノオが上空の此方に気付き、迎撃をしようとその腕を持ち上げようとする──が、もう遅い。

目標は右腕の付け根。炎によって加速し続ける中で右腕を大きく振りかぶり、もはや自分と相手がすれ違う寸前と言うところで思いっきり上げた腕を降り下ろす。

 

そして、降り下ろされた腕──太剣の刃がスサノオの胴体と右腕を切り離し、切り離された腕が宙を舞う。

 

 

 

──だが、まだ終わらない。

 

 

 

勢いのまま滑って行きそうな体を地面に突き刺すようにおろした両脚と背面のマントをうまく利用し、体を左に急旋回させ、今度はまだ何が起こったのかを理解できていないのか、そのまま突っ立っているスサノオの左腕目掛けて左の太剣を背後から切り上げて体と左腕を右腕同様に切り離す。

 

 

それが終わると直ぐ様両腕を元に戻し、地面に落ちている2本の神機付きの腕を拾うと、相手がまだ呆然としている間に捕食を開始する。

バリバリと、味わう暇も無く、ただひたすらに切り離した2本を体内に取り込む為だけに、喰らう。

 

そうして自分が黒いスサノオの両腕を喰らい終わったのとほぼ同時に、絶叫に近い叫び声が響く。

 

「ヴギァアアアアァァァァァヴヴヴヴィィィィィアアアアアアアアアアアアアアアァァァアアアアアッ!!」

 

すわっ!来るか!!……とも思ったが奴の最大の脅威である神機は既に潰した。そうなれば幾ら従来のアラガミよりも素早いと言えど手数が一気に減ったのだからどうとでもなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……しかし、自分は気付くべきだった。

自分が有利な状況に持ち込んだ時にそれを解説するってことは一種のフラグということに。

 

叫び声を上げていたスサノオだが、次第にその叫びは低く、そして恨みを吐き出すような唸り声に変わっていった。

 

「ギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 

その唸りに呼応するようにスサノオの体から紅い閃光が放たれ、ミシミシ……という鈍い音が鳴り始める。

 

次第にその音は強くなっていき、それに比例するように切り離した2つの切り口がボコボコと膨れ上がる。

 

 

ア………アアアアギィアアアアア!!

 

そして唸りが再び叫びへと変わり、スサノオが叫び終わると同時に膨れ上がった切り口から腕が生える。

 

しかし、生えてきた腕は2本1対では無く。

4本2対の漆黒の神機が此方へ口を開き、真紅の口内を見せる。

そして本体はうつ向いていた人面を上げていく。

憤怒に歪んだ人面は今だ変わらず……だが、そこにどこか狂気じみたものが混じったように感じるのは自分だけだろうか。

 

 

 

 

……おいおい、洒落になってないぞこれは。

 

 

 

内心で冷や汗が止まらない自分を知ってか知らずか、黒き4腕の神はどす黒い咆哮を挙げた。

 

 

 

 

 




今回も最後まで読んで頂き本当に有難うございます。

黒いスサノオの強さは黒いカリギュラがSSSだとしたらSS~SS+位だと勝手に位置付けてます。
取り敢えずこの作品最強は将来の主人公と黒いカリギュラです……今のところは。

次回も多分戦闘パートになるので更新が遅れると思います……早く新ヒロインを出したい。


それでは短いですが、また次のお話で。


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第55話 鬼人形遊び

どうも皆様、黒夢羊です。

まずは謝罪を。
投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
遅れた理由としては単に私のモチベが下がってしまったのがありまして、とある作品を読んでモチベが復活したので突貫でこれを書きました。

なのでかなりおかしな部分があると思いますがどうかお許しください。
次回の投稿はまた遅れると思います。



それでは本編へどうぞ。




 

 

「ギィアアアア!」

 

辺りを震わすような絶叫を上げ、2つから4つへと増殖した神機を携えた漆黒のスサノオが此方へ迷うこと無く突進してくる。

 

そして自分との距離がある程度縮まった所で右腕の神機の1つが口を大きく開き、此方を捕食しようと迫る。

それを横に逸れることで回避し、両手を短剣へと変化させ神属性宿らせた紫炎を纏わせる。

そして続けざまに迫る左の神機をバックステップで躱すと同時に神機の側面を切りつける。

 

切り口から鮮血が飛び散り、剣に纏っていた紫炎が神機の表面を焼き、神機の表面が爛れていきながら異臭を放つ。

それを確認しながら、着地時を狙った右側の2つ目の神機の攻撃をマントから前面に炎を噴出させ強引に体を後方に下げる事でなんとか避ける。

 

距離を空けてほっとしたのも束の間。

スサノオが振るった神機を構え直したと思えば、神機の4つの口全てから赤い光が漏れ始め──

 

 

 

──って、おいおい!それは洒落になってない!

直ぐ様両手を元に戻しながら、先程同様マントから炎を噴出させて後方へと下がって行き、ビルとビルの合間の道へと退避する。

自分が退避した直後に極太のレーザーが通り過ぎていく。

 

……威力は見るからにヤバイ上にさっきよりもチャージ時間は早まってないか?

