貴方方は、友人であるグレアムに呼び出され、彼の家に来ている。
「急に呼び出してすまないな。いきなりだが、こいつを見てくれ。
ウィリアムのやつがこんな置き手紙を残して出ていきやがったんだ。『お前に迷惑はかけられない』、だとよ。
あいつの身に何かあったにちがいねえ。あいつには何度も助けられてる。今度は俺が助ける番だ……とは思ってるんだが、まずはみつけねぇことには始まらねぇ。
力を貸してくれ。礼はする……頼む。」
錬金術師という怪しい職業を名乗る彼らだが、やっているのは酒の研究らしく、時折試作品の実験などと称して手製の酒を近所の人間に振る舞ってくれる。貴方も、何度も御相伴にあずかっていて、彼らの力になるのに否やは無いだろう。
「まず、その手紙を見せてくれないか?何か行き先のヒントがあるかもしれない。」
そう言って置き手紙を矯めつ眇めつするが、
『すまない。俺はここを出る。お前に迷惑はかけられない。』
と書かれているばかりだ。
インクも、そこに置いてある、普段使っているものらしく、貴方も筆跡が明らかに乱れている以上のことは分からないだろう。
貴方が、何か持ち出されたものは無いかと尋ねると、
実験道具は消耗品が僅かに持ち出されてるのみ、保存食の類が一週間分ほど、それに、手製の酒の樽が2、3持ち出されただけだという。
「そもそも、あいつが出て行ったのは何時頃なんだ?」
「俺はこの四日間、隣町まで薬酒の材料を買いに出てたんだ。 帰って来て、翌日、つまりは昨日だが、その夕方に目が覚めてようやくこの手紙に気付いてお前らに助けを求めたんだ。
家の中も昨日のうちにに調べたが、
何が持ち出されたかくらいしかわからなかった。」
彼の行きつけの店を聞いても、彼はプライベートは隠すタイプだったようで、普段材料を仕入れる店の他は知らないという。
一瞬、グレアムの目が泳いだようにも感じたが、貴方は確証も持てず、問いただすには至らなかった。
家の中を見渡してみたところで、
ランプやらインク瓶と言った日用品だけでなく、試作品だという酒樽や銅製の何やら管の伸びた大きな機械やらが置いてあり散らかった室内では、何か目ぼしいものが無いかというのも見慣れない道具類に紛れてしまい、貴方には分からなかったことだろう。
これ以上は分かることはなさそうだと思った貴方達は、
「空いてる時間だけでもいいから、探してくれないか」という友人に首肯しながら、彼の家を後にした。
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