木ノ葉教育戦国時代 (宝石マニア)
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0 ある男の奮闘と変革#

 三代目火影・猿飛ヒルゼンと同期に、『教育界の火影』と呼ばれた男がいた。男、三嶋フウレンは特別上忍かつ高い実力の持ち主であったが積極的に前線に出るタイプの忍者ではなかった。第三次忍界大戦でも滅多に前線に出ることはなく、たとえ出る時があっても参謀として指揮官の隣で用兵の役目を負っていた。その手腕は天才的で、彼の部隊には一人も事故や病気以外の理由で亡くなる隊員が居なかった程だ。第三次忍界大戦後は実戦を退き、九尾襲来事件までは忍者アカデミーで一般教養の教鞭を執っていた。九尾襲来によって里が大きく破壊され、更地になった部分が沢山あった。忍者という職業に就く人間は一般に、精神的にも「強くある」ことが当然、常識とされていた。カウンセリングを受けるなともってのほかという考え方が根深かった。しかし彼はタブーを打ち破り、メンタルケアを行うことを三代目火影に進言した。彼らは同年代、同じ場所で教育を受けた同期生だったのだ。当時はまだ『静かなる参謀』『昼行燈先生』と呼ばれていた彼だが遂に沈黙を破り、声を上げ、里の復興と同時に教育制度の大改革へと乗り出していった。菅沼フウレンの提案した教育制度では、若者が忍者として正式に戦場に出るのは16歳。代わりに定員が大幅に増加し、個々の能力も劇的に向上しているはず。

 

しかし、そんな最初の卒業生が出るまであと何年が必要なのか?

 

 そうこうしているとまた一人、『組織の改革者』と呼ばれる男が現れた。彼もまた、三代目の同期生であった。男、竹中ハルシゲ特別上忍は当時の存在する兵力を最初から立て直して全く別の忍者組織へと改編した。木ノ葉隠れの指揮系統が整い、戦時中に存在していた参謀本部が常備するものとして再編されたのだ。

 

 続いて、一人の民間人医師が忍者組織の衛生部門に意見を始めた。彼ら3人は『木ノ葉改革三羽烏』との異名を手にし、やがては失ってしまった里の人口を補填すべく下忍たちに難民や孤児を探してくるよう命じた。よって里は年齢ピラミッドが大きく乱れながれも人口を取り戻し、子供たちの笑顔や歓声が溢れる場所へと変化した。

 

 

                ◇◆◇

 菅沼実――三嶋フウレンは転生者だった。漫画NARUTOの世界ではなく、NARUTOが漫画として存在する世界からの。フウレンは愛知県北東部にある旧家に生まれて県立教育大学に進学、卒業。奥三河にある故郷周辺で高校教員(地理歴史科)の採用試験を受け、教育レベルに不安がある地元のために尽力した。若くして校長先生を務めたのち、教育委員長を経て退職。卒業後は孫を可愛がりつつ研究に励み、孫の勧めでそれまで読まなかった漫画に手を出したのだった。

 

 そこで彼が感じたのが、木ノ葉隠れの里の教育に対する疑問だった。作中での描写は少ないが、民間人の生活が里の中にある。忍者アカデミーしか教育期間が存在せず、教育の自由が民間人には存在していない。それでいて民間人の家系や家庭というものがあるのだから、一体この里はどうやって労働に関する技術を教育されているのか?教養教育はどうなっているのか?漫画の中の世界だというのに、彼は疑問が尽きなかった。NARUTOの他に孫から教えられたのが、異世界転生ものだった。衰えつつあり、病気に蝕まれる体の持ち主として、死んでから異世界転生してNARUTO世界にでも行けたら面白そうだと思ってみた事もある。まぁ、それが現実になってしまったのがこの原作とはかけ離れたNARUTO世界だったのだが。

 

 フウレンが生まれた家は、マイナーな秘伝忍術『鬼御影の術』を継承する転生者が興した家系だった。一族間は殺し合いとは無縁なほど仲が良く、迫害から逃れるために晶遁の技を磨きあげてきた。三嶋一族の家紋は『クスノキ』。樟脳の原料となり、蟲を避けるが同時に毒性もある結晶。鬼御影とはペグマタイトの事だ。土遁の中でも成分を操作したり取り出したりする能力に長けており、岩石中から石英だけを纏めて攻撃に用いる。けれど、元から無いものはいじりようがないのが実情。

本当は血継限界ではないのだが、そう思われている。だから便宜上・晶遁と自称している。つまり写輪眼にコピーされたらバレバレだ。

 

 その結晶が美しかったから幾度も利用されかけ、その度に逃げていた。その結果、三嶋一族は『流浪の民』『山の民』といわれる集団へと変わっていた。岩から血漿成分を取り出して武器にするだけでは生きていけないので、陰の性質のチャクラを生かして幻術の使い手でもある。狼の一族と口寄せ契約し、狼と共に山を駆ける姿と撤退戦の上手さから、なかなか有力氏族たちからは正体を見抜かれなかった。時代が下ると、日向や油女、嗅覚に優れて忍犬を使役する犬塚一族からは正体を見抜かれるようになった。

 

 

 三嶋一族は木ノ葉隠れの里が出来ると聞くと、すぐさま里に移住する手続きをした。木ノ葉隠れでは三嶋一族は差別も迫害も受けず、三嶋一族から出た別の一族が興した諏訪一族と共にマイナー血継限界一族として頑張ってきた。

 

 

 当然のように忍者としての道を歩き、戦争に参加し、気付けば地味ながらも英雄の一人に数えられるようになった。三代目火影となった猿飛ヒルゼンと友情を築きつつ志村ダンゾウを上手く出し抜き、少しでも大変な目に遭う若者を減らすべく頑張りつつ、どうにか里の教育を変えたいと心に秘めつつ最初に『英才教育学校』を提案・した。手始めに、優秀過ぎて浮きこぼれてしまう子供たちを忍者志望者・民間人のどちらも救えたら良いと思ったのだ。

 

 

 やがて、木ノ葉隠れは九尾の襲来によって壊滅状態となった。四代目火影の死により、三代目火影が火影の座に戻った。復興中だというのに、里に対しては容赦なく依頼が入ってくる。異例の事だが、木ノ葉は一度、最強の里という肩書を返上して里の復興に集中することにした。教育制度の改革・全部隊の再編・都市計画の変更。福祉制度を見直し、戦災孤児の生活を保障した。それは九尾が封印されたうずまきナルトに対しても例外ではなく、うずまきナルトが3歳になり火影直轄一貫制忍者学校の幼稚園に入る頃になってから少年の両親が波風ミナトとうずまきクシナであるという事実と人柱力であるという知識の里人への教育を開始するという決定がなされた。

 

 

 フウレンがやりたかった事。それは木ノ葉隠れの忍者を増員すること。忍者登録番号から計算すると大体、1年間に忍者学校を卒業して下忍になるには大体200人。定年退職者と殉職者、怪我をして戦闘不能になった者は合計500人弱にも上る。これから平和な時代が訪れるといっても、ヒルゼンは採用人数を減らす事によって平和な世の中にしようとしていくだろう。でも、その選択は人手不足を招くことになる。

 そんな話をヒルゼンにしつこいほどし続けた結果、遂に限界を迎えたヒルゼンは『忍者の教育・採用』という大きな役目をフウレンへと完全委託する事にした。

 

焼け野原のなか、フウレンは都市計画に詳しい『転生者』それから千手一族の大工仕事に詳しい者たちと一緒に里の復興計画の中に『忍者教育施設群建築計画』を盛り込んだ。

 

 男―三嶋フウレンは穏やかに眠る金髪の幼児の髪をそっと撫で、もうすぐ始まる幼稚園生活に思いを馳せる。可愛い孫が、この子が、名前も知らない里の子供たちが健やかに成長できますように。そう願いながら、瞬身の術で家族の待つ家へと向かった。

 

 

 



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学校設定~木ノ葉教育戦国時代①

学校対抗戦の話、遠足実習は波の国!?的な話を書きたいです。
フウレンがダンゾウに「ダンゾウ君は里が出来た頃の初代様の願い、覚えてますか?」と毎日圧力をかけているので、苦渋の決断でダンゾウは自分で私立学校を興しています。


忍者:原作のような兼業はあまりおらず(家業がある山中家や奈良家は例外)、全員が完全なる職業軍人。現実世界のように任期付きの隊員は存在せず、兵士という立場は事実上いない。全員が学校で一律に下士官のような教育を受ける。

それぞれの階級内に等級が存在。

コードは米陸軍の給料等級を参照。総員30000人

 

E-1と在学中のOR-4は戦時の際に絶対に動員されない決まり

もう卒業したE-2~E-4は動員される

 

士(Enlisted) 忍者学校に在籍する学生達(E-1)、卒業者(E-2)

       在学中に中忍選抜試験に合格した場合はORの最下位(OR-4 伍長)扱いとなる

 下忍 4階級(E1~E4) 全体の3割を占める兵士たち

 

 

曹(OR) 中忍選抜試験の合格者。忍軍の中でも現場指揮官を務める。6割。  

 中忍 7階級(OR/E-4~OR-9)

 

准尉(W) 専門家たち

 特別上忍 5階級(W-1~W-5)

 

幹部(O) 全体の1割、2000人ほどを占める部隊指揮官たち。選ばれし者。

 上忍   6階級+戦時体制下の階級(司令官)

 

 

民間人学校 義務教育

13~18歳(国立/公立/私立 8~12年生)

 

 

 

木ノ葉忍軍 忍者訓練学生部隊 1学年750名

                正規(現役)部隊 666名

                うち卒業後の予備役 84名

 

 

里から認可を受けた複数の学校が存在している

男女比は3:1

 

 

 

『三嶋フウレンのワクワク進路カウンセリング』

 三嶋フウレンという男は影分身を駆使し、里じゅうにいる就学予定者の家々を巡り、あるいは特設の相談ブースで親子同時面接を行い、子供たちに相応しい学校を決定することで有名である。多くの一般家庭、あるいは一般的な収入を持つ忍者の家の人々には顔岩に最寄りの公立学校講堂に結界パーテーションを作り、子供たちの進路カウンセリングを行っている。血継限界や秘伝といった里が始まる以前からの名家にはフウレンの方から出向き、簡単な達成度テストと事情のヒアリングをする。

 

「日向ヒアシ君、久しぶりだね」

 

「あぁ・・・、三嶋先生ですか。部屋は昨年と同じ場所へ」

 

フウレンを出迎えた人物、日向ヒアシは昨年会った時よりも幾分か痩せて見えた。フウレンは昨年、この日向一族の邸宅を訪れる時には孫のアザミを伴っていたが今年はいない。ヒアシ氏は昨年の12月27日(この名門旧家の時期当主とされるヒナタの5歳の誕生日)、まさに娘であるヒナタが誘拐されそうになった。そこで彼の弟で分家、ヒザシ氏が誘拐犯である雲隠れの忍者を殺してしまった。戦争も辞さない外交問題に発展し、相手はヒザシ氏の死と遺体を要求してきた。娘の誘拐と弟の死で消耗しきった彼は現在2月の今、当然だが完全には回復していない。ヒアシは思う所があるらしく、フウレンに対しては敬語であった。

 

 

 

「ヒアシ君・・・、無理しなくても良いんだよ。お父さんに変わって貰っても・・・」

 

「・・・大丈夫です。それより、この子の。ヒナタの進路について話をしましょう」

 

心配の言葉を遮ったヒアシはヒナタについて話し始めた。ヒナタは恥ずかしがり屋で、いずれは日向一族の当主となる器ではないのではないかという不安と、『あの事件』以来従兄であるネジからの辺りがきついという事を。フウレンはふと、襖の間から鋭い視線を感じた。それは明らかに、ヒアシの背中に隠れているヒナタに注がれているようだった。

 

「・・・聞いたところ。引き続きネジ君と同じ学校に入れるべきか、そうでないか。そこが君の悩みかい?」

 

「そうです」

 

「ネジ君は今、火影直轄の一貫制忍者アカデミーにいるね。ここに行くと、旧家出身者の相応しい教育を受けられる。しかし、ヒナタちゃんは女の子だから心配という事を既にアンケートで確認しているよ。ヒアシ君、大丈夫だよ。火影直轄校は男女別学だから、くのいちらしい、旧家の姫様に相応しい教育が受けられる。安心してね」

 

「そうですか・・・、良かった。では直轄アカデミーの継続をお願いします」

 

 この里には、フウレンが設立の立役者となった火影直轄の忍者アカデミーが存在している。木ノ葉は忍者の隠れ里とはいっても、一般家庭出身者、一般忍者家庭出身者、名門旧家出身者の間で忍者になるとしても教育の不均衡が存在している。それを是正するべく、名門旧家出身者/一般家庭出身者/一般忍者家庭出身者の3つのカテゴリに分けて違った教育システムを用いて一人前の忍者として育て上げる事になっているのだ。一般家庭出身者と一般忍者家庭出身者は当初、名門旧家出身者が色々な課程を免除されているように見えたのか批判の声が上がった。しかしフウレンは日向一族や猪鹿蝶3家と協力し、恵まれた環境に生まれたからこそ早期に『力を持つ者としての義務』を果たしに行くのだと説明した。それが功を奏し、今にに至る。

 

 名門旧家出身者と、里内で活動するフウレンのような立場の特別上忍たちがスカウトしてきた人材が入る火影直轄アカデミー。こちらは3歳で就学前教育機関に入り、普通の子供と同じような感性を磨きつつもチャクラや忍者に対して親しむような教育を受ける。絵本で里の歴史や国の歴史を学び、上の学校に上がった時の基礎を作る。この時に学習障害や発達障害の有無を見分けて、クラス分けに役立たせる。血継限界を持つ子供たちも通っているから、そのような血筋の人間としてどう生きるのかといった教育の基礎も形作っていく。礼儀作法はもちろん、普段の振舞い方のヒントまで。出来る限り中立的に、のびのびと過ごせるように。

 

 

一般家庭出身者も、一般忍者家庭出身者も、『戦争』に参加するのは中等部を卒業してからじゃないといけないルールになった。ちゃんと分別がつき、『兵士』『下士官』として自分に与えられた仕事の意味が解る年齢になってからだ。

 

フウレンはどうしても、守りたい存在に出会えないまま14歳といった若すぎる命を散らす事を避けたかった。フウレンは生前、中学生時代に兄を事故で亡くして次男ながらも旧家の跡継ぎになった。跡継ぎゆえにやりたい事がやれなくなり、愛知県を、奥三河を離れられなくなった。だから、愛する妻に出会うまではとにかく地元で家を守るために青春の日々を駆け抜けていた。後悔はしていないが、やりたい事を制限される苦しみは分かる。多感な時期に同胞を亡くす悲しみを減らせるのではないか。

 

それが、フウレンが転生したこの忍界で見つけたやりたい事の一つだった。

 

 

 

 

 

 

 



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学校設定~木ノ葉教育戦国時代②  国公立編

4月10日

 三嶋フウレンは先週、孫娘アザミ一貫制忍者アカデミー初等部入学式に参加した。普段は里の教育担当部署で顧問として働いているフウレンなので、今日から5日間、この里内にある主な学校を巡回する仕事をすると決定した。三代目火影・猿飛ヒルゼン直々の依頼である。ヒルゼンといえば優しいとして知られているが、この世界に転生する前のフウレン――元高校教師の菅沼実からすれば、幼いナルトに1人暮らしをさせる、不思議な人間に思えた。だから、フウレンはヒルゼンに毎日のように「一人暮らしは流石にキツくないでしすか?」「常識が無いタイプの里人に暴力でも振るわれたらどうしよう・・・」と言い続けた。三代目とナルトが接近すると、志村ダンゾウが迫ってくる。それは嫌だった。今日もフウレンはダンゾウに笑顔で圧力をかけ、記録ノートを片手に外回りへと出てきたのだ。

 

 

                  ☆★☆

 

 

1校目 国立木ノ葉医科大学附属学園 通称【フゾク(附属)】、男女共学

 

 

 ここ国立木ノ葉大学付属学園は一般に、エリート思考の高い家庭の子供が厳しい受験を経て入学してくる。お受験組が9割で残りはくじ引きで当選した子。幸運もまたエリートの可能性の一つだとして、彼らはそういった非科学的な部分にも注目しているのだ。僕が綺麗な校門をくぐるとそこは行儀の良い子たちばかりが揃っていて、僕に「おはようございます、三嶋先生!」と元気な挨拶をくれた。うんうん、良いとこの子たちって感じでいいね!だけど元気さもあって、百点満点!!!

 

 

「おはよう、2年生と3年生のみんな!」

 

「おはようございまーす!」

 

 僕が入っていった教室には2年生と3年生が一緒に学習をしている。この国立大学附属学園の初等部では、こんな風に複式学級が標準になっている。カナダのバンクーバーあたりではMulti Age Cluster Class(MACC)といってギフテッド向けの教育があるらしい。それと同様の方式で、教室数の削減と英才教育が同時に出来るシステムなんだ。

 

 

 ここから医療忍者訓練クラスに進む子が大勢出る。本当は他の学校からも沢山欲しいんだけど、教育熱心な家は子供を医療忍者にしたくて付属校に入れたがる。名前が似ているだけであって、本当は医療忍者養成課程にエスカレーターで入れるワケじゃない。下忍にはなれたけど、持ち上がりで行けなくて公立に行く子が大部分だ。もっと現実を見て欲しいから、来年からはもっと大々的に宣伝すべきだと思った。

課題の一つだ。

 

 

 

 



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学校設定~木ノ葉教育戦国時代③ 火影直轄アカデミー編

14日 『火影直轄忍者アカデミー 通称:木ノ葉中央忍者アカデミー』

在籍者:男子 うずまきナルト/うちはサスケ/奈良シカマル/犬塚キバ/油女シノ/秋道チョウジ/サイ/日向ネジ/ロック・リー

    女子 日向ヒナタ/山中いの/春野サクラ/テンテン

 

 フウレンが今日やってきたのは、名門旧家出身者と上忍・特別上忍などがスカウトした子供たちが通っている『木ノ葉中央忍者アカデミー』。血継限界家系や秘伝家系出身の『既に覚悟が決まった』子供たちにとって、忍者になるのは自然なこと。全体の教育コストを下げるためにも血継限界・秘伝家系出身者/一般家庭出身者/一般忍者家系出身者とで学校を分けた方が良いのではないかとフウレンは考えたのだった。

そこで設立されたのが、ここ『木ノ葉中央忍者アカデミー』である。

 

 3種類のアカデミーはカリキュラムが異なっている。誰もが出来る限り同じ条件で成績を競い、技術を研鑽していくためには差別ではなく区別が大事だとフウレンは思っているからだ。

 

 学校でのスタートラインだって、一般家庭出身者はまず『忍者とは何か』から始めないといけない。いくら忍者が割とメジャーな職業である木ノ葉隠れでさえ、家族に忍者がいなければ忍者知識なんてたかが知れている。

だから、3種類の学校を用意した。

 その結果は明らかで、ここ4年で卒業した木ノ葉隠れの里の若い忍者達は明らかに平均して能力が高い。明らかに底上げされている。チャクラコントロールをしっかりと教え、下忍になる時の基準を高くし、高くするためには学校で教育されるレベルも見直した。従来よりも強い忍者を出すのは当然だが、精神的に安定した市民を育てるのにも注力している。木ノ葉隠れは人口10万人、うち0歳から13歳までの子供の数はベビーブームもあって33%を占めている。しかし、今の13歳は終戦の年なので1つ下の学年に比べると人数が少ない。だから、忍者の採用人数を里外出身忍者一族から補っている。かつて里ができても木ノ葉隠れに入らずに、警備員や用心棒として生計を立てていた人たちをスカウトして『木ノ葉市民教育』と『木ノ葉流基本戦闘訓練』を施して下忍として採用したのだ。彼らは働こうとしても、戦火に町が焼かれてしまっていては働き口がない。そんな人たちの子供たちも木ノ葉隠れの市民として受け入れ、チャクラが練れる才能のある人材を大勢確保した。

 

 

                  ☆★☆

 

 フウレンが教員に案内されて廊下を歩くと、子供たちが『体育室』で忍術の授業を受けているのが見えた。その中にはフウレンの孫娘、アザミがいる。亡くなった娘が生んだ孫だ。孫の父親の一族とフウレンは関りが深く、どんな人物かはこれから能力を発揮するにつれて分かってくるだろうと思ってる。それに、顔立ちと状況証拠から何となく見当はついているが。前世において、八ヶ岳にある湿原に咲くアザミの花をイメージして薊子と名付けられた孫娘。ようやく授かったと娘夫婦は喜び、フウレンと妻にとっては初孫だったので強く心に残っている。フウレンは前世、娘の夫がどうにも気に入らなかった。態度には絶対に出さなかったが、ストレス解消の名目で酒と煙草、ギャンブルに依存するのがどうにも耐えられなかった。そんな奴との間にでも子供が欲しかったのは、向こうの両親から強く望まれていたからだった。子供は欲しいが、ハッキリ言って夫の子は産みたくない。でも跡継ぎを生まなければと、娘は苦悩していた。離婚を薦めたがある日、妊娠したと満面の笑みで報告してきた。今思えば、アレは何かの予兆だったのだとフウレンは考えた。

 

 驚くことに娘は今世では結婚しないまま妊娠し、シングルマザーとしてアザミを出産した。説明がつかないが、娘は前世の夫に当たる人物に対して『生理的な嫌悪感』を強く主張していた。前世の義弟にして今世でもアカデミーの教え子だった青年を『君はこんなに素敵な子なのに不思議だね』と言い、可愛がっていた。そこで前世、夫とその両親と上手くいかずに子供が出来ないと悩んでいた娘を助けた”誰か”がいたのだとフウレンは今世で確信した。その誰かについての検討は何となくだが付いている。付いていても言い難い。そういう”誰か”だ。

 

 フウレンの両親は従兄妹同士だ。妻も母方の遠縁から嫁いできた。前世も似たようなものだったが、この世界では完全に一族内で行われる政略結婚だった。フウレンには諏訪という、氷遁を血継限界として保有する雪一族とは全く別系統の”転生者”によって創設された忍一族の血が色濃く流れている。諏訪には藤森、岩波という前世の世界でも長野県でたまに聞く苗字の血継限界を持たない庶流の家系が存在している。フウレンの父方祖父が三島、祖母と母方祖父母が『岩波』の出だ。妻のイナは旧姓が『藤森』。イナの祖母は血継限界を持つ諏訪から嫁いできたくノ一の曾祖母が藤森に嫁いで生まれ、彼女自身にはその因子が無いだろうと思われる。娘も息子も氷遁使いの兆候を示していなかったからだ。

 

 アザミは何かと、フウレンが前世と今世でそれぞれ高校教諭・担当上忍として育てた自慢の教え子とよく似ている。長野出身の父親がいると言っていた教え子は旧家出身で品が良くて優しく、誰よりも優秀だった。田舎の進学校から突然東大に合格したと思えば、アメリカの大学院を卒業して帰国した。一流の建築士として活躍していたが、急性骨髄性白血病で若くして命を落とした。”その子”は娘が嫁いだ男の弟で、彼女にとっては”義弟”でもあった。アザミが生まれた時には19歳。小学校教師だった娘の最初で最後の教え子。1年で悩んだ末に離職していた。真面目でいじめに対して真剣に立ち向かう娘を慕っていた。その子とアザミは似ている。顔立ちは確かに娘や妻とよく似ているのだが、尋常ではない集中力や限局した興味対象についての瞬間記憶能力といったものが教え子を思わせた。忌々しいあの男の特徴は感じられず、一見すれば平凡にも見える孫娘の中にあの非凡な教え子の面影がある。転生してきてから、里のトップクラスの上忍として第一線で戦う姿を見てからは尚更だ。アザミの持つ忍者としてのポテンシャルは相当に高い。それが物語っている。

 

 この世界は従来の世界の木ノ葉隠れとは違い、天才はたけカカシより僅かにパラメータが低いものの優れた若い忍者の層がとても厚い。だから『うちはオビトとのはらリン』を助けられると戦場で山岳連隊を率いていたフウレンも思っていたが実際は甘かった。原作通りの人物(キャラクター)は若くして戦死したり、助かっても直系先祖に助けられて闇堕ち(推定)したりした。うちはオビトが帰還しなかったという事はそういう事だろうとフウレンは解釈している。



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1 4年B組!うずまきナルト参上!

ナルト・チョウジ・キバ→勉強の改善により、語彙力が高くなる。漢字能力が上昇。

謎のゲリラ芸術家KAYAKU→里のバンクシー的存在。正体はナルト。

忍軍に指定された1つの学校につき90人(30×3クラス)の下忍養成コースが存在している。12校。共学校は男子2クラス、女子1クラスが標準。男子校と女子校も里内に存在している。

2年後に上忍師となる予定の上忍(とその昇進予定者)は、卒業後に備えて人材をスカウトするため月1でローテーションで学校を回る。


 俺はうずまきナルト、10歳。俺は火の国木ノ葉隠れの里に生まれ育ち、火影のじっちゃんの家で育てられた。俺が通うのは火影直轄忍者アカデミー。周りは旧家の跡継ぎばかりで堅苦しいところもあるけど、みんな里の半分くらいの人たちとは全然違って凄く優しいってばよ!

 

 

 

 物心がついた頃にはもう既に里人が俺を嫌っていると何となく悟った。三代目のじっちゃんと一緒に外へ出る時にはそうでもなかったが、そんな時から何となく違和感があった。じっちゃんに対する敬意の籠った視線に混じっていた、俺を蔑む確かな悪意。どうして火影様がお前のような化け狐なんかと、とでも言いたげなソレ。幼かった俺はすぐにじっちゃんの背中に隠れ、遊び場といえば安全のためにじっちゃんの家または『教育界の火影』である三嶋フウレン先生の家。遊び相手というのは、フウレン先生の孫娘であるアザミ。アザミは変わった奴で、幼稚園ではいつもいじめられてた。その女の子は色白で、真っ黒なおかっぱ。暇さえあれば図鑑のページを捲り、近くにある沢の水面を見詰め、アリの巣を観察していた。アザミは他の奴らよりも字が早く読めた。それがなんでイジメに繋がるのかは俺は全然分からなかったけど、とにかく、イジメられていた。そのイジメの原因はアザミが変人だからという理由だけじゃなくて、フウレン先生の立場を良く思わない人たちがいるからだ。その理由は三嶋という忍者一族の歴史にある。

アザミが教えてくれた範囲しかオレは知らないけれど。

 

 三嶋一族には晶遁という、土遁に陰のチャクラからなる血継限界がある。その術はとても美しいけど、敵を結晶に閉じ込めてバラバラに砕くという戦法から『恐ろしい』『残酷だ』と言われて迫害されてきた。山の中を林業や職人、鉱脈探しをしながら生きてきた三嶋一族は『山の民』『山犬』と言われるほど山岳ゲリラ戦に優れている。いつも恐れられているけど、都合の良い時だけ宝石を売って欲しいと求められていた。だから三嶋一族は人間関係に対して常に疑いを消さないのが家訓。けれど、本当に信じてくれた時には誰よりも信頼してくれる。その反面、任務に対して忠実で常に命令に従う。犬塚一族みたいに、戦場ではいつも山犬を連れている。『氷の天龍』といわれる諏訪一族とその血縁配下――諏訪軍団とは大昔から同盟関係にあって、彼らのコンビネーションは山岳地帯と湖沼地帯にて最恐。

 先祖同士でゴタゴタしたらしい三島一族と霧島一族。諏訪一族と鹿島一族と香取一族、そして静織一族とは色々あって殺し合ってきた。また、鹿島・香取・静織は『星宮(ほしのみや)』という一族と敵対していた。そんな彼らだけど、里が結成されるまでに千手一族・うちは一族と全面戦争をするために一度だけ同盟を組んだ事がある。以後は里が誇る忠臣たちとして知られ、三嶋一族は『里の犬』と言われている位だ。そんな忠臣なのに、繰り返された忍界大戦の度に三嶋一族は晶遁の美しさと禍々しさが理由で再び迫害の対象になって、今もまだその残滓が里にはある。

びっくりする事に、フウレン先生は全く一部の人たちからの迫害を気に留めていない。それどころか「迫害とは受け取っていないから全然平気だよ」とか言う。だから里が出来る前の方が酷かったんじゃないかと思う。

でもでも、まだ晶遁を上手く使えない孫のアザミに対して怖い視線を向けるのはおかしいと思う。何もしていないのに怖がる層が存在しているのがオレは許せない。

 

 

 

うちは一族はその強力な瞳術(どうじゅつ)から恐れられていた。

三嶋一族の晶遁も、一般人や普通の忍者から見たら奇怪な術。

恐怖の象徴だったのだ。

 

人は何を恐れるか?

 

死だ。

 

戦国時代、『うちは』は死の象徴だったかもしれない。

まるで現象のように、自然現象のように存在する死を誘うもの達。

自然現象、死。隣にある危機。

すぐ隣にある危機、災害。

 

 そこでオレは俺に封印されている存在が九尾の化け狐だと直感した。里を壊滅させ、多大な犠牲を生み出した大災害そのもの。じいちゃんに抱き付き、その事を話すと驚いた顔をされた。じっちゃんは俺に「賢い子だ」と言って、褒めてくれた。その晩、オレは夢の中で九尾の化け狐――今でこそ心の中に住む相棒となった九喇嘛と知り合い、和解した。その事だけはまだ、いまでもじっちゃんには秘密にしてある。だから、いくら辛いことがあっても俺は少しも寂しくない。色々な知識をくれる相棒が、友達が心の中にいるからだ。

 

                        

 

 オレが在籍するのはココ、木ノ葉中央忍者アカデミー(正式名称:火の国立 木ノ葉忍軍附属忍者学校)の初等部。初等部に入る前にはみんな普通の幼稚園に入るけど、血継限界・秘伝家系出身者は問答無用で中央忍者アカデミーに附属した幼稚園に入れられる。幼稚園の時に出会ったのが師匠にして伝説の三忍の一人、自来也という人。オレの父ちゃん、波風ミナト上忍の師匠だった人。オレは何故だか無条件に安心して九喇嘛の事を話した。それから保育園時代にチャクラについて教えてもらった時、どうしても練りにくくて困っていることも。結果、封印を段階的に緩めてもらう事が決まった。三代目のじっちゃんは嫌がったけれど自来也師匠は自分の先生でもあるじっちゃんを長い時間話し合って説得し、許してもらった。1学年進級するごとに封印が緩んでいき、中忍になったら封印が完全に解かれるという約束をした。

 

 6年生になると、1年間に渡って奇数月に下忍認定試験を受ける。合格者は試験対策の授業を免除され、代わりに『忍者の心得』という授業に切り替わる。試験内容は実技で、言われたものの他に忍術・幻術・体術のうち一番得意なものをそれぞれ見せる。もし忍術と幻術が使えなくても、体術が凄まじく出来るヤツは合格したケースがあるから合格基準は試験官である中忍の先生に依存しているようだ。その場で合格が言い渡されるワケではなくて、後日、封筒に入った通知書を貰うスタイル。余計緊張しそうだと思った。

 

 

                    ☆★☆

深夜の街はまだ活気があるが、火影邸宅の傍は静寂の中に佇んでいるだけだ。

 

「今日はパーッとやるぜ!!」

 

(おいナルト。あまり遅くなりすぎるなよ)

 

「わかってるって九喇嘛!」

 

黒い長そでTシャツにオレンジのズボン姿でペンキを持ち、気配を殺しながら顔岩を目指す。俺の目的は一つ。

『謎のゲリラ芸術家KAYAKU』として、里中の忍者候補者たちに向けて「合格おめでとう」のメッセージを込めたイラストをプレゼントするのだ。俺は9歳の時、初めて顔岩にラクガキのイタズラをした。タイミングの神様に愛されている俺は何故か、限られた人間にしか正体がバレていない。そのラクガキは速攻で消されるかと思ったが、里内の芸術家団体の人が「素晴らしい才能!」と褒めた。しばらくラクガキはそのままにされ、ドキドキしているうちに何故か担任の女性教師に正体がバレた。三代目のじっちゃんには大目玉を食らったが、予想よりは怒られなかった。俺はその時、三代目のじっちゃんが水晶玉を使って俺の様子を見ていることを知った。

 

「そこの君、何をしているんだ!!KAYAKUの真似か!?」

 

突如として若い、高めで柔らかな青年の声が下から聞こえてきた俺はビックリしてペンキを落としてしまった。

 

「うげっ、マジかよ。逃げるぞ九喇嘛!!!」

 

「待ちなさい!」

 

どうにかロープを手繰り寄せ、上に戻ろうとするが上手くいかない。ロープがギシギシと嫌な音を立てるようになり、嫌な予感がした刹那。まだ正式に忍者教育を受けていない俺は死を覚悟した。九喇嘛が助けてくれるだろうけど。

 

「おっと!君は・・・、うずまきナルトか」

 

俺は優しい声をした若い男の人の腕の中にいた。その男性は鼻筋に一文字の傷があり、若いのに随分と落ち着いた印象を受けた。見たかんじ、20歳くらい。

夜遅く外に出ているから、任務の後だろうか?

 

「あ、ありがとうってばよ・・・。それより兄ちゃん、誰?」

 

「俺はうみのイルカ。今年度末付でなったばかりの教員で中忍だ!」

 

それからオレは三代目のじっちゃんと担任教師から大いに怒られ、うみの中忍からも自己紹介の前に怒られた。

俺はこの時、まだ知らなかったんだ。この人が俺の存在を認めてくれる新しい一人になるなんて。

 

 

 

 



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2 5年A組!うずまきナルト参上!

4月1日 木ノ葉中央忍者アカデミー初等部5年生初日

 

―――オレ、うずまきナルト10歳。エリートクラス『A組』でやっていけるか心配だってばよ!

 

 

 木ノ葉隠れの里は他と違い、まず忍者総数30000人。桁違いの段違いだ。1度に1080人が下忍になるし、教育形態も大きく異なっている。下忍・中忍・上忍というおなじみの階級の中にも細かく階級が分かれているし、里の戦力のコアが上忍ではなく現場の中忍・下忍であるところも違う。他の里はやたらと中忍以上を出してくる。でも15歳までのアカデミーを卒業しないと、いくら強くても『戦争』には絶対招集されない。常にいつ戦争が起こっても戦時編成に移れるよう準備を整えている。

ちゃんと『子供を戦場に出さない』という初代火影様の願いが反映され、三代目のじっちゃんが言っていた『第3次忍界大戦という過ち』を繰り返さないために制度が機能している。

 

 

 

 桜が舞い散る中、オレとキバ・チョウジ・シカマル、シノと一緒に記念撮影をしていると遠くの方から俺に対する陰口が聞こえてきた。シカマルの父ちゃんは手早く撮影を済ませると、「後日、うちの倅(せがれ)に持たせるからな」と俺たちに言った。5年生になると、忍者道具をレンタルではなく受領するから特別だ。

 

「ナルト、行こうぜ。あっちで教科書一番乗りだ!」「ワン!」

 

キバと赤丸が、グラウンド兼演習場の校舎に近い場所を指示している。

 

「おう!」

 

「待ってよー!」

 

駆け出した俺を追いかけるため、チョウジが息を切らせながらついてきた。

 

「めんどくせーな・・・、行くか」

 

何だかんだ言ってシカマルもついて来るのだった。

 

 

                  ☆★☆

 この木ノ葉中央忍者アカデミーは5年生になると、A組からD組までの4つにクラスが分けられる。もとはくじ引き、または猪鹿蝶トリオのような約束された未来のスリーマンセルを除けばランダムなクラス分けだったけど。5年生になると、火影と上忍・教育職の特別上忍による会議によってクラスが分けられる。単純に成績で分けられるんじゃなくて、その証拠として成績が中の下くらいのオレがエリート揃いのA組にされたから明らかだ。

 同じA組になったのはオレ・春野サクラ・うちはサスケ、猪鹿蝶トリオ、日向ヒナタ、犬塚キバ、油女シノ。ここから分かるように、一般家庭出身でものすごく優秀なサクラちゃん以外は血継限界の継承者または秘伝一族の後継者で固めてある。だから人柱力であるオレ、最初はすっげー場違いな気分になった。

 B組には血継限界や秘伝を伝えてはいるけど、跡継ぎじゃない子たちばかり。第二子以下とか、分家頭の子供とか。あとは一般家庭または一般忍者家系出身の優秀な子たち。ヒナタの従兄、日向ネジ先輩は6年B組に在籍している。

 C組にいるのは一般家庭と一般忍者家系から来た、とびきり優秀な子たち。頑張り屋で秀才だけど、何だかツンケンしていて接しにくいヤツばっかりで苦手!親の影響なのか人柱力であるオレと接するのを躊躇っているところがあるし。

 D組には、血継限界一族の本家筋に生まれたけど能力が発現していなかったり、フウレン先生の孫娘であるアザミのように第三者から見込まれて入学した子たち。全体的に劣っているとか酷い言われようで、『コネのD組』とか悪口を言う酷いヤツが他校にいるから普通にかわいそうだ。オレが思うD組の凄いところは、精神力の強さ。全体的に目が死んでいるけど、滅多な事では動揺しない。オンとオフがしっかりしてる。性格や精神年齢も一番大人だし、A~C組が恒例の対抗戦を始めようとすればすぐ先生方に報告してくれる。人の弱みを握ってるし、D組は影の支配者だ。っていうかさ!小さな頃から上忍たちにコネを作れるなんて、タダ者じゃないぜ!!

 

 

 

 仲良しのヒナタたち血継限界や秘伝家系の子供たちは授業が終わってすぐ、親や保護者が迎えに来てすぐ帰ってしまうから。オレが一緒に帰ったり、放課後を一緒に過ごすのは必然的にサクラちゃんやアザミになる。アザミは血継限界の家系に生まれてはいるけど、晶遁が得意じゃない。水遁は上手く使えるけど、幻術が得意だ。だからD組に組み分けされ、精神を削るような幻術の優秀さから野外戦闘訓練でもアザミには手を出したがらない奴が多数。腕力が無いのを気にしているから、蹴り技に関しては体術も優秀だ。サクラちゃんは学年1番の優秀な成績を持ち、暗記力と頭脳は伝説の三忍・綱手様が弟子に迎えるほどのレベル。チャクラコントロールも人並み外れていて、『医療忍者志望者選抜授業』で既に医療忍術を学ぶことが決定した。

 よく里外に出ている綱手様から直接学べる機会は少ないが、綱手様が信頼する医療忍者が絶賛するほど。だから、サクラちゃんは一般家庭出身者の星のような存在。

 

 もちろん、放課後を一緒に過ごす奴らの中には男子もいる。うちは一族の生き残りであるうちはサスケと、うちは一族の血を引く庶家である扇城一族の星宮アマツだ。どちらも3年前にあった『うちは事件』で家族を亡くしている。サスケの場合はお兄さんんである、オレとも仲良しだったイタチさんが家族と一族を、そして家族を皆殺しにした疑いをかけられて里外に逃亡中。アマツが生まれた扇城一族は星ノ宮大社の社家だ。それと同時に扇とうちわを生産する世界的企業『扇城屋』の経営者一族。扇城屋と社家は無事だ。なぜなら、殺された扇城一族の者は星宮アマツの姉と兄、そして両親。アマツの年齢が離れたお姉さんが、うちは一族の男性と婚姻が決まっていたらしい。そこで一族同士の顔合わせをするため集落に行ったところ、うちは事件に巻き込まれて姉ササラさんとご両親が死んでしまった。アマツとサスケは仲良しだしまだ幼かったから、扇城屋CEOの家で夕食を食べてから帰宅または家族と合流する予定だった。しかし二人がうちは集落に行くと、お互いの家族は殺され、血だまりの中にはサスケの兄・イタチさん、またはアマツの兄カガセさんがいた。写輪眼を用いた強い幻術のせいで、どちらがいたのか分からない。

 分かっている事は、うちはイタチまたは星宮カガセが『うちはと星宮(扇城一族の血が濃い集団のみ)』を皆殺しにしたという事。なのに、上層部はうちはと里の確執が理由だと強調してイタチさんが犯人だと言い切った。

でもオレとサスケはそうは思わない。

 

 詳しい事は不明だが、二人は同じタイミングで里からいなくなった。

 

 これだけは明確だ。

 

 

 でもでも、二人は仲良しでよく一緒に修行している。顔立ちが似ているから本当の兄弟みたいで、それを見た扇城屋のCEOは嬉しそうだ。アマツはカガセさんをとても尊敬していて、そっくりな仲のいい兄弟だった事をオレも覚えている。まるで双子のようにそっくりな二人は、趣味も声も、好きな食べ物もそっくり。チャクラの感じもよく似ているから、たまに間違えそうになるほどだった。イタチさんとサスケの兄弟とも仲良しで、兄弟4人でよく遊んでいたっけな。懐かしい思い出だ。

 

 アマツが生まれた一族だけど、元は『うちは一族』の血を引く専属の武器職人一族だった。姓は違うけど、大事な親戚として扱われていたそうだ。血を濃くし過ぎないために嫁がせ、嫁を貰う、一族を続けていくための大事な親戚。だから本家うちはと同じように写輪眼を発現するし、その場合は『うちは』の養子に迎えられたらしい。そんな扇城一族も、戦国時代末期になると当時のうちは族長のせいでうちはから逃亡して千手一族に降伏し、里に職人として移住した。どうして可能だったかというと、うちはに協力したままだった武器職人一族『扇城』と、降伏して跡継ぎ娘を結婚相手が見つからなかった星ノ宮神社神職の息子に嫁がせた『忍者一族系扇城』の二つに分断されたから。武器職人一族はうちはに忠実だったけれど、忍者一族としてうちはの下位互換として活動していた方の家はうちはと違う個性を持っていた。

 二つに分かたれた同族だけれども、互いに婚姻を結び合う関係は続いていた。結果、星宮一族は写輪眼と強力な幻術・封印術・結界術を手に入れた。

 

 

 うちはと千手の敵対関係は学校で習うから有名だけど、他にも有名な組み合わせがある。アザミの生まれた『三嶋一族』は『霧島一族』と仲が悪く、かなり壮絶に殺し合ってきた。もっとすごいのが『諏訪一族』vs『鹿島一族』だ。諏訪一族が現在の本拠地であるクレーター湖『天龍湖』周辺地域に逃げ込んだきっかけとなる戦いで、雷遁によって諏訪軍団を完封して勝利した。次に、そんな『鹿島一族』と同盟を組む『香取一族』『静織(しとり)一族』vs『星宮(ほしのみや)一族』。

 今では割と仲が良さそうだけど、『諏訪・香取・鹿島』の3一族は『火の国三大軍神』と呼ばれる強力さだ。かつて忍界大戦時に大活躍し、敵を怖がらせたらしい。でも、普段は精神的に安定していて知的で理性的な、神社やってる家という印象しかないけど。あと、オレが神社の境内に行っても優しくしてくれる人たち!

 



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3 6年A組、うずまきナルト!

サスケ君→見た目だけチャラスケ化が進むけど、中身はド真面目。

サイ先輩→前前前世からいのを愛してる、転生してきた『山中サイ』その人。
     転生後の世界をエンジョイしつつも、ダンゾウから逃れきれなかった自分に自己嫌悪中。いのからすれば王子様。


自来也&綱手→転生してるから、ナルトとサクラの早期強化を積極的に図る。

九喇嘛→まさか自分が逆行転生していると気づかれているとは思っていない。


 季節はめぐり、新学期がやってきた。オレは何とかA組の一員として1年間を過ごし、どうにか6年生に進級した。6年生になると上忍師決定に向け、より戦闘訓練と野外活動が増えてくる。オレの友達はみんな血継限界と秘伝家系の出身者だから、放課後になるとなかなか会えなくて大変だ。でも、ヒナタとは逆に一緒に過ごす時間が増えた。ローテーションで組まれる臨時の『任務班』で一緒になる時はうれしい。

 ヒナタは最近、一族の人たちが妹であるハナビにかかりっきりで少し寂しそうにしている。それもそうだと思う。それまで日向一族はヒナタを跡継ぎとして育ててきたけど、ヒナタはとても優しいから相手が苦しんだり痛がったりする姿を考えると攻撃するのが苦手。相手が妹なら尚更。今年、ハナビは直轄アカデミーの1年生として入学してきた。ハナビは幸いオレの事を「ナルトお兄さん」と呼んでくれて、ヒナタいわく「慕って」くれるから嬉しい。学校で行われた1年生歓迎会でヒナタはハナビのために頑張って活動し、校内の施設について一人で説明していた。ヒナタの父親はとても厳しい人だけど、ヒナタとハナビが学校内では前と変わらず仲良しなのを見てこっそり笑顔だったのをオレは知ってる。1年生の保護者も歓迎会に来たので、6年生のオレは受付でヒナタの父親に服に付ける花を渡した。その時、真顔に戻る前にとても嬉しそうな笑顔だったんだ。

 

 

 ヒナタは良くも悪くも家で修行する時間が減ったから、必然的にオレと修行している。代わりにヒナタの父親はヒナタのため、日向一族の血を半分引いて白眼を持つけど日向一族の人間として一族会議で意見する権利を持たないという、曖昧な立場の若夫婦をパーソナルコーチとして付けてきた。日向ユヅル上忍、日向カスミ中忍だ。二人はそれぞれ白眼を持ちながら、片親が日向一族の人間ではない。いつもは黒い瞳をしていて、使用する時だけ瞳が白くなり、周囲に血管が浮く体質の持ち主。ユヅル上忍は特に優れた白眼と柔拳の使い手で、忍界大戦で忍者だった両親を亡くした事をきっかけに日向一族と養子縁組した経歴がある。妻のカスミ中忍は元々、白眼を持つという事実は日向一族に知られていたから、呪印を付けられた上で普通に育った人。チャクラコントロールが上手な医療忍者だ。二人とも人柱力であるオレに対して凄く優しいし、勉強も忍術も教えてくれる。

 

オレたちは夕焼けが迫る校庭でブランコに座り、ヒナタの迎えである付き人の男性が来るのを待っている。今日も沢山修行した。4月も終わりに近付き、写生大会が開かれるほどに咲いていた桜の花も大体全部散ってしまった。

 

「ナルトくん。今年は下忍認定試験だね」

 

「だな!ヒナタは自信あるか?」

 

「うん。あるよ!あんなに沢山練習したんだもん。きっと大丈夫」

 

 そう。オレとヒナタは放課後の校庭や学校にある演習場で、毎日のように術のトレーニングを続けてきたのだ。初等部6年生を対象とした下忍認定審査会は1月初めに行われる。

 

 

「ナルト君って、憧れの上忍の人っているの?」

 

「オレ?オレはぁ・・・、一番よく知ってる人しか分からないからアスマさん、とか?」

 

「猿飛上忍って、チャクラ刀を扱う方だよね」

 

「そうそう!木ノ葉丸と一緒によく遊んでもらったり、修行つけてもらったりすんのが休みの日には楽しみなんだ」

 

猿飛アスマ上忍は、オレにとっては叔父さんみたいな存在だ。オレは孤児だから、孫弟子という事で三代目のじっちゃんの家で育ててもらってきた。本当のじいちゃんだと思ってる三代目の息子だから、アスマさんはオレの叔父さんと同じ。

 

「あのさ、あのさ、ヒナタの憧れの人ってだれ?」

 

「夕日紅上忍、かなぁ。私は幻術が苦手だから・・・、幻術の専門家である夕日上忍がとても格好いいと思うの。まだ上忍に占める女性の割合も低いし、そんな中でプロフェッショナルとして認められている夕日上忍はすごく憧れるな」

 

「やっぱり女子って、くのいちに憧れるのか?」

 

「全員じゃないけどね、そういう傾向はあるかなぁ」

 

自分の父親に憧れる女の子は沢山いるよと、ヒナタは言った。

もしオレの父親が生きていたら。きっと憧れただろうと思ってしまう。

二代目火影様が開発したという『飛雷神の術』の使い手で、『木の葉の黄色い閃光』と呼ばれた四代目火影・波風ミナト。ヒナタも、柔拳と白眼の使い手としては父親に憧れを持っているそうだ。

もし叶うならオレは父ちゃんと直接話してみたかったなぁ。



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4 下忍認定試験!

 下忍認定試験は毎年1月に行われる。里内には血継限界・秘伝家系出身者向け、一般忍者家系出身者向け、一般家庭出身者向けと3種類の下忍を育成する忍者学校が存在している。それぞれすべてが民間人として生きる事を決めている子供が通う学校と併設されているから、普通に民間人の子と交流がある。

 

 たとえば、オレが通っている火影直轄アカデミー・通称『中央アカデミー初等部』と同じ敷地内には火の国大名直轄の『国立』民間人学校が建っている。だから忍者関係とは無縁の行事では、一緒に学校行事を行う事もある。

 

だからオレにも民間人の友達が普通にいるワケで。

 

「ナルトくーん!」

 

一人の同い年の男子がオレに手を振り、指定カバンを背負って駆け寄ってきた。

 

「マスミ!」

 

焦げ茶の髪をした『国立』民間人学校に通う、鈴木マスミという男子はオレの友達だ。マスミは純然たる民間人で、里内にある神社に本職巫女・神職として奉職する両親と一緒に里外からやってきた。将来は神職になりたいと言っていた。

 

「扇城くんも一緒だけどいい?」

 

マスミのうしろから、団扇・扇メーカー『扇城屋』CEOの末息子である扇城アキラが顔を出した。アキラは恥ずかしがりやで、いつもマスミの背中に隠れる様にして立っている。緊張が解ければよく喋ってくれるけど。一番上の兄、扇城キョウスケ中忍は直轄アカデミーの中等部3年生だ。『うちは』の血を引きながら民間人ばかりになっている扇城一族には稀に、扇城キョウスケ中忍のように写輪眼が出る。オレの友達である星宮アマツは姓こそうちはと関係無くなっているが、星宮一族はかつて里創設期に扇城一族の中でも写輪眼が本家並みに出る忍者家系と血縁関係を結んでいる。

 

「勿論だってばよ。どこ行く?」

 

「・・・フラペチーノ、飲もう?父さんからクーポン貰ったの」

 

「マジか!?やったー!!」

 

アキラの父親はCEOだから、クーポンをいつでも発行できるのかな?

25%オフなんて驚いて、オレは思わず唾を呑みこんだ。

 

オレたち忍者候補生たちはは来週頭に下忍認定試験を控えていて、街は色めき立っている。子供たちが合格したら何をプレゼントするかとか、美味しい料理を作ろうだとか、そんな話題が溢れてる。下忍認定試験自体はそんなに難易度がなくて実技だけだから、保護者たちは子供たちを厳しく教育するよりリラックスに努めてる。

 

 

オレ・マスミ・アキラが入店したのは、『星鹿珈琲』というオシャレなコーヒーチェーン店の木ノ葉火影邸前本店。里外にチェーン展開していて、扇城屋が経営しているお店だ。今日はじっちゃんから息抜き用にお小遣いを貰っているから、チラシで見るだけだったでっかいフラペチーノを呑もうと思ってる。

 

「あら、ナルトじゃないの!」

 

「あれぇ?サクラちゃんじゃん!!」

 

サクラちゃんはサスケ、星宮アマツと一緒に窓際の席に座っていた。

 

「ナルトも新作フラペチーノ?」

 

「そうだってばよ。その感じじゃ、サクラちゃんもそう?」

 

「勿論!サクラ苺フラペチーノなんて、絶対に美味しいに決まってるじゃない」

 

一方甘いものが苦手なサスケは一番苦いフラペチーノを頼んでいるようで、結構それがおいしいらしい。「コレならイケるぞ」と言っている。アマツは抹茶ラテを飲んでいた。オレがクーポンを取り出すと、サスケとアマツは「俺たちもCEOから貰った」と言っていた。

 

「ナルトたちもここ座ったらどうだ?誰もいないし」

 

「じゃ、そうするってばよ」

 

マスミとアキラも頷いて一緒に隣に連なる空席に座ると、サスケに荷物を頼んで注文に行く事にした。

 

 

 

「みんなは合格したらやっぱ家でお祝いすんの?」

 

オレがそうみんなに聞くと、最初にアキラが口を開いた。

 

「うん。サスケ君の合格を今から楽しみに待ってるよ。トマト尽くしにするんだ」

 

「トマト尽くし・・・それなら、頑張るしかないな」

 

「俺もトマト好きだから楽しみだな」

 

「もちろん、アマツ君の好きな食べ物も作るよ。何が良い?なかなか聞けなくて」

 

「牛丼がいいな。半熟たまごがかかったやつ」

 

「母さんに伝えておくね」

 

 アマツの家族は亡くなっているから、血縁者である扇城屋のCEO家族と一緒に暮らしている。イタチさんに殺された事になっているけど、遺体が見つかっていない。アマツが生まれた星宮(ほしのみや)一族は星ノ宮大社の社家だ。社家だけど、扇城一族と血縁関係を結んでいた。だからうちはの血を引く扇城一族と関りがあって、アマツの年齢が離れた医療忍者だったお姉さんはうちは一族の男性と結婚予定だった。けれど、『うちは事件』の日に偶然家族での食事会だった。だから、事件に巻き込まれてしまった。アマツの年齢が離れたお兄さん、カガセ上忍も亡くなった。その人はイタチさんの友達で、シスイさんという人と共に仲良し三人組だったと聞いている。でもみんな、いなくなってしまった。カガセさんの遺体が見つかっていないのに、何故かイタチさんに全部責任が押し付けられてしまった。シスイさんとカガセさんは写輪眼を抜かれて遺体を酸で溶かされて下水に流されてしまったという説があって、それも全部、イタチさんに押し付けられた。結果、イタチさんは里を抜けた。

でも、カガセさんってぽい人が国際的犯罪組織の一員やってるという噂があるんだよなぁ。今ここにはいないけど、情報通のアザミが『都市伝説』として言ってた。

 そのあと、扇城屋のCEOは家族を失った血族であるサスケとアマツを我が子同様に育てている。オレから見て、『扇城一家』は仲良し家族に見えるけど。アマツはアキラのお母さんとあまり仲が良くないんじゃないかと今、はじめて思った。だからアマツはサスケの方をたまに寂しそうな目で見るのかな、とか。本当は扇城家にいたくないんじゃないかとか思う。だってアマツ、寮生活を楽しみにしているもん。

 

 

 

                   

1月上旬日曜日 下忍認定試験前日

 明日は下忍認定試験!と思ってたっぷり睡眠しようとパジャマ代わりの長袖Tシャツとジャージに着替えて風呂から上がったオレを、三代目のじっちゃんが呼び止めた。じっちゃんは深刻な顔をしているし、その横にはシカマルとチョウジ、いのの父ちゃんがいた。3人は猪鹿蝶トリオと有名な上忍で、オレも尊敬している。

 

「ワシは”囮”に対して色々思うところはあるが・・・、ナルト。おぬしをミズキ中忍捕縛任務の囮役として任命したい。ミズキ中忍は二代目火影様の巻物に書いてある禁術を求めておる。情報部隊の調査によれば、そろそろ動く頃じゃろうと。ところでナルト。最近ミズキ先生がやけに優しくしてきたり、おぬしの実力を低く見ているような発言は無かったかの?」

 

「う~ん、そうそう・・・、確かにオレ、ミズキ先生から『出来ない子』みたいな扱い受けてた。たとえば、他の子と同じレベルで出来たのに『可哀そうに』って。そうやって言われてると段々、ほんとに出来ないような気がしてきた。最初は優しいって思ったってばよ。でも、そうじゃなかった。オレが力を求めるような感じで誘導しようとしてた。アザミがオレを見て変だなって思ったみたいで、洗脳?を解いてくれた。オレの成績データを見せてきて、『ミズキ先生が望むような”可哀そう”』な状態じゃないって教えてくれた、あの時は分からなかったけど、今なら解るってばよ」

 

「ナルト・・・、流石じゃ。中忍による心理作戦に負けないとは。やはりミナトの息子。将来は明るいのぉ」

 

何だかじっちゃんが涙ぐんでいる。

 

「そんで、じっちゃん。オレはどうすりゃいいの?」

 

「そうじゃそうじゃ。おぬしにはミズキ中忍の言葉に従ったフリをし、誘いに乗ってみて欲しい。レプリカの巻物は用意しておく。そこで、じゃ。まず手始めに、下忍認定試験には”わざと”落ちてみてほしい。そうすればミズキ中忍はおぬしに誘いをかけてくるはずじゃ」

 

「エェッ!?」

 

マジかよ!?と驚いていると、シカマルの父ちゃんが「個人試験」の話をしてくれた。だから安心だけど、せっかく一生懸命練習したのをイルカ先生に披露できないと思うと悲しい。でも、オレはやりたいと思う。オレにしか出来ないならば。

 

「・・・分かったってばよ。オレ、やってみせる!」



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5 ミズキの陰謀!?卒業式と受験戦争!

この里には下忍候補者を育てるための忍者アカデミーが4つある。

 

 まず1年間で下忍になるのは、13歳になる子供だけで1080人。卒業すると、うち上位900人が正規部隊へ。残り180人が予備役となる。これは最初から振り分けが決まっている訳ではなくて、成績で決定される。

 里の人口のうち、約7割が民間人で残り3割が忍者だ。だから、1080人学生がいたら、3割が忍者家庭の出身。それに準じた人数がまかなえるよう、アカデミーが存在している。

 

 

 まず1校目。火影直轄アカデミー『木ノ葉忍軍中等・高等忍術専門学校』、通称・直轄アカデミーだ。この学校は血継限界・秘伝家系出身者、トップ成績を持つ一般出身者が通う。

 

 

 2校目から6校目は『木ノ葉忍軍中等・高等学校』といい、1校につき180人づつ一般家庭出身者が入れられる。成績順といっても受験結果だけではなく、学校での態度や性格も考慮されるので希望通りにならない事がそれなりにあるらしいってばよ。でも、入ってみると居心地が良くて驚くというのが、知り合いのお兄さんの感想。東西南北で校名が決まっている。上忍師はつかないが各学年ごとに『訓練監督』が決まっていて、中忍選抜試験の傘下は訓練監督が名前を上忍師代わりに書いてくれる。

 

 

しかし、直轄アカデミー進学予定者にも絶対避けられないものがある。

『受験戦争』だ。だから2~4校目である『忍軍中学』へ行く子はかなり忙しい日々を卒業式後に迎える事になる。

 

スケジュールはこうだ。

3月上旬に2~4校目に行く子は『受験週間』に入り、翌週頭に学校に関しての合格発表。その週半ばに卒業式がある。

卒業式が終わった翌週になると、各学校で『面接週間』が始まる。

 

 

『面接』。それは入学後に誰とスリーマンセルを組むか、何組に入るのか、どんな先生がつくのか。それを決める目的で実施される。面接官によっては幻術を掛けてきたり、スゴいらしいと噂だ。だから、オレはそれがめっちゃ怖い!

 

 

 

 

 

1月上旬

 学校で一斉に行われた下忍認定試験に不合格だった。オレは朝、じっちゃんの前でテストを行って下忍として直接認めてもらった。イルカ先生はまだ知らない。コレは上忍と暗部の人たち、それからオレだけが知っている作戦だから。

 

 校庭では合格した子たちが、保護者や親から祝福されているのを黙って見ていた。民間出身の優等生の保護者の中には、オレが嫌いな人が沢山いる。その人たちがオレの陰口を叩くのを見るのはイヤだ。サスケたち同級生はオレを不安げに見ている。

そうしていると、アマツが一人合格証明書を片手に走ってきた。

 

「ナルト、大丈夫か?もしかして、身体の調子悪かったのか・・・?」

 

アマツは優しい。サスケが扇城屋CEOとその奥さんから頭を撫でられているから抜けてこられないのを見て一人、オレのところに来てくれた。

 

「アマツ・・・、オレはもう大丈夫だってばよ。オレ、芸術系に力を入れてる私立に行かせてもらえる事になったんだ!」

 

「それは良かった!でも、無理すんなよ。あ、父さんとアキラが呼んでるから行くな。また明日!」

 

「ありがとうアマツ。また明日な!」

 

 オレは校庭のブランコの上で、わざと寂しそうな振る舞いをする。サスケとサクラちゃん、ヒナタが気にかけてくれるので申し訳が無いけど。コレも『作戦』のうち。里を狙う人がいるらしく、そいつに関係する重大任務の先兵にオレは選ばれた。

だから、やるしかない。オレはみんなの役に立ちたいから。

 

 

「やぁ、ナルト君。随分と難しい顔をしているね」

 

「あ・・・、ミズキ先生」

 

ミズキ先生は表向き優しい。他の先生がいない時を狙って陰口を言ってくる保護者がいても、いつも庇ってくれる。他の生徒にも慕われていて、よく相談に乗ったり放課後に勉強を教えているのを見る。オレの事情についても理解してくれている人の一人だと、オレは思う。でも、何だか違和感を感じるんだよな、この先生について。

俺はミズキ先生に、推薦についての相談をした。この違和感の正体が解る気がして。

もちろん、コレも作戦のうち。ミズキ先生の真意が知りたかったのもある。

 

「君に、とっておきの方法を教えよう」

 

 

 

 火影のじっちゃん家にある、『封印の書』を盗んでこい、だって!?ハァ!?やるわけねーだろ!!何たくらんでんのかオレたちにはとっくにバレバレだぜ。

オレはわざとしおらしい態度を取り、空元気っぽい笑顔を浮かべながら「わかったってばよ!」と答えた。オレは大急ぎでわざと学校の敷地内から駆け出すと、じっちゃんの家へと直行して非番だったアスマさんに報告した。その報告はすぐさまじっちゃんへと伝達され、オレはじっちゃんの執務室へと通された。そこには数人の暗部隊員が控えているようで、姿は見えないけど気配で理解した。

 

 

 

「流石じゃナルト!!」

 

予想以上の反応をしたじっちゃんは暗部の人たちを呼びつけると、ミズキを捕まえてこいと指示をした。オレはイルカ先生と合流し、作戦通り、演技指導通りの行動でミズキ中忍と対峙する。緊張しているが、上手くいくような気がしている。

 

「ふぅ・・・、危なかったわい。本物の巻物には禁術が書かれておる。ナルト、お主は里を守ったのじゃ。お主は儂の誇りだ」

 

「やったってばよ!イェーイ!!」

 

 

                       

 次の日、登校したオレは帰り際に教頭先生から校長室に呼び出された。昨日のミズキ先生の企みがどうなったかの結果を聞くために。このアカデミー初等部の校長先生という人物は前線を退いた特別上忍で、校長先生という立場上から俺に対して露骨に嫌な態度は取ってこなかった。だからフウレン先生が微妙な目線を向けている。代わりにそっけなくて、無関心で、できるだけ関わらないようにしてきたタイプの人だった。しかし今、校長先生は別人のような眼差しで俺を見ている。

 

 

「本当に、済まなかった・・・。私は教育者ではあったが、君自身を一度も見ようとしてこなかった。君の中に封印されているものばかりを見て、あの日から先に進めなかった。君は昨日、ミズキ先生の悪事を恐れず正直に火影様に報告したね?私は火影様からそれを聞き、目が覚めたんだ」

 

校長先生はミズキ中忍の裏切りを看破する作戦について何も知らないから、オレが「良い事」をしたと思ってる。それがなんか申し訳ないけど、まぁ、認めてくれる人が増えたから良いとする。イルカ先生も、初めて任務に参加したオレを労ってくれて今夜は一楽でラーメンを食べることが決まったのがうれしい。イルカ先生は任務で怪我をしたけど、毎日ちゃんと消毒して背中の傷保護シートを取り換えれば大丈夫。

良かったってばよ!!

 

 

                 ☆★☆

 

 

木ノ葉火影直轄アカデミー 初等部 『卒業式』

 

「これが最後の一枚でーす!ハイチーズ!!」

 

写真屋さんがボタンを押して、オレたち直轄アカデミー初等部卒業生はピースサインを作った。さようなら、初等部。

オレに優しい時間をありがとうってばよ!!

 

 

                 

 

 

 

                ☆★☆

そんなこんなでオレは、クラス分け面接の日を迎えたのであった!

 

3月中旬

 

 会場は中等部校舎の一室で、3対3の『口述試験及び面接』が行われる。同じ会場にいるのは、うちはサスケ・奈良シカマル・秋道チョウジ・油女シノ・犬塚キバ、そして星宮アマツ。それからオレ、うずまきナルト。今日は男子ばかりの日らしいから女子はいない。この学校に行くから誰もが合格だけど、学校の特性上、こういう試験をしっかりやって忠誠心とか、そういう部分を見たいんだろうとオレは思った。

 

 

 

 

「サスケ。お前は優秀だし、首席だし、絶対同じチームって信じてるぜ」

 

「ありがとう、アマツ。一緒にうちはを復興しような!ナルトも手伝ってくれると言っていたんだ。俺たちなら絶対に出来る!」

 

 サスケとアマツは仲がいい。サスケはうちは一族が混血のイズミ姉ちゃんを残して滅亡して以来、星宮一族の忍者をやっていない扇とうちわメーカー『扇城(せんじょう)屋』を経営する親戚である扇城一族の当主の里子にされて育った。当主はサスケにいろいろなメンタルケアを施したので、事件当時の『復讐者』って感じの目をしなくなった。アマツとサスケは同じ人の家で育ってきていた兄弟みたいなものだ。

アマツは、自分はサスケとイズミ姉ちゃんを『失われた一族の生き残り』にしないために手伝える数少ない人間なんだと笑顔で言う。アマツには星宮社家(分家)出身のくのいち、またはイズミ姉ちゃんが結婚相手になるという運命がある。でも、好きな人と結婚できないのって辛くないのかな?もしオレが同じ立場だったら、好きな人と結ばれるためどこまでも藻掻くし抵抗すると思うぜ。

 

 

 口述試験の時事問題に備え、メモ帳を読んでいると俺が面接室から名前を呼ばれた。俺と一緒に呼ばれたのはサスケとアマツ。俺は今日、いつものオレンジをした私服ではない。イルカ先生と校長先生にアドバイスを受け、ブレザーを古着で一着購入した。かなり安くて、別に良いものではないくらいだが、小遣いを貯金しているオレにはちょうどいい。

 

 

 

 

 オレが面接室に入ると、面接官が3人いた。向かって左からはたけカカシ上忍、マイト・ガイ上忍、そして森乃イビキ特別上忍。クール系イケメン、暑苦しい人、拷問尋問部隊出身の怖い人。オレは戦々恐々で今にも震えだしそうなのを堪え、練習通り出身校と名前を言い、指示通り椅子に座った。

 

「まずは俺からいい?」

 

銀髪の教師、サスケから聞いている噂のエリート忍者のはたけ上忍が小さく挙手して話しかけてきた。俺たちは「はい」と答えた。知り合い同士だけど、今日は知り合いじゃない振りをする。

 

「君たちは人を殺すことについてどう考えている?」

 

 嫌な汗がダラダラ零れてきたが、俺はあらかじめ予想して練っておいた答えを絞り出すように答えた。頭の中が真っ白で、アマツの答え方は流石だなとか。サスケの考えは筋が通っているな、とか。そんな事を思いながらバクバクしながら次の質問を待っていた。

 永遠に続くと思われた面接時間は気づけば終わっていて、俺たち3人はそろって全身汗まみれだった。アマツの手は汗だらけで、サスケも似たような状態だった。どんな風に答えたかなんて、覚えていない。優等生の二人もそうだった。

 

「・・・あれは本当に面接か?尋問じゃないのか!?」

 

「さっさと学生会館に行こうぜ・・・、二人とも」

 

「もう勘弁だってばよ・・・」

 

 同じ恐怖を味わって、何だか不思議な連帯感を味わったオレたちは第1部隊アカデミーの学生会館にあるカフェレストランへと向かった。たまには一楽じゃないラーメンを試してみるのも良いかもしれないぜ。ココ、担々麺あるらしいし。きょうは土曜日だから、休日の「先輩方」にも会えるかもしれないしな。

 

 

 

                  ☆★☆

 昨日、クラス分けと班が発表された。オレはA組で、担任は初等部から持ち上がりでイルカ先生になった。上忍師はサスケの師匠、はたけカカシ上忍。同じ班になったのは、サスケとサクラちゃん。優秀な二人に挟まれ、正直すっげー不安。オレは学校から送られてきた『寮生活のしおり』を手に非番だったアスマさんと、同じく春休みに入った木ノ葉丸、何故か家庭教師であるエビス特別上忍もついてきて一緒に買い物をした。楽しかったってばよ。一楽のラーメンが最高だけど、たまにはショッピングセンターの『ヤガスキラーメン』も結構いいモンだなって思った。

 そこではフウレン先生とアザミ、アザミの従弟で同い年のトウヤがヤガスキラーメンを食べていた。一杯32両の安い部類のラーメンだけど、アザミたち三嶋一族が里に移住してくる前に住んでいた戦国時代の土地では伝統的な味らしい。アザミはジャンクフードと言っていたが、その通りに3分くらいで出てきた。ちょっと驚いた。

 

オレは買い物中、じっちゃんが毎月くれているお小遣いを貯めて瑠璃(ラピスラズリ)のペンダントを買った。ヒナタが生まれた12月の宝石だ。フウレン先生は晶遁を扱うから宝石や鉱石に詳しくて、オレくらいの年齢の子がプレゼントで買いやすい値段の半貴石(いし)を教えてくれたんだ。オレはちょっと照れたけど、何とか買えた。もっと大人になったら半貴石じゃなくて『貴石』をプレゼントしたい。

 

それを手に、オレはヒナタと約束した公園へと向かった。

 

 

「ヒナタぁ!!」

 

オレは公園で待ち合わせをしていたヒナタに駆け寄った。

公園には今、実質的に二人きり。

さすがに他の一般人の親子連れがそこらじゅうで遊んでるけど。

 

「ナ、ナルト君、どうしたの?」

 

卒業式を終えたオレたちは公園で待ち合わせをしていた。

どうしてもヒナタに伝えたい事があったんだ。それは”これから”の話。

 

 

ヒナタはオレに落ち着いてベンチに座ろうと言うと、チョコレートブラウニーをくれた。ヒナタの手作りみたいだ。きっと、付き人のお姉さんや妹さんと一緒に作ったんだろうな。前クッキーをくれた時、一緒に作ったって言ってたし。

 

「あのね。私とキバ君・シノ君がスリーマンセルに決まったの。それでね、父上が・・・」

 

「どうだったんだってばよ・・・?」

 

「父上がね、おめでとうって!」

 

ヒナタは父親と複雑な関係だ。だから心配していたんだけど、心配が杞憂で良かった。ヒナタは父親から貰ったというスクールバッグを見せてくれた。家紋が刺繍されて入っていて、糸のツヤからしてかなり良いやつだと思った。

 

「ナルト君は、誰とチームになったの?」

 

「サスケとサクラちゃん!A組で成績最下位のオレと、男女首席の二人だからバランス良いってばよ」

 

「ナルト君と同じチームがあの二人で良かった・・・。それからね、ナルト君。どうして私を公園に呼び出したの・・・?」

 

 

そうだ、そうだったってばよ!

 

 

「実はな、オレ。ずっとヒナタのことが大好きで・・・」

 

公園が夕暮れでオレンジ色に染まる中、オレはヒナタにプロポーズした。

 

「大人になったらオレのお嫁さんになって下さい!」、と。

 

指輪だと学生にはかさばるから、渡したのはペンダント。

ヒナタはそれをそっと受け取って開封し、そのラベンダーを思わせる白い瞳に涙を溜めながら「私なんかで、いいの?」と言った。

 

オレはヒナタの細い首にペンダントをかけながら、「ヒナタがいいんだってばよ」と返した。

 

 

 




三嶋アザミ→前世は大卒(地方Fラン文系私立卒業、宗教哲学系)
      地頭は悪くないのだが得意苦手が異常に激しく(LD)、通知表に1と5が共存するタイプの中学生時代を過ごしていた。そのせいで地元の県下トップクラスのアホ馬鹿ヤンキー不良高校しか行き場がなく、入学後は天才扱い。しかし耐え切れず転校後、命からがら大学進学という陰鬱な過去がある。
図形は一切読み取れないし、暗号は呪文にしか見えない。ただ、地理学と歴史学、国語”だけ”はトップクラスの偏差値をしていた、まるでダメなお姉さん。ちなみに英語は長文が文字として認識できず、単語”だけ”は得意。喋るという分野だけが突出していた。幼少期から無駄に忍者に詳しい。先祖は美濃と信州由来の奥三河出身、九州。
好きな流派は甲賀流、マダラ様と初代様の意味深な関係性を推す腐女子(おとめ)。
奥三河のまるでダメなOL・滝川薊子(たきかわ けいこ)が正体である。
先祖は伴氏とか、設楽氏とか、滝川氏とか、そちらに繋がっているらしい田舎民。


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学校設定 忍者アカデミー

12/29/2020 定員などの設定を変更しました

戦いは数だよ兄貴!って言いますからね

2/4/2021
原作のアカデミーと同じ場所に、同じ形の校舎が小学校として利用されている設定です。

本棚から昔のデータブックを引っ張り出したんですが、中忍選抜試験の他に『登用』ってあったんですね。

掲示板とかを見ていても、選抜試験出場者はキャリア組でエリートと言っている人がいましたけど、真剣に需要と供給を考えても、そうしないと人数が足りなくなりそうですね・・・・。それかイレギュラーの起こらない普通の中忍試験はかなり沢山合格させているのかも。

中忍選抜試験はデモンストレーションというか代理戦争なので、『その年の最高メンバー』を送り出すとしたら、シックリきます。

第4次忍界大戦とか中忍以上ばっかり参戦してますので、下忍ってやっぱり忍者の見習い的立場なんですかね?中忍が本当の意味での"ちゃんとした"忍者?




【木ノ葉忍軍 中等・高等忍術専門学校】

中等部:通称『直中(ちょっちゅう)』

高等部:通称『術高(じゅつこう)』『忍術高専(にんじゅつこうせん)』←転生者のせい

 

通学制(遠隔地出身者、家庭環境により学生寮あり)

学期制:3学期制

 

定員:180名(男子120名 女子60名)

   1学年につき男子1クラス30名×4クラス

         女子1クラス30名×2クラス

                合計6学級

 

   全校生徒(中等部・高等部合計):1080名

 

 

特徴:必ず上忍師がつく

 

【木ノ葉忍軍中等学校・高等学校】

定員 各学校男子120名、女子60名 

全校1学年につき合計900名

 

東部中学校・高等学校 校章:『寒白菊(花言葉:輪廻転生)』

西部

南部

北部

 

通学制(遠隔地出身者、家庭環境により学生寮あり)

学期制:3学期制

 

対象者:『一般家庭・一般忍者家庭出身の者(発現していない血継限界を含む)』

 

 

中忍選抜試験は1年次後期から受験を許可されるようになる(チャンスは3回)。

 

里の兵力の半分たる下忍(兵士)を育成するための学校。

適性のある者は在学中に中忍試験を受験して小隊長たる中忍(下士官)への道が開かれている。

そのため、教育内容は下士官としてやっていくための現場でのリーダーシップ。任務・修行訓練とも両立するために、普通の中学校の授業は行わず『火の国中学校卒業程度認定試験』の受験対策を授業として行っている。レポート提出の通信制形式。

*暗号は必修じゃないが2年生以降、適性がある希望者に対して訓練を行っている。

 

『子供を戦場に出さない』

『忍者の平均レベルの向上』

『忠誠心の強化』

『里と国との協調を促進するため』

を目的として設立された。

 

    

 

 

 

 

【教育内容】

中等部

一般科目(国・数・理・社)3年生修了時に全員が『木ノ葉中等学校卒業程度試験(忍者用)』を受験。合格率は毎年80~95%の間で推移している。超基礎的な内容のみなのでテストは非常に簡単なもの。不合格者は2年次から不合格科目のみ受験する。希望者した合格者は『木ノ葉高等学校卒業程度試験(忍者用)』の受験および講座への参加が可能。1年生での合格者は高等部が受ける授業に参加可能。中等部時代にどちらも合格した者は、『里立 木ノ葉教養大学』で講義を受ける事が可能で大学卒業単位として記録される。卒業後は上忍への昇任に有利。

 

忍者科目 実技 忍術・幻術・体術

        野外訓練・戦闘訓練

 

     座学 戦術・戦略・統率・応急手当

        

 

専門科目 普通科(一般忍者)

     

     医療忍術科

     ・医療忍者コース

     ・看護忍者コース

     ・衛生忍者コース

 

【年間スケジュール】 休暇=合計4か月間

4月 入学式・1学期開始

6月 2週目~8月末 夏季休暇(約3ヵ月)、中忍選抜試験

9月 2学期開始

12月 2学期修了、中忍選抜試験

1月 冬期中間休み(2週間)

3月 卒業式、春休み(2週間) 

 

 

 



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愛と青春のアカデミー編
1 入学!火影直轄忍者アカデミー!!


木ノ葉忍者学校(正式名称:木ノ葉忍術中等専門学校)


 【忍者訓練部隊】、それは1学年1080人、1部隊180人からなる木ノ葉隠れの忍者を養成する3年間に及ぶ教育を施す教育機関だ。学生忍者の全員に制服が定められ、それぞれが『統一テスト』によって割り振られたレベルや用途の学校に行く。たとえば、オレが行く『第1部隊』。第一部隊は通称『直轄アカデミー』という。スクールカラーは【火の意志】をイメージした、深い赤。深紅というらしい。俺たちの制服はまず、下にネイビーブルーの長袖シャツを着る。男子はモタつかない仕立てで作られているらしい、ボタンじゃなくてチャック式の学ラン。スクールカラーのパイピングによって全然雰囲気が違っていて、市街でも何処の学校なのかすぐわかる。余程のヤツじゃないと悪事やイタズラは出来ない。

女子はセーラーブレザーというやつで、ヒナタがオレに見せてくれたけど、すっげー可愛かったってばよ!

女子はセーラーブレザーに合う、男から見ても動きやすそうだと分かる短いボックスプリーツスカート(というらしい。サクラちゃんたちに教えてもらった)。

男女共に手裏剣ホルスターは必須で、それを着て通学する。

ちなみに額当ても必須だ。

 

 『第1部隊・中央忍者学園』には各小学校、または私立初等部から血継限界または秘伝を伝える一族出身者が集まる。一か所にまとめておくと警備しやすいから、そうしているらしいってばよ!

 

 

 

 第1部隊は火影直轄校なだけあって、三代目のじっちゃんや教育部門トップである三嶋フウレン特別上忍が入学式で来賓としてやってきた。来賓席には日向一族の当主であるヒナタの父もいる。ちなみに俺とヒナタはまだ12歳だけど、結婚を前提に交際することを決めた。当然、まだ言ってないしまだ言えない。ヒナタはこれから許嫁が決まっていくかもしれないから、いつまでも決定打がないまま結婚前提の関係じゃいけないと思う。だから、毎月もらえる手当がたまったら本格的じゃないけど指輪を買おうと思ってる。

 

 舞台の上ではじっちゃんと来賓の話が終わり、『忍軍入隊の宣誓』の時間に移った。オレたち制服姿の学生たちは立ち上がり、右手を上げて壇上のじっちゃんの合図に合わせて口を開いた。

 

『私は国外と国内の全ての敵に対して火の国の憲法を支持し、守ることを厳正に誓います。私は国に忠誠を誓います。私は火影の命令と、私の上に任命された中忍・特別上忍・上忍の命令に従います。規則と軍事司法の統一された規則に従います!』

 

 下忍に任命されたその日、先生から渡された入隊宣誓を覚えるよう言われた。先生が終わると、保護者たちの間から拍手が鳴り響いた。代表者であるサスケが学校長の特別上忍から入学記念品を受け取って、1年生の席へと帰ってきた。午後からは午餐会という保護者と一緒の食事会があって、保護者は一旦帰ってしまう。サスケとアマツの保護者は扇城屋CEO、俺の保護者は三代目のじっちゃん。

 

 

                 ☆★☆

 午餐会と仰々しい名前が付けられているけど、平たく言えば昼食会だ。朝から街ではバタバタとケータリングを担当する後方支援部隊の人たちが駆け回っていた。こういう忍軍関係行事を行う時、駆り出されるのは大体忍軍の後方支援部隊”需品科”と、連携している忍軍属の人たちだ。オレは朝からワクワクしていた。どんな昼食が出てくるんだろうなって!サスケはCEOと楽しそうに話している。サスケとは『同室』になる予定だ。これから共同生活を送る事になると思うと楽しみだ。

 

 

 この長テーブルにはオレとサスケ、キバ、シノ、チョウジ、シカマル、アマツが座っている。

 ちなみに、クラス分けのシステムはこうだ。1年生のうちだけだが、上忍の先生が直々にクラスを組織する。30人1クラスが6クラスで、1学年。俺が入ったのはサクラちゃん、サスケ、アマツと一緒の『カカシ訓練小隊』、通称A組。2年生からは綱手様とシズネさんがそれぞれ担任を持つ医療忍者訓練クラスが正式に組織されて、より個人個人の適性に合ったクラスへと入れられる。

学力も、戦闘についても。

 

 

 

 

「授業は明日から。お前ら、ちゃんと家でよく休むんだよ~」

 

なんて、『カカシ訓練小隊』の小隊長/教官にしてサスケの師匠であるはたけカカシ上忍が言うので俺とサスケはまっすぐ寮へと帰った。俺たちのような学生に割り振られた部屋は4人用で、通常同学年だけだ。でも俺は人柱力だし、人数の割り振りが丁度良くいかないという事でサスケと二人で使う。サスケが立候補してくれた。

 

 部屋にはシンプルなベッドと勉強机一式、本棚、大き目な収納がある。収納の中に支給されている制服や忍具などが仕舞ってあり、オレはそこから明日から1週間に渡って演習場で行われる演習に備えて道具一式を揃えていた。

 

「サスケ。風魔手裏剣忘れんなよ!」

 

「わーってる!!」

 

 サスケは風魔手裏剣を折りたたみ、私物である大き目なポーチにしまい込んだ。風魔手裏剣を見てオレたちには思い出す事がある。初等部時代、男女混合で合同演習をした時の事だった。アザミは忍具の扱いがド苦手で、借りた風魔手裏剣の扱いが苦手過ぎて中途半端な開き方のまま「開かんならば接近して殴るのみ!」と言っていた。その時の調子があまりにも真剣で、真剣だけど妙に面白かったせいでずっと記憶に残ってる。

 

「お前こそ、睡眠不足はやめてくれよ」

 

「分かってるってばよ!」

 

 

 明日から1週間、春季定期訓練が始まる。場所は里内にある、慰霊碑が設置された演習場だ。最初は別の場所だと言われていたけれど、カカシ先生の習慣から授業開始が遅れたら困るという事でその演習場に現地集合となったのだ。

 

 

                 ☆★☆

 1チームに対し、1つの鈴。10個の鈴があると思いきや、用意されているのは3個のみ。茫然とするフル装備の俺たちに向かい、カカシ先生は言った。

 

「コレを取ったチームは後期に行われる中忍選抜試験に出場する権利が与えられる。期限は1630。開始!」

 

 昨日、初めてのHR(ホームルーム)で朝飯は食べてくるなと言っていたけど。一体どんな事をするんだろうと思っていた。カカシ先生は結構本気な感じで、学年でも上位の扇城アマツと早速交戦している。アマツは扇城一族の刃物部門が作ってくれたと前に話していた『扇城宗定(せんじょうむねさだ)』の最新作を手に戦っていた。長脇差とかいうヤツで、侍の人たちの刀とは違って”反り”がなくて真っすぐ。相棒的な立場にあるスリーマンセルの一員が、鹿島ライカという女子と香取フツミという男子。鹿島家と香取家、そして星宮家は伝統的なスリーマンセルの組み合わせだ。

 

 

(やべぇ、何だよアレ!オレと違って”戦う”ことをもう”知ってる”!!)

 

 フツミは幻術が得意で、カカシ先生には上手くかからないが、それを生かしてアマツが攻撃する隙を作っている。サスケは「カカシ、割と本気モードだな」とか言ってる。カカシ先生は上忍だからアマツたちにやられる訳はないけど、多分、強い人だからこそ『今日出す力』を決めているんだと思う。

 

(ハァ!?アイツらもう鈴取っちまった!!)

 

茫然と見ている間にも、アマツは連携プレーで鈴を取ってしまった。カカシ先生は余裕層に「あと2個しかないよ~」とか言ってる。それに煽られたヤツらが藪から出て行って、速攻で地面に首だけ出して埋められた。瞬殺だ。

 

「・・・ナルト、サクラ。俺たちも行くか?」

 

「ちょっと待って、二人とも。私に良い考えがあるの」

 

「なんだってばよ、サクラちゃん」

 

オレがサクラちゃんに問いかけると、サクラちゃんはオレとサスケの手を引いてカカシ先生が戦っている広場から遠ざかった。

 

「先生は私たちが生徒同士でやり合うな、なんて言っていないわ。だから、ライバルを減らしても良いと思うのよ」

 

「確かにな。カカシの凄味に負けて俺は話をロクに聞けていなかった・・・。後でどやされるな」

 

「・・・言われてみれば。で、どうやってやる?影分身なら任せろってばよ!!」

 

「そうよ。ナルトの影分身!使えるわね」

 

 サクラちゃんの作戦はこうだ。まずオレが影分身を作り、遠巻きに戦いを見ているヤツらを混乱させていく。お色気の術を使ってもOK、とりあえず戦うどころではなくする。煙幕でも何でもやって、とにかく混乱を作り出す。その隙に影分身を使って締め落とすか、サクラちゃんとサスケの幻術で眠らせ、ライバルを大幅に減らす。

 

 アマツたちはもう戦場にいないため、後はゆっくりと同級生が起きてくるまでカカシ先生と鈴取り合戦に洒落こむ。

 

「やるわよ!」

 

「おう!」

 

「火遁なら任せろ、二人とも!!」

 

俺たちはまず藪から離れ、同級生を混乱の渦に巻き込む作戦に入った。

 

藪の中から叫び声が聞こえてくるので、カカシ先生も流石に怪しんでいるようだ。

 

「アレ?」とか広場からわざとらしく聞こえてきた。

 

サスケはカカシ先生の動向に気を配りながら、眠気を催す煙幕の煙が入ってこないよう口と鼻を布で覆いながら戦っている。

 

 

「ぐわぁ!!」

 

不意にサスケの声がしたのでそちらを向くと、サスケがカカシ先生に羽交い絞めにされていた。でも、オレは慌てない。慌てるなってサスケ本人が言ってたからな!

 

「サスケぇ!」

 

「サスケ君!!」

 

オレとサクラちゃんはアイコンタクトを取ると、同時にクナイを投げた。カカシ先生が”片手”で投げたソレに俺たちが投げた2本は簡単にはじかれてしまった。

 

「う、嘘だぁ!コントロール良すぎでしょ!!」

 

「マジかよぉ!!」

 

「二人とも助けてくれー!」

 

”サスケ”が叫ぶ。カカシ先生はサスケの首元にクナイを突き付けた。

 

「残念だったな、俺直属のスリーマンセル。もう少しで・・・」

 

「隙ありッ!!」

 

まるで滑り込むように、『サスケ』がカカシ先生の背後を取った。

先生は”サスケ”を押しのけると、『サスケ』の踵落としを二の腕で受け止めた。

 

「今よナルト!!」

 

「よし来たっ!!!」

 

オレは影分身を10体出し、それぞれ「お色気の術」をさせた。

酒池肉林が広がるとカカシ先生はその端正な眉を顰め、疑問符でも浮かんでいそうな表情を浮かべて呆気にとられた。

 

サクラちゃんも眉をしかめているけど、体はちゃんと動いていた。

 

サクラちゃんの細い腕が先生のポーチまで伸びて鈴をもぎ取って、そして。

 

「鈴ゲットよ!!」

 

チリンチリンと鈴が鳴り、カカシ先生は戦闘のための構えを解いて笑顔になった。

 

「お前ら・・・、頭を使って鈴を手に入れたな。合格!」

 

ボフンと変化を解く”サスケ”は、オレの影分身だったんだ。

それをカカシ先生は褒めてくれて、嬉しかった。サクラちゃんも、オレたちに指示をするタイミングを褒められていた。これで、後期の中忍選抜試験を受ける権利を手に入れた事になる。純粋に嬉しいと思った。

 



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2 アカデミー生活だってばよ!

 1週間続いた春季定期訓練のうち、1日目は中忍選抜試験の出場権を奪い合う鈴取り合戦。結局のところ、オレたち首席ドベ混成スリーマンセルが2番手で、1番手がアマツ達。

 翌日である2日目になると、先生は俺たちに忍界大戦での記録をホワイトボードに書きながら、辛そうだけど仲間を亡くした時の話をしてくれた。片方だけしか瞳は見えなかったけど、心なしか涙の膜が張っていたように見えた。サスケはそんな師匠の姿に戸惑いつつも、カカシ先生が『英雄だ』と称える人物が『うちは』の姓を持っている事実に感動していた。3日目には、その状況で自分ならどうするかを学校内にある小型演習場で実演を兼ねて議論しつつ実戦演習をした。その翌日はまた講義、翌々日は実戦と、ためになる訓練の繰り返しだった。あまりのショックに泣き出すスカウト人材の女子もいたけれど、カカシ先生は「今のうちに沢山泣いとくんだよ」と言っていた。サスケはそんな師匠を見て「気持ち悪いくらい優しいな」とか言ってた。

 

 

 

 

 春季定期訓練が終わると、アカデミーでいう『普通の生活』というものが始まった。一年生が春季定例訓練で幻術を題材にしていた間、2年生は『水上チャクラ歩行訓練』。1年生で習得した筈の水上歩行の技術を大幅に向上させれるが死ぬほどキツい訓練だと、日向ネジ先輩が言っていた。1週間振りに顔を合わせた日向ネジ先輩は多少ピリピリした雰囲気を纏っていたものの、1週間前とほとんど同じだった。日向先輩はヒナタを嫌っているけど、男女の学生は学年が違えば食堂で一瞬位しか顔を合わせないので何も起こらない。訓練で何か思うところがあったのか、日向先輩は少しだけ、俺に日向宗家についての話をしてくれた。宗家と分家の関係、簡単な歴史、軋轢。これまでヒナタから聞いた事があったが、分家の当事者から聞くのはなんだか新鮮だった。もし俺が火影になれたなら、こういう憎しみを次世代まで引っ張るような真似はさせたくないと思った。そうすればヒナタも妹も、ネジも、日向一族の分家も宗家も関係なく笑い合えるようになれるだろうと願っている。

 

                        

 5月に入ると、ゴールデンウィークがやってきた。2・3年の先輩方は実家に帰れるけど、オレたち1年生にはまだそんな権利がない。だから、特に何も言うことはなかった。6月になったら、2週間にも渡る初の3学年合同長期訓練が行われると決まっているからだ。所属する学生部隊で異なっているが、オレたちの今年の行き先は『波の国』になった。波の国から帰ってからは、2か月半の夏休みがやってくる。夏休みには任務に修行だけではなく、家族と過ごす時間が得られる。

 

 

 

                  ☆★☆

 

 この学校には『学生隊』という部隊が存在している。この学校は現場指揮官を育てるために存在していることから部隊運営について学ぶために設置されている。1部隊につき、1学年30人。つまり6部隊あって、中でも第1部隊には名門旧家の子供たちが集められている。うちはサスケと日向ヒナタは勿論、猪鹿蝶の3家、犬塚家・油女家からも。扇城家と星宮家も『”準”血継限界』という扱い。そういった一族や家系出身者じゃない者は全員が全員、とびぬけて優秀な学生たち。その最たる例だと俺が思うのが、二年次から医療忍者課程に入るだろうといわれている春野サクラちゃんだ。サクラちゃんは父親こそ中忍である忍者家庭出身だが、そのチャクラコントロールや知識は幼少期から英才教育を受けてきた奴らを上回る実力がある。どうして俺がいるのかというと、俺は人柱力だからだ。人柱力は国ごとのパワーバランスに関わる、戦争への抑止力のような存在だ。後から聞いた事だが自来也先生の意見もあり、人柱力として力を制御する方法を学ぶべきだとして優等生と選ばれし血統の持ち主が揃う第1部隊に配属されたようだ。

 

 

 サクラちゃんの言う”班”とは、戦闘訓練や野外訓練を行う際に組まれるスリーマンセルの事だ。俺たちからすれば、6月の2週間を一緒に過ごすだけではなく、卒業後もしばらくは一緒に任務をこなす可能性が高い者たち。頭が良くて強くてかわいいサクラちゃんは男子からの人気が高く、彼女と同じ班になりたいヤツが大勢いる。以外にもサスケの親戚、星宮アマツもそうだ。一方、男子で一番の成績であるサスケは名門旧家出身/血継限界持ち/イケメン/成績優秀と女子に好かれる要素ばかり持っているが男子からのサクラちゃん人気とは対照的に人気がない。オシャレ禁止な国立アカデミーを受けて合格するような女子たちは現実的な性格の持ち主ぞろいで、流行に流されるような子はほとんど見かけない。

 

 

 オレたち1年生の1週間のうち、金曜日の1日は任務だ。木曜には野外訓練と戦闘訓練でしっかり集団戦と個人戦を叩き込まれ、火曜日と水曜日には習熟度別に忍術・体術・幻術・忍具の実技授業を受ける。月曜日は国語・数学・理科・社会の、毎週末に出されるレポートについて説明を受けるスクーリングデー。実は通信制なのだ、オレたちの受けている主要四科目って。月火の午後は軍事史基礎だとか軍事基礎といった授業がある。

 ちなみに、ヒナタやいのといった血継限界や秘伝を伝える子たちの為に里が選定した一族内でも『中立的』『公平な視点の持ち主』『教え方が上手』といった構成員が講師として雇われる。ヒナタの他に白眼の持ち主はネジ先輩のほか、あと10人くらい3学年合わせていたっけ。

 

 

 オレたちが受けていた5月のカリキュラムは、水の国や波の国といった水場が多い場所での戦闘に的を絞ったもの。カリキュラムの中には『砂漠地帯』『森林地帯』『火山地帯』など、学年が上がるごとにレベルが上がるけど気象条件や地形に合わせた戦闘の指導が書かれている。だから、忍術の授業で受けたチャクラコントロールでは徹底的に水面歩行術を訓練された。かなりのスパルタで、オレとサスケがいる上級クラスでは垂直崖登りまでさせられて大変だった。なんでも、初代火影様とうちはマダラが行っていた由緒正しい訓練だとか。本当かなぁ。

 

 

 

                 ☆★☆

 なかなか大変だった5月のカリキュラムを無事に終了し、オレたち第1部隊の1年生は第1部隊用のブリーフィングルームにいた。ここブリーフィングルームはこれまで1年生には開放されていなかった。初めての任務兼長期訓練に向かうため、その準備をひとまず終えたから開放されたようだってばよ。オレ、結構頑張ったんだぜ!

 

 カカシ先生から、今回の『任務』について説明を受けた。波の国で大きな橋を建築している男性、タズナ氏が護衛任務を里に依頼してきたが怪しい点があった。彼は全く国の現状について言及しなかったため、任務を聞く担当者が既に木ノ葉隠れがつかんでいる情報を話して真実かどうか問い合わせたのだ。結果、国に住む当事者から国の現状を聞くことが出来た。そして、何だか色々あってアカデミーの学生が現役部隊と共に任務として随行し、1週間の実戦研修を行うこととなった。

 

「こちらが、タズナ氏だ。総員起立、挨拶!」

 

はたけ上忍の命令通り立ち上がると、酔いどれの壮年男性が部屋から入ってきた。

 

「なんだ、制服着たガキばっかじゃねーか・・・!」

 

ちょっとムカっときたけど、オレは怒らない。

 

後で絶対後悔させてやるからな!!