いや、先程は出す前に何とかしたから確定は言えないが。

取り敢えず、奴から逃げるなら視界から消えた今がチャンスだろう……だが、このままだとレア博士の方へ向かってしまうとも限らない。

かといってこのままコイツと戦っても身体強化が解けるのも時間の問題だし、ブラッド隊が到着すると、ブラッド隊とコイツを同時に相手にしないといけなくなる可能性がある。

そう考えるとこのまま撤退した方が良いだろう。

 

 

 

 

 

──けど、ブラッドの皆が万が一コイツと戦って負傷してしまったらどうする?今後の展開に大きな不安要素を残してしまうだろう。考え過ぎかもしれないが、終末捕食を防ぐことが出来なくなるかもしれない。

 

ならば、自分がここでアイツの相手をして遠ざけるのが理想だろうか。

強化が切れた元々のスペックで戦えるのかも試してみたいが、前の2本腕ならまだしも4本腕の状態の相手と戦うのはかなりリスクが高い。

……やはり、スサノオを何処か撒きやすい場所へ誘導して撤退するべきだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

幾ら身体能力が既存の個体から大幅に強化されているといっても思考はやはりアラガミなのか、こちらが隠れた場所へ追撃しには行ったが、そこからは自分を見失ったことに苛立ちを感じているのか神機で捕食したり、尾の剣で切りつけたりと手当たり次第に暴れている。

 

その光景を見るに此方を感知するようなセンサー的な能力は備わって居ないわけだ。

 

 

暴れているスサノオの背後へ属性球を撃ち込み、自分を認知させるとそのまま此方へ放たれるレーザーを避けながら奥へ奥へと進んでいく。

目指すのはかつて自分が特訓をしていたあの場所。

ブラッド隊との命を懸けた鬼ごっこをした通路を通り過ぎていきながら目的の場所へと向かう。

 

 

そして、スサノオよりも先に広場にたどり着いた自分は前方に多数の属性球を放ちビルの合間へと再び隠れる。

属性球の対処に気を取られたスサノオは再び自分を見失なったことで広場のビルや地面に向けてレーザーを放つなど暴れていたが、暫くすると突然糸の切れた人形のようにピタッ、と動きを止めた。

 

一体何が起きた……?

そうやって自分が注意深く観察していると、先程の暴れっぷりとはうって変わったように静かに、先程と走って来た道とは別の方向へノシノシと戻っていった。

 

 

 

 

取り敢えず、一件落着……なのか?

スサノオが向かった方向にはレア博士とかは居なかった筈……。

ひとまずほっ、と安心したのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

『フフフ……』

 

 

 

「っ!?」

 

 

ゾクッ!と何故だが分からないが、全身に寒気が走った。

すわ!新しい敵か……と辺りを見回して見るが黒いスサノオが去った今、周囲には前に自分が作り出したものと、あるのは先のスサノオとのチェイスと奴が暴れ回ったお陰でボロボロになったビル達だけ。

先程のスサノオのような新たなアラガミの姿は確認することはできない。

 

……さっさとここを離れよう。

寒気は消えたが、変わりに誰かに見られている……というか観察されているような気持ち悪い感覚が自分を襲い。それから逃れる為、足早に『』を去ることにした。

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

ブラッド達の元拠点であり、極致化技術開発局そのものでもある移動支部『フライア』の局長室のすぐ近くにあるとある部屋では、部屋の主である金髪の女性が車椅子から若干身を乗り出しながら画面に映し出された1体のアラガミを恍惚の表情で見つめていた。

 

それは端から見れば恋する乙女……というよりも最早ストーカーとかそんなレベルにまで達している……まぁ、一言で言えば「コイツ、絶対にヤバイ」感をこれでもかと感じることができる。

 

 

そんな何を想像しているのか、画面に映るアラガミへ手を伸ばしながら彼女は更に顔を蕩けさせて──

 

 

「ラケル先生、失礼します」

 

扉の向こうから声が聞こえると同時に普段の彼女──ラケル・クラウディウスの動きからは想像もできないような速度でアラガミの映像を消し、何事も無かったかのように扉の方へと向き直る。

 

「……あら、いらっしゃい。ジュリウス」

 

開いた扉の先には愛しい愛しい自分のジュリウスが立っていた。これが他の有象無象であれば、自分が始めて惚れた相手との(彼女からの一方的すぎる)逢瀬の時間を邪魔された事で、少々微笑みを浮かべるのに時間がかかってしまっただろうが、愛しい我が子であれば話は別だ。

 

何があったのだろうかと我が子から投げ掛けられるであろう問いに答える準備をするが、目の前のジュリウスは一向に語ろうとしない。

 

「…………ジュリウス?どうかしましたか?」

 

何か言いにくいことがあるのだろうか、と思った彼女は優しく……それこそ聖母のように愛しい我が子へと聞く。

ラケルの言葉を聞いたジュリウスはハッ、とするとどう口に表していいのか少し悩んだ末に喋り始めた。

 

「何か良いことでもあったのか……と思ってな」

「……はい?」

 

ラケルはそう思わず聞き返す。

良いこと?それは勿論現在進行形で愛しい我が子が会いに来てくれた事が良いことだし、今のところ計画だって順調に進んでいる為に、彼女からしてみれば基本的に良いことずくめである。

