Black "k"night (3148)
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剣盾編
第一話 キルクスタウン ジムチャレンジ開始前


第一話です。
メロンさんにネズさんにマリィちゃんに一杯出てきます(嬉しい
ジムリーグ開催の少し前から物語が始まります。

オリキャラ有りですので、それでも良いという方はよろしくお願い致します。


……ポケモンの出番はまだですかねー?


 一人の青年が、メロンから蹴り出され、雪の降る町の道端に転がる。

「そんな馬鹿に育てた覚えはないよ! 頭冷やしな!」

売り言葉に買い言葉か、青年が蹴り出した相手に吠える。青年の持ち物だろうか、サングラスも一緒に道ばたに放り投げられる。

「いってぇな糞ババア! ふざけやがって、もう出てってやるからな!」

壁に一発蹴りを入れる青年。

「その口の利き方はなんだい!? まともになるまで、敷居をくぐらせないからね!」

乱暴に扉は閉められ、吐く息は白く、次第に体温が奪われていく。兎にも角にも、このまま座っていては、凍死は免れないだろう。

「……ちっ、仕方ない。スパイクタウンに行くしかないか」

着ていたコートを握りしめ、雪道を歩いて行く。

 

  「ネズさん、俺にリーグの推薦状をください」

そう言って、頭を下げる青年が居た。その話を聞いているのは、スパイクタウンの主、ネズだった。パンクに身を包んだその姿と、少しけだるげな表情をしている。やる気のなさそうな表情のまま、ネズは答える。

「……メロンさんに頼めばいいんじゃないですか?」

頭を下げた青年は、今朝の出来事を思い出し、表情を曇らせる。

「お前には、十年早いって」

参加資格無くなる、と溜息と一緒に吐き出す。

「……まぁ、こちらも別に駄目だと言うつもりもないですが。とはいえ、メロンさんが断っているのを推薦するのも、ね」

やるきの無い目を青年に向けるネズ。それはどこか、面倒ごとを避けたいという意識が合ったのかも知れない。

「別に、前例が無いわけではないでしょう? あの人だって、そんなことで他人がどうこう言うこともないだろうし」

確かに、推薦する基準をきっちり設けている人も居れば、ジムチャレンジでの成長を見越して能力問わずで参加させる人も居る。多くはないが、そう言った例がないわけではなかった。

「それに、ネズさんにとっても、悪い話では無いと思うんですよ」

青年のその言葉に、ネズが首を傾げる。

「ほぅ、それは一体……?」

 

 青年がネズの部屋から出ると、スパイクタウンの空気を吸い込む。

「はぁー、久しぶりのこの空気。帰ってきたって感じがするな」

それを見ていたのか、一人の少女が青年に話しかける。

「久しぶりってほど、離れてないでしょ」

ネズと似たようなファッションを身に纏い、黒髪ツインテールという、少女らしい髪型に一件では冷たい印象を受けてしまうかも知れない碧色の目をしている。

「マリィじゃないか。どうかしたのか?」

マリィと呼ばれた少女は、青年の横に並んで歩く。

「聞いたよ、ジムチャレンジ挑戦するんだって。うちも今年から参加するから……ライバルやね」

一瞬だけ青年に振り返り、笑みをみせる。

「ライバル、か。まぁ、そうなるな」

そう呟いた青年は満更でもなさそうだった。スパイクタウンの寂れた通りを歩いていると、マリィを応援するファン達、エール団と呼ばれている人達とすれ違う。

「……人気だねぇ、ジムチャレンジも期待されてるだろ?」

マリィの横を小さい歩幅で着いてきていたモルペコがジャンプしてマリィの胸元に飛び込む。慣れた様子でキャッチすると、そのまま抱えてマリィは歩き続ける。

「それは、アニキがジムリーダーやけん。うちはうちの実力で勝たんと……意味ないけん」

どこか物憂げな表情で呟くマリィ。誰も言葉にはしていないが、闘い方、使うポケモンの傾向もネズの影響は強い。スパイクタウンの人間には彼の印象を重ねるなと言う方が難しいのかも知れない。

「……マリィはマリィだろ。バトルの実力は皆認めてるよ。チャンピオンまではわからないけどな」

そういうと、マリィが頬を膨らませる。

「目標は変えん! アニキ越えんと意味ないっちゃ!」

意地を張っているのは間違いない。だが、それによってより高みを目指すことは、悪くないのかも知れない。

「うちはチャンピオン目指してるけど、そっちは?」

マリィの問いに、首を傾げる。

「いや、目標きいとるっちゃ」

その言葉で納得したのか、青年が短く答える。

「金」

一瞬マリィが足を止める。青年が歩くスピードを緩めないのを見ると、早足で追いつく。

「……それでええのん?」

「それ以外に、ないだろ」

そういうとマリィと別れる。青年はスパイクタウンの仮住まいへと戻っていく。別れた後に立ち止まるマリィは、不安げに青年を見送った。

「大丈夫かなぁ、リンドウ」

呟いた青年の名前は、彼に届くことはなかった。

 




読了ありがとうございました。

これからちょっとずつ更新していきます。

ポケモンが出るまで、もうちょっとかかるかな(汗


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第二話 ワイルドエリアにて

第二話です。

ポケモン、出てきたな!(野生のみ

ワイルドエリアさん、もうちょっと生態系的なのがあればなぁ、俺もなぁ……

色々なポケモンが混在してるから、多少はね?

従来の生態系がコワレチャーウ……




 まだ夜明け前の時間にスパイクタウンの入り口にリンドウが向かう。待ち合わせ場所にはすでに人が立っている。

「待ちくたびれましたよ」

どこまで本気なのか分からない表情で、合流するネズ。

「色々と準備するものがありますから、ね」

鞄を軽く持ち上げると、そこに荷物が詰まっていることが分かる。

「……約束は、守って貰いますよ」

ネズが隣を歩きながらリンドウに話す。

「勿論ですって、ちゃんとジムチャレンジの内容をマリィに伝えて、サポートしますよ」

マリィのサポート、それがネズからリンドウに出した推薦状の条件だった。

「……俺が言うのも何ですけど、別にマリィならサポートが無くても、クリア出来そうですけどね」

心配性のネズにたいして、少し冷めた目でみるリンドウ。だが、それについてはネズは全く気にしてない。

「勿論、実力的には何も問題ないでしょう。だがしかし、ジムチャレンジに向かう道中では何が起こるか……その為にエール団にも何人かジムスタッフに入れさせましたからね」

勿論、参加者の安全を確保する為に、とネズは付け足す。公私混同ではあるが、公をしっかり出来ていれば私を混ぜることに遠慮はないのだろう。緊急事態がなければ、マリィの進捗がいち早く把握出来るだけでネズは満足なのだから。

「それじゃ、目的地まで汽車で行きますか」

ルーンナイトトンネルを抜け、ナックルシティについた二人が、運転手に目的地を告げる。

「ワイルドエリアの集いの空き地まで」

 

 駅まで汽車で乗り継ぎ、ワイルドエリアの手前の駅、集いの空き地と呼ばれる駅まで辿り着いた。

「……大丈夫ですか?」

ネズがリンドウの体調を気遣う。だが、それとは裏腹にリンドウは健康そうだ。

「ポケモンの巣に行かない限りは大丈夫ですよ。それも短時間なら、多分大丈夫です」

駅を降りると、囲いがされてある。そこに管理を任されている人間が何人か立っている、トレーナーや準備のある人間以外が無闇に入らないようにしているのだ。

「これは……ジムリーダーのネズさんじゃないですか」

ジムリーダーとなればガラル全体でリーグカードが出回るレベルだ。田舎の人間でも充分有名人として通ってしまう。

「新しいポケモンを探してですか? それとも、特訓? なんにせよ、お気をつけて!」

出会ってリーグカードにサインを貰えたことが嬉しかったのか、元気に送り出してくれた。

「はぁ、あまりこういうのは好きでは無いのですが」

ネズがうんざりした様子で話す。ファンの人間にチヤホヤされる、というのはあまりネズのイメージでは無い。ライブで熱狂はするが、それとはまた別なのだろう。

「さて、取りあえずは木漏れ日林ですね」

そういうと、駅から見て左、西側よりを目指す。うららか草原を降りて、まっすぐ西へ。キバ湖の西側を右手に見ながら、歩みを進めていく。ワイルドエリアの中では、うららか草原、こもれび林はどちらとも穏やかな部類になる。それでもなお、ワイルドエリアは日々変わる天候とその度に違うポケモンが現れる程多様性に溢れる環境だ。それは豊かな土壌があるということ、それと共に熾烈な生存争いがあるということでもある。とはいえ、○番道路などと呼ばれる人間が開拓した土地と比較しても、表だった競争は見られない。

「うららか草原は、今日は晴れですね」

駅を降りて直ぐの場所で、大岩がど真ん中に並んでいる。緑豊かな場所には似つかわしく無いのだが。

「間違っても、近づかないでくださいよ」

ネズの忠告に、リンドウも警戒を高める。迂回するように歩いて行くと、岩の一つに心地よさそうに眠るイワークの顔がある。

「……これ全部、イワークなのか」

驚きに目を見開くが、特にこちらを警戒する様子はない。防御力を誇るイワークだからということもあるが、その日陰で休むホルビーやトランセルの姿も見える。

「近づかなければ、というやつですね」

周囲を見渡せば、木々にマメパトがとまっていたり、草むらの上バタフリーが羽ばたいている。天気が良いからか、今日は蜜を運ぶミツハニーの姿も目にすることが出来た。

「さて、こもれび林の……見張り塔跡地側でしたね」

うららか草原に近い場所で目的地の確認をする。右手にはキバ湖が見える。眺めていると時たまギャラドスが水面から顔をだし、再び湖の中に潜っていく。

「まだ少し歩かないと……ここは冷えますね」

先ほどまで晴れていたうららか草原から僅かに進んだだけだというのに、気温が低くなっているのが肌で分かる程に天候が変わる。かなり広大な土地ではあるので、全ての場所が同じ天気というのはまずないが、それを考えても短い距離で天候が様変わりしている。

「雪もちらついていますね、奥にバニリッチの姿もありました。あまり長居は無用ですよ」

そういうと、防寒着を羽織りネズは足を速める。それに着いていく形でリンドウも急ぐ。歩いていると、ネズの端末に連絡が入る。

「……もうすぐ、ですね」

光の柱が立ち上っているのが見え始める。あれはダイマックスポケモンがいる証拠だ。

「お待ちしておりました、ネズさん。この先のポケモンの巣に、ダイマックスポケモンがいます!」

防寒着を上から羽織ったエール団がネズとリンドウを見つけると近づいてきた。リンドウが生唾を呑み込み、ボールに手を掛ける。

「人数は四人、行きますか!」

 

 スタッフが腰掛けている大木に、リンドウがもたれかかる。

「し……死ぬかと思った」

少なくともリンドウよりも腕の立つエール団の二人も、肩で息をしている。表情からは余裕は全く感じられなかった。いつもと同じ表情なのはネズただ一人。

「それでは、そろそろ用事の時間なので……また目的のポケモンが見つかった時に連絡を下さい。何度もとは言いませんが、手伝えるようにはしますので」

そう言って、去るネズ。とてもではないが、同じトレーナーとは思えない格の違いを見せつけられる。だがしかし、目的は達成した。手にしたハイパーボールが少し揺れる事に、リンドウは達成感を覚える。

「次は……うららか草原、だな」

その言葉にエール団が驚く。

「まだやるんですか!? 一歩間違えれば死にますよ!?」

リンドウもそれについては同意する。

「確かに、がっつり準備してきたのに、正直ネズさんの足を引っ張らないようにするので精一杯だったからなぁ……次で最後にするよ」

ジムチャレンジに挑戦する以上、持てる戦力は少しでも多い方がいい。だが、それも危険が伴うのだ。そうして、探すポケモンの名前を出すと、エール団の表情が青ざめていく。

「……本気ですか?」

リンドウも、顔色が良いとは言えない様子だが、本気だと返す。

「大丈夫だ。今回同様、まだ対策が立てやすい部類のポケモンだ。ついでに言うと、目撃例は少ないし、状況は分かりやすい。取りあえず今日の所は一旦引き上げて、準備と……覚悟を決める時間はあるさ」

その言葉に、エール団の一人が呟く。

「俺、マリィちゃんに手紙書きます。戻ってこれなかったら……それを」

その言葉には、悲壮な覚悟があった。

 

 こもれび林とは方向自体は反対方向だが、うららか草原の中なので、距離的には駅に近い。だが、それでもそこに辿り着くまでの時間は同じか、むしろそれ以上掛かったかも知れない。

「人数分の防塵ゴーグルは、役に立ちましたね」

流石のネズも、緊張しているのだろうか。生憎の天候の為、近くに居てもその表情は読み取れないが、口数の少なさ、それと何時も以上の周囲の警戒に、ただならぬ雰囲気を感じられる。

「……そうですね」

砂嵐の中を、警戒しながら進んでいく。気付いたハガネールが目と鼻の先にいたなんて事が起こりうる環境に、必死に足を前に出していく。

 

 スパイクタウンのポケモンセンターでモルペコを休ませていたマリィが、三人仲良くベッドで眠っているのを見つける。

「どないしたんリンドウ? エール団の人らとどこか行ってたの?」

その言葉に、リンドウは答える。

「ちょっと……地獄の一丁目まで、な。全員三途の川を渡らずに済んだのが奇跡だったよ」

その言葉に、思わずマリィが笑う。

「もぉー、大げさやなぁリンドウは」

隣のベッドのエール団二人も渇いた笑いが零れていた。

 




読了ありがとうございました。

次回からジムリーグ開催です。

マリィちゃんカワイイヤッター

ちなみに、ゲームの主人公はマサルで出場します。

ユウリちゃんはどこ……ここ?


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第三話 ジムチャレンジ 開始

とうとうジムリーグ開催です。

ようやくポケモンバトルだけど、まぁ序盤だし……

適当でもバレへんか……

マリィちゃんとのバトルは、ナイデス






 今日はジムチャレンジの開会式、参加者全員が集まり、お祭り騒ぎが始まることを確認する。

「あ、おったおった。探しとったんよ?」

マリィがリンドウを見つけると、声を掛ける。

「マリィが、俺を?」

その反応がマリィにとっては好ましくはなかったようだ。

「私じゃ、不満と?」

マリィの言葉に首を横に振る。

「いや、チャンピオン候補に話しかけられるなんて、思ってなかったからな」

マリィは少し嬉しそうにしている。

「言っとくけど、うちは本気やけんね」

リンドウもマリィの言葉を疑ってはいない。軽口ではあるが、彼女のジムチャレンジに対する情熱を否定してはいないのだ。

「知ってるよ。同じチャレンジャーだ仲良くしよう。知らない仲じゃ無いんだし、情報共有くらいは、な」

チャンピオンのダンデがいつものポーズを取るそれだけで観客は歓声を上げ、ボルテージが高まっていく。その中、大会委員長のローズが、大会の説明をしていく。

「ローズさん、か」

リンドウは少し、複雑な表情をする。過去の恩人ではあるが、今はまだ、素直に再会を喜べる気分ではないのだろう。そしてなおかつ、ローズが彼のことに気付いていないかもしれない。それも無理は無い話だ、何年も前も話だから。

「おっと、もう開会式も終わりか。急がなくっちゃ、な」

そう呟くと、並んでいる列の中静かに動き出した。

 

 最初のジムチャレンジが始まる。一番目は草タイプ使いのヤローのジムチャレンジになるのだが、参加者が一番多い最初のジムチャレンジ、出だしが遅れれば参加も必然に遅れが出てくる。

「……まさか、こんなことになるとはおもっちょらんけん。とりあえず、ポケモンセンターで準備してから、でなおそ」

そう呟いたマリィは、見慣れた人影を見つけ、駆け寄る。

「なんだ、マリィか。どうした?」

「どうしたもこうしたも……こう人だかりがあったら、参加依頼もまともに……って、え?」

そこまで話した時に、アナウンスがなる。

「悪いなマリィ、一足先にジムチャレンジしてくるぜ」

開会宣言と共に最前線にいた彼は、表示板に三番目の挑戦者として書かれていた。

「えっ、もう受付済ませたと!?」

「最初のチャレンジは人が多いからな。マリィも急がないと、出遅れるぞ?」

そう言ってリンドウは、準備室へと足を向ける。その背中を見ながら、マリィは仕方なく会場を離れて行った。

 

 「さて、と」

大きく深呼吸をするリンドウ。準備室にはテレビがあり、一人目のチャレンジャーが映って居る。

「チャレンジは……ウールーを誘導しろ、か。上手く誘導しないと、トレーナーとの連戦になってしまう、ってとこか。使うポケモンはヒメンカとワタシラガ。草タイプだけだけど、随分と手加減してくれてる構成だな」

事前に集めている情報では、もっと厄介なポケモンを持っているようだった。しかも、まともに闘っては、タイプ相性が良くても勝てるかどうか、分からないくらい。

「初戦の人は、相性が悪かったな。ただ、これくらいなら準備した奴を使う必要もなさそうだな」

そう呟くと、手元のボールに目を落とす。共に居る時間が長かったポケモンもいれば、まだ日が浅いポケモンも居る。

「大丈夫だ、問題ない」

そう呟いて、立ち上がる。ジムリーダーが待ち受けるその場所へ。

 

 ウールーを追いかけるその先に、ガーディがいて、吠えて向きを変えられる。その仕込みに焦り、トレーナーとの闘いを強いられていた前の挑戦者とは違い、回り道をして丁寧にミッションをクリアする。

「冷静で丁寧なミッションだ、準備万端って感じだね。とても良い、バトルでも俺を驚かせてくれるかな!?」

そう言って、ヤローはヒメンカを繰り出す。対してリンドウが繰り出したのは、ユキハミだ。

「氷タイプ! そうか、君はあの街の参加だったね!」

「行けっ、ユキハミ。むしのていこうだ!」

ユキハミの攻撃がヒメンカに当たる。

「ヒメンカ、マジカルリーフだ!」

ヤローのヒメンカが反撃に木の葉を操り、ユキハミに攻撃する。だが、相性の悪さからか、あまりダメージは見られない。ユキハミの再度の攻撃で、ヒメンカは瀕死の状態になる。

「良くやったヒメンカ、戻れ」

ヒメンカを労いながら、次のポケモンを準備するヤロー。

「うん、良く準備してきてるね! それなら君は、ダイマックスを耐えられるかな!?」

リストバンドの願い星が輝き始める。その輝きにモンスターボールが共鳴し、その形を大きくする。

「ダイマックスワタシラガだ、どう出るかな?」

その言葉にリンドウは何も返さない、ただ共に居るポケモンを信じるだけだ。

「むしのていこう、だ!」

リンドウのかけ声に答えるユキハミ、そしてワタシラガのダイソウゲンがユキハミを襲う。

「はっはっは、どれだけ耐えられるかな?」

 

 むしのていこうによって、能力値が下げられても変わらずダイマックスで押し切るとするヤロー。もう少しというところで、違和感を覚える。

「なにか……食べてるな。はっ!」

黄色い果実をむしゃむしゃと美味しそうに食べるユキハミ。

「こんなこともあろうかと、オボンのみを持たせておいたのさ!」

リンドウは再びむしのていこうをユキハミに指示する。

二度目のダイソウゲンを受けてもまだユキハミは耐えていた。だが、もはやユキハミに余裕はない。

「もどれ、ユキハミ!」

「もう一度、ダイソウゲンだ!」

ダイソウゲンはリンドウが繰り出したジグザグマに直撃する。

「……ジグザグマか、なるほどね」

ヤローがジグザグマの姿を捉えて、睨んでいるとワタシラガのダイマックスが解け、通常の大きさに戻っていく。

「やっぱり、ダイマックスは凄いな」

「うん、その力絶大と言っても良い。だからこそ、その扱いを学んでいくことも、ジムリーグの一つの理由なんだ」

だからこそ、ヤローは疑問を持つ。目の前の青年がダイマックスバンドを着けていないことに。

「ジグザグマ、ミサイルばりだ!」

「気にしてる場合じゃ無いか、ワタシラガ、このはだ!」

ジグザグマが全身の毛を逆立て、ワタシラガに向かって飛ばす。ワタシラガもこのはを操り、マッスグマに攻撃を加えるが、疲労の色が先に見えるたのは、ワタシラガだ。

「まだだ、耐えろワタシラガ!」

「止めだ! もう一度ミサイルばり!」

お互いのポケモンが鎬を削り合う。正面からぶつかり合って最後に立っていたのは、ジグザグマだった。

「……よくやった、ジグザグマ」

ボロボロになったジグザグマを抱きしめ、ユキハミをモンスターボールからだして、きずぐすりを与えるリンドウ。

「ヒメンカ、ワタシラガ……お疲れ様」

ヤローも同様に、戦い抜いたポケモン達に労いの言葉を与える。

 

 ヤローとリンドウが固い握手を結ぶ。

「いやぁ、流石だね。最後まで耐えきられるとは思ってなかったよ。ダイマックスせずに負けてしまうのは想定外だったけど、良い勝負をありがとう!」

話が終わると、リンドウはヤローから草バッジを受け取る。

「ありがとうございました」

そう言って一礼をすると、スタジアムを出て次に向かって歩き出す。

「……少し心配だけど、今は僕のやれることをしようか」

性分なのだろうか、ジムをクリアした人間に気を掛けるヤロー。

 

 ターフシティを少し離れた時に、ロトムフォンから電話を掛ける。

「もしもし、どうしとっと?」

画面に映るマリィの姿を見て、少し表情に陰りがあるように感じる。

「俺はバウシティに向かってるところだけど、そっちはどう? 順調、には見えないけど」

その言葉に、少し憤りを見せるマリィ。

「順調やけんね! ただちょっと、初のジムチャレンジの前でちょっとだけ緊張しとっと!」

意地を張るマリィの姿に、自然と頬が緩んでしまう。

「なんで笑うと!?」

肩の力が抜けるのを感じて、歩きながら今までずっと緊張していたことを感じた。

「いや、マリィの声を聞いたらちょっと安心した。心配しなくても、ヤローさんのポケモンに苦戦することはないだろ。どっちかというと、ミッションの方が心配だけどね」

そうリンドウが言うと、マリィも少し肩の力を抜いたようだ。

「まぁ、挑戦は今日の午後やけん、今更緊張してもしかたなかと。ぎりぎりまでポケモン休ませたいけん、電話はええけど……」

マリィが何か言いたそうにしているのを、リンドウは感じ取ったようだ。

「やっぱり調子悪いのか? ジムチャレンジは何度でも出来るんだから、様子見でもいいんだぜ?」

「うちはいいと。やけん、何かいそいどらん? いっつも慎重やのに、なんでそんなに早く挑戦して、直ぐに次の街に向かうのも……なんかあると?」

その言葉に、一瞬返事が遅れる。

「別に、最初のジムを早めにクリア出来れば、次のジムに掛けられる時間が増える。それだけだよ。それより、ヤローさんの手持ちは……」

直ぐに話題を切り替えると、ジムチャレンジの内容についてになった。手持ちのポケモンの対策、ジムミッションのコツなど、話をしている内にどんどん時間が過ぎていき、やがてジムチャレンジの時間になる。

「あ、そろそろいかんといけんね。それじゃ」

そう言って電話を切ろうとしたマリィが、うっかりしていた様子で、最後に一言付け足す。

「一緒のホテルにおる子やけんど、面白くて、ポケモン強い子がおるけん。会ったら話してるとええよ」

そう言って、会話が切れる。簡単な特徴と名前を聞くと、端末で調べる。

「へぇ、チャンピオンの推薦か……だけど、トレーナー歴が短すぎるんじゃないか?」

マリィの言葉に半信半疑になりつつも、バウタウンへと足を進める。水の街はそう遠くはない。

 




読了ありがとうございました。

ジグザグマで書いてたつもりが、いつの間にかマッスグマになっていた、何を言って(ry

はい、訂正しました。

後から直したところは間違い多いなぁ(泣)

ヤロー ハロンタウンジムリーダー

所持ポケモン
ヒメンカ
はなかざりポケモン
タイプ:草
Lv:19
特性:わたげ
H:50 A:26 B:33 C:26 D:33 S:14
技:マジカルリーフ(ユキハミ 9~12)
  りんしょう
  こうそくスピン

ワタシラガ
わたかざりポケモン
タイプ:草
Lv:20
特性:わたげ
H:60 A:31 B:47 C:43 D:59 S:35
技:マジカルリーフ
  このは(ダイソウゲン ユキハミ  16~20
             ジグザグマ 25~31
      通常           12~15)
  りんしょう

リンドウ

所持ポケモン
ユキハミ
いもむしポケモン
タイプ:こおり・むし
Lv:25
性格:がんばりや
特性:りんぷん
H:50 A:17 B:22 C:27 D:20 S:15
技:こなゆき   
  むしのていこう(ヒメンカ  26~32 確定二発
          ワタシラガ 14~20 乱数三発

ジグザグマ(ガラルの姿)
まめだぬきポケモン
タイプ:ノーマル・あく
Lv:30
性格:むじゃき
特性:ものひろい
H:69 A:23 B:29 C:23 D:26 S:45
技:ミサイルばり (ワタシラガ 8~10)
  とっしん
  ねむる
  バークアウト


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第四話 ジムチャレンジ バウタウンにて

バウタウン、水タイプのジムリーダーのルリナとの対戦になります。


水タイプのコスチュームが素敵ですね(大声)


ジャケットにヘソだしを考えるのは、仕方ないね(オレモソーナノ


追加DLCでマリィちゃんとかローズ委員長の衣装追加らしいけど、楽しみですね(マリィちゃんと思い込んでる一般男性プレイが捗りますね


 少し急ぎ足で旅をしすぎたのだろうか、バウタウンについて、宿をとると直ぐに眠ってしまった。気がつけば日が暮れていたので、もうジムチャレンジが出来る時間では無いだろう。少し様子見をして、明日に備えることにした。

「っと、流石にマリィもチャレンジは終わってるか」

気になって調べてみると、マリィは無事にジムチャレンジを突破しているようだ。もう遅くなってしまったので、一日ターフタウンで宿をとって、それからバウタウンに向かうようだ。

「まぁ、無事で何よりか。ん、そう言えば」

昼のマリィの会話でトレーナーの事を思い出す、調べるとバトルのシーンが少し映っている動画を見つけた。

「やっぱり、経験もポケモンもまだまだ……!?」

そこまで言って、ようやく気がつく。確か、マリィと話していた段階では、まだサルノリを使っていたはずだ、だが動画では既にバチンキーに進化している。進化すること自体はおかしくはないが、スピードが速すぎるのではないか、そう感じた。

「いや、バトルしたのが進化する直前だったのかもな、どちらにしても、俺が気にする事じゃ、ないだろ」

そう呟いて、街灯に照らされた街を歩く、バウタウンのジムを覗き、レストランへと足を向ける。

 

 ジムチャレンジは水のスイッチを入り切りをして先に進め、というものだったが。

「イエッサン、頼んだ」

エスパータイプであれば、何一つ苦労すること無く、突破することが出来た。

「……まさか、こんな形でジムミッションをクリアするなんて」

ジムリーダーのルリナが肩を落とす。

「まぁ、たまたまイエッサンがこういうこと得意にしてただけで、真似できる人は少ないと思いますけどね」

少なくとも、真似できるトレーナーよりも、正規の方法でクリア出来るトレーナーの方が多いだろう。

「貴方の力を試すことが出来なかったのは残念だけど、これから見せて貰うわ」

そう言うとルリナは決戦のフィールドへ向かう。

 

 最初のジムでは挑戦者が多すぎる為、どのメディアもダイジェスト形式になるが、二回戦以降となると一部では解説付きで放送されることもある。

「いやぁ、今年のジムチャレンジも、例年と比べて粒ぞろいですね。なんていっても、あのチャンピオンからの推薦を受けたトレーナーもいます」

「はい、勿論その二人も注目ですが、奇しくもジムリーダーでメジャーに選ばれなかったサイトウ選手は、チャレンジャーとして参加しているので、こちらもみのがせませんね」

解説のレポーターがそう話すと、バウタウンのジムを一番に突破したサイトウ映像が流れる。

「いやぁ、ジムリーダーのオニオンが居なければ、抜擢は間違いないとされていたのですが」

「実際に投票の際も僅差だったと聞きます。ただ、チャレンジャーとしてジムチャレンジに挑む時も、チャンピオンを目指す意気込みは変わらず、と言った様子でしたね」

そこまで解説を終えると、ジムリーダーのルリナと挑戦者がスタジアムに入場する。

「これまでジムリーダールリナさんのジムバッヂを手に入れてきたのは、初戦突破の半数ほど、今回の挑戦者はどうなるのでしょうか?」

「ほぼ全ての挑戦者がジムミッションをクリアしているとはいえ、異例の方法で手の内を見せずにジムミッションをクリアした挑戦者、スタジアムは期待の歓声が上がっています」

スタジアムの中心で、二人が会話を交わす。

「これまで挑戦者が見せたポケモンは、ユキハミ、ジグザグマ、それとイエッサンですね」

「イエッサンに関しましては、バトルのデータがありません。しかし、あまり戦闘が得意とは言い難いポケモン。ユキハミも同様です、ただ挑戦者のベルトにはまだ私達の知らないボールがまだストックされています。まだ見ぬポケモン達に期待が高まりますね」

両者がボールを構え、それを宙に放つ。

「さぁ、ジムチャレンジのポケモンバトルが、始まります!」

 

 ルリナが放ったボールからは、トサキントが現れ、半分が水のステージを悠々と泳ぐ、地面があるステージのど真ん中に現れた挑戦者のポケモンは、観客もトサキントも気にせず、体を丸めている。

「……ナットレイ」

水ポケモンにとっては天敵の草タイプのポケモン。それ自体は驚くことでは無いが、事前情報から得ているトレーナーが持つには明らかにレベルが高すぎる。

「エース級、ということかしら」

切り札を惜しみなく使ってきたというのならば、手加減する方が無礼というもの、ルリナの方から攻撃をしかける。

「トサキント、バブルこうせんよ!」

トサキントの攻撃に、ナットレイは意にも介していないようだ。

「流石の耐久力ね、でも攻め手は緩めないわ! 続けてバブルこうせん!」

再度トサキントの攻撃を受けて、ナットレイは動き出す。煩わしく振るわれたその触手の動きは鋭く、容易くトサキントをスタジアムの端まで吹き飛ばした。

草タイプ パワーウィップ

「あーっと、ルリナ選手のトサキント戦闘不能!」

トサキントをボールに戻し、次のポケモンをフィールドに出す、その時点で違和感を抱いた。

「どうして、ポケモンに指示を出さないの?」

ポケモンバトルにおいてトレーナーがポケモンに指示を出さないのは、本来あり得ない。

「舐められているの? 確かにタイプ相性も良いし、充分に強いポケモンだけど」

それにしては、何か違和感を感じる。それが何かを理解した時、二匹目のポケモンが戦闘不能になっていた。

「……余裕がなさ過ぎる。これだけのポケモンを持っているのなら、勝ちを確信してもいいはずなのに」

そう呟きながら、ポケモンを戻し、最後の一体に手を掛ける。願い星バンドに力を集め、ダイマックスのエネルギーが集まっていく。

「いけっ、カジリガメ! 相手のナットレイを叩き潰せ!」

そうして、挑戦者をよく見ると、大小様々な傷が見て取れた。

「……おかしい」

本来であれば、闘うポケモンはトレーナーを守りながら闘う。トレーナーが傷を負う事も少なくないが、こういった整えられたスタジアムで新たに傷を作ると言うことは、余程訓練されていないか、懐いていないポケモンだけだ。

「エースポケモンじゃない、そのナットレイは……!?」

キョダイマックスしたカジリガメさえも、一撃で打ち倒す。ただし、その破片はトレーナーすらも傷つけていく。

 

 ルリナとリンドウは握手を交わす。

「あまり……褒められた闘いでは無かったわね」

ジムリーダーの言葉に、リンドウは返事をする。

「まぁ、邪道でしょうね」

捕まえてそのまま碌に訓練もせずにナットレイを出したリンドウは、バトルの余波をまともに受けて、傷だらけになっている。ただその姿に、迷いはないように見える。

「それでも、勝利には違いないわ。バッヂを受け取りなさい」

リンドウは水バッヂを手に入れた。

 

 傷だらけの体を引きずりながら、リンドウは借りているホテルへと向かう。

「……そりゃ、無茶だよな」

碌に育成していないポケモンでジムリーダーと勝負しようと言うこと自体が間違いなのだ。それを補う為に元々強いポケモンを使う事の対価は、決して少なくは無い。リンドウの手に余るポケモンを扱う事は、火中の栗を拾うようなものだ。

「そんなに睨むなよ、イエッサン。俺だって分かってる……次はこんなものじゃ、済まないだろうし、な」

まだジムチャレンジで使ったことの無いボールを見て、呟く。少し考え込んで携帯を取り出す。

「もしもし、こっちはなんとか水バッヂを手に入れたよ」

通話相手のマリィは驚きを隠せない様だ。

「えっ、まだターフシティも出てないとよ!? 早いっちゃ!」

その言葉に、少し落ち着いた様子のリンドウは、ソファに腰を落とす。

「もっと先に行ってる奴も居るし、時間の勝負じゃないんだ。焦る必要はないだろ」

そういったリンドウは、疲労からか溜息を吐く。

「まぁ、そうやけど……どうしたん、しんどいと?」

マリィの心配そうな声音に、少々複雑な気持ちになったが、リンドウは話題を切り替える。

「それよりも、ルリナさんのジムチャレンジだがな」

バウタウンのジムチャレンジについて充分に話し合った後、電話を切る。スマホをソファに投げ捨て、ベッドへと飛び込んだ。

「……痛い」

痛む傷はあるが、疲労の方が上回ったのか、深い眠りへと落ちていく。

 




読了ありがとうございました。

はい、最初にワイルドタウンで捕まえたポケモンの一匹が、ナットレイです。

鉢巻持たせたけど、カバにパワーウィップ外したはもう許せるぞオイ!(一敗

というわけで、ナットレイのデータです。
(リンドウのポケモンに努力値は)ないです。
ポケジョブしかしてないやつと捕まえたばかりのポケモンだから、当たり前だよなぁ?

ナットレイ
とげだまポケモン
Lv:60
性格:のんき
特性:てつのとげ
H:177 A:136 B:198 C:75 D:162 S:30
技:パワーウィップ
ねをはる
ジャイロボール
てっぺき


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第五話 ジムチャレンジ エンジンシティにて

ほのおタイプジムリーダー カブ戦です。

ビートとすれ違ったり、エール団とすれ違ったりします(ニッコリ

じゃくほバンギラスがいれば、トゲキッスもギャラドスもリザードンも大丈夫やな!

ヌッ……(ヒヒダルマのばかぢから


 バウタウンを出て、第二鉱山に向かう途中、ピンクのコートに身を包んだリンドウと出会う。

「あっ、ビートじゃん」

「……へ!?」

ビートと呼ばれた少年は、リンドウを見た瞬間冷や汗をかき、逃げるように去って行った。

「……あー、参ったな」

久しぶりの知人に会って少しテンションが上がっていたのか、自分がどんな立場の人間なのかうっかり忘れていた。

「まぁいいや、あいつもジムチャレンジしてるみたいだし、いつか会うだろう」

そう言って、少し名残惜しげに第二鉱山に足を踏み入れる。

 

 そこは、以前から鉱石や燃料を取れる鉱山の内部、採掘した石類を運ぶためのトロッコとレールが見つかるが。

「移動用には、使えないな」

当たり前だが、動力がないので手押しであり、安全装置などない。人とぶつかってしまっては大惨事だし、ポケモンとぶつかってもそれはそれで問題である。

「まぁ、歩くしか無いか」

そうやって歩いていると、エール団の人間を見つける。

「エール団、何してんだ?」

リンドウが尋ねると、エール団の二人組は元気よく答える。

「マリィさんがここに来るのを待って、スタンバってます」

「マリィさんを応援するために、スタンバってます」

その返答に、心底呆れた目でみるリンドウだったが、掛ける言葉を失ったのか、適当に返事をする。

「まぁ、頑張って」

頑張りますと勢いよく答える二人の横をすり抜けた後、ふと思い出したかのように声を掛ける。

「あぁ、ジムチャレンジのトレーナー、適当でいいから足止めして貰っても良いかな?」

その依頼に二人は首を傾げる。ふとマリィが自分より遅れていると言っていたことを思い出したのだ。

「マリィの為になるから、頼むよ」

そう言って手を振って離れていく。遅れているのがマリィだけでなくなれば、或いは遅れている人間が増えれば、焦ることもなくなるだろう。という打算的な考えかも知れない。

「マリィさんの為なら!」

 

 ビートとエール団にあったこと以外は特にこれといった事は無く、道すがらトレーナーにバトルを挑まれて負けたり、野生のポケモンと出会っては逃げたり、弱そうだったら闘ったりしながらエンジンシティへと辿り着く。

 

 エンジンシティのジムミッションは野生のポケモンを倒せば一点、捕獲すれば二点という条件で、野生のポケモンと対峙している間、ジムのトレーナーが邪魔をするというものである。

「ジムチャレンジ、開始!」

かけ声と共に、用意してある草むらに飛び込む。

 草むらから、ロコンが飛び出してきた。

「そう簡単に、クリア出来ると思わない事ね!」

そう言ってトレーナーがポケモンを繰り出した瞬間、リンドウはボールを投げていた。

「……は?」

リンドウが投げたボールはクイックボールと呼ばれるボールで遭遇した瞬間に投げれば捕まえやすいと言われているボールである。あっさりとロコンを捕まえると、次の草むらに向かい更に二匹ポケモンを捕まえてしまった。

「これで、ジムミッションクリアでいいかな?」

 

 「さぁて、異例の早さでジムミッションをクリアしたチャレンジャーのジムリーダーへの挑戦になります!」

実況の声が、スタジアムに響き渡る。

「今回、君のポケモンを見ていないからね。少し楽しみにしているんだ」

そう言ったカブは握手の後、手持ちのキュウコンを繰り出した。

「……まぁ、驚いては、貰えるんじゃ無いですかね」

どこか震えているような、怯えているような声でカブに答える。決意したような表情で放り投げたダークボールの中から、2メートルを超える巨体が現れる。

「……バン、ギラス」

カブが、息を呑む。

 

 「あーっと! チャレンジャー、とんでもない隠し球を準備していたぁー!」

そう実況が吠えると同時に、カメラが砂嵐に被われる。

「これは、バンギラスの特性、すなおこしですね。カメラを直ぐに対応させます」

そう解説役が話すと、防塵使用のカメラがフィールドを鮮明に写す。

「ジムリーダーのカブさんの炎タイプのポケモンに岩タイプは有利です、挑戦者も下準備は充分、といったところ……のはずですが」

バンギラスの様子がおかしく、カブのキュウコンの方向ではなく、リンドウの方を振り返って、値踏みをするように近づく。

「グゥオオオオオオ」

低く鈍い咆哮と共に、吐息がリンドウにふきかかる。生命体としての規模が違いすぎるのか、それだけの行為でも、踏ん張らなければ倒れてしまいそうになっている。

「これは、懐いていないというか……それ以前に」

どうみても、コントロール出来ていない。言うことを聞かないどころか、今にも襲いかかりそうだ。

「グォオオウ」

 

 やがて興味を無くしたのか、フィールドの中央へと振り返るバンギラス。

「っ!? あぶねぇ!」

全力で後ろに跳ぶリンドウだが、荒々しくとがった尻尾の一部が引っかかり背中を打ち付ける。

「いっ……てぇ。まぁ、いいか。あとはまともに相手にしてくれるかどうか、だけど」

こんなやりとりをしている間に、バンギラスを後ろから不意打つことが出来たはずなのに、カブはそれをしなかった。自滅を待っていたとも考えられる。

「……私の手持ちに、彼のバンギラスに対抗出来るポケモンはいない」

そう言って、キュウコンをボールへと戻す。静まりかえる観客席、前例のない発言に戸惑う人も少なくない。

「おーっと、これはどういうことでしょうか?」

解説も、上手く言葉に出来ていないが、カメラはカブを写し続けている。

「……だが、ジムリーダーとしてのつとめを果たさなければならない! 私のエースポケモンとの一騎打ちで勝負決めさせて貰いたい!」

そう言葉にして、ダイマックスのエネルギーをリストバンドへと集めていく。その輝きに一瞬声を忘れる観客席。キョダイ化したボールが天高く放り投げられると、現れたのはカブのエースポケモン、マルヤクデ。

「でたー! これはジムリーダーの全力! マルヤクデの キョ ダ イ マックスの姿だー!」

解説が大きくマイクに叫び、観客席は沸き立つ。

「本来、ダイマックスは姿が大きく、あくまで見えるだけですが、姿形はそのままの変化です。ですが、数少ない特殊な性質をもったポケモンは、姿形を変え、特異な力を持っています……未だ私も、ジムリーダーとチャンピオンのポケモンしか見たことはありませんが……一説には、ガラル粒子により適合した変異種とも言われています」

淡々と説明するが、その言葉には期待と驚きが混じり合っている。

「ジムリーダーはほのお、むし! チャレンジャーはいわ、あく! 互いが互いの弱点を突き合う形、勝負は……一瞬だ、見逃すなよ!」

本来のマルヤクデよりも、節の数倍以上に増え、その炎は更に激しくもえさかっている。遙か高くから相手を見下ろしているが、その姿に油断は見えない。むしろ、泰然としているのは、鎧を纏った挑戦者の方だ。

「ポケモンが近づき、動く度にフィールドが揺れています! その地響きは勿論、放送席にまで届いています! 皆様も、直にこのバトルの衝撃を感じていますか!?」

歓声で、フィールドも震える。その中心にいるカブは、額から流れる汗に、緊張を感じ取っていた。

「……生きた心地が、しねぇな」

すなあらしで視界が悪く、バンギラスの姿も一部しか見えない。だというのに、マルヤクデのキョダイマックスは、嫌と言うほど目に焼き付く。

「リンドウ! 君の闘い方は、正直に言うと褒められたものではない!」

カブの言葉を、ただ受け止める。邪道は承知の上、トレーナーとしての矜恃など、持ち合わせてはいない。

「だが! 強敵であることは間違いない! いざ、尋常に……マルヤクデ、やれ!」

虫タイプ ダイマックス技

 ダイワーム

とてつもないエネルギーがフィールドの一部を吹き飛ばしながら、バンギラスに直撃する。砂埃を巻き上げ、一時的にその姿を隠してしまう。

「……やったか?」

普通のポケモンでは、耐えきれずひんしに至るダメージだろう。だが、砂煙の中から響いてきたのは、その身を竦ませる咆哮だった。

「グォォオオオウ」

自慢の鎧を傷つけられたことに腹立てたのか、荒々しく響く雄叫びと共に、一歩踏み出す。その足が地面を揺らし、まるで地震が起きたと錯覚してしまう程だ。

「な、まさか!?」

地鳴りと共に隆起する岩盤を、長い尻尾を振り回し、巨大な岩を易々と砕きながら宙へと巻き上げる。

岩タイプ いわなだれ

数も大きさも、尋常じゃ無い岩が、フィールドの上空から、降り注ぐ。

 

 視界にもやがかかり、手足から力が抜けていく。どうやらバンギラスのいわなだれが当たったようだ。砂煙のせいか、まともに目を開けることもかなわないし、気付けば地面が上にあった。

「……く、そ」

 

 バンギラスのいわなだれはトレーナーサークルまでも巻き込んでいた。カブが居る場所も、範囲内だった、だが。

「すまない、マルヤクデ」

キョダイマックスした巨体を活かし、その体で落石からカブを守っていた。そのおかげでカブは傷一つ無いが、マルヤクデの体力は無くなり、体はどんどん小さくなっていく。マルヤクデをボールに戻し、一度こぶしを握りしめるとカブは前を向く。

「不味いな」

マルヤクデを倒したバンギラスは、既にカブなど目もくれない。そもそも、このフィールドのどこにも興味がある物はないのだ。なら、邪魔者を排除した後は、外に向かうのみ。

「えっ……バンギラス、こっちに来てない?」

観客の一人がぽつりと零した。砂埃で現状の把握が遅れていたが、不安は伝播していく。

「そ、そんなことないだろ。バトル中だぞ?」

「でも、チャレンジャー倒れちゃってるよ? カブさんのマルヤクデも倒れちゃったし」

「逃げた方が……良くない?」

放送席から、観客の恐怖を察知したのか声が響いた。

「安心してください! フィールドとの間には、エスパーポケモンによる見えない壁が設置されています。ポケモンの技が観客席に届くことは―――」

全てを言い切る前に、バンギラスが見えない壁に阻まれて弾かれるのが観客席から見える。

「グゥオ」

まるで、檻に閉じ込められた猛獣を見るような感覚。だが、しっかりと安全な事を知って、観客席は静まる。だが、その静寂は更なる混乱の幕間でしかなかった。見えない壁をバンギラスの牙が容易く破り去ってしまったからだ。

「グゥウウウウオオオオオ」

バンギラスの雄叫びが、観客を逃げ惑わせる。我先にと、出口へと向かう観客達だが、数が多く、まともに動くこともできない。逃げ遅れた最前席の少女が、腰を抜かして立ち上がることも出来ずにいると、バンギラスが更に近づいてくる。

「ひっ」

恐怖に支配され、悲鳴を上げる寸前で一人の女性が少女の手を握り、一先ずおさえる。

「大丈夫、見えない壁は一枚じゃないから。早々破られることはないわ」

再び面倒な壁に阻まれて、鬱陶しそうに壁に牙を突き立てようとするバンギラス。だが、その後頭部に何か軽い音が響いた。

「グォ?」

ポンという軽い音共に、バンギラスが光に包まれ、ダークボールへと収まっていく。

「ねっ、大丈夫でしょ?」

少女を抱きしめ安心させる。フィールドでは、頭部から血を流し、足を引きずりながらバンギラスの居た場所へと進むチャレンジャーがいる。

「……全く、何度驚かされるのか、分かった物じゃ無いな」

力尽きて倒れ込むリンドウを抱きかかえたのは、カブの腕だった。

 




読了ありがとうございました。

ワイルドエリアのポケモン二匹目です、ナットレイより数倍ヤバいです(愉悦)

暴走するバンギラスは金銀のころからの夢ですねぇ。

ゴ○ライメージだからかもしれません(笑)

ポケモンバトルはどこ……ここ?

バンギラスのデータ

バンギラス
Lv:60
よろいポケモン
性格:きまぐれ
特性:すなおこし
H:208 A:184 B:155 C:120 D:143 S:82
技:いわなだれ
ストーンエッジ
かみくだく
はかいこうせん


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第六話 ジムチャレンジ カブ戦その後

カブ戦 その後です。

ソニアさん登場ヤッター

どうやって登場させるか、割と悩みました(笑)

……早口で喋ってそう(偏見


 視界は半分赤く染められていた。分かっているのはマルヤクデが倒れた事、バンギラスが観客席に向かっていること。

「いてぇ……あた、まが……回らねぇ。くそ、次の……ぽけも、ん」

これ以上バンギラスをのさばらせれば、試合が止められてしまう。ほのおバッヂを手に入れる千載一遇のチャンスを、逃がすわけにはいかない。

「ぼー……る、を」

左手に力が入らないから、右手に持ち替えてバンギラスをボールに戻す。そのあと、新しいポケモンを出すために、手持ちのバンドに手を伸ばした、つもりだが。

「あ、れ?」

どうやら、また天地がひっくり返るみたいだ。視界が暗転して、気付けば見たことがない部屋にいた。

「……へ? あれ、ここは?」

真っ白い部屋に、ベッドに寝かされていることに気付くと鈍痛が襲う。

「あ、起きた? いやぁ、最近の若い子は無茶するのね~。いや、私も若いけど?」

そう言ってなれなれしく話しかけてくる女性は、ソニアと名乗った。

「知り合い、じゃないですよね?」

どうしてそんなつまらないことを聞くのか、そんな顔をすると言葉を返すソニア。

「貴方が起こした騒動、観客席の混乱、それのお客さんの誘導、ただ試合を見に来ただけの私がしてあげたんだけど? そのおかげで、騒ぎにならずに済んだと思うんだけど、その辺どう思う?」

早口でまくし立てられると、リンドウは怯む。

「あ、ありがとうございます」

礼を聞けて満足したのか、医務室の椅子を借りてリンドウと向き合う。

「うんうん、まぁ私もお礼が欲しくてした訳じゃないから、そう言って貰えるだけで充分かな。ただまぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、きいてもいい?」

「俺が分かることで良ければ、構いませんけど?」

学もないリンドウに何を聞くつもりなのか、それは分からないが、助けて貰ったことは事実だ。お礼をするのも吝かじゃ無い。

「そう!? ならねー、ガラル地方の伝説とか、そういったこと聞いたこと無い? ダイマックス関連だと嬉しいけど、なんでもいいよ。ジムチャレンジの前準備で各地を回ってたんでしょ、何か分かることがあったら些細な事でもいいからさぁ」

そういうとソニアは期待した目でリンドウを見つめる。

「えーと、ブラックナイトの事ですか?」

わざとらしく落胆した様子を見せるソニア。

「だよね~、色々聞いて回ってるんだけど、誰も知らないって……え、今なんて?」

どうやら聞き込みをするのはリンドウが初めてではないらしい。だが、リンドウが喋ったブラックナイトの事は知らないようだ。

「え! 何!? ブラックナイト!? 何それ、聞いたこと―――」

「病人を揺さぶるのは感心しないな、特に頭部を傷つけているんだ。異常は無かったとは言え、控えた方が良いと思うが」

入り口からジムリーダーのカブが入ってくる。半ば無理矢理ソニアをリンドウから引き剥がす。

「え、ちょっと待って、まだ聞きたいことが」

「今は、安静だ。病状が落ち着いてから、ゆっくり話してくれ」

病室内にいると騒がしくなると思ったのか、無理矢理外に出そうとする。

「ナックルシティで待ってるから! 話の続き、絶対に聞かせて!」

そう言い残し、ソニアは病室から見えなくなる。

「……全く、騒々しいことだ。すまない、大切な話だったかな?」

「いえ、大した話じゃないですよ」

そう話すリンドウの目は少し、寂しそうな顔をしていた。

 

 「傷は、傷むかい?」

カブが優しく話しかけると、リンドウは正直に答える。

「ええ、まだ少し頭痛は残ってます。話したりしてる分には、酷くはなりそうにはないです」

むちゃくちゃなバトルをしている割には冷静に会話が出来ているものだ、そうカブが呟くと言葉を続ける。

「君のバトルの方針だが……目に余るものがある。勿論、育てるポケモンもそのやり方も基本的には自由だが、具体的に言わせて貰えば、もう一度バンギラスが暴れることがあれば、ジムチャレンジの権利を剥奪されると思って貰って良い」

カブのその言葉に、頭を抱えるリンドウ。

「マジか……ラテラルタウンもバンギラスで乗り込むつもりだったのに」

落ち込んだ様子を一瞬見せて、顔を上げる。顔色が悪いのは、怪我の所為か、忠告の所為か。

「分かりました。俺もここまでコントロール出来ないのも……怪我するのもこりごりですし、今後は控えます」

あまりにあっさり了承するリンドウの反応に、カブは少し戸惑う。

「いいのかね? 私が言うのもなんだが、並大抵の苦労ではなかっただろうに」

自分より格上のポケモンを捕まえるのはかなり苦労するものだ。ましてやバンギラスクラスになると、やろうとして出来るものではない、例えそれが、誰かの協力の元であったとしても、だ。

「このジムチャレンジの為に捕まえたようなものですから、流石に野生に返すのはもうちょっと先にはなると思いますけどね」

「野生に……返すのか?」

「おかしいですか?」

リンドウの純粋な反応に驚く。トレーナーとしての感覚では、強いポケモンはそれだけで価値があるはずなのに、まるでそれは今だけなのだ言わんばかりの彼の反応に少し戸惑う。

「いや、とやかく言うのは止めよう。忠告を聞くのならば、渡すものがある」

そう言って、リンドウの手にほのおバッヂを渡す。

「これから先も大変だが、頑張ってくれ。それと、体は大切にな」

そう残すと、カブは病室から離れた。

 

 バッヂを手に入れたが、実感は伴っていない。頭だけでも無く、体の節々が痛むから、その日は病室で安静にすると決めてから、まるで夢の中にいるような感覚に陥ってしまう。

「……まさか、俺が、ねぇ。夢みたいだ」

そう呟くと、程よい疲労感が眠気を誘っていることに気付いた。特にあらがうことも無く、休息に付く。

 

 携帯電話の音が鳴る、すやすやと眠っていたのを邪魔されて、少し苛立ちながら電話を取る。

「もしも―――」

「やぁーーと、繋がった! なんしとっと!!!」

耳を劈く声が、電話から響く。その声の持ち主はよく知っている相手だった。

「……マリィ?」

画面の向こうには怒髪天を衝く勢いで怒りを見せる少女がいた。

「何回電話したと思とっと! カブさんとの対戦、見たと……心配したんよ?」

不安そうな声色が、リンドウに響く。ふと携帯の画面に目を落とすと、大量のマリィの着信履歴と結構な時間眠っていた事を告げる時刻が見えた。

「……ごめん」

それだけ伝えると、マリィも少し落ち着いたのか、声のトーンも落ち着いてきた。

「まぁ、終わってしまったことは仕方なかと……体は、大丈夫?」

マリィの言葉に、リンドウは頷く。

「大げさに包帯を巻いてるけど、擦り傷ばっかりさ。見た目程じゃないよ」

そう言うと、安心したと呟いてマリィが告げる。

「そっか、それじゃあ、バンギラスをこっちに送ってくれたら許してあげる」

不意に飛び出した言葉に、リンドウは一瞬戸惑う。

「……なんて?」

「バンギラス、こっちに送って。またあんなバトルしたら、次どうなるかわからんち、私が預かってたら安心でしょ?」

数秒の沈黙の後、リンドウが言葉を詰まらせながら言葉を紡ごうとする。

「えーと……まぁ、それは」

「拒否権はないよ?」

少女の威圧に敗北を悟り、ポケモンを送る準備を始めるリンドウ。

「えぇ、と。カブさんのところのジムチャレンジなんだけど……」

マリィとジムチャレンジの事について話し始める。

 

 マリィとの会話が終わり、再びベッドに転がる。

「バンギラス無しで、次のジムチャレンジどうしようか……」

次のジムリーダーのことを考え、憂鬱になるリンドウだった。

 




読了ありがとうございました。

ようやく、ブラックナイトが少しだけ見えました。

主人公の出自も書かないとなぁ、と思いつつどの辺で書くか悩み中……



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第七話 ジムチャレンジ ラテラルタウンにて

ラテラルタウン突入です。

(ジム戦は)ないです……

ビートの過去話って、今のところなかったよね?