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3 はじめての里外!波の国編ダイジェスト①

 『木ノ葉中央 火影直轄忍者アカデミー』第1部隊、総員90名。全員が木ノ葉隠れの額当てに任務着姿で里正門の前に並んでいると、保護者達が子供を見にやってきた。保護者達の中には俺の父方である波風家の人もいて、ちらりと俺を一瞥した。時折俺にお小遣いをくれる人だ。サスケの親戚であるイズミ姉ちゃんと扇城家当主はサスケの見送り。猪鹿蝶トリオの父親たちは当然のこと、日向一族の当主もいる。ただし、当主モードではなく父親モードの顔で。だから、俺は何だか安心した。日向ネジ先輩だけは当たり前のようにピリピリしているが。

 

 

 任務着に身を包んだ忍者合計90人が一堂に会し、最初に俺たちを「制服着たガキ」と言ってきた依頼人はその雰囲気に圧倒されたのか今日は何だか静かだった。今回の任務内容は『護衛』『情報収集』『治安維持』。それぞれ学生たちは依頼人の家だったり、波の国内の宿泊施設だったりと、違う場所に泊まって国内で情報収集と治安維持任務を行う。そして、最終的には上忍である先生方が逮捕すべき人間を捕まえる。この任務では木ノ葉隠れからのお金が沢山動いている。お金の流れを観察し、どこに行きつくのかを調べるのも任務兼訓練の目的だ。一言でいえば、疑惑の大富豪ガトーの真実を暴くこと。これが、この任務兼訓練の目的だってばよ。

 

 

 

                  ★★★

 依頼人を守るようにして、第1部隊の学生と教師たる上忍たちによる感知能力を使った護衛任務が始まった。その道程でオレたちは水たまりから出てきた抜け忍と対峙し、捕縛した。捕縛された抜け忍は木ノ葉隠れへと近くを通りかかったある特別上忍によって送り届けられ、俺たちは目的地への歩みを続けた。

 

 そして、波の国に入国してから出会ってしまったのが桃地再不斬という霧隠れの抜け忍。本当の戦場を知るヤツは俺たちをぐるりと見渡してからこう言った。「木ノ葉隠れも甘くなったものだな」と。どんどん濃くなっていく霧の中、感知能力を持つ者はその能力をフル回転させて気配を探った。ここには写輪眼・白眼の持ち主だけではなく、犬塚キバ・油女シノ・山中いのといった感知に優れた家系の出身者も無数にいるのだ。俺もまた、殺気の出所を全神経を集中させて探った。そうこうしている間にも、カカシ先生が水牢の術にとらわれてしまった。

 

「だ、誰か土遁の使い手はいないのか!?」

 

3年生の先輩の叫ぶような声に呼応するように、湖の水面から透明な結晶の槍がせり出してきた。ソレの先端に片足立ちし、その同期生は両手を交差させて印を結んだ。

 

「土遁・珪化玉柱(けいかぎょくちゅう)!」

 

 土遁と風遁に優れた家系、三嶋一族の次期当主である三嶋トウヤ。任務で雪の国に行ったアザミと同い年である”いとこ”で、大人たちも期待する土遁の使い手だ。

 

 その攻撃的な蛋白石(オパール)は一瞬にして細かくなって再不斬を襲い、それがキッカケとなって先生方がヤツを倒せるかと思ったその瞬間。ヤツは木の上から小柄な性別不明のヤツによる千本での攻撃に倒れた。そして、ヤツの遺体は仮面を被った小柄なヤツ(性別不明)によって運ばれそうになったのだが。サクラちゃんが、その怪しい点を指摘してソイツは遺体を担いだまま立ち止まった。

 

「貴方、”追い忍”でしょう?普通追い忍は遺体をこの場で処理するわよね。でも、貴方はそうしない。つまり、貴方は彼の仲間。そして、貴方自身もどこかの隠れ里に所属している訳ではない抜け忍かそれに準じた存在。そうでしょう?」

 

「全くその通りですが、・・・あなた方は一体何者なのですか?」

 

                       

☆★☆

 

 雪一族の白(ハク)と名乗った仮面の”少年”がした質問の意味。それは、文字通りの意味とは異なっていた。白は俺たちが木ノ葉隠れの里所属の忍者であり、アカデミー在学中の学生部隊である事は服装などから推理していたようだが。うちの里の新しい教育制度は忍界に知れ渡っているようで、とても有名なようだ。

 白が驚いていたのは、うちの里の教育内容について。本来ならば忍者として経験を積んで学んでいく知識の多くを、俺たちが学ぶカリキュラムにはそれが含まれているからだ。

 

「そして、本題はここからです。僕たちにガトーから給料が支払われない可能性がある・・・、とは、どういう事ですか?」

 

 白はカカシ先生たちに話を振った。木ノ葉隠れの里の情報収集部隊によれば、ガトーは雇った抜け忍を使い潰し、挙句には契約した筈の給与を払わなかった事例が多々あるそうだ。この任務を里が請け負った時点で、既に里はこの事を突き止め、こういう会話が行われることまで予想までしていたらしいのだからすごいと思う。カカシ先生は白に対し、今の時点で里がある大名の依頼で既に突き止めている、明かすことが可能なガトーの情報を話した。すると白の喉が動き、ゴクリと唾を飲み込んだのが見えた。

 

「これでは僕たち・・・、ここで働く意味が無いじゃないですか」

 

「そうなるね」

 

やがてカカシ先生は「護衛任務に戻れ」と俺たちに言い、大人たちと白だけの話し合いを始めた。

 

 

                 ☆★☆

 アカデミーの授業で部下を率いるということに慣れている3年生の先輩方と一緒に、オレたちは波の国の市街へと足を踏み入れていた。先輩方はきっちりとそういったことを学んでいるだけあって、その技能は普通の中忍と遜色ないように感じた。

 

 2・3年生の宿泊先は野営地だが、1年生は橋の建設に関わっている人たちの自宅だ。オレ・サクラちゃん・サスケの3人と、今回の任務兼訓練の責任者であるカカシ先生は代表者であるタズナ氏の自宅に宿泊する事となった。タズナ氏の家には彼の娘であるツナミさん、そして孫息子のイナリが一緒に住んでいる。どうして1年生がホームステイなのかというと、これには『異文化の理解』というテーマがあるからだ。大歓迎を受け、夕食を食べながらタズナ氏とツナミさんからこの国の文化と歴史について話を聞くことができた。もちろん、ガトーカンパニーによる支配についても。訓練を兼ねてはいるが、オレたちは任務をこなすため波の国にやってきたのだと俺はイナリに話した。だが、イナリは言った。「勝てっこないよ」、と。

 

 

 一瞬プチっときたけど、俺はこれでも一応中忍に、指揮官になる事を期待される立場の学生なのでしっかり抑えてから反論した。「オレたち木ノ葉は勝ち目があるから波の国に来たんだぜ?」、と。戦闘とか戦闘というものは感情論でどうこうなるものじゃない。根性だけじゃひっくり返せない状況なんて沢山あると、アカデミーの戦争史の授業から学んだ。サクラちゃんもサスケも、同じように真剣な顔をして頷いていた。

 

 

 

                   ☆★☆

 波の国の最近の歴史を教えてもらう上で、ツナミさんとタズナ氏からはイナリの父親であるカイザさんについても聞いたからイナリの苦しい気持ちも分かるが。俺たち学生にはやらないといけない事がいくつもあるので、あまり彼には構っていられなかった。最初は弱音を吐いていたイナリだったが、朝早くから訓練へと出ていく俺たちを見て何か思うことがあったらしい。カカシ先生に対し、「武器の使い方を教えてほしい」と言い出したのだ。先生はそんなイナリに対し、まずはここからだと基礎体力をつけるトレーニング方法を教え始めた。するとツナミさんいわく常に沈み込んだ状態だったらしいイナリは溌溂としはじめ、まるで別人のようになった。俺たちがこの家に滞在するようになって、僅か2日でコレだ。筋トレと運動の力ってすげー!

 

「ところでカカシ先生。白と桃地再不斬はどうなったの?」

 

すっかり忘れていた事をサクラちゃんがついに先生に質問した。

居間の空気が一瞬だけ張り詰めた。

 

「あぁ、あの事か。明日正式に発表するが、あの二人はこちら側につく事になった」

 

「えぇぇ!?」

 

「それは本当か!?」

 

「どうしてですか!?」

 

 

 

 

 先生の予告通り俺たちは翌日には全員で集まって方針説明を受けた。まず白と桃地再不斬の二人はこちら側につき、この任務が終わったら木ノ葉に身を寄せるという事。次に、ガトーの支配を終わらせるため波の国と親交の深い火の国の大名から正式に依頼が来たという事。後者については、木ノ葉から暗殺戦術特殊部隊が援軍として派遣されてくるので直接的な暗殺は行わないそうだ。オレたち1年生が任されるのは、民間人の安全確保と抜け忍を捕縛または殺害するための戦闘支援。その為に、これからフォーメーションや戦闘支援の訓練を本格的に開始するという。俺の隣に座っているヒナタが緊張で唇が白くなっていたので、そっとその手に俺の手を重ねる。

 

「ナ、ナルト君・・・、ありがとう」

 

「無理すんなってばよ、ヒナタ。手、めっちゃ冷たいぜ」

 

 ヒナタがこうなってしまっている理由。それは明確だ。

これから訓練を本格的に行うに当たり、先輩後輩入り乱れたチームが結成された。ヒナタ・キバ・シノが入れられたのはネジ先輩がいるチームだ。ちなみに俺たちも同じチーム。ヒナタが後輩として教えを乞う相手はヒナタが一番恐れる相手の一人。それを感じ取ったのか、日向ネジ先輩もこちらに不敵な笑顔を向けてきた。

 

 

 

 

 



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4 はじめての里外!波の国編ダイジェスト② 里への帰還!新たなる仲間

 ガトー一派との戦いに向けて開始された戦闘訓練。それに於いてのチーム分けは、俺の好きな人・日向ヒナタにとっては精神的に辛いものだった。なぜならヒナタに対して良い感情を持っていない彼女の従兄、分家の日向ネジが先輩として彼女の指導をするからだ。

 

 

 俺はというと、サスケ・サクラちゃんや他の先輩方と共にカカシ先生についてフォーメーションの特訓中だ。そうしている間にも、紅先生とマイト・ガイ先生が教えているヒナタたちの班からは柔拳がぶつかり合う音が響いてきた。剛拳とは違う柔拳同士がぶつかり合う特有の音は、ヒナタとネジ先輩のそれは何となく鋭さが違う。

 そう。ヒナタはどちらかというと戦闘向けではないタイプなんだ。俺のいるグループは休憩に入ったため、オレ・サスケ・サクラちゃんの3人はヒナタたちがいる場所へと走った。

 

「あなたは指揮官に向いていない。受験を棄権しろ!」「中忍選抜試験の受験者に貴方は相応しくない」という言葉が飛ぶたびに、ヒナタはビクビクと震えて足が縺れそうになっている。幾度となく鋭い攻撃が叩き込まれるが、ヒナタは浅い呼吸をしながらそれを何とか受け流している。それにはネジ先輩も驚いているようで、あの不敵な表情をヒナタにも向けた。実際、里じゅう国じゅうの血継限界の持ち主がこの学校には集約されている。そういう制度なのだろうけれども、勤勉なヒナタは高い成績で合格しているのもまた事実。アカデミー生になる面接の時点で本当に向いていない場合は落とされていたようだし、ヒナタも選ばれた一人なのだ。

 

それなのに!

 

「オイ、ネジ先輩!それ以上はやめろってばよ!!」

 

先輩にいきなり歯向かったオレに、さすがのサスケも驚いた顔をした。サクラちゃんは少し慌てている。でもネジ先輩の言い方に内心ムカついていた2・3年生の先輩もいたようで、紅先生とマイト・ガイ先生が他の人の指導中だったにも関わらず駆けつけてきて二人を止めた。

 

ネジ先輩とオレはそれぞれ先生方からきっちりと叱られ、学校に帰ってから行う予定で罰則を課された。ヒナタは医療忍者養成コースにいる先輩から手当てを受け、その様子を彼女はじっと見つめていた。

 

 

               ★★★

 2日経って、予定通りオレたちと再不斬&白は波の国を牛耳るガトー一派を倒した。学生チームは結構怪我が多かったけど、医療忍者養成コースの先輩方にとってはまたとない技術を実践するチャンスだったようで頑張っていた。ガトー一派に雇われていた抜け忍の中にも、再不斬たちと同様に木ノ葉へ行く事を望むものが少なからず存在した。木ノ葉から派遣されてきたそういった手続き専門の部隊に彼らは連れられ、里外にある専門の『里外分遣隊基地』へと俺たちよりも一足先に旅立っていった。

 

 木ノ葉隠れは戦力を増強するため、国と里に奉仕し忠誠を誓うと決めた一定基準以上の抜け忍またはフリー出身者で構成される『外人部隊』を持っている。その『外人部隊』は家族を連れてきている者も多くおり、ほとんどが妻子あるいは年老いた両親を守るために志願してくる。傭兵としてガトーのような者のもとで働く者たちにも家族がいるのだ。『外人部隊』にはもう一つの側面もあって、それが他国の忍者を想定して戦闘訓練の相手となる『アグレッサー部隊』である。なお、優秀な者はアカデミーの教官になるらしい。

 

 

 

 

「なぁ白。お前らはこれからどうするんだ?」

 

少女と見まごう美しさを持つ少年、白(ハク)は里へと向かう荷造りの作業の手を止めて俺の方を向いた。

 

「木ノ葉のリクルーターの方が言うには、僕は年齢的にもまだ14歳なのでアカデミーに編入すると思われます。そのためには集中講義を受けて出来る限り追いついてかららしく、里についたら暫くは皆さんと会えないと思いますね。僕が学生になるなんて・・・、最初はそう思いました。でも、貴方たちを見ていると純粋に楽しみに思えるんです」

 

「何か、変わったな」

 

「そうですか?うちは君」

 

「あぁ」

 

 オレとサスケはすっかり白と仲良くなったので、こうして会話したり作業の手伝いを出来るようになった。里に新しい仲間が増えることは純粋にうれしいことだ。ちなみに、タズナ氏の孫であるイナリは木ノ葉隠れで教育を受ける事が決定した。カカシ先生が体力づくりを見ていたところ、チャクラに関する才能を見出したからだ。イナリもまた、ここ波の国では受けられない教育を受けることを楽しみにしている。ツナミさんは年配の父を支えるため、平和になっていく市場や市街で仕事をするため、波の国に残る。つまり、イナリ一人で木ノ葉隠れに来るのだ。イナリは木ノ葉丸と年齢が近いから、二人が出会えばきっと良い友達になれるだろうと思う。

 

 

 

 里に向かって出立するための出立式では、カカシ先生から里で7月1日から実施される『中忍選抜試験』の話を聞いた。うちの里の昇任制度は他の里とは少し異なっていて、合格するための基準は『とにかく本戦に残ること』。中忍選抜試験についてもイナリは興味津々だけど。イナリは大工や土木関係に携わる忍者について聞きたがっていた。それは里に帰ってから、休日になったらイナリと色々話して説明しようと思っている。

 

                  ★★★

6月2週目日曜日

 イナリは8歳だから、小学校の3年生に編入する事になっている。そのためにイナリは9月に備え、里に来てすぐに同級生に追いつくための学習を始めた。白もまた、国立アカデミーに編入するための集中講義と集中訓練に入る。これからそれぞれが忙しく、自分の道を歩き始める。

 

 6月の第二金曜日に里に戻ってきた俺たちはそのまま7月1日まで通常通りの休みで、疲れを癒すべくそれぞれが学校で過ごす、または実家に帰って夏休みに入る。上忍師の先生が修行と任務の予定を組んでくれる事になっている。オレは結構ひまな寮生なので、留学生として私立学校に編入予定のイナリとまだ正式に忍者学生の籍を与えられていない白からこちらの学生会館になるカフェに出向いてきてくれた。

 

「ナルト君、1日ぶりですね」

 

「ナルト兄ちゃん!」

 

 里から支給された黒いTシャツとカーキのカーゴパンツ姿をした白は髪を切り、外見の印象をがらりと変えた。白は元々霧隠れの追い忍だったが、里を抜けて抜け忍となった。波の国でガトーに再不斬と共に雇われて仕事をしていたが、対外的には木ノ葉隠れの忍者によって二人まとめて倒されたということになっている。だから、『別人』として生きるしか無いのだ。木ノ葉隠れの里所属の忍者になったとしても、おそらく『仮面がユニフォーム』の部署に配属される事になるだろう。それでも良いという宣誓を白はこの里と国に行った。

 

「忍者にも大工っているんだね!」

 

「ああ、いるぞ!」

 

イナリが言っているのは、土木関係のスキルを持つ特別上忍の事だ。

 

「土木の特技がある忍者は大抵、何かが原因で建築物が壊れた村や任務先へ優先的に派遣されるんだってばよ。建築の技術や知識の勉強の他には、戦場で野戦築城やら即席橋の作成・爆破が専門。まぁ、イメージ的には起爆札と爆発物のプロフェッショナルってとこか」

 

「建物を、爆破する!?」

 

「そうです。土木要員は建築物の弱点を見抜き、爆破して拠点を潰すという工作活動も担っています。裏を返せば強い建物が作れるようになるのですよ」

 

「白の言う通りだってばよ」

 

「かっこいい!!」

 

 タズナさんの後を継いで普通の大工になると言っていたはずのイナリは先日、筋トレといった体を動かすことに目覚めた。当初タズナさんは少し悲しそうだったが、溌溂とした笑顔でランニングやスクワットをこなす孫息子を見て里に託すと決めた。イナリは9月から、全寮制である私立平和学園に編入する予定だ。学費に関しては、学園の家庭の収入により値段が変化する奨学金で全て賄われるので大丈夫。里外出身者のための学生寮に入り、忍者になるための生活が始まる。6月半ばからは集中講義と訓練キャンプがあって、とても忙しくなるだろう。

 

 

                  ☆★☆

 そして、俺にはどうしても心配な事がある。それはヒナタのことだ。ヒナタは日向先輩と険悪で、波の国での作戦中にも先輩から「忍者に向いていない」「指揮官の器ではない」「貴女は足手まといだ」といった言葉を浴びせかけられていた。そのせいで精神的にボロボロで、男であるオレよりも同性であるサクラちゃんやいの、テンテン先輩の方がケアが向いているから彼女たちにヒナタをお願いしている。

 

 俺は学生会館の廊下でヒナタを見つけたが、あえて彼女をそっとしておく事に決めた。

 

 

 

 



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5 オレ達には関係ないけど中忍試験だってばよ!

6月終わりの早朝、里在住の保護者がいない子供たちが入る寮の食堂にいる俺はイライラしていた。なぜなら昨日の夕方、砂隠れの姉弟と会ったからだ。

 

 俺・サスケ・サクラちゃんの3人はカカシ先生からのお遣いを頼まれた。その時、彼らに絡まれていた木ノ葉丸たち3人組を助けた。俺たちは試験に参加するのかと問われ、「忍者学生だからしない」と返した。本当の事だから。すると、傀儡遣いの長男に鼻で笑われた。でも、そこで感情を露わにする俺たちではない。大人の対応をした。この対応こそが木ノ葉隠れの学生忍者の特徴であって、同時に誇りでもある。

 

「ナルト。昨日の事は忘れようぜ」

 

「そうよ、ナルト。私たちにはもっと大事な用事があるじゃないの」

 

「そ、そうだな・・・!」

 

二人もそう言うので、俺は気を取り直しておかわりのご飯をよそうべく立ち上がった。

 

 

 

                       

 中忍選抜試験。それは下忍の中から中忍を選抜する、時に命をかけた重要な行事であり、同時に忍者にとっても通過儀礼ともいわれている一台行事である。その行事は通常里一つの単独開催、または他里と共同開催で行われる。今年の中忍試験は砂隠れとの共同開催で、木ノ葉隠れを会場として行われる。多くの人間は知っていると思うが、中忍とは部隊の指揮官である。だから、その資質ややる気、適性が無い者を昇格させる訳にはいかない。そこで火の国と木ノ葉隠れは忍者の地位について徹底的に見直した結果、下忍の地位の拡充を図ることに決定した。結果、アカデミー生である13~15歳の者は『後期』である試験を受けることになっている。前期で成人者は卒業生を積極的に出していくためだ。卒業すれば前期と後期、どちらも受けるチャンスが出てくるけど。オレたちアカデミー生の受験は後期までお預け。まぁ、受ける権利を手に入れたからラッキーかな。

 

 

 火影のじっちゃん曰く、共同開催の中忍試験は『戦争の縮図』でもあるから特殊な教育制度を取るこの里について知りたい他国の大名や忍者が沢山訪問しているという。そこで考案されたのが、アカデミーの学生が参加する7月4日から6日の三日間に渡って行われる国外向けの『学校見学会』である。中忍試験はといえば、サバイバル演習というものをやる予定だという。この見学会では別段特別な事はしないが、それぞれ各人員が「自分こそがこの里の代表である」という思いで過ごせと通達されている。

 この中忍選抜試験の第一次試験が終われば、次は8月初旬に第二次試験が待っている。俺たち『忍者学生』たちは8月前半から8月後半にかけて3週間の夏季休暇が待っている。外泊禁止の俺たち1年にとっては初めて実家に帰れるので、存分に修行する予定である俺にとってもウキウキである。ちなみに、夏季休暇でも完全なる私服は禁止。国立あるいは里立アカデミーが出しているTシャツの着用が求められる。いついかなる時も学生忍者であると分かるように、嫌でも自覚を持たされるようにするのだ。

 夏休みが終われば新学期。1学期で本格的に弱点や得意な点を見つけられているため、中忍選抜試験の受験決定者は放課後に『特別突貫コース』で鍛えられる。担当はそれぞれのクラス担任。嫌な予感しかしない。オレ、生きて試験を受けられるのか?

サスケが言ってたカカシ先生の訓練・特訓はおそろしいから。

 

 

                 ◇◆◇

 ところで、火の国の忍者部隊――正しくは『国防部門職員』には忍者ではない人間もいる。『事務官』『技官』である。どちらも採用試験を突破して採用され、忍者アカデミーからではなく忍具科を含む5年生の高等専門学校や総合学科の民間人学校、行政・会計・国際関係・情報・機械工学・土木などを学ぶ”大学”。木ノ葉隠れは忍者の里だけあって、殆どの民間人学校卒業生が『公務員』になっていく。

 

 

 俺たち1年生はこの学校見学会で、里内にある企業が設立した民間人学校との共同授業を他国の人々に見せる事となった。私立木ノ葉平和工業高等学校は職人を養成する製作デザイン科、そして忍具職人を養成する忍具制作科の2学科を設置する企業内高校だ。扇城屋は私立一貫校である『私立平和学園 初等・中等・高等科』という男子校も持っているが、同時に民間人のための工業系私立校も設置している。前者は完全に私立だが、後者は忍具制作科という特性から半官半民の組織である。しかも、普通の民間人学校とは一味違う。学生の年齢が結構バラバラなのだ。障害を持つ学生、元不登校学生、戦闘不能で忍者を辞めざるを得なかった者を積極的に受け入れている。中には知的な障害を持ちながらも手先が器用な学生が何年もかけて卒業し、企業にとって必要不可欠な職人になった例がある位だ。

 

 

 

「よろしくね、ナルト」

 

「ナルト。こういう任務でもまた同じ班だな」

 

「おう!」

 

いつもの3人組であるオレたちはワクワク気分で平和工業高等学校に来ている。

始めてやるタイプの任務なんだ。楽しくこなせたらいい。

 

「私たちが一緒に活動するのは、発達障害の仲良しトリオね。二人ともちゃんと資料は読み込んできた?」

 

「あぁ、大丈夫だ。3冊読んできた」

 

「オレもサスケと一緒に読んだってばよ!」

 

 これから始まる、初めての民間との交流授業。学生たちがそれぞれ顔を見合わせて一列に並べば、漂うのは忍者アカデミーではありえない平和な穏やかな空気。ちらりと前の方に視線をやると、フウレン先生がにっこりとほほ笑んでいた。

 

 



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番外編 アザミと忍界転生

今回は三嶋アザミ視点で里内若者文化の説明です。


”私”は三嶋アザミ。

地方弱小忍者一族(地味な秘伝技あり)という、簡単に滅ぼされても仕方ないような家系に生まれたが、ご先祖様たちが一生懸命頑張ってくれたお陰で生きている13歳。規模が小さい上に、よりにもよって岩石中の石英といった宝石質の成分を抽出して攻撃できる秘伝技『鬼御影の術』を持っている一族は何故か様々な有力一族が戦のために通り過ぎる危険地域にいた。

背中に『クスノキ』の家紋を背負い、山間部で迫害から逃れつつ生き抜いてきた『山の民』。たまたま気の合う大規模な名門氏族と同盟を結ぶことができ、『天龍湖』という大きな湖の南部にあるイナ大渓谷から連なる山岳地帯で生きてきた。山の神様を祀り、オオカミを信仰し、山で生きてきた結構たくましい一族だ。

 

 

 私には生前と違って両親がいない。本当はいるんだろうが、祖父母はその事に言及したがらない。よほど酷い人たちだったのか、悲劇的な死を迎えたのか、分からないが。ただ、母は生前の母と似ているが明らかに違う人だ。たしか生前の母が生まれる前、生まれてすぐ亡くなった姉が二人いると聞いていた。その人の可能性もある。

三嶋一族は体術のほか、幻術にも優れた一族だ。山間部で他の一族から逃げ切るため、幻術が上手になったんだと祖父は言っていた。山の中には岩が沢山あるから、秘伝技を使うにはうってつけ。ただし、『成分の操作』が上手なだけで無から有は生み出せない。結晶を扱うから『晶遁』と呼ばれるけど、里の記録ではちゃんと『秘伝忍術:鬼御影』と書いてある。

 

 

 

                 ☆★☆

 

この世界の『イレギュラー』。

それは、存在していなかったうちは一族の庶家だ。血を維持するために存在した。

うちはの武器を整備し、開発する忍者としての”落ちこぼれ”から発展した家。それが刀鍛冶と武器整備の扇城。どれも写輪眼の開眼率は本流と比べたら僅かに少ないが、歴史上無視できないほどの発現確率と人数はいる。

 

 

 

 里で心配される『扇城』といううちはの庶家は多分、遺伝子がメチャクチャだ。扇城一族もまた三嶋と同様に他一族から優秀な特徴を引っ張ってこようと婚姻関係に気を遣ってきたが、それを上手く維持するために過剰な近親婚をしてきた。だからか皆顔立ちがよく似ているし、精神に変調をきたしやすい。顔面偏差値と学力偏差値は凄いけど、地雷を踏みそうでヒヤヒヤしながら接しないといけない部分があるのが難点か。それを気にしないなら優秀な血筋だ。

 

 

 

 一応は遺伝学的な観点から考えて他一族との婚姻を結んできた『三嶋』とは違い、『扇城(せんじょう)という家の遺伝子はおそらく滅茶苦茶な状態だ。うちは以上に精神に変調をきたす者が多いだけではなく、生まれつきの障害を持っている者が出る割合が高い。これだけでも想像がつくだろうが、合法ギリギリの近親婚をしているのだ。二重いとこは当たり前、それも一卵性双生児の共通する祖父母を持つなどあまりにも血が濃すぎる。近交係数どうなってるんだ!?というレベルである。ちなみに、真偽は不明だが日本人の近交係数は”はとこ同士”並みだという。

 

 

 扇城一族といえば、扇や団扇を製造する世界的大企業だ。木ノ葉隠れに本社と本社工場を置き、里と契約して忍具の生産をしている。中でも起爆札は高クオリティで知られ、術式の緻密さと複雑さは他の里が叶わないレベル。今では血が全盛期よりも大幅に薄まって、ヤンデレ傾向はあれど、優秀で昔の記録よりもずっと大幅に安定した精神状態を持つ一族となった。それでも何故か親戚同士で結婚したがるが。

 扇城一族から忍者が出ることは今は少ない。今は本来の本家が忍界大戦で滅びてしまって代わりに社長に就任した人物が当主をしていて、かつての『うちは』の面影は全然無い。社長の長男である先輩が1人と、更に血が薄い分家の分家といっていい血筋出身の双子姉妹くらい。忍者を出していた本家は女性ばかりになってしまったため、色々あって扇城一族と仲良くしていた社家である星宮(ほしのみや)一族と婚姻関係を結んで同化している。その同化した家系の生まれが、忍者家系・星宮一族の息子である星宮アマツと星宮カガセ。二人の両親ときょうだいは亡くなってしまったが、決して星宮一族は滅びていない。神社を営む祭祀系の家系は普通に元気。でも忍者一族にトラウマがあるらしく、アマツを引き取るのを拒否したのだ。

 

 

 

 忍者の世界は『一般人』の常識では計り知れない。普通に一族内で殺し合いをし、潰しあい、敵対勢力とは血で血を洗う争いが当たり前。中にはアカデミー卒業生に殺し合いをさせる里もあったとか。この世代ではそんな事は流石に無くなっているとはいうが、普通の”日本人”の感覚が抜けきらない私には辛いものがある。元々”生前”から持っている発達障害による二次障害の情緒不安定やら離人感だけでは説明がつかない、いわゆるメンヘラ気味に分類される今の自分のメンタルヘルス事情も仕方なし。幸い、この里の心理学や精神医学の分野は忍界でも一番進んでいるので安心して学生忍者でいられる。

 

 

 

 そう。私は元々このNARUTO世界の人間ではない。三嶋一族の頭領である三嶋フウレンとは生前から祖父と孫娘の関係だった、対人関係の苦手さから同僚の地雷を踏んだ挙句、滅多刺しにされて殺された滝川薊子(たきかわ けいこ)というメンタルヘルスボロボロ現代人女性である。大好きだった祖父の死後、私は命からがら大学まで卒業すると何だかんだ色々あって普通のOLとなった。NARUTO読者だし、鬼滅も本誌で読んでいたし、呪術廻戦も好きな、ほんのちょっとだけ(自己申告)腐った女だった。それでも一番好きなのは公式カップリングで、好きなキャラが幸せなのが至高なので腐った妄想は同人誌を購入したり自分で書いたりしつつも心の中では公式が至高。推しがよっぽどヤバイ女とくっついたりしなければ余裕で愛する。

好きなキャラが無事に子孫を残せたなんて、とってもハッピー!

 私が転生したこのNARUTO世界は最初から私が知っている世界じゃなかった。教育制度ガバガバだなと個人的に思っていた点は同じく転生してきた祖父がすっかり改革してあるし、忍者の人数もかなり多くて人員充足率が完全ではないものの原作以上に人間らしい日常生活が送れるようになっていた。ナルトは割と健全に暮らしているし、サスケ君のメンタルケアも完璧。お兄さんを殺すだとか言っていない。

 

 

 というよりも。イタチさんは『状況証拠的に一族皆殺しの犯人』という事になっているし、この世界のうちは一族はクーデターに対して消極的だった。実際、私は結構な頻度でイタチさんやサスケ君、シスイさんと話したくて集落へ遊びに行っていた位だ。その時も普通に歓迎して貰えたと覚えている。イタチさんとシスイさんは、忍界で死んでから現代日本で人生を終えたUターン転生者だ。話が合う。

代わりに庶家・親戚である扇城と星宮が積極的だったという噂がある。あくまで噂だが。『暁』も存在しているけど、イタチさんに関する噂が驚くほどに聞かれない。

何かが裏で大きく異なっているような気がしていて、ちゃんと原作通りかそれよりも幸せなエンドを迎えられるのか心配になっている。もっと不幸なのはゴメンだが。

 

 イタチさんに対する正式な発表がちゃんとされていないのに、里内でイタチさんは『一族を虐殺後、里抜けをして犯罪組織である暁に入っているS級犯罪者になった』という噂が通説となっている。何か、ヤベえもんが裏で動いてる気がするってばよ!

 

 

 

 

 

そしてもう一点。

この世界には私が知るアニメやゲーム、漫画のジャンルが存在している。正確には”そのもの”ではないが、やたらと小説が出ている。そこから思うに、この世界には原作者ではなくて熱心な”ファン”が大勢芸術分野に転生してきているのだと考えられる。私が生きていた世界は『地球転生もの』というジャンルで括られ、正確な地図や登場する科学技術、国、政治、経済の設定を纏めた本が出ている。私からすれば、その本は懐かしい世界を思い出せる貴重な一冊でもある。例えば、あるジャンプ漫画の熱心なファンが転生してきたとする。彼または彼女は愛する漫画に渇望し、絵が苦手なので小説として出版した。その後、絵が描ける別のファンがそのコミカライズを申し出とすると。最初に小説版が出て、次に漫画化されるというこの世界での流れが完成する。絵柄も原作者を非常に強くリスペクトしていて(中には原作者より上手な漫画もあるけど)、この世界について加味すれば全く読んでいて気にならないし不快にもならない。

だから、私はこの世界の芸術分野だけではなく二次創作の世界にも不満がない。BORUTO世界並みに木ノ葉限定で電子機器が発達してきたから、快適インターネットライフを里内限定でエンジョイできている。

 

 

                  ☆★☆

 ところでこの私が転生した木ノ葉隠れの里にはちゃんと、子供を戦場に出さないといった初代様(推し)の願いが守られている。ちゃんと終末の谷について教えられているし、うちはマダラ(推し)の存在について知名度が高い。うちは一族の事件は止められなかったけど、うちはに対する里内の見方が原作よりもずっと優しい。サスケ君に対していたずらな好奇の目線は殆ど無いし、ちゃんとまだ13歳の子供として見られている。つまり、私は推しの願いが詰まった場所で生きているのだ。最高!と言いたいけど、忍界大戦やらペイン襲来のタイムリミットが迫っているから全く穏やかな気持ちじゃない。なんてこった!!

 

 

 小学校6年間は忍者候補生。それまでの4年間で原作でいうアカデミー生並みの力を促成教育され、2年間で原作でいう下忍2年目くらいまで鍛えられる。チャクラコントロールもしっかり学ばされるし、初代様の最強桁違いな戦い方も”存在していたんだ”と、ちゃんと教育してもらえる。あの最強桁違いなスケールの違いを知らずに忍者をやっていくなど、勿体無いと思っていたのだ。

 

 特筆すべき違いは、私の『おじいさま』が創り上げた教育制度。下忍認定試験合格後、次は実力を計るための下忍統一テストを受けて入隊する訓練部隊が決まる。私たちは『忍者アカデミー』と呼んでいるけど、正式には『木ノ葉中等忍術専門学校』『忍軍附属中学校』という、「子供を戦場に出さない」ための教育機関が存在している。第1部隊はナルト君やサスケ君、サクラちゃんといった血継限界・人柱力・超絶優秀な子たちが在籍する場所。スクールカラーが違っていて、木ノ葉中等忍術専門学校は『深紅』。濃紺にピリッと色が利いていて、なかなか良いデザインだ。

 

 一方、そんな優秀な子供たちと私は正反対の場所にいる。三嶋は血継一族を持つ有力な家系にカウントされるけど、私自身は血継限界じゃない秘伝使いなのだけど、私を推薦した人がいるのでナルト君と同じ直轄忍者アカデミーにいる。色々あるけど、稗田君がいるから幸せだ。生前からの大親友なのだ、稗田ミサキという男子と。

 

 それに忍者になれば転生前の親友である星野天都(ほしの あまつ)と、稗田三幸(ひえだ みさき)とまた一緒に過ごせると考えたから。でも現実は甘くなかった。転生した先にいたミサキは最初優しい子ではあったけど寂しそうで、生前の家庭環境が複雑で精神的に参っていた時代を思い出した。それを助けたくて頑張ったけど、今回もアマツの心は摩耗していった。生前、アマツは親族間の遺産争いに巻き込まれて不審死を遂げている。いつも「強くなりたい」と語っていたアマツと駅前のスタバで語り合った思い出は忘れない。アマツは生前、生まれる前に父は亡く母も出産で亡くなって親戚に引き取られて育てられた。でもアマツは裕福な家庭の息子で跡継ぎだったため、親戚中から遺産を付け狙われながら育った。

 アマツが長野から転校してきたのは、中学校に入学するタイミング。すぐ三河弁を話すようになり、すっかり奥三河に馴染んだ。私とアマツ、ミサキの3人はすぐ意気投合した。アマツは幾度も交通事故に遭ってきた。その度に親戚を名乗る人間が病室に押しかけて、甘い言葉でアマツを誘った。高校卒業間際、数少ない両親のある親戚である長野の内田家がコンタクトを取ろうとしてきた。色々あって直接連絡をしあうのは危険だと判断し、私は学者をしている内田家のお兄さんと仲良くなった。

 アマツと内田家の仲はそんなに良くない。他の親戚たちが彼らを分断しようとしていたからだ。だからアマツは内田さんとその弟を強く敵視していた。アマツはとても頭が良かったが、特待生に選ばれて地元私大に進学した。私はもう少しグレードの低い別の私大へ。かなり私たちは仲が良かったと思う。

 

平穏が続くと思っていた時、アマツは不自然な自殺をした。警察は自殺と断言した。

 

心療内科受診に付き添った事もあった。だから強い友情関係を誤解する人たちも出てきて、私はそれが原因で殺された。ミサキもそうだ。私は非モテではあったが、内田さんの紹介で15歳上イケメン英国紳士と婚約をしていたというのに。亡くなったアマツに恋をしていた同僚が私がアマツとの関係を否定するのを逆上し、ナイフで一突き。祖父譲りで頑丈な体だったが、うっかり死んでしまった。その同僚は私を刺したナイフで同じ駅のホームで偶然会って話していただけのミサキも刺し殺した。私は実際のところ、死ぬような怪我ではなかった。だからミサキの死を知っている。しかし、女を(勝手に)狂わせるアマツに(一方的に)狂わされた女は病院にもいた。

私はつまり、意図的な医療ミスに殺された。転生した今も許せない。

 

 

忍界に生まれ変わってみれば、稗田ミサキには記憶があった。

星野天都には記憶が無く、星宮アマツという名門一族の子供になっていた。

生前の私を殺した女・大隅海幸にも記憶がなく、アマツに恋する忍者学校のトップクラスの女子・潮嶽ミユキになっていた。そいつは生前から私の宿敵だ。

 

星宮アマツは、『星の神』を祀る星ノ宮大社の次男坊だった。両親は宮司と宮司の妻で、元巫女。血が繋がった家族と思ったが、どうやらそうでもないらしかった。血は繋がっているが、生まれる前とすぐに両親を亡くし、引き取られてそだったようだった。何だかぎこちない雰囲気の家族だった。両親は姉ばかり可愛がり、血が繋がった兄であるカガセさんとアマツだけが二人取り残されていた。カガセさんと似た顔をした人は生前、いた。アマツの兄、内田さんの友達である星野北斗さん。弟の中学入学を機に引き離され、かなり過酷な人生を送っていた人だ。とても優しい人だったという。彼もまた、不審死を遂げた。アマツはいつも会えない兄に焦がれていた。

 

『星宮アマツ』の”実家”の神社を見学し、連想した神様がいる。

まつろわぬ星の神、『天津甕星(アマツミカボシ)』である。

 

 

 

アマツミカボシはタケミカヅチとフツヌシが戦い、タケノハヅチに負けた日本神話の星の神様だ。アマツミカボシを祀る神社はあるけれど、神仏習合では妙見信仰と結びついている。この世界では鹿島・香取・静織一族というvs星宮・妙見・大甕一族という構図がある。諏訪一族と鹿島一族は永遠のライバル同士だけど、別に敵の敵は味方とか、そういうのは一切無い。『不屈』諏訪一族は『総鎮守』三嶋一族の遠縁である。二つの一族はたまにしか血を混ぜないとか、そういう謎のルールはあるけど。転生者が興した家だから血縁や遺伝子にはこだわりが深いんだろうと解釈している。

 

 

 

 

                ★★★

 話は変わるが、生前高校教員として歴史を教えていた祖父は私が思っていた以上にオタ文化を楽しんでいる。生前、亡くなる一年ほど前に貸した漫画を病床で楽しんでいてくれたのは覚えている。しかし今、転生して『教育界の火影』三嶋フウレンの本棚に収納された漫画や小説の数は莫大なものだ。アニメ雑誌が沢山床に積まれているし、里の学生たちからしても漫画の話が分かる数少ない里上層部の人間として親しまれている。ハロウィンのコスプレ大会ではウッキウキだった。

 

 

 ナルト君たちはハロウィンを楽しみに待っている。あのサスケ君も今からカカシ先生に何を着せるか企んでいる。メンタルケア完璧で、戦争中の『あの日』を抜け出しているように見えるカカシ先生はよく笑う。漫画も読むし、にこやか。

「最強せんせーが封印される日だ!」とか呟くナルト君はどう考えても、カカシ先生をあの最強グッドルッキングガイに変身させるつもりだろう。箱に閉じ込めるつもりなのかな?封印術の修行を勧めておく。サクラちゃんは先生の身長を聞き出そうとしている。「身長の縮尺から考えたら、私たちもあの1年トリオで丁度いいかも!」なんて言っている。サスケ君は「口寄せの術でも覚えるか」と言ってる。

私たちは学校が無い日、結構な確率で同じ演習場で遭遇して情報交換に励むのだ。

 

 それを祖父に教えると、祖父は「楽しみだね~」と言っている。ナルト君たち7班が直近の中忍選抜試験に出ず、1年間に2度あるうちの2度目に出場するとなったら。これからどんな風に世界が変わっていくんだろうか。

 




三嶋アザミ 最終階級:上忍
8月15日生まれ
身長:154センチ(1年)→156センチ(2年)→157センチ(3年)→160センチ(卒業後)
体重: 50キロ→53キロ→55キロ→56キロ(卒業後)

女性忍者の体格としては小柄だが、その骨格は強靭でしなやか。
骨太で柔軟性が高い。柔らかな筋肉と関節の持ち主。
ヘタレ扱いだが、卒業後には何だかんだいって人材不足解消のため(第4次忍界大戦に備えて)ドサクサに紛れて上忍になるため学生としてはアレだが忍者としては優秀な方である。地理学と地学、歴史が好きな文系忍者。
人文地理学のプロフェッショナル。

・胸についてはサクラちゃん(A)よりはかなり大きく、テンテン(B)よりも大きく、いの(F)とヒナタ(H)よりは結構小さい。D~Eカップくらい。

・ライザちゃんばりの太もも


名前の由来:苗字 ・三嶋大社から
      名前 ・薊の花(マアザミ、キセルアザミ)から         


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6 中忍試験第1次終了!俺たちにもトーナメント!?

 結果として、私立工業高校とのスポーツ交流は大成功に終わった。民間学生と忍者学生との官民を超えた心温まる交流会として開かれたはずなのに、見学者は何故か他国の隠れ里の忍者が半分以上を占めていた。

 

 私立平和工業高等学校との交流は楽しかった。忍具制作科には様々な個性的な学生がいて、年齢もバラバラ。俺たちより少し年上の現役生もいれば、留年しても頑張っている障害を持つ学生もいるし、怪我で忍者を引退して忍具職人への道を選んだ人もいる。中には公立の民間人学校在学中に子供ができて休学後、この工業高校へ転校して職人を目指す若い夫婦もいた。その夫婦が連れている赤ちゃんは女子から人気者で、ヒナタも楽しそうに笑ってた。赤ちゃんを抱きあげるヒナタの姿・・・、なんか、良いなって思ったってばよ。それで明確になったのが、ヒナタとの将来について。まだ12歳の忍者学生だけど俺、そろそろ人生設計をしとかなきゃって思った。

 

 ネジ先輩たち2年生が交流したのは、国防部門職員を養成する『国立火の国高等専門学校』だ。その学校では普通の事務官/技官だけではなく忍具職人『忍具職人職』養成科、そして医師や看護師といった医療従事者『医療職』を5年間以上かけて養成している。卒業後には2年間の専攻科が希望者には開かれていて、国防部門で働くという覚悟が決まった民間人学生が在籍している。一般人の職員を育てているとはいっても、実際には護身術としての体術や簡単な忍具の取り扱い、忍術についての知識を学んでいる。また、民間人学校を出ても採用試験の受けて国防部門職員になる事ができる。しかし、そちらだと入ってからの研修期間が長いそうだ。

 

 3年生というと、俺たちよりもずっと外交的な仕事をしていたそうだ。公開講義、公開実技授業を国立アカデミー校舎内で行っていた。詳しくは知らないが俺たちと2年生のところに来たよりも上位の忍者が見学者だったらしい。

 

 

                   ☆★☆

 無事に3日間の『学校見学会』を終えた俺たち忍者学生たちはまた夏休みに戻ろうとしていた。だが中忍選抜試験のトーナメントを行っているとき、俺達忍者学生もまた交流試合を同時開催する事になった。警備任務に駆り出されずに済むと驚いたのは一瞬、フウレン先生からのお知らせがあるというので講堂でたまたま隣に座ったサクラちゃんが「なるほどね」と呟いた。何が何だか分からなかった。

 

「中忍選抜試験と同時開催として、全6校対抗の交流戦を行います!」

 

いつもは9月だけど今年だけは前倒しすると、先生は付け加えた。

よく解らないうちに2・3年生はエキサイトし、1年生は取り残された。大騒ぎの2・3年生に、アスマ先生とカカシ先生は苦笑いだ。

 

「出場者は男女1学年につき1人。つまり、1校6人だね。男女ペアになって、学年ごとのトーナメントを組ませてもらう。会場は広いから、1度に3学年分の試合が可能だよ。まず、そのためには校内トーナメントをしないといけない」

 

だから、参加者募集要項が書いたプロジェクターを用意したそうだ。

 

白いスクリーンに照らし出される、参加者募集要項。中間テストの結果が上位6人しか出場者決定トーナメントに出場できないらしい。俺はダメだった!!

 

「ナルト。俺がお前の分も戦ってきてやる」

 

「サスケェ・・・!」

 

サスケの輝く笑顔に、俺は無意識のうちに抱き着いていた。ヒナタが噴き出している。サクラちゃんといのは苦笑いだ。当のサスケは微妙に嬉しそうだけど。

 

 



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7 放課後トーナメント!~ヒナタの戦い~

男子たち、女子の戦いを見学する!の巻




NARUTOのくのいちって、何気に平均身長高くないですか?
あと、うちは一族の女性は男性よりもメンタルヘルス問題が軽そう。メンタル関係に関する遺伝子がY染色体に乗ってたりするんですかね。女性は遺伝子の『キャリア』扱いでどうですかね。サラダちゃんもイズミちゃんも女性で写輪眼持ちだから、血継限界の遺伝子は女性側からも受け継がれる?サラダちゃんの片方のX染色体はサスケ君の母ミコトさん由来ですよね。





 上忍師である紅先生から優しく背中を押され、「怖いです」と言いながらもヒナタが扇城野風という子と戦う事になった。野風は双子姉妹の姉の方で、父親が任務で殉職したショックで姉妹ともども写輪眼を開眼したと聞いている。サスケが好きみたいだけど、サスケは彼女たち姉妹を普通にクラスメイトとして認識してる。いのは2年のサイ先輩とすっかり仲が良くて、同級生たちの試合の解説をキラキラした目で聞いている。それにアスマ先生とガイ先生は「青春ですねぇ」とニヤっとしながら言う。

 

 

オレたちがいるのは、学校の敷地内にある授業でも使う小さな演習場だ。四方をフェンスで囲ったテニスコートと同サイズの小さな演習場ではいつも、ストレッチやら体術といった授業がクラス分けをして実施されている。男子はオレは出場できなくて、サスケとアマツが戦って、アマツが勝った。アマツに負けたサスケは悔しそうではあったが、「俺もまだまだ修行が足りないな」と爽やかな顔だった。それにアマツが腹を立てていたけど、サスケは「俺はお前以前にまず自分自身に勝たないといけないから、真剣勝負はその後だ」と言っていた。サスケって、本当にオトナだと思う。

 

 

                 ☆★☆

 試合が開始されると、ヒナタは野風との間合いを遠めに取った。一方、野風はヒナタと間合いを詰めるために接近を図った。のんびりした温厚な少女という印象のヒナタだが、伊達に日向一族の嫡子ではない。相手が妹のハナビではないからか、ヒナタの雰囲気はいつもよりもずっと研ぎ澄まされている。

 

 そして、野風の肩あたりに叩きこまれる一撃。それはチャクラの流れをネジ先輩のように停止させるとまでは至らなかったが、流れ自体はしびれたようになるだろうと思う。何故俺が知っているのかって?もちろん、毎日のように一緒に組手の修行をしているからだってばよ。まだヒナタとの組手に慣れていない時、一度思い切り柔拳を食らった事がある。その後、それを見ていたネジ先輩からも思い切りやられた。

 

「くッ!」

 

「逃がさないっ!」

 

ヒナタは一瞬にして柔拳の構えを崩すと、野風を回し蹴りで吹っ飛ばした。

 

「・・・ヒナタ様!?」

 

 確りと聞こえた「逃がさない」という言葉に、俺の後ろにいるネジ先輩が一瞬だが息を詰めたのが分かった。そうだ。ネジ先輩はまだヒナタの成長をよく知らない。どんな成長をしたのか、見ていない。

 

 ヒナタに蹴り飛ばされた野風も黙ってはいない。すかさずフェンス際で印を組み、ヒナタへとカマイタチのような風が飛んでいく。ヒナタへと向かっていった風遁はヒナタの整えられた髪を何束か切り裂くが、それに対して感情的な揺れを招こうとしていただろう野風は表情を変えた。

 

「何でッ、髪、切られたのに・・・!!」

 

「はぁぁっ!!!」

 

動揺する野風を気にする様子もなく、ヒナタは野風の間合いに飛び込んでいき、腹部に掌底を叩き込んだ。

野風は「降参します」と叫ぶように言った。

 

「か、勝ったぁ」

 

勝ったのに何故か戸惑ったような顔をしながら帰ってきたヒナタに、ネジ先輩は信じられないものを見るような目つきで見ている。

 

「ヒナタ様、髪が・・・」

 

動揺していたのはヒナタ自身ではなく、ネジ先輩の方だったらしい。意外だ。

 

「ネジ兄さん。これくらい何てことないですよ」

 

「・・・ですが」

 

紅先生が歩いてきて、もう試合が無いから学生会館の理容室に行って来たらどうかと提案した。

 

「日向さんは怪我をしていないようなので、私が彼女に付き添ってもいいですか?」

 

「あら、微風さん。お願いするわ」

 

ヒナタは微風と一緒に学生会館へと歩いて行った。もちろん、次に試合をするサクラちゃんといのに声をかける事を忘れずに。

 

 

 

 

「さーて、サクラ。私たちの番ね」

 

「そうね。いの。全力でいかせて貰うわ!」

 

学年きっての仲良しライバルと評判の二人が、演習場の真ん中で互いに見つめあっている。これで勝った方がヒナタと戦闘する。

 

 特別上忍である月光ハヤテ先生の号令とともに桜色の髪と銀色の髪が翻り、二人の戦いは幕を開けた。

 

 

 

                      ☆★☆

「まさか、引き分なんてネ」

 

カカシ先生が軽く笑いながら、バラバラに切れたサクラちゃんの髪をチェックしている。

 

「先生ってば、笑いごとじゃないんですよ!?」

 

「でも、良い戦いだったと俺は思う」

 

「そぉですか?」

 

笑い事じゃないとサクラちゃんは言うが、真剣な顔をしてどこが良かったのか褒めるサスケに対しては満更ではなさそうだ。

 

「ヒナタは以外と柔拳に縛られていなかったですよね」

 

サクラちゃんの一言に、カカシ先生が小さく頷いた。

 

「まぁヒナタはね、先生が良いんだろうね。あの日向一族の若夫婦の講師。あの二人はヒナタに柔拳以外の戦い方も教えてくれている。だから、出し惜しみをしても十分戦えるんだね。血継限界って狙われやすいだろう?」

 

「技の出し惜しみか・・・」

 

「どうしたんだ、サスケ」

 

「・・・俺は出し惜しみできていないし、最後の”うちは”としての自覚が無いと分かった」

 

深刻な顔をして、サスケがそう言いながらサクラちゃんに絆創膏を渡した。

 

「ありがとう、サスケ君。で、何か良い事でも思いついたの?」

 

「ああ。イメチェン、してみようかと思って」

 

「イメチェン!?」

 

 サスケの考えはこうだ。わざわざ自分から狙われに行くよりも、意表をついた忍者になった方が後々良い事がありそうだ、と。だから、その為には髪型や写輪眼を出すまでの戦闘スタイルを”うちは”と悟られないように出来たら良い、と。

 

「俺は最後のうちはの男。死に急ぐ真似はしたくない!」

 




アカデミーの女子学生は、全員が忍者にならなくても良い世の中だからこそ逆に覚悟が決まった強者で占められている。

扇城微風 (せんじょう そよかぜ)/扇城野風(せんじょう のかぜ) 
誕生日:9月26日 台風襲来の記念日
身長:163センチ 体重:45キロ
評価:C+(標準的な下忍(上位)/選抜試験受験者に求められるレベル)

 うちは一族の戦闘に向かない者から枝分かれした庶流一族、扇城に生まれた一卵性双生児の女の子。初等部時代から優等生だったが、春野サクラには勝てなかったことから彼女を強くライバル視している。一方身体能力も頭脳も高いハズなのだが、搦め手が好きな相手には勝利できていない。というより、相手の実力を計るのが苦手なので相手を過小評価しやすい。うちはサスケに嫁ぎ、うちは一族を再興させる事を夢にしている。が、サスケには全く相手にされていない(というより一切興味ナシ)。むしろ二人の事が好きな男子の方が多い。黒髪に色白な美人姉妹。


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8 俺たちの7月

ヒナタヤバイ


 第1部隊の交流戦出場者は1年生から扇城アマツ、鹿島ライカ。2年生は日向ネジ先輩、テンテン先輩。3年生からは諏訪先輩、八坂先輩。ちなみに1年生の補欠はサスケとヒナタ。ヒナタは補欠ということで、一生懸命に修行をしてきた。ヒナタは最近、八卦三十二掌・八卦空掌・柔歩双獅拳・八卦空壁掌・八卦双獅子崩拳という何やら漢字が難しい術を習得した。日向一族出身の若夫婦である、夫妻はどちらも医療忍者。医療忍者だから、同じく医療忍者を志すヒナタを劇的に成長させた。だからオレ的にはヒナタこそが1年生女子最強だと思うんだけど、鹿島ライカはヒナタの弱点が妹のハナビだと知っているからハナビに変化して動揺を狙い、勝利した。アザミが前に言っていた『卑劣のライカ』の意味が分かった。今、ヒナタは八卦掌・回天という日向一族の巻物で見つけた術を身に付けようと努力している。

 

 

 

 

                 ☆★☆

 オレたちの7月はとても忙しかった。6月半ばに波の国から帰ってきたと思ったら夏休みが始まって、オレは自来也先生がいないのでカカシ先生と三代目のじっちゃんについて修行と任務を頑張った。Dランク任務では別クラスであるアザミの班と一緒になったりして、かなり楽しかった。アザミがいるのは東部忍軍中学校だ。血継限界を発現していないから、普通校らしい。ヒナタたち、シマカルたちとも一緒に任務や合同演習をした。もちろんネジ先輩達とも。きつかったけど、楽しかった。カカシ先生じゃない先生たち――紅先生、アスマ先生、マイト・ガイ先生と、部隊長シャッフル任務もやった。これは紅先生のアイデアだったし、とても勉強になった。

 

6月最終週になると、カカシ先生も忙しくなったのでカカシ先生たち上忍師担当者じゃない人を部隊長にして任務に行った。

 

オレはこれまで直轄アカデミー初等部にいた時、学校の外にいる大人たちがとても怖かった。もちろん優しくて分け隔てなく接してくれる大人たちもいたけど、大部分は俺が『九尾の化身』『九尾そのもの』という認識が抜けていなかった。いくら火影のじっちゃん達が頑張ってくれても、大人たちは怖いままだった。学生忍者として任務に週1くらいで出ていたけれど、隊長はカカシ先生という俺に理解がある人。固定された『メンター』という役割で、カカシ先生は俺とサスケ、サクラちゃんを見守り色々な忍者としての知恵や経験を教えてくれる。そんなカカシ先生はオレに言ったのだ。

 

「ちょっとした独り立ちだよ」、と。

 

その言葉の意味がオレには分からなかったけど、任務についてのシフト表と”担当者”の名前がカカシ先生ではないという事実を見てようやく理解した。まだ差別とか迫害とか残っているかもしれないけど、オレはオレだけで何とかスリーマンセルの一員として頑張れると信じて貰えているのだろう。

 

すごく、嬉しかった。

 

 

 

 ドキドキしながらサクラちゃんとサスケと一緒に待ち合わせに行った時、オレはびっくりした。かつて俺に厳しい目を向け、いちいちカチンとくるような事を言ってきていた正直苦手なベテラン中忍から謝罪されたのだ。彼には同い年の息子がいて、息子さんは中央忍軍中学校に在籍している。放課後の忍軍属小学校用学童保育で一緒だった息子さんの方は俺と別に仲が悪いわけでも、良いわけでもなく、普通の衝突しないクラスメイトといった関係だった。

 

 彼は俺に「これまで君が”得体のしれない何か”を封印されている普通の少年だという認識がなく、九尾と同一視していたことを謝罪したい」と言った。学校を訪れていたフウレン先生は俺たちスリーマンセルが任務に行く寸前、「里の雰囲気が変わったよ」と教えてくれていた。あと、第4部隊でイルカ先生が担任するクラスにいるアザミも元気いっぱいだと。あまり会えなくても、友達が元気だと嬉しいってばよ!

 

 理由は知っている。里で流行している週刊少年誌で連載されている漫画で取り扱うテーマの幾つかは、『理不尽に立ち向かう』『自分の中に封じられた異物』『責任のありか』『得体のしれない”何か”』なのだ。学校関係なく、アカデミー内のPX(売店)には毎週のように漫画雑誌が並ぶ。その掲載されている漫画を読むため、最初は学生達のみならず教員や校内で働く用務員、調理師までもが列をなして週刊少年誌を求めた。今ではその事態をただ事ではないと里の教育部門が認識したのか、毎週月曜日になると本が欲しい人のためチェックをつける紙がそれぞれの学年やクラスの教室に回ってくるようになった。

 

 その週刊少年誌は最近、俺たちスリーマンセルのうち誰かが持ち回りで購入して回し読みしている。ある漫画についてサクラちゃんは「このカカシ先生みたいな銀髪のイケメン最強先生、結構好きね」と言う。サスケは「式神か・・・、俺も口寄せの術を身に付けたい」と言う。俺は「術も大事だけど、やっぱり最終的には物理で殴るのが良さそうだってばよ」と思った。カカシ先生は多忙なので、「俺、コミックス派だからネタバレ禁止!」と毎週のように釘をさすような事ばかり口にする。そして、カカシ先生は前よりも露骨にモテモテになった。まぁ、そうだろうな。自称”文学少女”のアザミも一度任務で一緒になったカカシ先生の事をガン見してるし、そういうことなんだろうな。アザミの男キャラを見る目線は捻じれてるし歪んでいる。

 

 

 2週間のうち、1度イルカ先生の部下として任務に行った。イルカ先生は他校の子たちとの交流が好きみたいで、アザミも一緒にその任務へと赴いた。アザミはイルカ先生に懐いている。学校でいじめられているみたいで、真面目に取り合ってくれる先生を尊敬してる。だから、その任務では諜報が得意なアザミは裏方で頑張っていた。

いつも優しいイルカ先生だけど、任務の都合で奉公人役である俺たちにパワハラ上司のフリをした時は迫力満点だった。先生的には思うところがあったみたいで、8月になったらみんなでバーベキューでもしようと申し出てくれた。イルカ先生と遊びに行くのはラーメン屋一楽以外では初めてで、すごい楽しみだったばよ!

 

 

                ☆★☆

 

 

 「マンガの力ってすげー!」と言いながら結構キラキラした5週間を過ごした俺にも、『6大忍者アカデミー交流戦』の『サポーター』としての出番が迫ってきている。相変わらずヒナタは大技の習得に余念が無いし、サスケはオレに千鳥と螺旋丸のぶつけ合いを挑んでくる。サクラちゃんはチャクラメスでの戦闘方法アイデアをマンガから探そうとしていて、それはオレも同じ。マンガって、一応火の国内でしか流通してないヤツがいっぱいあって、そこからアイデアを貰うのもアリだと思う。

 アザミは、夏休みに行われるらしい同じ趣味の人たちが集まる”夏祭り”に向けて何やら準備している。日々眠そうなアザミは「寝不足のせいで存在しない記憶が見える」と言いながら『ネタ帳』を手放さない。早く作業終わらせて寝ろよ!!

っていうか、何の祭り何だろうか。アザミは秘密だって言ってたけど、気になる。

どうやら里内のどこかが貸し切り会場らしいけど、何やるんだろう。

 

 

 

 

 7月最後の土曜日、俺たちは里の市街にある大人数が収まる講堂にいた。1年生全1080人と教師陣がまるまる収まるように設計された講堂の名前は『火の国 木ノ葉国防記念文化会館』。こうして忍者アカデミーの合同行事にだけではなく、申請を出せば民間学校や民間人も使用できる多目的ホールの集合体である。中には大ホール/小ホール、会議室、講義室、和室、リハーサル室、展示室、図書館、そして1ブロック離れて体育館がある。組織が再編された時、記念して建造された。立地しているのは公立と私立の民間人学校、国立附属一貫校がある文教地区といわれるエリア。地価が高いとか、家賃が高いとか、カフェのコーヒー一杯の値段が高いとかいう、ハイソな界隈。

 

 

「1年生のみんな!交流戦の日付をずらした意図に気づいている人もいるだろうが、僕、火の国国防省・教育部門顧問の三嶋フウレン特別上忍から説明しよう」

 

男性忍者としては小柄な、忍者とは思えない雰囲気の壮年の特別上忍の声はよく通る。

 

「明日から中忍試験本戦の受験者とその関係者、大名たちがどんどんこの隠れ里に入ってくる。つまり、警戒レベルを上から2番目にまで引き上げる。試験の前日までね。当日になったら最高レベルになるから、今日はまず当日の装備について話そう!」

 

 服装は夏の常装に加え、常装で出来る最大限の武装。学生忍者からすれば支給されている常装用ポーチとホルスターの中でも、最大容量の収納が可能なものを用意すればいいということ。普段は滅多に使わないそれらの出番という事で、入れる忍具のウエイトと量について考え直さないといけなくなった。

 

装備について一通り先生は話し終えると、一度背中を向けて水を飲んだ。そしてまた話し始めた。

 

「これは本戦がこの里で行われるにあたり、里内に確実に入ってきているスパイ達を分散させるために同じ日に交流戦を行うんだ。確実に何かが起こる事は確かだ。指揮命令は学生忍者用1号!学校に教員として所属する上忍を指揮官とし、里の治安を乱す者と戦闘する可能性が高い。心してかかるようにね!!」

 

 

「「「ハイ!!!」」」

 

「良い返事だね!」

 

 

こうして、俺たちの7月は終わった。

 

 

 

 



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9 ちょっとした外交任務①

サスケ君は国と里のメンタルケア制度によって精神的に修復され、例えるならカルナさんみたいな感じの青年に成長していっています。クールで天然タイプに。イタチ兄さんへの想いは憎しみが徐々に抜けて行って純粋な悲しみへと昇華され、まだ十代前半なのにおじいちゃんと化した。イタチ兄さんに似た表情を見せるようになった。

New! 新キャラ
諏訪(すわ)タツミ 『諏訪の若龍』
黒髪、黒い瞳
175センチ 65キロ RH-O型
15(3年生)
・血継限界である氷遁の術を扱う一族に双子の次男坊として生まれ、双子の兄:ミナキは神職になるため神道系の私立全寮制民間人学校で学んでいる。諏訪家は本家の人間はもれなく神職に、分家でも長男長女は神職になるが、一卵性双生児として生まれた場合だけは本家の生まれでも忍者になる習わし。妹3人のうち1人は里内にある私立女子校の寮生として学んで忍者を志し、残り2人の妹は本職巫女になるため長兄と同じ学校の附属女子校に在籍している。
・諏訪軍団と呼ばれる、30以上もの分家を率いている。鹿島一族はライバル。
・秘伝技は血継限界の『氷遁・御神渡り』。白は別に親戚ではない。
戦闘力ランク:Aマイナス(学年1位、学校1位、全体でも有数の戦闘能力)
性格:温厚、正義感が強い、熱血、優しい
趣味:神話の研究、修行、映画鑑賞 好物:うなぎ料理
戦闘スタイル:氷遁(水遁+風遁)の術、体術(忍者刀)


守矢凪(もりや なぎ)
黒髪、黒の瞳
173センチ 63キロ
15歳
・高度な土遁を扱う火の国・諏訪一族の配下忍者軍団『諏訪軍団』のナンバーツーを占める家系、『守矢』の本家次男坊。長子である3つ上の兄:晶(しょう)が神職を継いでいる。
性格:クール、正義感が強い、不器用
趣味:修行、読書 好物:うなぎ料理
戦闘スタイル:土遁、水遁、忍具

八坂あずみ(やさか あずみ)
焦げ茶の髪、翡翠色の瞳
158センチ 45キロ
15→17歳
・代々、諏訪家か守矢家あるいは諏訪軍団が守る神社に巫女として奉職する事が決まっていた女系一族の出身。母親が掟を破って離婚再婚した事から、母の最初の夫である実父がいる木ノ葉隠れに来て私立忍軍属女子校のに入学した。
・声が非常にかわいらしい。まるで砂糖菓子のような、甘ったるい声の持ち主。そこから誤解されるが、実際は体術と忍具を得意とするかなりの武闘派。
・霊感がある?


扇城アマツ(せんじょう あまつ)
黒髪、黒い瞳(写輪眼を開眼済み)
175センチ 68キロ(13歳にして同学年の男子で一番の長身)
13歳
・アカデミーに入ってから頭角を現し、サスケを上回る急成長を見せた少年。
・元は温厚で素直な男の子だったが、注目を受けるようになり内面に秘めていた『認められたい』という承認欲求が強く表れるように。自撮りにハマっている。
・里抜けしそうなヤツNO1とか陰で囁かれていそう。大蛇丸にマークされている。
・あずみ先輩が怖くてたまらない



 三嶋フウレン先生が少人数の学生だけを集めて依頼してきた『ちょっとした外交任務』。それはなんと、中忍試験本戦のためにこの国にやってきた、他国の参加者たちをもてなす事だった。俺たち学生は夏の常装に大きめのポーチとホルスターを装備し、外交用のビジネス笑顔を浮かべ、ここ木ノ葉隠れの里から5キロほど離れた場所にあるスタジアムの近くにある温泉街の高級旅館の説明を聞いている。

 

 フウレン先生はスパイとかハニートラップだとか、外交だとか、そういった事に詳しい。今は内勤の特別上忍だけど、かつての忍界対戦では『血晶のフウレン』と呼ばれて恐れられた紛う事なき『英雄』である。でも、どう見ても戦闘向きのタイプには見えない人だ。三代目のじっちゃんはフウレン先生に全幅の信頼を置いている。火影の代理ではないけど、教育だとか試験といった部分の采配をフウレン先生が掌握している。だから、学校関連の集会ではじっちゃんではなくフウレン先生が出てくる。

 

「やぁやぁ学生のみんな!作戦名『ちょっとした』のブリーフィングに集まってくれて本当にありがとう!!」

 

 ”元”『血晶のフウレン』はその整った顔に甘く温厚な笑顔を浮かべ、広いホワイトボードの前にある教壇に立っている。忍界対戦の資料を読む機会があったんだけど、フウレン先生の活躍は凄まじいものだった。アマチュア歴史研究者という面もあるからか、戦国時代についての戦闘について熟知している先生は体術も相当な使い手だと知った。三島一族は土遁の発展形『晶遁』を持つ旧家だ。危険地帯で生き残り、忍界大戦では防衛戦で活躍した山岳ゲリラ戦のプロ。山中または樹上で奇襲や急襲を仕掛け、あっという間に制圧してしまう事で有名だったらしい。フウレン先生は謙遜しているが、かなりの使い手。とても温厚な人で絶対に声を荒げない。その瞬身の術は『天狗』と表現される程の腕前。

戦忍としての名声もあるが、先生の真価は参謀にある。

 

誰の首を落とせば良いのか、一瞬にして判断を下せる人。

 

味方を守り勝利を齎すためならば、完全に割り切って相手を”殺せる”人。

 

『仕事人』だと、孫娘のアザミは言っていた。

 

 

「ナルト君、大丈夫かい?体調が悪そうだけど無理しなくて良いよ。概要をアザミちゃんに届けて貰うからね」

 

「あ、大丈夫っス!!」

 

「なら良かった!」

 

 

 

 この任務の参加者は全員、いわゆる名門旧家出身者で編成される。オレは火影を出した波風一族の血を引いているのもあるが、それは理由じゃない。オレが人柱力だからだ。本戦への出場者に、砂隠れの我愛羅というヤツがいるらしい。だから外交上、顔を見せにいくべきだと火影のじっちゃんが提案したのだ。

 一緒に参加することになったヒナタは日向一族である以上、ネジ先輩と共に外交には慣れている。山中家の跡取り娘であるいのも、奈良シカマルも、秋道チョウジも、犬塚キバだって、オレよりも実は里外との外交経験がある。意外だが、蟲を操れる一族の油女シノだって家系の事情で蜜蜂といった益虫にも詳しいから彼らにコンサルタント業務を頼む農家がいる都合で里外と交流がある。扇やうちわでトップシェアを誇る扇城一族に関しては多分、今日呼ばれた名門旧家の人間の中では一番外交経験が多いだろう。そんな中、人柱力であるオレと実は扇城に守られる箱入り息子状態だったサスケは恥ずかしながら里外と交流した経験が浅い。箱入り娘のアザミも。

 

「・・・里外か。任務で最低限の交流を行う以外は意外と関りが薄いな」

 

「そーだな」

 

「・・・私だって交流無いよ。三代目様が言うには私は箱入り娘らしいから」

 

「そっかぁ」

 

「俺と一緒だな」

 

 オレたち男子2人と、『有力氏族の交差点』で生き抜いてきた三嶋一族の『生粋の箱入り娘』であるアザミはこれまで任務での最低限の交流以外の外交を行ってこなかった。アカデミーでも国際関係の内容を含んだ授業が存在するけど、俺たちはペーパーテストの成績だけは良かった。実践経験が無いだけで。

 

 

 

「このちょっとした外交任務ではみんなに、里の外、ある湖の傍にある『火の国ロイヤルレイクホテル』で国外出身忍者や同じ国内の有力者と交流してきて貰いたい。おやつ持って行って良いよ!フロントの待合室で貰えるだろうけどね!!」

 

学生である俺たちをリラックスさせるためか、フウレン先生は楽しいジョークを忘れない。おやつについての言及に、チョウジとその分家の親戚である女子が二人喝采を送った。

 

「湖の傍には演習場があって、まぁ、知っている子もいるだろうけど火の国国防職員の保養地として使われているホテルなんだ。だから監視体制もバッチリ。五影会談(サミット)だって、やろうと思えば可能な場所なんだよ。この中忍選抜試験本戦に当たり、セキュリティ面の関係で本戦参加者と関係者をロイヤルレイクホテルに集めた。そこには大名も高いセキュリティを求めて宿泊する。本戦当日に何か裏で企まれていると良くないからね!君たち名門旧家の子達には細かく宿泊者の様子を観察してきて欲しい。細かい違和感でも何でも教えて欲しいな。それが、このちょっとした外交任務の内容さ!」

 

                   ☆★☆

 

 

 この任務で注目されるのは『うちは』の生き残りであるサスケではなく、最早サスケよりも目立っている星宮アマツである。前にフウレン先生から配られた成績データにエラーだかミスがあったらしく、星宮アマツが学年一位の成績だった事が判明したのだ。そして、オレは悲しい事に『中の下』に引き下げられてしまった!それを何処からか知った者はサスケではなくアマツを『うちは一族再興のキーパーソン』だと持ち上げ始め、アマツもそれを喜んでいる直轄アカデミーに入学するまでは、サスケとアマツは仲のいい親戚同士だった筈なのに。アマツは変わった。

 

 アマツはサスケよりも成績が良くなって、戦うと強いしいつも勝利する。でも自分が傷つくのを厭わない戦い方に見えて、オレにはアマツがたまに苦しそうに見える。アマツはやっぱり家族と関係が良くなかったみたいだけど、アマツがアカデミー首席になってからというもの、扇城家のお母さんや親せきが『うちは一族復興の象徴』として扱うようになった。だから、アマツから見たらどんな称賛も薄っぺらなものに聞こえるんだろうなと思った。だって、態度や言動を見れば分かる。入学してからというもの、アマツはサスケに対して冷たい。サスケがアマツをほめても、アマツはそれを突っぱねる。いつも誰よりも努力して結果を出しているから、昔初等部時代に仲良しだったアザミやミサキに対して「血継限界が発現しないとは努力が足りない」「甘えている」「結果を出せ」と言うようになった。血継限界は遺伝だから発現するとは限らない。そのせいで二人は完全に目が死んでいる。遺伝や生物に関してはアザミと

ミサキの方が圧倒的に頭が良いから、血継限界に関しては鼻で笑っているけど。アザミとミサキは二人に出来る最善の努力をしている。修行時間を延ばすため、まだ中等部1年生なのに高等部卒業程度試験(忍者用)受験を検討している。スタミナやチャクラ不足を補うため知識力を伸ばし、自然現象を理解しようとしているんだ。

 やっかいなのが、ソレを根拠にイジメをしているヤツらの存在。長い物には巻かれろと言わんばかりに、アザミとミサキを昔からよく思わないヤツらが『いじめていい相手』と認定したのだ。だから今、二人は地獄の中にいるんと思う。よく怪我をしているから、相当ひどいと思う。しかしアザミもミサキも保護者が忍者教育部門上層部委員とトップだから、下手に動けないらしい。

 

 

 

 話は戻るけど。アマツはサスケにツンケンした態度を取るようになった。何が何だか分からない(オレたちも)サスケは悲しそうだけど、負けないで強気に出ている。

 

 

 

「よぉ、サスケ」

 

「ああ、アマツか。しばらく話していなかったな」

 

強気に話し、ツンツンしているアマツはサスケからモテキングの座まで奪い去っていった。が、サスケは何にも気に留めていない。だって、サクラちゃんという理解者が傍にいるから。そんな事、サスケにとっては何でもないのだ!

 

「お前どうしたんだ?腑抜けちまってさ」

 

「そうか?俺は俺がする事を自分で考え、自分なりに実行して日々を過ごしているだけだが」

 

「・・・本当にイタチさんの弟かよ」

 

流石に、イタチさんの話を出してくるとサスケの雰囲気も変わる。でもサスケは一瞬眉を動かしただけ。

アマツはカタログスペックというヤツはサスケより高いとされているのに、サスケといざ戦うと2勝6敗2引分の結果に終わっている。それがアマツを苛つかせる要因なんだろう。けど、任務の依頼者たちはスペックの高いアマツを求めてる。

 

「星宮。これ以上はやめろ」

 

 そう声を掛け、瞬身の術で割り込んできたのは3年生の諏訪「タツミ先輩だった。諏訪タツミ先輩は守矢凪(ナギ)先輩、紅一点の八坂あずみ先輩のスリーマンセルの一員だ。諏訪先輩は火の国でも有名な神社の神職の家系に次男として生まれ、双子の兄が現在は水の龍神を祭る神社の後継者を目指して修行中だと初対面の日に自己紹介された。龍神を祀るだけあって水遁の使い手でもあり、星宮一族の他に”交流戦の見どころ”とされる張本人。それに諏訪先輩の所属するスリーマンセルは全員が戦闘能力としてはAマイナスという、学生としては異次元の強さ。

 

「諏訪・・・、タツミ、先輩」

 

「星宮くん」

 

八坂あずみ先輩から砂糖が蕩けるような甘い声をかけられると、サスケにケンカを売っていたアマツも静かになった。

 

「任務、出発しようね」

 

「ハ、ハイ・・・」

 

 

 



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10 ちょっとした外交任務②

タケミカヅチがあるなら、タケミナカタも

米空軍って、レクリエーションやホスピタリティ、サービス部門の業種があるらしいですよ。

・ホテルは洞爺湖サミットが開かれたホテルをモデルにしています。
・普段は基本的に高級志向だが、今回のように若者が多い時などは頼めばジンギスカンとかタン塩、砂肝も出してくれる。

我愛羅は多分、ナルトとサスケがあまりにも話しかけてくるので対応していたら「悪くないな」という気持ちがジワジワ芽生えたから大人しくしています。
(中忍試験1次試験の前、あんなに馬鹿にしてやったのにコイツらは何故)
 めっちゃ話しかけてきてうるさいし、暴れるなと言われているので動けない。
 ○○してやりてぇ~(ソワソワ)。それにしても料理が美味しい。なんだこれ
               ↓
 うっかり「この砂肝とタン塩がうまい」とかつい口走ってしまう
               ↓
 ナルトとサスケは当然、大喜びで更に皿を持ってくる 
               ↓
 中学生のノリに一瞬目ざめそうになるし、ネーチャンは奈良シカマルと意気投合
               ↓
 ニーチャンもハンバーグに夢中だし、密命を持つバキ先生は挙動不審だし・・・
               ↓
 ・・・今は楽しもう、そうしよう。どうせ木ノ葉を崩すんだし・・・、うん。


 大きく青く輝く湖のほとりに立っているのは、今日の目的地である『火の国ロイヤルレイクホテル』という巨大な宿泊施設だ。国防部門の保養地とは思えないほど牧歌的なそのホテル周辺には大きなスタジアムもあって、本戦参加者も修行できるようになっていた。豪奢で開放感あふれるガラス張りのロビーに入ると一斉に本戦出場者たちの視線がこちらに向いたが、これ位でビビるような俺たち木ノ葉の学生忍者じゃない。いつ戦闘になっても良いような服装の者もいれば、ラフな格好で首にタオルを巻く者もいる。そして、ロビーにはシャンデリアが吊るされていて、置いてあるソファもきっと物凄く

高いやつ。アンコ先生はまだ座るなと言っている。

 

 オレたち(あのネジ先輩ですら)がキョロキョロ見渡していると、タキシード姿の温厚そうな男性が学生一行に近づいてきた。引率のアンコ先生がそれに気づくと、先生は丁寧に会釈をした。また、男性はそれ以上に丁寧な動作でまた会釈を返した。

 

「直轄忍者アカデミーの皆さん、『火の国ロイヤルレイクホテル』にお越しいただきありがとうございます。私はこのホテルの支配人、三嶋ウリュウでございます。階級は特別上忍、所属は基地業務隊総務科ホスピタリティ部。本日の交流会を最大限にお手伝いいたします!!」

 

フウレン先生と同じ姓、よく似た声、笑顔。彼はまさしく。

 

「・・・ウリュウおじさんだ」

 

同級生で友人、アザミの親戚。というよりも仲良しの叔父さんだった。

 

 

 

 

 

 

 ロビーのフロントデスクでは、木ノ葉隠れのバッジを付けた情報系と機械系の技官たちが電子機器を修理している。三嶋ウリュウ支配人――本人が今はそう呼んで欲しいと言っているが言うには、参加者と関係者がチェックインし始めてから電子機器の調子がどうも悪くて現在は里から待機していた技官を呼んでアナログで対応してもらっているらしい。

 

 アザミはアザミで伝令任務を仰せ付かったらしく、実の叔父でもあり上司でもあるウリュウ支配人に何かを手渡していた。諏訪先輩と守矢先輩もまた、交流会15分前には戻ると言って二人で連れだって何処かに行ってしまった。

 

 ホテルの内部はとても忙しない。出立前に宿泊者名簿と宿泊している場所について出来る限り覚えてきたが、行き交う従業員の皆さんの姿を見ているだけでそれらがぶっ飛んでしまいそうになる。サスケは穏やかな顔で夏の風が吹き抜ける湖をガラス越しに眺めているし、シカマルはホテルが用意してくれた休憩室にロビーに置いてある文庫本を持って行ってしまった。いのとアザミ、ヒナタの仲良し女子3人はホテルがプレゼントしてくれたミニスイーツを選んでいる。チョウジとキバも加わりたそうにしている。赤丸はある犬好きの大名夫人に撫でてもらって嬉しそうだ。

 

もちろん、フウレン先生が言っていた任務は忘れていない。

 

”平和すぎて甘やかされ弱体化した木ノ葉の学生忍者”という雰囲気を演出しつつも、ロビーを歩き回って観察を続けている。もちろん、それはオレも同じだ。

 

「サスケェ」

 

湖面を見渡していたサスケは相変わらず穏やかな表情のまま振り向くと

 

「どうしたんだよナルトォ」

 

「スイーツ食べに行かねぇ?」

 

「甘いものは得意じゃないが、俺は『甘さ控えめビター系オレオパフェ』が良いな。美味しそうだ」

 

平和な中にも、不穏な雰囲気が複数ある。これは直感ではなく確かに感じる気配。

 

超絶優秀なハズの当人は何故か気にしている様子が無いが、星宮アマツと彼を窘めるアンコ先生をじっと眺めている黒い長髪で不気味な印象の男が一人。何だか蛇を連想させる。言いようのない不気味さを持っている人だった。一体誰なんだろうか?イヤな感じがする。オレはサスケにトイレへ行ってくると言ってから外に出て、ホテルの近くの木に止まっている伝令鳥を呼んで書簡を持たせた。

 

                   ☆★☆

 先ほどまでの不穏さが嘘だったように、地下にある大宴会場で行われる交流会はとても和やかだった。俺は砂隠れの3兄弟と話をしていたが、途中からシカマルも交えて不思議と打ち解けてきてしまった。我愛羅というヤツは末っ子で、俺たち1年生と同い年。シカマルは2つ上のテマリさん相手に対等に話しているから凄いと思う。

 

 サスケと我愛羅が楽しそうに話し込んでいるし、我愛羅の兄カンクロウさんはハンバーグを食べて「うまい!」としか言わなくなってしまったので、俺は常駐しているシェフに塩バターコーンラーメンを作ってもらう事にした。そうしていると、俺は赤い髪をした草隠れの少女が仲間から詰め寄られているのを発見した。

 

「オイ、やめろってばよ!!」

 

少女は消え入るように「・・・ありがとう」と言い、にじむ涙を吹いた。そうしていると俺の声を聞きつけたヒナタがやってきて、少女を庇うように立った。ヒナタは昔、気が弱くて心では何かをしたいと思っていても体がちゃんと動いてくれないと言っていた。でも、今のヒナタは強い。

 

「お前、木ノ葉の”学生忍者”ってヤツか?」

 

「甘やかされてるって聞いたが、どんなモンか見せてみろよ!!」

 

草隠れのスリーマンセルの紅一点、香燐(カリン)。名簿に書いてあった。

俺は思い出した。挑発的な男子2人と怯える女子1人。女子の腕や脚には噛み跡が沢山・・・。そういう事、だよなぁ。

 

俺、こういうの何となく知ってる。自来也師匠の本にあった、女の子に「すけべを強要するド変態野郎」だってばよ!絶対に許せない。きっと香燐はずっと、この変態野郎共にすけべを強要されてきたんだ!!

 

「くっそー、許せねぇ!警務隊!警務隊!!」

 

俺は大人の対応が出来る(自称)から、暴力に訴え出ずに然るべき対応をしてくれる法執行官たる警務隊員を呼んだ。ここにいる警務隊員は中忍か特別上忍で、中でも上位中忍レベルか上忍候補になれる強さの人たちばかりだって支配人が言ってた。だから大丈夫だと思う。

 

「どうされましたか?」

 

瞬身でやってきたのは黒髪に眼鏡で色白、スラりと細身な男性警務隊員だった。

 

「こ、コイツら、この子にスケベを強要してたんだってばよ!!許せねぇッ!!」

 

「・・・そうですか。火の国の倫理に反します。捕縛準備!」

 

名札に『警務隊ロイヤルレイク分屯地 応援班 横田マサヨシ中忍』と書いてある彼が腕を上げると、追加で2人の隊員が同じく瞬身で姿を現した。どちらも筋肉質かつ長身で、横田中忍とはタイプが全然違う二人だ。

 

草隠れの男子2人は二人の隊員に気絶させられ、ホテル敷地内の分屯地へと消えた。

 

「君は・・・、うずまきナルト学生か。ありがとう。私も彼らを一応マークしていたのですが、まさかこんなパーティー会場で馬脚を現すとは思いませんでした。ご協力感謝いたします。本官はこれで」

 

 爽やかに、横田中忍は涙を流す香燐さんを連れてバックヤードの方へと歩いて行った。カッコいい隊員さんだったってばよ。

 

「・・・かっこいいなぁ。あっ!ナ、ナルト君が一番かっこいいから、ね?」

 

「いやいや、ヒナタ。男からしても横田中忍は超かっこいいと思うぜ。憧れるなぁ」

 

オレもヒナタも、揃ってかっこいい警務隊員を思い出してぼおっとしていた。一方、サスケもまた遠くから茫然とこちらを見ていた。サスケからしたら、亡くなったお父さんや親族が就いていた仕事だから気になるんだろうな。

 

「香燐さん、助かるといいね」

 

「ほんとだな。さ、ラーメン貰ってあっちに帰ろ!」

 

「うん、帰ろ!」

 

 

 草隠れの里について、パーティーに参加している情報通と評判の人たちがヒソヒソ話している。仲間であるハズの異性のチームメイトへの性的虐待を見抜けず、担当上忍も知っているだろうに止めようとしない、マジ最悪だな!と、そういった内容の事を悲しそうに話している。俺は国外には波の国以外に出た事が無いけど、再不斬さんも言っていた通り計り知れない酷い事をしている里がまだあるんだろう。

 

内政干渉だとか言われるかもしれないけど、人柱力で疎まれる立場いるはずのオレが火影になれば他国の不条理を少しは正せるのかな?

 

他国の人でも、画期的で偉大な人がいたら影響を受けるかもしれないだろ?

 

 

 

 




香燐は手足こそ噛まれているけど、深い意味では無事です。


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11 ちょっとした外交任務③

早く新学期編に行きたいのですが、中忍選抜試験本戦/木ノ葉崩し/6大忍者アカデミー交流戦の三正面作戦が待っています。

砂の三姉弟→木ノ葉崩しに参加する意思がグラついてくる。
      我愛羅のメンタルがナルト達の力によって物凄く安定してくるが、それが原因で波乱が起こるかもしれない。

バキ先生→部下たちと同じく

木ノ葉情報部隊→里への道中での風影暗殺計画については既に突き止めている。 
        阻止作戦を開始。緊急展開部隊を里外に展開済、状況開始。

雪白→守矢一族の三男坊としての籍を手に入れる。堂々と太陽の下を歩くように。
   守矢琥珀、通称:珀(ハク)となる。”白”に玉へんがつき、自分をもっと尊くて大切なものだと思えるように。自分をもっと好きになれるようになっていく。


 勢いがあって声が大きいだけのオレと違って、お嬢様育ちのアザミと名家の生まれであるサスケは流石、初対面の有力者たちと上手くやっている。シャイなヒナタは白眼だし知名度が高いので、初めて一対一で話す有力者、たしか竹取一族の当主と楽し気に話している。

 

 

 

「漫画を、読ませてくれるのか・・・?”この”、俺に?」

 

 最近流行している”鬼を巡って兄妹や仲間、友情、家族の絆が試される”『刃を振りかざして鬼を滅する王道少年漫画』と、”正しい死を探して謎多き少年が身の内にある存在と向き合いながら”『呪術を廻(めぐ)って戦う少年漫画』”、そして”訳アリ少年がデビルハンターとなって戦う”『電動鋸の悪魔とか出てくる入り組んだ少年漫画』。

 

「もちろんだってばよ。ソレ、禁輸品だから国外に持ち出せないからな!」

 

「そ、そうなのか・・・。それより俺が恐ろしくないのか?」

 

「どこがだ?同い年だし、立場似てるし、こんなに共通点があるヤツと会ったのは初めてだ。よろしくな!」

 

 オレはそれぞれを自室の本棚から1巻だけを持ってきて、鞄に忍ばせておいたのだった。出立前に気になったから急遽質問したがフウレン先生も大丈夫だよと言っていたので、本当に持ってきて良かった。我愛羅はどうして木ノ葉隠れの、火の国の人間が人柱力である俺に対して割と優しいのか本当に気になっているようだった。今のところマンガや小説は今のところ他国への『禁輸品』。少年少女が人ではない存在と真正面から向き合い、自分の立ち位置だとか生き方だとか、時には自分自身のルーツだとか。そういったものを積極的に知りたくて奔走し、傷つけられたり、自分から傷ついたり。自分で世の中の最大限の幸福のために死を選んだりする。傷つけたくなくて、嫌でも拒否しても傷づけてしまったりもする。最強な先生だって封印される事があるし、かつての友人が中身だけ別人になってたりするかもしれない。俺が生きる忍者の世界は何でも起こるから、亡くなられた初代様や二代目様が生き返ってきたりして。流石にそれはありえないかな。でも、何でも備えておかないと。

 

 我愛羅は担当上忍(バキ先生というらしい)が止めようとするが、嬉しそうな顔で手始めに『鬼を滅する王道少年漫画』のページを捲りはじめた。俺はバキ先生に『呪術を廻って戦う少年漫画』を手渡してみた。サスケはそれを「俺のオススメNO1です」と言い、ストーリーの概要を説明しはじめた。

 

「ん?我愛羅それまさか・・・、噂で知られる『週刊 全力飛翔少年』連載中の単行本か!?」

 

「テマリさん!?」

 

「ちょっとな、噂でしか聞いた事がなかったけど。本当にあったんだな禁輸品の漫画本が・・・」

 

金髪を4つ結びにした綺麗な我愛羅のお姉さん、テマリさんがサスケと俺の間に割り込んできた。

 

「テマリさん。あとコレしかないけど、読みますか?」

 

「良いのか!?じゃあ、ちょっと読ませてもらうよ」

 

クールで美人だけど、ちょっと怖いお姉さんという印象だったテマリさんって。

実は可愛い感じのところもあったんだな。初対面が怖すぎて、オレは心から驚いている。

 

ちなみにカンクロウさんはずっとハンバーグを食べまくっている。どんだけ気に入ったんだろう?

 

「砂隠れのテマリさん・・・、か。俺の母ちゃんみたいな人だな」

 

「シカマル・・・」

 

 

 

                ☆★☆

 長くかかった交流会も終わり、オレは休憩室でサスケと話していた。途中バックヤードの方で何かバタバタしていたのが気になっていたのだが、従業員の皆さん達が色々忙しくて大変だったのだとばかり思っていたが理由は全く違っていた。扇城アマツとアンコ先生が、何者かによって呪印を付けられて倒れていたのだった。諏訪先輩が木ノ葉まで伝令鳥を飛ばしたらしく、里からカカシ先生とガイ先生がやってきて二人をおぶって大急ぎで帰っていった。オレたち学生は里まで普通に帰るように命令を受けたが、守矢先輩だけは湖の南岸にある実家へと大至急向かうよう言われ、憔悴した顔で水面を走っていってしまった。諏訪先輩も同じような表情でいたが、切り替えるように両頬を自分で叩くと「さぁ帰ろう」と言った。

 

 

 隊列を組んで里に帰る途中、3人の上忍とすれ違った。顔を知っているから分かる。深刻な表情をしていたので、やっぱり、フウレン先生の危惧は間違っていないんだと思った。何が起こるのか、起こってしまったのか、まだまだ下っ端であるオレたちには分からない。というより、まだ下っ端が知る段階ではないのだと思う。

 

8月の夕方は何故か切なくて。太陽が落ちるのすら待って欲しいと思ってしまう。

7時なのに高い夏の太陽。中忍選抜試験の本戦が終われば夏休みが待っている。

 

 

ただ、その夏休みが穏やかなものであって欲しい。

 

 

オレは結構動物的なカンが鋭い。何だか、説明がつかない寂しさを感じているのだ。

 

 

 

『守矢(モリヤ)の意思、白(ハク)の選択』

 元霧隠れの暗部として追い忍の任務に就いてた15歳の少年、白(ハク)は戸惑っていた。波の国で木ノ葉隠れの里からやってきた『学生忍者部隊 第1学生部隊』と出会ってから、少年の運命は予想していたのとは全く違う方向へと転がっていった。これまで忍者としての常識として知っていた木ノ葉隠れの体制とはすっかり異なった制度になっていて、教育制度が従来とは全く違っていた。情報部隊も一時解体のちに再編され、白が気付く前にガトーの評判だとかおかしさを突き止めていた。その結果、白は波の国で遺体も残らないような状態で再不斬と共に殺されたことにされ、木ノ葉隠れへと移った。

 しかし、移ってから幾つか問題が浮上した。白が白という人間のままではおそらく、雪一族の血継限界を狙うものから一生付け狙われるかもしれない。死んだはずの人間という事で生き方に制限が出てくるかもしれない。木ノ葉は忠誠心の高い捕虜を外人部隊として雇い、契約社員のような扱いにして受け入れている。白は白という名前も過去も捨て、自分の命と未来を救った里に報いる暗部として生きるのかとばかり思ていた。だが、それは違っていた。まだ15歳ということ、情状酌量の余地があるということ、精神的に安定しているということ。これらを考慮され、仲良くなったナルト達と同様に『学生忍者』として人生を『やり直す』事を提案された。だが、白は雪一族の最後の生き残り。血継限界は守るべきものだというのが木ノ葉隠れの考え方だった。そこで紹介されたのが、雪一族と同様に『氷遁』を扱う諏訪軍団という神職と忍者を事実上兼業する家系だった。諏訪軍団には30以上もの配下一族が属しており、里と国に忠誠を誓う一大戦力。

 

 『諏訪軍団』の惣領である『諏訪家』。祭祀を司る大祝(おおほうり)と、忍者を輩出する忍者家の二家が二重に存在するという特殊な形態を取る。『タケミナカタ』という神を祖先にするとされている、恐ろしく長い歴史を持った家系だ。その諏訪家の相棒と言っても良い立ち位置にある『洩矢神』の末裔としている『守矢家』。守矢家の当主が直接白(ハク)と話したいと三代目火影に連絡してきたのは、国立アカデミーに転入するための集中講義と手続きを終了した午後の事だった。守矢一族の当主には3人息子がいるが、うち1名はずっと屋敷で教育を受けていて何をしているか不明。そういわれていた。

 

 守矢一族当主、守矢謡(ヨウ)は国立アカデミーの学生である次男・凪(ナギ)を護衛につけて白を天龍湖の南岸『上天龍(かみてんりゅう)』にある屋敷へと招いた。そして、白にこう言った。

 

「私の末子、琥珀(コハク)が雪白くんとよく似た顔立ちで同い年だ。琥珀は小児ガンの治療を長く続けてきたが・・・。親としてこんな事を言いたくはないが、もう数日しか時間が残されていない。だからどうか、あの子の人生を受け継いでいってくれないか?君の存在を知った琥珀本人からのお願いだ。私は君を息子として全力で守るし、君の家族になりたい」

 

 当主とその夫人から届く揺るぎない視線に貫かれ、白は亡き母を思い出した。父はどんな人だったのだろう。それは分からないが、これから分かるような気がした。琥珀の状態が急変したのは白が里に到着したころ、旅立っていったのは日付が変わる数秒前だった。

 

 そうして、雪白は”守矢家の秘蔵っ子”守矢琥珀として堂々と第1中等忍術専門学校の3年生に転入したのだった。新たに両親と兄二人を得て、氷遁使いの守矢琥珀――雪白は真夏の太陽の下を歩く。

 

 

 

 脆弱な免疫のせいで出来なかったこと。太陽の下、向日葵畑で散歩すること。

 

「ほら、琥珀くん。向日葵畑が見えていますか・・・?」

 

透明な夏の光は肌を刺すようだが、それがまた生きている証のようで。

白は一人、積乱雲が覆う泣きたくなるほど青い夏空を祈るような気持ちで仰ぐのだった。

 




次の回は部隊編成で、翌々回は中忍試験本戦/トーナメントです



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12 開幕! 学校対抗交流戦!!