だが、ジュリウスが言いたいことはちょっと違ったようで、再びどう言うのかを少しの間悩み口に出す。

 

「……いや、何時もとは違う表情をしていたからな……何と言えばいいのか」

 

今だどう表現していいのか悩み続けるジュリウスに反して、ラケルは納得がいった。

どうやら久々に彼の勇ましい姿を見たことで興奮やら喜びが隠せていなかったらしい。彼を気にし始めた頃に姉に何時もと様子が違うことを気取られてからは出来る限り誤魔化してきたのだが、少々気が緩みすぎていたらしい。

 

ラケルは再びジュリウスに微笑むと車椅子を再度反転させ、壁に取り付けられた巨大な画面へと顔を向ける。そこにはつい先程まで彼が『お人形』と戦う姿が映し出されていた場所。

ラケルは口を緩ませると、愛しいジュリウスへ向けて語りかける。

 

「実はですね、ジュリウス。貴方達ブラッドの父と言うべき方が居るのですよ」

「……ブラッドの父…ですか?」

 

ジュリウスの返しに、嬉しさを隠しきれずに答える。

 

「ええ……今はまだお身体が万全では無い為、会うことはできませんが、いつかきっと貴方達に紹介しますよ」

「それは、楽しみにしておきます」

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

それから元々の目的であった神機兵の進歩状況を報告したジュリウスは部屋を後にする。

そして残ったのは再び彼女だけ。

 

「────フ、」

 

暫くして彼女の口から笑みが溢れる。

 

「──フ、フフフ」

 

笑みはだんだんと深まっていき、その青い瞳はどす黒く……それでいて澄みきったように染まる。

 

 

そうだ、何時かは彼をあの子達に紹介するべきだろう。

それが果たして間に合うかどうかは別として。

 

「それにしても……お人形にしては少々強すぎましたかね?」

 

再び映し出された特異種の映像を見つめながら、彼女は呟く。

彼女の想定とは少々違い、彼は自分が用意した実を食べること無くそのまま立ち去ってしまった。

実はまだまだあると言うのに。

 

「フフフ……存外、貴方は恥ずかしがり屋なのかもしれませんね」

 

本人が聞いたら的はずれもいいところだ、と文句を言いそうな呟きを漏らしながら彼女は計画の準備を進める。

 

 

 




今回も最後まで読んでいただき、本当に有難うございます。


個人的にインフレした主人公と対等に戦うにはインフレしたアラガミを用意しないと……と、思った結果があのスサノオです。
……まぁ原作主人公達はそれ以上に化け物なんですけど。

次回はおそらく極東支部サイドになると思います。
あとできれば新ヒロインサイドもかけたら書きたいです……。


それではまた次のお話で。


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第56話 主役は遅れた頃にやって来るらしい

どうも皆様、黒夢羊です。

お待たせしました。
待ってなかったら大変申し訳ございません。


それではどうぞー。




あの後、僕達ブラッドは無事にレア博士を救助し、極東支部へと連れて帰った。

 

……何故フライアを後にして、護衛もつけずにあんなところに居たのか。今フライアはどうなっているのか、ジュリウス達はどうしているのか。等々聞きたいことは沢山あったが、アラガミに追いかけられ続けた事によって精神が不安定になっている為に心を落ち着ける期間を設けることにした。

 

 

 

 

そして先程レア博士への最初の尋問(シエル曰く)が終わった所で、その内容を僕達は榊博士へと報告した。

 

「成る程、白いハンニバルがレア博士を助けた……と。非常に興味深い話だね」

 

眼鏡の位置を直しながらそう口にする榊博士。

どことなく嬉しそうな感じがするのは僕の気のせいだろうか。そう疑問に思っている間に榊博士は話の続きをつらつらと述べていく。

 

「オラクル細胞は物質をなんでも捕喰するという特性を持っている。だから例えオラクル細胞を持っていない人間であっても捕喰の対象になる……だが、その白いハンニバルは間違いなく特異種だと思うけど、発見したであろうレア博士を捕喰しなかった……それはどうしてだろうね?」

 

突如投げ掛けられた博士の問いかけに、少し頭を悩ませたのちに答えを出す。

 

「お腹がいっぱいだったから……ですかね?」

「成る程、ヒロ君の意見は確かにそう考えられるものだね。幾らオラクル細胞がなんでも捕喰すると言っても1つ1つ細胞が持つ容量には限界があるかもしれない、だから獲物であるレア博士を見つけても捕喰する気にならなかった……というのは十分にあり得るだろうね……シエル君はどう思うかな?」

 

僕の意見に頷きながらそう返してきた博士は、続いてシエルに対して質問を投げ掛ける。

少しだけ考えて答えを出した僕と違って、だいぶ考える時間を作り、シエルは答えを出した。

 

「そのアラガミ独自の偏食傾向が関わっているのではないでしょうか。より具体的に言えば、捕喰する対象に優劣をつけている……とか」

「ふむ、シエル君の意見も的を得ているね……アラガミの中には特定の物質や生物を中心に捕喰したり、よりオラクルが強いものに興味を示す個体が確認されているから、特異種がシエル君が言ったような習性を持っていても何らおかしくない」