まぁ、間違ってたらオリジナルということで(適当


 エンジンシティを出て、ワイルドエリアを抜けて次の街へと向かう。

「取りあえず、腹ごしらえを……あ」

手近な定食屋さんに入ると、ソニアと出くわした。

「あー、ブラックナイトの子!?」

 

 ソニアとリンドウが向かい合って座る。

「へぇ、子守歌代わりに、ブラックナイトの話を?」

リンドウが頷くと、カレーを一口食べる。

「そうそう、孤児院に居た時に、絵本代わりに出資者の資料を読んでたよ。まぁ、子供に分かりやすいイラスト付きの伝承しか分からなかったけど。その中にブラックナイトの話があった」

そこで一度話を区切り、食事を続ける。

「出資者も気になるけど……そのブラックナイトがどんな話か、聞かせてくれる?」

「そんなに長くはならないけど。空を黒い雲が覆う時、巨大なポケモンが人々を苦しめ、助けを求める。人々の絶望の声に立ち上がった一人の若い英雄が一対の剣と盾を手にする。幾つかの巨大なポケモンと闘い、最後の原因を絶つ事で、ガラル地方に澄み渡る空を取り戻した、って感じ」

物語風だから、実際はもっと長いはずだけれどと呟く。

「詳細まではちょっと思い出せないかな。何しろ、文字もはっきりとは覚えてないくらい前のことだから」

そう答えたリンドウの前には、熱心にメモをとりぶつぶつと呟くソニアがいた。

「巨大な……恐らくダイマックスのことだけど、人々を苦しめるというのは分からないかな。それを悪用していたか、あるいは力が暴走していた? いや、ダイマックスの起源から遡った方が早いかも。それと黒い雲……これもダイマックスの時の雲かな、色は見方によっては黒に見えなくも無いけど」

あまり触れない方が良いと思ったのか、自らは喋り掛けないようにするリンドウ。カレーのスプーンが程よく進んだ辺りで、ソニアが顔を上げる。

「うん、とりあえずわかんないことばっかりだけど、一つ分かることは……若い英雄は、広場の銅像の事ね!」

ナックルシティの広場に飾られている銅像を思い浮かべる。

「うん、俺もそう思う。剣と盾、それとガラルを救った英雄。これで良かったかな、ソニアさん」

リンドウの言葉に素直に礼を伝えるソニア。

「うん、ありがとう! 今後の研究の方向性が決まったわ。ブラックナイトについてと、その物語を調べてみる」

その言葉と見たままの喜びように、リンドウは笑みを零す。

「ん、私何か変なこと言った?」

首を傾げるソニアにリンドウは答える。

「いや、正直に喜んで貰えたならよかった。ちょっと研究者に偏見持ってたみたいで、もっとこう……」

「根暗なイメージ?」

目の前に指で丸を二つ造り、眼鏡のポーズをするソニア。

「そうそう、ぼそぼそ喋ったりって感じ。まぁ、面白い言動してるのは研究者っぽいかな?」

リンドウがそうからかうと、ソニアも素直に答える。

「してないし! おかしくないし! 普通だし!」

感情的になっているソニアを見て、さらに笑うリンドウ。それから、話が合うのか色々と話した。

「へぇ、チャンピオンと一緒にジムチャレンジしたんだ?」

「そうそう、ダンデが極度の方向音痴だから、私が道案内してあげたんだから!」

「道案内だけして、バッヂはゼロ?」

ソニアが再び怒る。

「ゼロじゃないもん! ちゃんと幾つかもらったんだから」

その言葉に、リンドウは目を細める。

「全部じゃないんだ?」

その言葉に更に顔を赤らめるソニア。

「バッヂの数なんかどうでもいいでしょ! 全部集められる方が少数なんだし! あんたも、集められるか分からないでしょ」

その言葉に、リンドウは何も変わらないトーンで答えた。

「まぁ、全部は無理だろうね。良くてあと一つ、二つかな。ネズさんは……どうかな」

その言葉にソニアは疑問を抱いた。

「無理だろうね、って。チャンピオンを目指してるんじゃ無いの?」

恐らくはチャンピオンの背中を追う二人を想像したのだろう。半ば諦めているかのようなリンドウの言葉に違和感を覚えた。

「目指す先は人それぞれだよ、ソニアさんが研究者になりたいみたいに。別にチャンピオンを目指さなくても、バッヂを持っていることに意味がある人間だっている」

そう言うと、席を立ち、勘定を済ませる。

「そりゃあ、そうだろうけど」

未だに困惑しているソニアに手を振り、別れを告げるリンドウ。

「話せて楽しかった、また機会があれば一緒にお茶でもしよう」

 

 ラテラルタウンに辿り着くと、見覚えのあるピンクのロングコートのリンドウを見つける。

「……ひさしぶりビート」

リンドウが声を掛けると、目を細めてじっと見つめる。ビートと呼ばれた少年は、溜息を吐いて返事をする。

「てっきり、死んだものとばかり思っていましたよ。幽霊になって現れたのか、ってね」

 

 リンドウとビートは昔話に花を咲かせる。共に同じ孤児院の出身で、その頃の話や、互いの知らない時期の話をする。

「先生は未だに元気にしてるよ。本当さ、まだ孤児院の子供達を相手にしてる。死ぬまで変わらないって、本人も言ってるから」

ビートの言葉に、リンドウは笑みを零す。

「本当に変わらないんだな、あの人も、結構厳しいけどいい人だったな」

そう言って、リンドウは一呼吸置く。

「……別に、あそこが嫌になった訳じゃないんだ。あの時迷って、帰れなくなった、それだけなんだ」

その言葉に、ビートは少し険しい顔になった。

「……ルミナスメイズの森、でしたね」

遠くを見るように、深く息を吐く。

「覚えてないかもしれないけど、あの時言葉も文字も碌に覚えちゃ居なかったからさ。メロンさんに拾って貰った時も、どこから来たかとか、自分の名前も言えなかった」

「僕に言われても、仕方ないですよ。あの時の僕もまだエリートではなかったのです。大人達が騒いでいた理由も分からなかったし、あなたが戻ってこないなんて、露程も思いはしなかったのですから」

それいらい、ルミナスメイズの森に単独で行くことが出来なくなった位で、幼い子供心に人が居なくなる事を理解することは出来なかったのだ。

「……いつか、謝りに行かなきゃなぁ。今更何を、って言われるかもしれないけど」

そのリンドウの言葉にビートは笑って返す。

「しこたま怒られますね、多分。全然エリートでは無いですから。ただ、あの人達はどんな子供でも受け入れますよ……昔に一度居なくなったくらいで、そこまで変わらないでしょう」

ビートの優しさに、リンドウは顔を伏せる。その話を続けるのが苦しくなったのか、話題を変えた。

「そういえば、ビートもジムチャレンジしてるんだよな。他の目的もあるって聞いたけど?」

自慢げに胸を反らし、ビートが答える。

「ええ、ローズ委員長から願い星を集める任務を請けているのです! 勿論ジムチャレンジもこなしますが、同時に出来るのがエリートですからね!」

それなら、とリンドウはビートを誘い、掘り出し物市に連れ出す。

 

 「何故エリートの僕が、こんな荷物運びをしているのですか?」

そう愚痴を呟くビートの前を歩く大人が大声で話す。

「いやぁ、助かるよ。君たちみたいな若い子らが手伝ってくれるなんてね。何せ、万年人手不足だから」

はっはっはと笑い飛ばすとビートは苦々しい表情をする。リンドウは慣れた様子で荷物を運び然程苦しそうにはしていない。

「お疲れ様、それじゃあこれが約束の品だ」

そういうと、ねがいのかたまりを一つ、ビートに差し出す。

「じゃあまた、時間があったら手伝ってくれよ?」

そう言って掘り出し物市の大人は去って行く。

「……丸一日! エリートの僕が! 汗水垂らして働いてこれだけですか!?」

憤怒の表情をしているビートにリンドウが疑問を投げかける。

「そんなもんだろ。むしろ、どれくらい貰えると思ってたんだ?」

ビートがリンドウに思いつく限りの罵声をぶつける。喋りすぎたのか、肩で息をしながらリンドウが差し出した美味しい水を口に含む。

「てっきり地道に集めてるんだと思ってたんだけど、違うのか。それは悪かった」

そういうと、ビートは少し居心地を悪そうにした。

「まぁ、それなら仕方ないですね。エリートでは無いあなたは、ねがいぼしを集めたことがないのですから」

そういって、懐から機械を取り出す。何かを感知しているようで、光の点がぽつぽつと点っている。

「これは?」

「ねがいぼしの探知機です。手元で光っているのが、さっき手に入ったものですね」

手元で光っているものを指さす。弱々しく光っているのが一目で分かった。

「……じゃあ、こっちで大きく光っているのは?」

離れている場所で、大きく光っている場所があった。

「大量にねがいぼしがありますね!? こっちの方向に何がありますか!?」

ビートが興奮気味にリンドウに聞く。

「えーと、向こうは……ジムか遺跡じゃないか? いや、遺跡っぽいな」

そう言い終わるが先か、ビートはかけ出していた。

「えっ、疲れてたんじゃ無いのかよ!?」

走り出したビートの後を追って、リンドウも遺跡へと向かう。

 

 ラテラルタウンの遺跡には、先鋭芸術のような絵が壁面一杯に描かれている。

「何回見ても、これの良さは分からないなぁ……」

見上げるとまるで自分を圧迫してくるような存在感のあるそれは、ずっと見上げていると威圧感のようなものを感じて、リンドウは余り慣れないようだ。

「この奥ですね……入り口はありますか?」

ビートの言葉に、首を傾げる。

「いや、そんなものは無かったはずだぜ。遺跡っていっても、この絵画だけのはず。この裏がどうのこうのっていうのは、聞いたことがないなぁ」

リンドウがそう呟くと、ビートは他の観光客に話を聞きに行って、そのまま見えなくなってしまった。

「あんなに行動力のあるやつだっけ? まぁ、ローズさんに影響されたのかも、か」

 




読了ありがとうございました。

そろそろオリキャラの過去話を書かないと、と思ったけど重たすぎて疲れる……

胸糞とかの話は一応避けられる様にした方が良いのかな?


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第八話 ジムチャレンジ ラテラルタウンにて 2

ラテラルタウン ジムリーダーオニオン戦です。

リングフィットアドベンチャー買いました!

……足の筋肉痛がヤバい(ヤバい

RTA走ってる人は、化け物か何か?


 ビートと分かれた後、一人で歩いていると靴紐がちぎれる。

「まぁ、結構長旅だったし、掘り出し物市で靴くらい新しくしてもいいかな」

そう言って歩き出すと、何も無い所で躓き転びかける。

「……何も無いよな?」

後ろを振り返るが躓くような物はなにもない。大分夜に近づいてきているのか、夕焼けが街を赤く染めている。

「……」

誰も居ない、そのはずだが、視線を感じる。単なる勘違いの可能性もあるが、見えないけれど誰かがいるかもしれない。そんな感覚がリンドウを襲う。

「オニオン、いるんだろ?」

そうリンドウが言うと、仮面を被った少年が建物の陰から現れる。

「よく分かりましたね。あまり霊感はなさそうに見えたけど」

そうオニオンが呟くとリンドウは驚いていた。

「本当にいたよ……まぁ、いいや、それで俺に何か用? ジムチャレンジなら明日にしようかと思ってたんだけど」

そう話すと、オニオンは何も喋らない。ただ、リンドウが持っているモンスターボールを睨むだけだ。

「ああ、バンギラスならいないよ」

その言葉に、オニオンが驚く。

「驚きたいのはこっちなんだけどな。まぁ、色々あって今回のジムチャレンジには使わないよ」

そのリンドウの言葉に、先ほどまでとは打って変わり、仮面の奥に輝く瞳が見えたような、気がした。

「本当……ですか?」

どうやらバンギラスを相当警戒しているらしい。ゴーストタイプを扱う以上、あくタイプを意識するのは当然なのかもしれない。また、特性、攻撃力、防御力どれをとっても一級クラスのポケモンはタイプ相性を考えなくても充分に強力だ。

「まぁ、こうなるとね。釘刺されちまって、使用禁止だと」

袖をめくり、オニオンに見せる。長袖の下に隠れていたのは包帯を巻いた腕だった、まだ完治していないことが滲んでいる赤から分かる。

「……? それがどうしたの?」

怪我をしていることは伝わっていると思うのだが、オニオンは首を傾げる。

「見りゃ分かるだろ。アイツを使うのはリスクが大きすぎるんだよ」

そうリンドウが呟くと、オニオンは一定のさめたトーンで返事をする。

「でも、使うでしょ?」

勝てるのならば、勝利のため、目的のためであれば、手段も過程も、些事に過ぎないと。

「……使えないんだよ、兎にも角にも、な」

その言葉に、嘘はない。次同じ事をすれば、恐らくマリィは更に深くリンドウに干渉するだろう。目的の一つにネズとの約束があることを知れば、彼女が悲しむことは予想できる。

「ならよかった。僕も、あのバンギラスを相手にするのは……正直無理だから」

オニオンが安堵の息をつく。ジムリーダーから弱気な言葉を聞くのが、少し意外だったのかリンドウが疑問を抱く。

「オニオンなら、なんとか出来るんじゃ無いか? そりゃあ、ゴーストタイプを使ってるから制限はあるだろうけど」

そういうと、ジムリーダーとしての制限に気付いていなかった事を自覚する。

「あぁ、そうか。始まったらポケモンを変えられないんだ」

その言葉にオニオンは頷く。今回のジムリーグには幾つかルールがある。チャレンジ側には特に縛りは無いのだが、主催側、特にジムリーダーには制限が強い。

「僕は……四番目、だから」

今回のジムチャレンジは、先に進む毎に難易度があがる。事前に厳しい審査をくぐり抜けたポケモンのみを使用することが可能だ。つまりジムリーダーは自分の最高の相棒を使えなかったり、或いは全力を出すことが出来なかったりするのだ。

「まぁ、カブさんも判断するの早かったしなぁ。その辺は一緒か」

リンドウはオニオンに近寄り、頭を撫でる。

「そりゃ、自分のポケモンが傷つくのは嫌だからな。とはいえ、俺だって負けるつもりはないからな」

オニオンはくすぐったそうに、少し嬉しそうに返事をする。

「ポケモンバトルなら……負けません」

 

 「さぁ、新たな挑戦者がやって参りました! 四つ目のジム、既に三つのバッヂを手にした強者達が集うこのラテラルジム……ジムミッションは、なんと人間ピンボール!」

実況がマイクに向かって叫ぶ。

「このジムミッションは、自分で操作できるピンボールの中でゴールを目指す。ピンボールの中に居るトレーナーはまるでモンスターボールの中にいるポケモンの様な状態です。冷静な判断力があれば、難なく突破出来るはずですね」

リンドウはピンボールの中から操作をするが、簡単に操作ができるわけでは無く、何度も壁にぶつかり、降りた時には三半規管が充分狂っていた。

「何が……簡単に、だ。乗り心地最悪だよ」

壁に手を突きながら、次のピンボールへと進む。更に難易度が上がるピンボールに絶望しながら、進む。

 

 「ようやく……来たね」

オニオンがリンドウを迎え撃つ。その仮面の下の表情をうかがい知ることはできないが、少なくとも怯えている様子も、怯む様子も無い。むしろ、強敵が現れたことを喜んでいるようにも聞こえる。

「ああ、それじゃあ、全力で行くぜ!」

オニオンが最初に繰り出したのはデスマス(ガラルの姿)だ。それに対し、リンドウが繰り出したのはモスノウ。

「……進化、してたんだね」

「流石に、ここまで付いてきてくれてる奴らだからな。レベルくらい上がるさ」

互いににらみ合うと同時に指示を出す。

「デスマス、たたりめ!」

「モスノウ、オーロラビーム!」

デスマスの方が先に動いたが、たたりめの一撃ではモスノウは倒れない。だが、モスノウの一撃でデスマスは倒れる。

「流石……ですね」

そう呟いたオニオンは次のポケモンを繰り出す。

「ミミッキュか……そうだろうな」

事前に調べていたことから、ミミッキュを繰り出すことは分かっていた。

「かげうち!」

「オーロラビーム!」

かげうちを耐えたモスノウも一撃冷凍ビームを撃ち込む。ばけのかわ、つまりはかぶりものの部分が傷ついただけで、ミミッキュ本体に大きなダメージは無さそうだ。対するモスノウはあと一発は耐えられないだろう。

「かげうち!」

「もどれ! いけっ、イエッサン!」

ミミッキュのかげうちはイエッサンをすり抜ける。

「……ノーマルタイプ!」

「いくぞ、サイコキネシス!」

それでも、ミミッキュの方が先に行動する。

「ミミッキュ、きりさく!」

ミミッキュのきりさくは一撃ではイエッサンを倒せない。返しのサイコキネシスでミミッキュが倒れる。

「……想像以上ですね」

「そりゃあどうも」

オニオンは瀕死になったミミッキュを手持ちに戻し、サニゴーンを繰り出す。

「サニゴーン、げんしのちから」

「サイコキネシス、だ!」

イエッサンの一撃がサニゴーンにダメージを与えるが、倒すには至らない。サニゴーンの一撃も同じく、だがしかし、サニゴーンはげんしのちからを使った後能力が上がっているように見える。

「ちっ……能力上昇かよ!」

再び技を打ち合う。共にダメージを与え続けて、三発目のげんしのちからでリンドウのイエッサンが倒れる。

「ようやく一体、だね」

「……勘弁してくれよ」

そう言ってリンドウはモスノウを繰り出した。

「……げんしのちから」

オニオンが呟いた言葉に、サニゴーンは反応する。

「……次は、何を出すの?」

「取って置きだよ」

ダークボールを投げると、マッスグマ(ガラルの姿)が現れた。

「つじぎりだ、マッスグマ!」

オニオンのサニゴーンが、瀕死になる。

「これが最後で……切り札だよ」

オニオンがねがいぼしバンドに力を集め、手持ちのボールに力を流し込む。ねがいぼしの力を持つポケモンは、その膨大なエネルギーによって、本来の姿よりも大きな姿に見せることがある。そして、限られたポケモンは、その姿さえも変えてしまう。

「キョダイゲンエイ……影踏みだよ。逃がれられない……逃がさない!」

まるで半身を地に埋めて、全てを呑み込んでしまうような口を開いたゲンガ―が現れる。

「ダイアシッド!」

「マッスグマ、バークアウトだ!」

毒の沼に沈むように、マッスグマが紫の液体に呑み込まれる。だが、一撃では倒れない。マッスグマの咆哮がゲンガーにダメージを与える。

「こらえるだ、マッスグマ」

「……呑み込め」

毒の沼の中で、必死に四足で踏ん張るマッスグマ。最早体力の限界は過ぎているだろうが、それでもまだ倒れることだけは受け入れない。

「……ダイアシッド」

「……よくやった、マッスグマ」

力尽きたマッスグマをボールに戻し、次のポケモンを繰り出す。

「ああ……流石だね」

「いけ! イエッサン」

 

 「あっーと! これは一体どういうことでしょうか!? サニゴーン戦で倒れてしまったはずのイエッサンが復活している!?」

実況に対し、解説のサイトウは冷静に答える。

「モスノウを繰り出した時に、げんきのかたまりを与えていたのでしょう。まぁ、あれだけ時間があったので充分に回復出来ると思います。しかし、よくあんな事が出来ますね」

その言葉に、実況が疑問を抱く。

「あんな事、というのは? げんきのかたまりを使う事がですか?」

サイトウが少し目を細める。

「ええ、ポケモンにとってひんしになると言うことは敗北するということです。勿論、ジムチャレンジにおいてはチームで勝利することが求められます。しかし、ひんしになる度に私達トレーナーはポケモンから評価を改められる事を……知っているはずです」

その言葉に実況が言葉を詰まらせる。

「普通であれば、ひんしになるほどのダメージを受けたポケモンは、ポケモンセンターにて体力を回復させて、トレーナーのケアによって精神も癒やしてからの戦線復帰を行います。それを無理矢理アイテムで回復させた場合……信頼を失うことは火を見るより明らかです。一歩間違えば、ポケモンに対する裏切りと言っても良い」

「それでは……彼は非人道的な闘いをしている、と?」

実況が息を呑むと、サイトウは首を横に振る。

「それは、彼のポケモンが決めることでしょう」

 

 イエッサンとキョダイマックスが解けたゲンガ―が対面する。

「……ゴーストタイプが、怖くないの?」

問いかけるオニオンに、リンドウは胸を張って答える。

「怖くねぇよ!」

強がって、声を張り上げる。

「先人達に胸を張れない生き方……してるつもりは、ねぇよ!」

オニオンが仮面の下で笑っている、そんな感じがした。

「別に……ゴーストタイプだからって、亡くなった人間の魂とは、限らない……よ?」

その言葉に、リンドウがきょとんという顔をする。

「え……そうなの?」

愉快そうに、仮面を揺らすオニオン。

「ゲンガ―、しっぺがえし!」

「イエッサン、サイコキネシスだ!」

早く動いたのはゲンガ―、だが最後に立っていたのは、イエッサンだった。

「……おめでとう」

「ははっ、当然だろ?」

オニオンとリンドウが握手をする。

 

 「いやぁ、終わってみれば良い勝負でしたね。勿論、あくタイプ、ノーマルタイプを準備していた挑戦者に軍配が上がりましたね!」

終わった後の実況が、挑戦者とジムリーダーを称える。

「……彼に次があると良いのですが」

サイトウの不穏な言葉に、実況が少し驚いている様だ。

「先日のジムリーダー戦での傷が、完全には癒えていないのでしょう」

立ち上がり、実況席から退席しようとするサイトウ。

「た、確かに……体の端々に見える包帯は、少し痛々しい見た目になっていますね」

そこで、実況が終わってしまう。

「ジムリーグへの挑戦自体が、彼の負担になっているとすれば……いえ、私には関係ない事です」

サイトウは、通路で一人呟く。

 

 宿屋でイエッサンとリンドウがベッドで休息を取っている。

「おーい、機嫌直してくれって」

ポケじゃらしを振り、イエッサンが目の前に来るのを待つリンドウ。その手を伸ばして弾くものの、不機嫌そうな表情は変わらない。

「……悪かったって、もうしない。今度のキャンプのカレーは、好きな具選んで良いから、な?」

少しだけ機嫌が直ったのか、一息ついてリンドウの目の前に座る。だが、まだイエッサンはリンドウをまっすぐ見つめている。

「分かったよ! きのみジュースも買うよ!」

散々イエッサンのご機嫌取りをした結果、なんとか先ほどのバトルのことは許して貰えたようだ。

「……っ」

右腕を押さえる。包帯の下から滲む血は、まだ収まっては居ないようだ。

「これくらい……なん、てこと」

目の前が霞み、膝を着く。ダメージの蓄積と緊張の連続で体力も尽きたのだろう。泥に沈むように眠りに落ちる。

 




読了ありがとうございました。

いやぁ、闘いながらも傷つくのは青春って感じですねぇ(愉悦

アニポケほとんど見てないので分からないのですが、ポケモンバトルってトレーナーは傷つかないものなんでしょうか?

リンドウ君のポケモン情報開示ですので、興味の無い方はスルーでオナシャス

モスノウ
Lv:30
性格:がんばりや
特性:りんぷん
H:82 A:44 B:41 C:80 D:59 S:44
技:オーロラビーム (デスマス(ガ) 確定一発)
  しびれごな
  こなゆき
  こごえるかぜ

イエッサン♀
Lv:40
性格:おだやか
特性:シンクロ
H:106 A:44 B:57 C:81 D:97 S:73
技:サイコキネシス (ミミッキュ 46~55)
          (サニゴーン 33~39)
  なかよくする
  アロマセラピー
  てだすけ

マッスグマ(ガラルの姿)
Lv:40
性格:むじゃき
特性:ものひろい
H:112 A:61 B:53 C:45 D:47 S:93
技:つじぎり
  とっしん
  バークアウト
  ねむる


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零話 とある青年の過去 前編

※胸糞と感じるかも知れません、閲覧注意です!




グロとかではありませんが、自分で書いてて嫌な気持ちになったので……


 時間は遡る。今から十数年前だろうか、病室で赤子を抱える母親がいた。その子は、生まれてからずっと、泣き続けていた。

「……ずっと、泣いてるわね」

眠る時以外はずっと泣き続けていた。医者に診せても。

「異常は見られません」

そう告げられるだけだ。困った母親は、疲労が積み上げられていく。

「何が……悪いの?」

友人に聞いても、病院の人間に聞いても、答えは分からない。そうして数ヶ月が過ぎた頃、違和感を覚える。赤ん坊の髪の色が夫婦のどちらとも違うのだ。

「……遺伝的になるはずの無い色です。後天的な要素によるものだと考えられますが……原因はわかりかねます」

首を横に振る医者、その言葉に母親は正気を失った。

「この子は……私の子供じゃ無いの」

 

 父親に抱えられてやってきたのは、孤児院だった。本来であれば身寄りが無い人間が集まる場所で有り、父も母も健在の赤ん坊には由縁がないはずだが。

「すみません……この子が居ると、妻が狂ってしまうのです。遠からず、その手に掛けてしまう」

事情を説明され、孤児院の委員長はその子供を受け入れる。誰の手に抱かれても泣き続けるその子供は、まるで周囲の不安を感じ取っているかのようだった。

 

 真っ白の髪と真っ黒の瞳を持つ少年は、いつも独りだった。誰からも相手されないということではない、彼自身が他人と共に居ようとしていないのだ。

「別に……他人が嫌いな訳じゃない」

これでも、親元に居た時よりも遙かにマシになっているのだ。泣き続ける事も無くなったし、意思疎通を図ろうとするようになった。それでも、孤児院の人間と仲良くなるということは無かった。

「こんにちは、僕はビート……君の名前は?」

孤児院に新しく子供が入ってきた。経歴こそ分からないが、この子供も親と離れなければならない理由があったのだろう。

「……リンドウ」

 

 アラベスクタウンに遠足に行くと、リンドウはフラフラと森に迷いこむ。それをルミナスメイズの森とよばれていることを知ったのは、随分と後の事だった。アラベスクタウンに来たことで、昔のように戻ってしまったのだ。周囲の不安が、周りの感情が自分に流れ込んで来る。まるで自分が無くなってしまう様な、押しつぶされてしまう様な恐怖から逃れたくて、唯只管に人のいない方向に歩いて行く。

「フゥ?」

森の中を彷徨い歩いていると、紫色のポケモンと出会う。頭に角が生えている、イエッサンと呼ばれるポケモンだ。リンドウが泣きじゃくっていると、イエッサンもその感情を共有してしまったのか、不安な表情になる。それを感じてまた、リンドウはより強く泣く。だが、イエッサンは哀しく、不安な表情のまま、リンドウに寄り添った。

「フゥウゥ」

赤ん坊の時以来のぬくもりに、リンドウは涙を流す。堪えきれない不安が溢れ、他人のぬくもりを思い出すことに、安心を覚える。

 

 それから、一年の時が流れた。最初はイエッサンの集落で過ごすことに慣れなかったが、今ではリンドウもイエッサンの家族のようになっている。互いに協力しながらルミナスメイズの森で生活していると、偶にイエッサンから尋ねられる。

 仲間が恋しくはないか?

リンドウからすれば、イエッサンが家族のようなものだったが、それでも自分がイエッサンと違う種族だということは分かる。ルミナスメイズの森で生活していれば、トレーナーの姿を遠くで見ることもあった。だが、気配を感じるとリンドウは逃げ出した。不安と恐怖が伝わるのだ、昔に戻るのを恐れて近づくことが出来ない。

「あー、もう! 腹立つあの糞ババァ!」

いきなりの大声に、驚いて腰を抜かすリンドウ。

「あれ? こんなところに子供がいるなんて珍しい……街の子供かな、迷子?」

そう行って、プラチナブロンドの女性がリンドウに手をさしのべる。今まで人間が近くに居て気付かなかったことはなかったのに、何故かこの女性には気付かなかった。

「あなた、だれ?」

その言葉に、胸を張って女性が答える。

「私の名前はメロン! キルクスタウンのジムリーダー 氷タイプの使い手、メロンさんだよ!」

スタイルの良い肢体をアピールしながら名乗りを上げる。リンドウにとって、色々な意味で初めて出会うタイプの人間だった。

 

 イエッサンはリンドウに尋ねる。本当に彼女の元に行かなくて良かったのかと。人間と共に暮らさなくて良いのかと。

「……分からない。だけど、怖いよ」

首を横に振るリンドウ。確かに彼女は他の人間と違ってそばに居ても怖くはなかった。だがしかし、それは彼女だけだった。そして、その彼女がリンドウの事を友好的に見てくれる保証はない。恐らく、メロンと呼ばれた女性は、この土地に暮らす人間では無いのだろう。出会うチャンスは多くは無いはずだ。

「……怖い」

 

 再びメロンが森に現れる。自信満々に歩き回る彼女を避けるように動くリンドウ。時折聞こえる声が、リンドウを探しているだろうと事が分かった。

「イエッサン?」

♀のイエッサンが不安に震えるリンドウの手を掴む。温もりが少しリンドウの不安を和らげる。

「……えっ?」

一瞬にっこりと微笑んだかと思ったら、ものすごい勢いでイエッサン♀が走り出した。勿論、メロンの元に向かって。

「えっ、この間の少年……とイエッサンじゃ無い」

突然現れたリンドウに驚き、怯えてイエッサンの後ろに隠れる少年に、優しい笑みを向ける。

「あなた、良かったら私と一緒に暮らさない? 子供が一杯いるから、きっと直ぐに馴染むわ」

差し伸べられた手を、リンドウはじっと見つめる。不安と恐怖と、僅かな期待を持ってリンドウはその手を取る。

「……きゅ?」

安心した表情のイエッサンが、一転疑問の表情に変わる。

「……」

メロンの手を取ったリンドウだが、もう片方のては、イエッサンの手をしっかりと握りしめている。

「あら、貴女も来るのね? 勿論、大歓迎よ」

 




読了ありがとうございました。

いや、別に悲劇のヒーローを書きたい訳じゃないけど!

設定が生えるのを放置してたらこうなったorz


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零話 とある青年の過去 後編 

過去編、終わり!

もうちょっとネタがあった……気がした!




 メロンに連れられて、キルクスタウンで過ごすようになったリンドウ。だが、メロン以外は他の人間と同じように、近くにいると不安になるようで、イエッサンとメロン以外に心を許す様子はない。

「……困ったわねぇ」

家の隅に居ることが多かったが、体が少し大きくなったら、人目の少ない場所を探して彷徨うことも多くなる。そうしていると、人間よりも先に、ジグザグマと仲良くなっていた。

「アウッ!」

ジグザグマに連れられるように、リンドウは歩く。どれぐらい歩いただろうか、リンドウは見たことのない場所に居た。どこか寂れたような雰囲気が、ただでさえ日差しがあまり入らない町並みを更に暗くしている。

「ん? 何処の子やと?」

リンドウよりも少し背の低い女の子が話しかけてくる。

「……リンドウ」

自分の名前を告げる。慣れない人間に喋ったのは、不安を感じることがなかったからだろうか。どうやら彼女はメロンと同じようだ。

「ふーん、こっち!」

少女がリンドウの手を掴み、崩れた壁面に案内する。

「ここ! 秘密の入り口たい、他の人には内緒やち!」

自分のお宝を紹介するような、穏やかな笑みにリンドウは直ぐに打ち解けた。もしかしたら、初めてリンドウから歩み寄った人間だったのかも知れない。

 

 「……最近よくスパイクタウンにいってるみたいさね?」

メロンがリンドウに話しかける。腕組みをして居るところを見ると、あまり機嫌は良くなさそうだ。

「別に、駄目だとは言わないけどね。うちの子達よりも先にそっちと仲良くなるのは、なんでなんだろうね?」

腕を組んで疑問に思うメロン。だが、その答えはリンドウもよく分かっていなかった。

「……スパイクタウンの人達が……メロンさんみたいだから」

その言葉に、メロンは謎かけをされているのではないかと考えていたが、どうやら本当にそう思い込んで居るらしい。

「私みたい、ねぇ? 何か共通してるかしら?」

 

 メロンはリンドウをつれてスパイクタウンに訪れている。

「……リンドウさんが、ですか?」

ネズがメロンと会話している。リンドウはマリィと戯れている。

「そう、スパイクタウンのことなら、アンタが詳しいかなって。ついでにリンドウとも年が近いしね」

ネズが困ったように溜息をつく。メロンもそれだけ行き詰まっているのだいうことだ。

「そりゃあ、僕もリンドウと遊ぶ事はあります。トレーナーとしての資質はないですが、不思議と彼とポケモンの絆は深い」

面白い人だ、そうネズは考えているようだ。

「……私とスパイクタウンの人に接点なんてあるかしら?」

リンドウの言葉の意味を知るために、色々と探し回っても答えは出ない。

「メロンさんとスパイクタウンの人々の接点は分かりませんが、キルクスタウンとスパイクタウンの違いなら分かりますよ」

その言葉に、メロンがはっとする。

「パワースポット!」

 

 汽車に乗り、メロンとリンドウはハロンタウンに辿り着いた。

「ようこそ、研究所に。歓迎するわ」

マグノリア博士が二人を歓迎する。

「……驚きました」

ねがいの塊が入った箱を一つ、空箱を二つシャッフルして何処にねがいの塊が入っているのかをリンドウに選ばせた。

「十回中、十回正解。これは、間違いないかもね」

メロンもリンドウの能力に驚いている様だ。

「ねぇ、リンドウさん。どうしてねがいの塊が入っている箱が分かったの?」

マグノリアの問いにリンドウが答える。

「ドキドキしてるのが、箱から伝わってきたから」

その言葉にマグノリアが、首を傾げる。だが、メロンは思いつく。

「もしかして、私とマグノリア博士の感情をねがいの塊を通して感じてるの?」

キルクスタウンでも、メロン以外の人間の感情の機微に敏感だった。特に怒りや悲しみと言った感情は、視界に入っていなくても感じていたようだ。

「……ガラル粒子が、感情を伝えているというの?」

その後のマグノリア博士の実験で、どうやらあくまで怒りや悲しみ、期待等の大まかな感情のみを感じ取るだけで、その内容までは分からないようだ。

「成長して行くにつれて、この感覚にも慣れて行くでしょう。今でも日常生活が出来るのあれば、将来的には他の人と変わらない位に」

マグノリア博士はそう結論づけた。ただ、ガラル粒子を感じ取れる人間は初めてだったという。

「凄いわリンドウ!」

メロンは歓び、リンドウを抱き上げる。

「えっ!?」

リンドウが驚いていると、メロンはリンドウにゆっくりと優しく告げる。

「貴方はね、他の人の感情に気付いてあげられる優しい人なの。ううん、人だけじゃない、ポケモンの気持ちも、分かってあげられる。それは、他の人には難しい事なの、誇って良いことなのよ」

まるで自身の事のように喜ぶメロン。愛おしそうに抱きしめるメロンをくすぐったそうにしているリンドウは、初めて自分の事を認めて評価して貰ったのかも知れない。

 

 「それじゃ、ワンリキー、あっちの壁を頼むぜ」

ワンリキーが少し不機嫌そうにすると、木の実を一つ渡す。そうすると、機嫌が直り仕事に取りかかる。

「驚いたなリンドウ君。君はポケモンの気持ちが分かるのかい?」

ポケジョブ先の電気会社の社長が目を丸くする。

「いいえ、気持ちなんて分かりませんよ。ただ、顔を見ていればなんとなく……人間相手でも一緒です」

他の人ではポケモンとコミュニケーションをとることだけでも一苦労だ。それが他人のポケモンであれば尚更難しい。だが、リンドウはポケモンの感情を感じ取る事で、他の人よりも少しだけ、ポケモンとコミュニケーションを取ることを得意としていた。

「良い仕事だ。また頼むよ」

初老の男性が、嬉しそうにリンドウの手を握る。それに、リンドウも少し恥ずかしそうに握り返す。

 

ネズが向き合ったリンドウに聞く。

「マリィの手助けを条件に、推薦状を準備しましょう。ただ、貴方の目的を聞いても良いですか?」

その言葉に、リンドウは迷う事なく答える。

「金の為です。俺のポケジョブ先は、全てメロンさんの知り合いです。これから先は、俺自身が取引先を探して行かないと……いずれ立ち居かなくなる」

その言葉に、嘘はない。ジムバッヂの数を確認する企業は少なくない。

「……なるほど」

ネズが納得した様な表情になる。

「全て集められるとは思っていません。ただ、三つバッヂを持っているのと、そうでないのでは、大きな違いがあるのは、知っていると思います。せめて三つ、可能なら四から五個手に入れたいですね」

リンドウの言葉に、ネズが少し考え込む。

「じゃあ、お金とマリィ、どちらが大切ですか?」

ネズの突然の質問に、驚くリンドウ。しばらく考え込んで、やっとのことで声を絞り出した。

「それは……今関係ありますか?」

答えにはなっていないが、ネズは満足したようだ。

「いえ、それで十分ですよ」

からかわれたのか、それとも冗談だったのか、その答えはリンドウには分からなかった。




読了ありがとうございました。

考えた時点で敗北してる質問(笑)

ジムバッヂ毎に増えていくポケジョブでこんな感じかなぁ、って


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第九話 一人の青年のジムチャレンジ その結末

リンドウのジムチャレンジの話です。

毎日、三十分のリングフィットアドベンチャーは、実際きつい(笑)

それよりも、ポケモンHOMEはまだですかね?

推しのラランテスの入国許可は……来ますか?




 目を覚ますと、真っ白の部屋に寝かされていた。何故そうなったのかの記憶を辿ろうにも、思い出そうとしても頭痛がするだけである。窓から差し込む光が、時間が半日は進んでいるだろうと言うことを知らせている。

「病院……なんでだ?」

頭痛と腕の痛みに耐えていると、看護服を纏った女性が見回りにくる。

「あ、目を覚ましたんですね。体調は……良くはなさそうですね」

看護師が、リンドウの酷く青い顔色を見て判断する。

「どうして、俺が病院に?」

その言葉に、丁寧に返事をする。

「手当を自分でしちゃったでしょう。ああ、やり方が悪かった訳じゃないのだけれど、傷口からばい菌が入ったみたいなの」

突然の説教に結論を急かすリンドウ。

「それで、どうなったんだ?」

「消毒がしっかりしてなかったこと、無理な旅を続けたこと、慣れない土地もあったんでしょうね……発見がまだ早かったから、一時的な発熱で済んでるけど、最悪の場合、腕を切断しないといけない可能性もあったの」

体の怠気の理由がはっきりし、リンドウは熱があると言われると自分の体調が良くないことを自覚する。

「……どれくらいで治る?」

「一週間は安静にして下さい。その後も、経過を確認するために病院に通ってもらいます……残念だけど、ジムチャレンジは諦めて下さい」

リンドウは看護婦を睨みつける。だが、彼女の態度は変わりはしない。

「……一人にしてください」

リンドウがやっとのことで絞り出した言葉に、看護婦は仕方ない、と言った様子で頷いた。

 

 「えっ!? もうゴーストバッヂを手に入れたの? はやかー、まだラテラルタウンにもつかんとよ?」

電話の向こうからマリィの声が響く。リンドウの表情が少し、和らいでいる様に見える。

「まぁ、マリィならすぐだよ。オニオン相手なら相性も悪くない。ジムミッションの方は……まぁ、なんとかなるだろう」

自分は二度としたくないけれど、とリンドウは付け足した。

「なんで? 楽しそうやったよ?」

純粋な表情で疑問をぶつけるマリィに返す言葉がないリンドウ。

「やってみれば分かるさ。それからオニオンが使ってくるポケモンだが……」

ジムリーダーの対策を丁寧にマリィに伝える。今までと同様に。

「なるほどね。よっし、うちも負けんと。直ぐに追いついちゃるけんね!」

前のめり気味の勢いで通話が切れる。リンドウは壁に背中を預けて、少しの間動けずにいた。

 

 ロトムフォンには、しばらく表示されることの無かった息子の名前が点っていた。

「どうしたんだい、藪から棒に」

メロンが素っ気ない口ぶりで通話に出ると、マクワは挨拶もそこそこに本題を切り出す。

「アイツ、ジムチャレンジをリタイアしたぜ」

その言葉に、メロンが動揺する。

「確かな筋からの情報だ……まぁ、やり方見てりゃ分かるだろうが、無茶しすぎだ。遅かれ早かれ、ってとこだろうな。アイツにしては頑張った方じゃ無いか?」

「あんたに何がわかるってんだい!」

メロンが柄にも無く怒鳴りつける。それに対して。反抗する訳でも無く、ただ淡々と言葉を続ける。

「俺だって動向を探るくらいには気に掛けてたんだよ。推薦してたあんたには伝えておいた方が良いと思ってな」

メロンは力なく呟く。

「……余計なお世話だよ」

「……あんたにだって、俺のことは分からないだろうし、アイツのこと、全部分かってる訳じゃないだろ。あの結果だって、できすぎなぐらいだと、俺は思うぜ」

そう言うと、通話はきれてしまう。ロトムフォンの電源を切り、己の力不足に憤り拳を強く握りしめる。

 

 病室に訪れたオニオンにリンドウは驚く。

「なんで、ここに?」

その問いには答えず、ベッドの端に腰掛ける。

「さっき、マリィさんとホップさん。それとマサルさんがラテラルジムをクリアして、ゴーストバッヂを手に入れました」

その言葉に、マリィが含まれている事に安堵する。

「そうか……ありがとな」

オニオンの優しさにリンドウは笑みをこぼす。

「それはそれとして、それを教えに来てくれたのか?」

オニオンが仮面の下で笑みを浮かべている、のではないかと感じた。

「それは、ついでです。僕はあなたと話をしに来たのです」

その言葉に、疑問を覚える。それと同時に理解が間に合っていないのか、首を傾げる。

「……俺に?」

リンドウの言葉にオニオンは頷く。

「……あなたは闘いの時に、ゴーストが怖くないって、言ったから」

勿論、全く恐怖を抱かないといえば嘘になる。だがしかし、あの時のリンドウには恐怖を乗り越える勇気と決意があった。

「あれは、まぁその場のノリというか」

カタカタと仮面を震わせる。どうやら笑っているようだ。

「お兄ちゃんが怯えているのは……分かってる」

虚勢はオニオンも分かっていた。

「ゴーストはやっぱり、生きている人が恨めしいんだよ? 存在を認めてくれる人、精一杯生きている人が好きなんだ」

それはオニオンも同様だ、と言う。

「それなら、チャンピオンとか……マサル辺りがいいんじゃないか?」

勿論その人達も好きだと返事をする。

「だけどね……眩しすぎる人は、あまりこっちを見ないから」

過去を振り返らず、過ちに捕らわれない人間は、ゴーストが足を掴む前に先に進んでしまう。眩しすぎてそれと共に居ることが出来ないのだと言う。

「なるほど……俺ぐらいの中途半端が丁度良いって訳か」

褒められているのか貶されているのか、どちらか分からないから表情を曇らせる。ただ、オニオンが機嫌良さそうに病室に来てくれるのであれば、それでもいいか、と感じた。

 

 「見つけたっ!」

病室の扉を乱暴に開いたのは、ソニアだった。

「なんだよ、お前は俺のファンか!?」

そんなものが存在するような活躍はしては居ないが、そうでもないと心当たりはない。

「とりあえず、これを見て!」

ロトムフォンに映された画像を見せられると、リンドウは驚く。

「壁画が壊されて、中に石像?」

映されているのは二匹のポケモンと二人の王。そんな逸話はリンドウは知らなかった。

「そう、そうなの! 私達が知っている伝承とは内容が異なっているの! ねぇ、何か知ってることは無い!?」

ブラックナイトの次は、石像についてのヒントを探りに来たらしい。

「んなこと言ったって、俺は何も知らないぞ?」

そう答えると、ソニアは見たまま肩を落とす。あまりにその姿が哀れだったのか、言葉を続けた。

「まぁ、伝承を知ってそうな奴に声は掛けてみるよ。それでいいか?」

その言葉にソニアは再び嬉しそうな顔をする。そして、リンドウの袖を掴むとこう告げた。

「それじゃ、善は急げ、ね!」

もうすぐ退院が出来る、少しの外出ならば良いよ、と医者から告げられていたので、ソニアに半ば拉致のような格好で外に連れられても、誰にも呼び止めて貰えなかった。

 




読了ありがとうございました。

残念、リンドウ君のジムチャレンジは終わってしまった(デレデレデレ

まぁ、物語は続きますが、先のジム戦はありません。


……リンドウの手持ちだとどうあがいてもポプラさんに勝てなかったとか言う理由ではナイデス(滝汗



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第十話 ブラックナイト ガラル地方の伝説

ソニアと一緒に遺跡の調査になります。

皆さんは、どんなポケモンの復帰を希望してますか?