編成を考えていたのですが、里や国の規模について考えだすと止まらず、こうした結果になりました事を読んでくださる方々にお詫びいたします。そしてウィキと向き合いましたが、上手く編成が組めなかったので相当簡単なものになってしまいました。

変更点:中忍昇任制度を選抜試験に

あと、やっぱり中忍試験に参加しないと他国から物凄く反感がありそうなので設定を書き換えていきます。時間ができ次第、以前書いた分を修正していきます。
以後に書く分はこのページの設定でいきます。



*原作の忍者登録番号から推定したのが1年間に200人以上の新人下忍を出していたころもあったと掲載しているサイトさんがあったので、そちらを参考にします。
*里が出来たのを、原作1話でだいたい60年くらい前とします。

・忍者登録番号の考察をしている方がいないかとネットサーフィンしていたところ、戦争中は250人くらいは1年に新人忍者を出していた時もあったのではないかと考察している方を発見。すると、210人×60年で12500でナルト達の番号と近い感じになる。
でもカカシ先生は1/3(33%)が下忍認定試験合格率だという。
昔は卒業した250人の全員を忍者にしていたけど、平和な時代だから少数精鋭にこだわって低い合格率に方針転換をした?アカデミー卒業生の全員が忍者登録番号を得ないと説明がつかなくなってしまう。でも人手不足と言ってたから、本当に12500人の忍者が里にいれば人手不足じゃないかもしれない。戦死者も沢山いただろうし。海外の掲示板だと年間最低540人は新人がいないと戦力が維持できないと言っている人もいました。戦時にはおそらく2倍は育てないといけないとも。
忍連合軍は全員で8万人。80000÷5大国プラス侍で、単純に割ると1勢力13000人強。戦争といっても里内での業務を回さないといけないから、どう考えても一番目か二番目に人数が多そうな木ノ葉から13000人以上は戦力を出さないと数が合わなくなってしまう。
1年間に250人を新人として送り出してきた時代があるとして、それでも年齢的な問題や怪我、結婚出産などで年間250人以上は確実に引退してしまう。一体何人の新人を下忍にすればいいんですか?1000人くらい!?
そんな事をしたら、校舎がクソデカアカデミーになってしまう。
1学年がそんなに多いと、米陸軍士官学校みたいな規模になってしまいそうです。


→中忍試験のあたりを読み返してみると、『死の森』は半径10キロと凄まじく大きい。つまり直径20キロかつ、周辺にゲートや木の生えていない場所があるばかでかい領域が里の領域中に存在している事になる。しかも名前は第44番演習場。ということは、死の森とまではいかなくても比較的大きな演習場が点在している事になる。
里市街は市街で囲ってあるだけで、もっと広域な地域圏が存在していてもいいのではないか?海外の人で人口を『推定8万人』と言っている人がいたので、市域だけで8万人という事にしてみます。
そして、アニナルでは五大国の隠れ里に入っていない忍者一族がいくつも出てきたので、そういった隠れ里の人たちを何か理由をつけて徴用・訓練すれば治安維持も可能で軍事力も増強できる。かもしれない。
また、忍者の業務を見ていても民営化できそうなジャンルがいくつかある。民間人っぽい看護師も病院のシーンで出てきましたし。

民間人との交流が沢山書きたい


木ノ葉忍者軍団 30000人の現役忍者と5000人の即応予備人員で構成される
    第1~4旅団
     里を中心に見て(東1/西2/南3/北4旅団)に対し、戦闘スタイルと属性、任務が行われる地域(地形・気候)との相性から選抜され、配属される先が選ばれる。

緊急展開部隊
    特殊作戦部隊

    学生忍者部隊 

平時は4個旅団/緊急展開部隊/特殊作戦部隊/学生忍者部隊で日々の業務を回しているが、有事の際には『戦時編成』へと移行する。戦時編成は平時と違い、予備人員を動員し里内業務を行わせ戦地に行ける隊員を編入して臨時編成される。

職種:戦闘部隊 ・忍者(歩兵) ・特殊部隊
   後方部隊 ・兵站 ・通信暗号情報 ・整備 ・警務隊(MP)
   医療部隊 ・医療忍者、・看護(衛生隊員)

忍者の地位【特別職の国家公務員、火の国/国防省の職員】
忍軍属(事務官/技官/教官)の地位【火の国/国防省の職員】

火の国
総人口500万人強(ノルウェー王国と同規模)
人口と人口に占める子供の割合:約950,000 19%(米国と同じくらい。顔岩があるので)
人口における忍者(軍人)の人数:30000

   
軍隊:木ノ葉忍者軍団(通称:木ノ葉忍軍) 
現役人員:30000人
   
   
*軍事力増強の経緯
 第3次忍界大戦終結後、木ノ葉隠れを九尾の妖狐という未曽有の惨事が襲った。そこで里長は大名と会議をし、これからは外側からの脅威がしばらく薄れるだろう代わりに「内側からの脅威を抑え込む抑止力」を備えるべきだと議決された。妖狐襲来事件以来、木ノ葉隠れの里に協力してこなかった火の国内にある忍者一族がこぞって里への戦力提供を申し出た。教育システムが国全体と一緒に改革され、火の国は一大教育立国となった。経済体制も見直され、働く場所が増えた。働き先の一環とし、忍軍には民間人のため事務官・技官という新たな職業が追加された。事務官と技官以外にも忍軍雇用員という働き方が増え、忍具や装束、兵糧丸、備品を生産する軍需企業も国営企業として設立された。よりレベルの高い忍者を効率的に育てるための教育システムが完成し、それまで正式な忍者教育を受けてこなかった人たちに教育を施すようになった事で採用人数を増やすことに成功した。

また軍事力の拡大に伴い、塀に囲まれた隠れ里の外にも広域な田舎町が広がるようになった

木ノ葉隠れの里(火の国の一大軍事拠点)
人口100000人 
人口の約30%、30000人を忍者が占めている

・忍連合軍80000÷6勢力=単純に割ると1勢力13000強
・木ノ葉は人口も軍事力も雷の国と同様上位なので、第4次忍界大戦参戦者だけで15000人以上いてもおかしくなさそう。他の里は人口が少なそう。
忍界大戦中、イルカ先生のように里に残っている忍者は当たり前だけど存在しているはずなので。3/4を前線に回したという事にしてきます(適当)


1年に最大1740人、最小990人を下忍として送り出す教育システム
引退・定年者を考慮しつつ軍事力を増強し、13000人以上の忍者を第4次忍界大戦に参戦するにはこれ位の人数を思い切って設定するべきだと判断しました。





 オレが生まれ育ったのは忍五大国の一国、木ノ葉隠れ。木ノ葉隠れは他国と同じように第3次忍界大戦に参加し、沢山の人たちを失った。オレの通う忍者アカデミー教官でメンター、はたけカカシ上忍もまたチームメイト二人を亡くした。もしもオレが同じ様な目に遭ったとしたら、一体どうなってしまうんだろう?想像がつかない。その上、オレが生まれた日は【九尾の妖狐襲来事件】と教科書に掲載される大事件が起こった。その事件で里は沢山の忍者も民間人も失い、オレの両親も九喇嘛をオレのヘソに封印して命を落とした。恩師であるイルカ先生もご両親を亡くしたし、そんなわけだからオレに対する憎しみを持ち続けている里人がいるのは当たり前。

 

 オレと同期たちが生まれた翌年、血継限界の家系出身である三嶋フウレン特別上忍という人が教育制度を整備した。木ノ葉は忍界大戦が終結してすぐ九尾の事件があって、それはもう大量の人材が失われた。そこで三嶋フウレン”先生”はまず、1年間に450人という大人数を下忍にしようと決めた。

すると国の方も抑止力という軍事力増強に関心を持ち、『木ノ葉忍軍忍者学校(アカデミー)群』の設立が決定した。その後、訳合って他の里から逃げてきた人たちやオレと同じ”うずまき”一族出身者たちを受け入れて木ノ葉隠れに受け入れるために成人向けの教育隊が結成される事となった。それによって里は戦時中の促成教育を行わないにも関わらず、新しい教育システムとの相乗効果によって年間最大750人の下忍を送り出す事が可能になった。

 

 

 フウレン先生はいわゆる教育訓練分野の顧問(トップ)。忍界大戦時代には多くの時間をアカデミーの教壇に立って優秀な下忍を沢山育て、それでも雲隠れといった物量に勝る大国との争いで教え子を亡くして、そして自らも戦略レベルの戦闘能力を持つ指揮官クラスの忍者として前線に立っていた人。里外や国境地帯から身寄りのない子供たちを集めてこれば人口回復と同時に、才能のスカウトが出来ると見たのだ。

戦国時代、三嶋一族は晶遁という土遁からなる血継限界・晶遁を持ちながらも、まず生き残るために狙われるリスクを排除しようと出来る限り晶遁抜きで戦い抜いた知恵を教育にも生かしている。それが、かつては戦場で自らの目で見て覚える事を知識として教えられる事は全部教えてしまう事。マニュアル化を徹底したんだ。 

 三嶋一族が嫌うのは『目で盗め』という言葉。仕事と戦場から自分の感情を一切排除し、『割り切る』ことを家訓としている。目の前にあるのは忠誠と仕事のみ。だから忍軍組織の指揮系統に対するこだわりは非常に強い。

 

 

 

                 ☆★☆

 オレが所属しているのは、全寮制で1学年180人にもなる新人下忍を集めて訓練する『木ノ葉忍軍忍者アカデミー群』の一校。火影直轄の忍者アカデミーだ。ここは少し特殊で、里が指定する血継限界や秘伝、少ししか生き残っていない一族の末裔を優先的に入学させて保護している。いち早く自分で自分を守れるだけの戦闘能力が身に付けられるように。そして、警護がしやすいように。

 

 

 

 オレたちが現在いるのは、中忍選抜試験本戦の雑踏があるだろうスタジアムとは真逆の方向にある。1500人を収容できる【第二スタジアム】。色々とあって、カカシ先生やガイ先生、紅先生といった主要な上忍はあちらの警備へと割り振られている。その代わりではないが、アスマ先生とヤマト先生がこの場の指揮を任せられていて、上忍ではないが高い戦闘力を持つと評価される特別上忍や中忍の先生方が控えている。多分、暗部もいるだろう。

 学生1080人に対して、観客はまずヒナタの爺ちゃんである長老さん、付き人さんを含めた日向一族の皆さん総勢10人くらい。扇城一族のCEOと奥さん、猪鹿蝶トリオの一族から来た保護者。でもキバの母ちゃんと姉ちゃん、チョウジの父ちゃんは中忍選抜試験の会場警備。ちょっと寂しそうなヤツもいるけど、やっぱり俺たちは全員が中忍になっても大丈夫な教育を受ける学生だから割り切れているんだと思う。

 

 

 

 

 里内に同じ目的に向かって走る学生を育てる学校が複数あるとしたら、ライバル関係が必然的に生まれる。オレたち『火影直轄アカデミー』、忍軍管轄である第2~第6訓練部隊たる東西南北中央の名を持つ忍軍中学。直轄アカデミーには血継限界、秘伝のオンパレード。対し、東西南北中央の5校は『特別な存在』じゃないと思い込まれてる。実際は跡継ぎじゃなかったばかりに秘伝技を持たない秘伝家系出身者もいるし、物凄く努力家な学生も沢山いる。全員がそうなんだけど多数派であるみんなは秘伝とか血継限界とか、特別なものを持たないから直轄校より何倍も努力をするんだと中央忍軍学校に行った同級生が言ってた。

だから、本当は第1部隊よりもずっと里人たちから尊敬されている。

 

 

 

 

 

 オレたちが現在いるのは、中忍選抜試験本戦の雑踏があるだろうスタジアムとは真逆の方向にある。3000人を収容できるらしい【第二スタジアム】。色々とあって、カカシ先生やガイ先生、紅先生といった主要な上忍はあちらの警備へと割り振られている。その代わりではないが、アスマ先生がこの場の指揮を任せられていて、上忍ではないが高い戦闘力を持つと評価される特別上忍や中忍の先生方が控えている。多分、暗部もいるだろう。

 

オレは出場者じゃないけど、出場者をサポートする係についた。指名手配犯から呪印を入れられたアマツは出場できなくなってしまったので、補欠だったサスケが代わりに繰り上がって選手になった。

 

 

 

もうすぐ試合が始まる。オレたち出場者とサポート係は全員でスタジアムの出場者入り口に並び、呼ばれるのを待っている。緊張を抑え込もうと一人深呼吸しようとしていると、オレの肩をそっと叩く手があった。

 

「・・・アマツは大丈夫だろうか」

 

「カカシ先生と自来也師匠がいるから大丈夫なんじゃねーの?」

 

 この試合で一番期待されていたのは、大名たちから「うちはサスケを超える天才」と言われて期待を受ける星宮アマツだ。アマツは初等部時代、サスケとは顔立ちが似ているのもあってまるで兄弟のように仲が良かった。うちはの血を引きながらうちはではない血の繋がった庶流一族の親戚であるアマツは昔から優秀で、初等部で一緒だったころからサスケといいライバル関係にあったように見えたけど。

しかしアマツは外交任務の途中、いつの間にか呪印を首筋に入れられた状態でアンコ先生と共に倒れていた。里はこれを重く見て、アマツの出場を取りやめさせた。

 優秀だけど努力家で驕らず、優しいヤツだったアマツ。俺は当初アマツが変わってしまったと思っていたけど、そうじゃなくて本来の自分が出てくるようになっただけなんじゃないかと思う時がある。アマツはアカデミーに入るまで実はサスケに遠慮していたみたいだった。そして、成績表を見ては不満な顔をしていたから。

 

 

(ナルト、思案しているようだが気を引き締めていけ。学校行事の事は口出ししない約束だったが・・・)

 

「ありがと、九喇嘛。どうしたんだってばよ?」

 

 学校生活関連には絶対口を出さないと約束している九喇嘛の声は何故か不安げだ。九喇嘛は尾獣だけあってとんでもなく強いけど、思うところがあるのか珍しく内側から話しかけてきた。

 

「九喇嘛とは誰だ?」

 

「サスケ!?」

 

少しだけ伸びた襟足を掻き揚げながら、サスケが俺をのぞき込んできた。

好奇心に満ちた目をしていて戸惑っていると、九喇嘛は(コイツなら大丈夫だな)と言った。

 

 

 

 サスケは思った以上に九喇嘛の事を簡単に受容し、「よろしく」と言いながら何故か俺に握手を求めてきた。サスケってこんなヤツだっけか?いや、出会った時からこんなヤツだったか。意外と天然な面があるというか、『割り切る』という事が上手いヤツだとは思っていた。

 

 名門旧家の令息と令嬢ばかりが通う名門校、火影直轄忍者アカデミー。そこには迫害や白い目で見られてしまう氏族出身者の子供たちが差別なく、平和な学校生活を送っていた。あの事件までは、純血のうちはの子弟も普通に通っていたようだった。自分たちを迫害したり偏見の目で見てこない、数少ない学校だから、と。星宮アマツの母親が生まれたという扇城は忍界大戦が終わるまでうちはから気にも留められない家として扱われてきたが、戦後に教育制度が改革されてから最初の変化を迎えた。民間人ながら戦火に巻き込まれて命を落とした者に対してショックを受けた一族の構成員が突然、写輪眼を開眼したのだ。それにより一族は子弟を忍者教育機関に送り込むと決めた。次の変化はあの、うちは一族事件。それによりうちはの血を引く者は混血のイズミさんと、純血のサスケを除いていなくなってしまった。残りは里抜けして行方知れずの兄、イタチさんのみ。オレはサスケの父親であるフガクさんと、お母さんのミコトさんと、兄であるイタチさんの事は出会う前から知っていた。サスケの両親はオレの両親と仲が良かったらしいから、タイミングが合わなくてサスケと会う機会が無かっただけであの一家の事が好きだった。イタチさんは暗部にいたから、オレをこっそり監視していたことがあった。ご両親を知っているから気配というか、雰囲気で何となく”いる”と思ったのだ。噂の『上の子』『うちのお兄ちゃん』が。

でもある日、俺は九尾の妖狐こと九喇嘛の事件で家族を失った人たちから暴力行為を受けてしまった。その時、イタチさんは必至な顔をして俺に手当てをしてくれた。本当は明かしてはいけないのにお面を取り、俺を安心させようとして名前まで教えてくれてしまった。だから、よく知っている人だ。でもイタチさんは処罰を受けたような雰囲気ではなかったから、水晶玉でオレを監視していたじっちゃんが許してくれたんだと思う。

 

 

 あの事件のあと、サスケはうちはの混血庶流である扇城一族が経営する扇城屋のCEO兼当主であるおっちゃんに里子として引き取られた。同時に里と国が提供するPTSD治療プログラムを受けた上、おっちゃん支出による療養や里外で評判のカウンセラーによる療法も受けた。家族と一族を失ったサスケは同じ血を引く扇城一族を好ましく思っているように見えるし、実際、CEOを結構慕ってる。サスケは元からうちはを差別しない直轄校に通っていたけど、事件のあともCEOによる生活のを受けて通い首席卒業している。

 サスケに出会ったのは、初等部・男子部の入学式の朝だった。何故だか互いに興味を強く持ち、話してみたいと思った。そこから星宮アマツとも知り合い、ちょいちょいと色々な一族の知り合いが増えた。俺とサスケは速攻で意気投合し、直轄アカデミーの受験でも互いに教え合いながら仲良く過ごせた。その時になると、その時点で裏事情をバンバン教えてくれていたサスケはイタチさんについてもぼちぼち話してくれるようになった。あの事件があった時はやっぱりお兄さんを猛烈に殺してやりたいと思ったこと、怒りながらも冷静になると逆に悲しみが勝ってきたということ。そして、やっぱり”信じられない、信じたくない”という感情が今もあるということ。またイタチさんに会いたくて、会ったら本当の事を知りたいとも話してくれた。サスケと話していて思ったのは、サスケが上手く割り切っているという事だ。もしかしたら、今のサスケを見たイタチさんは逆に戸惑いそうだなって思うくらいに。

誰よりも怒りに対する対処が上手なのだ。

 

 

「ともかく。九喇嘛が言うにはここにいないアマツには気を付けろと言ってるんだな?」

 

「そうだってばよ(そうだ)」

 

現実をびっくりするほどサラリと受け入れて、サスケは頷いた。

誰かに知られたら怒られそうだけど、オレはうちは兄弟の再会を望んでしまう。

 

 

                 ☆★☆

 1年生の後期に中忍選抜試験を受験し、中忍になった飛びぬけて優秀なスリーマンセルがいる。現在3年生の諏訪タツミ・守矢凪・八坂あずみのスリーマンセルだ。里創設時に噂を聞きつけて入植してきた天龍湖地域出身の氏族集団で、中心である諏訪氏族とその分家・藤森と片倉の一部には血継限界である氷遁が継承されている。元々は天龍湖の外にいた家系らしいが、鹿島と香取に追い詰められて天龍湖に来たとか。でも天龍湖の土着氏族・守矢と安曇を配下にし、周囲の家も取り込んで武装中立体制の勢力『諏訪軍団』を作り上げた。鹿島と香取はそんな諏訪軍団の領地に何度も一方的に攻め入っては撃退されていたらしい。

 

 そして『うちはサスケを超える天才』と大名たちが持て囃す、他里や他国の人々が戦闘を見たがった天才、星宮アマツ。俺たちよりだいぶ背が高く、3年の先輩方に並ぶ175センチの長身でイケメン。頭は良いし、強いし、写輪眼はあるし、色々なものを持っている努力家。世の中はサスケよりアマツに注目している。

 

しかし、サスケの登場はかつてのうちはの高名な噂をこの目で見たいと望む大名からすれば願ってもない事。サスケ参戦のアナウンスは大名たちを沸かせた。

 

 

 

 スタジアムの真ん中で男女36人が向かい合う。上から降ってくるのは、大名や違う里の人、そして保護者たちからの視線。”九尾の人柱力”という立場である俺には憎しみ、サスケには羨望と哀れみ、シカマルに対しては期待。日向一族であるヒナタとネジ先輩に対する視線からは明らかに物珍しさが混じった興味深い感情が伝わってくる気がするし、諏訪先輩たちスリーマンセルに関しては多くの観客の視線が釘付け。

 

 まず1年生から試合が開始され、それぞれが打ち合わせ通りのフォーメーションに移行する。サスケと鹿島ライカは動きがうまくかみ合わないが、第3部隊が誇る一般家庭出身の二人はちゃんと隙を見ていた。次の試合は第2部隊vs第6部隊の1年生。サスケは写輪眼や火遁を多用せず、カカシ先生直伝の雷遁と大型手裏剣各種といった忍具で第3部隊の学生を軽くあしらっている。

 

 

かくして、中忍選抜試験と同日に学校交流戦が開幕したのだった。

 

 

                   ☆★☆

【はたけカカシの憂鬱】

 木ノ葉隠れの里の上忍、はたけカカシは火影直轄忍者アカデミーの教官という立場にある。同時にうずまきナルト・春野サクラ・うちはサスケの1年生スリーマンセルのメンターにして、うちはサスケの師匠である。カカシは白い牙という2つ名を持つ父がいたが、自殺によって戦時中に亡くしている。そこまでは「忍者の世界はこんなものか」という諦めが心を支配しつつあったが、突然里が本気を出してきた。伝説の三忍と同期生、教育職にある旧家・三嶋一族当主の三嶋フウレン特別上忍が三代目に提言し、メンタルケア特命チームを立ち上げたのだった。暗部も驚く秘密厳守の特命チームにカカシは救われた。愛するチームメイトであるオビトとリンを戦場で亡くした時も、師である4代目火影・波風ミナトを亡くした時も、カカシは救われていた。誰にも言わなくても良い、誰にもばらされない、公正な機関。長らく里に欠乏していたものだった。悲しみが完全に癒えないのは当たり前だし、仕方がない。自分は今実際に生きているのだから、歩んでいくしかないのだから、そのために未来の事を考えよう。そうカカシは決め、2年ほど前からアカデミーの教育に関わるようになった。中でも、うちはサスケについてカカシは多く関わってきた。

 

 今はちゃんとした忍軍医療部隊の部署となったメンタルケアチームの繋がりで、カカシはうちは一族事件で一人残されたサスケと関わるようになった。精神的に寄り添うだけではなく、サスケの要望で師匠として放課後や休暇が重なった時に鍛えてきた。これまでコピーした”うちは”の技を教え込み、サスケが復讐心をこじらせて間違いを犯さないよう、あえて”うちは”の誇りを保てるように育ててきたつもりだ。サスケは忍者学校初等部を卒業すると、全寮制で里内外の学生が集結する木ノ葉直轄忍者アカデミー第1部隊に入隊・入学した。忍術関連の総合成績トップかつ、学問成績2番手だからサスケが首席だった。ちなみに春野サクラは学問系で断トツトップ、師の遺した一人息子うずまきナルトは体術が一番上手だった。1学年につき6人の現役上忍または特別上忍がメンターとしてつき、メンター1人で30人くらいを担当する。『担任の先生』という立場だ。

教官としてだけではなく親以外の精神的に頼れる大人として、中忍選抜試験受験者の適格性を見極める審査員として、メンターは活動している。

 

 

 カカシが旧制アカデミーで旧制教育システムを受けていた当時、まだ世の中は戦時中だった。第3次忍界大戦では目にもとまらぬ速さで若者が死んでいった。まるで数合わせのようにどんどん力のない子供が卒業させられていき、現代からみたら無茶苦茶な飛び級は当たり前。ロクに実践的な技を教えられないまま前線に投入され、言いたくはないが無駄死にとしか言いようがない最期を迎えた子供もいた。中忍昇格もまた人数合わせに近い部分があり、指揮能力なんかより、どうにか戦場に出せる基準である中忍が欲しいだけだった。仲間を奪った長かった戦争が終わったと思えばカカシは師とその夫人を亡くし、既に両親がいなかったので独りぼっちになった。九尾の襲来によって里は忍者と民間人どちらの人口も大きく失ってしまった。その頃に、三嶋フウレン特別上忍が三代目に教育制度の改革を提言したのだ。それに対して組織編成に詳しい竹中ハルシゲ特別上忍と、医療忍者の息子を持つ民間人医師の南方ユウト氏が協調し、里の制度改革という一大ムーヴメントが到来した。結果、この里は現在100000人の人口と、うち30000人の忍者人口を誇る一大軍事都市へと成長を遂げた。

 当初、カカシは若者たちが過剰に甘やかされているのではないかと不安だった。戦時中には『目で盗め』『見て覚えろ』が当然だったというのに、今では『戦場での知恵』として簡単に教えられてしまう。自分でもっと考えさせるべきではないか?とカカシが指摘すれば、彼は「覚える前に死んじゃったら意味ないよね?」と言った。水上歩行訓練も、木登りや崖登りも、かつては先輩や師を見て覚えたもの。英才教育された者くらいしか幼少期から知らない。属性変化や血継限界に対する知識も、かつては先輩たちから教えられたり戦場で見て認識するものだったというのに。カカシが最初はどうかと思っていた最大のものは、うずまきナルトについての通達だった。ナルトの両親は四代目火影夫妻であり、九尾の人柱力であるという事実。それは里人に周知され、今はナルトに普通に接する人もいれば、憎しみを持った目で接してくる人も両方いて、破ってはいけないラインを守るので平和が保たれている。それでも、ナルトが小学校の時分までは露骨な差別があった。だが、今では同級生と元同級生が親にナルトの良さを普通に話すので相当差別迫害が減ったように見えるが。

 

 任務を行うにあたり、上忍はいつも同じ人間とチームメイトになるとは限らない。当然ながら新制教育制度を卒業してきた者とも一緒になる。はっきり言って、最初は結構バカにしていたのだが。彼らはカカシが思っていた以上に『使える』者ばかりだった。その上素直で、ちゃんと忠告を受け入れてくれる。礼儀正しいし、教養はあるし、何よりも意外とメンタルが強い。あまり心が強くないと自称する者でさえ、自分の心と向き合う方法を知っている。戦時中の書記や記録を授業で取り上げているのもあるだろう。

マンガや小説という心の支えとなる娯楽が恐ろしい速さで増加しているのもある。学生達と接していればカカシだって、それらに触れる機会が出来てきた。可愛い弟子であるサスケが奨めてきたのは、大人気週刊誌に連載している『呪術を廻(めぐ)って戦う少年漫画』である。サスケたち学生は毎週のように学内のPX(売店)で読めるから良いだろうが、カカシは上忍で多忙だった。

つまりはコミックス派。イチャイチャパラダイスの次くらいに楽しみに刊行を待っている。

でも、子供たちはカカシの反応が見たくてネタバレしたがるのだ。

それにカカシが術を使おうとする度に「領域展開!」とか言ってくる。

カカシは思った。13歳って、こんなガキだったか!?と。

いや、結構ガキだった。

戦時下で封じ込めていただけで、誰もが結構ガキだった。

今ではサクラが「ハロウィンが楽しみですね」「身長教えてくれません?」と言ってくるのも、ちょっとした楽しみになった。それでも、さすがにネタバレは許せない。

それが、今のカカシの心地よい憂鬱。

 

 

そして、胸が詰まるような憂鬱がもう一つ。

カカシの弟子、うちはサスケをライバル視する星宮アマツという少年に付けられた呪印について。彼の母親が生まれたと扇城一族が”うちは”から枝分かれした家系なのは周知の事実であるし、写輪眼と火遁の出現具合からしても真実だとすぐに分かる。サスケとアマツは忍者アカデミーに来るまでは同じ直轄アカデミーで学んでいた。その頃から仲が良かったことは報告書で読んで知っている。サスケは確かに才能を持っているとカカシは認識しているが、あの事件以来、優秀な兄を追いかけて強くなろうとして怪我をしたことがあった。その時にカカシはサスケと対面を果たして以来の師弟関係だ。カカシはまずサスケの回復を待ち、もっとマイペースに修行を進めろとアドバイスした。かといって甘い修行をしている訳ではない。順序だてているだから無茶苦茶に見えないだけで、やっている事は十分に高度。急成長させるより基礎をつくるべきだと判断したからだ。

 

 以来、懐かれている。カカシはサスケがすぐ中忍になれるくらいに強くしてやろうと決め、今では『千鳥』を習得させた。ただ日向ヒナタがそうしているように「出し惜しみも大事だ」と教えてやっただけで、外ではまだ披露していないだけだ。うずまきナルトの方も伝説の三忍である自来也氏と幼少期に師弟関係になっていたから、カカシは安心している。さらに春野サクラは忍軍附属小学校入学直前ににたまたま里に連れ戻されていた綱手様に自ら弟子入り志願をしに行く度胸があるのだから、里の将来は安泰だ。そんな可愛い教え子たちはともかく、心配なのは扇城アマツ。情緒不安定加減すぎて、初等部時代にチームメイトだった三嶋アザミと稗田ミサキが精神的に病んでしまうほど。二人には不眠の傾向があってハーブのサプリメントを摂取している。

 

 

 サスケのほか直轄校出身の子供たちに話を聞いた事柄を纏めてみれば、ああ見えて案外無邪気なところがあるサスケは気づかなかったようだが、アマツはサスケに遠慮していた部分があったようだった。しかしアマツは忍者アカデミーに入ったあたりから不安定になっていった。今では陰で「里抜けしそうなヤツNO1」とささやかれ、不安がられるほどに。そして、その不安は呪印という形でハッキリと形になった。アマツは里が自分を”うちは”として認めてくれず、それが嫌だと思っているようだった。カカシは呪印に対して出来る限りの事はやったが、その最中で情報部隊から『大蛇丸』という昔里抜けした要注意人物が浮上している事が判明した。元々、アマツが外で任務をするたびに「いつも長髪の変な人が見てくる」と言ってくるので調査をしていたがまさか。正体が本当に大蛇丸だとは。

 

 

中忍選抜試験本戦の会場であるこのスタジアムで出場者を見下ろしながら、カカシは苦虫を噛み潰したような顔をする三代目火影を見ていた。緊急展開部隊に死傷者続出、護衛対象をロスト。耳に付けた通信機は小型で高性能な物で外に音漏れは無いハズ。「え?」という声が聞こえてきて、カカシは部下やもっと年若い上忍たちに向けて「顔に出すなよ」と忠告してやった。

しかし会場にいる殆どの上忍と試験に関わる忍者たちは揃って同じような表情を浮かべた顔を見合わせていた。

 

「・・・来るぞ」

 

カカシの一言に、近くにいた味方の殆どが視線を向けてきた。

 

 



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13 顛末とその先と

鹿島ライカはツインテのメスガキ系です


 三代目火影、猿飛ヒルゼン殉職

    風影 羅砂 重体

 

このニュースは忍界を駆け巡り、その中心地である木ノ葉隠れは喪に服している。

 

相手からは『木ノ葉崩し』、そして忍軍から見て『木ノ葉崩し防衛線』。

 

 この作戦は中忍選抜試験の少し前に情報部隊によって察知され、怪しまれないよう試験は中止せず戦力を分断するため写輪眼の持ち主が出場する『交流戦』開催で妨害工作が進行されていた。この作戦以前より、かつて里を抜けた三代目火影の弟子の一人だった大蛇丸は暁の一員としてマークされていた。一人の優秀な二重スパイの活躍により作戦は看破されていたハズだったのだが。実際に阻止作戦を進行していくと、戦場の霧は思っていた以上に濃くて深かった。まだまだ改善するべき点が木ノ葉忍軍中央情報隊には沢山あったのだ。しかし音隠れと砂隠れの忍者による侵攻作戦の阻止は容易いものだった。一瞬にして戦時フォーメーションに切り替わり、けが人こそ出たが一般市民の死者と重体は出なかった。

 

 また、風影の暗殺阻止そのものは成功した。緊急展開部隊を里外のロイヤルレイクホテル周辺に展開し、暗殺を防いだが風影自身は重体で集中治療室に入っている。どうにか命の危機を脱したものの、急変する可能性が高いので予断ならない。

 

                ☆★☆

 

 忍者アカデミーを医療忍者訓練生として中等部を卒業し、既に『校医アシスタント』という職を持つ高等科の中忍として第1部隊で勤務していた先輩である薬師カブトが拘束されたが暗部隊員に怪我を負わせて里外に逃走。俺たち学生は誰もが驚愕を隠せなかった。元々里がマークしていたが、実力を隠していたカブト先輩は拘束するために用意されていた戦力を凌駕する力を発揮して逃げたという。オレたちからすれば、小学校時代にあった忍者アカデミーの見学会で案内してくれた親切なメガネの先輩なのだ。驚くしかない。普段ならばオレたち学生の間では裏切り者のニュースで持ち切りになるんだろうが、それよりも重苦しいニュースが俺たちには伸し掛かっている。

 

三代目火影、猿飛ヒルゼン――火影のじっちゃんが大蛇丸というヤツの両腕を封印して命を落とした。

 

初代と二代目火影を穢土転生で蘇らせた大蛇丸は自来也師匠の元チームメイトにして、伝説の三忍の一人。じっちゃんは火影二人と自分の弟子一人を相手取って戦ったのだ。じっちゃんがもう”いない”というのは悲しくて言葉にし切れないけど、こうやって悲しめるという事は俺は”生きている”という事だから。

 

オレたち学生は正装である学校の制服姿でじっちゃんの葬儀に参列後、実家が壊れてしまったといった理由があるヤツ以外はまっすぐ寮に帰る事になった。オレ・サスケ・サクラちゃんの3人はというと、病院に入院している我愛羅のところだ。アザミが行くという、怪我をしているフウレン先生のお見舞いも一緒にこなす。

 

 

 

 中忍選抜試験で観戦がてら呪印を刻まれたアマツを監視中だったカカシ先生だったが、突然始まった木ノ葉崩しに一瞬アマツを見失ってしまった。アカデミーに入ってから、まるで強くなる代償の如くどんどん精神状態が悪化していったアマツは何というか、いつも「認めて欲しい」と言っていた。もともとアマツは自分を認めてもらえるチャンスだと意気込んでいた交流戦に出場できなくなり、機嫌が悪かった。アマツはたまたま近くにいた大名の一人を守った事から戦闘に参加し、結果、我愛羅を暴走させた。

 我愛羅は何故かオレの名前を呼び、助けれくれと叫んでいた。カカシ先生の指示に従い、オレたちは我愛羅を追った。途中でシノとも合流し、アマツのチームメイトである鹿島ライカと宗像ミサキも参戦し、対峙したのは里の中でも緑が深いエリア。我愛羅のお姉さんであるテマリさんとお兄さん、カンクロウさんが涙ながらに「あの子を助けてくれ」と言っていた。二人とも大した怪我じゃなくて本当に良かったけど、怪我をしていた。我愛羅は噂通りとんでもなく強かったから、俺は九喇嘛に戦闘をナビゲーションしてもらった。サクラちゃんのパンチが攻撃に邪魔になる木々を薙ぎ払い、その間を縫ってサスケの千鳥が炸裂した。テマリさんたちもサポートしてくれた。怪我をすればミサキが手当てしてくれたし、ヒナタ、キバ、ライカをアタッカーにして、シノとシカマル、いのがサポートをして音隠れの忍者を相手していた。少し遅れて我愛羅を追ってきたアマツはというと、ライカが不意打ちで攻撃して仕留めそうになったんだけど。1年生の学年上位勢ぞろいでの戦闘を続け、我愛羅が微妙に落ち着く気配を見せた時。あろう事かアマツが起き上がった。

チームメイトである鹿島ライカと香取フツミは責任を感じたらしく、俺たちに我愛羅の対処を任せてアマツの相手をすると言い出した。しかし、アマツの戦闘力はおそらく1年生どころか学生の中でも規格外だ。呪印が暴走しはじめ、ソレがアマツの体を覆いはじめた時。サスケはそちらに気をとられかけた。

 

ご丁寧にアマツはサスケに「俺と戦え」と指名を飛ばしてきたので、親切なサスケはそれを受けてやった。そうこうしているうちに、色々頑張ったオレたちは我愛羅を止めた。砂と音による木ノ葉崩しもいつの間にか終わっていて、三代目火影・猿飛ヒルゼンの訃報が届いてきた。

 

 

 

 

オレは目の前が真っ暗になった。

 

 

 

                  ★

 我愛羅と病室で短い会話を交わし、拳を合わせ違う里の忍者の友達ができた。一人目は元霧隠れの白。どうやら我愛羅の父親である四代目風影、羅砂さんは状態がとても安定してきたらしい。一安心ということで俺と我愛羅は安堵のため息をもらし、テマリさんが売店で買ってきて病室に置いてあったチョコレートを一緒に食べた。これからの我愛羅の処遇はまだ分からない。でも、あの外交任務で我愛羅が見せてくれた笑顔を目撃して風影は何か考える事があったようだからそこまで悪くはないと信じたい。眠れないからとりあえず寝転がっているという我愛羅のベッドサイドには父親としての風影からの手紙があったから。それに、尾獣との関係も最初ほどは悪くないみたいだ。サスケは我愛羅と沢山話したがったが、看護師さんがそろそろ時間だと言うので軽く唇を尖らせつつもそれに従った。サクラちゃんは我愛羅に「どこか痛い場所とか違和感はない?」と優しく声をかけていた。面会時間が過ぎて病室から締め出されると、オレたちは病院を後にして、帰りが遅くなる申請を既に出してあるので安心して学校へと戻った。

 

 

 明日、五代目火影に誰が就任するかの通達がある。候補は伝説の三忍の一人でオレの師匠、エロせんに・・・、自来也師匠。もう一人はサクラちゃんの師匠であり、医療忍者候補生課程を統括するばっちゃ・・・、いや、綱手様。自来也師匠と出会った時、そのつながりでタイミングが色々とばっちり重なって知り合いになった。最後の一人は上忍の志村ダンゾウという人。三代目のじっちゃんの同期らしい。俺、その人の事を知ってる。じっちゃんが生きていた時、じっちゃんの家で夜に会話しているのを見た。俺に対し、学校はどうだとか成績はどうだとか。そういった事を聞いてきて、表面上は普通に良い人かなと思ったけど。俺の直感が何というか、あまり仲良くしたくないと思った。物悲しくてドロドロした雰囲気を感じる人だったってばよ。どうして俺が上忍の人たちしか知り得ぬことを知っているのかと言うと、噂話からだ。以前から任務を受けるため受付に行くと、たまに上忍や特別上忍の人たちが雑談しているからだ。

 

 

 

「お前たち、もう遅いから就寝しろ~」

 

談話室で3人ぼーっとしていると、すっかり元気そうなアザミとミサキの2人を連れたカカシ先生がやってきた。1年生でいうカカシ先生、アスマ先生、紅先生、アンコ先生、エビス先生、月光ハヤテ先生といった合計6人の上忍または特別上忍の先生方はメンターという立場にある。その下に30人の学生が1個小隊としている。任務の際、先生方は必要に応じてスリーマンセル(班)、分隊といった少人数に分けるなどして行き先を決める。

 

「三嶋さんはもう大丈夫なの?昨日ずいぶんと消耗してたけど」

 

「大丈夫。寝ればすぐ戻るから」

 

「貴方ってすごく燃費の良いチャクラなのね。そういうタイプの人もいて驚いたわ」

 

「三嶋一族とその系統はみんなそうだよ。三嶋はもちろん諏訪も、守矢も」

 

 女子同士で手を握り合い、ぶんぶん振っているサクラちゃんとアザミ。ヒナタとも同じ事してたな。アザミは幻術耐性が高く、カカシ先生が『幻術タイプ』と評するほど。けれどチャクラの性質が陽ではなく『陰』に偏って強いから、医療忍者には向いていないらしい。そんなアザミは稗田ミサキ、諏訪オカヤのチームメイトで普段から忍軍附属東部中学校の教育隊に所属して任務に当たっている。

 アザミたちのチャクラは陰の性質だから、精神とか想像力とか、そういう力がものをいう。オレたちからすれば大人びていて冷静沈着な、カカシ先生たち大人とも対等の会話ができるインテリトリオだけど東部忍軍中学校では異質な存在らしい。三人そろって虐められていて、普段から反射神経の訓練と称して民間人からボールをぶつけられたり、トラップを仕掛けられてボロボロになっている。3人は弓道部の所属だ。そこでも性格のヤベぇ女の先輩に『血継限界(笑)』と馬鹿にされ、精神的にボロボロ状態。オレもフウレン先生に相談し、フウレン先生も頑張ったんだけど。アザミたちの同級生は全員、アザミたち『第77班』の敵。先生たちにいい顔をするため、アザミたちを平気でスケープゴートにするヤバいヤツ揃い。まさに全員悪人!

 そんな地獄で過ごすアザミたちは精神力が鍛えられているし、1学期が終わる時点で『中等部卒業程度試験』に揃って合格するほど知識が多い。報告書を書くのがずば抜けて上手だし、精神状態がボロボロで得意苦手が激しい以外は幻術の素質タップリなスリーマンセルになっていた。

 普段いつも偉そうにいじめてくる民間人の同級生と先輩たちが『助けて』と訴えてくるのを見て、第77班は何を感じたんだろうか。三人が揃って血継限界をほぼ同時に発動した。ミサキの喉は音波攻撃と幻術に特化していて、『止まれ』と叫べば聞いた者は極短時間の幻術がかかって足止めされる。オカヤは氷と刃を放ち、水蒸気を凍らせて真夏なのに細氷(ダイヤモンドダスト)を会場にいる者たちに見せた。アザミは何故か晶遁ではなく、諏訪先輩と同じ氷遁を発動させた。オカヤは分かるけど、不思議だった。母方の曾祖母って人が、諏訪軍団で土遁を扱う守矢氏族出身だって聞いてたけど。そちらにも氷遁の遺伝子ってヤツが入ってたんだろうか?遺伝子は不思議が多い。隔世遺伝とか、血液型とか、知らないとトラブルが起こる時もあるっていうし。じゃあ、正体不明なアザミの父ちゃんは諏訪軍団の人なんだろうって思った。

 

 

 

 

 

「ミサキ君。貴方も明らかに疲れてるわよ。あまり寝てないんじゃない?」

 

「うん・・・、寝られてない。ありがとう春野さん」

 

 稗田ミサキは声を使って幻術を掛ける血継限界を持つ、3人兄弟の3男坊だ。兄ちゃんが2人いるんだけど、うち1人は3年生の稗田フタミ先輩。フタミ先輩はバリバリの武闘派、フタミ先輩より2つ上のカズキさんは更に更に武闘派。背が高くてイケメンで強くて、かっこいい先輩の一人だってばよ。武闘派な兄ちゃん達とは対照的に、ミサキは医療忍者養成課程にいるだけあって頭脳派。顔はよく似ているけど、中身は全然違う。そんなミサキたち稗田三兄弟は、技を不用意に出さないよう首に封印術式を刻んだおそろいの勾玉チョーカーを付けている。

 猿田氏族の稗田という家は、大昔から芸能とりわけ音楽にまつわる家業を守ってきた。しかし戦国時代末期に村が焼け、住んでいた集落がある山が初代火影様とうちはマダラの戦いによって地形を変えられて滅亡してしまった。以後、猿田氏族で丸ごと里に移住してきて芸能を司る神社を再興した。だから、初代様に関しては里に受け入れてくれた感謝と山を吹っ飛ばされた悲しみが半分半分くらいらしい。

 ミサキは中忍選抜試験の日、アザミたちと共にスタジアムでの作戦に参加していた。カカシ先生の指揮下に入り、覚醒したばかりの血継限界を最大限に活用して。稗田一族の作詞作曲チームが作曲した歌詞を使ってアザミとオカヤの戦闘支援を行っていた。声が枯れるまで戦い抜き、兄ちゃん達にのど飴をうがい薬を押し付けられてたな。忍軍医療部が処方したヤツだから、オーダーメイドじゃないけど効果が高かったらしい。手違いでエナジードリンクを3本飲まされて昨晩はヘロヘロだった。

 

 

「あの・・・、みんな。ばあ様がお菓子焼いたから食べて」

 

アザミが先ほどから持っていた袋から、三角形の包みを俺たちに渡してきた。

 

「・・・ありがと、アザミ。また明日な」

 

「うん」

 

「おやすみ、みんな」

 

「また明日」

 

アザミから手渡されたものは、俺とサクラちゃんには林檎パイ。甘いものが基本好きではないサスケにはキッシュだった。キッシュは甘くないパイの一種で、ほうれんそうとかベーコンが入っている。夜10時にもなるけど、お腹がすいていたので迷わず口に入れた。美味しかった。

サクラちゃんは「どうしよ、食欲に負けちゃう」と言いながらも完食。明日の午前中に終業式があり、午後から夏休みが開始される。

予定よりも半日早く俺たち学生忍者は夏季休暇を迎えることになった。

 

                     ☆★☆

 

『五代目火影の座には初代様の孫娘であり、医療忍術のスペシャリストである綱手様が就任される事に決定しました!拍手!!』

 

ワーイ、パチパチ! おめでとう綱手様!!俺ら学生の頭の中は空元気だ。

 

講義室内では張りのある大きな声で三嶋フウレン先生は俺たち学生に呼び掛けていたけど、先生は俺たちスリーマンセルを午後一番に執務室へと呼びだした。建物の外ではセミがミンミンミーンと能天気に鳴いている。うるせぇ、とか、これまでは思ってたけど。センチメンタルな気持ちになっている俺ににとっては、「あいつら頑張って生きてるんだな。生きてるって素晴らしいな」と思うようになった。

 

「彼女は今現在、里内にいない」

 

「ええー!?」

 

サクラちゃんを横目で見ると、俺たちの中では一番驚いている。

 

「だから、君たちに任務を依頼したい。綱手様の居場所は判明してる。短冊街だ」

 

「・・・どうして俺たちなんですか?」

 

「良い質問だね、サスケ君。まずナルト君の師匠は自来也君、サクラちゃんの師匠は綱手様だから、かな。ナルト君は久々に師匠に会いたいっていってたから良いかなって。それにサクラちゃんは彼女の弟子の一人だから、帰ってきてくれる交渉に乗ってくれやすいかなって。最後にサスケ君には、どうしても会って欲しい人たちがそこにいるから。びっくりすると思うよ?楽しみに待っててね!」

 

任務名:五代目火影・綱手姫の里帰還要請 任務ランク:C

任務先:短冊街

任務内容:綱手姫の五代目火影就任に伴う里帰還要請の書類を届ける、および帰還時の同行

     

参加者:カカシ小隊 第7班 うずまきナルト うちはサスケ 春野サクラ(医)

     指揮官 自来也

 

服装指定:一般学生の夏休みを思わせるもの

 

備考:任務以外の時間には修行のほか課題、観光を行ってもよい

   節度を持って行動すること!

 

 

 

                       ★★★

『星宮アマツの野望』

 

 かつて、戦国時代に千手と共に名を馳せた瞳術使いの忍一族”うちは”。俺、星宮アマツはそんな一族から『弱者』として切り捨てられた者が立ち上げた職人一族の血を引く女性から生まれた。戦国時代。それは強者のみが認められる時代だった。現在よりも女性の忍者が少なく、代わりに裏方として戦場にいく男たちを支えて分業してきた。人間には色々な得意苦手がある訳で、その点に関しては男女関係ないと俺は思っている。

 

 うちは一族には戦国時代から里創設期にかけ、マダラという歴代最強クラスの頭領がいた。マダラは初代火影である千手柱間とライバル関係にあり、様々な事情から一族内で信頼を失い、里を抜けた末に終末の谷で千手柱間に殺された。

その男にかつて、母方の扇城は見捨てられたのだ。

 

 扇城一族は今でこそ扇やうちわを生産する職人を束ねる世界的大企業だが、里が創設されて民間人が集まってくるまではうちは一族が用いる武器の整備や生産を担っていた。戦うと弱いのは先祖たちも承知した上で、それでも庇護してくれる本家に報いようと努力したのに。俺たちは本家に存在をちゃんと認めてもらいたかった!戦国時代だから、武器を整備するには戦場まで随行しなければいけない長期遠征も当然ある。そんな時だったのだ。うちはマダラを総大将とし、千手一族とその連合氏族と戦った時のこと。非戦闘員とはいえ、戦場に随行する扇城一族の人間は戦場にギリギリ出せる程度の修行を受けることが必須だった。戦場にいるから、攻撃される可能性がある。これを分かった上で、俺の曾祖父や高祖父たちは随行した。当然攻撃されてしまうワケで、動けなくなるような怪我をする事だって覚悟していた。当時の親族の誰かが怪我をして足手まといになってしまった事をきっかけに、扇城はうちは一族の中から居場所を無くした。その少しあとに二つの氏族は同盟を結び、初代火影である千手柱間が里を興した。扇城一族は色々あったけど他業種の職人集団とは仲良くしていたから、知らん顔をして里の職人として里に住み着いた。

これが、職人集団であり企業である『扇城一族』の成り立ちだ。 

 中でも忍者としての才能がマシな奴は写輪眼を開眼する可能性がそれなりにある事が判明し、戦場に随行していた。

 

 職人としての一派はその後、忍との兼業をしてきた。本家筋は今でもかなりの確率で写輪眼が出る。忍の才能自体は高い。うちは以下だが、精神的には落ち着いている。木ノ葉隠れからしたら、写輪眼持ちを最前線で運用できて万々歳。

一族の者が働く工場には古い『打倒マダラ』と書いた紙が貼ってある。多くの人たちはソレを会社が公表している『マ 真面目を馬鹿にすること』『ダ ダラダラすること』『ラ 楽ばかり求める事』の略だと思っているが違う。

 

本当は、うちはマダラがずっと許せなかったから。

 

 

 扇城一族は忍界大戦中、警務隊を任せられているうちはの代わりに前線に少数のうちはの者と共に出ていた。似通った容姿で騙し、写輪眼の幻術で精いっぱいの努力をし、里の仲間たちが突き進む道を開拓して死んでいった。星宮の本家筋もそうだ。写輪眼を片目だけ発現した者が相当数いた。前線でのうちはを庇った戦死は当時は名誉だったんだが、後の滅亡によって俺たち扇城と扇城と婚姻を結んだ星宮一族は無駄死にだったんじゃないかと思うようになった。

 

 8歳の時にサスケと一緒に『うちは事件』に居合わせ、俺は写輪眼を開眼した。うちは一族が滅亡するまで、うちは一族頭領であるフガクさんとその長男であるイタチさんは両親と折り合いが悪い俺によく関わってくれた。姓も違うのに。

 うちはの頭領一家から、どのくらいのレベルかは分からないが、俺は愛されていたと思う。そう思いたい。俺はイタチさんと頭領夫妻から褒められたかった。俺が次男であるサスケよりもずっと褒められたかった。

 

 オレは元々、忍者一族である扇城本家のくのいちである『魔眼のアズサ』こと扇城アズサと、『幻惑のユウセイ』と呼ばれた鹿島の宿敵で里中から危険視されて一部からは迫害を受ける星宮一族の生き残りである星宮ユウセイとの間に生まれた。子供を2人作っておいて愛人関係だったらしい。兄カガセは5つ上で、もういない。母はオレを出産して亡くなり、父は九尾事件で死んだ。それで、祭祀を司る星ノ宮神社に代々奉職する星宮本家に引き取られて育った。星宮の両親は元忍者だが業界にトラウマがあるらしく、年齢の離れた『姉』と『両親』は忍者を目指す俺と兄に忍者を諦めさせようとした。そんな両親でもやはり、死ぬと悲しいもので俺は写輪眼を開眼した。星宮本家は全滅したため、代わりに本家筋の分家筆頭格の家庭が宮司をする事になった。しかし忍者が苦手なのは同じなようで、忍術に関する道具や巻物を俺に全部押し付けてきた。存分に有効活用させて貰ったが。

 

 

 俺とサスケとイズミさんは世界的企業『扇城屋』のCEO一家に引き取られた。不安定なオレに対し、CEO夫妻は無理して忍者を目指さなくても良いと言った。サスケは一度忍者を諦めそうになったが、教育係にして世話係の扇城タイキと接するうちにまた忍者になろうと決めていた。はたけカカシの影響もある。

 オレについたのは、扇城ハルキ。鹿島と扇城の血を引く写輪眼開眼者で、星宮出身の母親に育てられたという背景を持っていた。だからか、オレにとっては最高の理解者だった。修行を見てくれて、オレをサスケよりも強くしてくれた。CEO夫妻と話すのが苦手だったので、代わりに伝えてくれたりもした。だから彼には心から感謝している。そしてもう一つ、扇城ハルキは知り合いを紹介してくれる事になった。

 

 

 フガクさんたちが死んで、しかもはたけカカシが弟子にしてくれず、無力さに絶望して泣いていた俺に関心を持ってくれた『根』のトップ、志村ダンゾウ上忍だ。どうやら、忍者一族としての星宮と昔から交流があったらしい。それに、オレには父方由来で志村一族の血が流れているそうだった。だからオレに親近感を持ち、剣術を鍛えてくれた。ハルキと一緒に、オレを強くしてくれた。

 

 オレが兄カガセへの復讐に燃えるのを、CEO夫妻もタイキも、はたけカカシすら止めようとしてきた。被害者であるサスケとイズミさん、星宮一族の者たちでさえ止めようとした。班員だったアザミとミサキも、『アマツ君のやり方、間違ってるよ!』と言ってくる。オレは力を求めていた。あの双璧をなす天才・星宮カガセ、うちはイタチを相手取って戦って勝てるような強さを。

 

CEOも、里も、俺の想いを知ろうとさえしてくれない。

 

でもダンゾウさんは違ったし、CEOも俺をほめてくれた。

 

俺にはもう、ダンゾウさん直属の暗部としての内定が出てる。大変だった修行の成果だ!!

 

 

 

                  ☆★☆

 俺が通い、卒業したのは忍者養成を主な目的とした木ノ葉忍軍火影直轄忍者アカデミー。男子部と女子部がある。初等部は教育制度改革時に設立された学校で、うちはが滅亡する前には迫害がないという事でうちはの男児も通ってきていた。仲のいいクラスメイトに神社の息子である稗田ミサキがいて、俺のチームメイトになった。当然サスケもいたが、俺とサスケは顔が少し似ているからかなり仲が良かったと思う。うちはが滅亡する位まではいつも一緒に遊んでいたし、右隣にサスケ、左隣にミサキ、真ん中に俺という組み合わせで昼食を食べていた位だ。ミサキはチャクラの扱いが繊細で上手い。しかも幻術をかける声の血継限界を持っている名家の生まれ。併設校に、女子部。そちらには日向一族・山中一族といった名門旧家の女子が在籍していて、小学校時代は俺のチームメイトだった紅一点の三嶋アザミもいた。アザミはチャクラの燃費がずば抜けて良いという特長を持っていた。彼女は少しも冗談を言わない所が良い子だ。祖父は三嶋フウレン特別上忍。女だから次期頭領ではないとはいえ、男系家系には少ない女子だからとても大切にされていた。器用で頭脳派の精神医学系医療忍者を志すミサキ、決してバカではないけど不器用ゆえに脳筋戦法になるしかないアザミ。二人は家で厳しく英才教育されていて寝不足な俺に対していつも優しい言葉をかけてくれた。サスケも俺も、イタチさんという共通の人に憧れを抱いていた。

 

 

 俺たちが低学年じゃなくなった学年の年、うちは一族が何者かによって殺されてから俺の世界は色を変えた。カガセ兄さんとイタチさんは里を抜け、CEOは『君は忍者にならなくてもいい』とか言い出した。以来俺は扇城一家とサスケに苛つきっぱなしだ。メンタルケアを受け、俺と同じかそれ以上に「イタチさんに復讐してやる」と息巻いていたハズのサスケはすっかり丸くなってしまったからだ。同時にはたけカカシという伝説的に強い上忍が師匠になって、俺も弟子入りを志願したけど「二人に一気はちょっと無理」と断られてしまった。そんな時だった。俺の世話をしてくれていた扇城ハルキの知り合い、ダンゾウさんが泣いていた俺に声をかけ、修行をつけて下さるようになったのは。

 俺は感情を殺す方法を教わったけど、ダンゾウさんは他の暗部と同様にしなくて良いと言った。何故なら、暗部が全員そうだったら誰が暗部なのかすぐに分かってしまうから『少し違うタイプ』の人材を用意すべきだからだという。ダンゾウさんも手練れだから、俺につけてくれる修行は相当厳しいものだった。俺はサスケよりも優れているけど、申し訳ないが作戦上サスケの次席につけるポジションを保ってくれないかとダンゾウさんは言った。俺がサスケに複雑な感情を持っている事も気づいていて、いずれ解放しても良いからアカデミーに入学するまでサスケと親友関係を続けろと言った。そして、同時に人柱力のナルトや稀少血継限界を持つアザミ・ミサキとは仲良くし続けろと言った。

作戦を遂行するためなら、感情を殺せる。

俺はやってやろうと決めた。

 

 

 初等部を次席で卒業したあと、俺はサスケ達と同じ直轄アカデミーの中等部たる中央忍者学園に入学した。入学すこし前、俺はダンゾウさんと一対一で話した。最初に、これから俺は下忍になるのだから、ダンゾウさんを『志村上忍』と呼ぶように言われた。それは当たり前のことだ。二つ目は、俺には心のまま生きて欲しいということ。三つ目が、俺にうちはサスケの様子を記録する業務を申し付けるということ。この時点で俺の心は踊っていた。そして四つ目。俺に、イタチさんのように『里外任務』を依頼するということ。大蛇丸という伝説の三忍の一人が暁という組織にいるから、彼のもとへ行って強くなれと。それもまた作戦のうち、里はちゃんと分かっていると。俺は機密に触れていることに驚いたと同時に、嬉しかった。CEOもダンゾウさんと話し、俺がダンゾウさんと交友関係がある事に対して何故か激怒していた。

 

 アカデミー入学後、俺ははたけカカシが率いる1年生の訓練小隊に配属された。サスケ、春野、うずまきのスリーマンセルが7班。俺、鹿島ライカ、香取フツミが4班。俺は様子を見て、心に中の鬱憤を解放してサスケに対する接し方を変えた。サスケは悲しそうだったし、ライカとミサキは俺を諭そうとしてきた。俺のチームメイトは、お前ら本当は成人してんのか?と言いたいくらいに精神年齢がやたらと高い。のほほんと修行しているサスケに対し、俺のイライラは最高潮に達した。うずまきナルトは元気一杯な良いヤツだし、春野サクラは優秀な医療忍者候補生。4班と7班は少し似ている。サスケを突き放す態度を取っていると、訓練小隊の隊長であるカカシは流石に困っていた。もっと困れよ!と俺はムキになった。

 

そして、時を同じくして俺は『親友だった』二人に苛つきはじめた。

 

 

 アザミは流石にもっと戦えると思っていた。だって稀少な血継限界・晶遁を持つ『血晶のフウレン』の孫娘だ。アザミは晶遁を使えなくて、俺はアザミを学校合同演習で「使えねぇ」「ざぁこ!」と罵った。成績時代は優秀だ。数字に弱いが文系分野はすげぇ賢い。チャクラコントロールは抜群で幻術に優れ、忍具が苦手で忍術は平凡だが、体術は結構強い。不器用過ぎて印を結ぶのが苦手過ぎる。で、眼が死んでいる。昔は本当に仲が良かったと思う。大人びていて、達観していて、星宮家で上手くやれない俺の話をいつも聞いてくれていた。何より蜻蛉取りが上手かった。

 俺がどんなに責めても目が死んでいるのは変わらず、事務的な優しい態度を少しも変えない。少しきつく言うと過呼吸を起こすし、パニック障害があって忍者が務まるのかと言うと完全に目から光が失われた。それでも、表面上はとても優しい女だった。地味すぎるほど地味なメガネっ子だが豊満でスタイルが良いし、何だか母性を感じる。許嫁の鹿島ライカが鮮やかに咲き誇る大輪の花ならば、三嶋アザミは湿原に咲くたおやかな薊の花。しかし棘があり、俺はとても美しいと思う。まるで遊歩道から手を伸ばしても取れない場所にある野生の花。

 

 

 

 次にミサキ。血継限界で写輪眼ほどではないが幻術に特化していながら、それを戦闘に生かそうとせず後方支援で終わらせようとしている。それが、俺にとっては納得いかなかった。それにクラスが違うアザミばかり庇う。しばらくするとミサキも目が死んでくるし、しきりに俺にカルシウム摂取を奨めてくるようになった。やがては俺を可哀そうな子扱いするようになって、通院まで進めてくるようになった。

俺を怒らせたのはこの言葉だ。「写輪眼は脳に負担がかかるから一度診てもらおうよ」と。でも、優秀で優しくて『使える』ヤツだし。星宮一族の側からは薄く血が繋がった親戚ではあるから、思い入れがあって、仲良くしていきたいと思ってる。

 

最後に鹿島ライカ。

ライカは諏訪とライバル関係にある鹿島氏族頭領の年が離れた異母妹で、ツインテールがよく似合う優秀な美しいくのいちだ。強力な雷遁を扱い、印も得意で身体能力も高い。メスゴリラとか言われるが、そこが俺は美しいと思っている。物凄く気が強いし、すぐ「ざぁこ!」とか言うが口癖なんだろうな。実力と美しさ愛らしさがあるから許されるんだろう。俺も許しているが。

 

 訓練に学校生活に、任務に、俺たちは駆け抜けてきた。そしてようやく、俺に出番らしい出番が巡ってきた。ロイヤルレイクホテルでの外交任務の時、大蛇丸が俺に呪印を刻む。それが俺の力となり、大蛇丸の目印になるとダンゾウさんは言った。

 

俺の事を見てくれない、サスケばかりを見るヤツらに証明してやりたい。

 

協力してくれる人が、応援してくれる人が俺にはいるのだ。

 

志村ダンゾウ上忍、伝説の三忍の一人である大蛇丸。そして養父であるCEO。

 

それまでは精々俺に掻き乱されろよ三嶋アザミ、そしてうちはサスケ!

 

あとカカシも!

 

あ、稗田だけはずっと笑っていて欲しいな・・・。マイベストフレンドだもん。

 

 

 

 

そう思っていた時期が、俺にもありました。

 

 木ノ葉崩し作戦に関わる風影を暗殺して成り代わるタイミングを大蛇丸は失い、ヤケクソ状態で大蛇丸が変装している間に改めてロイヤルレイクホテル襲撃が行われた。時を同じくして大蛇丸の配下という保健室の先生をする医療忍者、薬師カブト中忍が一度捕まった。が、逃走。三代目火影である猿飛ヒルゼンの殺害には成功したが、大蛇丸は両腕を封印された。

 

 

 俺は呪印の事でカカシにソレを封じる術式を書かれたが、その時にも色々あった。というより呪印があんな刻まれたら気絶する感じのヤツだと俺は知らなかった。最初のプランでは呪印を悟られないまま里に帰ろうと思ってたんだが。気絶したまま里に連れ帰られ、気づけば上半身裸でカカシに椅子に縛り付けられていた。だからふざけて「術式展開でもしてみろよ」と言ったら、結構ノリが良いヤツはニヤリと笑って封印術式を重ね掛けしはじめた。そして俺はまた気絶し、すっかりカカシの監視下に置かれてしまった。

 

 中忍選抜試験の途中、ついに木ノ葉崩しが始まった。大蛇丸は結界を張り、三代目を相手取って戦い始めた。スタジアムには幻術がかけられたが、大蛇丸はこの里の忍者の能力を見誤っていたようだった。極端に幻術耐性が低い者以外、ほとんどが幻術返しですぐ目覚めて戦時編成に移行。予想以上に多くの音隠れの手駒である忍者を殺されるか戦闘不能にされ、スタジアムで木ノ葉隠れに歯向かえる者は結界を張る4人と大蛇丸、そして穢土転生された初代と二代目火影だけになってしまった。

 

 俺はというと、攻撃が当たりそうになっていた富豪を助けたことをきっかけに我愛羅という砂隠れの人柱力を追跡することになってしまった。本当ならばスタジアムで俺を連れて行ってくれる予定だったんだが、仕方ない。怪しまれない行動に努めようと、俺が我愛羅を挑発したのも悪いしと、森へと誘い込んだ。後から追尾してきたライカとミサキ、フツミ。ミサキは相変わらず目が死んでいたが、俺はかまわず我愛羅と交戦する事にした。しかしライカは心を乱して隙を作る作戦なのか、俺をひたすら煽るような言葉遣いで話しかけてきた。いつもは愛らしいのに妙にムカついた。

 

 ナルトたちスリーマンセルに加え、奈良シカマルと日向ヒナタの班が俺と我愛羅を止めるために追跡してきやがった。スタジアムの方では三嶋の禍々しいチャクラを感じるし、呪印の暴走が始まって苦しいし、散々だった。だけど。それも強くなるための苦しみ。どうせなら力を試してみようと思った俺は、サスケに「俺を止めてみろよ」と挑発した。結果、雷遁の『千鳥』というカカシと同じ技をかましてきやがった!

 

気付けばカカシの監督によって再び拘束され、中央病院のベッドに寝かされていた。

心配げに見てきたのは”湿原の花”アザミ、”最上級の牡丹”であるライカ。

そして、マイベストフレンドであるミサキ。サスケと春野もいたが、俺は春野はともかくサスケを無視してやった。お前なんか大っ嫌いだ!!

 

 

 




アマツは手のひらで転がされているだけです。
サスケにはなれません。

どんどん彼の手段とか目的がこんがらがっていくのを感じ取って下さったら幸いです。

次回から数話に渡り、『俺たちの夏休み』編が始まります。
サスケが少し救われると思います。

コロナの都合でバイトが週3になるので書き進みやすくなります。
前向きに・・・


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俺たちの夏休み その① 思わぬ拾い物!

新たなタイプの転生者、登場!

夏はどこまでも続いていく。 青く広がる空の下で。


夏季休暇 

 

1週目 1~5日目 『五代目火影のお迎え任務』

 

 短冊城が崩れ落ち、大蛇丸の罪状に里抜けのほか『重要文化財破壊』が追加された。ここで綱手のばっちゃんが自来也師匠と俺たちスリーマンセルを短冊街に来るよう指定した理由が、ようやく分かった。綱手のばっちゃんはいつも、上忍で医療忍者のシズネさんと一緒にいる。でも、今日はシズネさんが4~5歳くらいの小さな男の子を連れていた。その子の顔はどう見ても、うちは一族の顔立ちだった。シズネさんが言うには、その子はうちはが滅びてしまう前に一族の青年が外で隠れて作っていた恋人が生んでいた子だという。サスケはその子を見た途端、駆け寄って抱きしめた。うちはの血を引く子供はその子だけに留まらず、他に15人はいるという。

サスケはそれを聞いて、「さすが愛の一族だ!」と叫んでから喜びの涙を流し始めた。

 

子供たち全員の父親がうちはの者だから、男系の末裔といえる。サスケと同様に。

サスケはさっそく「サスケお兄ちゃんだぞ」とか言ってる。サスケってこんなヤツだったけ?

首を捻る俺とは対照的に、サクラちゃんはサスケの変貌を普通に受け入れていた。しかも「そうよね!サスケ君も愛の一族の出身だもの。愛溢れちゃうわよね!!」と大喜び。将来、二人が結ばれても俺は全然驚かない。

だって、道中での仲良し加減は完全に付き合ってるみたいだったし。最近ではサスケと仲が良いサクラちゃんに対し、やっかみを言う女子もだいぶ減ってきた。それは二人がセットとして認識されているという事だと思うってばよ。

ちなみに、俺とヒナタも今ではセット扱いだ。

 

 ちゃっちゃと任務を終え、大蛇丸の誘いにわざと乗ったフリをしていた綱手のばっちゃん改め五代目火影、そして16人の子供たちを連れて里に帰還する事にした。子供たちは聞き分けが良くて、俺たちの指示にちゃんと従ってくれる。うちはの血を引く子供たちが短冊街のお姉さん達との間に生まれた理由の一つに、俺が勝手に思うには里と一族の間にあるギスギスに堪えられなかったというのもあると思う。閉塞感を打ち破ってくれたのが多分、お仕事かもしれないけど、愛で包み込んでくれたお姉さん達なんじゃないか。もしも教育制度の改革がなかったら、外に出て恋をするうちはの男は出なかったと思う。サクラちゃんが好きなサスケを見てつくづく思う。

 

 

「ねぇねぇ、見てみて!誰か倒れてるよ!!」

 

まだ姓を持たない”うちは”の血を引く男の子、フウガ君が俺の手を引いて倒れている人のところへ行こうとする。綱手のばっちゃんとシズネさんが大慌てで、倒れている人のところへと駆け寄っていった。

 

倒れている人に対し、なんか見るからにサメ度の高い長身でがっちりした男性が必死に倒れている人を揺さぶっていた。男性はまるで再不斬が背負っていたような大きな刀を背負い、黒いマントを着ている。アレってまさか、まさかまさかの・・・、ビンゴブックに載ってる指名手配犯じゃねぇか!!

 

 

                      

大柄な男は干柿鬼鮫と名乗った。そして、倒れている男は”うちはイタチ”。

 

「・・・イタチさんじゃん」

 

「に、兄さんッ!」

 

口からあふれた血が地面に染み込み、悲惨な姿になったイタチさんは見るからに痛々しい。

戦場で傷ついた訳じゃないだろうなコレ。病気か?それにしてもイタチさんってこんな細身だっけ?

覚えている姿は確かに忍者らしく細身だったけど、今の消耗具合は尋常じゃない。

 

「サクラ、手伝いな!」

 

「ハイ、師匠!」

 

サクラちゃんはばっちゃんとシズネさんの指示に従い、救急措置の手伝いを始めた。

俺たちはただ立ち尽くすしかなくて、子供たちの声がとても遠く聞こえた。

 

「自来也!」

 

「綱手、どうすればいい?背負っても大丈夫か!?」

 

「頼むよ。早く里に運んでやらないとマズい状況だ。裁くにも死んだら困る」

 

 付き人を務めるシズネさんは、いつも里と連絡を取れるようにしている。

シズネさんは伝令の鳥を呼ぶと、里への手紙を鳥の足首に括りつけた。

「速達で頼みますよ!」と言いつけると、鳥は空へと舞いあがっていった。

 

「シズネお姉さん!」「あのお兄さん大丈夫なの?」「死んじゃわない?」

 

「大丈夫よ。綱手お姉さんがいるんですから!」

 

 

 ばっちゃんとシズネさん、そして自来也師匠はオレたちを忍軍の所有する宿泊施設に留めて部屋に結界を張った。何事も厳重にいつも備えておくべし。それが、第三次忍界大戦から里で決められたモットーの一つ。それに、シズネさんは俺たちに言った。「君たちは中忍として普通にやっていけるくらい強いですから、安心して結界の内側で子供たちを守って下さいね」と。トントンも置いていってくれたから、何かを追跡しないといけない事になっても安心だ。ここは里が所有する宿泊施設だから、他の任務中の上忍やベテラン中忍が既に誰かしら滞在している。その人たちも俺たちを守ってくれるし、任務が終わった人が10人集まったら里に帰る任務に当たってくれる予定だ。

 

「私たちは最大スピードで里に帰還する。コイツを連れてな。お前たちは子供たちを無事、里に送り届けるんだよ」

 

「「「了解!!!」」」

 

敬礼をし、綱手のばっちゃん改め五代目に応える。

里の最高司令官直々の任務なのだ。いつもより力が入る。

 

サスケのイタチさんに会いたいという願いと一族復興の願いが同時に叶うかの瀬戸際なのだ。

 

今は動揺を押し殺し、目の前にある任務を片付けないといけない。

 

 

                  ☆★☆

 

「兄さん、兄さんっ、待って、俺を・・・、俺を置いていかないで!!」

 

心電図が止まったイタチさんに縋り付き、泣き叫ぶサスケの姿を俺とサクラちゃん、それからアザミ、ミサキはが見ていた。サスケが顔を上げるとその瞳が病室の鏡に映った。写輪眼で紅く染まっているが、よく見たら別のものになっていた。赤と黒の混じったソレは花弁のような形をしていて、コレが噂に聞く『万華鏡写輪眼』なのかと俺は震えた。愛する者を失うような恐怖を味わった時、親友を殺した時など開眼条件の噂は安定しないが、『前者』でも合っていたんだ。よかった。イタチさんはサスケに、最期だからと何か理由をつけて万華鏡写輪眼を披露した。もちろん幻術はかけずに。ただ発動しただけ。

 

それも作戦のうちなんだってばよ。けど、見ていると悲しくなる。

 

 

 ちらりと見ると、サスケを落ち着けるためにハグするサクラちゃんの代わりにミサキが両手にチャクラを纏わせている。『作戦通り』、ミサキはアザミとアイコンタクトをすると茫然自失状態のサスケにソレを容赦なく食らわせた。サスケは予定通り気絶し、ばっちゃんたち特命医療チームが大急ぎで部屋に入ってきてAEDで蘇生されたイタチさんとサスケは二人揃って同じ手術室まで運ばれていった。

 

「ナルト君たち、ありがとうございます。ここに食券があるので好きなものでも食べてね」

 

そうシズネさんが言って渡してくれた食券を手に、すっかり腹ペコだった俺たちは下の階で食事を摂ることにした。

 

 

 

 

 この里は3割の忍者と7割の民間人で構成されており、二つの異文化に暮らす住民の仲がとても良好だと俺は思う。民間人には民間人が守るルールがあって、そのルールは機密を守りつつ平和に静かに暮らすためのもの。忍者の世界について民間人学校でもしっかり教育されるから、里内で何か事件が起こっても人々は落ち着いて対処してくれる。里の平和を守る手段として、病院のような施設にある大食堂(レストラン)では忍者ゾーンと民間ゾーンが区切られている。厨房を取り仕切るのは民間人だ。民間人でも毒物の知識が深い、危険物取扱の資格を持つ調理師だけ。忍軍の所属だから、いわゆる軍属ってヤツ。里内外にある専門学校や食堂からスカウトされてきて働いているらしい。

でも、ここは忍軍関係者だけの病院だから全てが忍者ゾーンとして指定されている。

 

「三嶋さんのおばあちゃんって、ここで働いてるの?」

 

「うん。一応忍一族の出身で忍者の世界について知ってるし、有資格者だから。忍軍所属の調理師。管理栄養士でもあるよ」

 

「そうなんだ!」

 

サクラちゃんとアザミがメニュー表を見ながら話している間じゅう、俺とミサキはどんな話をしようか困っていた。ミサキは良いヤツだけど、どうも興味のある事柄などが被らなくて話題に悩む。

 

「あ、あのさ、ミサキ」

 

「ん?」

 

「サボテンって、育てた事あるか?」

 

インテリアとして置いてある小さなサボテンを指さし、俺は思い切って話題を振った。

まずは趣味の話をして、次にミサキが好きなことを聞いてみよう。

 

「あるよ。僕の部屋に三つくらい小さいのがある。そういえばうずまき君、ガーデニングが好きって最初の時に言ってたよね。僕もガーデニングが趣味なんだ」

 

俺たちはやっぱり友達の体が心配だから、心が落ち着くように他愛のない話を沢山食堂でした。サスケは大丈夫かな、とか。綱手様の医療忍術の凄さとか、カカシ先生のマスクの下はどうなってんだろうな?とか。あと、アマツの事が気になっている。

それにしても・・・、アザミとミサキは見事にアマツの事を気にしてない。

そりゃあ、なぁ。あんなに二人を邪険に扱っていたんだから仕方ないのかな。

 

「そういえばさー、アザミ。どうしてうちはって体に負担なく移植手術できるんだろうな?」

 

「医療忍者じゃないから分からないけど。HLA型がみんなほぼ一緒なんじゃない?または特殊な薬があるとか。免疫抑制剤って使うのかな?知らないだけで機密扱いの薬があると私は予想するよ」

 

「そっかぁ」

 

「僕も概ね同意見」

 

「私も。もしちゃんと研究されているとしたら結果が知りたいわね。師匠に聞いてみようかしら。でもカカシ先生、別に免疫反応で苦しんでないわよね・・・」

 

さっき移植片対宿主病の話を医療忍者同士がしているのを聞いて、ちょっと気になっていたのだ。

そんな話をしていた医療忍者二人組が俺たちのところへ来て、ばっちゃんからの伝言をくれた。

 

『明日の午後から面会が可能だよ』、と。

 

俺たちは二人組にありがとうと伝えるとそれぞれ家、または寮へ帰るための帰路へとついた。

 

 

 

 孤児のオレと、遠隔地出身で寮生のミサキは同じ外部の学生用短期滞在寮に住んでいる。長期休みの間だけ、そこで暮らすことになっているからだ。玄関から入ってチェックシートに印を入れ、寮母さんに今日は軽食だけにしておくと伝えた。ミサキもそれは同じだ。食堂で沢山食べてしまったから仕方ない。

 それから、イタチさんはオレたちが発見する前に木ノ葉に一度来てカカシ先生・アスマ先生・紅先生、そしてガイ先生が交戦していた事実をさっき来たエビス先生から聞いた。カカシ先生は入院中だそうだ。またお見舞いにいかないと!俺は今日やる分の課題を確認すると机に向かい、何とか同じ寮に住むミサキの兄ちゃんである先輩の力を借りてやり終えた。

 

 オレは疲れた体を休ませようと、眠るつもりでベッドに入った。部屋の外からはもう秋の虫が鳴く声が聞こえるようになってきていた。来月から新学期、じゃなくて、アカデミーだから前期試験が待ってる。試験では1年生の実力を見極められ、学年も性別も関係ない習熟度別クラスに振り分けられる。3年生と同じクラスかもしれないし、大多数の同級生と同じクラスかもしれない。サスケはきっと上のクラスに行くだろう。サクラちゃんも優秀だから、きっとそうなんだろうと思う。俺はというと、自来也師匠に沢山修行を見てもらう予定が入ってる。サスケはカカシ先生に、サクラちゃんはばっちゃんに。

眠気が増してきたから、九喇嘛に(おやすみ)と言って瞳を閉じた。

でも微妙に寝付けないから、考えを巡らせることにした。九喇嘛は(子守歌でも歌ってやろうか)とか言ってくるけど、今回は断った。小さな時はよく歌ってくれたし、世界のことを色々教えてくれた。学校が始まってからはズルしているみたいだからと理由をつけ、それを中断してもらったけど。

また教わろうかな。学校では習わない範囲の事、語られなかった歴史の事を。

 

 

 里内には民間病院のほか、忍軍が持ついくつかの病院がある。イタチさんが運び込まれたのが、木ノ葉忍軍中央病院という一番高度な病院かつ、緊急性が高い患者が運び込まれる場所。もちろん入院設備がある、火影直轄施設の一つ。メンタルケアもここで行っている。次に、同じく入院施設がある病院が1つ。どちらも官民共用で現役忍者だけではなく忍者の家族と引退者が利用でき、普通に生活の中でいう『病院』がコレである。次に、里内に東西南北と存在している総合日帰りクリニック。入院が必要ない忍者・軍属・引退者の患者を受け入れている。そちらで手に負えなかった場合、上二つの病院へすぐに紹介状が書かれて治療を受けることができる。それから民間人専門病院だけで私立・公立合わせて4つ。私立の民間人病院は特に妊婦さんから人気で、くのいちで妊娠中の人も差額を払ってそちらに行きたがるそうだ。有名シェフがご飯を作ってくれるんだってさ。月刊フリーペーパーに書いてあったってばよ。

 

「そういえば・・・」

 

 アザミって、どうして万華鏡写輪眼について知っていたんだろうか。小学校での情報収集や情報分析の成績が物凄く良かった。でも、ああいう情報って機密レベルが高いから。無理やり情報収集をするタイプではないし。でもでも、アザミが言うには三嶋一族はHUMINT(人間を介した諜報)に長けた家系。

 

 俺はフウレン先生の行動や言動も思い返してみた。フウレン先生もまた、あまり関係がないはずの家系の血継限界と秘伝技ついて妙に詳しかったような。日向一族だけではなく、奈良一族や山中一族とも仲が良かった。

だから、大昔の噂についても詳しかったんだろうな。

 

 

「うへぇ・・・、ぜんぜん眠った気がしないってばよ」

 

(本当によく眠っておったぞ)

 

九喇嘛がまた笑っている。

自来也師匠との修行は来週からだから、今週末は九喇嘛が俺に修行をつけてくれる予定だ。

今日は金曜日。今日の午後にはやっと手術を終え、安定しているだろうサスケに会える。

 

 

                   ★★★

『うちはイタチの戸隠メモリアル』

 

 うちはイタチの人生は奇妙なことに、2.5個ある。一つはサスケと戦って死ぬまで、次に薬師カブトに穢土転生されて得た仮初の命。サスケと再会して穢土転生を解くため一緒に戦った。それですべてが終わるとイタチは思っていたが、それは大間違いだった。どこかに行くとしても地獄は免れない。

 

そう覚悟していたのに、うちはイタチは長野県長野市戸隠に普通の少年として生まれ変わっていた。

 

 

 うちはイタチ、ではなく内田至智(うちだ イタチ)。微妙に本名と被っているが違う、”現代社会”で違和感のない”普通”の名前。忍者・蕎麦・山岳修験道で有名な戸隠の地に、忍者の末裔である内田イタチとして生まれ変わったのだ。生まれ年は1987年。5つ下、1992年に生まれたのはまさにサスケだった。5つ下の可愛い弟の名は、内田佐助(うちだ サスケ)。父は山岳ガイドで元警官の内田富岳(フガク)、母は父のまたいとこで同郷の元婦警・美琴(ミコト)。親戚に警官の紫彗(シスイ)、結婚できる位の血縁関係で泉(イズミ)もいてすぐ付き合い始めたし、煎餅屋を営む親戚夫妻も近くに住んでいた。

戸隠はまるで、イタチが遠い過去に亡くした懐かしいうちはの集落だった。

 

戸隠は平和で空気が綺麗で蕎麦が美味い、水も透明で透き通った素晴らしい場所だ。

 

でも一つ、納得がいかない事があった。

 

 どうして『うちはマダラ』ではなく、大戦中に色々とやらかし戦犯とされ、なんやかんやあって処刑を免れたが結局誰かに殺された『内田斑良(うちだ マダラ)大佐』が実の曾祖父なんだろうか。その遺志を継いだまたイトコで行方不明になっていた内田帯刀(うちだ オビト)が突然登場して、色々やらかしてくれたが彼の幼馴染がどうにかしてくれた。

 イタチは幼少期から生まれ変わった世界の「忍者」に興味を持ち、両親には「忍者博士になる」と言ってきた。そのために長野市で最高の偏差値を誇る公立高校に進み首席卒業後、それから両親に金銭面の苦労をあまりかけさせたくないと思い県内にある国立大学に進学した。

 

 様々な分野の本を読んでいたイタチだったが、もちろんマンガもそれなりに読んでいた。仲でもイタチを惹きつけずにはいられなかったのが、『NARUTO』。イタチが生きた人生が、忍界が、架空のものとして岡山出身の漫画家によって描かれていた。それを読み、イタチはサスケの苦悩と暴走の全貌を知った。そして、インターネット上ではうちは一族が「あいつら頭おかしい」「うちは病」「病んでる」と言われている事も知った。自分の人生を客観的にみると、自分の行動の正しさや落ち度、里の闇、一族の闇が恥ずかしいほどイタチの背中に圧し掛かってきた。考えすぎて夏休みに3日間寝込んだ。

それから、弟のサスケは何故か中学生になった途端にグレて工業高校に行ったがすぐに中退。その後、突然更生して17歳で定時制高校に入り直し、卒業。卒業後は「俺は公務員になる!」と言いはじめ、公務員専門学校を経て長野県警の警察官になった。イタチは泣いて喜んだ。「お兄ちゃん嬉しい!」、と。

 

そう。イタチは長野県に一般人として生まれ変わり、感覚まで一般人に近くなっていたのだ!

 

 今度こそ愛する彼女イズミと結ばれたいと願い大学3年生で学生結婚。翌年には第一子に恵まれた。その後は泣く泣く単身赴任状態で三重の国立大学の大学院に進み、忍者について研究をし博士号を取った。長野に戻ってからは更に3人をもうけ、二男二女の親となった。弟であるサスケの方も、幼馴染の春野という少女が医学部に入ってすぐ学生結婚して若くして親になった。彼女はサスケがグレても諦めず、ずっと寄り添っていた人だった。仲良し三人組のもう一人、渦巻巡査長もまた、今世では白眼の代わりにロシア系クォーター故に銀色と見まごう灰色の瞳を持つお嬢様と結婚。シスイも結婚、グレていたオビトもリンという幼馴染と結婚。誰もが愛の夢を現実のものとし、命を繋いでいく。『前の世界』ではありえなかった人生だ。

 

 時が過ぎれば誰かが生まれ、誰かが去っていくのは当たり前のこと。

イタチは両親を見送り、子供たちが巣立ち、孫が生まれ。やがて現代の医療を以てしても治癒が未だに難しい病を患った。もう長くはないと何となく悟っていた。『前の世界』で死がしのびよってくる感覚を思い出したからだった。今や遠い忍具を握る感覚、戦場の空気や返り血、饐えた匂い。すべてが遠かった。

 

しかし妙な確信があった。次の人生はあの忍界であると。

 

 

 思いがけず生まれ変わったイタチだったが、『前の世界』では巡り合えなかった人間とも絆を築いた。まずは小中高校の友人、教師、保護者たち。次に大学や大学院での教授や同期たち。もちろん全ての出会いと別れが後味が良いものではなく、中には若くして失われてしまった者もいたし喧嘩別れした者もいた。

まず、喧嘩別れをした者。土産物を作る職人の親戚、扇城家の養子である星野天津(ほしの アマツ)。弟のサスケと意見がどうしても合わなくて喧嘩したまま愛知県の奥三河に引っ越していった。そんなアマツだが、二人の親友がいた。一人は名古屋の国立大学医学部を出て医者になった稗田三幸(ひえだ ミサキ)と、社会人になってからも大学院に行って忍者博士になるという夢を温めていた滝川薊子(たきかわ けいこ)。ミサキは通り魔に遭って失血死、薊子は誰もが羨むイケメンとの結婚を前にしてそれを逆恨みした同僚から滅多刺しにされ32歳で短い命を閉じた。薊子の祖父は元教師の博識な人物で、イタチもよく忍者についての議論をするため毎年奥三河に行ったものだった。奥三河の二人はアマツ繋がりの友人だったが、よく変わった美術館や博物館、資料館を訪ねた。中でも薊子は恵那にある宝石の博物館が好きだった。

他にも悲しい別れをした人間は何人かいた。突然の災害、感染症の流行、自殺、事故の巻き添え、そして治療法が確立されていない病。戦争をしなくても、戦う必要がなくても、人は死ぬ。

 志半ばで命を落とす悲しさや切なさを、戦争じゃない中でイタチは見ることとなった。『前の世界』で不幸な目に遭ったものは生き残り、そうじゃない者はどんどん死んでいった。

 

 妻と添い遂げる幸せな人生の終わりに、イタチは願った。

 

志半ばで、平和なのに殺された若い命をせめて一緒に連れて行って欲しいと。

 

 平和な世界に生まれたのに、彼らは戦っていたのだ。生まれつきの障害による偏見やら、いじめと。

彼らはいつも『自分には力がない』と嘆いていた。だからどうか、彼らに力を与えて欲しい。

悲しい程、彼らには平和な世界に似つかわしくないほど戦う覚悟が出来ていたのだ。

 

そして、二人はイタチが語った『前の世界』についての理解があった。

ひらたく言えばNARUTOの大ファンたち。

 

(何かが変わるかもしれない)

 

不思議な確信が現実に変わるよう願いながら、イタチは瞼を閉じた。

 

                   ☆★☆

 確信した通り、イタチは忍界に舞い戻ってきた。一族を救い、里を守り切り、サスケを悲しませないために。しかし、イタチは失念していた。根の全貌や物語の結末が分かっていたとしても、一人で状況をひっくり返せるような立場じゃないことを。そうして『1回目』『原作』の展開を変えようと足掻いたが、イタチは長野の少年Aの精神を保ったままうちは一族を『皆殺しに”された”』。”まだ”13歳だった。

 

 菅沼実氏あらため、三嶋フウレン特別上忍。彼はイタチにこっそりと協力をしたが、変わらないことは変わらなかった。イタチが戻ってきた忍界はかつてと大きく違っていて、歴史上語られてこなかったうちはの血を引く傘下氏族である扇城が存在していた。教育制度も様変わりし、イタチは「天才」と持て囃されながらも割と普通のルートを辿って忍者になった。今は廃止された、10歳で忍者になる『ギフテッドコース』を卒業したのだ。11歳で小学校に通いながら中忍となり、そこからすぐ暗部として引き抜かれた。暗部になったと思えば、ようやく里内でも少しは立場が上がってきたので、『記憶』がある両親や親せきたちと共に行動した。

状況を変えようと奔走した結果、親友のシスイが死なずに済んだ。けど、弟のサスケはそれを知らない。イタチが一族郎党皆殺しにしたと思っている。

 

 あの事件について『1度目の忍界(原作)』と決定的に違うのは愛するイズミとその母を扇城のCEOに圧力をかけて『扇城イズミ』に名前を変えさせ、うちはではなくさせたところ。サスケに対しても、写輪眼を開眼して云々は言っていない。ただ「達者で生きろよ」と伝えただけだ。長野県長野市戸隠に住む忍者の末裔、内田ファミリーとしての記憶を保持した兄弟の両親は当然ながら、食卓を囲んでアニメ『NARUTO』を見ていたので原作の記憶もある。だから『永遠の万華鏡写輪眼』の秘密を知っているワケで、ただじゃ死ねないと思って記憶を持つシスイと二人三脚でクーデター阻止のため努力を重ねてきた。幸いな事にイタチは志村ダンゾウの部下ではなく、純粋に火影直轄の暗部隊員になれた。サイもその兄も助けた。

 何故なら、イタチがいるはずのポジションに収まる一人の男が存在したからだ。男の名は星宮カガセ。アマツより5つ上、イタチと同い年で同じ学び舎で学んだ『天才』であり、うちはを皆殺しにした男だ。ついでに写輪眼を開眼していた扇城一族の忍者も数名がカガセに殺されている。おそらくシスイの代わりとして。扇城一族は『志村一族』の血が入っているためか、志村ダンゾウが目をつけていた。よりダンゾウの体と適合するだろうという理由だろう。

 

 

 

 その後、全ての責任を何故かイタチに押し付けられる形で表面上イタチは里を抜けた。もちろん、イタチは一族を殺していない。それどころか里と和解するための話し合いのため、シスイと共に奔走していた。

 イタチとサスケの両親、うちはフガクとミコトは長野県民時代の記憶を有する転生者だった。一族には他にうちは兄弟が前世の長野県民時代に仲良かった人々を思わせる転生者がいたため、一族の姿勢は『原作』よりはずっとずっとソフトな印象でいられたんじゃないかとイタチは思っている。だからこそ、うちはフガクとうちはミコトはあの悲劇を繰り返したくないと言ってイタチに『いざという時のため』として死後の写輪眼摘出を頼んできた。

 イタチが一族の殺害現場に駆け付けた時、星宮カガセは両親の眼球を摘出しようとしていた。それを止めようとするために戦っていた時、あろう事かサスケが帰宅してきた。そして愛おしい弟が見た風景こそが、カガセが退却していった後の血だまりに武器を手に茫然と立つイタチの姿だった。サスケは絶叫し、一瞬瞼を閉じて再び開いた瞳は深紅だった。イタチは苦し紛れに自分が誰かに殺されるという幻術を見せてから、保存液を詰めたボトルに両親の万華鏡写輪眼を入れたものを小脇に抱えて瞬身で火影邸へと向かった。三代目火影はイタチの真意を理解していた。『今回』のイタチは根とは関係なく、完全に火影直属の暗部隊員なのだ。でも『前回』と違って根に関しての深刻さをちゃんと理解していたので、作戦の都合で根がどう動くかを見極めるため数日里に滞在してから『長期諜報任務』の扱いで里外に出た。

つまり、里抜けした事にはなっていない。正式な木ノ葉隠れ忍軍暗部所属のままだ。本当ならば『暁を探れ』という司令が出るところだが、そんな事は起こらなかった。むしろ『自来也と共に情報収集をしろ』という命令が下りた。という訳で、イタチはシスイと共に里を出て自来也と共に、たまに外へ出ている綱手姫と一緒に諜報活動に当たる事になった。しかし、里内ではダンゾウ派である根の工作活動によって里から一切発表が出てないというのに『うちはイタチが一族郎党を皆殺しにした』という事になっていた。解せぬ、と。イタチはそう思うしか出来なかった。

 

 

 

 悲しいのに、苦しいのに。前は抑え込めたのに。シリアスな状況でうちはラップが頭を過ぎり、心は壊れる寸前だった。里外と国外で諜報任務に当たるイタチとシスイ、そして自来也は『原作』の記憶がある。途中で仲間に加わった干柿鬼鮫という男もまた、イタチとシスイと同様のルートを辿って忍界に舞い戻ってきた。

実は長野県民時代、同じ大学で同じゼミにいた先輩ゼミ生が『干柿鮫助(ホシガキ コウスケ)先輩』こと干柿鬼鮫だった。その繋がりでイタチは鬼鮫と和気藹々。アマツの兄であるカガセが『暁』の一員になっていて、イタチはシスイと共に別の犯罪組織『極光(きょっこう)』に属している事にされてしまったのでもう堪らない。里からはサスケの精神状態についての話を逐一聞かされ、イタチはそれはそれで不安定な精神状態になった。

 

里帰還時に遭遇したカガセと交戦時に万華鏡写輪眼の月読のせいでフラフラになりながら鬼鮫と一緒に離脱し、何とかセーフハウスまで逃れようと必死になっていた時。里の人々はイタチが本当に犯罪者だと思い込んでいたため、そんな事態になったのだ。はたけカカシにも里からの命令が出ていたため、つい本気でやり合ってしまった。木ノ葉から離脱すると、万華鏡写輪眼の反動で長らく患っていた重度の胃潰瘍によって夥しい量の喀血が起こった。セーフハウスへの道中での出来事である。

イタチは遂に倒れた。シスイと別行動中で心細かったのもある。

 

 鬼鮫が長野でゼミの先輩だった時のように、倒れたイタチを道端で助け起こそうとした。そこで、イタチを助けたのが五代目火影の就任が決定した綱手姫とその付き人であるシズネ上忍。そしてサスケの将来の妻となる、春野サクラだった。サスケの妻、つまりはかわいい姪っ子サラダの母。イタチは未来の走馬灯を見た。

 

 そして気づけば里の忍軍中央病院のシークレットエリアにある集中治療室に寝かされ、意識が戻ってからは三嶋フウレン特別上忍といくつか話した。ここに両親の万華鏡写輪眼があるという事、これを利用してサスケの視力低下を押さえて助けてやって欲しいということ。最後に、「どうにかサスケに俺を殺したと認識させて万華鏡写輪眼を開眼させて欲しい」ということ。まずチャクラに依存しないAEDを応用した機器を利用し、サスケの前で急変したような様子を見せる。その時点で一度心臓が止まり、誰かに「少し遅かったかもしれない」と言わせる。サスケは「自分が殺してしまったようなもの」と思い、万華鏡写輪眼を開眼するかもしれない。そう三嶋特別上忍に伝えれば、数秒黙ってから「わかった」と言った。

 

それはアンガーマネジメント完璧、メンタルケア完璧状態のサスケ相手じゃないと通じない作戦だった。イタチは里のメンタルケア部門に心から感謝した。

 

AEDで蘇生され、全身麻酔をかけられる瞬間。

イタチは感じていた。

長野県民にして長野市民の内田少年と、うちはイタチの精神が統合していく瞬間を。

 

(さよなら戸隠、長野市、長野県。俺は今度こそ本当の意味でサスケを救い、里を守る)

 

 

(誰ももう傷つけやしない!)

 

 

そして聞いた。

 

「柱間細胞準備ヨシ!」

 

(あっ)

 

意識が闇に沈んでいった。

 

 

 



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俺たちの夏休み その② 昼下がりの昼ドラ!

 

ただいまを贈る、夏にしよう。
 出典:カルピス ブランド100周年


8月 第二土曜日

 

 ようやく面会が可能になって、俺・サクラちゃんの7班とアザミ・ミサキの『元4班』はサスケとイタチさんのお見舞いに行く事にした。俺はサクラちゃんと一緒に、アザミとミサキは二人でそれぞれお土産を買って持ち寄った。なぜなら、一緒に行くとお土産のバラエティーがなくなってしまうから。以前よりサスケは俺たちに対して何も聞いていないのにイタチさんについて熱く語るからイタチさんが甘いものが好きだとよく知ってる。

 

 

 俺とサクラちゃんはサスケのため、お煎餅詰め合わせを選んで購入した。アザミとミサキはイタチさんのため、オレンジピール入りのチョコレートとかいうお洒落なやつを買ってきていた。全員が私服で、そんな恰好で集まるのは久々だと笑いあった。

 

病室の前にやってくると、名札にちゃんと『うちはサスケ 様』とある。さっきカカシ先生のところに先に行ってきたけど、先生も元気そうだった。げっそりした表情ではあったけれど。

 

声を潜めながら、ドアをノックして一言。

 

「入るってばよ~!」

 

「・・・いいぞ!」

 

アレ、思ったより元気そうな声。

サクラちゃんの表情が明るくなった。ミサキもニコニコしている。

 

目の手術だからもっと大変な事になっていると思ったけど、包帯もなにも無いのは綱手のばっちゃんの腕前がすごかったからだろう。

 

「コレ、お土産だってばよ。お煎餅」

 

「ありがとうナルト、サクラ」

 

眼球を入れ替えるという大規模な手術という事は、サスケの瞳にあるのはイタチさんの瞳という事になる。前と違うような、同じような。

 

「何だか力が漲っているんだ。生命力を感じるような」

 

「良かったじゃないの、サスケ君。点滴かしら、それとも病院食のお陰?」

 

二人がラブラブしている間、ミサキはサスケの部屋に足りないものは無いか見渡している。すると。部屋に入った時には気づかなかったが培養液の入ったボトルがベッドサイドに置いてあった。そして、どんな処置をしたのか書いてある紙も。

 

「・・・へぇ、ふむふむ。ドナー(父 F)との眼球交換移植、か。実兄のIは急遽里に戻ってきた親族のSと交換。大成功、良かったね!当初の予定が変わったんだね。それで、この万華鏡写輪眼は?」

 

「それは?」

 

「母さん」

 

満面の笑みを浮かべ、サスケは眼球の浮かぶボトルを俺たちに見せてきた。

 

「これから悪用されないような処置をした上で、里内の秘密の保管庫に入れられる事になっているんだ。だから、その前に母さんと話しておきたくて・・・」

 

流石のサクラちゃんでも眉を一瞬しかめ、ミサキはちょっと引いている。

俺はちょっと驚いた。サスケがあまりにも子供みたいな表情をしていたから。

 

「良いんじゃない?」

 

でも、アザミは別に引いている様子はない。

元々アザミの死生観とか感覚は他のヤツらと微妙に違うからな、いつもの事だ。

 

「それから・・・、柱間(ハシラマ)細胞の移植って、まさか」

 

「柱間?初代様の名前よね。教科書で習う、色々と桁違いな木遁使いの!」

 

「そんな凄いモノが保存してある事に驚いたよ。一体誰の発案なんだ・・・」

 

ミサキは頭を抱えていて、アザミはそんな友人に対して「逆に怖い」と言っている。ライカは鹿島一族当主に呼び戻され、アマツは未だに入院中だからだ。

この”元”4班は物事に対して動じている姿を見た事がない。初等部にいた頃、アマツ・ミサキ・アザミはチームメイトだった。ミサキはいつも冷静沈着で真面目、だけどジョークも言うタイプ。アザミは割とちゃらんぽらんだけど冗談を言わず、諜報関係の時以外は嘘をつかない。バランスが取れている。

 

「楽しそうなところに水を差すのは悪いが・・・、三嶋。お前に聞きたい事がある」

 

「お前って言わないで」

 

アザミは呼び捨てされる事には最近慣れてきているけど、目上の人以外にお前呼ばわりされるのを極端に嫌がる。それは昔からのコダワリというヤツで、オレはそうでもないけど初めて同じ学校になったサスケはまだそんなアザミに慣れていないようだ。その代わり、アザミは誰に対しても大体丁寧な対応をしている。

 

「悪い。三嶋は写輪眼についてどこまで知っている?それから晶遁についても気になる」

 

「そうそう、そうだったってばよ。俺も知りたかったんだ!」

 

「それは・・・、私も話さないといけないとは思ってた。でも、写輪眼の事はイタチさんからまず聞くべき。けど、どうして情報をつかんでいるのかと晶遁については話せる。祖父から許可は貰っているから」

 

 三嶋一族は諏訪軍団と同盟関係を結んできたけど、諏訪軍団は鹿島一族からの監視が厳しかったから防衛戦しか戦国時代末期まで許されなかったそう。だから代わりに遠縁の親戚でもある『山の総鎮守』こと三嶋一族が諏訪軍団が外に攻め込む際の戦力となり、動いてきたらしい。三嶋一族の特徴は強靭な精神からくるチャクラの重要度と、圧倒的な燃費の良さ、反射神経、耳の良さ。自然界の全てが結晶を構成する原料というから、傍から見たら無限大にも思えただろうな。

 

 

 

「・・・精神的なショックで覚醒、ね。陰の性質って、そういう傾向があるのかしら。普段と違うチャクラの放出がトリガーとなって体に影響を及ぼすそうだけど」

 

「俺もそんな気がするぞ。写輪眼の歴史を顧みてみれば、正しいと思う」

 

サクラちゃんとサスケは陰の性質について話している。

 

「そういえば。三嶋一族以外の晶遁ってどこなの?」

 

「あと一人だけになってしまわれたけど、里内に紅蓮さんという女性が住んでる。あちらの方が有名だよ。三嶋と諏訪は社家の防衛力として引きこもってた一族だから」

 

 

「遺伝子の組み合わせで出る血継限界というと、扇城と似てるな」

 

サスケが頬杖をつきながらモゴモゴ言った。口からキャンディーの棒が出てる。

甘いものが苦手だけど、鬼鮫さんから貰ったから食べているそうだ。

 

「そうだね。私は割と彼らの事情は知ってるから、アマツ君の事でどうしても気になる事項があれば聞いて欲しい。力になれたらいいけど」

 

「じゃあさ、じゃあさ。扇城一族のなりたちを教えてくれってばよ!!」

 

「分かった。任せて」

 

 うちは一族の中でも写輪眼を開眼できない”落ちこぼれ”扱いされた、とある男。戦場に出す資格などお前に無いと切り捨てられた男は人一倍器用だったので、一族が使う武器などの整備を請け負うようになった。その途中で扇を製造するノウハウが培われ、やがて名門職人一族の跡取り娘と結婚して『扇城(せんじょう)』一族と名乗るようになった。うちはの男と跡取り娘から生まれた扇城一族はうちはと寄り添うように歴史を駆け抜けていった。一族の者は器用ゆえに何でもできたし、写輪眼がなかなか出ない代わりなのか精神的にはとても安定していた。うちはの落ちこぼれといっても武器専門家だから忍具の達人だったようだし、うちはに生まれてさえいなければ器用な忍一族として名前が通っていたかもしれない。

 

 しかし、精神が比較的安定していてなんでもできる一族の便利屋的立場になってしまった扇城一族には新たな試練が戦国時代中期あたりから課せられるようになった。うちは一族は特殊なチャクラによって写輪眼を開眼させるため、精神に異常をきたす者が多いとされる。便利屋扱いされた扇城一族は、うちはから出た精神的にイケナイ感じになっちゃった女性を押し付けられた。それから投降してきた一族から娘を和解の印に差し出されるとき、いつもイッちゃった精神状態の姫様ばかり貰った。扇城一族も一枚岩じゃない。だから扇城本家ほど『うちは』の血が濃い代わりに、精神状態がめちゃくちゃだったり、日常生活も儘ならないほど躁と鬱状態を交互に繰り返したり、または人格障害だったり、二重人格だったり、異常に好戦的だったりするそう。でも適度に薄いという分家はそうでもなく、思い込みが激しい部分はあるけど全体的に優秀らしい。それにイケメン美女揃いとして、「美人がみたけりゃ扇城」という言葉が作られたレベルだ。

 

俺の脳裏にアマツが浮かんだ。アマツって、どこの系統に生まれたんだろうか。

 

「あの・・・、変な事聞いていい?」

 

サクラちゃんが遠慮した感じの声で聞いた。

 

「なんでも」

 

「アマツ君って、扇城の本家筋なの?」

 

「そうだよ。うちはの他、戦闘民族で知られる『かぐや』の血が混じってる。でも野風ちゃんと微風ちゃん、他の先輩方は違う。でも正直・・・、血が濃すぎるかな。だから里の医療部は外部の人と結婚する事を薦めている。聞いてくれないけどね」

 

俺はアマツのほか、野風や微風、二・三年生の先輩方、それから里立アカデミーの訓練部隊にいる扇城出身者の顔を思い浮かべる。何だか最近変なアマツはともかく、他はちゃんとした人たちだ。きょうだいが多く、入院したりしている家族がいるって学校行事の時に言ってたっけ。

 

「うちは君」

 

「なんだ?」

 

「魔眼のアズサって、知ってる?」

 

アザミがそう言うとサスケは飛びあがった。

 

「・・・し、知っているが」

 

「アマツの母上殿」

 

「・・・ヒッ!!!」

 

取り乱したサスケに、サクラちゃんが戸惑っている。

 

「・・・扇城アズサは扇城で初めて万華鏡写輪眼を開眼した、上忍のくのいち。俺の父親も彼女について昔話していたし、墓参りをしていたが。恐ろしいエピソードばかりある女性だ。別名『クレイジーサイコ姫』。俺一家はそうとは思わなかったが、『うちはマダラの再来』とか『女版うちはマダラ』と呼ぶほど強かったそうだ。見た目も似ていたという。話を聞いた分では『うちはマダラ』のような芸術性を俺は感じなかった。うちはマダラの一部のエピソードしか知らない者たちがそう言っているだけだと思ったな。だが・・・、強くて最高に狂気的である事に変わりがない。アイツの父親、星宮ユウセイ上忍は里にいると恐怖を思い起こさせるという理由で里外での長期任務に就いていた。自刃されたが。まさか・・・、『魔眼のアズサ』がアマツの母親だったとは知らなかった。強いのも何故だか納得した。誤解して貰いたくないが、俺は扇城アズサの狂気に取り乱したんじゃない。9歳のころCEOがあまりにも恐ろしく戦場での姿について語るものだから、反射的にああなってしまうんだ」

 

サスケは話を始めた。『魔眼のアズサ』と温厚な星宮ユウセイ上忍の伝説的な狂気的『恋物語』を。サクラちゃんの喉がゴクリと音を立てた。女の子は恋バナ大好きな子が多いけどさ、あんま良い予感がしないってばよ!

