王様をぎゃふん! と言わせたい (ハイキューw)
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中学生編
第1話


 最後に覚えているのは……勿論 春高、あのオレンジコート。

 眩いライトに一面照らされて、場が揺れんばかりの大声援。

 

 あの流した汗、追いかけたボール、流した涙。

 

 思い返せば目にいつだって浮かぶ。

 

 そして、ついに立った決勝の舞台。

同じオレンジコートでも 同じ声援でも まるで違う感覚だった。あと一つ勝てば……全国制覇。高まる緊張、高揚、体力気力ともに充実し、最後の相手と日本一の座をかけて戦った。

 

 いつだって、思い返せる。

 

 あの時は、一日一日終えた後に どのチームが勝ち上がりそうかや、本命チームが取られるセット数、自分たちのチームの取られるセット数まで 仲間たちと予想し合ったものだったんだが……。

 

 

「でも、こればっかりは予想できなかったなぁ」

 

 

 そして、今現在。予想できない事態に見舞われているのである。

 

 高校もあと数日で卒業だったハズ……なんだけど、今中学3年生をやっている。

 頭打ったわけではないし、留年? したわけでもない。至って正常であると断言できる。そして、今の状況が、否! 今の世界(・・)があり得ないのであるとも断言できる。

 

 なぜなら―――。

 

 

「うぉぉぉぉぉ!! やっぱやべぇーー!! 小さな巨人っ、かっけーーー!!」

 

 

 自分の直ぐ隣にいる男の子の存在が一番の原因だ。

 録画したバレーの試合を一体何度目になるかわからない程、画面に食いつきそうな勢いで見ている。……魅入っている。

 

 

 そんな彼の名は、日向 翔陽。そして此処は日向家。

 

 

聞き覚えのある人もきっといると思う。

因みに同姓同名の別人というわけではない。

 

……現実の世界にいるハズのない架空の世界の存在。漫画の中の住人。……の、ハズなんだが、すぐ横にいる。動いている。生きている。

なんだったら もう何年も(バレー関係に)付き合ってる。

 

 

 そう、ここから導き出されるのはただ一つ。

 

 

 自分の身に降りかかったのは、それこそ漫画みたいな話だということ。

 

《ハイキュー‼》と言う名の世界に転生したのだということだ。

 

 自分がどういった経緯で、こんなトンデモ世界にきたのかは思い出せない。でも、転生する前の人生はよく覚えている。昨日のことのように思い出せる。

 さみしさは当然最初のころはあったけれど……今は 大丈夫だ。

 

 何せ、自分自身がこの世界に……ハイキューを見てバレーを始めたのだから。バレーに憧れて、その道を歩き出したのだから。

そしてその結果、全国大会……春高の決勝まで進む事ができたのだ。結果も最高であり、自分の青春の全て、その根幹がこの世界なのだから。

 確かに摩訶不思議であり、今までの自分の人生が覆ってしまって恐れおののきがあるんだけれど、それ以上に感動が大きいのだ。それに この世界に家族だってちゃんといる。生憎前世(現実世界?)の記憶を持ってるのは自分だけのようだが。

 

「?? なにニヤニヤしてんの?」

「……ふふ。って、それ ず~~っとニヤニヤしてる翔陽には言われたくないな。あと、いつまで見てるつもり?」

 

 自分は日向に会えた時の事を思い出していて思わずまた笑ってしまっていた。何度目になるかわからないが、いつ思い出しても笑みがこぼれてしまう。

 

あの時……当然ながら 驚きのあまり固まった後に、声を発してしまった。

 

その時点で不審者? 不審なガキ? っぽい感じだけれど、出会えた場所は、小6の時。町の電気屋の前で、大きなテレビが掛かってて……そう、日向にとっての始まりと言っていい 《小さな巨人》 が春高で戦っている場面だったから、自分自身も その試合を見て驚き、声を上げたのだと幸運にも思ってくれて変な奴扱いではなかった。

 

 そして当然ながら、日向とはそこからの仲である。

小さな巨人に歓声を上げたんだ、と解釈されて『オレもオレも!!』と思い切りなつかれてしまった。

 

 今、同じ中学にもいってる。親に無理をいって通わせてもらえた。丁度、祖父の家が雪ヶ丘にあって本当に良かったと思う。

日向と一緒に数少ないバレー部員として、楽しむことができているのだから。

 

当然――真剣に楽しんでいる。

 

「いつ見たって何回見たって良いだろ!? だって小さな巨人だぞっ! よし! オレたちも試合するぞーー!! 練習試合だ!」

「練習試合っていったってなぁ。ずっと言ってるけど、5人じゃちょっと……。ああ、また女子に混ぜてもらうか? 来週練習試合するんだって。あと1人集めるだけなら、当てはあるし」

「う……、また女の子たちに混ぜてもらうのは……」

「ばーか。まだそんな事言ってるのか。いつかの糧になれば良いって、前に教えただろ? 絶対無駄になんないって。それに、翔陽が入りたいって言ってる烏野なら部員不足~なんて無いだろうし、高校生になったら 形あるバレーだってきっとできる。何をするにもまずは、基礎からだ。継続は力なり、ってな」

「……たまに思います。いえいえ、普段から割とたくさん思います。会ったときからです。あなた、ほんとうに同級生ですか?? 火神 誠也さん?? あなた歳いくつですか??」

 

 何か遠い目をして、見上げてる日向。

 ここで紹介、転生者のこの世界での名は 火神(かがみ)誠也(せいや)です。

 

「俺はな……。身体も心もでっかくなっときたくて頑張ったんだよ。翔陽も頑張れ」

「はふぐぅぅ……、う、うらやましい……」

「ん、でも翔陽はさ、小さな巨人になりたいんだろ? ほれ 大きかったらなれないぞ」

「そんな事じゃないんです……。どーしても憧れるんです……」

「理屈じゃないってか。んじゃ、もう終わったみたいだし、パス練再開するか?」

「っ! おうっっ」

 

 

 日向はバレーの練習になると本当に顔色が変わる。さっきまでたっぱの話で落ち込んでいたみたいなんだけど、あっという間に立ち直ってしまう。

 うれしくて仕方ない、って顔になる。

 

日向は、火神と出会わなかったら 一人でバレーをする羽目になっていたハズだ。一人でとなると……できる事が本当に限られる。二人いれば パスの練習だってできるし、何より……。

 

「俺にトス、くれ!!」

「ほい了解」

 

 スパイクが打てる。打つことができる。それが日向にとってどれだけうれしい事だったか……火神は誰よりも知っている事だろう。

 もし、自分がここにいなければ、日向はずっと一人で頑張り続けていたハズだから。それは決まっている事と言っていい。空いた時間で別の部活の友達に頼んで一緒にしてもらい、そして3年目にして初めて後輩部員が入ってきてくれて、ようやくチームが出来上がる。

 

 0からのスタートというのはやっぱり険しいし、難しい。

 

 だが、今は違う。火神という男がいるからこそ、日向は一人ではない。

パスだってスパイクだってできる。そして、試合だって最後の最後に出る事ができる。

でも、なかなかに下手なのも仕方ない。前世でさんざんプレーしてきた身である火神だけれど、教える側というのはあまり経験がなかったりするから。

 

 

 

 

 

「んー、最後くらいは俺も試合出たいって思ってたから。翔陽と最後の公式戦は楽しみだ」

「おう!! あと1人なら! イズミンとコージーにも頼んだら絶対何とかなる! 絶対なる!! ……って、おいちょっと待て!」

 

 忙しそうなテンションな日向は、ぐるりと体をコマみたいに回転させながら、ボールをキャッチして、火神の方を見た。

 

「早とちりかもしれないけど せいや! ……最後(・・)のって 中学校では(・・・・・)最後って事だよな?? オレたち高校でもするんだろっ!? 一緒に烏野いくんだろっっ!? 間違いないよな!? 早とちりなんだよな!!」

「めちゃめちゃ必死か! 周りを小動物みたいにうろうろしない! ステイっ」

 

 大きくため息を吐いた火神は、ちょっとだけ真剣に考える。

 確かに、彼はバレーは好きだった。前に……前世ででは悔いなどない程に頑張った。でも、あの青春ですべて燃え尽きたような気もしていたのだ。社会人、プロ、世界……と次々にビジョンが見えていた時期もあったんだけれど、今はほとんどない。

 

 でも、この世界にやってきてまた再燃したのは事実。だから、日向と火神は一緒にたった2人の部活、愛好会を続けてきたのだから。そして、少なからずこの世界の超人たちとネットを挟んで対戦してみたいとも思っていた。

 

 だが、……火神は日向と一緒にプレイしたい、という気持ちより、このほとんど間近で、流行っていたVR世界の没入感などくらべものにならない程近くで、彼ら烏野のバレーを見ていたい、という気持ちの方が強くなっていた。加わって、できる事だってきっとあるし、楽しくだってできると思う。……でも、あの戦いを。烏野と戦う青葉城西を、春高予選の決勝戦 伝説の白鳥沢戦を……そして、あまたの感情が渦巻く全国春高の舞台を。

この目で見たい。生観戦してみたい、という気持ちも異様に強いのだ。

 

 バレー選手としてはプレイしたいって気持ちよりもやや強いのが現実。

 

 

「で、どーなんだ!」

「ん~ 高校でバレーするかどうかは決めてないよ? ほかにしたい事もできるかもしれないし」

「がーーーーんっっっ!!!」

「いや、がーんって口に出すものだっけ? いいじゃん、烏野は家からは近いからそこに行くつもりだし、翔陽は友達だ。応援してるぞ」

「なんでだよーーー! 一緒にやろーーーよーーー!! 目指せ、小さな巨人の舞台ってずっとやってきたじゃないかー!」

「小さな巨人云々は、翔陽がずっと言ってるだけじゃなかったか……? まぁまぁ。相手くらいはしてやるからさ。そんな落ち込まなくて良いじゃん?」

「落ち込むわ! 誰がオレにトスあげてくれるんだよっっ! せいやしかいないのに!」

 

 日向にそれを言われて……火神は 少し思い出した。

 

 そう、日向はこの後……中学最後の大会で 運命って言っていい相手に出会うという事を。

 

 光と影、みたいな感じで出会うのは、超人中学生の影山飛雄。コート上の王様の異名を持ってる超絶スキルの持ち主。もともとのポジションは火神はWSだから……というつもりもなく、影山には到底トスでは勝てないのは解る。ザ・漫画キャラって感じの神業、超コントロールトスをしてる相手とセッターで張り合えるなんて到底思えない。

 

 ……試合でまるっきり相手にならないか? と言われれば話は別だが。

 

 

 

 兎も角、日向が言うような事にはならない。トスを上げる男は必ず現れると確信しているから。

 

「大丈夫だ。烏野に行けばスゲーヤツはいるって。スゲートスを上げるヤツがいる。間違いなく」

 

 自信満々に言う火神を見て、日向は少し興奮が収まった。

 こういう顔をして言う時の火神の的中率は限りなく100パーセントに近いから。事、バレーボールにおいてはほぼ。自信家過ぎ! と最初のころ思ってた日向なんだけど、それはもう思ってない。

 

「ひょっとしてもう烏野に行ってみた、とかか!? オレを差し置いて!?」

「なんでそーなる? 違う違う。烏野は古豪。最近は堕ちたカラス~だっけ? そんな感じで言われてるみたいだけど、古豪にふさわしい選手はきっと集まるだろ? 確率的に。だから大丈夫って思っただけだ。………翔陽に確率、なんて言ったら頭パンクするかもだけどな」

「う、うるさいっ! で、でも それでせいやが バレーしないって事になるのが理解できねーよ。あんなに上手なのに! サーブとか、トスとか、スパイクとか! ……い、いや、スパイクは負けねー!!」

 

 

 

 一緒に練習しているからこそ、日向は火神の実力は解ってる。なんで、バレー部の強くない中学にいるのかがわからない程に。

 

 火神は、にやっと笑った。

 

「おう。頑張れよ」

「こら! 頑張れよ、じゃなくて 一緒にがんばろーーぜ! 一緒にバレーしよーーぜ!!」

「わーーったわーーーった、その話はまず高校に入ってからな? その前に、中学の最後の大会だ。……度胆抜いてやるよ。秘密兵器でな」

「ひ、ひみつへーき!? ナニそれ、かっけーー! 教えてーー!」

「教えたら秘密にならないじゃん?」

「うーーー、い、いやまて! ひみつ兵器は今は良い! それより宣言しろーー! 『私、火神誠也は 日向翔陽と一緒に高校ででもバレーします!』 って。オレを見捨てるのかーーー!!」

 

 

 ぎゃーと日向が大声を上げたせいで、日向の家の中から小さな女の子が飛び出してきた。

 

 

「せい兄―! せんげんーー、みすてないでーーー」

「うおっ!?」

 

 

 勢いよく飛び出してきて、抱き着くのは 日向翔陽の妹 日向夏である。

 さすがは日向家。非常に身体能力が高い。腰当たりにいい勢いで飛びついてきた。

 

「っとと、危ないだろ? 夏」

「せい兄――」

「せいやーー オレたち兄妹みすてないでーー」

「みすてないでーーー」

 

「「みすてないでーーー」」

 

 

 

 人懐っこく、かわいらしい夏にまでそんな目を向けられちゃ、お兄ちゃんと呼ばれてる自分もグラッと来てしまう。

 

「こらこら! 自分の妹に変な事教えんなよな!」

 

 

 

 

 

 

 

いろいろあったが、今日も楽しかった。

 

 

そして、初の公式戦も目の前だ。

 

 

 あの試合はよく覚えている。……本当によく覚えている。素人の寄せ集めのチームで優勝候補相手に本当に凄いと思った。漫画やアニメだってわかっていても、凄いと思った。異常なスキルは兎も角、精神面は沢山教わった。

 

 負けたくない気持ち、まだ負けてない、という気持ち。……そして、まだボールは落ちてないという気持ち。

 

 

「(勝つ! っていうのは 九割九分九厘無理だ。……だけど、圧勝、簡単にいくとは思うなよ? 影山。楽しみにしておけ、ってな)」

 

 



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第2話

書き忘れ。
処女作です。宜しくお願いします。


はじまった。

 

中学最初にして、最後の公式戦。日向が待ちわびた……否、火神も同じく待ちわびた公式戦。

 

初めての筈なのに、懐かしささえあるこの雰囲気。失われた過去の記憶が鮮明によみがえってくるかのようだ。大きな声、シューズの擦れる音、そして何よりバレーボールの音。

 

 

「ひとがいっぱいだ……!」

 

日向の衝撃、感動はきっと誰よりも大きいだろう。ここに来れると100%確信していた火神とは違うのだから。

 

「体育館、でけえっ……! それに、エアーサロンパスのにおい……!!」

「ぷっ……」

 

火神は日向の台詞を生で聞いて、少し吹き出したのと同時に、感動もした。

自分自身もよくわかってるから。あの臭いは本当によく。他の皆にはきっと解らないだろうけど、日向のこの台詞を見てから、意識し出した火神は本当によくわかる。

 

「そうだな。やっと来た」

 

感慨深さ、ここに極まる。

 

 

雪ヶ丘中学の初の晴れ舞台。

 

 

「ちょっと2人とも、なんか2人だけで違う世界に入り込んでない? それに何?エアーサロンパスって」

「なんか、2人見てると保護者と子供って感じがするぞ。キャプテンなんだからもっとしっかりしてくれよ翔陽」

 

泉行高と関向幸治。

 

本当はバスケ部とサッカー部の2人。それぞれの総体が終わったから応援に駆けつけてくれたのだ。……というよりは日向が引っ張ってきたと言うのが正しい。

 

「うんうん。息子を見守るっていうのはこんな感じなんだろうなぁ、と思ってたところだコージ」

「誰が息子か! で、でも仕方ないじゃん! 初めての公式戦、初めてちゃんとした大会にでれたんだから!! ……3年目にして! うおおおっ………」

「うんうん」

 

横で頷きながら見守ってる火神を改めてみてもやっぱり保護者に見えると思わず噴き出す泉と関向。

 

「それにしても、マジで誠也の言ってた通りになったな。ピタリ賞じゃん。3年目に出場って」

「よく粘ったよね、ほんと。せいちゃんをバスケ部にって、ずーっとキャプテンが交渉しにいってたんだけど、ずっとバレーだって言ってんだ。しょうちゃんに負けず劣らずだね。この光景が見えてたのかなぁ」

 

皆がそれぞれ感慨に耽っているんだけど、それもそろそろ終わりにしよう。

 

3年生は日向を除いてそれなりには慣れてるんだけど、1年生たちは慣れないようでソワソワしだしていたから。森、川島、鈴木の3人の新入部員。日向と一緒に頑張ってきた火神も入ってきてくれた3人には本当に感謝している。

 

「よし、そんじゃキャプテン。そろそろ行動開始だ。思い出作りに来た訳じゃないだろ? もうすぐ試合だしアップアップ」

 

何度も感謝してると伝えてるので、火神は言葉ではなく行動で示す。

皆の背を軽く叩きながら言っていた。少しでも固さがほぐれるように。

 

「ほらほら、副キャプテンが頑張ってるんだから、しょうちゃんも」

「そーだそーだ。俺ら殆どルールもわかんない状態なんだからちゃんと仕切ってくれよ」

 

ここまで、言われたところで漸く日向も頷く。

 

「わ、わかってるよ! やっと出れた大会なんだ。出るからには勝つぞ!」

 

日向の台詞を聞いて、また自然と笑みが出る。

初戦の相手がどこなのか、当然ながら知っている。遥か格上であると言うことも。

 

でも、日向はブレることはない。勝ちたいから。その気持ちはよくわかるから。

 

「うえぇ……マジで? この即席チームで?? 確か誠也が言うには相手優勝候補らしいじゃん。それでも??」

「せめて、ウチみたいなチーム……いや、創部1年目、みたいなチームならねぇ。そんな相手ならまだしも、ちょっと難易度が高すぎないかな……?」

 

泉と関向がそう言うのも無理はない。

畑違いとはいえ同じく運動部。解らないはずはない。経験が足りない、練習時間が足りない、指導者もいない。更に相手は最強の候補。条件は最悪。

 

「あ、当たり前だろ! ほら、副キャプも思い出作りに来た訳じゃない、っていってたじゃん!」

「あー、まあな」

 

火神をちらりとみた。

 

「確かに誠也だけみたらなぁ。誠也が後3人いればなんとか……」

「こらっ! せいやだけじゃねー! 俺だって飛べるんだ!」

 

「うーん、せいちゃんは 背高いし」

「うぐぐぅぅ……」

「やっ、ちがうちがう。どんな運動でもさチームプレイなら1人2人だけしかなんじゃ難しいんじゃないかなーって。もちろん俺も出るなら頑張るし、なげやりって訳じゃないけど、ちょっと……ねえ? その辺はせいちゃんはどう?」

 

火神の方に皆の視線が集まる。

日向は何かを訴える様な眼差しを向けてくるが……生憎精神論だけじゃどうにもならない壁が有ることはよくわかってる。

 

「確かに2人の言う通り。こっちは即席ツギハギ、時間もちょっとしかなかったし、相手も強い。勝つのは無茶もいいとこ」

「ふぐおぅぅ……」

 

日向はダメージを受けた。

 

「――だが、やりようがないわけじゃないぜ?」

 

不敵に笑う火神をみて、日向は回復した。

 

「そ、そーだそーだ! 俺は翔べるし、せいやは せ、背も高いし、全部上手い! 俺たちは勝てる! それに秘密兵器もあるんだぞ~」

「は? ひみつへーき??」

 

子供のように目を輝かせてる日向をみた後、ちらっと関向が火神をみた。

軽く苦笑いをする火神をみて、日向を乗せるためのものかな?と判断して両手を上げた。

 

「わかったわかった。俺らもやるなら全力だ。だけど、試合の直前まで秘密にしといて大丈夫なのか?」

「ん? ああ。大丈夫だ。チームプレイに影響はないよ。まあ、もう良いか。簡単に言ったらな……」

 

 

 

 

 

火神は時間もないので簡単に説明しつつ、行動を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

その雪ヶ丘中の姿を見ていた他のチームがいた。

 