……取り合えず、おっさん三兄弟とマルスケデブはレートから外れて頂きたいですね。

ダイジェで暴れるの見えますよー、ミエルミエルorz




 石壁に描かれた石画が砕かれた奥から、二人の王と二匹の英雄の石像が現れていた。

「あ、こういうものです」

ソニアが警備員に身分証を見せる。

「マグノリア博士の紹介ですね、承知致しました。石片など危険な状態なのでお気をつけ下さい」

そう言って、問題なく内部に入ることが出来た。

「……本当に博士の助手なんだなぁ」

リンドウが呟くとソニアが頬を膨らます。

「失礼ね、前からそう言ってるじゃない!」

中に入って幾つか写真を撮る。一通り現状の写真を撮り終えるとソニアが喋り掛ける。

「この石像について分かってることはほとんどないの。二匹のポケモンについても残ってる資料がほとんど無くて……ただ、ここに備えられていた願い星から、かなり地位の高い存在だっただろう事は推測されているの」

そういうと石像を注視する、石像は劣化しているわけでは無いが素材から、少なくとも壁面に画かれていた石画よりも古い年代のものだということはハッキリしている。

「……凶ツ、ホシ。静メ、タモウ」

石像の足下を調べていると、リンドウが呟く。

「どういうこと? マガツホシ? 静めるって?」

ソニアの言葉にリンドウが嫌みをぶつける。

「それを考えるのが、あんたの仕事じゃ無いのか?」

「そりゃそうだけどー、考えるの手伝ってくれてもいいじゃない? 王を静めるってこと? 王様が恐怖政治でもしていた……?」

リンドウが別の見方を提示する。

「いや、マガツホシはそのまま願い星じゃ無いかな? 昔は今ほどダイマックスを制御出来ていたわけはないだろうし」

それを聞くと、ソニアが一つ仮説を立てる。

「成る程、昔の暴走したダイマックスを静めることが出来たのが、二人の王様と二匹の英雄、ってことね。確かにそれなら筋が通るわ」

集められた願い星をその手に触れながら、ソニアは話を続ける。

「一般人じゃ願い星を管理出来ないから、凶ツ星として王に管理して貰ってたわけか。昔の話じゃ無いけど、願い星が一カ所に集められていると利用されても問題だし、マクロコスモスに管理して貰わないとねー」

そこまで言うと、リンドウが疑問を持つ。

「それじゃあ、ガラルを救った英雄は嘘ってことか?」

その言葉にソニアも答えを持たない。

「嘘、とは言い切れないけど。壁画の奥から出てきた事を考えると、後世の人間の都合で隠された可能性もあるかもね」

ソニアの興味は既に、二人の王と二匹の英雄へと向かっている。

 

 ラテラルタウンのとある居酒屋で、リンドウは女性とテーブルを囲んでいた。

「……前言ってた、王族っていうのは本当か?」

その女性は、ショートボブの髪型に落ち着いた黒髪が知性的に見える。

「ええ、言っても信じられないでしょうけど。遙か昔、ガラル地方を救った王の血脈は今なお、存在するわ」

リンドウは、かつてポケジョブで仕事を手伝っていた時に、偶然この女性と知りあっていた。

「信じるよ。ここの遺跡の話は、アンタも知ってるんじゃないか? そういう人がいるなら……会ってみたい」

その女性は少し考える素振りをして、リンドウに語りかける。

「私の話を信じた人は、今までいなかったわ」

 

 ガラル地方の郊外にある屋敷へとやってきたリンドウ。そこには没落貴族と呼ばれている者達が暮らしていた。普段は信者と呼ばれる人間としか会うことをしないが、リンドウはその伝手を辿って面会することが許された。

「王の面前だ、無礼のなきよう」

そういうと執事らしき人間が扉を開ける。応接室らしき部屋には、剣と盾の頭の形をした兄弟が座っていた。リンドウは奇妙な出で立ちの二人に驚きながらも、恭しく対応する。

「面会をお許し頂き、感謝の至りにございます」

深々と頭を下げると。機嫌が悪そうに剣の頭をしているソッドと呼ばれた男が喋る。

「臣下以外の者と話すのも、特例だ。して、重要な事とは一体何だ?」

話を促されると、リンドウが言葉を選ぶ。

「はい、お噂はかねがねお聞き致しておりましたが、ガラルをお救いになられた王の一族の方、お会いできて光栄です」

堅苦しいほどの賛美に、少し気分を良くしたのかシルディと呼ばれた男が口を開く。

「身分を弁えている者の言葉であれば、耳を貸すのも吝かではないでしょう。兄者、石像の件、あれには裏があるのではないか、ということです」

シルディの言葉にソッドは頷く。

「我らの石画を傷つけ破壊し、引いては二人の王と二匹の英雄などと言うデマを広めている者がいる。そやつを知っている、ということだな?」

ソッドの言葉に、恭しくリンドウは頷く。

「己の利益の為、歴史をねつ造することで賞賛と栄光を望む者がいます。ガラルを救ったのは、王家のご先祖様である事に、いちゃもんをつけることでそれを民衆に広める算段でしょう」

二人は苛立たしげに机を叩く。

「それは何者だ?」

「ソニアという、マグノリア博士の助手を務めているものです」

 

 屋敷の離れに、古い物置が存在している。執事が先導する形でリンドウがその建物に入る。

「英雄の時代からあるとされる書庫となります。量が膨大なため、今や当主様も全てを把握することは出来ておりませんが、我々が管理はさせて頂いています」

鍵を開けてくれた執事に礼をする。

「しかし、王家の歴史を学びたいというのは、最近の若者にしては理解がある方ですね。当主様が認めているのも、その勤勉さからでしょう」

機嫌の良さそうな執事にリンドウは返事をする。

「正しい歴史を知りたいと思うことは、普通のことです。正しい歴史を持つ当主様を称えるには、その歴史を知るべきなのは当然のことです」

そういうと、執事はまんざらでも無い様子だ。

「どうぞ、ごゆっくり」

そういうと、執事は持ち場へと戻っていく。

「……さて、かたっぱしから調べていくかな」

 

 様々な書物があったが、旧くなるにつれて凶ツ星、それの能力や扱い方についての書物。鉄や他の金属の加工について記した物が多くなっていた。

「やっぱり、英雄がいたのは間違いなさそうだな。ただ、此処にも二人の王と二匹の英雄については書かれた物は……ん?」

膨大な量の著書に埋もれて、それを確認することに時間ばかり取られていると、旧い本を見つける。

「『昏き夜 巨大な影』ね。これは大発見じゃ無いか?」

 




読了ありがとうございました。

凶ツ星については、完全に創作です。

でもまぁ、マグノリア博士がダイマックスについて研究発表するまでは、

天災的な扱いでもおかしくないだろうし、多少はね(笑)

今更だけど、今後ポケモンバトルはなさそうな感じなんですよね~



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第十一話 ブラックナイト 渦巻く影

ローズ委員長登場回です!

結局この人は……何がしたかったんでしょうね?

んにゃぴ……よくわかんないです。




 膨大な資料に目を通すだけでも、かなりの時間が経過していた。

「とりあえず、ソニアに連絡を……っと、ビートの居るところを通るのか」

遺跡の壁を破壊したことで、ローズ委員長からジムチャレンジの資格を剥奪されたことはソニアから聞いている。折角、あれだけ真剣に取り組んでいたことを、まさか尊敬している人から否定されるとは思っても居なかっただろう。

「まぁ、自業自得なんだけどな……顔くらい見に行くか」

そう呟くと、列車を途中の駅で降りることにする。

 

 そこは拘留所で、ガラスの壁の向こうにビートが暴れないように手を拘束されている。中にはビートが居る部屋とリンドウが居る部屋に警備の人間が一人ずつ、それともう一人スーツを着た男が居た。

「……また大げさな所だなぁ。ところで貴方は? 警備員ではなさそうだけど?」

リンドウが尋ねると、ビートの弁護人だと答えた。そう言われると、リンドウはビートと弁護人を交互に見比べて、意地の悪い笑みを浮かべた。

「いやぁ、大変だったなビート! 急にお前が突っ走っていった時は俺も驚いたぜ!」

急に違和感のある話を始めたリンドウにビートは首を傾げる。

「……話を合わせろ、考えがある」

周りに聞こえないように小さな声でビートに囁く。

「……どうしてぼくが、そんなことを」

口の端をつり上げ、リンドウが答える。

「上手くいけば、ジムチャレンジに復帰できるかもしれないぜ?」

 

 「ねがいのかたまりがあれだけ集まってたら危ないって、結局何もなかったから良かったけどな」

リンドウの言葉に、弁護人を名乗った男が反応した。

「……あれだけの数があれば、無作為にポケモンがダイマックスするかも知れませんでしたからね。トレーナーのポケモンなら大丈夫ですが、特訓を受けていないポケモンや野生のポケモンだったら……」

そこまで言って、ビートは言葉を止める。

「それにしたって、ローズ委員長に相談しろって言ったのに、お前は『そうしている間に被害が出るかも知れない!』って言ってやっちまったもんな。町の人を心配するのは良いけどよ、自分のことも考えて欲しいぜ」

どうやら弁護人はメモを丁寧にとっているようだ。

「……本当にこんなことで上手くいくんですか?」

ビートが小声で呟く。

「やっちまったことは仕方ないさ。それについてどうこう言っても何にもならない。だけど、やった理由が他の人間が善意と受け取ってくれるなら情状酌量の余地が出てくるだろ? あとの小細工はあの男の得意分野さ」

リンドウが小声でビートに返すと、警備員に面会の時間が過ぎた事を告げられる。

「まぁ、ちょっとの間は大人しくしておけよ」

そう言って、リンドウは拘留所を出て行った。

 

 ビートと別れた後今度こそソニアに会いに行くために列車に乗り込む。あまり人が混む時間では無かったが、折角なので余り人が座っていない車両を選ぶ。

「連絡は……近くまで行ってからでもいいだろ」

そう呟くと、椅子に背を預け深く息を吐く。ジムチャレンジが終わった後も、何かしらばたばたと動き回っていたので、一息つける時間も久しぶりなのかも知れない。

「相席しても、いいですかな?」

「どう……ぞ?」

他にも空席はあるだろうに、と怪訝そうな目を語りかけてきた相手に向けると、想像しても居ない男だった。

「……ローズ、委員長?」

「あぁ、あまり大声で喋らないで下さい。折角静かに列車に乗れる数少ない機会ですので、騒ぎにはしたくない」

そう呟くと、リンドウの目の前に座る。いつものスーツ姿でサングラスだけ掛けているのだが、場所が場所なだけに服装に違和感はない。人気も少ないので、よっぽど騒がない限りは気付かれないだろう。

「……俺に、何か用ですか?」

目の前の相手に目一杯の警戒を払う。

「そうだね。まずはそこから話しておこうか。ソニア君とビート君のことを王族に話した犯人に警告をしに来た、つもりだったのだけどね」

その言葉にリンドウは驚く。

「随分と耳が早いんですね。こんな短期間でそこまで突き止めるなんて」

両手をあげて首を横に振るローズ。

「急に王族が騒がしくなってね。そこから追いかけていくと、君に辿り着いた。王族があれだけ騒ぎ立てれば、誰だって分かるさ」

特別に自分が優れては居ないと、そう話す。

「……つもりだった、とは?」

「ビート君の件も、ソニア君の件も、周囲にはなるべく漏れない様に努めていたのさ。人の口に戸は立てられないとはいえ、遺跡を壊したことや調査に入っている人間が特定されれば、王族じゃ無くても気にする。今の彼らにはそう言ったものは不必要だと思ったからね。だから、悪戯に彼らを危険な目に遭わせる人間には、警告が必要だと思ったのだが、ビート君の弁護人の前で一芝居打つ程度にはビート君と親交があるとは思って無くてね」

サングラスの奥に鋭い眼光が見えた、気がした。

「君は一体何のために動いてるのか。少し気になってしまったのさ」

まるで返答次第では、嫌な予感がするような話し方だった。返答に悩むリンドウだが、決意したかのように口を開く。

「ブラックナイト……黒い騎士について、知っている、と言ったら?」

その言葉に対し、ローズは身構える。ブラックナイト、その言葉について聞き覚えはあるが、疑惑があるようだ。

「是非、聞きたいね。黒い騎士、そんなものが実在したのかね?」

リンドウは決意した顔で言葉を返す。

「ああ、あんたは知らないだろうが、英雄が倒したのはそっちの方さ。王族が管理する資料に、そいつがなんなのか、しっかり記録してあったぜ?」

リンドウの言葉に、ローズは考え込む。はったりである可能性は否めない。だが、それを否定するだけの答えも持ち合わせては居ない。

「はっはっは、思っていたよりずっと面白い青年だね。どこで降りるつもりだったのかな?」

そうローズが問うとソニアが居るはずの街の名前を答える。

「シュートシティまで来たまえ、私達と共にブラックナイトについて、語り合おうじゃないか」

有無を言わさないその態度に、リンドウは抵抗出来なかった。

 

 シュートシティに着くとオリーブがローズを迎える。

「お帰りなさいませ、ローズ様……その青年は?」

ローズは不敵に笑みをこぼした。

「VIPだ、丁寧に対応してくれたまえ」

その言葉に、畏まりましたと理解を示すオリーブ。

 




読了ありがとうございました。

ビート君とも微妙に絡みたかった(小並感

ジムリーグでの復帰の辺りを見て、なんで観客受け入れてるんだ?

ってなったので、どこかで印象操作でもあったのかなって。

『実は、あの行動は市民の為でした! 若さ故の勇敢な行動だったのです!』

的な報道があれば、ジムリーダーからの復帰もありではないかと。

そんな妄想がよぎったので、こんな話になりました。


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第十二話 ブラックナイト マクロコスモスと

ローズ委員長と薄暗い研究室に二人きり……何も起きないはずがなく(適当

久しぶりのソニアさんです(当社比

気づいたらポケモン博士になってましたね。一応博士号的なものだと思うのですが、ポケモン世界での博士ってどんな立場なんでしょうか?

まぁ、この世界観だと適当なんですけどね(笑)


 「正直、軟禁くらいは覚悟してたんだけどなぁ」

カフェにて、イエッサンやマッスグマと共に昼下がりを満喫しているリンドウ。ポケモン用の食事も頼めるので、ゆっくりするには万全だ。

「落ち着いたらポケジョブも再開しないとなぁ……給料がいいから、ちょっと考えちゃうけど」

リンドウが主に行っているポケジョブは、建築関連のポケジョブになる。ドテッコツやカイリキー等の力自慢のポケモンを必要な企業や取り組みに斡旋することが多い。勿論、イベントの雑務など他の仕事も無くはないが、知り合いを当たっていくと、常に仕事をしているポケモンは割と少ないのだ。知り合いの紹介と言うことであれば、利益が大きくなくても、何もしていないよりは、という理由で力を借りれることが多い。リンドウに対しては、賃金を払った上での仲介料が残るのみなので、一回当たりの利益が飛び抜けて良いとは言えないが、日々を生活していくには充分な額になることは多い。

「……それにしても、ローズのおっさん、ジムチャレンジ進行の手伝いって言っても、資料の整理と各所の報告ばっかりじゃねぇか。俺より適任はいそうだけどなぁ」

それでも、人手不足なのはリンドウも感じていた。リンドウの代わりに休みをとっているスタッフも連続勤務だったようで、体調は決して良くはなさそうだった。

「さて、イエッサン、マッスグマ、仕事の続きするぞー」

自分のポケモンに声を掛ける。リンドウの言葉に素直に反応するポケモン達。ジムチャレンジの激戦の疲労は既に抜けているようで、むしろ退屈な日常に欠伸を漏らしている程だ。

 

 任された仕事を終え、ローズに報告をしようとローズタワーに赴くと受付の人に声を掛ける。

「報告に来たんですけど、ローズさんってどこにいます?」

「ローズ委員長なら、地下室に向かわれています。戻ってこられたら、伝言をお伝えしましょうか?」

受付の対応にリンドウは丁寧に断りをいれる。

「いえ、端末で報告しておきます、急ぎでもないので……地下室って確か研究室でしたよね?」

「はい、そうお伺いしております。研究については社外秘になります。マクロコスモスの中でも、秘書か関係する職員以外は知らないようですが」

受付も特に深いことは知らないようだ。研究の内容など、安易に外に漏れてもいけないので当然と言えば当然なのだが。

「ありがとうございました」

そう言って受付に背を向けると、リンドウが記憶を掘り起こす。

「ローズタワーの作る時、俺も来てたんだよなぁ。めちゃくちゃ頑丈な造りで人がいくらいても足りなかったんだよな」

過去に大変な目に遭ったことを思い出し、ふと好奇心に駆られる。

「エレベーターにも、非常口はあるんだよなぁ」

 

 近くのトイレに入り込み、天井にある点検口を開いて天井裏に入ると、しゃがみ歩き位は出来るスペースが広がっていた。

「エレベーターは、あっちか」

方向を見定めると、歩き出すリンドウ。狭いところを歩くのは慣れているのか、特に時間も掛からずエレベーターがある所まで辿り着く。二本の太いひもに沿ってエレベーターが上下しているのだろうが、今は静かになっているので動いている様子も無い。

「点検用の梯子が……あった」

エレベーターが移動しても安全な位置に下に降りる梯子を見つける。そこまで移動すると、ロープを取り出し、イエッサンをボールから繰り出した。

「ちょっと肩に乗ってくれ……よし」

イエッサンを背負う形で梯子につかまると、ロープをイエッサンがサイコキネシスで固定する。それに掴まって梯子沿いに落下するように降っていく。

「結構深いけど、時間は掛からなさそうかな」

ロープが適度な長さになると、イエッサンに指示をだす。するとロープが落ちてくるので現在の位置にロープを再び固定。まるでレスキュー隊員のラベリングのようにするすると降りていく。

 

 最下層まで着くと。エレベーターが止まっていた。天井からエレベーターにはいると、扉を開ける。そこから研究室内部へと侵入する。

「エレベーターが戻ってないから、ローズ委員長はいるはずだけど……」

廊下を歩いているが、人が居る気配はない。研究員は既に出払っているようで、もしかすると中に居るのはローズだけかも知れない。

「広い部屋に出たな」

そこは実験室なのだろうか。周囲の壁は厚く、多少のことがあってもびくともしないだろう。その中心に一人の男がたっている。

「あれは、ローズ委員長?」

入り口に影になるように中を覗き込む。良く周囲を見渡すと、赤黒く光る願い石にこの部屋全体が囲まれているのが分かる。莫大な量の願い石を集めて成し遂げようとする目的が部屋の中心、ローズの目の前に鎮座していた。

「あれは……」

中心のそれに気を取られていると、ローズが入り口に目を向ける。

「やぁ、そろそろ来る頃だと思っていたよ」

リンドウが来たことに気付いたようだ。リンドウは諦めて部屋の中に入る。

「これはまた……凄い物を見つけましたね」

リンドウが驚きと落胆のような、複雑な表情を浮かべてローズに語りかける。

「エタナトス、二万年前に彗星と共にガラルに落下してきたと言われるポケモンだ。このポケモンの力があれば、千年後のエネルギー問題も解決出来る」

自信満々に語るローズがリンドウと向き合う。

「……エネルギー問題はいいんですけど、他に問題ありませんか、それって」

リンドウが呟くとローズが疑問を問う。

「例えば?」

リンドウが後ろ髪を掻きながら答える。

「まずはそいつを制御出来る二人の王と二匹の英雄がいないでしょう。仮に居たとしても、ブラックナイトをどうするっていうんですか。こんなシュートシティのど真ん中で起きたら、被害が出るなんてレベルじゃ無いですよ」

饒舌に語るリンドウに、ローズは笑みをこぼす。

「随分と詳しいようだね。だが、ガラルには英雄が居る。リーグチャンピオン、ダンデが。彼ならば、ガラルを救う英雄になることも出来るはずだ」

ローズの言葉に、リンドウは安心した様子はない。

「あぁ、まぁ……英雄には相応しいかも知れないですね。ただ、それには剣と盾が必要じゃ無いですか?」

リンドウの言葉にローズが疑問を持つ。

「伝説にあった剣と盾かい? あれは、明確に存在する物なのか?」

ローズのその言葉にリンドウが溜息をこぼす。

「いや、別にその形をしていなければならない、って訳では無いですど。ダイマックスに有利に立ち回れる武器がないと流石にチャンピオンでも厳しいとは思いますよ」

そう答えたリンドウにローズは返答する。

「うむ、それならばその剣と盾を準備してくれたまえ。手段は任せる、必要な手配はオリーブ君に言ってくれれば可能な限り対応出来るはずだ」

ローズのその言葉にリンドウは言葉を無くす。

「エタナトスが目覚めるまで、あと少しだ」

ローズが恍惚と赤く光る彗星のかたまりを眺めていると、リンドウが口を開く。

「ムゲンダイナ、ですよ」

その言葉にローズが少し驚く。

「伝承の中では、そう呼ばれています。まぁ、どっちでも同じでしょうが」

そう呟いたリンドウに、ローズが答える。

「ムゲンダイナ、うん、良い響きだ。未来への可能性を感じる。私もそう呼ぶとしよう」

 

 シュートシティの町中をブラブラ歩いていると、マッスグマがお腹をすかせていることを訴えてくる。

「まぁ、歩き回ったところでどうにもならないか」

そう呟いて入ったレストランで見知った顔を見つける。

「リンドウじゃん!?」

「……あ」

ソニアはリンドウを見つけると共に近づいて責め立てる。

「あ、って何? お姉さんに対してその反応は可笑しくないかな?」

そう言うとリンドウは素直に謝る。

「いや、まさかこんな所で出くわすとは思って無くて」

嘘でも本当でも無い言葉で誤魔化すと、調べたこと伝えるのを忘れていた、と聞こえない声で呟く。

「まぁいっか、それより折角会ったんだし、一緒にお昼でも食べてかない?」

 

 二人でカレーを食べていると、リンドウが違和感を持つ。

「……ん?」

少しの間思考した後、漸く気付いた。

「ソニアさん、元気なさそうですけど、どうしたんですか?」

以前と比べて、口数が少ないのだ。伝説のことを聞き出すために病室から引っ張り出すような行動力を目の前にしてきたからか、余計に感じるのかも知れない。

「ん~、そう見える? そんなつもりはないんだけどなぁ」

そう言うと、溜息を吐く。

「いや、見たままテンション低いですよ」

食事の手を止め、悩みの種を聞き出そうとする。リンドウからすれば、伝説の剣と盾のポケモンに一番近いかも知れない人物だ。今この場で不調なことはすこぶる不都合なのである。

「あんまりリンドウに話すことじゃないかも知れないけど、今私はブラックナイトについて調べてるの」

ソニアの今更な発言につっこむべきか一瞬悩んだが、そのまま次の話に進む。

「お祖母様からの課題でね、これの研究次第では博士号への推薦もあり得るの。伝説級のポケモンへの手がかりを発見できれば、実績としては充分だから……」

つまりはソニアにとってはブラックナイトの研究自体が、今後の進退を決めると言っても過言では無いようだ。

「そっか、ソニアも博士になるんだな。すごいね」

そう呟いたリンドウを恨めしそうに睨むソニア。

「簡単に言っちゃって、石像の発見以降碌な結果が出てないのに。本当に私、博士になれるのかなぁ?」

ソニアの言葉に、リンドウはキョトンとした顔をする。それに対して、ソニアが不満を持ったようだ。

「何よ、私何かおかしなこと言った?」

どこか苛立たしげなとげのある言葉に、リンドウは少し慌てて返答する。

「いや、意外だなぁと思って」

その言葉にソニアは何故かと問う。

「だってさ、ソニアが研究を途中で諦めるイメージがつかなくて。正直博士になるのが決まったのかと思ったんだ」

その言葉に、ソニアが逆に驚かされる。

「それに、博士になりたいから研究してる訳じゃないだろ。出来るかどうかを悩むより、やってみて次どうするかを考えていけば、結果はついてくるよ」

ソニアの行動力があれば大丈夫、とリンドウは語った。その言葉に、ソニアは頬を赤らめ、照れ隠しのようにカレーを盛大にかきこむ。

「っぷはぁ! そうだよね、悩むより行動あるのみ!」

元気が戻ったソニアはまた研究について語り始めた。その様子に元気を分けて貰っているのか、リンドウもどこか笑顔が多くなっているように見える。

「そうと決まれば、フィールドワーク! の前に、英気を養いましょう!」

元気いっぱいのソニアに引き摺られるように、次の店に連れられるリンドウ。

「えっ、ちょっ……あれぇ!?」

 




読了ありがとうございました。

英名はエタナトスらしいですね、カッコいい(小並感

伝説のポケモンで名前が変わるのは初めてだそうです、そこにストーリーがあったらいいなー、とか思ったり。

個人的には、デジモン感があるムゲンダイナもエタナトスも嫌いじゃないし、好きだよ(唐突

でも、前向きな意思を持って名付けられたのがムゲンダイナだったらいいな、ってそんな感じ?


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第十三話 人の心は秋の空

ソニアさんはポンコツカワイイヤッター(当社比

最初は勢いよくぶつかって、あとは流れで……

ビート君は生き返れ生き返れで本当に生き返ったのは草でしたね(笑)

観客が手のひらを返したのは何でだろう?


 気がつけばホテルのベッドで目を覚ました。周りを見渡すと、ソニアが準備したホテルでは無い。ならば、誰の部屋なのか、その疑問は隣で未だ目を覚まさない人物を見ると答えが出る。

「……リンドウじゃん、マジで?」

布団を胸元に引き寄せながら、現状を理解しようと思考を回すが、余りの非日常さに何一つ考えがまとまらない。

「……ん、ソニア起きたのか」

目を覚ましたリンドウは、然程ソニアの事を気にした様子は無く、朝ご飯の準備の為にキッチンに向かうとお湯を沸かしてコーヒーとトーストの準備を終える。

「はい、朝ご飯」

無言でソニアはそれを受け取ると、パンを一口含む。

「……美味しい、じゃない!」

そういうと、ソニアが警戒心を高めてリンドウと距離を取る。

「どうしたの、ソニア?」

何を言っているのか分からないと言った表情のリンドウ。

「ま、まさか……昨日の事は覚えてないけど」

「何もしてないよ」

酷く冷たいトーンでリンドウが溜息をつく。

「……ん?」

「まさか、無理矢理俺のホテルまで着いてきて、ベッドで眠りだした上に、一緒じゃないと眠れないとか言い出したことまで覚えてないとは、ね」

限りなく怒気を孕んだ声音でリンドウが話す。そういえば、確かにテンションが上がってアルコールに手を出した記憶がぼんやりとソニアによみがえってきた。

「そ、それでも、あられも無い姿の女の子が横で寝てたら……ちょっと位は」

「好きな女の子がいるんで」

そういうのはちょっと、とノーを突きつけられるソニア。

「なん……だと?」

ソニアは めのまえが 真っ白になった。

 

 「はぁ、まぁいいや。合流するまでにブラックナイトについて調べたこと、ノートに記録してあるから」

そう言ってリンドウがノートをソニアに手渡す。なにやら先ほどの会話から、ソニアに生気を感じられないのだが、リンドウにはどうしようもない。

「それじゃ、研究頑張ってな。応援してるよ」

そう言って、ソニアと手を振って別れる。

 

 ソニアが汽車を待つ待合室で、ルリナに電話を掛ける。

「ちょっと、聞いてよ!」

ルリナが電話の向こうで迷惑そうに答える。

「聞いてるよ、女扱いされなかったんでしょ。どんまい」

どうやら、愚痴を延々と聞かされているようで、ルリナの反応も大分悪くなっている。

「全然気持ちがこもってなくない、酷くない!?」

氷のように冷たい言葉がソニアに突き刺さる。

「ダンデ君の時もそうだけど、惚れっぽいのもいい加減にしないと駄目よ?」

その言葉に、ソニアが一瞬硬直する。

「ダンデ君に振られた時の会話、まさか忘れてないでしょ?」

ソニアの表情が一瞬にしてさめてしまう。

「『私とリザードン、どっちが好き?』って言って、割とあっさりリザードンって言われたよね」

電話越しでも耳を塞ぎたくなるような絶叫が響く。

「ルリナ、それは言わない約束でしょ!?」

そういったソニアに対して、ルリナは続ける。

「あの時、比較対象をワンパチに引き下げて食い下がろうとしたのを止めてあげた恩を忘れた訳じゃないわよね?」

溜息交じりに呟いたルリナの言葉が完全に止めを刺した形になったのか、ソニアはぐうの音も出なかった。

「ハイ、シッカリトオボエテイマス」

余程ショックだったのか、片言で返事をするソニア。

「それじゃ、私もジムリーグの準備で忙しいから。ソニアも今が大変な時期なのは分かってるけど、ちゃんと研究頑張りなさいよ」

そういうと、少し沈んだ表情で頷いて電話が切れる。

「……あんまり、人の心配してる場合じゃ無い、か」

両手で頬を叩き、気持ちを切り替えてジムリーグの準備にうちこむルリナ。

 

 ジムリーグの準備に追われていると、ビートがリンドウに話しかける。

「お久しぶりです」

ビートの言葉にリンドウは反応する。

「久しぶり、まさか本当に復帰しちまうとはね」

手を止めずに、会話だけ続ける。

「……本当に何を考えているのか読めない人ですね。ここまで分かっていたのですか?」

リンドウは笑う。

「まさか、そうなったら面白いだろうな、ってだけさ。お前ならもしかしたらとは思ったけど、今の今まで忘れてたぐらいだよ」

その言葉は半分嘘だった。ポプラの提案を聞いて、ビートが復帰できるように全力を尽くしていたのだ。しかし、日々の業務に追われて中々上手くはいっていなかったようだが。

「まぁ、僕のやることは変わりません。あの婆の手の平の上は承知ですが、それでも出来る事があるのなら」

そういうと、チャンピオンリーグへと足を向ける。その途中で振り返って、リンドウに一言告げる。

「これでも、感謝してるんですよ」

その後、ビートは振り返らずに進んでいった。

 

 




読了ありがとうございました。

子供が活躍出来る環境を大人が作っている、そんな話が好きです。

但し、ババァのあれは……よくわかんないです。



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第十四話 千年後のガラル

(ジムリーグ戦は)ないです……

というわけで、ブラックナイト! はっじまっるよ~

オニオンとかサイトウさんの設定は、割と適当です。

特に気にしないというかたはよろしくお願いいたします!


 「これより、ブラックナイトを始める!」

ローズのその言葉と共に、空が黒い雲に覆われて、地鳴りが起こる。モニターには各ジムで赤い柱が立ち上っているのが映されている。

「あれは……」

ワイルドエリアの自然現象として見られる、光の柱の現象だ。そこの近くにはダイマックスしたポケモンが現れるとされている。

ダンデ対マサルのチャンピオン戦が中止され、ダンデはローズが居るだろうナックルシティへと駆け出す。

「マサルは、どうする……?」

自分がやるべき事に迷いのない兄と自分に何が出来るのか分からないホップは、迷う。

 

 チャンピオン戦を控え室で観戦しようとしていたジムリーダー達はいきなりの出来事に驚き、最初にキバナが言葉を発した。

「ナックルシティで事件が起きてるなら、俺様が行かない理由はないな」

そういうと立ち上がり、控え室を後にする。

「どうやら、ナックルシティだけじゃなく、各地のジム。つまりはダイマックスが行える場所も異常事態になってるみたい。なら、僕は自分のターフタウンに戻って、皆を安心させないと、ね」

ヤローはそう言って、ターフタウンに戻ることを伝える。ルリナも同様だと語ると控え室を後にした。

「……僕は、どうすれば」

そうつぶやいたオニオンに、メロンが答える。

「自分がしなければいけないと思うことをしなさい。誰かに答えを求めても、後悔することになるわ」

メロンの言葉に決心したのか、オニオンが控え室を出ると、褐色の少女とぶつかる。

「あっ、オニオン丁度良かった。さっきのローズ委員長の演説はどういうことか分かる?」

サイトウの言葉に自信なさげにオニオンが答える。

「もしかしたら……わかる。人が……いる、かも?」

オニオンの言葉にサイトウが飛びつく。

「分かる人がいるんですね。なら、その人に会いに行きましょう! 今すぐに!」

その言葉に、しっかりと頷く。その人物の名前に、一同は納得したり、驚いたりと様々だった。

 

 リンドウは、ローズの演説を最後まで聴くこと無く、シュートスタジアムの外に出ていた。

「っと、今からだとアーマーガアタクシーの方が早そうだけど」

周りを見渡すと混乱している人達が乗り場に押し寄せている。列車に乗る方が早いかどうか、それを考えている間に聞いたことのある声が聞こえる。

「げっ、メロンさん!?」

「げっとはなによ!」

反射的に逃げようとしたリンドウをオニオンの影が捕まえる。

「ゲンガーですか、やりますねぇ」

そう呟いたサイトウが追いかける集団から飛び出し、影を掴まれて動けないリンドウに近づく。

「ガラル空手 強襲の技 ツバメ返し」

跳び蹴りを胴に当て、倒れ込むのと同時に足に寄る絞め技と拳による打撃を加える。

「ぐはぁっ!?」

受け身を取るどころか、地面に叩き付けられる前に意識を刈り取られるリンドウ。

 

 「うー、ん。あれ、俺は一体?」

目を覚ますと、腕を縛られている。場所は人気の少ない場所で、周りはオニオン、メロンサイトウ、カブに囲まれている。

「えーと、これは?」

首を傾げるリンドウに、メロンが答える。

「ローズ委員長の行動やブラックナイトについて、あんたなら何か知ってるんじゃ無いか、ってね。ちょっと前からローズ委員長と行動してたでしょ」

その言葉にリンドウが戸惑う。

「あ、いや、まぁ……そうだけど」

歯切れの悪い返事に、サイトウが苛立つ。

「隠し事をしようとするのならば、多少痛い目に遭って頂くことになりますが」

その言葉に顔色を悪くするリンドウ。

「教えて、欲しい……です」

オニオンの切実な言葉に、リンドウは逆に質問を返した。

「オリーブさんから、何も聞いてない?」

 

 「なるほど、ガラルの千年後もブラックナイトも、さっきの演説が初めてだ、と」

リンドウがそう呟くと盛大に溜息をこぼす。

「あんまり余裕があるわけじゃないけど、説明しないわけにはいかないか。ブラックナイトも気になると思うけど、先にガラルの未来について、かな」

そういうとリンドウは続ける。

「千年後のガラル地方って、エネルギー問題でどうなってるか想像つく?」

その言葉にメロンが答える。

「たしか、化石エネルギーがなくなって電気が無くなるんだっけ? そりゃあ、大変なことだけど、千年後って言われてもね」

実感が沸かない、とそう言う答えだ。それについては他の面子も同意見らしい。

「まず、それが間違いだ。化石エネルギー、つまり石炭とか石油なんだけど、現在の使用率で計算すると百年後には八〇%使い切る予測が出てるんだよね」

その言葉に驚き、サイトウが言葉を放つ。

「百年後って、そんなに早いのですか?」

「ここ十数年でも、電気の普及と交通網の発達、そして各家庭における電気の使用率の増加が目まぐるしいから、エネルギーの使用量は毎年右肩上がりだ。実際なにも対策をしなければ、百年待たずに使い切るのは間違いないだろう、って偉い人達も言ってるみたいだよ」

その言葉にカブは言葉に詰まる。

「……確かに、鉱山の化石燃料もいつまでもとり続けられるわけじゃない」

考え込むカブに更にリンドウが続ける。

「百年っていうのは、あくまでエネルギーが無くなるまでの期間ってこと、ゼロになるまでに人間同士の化石燃料の奪い合いになるだろうね。残りが少なくなるにつれてより過激になっていく。仮に五〇年後に化石燃料が半分になっていたとしたら、原油は高騰し、電気は富裕層の元にしか届かないだろうなぁ」

そう呟いたリンドウにメロンは答える。

「別に、エネルギーなんて化石燃料だけじゃないだろ? そりゃあ、少なくなれば不便にはなるだろうけど、他に太陽光とかもあるんじゃないかい?」

「足りないし、安定しないんですよ。勿論そういった再生可能エネルギーも開発は進んでは居るけど、それが普及するにも時間が掛かるしね」

底まで話した段階で、オニオンが疑問を口にする。

「それじゃあ……千年って、何?」

「ガラル地方に完全に人間が住めなくなるまでの時間だよ。百年後には僅かなエネルギーを奪い合って戦争が起こり、各地で紛争頻発するようになる。限られた富裕層にのみエネルギーのある生活をする権利が与えられる。三百年後には、限られた富裕層にもエネルギーが枯渇し、ガラル地方に住む人間は社会性を維持できなくなる。石器時代並に生活レベルが低下し、五百年後にはポケモンとの生存競争の結果、人類は住む場所を追いやられ……全滅するのに千年はかからないだろう、ってね」

その言葉に嘘はないと感じたのだろうか、冷や汗を流すサイトウ。

「だ、だけど、ポケモンの力を借りれば、エネルギー問題はなんとかなるんじゃないかい?」

メロンの希望的観測は、すぐさま否定される。

「例えば、エレキブルとか馬鹿みたいな電気エネルギーを蓄え込んでるんだけど、それを実用化しようとすると問題が起こるんだ」

リンドウの言葉をカブが引きつぐ。

「ポケモンの管理とインフラの整備、そして継続性、だったか」

その言葉にリンドウは頷く。

「そのポケモンを四六時中発電の為に働かせることがそもそも困難だし、そんな大規模の発電量を、変圧するのも蓄電する技術もない。ついでに言えば、何十年と電気エネルギーを供給しようとすると、それだけの電気を溜め込んだポケモンを育成するのに、同じか、それ以上のエネルギーを消費するって話」

そこで、カブが閃く。

「つまり、一番現実的なエネルギー問題対策が、ローズ委員長のムゲンダイナ、ということか」

その言葉にリンドウが頷く。

「ムゲンダイナとは、一体何が出来るんです?」

「そいつ自体はあくまで、願い星、つまりは彗星のかけらだな。それの活性化のみ。ムゲンダイナ自体がエネルギーを産み出してるわけじゃない」

メロンが疑問を呟く。

「活性化させた分だけ、エネルギーを消費する、とかじゃないのかい?」

「活性化させて消費した分のエネルギーの大多数を宇宙にある彗星から補給する。高い所か低いところに水が流れる様に、使った分だけエネルギーが集まりやすくなるってこと。まぁ、地脈だったりいろんな所から集めたりもするんだけど、地球外からも集められるからこっちが無くなるには、千年二千年の話じゃ無いかな」

そこまでリンドウが話すと、オニオンが話す。

「どうしたら……ブラックナイトを、とめられる?」

リンドウが少し間をあけて答える。

「二人の英雄と王についてはソニアが今まどろみの森で調べてるはず。どれだけ進んでるか分からないけど、こっちも英雄について調べないと、剣と盾を見つけさえすれば、可能性は残されているから」

オニオンがリンドウの拘束を解くと尋ねる。

「剣と盾は……どこに?」

その言葉にリンドウが答える。

「……王族の末裔に伝わっているはずだ。それがどこにあるかまでは分からなかったけれど、この状況になった以上、出張ってくるはずだ」

そう言って、王族の末裔の場所を語る。

「……メロンさん、申し訳ないけど、街を守っていてほしいんだ」

その言葉にカブが疑問を浮かべる。

「何故だ、原因の解明には戦力が必要だと思うが?」

カブの言葉に、メロンが返答する。

「街を襲うダイマックス化したポケモンを抑えられるのは、ダイマックスになれたポケモンとトレーナーだけ、さね。実際に闘いに出る訳じゃない剣と盾の捜索に戦力を削くよりも、少数で探して、あとは防衛の方が良いってことさ」

そうメロンが話すと、リンドウは頷く。

「オニオン、サイトウ! あんた達はリンドウをフォローしな! 街の守護はあたし達で充分だよ」

そうメロンが宣言すると、メロンの息子のマクワからも声が上がる。

「マイナーとは言え、俺もジムリーダーの一人だ。オニオンが居なくてもなんとかなるさ」

頼もしい仲間達の声にリンドウは頭を下げる。

「無理はしないでくれ、ブラックナイトはいつまで続くか分からない。貴方達が倒れたら、街を守る人間がいなくなってしまう」

危険だと感じたのならば、逃げて欲しい。そうリンドウが頼む。

「舐めんじゃないよ、若造。そんな心配されなくたって、ちゃんと街を守ってみせるさね」

メロンがリンドウの頭を少し乱暴に撫でる。その仕草に、子供扱いするなと手を振り払う。

「行って来な、こっちは任せときなよ」

その言葉に頷き、リンドウとオニオンとサイトウは王族の末裔の居場所まで向かう。

 




読了ありがとうございました。

今回は、ローズ委員長が話していた千年後のガラル地方について、です。

多分、八割位の人が何言ってんだこの人? ってなったので、色々考えてみました。

分かってるのは、化石エネルギーとか、電気がなくなるとかそれ位なので、

九割九分ねつ造です。本編とは関係ないので(笑)

要するに、ローズ委員長がもっと周囲に説明してたら理解されていたのに、って感じです。


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第十五話 王族、ブラックナイト

今回はムゲンダイナ戦の裏側の話です。

リングフィットでプランクやる度に足元がふらつきます、あれはヤバい(ヤバい

あとマウンテンクライマー、あれは存在自体が意味わからない、辛い、耐えられない(貧弱


 王族の末裔の屋敷まで出向くと、使用人達が慌ただしく動き回っている。

「準備はまだか? もう出発するつもりだぞ」

「運び出しの準備は出来ています。人手が足りてないんですよ」

そう言っている奥の方に、剣と盾の髪型をした兄弟を見つける。

「ああ、君は」

「報告をした、信心深いリンドウじゃ無いか」

そういうと、優雅にティーカップを傾け、紅茶を嗜んでいる。

「現在、ブラックナイトが進行しています」

恭しく頭を下げると、兄弟は頷く。

「分かっている、その為の王族」

「その為の我々、王なのだから」

そう言うと自信たっぷりに笑う。

「頼もしい限りでございます。騒ぎの中心はナックルシティの地下でしょう」

その言葉に、兄弟は喜ぶ。

「目的地を告げに来たか、よくやった」

「褒めて使わす、信心深いリンドウ」

そうして、それに対して褒美は何が良いかと言う問いに、迷わずリンドウは答える。

「剣と盾を、一度目にしたいのです」

 

 屋敷の中心、そこの隠し扉から奥にすすんで行くと、現在も稼働している工房がある。手入れは行き届いているのだが、使用された形跡はほとんどない。

「……ここに?」

オニオンが足下が暗い中疑問を浮かべる。

「流石に、この状態で俺達を騙す理由はないと思うけど」

呟くリンドウにサイトウは先に進むように背中を押す。

「どちらにしろ、この目で確かめるしかありません。奥にある剣と盾でブラックナイトが収まるのであれば、それで解決なのですから」

迷い無くサイトウが扉を開けると、そこには煌びやかに装飾された一対の剣と盾があった。

「……これが?」

ふと零れたリンドウの呟きに、後ろからソッドとシルディの声が響く。

「そう、これこそが!」

「この溢れんばかりの輝きが!」

一呼吸をおいて、自信満々に語る。

「我が王族に伝わりし、誇り!」

「王族の末裔に受け継がれる、伝説の武具!」

その言葉と同時に使用人達が、剣と盾を運び出す準備をしていく。

「ブラックナイト、恐るるに足らず!」

「我々によって、伝説が再来するのだ!」

 

 ソッドとシルディの屋敷から離れ、リンドウ達は歩く。

「……リンドウ、顔色……悪い?」

オニオンが元気の無いリンドウを励まそうとする。

「どうしたんです、剣と盾を見た時からぐったりして」

サイトウが何がなにやら意味が分からないと呟くと、リンドウが口を開く。

「……剣と盾に、ダイマックスバンドは反応したか?」

そう呟いた言葉に、オニオンは首を横に振る。

「まさか?」

サイトウが驚きを表情に出す。

「で、でも。置いてあるだけだったからじゃ?」

オニオンの疑問に、リンドウは否定する。

「その場にあるだけで、ガラル粒子の活動を止める代物だぜ。一番大切な中身が入ってないんだよ」

そう呟くと、次の作戦のためにジムリーダー達に連絡をつけ始める。

 

 リンドウがキバナを含むジムリーダー達に、王族の末裔がもつ剣と盾は未完成であることを説明する。

「あとは自力でチャンピオンがムゲンダイナを倒すか、剣と盾の中核を手に入れないといけない」

そう呟いたリンドウの表情は、焦燥を現していた。可能性として事前に予想できなかったわけでは無いが、そうとなってしまっては後手に回ってしまっている。

「その剣と盾が未完成ってことは分かったけど、そのムゲンダイナがダイマックスしていると問題があるの? 現状ダイマックスしている野生ポケモンくらいであれば、私達で充分対応出来ている訳だし」

既に何体かのダイマックスポケモンを大人しくさせているジムリーダー達であれば、現状然程問題では無いのかも知れない。

「……そうですね。一番の問題は、ムゲンダイナが存在する限り、ガラル粒子は活性化し続ける。だから委員長はムゲンダイナを制御する方法を探していたんですが」

その言葉にメロンは疑問を抱く。

「活性化し続ける、ってことは根本的に解決しないってことね? この状態が続くのは確かに困るわね」

しかし、オニオンはメロンとは別の結論を出していた。

「……現状よりも、悪化……するか、も」

ヤローが腕組みをして、首を傾げた。

「悪化、するとして。どうなる?」

その問いにリンドウが答える。

「はい、エネルギーの活性化はさらに発展していきます。そうなると次第にダイマックス化するポケモンは野生とトレーナーの区別は無くなっていき、最終的にはダイマックスしたポケモンの制御も難しくなるでしょう」

その言葉に、オニオンが言葉を詰まらせる。

「流石に、ダイマックスを制御出来なくなれば、私達での対応も難しくなりますね」

各地のジムリーダーですら対応が難しくなるどころか、切り札として用いているキョダイマックスポケモンすらも暴走を始めた場合、それを治められるトレーナーは恐らく存在しなくなってしまう。

「そうなってしまう前に、解決しないと被害が広まる一方です」

その為に剣と盾が必要である、その言葉にジムリーダー達は頷いた。

「剣と盾を作るための中核とは、一体なんなんだ?」

カブの言葉にリンドウは答える。

「ムゲンダイナの体の一部が、必要になります」

その言葉に、ジムリーダー達の表情が険しくなる。

「なるほどな、活性化出来るなら沈静化も出来るってことか」

そう呟いたキバナは、腕を頭の後ろで組み顔をしかめる。ムゲンダイナを止める為に、ムゲンダイナに近づく必要があるのだ。

「問題はどうやって近づくか、だね」

ヤローが腕を組み唸る。

 




読了ありがとうございました。

王族及びムゲンダイナの設定はオリジナルなので、違う可能性が多分にあります。

ノリで書いてるから、多少はね(白目


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第十六話 無限ダイマックス

ムゲンダイナがチャンピオンと闘ったり、マサルとホップが頑張ったりします。

リンドウは……別にいなくてもいいんじゃないかな(適当

基本シナリオ沿いの時点で、まぁ、多少はね(震え声


 「もう少し、トレーニングするべきですね」

サイトウ、オニオン、リンドウがシュートシティの駅からジムまで向かう。明らかにオニオン一人が遅れている。

「あまり……運動は……得意、じゃ……ない」

息も絶え絶えの様子に、サイトウがため息をついて速度を合わせる。そうしていると、リンドウの端末に連絡が入る。

「ソニア?」

 

 「まどろみの森で……マサルとホップが?」

ソニアがまどろみの森の奥で起きたことをリンドウに説明する。二人が英雄のポケモンを見たかも知れない、ということ。何よりも、剣と盾を手にしているかも知れないということ。

「もうシュートシティに向かってるから! あの二人なら、もしかしたら何とかしちゃうかもね!」

ソニアが言っていた時間を確認すると、どうやら既に二人はシュートシティの地下に向かっているようだ。

「……マサルさんとホップさん、が?」

オニオンの言葉は、視界に映るシュートシティのスタジアムに向けられていた。

「向かいましょう。ムゲンダイナに対する戦力は多い方が良い」

サイトウは躊躇うことなく足を進める。二人のトレーナーに遅れて、三人もスタジアムの地下、エネルギープラントへと降りていく。

 

 エネルギープラントには既にマサルとホップの姿はなく、ローズが一人佇み、チャンピオンがムゲンダイナと闘う姿をモニターで眺めているだけである。

「随分と、お客様が多いね」

祭だから仕方がないか、と呟くローズ。

「……マサルとホップは?」

リンドウの問いに、ローズは既にエレベータで屋上へ向かったことを告げる。

「あなたがやっていることが、どれだけの人間に迷惑を掛けているのか……分かっているのですか!?」

サイトウがローズに対して声を荒げる。普段は冷静沈着にポケモンバトルを行っている姿とは違うのは、ブラックナイトが始まってから、傷つく人間とポケモン達を見たからだろうか。

「勿論だ。必要な犠牲とは言え、私も心苦しい限りだ……」

その言葉に、オニオンの仮面の奥の瞳が揺らぐ。

「……必要……犠牲?」

一体何のために、その言葉に対してローズが答える。

「ガラル全土の人間が注目するチャンピオン戦、その時に起きたブラックナイトは、記憶に強く結びつくだろう。これから起きる苦難を乗り越える為には、誰かが解決するという対岸の感覚ではなく、全ての人間が実感しなければならない……決して、被害を広げないために、当事者でなければならない」

ブラックナイトという恐怖を、ガラル全土で実感しなければならないというローズの言葉にリンドウは呆れた様子だ。

「チャンピオンの『全員が強くなる』理論ですか……理屈は分かりますが、走り回る方の身にもなって欲しいですね」

肩を落とすリンドウに、ローズが尋ねる。

「リンドウ君、剣と盾は?」

リンドウは王族の剣と盾が未完成であったことを告げる。

「まどろみの森から、伝説の剣と盾をマサルとホップが持ってきてます。二匹の英雄までは分かりませんでしたが、上に居る三人に任せるしかないかと」

ローズは頷き、モニタに目を移す。

「リンドウさん! ローズ委員長がこのブラックナイトの原因なんですよ!」

サイトウの叫びに、リンドウは動揺する様子もない。

「仮にムゲンダイナが目覚めなくても、ブラックナイトは発生するのさ。それならばチャンピオンという力が万全のうちに解決しておく必要がある、そう思わないかね? 確かに、ブラックナイトの時期を早めたのは間違いないが、私も解決のために動いている」

オニオンが驚き、サイトウは困惑している。

「ムゲンダイナがガラル地方に落下したのがおよそ二万年前、ブラックナイトの伝説は良くて数千年前の出来事だろうしな。ガラル粒子の活性化で起きる自然現象だし、しかたないよ」

リンドウはローズに対して責める気配はない。問答をしている間に、モニターにマサルとホップが映る。

 

 「アニキ!」

ホップがダンデに駆け寄るが、途中で止められる。どうやら濃密過ぎるガラル粒子のために上手く、ダイマックスが制御出来ないようだ。その為か、チャンピオンのチームでも苦戦しているのだろう。

「マサル、ホップ……成長したな」

ダンデが一瞬だけ振り返り、マサルとホップの姿を見る。故郷でポケモンを手渡した時とは見違える姿に、歓びを感じているのだろう。だが、今は感動に浸っている場合ではない。目を閉じ、気持ちを切り替えると、ムゲンダイナと再び対峙する。

「ここからが、チャンピオンタイムだ!」

ダンデがモンスターボールを構え投げる。ボールが開き、あふれ出す光がムゲンダイナを包み込むと、その姿をボールの内側へと呑み込んでいく。

「……やったか?」

ホップが呟いた次の瞬間、ダンデがリザードンに指示を出す。リザードンが二人を庇ったその瞬間、モンスターボールから光があふれ出した。

 

 ローズが拳を握りしめる。ダンデがムゲンダイナを捕まえることに失敗したのだ。

「……やはり、一筋縄ではいかないな」

伝説と呼ばれたポケモンは、悠々と浮かんでいる。ダンデの投げたモンスターボールは真っ二つに割れ、最早機能しない。それどころか、余波をうけてダンデ自身にも浅くない傷が見える。ホップが傷ついたダンデを抱えてバイウールーに担がせて避難させている。

「一度体勢を整える必要が……っておい!?」

リンドウが、傷ついたダンデを助けに行こうとすると、モニターに映る景色に驚く。

「まさか、闘うつもりなのか?」

ダンデと入れ替わる形で、マサルとムゲンダイナが対峙する。

 

 「無茶だ、チャンピオンがかなわなかったのに……」

リンドウの言葉にオニオンが首を横に振る。それに合わせて、ローズがエネルギープラントの機械を操作する。

「……マサルなら、もしか……するかも」

オニオンの言葉に驚き、リンドウはローズに視線を移す。

「彼は上に上がる前に、私を倒していったんだ……可能性はある」

頭を掻いて、一度毒づくと覚悟を決めたのか、リンドウも装置を準備していく。

「な、何をしているのですか?」

サイトウの疑問にリンドウが答える。

「ここにはムゲンダイナの一部がある。ガラル粒子の活性化する装置を反転させれば、まだ可能性があるかも……多分、きっと」

装置を操作しながら、言葉には自信はなさそうだった。機器の操作はローズが、接続の切り替えなどの準備をリンドウが行っていると、サイトウも手伝う。

「これを、繋ぎ直せばいいのですね?」

直径一〇センチはあろうチューブを軽々と持ち上げると、機械に繋ぎ直す。ムゲンダイナを復活させる時とは、真逆の装置が組み上がっていく。

「……みて下さい。マサルさん……」

彼のポケモンがムゲンダイナにダメージを与え続けている。圧勝という訳ではないが、かなり優勢に見える。しかし、ローズが焦りを見せる。

「不味い! ムゲンダイナがキョダイマックスをするぞ!」

 

 マサルのポケモン達がムゲンダイナにダメージを与え、ついにムゲンダイナが横たわる。

「……凄いぞ、マサル!」

驚くホップは、ダンデを物陰に避難させ終わったようだ。横たわるムゲンダイナは、やがて周囲からガラル粒子を集約させる。目映い程のエネルギーが集まった時、ムゲンダイナが空にむかって飛び始める。

「……これは?」

マサルはその様子を見ているしかなかった。恐ろしい程集まっていくエネルギーが、やがてムゲンダイナを包み込み、新しい姿へと形作っていく。

「あれが……ムゲンダイナ、なのか?」

天に渦巻く体と、まるで手を広げたような五つの竜の頭をもつそれは、既存の生命体とは一線を画す力を持っている。だが、どれだけ巨大な敵を目の前にしても、マサルは諦めては居ない。

「……俺も闘うぞ!」

ホップがバイウールーをボールから繰り出し、ムゲンダイナと対峙する。

 

 モニタにムゲンダイナのキョダイマックスした姿が映し出される。

「これが……ムゲンダイナの本当の姿?」

サイトウがモニタ越しでも分かる巨大さに、冷や汗を流す。オニオンも腕を押さえて震えを隠そうとしているが、怯えているのだろう。

「装置が出来たぞ、ローズさん!」

リンドウの声にローズが反応し、機器を操作して起動していく。計器の類が反応しているが、ガラル粒子の数値は異常なままだ。

「……力が……足りない」

ムゲンダイナの圧倒的な力の前に、装置は焼け石に水ということなのだろう。

「……なぜ、マサルさんとホップさんは行動しないのでしょうか」

サイトウの疑問にローズが答える。

「恐らく、ガラル粒子の濃度が高すぎるのだろう。ポケモンが上手く動くことが出来ないのかも知れない」

キョダイマックス化したムゲンダイナがマサル達を攻撃してきていないが、このままではどうしようも出来ない。

「このままガラル粒子が活性化し続けたら……ガラル地方の各地でポケモンが暴走するぞ」

リンドウの言葉に、全員が何か出来ることはないか、思考を巡らせる。だが、何一つとして妙案は出てこない。

「……見て!」

オニオンの言葉に、一同はモニタを注視し始める。

「あれは……錆びた剣と、盾か?」

マサルとホップがそれを掲げると、光を放ち始め、やがて宙に浮く。

「ガラル粒子が……沈静化していく?」

目映い光と共に計器が示す数値は下がっていく、勿論まだまだ異常な数値である事は変わりは無いが。

「新しい反応が二つ! 何かが来ます!」

サイトウが叫ぶと、モニタに二つの流星が現れる。

 

 二匹のポケモンが現れると、ムゲンダイナと対峙する。赤と青の体には、所々に痛々しい傷跡が見える。

「お前達は……?」

ホップがどこか見覚えのあるポケモンに、唖然とする。二匹のポケモンの咆哮に剣と盾が反応する。マサルが直感的に理解したらしく、ホップに合図を送る。剣と盾を手放し、輝きが眩しさを増していくと、剣と盾が二匹のポケモンに力を与える。

「剣と盾……あの石像の、ポケモン」

マサルが、石画の奥にあった二匹の英雄と二人の王の石像を思い出す。その姿は紛れもなく、二匹の英雄の姿だった。

「「ウォォォォォン」」

二匹の英雄のポケモンが遠吠えをあげると、空気が切り裂かれる様に震える。

 

 ローズが計器を確認すると、二匹のポケモンが現れてから、ガラル粒子の濃度が下がり続けている。剣と盾を身に纏ってから、更に減少する。

「……あれが、伝承にあった。二匹の英雄というわけか」

そう言いながら、操作を続ける。反応が良くなっていき、やがて二匹の英雄の咆哮と同時に機械の稼働が大きくなる。

「ガラル粒子の濃度が減少……これで闘えるはずです!」

 

 キョダイマックスしたムゲンダイナは恐ろしく頑丈で力強い。だが、二匹の英雄のおかげで追い詰めることが出来た。

「ザシアン、ザマゼンダ……ありがとう! あと一息だ、頼んだぜマサル!」

徐々にその力を削っていき、あと一息のところでホップがサポートの体勢に入る。

「任せろ!」

ダイマックスバンドから、手元のボールに力が注がれていく。ボールがキョダイ化し、片手で収まりきらずに両手でマサルが構える。放り投げられたそれは、ムゲンダイナに向かってまっすぐ飛んで行き、その全貌をボールの中へと治めてしまう。

「……やったか?」

ホップが静かになったシュートジムの中心で呟く。僅かな間、ボールの中でムゲンダイナが動き、ボールが揺れ動いていたが、かちっと言う音と共に静かになる。

「ウォォォォン」

「ウォッォォン」

ザシアンとザマゼンダの遠吠えが響く、それと同時に黒い雲に覆われていた空は、青さを取り戻し、異変が徐々に収まっていくのが分かる。

「やった、やったぞマサル!」

二人のポケモントレーナーを一瞥すると、二匹の英雄ポケモンはまどろみの森の方向に飛び去っていった。

 




読了ありがとうございました。

HOMEの詳細はまだですか?