 

博士はそう言い終えると、部屋の隅にある扉のようなモノへと視線をチラッと向け、再び僕らの方へと向き直る。

 

「確かに、二人の言った可能性は十分に考えられるし、レア博士が目があったように感じただけで見つかってなかっただけかもしれない……だけど、こうも考えられないかな?『特異種は人間を捕喰の対象として認識していない』……と」

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

自室のシャワーを浴びてスッキリした後にベットに飛び込み、先程の報告をしに行った時の事を思い出す。

 

「いやー、さっきの榊博士には驚かされたなぁ」

 

『特異種は人間を捕食の対象として認識していない』。

言われてみれば僕らが相対した時も僕らの方が先に攻撃はしていて、あちらからは攻撃はしていない。

……他の時は分からないけど、確かにあのアラガミは自分から進んで人間を攻撃しているような感じではなかったと思う。

だって僕らと戦い、僕らが動けなくなった時も特異種は捕食することなく何処かへ帰っていったし。

 

「……本当にそうなのかなぁ?」

 

思わずそう呟く。

僕が今まで出会ってきたアラガミは全てが人間を捕食の対象として見ていた。実際に食われそうになって死にかけたこともあった……それに、アラガミに大事な仲間を殺された。

いきなりそんな事を言われても信じろ、というのが無理な話だ。

 

アラガミは人類の敵。

 

それがこの世界の常識なのだから。

実際にシエルは「そんなことはあり得ません」と言ってたし。

その発言をした博士だって、「あくまでもそう言う可能性があるだけの話」って言ってたしなぁ……。

 

 

まぁ、でも。

戦わなくて良いのならそっちの方が良いに決まってる。

今はまだ信じることは出来ないけど、可能性を考えて動くことはできる。

アラガミと戦わなくて良い世界。

 

そんなあり得ない、夢のような世界の可能性を考えた僕は疲れをとる為に瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

黒いスサノオが何処かへ消えていき、謎の寒気を覚えた自分は直ぐ様その場を離れ、寝床へと戻ってきた。

あのスサノオと戦って思ったことだが、十分に戦える力は付いている……ぶっちゃけるとアラガミの中でもかなり上位の強さなんじゃないか?

 

強くなればなるほど神機使いに目をつけられる……っていうとてつもないデメリットがあるけど、逆に強くならなければ他のアラガミに捕食されるわ、神機使いに処理されるわ……ってどっちに転んでも最悪だな。

 

 

まぁ、そうなるなら強くなって撃退できるようにならなきゃいけないよなぁ。

……でも、初代主人公は言わずもがな、リンドウさんにソーマさん、それにブラッドレイジとかいうチート状態になる2代目主人公を余裕で撃退できるような強さって何処までいけば良いのか……と思うが、そこまでの強さにならなければあの黒いカリギュラには勝てなさそうだしな。

 

今は神機を喰らい続けて神機に対しての耐性とか腕の武器化を出来るようになったけども……最近神機を喰らい過ぎたからか遺された神機が見当たらなくなってきたんだよなぁ。

 

 

確かに残っているのは残っているけど、回収を始めた時よりも遥かに見つけにくくなってる。

……不安だけどちょっとだけ遠出をするべきだろうか?ここ最近近場しか回ってなかったのもあるし、あまり足を運んだことの無い所へ行けば神機も見つかりやすいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで今回は『嘆きの平原』にやって来ました。

円状の広場の中心にある、あの竜巻みたいなのはゲームの時から存在感があったが、こうしてリアルで見ると凄いな……。

離れているここまで風を感じる辺り、やはり竜巻か何かなのだろうか?いやでもそうだったら回りの物は吹っ飛んでるだろうしなぁ……。

 

って、そんなことを考えてる暇は無い。さっさと遺された神機を探さなければ。

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

──今日で何度目だ。

 

度重なる人間の襲撃に怒りと苛立ちを覚えながら妾は跳ねる勢いで地面を蹴り、荒廃した建造物の合間を縫うように走る。

 

仲間と外を見に来たのは良いものの、人間の集団に襲撃を受け、散り散りになってしまった。

仲間達は無事なのだろうか……そう姿の見えない同族の心配をするが、それも一瞬のうち。己の横スレスレを掠めていった銃弾が、自分の心配をしろとでも言うように意識を現状を乗り越えることに移させる。

 

 

身の丈に及ぶ武器を持った神機使いであろう数名が撒いても撒いても、どういう方法を使っているのか分からないが隠れている己を見つけ出し、襲ってくる。

そのせいで録に眠れておらず、常に動かし続けてきた体もそろそろ限界が近づいている。

 

ここは戦うか?……いや、それは得策ではないだろう。相手はこちらと違い複数で、増援だってあり得る。

それに何よりもあの中の一人が桁違いに強いのだ、金の籠手のようなものをつけた人間の雄。

あれがいる間はまともに戦ってはならないと、本能が告げていた。

 

 

他にもあの雄と拮抗する実力を持つ人間は居たが、交代制なのか、それとも別の箇所を捜索していたのかは分からないが今はその姿を見かけない。

だが、妾が見つかっている今、奴らが情報を聞きつけ再び此方へとやって来て挟み撃ちなんてことになるかもしれない。

 

 

 

八方塞がりか……そう思いながらビル群を抜けて大きな円状の広場へと降り立つ。

後ろからはやはり人間どもが追いかけてきており、直ぐ様私の発見し、追跡して────

 

 

……こないだと?