「あいつらだぞ、いきなり初戦で北川第一と当たる可哀想なチーム」

「背がめちゃでかいのが1人いるけど、できたばっかの所らしいじゃん。たぶん初心者だろ? 聞いたことないし。……それにバレーは1人だけすごけりゃ勝てるってものじゃないしな」

「うへー。無名校って知ってたけど創部1年目ってのは知らなかった。運悪すぎじゃん。……おい、噂をすりゃでてきたぞ」

 

 

 

そんなざわついているチームが多い中、周りなど物ともせずに闊歩するチームがあった。

威風堂々、という言葉が似合いそうな雰囲気を出してるその風格は同じ中学生とは思えない。

 

 

『北川第一中学』

 

 

文句なしの優勝候補の一角。

 

 

 

「(あっちもでけー。それも人数多すぎ……)」

「(威圧感がハンパないって……。ほんと同い歳??)」

「(あ、あいつは確か例の……)」

 

 

凄まじい威圧感を出してるものたちの中で、一際殺気立っている者がいた。……様な気がするだけだが、表情が険しすぎるのが事実である。

 

 

 

 

【コート上の王様 影山飛雄】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

威圧感は確かにあるだろう。だが、あくまでも中学生のものだ。

春高のあの超高校級がゴロゴロいるような世界を戦ってきた記憶を共有し、体感した感覚まで残っている火神にとっては、まだまだ発展途上と言えるものだ、と思っていた。

 

 

だが、実際に会うのと 越えることのできない隔たりを通して見てみるのとでは違いすぎた。

 

 

「かげやま、とびお……」

 

 

回りが本当に中学生か?と口々に発しているが、確かに同じ気持ちになっていた。

一朝一夕で得られるようなものじゃない雰囲気、オーラといっていいものを身に纏ってる。

 

「面白いな。ここに、これてよかった」

 

火神は、アップにいく道中、ずっと笑っていた。

確かに現時点では無理。チーム力に差がありすぎる。だが、一泡吹かせるくらいはいけるだろう。日向もまだまだ雛鳥、いや生まれる前ほどのものでは有るが、できる範囲では一緒に頑張ってきたつもりだ。

 

「っ……! せいや?」

 

日向は、笑っている火神から何かを感じたのか思わず振り返る。

 

「確かに現時点では無理。でもどうせやるなら……、強いところの方が燃えないか? 翔陽」

 

一瞬、ちりっと何か火花のようなものを感じた日向。

だが、それはほんの一瞬だ。決して気圧されることはない。

 

日向は同じく笑顔で返事を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、清水。田中はまだ来てないか?」

「ん。まだみたい」

「ったく、もうちょいで試合はじまっちまうのにこんな時に遅刻とか。清水、一回カツ入れてやってくれない?」

「……無駄だと思う」

「清水になら、なに言われても喜ぶだけだべ」

 

 

真っ黒なジャージを羽織り、市立体育館前に集合している者たちがいた。

 

 

その背には、【烏野排球部】とある。

 

 

それは日向が目指す先であり、火神の憧れでもある場所。

 

 

「コート上の王様か。楽しみだな」

 

 

目的の選手以外にも、とてつもない逸材がいるということを今はまだ知らないから。

 

そして知ったそのとき、彼らは今日という日を忘れることはないだろう。

 

 

因みにバレー以外でもとある事があって、更に忘れられない状態になるのはこの後の話。

 



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第3話

ちょっと、文字数少なくなります。でも徐々に増やしていく予定。


「影山……」

 

 

ついに、ここまで来た。

日向に会えたことも嬉しかったが、やはりハイキュー!!の世界と言えば、この男なくして語れないだろう。精密機械の様な正確無比なトス、そしてそれだけでなく全てのプレイのレベルが高い。圧倒的なセンスの塊であり、更にその余りある才能に胡座をかくような真似はせずに容赦なくストイック。バレーに限りではあるが極めて完璧に近い。……が、弱点がない訳ではない。

 

 

 

コート上の王様。

 

 

 

今の彼もそう呼ばれているのなら、その時点で、現時点でほぼ間違いなくチームプレイと呼べるものは出来ていないのだろう。

それが、あの北川第一のチームにおいては致命的となってしまう。

そして後に訪れる彼にとってのトラウマとも言える出来事にも繋がってしまう。

 

「それを理解するのは まだ先か。今のままでも力量は十分すぎると思うけど」

 

色々と火神は考えていたが、よくよく考えてみれば相手側の心配をしてる暇などない。今はただの読者ではない。バレーボールプレイヤーなのだから。

 

「おおーい、誠也! 何とかしてくれよ、翔陽のやつが固まっちまってる!!」

「まあ、緊張はわかるけどね。わかんないのは、せいちゃんが何でそこまで慣れてるのか、って所かなぁ」

 

日向は勿論、関向や泉、他の1年のみんなも等しく緊張していた。

そのなかで悠々としている火神。

 

やはり、普通に考えたら不思議でならないのだろう。勿論、緊張とは無縁な者もいるとは思うが、火神は日向と同じで、今回が初めての公式戦なのに、と。

 

「やーっぱ、緊張してるか~。翔陽は」

 

カラカラと火神は笑っている。完全に日向とは真逆だった。

 

「うえっ!! ……そ、そんなことは……ない、のかな?」

「……いや、聞かれても困るんだけど、みた感じはほぼ間違いないよ。まあ、あれだ。手のひらに人って書いて何度か飲み込んで頑張れ!」

「うう~……」

 

火神に言われたように、ばか正直にまじないをする日向。それを笑みを浮かべながら見守る火神。

 

「ほら。翔陽が、全員分の緊張を引き受けてくれてるんだ。俺たちはいい具合に力抜きつつ、適度な緊張感をもって頑張ろう」

 

自分自身以上に緊張している者が居れば、自然と緩和されるというものだ。

日向には悪いがそういう感じで頑張ろ、と声を書けると、日向ほどでは無いが緊張の色を隠せなかった皆の顔も自然と綻んでいった。

 

「ほんと、翔陽より誠也がキャプテンの方がよかったんじゃね?」

「あはは……。なんか、せいちゃんが歳上って感じがするよ。ほんとに頼りになる」

 

関向が、なかなか日向に辛辣な意見を口にし、泉がなかなか鋭いところをついてきた。

精神年齢は、色々とこの世界に来てはっちゃけているところはあるが、それでも皆よりは上であるという自覚はある。

なんといったって、高校3年までは過ごしてたんだから。

 

それは兎も角……。火神はいろいろと傷つくことを言われている日向の肩に手を回しながら、言った。

 

「ばーか。翔陽がいなきゃ、ここまでこれてないだろ? 俺は手伝ってるだけだ。翔陽以上に皆を上手く纏めれる奴はいないって」

「はぁ~。マジで保護者だ。若しくは先輩。OB?」

「ふふふ。2人で1人って感じで良いね?」

「お、俺だってやるぞ!! せいやにだってまけねーー!!! っっ!?」

 

 

 

 

【北一!! 北一!! 北一!!】

 

 

 

 

日向が改めて気合いを入れ直していたところで、相手側の、即ち北川第一の応援団が一斉に声を上げた。

 

「うおっ!? なんだ!!」

 

北一コール、大合唱。

市立体育館では、他にも出場しているところはあるというのに、流石は優勝候補の一角だ。

ベンチ入り出来てない部員も数多くいて一斉に声を上げる。

コート全体が北川第一一色に染まり、そしてその主役たちが姿を表した。

 

「うわっっ で、デカイのが多いっ!!」

「火神が普通にみえる!!」

「………」

「とりあえず、翔陽、息しようか」

 

圧倒的な体格差もあり、威圧感もある。一気に縮こまってしまったうえに、日向は完全に固まって息さえ止まっていた。さすがに息しないのは不味いので、手早く頭をチョップして、活を入れた。

 

「ちょっと待て! あれ何だよ!? 何ででかいのがあんなにいるんだ!!」

「あそこは スポ少の各チームからチェックとスカウトしてるから有望選手が集まるんだよ。バレーは高さが有利なのは当たり前だし、まあ、あんな感じになるのは必然じゃない?」

「それはわかるんだけど なんかずるいって思っても別に良いよね? ………ここまで差があったらさ」

 

強い部がある学校では大体してる事ではあるが、やっぱりここまでの差があったら、ずるいと思ってしまうのは仕方ない事だ。

そこで、漸く日向が復活。

 

「だ、大丈夫だって! 俺はジャンプ力には自信がある! どんなノッポでも打ち抜いてやる! それにせいやの秘密兵器もあるから、絶対勝てる!!」

「絶対に勝てる? 誠也」

「ん~……99.999%厳しいかな?」

「……せいちゃんが必死に頑張っても?」

「バレーは1人でじゃ絶対出来ない球技だから。だから皆も頑張ろう! 難しいけど、やって100%絶対勝てないとも言えないし。と言うわけで翔陽、はやく号令かけて……ってあれ? 翔陽??」

 

ちらりと振り返ると、そこには誰もいなかった。

 

「きゃ、キャプテンならトイレに行きました……」

「「「また!?」」」

 

 

もうウォームアップの時間も迫ってるのに、日向は本日3度目のトイレに行ったらしい。

 

「はぁ~~~。ゆき、こうじ。軽く身体動かしててくれない? 翔陽つれてくるから」

「いやいや、副キャプが仕切ってくれって。俺が翔陽に着いてくから!」

「んん、悪いが俺に行かせてくれ。とりあえず、翔陽の緊張、ほぐしてくるから」

 

火神は軽く拳を握って、ポキポキと鳴らせた。

 

「ほぐすって、物理的に!?」

「はは、ちがうちがう。まさかこの直前の直前、トイレにまた駆け込む程、緊張でガチガチとは思ってなかったから。ちょっと考えてた秘策を試してくる。すぐ戻ってくるし、その間軽くパスしてるくらいでいいから」

 

火神がそういうと、何とか納得してくれた。1年生たちもボールを運んでくれて、準備はOK。

 

 

 

 

因みに火神は緊張緩和の秘策は持っていない。

 

 

 

 

 

ただ、この先に何があるのかが気になるから見に行きたいだけだった。

 

 

 

そう――影と日が邂逅するかもしれないその瞬間を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日向がトイレへ、そして火神がその後を追いかけていた丁度その頃。

 

「(自販機自販機……、えっと確かここにも在ったはず)」

 

烏野排球部と書かれたジャージを身に纏っている女性が1人、下へと降りてきていた。

まだ、公式ウォームアップが始まるくらいの時間で、試合開始まで時間が少しあったから、飲み物を買いにきたのだ。

 

「……みつけた」

 

自販機が目に入ったので、軽く走って向かう。

 

 

 

 

 

「あっ……!」

「……ん?」

 

 

 

 

偶然なのか必然なのか、日向を追いかけてトイレに向かってた火神と出会い、目が合った。

 

 

数秒間……、互いに目をそらすことはせず、暫く見合った後、火神が軽く頭を下げて会釈した後 早足でその場を後にした。

 

「……??」

「あ、潔子さん発見っス! 申し訳ありません! 自分が遅れてしまったんで、御詫びに奢らせて下さい!」

「……別にいいから。もう買ったし」

「なら、俺が運びまっス!」

「いいから別に」

 

華麗に後から出てきた男をスルーして、脇道に去っていく女性の名は烏野排球部2年 マネージャーの清水潔子。

 

 

 

 

火神誠也と清水潔子、この出会いが切っ掛けで とある運命が決まったのだった。

 

 

 

 

「……(さっきの、一体なんだったんだろ?)」

 

 

清水は目が合って固まっていたことも、軽く会釈をした理由もいまいち解らず、少しだけ心に引っ掛かっていた。

 

ただ、すぐ後ろを着いてくる男、田中の様な気配は全く感じられないということだけは、理解していたのだった。

 

 

 

 



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第4話

北川第一 VS 雪ヶ丘

 

 

優勝候補の初戦ということもあり、他の試合よりも観客の人数が多かった。

 

そして、そのなかには、高校生も混じってきている。

 

未来の対戦相手になるかもしれない相手を見るために。

つまり、ほとんどの者達の目当ては北川第一なのだ。

 

 

「清水」

「……」

「清水?」

「………」

「おーい、清水!」

「っ……なに?」

「ほら、ちゃんと蓋締めれてないって。お茶零れそうだぞ」

「あっ… ごめん。ありがと」

 

 

烏野高校もそのうちのひとつだった。

だが、その1人である清水は違った。

北川第一ではなく、雪ヶ丘の1人の選手に注目していた。

 

「なんか、珍しいな。清水が、ここまで集中して見てるなんて」

「そんな潔子さんも素敵っス!!」

「……菅原。あの子、知ってる? 雪ヶ丘の2番」

「ガン無視最高に興奮するっス!! 」

「田中、ちょっと前を塞がないでくれって。ええっと……雪ヶ丘の2番?」

 

菅原は、清水に興奮して身を乗り出した田中を押し戻すと、改めて眼下のコートを見た。雪ヶ丘は無名のチーム。情報も殆どなく、噂ではバレー部ができたばかりだとか。

だから、正直 北川第一の肩慣らし程度にしか考えてなく、注目も殆どしてなかった。……が、珍しくもいつも真面目に仕事をこなすマネージャーの清水が、声が耳に入らない程集中して見てるので、菅原が改めて見てみたのだ。

 

「んーっと、おれは知らないな」

「……そう」

「どうしたんだ? 清水」

「潔子さんに無礼でも働いたんスか!? おれ、シメてきましょうか??」

「中学生にシメるとかいうなよな、田中。大人気なさすぎんべ」

 

やいのやいの、と賑やかになる烏野のメンバー。

 

清水は、もう一度だけ雪ヶ丘の2番……火神の方を見た。

 

何度か見て、考えてみるがやはり身に覚えはなかった。

 

 

 

「あの子、私のこと知ってる風だったから。バレー関係で会ったことがあるのか確認してみたかっただけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始のホイッスル。

互いに礼をし、始まるバレーボール。

この緊張感、高揚、興奮。何ものにも代えることが出来ない。

 

あの時から、今日まで。試合に出ることが出来なかった時間は、日向程ではないかもしれないが、火神もあった。

燃え尽きた、と思っていたかもしれないが、それは誤りだった。

 

「……久しぶりだ」

 

自然と笑みが溢れる。相手は中学生ではあるが最強の一角。今の自分に、自分達に不足はあるはずもない。

 

 

 

ーーさあ、楽しもう。いや、楽しむだけじゃなく、全力で自分達の出来る最高のバレーボールをやろう。

 

 

 

 

 

「っ……」

 

チリッ、と火花に似た何かを、まるで得たいのしれない何かを感じ取ったのは影山だけだった。

他のメンバーは、雪ヶ丘を完全に舐めきっており、大した警戒をすることもなかった。

 

「おい。サーブは向こうの2番のヤツ以外を狙え」

「お、おう。(王様がセット以外で、それも初っぱなから口出すの珍しいな。……そこまで警戒する相手か? まあ、2番は身長はあるみたいだけど)」

 

サーブ権を得ているのは北川第一。

 

影山は中でも、先程のやり取りもあって、更には今の得たいのしれない威圧感のようなものが決定打となって火神を最大限に警戒していた。

 

あそこに打てば間違いなく拾われるだろう。まだ、リベロを狙った方がマシだ。

 

そこからどう攻撃をしてくるのかは、データが無いのでわからないから、修正が必要になってくるが。

 

 

 

 

ホイッスルと同時に打たれたサーブは勢いよく関向の方へ。

 

 

「(俺かよ!?)」

「コージー!!」

 

 

バレーは完全な初心者ではあるが、運動神経は折り紙つき。何とか、拙いレシーブではあるが取ることに成功する。腕が痛いと悶えそうになったが、気合いで我慢。

 

「よっしゃ!! 上がった!! イズミン」

「よーし(最初はしょうちゃんに上げるっ!) しょうちゃん!!」

 

 

泉は作戦通りに、日向へとトスをあげた。

 

これは火神が提案したことで、余裕があれば最初は日向へと決めていたのだ。

理由は、火神は身長があることからマークされる可能性が高いこと、そして 日向の様な小柄なプレイヤーに上げるのは少なからず奇襲にもなるし、――なにより。

 

 

――俺は、翔べる! この脚で、どんな高い壁も飛び越えてみせる!

 

 

常人離れした日向の跳躍は、間違いなく初見では驚く筈だ。

 

日向は、ただただ緩やかな放物線を描き自分に上がってくるボールに合わせて持ち得る最高の跳躍をみせた。

小さな体が勢いよく宙に舞うと同時に、体育館内がどよめいた。

 

小さな体が大きく宙を飛んだのだから。

 

「(ちっ、コイツ、ハッタリじゃなかったか)ブロック、クロスを締めろ」

「!」

 

一瞬呆けてしまっていたが、影山のお陰でなんとか反応することに成功、そして追い付いた。

日向の跳躍には驚いたが、ただのオープントス。速攻ではない。タイミングを見誤らなければ問題ない。

 

それでも影山が声かけをしてなかったら、ほぼ間違いなくブロックは追い付かなかっただろう。

 

 

 

日向はネットの向こう側目掛けて、フルスイングする……が、そのスパイクはブロックに阻まれてしまった。

 

大きな大きな高い壁は、自分の全てを防がれてしまう、と錯覚しかけたが直ぐに振り払うことができた。

 

「っっ、と!」

 

良い位置で構えていた為、火神がブロックフォローする事に成功。それが見えたから。

 

「(あれに反応した!? レシーブ上手えな、コイツ……!)」

 

確実にブロックポイントを得たと思っていた自分の詰めの甘さを戒める影山。

 

 

 

 

 

ただ、ボールは生きているが後方へと飛び、1年コンビがお見合いする結果となって、コートに落下する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおっっ!! あの2番アレとんのかよ! あの身体ですげえ早い反応だな」

「あっちの1番もすげえ跳んだ。寄せ集めの感じがするチームっぽいけどあいつらすげえよ。俺、とれたかわかんないし」

 

 

たった1度のプレイで体育館が沸く。それを魅せられ、思わず声を上げるのは烏野のメンバー。

 

 

1年生たちは責任ゆえにか、オーバー気味に謝っていて、それを2番と1番、が中心に宥めて立て直している。繋ぐのがバレーボール。誰か1人のせいなんてあり得ない、と言葉を強めながら。

 

 

 

 

 

 

 

その後は、ビハインドが続くが、何とか食らい付いていった。

 

北川第一のゲームプランは変わらない。徹底的に2番をかわし、他に攻めている。小細工を弄せず、正面から叩き潰してこそが格上だと思うが、それを、させないなにかがあるのだろう。

 

 

「……キャプテンはあの1番だが、上手くチームを纏めてるのはあの2番だな。要所要所は確実に押さえつつ、それでいて自由にやらせることで、素人っぽいメンバーたちを最大限に活かしてる。あれは一朝一夕で出来ることじゃないぞ。スポ少か何かで培ってきたのか……」

 

食い入るように見つめてる彼の名は澤村大地。

彼は烏野のキャプテンだ。

後の対戦相手になるかもしれない優勝候補の北川第一、それも有名な影山を見にきたつもり……だったのだが、今は徐々に雪ヶ丘を、火神を注目していた。

 

「やべえな。俺も頑張らないと」

「大地さんの方がよっぽどっスよ!! なんか、気に入らねっスね、アイツ! 俺よりでかそうなところとかも!」

「田中、中学生相手になにいってんだって。絶対、身長とかじゃなくて 清水の事で張り合ってるんだべ?」

「お、俺は別に中坊相手になんかしてねっス! ……」

 

ちらっと、田中は視線を清水の方に。明らかにいつも以上に集中して見てる(田中推察)清水をみて、更に嫉妬するのだった。

 

「おっ! 次は2番のサーブだぞ」

 

菅原の声に反応したかの様に、視線が一気に火神に集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スコア16ー10か。(皆頑張ってるな。関向がスパイクを足で上げたときはほんと、俺も驚いたよ。さすがサッカー部)」

 

予想以上のプレイに、自分達のチームを自画自賛しつつボールの感触を確かめる。

 

 

 

 

 

少しだけ、正直ズルをしてるような気もしていた。

 