ラランテスちゃん復帰するなら対戦面倒くさがらずにマスタボール級まであげます、ダブルも頑張ります(白目

あとドーブル復帰しないかなぁ、ソウルビートバトンしたいんだよなぁ。

デンリュウでコットンボディプレスでもええぞ!

……妄想が捗るんだけどなぁ、HOMEまだかなぁ


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第十七話 祭の後で

ムゲンダイナ戦、終わり! 閉廷!

まぁ、原作沿いですので、とりあえず続きます。

リンドウ君の受難はまだまだ続くんじゃ(愉悦


晴れ渡る空に、マサルが膝を着く。極度の緊張からか、或いは疲労からか、どちらにしろムゲンダイナとの闘いで限界が来たことは間違いない。

「だ、大丈夫か!?」

ホップも闘いで疲労はしているものの、連戦のマサルほどではなかったようだ。エレベーターから上がってきたサイトウとオニオンがマサルとホップを支える。

「……お疲れ様です」

 

 闘いが終わると直ぐさま医療班を呼び、少し待てばダンデやマサル達も治療の為に適切な施設に運ばれるのだろう。

「ああ、終わりましたよ。一件落着です。とはいえ、今現在ダイマックスが続いているようだったら、それはおさめてもらって……はい、お疲れ様です」

各地のジムリーダーにリンドウが連絡を終えると、医療施設への連絡が終わったローズが労う。

「君にも迷惑を掛けたね、ありがとう」

そういうと、リンドウは首を横に振る。

「いえいえ、俺がしたことなんて知れてますよ。上に居る連中のやったことと比べたら……」

言葉の途中にローズがエネルギープラントを離れようとしている事に気付く。

「何処に行くんです?」

ローズは振り返ると、乱れた服装を正す。

「ムゲンダイナによるエネルギー問題の解決は、これからだ。頭の堅い連中に、直接話をつけなければならないからね」

そういうと、どこに向かうかも告げる事は無かった。

「……悪いが、ダンデ君達の力になって欲しい」

ローズはそのまま、どこかへ姿を消してしまった。

 

 スパイクタウンの一角、本来であれば一般の立ち入りは禁止されている区画。ジムリーダーとその関係者のみの部屋に、リンドウとマリィが居た。

「……なんでうちがこんなことを。リンドウにまかせっちゃよかとよ」

そう呟くマリィが、幾つかあるカタログから壁紙の一覧をめくり、吟味していく。

「そりゃあ、ジムチャレンジも終わればほとんど使われないからなぁ。模様替えをするにはこの時期しかないだろう」

来年のジムチャレンジまでの期間、殆ど利用されない施設だ。取材であったり、ジムリーダーの事務処理、様々な事が行われることはあるが、その殆どがこの部屋では行われない。そもそもスパイクタウンのジム構造自体に異議を唱えられていたりもするのだが、そう簡単に変わる物でも無い。

「模様替えはよかとよ。選ぶんならネズ兄さんとリンドウで決めるっちゃなかと?」

言葉自体は文句が多いが、一つ一つ丁寧に決めていく。リンドウも下地を丁寧に仕上げていき、次の仕事の準備を着々と進めている。更には、外部の補修及び改修の指示をポケモン達にしていく。

「今後、ネズさんだけが使う訳じゃないからな。女性からの目線が欲しい……のは、半分建前だろうけど」

その言葉に目を細めるマリィ。

「まぁ、兄さんにはやるって言った手前、撤回するつもりなかと」

ジムリーグにて、マサルに敗北したマリィはチャンピオンに挑戦する権利を失った。勿論、今年のジムチャレンジでは、と言うことだが。

「立場はまだ兄さんがジムリーダーやけん。うちが決めるのもどうかと……」

そう呟くと、リンドウが諫める様に言う。

「そう言うことは、俺だけにしておいた方が良いぞ。ジムリーダーの一言で、動く人間は少なくない、エール団に聞かれたら、それこそ一大事だしな」

その言葉に、顔を顰めるマリィ。思うところがあったのか、話題を変える。

「リンドウ! 今日はソニアさんの本の発売日よ? もう買ってきたん?」

顰め面がリンドウに伝染する。

「……研究書がそうすぐに売り切れるかよ。帰りに本屋に寄れば、充分」

カタログがリンドウに投げつけられ、マリィに怒鳴られる。

「アホ! はよかってきぃ! こがなことは、うちと作業のワンリキー達で充分やけん!」

少しの間リンドウがていこうしていたが、マリィの根気に負けて、すごすごで本屋に向かうことになったリンドウ。

 

 「……ソニアさん、ちょっと考え直したりはしないんですか?」

ジムリーダーの部屋で一人、携帯に語りかけるマリィ。通話の向こうには、博士号を手に入れたばかりのソニアが映し出されている。

「いや、まぁ、その……リンドウにその気がないのは分かってるけど」

恥ずかしそうに言葉を詰まらせる姿を見て、マリィも溜息をつく。

「はぁ、なんでリンドウもこんなに分かりやすいのに気付かんと?」

乾いた笑いしか返せないソニアが、話題を切り替える。

「そういえば、マリィちゃんはマサル君とどうなの? デートとか行ったりしたの?」

うかつなことを言ってしまった、と後悔するマリィは頬を赤く染めている。

「そ、そんな!? まだ、マサルとそんな関係じゃないですし」

まだ、ということばに反応しながらも、そこを指摘しないのは、ソニアが大人なのか、それとも性格故か。

「私がリンドウにどうこう言うのは、まだちょっと早いのかな、って思ってさ」

執筆の疲れか、少し目に隈が残っているような気がした。

「そう、ですかね」

ジムリーグが終わって、どこか祭りの後の空しさを抱えながら、時間は過ぎていく。

 

 「すみません、これください」

リンドウが本屋に立ち寄り、二冊の本をカンターに置く。

「ああ、今日出版の本ですね……って、これ、同じ本ですよ?」

その言葉に恥ずかしそうに頬を掻く。

「……いや、一冊は開けずに残しておきたくて」

後に行くにつれて、言葉が小さくなっていくリンドウの意図を理解したのか、それ以上店員が言及することはなかった。その代わりと言っては可笑しいかも知れないが、精一杯の笑顔で送り出されるリンドウ。

「もうこんな時間か。戻っても仕方ないし、帰るしか無いな」

電話にてマリィとネズに連絡を取る。

 

 スパイクタウンの仮住まいで、ベッドの上でだらだらとブラックナイトの研究書を読みふけっていると、リンドウが違和感を抱く。

「……どういうことだ?」

ソニアの研究書自体にあるべきはずの言及が書かれていないのだ。勿論、検閲に引っかかったり、問題があれば訂正される事もある。内容としてはかなりぎりぎりであるため、どういう表現をされているのか、気にしているリンドウがその事について気付かないわけには行かなかった。

「ソニアに確認を……いや、意図がわからないな。他に誰か確認を取れる人は」

数秒間思考の末、マグノリア博士へと連絡を取る。

「夜分遅くに申し訳ございません、急ぎで確認させて頂きたい内容が」

 




読了ありがとうございました。

ローズ委員長の自首の件は、あくまで噂です。

ということで、

警察関連(或いは政治?)の施設で目撃情報有り

それ以降姿を見た人間はいない

自首した?

という流れをとっているものとしています。

正直、ポケモンの世界でムゲンダイナを蘇らせ、ブラックナイトを呼び起こしたから

『司法に裁かれる』

と言う風には捉えていません。

前例とかもないでしょうし、いろんな所で尋問とか受けてるだけじゃないかなぁ、と。

だがしかし、ローズ委員長の再登場の予定はないんですけどー( ̄▽ ̄)


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第十八話 ブラックナイト再来

ソニアの研究書を読んでリンドウが動いたり、ソニアと話したり……色々します。

ストーリークリア後の話として見て貰って良いと思います。



 朝一番にアーマーガアタクシーでマグノリア博士の研究所まで飛んで来たリンドウ。

「いらっしゃい、昨日の今日で来るとは……まぁ、積もる話になるでしょう。上がって下さい」

丁寧に挨拶されると、礼もそこそこにリンドウは研究所内に入り、応接室に腰掛ける。

「それで、昨日の件ですね」

マグノリア博士が溜息混じりに話を促す。

「はい、原本をそのまま渡してしまった僕にも問題があるのですが、ソニアさんにはブラックナイトについて詳細を書いた物を渡していたはずです」

王族が残していた倉庫で管理されていた書類。それらを抜き出すことは出来なかったが、それを写した物であれば、リンドウは持ち出すことが出来たのだった。だがしかし、その内容がソニアの出した書物に反映されることはなかった。

「ブラックナイトの発生原因の考察、及びムゲンダイナの危険性について、ですね。その点については、私も危惧していた所です」

対面に座るマグノリア博士が、リンドウに話しかける。

「確かに、貴方の話す内容は、荒唐無稽ではありましたが、否定までは出来ませんでした。いえ、はっきり言えば、その可能性は低くないと思える物でしたが……」

そこで言葉を句切ると、言いにくそうに先の言葉を告げる。

「これ以上は、私では無く、ソニアに聞くべきでしょうね。連絡は私から取っておきます、直接お聞きになさってください」

そう呟くと、リンドウが言葉を返す。

「何か、理由があるとすれば……直接お伺いしても良いのでしょうか」

ソニアの研究書について、違和感への理由が思いつかないリンドウは、今一度行動を起こせずにいるようだ。

「ええ、貴方の思慮も含めてなお、話し合うべきだと思います。ただ、逸るお気持ちもありましょう。今少し、心を落ち着かせてから向かっては?」

マグノリア博士の言葉を受け、研究所を出た後直ぐにソニアの研究所に向かわず、少し休むことにするリンドウ。

 

 「お祖母様? どうしたんですか?」

リンドウが研究所を出た後、直ぐさまソニアに連絡を取るマグノリア。

「あなた、リンドウさんから受け取ったノート、無くしたりはしてないでしょうね」

マグノリアの言葉に、直ぐに反応出来なかったのは、様々な出来事があって忘れていたためだろう。

「あー、確かに貰ってたかも。どうしてそれをお祖母様が?」

何も知らない様子で首を傾げるソニア、その態度に頭を抱えるマグノリア。

「その様子だと、中身は見てないようね」

マグノリアの言葉に、一泊遅れて返事をするソニア。どうやら、貰った時のことさえ記憶が曖昧なのかもしれない。

「私も伝聞のみだから、あまり詳しいことは言えないけれど」

そう言って、マグノリアが書かれた内容について語り出す。

 

 研究所の二階から、文字通り転がり落ちるような音が聞こえる。

「ど、どうしたんですか!?」

ソニアの助手が慌てて様子を見に来るが、階段から転げ落ちて腰をさすっているソニアが答える。

「い、いや、気にしないで。そっちはそっちで進めてて良いから」

そういうと急いで立ち上がって、資料を纏めて積み上げている机の上をひっくり返し始めるソニア。

「は、はぁ……」

突然の出来事に反応に困っている助手を尻目に、目的の物を見つけると研究所の奥にソニアは消えていった。

 

 そこは研究所の奥、形式上は応接間として作られているが、周りを囲む本棚と積み上げられた書籍群が半ば倉庫として利用されていることを物語っている。

「……いや、まぁ、今更掘り起こすつもりもないけどな」

呆れたような、疲れたような、どちらともとれる声色で、リンドウはソニアに語りかける。

「まさか、そんな大事な物とは……聞いてなかったので、その、ですね」

居心地悪そうに言葉を紡ぐソニア、その姿を見て、それ以上言及するつもりもないらしい。

「確かに、碌に中身を言わなかったからな。とりごし苦労で良かったから構いやしないけど、それでよくまぁ、まどろみの森に辿り着いた物だ」

その言葉は、半ば賞賛に近い。何せ、王族の書籍を辿って漸く辿り着いた二匹の英雄について、ソニアは別のルートで辿り着いていたのだから。

「それは、マサル君達の協力だったり、偶然だったりだけど。でも、これ、本当なの?」

ソニアがリンドウのノートを指さす。そこには、王族の書庫で写された内容が断片的に治められていた。

「ああ、ブラックナイトはまだ終わっちゃ居ない」

 

 リンドウと会話を終えて、改めてまどろみの森にフィールドワークへ向かう。

「二人の王と二人の英雄、それとガラルを救った英雄か……私は同一視と過去の歴史の隠蔽で考えていたけれど、ブラックナイトが一度じゃなければ、別々の歴史の可能性はゼロじゃ無いか」

何故壁画で隠していたのか、それ自体の答えはまだわからないが、リンドウの仮説も充分頷ける内容ではある。

「王の血族……キョダイマックス、ガラル粒子、黒い雲。あと少し、繋げる何かがあれば、分かるかも知れない」

そう呟いた時に、ふとリンドウの事をおもいうかべたようだ。

「はぁ、リンドウも気付いたらやることがあるとか言っちゃってるしなぁ。ジムチャレンジの時は、とりあえずバッヂを貰えたらいいや位だったくせに……」

ソニアとの話が終わった後、雑談をする暇も無くマクロコスモスに呼び出されていた。どうやら、ローズ委員長が不在な状態で手が足りていないとのことだ。

「半分バイトの日雇いだったくせにさぁ、ちょっとブラックナイトについて知ってたからってさぁ……もうちょっとゆっくりしていけば良いのにさぁ」

決して、彼が居なくなった後の寂しさに耐えきれず、研究所を離れた訳では無い、そう言い聞かせていると、ポケモンバトルの音が聞こえる。

「これって、英雄の墓のほうからじゃない?」

 




読了ありがとうございました。

はい、ソニア博士になりました!

ソニアさんはあの時の事をあまり覚えてなかった、という落ちです。

特に深い意味はありません、大した伏線じゃなかったな!

あ^~、別に意識してないし! 的な言葉を愚痴りながら、あからさまな態度のデレデレが好きです!(糞デカ大声

ツンでも良きです、デレデレでも良きです!(糞dry

これはもう……セッk(手記はここで途切れている


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第十九話 まどろみの森にて

in まどろみの森

面白い頭の奴らが出てきます。

原作沿いです……多分



 ソニアが駆けつけると、丁度ホップとマサルのバトルが終わったところだった。

「無敵のアニキに勝ったマサルには敵わないか」

ホップの溜息に、ソニアが口をはさむ。

「あんたたち、ちょっと騒がしいんだけど? なんてね」

どうやら二人とも気付いていなかったようで、ホップが驚く。

「ソニアじゃん」

驚くホップを横目にソニアがマサルに語りかける。

「マサル! チャンピオンおめでとう」

ソニアの言葉に、マサルはありがとうと返事を返す。

「勝者の余裕って感じ!」

最初にあった時よりも随分たくましくなったマサルに、ちょっかいをかける。

「こんなとこで何してんだ? 助手の仕事は?」

ちょっかいを掛けているソニアに対してホップが話かける。

「ホップ、実はね。私もう助手じゃ無いの……」

そこで一度区切り、一瞬の間を開けて続ける。

「はれて……博士になったのよ」

二人ともが驚く。

「お、おぉー!?」

驚いた二人に目を配り、そうして一度頷いてあらためてソニアが言葉を紡ぐ。

「あんたちには、ほんっと感謝してる」

屈託の無い笑顔で、ソニアは感謝を言葉にする。

「一緒に冒険したから、ガラルの歴史をもっと知りたいって思えたし。ポケモンの事も、もーっと好きになれたしね!」

ソニアは思い出したかのように、鞄から本を一冊取り出す。

「これ、私が書いた本! サイン付き! レアものよ!」

マサルに手渡すと、ホップが自分は必要ないと言う。

「オレはもう買ったぞ! 発売日並んだぜー!」

研究所ということもあって、まだこの年代は興味が無いと思っていたが、意外な言葉にソニアは喜ぶ。

「あら、ありがと。あとでサイン書いたげる」

その言葉に、ホップは素直に喜ぶ。

「お祖母様にも認められたし! 本も出版できたし! ソニア博士の活躍にこれからも期待しててね!」

少なくとも、自分の事を見てくれる人間がいることを再確認し、自分の中からやる気が溢れてくるのを感じるソニア。

「うん……ソニアも、マサルもすげーよな! 尊敬するぞ」

言葉に裏はないものの、どこか表情に陰りがあるホップ。

「……んで? あんたたちは一体此処でなにしてんの?」

ソニアの言葉に、返事に詰まるホップ。

「え? あ、いや……」

ホップが考えている間にソニアが話し出す。

「……あっ、わかった! くちたけんとくちたたて、返しに来たんでしょ?」

一瞬二人がぽかんという顔をする。

「あんた達、ずっと借りていたもんね!」

「あ……あー! そういえば、そうだった!」

ホップが少し焦ったような表情になる。

「忘れてたんかい! てっきりザシアンとザマゼンタ絡みかと!」

ソニアが呆れた表情をすると、ホップがマサルを見る。

「マサルが森に呼ばれた気がする、ってのももしかしたら、その所為かもな! 助けてくれたお礼言って、剣と盾返そうぜ!」

そういって、持っていた剣をホップが確かめる。

「そしたら、またザシアンとザマゼンタと会える気もするしさ」

ホップが笑顔のまま、お墓の前まで走る。それの後を追いかけるようにマサルが足を進めようとしたが、止まってソニアに話しかけた。

「ソニアさんは、どうしてこの森に?」

その言葉に、ソニアは頬を指先で掻く。

「森には、良い思い出ないけど。ちょっと調査に来たのよ」

リンドウの会話を思い出し、ムゲンダイナを捕まえたマサルを見つめる。まだ十代前半だというのに、背負う物の大きさは自分よりも遙かに大きい。

「ザマゼンタ達の大切な物、さっさと返しちゃいな……写真も撮りたいし」

 

 剣と盾を返すと、ソニアのパワースポット探しマシーンが反応する。

「おーや! おやおーや? なにやら騒がっしーと思えば!」

剣と盾の髪型をした男性がソニア達に近づいてくる。

「おーや! おやおーや? もしや貴女『ガラルの歴史』を書いた……ソニア博士では!?」

その言葉にソニアが一瞬考え込む。もしかしたら知人かとも思ったが、どう考えても奇っ怪な二人に知り合いは思い当たらない。

「え、あ、どうもー……本、買って下さった方です?」

とりあえず知り合いではなさそうだが、自分の本を買って貰ったのであれば、あまり無碍な言葉も使えない。

「えぇ、えぇ! 隅から隅まで、くまなく読みましたとも!」

「えぇ、えぇ! インターネットでレビューも書きましたとも!」

食い気味に答える二人に気圧されるソニア、その後の言葉は二人共が揃っていた。

「嘘だらけの不愉快な本……ゆえに星一つッ!!」

二人の言葉に、とっさにソニアが反応してしまう。

「ちょっと何よ!? 嘘なんか書いてないし!」

「おい、失礼だぞ!」

目の前の男達に警戒するホップとマサル。それにたいし、二人はソッドとシルディと名乗った。

「我々こそガラルの純粋なる血族!」

「うぅーん、セレブリティ!」

二人の言葉にホップは戸惑う。

「純粋? 血族? 何言ってんだ?」

それと同時にソニアはリンドウのノートのことを思い出していた。あるいはこの二人が彼が言っていた王族の末裔なのかも知れない、と。

「貴方達、一体何なのよ……」

突拍子のない二人の言動に、確信の持てないソニアだったが、二人が朽ちた剣と盾を見つけると表情が変わった。

「おやっおーや! こちらにあるのは件の剣と盾では!?」

「おーや! なんと小汚い! まさに偽りの剣と盾! 素手で触るのが憚られます」

そう言いながら、剣と盾を手に取る二人。泥棒呼ばわりするホップに対し、誰の物か証明する術はないと相手にするつもりはないようだ。しつこくホップが食い下がると、二人は呆れた様子でポケモン勝負を提案する。

「そこまで言うならば勝負致しましょう」

「我々、売られた喧嘩は二倍の値段で買うセレブ!」

そう言って自信満々にボールを構える二人を見て、少し距離を取るソニア。

「なんなのよ、それ……」

二人の勝負を見守るために、バトルの範囲外まで離れる。

 

 マサルは朽ちた盾を取り戻したが、ホップはソッドに敗北してしまった。集中力を欠いた状態で勝てるほど甘い相手ではなかったようだ。

「ところで弟よ! もしやそやつ……ムゲンダイナを鎮めた者では?」

「……! よく見れば! 我らの手柄を横取りした、例の子供ではないですか」

横取り、その言葉にソニアは引っかかった。口ぶりは異常だが、リンドウから聞いていた話と一致することに焦りを感じている。

「調査ではその者……ご先祖様が描かれた偉大なる壁画が壊された現場にも居合わせたとか!」

「なななんたる罰当たりな! 一族が誇るあの壁画を!?」

ソニアは壁画がラテラルシティの物だと気付く。

「壁画って、ザマゼンタ達の遺跡を隠していたあの……? っていうか壊したのマサルじゃないし」

二人組は小さな声で相談をし、颯爽と逃げ出した。

「あ! 待てよー! 朽ちた剣返せー!」

それを追いかけるホップ。三人の姿は直ぐに見えなくなってしまった。

「ちょっと! ホップ!! あー、もう! 無鉄砲に追いかけちゃって……」

ソニアの制止も間に合わなかった為、追うことは諦める。

「マサルは……流石に落ち着いてるね」

ホップに流されず、動かないマサル。

「ホップがあんな奴に負けるなんてね。勝負を焦ってたように見えたけど、その所為……? ライバルのマサルがチャンピオンになったり、目指す目標が無くなったりで、あいつも悩んでるのかも……」

ホップの環境に理解を示しつつ、マサルを見て冷静である事を確認するソニア。

「それはそうと! ソッドとシルディだっけ? さっきのあいつらの行方、ちょっと分かるかも、何だけど……」

そう言うと、ソニアはブラッシータウンの研究所までマサルを招待する。

「ホップが心配、かな」

一瞬足を止めたマサルの言葉に、ソニアが驚き、頷く。

「そりゃ、一番の友達だもんね」

マサルがホップの為にもあの二人を探さないといけないと言葉にする。

「うん、ありがと!」

マサルの意思を確認すると、先に研究所に向かうソニア。

 

 マサルが研究所の入り口をあけると、清潔な衣服でボブカットの女性が迎えてくれる。

「あら……? ソニア博士、お客様です」

その言葉に反応したのか、二階から足音が響きソニアが現れる。

「いらっしゃい、マサル!」

ソニアの顔を見た後、女性に対して気になるように視線を移していたので、ソニアが答える。

「その人は、私の助手さん! 研究が忙しくなって手伝って貰ってるの。ローズ委員長が集めていた大量の願い星。今この研究所で預かっているんだけど……」

ソニアは自慢げに胸を反らす。

「彼女がテキパキ整理してくれてね。すっごく出来る人で本当に助かってるのよ」

自信満々なソニアの横で、助手と呼ばれた女性は控えめに首を振る。

「いえ、そんな……」

そうして、助手はマサルの方を向き挨拶をする。

「チャンピオンのマサルさんですよね。お会いできて嬉しいです、よろしくお願いしますね」

マサルと助手が握手を交わすと、ソニアが研究所の機械が置いてある方へと手招きをする。マサルが近くまで来ると、ソニアが説明を始める。

「パワースポット探しマシーンって、覚えてる? ダイマックスできる場所……つまりはガラル粒子が多いところに反応する装置なんだけど……」

機械を操作していると、画面に変化が現れる。

「ビンゴだわ! あいつらの近くに居た時、何故か反応してたの!」

ソニアの言葉にマサルが反応する。

「もしかして……居場所が分かるかも?」

マサルの言葉に頷くソニア。

「その通り! パワースポット探しマシーンの反応を追えば、シーソーコンビがいるかもってこと!」

ソニアが勝手につけたシルディとソッドのあだ名についてはマサルも助手も苦笑いしていた。それに対して、ソニアは不満なのか頬を膨らませていたが、装置を動かす手は緩めない。装置を起動させてまもなくして反応が現れる。

「わっ、予想以上の反応! 場所は……ターフスタジアム!?」

元々、スタジアム自体がガラル粒子の多い場所、つまりはダイマックスが出来る場所に建設されているが、それ以上の数値が出ている。事例としてはムゲンダイナが覚醒した時に近いが、マサルの手持ちからムゲンダイナが暴れている様子は無い。

「もしや、シーソーコンビと何か関係があったり……? マサル! この騒ぎ……チャンピオンとしては見過ごせないよね!」

マサルの端末でも装置の観測結果をみれるように調整しながら、ソニアが話す。

「ターフスタジアムの調査、よろしくね。こっちはこっちで、あいつらのこと調べてみるよ」

短時間で調整を終えると、すぐさま二階へと向かっていった。マサルは研究所を出る前に、助手に話しかける。

「大変ですね」

マサルに声を掛けられると温和そうな笑みで返事をする。

「いえ、ソニア博士のもとで働けて嬉しいですわ。あの若さで博士号を取られた凄い御方ですもの」

ソニアが褒められることに、マサルも嬉しくなったのか笑顔を返して研究所を後にする。

 




読了ありがとうございました。

一応、この助手さんとは過去にリンドウが接触してる設定です。

あっ、(ポケモンバトルを書く予定は)ないです


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第二十話 新しい時代

 ……ハァハァ、敗北者?

取り消せよ! 今の言葉!

と言うわけで、シーソーコンビとわちゃわちゃやってる間、リンドウは何してんの? って感じの話だと思います(適当)


 ソニアが一人になるとロトムフォンを取り出し、電話を掛ける。

「リンドウ! 王族を名乗る奴らがまどろみの森にきたんだけど!」

ソニアの声が大きかったのか、電話から耳を離すリンドウ。

「お、おう、そうか。それで英雄のポケモンでも出てきたのか?」

見当違いの言葉に苛立つソニア。

「朽ちた剣を持って行っちゃったのよ! ザシアンの大切な物かも知れないのに!」

事情を話すソニア、リンドウは一つ一つ状況を確認していく。

「……それに、あいつら私の事を嘘つき呼ばわりしたの」

「そいつは……言いたい奴らには言わせておけばいいさ」

少し考え込んだリンドウは、ソニアに慰めの言葉を掛ける。

「悔しい……皆が協力してくれて、本を作ることが出来たのに、なんであいつらなんかに否定されないといけないの?」

研究書をつくるまでの過程で、ソニア一人では作り上げることは出来なかった。マサルやホップ達の協力、マグノリア博士を始めとした知識人の手助け、大小は様々だが研究職の人々以外も多くの人間が携わっている。

「落ち着けソニア。そう言う奴は居るんだ、その価値を知らずに貶す人間なんて掃いて捨てるほどいる……今はその事よりも優先しないといけないことがあるんじゃないか?」

涙目になっていたソニアが袖で目元を拭い、前をむき直す。

「うん、今は異常について調べる。何か気になることがあったら、リンドウも教えてね」

そう言うと、電話が切れる。

「……まぁ、流石にオレも手伝わないとな」

 

 チャンピオン戦を終えて、満身創痍の体も少し癒えた頃、ダンデはローズタワーの改修に立ち会っていた。

「ダンデさん、少し良いですか?」

ヘルメットを被って現場に来てはいるものの、殆どの作業に口出しはしない。元々初期構想にダンデ個人の要望を出しただけで有り、周囲の人間が期待してるほど、抑止力として動くつもりはなかったのだ。

「ああ、どうせ眺めているだけなのも性分じゃ無くてね。はじめまして……ではなかったかな?」

そう言うと屈託の無い笑みを向ける。

「いえいえ、開会式とジムリーグの時にすれ違った位です。話すのはこれが初めてになりますよ」

そう言って手を差し出すと、ダンデは力強く握り返す。

「リンドウと言います。これからのガラルに貴方の力をお借りしたいのです」

 

 ダンデはリンドウに連れられてマクロコスモスの一部屋に案内される。

「随分と豪華な部屋だけど、オレが入っても良いのかな?」

周りを見渡せば、応接用にテーブルとソファが設けられては居るが、数々の表彰やトロフィーなどが飾られ、一目で高価と分かる調度品の数に、上席の人間の執務室ではないかと推測される。

「本来であれば、ダンデさんは兎も角、オレなんかが入って良い場所じゃないんですけど、生憎持ち主が不在でして」

その言葉に、ダンデが成る程と頷く。二人が会話をしていると入り口から赤い髪の女性が入ってくる。

「ようこそダンデさん。ローズ委員長の社長室へ」

整った佇まいのオリーブがダンデを歓迎する。

 

 オリーブが紅茶を人数分用意すると三人が席に着く。

「それで、態々オリーブさんが俺を呼んだって事は……ムゲンダイナの事で間違いないかな?」

ダンデが鋭い目でオリーブを見つめる。常人であれば気圧されそうなオーラがあるが、それに怯むようなオリーブでは無かった。

「勿論、ローズ委員長が留守の間、マクロコスモスの新事業について、私が任されていますので」

その言葉の最後に、非情に不愉快ではあるが、その新事業にリンドウも携わっていると付け加えられる。

「まぁ、オリーブさんが動きづらかったり、力仕事を任せられる位です。マクロコスモス直属だと何かと動きづらい事もあるんでね」

そう言って、紅茶を一口含むリンドウ。味に関して賞賛をしても、オリーブは表情一つ変えることは無い。

「マクロコスモス、新事業……そしてムゲンダイナ、か。ローズ委員長が言っていた千年後のガラルを守る為、ってやつかな。とはいえ、チャンピオン戦が終われば協力すると約束しましたので、異論はないですよ」

そう言うと、ダンデが内容を教えて欲しいと言葉にする。リンドウが出してきた紙の束に、ダンデが目を通す。

「『百年後に枯渇する化石エネルギーに対する代替エネルギーの構想、及びガラル地方への浸透・周知・利用計画』ですか。これはまた、俺の得意分野ではなさそうですが?」

その言葉にオリーブが直ぐさま否定する。

「ダンデさんには、この計画における広報をお願いしたいと考えております。ムゲンダイナの暴走において、一番最初に解決の為に行動を起こし、最後まで尽力された貴方以外に適任はいないかと」

まるで、返答を原稿に起こしていたのでは無いかと思えるほど、返事までに間がなかった。更に言えば抑揚もなかったのだが。

「なるほど、それならば俺の出番だな!」

ダンデが了承すると、リンドウがまず目先の目標を説明する。

「本計画の中心となるムゲンダイナの覚醒、これは既に完了しています。ガラル地方の各地におけるガラル粒子の活性化、それに伴うワットエネルギーの総量も増大しているので、あとはそれを利用する基盤を造り、広げていきましょうってことで」

そこで一度区切り、計画書の一文に指を指す。

「ワットエネルギーを発電施設の動力源とするための開発事業における協力企業の交渉、ダンデさんにはこれに一緒に来て貰います」

 

 マクロコスモスの入り口に初老の男性が尋ねてくる。それを迎えるのはリンドウだった。

「お久しぶりです社長。お元気そうでなによりです」

社長と呼ばれた男はリンドウの姿を見ると驚き、近寄る。

「おお、こんな所で君に会うとはね。前に会ったのは、事務所の改修の時だったかな? いやぁ、あれ以来社員がよく事務所に戻ってくるようになってね、礼を言わなくてはと思っていたところだ」

見た目の年齢とは思えないほど力強くリンドウの肩を叩く。現場から離れているとはいえ、職人からの叩き上げで今の立ち位置にいるのだ、体は充分に頑健だ。

「あはは、ありがとうございます。今日は色々とややこしい話にはなると思いますが、いい話なんで、よろしくお願いしますよ」

そう言うと、応接間に案内する。既にダンデとオリーブが中に入っていて、二人握手と挨拶を交わすとソファに腰を下ろす。

「いやぁ、マクロコスモスさんから中小企業の私達に声を掛けて貰えるとは、ありがたい話です。それもなにやら、新事業と伺いましたが、内容をお聞きしても?」

オリーブが計画書の一部を社長に渡す。それを読み進めていくと、社長の顔色が変わる。

「これは……本当ですか?」

その言葉にダンデが力強く頷く。

「はい、今後化石エネルギーの枯渇が近づくにつれて、隣接する他国は勿論、民衆からも新エネルギーへの転換を求められるでしょう。準備を進めるのであれば、今しか無いと考えています」

ダンデのその言葉に、嘘偽りはないと受け取ったのだろう。額に流れる汗をハンカチで拭くと、言葉を発する。

「しかし、御社としてもこれまで広げてきた蒸気機関における発電事業を手放すというのは……俄に信じがたい話ですね」

同じ業界に身を置いている者であれば、大小の差はあれど、耳にする話題だろう。現に多大な利益を生み出しているマクロコスモスがそれに見切りをつけると言うことは、言葉にされたからと言って容易に実感できるものではない。

「いずれ転換が必要とは考えていますが、蒸気機関が全て無くなる訳ではありません。現事業が縮小するまで、三十年は先と見積もっていますので、そちらに置いても今後の協力は続けて頂きたいと考えております」

オリーブが今後の展開について意見を並べる。要するに当分の間は現状と変わりは無いと言うこと、それに並行して新事業を進めると言うことだ。

「貴方達にはこれまで以上に一緒に事業に向き合って貰いたい、そういう話です」

ダンデの言葉には、強い意志がある。だがしかし、一電気会社の社長には、その決断は重い。

「これから先、下手をすれば何十年先まで利益の出ない事をする。そう言う話ですか」

化石エネルギーが利用され続ける限り、民衆が変化を受け入れるまで、周囲から認められる事は無い。

「勿論、利益が発生するまでの間、こちらからの出資は約束します。詳しい内容につきましては、今後の協議において決定していきますが……まず最初に、御社の意思をお聞き願えますか?」

いずれ変革は起こる時は来る、しかし、見誤れば抱えるリスクはとても大きい。

「……私一人で決められません。改めてお返事させて頂いても良いでしょうか?」

三人も、この場で返事が貰えるとは考えていない。丁重にもてなし、出て行く姿を見送る。

 

 後日、返事を決める日がやってきた。初老の社長と若いもう一人の社員が同じように応接室に通される。

「紹介させて貰います、息子になります。まだ若いですが、いずれは会社を引っ張っていく人間にしていくつもりです」

二人が同時に頭を下げる。それに対し、オリーブが疑問をぶつける。

「それは分かりましたが、何故今同席を?」

その言葉に社長が答える。

「頂いている新事業の件、こいつを中心に進めさせて頂きたいと考えています。私も勿論サポートさせて頂きますが、若い人間が中心になるべき事業かと思いまして」

その言葉にオリーブは少し表情を濁らせる。しかし、ダンデは快活に返答する。

「いやぁ、その申し出は有り難いですね! 何せ全く新しいことに挑戦するのです。若い人材が必要だ。その中心が若い世代なのは、こちらとしても理想的です」

そう言って、社長の言葉を肯定する。

 

 「それでは、新事業について幾つか質問させて頂いても良いですか?」

若い社員が言葉を紡ぐ。

「勿論、構いませんよ。答えられる範囲であれば、なんなりと」

オリーブのその言葉に、場が緊張する。幾つか、計画書の内容の確認が行われた後、若い社員が口に出す。

「ありがとうございます。新事業の開発、こちらも最大限努力させて貰います……ただ、この事業に当たっての収益について、確認させて下さい」

ダンデが頷き、オリーブも静かにその言葉の先を待つ。

「この事業の収益の一割を、弊社の取り分とする。これを新事業の協力の条件とさせて頂けないでしょうか」

その言葉にオリーブが僅かに体を震わせる。収益の一割は、今回に関してはかなり大きい額になる。決断はそう簡単では無いことだが、意外にもダンデは即決した。

「分かりました。収益の一割をお約束します」

その言葉に若い社員の表情は明るくなり、再びダンデと握手を交わす。

 

 再び三人だけにあった社長室で、オリーブが大きな溜息をつく。

「全く、勝手にあんなことを約束してしまうなんて……幾らダンデさんでも、勝手が過ぎるのでは無いのですか?」

その言葉に、リンドウが首を横に振る。

「いや、あそこはあの方が良かったよ。多分、交渉も含めてあの金額だったはず。大体八~五%までは下げれたんじゃないかな」

その言葉に、オリーブは溜息をつく。

「ならば、五%で良かったのでは? 下手に交渉の余地を与えるよりも、こちらの指定で進める方が良いですのに」

ダンデが朗らかな笑みで答える。

「こちら主導で尚且つ、技術独占が出来ているのであれば問題ないだろうな。だけど、今回は全面的な協力が必要な計画だ。下手にごねられる理由を作るよりは、期待を膨らませておいた方が良い」

これから先に、無理難題が控えているのは目に見えているから、と付け加える。現状、インフラの整備はゼロに近い。原動力については確保しているものの、電気を変換する施設も出来ていないし、既存の通電インフラが使えるかどうかの試験もまだなのだから。

「……今後の為と言うことであれば、仕方ありませんか」

そう言うと、リンドウが入れたコーヒーを口に含む。

「オリーブさんは中々やらない、先の見えない計画だからね。まぁ、肩肘張らずにやっていこう」

苦みが強く、お世辞にも淹れるの上手いとはいえなかったが、精神的な疲労に温かい飲み物はリラックスするのに充分な効果があるようだ。

「さぁ、これからもよろしく頼むよ」

次の交渉の為の書類の準備と、変電設備の開発についての資料に目を通す。

 




読了ありがとうございました。

ここいる?

書きながらずっと考えていましたが、設定としては必要だけど、読んでて面白くないだろうしなぁ、と。

えっ、他と大差ないって? ハハッ、ワロス

ポケモンの絡みがいつもよりも少ないので、読み飛ばして貰っても大丈夫です。


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第二十一話 王族の末裔

 いやぁ、鬼滅の刃面白いですね(唐突)

黒死牟どのが好きです、ああいう天災に振り回されて、憧憬と劣等感に苛まれる系男子はいいですね。

現在の無惨様がヤベーってなるにつれて、縁一のヤバさが再評価されていくのが面白くて草

……あれ、これなんの話だっけ?