 

 星宮ユウセイ上忍には幼少期から忍者にならない予定の許嫁がいた。そして異性だがライバルであり将来の戦友にもなるだろう幼馴染、扇城アズサがいた。どちらも血縁者であるが、それなりに血が遠いため色々な意味で安心できる間柄だったらしい。ミョウケン上忍は5つ年上の許嫁をとても愛していて、将来は結婚する気マンマン。一方でアズサ上忍とは性別を超えた友情を築き、もう一人の扇城一族の人と一緒にスリーマンセルを組んでいたそうだ。しかし時代は第3次忍界大戦。扇城一族の仲間が敵の毒がついた武器で傷ついて倒れた挙句、アズサに「お前に殺して欲しい」と言った。仲間であり、同じ血を引く同胞を亡くしたアズサは万華鏡写輪眼を開眼した。昔から一緒だったユウセイ上忍はとても優しい人物だそうだ。ユウセイ上忍は息絶えた仲間を背負い、戦場から連れて帰った。それがきっかけとなりアズサ上忍は『魔眼のアズサ』という異名を手にし、同時に仲間を介錯したアズサ上忍を糾弾しないミョウケン上忍に『堕ちて』しまった。戦場で尋常じゃないストレスに晒されたからか、脳から異常なチャクラが大量放出したからか、戦闘狂ではあるが理性的な女性だったアズサ上忍は狂気を芽生えさせた。

 アズサ上忍は昔からユウセイ上忍を愛していた。将来は結婚したいくらい好きだけど、出来ないから仲間として最大限に役立ちたいと望んでいた。戦時下だから好きな人は18歳になってすぐ結婚し、自分は『戦闘狂』として仲間から恐れられつつ戦場に立つ日々。アズサ上忍はユウセイ上忍を里内で常に居場所を把握出来るようにし、ついに犯行に及んだ。色々と限界だったらしい。ミョウケン上忍の奥さんから関係を疑われ、けっこう酷い事を言われていたそうだし。第一子であるカガセさんが生まれたのは、そんな時だったそう。カガセさんはアズサ上忍の秘密の子だたった。

 

 『13歳が聞くには早すぎる』手段で遺伝子を手に入れ、ユウセイ上忍の2人目の子供を妊娠すると戦時中にも関わらず彼女は里抜けを計った。しかしユウセイ上忍は追跡と結界術・封印術が上手。ユウセイ上忍はアズサ上忍を眠らせると里に連れて帰り、仲間としては愛してるので出来る限りの弁護を行った。結果彼女は患者として病院に厳重な幽閉をされてそこでアマツを産み、自刃した。

 

「・・・アズサさんのクレイジー要素って、どこかしら。今のところは彼女がかわいそうな女性にしか見えないのだけど」

 

「・・・最初はユウセイ上忍の奥さんから関係を疑われて嫌がらせをされていたらしいが、突如、彼女は持っている知識や技術を使って反撃を始めた。俺も最初はアズサ上忍がかわいそうだと思っていたが、元諜報員と現役戦忍の報復合戦は凄まじかったそうだ。結局、アズサ上忍は彼女自身が潰れる寸前に奥さんの精神を壊すことに成功したようだ。それまでには奥さんの昔の勤務態度だとか、隠していた恋愛遍歴・性的な遍歴まで全てを白日のもとに晒した。彼女がクレイジーと呼ばれる所以は、この徹底具合から。何故サイコと言われるかというと、彼女自身が奥さんを壊したのに、奥さんが壊れた事を悲しむユウセイ上忍を全力で慰めていたところだな。犯人から直接慰められていたんだ。それに、どこに行ってもアズサ上忍が自然な感じでいたらしい。そしてユウセイ上忍は『物理的に慰められた結果』第一子を授かった。そして、アマツを授かったのは回復してきた奥さんにカガセさんの存在がバレてから。白黒つければ良いのに、ユウセイ上忍は曖昧なままだった。」

 

「それでも、アズサ上忍はユウセイ上忍を一番愛していたのね」

 

「・・・結局ユウセイ上忍がド最低じゃんか」

 

「そうらしい。俺には理解できないが・・・、自分に隠れて許嫁が奔放すぎる生活を送っていた事実でさえも愛してしまえるタイプだったんだろうとCEOは言っていたが。やっぱり理解できない。過去の事かもしれないが、『アイツは戦場だから遊んでもバレない』なんて言う女性には同じ立場なら幻滅するだろう・・・」

 

扇風機からの風が生ぬるい。オレはふと外を眺めた。

 

夏の昼下がり、病室からは湧きあがる積乱雲と青空がきらめいて見えた。

短い命を謳歌するように鳴くセミたち、じりじりとアスファルトとコンクリートを焦がすような太陽。

 

ああ、夏だ。もうすぐお盆。じっちゃん、亡くなってすぐだけど魂だけでも帰ってきてくれるかな?

 

「て、天気予報でも見ようよ!もうすぐ花火大会があるし、ね!!」

 

気分を変えようとしたのか、ミサキが付けたテレビから聞こえてきたのは。

 

『この泥棒猫!阿婆擦れ!!』

 

上品な女性が派手な女性の頬をビンタしながら叫ぶ。

 

『あの人が愛してるのは私!あんたは政略結婚のおかざり妻なの!!』

 

派手な女性は上品な女性に掴みかかり、その長い髪を引っ張った。

 

『やめないか!』

 

そしてマヌケに登場する、空気の読めない渦中の男。

 

 

―――タイミングが悪すぎるってばよ。

 

(だな)

 

九喇嘛も同意見のようだ。

 

 

 

 

 

                ☆★☆

『うちはサスケの救済』

 

 どんな昼ドラも走って逃げていくようなドロドロ話をしていた病室にはもう、友人たちはいない。そろそろ時間だからと帰ってしまい、夏のかたむいてきた日差しが差し込むだけ。蝉の種類もアブラゼミからヒグラシへと切り替わり、8月半ばだというのに既に晩夏の気配が漂うようになってきた。

 

 俺、うちはサスケは閉じた自分の瞼に触れる。眼窩に収まっているのは父。うちはフガクの両眼。俺が今現在、重度の胃潰瘍で手術をして入院している兄から聞いたのは『あの夜』の事だった。兄と一緒にいた男、干柿鬼鮫は起き上がろうとする兄に対し、「お体に障りますよ」と優しく気遣っていた。犯罪組織かもしれないけど、暁にも優しい人はいるんだなと驚いた。何だか和気藹々とした空気が流れていて、まるで学校の先輩後輩のよう。実際、兄は鬼鮫を『先輩』と呼んでいた。

どういうつながりなんだろうか。

 

 任務に訪れた短冊街にて、俺はうちはの血を引く16人の子供たちと出会った。今はもう懐かしい顔立ちをした子供たちを見ているとやはり、今は里で力を持っている扇城/星宮一族とは違う雰囲気だなと思った。短冊街に来てから2日ほど、俺たちは五代目火影となる綱手様に会えなかった。シズネさんとトントンはいたが。でも用事が終わればすぐ来られるという事で、俺たちは3人で自来也様とシズネさんに修行を見て貰っていた。俺が教わっていたのは、ナルトが使う技である螺旋丸のチャクラコントロールを応用したトレーニング方法だった。ナルトはというと、螺旋丸の応用技をどこまでできるようになったか自来也様に披露していた。サクラはシズネさんに医療忍術とソレを応用した攻撃を学んでいた。シズネさんは上忍だ。上忍だから、穏やかなお姉さんといった印象とは違って相当な手練れのはず。俺も医療忍術の知識が欲しいと思った。短冊城は、伝説の三忍だったが里抜けをした大蛇丸という男によって壊された。

折角の文化財を!と、この話を病室で聞いた三嶋と稗田は相当怒っていたな。

あの二人は大の歴史好きだ。

 

 

 

 

 俺は明日日曜の昼過ぎに退院できる事になっている。でも兄――イタチ兄さんはまだ。最近は民間医療において技術の発達によって腹腔鏡も胃潰瘍の手術に用いられるようになり、昔よりも随分と負担が減ったそうだ。だが、医療忍術のチャクラメスを用いればもっと負担が軽い。俺は入院着の濃紺の浴衣姿で、衛生隊員が兄さんが今起きているというので病室を訪ねることにした。

 

「眠れないのか?サスケ」

 

「そうだ、よ。兄さんは、無理しないで寝てて」

 

そう言ってくれた兄さんの顔はまだまだ青白い。腕には点滴が突き刺さっていて、鉄分と栄養を補給しているようだ。ベッドサイドテーブルの上に、その旨を説明するプリントが置いてあった。

 

「ありがとう。まるで小学生の頃みたいだな」

 

 兄さんはこれからどうなるのだろう?と、俺は何故か聞けなかった。兄さんは犯罪者だ。暁という集団の一員で、忍界中から恐れられる程の。

 

「そうか。俺がこれからどうなるか知りたいんだな?」

 

「そうだよ。知りたいよ」

 

ベッドサイドに置いてあるパイプ椅子に腰かけ、持ってきた砂糖なしミルクティーをテーブルに置く。

 

「・・・お前には伝える許可を頂いているから、伝えておく。俺は一族を殺していない。だから里に戻り、あとは自来也様配下の諜報部隊『極光(きょっこう)』が任務を続行する」

 

「じゃあ、兄さんは味方なんだな。ずっと里にいるの?」

 

「そうだ。あと、扇城一族と星宮一族には注意しろ」

 

「皆彼らには気を付けろと言う・・・」

 

 これからは出来る限りシスイと共に里に留まると兄さんは言った。嬉しかった。あと、体が動くようになったら修行をつけてくれるという。俺はもっと強くならないといけない。兄さんの真実を里中に明かせるようになって、一族の名誉を復興できるまで。兄さんと肩を並べ、天国の両親が褒めてくれるくらいに強く。父さんと母さんは生前、兄さんを優しい子だと言っているのを聞いた。心からそう思う。

これから闇がだんだんと暴かれていくかもしれないが、強く気持ちを持て。

自分は自分だと、兄さんは俺に言った。

 

それから、土産物のオレンジピールチョコレートに向かって視線が時折向いていた。

兄さんは甘いものが大好きだからな。

 

 

「食べる?稗田たちが持ってきた」

 

「貰おうか」

 

(兄さんは変わったようで変わっていない。俺が兄さんがやっていない事を受け入れたことも、復讐心を持っていないことも、少し驚いてはいたけど受け入れてくれた。)

 

 

 知らないうちに蒔かれていた種が16も芽吹き、里に戻ってきた今。

失ったものは大きいけれど、俺たちが昔の悪かった部分を改善して再興していくという余地があるから気持ちだけは自由だ。『身内に敵がいる。常に備えよ』と、兄さんは暗号を書いた石をくれた。里は一つの家族だと、歴代の火影たちは言った。里結成前の血塗られた歴史は知っている。だからこそ今の平和はとても愛おしい。家族を疑いたくない。でも、なあなあは良くないと歴史は言う。理想を語るのも良いけど、俺たちは忍者だ。有事の際に国が振り下ろす拳そのもの。昔とは忍者もあり方が変わったのだ。傭兵組織ではなく、国に奉仕する軍事力として。

うちはもまた、国の力の一つ。

上下関係など今や無意味なんだ。

 

 




扇城アズサ 上忍 『魔眼のアズサ』
169センチ 55キロ Rh+AO型

星宮ユウセイ 上忍 『惑い星のユウセイ』
175センチ 68キロ Rh+AO型


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俺たちの夏休み その③ アザミのドキドキ自由研究

アザミ視点です

海外のサイトを調べていたら、里創設が第4次忍界大戦時で69~70年前だと言っている方がいました。どこかに数字に強い方や、ヒントを知っている方はいますか?

そういえば、泥遁って本当に血継限界なんでしょうか。
土遁でも泥を作れるような・・・。
晶遁は血継淘汰というより、土+風で結晶になる技でも通りそうな気がしてきました。
水+風=氷遁(水を結晶させて氷)
土+風=晶遁(岩の成分をいじって風で結晶になる?)

メタい事を作中で言っていますが、フウレンは前世の記憶についてアザミとよく会話しています。


夏は過ぎても、本は残る。
 出典:角川文庫 角川書店 読書 2007年 ポスター パンフレット


         


夏休み 第3月曜日

 

NARUTOの世界には技名などの名称に日本神話をモチーフとしたものが出てくる。

それも高天原に住んでいた、後に降りてきた天津神(アマツカミ)由来が多い。

 

別天津神(ことあまつかみ)、イザナミ、イザナギ、アマテラス、ツクヨミ、カグツチ、タケミカヅチなど。

他にはクシナさんの名前の由来だろうクシナダヒメ、実は国津神であるスサノオは例外だけど、天津神ばかりという印象を私は受けた。

 

 

私、菅あざみ―――忍界転生して三嶋アザミが生きるこの忍界では『諏訪一族』という氷遁を継承する、国津神をモチーフとした一族が存在して一大勢力を誇っている。転生者が興した一族だと祖父は言ったが、それは私が生まれた三嶋一族も例外ではない。私が生きてきた世界の神社、諏訪大社。諏訪大社の祭神は建御名方神(タケミナカタ)。建御名方神の父親が、出雲大社の大国主(オオクニヌシ)。その祖先が、大山津見神(オオヤマツミ)という山の神様だ。

 

この忍界に諏訪信仰モチーフのグループがいるなら、その父である大国主を祀る出雲信仰モチーフも存在している筈だと私は考えた。大国主は国津神の主祭神である。天津神が天神(てんじん)なら、国津神は地祇(ちぎ)という呼び名も存在している。

 

 

 

 それから、『うちは一族』は神社があったから神道。『千手一族』は名前からして仏教がモチーフ。家紋はヴァジュラでインド神話が由来。火の国には寺があった事だし、宗教についての概念的なものは私が生きていた世界とあまり変わらない。宗教のモチーフが入ったマンガなども普通に受容されている事から確信した。

 

 

                  ☆★☆

 私は転生者として、この転生者が沢山いるNARUTO世界の勢力について自由研究を行う事とする。まずは、私が生まれた『三嶋一族』だ。三嶋といえば、静岡県にある三嶋神社。三嶋神社が祭神とするのは大山津見神(オオヤマツミ)という山の神様。愛媛県今治市の島にも総本社がある、とても古い神様。オオヤマツミには二人娘がいて、一柱は岩や永続性に関係するイワナガヒメ。また、コノハチルヒメと同一の存在という説がある。耐久性が高いがイワナガヒメ、結晶が砕け散る様がコノハチルヒメを先祖の転生者はモチーフにしたのではないかと私は思う。

 

 

 この三嶋一族から、『諏訪一族』の先祖が出ている。氷遁を突然変異で発現した者だ。彼はまるでタケミナカタのように、氷と弓を武器とする軍神のような男だった。しかし、これまた軍神と名高い雷遁のタケミカヅチを思わせる鹿島一族始祖と戦って負けてしまい、大きな湖である『天龍湖』に逃げ込んだ。そして、転生者にして土着の土遁に優れた守矢一族と戦って支配権を手に入れた。そんな諏訪一族が創り上げたのは、『諏訪軍団』。配下に守矢・八坂・片倉、祢津など。諏訪神党由来や神話由来の姓を持った転生者一族を仲間にした。また、諏訪一族と守矢一族の容姿は、彼らの先祖が上手く婚姻関係を調節したようで「NARUTO世界の理想的イケメン一族(見た目は)」の「うちは一族」と似ている。『本物のうちは』と間違われて戦場で狙われるレベルには。だから、彼らも結構苦労してきている。

 

 

 諏訪一族のライバルが、強力な雷遁が特徴な『鹿島一族』だ。まるでタケミカヅチを思わせるほど腕力が強い、力自慢の一族。同盟を組むのが、フツヌシを思わせる剣術に長けた『香取一族』。それから星の神を下した『静織(しとり)一族』。

 

 鹿島・香取・静織の3氏族の宿敵が、アマツの姓『星宮(ほしのみや)一族』である。歴史上の熾烈なライバル関係を見ていても、アマツミカボシという星の神様がモチーフという事は明確。アマツの姓は星宮(ほしのみや)だ。転生者一族は出来る限り原作に登場する一族と婚姻しない暗黙の了解だが、星宮一族は力を求めてうちはの血を引く扇城一族と結婚して写輪眼を得た。

 あと志村一族の血も入っているから、ダンゾウ辺りに利用されてそうだ。

 

 

                  ☆★☆

 

「イタチさん。いや、長野の忍者博士・内田至智(うちだ ちかゆき)。通称イタチ先生」

 

そう口に出してしまうと、うちはイタチは一瞬にして張りつめていた表情を和らげた。この病室にはサスケ君もイズミさんもいない。イタチさんは綱手様のお陰で病気が治り、やっと病院食以外を食べる許可が出たばかり。

 

イタチさんはうちは一族を殺していない。代わりに『星宮カガセ』というアマツの兄がやったと、里情報部からの正式発表が一部の忍者だけになされた。衝撃の事実が発覚し、私はいてもたってもいられずにイタチさんの病室にお菓子詰め合わせを持って訪れたのだった。

 

「・・・奥三河の滝川あざみさん、だね?やはり君だったんだ」

 

「そうです。まさか、転生先でちゃんと忍者してる貴方に会えるなんて思いもしませんでした」

 

「君こそ、発達性運動協調障害をチャクラでの身体強化で一時的にでも克服しているとは思わなかった。嬉しいよ。発達障害で随分苦労されていたけど、今はどうかな」

 

「術の得意苦手は激しいですが、体術と幻術にはそれなりに自信が」

 

 イタチさんは『原作』の世界で亡くなったあと、何故か私が転生してくる前の世界で長野県長野市戸隠に普通の人間として生まれ変わってきていた。成人後に大学同士の交流で知り合った、学生結婚した愛妻家の内田博士。顔の感じとか喋り方、声が似てるなとは思っていたし本人もネタにしていた内田さん。博士モードだと喋り方がとても柔らかいなと私は思った。

 

「日本神話はご存じで?」

 

「勿論、知っている。戸隠蕎麦の話をしに来たのかとばかり思っていた。生前の滝川さんは蕎麦ばかり食べていたからな」

 

「その話もしたいですけど。私は対うちはマダラのヒントを探しに来ました」

 

うちはマダラの名前が出ると、博士モードから『天才暗部隊員・うちはイタチ上忍』の表情へと切り替わった。でも口調が違っている。まるで大学教授みたいだ。

 

「・・・うちの一族は実に難儀だろう?」

 

「同意です、内田教授」

 

「懐かしいな、教授、か。講義でもするかな・・・」

 

イタチさんはベッドから起き上がると、常備していたホワイトボードをベッドへと引き寄せた。前の世界に転生して一般人になっていたイタチさんは、私が生前死んですぐ位で有名国立大学の歴代最年少教授となった。それはミサキ君から聞いているので、生前は人類学の研究者になりたかった私にとっては大学の雰囲気が懐かしい。

 

「先生。いい事を思いつきました!」

 

「滝川君、答えたまえ」

 

 

 

「はたけカカシ上忍に柱間細胞を移植したら最強では?」

 

「ナイスアイデア。ハッフルパフに10点!」

 

 



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俺たちの夏休み その④ 逆光!

そろそろ夏休みが終わり、新学期に突入します


 日焼けしなくて赤くなって痛くなるだけの夏の日差しに照らされている私は春野サクラ。バッチリUVカットの日焼け止めを塗り、麦わら帽子を被り、集合した先は『うちは一族の居住エリア』。手にも母が持たせてくれたUVカット仕様のアームカバーをつけ、虫よけスプレーを全身に振りかけて。準備万端だ。

 

「サスケくーん!」

 

サスケ君がかつて住んでいたという家の前で呼ぶと、サスケ君がドアを開けてくれた。

 

「サクラか。暑い中来てくれてありがとう」

 

 まずはお茶でも飲めと、サスケ君が私にキンキンに冷えた麦茶をくれた。

サスケ君は制服姿のいつもとは違い、ハーフパンツに”うちは”がいつも着ているあの独特の家紋がついた上着を着ている。もう来ていたらしいナルトが台所から、短冊街での任務の帰りに救助したイタチさんと共にスイカを手にして顔を出した。それから、あの大きい人。鮫成分高めの男性、干柿鬼鮫さん。彼はイタチさんの体調を気遣って室温と湿度に注意を配っている。

 

「サクラちゃ~ん、スイカだってばよ!」

 

「ありがとう、ナルト。これ頂くわね」

 

ナルトが持っていたお盆から一番小さなスイカを貰った。甘くて良いスイカだ。

 

「サクラさん。俺からも来てくれてありがとう」

 

「イタチさんまで・・・」

 

すっかり元気になったイタチさんは手術を必要とするほどの重篤な胃潰瘍も治り、瞳も馴染み、初代火影様から採取されて培養された細胞も根付いたらしい。最初に会った時には不健康そうで心配だったけど、今では色白は色白でも健康的な印象。

 

「日焼け止めいります?」

 

「使わせてもらおうか」

 

鬼鮫さんが扇風機を付けた。この人って本当に犯罪組織の一員なのかしら?

サメ成分多めなだけで、普通に面倒見の良い人って感じしかしないわ。

 

 

 

 

 

 本日の目的。それは綱手様から依頼された『任務』。これから何が起こるか分からないという事から、昔あの事件から放棄される形となっていた居住地から資料や武器を手に入れること。あのままで放置しておくのは危険だと、幼かった私もうすうす思っていた。それはサスケ君がまだ幼く、イタチさんは里を抜けていたから権利の関係が色々と複雑で手が付けられなかったらしい。三代目様も、先代である二代目様がうちはに対して行った政策を間近で見て聞いたから悩んでいたのだと思う。

 イタチさんが(色々あったけど)里に帰還して手を加える事を許可し、これまで仮の管理人だった扇城一族が『取り壊す』という選択をしたから、この住宅街に手を付けられるようになった。もうすぐいの達、シノ達別の班もやってくる予定。サスケ君は私に実家を見せてイタチさんと会わせたいという事で、約束よりも1時間ほど早く呼んでくれた。ナルトまで一緒だとは流石に思わなかったけど!

イタチさんはこれから変化をして、『学芸員の内田さん』として参加をする。イタチさんはまるで博士のように幅広く深い知識を持っている。本物の研究者みたいに。

 

 

 

「よし、カカシ小隊は全員揃ったな。これから打ち合わせをしたのち、作業に入る!」

 

「「了解!!!」」

 

 カカシ先生以下30人の小隊のほか、残り5つの小隊もここには集まっている。なんてったって、物凄く広い面積の場所を相手にするのだ。つまり180人、入院中の扇城アマツを除いて179人。第1部隊アカデミーの1年全員が来ている。

ナルトのように影分身が使える子ばかりじゃない。

 

 

 

 

 サスケ君は時折涙ぐみながら、イタチさんはそんな学生に寄り添う親切な学芸員を装いながら、サスケ君が生まれ育った本家の厳重な鍵の向こう側を探索している。私たちはというと、重要な歴史書の整理だ。かつての戦国時代の流れ、戦国時代にうちはの人たちがしていた服装、装備品、戦いの指南書、忍術の巻物たち。これらはカカシ先生やアスマ先生たちのような忍軍司令部から信頼されている上忍の人たちによって精査され、やがて木ノ葉忍軍全員の強さへと繋がっていく大事な品々。その辺りにあるのは収容前に読んでみて良いと学芸員の内田さん――イタチさんが言うので、私はうちはの頭脳派な人が分析して書き記した、初代火影様vsうちはマダラという里抜けして里を襲った抜け忍との戦いの本を手に取った。

 

「・・・ハァ!?何よ、何なの!?」

 

 超絶巨大な観音様を木遁で出す、初代火影様の技。その攻撃はうちはマダラと彼が口寄せした須佐能乎(スサノオ)なる技を纏わせた九尾の妖狐を、打ち倒したという。もっと遡れば、うちはマダラの華麗なる格闘戦、写輪眼の怖さ、それらが図解付きで載っていた。話はズレるがうちはマダラ、震えるほどのイケメンである。

 

「ちょっと、もう・・・、ヤダぁ」

 

 あまりにもレベルが高く、残酷な時代。一人一人のレベルが段違い。同世代らしき人に関する記録もまた、私は自分がとても情けなく思えるほどに。強すぎた。

 

「ど、どうしたのよサクラ!」

 

「私達さぁ・・・、こんなんで忍者名乗って良いのかなぁ」

 

あまりの情報量に、頭がグルグル廻っている。こういうのは良くない。

良くないって分かっているけれど!今すぐ修行したくなってきた。

 

「分かる、分かるわよ・・・!私も別の読んだけど、昔の人たち、強すぎて」

 

ヒナタも同意見なようで、うちはの人が日向一族について書いた本を抱きしめながら頷いている。ヒナタは日向一族の嫡子だから、昔から強くなりたいと言っていた。

 

「蘇ってこられたらぜってー勝てねぇよ、あの人たちはよ」

 

「最悪の事態を予測するのは良い事だと思うぞ、キバ」

 

「私たち、どうしたら・・・」

 

キバ・シノ・ヒナタの三人は腕を組み、考えている。

 

「もし蘇ったら、つったって。それ程の使い手が存在する事実がネックだな」

 

「伝説の三人の一人、大蛇丸・・・」

 

「いつか僕たち猪鹿蝶トリオも対抗できるかな?」

 

周りを見渡してみれば、同級生たちの殆どが同じ状態になって膝を抱えていた。

 

「お前ら、何してんだ?」

 

サスケ君の声にそちらを見れば、逆光に照らされたその姿があった。

その背中には刀が二本あって、うちは一族の持ち物だとすぐに分かって。

あまりにもしっくりきているから。うちは一族の人たちは資料によれば、刀の扱いがとても上手だったようだ。これからサスケ君は剣術を学び始めるのだろう。新しい力を手にしたその姿が夏空のように光って見えて、私は思わず目を擦った。

 

「ちょっとね。昔の記録があまりにも刺激的で驚いてたんだ」

 

同じ医療忍者養成課程のミサキ君が、いつも通り余裕そうな声でサスケ君にそう返した。ミサキ君はとても優秀だ。皆がイメージする医療忍術ではなく、喉に宿る血継限界による幻術によって戦い、心を癒す。尋問にも使える技でもあるから、それを生かそうと頑張っている。三嶋アザミちゃんの親友の男の子だ。

 

「そうだな。本当に、強いヤツばっかりが記録の中にいる」

 

でも、それはもう過去の話じゃない。これから教育部隊によって内容を検証・精査されてから、現代のものとして私たち世代の忍軍に戦闘技術や知恵として受け継がれていくものでもある。

 

「だが、これから蘇る。≪俺たち≫戦国時代を生き抜いた”うちは”の先人の知恵が里に何かを齎(もたら)してくれると俺は信じている」

 

 

 

 人は二度死ぬといわれている。一度目は肉体の死、二度目は忘れさられる事。サスケ君がご両親や一族の人々を亡くしたのは、今から5年くらい前の事だった。三代目様の死後、木ノ葉では情報開示のルールの関係で『うちは問題』について明かされる事が決定している。ずっと本当の事を知りたがっていた人たちもいたと思う。もちろん、あの事件について明かすのはまだまだ早いらしい。だから、初代様から三代目様の時代にかけての真実だ。本当はこんな事、一介の下忍でしかも13歳の学生である私が知る事じゃない。でもイタチさんは私に対し、「知っておいて欲しい」と言って教えてくれた。だから、私はうちはがどうして里の隅に追いやられてしまったり、警務隊をしていたり、迫害されたりした理由をもう知ってる。

本当はイタチさんが一族を殺害していない事実も、これから発表されるだろう衝撃の事実も、既に知ってる。里が一度はひっくり返りそうな事実だった。

 

 

 おそらく、このうちは居住区探索任務もそれにまつわる事だろう。サスケ君は私を家まで送ってくれて、両親はそれに驚いていて。でも、全く悪い反応じゃなかった。父は名家の生まれじゃないけど忍者で、母は一般人。私は別に忍者にならないといけない立場ではなかった。友達がみんなそういう立場にあるから流されてなった訳じゃない。春野家は忍者を出してはいるけど普通の家で、別にどうしても継承しないといけないものがある訳でもない。でも今日、サスケ君たちとうちは一族の住んでいた家々を整理していて分かった気がする。受け継ぐことの意味とか理由とか、喜びとかを。サスケ君は一族の人々が使っていた武器などを探し出して、学芸員の内田さん・・・じゃなくてイタチさんと一緒にダンボールに詰めていた。

同じ血を引く人たちの足跡を辿るように歩き回り、そこらじゅうを見ていた。お煎餅屋さんのレシピを見つけて涙を流し、料理同好会の女の子たちが「新学期に再現してみるね!」と言ってた。

サスケ君の口からは「シスイさん」だとか、後は聞き取れなかったけど、沢山の名前が零れていた。そこにいないけど、『いる』んだって思った。サスケ君はそんな人たちの存在を取り戻すように一軒づつめぐり、必要な品を家ごとに詰めていった。

 

 

夕焼けの中で話した事を私は反芻した。

 

『素敵な剣ね。何ていうの?』

 

『資料によれば、アメノハバキリ。こちらはフツノミタマというらしい』

 

『でも、錆びてるわね・・・』

 

『大丈夫だ。研ぎ直せばいい。俺もどちらかを使うだろうが、16人の子供たちの誰かが使うかもしれないしな。整備は万全にしておきたい』

 

 サスケ君は何だか短冊街以来、前よりも永遠を信じるようになったと思う。

単なるカンだけど。

お盆の前後にお墓で会った時もそうだったけど、笑顔が何だか柔らかくなった。

あまり怒らない方だとはいっても、やっぱり事件の事が心に闇の帳を下ろしていたんだろう。

イタチさんと再会した事でそれが消え去って、お盆にイタチさんとお墓参りをして、迎え火と送り火もして。送り火の帰り道の『振り返っちゃいけない』ルールもちゃんと守っていた。これまでも夏、サスケ君は何度も振り返っていた。何かしらの理由をつけながら、何度も何度も。無意識だなと思っていた。

 

 

本当の意味でサスケ君は前を向けるようになったって事だと、私は密かに思っている。

 

そういえば、今日は8月16日。山で大きな送り火が焚かれる事になっている。

だったら!サスケ君は本当に親族の方々に会えていたのかもしれない。

 

 

医療忍者の私がこんな事を言うのはなんだけど。

 

 

科学じゃ説明出来ない事って、絶対ある!

 

 

 




『頭脳派なうちはの人』=絵が上手で文才がある転生者です


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14  新学期!~さよならアマツ、おかえりイタチ~

               ☆★☆

妹がこれまでの投稿を読んで

『闇とバイオレンスが足りない』
『人間関係が理解しにくい、ややこしい』
『転生者チームは日本神話か日本史モチーフに統一した方が解りやすい』

とのアドバイスを貰ったので、第1話から加筆修正しました。
以下に変更点を列挙します。

【人名】
フウレンの苗字 沼原→三嶋(みしま)
       ・オオヤマツミが由来。オオヤマツミを祀る伊予の大山祇神社を勧請した伊豆の三嶋大社から拝借。
       ・狼信仰→遠州水窪の山住神社(祭神はオオヤマツミ)から
        

ミサキの苗字 宗像→稗田(ひえだ)
       ・『声』を媒介にした幻術の血継限界なので、芸能の女神から

アマツ・星宮カガセの苗字 星宮(ほしのみや)
       ・アマツのモチーフが『アマツミカボシ』なので、アマツミカボシを祀る星宮神社・星神社から。
       ・アマツとカガセは母親が扇城一族の出身者

【うちは事件について】
・イタチは犯人ではなく、アマツの兄である星宮カガセが犯人に滑り込んだ
・イタチは根とは関係なく、火影直轄の暗部。根にはカガセが入った。
・カガセがイタチの立ち位置に入ったので、暁にもカガセが加入。
・シスイさんは生存
・シスイさんの代わりに、志村一族の血が入った扇城一族の者が殺されている
・干柿鬼鮫は長野県民転生時代に一緒だった事から、経歴が綺麗なまま忍者を普通に退職して活動している。木ノ葉忍軍にアグレッサーとして転職を果たす。
・イタチはシスイ・自来也、たまに綱手と共に里外での情報収集任務に従事
・イタチはダンゾウパワーのせいでうちは事件の犯人に世論で仕立て上げられてしまった

【アカデミーについて】
第1訓練部隊は、血継限界・秘伝・人柱力、そして上忍たちが直接スカウトした優秀な人材で構成されている。


【最新プロフィール+新キャラ情報】
直轄アカデミー第1部隊 
《はたけ訓練小隊第7班=A組》 とにかく優秀者が多い
うずまきナルト(男 人柱力、風遁)
忍3.5 幻2.5 体3.0 賢2.5 力3.0 速3.5 精4.5 印2.5 合計:25.0

うちはサスケ(男 写輪眼、火遁、雷遁)
忍3.5 幻4.0 体3.5 賢3.0 力3.0 速3.5 精3.0 印3.5 合計:27.0

春野サクラ(女 医療忍術)
忍3.5 幻3.5 体3.0 賢4.0 力2.5 速2.5 精2.5 印3.5 合計:25.0

日向ヒナタ
忍3.0 幻2.5 体3.5 賢3.0 力2.0 速3.5 精2.0 印3.0 合計:22.5

犬塚キバ
忍3.0 幻2.0 体3.0 賢2.5 力3.0 速3.5 精2.5 印3.0 合計:22.5

油女シノ
忍3.5 幻2.5 体2.0 賢3.5 力2.5 速2.5 精2.5 印3.5 合計:22.5

奈良シカマル
忍3.5 幻3.0 体3.0 賢5.0 力2.5 速2.5 精2.0 印3.0 合計:24.5

山中いの(女 心転身の術、医療忍術)
忍3.0 幻2.0 体2.0 賢2.5 力1.5 速3.0 精2.0 印3.0 合計:19.0

秋道チョウジ
忍3.0 幻0.5 体3.0 賢1.5 力3.5 速1.5 精3.0 印2.0 合計:18.0

三嶋アザミ(女、晶遁)
忍3.0 幻3.5 体3.5 賢3.5 力2.0 速3.5 精1.5 印2.0 合計:22.5

諏訪オカヤ(男、氷遁)
忍2.0 幻2.0 体3.5 賢2.0 力3.0 速3.5 精1.5 印1.5 合計:19.0

稗田ミサキ(男 幻術、医療忍者)
忍3.0 幻3.5 体2.5 賢4.0 力2.5 速3.0 精1.5 印1.5 合計:18.0


星宮アマツ(男、写輪眼、火遁)
忍4.0 幻4.0 体3.5 賢3.0 力3.0 速3.5 精2.5 印3.5 合計:27.0

鹿島ライカ(女 雷遁)
忍3.0 幻2.5 体3.5 賢2.5 力3.5 速3.0 精4.0 印3.0 合計:25.0

香取フツミ(男 幻術、医療忍術)
忍3.5 幻3.5 体3.5 賢3.0 力3.5 速3.5 精3.0 印3.0 合計:23.5
      


 遂にやってきた新学期は、あの木ノ葉崩し防衛戦後の陰鬱とした雰囲気から解放されたように笑顔で溢れていた。木ノ葉隠れの里はメンタルヘルス関係の研究が進んでいる事が自慢だ。木ノ葉崩しのあと、無事に目覚めた風影――我愛羅の父ちゃんがそれに興味を持ったそうで、我愛羅は里長直々の任務として「木ノ葉隠れとの同盟をより強固にするため、これから”友軍”となる木ノ葉の若い忍びたちと交流を持て」という名目で木ノ葉病院にある週一で通うサービスに滞在中通っていた。我愛羅が交流したのは、オレや木ノ葉丸も含む三代目火影のじっちゃんが亡くなった事でちょっと精神的にグラついている実感がある若い奴ら。我愛羅は和解の光が見えてきた実父を亡くしそうになって、やっぱり不安的になりやすい状態ではあった。

 

 

 けれど、暗く沈んでいる奴らもいる。星宮アマツとその周辺だ。星宮アマツは前から不安定になっていたけど、8月17日の日付が変わってすぐ当たりに突然いなくなった。里を抜けたのだ。ついでにサスケもいなくなったけど、サスケが最後にいた場所に『星ノ宮神社』のお守りが落ちていたのでアマツと関係していると分かり、里は緊急展開部隊を出動させた。結果、サスケは無事に帰還したがアマツはダメだった。完全に音隠れに行く気マンマンだったそう。緊急展開部隊にいたのは波風一族・犬塚一族・秋道一族、そして日向一族の人たち。波風一族の人は、うずまき一族の奥さんがいる男性上忍。三代目のじっちゃんが亡くなってからというもの、オレに積極的に関わってくれている。今では保護者として名前を書いてくれる、波風イサナ上忍。彼らは凄腕揃いだから、簡単にやられる人たちじゃない。彼らは『音の4人衆』を呪印を出させないまま撃破して捕縛すると、里に捕虜として連れ帰ってきた。呪印の研究をするためだ。

 アマツは意識が朦朧としたサスケを抱えて大蛇丸と共に終末の谷にいたが、4人は諦めなかった。交渉術が得意な日向一族の人が交渉した結果、サスケだけは取り戻せた。どうして里最高クラスの戦力が4人もいたのに天才・星宮アマツを取り戻せなかったんだと、批判する民間人はいた。でも、オレは波風上忍たちが間違っているとは思えねぇ。アマツが自分の意志で里を抜けた事が分かっただけでも凄い収穫だ。それに、それを利用して火の国の大名と五代目のばっちゃんが使える外交カードが増えた。

 

 ちなみに、草隠れの里は香燐に対する日常的な虐待疑惑で砂隠れと木ノ葉隠れから追及を受けている。今は香燐は木ノ葉隠れで保護されていて、夏休み中にはうずまき一族の人たちと会って交流していた。彼女を娘にしたい元忍者の老夫婦がいるそうだから、多分だけど香燐はうちの里の仲間になりそうだと思う。オレの母ちゃん、うずまきクシナはもともと渦潮隠れ出身だった。そういう前例はあるし、多分大丈夫そうだってばよ。

 

 

 

9月1日 11:55 食堂

 

 いつもよりも早い昼食タイム。これは今日、始業式や終業式のような行事用の日程だ。オレたちは先生たちの指示通り大急ぎでバイキングから食べる分を取ってくると、さっさと1年生が座る列に座った。オレの左隣にはサスケ、右隣にはサクラちゃん。

 

 サスケの周囲には、サスケと話したがる同級生がいっぱいいた。何故なら、里に正式にうちはイタチが帰還したからだ。同時に殺されたとされていたシスイさん、何故か霧隠れを退職して木ノ葉隠れに移籍したいという鮫成分の多い干柿鬼鮫さん、鬼鮫さんが面倒を見ているオレたちと同い年の鬼灯水月って男子。彼らが里に現れたとして、朝8時に『英雄の帰還と、新しい仲間が増えるお知らせ』をばっちゃんが放送した。ばっちゃんは当初、初の女性火影として『女は弱い』『女はリーダーに向いていない』と批判するひでぇヤツらがいたんだけど、今では誰も文句を言わなくなった。何故なら強いリーダーシップがあるから。外交センスや国際感覚に優れた人だなって、シカマルが言っていた。イタチさんはオレたちより5つ上だから、18歳。つまり、まだ学生なんだ。だから、直轄アカデミー高等部に復学した。

 イタチさんは真面目で勤勉な人だから、里外での長期任務中にも関わらずちゃんと学生としての本分である勉強を怠らなかった。中等部卒業程度試験は合格済み、高等部卒業程度試験も全科目合格済み。本来は学生がやるべきじゃない任務を任せてしまえる位に優秀である事を、ばっちゃんは逆に悲しんでいた。

 

「これで兄さんも普通に里の中を歩き回れる。週末になったら一緒に喫茶店に行くんだ」

 

「良かったな、サスケ!!」

 

 サスケが心から笑うのを見るのって、何年振りだろうか。シスイさんはこれから木ノ葉忍軍正規部隊に現役復帰するらしい。シスイさんは強くて優しい、頼りになる兄ちゃんだ。イタチさんが学生服を着ているのを見て噴き出しつつも、卒業式に行くのを約束していた。オレにも優しくて、次遊びに行こうなって誘ってくれた。

 イタチさんは上忍だと思われがちだが、実は中忍のままだ。五代目の他、カカシ先生やガイ先生、紅先生が推薦しているので上忍候補生課程に入る予定。もう高等部卒業程度認定を受けているし。その過程では12週間という短期間で、現場指揮官である中忍を里の『幹部』として教育する。世界情勢が不安定だから、里と国は逆に上忍を増やすべきだと判断している。中等部や高等部在学中に仮に指名を受けたとして、夏休みの3カ月間を上忍候補生課程に使う。イタチさんは特別だ。

だから選ばれし者には夏休みなど存在しない!それは何かイヤだけど、目指したい。

 

「それからな、ナルト、サクラ。イタチ兄さんは昨日イズミさんと婚約して、卒業後に結婚するそうだ」

 

「えぇ、そうなの!?何かお祝いしたいわね」

 

「はえ~、すっげぇめでたいってばよ!」

 

「だろ?」

 

 それから、オレのために自来也師匠が直轄アカデミーの非常勤講師になってくれた。新世代の若い忍者を沢山育てたいらしい。あと、センジュツ?ってやつも教えたいそうだ。だから、早く中等部卒業程度認定試験に合格して授業時間を修行に回させろとせっつかれている。それはサスケとサクラちゃんも一緒。

 自来也師匠がよく里外に出ていた理由。それは諜報もあるが、人材のスカウトもある。忍者になる資質のある孤児を里に連れて帰ってきては、火影直轄の児童福祉施設に入れる。どうやら、うちはの血を引く子供たち16人を発見したのも師匠だったそうで。そんな気質の人だから、オレの上には父ちゃん以外の兄弟子・姉弟子が沢山いる。諜報を得意とする遊女の娘を保護した綺麗なお姉さんから、様々な方言を操る戦災孤児のお兄さん、民間人だけではなく抜け忍が利用する闇医者に化けた医療忍術使いの人たちまで。国中に諜報技術に長けた兄弟子・姉弟子が散らばっている。その人たちは全員、木ノ葉で15歳を超えてから下忍認定試験を受けて忍者としての地位を手に入れた。やっと沢山いる弟子たちのうち5人も上忍になって、彼らに諜報の全てを任せられるようになったそうだ。組織名は『極光(きょっこう)』。なんでも、昔見たタイムトラベル関係のSF映画がヒントらしいけどオレにはタイトルが分からない。

 

 

                   ☆★☆

「ナルト君、サクラさん、三嶋さん、稗田君、諏訪君。遠慮なく頼むといい。ほら、サスケも」

 

「良いんだよ、みんな。イタチもこう言っているんだから、ね?」

 

サスケが言っていた週末、オレたちは火影邸宅前にある『星鹿珈琲 火影邸前店』にてイタチさんと婚約者のイズミさんに連れられて来ていた。サスケとサクラちゃん、オレは最初から誘われていたけど、イタチさんはアマツの里抜けについて気にしているだろうアザミとミサキも呼ぼうと言った。1週間も経てば里の人たちもイタチさんが街を歩いているのに慣れてきて、今朝は普通に「おはよう」と菓子屋のご主人から笑顔で挨拶されていた。イタチさんはすっかり健康的。細身だけど肌の感じも血色が明らかに違う。じゃあ前はすっげぇ貧血だったんだな。胃潰瘍ってマジ怖い!!

 

「じゃあ、オレは白桃フラペチーノ!」

 

「私は檸檬ヨーグルトフラペチーノにします!」

 

「俺は・・・、うーん、エスプレッソアフォガードフラペチーノ」

 

オレたちスリーマンセルが注文すると、店員さんはまず3人分メモした。

 

「僕はチャイティーラテのアイスで」

 

「私はチーズケーキフラペチーノを」

 

「パッションフルーツティーのトールにしようかな」

 

「兄さんは?」

 

イタチさんは穏やかにほほ笑むと、深呼吸をした。

 

「ダークモカチップクリームフラペチーノに、トッピングでチョコチップ・チョコクリーム・ホイップクリームを多めで。サイドメニューでオレオを人数分」

 

「う、うぇ」

 

サスケの顔色が悪い。サスケは甘いものが苦手で、そういうところはイタチさんと真逆だ。

オレオは甘い物だけど、それだけは普通に食べてたのを覚えてる。

 

注文されたものが全部届くと、何となく雑談が始まった。サスケはイタチさんに複雑な視線を向けている。

途中で店に入ってきたイルカ先生の手を振ると、それが返ってきてうれしかった。イルカ先生は持ち帰りで数人分を袋に入れて持って帰っていった。上忍控室のアスマさんたちにパシられたのかな?と思った。

 

「ところで、三嶋さんと稗田くん、そして諏訪くん。3人に提案がある」

 

「僕たちに提案、ですか?」

 

「ふぇ」

 

「何事です?」

 

アザミは眼鏡をずり上げ、イタチさんの方を向いた。

 

「君たちの血継限界に関するチャクラの性質は陰陽でいうと陰。3人とも幻術タイプだな。そこで、俺は考えた。上手く戦えないと悩んでいたが・・・、俺の万華鏡写輪眼の修行も兼ねてある実験に付き合ってくれないか?」

 

「内容次第で受けます」

 

「楽しそうっすね!」

 

「面白そうですね」

 

イタチさんの話はこうだ。元から得意苦手が激しく、どちらも幻術タイプの3人はそれぞれ医療忍者候補生と医療忍術とは相性が悪い対照的な3人。チャクラは身体エネルギーと精神エネルギーからなるから、精神エネルギーを底上げして補ったらどうかという。どちらかに偏るのは良くないという指導者もいるけれど、元々色々なものが生まれつきアンバランスな状態で成長してきた3人ならばバランスを取るのも容易いというのがイタチさんのアイデア。

 

「そして、俺からのお礼として君たちには手作りの蕎麦を振舞いたい」

 

「兄さんって、蕎麦作れるのか?」

 

「ああ。長期任務中に学んだんだ。もちろん、みんなにも食べてもらいたいと思っている」

 

「すっごく美味しいんだよ、イタチが打ってくれる蕎麦は」

 

イタチさんの新たな特技、蕎麦打ち。イメージとは違い過ぎていて、オレとサクラちゃんは顔を見合わせていた。




蕎麦=信州そば


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15 中忍をねらえ!!①

12月1日 1次試験(筆記) A会場外

 

 

遂にやってきた、中忍選抜試験。

 

オレたちはカカシ先生による放課後の特訓を受け、準備万端。

 

 凍てつく12月の空気に包まれながら、『オレ』は幻術による妨害を突破して中忍選抜試験の筆記試験会場へと足を踏み入れた。本年度第1回目の試験がメチャクチャになった都合で、第2回目のオレたちにとってはホームである木ノ葉隠れの里で実施される。木ノ葉隠れで行われる試験の内容は大体いつも同じような感じだから、先輩方の情報をスパイしてきたのでスキはない。実は音隠れのスパイだった薬師カブトという医療忍者の先輩がいたけど、その先輩が1学期、親切にも試験内容を教えてくれていたのだ。他の先輩の話を聞いても、同じような試験内容らしかった。その共通点というのが、『カンニングアリの筆記試験』である!!

 

 今回の試験は規模がバカかって程にデカい。木ノ葉隠れによる単独開催という事になっているためだ。もちろん他の里からの出場者も受け付けている。砂隠れが来年度のうち1度は開催する予定だ。前回の中忍選抜試験に伴って他国や他里とまた小競り合いが起こる可能性が増してきたということで、五代目火影からの通達で出場者が増やされる事となった。だから砂隠れも沢山受験者を送り込んできた。これまでとは違い、『可能性』を重視した選抜基準で選ばれてきた人たちだ。

 

 

 受験者には試験前日、スリーマンセルの全員にそれぞれ違う会場が指定される。何らかの目的のために3人を引き離すのだが、オレが指定されたのは『A会場』とされた里中心部にある大講堂を擁した文化会館。そこにたどり着くまでに罠が幾つも潜んでいて、幸い対トラップ訓練を重ねてきたオレは普通に攻略。ヒナタもシカマルも、アザミも、ハヅチも、フツーに乗り越えていった。もちろんトラップに気づかない、あるいはすぐに抜け出せないヤツもいるワケで。ざっと見て500人くらいいた受験者は、会場にたどり着いた時には450人(試験官数え)になっていた。そこで出身の里ごとに整列するよう指示を受けて、腕章に『B』『C』と書かれた連絡係の試験官が突破者の情報を書いた紙か何かを交換しては去っていった。

 

「これから試験官が肩を叩いた者はチームメイトが会場までたどり着けなかった者だ。申し訳ないが、会場から立ち去って欲しい。あまりにも受験者が多いから仕方がない」

 

幸いなことに、オレもヒナタも大丈夫だった。見た限りでは知った顔は全員が残っていて安心した。

前に並んでいたヒナタは少し振り向くと、オレの目を見てはにかんだ。かわいい・・・!もっと見たいぜヒナタの笑顔!とか頭の中で言っている場合じゃねぇ、残念ながら。今日もオレの婚約者は世界一ステキだって再確認出来たのは良かったけど、またこうやって笑い合うには試験を突破しないといけない!!

 

「突破しようね、ナルト君」

 

「ああ。お互いベストを尽くすってばよ」

 

そっと手を繋いで握り合うと、トゲトゲしい白い瞳に射抜かれるような錯覚があった。これはネジ先輩に違いないが、こんな場所にいるワケがねぇってばよ。さー、スルーして席へ!と思ったら。

 

「・・・うずまきナルト。2次試験が終わったら体育館裏に来い。分かったならさっさと進め」

 

ギリギリと肩に手を食い込ませてくる2年次の中忍、日向ネジ先輩が『試験官補助』と書いた腕章を付けて白眼全開でオレを睨んでいた。しかしヒナタの方へは優しい視線を向け、「やれるだけの事をやるのですよ、ヒナタ様」と穏やかな声で呼びかけた。ヒナタは「はい」と小さく頷くと、緊張が解けたのかオレの手を握り直して、また名残惜しく繋いだのを解いた。

 

「よっし、気を取り直して頑張るってばよ!!」

 

何でもないような顔をして、オレは指定された長机の一番左端の席へとついた。番号は縁起が良い『77』番。ヒナタは右隣で『78』番。オレは目が良いから遠くまで見えるんだけど、少し離れた場所でアザミは吐きそうな顔をしていた。アレは眠れなかった顔に違いない。いつもテストの度にああなってるから緊張に弱いんだよな。

 

 

 

試験官が説明を始めた。森乃イビキ特別上忍じゃない、部下の一人だろうなと思う。首に包帯を巻いた甘い声の女性は猿女カナ特別上忍と名乗った。美しい人なんだけど、あの人も拷問を受けたんだろうか?森乃特別上忍は直轄アカデミーにたまに来ては大戦中の話をして下さる。一見怖そうだけど、本当は暖かい人だ。

 

その人が出てきた途端、アザミが姿勢を正した。

 

「はじめ!」

 

スタートの合図がなされた瞬間、大教室内には450人分のカリカリと鉛筆を走らせる音が響いた。

 

 

 

                     ☆★☆

 オレの前にあるのは、とんでもなく難しい問題。解けるどうか分からないような難易度で、頭が真っ白になった。しかし、どうも違和感を感じる。その違和感が始まったのは、たしか女性試験官が喋り始めてからだ。そういえば、あの試験官は名前を何て言ったんだっけか。猿女!

猿女といえば、稗田ミサキの家の本家だ。猿女・稗田一族は同じ一族だけど、分家というか庶家。声を操って幻術をかける一族。ならば、幻術をオレはかけられている事になる。でもうっすらと遠目で見たアザミは平然と解答をしている。問題は理数系ばかりだから、数字と図形に弱い、弱すぎるアザミには解けるワケがない。つまり、本当に幻術だってコト。アザミの幻術耐性はやたらめったら高いんだぜ。

 

(そういえば試験官の猿女特別上忍、この会場で『リラックスして頑張ってね』『カンニングがバレたら即退場よ』と言ってたってばよ。よっし!幻術返し!!)

 

幻術返しをすると、目の前の問題用紙には『好きな試験官の似顔絵を描きなさい』とある。

何だコレ!?びっくりしたってばよ。オレはあの女性試験官、猿女特別上忍の顔を描き始めた。隣では幻術が苦手なヒナタが素直に解こうとしていたので、オレはドキっとしだ。他にも消しゴムをわざと落とすヤツが、タイミングを見計らったように何人も出てきた。オレは音が鳴らないようにポケットを漁ると、チャクラで文字が出たり消えたりする小さな紙を取り出した。

 

(”これは幻術だ。好きな試験監督の似顔絵を描け!ナルト”。コレでよし。コレを予備の消しゴムに上手く隠して、・・・と。うずまきマークを消しゴムに書けばオレからの伝言だてすぐに分かる。完成!あとは・・・)

 

オレは同じデザインの消しゴムを二つ持っていたので、ポケットからそれも出してメモを仕掛けた。メモ用紙の仕様なんて同じ里出身者ならみんな知ってる。それだけポピュラーな、忍者学生が使うようなあり触れた文房具だってばよ。

 

わざと、でも自然な感じで消しゴムを落としてヒナタの注意をこちらに向けさせた。優しいヒナタは試験中だというのに、オレを助けようと消しゴムに手を伸ばしてくれた。それを普通に受け取るフリをして、消しゴムをすり替えた。

 

「おっと、ごめんヒナタ。寝不足みてぇだ」

 

「大丈夫?ナルト君。消しゴム落ちたよ」

 

「ありがと、ヒナタ。ごめんな、邪魔して・・・」

 

普通ならばちょっと長いやり取りだけど、さっきまでラブラブカップルとやじられる感じだったオレたちなら違和感ゼロ。試験官の女性が頬を染めていて、うつむいてしまった。ウブな人なのかな猿女特別上忍は。

 

ヒナタは「はっ」とした表情をしてから、机の下で手を動かした。幻術が解けたようだ。

 

速く書き終えたオレは席に貼ってある番号の上に小さく書いてある文字を見つけ、読んだ。そこには『受験生諸君。君たちには幻術をかけてある。この場の雰囲気に呑まれていない、幻術に耐性がある、あるいは文章を読む習慣がある者は好きな試験官の似顔絵を描きなさい。以上』とあった。無言でオレは姿勢を正して試験終了を待っていると、席番号の文字または幻術に気づかずカンニングをして失敗し、退場を命じらせる受験生が相次いだ。おそらく、この筆記試験の目的は注意深さと冷静さ、諜報技術を見極めることだってばよ。ドキドキしながら待っていると試験が終了し、ミサキがするのと同じ「鼻歌」という方法で幻術が解かれた。既に解けているヤツにとっては何の変化も無いけれど。

 

「試験終了です、みなさん。試験官の似顔絵を描いた方は試験通過です。ただし・・・、他の会場で受験中のチームメイトの方々も同様に合格していないと次の試験には行けません!!」

 

まずは試験内容を見抜けず冷静になれなかった受験者が退場した。これで400人(試験官数え)になった。

試験会場にたどり着いてから来た『B』『C』と書いた腕章の人たちが来て照合し、400人から300人に。これで、300チームが残ったことになる。

 

「残ったみなさん、おめでとうございます!次の試験説明へどうぞ!!」

 

猿女特別上忍は『A会場』と書かれた三角の旗を持ち、ツアーコンダクターのように振って「付いてきて下さいね」と言った。顔をまじまじと見てみると、たぶん親戚なだけあってミサキとちょっと似てる。苗字は違うけど割と血が近い人なのかもしれない。ミサキはまだ声変わりしていないから声も似ているし。

 

                      ☆★☆

 オレたちはやっとチームメイトと合流すると、抱きしめ合って再会と試験通過を喜び合った。サスケもサクラちゃんも幻術に気づき、正しい回答をしたようだ。サクラちゃんは頭が物凄く良いから、もしアレが本当の問題だったとしても普通に解いていたかもしれないが。

 

 1次試験突破者が900人、300チーム。これを更に振り分けるため、2次試験が行われる。引き続き猿女特別上忍は相変わらずツアーコンダクダーのようで、今は他里出身者に対して木ノ葉隠れのおいしい食べ物について説明している。ミサキとはやっぱり親戚同士みたいで、アザミより背が高いのにアザミの背中に隠れようとしていた。その姿を見てキバが爆笑していた。赤丸も鳴き声が震えている。

 

 

「さて、無事に1次試験を突破したみなさん。里外にある2次試験の会場『霧ヶ原大湿原』に向け、これから午後1300にスタートして頂きます」

 

 スリーマンセルにつき1枚ずつ、ネジ先輩たち試験官補助の学生たちにより地図が手渡された。他の会場にはロック・リー先輩のほかテンテン先輩と諏訪先輩や守矢先輩もいたようで、4人も試験官補助をしていた。運営側で赤十字の腕章を付けている八坂先輩もいる。地図のほか、応急手当パックとサバイバルキット(どちらも扇城屋の軍需産業部門のマーク入り)が1人1つずつ手渡された。大切な若い戦力(いのち)を無駄に消費させたくないという、五代目火影の考え方がハッキリと分かる贈り物だった。

 

試験官たちによる説明が終わると、お昼の鐘が鳴った。受験生たちはそれぞれスリーマンセルを組んだまま色々な方向へと歩き出し、オレら第7班も昼食を摂ろうという話になった。他の同級生はどうするんだろうと思っていると、アザミたち第77班がやけにハイテンションな事に気づいた。

 

「あの3人、やけに余裕そうね」

 

「第77班(あいつら)は山岳地帯と湿原が大得意だからな」

 

「『山の三嶋氏族』、『湖の諏訪氏族』、『響の猿女氏族』って言うんだぜ?」

 

「どんな感じで第77班が戦うのかまだ分からないけど、試験に参加するのと同時に何だか楽しみよ」

 

 山岳地帯であるイナ渓谷を抜け、諏訪氏族が本拠を構える天龍湖の近くにある霧ヶ原大湿原へと至る道。忍者の脚なら1300からだと深夜までかかる。慣れていなければもっとかかるだろう。あまり昼食を食べ過ぎると吐くかもしれないと思って、オレたちは任務服のポケットからいつも使っている忍者用の食券を取り出して門の近くにある屋台へと向かった。あとは圧縮保存できる防寒用のウインドブレーカーを買い、もっと大きなポーチに付け替えてそれを入れた。そして、同じ店にいた第77班からのアドバイスで購入したのはサバイバルナイフと追加の濾過フィルター。そうこうしているうちに、あと15分位でスタートだ。

 

「よっしゃ、行くってばよ!」

 

「待ってナルト!」

 

「ったく、元気だな!!」

 

 



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16 中忍をねらえ!!②

霧ヶ原湿原
・危険すぎるトラップまみれの釧路湿原だと考えていただければ


 霧ヶ原湿原。それは忍軍演習場という顔を持つ巨大な湿原だ。トラップがそこらじゅうに仕掛けられていて、野生の熊が住んでいる火の国北部でも有名なデンジャーゾーン。かつては諏訪軍団が毎年恒例の武芸大会で主戦場に使用していたそうだけど、オレには信じられない。行方不明者が多いから諏訪軍団が公園レンジャーとして忍軍から管理を仰せ付かっていると、第77班の諏訪オカヤが説明してくれた。今日の夜1200丁度までに到着しなかったチームは締め切りらしい。第2の試験は翌朝から。だから、仮眠したり休んだりする時間は十分ある。

 

「お前ら、余裕そうだな」

 

「そーでもないよ。ちょっと面倒なピクニックだなって思って」

 

サスケとミサキ、いつもあまり見ない組み合わせで喋っているのは新鮮だ。

 

 

                  ☆★☆

 

 300チーム900人という『可能性』を秘めた下忍が、トラップまみれの大湿原に解き放たれた。『天・地・人』3種類の巻物を揃え、目的地となる大湿原のはずれの『木ノ葉忍軍野外活動センター』を目指す。つまり、これで2/3が強制的に振り落とされる。こうなると100チーム300人にまで絞り込まれる。これは流石に多すぎるので、48チーム144人に絞り込むため、先着48チームだけが第3の試験予選に進めると試験官が言っていた。つまり、ただ巻物を揃えて目的地にたどり着くだけじゃいけない。中忍として、時間を無駄遣いせず任務をこなせるのか見たいんだなってオレは思った。

 

そうと決まれば、やるっきゃない。

 

絶対に合格してやるという思いを込めて、オレら第7班は木の上から休んでいる草隠れのスリーマンセルを待ち伏せからの奇襲をしていた。サクラちゃんが樹上から煙幕で攪乱し、サスケは写輪眼で居場所を見抜くサブアタッカーで、オレがメインアタッカー。

 

「草隠れだー!襲うってばよ!!」

 

「香燐さんの分よ、喰らいなさい!!」

 

「オラ、さっさと巻物を寄越せ!!」

 

 オレたちは何となく知り合いから巻物を奪い取るのにまだ抵抗があったので、夏休みに出会った草隠れの香燐をいじめた罪を反省してもらうつもりで草隠ればかりをターゲットとして襲っている。草隠れのスリーマンセルは完全に湿原の地面にのびているのでサスケが巻物を漁ると、欲しかった分が全部そろった。

 

「意外と早く揃ったわね」

 

「残り30時間か。俺は早く目的地に行くべきだと思うが」

 

「オレもサスケに賛成だってばよ。早いヤツはめっちゃはええもんな」

 

 

 

 今年度第1回目の中忍選抜試験は『死の森』とその中央にある施設を使ったらしいが、今回は耐震工事やら改修工事をやらないといけないという事で開催地が『木ノ葉忍軍野外活動センター』を使う事になったという話を聞いている。音隠れ関係で死の森の中もグチャグチャらしいし、整備が必要になったんだと。その施設については全く知らなかったため、この湿原に入る前にあった看板に書いてあるイラストしか頼りにならない。

 

 湿原の中には『木道(もくどう)』というものが一応整備されているけど、あえてそっちを選ばない事にした。ご丁寧に「ここ通ってね!」となっているんだから、何も仕掛けてないワケがないじゃん。だから木道と並走する方法で、野外活動センターを目指す事にした。現に木ノ葉隠れの参加者たちの中でもこういった場所での戦い長けた者たちもそうしているんだから大丈夫だろう。

 

 

                       ◇◆◇

『うちはイタチと未知のエリア』

 

 忍界、長野県、また忍界と。『Uターン』で転生し、本来生まれた世界に戻ってきた形のイタチには悩んでいる事があった。イタチが長野時代読んでいた『NARUTOの原作』では、ナルトは自来也と共に里外へ修行の旅に出てしまうのだ。シスイの生存やイタチの健全な里での地位という時点で既に従来とは違う展開になってきてはいるが、イタチと同じ立場である伝説の三忍・自来也は今回、彼が孤児を拾って直々に育て上げた優秀な独自の諜報組織を保有している。木ノ葉隠れに所属する、正規の諜報部隊だ。

 そのため自ら諜報活動に出ていく必要が減り、うちはサスケの警護とうずまきナルトの強化に集中する事が出来るようになった。五代目火影・綱手姫もまた、Uターンしてきて前世の記憶を持っている。日系アメリカ人4世としてホノルルに生まれた前世ではアメリカ陸軍の軍医として将官にまでなった女傑。軍事的なノウハウも医官だが持っており、前世で同じ高校の親友だった自来也とはよく行動を共にしている。春野サクラの強化につとめ、今回は春野サクラが幼い時にはもうスカウトして弟子にしていた。かなり一方的に。シズネも記憶があって、前世では綱手姫に憧れて医官として将官に上り詰めた経歴を持っている。シズネの前世は日本に生まれたので、入ったのは陸上自衛隊だったが。

 うちはサスケは闇堕ちも里抜けもしなかったし、うちはイタチは志村ダンゾウなどと関係なく普通に里に戻ってきている。同じく前世の記憶と知識を持った親戚にして親友、シスイと共に。しかし、代わりにそのポジションに収まった者たちがいる。前世の長野で親戚だった星野輝瀬(ほしの かがせ)と弟の星野天都(ほしの あまつ)兄弟だ。二人は複雑な家庭の事情があり、片方は親戚に殺され、もう片方は不自然な自殺をして若くして命を落としている。天都は小学生時代まで仲が良かったサスケをライバル視し、中学生時代からは本格的に敵視しはじめた。引っ越し先の奥三河で短い生涯のなかで出会った信頼できる3人の友人を得たが、その全員が非業の死を遂げた。まだ二十代後半または三十代前半という、あまりに早すぎる死。

 三嶋アザミ――滝川薊子は、彼女の地元の大手企業の工場に勤務する、数少ない女性社員だった。地元でもしっかりした家柄の家庭に生まれ、彼女自身ではなく彼女の父方祖父の家庭が複雑だったからか祖母の姓・滝川を名乗っていた。本来ならば九州由来の姓の筈だったが。どうにか生来の発達障害と折り合いをつけ、失言しないよう努力していた。しかし彼女に一方的な憎しみを向けるかつての同級生にして同僚に刺され、同じ事件でミサキと共に命を落とした。彼女の死そのものはミサキと違って故意の医療ミスだった。

 稗田ミサキ――稗田三幸は、コミュニケーション能力と空気の読めなさを苦悩していたが持ち前の頭脳で防衛医科大を出て医官の研修をしていた。絶対音感を持ち、家を出て行った父と兄二人の間で苦しみながらも明るく隊員たちを診察していた。だが、後のアザミである薊子と同じ事件で亡くなった。

 諏訪オカヤ――諏訪陸也もまた、友人たちと同様に生きづらいタイプの青年だった。人が良いのに加えていつも運が悪く、台風の災害派遣で部隊の仲間を庇って落ちてくる岩に押しつぶされて殉職。見た目と話した印象だけでいえば、100倍ノーといえない少年期のオビト。明るくて優しいムードメーカーだった。

 あんまりな人生を送った、『前世の親戚とその親友たち』。イタチは前世の長い人生の中で、彼らについて考える機会が多かった。何もしていないのに、何も悪くないのに、命を落とした若者。その死因は戦争などではなく、誰かを助けたりするための行ったことが全て返ってきて起こった事。いつも発達障害というハードルを強いられ、重しを付けられる事が当然な人生を送り、突然幕を引かれた彼ら。

前世の忍界では存在していなかった概念に、イタチはたびたび本を手に取っていた。

 

 

 『すべてが様変わりしてしまった忍界』へと舞い戻ってきたイタチは、イタチが舞い戻る前の世界出身者が息を潜めるようにして生きている事を知った。中でも強力な力を持つようになった転生者の氏族もおり、彼らは普通の忍者人生を送っているように見せかけて全ては『第4次忍界大戦での犠牲者を減らすため』だけに生きていた。日向ネジのように死ななくても良かっただろう者を救うためだ。それだけのために、長い年月をかけて準備を重ねてきた。そういった理由で生まれた氏族の中に、イタチが前世で親戚の子の親友たちだという事で気にしていた子供たちがいた。

 稀少な晶遁を継承する『総鎮守』とよばれる三嶋一族の本家に生まれた三嶋アザミ、『氷の軍神』とよばれる諏訪一族分家末端の諏訪オカヤ、声をトリガーとした幻術に関する印をショートカットできる猿田氏族の稗田家に生まれた稗田ミサキ。

 一族内では愛されて育っているが、何も知らない外部からは落ちこぼれ扱いを受けている子供たちだ。前世でつちかった大人としての精神年齢を持っているためか落ち着き払っており、不気味がられてもいた。確かに発達障害やら学習障害の傾向はある。しかし、それを補えるほどの幻術や忍術に必要不可欠な想像力を持っていた。ただし人間関係に行かせないだけで想像力に関しては相当なレベル。いや、妄想力か。

 

 

 前世で救えなかった悔しさをバネにするように、里に長い諜報任務から戻ってきたイタチはそのスリーマンセルを鍛える事にした。幸い愛する弟のサスケははたけカカシ上忍に弟子入りしているし、はたけ上忍はまだうちはが存在していた頃にコピーしたうちはの火遁を教え込んでくれている。『原作』での千鳥といった術はもう一通りできており、病院での瀕死の偽装によって万華鏡写輪眼になって更には手術でそれは『永遠』になった。だから可愛い弟に関しては、イタチはかなり安心している。あとは『うちはに転生した前の世界を生きた者たち』が書き記しておいた『写輪眼図鑑』を使い、どんな万華鏡写輪眼になった星宮アマツと兄カガセともやり合えるようになっておく位だ。

 

 

 

 五代目火影によって上忍に任命されたイタチが強引に割り込む形で結成された、『イタチ班』。本来ならば上忍師がつかない立場の忍軍附属中学校教育隊に所属する下忍なのだが、事情を悟った同じ立場の上忍たちに助けられてイタチは教え子を得た。教え子といっても、可愛い弟サスケと同い年でわずか5つ下。それでいて中身は30代なのだから、傍から見れば不気味で違和感があるだろう。それも当然だった。3人とも、肉体年齢より15歳くらい離れた相手と話してやっと会話が合うのだから。それでも、発達面のハンディキャップを考慮して修行をつける必要があった。

 

「幻術が得意なら、相手を足止めして時間を稼ぐ間に落ち着いて対処法を考えられるほど上手になろう。なら、まずは対瞳術の特訓がてら喰らってみてほしい。毎日チャクラを使い切る勢いでいこう」

 

「長い印が覚えられないのか。ならば、身体に染み付くように反復練習しよう。または短い印だけで戦えるようになろう。チャクラコントロール技術は流石だ。幼い時からやってきた下地が違う」

 

「諏訪も、三嶋も、稗田も、そういった特性を持つ者揃いだったようだな。血継限界の術を発動するための印が限界まで短縮されている」

 

「短期記憶(ワーキングメモリ)が弱いのか。他の者よりは長期記憶に割ける部分が多いんだろう?そちらを積極的に利用していこう」

 

「運動協調障害と、筋肉の張りの弱さが動きをぎこちなくさせている・・・。こうなったら体幹を鍛え、補いきれないグラつきを速さへと変えていけばいい」

 

 そうやってイタチは3人に修行をつけ、中忍選抜試験の時期がやってきたと同時に推薦書を提出した。もちろん、かなり自分に自信がついた3人も乗り気で。自信がつくと才能は花開くもので、まずは第1の試験をこれまで行われた木ノ葉隠れ開催のデータをもとに突破して来いと激励してやった。

 

(ベストを尽くしてこい、イタチ班。君たちならきっとやれる・・・)

 

イタチは教え子たちを寒い朝、婚約者のイズミと共に見送った。

前世の長野県民時代に見たアニメの主題歌を思い出しながら。

 

逸材の花と、挑み続け咲いた一輪。

 

あの子たちはどちらだろう?



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アザミ番外編
1 イタチ班の中忍選抜試験①~オカヤとライカ


しばらく三嶋アザミ視点~転生者たちの詳細を明かす編

本来ならナルトが修行に出る時期なので、忍界転生してきた人たちの群像劇で新章を書いていこうと考えています。たまにナルト視点も。



『オカヤとライカ』

 

 霧ヶ原湿原のトラップは想像以上のものだったが、私たち第77班は慣れているので途中ですれ違う木ノ葉以外の班を奇襲して順調に巻物を手に入れ、先着でもかなり早い段階でゴールした。第77班は既卒生でもないし、上忍師がいる直轄アカデミーの所属じゃない。『転生者のよしみ』というもので、上忍に正式な任命を受けたうちはイタチにより『イタチ班』として修行をつけられた上で出場している。

 

 平和な長野県長野市での人生を経験したイタチさんは、原作よりもずっと自分の命について考えるようになった。イタチさんのご両親はUターンで忍界に、何人かのうちはの人たちはイタチさんが長野時代に一緒に過ごした遠い親戚である人たちの転生者。だから事情や勝手は分かっていた。原作では志村ダンゾウたちによって命を落とすシスイさんは無事生存していて、元気に警務隊の分隊を指揮している。シスイさんの代わりに、前世で複雑怪奇な犬神家ばりに奇怪な家族関係をしている扇城(せんじょう)一族出身者が写輪眼を奪われて死んでしまった。その人の祖父だか祖母は志村一族らしいから多分、ダンゾウの体によく馴染むんだろう。おそらく、それを想定して組まれた縁組のもとで生まれた人。悲しいような虚しいような。

 

 

 

 『第3の試験 予選』においては144人、48チームを3つに分割して試合を行い本戦参加者を決定する。これはもちろんそうだと思ってはいたけれど、当たった相手が問題だった。ただし、予選も予選で中忍昇格者決定に関わっているので手を抜けない。どれだけ来ている上忍達に自分をアピールできるか。それが勝負だ。第1回目の試験ほどシビアではない代わりに、どれだけ自分の能力を示せるのかが問題となっている。48時間内にたどり着けなかったチームが非常に多く出たのと、棄権者がかなり出たので綱手様が考えていた以上に規模の小さい予選になりそうだ。だって、棄権者を除けば合計24人しか残っていない。

綱手様は「アレ?思ったより少ないじゃないか・・・」と少しへこんでいた。

 

 もし原作の強い子たちと当たったらどう戦おうか思考を巡らせていると、ぼんやりしていたようで誰かに肩を叩かれた。多分オカヤ君だろう。私は生前から「考え事をしていると意識がどこかにいってしまう」から、いつもオカヤ君とミサキ君にそうやって連れ戻してもらっていた。

 

「三嶋さん、対戦表が出たよ。行こう!」

 

オカヤ君とミサキ君に促されて、対戦表が貼りだされた廊下へと急ぐ。

そこには3枚の大きな紙が貼りだされていて、草隠れのチームが見事に全滅していた。

 

 

ナルト君たち『原作勢』は、面白いほどに同じ対戦相手同士。砂の三姉弟やガイ班がいないだけで、それぞれ対戦相手が似たような感じ。原作の第1の試験、第2の試験で登場し、いつの間にかいなくなっていた人たちが今回は生き残っている。しかも原作やアニメより数段階も強化された状態で。

 

うちはサスケ(木ノ葉) vs コムギ(木ノ葉)

春野サクラ(木ノ葉)  vs イナホ(木ノ葉)

うずまきナルト(木ノ葉)vs 源内(木ノ葉)

 

奈良シカマル(木ノ葉) vs ネジリ(砂)

秋道チョウジ(木ノ葉) vs コマザ(砂)

山中いの(木ノ葉)   vs バイウ(雨)

 

犬塚キバ(木ノ葉) vs ホウセイ(木ノ葉)

日向ヒナタ(木ノ葉) vs ジメイ(木ノ葉)

油女シノ(木ノ葉) vs ホウキ(滝)

 

鹿島ライカ(木ノ葉) vs 諏訪オカヤ(木ノ葉)

香取フツミ(木ノ葉) vs 稗田ミサキ(木ノ葉)

静織ハヅチ(木ノ葉) vs 三嶋アザミ(木ノ葉)

 

見事に、転生者と原作勢がきっぱりと別れた対戦表となっている。

まぁ、この方が後々に響かないだろうけれど。そういえば、イタチさんが「綱手様は誰が転生者か知っているから、さり気なく”配慮していく”そうだ」と言っていた。多分、その関係なんだろうと思う。

 

 

 

                       ☆★☆

 『原作勢』が見事に勝利を決めていくなか、遂にやってきた我ら『忍界転生者と転生者が作った一族出身者だけで組まれたスリーマンセル』同士の戦い。鹿島・香取・静織の3人はおそらく転生者じゃない。転生者が作った一族から生まれた子供たちである。私、三嶋アザミは転生者が作った一族に生まれた転生者だ。

 

「嫌だぁ・・・。鹿島一族と戦うなんて、おれ、遺伝子が拒否してる!」

 

チームメイトで前世からの大親友、諏訪オカヤ君が私とミサキ君に泣きついている。本当は棄権つもりなんか全く無いのに、普段は明るく前向きなのに、遺伝子が拒否するんだったら仕方がない。前世には無かった属性を背負っているばっかりに、それを自覚しているばかりに、ままならない事もあるのが苦しい。

 

「早く降りてきなさいよ、諏訪オカヤ。いつまで私を待たせるの?」

 

イラついた声にオカヤ君はビクビクしたまま振り返り、「行ってきます!」と言いながら飛び降りていった。すかさず私とミサキ君は心配になって柵から体を乗り出して会場を見下ろす。鹿島ライカはツインテールが似合う女子で、おそらく直轄アカデミーの女子の中では一番戦闘力が高いと言われている。それはそうだ。諏訪・香取・鹿島の3家は『軍神』と並び称される名門だが、昔からの因縁で諏訪一族が格下扱いを受けている。諏訪一族は鹿島一族から追われる形で天龍湖周辺へと逃げ込み、木ノ葉隠れが出来るまでは鹿島一族から監視されていた。遺伝子レベルで恐ろしくても仕方がないのだ。

 

「・・・やる気あるの、あんた。ま、勝つけど」

 

「や、やるに決まってるだろ?」

 

第1回中忍選抜試験の時に負った重症から無事復帰した月光ハヤテ特別上忍が試合開始の号令をすると、ライカは普段の「ざぁこ!」を封印した不敵な表情を浮かべたままオカヤ君から遠ざかった。

 

「見ていて下さい、おおおじいさま。諏訪オカヤ、推して参ります!!」

 

オカヤ君は背負っていた弓を持つと、氷遁を纏わせた矢を番えた。前世で弓道部の仲間だった頃から変わらない、何とも美しいフォーム。それも忍界に転生した今は更に磨かれ、相手を射抜くため最適化された最低限の動きからなる姿勢へと進化を遂げた。その瞳は不安から吹っ切れて、いつもより輝いて見えた。

 

キリキリと引き絞られる弓から手が離されると、オカヤ君はすかさず印を結んだ。

風遁によって放たれた矢の速度を上げ、ついでに最初の標的の着弾予定をずらす事が出来る。

当然、これはオカヤ君にとってはジャブに過ぎない。幸いライカはあまり頭が良いタイプではない。オカヤ君もそこまでではないけど、そういう方面が得意なワケではない。相手の興奮を煽れば冷静さを奪えば、オカヤ君にも勝てる可能性がある相手だと私は考えている。

 

「・・・焦っているな、オカヤ」

 

「うちはコーチ、いつの間に!」

 

ミサキ君が驚き過ぎて目が丸くなっている。それを見たイタチさんは目元に笑みを浮かべた。

 

「コーチ、こんばんわ。驚きましたよ」

 

私とミサキ君の間に、いつの間にか収まっていたうちはイタチ上忍――通称・うちはコーチ。師匠というよりも年齢が近いという事でコーチとオカヤ君が呼び出して以来の呼び方だ。

 

「先ほど来たばかりだ。これを食べるといい」

 

イタチさんは私とミサキ君に棒付きの飴を渡した。バター飴っぽい甘みが疲れた体に染み渡る。

 

 氷遁と弓術を併せ技にした戦闘スタイルのオカヤ君に対し、鹿島ライカは雷遁を纏わせたチャクラ刀を武器にしている。女性の割りには腕力がある、男子にメスゴリラと評されるライカは同い年の男子が扱う刀を平然と振るっている。対し、オカヤ君は男子の割りには非力。

 

「二人とも元気が無いな」

 

「鹿島ライカがイライラしている日はロクな事件が起きないので」

 

「・・・そうか、ミサキ。その原因は思い当たるだろうか?」

 

「ニキビ、イライラ、ですか。僕、前世は医者なんで予想はつきますけど。僕の口からは・・・」

 

ミサキ君は彼の言う通り、前世は医者だった。体力ギリギリな陸自の医官だった。大人相手に察する事が苦手だったが、今世では学習したようだ。

 

「同性なので分かりますが、ホルモンバランスのせいじゃないですかね」

 

「ホルモンバランスか・・・」

 

イタチさんが一瞬黙り込んでしまった。外見18歳美青年のイタチさんだが、長野県民に転生した人生では既婚者子持ちだったから色々と察したんだろう。13歳はそういう年頃だから覚えがある。

 

「あと、オカヤ君の動きが緊張でぎこちなくなっている事も鹿島さんのイライラを誘っているのだと私は思います。彼女は初等部時代、私の動作を見ていつもイラついていましたから。イタチさんが修行をつけて下さって初めて、私たちはやっと普通の下忍らしくなれました」

 

「それは良かった。だが、君たちは自分自身を過小評価し過ぎだ」

 

 ユタカ班は非常に要領が良い。だから、鹿島ライカに関しては初等部で同じ学校だった頃から要領があまりにも悪すぎて教師が首を横に振るレベルだった私に対していつもイラついていた。発達に凹凸が激しすぎる障害という原因はあるが、それでも忍者を目指す私に対して彼女は「やめちゃえば?」「どうせザコザコなんだから忍者になったら死んじゃうよ」と悪気も無く明らかに善意で忠告してきた。血継限界がなかなか発現せず、忍者としての成績を下から数えた方が早い私は彼女からしたら価値の無い存在。

 血継限界が発現しなかった関係で直轄アカデミーではなく、東部忍軍附属中学校に行く事になった私に「出世しないの確定なんてかわいそう!」と言い放った。明らかにイラついた顔で。彼女は直轄アカデミーでは首席だった星宮アマツ君と、男子次席だった香取フツミ君という優秀な二人と同じ班になってご満悦。学校は違っても同じDランク任務を共同でこなす機会はあるから、鹿島ライカは私の大事な班員にして大親友であるオカヤ君とミサキ君の要領に悪さに驚いていた。以来、私、いや私たちは彼女にとって確実な忌むべき対象になった。本来はライバルとして一緒に成長していくべきだった諏訪一族のオカヤが『出来が悪い』というのもあったからだろう。

 

「いや。私は身の程をちゃんと理解しているつもりです」

 

「僕も同じです」

 

 こうやって会話している間にも階下ではオカヤ君の放つ氷の矢とライカのチャクラ刀の攻防が続いている。ライカは才能がある。努力家でもある。だからこそ、私たち第77班のことを『血継限界の持ち腐れ』と言う。そうは言われても、出来ないことは出来ない。なぜなら彼女たちが生まれた一族は血継限界保持者が忍者として国と里に奉仕することを『力を持つ者の義務』と考えているからだ。まるで軍人のようだ。

 

 緊張で体が動かなくなっていくが、無理をおして体を動かし続けるオカヤ君は過呼吸という形で限界を迎えつつあるように見えた。やめさせようとする先生もいるし、イタチさんも試合を中断させるべきだと判断したが。オカヤ君は絶対に諦めないと宣言した。矢筒から射るべき矢も尽き、震える指で結んだ印と共に透明な鳥の形をした氷の刃が空気中に形成されていく。多くの使い手ならば平均3つほど、熟練者ならば12もの風を纏った氷の刃で獲物を襲う『諏訪流氷遁・凪鎌(なぎかま)』。惣領家のみの『御神渡り』を持たぬ者にとっては同じだけの価値を持つ、風神の刃である。

 

「あら、凪鎌?」

 

「・・・そうだよ」

 

軽い口調のライカに対し、オカヤ君の返答はまるで水分を吸い取られたかのように掠れていた。

おそらくオカヤ君は空気中の水分を集めるのが苦手だから、体中の水分を絞り出している。

 

「1つ、ね。あなたの曾祖父サマは私たちと同じ年齢(とし)の頃、5つは出していたそうだけど・・・」

 

「・・・それがどうした!」

 

1つだけ”顕現”した凪鎌は大きさを増していくと同時に、オカヤの目つきがぼんやりとしてきた。

オカヤ君とライカが同時に駆け出した。一瞬の間を置いて地面に散ったのは赤い花――のように見えるほど綺麗に散った鮮血と、腹部を刺し貫かれたオカヤ君だった。バラバラに砕け散った氷の結晶が紅く染まり、私は体温が下がる錯覚をした。刺した方のライカは逆に動揺しており、手が震えている。私は妙に頭が冴えて、ミサキ君の方を見た。私とミサキ君が動くよりもイタチさんは早く、フェンスに足をかけた。

 

「カカシさん!」

 

カカシ先生とアイコンタクトをしたイタチさんが飛び降りていく。医療忍者になる勉強をしているヒナタちゃんが動揺しつつも「今抜いたら出血が酷くなります」と、必死に大きな声を出して叫んでいる。私は生前、オカヤ君が藤森陸也(おかや)だった頃、中学生だった時ガラスに突っ込んだ時の事を思い出した。あの時も割かし大怪我だったが、出血が派手なだけで命に別条が無かった。

しかし、今は。

久しく表れていなかった過呼吸の予兆が来そうになっている。手の先端が痺れ、体感温度が下がり、呼吸が苦しくなってきた。思わず口元を両手で押さえると、紙袋を差し出す誰かの手があった。

 

「三嶋下忍。ここには腕の良い医療忍者がいるから大丈夫。これで呼吸を落ち着けて」

 

「あなたは・・・」

 

おそるおそる紙袋を差し出してくれた人を見ると、驚く事に予想したよりもずっと小柄な男性だった。

推定年齢は20代後半。170センチくらいの中背で華奢な感じの男性。色白で、髪と瞳は黒。優しい顔立ちをしていて、忍者らしい雰囲気がない人だった。

まるで生前の私が慕っていた”あの人”のような。

 

「僕は諏訪ヤシマ、階級は上忍。中忍選抜試験第3の試験予選のため、審査員の一員として呼ばれてここにいる」

 

「・・・、あの」

 

フラッシュバックする、生前の私に暗く影を落とした『彼』の『最期』の姿。

一流大学を卒業して建築家になって活躍していたが、突然病魔に蝕まれて若くして命を落とした父方の叔父。名前を滝川憲嗣(のりつぐ)。無関心な家庭を顧みない父に代わっていつも遊んでくれたり面倒を見てくれた、私の初恋の人。その人は知性の塊で、語学に堪能。しかもお洒落で美形なのに、複雑な家庭環境から結婚を躊躇っていたと死後に親戚から聞いた、33歳でこの世を去ったその人と同じ顔をしていた。

そう思うと驚くほど容易く過呼吸の予兆は収まり、落ち着いてその顔を見る事ができた。

 

「ん?」

 

「・・・何でもないです」

 

 諏訪上忍は不思議そうに首を傾げるから、顔は同じでも別人なのだろう。

父と少し年齢の離れていたその叔父を私は大好きだった。彼は長野県に対して説明が付かない郷愁を感じていて、その感覚を分かち合える私を可愛がってくれた。

 

話は血まみれの親友に戻る。

 

 ストレッチャーに乗せられ、階下ではオカヤ君が医療忍者たちによって搬送されていく。ライカの刺した忍者刀が突き刺さったまま。ミサキ君を見ると、無表情で唇を噛み締めていた。生来、ミサキ君は表情を作るのが苦手だ。そちらに注意を割けなくなったという事は、相当な怒りを感じているはず。当のライカは「どうして私こんな事してるの?」と言っているから、記憶が飛んでいるんだろう。

 

続いて、『香取フツミ(木ノ葉) vs 稗田ミサキ(木ノ葉)』の試合だ。

 

すっかり血の気の引いて白い顔をしたミサキは首にある勾玉のチョーカーを緩め、開始の号令がかかるのと同時に印を結んだ。

 

 

戦いの幕が上がる。




滝川憲嗣(のりつぐ)おじさん
=どこで何をしているのか分からないけど、独身で高学歴で超エリートなイケメンなおじさん。サマーウォーズの侘助おじさん的なポジションだったおじさん。
生前は東大卒、旧家出身、そしてアメリカ帰りのどこかで聞いたようなハイスペック。いくらイケメン高学歴でも、コミュ障の滝川あざみの血縁者なので、適切な人間関係の構築に関してはお察し。姪の前ではパーフェクトマン。だから独身だったオタクなおじさん。建築家だからお洒落で家の内装はハイセンスだった。外では失言王のため、無口を装っていた。喋らなければパーフェクト。
リメイク版のヤン似のヴィジュアル。特技:フラメンコ 趣味:ツチノコ探し
167センチと少し小柄め、甘くて優しい良い声の持ち主 享年33

諏訪ヤシマ 上忍 32歳
上記のおじさんそっくりな上忍(転生者)
169センチ 56キロ(生前よりもストレスが減って身長が伸びた)
氷遁の使い手
名前の由来:八島ヶ原湿原(八ヶ岳)
→八島ヶ原湿原には『あざみ館』という名前のビジターセンターがある


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2 イタチ班の中忍選抜試験②~アザミとハヅチ

「すみません。僕、稗田ミサキは棄権します」

 

毅然とした声と態度で階下に降りたミサキ君が宣言すると、受験者から驚きの声が上がった。

ミサキ君はもし相手が香取フツミじゃなかったら喜んで試合に応じていただろう。感知をするためチャクラを大湿原で使いすぎたから、上忍師たちの中でも『強さこそ全て』な戦闘民族的価値観を持つ霧島ユタカ上忍が育てたチームの一員相手には分が悪い。それに、霧島一族は三嶋一族と大昔から同盟締結の失敗をきっかけに殺し合う仲だ。私の対戦相手である静織ハヅチも上忍師に影響されていないとは言い切れない。

 オカヤ君を倒した鹿島ライカがどうしてあそこまでやったかというと、やはり一族同士の因縁が関係する。稗田ミサキ君にはそういった因縁は関係ないが、私には薄くそれがある。それは霧島ユタカ上忍の存在だ。

 

 

「・・・貴女は棄権しませんよね?三嶋のお嬢さん」

 

霧島ユタカ上忍は穏やかだが不敵な笑みを浮かべ、私に問いかけてきた。その隣にはフツミと戦い損ね、調子でも狂ったのか少し機嫌が悪そうな香取フツミがいる。フツミは黒い髪に黒い瞳をした、平均より少し背が高い男子だ。最近気づいた事だが、私と同じ世界からの転生者または転生者が作った一族の者はかなり現実的な身長体重と黒髪・黒い瞳をしている。霧島ユタカ上忍も彼の部下たちも、転生者が作った一族出身。少しは強力し合えばいいものをと幼少期は思っていたが、母方の叔母であるサクヤさんが嫁いだ霧島一族の俺様加減に嫌になって出戻ってきてから考えを改めた。三嶋一族は過去のゴタゴタで霧島一族と敵対関係にあり、霧島一族のチャクラを無駄遣いさせる専用の呪印を開発している。高祖父と曾祖父あたりの代までそれが使用されていた。その呪印は命を削るようにじわじわ作用し、ある一定基準のチャクラを練ると日向一族のソレのように痛みを齎す。

 

「うちの一族は負け戦が嫌い。そういう事です」

 

眠そうにしていた静織ハヅチが顔を上げ、こちらを凝視してきた。

 

「そっか。棄権するんだね!」

 

「勝手に僕のチームメイトを決めつけないでくれる?」

 

いつもは静かなミサキ君が応戦しようとしたため、私は右手を伸ばしてそれを遮った。

ミサキ君はいつもおとなしいが、それは人づきあいが嫌いだからだ。スイッチが入ると思った事をすぐ口にしてしまう。でもそれは不正が嫌いで、正義感の強さからくる発言である。生前のクラスメイト時代も、彼が医師になってからも、忍界転生した今世もそれは同じ。でも、今世の彼は”前”より大人しい。

 

「三嶋さん」

 

「なに?」

 

私より同じ背丈のミサキ君は私の肩を両手で掴んだかと思うと、顔を近づけて囁くように言った。

 

「・・・あいつはねぇ、経験からだけど幻術使われるとド面倒じゃんね。体術か忍具で決めりんよ」

 

「任せりんよ、相打ちには持ち込むでね。うちはコーチとこれでも食べて待っとって」

 

いつも忍界転生して再会してからは実家以外で隠している生前の故郷の訛りで話すミサキ君に、私は個別ポーチを付けて持ち歩いている祖父が買ってくれた高級チョコレートをほとんど全部渡した。どうにか”氷遁”を発動せず決めたいものだ。

 

あの防衛線以来、私は祖父から極力氷遁を外で使わないように言われている。封印されているとでも言っておけとも。どうやら三島と諏訪、そして生前の苗字である”滝川”がモメているらしい。生前の父が原因のようだ。

                       

 直轄アカデミーでも上位に入る幻術使いの静織ハヅチと対峙する私を、諏訪ヤシマ上忍も見ている。それが嬉しくて、体が軽く感じる。三嶋一族は代々骨密度が高く、筋肉がムキムキになりにくく柔らかい代わりに体重が他の忍者よりも重い体質だ。それは生前の祖父の生まれた家も同様。遺伝だろう。

 静織ハヅチの生まれた静織一族は幻術と結界術、そして呪印を得意としている。それは『総鎮守』とよばれるほど防御能力が自慢である三嶋一族も同じ。幻術のぶつけ合いか、結界での防御の攻防、あるいは体術か忍具での戦いになるだろう。または憧れの忍者である二代目様が使っていた、幼少期からひたすら訓練し続けていた水遁のある術。二代目様のようには上手くやれないだろうが、攪乱には使えるだろう。

 私が静織ハヅチに勝っている点というと、チャクラコントロールと体術位だろうか。怪我を覚悟で接近戦に持ち込んで、早めに終わらせてしまおうか。それとも桃地さんから教わった霧隠れの術とサイレントキリングで短期決戦に持ち込むべきか。

 

多分、後者だ。暗殺術は私に向いている。真正面からやり合うのは得意じゃない。

 

私は『霧隠れの術』の印を組む。濃霧が会場を包み込み、ハヅチが「何これ?」と声を上げた。イタチさんに教わったようにチャクラの感知をし辛くするためチャクラの放出を抑制し、音を出来る限りたてぬようこちらから感知術で索敵する。

 

(捕捉!)

 

音を立てず動き、口の中でチャクラを練る。いくら卑劣と言われようと、私はやる。

一度くらいは誰かに勝利してみたい。負けしか知らない私は昔から熱望してきた。

 

「アザミー!やっちまえ!!」

 

「三嶋ぁ!!」

 

「三嶋さーん!」

 

第7班の応援に感謝しつつ、私は唇を窄めて”死なないが痛い”場所に水の千本を放つ。ノーモーションで放つ事が出来る暗殺向けの水遁、天泣。私が世界一かっこいいと思う忍者の一人が最終決戦で披露していた、アレ。綱手様に『二代目様の大ファンなんです!』と何度も交渉したら、習得しやすいレベルの術が書いた巻物の閲覧を許可して下さった。

 

(天泣!!)