 

スポーツや他のトレーニングにおいて、明確に理想のイメージをする事ができて、練習が出来るかどうかは、そのスキルやパワーにかなり影響される。

 

自分自身の過去を持ち合わせている火神は、かつての自分を鮮明に思い返す事で、昔の自分を取り戻そうとすることで、よりよい練習ができた。

(前の)自分には出来ていたのだから、また出来ると暗示する事も出来た。

だが、限界もある。今は中学生の身体であるということだ。以前の自分は高校の、それも3年間鍛え上げていた体だ。それにはどうしても及ばない。

だから、足りない筋力を何とか技術で補う。百、千、万と繰り返した練習を思い出して、少しでもあの頃に届くように。

 

 

「よっしゃ! せいや、頼むぞ! いったれー必殺サーブ!」

 

 

日向も声をあげる。

 

回ってきた日向の言う通り火神のサーブ。

 

 

サーブとは仲間と繋ぐ事が重要なバレーボールにおいて、唯一孤独なプレイであり、そして、唯一1人で点を稼ぐことが出来るプレイでもある。

 

チームプレイがまだ初心者もいいところの雪ヶ丘においても、それは例外ではない。

 

サーブは、ブロックに阻まれることのない究極の攻撃。

 

 

「さて、何点稼げるか……」

 

 

火神は、エンドラインから6歩離れた。

このルーティンは、勿論 今恐らく高校1年生であろうとあるプレーヤーをリスペクトして、昔から真似たものだ。身も引き締まるし、より集中することも出来ると火神は感じていた。昔も、そして今も。

 

 

自身が打つサーブのイメージも出来た。時間いっぱい使って、ボールをトス。

 

サーブトスもイメージ通り。

 

回転のかかり具合、高さ、そして助走の感じも全てが申し分なし。

 

 

 

 

 

「(まさか……!!)」

 

影山は目を見開く。

そして、コンマ数秒後にそれはやって来た。

 

放たれたジャンプ(スパイク)サーブは、まるで弾丸の様。ネットを越えて、エンドラインギリギリのノータッチエース。

 

 

 

 

線審でさえ、何が起きたの?と放心しかけていた。

 

 

 

 

それも仕方ない。全くの無名校が強烈なジャンプサーブを打ちはなったのだから。

 

「……70%。危ない。もう少し力入れてたらアウトだった」

 

小さく軽くガッツポーズを見せると同時に、雪ヶ丘のチームは大盛り上がり。

 

 

 

 

秘密兵器その1炸裂である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強烈なジャンプサーブが決まって大盛り上がり。

 

「……マジ? 今時の中坊ってジャンプサーブ打つの?」

 

観客の田中は思わず身を乗り出した。

 

「これは、本当に驚いたな。王様を見にきたつもりだったのに」

「下克上でも起きてるのかよ……。民衆が立ち上がったってやつ?」

 

末恐ろしい中学生の誕生に、暫く動揺がつづくのだった。



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第5話

バレーボールとは、1人でするものじゃない。

それは解ってる。でも、それでも常々思う。何度だって考えてしまう。

 

 

 

――……レシーブもトスもスパイクも、全部俺1人でやれればいい。俺ならとれる。俺ならあげられる。俺なら打てる。

 

――勝ちたいのなら、もっと早く動け、もっと高く跳べ、もっと正確にとれ。

 

 

ずっと思っていた。負けそうなとき、負けてしまったときに。

 

だが、バレーボールっていう競技はボールに触れるのは一瞬で、1人が続けて触るのが駄目。解ってるんだ。1人じゃ絶対に勝てないと言うことが。

 

「なんなんだ……!? お前は」

 

影山は、あの強烈なサーブを受けて、いやもしかしたら試合前から、得たいのしれない何かが、興奮し、高揚する何かが体から湧いて出るのが止められなかった。

 

確かに、あの1番の跳躍も凄い。動きも素早く、運動神経抜群と呼べるものをもっている。が、それだけだ。バレーボールの評価をするなら、素人、初心者。

他の者達も運動神経だけで、学校の体育の延長程度だ。

の延長程度だけだ。

 

そんな中で、そんなチームで、どうしてだろうか…?

 

 

「しょうちゃん!!」

「よしっ……!!」

 

 

どうして、こうも点を、とられてしまうのだろうか。影山は、ただただ あの男を、火神を睨み付けるように見ていた。

 

真剣な顔はしているが、時には笑顔で、時には怒るような仕草で、それでいてボールを繋いでいく。

 

 

今も、火神のサーブをうまくレシーブできず相手にチャンスボールを与えてしまい、打たれた。

日向1人だけだったら、ブロックで対応は出来る。だが、あの火神を無視する事など出来るわけがない。どうしても出遅れてしまう。だから……。

 

「ワンタッチ!!」

「触った! フォローだ!」

 

完全に叩き落とすことなど出来ない。素早い日向の方が早く打つ。ブロックが完成する前に打たれ、ワンタッチは取れたが、大きく飛ばされてしまった。

 

そして、そのボールは落ちた。

 

「おい! 最後まで追えよ! 楽してんじゃねえ!!」

「わ、悪い。でも、あれは無理だ」

「無理だと!? そんなもん落ちるまでわからねえじゃねえか!!」

 

 

いつも以上に、影山は勝ちたいと思った。

 

たった1人に。負けてたまるか、と。

 

影山には、火神は理想を体現している様にも見えていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじめのタイムアウトは、リードをしている北川第一だった。試合前、これを一体誰が予想できたと言うだろうか。

 

 

 

「翔陽、さっきのよく打ち切ったな? それにゆきもナイストス」

「へへへ! せいやのサーブはもっとすげーよ! それにイズミンもめちゃ打ちやすかった!」

「へへ。せいちゃんがしっかり上げてくれたおかげだって。向こうのセッターみたいに上手く動けないし、トスも出来ないし」

 

ハイタッチを交わしながら集まる雪ヶ丘チーム。

 

「いや、向こうのセッターに合わせることなんてしなくていい。ゆきはゆきが出来ることを全力で。って、最初も言ったろ?」

 

火神が拳を笑顔で向けた。少し恥ずかしがる素振りをみせつつも、最後は同じく笑って拳を合わせて答えた。

 

 

「おーい、翔陽? すげー! すげー!はもういいから、せっかくのタイムなんだから 色々と指示してくれって」

 

スパイクを決めることが出来たことの興奮と、初めてのブレイク、火神のサーブと……、色々と有りすぎてまた小動物のように動き回ってる。

 

一応、これでもチームキャプテンです。

 

と苦笑いしながら指差す関向。

 

「まったくだ。しっかりしてくれよキャプテン」

「う、解ってるよ! よーし、ここから逆転するぞ皆っ!!」

「それ、最後の締めとかじゃん。違うやつ、もっと具体的なやつ、よろしくどーぞ」

「うーむ。よし、せいっち! 頼むぞ!」

「大したキャプテン指示だこと」

 

 

呼んでたアダ名を突然かえたりと、調子がいい様子な日向。だが、今は、少なくとも今はそれでいいと火神は判断。これは、自分自身が導きだした結論ではなく、後付けにはなるが、日向は少なくとも今は纏め役には向いてない。

 

日向は、プレイで魅せ、そのバレーボールに対する姿勢で魅せる。

 

 

――日向翔陽はそれらで皆を惹き付ける。皆を鼓舞する。

 

 

苦しい、止まってしまいたい、そう思った所で踏み出す一歩。そして、苦しいときこそ、心が折れそうな時にこその笑顔。

 

それが如何に難しいことかは、厳しく辛い練習を続けてきた火神にはよくわかっていた。ただ、バレーボールが好きなだけじゃ到底たどり着けない。色んな挫折を経て、そして幸運もあって、辿り着くことが出来る場所。

 

「兎も角。次のサーブも任せろ。なんとか出来る所まではやるから。リベロの鈴木と川島、森はもう半歩、下がって守ってほしい。翔陽とゆきのブロックも機能してるし、抜かれるより吹き飛ばされる方がきっと多い。だから、怖がらずに手は出してくれ。抜かれたら、それはもう仕方ない。コージのキックレシーブに期待しよう」

 

簡単にでは、今自分で考えられる有力な手を説明。1年生の3人ももう固さは無い様だ。さらに言うなら、目をキラキラと輝かせてる。優勝候補相手にここまでできてることに興奮してる様だ。凄い跳躍を魅せた日向に、何より火神にも改めて憧れの視線を向けていた。

泉と関向、特に関向は異議ありな視線だった。

 

「いやいや、期待されても困るわ! あんなの何回もできてたら今頃サッカー部でエースストライカーで、引く手数多でウハウハじゃん!」

「う、うーん……ブロックってめちゃ痛いんだよね……」

「そんなこと言うなよ~! 頑張ろうぜイズミン! コージー! それに1年の皆も! よっしゃ! 行こうぜ! 円陣組んで組んで」

 

肩を組み、勢いとあわせて皆で大きな声を。

 

最初は日向や火神以外は、正直勝負にすらならないと思っていた。相手の体格、それに技術。勝負になるのは体力?くらいの、ものだと。

だが、今は誰1人そんな事を考えるものはいない。

 

 

 

「勝つぞ! 雪中~ファイっ!!」

【おおおおおお!!!】

 

 

気合いも十分。これでまだまだ戦える!と思ってたそのとき。

 

「翔陽なんで涙目?」

「うわっ、どしたのしょうちゃん!?」

 

なぜか、気合いが入り、燃える場面で目をうるうるさせてたのだ。火神は一発で理解した。

 

「これ、やってみたかったんだ~~、みたいな感じだろ? でも泣くタイミングじゃないと思うぞ?」

「泣いてねーよっ! でも! チームって良いよな!」

「オーケーオーケーわかったわかった。最後にとっとこう。ほれ、喜びのヤツで」

 

 

そして、皆の背を火神が押す形でコートに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何よりあの2番だ。あのジャンサー強打にはこの試合で慣れるしかない」

 

北川第一のタイムアウト間の内容はほぼ火神だった。日向の跳躍にも驚かされ、突如視界に飛び込んでくるブロックも十分すぎる程驚異ではあるが、何よりも火神。強烈なサーブもそうだが、ほぼ初心者で構成されてるであろうチームを支えているのは紛れもなく火神。

その対策を。

 

「デディケート・シフトで2番に圧力をかける。1番に対しては 徹底的にリードブロックだ。おそらく向こうのセッターに速攻はない。冷静に対処しろ」

【はい!!!】

 

監督の指示を耳には入れてはいるが、何処か上の空なのは影山だった。

王様と呼ばれる所以、その悪癖こそ少なくはなっていないが、いつもより口数は少なかった。

 

「……影山。何度も、何度でも言うぞ。個の技術より、スパイカーを活かす事を考えろ。あの2番に負けたくないのならな」

「っ……わかってます!」

 

監督は、ここで少し賭けに出ることにした。影山の様子の変化は明らかに向こうの火神、そして少なからず、日向の事を意識しての為だとわかっていた。

個人では勝てないと悟り、チームプレイに集中して欲しいと。

 

影山に対しての不満はつもりに積もっているだろうが、それでも、勝ちたいという気持ちは皆同じなのだから。

 

火神は皆の最大を常に発揮できるように立ち回っている。そのなかで、一番自由に泳げているのが日向だ。

 

「(あの2番。影山とは違った意味でバケモノだ。長年子供らをみてきたが、末恐ろしい。……相当な実力が、経験があってこその芸当だ。技術もそうだがその統率力。あんな選手がなんの頭角も現さず、埋もれていたとでも言うのか?)」

 

雪ヶ丘中学は間違いなくここ数年は公式戦に出てない。部員不足で消滅した学校だったはずだ。それに、部員がいたときも成績は強豪とは呼べない弱小校だった。

 

そんな学校に、突然変異、化学反応、色々な単語が浮かぶが、そんな感覚だ。

 

でなければ、いきなりあんな選手が現れると思えない。

 

「今のリードは忘れろ。全力でいけ。決して相手を格下と思うな」

 

そう言うしかなかった。

 

 

影山は理解出来なかった訳ではない。でも、それ以上に思ってしまうのだ。

 

 

 

「お前は、なんなんだ……? ひとりで、たったひとりで俺たちを……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「16-12か。(まだ、2本。びっくりはしないが慣れてないとは思う。……が、ここで更に揺さぶる)」

 

続く火神のサーブ。

更に、おもしろくハラハラする試合にしてやる、と火神は睨んでいる(様に見える)影山を見据えた。

 

 

 

「いったれ火神!」

「せいちゃんナイッサー」

「必殺サーブかませー! それとあとで教えてーー!」

「「「火神さんナイッサー」」」

 

約1人、願望が入ってる様子。火神は苦笑いしつつ手をあげた。

 

こうも期待されると頑張らない訳にはいかないだろう。

 

火神は改めて思うが、こんな気分は久しくなかった。

春高の時、全員が非常にレベルが高かった。エースは他にいたし、信頼はされても頼られることは少なかったから。

 

 

 

「さあ、行くぞ」

 

 

 

 

エンドラインからゆっくり離れる。

 

そして、今回の歩数は………4歩。

 

勿論、彼を意識している。……火神は彼らに会うのも楽しみにしているのかもしれない。

 

そして、そんな些細な違いを北川第一が、その監督がわかるはずもない。

サーブトスで初めて理解する。そして、それは決して入れてくるだけのサーブではないと言うことが。

 

トスは両手。緩やかなボールは 火神のやや右斜め前に上がる。バックスイングを行わずにジャンプ。

美しい姿勢を崩さず、腕をふる。そして決してフルスイングすることなく途中で止めるイメージ。

 

ボールに回転を伝えない。それでいて、少しでも勢いもつける。

 

 

 

秘密兵器その2 発動である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャンフロ……!! ここで!?」

 

思わず、北川第一の監督が立ち上がった。

あの強烈なサーブがまだ脳裏に刻まれてるはず。そして、見た感じでは完璧だった。まだ、2、3回は続けても何ら問題ない。と言うより、他のサーブがあるとは思えなかった。あれだけの完成度の高いサーブを、もう1つもあるなど……。

 

 

 

 

 

 

 

動揺しているのは監督のみだ。

他の選手は敵味方問わず拍子抜けしていたのが多かった。

先程の高速サーブとは比べ物にならない程、威力に差があったから。

 

……そのサーブの凶悪さは、受けたものしかわからない。

 

 

「アウト!!」

 

1人がボールの軌道から、エンドラインを越えると判断し、両手をあげる。

普通に飛ぶ軌道であれば、確かにボール1球分は外に出ているだろう。

 

だが、このサーブは違う。ボールは綺麗な放物線ではない。この軌道は変化する。エンドラインギリギリに落ちる。勿論、イン。

 

3点目の得点。2本目のノータッチエース。

 

 

 

放心したのは今回は一瞬。

 

 

 

【うおおおおおお!!!!】

 

 

 

2回目の火神にたいする大歓声。

 

 

 

 

「メチャクチャ変化した」

「アウト……だった筈なのに」

 

ぎりっ、と悔しい表情を見せる。

そんなメンバーに恫喝したりは今回に限りは影山はしなかった。

ただ、悔しそうに手を握りしめていた。

 

 

 

「ジャンフロ、無回転サーブ。アレはオーバーで捕まえるんだ。位置はAパスじゃなくていい。兎に角上げろ! だが、ジャンプサーブがあることも忘れるな! 出すぎると撃ち抜かれるぞ!」

 

 

 

監督の指示が檄の様に飛ぶが……、正直無茶な要求だと思った。直前まで読ませない程の互いの完成度。その二種のサーブを操る強者。

 

「バケモノめ……」

 

 

依然3点はリードしている。だが、そんな点差は最早誰もあるとは考えられ無かったのだった。

 

 



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第6話

アンケート機能使ってみました。お気軽によろしくお願いします。参考にさせてください。
尚、ご希望、ご期待に添えなかった場合は申し訳ありません。


「かぁーー、次はジャンフロ!アイツ、一体どんだけ武器搭載してんスかね?スガさん」

 

田中はもう、睨む事を忘れたようだ。清水が彼に集中していた事もひょっとしたら、今は、今だけは忘れているかもしれない。

それほどまでに、魅せられたからだ。日向にも火神にも。

 

無名校だった筈の、雪ヶ丘中学のバレーボールに。

 

「うん。アレ直接落ちて点になったけど、実際レシーブするとなると……。オレ達みたいにコートを上から、それも全体を見てるから分かりにくいかもしれないけど、相当取りづらいサーブだよな」

「対峙した時に、わかる。インかアウトか直前までは、アウトの軌道だったのに、そこから変化した。加えて、威力もなかなか。……ほんと凄いヤツが出てきたもんだ」

「…………」

 

皆が火神を、そして日向を見ていた。

清水は、もう一度だけ首を軽く傾げた。プレイを観ていていろいろと有りすぎて驚いたが、それ以上に考えていたのは、あの時出会いがしらの火神の反応だ。

 

「……やっぱり、初対面の筈」

 

もう何度目になるかわからないが、そう結論する。

 

「きっと、潔子さんの美しさに中てられたんスよ!中坊が色気づきやがって。教育が必要、っスかね??」

「田中じゃないんだから」

「っ………、無視も最高っス、でも 潔子さんに応えてもらえるのも もっと最高っス」

 

相変わらずな田中はさておき、澤村は少しだけ考えた。

 

清水は田中とは違うと言っていたが、もし――彼が清水目当てに烏野にやってきたら?たとえ、清水が目的だったとしても(色々と違う意味で面倒ごとが増えそうだが)、あんな選手が入ってきてくれたら、烏野は爆発的に進化するだろう。それにチームをまとめている所を見ると、普通に好感度が高い、好少年だ。扱うのが面倒くさいのは、むしろ自分たちのチームに約2名いるけれど。

 

 

 

だが、あくまでそれは希望的観測に過ぎない。

 

 

この会場には、違う意味で目を光らせてる者がいるから。

本来ならスルーしても良い筈なんだが、北川第一という優勝候補のチームの初戦だという事もあって、いろいろ来ているから。

 

「(ちらっと字が見えた。多分、あれは青葉城西。それとあっちはひょっとして白鳥沢か?)」

 

ぱっと見えただけで強豪高校がこの場所に集っている。青葉城西は北川第一の選手の大部分が進む高校だから、来ていても不思議じゃないんだが、まさかの高校県内優勝校である白鳥沢まで。単なる偶然かもしれないが、それでも あの火神のプレイを観たら目の色を変えるのは間違いない。

 

「期待薄、かなぁー。なんか世知辛いもんだ」

「大地?どした?」

「いや。変に期待しない方が良いかな、って思っただけだべ」

「「???」」

 

 

進むとなれば……強豪校を選ぶだろう。そしてお誂え向きに各高校の関係者が来ているのだから、スカウトは必至だ。

 

「おっ、続き始まるっスよ!」

 

田中に言われ、全員が視線をゲームに戻す。

澤村は、今度会う時は戦う相手として観る。そう思いなおすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞ!」

【さぁ、来い!!!】

 

 

気合十分、北川第一の気迫がこちら側にまで伝わってくる。

セッター位置にいる泉、関向は思わず気圧されてしまう程のものだった。

 

「(後、何点……いや、全部取れ。だろ?翔陽。いや、俺も取りたい!とも言うかな)」

 

火神は、チラリと日向を見て笑った。

そして前を向いている日向だが、まるでその視線が分かったかのように振り返ると、笑顔で大きな声を上げたのだ。

 

「10点取れ!後はオレがとーる!!」

【……あ゛??】

「ひぃっっ」

 

思わず笑ってしまうやり取りだ。日向の言葉は、相手側の挑発にもなってしまった様。思いっきりガン飛ばされて、委縮してしまう日向。その様子を見て笑っていたいのだが、生憎時間は限られている。

 

 

「……狙いは、あの間」

 

口に出す事で、それを絶対行うと言う暗示を自らにもかけつつ、イメージ通りの姿勢をも脳裏に描く。ジャンプサーブに比べたら、やりやすいサーブではあるが、それでも行うルーティンは変わらない。決めるイメージ。脳内ではいつもサービスエース。決めると信じて打て。

 

ボールトス、ジャンプの姿勢、タイミング。

 