そうだ、シーソーコンビがなんやかんやの話でした


 「あっ、いたいた! マサル! 大変だよ!」

ターフタウンに駆けつけてきたソニアが、マサル達の姿を見つけて声を掛ける。話によると、ターフタウンのガラル粒子反応はダイマックスポケモンを治めたことにより、収まったようだが、次はバウスタジアムとエンジンスタジアムで同様の現象が起こっているようだ。

「えぇー!? ダイマックスしたポケモンが暴れてた!? えっ、これ、シーソーコンビの仕業なの!?」

マサルからターフタウンで起こったことをありのまま聞いたソニアは、少し大げさに驚いている。

「あっ、ソニア!」

ターフスタジアムからホップとネズが出てくると意外だったようで、再びソニアが驚く。

「元ジムリーダーですからね、どこに居ても不思議じゃ無いです。それよりも、他のスタジアムでダイマックスポケモンが暴れてる、ですと?」

ソニアがその通りと答えるとネズがマリィのことを心配する素振りを見せる。

「あ、スパイクタウンは大丈夫っぽいです」

異変が起こっているのは、バウスタジアムとエンジンスタジアムのみで、スパイクタウンに異常は見られていない。

「……そうですか」

安心した表情を見せるネズとは別に、激昂するホップ。

「ポケモンが勝手にダイマックスさせられるなんて、放っておけない! マサルもそう思うよな!?」

ホップのその問いには、マサルも今すぐ現場に向かうと答える。躊躇わないその姿に、ネズが勇ましいと感想をもらした。

「シーソーコンビの事は私に任せといて! ネットの目撃情報で居場所を特定してやるわ!」

そういうと、携帯端末を操作して、近隣の目撃情報を検索していく。ネズが先導してダイマックスが起こっている現場へと向かうマサル達。

 

 ソニアが端末を操作して、リンドウに電話を掛ける。

「もしもし、リンドウ?」

繋がると、現状を手早く説明する。

「無理矢理ポケモンをダイマックスさせる、か。マグノリア博士に調べて貰いたいところだけど」

現状を伝えただけでは、原因を調べきるのは難しいだろう。現地での捜査では、危険がともなう。

「普通じゃありえないと思うんだけど……」

考えこむソニアに、リンドウが否定する。

「落ち着けソニア、例外はあっただろう? それに今は、ムゲンダイナに寄るガラル粒子の増大が各地で見られているんだ」

リンドウの言葉に、ソニアが思い至る。

「……ワイルドエリア」

ワイルドエリアの特にガラル粒子が濃い場所ではごく稀に野生のダイマックスポケモンが現れることがある。目撃される時に光の柱が立っているなどと言う報告もあるが、目撃例が少ない為、不確かな事ではある。だがしかし、願い星バンドとトレーナーの力以外でのダイマックスの事例の殆どがワイルドエリアによるものだ。

「擬似的なガラル粒子の増大? そんなこと、出来ないことはないけど……それなら大変!」

ソニアは慌てて、シーソーコンビの捜索に当たる。

 

 エンジンスタジアムとバウスタジアムでのダイマックス騒動を治めると、ソニアからマサルの端末に連絡が入る。

「マサル! 大変! ポケモン研究所にシーソーコンビが現れたの!」

近くに居たホップが画面を覗き込みソニアの安否を心配する。

「いまんとこ、願い星を渡せってネチネチ言われてるだけ……でも、怖いから早く来て!」

それだけ言うと電話が切れてしまう。

「あの二人組のことですよね。願い星を集めている……?」

ネズがソニアの言葉に違和感を覚えていると、構わずにホップが研究所に向かってしまう。

「何も考えずに……というと馬鹿みたいですが、あいつは我武者羅な方がらしいですね」

そう呟くと、マサルに最後まで付き合うと告げて研究所に向かう。

 

 研究所の入り口近くにあるソファに腰掛け、ソッドとシルディが陣取っている。

「ローズ委員長が集めていた願い星が今、此処にある事はセレブリティにはお見通し!」

「セレブリティでは無い貴女方には不釣り合いな代物です。我々に差し出しなさい」

二人の言葉に頭を抱えつつ、ソニアが言葉を返す。

「願い星とセレブにはなんの関係もありません! なんでそのことを知ってるのかは知らないけどさ! あんた達なんかに、渡せるわけ無い!」

ソニアが頑として願い星の在処について話そうとせず、同席していたマグノリア博士も拒む姿勢を崩さない。

「やれやれ……どうしましょう、弟よ」

「ふむ……困りましたね、兄者」

高らかに二人が笑っていると、ホップが入り口から入ってくる。

「困ってんのはソニアと博士だよ!」

入るなりに怒りを顕わにするホップ。しかし、二人組はそれに対し驚く様子も無い。

「ポケモンを強引にダイマックスさせて、許さないぞ! それと! 朽ちた剣も返せ!」

ホップの啖呵にも平静に二人が答える。

「おやおーや! てっきりチャンピオンが来ると思えば……まさか負けた方がおいでになるとは!」

「またコテンパンに敗北を味合わせて差し上げましょうか?」

その言葉に反論出来ないホップにソニアは焦る。

「言い負かされてんじゃないっつーの!」

ホップに少し遅れて、ネズとマサルが研究所の扉をくぐる。

「その通りですよ、一度負けたくらいで気持ちまで負けては駄目です」

ネズの一言でホップも気持ちを持ち直し、マサルと共に闘う意思を固める。

 

 「よっしゃ……勝った! 勝ったぞ!」

ホップがマサルと共にダブルバトルで挑むと、シーソーコンビを打ち負かす。

「我々のトレーニング用のポケモンが負けるとは!?」

「ふん! 二人がかりとは言え、褒めてあげましょう」

その言葉にネズが呆れる。

「お前らも、二人がかりに見えますがね」

ホップが朽ちた剣を返せと二人に食いかかっていると、助手が言葉を掛ける。

「あの……よろしいでしょうか? お話中失礼します」

その言葉が終わると、助手はシーソーコンビのもとへと向かう。

「ちょっ!? そっちは危ないですよ!?」

気遣うソニアの言葉も聞かず、助手はシーソーコンビに耳打ちをする。

「潜入任務、ご苦労様でした」

「願い星は手に入れましたか?」

その言葉に頷くとソニアが驚き、マグノリア博士が保管庫の方を確認する。

「……あら、見事にやられましたね」

手際の良さに、呆気にとられた様子だ。

「フハーッハッハ! 可笑しすぎて、逆立ちしてお茶菓子が食べられそうです!」

「先ほどの勝負はただの目くらまし! 我々は闘う前から勝利していたのですよ!」

「それでは……グッドバイ!」

二人組は言いたいことを言い終えると風のように去ってしまう。ホップが後を追いかけて研究所を出て行き、助手も研究所を離れようとするとソニアが声を上げる。

「どうして!!」

足を止めて振り返るが、意思は変わらないようだ。

「ソニア博士、ごめんなさいね」

ソニアがショックに拳を握りしめる。裏切りが見抜けなかった事に対してか、それとも信頼を預けた相手から返されたことが裏切りだったからか。

「最初から……騙していたんですね」

その言葉に、力は無かったのかも知れない。「我々の計画のため、仕方ないことなの。我々がもう一度、王の末裔として君臨する為に……」

そう言い残すと、助手は立ち去ってしまう。ネズ達は一瞬ソニアの方を顧みるが、悔しさに目を伏せているのを見て、今はこの場を離れることにする。

「今は、そっとしておいてあげましょう」

 

 マグノリア博士も保管庫に確認に移動して一人になっていると、ソニアの端末に着信がなる。

「こんな時に誰が……リンドウ?」

一瞬、取ることを躊躇ったが、鳴り止まないので電話に出る。

「あー、漸く出たか。大変だね、ソニア博士」

どこか嫌みな言葉に、ソニアは怒りを隠せない。

「言われなくても、大変なのよ! 用が無いなら……なんでアンタがそれを知ってるの?」

いくら何でも、リンドウが現状を把握するのには早すぎる。仮にマグノリア博士やマサル達から連絡が来ていたとしても、だ。

「なんでって、ローズ委員長の願い星の在処を教えたのは俺だしな。助手さんも可愛い顔して、運び出すポケモンの準備を俺に振っちまうんだから、中々の上玉だぜ」

今回の騒動にリンドウは一枚かんでいる、そう言っている。ソニアはその事が上手く理解出来ていない様だ。

「どういう……こと? リンドウまで、裏切ったの?」

ソニアが膝を着き、端末を落としかける。

「お、おい! 大丈夫かソニア!? おおお落ち着け! ややこしいことになってるけど、裏切ってないから!」

ソニアの反応が予想外だったのか、端末の向こうから慌てるリンドウの声が響く。

「何よ! あいつら誘導させておいて、裏切ってないとかよく言うじゃん!」

涙目になるソニアに、リンドウは慌てる。

「待て待て待て、確かに俺が誘導したけどな? そうしなかったら、あいつらもっと周囲に迷惑掛ける方法考えてたんだよ! ソニアの所だったら、マサル達もすぐに対応出来るし、ネズさんも声を掛けたら動いてくれるっていうから任せてたんだが……」

怒って良いのか、悲しんで良いのか分からず、涙目のまま画面を見つめるソニア。

「いや、悪かったよ。事情を説明したら王族も面倒な事になりそうだったから、マサル達に任せる形になった。だけど、あいつらの目的は誰かを傷つけたりってことじゃないからな」

リンドウの言葉に、ソニアは続きを促す。

「あいつらの目的は、王の復権だ。要するにソニアが書いた、二人の王と二匹の英雄じゃなくて、ガラルを救った王の方が正しい歴史だと証明したいだけなんだ」

その言葉に、ソニアが落ち込む。

「それじゃあ、私が本を書いたから……?」

リンドウがその言葉は否定する。

「そんなことあるか、逆恨みも甚だしいだろ。ここまで来ればあいつらも引き返せないだろうから、後はマサル達と協力してボコボコにしてやればいい」

チャンピオンと元ジムリーダーとジムリーグ最終まで残った奴、これだけ居れば楽勝だろうとリンドウが喋る。

「……ホップは不調だけどね。片方に負けてたし」

「……マジか」

それについては予想外だったらしく、目を丸くする。

「とにかく、助手についても今は考えるな。この騒動が終わってから、また誰か雇えばいい話なんだから」

そういうと、再びソニアが落ち込む。

「……悪かったよ。何でも言うこと聞いてやるから、元気出せよ」

「今何でもって言った!?」

急に元気になったソニアに、リンドウがたじろぐ。

「お、おう……俺に出来る範囲なら、だぞ?」

「よーし、それじゃ、シーソーコンビを追いかけないと!」

リンドウの言葉がちゃんとソニアに届いているのか不安になるが、とりあえず元気になったソニアに一安心する。

「何かあったら連絡してくれ、必要なら直ぐに向かうから」

その言葉にソニアは頷き、電話を切る。少し乱れた衣服を整えて、研究所の扉を開いた。

 




読了ありがとうございました。

今、なんでもって(ry

ソニアさんはちょろ可愛い路線であって欲しい(願望



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第二十二話 ブラックナイトと英雄達

ローズ委員長に出番は無いと言ったな、あれは嘘だ(デデーン

ぶっちゃけると、DLC次第で今考えてる所から先は変わる可能性が充分あります(アリマス

それじゃ、ソニアちゃんカワイイヤッターから(よーい、スタート


 ソニアが外に出ると、マサル達が今後どうするかを話し合っている。

「ちょっと待ってよ! 静かに出て行っちゃってさ!」

ネズが気を遣ったと言葉にする。ホップも同様だったが、ソニアは首を横に振る。

「確かに騙されたのは私のミス! 落ち込んだ! でもハイ! 落ち込み終了!」

一瞬落ち込んだ様子を見せるが、直ぐに顔を上げる。

「あいつらは大量の願い星を持っていったの! 悪用されたら大変な事になるし、しょげてる暇ないでしょ!」

そういうソニアにはいつもの元気が戻っていた。ホップはその様子にどこか安心していて、ネズはどこか壺に入ったのか、笑っている。

「ククク……大したタマですね」

ネズに対して失礼だとソニアは叫ぶ。そんなやりとりをしていると、研究所の中からマグノリア博士が出てくる。

「大事件と向き合い、立派に成長したようですね」

直ぐに復帰したソニアを褒める。そして、シーソーコンビがダイマックスさせていたのは、願い星の力を使ってのことだと推測する。

「だとすると……願い星が奪われた今、被害が拡大する?」

マサルの言葉に一同が唾を飲み込む。

「強引にダイマックスさせられているポケモン。一体何のために……?」

ソニアの疑問にホップが気になったことを話す。

「あいつら、ザシアンとザマゼンタの本性を暴く、とか言ってたぞ?」

ソニアが王族の末裔という言葉にも疑問を抱いていると、端末に異常が起こっていることに気付く。

「今度は四つのスタジアムで同時に大きな反応だわ!?」

マグノリア博士が早速動きがあったことに顔を顰める。ネズがその言葉に動揺を顕わにすると。

「今度こそ、マリィが危険では!?」

ソニアが呆れてネズに指摘する。

「あ、スパイクタウンは大丈夫。ってか、そもそもパワースポットのスタジアムないしね……」

ネズはマリィに被害がないと分かると安心する。

「……オホン、そうでしたね」

マサル達は気を取り直すと、スタジアムに向かうと告げる。

 

 ここは国際警察がしようしている施設。そこに揺れる紫の髪。

「あなた、何をしたか分かっているのですか?」

高圧的な態度に、ローズは怯む様子はない。

「ああ、分かっていますとも。だからこそ、何故私が手錠を掛けられているのか、説明が欲しいですね。リラ警察官」

その言葉に、リラと呼ばれた女性が拳を机に叩き付ける。

「貴方の所為でガラル全土が混乱に包まれました。チャンピオンの活躍のおかげで被害は少なかったものの、死者が出てもおかしくなかったんですよ!?」

しかし、リラの言葉に狼狽える様子はない。

「勿論、むしろブラックナイトが起きても死者が出ないことには、驚いています。新チャンピオンには感謝をしないといけませんね」

どこか他人事のように聞こえる口調に、リラが更に怒りを増す。

「……ブラックナイトは自然現象です。ムゲンダイナはその発生を早めるだけ。チャンピオンの全盛期であり、国民に最短で事態を伝えられるあのタイミングこそ、被害を最小限に抑える唯一の方法でした」

それでも、死者が出ないとは想定してはいませんでしたが、とローズは語る。その言葉に苛立ち、更に問い詰めようとした瞬間に、入り口から男性が入ってくる。

「あまり感情的になるなよ、リラ。残念だがその男がいっている言葉は事実のようだ」

ハンサムと名乗る男は、渋々といった様子でローズの手錠を外す。

「なっ、ムゲンダイナを復活させた危険人物ですよ!?」

リラの驚愕に、ハンサムは冷静に答える。

「仮にどんなポケモンであったとしても、蘇らせること自体に罪がある訳じゃない。起きる災害を予測し、制御する義務はあっただろうが、それはまた別の機会に弁明してもらおうか」

本題はこれからだ、とハンサムは告げる。

「ムゲンダイナ、ガラル粒子、そしてブラックナイトについて知っていること、全て教えて貰うぞ」

リラはハンサムに問う。何故そんなことを聞くのか、と。その問いにはローズが答えた。

「ブラックナイトはまだ終わってないからさ。この先何度だって起こる災害に対策をしないのはあり得ないだろう?」

その言葉に、リラは唾を飲み込む。

「私達は、身を引き裂かれるような痛みを受け入れてでも、前に進まなければならない」

ハンサムにローズは語りかける。だが、ハンサムは首を横に振る。

「それは、お前の偽善だ。民衆はそんなことを望んでいるわけではない。それに、仮に未来を見据えた行動だとしても、罰を受けて貰う……それには変わらない」

 

 マグノリア博士の研究所にリンドウが訪れると、マグノリア博士が中に招き入れる。

「……何から話したものか、とはいえ余り時間があるわけではありませんからね」

そう呟くと、マグノリア博士は決心したかのように口を開く。

「ブラックナイトの歴史が残されていないのは、私達の責任なのです」

リンドウが驚くと同時に否定する。

「何をいきなり、マグノリア博士に何の関係があるんですか?」

リンドウに落ち着くように指示をすると、話を続ける。

「まず、ガラルを救った英雄、そして二匹の英雄と二人の王、この伝承が残っていて不都合があったのは……私達ガラル粒子の研究者、分かりやすく言えばダイマックスを実用化させるに当たっての問題でした」

その言葉にリンドウが閃く。

「伝承ではダイマックスが危険だと伝えられていたから……?」

リンドウの言葉にマグノリアは頷く。

「ええ、最初にダイマックスを制御出来たのは一五〇年前のあるトレーナーだと伝えられています。この頃からダイマックスの研究が始まり、ガラル粒子の仮説が立てられたのが百年前。多くのトレーナーがダイマックスバンドを手にするまで、長い時間が必要となりましたが、その過程でダイマックスポケモンに遭遇しないように、ワイルドエリアを避けるという伝承、光の柱を見たら近づかないという口伝……そしてなにより、ダイマックスが危険と伝えられる伝説を否定し続けてきました」

勿論、研究者達が直接歴史を葬ってきたわけではない。だが、それに関わる人間達にとって研究内容が否定される伝承は邪魔でしかなかった。何より、謎が解明され、ダイマックスポケモン同士のバトルがスポーツとして成立する過程において、ダイマックスポケモンが制御出来ないかも知れないという伝説は、不要なものとされてきた。

「それは……」

確かに、結果的にブラックナイトの伝承を減らしたのかも知れない。だが、それの責任を研究者に押しつけるのは、理不尽ではないだろうか。

「ソニアにブラックナイトの研究を託したのも……罪滅ぼしのため、かもしれません」

その悲痛な表情に、言葉が見つからないリンドウだったが、端末へのコールに対応する。

「ソニアか、どうした?」

 

 ナックルシティのナックルスタジアムにて、ソニアがパワースポット探しマシーンを頼りに動いていると、ナックルスタジアムの地下を示している。

「……流石にエレベーターは動かない、か」

どうやって地下に向かうか考えていると、ふとリンドウがマクロコスモスをてつだっていることを思い出す。

「……もしもし、リンドウ? エレベーターって動かせる?」

リンドウは、エレベーターの外部からの操作方法を説明する。

「え、制御盤の蓋を外す? ……工具が必要なのね、ちょっと借りてくる」

近くのジムスタッフに尋ね、備え付けの工具を借りに走るソニア。

 

 マグノリア博士がソニアとの通信が終わったタイミングで、リンドウに語りかける。

「まどろみの森に行けば……英雄達は現れるでしょう」

マグノリア博士の言葉にリンドウは困惑する。

「……このまま、マサル達が王族を追い詰めればそれで終わりです。英雄達が現れる必要があるんですか?」

マグノリア博士は、目を伏せ、言葉を紡ぐ。「必要性は、貴方の方が知っているはずです。ガラル粒子、錆びた剣……あとは英雄達が原因の居場所を理解出来れば、そこに現れる。今後、ブラックナイトが起きた時に彼らの力が必要になる。その時の為に、接触する機会は多い方が良い」

その言葉に、リンドウは納得出来ていないようだ。だがしかし、研究所を出て、まどろみの森へと向かう。

 

 エレベーターを降りたマサル達を迎えたのは、シルディとその配下達だった。

「おや? おやおーや? 扉のロックも破られ、各地のスタジアムの騒ぎも解決されたようですね」

言葉とは裏腹に、シルディの表情には余裕がある。

「流石はチャンピオン、お前達、褒めて差し上げなさい」

その言葉に応えて、配下達が拍手を送る。その姿にネズが率直に気味が悪いと呟く。

「どうしてポケモンを、勝手にダイマックスさせんだよ!」

ホップの怒りにシルディは答える。

「全ては偽りの伝説……ザシアンとザマゼンタの本性を暴くため!」

ホップは変わらず、二体のポケモンは英雄だと吠える。

「愚か者め!! 今まで我らが英雄の血族として称えられていたのに……貴様らがムゲンダイナからガラルを救い……そこの娘が本など書いた所為で!」

配下達が同調し、怒りのボルテージは上がっていく。

「恥を知れ!」

シルディの怒りの一言にソニアは、考え込む。

「真の英雄はポケモンだと! 突然歴史が覆った!! では、我々は何なのだ? ご先祖様は嘘つきだと?」

シルディの怒りに、ソニアも言葉を紡ぐ。

「やっぱり、あんた達……ガラルの王族、だったのね」

ソニアがシルディと向き合う。

「その通り! 今までも、そしてこれからもね……これまで通りの歴史が、正しい歴史なのだ!! ぽっと出の英雄など、全て戯れ言!」

ソニアは奥歯を噛み締め、それでもなお背筋を伸ばし立ち塞がる。

「違う! 本当のことだから!」

ソニア自身もここまで来て理解していた。自分が歴史を語る上で傷つく人間が存在することと不都合な歴史を隠してしまおうとする存在は、異端では無く自分と違わない人間なのだと。或いは、二人の王と二匹の英雄の歴史を封殺した事も、悪意では無かったのかも知れない。

「私の考えでは、ザシアンとザマゼンタは遙か昔から、ガラル地方を守ってきたんだ!」

ただ同情の余地があったとしても、自分の主張を変えることが正しいとは思わない。意見をぶつけ合うこともまた、研究者として正しい姿なのだ。それが例え、お互いを傷つけ合う行為だとしても。

「では! どちらが正しいか試すとしましょうか。真の英雄ならば、ガラル粒子を強引に注入しても紳士的でいられるはず!」

シルディの行動に、合理的なものはなかった。しかし、ザシアンとザマゼンタのどちらかでも関係ない人間を襲う事態になれば、ソニアが提唱した二匹の英雄の歴史は疑問視されることは間違いない。

「なるほど……今回のダイマックス騒ぎはその為の実験だったと」

行動自体は余り知性的では無いが、厄介だとどこか感心した様子で頷くネズ。シルディがタワーの屋上でソッドが準備をしていること語る。

「させないぞ!」

ホップとマサルがリフトへ乗り込もうとするが、そこまでの道はシルディが塞いでいる。

「ノンノン! リフトで上に行きたければ……我々を倒してから行きなさい!」

 




読了ありがとうございました。

書き直してたら、祝日にアップ出来なかったよ……

まぁ、後もう少しだし、多少はね?



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第二十三話 研究所で 恋バナ?

デジモンの映画を見てきました!

いやぁ、選ばれし子供達はやっぱり最高やな、って(笑)

無限の可能性は、少年達が未来を選択した時に失われる。

でもそれが良いことだと、大人達が胸を張って言える世界であって欲しいですね(適当


 マサルがシルディの相手をしている。バトルはマサルの優勢で有り、チャンピオンに勝利するほどの実力はシルディにはないようだ。

「お願い、間に合って」

 

 タワーの屋上での騒ぎは収まり、ザマゼンタを捕まえたチャンピオン、その後まどろみの森でザシアンを捕まえたホップのことをソニアから聞き、リンドウはローズタワー改め、バトルタワーとなった研究室の一室に居る。

「ダンデさんからも聞いたよ、またしてもチャンピオンのお手柄だ、ってな」

電話の先のソニアが答える。

「本当に、マサルは凄いよ。流石チャンピオンって感じ。それにホップも、助手としてはまだまだだけど、やる気と行動力があるから私も頑張らなきゃ、すぐ追いつかれちゃうかも」

半ば冗談として語る。

「そうそう、近いうちにそっちに顔を出すよ。例の朽ちた剣と朽ちた盾の件で、ホップに聞きたいこともあるしね」

そう言うと、予定のすり合わせを行って数日後にソニアの研究所で会う事が決まった。

「リンドウも、マクロコスモスでダンデと一緒に頑張ってるんでしょ? それって充分凄いと思うよ?」

お世辞にもその言葉は有り難かったが、素直に受け取るのは難しい。

「結局契約社員だしな。この計画が終わったら元のフリーターに逆戻りさ。乗りかかった船だし、やることはやるけどね」

そう呟くと電話を切る。心のどこかに残る靄を振り払えずに居た。

 

 汽車に乗ってハロンタウンに着くと、最近よく顔を合わせる人物を見つける。

「やぁ、リンドウ」

屈託の無い笑みで迎えてくれたのは元チャンピオンのダンデだった。

「ダンデさん! そう言えば、ダンデさんの故郷でしたね。いやぁ、折角の帰郷に水を差すようなタイミングですみません」

その言葉に首を横に振るダンデ。

「いやいや、むしろこんな時じゃないと、ゆっくり家族と話しも出来なかったからね。俺としても有り難い話さ!」

快活に話すダンデに対して、違和感を覚えるリンドウ。だがしかし、その違和感が何かいまいち掴めずに居たが、心当たりに気付く。

「……まさか」

生まれ故郷だというのに、先頭を歩こうという意思が見られない。

「ああ! 道案内をしてくれたら、助かる!」

リンドウが大きく溜息をつき、端末に行き先を入力してナビゲートをつける。それに並行して、電話を起動させる。

「もしもし、ホップさん? 今駅について、徒歩でそちらに向かってます。はい、ダンデさんも一緒に」

大凡の到着時間を伝えると、既にマサル達と共に研究所で待っている事が分かる。ジムリーグの時の慌ただしい雰囲気も無くなり、ゆっくりとダンデと共に田舎道を歩いて行く。

 

 鏡の前で前髪や白衣を気にするソニアに、ホップが溜息をつく。

「朝から一体何度確認してるんだ? リンドウさんが来るのは、朽ちた剣と朽ちた盾の件だぞ?」

決してソニアに会いに来る訳ではないと、言外に含ませる。

「わ、わかってるし! お客さんが来るのに身だしなみに気をつけてるだけなんだから」

慌てるソニアにマサルと共にモルペコと戯れていたマリィが口をはさむ。

「まぁ、ただのお客さんじゃないから、仕方ないんじゃない? ね、マサル?」

チャンピオンに同意を求めたが、どちらとも言えない態度でモルペコと戯れるだけだった。

「はぁ、公私混同は良くないと思うぞ……」

そう言って、研究資料のとりまとめをするホップ。

 

 ダンデと共に研究所に入り、ソニアとホップが並んで座っている。

「これが、朽ちた剣と朽ちた盾だぞ。それとこっちがガラル粒子の反応に対する資料。ここで出来る計測の範囲だけど、大凡リンドウさんの推測通りになっていたぞ」

纏められた紙束を確認し、丁寧に持ってきた鞄にしまう。

「ありがとうございます、確かにお預かりしました。これで計画も次の段階に進めると思います」

ホップとソニアに深々と頭を下げる。

「それと丁度良い機会ですので、お二人と……チャンピオンにもみて頂きたいものがあります」

そう言うと、ピカピカに磨かれた剣と盾が机の上に置かれる。

「これは……ザシアンとザマゼンタの剣と盾の複製?」

ソニアの疑問にダンデが答える。

「その通りだ! 正確には、王族の末裔が残していた資料を元に、俺とキバナとカブさんとリンドウで作り上げた朽ちた剣と盾の贋作だな」

あえて贋作と表現したダンデにリンドウが説明を加える。

「できる限り再現しようとしましたが、やはり失われた技術も多くありますね。具体的に言えば、ポケモンが扱うのは難しいこと、ザシアンやザマゼンタが扱う程の力はないということ。それでも、野生のダイマックスポケモンから身を守る位の力はあると思います」

それなりの結果が見込めるが、過去の技術ほどでは無いようだ。むしろ今後の発展に期待しているという感じだが。

「へぇ、そんなことも研究してるんだ」

ソニアの感想に、リンドウが答える。

「はい、今後量産と軽量化が成功すれば、ワイルドエリアにおけるフィールドワーク、及び探索に大きく貢献できますね」

 

 ダンデはハロンタウンの実家に、マサルも同様にして研究所から離れた。折角故郷に戻ったのだから、家族水入らずで一夜を過ごすことになるのだろう。マリィとリンドウは宿のないハロンタウンで、スペースの広い研究所で一日宿を取ることになった。

「……ちょっと聞きたいことあるけん、よかと?」

マリィがリンドウに尋ねる。温かい飲み物を渡し、構わないと答える。

「リンドウはソニアさんのこと、どうおもっちょるん?」

その言葉にリンドウは答えづらそうにする。

「……お人好しだけど、凄い人だと思う。あの年で博士号を取れるのは、やっぱり才能だろうなぁ」

目を合わせないリンドウにマリィが苛立ちを見せる。

「そうやなかと、女性としてどう見とっと!? まさか、ソニアさんの好意に気付いてないとは言わんとね!?」

モルペコが普段見せない主人の怒りに、少し怯えている様だ。リンドウはマリィのその言葉に、中々答えられないで居る。

「……気付いてて、その態度っちゃ? もう見とられんとよ?」

ジムリーダーになり、マサルと会う機会も増えたマリィ。それに合わせて、何かとソニアと話をする事も増えていた。少し年代が上と言うこともあり、従来の話しやすい性格のソニアとは悩みを打ち明けたりもしていたのだろう。それ故に、リンドウの今の態度に耐えられなかったのかも知れない。

「まぁ、ソニアが良く思ってくれてるのは分かるよ。それに関しては、俺も嬉しいとは感じてる」

その言葉に、マリィは言葉を続ける。

「なら、なんでっちゃ!?」

リンドウは一口飲み物に口をつけ、一息ついてから答える。

「好きな女がいるんだよ。ずっと前から……分かってるけど、知らないふりするしかないだろ」

リンドウのその顔には、戸惑いの色が見えた。マリィもそれを見て、これ以上リンドウを責める事も出来なくなったようだ。

「誰か知らんけど、どっちにも失礼やけんね」

マリィはホットミルクを飲み干し、ベッドへと向かう。リンドウはまだ少し、眠れないようだ。

「……そりゃあ、そうだな」

 




読了ありがとうございました。

お前の事が好きだったんだよぉ(唐突

いやぁ、書いてて背中がむず痒いですね。難しいです。

マリィちゃんカワイイヤッター(思考停止


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第二十四話 新しい時代、その犠牲

オリジナルストーリーです(適当

お前いつも適当だな!

今回もポケモンが出てこないよぉ、どういうことだってばよ?


 研究所に集まってから一週間、それぞれが元居た場所に戻って少し経った頃不穏なニュースが流れる。

「それでは、次のニュースです。昨日、ラテラルタウンにて、一般のポケモンがダイマックスして暴れるという事件がありました」

脳裏によぎったのは、ブラックナイトの事だったのか、ソニアがホップに指示を出す。

「ホップ、レーダーを調べて」

ホップは頷いて、ガラル粒子の量を遡って調べる。

「……事件の時間も、増加は見られないぞ。念のため、前後一日調べても、おかしな所はなかったな」

ソニアもホップも疑問を覚えたが、その日はどうしようも無かった。

「お祖母様、昨日のニュースですけど……」

どうしても、気になったソニアは、マグノリア博士に連絡を取る。

「ソニアも気になりましたか、私も現地で調べていますが、今のところ異常は掴めていません。何か分かれば、お互いに情報を共有しましょう」

なんの手がかりも得られないまま、翌日になる。

「それでは、続いてのニュースですが」

ソニア達の予感は的中することになった。

「昨日に起こったダイマックスしたポケモンが暴れる現象が、各地で同様の事件が起こっています」

 

 ソニア達は、情報を共有するために集まっている。

「原因は掴めましたか?」

オニオンが淡々とソニアに質問をする。

「……今のところ、ガラル粒子に変化はみれないとしか」

ソニアは追い込まれた表情で首を横に振る。

「博士が分からないって言うなら、手の打ちようがねぇなぁ。スパイクタウン覗くスタジアムがある街全てで同じ事が起こってる、原因は不明……空が暗くなったりはしてないがな」

キバナが何か糸口が掴めないかと現状を整理するが、ブラックナイトと同じというわけでは無い。

「何か、お祖母様が掴んでいれば良いんですけど」

ソニアがそう呟いて少しした頃、マグノリアが部屋に入る。

「お祖母様! 結果はどうでしたか!?」

神妙な面持ちで皆の前に立つマグノリア、決して良い報告ではなさそうだ。

「各地域のジムリーダーの方々に集まって頂いたのは他でもありません。連日のダイマックス事件の原因が……憶測ではありますが、掴めました」

その言葉に、メロンが答えを急ぐ。

「原因が分かればこっちのもんさ。とっとと対処して、面倒毎とはおさらばしたいもんだね」

マグノリア博士が続きを話す。

「原因は二つ、ムゲンダイナの復活における各地のガラル粒子の増加及び、ワットエネルギーの変電施設の影響です」

ジムリーダーが予想していたものと大きく違っていたのか、反応は薄い。

「……どういう、ことです……か?」

オニオンがマグノリア博士に疑問を投げる。

「まず、ダイマックスしたポケモンが何故暴れるか、というところから説明させて頂きます。ダイマックスバンドを経由し、ガラル粒子を取り込んだダイマックスについては、これまでポケモンが暴走することはかなり稀でした。先日の願い星のガラル粒子を無理矢理注入される、ということがあって意図しないダイマックス、暴走するということともまた違います」

これまでの事象と違うと言うことにルリナは首を傾げる。

「そんな特別な事が起きているの? 先ほどの変電施設が原因ということかしら?」

マグノリア博士は頷く、しかし、ジムリーダー達の知識では変電施設とダイマックスが繋がらない。

「まず普段予期しないダイマックスが発生しないのは、必要な量のガラル粒子がダイマックスバンドなどによって集められない限り、蓄積しないこと。また、ダイマックスしたとしても、本来それを操る力がポケモンには大なり小なり備わっています」

ヤローもまた疑問を浮かべる。

「それでは、何故?」

「ガラル粒子というものは、エネルギーの乗り物と考えて頂きたい。ワットエネルギーを運ぶ媒体となり、エネルギーを届けた後は拡散し、地脈に還るか、大気圏まで上昇し、再び彗星のエネルギーを受け取って運搬するのです。その時、人の感情が大きい方に誘導される性質があります」

その言葉に、カブが頷く。

「人の感情……つまり私達は感情をコントロールすることでダイマックスを制御していたのですか」

技術では無く、ポケモンとの絆、そう言っていたマグノリア博士の持論は端的に説明するとそうなるようだ。

「実際はもう少し複雑な動きをしますが、取りあえずは感情に左右される、ということが重要です。ガラル粒子が少なかった……つまり、ムゲンダイナの復活前はダイマックスをする量のガラル粒子を集めるのにも訓練が必要な程でした。しかし、現在はパワースポットがある地域では、簡単にダイマックスを行えます。それに加えて、ジムリーグも終え、ダイマックスをする回数自体が減少しています」

ソニアが考える。

「つまり、ワットエネルギーを持ったガラル粒子が、消費されないまま彷徨っている、そういうことですか?」

マグノリア博士が頷く。

「ワットエネルギーを持ったガラル粒子は、感情に引き寄せられます。人間がガラル粒子からエネルギーを得ることは出来ないので、そのまま次の感情へ、ガラル粒子が様々な感情に移り渡っているのが現状です。そうして、最終的な終着点が変電施設になっています」

ようやく変電施設という言葉が出て、ビートが口を開く。

「変電施設というのは、ワットエネルギーを電気エネルギーに変換する施設、ということですか?」

マグノリア博士は頷く。

「大気中に存在するガラル粒子を集め、電気エネルギーを作り出す機会ですね。マクロコスモスが次世代エネルギーとして現在試作機を稼働させています」

そこでマクワが肩を落とす。

「またマクロコスモスか、碌な事をしないなぁ」

「変電施設自体が悪影響を与えているわけではありませんが……自体を加速させる一因になっています。要するに、感情に影響を受けたガラル粒子が一カ所に集まっている事が問題になっているのです。一カ所に集まったガラル粒子はお互い干渉し合い、同じ方向性の性質に変化します。磁石が引かれ合う様に性質を同じにして、やがてその性質が拡散して、大気中のガラル粒子にも影響を与えていっています」

漸く結論が見えてきて、ネズが口を開いた。

「その拡散する性質とやらが、ダイマックスを暴走させる原因、というわけですね。それならば、それを何とかしなければいけない、ということですか?」

しかし、マグノリア博士は首を横に振る。

「ガラル粒子が影響を受けているのは人間の感情、それも負の感情、怒り、憎しみ、悲しみに特に影響を受けています。それらが擬似的にポケモンに流れ込む事で、暴走しているのです。しかし、負の感情を抑えるなど、すぐに対応出来るものではありません」

それこそ長期的な対応が必要であると、マグノリア博士は告げる。

「それなら、対応策はないんですか?」

マリィが尋ねるとマグノリア博士が答える。

「……いえ、ガラル粒子が一カ所に集まり留まっているのを、消費してリセットしてしまえば、事件は一旦収まるでしょう。次同じ状態になるまで、恐らく年単位でかかりますので、定期的な発散を行えばダイマックスが暴走するような自体は防げるはずです」

今回の原因さえ何とかしてしまえば、今後の対策も容易であるようだ。

「対策まで見えているなら、話は早い。その変電施設を……破壊でもすればいいんですか?」

ビートがやや物騒な事を言うが、大まかには正しいとマグノリア博士が答える。

「ただし、現在負のガラル粒子の巣窟になっている場所には、一般のポケモンが近づいただけで強制的なダイマックス及び破壊衝動に襲われ、制御出来なくなります。そこで活動できるのは、キョダイマックスが出来る固体と人間のみ、と判断しました」

その言葉にソニアが、一人この場に居合わせていない人物に気付かせた。

「ダンデ! もう向かってるって事ですか?」

そう言うと、マグノリア博士の端末に連絡が来る。少し話をすると、モニターに画面を映し出す。

「……マグノリア博士の、悪い方の予想が当たったみたいですね」

モニターには、ダイマックスをしたポケモンが群れをなし、互いに傷つけ合っている様子が映っていた。

 




読了ありがとうございました。

ここいる?(二回目

脳内設定吐き出したいけど、別に書く必要ないんじゃないかなぁ、って思う。

それはそうと、それ無しに物語を書けないのが問題なんですけどね(笑)


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第二十五話 ブラックナイト 黒い騎士

オリジナルストーリーです、騒ぎの原因は一体誰なんでしょうかねぇ?(適当

ミュウツーのレイドバトルは皆さんどうでしたか?(白目


 余りの凄惨さに、一同は言葉を失う。

「やはり、中心近づくのは難しいのですね」

モニターのダンデが頷く。

「俺一人では、リザードンのみでの接触になりますね。離れた距離でもリザードンが反応しているところを見ると、静かに近づけるのは人間だけ、これ以上近づけば、強制的にキョダイマックスの姿になると見て、間違いなさそうです」

いかに元チャンピオンとはいえ、単身では勝算は低い。尚且つ、暴れているのはあくまで一般のポケモン、そして更に同士討ちなどお構いなしに技を放っているような状況だ。下手に手を出せば、再起不能にしてしまう可能性も考えられる。

「……一度戻ります、作戦を練ってからの行動の方が、良さそうです。それと、変電施設から逃げ出した職員から確認した情報です」

悪い方の予感ばかり当たる、とマグノリアが頭を抑える。

「ガラル粒子の巣窟になっているのは、現在その場に居合わせた青年、リンドウで間違いありません」

ソニアは視界がぐらつくのを感じる。

「ソニア、しっかりして!」

ルリナが支えに入り、なんとか立っていられるような状態だ。

「どう……して?」

普通の人間であれば、ガラル粒子が影響することはない。だが、例外はあった。

「リンドウはポケモンと同様に、ガラル粒子からエネルギーを得られる特異体質をもつ人間よ」

 

 脳内に怨嗟の声が響き渡る。壊せ、不幸になれ、許さない、恨み、辛み、憎しみが蠢いている。

「ああ、分かってるよ。俺は死ななきゃいけない」

むしろ、その声が自分に向けられていることに、リンドウは納得していた。

「……全部、台無しだけど。おかげで人間として死ねるんだな」

最早肉体を制御することも出来ない。ただ薄ぼんやりとした意識の中で、ただただ怨嗟の声に身を任せるしか無かった。

 

 各地の守りを固める必要も有り、スパイクタウン以外のジムリーダーは自分の街を守る事となった。

「どうして、ダンデがいるのに、俺様が外れるんだ……!?」

異常に悔しがるジムリーダーがいたが、背に腹は変えられない。マクワとメロンは別れて街の警護に当たるため、ラテラルタウンの二人とスパイクタウンのネズとマリィ、チャンピオンのマサルと元チャンピオンのダンデ、それと現地近くまで同行するソニアの七人での行動となる。

「おお、かなり豪華なメンバーだぞ!」

ホップが出発前に少し期待をしていたが、ネズが注意を促す。

「……恐らく近づいてしまえば、普段のポケモンバトルとは全く別物になります。キョダイマックス出来るポケモン以外の制御は不可能と考えた方が良いでしょう。くれぐれも無理はしないようにお願いします」

その言葉にマリィが首を傾げる。

「アニキは、キョダイマックスポケモン持ってなかったと思うけど、どうする?」

半分心配の目をメンバーに向けられるが、ネズは心配無用と言い切る。

「キョダイマックス出来なくても、サポートくらいは出来ますよ」

 

 ラテラルタウンの端、変電施設に向かう道の途中。明らかに異常気象が発生している場所が先に見えた。

「まるでワイルドエリアですね」

サイトウが淡々と言葉にする。同行していたソニアが、機器を設置して各員に伝える。

「私は此処で皆さんのサポートをします。互いの通信は出来るように調整はしますが、中に入ってしまえば、絶対ではありませんのでご注意を……それと今回の目的はあくまで騒動を止める事だと言うことを忘れないで下さい」

共に行動することさえ、足手まといにしかならない自分に拳を握りしめるソニア。ダンデは柔らかな笑みを浮かべて大丈夫だと答える。

「行って……きます」

オニオンが言葉にすると、全員が動きだす。

 

 近づくと、全く違うタイプのポケモンが傷つけあい、闘っている。闘う理由などないはずなのに、ただただ、自分のものでない感情に揺さぶられ、爪を立てるしか方法が分からないのだ。

「やれやれ、こうなってしまうと、ダイマックスも考え物ですね」

そういうと、ネズがハイパーボールとダークボールを放り投げる。

「……アニキ、それってまさか」

出てきたのは、バンギラスとナットレイだった。ダイマックスをすると他のポケモンを蹴散らしていく。制御は出来ない、というかネズ自身もするつもりはなさそうだが。

「さぁ、これで道が開けました。簡単に負けるとは思いませんが、いつまで持つか分かりません。先を急ぎましょう」

全員が変電所の入り口に急ぐ。

 

 変電所の入り口、所員が慌ててで逃げ出したからか、扉は開きっぱなしである。

「それじゃ、予定通り此処で二手に分かれますか」

中に入る面子と、外で入り口を守る人間を分ける。突入するのは、マサル、ホップ、サイトウ、オニオンの四人、入り口で守るのはダンデとマリィとネズだ。

「すみませんが、サイトウさんとオニオンさんは、ダイマックスポケモンだけ残しての侵入でお願いします」

変電所内でのダイマックスは恐らく不可能であるとの予測から入り口を守る為の策である。ポケモンだけを残して、指揮はネズがとることになる。急造のペアになるが、共に歴戦であるが故に、時間稼ぎ位はなんともないだろう。

「ゲンガー……よろしく、ね」

「カイリキー、キョダイマックス」

それと同時にマリィもオーロンゲをキョダイマックス化させる。周囲のポケモンがそれに気付いて、近づいてくるが、トレーニングをしていない有象無象の上に、この現象のおかげで半ば意識朦朧としているのだ。相手にすらならない。

「ここはダンデさんとアニキとうちに任せて!」

 

変電所の中に入っていくと、電気は生きているので暗くはない。事前に入手した地図通りに進めば、最奥にリンドウが居るはずだ。

「そこまで複雑な造りでは無いし、道中にポケモンが出るわけでもないし……つきましたね」

オニオンが躊躇うこと無く、変電所の中核であるガラル粒子を集める機械がある部屋の扉を開く。中は、だだっ広い空間が広がっており、機械の類の殆どが停止している。周囲はガラル粒子が漏れない様にしているのか、分厚い壁で覆われている。

「……あれ、が……リンドウ、さんですね」

オニオンが戸惑いながら、部屋の中心にぽつんと落ちる影を見つめる。光を吸収するそれは、一見すると立体感が無く、薄っぺらい虚像に見える。だが、そこには鎧を纏ったような人の姿がある。

「頼んだぞ、ザシアン!」

「行けっ、ザマゼンタ!」

ホップとマサルが同時にボールを投げると、二体のポケモンが現れる。ガラル粒子の濃さに一瞬不愉快な顔をするが、他のポケモンのように強制的にダイマックスする事も無い。

「ウウゥゥゥォオオオォォオオォオ」

獣とも人とも思えない雄叫びを上げる影は、その二体のポケモンを敵と認めた様だ。拳を振り下ろすその先に、ザマゼンタが割って入り、その盾で受け止める。

「オオォォォン」

はじき返すものの、体力は削られているようだ。何度も攻撃を受けると、幾らザマゼンタといえど力尽きてしまうだろう。

「巨獣斬だ!」

ザシアンが咥えている剣を振り抜いて、影を切る。だがしかし、ザシアンが違和感を覚えているようだ。

「……本体に、当たっていませんね」

サイトウが違和感の正体に気付く。どうやら、幾層にも重なるガラル粒子が、直接攻撃する前に壁になってしまうようだ。

「ザシアン! 大丈夫か!?」

高らかに吠えるザシアン。ザマゼンタと協力して、黒い鎧の影と闘い始める。

 

 闘いが始まって、どれ位が経っただろうか、ザシアンとザマゼンタの息が上がり始めている。それに比べて黒い影は、疲労もなく、動きが鈍くなることも無い。

「どうやら、エネルギーを蓄え続けているみたいですね」

蓄えているエネルギーが残っていると言うよりは、常に補充されているという感じだ。ザシアンとザマゼンタも戦闘は続けられるが、このままではどちらが先に力尽きるかの体力勝負になる。

「一度、引くしか無い」

マサルが冷静に戦況を見極める。勝つための手段が集めたエネルギーを吐き出させる事である以上、エネルギーが集まり続けている現状は良くない。だが、ホップは戸惑う。

「でも、どうするんだ!?」

考える時間を奪おうとするかのように、黒い影が突っ込んでくる。

「なっ!?」

サイトウがザシアンと黒い影の間に体を滑り込ませ、黒い影の腕を掴み、壁へと投げつける。

「やはり、攻撃の大部分をダイマックスエネルギーに頼っているみたいですね」

ダイマックスしたポケモンの攻撃はガラル粒子のエネルギーを用いている。基本的にガラル粒子の影響を受けない人体に関しては、かなり影響が少なくなる。対して、吸収する機能を持つポケモンには、ダメージ効率がかなり高いのだ。

「ググウウウウオオオオオオ」

壁に叩き付けられ、立ち上がってサイトウに走り出すと、ぶつかる直前で黒い影が止まる。よく見るとオニオンから伸びる影が、黒い影を捕まえている。

「……ポケモンと、同じ……影響も、受けやすい、ね」

解除と同時にサイトウのハイキックが命中し、仰け反る。ただし、サイトウの攻撃も明確なダメージは見られない。

「無理はしないで」

そう言うと、ホップに合図を送るマサル。

「……直ぐ、戻るぞ!」

ボールにザシアンとザマゼンタを戻すと、入り口に戻る二人。部屋にはオニオンとサイトウ、それと黒い影のみが残る。

「さて、相手は伝説のブラックナイトですか。相手にとって不足無しですね」

両手を前に構え、正面からの攻撃に最速で対応出来る体勢をつくるサイトウ。

「恨み、辛み、憎しみ……怨念なら、僕達の領分だから、ね」

まるで暗闇に溶け込んでいくように、その輪郭を曖昧にしていくオニオン。

「オオォオオォォオオオオ」

鎬を削る闘いが始まる。

 




読了ありがとうございました。

ブラックナイト(夜)と黒い騎士、どちらもあったということですね。

ダイマックスが実用化していくに当たって、過去の伝承「ダイマックスは危険」が失われた設定です。

ザシアン、ザマゼンダは犠牲になったのだ……長きに渡るガラルの歴史、その犠牲にな


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第二十六話 チャンピオンタイム

お待たせしました、チャンピオンタイムです!(お待たせしてないかも知れない)

オリジナルストーリーです、設定は多分ガバガバのガバですが、それでも良ければオナシャス!


 ホップが通信を取って、ソニアに現状を説明する。

「とにかく、ザシアンもザマゼンタの攻撃も通用しないんだ! 何か方法はないか!?」

二人を残して一度引いている為か、焦りを隠せないホップ。マサルは二匹のポケモンに傷薬や回復薬を与えて、再突撃の準備を整えている。

「方法は……あるの」

ソニアの言葉に、ホップはその答えを急ぐ。

「ムゲンダイナのダイマックス砲。あの威力なら、バリアごと打ち抜けるかも知れない。貫通さえしてしまえば、ダメージは与えられるはずだから」

苦虫を噛み締めるような顔をしているのは、それがどういうことか理解しているからだろう。

「それは駄目だ。リンドウさんも助ける為にきたんだから」

彼の命を顧みない方法など、最初から考えていない、そうマサルは言い放つ。

「その通りだぞ! 皆助ける方法を探そう!」

 

 黒い影の腕をかいくぐり、肘打ちを胴体にたたき込み、足を滑らせ首筋に手刀、振り返る動作に足を絡めて、バランスを崩させ肩からのタックルで吹き飛ばす。

「……流石、だね」

オニオンが驚いていると、サイトウが返事をする。

「所詮は人間の限界まで力を引き上げているだけですから、力比べでは勝てませんが、対処法はいくらでもあります」

ただ、一つ一つの攻撃を受け流す度に、神経をすり減らし、体力を摩耗していく。オニオンも所々で影を縛り、サポートしていく。

「……くっ」

圧倒的な力を持つ、ブラックナイトを押さえつけることは容易ではない。

「はぁっ!」

切れ味の鋭い跳び蹴りが炸裂する。だがしかし、ブラックナイトにダメージは見られない。

「っ、しまった!?」

踏み込みすぎた、そう気付いた時には足首を掴まれていた。

「サイトウ!?」

オニオンの補助が合ったおかげで、ギリギリ受け身を取ることは出来た。だが掴まれた足首と、叩き付けられた時に腕を負傷している。

「……まだ、まだぁ」

動きが一段と悪くなるが、それでもなお立ち向かう。オニオンも先のことは考えず、全力でブラックナイトへと立ち向かっている。

 

 ザシアンとザマゼンタの体力はほとんど回復出来た。だがしかし、ホップとマサルは未だ解決策を見いだせずにいた。

「中ではオニオンとサイトウが頑張ってるのに、急がないとだぞ!」

気が逸っているホップに、端末へ連絡が来る。

「……キバナさん?」

意外そうに端末をとると、快活に喋るキバナの姿が映し出された。

「派手に待たせたな! 今回はインスタどころの騒ぎじゃ無いから時間取っちまったぜ!」

そう話すキバナに、心当たりがない二人。

「おっと、二人には伝わってなかったのか。それじゃ、驚いて良いぜ! なんと、テレビ局に直で交渉済みだ、生放送でガラル全土に繋がって居るぞ!」

キバナの言葉に、二人は目を合わせる。驚きに言葉も出ない様だ。

 

 外にいるダンデがキバナの通信を耳にすると、にやりと笑う。

「なんとか、間に合ったか? マサル達だけに任せる訳にはいかないからな」

帽子をかぶり直し、ロトムフォンを調節し、生放送へと繋げる。

「さぁ―――チャンピオンタイムだ」

 

 ロトムフォンを経由して、ダンデの姿が映る。キョダイマックスしたリザードンが、野生のダイマックスポケモンをなぎ倒す姿も映る。

「……ガラルの皆、この声が届いているだろうか」

戦闘中なので、ロトムフォンに顔を向ける事は無い。

「今、ガラル全土が不安に満ちあふれている。野生のポケモンも、昨日まで共に過ごしていた友人も、同様に暴れ出すかも知れない恐怖が、皆を縛り付けているのかも知れない」

ダイマックスポケモン同士が技を放つ衝撃が、ダンデを襲う。砂煙が舞い上がり、その姿は生傷が多く、頬に赤い線が走っている。

「俺は、チャンピオンだった時、ガラルに住む人々に強くなって欲しいと言い続けてきた。勿論、俺が強いトレーナーと競い合いたかったのは否定しない。だが、一番大切な事は……恐怖や不安に満ちている時なんだ」

キョダイマックスリザードンが、片膝をつく。幾ら強いポケモンでも連戦が続けば体力は削られていく。それでも尚、闘う意思は僅かも薄れない。

「立ち向かう力が無くても、友を信じる心を持っていて欲しい。恐れる心に負けずに、友に過ごした家族が帰ってくることを、信じて欲しい!」

これまで、何度ダンデはこのポーズを取っただろうか。今はチャンピオンの座を退いた。だが、その背中にその時と違いは見られない。ガラル全土が、それを目指して、その姿は間違いでは無いと信じた。そして、彼自身もその信頼を置いた生涯の相棒の名を冠するポーズを決める。

「力ならある! 俺達が! ジムリーダー達が、皆を守る! 信じて欲しい! 祈って欲しい! 諦めずに、俯かずに、前を向いて……俺達と共に立ち向かってくれ!」

マリィのキョダイオーロンゲが、オニオンのキョダイゲンガーとサイトウのキョダイカイリキーが、傷つきながらそれでも尚、戦い続ける。

 

 テレビを見ていた少女が、瞳の端に溜めていた涙を袖で拭い、母親に向き合う。

「ねぇ! 私のイーブイ、帰ってくる!?」

それまで、ダイマックスをして暴れるポケモンに怯えて、震えているだけの少女が、立ち上がった。母親は少女を抱きしめ、囁く。

「ええ、必ず。信じましょう、家族を」

怯えていないわけでは無い、恐怖が無いわけではないが、それ以上に信じていたいのだ。共に過ごした時間に、意味はあったのだと。

 

 マリィが、時間差で訪れた異変に気付く。

「野生のダイマックスポケモンが、襲ってこない?」

先ほどまで、何かを恐れているかのように暴力を振るっていたポケモン達が、落ち着いている。

「……先ほどの演説の効果でしょうか。一時的なものでしょうが、このチャンスを無駄にしたくはありませんね」

ネズが片腕をおさえながら喋る。ポケモンバトルの余波を受ける場所で指示を出し続けていれば、無傷では居られない。それはマリィも同じだ。

「中の様子は……ソニアさん!」

マリィが端末を取り出し、ソニアと連絡を取ろうとする。

「マリィちゃん? そっちの様子はどう?」

ソニアが慌ただしくしている様子が声だけで分かる。現状を簡単に説明すると、ソニアがダンデを褒める。

「さっすがチャンピオン! って、元だけどね。こっちは準備出来たよ!」

バイクに乗って颯爽と変電所まで現れて、荒々しくマリィ達の近くに停める。

「ソニア! 今なら、あの馬鹿にも聞こえるだろ!」

ダンデが意地悪そうに笑みをソニアに向ける。ソニアが腕を高らかに持ち上げると腕に巻いたダイマックスバンドにガラル粒子を取り込む。ダイマックスエネルギーに変換されたそれを手に持つモンスターボールに注ぎ込み、擬似的にキョダイ化させたボールを放り投げる。

「いっけー! イエッサン!」

ダイマックス化して現れたのは、リンドウと旅を共にしていたポケモンだ。イエッサンが全力のダイサイコを発動させて、辺り一面に紫の光があふれ出す。

「これは、サイコフィールド?」

マリィが見覚えのある技に首を傾げる。そうして、違和感に気付く。

「ああ、イエッサンの特性……でしたね」

イエッサンの特性は、周囲の生き物の感情を読み取り、或いは共有することによって共生するポケモンだ。それをサイコフィールドによって範囲を無理矢理広げる。

「リンドウー! 戻って、こーい!」

変電所の中心もすっぽりと包み込むほどに。

 

 ダイマックスポケモンが落ち着いた時、ブラックナイトの動きも止まる。

「……どうやら、ダンデさんは上手くやったみたいですね」

握られ、赤く腫れたた腕を庇う様に立つサイトウ。肩で息をしているのはオニオンも同様だ。ブラックナイトが急に動き出し、口元の黒い鎧を引き剥がす。

「……オニオン、サイトウ、逃げろ」

どうやらリンドウの自我が戻ったようだ。

「分からない、が、今は……怨嗟の声が治まっている……今のうちなら」

サイトウが大きく溜息をつく。

「答えはノーです。私達は、貴方を助けるために来ましたので」

その言葉にオニオンが頷く。

「らしく……ない、よ? 諦めが悪いのは……リンドウ兄ちゃ、んの方……じゃない?」

仮面の下で、微笑んでいる、のかもしれない。そう感じるほど、普段では感じられないほど柔らかい声色だった。

「……だが、これは一時のもの……だろう?」

ブラックナイトが躊躇っていると、変電所内にも変化が訪れた。

「なん……だ?」

オニオンがリンドウに言い放つ。

「サイコ……フィールド。年貢の、納め時?」

紫の光が、変電所内をも包み込んでいく。

 




読了ありがとうございました。

リザードンのポーズ、最初はダサいと思ってました(正直

んまぁ、でも……(チャンピオンが続けてれば)多少はね?

人の心を動かせるんじゃ、ないですかね?(適当


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第二十七話 Black knight

オリジナルストーリーです。

ブラックナイトの結末とは?