気配が動かない。どういう事だ?

振り返って見るとあの雄を先頭にした人間の集団は私が先程までいた、広場を見下ろせる高台からこちらを……正確に言えば妾の左斜め前辺りを見つめたまま立ち尽くしていた。

 

不思議に思い、その視線の先へと顔を向けた私の目の前に飛び込んできたのは、人間らが振るっていた武器の残骸らしきものを小脇に抱えてながらこちらを見つめる純白の竜人だった。

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……え、なんでリンドウさんとキュウビがここにいんの?

 

……え、もしかしてもしかしなくてもこれってかなりおピンチ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第57話 ピンチはチャンスって言った奴出てこい



……。
…………。

………………すいませんでした(土下座)

あと、投票数が個人的に凄いことになってて、驚きました。本当に有難うございます。





 

 

 

 

まてまてまておいおいおい!

 

なんで?なんでリンドウさんがいるの?

いや、キュウビがいるからキュウビを追いかけて来たんだって事は分かるんだけどなんでこんなところで遭遇しちゃうんだよ!?そんなん予想できるかってんだ!

 

そもそもリンドウさん達がキュウビを捕捉して追い詰めることが出来たのってGE2のメインストーリーの後日談……終末捕食を防いだ後じゃなかったっけ?

なんで今キュウビ見つけて追い詰めちゃってるの?早くない?

 

 

と、取り敢えずその疑問は目の前の危険を凌いだ後に、落ち着いてから考えることにしよう。

しっかし、キュウビとリンドウさん達がどう動くか。それがわからない限り下手に動けないぞ、これは……。

自分としてもせっかく10本近くの遺された神機を、しかも新品近いほどに綺麗なヤツを手に入れたんだ。出来れば全部持って帰りたい。

 

最高なのはキュウビが自分とは別の方向へ逃げて、それをリンドウさん達が追いかけてくれるシチュエーションなんだけど、それはちょっと厳しそうだよね。

 

 

かといって此方から攻撃すれば間違いなくあの神機の刃が自分に向けられる。

そうすれば間違いなく自分は死ぬ……いや、自分は成長前とはいえ、あのブラッドの皆を相手にして退けてるし、リンドウさんは神速種に苦戦していた。

なら、いざ戦闘になってもワンチャンあるのでは?

 

 

 

 

 

 

 

──いや、慢心は良くないな。

自分はあの黒いカリギュラを完膚なきまでに叩き潰し、その四肢を引き裂き、そのコアを喰らわなければならないのだ。そんな気持ちでは幾ら強くなっても負けてしまうことだってあるかもしれない……そんなことは、そんなことは決して許されない。

 

 

それにリンドウさんだって神速種と相対しているからその対策だって練っているだろうし、半ば本能で生きていたあの状態とは違って、今は冷静な思考が出来るし、道具だって使えるから格段に手強くなっているはずだ。

 

そうなると──

 

 

そう自分が思考を続けていた時だ。

突如キュウビがこちらの方へ向かって走り出す。

まったまった!これは最悪のパターンだぞ!

 

おそらくあのキュウビはリンドウさんも、そしてこちらをも敵だと認識している……まぁ、自分はキュウビ神属じゃないから当たり前なのだが。

まぁ問題なのはキュウビを追いかけてリンドウさんがこっちへ向かってくる事。

流石に自分もキュウビと彼を同時に、しかも荷物を抱えたまま相手取るのは無理なので仕方なしに手にもつ神機の数を減らそうとする。

 

するとキュウビは自分からある程度距離を開けて立ち止まると、くるりと振り返りこちらに背を向けリンドウさんに対して姿勢を低くし、戦闘体勢を取る。

 

 

 

 

 

……why?

何故目の前のアラガミがそうしたのか理解できずに一瞬思考が停止しかけたが、ピンチなのは相変わらずなので警戒を強めつつも現状を考察する。

 

キュウビが自分に背を向けたのはどういう意味だ?キュウビのオラクルレーザーは複数を同時に多方向に撃てて、その上ホーミング性能も高かった筈。

だから自分に背を向けながらもこちらを油断させつつ、いつでも攻撃を出来るようにしながらリンドウさんを警戒しているとか……?

 

 

いやでも、アラガミにそんな高度な知能があるのか?

そりゃあ多少他のアラガミよりも賢い個体はいるだろうが、ここまで考えれる個体がいるのかどうか……あ、キュウビはレトロオラクル細胞を持ってるから、そういう知能が高いというのも有り得なくはないの……か?

 

他に考えられるのは同じアラガミだから味方だと思っている……とかか?