 

死なない程度に、手足の動きを封じるように何度だって放つ。静織ハヅチが聞くに堪えない叫び声を上げ、「降参!降参!!」と叫んでいる。月光ハヤテ特別上忍のお願いで術を解くと、そこには土下座して額を地面に擦り付けるハヅチがいた。

 

「勝者、三嶋アザミ!!!」

 

 

 

さっさと階段を上がり、仲間たちに合流する。ミサキ君が大喜びしていた。

 かわいい原作トリオとその同期たちから軽蔑されるだろうなと覚悟していたら、そうでもなかった。原作よりも忍者としての教育方針がハッキリしているためか、逆に「忍者はこうじゃないとね!」とサクラちゃんから言われて驚いた。イタチさんも私を褒めてくれたので、何というか、心の底から安心した。

 

「おめでとう、三嶋さん。良い無音暗殺術だった」

 

「うちはコーチ・・・」

 

 兄も姉もいなくて長女、しかもいとこたちは大部分が年下なので同世代の親戚の中では必然的にリーダーシップを取らされる私にとってイタチさんの持つ”お兄ちゃん”という雰囲気が心地よい。結構なブラコンであるサスケ君は里外からきたうちはの血を引く子供たちを世話しているからか、最近はお兄ちゃんらしさを身に付けつつある。このまま成長していってサクラちゃんと結ばれたら、里からあまり離れない素敵な父親になるだろう。サラダちゃんを悲しませるのは子供好きとしては絶対許せないし、避けたい。

 

「みんなも頑張ったな。里に帰ったら、俺からみんなに手作りの蕎麦を振舞いたい」

 

「やったー!!」

 

「楽しみにしてます、イタチさん」

 

紅班もアスマ班も笑顔で、それぞれお互いの勝利を喜び合った。ユタカ班は微妙な表情だったが。

ちなみに戦う前に渡したチョコレートは全て、イタチさんとミサキ君に食べられていた。

 

 

 

                      ☆★☆

土曜日 うちは兄弟の実家居間

 

「ほら、できたぞ。召し上がれ!」

 

 うちはイタチ上忍の手によって丹念に作られた蕎麦は、紛れもなく『戸隠そば』そのものだった。「一本棒、丸延ばし」という古い技術によって延ばされた生地は刃物の扱いに慣れた料理人によってカットされ、これまた絶妙なゆで加減でゆでられたあと、「ぼっち盛り」という特有の盛り方で更に盛られている。

 

「これが、これが兄さんの作ったそば・・・!!」

 

「いただきまーす!!」

 

キラキラと眼を輝かせるサスケ君は手を合わせ、誰も取らないのに一生懸命食べ始めた。ナルト君やキバ君といった食べ盛りの男子は当然、食べる量がとても多い。倍化の術を扱う秋道一族のチョウジ君に至っては、大食いというレベルじゃない。準備の良いイタチさんは影分身まで駆使し、大量の蕎麦をゆで上げた。

 

一口食べると、良質なそばの味が口の中に広がり、香りが鼻腔を抜けていく。

高校の校外学習で旅行した事がある北信の風景が蘇るようだった。高速道路で西三河を北上し長野に入り、松本市の松本城へ。それから安曇野市で花畑を見て、長野市へ。生前の貴重な美しい思い出だ。わさび園にも行ったな。

 

「おいしいね、いのさん」

 

「本当にね、サイさん」

 

早くもラブラブ状態のいのちゃんとサイ君にはもう慣れた。早くくっついてくれると、人間関係が分かりやすくなって良い。ナルト君とヒナタちゃん、サスケ君とサクラちゃんも、何がどうなったのか分からないけど既に将来を見据えた交際をしているようなので人間関係に関してはスッキリしている。

 

イタチさんはユタカ班も今日の蕎麦パーティーに呼んだのだが、断られた。彼らは息つく暇もないほど修行に明け暮れていて、対戦相手ながら気を付けて欲しいと思う。第3の試験本戦出場者はこれより1カ月間、特別な時間割を組まれて修行期間に入る。今回は3つの班の全員が本戦に出場するため、上忍師の先生方は忙しくなる。そのため例としてナルト君には自来也氏、サクラちゃんには綱手様、サスケ君にはカカシ先生といった分担で修行をつける事になった。

 

対して、私は突然怪我をしたので本戦出場を辞める事にした。

昨晩、家に帰るついでとして夜買い物をしていた時だった。突然襲われ、右肩を痛めた。見知ったチャクラの質だったんだが、まさか子供の復讐に親が出て来るなんて卑劣極まりない!!あれは悪い卑劣。許されざる卑劣である。

骨は折れていなかったものの、生まれつき接合が緩かった右肩の関節が外され、捩じられ、しばらく神経が痛んで満足に戦えなくされてしまった。

腕を普通に動かす事は可能だ。しかし、弓を引くと痛む。

 

こうして、私の中忍選抜試験は幕を下ろした。

 

あとは出場者のサポートと怪我の治癒に努めるのみ、だ。



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3 中忍選抜試験本戦、警備任務!!①

次の回で中忍選抜試験が終了後、次々回からはまたナルト君たちの視点に戻ります
次回アザミパパが判明。ヤシマなのかユタカなのか。ヒントは湿原です。

鹿島ライカ Rh+BO型
155センチ 43キロ 黒髪、黒い瞳
性質変化:雷遁、土遁(日本神話のタケミカヅチから)
備考:ツインテールでをした、メスガキ系くのいち。
   わからせるのが難しい程度には強い腕力メスゴリラな13歳。
武器:忍者刀


―――遂にやってきた、1月上旬。

 

 

 私、三嶋アザミは中忍選抜試験の会場で会場警備に当たっている。警備業務といっても私は下忍だから、やる事は限られているけど。本来は私・鹿島ライカ・香取フツミは本戦に出場する予定だったが、私は怪我で断念。残りのフツミはトラブルやらメンタルの問題で棄権し、結局は『原作のルーキー9人+鹿島ライカ』での本戦になった。耳にインカムを付け、上から指定された揃いの黒または紺色の任務服を身に付け。会場の外に集合したのがまだ夜が明けてすぐの頃だった。この会場警備任務に指名された下忍は無作為に選ばれたわけではないらしい。私たちはどうだか知らないが、他の人たちは既卒生や下忍でも上位の実力者揃い。

 上忍師が正式にいる直轄アカデミーの子たち以外が揃えられており、それぞれ警務隊の中でも警備部隊の皆さんが揃っている。その中にはうちはシスイさんもいた。期間限定の『イタチ班』は解散したが、かなり良い経験になったと思っている。上忍であるイタチさんの関係で知り合いが増え、前より対人能力が向上した。

 

第77班が警備を任されているエリアは、出場者たちの上忍師たちが通るルートだ。

観客も通るが、この時間は関係者しか通らない事になっている。

相変わらずカカシ先生はやっぱりまだ来なくて、紅先生とアスマ先生が一緒に歩いてきた。

 

「あら、第77班じゃないの。警備頑張ってね!」

 

「朝から頑張ってんな。これやる!」

 

アスマ先生は笑顔でチロルチョコ風のお菓子を投げ渡してきたので、私はそれを3つ纏めて受け取った。

多分だけど、先生たちは警備任務についている下忍全員に渡しているだろう。袋にたっぷり入っていたから。

 

「ありがとうございます、夕日上忍、猿飛上忍!」

 

すかさず敬礼しながら答えると、二人は笑顔で通り過ぎていった。白い歯と笑顔が眩しい。

そのへんにいる『モブ下忍』の私たちにも優しくて感動した。

 

「優しいねぇ、あのお二人は」

 

「ほんとだぜ。オレもあの二人みたいに上忍になれる位強くなりたいな」

 

「うんうん」

 

貰ったチョコレートをポケットに入れ、また任務に戻る。『イタチ隊長』が帰ってきたら差し入れの報告をする。暫くするとイタチさんにせかされながらカカシ先生がやってきた。今日のイタチさんは警務隊の一員だ。というより、警務隊に正式に所属する事になった。

 

「不審な動きは無かったか?」

 

「先ほど、猿飛上忍からチョコレートの差し入れを頂きました」

 

「中身を確かめてみよう」

 

オカヤ君とミサキ君が一瞬「え?」という形に口を開いたが、これは命令だ。確かめないといけない。

生前の私の親戚は正義感が強い人が多く、警察官とか自衛官といった仕事に就く人が何人もいた。彼らは言っていた。「部隊の中では、組織の中では命令が全てだ!」と。

 

「・・・気が乗らんけど、口寄せでもするかな」

 

私は片膝立ちになり、息をついた。

 

「アザミちゃん口寄せ嫌いじゃなかった?」

 

「血が無いときに血を出すのが嫌いなだけだよ。でも、今は出せる血がある」

 

「・・・どこの血?」

 

唇が寒さと空気の乾燥によってガッサガサ状態の今。私は歯で剥がれかけた唇の皮を千切った。

 

「フン!」

 

「ぎゃっ、痛そう!」

 

「痛い!!」

 

痛い。地味に痛い!ミサキ君が心配して手にチャクラを溜めている。

指に唇から流れてきた血を付けてチャクラを込め、コンクリートの床に掌を押し付けた。

ボフンと音がしたと思うと、煙の中から暫く会っていなかった一頭の灰色をした山犬が姿を現した。

 

「イタチさん、紹介します。こちらは三嶋一族代々の口寄せ動物の一頭、山犬のミョウケンさん」

 

『はじめまして、イタチさん。私はミョウケンといいます。お見知りおきを』

 

「こちらこそはじめまして。俺は上忍のうちはイタチだ」

 

凛々しい瞳をした大きな山犬は、正確には狼犬だ。純粋な犬でも狼でもなく、二種のミックス。犬の忠誠心と狼の攻撃力を併せ持つ、山に棲んでいた三嶋一族が辿り着いた最高のパートナーが狼犬である。

 

『お久しぶりです、アザミお嬢様。随分と大人っぽくなられましたね!』

 

「私たち下忍になったじゃんね」

 

『おめでとうございます。ところで、ご用件は何でしょうか?』

 

「今日の任務は警備任務です。なので警察犬になってくれませんか」

 

『お任せを、お嬢様。このミョウケン、最善を尽くしましょう』

 

イケメン忍犬と評判な三嶋一族が契約する山犬一族は全員、こんな感じだ。執事系のミョウケンさんはこの程度に収まっているが、他はホストみたいな山犬しかいない。気の良い山犬ばかりなのだが、彼らは揃いも揃って女好き。私を『お嬢様』と呼ぶし、『我が命に代えても』とか『主命を果たします』とか言う。いとこ三兄弟に対する態度と、私に対する態度が全然違う。しかし子供には優しい。

 

「早速ですが、このチョコレートに不審な点はありますか?」

 

『ありませんね。食べても大丈夫でしょう』

 

「ありがとうございます」

 

普段は祖父や叔父が口寄せをするミョウケンさんは体が大きい。思ったよりチャクラの消費が大きかったが、任務の労力を考えたらプラマイゼロだろう。これから不審物に遭遇するだろうし。

 

 

                       ☆★☆

対戦表

 

①第1試合

春野サクラ   vs 山中いの

 

②第2試合

うずまきナルト vs 犬塚キバ

 

③第3試合

奈良シカマル  vs 油女シノ

 

④第4試合

日向ヒナタ   vs 秋道チョウジ

 

⑤第5試合(シード)

うちはサスケ  vs  鹿島ライカ(忍界転生者チーム期待のエース)

 

 シード選手に選ばれたのはサスケ君だったが、これは昨日じゃんけんで決めた事だとイタチさんが教えてくれた。私の隣ではミョウケンさんが澄ました顔をしていて、通り過ぎる知り合い皆が「かわいいね」と言って頭を撫でていく。同い年の従弟であるトウヤ君が「アザミちゃんとこにミョウケンさんいるじゃん!」と言いながらやってきたと思ったら、モフモフして去っていった。トウヤ君は同い年ながら結構な晶遁の使い手で、今では本家相伝の忍術を教わる程になった。トウヤ君は中忍選抜試験こそ受けなかったが、中忍に『登用』される可能性が高いと期待されている。

 

「おっ、第1試合のはじまりだな!」

 

オカヤ君がワクワクを隠し切れずに、試合が行われるグラウンドを指さした。

そこにはサクラちゃんといのちゃんが額当てを額に付け、それぞれ自信に満ちた顔で見つめ合っている。

 

                       ☆★☆

 

第1試合 サクラvsいの

最初に動いたのは、いのちゃんだった。心転身の術にそれに抗うサクラちゃんという静かな攻防を、警備任務につく隊員を含めて観客たちは見守っている。心転身の術を振り切ったサクラちゃんは射程圏から大急ぎで離れると、手裏剣を放った。暫く忍具同士での戦いが続くと、ストックがなくなったからか体術戦へと移行した。選りすぐられた優秀なくのいち同士の、血継限界を持たない二人の戦い。

観客が見守る中、不意に静寂が訪れた。ぐらりといのちゃんの体が揺らぎ、地面に倒れた。そして小さく手を上げて審判に何やら話している。

 

「勝者、春野サクラ!」

 

審判はサクラちゃんの手を掴んで高く揚げ、勝利を宣言した。

ナルト君が「よっしゃーッ!」と叫び、嬉しそうに飛び上がった。

 

                        ☆★☆

第2試合 ナルトvsキバ

 ナルト君とキバ君が向かい合い、試合が始まった。原作とは違い、『かしこさ』レベルが格段に向上したキバ君はナルト君を煽るような言動を全くしない。赤丸君と入念に打ち合わせをしてきたようで、とにかく突っ込むという真似をしない。赤丸君とアイコンタクトをしたキバ君は兵糧丸を口にしてから印を組むと、擬獣忍法を用いて獣人分身を行った。チャクラが倍増しているキバ君は一時的だが爆発的な力を手にしているという事になる。『四脚の術』でナルト君を追い回し、ナルト君は「ひぇ~!」と叫びながら逃げている。キバ君はナルト君を負う中でも隙を見つけたのか、『牙通牙』をお見舞いした。

 ナルト君は『この忍界』において、既に螺旋丸を習得しているがキバ君相手に出す段階ではないと判断しているんだろう。既にキバ君の技を見切ったようで、「こっちだってばよー!」とか言いながら技を出させている。チャクラの消費を狙っているらしい。流石のキバ君と赤丸君でも、兵糧丸の効果が切れてきたみたいだ。ナルト君はそれを見て不敵に笑うと影分身もせず、単騎でキバ君に飛び込んでいった。

ヘトヘトだった赤丸君はナルト君によって気絶させられると優しい仕草で地面に寝かされ、それを見たサスケ君は「優しいな、ナルトは」とほのぼのした事を言っている。ヒナタちゃんは「もっと好きになっちゃった」なんて頬を赤らめはじめた。キバ君は「よくも赤丸を!」と言いつつも、真顔で体術の構えをした。

 一方、観客たちはというとまだ第2試合だというのに完全にエキサイトしている。その優しさも、前向きさも、原作より早い段階で里人たちの心をがっちり掴もうとしていた。一方でキバ君に対する応援の声も大きいから、この里はもう『卑の意志』だとかそういう言葉が似合わないほど綺麗になってきているんだなと思うと喜ばしい。

 ナルト君とキバ君の純粋な体術による戦い。どちらも体術が得意な子だから途中までは勝敗が決さなかったが、やはりナルト君は自来也氏が鍛えているだけあって技にバリエーションがある。原作でサスケ君がやっていた影舞踊で背後を取り、空中に蹴り上げてすかさず出した影分身に打ち上げて貰い、ナルト君は踵落としで決めた。もちろん、勝者はうずまきナルト。

 

                         ☆★☆

第3試合 シカマルvsシノ

 二人はひたすら耐久戦をしていたが、突然シノ君が右手を上げて『降参』と言ってシカマル君の勝利にmなった。何をしていたのか、私たちがいた場所からは分からなかった。残念な事に。審判は分かっているようで、二人に二人よりずっと大きな声で「よく頑張ったな」と言っている。

 

第4試合 ヒナタvsチョウジ

 おそらく同じ世界からの転生者によって強化されたヒナタちゃんは、チョウジ君を瞬殺していた。「ごめんね!」と言いながら八卦空掌を放ちチョウジ君を指一つ触れる事なく吹っ飛ばした。ナルト君は3秒くらい黙っていたが、「すっげー!早く戦いたいってばよヒナタ!!」と大喜び。サスケ君は黙り込んだきり、ナルト君が話を振るまで喋らなかった。観客席にいたヒナタちゃんの妹であるハナビちゃんは目を輝かせ、お父様とおじい様は「強くなったな、ヒナタ・・・」と涙ぐんでいる。

チョウジ君のお父さんは唖然としていた。私たち第77班もしばらく無言だった。

 

                     ☆★☆

 

 

第5試合 サスケvsライカ(忍界転生者の星)

 サスケ君が纏っているのは、私の推しことマダラ様たちの時代ではメジャーだったうちは一族の正装である。あの濃紺でヒラヒラしている、かっこいいあの装束。うちは一族に対する理解が急速に進んでいる今の木ノ葉隠れにおいて、うちは兄弟は応援の的だ。観客席から「うちは君かっこいい!」「がんばってー!」と商店街のおばさんとお姉さま方から黄色い声がかかる。歴史好きなおっさん達も、復刻された伝統装束での戦いが楽しみらしい。私も歴史が好きだから、とても楽しみだ。

 対して、鹿島ライカの服装は巫女装束を連想させる。短い袴は赤で、額当てはサクラちゃんと同じ巻き方で。例えるのが難しいが、金剛姉妹の三番艦と言えばわかりやすいだろうか。私は確信した。鹿島一族の中でも忍界転生者が強い力を持っていて、鹿島ライカにあの装束を着せたんだろうと。似合っているけど。

 

 二人の共通点。それは『有名な一族の二番目の子供であること』、『剣術使いであること』、『プライドが高いということ』。そして、『強力な雷遁使いであること』だ。吹き荒(すさ)ぶ冬の風に二人の装束の裾がヒラヒラと遊ぶようにひるがえる。会場内を緊張が包み込んだ。

 

 試合開始の号令が掛った瞬間、二人は抜刀しそれぞれの獲物の刀身に雷遁を纏わせてチャクラ刀とした。そのまま切り合いが始まり、メスゴリラと称される腕力とチャクラがあっても流石にトップクラスの実力を持つ男子と斬り合うのは分が悪いと判断したか、回避してバク転で背後に下がって印を結んだ。

多分だが、『土遁・裂土転掌­』。盛り上がるように地割れが起こって、会場が沸いた。

ド近眼だから詳細は分からない。申し訳ないが。サスケ君は一瞬だけ、ほんの刹那だけ驚いた。しかしその口許は笑っていたと思う。余裕の笑みだ。サスケ君は体勢を整えると舞うようにヒラリと攻撃の範囲外へと着地し、刀を仕舞ってからまた走った。私が横を見ると、イタチさんもサスケ君そっくりの笑みを口許に浮かべていた。ナルト君もサスケ君の試合に対して何も言葉が出ないようだ。

 

「サスケって、すっげぇ綺麗に戦うってばね。かっけぇな」

 

ナルト君って本当にサスケ君が大好きなんだな。きらめく空色の瞳にはライバルの活躍が映っている。

翻る濃紺の装束の裾を追うだけで、「美しいな」という感想が生まれる。舞うような戦いに溜息が出る。

いつの間にかサスケ君は短刀を握っていて、その刀身には雷ではなく火遁が纏わせられていた。

 

「なるほど、シスイから教わったのか」

 

「アレ、シスイさんの術なんですか?」

 

「君は知っているだろうに。三嶋さんが『ゲーム』で見て知っている『うちは流・日暈の舞』だ­」

 

突如現れた『ゲーム』という言葉を聞き、イタチさんは忍界・あの世界・忍界とUターンで転生してきた人なんだと突然現実に引き戻された。それにしても『うちは流』って、響きからしてかっこいい。

 

「だってホンモノですよ、ホンモノ。テンションが上がるよ」

 

「諏訪軍団にもああいう技があるといいだけどな。三嶋にはあるか?」

 

「あるかもしれんけど、本家相伝だからね。私が知らんだけかもしれん」

 

「そっかぁ。俺も全然分からんだよな。うち頭領家っていっても分家の末端だし、父ちゃんは婿養子の神職だし!」

 

「おじさん婿養子だったの?僕全然知らんかっただけど!」

 

テンションが高めになって三河弁全開の私たちを見て、イタチさんは穏やかな表情で頷いている。

 

ワイワイしている間に勝負がついた。といってもライカが倒れている訳ではなく、首筋にサスケ君によって短刀を突き付けられて「降参します」と宣言したのだ。地面は焦げたり抉れたりして、地形が変わっていた。ナルト君は静かに「あれが、うちは・・・!」と一言。

 

「サスケが勝ったか」

 

「ですね」

 

サスケ君の勝利宣言がなされると、会場のテンションも最高潮。

イタチさんも小さくガッツポーズをしていた。

 

 



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4 中忍選抜試験本戦、警備任務!!②

次回からは『愛と青春の中忍ライフ』が始まります

転校生来たる・・・!



 全員が1回目の試合を終えると、休憩をおいて2回目の試合が始まる。トーナメントだから当たり前だが。この中忍選抜試験は試合に勝つことも大事だが、『資質を見せる』ことが一番のテーマ。そのため、この時点で棄権するのも選択肢の一つ。派手に激しく戦闘していたサクラちゃんは棄権を選択した。でも、彼女をとがめる者は誰もいない。既に中忍になった先輩方の中にも、棄権という選択肢を選んで合格した人がいるからだ。

 

2回目の試合

 

       対戦表

 

うずまきナルト vs 日向ヒナタ

 

奈良シカマル  vs うちはサスケ

 

                   ☆★☆

うずまきナルト vs 日向ヒナタ

 

 大好きな姉が、可愛い娘が、孫が心配なんだろう。日向一族の皆さんが両手を祈るように重ね、ヒナタちゃんとナルト君の試合を見守っている。ヒナタちゃんは彼氏でもあるナルト君が相手でやりにくいだろうが、対戦表が出た今も棄権しようとしなかった。ネジ君はそれを観客席から心配げに見守っている。

 

 ヒナタちゃんは白眼を全開で、出方を窺っているナルト君とは対照的に積極的に仕掛けていった。ヒナタちゃんの内気さや大人しさをしっている私たち同級生はきっと全員が息をのんだだろう。ナルト君もヒナタちゃんの仕掛けてくる柔拳に対し、手を抜かず本気をぶつけているのが分かる。柔拳の掌底だけではなく蹴り技も使って、二人は高度な体術での戦闘を続ける。途中ヒナタちゃんの勝機が幾つかちらついたが、決着がついた。

スタミナで圧倒的な優位を取るうずまきナルトの勝利だ。

 

                    ☆★☆

 

奈良シカマル  vs うちはサスケ

 シカマル君は「めんどくせぇヤツが相手だな」と嫌がりながらも、先ほどのサスケ君vsライカの戦いによって変わった地形と倒木を生かして秘伝技を仕掛けた。サスケ君はサスケ君で、シカマル君の影真似の術で影を捉えられないよう必死に動いていたように見えた。自然現象や太陽の傾きを計算した動きに「まさかの奈良シカマルの勝利か?」というムードが観客席側に漂ってきた位だ。だが、そこは圧倒的戦闘力のうちはサスケ。見事なまでの高速移動と体術のゴリ押しでシカマル君を降参させてしまった。

 

                    ☆★☆

うずまきナルト vs  うちはサスケ

 最終戦にたどり着く頃には、太陽が傾きかけていた。寒くなってきたから帰る民間人が続出するかと思っていたら、意外とそうでもない事に驚いている。会場の四方に篝火が焚かれ、火のゆらめきが何とも表現しにくい雰囲気を演出しはじめた。イレギュラーのない中忍試験の穏やかさに私は拍子抜けした。観客として砂隠れの我愛羅君が姉兄と共に観客席にいる。テマリさんの隣にシカマル君がちゃっかり居て微笑ましい。

 

 

 ここからはもう、壮絶だった。写輪眼と強い精神力、剣術と体術、螺旋丸と千鳥のぶつかり合い。観客たちは声を上げるのも忘れ、戦いの進行を見守っている。いや、見守る事しかできない。ヒナタちゃんもサクラちゃんも言葉が一言も出ず、いのちゃんはサイ君とそっと手を握り合っていた。いのちゃんの父親はそれに気づいているようだが、空気を読む事にしたのか無言だ。後でサイ君はどうなるかな?

 

ようやく訪れた静寂の末に、二人は同時に地面に倒れた。

 

「引分け、引分けです!」

 

審判が思い出したかのように叫んだ。瞬間、会場からは途端に拍手が響き渡った。

誰も座っている者がいない程のスタンディングオベーション。もちろん、私たちも拍手していた。

飛び降りていったカカシ先生が二人を抱き起こし、サクラちゃんもやってきて肩を組んだ。

マイト・ガイ上忍が「あれこそ青春だ!」と貰い泣きしはじめた。

 

 

                    

 

                      ☆

 

 中忍選抜試験本戦が終わってから丁度2週間。試験が終わって警備任務が解散になってから、祖父と共にある氏族の集会場に呼び出されて後見人だという男性と引き合わされてから2週間。その男性は私がよく知る顔であると同時に、祖父にとっては教え子だった。亡き母チルヤよりも12歳下で、氷遁を行使する旧家出身の上忍。

 

『後見人』は生前の叔父と同じ顔をした、『串刺し公』こと諏訪ヤシマ上忍だった。

 

 木ノ葉崩しが行われた前回の中忍試験の時、そこそこ戦えると判断された下忍が選抜されて動員されたのはまだ記憶に新しい。そのメンバーに私は選ばれて、第77班は初陣を踏んだ。精神的に衝撃を受けると血継限界が発現するという共通点を持った第77班は無事に血に流れる力を目覚めさせた。声をトリガーとする幻術に特化したミサキ君、氷遁を受け継ぐオカヤ君、そして晶遁を使う三嶋アザミのはずだった。

 

 氷遁にはコツがいるので、実は精神的なショックは全く関係がない。三嶋の晶遁について祖父は「精神的ショックが原因だよ」と幼少期から私に言ってきたが、一言でいえばウソだった。私の父が誰なのか見当がついていて、それを確かめるべく私を進んで危険へと飛び込ませていったと祖父は言った。実は冒険心が強い祖父の影響なのか、私は生前からアドレナリンジャンキーと言われるほど危険なアトラクションを好んでいた。チャクラで身体強化が出来るようになるため、戦国時代の残滓が残った時代に少年時代を過ごした忍界に転生してきた祖父は私に相当ハードなチャクラコントロールの訓練を課していた。父親についての確信があったからこそ、我が子を崖から突き落とす親ライオンのように私を血継限界や秘伝家系の子供たちが集められる直轄アカデミーではない学校に入れた。

 教育者である祖父は基本的に、教え子や子供が傷つくような教育の現場を心の底から嫌っている。しかし忍界に転生し、再び孫として生まれてきた父親不明の孫にとっての最善がハードモードの環境に放り込むことだった。私は順調に、下手をすれば生前以上に精神状態が闇堕ちしていった。生前も大概だったが。

 

 祖父は孫の父親として諏訪の男を候補に挙げて観察していると当てはまったのが、生前の父親と同じ人。生前の父はなんと、妊娠した母を捨ててトンズラ。

 

                  ★

 あのスタジアムで氷遁を覚醒させた私はイレギュラーな存在かつ、諏訪からすれば放っておけない対象だった。放置すれば、貴重な遺伝子が他家にばらまかれるのだ。血友病と同じ遺伝形式を取っているようで、『患者』は確実に保因者の娘と患者である息子を産む。諏訪軍団において、そういった女性は大切にされて次世代の母親、つまり母体となった。私もおそらくその目的で養成されるのだろう。

モヤモヤが止まらない。

 

「ハードな人間関係の学校に放り込んだ挙句、適切な時期に適切な忍術の訓練を積んでもらう機会をおじいちゃんはアザミちゃんに逃がさせてしまった・・・。もっと向こうと話し合っておけば良かったね」

 

頭を垂れて謝罪する祖父の手に握られているのは、三嶋から諏訪に向けた書簡である。それを私に渡して、あちらの頭領に受け取ってもらうよう言った。あと祖母から持たされたのは手土産として菓子詰め合わせ。

 

これから私は父方の姓を貰い、あちらの家に入る。父と叔父はなんと現当主の”叔父”であるらしい。ということは生前の滝川家には養子入りでもしていたのだろうか。ますますわからない。

 

「・・・頑張ってね。嫌な事があったらすぐおじいちゃんに言うんだよ。一族郎党で奇襲してやるからね」

 

「おじいさま・・・」

 

秋の雨が降りしきる中、父親代わりの後見人から差し出された傘には氷の結晶を思わせる梶の葉に足が4つ付いた家紋。顔を上げれば、生前は初恋の人だった尊敬する叔父と同じ顔と心を持った人。

 

「行こうか、アザミちゃん」

 

 生前と同じように叔父は人懐こく笑うと、祖父に会釈してから私の手を引いて歩きだした。ああ、やっぱり叔父さんは世界一かっこいい!



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愛と青春の中忍ライフ
0 1080人の新人中忍!


忍術・幻術・体術     忍具
上位中忍クラス
   3.5~      5/5(手裏剣の投擲、的中数)

平均クラス
   2.5~3.0   3~4/5

補強クラス
   0.0~2.0   0~2/5

             ☆★☆
中忍クラス 直轄アカデミーに設置
1年生  60人(2クラス)
2年生 120人(4クラス)

変わりゆく世界情勢に危機感を持った五代目火影(Uターン転生者)が設置した。
元から直轄アカデミーにいた生徒だけではなく、全忍者学校から中忍昇格者を集めて教育する。最終的には中忍になった子供たちだけを集める教育施設になる予定。
より士官学校っぽい雰囲気が増していく。

             ☆★☆
【最新プロフィール】

2年生進級後から1学期終了までのプロフィール
【中忍クラス 2年A組】
うずまきナルト(男 人柱力、風遁)
忍3.5 幻2.5 体3.5 賢2.5 力3.5 速3.5 精4.5 印2.5 合計:26.0 +1.0

うちはサスケ(男 写輪眼、火遁、雷遁)
忍3.5 幻4.0 体3.5 賢3.0 力3.5 速3.5 精3.5 印3.5 合計:28.0 +1.0

春野サクラ(女 医療忍術)
忍3.5 幻3.5 体3.0 賢4.0 力2.5 速3.0 精2.5 印3.5 合計:25.5 +0.5

日向ヒナタ
忍3.0 幻2.5 体4.0 賢3.0 力2.0 速3.5 精2.0 印3.0 合計:23.0 +0.5

犬塚キバ
忍3.0 幻2.0 体3.5 賢2.5 力3.5 速3.5 精3.0 印3.0 合計:24.0 +1.5

油女シノ
忍3.5 幻2.5 体2.5 賢3.5 力2.5 速2.5 精2.5 印3.5 合計:23.0 +0.5

奈良シカマル
忍3.5 幻3.0 体3.0 賢5.0 力2.5 速2.5 精2.5 印3.0 合計:25.0 +0.5

山中いの(女 心転身の術、医療忍術)
忍3.0 幻2.0 体2.5 賢2.5 力2.0 速3.0 精2.0 印3.0 合計:20.0 +1.0

秋道チョウジ
忍3.0 幻0.5 体3.0 賢2.0 力3.5 速1.5 精3.0 印2.5 合計:19.0 +1.0

諏訪アザミ(女、氷遁(風+水遁))
忍3.5 幻3.5 体3.5 賢3.5 力2.5 速3.5 精2.0 印2.5 合計:24.5  +2.0

諏訪オカヤ(男、氷遁(風+水遁))
忍2.5 幻2.0 体3.5 賢2.0 力3.0 速3.5 精1.5 印2.0 合計:20.0 +1.0

稗田ミサキ(男 幻術、医療忍者)
忍3.0 幻3.5 体2.5 賢4.0 力2.5 速3.0 精1.5 印2.5 合計:22.5 +4.5


星宮アマツ(男、写輪眼、火遁)
忍4.0 幻4.0 体3.5 賢3.0 力3.0 速3.5 精2.5 印3.5 合計:27.0

鹿島ライカ(女 雷遁)
忍3.5 幻2.5 体3.5 賢2.5 力3.5 速3.0 精4.0 印3.0 合計:25.5 +0.5

香取フツミ(男 剣術)
忍3.5 幻3.5 体3.5 賢3.0 力3.5 速3.5 精3.0 印3.5 合計:24.0 +0.5

静織ハヅチ(男 幻術、結界忍術、封印術、医療忍術)
忍3.5 幻3.5 体2.5 賢3.5 力3.0 速3.0 精3.0 印3.5 合計:25.0

【大人たち】~転生者が生みだした最高傑作たち
霧島ユタカ(男、上忍 剣術、火遁) 33歳 173センチ 61キロ
忍4.0 幻2.0 体5.0 賢3.5 力3.5 速5.0 精3.5 印3.5 合計:31.0
・クール系担当 『陽炎のユタカ』

諏訪ヤシマ(男 上忍 氷遁(風+水遁)) 33歳 169センチ 56キロ
忍5.0 幻5.0 体3.5 賢5.0 力2.5 速4.5 精2.5 印5.0 合計:32.0
・セクシー系担当 ・天才 『霧氷のヤシマ』『串刺し公』

鹿島ライウ(男 上忍 雷遁、水遁、剣術) 33歳 172センチ 68キロ
忍3.0 幻2.5 体5.0 賢3.0 力5.0 速5.0 精4.0 印3.0 合計:31.0
・元気系担当 『熱雷のライウ』 ・鹿島ライカの異母兄

               ↑
上記の三人はズッ友



 


3月最終週

 

沢山の下忍が一堂に会している。10人とか20人という数ではなく、1000人規模だ。

五代目火影様に呼び出され、受け取ったのは中忍ベスト。

ずらりと並んだのは、今回の中忍選抜試験と選抜/登用で中忍昇任を認められた『1080人』の下忍たち。

里上層部やカカシ先生といった優れた上忍の皆さんからスピーチがあって、ここにいる誰もが引き締まった表情をしている。

 

そう。オレ、うずまきナルトは中忍選抜試験を突破して中忍として認められたのだ!

 

                    

 オレはずっと、中忍になるためには中忍選抜試験を突破しなければいけないと思っていた。小さな頃までは。でも周囲にいる中忍たちを数えてみて、中忍選抜試験を突破して中忍になった人数の噂を考えてみても明らかに人数がかみ合わない。成長するにつれて、オレは中忍昇任要件が『中忍選抜試験合格 ”または” 選抜/登用 』だと知った。ここに集まっている1080人のうち、中忍選抜試験の合格者は10人だ。残りは上忍たちが推薦した『登用』で昇任した人たち530人と、部隊内選抜試験という里独自の試験で『選抜』された540人。

 

 里が独自に作成している能力を計る基準があって、忍術・幻術・体術といった基本的な項目が7つで構成される。それには階級による目安があるらしい。中忍に相応しいのは最低でも『20』という数値で、ここにいる中忍選抜試験合格者以外は全員がそれを満たした上で上忍からの推薦を受けている。高い能力を持つ者を下忍に留め置きすぎてもモチベーションが下がるから、三代目火影時代にはあまり適用されなかった選抜/登用という方法で五代目火影は中忍を増やす事にした。たとえば医療忍者はその職務の関係で、自分より階級の高い者に指示を出す必要があるから最低でも中忍、できれば特別上忍である事が必須だと五代目は言う。だから、中忍昇任した上に基準を満たした医療忍者またはその候補生は正式な医療忍者昇格後『医療職の特別上忍』に任命される事になった。だからか今回、医療忍者またはその候補生の中忍昇任者が多い。

 

 五代目火影は優しすぎると言う里上層部の人がいると、任務受付所に常駐する中忍の一部が言っているのを聞いた事がある。でも、これまで『里の戦力の中核をなす』はずの中忍が少なすぎるせいで苦労してきたのはその人たちも同じだと思うってばよ。下忍は戦闘任務に基本加われないけど、中忍ならばDランクからBランクまで幅広くこなせる階級だから必要数揃えても決して損は無いはず。忍軍は里と国の常備戦力だ。常備戦力であるからには、常に備えておけるよう準備しておくべきだ。だから中忍選抜試験にこだわらない事にするんだと五代目は考えたとオレは思う。

 

 忍軍の司令部は新人中忍を大いに祝ってくれて、記念品としてグレードの高い忍具を記念品として贈呈してくれた。新しく買い替えようとしていた人は大喜び。もちろん、オレたち第7班も新学期に向けて買いそろえようと思っていたので最高のタイミングだった。節約にもなったし。

 

 

                       

 

「カカシ先生。突然呼び出しておいて何なんだってばよ!」

 

明後日から新学期という事で、オレとサスケは2年生用の学生寮に私物を運び込んでいた。忙しいと言っておいたのに、オレたちの上忍師は「ごめーん!」と言いつつ談話室に呼び出してきた。サクラちゃんは呼び出されている訳じゃないから、オレたち2人が寮にいるというだけの理由だろう。

 

「明日転校生がくる。お前たちには先に紹介しておくね」

 

カカシ先生が手招きした先にいたのは、学校が離れてしまったはずの初等部時代の同級生・三嶋アザミトチームメイトのオカヤにミサキだった。アザミは進学先で色々酷い目に遭っていたけど、転校できたんだと思ってオレはホッとした。アザミは最後に会った時よりも何というか、雰囲気が少し変わっていた。

 

「東部忍軍中学校から来た、諏訪アザミ中忍と彼女のチームメイトだ。お前たちは元同級生だから詳しい紹介は要らないな。ま、明日から”同級生”として仲良くするんだーよ!」

 

「明日からよろしく」

 

「よろしくな!」

 

新学期になると苗字が変わる同級生は家庭の事情でたまにいるから、そういうモンだろうとオレは考えた。

サスケは「やっぱりか」と言い、腕を組みながら頷いている。何が「やっぱり」なんだろう?

 

「もう氷遁は使えるのか?」

 

「封印された」

 

「・・・ハア?」

 

沈黙が数秒続いたが、カカシ先生は「ま、家庭の事情ってヤツだ」と言った。

 

中忍試験でオカヤが使っていた『凪鎌(なぎかま)の術』は、基本中の基本らしい。

空気中の水蒸気をかき集め、氷へと形成して相手を襲うという諏訪流氷遁が誇る技の一つ。それが上手くいかない時は体の水分が原料だが、下手をするとぶっ倒れる危険性もあると聞く。

 

「オカヤ。第77班には諏訪が2人いるが、どう呼べばいい?」

 

「名前の方で良いよ」

 

「分かった。オカヤにアザミ、改めてよろしくな」

 

サスケはオカヤと握手し、視線を合わせた。

諏訪氏族の容姿は髪が黒くて、瞳も同じように深い色。天龍湖周辺は黒曜石が取れるから、黒曜石のようだと例える人がいる。うちはと似た顔立ちの特徴から、懐かしさを感じるらしくサスケは諏訪軍団関係者と仲良くしている。オカヤとは前から仲が良かったのは知ってる。またクラスメイトになれて嬉しそうだ。

 

 

 

 そして、高等部の方にも転校生が来たらしい。『ジュウゴ』という名前の人で、理由あって大蛇丸の所にいた人。イタチさんが里外任務中に里を抜けた薬師カブト先輩を見かけ、帰還前の諜報任務で知り合っていた『ジュウゴ』さんを助けようと幻術を使って「ジュウゴを開放しろ」と命じた。結果、ジュウゴさんは無事に里へと辿り着いてオレたちの仲間になった。そう話しながら朝から激甘フラペチーノを飲むイタチさんの左手薬指には、イズミさんと同じようなシンプルな銀の婚約指輪が嵌められていた。

 

 

                        ☆★☆

 

遂にきた新学期。1晩寝るだけで身の回りが様変わりしているような、何とも言えない雰囲気がある。

オレは正式にこれから中忍として任務を受ける、中忍としてのライフスタイルが始まる。

 

サスケ、サクラちゃんと一緒に登校すると、壁に貼り出された大きな紙の前に沢山の同級生が群がっていた。ぼーっと見ているとヒナタとネジ先輩が一緒に歩いてきて、2年進級時のクラス分けについて教えてくれた。ネジ先輩はヒナタの中忍昇進が決定した時、ケーキを焼いてくれたとヒナタが言っていた。でも上手くいかなくて、結局はテンテン先輩とリー先輩が手伝ってくれたとか。

 

「今年は中忍専用教育プログラムが始まる年だ。それに伴い、他校から転校生が訪れる。これから直轄アカデミーにはもう一つ校舎が立ち、中忍昇格者専門の教育を行う事になる。だからクラス分けが行われるんだ」

 

「そうなんですね!教えて頂いてありがとうございます、ネジ先輩」

 

「今年は大量に中忍昇任者が出た。3年生にはいち早く情報が出回ったんだ」

 

サクラちゃんの感謝の言葉にネジ先輩は少し誇らしげだ。

今年から直轄アカデミーの教師として、干柿鬼鮫さんと桃地再不斬が上忍になって赴任してくる。

イタチさんとシスイさんも週に1度か2度、アカデミーの方に寄ってオレたち中忍クラスの指導をしてくれる事になった。表向きは守矢家の末息子という籍を手にした波の国で出会った白だが、干柿鬼鮫・桃地再不斬の関係で五代目火影は霧隠れと話し合って友好関係を深めていくと会議で合意が叶った。

 

「そうだ、ヒナタ」

 

「どうしたの、サクラさん」

 

サクラちゃんはヒナタに呼び掛けると、1冊の本を手渡した。

 

「今年から医療忍者クラスの内容が本格的になるでしょう?そこでシズネ上忍が奨めてくれた本なの。すっごく分かりやすいから本屋さんで買えるだけ買っちゃったのよ」

 

「わぁ、ありがとう!私、みんなに遅れないように頑張るね」

 

サクラちゃんは後からきたいの、アザミと一緒にいるミサキ、あとは丁度その辺を歩いていたハヅチにもその本を渡していた。ポケットマネーで買ってみんなに広げたくなるくらい、滅茶苦茶良い本らしい。

 

「そういえば、ネジ兄さんも一応医療忍者なんですよね」

 

「正確には個人的に独学で医療忍術を学ぶ一般隊員です。正式な医療忍者には劣りますが、応急手当位は出来ますよ。白眼・柔拳と医療忍術は相性が良い。オレは現在、五代目様より直々に教えて頂いている術があるのですが・・・。いつかお見せしましょう。今は秘密にしておきます」

 

「楽しみにしておきますね」

 

仲良し従兄妹として評判のヒナタとネジ先輩は今日も一緒にいる。中忍選抜試験の時にネジ先輩はオレとヒナタの仲を見て怒っていたが、実際に呼び出しに応じて体育館裏に行ってみると本気での果し合いを申し込まれた。そこでネジ先輩に勝利すると、先輩は「ヒナタ様を頼みますよ」とオレに言った。

ネジ先輩の仕事は早く、先輩はオレとヒナタが結婚の約束をしているという話をヒナタの親父さんまで通してくれた。結果、今では日向一族公認の仲。

ヒナタは一族のしがらみから早々に離脱できて、笑顔が増えた。

 

「うずまきナルト」

 

「ハ、ハイ!」

 

「今日もヒナタ様の婚約者に相応しい振る舞いをするよう心掛けろ」

 

常に見張っているからな、と。ネジ先輩は言った。ネジ先輩はヒナタに「また放課後に」と言うと、さっさと3年生の教室がある方へと早歩きで遠ざかっていった。

ネジ先輩の交友関係程分からないものはない。テンテン先輩とリー先輩といったチームメイトと、そしてオレたち後輩とも仲良くしてくれるけど同級生と話している姿を見た事が無いからだ。

 

「なぁヒナタ。ネジ先輩って他に仲いい人いないのか?」

 

「いるよ。同学年のサイ先輩かな。結構仲良しみたいだよ」

 

「へぇ」

 

 

 

 中忍になると、上忍師の庇護下から外れて一人または下忍を率いて任務に行くようになる。もしくは更に難しい任務を課せられ、戦闘に巻き込まれる可能性が高い任務を請け負うようになる。オレたち2年次の中忍クラスを構成するのは1学年60人の、フォーマンセル15組。『綱手体制』が完全に軌道に乗った今、五代目火影はより実戦的かつ挑戦的なカリキュリラムの運用を開始した。フウレン先生といった教育部門トップ陣と会議を開き、中忍昇任者に『突発的な戦争状態に耐えうる』実力を付けさせたいそう。その新しい教育プログラムの有用性を示す試金石がオレたちとネジ先輩たちが所属している『中忍クラス第1期生』。

 

 まず忍術・幻術・体術・忍具のクラス分けがあって、上から『上位中忍クラス』『平均的中忍クラス』『補強クラス』の3つ。リー先輩のような例外を除いて巻物から武器や物を封入したり開封する術が必修になった。任務にはフォーマンセルで向かい、積極的にC/Bランク任務に当たる。例外を除いて最低限の医療忍術を学び、部下が負傷してもより高度な応急手当が出来るようにする。演習に関しても、かつての戦国時代のような戦いが起こっても対応可能なよう3ヵ月に1度は大規模演習の機会が設けられた。

 血継限界や秘伝持ちの家系出身者だけで術を訓練する日も設けられ、定期的に氏族対抗で戦う機会も出来た。サスケは顔立ちが似ている諏訪軍団と戦う機会を楽しみにしていて、同じうちはの人間がイタチさん以外は戦える人がほとんどいないからオレたちを対抗戦のチームメイトとして勧誘しはじめた。

 

「サスケ君凄いじゃない!忍術・幻術・体術・忍具が4つとも上位クラスなんて!!」

 

「まぁな!」

 

そういうサクラちゃんもサスケと同じように、4種目で全て上位中忍クラスに振り分けられた。オレは忍術と体術が上位、忍具が平均、幻術が補強クラス。ほんと、得意苦手が我ながら激しいってばよ!

 

「まぁまぁ。来年にはクラスを上げられるようお互い頑張ろうじゃないかナルト君!」

 

「そうだよ!オレなんて体術以外は全部補強クラスだぜ!」

 

「忍具は本当に苦手なんだよ・・・」

 

 冷静なのに能天気、ドライなのに温厚な『転校生組』第77班とオレは笑いあった。ミサキとオレはサボテン育成の話ですっかり仲良くなった。得意苦手が激しいから、得意部分をもっと伸ばすか苦手の補強に励むか、本当に人それぞれだと思う。

 

「そろそろホームルームだから、私たちはB組に戻る」

 

「分かったってばよ、また放課後にな、77班!」

 

しばらく席について話しているとやってきたのはカカシ先生ではなく、その部下だと聞いている上忍だった。目に光がなくて、正直ちょっと怖いと思った。サイ先輩と仲が良い事は知っているけど、それ以上は知らない。

 

「僕が担任のヤマト。これからよろしくね」

 

朗らかな挨拶とは裏腹に、中忍クラスA組に集められたオレたちは言葉では説明できない恐怖感を感じていた。山中一族の術なんてオレには当然無いのに、不思議と教室じゅうが感情を共有しているような気がした。そして始まる点呼に自己紹介。ちょっと怖いけど、カカシ先生の後輩ならとオレは警戒を緩めた。




重吾はUターン転生者で、イタチとは前世の長野で高校の先輩後輩でした


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1 二つの『星宮』と扇城

「これにて4月の日程は全部終わり。次は5月終わり頃だよ」

 

 ヤマト先生・・・、いや、隊長の一言によってホームルームは終わりを告げた。

1週間、6日間にわたる座学と実践訓練。中忍になった学生全員が寮に寝泊まりして行われたその『スクーリング週』では貴重な体験を沢山させて貰った。それは忍界大戦さながらのサバイバル戦闘、その名もカカシ先生が組み上げた『建造物破壊任務演習 ≪橋≫編』。ヤマト隊長の木遁によって橋が何度も建造されては、いかに効率的に破壊できるのかを習った。破壊したあとは迅速に撤退し、仲間が誰も傷つかないように。来月には別の建造物破壊の訓練があるという。敵アジトとか、敵司令部とか、補給基地だとか。そういったものが対象だ。

 

時計は12:30分丁度を差している。担任が出ていった教室はさっきよりも騒がしくなって、そこらじゅうから「これからどうする?」「食堂行ってから帰ろうかな」という声がしてきた。隣のクラスからも人が出てきて彼らが廊下を歩いていくのが見える。紅班はこれから食堂に行く様子で、ヒナタが「先に昼ごはんに行くね」とオレに小さく手を振った。猪鹿蝶トリオもまた食堂行きを選んだようだった。

 

「オレたちはどうする?」

 

「まずは昼食だな」

 

「賛成よ」

 

オレに問いかけられたサスケとサクラちゃんは、どちらもまずは腹ごしらえが先だと答えた。オレも賛成。

今日は食堂で食べても、食べなくても、自由な日だ。でも少し特別なものが出されるという噂があった。

 

「今日は諏訪がウナギを食堂に納品したとオカヤが言っていた。行くしかないだろう?」

 

実はオカヤと仲が良いサスケが得意げな顔で言った。誰より早く情報を手に入れると嬉しいもんな!

鰻は高級品だから、自分から好んで買い物しない。だから食堂に行くっきゃない。

 

「マジで!?」

 

「やったわね!」

 

 本拠地が『天龍湖』という大きな湖の周辺に存在する諏訪氏族は里が出来たころ、里に分社を祀るための祝(ほうり)一族の一部と忍者を出している武門・惣領家が丸ごと移住してきた。里に住み着くからには里に貢献したいと彼らは願い、最優先のお得意様として特産品のウナギを卸してくれているから里人は割と安くウナギが食べられる。とはいっても、高級品は高級品。若い忍者がポンポン食べれる品じゃない。

 

 オレたちは廊下に出て階段を下り、食堂へと歩き出した。途中でネジ先輩たちと行き会ったり、書類を届けに来たイルカ先生と少し話したりして、漂ってくる良い匂いと共に食欲が高まってきた。途中で行き会った人たちはみんな口をそろえて「すごくおいしかった」と言ったんだ。そりゃ期待も高まる。

 

 

 

 食堂に入ると、そこはまるで天国。甘いウナギのタレの匂いが充満していて、お吸い物の上品な良い匂いが同時に漂ってきている。先に来ていたヒナタやいのたちも嬉しそうに談笑しながら、ウナギが出来上がるのを待っている。いつもは定食の選択、またはビュッフェ形式。セルフサービスだ。でも今日は違っていて、ウナギ料理店『天龍や』の制服を着た人たちに混じって高校の校章が刺繍された料理人服を着た若者が働いていた。民間人が通う高等学校の調理師科。多分、実習も兼ねているんだろうな。

オレとサスケは紅班とアスマ班が座っているテーブルの、丁度3人分空いた席を選んで座った。

 

 結論から言うと、ウナギは絶品だった。余った分はおかわりをさせてくれたし、鮎の塩焼きまで用意してあった。同じ一族の人たちが働いているお店の提供なだけあって、オカヤとアザミが手助けに入っていたのには驚いたってばよ。他にもB組所属の諏訪軍団関係氏族出身者が混じっていて、大変そうだった。

 

 

                      ☆★☆ 

 昼食を食べ終わると、月曜日までは確実な自由時間が与えられる。というのも正式な中忍として始動するのが月曜日の朝からなだけで、今からDランクくらいの任務を自分で貰いに行っても良い。修行に励むのも良いが、大人数での集合演習によって気持ちまでヘトヘト状態のオレたちは何だかそんな気持ちになれなかった。だから、オレたちスリーマンセルは何気なく任務受付窓口へとフラリと向かう事にした。

 

 そうして得たのが、『星宮(ほしみや)一族本家の遺品整理』というDランク任務である。現在星ノ宮神社を仕切るのは、扇城一族と婚姻を結んでいない純正ともいえる血統の星宮一族の家だ。星宮と諏訪には血縁関係がある。劣勢ながらも敵対し合う大名同士の代理戦争に駆り出されて、かつて鹿島・香取の合同チームと戦っていた。劣勢とはいっても、最後に逃げ込んだ天龍湖周辺に閉じこもって戦国時代が終わるまで籠城し切った実績がある。それに、戦国時代最後の諏訪当主は当時の鹿島当主を打ち破っている。戦国時代が終わって木ノ葉隠れが設立される過程で有耶無耶になったそうだけど。

 

 

 

「ここが、アマツが"あの日"まで育った家か」

 

「そうです。ここが、アマツ君のまさしく”実家”です」

 

巫女姿の依頼人、星宮セイラが細く透き通った声でサスケに応えた。

 

「・・・実家」

 

何も感情を含んでいないが如く乾いたサスケの声がオレの隣からする。春の空は綺麗で、暖かな風が長く人の手がかかっていない住居と庭の雑草を撫でていく。あの事件の日から放棄されて長く時間が経過した、星宮一族本家。アマツは扇城一族出身の母・扇城アズサと、星宮一族の父・星宮ユウセイとの間に複雑な男女関係の末に第二子として生まれた。

 

 オレたちを案内してくれた若い女性は巫女で、今年19歳になる。彼女の顔立ちは何というか、扇城とは違う感じ。『うちは』要素が全く含まれていないという印象を受けた。どちらかというと『諏訪』の皆さんにそっくり。アザミの親戚っていっても驚かない。セイラさんは華奢で、なで肩で、戦いとは遠い場所の存在という雰囲気。艶のある長い黒髪を熨斗(のし)で一つに括っていた。

ここまでの道中で、彼女は彼女自身が女子高を卒業後から実家で巫女として奉職していると自己紹介してくれた。サクラちゃんと女性同士楽しそうに会話していて、オレとサスケは諏訪軍団が住む地区を通過しながらきょろきょろと周りを眺めていた。うなぎ屋が沢山立っていて、『御柱』という独特な柱を4つで地域を区切った不思議な居住区だった。その外れに『星ノ宮神社』があって、そこに続く通りにこの任務の目的地は存在した。名札には『星宮』、その横には家族の名前が書いた木の板。

『星宮コヨミ』『星宮クヨウ』『星宮ナキリ』『星宮カガセ』『星宮アマツ』と5人家族の名前。

このうち3人が死に、2人が生き残り、1人がその事件を起こした。

 

セイラさんは引き戸を開けた。すると、浅葱色の袴姿のがっちりした青年が現れた。

青年は鍛えているようだが、忍者とは違った体格をしている。筋トレ好きなんだろうか?

 

「こちらは兄の星宮スバル」

 

「来て下さってありがとうございます。さて・・・、お上がり下さい」

 

 

 

どんな風に放置されたままだったんだろうと不安だったが、通された屋敷の中は予想以上に片付いていた。

廊下はピカピカで、荒れているのは庭だけだったみたいで少しだけ安心。だけど何となく違和感がある。

それはサスケとサクラちゃんも同様らしく、きょろきょろと周囲を見渡していた。

 

「どうぞ、皆さん。遠慮せずお飲み下さいませ」

 

色からして高そうな緑茶を出され、結構な距離を歩いてきたのでオレたちはセイラさんたちの言葉に甘えて頂く事にした。口をつけてみるとカフェイン結構ありそうな感じがしたけど、予想通り美味しかった。

 

「忍者である皆さんは何となく気付かれたとは思われますが・・・」

 

「『うちは』と『扇城』にまつわるモチーフが多いですね。それに写輪眼についての書物もチラホラと」

 

即答したサクラちゃんに、星宮兄妹は頷いた。

 

「その通りなのです。私と兄は二人でこの家の整理を進めて参りました。私と兄は別に忍者を嫌っておりません。ただ両親や親戚が好んでいないだけで。ですが忍者に関する書物は知らなかったので、忍者の方に整理をお任せしたいと考えていました。それから・・・、兄がもうすぐ結婚するので、このお屋敷を頂く予定だったのです」

 

「それはまた・・・、おめでとうございます」

 

「ありがとうございます、うちは君」

 

スバルさんが照れくさそうに笑顔を見せた。無口だけど優しそうな笑顔だなって思った。

 

「ここからは次期神主である僕が話しましょう。『二つの星宮』の話を・・・」

 

 

 星宮は元々、諏訪と同じ大名の代理戦争に使われる忍一族だった。二つの氏族は共に鹿島・香取という剣術に優れた氏族連合を相手取り、古くから血で血を洗う苛烈な戦いを繰り広げてきた。何故ならば、鹿島・香取が属する勢力というか領土拡大にとって諏訪と星宮が所属する勢力は邪魔な存在だったからだ。諏訪と鹿島、星宮と鹿島・香取氏族連合。地域平定にとって邪魔だった、共通の敵を持つ星宮は諏訪と手を組んだ。幻術に優れた『惑い星・星宮』と、不撓不屈の精神と氷を血に宿す『不屈の氷龍・諏訪』。途中で諏訪は天龍湖周辺に封じ込められて守矢と争った結果、『諏訪軍団』を結成して戦国時代が終わるまで長い長い防衛戦を戦い抜く事になった。しかし星宮は途中までは圧倒的な戦闘力を以てして鹿島・香取を毎度のように完封勝利を収めてきた。だがある日、封印術に優れた『静織(しとり)』という家と同盟を組んだ。

 星宮と静織はチャクラからして相性が非常に悪かったらしい。ボコボコにされた星宮の者たちは呪印で縛られた。それが戦国時代が終わり、木ノ葉隠れが築かれた時代だった。その時代、星宮は二つに分裂した一つは志村一族と婚姻関係を結んだ。後に扇城一族とも。残りは神社からも遠ざかり、一般人としての生活を選んだ。一般人になった家はそうでもないが、忍者を出しつつ神社を継いだ方はずっと鹿島から監視されていた。いつ自分たちに再び牙をむくのか分からなかったから、だと。

 

「セイラさん。志村と結婚した家が、アマツの父親の生まれた家系ですか?」

 

「うずまき君、正解ですわ。ユウセイ上忍はアズサ姫とは実は二重にいとこの関係にあります」

 

「二重でいとこって・・・、両親がどちらもきょうだい同士じゃないですか!」

 

サクラちゃんが小さく叫ぶように言った。医療忍者からしたら絶句なんだろうな。

 

 扇城に志村と血を交えた血筋だが、こっちはなかなか凄い。血を交えた相手の扇城の方にはなんと、戦闘一族として知られていた『かぐや一族』の血が混じっていたのだ。その家系は戦闘民族具合と狂気が問題であまり外からお嫁さんやお婿さんが来なかったそうだ。だから何とか親しい家に子供を養子に出すなどして緩和を計ってきた。その結果が、コレだという。オレには理解出来なかった。

 

「こちらの屋敷を所有していた星宮家、つまりは元本家。こちらの家にはもう殆ど星宮自体の血は残っていませんでした。扇城の方と親しいうちは君は気を悪くされるかもしれません。ですが、言いますね」

 

サスケが息を飲み込む音がした。

 

「明らかに、『うちは』に近付くため写輪眼の遺伝子についての研究を行っておりました。里が出来た頃に最初に結婚した星宮の者以降、この家は扇城とばかり婚姻関係を結び続けました。だから私たち民間人になった星宮の分家がこうやって神社を受け継ぐまで扇城に『乗っ取られて』いたのです」

 

「り、理由は何だってばよ!?」

 

「扇城一族は”うちは”によって監視されていたようです。血を濃くしないための生存戦略としても存在していた家系ですが、どんどん力をつけていった歴史があるので。『うちは』は里から監視されていましたが、扇城はそうでもない。職人一族としての隠れ蓑を持って比較的平和に暮らしていたので。ですが、『うちは』の監視を逃れるため怪しまれない血を分ける先が欲しかった」

 

オレは心配したが、サスケは逆に「興味深い。もっと聞かせて欲しい」と言った。

 

「それが、この星宮だった」

 

「その通りだよ」

 

そして、セイラさんたち『もう一つの星宮』について。

こちらは先程言った通り忍者を出すのをやめ、忍者としての術は全て連合を組んでいた親戚である『諏訪』に引き渡してしまったという。諏訪の氷遁はX染色体に情報が乗っているから、母親が遺伝子のキャリアなら『息子』は氷遁を発現する仕組みだそう。戦国時代中期、諏訪の方に『最強の星宮』と呼ばれた男性忍者がY染色体を引き渡した。アマツに繋がる方にはそちらの血が入っていないらしい。

 

柱時計がポーンポーンと鳴った。時間は午後16時。そろそろ作業に入らないと夕飯に間に合わない。

オレたちは資料の引き取りのため、立ち上がって星宮兄妹に連れられて資料が纏められた部屋に向かった。

 

                      

 

 作業が終わった頃には夜7時になっていた。春の夜は早く来る。オレたちは諏訪軍団の居住する地域の通りを使い、それぞれ寮へ、自宅へと帰っていく。サクラちゃんは途中で中忍をしている父親と会ったので、サスケを交えて何やら喋っていた。サクラちゃんの父ちゃんはサスケを認めている。将来、愛娘がうちはに嫁ぐという未来も。サスケはサクラちゃんの父ちゃんから激励されたあと、ぐしゃぐしゃになった髪を直さないままサクラちゃんとその父ちゃんに手を振って見送った。

 

木ノ葉隠れの里内でも、エリアごとに違った味のラーメン屋とその名店が存在している。オレは突然、初めて訪れたここにも有名なラーメンがある事を思い出した。にんにくの匂いに食欲が湧いてきて腹が鳴る。

市街の商店が並ぶあたりには『伝令鳥貸します』と書いた小さな店があった。これがあったら、今日は外食してから帰る事ができるかもしれない。オレは横を向き、サスケに誘いをかけた。

 

「ここのラーメン食べていかねぇ?今から鳥借りて飛ばすからさ」

 

「良いな」

 

快い返事が嬉しくて、さっさと鳥を貸してくれる店から学生寮へとメッセージを飛ばした。

これで大丈夫。まだ出会った事のないラーメンに会いに行ける!

 

 

                       

 

 



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2 うちはの朝焼け、扇城の夕焼け

サスケ君視点です

兄さん、結婚するってよ



昔のように、いや、昔以上に美しい神社の境内を新郎新婦が進んでいく。

 

南賀ノ神社は里からの謝罪の意味を込めて綺麗に改装され、『うちは』以外の里人もまた積極的に参拝に訪れる場所となった。神職はまだうちはから出せないため、里創設時から友好的というか、好意的である諏訪がどうにか工面してくれた。地下にあった石碑は理由が分からないが、本日の主役こと兄さんが処分してしまった。

 

かつては里と衝突があったが、父フガクと母ミコトの代ではかなり態度を軟化させていた『うちは』。もはや皆殺しにする必要など無いような状況だったというのに、滅ぼされてしまった瞳術使いの古き一族。だが、いつまでも滅ぼされたままではいられない。この6月の今日これから、兄イタチとイズミが結婚式を挙げる。

 

参列者は殆どが見知った顔ばかり。新郎の実弟である俺はもちろん、親戚にして親友であるシスイ。大人は五代目火影とその副官・シズネ上忍、ナルトの師匠でもある自来也氏、オレの師匠はたけカカシ、ヤマト、そしてうみのイルカ。若者からだとオレのチームメイトであるサクラとナルト、紅班、アスマ班、ガイ班、サイ。

うずまき香燐、水月、重吾、干柿鬼鮫、我愛羅の代理出席として砂隠れの長女テマリ。

それから鹿島ライカ・香取フツミ・静織ハヅチと元上司の霧島ユタカ、諏訪アザミ・諏訪オカヤ・稗田ミサキとアザミの祖父である三嶋フウレン氏。そして諏訪・鹿島・香取・静織の当主またはその代理人。

あとは名門旧家の当主たちが勢ぞろいだ。それもそうだろう。

この結婚式こそが和解へと一歩進む時なのだから。殆どの氏族がうちはとの和解に対して協力的。

喜ばしい事に!

 

そして、扇城屋のCEOと職人集団のトップで兼業忍者の特別上忍。

彼らはこの結婚が決まったあたりから、何となく『様子がおかしい』。

オレは星宮家での任務依頼、意図的にあの家には寄り付かない事にしていた。

何故かというと、扇城一族の矛盾した行動に加えてアザミやミサキたち初等部時代に親友だった子らの証言を聞いたからだ。アザミ・ミサキ・オカヤの3人は初等部時代、アマツとはよく遊ぶ幼馴染だった。それ故に彼らはアマツの事を知っていた。オレには絶対見せなかった顔も表情も、吐かなかった弱音も。あの礼儀正しい、常に向上心に溢れた、誰よりも優秀なアイツは。一体どこに行ってしまったんだと、正直とても寂しいし悲しい。

 

アザミたち仲良し3人組から聞くには、アマツは扇城屋CEO一家から疎外されていたという。あの日のあの事件以来、色々あったがオレとアマツは兄弟とまではいかなくても上手くやれていたと思っていた。

が、実際は違ったようだった。それもまたショックで、裏話を聞いた日には食事が喉を通らなかった。

オレに対してはCEO一家はとても優しかった。職人集団を束ねる人物もまた、アマツに対しては冷淡な態度だったという。いつも「扇城の皆さん、みんな優しくしてくれて嬉しいよ」と話していた。

あのCEO一家の優しい顔は嘘だったのかと思うと、信じられない程に心が凍り付いていくように思えた。

 

そういえば、あの事件の時に殺された星宮家の『姉』は『うちは』に嫁ぐ予定だった。

一度血を薄めるためだけに娘を嫁がせ、そのまま扇城が乗っ取った星宮の家。その血はほぼ扇城で占められていた。オレは兄さんが言っていた『敵は身内にいる』という言葉を反芻しながら、扇城の家系図を出来る限り洗った。結果、星宮を踏み台として扇城と合流し、次の世代には『うちは』の影響を完全に排除して『扇城』が『うちは』のポジションとして里の有力な立ち位置に『成り代わろう』としているのではないかという説を見出した。だから、彼らはうちは一族を滅ぼそうとしたのではないか?

『星宮』という家を利用してスケープゴートとし、里と協調しようとしていたうちはを滅ぼす事によって。

ますます意味が分からない、理解できない。

 

「どうしたんだってばよ、サスケ。早く披露宴会場行こうぜ?」

 

気付いた時には兄さんとイズミさんの神前式は終わっていた。唖然とした。

 

「オレはちゃんと出来ていたか?」

 

「出来てたってばよ。何で?ちゃんと拍手とか礼もしてたぜ。でも、途中からボーってしてたな」

 

「なら良いんだ、ありがとう」

 

オレがさっさと歩きだすと、ナルトが「待てよ!」と追いかけてきた。

先頭をゆく『兄夫婦』は幸せそうで、胸が温かくなってくる。

 

「あっ、サスケ君たち!こっちよ!!」

 

桜色の振袖に、カラフルで豪華な帯を締めたサクラがオレたちを呼びつつ手を振った。彼女の隣にいる日向ヒナタは藤色の地味だが最高級の生地を使っていると分かるようなもの。山中いのは様々な種類の花が舞うような水色。ガイ班の先輩テンテンは、サクラのそれよりも何段階も鮮やかなピンク色。

うずまき香燐は後見人である老夫婦が選んだのか、かなり地味ではあるが落ち着いていて大人びた深緑。

砂隠れから参列したテマリは深い紫色で、年長者で落ち着いた彼女にはよく似合っている。

鹿島ライカは金色がちりばめられた豪奢な朱色、諏訪アザミは天龍湖名産の正絹で織られた濃紺の振袖。

このように、大体の十代女子は振り袖姿で参列した。出身家系や性格がよく表れていると思った。

 

 

                      ★★★

 

 

野郎共の礼服など、見ても面白くないと。誰かが口にしていたが。

戦国時代から里が出来て数十年の間だけ使われた『うちは』の伝統装束に『お色直し』で着替えた兄は、あまりにも格好良かった。忍同士の結婚という特性上、あまり写真を撮影出来ないルールだがオレは網膜に焼き付けた。中忍選抜試験の時、オレもそれを着て戦った。何故だか血が滾るような、不思議な感覚がした。

余興など存在しない、静かな披露宴で良かった。

微風(そよかぜ)と野風(のかぜ)をはじめとした扇城一族の女性たちが、オレとシスイにやたらとアプローチをかけてくる以外は。少し愉快な事に、それに辟易していたシスイは「シスイさんナンパしに来ましたー!」などと言う香燐の手を取った。兄さんは笑っていた。オレも思わず笑った。

香燐は「マジで!?」と言っていた。面白くなりそうな予感がした。

それを見て扇城関係者がつまらなさそうな顔をしていたのを、オレは見落とさなかった。

 

 

 

形式ばった披露宴が終われば、後は本当に親しい者だけが招かれる二次会が待っている。

扇城屋のCEOと職人筆頭は大人たちばかりが集まる二次会に行き、オレたちは主に新郎新婦を含めた若者だけの二次会へと。扇城の奴らは三嶋フウレン特別上忍が上手く言いくるめ、大人ばかりの二次会行きだ。

隠れ家的コンセプトの店が多い諏訪軍団地区にある食堂を貸し切り、節度ある大騒ぎが始まった。

 

若者用の二次会に集まったのは幸いな事に知的な奴らばかりだったので、大騒ぎが行われていたのはほんの30分弱に過ぎなかった。誰かが知的な話題を出すと、それに乗ってくる者もいる。オカヤのように好奇心旺盛な者は、兄さんに『うちはの歴史』の話をせがんだ。幼少期から何度も聞いた、うちはと千手の戦いの歴史。勝者・千手の手によって編纂された歴史書とそれを元にした教科書からは知り得ない、敗者・うちはの視点から綴られた歴史を知りたがる者が多かった事に兄さんは驚いていた。

二次会から急遽参加してきた、星宮スバルとセイラの兄妹も歴史好きなようで興味深く聞いていた。

星宮兄妹はよくオレたちに協力してくれている。アマツについて知るために、アマツを連れ戻す、または倒すヒントを得るために。セイラは言った。「嫌な予感がするのです」、と。

そして彼女はオレに一冊のノートを渡してきた。「どうか守り切って下さいな」と言いながら。

 

 

二次会は楽しいままに終了した。途中で諏訪vs鹿島の乱闘が勃発しかけたが、楽しかった。

古来からの宿敵ながらも何とか休戦条約を結び、上手くやっている宿命の一族たち。

彼らの関係性を観察し、学んでいけばオレたちは里と上手くやっていけるのではないかと思った。

 

兄夫婦、シスイと共に家路につく。

 

今晩はやけにカラスが鳴いている。

まるで、あの日のように。

 

オレは思わず肩を竦めると、懐に入れたノートを抱きしめる様に腕を組んだ。

 

 

                      ★★★

 

 

昨晩、星宮邸に何者かが侵入、何かを物色した形跡あり。裏庭で紙を燃やした形跡発見。

死者三名。星宮スバルとその妻ミチル(旧姓:守矢)、星宮スバルの実妹にして同居するセイラ。

死因は出血性ショックとみられる。なお傷は刃物によるものと断定。

星宮夫妻とセイラは昨日晩、うちは夫妻の結婚式二次会に参加。10時ごろ帰宅。

朝、親族が彼らと連絡がつかない事で訪問した事から事件が発覚。

 

 

                      ★★★

 

 

比較的親しい知り合いという事で葬儀に参加した第7班だったが、オレはどうしても扇城屋CEO一家の態度や表情に違和感を感じざるを得なかった。言葉では説明し難い、妙な気持ち悪さを感じた。オレから見た扇城屋のCEOは常に大人の余裕を崩そうとしなかったが今は違っている。どこか苛ついていて、その息子である忍軍所属のハヅキも落ち着かない様子だった。オレを見て不安そうな表情をする。

そして、兄さんの結婚が決まった時から気がかりな事があった。扇城一族は突然、外部の友好関係がある家に養子に出していた忍者になった子供たちを呼び戻して扇城姓を名乗らせる動きが活発になっている。

 

(やはり、やはりだ・・・!)

 

あいつらは、何かを企んでいる!

何かをやらかそうとしている!!

 



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3 うずまきナルトと危険な部屋

ナルト君視点です


 4月に任務を依頼してきた女性とその兄、配偶者の人が何者かによって惨殺された。まさか昨日まで元気に笑っていた人たちが突然いなくなるなんて怖いし、本当に悲しい。驚いたのは当たり前で、それはそうとして実感が湧かない。イタチさんとイズミさんの結婚式二次会の時、星宮兄妹と奥さんはふらりと現れた。

 

 梅雨の雨が墓地に降る。まるで水中にいるかのように錯覚する湿気が全身に纏わりつき、黒い礼服をべとつかせる。爽やかなが一切ない、驚くほどに不快な雨だってばよ。扇城屋のCEOと職人集団トップ、そしてオレと同い年である写輪眼持ちのCEOの息子・ハヅキが3人で何か話している。それをそっと観察するような眼差しを向けている三嶋フウレン先生と、その息子ウリュウさん。諏訪・鹿島・香取の若き次期当主たちが揃い踏みし、黒い傘を突き合わせるようにして小声で会話している。

 

(・・・よく分かんねぇ。けど、何だか不穏だってコトはオレにも分かるってばよ)

 

 

                      ☆★☆

 

 7月前半のスクーリング週がやってきた。5月後半から6月前半のそれからだから、妥当な間隔だろう。いくら見知った同期生たちでも、先月みたいに結婚式の出席とかのイベントが無ければ少し見ない間に変わったヤツがちらほらいる。髪を切ったり、彼女や彼氏が出来たり。幸いな事に誰一人欠けることなく集まれる事がとても嬉しい。人間関係もまた、流動的なもんだと思い知らされる。先月まで仲良しだったのに、今月はどことなくよそよそしかったり。それを仕事に持ち込まないのがプロって教育されたから、任務には何の支障もないけど。

 

「ナルト、サクラ、改めて香燐について紹介する。将来共通の親戚・・・、いや、家族になるからな」

 

改まった顔をしたサスケの隣にいるのは、これまた真顔をしたオレの親戚うずまき香燐。今は亡きオレの母ちゃんみたいな赤い髪をした、快活なメガネ女子だ。昨年草隠れのやつらから酷すぎる扱いを受けていたのを助け、今では木ノ葉隠れの仲間。彼女も中忍で、木ノ葉の額当てが良く似合う。

 

「ウチさ、シスイさんと結婚を前提に付き合い始めたんだ。成人したらすぐ結婚する。改めてよろしく」

 

ぺこりと頭を下げた香燐の頬は真っ赤だった。

イタチさんの結婚式の時、「やっば!うちは一族ってみんなイケメンだし、ダメ元でナンパしてくるわ」とか言って、半ばノリ、当たって砕けろの覚悟で扇城の女子に囲まれるシスイさんをナンパしに行った香燐。扇城の女子たちに群がられて困りながらも、シスイさんは突然香燐の手を取って親族の席があるあたりまで連れて行ったのだ。

テンテン先輩が「あら、ロマンチック!」と言うような、こなれた仕草で。

彼氏持ちの女子達も赤面するほどにかっこいい一連の動きだったんだぜ!

 

「え、あれから進展してたのか!?」

 

「あれからウチと食事して、任務でご一緒して・・・、ノリじゃなくてもっと好きになった」

 

香燐はいよいよ茹蛸みたいになった。頭の上から蒸気が出てきそうなくらい真っ赤だ。

 

「おめでとう香燐さん。未来のうちはの嫁同士としても、これからもよろしくね!」

 

「こちらこそサクラさん。あ、ウチのことは香燐でいいよ」

 

「じゃあ香燐!」

 

「サクラ!」

 

女子二人がハグし合っている。もうすぐ始業のベルが鳴るんだけど、同じクラスの扇城一族女子たちが香燐を物凄い顔で見ているから気を付けて欲しい。ま、香燐くらいの腕っぷしがあれば安全だろうけど。

 

大好きな親友たちと親戚になるって、新鮮な気持ちだ。今からワクワクする。

そういえばイタチさんの結婚式でアザミが言ってた。香燐の手を取るシスイさんを見ながら、夢見るように。うちはと千手は色々あって最後まで分かり合えなかったけど、もし二つの家が愛で結ばれたら何かが変わるんじゃないか、って。うずまきは千手と遠縁だから、その範疇に入れても良いんだろうか。

ちなみに、年上で枯れた感じの紳士が好きアザミの春はまだ遠そうだ。だって忍者は大概ギラギラしてる。

だってさ、オレたちまだ14歳なのにアザミが好きなのは『枯れた紳士』。

ちょっと良いなって思ってた人が本当は実の父ちゃんだったなんて、一種の悪夢だってばよ!!!

 

 

 

 

今日は午後から社会科見学がある。民間人学校と同じように、忍世界以外の事も幅広く知って欲しいというフウレン先生の願いが込められた授業の一つだ。その前に午前中は4コマ、提出したレポート分についての授業を受ける。それからいつもより早く昼食を食べきり、みんなで出発!行先は扇城屋の製作所。

今年の3月、一般人向けの体験講座が開設されたとか。新聞に写真付きで掲載されてたっけ。

 

1限目は国語。今は『砂隠れと風の国』の文化や慣習に関するトピックスを扱い、漢字や文法について勉強している。

2限目は数学。数学とはいっても、データや表から読み取って分析する事に重点を置いている。

3限目は理科。自然科学が中心のカリキュラムで、性質変化や形態変化に役立つ内容重視。

4限目が社会。軍事史を中心とした、地理学と国際関係を絡めた内容。

 

午前中最後の鐘が鳴ると民間から採用された教官が帰る前に級長が起立、礼、の号令を掛けた。

 

「ふぅ・・・、終わったってばよ」

 

夏特有の熱気が籠った教室の戸は2限目と3限目の間で解き放たれ、薄いカーキ色の遮光カーテンが強い風ではためいている。空を見れば青い青い空が広がり、積乱雲が微妙な陰影を伴って驚くほど立体的に湧き立っている。夏、夏だ。今年もまた夏がきた。

 

「サクラはどうする。オレはこちらのBセットだ」

 

「私はAセットかな」

 

「デザートやろうか」

 

「ありがとね、いつも」

 

サスケとサクラちゃんは二人並んで歩いていく。何かこう、しっくりくる二人って感じ。

扇城の女子軍団もこれでは絶対文句が言えないだろう。

 

「ナルト君は今日どちらの定食にするの?」

 

「俺はぁ、勿論ラーメンセットだってばよ!」

 

「そうだと思ったよ。私もそうしようかな。たまには大盛でガッツリ、なんて」

 

ヒナタの言う”ガッツリ”は、普通の女の子の基準とは大きくかけ離れているんだよなぁ。

オレはヒナタがいくら大食いでも気にしないけど、他のヤツがかなり驚いてしまう。それでヒナタが嫌な事を言われたりするのが嫌で前年、オレは何度もそういうヤツらに釘を刺してきた。でもヒナタは敏感だからすぐそれに気づいて、一緒に出かけると食べる量を控えめにしててかわいそうだったんだ。

でも、またこうやって食堂でガッツリだなんて言ってくれるようになって嬉しい。

 

 

 

当初の日程通りオレたち2年生60人は昼食をさっさと食べ終わり、校庭に整列して点呼ののち扇城屋の工房へと歩き出した。サスケにとっては最近全く寄り付いていない場所。星宮家での任務以来、サスケは明らかに意図して扇城一族と関わらないようにしている。サスケはあれからずっと扇城一族を疑っている。

 

 

ある者は一心不乱に、またある者は表情を変えずに静かに、それぞれに割り当てられた作業机に向かって最高級品の団扇と扇を製作している。前CEOによる分かりやすい説明に耳を傾けながら、社会科見学の列はじりじりと見学者用のレーンを進んでいった。壁には『うちわで開こう、環境に優しい未来』『打倒マダラ』と書いた横断幕がかかっている。マダラって聞いて思い出すのは、うちはマダラっていう最強のうちは。

 

「質問だってばよ!」

 

オレは挙手し、前CEOに質問した。

 

「あの”打倒マダラ”って、どんな意味ですか?」

 

一瞬、ほんの刹那。前CEOの両眼が揺らいだような気がした。

オレの隣にいるサスケが微かに息を潜めたのを感じる。

 

「ああ、あれはね。『マ 真面目を馬鹿にすること』『ダ ダラダラすること』『ラ 楽ばかり求める事』の略だよ。たまたまあの人と同じ響きになっちゃってねぇ」

 

「へぇ。ありがとう、扇城さん!」

 

「何でも聞いてね、企業秘密以外は答えよう」

 

微かな声の揺らぎがあった。チラっと耳が良いミサキを見ると、そちらも難しい顔をしていた。

オレは今朝まで知らなかったが、諏訪・香取・鹿島という『御三家』のほか稗田や三嶋、霧島といった家々は里に移住してきたあたりからずっと扇城一族を注視していたという。全然知らなかった。歴史上そういった氏族は扇城の動きを見てきた。個人と集団を分けて考えつつも、単体では敵じゃない者がまとまると敵になる場合があるといつかオカヤが話していた。扇城も御三家たちからするとそういう扱いなんだとオレは思う。

 

 

 

「これからクラスごと交互に休憩とうちわ製作体験をする。まずA組は体験講座へ行こう」

 

ヤマト隊長の引率で、新しく作られたという『体験棟へと歩いていく。昔、サスケを訪ねて来た事がある大邸宅が垣根の向こうに見えた。その大邸宅は古くて、『うちは』の家紋が沢山あって。扇城の家紋はどんなだったか思い出せなかったけど、滅多に来ない本家だからとはしゃぐ扇城ツインズの背中を見たら思い出した。『うちは』に対抗するように複雑で線が多い、『団扇』ではなく『扇』が3つで構成されたそれ。上に1つ、下に2つ。扇の模様は『下弦の月』。まるで使い分けをするように、扇城本家の内装は二つの家紋がそこらじゅうで踊っていた。

あじさいが咲いた綺麗な庭には丸い砂利が敷き詰められ、平らで大きい飛び石を使って体験棟へのルートを作っていた。昔来た時、ここまで綺麗じゃなかった。もっと簡素な感じだった気がする。

 

A組一行は説明を受け、和紙を選んでそれぞれ体験を始めた。オレが選んだのは夕焼けみたいなオレンジ色。暑苦しくない、夏らしいオレンジを選んだってばよ。オレンジは好きだけど、この季節だと色味によっては暑苦しく見えてしまう。どうせなら癒されるオレンジが良い。ヒナタは薄紫、サクラちゃんは薄ピンク、サスケは藍染を思わせる深くて渋い色を選んだ。

 

糊を竹で作られた枠に塗り、和紙を張り付ける。よれないように気を付けながら丁寧に。

それから千切ったもっと薄い和紙やキラキラした飾りを使い、好きなように装飾する。

 

(そういえば、扇城家の奥には開かずの間があったんだよなァ。うっかり入っちまって、大慌てで出てきた事があったってばよ。後でサスケに言おうとしたら突然扇城の誰かに幻術かけられて何があったか忘れちまって・・・。何かすっげぇキモいもん見たような気がすんだよな。幻術かけられた割には九喇嘛何も言わねぇし。何だったかなぁ、う~、モヤモヤするってばよ!)

 

モヤモヤしながらも作業をしている最中、九喇嘛が何度も『あんなに気持ち悪い部屋など思い出したくない』といった趣旨の事を言って思考を邪魔してきた。やっぱお前バッチリ見てんじゃん!と言うと、九喇嘛は引っ込んでいってしまった。何でだ!

 

全員の体験が終わると、綺麗な『扇城』の銘が入った紙袋を貰ってそれに完成品を入れた。

う~ん、大満足の仕上がり。すっげー高く売れそう!売らないけど。

 

休憩のために貸切られている場所、それは新しく出来た観光食堂と土産物屋が一緒になった建物だ。今頃B組が体験講座の準備をしているだろう。そこには花輪がいくつも建っていて、出資者の名前が書いてある。

『志村○○』『志村○○』、と、志村姓ばかりが並んでいる。一般人として生きる志村の人だろうか。

同じ姓の有名人がいる。志村ダンゾウという人がいて、タカ派っていう立場。以前、サイ先輩が聞いてもいないのに教えてくれた。詳しすぎだろって思った。二代目火影様をとても尊敬しているらしい。

 

「どうしたの、大丈夫?」

 

心配そうにオレを見て話しかけてきてくれた人がいた。

額当てを巻いた、30代半ばくらいの男性。顔立ちからして扇城の人だろうか。

 

頭がズキズキする。吐き気が襲ってきたと同時に蘇ってきた記憶。

出されなかった手紙が積み重なって、山を作って。かなり昔の写真が大事そうに写真立てに飾られて。

『ダンゾウ様好きです、愛してる』『好きだ』『答えてくれなくてもいい』

 

部屋の主はCEO、今は忍者を引退しているけど大企業を率いる道を選んだアマツとサスケを養った人。

 

狂気を感じるほどの愛の囁きが文字となって部屋を埋め尽くしていた。

オレは別に同性同士で恋に落ちる事に偏見がないつもりだ。けれど、けれど!

 

もしもアレが異性同士の片思いでも、アレはない。

あの淀んだ部屋の空気は思い出したくない。どことなく饐えたような、嫌な感じがした。

九喇嘛が喋りたがらないのも分かる気がした。アレは明らかに見てはいけないものだったのだから。

 

(アレは、アレは無いってばよ―――!!)

 

 

というより片思い?片思いだよな。

あの人既婚者だし、同期にハズキという子供がいるし。

 

オレは頭に手を置いたまま、ひとまず「大丈夫っス」と答えた。

 

 




これから人間関係がもっと動いていくと思います(大体が片思い)

ダンゾウは転生者じゃないけど、知らない間に転生者一族を利用しています


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4 アンビバレンツ・クラン

うちはシスイ
Uターン転生者で、前世では警察一族に出生。『一族で一番の検挙率』を誇った長野県警の刑事として大活躍していた。忍界での前世の反動か、責任感と正義感は人一倍強いが人生を思い切り楽しむ事を大切にしていた。
長野県民・内田紫彗だった時はNARUTOとBORUTOをしっかりと読んでいたが、その間にネットで色々な情報に触れるうち軽度なオタクになってしまった。
再び忍界で『うちはシスイ』として生まれ直してからは命をもっと大事にするようになり、前前世の忍界の記憶と情報、前世で読んだNARUTOの知識を生かしてイタチと共に今度こそ『生き残る』ため奔走してきた。

が、『前』の時には存在していなかったイレギュラーが多すぎるし長野県民転生時代に見た顔をやたらと見かけるので戸惑いが未だに消え切らない。


7月中旬

 

 

 

扇城一族の経済規模はかなりのものだ。だから扇城一族に恩恵を受けている人々が数えきれないほど存在している。木ノ葉隠れは忍者の隠れ里とはいえ、民間人の生活がある。その民間人の生活の一部を支え、民間人による評議会に議員を出し、民間人の生活がより良くなるような活動をし実際に実績を上げてきた。

 

 

 

現在も毎年少数ながら忍者こそ出しているが扇城一族は事実上、九尾襲来以降は忍者を極力出さないようにしている。今はナルトに封印されている九尾をマダラが操った実績があり、写輪眼を発現する可能性が高い扇城に対して警戒の声が多方面から上がったからだ。そのため、九尾襲来以降で忍者の道を選んだ者たちは誰一人として一族からの経済的支援を受けていない、という事になっている。

 

しかし、扇城出身者という存在は忍軍が「見込みがある若者を紹介して欲しい」と言うほど優秀だ。

うちはより『性能が低い』と彼らが自嘲して言うが、ちゃんという事を聞く。都合が良い存在と言う見方も出来るか。彼らは彼ら自身の事を『最高級品をグレードダウンした大量生産品』と呼んだ。

 

そして、写輪眼を発現した者は積極的に里に申し出て、管理されるのを受容している。

 

扇城一族には過剰にオープンな部分がそこらじゅうにある。

 

出来る限りどの分家で子供が生まれただとか、死んだとか、すぐ新聞に載せる習慣がある。

 

進学先や就職先だってそうだ。公開できるものは全て公開してしまう文化だ。

 

昔のオレはそれを信頼を得るためなら仕方がないと思っていたが。

 

単なる『アピール』ではないか?と考える様になった。

 

 

 

オレの扇城の知り合いと言えば、双子女子の微風(そよかぜ)と野風(のかぜ)。

 

彼女らの両親は一族から援助を受けなくても生きていける医者だ。経済的にとても余裕がある。

 

同い年でCEOの息子、ハズキ。ハズキは下忍になって以来寮生活をしているが最近、哀れな事に苦手な父親から法事などで呼び出されて困っている。いつも上忍師である人物・霧島バンカに『僕、ちゃんと出来ましたか?』と確かめるように問いかけている。かなり優秀なヤツだ。

 

 

現在の扇城一族で写輪眼を持つ者は既に里に登録してある。

 

まずは引退した忍者で元上忍、現CEOの扇城トオル。

 

二人目は上記の息子で中忍、オレと同期の扇城ハズキ。8月生まれ。

 

三人目は引退済み特別上忍、前CEOの扇城マサキ。

 

 

 

姓こそ違うが、里抜けをした星宮アマツと星宮カガセ。

 

 

 

ここからは現在判明している比較的最近亡くなった故人である。

 

特に有名だったのがクレイジーサイコ姫として知られた、扇城アズサ上忍。アマツの母親。

 

彼女のはとこ、扇城ユウヤ。アズサ上忍と共に任務に当たり、殉職。忍界大戦時代。

 

 

 

数年間自分を養ってくれた家にはもう、1年以上寄り付いていない。

 

最初は単に時間が無かっただけ。次に行く機会を作ることが出来なくなり、今は意図的に寄り付かないようにしている。一緒に暮らしていた親友でライバルだった星宮アマツは里を抜け、それに対して扇城一族は当然激怒している。アマツの生家にある資料を整理する任務の依頼人が事件で死亡し、それに関して扇城一族の関与の可能性が浮上してきてからオレはひたすら資料を漁るまいにちれた家にはもう、1年以上寄り付いていない。

 

最初は単に時間が無かっただけ。次に行く機会を作ることが出来なくなり、今は意図的に寄り付かないようにしている。一緒に暮らしていた親友でライバルだった星宮アマツは里を抜け、それに対して扇城一族は当然激怒している。アマツの生家にある資料を整理する任務の依頼人が事件で死亡し、それに関して扇城一族の関与の可能性が浮上してきてからオレはひたすら資料を漁る毎日だ。

 

 

 

 

 

                      ☆★☆

 

 オレが兄さんの結婚式の二次会で今は亡き星宮セイラから渡されたノート。そこに記されていたのは扇城一族が婚姻関係を結んだ星宮一族の地下について。「私たちは忍じゃないので入れません」とあり、兄さんから聞いた事があるタイプの隠し部屋だろうなと思った。几帳面な性格をした星宮セイラと兄スバルはおそらく、家のすみずみまで床板を外すなどして清掃しようとして入り口を見つけたのだろう。

 オレは何とかその隠し部屋までたどり着き、中にある資料を出来る限り外へと持ち出した。その過程で諏訪アザミの祖父、三嶋フウレン特別上忍に見つかってしまったが。だが安全な保管場所を提供してもらう事が出来た。古い資料、それは日記。戦国時代の字体が使われたものが殆ど。しかし三嶋特別上忍はそういった文献を解読することが趣味であり、得意。好奇心旺盛な彼はそれらの解読をやりたいと言い出し、兄さんの承認を得てそれを依頼し、解読が完了したものを彼の家の書斎で読むという生活をしているのが今だ。

 

 

                      ☆★☆

 

 オレは常日頃から天才的な兄と比較される機会が非常に多かった。大好きな兄が褒められるのは本当に嬉しかったが、幼い時はそこから生じる感情を上手く処理する事ができなくて無茶な修行をした。それによって付いた傷を見た両親と兄はオレの正直な気持ちを知りたがった。それによって、オレと兄さんは同じ血を引いていても同じ人間ではなく、同じ到達点を求める必要が無いと認識する事が出来た。

 

 和解の道を求めているというのに、異常なほどに進まない話し合い。妨害工作。突然無くなった書類たち。その不可解さに両親と兄は時折苛つきながらも、オレには「ゆっくりと育て」と暖かな言葉をくれた。庶家である扇城は里との和解に対して積極的。マダラの件で里はうちはに対して強い疑いを持っていたが、それから逃れて比較的平和に公正に扱われている庶家。同じ血を持ちながら精神的に安定し、向いていないと口では言いながらも安定して強い忍を輩出する有力な庶家。それこそが扇城。意識した上でうちはの血縁であるという認識を上書きするように忍界トップシェアを誇るうちわ生産者として君臨し、民間部門にも有力者を沢山出した。

 

 

 

 指揮官たちの間では『不安定で扱いづらいが優秀なうちは』と『うちはを扱いやすくグレードダウンさせた扇城』といった評判。忍界大戦中には、武器生産や整備を請け負って経済的に国と里を全面的にバックアップした。マダラの件で常に強い疑いを持たれたうちはとは対照的に、ひたすら自分たちは無害な存在だと積極的にアピールしていった。その一方で里に貢献したいと強い写輪眼持ちの忍を沢山出し、戦場では本家たる『うちは』を庇うような理由で命を散らした。誰もがうちはの人間に対して『自分の存在をずっと覚えていて欲しい』と言って事切れたという。

 

 

 

『認めてもらう』対象。それが『うちは』なのか、『木ノ葉隠れの里』なのか。

 

いまいち資料を眺めていても掴めない。

 

 

 

 『認められる』事に対する渇望というものを、遥か昔に枝分かれした『扇城』は持っているのだとオレは想う。戦場に立つ事があまりにも向いていないと言われた者たちは戦力にならない鼻つまみ者として扱われながらも、彼らを突き放した一族のために武器職人として戦場に赴いた。自分たちから申し出て、愛している一族の邪魔ものを引き取った。それを不本意だと思っていた後世の者たちが多くいたようだが、実際のところは『認めてもらいたい』一心で狂ってしまった一族の女や外から命乞いとして押し付けられた女を引き取ってきた。それによって一族は戦闘の才能が低い庶家を便利屋扱いするようになり、やがて戦う力の低い者でさえ最前線で働かせられた。曲がりなりにも血継限界の血統を持つ分家、戦場での高度なストレス下に置かれた者は時折写輪眼を開眼してしまった。まるでスイッチが入ったように戦えるようになるケースの多さから、戦場に出る時"だけ"は本家の家紋を背中に掲げる事が許された扇城。その本分はその器用さから武器職人、整備職人だというのに。

 

 

 

千手から勝利をもぎ取るためにはどこまでも残酷になれた『うちは』は、同じ血が流れる者たちを一族が叫ぶ『愛』の範疇から外す事によって使い捨てた。『愛』の対象からあえて外す事によって。

 

 

 

一見すればそう『見える』が、資料から読み取った結果からだと本当に『そう』だろうか?

 

巧みに誘導するような言動が記録されており、オレはぞっとした。

 

 

 

これまた狂気を思わせるのが、そういった扱いを彼らが自分から望んでいた節があるという点だ。

 

そうすれば認めて貰えていると信じていたのか。それとも裏に別の狙いがあったのか。

 

 

 

自分たちから長すぎる千手との戦いによって荒廃しギスギスした一族の者たちの心を和ませるため、『サンドバック』を志願したんじゃないか?彼らの思う『愛』って何だ?

 

 

 

 

 

遠ざかりたいのか、近付きたいのか。

 

別物になりたいのか、同じものになりたいのか。

 

はたまた優位に立ちたいのか。

 

 

 

得られなかった承認を『愛』としていたという仮説は、書かれた日記や歴史から勝手にオレが推測した。

 

 

                       ☆★☆

 

 オレが休日にナルトを連れて生家に行くと、まだ10時半だというのにシスイが疲れた顔をしてうちわで顔を煽ぎながら居間で休んでいた。よく見ればシスイが持っているうちわは扇城屋製造品で、それが入っていたらしい袋にはデカデカと『不良品』とある。机にはポテトチップスが一袋。あまり食べ進んでいない。

 

「どうしたんだってばよ、シスイさん」

 

「・・・ああ。少し、色々あったんだよ」

 

優しいナルトの声にシスイは力なく微笑んだ。いつも通りの元気が無い。食欲もなさそうだ。

 

「俺は呪われているかもしれない。ここ数日悪夢を見るんだ」

 

見てみればいつもより肌に血の気がなく、唇も少し青い。

心配したナルトは了承を得てシスイの下瞼を引っ張り、貧血気味なのを確認した。

 

「これを見てくれ」

 

シスイは突然、傍らに置いていた段ボールから不気味な人形を取り出した。

ソレは藁で出来ていて、切った半紙に『うちはシスイ』と達筆に名前が書かれて赤い紐で縛り付けられていた。それだけでも不気味なのだが、その体には何本も五寸釘が突き刺さっていた。

 

「うわぁ・・・」

 

「・・・ヒドいな」

 

 

しばらくすると兄さんと義姉さんが揃って帰ってきて、シスイが持ってきた段ボールの中身を見て絶句していた。兄さんとシスイは親戚である以前に親友同士である。静かに怒りを燃やしているのがオレには分かった。わなわなと燃え盛る、オレやシスイ、姉さんじゃないと分からない微妙な表情の変化から怒りを感じ取った。ナルトはそれを感じ取っているようで、急に姿勢を正しはじめた。

 

「こういう類(たぐい)のものに強い人物を知っているか・・・?」

 

地を這うような静けさで絞り出されたような兄さんの声に、ナルトの姿勢が最大限まで正された。

空色をした瞳が泳ぐ。部屋の隅、机の上、台所の方向へと次々に。

そしてナルトは意を決したように口を開いた。

 

「カ、カカシ先生、とか・・・!?」

 



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5 扇城戦国日誌 その①

サスケ君視点です


マダラの父、タジマさんが好きです。情報少ないけど。
忍者らしい残忍さがしっかりあって、戦国時代感がすごい出てるけど丁寧で敬語なところが好きです。情報少ないけど。

              ☆★☆

ここのイタチさんは長野県民転生時代、大学教員という立場から大学の構内で色々見てるので幽霊とか呪いを否定し切れてないのです。引きずってます。

大学の教え子たちの泥沼恋愛に巻き込まれた経験があるので(相談を聞いてやっただけ)、生霊の存在とかと割と信じてる。「彼氏と浮気相手と泥沼して自主休講している筈の女子学生が講義室の裏にいた・・・」

               ★★

北信って、飯縄山がありますよね。
私の住んでいる近辺にはクダとかイズナの話が伝わっています。
どうやら、そのクダやイズナは北信由来だとか。
伊那街道を下って来たのでしょうか?