「(完璧……っ!)」

 

打ったサーブは北川第一の5番と6番の丁度間。うまくいけばお見合いを誘発できる位置だ。

 

 

 

「っ!オレが取る!!」

 

だが、北川第一も簡単には点は取らせてくれない。もう3本目。うち2本はノータッチエース。優勝候補校のプライドが、安易な得点を許すわけにはいかない。大きな声かけで正面に入る5番。

 

「(よし、とれる……)なっ!!」

 

取れると確信したポジショニングだった。

先ほど落ちてきたので、そのボールに対応できるように、距離をやや詰めてオーバーで捕らえようとした。手段としては完璧なレシーブ。……だが、いつも決まった方向へとぶれるとは限らないのがジャンプフローター。

魔球とも呼ばれる所以。

 

 

伸びるボールへと変わったサーブは、オーバーで捕まえようとした5番の手を、指先を掠め、弾くように、後方へと飛んだ。

 

 

 

【よっしゃあああああ!!】

 

 

 

沸き起こる大歓声。まるで、勝った!みたいなお祭り騒ぎ。まだ2点負けてますよ?と思うが、そんなのは関係ないだろう。

火神も、喜びつつも 不安はまだまだ残っていた。このまま、勢いのままに行けるところまでは行ってしまいたい。あわよくばセットを取るところまで。……が、そう簡単にはいかないだろう。

 

 

単純なチーム総合力では圧倒的に劣っているのだから。

 

 

「せいやーーーっ!このやろっ、このやろうっっ」

「おう!」

「せいちゃん、めっちゃ余裕じゃんっっ、なーにが勝つのは無理~ だよ!しょうちゃんじゃないけど、すごいすごい!って言葉しか見つからないし」

「そうそう、このままいっちまえ!ボール受けるの痛いし!」

 

皆が集まってくる。

 

だが、ここで浮かれるわけにはいかない。まだまだ前半戦なのだから。

 

「ここで軽めの円陣だ。翔陽。……あんま浮かれ過ぎるな、調子には乗っても乗りすぎず、いったんまずはクールダウン。今の所、相手のレシーブミスで取れてるから大丈夫だが、返球だってあるからな。ボールから皆目を離すなよ」

 

皆が勢いよく頷き、大きく返事する。

 

「……流れがある内は、オレのサーブで行ける所まで連れてく。だが、止まった所からが、第2ラウンドなんだ」

「おうよ!! オレだってやってやるんだ!! っと言うか、オレもボール触りたいんだーー!!」

 

難しい事を今の日向に言っても……な様子。仕方ないので、このままいく事に集中しなおすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――俺だったら、取れる。俺だって、あれくらいのサーブは打てる。

 

 

影山の内に燃えるような闘志が沸いた。

ただ、今の味方の現状には苛立ちしか無い。もしレシーブするのが自分なら取る。取れる。

影山はプライドが非常に高く、負けず嫌いな性格だ。

 

「絶対切るぞ!!」

 

その苛立ちは、自分中心的な物言いに変わり、周囲からは浮いた存在となり、疎まれる事が多くなった。それは、この試合でも変わらない筈、だったのだが、今回に限れば違った。

 

 

「(俺の、ミスだ………ッ!!!)」

 

 

5番……金田一は、両頬を思い切り挟み込むように叩いた。

いつもは、影山の無茶なセットアップに合わせられず、影山の横暴な態度もあり、気持ち的にも萎縮するため、ミスも多い時もある。だが、今のサーブレシーブは違う。声掛けをし、完全に捕らえたと思ったら、過剰ともいえる程、変化した。まるで ボールを直前で操ったのではないのか?と思ってしまう程、ボールがブレた。

 

 

そして、失点した。

 

 

影山のことを好む者は、このチームには皆無だと言っていい。誰もがあの自己中心的で、横暴で、独裁者で……幾らでも言える。

そんな男だからこそ、何よりも繋ぎが重要な競技で、仲間との連携、意思を、呼吸を合わせようとする者などいなかった。

 

 

だが、今回は違った。

 

 

【一本、切る】

 

 

今日初めて……いや 或るいは、これまでで初めてと言えるかもしれない程、チーム全員の意思が、或るいは利害が一致した。

 

 

「さぁ、来い!!」

 

 

そして、全員の顔つきが明らかに変わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火神の4本目は、ジャンプサーブ。

極限まで集中していたのだろうか、今回は見事なレシーブで影山へと返球。そして、流れるような連携で一本返されてしまった。

 

あまりの鮮やかさに、速さに、前で構えていた3人は動く事が出来なかった様だ。

 

 

「っ、と。悪い。恰好つかないな、連れてくって言っといて。……もう1点くらいは稼いどきたかったんだが」

 

 

そんな中で、火神の声だけは聞こえた。

 

 

 

 

 

その後、立て続けに3点返され、先に20点台にいかれた。

 

その後も何とか相手のミスを誘ったり、こちら側にラッキープレイが出たり、火神、日向の点もありと得点を重ねることは出来たが、それでも差は広がって24-19のセットポイント。

 

 

 

 

 

火神が言っていた【クールダウン】という言葉が皆の頭の中に出てくる。

 

 

そう、浮かれ過ぎてて忘れがちだったが、相手は遥か格上。

点を取っている様に見えるが、それは火神が取ってくれた物もフォロー等もあり、日向の素早い攻撃もあり……即ち、ほとんどと言っていいほど、得点に結びつくようなプレイは火神を中心に行われている。

 

そして、あのサーブの場面は最高潮だった。

 

もうちょっとで追いつける所まで迫っていた。皆も盛り上がっていた。だからこそ、忘れていたのかもしれない。火神以外はほとんど初心者であるということを。

 

日向は毎日の様にボールに触れて、スピードやバネ、跳躍力等は凌駕しているものの、総合力で言えば遠く及ばない。なのに、自分たちの力と錯覚してしまっていたんだ。

 

バレーは1人でするスポーツじゃない。個だけじゃ決して勝てない。点は取れても、勝ち切る事はできやしない。それは、違う球技スポーツ出身者たちだってわかりきっている事だ。

 

 

「難しいよなぁ、バレーって」

「そうだね。……でも」

「ああ。例えサッカー部からの助っ人だって言っても、ここまで来たら、ジャイアントキリングしてみてえよ。……足引っ張らない様に、は正直素人の俺らじゃ無理かもしれねえけど、食らいつける所までは食らいついてやる」

「うん。俺もせいちゃんに言われてたプレイ、まだやってないしね。できることはまだまだある、って思う」

 

泉と関向。2人の初心者も改めて気を引き締めなおした。

最初に考えていたような事、あんな強い相手に勝てるわけない、と考えていた事は もう頭の中にはない。

 

ただただ、あの球体を、自分たちのコートに落とさないように、自分たちにできる事は最大限努めよう。

 

そう 思い続けるのだった。

 



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第7話

沢山の投票ありがとうございます。
オリ主である火神を除いて、他の選手たち間でかなり競るだろうと思ってたのですが、まさかの田中が火神もおさえてのトップと言う結果。やはり、原作に衝撃が走ったから……といった感覚なのでしょうか (笑)
そして一番少ないのが澤村さん。強すぎました。
稲荷崎のような感じもありかな、とは思ってたのですが、強すぎです。

アンケートは終了します。ありがとうございます。
参考にさせていただきます。


北川第一にサーブ権が渡ったままの状態で現在のスコアが 24‐19。

 

一時は、追いつきかけたのだが、差がまた広がってしまった。

 

「(やはり、強さの密度が違う……か)」

 

流れ出る汗を腕で拭いながら、火神は考える。

 

 

仮に、中学生チームとして5段階評価、 6つの原作でもある ありきたりな項目

《パワー、スピード、テクニック、頭脳、スタミナ、バネ》

これらでチームの力を表すとすれば、北川第一は 影山という飛びぬけたプレイヤーがいるのを見越したとしても、満遍なく高いだろう。

 

その6角形の形は限りなく円に近くなるだろう。

 

だが、こちら側は、どう贔屓目に見ても形は歪。尖ってしまうのは目に見えている。

 

これが、チーム力の差。絶対的に自分達は力不足だ。善戦はできたとしても勝てる可能性なんて殆ど無い。

 

「(って、普通に考えたらそうなんだけど、な……)」

 

客観的に かつての記憶を蘇らせ、読み手側に立って見てみたら 何度でもそう評する。

だが、今は違う。

 

あの時と違って誰一人目が死んでいない。誰一人俯いていない。

 

 

誰一人、ボールを追わない者などいない。

 

 

 

「(頼もしいよ。心底)」

 

 

云わば、全員が 《日向翔陽化》していると言っていいかもしれない。

戦い続ける絶対的な理由は まだ 負けていないという事。

 

 

 

【――まだ、負けてないよ?】

 

 

 

あのセリフを聞く機会はこの試合では、或いはもう二度と無いかもしれない。

だが、それでいい。それがいい。

ここは、あの世界ではない。もう似て非なる世界なのだから。

 

 

「(他の奴らが、100%の力を発揮してんだ。……ズルしてるも同然な俺が120%出せなくてどうする!?)」

 

 

 

火神は すっと視線を狭めた。穏やかで静か……いろいろな音、声が響く体育館。煩い筈なのに、静けささえ感じる。凄まじい集中力。

これに背中を押される。びりびり、と電気のようなものが走る。チーム全員、誰一人例外なく感じた。

 

 

 

「高い壁。絶対打ち抜いてやる………」

 

 

 

日向も、それに呼応し 集中力を高めた。まだまだ発展途上。殻を破ってもいない。卵のままと言っていいのだが、土壇場で見せる集中力は、敵側にとって……特に密接している前衛にとっては寒気さえ醸し出すだろう。

 

全員が一丸となる。その切っ掛けは 火神。……背中で鼓舞をするというのはこういう事だ。

 

 

 

 

【さぁ、来い!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ここで決めなければ、またあの2番のサーブ……)ここで決めろ!! とどめをさせ!」

 

北川第一の監督からの激も飛ぶ。

まだ、5点差もあり 中盤は別にして終盤は連続得点で圧倒していると言える。

だが、拭えない 得体のしれない何かを感じていた。振り返れば、直ぐに背中を掴まれそうな。……油断をすれば、小さな、それでいて得たいの知れない獣に食われそうな、そんな気配。

 

 

「……勿論です、監督」

 

 

影山は、ボソリと呟いた。

この得点差は無いものとして、プレイをしてきた。

今回、珍しくもチームメイトへの苛立ちは普段より圧倒的に少ないのも影山にとっては追い風である。

敵味方問わず、士気を高め、鼓舞までしてしまったのは 決して狙ってやった訳ではないのだが、火神にとっては誤算だろう。

 

 

サーブは、影山。

 

 

今までは、普通のフローターサーブだった。

だが 今、違う事をしようとしている。

 

決して、勝算の無いぶっつけ本番ではない。

練習を幾度も続けていたし、決める自信は十全にあった。

 

今でこそチームで浮いている影山だが、彼にとって吸収すべき、畏怖しつつも尊敬できる先輩はいたのだ。その先輩から、ブロックを、サーブを、タイミングを、そして威力を。目で見て盗めるだけ盗もうとし覚えた。努力を重ね続けた。

 

 

 

そして、今―――ひょっとしたら、自分の知る先輩以上のサーブを目の当たりにした。自分と同じ歳の男がだ。

 

 

 

 

「(そうか……、強さって こんなに心地いいものなんだな。敵だろうが味方だろうが)」

 

ふっ、と体から力を抜く影山。

皆がついてこれない現状で募りに募った苛立ちは、あろうことか敵相手に霧散する事が出来た。

後で、監督に怒られてもかまわない。今ここで、今できる影山自身の全力のサーブを。

 

 

「お前に、ぶつける……!」

 

 

 

 

 

いつもよりも距離をとる。

構えを変える。高くボールを上げる。助走からの踏み込み。

 

 

「(……いい感じだ)」

 

 

跳躍し、最高打点で最高の一撃を放つ。

 

突然の影山のジャンプサーブに、少なからず敵味方問わずに動揺が走るが、それは一瞬。決して、火神のサーブに劣らない程のサーブが確実に相手コートに入ったのだから、瞬時に切り替えた。

 

普通なら、ノータッチエースの手応え、たとえ触れても弾き出される。

サーブレシーブのレベルが低い雪ヶ丘に取れるボールじゃない。

 

……だが、今回は違った。正確無比なコントロールを持ち、高校になっても即通用する影山のサーブだが、今回に限りは違う。それは、初めて公式戦で使ったという事により、威力は上々でも コントロールはまだまだだという事。

 

 

 

 

つまり―――。

 

 

 

 

 

「ふっ!!」

 

 

「せいやっ!!」

「せいちゃん!!」

「誠也!」

「「「火神先輩!」」」

 

 

 

唯一、高いレベルのレシーバーである火神の元へと飛んでしまったのだ。

或いは、影山は あえて火神を狙ったのかもしれない。

何度も打たれた火神に挑んでみたかった、と。

 

その結果、綺麗なAパスでとられてしまった。

 

 

「完璧なレシーブ。流石だなッ……!」

 

 

威力を殺すため 腕と体全体を使う。

まさか、影山がこの場面でジャンプサーブを放つとは思ってもなかった事ではあるが、こちらも極限まで集中できていた事で完璧に対応する事が出来た。

 

 

「(いや、くるのがわかってた様な気がする。……そういう目をしてたんだ、影山は)」

 

ニッ、と笑みを見せて影山に応える。

悔しそうにしていた影山。まだまだ上をと貪欲さが出てきていたのだが、そんな中でも少しは満足感もあったようだ。

初めてのサーブにしては旨くいった、と。

 

 

 

 

そして、次は雪ヶ丘の攻撃。

 

とっておきのサーブを見せてもらった礼、と言わんばかりに火神はレシーブしつつも、即座に駆け出した。

 

 

「ゆき!!」

「ッ!」

 

絶対に決める。このセットを取れなければ、もう後はない。

 

 

火神は、ここで秘密兵器その3を使用。

 

 

経験のない泉とも合わせられる攻撃を、今この場面で。

 

 

 

 

 

それは今日初めてのセットアップだった。

 

今までは日向か火神へのオープントスが主体。

大体がレフトサイドで、何球か泉がミスをして、センターに、ライト方面にいったりもしたが、持ち前の素早さで日向が決めていたりした。

そういうミスもあって狙ってもないブロード攻撃になったりして得点を奪えたりしたが、今回は違う。

 

まだ、トスがあがってもないのに、火神が入ってきたのだ。クイックを使う場面は今まで無かった。

 

 

 

【2番を止めろ!!】

 

 

 

全員の意識が火神へと向かった。

日向や、見掛け倒しではあるが関向も入ってきてはいたが目もくれない。

 

ただ、あの2番、火神を止める為の3枚ブロック。

 

「止めてやる……!!」

 

3人が揃い、全力で跳ぶ。意表を突く速攻ではあるが、追いつく事はできた。最早2番の火神は、相手にとって大エースになっていたからだろう。

 

タイミングも完璧、どんな速攻を打とうと必ず触れる。シャットアウトできなくとも、ワンタッチを取り、必ずカウンターで決める。

 

誰もがそう思っていたが、これは火神の……火神たちの想定範囲内。いや、狙った通りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、試合途中、タイムの際のやり取り。

 

「基本的にゆきが、上げる相手の名を呼んでトスをしてくれていい。だけど、ここぞという時。……俺がレシーブして 上手く捌けた時、ゆきの名前全力で呼ぶから、俺にあげてくれ」

「おおっ、それなんかカッケーな! 俺も呼ぶ!!」

「とりあえず、翔陽は今まで通りにしてくれって。相手の意表を突きたい」

「ぶーぶー。ま、いいか! ぜってー後で教えてくれよ!?」

 

日向は 少し不満だったようだが、最後は納得していた。腕をぶんぶんと振りながら 元に戻る。

 

「でも、せいちゃん。俺 あんな感じのトスしかあげれないよ? ほら、あっちみたいな攻撃はちょっと……」

「ははは。そりゃそーだよ。ほら、バスケだってそうだろ? 練習してもないシュートとかドリブルの技? とか出来ないし。 その辺はバレーだって変わらないから」

「ならどうするの?」

「なに単純だし簡単だ」

 

 

火神は笑って答えた。

 

 

【いつも通りに、俺や日向にあげるみたいに あげてくれれば良い。あとは俺が合わせるから】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入ってきた火神につられて跳ぶ3枚ブロック。

それこそが火神の狙い。

寸前まで、本当に跳ぶように見えた。残像のようなものまで見えた気がした。そこまで気迫がこもったものだったから。

 

「(なっ……!)」

「(跳ばねぇ!?)」

「(フェイント……!)」

 

普通、経験のないセッターならば 火神が飛び込んできた事で慌てて手元が狂ったり、思わず別の所へとボールを上げたりしそうだが、泉は 火神に言われた通りに実行できていた。経験はなくても、火神を信じて自分にできる事をする。その一点だけを集中していたからだ。関向も同様。日向と火神、関向が跳ぶから ブロックカバーが手薄になってしまうが、今はそんなことは考えてはいない。

 

 

ただ、信じて、そして頼られ信じられているから、全力で決めるだけだ。

 

 

ジャンプすると見せかけ、深く沈んだ状態で一回止まる。後は泉のトスの高さに合わせて、それでいて相手が2度目のジャンプした時の対策をも考えて、跳ぶ。

 

 

 

「一人時間差だ」

 

 

 

完璧なレシーブからの理想的な攻撃パターンで意表を突く攻撃。素人である泉セッターのトスにも完璧に合わせた。

完全に裏をかいた火神のスパイクは、見事に相手コートのど真ん中を打ち抜いた。

 

 

 

【いよっっしゃあああああ!!】

 

 

 

何度目かの大歓声、……というより ほとんど怒号みたいな感覚だ。腹の底から声を上げてるのだろう。

皆が火神に集まってくるので もみくちゃ状態。

最早セットを取ったと言っていい感覚である。

 

 

 

「あの攻撃おしえてーーー!! そんで、俺が次するーーー! 絶対するーー!!」

「一人時間差な。あれは何度も通用するようなものじゃないから。フェイントはよく見たらわかるし、ボールの高さは大体一定だから、無理して跳ぶ必要もない。俺が、思いっきりフェイントをかけたから、何とかつられてくれただけだ。……一度見せた以上、警戒されるし、止まってジャンプだから、打点が低くてブロックに捕まる。んでもって、ほんとナイストスだったよ、ゆき。それにこーじも」

「いやいや、俺ただ走りこんだだけだしなぁ~。ま、ナイスと言われたらいい気分だけど」

「いやいや、俺はただガムシャラに上げただけだって。せいちゃんを信じてね?」

 

2人して、シンクロでもしてるのか? と思うくらい同時に手を横に振っていた。

 

泉にしろ関向にしろ、火神を100%信じていた。

トスの事、無駄になるかもしれないが、アタック打つように跳び込め、といった事。

 

信じる事が結構難しい事でもあるんだが、そこは深く言わなかった。

 

日向はその後も、あのスパイク、一人時間差を打ちたいとごねるが、あの日向の跳躍は、助走があってこそ。一人時間差は、成功すれば相手のブロック欺き、攻撃する事が出来るが、当然一度止まるので、助走の勢いを殺してしまったりもする。

その場でジャンプしてみた日向だったけれど、やっぱり現時点では助走無しじゃきつい。

 

それを日向も分かったのだろう。苦々しくネットを、……高さを睨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まじかよ」

「クソ……」

「…………」

 

 

完璧に捕らえたと思った。間に合ったと思った。あの火神が攻撃するのだと思った。そのまっすぐしか見れてない視野が、あのフェイントに引っかかってしまったのだ。

素直に相手を称賛したい、とも思えるが、そこは中学生。やられてしまった、負けてしまった感は拭えない。

 

「これで分かった。クイックはほぼ無い。……狙ってできるのは アイツが合わせられる範囲、届く範囲の攻撃手段しかない。あの1番のブロードもビビったが、一度だけしか使ってない。……つまりイレギュラーだ。となると、もう手段はアレだけだ。今回はしてやられたが、常にリードブロックを忘れるな。つられそうになるかもしれないが、最後まで我慢だ。粘り負けるなよ」