いやでも、それが適応されるのは同じ神属とかで、種が違えば敵対とかするんじゃあ……。

けど、原作でもマルドゥークとかは能力のお陰とはいえムービーでヴァジュラとかの別の種のアラガミを率いていたし、この世界でも大型が小型を率いているのは幾つか確認できているから、一概に『神属が違う=敵』という思考…というか本能を持つアラガミばかりではないのか?

 

 

なんて事を考えてる内にリンドウさんは何処かへ連絡を取る素振りを見せた後にその場を去っていった。

……うん、まぁ、流石にあのリンドウさんと言え神速種とキュウビを仲間が居るとは言え、同時に相手取るのは難しいんだろうね。

1や2の主人公なら出来そうって思えてしまうのがちょっと怖いけれど。

 

さて、リンドウさんは勝手に向こうに行ってくれたから、問題はこのキュウビだが。

振りかえってこちらを見つめ、戦闘体勢を解除しないままに微動だにしない目の前のアラガミだが、暫くその状態が続いたが、先にキュウビが戦闘体勢を解除し、所謂犬がするお座りのような姿勢になる。

 

 

 

……これは、戦う意思が無いってことなのか?

ひとまずこちらも伝わるかは分からないが、脇に抱えた神機を下ろして両手を上げてみる……こうなることが分かってたらハンニバルの降伏のポーズとか勉強しておくべきだったと、一瞬考えたがぶっちゃけそんなもんあったとしても分かるわけないと冷静になる。

 

取り敢えず、こちらの意思がどうにか伝わったようで向こうが軽い鳴き声を上げてくれる。

こう言うがなんとなくだが分かるようになってきたのは自分がアラガミという生物にある程度適応出来るようになったと言うことなのだろう。

 

 

さて、どうにかこの場を乗り越えたからさっさと神機を回収して寝床に戻るとしよう。

そう思って帰路につこうとしたら。

 

 

 

 

 

 

 

…………。

………………。

……………………。

……なんで、付いてきてるんですかね。

 

いやいや、やめてください。付いて来ないでください。ただでさえリンドウさんに捕捉されて今後が余計に面倒くさくなるのにキュウビの君までついて来たら目立って見つかりやすくなるんです本当に付いて来ないでください。

 

そう思い此方が足を早めると、彼方も足を早める。

引き離そうと全力でビル群を駆け抜けていくが、貴重なほぼ新品の神機を傷付けたくないという気持ちと、神機を脇に抱えているために両足だけで走っているというのが原因で、普段よりも速度が落ちているために多少離しているとは言え、キュウビの追従を許してしまっている。

 

 

引き離す為に攻撃しても良いが、確実に戦闘になるだろうし……そうなると神機を守りながらってのは中々に難しいだろう。

それならこのままコイツを寝床に連れて帰ってそこで食らえば良いのでは?

 

 

……うん、それが良いかな。そうしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

純白の竜人の後を離されぬように必死でついていく妾。

その頭の中では先程までの状況を切り抜けた事による大きい安堵の気持ちが浮かんでいた。

 

 

……恐らくだが、妾を恐れずに追いかけてきた人間どもが立ち止まったということは、この竜人はそれなりに名が知れた存在か、それと同種属の可能性が極めて高い。

 

更にあの人間どもが振るっていた武器を抱えていた事と、此方を発見しても直ぐ様攻撃に転じなかった事を踏まえて考えると、アヤツは妾と同様に他の者共よりも智力が発達した者だと思うのが妥当。

 

ならば、妾が背中を見せれば状況を静観し、一先ずは襲ってこないと見て一か八かの賭けに出たが……賭けには無事勝つことができたようだ。

竜人は妾を攻撃することはせず、人間も妾とアヤツを同時に相手取るのは厳しいと判断したのだろう。なにやら耳に手を当てて居たが、後にその場から消えさった。

 

 

1つの危機を切り抜け、直ぐ様竜人に振り替える。

妾と同じ知恵を持つ者かもしれぬとは言え、所詮は別の種。

人間が消えたことで妾を倒せると見なし襲いかかってくるやも知れぬ。

そう思い、暫くは警戒を解くことは無かったが、流石にここ最近の逃亡による精神の摩耗が激しく、これ以上は危ないと判断し、姿勢を解いて此方に敵意が無いことを示す。

 

伝わってくれと半ば祈りに近かったが、向こうも戦いたくはないと思ってくれたのか脇に抱えていた武器を地面に置き、両手を上げて来た。

それが奴等の種の戦闘の意思が無いことを示す行動なのだろう。成る程、また妾に新たな知識が蓄えられた。

 

 

その体勢のまま幾ばくか時間が経過した。

竜人は姿勢を解いて先程まで抱えていた武器を再度脇に抱えると、そのまま何処かへと去ろうとする。

アヤツとおれば妾の身は暫くは安泰。その為ヤツの後ろを付いていくが、それが不快だったのかどうかは分からぬが歩を早めたので、離されるように。かといって警戒されぬよう距離を詰めないように妾も足を早める。

 

するといきなり竜人はその体躯からは想像できぬほどの速度で走り始める。

もしや、妾達の後を人間どもがつけていたのか?アヤツはそれを察知して人間どもを撒こうと速度を上げた。

ならば妾もそれについていくしかあるまい。

 