いつか飯田線の終点まで電車で行ってみたいです。
コロナが落ち着いたら思い切って行きたい。


 オレとナルトは義姉さんが作ってくれた昼食を食べ、1600まで生家に滞在した。

途中でシスイの部下として今年度より警務隊で働く扇城ハズキが「お見舞いです!」とやってきて、和やかな時間を過ごした。扇城ハズキはシスイが大好きで、幼い時にいじめから守ってもらって以来ずっと憧れて夢を叶えた。どれだけシスイが大好きなのかというと、あの事件が起こる前にシスイが諜報任務のため死を偽装したショックで写輪眼を開眼させるほど。兄夫婦の結婚式にも参列してくれた。

そういった理由で開眼してしまったハズキに対し、シスイは逆にそれを酷く悲しんでいた。

 結婚式で扇城の女性たちがオレやシスイにアプローチをするのを見て、「うちの女の人たちがごめんね」と言って彼女らを諌めてくれた。もっとも、見るからに温厚で華奢なハズキは逆に威圧されていたが。

 

 

本当に、本当に。ハズキは本当にシスイの事が大好きだ。

シスイがうずまき香燐と結婚を前提に交際すると7月登校日の一日目夜に発表した時、絶句してしまうレベルで。幸せそうな香燐の隣にいる、夜間の警備任務の間を縫ってやってきたシスイ。

あれが3週間前の事。ハズキは酷く思いつめており、声を掛けようとした時に彼の幼馴染でもある諏訪アザミから暫く放っておいてやって欲しいと言われた。実際に翌日、ハズキはすっきりとした様子でいた。家族と折り合いが付かない中で、シスイはハズキの憧れだったのだ。同じ姓を持つ家族たちよりもずっと、向き合ってくれる一番近い他人。どこかで同じ血が流れている事だけは確かだが、他人と言えば他人。

それがシスイだった。だから自分の事を忘れてしまうのではないかといった不安が生じたんだろう。

 

 

 うちは一族を『悪に憑かれた一族』だとか、『ヤンデレメンヘラ一族』と言う者が今も世間には存在している。歴史を遡って文献を調べていても、完全には否定できないのが少し苦しいところだ。愛情深く、一途なうちはの者たちは愛を失う事によって写輪眼を開眼する。実際にオレは家族と一族を失ったあの夜に開眼し、里に帰還した兄さんまでも失ってしまうのではないかと思った瞬間にそれは万華鏡となった。移植手術でそれは永遠に変わり、大好きな尊敬する兄さんとある意味では一生ずっといられると思うと不思議と心が安定したものだった。まぁ、こういう部分がオレの”うちは”的な一面なのだろうと思う。

 

 

                    ☆★☆

 

 8月に入ってすぐ、シスイに対する呪いの藁人形事件は一応の終結を見た。シスイが困っているのを見たハズキが犯人を捕まえてきたのだ。ハズキは夜勤の警備任務をしたいと申し出て、宣言した通りに犯人を捕まえてきた。犯人というのがハズキの、そしてオレたちうちはの庶家、扇城一族の女性だった。兄夫婦の結婚式に来ていた、豊かな胸元が印象的な扇城一族のくのいち。彼女は髪を振り乱した般若の形相で、天龍大社の御神木に藁人形を五寸釘で打ち付けていたという。医療忍者で内勤ではあるが、中忍の地位にある22歳。末娘だということで好きな道を選んだ結果、彼女は両親と姉2人に反対されながらもくのいちという道を選んだようだった。

 

 ハズキは写輪眼による幻術で彼女を眠らせ、両手を縄で縛って警務隊の詰め所まで連行してきた。

こうして判明したのが、アレが怨恨によるものではなく愛を成就させる呪(まじな)いだったという事実である。彼女は捕まってすぐ、様々な情報を吐いた。シスイが取り調べ室に入ってきた途端、彼女の瞳に生き生きとした光が宿ったという。そういう作戦だったらしい。

 

22歳のくのいちの名は、扇城カオリ。いつかシスイに嫁ぐと信じ、育てられてきた女性。

 

 彼女は嬉々として、いかに扇城家がうちは復興に対して協力的なのかを熱く語った。幼い時から母親に「あなたはいつかシスイ君のお嫁さんになるのよ」と言われて育ち、許嫁だと思い込まされてきたという。オレはそれを聞き、純粋に可哀そうな女性(ひと)だと思った。まるで扇城アズサのようだと。扇城アズサもまた、似たような経緯で星宮ユウセイとの間にカガセとアマツの兄弟を儲けている。

 突然現れた、うずまき一族の少女。あろう事か彼女はシスイと付き合い、婚約。彼女は怒り狂った結果、感情の処理方法が分からす『愛の成就』を叶えるという噂があるまじないに手を染めた。結果、シスイを別の意味でドキドキさせる事には成功したが。取調室で真実を知る事となり、彼女は涙を流した。

 

この話を聞いた瞬間、オレは扇城の対して芽生え始めていた疑念の一部を改めた。

扇城がうちはを乗っ取ってしまうのではないかと思っていたが、実際には一つになろうとしているのではないかとオレは感じた。だが、一枚岩じゃない。どの一族も完全なる一枚岩である場合は滅多にない。血族間の連帯がどこよりも強いとされていたうちはですら、オレが見ていたあの時代は完全じゃなかった。

クーデター派か、反対派なのか。はたまた、両親のような中立派か。

 

だが、怪しい行動をしている奴らが隠れている事だけは確かだ。

 

 そして、泣きじゃくる彼女は顔を上げた。その両眼は紅く染まっており、シスイとハズキは驚愕した。

うちはの両眼が紅く染まる時、それは写輪眼の開眼を意味している。だが彼女は攻撃的にはならず、こう言った。「愛が失われた瞬間って、こういう感じなのね」、と。

完全に吹っ切れた強い女性の瞳だったという。

 

 

 

 

                      ☆★☆

 

 星宮一族の邸宅地下にあったもの。その大部分は日記である。その半分は里ができてからの星宮と扇城の当主によって書かれたものであり、術や呪印に関する巻物も一緒に保管してあった。オレが全く得意ではなく(というよりも全く理解できない)字体で書かれたそれらを訳すのは、同期の祖父にして教育部門トップである三嶋フウレン特別上忍。オレは彼によって訳されたものを確認しに来ている。

 

星宮一族の保管庫にあった日記帳のうち、星宮の者たちが書いた日記帳からはあまり収穫が無かった。というよりも、今は亡き星宮スバルとセイラの兄妹を思わせる几帳面さから毎日の天気や気温を正確に記録してあるものばかり。術が書いてある巻物類があると考えていたが、それらは既に氏族連合を組んでいた諏訪軍団が里に入ってくる直前に受け取り済み。

となれば、オレのテーマともいえる扇城の日記帳を読むしかない。

 

彼らはかなりマメな性格だと思われる。代々、次期当主となる者が日記を記していたのだから。

 

 扇城の初代は、体が弱く戦場で戦う事が出来なかった『うちはアドマ』という男だ。幼い頃に修行こそ受けたがすぐチャクラが切れてしまい、前線に出るレベルに達する事が出来なかったらしい。うちはの人間は愛情深いから、男でありながら戦場に立てない存在であるアドマに対して表立ってきつい態度は取らなかったようだ。しかし、戦力にならない自分自身を良く思っている訳ではないと彼は認識していた。慢性的な疲労体質だった彼は起き上がるのが億劫ながらも器用な指先を生かして武器の整備や開発を始めた。

 壊れた家具があれば修理し、子供たちに竹とんぼや竹馬を作り、時には”うちわ”を製造し。一族の役に立って居場所を開拓していった。本当は自分を良く思っていなくても、一族の仲間だと思ってくれているという現状に報いたいと、うちはアドマは考えた。

 

 

『おれは、戦場に立ち写輪眼を使い、剣を振るう親兄弟のようになりたかった。どうしておれだけがこれ程までに弱いのだろう?おれには誰も守れないのか?』

 

『今日、末弟が甲冑の破損が原因で脇腹を切り裂かれて遺体になって帰ってきた。悲しい、悔しい』

 

『おれを除いて兄弟が全員死んだ。父も一緒に死んだ。母さんをおれが守っていかないと。大丈夫かな』

 

『役立たずのおれを置いてくれる一族にどうにか報いたい。一族を、うちはを愛してるから』

 

女性を思わせる、綺麗で繊細な字だった。ここまでが、武器整備を思いつく直前。

 

『武器の不備を無くせば、生きて帰ってこれる者が増えるかもしれない。おれが武器を整備し、開発すれば、おれの気持ちだけでも戦場に届けられるかもしれない』

 

『皆がおれの武器整備の腕前を頼ってくれる。器用な方で本当に良かった』

 

『竹細工で外貨を稼げる。もっと頑張らないと!』

 

『手伝ってくれる人が増えてきた。主に病弱な一族のお嬢さんたちや、怪我で引退した人たち』

 

『扇を専業で作っている商家、扇城(せんじょう)家がおれを婿養子にしたいんだと』

 

『今日からおれも若旦那!』

 

ある大名と懇意にしていた扇城家の婿養子になるのが、ここまで。

扇城屋の娘はかねてよりうちはの男性が今でいう”タイプ”だったようで、武人らしい荒々しさが無いアドマを気に入ったと書いてあった。このあたりから本格的に武具の生産を扇城屋が担うようになった。ただしその出荷先はうちはが独占している訳ではなく、他氏族にも外貨稼ぎで出していたようだ。

 

『結婚20年、おれは8児の父。みんなおれより体が強くて良かったな』

 

『でも、うちはの血族だとは認めて貰えない。何だかおれまでうちは扱いから外れてしまいそうだ』

 

『認めて欲しい。おれも”うちは”だって!』

 

『おれは”うちは”、”うちは”なんだ。おれたちも戦場じゃない場所で戦ってきたのに』

 

これで、三嶋フウレン特別上忍が現代訳したアドマの分は終わっている。というより途切れた。

アドマの息子と娘たちは、彼の作業を手伝っていたうちはの男女と結婚して扇城屋の系図に入った事が系図から読み取れた。孫たちは忍者にこそならなかったが、扇城屋繋がりで千手一族と親交がある商家や行商、職人の家と婚姻関係を積極的に結んで『うちは』に協力的であり続けた。情報収集のためだろうか。

 

 次はアドマのひ孫、扇城サトシ。母親はなんと、羽衣一族の女性。彼女は一般人として生きていたようだ。初恋の年上女性が千手に嫁いだショックで写輪眼を開眼した、繊細な心を持つ忍。アドマの子孫の中で初めて忍の道を歩いた世代である。うちはと血が繋がっているが、忍の家ではない故に割と自由に動けた扇城。行商人として町娘たちと交流を持っていたゆえに、その悲劇は起こった。それまで扇城はうちはと違い、千手に対する恨みや憎しみが薄かった。扇城サトシは10も上の女性に5歳ごろから片思いしていた、体を動かす事が好きな少年だったようだ。そのため護身用としてうちは一族によって修行をつけられ、13歳までは商人または職人として生きていく運命だと思われていた。

 

『わたしはサトシです。せんじょうサトシです。ははうえは、はごろものむらからきました。にんじゃになって、いつもたいじゅつをおしえてくださるうちはのみなさんとともにたたかいたいです。がんばります』

 

『私のあこがれている人は、町の大店(おおだな)の娘さん。あかねさんという人です。いつも千手の男の人とお話ししています。あかねさんは強い人が好きなのでしょうか?』

 

『私は強くなりたい。10離れていても、私を子供扱いしないでいてくれるあかねさんが振り向いてくださるような強い男になりたい』

 

『私はいくら強くなっても、うちはの皆さんにはどう足掻いても勝てません。年下の子たちに負けます。当然写輪眼も無い。ですが、忍具職人としての技術と知識だけは誰にも負けない。だから、私は兄弟たちと共に戦場へと随行し、うちはの武勇を後方から支えます。私はもう13歳、元服をすませた男です』

 

『あかねさんが、千手の男と結婚してしまった。許せない。千手に対して初めてここまで憎しみを感じました。これがうちはの皆さんが言う血に宿る殺意なのですか?あの男を殺してやりたい』

 

『うちはの勝利は、扇城の勝利。この写輪眼でそれを支えていきたい。私も役に立つ』

 

一人の恋する少年が復讐心を背負った戦う忍へと変貌する瞬間があった。

 

『戦場で一人、後方まで迫ってきた”かぐや”の男を仕留めた。男は私に命乞いし、娘を寄越してきた。あかねさんに似ている。かぐやは強い血族。かぐやの姫、ヨゾラ姫を私の妻としたい』

 

『ヨゾラが死んだ。まだ若いのに、乳に岩(がん)ができて、息子を2人遺して逝ってしまった。新しい妻を迎える事をうちはの人に勧められた。悲しいが、大家族に憧れているからそれを受けようと思う』

 

『後妻として、うちはの集落の外れに暮らす美しい女性(ひと)を娶った。彼女はいつも幻を見て、幻の音を聞く。まるで古代の巫女のようなひとだ。夫が戦死し胎の子を亡くしてから彼女は、マミさんは見えないものが見えてしまうようになったのだという。私がそばにいる』

 

そして彼は幻を見聞きする後妻との間に8人もの子を儲け、それぞれ半分が職人または商人、戦場に随行する後方支援の忍者となった。この頃にはうちはとも正式に同盟を結び、血族連合の関係となった。ヨゾラ姫との間の息子たちもまた、後方支援の仕事に就いたようだ。また、全員の結婚相手がいとこまたはうちはの非戦闘員との縁組。

 

年代は下り、うちはマダラの父親・タジマと同世代へと辿り着いた。ここまで読み進めてくる間、何人も写輪眼の開眼者が扇城から出た。彼らは口をそろえて『自分がうちは並みに強かったら、仲良くしているうちはの者をすかさず守れたかもしれない』と記していた。写輪眼を持ちながら、うちはの平均に届かない力。それに対し、彼らは常に歯がゆい思いをしてきたようだ。うちはの勝利が扇城の勝利という思いで、彼らは勇気を振り絞って戦場に立ってきたというのに。彼らは身を投げ出し、時に命を散らし、宗家たるうちはに貢献しようとした。常に後方に控えながら、いざという時の戦力となれるように存在していた。

 

『オレは扇城の次期”頭領”に選出された、扇城シュン。何故かうちはに友好的な氏族・氷遁の諏訪を参考とし、二重構造を扇城は導入した。諏訪の次期頭領はリョウマ。噂通り、黒い絹糸みたいな髪と黒曜石みたいな眼をしてる。肌が薄めで弱そう。不思議と親近感を覚える特徴があるヤツで、妙に神秘的だ』

 

『同い年のタジマは強い。さすが、次期頭領たる器。オレとは違って、躊躇しない。だが弱いオレにも優しくしてくれて有難い。そういうところも時期頭領の資質なのだろう』

 

『タジマの力量は千手で一番の手練れである同世代の者と互角だとオレは見ている。オレとはまるでレベルが違う。相変わらず優しくしてくれるし、扇城の役割を全うさせてくれる。オレはタジマに報いたい。というかタジマが好きだ。だがタジマは次期頭領だから、それに釣り合う女性と結ばれるのだろう。その相手が羨ましいと思ってしまったのは秘密だ。どうか誰にも言わないで』

 

『タジマが結婚した。オレも、扇色のはとこと結婚した。衝撃的すぎて思わず開眼した。タジマに認めてもらえるような子供たちになってくれたら父ちゃん嬉しいよと未来の子供たちに言ってみる』

 

『タジマの子、マダラ様が千手の子と交流を持っていた。恐ろしい事だ。それに対してオレの次男坊、ユウが憤慨している。これから戦況が厳しくなっていくような気がしてならない。でも、足を引っ張らぬよう子供たちを鍛えぬき、うちはの勝利に貢献するだけだ。それしか弱いオレたちにはできない』

 

扇城シュンは千手との戦いの最中で戦死し、ムツキが頭領として後継者となった。

そして職人・商人としての家系は、アサギという者が受け継いだ。現CEOの家系である。

 

『僕はムツキ。うちはのマダラ様とは同じ年に生まれた。アサギ君と一緒に頑張ります』

 

『弱い者は美しくないのですか?僕たち扇城は何よりも機能美を信じているのですが』

 

『僕が足を引っ張ったせいで、うちはの者が沢山千手に殺された。僕の弟もまた、兄である僕によって間接的に殺された。僕が殺した。僕のせいだ!』

 

『アサギが流行り病で死んだ。年子で生まれた4人の幼い子を遺して』

 

『マダラ様の弟、イズナ様が千手の手によって重傷を負った。それも全部、僕が間接的にそうさせてしまったのかもしれない。武器の整備が不十分だったからかもしれない。きっと全部が僕のせいだ』

 

『各地を転戦していく中で、僕は不平等を沢山見た。この世は理不尽ばかりだ。人は争い合ってばかり。思想と思想のぶつかり合いだ。それに巻き込まれ、それ以外の持たぬ者は地獄の中に放り出される。せっかく扇城が製造した製品も、ちゃんと届いてくれない事がある。そのせいで死んだ者もいる。契約していない一族が扇城の忍具を手にしていた。転売というものか?誰かが独占しているのか?』

 

『戦いに参加していく中で僕たち扇城は深く考えた。うちはは、いつも消耗してばかりだ。うちはは千手を滅ぼす事が勝利だと思っていると感じる。だが、死んでしまったら終わり。何も出来なくなる。だから、生き抜く事もまた新しい勝利の形ではないかと僕は考える。あまり弱みを握られないうちに、僕たちは千手に投降しようと思う。決めた。扇城はうちはが何と言ったとしても、投降する』

 

『マダラ様と衝突した。物理的な衝突じゃない、言い争いだ。これが僕たち扇城にとって決定的なものとなった。少し絆されそうになったが、もう惑わされない。亡くなられたイズナ様には申し訳ないが、扇城は一族郎党で投降する。生きたい。安定したい』

 

ここまで読んで、オレは疲れた。戦国時代最後の頭領の字は力強かった。

また明日読む事にして、ページを閉じて残りを巻物に封印した。




扇城ハズキ←New!
161センチ 52キロ Rh+AO型
8月9日生まれ
シスイさんの限界オタクな少年。警務隊所属(入りたて)、転生者。
前世は長野転生時代のうちは一族(内田一族)の親戚、扇城家の当主の息子。
愛知県の私立大学に進み、諏訪アザミたちの前世と出会って意気投合。
前世でも今世でもシスイさんにぞっこんLOVE。幼少期から同性が好き。
前世から一途な性格だが、今世ではうちはの血に引っ張られてヤンデレ行為を働くかもしれない。石井真氏の声でイメージ。女顔で綺麗な優しい顔をしている
性質変化:火、風 武器:忍者刀 尊敬する人:うちはシスイ
趣味:家事、料理、ガーデニング、うちはシスイ
好物:うちはシスイ、杏仁豆腐 嫌い:シスイさんに敵意を持つ全て、アスパラ
特技:追跡、感知、子守り 性格:温厚、自己犠牲的、真面目、母性的
好きな言葉:『秘すれば花なり』


扇城カオリ 中忍
172センチ 57キロ Rh+O型 G~Hカップくらいありそうな長身美女
扇城屋グループ企業社長の娘/3姉妹の末妹

扇城微風・野風(そよかぜ、のかぜ) 中忍、A組所属
170センチ 52キロ Rh+AO型 長身スレンダー体型の双子
自分より背が高い男性が好き。背が高い人(年上)しか眼中にナシ!



扇城一族の始祖 うちはアドマ
・現代日本からの転生者で、生前はそば職人だった長野の青年。トラック転生。
・転生してからはファン→頑張って戦う人たちを尊敬、憧れへと変化
・転生後は自律神経失調症なのか、慢性疲労なのかの症状で苦しんでいた
名前の由来:英語で『アドマイア(憧れ)』

【前CEO】 扇城マサキ 特別上忍
165センチ 58キロ Rh+O型
三代目火影と志村ダンゾウ、うちはカガミを同期に持つ【転生者】。
前世は愛知県民で、某世界的車メーカーの現場で工業高卒業後から真面目に務め上げた人物・後藤政樹。三嶋フウレンの前世とは同じ中学の卒業生で親友。
扇城一族関係者とは関係ないのに、何故か扇城に放り込まれた苦労人でもある。
とある生産方式を魂に刻んで生まれ変わってきた。
性質変化:火、風、水 武器:忍者刀 尊敬する人:二代目火影
好きな言葉:『かんばん方式』


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6 扇城戦国日誌 その②

8月6日

 

目覚まし時計のタイマーがセットされた通りに作動し、正午を告げた。

オレ・ナルト・サクラ・カカシ、1A担任のヤマトとその部下である2Aのサイの合同修行は終わった。

 

「お疲れサマンサ~」

 

カカシがどっかで読んだ事がある労いの言葉をオレたちにかけ、本日の合同修行は終わりを告げた。

パックンを抱き上げたカカシの隣では、A組担任であるヤマト上忍が勢いよく噴き出した。

 

「もう、カカシ先生ったら。無理して若者の流行りに乗らなくても良いんですよ!!」

 

「良いじゃないの、サクラ。オッサンには痛かった?」

 

サクラが何を考えたか、カカシに無理しないよう言うが当人の口元は微笑んでいる。

出来るだけイメージを壊したくないから彼女には言わない。コイツ、いつもこんな感じで修行つけてくるぞ、と。毎週のようにネタバレをオレに口止めするため、修行の度に昼食を食べさせてくれる位には、ある週刊誌に連載されている現在休載中の『呪術を廻って戦う少年漫画』が単行本化されるのを楽しみに待っている。イチャイチャパラダイスの次の次くらいに展開を楽しみに待っているのではないか?

 

「まぁまぁ、先輩。というよりサマンサって一体何なんでしょうかね?」

 

「俺も知らないな。お前ら知ってるか?」

 

「「「「知りませーん!」」」」

 

オレたちとサイ先輩に話を振られても、本当に困る。サマンサとは一体何を表しているのか、それとも語感が良いから語尾に付けられているだけなのか。果たして、サマンサとは。いつか分かる日が来るのか?

 

「なぁなぁカカシせんせ、聞きたい事があるんだってばよ!」

 

「待ちなさいナルト、私が先よ!」

 

こぞってカカシに質問をぶつけに行くナルトとサクラを横目に、水筒を片手に木の下の影を求める。

腰を下ろし、息を落ち着けると隣にサイが座ってきた。サイは担任・ヤマト上忍を上忍師としている1学年

上の中忍であり、巻物に書いた絵が出てくるという変わった忍術を使う。オレと見た目が少し似ているというのは女子達の情報で、実際はどうだか。ちなみにコイツはナルトとは割と仲が良い。

 

「サスケ君」

 

「何だ?・・・、いや、何ですかサイ先輩」

 

「呼んだだけですよ。あと、”山中”サイです」

 

(何だコイツ・・・)

 

 この『山中サイと勝手に名乗る不審者』こと、2年A組のサイ先輩。山中いのとはバカップルで知られ、よく彼女の父親から追い回されている命知らず。青白い。将来は山中いのと結婚すると宣言している、クール系の外見に似合わず意外と熱い男、なのだが。今年から始まったフォーマンセル修行で接する機会が増え、会話する度にこの先輩に対する理解が遠のいていく。それに何故か、オレに積極的に関わろうとしてくる。初等部時代から知り合い同士の筈なのだが、未だによく分からない。

 

 サイという1つ上の中忍は、彼と同学年でもトップクラスの実力者でもある。そのため日向ネジと共に、9

月から11月までの3ヵ月間を上忍になるための訓練部隊に入る事が決定している。つまりは12月から上忍。これまでは現役中忍または高等部のみの制度だったが、今年度後期から中等部の優秀者にも門戸を開いた。上忍訓練部隊は1度につき12週間、3ヵ月間。それが1年に3度あり、約12人が選ばれる。卒業した先輩・諏訪タツミらは、卒業してすぐこの課程に入って上忍になった。オレもナルトも、どうにか選ばれたいと思っている。サクラは医療忍者なので別枠の課程が存在するらしい。

 

 

 6人で昼食を摂ってから、帰ってきた寮の自室へと上がりカーテンを閉め切る。巻物から扇城の日記を取り出し、広げた。昨日の続きを読む。挟んでおいた栞の部分を開きいた。壁に背を預けて胡坐をかけば、これで準備が完了する。巻物形式ではない、本の形をしたそれの表紙には扇城の家紋がある。

今日読む分は、里に移住してきてすぐの扇城シュンが書いた分とこれまでの分。

 

『木ノ葉隠れの里と、この里は名付けられた。マダラ様と千手柱間が築いた、違う一族同士が同じものを信じるという新しい暮らし。これからは皆で一緒にと言うが、彼らは独善的な部分がある。うちは一族は気づいていないかもしれないが、これから千手が全て主導で里の運営を進めていくような気がしてならない。理想主義はいつか破綻する。これまで商売をやる家に生まれ育ってきた以上、製品の企画をする機会が多かった。だから分かる。いつかボロが出る。商売をやっていると、嫌でも現実的になる。人は裏切る』

 

『マダラ様が里を抜けた。うちはの者たちに一緒に里を抜けないかと言ってきたと、仲良くしている者が教えてくれた。というよりも、この里に於いてうちはに対する扱いというか見方が偏っている。確かに、うちはの者が千手からしたら不気味に見えるのも仕方が無い。血縁だから分かる。客観的に見ても、うちはは人づきあいが得意ではない。言葉が足りない。そんな言葉が足らない者と、理想主義的な者。友情は成り立つかもしれないが、それ以上はどうだろう。いつか誤解が生まれる』

 

『マダラ様が大きな狐を連れて里を襲撃してきた。そして、火影様と戦って亡くなられた。色々あったが、マダラ様。あなたは弟のイズナ様を愛し、平和を願う優しい方なのだと認識してきた。分かり合おうと努力した。貴方って、結構自己犠牲的でしたよね。知っていましたよ。これからこの里では更にうちは脅威論が力を増すでしょう。僕も、誰も争わない平和で幸せな世の中を望んでいました。もしも、うちは一族が悪い扱いを受ける様になったとしても。僕たちは、扇城はそれを補っていきたい。手始めに武装を解除するつもりでいます。尊敬していましたよ、マダラ様。我らが”血族”の誇り高き頭領』

 

 このあとすぐ、扇城一族の者たちは武器を取るのをやめた。そして忍者として働く者は友好関係にある星宮(ほしのみや)一族に嫁入りまたは婿入し、そちらの姓を名乗って忍者の仕事を続けた。また、星宮一族の一部は志村一族から嫁取りをした。居住地の立地の関係だろう。ここで星宮は分裂し、忍者を出す忍の家と一般人中心の2つに袂を別った。ここから扇城との婚姻による同盟関係が強固になっていき、幻術向きの強力なチャクラを持つ星宮兄弟が生まれてきた。

 

 どうして星宮と婚姻関係を結んだのか。それは友好関係もあるが、何よりも『鹿島と香取』という強力な忍一族たちによって常に監視を受けているからだ。里からの信頼が厚い彼らから監視を受けていたのは星宮だけではない。諏訪もだ。諏訪は諏訪で、うちはと積極的に仲良くしようとしていた。監視されている者たち同士、純粋に友情を築きたかったのだという事は判明している。この奇妙な関係が功を奏し、扇城一族は里と何とか悪くない関係を構築した。

 

 途中で忍界大戦が3度もあった関係で、喧嘩別れしたがうちはに対する愛情が深い扇城はイヤイヤながらも写輪眼を有する優秀な忍を輩出してきた。星宮との婚姻関係から、絶命した瞬間に写輪眼を封じる呪印を刻みながら戦った扇城。その呪印の伝統も第3次の頃には薄まっていったようだ。

 

 次に、第二次忍界大戦時代の経営者。当時はCEOなどとは呼ばれていなかった。名前を扇城イリヤ。

前CEO、扇城マサキの年齢が離れた兄だ。親が再婚しているとしか思えない年齢差だった。

そもそもCEOとは何の略なのだろうか。里を助けるため、一度は触れるのをやめた武器の製造を開始した。

ここから直接的な親子関係じゃなくとも、一族内の優れた者たちから当主(経営者)を選ぶようになった。

 

 だが、同時に日記としての体(てい)をなさなくなっていった。字体が違うだけで、誰が書いたものなのか分からない。自分で名乗っているもの以外は。しかし、現CEOと前CEOのものだけは筆跡で判別できる。それに現代的な字なので、正直あまり勉学が得意ではないオレにも容易に読めた。

 

『私は扇城イリヤ。元は忍だったが、若くして企業を継ぐため一度は前線から遠のかざるを得ない状況に追い込まれたが、今はまたこうして戦場に立っている。勝手なものだ、株主たちは。先ほどまで経営者として持ち上げていたというのに、写輪眼があると明かせば株主総会の結果またこうして戦場に呼び戻される事になろうとは。皆誤解しているが、民間人だからといって全員が平和を望んでいる訳ではない。好戦的な文民だって存在しているのだ。次男のマサキと、三嶋の次男フウレン、御三家自慢の息子たちが同じ前線にいる。三嶋の長男坊であるマツミが戦死し、フウレンは焦燥し切っている。相変わらず、うちははマダラの余韻からか里から危険視されている。信頼を得ているカガミ君のような者は稀にいるが、彼は特別。うちはに対して思うところは色々あるが、うちはもまた、犠牲者なのだ』

 

『この戦争はどうして起こったのか?ずばり、国家間の格差が深刻化したからだ。領土戦争でもある。公平に利権を拡大するための、エゴのぶつかり合いである。誰もが自分の国や里が一番なのは分かり切っている。突き詰めてしまえば同じ目的を持って戦っているのだから、分かり合える糸口があるだろうと私は信じたい。戦った先に一体何があるのか私は分からない。戦争が終わっても、おそらく20年ほどしか平和が続かないというのは常識だ。我々は何のために戦い続けているのか?』

 

『良い事を思いついた。全ての国や里という概念を無くし、皆で全てを共有すれば良い!財産を世界中の者たちで共有所有すれば”自分のもの”という感情の意味すら消える。貧富の差がなくなり、財産を独占する者がいなくなれば、これと同じ原因の戦争は起こらなくなるだろう。必要なものを必要以上に受け取り、無駄にするのは良くない。無駄は良くない。軍事費などその極端な例だ』

 

第三次忍界大戦時のCEOは戦場に立っていた、扇城マサキ。前CEOである。オレは彼に良くしてもらった記憶が多い。ハズキに対しても優しく、よく修行をつけてやっていた。火遁の他に風遁使いで、三代目火影とは同期である。数少ない、オレの中では全く疑いを持っていない扇城の人間だ。

 

『僕は扇城マサキ。あまり書くような事は無いが、何とかひねりだしていこうと思っている。話す事なんて、どうして僕を中継ぎにしたのかという父への愚痴くらいかな。父は今、不治の病と長く闘っている。吐血が酷くて失明している。ちなみの僕の他にも同世代の優秀な子がいたんだけど、彼らは経営者というよりも現場で陣頭指揮を執るタイプ。忍者として指揮経験がある、僕が選ばれてしまった。嫌だな』

 

『一族にトオルという子がいるのだけど、この子がまたリーダーシップに優れている。病床の父がもし亡くなったとしたらこの子を次期CEOに据えたい。だがまだ若すぎる。僕はしょせん中継ぎ。ピンチヒッターだ。せいぜい企業を安定させ、求心力を高めていかないといけないな。本当のCEOのために。また株主に怒られてしまった。私のように自尊心や自信を奪われないように、適切に褒めて伸ばしていきたい。良い子だ』

 

『アズサちゃんが、妹であるアオイちゃんを紹介してくれた。なんでも、小さな時から僕が好きだったんだと。かなり年齢が離れているのに、アオイさんは”マサキおじさまが良い”なんて言ってくれた。批判の声もあるけど、親友たちは応援してくれた。アズサちゃんは小さな時から辛い恋を現在進行形でしていて、妹にはちゃんとした恋をして幸せになって欲しいんだと。トオルはアズサちゃんを毛嫌いして怖がっているけど、トオルだって道ならぬ恋をしてる。うちの血筋は何というか、ままならない。色々とね。ここからが複雑なんだけど、トオルの奥さんになる人はアズサちゃんの真ん中の妹。これからややこしいなぁ』

 

『オビト君が亡くなってしまった。まだ十代前半で未来があったというのに。トオルはオビト君を亡くなったもう一人の甥、カケルに重ねていた。同い年だったからね。カケルもまた戦地で若い命を散らした』

 

『里に、うちはマダラが操っていたとされる九尾が襲来してきた。僕は会議中だったが、それをすぐ切り上げて星宮の者たちを中心に部隊を編成して警務隊の援護へと向かった。フガク君たちの奮闘で、犠牲者が減ったと信じてる。それでも、あの規模の攻撃を受けたら犠牲者が出ても仕方がないと思う。リスクとの戦いだ。経営も、忍者としての仕事も』

 

『アオイちゃんが亡くなった。僕たちの子、ハズキくんを守るために負った傷の後遺症で。クラッシュ症候群といって、血中カリウムがどうとか、それで心臓を止めたとか。空元気でもいいから、体を動かさないと』

 

『何故か、うちはの者が九尾を操ったと思い込まれかけている。僕たち扇城の部隊は三代目のヒルゼン君に潔白を証言した。いくら仲が悪くたって、助けたい。こうやって扇城はうちはを助けてきたんだから!』

 

『ぶっちゃけ、僕は株主たちから全然信頼されていない。そりゃぁそうだ。会社に居づらくて、もっぱら復興任務か工場の現場指揮ばかりしている僕は全然良い経営者じゃないだろう。息が詰まるし!内勤の忍者であり、優れた情報収集能力を生かして装備の調達をしているトオルをまだ若いけど次期経営者に据えるという動きが高まっている。トオルは優秀だから、躊躇うと思っていた。だが良い上司がいるみたいで、予備役という立場のまま家のために動く許可を貰ったそうだ』

 

『CEOを解任された、僕は自由だ。この年になって独身で子供がいない僕は身軽だ。これからフウレン君と一緒に復興がんばるぞ!やっとトオルがCEOになる。嬉しいな』

 

『トオルとハナエちゃんの間に生まれた、ハズキ君。まだ若い夫婦なのに、一族内の戦災孤児を引き取って育てるんだって。本当にえらい。キョウスケ君とアキラ君の兄弟みたいな。あと、アズサちゃんの子供二人を出来たら僕が引き取りたい。そう提案したら、激しい反対を受けて星宮兄弟は星宮神社の里子になった』

 

 ここで、前CEOの日記分は終わり。オレがさっそく違和感を感じたのは『ハズキ』が生まれたというのに、最後には『独身で子供がいない』と言っている部分。キョウスケとアキラの兄弟が養子だとは知っていたが、まさか。背筋にうすら寒いものを感じ、想像を巡らせた。よく漫画や小説にある、ショックのあまり記憶を失っている状態にあるのではないかとオレは思った。それが事実なら悲しい。

 

そしてようやく、現CEOの部分へと到達した。

 

『私は扇城トオル。内勤の上忍として、情報収集と装備調達を担っている”室長”を歴任していた。この度、実家である扇城屋を相続した。私はかねてより装備品が時折部隊によって不均等だと思っていた。最新型が行き渡っていない場合があるのだ。装備調達室での経験を活かし、これからCEOとして里の経済を復興させる道を行こうと思う。先々代経営者である、扇城イリヤの思想に共感する部分が多いのでより勉強していく必要がある。今はみな等しく苦しい状況にある。これを打破するには平等さが大事なのではないかと考える。扇城イリヤが言っていたように”同志”を探さねばならない。いずれは世界で共感されるため、各国に同志を募る必要がある』

 

外面だけでも温厚そうな現CEOの姿と重ならない文章だった。刺々しく感じられた。

これでも、三嶋フウレンによる機密情報の検閲がなされているのだ。それなら何故三嶋特別上忍はハズキと前CEOの情報をオレに知らせたのか。意図が読めない。部屋の向かい側にあるナルトのスペースで、ナルトは最近では珍しく絵筆をとって絵を描いている。時計を見れば、深夜1時近く。

 

「ナルト、寝るぞ。あと5時間しかない!」

 

「へ?うっわ、今すぐ寝るってばよサスケ!!」

 

 

 

                     ☆★☆

 

 

 オレは目覚まし時計を叩いて止め、任務のために身支度を始めた。

部屋のカーテンを全て開ける。空気を入れ替えるため、戸も全開にする。

夏の朝特有の澄んだ冷たい風が心地好い。

 

「オイ、早く起きろウスラトンカチ!」

 

「目を閉じたらもう朝かよ!!」

 

ラーメン柄のブランケットを引っぺがすと、隣のベッドの主は突然入ってきた太陽の光に青い瞳を瞬かせた。余裕綽々で夜更かししているから、こんな事になるんだ。オレも人の事は言えないが。

今日は朝から第7班が久々に揃って任務へ行く。おそらくBランク任務を担当するだろう。

オレたち第7班はそれぞれの師から厳しい修行をつけられ、新しい戦い方のヒントを日々模索している。それがどれだけ役に立つか。是非試してみたいものだ。

 

食堂に降りると、そこは寮生とその班員でごった返していた。

実家暮らしの者たちでも、親や保護者が朝から忙しいなどといった理由でここに来る場合がある。あとは丁度良い待ち合わせ場所代わりとして。今日はサクラと食堂で待ち合わせをしているのだが、どこに座っているのか。オレとナルトは食堂を見渡し、サクラを探した。人ごみの中で目立つ、艶のあるピンク色の髪。

そこを目掛けて人込みを縫って、転ばないように進んでいく。

 

そして、オレたちの姿を捉えたサクラは口を開いた。

 

「二人ともおはよう!」

 

「おはよう、サクラ」

 

今日も綺麗だなと、続けてしまいそうになったが今は飲み込んでおく。

 

「おはようってばよ、サクラちゃん!」

 

サクラは3人分の席を取るため、既に彼女の分の朝食を机の天板に置いていた。

どうせカカシは少し遅れてくるから、少しゆっくり食べても大丈夫だろう。

 



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7 Bランク護衛任務!~はじまり

サスケ君視点です。長野弁ってよく分からないです。自分三河弁ネイティヴなんで
長野弁っていうよりも、長野弁『風』だと思って頂きたいです

転生を複数経て表情筋が割と活発なサイです
はじまり 原作ナルト世界
1度目  現代(伊賀か甲賀出身で愛知の美大に進んだ”志村彩(サイ)”くん)  
     少年漫画家として名を馳せる
2度目  何故か呪術廻戦の世界で、絵を具現化する術式を持って誕生
     ヤマト隊長っぽい人と行動を共にしていた。渋谷恐怖症になる
     いのっぽい彼女(呪術師)を渋谷で失いそうになった
3度目  今ココ

前前前世からいのが好き

                ☆★☆

アマツから見たCEOとサスケから見たCEOは印象が全く違う。
だが黒幕もいるにはいる。意外と近くにいる。
                 


8月7日

 オレたち第7班に割り当てられたBランク任務は、五代目火影によって直接命じられた。扇城屋のCEO・扇城トオルとその一家を、夏の休暇先である天龍湖の湖畔にある温泉リゾートへと送り届け、滞在中も襲い来る刺客たちから守り切ること。これが、2週間にも及ぶ任務の内容だ。扇城トオルは、天龍湖の湖畔に本社や紡績工場を構える『藤森財閥』との合併協議も兼ねてそちらへ行く。これまで吸収合併してきた企業は数知れず。しかし、それだけに恨みを買って刺客を放ってきた者たちもまた数知れず。扇城トオルは元が上忍ではあるが、当人は「だいぶ忍者の仕事から遠ざかっていて完全に鈍っている。ほぼ民間人だ」と事あるごとに主張する。だが元忍者(正確には定期的に訓練には参加している予備役)だから、これまで生きながらえられたのも真実だ。

 

 オレからすれば、扇城トオルが鈍って忍者としてのカンを失っているとは到底思えないエピソードが思い出されられる。あのCEOは前CEOと三嶋フウレン特別上忍が親友同士という繋がりからか、三嶋フウレンの孫娘・アザミの姓が”三嶋”だった頃から風遁の指導を行なっていた。三嶋の血継限界である晶遁は『土』と『風』の性質からなっている。アザミはとんでもなく不器用で要領が悪いが、三嶋フウレンの教育方針から術の教授を一切されなかった代わりに徹底したチャクラコントロールの修行を課されていた。一族相伝である術を教わらない代わりに、自分で誰か術を教えてくれる人間を探して教わるよう彼女は言われていた。その相手の一人がたまたま、祖父の知り合いである扇城トオルだった。志村一族の血を引く扇城トオルは風遁も得意で、好奇心旺盛なアザミから風遁を教わりたいと熱心に頼まれていた。中庭で指導を受ける同期と養父の姿を見ていて思ったが、あの動きはどう考えてもカンが鈍った人間とは思えなかった。それは多分、今もだとオレは思っている。たまに街で見かけても、身のこなしが引退した者とは段違いで無駄が無い動きなのだ。

 

                       

 

 門の近くにある甘味処で友人である上忍たちと共にみたらし団子を頬張る兄さんを見つけたので、オレたち第7班とサイは兄さんにも任務へ行くという報告をする事にした。兄さんはこれから同窓会だという。

 

「兄さん、行ってくる」

 

「行ってらっしゃい、サスケ」

 

兄さんとその友人たちに見送られ、オレたち4人は依頼人を迎えに行くため扇城屋の方へと歩き出した。

最近義姉さんは夏の暑さからなのか体調が良くないらしく、ここ数日間任務を休んでいる。心配だから、天龍湖の有名な菓子でも土産に買っていこうと思う。それにはサクラもナルトも賛成していた。だがサイだけは暫し考え込んでから、「さっぱりした物にしようよ」と柑橘系のものを強く推してきた。

 

 

 

扇城屋での社会科見学以来の扇城家本家邸宅の中庭に行くと、そこではCEO夫妻と同い年で民間私立校に通うアキラ、CEO夫妻の実子である3姉妹が勢ぞろいしていた。

 

「来てくれてありがとう、第7班のみんな。私は元忍だが民間人としての生活が長いからね、家族を守りながら旅行するのは本当に大変なんだ。サスケ君。イズミちゃんは元気かな?」

 

爽やかな実業家然とした表情でオレと握手しながら、扇城トオルは義姉さんについて問いかけてきた。

 

「ハイ、元気です」

 

「それは良かった!皆が忍者になってからというもの、あまりこうして顔を合わせられなかったからね」

 

ナルトはCEOを見ると居心地わるそうにし、サクラとサイの方をちらほらと見ていた。

CEOの傍らには、この邸宅で警備員として仕えている扇城の使用人が控えている。それに対しても、ナルトはどこか落ち着かない様子。社会科見学で調子が悪くなった時にナルトを気遣っていた者だ。

その側近は、名をハルキという。階級は中忍で、医療忍術の心得がある。

 

「ではみんな、行こうか!」

 

「しゅっぱつしんこう!」

 

CEOの実子のまだ小さな末娘が元気いっぱいに右手を空に突き上げて叫んだ。

サクラは少女の姿を微笑ましそうに見ている。

こうして、危険?な夏季休暇護衛任務は幕を開けたのだった。

 

 

                      ☆★☆

 天龍湖とその周辺にある集落に向かうには、イナ谷という渓谷を抜けていく必要がある。かつてイナ谷には忍一族がいくつも存在し、そこから里に移住してきた一族もいる。その地域の一族の多くが諏訪軍団に味方していた。天龍湖周辺へと抜けるにも、狭い谷が繋がっている。その谷の中心には川が流れ、両岸には小さな古い神社がある。かつて諏訪と守矢が川を挟んで激闘を繰り広げたという、由緒正しい古戦場だ。谷を抜けるとようやく、天龍湖へと到着する。天龍湖の名産品はウナギと生糸。観光地は天龍大社。

 天龍大社というと、多くの人間が名前だけで1つの大きな神社を想像するだろう。実際には上社(かみしゃ)と下社(しもしゃ)。その中にも上社は前宮と本宮、下社は秋宮と春宮に別れている。

中忍選抜試験の時にはしっかりと見る暇が無かったが、天龍大社の祭神は軍神だ。どんな強大な相手にもひるまず立ち向かう、たゆまぬ勇気と不撓不屈の心を象徴する水と風を司る軍神(いくさがみ)。狩猟の神という側面を持ち、諏訪氏族の者が背負う弓と矢筒はそれに肖(あやか)ったもの。

夫婦仲が良い神でもあるので、夫婦の幸せを願って参拝する者も多いという。

 

 今日から2週間はカカシがいない、新人中忍と2年目中忍だけで挑む任務だ。今日の1800からは中間地点にある飯田(いいだ)という街で一泊する。朝0800には出発し、明日の夕刻には天龍湖にある豪勢な宿泊施設に到着する予定になっている。波の国に行った時の事をよくよく思い出し、纏めておいた『自然現象ノート』を捲る。豆知識が沢山あり、依頼人との話題に困らないという事で重宝している。

 

「ここは大渓谷だ。雨が一旦降りだすとこの地域はなかなか止まない。ここ三日間、晴れている」

 

オレが読み上げると、軽い歩調で足を進めるナルトが頷いた。

先頭を歩くサイは突然こちらに振り向き、右手の人差し指で地面の水たまりを指差した。

 

「おっ・・・、と。ここにわざとらしく水たまりがある。皆さん、春野中忍の指示通り下がって下さい」

 

隊長を命じられたサイが務めて笑顔でクナイを構えながら扇城一家を下がらせ、サクラに指示を出した。サクラは女性で同性だからか、忍者嫌いのCEO夫人からの抵抗がかなり少ない事がここまでの道で分かったのだ。そこで上忍候補に選ばれるほど優秀なサイは、夫人と3人の娘たちに対する対応の7割をサクラに割り振った。サクラは怖がるCEO夫人と娘3人を下がらせた。アキラはCEOによって守られている。

 

「サスケ。雷遁でドカンと一発頼むってばよ!」

 

「おう」

 

「例のアレね!」

 

オレは里から持ってきたコードを水たまりに差し込み、雷の性質を持つチャクラを練ってそこに電流を流した。すると水の中から男が一人、聞くに堪えない叫び声を上げながら飛び出してきた。恰好からすると抜け忍だろうか?どこに雇われたのかを聞き出す必要があるので、サイが縄で拘束しながら軽く尋問をしている。不意にサイはポーチから狼煙を出し、火を付けた。

 

「少し待ちましょう。彼を連行してもらいます」

 

休憩を兼ねて少し待っていると、木の上からヤマト上忍が降りてきて手錠をかけ里の方向へと向かっていった。「みんな頑張れ!」と声をかけてから。オレは全く気付かなかった。付いてきているという事に。サイとナルトは最初から知っていたようで、驚くオレが面白いのかクスクス口許を抑えて笑っていた。

悔しい、大いに悔しい。伝説の三忍・自来也を師とするナルトも感知で気付いていた事が悔しい。

 

以後、天龍湖に到着するまでに登場した暗殺者たちは実にピンキリだった。マヌケなヤツから、案外動けるヤツまで色々いた。会社名をCEOに告げる度にCEOは眉を顰め、溜息をついた。この暗殺者の襲来は面倒極まりなかったが、良い事もあった。適切に迅速に対処する度に忍者嫌いである筈のCEO夫人からの信頼がどんどん上がっていったのだ。なので出発時にはサクラ以外にはツンケンした態度でいた彼女も、到着時にはオレたち男子3人にも話しかけてくるようになった。中でもナルトがお気に入りらしく、「ナル君に現地でボディーガードしてもらおうかしら」と言い出すほどだ。CEO夫人は妹を九尾襲来で亡くしている。あの日記の内容が真実ならば。だというのに、それも認識した上でナルトを気に入ったようだ。

 

                  ☆★☆

 

8月8日

 

川沿いを進んでいくと、遂に開けた場所に出た。昨年の12月に来て以来の天龍湖が見える。

その風景は冬とは印象が違い、湖畔に咲く花々の鮮やかさにオレは少しだけ驚いた。

 

銀色に輝く広い湖面に、サクラが「わぁ!」と感嘆の声を上げた。湖の上を吹き抜ける風が、盆地ゆえの熱い空気を海へ流れ出す川の方へと押し流していく。そのため、天龍湖の周辺はちょっとした避暑地になる。付き人である扇城ハルキはきょろきょろと周囲を見渡している。

 

「どうしたんですか、ハルキ中忍」

 

それに気づいたサクラが尋ねると、扇城ハルキ中忍は爽やかな笑顔を見せた。

 

「流行りのお菓子があると聞きましてね」

 

「そうなんですね!教えて頂きたいなって・・・」

 

「勿論良いですよ。僕は甘いものが大好きでして」

 

万年中忍だと自称する、一見優し気な扇城ハルキ中忍35歳。サクラと和やかに話している。

オレはどうも、このCEOの付き人が苦手だ。サクラはそうでもなさそうだが、ナルトが警戒した表情を一瞬だけオレに見せてきた。一緒に来ている扇城タイキ中忍とは仲の良い従兄弟同士であり、扇城家に住んでいた時代はよくしてもらった。そちらは見るからに冷たそうな印象を受ける20代前半の人物だ。だが実際は温厚で優しく、オレはどちらかといえばハルキ中忍の方ががあまり得意ではない。時折見せる舐めるような観察するような視線がどうにも好きにはなれなかった。

 

「あ、そうだ。僕は先に宿泊先に行ってあちら側と打ち合わせをしてきます」

 

サイが突然、そう言って走り出した。

 

 

 

 

 目的地に辿りついたが気を抜かないよう、隙の無いフォーメーションを組みながら天龍湖温泉の温泉街の中心を通る広い道を歩いてく。道の両脇には雪の結晶で出来た梶の葉に足が生えた諏訪氏族の家紋がついた装束を纏った人々がざっと20人はおり、今回の会談がどれだけ大事なものなのかを物語っている。

 

宿泊先は約50メートル先にある、天龍湖の湖畔で一番大きな温泉旅館。名は『ふじもり館』という。

ずらりと着物姿の仲居が番頭を先頭にして並び、そわそわと扇城屋一行を待っている。そこにはサイもいた。サイは普通に立っているように見せかけて、左足を前にした立ち方で利き手は手裏剣ホルスターの近くに置いている。デキる奴だ。変な奴ではあるがチームメイトとしては尊敬できる。

 

 

「あそこにあるのが、僕たちが宿泊する『ふじもり館』だよ。みんなの分は払ってあるから、好きに楽しんでね」

 

ああ、そうだ。この感じだ。案外ふんわりとした、優しい口調。

 

「ありがとうございます、社長さん」

 

「どういたしまして、春野さん。ここは特殊な場所でね、お金を払えば好きに飲み物や食べ物を食べて良いし目の前の湖岸で遊んでいい。浮き輪も可愛い浴衣もタダで借りられるよ」

 

優しい表情で双眸を細め、引き取った子供たちを慈しんでくれたあの日々。

『あの日』に育ての両親と姉を亡くした挙句、実兄が犯人の疑いをかけられて虐殺の巻き添えを喰らって生き残ったアマツに「無理しないで良いんだよ」と言っていた姿。あの日記帳とはかけ離れた、忍者嫌いの妻とのバランスを取ろうと苦心する優しい養父の姿。二つの姿が脳内でグチャグチャになりそうだ。

 

「そういえば扇城の社長さん。僕って言うんだな?」

 

「元々こっちが本当だよ。気を抜くと出てしまう。僕もいいけれど、どうも威厳が足りない。それで直したのさ」

 

「コラ、ナルト。敬語!」

 

サクラに注意され、ナルトは「ごめんなさい」とCEOに謝った。

オレたちが打ち合わせをしていると、CEOの夫人である扇城ハナエが夫に肩を小さく叩いた。

 

「ねぇ、あなた。私とこの子たちの護衛はナル君を指名して大丈夫かしら?」

 

「そうだね。ナルト君が良いなら・・・」

 

「もっちろん、頑張るってばよ!」

 

明るいナルトの声に、ハナエと三人の娘たちは嬉しそうにそっくりな笑顔を浮かべた。

それからアキラはナルトに近付き、その両手首を持ってブンブンを上下に振った。

 

「ねえみんな、久々に一緒に遊ぼうよ!」

 

「良いな、それ!」

 

すっかり休みモードになった親友にオレはあきれた。頭の中がひまわり畑か。

 

「オイ、これはあくまでも任務だ。忘れんなよウスラトンカチ」

 

「分かってるってばよ~!」

 

「そうよ、ナルト。サスケ君の言う通りよ!」

 

「良いのよ、みなさん。私(わたくし)、忍者にしか出来ない水遊びが見たいの!」

 

「ナルお兄ちゃん、遊んで!」

 

「あ~、もう!私たち一体何しにここに来たのよぉ!!」

 

すっかり明日の予定が護衛兼夏休みにすり代わり、ぎゃあぎゃあと騒ぐオレたちをCEOとサイが笑顔で見ている。サイは無表情だが、いつもより血色が良い。明らかに怒っている。というより、いつの間にここまで来たんだ?オレはサイの上忍師であるヤマト上忍について思い出す。きっと二人は似た怒り方をするだろう。

 

「・・・時間、おしてるよ」

 

1つ上のチームメイトの声は地を這うような響きをしていた。

 



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7.5 イタチの同窓会

Q.シスイさんはどうやって死の偽装を?
A.たまたまハズキとイタチの目の前でライヘンバッハ。滝壺に転落。

・第77班は字が汚い。
・第77班のMBTIと発達障害
  諏訪オカヤ ESFJ/ADHD 第77班では一番感情豊か。殺害任務が辛くなる。
  諏訪アザミ INTJ/ASD  感情を完全に排除可能。殺害任務を平然とこなせる。
  稗田ミサキ INTP/ASD  意外と我が強い。内心躊躇いながらもやる。


 前前世では孤独な戦いを強いられていたイタチであったが、今世と前世では年齢が近い者たちとの交流も大事にしてきた。前世の長野県民だったころ、イタチは長野市で一番偏差値の高い高校で生徒会長をしていた。全国模試でトップ成績を治め、東大に難なく合格したものの、愛する家族との時間を優先して地元の国立大学に入学した。その態度をいやみだとか、そう言ってくる同級生もいたが、そんな事は些細な問題。人一倍精神年齢と知能指数が高いイタチは、そういった高校の同級生たちを優しい気持ちで見守っていた。

 

 

 今世のイタチは今こそ廃止されたが飛び級課程で忍者になり、里と一族と家族を愛し、堂々と太陽の下を歩いて健全な天才忍者として過ごしてきた。前世から関わりがある三嶋フウレン特別上忍の意向で、一般的な忍者学校に通う子供たちと時には一緒に特別授業を受けた。主に保健、美術、社会科見学の授業である。季節の行事にも参加し、長野の記憶を持つイタチは平和なひと時を同い年の子供たちと共に過ごした。忍者としては同期として扱われていないが、心は同期みたいなもの。個性的な同級生たちはそうイタチに言った。13歳、7年生で途切れたその優しい思い出は5年に渡る長期諜報任務の間もイタチの心を支えた。

 

                      

 

 イタチは今日、初等部6年間と中等部1年の僅か3ヵ月間を過ごした友人たちとの『同窓会』をするため市街にある甘味処で待ち合わせをしている。今回の同窓会のメンバーはイタチを入れて6名。まずは声で幻術をかける血継限界を持つ猿田一族分家の稗田の分家出身、稗田カズキ。幻術への対抗能力を持った声で、耳から彼らの声が入る事によって効果を表すため、場合によっては戦闘中ずっとしゃべり続けているか歌い続けているかのどちらかだ。大事な喉を隠すように額当てをつけ、頭にはキャップを前後逆にして被っている。髪と瞳は黒。背丈はイタチより僅かに小さいが、しっかりした骨格をしている。正義感の強さが、稗田カズキを稗田カズキたらしめていると言っても過言ではないほど曲がった事が嫌いな性質の持ち主。弟が2人おり次男のフツミは扇城キョウスケと同じ班、三男のミサキは第77班の一員。

 前世でも稗田三兄弟の長男坊で、当時の名前は稗田一騎(カズキ)。駅伝で有名な工業高校を卒業後は音楽の趣味を続けつつ愛知県の世界的車メーカーの工場の現場で真面目に勤務していた。2つ下の弟・二海(フタミ)は、市内の農商業高校を卒業後に兄と同じ会社の傘下企業で同じく真面目に働いた。5つ下の弟・三幸(ミサキ)は愛知県下でも有数の東三河で一番偏差値が高い進学校を卒業後、学費を節約するため防衛医科大学に入学し医師になった。民間に行って小児科医になるのが目標ではあったが、ある桜が美しい駐屯地で必死に働いていた。しかし帰宅時、親友で幼馴染の滝川薊子(アザミ)と一緒にいる時に三幸は通り魔に巻き込まれて亡くなった。その葬儀の帰り道、兄二人は特急列車が入ってくるホームに突き落とされて即死。三幸と薊子を刺し殺した女性の親友が、逆恨みをこじらせて犠牲者である三幸の兄二人までも手にかけたのだ。

 

 

 次に、諏訪ヨリヤ。諏訪軍団を束ねる諏訪頭領の長男で、次期頭領の候補の一人だ。その血筋は氏族でも有数の血統とされ、10代の諏訪軍団構成員の中でも3本指に入る実力者。160程の背丈に、華奢な体つき。サラサラとした髪は多くの諏訪の血を引く者と同様に『黒い絹糸』を思わせ、その切れ長な瞳は『黒曜石』のように半透明な輝きを持つ。白い肌は色合いこそ健康的だが薄く、よく見ればそばかすが見られる。体力とチャクラ量は平均よりも無く男性にしては非力だが、そのチャクラコントロール技術は繊細。幻術の技量が高く、高難易度の術を難なく使いこなす。その性格は上品で洗練された所作とは対照的に傲慢なところがある。イタチはヨリヤの必死さや努力家な過去を知っているからこそ、そういった態度で強がっているのだと知っている。気弱だった、周囲に馬鹿にされていた過去を払拭しようとした結果が傲慢な態度。友として、イタチはヨリヤにはそういった態度を直して欲しいと思っている。いつか刺されそうな気がしてならないのだ。

 生前の諏訪ヨリヤは、名前を藤森頼矢(ヨリヤ)という。普通の諏訪市民で、歴史好きなアニメ愛好家の青年だった。藤森陸也(オカヤ)とは生前のはとこ同士だった。長野県民だった頃のイタチとは生徒会同士の交流の関係で高校時代に知り合い、国立大学では一緒に学んだ。大学卒業後は学芸員となり、故郷の博物館に勤務していたが陸上自衛官だった前世のオカヤが災害派遣先で後輩隊員を庇って殉職した時の葬儀の帰り道で飲酒運転のトラックに撥ねられて友人と共に即死。

 

 

 最後に霧島リョウ。霧島一族の出身である、優れた体術・剣術・火遁の使い手だ。次期頭領である霧島ユタカのいとこであり、ユタカ程ではないが戦闘狂の気(け)がある。余談だが、霧島一族は好戦的な戦闘民族だ。戦闘民族とはいっても頭を使わないわけではなく、知性を重視しているから戦場においては厄介。一撃必殺の剣術を受け継ぎ、彼らと戦う時には「霧島と戦う時は初太刀を外せ」という言葉を他国の忍に言わせるほど。霧島リョウは彼の出身一族の例にもれず、霧島流剣術・火遁の使い手である。艶やかな重さがある黒髪と形の良い眉、はっきりとした端正な顔立ち、そして彼らが住んでいた海沿いの暑い地域では目立つ白い肌。それが彼らの特徴だ。リョウは常に上品な所作で動き、ユタカと同様に丁寧に話す。彼の曾祖父には宿敵・三嶋の者によって刻まれた呪印が残っており、温厚と知られる氏族である三嶋にとっては数少ない抹殺対象。だが彼は一族の年長者たちとは違い、三嶋一族の者と正常な友好関係を結んでいる。

 生前の霧島リョウは鹿児島県霧島市出身で、岩元僚という名前だった。姓から分かるように薩摩隼人の末裔にして、剣術の名手だが体が弱かった。前世のイタチとは同じ大学に通い、卒業後は憧れだった病弱児を担当する養護学校の教員になったが無理をおして身を粉にして働いたため過労死。その無念さを、同じ国立大学で肩を並べて学んだ前世のイタチはよく知っている。故郷とは全く違う降りしきる雪の中、心臓発作で倒れたまま綺麗な遺体として見つかった同窓生の姿が離れない。

対面した美しい遺体はまるで眠っているようだった。

 

 

 この通り、生前のイタチである内田至智の周囲では不幸な事故で知り合いや友人が『連れていかれる』ように亡くなっている。どの死もイタチは目撃しており、忍界に戻ってきた今も時折悪夢として見る。まだ幼かったイタチが忍者学校に通っていなかった頃、何度も夢の中で稗田一騎と稗田二海が特急列車によってバラバラにされた。諏訪頼矢が、普段は人通りの少ない宿泊先の田舎の観光ホテルに帰る道で引き摺られてミンチにされた。霧島千穂が乗る赤い愛車が駐車場を出てすぐ、吹っ飛ばされて炎上した。イタチがよく関わっていた生前の星宮アマツと星宮カガセの兄弟―――星野兄弟の死を起点として、若者が次々と死んでいった。それだけに、記憶を保持した彼らに再会したイタチが感じた安心感は大きいものだった。

 

 

 怖い話をしながらキャンプファイヤーを囲んだだろう夏の夜。きらめく川面を見つめながら、修行がてら水切りに励んだだろう日々。『あの日』の事件が起こりさえしなければ、イタチは仲間たちと共に平和な5年間を過ごしていただろう。しかしあの日はイタチの平和な日々を一変させ、イタチが転生者である事を把握していた千手綱手と自来也の推薦により、諜報任務に赴く予定で死を偽装していたシスイの作戦に参加する事を決定させた。また、シスイを5歳ほどの頃から慕っていた弟と同い年の扇城ハズキはシスイの死によって写輪眼を開眼した。ハズキは心の支えを一人分失ったのだから。前世と前々世の長い人生を生きてきたイタチにとっても、自分より肉体年齢が年下の血縁者は我が子と等しいのでその悲しみは余計に大きかった。

 

                      

 待ち合わせをしながら、イタチのもとには第7班とサイがやってきて任務へ行ってくるという報告をしていった。稗田カズキは第7班が弟たちの友人というものあるが、餞別として塩飴の大袋を渡した。甘さ控えめのそれは甘いものが苦手なサスケも嫌がらない風味で、特に炎天下に任務に当たる男性忍者から人気が高い。サスケはそれを受け取ると、「ありがとうございます、稗田上忍」と言った。普段、はたけカカシ上忍を「カカシ」と呼ぶなどぶっきらぼうな部分がある弟なのでイタチは弟の成長を強く感じて嬉しくなった。

サスケたち第7班が向かうのは、天龍湖の湖畔で行われる企業同士の話し合いの護衛任務だ。護衛対象は扇城屋のCEO一家。CEO一家で育てられた現役忍者のキョウスケとハズキ、そしてサスケは任務を選んだので夏休みの休暇には行かなかった。実を言えばサスケは扇城一族と里の闇、更には音隠れとの繋がりを探るための『囮』の役目を負っている。扇城屋には、里の闇たる志村ダンゾウ達と密接な関りを持つ者が隠れている。サスケにはあえて扇城屋CEOが怪しいと思わせ、自然にCEOを疑う仕草や態度を取らせたかった。イタチとシスイは申し訳ないと思いながらも、そう仕向けてきた。イタチとシスイは居たたまれない気持ちになりながらも三嶋フウレンや五代目火影と共に調査を続けてきた。この2週間の間に扇城屋と会談する相手は、藤森財閥という生糸産業で発展した天龍湖の湖畔を拠点とする諏訪氏族の血縁・藤森一族が経営する大企業群だ。そちらもまた幻術耐性が高い忍を輩出し、ライバル企業が差し向けてきた刺客を遠ざけてきた。

彼らはまた、諜報技術をビジネスに関する情報収集に上手く転用して会社の買収危機を乗り越えて来た。

 

 一般的に不仲でライバル同士とされる二社だが、それは第3次忍界大戦終結までの話。タイプが全く違う前CEOと現CEOが藤森財閥と何度も話し合いを重ねた結果、『国と里を守るための同盟』締結という形で協力体制を築いた。だが、扇城屋と藤森財閥が不仲である方が都合が良いのが株主たちである。それに株主たちは民間人ではあるが戦争が『儲かる』という事実をよく知っている。忍界大戦時、敵味方関係なく儲かる方に戦費援助をしていた者たちばかりだ。扇城屋はそういった怪しい株主たちを進んで集めるという『囮』を買って出て監視を続け、木ノ葉と火の国の経済を守るのに一役買っている。藤森財閥は逆にクリーンな株主たちからの人気を集めて、上手く隔離できるよう努力している。火の国の財界について知らない者からすれば、世界的大財閥と田舎の地方財閥が対立し続けていると見せかけながら。

 

 

                      ☆★☆

 

 常に星宮カガセがどう動くのかを考えているのは4人全員が同じだが、イタチを除く3人はカガセの裏切りについて”吹っ切れた”ような印象がある。ストレスを溜める事は体に悪いという事で、3人の友人は川のせせらぎが聞こえる川べりの食事処へとイタチを誘った。この3人は同じ師団にこそいるが、違う連隊に所属している。イタチのような直轄部隊所属ではなく、転生者が興した氏族が集まる地域を管区としている師団である。ちなみに転生者をルーツに持つ氏族が里内に居住地を構えるエリアは、『原作』のペインによってギリギリ破壊されなかった里の隅だ。戦力になりうる若者が住む寮も、『原作』を知る五代目火影の意向で同じような場所にある。

 

 

 家族連れが多い食事処は、テーブルとテーブルの間を子供たちが歩き回ってそれを申し訳がなさそうに若い両親が他の客に謝りながら通り抜けていく。子供嫌いの人間からすれば耐えられない環境だろうが、幸いにも今日集まった4人はとりわけ子供が好きな性分だった。泣き出しそうな幼児がいれば手を差し出して笑わせてやり、転びそうな小学生を助けてやる。そういった行動が自然に出来る者ばかりだ。窓硝子越しに見下ろす河原でも子供たちが遊び、鮎やアマゴのつかみ取りに興じている。そちらは大人でも楽しめる遊びなので、それぞれ仕事で見知った顔がちらほらと集団の中に混じっていた。

 

 諏訪ヨリヤが注文したのは、『川魚の塩焼き食べ放題プラン』だった。普段ならばそれなりに高くつくのだが、ヨリヤはこの食事処に出資している『藤森財閥』の令嬢が諏訪頭領家に嫁いで産んだ息子。ヨリヤは事務能力が高く、従業員として会社に籍を置いているため福利厚生が使えるのだ。

 

 鮎とアマゴの塩焼きを食べながら、イタチと3人はサスケ達の世代についての話をした。サスケ達の世代は『黄金世代』と言われるほどに豊作である。原作のルーキーナインは誰一人欠けることなく里に所属し続け、転生者ですら人によってはルーキーナインを凌ぐ戦闘力を身に付けているのだ。代わりに星宮兄弟というイレギュラーが生まれてしまったが、里の闇とは無縁な戦力が相当数存在ているという安心すべき部分もある。現在の転生者サイドの最高戦力は諏訪ヤシマ、鹿島ライウ、霧島ユタカのうち誰かだと言われている。

 

「最近ナルトすげぇんだよな。飛雷神の術を習得しちまった!」

 

大きな川魚が刺さっている串を右手に持ちながら、稗田カズキが満面の笑みで言った。

 

「そうなんだよ。イタチの弟くんも凄くて、特殊なヤツ以外は千鳥の発展形を習得していたよ」

 

あまり表情を変えないが、優しい声音で霧島リョウがサスケの話をした。

 

「それは知らなかった。アマツもワンパンでいけそうだ」

 

「イレギュラーが起こらなければおそらく。俺とカカシさん、そしてシスイが持てる技術の全てを教え込んでいるからな」

 

「頼もしい!あっ、追加で鮎8匹お願いしまーす!!」

 

快活で人当たりが良いカズキは昔からいつも注文担当だ。その変わらない姿に、イタチはそっと口元に笑みを浮かべた。少しすると、イタチたちがいるテーブルには8匹の鮎が新人らしき給仕によって届けられた。

 

「イタチ」

 

「リョウ?」

 

「最近のヒナタ嬢もなかなか凄いと思うんだよね、僕は。単純な戦闘力でいったら相当なものだよ」

 

うんうんと、カズキとヨリヤが二人ほぼ同時に頷く。

 

「日向の転生者が頑張ってくれたらしいな。確かトクマさんと、付き人のコウさんか」

 

「そうそう。あの二人は前世だとたしか古武術の先生だった。原作とアニメを見てヒナタちゃんの可能性と内面を詳しく知ったって、前一緒に飲み会やった時に言ってたぜ」

 

『飲み会』という言葉に、イタチは反応した。精神年齢はともかく、肉体年齢はまだ未成年。未成年である以上、里の未成年健全育成計画に背くような真似は良くない。倫理的にも、健康的hづにも避けたかった。

 

「ヨリヤ。今のは聞き逃せないな」

 

「ご、誤解すんなよイタチ!二人は梅酒だったけど、俺は梅ジュースだった!誓って飲んでないぞ!」

 

「・・・なら良い」

 

ヨリヤはほっと息を吐くと、青い硝子のコップに麦茶を継ぎ足した。

 

                        ☆★☆

 

 和やかな同窓会は終わり、イタチは最愛の妻へ手土産を片手に帰路についた。今頃サスケは飯田という街でに到着しただろうかと、任務へと旅立っていった第7班に思いを馳せた。ここ最近、星宮カガセがちらほらと目撃されている。その目的は勿論、【尾獣】集めである。木ノ葉はそれを既に把握しており、扇城屋現CEOである扇城トウヤ上忍と前CEOの扇城マサキ特別上忍と協力し合って「おびき寄せる」計画を進めている。天龍湖の畔でその計画を知った時、サスケは怒るだろう。だがイタチはこう言ってやると決めている。

額を小突きながら「すまん、サスケ。お前を囮にしていた」と。

 

 

 イタチが帰宅すると、妻がいない代わりに書置きがあった。5センチ四方ほどの白いメモ用紙にはミミズがのったくったような字で『イズミさんが病院へ行くのに付き添います アザミ』と書いてあった。台所には布袋に入った茄子と胡瓜、小玉西瓜があるので諏訪アザミが三嶋氏族の祖父母に持たされて来訪してきたのだろうと容易に推測できた。第77班は揃って字が非常に汚く、初等部時代にサスケが解読に困っているのを目撃した経験があった。その時よりはかなり読める字になっているが、イタチは忍者としての修業だけではなく字についての指導の必要性を感じた。




~イタチの今世の同級生たち 全員同じ年生まれ~

【諏訪ヨリヤ】 上忍 18歳(イタチと同じ年生まれ)
12月31日生まれ 黒髪、黒い瞳(切れ長・奥二重)、色白、そばかす
160センチ 51キロ Rh+O型
好物:塩羊羹、焼きとうもろこし、蕎麦 趣味:ボードゲーム、同人活動、競馬
特技:感知、報告書の早仕上げ、速読  嫌い:身の程をしらないヤツ、納豆
性質変化:水、風、氷(水+風)
父:諏訪氏族頭領トモヤ(上忍) 母:藤森財閥令嬢(氷遁遺伝子保因者) ゆきえ
声イメージ:イアソン
忍3.5 幻4.5 体2.0 賢4.5 力2.5 速4.5 精2.0 印3.5 合計:27.0
備考:漫画を描くのが上手いがシナリオはダメ、握力よわよわ、体力ざこざこ
   幻術タイプにして感知タイプ。エセ長野弁、女性恐怖症(親族以外)
   「鹿島と香取の女だけは無理ずら!」「落ち着くずら、俺!」
   身長に対するコンプレックスは一切ない、ドM疑惑がある
性格:自信家、頭脳派、ツメが少し甘い、強がり、頑固、ビビり

【稗田カズキ】 上忍 19歳
7月26日生まれ 黒髪、黒い瞳(二重)
175センチ 65キロ Rh+O型
好物:イワシのツミレ汁、豚汁 趣味:作詞作曲、カラオケ、DIY
特技:絶対音感 嫌い:弟を馬鹿にする人たち、行動しない人たち、いじめ
性質変化:雷、風、火 武器:声(幻術)
父:稗田一族の男 暗部 母:女医(民間人) 九尾襲来時に死去 チヅル
声イメージ:ブクロの長男坊
忍4.0 幻4.5 体3.5 賢3.0 力3.0 速3.0 精2.5 印2.5 合計:26.0
備考:木ノ葉生まれヒップホップ育ち、喉に額当て(赤)
   前世で何気なく見たラップアニメの記憶を魂に刻んで転生、うちはファン
   生前からのブラコンで念願の3人暮らしをしている、標準語
性格:正義感が強い、裏表がない、前向き、家族思い

【霧島リョウ】 上忍 18歳
8月13日生 黒髪、黒い瞳(目頭の切れ込んだ二重)、色白
174センチ 62キロ Rh+O型
好物:甘いもの 趣味:甘味処めぐり、修行
特技:剣術、舌でさくらんぼを結ぶ 嫌い:口だけの人、活字
性質変化:火、雷、土 武器:忍者刀(太刀)
声イメージ:珪素系男子の全裸で再登場した子
忍3.0 幻2.5 体4.5 賢3.5 力3.0 速4.5 精2.0 印3.0 合計:26.0
備考:戦闘民族・霧島の出身、見た目は繊細な青年だが好戦的な部分が強い
   生前は体が弱かったため反動で好戦的になっている面がある
性格:温厚、礼儀正しい、好戦的、正義感が強い、不正が嫌い


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8 Bランク護衛任務!~不穏なる付き人

サスケ君視点です

サスケ君の思考がぐるぐるしてます。サイ君のキャラが崩壊。

極光の意味=オーロラ。Northern Borealis


 扇城家の家族仲は、皮肉な事にアマツがいなくなってから格段に改善しているようにオレからは見えた。

それでもCEO夫妻とキョウスケ・アキラ兄弟の間には、埋まりそうで埋まらない溝が横たわっているように見えるが。『あの日』の二日後、病院のベッドで目覚めたオレとアマツは互いに焦燥し切っていた。俺の兄イタチか、アマツの兄カガセか。どちらがやったのか分からないが、捜査の関係で兄さんが犯人ではないかという方向になっていった。オレはどうしても兄さんがやったとは思えなかった。それに実際、カガセがオレの両親とアマツの養父母・義姉が息もなく倒れる部屋の中央に立っているのを見ている。兄さんは返り血を浴びたカガセと対峙していた。兄さんも返り血を浴びていたが、カガセも負傷していた。どちらがやったとも取れる状況だった。だが兄さんが立っていたのは、オレとアマツを守りながら戦える位置。切れ切れな記憶の中で、両親の遺体の他に鮮明に思い出せる確かなものだ。熱心に話を聞いてくれた警務隊の生き残りで当時非常に珍しかった他一族の隊員がいたが、彼は簡単な筈の里外任務の最中に突然死んだ。稗田の者だった。

 

 扇城家に引き取られたオレとアマツは当初、それぞれの兄イタチとカガセのどちらに憎しみを向けたら良いのか分からなかった。食が細くなっていたオレとアマツの面倒を傍で見てくれたのが扇城ハルキ中忍とその従弟であるタイキ中忍だった。オレについたのは一見不愛想な当時18歳のタイキ中忍、そしてアマツについたのが当時30歳のハルキ中忍。タイキ中忍は表情が薄く本当に愛想がないと思われがちだが、実際のところは根気強い性格で対等に接してくれた。だが本当に愛想が無いので、ちゃんと仲良く出来ているのかを扇城夫妻に心配された時もあった。彼が扇城夫妻と彼らの子供たち、そして養子であるキョウスケ中忍とアキラの兄弟との懸け橋になってくれた。後は職人集団を束ねる、前CEOの扇城マサキ特別上忍だ。彼は三嶋フウレン特別上忍の大親友であり、忍界大戦時には雷の国から里に繋がる山岳地帯で山岳連隊を率いて戦った英雄の一人である。オレにサバイバルに役立つ知識をキャンプで教えてくれた、頼りになる人物だ。

 

 一方、アマツは人当たりが良く優しい喋り方をするハルキ中忍にべったりだった。オレとタイキが対等な関係という感じとは対照的に、あの二人はかなり距離が近かった。元々はオレが首席でアイツが次席だったが、その頃からアマツが首席になった。「カガセを殺してやる」と息巻く猪突猛進なアマツに対し、何もハルキは言葉をかけずとにかく優しい目線と言葉で見守っていた。それに対し、教育に対して関心が強い扇城マサキ特別上忍はハルキとよく議論を戦わせていた。その話し合いがある度に家族はぎくしゃくしていった。言った、言わない、聞いていない、という言葉が家族内で鋭く飛び交った。正直、居心地が悪かった。だからオレは目の前の居心地の悪さに嫌気が差し、訳アリや諏訪祝(ほおり)家出身者のような遠隔地出身者が入る官舎に入った。幼少期からの親友であるナルトは自分から当時存命だった三代目火影に申し出て、官舎生活を選んでいた。官舎に入った理由は違うが、親友と同室になれてオレは本当に嬉しかった。

 

 

 

 ある程度大人になってから分かってくる事がある。その最たる例が、オレにとってはアマツを巡る扇城一族内の人間関係だ。幼かったオレには一切『人間関係を整理する』という考えが一切浮かばず、荒れるアマツと幼馴染のような関係にある諏訪オカヤたち第77班の面々にこっそり相談するしかなかった。目の前にあるぐちゃぐちゃした感情をその場その場で処理し、すっきりした気分になるだけで精一杯だった。故に、広く周囲を見渡す事がオレは出来なかった。今になってから、オレは扇城家の人々の気持ちを踏みにじってしまったのではないかと考えるようになっている。

 

             

 

 8月9日に天龍湖の湖畔にある高級リゾート旅館にやってきてからというもの、オレたちは毎日のように暗殺者たちを撃退していった。扇城夫妻とアキラ、そして3姉妹の護衛はめぐるましく過ぎていく。その最中で、まるで社会勉強だと言わんばかりにオレたちは天龍湖をぐるりと囲む集落―――というより立派な街だ、のそこらじゅうを連れ回された。天龍大社の上社・下社での体験は特に興味深かった。どちらにも観光客が沢山いるのだが湖の北東部にある下社は、南西部にある上社よりも周囲が栄えた雰囲気だった。しかし上社の静けさも良いとオレは思った。山が御神体とされており、道祖神や賽の神との関連性を指摘する研究者も存在している。サクラは天龍大社には夫婦の神を祀っていると知り、これからの武運祈願も兼ねて御守りを購入していた。そして何故か安産の御守り。聞いてみると彼女は笑顔で「近しい人にね、赤ちゃんが出来たのよ」と言った。

 そして、鹿島/香取と諏訪氏族の因縁を神社にある資料館で詳しく知った。いかにして諏訪氏族が天龍湖を目指し、土着氏族の守矢と戦って勝利し、この美しい湖畔に有力者として君臨するに至ったか。戦国時代が終わる間際の戦いで遂に諏訪が勝利したものの、有耶無耶にされ続けたまま今に至るがどうやって折り合いをつけて暮らしているのか。うちはもまた、千手との因縁を背負う一族だ。負けた側でありながら、力を失う事なく繁栄している諏訪氏族について知ればこれからうちはを再興し、発展させていくヒントが得られるのではないかと思った。

 

                     ☆★☆

 

 8月14日の今朝、ナルトとサクラは天龍湖の湖畔に佇む全寮制私立一貫校である『藤森学園』に出立していった。アキラと3姉妹が、9月からこちらに転校する事になっている。ナルトとアキラが非常に仲が良いが、ナルトにも秘密だったので悲しがっている。だがナルトは何故か「こっちの方が色々な意味で良いってばよ。教育的な意味で、絶対にこっちが良いってばよ」と頻りに口にしていた。理由は不明だが、ナルトはアキラたちが現CEOと離れた方が良いのではないと考えているようだ。そして、CEOの付き人である扇城ハルキとタイキという二人の中忍に対しても警戒している。聞いてみればオレたちが初等部生だった時代、オレが住んでいた扇城邸に遊びに来た時にハルキの方と「まだ話せない」が色々あったという。

 

「サスケ君。良ければ久々にお話ししたいのですが」

 

休憩室のソファに寝転がるオレに声をかけてきたのは、扇城ハルキだった。正直「ゲッ」と思った、一方頼りになる(とオレが勝手に思っている)扇城タイキは中庭で素振りをしているが、まだ止める様子はない。タイキは中忍だが、持っているスキルのバランスが良いと評価されている。写輪眼は無い筈だが、写輪眼を持つオレの戦闘訓練に付き合っていたので瞳術への対処スキルが他の奴らより高いと思う。

 

「・・・オレで良ければ」

 

「それは良かった」

 

ハルキ中忍は人好きのする笑顔を浮かべ、オレの向かい側のソファに腰を下ろした。

 

オレはこの、ニコニコとした表情を基本崩さないコイツが苦手だ。何を考えているのか、あまりにもよく分からない。そういえば第77班は下忍になってからというもの、コイツをまるでアレルギーか何かのように嫌っていたな。アマツとの不協和音が聞こえ始めてから、あいつらはオレなどよりもずっとアマツに向き合う努力をしていた。今思えば、オレはあいつらに甘えていたのかもしれない。言葉が通じないと思って諦めていたオレと、いくら「努力が足りない」「甘えるな」「結果を出せ」と一方的に言われてもユタカ班にボコボコにされても、屈せずに扇城家の人間にまで働きかけようとした第77班(あいつら)。第77班は扇城ハルキと話し合った結果、完全に瞳から輝きが消えた状態で帰ってきた。

恐ろしいほど冷たい声で「もう知らん。あいつどうにでもなれ」と言い出す程に目が死んでいた。以来、仲が良いハズキとの関係で扇城の家を訪ねてもハズキいわく「殺気マシマシ」でハルキを毛嫌いしていた。

 

「サスケ君?」

 

訝しんだような声が掛けられたので、オレは額に手を当てたまま返事する。

何かを、何かをオレは忘れているし見落としている。そんな気がした。

だから状況の変化は極力避けねばならぬと思った。

 

「いや・・・、少し疲れただけだ」

 

 

 

 オレはハルキとしばらく、旅館の番頭である藤森姓の男性(婿養子らしい)が持ってきた裂きイカを食べながら雑談していた。その内容は何の変哲もない雑談でしかないが、ハルキはオレの同期達の話を聞きたがった。だが、オレは信頼できない人にそういう事をベラベラ話さない方が良いと兄さんから強く言われているので最低限しか教えないよう心掛けた。例えば家族のギスギスが理由で家を出たハズキについて、ハルキは話を聞きたがったので普通に「ハズキは元気だ」と伝えた。それにハルキは淡々と「そうですか」と応えるのみ。あっちはオレの真意を理解してるのか、望んだ返答が得られない故の態度なのか。

 話の流れで初等部時代の話になり、ハルキは静かにアマツの話をし始めた。オレはあえてこちらから聞かず、とりあえず相槌を打っていた。ハルキが話すのは扇城家に来る前の、赤ん坊だった頃に引き取られた星宮(ほしのみや)家での寂しさ。優秀な兄カガセに対するコンプレックス、『あの日』のあとのハルキにしか話さなかった心情、そして扇城家での家族とのすれ違い。復讐心との折り合いの付け方にアマツが悩んでいたと知り、オレは驚いた。オレはあくまでも扇城に対して疑念を持つ調査チームの端くれというスタンスなので全てを鵜呑みにしはしないが。予想はしていたが、アマツは『家族』を信頼出来なかった。

 三嶋フウレン特別上忍の秘書である中忍のくのいちに家庭での不協和音について相談したが、取り合って貰えなかった事。それがアマツにとって「木ノ葉隠れに自分の居場所が無い」と思わせるきっかけの一つになったのではないかと、ハルキは悲し気に言った。それが、アマツが同世代では突出した能力を身に付けて里に「自分の存在を認めさせる」と決意させた理由になったんではないかとも。

 

「君はカガセ君に復讐したいと思いますか?」

 

オレは無意識に肩をビクりと反応させていた。天龍湖の湖岸に波が打ち寄せる音がやけに大きく聞こえるような気がする。『あの日』に関する話をされると、未だに一瞬だが焦燥感が精神へと打ち寄せてくるのだ。

 

「質問の仕方を変えます。君は何故、君自身がアマツ君よりも弱いと思いますか?」

 

最早温厚さの欠片もない殺気染みた視線がオレを射抜いた。正直少しゾクゾクしている。

誰だよ、コイツを『温厚で人好きのする万年中忍』だって表現したヤツは!

 

「オレは・・・、カガセに復讐したいと思う。両親と一族を殺したカガセが憎くて堪らない。憎いには難いが、アマツが持つ復讐心とは違うと思っている。オレはカガセが憎いが、適切な裁きを里に下して欲しいと望んでいる。オレ以外にもカガセを憎む者は沢山存在しているから、そいつらの考えも織り込んだ証言によって法で裁かれるべきだ。オレの独断で復讐し、オレが先陣切って殺すのはオレが思う復讐じゃない!!」

 

つい、声を荒げてしまった。この階にいる人間に申し訳ないと思いつつ立ち上がって周囲を見渡すと、冷蔵庫のまかない漬けマグロをこっそり摘まもうとしている番頭と目が合った。番頭は幸い忍者の世界について知らない者なので、軽く会釈してから席に座ってオレはハルキと向き合った。

 

「そう・・・、ですか。分かった。君に足りない者は一体何なのか」

 

オレは今度は視線を伏せず、ハルキの言葉を待った。

 

「憎しみです」

 

アマツと同じ事を言うんだなと、オレは率直にそう思った。口には出さないが。いなくなる前の4ヵ月間のアマツは、いつもオレにそう言っていたからだ。憎しみが足りないと、オレに対して忌々し気に幾度となくそう言っていた。分かり切った事を言われ、オレは拍子抜けした。

 

「ごめんね、気が滅入る話に付き合わせてしまった」

 

「いや、別に良いが・・・」

 

                     ☆★☆

8月15日 18:00

 

 ちょっとした買い出しから帰ってきたら、愛しの恋人が楽しそうに浴衣を見せてきた。この1時間の間に何があったのか知らないが、予想はついている。天龍湖の南部にある小島から上げられる花火と、大規模な縁日が木ノ葉隠れの住民にとっても一大観光行事として有名になっている。そう、花火大会である。街のそこらじゅうにポスターが張られ、こういった行事に疎いオレでも祭りの気分にさせられてしまった。

 

「ねぇねぇ、サスケ君。17日に何があるか知ってる?」

 

「花火大会だろう?嫌と言うほどポスターを見てるからな。一緒に・・・、行きたいのか?」

 

「・・・もちろん」

 

「オレもお前を誘いたかった。お前がいなかったら気が乗らないが、お前が行くから行きたい」

 

扇城夫妻とアキラと一緒にサイとナルトが浴衣選びに興じていると思っていたら、背後から近づていくる気配が一つ。サイだ。恋人の山中いのと花火大会に参加できず、無表情のクセに実はいじけている事間違いなしの自称『山中サイ』。まだ結婚していないというのに山中姓を名乗る不審者である。

ヤツはオレの背後を取り、「ねぇ」と一言。ナルトは呑気に浴衣を選んでいる。オレとしては男は浴衣よりも甚平が適切だと思っている。何故かというと、手裏剣ホルスターを付けられるからだ。だが浴衣ならば羽織によってポーチ類が隠せるだろう。だが浴衣姿の自分たちに変化するという手もありそうだ。

 

「サスケ、サクラ。イチャイチャしていないで護衛計画の練り直しだよ」

 

「すまない」

 

「ごめんなさい、サイ。私たち任務中なのに」

 

「分かればいいよ。さっさと新しく計画を練ろう!」

 

山中いのと花火を見られない事でいじけているのを、サクラも感じ取っているようだった。はしゃぐナルトを一旦黙らせるために小突く力の入れ方が、普段よりもずっと強い。ナルトはサイが見せる笑顔とのギャップに驚き、「いのがいねぇからって・・・」との言葉に殺気すら放つ始末。しかしサイはナルトも彼女であるヒナタと一緒に花火が見られない事実に気付いたようで、「ナルト、キミだけはボクの仲間だよ」と言って一方的に肩を組み始めた。普段は絶対見せない姿に、オレは状況が許すなら噴き出してしまっただろう。

隣から「あの明るさはやけくそね。いのも大変だわ」と呟くようなサクラの声が聞こえた。

 



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9 Bランク護衛任務!~真夏の夜の談話室!

サスケ君視点です

【声イメージ キャラクター名で】
星宮カガセ:ラインハルト(新)  星宮アマツ:シン・アスカ
扇城ハズキ:真壁一騎      稗田ミサキ:山田三郎    
諏訪オカヤ:我妻善逸      諏訪アザミ:マリーダ・クルス
扇城キョウスケ:エレン     扇城アキラ:アルミン
扇城微風:ミカサ        扇城野風:アニ

扇城トオル:ウツシ教官     扇城マサキ:ビリー・カタギリ
扇城ハルキ:伊地知潔高     扇城タイキ:ジャミル・バイパー

霧島ユタカ:島津豊久(ドリフ)  鹿島ライウ:オルガ・イツカ
諏訪ヤシマ:スティーブン・A・スターフェイズ



8月18日 AM 12:44

 

 昨晩あった花火大会の警護において、オレは藤森財閥の会長のほか花火大会へとやってきた大手企業の経営者たちと沢山顔を合わせた。俺は今や数少ない『うちは』の一員として、彼らから握手を求められた。正確にはオレが目的ではなく、5年間の長期任務中に兄さんの蕎麦打ち技術に惚れ込んだ人々だ。兄さんは5年間、実はたまに里に戻っていたようだが本当は一体何をしていたんだろうか?まさか蕎麦打ち修行ではあるまい。もしそうだったら、干柿鬼鮫も同様に高い蕎麦打ち技術を持っているはずだ。

 

 かなり嫌われている筈の扇城トオルを観察していると、気づいた事があった。口々に経営者たちが言うのだ。『今日は星宮さんがいないんだね、やっと1対1で話せる』、と。CEOの秘書は女性で、名前を星宮イリナ特別上忍。あまり彼女とは接点がないが、たしかアマツは血が繋がった親戚だという事で何かと彼女と話していた記憶がある。確か、現在32歳だったか。忍者としてのキャリアが輝かしく、幻術のエキスパートだけあって心理学の知識がある。オレとアマツにカウンセリングを受けさせようとCEOに強く提案していた。だからオレは最良のカウンセリングが受けられたのだが、オレ自身は彼女があまり得意じゃない。感謝じたいはしている。『あの日』の事件直後、星宮イリナ特別上忍はその素晴らしい副官としての手腕をヘッドハンティングされて秘書の職に就いた。弱冠26歳での抜擢だった。何故ならばアマツの養母だった女性が秘書で、彼女が殺されてしまって空いたポジションに入ったからだ。副官として部隊長から高い信頼を得るばかりか、中忍と下忍の副官付隊員からも慕われる革新的なタイプのくのいち。プライベートでも常に新しい刺激と可能性を求めている女性で、少なくともオレとは気が合わなかった。

 

 常日頃、専務など以外に扇城トオルCEOの脇を固める人間は3人。秘書である星宮イリナ特別上忍、側近として扇城ハルキと扇城タイキ両中忍。秘書能力が高く、かつ戦闘スキルの高い者たちで固められている。星宮イリナは優秀な秘書軍団を従え、側近の男二人は屋敷住み込みで雑務をこなしている。どちらかといえば扇城トオルCEOは男二人と一緒にいる場面が多い。というよりも、気が強く何でもかんでも先回りするイリナにたじたじ。オレは4年半ほど扇城家で暮らしたが、寮暮らしになった今でもいまいち扇城屋の人間関係が分からない。

扇城トオルは出来る限り仕事を家庭に持ち込まない人間だった。だから、扇城ハナエ夫人でさえ会社の事があまりよく分かっていないのではないかと思う瞬間が幾つもあった。しかしハナエ夫人の凄いと思う点は夫を無条件に信頼しきっている所だろうか。内助の功そのものだとオレは思う。愛する夫をいつでも支える姿を見ていると、今は亡き母さんや愛情深いうちはの女性たちの事を思い出した。彼女たちは絶対に裏切らなかった。いつでも一途で、愛に生きていた。そんな気質は扇城にも受け継がれているように見える。扇城の女性たちはみな、夫と子にいつでも無償の愛を捧げている。未婚で独り身でも、里や部隊、両親同胞を見つめる瞳は真摯。うちはに対し、色々あったが愛情を持ち続けてくれている。これは本当に喜ばしい事だ。だから将来は彼らの献身と愛にどうか報いたい。

 

だからこそ、オレは真相を知りたいと思っている。星宮と扇城の関係、そして何を企んでいるのかを。

無償の愛だと思っていた愛が本物だったのかを確かめたい。『愛の一族』の一員として。

 

                    ★★★

 

 うっかり水分を大量に摂り過ぎた結果、オレはトイレに起きた。時計を見れば日付が変わってすぐ。婿入り番頭が持ってきた茶葉から煎れた緑茶があまりにも美味しかったのだ。ちょくちょくと身の上話をする程には口を聞くようになってきた番頭。彼の味覚に関するセンスは繊細だ。

 

 トイレの手洗い場に分厚い鍵付きの日記帳が置いてあった、扇城一族の家紋が金色で印刷された黒いそれは、CEOが持ち歩いているもの。中身を見てはいけないと思いながらも、頭に浮かんできたのは星宮邸の地下にあった歴代当主の日記帳。そこに書いてある文体は地下の日記帳とは違って普段通りの”僕”という一人称で書かれており、オレが知識の上で知っていた扇城トオルの経営理念や経済活動に対する考え方とは全く異なっていた。あの日記帳と、世の中で知られている扇城トオルは先々代・扇城イリヤの『資本や財産を皆で共有し、皆で共有する事によって不均衡を無くして平和な世界を創る』という遺志を継ぐ人物。いずれは国家そのものが消滅し、平和な世界で皆が等しく労働者となる事を望んでいた。もちろん、”忍の世”が終わる事が前提で争いを無くせるという願いがあってのもの。しかし、実際はどうなのか。扇城トオルと接していると、新しい事を始める際には非常に慎重になる人物だと分かる。常に『本分を忘れるな』と自分自身に言い聞かせ、創業当時からの扇製造技術と会社を守り、かつ社員の全員が適切な評価と給料を貰えるように考えていた。古いものを守るために新しい事をどんどん取り入れるタイプで、流行に飛びつく人間じゃない。喫茶店の経営も手掛けてはいるが、割と外の街に展開する事に対しては消極的だった。

 字体も異なっており、あの日記帳にあったのとは違って女性的な繊細な字で書き綴ってあった。蘇ってくる扇城家で過ごしていた記憶。あの人は初等部関係の書類にあの字体で署名(サイン)した。こうなると、そもそもあの日記帳は本当に扇城一族の歴代当主たちが書き綴ったものなのかという疑いが出てくる。オレは大急ぎでCEOの日記帳をいったん閉じた。しかし、好奇心に負けてしまった。

 

『僕がマサキさんの跡を継いで扇城一族の当主兼最高経営責任者になった。マサキさんが”頭領”のままだけれども、【民間】のうちはに対する感情をだいぶ和らげてくれたマサキさんの次の役目は本当の意味で扇城を守る事。彼が好きな言葉は【温故知新】。軽視されている扇と団扇の工房を守り、後に伝えていく。忍具整備と製造の技術を守っていく。この一族は複数の派閥に別れている。一枚岩じゃない。僕の代で会社が分裂する覚悟で受け継ぐつもりだ。

マサキさんが作ってくれた人脈と人望の基礎を壊さないよう、一族を軌道修正していきたい。うちはは愛の一族、その血族である扇城もまた愛の一族。マサキさんはとても優しい人だ。マサキさんのように里への愛情を素直に表し、同時にフガク君たち”うちは”との協力体制をより深めていきたい。』

 

『僕とフガク君は同い年だ。そして彼にはサスケ君という、うちの”次男坊”であるアキラ君と同い年の息子がいる。ミコトちゃんとマイワイフも同い年。キョウスケ君とハズキ君の修業を見てくれるなど、とても仲良くしてくれた。その二人が一族の皆殺し(正確にはイズミちゃん、サスケ君は無事)に巻き込まれて亡くなってしまった。親しくしてくれたうちはの子たちも。計画すらしていないクーデターの”テロ準備罪”を里上層部がうちはになすりつけようとしている。ストライキという方法だけは存在した。警務隊の任務について里のみんなはうちはを尊敬し、戦場でも頼りにしてくれている。それが都合が悪くて、うちはという【里への忠誠心が怪しい連中】を用意して【里の気持ちを一つにする】という方法を取りたがっている者の存在が示唆される。個人的に僕はご意見番のお二人がどうも、信用できない。オフレコで。とにかく僕は里を一つにするシナリオからどんどん外れていくうちはが許せないという連中がいると睨んでいる。とても優秀なイタチ君は明らかに里に対する愛着も愛情も人一倍。同時に、敵に回したら脅威と取る者たちがいるほどの実力者でもある。イタチ君はご両親を支え、弟を守り、大人と対等に話し、里との折衝にも関われる本当に賢い子だ。うちはが里と完全に和解する事を望んでいた。だから、イタチ君は絶対に犯人じゃない。信じているよイタチ君』

 

『扇城と星宮は今や通婚が進んでいるが、未だに純血の扇城がいる。星宮にも純粋な星宮と、扇城と志村が混ざった系統が存在する。純血の扇城、それは僕たちの系統。うちはの血とかぐやの血、そして羽衣の血が混じっている。僕たちの系統が最も写輪眼が出る確率が高いのはまだあまり知られていない。僕、トオル君、アズサちゃんはこの系統【本家】の出身だ。うちはと同じように家族を大切にするけれど、かなり好戦的な部分がある。かぐやの血だろうか?』

 

これ以上読んでいると時間がどんどん流れていてしまう。

オレは日記帳に鍵をかけるとそれをそっと小脇に抱えた。

 

 つい緑茶を飲み過ぎてしまった事を反省しつつ、廊下を歩いて護衛任務に就くオレたちに割り当てられた部屋に戻るため廊下を歩く。月明かりが差し込む真夜中の旅館の廊下には独特の雰囲気があった。今頃この旅館で起きているのはフロント業務の従業員位だろう。またはトイレに起きたもの、祭りの雰囲気が身体から抜けきらない者もいるだろうか。あの祭り特有の高揚感は少しだけ戦いに似ている。だが、護衛任務に就いていて実際に戦闘を行ったオレには二種類の興奮がすっかり混じり合ってしまって判別不可能だ。

 

 ふと外に視線を遣ると、ハルキとタイキの二人が寝巻姿ではなくTシャツとハーフパンツあるいは7分丈姿で真剣な面持ちで話し合いをしていた。タイキは相変わらずの無表情で腕を組み、溜息をついているような仕草を交えつつ頷いている。オレはガラス越しにそれをじっと見つめた。気配を殺しながら。

 

「おや、サスケ君じゃないですか」

 

だがハルキはオレに気付いて、笑顔でそちらへと手招きしてきた。

 

(気付かれたか。扇城ハルキ、思っていたよりも強いのかもしれない・・・)

 

オレは縁側に置いてある雪駄を借りると、中庭へと降りて少し歩いた。

一方でタイキは困った顔をして、額に手を当ててまたしても溜息を一つ零した。

 

「サスケ。眠いなら早く部屋に帰って寝ろ。俺みたいに背が伸びなくなるぞ」

 

「・・・タイキ、ハルキさん。どうしてこんな真夜中に話していた?」

 

「少し、な。夜しか出来ない修行をしようと相談していた」

 

「そうなんだよ。夜間の戦闘は難しい。感知スキルの向上が望まれる」

 

「オレにも万華鏡写輪眼があれば少しは違うだろうか・・・」

 

 タイキは常日頃から、どうにか上忍になりたいと言って修行に励んでいる。ハルキは平凡な中忍だと誰もが言うが、修行のコーチング能力に優れている。初等部時代、アマツに修行をつけていたのはハルキと星宮イリナの二人。オレの修業を担当したのはカカシ、タイキ、たまに激眉先生ことマイト・ガイ上忍。体術に関して、マイト・ガイ上忍はオレとナルトを同時に見た。お陰で体術に自信が持てるようになったのを感謝している。その時にはロック・リーたちも一緒で、かなり激しい鍛錬だったと覚えている。

 アマツを勉強と実技の双方からサポートし、首席へと押し上げた扇城ハルキ。そんなハルキに修行を見て貰いたいと考えるのは当然の事だろう。オレとナルトを鍛えるペースはハルキがアマツを強くするためのそれよりもゆとりがあり、到達地点は【15歳の秋には上忍レベル】。アマツは意識が高い系だと、諏訪オカヤが言っていたな。

 ちなみにタイキは写輪眼を開眼している。オレとアマツと同じタイミングで開眼したのだ。うちは一族の告白したばかりの初恋の彼女がカガセに殺され、瞳術を得た。平然とした顔をしているが、タイキはそのような悲しみを抱えながらオレの世話をしたかと思うと今になって心から感謝している。タイキにとって彼女は恋人だったには恋人だったのだが、誰かに話す前にいなくなってしまった。だからそれを知っているのはオレ位らしく、無表情で話してくれたのが天龍湖の湖畔での出来事だった。

 

「そうか・・・、おやすみ」

 

二人が手を振り、こちらもそれに返してオレは部屋へと帰る事にした。勿論メモ帳返却は忘れずに。

 

「待って下さい、サスケ君。トイレに何か忘れ物はありませんでしたか?」

 

呼び止められ、振り向く。何故か分からないが、オレの直感が嘘をつけと言っているような気がする。

何故ならば、その双眸は温厚そうに見せかけながら奥から鋭い視線を放っていたからだ。

 

「いや、何も見かけなかったが」

 

「なら良いんです」

 

「さっさと寝ろ」

 

あまり長居したくない。何故だかイヤな予感がした。タイキがさっさと寝ろと急かしてくる。

オレはそれに従い、恋愛相談の邪魔をしたくもないので再び廊下へと上がった。

 

 

 

 ぽつぽつと、談話室からアキラとCEOが小声で話すのが聞こえてきた。アキラは珍しく元気が感じられな声をしており、CEOの方はいつにも増して優しい声音だった。よく聞いてみればアキラは半泣き。嫌な夢でも見たのだろうかと思いながら、男子部屋に戻るためそこを通り過ぎなければならないためオレは足を進めた。ついでにメモ帳を返却出来ればと思い、ポケットに手を突っ込む。

 

「あの・・・」

 

意を決して声を掛けると、扇城トオルはオレの方に顔を向け優しい表情で「何だい?」と言った。

 

「トイレに忘れ物が」

 

「おや、ありがとう。とても大切なものなんだ」

 

ついオレが突っ立っていれば、CEOは「座って欲しい」と提案してきた。オレはアキラの隣に腰掛けた。

 

「僕はアマツ君も含め、子供たちみんなに孤独を感じさせてしまってきた。確かに血が繋がった親戚かもしれないが、三姉妹以外はみんな違う家族から生まれた。仕事ばかりで、民間人であるアキラ君も三姉妹も勉強と特別活動でびっしりの学校に入れて安心していたんだ。君たち忍の道を選んだ子たちにも喧嘩する姿ばかりを見せてしまった。・・・サスケ君は読んでしまったかもしれないが、その日記は僕がCEOに着任してから1日欠かさず付けている特注の日記帳なんだ。皆を引き取った日のことや、あの子たちが生まれた日、会社の事を書いている。マサキさんから聞いているかもしれないが、その日記は歴代当主兼経営者が代々書き記している。死後に扇城家の地下倉庫に保管されて、後世の後継者たちの助けになる」

 

「・・・ほ、星宮の屋敷にあったものは」

 

「星宮兄弟から預かって三嶋特別上忍が検閲したやつ、ね・・・。あれはねぇ、うちはか扇城の誰かが見つけて勘違いさせるために誰かによって書かれたフェイクだよ。存在はとっくに把握してた。サスケ君、僕をかなり疑っていたね。本当に申し訳がなかった。詳しくは言えないが、君が僕たち扇城を疑っているという事実が欲しい者がかなり身近にいる。だからどうか、木ノ葉に帰ってから三嶋特別上忍が何か言うまでは僕たちを疑って見せて欲しい。お願いだ。そうなれば、全部が終わる。僕たちは自由になる」

 

「自由、全部が、終わる・・・?」

 

「・・・ごめん。詳しくは話せないが、お願いだ」

 

両手を合せ、扇城トオルはオレに強く頼み込んだ。三嶋フウレン特別上忍という人物は無条件に信頼出来ると、兄さんから言われている。様々な強力な氏族がひしめきあう危険地帯に生きた【越智氏族】のうち現存する唯一の分家にして現本家【三嶋】の頭領・三嶋フウレン特別上忍。本人は特別上忍だが忍者教育と諜報のエキスパートで、エビス特別上忍の直属上司。氏族全体は非常に統制が取れており、情報収集(HUMINT)に長けている。彼らには【山犬】【山の民】【瀬に降る者】という綽名がある。独自の暗号や符牒を持ち、現代では新聞社に氏族の者を潜り込ませているという噂がある。そう考えると三嶋はいかにも怪しい氏族だが、数少ないブレない立場にいる事だけは兄さんの話では確かなので信じる事にしている。

 

「ところでアキラ。泣いていたが・・・、一体何が」

 

「サスケ君、あのね。どうしてキョウ兄とハズ君が家を出て、僕と妹たちが全寮制に通いたいと言い出したと思う?」

 

話を振られてみれば、オレは全くその問題について深く考えたことが無かった。

 

「すまない。考えた事もなかった」

 

「・・・僕らはパパが、ママ以外の人と付き合ってるんじゃないかって思って反発してたんだ」

 

「真偽はともあれ、そういった反応をしても普通だと思うが」

 

ティッシュペーパーを取って渡してやると、アキラはチーンと音を立てて鼻をかんだ。

 

「そうだよね!一旦話題が変わるけど・・・、忍者であるサスケ君にも関わる事だから話そうと思う。サスケ君は一族の事で色々あったのは僕も認識してる。あんなに壮絶な体験をして、ちゃんと自分で自分の意見を持ってる君は本当に凄いと思うよ。僕は基本人の悪口を言うのが大嫌い。でも、この際だから伝えたい。僕はアマツ君の教育係だったハルキさんがどうしても苦手です!」

 

「何でかな!?」

 

CEOはかなり驚いた様子で、ハズキの顔を不安の混じった表情で見つめた。

 

「ハルキさんはある日、僕たちにパパが秘書のイリナさんと親しすぎて不安だと言われたんだ。最初はそんな訳は無いと思いましたが・・・、忙しい時に何度も言われるので信じてしまった。パパと仲が良い経営者仲間の皆さんが昨日の夜、ちゃんと証言をして下さったんだよ。皆さんフウレン先生の旧知の方ばかりですから信頼できた。そしてまた話はハルキさんに戻るけど・・・、いつもハルキさんはアマツ君と一緒にいましたよね。それに対してマサキさんが何か問題点を見つけて注意されてからです。その頃からなんだ。パパたちとアマツ君の言い分がかみ合わなくなってきて、しかも帰りが遅くなるようになったのは。サスケ君は復讐心と折り合いをつけて安定した心で暮らしているように見えたんだ。情報が少なくても、イタチさんかカガセさんか、どちらが犯人なのかを決めつけずに慎重に日々を過ごしてた。そして世論に惑わされず、ミサキ君たちのように冷静な友達と議論してたよね。タイキさんも、サスケ君が確定していない情報をもとに復讐に走る事を止めてた。でも・・・、ハルキさんは違った。アマツ君を全肯定し、気づいたらアマツ君はああなっちゃった。そういえばパパ。ハルキさんって写輪眼使えるの?ナルト君の話では目撃したらしくって・・・。それとパパは異性とは浮気してないけど、同性の浮気相手はいるの?それって”ダンゾウ”って人なの?ナルト君が魘されてた。僕は同性愛には偏見も何もないけど、不誠実な振る舞いは許せないんだ。ナルト君が昔遊びに来た時、うっかりパパの名札が書かれた1階の部屋に迷い込んだんだって。そうしたら部屋の中にダンゾウさんに対するラブレターが沢山あって、振り向いたら写輪眼状態のハルキさんがいて眠らされたって言ってた。ずっとトラウマで、僕にやっと話してくれたのが15日だったんだ」

 

アキラは話し終わると、談話室のテーブルに置いてあった大きなガラスコップに入った水を飲み干した。

少しだけせき込んでいるので、テーブルの上の備品らしい喉飴を一粒やる。

 

「・・・アキラ、大丈夫だよ。パパは浮気なんてしていないし、ダンゾウという人は血が繋がらない親戚でしかない。尊敬しているどころか、まぁ、里を想う気持ちだけは凄いと思うがね、別に尊敬も何もしていないからね、むしろ真逆というか・・・。ま、安心してね。不貞も何もしていないよ。それにね、アキラ。あの部屋はパパが昔使っていたというだけでアマツ君にあげたけど名札がそのままだっただけなんだ。それよりもハルキ君・・・、写輪眼はちゃんと里に登録しないといけないねぇ。それに、不確定情報で君たち子供たちを不安がらせるのも僕たち夫婦の教育方針に反している。仕事で忙しくしていた間にこんな事が起こっていたなんて・・・」

 

「オレこそ、初等部の高学年になると全くといっていい程に家族団欒を避けてしまった。再び遠くても血が繋がった家族を得たというのに、戦いではなく今度は家庭内の諍いで家族がバラバラになっていくのを見るのが恐ろしかったんだ。だからオレも帰りが遅くなって、忍軍の食堂で夕食を摂る毎日だった。だから本当に、心の底から貴方たちには申し訳ない事をした。勝手に疑って、恐怖して、逃げていた・・・」

 

「パパ、サスケ君・・・!!」

 

三人でハグし合って、涙を流して、オレたちはまたちゃんと家族に戻れたような気がしていた。

まだまだ課題は沢山あるが、これからはもっと明るい気持ちの時間が増えるような予感が確かにあった。

 

しかし、この真夜中の平和な気持ちは朝っぱらから打ち砕かれる事になった。

                   




星宮イリナ Rh+AB型 特別上忍 32歳 
7月1日生 168センチ 55キロ
祖父:扇城イリヤ 祖母:扇城分家女性
父 :星宮分家   母 :扇城イリヤの娘
祖父の異母弟(大叔父):扇城マサキ 従伯叔父:扇城ハズキ 
備考:幻術のエキスパート、写輪眼持ち(未登録)


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10 Bランク護衛任務おわり!