変電所で黒塗りの騎士となってしまったリンドウに持ちかけられた示談の内容とは一体……!?(違います


 「これは、イエッサンのサイコフィールドか?」

周囲のポケモンや人々の思いが、感情が、伝わってくる。その心は決して、不安や恐怖ではなく、慈しみや愛情のようなものに感じる。リンドウが唐突に現れたサイコフィールドに戸惑っていると、目の前に居ない人間から声が響いてきた。

「リンドウー! 戻って、こーい!」

どこか気の抜けた声は、聞き間違えようのない、ソニアの声だ。

「……ははっ」

ずっと張っていた緊張の糸が、緩んだ。リンドウを支配していた、恐怖や不安といった感情は、最早彼を縛る鎖にはならなかった。

「……どう? その力、制御……出来る?」

オニオンの言葉で、リンドウは理解した。これがダイマックスを制御すると言うことなのだ。

「ガラルのこと、未来のこと、君一人で抱え込まなくても大丈夫だ! 俺もいる、皆いる……一人じゃ無いさ!」

ダンデの声は力強く、優しい。

「負けたり、失敗して、悔しい気持ち……凄い分かるぞ! でも、立ち直れるのはやっぱり、友達が助けてくれるからだ。だから、頑張れ!」

ホップの声が、寄り添う様に力をくれる。

「誰もが強さを持っています。貴方も、強さを持っている。立ち上がる力も、歩き出せる強さも」

サイトウが励ましの言葉をくれる。

「……折角ですし、普段言えない言葉でも言えば良いんじゃ無いですかね? この場は何言っても良さそうですよ?」

ネズが、意味ありげなことを言ってくる。それには、負の感情はないが……意地が悪い気がする。だが、それでも、リンドウは自身の頬を叩き、言葉を紡ぐ。

「マリィ! 俺は、始めてスパイクタウンに来た時から、ずっとお前のことが好きだ! 始めて、大切にしたいって思う人だったんだ! だから、まだ愛していたいんだー」

 

 変電所の外で顔を真っ赤にするマリィ。

「おやおやおや、ノッてくるとは思いませんでしたが……悪くないソウルです」

普段であれば、マリィに寄ってくる人間を警戒するのだが、雰囲気が彼を変えているのか、それともリンドウの言葉だからか。

「なななな、なにいっとーと!? そげんこといっちょう場合!?」

ソニアが少し不機嫌な様子で、答える。

「まぁ、ちょっとアレで、タイミングが微妙な気がするけどねー……でも、返事は出来そう?」

ニシシと悪戯っぽい笑みに、マリィは困惑しながらも、息を吸い込む。

「うちも、リンドウの事、いい人やとおもっとーと! やけん、兄貴とは違うけど、もう一人のお兄ちゃん……そんな感じやけん! 嬉しいけど、ごめん!」

マリィの本心が、響き渡る。

「それに、うちはマサルのことが好き! いつからか、自分でもわかっとらんけど、ばりすいとーと!」

マリィの言葉が、響き渡る。

「「「「「「  知  っ  て  た 」」」」」」

六人の声が、同時に響き渡った。

「っっ、しぇからしかーーーーー!」

 

 ブラックナイトの力を制御出来るようになったからか、意識がはっきりとしている。そして、次に何が起こるかも、分かっている。

「来いよ、二人の王と二匹の英雄!」

入り口の扉が開かれて、ザシアンとザマゼンタが現れる。ブラックナイトが手に槍状に黒い影を固めて、投擲する。

「ウォォン!」

マゼンタが前に立ち、自慢の防御力ではじき飛ばす。その影から得意のスピードでザシアンが剣を振るう。ブラックナイトも同様に黒い影を剣の形に固めて、交錯する。ブラックナイトの剣は砕けるが、ザシアンにもダメージが入っているようだ。

「まだまだぁ!」

ホップが投球モーションで短剣を投げる。それは、リンドウとダンデとキバナとカブで作り上げた、伝説の剣の模倣品だ。

「ちぃ!」

胸部に当たったそれを、リンドウは振り払う。鎧の一部が弾け、黒い影の面積が減っている。振り払うので精一杯だったリンドウは体勢を崩して、最早ガードをすることもままならない。

「俺達の、勝ちだ!」

盾を構えて、直進するマサル。直撃するタックルに、鎧が粉々に砕け散っていく。

「くそっ、冗談じゃねぇよ」

二人の王と二匹の英雄、それと相対するにはリンドウは役者不足だと呟く。色々な事が嫌になって、それでもなんとか守りたい者の為に、犠牲になる覚悟もしたというのに、それすらも否定される。

「まぁ、それでも」

幸せな結末かも知れない、そこまでは言葉にしなかったけれど。

 

 病院の庭でオニオンが子供達に囲まれている。車いすに座っているオニオンは、ジムリーダーに憧れる子供達のリーグカードにサインを書いているようだ。

「……頑張って、ね?」

最後の子供に手渡すと、子供達はよろこんで走り去って行った。

「オニオンもそんなことするんだなぁ」

リンドウは珍しいものを見たと言いたげな様子だ。それでも、抵抗なくオニオンの車いすを推して病室に連れて行く。

「悪いな、足怪我させちまった」

そういうと、オニオンは首を横に振る。

「リンドウ、お兄ちゃんの……せいじゃない」

その言葉に、嘘はなさそうだ。

「それに……お見舞いに来てくれるから、それで……いい、かも?」

リンドウとしても、然程落ち込んでいるように見えないので、少しは気が楽になっているのかも知れない。

「しっかし、サイトウはもっと酷い怪我をしてたはずなんだけどなぁ」

医者に止められながらも、腕の怪我くらいで鍛錬を止めるわけにはいかない、と無理矢理退院していったらしい。

「……サイトウ……らしい、ね」

オニオンは楽しそうに語る。病室まで戻ると、リンドウの端末がなる。

「っと、ソニアか?」

端末から、ソニアの元気な声が響いた。

「リンドウ! ワイルドエリアにブラックナイトの時代の発掘品が見つかったの! 研究するから、手伝って!」

リンドウは、いつものことになりつつある現状に懸念を抱きながらも準備を始める。

「……いってらっしゃい」

「悪い、またお土産持ってくるよ」

そういうと、心当たりのある知り合いに、手伝いが出来るポケモンが借りれるか電話を掛けていく。同時にアーマーガアタクシーを手配して、ソニアのもとへと文字通り飛びだって行く。

「さて、一仕事しますか」

 




読了ありがとうございました。

ブラックナイト、最終回です!

お疲れ様でした&ここまで読んで下さり誠にありがとうございました!

マリィのしぇからしか、これが書きたくてここまで来ました……長かった(笑)

続きの予定は、DLCの内容次第です!

細々とした話は無くはないですが、リンドウ君のパーティのその後とか、サイトウとの格闘王への道とか、ポケモンごっこ達のチャンピオンごっことか、色々あります……とはいえ、一区切りですので一度完結と言うことに(笑)

DLCでモチベーションが復活したら書きます、多分、恐らく、きっと……めいびぃ


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第二章 ムゲン団編
第二章 ムゲン団編 第一話


お久しぶりです、剣盾の二次創作? の続きになります。

内容としては、ムゲンソード、ムゲンシールドのメインシナリオ最終から、って感じですね。

いやぁ、ホントここまでやるのか! って感じだったので、ついつい筆が乗ってしまいました。

異世界転生、ムゲンソードシールド、オリキャラ、キャラ崩壊まとめてオッケーな方は何卒よろしくお願い致します。


 場所は無限タワー内部、巨大な時計塔の内部で、二人は向かい合う。

「どうして、「」ウリさんが!?」

その姿は、まるでホップのようだ。だが、彼とは違う、背格好もそうだが、一番違うのはグリーンの瞳だ。彼はホープと呼ばれた。

「……ホープ君、誰もが君みたいに前に向かって進める訳じゃないの。目指す場所が、未来には亡い人間も……沢山、いたでしょ?」

彼女の言葉に、ホープは言葉を失う。無限タワーを昇る時に、様々なトレーナーと闘った。その誰もが、過去に何かを無くしてきた人達だった。相棒、恋人、家族……無くしてきた物は、それぞれだったがその為に前に進めない人達ばかりだった。

「それでも、時計の針は元には戻らない! 俺は、父さんと母さんが託してくれたバトンを、未来に繋ぐんだ!」

例え幾百の言葉を紡いだところで、彼は止まることはない。過去の怨念を全て受け止めても尚、足を止めることはなかった。だから、彼女の前に立ち塞がる。

「その目で、私を見ないでっ!」

ホープの目は、母親にそっくりだった。彼女が愛した幼なじみの姿を重ねながらも、それを奪っていった女性が脳裏にちらつく。その幻覚に、髪を掻き毟り、狂気を孕んだ声で彼女は叫ぶ。

「キミが……私達の邪魔をするというのなら! ……チャンピオンの力がどれほどのものか、思い知らせて目を覚まさせて上げる!」

その左手が、ベルトに備え付けられたモンスターボールへと伸びる。

「キミもお父さんと……ホップ博士と同じ道を辿ると良いよ!!」

歴代最強と謳われたチャンピオンと、決して希望を見失わない少年の闘いが始まる。

 

 満身創痍の少年に、バイウールーが寄り添う。彼の手持ちのポケモンも無傷なものはない。

「「」ウリさんのポケモン、五体目を見るのは……初めてだったな」

そう呟いた少年の鞄から、古ぼけた朽ちた盾が光り輝く。

「これはーー!?」

ホープは驚いて居たが、彼女は驚くことはなく冷めた瞳で見ていた。

「……やっぱり、来るのね」

呟いた言葉をかき消すように、歴戦の勇者が少年と彼女の間に現れる。

「ザマゼンダ! 来てくれたのか!?」

かつての戦友を前に、一瞬だけ表情を曇らせるが、朽ちた盾を身に纏い戦闘態勢になる。

「……千年後の未来? 人とポケモンの進化? そんなところに、私が欲しいものはないの」

固く閉ざされていた五つ目のモンスターボールが開く。

「全て消し去って! ムゲンダイナァァァアアアアアアアアアアア!!!」

無限タワーの上空を、黒い雲が覆う。

 

 ザシアンとザマゼンダ、二匹の英雄とホープの協力によって、再び無限ダイマックスをしたムゲンダイナが倒される。

「……ごめんね、ムゲンダイナ。無理させちゃったみたい」

ボロボロになるその体を労るように彼女の手が伸びる。闘いの余波で、無限タワーはボロボロになり、壮大な大時計も動かなくなっている。闘いが終わった後で、リザードンに乗ったダンデが現れた。

「一人で倒したのか……チャンピオンを? よくやったな、ホープ!」

満身創痍の体は、ダンデに頭を撫でられるとバランスを崩す。

「ちょ、ちょっと、痛いよ。ダンデおじさん」

彼の体を支えながら、ダンデが無限団のボスに目を向ける。

「……時間は過去には戻らないんだ、チャンピオン。この結果は、未来をめざし続けたホープと、過去に囚われたお前と差なんだ」

言葉を発しているダンデ自身が、彼女の悲鳴に気づけなかった事を後悔しているのかもしれない。彼女は一言も発することもなく、ただ無限タワーが軋む音だけが大きくなっていく。

「「」ウリさん! まだやり直せます! 誰にだって、未来はあるんですから!」

そう言って手を伸ばしたホープの手を振り払い、彼女は距離を取る。

「……「」ウリ」

下の階から上がってきたのか、何人かの声が聞こえる。その内の一人が、ホープに駆け寄った。

「ホープ、無事だったのか!」

「父さん!? 母さんも!」

父の手に抱き寄せられるホープ。涙を流し、息子の成長に喜ぶ父親の姿を見て、彼女はどう思ったのだろうか。

「「」ウリ!」

息子を抱きしめながら、ホップ博士が声を上げる。彼の声が普段では聞けない程大声だったのは、無限タワーの崩壊が近づいていたからだろう。

「……遅いよ」

彼が伸ばした手は届かず、瓦礫と共に彼女は落ちていく。リザードンの背に彼らは乗せられ、無限タワーを脱出していく。

 

 瓦礫の中で、彼女は目映い光を見た。それは、ワイルドエリアで見た珍しい光の柱のようだった。だが、彼女はその光の正体を知っていた。

「ムゲン……ダ、イナ。あり、が……と」

 

 

 

 目が覚めると、テントの中だった。

「いつの間に……どこで眠ったんだっけ?」

先ほど見た光景は夢だったのか、自問自答しながらテントから出ると眩しい日差しに一瞬目を細める。

「キバ湖……だよね」

彼女が知っているワイルドエリアの、比較的穏やかな場所だった。だが、彼女は直ぐに違和感を覚える。

「なに……何かが違う」

具体的に言えることはない、強いて言うならば空気が違うとでも言えばいいのだろうか。

「違うけど……知ってる?」

その答えを探すために、エンジンシティへの階段を急ぎ足で上る。息を切らして登り切ったその場所で、蒸気機関の音に迎えられる。

「……うそ」

 




読了ありがとうございました。

内容としてはムゲンシールドの方ですね、「」ウリから朽ちた盾を貰っているので。

いやぁ、ホープ君の光属性レベル高すぎて直視できないですね(アンデット並感

と言うわけで、次からは前書いた内容に合流していきまーす。


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ムゲン団編 第二話

「」ウリがリンドウたちの所にやってきたお話です。

ムゲン団、哀しい話でしたね……

救いはないんですか!? って感じになったので、

うちに来れば幸せになれそう?

という感じで始まりました。

キャラ崩壊、転生、色々オッケーな方はよろしくお願い致します。


 「ムゲン団って、知ってる?」

研究所に訪れると、ソニアが唐突に切り出してきた。リンドウはその言葉に、少し顔を顰める。

「最近良く出てくる奴らだろ? ムゲンダイナのエネルギーがどうのって……アレの所為でオリーブさんの機嫌が急転直下するから、俺嫌いなんだよなぁ」

エール団とは違った集団で、集まり自体はダイマックスエネルギーの有効活用、及びムゲンダイナの制御を目標にした団体である。基本的には、企業の枠組みを超えて、技術提供と円滑な事業進行の為の存在だったのだが。

「一部の暴走してる人間が、略奪行為や私利私欲の為に名前を利用している……ってことだな」

資料の纏めが終わったのか、紙の束をクリップで留めて、背筋を伸ばす運動をするホップ。

「良くも悪くも、ムゲンダイナの研究が進んでないってことだな」

その危険性から、チャンピオンが管理をする事で決まったのだが、どこの研究所もダイマックスについて研究するのであれば、喉から手が出るほどだ。

「……物騒なんだから、あんまり無茶しないでね、リンドウ」

ソニアが心配そうな目でリンドウを見つめる。その言葉にリンドウが答えようとした瞬間、端末から着信音が聞こえる。

「……オリーブさんだ」

嫌な予感がリンドウを襲う。

 

 どうやら、民間人に対して多数人でポケモンバトルを挑み、金銭を巻き上げられたという報告があった。それに対し、リンドウとホップは手分けしてその集団を追う。

「……どうか、ホップが見つけてくれますように」

エンジンシティの広場を抜け、裏路地に入ったところでそれらしい集団が目に入る。

「おうおうおう、こんなところで女の子一人だと危ないぜ? 護衛してやろうか?」

「勿論、有料でな。それとも、俺達とポケモンバトルでもするか?」

黒を基本とした服装に、特徴のあるマーク今まで遭遇したことのあるムゲン団と同じだ。なんとかバトルを回避して少女を助けられないかと思案していると、少女がモンスターボールからポケモンを繰り出した。

「……は?」

そこから現れたのは、ゴースト・ドラゴンタイプのドラパルドだった。少女の正面に居たはずのドラパルドは、瞬きの間に集団の背後に回り、咆哮を上げる。

「……私とポケモン勝負、する?」

その言葉に、腰を抜かして這々の体で逃げ出すムゲン団達。

「……はぁ」

少女が溜息をついて、ドラパルドをボールに戻す。歩き出すのは良いが、随分と足取りは重いようだ。

「あんた、強いんだな」

リンドウが少女に声を掛ける。

 

 少女と共に、カフェで一息をつける。

「いやぁ、助かったよ。おかげでムゲン団を名乗る馬鹿達も掴まったみたいだ」

そういうとリンドウは嬉しそうにコーヒーを口に運び、イエッサンにポケ豆を与える。

「私は……礼を言われるような事は、何も」

その声に、歓びはない。それどころか、喜怒哀楽の全てを置いてきたかのような表情だった。

「ははは、まぁ、俺が助かったのは事実なんだから、気持ちだけでも受け取ってくれ。ところで、かなりお洒落な格好だけど、もっと中央の方から来たのかな?」

偶にプライベートでもうっかり白衣を着そうになるソニアと違い、細部にアクセントをつけた衣服を着ている。流行というほど見かける訳ではないので、本人がかなり服飾にはこだわっているように見えた。

「……ハロンタウン」

その言葉に驚くリンドウ。良くも悪くも田舎のイメージの抜けない街の少女とは想像もつかなかった。

「そうか……マサルやホップ達と同じ出身か。年代も近そうだし、もしかし……」

言葉を言い終える前に、その少女がリンドウの襟首を掴む。

「ホップを……知ってるの?」

鬼気迫る表情に、リンドウは気圧される。

「まぁ、知ってるけど。お嬢さんはホップの知り合いなのか?」

リンドウの返事には答えない。複雑そうな事情があるようだが、何も語るつもりはないらしい。

「……」

手を放し、力なく座る少女。困惑し、どうすればいいのか考えていた所に、ホップが合流する。

「あ、リンドウ! ムゲン団達は警官に引き渡したぞ! あれ、そこにいるのは」

ホップの言葉に反応する少女、スカートを握りしめて奥歯を噛み締めるように体を強ばらせる。

「ユウリ! 久しぶりだな!」

 




読了ありがとうございました。

GW中は頑張ってアップしたい(願望

「」ウリちゃんには幸せになって欲しいンゴねぇ(適当

あ、あと、「この泥棒猫!」って言って欲しい(ゲス顔


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ムゲン団編 第三話

「」ウリちゃんがホップと会ったり、会わなかったりするお話です。

「」ウリちゃんとユウリちゃんの表記が時々で変わっていますが、そういうものだと思って下さい(後々修正するかも

いやぁ、「」ウリちゃんは可愛いなぁ……

転生、キャラ崩壊、オリジナル、幻覚etc……どんとこいな方はよろしくお願い致します。



 

 久しぶりの旧友との再会だったはずだが、ホップは足早に去って行く。

「悪い、まだ引き渡しの手続き終わってないんだ。ちょっと待っててくれ」

リンドウは走り去るホップを見送ると、ユウリと呼ばれた少女を見る。まるで放心したかのようにホップが去った方向を見続けている。

「……俺で良ければ、事情を聞くけど?」

その言葉に、はっと我に返るユウリ。数秒思考していたが、メモ帳に番号を書いてテーブルに置いた。

「っまた、連絡する!」

そういうと足早にカフェを後にしたユウリ。彼女の事情が全く分からないリンドウだったが、コーヒーを一口啜る。

「番号だけ渡されても、連絡出来ないだろ」

 

 戻ってきたホップには、ユウリは用事があるから出たと伝えた。

「まぁ、運が良ければまた会うんじゃないか?」

リンドウが話すと、ホップは露骨に残念そうにする。

「そっかぁ、まぁ忙しいなら仕方ないか」

ホップが言うには、ユウリはマサルやホップ達の幼なじみで、年齢は同じらしい。両親の都合で引っ越しをしていらい、連絡もつかなかったという。

「ガラルに戻ってきたなら、連絡ぐらいくれれば良いのにな! 次会ったらお帰りパーティだぞ!」

友人の帰郷に、臆面もなく歓びの表情を見せるホップ。

「……そうだな、折角だしマサルやダンテさんと一緒にお祝い出来れば良いな」

リンドウの言葉に、屈託のない笑みを浮かべるホップ。

 

 ホップと別れてから、躊躇う様子を見せているリンドウだが、決心して番号を入力する。

 プルルルル

コール音がしばらく鳴るが、出る気配がない。相手が電話に出ない理由を探してみても、リンドウには思い当たる節はない。

「……何故だ?」

気を取り直しで、もう一度掛けてみる。しかし、コール音がなるだけで出る気配はない。

「もう一回ならして駄目なら、放っておくか」

そう言って鳴らすと、少しの間があってから繋がる。

「……もしもし」

その声は間違いなくユウリの声だった。

「まさか、番号を間違えてるかと思ったが、そうじゃないみたいで安心したよ」

リンドウが溜息をつくと、彼女は言葉を発する。

「ホップは……私の事を何か言ってた?」

開口一番ホップの事を聞かれると、会話を出来ている自信がなくなってしまいそうだが、リンドウは律儀に答える。

「久しぶりの帰郷を祝いたいってさ。折角戻ってきたなら、連絡くらいくれれば良かったのにとも言ってたな」

その言葉に、安堵したような様子が伝わってくる。

「一応確認だが、ホップと直接連絡を取る気はないのか? 幼なじみなら……」

リンドウが言葉を言い終える前に、ユウリが遮る。

「駄目! まだ、ホップとは話せない……話したくない」

ユウリの言葉に疑問を抱きつつも、本人達の問題に介入するつもりもないのだろう。リンドウは彼女の言葉を肯定する。

「分かった、伝えないよ。連絡先を知ってることも伏せておく。ただ、君はとても強いトレーナーみたいだし、良かったらまたムゲン団が悪さをしていたら協力してくれないか?」

リンドウの誘いに数秒の間があったが、協力することには抵抗はないらしい。

「……分かった。また連絡してくれたら協力する」

その言葉を聞いて感謝を述べ、リンドウは通話を切った。

 

 数週間経った時、頻繁に発生するムゲン団の悪事にその都度ユウリは手伝いに応じていた。

「いや、本当に強いなユウリちゃん」

そもそも、ポケモンバトルはそれほど強くないリンドウは、一対一でも怪しいレベルだ。それに比べて、ユウリは相手が何人であろうと、ドラパルド一体でなぎ払っている。

「別に、強くても良いことなんて……」

そう呟くと、空腹を知らせる音が鳴る。恥ずかしげに顔を伏せたユウリにカレー屋に誘うリンドウ。

「助けて貰ってただなのも悪いから、カレーでも奢らせてくれないかな?」

恥ずかしげに頷いたユウリは、テーブル席に二人で座る。

「そういえば、どうして手伝ってくれるのか聞いても大丈夫?」

かねてからの疑問をリンドウが切り出す。カレーをスプーンで食べるのを止めて、口を開いた。

「ムゲン団は……知り合いが居るかも知れないんです。もしかしたら、と思って」

少し歯切れが悪い答えだったが、あまり深く追求はしないリンドウ。

「ホップが、ユウリちゃんのことを探してたけど、まだ会わないのかい?」

その言葉に、再び食事の手を止める。心なしか、スプーンを握る手が震えているように見えた。

「私も……会いたい。でも、怖いの。ホップに、否定されるかもしれないから」

ユウリは、喉の奥に何かものが詰まっているかのように、或いは嗚咽を吐き出すかのように言葉を紡いだ。彼女の言葉を聞きながら、静かにリンドウは頷いた。

 




読了ありがとうございました。

「」ウリちゃんはめんどくさい系女子だと思ってます(笑)

まぁ、数十年チャンピオンの座で孤独を拗らせたなら、多少はね?

無敗の敗北者……? 取り消せよ、その言葉!



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ムゲン団編 第四話

ユウリちゃんがポンコツだったり、新キャラが出てきたり、「」ウリちゃんがポンコツだったりする話です。

転生、キャラ崩壊、オリジナル、幻覚etc……どんとこいな方はよろしくお願い致します。


 リンドウは、ユウリについて考えていた。知っていることは、凄腕のトレーナーであること、ホップやマサル達との幼なじみであること、ムゲン団と関わりがあること、ホップに対して特別な感情を抱いていて、尚且つ複雑な事情を抱えて居るであろう、ということ。

「まぁ、分かんないな」

汽車で移動しながら、そう結論づけてブラッシータウンの駅を降りると、不思議な雰囲気の少女が奇妙なポーズで固まっていた。

「……ユウリちゃん、何してるの?」

溜息をつきながら、ユウリに声を掛ける。

「えっ、いや、その……何でもないです」

気まずそうに目をそらして、その場を去ろうとするが、リンドウは肩を掴んで捕まえる。

「こらこら、ホップに会いに来たんじゃないのかよ。幼なじみなんだし、ホップも会いたがっているし、研究所に行けば会えるぜ?」

リンドウとは顔を合わせず、気まずそうに顔を伏せたまま答える。

「……研究所には、行きたくない、です」

ユウリに対して、盛大に溜息をつくと、リンドウは端末をとりだして電話を掛ける。

「あ、ホップか? そうそう、今ブラッシータウン駅まで来てるんだけど……いや、ちょっと話があるんだけど、来てくれないか? それと、ソニアには内緒で出てきて欲しいんだ」

通話の向こうで、ホップの疑問の声がきこえていたが、無視して通話を切った。

「それじゃ、俺はお暇するから。じゃあな」

そう言って、リンドウは踵を返す。その場にユウリが残されるが、彼女は口をぱくぱくと開くだけで何も言葉を発することは出来なかったようだ。

 

 駅まで戻ってから、リンドウはソニアに電話を掛ける。

「もしもし、打ち合わせ場所を変えたいんだけど……ちょっと事情があってね」

リンドウの言葉に、少し違和感を覚えたみたいだが、ソニアは特に気にはしなかったようだ。

「ふーん、まぁ、丁度良いから良いけど。シュートシティのカフェに集合でも良い? なんか、会いたい人が居るって」

ソニアの言葉に同意をして、電話を切る。アーマーガアタクシーを手配してシュートシティに移動する。

 

 タイミングはリンドウの方が早かったらしく、待ち合わせのカフェに着くと黒髪を長く伸ばした女性と目が合う。

「……マリィが二十年もすれば、ああなりそうだな」

スレンダーなスタイルに、黒を基調とした服装、切れ長な眼が特徴的で、端的に言えば美人に当てはまるだろう。

「ん?」

その女性が立ち上がり、リンドウの方に向かってくる。

「貴方がリンドウさんですね、お会いできて光栄です」

そう話すと握手を交わす。

「失礼ですが、貴女は?」

リンドウが女性に尋ねると、良く通る声で彼女は答える。

「ムゲン団のセンジュと申します、どうぞお見知り置きを」

 

 ムゲン団と言うことに驚いたリンドウだが、ソニアと合流して話をしていると徐々に納得したようだ。

「つまり、暴れてるのは下っ端というか、末端で、貴女も困ってるってわけか。まぁ、それはそうだろうなぁ」

センジュの説明に納得しながら、話を先に進める。

「何度もご迷惑をおかけしていて申し訳ありません。貴方の活躍のおかげで大事に至らない事も多いのです」

再び感謝の言葉を述べるセンジュ。その言葉にソニアが答える。

「いやぁ、リンドウなら結構暇してるから、こき使っても大丈夫ですよ」

笑顔でそう答えるソニアに、リンドウは不審な顔を浮かべる。それは、ソニアに対してだったのか、凍て付くような雰囲気のセンジュに対してなのか。

「それで、本題に入って貰っても良いかな? お礼を言いに来ただけって事はないんじゃないか?」

そう言うと、センジュは頷く。

「はい、貴方と度々行動を共にしている少女についてお聞きしたいのです」

その言葉に、ソニアが首を傾げる。

「それって、ユウリちゃんのこと?」

何の関係が、というソニアの問いには答えない。

「……ユウリ、と呼ばれているのですね」

少し、考え込むようにセンジュは噛み締める。

「悪いけど、プライバシーを守れるくらいの常識はあるつもりでね」

リンドウはそういい放つと席を立つ。

「ちょ、ちょっと何処に行くの!?」

「帰るんだよ、キルクスシティの宿までな」

リンドウの後を追うようにソニアも席を立つ。センジュと呼ばれた女性は、去って行く二人を見つめていた。

 

 アーマーガアタクシーでキルクスシティに降りると、リンドウは周りを見渡す。宿とは真反対の方向に歩き出すと、動き出した影を幾つか見つける。

「早いなぁ、数は……五人ってところだな。まぁ、胡散臭い話でもあったし、そういうことなんだろうな」

そう呟くと、狭い路地へと歩いて行くリンドウ。歩いて数分しないうちに、先ほど会った女性に出くわした。

「あまり抵抗せずに話して頂ければありがたいのですが?」

そう言葉にしたセンジュは、周りを囲むムゲン団に指示を出せるようだ。

「はいはい、俺もユウリとあんたらの関係について聞きたかったからな。そんなにぼこぼこにされたのが気に食わなかったのか?」

リンドウの言葉に、センジュは首を横に振る。

「彼女は、ムゲン団にとって必要不可欠な存在です。それこそ末端の不始末を処理して頂いていることに感謝しているというのは、嘘ではないので」

リンドウはセンジュの言葉に嘘はないと思ったのだろう、会話を続ける。

「彼女でなければ、ムゲンダイマックスを制御することは出来ない。ムゲン団は彼女を探すために結成されたと言っても過言ではないのですから」

センジュの言葉に嘘はなくても、リンドウは感情がこもっているとは思えなかった。

「そう言われてもね、あいつは今幼なじみとお話ししてるところでね。無粋な真似はしたくないのさ」

 

 「……ユウリじゃないか」

呼ばれて急いで出てきたのだろう。額に汗を浮かべて、少し服装が乱れているようにも見える。周りを見渡す素振りをして、目的の人物が居ないことを確認する。

「久しぶりだな! 元気か? ごめんな、リンドウに呼ばれてきたんだけど、見なかったか?」

ホップの言葉に少し迷って、ユウリは答える。

「リンドウは、急に用事が出来たって……ホップに伝えてくれ、って言われた」

ユウリの言葉にホップは溜息をついて、大げさに肩を落とした。

「はぁ、人を呼び出しておいてそれはないんだぞ……」

そうしていると、ホップが違和感を覚える。どうやら、モンスターボールが揺れているようだ。

「どうした、バイウールー?」

外に出たがっているようで、スイッチを押して外に出すと、バイウールーはユウリに近づいていく。

「えっ……」

突然の出来事にユウリは動くことができなかった。バイウールーはユウリのモンスターボールに触れ、起動させてしまう。

「めぇええ」

ユウリが起きたことに気付くまで、一瞬の間があった。出てきたのはウールー、首に変わらずの石をぶら下げている。見た目は生まれたばかりのようにも見えるし、当然育てられている様には見えない。

「あっ……」

慌ててモンスターボールに戻そうとするが、一番知られたくない人間に、それを知られてしまった。

「……ユウリ、それって」

 




読了ありがとうございました。

ソニアも結構中心人物なのに全然出てこないな!?

まぁ、「」ウリちゃんと絡むとドロドロするし……仕方ないか。

いいから、ユウホプだ!(集中線


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ムゲン団 第五話

「」ウリの回想のお話です。

五匹目? 六匹目? のウールーについて、ちょこちょこと触れてます。

実は、剣盾2はエアプ勢なんですよね……

まぁ、それでも愛があれば二次創作(三次創作)してもいいよね!

転生、キャラ崩壊、オリジナル、幻覚etc……どんとこいな方はよろしくお願い致します。


 それはまだ、「」ウリがチャンピオンなってあまり時間が経っていない頃。

「はぁ、チャンピオンって結構忙しいのね」

様々な行事に引っ張りだこになり、ジムリーダー以外の知人に会う時間が少なくなった。殆どの人が年上なのもあり、マリィとの交流だけが癒やしとなっている。

「折角ハロンタウンまで戻っても、ホップはソニアさんとフィールドワークだし」

その日何度目かも分からない溜息を溢した「」ウリの前に現れたのは、一匹のウールーだった。

「めぇ?」

野生で出てきたウールーに、ホップのポケモンを重ねる。

「ふふっ、ここで出会ったのも何かの縁かもね」

 

 「今回の防衛線も、チャンピオンの圧勝でしたね! 無敗の絶対強者、「」ウリ!」

これで何度目だっただろうか、トーナメントを勝ち上がってきたチャレンジャーを打ちのめす。毎年来るトレーナーも居れば、新顔がいることもある。だがしかし、いつの時からかダイマックスを使う事すらなくなった。

「いやぁ、まさに圧勝でしたね。手持ちの三匹までで完勝! どうですか?」

インタビュアーが「」ウリに感想を求める。

「年々チャレンジャーの質は上がっていると思います。全体的に去年よりもレベルは……高くなっているかと」

だが、彼らが強くなるスピードよりも、「」ウリが強くなるスピードが速すぎる。最早、彼女と対等に闘えるトレーナーは、ガラル地方を探しても存在しないのかも知れない。

 

 自室に戻ると、モンスターボールからウールーが飛び出る。

「めぇ」

捕まえた時と変わらない姿に、荒んだ心に柔らかい風を吹き込んでくれる。

「ねぇ、今年もホップは来てくれなかったよ」

ウールーを抱きしめながら、「」ウリは呟く。ある年を境に、ホップはトーナメントに参加しなくなったのだ。博士号の研究が忙しくなり、多忙を極めているのだから、仕方のないことなのだろう。その時、自室の端末にメールが届いていることに「」ウリが気付く。

『チャンピオン防衛おめでとう!』

そのタイトルを目にして、少し気分が落ち込んだが、差出人がホップなので期待を膨らませて端末を操作する。

「……え?」

そこに添付されていたファイルを開くと、ホップとソニアが仲よさそうに写っている写真だった。

「ど、うい……うこと?」

いつものような、近況報告と最後に付け加えられている文章に、「」ウリは端末をなぎ払う。頭を抱えて髪を掻き毟る。耳に響く甲高い音が、自分の絶叫だと気付くのさえ時間が掛かった。

『ソニアと結婚することが決まったんだ! 「」ウリは絶対式に来てくれよな!』

「」ウリの目の前が真っ白になる。

 

 それ以来、ウールーに変わらずの石を持たせている。特訓も何もしていないので持っている意味などないはずだが、態々外すこともない。なぜなら、モンスターボールから出すこともしないからだ。

「……」

いなくなったホップの姿を幻視して、捕まえたポケモン。

「……」

今では、目にするだけで吐き気を催すほど、悪夢の象徴になった。

「……」

だが、手放すことは出来ない。なぜなら、彼との繋がりが本当に切れてしまうように感じるからだ。

「……」

居なくなれば、失う。そばにあるだけでも、胸を痛めつける。どうにも行かない袋小路の中で、少しだけ痛みを和らげてくれるのは、ポケモンバトルだけだった。

『チャンピオンの入場です!』

歓声に迎え入れられて、「」ウリは歩を進める。無敗のチャンピオン、歴代最強、トレーナーとしての最高の肩書きを手に入れた彼女の手の平には、何も残っていなかった。

 

 「……あっ」

「」ウリの執着の象徴、過ちを現すそれを見られることに、「」ウリの顔色が一気に青ざめる。

「……ユウリ、それって」

「」ウリは弁明の言葉を探す、彼に知られてはいけない自分の汚点を、憎しみ、嫌悪、嫉妬の象徴を、見られたくはなかった。

「ウールー! 捕まえたんだな! 嬉しいなぁ、同じポケモンを育ててるんだな!」

嬉しそうにホップがウールーを抱え上げる。ウールーは親しげに抱き上げるホップに歓びの表情を浮かべている。

「あっ、俺もウールーを育てているんだぞ? もうバイウールーに進化したけどな」

そういうと、ウールーを持ち上げたり、抱きしめたりと楽しそうにじゃれ合う。まだ捕まえたばかりだと、ホップは育ち具合をみて呟いた。

「ウールーのことなら、俺に聞いてくれよな! 俺の相棒だから、なんだって分かるぞ!」

天真爛漫な笑みをユウリに向ける。彼の言葉に、行動に嘘はない。

「……うん」

奥歯を噛み締めて、涙を堪える。どうして、ホップを信じる事が出来なかったのか、あの時に全て自分の気持ちを伝えていれば、何か変わったかも知れないのに。

「そうだ、リンドウから聞いたんだけど、バトルすっごい強いんだな!」

ホップの言葉に曖昧に頷くユウリ。あまり、ホップからバトルのことは聞かれたくないのかも知れない。

「今は研究の勉強してるけど、俺もチャンピオンを諦めた訳じゃないぞ! 博士でチャンピオン、かっこいいだろ!?」

照れくさそうに笑うホップ。鼻を掻く仕草も、あの時と変わらない。

「ガラルに戻ってきたなら、ユウリもチャンピオン目指すよな?」

ホップの言葉が、「」ウリの記憶を呼び覚まさせる。かつての輝かしい記憶を。

「鍛えあって、二人でチャンピオンをめざすぞ!」

ユウリの瞳に涙が溢れる。いつでも忘れることはなかった、自分がトレーナーを初めて、冒険をする切っ掛けをくれた言葉が、蘇る。

「……いっしょに?」

あの時と同じ言葉を紡ぐ。涙で前が滲んでまともに前も向けない。だけど、ホップの姿は鮮明に彼女の瞳に映っている。

「一緒に!」

 




読了ありがとうございました。

冒頭で触れたとおり、未だに剣盾2購入できていません。

色々とネットで調べて楽しみにはしているのですが……

店頭では売ってないしなぁ、忙しくて発売見逃したのがなぁ……

皆さんは既にプレイしましたか?(グルグル目


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ムゲン団編 第六話

「」ウリの過去話が中心になります。

剣盾2の世界では詳細に書かれていなかった(調査不足かも知れませんが)チャンピオン時代のジムリーダーとのやりとりが書きたかっただけです(笑)

転生、キャラ崩壊、オリジナル、幻覚etc……どんとこいな方はよろしくお願い致します。


 リンドウの言葉に、センジュの様子が一変する。或いは期待、動揺だったのかも知れない。

「幼なじみとは……ホップ博士か?」

慎重に探るような会話に、リンドウは訝しんだ。だが、相手の意図が分からない。

「博士なんて呼ばれる程じゃないだろう」

いずれ、ホップならなれるかも知れないが、今はまだ駆け出しも良いところだ。センジュは思案し、リンドウを囲んでいるムゲン団に指示を出す。

「状況が変わった、お前達は戻れ」

その言葉に困惑しつつも、ムゲン団は離れて行く。

「状況が変わったって、どういうことだよ」

リンドウが気を抜いてセンジュに話しかける。

「……「」ウリが、この世界でホップはか、いやまだ博士じゃないんだったか。彼と共に生きられるのならば……邪魔をすることは、ムゲン団の本意ではない」

その表情は複雑ではあったが、喜んでいるようにも見える。

「俺にも分かるように教えて貰えるか?」

リンドウの言葉に、センジュが少し考え込んでから答える。

「ムゲン団への協力が条件だ。それで全て話そう……とはいえ、直ぐに信じて貰えるとは思えないが」

リンドウはセンジュの提案に首を縦に振る。

「表向きの理由だけなら、断る理由はないしな」

 

 場所を少し変えて、リンドウの借りてる部屋に案内する。

「……なんで俺の部屋なんだよ?」

リンドウのその問いにセンジュが万が一にも他人に聞かれる訳にはいかない、と答えた。

「どこから話そうか……ここではない世界、私達が生まれた世界について」

勝手にベッドに腰を下ろすセンジュ、最早彼女に訂正をする事も面倒になったのか、リンドウは諦めた表情で座る。

「そうだな、始めに伝えておかないといけないことがあったか……私の本当の名前は、マリィだ」

リンドウが、驚愕の表情で椅子から落ちる。

 

 ホップとソニアの結婚式、それはハロンタウンにて行われた。決して大きな式場ではなかったか、知人、親類が大勢集まり、その中には、ダンデは勿論、ジムリーダーであるルリナやマリィも集まり、そして「」ウリの姿もあった。

「ホップ、おめでとう」

そう言って新郎の姿を見送る「」ウリの姿に違和感を覚えたのは、チャンピオンになってから長い時間を共に過ごしたマリィだけだったのかも知れない。

 

 「「」ウリ、大丈夫と?」

心配になったマリィが、「」ウリに声を掛ける。一見すれば普段と何も変わらない、マリィ自身も見間違いかも知れないと思っていたのだろう。

「……大丈夫だよ、マリィ」

哀しく笑う彼女に、今更になってチャンピオンという重責が本音を押しとどめていることに気付かされた。

「「」ウリ」

泣いて良いよ、辛いと言って良いと、言えなかった。ガラルの希望で有り、憧れであり、何よりも彼女の思い人が目指し、憧れ、今なお輝き続けている聖域を、彼女自身が汚すことは願わない。

「……私は、そばにおるけん。ずっと、ずっと……」

マリィの手を握る「」ウリの手は、微かに震えていた。

 

 ホップの結婚を過ぎても尚、強くなり続ける「」ウリの元に、メールが届く。

「ローズ委員長?」

最初は彼の名を騙る偽物かと思ったが、内容を見る限り本物のようだ。

「……ムゲン団、結成?」

アーマーガアタクシーに行き先を告げて、ローズ委員長がいるバウタウンのシーフードレストランへと訪れる。

「お待ちしておりました、チャンピオン」

そう言われてウェイターに案内されると窓際に座るローズ委員長の向かいの席に案内される。

「お久しぶりです、チャンピオン。随分と……いや、相変わらずお綺麗なままですね」

「」ウリの姿を見て驚いた様子を見せたのは、恐らく何年も経っているのに、チャンピオンになった当時の姿のままだったことだろう。

「今更貴方から連絡があるとは思ってませんでした。ムゲン団なんてうさんくさいもの、何のために?」

席に着いた「」ウリに少し皺の数が増えたローズは、昔と変わらないトーンで語る。

「何の為? それは勿論、貴女の為ですよ、チャンピオン。叶わなかった願い、それを手にするための集団。そのついでに、私の目的がある」

ローズの言葉に、眉をひそめる「」ウリ。

「まず第一に、ムゲンダイナの力が必要なのです。それもムゲンダイマックスを操れるだけのトレーナーの力も。ねがい石には元々人の願いを叶える力がある、それにムゲンダイマックスの力を加えれば、叶わない願いは存在しない」

ローズが真剣に語るその姿に、「」ウリは呆れる。

「そんなものは、ゆめまぼろしでしょう?」

「」ウリの言葉にローズは頷き、そしてこう答える。

「そう、その夢幻の中に、貴女の願いがある。違いますか?」

 

 「」ウリが、スパイクタウンのマリィの部屋を尋ねる。

「何の用? 「」ウリも暇じゃなかとね」

チャンピオンは多忙を極める。先代チャンピオンのダンデも故郷に帰る時間も殆ど取れないほどだったのだから、「」ウリもそう変わらないはずだ。

「マリィ、貴女にも協力して欲しいの」

ムゲン団について「」ウリから語られる。

「……「」ウリ、正気っちゃ? そんな夢みたいな事」

「」ウリの真剣な表情が、本気である事を示していた。いや、思い詰めていたと言っても良い。

「「」ウリのやりたい様にすればよかと……それに私もついていくけん」

マリィが優しい笑みで答える。「」ウリに必要なものは、現実を知らせる厳しさではなく、寄り添う優しさだと信じて。

 

 バトルタワーの頂上で、ダンデとマリィが会話をしている。

「バトルタワーに、研究施設を? ムゲンダイナの研究……か」

マリィの説明を受けて、ダンデが考え込む。

「いや、他ならぬ「」ウリの頼みだ。断る理由はない」

そう呟いたダンデが、それとは別に「」ウリの事を心配している様だ。

「「」ウリもチャンピオンの前に一人の女性です。悩み事の一つや二つ、あってもおかしくないでしょう。私達はSOSに気付いた時に手助けすれば……良いと思います」

マリィの言葉に、ダンデは頷いて協力を選んだ。せわしないバトルタワーの仕事に戻り姿を消した元チャンピオンの背中に呟く。

「私達は何度、彼女のSOSを……見逃しとったんやろね?」

 

 部屋の外から、騒ぎ声が聞こえる。どうやら誰かが、無理矢理チャンピオンに会いに来たらしい。熱心なファンか逆上した者か、どちらにせよ途中で止められるか、チャンピオンに撃退されるのだが、今回は例外だった。

「「」ウリ! 何のつもりだ!?」

飛び込んできたのは、かのドラゴン使いキバナだった。

「こっちとしては、急に怒鳴り込んできたことに『何のつもり』か聞きたいけど?」

目も合わせようとしないチャンピオンに、怒りの声を浴びせる。

「ムゲン団のことだ! あんなものに、何でお前が関わっているんだよ!?」

キバナのあんなもの呼ばわりに、「」ウリは渇いた笑いを浮かべる。

「ねぇキバナ、最近調子悪いみたいだね……理由、当ててみようか?」

その言葉にキバナは苦虫を噛み潰した様な表情になる。確かに、新しくジムリーダーになったマリィやビートに順位を抜かれ、かつての栄光に陰りが見えていた。

「それが今、何の関係がある?」

「」ウリがキバナに向き合い、一言だけ囁く。

「私じゃ、ダンデの代わりにならなかったでしょ?」

キバナが目を見開く、「」ウリがチャンピオンになった次の年はまだ良かった。ダンデを下した新チャンピオン、それを倒せば自分がダンデに勝てる事を証明出来ると考えていたからだ。だが、年々下がっていくモチベーションに気付くのにそう時間は必要なかった。

「……確かに、未練がないとは言わねぇ。だが、それは過ぎた話じゃねえか」

無敗のチャンピオンダンデは、その席を明け渡した。そればかりか、目の前の少女に幾度となく敗北している。その事実が、キバナを苦しめている。

「私のチャンピオンタイムに、掛けてみない?」

「」ウリの言葉は、甘く、喉に刺さる様な毒薬だった。

 

 アラベスクタウンのジムで、ビートと話す「」ウリ。

「うん、ビートの紅茶は美味しいね」

お茶請けのスコーンを楽しみながら、いつもの様にうんざりした顔で、ビートが呟く。

「僕は喫茶店を始めたつもりはないんですがね?」

「」ウリはその言葉を聞き流し、紅茶とお茶菓子を完食する。

「それで、この前の話……考えてくれた?」

「」ウリの言葉に、ビートは即答する。

「お断りします。ジムリーダーになる前であれば……考えたかも知れませんが」

とりつく島もない返答に、少し満足げな表情をする「」ウリ。

「一応、理由を聞いても良い?」

ビートは盛大に溜息をつき、答えるまで時間がかかった。

「……それはピンクじゃないからですよ。それで充分でしょう?」

「」ウリは嬉しそうに微笑む。

「そうだね、アラベスクタウンのジムリーダーはそうじゃなくちゃ」

そう呟いた「」ウリは、席を立つ。

「ビートは、変わったね」

離れて行く「」ウリに、ビートが話す。

「人間は自分から変わるなんて出来ないんです。変わるほどの何かと出会えるかどうか、なんですよ。僕も貴女も、変わるしかなかった……違いますか?」

未来に進む彼に、過去に留まり続ける少女。この二人に何の違いがあったのか。

「私は……変わらないよ」

 




読了ありがとうございました。

外出自粛中なのでGW中は殆どこのムゲン団の三次小説に費やしました(隙自語

皆様はどうやって長期休暇を過ごされましたか?

……え、休暇がない?

この時期でも仕事があるのは素晴らしいですね(目逸らし


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ムゲン団編 第七話

「」ウリとセンジュがとうごとう合流します!

……おかしい、GW中に終わるぐらいの内容だろうなぁ、って始めたのに。

終わりがみえないぞ!?

あ、キバナさんの出番はないです(ナイデス

転生、キャラ崩壊、オリジナル、幻覚etc……どんとこいな方はよろしくお願い致します。


 リンドウは、額を抑えて唸る。荒唐無稽な異世界の話に、そこから飛んできた人間の話を理解しろと言う方が難しい。

「そんな与太話を信じろってか?」

マリィと名乗る女性は首を横に振る。

「私も、現状を全て理解している訳ではないのです。ただ、私が分かる範囲で起こったことを整理すると……此処が私達の居た世界と少し違う異世界だと」

だからこそ、「」ウリを探す必要があった。いや、マリィにとって「」ウリがこの世界に存在するかどうかは、命題に等しかったからだ。

「その為のムゲン団、っていうことか。なんというか、信じられないなぁ」

少し残念そうに頷くマリィ、それは仕方のないことだと肯定する。

「分かった、そういうことにしておこう!」

リンドウが結論を下すと、マリィは驚く。

「信じるのですか?」

その言葉に、リンドウは顰め面をする。

「全部はちょっと難しいけどなぁ。それでも、今のところそれでユウリとアンタの変な行動は説明できるからな」

間違ってると分かった時点で考え直せば良い、そう語るリンドウ。

「……貴方が私達の世界にいてくれたなら」

何か変わったのかも知れない、そう呟いたが、リンドウが否定する。

「俺が居たから、二人はこの世界にきたんだろ?」

その言葉の後に、盛大に溜息をつくリンドウ。その面倒ごとは、他の誰にも話せそうにもない、と。

「……ええ、きっと。そういうことやけんね」

 

 翌朝、ユウリに連絡を取ったリンドウが二人を引き合わせる。

「マリィ!?」

「「」ウリ様! よく……ご無事で」

涙を流しながら、二人は抱きしめ合う。お互いがお互いの存在を確かめ合う様に。

「よかった、あの時ムゲンタワーにいたから……マリィも巻き込まれてたんだね」

涙ながらに喜ぶ「」ウリは、姿相応の少女の笑みだった。

「はい、他の団員はほとんど脱出しましたが……私を含めて何人かは崩落に巻き込まれたようです。それよりも、本当に……無事で良かった、「」ウリ」

そうして、互いの無事を一通り喜び合うと、マリィが尋ねる。

「それで、ホップ博士とは……上手くいったのですか?」

まじまじと「」ウリを見つめるマリィは、期待を込めた表情になる。

「う、うん……ちゃんと、お話しできたよ。また、またね! 一緒にチャンピオンになろう、って、ホップがね……言ってくれたんだ」

どこか気恥ずかしそうに「」ウリが答え、マリィは真剣に頷いて聞いて居る。リンドウは、本来なら年齢は自分より上のはずだが、見た目と違和感のない幼さに困惑している様だ。

「なんと……ホップ博士とまた約束を」

あふれ出る涙を抑えきれないマリィに、戸惑いを隠せないリンドウ。

「あ、どうぞ、続けて下さい」

一瞬退出しようとしたリンドウが、「」ウリに呼び止められる。

「ありがとうリンドウ、貴方のおかげで、ホップと会うことが出来た。何かお礼をさせて欲しいの」

少女の微笑みは、心のそこからの歓びだったに違いない。

「そうですね、リンドウさんにはこれからも頑張って頂きたいですし、全面的に支援させて頂きます」

マリィの言葉に、リンドウは疑問を抱く。

「これからも、って……なにをだ?」

「」ウリとマリィが一瞬目を合わせて、「」ウリが言葉を放つ。

「泥棒猫のお目付役」

「そういうとこやぞ」

普段の笑みで言い放つ辺りが、冗談かどうかが分かりづらい。

「それと、ムゲン団も続けていこうと思うの。異世界に来たとはいえ、ムゲンダイナもいるし、有効活用するのに私達の知識は無駄にはならないはずよ」

勿論、リンドウのいる組織に全面的に協力すると付け加える。

「分かった、分かったよ。俺もユウリの事を応援する。色々手伝って貰った恩もあるしな」

リンドウが呟いて、マリィに向き合う。

「それと、あんたも折角この世界に来たんだし、楽しんでいったらどうだ?」

その言葉にマリィは驚き、「」ウリの方を一度見る。「」ウリは満面の笑みを浮かべている。

「そう、ですね。マリィではなく、センジュとして、これからも「」ウリ様と行動していきます」

 




読了ありがとうございました。

大体五~七話くらいかなぁ、って思ってたんですよ最初はね。

進むのが遅いから一五〇〇字で一話でも大丈夫かなぁ、ってね。

十話で終わるか? 微妙な所です。

(「」ウリちゃんの瞳を)曇らせコラ! 曇らせコラ!