 

北川第一のキャプテンの指示。

横っ面を引っぱたかれたような衝撃を受けたが、そのおかげで冷静さを取り戻す事が出来た。冷静に、状況を分析する事が出来たんだ。

そのあたりは、こちらも中学生らしくない。

決められた直後だというのに、もう復活を果たしているのだから。

 

 

「…………。ここ一本きっちり返してやれ」

 

腰が浮きかけていた監督だったが、冷静なチームを見て、再び下ろした。

 

ここが勝負所。

あのキャプテンの指示を、チームの皆の顔を見て、取り乱す様に声を上げる場面ではない、と判断したのだ。火神の事は確かに驚いた。化け物とすら思った。

だが、凄いサーブを、スパイクを、……凄いプレイをした方が勝つのではない。

 

ボールを落とした方が負ける。最後の25点を取った方が勝つのだ。

 

 

だからこそ、すべて、教え子たちのゲームプランに託したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後―――火神のサーブで24-23まで追い上げるも、最後の最後でネットに掛かり

セットカウント 25-23 で北川第一。

 

 

 

この時、火神は皆に詫びたが……、逆にミスをするんだと安心されたりもした。

それは敵味方問わずにだったりする。

 

 

 

 

 

全ての手札を曝け出した今、本当の意味での総力戦は第2セットから。

 

北川第一の作戦、戦術は変わらない。徹底的に火神をマーク。そして 日向の事も決して忘れないし、侮らない。いや――

 

 

決して個人個人だけではない。北川第一は雪ヶ丘を決して侮らなかった。

 

 

 

 

そして、約1時間にも及んだ試合は、幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 




最後正直急ぎ足になりましたが、
そろそろ先に行きたかったので進めてしまいました。



……第2セットサボってすみません。


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第8話

中学3年で正式な部になって、人数も揃って、初めて出場した念願の公式戦。

 

 

中学の――最初で最後の公式戦が今 終わりを告げた。

 

 

第1セット 25-23。

第2セット 25-19。

 

 

初出場のチームと優勝候補のチームの点差ではないと客観的には思う。

いや、それどころか出来すぎだとすら思う。

皆が持ちうる力を最大限に発揮した。出来ることのすべてを出した。

バレー経験の無い選手も、別の運動部で培った技術(主に足技)でチームに貢献してくれた。時にはファインプレイさえ出た。

本当によくやったと思う。自分でも誇るべきだとも思う。

 

 

だが…… ズキリ、と身体の芯に響くものがあった。

 

 

 

【――……痛いな】

 

 

 

負ける痛み、悔しさ、辛さ それらは慣れる事はないし、慣れたくはない。

いつだって悔しいし、いつだって痛い。

 

 

あの時、あの場面で、あの一瞬をもっともっと追えていたら。もっと一歩前に進めていれば、まだ違ったかもしれない。

 

――たら、れば にはなるが、何度でも言える。尽きる事がない。 みっともなくても、男らしくないと言われても、どうしても思ってしまう。

悔いが少しも残らない様な負けは、自分自身もまだ経験していないから。いつだって残るものだったから。

 

 

そして、きっと誰よりも思い入れが強く、勝利に対する飢えが強かったのは日向だ。

 

これは初めての敗北の経験。

 

故にその辛さや苦しさ、悔しさは人一倍あるだろう。

 

「ッ……、ッ……」

 

立ち尽くすキャプテンの日向。

スコアボードを何度見ても、その点が変わることはない。

 

部員不足で部活動から愛好会へ、実質つぶれていたも同然の雪ヶ丘バレー部を復活させた男でもあるからこそ、思い入れが強く、そして勝ちたかった。皆と一緒に勝ちたかったんだ。

 

 

 

 

 

日向に なかなか声を掛ける事が出来なかったのは、直ぐそばにいた泉と関向。

 

彼らは、今日のぶっつけ本番でバレーに参加してくれた急ごしらえの助っ人。本来の部ではなく、人数合わせのつもりで来てくれた。

だが、それでも……思う所はあるのだろう。目元が薄っすらと滲んでいた。

 

無理と言われていたが、それでも勝ちたかった。

 

そう言っている様にも見えた。

 

 

「……さぁ、皆 整列だ。ほら 翔陽も」

 

 

唯一、遥か遠い昔に、もう戻る事の出来ない場所にて経験を重ねている火神が、声を掛けていた。自分が支えなくてどうする、とも思っていた。

火神自身も痛い。そして日向の胸中も十二分に理解しているし、自分自身で自問自答を何度も頭の中で繰り返し行っているのだから。

だが、締めなくてはならない所はある。礼に始まり、礼に終わるのがスポーツなのだから。

 

 

立ち尽くす日向の肩に手を置き、そのまま連れて行こうとした時だ。

 

 

 

 

「お前は何で……。何でそんなとこにいるんだ!?」

 

 

 

ネットを挟んだ先。

この先も試合が待っている。長くコートに立つ者。

勝者と敗者で分かたれたコートの勝者側にいる北川第一の影山が声を掛けてきた。

 

見てみると、北川第一のメンバーたちも、まだ整列していない。肩で息をする者も多かった。彼らだって、決して余裕があったわけじゃないのだろう。

 

 

 

「高い身体能力に高いバレーのスキル、それにチームを纏めるリーダーの資質、お前みたいなヤツが何で!?」

「なんで、って何だ?」

 

 

敗者側の火神が影山の目を見て答えた。日向は、一瞬だけ身体を震わせたが、ただただ黙っていた。

 

「俺が……俺はお前に……くそっ」

 

影山は何度も何度も言葉をつまらせた後に、塞き止められていたものが決壊し、全て流れ出るかのように出てきた。

 

「お前は、こんな場所で終わるヤツじゃないだろうが。それは、その力は絶対にもっと上に、全国にだって通じる! お前はそれだけのモノを持ってる! 足りないのは、チームだけだ! 何でお前みたいなヤツがそんな所でバレーをしてんだ、って聞いてるんだよ!」

 

「ッ、なんだと!!!」

「っ、や、やめとけ」

 

 

火神よりも先に、関向が声を荒げた。

及ばなかったのは解るし、素人だからしようがないのもわかる。でも、日向や火神がどれだけ頑張ってこの中学でバレーをしていたかも知っているのだ。

その雪ヶ丘を貶されたも同然な物言いだったから、思わず声を荒げるのも無理はない。

それに 止めるには止めた泉だが……、同じ気持ちだったようで胸中穏やかではなかった。

 

 

 

そんな中で、火神は少し意外だと思っていた。

影山の口からチームという言葉が出たからだ。

 

 

影山は 独裁者で自己中で横暴な王様で、最高にぶっ倒したい相手、というのが中学の彼の周囲の評価だった筈だ。少なくとも、今の言い方は正直最悪。敗者に鞭を打ち過ぎだと思う。

更に言えば、影山のあの王様という異名が既に物語っている。

その男の口からチーム。

 

つまり 仲間という言葉が出たことに意外だった。少なからず驚いた。

 

「……選手はソリストではなく、オーケストラの一員。一人でも【自分は特別だ】と思ってしまったら、もう駄目、か。……もう当て嵌まらなくなったりしてな」

「……ッ、何だって?」

 

 

火神の言葉を最後まで聞けなかったのだろう。影山は、詰め寄る様に ネットに手を伸ばすが、勝者と敗者の仕切りまでは超えてはこなかった。

 

「ここにいる理由。俺は こいつらとバレーがやりたかった。だから、ここにいる。……それだけの事だろ? ――あとは」

 

火神は一呼吸置いたのちに、再び口を開いた。

 

「影山。お前に一泡吹かせてやりたかったから、かもしれないな。こっちにいなきゃ ここで、今日お前たちと当たらなかったかもしれない」

 

影山に笑顔まで見せる火神。

 

「ッ…… なに、言ってやがるんだ。勝ち続けていけば どこかで絶対当たってた筈だろうが。俺は、絶対に勝ってコートに残り続けるんだからな!」

 

その顔を見て、まだまだ言ってやりたい気分だった。たった1人で戦況をひっくり返すような相手だったから。それは自分の理想像だったから。

だが、それ以上は もう何も言えなかったし、火神も何も言わなかった。

 

 

 

 

 

その代わりに、矛先が向いたのは 黙ったままの日向にだった。

日向の身体能力、総合力も一線を遥かに超えたものだと影山は思っていた。

だが、肝心のバレーの技術は殆ど無かった。

チームキャプテンを冠しているというのに。

そのチームには火神がいるのに対しても苛立ちが強くあった。

 

 

【火神の様な男がいるのに、日向はいったい何をしていたんだ? もっと足を引っ張らない様に出来なかったのか?】と。

 

 

少々オブラートに包んだが、実際はさらに酷い。

殆ど暴言に近かった。やっぱり影山の性格の悪さが窺える。だけど、それでも何処か必死な形相だったのは日向も覚えていた。

 

 

でも、日向は 何も言い返せなかった。

……ただただ 自分が情けないとだけ感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、整列が遅いと主審から チームから注意を受けて、何とか整列することは出来た。止まっていた日向もどうにか引っ張っていった。

 

 

獲得セット数0、たった1時間程の時間。濃密な時間だと思っていたのに、終わってしまえば本当に短い時間だったと、整列の間 皆がそれぞれ感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公式戦が終わり外に出てみると、もう日が傾き、空は茜色に染まっていた。

 

 

「負けたら、もうコートには立てないんだな」

「そうだな」

「それは、相手が強くても、弱くても――それは 変わらないんだよな」

「ああ。……強い方が勝つんじゃない。勝った方が強いんだから。コートには勝ったヤツしか残れない」

「………」

 

 

日向は、茜色に染まる空を見上げて、呟き続けていた。火神はそれに付き合う。色々あったが、共にバレーをした大切な仲間なのだから。もちろん、1年生たちも、そして 何より 今日来てくれた2人のこともそうだ。

 

 

「今日はありがとな2人とも。ほら、1年の皆もお礼、頼むよ。この2人がいなかったら、試合もできなかったんだ」

「「「っ、ありがとうございましたーーー!!!」」」

 

「いやいや よせって。て、照れるだろ? でも、最高に熱かった。俺こそありがとな。ひょっとしたら、サッカーの引退試合より燃えたかもしれないぜ」

「あははは。そうだね。俺もおんなじかな。たった一回で、ここまで熱くなれた事も、……悔しかった事も 今まで無かったからさ。悔しかったけど、それでも あの相手に、優勝候補相手に、あそこまで出来た事はちょっと嬉しかったりもするよ」

 

 

火神達がそれぞれ礼を言い合っている時、だった。

 

 

「お前が!!!」

 

 

突然、大きな日向の声が響いてきたのは。

思わず振り返ってみると、市立体育館入り口の階段下に 日向はいた。―――そこには 北川第一の影山の姿があった。

 

 

「お前がコートに君臨する【王様】なんだったら、俺が、いつか絶対に倒してやる!! おれが、コートに一番長く立ってやる……! もう、あんな風には絶対言わせない!! 俺だって、俺だって強くなってやる!!!」

 

 

涙を流しながら宣言する日向。それを正面から影山は受け止めた。

 

 

「………コートに残れるのは勝ったヤツだけだ。例え……強くても、勝たなきゃ残れない。勝ち残りたかったら、強くなるしかないんだ。……強くなってみろよ。弱いってこれ以上言われたくなきゃ、強くなってみろ」

 

 

日向も、或いは影山も 頭が冷えたのだろう。先ほどのコートでの影山の罵倒、そして 日向の沈黙も無かった。

 

日向は これから強くなる。この敗戦を糧に 必ず。火神はそれを知っているから、何も心配はしてなかった。このまま、折れるような男じゃない、と。

 

「おい」

「ん……?」

 

次に、影山が視線を向けたのは火神だ。

 

「お前、名前は?」

 

やはり、影山は目つきが悪い。普通にしてるだけなのだろうが、それでも普通に睨まれてるような気分になるかもしれない。

 

そして よくよく考えてみれば 火神は知っているのに影山は知らなかったな、と思い出して 答えた。

 

「火神誠也だ」

「…………」

 

影山は、名を聞いた後は じっ……と火神の顔を見ていた。

何秒か見た後、身体を翻し、背を見せる。

 

「火神……俺はまだ、お前には及ばない。でも いつか、絶対お前を超えてやる。お前より凄く、強い選手になってやる」

「それは光栄だ。なら俺からも返事を返そう。俺が……じゃなく 俺たちが」

 

火神は大きく息を吸い込んで言葉を溜めに溜めて、吐き出す。

 

 

 

 

 

 

「またお前にバレーで ぎゃふん、って言わせてやるよ。何度も、何度でも」

「ぎゃふん なんて言ってねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての試合が終わり、選手も見に来ていた観客も散り散りに帰っていく。

その人たちが口々に出すのは今日一番の試合【北川第一と雪ヶ丘】だった。

勿論、烏野のメンバーも同じ。

 

 

「今日はほんと、驚きの連続だったなぁ。いや 見に来てよかった」

「一回戦から これとか。どんだけレベル高いの? って感じだ。ま、北一の試合だけが異常にレベル高かっただけっぽかったけど」

「あの2番。烏野に来ないっスかね? 最初が肝心っス。教育が行き届いてなく、必要ならば、是非ともこの俺が」

「前半は田中に大賛成なんだが、後半は違うだろ?アイツに教育必要そうに見えんって。……いろんな意味でな」

「あー、大地が言ってるのって最後のヤツ。試合終わって戻ろうとしてた時だべ?雪ヶ丘って全員がベンチだし、学校関係者からの応援とかも来てなかったッポイのに、観客席側に頭下げにきたよな」

 

 

 

それは 試合終了後の事。

悔しさを滲ませながら、戻っていく皆に対し 火神は 観客席に礼をしに行こう、と促していたのだ。

 

優勝候補である北川第一を見る為に来てたであろう観客も、ただ試合を見ていた観客も、気づけば 雪ヶ丘を応援していた。声援を送っていた。プレイに集中すれば、周囲が見えなくなるのはよくある事だが、あれだけの試合をしていても、火神には声がしっかり届いていた様だ。

 

「優等生を絵にかいた様なヤツじゃん。変に威嚇しようもんなら、田中が大ヒンシュクだべ?なー、清水」

「うええっ!? そんなことしませんよ! しませんから、潔子さん!!」

「……………」

「ここでのガン無視は結構きついっス!! わかってるって言って欲しいっス!!!!」

 

 

田中の懇願はとうとう清水に届くことはなかった。(いつも通り)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――時は流れた。

 



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高校生編
第9話


火神が日向と同じ中学なのに、烏野の側に家があるのは違和感がある、とご指摘を頂けましたので、1話を少し修正しまして、少6で日向に出会って、無理いって同じ中学に、としました。些か強引な気もしますがそう変更してます 。

これからもよろしくお願いします。


――俺に足りないものは、何なのか。

 

 

日向は、自問しているが、もう最初からわかりきっている事だった。自分に足りないモノ。

 

それは、練習、経験、指導者。

 

たった3つ、と思われるかもしれない。でも、それが何よりも重要で、簡単なものなど1つもない。だけど、それらを積み重ね続けていれば、きっと中学の頃の相棒である火神にまできっと届く、追いつけると日向は思っていた。

 

諦めきれず やっぱり渇望するのは背丈。

 

でも それはどう頑張っても届かない。どう頑張っても身長だけは変えられない。バレーボールでは高さがどれ程重要なのかも判っている。それでも、牛乳飲んだり、跳んだり跳ねたり……生きててずーっとしてきたが、効果はいま一つなので、高校生では もう運を天に任せるしかできなかった。

 

なら今、どうするか。

決まっている。ただただ愚直に練習を重ねる、経験を重ねる事。今の日向に できるのはそれしかない。

 

それらを本気で、真剣に考えだしたその時、日向は火神に言われてた事が 本当の意味で分かった。何をするにもまずは基礎。バレーの基礎。それを継続し続ける事。継続は力だ。

 

それを火神に伝えた所、彼は笑っていた。

 

【何度も言った筈だぞ】

 

そういって、笑っていた。

 

 

その日から、例え女子バレー部でも、何一つ文句言わずに 混ぜてもらえるのなら混ざった。

近所のママさんチームでも、そして 1人でいる時も、バレーボールを触り続けた。

 

【ボールは友達。これって 翔陽もどっかでは聞いた事あるだろ? だから、常に触ってた方がいいんだ。バレーっていうのは ボールには一瞬しか触れれない。持つこともできない球技だから。いつ、何処でも どんなボールにも応えれるように。自分の身体の一部って思えるように、ずっと扱ってやれ】

 

火神に言われた言葉だ。ボールの慣れが足りてない、と。ボール遊び事態は 幼少期より、そして あの小さな巨人を見たその日から、ずっとしてきたつもりだった。

 

【実感するのは難しいけど、意識一つ変えるだけで全然違うんだ。今の翔陽がやるのと、前の翔陽がやるんじゃ全く、全然。……常にイメージ。イメトレ。練習中も練習後も、寝る前も起きる時もずっとバレー。少なくとも、俺はそうしてた。だから、今の俺がいるんだ】

 

凄い説得力だった。

あの試合で、火神の隠していた真の力! みたいなのを垣間見た気もしていた日向だったのだが、そういった積み重ねもあって、あれだけの事が出来るようになったんだという事は決して嘘じゃないと思った。

 

気合がものすごく入った日向だったが……、物凄く落ちてしまう所もあった。

 

 

【そういえば翔陽。バレーも大事だけど、まずは受験勉強しないとダメじゃない? 烏野のボーダーラインはそこまで高くないけど、基準超えてる?】

 

 

その一言を頂いたからだ。頼れる我が相棒は、一緒に練習している筈なのに 同じだけ練習している筈なのに、一体いつ勉強してるの? と聞きたくなる程成績が自分より遥かに良かった。(遥かに、と日向は思ってるが、ただ単に日向が悪過ぎるだけである)

 

でも、そこも歯を食いしばって頑張った。 

高校へ行く為に。行きたい所、志望校は勿論――――烏野。

 

 

 

宮城県立 烏野高等学校。

 

 

 

 

【俺、烏野は家からも近いし 日向も行くし 丁度良い】

 

火神もそういっていた。

日向は火神と一緒に絶対入るんだ、と更に気合を入れた。勝てる試合を、勝つ試合を火神とともにするんだ、と。

 

ただ……少しだけ不安もある。

 

練習から勉強まで、やることが多すぎるし、正直パンク仕掛けだったから、改まって聞けれていない事。

 

 

 

それは 火神は、高校でもバレーをするか否か、だ。

 

 

 

しっかりと返事はもらえてない。【練習に付き合う】としか言ってくれてない。影山に何か言っていた様だけど、あの時の細かな記憶は日向には無かったから、確定とは言えないかもしれなかった。

ただ、火神は あれだけ出来る。バレーは上手だし、日向との練習にまで、可能な範囲ではあるが付き合ってくれて、指導者の真似事までしてくれて(教えるのは不得手と言ってたが)、それでバレーをしないわけ無い! と日向は思っていたから、聞かなくて良いだろう、と 有耶無耶にしてしまったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――時は流れ、高校1年の春。入学シーズン。

 

 

 

日向翔陽は、無事に最難関だった受験を突破。大泣きしたのは良い思い出。泣かない、と誓って卒業式でさえ、涙をこらえてたのに。何人かの仲間とは別の高校に行くから、お別れをした。その時でさえ 涙をこらえていたのに。―――その都度、【そこは泣いとけよ】とツッコミを貰ったのも良い思い出である。

 

 

そして とうとうこれた烏野高等学校。

烏野の学生服。烏の名に相応しい真っ黒な学生服に包まれ、片道30分。一山を自転車で超えて、とうとうあの学校へとやってきた。

 

憧れの小さな巨人がいた烏野高校へ。

 

 

 

「うぉ~~い、せいやーー!! バレー部いくぞーーー!!」

 

 

ばんっ! と勢いよく開く1年5組の教室。

因みに日向は1年1組。

我が物顔で他のクラスに侵入してくるのは、部活勧誘の先輩を除いたとしても、今のところ同級では日向くらいだった。

 