サスケ君視点です

ここから服装がチャラスケェになります


8月21日 早朝

 目覚まし時計で目を覚まし、顔を洗って髪を梳かし、身支度を整える。黒いVネックに濃紺をした立ち襟の半袖シャツを重ね、うちはの家紋を象ったペンダントを垂らす。扇城トオルCEOに貰ったペンダントとブレスレットは一見すればどちらも普通の装飾品だが、忍具を口寄せする術式を刻める仕様になっている。扇城屋が創業当時から大切にしているのは、扇と団扇の製造だけではない。忍具と忍装束の開発、生産、販売、整備が扇城屋が扇城屋になった当時からの伝統的な仕事だ。今でこそ不動産部門と食料品部門が存在していて喫茶店(カフェ)を経営しているが、それらは当初、職人たちの憩いの場を提供するために始まったあくまでも会社内部の需要にこたえるためのもの。扇城マサキ前CEOにとっては、職人たちが日々楽しく働いてくれる理由が出来る―――それだけで十分だった。扇城トオルCEOとしても似たようなもので、その対象を仲良くしている工場周辺他社にも広げた位だ。現在は火の国のそこらじゅうに展開しているが、ここまでは現CEOと前CEOの考えに沿っている。しかし、ここからが会社のこれからに関わってくる問題だ。国外に広めたい派閥と、そうではない派閥。前者は同時に、後者はあくまでも木ノ葉隠れと火の国のために堅実な経営を続けていきたいと考えている。

 

 旅館『ふじもり館』の厨房が腕によりをかけた朝食を食べてから、土産物が揃ってるのかを確認した。兄夫婦の分、9月に学校で会うクラスメイトと隣クラスの分。そして教師と講師の分。恐ろしい事に、オレとナルトは夏休みの宿題を怠っていたいたためサクラに早く終わらせなさいと叱られた。怖かったが、これはオレたちが悪い。サクラとサイが「教えようか?」と言ってくれる事が本当にありがたい。しかし天龍湖周辺での修行だけは欠かさなかった。天龍湖の地域は自然が豊かだ。『八峰岳(はちみねだけ)』なる8つの山からなる連峰が北東部から南にかけて上から並び、その山麓には中忍選抜試験で行った霧ヶ原大湿原が広がっている。観光地でありながら、諏訪軍団にとっては修業の地。どうせならばとそこで修行する許可をこの地域の祭祀のトップである諏訪タツミの父親から得ると、オフの度にそこで修行をした。珍しい植物の違法採取や密猟を見つけたら捕縛し、麓へと連れてくる事を約束して。結果、5人ほどの違法採取をする一般人を捕らえた。ナルトは礼として珍しい山野草の鉢植えを貰っていた。オレには高原で栽培された高級トマト。それは期限があるため、旅館の厨房に依頼して夕食の食卓に並んだ。やはり天才と言われる若き農家が育てたトマト。それはもう素晴らしい味だった。

 

 2週間近く毎日の休憩を過ごした縁側に出ると、そこには扇城ハルキとタイキの二人が既に里へと戻る準備を整えて待っていた。二人はいつもと変わらない。にこにこと人当たりの良いハルキと、基本的に寡黙でストイックなタイキ。この任務中、指導力に優れたハルキからのアドバイスは非常に的確かつ有益だったが。それでもオレとナルトには合わなかった。CEOからも指導を受けたが、彼のやり方は彼のやり方で合わない。だが同期の第77班には合っているのだから本当に人それぞれだ。上忍師に限定されず、合った指導法の特別上忍と上忍に容易にアクセス出来るのが現行制度の利点だ。だから余計に違和感があるんだろう。

 

 縁側に座って待っていると、CEO夫妻が出立の準備を終えて出てきた。これから2週間ぶりに木ノ葉に帰還する。ナルトは火影直轄忍者学校初等部の教師である、うみのイルカ中忍に土産物を渡す事を楽しみにしている。サイはヤマト上忍と美術部の後輩たちへ、サクラは両親と医療忍者養成課程の友人たちへ。オレは当然兄夫婦、そしてハズキ、キョウスケのために土産を買った。もちろんカカシへの土産も忘れてはいない。旅館の中にある土産物屋は非常に充実していた。林檎で作った菓子のほか酒類、ペナント、根付、名産品である黒曜石と翡翠の標本や装飾品など。一般の観光客たちで朝から賑わい、楽し気な雰囲気で満ちていた。

 

「さて、と。2週間ぶりに木ノ葉に帰りますか!!」

 

 

                       

 

 行きとは違い、帰りは拍子抜けするほどに扇城トオルを狙う者が一人も現れなかった。不自然さすら感じた程に。あっさりとオレたちは木ノ葉隠れへと辿り着き、その通用門を潜った。そこに待っていたのは兄さんとシスイ、ナルトの父方・波風家の親族、サクラの両親、ヤマト上忍だった。会いたかった者たちに出迎えられ労いの言葉を貰ってすぐ、報告書を携えて任務報告をするため五代目火影の許へ。五代目火影から盛大に褒められ、喜びを噛み締めていると、部屋の外で待っていた兄さんが「知らせたい事がある」と言った。

 

 そうしてオレは寮から幾つかの荷物を持って、実家を訪ねてくる予定のナルトとサクラ、サイと共に兄さんに連れられて歩き出した。サクラは何かを知っているようだが、教えてくれない。足取りも軽い。手には天龍大社で購入した安産守が入った袋と、試食の結果、一番爽やかな味がするらしい口当たりの良い菓子。まさかと思いながらも歩き続けているとサイもまた何かを悟っているような表情で、目許に笑みを浮かべていたのが見えた。ナルトも似たような調子なので、その”何か”に気付いていなかったのはオレだけのようだ。だが理解できたような気がする。来年にはうちは一族がまた少しだけ賑やかになるだろうと。

 

「ただいま、イズミ義姉さん」

 

玄関先でまずは無事に帰ったと報告すると、イズミ義姉さんはオレたちの同期で兄さんの教え子でもある諏訪アザミ中忍と一緒に出てきた。教え子唯一のくのいちであるから、女性特有の事象に関しては頼りになるんだろう。中身がやたらと大人びているからな、この同期は。事実夕日紅や卯月夕顔といったかなり年上の女友達ばかりいる。

 

「おかえりなさい、サスケ。あれ?おしゃれになったんじゃない?」

 

「・・・そうですか?」

 

「似合ってるよ」

 

新調した任務服を褒められ、オレは思わず笑顔になった。紡績で企業を大きくしていった藤森財閥の、天龍紡績というグループ会社は木ノ葉隠れに支給品の一部を納入している。そちらの役員と偶然話す機会があった時に、彼がプレゼントとしてくれたのだ。花火大会の翌朝、旅館に届いていて非常に驚いた。

 

「イタチ先輩。僕たちに伝えたい事とは一体何ですか?」

 

「実はイズミが・・・、俺の妻が妊娠した。来年には家族が増える。うちは復興第1号になるんだ」

 

わっと沸き起こる喜びの声に、兄夫婦は揃って照れくさそうに「ありがとう」と言った。いざはっきりと知らされてみると、嬉しくて言葉が出てこない。

兄夫婦二人の家になっているこの実家で暮らして勝手に家政婦のような事をしている干柿鬼鮫の声も台所から聞こえてきた。あの鮫男、気づけば実家に普通に暮らしていた。かなり健康管理を気にしており、信頼に足る人物だ。

 

 サクラは医療忍者だけあって既に気付いてたらしい。イズミ義姉さんは修行を見て貰おうと家に来ていた兄さんの教え子である諏訪アザミを付き添いにして病院に行き、病院にいたシズネ上忍から正式に第一子『妊娠』を告げられた。その前にはサクラは義姉さんの無意識の仕草が病院にやってくる妊婦と同じだと感じ、「もしかしたら」と思っていたという。サクラが天龍大社上社で安産守を買っていたのと、彼女の言葉に納得した。サイは今から山中いのと将来結婚するため、本で勉強を重ねているので察していたという。ナルトに関しては完全なる直感。オレはただ義姉さんが体調が悪くて心配だった。

 

 

                        ★★★

 

 いくら休みを貰ったとはいえ、修行を緩めるつもりはない。ナルトは自来也師と修業を兼ねて里の外へ3日間い予定で行き、サクラは五代目火影と姉弟子シズネ上忍と共に医療忍術の修業をしている。昨日はしっかりと休んだ。オレはというと、カカシに見られながらの同期との模擬戦だ。普段戦わない相手と戦う事によって、自分の弱点を探し出すという目撃である。その相手は諏訪オカヤ。最近急成長を見せている若手中忍の一人にしてオレの同期、隣のクラスの注目株である凄いやつ。

 

 微かに秋の気配が混じってきた晩夏に似つかわしくない凍てつく空気が演習場内を支配しようとしている。オレは鳥肌が立つのを感じながら手裏剣を構え、冷気の支配者へとそれを投擲した。しかし手裏剣は空気中に現れた霧が瞬時に凍り付くことで防がれ、正直驚いた。安定したチャクラの供給からなる過冷却。

そこにいたのは落ち着きのない新人中忍ではなく、快活ながら落ち着いた一人前の氷遁遣いだったのだから。カカシが背後から「なかなかやるね」と、微かに期待の入り混じった感嘆を零した。

 

 演習場内の池を水源とし、吹き抜ける夏の風を味方に付け、諏訪オカヤが行使する氷遁による氷柱が地面から突き出してきた。あの冬、鹿島ライカに敗北した時とは比べ物にならない精度と速度を以て、オカヤはオレと演習場で相対している。その表情は最早ライカを恐れていないだろうと思わせられた。

 

「やるじゃねーか、オカヤ!」

 

「マジで!?俺褒められてる!?ヤッター!!!」

 

 素直に口に出した途端、オカヤがはしゃぎだした。困惑しながらもオレは再び手裏剣を投げた。今度はそれに火遁を纏わせてやろうと思う。その瞬間、カカシが僅かに表情を変えたような気がした。困惑の方向へ。何故ならばオカヤはこれ以上に無いほど嬉しそうな顔をしていたからだ。

 

(コイツ、褒められ慣れてなさすぎだろ!・・・だが、それが隙を生む。喰らえ、火遁・鳳仙花爪紅!)

 

 兄さんから教わった火遁・鳳仙花の発展技を放つ。オカヤは氷の防壁を張るが、強度の甘さから簡単にそれは破られた。カカシが「ハハハ」と小さく笑っている。続いて「そこまで!」と声が掛けられ、オレとオカヤの模擬戦は終わった。勝者はオレ。オカヤは少し残念そうだが、かなりの健闘だったとカカシは評価した。与えられた時間は同じだがオカヤは持っている術を無制限で、対してオレには使用術の制限という縛りが課せられていた。オレとナルトを1月からの上忍候補生に推薦するのをカカシは考えていてくれているため、こういった『状況に適応する』修行へと段階が移り変わったのだ。

 

「さてさて、今日の反省会をしようか。諏訪オカヤ中忍、協力ありがとうね」

 

「そんなそんな、いつでも協力するッスよ。こちらこそサスケ君と縛りはありますが戦わせて頂けて嬉しかったです。俺もサスケ君が本気でやり合える位強くなれると良いんスけどね・・・」

 

「でも結構良かったと思うよ。ホラ、メモしておいたから修行に役立ててね」

 

カカシは模擬戦を見ながら書いていたメモをオカヤに渡したあと、幾つかアドバイスをした。オカヤは普段イタチ兄さんとヨリヤ上忍、そして諏訪の頭領から修行をつけられている。中忍選抜試験を終えて以来、オカヤの成長は著しい。どんどん諏訪流氷遁忍術を習得し、氷遁遣いとして忍軍から認識されている。

 

「ありがとうござます!大事にします!!」

 

「大げさだなぁ。でもそんなに喜んでもらえると教え甲斐があるな。ねぇ、オカヤ中忍。また誘うかもしれないけど、良い?」

 

「良いんですか?やったー!楽しみにしてます!!」

 

 オカヤはこれから予定があると言っていたので、何度も何度もこちらを振り返りながら礼をしては「ありがとうございました!」と言った。カカシは良い笑顔で手を振り返し、「転ぶなよ~」と言っている。親切で困っている人間を放っておけない、心優しい諏訪オカヤ中忍。お人好しでお節介で元気一杯な、遅刻癖は無いのが幸いな熱血氷遁遣い。カカシは何かとこの同期を気にかけている。優秀な鹿島ライカのライバルを自称できるほど精神的に強くなったオカヤが彼女と張り合う姿を見て、カカシはふと遠い場所を見るような瞳をするのだ。オレはその理由を知っている。忍界大戦で戦死したうちはの英雄、オビト中忍とカカシが同じ班だったからだ。写真で見せて貰った見た目も共通点もオビト中忍とオカヤにはあまり無いが、どこか重なる部分があるんだろうと思った。僅かな共通点は『血継限界を血に宿す』、『名前の響き』位だろう。

 

「・・・あんた本当にオカヤには優しいよな」

 

「ちょっとね。・・・あんなイイ子を泣かせるのは妙に気が引ける。それもそうだがサスケ。あの漫画の最新刊買ってきてくれた?主人公君元気かな~」

 

「ほら。またいたぶられていたぞ」

 

投げ渡してやると、カカシは嬉し気に目を細めた。親切でお人好しな、苦難と立ち向かう人物とキャラクターがカカシは案外好きらしい。カカシが気に掛けるキャラクターと人間の基準を考えた稗田ミサキが提唱した『オビトさんポイント』が高ければ高いほど好きになる、という説もあながち間違っていないような気がしている。三次元も二次元も問わず、そのポイントは適用されているんだろう。

 

「ありがとう。アァ~、また地獄だよ!!」

 

ぱらぱらとページを捲ったのち、単行本はカカシのポーチへと丁寧に仕舞われた。カカシは今日の良い点と悪い点をズバズバと指摘し、かなり辛辣に注意していった。非常にキツいがためになる、一度兄さん繋がりで第77班と合同修行をした時には戦闘に自信が無い稗田ミサキが半泣きになる程のキツさ。しかし的確。

 

「サスケ。次は諏訪アザミか扇城ハズキを呼ぼう。まだちゃんと戦った事無いデショ?」

 

「確かに無い。一緒に任務をこなした事はあったが・・・」

 

「じゃ、決まりで」

 

そう言うと、カカシはドロンと瞬身で消えた。最近カカシは忙しい。里一番の手練れという評判は嘘じゃない。胡散臭いのは見た目だけだ。兄さんは今日は任務だ。オカヤもミサキもこれから修行の予定。サクラもナルトも師匠たちに修行をつけて貰っている。チームメイト2人の師匠は伝説の三忍の二人。最後の一人である大蛇丸がもし里で暮らす健全な人間だったら、オレは弟子入りしていたかもしれないと思った事がこれまであった。しかしアマツ里抜けの際に捕縛された『音の四人衆』『君麻呂』というやつらに情報部隊が尋問した結果、使っている術などが割と気持ち悪い感じだったのでオレは考えを改めた。しかし、三代目火影と戦った時に使っていたという刀剣は欲しいと思った。どうにか真剣に鹵獲できないものか?

 

                     

 

 土産物を扇城一族のハズキとキョウスケに渡せば、二人は笑顔で受け取ってくれた。オレはこの2週間、二人が何をしていたのかを尋ねた。二人は共に任務をし、兄さんとシスイに修行をつけてもらい、イズミ義姉さんを助けていたという。アキラと三姉妹が無事に天龍湖の湖畔にある私立藤森学園に行ったと伝えると、笑顔で「良かった」と顔を見合わせて口々に言った。二人はあの三姉妹にとって素晴らしい兄だ。直接血が繋がっておらずとも、誰から見ても信頼し合う仲の良い兄妹である。アキラとも選んだ道は違うが兄弟として良い関係を築いている。だからこそ、それを思うとアマツとこの兄弟たちの関係の緊迫具合があまりにも不自然だ。「言った」「言ってない」の争いばかりで、元来おとなしくて正直者であるハズキとキョウスケ、そしてアキラにとっては辛かっただろう。民間人として生きる道を選んだアキラには猶更だ。しかしアキラには忍に嘘が必要な事を理解するだけの覚悟とオレより何倍もずっと優れた頭脳がある。大人たちと対等に話せる未来の経営者としての知識を学んでいる。それが救いだろうか。



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11 瓦解と疑惑

サスケ君視点です

「なんか親族の女子が実家に住み着いているんだが・・・」


8月29日

 

 今年に入った辺りから猪鹿蝶をはじめ、日向ヒナタ、犬塚キバ、油女シノといった名門旧家出身者と上手く予定が合わせられなくなってきてはいた。彼らには彼ら固有の術や伝統があるからで、オレたち位の年頃になると分別がついてくるなどいった理由でそういったものをより深く学ばされるようになる。うちはの生き残りであるオレはというと、兄さんの方針で義姉さんと三人でうちはの歴史を新たに編纂するという作業を勉強を兼ねて行っている。巻物にあるうちはの術を分かり易く纏め、これからの子供たちがもう少し学びやすくするよう術の検証を兼ねた修行を課せられている。勿論、うちはの庶家・扇城のハズキとキョウスケも一緒だ。この修行法はかなりの成果を挙げており、特にハズキの成長が著しい。

 そういった出身一族の誇りに関係する修行や教育を本格的に施されるようになった者たちの中には勿論、これまで「オレたち結構ヒマな方だから!」と強調していた諏訪オカヤと稗田ミサキも含まれる。サクラもサクラで医療忍者養成課程の学生かつ、五代目火影の愛弟子。たまにカカシが招集する集合訓練か学校、たまに一緒になる任務、重なった非番の日位しか一緒に修行する時間が無い。多いように見えて、取れる時間は僅かだ。

 

「おはよう、サスケ君。朝ごはんとお弁当が出来ているわよ」

 

「「一杯食べてよね!!」」

 

 ピンク色のエプロン姿で台所から出てきた長身の女性は、シスイが好きだった扇城屋グループ企業社長の娘である、医療忍者の扇城カオリ中忍だ。彼女の隣には同じく背が高い別の扇城の双子の少女がおり、握り飯を沢山作って盆の上に載せていた。オレより背が高い双子は扇城野風(のかぜ)と微風(そよかぜ)中忍。火遁と風遁を遣う双子。オレより背が高い扇城の女性3人に囲まれ、微妙に複雑な気分になりながらもカオリから弁当を受け取る。オレに弁当を渡したカオリは時計を見ると、大急ぎで「ごめんね!」と言いながら玄関から出ていった。双子も「「やっべ、うちらも行くね!」」と同じように出ていった。初等部時代から『扇城ツインズ』と呼ばれていたこの双子、医療忍者候補生だ。どうやらこの二人、昔はオレの事が好きだったらしい。今は170センチと現在165センチのオレよりも長身で、オレの身長を追い越した瞬間からその気持ちが冷めたという。今は二次元の男にしか興味が無いのだとか。

誤解されたくないのだが、彼女たちはオレや兄さんに頼まれて家事をやっているのではない。自分から「やりたい」と言って、楽しそうに朝食を作ったり選択をしたりしている。

 

「活気があって昔みたいね・・・」

 

妊娠中とはいえ、くのいちである事に変わりがないというイズミ義姉さんが寝室から出てきた。義姉さんは無理をしない程度に体を動かすのが日課だ。太腿に手裏剣ホルスターを付けている。今はパートタイムで内勤の業務を行っている。警務隊事務の仕事だ。軽く手を振って見送っていると、ふと背中に生暖かい温度を感じた。

 

「・・・兄さん」

 

 気配もなく立っていた兄さんに振り向くと、兄さんは「まだまだだな」と言って口許に笑みを浮かべた。

こうして兄さんは時折、オレが何秒で気付くかどうかを試してくる。ちなみに兄さんはオレと同じ時期に星宮カガセを探す任務に行っていたらしいが、何の成果も得られなかったと話してくれた。

 

 朝食を口に運んでいて暫くすると、表側の通りが段々と騒がしくなってきた。うちはの居住区がこれ程に賑わっていたのは6年前のあの日の直前にまで遡らなければあり得ない。あとは去年、建物を任務として整理した時くらいか。外から響いてくるのは主に扇城の血を引く忍者やその家族、そして職人たちの声だ。扇城一族の理念をずっと忘れていない者たちである。その中に混じるのは、今やCEOという大仰な名前を捨て去り一人の木ノ葉の忍に戻った【忍軍装備庁・調達部長】扇城トオル”上忍”と、同じく【忍軍装備庁装備研究本部 技術顧問】としての再出発を迎える扇城マサキ特別上忍だ。五代目火影との会議での退任要求と、グループ企業社長、そして腹心だと思っていた会社役員たちによる"仕組まれた"退任追い込み劇。いかにして二人は集った血族たちと共にうちは居住地区の廃墟にやってきたのか。

 

 オレたちが里に帰還したのが8月22日。ナルトが自来也師との修行キャンプから帰ってきたのが25日。26日に、それは起こった。五代目火影が扇城トオルとマサキの二人に対し、扇城屋本社【軍需部門】を里が買収したいという申し出をした。それを二人は快諾したのだが、役員たちに話を通していたハズが役員たちは「話が違う。買収してもらうなら扇と団扇生産部門を潰せ」と腹心の部下だと思っていた役員たちは言い出した。次に「出来ないなら最高経営責任者と会長職を退け」と付け加えた。すると二人はまたしても快諾し、扇と団扇生産部門だけを独立し分離させ、『要らないならば持っていく』宣言をした。二人は五代目火影が息をのむ前で普通の忍者に戻り、そして新しい役職に任命された。重要なポジションだ。

 

 その他に、オレたち扇城家で養育されていた子供たちのことだ。里抜けという大罪を犯したアマツを出しただけではなく、安心できる筈の家に背中を向けて家を出たハズキとキョウスケの兄弟、そして『一族滅亡で不安定な中でまたしても家庭不和という不安を与えられて家を出た可哀そうな少年』ことオレ。役員たちはオレの動向をいつも見ていたらしい。オレの不安がる様子はリアルだった(そりゃそうだ)。扇城ハルキは元からCEOらを解任したい陣営のようで、何も知らない、あえて扇城の背景を知らされていなかったオレが家族旅行の護衛でどんな精神的な動きを見せるか観察していたようだ。一方で、星宮邸の地下にあった日記帳。アレはまったくのデタラメな物品で、三嶋フウレン特別上忍は今回の解任劇を起こすためイタチ兄さんに黙っているよう言ったそうだ。ちなみにナルトとサクラ、サイにはネタバラシ済み。全く見当違いの疑いを持ってオレは星宮兄妹の葬儀で扇城の二人を睨み、疑いを持っていた。諏訪アザミは何度も何度も謝罪してくれたが、『アマツがマサキさんから冷淡な態度を取られていた』という偽情報を自然に吹き込んだ。友に大して嘘は絶対に言わない、里にどこまでも忠実な忠犬たる”山犬”三嶋で育ったくのいち。プライベートでは絶対に嘘をつかないとオレは信じていたのだが、まさか。やられた、と思った。その一方では忍界大戦中で大活躍した工作員の血の片鱗を感じざるを得なかった。迫真の演技だった。

 

 五代目火影による買収交渉の場で、扇城ハルキは【装備調達部長】になった扇城トオルを早速失脚させたいのか、家庭不和を招く父親なのだから沢山の部下を抱える部門のリーダーには相応しくないと言い出した。しかし会場警護任務に就いていたハズキとキョウスケは五代目火影から問われしっかりとした口調で養父の潔白を証言した。次々と扇城姓の者たちを失脚させたいのか、今まで見た事がないような見苦しい言い分を重ね、やがて彼は五代目火影によって「一度黙れ」と言われてやっと黙った。五代目火影は彼の「扇城はうちはの血筋、悪に憑かれた一族なんです」との言葉に反応し、静かに激怒していた。オレもハラワタが煮えくり返りそうな怒りを一瞬感じたが、両親の顔を思い出してぐっと抑えた。「言い過ぎよ」とハルキをなだめる星宮イリナ。星宮姓の専務が会長職を昨年定年退職した星宮姓の者に据え、自分が社長になると言った。社名変更と、扇城トオルとマサキを支持する者たちは出てけ、という言葉。それを会議後に聞いた扇城屋グループに務める社長職をを含む扇城姓の者の殆どと、血縁でも何でもないが二人を慕う職人たちは言葉通りに「出ていく」事を選んだ。結果、住んでいた家を売り払ってしまった。扇城屋グループ改め【星宮グループ】の不動産部門の息が掛った物件がほとんどだったからだ。そんな彼らを『うちは一族当主』である兄さんが受け入れて、中には親と意見の違いから勘当状態になった若者世代を居候させる運びとなった。その代表が不動産部門社長の娘・扇城カオリと、産業医夫婦の娘である双子の野風と微風。

 

 多くの扇城の者たちが退任となった二人を追いかけた今、残っている者たちは『星宮(ほしのみや)』一族とその姻族や血族など関係者ばかりだ。改めてちゃんとした家系図を三嶋フウレン特別上忍から見せて貰うと、役員たちは星宮一族ばかり。扇城伝いにうちはの血を取り込んでおり、『星宮の血は残っていない』という言葉は嘘っぱち。むしろ血継限界が発現しやすそうな”本家”から血を良いとこ取りし、戦闘要員となる忍を家が分断されているように見せかけて輩出していた。その上で志村一族と血を交えた家と複雑な養子関係を結び、写輪眼持ちかつ志村の血を引く星宮姓の者を生み出してきた。星宮の敵対氏族といえば、鹿島。鹿島といえば、里の中枢にも優秀な人材を輩出する親・千手の家系。彼らは星宮を『まつろわぬ悪の星』と呼び、諏訪軍団とまとめて警戒対象にし続けている。星宮は昔は千手と敵対していたうちはの庶家、扇城の一部と血を混ぜた。志村もきなくさい一族。星宮が血を混ぜた扇城の一派は、千手に反発するうちはの者たちに同調していた者たち。似た目的がある者たちを婚姻によって取り込んだのか?

 

 扇城タイキは完全なる本家の人間だが、ハルキは父親が星宮一族の人間。母方の姓を名乗り、何かの目的を持って生きてきた、かもしれない。写輪眼を未登録で隠しているのだ。絶対に何かある、かもしれない。ちなみに扇城ハズキはマサキ氏の息子ではなく、実際には孫息子だった。母親について聞くと思い切り濁されてしまった。扇城ハナエ夫人は本家の3姉妹だ。長女のハナエ夫人、次女のアズサ上忍、そして三女のアオイ上忍。三女はてっきり民間人だと思っていたが実際には優秀な忍だった。万華鏡写輪眼を開眼した頭領姫『魔眼のアズサ』、そして一卵性双生児の妹『邪視のアオイ』。『クレイジーサイコ姫』と称される言動や行動は実はアオイ上忍だったという疑惑が三嶋フウレン特別上忍から示唆されている。『確定じゃないけど』と前置きをされた上で。

 

 何故かというと、二人の幼い頃を良く知る三嶋フウレン特別上忍の昔の記憶からだ。無邪気な二人はよく入れ替わっていたのだが、下忍になった時から名前とホクロ位置が対応しなくなってしまった。それまでのアズサ姫は戦闘狂のケがあったが正義感が強い少女で、アオイ姫はサイコパスな言動から不安がられる少女だった。それぞれ前者が右目、後者が左目に泣き黒子があった。下忍になったアズサ姫の泣き黒子は左、アオイ姫は右。すっかり逆だったのだが、それを訝しんだ三嶋特別上忍はアズサ姫に問い詰めた。すると写輪眼で強力な幻術を掛けられ、暫く泣いたり笑ったりできなくなってトラウマになったらしい。つまりアズサがアオイで、アオイがアズサ。もしも本当ならば、とんでもない事だ。幼馴染のトオル上忍は幼少期からアオイ姫から猟奇的なイジメを受けていた。下忍になった途端、優しかったはずの幼馴染・アズサ姫からいじめられる事になったという戸惑いは想像できない。アズサ姫はもう一人の幼馴染、星宮ユウセイ上忍にストーカーするようになった。時期を同じくしてアオイ上忍はマサキ上忍の息子である、戦死したマサト中忍の対しても同じ行動を。その頃には一卵性双生児にも関わらず身長差ができて、アズサ上忍は170センチ近くの長身、アオイ上忍はマサキ上忍によれば155センチと小柄な状態で体が完成した。”アズサ上忍”は以前病院で聞いたようなクレイジーサイコな方法で好きな人を追いかけ、”アオイ上忍”は健気な通い妻になった。ちなみにアオイ上忍もまた万華鏡写輪眼を戦場で開眼している。目の前で愛する父を助けられなかったショックだろうとされている。強さでいえば互角な、【万華鏡写輪眼の姫】たち。父さんとも共闘した二人である。こうなると、星宮兄妹の『二つの扇城と星宮』の話に齟齬が出てくる。

 

 

本当に怪しいのは扇城などではなく、扇城を利用しているのかもしれない星宮ではないか?

星宮兄妹も怪しく思えてくる。オレは今度、星宮兄妹について探ってみようと決めた。あの日記帳は誰かに、例えばオレに意図的に見せるために書かれたように思えた。うちはは扇城に対し悪い扱いなどしていなかった、その事実が正直嬉しかった。親族をストレスの捌け口にするような一族じゃなくて良かった。愛の一族として知られるうちはに対し、うちはの人間であるオレ自ら疑いを持って欲しい人間がいたらしい。

 

 

                       ★★★

 

「うちはサスケ、うずまきナルト。今日は修行に混ぜてくれないだろうか?」

 

 オレとナルトがいつも千鳥と螺旋丸をぶつけ合っているという噂を聞きつけた日向ネジが、日向ヒナタを伴ってうちはの居住区に訪れた。今日の修業場は、うちはの領域内にある森。ナルトの恋人であるヒナタはスケジュールを知っているので彼女に聞いたのだろう。彼女は申し訳が無さそうな顔をしていた。

 

「ごめんね・・・、突然来ちゃって」

 

「全然良いってばよ、ヒナタ。オレたちとしても強力な術をぶつけ合う機会が出来て嬉しいんだ。出来たらサスケにもバッチリ柔拳喰らわせてやって欲しくて。な?」

 

「ッ、そうだな」

 

勝手に話をつけようとしているので、オレは驚いた。

かなりの頻度でヒナタの柔拳を喰らっているナルトは、チャクラの流れを乱された状態に慣れている。一方オレにそんな機会など無く、いい機会だと思った。最近カカシから『術の使用制限あり』『写輪眼使用禁止』といった状況下でも戦えるよう縛りのある修行を付けられている。チャクラを意図的に乱された状況という、そんな変わった状況も良い。オレは日向ネジと日向ヒナタの申し出を受けた。

 

―――だたし、『写輪眼を封印されたと仮定された状況』という縛りを付けた上で。

 

 乱れ飛ぶ八卦空掌、抉れる地面、焼け焦げた木々、普段より乱れたチャクラの流れ。経絡系が悲鳴を上げているが、近くで日向ネジと交戦するナルトは平然とした顔で冷静に対処して普段と変わらない様子だ。余裕そうな日向ネジとは裏腹に、かなり余裕が無さそうな日向ヒナタの柔拳がオレに向けられている。血管が浮き出た目許は普段の可憐なイメージとは真逆で鬼気迫っている。

 

「よそ見をするな、うちはサスケ!」

 

ナルトと戦っているはずの日向ネジの鋭い声がオレに向けられた。ほんの一瞬、気を抜いてしまったと思考した瞬間には日向ヒナタがオレを八卦の領域へと入れてあの技の準備動作に入っていた。

 

「いきます!」

 

(八卦六十四掌か?日向ヒナタ、いつの間に・・・!)

 

昨年の日向ネジと同等の速度で全身に打ち込まれる64度にも及ぶ高速の打撃。オレはそれを喰らい、彼女にたいして油断した事を心から後悔した。日向ネジがヒナタの肩を抱き「頑張りましたね」と言っている。ナルトはブッ倒れたオレの顔を覗き込んでニヤリと笑った。

 

「オレのカノジョ、すっげー強いだろ!」

 

「・・・本当だな」

 

ここ最近思うのは、写輪眼の無いオレは普通に弱いのではないのかという疑惑だ。決して日向ヒナタが弱い訳ではなく、瞳術にオレは頼りっ切りなんじゃないかと気づかされた。オレはまだまだだ。慢心がある。

湧き上がる積乱雲はどこかへ消えて、秋らしい雲が流れる高い空を見上げた。もうすぐ9月だ。



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12 夏休み明け!/鹿島ライカの憂鬱

サスケ君視点です

今回の社会科見学はカップラーメン工場(体験付き)です


9月1日

 9月、新学期がやってきた。これにて一旦は4月から9月までの5カ月間に及ぶ重点的な中忍向け指揮官教育が修了し、残りは教養教育のみとなる。2クラスのみだった火影直轄校の中忍クラスにはまた2クラスが追加された。中忍選抜試験合格者と部隊内選抜試験を経て昇任したC組、そして上忍と特別上忍たちの推薦と会議での審議を経て昇任したD組。今季全体では前期同様1080名が中忍となり、より常備戦力として機能できるよう木ノ葉の、火の国の駒が整ってきている。これにて制度改定前より直轄校にいた忍者学生の全員が中忍となった。そして今季から3ヵ月間、サイと日向ネジの2名が上忍になるための課程に入った。カカシはオレとナルト、サクラを来季または来々期あたりに推薦したいと考えている。推薦後は審議を経る必要があるので、そこをクリアできる事を願うしかない。

 本日の時間割は1限目・国語、2限目・数学、3限目・自然科学、4限目・社会、5限目・社会科見学①、6限目・社会科見学②。今回の社会科見学の行き先はカップラーメン工場である。土産物を沢山くれるらしいから、ナルトにとっては天国かもしれない。兄さんは今回の行先を聞くなり、「オレも行った事がある」と言っていた。兄さんは天才児(ギフテッド)課程にいたが、一部の授業は一般学生と一緒だったと聞いた事がある。だから兄さんにはヨリヤやリョウ、カズキといった友人がいるんだと思った。

 

 

艶の良い黒髪のツインテールを揺らし、教室に現れたのは鹿島ライカ。小柄な体躯を生かした生かした俊敏な戦闘スタイルが強みのくのいちだ。彼女はくのいちの中でも群を抜いた戦力として期待されている。サクラたち医療忍者候補生の女子3人とはあまり関りがなく、初等部時代からただのクラスメイトという関係に他ならない。1ヵ月振りに姿を見た鹿島だが、久々の彼女は見る影もないほどやつれた表情をしていた。普段ならば騒がしく感情表現が豊かなのだが様子がおかしい。女子を中心に、ライカを不思議そうな目で眺めている。オレの近くを通らなければ彼女は席につけないので、オレは試しに挨拶する事にした。

 

「・・・おはよう、鹿島」

 

「見て分かんない?話しかけないで」

 

 彼女は挨拶もせず無表情で、香取フツミと静織ハヅチと共に机の間をぬって歩いて行った。鹿島が好きな男子は多い。鹿島は里を抜けたアマツの許嫁だったのだが、アマツの里抜けによって保留になっている。カガセがあの事件を起こすまでは、カガセが許嫁だった。今になって考えると、古来から熾烈な殺し合いをしてきた鹿島と星宮という二つの家を結婚によって結び付けよう、という約束が意味深に聞こえる。

 

「鹿島さん、一体どうしたんだろう」

 

「・・・心当たりが全然無いわ」

 

 サクラと日向ヒナタが話していると、登校してきた香燐も頷いている。荒んだ目つきをした鹿島ライカは前を通り過ぎる諏訪氏族の庶流出身者であるB組の藤森ケンゴを睨みつけ、ケンゴはそれをぎょっとした顔で見返した。続いて脛を思い切り蹴られ、「顔見せんなクソザコ」と忌々し気に吐きだした。罪のない不運なケンゴは油女シノに昆虫図鑑を返しに来たようだ。シノは無言でケンゴを労うよう飴を渡した。ここまで敵対心丸出しの者は現代の鹿島でも珍しいのではないか?隣のクラスの鹿島アユムは逆にフレンドリー過ぎるほどフレンドリーで、よくライカに引っ叩かれているというのに。不思議だ。

 ライカが従えているフツミとハヅチは少し疲れた様子だ。いつものライカはあくまでも表情豊かな、クラスを明るくするタイプの少女だ。対人スキルが高く、感情表現も豊富。楽しい事が大好きだ。その戦いの才能は本物で、いつも楽しい事を探しながら退屈している。裕福な鹿島氏族本家筋に生まれた事が影響しているのか知らないが幼少期からワガママな所があり、気分屋。彼女に対してプラスの感情を持つ人間の方が多いのではないかと思う。が、オレとは決定的に合わない。彼女は少し計画性に欠ける。彼女が言う「陰気なコたち」の方がずっとオレとは息が合っているように思える程だ。

 話は戻るが、普段は明るい鹿島ライカの荒み具合にオレたちクラスメイトは暫し無言になった。椅子への座り方も乱雑で、名門一族の令嬢らしい淑やかな仕草とはかけ離れている。破壊的でヒステリックな印象を受けた。彼女がこうした姿を見せるのは三嶋姓だった頃からの諏訪アザミと、鹿島の敵対氏族・諏訪に関する氏族の人間相手だけだった。そのギャップに対し、反感を持っている者がいるのも事実だ。

 

「おはよ、みんな。何かピリピリしてるわね」

 

「おはようってばよ、いの。シカマルとチョウジもおはよう!」

 

 ナルトの元気な挨拶に気だるげなシカマルと、ポテチを片手にいつも通りのチョウジが返事した。キバとシノは席についたナルトの傍に行き、楽し気に雑談を始めた。シノはナルトが持ってきた土産にいたく感動し、次どこかに行ったら任務先の土産を買ってきたいと言っている。オレからも渡すと、シノは泣き出しそうなほど喜んでいる。シノは何故か知らんが、いつも皆から忘れられている。良いヤツなのに不思議だ。

 

                    

 鹿島ライカのライバル、それは今のところ諏訪オカヤだ。急成長を遂げたオカヤは今や期待の若手にして、貴重な氷遁遣い。去年まではかなり辛辣な接し方や言葉で「あんたやる気あんの?」とネチネチと責めていたが、今はなかなか良い関係を築いているのではないかと思う。同じ姓が二人、特殊な任務でもないのに同じ班にいるのは面倒だという事でオカヤは鹿島ライカたちと同じ班に編入。色々あったが、割と仲良くやっている。意外な事に。これにて『御三家』と呼ばれる旧家が揃い踏みし、よりバランスが良い編成になった。だが、その一方で悪化している関係もあった。鹿島ライカと諏訪アザミである。二人は初等部時代よりギスギスしており、実技が優秀なライカと理論派の”三嶋”アザミは相容れなかった。

 

 興味深い事に、二人は初等部2年生頃までは割合仲が良かった。ただいつの日からは二人は対立するようになり、2年次の春を境に二人の間にある溝がじりじりと広がっていった。目の前にある問題をひとまずクリアしたがるライカと、長期的な計画を好むアザミ。ルーチン嫌いで欲望に忠実なライカと、ルーチンが好きでストイックなアザミ。二人はあまりにも違っていた。思い立ったが吉日のライカからすれば、黙って準備を進めていつの間にか目標を達成しているアザミが気に入らない。いくらアザミが厳しい修行を裏で重ねていても、私情を任務や合同修行に持ち込まない彼女は表面上平然として見える。それがライカには気に入らなないようだ。他にも色々と二人には隔絶が存在する。普段の諏訪アザミは必要以上に感情表現をせず、理論的で思慮深く落ち着いている。鹿島ライカは感情豊かで基本的に親切、楽しい事が大好きで騒がしい。そう、鹿島ライカは基本的に親切な性格である。色々あって同じ班になったオカヤとは少し分かり合えたようだが、それは『諏訪と鹿島』の枷を外せたからだろう。これまでずっと仲が悪く、いくら突っかかっても『相手にしてくれない』我が道を征くアザミと違ってオカヤは感情表現の豊富さなど共通点が予想以上に多かったんだろう。ツンケンして見られるが人気が高いライカの人気に流されず、ライカから見れば『いつも一人で寂しそう』なアザミは『好き好んで孤独でいる』。幼い頃、ライカはそんなアザミを遊びの輪に『入れてあげたい、みんなで楽しい事がしたい』と彼女を誘った。アザミはライカの誘いに乗り、一緒に遊んでいた。だが諏訪アザミはそれを窮屈だと感じるようになったのだ。孤独でいるという自由を奪われて、教師から好かれるタイプのライカに平然と反抗するアザミはやがて孤立するようになった。同様に孤独を愛するミサキや実は一人の時間も好きなオカヤ、ハズキのような”親友”はいたが。孤立しがちな、幼い子供が制裁として行った”無視”の常連である変わり者たちは強い絆を作っていた。

 

 犬猿の仲、水と油。そんなくのいち二人だが、うちは一族の事件以来決定的に仲が悪くなった。復讐に燃えるアマツに対し、『その感情は理解はできるが方法が共感できない。復讐するなら戦略的にやるべきだ、人生は長い』と言葉足らずにも落ち着かせようとしたアザミ。オレはかなり落ち着いてきていたので、アザミに同意した。アマツはぶち切れ、アザミはぶん殴られた。アザミの乳歯が一本吹っ飛び、血塗れだったのを鮮明に覚えている。そんなアマツを庇ったのは、カガセの許嫁からスライドしてきたライカだった。それが運命の分かれ道だった。アザミは学年じゅうから『冷血女』と罵られ、かなりの間孤立してきた。本人は一切気に掛けておらず、『静かで良いね』と逆に喜んでいたが。とにかくアザミの冷静さがライカと、そしてハッキリと家族を殺した犯人が分からないまま復讐に燃えるアマツを逆上させていた。成績に響く授業中の無視に対しても、『成績を落としたくなければ協力しろ』と交渉を持ちかけるのがアザミである。

 アザミは幼少期から独特のマイペースさと合理性から奇妙に見られ、いじめの対象だった。ただ、その首謀者は決して鹿島ライカではない。人気があって強い優秀なライカの支持者が、ライカの見ていない所でいじめていた。日頃から「イジメとかダッサ!」というライカの言葉に反する勝手な行動だ。突っかかりはするが毎度の恒例行事、一過性のもの。それは【鹿島と三嶋】という、戦う理由もなければ因縁もない家の少女同士のうまくいかない人間関係、それで留まっていたからだ。

 

 これまで父親が不明とされていたが、三嶋アザミの父だと名乗り出る上忍がいた。諏訪氏族最高戦力と名高い、諏訪ヤシマという男だ。アザミとそっくりな思考回路をした、温厚そうで端正な見た目と品のある立ち振る舞いとは裏腹に『串刺し公』という物騒な二つ名を持つ手練れである。アザミの祖父、三嶋フウレン特別上忍の母方祖父が諏訪の氷遁遣いだった。そこから三嶋フウレンと娘の三嶋チルヤ中忍を通ってきた氷遁を発現させる遺伝子が、奇跡的にも諏訪ヤシマと出会って生まれた氷遁の姫。X染色体に連鎖して伝わる潜性遺伝である以上、彼らの一族において氷遁使いのくノ一が生まれる確率は男性の半分。37%強しかない。男性はその倍で、75%が氷遁を使えるという。

 

 諏訪と鹿島は不倶戴天の間柄”だった”。木ノ葉隠れに移住するに至り、詳細は知らないが【休戦協定】を結んでどうにか表面上は平和にやってきている二つの氏族はかつて熾烈な殺し合いをしてきた。まだ強力な風遁使いの一族でしかなかった弓使いの諏訪、体術剣術に優れた雷遁使いの鹿島。諏訪は体術とチャクラ量で鹿島に大きく劣っており、そのせいで常に劣勢を強いられてきた。鹿島は諏訪を天龍湖周辺地域へと押し込めて勝利を宣言した。だが押し込められた諏訪は天龍湖の土着氏族・守矢と戦って配下にし、やがて同じく土着の水遁に優れた一族・安曇(あずみ)の姫君を娶った。これによって突然変異で氷遁が生じ、血継限界を持つ『不屈の諏訪』へと成長。これが前の任務にて天龍大社の博物館で学んだ、強固な血族同盟・諏訪軍団の成り立ちである。

 

 これまで『家同士としては敵でも味方でもない個人的に仲が良くない旧家のお嬢様同士』だった間柄が、4月に入ってすぐ一変した。それまで直接手を下さなかった鹿島ライカはこれまでの鬱憤を晴らすように”諏訪アザミ”に対して牙をむいた。4月半ば頃から酷いスランプに陥っている諏訪アザミに対し、学校で会う度に心と身体をボコボコにしているのだ。互いの氏族の者たちに話し合いの場が作られる程に強い憎しみを持って。アザミは大した抵抗もせず、「ストレスが溜まってるんだな」の一言で済ました。オレたちも二人が鉢合わせる度に緊張感を感じ、何度かライカを止めに行った。諏訪アザミは民間人と一部施設と教養授業を共有する忍軍附属中学校の中でも一番荒れている東部中学校で1年間を過ごしてきた。多分、色々あったのだろうと思う。昨年の再会ではオレは内心驚いていた。彼女の瞳から僅かにあった筈の輝きが失われていたからだ。それも少しは解消するのかと思っていれば更に悪化し、今朝は遂に下駄箱近くで「もう帰りたい」と零すまで追い詰められていてまたしてもオレは驚いた。彼女が普段着としている濃紺のTシャツの背中にはデカデカと、ドロップキックでもされたような靴底の跡があった。痣になっているかもしれない。

 

 待っていると任務疲れらしいヤマト上忍が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。が、3分ほどで終了した。隣では霧島ユタカ上忍が長々と話していたようで、授業が開始されるギリギリでようやくB組の標識がかかる教室から出てきた。霧島ユタカ上忍は一見温厚そうだが、実際は戦闘民族・霧島の次期当主だけあって相当に好戦的である。明日の集合訓練を楽しみにしているという噂を朝から聞いていたので、覚悟して準備を怠らない方が良いだろう。霧島ユタカの厳しさの方向性はヤマト上忍とはまた違っている。何故なら稗田ミサキ曰く「あの人たち頭の中が戦国時代のまんま!」なのだから。

 

                       ☆★☆

 

 カップラーメンの断面図から始まり、ガラス越しに見えてくるのは完全に機械化された製造工程だ。普段見る機会の無い、普段よく食べているものが生産される場所。実際に来てみると興味深く、思っていた以上に面白い。 ここの業者は木ノ葉隠れと契約しており、里内の片隅にある工場では戦闘糧食の一部を生産している。だからオレたち忍者は気付かない間にこの会社には世話になっている事になる。そう思えば感慨深い。里の片隅にひっそりと建つこの工場が、沢山の忍の命を繋いでいるのだ。

 

 わいわいと工場見学を終えると、次は体験講座が始まった。今回はオリジナルカップラーメンなる企画だ。すこし蒸し暑い休憩場で、オレは扇城屋の体験講座で作った扇子で首筋を仰いだ。こういう道具は持っていると意外と便利である。毎回のように毎月頭にある学校の期間には必ず社会科見学と体験講座の機会が設けられている。三嶋フウレン特別上忍による方針だ。こうする事によって忍者は民間人社会を知り、民間人との距離が互いに縮まり、世界が少しづつだが広くなる。工場としても土産物をモニターして貰える。4月には修行ばかりの生活をしていた同期達は不満げだったが、何度目かになると楽し気だ。緊張が解けるのもあるが、オレにとってもクセになりそうな気がしている。調子よく完璧なタイミングで機械が動き、気持ちいい程に上手く乾燥された麺がカップに具と感想スープと共に放り込まれ、次々と封をされていく光景。ガシャン、ガシャンという音が最初は煩かった。今では眠気すら誘ってくる始末。従業員たちは眠くならないのだろうか?

 

「オレは~、この【ナゾ肉】メインにするってばよ。つーか、ナゾ肉って名前だったんだな、あの肉。そのまんまだってばよ!味は勿論醤油味!!なぁなぁ、工場長さん。一楽とコラボとかしないの?」

 

「私はこの【健康!食物繊維麺】に交換します!あっさり海鮮系塩味で、野菜たっぷりで、でも少しは刺激が必要よね・・・。そうだわ、この【辛味あん】も付けます」

 

 ナルトとサクラの大喜びな声が聞こえてくる。サクラは『美味しそうだけど太っちゃう』と言っていたが、食物繊維の含有量を大幅に向上させた新製品に使う予定の麺に交換できると聞いてテンションが上がってきている。他の女子も似たようなもので、食物繊維麺の大人気具合に副工場長が驚いていた。まさか、ここまで人気とは思わなかったと。サクラたち女子と接していて分かったのは、女子達は努力して食事制限していても実際は美味いものを食べたくて仕方が無いのだという事実。そりゃそうだろうとは思っていたが。女子に対して気楽に生きているだとか言うヤツには知って欲しい。その理由が自己満足でも、好きなヤツのためでも、関係無い。好きで美しく見せるため、あいつらかなり我慢してるんだぞ、と。

あれはあれで修行の一種だとオレは考えるようになった。

 

「サスケ君はどうするの?全然選んでないじゃない」

 

腕を組んで考え中だったオレに話しかけてきたサクラの言う通り、オレの目の前には未だに空のカップと空欄のプリントがある。

 

「いざ自分で作るとなると思いつかないものだな」

 

「分かるってばよ。オレも色々考えたけどさ、結局はいつもの醤油味だしな。サスケはおかか味のお握りが好きだよな?ってことは、海鮮系好きそうだな。試しに【ニボシ系】やってみるのも・・・」

 

「ニボシか・・・、いいな。面白そうだ」

 

 このあと、それぞれに120通りのオリジナルカップラーメンを完成されたオレたちは工場長からの贈り物として器に移して湯を注ぎラップを掛け3分という、資源節約になるチキンスープのラーメンを試供品として貰った。10月に発売だというそれは今後、フリーズドライの卵や追加のゴマスープといったカスタム商品を出していくつもりだという。その商品は任務時にも役立ちそうだ。任務中の食事にも役立つだろうし、サイズを小さくすれば持ち歩きがより簡単になる。

 

カップラーメンの可能性を感じた社会科見学だった。

 

                        ☆★☆

『鹿島ライカの憂鬱①』

 

 あたしは小さな頃から退屈で退屈で仕方が無かった。だって鹿島一族の男のコたち、みんなあたしよりよわよわのザッコザコだったんだもん。張り合いがないし、女のあたしに倒されてすぐ泣いちゃう。誰一人として、同じ世代のコたちはあたしを倒せない。体術ですらこう!幻術がダメダメなのは鹿島のみんながそうだから、苦手でも仕方ない部分があるのは分かるわ。鹿島には折角強い雷遁が伝わっていて、それを段階を踏んで学んでいく機会があるのに、あのコたちはみんな足踏みしてた。あたしは新しい事を学ぶのが大好き!いつも同じコトをしてると飽きちゃうもん。あたしのママはパパのお妾さんってヤツ。あたしのパパはひどいヒトで、鹿島の分家末端で忍の世界なんて知らないバイト巫女だったママを愛人にしてあたしを産ませた。だからあたしは普通なら日陰者みたいな扱いを受けるんだけど、ママが違うお兄ちゃん達はすっごく優しかった。男ばかり4人兄弟っていうのもあるかも。だからお兄ちゃんたちはあたしと遊んでくれて、たっぷり修行をつけてくれた。お兄ちゃんたちは全然よわよわじゃないし、優秀な人たち。だから同世代のコたちと上手くやれなかったんだと思う。無理して同世代と一緒に修行しなくて良いよって言ってくれた。

 

 鹿島一族はいわゆる名門旧家で、代々雷遁と剣術の使い手を出している。それと同時に『諏訪』という先祖代々の宿敵である氏族が変な動きをしないように見張ってる。何故ならあいつら、裏切り者を出した悪い実績がある”うちは”に対して凄く友好的なのよ!?あたしの一族の男たちは使命感がとっても強いの。いつもあたしたち女衆を守ってくれるから、女衆は完璧な家事のほかいつもキレイでいるの。命の危険に晒されることはないから安心しろってお兄ちゃんたちは言うの。でも、それは裏を返せば古い伝統や価値観の順守を無言で強要されているコトに他ならない。うちさぁ、女を大事にしてはくれるけど男同士の仲が異常に良いのよね。良すぎるくらい。皮肉なコトにこの感覚を言葉にして教えてくれたのは、あたしの一番キライな女だったの。ああいうの【ホモソーシャルな結びつき】って言うらしいわね。

 女の人は誰一人として忍者にならない。あたしは時代の最先端だから、やりたいと思ったから忍者になりたいと思った。お淑やかにしろって、ママは言ったけど、あたしはそうはなりたくなかった。何かが起こっても黙って座って文句言ってるだけのオンナにはなりたくなかったの。あたしは5歳の時、許嫁として星宮カガセさんと引き合わせられた。鹿島と敵対してきた星宮一族と、写輪眼を発現出来るうちはの分家・扇城のハイブリッド。10歳なのに既に下忍という規格外の優秀さで、あたしの忍になりたいという夢を応援してくれた。それにまだ5歳だったあたしと対等に接してくれた。性格もだけど顔もカッコいいし、でもどこか影があって、優しい人だった。修行にも付き合ってくれたのよ。あんなステキなヒト、好きにならないワケがないじゃない!!

 

 あたしが火影直轄校に入る前にいたのは、旧家のお嬢様御用達の私立保育園。それも女のコしかいない、鹿島が経営しているところ。昔ながらのお嬢様ばっかりでつまんなかったわ!お父サマお母サマの意見に唯々諾々で、自分自身ってのが見当たらない。みんな忍者にはならない、お淑やかなお嬢様ばっかり。そんなとこじゃ友達が出来なかった。そして6歳になる時、学校選びの選択肢が本格的に必要になった。あたしはお兄ちゃんたちとパパに可愛くねだって、どうにか火影直轄忍者学校への入学を果たした。それと同時にママや世話係のオバサンお姉さん達からはそっぽを向かれた。どうして、こんな事だけで無視されなきゃいけないのか意味が解らなかった。ママはあたしがママって呼ぶのを嫌がって、「あんたなんか要らない」と言って、早々にパパが用意した若い男の人と結婚した。それからあたしを愛してくれる同性は一族に一人もいなくなっちゃった。そうやって、楽しいことを教えてくれる人が私の前から減っちゃった。

 火影直轄校に入ったあたしは、とある男の子と出会った。まずはカガセさんの弟であたしと同い年の星宮アマツ君。鹿島と同盟を組む香取のフツミ君、星宮を打倒す決定打となった静織のハヅチ君。お兄さんがカガセさんと同い年のイタチさんだという、うちは一族当主の次男サスケ君。そして、同い年にして宿敵・諏訪の本家筋の諏訪オカヤ。あたしがオカヤより優位に立てば立つほど、一族のみんなはすっごく喜んでくれた。あたし自身、ヘタレた弱い存在は嫌いだったから何より。イジメってダッサいけど、あいつらだけは例外だった。それこそダサい考え方かもしれないけど、遺伝子レベルで嫌いなのよね。

 アマツ君はとても優秀で、天才である兄のカガセさんから英才教育を受けて育っただけあって本当に強かった。でも優しい子だから、足を引っ張るよわよわなコたちにも平等だった。そのよわよわ代表が、オカヤ。オカヤはオカヤで誰にも分け隔てなく接する良いコなのがまた、ムカついた。男が好きって噂がある扇城ハズキに対しても、全然恐怖感とか無しで話してる。

 

 私が楽しい事を思いついてみんなに提案する度に、みんなは喜んでくれた。それが嬉しくって、私はクラス会とか放課の過ごし方を沢山考えたの。同じ教室の中に一人、いつもぽつんといる女のコがいた。あの子は三嶋アザミといって、品行方正で頭の回転は速いけど地面のアリや教室の金魚ばかり見つめてる変人。本ばっかり読んでいて、学問の成績は結構優秀な方。でも、見ているとイラつく程に不器用で実技がダメダメ。そのくせチャクラコントロールと幻術は結構なもの。本気なんだか、セーブしてんだか、全然測れない不思議なコ。父親不明なのに、三嶋の家じゅうから無条件に愛されてるのがまた不思議。あたしは妾の子だけれど、両親がしっかり分かっているという優越感みたいな感情があったのは嘘じゃない。

 そんな変人な三嶋アザミを遊びに誘ってみると、あの子は結構嬉しそうに誘いに乗った。話してみると思った以上に頭の回転が速くて、純粋に凄いと思った。意思決定能力ってやつが高く、判断も速い。先生から気に入られていないコだけどその理由が分かったのは普通に良かった。下手をすればアザミの方がずっと速いペースで思考していて、答えをすぐに出してしまうから先生はアザミを「考えていない」と言う。色々な言葉もアザミから教えて貰った。漢字も、歴史も、色々な事も。だから嬉しくって、アザミを毎日のように遊びに誘ってた。唯一無二の親友だと思っていたのに、あの子は言った。

「毎日誘われると困る。自分にも予定があるから」、と。

あたしはまるで雷遁を喰らったような衝撃を受けて、以来あたしはアザミと距離を置くようになった。

初めだった。あたしの誘いを断るコがいるなんて知らなかったから。

 

 そうなってからはより距離が離れていった。更に忍者らしい科目が増えて、あたしと三嶋アザミは決定的に合わない人間同士だと分かった。常に動き回っていたいあたしと、無駄な動きは大嫌いなアザミ。戦略とか戦術とか難しい事は分からないけど、人間同士の繋がりをリーダーシップに繋げたいあたし。仲間でさえも駒だと思ってるアザミ。根本的に合わないんだって、あたしは改めて考えるようになった。授業でも沢山衝突した。こっちは怒っているのに、あっちは大人の対応っていうの?静かに頷くだけ。ヘタレのオカヤを突っついて遊んでいると、かなり本気でそれを止めにやってくる。人間があまり好きじゃないって言うクセに、ちゃんと人間らしいとこあるじゃないって思った。少しでもつっついてやらないと、どんどん人間らしさを失っていきそうで。好奇心をそそられたのもあるけど、あたしはアザミをいじるようになった。

 

 

 



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13 夏の庭

サスケ君視点です

青春ってよく分かんないですねー。
部活終わりのような雰囲気を目指したのですが。


9月3日 16:01

 ヤマト上忍と霧島ユタカ上忍による壮絶なしごきを終え、オレを含めた2年A組とB組のやつらは水分補給用のそれぞれの水筒を手にグラウンドに転がっていた。元気一杯なのはナルト位じゃないか?あいつは人柱力なのも影響しているだろうが、桁違いのスタミナの持ち主だ。うずまき一族は封印術に優れた、莫大なチャクラ量と生命力を誇る家系。千手一族とは遠縁だと聞く。千手といえば初代火影と二代目火影の生まれた家系だ。ヤマト上忍は「流石に少し疲れたな、みんな強くなった」と言うが、オレからすれば余裕綽々に見える。凄まじいスタミナを誇っていたという初代火影と同じ術を使うだけあって体力とチャクラ量が豊富なんだろうと思う。流石あのカカシの後輩だ。まだ勝てる気が全然していない。兄さんに勝つにはヤマト上忍、シスイ、そしてカカシをクリアしていかなければならない。まだ道は遠い。見上げる初秋の空は高く、時間の流れの速さを感じる。兄さんとシスイが14歳だった時、二人はきっとオレよりもずっと強かっただろう。だが、才能の差だとかそういった言葉を言い訳にしたくはない。いくらオレが兄さんたちに才能で劣っていたとしても、オレを天才だと信じて応援してくれる者たちがいるから頑張れる。

 

 B組のやつらが固まっているあたりに視線をやると、オカヤが地面に寝そべったまま笑顔で手を振ってきた。オレもそれに振り返すと、ヤツは何故か匍匐前進でこっちに来やがった。正直笑いが込み上げてくるから止めろと言うのに、瞬く間にヤツはオレの目の前で両手で頬杖をついていた。

ナルトとキバが爆笑している。

 

「よっ、サスケ君!」

 

「相変わらず元気だな、オカヤ」

 

 雨上がりの泥濘のせいでドロドロのベタベタになったTシャツは元が何色だったのか分からない。そんな姿でにじり寄ってきたオカヤだが、割と元気そうだ。B組の方を見ると、比較的厳格なA組とは雰囲気がだいぶ違って民間人学校を思わせる。A組のクラスメイト達はオレを含めてプライドが高い者が多い。負けず嫌いで、競い合う事を好む。だが何か予測不能な事が起こると、ポッキリと折れてしまいそうな危うさも同時に秘めている。対してB組は忍者とは思えぬほど穏やかな者たちばかりで、無駄な競い合いを好まない。しかし実際のところは芯が強く、見た目の印象では測れない強さを持っている。このように対照的な2クラスだから、一緒に訓練をすると新たな気付きがある。またA組は体術や剣術に優れていて、B組は全体に幻術が巧い傾向がある。想像力がたくましく、芸術系の同好会活動が活発だ。

 

「サスケ君って鹿島の居住地に行った事あるか?あったらどんなとこか教えて欲しい」

 

「ある。諏訪よりはもう少し・・・、派手だったな。【諏訪お断り】の店ばかりだった」

 

「ヒエ!ちょっと用事が出来そうで怖くてさ・・・、ありがとな」

 

 疲れが抜けてきたオレは立ち上がってみると、学校指定の修行着上下が泥で汚れていた。学校指定の修行着を日常使いする者は多い。オレたちの学年色は深紅だ。ジャージは上下共に濃紺で、肩から腕にかけて2本の学年色のラインが入っている。ハーフパンツと長ズボンの二種が用意されており自由に選んでいい。上着の下に着る夏用の半袖シャツは里からの共通の支給品で、木ノ葉隠れのマークが向かって右側に刺繍されている。オレも寮での部屋着にしている、何だかんだいって使い勝手が良い一着。

 

(・・・合同洗濯場に重曹はあったか?漬け置き洗いでもするか)

 

 寮生活は基本的に2人部屋、中等部3年生からは1人部屋だ。食事は出るが、その他は忍という職業的な理由から一人暮らし同然である。ナルトが自来也師と里外に出ている時のオレは一人暮らしだ。そういった状態だと、自然に洗濯方法に詳しくなる。金を出せば洗濯して貰えるが、将来に備えて出来る限り節約する方が良いと兄さんから日頃から言い聞かせられているので自分でやる事にしている。それに、家事を担うバランスを妻だけに重くするような勝手な夫にはなりたくないしな。

 

「A組、B組、集合。ホームルームをしたら解散だよ。明日からも頑張ろう」

 

 ヤマト上忍の声が掛ったので、オレは怒られたくないので急ぎ足で整列のためA組の集まる場へと向かった。クラス委員長のサクラが号令を掛け、『気を付け』の基本姿勢を取る。手首を身体側に密着させ、両足の踵もまた密着させて爪先を60度に開く。教官達はこれを『不動の姿勢』と呼んでいる。そのあとは『休め』、『整列休め』、『挙手敬礼』、『方向転換、前身』へと続く。列ごとに『前進』『止まれ』。意味が無いようでこれらには意味があると言っていたのは、現役部隊に復帰し装備庁の調達部長になった扇城トオル上忍だ。上の空になっているのが誰なのかがすぐに判り、意外と便利なんだと。

 体に動きが染み付いているので、号令を掛けられるだけで勝手に動けるようになっているオレは試しに鹿島ライカを観察してみた。成程、本当に分かり易い。隣にいる日向ヒナタと比べると、全く動きにキレがない。普段ならば率先して「みんなちゃんとやって!」という彼女が、今日は何故だかダラダラ見える。

 

 9月から中忍になった奴らはあと2日間、学校で過ごす事になっているがオレたちはもうそれぞれ帰宅しても良い。一度実家に寄ってから寮に帰る。兄さんにこの二日間にあった事を話したいのもあるが、義姉さんと来年生まれる甥っ子か姪っ子にも会いたい。生まれる前の赤ん坊は外界の音が聞こえていると小耳に挟んだ。今から英才教育すればオレにべったりになってくれるだろうか?帰る準備をしてから香燐と合流し、学校まで迎えに来てくれるというシスイとも一緒に行こうと思う。

 

                       ☆★☆

 

 女子達の間で話題になったようで、当初からの予定であるサクラと香燐、日向ヒナタのほか山中いのもオレの実家に顔を出した。いのは妊婦にお勧めだという芳香の小さな鉢植えを持ってきた。イズミ義姉さんは嬉しそうにそれを受け取り、それをそっと縁側に置いた。香燐は夕飯を作るのを手伝っていくというので、サクラもそうすると言った。今日の夕食は兄さん特製の蕎麦。以前食べさせて貰って以来、オレはすっかり兄さんが打った蕎麦の虜になった。兄さんはもし忍を引退したら蕎麦屋になると言っている。

 兄さんと義姉さんとシスイにこの二日間の出来事を話したいだけ話し、夕飯の蕎麦を皆で食べた。香燐は水月と重吾とチームを組む事になったと報告してきて、シスイは「環境が変わると戸惑うが、ストレスを感じたらすぐ親しい人に相談すること」とアドバイスした。当たり前の事だが、忘れがちな心構えだ。カカシの父親であるサクモ氏が自刃されて以来、この里ではメンタルケアの重要性と任務におけるルールの適用方の議論がなされた。仲間の命と任務、どちらを優先するか。任務が入ってくるごとに専門部署が優先順位を決定し、その上で誓約書を書かせて任務に行かせる。普通に考えて「里人は全員家族」という言葉を優先して仲間を助けて任務失敗だと文句を言われ、任務を優先して仲間が死ねばそれはそれで文句を言われる。たまったモンじゃない。少しずつだがルールの欠陥を埋めようとする動きがある。

 

 使っていないテーブルを持ってきてどうにか9人で食卓を囲む。いのは兄さんが打った蕎麦を父親が土産物として持ってきてそれが家族で好評らしく、とても喜んでくれた。兄さんは時折、家を訪ねてくる日向一族や奈良一族などの当主たちに土産物として手作りの蕎麦を渡している。兄さんは木ノ葉の名門旧家の当主達から非常に評判が良い。その要因の一つとして、兄さんが彼らの胃袋を掴んでいるからじゃないかとオレは思っている。

 

「そうだ。茹でていない蕎麦が余っていてね、みなさんお土産に持って行ってくれないだろうか?」

 

女子達がわぁ、と嬉し気な声を上げた。オレは蕎麦を包むための袋を用意する。兄さんは笑顔だ。

ストレス解消がてら、わざと大量に作っているんだろうが。オレは知ってる。兄さんの癒しは義姉さんだ。だが連日の任務―――星宮カガセについての情報収集だろう、で本当は疲れている。いくら家に帰って癒しそのものである義姉さんがいても、癒えない疲れはある。疲れにも色々種類ってものがある。

 

「兄さん、オレたちはそろそろ帰る。明日また来るな」

 

「分かった。明日はオレもオフだから修行を見よう」

 

「ありがとう、兄さん」

 

 兄さんと拳を突き合わせた午後7時、これにて休日前の夜はそれぞれ帰宅となった。サクラは学校用のリュックに入れていた布袋に大量の蕎麦を入れ、満足げだ。いのとヒナタは「父が喜ぶ!」と言っている

香燐は途中で養父母である移住してきたうずまき一族の老夫婦と会ったため彼女はシスイを連れ、早々にそちらへと行った。冷蔵庫が小さいと言っていたので、あの一家は1週間ほど蕎麦を食べ続けるだろう。

 

 最近修行がどうだとか、どんなデートプランを立てているだとか、そういった取り留めもない雑談をしながら歩く。普段かなりきつい修行を課せられている分、こういった時間が取れると嬉しくなる。表面には出さないが。ナルトは天龍湖の塩羊羹の話をしてきた。日向一族のために買っていったところ、非常に気に入ってくれたという。甘いものが大好きな兄さんも「美味い」と言っていたな。てっきり天龍湖の周辺限定品かとばかり思っていたが、諏訪軍団の居住地区では普通に販売されていたので驚いた。

 天龍湖での任務で感じた事だが、扇城タイキはオレが思っていたよりもずっと強かった。写輪眼を開眼済みであり、かなりの使い手だったのが印象的だった。扇城が写輪眼開眼者を公表する理由と、公にされる使い手の基準について。本家の人間は公表され、そうではない人間は登録こそするが秘匿される。扇城ハズキは扇城一族当主・扇城マサキの孫であるので公表されていた。【本家】という血筋の枠組みでも当主の座とはあまり関係が無い扇城タイキは公表する対象ではなかったのだ。

 

「あっ、タイキ兄ちゃんだってばよ。タイキ兄ちゃ~ん!」

 

 隣にいたナルトが突然、丁度頭に浮かんでいた人物の名を呼んでそちらへと走っていった。不思議なもので、こういう事はたまに起こる。誰にでも。タイキはナルトを見るなり少し笑顔になり、「何日ぶりだろうな」と言った。ナルトはタイキが割と好きみたいだ。というよりも好きになったんだろう。

 

「学校帰りか。懐かしいな、その指定リュック」

 

「タイキ兄ちゃんはどこの学校だったんだ?」

 

「俺は北部だった。まだ写輪眼が無かったからかな」

 

「じゃ、青いライン入ったやつだったんだな!」

 

今日はタイキは非番らしい。手に持ち帰り用の焼き鳥を持ち、布製の手提げには牛乳が数本入っている。

手裏剣ホルスターも額当てもなく、完全にリラックスした様子だ。

 

「サスケは少し夏バテ気味か」

 

「そうでもない」

 

「俺には分かる。ちゃんと水分とって早く寝ろよ」

 

「・・・分かった」

 

タイキはオレの額に指で触れると、トントンと優しく叩いた。イタチ兄さんのように、いや、かなり違うがタイキは一緒に暮らしていた頃に似たような仕草をせがむとやってくれた。2年半振りだろうか。

 

「ナルトも寝る前に水分摂れよ。今日はやたらと蒸し暑い」

 

またな、と。タイキはオレたちに背中を向け一人暮らしをしているアパートの方へと歩いていった。

 

「またな、タイキ兄ちゃん!」

 

「タイキも体調に気を付けろー」

 

「はいはい。またな~」

 

 心配してくる本人が一番自分自身を疎かにする。タイキは初めて会った日からそういう感じのヤツだ。

悪夢に魘されるオレと向き合うため連日心理学や精神医学の勉強をし、そのせいで寝不足になって倒れた程にはオレの事を気に掛けてくれた。今のオレがあるのはタイキがあったからだと言っても過言ではない。兄さんはそんなタイキに深く感謝していた。うちは一族の術が書かれた書物を探し、カカシに相談し、オレがそれらを学ぶ手はずを整えてくれた。『お前が継承するのを止めた瞬間が本当の滅亡だぞ』と言っていた。

 

改めて一緒に出掛けるのも良いかもしれないな。忍になってからそういう機会が一切無かった。

そう思いながら、オレとナルトはタイキの背中を人波に紛れてしまうまで見送った。

 

 

                     ★★★

 

―――今度一緒に改めてゆっくり話す機会が作れたらいい。

 

その小さな、何気ない願いは朝が来ると共に打ち砕かれた。永遠に。

 

 オレの前にいるのは警務隊の制服姿のシスイと扇城ハズキ、そして普段着の扇城マサキの3人だ。一様に沈んだ顔をして、なかなか言葉が出てこない。そして遂にハズキが口を開いた。

 

「タイキさんが昨晩・・・、何者かによって両眼を抉られた状態で殺害されているのが発見されました」

 

―――扇城一族の中忍が一人、路地裏で両眼を抉られた状態で惨殺されているのが発見された。ドッグタグにある忍者登録番号から扇城タイキと断定され、死因は出血性ショックとみられる。扇城タイキ中忍は写輪眼の使い手であり、犯人は写輪眼を求めて犯行に及んだと遺体の状態から推定される。目撃者によれば昨晩19:20分頃には市街地で知人と談笑している姿が見られたという。犯人は未だ里内に潜伏しているとみられ・・・。

 

 報告を扇城ハズキから聞いた瞬間、頭が真っ白になった。ハズキは警務隊の一員として表情を変えぬよう懸命だったが、オレが思わず涙を流した瞬間に堰を切ったように泣きだした。そして「ごめんなさい」と言って席を外した。初めてこういう業務をさせたとシスイは言った。両親が九尾の事件で死亡しているタイキは濃く血の繋がった親戚こそいるが、両親がいない。扇城マサキに育てられた、扇城マサキの息子と兄弟同然という立ち位置だった。それは今まで知らなかった。語ろうとしなかったからだ。

 

 

                     ★★★

『鹿島ライカの憂鬱②』

 

 三嶋アザミはからかっても無視してくるから、つまんない。毎日がそれの繰り返しだった。アマツ君とカガセさんはその度に「やめなよ」と私を止めてきた。だからその通りにはしてたんだけど、あたしはそれなりに楽しい日々を送ってきた。そんな日々の中であたしが思ったのは、三嶋アザミは忍者に向いてないんじゃないかっていうコト。負けず嫌いとは程遠い性格で、勝負事に全然関心がない。負けたい、勝ちたくないっていう気持ちが一切感じられないタイプ。あのオカヤやミサキ、ハズキでさえももう少しはそういう気持ちが感じられるのに。あたしたちはいわゆる強い忍者を出している名門旧家の生まれで、三嶋に関しては総鎮守という二つ名で知られる晶遁がある。つまり、力を持って生まれてきた。力を持つからには力に責任を持つべきであって、その力を行使する義務があるとあたしたち鹿島と香取は考えている。気弱な日向ヒナタちゃんでもそれをよく分かってる。憎き諏訪でもそう。なのに、なのに!

 

 あの子はそんな素振りを見せず、ダラダラとヌルい毎日を送っていた。イライラするほど不器用で、得意苦手が激しくて、それを改善しようとしない。なのに、得意な事だけはバッチリ成果を出してくる。手足を動かすのと同じくらいチャクラコントロールが上手なのと、それに伴って上手な幻術。人文地理と歴史、国際理解の知識が深く、根っからの文系。なのに印を結ぶのがヘタで苦手で、数字にすっごく弱い。

 そして何よりもあたしがあの子を苦手な理由が、もう一つ。あの子は三嶋の家から何一つ期待されていない。期待されていないのに愛されていて、ワケが解らなかった。あたしの家族はあたしにいつも期待してくれていて、頑張れば頑張るほど愛情みたいなものが深まっているように感じた。血継限界も発動せず、成績も低空飛行で。なのに、あの子は無条件に愛されている。愛されているのに、いつも遠い場所ばかり見ていた。それと、命に対する執着が薄いのかしら。要領が悪いからすぐ死んじゃいそうだって思った。あの子、明らかに生きたいという感情が薄い。三嶋氏族は体がとても頑丈。怪我が治り易いからかしら?むしろ死にたがり。人間を基本的に信頼していない。あんなに温厚で素晴らしい御一家に生まれて無償の愛を受けて育っておきながら、どうやったらあんな人間不信になれるのか分からなかった。流石のあたしでも同期が将来死ぬのはゴメンよ。苦手だけど死ね、とまでは思ってなかったから。だからあたしはアザミに対し、「やめちゃえば?」と毎日伝えていた。だって、持たぬ者を守るのは持っている者の義務。あたしなりの正義感というか、美学みたいなもの。あたしにとって三嶋アザミは”守る”対象へと変わっていった。

もっちろん、表立ってアピールなんてしないけど!?

 

 あたしたちが8歳になる年の夏、うちは一族のほぼ全員とアマツ君のご両親が殺されるという惨劇が起こった。うちは一族はクーデーターを企ててるって、前から言われていた。鹿島の宿敵・星宮一族とはこの件に関しては意見が合い、監視を続けていた。カガセさんとアマツ君のご両親は特にうちはに対する疑いが深く、二人に「あまりうちはと過剰に関わらないように」と言っていた。けど、あたしに対しては本当に素晴らしいお二人だった。監視対象はうちはだけじゃない。うちはの庶家である扇城(せんじょう)もだ。表面上は互いに我関せずという風を装っていても、本当は血がうちはを愛せと言っていたんじゃない?忍界大戦中は扇城の皆さん、うちはの人たちを庇って戦死された方が沢山いたそうだから。その頃も扇城トオルさんとマサキさんがよくうちはの敷地に行っては、何かしているようだったし。うちははともかく、まさか、カガセさんとアマツ君のご両親とお姉さんまで犠牲になるとは少しも予想していなかった。その犯人はよりにもよってカガセさんかイタチさん。二人のどちらか、あるいは二人はうちはだけではなく婚儀の話をするためそちらに出かけていた星ノ宮神社の宮司夫妻まで惨殺した。まったく、意味不明だった。そこからは何故か定期的に星宮一族の人々が不審な事件で死んでいくし、陰謀ってヤツを感じたわ。

 

 アマツ君とサスケ君の証言から、犯人は二人に絞られた。それぞれの兄であるカガセさん、またはイタチさん。どちらも血筋の関係で写輪眼を開眼していた、若手の中では双璧をなす天才だった。二人はそれぞれ違う光景を見ていたみたい。三代目様は言った。『犯人は特定できていない』、と。

 二人は共通の親戚である扇城一族へと引き取られ、メンタルヘルスに強い関心がある扇城トオルCEO夫妻主導のカウンセリングなどを受けた。サスケ君にはタイキさんっていう扇城の静かなお兄さんが、アマツ君にはにこやかで温厚なハルキさんがついた。無表情だった二人にそれぞれ表情が戻ったけど、見ている方向は全然違ってた。サスケ君は復讐心よりも探求心に燃えて、アマツ君は「カガセに復讐してやる!」と言い出した。その頃から里内では【イタチが犯人だろうが、おそらく二人で一緒にやった】という世論が高まってきた。同時に二人の成績や成長スピードも差が出てきて、サスケ君は次席だけどアマツ君が次席を大きく引き離した圧倒的な首席、というのがいつもの成績発表の風景になった。身長差もそうだったわね。

 

 同時にアマツ君は三嶋アザミたち、おっとりした旧家の御令嬢と御曹司を毛嫌いするようになった。あの子たちは実家が太いし、無条件に愛されているし。何よりも人生をナメてるように見えたからかしら。アマツ君はあまりも可哀想なことに、引き取られた扇城家での扱いが微妙だった。上手く意志の疎通が取れず、よく言い争いになった。忙しい扇城トオルと意見が噛み合わなくて苦しいって、泣きそうになってた。でもアマツ君に寄り添っていたのが、扇城ハルキさん。はたけカカシ上忍から弟子入りを断られてしまったから代わりにハルキさんが修行をつけていたそうよ。アマツ君に修行をつけて成績を向上させ、更には里の『ちょっと言えない部署』にいるという志村さんという人とも知り合いらしく二人を上手く引き合わせた。あたしとフツミ君とハヅチ君に対しても指導をして下さった。あたしとアマツ君がより仲良くなったのを見た鹿島の人たちは、あたしの許嫁をカガセさんからアマツ君へと変更した。

 

 誤算だったのは、アマツ君があたしの癖が移ったのかアザミ達に「ざぁこ!」って言葉で力の差を教えてあげるようになってしまったこと。そして、三嶋アザミはいくら私が距離を置いていてもビジネスライクだけど普通に接してくれるということ。どんだけ精神年齢高いのよって思った。

 

 そしてあたしたちは初等部を卒業し、直轄校または忍軍附属の教育機関である中学校へと散り散りになった。あたしが『冷血女』アザミを苦手にしているからって、勝手にイジメをしていたざこざこ共は木ノ葉隠れの忍者に相応しくないって判定されて忍者になる道を閉ざされた。そりゃそうに決まってんじゃん。そんな事も分からないやつらには力を振るう資格すら無いってこと。どんな教育受けてきたのかしら?