 

そう思い妾も全速力で走る。

……しかし、アヤツは一体なんなのだ。2本足であるのに四足でかける妾と同等……いや、それ以上かもしれぬ速度を出せるとは。

 

だが、妾を気遣ってなのかそれからは速度を上げることなく、此方が離されていないかを確認するために時おり妾の方を見てくる。

やはりアヤツも同じ知恵を持つ存在が居ることが嬉しいのかも知れぬな……まぁ、それはまだ分からぬが、ほぼ確定で良いだろう。

 

 

 

 

さて、アヤツが何処へ向かうのかは知らぬが妾の身のためにも離されぬようにしなければな。

 

 

 

 

 

 

 





という訳で登場しました。
キュウビさんです(尚ヒロインかは未定)。
性別はちゃんと女の子です。男の娘じゃないです。


さて、待っていてくれた皆様。
本当に有難うございます。
感想には返信を返せてはいませんが、全て読ませて頂いてます。
私生活がどうにか落ち着けたら、遅すぎるとは思いますが、全て返信させていただきたいと思っています。
この話はせめてGE2編は完結させたいと思っていますのでどうにかこうにか頑張っていきたいです。

それでは皆様、次のお話で。


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第58話 共に歩むべきか

……すいませんでした(二度目)

そして明けましておめでとうございます。


 

 

……結局、寝床まで付いてきたキュウビだったが、どうやら疲れたのか神器を捕食している自分の隣でぐっすりと眠ってしまった。

雪が積もり、人であれば思わず身震いするような寒さと、風が吹く最中、エリアから離れた寺の中で静かに、そして小さく規則正しく上下しながら眠るキュウビは、幾ら自分が隣で神器をバリバリ、メキメキと音を立てて捕食しようとも起きる気配を一向に見せない。

 

呑気な奴だと呆れつつも口を変形させ、ショートブレード型の神器を口に放り込み、内側に作り出した牙で噛み砕く。

やがて原型がなくなった神器を取り込んだのを確認し、次の神器へと手を伸ばしながらこれからの事について考えを巡らせる。

 

 

(恐らくだけど、リンドウさんからクレイドルと極東支部には連絡が入った筈……問題はその内容だよな)

 

 

自分の発見は確定として、キュウビの追跡情報はどこまでを、どう解釈して話すのだろうか。

キュウビがこちらと敵対する様子を見せていなかった所は直接は目撃されていないとは言えど、ドローンのような簡易的な移動する監視カメラのようなものがあっても可笑しくない。

 

そうなると、自分とキュウビがコミュニケーションを取っているような光景もみられた可能性はあるし、更にはその後の逃走の様子も見られているかもしれない。

端から見ればレトロオラクル細胞を持ったキュウビとハンニバル神速種が共に行動を始めたと思われかねない状態だった訳だ。

 

端的に状況を説明したとしても自分が狙われる確率が上がるのは間違いない。

この寝床に入る所を見られたかもしれないし、なんなら今現在、こうやって神器を捕食しているところを見ているかもしれない。

 

 

まず寝床は別の箇所に移すのは確定事項。

移動するのはリスクが高いが、このまま此処へ居た場合の危険度の方が高い。

それにほぼ欠損無しの状態の神器を10本近く捕食できたのは大きな収穫だ……最早、アラガミを食うよりも神器を捕食している回数の方が多い気がするが、総合的に見ればどちらの方の量が多いのだろうか。

 

まぁそれは別にどうでもいい。

愚者の空母にするか?……いや、戻らないと思わせて嘆きの平原、もしくは贖罪の街あたりか。

一先ずはその三つを候補にした上でだ。

 

 

 

コイツ(キュウビ)どうしよう……。

先程は戻ってから捕食すればいいと思ってたが、それをしてしまうと色々と危険だと気づいてしまった。

まず、自分はハンニバル神速種でリンドウさんと因縁がある存在だと思われる。

その状態で全属性を扱えて、他のアラガミの感応能力やらを扱えるというのはマークされていても可笑しくない、というかされている筈。

そんな自分がレトロオラクル細胞を取り込んだらどうなるか……うん、間違いなく殺害&研究対象だよなぁ。

 

そうなると確実にリンドウさん達に追い回されるわけだ、クレイドル側としても、レトロオラクル細胞がこちらの体内にあることが分かれば、極東支部に合流して合同で捜索活動を始めかねない。

 

となると、コイツを置いて今すぐ離れる方が良いか……。

一応、辺りを見渡して見るが、先程言ったドローンのようなものは確認は出来ない。

そも視界が雪と寺や周辺の朽ちた木材とかで結構遮られているのもあるが、それでもアラガミの視力的には掌サイズであればどうにか捉えられる筈。

 

見当たらないということは、そういった類いのものは無いのだろうか?それとも既に大まかな場所を絞れた為に察せられないようにと引かせたか。

どちらにせよ、コイツが起きていない内に行動をしなければならないが……そもそもなんでコイツは自分の後を着けてきた?