「相変わらず元気元気……」

「何黄昏てんだって、ほーら、行くぞ! バレー部バレー部!」

「って、ちょっと待て 俺まだ決めかねてるんだって」

「――――んなっっ!!!」

 

 

今日まで、あの初めての試合、そして敗北を喫したその日から今日まで 聞けてなかった事の答えがこんなあっさり帰ってきた。―――それも最悪の形で。

 

 

「お、おいおいおいおい! 一緒にする、っていったよなっっ! いったと言ってくれよな!! せいやーー! みすてないでーーーー!」

「うおおっ、お、落ち着け翔陽! ここ家と違う違う! それに これ見てこれ見て」

 

 

荒ぶる日向を抑えながら見せたのは大量の紙。ファンレター? みたいなのが大量にあった。入学したばかりなのに、この子は もうファンを作っちゃったのですか? と少し落ち着いた日向は、何とも言えない表情をしていた。

 

「ヤメて、その顔」

 

チョップで日向の顔を変える火神。

その一枚一枚を見せる。見てみると……たくさんの部活勧誘に関するものだった。

入学初日から、たくさんの上級生にその体格をみられて、マークされていた模様だった。可愛らしささえ出てるの筆跡は女子のものだと解る。年上のお姉さんからの誘いがあったとの事だ。

それを突っ返す等、誰が出来るものだろうか。

 

 

「推薦入学じゃないのに、こんなに貰ってしまってな。一応、全部に顔出すつもりなんだ。スパッと断るの出来てなくてさ」

「うぐぐっ……、さ、最後はバレー選ぶよな!? 選ぶんだよなっ!?」

 

日向が、火神にちゃんと言質取ろうとしたその時だ。

 

「うぉ~~い、火神~~。悪いんだけど、視聴覚室まで来てくれないか? さっき火神にだけプリント配れてないの、そん時に渡すから」

「あ、中村先生。わかりました」

 

火神は、先生に呼ばれたので、席を立つ。

 

「というわけだ。んじゃ、またな、翔陽」

「あ、コラ! まだ聞いてない!」

「早くいかないと、バレー部閉まってしまうかもしれないぞ? まだ 日はあるから明日でもいいとは思うけど」

「うぐぐっっ、そ、それは嫌だ。今日がいい!! くそっ、また来るからなーーー!!」

 

どひゅんっ、と効果音をつけたいくらいの勢いで、去っていく日向。

制服につけている名前 日の名前があるくせに、まるで嵐のような男だった、と思ったのは このクラスの大多数である。

 

 

 

「はは。なんだよ閉まるって。出店じゃないんだから 閉まるわけ無いのに。…………悪いな、翔陽。まだ悩んでるっぽいんだ」

 

 

火神は、頭を何度か掻きながら、教室を出て視聴覚室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間を遡ろう。

場所は、3年の教室が並ぶ3階。

 

今日は一段と騒がしかった。何故なら、3年の各部の主将を中心に 期待待望の新入部員をゲットしようと息巻いて、鼻息を荒くしている者たちが多かったから。非常に暑苦しい事極まれり、ともいう。(失礼だが)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視聴覚室での用事も終わり、戻る。

 

そんな中。3年、2年のバレー部員たちもいた。皆新入部員を楽しみにしていたのだ。……が。

 

 

「澤村。コレ、今んとこの入部届」

 

改めて説明すると烏野高校3年 バレーボール部マネージャー 清水 潔子。

マネージャーの仕事の1つでもある入部届を、顧問に そして主将に渡す。その薄さに哀愁漂わせるのは 

同じく3年 バレーボール部 主将の澤村 大地。

 

「……少ないな。昔はもっと多かった筈なのに……。覚悟してたつもりだが、きつい」

「こっから増えるって、気にすんな大地!」

 

あまりに落ち込む我らがキャプテンを元気づけようとするのは

同じく3年バレーボール部 副主将 菅原 考支。

元気づけて、励まそうとしてるのは間違いないんだが、菅原の表情にも余裕は一切なかった。

それ程、部員の数が深刻だから。

 

そんな中で、ただ1人。少なく薄い紙ではなく、清水のみを見ている者もいた。

2年 バレーボール部 田中 龍之介。

 

「潔子さん! 今日も美しいっス!!」

 

基本的に 3年のエリアには用事はない。ただ、今回の様な重要なイベント。部員を増やす事が出来るかもしれないイベント等では、行き来したりする。田中の狙いは当然ながら清水。

部活の時間以外で顔を合わせる滅多にないイベントだから、逃すはずもないのだ。

 

「………」

 

勿論――今のところ、その努力が実ってるか? と聞かれれば 客観的にはなかなか頷けない。

 

「ガン無視興奮するっス!!」

 

本人は達成感で満ち溢れてるようだが。

 

「はぁ……。田中はいつも元気でいいよな……。ん? あれ?」

「……気付いた? 澤村」

「お、おお。こいつって、まさか……あの?」

「確認取ってる。間違いない」

「……マジで??」

 

落ち込み続けていた澤村の目に生気が戻る……どころではなく、驚愕して目を見開いていた。それを見越していたのか、肯定する様に頷く清水。

 

入部届の中に、知った名があったから。二度見してしまいそうな名があったから。

ただ、驚くのはまだこれでも早かった。

 

 

 

「後、入部届は無いんだけど、もう1人――――」

 

 

 

その清水の言葉で 最初こそは田中以外はお通夜状態だったバレー部のメンバーがお祭り騒ぎになるのだった。

 

 

 



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第10話

火神は視聴覚室での用事も済み、そしてその後も、色んな運動部に勧誘を受けていたのも断り終えて……、何故か廊下で悶えていた。

 

「(烏野だぞ! あの烏野高校に来たんだぞ!! 中学生の時は翔陽くらいしかいなかったし、最後に影山とか、それに清水先輩とかに ちょこっとあっただけだった! でもほら、今あの烏野にいるんだぞっっ! いわば本番なんだぞっっ!? ここからすべてが始まるんだぞ!!)」

 

 

実は、日向に負けずと劣らない程、火神も興奮していた。それもかなり興奮していた。

手に持ってる紙の束、自分の物や頼まれた物等があるが、凄く落ちそうになっててもお構いなく。今にも、走り回ったり、大声を上げそうな勢いで。

 

 

 

 

そんな火神の中では今、遠い記憶を呼び起こしていた。

 

 

その記憶は直ぐに頭の中の 大切な記憶の棚の中から引き出される。

もう何度読んだか判らないハイキュー‼と言う名の漫画。そして アニメだって何度も何度も見ている。心に残るシーンは多すぎて語りきれない。当たり前だが、今この世界にハイキュー‼と言う漫画は存在しないから、もう脳内にのみインプットされている。いつでも頭の中で映像化できる。

 

あの作品からバレーに対する憧れが生まれ、バレーを始めた。

小学、中学、そして――高校では 春高まで行った。

負けはあったけれど、最後には全国制覇を成し遂げた。

 

 

 

 

 

 

1つの作品から、全国まで羽ばたく事が出来た。その切っ掛けがハイキュー‼だ。

 

 

 

 

ハイキュー‼以外にもバレーボールで勿論好きなのは沢山ある。

Vリーグの選手の中にもたくさんもいたし、実際に会いに行けた事もある。対談した事もある。憧れの選手に会えた事。握手までしてもらったこと。

それも夢が叶ったと言っていい。

 

でも、今まさに体験しているのは、申し訳ないが それらを遥かに超える程のモノだった。

普通に考えたらあり得ない。………作者に会うのなら兎も角。

 

 

 

 

興奮しきってる火神は、ある意味、日向と種類は違えども、根幹は全然変わらないのかもしれない。

 

小さな巨人に憧れ、バレーの道へと踏み込んだ少年。

そのハイキュー‼と呼ばれる世界に魅入られ、バレーの道へと踏み込んだ少年。

 

世界線こそ違うが これはもう似たようなものだ。

 

 

 

 

ただ、日向と違う点はここから。

日向は一目散に烏野のバレー部へといったが、火神は尻込みしてしまっているという所。

 

 

「烏野のバレーを見てみたい……、傍で応援したい。生観戦したい……、でも、バレーも好き。大好き……。見てたら絶対やりたくなる。……それが烏野なら当然。でも、だが、しかし……ッッ」

 

 

うがぁ、と頭を振る火神。

傍から見たら、奇行を行ってる何処か危ない男に見えなくもない。事情を知らない者ならひいたり、遠巻きで 生暖かい視線を送ったり、をされててもおかしくない。

 

「……ちょっと」

 

そんな中で 今あげた対応以外。火神に直接声を掛ける者がいた。

 

「うぅぅぅぅ……、ど、どうするか。俺もバレー……。うぐぅ……」

「いい?」

「結構自信は、ある……。、負けない。頑張れる。でも、しかし……」

「…………」

 

何度か声を掛けてみたが、どうやら全く気付いてもらえないので、来訪者は 火神の肩を数度叩いた。

 

「っっ!?」

 

思わず、ひあっ!と声を出しそうになって飛びあがる様に振り向く火神。何とか奇声だけは防げた様子。

 

 

 

その先には――これまた見知った相手がいた。

 

 

 

「火神、誠也君。でいい?」

「あ、あれ……? えと……清水、先輩?? 何で俺?」

 

 

ばったり出会ったのは、悩みの種でもあった烏野のメンバーの1人。所謂レギュラーと呼ぶに相応しい人物だった。

 

「これ」

 

そっと差し出されたのは、今日先生からもらったばかりの重要事項が記載されたプリント。親に渡さないといけないものなので。

そして、名乗った覚えは無いのに名前が把握されていた理由も判明。

 

渡されたプリントには付箋紙が張られているから。1年5組 火神誠也宛 と。

 

 

「あ、ああ…… 落としちゃってたんですね。すみません。どうもありがとうございます」

「ん」

 

清水からそれを受け取って、頭を下げる火神。

火神をじっと見ていた清水は、紙を渡した後。

 

「バレー部。入らないの?」

 

火神に直球に切り込んできた。

 

「あ、いや……その……」

「日向翔陽君と貴方は、一緒だと思ってたから意外。……彼、もう行ってるみたいだけど」

「……アイツは、基本猪突猛進なんで。前しか見てないんです。怖いもの知らずって感じで。あ、でも 実は そうでもなかったりするかな。――ああ、何か俺とは違うな、その辺が」

 

火神は、苦笑いしながら廊下の天井を見上げた。

見ていたい気持ち、でも 一緒にプレイもしていたい気持ち。

 

なぜ迷うのか。一緒にいけば、どちらも得られる。どちらの夢も叶う。でも、なぜ、迷うのか。

 

 

「わかりきってる事だったんだなぁ」

 

 

至極単純だ。

烏野と言うチームの全てが好きだったから。

誰1人、見てない者なんていなかった。

人気投票みたいなのがあったけれど、入れてない。全員を選択できなかったから。

 

 

自分が入る事で、チームが変わってしまったら? と考えたら、……少しだけ怖い。

 

 

中学の時は、足りない部分を補う形だったから、興奮したものの割りと普通にできた。

 

でも、今回は違う。

なら、後ろからみていた方が一番いい形なのでは、とも考えていたんだ。

 

 

でも、バレーの経験は活きている。影山相手に戦ってみても、あのトスは兎も角、他は引けを取らなかった自信もある。決して侮ってる訳ではないが、それでも通用すると思う。

 

今更、バレーを外から見てるだけなんて、出来るのか? とも考えてしまう。

 

 

 

 

「何に悩んでるのかは聞かない。……でも」

 

 

 

清水は、そんな火神を見て言った。

清水にとって火神は バレーでは無名の中学卒業生だけど、超大型の新人プレイヤーだと思ってる。

普通に考えたら、中学で結果こそ残せなかったが、あれだけ出来れば高校でもするだろう。

でも、それはあくまで他人の考え。

本人にしかない葛藤の様なのがあったっておかしくない。

他人の考えを言うなら、あれだけ出来るのに、どうして、もっと成績を残してる有名な中学にいかなかったのか? というのもある。でも、火神は雪ヶ丘にいた。

そして、今は悩んでる。

 

清水は強制をするつもりはなかった。

 

 

入部届を主将である澤村に渡しに行ったあの時【雪ヶ丘中の火神を見かけた】と伝えた時、澤村達はかなり興奮していた。間違いなくバレー部に入ってくれるだろう、と。だから、清水に頼んだのだ。多分、まだ届けれてないだけだと思うから、直ぐに迎えに……と。ないとは思うが万が一 他の部活に取られる、のは考えたくないようで。

 

田中が一緒に行く! とだだ捏ねてたが【自分の仕事しなさい】と清水に言われて大人しくなったのは別の話。

 

 

そして今、火神が入るかどうかで悩んでいるのを見ている。

 

―――澤村達がかなり期待しているので申し訳ないが、強制はしない。

 

 

でも、言いたかった。

 

 

 

「私には諦めきれるとは思えない。……あの試合を見てたからかな。そう思う」

 

 

そう、清水は言いたかった。あの日、あの試合を見て 負けたけれど 最後の最後まで諦めず、最高のプレイをしようとチームを鼓舞し続けていた。……負けてしまっていたけれど、本当に楽しそうにバレーをしている様にも見えたから。

 

 

「…………」

 

 

火神は、清水にそう言われて 立ち尽くす。

 

諦められない。何を? ……そう、バレーを。怖い? 何が怖い?? 相手に合わせなきゃバレーしちゃいけないのか? そもそも怖がってちゃいけないのか??

 

バレーが好き。ハイキュー‼が、烏野が好き。

 

なら、恐れずに進めばいい。どちらかを諦めるのは嫌だ。どっちをとっても後悔が残るなら、両方をやってみよう。

 

 

それは 火神の気持ちが固まった瞬間だった。

 

 

まさか、清水に背を押されるとは思ってなかった。本当に何が起こるかわからない。……もう既に何が起きるかわからないのなら、尚更やってみるしかないだろう。

ここは、紙の上の世界じゃない。画面越しの世界じゃない。

 

自分自身の現実でもある世界なんだから。

 

 

 

そんな時、また 火神から一枚の紙がひらり、と落ちた。それは清水の前で止まる。

記入されていない入部届用紙だ。

 

 

 

「決めるのは火神。……じゃあ」

 

 

 

清水は、それを取って差し出すと……背を向けた。

火神は、勢いよく 手に持ってる紙の束を、廊下にある腰当たりの高さの棚の上に置き、胸ポケットに指していたシャープペンで、入部届に書き殴る。そして、背を向けてる清水に両手で差し出すようにする。

 

 

「すみません。もう俺決めました。……これ、良いですか?」

 

 

清水は振り返った。

差し出された入部届には、先ほど空白だった場所が綺麗に埋まっていた。

かなり慌てて書いてた筈なのに、整っている様にも見える。

 

清水は チラリと視線を紙に向けた後、火神を見た。そして 小さく微笑んで言った。

 

 

 

「ようこそ。烏野排球部へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、火神は清水の持っていた2つの段ボールを半分持っていた。

最初は【マネの仕事だから】と断られたが、【いえ、新人なので手伝います】と言ってみたら、軽く笑って半分くれた。

 

正直、火神は意外だったりする。

だって知ってるから。何度も何度も持ちます、と言われて断ってる清水の姿を。

だから、一度言ってみて笑って終わるつもりだったのだが、まさかの了承に少し驚いた。

でも、顔に出なかったので 不審がられずに済んだ様だ。

 

 

「でも、清水先輩。俺が悩んでるってなんでわかったんですか?」

「………?」

 

少しの沈黙。やがて 清水が少し呆れ気味に答えてくれた。

 

「あれだけ廊下で、七転八倒、百面相してたら 誰でもわかると思うけど」

「……え?」

「ああ、後口にも少し出てたし」

「……それマジっすか?」

「本当」

 

 

どうやら、恥ずかしい場面を見られてしまった様だ。それも、ハイキュー‼のアイドルと言っていい清水潔子先輩に。これはなかなか……いや、かなり恥ずかしい。

 

「ふふ。少し意外だった。火神はしっかりしてそうだったから。皆、中学の時 裏のキャプテンって言ってたし」

「……あ、あの、ここだけの話にしといてくれたらうれしいです」

「ん。了解。あ、黙ってる代わりに1つ教えてほしいんだけど」

「ふぅ……ありがとうございます。っとと はい。何でしょう?」

 

清水は、歩みを止めて 火神の方へと向いた。

 

 

火神は やっぱり綺麗な人だな、と改めて思う。基本的に皆可愛らしかったり、綺麗だったりだが、その中でも清水は綺麗部門? の様なのがあるとすれば頭一つ抜けてるイメージだった。1年5組にいるよく知る彼女は可愛らしいイメ―ジだが。

 

 

 

「私と何処かで「互いがチームメイトだって自覚するまで、部活には一切参加させない!」っ……??」

 

 

 

何やら、大きな声と、扉を閉めるような大きな音が聞こえてきた。

 

声の方を向いてみると…… 見覚えのある後ろ姿が目に入る。

 

 

 

 

それを見た火神は、目を見開いた後に、くっくっくっ、と笑いを必死に堪えていた。

 

目を白黒させてる清水を他所に、火神は荷物を腹に当てて、どうにか堪え続けていたのだった。

 

 

 

 



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第11話

 

いつも話題には事欠かないな、と思うのは火神。

つい先ほどまで、日向の事は 清水と話題に上がってたのに、また話題のネタが増えそうだ。

 

それと体育館から追い出されるなんて、今時の高校生なら……いや、今じゃ無くても、そうそういるもんじゃないと思う。古き良き時代?の体育会系にはあったのかも知れないが、生憎火神は2度目の高校生活だけど、いろいろときつい学校だったと思うけれど、それでも実際には遭遇したことない。

 

それも2人同時にともなれば、更に希少だ。

 

「う、うわあああ!! ど、なっ【仲間の自覚】ってなに!? どうやんの?? そんなの試験勉強にもなかった!!」

「うるせえ! 知るか!!」

「うわああああああ!! 入れてください! バレー、やらせてください! お、おれ影山とも ちゃ、ちゃんと仲良くしますからあああ」

「おいコラ! そこどけ!」

「あたっ! な、何すんだよ! 今俺が話してんだろ!!」

「うるせえ! 主将! すみませんでした! コイツともちゃんと協力します。部活に参加させてください」

 

 

本当に目を背けたくなるような状況。まさに阿鼻叫喚。……とまでは言わない。

 

これは火神にとっては、知ってる光景かもしれないが、知ってることと実際に見てみるのではまるで違った。まさに百聞は一見にしかず、である。

 

今四字熟語を使うのなら、或いは唖然失笑が正しいかもしれない。

 

「ちょっとお2人さん。盛り上がってるとこ悪いけど、そこ、通してくれ」

 

とりあえず、入り口前を陣取られてしまったら、火神は兎も角 清水に迷惑が掛かるので、まだヒートアップして回りが見えてない2人の肩をたたく。

 

「ッ、ああ! せいやーっ!!」

「よっす。さっきぶりだ。でもやっぱ、いつでも何処でも騒がしいな、翔陽は」

「うわぁぁん、せぇぇいやぁぁぁ」

「って、うわわっ! いきなり抱き着いてくるな! お、落ちるって!」

 

号泣しながら突っ込んでくる日向。

そして 清水から半分託された荷物をどうにか落とす事だけは回避した火神はファインプレイ。

 

「はぁ……、すみません。清水先輩。先に行ってもらっても大丈夫ですか? 少し話したい事があるので」

「……ふふ、了解。それじゃ、荷物貰うね。ここまでありがとう」

 

清水は、呆れ顔ではあるものの、何処となく楽しそうな気もする火神を見て、軽く笑った後に、火神が持つ荷物に手を掛けた。

 

「いえ、こちらこそ 何だか、騒がしくてすみません」

「いい。これは元々私の仕事だし。騒がしいのには慣れてるから。じゃあ、中で待ってる。澤村達にも伝えておく」

「よろしくお願いします。後で自分も改めて言いますんで。あ、清水先輩」

「ん?」

 

火神は荷物を渡す際に、清水に向かって笑っていった。

 