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ムゲン団編 第八話

さぁ、ワイルドエリアでキャンプだ!(緊急事態宣言延長

俺もなぁ、キャンプとか行ってくれる子がいたらなぁ(白目

久しぶりにソニアさんが出ます(小声


 ブラッシータウンの研究所の玄関にノックの音が響く。

「開いてるぞー」

ホップの声が、外まで響く。少し軋む音を立てて開くと、リンドウの姿があった。

「フィールドワークの準備、出来たぞ」

キャンプの用具や、食材を持ちやすく纏めた物を二人分、片方は少なめなので女性用だろう。

「……そこまで準備して貰ってるのか」

少し呆れた表情でホップが呟くと、研究所の奥から声が響いた。

「あれー、リンドウ。もう来てたの!?」

いつもの白衣姿でリンドウを出迎える。フィールドワークに出かけるまで少し時間が掛かりそうだ。

「まぁ、一応依頼で準備してるからなぁ。貰ってる分は働かないとな」

ソニアのフィールドワーク同行は、ポケジョブを介して行われている。とはいえ、最低限の賃金と必要経費のみだが。

「そうよ、リンドウにはちゃんとして貰わないと困るんだからね」

自信満々に胸を張るソニア。それと同時に愚痴もこぼす。

「ホップが来てくれるんだったら、リンドウは必要ないんだけどねー」

助手なのにねー、と嫌みのようにホップを見るソニアに、ホップも少し罪悪感を持っているのか、困った表情をしている。

「んじゃ、ホップと行くか?」

リンドウが尋ねると、ソニアが首を横に振る。

「もー、そういう話じゃないって」

要するに、付き合いの悪い助手に嫌味を言いたかっただけなのだろう。

「俺もフィールドワークは行きたいんだけどなぁ……今日はリンドウに任せるぞ」

研究者の卵としては、ワイルドエリアの生態系や遺跡を調べるのは是非とも行きたいところだろうが、彼には先約がある。

「またユウリちゃんとデートでしょ? ホップも隅に置けないんだからね」

ソニアが意地悪そうに笑うと、ホップは否定する。

「違うぞ、次のリーグに向けての特訓なんだからな!」

少し頬を染めている様に見えるのは、やはり年頃ということだろうか。

「……え、ユウリちゃんに教えて貰ってるのか?」

リンドウが少し驚いた様子で尋ねる。

「そうだぞ? ユウリはポケモンバトルはめちゃくちゃ強いからな!」

リンドウの疑問に、ソニアが首を傾げる。ホップがしばしばユウリと出かけていること自体は、リンドウも知っているはずだからだ。

「強いなんてものじゃないだろ、俺からみたらダンデさんやマサルレベルだぞ? アレに着いていくなんて、並大抵じゃないだろ……」

彼女のポケモンバトルの腕は、最早チャンピオンレベルだと噂されている。公にバトルをすることは殆どないのだが、彼女の知名度もあがり、ファンクラブもあるほどだという。

「望むところ、だぞ!」

 

 ナックルシティでワイルドエリアに入る準備をするホップ、そこで町並みを見上げると広告塔に大きくムゲン団とユウリの姿が映し出されている。

『無限の未来へ はばたこう』

ムゲン団は、短い期間で急成長した。それはユウリが中心になってからである。幼い容姿でありながらも、高いファッションセンスと軽いフットワーク、マクロコスモスの協力もあって老若男女問わずガラル地方で人気である。

「ねーねー、ムゲンニュース見た?」

「ユウリちゃんのファッションチェックだけ見た」

「チャンピオンとどっちが強いのかな?」

「流石にチャンピオンじゃねぇかなぁ」

「ダンデさんにホップ君、ユウリちゃんにチャンピオン……来年のジムリーグは見逃せないな!」

街行く人々の話題にも、ユウリで持ちきりだ。ホップは自分のポケモンの体調を確認し、回復やキャンプ道具をチェックし終えると、ナックル丘陵に降っていく。

 

 ナックル丘陵を降り、巨人の帽子の辺りで見知った人影を見つける。ホップが手を振ると人影が手を振り近づいてくる。

「ホップ君!」

ユウリが近づいてホップの腕を掴んで引っ張っていく。

「えっ、ユウリ!?」

まるで主人の帰りを待ちきれない子猫の様で、それだけホップとの特訓を心待ちにしていたのだろう。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 先に食事にしよう」

このまま彼女に引っ張られるままではきっと、げきりんの湖のど真ん中で体力が尽きるまで野生のポケモンと闘わせられることになる。

 

 ユウリが嬉しそうに皿にご飯をよそい、そこにカレーを流し込んでいく。

「もう、そんなにお腹すかせていたんだね」

鼻歌交じりでユウリがカレーを作るが、手際の良さはまるで熟練のそれだ。

「それじゃ、いただきます」

スプーンを持ち、両手を前に合わせて感謝の気持ちを表す。ホップがカレーを食べている姿を嬉しそうに眺めるユウリが尋ねる。

「おいしい?」

ホップはその問いに、勿論美味しいと答える。

「えへへ、よかった」

そう言ってユウリが自分の分のカレーを口に運ぶと、ホップが会話を続ける。

「ユウリのカレーは甘口なんだな」

ぴくり

その言葉に、一瞬だけ止まった。ユウリが作ったカレーは、確かに果実や蜂蜜を使用しているので、食べやすくまろやかだ。それに合わせてルーも甘めのものを選択しているが、食べ進めて行くにつれてスパイスも感じるよく作り込まれているカレーだが。

「ソニアのカレーは、ピリッとスパイスが利いているんだぞ。そっちのカレーも俺は好きだな」

どうしてそんなことをいうの

ユウリが喉の手前まで出てきた言葉を呑み込む。ホップは自分の味の好みを語っただけなのだ。例えそれが作り手を傷つけるとしても、本人が意図して放った言葉ではない。

「そう……なんだ」

ホップはいつもと変わらない、純真な笑みで語る。

「今度は一緒に作ろう! 俺も材料を準備するぞ!」

ユウリは、微笑みを返す。

 

 ワイルドエリアの端、古びた遺跡の前にテントを張っている。

「はい、干パン」

リンドウがソニアに渡すと、露骨に嫌な顔をする。

「はっ、何で干パンなの? 私カレーが食べたい」

ソニアの反応に聞く耳を持たないといった様子で、食事の準備を進めるリンドウ。

「湖周りならまだしも、乾燥地域で米炊くとか馬鹿なんですか。そんな量の水持ってきてないです」

文句を一通りソニアが呟いた後、干パンと水に口をつける。

「ん、干パンも美味しいじゃん」

テントに明かりをつけ、夜に向けて準備をしていく。

「ねぇ、私ユウリちゃんに嫌われているのかな?」

ソニアの唐突な質問に、危うくランプを転がしかけるリンドウ。

「……いきなり何だよ?」

ソニアも一通り観測機器の準備を終えたのか、最終チェックを惰性で行っている様子だ。

「いや、ホップがちょくちょく会いに行ってるし、リンドウも結構顔を合わせてるみたいだけど……私だけ会ったことないって、おかしくないかなぁ、って」

ソニアの言葉に、リンドウは返す言葉もない。

「ムゲン団の広告とか見てると、めっちゃ可愛いし、会ってみたいなー……なんちゃって」

そういうソニアは、真剣にリンドウを見つめる。それに対してリンドウは目をそらして口を紡ぐ。

「何か、理由があるみたい……だね」

ソニアの溜息が、夜のワイルドエリアに消えていく。最初はちょっとした疑問だったのかもしれないが、リンドウの反応で確信に変わった様だ。

「悪いけど、俺は会わない方が良いと思う。事情は人から聞いた程度だけど、な」

歯切れの悪い答えに、ソニアはただ笑って返した。

「そっか」

 




読了ありがとうございました。

曇らせコラ!曇らせコラ!

という訳で、これからも「」ウリちゃんとムゲン団の話は続きます。


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ムゲン団 第九話

ムゲン団再結成のお話です。

ローズ委員長が出てきたりします。


 センジュが手配したアーマーガアタクシーで、ガラル地方の端まで移動する。着いた場所には、何人かの警備員がいた。

「ふーん、こんな所にいるんだね」

「」ウリが呟きながら進む。センジュが事前に手配していたため、彼のところに辿り着くまで然程時間は必要としなかった。

「……やぁ、まさか君の方から尋ねてくるとは思っていませんでしたよ、ユウリさん」

椅子に深く腰掛けているのは、ローズだ。

「よかった、私の名前くらいは知ってくれてたんだ」

いつもの微笑みで、ローズの対面に座る。

「勿論、今ガラル中で話題ですよ。ファッションのカリスマ、チャンピオンに匹敵するポケモントレーナー、ムゲン団のリーダー……実に興味深い」

そういうと、「」ウリは、ローズの言葉もそこそこに切り出す。

「情報収集を怠る間抜けではなさそうだね。センジュ、資料を渡して」

センジュが準備していた紙束をローズに手渡す。その内の一つに目を通すと、ローズが目の色を変える。

「ムゲンシステム、これを……貴女が?」

最初と変わらぬ表情で、「」ウリが囁く。

「私なら、ムゲンダイナを使いこなせる。今度は……実現してみせる」

 

 スパイクタウンで、マサルとマリィがカレーを口に運ぶ。多忙を極めるチャンピオンと食事をするのも、綿密に予定をすりあわせなければ出来ない。その為、この日を期待していたマリィだが。

「どうしたん、その傷」

頬に着いた絆創膏を見て、心配する。

「ん、バトルに負けた」

へぇ、と気の抜けた返事をしたマリィ。だが、その後に驚愕する。

「マサルが? 負けた!? 誰に!??」

食事をそっちのけにして、マサルに問いただす。

「負けたって言っても、三匹縛りだから、正式なポケモンバトルじゃないけどね」

マリィの焦燥に気付いていないのか、食事を続けながらマサルが言葉を続ける。

「ユウリ、やっぱり強かったな」

 

 マサルのゴリランダーをユウリのエースバーンが倒す。マサルの手持ちは三体目、ユウリはまだ二体目だ。

「……マジか」

マサルは、起きたことを信じられない、と言った表情だ。

「うん、中々強かったね。後十年もすれば、負けちゃうかも知れないなぁ」

バトルを終えたエースバーンに労いの言葉を掛ける。そもそも闘える手持ちが三体しかいないから、正式なバトルだと厳しいかな、とユウリは付け加える。

「それじゃ、約束。ムゲンダイナを見せてくれる?」

その言葉に、マサルは頷いた。

「ただし、俺もしっかり制御出来る訳じゃないからな……気をつけるんだぞ?」

そういうと、モンスターボールを操作し、光があふれ出す。赤黒く輝くその体は、幾万年前に存在した、竜の骨格のようにも見える。あふれ出すエネルギーが、その巨体を更に大きく見せる。

「……え?」

だが、マサルを驚愕させたのは、ムゲンダイナがユウリに懐いている事だった。マサルにも見せない表情をユウリに見せていることに、ユウリというポケモントレーナーの異常さをうかがわせる。

「おかえり、ムゲンダイナ」

 

 「それで、ムゲンダイナを渡したっちゃ!?」

マサルがカレーを食べ終えた皿にスプーンを置き、首を縦に振る。

「……信じられんと」

自分の捕まえたポケモンを渡すことは、本来あり得ない。余程親しい仲か、自分の子供にでもない限りない。ましてや、伝説と呼ばれる様なポケモンを手渡す等、前代未聞だろう。

「まぁ、俺が持ってても役者不足というか、暴れたりない……じゃないな。ムゲンダイナ自身が、バトルしたがる性格でもなかったしな」

年中バトルのことしか考えていないマサルとは、相性が合わなかったのかも知れない。ムゲンダイナの強大すぎる力は、一般トレーナーとのバトルに使える様な物ではなかったからだ。

「マサルでも勝てないって……本当に何者?」

 

 ワイルドエリアは、その日は砂嵐で視界が極端に悪く、熟練のトレーナー以外は予定を切り上げるか、外出を控える様な天候だった。

「ん~、まぁホップなら大丈夫かなぁ?」

少し気の抜けた声で人を待っているのは、ユウリだ。本来であれば、テントを張って砂嵐が過ぎるのを待つか、安全な所に避難するのだろうが、彼女はまるで散歩をする様に歩いている。

「……ん?」

歩いていると、ふと違和感に気付く。少女がうずくまって泣いているのだ。

「どうしたの?」

安否を確認しながら、少女に声を掛ける。外傷はなく、少女は大丈夫そうだが、すすり泣く声は止まない。

「……私の、ジグザグマが」

恐らく、何も知らずにワイルドエリアに降りてきたのだろう。年頃の少年少女が肝試しのようにワイルドエリアに忍び込んで事故が起きるのは、毎年確認される。

「お姉さんに任せて」

エースバーンに少女を護衛させ、ユウリは彼女がポケモンに襲われたであろう場所へと向かう。その途中で、少女が出会ったであろうバルジーナと遭遇するが、

「ドラパルドっ!」

格上のポケモンと判断したのだろうか、一撃攻撃を受けると砂嵐の中に去って行った。

「……遅かったみたいね」

何のトレーニングも積んでいないジグザグマには、ワイルドエリアのポケモンと相手をするのは分が悪すぎる。主人を守る為には命を懸けるしかなかったのだろう。ユウリは、亡骸を抱えて少女の元へと戻る。

「う、うそ……ジグザグマぁ」

少女は泣き崩れてしまう。幼い子にはまだ、ポケモンとの別れは辛すぎるのだろう。

「ごめんね、間に合わなくて……一緒にお墓、作ってあげよう?」

少女は涙ながしながら、ユウリにしがみつく。ひとしきり泣き尽くすと、嗚咽を上げながらも、ポケモンの墓をユウリと作る。

「……あとは、お願いしますね」

ナックルシティの警備員に少女を託すと、少女は自分の家へと連れて行かれる。その途中、階段を登り切る前に一度だけユウリに振り返った。

「お姉ちゃん……ありがと」

その言葉を聞いて、手を振るユウリ。

 

 「どうしたんだユウリ!? めちゃめちゃ汚れてるぞ!?」

ようやくワイルドエリアに着いたホップに、盛大に心配されるユウリ。

「ちょ、ちょっとあってね」

折角ホップとの特訓に、あまり暗い話題を持ち込みたくなかったのか、詳細を話すことはなかった。

「仕方ないな、俺が代わりに着替えを買ってくるぞ!」

 

 後日、ブティックの女性コーナーでホップが大慌てしていたことと、ユウリが糞ダサTシャツを着ていた事が話題になった。

 

 

【挿絵表示】

 




読了ありがとうございました。

投稿時間間違えて投稿しちゃってることに気付くのに遅くなりました。

……スタックなくなってちまったよ!?

あ、ちなみに「」ウリが選んだのはサルノリです。

エースバーンを使い始めたのはチャンピオンになってからです。

先代チャンピオンリスペクトと世間からは認識されていますが、

彼女はホップの挑戦を待っていたんですよねぇ……

無粋なお話でした。


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ムゲン団編 第十話

バトルタワーでマリィと「」ウリがなんたらかんたらする話です。

マリィちゃんの闇堕ち見たい……見たくない?


 シュートシティ駅を降りて歩いているマリィが、大型テレビに映るユウリの姿が目に映る。

「……なんで、ダサT着とっと?」

マリィがそう呟くと、なおさら何故ユウリにマサルが敗北したのかが分からなくなる。実際に彼女がポケモンバトルをしているところを見たわけではないので、単純に実力が分からないと言うこともある。逆に言えば、研究されるマサルの方が不利という見方もあるのだが。

「それで負けるほど、チャンピオンは弱くないけん」

それでもなお、勝利するからこそチャンピオンだったはずだ。疑問を抱きながらも、自分の実力を試すためにバトルタワーまで訪れる。

 

 「あ、マリィさんですね。バトルタワーに参加されますか?」

受付に必要事項を書き込み、順番を待つ。かなりの数の挑戦者がいるのか、どのトレーナーと闘うことになるかは分からない。だが、タイミングが良ければダンデや他のジムリーダー、或いはまだ見ぬ強敵と闘えるチャンスでもある。

「きっちり鍛えんと、ね」

 

 バトルタワーは勝ち抜き形式でバトルが行われる。道具の使用は禁止、手持ちは三体まで、と公式バトルとは若干ルールが異なる。手持ちの数が統一されるので、育てるポケモンの質がより要求される。

「……負けた」

勿論、勝ち抜き戦なのでいつかは負ける。三体までしか準備出来ないので、がっつり相性の悪い相手だとフォロー出来ないままに敗北する可能性は考えていた。だがしかし、

「質が違いすぎる」

八戦目で敗北したマリィは、一階のロビーでおいしい水を飲みながら、負けた原因を振り返っていた。使ったポケモンは自分の最も強いポケモン達だったが、敗北した相手はトゲキッス、ドリュウズ、ギャラドスだった。

「育てやすさとか、そんなん全然考えてない組み合わせやったなぁ、ちょっとマサルと近いかも」

マサルや元チャンピオンのダンデも、異色のトレーナーだ。複数のタイプを同時に育てるというだけで、才能の一つと呼ばれているくらいなのだ。必要な環境が違うポケモンを育てることに安易な解決方法はなく、様々な知識と、ポケモンを従えるカリスマが必要だ。

「マリィちゃん?」

考え事をしていて俯いていたマリィに声を掛けたのは「」ウリだった。

「ん、ユウリさん? もしかして、バトルタワーに参加してたの?」

テレビに出たりと、中々忙しそうなユウリがバトルタワーに来てること自体が不思議だったのだろう。まぁ、バトルタワーは決して暇人が集う場所でもないが。

「ううん、バトルの方は参加してないよ。色々と用があってね……それより、悩んでるみたいだったけど、どうしたの?」

お姉さんが悩みを聞いてあげる、と胸をはる「」ウリだったが、自分と年齢に違いがないどころか、もしかすると年下かも知れない相手に話すのは、少し気が引けて遠慮する。

「いや、別に……」

口ごもるマリィに「」ウリは言葉をかける。

「もっと勝てると思ってた?」

ぞくり、と背筋に氷を入れられたかの様な悪寒を感じるマリィ。

「対戦結果はね、調べたら見れるんだよ。一応、閲覧禁止とかは出来るみたいだけど、殆どの人が公開してるし、隠す意味もあんまりないしね」

趣味の悪い覗きはしていない、と「」ウリが話す。だが、マリィは警戒している。

「仮にもジムリーダーだからね」

マリィは立場のある人間なのだ。チャンピオンほどではないが、周囲から期待を背負ってバトルをしているのだから、勝ちに貪欲にならなくてはならない。

「マリィちゃん、勘違いしてるよ。それは立派な心がけだけど、強くなるのに必要ないから」

手にしているカップのミックスオレを少し口に含むと、端末を操作している。イメージとかけ離れた発言に一瞬マリィは困惑したが、疑問をぶつける。

「うちはそれで強くなったけん。これまでも、これからも……」

そう言うが、「」ウリに見つめられると困惑する。本当にそれが正しいのか、自分が間違っているのではないか、そんな感情がこみ上げてくる。

「うん、マリィちゃん、それは間違ってないよ。ジムリーダーとしての強さは、それで充分」

そうして、マリィの抱えていた問題の核心にするどく切り込む。

「でも、チャンピオンの隣にたつには、役者不足だよね」

 

 これ以上彼女の話を聞き続けていたら、マリィはおかしくなっていたかも知れない。決して出任せではなく、マリィ自身も薄々感づいていたことだからだ。

「三対三、これでいいね」

ムゲンタワーの施設の一部を借りているから、ダイマックスを使う事も出来る。

「いけっ、モルペコ!」

「任せたよ、カビゴン」

「」ウリの初めて見せるポケモンに、警戒するマリィ。だが、鈍足のカビゴンではモルペコよりも早く動くことはまずないだろう。

「モルペコ、オーラぐるま!」

高速回転することによって、纏うエネルギーと共に突撃する、モルペコの専用技である。この技は、モルペコのフォルムによってタイプが切り替わる珍しい技で、尚且つその後のモルペコのスピードも強化されるので、訓練不足のポケモン相手であれば、この技だけで決着がつくことさえある。

「……えっ?」

確かに、カビゴンの体力はかなり高い。分厚い脂肪や巨体のおかげでタフな印象だが、物理攻撃に関していえば、そこまで高くない、はずなのだが。

「カビゴン、はらだいこ」

冷静なまま命令を下す「」ウリ。確実にオーラぐるまは当たったはずだ、だがそれほどダメージを受けている様にはみえない。寝転んだ姿勢のまま、カビゴンがその大きな腕を腹に叩き付ける。空気が振動し、地面が揺れたのではないかと錯覚する程の衝撃の後、カビゴンが異様な雰囲気を纏っている。「まずい……」

どこかに隠し持っていたのか、フィラのみを食べ出すカビゴンに対してモルペコに再度攻撃の指示をだす。マリィははらだいこを対戦で見たことはないが、異常なまでに攻撃力を上昇させる技だと言うことは知っている。

「体力と引き替えにしとるけん、誰も使いこなせんかったとよ」

再度当たるオーラぐるまに、まるで鬱陶しい虫がぶつかった程度の反応しかないカビゴン。

「カビゴン、からげんき」

カビゴンが震った腕が、モルペコを捉える。体格差が明確なモルペコはフィールドの端まで飛ばされてしまう。

「大丈夫、ちゃんと手加減する様に教えてあるから」

いつもと変わらない笑みで、ポケモンバトルをしているが、マリィはこの時初めて理解した。「」ウリはマサル達と同類だと。一般人が全力で追いかけても、影すら掴むことすらできない人種であるということ。

「物理のノーマルタイプなら……いって、ズルズキン!」

ズルズキンがフィールドに出た瞬間、特徴的な咆哮をカビゴンに向けてぶつける。特性いかくと呼ばれるもので、本来であれば天敵を目の前にしたかのように動きを鈍らせるのだが。

「効いてない? いや、そんなことないはず、かわらわり!」

かくとうタイプ かわらわり

手刀の形をとって、振り下ろす。例え当たる対象が堅い瓦であっても破壊するその技は、技術力とポケモンの攻撃力に応じて破壊力を増していく。

「ごぉぉぉおおお」

だが、それは裏を返せば、圧倒的な練度の差があれば、致命傷に至らないということだ。ノーマルタイプ からげんき

状態異常になっているとき、攻撃力が上昇するという希有な技だが、通常の状態であってもノーマルタイプであれば充分な威力となる。先ほどのモルペコよりも遙かに体格が良いはずのズルズキンが戦闘不能になる。

「ねぇマリィ。チャンピオンに勝てないのは、恥じることじゃないの。大丈夫、貴女は強いし、頑張ってるから。誰も、貴女のことを責めたりしないわ」

「」ウリの言葉は正しい。チャンピオンとの闘いで敗北したとしても、ジムリーダーとしてはおかしくはない。そんなことでスパイクタウンの人達はマリィを責めたりしないし、ネズがマリィのことを失望することはないだろう。

「オーロンゲ、キョダイマックス!」

マリィは、間違いなく認識している。マサルの横に立つには、それでは足りないのだ。ただのジムリーダーで収まってしまえば、彼とはライバルでいられなくなってしまう。ジムチャレンジの時に、互いに意識していた関係ではなくなってしまう。

「キョダイスイマ、カビゴンを吹き飛ばして!」

いや、最早マサルの視界に自分は入っていないのかも知れない。そんな疑念がずっとつきまとっている。その答えを聞くことが怖くて、マサルと話をする時も気付けばポケモンバトルのことを避けているのかも知れない。

「……う、そ」

三体がかり、それも一体はキョダイマックスポケモンの一撃を受けて、それでもなおその体躯は動きが衰えない。

「お疲れ様、マリィ」

カビゴンの一撃がオーロンゲを襲う。例えチャンピオンのリザードンであったとしても、キョダイマックス状態のオーロンゲを一撃で粉砕することは不可能だったはずだ。だが、その一撃が振り下ろされた後、オーロンゲのキョダイマックスは解け、戦闘不能になっていた。あまりにも圧倒的な力の差を目前にして、力なく座り込んでしまうマリィ。

「頑張ったね。友達と遊ぶ時間を我慢して、ポケモンと特訓した? お洒落な格好で街に遊びに出る時間で、バトルの勉強したのかな? お兄さんに甘えることせずに、自分で新しいポケモンを捕まえたんだろうね」

カビゴンをモンスターボールに戻し、マリィにゆっくりと歩み寄る「」ウリ。

「私達は、バトルしてないと呼吸が出来ないの。チャンピオンになりたい訳じゃない、ただポケモンと共に生きているだけなんだけど……どうしたら相手に勝てるかなんて考える暇なんてないよ。強くならないと死んでしまう生き物なの」

あまりにも自分と見ている世界が違う「」ウリを呆然と見つめることしか出来ないマリィ。

「これは警告。貴女がマサルと共に生きたいなら……トレーナーとしてライバルで居ることは諦めた方がいいわ。報われない努力はきっと、貴女を壊してしまうから」

 

 一部始終を見ていたセンジュがバトルタワーに戻ってきた「」ウリを出迎える。

「お疲れ様です、「」ウリ様」

傷ついたカビゴンを預けて、バトルタワーの施設で回復する手配をしていく。

「彼女の手持ちも、回復してあげて。手加減はしたけど、軽傷ではないと思う」

「」ウリ自身もおいしい水を飲み、一息を着く。

「……彼女は、こっちに来ると思う?」

「」ウリがセンジュに問いかけると、即座に返答する。

「必ず」

「」ウリは深く溜息をつく。あまりバトルに傾倒する生き方は褒められた物ではない。闘えないポケモンを切り捨てられるほど、非情な性格のトレーナーなどそう多くは居ない。冒険を共にした相棒であればなおさらだ。

「随分と、彼女のこと買ってるのね」

「」ウリの言葉に、センジュが首を横に振る。

「自分の居場所が、自分がそこに居たいと思うなら、それに対して努力を惜しむ人間ではありません……私がそうでしたから」

タオルで額の汗を拭き、センジュの言葉に頷く「」ウリ。

「意外とマリィは頑固だったもんね」

 




読了ありがとうございました。

「」ウリVSマリィのデータになりますので、特に気にしない方はスルー推奨です。

「」ウリ
カビゴン
ガラル図鑑 No.261
いねむりポケモン
特性:くいしんぼう
Lv:80
H:420 A:205 B:202 C:100 D:205 S:77
技:はらだいこ
  からげんき
  ????
  ????

1ターン目
はらだいこ 365→155
フィラのみ 155→295

2ターン目
からげんき 対モルペコ 535~631(確定一発)

3ターン目
からげんき 対ズルズキン 322~381(確定一発)

4ターン目
からげんき 対オーロンゲ(キョダイマックス) 513~604(確定一発)


マリィ
モルペコ ♀
ガラル図鑑 No.344
にめんポケモン
特性:はらぺこスイッチ
Lv:60
H:158 A:137 B:93 C:107 D:93 S:140
技:タネマシンガン
  いちゃもん
  スパーク
  オーラぐるま

1ターン目
オーラぐるま 対カビゴン 51~60 (乱数 7発)
        カビゴン 420→365

2ターン目
オーラぐるま 対カビゴン 51~60 (乱数 7発)
        カビゴン 295→240

ズルズキン ♀
ガラル図鑑 No.225
あくとうポケモン
特性:いかく
Lv:59
H:163 A:129 B:158 C:76 D:158 S:91
技:いばる
  こわいかお
  かわらわり
  かみくだく

3ターン目
かわらわり 対カビゴン 62~74
       カビゴン 240→170

オーロンゲ ♂ (キョダイマックス)
ガラル図鑑 No.240
ビルドアップポケモン
特性:いたずらごころ
Lv:60
H:202(ダイマックス時 404) A:167 B:101 C:137 D:113 S:93
技:ソウルクラッシュ(キョダイスイマ)
  DDラリアット
  ビルドアップ
  いちゃもん
 
4ターン目
キョダイスイマ(ソウルクラッシュ) 対カビゴン 69~82
                   カビゴン 170→90

ポケモンのデータは
ポケモン徹底攻略 様
アプリ SWSH 様
からお借り致しました。


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ムゲン団編 第十一話

リンドウ君が頑張ったり、闇に触れたり触れなかったりします。

はい、まだバトルタワーです……まだね?


 リンドウはセンジュに呼び出されてシュートシティに繰り出す。

「ムゲン団の面接をして欲しい……ってどういうことだよ」

唐突に送られてきたメールにはそのような内容が入っていた。詳しい内容は分からないので、実際に会って確認するしかない。

「確かココのカフェに……居たな」

最初に出会ったカフェで、再びセンジュと向き合う。

「用件だけど、説明して貰えるかな」

リンドウが正面に座ると、センジュが赤い手をモチーフにした様なバッヂを渡される。

「これがムゲン団のバッヂです。入団希望の人に渡して下さい。制服は基本オーダーになります、色やサイズなど確認事項を記入した書類か、メールで頂ければ手配します」

そこまで説明したところで、リンドウは首を横に振る。

「いや、その前になんで俺がムゲン団の入団面接をすることになったの? そもそも、入団の基準すら分からないんだけど」

溜息をつくリンドウにセンジュは答える。

「「」ウリ様は、助けを求める人々に分け隔てなく手を差し伸べて下さいます。もし、自身で問題を解決した場合は、それは喜ばしいことです」

センジュの言葉を要約すると、来る物拒まず、去る者追わず、ということだ。

「……バッヂを配って回れ、ってことか?」

その問いに、センジュが訂正する。

「求める人間にだけで充分です。それでもそれなりの数になるとは思いますが」

この後にも、面接の予定をしているという。

「基準は分かった、どうして俺が?」

再度聞き直すと、表情を変えること無くセンジュは答える。

「ローズ委員長から、困った時は頼るといいとお聞きしましたので」

俺は便利屋かよ、と言う言葉をなんとか呑み込むリンドウ。ポケジョブで多岐にわたっている以上、便利屋でもあるのだから。

 

 「ファッションセンスとポケモンバトルで、少しでもユウリ様に近づきたいの!」

「美味い物をたらふく食いたい!」

「宝くじが当たって欲しい!」

多種多様な人物達にバッヂを手渡していくリンドウとセンジュ。

「……俺が言うのもなんだけど、これでいいのか?」

 

 面接に疲れて、ムゲンタワーの食堂に逃げ込むリンドウ。タイミング的に昼食の時間からずれてしまったので、食堂にはコックとリンドウしかいない。

「新メニュー、ムゲンカレー?」

新しく張り出されているメニューに違和感を持ち、コックに尋ねる。

「ああ、最近始めたのさ。結構人気だよ」

自信満々に答えたコックはこう付け足す。

「あのユウリ様のカレーを再現したものだらね!」

そう言われると、リンドウも興味がある。コックが自信満々なのだから、味は確かだろう。

「じゃあ、それで」

 

 おすすめのムゲンカレーを食べ進めていくうちに、コックが正面に座る。

「仕込みも終わったからね、どうだい新商品」

客からの感想を聞きたいのだろう、期待に添えているかはわからないが、リンドウの答えは微妙だった。

「うーん、美味しいのは美味しいですね。フルーティで食べやすいけど、個人的にはもっと辛い奴のが好きかなぁ」

その言葉に意外にもそうだろうね、と頷くコック。

「その美味さは、年を取ってから分かる……人も居るからね」

必ずしも全員ではないらしい。ただ、美味しいことは確かなので完食に然程時間はかからなかった。

「ああ、そういえば。過去に戻れたら何がしたい?」

コックの突然の質問に、リンドウが疑問を浮かべる。

「心理テストとかですか?」

その言葉にコックは首を横に振る。どうやらムゲン団の間で最近流行っている質問らしい。

「へぇ、なんでまたそんな流行が。そうですねぇ……一週間前の仕事、無駄足だから受けなくても良かったなぁ、ぐらいですかね」

コックがその言葉を受けて、大笑いをする。

「そうか、君はそうなんだなぁ! いやいや、ムゲン団のえらいさんだからもっと凄いのがあるかと思ったんだけどなぁ!」

そういうと、他の人達にも同じように質問してみるのも良いかもしれないぞ、そう言われる。どうしてコックがそんなことを言ったのかは分からないが、リンドウも適当に相づちを返した。

 

 キルクスタウンの外れ、とある富豪がすんでいるという豪邸に来たリンドウ。センジュ曰く、ムゲン団の初期から応援してくれていたらしいが、バッヂを渡すのが遅れていたということだ。

「リンドウ様ですね、少々お待ち下さい」

メイドらしき人が中を案内してくれる。通されるままに進むと、老人がソファに腰掛けている応接室に案内された。

「お初にお目に掛かります、リンドウさんですね」

リンドウに気付いた老人は丁寧に挨拶をすると、リンドウも頭を下げて挨拶を返す。

「いやぁ、凄い豪邸ですね」

ソファの正面に座ると軽快に笑う老人、話を聞いているとどうやら一代で築き上げた凄腕の様だ。

「勿論運がよかったのもありますがね、色々な人の支援もあってここまで来ました」

もう実務は息子に任せてしまっているが、と加える。リンドウはここまで成功した人間にムゲン団に入る理由が思い当たらず、疑問をぶつける。

「何故ムゲン団に、ですか。まぁ、ムゲンダイナやダイマックスの研究は急務ですし、伸びしろのあるものですから、先行投資する価値があった、というのもありますが」

そこで老人が一息ついて、メイドの淹れた紅茶を飲む。

「先代のチャンピオンもそうですが、時代を作っていくのは若者達です。今のチャンピオンもそう、「」ウリさんも、きっとこの時代を作っていくのでしょう……そう考えると、手を貸すことが老人の使命だとおもいませんか?」

そう呟いた老人に、ふと思い出したかの様にリンドウが問答を思い出した。

「貴方は、過去に戻れたらどうしますか?」

その言葉に老人は目を見開く。数秒の間悩んでいたが、口を開く。

「貴方がそう言うならば、ムゲンシステムの話は本当だったのですね……」

天井を見つめ遠い目をする老人。リンドウは適当に相づちを打つ。

「ムゲンシステムを……知っているのですか?」

握りしめた拳には、もしかしたら冷や汗が流れていたのかも知れない。

「噂程度に、ですが。ムゲンダイナのムゲンダイマックス。その力に願い星で制御して過去に跳ぶことすら可能になる、そんな夢物語ですね」

その言葉に、リンドウは少し考える。

「実際に、どこまで出来るかはまだ実験段階ですが」

そう答えるしかない。もし仮に、「」ウリ達が何か準備していたとしても、リンドウに知ることは出来ない。

「ああ、過去に戻れたら……でしたね。こう見えて、あまり過去には後悔はしていないのです。協力者に恵まれ、今では大切な家族もいる、今に不満はない」

ただ、少し窓から見える空を見て、言葉を溢す。

「私は、ここまで来るのに、多くの人々を犠牲にしてきました。競争の結果でしたが、不必要な犠牲もあったと思います。何より、私が今大切に感じている物を……あの時は、何とも思わず、壊してしまった」

リンドウは何も言わず、老人の独白をただ聞いて居た。

「出来るのなら、私が奪った幸せを少しでも少なくしたい。傷つけた人々に、贖罪を……等と考えるのは、傲慢ですかね」

少し自嘲気味に呟いた言葉に、リンドウは首を横に振る。

「未来のために行動することが、贖罪でしょう。人間には、それしかすることが出来ない……それに、ムゲンの未来は子供達だけではありません、貴方にもあるんです」

若者の言葉に老人は微笑んだ。

 




読了ありがとうございました。

別の世界線ではもしかしたら、ムゲンタワーで闘うことになったかもしれない人達の話でした。

ムゲン団の人達も最初はムゲンシステムについては噂程度にしか思ってなかったんだろうなぁ……って



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ムゲン団編 第十二話

お待たせしました(?)ムゲンタワー、の入り口です。

物語も、佳境なのか……?

まぁ、あともうちょっとだと思います、多分、きっと……


 一通りムゲン団の面接でバッヂを配り終えると、「」ウリに連絡を入れる。

「リストの人達にはおおかた配り終わったぜ」

そういうと、「」ウリはリンドウに感謝を述べる。他にも、今後の対応はリンドウに任せたいということだった。リンドウは嫌な表情をしたが、依頼と言うことなので頷いた。

「ちなみに、ムゲンシステムのことって聞いても大丈夫なのか?」

老人の話に出てきたムゲンシステムは、理論上過去に戻ることすら可能らしいのだが。

「あ、誰から聞いたの? 一応、機密だからあんまり喋らないでね」

「」ウリの言葉は機密と言うには軽かった。

「ムゲンダイマックスのエネルギーを制御するシステムの事を略してムゲンシステムって呼んでるの、単純でしょ? 複雑なところはローズ委員長とセンジュに任せてるから説明は難しいけど、重要なのはムゲンダイマックスと願い星による制御になるね」

詳しい話はローズやセンジュに尋ねるしかなさそうだ。

「へぇ……それって、過去に戻れたりするのか?」

リンドウの問いに、「」ウリが笑って答える。

「正直に言えば、不可能に近いね。時空間を歪める程のエネルギーだから、過去に繋がる可能性はないとは言い切れないよ。だけど、何処に繋がるか分からないから、そういった方向での研究はまだまだ時間が掛かると思う」

可能性は零ではない、だがそれを意図的に作るだけの技術はない、そういうことだ。あまり過去にこだわらないリンドウはそれを聞いても特に気にはならなかった。だがしかし、もしかしたら過去を変えることが出来るかも知れない、それだけで救われる人間もいるのかもしれない。

「そういえば、ユウリは過去に戻れたら何をする?」

彼女自身がその可能性を笑い飛ばしたのだ。どう答えるのかは、気になったのだろう。「」ウリは即座に答える。

「今やってる」

リンドウはセンジュの話を思い出す。「」ウリにとっては、ココは異世界ではなく、過去に近いのかも知れない。

 

 リンドウが研究所に訪れるとソニアに詰め寄られる。

「ムゲン団に出入りしてるって本当!?」

扉を開けて直ぐさま掛けられた言葉に動揺する。

「い、いきなりなんだよ?」

襟首を掴み上げる勢いで迫るソニアに、おどろくリンドウは、ソニアの問いを肯定することしか出来なかった。

「……それじゃあ、ムゲンシステムについて、知ってるの?」

その疑問に答えるのに、一瞬戸惑うリンドウ。ムゲン団の機密とも言われる内容でもあり、そうそう言いふらす様な内容でもない。

「知ってたら、何か関係があるのか?」

その言葉に、ホップが答える。

「ムゲンダイマックスは危険なんだぞ」

周囲に与える影響は勿論、ムゲンダイナも元より、トレーナーに対しても大きな影響が出ることは予想できる。

「……ユウリは制御出来る、って言ってたけど」

その言葉にソニアが溜息をつく。

「万が一どころじゃない可能性で被害が出るのよ。それもユウリちゃんがただで済むかどうか分からない事、なんで止めないわけ!?」

彼女の実力と異色の過去を考えて、その点について思考が及ばなかったリンドウ。ホップが出かける準備を終えて、声を掛ける。

「シュートシティのバトルタワーに行くぞ!」

 

 シュートシティに来た三人は、ふと見覚えのある人影を見つける。

「マサル?」

何故こんなところに、と声をかけるとマサルもバトルタワーに昇るところだったらしい。

「ユウリへのリベンジマッチをしようと思ってたんだけど、三人はどういう目的なんだ?」

マサルの疑問にホップが端的に説明する。

「凄そうな装置だな」

少しずれた発言をするが、バトルタワーを昇ることに協力してくれる様だ。四人でバトルタワーに辿り着き、受付に尋ねる。

「ユウリに会いたいんだ、どこにいる?」

受付が突然のホップの質問に、疑問を浮かべる。

「えー、アポイントは取られていますか?」

その言葉にホップがどうしようかと悩んでいるとリンドウが口を出す。

「ホップとリンドウが面会に来ていると伝えてくれ、用件はそれで分かる」

その言葉に、畏まりましたと言い端末を操作し、どこかに連絡を行っている様だ。

「……それで用件が伝わるの?」

ソニアが首を傾げるとリンドウが答える。

「会いたいだのなんだと言うよりは、ユウリの方から出向いてくれた方が早い。ホップが来たって言えば、出てくるだろ」

少し待つと、受付が案内をする。少し歩いて行くと、マサルは見覚えのある場所に着く。

「バトルタワーの入り口だな」

そう呟くと、ホップが兄貴を探している時に通った場所だと呟く。

「ようこそ、ムゲンタワーへ」

 

 案内の先の扉を開くと大きなモニタがあった。

「通信でごめんねホップ。今ちょっと手が離せなくて……何か急ぎの用事だった?」

どうやら、来ている四人の姿もユウリには見えているようだ。

「ユウリ! ムゲンシステムの開発を止めるんだ! それは危険なんだぞ!」

画面に向かって声を上げるホップ。

「……また誰かに唆されたのかな?」

ホップの言葉と画面に映る姿に、表情を凍て付かせるユウリ。その表情を見て、失敗した、という顔になるリンドウ。

「モニタ越しに話す内容じゃない。そっちに行くよ」

ユウリはその言葉を聞き、返事をする。

「分かった。まぁ、折角開発中のムゲンタワーに来たんだし、楽しんでいって。ルールは設けないけど、階を上がる度にトレーナーがいるわ……勝ち上がってこれたら、ムゲンシステムについて話してあげる」

せめてシングルとダブルくらいはこっちに合わせてね、付け加える。その内容に全員が同意した。

「すぐに行くからな! 待ってろユウリ!」

ホップの挑戦の言葉に、どこか満足げに答えるユウリ。

「……うん、頂上で待ってるね」

 




読了ありがとうございました。

この後書き書いてる時点でまだ、次の話が書けてないです。

バトルシーンどうすっかなぁ、俺もなぁ……

あっ、キバナさんは最後まで出番がナイデス(ナイデス


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ムゲン団編 第十三話

ムゲンタワー編です。

とはいえ、ムゲン団のモブトレーナーとバトルするだけですので……

(チャンピオンとジムチャレンジ決勝進出だから)多少はね?

他のジムリーダーの出番は……ナオキです(小声


 エレベーターにのって次の階に移動すると、トレーナーらしき人間がたっている。

「勝ち上がってって……何人居ると思う?」

ソニアが呟くとリンドウが分からないと答える。

「全員倒せばいい」

そういうとマサルがモンスターボールを構える。

「ムゲンシステムを使えば、俺だって大金持ちなんだよ! 邪魔すんな!」

ビジネスマンのモトアキが勝負を仕掛けてきた。

「マニューラか」

そう呟いたマサルのモンスターボールからは繰り出したのはルカリオだった。

「マニューラ、つららおとし!」

ビジネスマンが指示を出すが、マサルのルカリオの方が動くのが早かった。

「なっ!?」

かくとうタイプ はどうだん

ルカリオが拳を突き出しその先から繰り出された衝撃波がマニューラを包み込み、戦闘不能にする。

「ち、ちくしょー、いけ! ネンドール」

「はどうだんだ」

先ほどと同じように波動がネンドールを捉える。相性の悪さもあり、あっけなくネンドールが戦闘不能になった。

「俺の大金持ちの夢が……あれ、大金持ちになって、何がしたかったんだろう」

バトルに負けてしょぼくれているビジネスマンを横目にエレベーターに乗り込む。内部からのボタン操作を受け付けて居らず、誰かが操作している様だ。

「この調子だと楽勝だな!」

ホップが快活な笑みを浮かべる。

 

 「ムゲンシステムってなんでも出来るんだろ? おいしいごはん、何度でも食べられるって事か! やる気と食欲みなぎるぜ! うぉぉぉぉ、俺と勝負しろー!」

やまおとこのガクが勝負を仕掛けてきた。やまおとこのモンスターボールから、ギガイアスが現れる。

「いけっ、アーマーガア!」

ホップが繰り出したアーマーガアに対して、ダイマックスバンドが反応する。

「ダイマックス、使えるのか」

バトルタワー同様、ダイマックスは使える様だが、まだまだ先は見えない。

「アーマーガア、アイアンヘッドだ!」

はがねタイプ アイアンヘッド

文字通り鋼鉄の様に堅くなった頭部で頭突きをする技だ。頑丈さを誇る岩タイプだが、更に硬い鋼タイプには相性が悪い。

「そんな、俺のギガイアスが!?」

一撃で倒されたギガイアスに驚きながら、次のサイドンを繰り出す。

「タイプ相性は、ばっちりだぞ!」

再びアーマーガアのアイアンヘッドが炸裂して、サイドンを戦闘不能にする。

「……反撃されたら危なかったんじゃ?」

リンドウの疑問は、ホップ達には届いていなかった様だ。

「バトルに負けても、お腹は減るんだよな、ぐぅ」

空腹で力なく座り込むやまおとこを置いて、一同は次の階層に進む。

 

部屋の中心には、白衣の男が立っていた。

「ソニア、お仲間じゃないのか?」

「はたくわよ?」

リンドウの言葉に即答するソニア。

「私の研究を邪魔するのなら、貴方達も敵なんですよ!」

けんきゅういんのユウゴローが勝負を仕掛けてきた。キュウコンを繰り出してきた。

「ペリッパー、頼んだ!」

マサルが繰り出したのはペリッパー、口を開いて繰り出した波動がキュウコンを包む。

水タイプ みずのはどう

「ああっ、僕のキュウコンが!?」

早々に戦闘不能になった、キュウコンを労る様にモンスターボールに戻すと、改めてウインディを繰り出す。

「ふふん、水タイプには相性最悪ね!」

ソニアが自信満々に喋った通りに、あっさりとウインディも気絶した。

「私は……貴方達の敵にもならなかった?」

実力の差に、眼鏡がずれているのもきづかないほど驚いていた。

「最初は研究費目当てだったさ。だが、数え切れない程の願いや後悔、もしかしたら、出来るかも……なんて思ったら、研究者として手を出さないわけにはいかないだろ?」

けんきゅういんのユウゴローに勝利した。

 

 部屋には、まだ少年と言える人影がたっている。

「僕も、ムゲン団の一員なんだぞ!」

スクールボーイのマナブが勝負を仕掛けてきた。スクールボーイはスボミーを繰り出した。

「いくぞ、バイウールー」

スクールボーイが自分のポケモンに指示を出そうとしていると、バイウールーがスボミーにボディプレスをしていた。

「えっ!?」

流石に練度に違いがありすぎるのか、一瞬で気絶してしまう。

「……ちょっと、可哀想だぞ?」

半泣きになりながらも次に繰り出したヒメンカだったがスボミーと同じ末路を辿った。

「……負けた後に言うのも何だけど。ムゲン団の制服が格好いいから入ったんです。他の団員にはないしょですよ?」

スクールボーイのマナブに勝利した。

「わかるー、制服お洒落だよね」

ソニアがスクールボーイに同意すると、負けた後だと言うのに得意げになっていた。

「……」

「ダサTチャンピオンは喋らない方がいいんだぞ」

対抗意識を燃やしてそうなマサルをホップが宥めながら次の階へと向かう。

 

 次の階には、どこか見覚えのある制服を身につけた男性がたっている。

「うん、ここは危ないところだから、子供達は立ち入り禁止だ!」

おまわりさんのヒロミが勝負を挑んできた!

「ナゲキ、だな」

マサルがストリンダーを繰り出し、ストリンダーが胸の弦をかき鳴らす。

ノーマルタイプ ばくおんぱ

堪える様に身構えたナゲキだが、その威力はすさまじく戦闘不能になる。

「つっ、強いな!」

続けて繰り出したパルスワンに対しても同様にばくおんぱで戦闘不能となった。倒れたポケモンを労る様にモンスターボールに戻すおまわりさん。

「ぼうや、強いね。あの子も生きていたら、今頃は……いや、うん、そうだな。パパがこんなんじゃあの子に笑われちゃうな! 邪魔して悪かったな!」

おまわりさんのヒロミに勝利した。

 

 スタイルの良い女性が、部屋の中央にたっている。

「……次の相手かな?」

ソニアが疑問を持ったのは、雰囲気が妙に暗いからだろうか。持ち物も服装も、殆どが黒で包まれている、よく見るとムゲン団の黒の制服のようだ。

「私の相棒が、世界一なのよ!」

ラブラブカップルのカナコが勝負を挑んできた! 繰り出してきたのはイワークだ。

「いくぞ、バイウールー」

ホップが繰り出したバイウールーが、ボディプレスでイワークを戦闘不能にする。

「……いきなさい」

二体目のパルシェンを繰り出すが、バイウールーに返り討ちにあう。

「私の相棒……かれは、絶対に私の元に返ってくるんだから」

勝負に負けた彼女は、どこか中空を見つめて呆然としている。

「先に急ごう」

何か言いかけたホップを引き連れてリンドウ達はエレベーターで次の階へ進む。

 

 スーツを纏った男性が、待ち構えている。

 「ヤドンの尻尾、売ればお金になるって知ってるますか? ガラルではあんまり見かけませんが」

ジェントルマンのノゾムが勝負を挑んできた! 繰り出してきたのはニダンギルだ。

「頼んだぜ、ストリンダー」

マサルの繰り出したストリンダーのオーバードライブがニダンギルを戦闘不能にする。

「ポットデス、お願いします」

ジェントルマンが繰り出したポットデスだが、同様にストリンダーに倒される。続けてナゲツケサルを繰り出したが、一蹴された。

「あの時の私は玩具が欲しくて、だけどあいつはもう二度と私には懐かなかった……あの頃に戻ってちゃんと謝りたいのです」

帽子を深くかぶり、視線を落とす。

「次に行こう」

マサルは歩くスピードを緩めず、エレベーターへと向かう。

 

 二人組が部屋で待っている。その姿はまるで親子の様だった。

「むげんしすてむは「」ウリ様いえ、ムゲン団の希望なのです」

「貴方達を止めて、「」ウリ様に褒めて貰うんだ!」

マダムのニッタと虫取り少年のヨウタが勝負を仕掛けてきた。

「行くぞ、ホップ」

「任せろ、マサル!」

マダムと虫取り少年はワンパチとデンジムシを繰り出した。それに対して繰り出したのは、ルカリオとカビゴンだ。

「はどうだん」

「10まんばりきだ!」

カビゴンがワンパチを、ルカリオがデンジムシを倒す。マダムと虫取り少年は連れていたポケモンをモンスターボールに戻して、マサル達に訴えかける。

「これが完成すれば、またあの子に会える……どうして邪魔をするの!?」

「これが完成すれば、またママに会える……邪魔しないで!」

二人の言葉に、ホップは戸惑う。だが、リンドウがエレベーターに向かわせる。

「こういうのはな……真に受けるものじゃない」

 




読了ありがとうございました。

いやぁ、ポケモンバトルは楽しいなぁ(白目

まぁ、圧倒するだけですよね、ダメ計も要らないです(ナイデス



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ムゲン団編 第十四話

ムゲンタワー編の続きです。

次に現れたのは、なんと、あの人です!

いやぁ、ムゲン剣盾での復活に驚きましたよねぇ……

剣盾の頃から一本筋を通す姿は、格好いいですね!