 

 

作品内でキュウビについてはレトロオラクル細胞を持っている特殊なアラガミという点だけしか言及されていない筈。

自分がプレイしていないGOD EATER3で新たな設定が追加されていた場合は分からないが、現時点ではそんな設定はなかった。

……確かキュウビのレトロオラクル細胞は混ざり気がない純粋なオラクル細胞。

それに対して自分のオラクル細胞は神器やら感応種やら色んなものが混ざりあっている(筈の)モノだから食指が沸かず、敵対する気もなかった……とかだろうか。

 

作中でも自動で迎撃できるシェルターみたいなのが出来たりするかもしれないと言われていたし、そんな細胞なら他のアラガミよりも知能は高かったりする……のか?

 

 

…………いや、幾ら考えても分からん。

そも、今まで出会ったアラガミが1体を除いて全てこちらに敵対的だったから、想定外過ぎて困惑している。

 

なんとなく隣で眠るキュウビへ視線を向けると、変わらずスヤスヤと眠りこけている。

 

 

 

 

 

 

 

 

……うんまぁ、ほっといても良いんだが、戦闘力はあのリンドウさん、ソーマさん、アリサ、2主人公4人を相手に善戦するくらいだし、いざと言う時の非常食兼、盾と囮になる。

最悪感応能力で操っても良いし、効かなかったら効かなかったで周りのアラガミをけしかけつつ倒せば良い。

 

邪魔だと判断すればその時には食えば良い。

 

 

 

そんな考えと言い訳を思い浮かべながらも、厄介事の塊であるコイツを遠ざけることはせず、近くへ置いておこうとする思考になっているのは自分の心が弱いからであろうか。

いくら強くなろうとも、いくら化け物だとしても側に誰かが居たことの安心感を覚えていたからだろうか。

思い出すのは己の回りでやかましく騒ぎたてていた賑やか白いアイツ。強さでも、意志疎通が出来る出来ないしても全く異なる存在を重ね合わせているのは端から見れば随分と女々しいのだろう。

 

……なんにせよ、戦力的な意味合いでも、食料や自身の糧としても優秀なこのアラガミを側に置いておくことは悪いことではない。そう都合の良い部分だけを切り取って不安を振り払った自分はスヤスヤと眠る隣のアラガミが起きるまで周囲の警戒を強めていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──特異種とキュウビが遭遇、両個体は敵対することなく供に逃走した。

レトロオラクル細胞を持つアラガミ、キュウビの捜索及び討伐作戦に従事していた独立支援部隊『クレイドル』からその一報がペイラー榊の耳へ届けられたのは、リンドウが特異種と遭遇してから小一時間後の話であった。

 

「そうか……キュウビと特異種が……」

 

そう言葉を溢すのはペイラー榊。

通話相手にも分かるほどに苦しげな声をしている彼に申し訳なさそうに話すのはクレイドルの一員である雨宮リンドウ。

 

「ああ、途中まではどうにか追跡は出来てたんだが、相手の方が一枚上手みたいだったみたいでな……すまん、見逃しちまった」

「いや、気にすることはないよ。それよりも……」

 

思わぬ情報に痛くなった頭を気にしつつも、より難度が高くなったであろうクレイドルの現目標に対しての心配の言葉を投げ掛けるが、それはリンドウによって遮られる。

 

「大丈夫……とは言えないが、安心してくれ。うちには優秀なメンバーが揃ってるからな、なんとかして見せるさ」

「……分かったよ、また何かあれば教えてくれ」

 

「了解」とリンドウの一言で通話を終えた榊は、そのまま力なく背もたれにもたれ掛かる。

 

状況は悪化する一方。

現場からは以前観測された特異種特有の感応波は感じられなかった為に特異種がキュウビを己の支配下に置いたと言うわけではないのは明確。

かといって両者が敵対しているというわけではないのもリンドウの報告からして確実であろう。

 

ならば何故?大型が小型を従えているという事例は存在していたが、大型同士が敵対することなく、示し会わせたかのように同じ方向へ逃走したというのは前代未聞。

ノヴァのオラクル細胞が何らかの効果を及ぼしたのかとも考えられるが、それならば第二のノヴァが出現した際に同様の光景が観測できているはず。

 

しかしそれが無かったということは……純粋なオラクル細胞であるレトロオラクル細胞特有の現象なのだろうか……。

 

 

そしてもう一つ。

特異種が神機を保有していたということだ。

遺された神機の回収数の大幅な減少に加え、以前から神機兵の神機を捕食していた際に想定されていた事ではあったが、それでも実際に特異種が神機を回収している姿を目撃したことについては衝撃が強かった。

 

これによって特異種がその目的が不明ではあるが神機を捕食しているということが確定してしまった。

リンドウと対峙した際に2対1という有利な状態であったにも関わらず、戦おうとしなかったのは特異種が未だに神機使いを驚異と見なしているからなのか。それとも確実に因縁の相手を屠るために万端を期そうとしているのか。

 

特異種に関して分からない事だらけであり、辛うじて判明している事実はどれも悪いことばかり。

マルドゥークとの戦いが終わって一息つけると思った矢先に今回の一件。やはりまだまだ気は抜けないな、とペイラー・榊は椅子に預けていた背を伸ばし、デスクへと向き直るのであった。

 

 

 



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