「これから、もっともっと騒がしくなると思いますが、どうかよろしくお願いします」

「……みたいね。覚悟しとく」

 

チラリと日向の方を向く火神。まだ 日向はじたばたしている。影山とじゃれている。

 

 

 

そして、清水は火神が言った意味を理解してまた笑った。間違いなく、今までで一番だろうから。

 

 

 

 

 

その後、清水は第2体育館の扉へ。

固く閉ざされていそうな感じがするのだが、鍵がかかってる訳ではないので 普通に開けて中に入る清水。

 

清水が入った事で、少なからず体育館内が賑やかになったようだが、とりあえず今は置いておいた。

 

その後 やれやれ、と頭を数度振った後に、火神はもう一方の影山の方を見た。

 

「よぉ。久しぶりだな。影山」

「コイツが烏野にいたんだ。……お前だって、絶対いるって思ってたぞ」

 

影山の笑みを見た日向は、身震いしていた。

 

「お前が笑うのこえぇよ、なんか」

「ッ、うるせぇ!!」

 

恥ずかしかったのか、単純に日向の事がむかついたのか、わからないが とりあえず日向を投げ飛ばす事が出来るという事は、筋力は相当アップしている様だ。

幾ら日向が小柄とはいえ、いい飛びっぷり。

 

「さてさて。翔陽」

「いてて……、んん、なんだ? せいや」

「翔陽にとって 良いニュースと悪いニュースがあるんだけど、どっちから先に聞きたい?」

 

火神はにやりと笑ってそう言う。

日向は少しだけ不安そうな顔を見せていたが、その中の良いニュース、と言う言葉だけは早く反応したようなので、目を輝かせながら火神に詰め寄る。

 

「良い方だけでいい!! 良い方!!」

「わかったわかった。頼むから、飛びつきそうな勢いで来るの今は止めて。……っと、こほん」

 

火神はわざとらしく咳払い。腰に手を当てて少しだけ胸を張る様にすると、高らかに宣言。

 

「この度、俺 火神誠也は 烏野排球部に入部する事に決めました」

「……へ??」

「はぁ? 何言ってんだ? お前がバレーしないとかありえんのか??」

 

 

あくどい笑みを浮かべた後は、ずっと眉間に皺を寄せていた影山。火神が言っていた事の本当の意味を知らないから、ただただ呆れているようだった。

 

だが、日向は違う。

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁ、ヨカッターーー! ばかやろーー、心配かけやがってーー!」

 

 

 

また、日向は抱き着いてきた。

まるで、コアラ(日向)とユーカリの木(火神)だ。

 

頬ずりまでしそうになったので、流石に火神は振りほどいた。

 

「はいはーい、ステイステイ。んで、お待ちかねの悪い方のニュースです」

「せいやー………、き、聞きたくないが、こいっ」

「(悪い方のニュース? 気になるな……)」

 

日向だけでなく、影山も少なからず興味がある様子。

ただ、良いニュースの内容も影山にとっては大したことの無い、当たり前の様な事なので、悪い方も大したことないだろう、と思っていたのだ……が。

 

 

「悪いけど、先行くな? お2人さん」

 

 

ベストスマイルで、手をひらひらと振りながら、火神は第2体育館の前に立った。

 

「「……はっ!?」」

 

火神が登場した事で、どうやら置かれている立場を忘れ去っていた様だが、ここへきてようやく思い出せていた。……部活には参加させない、と言われていた事に。

 

 

【みすてないでーー】

 

 

と聞こえたが、申し訳ないが自分の一存じゃどうにもならないので、軽く手を振って返すだけにとどめた。

 

 

 

火神は、扉を軽くノックをしてみる……すると、直ぐ開いた。

 

 

「おおお! 火神だな! よく来たなぁ」

 

 

先ほどまで、怖かった筈(日向と影山視点)の主将 澤村が満面の笑みで迎え入れてくれた。

がらっ、と大きく開く扉は、もう1人2人は入れそうな感じがする。

 

じり、じり……と間合いを測るかの様に、餌に向かって飛び出す獣の様に、構えている日向と影山だったが。

 

 

 

 

「……互いがチームメイトだって自覚、したのか?」

 

 

 

 

そうはいかない。

笑っているんだけど、笑ってない。目が笑ってない澤村。

自分自身に向けられているわけじゃないのに、親に叱られる時の様な威圧感を凄く感じた火神は、軽く委縮した。

 

真っ黒で、真っすぐな目を向けられ……、日向は怯んだ様だが、影山は一歩前に出た。

 

 

「すみませんでした!! 俺、コイツともちゃんと協力します! 部活に参加させてください!!」

 

 

改めての影山の宣言。

それを聞いた澤村は、数秒間……じぃぃぃっと影山の目を見た。本当に真っ黒で笑ってない瞳というのは、何処か吸い込まれそうな恐怖感を与えてくれる。なので、思わずビクついてしまっている様だった。それを見た澤村は。

 

「本音は?」

 

ただの一言返しただけだった。

それを聞いて、更にその後にも続く無言の圧力を受けた影山は、とうとう白状してしまう。

 

「……試合で、今の日向(コイツ)と協力するくらいなら、レシーブもトスも、スパイクも、俺1人で全部する方がマシって思います。やれればいいって思ってます。……と言うか、火神がいるんならコイツいらねぇーって思ってます……」

「はぁ!? ナニ言ってんのオマエっ! つか、いらねーって、ひどいっ!!」

「……それと、さらっと名前出して、俺巻き込むのやめてくれない?」

 

 

見るのと聞くのとではまるで違う影山の名言を頂きました。1人バレー。不可能バレーである。

 

 

「はっはっはっは!! なんで本当に言っちゃうんだよ、本音を! ま、良いと思うよそういうの。と言うか、火神とは、ついこの間の戦う相手、敵同士だったってのに、凄い信頼してんだなー。ま、あの試合見てたら俺でも判るけどな。この男の凄さってヤツ? 信頼できるよなー」

「あ、ありがとうございます」

 

想像以上の歓迎っぷりに、少しばかり照れてしまうのは仕方ないことだ。ここまでの歓迎は今までで無かったかもしれない。日向に喜ばれた事はあったけど、主将直々というのがやっぱり、インパクトがあった。

 

「……でも、最悪なタイミングで名前呼ばれたって思ってもいます」

「それも判るよ。バレーやらせない、やらせる、みたいな会話の中で、自分の名前出てきたら困るよなぁ。当事者じゃないんだし。ま、チームでやるスポーツだから、連帯責任ってのも場合によればあるけど、今回のは安心していいよ。……確実に、完璧に、この2人だけが起こした事だ」

 

澤村の説明を聞いて 一安心、と簡単にはいかなかった。

 

「(澤村さん、笑ってない……。教頭の件 相当堪えたんだろうなぁ……)」

 

遠い目をする火神。知っているとはいえ、実際に【あんなこと】が起きてしまって、その起こした連中の責任者が自分だったら、と考えたら、笑うに笑えない。でも、それがキャプテンの宿命というヤツだろう。

 

「というわけで、だ。影山。お前が火神を信頼しているのも判ったし、その理由も判ってる。日向がまだまだ足りない、頼りないって事も判る。でもさ、そんな中でも繋いでくのがバレーだ。【アイツは、認めてるから良いけど、コイツダメ】みたいなのがまかり通ってたら、チームなんか成り立たなくなる。……お前なら、わかる筈だろ? バレーは ボールは落としたらダメ、持ってもダメ、1人が続けて二度触るのもダメ。影山、それで どうやって戦っていくの?」

 

 

笑顔。今回はちゃんとした笑顔だった。その笑顔のまま―――ぴしゃり、と扉は閉じられた。

 

「翔陽……。まぁ、頑張って」

 

流石に擁護する気はないので、そのまま火神は澤村と一緒にバレー部の皆が待つ方へ。

日向は、影山の衝撃発言に度肝を抜かされたみたいで、今回はなにも火神に言うことはなかった。(言うのを忘れてたのかもしれない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、烏野バレー部。

 

 

本当にやってきたと、改めて実感した火神。体育館に入って更に。

 

アップを一時止めて皆が集まった所で、チームの自己紹介。

それは、言うまでもない、火神はよく知っているつもりだ。

 

いつも新顔、敵、誰かれ構わず睨みつけ、威嚇する習性のある田中。

実は、激情家っぽさもあるが、基本温和でやさしく、安心できる笑顔の副主将の菅原。

普段は凄く優しいが、怒ると怖い。でも頼りになるチームの大黒柱 澤村。

名前がその人の本質を姿勢を表している、次期主将候補 縁下。

実はビビリ、でもやるときはやる男でもある 木下。

存在感がない、と言われてるみたいだけど、しっかり存在してる成田。

 

そして、紅一点、高嶺の花、才色兼備、美しさを現している名を持つ、マネージャーの清水。

 

 

まだ他にもいるけれど、今いるのはこのメンバー。

 

感動ものだ。

 

 

「えー、もうわかってると思う! 俺が期待してた超大型新人君の火神だ。皆、宜しくしてやってくれ」

「ちょっ、……っ~~」

 

感動してて、反応に遅れてしまった。またまた非常に恥ずかしい紹介のされ方をされてしまった。

 

「ははっ、火神ってかわいいとこあるなぁ?田中。あのチームを纏めてたし、結構堅物っぽいイメージも持ってたんだけどな」

「そーっすかぁ? まだまだわかんねぇっスよぉ……? 実は違った一面があって、そいつを調教しなきゃなんない時だってあるかもしれないんスよ、スガさん。そん時こそ、3年の威厳ってヤツを見せてやってくださいよ??」

 

田中がもの凄くにらんできた。それも知ってる火神。寧ろ嬉しくも思ってしまっている。(もちろん、彼はMって訳ではないが)

 

「そろそろ止めときなさい。火神は良い子だってわかるだろ?」

「ッッ~~」

 

ぽんっ、と田中の肩に手が置かれる。その手の主は澤村。威圧、威嚇を繰り返している田中。ほんの少しでも戦力を失う可能性があるのは回避したい澤村は、軽く田中を注意した。

 

ついさっきまで激怒の表情を見ていた田中だからこそ、今日はいつも以上に澤村に圧倒された様だ。良い子って説明はちょっとどうかと思ったが、何も口を挟まなかった。

 

「んじゃ、火神。名前―――簡単な自己紹介を頼む。皆知ってると思うけど、改めてな」

 

「了解です! 1年5組、雪ヶ丘中から来ました火神誠也です! ポジションは特に決まってません。大体の場所、出来ます」

 

 

火神の説明を聞いて、おぉぉ、と感嘆の声を上げる者が多数いた。

 

 

「そりゃ凄いな。オールラウンダーって、紹介するヤツ今まででいたっけ?」

「………ほぉ~ 是非やってみてもらいたいもんだなぁ」

「田中ステイ」

 

ぐいっ、と田中を抑える菅原。

 

「いえいえ、必要だったので、必要に迫られて覚えたって感じですよ。どこが得意って訳でもないので 器用貧乏って感じじゃないでしょうか?」

「謙遜すんなって。あの試合みたぞー。やばいじゃん。あんな寄せ集めみたいなチームでしっかりやってて、田中だって、今こんなだけど、めちゃくちゃほめてたから。な?田中」

「す、スガさん……! あーそうっスね! 確かに、ナイスガッツではあった。あのチビもへたくそだったけど、すんげー飛んでたし。お前ら二人、ほんとやべーよ。あーでも、チビの方は問題起こして今外だけど」

 

威圧モード気味だった田中も、ほめる所はほめてくれる。裏表のない人間なのだ。感情がすぐに前に出るから。だからこそ、褒める所も嘘偽りはない。

 

 

 

「ありがとうございます。菅原先輩、田中先輩! それに皆さんも、これからどうぞ、よろしくお願いします!」

 

 

火神の屈託のない笑顔は、日向とは何処か違った種類の無邪気さを感じた。心底バレーが好きで、それでいて あれだけのプレイが出来、そして何より繋ぐ事が重要なバレーにおいて、チームを纏める事が出来る。期待は決して間違いではなかった、と澤村は感じた。

 

 

 

「いやぁ、ほんと、良い子が来たよなぁ……うんうん。未来は明るい」

「ははは。保護者かよ。ま、さっき問題児がいたばっかだからわかんなくもないけど」

 

澤村の苦労を知ってるからこその、菅原の感想、である。

 

 

「………(田中、先輩 せんぱい、せんぱいせんぱい~……) うはははは! これから良くしてやろう! なんせ田中、先輩だからな!」

 

 

そして、田中は 火神がいった【田中先輩】を只管頭の中でリピートした。

 

 

田中の中で、いけ好かない(暫定)後輩だったのが、可愛げのある(確定予定)後輩へと変わった瞬間だった。

 

 

 



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第12話

オリジナルを出すのはやはり難しいです。



 

烏野高校バレー部、入部初日。

記念すべき初日の練習。

 

 

基本的に、新入部員はまだ見学だろうか、と火神は思っていたが、大分期待されているので最初から練習に加わっていいと言われ、汗を流していた。

 

あれほど迷っている、とか言いつつも しっかりとバレーが出来る準備ができてる所を見ると、火神は清水に押されるまでもなく、入る事は確定していたのだろう。

 

それが遅いか、早いかの違いだった様だ。

 

 

時折――体育館の窓から羨ましそうに顔を覗かせてる日向が見えたが、火神は頑張れとしか言えない。

 

 

主将の澤村が決めた事に、新人がいきなり口出し出来るわけもない。

更に言えばやらかした事の大きさを考えれば……影山は置いといたとして、如何に日向と付き合いが長い火神とはいえど、ちょっと擁護出来ない。

 

火神は 澤村に、一応何があったのか? と聞いたが 笑顔で

 

【聞かないでくれたら嬉しい】

 

と言ってて、威圧感が凄い笑顔だったので、それ以上聞くに聞けなかった。

 

 

 

日向とは、同中の仲間だった事もあり、それなりに気を利かせてくれた田中が、事の詳細を笑いを堪えつつ教えてくれた。

 

予定通り? 日向と影山は、教頭のカツラを吹き飛ばしたとの事。

それと教頭の頭頂部の秘密だが……、日向が言う様に アレは皆には一発でバレバレだったのはまた別の話。……なぜ、影山は気付かなかったのだろう?

 

 

それは兎も角、火神の記憶とは若干違う所もあった。

なんでも、影山のサーブ一発目でカツラが吹き飛んだ事だった。

どうやら、日向は初見で影山の凶悪なジャンプサーブに逃げず立ち向かった様子。一発目は逃げるであろう事を考えたら、日向も確実にうまくなってる。何だか火神も嬉しくなった。

 

 

……でも、ダメなのはダメだ。

主将の指示を無視して勝負した挙句に、教頭のカツラを吹っ飛ばすのは、傍から見れば笑える話ではあるが、当事者グループに所属している以上は言語道断。澤村の負担が半端ない事を考えたら、妥当過ぎる処置である。

 

 

 

 

 

 

そして、日も落ち――夜の時間になった所で 練習終了。

 

 

 

 

 

「(それにしても、澤村さん主体の練習メニュー、全体のバランスも良いし凄い。指導者がいないのに、濃密な時間だった……。前の部活の時と遜色ない、とまでは流石に言えないけど、それでも凄い)」

 

判ってた通り。烏野高校ででは、バレーの顧問先生はいるようだが、バレーそのものを教えてくれるコーチはおらず、選手兼コーチをしてくれてるのが、澤村や菅原と言った上級生たちだった。

やっぱり、どんなスポーツでも教える側は必要。上を目指すのであれば尚更だ。生徒主体の練習と言うのも大切だが、まずは土台がしっかりと確保した上での話だ。

そんな厳しい環境、状況の中でも、しっかり立て直そうと努力し、上を見続ける3年生、それに必死についていく2年生。本当に尊敬する。改めて尊敬する気持ちだった。

 

 

「【勝負して勝ったら入れてください!!!】――とか言ってきそうじゃないスか? アイツら」

「あり得る! 頭冷やしてちょこっと反省の色でも見せれば良いだけなんだけどな」

 

 

そんな中、場の話題は日向と影山になっていた。

と言うより、田中の声が大きすぎて、その声の勢いで場の話題になった、と言った感じだ。2人の事は、それなりに皆考えていた事だったようで、直ぐに注目が集まる。

 

「いや、アイツらもそこまで単細胞じゃないだろ?」

「…………」

「ん? ナニ 火神。その顔……」

 

ちらっ、と澤村と火神は目があった。影山は兎も角、日向とは付き合い長い火神だから、それとなく確認したかった様で、普通に同意を得られると思ってた澤村だったが、露骨に顔を逸らせた火神を見てちょっと考えを改めるモードに。不安が残るモードになった。

 

「え、えっと……、翔陽……日向は 四字熟語で表したら猪突猛進なんです。だから倒れる時はぜったい前のめりなんで、正直、やっても不思議じゃないです」

「……マジで?」

「マジです、ね。……そこに影山が加わったらどうなるかは ちょっと未知ですが」

「ぷはっ!! 断然そう思えてきた! 影山も実力はスゲーけど、オツムの方は弱そうだしなぁ。ビバ、単細胞ってか?」

 

わはは、と笑う田中。

オツムが弱いうえに単細胞とは酷い言われようだが、火神は思うところはあるので、否定はしなかった。

 

「ふぅ……、なら 注意しとこうか。日向と影山……、アイツらが仮に勝負でと来るとしたら、十中八九、影山は自分個人の力だけで勝負しようとするだろう。……そして、そう来るとしたら、アイツは個人の力だけで、勝てるって思ってるって事になるんだろうな」

 

澤村は、影山の中学での試合を思い返す。

あの雪ヶ丘との試合を。それから先の試合を。初戦だけは少し違ったし、それなりに連携も取れていた様だが、その後は違った。

 

まるで1人でバレーをしているかの様だった。

 

 

「自分だけで、って思ってるんなら……、アイツは中学から成長してないって事か。正直、俺はさ。火神、お前との試合で 影山は変わったと思ったんだがな」

「俺との試合、ですか?」

「ああ。あの中学での試合。雪ヶ丘との試合を見てたんだけど、俺は 影山と他の選手と噛み合ってる様に見えたんだ。最初は 1人でしてる感じだったんだが」

 

もう一度、思い返すのは北一と雪ヶ丘との試合。

素人軍団vs超優等生軍団の構図だった筈だが、火神がそれを覆した。

 

火神は1人の力で、それを成したか? と問われれば、それは違う。

火神は、個人のスキルも非常に高いが、それより目を見張ったのはチームの力を チームの最大値を押し上げるような戦い方をした所だった。時には鼓舞し、時にはプレイで魅せ、実に多彩だった。

 

仮に、自陣が100%の力を発揮しているのに対し、相手側が50~80%しか出せなかったとすれば、あそこまでの好勝負が出来たのにも頷ける。

加えて、類まれなスピードと反射神経、身体のバネ、それらを操る日向も加わり、雪ヶ丘はあの試合中に進化し続けたんだろう。

 

火神の方は流石にそこまでの観察は出来なかった。試合終了後に影山の口から チーム と言う言葉が出てきていて、少々驚いた程度だけで。

 

「影山は、火神の戦い方を見て、もっと学んでいれば…… 中学であんな負け方はしなかった、って今でも俺は思ってるよ。あぁ、火神は中学の大会の決勝、見たか?」

「はい。見てます」

 

澤村は それを聞いて頷いた。火神の表情を見て、火神も判ってるんだという事も悟った。

 

「個の力で行けるのはある程度まで。さらに上には行けない。その先を目指す気概があるのなら、考えを変える必要が必須だ。ましてや 影山のポジションは司令塔でもあるセッター。自己中なセッターじゃ、チームが崩れる。……見た通りに、な」

「成程ね。だから、大地はアイツらに、特に影山に当たりが強かった訳か……。んじゃあ、影山達の教育係を火神にさせたら、丁度良くなるんじゃない??」

 

物凄い笑顔でなかなかヘビィな提案をしてくれる菅原。

火神は一気に顔が引きつった。

 