 アザミたち御令嬢と御曹司たちは直轄校ではなく忍軍附属の中学校へと行った。直轄校はエリートの集まり。いくら名家の出身でも、自分の力量をちゃんと分かっていないと。

お兄ちゃんたちも言ってたけど、直轄校を無礼るなってね!!諏訪軍団の子の多くが附属中学校行き。

あいつらの血継限界が覚醒するきっかけを知らないけど、力は有効活用すべきだと思った。



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13.5 雷(いかづち)の剣と服(まつろ)わぬ星

ニーサン視点です

ネタバラシ回


9月13日 13:38

 

―――少し遅めの昼食にと、弟と共に入った食事処は賑わっていたが辛うじて2席分だけカウンターが空いていた。イタチは店員からカウンター席について尋ねられると、快く応じて案内されてカウンター席へと着いた。ここは『雷霆(らいてい)の鹿島』こと、鹿島氏族が祖神と伝える軍神を祀る『鳴神(なるかみ)神宮 木ノ葉分社』の参道にある食事処。ちなみに彼らの連合する氏族である香取は真正面に敷地を構え、そちらには同じく彼らの祖神を祀る『石十経津(いそのふつ)神宮 木ノ葉分社』が。静織(しとり)氏族には『星織(ほしとり)神社』が。まるで対角線上にある星宮氏族の領域を監視するように、神社特有の清冽な雰囲気の中に確かな緊張感を以て3氏族は座している。この鹿島と連合する氏族が固まって住む領域があるのは、木ノ葉隠れの南東部。鹿島の鳥居が見つめる先には『不屈の氷龍』こと、諏訪氏族とその連合氏族・諏訪軍団の領域が丁度真逆である里北西部にある。

 

 

「兄さん。今日はどうだった?」

 

剣術道場のすぐ前にある食事処の一番奥にあるカウンター席で、首に青いタオルをかけたサスケがイタチに話しかけてきた。その黒髪はシャワーの後からまだ湿ったままで、風邪を引かないか心配になった。

 

「先週よりも良かった。ただ、まだ少し踏み込みが甘い」

 

「アレでもかよ!」

 

心底残念そうに、サスケはがっくりとうなだれた。今週は相当に自信満々だった。そんな弟の姿を微笑ましく思いながら、イタチは読み終えたメニュー表を渡してやる。9月上旬のこの日、鹿島氏族の領域は参拝客と稽古帰りの忍たちで賑わっていた。

 

「兄さんは決めたか?」

 

「俺はこちらの定食にする。季節の甘味付きだ。ハーフサイズなのが気になるが」

 

「なら、俺も同じのにする。で、甘味は兄さんにやるよ。今日はオレが注文する番だな」

 

鹿島氏族とその連合氏族は剣術に優れている。そして霧島氏族は別系統の流派を扱っている。木ノ葉隠れにも木ノ葉流がある。その事から、イタチは1ヵ月に1度を目安にしてそれぞれの流派の道場へとサスケを伴って通い、交流試合を申し込んでいる。普段はクールに冷静に努めて振舞っているようだが、こういった兄弟水入らずの時間になると途端に無邪気になるのをイタチはなんとも可愛い子だと思っている。今日のイタチには目的があった。鹿島氏族を客観的に観察するという目的が。

 

「すみません。このBセット2つと、この季節の甘味を1つにして普通盛りで頼む」

 

にこやかに、よそ行きの笑顔でサスケは店員に注文を伝えた。少し鹿島ライカと似た顔立ちをした若い女性店員は「ありがとうございまーす!」と元気に応え、厨房の方にそれを通る高い声で通す。

 

「サスケ・・・」

 

「遠慮なく食べろよな、兄さん。あんた最近疲れてて心配だって義姉さんが言ってた。頼むから隠すな・・・。食べたかったら追加で注文したっていい。オレも稼いでるし、ちゃんと財布持ってきた」

 

 イタチは無言で数度瞬きをした。「最近弟さんちょっとチャラいよ」と、はたけカカシから言われていたため内心では心配していたのだ。それが服装(ファッション)に限定されていた事が判明し、胸を撫で下ろした。前世の長野県戸隠時代、弟だった当時中学校1年生の佐助(サスケ)が夏休みが終わる寸前に突然グレたのだ。安心したイタチはサスケと二人、他愛もない話をしながら配膳を待つ。待ちながら周囲を窺い、会話内容を調査する。

 

                       ★★★

 

 この情報収集任務が必要になった切っ掛け。それは扇城屋を乗っ取った形となった星宮一族の訴えだ。彼らが何故、扇城屋を乗っ取ろうと思ったか。その理由に関係する。彼らは里や国の要職に就けない代わりとして、九尾の件でうちはと共に疑われながらも経済活動で里を支えて信頼を得ている”扇城”と接近した。民間分野で誰も文句が言えない地位を手に入れて発言権を得ようとしたが、肝心の扇城家自体が予想以上に里との信頼関係を築いていた。里の中枢に関わる役職に就いた者も居た。それはスパイとして送り込んだ星宮の血を引く扇城家の者からの報告で明らかになっている。その者は星宮アマツと対話し、いわゆる”闇堕ち”を回避するために動いてきたのだが。アマツは”彼女”とは仲良くならず、五代目火影が目を付けている男とばかり過ごした。彼女はあの事件で懐いていた秘書の職にある親戚の女性と仲が良かった血の繋がった友人―――星宮家の母と姉を亡くし、せめて一人残されたアマツだけは誤った道に行かぬよう努力してきた。カガセの行動を怪しみ、三嶋フウレン特別上忍を通して三代目火影に情報を報告してきた伝説の三忍・自来也とは”前世”の世界に於いて陸上自衛隊の上官と部下の関係にあった女性。前世の諏訪オカヤとは同じ災害派遣に行き彼女が上司で幹部、オカヤは部下で3等陸層。彼女を庇ったオカヤの突然の死を悲しんでいた。そして今世彼女は再び友を亡くした。星宮スバルとセイラの兄妹である。

 

 常にアマツの一番近い距離にいた、扇城屋で最高経営責任者の側近として働いていた中忍、扇城ハルキ。五代目火影・千手綱手はその男をかねてより怪しいと思っていた。その男は星宮一族と扇城一族双方の血が混じっていると思われがちでサスケもそうだと思っているが、実際には鹿島の者だ。経緯は少し複雑で、星宮と和睦をと考えた鹿島が星宮に養子に出した子供で写輪眼の使い手でもある。扇城一族の”うちは”に対する献身は健気なほどで、うちはを警戒する鹿島の感情を和らげようと鹿島に対して扇城から嫁を出した。そうして生まれたのが、扇城ハルキ。扇城の養父、星宮の養母によって彼は育てられた。彼が養子に入ったのは5歳の時。亡き扇城タイキはハルキを血の繋がった従兄として認識していた。5歳といえば、かなりしっかりしてきた年齢である。扇城は星宮と親しい。その為、星宮を監視するために送り込まれたといっても不思議ではない。ハルキは中忍になった18歳の頃、熱心に扇城マサキに対して扇城屋の仕事を手伝わせて欲しいと頼み込んで側近の座を勝ち取った。ハルキは仕事が本当に仕事が出来る。

 そういった事情もあって、扇城一族はうちは側に対して『血を不用意に拡散させた』事をいたく気にしている。イタチとしては、彼らの努力があって里内で信頼を勝ち取る事が助けとなった事実を重視している。済んでしまった事は仕方ない。こう考えていかなければ停滞するのみ。前に進むには許すのも必要だ。

 

 

                        ★★★

 

 鹿島。この転生者が興した氏族は里に対する忠誠心が非常に高い。『能力の高い者には果たすべく責務がある』という家訓を掲げる。能力の平均値が高いエリート一族の一つに数えられ、正義感が強い。それだけに里の利益について常に考えており、里に不利益となる事を徹底的に排除しようとする。その矛先が向かうのは『うちは、扇城』、『星宮』そして『諏訪軍団』の3グループだ。『うちは、扇城』に対してはマダラの里抜けと操った九尾を伴った襲撃、二度目の襲撃、そしてあの事件が理由。『星宮』『諏訪軍団』は戦国時代に於ける領土戦争での怨恨が理由。だが『うちは、扇城』に関してはイタチの帰還と他一族との交流を見て、かなり脅威度を引き下げている様子。

 

 かつて鹿島によって主君を失い天龍湖に押し込められた諏訪は土着勢力を配下に収めて新たなる国を興し、君臨した。そこからも戦国時代が終わるまでは戦い自体は続いていた。広大な領地を誇る主君に仕えていた忍一族が信仰を中心にした共同体へと変化したのだ。里創設の噂を聞いた彼らのうち頭領家と祭祀家の分家は里へと入植し、祭祀に関わる氏族連合の家々だけが天龍湖周辺に残って藤森財閥の創設と地域発展の中心となった。藤森財閥は生糸の生産に始まり紡績工場の設立をきっかけに知名度を上げ、今では転生者やその家庭出身者である民間人がペイン襲来やら忍界大戦の戦火を避けるために入学させる『私立藤森学園』という全寮制の教育機関の設立、観光業への参入などと手広く手掛ける地方財閥だ。氏族全体の経済的後ろ盾であると同時に、忍を輩出する家庭に対する血が濃くなり過ぎないために存在する遺伝子の供給源としても機能している。設立された木ノ葉隠れに来てからは扇城、そしてうちはと友好的な関係を築き保ってきた。あえて政治の中枢に接近する事なく、彼ら曰く『立場を弁え』ながら堅実な生活を送っている。鹿島とは宿命のライバル同士。一応は【休戦協定】を結んでいる。しかし諏訪の者は鹿島を遺伝子レベルで苦手としている。ビジネスライクな態度と互いの我慢による絶妙なバランスで成り立っている関係だ。

 現在の頭領は諏訪ユウヤ。里創設時に頭領だった諏訪イザヤが従弟のシュウへと地位を委譲して以来、そこから続く3~4世代が頭領家の”本家筋”だ。諏訪イザヤは妹を政略結婚で鹿島頭領の弟に嫁がせ、頭領の座を従弟の諏訪シュウに委譲した彼自身は隠居。生涯独身だったという。

 

 問題は星宮だ。星宮は鹿島らが使えていた国の国主が手に入れようと考えていた領地を治める武勇に優れた氏族で、鹿島の者たちを簡単に蹴散らす程の戦闘力を誇っていた。それを鹿島と氏族連合が使えていた主君は領地拡大に当たって苦々しく思い、どこにも属さない事から『服(まつろ)わぬ悪の星』と呼び配下である彼らに討たせようとした。だが星宮は強敵だった。その過程で数多の犠牲が出た。長きに渡る戦いは憎しみを産み、増幅させ、埋まらない溝を作った。いくらいがみ合っていても、転生者を始祖とする彼らの目的は『4度ある忍界大戦で上手く立ち回り犠牲者を減らす事』。それらは帰らの祭神による”お告げ”として神社に受け継がれ、転生者ではない者たちにも強く信じられている。世界に過剰に干渉せずいる方法を彼らが模索した結果―――それが宗教だった。名前だけを借りた神々の助けで信仰心を高めて警戒心に訴えかけ、影分身による経験値倍増という事実もまた、”お告げ”として伝えられた。祭神による”お告げ”とはいっても、原作を知っている上で分かっている事実をそれらしく仕立てただけのもの。転生者達が生前、慣れ親しんだ神々の名を借りているに過ぎない。それでも信仰があれば、世界を救うための嘘も説得力を増していく。その結果が優秀な上忍を大量に輩出している現在の状況である。

そして彼らは木ノ葉隠れに集った。『世界の終わりに立ち向かう者たちを守れ』という”お告げ”の許に。

 

 同じ目的を持っていた筈の者たちはそれを見失い、争い合った時代もあった。殆どの氏族たちが”合図”である”木ノ葉隠れの創設”を機に歴史が産んだ怨恨を捨て去り、初代火影の許に『里を支える枝葉』として集った。しかし鹿島とその氏族連合たちはどうしても、どう藻掻いても、星宮を許せなかったらしい。あまりにも血が流れ過ぎたのだろう。同じく不倶戴天の間柄だった諏訪氏族は当初の目的を忘れず、『生き残り戦い抜く』段階へとシフトした。それが【休戦協定】だ。条約を結ぶ条件が友誼の証として嫁を出し合うというものだったのだが、長く鹿島との血で血を洗う争いにより犠牲ばかりを出してきた星宮はそれを拒否。徹底的に不利な条件を突っぱね、それどころか再び鹿島と戦う姿勢すら見せ始めた。星宮は里に対する忠誠は確かにあったが、権力に擦り寄るよりも自分たちのスタイルを貫く気質の者たち。作られたばかりの里において二つの勢力は喧嘩が絶えなかった。生き残るために時には裏切りを行った事もあった星宮を、鹿島は非常に軽蔑していた。それが『いつ裏切るか分からぬ服わぬ星』という言葉へと繋がっていった。

 

 そんな時に起こったのが、『うちはマダラの里抜け』と『九尾を写輪眼で操っての里襲撃』という事件である。事件の影響で、マダラの行動によって唱えられていたうちは一族と写輪眼に対する危険視が更に高まっていった。そして鹿島はある計画を思いついた。里にとっての脅威はうちは、鹿島にとっては星宮。里にとっての脅威を一つに纏めてしまえば、里にとっては効率的に治安を守れるのではないか?それを思いついた当時の鹿島当主の弟・鹿島ヒタチは”うちは”の分家・扇城の中でもマダラに同情していた僅かな層に対し、星宮との縁談を薦めた。同時に志村の者たちの中でも結婚に困っている者に対し、結婚の世話をしてやった。勿論相手は星宮の独身者。当時の鹿島と扇城は現在よりも仲が良かった。

 結果、写輪眼を発現する遺伝子を持つ星宮の人間が誕生。写輪眼はすぐには出て来ず、志村の血を引く者たちとの間に生まれた混血2世代目にちらほらと発現者が登場した。分離の法則が為した結果だ。鹿島は『危険分子』という名目で圧力をかけたが星宮の勢いは止まらず、鹿島は次第に過激な方法へと段階を進めていく事になった。

 

 それが、里の要職へ就く事の妨害である。対象は里の中枢―――政治に関係するポジション。そのため星宮は民間の仕事または政治に近付かない生き方へと方向転換し、就職先として扇城屋を受け皿にするようになった。扇城は星宮に対して寛容だった。扇城が星宮を受け入れて重宝していれば、鹿島も態度を軟化させると信じていたのだ。星宮は星宮で、願うのは『誰もが等しく飢えない平等な』平和。肥沃ではない土地を行動範囲にしていた氏族であるため、戦う事でしか生き残っていけなかったのだ。周囲を鹿島とその氏族連合に固められ、交流があった諏訪は大渓谷と山脈の彼方。その考えにマッチしたのが、扇城マサキから見て年齢が離れた異母兄である扇城イリヤだった。扇城イリヤは共産主義的な考えに傾倒しており、【世界を統一した統一政府を樹立して全てを共有する飢えない平和な世界】を理想としていた。星宮の者たちは扇城イリヤを支持した。彼は全ての従業員に対して平等だったからだ。良くも悪くも。どんな仕事をしていても同じ給料と待遇を徹底したのだから。そんな異母兄の考えと見通しの甘さ、そして過剰な理想主義を嫌悪していたのが扇城マサキ特別上忍。彼は異母兄の死後、会社を改革すべく立ち上がった。星宮の者たちが不用意に支社を世界に展開しようとするのを阻み、給料体系も年功序列に基づいた同じ給料から実力主義へと。社員の半分以上を占める様になっていた星宮の者たちはそれを嫌がり、同じ考えだった『戦争すると儲かる』事をよく知っている株主たちと歩みを揃え始めた。扇城は里と国のため、評判の悪い富裕層を識別するため藤森財閥と密約を交わしてそれらと関係を持ってきた。戦争の可能性を少しでも下げるために。それに関して忍者の諜報技術はとても役に立ったのだ。

 

 野心溢れる星宮は扇城屋の経営陣にも続々と名を連ねるようになった。その頃に起こったのが10月10日、うずまきナルト中忍が生まれた日に起こった九尾襲来事件である。うちはに対する不信と疑惑は”原作通り”に増していった。里の復興時にうちはの居住区の隔離もまた同様に起こった。違うのは警務隊の者たちの取り締まり態度が以前と変わらなかった事と、クーデター計画など起こさなかった点か。九尾襲来の疑惑を掛けられているにも関わらず、にこやかで愛里心と愛国心に溢れた”転生者”のうちは達。口には出さなかったが、彼らは確かに前世のイタチに対し「オレ、うちは一族が一番の推しなんだ!」「流石に可哀そうすぎるでしょ、うちは」「出来るなら助けたいわ」と言っていた戸隠の親戚たちだった。

 星宮は九尾の被害で更地になって、歴史書の殆どを失った扇城に目を付けた。実際には扇城マサキが巻物に本物を封印しており、スペアがあるのみだったのだが。肝心なところで方向性が違っていた扇城をどうにか経営から引きずり降ろそうと、彼らは新たに建てられた星宮神社の保管庫に『危険で不安定なな扇城一族』を演出する巻物を作り置いておいた。信用を無くさせ、後ろ盾である”うちは”に愛想を尽きさせることを目的として。優しいサスケは愛想が尽きるどころか、扇城を心配していた。

 

 一方で星宮は次第に『世界的大企業を乗っ取ってしまえば発言権が増す』可能性に気付き、扇城マサキを引きずり下ろす方向へと進んでいった。株主と共謀して扇城マサキを引きずり下ろし、代わりに『どうすれば平和になるか』に関する勉強をしていた扇城トオルを担ぎ出した。扇城トオルは前世でイタチが在籍した国立大学の先輩教授で、第二次世界大戦と戦後を専門としていた近代史の望月教授。そのため、扇城イリヤの考えの甘さにはとっくに気付いていた。生前はスパイ映画を好み、『裏切りのサーカス』がお気に入り。口先だけなら『007』のジェームズ・ボンドになりたいのに、彼が一番近いのはQ。特殊なギミックを搭載した忍具(ガジェット)開発のアイデア構想に明け暮れてノリノリで忍者になった、本当は経営者など向いていない研究者向きの人物だ。彼は常に『もぐら』を探していた。それはもうノリノリで。星宮の者たちはそれを知る訳がない。扇城トオルは『内需(ドメスティック)すぎる経営者』となり、わざと星宮の者たちを煽っては様子を見てきた。ノリノリで。もぐら叩きの対象には側近の扇城ハルキも含まれていた。扇城マサキが目を付け、トオルが継続して監視してきた怪しいヤツNO1。

 写輪眼を本家筋に限定されるが手に入れた星宮はまたしても気付いた。『別天神』という万華鏡写輪眼の存在に。星宮が向ける恨みの矛先はもはや鹿島だけではなく、確かに里にも向いていた。鹿島の一向に改善しない態度、阻まれる昇進。平和への希求。そこから万華鏡写輪眼を利用したクーデター計画が立案されたが、誰がどう行動したか、『クーデターを企てているのはうちは』という間違った情報へと入れ替わった。その結果が、『どうしてああなったんだ』と里人が首を捻る『うちは滅亡事件』である。

 サスケは言った。『兄さんがいなくなってから、何故か犯人が確定していないのに兄さんが犯人だって風潮が里内で盛り上がってきた。証拠など無いのに。オレも色々あったが、あんたを信じてた。その意見を言っているヤツらは決まって鹿島の奴らだった。星宮が嫌いなら星宮だって言えば良いのにな。理由は分からないが、あいつらには里の世論に影響を与えるだけの権力がある』。

 

 どうにかここまで、身内に対する諜報を躊躇いなく気軽に行う”山犬”こと三嶋氏族と『もぐら叩き同好会』の会長だと自称する扇城マサキたち『創業時から変わらぬ品質と理念を保つ扇城屋創業者一族』に協力する形で判明した全体の大まかな流れだ。諏訪アザミら第77班を諜報向きに育てた甲斐があったと、イタチは心から思っている。第77班は目的を失わない、幻術に耐性がある。

大人並みの判断力、意思決定力がある。諜報をさせるにもってこいの特徴を持ち合わせている。

―――実際に中身は不幸な事件で命を落とした30歳前後の成人した男女なのだが。

 

                        ★★★

 

「サスケ。食べ終わったら鹿島の者と手合わせをしてみないか?」

 

兄の言葉に弟は視線を上げ、「そうする!」と無邪気な声で応えた。イタチが生きてきて一度も発した経験が無いような、純粋に感情を表現するような明るい声音だった。

兄弟は仲良く会話しながら遅めの昼食を食べ進める。宿敵としてきた者たちの訴えに対し、戸惑いを隠しきれない鹿島の者たちの発するざわめきを耳に感じながら。




【氏族ごとの能力平均値】

《鹿島》
忍3.0 幻2.5 体3.5 賢3.0 力3.5 速3.0 精4.0 印3.0 合計:25.5

《香取》
忍3.0 幻2.5 体4.0 賢3.0 力3.5 速3.5 精3.0 印3.0 合計:25.5

《静織》
忍3.0 幻3.5 体2.5 賢3.0 力3.0 速3.0 精3.0 印3.5 合計:24.5


《諏訪》
忍3.5 幻3.5 体2.5 賢3.0 力2.5 速4.0 精2.5 印3.0 合計:24.5

《三嶋》
忍3.0 幻2.5 体3.5 賢3.0 力3.0 速2.5 精3.5 印3.5 合計:25.0

《稗田》
忍3.0 幻3.5 体2.0 賢3.0 力2.5 速2.5 精2.5 印3.5 合計:22.5

《霧島》
忍3.0 幻2.5 体4.0 賢3.0 力3.5 速3.5 精3.5 印2.5 合計:25.5





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14 輝く星の背

ニーサン視点

ニーサンから見た第77班は、弟子というよりも大学のゼミ生のような感覚です。
最低限戦えるようになる基礎を作っただけで、それ以上はしていないです。しかし諜報に関する知識は後々役に立つはずなので勿体ぶらず教え込んである。

音隠れ=昨年手に入れた星宮アマツがメンヘラすぎて手に負えないため、安定剤代わりとしてユタカ班の3人を連れ去った。そうするしかなかった。アマツはあまりにも才能と容姿に恵まれていたのだ。大蛇丸的にも手放すのが惜しい程に。

現在のアマツ君=177センチまで伸びた。UCの闇堕ちリディみたいな表情。
        メンタルがメチャクチャ状態。顔は相変わらずのイケメン君。
        「ライカとフツミ、それからハヅチが欲しい。話はそれからだ!」


 鹿島と星宮―――この2氏族の直接的な確執は里の創設期時代にまで遡る。当時の鹿島の頭領は名をトキワ、弟のヒタチがその補佐だった。戦国時代に生じた犠牲の多さから鹿島は星宮を強く憎んではいたが、当時の頭領トキワは当時の諏訪頭領であるイザヤと友情を築いていたため、『仲良くなれる』と信じていた。諏訪もまた鹿島に対して大きな損害を与えてきた敵だった。諏訪イザヤは当時の星宮の頭領、セイガと仲が良かった。諏訪は戦国時代が終わる頃に天龍湖の戦場で鹿島を打ち破り、勝利。しかし里入植後に不平等な停戦協定を結ばされそうになったため反発し、その結果、イザヤは同じく不平等な条件を突き付けられている星宮と共に里上層部にそれを訴えた。里は3氏族の諍いに真面目に取り組んだ結果、鹿島に里の仲間として星宮と諏訪と接するように伝えた。しかし、諏訪イザヤと星宮セイガは死んだ。

 

『この命を平等な協定へと捧げる』と書き残して自殺した。

 

 精神的支柱である前頭領を亡くした代わりに、諏訪は平等な条件での”休戦”条約を手にした。その後、鹿島と諏訪はトキワとイザヤが望んだような仲の良い雰囲気ではなくビジネスライクな”同じ里で暮らす同僚”といった関係で落ち着いた。どちらかといえば我慢している側は諏訪の方だ。イザヤは隠居して生涯独身だったと伝えられているが、結婚する以前に若くして命を落としたので当然そうなる。

 

 諏訪と並行して星宮にも、鹿島トキワは諏訪と同様に仲良くなれると信じて交渉を持ちかけていた。相変わらず停戦協定の条件は不平等だったが、それはトキワが考案したものではない。弟にして補佐役のヒタチが考えたものだ。トキワは弟のヒタチに全幅の信頼を寄せていた。苦手分野を丁度良くカバーしていたからだろう。イタチはそういった記録資料から、トキワは弟が決めた条件にしっかり目を通せていなかったのではないかと考えた。どの一族や氏族にも、記録大好きな人間は必ず存在しているものだ。星宮セイガは鹿島との直接的な話し合いは持たなかったが同陣営に属した若き頭領同士、親友だった諏訪イザヤの言葉は聞き入れた。転生者が興した氏族同士、合う合わないはある。体育会系と文化系の溝を思わせる深いクレバスが彼らの間には広がっていた。鹿島と香取は体育会系、諏訪軍団は文化系と例えるのが最適な気質の違いがあるからだ。交渉力が高かった三嶋氏族が仲裁に入って、諏訪イザヤを主導に行われた話し合い。収集がつかなくなった結果、諏訪と星宮は里に直接訴えかける事にした。その結果が諏訪イザヤと星宮セイガの自殺なのだが、諏訪は鹿島に対してビジネスライクな態度に徹し、星宮は鹿島に対して何も言わない代わりに不満を露骨に募らせる、という対応の差へと繋がった。同じ様な頃にマダラが里を抜け、九尾と共に襲撃を仕掛けてきた。

 

 以後鹿島は何かにつけて星宮に突っかかり、時には実際に手を下し、『里のために不穏分子を監視する』という名目で様々な工作を行ってきた。ここで重要になるのは、『鹿島の者で暗部隊員は一人もいない』『警務隊への入隊者もいない』という点である。イタチが生きた最初に忍界において、うちは一族はイタチが入隊するまで暗部隊員が出ていなかった。だが今回のうちは一族は里からそれなりに信頼されており、暗部隊員をイタチ以前でも普通に出してきていた。どういう事かというと、鹿島は彼ら自身が思っているよりも里から信頼されておらず、実際にはたびたび危険視されている。鹿島とその氏族連合には由来が不明の『正規部隊こそが誉れ』という根強い風潮が存在している。理由は一つ、暗部にスカウトされる者が一人たりとも出ていないからだ。その事実が危険視を物語っているのではないか?

 

 鹿島トキワとヒタチの兄弟はもういない。鹿島トキワはかなり昔、彼が50代半ばほどで戦死している。暫定的な頭領である鹿島ライウ上忍の祖父に当たるのが、鹿島ヒタチである。鹿島ライウ上忍たち兄弟と鹿島ライカ中忍の父は、名前を鹿島ダンゾウ上忍という。『ダンゾウ』といえば志村のダンゾウを想像するが、名前だけなりよくある部類に入る。鹿島ダンゾウ上忍は任務中に怪我をして療養中。そのため父である鹿島ヒタチの死後に頭領に就任する予定だったが、現在は鹿島ライウ上忍が暫定的な頭領の座についている。イタチは鹿島ライウとは仲良くしているが、鹿島ダンゾウには挨拶する前に療養に入ってしまったため彼には正式な挨拶を出来ていない。鹿島ダンゾウには謎が多い。三嶋フウレン特別上忍の同期で、若い頃は仲裁役だった彼は『ダブルダンゾウ』に挟まれて苦労してきたようだった。分かっている事は、二人のダンゾウは気質が似ているという点。どちらも野心的だ。違うのは鹿島の方が『決定権を持つ者を守る』『火影ファースト』という点。火影の地位にある者に対してはどこまでも忠実で、自己犠牲を厭わない。仮に志村の方と戦いになったとして、五代目を守るために命を躊躇わずに投げ出しただろう。里を守るためなら火影や根、所属する忍者を犠牲にする志村の方とは方向性が違う。里を守るため、まずは自分から犠牲になろうとする。ノブレスオブリージュの精神を家訓とし、自分よりも弱い者を守るため尽力している。

 その反面、危険な部分もある。仮に火影や上層部か見てすぐわかるような間違った決定をしたとしても、絶対に逆らわずに従おうとするのだ。そのため疑心暗鬼になり易い傾向があり、精神と身体のバランスを崩しやすい。一度壊れるまでは誰よりも強いのだが、一度綻びやヒビが生じるとどこまでも堕ちていってしまう。そうなったら戻ってこられる人間は非常に少ない。寛容で豪快な善人だと知られた鹿島トキワでさえ、晩年は親友だった諏訪イザヤを精神的に追い詰めた自責の念で苦しんだようで、若者を生かすために起爆札で自爆して戦死している。愛する者の命を自分の命で埋め合わせをしようとする者が多いのだ。

 

 正義感と忠誠心が暴走し、一度疑い始めたら改めるのが難しい。まだ何もしていない者たちに対し執拗にボロを出す瞬間を探し、本当の憎しみを鹿島に対して持つようになるまで追い詰めてしまう。疑心暗鬼により、火の無いところに火種を作り出す。実体の無い憎しみの摩擦で煙が立ち、現実へと変えてしまった。その憎しみの対象こそが、星宮一族。鹿島がかねてより危険視していたうちは一族は排他的な部分があったため無理だったようだが、そしてその分家である扇城一族の中でもマダラに同調していた者たちと星宮一族の一部に仲間意識を持たせ縁組させ、里と鹿島に対する不信感を持つ集団を作り上げてしまった。

 そういった集団こそが扇城屋に勤務し、里への経済的貢献の大きさから強い発言権を持つ扇城屋を乗っ取った一団だ。元は忍者だったがあらぬ疑いをかけられて忍者でいる事にメリットを感じなくなり、民間で生きていく事を決めた者たちだ。それには星宮アマツとカガセを育てた育ての両親も含まれる。亡くなった星宮スバルとセイラの両親もまた、民間で唯一と言って良いほど鹿島の圧力が無い扇城屋で活躍する事によって里への貢献を目指した者たちである。扇城屋の里への貢献と貢献は無視できない程だ。星宮一族は扇城屋の経営も何もかも支えるほど優秀で、扇城屋とは段々と経営方針に違いが出てきた。結果が発言権を手に入れて待遇改善を図るという目的を持った、扇城屋に対する経営者交代クーデターである。

 

                       ★★★

 

 ハッキリと口で『差別を止めて欲しい』と言った星宮一族に対し、鹿島がどう動くのか?イタチはそのヒントを得るため、食事をしながら耳に全神経を集中していた。鹿島の者が『ダンゾウ様』という言葉を口にするたびに反応しそうになるが抑え、イタチは気配を殺して耳を澄ました。『ダンゾウ様』という名を口にするのは、主に彼の持つ私設部隊たる側近たちだ。扇城ハルキは扇城屋の経営が星宮に切り替わって以来、そこでもポジションを捨てて鹿島の側についた。かねてより決定していた鹿島ライカの母方叔母との結婚を機に姓を鹿島にし、素知らぬ顔でここの敷地を闊歩している。サスケはまだ扇城改め”鹿島ハルキ”にここでは遭遇していない。

 サスケはハルキを苦手としてはいるが、扇城タイキの死をきっかけとして『アマツを支えてきた人』という見方を同時にするようになっている。決して悪い傾向ではない。物事や人物を一つの側面からしか見ないと、正確な全体図が掴めなくなる。偏った全体図しか見えなくなると前世の長野県時代、イタチは大学のゼミ生たちにそういう風に教えた。何のためにハルキはアマツに対して親身になり、星宮カガセへの復讐心を激しく駆り立てたのか。同い年の同期だった人間として、サスケはアマツたちの真実を知りたがっている。

 

 扇城屋の邸宅にあったハルキの部屋は不気味だった。『ダンゾウ様』に憧れるあまり、愛の言葉がそこらじゅうに張り付けてあった。イタチは教え子のアザミを伴ってそこに突入した事があったが、うら若き普通の乙女には刺激が強すぎる部屋だった。「腐ってなくて耐性が無かったらショック死してました」とは彼女の言葉である。前世も今世もドぎついBとLの世界に全身埋まっている彼女でなければ任務どころではなかっただろう。ちなみにイタチは前世の大学教授時代、そういう類の女性のゼミ生とよく接していたため耐性がある。扇城トオル上忍が話していた『アマツ君がいう”ダンゾウ様”』の正体について探っていた時でもあったので、ハルキの部屋は大いにその謎を解くヒントとなった。「自分の変態性を隠すため元CEOの名札を剥がさずにおいて性癖を押し付けるなんてサイテーです」と屋敷を去ってからアザミは輝きを失った瞳で淡々と言った。それにはイタチも同感だった。残念ながら、星宮の者たちの中には扇城トオル上忍をド変態だと思い込んでいる者達がいる。それもまた経営陣交代劇の幾つかある遠因の一つである。

 三嶋フウレン特別上忍の協力により、星宮アマツが師事していたという『ダンゾウ様』の正体が志村ではなく鹿島だと判明しただけでもかなりの進展だ。しかし何故、鹿島ダンゾウは『志村』と名乗ったのか。本物の志村ダンゾウの顔が一般にはあまり知られていないのを良い事に、何故同期の姓を使ったのか。志村と鹿島の繋がりは薄い。強いて言えば、鹿島の手によって星宮と志村の一部が婚姻し、更には扇城と混ざった。鹿島視点での脅威を一まとめにしてしまう際の配合の一つが志村というだけのようにも見える。

 

 サスケがハルキを違った側面から見るようになったのは悪い傾向ではないが、ハルキの部屋について詳しく知ってしまった時が一番怖い。サスケにとってこれまでハルキに抱いていた認識がひっくり返る可能性があるのだ。それも知り合いの性癖という、最悪の部類に入る分野に踏み込むという形で。幸いにも扇城トオル上忍を変態とは認識していないようだが、ハルキのアマツに向けていた意味深な視線の意味を曲解して今度こそグレかねない。グレるのはいつ、どこからやってくるか分からない。前世の長野県時代もそうだった。その時は確か、前世の中学生男子だった佐助(サスケ)が敬愛するカカシと同じ姿をしたエリート捜査官が、うちはオビトと同じ姿の環境テロリストを追う事に夢中で全く構ってくれない事を理由にグレた。成人してから聞いた話であったが、青少年の心のうちを聞く貴重な機会だった。青少年の心の中では一見関係が無いように見える事柄が連鎖して化学反応を起こし、俗に言うグレた状態になる事があるらしい。

 

                       

                       ★★★

 

 飲食店を出た兄弟の前にふらりと現れたのは、やつれきった顔をした”鹿島”ハルキだった。警戒心を剥き出しにしているサスケを視線で制しつつ、イタチは少し低い場所にあるハルキと目線を合せた。扇城ハルキは中忍の階級にあり、いつ上忍になっても不思議ではないほどの技量を持っている。平凡そうな印象を見る者に与えるが、実際には扇城トオルが疑いつつも護衛を兼ねた側近にする程の実力者だ。

 

「・・・扇城ハルキ」

 

「今は鹿島です」

 

その言葉にサスケが怪訝な顔をした。

 

「どうされましたか、鹿島ハルキ中忍」

 

「うちはイタチ上忍、あなたを呼びに参りました」

 

ハルキの冷淡な口調にサスケはより警戒を強めた。イタチがハルキの姿を観察してみると、その姿は最後に目撃した時よりも不健康に見えた。頬はこけ、眼の下には隈があり、体が心なしか薄い。

 

「火影様より呼び出しです。貴方の教え子の諏訪アザミ中忍と、シスイ上忍の部下である扇城ハズキ中忍が任務の帰路にて抜け忍の星宮カガセと遭遇したそうです。それでは」

 

淡々と告げると、ハルキは瞬身で消えた。隣を見ればサスケが唇を強く噛み締め、両手を握りしめていた。イタチにとっても星宮カガセは愛する両親を、人によっては前々世と前世での時間を共有した者達を殺した仇。その言葉を聞いた瞬間、憎しみがはっきりと形になって心中に湧き上がる程には憎んでいる。だがそれを上回るのは、何故星宮カガセが無関係に近いうちは一族の者を殺すに至ったのかという純粋な興味だ。

 

「サスケ、唇が傷付いてしまう」

 

 唇を噛み締めるのを止めさせると、サスケは双眸を揺るがせてイタチを軽く見上げた。

黒い瞳には微かに涙の膜が張り、『あの日』をフラッシュバックしたのだろうと想像させた。家に帰ったらさっそく精神的なケアについて考える必要がある。フラッシュバックは擬似的に精神があの時、あの場所、あの瞬間に飛んでしまう。つまりは辛い記憶の追体験だ。

 

「・・・オレも行っていいか?話を聞く許可が得られなければちゃんとじっとしているから」

 

「それならいい。行こう」

 

 二人、鹿島の地区を離れて五代目火影のもとへと急ぐため屋根の上を駆ける。星宮カガセの情報が気になるのと同時に、イタチもよく見知った弟の同期2人がどうしているのかも気になっている。二人はごくごく平均的な中忍としての能力は持ち合わせているが、万が一格上の相手にでも遭遇したら生きて帰って来られるか分からないというレベルに留まっている。相手が星宮カガセともなれば、戦闘になったら一たまりもない。あの2人は同期の中では中の中から上、といったところなのだ。

 

 

 五代目火影の執務室に入れば、2人の中忍は元気そのものでイタチは安堵した。昨日からファイブマンセルのチームを組んで音隠れがある田の国との国境地帯の村で山賊討伐任務を割り振られていたのだが、2人だけがたまたま通りかかった任務帰りのヤマト上忍に救助され、どうにか無事に帰還したという。サスケは部屋の外にある休憩所だ。カガセの情報を聞くに至り、イタチを通じてワンクッション置くべきだとPTSDの発作を考慮した五代目火影が考えたのだ。

 

「アザミ中忍、ハズキ中忍、次はイタチに報告してやれ」

 

五代目火影に促され、青白い顔をした2人はそれぞれ「ハイ」と短く答えた。五代目火影とシズネ上忍もまた、イタチやシスイと同様にNARUTOという漫画が存在している前世を経験してきている。アザミとハズキとの接点は大学生時代の短期留学時のホームステイ先が、前世で米軍医官だった二人のハワイにある実家だったのだ。その近所に住むシズネ上忍の前世の実家にステイしていたのがハズキだ。そのため、2人にとってはイタチの目の前いる火影とその側近は安心できる相手でもある。ヤマト上忍は二人が在籍していた大学に自衛隊入隊の勧誘をしにやってきた、施設科の幹部。前世を含めれば全員が比較的親しい仲といえる。

 

「私と扇城中忍は鹿島ライカ・香取フツミ・静織ハヅチ3中忍と共に、田の国との国境近くの森林にてここ数カ月間村を荒らしている山賊の討伐任務を行っていました。時間の経過と討伐数を考慮すれば任務はとても順調だったと思います。途中で不審な気配がしたところ感知を行った結果、田の国方面から接近してくる者が約5名。隊長であるライカ中忍にそれを報告しましたが無視されてしまい、私と扇城中忍の二人で警戒を行っていました。敵の接近を警告したところやっと気付いてくれたので、フォーメーションを組んで守りに徹する事にしました。遂に会敵すると、相手は音隠れの忍でした。うち1人は薬師カブト」

 

「探知と同時進行していたのか。・・・成長したな」

 

イタチが率直に思った事を口にすれば、諏訪アザミは肩を竦めて驚いた顔をした。生前の日本のみならず国際社会でも、前々世と今世の世界においても、双方の教育現場で問題になっている発達障害。生前苦しんでいる姿を見て来たからこそ、それを最大限に生かしてイタチは諏訪アザミを訓練してきた。その一つが感覚過敏を生かした上で拡大させた『感知』である。少し前までは片方の作業にしか集中出来ていなかった。それを考えると、これは相当な進歩なのではないか?

 

「次は僕からですね。薬師カブトのターゲットは明らかにライカ中忍たちユタカ班3人と、僕の写輪眼でした。あちらにはアマツ君がいますから、スペアとして欲しかったのでしょうか?それはそうとして・・・、ライカ中忍たちは幻術で気絶させられて誘拐されてしまい、残った僕は両眼を狙われてアザミ中忍と一緒に防戦一方で・・・、もうダメだって時に星宮カガセともう一人霧隠れ出身らしき人と一緒に助けに入ってきました。僕もアザミ中忍も全身千本だらけでとんでもない状態になっていたのですが・・・、気付いたら週末の谷の近くの河原に寝かされて手当てをされていました。僕の方が重傷だったんですが、まだ貧血はありますけど綺麗に直して頂けました。アザミ中忍も顔の傷を跡なく治してもらっています。その後はアザミ中忍の方が元気だったので、星宮カガセと話していました。あ、別に交換条件とか、そういう事は一切なく善意だそうです」

 

「・・・善意?」

 

「はい。本人の口から聞きました」

 

諏訪アザミはポーチの中から手紙を取り出し、五代目火影へと渡した。その手紙には星宮一族の家紋である金星を意味する星が描いてある。それが意味するところはおそらく、『暁』としてではなく星宮一族の一員としてのカガセからの手紙。カガセが里にいた頃、イタチはそういった意味合いで個人的な手紙を受け取った経験があった。弟であるアマツもまた、家紋が入った手紙を個人的な要件で多用していたと聞く。五代目火影は手紙を開くと無言になり、アザミを招き寄せた。ハズキは貧血を起こしてうずくまり、シズネ上忍に介抱されている。アザミも実際には貧血状態なのだろうが、どうにか姿勢を保っている。

 

「【鹿島文書】とは何だ?」

 

「うちは一族を星宮カガセに滅ぼさせるよう里が命令を下した根拠となった、鹿島が作成した書面だそうです。彼は私とハズキ中忍に対し、『無償で治療する条件として火影様に伝えて欲しい』と言いました。あ・・・、実際にはこれが交換条件だと思います。造血丸を頂いたのですが、少し足りないようですね・・・。ごめんなさい、火影様。姿勢を崩してもよろしいですか?」

 

「分かっているからな、無理するんじゃないよ!諏訪アザミと扇城ハズキの両名は安心してしっかりと休め。今から3日間の休暇を与える。しっかり休め!!命令だぞ」

 

「はい、火影様・・・」

 

ふらふらとへたり込む少女にイタチは肩を貸してやった。頑丈で健康で骨太で恵まれた体格の持ち主だが、木ノ葉のくのいちの中でも小柄な部類。改めて20センチ以上の身長差を実感すると、その身体を背負う。彼女の父親ヤシマ上忍は背が高い方ではなく、思い出してみると諏訪軍団の者達は男性でも170あるかないかである。諏訪タツミ上忍と守矢凪上忍がたまたま上背があるだけなのだろう。

 

「すみません、イタチさん。私の方がだいぶ軽傷でしたが、理由あって血が足らず・・・」

 

「気にしなくていい。さあ、帰る前にそこの休憩場で休もう」

 

 

 

 少女の剥き出しの大腿部には包帯が巻かれ、そこから僅かに血が滲んでいた。とりあえず深い傷だけは治療して貰ったという通り、直ぐに治る浅いものは消毒以外手を付けられていないらしい。サスケがイタチに頼まれて購入してきた鉄分が配合されたジュースを飲ませていると、青白かった顔色が普段の健康的な色白な肌色へと戻ってきた。カガセの件をイタチの口から聞いたサスケは当初茫然としていたが、噛み締めるように言った。『カガセにはあの事件を起こす残忍さと優しさが同時にあるんだな』、と。あの事件が起こる前のカガセは優しい少年で、ライカの取り巻きにいじめられていたアザミを庇うような正義感があった。怪我をした5つ下の少女に嫌な顔を一つみせず手当てし、家まで送ってやるほどには優しかった。彼女を連れて歩くカガセの眼差しは優しく、途中で鹿島の者に嫌味を言われてもアザミを優先して守っていた。

 

「諏訪とハズキが無事で良かったが・・・、3人ともいなくなったのか」

 

「残念ながら。本当に、不甲斐ない。私がもっと強ければ・・・」

 

濃紺のスコートの裾が乱れるのもお構いなしに、ソファの上に正座したアザミはうちは兄弟に向けて深々と頭を下げた。『勝ちたい』という気持ち自体が希薄だった少女の瞳には明らかな闘志が見て取れた。前世では学習性無力感に苛まれ、自分に自信が無かった。彼女の心は年齢が片手の指だけで足りるような時期に筆舌し難い同級生や教師たちによる仕打ちによってよってバラバラに打ち砕かれて、戦おう、立ち向かおうとする気持ちと涙を奪ってしまっていた。今世もまた同じで、精神年齢の高さに助けられてはいたが、『今度こそマシになりたい』という一心で修行をしてきた。

 

「諏訪さん、君は・・・」

 

「・・・カガセさんと再会してから私、物凄く視界が綺麗なんです。視力の話ではなくて、色彩がとても鮮やかで、鮮明で、色褪せていなくて、ちゃんと現実感があって、もうフワフワしていません。イタチさんとサスケ君のように本当に大変な体験をされた人からすれば腹立たしいかもしれませんが、生まれて初めて『生きてる』感じがしたんです」

 

ふわふわ、現実感のなさ、色褪せた世界。これらは彼女が生前から訴えていた発達障害の二次障害に他ならない。それも解離性障害のうち、離人症と呼ばれるタイプの。自分で自分を操縦しているような感覚で、常に膜の内側から世界を観察しているような気分だという。おそらくだが、彼女は任務で命をかける事によって彼女自身と世界の繋がりを実感したのではないか?

 

「・・・オレにもその感覚は理解できる。オレにも現実感が失われた、自分が生きているのか死んでいるのか分からない時期があった。だが、それが突然途切れた瞬間にまた世界とオレという存在が戻ってきた。カウンセラーと精神科医によれば離人症というらしい。だから安心して相談したら大丈夫だと、思う」

 

「大丈夫。とっくの昔に相談済みだし、綱手様がいなかったら忍者の道を家族に選ばせて貰えなかった」

 

「それはまた・・・、長かったな」

 

イタチの胸には熱いものが込み上げてきていた。弟のサスケが同じ経験を抱えていた同期を気遣う姿は、後光が差す程に尊いものだった。軽々しく『頑張れ』と口にするのではない部分もまた、サスケが歩んできた過酷な道をイタチに想像させた。

 

これからの事を考えると過酷な日々が待っているのは確実だが、それでも、この前世から知っている少女は歩いていける。失っても、奪われても、また這い上がるための気力が彼女にはある。それだけは確かだ。

 

                       ★★★

 

 真夜中から降りだした土砂降りの中を青年は疾走する。頭の低い位置で結んだ艶やかな黒髪を靡かせ、宵闇をゆく。実体の無い憎しみを絶ち斬るために、疑心暗鬼に踊らされる者達を解き放つために。そして何よりも『見せしめ』のためだけに殺された同胞たちの無念を晴らし、同じ目に遭う存在を無くすため。

 

これ以上奪わせないため、奪わねばならない時がある。



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15 選ばれし者

弟さん視点です

【この物語でのニーサンたちの立場】
うちは一族→現代社会に転生してから忍界に戻った魂が多く、今回は扇城(せんじょう)という里との橋渡しになってくれるコミュ力高めの分家が存在しているため、里との関係は良好。流石に九尾事件の時には疑いを持たれたが、転生者仲間(扇城・三嶋・諏訪・霧島)たちの助けによって信頼を取り戻す。前世ではエリート警官一族。事件は現場で起こっているんだ!警務隊は天職!警務隊サイコー!!!実は暗部にも人材を送っているが、根とは関係なし。前世を顧みて静かに人生を閉じたかった。

シスイの自殺(死の偽装)→前世と何もかも違うけど、写輪眼自体は狙われているからほとぼりが冷めるまで姿を隠す事を勧められて実行した(うちは一族にはまだ生き残りがいる?)。その方法は滝に身を投げての自殺。うっかりハズキに見られた。
何かが起こるのか戦々恐々としていたら、何故か前世の長野で顔見知りだった星宮(星野)一族の同い年が前々世のシスイと同じような状況で死亡。

フガクパパとミコトママ→忍界から長野県長野市の警察一族に、またいとこ同士として転生し普通に恋して結婚。一族の統制が驚く程取れている上に穏健で、里の隅に追いやられて監視下に置かれているにも関わらず、ほとんど千手相手に反感を持っていない姿に感動。だが流石に警務隊しか職業選択の自由が無いことを悲しみ、里に対して段階を踏んだ正式な訴えを起こす事に決定。そのため他転生者氏族の助けを借りようとしていたが、鹿島たちから目をつけられて”勝手に”監視化に置かれる。ちなみに諏訪軍団の者達とは前世長野時代から顔見知り同士。

ニーサン→最初の忍界とは違い、天才には天才だがあまり突出しないよう控え目に巧妙に実力を隠して生きてきた。どこかの恵まれし子らの学園の教授みたいな学長がいる『ギフテッド忍者学園(廃止済)』に在籍していた普通の天才少年。今世下忍になった年齢は10歳、中忍になったのは12歳。暗部には入ったが根とは無関係で、別にイタチが最初ではない。親友で兄貴分のシスイも優秀だがあえて突出しすぎず普通の天才として生きていたが、怪しい状況で死んだのは兄貴分ではなく違う者だった。ちなみにトビには無視された。しかし対策と警戒は怠らない。
 ニーサンの立ち位置には星宮カガセ、兄貴分のところには星宮キラ、弟さんのところには星宮アマツ。「立ち位置がァ、立ち位置が入れ変わっている!!」


 鹿島ライカ・香取フツミ・静織ハヅチの3人が音隠れによって連れ去られ、一晩が過ぎた。名家の子供3人が連れ去られたこの事件は思わぬ方向に波及し、里内ではその話で持ち切りだった。里と良好な関係を築いていたうちは一族を滅亡に追い込んだあの事件の核心に迫れる【鹿島文書】の存在が明らかになり、オレも昔から気になっていたうちはに対する危険度評価の不自然な推移についての疑問も解決しそうだ。あの事件が起こった頃、うちは一族は里に対して職業選択の自由を求める訴えを起こしていた。殆どの里人はうちはが警務隊(厳密には暗部も)以外の職に就く事に対して支持をしてくれていた。ちなみにカカシの班員だったオビト中忍が亡くなる少し前から事件の直前あたりが一番うちはに対する風当たりが強かった。話を聞くだけでも苛立つほどの扱いの悪さで、里もうちはを厳しく監視していた。痛くない腹を探られる、とでも表現すれば良いのだろうか?信頼を取り戻したと思えば、すぐにそれが覆されるの繰り返し。両親も一族の皆も疲れ果てていた。あまりにも不自然で、オレは子供心に裏で何かが悪い事をしているんだと口には出さなかったが認識していた。

 

 あの事件後に扇城に引き取られたオレは、それはもう厳重な保護とメンタルケアを受けた。『勉強や修行を無理し過ぎてはいけない』と言われ、努力はしていたが心が折れない事を条件に学生生活を送っていた。弟子入りした師匠のカカシも「今は大人に頼ってよ」と言うので、カカシが組んだ「成長期対応修行スケジュール」に従って修行を行ってきた。身体がまだ完成していないので、無理をすれば体に毒になる。そのため、オレは無理して『一番』を目指さなかった。勿論勉学は全力でやった。しかし、それは同じ場所で一緒に家族を亡くした星宮アマツから見たら腹立たしいものだった。アマツはハルキと共に全力で修行していた。怪我も多く、その度にイライラしていたように見えた。毎学期ある考査の時、座学はサクラに譲ったが総合点が常に一番だった。オレは別にくやしくなかった。当時はその時に出来る最大限をこなしていたので、まだまだ本番じゃないというカカシの考えを理解していたからだ。だからこそ初等部卒業前に千鳥を習得出来た。ひたすらチャクラのコントロールを特訓され、適切な食生活をし、よく眠り、とにかく健康に気を遣って過ごしてきた。健全な精神は健全な肉体に宿る。それを実感した。ハルキを挟んで扇城夫妻と話すと話がこんがらかるので、オレは苦手だが二人と直接対話する事にしていた。途中でそれも面倒で嫌になったのが今でも悔やまれる。そんなオレに亡きタイキはいつも一緒にいてくれた。

 

 そんなオレだったが、『復讐心』がゼロだった訳ではなかった。いくら外野が無駄口を叩こうと、オレは兄さんの涙を覚えていた。オレを庇い立つ隙のない姿と、オレの心を守るために見せてくれた幻術を。兄さんが悪くないとオレは最初から確信していたんだ。あまりにも不確かな事が多すぎて、オレは犯人捜しをする事を一度心の隅へと追いやった。だから兄さんが犯人だという世論や風潮に対して怒りを覚えたし、その苛立ちを修行に向けた事は数知れず。修行の強度を上げるゴーサインがカカシから出された瞬間から、やり場のない感情はそちらへと向いた。兄さんと死んだはずのシスイが里に帰ってくるまでは、言葉にできない苛立ちを修行に注ぎこんでいた。オレとは違ってしっかりと形になった復讐心を持っていたアマツは里を抜けた。「もっと強くなってカガセとイタチをぶっ殺してやる!」と告げて。アマツは色々とタイミングが合わず、兄さんが犯人じゃないと知る事なくいなくなった。

 

 今年度4月1日付で中忍になって以来、色々な事があった。任務の依頼人の星宮兄妹との出会いと星宮邸の遺品整理、デタラメな日記、兄さんの結婚、兄妹の突然の死、経営陣の座から引きずり降ろされた扇城と騙されていたオレ、そしてカガセについての新たなる情報。頭がグルグルと回るほどめぐるましく、任務と修業の忙しさにわざと流されながら過ぎていく日々。『星宮』という差別と迫害を受ける一族の歴史と実情に触れ、感情に動かされ、時に情報に翻弄されてきた。その陰にちらほらと見える正義感に満ちた名門氏族・鹿島の名。ちらかっていた断片が結びつき、正しい場所に適切に配置され、続々と情報が脳内で完結へと向かって奔る。それが生みだした興奮はオレの脳を灼き、まるでカフェインを摂取し過ぎた時のように睡眠を妨げた。

 

 午後からの任務に安心して浅い眠りから醒めると、疲れ切った顔をした兄さんが学生寮を尋ねてきていた。オレは氷水で顔を洗い、仮眠の予定をメモ帳から確認しながら兄さんと共にある場所へと向かう。暗い色合いの服装を指定され、到着したのは忍軍の医療施設にある検死を待つ遺体が安置された場所。暗部の隊員が何人も警戒のために立っており、物々しい雰囲気を放っている。安置台には一人の年配の男があった。B組の同期と少し似た声をした暗部隊員が「コイツは鹿島ダンゾウだ」と説明してきた。兄さんがオレに見せたい遺体は1体だけではないらしい。他の隊員が冷蔵庫になっている引き出しを計15も開け、それぞれ解説してきた。兄さんは神妙な顔をして腕を組み、それを聞いている。

隊員たちの中に一人、見慣れた体格の者が混じっている。まさかとは思ったがオレは黙っていた。

 

「サスケ・・・。彼らは任務として命じられてオレたちが殺した」

 

凍てついた空気の中、時間が止まったような気がした。

 

「俺たちが暗部から完全に足を洗う最後の任務だ。これで君らの復讐の9割は成ったってトコで合ってるかね、イタチ君」

 

不意に同期と声が似た暗部が兄さんの名を呼ぶので、そちらを見るとその暗部隊員は面を外して遺体安置台の空いた部分に置いた。硬そうな跳ね返る黒髪にきりりと上がった眉、切れ長な瞼と切れ込んだ目尻が特徴的な三十代前半ほどの色白な男。その顔立ちと雰囲気には見覚えがあった。

 

「そうですね、藤森上忍。貴方も似たようなものでしょう?」

 

「ああ。諏訪軍団も色々あるワケで・・・、ようやく念願叶ったりだ」

 

隣のクラスであるB組に所属する諏訪の分家に生まれた氷遁使い、藤森フウロの父親だ。フウロがいつもヒモ親父だの何だのぼやいていた、年上で資産のある家庭の令嬢である母親に養われているらしい謎多き父親。一度出くわした事があるが競馬で負けたと言ってフウロに脛を蹴られていた。

 

「サスケ、こちらは藤森ミヤマ上忍だ。フウロ君の父親でもある」

 

「・・・おはようございます」

 

戸惑いながら挨拶すると、藤森ミヤマ上忍は端正な顔に笑顔を浮かべて握手のため手を伸ばしてきた。よくよく観察すると、他の誰かにも似ている。そちらは女子な上に地味なおとなしいタイプだったが、顔のパーツ配置が似ているのか。そいつの顔を思い出した。あいつは目の前で同じ任務の仲間が連れ去られ、残った仲間も両眼を抉ろられそうになり、口封じのために殺されかけていた。心が壊れていないだろうか?

 

「それで、何故貴方たちは鹿島の上層部を任務で殺したんだ?」

 

オレの声が反響し、また室内の時間が止まった。背後で扉を開ける音がしたかと思えば、コツコツと音を立ててこちらの方へと歩み寄ってきた。この気配、五代目か。

 

「ありがとう、臨時小隊。ここからは私が説明しよう」

 

ナルトよりも淡い金色の髪を低い位置で二つに縛った、豊満な胸元を晒す伝説の三忍の紅一点・千手綱手。階級としては上忍で、去年の夏に五代目火影に就任した史上初の女性火影である。彼女は兄さんと藤森ミヤマ上忍を含むほとんどの隊員を一人を除き下がらせ、オレに顔を向けた。

 

「鹿島ダンゾウは先代である鹿島ヒタチの代より星宮・諏訪軍団、そしてうちはと扇城に対して常に強い猜疑心を抱いてきた。だが、それは単なる恐怖からきた疑心暗鬼でしかなかった。彼らは信仰に生きて政治から遠ざかる事が苦痛ではない諏訪軍団はともかく、政治的な野心が”人並み”にあった星宮と扇城に対して警戒心を持っていた。鹿島は昔から里と火影に対する忠誠心が強く、常に役立ちたいという発言を繰り返してきた」

 

「里に対して危害を及ぼす可能性が高い奴らを結婚で結び付けたんだろ?」

 

「よく分かっているな、その通りだ。結果として宿敵だった星宮はカガセとアマツ、そして二人の父親ユウセイ上忍のような写輪眼持ちの星宮を生み出した。3人が生まれるまでも勿論写輪眼の使用者は沢山出ていた。鹿島は星宮を『いつか何かをやらかす』という見方で常に見てきた。が、星宮は何もやらかさなかった。だが疑いは晴れず、遂に・・・」

 

「星宮に対して警戒心を持たせるために自作自演でもしたのか?」

 

「正解だ」

 

五代目火影はオレの頭を優しく撫でてきた。ほんの少しだけ母さんを思い出した。

 

「行動を起こさせるため、里に対する脅威を証明するため、鹿島は星宮に官民双方から圧力をかけてきた。私が幼い時には既にそんな状態だったな・・・。鹿島と星宮を同じ部隊で前線に配置した時の異常な星宮の死亡率が忘れられなかった。民間でも彼らは扇城屋以外での働き口がなく、自営をしてもすぐ潰された。やはり星宮はそれでも鹿島が言う脅威にはならなかった。忍として、忍軍と契約する会社の社員として、とてもよく働いてくれた。だが・・・、長く悪い扱いを受け続けていると段々とフラストレーションがたまるのは当たり前の事だ。それで、星宮は何をしたと思う?」

 

「シスイと同じ万華鏡写輪眼、別天神を戦場で開眼した者がいる事に気付いてそれを待遇改善に利用しようと考えた。あくまで武力ではなく、交渉が上手くいなかった時の最終手段、保険として。話し合いで解決しようとしていた。忍として万華鏡写輪眼を使えば一族そのものが潰されかねない。だからアマツとカガセを民間人に留めさせようとして、あの一家は喧嘩が絶えなかった。里に対して鹿島は緻密すぎる星宮の存在しない悪事を報告し続けた。それをオレたちの両親は警務隊員の目から見ておかしいと思い、職業選択の自由を求める訴えを起こす時一緒に里に抗議しようと決めた。ここからは兄さんの話だが・・・、うちはを脅威の対象として再評価し、里と上手くやれていた筈のうちは脅威論を提出した。それが【鹿島文書】か」

 

「その通り。・・・残念ながらご意見番の三人はそれを信じてしまった。星宮カガセは純粋に里と星宮の間に正常な関係が築かれる事を望み、星宮とは無関係であるうちはを滅ぼす任務を受けた。そうすれば待遇が改善できると信じて、里のためになると考えて。アマツとカガセの養父母と義姉は何故ついでに殺されたと思う?」

 

「・・・星宮に対する【逆らったらこうなるぞ】という見せしめ」

 

五代目火影は無言で頷いた。

 

「で、今この安置所で死体になってんのは実体の無い脅威論を使ってうちはを滅ぼさせた張本人たちって事か」

 

もう一度彼女は頷いた。結われた長い髪が布地に擦れる音だけが室内に反響した。

 

「鹿島ダンゾウを殺しても、残った者達に影響が残っている筈だ」

 

「・・・その事なんだが、ハルキが万華鏡写輪眼を失明と里への贖罪を引き換えに使用して解決を図った」

 

五代目火影は話を続けた。ハルキの実父は鹿島ダンゾウの側近、実母は扇城一族の手練れの婚期を逃して焦っていた一人娘。5歳になるまで鹿島で育ったらしいが、氏族間の友好を図るために扇城と星宮の夫婦のもとへ養子に出された。理由は不明だが何故か扇城一族に本家よりもずっと高頻度で出現する万華鏡写輪眼、シスイと同じ『別天神』。ハルキも扇城一族の親から受け継いだ写輪眼がまさに別天神だったという。ハルキは生まれる前から星宮一族に対する工作活動のために期待されて鹿島ダンゾウの一番の側近の息子として生まれ、工作技術を物心がつく前から叩き込まれて育った。キツい幻術を利用して写輪眼を開眼したのが僅か5歳の頃。続いて何度も親族が星宮に皆殺しにされる幻術を見せられて万華鏡写輪眼を入手。星宮がどれだけ卑劣でいつ裏切るか分からない輩なのか、異常なのか、そういった趣旨の思想教育を受けて育った。そして、星宮に対する工作活動が『里のため』に繋がると信じ込まされていた。所属は鹿島の私設部隊。里の中枢に関われる上忍ではなく、見過ごされやすい中忍達からなる工作活動を主任務とする非公式な組織。私設部隊は常に星宮や諏訪軍団が『怪しい行動』をしないか監視し、相手方が怪しい事を考えていると『思い込んで』いた。故にノルマのようなものがあったらしい。それが構成員たちにとって悪事をでっち上げる必要を突き付けた。そうやっているうちに、自分がついた嘘を本当だと信じ込むようになった構成員たち。自作自演の工作こそが組織の常識となっていて、里の仲間の不当な扱いに憤って解決を手伝おうとしたうちはもまた里に提出された【鹿島文書】の犠牲となった。鹿島から見た里への脅威度でいえば、星宮がよりうちはよりも危険だという見方だった。そこで鹿島はうちはを滅ぼすよう誘導する事に成功し、星宮に対して【見せしめ】の意味でカガセにうちはを殺させた。

 

「五代目。ハルキはこれからどうなるんだ・・・?」

 

「勿論罪を償ってもらうが、ハルキの場合は里に対する功労が大きい。本当の危機を幾つも迅速に報告してくれた実績があり、今回の反省と本人のやる気によっては上忍にした上で再び里のために働いてもらいたいと考えている。甘いと思うかもしれないが・・・、あとはイタチとシスイ、そしてお前次第だな」

 

「・・・ハルキがどれだけに里を思って行動してきたかは理解した。オレ個人としては、日向の呪印のようなものを刻んだ上でうちはと扇城に保存された写輪眼を”貸与”し、怪しい動きをすればすぐ処断、といった形ならば大丈夫だと思う」

 

五代目火影は茶色の瞳を数度瞬かせると、その目元に優しい笑みを浮かべた。

 

「やはり兄弟だ。お前たちは全く同じ意見を言うんだね。思ったよりすぐ解決しそうで良かったよ」

 

「それから、オレはハルキにアマツについての話を聞きたい。オレはアマツと同い年で同期だが、アイツの事をほとんど知らない。もしも音隠れの一員としてアイツが何かアクションを起こした時、どういう風に行動してくるのかを思うとハルキの力がどうしても必要になる」

 

「安心しな。ハルキはお前たちに何もかも話してくれるつもりだ。それに、里の為にいつでも死ぬと言い切る程には覚悟が出来ている。そんな事はさせないが・・・、これからは何でも相談できる相手が増えるかもしれん。ま、気を楽にして会いな。お前が思っているより本来のハルキは穏やかな性格で、何より若いヤツに何かを教える事が大好きだ」

 

 

                      ★★★

 

 失明したハルキとの対話、扇城タイキから摘出されていた万華鏡写輪眼移植手術と検査、上忍への昇格。それらに並行したハルキの申し出による個人的復讐を兼ねた鹿島ライカの叔母との離婚手続き、上忍昇格。ハルキは鹿島の父親を持っているため、鹿島としての自分を取り戻した上で鹿島を修正しようとした。ハルキの精神的な覚醒のきっかけとなったのは、隠れて仲良くしていた星宮スバルたち兄妹を口止めと見せしめとして殺せと命じられて実行した時だったらしい。それを思いついたのが、私設部隊で工作活動をしていた鹿島ライカの母方祖父だった。比較的近い血縁者だったタイキから『別天神』を宿した万華鏡写輪眼を『星宮一族を従わせるため』に両眼を抉って口止めするため殺害し、スペアにするため保有していた。タイキが万華鏡写輪眼を開眼したのは、うちは一族の民間人の片思い中だった女性を事件で亡くしたからだ。結ばれなかったが、本当に愛していたんだろう。その後に以前から言い寄られてきていたライカの叔母を紹介され、命令に従って結婚、という流れだ。失った鹿島姓を取り戻すためだけに。

 

 オレたちがハルキと改めて対話してから1週間があっとういう間に経過した。残暑で茹だるような時期は気付けば過ぎて、昼夜の寒暖差がより激しくなってきて街を行く人々の装いに変化が僅かに表れだした。オレはこの1週間の間にも修行と任務を相変わらず続けていた。昨日は額を地面にこすりつけてハルキはナルトとサクラに告白と深い謝罪をし、左胸に刻んだ呪印を制御するための印を教えた。ナルトとサクラは星宮兄妹とタイキを殺したのがハルキだと知って当然怒りを露わにしたが、その覚悟と里への純粋な忠誠心に心を打たれて手を差し伸べた。タイキの瞳が移植された双眸をじっと見つめてから、握手をし合った。

 

 あの五代目火影の命令による初の里内における粛清は、逆にこれまで初の女性火影として心配していた者達を驚かせ彼女の支持率の上昇をもたらした。鹿島と星宮の両頭領がが互いの家紋がはためく旗の前で握手し、若い世代同士の強い結びつきと友情を予感させた。鹿島ライカの異母兄である鹿島ライウ上忍が暫定ではなく頭領として確定した。香取と静織でも、それぞれの老いた頭領は息子たちではなく孫世代に頭領の座を譲り渡した。長い間動きが無いまま次期頭領という立場に縛られてきた香取と静織の新頭領の父親たちは肩の荷が下りたように安堵した表情を見せ、息子や娘たちの補佐役として生き生きとした顔で過ごしている。新たな星宮の次期当主である19歳の上忍、星宮キラと鹿島ライウの従妹である鹿島レイラの婚約が決まった。因縁にまみれていた氏族間において、それまで互いに言い出せなかった両片思いの成就。なんともロマンチックで美しい結果だろうか。サクラたち女子はその話題で持ちきりだ。

 

                       




   名前の由来~八ヶ岳周辺の地名と植物
諏訪ヤシマ、アザミ=八島ヶ原湿原、湿原に咲く花①
藤森ミヤマ、フウロ=蝶々深山、湿原に咲く花②


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16 秋の葬列

遅くなりました、弟さん視点です。次から時間が半年飛びます。15歳編です。

やっとぶっ壊れたパソコンを買い換えられました。HDD生きてて良かった!!!
前のやつの後継モデルでございます。




10月1日 6:30

 

目を開けると実家の天井が見える。

 

気付けば朝になっていた。寝たといっても、まともに寝付けたのは3時間ほど前だ。

 

あまり眠れなかったからか、身体から疲労感が抜けきらない。

 

思考が霞がかってモヤモヤする。早く顔を洗いたい。

顔どころかシャワーを浴びてスッキリしたい。

 

オレは朝食前にさっさとシャワーを済まそうと起き上がり、着替えを手にした。

 

 鹿島ライカ・香取フツミ・静織ハヅチという3人の同期が誘拐された衝撃的な事件は急転直下の結末を迎えた。3人の”死”によって。3人の遺体を引き渡すには、二年前に捕縛した『音の四人衆』の身柄が必要だと音隠れは要求してきた。五代目火影は、木ノ葉は、その要求を吞んだ。遺体の返還は行われたが、それは恐ろしい事に星宮アマツがやったと示唆させる有様だった。扇城ハルキは太刀筋で分かるのだ。兄さんの考えだと、アマツは万華鏡写輪眼を手に入れるため三人を求めたのではないかという。

 

それが正解ならば、オレの友人だった男は何ともおぞましい選択をした事になる。

 

 昨日。鹿島香取氏族連合の地区の集会場で行われた葬儀の帰り道は、兄さんとシスイさんと歩きながらずっと無言だった。色々と思うところはある奴らではあったが、同期が三人まとめて死亡したのだ。どういう風に感情を処理すれば良いのか分からなかった。兄さんもシスイさんも、そういった経験は何度もしてきただろう。オレよりはずっと、感情の処理方法を知っているだろうと思っていた。だが二人は「こういう事は慣れないものだよ」と言っていた。カカシにはこういう話をしにくい。あの人は親友だった同期を二人も亡くし、恩師までもがこの世にいないのだ。

 

 鹿島ライカの保護者や親族が諏訪アザミに対して取っていた態度は、オレたちが心配していたのとは非常に異なっていた。アザミに「あの子と仲良くしてくれてありがとう」と言っていた。アザミもアザミで沈痛な面持ちでいた。鹿島ライカといえば、アザミを一方的に敵視して暴言を吐いたり蹴っ飛ばしたりと、目に余る行動をしていたという印象。人気者で人気者である事と同時に、他の同期から嫌われても当然な発言をしていた。ライカと婚約者になってからの星宮アマツは少し元気になったが、同じ事をするようになった。二人がしていたのは『雑魚』『役立たず』といった発言である。アザミはライカとアマツの二人からそういう暴言を吐かれ、協力する必用がある授業中にもツンケンした態度を取られ、かなり困っていた。傷付いたのではなく『接し方が分からない』という理由で。アザミは色々あったがアマツとも向き合っていたように思える。話を聞こうと努力していた。オレはアマツの手を離したが、アザミは見捨てず暴言にも向き合っていたのではないかと考え直すようになった。

 

オレたちは諏訪アザミと鹿島ライカの関係を大いに誤解していたようだ。

 

 アザミはライカに『私にも行動の自由がある』と言っただけで、拒絶は一度もしてこなかった。他人からすれば仲が悪いように見えたが、鹿島香取氏族連合側からすれば列記とした”ライカお嬢様のお友達”として見られていた。初等部時代にライカがアマツの許嫁になってからも、友人関係そのものは続いていたという。ただし和解が叶いそうになるたび、ライカが一方的それをブチ壊す。暴力や暴言のほかわざと約束を違えて取り返しのつかない事件を起こす。それを何度も繰り返し続けた結果、ライカは皮肉にも大好きな母親から愛想を尽かされてしまう原因を作った。おそらくライカは母親に対しても同じ事を行ってきたのではないかとオレは思った。

 ライカはアザミから許容されているのか不安になるたび、それを確かめる為に敢えて暴言や暴力を向けていた。それがオレたちが見ていたアザミへの暴力と、それを受けてもある程度は許容するアザミの姿だったらしい。だが、人前ではやらなかった。流石にケガが増えてきたため、ヤマト上忍が見かねてアザミと話をしたらしい。結果、鹿島家に連絡が言って母親から られたライカがイラついていたのが先月の頭。帰宅してからたまたま開いた雑誌でライカそっくりの行動を『試し行動』と呼んでいた。

 

アマツもライカも、どちらも難儀な性質の持ち主だと感じる。

 

 雑誌を見ながら考えていると、兄さんが話しかけてきた。何か言いたげな顔をしていたため、オレはこれまでの鹿島ライカの行動や言動についてどう考えるか聞いてみた。それは優等生としての努力とは逆に、周囲に向けて『雑魚』『役立たず』という言葉を吐いていた理由。おそらくだが、鹿島ライカは周囲からどれだけ許容して貰えるのか確かめていたのだろうと兄さんは言った。成程、と思った。星宮アマツのあの行動も多分だが似たような理由で、自分自身を上手く肯定出来ていなかったのだろうか。認めてほしくて、許して欲しくて、一番そうして欲しい人々から嫌われるような真似をした。

 

だったら、その言動を真っ先に向けてきたオレの事はどう思っていたのだろうか?

鹿島ライカたちの殺害は絶対に許せないが、オレはアマツに伝えたい。

 

『お前はお前じゃないか』、と。

 

                                         

                     ☆

                     

 

 昨日の事があり、昨晩の睡眠は良質とは言えないものだった。それを兄さんは察したのか、珈琲を入れてくれた。甘いもは苦手だが、流石に苦すぎたので砂糖と牛乳を入れた。オレの横で兄さんはドボドボと音を立てて角砂糖を珈琲に大量投入して最後に牛乳を注いだ。珈琲そのものは美味しかった。

 

「行ってくるよ、兄さん、義姉さん」

 

門の前に立つ兄夫婦に出かけてくると伝える。

 

「行ってらっしゃい、サスケ。今日はトマトサラダを沢山作っておくわね」

 

「帰りは迎えに行くよ」

 

 仲睦まじい兄夫婦は来年の春には親になる予定だ。親としてはかなり若い方だが、周囲からは好意的に見られている。それは二人が同世代よりもずっと大人びており、落ち着いているからだろうか。とにかく、新たなうちはの誕生は里内でもかなり歓迎されているのは確かだ。まだ性別は聞いてない。

 

 実家から直接”学校”へ向かう鞄の中身は先月よりも軽い。というのも、中忍として必須なリーダーシップや技能・知識を学ぶ半年間が終わったからだ。これからは月に2日だけ、教養関係のレポート課題の内容を解説する授業を受けるのみ。2日目は社会科見学、そして芸術系や調理実習の半日だけの日程。今日はレポート課題を貰い説明を受け、調理実習を行うだけ。10月は1日だけで登校日が終わる。

 

 毎月のように”学校”として利用されているのは学校として建てられた建物ではない。忍軍研修施設という名前の、会議室や講義室が沢山入った施設だ。研修施設というからにはあらゆる設備が完備されており、調理室もその一環だ。他には仮眠室・図書室・勉強スペース、プール、講堂、防音室など。料理から音楽活動まで、忍軍の活動から福利厚生までカバーしている。修行用のスペースもあり、毎日のように利用者がいる。要に何でもありの多目的施設だ。

 

 程なくして目的地に到着すると、先に来ていたナルトがオレを見つけて手を振った。

 

                       ★★★

 

 

夕焼けのグラウンドは気温が下がり、季節の移り変わりを感じる。半ズボンを止めて良かった。オレは兄さんと一緒に忍軍研修施設の玄関を出て、グラウンドが見える道を歩いていた。

 

 朝から集会、レポート課題の説明、そして調理実習の日程をこなした。淡々と過ぎていった一日。10月にもなれば日が短くなり、17時半頃の時間帯には日没だ。登校日の下校時間からは1時間程は経過している。兄さんは言っていた通りオレを迎えに来た。

 

 今日の帰りがけに、諏訪の同期たちからある広告を貰った。10月17日に天龍大社分社で行われる祭りのお知らせと書かれていた広告には兄さんが好きそうなイベントがあった。地区にある甘味処が共同で行うスイーツバイキングが行われるのだ。オレは広告を兄さんに渡した。すると兄さんは『今月は諏訪の地区に行こう』と言い出した。予想通りだ。天龍湖名物で、里でも地区限定で生産されている塩羊羹。兄さんはそれを気に入っているのだ。あの地区には美味い飯屋が多い。オレも当日を楽しみする事にした。

 

「サスケ。今日はどうだった?」

 

歩きながら兄さんが問いかけてきた。不安げな声だ。

 

「どうって・・・、結構普通だった」

 

「そうか」

 

 それだけの遣り取りだったが、その返事はどことなく安心していたように聞こえる。同期を失うのが初めてだった。身近な大人たちから聞いていた通りに、同期の死が堪えるのは本当だった。少し前まで当たり前に存在した人間がいなくなる。家族がいなくなるのとは違う悲しみがあった。兄さんもカカシも、誰にも言えないような悲しみを心の中に抱えているんだろう。その傷をオレはまだ知らなかっただけだ。

 

 

 隣で今日あったことを話しながら歩いているうちにオレたちは実家の前に到着していた。これからイズミ義姉さんからも今日の事を聞かれるだろう。話したいこと沢山ある。その一つは祭りの事だ。きっと義姉さんも行きたがるだろう。甘い物が好きならば惹かれると思う。サクラに誘われる可能性もある。

 

実家の引き戸を開けて「ただいま」と言うと、イズミ義姉さんが出てきた。

 

「おかえりなさい!」

 

 オレはもっと強くならないといけない。二人の顔が見られなくなるのは嫌だ。二人が揃って笑い合う姿を見ていると、来年の春に増える新しい家族を思う。3人家族で、いずれは4人、5人と増えていくのだろう。昨日からそういう感情が強まってきている。

 

「ご飯出来てるからね」

 

「ありがとう、イズミ義姉さん。兄さんも早く食べよう」

 

我ながら子供っぽいと思いながら、兄さんを急かして家の中に入る。

強くならなければいけない理由がここにある。

 

                       



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To the Beyond
0 春


弟さん視点です 

15歳編プロローグ


3月31日 8:25

 

 春だ。よく修行スペースとして利用されている忍軍研修施設のグラウンドにある桜の木は満開に咲き誇り、うららかな春空を彩っている。今日は登校日ではない。来期の新人中忍向けのオリエンテーションの補助をしに、サクラとナルトに誘われて来たのだ。実際の登校日は明日。学年が上がり1日のみとなっている。一般人ならば”中三”で、卒業までは義務教育である。そうは言っても、高校卒業レベルの学力を証明する試験を自主的に受験する者が多い。持っていて損はないからだ。もし両親が生きていたら、特に母さんならば受験するのを勧めてきたような気がする。その姿は簡単に想像がつく。

 兄夫婦の間には先月半ば、予定よりも早く男児が生まれた。兄さんは育児休暇を取った。里有数の忍である兄さんが育休を取った事で里内に良い影響がありそうだと五代目が言っていた。

 

 玄関までの道を歩いていると、ナルトとサクラがオレの姿を見て駆け寄ってきた。オレは今年から実家で暮らしている。最近では意識して予定を合わせなければ、登校日以外で顔を合わせる機会が減ってきている。皆、それぞれに忙しい。サクラは多忙な医療忍者候補生であるため猶更。明日からは完全に違うカリキュラムで動く予定になっているからだ。

 

「おはようってばよ、サスケ!」

 

「サスケ君、おはよう!」

 

だからこうして、顔を合わせる度にちょっとした喜びがある。

 

「ああ、おはよう。誘ってくれて嬉しかった」

 

「なら良かったわ。特にナルトは修行と任務ばっかりで全然遊びにも誘ってくれないんだもの。最近寂しいのよ。そうだ。ヒナタとはちゃんと会ってる?どれ位の頻度でデートしてるの!?」

 

「サクラちゃーん!?」

 

オレをそっちのけにサクラはナルトを突っついている。昨年までは普通に遊びに行く機会もあった。

確かに、ナルトは最近ヒナタとあまり一緒に出掛けていないようだ。ヒナタがサクラといのと話しているのを見た。だがそこまで心配しなくても大丈夫そうだ。ヒナタはナルトが時間を見つけようとしている事を理解しているからだ。次のデートでもっとナルト君と一杯話したいな、と、ヒナタは頬を紅く染めながら話していた。

 

「さてと。そろそろ行きましょ。さっさと準備を終わらせて美味しい物を食べに行くのよ!!」

 

「おー!!」

 

「・・・おー」

 

 花弁が舞い散る中を乗り気なサクラとナルトが歩いていく。オレもそれについていく。

明日から新年度が始まる。新年度の秋だか冬、カカシはオレを上忍に推薦すると言っていた。場合によってはもっと早くに。カカシやシスイさんたちの時代と違い、極端に早すぎる上忍への昇進には否定的だ。15歳がここ数年間の最年少とされる。近しい知り合いだと日向ネジとサイの二人だ。だから年明け後あたりから上忍なる、なれない、なりたいといった話題が同期たちの間で交わされるようになった。

 

 昨年の冬には砂隠れで行われた中忍試験の手伝いに行った。暁やら尾獣絡みの事件が起こり、犠牲者が出た。犠牲者というのが人柱力の少女と、我愛羅たち三姉弟の父親である風影だ。風影の死は完全なる別件。音隠れが関係しているのは確定。ナルトは世話になった人と貴重な人柱力仲間を失い、見ていられないほど落ち込んでいた。代わりに我愛羅が新しい風影へと就任した。この一連の騒動の中でオレたち第7班は高く評価され、カカシが推薦する間でもなく五代目から話が出る可能性があるとも言われるようになった。今年はどういう風に進んでいくのかまだ分からない年だ。

 

 

 

「シズネさん、お手伝いに来ました!!」

 

 サクラが講堂の戸を開けて叫ぶと、シズネ上忍の声で「助かります!」と聞こえてきた。シズネ上忍の他に聞こえてきたのはヤマト上忍の声だ。ヤマト上忍には幾つか名前がある。それを知ったのはごく最近の事だ。カカシの真似をしてその名で呼ぶと「止めなさい」と言われるが。

 

「おっ、来てくれたね。ありがとう!」

 

オレたちの姿を視界に入れた作業中のヤマト上忍は立ち上がり、柔らかな表情を向けてきた。

ヤマト上忍の足元には『皆さん昇進おめでとうございます!』と書かれた達筆な横断幕がある。明らかに昨年度の使い回しだ。それはそうとして。今日のナルトは調子に乗っている。

 

「ヤマト隊長、シズネさん。オレたちが来たからには直ぐに終わるぜ。何でも任せろってばよ」

 

「本当かい?何でも任せろって言ったよね」

 

「ああ。言ったってばよ」

 

 ヤマト上忍は笑顔になった。その笑顔が今は不穏に見えるのは気のせいではない。オレたちは普段カカシを上官としているが、ヤマト上忍が代わりに来る時も1/3程の頻度である。稀にだが上忍となったサイが二人の代役の時もある。笑顔の意味を遅れて理解したナルトは「撤回!」というが無理そうだ。前回の任務後、おだてられてラーメンを奢らされた逆襲だろう。

 

「さては・・・、ラーメンの逆襲ね」

 

「いい加減に大抵はこうなるって学習しろ」

 

 こうして5人でのオリエンテーション準備は始まった。ヤマト上忍が作成した『やることリスト』は長い。思わず無言になる長さだ。ヤマト上忍はカカシと違い、もっとハッキリと厳しく言ってくる。最初は正直言って怖い人だと思っていた。だが、1年間で怖いだけではないと知った。来期からカカシがA組の担任になると言っていた。副担任としてはなんとシスイさんが大抜擢だ。これからうちはの人間を少しずつ里の要職に就けていくという試みが動き始めた。シスイさんは強さは勿論だが、未来の火影候補の一人に名前が上がるほどの人望を兼ね備えている。だからこの抜擢は妥当だとオレは思う。

 

                        

 

 

11:38

 

「ありがとう、みんな。思ったよりも早く作業を終了する事が出来た。先輩も手伝いありがとうございます」

 

「良いよいいよ。俺も丁度暇してたしね」

 

 そう良いながらも余裕のヤマト上忍と、ナルトが大部分の作業を影分身でやってしまったためあまり疲れていないオレとサクラと、ヘトヘトのナルト。そして途中から別件で訪ねてきたカカシ。ヤマト上忍もそうだが、今日は上忍達が集まる会議があるそうだ。その”ついで”として、手伝いに来たと言った。時間が中途半端に空いており、ここまで来る事にしたという。

 

「カカシ先生が来てくれて助かったわ」

 

「同意だな。午後まで掛かるのを覚悟してた」

 

「本当にありがとうってばよ、カカシ先生」

 

 オレたちはカカシとヤマト上忍と幾つか言葉を交わしてから、鍵を取りに行っているシズネ上忍を待った。彼女が戻ってくるまでの間、カカシたちと話していた。その内容は主に兄夫婦の間に生まれた甥っ子についてだ。カカシとしては兄さんは後輩なのでさぞかし感慨深いだろう。昨年の六月の結婚式の時も感動していたのを覚えている。なお、カカシの浮いた話は全く聞こえてこない。

 

「そんなに甥っ子が気になるなら、あんたも早く妻帯すればいいのに」

 

「そうですよ、カカシ先生。せっかくモテるんですし。理想の人が探せばいるかもしれませんよ?」

 

「同感!」

 

「お前たちもそういう事言うんだね、リア充め」

 

 カカシはよく縁談を持ってこられて困ると言っていた。あまりにも身近なため意識した事はないが、カカシは相当な『優良物件』だ。本人も女性たちからの熱視線に気付いていない事はないだろう。その一方、カカシの隣で呑気にも見える笑顔で「ほんと先輩モテモテですよねぇ」などと言っているヤマト上忍だが彼には隠れファンがいる。地味に見えるが、真面目で優しくて包容力があるのだと。

 

「皆さーん、お待たせしました。これで今日の作業は終わりましたよ」

 

 鍵を持ったシズネ上忍が返ってきた。シズネ上忍たち上忍は午後から会議に参加する。年度終わりの打ち上げも兼ねているようだ。現にシズネ上忍は普段着に近い恰好をしている。シズネ上忍とカカシは五代目の執務室でよく話している。この二人がどうこうなるかというと、そういう気配は全く無い。

 

 昼食は謝礼として近場の”美味いもの”を食べさせてくれると3人が言うので、その優しさに甘える事にした。サクラの誕生日は3日前だったため、オレとナルトは彼女に食べたい物をリクエストする権利をプレゼントした。個人的なプレゼントは既に渡してある。

 

これから昼食へ出発だ。

 

「おっと、その前に」

 

荷物を持って出発しようとしたオレたちを引き留めたのはカカシだった。

 

「1年ぶりに模擬戦でもしない?」

 

「えー!?」

 

「うえぇ?勘弁するってばよ先生。腹ペコペコなのに!!」

 

サクラとナルトが反対の声を上げるのもお構いなく、カカシは窓の外を指さす。

窓の外にはグラウンド。修行スペースとしても使われるそこに今は誰もおらず静かだ。

 

「・・・まじか」

 

「マジ」

 

ダメ押しするようにオレに胡散臭い笑顔を向け、カカシは「グラウンドに行こうよ」と言った。

 

                        ★

14:01

 

 まぐろ、サーモン、鯛、のどぐろ、雲丹、エビ、そしてイクラが豪勢に盛られた丼が目の前にある。それらは驚くほど新鮮で、生もの特有の生臭さが感じられない。里中心部にある海鮮丼を専門とした人気店に行ってみたいとサクラはダメもとでカカシに希望を出したところ、思ったよりもあっさりと意見が通って驚いていた。中忍になって無事に1年間が経過したお祝い、だと上忍三人は言った。

 

「いただきまーす!」

 

 『ゴージャス海鮮丼定食』を目の前に手を合わせ、オレたちはようやく昼食にありつけた。相変わらず素顔を見せないカカシはそんなオレたちを目を細めて見ている。微笑ましいとでも思っているのか?それよりも今はヤマト上忍とシズネ上忍と食卓を囲むのは珍しい気持ちだ。

 

 この1年間、色々な事があった。迫害される星宮一族と、その隠れ蓑に利用される扇城一族。そして見えない恐怖に怯えるあまり、他の一族を恫喝する事によって報復を回避し続けてきた鹿島香取氏族連合。鹿島香取氏族連合の上役が集まる会議、通称・上層部。そこのメンバーがほぼ粛清され、存在していたとされる里上層部の一部との癒着も残すところ僅かとなった。癒着があったからこそ、うちは脅威論の話を会議で容易に通過させられたのである。氏族連合粛清の決め手となる資料を提供してきた指名手配犯の星宮カガセ。彼は鹿島香取氏族連合を憎んでいるだろう。持っているであろう憎しみの感情でさえも利用されていたのだ。憎き一族の姫と婚約させられ、弟もまた同じ姫との縁談相手。その”姫”こと鹿島ライカと、その取り巻きである香取フツミと静織ハヅチは死んだ。おそらくアマツの手によって。

 

 模擬戦の結果はオレに関してはボロボロだった。ナルトはヤマト上忍と、サクラはシズネ上忍と戦っていた。ボロボロとはいっても、所々で良い感じだったのは我ながら良かったと思うようにする。カカシはカカシで昨年よりも本気度が高かったらしく、サクラの暴力的なまでの力の強さに明らかに引いていた。サクラの五代目を彷彿とさせる戦闘スタイルを見たシズネ上忍は見学しながら感嘆の声を上げていた。サクラは体術と幻術の技量がこの1年間で急上昇中なのだ。サクラとシズネ上忍は戦いに関しては互角。

 ナルトはチャクラのコントロール技術が向上し、明らかに落ち着いた様子でヤマト上忍に対処していた。その姿は見学するカカシに亡き師匠である四代目を思い起こさせるようで、部分部分でヤマト上忍に肉薄する場面があった。ナルトは時空間忍術を学んでいる。それの上達具合が目を引いた。

 一方でオレはいつもカカシと修行しているので、正直あまり新鮮さは感じていなかった。だが、決定的な違いを感じた。それはやはり”本気度”だ。師匠としてのカカシではなく、忍同士の対決をする時の姿を見た。殺気めいたその気配にオレの足は止まりそうになった。

 

だが、一撃。まともに一撃を食らわせられた。

 

「お前たち、本当に強くなったね。特にサクラ。去年とは全然違う」

 

「そうですか!?」

 

「はたけ上忍の言う通りです。びっくりしましたよ・・・、まさか、あそこまで追い込まれるなんて」

 

シズネ上忍は嬉しそうだ。サクラはそんな姉弟子を輝くような視線で見つめてガッツポーズしている。

 

「サスケ。お前もだよ。こんなに早く本気を出させられるとは思わなかった。上忍への推薦状を提出するのを早めても大丈夫な位だ」

 

「・・・そうか」

 

そう言われてもあまり嬉しくない。本気のカカシとの距離の遠さに眩暈がしそうになったからだ。カカシと少しはまともに渡り合えなければ、兄さんやシスイさんには絶対に敵わない。戦いが始まって足を一歩踏み出しただけで幻術によって完封される可能性すらある。

 

「ナルト。時空間忍術上達したな。驚いたぞ」

 

「へへっ!頑張って修行したからな!!」

 

「先輩の言う通り、僕も驚いたよ。所々危ないと思わせられた」

 

 ナルトは普段の修行は自来也氏に付けて貰っているが、定期的に五代目の護衛部隊によって時空間忍術の習得を目指している。二代目・黄色い閃光という声がちらほらと聞こえるようになり、ナルトは「父ちゃん母ちゃんに恥じない立派な忍者になりたい」と言って頑張っている。将来の夢として『火影になる』事を目標として限定していないのが最近のナルトだ。火影にも出来ること、出来ないことがある。理想と現実の狭間を五代目と一緒に見るようになって迎えた変化だ。オレは逆に火影という仕事について深く考えるようになった。兄さんやシスイさんが未来の候補者として挙げられているからだ。

 

「なぁなぁヤマト隊長。オレは!?オレは上忍としてどう?」

 

「どうって、技量だけなら推薦に相応しいと思うよ。後は上忍の皆さんによる審議次第」

 

「審議かぁ・・・」

 

 ナルトが何を恐れているのかオレは知っている。それはナルトに封印されている九尾の事だ。あの事件の関係で、上忍たちの中には当然ナルトを口には出さないが良く思っていない人間がいるのは確かだ。表立ってナルトの悪口を言う人間は昔と比べれば格段に少なくなった。いくら技量を上げようと、里の人々から信頼されていなければ上忍になれないとナルトは悩んでいると言っていた。

 

「ま、大丈夫でしょ。綱手様が直接推薦して下されば審議ナシで直接昇進可能だからね」

 

 ナルトは一瞬安堵の表情をした。ヤマト上忍も頷いている。これはカカシの言う通りで、推薦状提出からの審議による選考と直接推薦での任命が昇進方法として存在している。『認められたい』という思いが強いナルトとしては前者を望んでいそうだが。少なくとも上忍2人からの推薦が必要だが、火影ならば1人分だけでいい。火影による直接推薦の効力はとても強い。火影が持つ権限の強さを物語っている。

 

 遅めの昼食を食べ終わると、上忍三人は揃って定例会議のため先に食事処を去った。上忍三人と一緒だたという緊張感から解き放たれたナルトが姿勢を崩した。ナルトを主に緊張させるのはヤマト上忍である。自来也氏がいない時、ヤマト上忍がナルトの修行を見ているのだ。物凄く怖い時があるらしい。

 

「はぁ~。美味かったってばよ。美味いもん元気になるよなぁ」

 

「本当ね!!こんな無茶なリクエストが通るとは思わなかったわ。こんな豪華だなんて予想してなかったわよ・・・」

 

「同意だ。せいぜい一番安いヤツだとばかり思っていた」

 

テーブルから立ち上がり、食事処の店員に挨拶して入り口へ向かい引き戸を開ける。

 

「二人とも午後から何か予定があるか?」

 

 二人に問いかけると、それぞれ「暇すぎるくらい暇よ」「今日は丸一日オフだってばよ!」と返ってきた。オレはこのまま真っ直ぐに帰宅する予定だったが、今、思い付いた事がある。初めての育児で大変な兄夫婦のため、諏訪の地区に行って塩羊羹でも買ってから帰ろう。二人に塩羊羹を買いに行かないかと提案し、オレたちは諏訪の地区の方へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 風と水を司る軍神を祀る荘厳な神社と、灰色の鳥居の前に広がる静かな集落。派手さがなく、自然のままの色使いが特徴的だ。天龍大社の下社周辺と似ている。美しく整備された石畳と生い茂る木々、梶の葉を簡略化させた意匠の家紋が染め抜かれた幟が風にはためいている。氷の結晶だとばかり思っていたが本当は梶の葉らしい。最近知った事だ。春ならば藤棚が名所になる。それなりの人口が密集していながらそれを感じさせない静けさに満ちた集落をオレは何度か兄さんと共に訪れている。天龍大社分社は軍神を祀っているだけあり、それにあやかろうとする参拝者が多い。武芸を修める一般人にも人気だ。

 

 地区を行きかう一族の人々は皆、揃って色白で黒髪に黒い瞳をしている。鹿島香取と比べると華奢な印象だ。チャクラ量は鹿島香取より平均的に少ないとされる。しかし幻術が上手い者が多い。諏訪は一族とその支流の家々だけで集落を構成できる程度の規模がある大きな忍一族だ。300人弱といったか。

 それはそうとして、オレは兄さんの行きつけの和菓子屋を視線で探す。達筆な文字で『ふじもり和菓子店』と書いてある看板のある店だ。最初は読み方が分からず、兄さんの友人・諏訪ヨリヤ上忍に教えて貰った。ヨリヤ上忍は本家当主の長男だ。諏訪と鹿島香取は長年にわたる蟠りを解消した結果、戦国時代の延長の体制を維持する必要が無くなった。よって一族の代表者を表す”頭領”という呼び方を止め、単なる”本家当主”になった。諏訪軍団は事実上の解散を果たした。

 

「ここ、人気なのよね。前貰って食べたんだけど、美味しかったわ」

 

「美味いんだよな~、ここの饅頭」

 

「オレとしては隣の店の”おやき”もお勧めだ」

 

指で指し示したのは隣のテイクアウト可能な飲食店だ。『おやきあります!』と看板に書いてある。

 

「まさかサスケ君が言っているのっていなご入り?」

 

ナルトとサクラが二人して気味悪がるような目線で見てきた。ンなわけがあるか。

好きなやつは好きだろうが、オレはいなご入りは好きじゃない。天龍湖で試食してみて面食らった。

 

「まさか。トマト味が結構いけるんだよ」

 

濃紺の暖簾をくぐってその店の引き戸を開け、店内に足を踏み入れる。

 

「いらっしゃーい!」

 

 柔らかな声で対応してきた老齢の女性は同期の一人、藤森ケンゴの祖母だ。血継限界である氷遁を持たない諏訪の流れを組む庶流、藤森という一族から来た。藤森は諏訪軍団という血で結ばれた忍一族同盟の一角。諏訪軍団そのものの『宗家』が諏訪という苗字を名乗る血継限界を持つ一族で、残りの人々はその支流に当たる血継限界を持たない庶流の家々という構成だ。血と結束、そして信仰を同時に守るための知恵だ。なお、”宗家”の中にも本家と分家があるというので複雑である。オレの同期で諏訪の姓を持つのは諏訪オカヤとアザミ、それから苗字を戻したフウロ。血継限界を持たない庶流生まれは藤森ケンゴ。この4人が諏訪という一族の出身者だ。オカヤとフウロはどちらも頭領の甥で本家、アザミは本家からそれなりの距離がある分家の出。中でもアザミは諏訪の若者の中で一番注目されていると言ってもいい。

 

「サスケ君、ナルト君、サクラちゃんね。いつもケンちゃんがお世話になってるわ」

 

同期の祖母はオレたちに『プレゼントよ』と言いながら饅頭を三個ずつ持たせてくれた。

 

「わぁ、ありがとうございます!」

 

「オレここの饅頭好きなんだってばよ。ありがと、藤森のおばちゃん!」

 

当たり前の事だが、「ありがとうございます」と感謝を示す。

 

「今日も塩羊羹でしょ。何本にする?」

 

「三本で」

 

「ちょっと待っててね。ナルト君とサクラちゃんは何かいる?」

 

業務用冷蔵庫から塩羊羹を取り出しながら、ケンゴの祖母は聞いてきた。

 

「え~と、今日私たちはサスケ君の付き添いなので」

 

「あら、そうなのね」

 

 快活な老婦人はナルトとサクラに『試食よ』と言い、塩羊羹を載せた紙皿を渡した。オレが甘いものを好まないのを彼女は知っており、代わりに新製品の煎餅をくれた。うちは煎餅とは違う同業他社の製品だ。サンプル品で幸い密封されていたため、貰ったそれを愛用の肩掛けカバンに入れた。

 

「藤森のおばさん、ありがとうございました。また今度家族と一緒に来ますね」

 

「オレも彼女と一緒に来る!」

 

 オレはケンゴの祖母に会釈し、「ありがとうございました」と言う。紙袋を抱えて外に出ようとすると、溌剌とした「ありがとうね!」という声が背後から響いてきた。いつも溌剌としたケンゴとそっくりだと思った。ずっしりと塩羊羹で重い鞄を抱えていると兄夫婦の姿が浮かんでくる。オレは隣の店でトマト入りの”おやき”を購入した。それも肩掛けカバンに仕舞う。そして解散。明日また会えるが、解散する瞬間だけは妙に寂しい気持ちになる。

 

「また明日な」

 

明日から新年度が始まる。

一体どんな風に進んでいくのかまだわからない新年度が。

 

                       



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1 遠いひと

15歳編の開始です。弟さん視点。


4月1日 12:35

 

「これにてホームルームを終わります。皆さん、計画的に課題に取り組んで下さい!!」

 

「はーい!」

 

 中年の女性講師が教室として割り当てらている教室を出ていくと、部屋中からは「おつかれ」「また夏に!」といった声が聞こえてきた。普段は研究者として働く中忍が先程まで担当していたのは卒業作文の書き方である。一般人でいう”中学校”を卒業したのと同等の学力を認める試験には既に受かっているからだ。その試験に加え、今年1年かけて執筆する作文を提出する必要がある。ただし今年度の2月までに提出すれば自由の身という、かなりアバウトなもの。夏休みには自由参加のバーベキュー大会が行われる。冬休みには立食パーティーが。それはこれから忍として忙しく予定を合わせるのが難しくなるという事で、都合を付けやすくするために最初から日付が決められている。オレはまだどうするのか決めていない。分かっている事は、チョウジは確実に行くだろうなという点位か。あいつが参加したら一瞬で学年に割り当てられた予算が尽きるだろう。

 

 話は変わるが『副担任』に抜擢されたシスイさんがどこに行ったのかというと、A組だ。A組といってもオレたちの世代ではない。1学年下である『2年A組』である。カカシもそちらの担任になった。B組の方はヤマト上忍が担任になった。カカシ達の教師としての任期は半年間だ。明日から5日間に渡って行われるのは、新人中忍向けのリーダーシップ研修である。新人中忍が初めて班を率いる時に戸惑わないよう、集中的に指揮統率について教え込まれる。昨年と違うのはそれが泊りがけではなく、休日を挟んで日帰りで行われるというところだ。カカシはリーダーシップ研修の責任者で、マイト・ガイ上忍や猿飛アスマ上忍、紅上忍が日替わりで教鞭を執る。毎年のように研修計画はブラッシュアップされており、今年に関してはこの形式が最善であると判断された。

 

                      ★                       

 

 ナルトは明日から1年近くに渡り、同盟関係にある国や里との外交任務と情報収集、そして修行を兼ねた旅に出る。五代目火影から直接賜った任務。同行者は師である、誰もが知っているあの自来也という人物。旅の安全を願ってはいるがナルトは人柱力で、それもあって道中で確実に危ない目に遭うだろう。分かってはいても、安全を願わずにはいられない。だがナルトは長い旅の中で新しい力を得る。そうなれば自分で自分の身を守れるようになる可能性が増す。夏に行われる自由参加のバーベキュー大会にも帰ってこないようで、恋人であるヒナタが寂しがっているのを見た。これまでナルトは断続的に師匠と共に修行を兼ねた任務をこなしてきており、それが長期になっただけとも取れる。

 

「明日何時に出るんだ?」

 

「朝7時だってばよ」

 

「見送りに行く」

 

「ありがとな、サスケ。ぜってー仙術使えるようになって帰ってくるからな!」

 

「楽しみに待ってる」

 

 ナルトはこれから”仙術”というものの修行を始める。仙術といえば身体エネルギー・精神エネルギーという通常のチャクラに必要な要素のほか、自然エネルギーを加えて練られる特別なチャクラ”仙術チャクラ”を用いる戦闘術。修行しても会得出来るとは限らず、ナルトの父親も苦手だったらしいが適性があった事から人柱力である息子は上手く会得出来るのではないかという希望的観測が、ナルトが仙術の修行を開始する理由だ。

 

「1年後、みんなどんな風になってんだろうな。帰ってきたら誰かが上忍になってたりして」

 

 ナルトの言葉に連想する名前と顔。親友にして永遠のライバルであるナルト、昔から安定した優秀さを見せるサクラとシノ、そして同世代どころか里内で圧倒的なIQを持っているシカマル。カカシが言うにはそこにオレの名前も加えられている。昨年はネジとサイが真っ先に候補として挙がった結果、その通りになった。だが、今年に関しては番狂わせは絶対にあると思っている。

 

「なぁ、サスケ。しばらく会えないんだし、これから一緒に修行しようぜ」

 

「良いな、行こう。あの訓練場で良いか?」

 

オレはナルトと二人、忍軍研修施設の敷地内にある小さな訓練場へと足を向けた。

 

                       

 

 修行をするためナルトと二人、里が訓練場として指定している森へと入っていく。生い茂る若葉が陽光に照らされて地面に落ちて出来た木漏れ日の中を歩いていると、幼い頃を思い出す。昔から本当に優秀で、飛び級をして下忍になった兄さんは手裏剣術の天才だった。オレは幾度も兄さんに修行を見てもらいたくて、予定が合わなくて、「また今度な」と優しく額を小突いてきた。兄さんとシスイさんが長い長い諜報任務から里に帰還して以降は昔のように「また今度」と言われる事も減った。今は二人から二人が知っている術をありったけ教えて貰っている。今はそれらを磨き上げている最中だ。

 

「まずは手裏剣だろ?見てるってばよ」

 

「ああ」

 

木の葉が風に揺れるざわめきだけが聞こえる。

 

(始めるか・・・)

 

 まずは高く跳躍。後方宙返りをする間にホルスターからクナイを取り出し、木々の間に隠された的を目掛けてそれらを投擲する。的の場所を瞬時に見分けるのは写輪眼だ。続いてすかさず新たに別のクナイを投げ、滞空中の先に投げたクナイに当てて軌道を逸らす。こうすることにより、普通に投げただけでは当たらない的にも当てる事が可能だ。着地すると、ナルトが「おお」と声を上げた。

 

「やっぱり何度見ても凄いってばよ!!」

 

「兄さん達には叶わないがな」

 

オレとナルトは夕方まで手裏剣術と体術の修行を集中的に行う事に決め、修行を始めた。

 

                       

 

 

「あぁーっ、疲れたってばよ!!」

 

 本当に久々の、任務でもなかなか無いだろうチャクラを使い果たしそうになっている時特有の疲労感が全身を襲う。チャクラ量がほぼ無尽蔵だろうナルトは本当に疲れているのか怪しいが、オレの方はは疲労困憊だ。地面に大の字で寝転がり、見上げた空はオレンジ色をしていた。

 

「前から思ってたんだが、チャクラが無尽蔵にあるようなお前でも疲れるのか」

 

「・・・そりゃ疲れるってばよ。サスケと戦うとスゲー緊張感があって、気疲れする。速いんだもん」

 

「そうかよ。オレもお前と戦うと物理的な意味で身の危険を感じる。ぶっ壊されそうだ」

 

「お互い様だな!!」

 

だんだんと色が変わっていく夕焼けの空を見上げながら笑い合う。上空には烏が一羽飛んでいた。見ていると烏は急降下し、オレとナルトの足先の方向の先にいる人物の肩に静かに留まった。

 

「よっ、サスケとナルト君」

 

「あ、シスイさんだ!」

 

 声の主はシスイさんだ。オレとナルトはほぼ同時に腹筋で身体を起こした。シスイさんは散らばっている手裏剣の一つを拾い上げ、「ほら」とオレに手渡した。ナルトはシスイさんの肩に留まっていた烏を許可を貰い、優しい手付きで撫でていた。疲れている時、動物は癒しだ。

 

「久しぶりだね、ナルト君」

 

「お久しぶりでーす!オレさ、明日から修行と任務の旅に行ってくる」

 

「聞いてるよ。かなりの長旅らしいな。ホームシックにならないか?」

 

「そこは自分で頑張るしか無いってばよ」

 

 シスイさんはナルトの快活さを好ましく思っており、ナルトに向ける眼差しはとても優しいものだ。

ナルトは明日の準備のため、現在の時刻をシスイさんに聞くと大慌てで帰って行った。烏はいつの間にか空へと舞い上がり、主人を急かすように鳴きながら寝床へと帰って行った。シスイさんは里への帰還以来、部屋が余っていたうちの邸宅の一室に住んでいる。うちにはイズミ義姉さんと甥っ子がおり、防犯面でも都合が良い。金銭的な問題も同様だ。

 

「今日は随分頑張ってたな。いや、いつもか」

 

「そりゃアイツらに負けたくないからな」

 

「良いな、ライバルって」

 

 まさに青い春だな、とシスイさんは言う。シスイさんだって若者である。兄さんもシスイさんも、二人と話しているとこの人たちは本当に若者だろうかと考える時がある。あまりにも向けてくる視線が実年齢離れしているのだ。例えるなら孫がいる祖父のような。まだまだ追いつけない、少し高い位置にある大きな瞳を斜め下から見上げた。彼は兄さんよりも少しだけ背が高い。勿論オレよりも。凛々しくも優しいその表情は夕日に照らされ、より暖かなものに見えた。

 

「シスイさんのライバルは誰なんだ?」

 

「俺の・・・?俺のライバルなぁ。強いて言えばイタチ、かな。明確にライバル関係だとは考えた事は無いけどな。ライバルというより兄弟、みたいな?だが同じ一族の忍同士、写輪眼の使い手同士、里の仲間同士、切磋琢磨する関係だと思っている」

 

 やはりそうか、と思った。あの兄さんとライバル関係であれる人間そのものがこの里にはいるかどうか分からないレベルの話なのだ。名前を挙げてみると、現実的に可能なのはカカシかシスイさん位だろう。他愛もない話をしていると、夕焼けは夜の色へと移り変わっていく。そろそろ帰る時間だ。

 

シスイさんは帰る前に五代目火影の所へ寄っていくと言い、途中で追いつくと言われたのでオレは先に帰る事にした。カカシもそうだが、上忍は忙しい役職だ。その姿に昔見ていた父の忙しそうな背中を思い出す。オレも今年あるいは来年、同じように上忍として同じ会議で未だ遠い人たちと肩を並べる事が出来るのだろうか。

 

憧れと同時に不安が過る。それを悟られぬよう、オレは夕焼けの中で我が家へと足を向けた。

オレは周囲から自信家だと思われているが、普通に不安だってある。

 

(上忍、か・・・)

 

 上忍という肩書が背負うものについて、オレは兄さんやカカシを見ていてそれなりに分かっていると思っている。上忍といえば里の中枢に近い立ち位置だ。その顔ぶれを思い出せば容易に想像出来た。

 

(・・・里に捧げる覚悟は出来てる)

 

かつてマダラという裏切り者を出してしまった過去は絶対に消せない。

だが、オレたちは間違えない。里の一員として仲間を守り、捧げる覚悟はとっくの昔に決めた。

 

(オレは木ノ葉のうちはサスケ)

 

とっくに決まっている覚悟を示す時は来た。

今度こそオレたちが一族に対するイメージを塗り替えてやる。

 

(手始めに上忍になってやろうじゃないか!!)

 

 



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