 スーツを纏った男が、マサル達に気づき振り返る。

「やぁ、こんにちは! 私はムゲン団の幹部ローズと言います……既にご存じですね。このムゲンタワーが完成すればガラルのエネルギー問題は解決する。わたくしの夢が……ガラルの無限の繁栄が実現するのだ。「」ウリさんの、そしてわたくしの理想の邪魔をするのならば容赦はしない!」

ローズに対して、ホップがモンスターボールを構える。

「じゃあ早速……始めるとしましょうか」

ローズがハイパーボールを投げると、バトルが始まる。ローズが繰り出したのはシュバルゴ、それに対しホップはバイウールーを繰り出す。

「バイウールー、コットンガードだ」

「シュバルゴ、アイアンヘッドです!」

バイウールーの方が先に行動を起こす。

くさタイプ コットンガード

毛並みが変化を起こし、物理防御力を大幅に向上させる。元々の防御力が高い上に物理に強いバイウールーには、多少の攻撃では通用しなくなった。シュバルゴのアイアンヘッドに対しても、大きなダメージは見られない。

「へへっ、ボディプレスで反撃だ!」

かくとうタイプ ボディプレス

文字通り、体当たり気味に突撃し、体重で相手を押しつぶす技だが、先ほどのコットンガードと相性が良く、硬質化した体毛が更にダメージを加速させる。

「くっ、シュバルゴ、もう一度アイアンヘッドです!」

何とかボディプレスを耐えたが、足元がふらつきながらの攻撃は然程威力は出ていない様だ。再度ボディプレスで戦闘不能になる。

「行きなさい、ナットレイ」

本来であれば、ナットレイは物理攻撃にかなり強いはずだ。だが、コットンガードで強化されたバイウールー相手には分が悪い。

「いいぞ、バイウールー」

再びボディプレスを放つバイウールー、ナットレイのてつのとげで傷つきながらも、ナットレイを気絶させた。

「やりますね、流石と言ったところでしょうか」

ニャイキングが爪を伸ばし、威嚇する。バイウールーは怯む様子はなく、ニャイキングのねこだましを耐えてボディプレスで反撃する。ニャイキングがバイウールーの攻撃に耐えきれず、膝をつく。

「……ホップ君、随分と強くなりましたね」

ニャイキングを手元に戻しながら、驚いた表情を見せるローズ。

「あの時とは、違うんだぞ!」

状況は圧倒的に不利だが、それでも笑みを崩さないのは大人の余裕かそれとも、未来への希望を少年に見いだしたのか。

「行きましょう、ダイオウドウ。私もまだまだ闘えますよ!」

ダイオウドウが入っているモンスターボールがダイマックスバンドの力を受けて、キョダイ化する。空高く放り投げられたボールからキョダイマックスしたダイオウドウが現れる。

「大丈夫だバイウールー、俺達なら負けないぞ!」

キョダイマックスしたダイオウドウに恐れることなく、バイウールーのボディプレスが炸裂する。

「ダイオウドウ、キョダイコウジンです」

はがねタイプ キョダイコウジン

ローズの声に呼応し、高らかに咆哮するダイオウドウ。地鳴りと共に巻き上げられた粉塵が鋼の様に硬質化し、まるでその一つ一つが意識を持つかの様にバイウールーに襲いかかる。

「バイウールー!?」

自慢の体毛も連戦とキョダイ技によって、ぼろぼろになっている。それでもなお、バイウールーは膝を着かない。

「頑張れ、バイウールー!」

再び全体重を乗せた突撃、だがしかし、キョダイマックスしたダイオウドウを倒しきる事は出来ない。

「……ダイアース」

じめんタイプ ダイアース

まるで地鳴りの様なダイオウドウの足踏みに、地面がめくれ上がる様な錯覚すら覚える。粉塵が舞い、巨大な岩石に押しつぶされたバイウールーがついに力尽きる。

「……よく頑張ったんだぞ」

「ええ、素晴らしい善戦でした」

ここまで自分を追い詰めたホップのバイウールーに、ローズは嘘偽りのない賛辞を送る。

「いくぞ、バチンウニ!」

ローズと同様にダイマックスバンドを輝かせるホップ。キョダイ化したボールから飛び出したのは、ダイマックスしたバチンウニだった。ダイオウドウが繰り出した技の影響で無数の鋼の針がバチンウニを襲う。更にダイオウドウのダイアースがバチンウニを襲う。だがしかし、バチンウニは一撃では倒れなかった

「バチンウニ、ダイサンダー」

でんきタイプ ダイサンダー

バチンウニが放つ電気が、キョダイ化しているダイオウドウを包み込む。バイウールーとの戦闘もあり、その一撃を耐えきる事は出来なかった。

「ダイオウドウ、よく頑張りましたね。さぁ、最後の一体ですよ」

ローズが投げる最後のハイパーボールからは、ギギギアルが現れる。

はがねタイプ ギアソーサー

二枚の歯車が交互にバチンウニに襲いかかる。ギギギアルの得意技は、バチンウニに充分なダメージを与えているようだ。バチンウニは既に瀕死に近い状態だが、気力を振り絞って全力を使い果たす。

「負けるな、バチンウニ!」

自分のポケモンに激励を飛ばす様に、攻撃の指示を出す。エレキフィールドで威力を増したダイサンダーがギギギアルに命中する。火事場の馬鹿力なのか、それとも最後に力を振る絞った結果なのか、ギギギアルを一撃で戦闘不能にした。

「や、やったぞ! バイウールーもバチンウニも、お疲れ様なんだぞ!」

バトルが終わると同時に、勝負を勝ち抜いた二体のポケモンを労い、回復薬を与えるホップ。

「やはりいいですねぇ、ポケモン勝負は。それに、若者は……僅かな間に驚くほど成長する。本当に、貴方達には何度も驚かされますね」

 

 ローズに勝利したため、エレベーターにランプが着く。再び乗り込めば次の階に進めるはずだ。

「負けた私が言うのも何ですが、ムゲンシステムはガラルの未来を照らす光です。そして、戸惑い迷う人達の道しるべにもなり得る、それを理解してなお、何故止めるのですか?」

その言葉に、マサルは答える。

「ムゲンシステムを否定するつもりはないし、凄い事だと思う。だけど、俺達はあぶない事をしようとしている友達を止めに来ただけなんだ」

ホップも同調する。

「ユウリに危ない目に逢って欲しくないだけだぞ!」

彼らの言葉に、虚を突かれ一瞬呆然となるローズ。

「もし、彼女がそれを拒んだら、どうします?」

ローズの意地悪な問いには、リンドウが答える。

「カレーでも食べて、出直しますよ。一日二日、いや一年でも十年待っても、上手くいくまで挑戦するまでです。一度や二度失敗したくらいで諦める理由がない」

その言葉に、ローズは深く頷いた。

「そうですね。貴方達なら彼女を止められるかも知れませんね」

 




読了ありがとうございました。

気付いたらホップのリベンジマッチになってました。

これ作ってて思ったんですが、バイウールー強いな!?

対物理なら要塞化する上に、S80で割と速めだからコットン積めば普通に完封出来るんですよねぇ。

この後は、ポケモンのデータなので気になる方のみどうぞ。

ローズのポケモン

シュバルゴ ♂
きへいポケモン
ガラル図鑑 No.274
特性:シェルアーマー
Lv:65
H:186 A:200 B:161 C:103 D:161 S:51
アイアンヘッド (対バイウールー)14~17 HP199→183
   〃        〃     〃  HP183→167

ナットレイ ♂
とげたまポケモン
ガラル図鑑:No:190
特性:てつのとげ
Lv:65
H:191 A:147 B:195 C:95 D:175 S51
てつのとげ (対バイウールー) 24    HP167→143
ボディプレス    〃     19~23  HP143→122
てつのとげ     〃     24    HP122→98

ニャイキング ♀
バイキングポケモン
ガラル図鑑:No:183
特性」かたいツメ
Lv:65
H:186 A:168 B:155 C:90 D:103 S:90
ねこだまし (対バイウールー) 7~9   HP98→90

ダイオウドウ ♀ (キョダイマックス)
どうぞうポケモン
ガラル図鑑:No:303
特性:ちからずく
Lv:70
H:272(544) A:208 B:123 C:138 D:123 S:68
キョダイコウジン (対バイウールー)51~61 HP90→35
ダイアース        〃     〃  HP35→0
キョダイコウジン効果(対バチンウニ)21   HP164→143
  〃      (対バチンウニ)180~212 HP286→86

ギギギアル
はぐるまポケモン
ガラル図鑑:No:115
特性:クリアボディ
Lv:65
H:173 A:155 B:174 C:116 D:135 S:142
ギアソーサー  (対バチンウニ)36~44   HP86→42
  〃         〃    〃    HP42→3

ホップのポケモン
バイウールー ♂
ひつじポケモン
ガラル図鑑:No:035
特性:もふもふ
Lv:69
H:199 A:136 B:164(246) C:109 D:150 S:147
コットンガード 防御三段階上昇
バディプレス (対シュバルゴ)102~120   HP186→76
  〃        〃    〃     HP76→0
  〃    (対ナットレイ)168~198   HP191→11
  〃        〃    〃     HP11→0
  〃    (対ニャイキング)210~248  HP186→0
  〃    (対ダイオウドウ)264~312  HP544→274
  〃        〃     〃    HP274→2

バチンウニ ♀
うにポケモン
ガラル図鑑:No.353
特性:ひらいしん
Lv:68
H:164(328) A:163 B:155 C:149 D:141 S:46
ダイサンダー (対ダイオウドウ)127~151  HP2→0
  〃    (対ギギギアル)118~139(急所:177~208)HP173→0

個体値計算 ポケモン徹底攻略 様
ダメージ計算 VS SWSH 様


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ムゲン団編 第十五話

ムゲンタワー編のラストです。

ムゲン団の幹部とバトルになります。




 次の扉を開くと、少女が座っていた。ムゲン団の制服で顔が隠れているので、離れた場所からだと誰かは分からない。

「……あんた達、田舎から来たんでしょ? ちょっと付き合ってよ、あたしがジムチャレンジで勝てるか、試しておきたいの」

ムゲン団の幹部が勝負を仕掛けてきた。ムゲン団の幹部はレパルダスを繰り出した。

それに対して、マサルがルカリオをだした。

「いけっ、ルカリオ、はどうだんだ!」

ルカリオが拳を突き出そうとすると、突然後ろに吹き飛ばされた。

あくタイプ イカサマ

どうやらレパルダスが技を繰り出していたようだ。自分の力を利用される形の攻撃は、想像以上にルカリオにダメージを与えている様だが、冷静にはどうだんがレパルダスを捉える。

「良くやった! ルカリオ!」

弱点の技を受けて、一撃で倒れるレパルダス。ムゲン団の幹部はレパルダスを手元に戻し、次のポケモンを繰り出す。

「ドクロッグ、クロスチョップ」

しなやかに伸びる腕が、交差する様にルカリオに伸びる。だがしかし、それを受けたのは別のポケモンだった。

「ルカリオ良くやった、次は頼むぜストリンダー」

急に入れ替わったが、それでもなおドクロッグの一撃がストリンダーを捉える。

かくとうタイプ クロスチョップ

鋼タイプや岩タイプなどの堅さを誇るポケモンであれば、一撃で倒れていたかも知れない。だが、ストリンダーの体は柔軟でダメージを殺していた。

「ドクロッグ、もう一度よ!」

改めて技を繰り出そうとするが、ストリンダーが一度ボールに戻されて、ダイマックスバンドの光を集められている。

「ダイマックスだ! ストリンダー」

ダイマックスして現れたストリンダー。ドクロッグは見上げる様な巨体に対しても怯むことなく技を繰り出す。だが、先ほどよりもダメージを受けている様には見えなかった。

でんきタイプ ダイサンダー

胸の弦をかき鳴らし、体表から電気を発生させる。キョダイ化した体を存分に発揮したそれは、莫大な量の電気を産み出し、ドクロッグを吹き飛ばし、フィールドが帯電するほどだった。

「っ、いけっズルズキン!」

倒れたドクロッグをボールに戻し、ズルズキンを繰り出す。出てきた瞬間ストリンダーに対して威嚇する。キョダイであっても一瞬怯む素振りを見せたが、再びダイサンダーを繰り出そうとする。

「ズルズキン、かみくだく!」

あくタイプ かみくだく

かみつくを更に凶悪にしたような技が、ストリンダーの腕に食らいつく。決してダメージは少なくないが、腕を振り払い再びダイサンダーてズルズキンをなぎ払う。

「……モルペコ、行って」

出てきたのはでんきタイプのモルペコだ。今まで一撃で吹き飛ばす様なダイサンダーだが、モルペコ相手ではダメージは半減だ。

「ストリンダー、ダイアシッドだ!」

「モルペコ、オーラぐるま!」

トレーナーの指示が交差し、早く動いたのはストリンダーの方だった、口から吐き出された毒がモルペコを包み込む。それをぶち抜く様に、纏ったオーラで走り抜け、ストリンダーにぶつけるモルペコ。その衝撃で、ストリンダーのダイマックスの効果が失い、元の大きさに戻る。

「ストリンダー、ばくおんぱ!」

「モルペコ、もう一回!」

一度オーラぐるまを使っていて勢いがあるモルペコが今度はストリンダーの動きを上回る。胸の弦を弾こうとした瞬間にオーラぐるまがストリンダーに炸裂し、膝を着いて戦闘不能になる。

「お疲れ様、ストリンダー。頼んだぜルカリオ」

現れたルカリオがモルペコに対峙した瞬間、まるで姿を消したかの様な速度で攻撃を繰り出す。

ノーマルタイプ しんそく

ストリンダーに食らった毒もあり、ルカリオの攻撃に反応出来ずに倒れるモルペコ。

「強いね、でも、私は負けない」

ダイマックスバンドが光り輝き、次のポケモンに注がれていく。キョダイ化したモンスターボールから洗われたのは、キョダイオーロンゲだった。

「ルカリオ、はどうだんだ!」

「オーロンゲ、キョダイスイマ!」

ルカリオの拳から放たれたはどうだんは間違いなくオーロンゲを捉える。だが、それでもなおオーロンゲは怯まず攻撃を繰り出している。ルカリオは吹き飛ばされてダメージはかなり大きい。

「オーロンゲ、ルカリオに止めを刺して!」

ムゲン団の幹部の声が響くと同時にオーロンゲが動き出す。

「ルカリオ、てっていこうせんだ」

はがねタイプ てっていこうせん

ルカリオが両手を胸の前に合わせて、鈍く光るエネルギーが集められる。それはまさに、ルカリオの生命エネルギーの様だ。振り下ろされるオーロンゲの腕もろとも、撃ち抜く。その破壊力は、キョダイ化したオーロンゲを一瞬で戦闘不能にして、元の大きさに戻してしまう程だ。

「頑張ったなルカリオ、お疲れ様」

膝をついて立ち上がる事も出来ないルカリオ。それほどの大技だったようだ。

手持ちのポケモンが全て戦闘不能になったムゲン団の幹部は、力なくマサルを見つめていた。

 

 マサルがルカリオとストリンダーに回復薬を与えている間に、リンドウが足を運ぶ。

「何やってんだ?」

マサルをみつめていたムゲン団幹部は、顔を伏せる。

「……あんたには、関係ない」

リンドウはその言葉を無視して、言葉を続ける。

「無茶な特訓は止めた方が良い。ポケモンにもトレーナーにも悪い。それに、マサル達のやり方を真似したって、体を壊すだけだぞ」

その言葉が、彼女の琴線に触れた様だ。

「あんたに、何が分かると!? 好きな人において行かれる! 追いかけても、どんどん離れて行くあの人に、これぐらいせんと追いつけんとよ!?」

少女のまっすぐな瞳がリンドウに突き刺さる。

 

 遠巻きにリンドウと少女を見守るソニアとホップ。

「リンドウがんばえー」

「……流石に黙った方が良いと思うんだぞ」

決して二人に聞こえない様に話すソニア。

「大丈夫だって、リンドウには私がついてるし」

満面の笑みのソニアを見て、呆れた様に頷くホップ。

「頑張れ、リンドウ」

 

 リンドウが少女の肩を掴む。

「分かるよ。分かるから止めるんだ。俺がカブさんと闘った後も、マリィは止めてくれただろ? 間違っても、やり直して良いって、お前が教えてくれたんだ」

正面から見つめるリンドウに、マリィは目をそらす。

「……覚えとらんよ、そんな昔の事」

リンドウの手を振り払って、背を向ける。マサル達に声を掛けられたリンドウは、離れて行くマリィを見送る。

 

 「さっきのやつ、マリィみたいだったな」

マサルが何気なく言葉にした言葉に、ホップが転びそうになる。

「……そうだな」

リンドウが適当に相づちをうつ。

「そういえば、最近マリィが体調良くないみたいなんだ。怒りやすいっていうか、不安定っていうか……どうしたら良いと思う?」

マサルの疑問にリンドウが答える。

「一日、我が儘に付き合ってやれよ。チャンピオン権限で何とかなるんじゃないか?」

なにげなく溢したその言葉に、マサルは頷く。

「そうだな、きっと疲れてるんだろう」

二人のやりとりに、溜息をついたホップがマサルに言葉をかける。

「そうだぞ、マリィは疲れてるんだから、マサルがフォローしないと、だぞ!」

親友の言葉に、笑顔で頷くマサル。

 




読了ありがとうございました。

バトルが無茶苦茶な気がするけど、これが限界(白目

あ、リンドウさんとソニアさんは完全に戦力外です、割と本人達も「ここいる?」状態なんじゃないかなぁ

でも多分、ホップとマサルだけだと、色々取りこぼしそうだから、四人で行くしかないんだろうなぁ(他人事

ここから先はポケモンのデータになりますので、気になる方だけどうぞ。

マリィ 手持ちポケモン
レパルダス ♀
れいこくポケモン
ガラル図鑑:No.045
特性:じゅうなん
Lv:65
H:178 A:180 B:90 C:139 D:90 S:203
イカサマ (対ルカリオ)  50~59 HP260→205

ドクロッグ ♀
どくづきポケモン
ガラル図鑑:No.223
特性:かんそうはだ
Lv:65
H:203 A:203 B:109 C:136 D:109 S:176
クロスチョップ (対ストリンダー) 54~65 HP268→208
   〃        〃      〃  HP416→356

ズルズキン ♀
あくとうポケモン
ガラル図鑑:No.225
特性:いかく
Lv:65
H:179 A:183 B:174 C:83 D:174 S:141
かみくだく (対ストリンダー) 79~94   HP356→271

モルペコ ♀
にめんポケモン
ガラル図鑑:No.344
特性:はらぺこスイッチ
Lv:66
H:214 A:192 B:102 C:117 D:102 S:153
オーラぐるま (対ストリンダー) 57~67  HP271→210
  〃        〃     114~135 HP105→0

オーロンゲ ♂
ビルドアップポケモン
ガラル図鑑:No.240
特性」いたずらごころ
Lv:66
H:263(516) A:225 B:111 C150 D:124 S:104
キョダイスイマ (対ルカリオ)  159~187 HP195→10

マサル 手持ちポケモン

ルカリオ ♂
はどうポケモン
ガラル図鑑:No.299
特性:ふくつのこころ
Lv:75
H:260 A:193 B:133 C:248 D:133 S:164
はどうだん (対レパルダス)   290~344 HP178→0
しんそく  (対モルペコ)    103~122 HP33→0
はどうだん (対オーロンゲ)   132~150 HP526→385
てっていこうせん (対オーロンゲ)458~542 HP385→0

ストリンダー ♀
パンクポケモン
ガラル図鑑:No.311
特性:パンクロック
Lv:75
H:268(526) A:175 B:133 C:246 D:133 S:141
ダイサンダー (対ドクロッグ) 240~283  HP203→0
  〃    (対ズルズキン) 195~231  HP179→0
ダイアシッド (対モルペコ)  129~153  HP173→33



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ムゲン団編 第十六話

ようやく、「」ウリさんの出番ですよ!

ここまで長かったなぁ……

もうちょっと、頑張ります!


 ムゲンタワーを登り切り、屋上への道を四人が上がっていく。その頂上で「」ウリが待ち受けていた。

「良く来たね、ホップ。ここからバトルを見ていたけど……強くなってた。それで、ムゲンシステムについて、だったかな?」

彼女は普段のラフな格好ではなく、ムゲン団の総帥らしい、黒をモチーフとした衣装にマントを羽織っている。

「ムゲンダイマックスを必要とするムゲンシステムは、人体にどんな影響を与えるか分からない。場合によっては」

ソニアの言葉に、遮る様に「」ウリが言葉を発する。

「成長に異常をきたす可能性がある。肉体への異常な負荷の可能性があるから、他の病気の原因になるかもね。だけど、それがどうしたの?」

ソニアが危惧している事は、「」ウリも身を以て理解していた。

「それ以上に、ムゲンシステムを望む人達がムゲン団に集まってるの。貴方達も見てきたでしょ、無限の可能性に夢を見ている人を」

その言葉に、マサルが答える。

「ああ、だけどそれは幻想だ。叶うかもしれないって騙している詐欺と変わらない」

マサルの言葉に、「」ウリは正直に頷く。

「そうだね、だけどその嘘は本当に悪いことかな? その嘘が無ければ自殺してしまう程絶望した人達や、そのおかげで努力することを続けられている人達もいるの。その過程で別の希望を見つけられた人達にも、手厚い保護をしているしね。あと、ムゲンダイマックスについても、問題は解決しているわ」

「」ウリに対して、リンドウがバッヂを取り出して喋り出す。

「ムゲン団の持っているバッヂ。これでダイマックスエネルギーを発生させる時の負担を分担しているんだろ? センジュさんから聞いたよ。確かに、その方法ならユウリ個人に掛かる負担はかなり軽くなるだろうな」

リンドウの手からバッヂを取り上げ、ホップは「」ウリと向き合う。

「俺達に、ムゲンシステムは必要ないんだ。だから、俺がユウリを止めるんだぞ!」

そう言ってモンスターボールを構えるホップ。その姿を見て、覚悟を決める様にモンスターボールを握りしめる「」ウリ。

「無限の力、永遠の支配、そんなものに興味なんて無い。私達が求めるのは夢幻、過ぎ去ったあの日々。未来に歩き出す為に必要な過去を守る為に、邪魔をするなら……容赦はしない!」

ムゲン団の首領、「」ウリが勝負を仕掛けてきた。

 

 「」ウリがモンスターボールを構えた瞬間、ムゲンタワーの空気が変わる。それを察知したのか、ホップとマサルのモンスターボールからザシアンとザマゼンダが現れる。

「……来るぞ!」

ムゲン団のバッヂが震えだし、共鳴する。赤い光の柱がムゲンタワーから上空に伸び、上昇気流が「」ウリのマントをたなびかせる。

「ムゲンダイナァァァァァアアア!!」

赤い光が差し込む黒い雲の中から、巨大な五指にも似た竜が現れる。

「ホップ!」

「分かってるんだぞ!」

マサルがタルップルをホップがカビゴンを繰り出した。

「ウォォォオオオオ」

ノーマルタイプ とおぼえ

ザシアンが高らかに吠える。その声が、ホップとマサルのポケモン達を力づける。

「ムゲンダイナ、あの二匹を先に片付けるのっ!」

ムゲンダイマックスしたムゲンダイナが技を放つ。

ほのおタイプ ダイバーン

ほのおタイプ かえんほうしゃ

時間差で繰り出されるのは、炎タイプの技、つまりはザシアンとザマゼンダの弱点だ。

「……ばっちり弱点を把握してるんだな」

まるで日差しが強い砂漠の様な熱気にさらされて、ホップが呟く。

「ザマゼンダ、ありがとうな」

エスパータイプ ひかりのかべ

一手先にザマゼンダがひかりのかべを作り出していたので、一撃で倒れることはなかった。

「……ちっ、まだ倒れないの」

舌打ちをする「」ウリ。それでも、二匹に集中しているムゲンダイナにカビゴンとタルップルが攻撃をしかける。

「タルップル、げきりんだ!」

「カビゴン、十万ばりき!」

ドラゴンタイプ げきりん

タルップルの温和そうな見た目とは裏腹に、逆鱗に触れた龍の様に暴れるタルップル。

じめんタイプ 10まんばりき

まるでバンバドロの様に地面から得られるエネルギーを余すこと無くムゲンダイナへとぶつけるカビゴン。技の相性が良いこともあって、無視できるダメージでは無いはずだが、「」ウリは二匹の伝説のポケモンの方が驚異だと判断した様だ。

「ムゲンダイナ、止めを!」

ムゲンダイナが再び炎タイプの技を繰り出そうとしているが、その前にザシアンとザマゼンダが動き出す。

はがねタイプ きょうじゅうざん

ザシアンの口にくわえた刀剣が、爆発的なエネルギーでまるで巨大化した様に輝く。その刃は、朽ちた剣の性質も合わさって、キョダイ化したポケモンに大きなダメージを与える。

はがねタイプ きょじゅうだん

ザマゼンダの盾にも似た鬣がより一層強固になり、まるで弾丸の様にムゲンダイナに突進する。きょじゅうざんと同様にキョダイ化したポケモンに対して、普通のポケモンよりも効率的にダメージを与える。

「グオオォオオォオォオ」

だが、二匹の攻撃を受けてもなお、その力は衰える様子はない。

「ザシアン!?」

「ザマゼンダ!?」

再び炎技を受けて、地に伏せる二体。命に別状はないだろうが、戦闘に復帰するのは難しそうだ。

「あとは任せて休んでくれ、いくぞカビゴン!」

カビゴンの10まんばりきが再びムゲンダイナを襲う。それとほぼ同時にタルップルの攻撃が当たるが、ムゲンダイナが力尽きる様子はない。

「……伝説のポケモンは、倒れたみたいだけど?」

「」ウリが凍て付く様な瞳がホップを貫く。

「まだだ、ザシアン達が頑張ってくれた分も、俺達は諦めないんだぞ!」

マサルもまだ、諦める気配は無い。

 

 「」ウリは冷静に、ムゲンダイナに指示を出す。

「タルップルにダイドラグーン、カビゴンにダイマックス砲」

タルップルはムゲンダイナの一撃で戦闘不能になるが、カビゴンは耐える。

「カビゴン、10まんばりきだ!」

ホップの声が響き、カビゴンがそれに答える。

「うん、やっぱりカビゴンの特殊耐久は高いね。ホップも弱点をしっかり理解してる」

マサルが倒れたタルップルをモンスターボールに戻し、ペリッパーを繰り出す。

「だけど、それでも本当に私に敵うかな?」

 

 




読了ありがとうございました。

あれ、GWに終わらせるって、誰か言ってなかったっけ(痴呆

正直に言うと、自分でも何で終わってないんだって感じです(笑

ここから先はポケモンのデータになりますので、見たい方のみどうぞ。

「」ウリ 手持ちポケモン
ムゲンダイナ(ムゲンダイマックス)
キョダイポケモン
ガラル図鑑:No.400
特性:プレッシャー
Lv:70
H:432(1298) A:152 B:377 C:245 D:376 S:208
ダイバーン   (対ザシアン) 138~163   HP230→80
かえんほうしゃ (対ザマゼンダ)100~118   HP230→120
ダイバーン   (対ザマゼンダ)114~135   HP120→0
かえんほうしゃ (対ザシアン~)93~163   HP80→0
ダイドラグーン (対タルップル)288~339   HP299→0
ダイマックス砲 (対カビゴン)81~96     HP316→220

マサル 手持ちポケモン
タルップル ♂
りんごじるポケモン
ガラル図鑑:No.207
特性:あついしぼう
Lv:70
H:299 A:189 B:138 C:166 D:138 S:68
げきりん   (対ムゲンダイナ)140~168   HP1298→1148
 〃         〃    〃     HP699→549

ホップ 手持ちポケモン
カビゴン ♂
いねむりポケモン
ガラル図鑑:No.261
特性:あついしぼう
Lv:68
H:316 A:175 B:114 C:114 D:175 S:66
10まんばりき (対ムゲンダイナ)68~80    HP1148→1073
   〃       〃    〃     HP549→474
   〃       〃    〃     HP474→400

ザシアン
つわものポケモン
ガラル図鑑:No.398
特性:ふとうのけん
Lv:70
H:230 A:264 B:187 C:138 D:187 S:233
とおぼえ 全員の攻撃 一段階アップ
きょじゅうざん  (対ムゲンダイナ)218~258 HP1073→839

ザマゼンダ
つわものポケモン
ガラル図鑑:No.399
特性:ふくつのたて
Lv:70
H:230 A:208 B:229 C:138 D:229 S:205
ひかりのかべ  相手からの特殊攻撃のダメージ減少(3/4 で計算)
きょじゅうだん (対ムゲンダイナ)128~152  HP1073→839



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ムゲン団編 第十七話

「」ウリ戦の続きになります。

ムゲンダイマックスをしたムゲンダイナを操る「」ウリの目を覚まさせる事は出来るのか?

頑張れホップ、負けるなマサル!

……そういえば、こいつ相手を一人でしたホープ君が実は最強なのでは?

ボブは訝しんだ


 ムゲンダイナのダイバーンで包まれていた熱気が、ペリッパーの特性のおかげで雨が降る天候に切り替わる。

「……ムゲンタワーの頂上だと、簡単に天候が変わるね」

「」ウリが呟く。そうして、再びムゲンダイナに指示を出す。

「ムゲンダイナ、カビゴンを優先して倒して!」

どくタイプ ダイアシッド

ドラゴンタイプ ダイマックスほう

巨体なカビゴンすらも包み込む様な毒の奔流が体力を削り、弱った所にムゲンダイナの竜頭の一つから繰り出されるレーザーにカビゴンは力尽きる。

「カビゴンっ!?」

カビゴンが力尽きるのを見て、それでもなおマサルはペリッパーに指示を出す。

「ペリッパー、追い風だ!」

ひこうタイプ おいかぜ

ペリッパーが羽ばたき、風向きが変わる。ムゲンダイナはその巨体から、僅かな風でも受ける影響は大きい様だ。

「カビゴン、お疲れ様。やるぞ、アーマーガア!」

ホップが次のボールからアーマーガアを繰り出す。

「ペリッパー、れいとうビーム!」

「アーマーガア、アイアンヘッド!」

ペリッパーもアーマーガアも指示通りに、懸命にムゲンダイナに攻撃を仕掛けるが、弱っている様子はない。

「ムゲンダイナ!」

ドラゴンタイプ ダイドラグーン

ムゲンダイナの竜頭から繰り出されるエネルギーの塊が、ペリッパーを無慈悲に襲う。

「次は、アーマーガアよ」

ほのおタイプ かえんほうしゃ

竜頭から炎の塊がアーマーガアに吹き付けられる。ペリッパーは戦闘不能になったが、アーマーガアはなんとか持ちこたえた。

「よくやったペリッパー、頼んだぜゴリランダー」

マサルの手持ちの最後の一匹がムゲンタワーの頂上で雄叫びを上げる。

「ふんばるぞ、アーマーガア!」

ホップのかけ声と同時に、アーマーガアがムゲンダイナにアイアンヘッドで攻撃する。

「ゴリランダー、10まんばりきだ!」

カビゴンと同じように、ムゲンダイナに攻撃を仕掛けるゴリランダー。二体の攻撃にムゲンダイナが僅かに揺らいだ様に見えた。

「ムゲンダイナ! もう少しだから……力を貸して!」

毒の奔流がゴリランダーを包み、火炎放射がアーマーガアを焼く。二度目の炎技に耐えきれず倒れたアーマーガアはモンスターボールに戻っていった。

「これであとは、ホップだけ……!?」

ゴリランダーは かなしませまいと もちこたえた!

どう見てもボロボロの体で、ゴリランダーは立ち上がる。しかし、もう限界なのは見るまでもない。

「……満身創痍の癖に」

「」ウリが苦虫を噛み潰した様な顔になる。ホップが繰り出したのは、インテレオン。「」ウリも何度も見たポケモンだ。ホップとマサルが目を合わせて、同時にポケモンに指示を出す。

「ゴリランダー、くさのちかい!」

「インテレオン、みずのちかい!」

 

 「ふざ、けるなぁ!」

「」ウリが吠える。ムゲンダイナは水にも草にも耐性がある。例え同時に使う事で威力があがったとしても、倒れることはない。先に動いたゴリランダーが、草木の力を借りてインテレオンに攻撃する。

「……え?」

味方に攻撃することに呆気を取られた「」ウリは判断が鈍る。ゴリランダーの一撃を受けて、かなりのダメージを負ったインテレオンだが、動きが鈍るどころか、むしろ攻撃の鋭さが増した様にすら見える。

「……げきりゅう」

インテレオンの特性、体力が一定以上減少した場合、水タイプの攻撃力が上昇する逆転の特性だ。草の近いで水の量が莫大に増え、数え切れない程の水の弾丸が、ムゲンダイナに撃ち込まれていく。

「いっけぇ、インテレオン!」

渾身の一撃が、ムゲンダイナの巨体を穿つ。

 

 ムゲンダイナは巨体をうねらせ、悲鳴にも似た咆哮を吐き出しながら高度を下げていく。ムゲンタワーの頂上付近まで降りてきた時にはムゲンダイマックスが解け、本来の姿に戻るムゲンダイナ。

ムゲンダイナは 「」ウリを悲しませまいと もちこたえた!

最早、ムゲンダイマックスを保つどころか、攻撃する体力すら残っていないはずだが、それでもなお、二人の前に立ち、主人を守る為に尽くす。

「ムゲン……ダイナ?」

「」ウリの言葉に、ムゲンダイナが答える。精一杯の咆哮が、ムゲンタワーに響く。

「……」

「」ウリが、攻撃を命じれば、その通りに動くだろう。例えボロボロの体で、限界を超えようとも。

「……ホップ」

マサルはホップに合図を送る。ゴリランダーは既に体力の限界だ。今動けるのはインテレオンだけだ。

「……」

「」ウリは、言葉を発することも出来ず、マントにツメを立てて身を捩る。ムゲンダイナやムゲン団の皆に応えたいが為に、膝を折ることは出来ない。だがしかし、反撃をすることも、拒む。

「……うぅ」

目の前にいるホップ達は、この二人は、「」ウリにとって目指した未来だったのだ。約束を誓い、共に手を取り、そして勝利をつかみ取った。目指した未来が、何故、目の前にあって、それでもなお、手が届かないのか。

「俺達の勝ちだぞ!」

ホップが、吠える。耳を塞いでも聞こえる様な声で。

「ムゲンシステムなんか無くても、ユウリに勝てるんだ! 願いは、自分の手で叶える物なんだぞ!」

ホップの言葉に、漸く「」ウリは膝を折れる。地べたに座り込み、俯いて、涙を流した。

「……遅いよ」

どれだけの時間、この時を待ちわびただろう。この時の為だけに、どれだけの犠牲を払ってきたのだろうか。ただ、彼が約束の糸を手繰って、「」ウリを、無敗のチャンピオンを地に落とす瞬間を。

 ムゲン団の総帥、「」ウリに勝利した!

 

 「」ウリはまるで動く気配は無く、ただ力なく座り込んでいる。

「……大丈夫なのか?」

リンドウが心配そうに見ているが、ホップが近づいて確かめようとする。

「ユウリ! 大丈夫か!?」

ホップの声に、反応した「」ウリ。まるでホップが伸ばした手に反応したかの様に見えたが。その答えは割り込む様に響く声にかき消される。

『「」ウリ! やっと見つけた!』

彼女の名前を呼んだのは、まるで何十年後かのホップの様な姿をした男だった。ムゲンダイマックスの影響でまだ時空を越えて映し出される景色の一つから、彼女を呼ぶ声がする。

 




読了ありがとうございました。

お疲れ様でした!

ムゲンタワー編完結です、いやぁ、なんとか倒せましたね!

間違え続けた少女に語りかける男は一体何ップなんだ……(笑

ホップ達に負けるだけで終わるわけが無いよなぁ!

と言うわけで、もうちょっとだけ続くんじゃ(白目

この先はポケモンのデータになりますので、気になる方のみどうぞ。

「」ウリの手持ちポケモン
ムゲンダイナ(ムゲンダイマックスの姿)
ダイアシッド  (対カビゴン)  72~85   HP220→140 C一段階上昇
ダイマックス砲 (対カビゴン)  151~178  HP140→0
ダイドラグーン (対ペリッパー) 211~250  HP185→0
かえんほうしゃ (対アーマーガア)118~140  HP235→110
ダイアシッド  (対ゴリランダー)480~546  HP274→1
かえんほうしゃ (対アーマーガア)316~374  HP110→0

マサルの手持ちポケモン
ペリッパー ♂
みずどりポケモン
ガラル図鑑:No.063
特性:あめふらし
Lv:70
H:185 A:96 B:166 C:203 D:124 S:161
れいとうビーム  (対ムゲンダイナ) 30~36 HP400→365

ゴリランダー ♂
ドラマーポケモン
ガラル図鑑:No.003
特性:しんりょく
Lv:80
もちもの:きあいのたすき
H:274 A:280 B:173 C:125 D:141 S:216
10まんばりき (対ムゲンダイナ)  90~108 HP350→250
くさのちかい (対インテレオン)  140~168 HP213→63

ホップの手持ちポケモン
カビゴン

アーマーガア ♂
カラスポケモン
ガラル図鑑:No.023
特性:きんちょうかん
Lv:69
H:235 A:189 B:171 C:99 D:143 S:162
アイアンヘッド (対ムゲンダイナ)  15~18 HP365→350
   〃        〃       〃  HP250→235

インテレオン ♂
エージェントポケモン
ガラル図鑑:No.009
特性:げきりゅう
Lv:75
もちもの:じゃくてんほけん
H:213 A:155 B:125 C:289 D:125 S:187
みずのちかい  (対ムゲンダイナ)  250~295 HP235→0



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ムゲン団編 最終話

「」ウリ、センジュさん、マサル、ホップ、マリィ、ソニアさん

そしてリンドウ君、お疲れ様でした!

それじゃあ、俺はそろそろあつ森やるかもしれないから……

はい、予定は未定ですけどね。

予定と言うことで、DLCがあと一ヶ月まで迫って参りました。

ラランテスかコジョンドかタブンネが復活するなら買います(鋼の意思

復活しなかったら評価待ちです、そんな感じで。


 「」ウリの顔は、ホップ達からは見えない。

「……博士?」

「」ウリの声は、掠れて震えていた。まるで何かに怯えた小動物のようですらあった。

『ああ、ようやく見つけたんだ! もしかしたらとムゲンダイマックスの反応を探し続けていたんだ。まさか本当に……生きていたなんて』

人の良さそうな男の言葉に、嘘は無さそうだ。彼の表情は、まるで親友を見つけて安堵している様にしか見えない。

『今なら、こっちに戻ってこられるはずだ。干渉がいつまで保つかは分からない、早く!』

その言葉に、答えを出せない「」ウリ。

『……「」ウリ、ゴメンな。ああなったのは、俺が君の気持ちに気づけなかったからだ。都合が良いのは分かってる、でも……やり直させてくれ、今からでもきっと遅くない!』

体を抱き寄せ、震える「」ウリがその言葉に頷いた。何とかその男の言葉に答えようとしているのだろう。

「ちょーーーーっと待ったぁ!!」

そのやりとりに水を差したのは、ソニアだ。

「さっきから黙って聞いてたら、都合が良いだの、戻ってこいだの……その子はね、うちの大切な! 研究員の、彼女なんだからね! 勝手にして貰ったら困るの!」

映し出された男に、指を指して叫ぶ。

『……ソニア、か?』

男は明らかに動揺している。まるで、狐につままれたかの様な表情だった。

「……」

「」ウリは、言葉を発しない。突然の状況に混乱しているのもあるだろう。だが、迷っているのは明白だ。

「ユウリ! どっちを選ぶのか、お前が決めるんだ」

リンドウが「」ウリに叫ぶ。彼は映し出されている男について理解しているのだろう。ホップは状況に理解が追いつかないのか、頭を掻き毟って、それでもなお、答えをひねり出す。

「ああもう、分かってないのは俺だけなのか!? ユウリ! 何に悩んでるのか、俺は分からないけど」

息継ぎをして、胸を張るホップ。

「俺は、ユウリが来てくれて嬉しかったんだぞ! どこに行くのか決めるのはユウリだけど、俺の我が儘かもだけど……いなくなったら、寂しいんだぞ!」

「」ウリが、ホップに振り返る。その瞳には、涙が溢れている。悲しみと喜びがごちゃ混ぜになって、声はもう殆ど響かないが。

「……ここにいたい」

ホップには、しっかりと聞こえていた。

 

 センジュが現れて映し出される男に声を掛ける。

「そういうことです。「」ウリ様はそちらに戻ることはありません。心配して頂いたことには感謝しますが……ご理解下さい」

男は複雑な表情をするが、やがて頷いた。

『分かった、最期に話が出来て良かった』

寂しそうな声色に、センジュが言葉を発する。

「私も、「」ウリ様が居る場所にいます。申し訳ありませんが……兄にさようならと、今までありがとうと、伝えて頂けませんか?」

覚悟を決めた彼女の申し出に了承すると、最期に名残惜しそうに「」ウリを見つめながら、この世界では無いどこかに繋がった奇跡が痕跡も残さず消え去った。

 

 ムゲンタワーでの闘いの後、「」ウリは二日間眠り続けていた。まるでムゲンダイナ戦を終えた後のマサルのようだったが、その後の経過は順調である。目覚めたばかりの時は面会謝絶で周りを心配させたが、ホップもマサルもマリィにも会い、むしろ前よりも陰り無く笑っている様に見えた。

「……ホップの言ってたとおり、元気そうだね」

ソニアが病室に入ってくるのを見て、「」ウリは一瞬身構える。

「ソニア、さん」

持ち込んだフルーツの詰め合わせを台の上に置き、ソニアは椅子に座る。どちらとも話しかけ辛そうで、沈黙が流れる。

「……一つ、聞いても良いですか?」

「」ウリが、慎重に言葉を切り出すとソニアは優しく頷く。

「ホップを研究員として雇ったのは……ダンデさんの代わりなんですか?」

意表を突かれたのか、ソニアは驚き、理解したその右手が振り上げられる。

「……」

だが、その右手は振り下ろされることは無かった。

「そりゃあ、兄弟だもの……考えなかったことはないわ。勿論、きっかけは、ホップの言葉だからそこから始まった訳じゃないけどね。一緒に研究していると、ダンデさんに似てると思うことは一度や二度じゃなかった」

そこまで話して、「」ウリにこの話の続きを聞くか確認する。「」ウリが首を縦に振るのを見て、再び口を開く。

「ホップにダンデさんに似ている所を見つける度に、罪悪感を覚えたの。酷い話よね、ホップは迷った末にやっと見つけた目標に頑張ってるだけなのにね。いつだったかな、そのことをリンドウに話したの」

「」ウリは、身を乗り出す。

「リンドウは、なんて?」

渇いた笑いをソニアは返す。

「『俺も、センジュさんをみて十五年もしたらマリィがこうなるのかなぁ、って思うことがあるよ。どきどきするよね』って言ってた」

呆れた様に溜息をつく「」ウリ。

「だからね、リンドウにびんたしたの」

 

 スパンッ

振り抜いた右手が、リンドウの頬からいい音を出す。

「いってぇ!」

信じられない、そんな表情でソニアを見つめるリンドウ、だが無言でソニアが右腕を振り上げる。

「えっ、ちょっとまっ」

スパァン

先ほどよりも響きの良い音がする。

「わ、悪かった。そういうことかと思って……」

再び、右腕が振り下ろされる。リンドウは、諦めと絶望が入り交じる表情で結末を受け入れるしかなった。

パァァァン

 

 「」ウリがその言葉に、吹き出す様に笑った。

「三回、ビンタしてやったわ」

ソニアのどや顔に「」ウリが肯定する。

「それは、仕方ないですね」

言ってる事はそんなに違う事はないだろうが、与える印象は別物だ。なにより、ソニアはそれと同じだと思って欲しくなかったのだろう。

「……まぁ、リンドウからしたらそんなことだったってこと」

思い出しただけでも、ソニアにとっては不快らしい。

「それで、許してあげたんですか?」

首を横に振るソニア。

「まさか、ビンタで済ませるわけないじゃない。リンドウは理不尽だって言ってるけどね」

溜息をつくソニア。「」ウリは苦笑いで応える。

「私は、ホップに悪いことをしたと思ってた……けどね、リンドウから見たらそんなことだったらしいの。多分、ホップも話しても怒ることもないでしょうね」

それが良いことなのか、悪いことなのかは分からないけれど、と付け足すソニア。

「意外と本人以外は気にしてなかったりするんですね……もっと早く、ソニアさんと話してれば」

そこまで話した「」ウリの唇に人差し指をあてるソニア。

「今からだって遅くないでしょ。まだ面会時間はあるんだし……私、色々ユウリちゃんに聞きたいことあるんだからね」

ソニアの笑顔は、長年溜め込んできた暗い感情を少しずつ溶かして、漸くわだかまりがなくなったようだった。その日の病室では、年相応の笑みを浮かべるユウリがいた。

 

 テーブルで向き合うセンジュとリンドウ。場所はいつものカフェ、頼んだコーヒーもまだ熱を持っている。

「ありがとうございました。貴方のおかげで「」ウリは随分と、良い方向に変わったと思います」

センジュの感謝の言葉に、リンドウは首を横に振る。

「俺のおかげなんて、何もしてないよ。礼をいうなら、ホップかマサル辺りじゃ無いか?」

コーヒーに口をつけて、少し啜る。

「……前の世界と何が違うのか、考えていました。勿論、似ている所があるだけで同じ所などないのですが。それでも、前の世界に近ければ近いほど、「」ウリは同じ道を辿ったと思うのです」

センジュはまるで、「」ウリが不幸を歩む運命にあったのだと言わんばかりだ。

「境遇には同情するよ、あんたも大変だったんだろうな。だけど、不幸になるのが運命って言うのは……悲観的なんじゃないか?」

そもそも運命どころか占いもあまり信じないリンドウにとって、その言葉はあまり腑に落ちる内容ではなかった。コーヒーに写るのは、穏やかな笑みを浮かべるセンジュの顔だった。

「運命、そう言えばまた誰かに責任を押しつけて居るみたいですね。単純に私達自身が選んだ選択が、いつもその先が悪い方向に続いている、そう思っただけです」

その時に選んだ自分は、正しいと思って選んでいるのですが、と愚痴をこぼす。

「そんなの、誰だって正しいと思って選んでるよ。結果論なら、どうとだって言えるさ」

コーヒーの苦みが、口の中に広がる。

「そうですね。だからこそ、私達だけではこの結果に辿り着けなかった。マサルさんも、ソニアさんも、勿論ホップ博士が居なくては「」ウリ様の笑顔を再び見ることは叶わなかったでしょう」

そこで一度区切り、コーヒーをもう一度啜る。

「リンドウさんが、何かをしたとは言いにくいかも知れません。貴方が居ない世界を想像してみると……また前と同じ過ちを繰り返していたでしょう」

根拠などないのですが、とセンジュは付け足す。結局の所、話の内容などあってないようなものだったのだ。ただセンジュは感謝を述べる為だけの、そんな会話だったのだろう。リンドウはコーヒーを飲み干し、席を立つ。

「ご馳走様、まぁまた何かあったら呼んでくれよ」

その言葉に、センジュは返事をする。

「勿論、それと貴方が用事がある時は遠慮無く連絡を下さい。私達は、できる限り貴方のことを支援しますので」

言葉半分に聞いて、テーブルを離れようとしたリンドウに、伝え忘れていたと前置きをしてセンジュが口を開いた。

「うちはリンドウの事、ばりすいとうと。なんかあったら、連絡しとっとね」

無言で離れていくリンドウは、頬が熱くなるのを感じていた。

 

 「なんでこの間は来なかったの?」

フィールドワークに付きそうリンドウに、ソニアが詰め寄る様に問いかける。

「来なかったって……代わりにセンジュに来て貰ってただろ。なんだったら俺より仕事出来るくらいだと思うけど?」

先日研究室での作業に必要だったのでソニアはリンドウに応援を頼んだのだが、来たのはセンジュ。仕事が捗ったのは言うまでもない。

「もう、そういう問題じゃ無いでしょ! リンドウをよんだんだから、リンドウが来てよ!」

人差し指でリンドウを刺すソニア。面倒なのに掴まったと言いたげな表情をするリンドウ。

「連絡受けた時に忙しいって言っただろ。応援探している時に丁度センジュさんが受けてくれてたから、むしろセンジュさんには感謝して欲しいくらいだが」

困った表情のリンドウには、センジュには感謝を伝えているとソニアは怒る。

「それじゃ、何が問題なんだよ?」

リンドウの疑問に、ソニアが言葉を紡ぎ始める。研究所の作業ではセンジュとは別に「」ウリが手伝いに来ていたこと。ホップは真面目に仕事をするし、他の二人も仕事に関しては手際の良さは文句のつけようが無かった。だが、「」ウリがホップに関わる事になる度に、甘ったるい雰囲気を醸し出す。ホップも真面目に仕事しているが、「」ウリに意識して貰えること自体に悪い気はしていない。センジュは仕事が進む範囲でホップと「」ウリの仲をサポートしようとしていく。

「仕事はしっかり終わるのに、終わったころには私は孤独感で一杯だったの! わかる、この罪の重さ!」

何故そんな話になっているのかと、色々と思うところが無いわけではないリンドウだったが。

「まぁ、ユウリが研究所に会いに来れるくらい仲良くなったなら良いんじゃ無い?」

その言葉自体にはソニアは頷く。ムゲンタワーの一件依頼、ソニアを始めとした苦手意識はすっかり薄れていたのだ。

「……私だけぇ、置いてかれてる感がぁ……嫌なのぉ」

とうとう泣き出したソニア。言っている意味を理解出来ないリンドウだが、とりあえず慰める。

「置いてかれてるって、そんなことないだろ」

ハンカチを手渡し、ソニアの涙を拭う。

「ダンデ君は帰ってこないし、なんだかんだでマサルとマリィちゃんは良い雰囲気に戻ったし、ホップは目の前でいちゃつくし……私だけ何も進展がないの!」

リンドウは、何も言わずにソニアを抱きしめる。

「……!?」

表情が目まぐるしく変わるソニアだが、リンドウの手を振りほどこうとはしない。

「寂しかったんだな。まぁ、今日は俺で我慢してくれ……これからなるべく行く様にするからな」

ごにょごにょとソニアが何か呟いていた様だが、小さい上にしっかりと言葉になっておらず、聞き取りにくくて、その、とりあえずリンドウには伝わってはいなかったようだ。

 




読了ありがとうございました。

むりやり詰め込んだので、最終話だけ文字数多いけどママエアロ

GWに始めてから一ヶ月、早かったですねぇ。

ここまで付き合って下さった方々、本当にありがとうございました。

リンドウ君達に続きの物語が出来るのは何ヶ月先になるかは分かりません。

ただ、とりあえずの区切りが付いたので、物語は完結という形をとります。

もっとリンドウとソニアさんをいちゃいちゃさせたいけど、難しいねんな……

DLCの出来が良かったら復活は早いと思います(フラグ


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