二重存在(ドッペルゲンガー) (黒猫大ちゃん)
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二重存在(ドッペルゲンガー)

 私の知っていたSS小説とは、こう言う、ショート・ショートと言う類の小説の事を指していました。


 あれは、確か今から7年ぐらい前の9月の半ば頃の話で有ったのだろうか。

 

 丁度、遅めの朝食の後に、その日は買い物をする日に当たっていたので、買い物を済ませてから返って来たトコロだったので、大体、午前11時過ぎの事だったと思う。

 

 突如、何の前振りも無く成り出す電話。その自己を主張する理不尽な叫びの中に、俺はかなりの苛立ちと、そして、何故か感じるホンの少しの不安を覚えながら受話器を手に取った。

 

 とある出来事以来、俺自身は電話に関しては、あまり好きではないのだが……

 

「はい。○○です」

 

 一応、電話のコールで許されるのは5回まで。自宅兼事務所のような職業をやって居る俺は、電話が鳴る=受話器を取る。と言う行為をパブロフの犬の如く染みつかせているので、我が家の固定電話に俺以外が電話に出ると言う事は稀である。

 いや、下っ端の小役人をしていた時から、これは変わらないか。

 

「もしもし、お父さん」

 

 その手にした受話器から、今にも消え入りそうな声が聞こえて来る。

 これは、若い男の声。

 

 ……おとうさん?

 

 しかし、俺をお父さんと呼ぶ相手に心当たりはない。そう。残念ながら、俺には妻はいない。家族は俺とお袋。それに一匹の年老いた縞猫が居るだけで有る。

 それに、もう、あんな辛い思いをするぐらいなら……。

 

「もしもし、お母さんに変わってくれるかな」

 

 しかし、一瞬、嫌な事を思い出し掛けた俺を、その若い男の声が現実に引き戻す。

 そう。あの電話の時もそうだった。一瞬、何を告げられたのか理解出来ずに、受話器を持ったまま固まった俺に対して、割と大きな声で呼び掛けてくれた彼女の友人からの声で、ようやく正気に戻る事が出来たのだ。

 

 もっとも、本当に正気に返ったのはそれから大分たった後。彼女との『約束』を思い出した、病院の治療台の上だったのかも知れないが。

 

「母さんなら、今、畑の方に出ているが」

 

 俺は有りのままの事実を、その電話の向こう側の若い男に告げた。

 何の用かは判らないが、急ぎの用なのだろうか。

 

「○○だけど、父さん、早く、母さんに変わってくれ。

 俺、大変な事を……」

 

 後半の方は、良く聞き取れないが、その前に、聞き逃せない事をこの若い男が告げた。

 そう、この若い男は、自らの事を○○。つまり、今、電話に出ている俺の名前を告げたのだ。

 

 これは、白昼夢なのだろうか。

 それとも、俺は、未来の自分からの電話を受けて終ったのだろうか。

 

 それとも……。

 

「そうか。俺は、今、とても不思議な体験をしていると言う事なのか。

 自らのドッペルゲンガーと出会った人間は、死期が近いと言う。

 ならば、自らのドッペルゲンガーよりの電話を受けた俺は、何時死ねるのか教えては貰えないだろうか?」

 

 俺は、慌てる事なく淡々と、電話の向こう側に居る俺の二重存在(ドッペルゲンガー)に対してそう聞いた。

 それにしても……。どうせ、俺に死期が近い事を告げるのなら、俺の二重存在などを使わずに、彼女自らが電話を掛けてくれた方が良かったのだが。

 彼の岸からの電話を受けるのなら、そちらの方が数倍、幸せで有ったのだが。

 

 しかし、その俺の問いに、俺の二重存在は答えてくれる事などなく、無言でそのまま電話を切って終った。

 

 そう言えば、今年は未だ彼女に会いに行って無かったか。

 受話器を置いて、目の前に掛けられたカレンダーを見つめ、そう思う俺。

 果たして、こんな薄情な俺の事を、彼女は許してくれるだろうか。

 

 別れの前の夜に、俺に『約束』と言う名前の呪を与えて、先に行って終った彼女の事を忘れて終ったかのように、普通に暮らしている俺の事を。

 

 カレンダーに記された赤い印を見つめながら、そう思う俺で有った。

 




 これは半ば実話です。創作部分は、電話を掛けて来た相手を、自らの二重存在だなどと思い込まなかった事ぐらいです。
 
 追記。
 あれ、今、気付いたけど、2013年4月29日現在で、評価者が3人。
 (4+5+6)÷3=5
 ……のはずなのですが、何故か、平均評価値は3点台。
 何故?

 もしかして、私……。つまり、作者すら判らない評価者が居ると言うのでは。


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