「わー、素敵なお顔で、なかなかに酷いメニューを追加してくれますねー、田中先輩ぃ~」

「んっん? でもよー、火神。あんだけ中学ん時に出来たんだし、やれんじゃね? あの時は他6人くらいいたけどよ、今回は2人だぜ? 人数減ったし大丈夫だ」

「わー、田中先輩まで賛成してるぅー。ほんと、素敵な先輩方ですー」

「わっはっはっは! なんせ先輩だからな! 当・然!」

 

皮肉を言ったつもりだったんだけど、なぜか笑って胸を張る田中。

菅原は、理解していた上で笑ってた。火神はイジリがいがある、とでも思っているのかもしれない。

 

そして、更に ちらっ、ちらっ、と澤村の視線まで感じた所で、火神は大きく手を挙げた。

 

「流石にきついですって。翔陽だけなら付き合いも長いし、大丈夫だとしても、影山追加のコースじゃ、満腹を通り越して、破裂しますよ。あの中学の時は、皆が殆ど初心者だったので、経験者が教えるって感じで、最終的に上手く形になったわけでして、完成されてるっぽい影山とは勝手が違いすぎます。加えて2人ともが夫々超一級の素材。……付け焼刃になっちゃいそうなので、同級の俺じゃない方が良いと思います。それに、上辺だけってなっちゃったら、そんなの簡単に剥がれてしまいますし」

「はぁ…… わかってるって、そこまで本気にしてない。これはアイツの問題だ。アイツ自身が悟って変わるしかない。他人に強要される形じゃ、火神の言う通りになる。簡単にメッキがはがれる」

「……そこまで、って ある程度は本気だったって事ですか??」

「あー、まぁ、な? 何せ田中の言うように中学の頃を見てる訳だし。期待しても仕方ないだろ?」

 

 

ははは、と頭を掻きながら笑う澤村。

田中は【俺は本気だったんだけど……】とばつが悪そうな顔をしていた。

 

 

「うーむ……、しかし、どうしたもんか」

「ってかさ、まだ勝負しろ、って言ってくると決まったわけじゃないじゃん? 仮定の話で悩んでても仕様がなくね?」

「それもそうか」

 

菅原の一言で、澤村は思い直す。

まだまだ澤村が言う様に仮定の話。果たし状宜しくな状態になった訳でもないのだ。

 

だが、もし――そう言ってくるのであれば、決めなければならない、とも思ったその時だった。

 

 

 

【キャプテン!!!】

 

 

 

中々の声量が外から聞こえてくる。

誰のものかは解りきってる事だ。だからこそ、他の者は驚き、火神だけは苦笑いしていたのだった。

 

 

 

その後は、予想通りの展開。田中が最初言っていたように 日向と影山は勝負を申し出てきた。

 

「うはー! まさにビバ、単細胞!! 俺、見事的中じゃん」

「……こんな感じなんです。影山は兎も角、日向は大体直球です。他のコース知らないんです」

「うははは。でもよぉ、俺はこういうやつら嫌いじゃねぇよ! いっそ清々しいって感じでな!」

「流石は田中先輩……、器が大きいですねぇ。ほんと頭下がります……」

「(器が大きい、うつわうつわうつわ……おおきいおおきいおおきい…… せんぱいせんぱいのうつわおおきい……)」

 

 

その後 目をきらんっ、とさせた田中が、また大笑いしながら 火神の背中をバンバンと叩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………で、負けたらどうする?」

 

 

 

澤村の迫力ある声。気圧される日向。一歩も押されない影山。ここは度胸のあるなしの差だろう。

 

「どんな罰でも受けます」

「……ふ―――――ん。考えによっては丁度良いか」

 

 

日向は何にもいってないんだが、万が一でも罰を受けても良いんだろうか? 影山は自信に満ちた顔をしているんだが、日向はそうでもなかった。まだまだ力不足を理解しているのだろう。

 

「お前らと火神、それ以外にも数人1年が入る予定なんだ。そいつらと3対3で試合する。それでどうだ? これは一応毎年新入部員が入ってきて直ぐに雰囲気を見る為にやってる試合だ。最初からやると決めてたし、丁度良い」

 

澤村の説明を聞いて、ふんふん、とうなずく影山。日向だけは少し疑問だった様子。

 

「えっ、でも 3対3だと、俺たち2人ですし…… 俺たち側のもう1人は?」

「ああ、当日、日向達の方に入ってもらうのは田中だ。頼むぞ、田中」

 

さらっと振られた田中。さっきまで大笑いしていたんだけれど、一瞬で静かになった。

 

「えぇ!? 俺スか!?」

「さっき嫌いじゃないって言ったろ?」

「いやでも、関わるのは面倒くさいです!!」

「はぁ……」

 

ここで、ちらっ、と澤村は火神を見た。

何で? と一瞬思ったが大体のアイコンタクトで理解する。

 

「問題児を牛耳れんのは、器のでかい(・・・・・)田中くらいだと思ったんだけどな……」

 

アイコンタクトを受けて、こくり、と頷く火神。

 

「成程! 確かに田中先輩(・・)なら、安心できますね」

 

ここぞとばかりに先輩部分を強調。

 

そして、目の錯覚ではない。田中の耳が大きく大きくなった。

 

 

「っしょぉぉがねぇなあああああ、やってやるよ!! うれしいか!? おい!!」

「うぐっっ 痛っっ」

 

 

田中を見てて、やっぱり面白いし、何だか安心もできる。日向も背中をバンバン叩かれてるが、少なからず感じているだろう。

 

「(……なんだか、梟谷の皆さんの気分が少しわかったかもしれないな……。って まだ、わかるには早すぎるか。それより―――)」

 

火神は、田中、日向、影山の方を見る。

実力申し分なしの影山、メンタルが頗る強く、皆を支えて、支えてもらってる田中。そこに日向が加わる。

日向はやはり、3人の中では 力不足なのは仕方ないが、それでも練習はしっかりやってきたのは火神も判ってる。

 

きっと、勝つ。……いや、きっとではなく間違いなく勝つだろう。と火神は予想していたのだが、この次の澤村の言葉には予想出来てなかった。

 

 

 

「後こっち側は、他の1年に加えて 火神に入ってもらう」

 

 

 

予想出来てなかった事。

それは高校に入って早速影山と対決――だけじゃなく、日向とも対決する事になるという事だ。

 

 

 

 

 

 



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第13話

まだ、月島たちはでませんでした。


それは、あの影山達の騒動後の事。

残った道具の片づけをしている際に、菅原が澤村にある事を聞いていた。

 

「いいのか? 大地。こっち側に火神入れて」

「ん? 何か悪かったか? 1年同士の3対3は元々組み込んでいたし、全員で1年は5人いるから丁度いいだろ。それに他の1年が出てるのに、火神だけ仲間外れって訳にもいかんだろし」

「いや、そういう事じゃなくて、俺がもともと火神に対して思ってたイメージと実際に会ってみてのイメージ、結構マッチしててさ。アイツ、大地の言う通り超優等生って感じだし、何より優しいだろ? 影山達の罰の内容も聞いてるし、花持たせようとすんじゃないかな、って。そうなったら、考えものじゃん?」

 

菅原の懸念は、今回の3対3において、特に負けた時の罰を設けられてない火神側が意図的に手を抜いたりするのではないかと言うものだ。あからさまにはしないと思うが、影山と言うより、日向の方を考えたらより思う。中学の時から一緒にバレーをしてきた仲だし、あの最後の試合でも手を何度も差し伸べてる姿を実際に見てる。全員を支えている火神の姿を見ているから。

だから、菅原はそう思ったのだ。

 

それを聞いて、澤村は首を横に振った。

 

 

「スガは見てなかったんだな。あー、清水は見てたよな? アイツの顔」

「ん」

 

にやっ、と笑う澤村。その隣で掃除と道具の整理をしていた清水に話を振った所、清水も頷いていた。大体2人は解っていた様だ。

 

「アレは、そんな事考えてる顔じゃない。すげぇ楽しみな感じ、まるで玩具を前にした子供みたいな顔だ。最初は俺もスガみたいなの少しはあったけど、あんな顔してたの見たら吹き飛んだ。しっかりしているのは間違いないんだが、時折、年相応な感じもして良いじゃないか。うんうん」

 

澤村の話を聞いて、菅原は納得出来た。確か、顔までは見てなかった。どんな顔をしているのかを少しでも見ていれば、きっと自分も澤村と同じ考えに至るだろう、となぜか納得出来た。火神のバレーに対する想いの強さも、知っているつもりだから。

 

そして、それ以上に思うのは 澤村の事。

 

「あー なるほどね。んでも……ほんっと、成長しすぎてる子供を喜びつつも、それでも心配してる保護者かよ、大地」

「……確かに」

「あ、清水もそう思う??」

「お前らな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度同時刻。影山と一緒にいた日向も、澤村と同じ様な話題だった。

 

もちろん、今回の3対3形式の試合の事と火神の事。

 

 

「俺、正直。今回の罰、お前がセッターやれなくなるかもしれない事ってどうでも良いって今思ってる」

「ああ!? んだとコラぁ!! ッ……!」

 

日向の暴言(影山にとっての)を聞いて、物理的に返答をしてやろうとした影山だったが、何か、得体のしれない圧力を前に、身体を止めた。時折見せるこの空気は、日向特有のものなのだろうか、と影山は警戒心をむき出した。

或いは、この精神力も火神が日向に教えた物なのか? とも考えていた。

 

影山の中では、火神は一体どんな怪物になっているのだろうか

 

 

 

 

そして、影山に対して結構タブーな部分に平然と触れた日向。

 

セッターに対する影山の思いは非常に高く、つい先ほど、日向にセッターとはどういうポジションなのか、熱弁を奮っていた所だった。曰く支配者っぽくて一番格好いいポジションだと。

影山は実際にバレーの試合を見にいった時、セッターの面白さ、格好良さに目覚めたとの事だった。

それは、日向の小さな巨人を見た時の感覚と近いものだ、と日向自身も判っていたし、何より 影山は怒ると怖いから、逆鱗には触れない様に……と思っていたんだけど、今回は違ったんだ。

 

 

「―――俺、今回初めて誠也と試合するんだって思ったら、今までの全部吹き飛んだ。バレー部には入りたい。絶対に入りたいってずっとずっと考えたけど、それも飛びそうだ。今まで誠也と一緒に練習して、沢山練習してきたけど。ネットを挟んでの試合っぽい勝負は今回が初めてだから」

 

 

日向は笑っていた。笑っていた上で目の中には小さな炎を見た気がした。

 

「お前ら、試合形式の練習とかやったこと無かったんだな」

「ああ。そもそも人数足りないし。色んな所に練習混ぜてもらったりしてたけど、一緒にいた。高校でも一緒にプレイするからって同じチームで。ってか大体俺が引っ張ってたんだし」

 

日向が火神に抱く気持ち。同学年だが 尊敬の念が強いという事。

その気持ちは影山にも十分わかる。十分すぎる程、わかっていた。

 

「………あの時の借り、返せる。俺は去年の俺とは違う。今度こそ……」

 

影山も内に炎を宿していた。

敵味方問わず、鼓舞してしまう稀有な能力を持っているからこそ、この2人の獣に炎が宿った様だ。

 

「んでも、土曜の3対3は楽しみだけど…… 練習は絶対必要だよなぁ……。体育館入れないし。……どうしよう?」

「知るか!! でもやるぞ! お前のクソレシーブ何とかすんぞ!」

「クソっ!? お前のスゲーヤツ、あげたじゃねーか!」

「アレの何処があげただ!! 教頭のズラすっ飛ばしただけで、殆どホームランだろうが、ボゲェ!」

 

 

 

土曜日の試合の為の練習をどうしようか、と騒がしい中でも真剣にしていた。これは深刻な問題だからだ。少しでも練習しないと、やばいという事をわかっているのだろう。

影山は、火神とやる可能性、それを考えてなかった。

自分達と、2,3年チームでやる、としか思ってなかった。

 

 

 

【負けねぇよ。俺が居る】

 

 

 

もう一度、あのセリフを日向の前で吐けるか? と聞かれれば、素直に頷けない。中学の最後の試合。試合には勝った。でも、勝負には負けた。そんな気分を味わわされたのだから。

 

あの男とやるには、練習時間はいくらあってもまだまだ足りない。自分の足を引っ張る日向がいるから尚更、練習はしっかりとしたものをやりたい、と考えていたその時だ。

 

 

 

「あーー、う、オフンッ! あ、あ゛~~ 喉がいてえなー、声出し過ぎたか~」

 

「「??」」

 

体育館の窓、鉄格子の先にいた田中の声が聞こえてきたのは。

非常にわざとらしいのだが、何にも疑う事なく、2人は聞き入っていた。

 

 

「えーと、明日の朝練は7時からですよねーーーっ!?」

 

不自然な程、大きな声。外に丸聞こえだった。

 

「え、うん、そうだけど。イキナリどうした? でかい声で」

「えっ、いや、ああ、そのきょう、教頭っす。あのズラは無事だったんスかね??」

「おい!! その話ヤメロ!」

「(……その場面、見たかったかも)」

 

 

 

田中達のやり取りは、ばっちり聞こえた。

明日の朝――練習をするらしい。

体育館で練習するとしたら、練習終わった後か始まる前か。終わった後は時間的にも厳しい。校門が閉まってしまって、学校の中に閉じ込められるようなことも有りうる。……その前に、宿直の先生に見つかって大目玉だ。

なら、どうするか。

 

「「明日……」」

 

2人の間では、もちろんもう決まっている。

 

「朝5時だ」

「遅刻すんなよ!」

「おめーだよ」

 

 

2人はしっかりと時間合わせをして、そのまま帰路に就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを横目で見送る田中。しっかりと自分の声が届いてたようだ、と安心していた。

 

「田中先輩!」

「うおっっ、ど、どした火神!?」

 

日向たちの方を横目で見てたので、全然見てない方からの声に過剰に反応してしまった様だ。

その声の主は、火神だった。

 

火神は、にっ、と歯を見せながら笑っていた。

 

「ありがとうございます! 翔陽たちの為に」

「んん!? こ、声がでけーよ! い、いや違う。なんのことだ~~~? ぴゅ~~♪」

 

口笛に慣れてないのか、或いは咄嗟だったからうまくできなかったのか、わからないが 非常にわざとらしくて、思わず笑ってしまう。

 

「それと、俺 田中先輩とやれるの楽しみにしてます!」

「……おお! 望むところじゃあぁ!! ははっっ、お前ってほんっと良いヤツなんだな。日向は兎も角、影山もいるのに。あのチームをずっと支えてただけの事はあると思うぜ? すげーよ」

 

肩をぽんぽん、と叩きほめる田中。

だが、そのあと少しだけ視線が鋭くなる。

 

「でもよぉ、手を抜いたりすんじゃねぇぞ?? たとえ同中だったって言ってもだ。俺も全力全開でいくからよぉ」

「ん……? ああ、大丈夫ですよ」

「あん? ッ……!」

 

 

薄く笑った後に、火神は目をつむる。そして、開いた時の火神の顔は、何かが違った。

礼儀正しく、優等生で……と言う印象は、最早田中も疑う余地がない程だった。そんな男から、威圧感のような物を感じたのだから。

 

 

 

「バレーの試合で手を抜ける程、俺は器用じゃないんで」

 

 

その威圧感は直ぐに霧散したが、それでも余韻が残るほどだった。

 

 

 

「ッ、……ははっ! 楽しみだな!」

「よろしくお願いします! あ、あと 田中先輩。相談なんですが……」

「おう! なんでも相談しなさい! この田中先輩に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日 火曜――午前4時55分。

 

まだまだ外は真っ暗。そんな誰もいない筈の学校の第二体育館前で動く影が2つ。

 

「……予想はしてたけど、やっぱ戸締まりしてるよなぁ……」

 

体育館の扉を開こうとしても、固く閉ざされていて、入れない。盗られるような物ないだろ?とも一瞬思ったが、バレー道具を盗られちゃまずいので、日向は口には出さずに飲み込んだ。

 

「なら、入れる窓探す。天窓とか開いてんじゃねぇか?」

「ええっ! 天窓って、登んのかよ! 見つかったらやべえだろ、バカか! 泥棒と間違えられたらどーすんだ」

 

日向の珍しい正論忠告もどこ吹く風。影山は侵入できそうな所を探そうと行動を開始したその時だった。

 

 

「――やっぱ、キッツイなぁ~~5時は。まだ暗えよ」

「俺は久しぶりですね。翔陽の家、めちゃ遠いんで、これくらい早起きしていったこと何度かあります」

「うはっ、中学ん時にこんな早朝連まで 2人でしてたのかよ、お前ら」

「バレーもありますけど、翔陽の妹に結構好かれてて、お呼ばれしちゃったりも多かったりですね」

「ほー、日向の妹かぁ。……無茶苦茶元気な子のイメージがする」

「間違えてないっス。とてつもなくパワフルな小学生です」

 

じゃり、じゃり、と陽気な会話とともに やってきたのは田中と火神。

 

「!? 田中さんとせいやっ!?」

 

見つかった!! と一瞬思ったが、火神も一緒なので、直ぐに安心できた日向。影山も戻ってきた。

 

「ったくよぉ、火神の言った通りだな、日向。てか、影山も単純か。えーと、ちょう、と、なんたら~~か?」

「猪突猛進、ですね。窓から侵入しそうだった影山も大概ですし……」

 

2人の傍までやってきて、笑みを見せる。田中はなかなかあくどい顔をしてるので、日向はビビったようだが、直ぐにその笑みがわかったので、変わった。

 

 

「ほれ、鍵だ。7時前には切り上げろよ?」

 

差し出されたのは、体育館の鍵。―――物凄く必要な、大事な物(アイテム)

 

「田中さぁぁぁぁん!!!」

「あざス!!」

「わははははは! なんて良い先輩なんだ俺! まさに器がでけぇ! 田中先輩と呼べ、お前らも!」

「「田中先輩!」」

「わはははは、もう一回! 火神も混ざれ!」

 

 

 

「「「田中先輩!!」」」

「うはははは!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、朝練の事言わないなんて。水臭いなぁ、俺も混ざる。一緒にやろうぜお前ら!」

「あー…… もちろん、せいやも誘おう、って思ってたけど、試合するってなったら一緒には……」

「何言ってんだ? 散々一緒にやって来といて今更じゃないか。翔陽が、俺を引っ張ってきたんだし、付き合うぜって。人数多い方が練習も色々と出来る。影山は反対か?」

「俺は、お前がいようがいまいが、やることは変わらないんだ。なら、質の高い方を選ぶ。……お前のサーブ、俺に打て。今度は全部取ってやるよ」

「おっ、やるか! いいぞ」

「あ、俺も俺も!! 俺が先!!」

「先ずは俺からだ!」

「なんでだよ! 俺だってしたい! 誠也のサーブ、まだ全然取れてないし!!」

 

 

体育館に入る前から大盛り上がりだった。

田中は正直、この三人でチーム作ればよかったのでは? とも思ったが、澤村の考えは、あくまで日向と影山の連携についてだ。

どんなチームでも適応し、やってのける火神を入れるのも良いが、まずは影山に色々と自覚をさせなきゃいけないという事、日向の速度と影山のトスのコンビネーションが見てみたいという事。そして、その相手が火神であれば より燃えるであろう、という事で、あえてチームを分けたのだ。

 

でも、今の会話を聞いてると、ちょっと不安気味にもなる。

 

 

「おいおい、お前ら。一応 今回の練習は3対3に向けてのものなんだからな? その辺考えとけよ。つーか、とっとと体育館中入れって」

 

 

 

その後――、なぜか体育館にどちらが先に入るかでもめたりして、せっかく早く来たのに練習出来ないし、眠いしで、苛立ちを田中は覚えたりした。

 

 

 

そんな2人を仲裁するのが、やっぱり火神。

2人の背を押して、同時に体育館に入れるという、見事な手際の良さだった。

 

 

 



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第14話

細かく書いてるとなかなか進みません・・・。
次の話辺りで 省略するか、文字数をあげるかを決めたいと思います。


「つか、火神がいて、何でコイツは上達してないんだ? サーブレシーブとか。お前がいりゃ、これ以上ない練習出来ただろ?」

「あー……、レシーブだけはちょっとな。コートまるまる貸してもらっての練習は数える程しかできなかったんだよ。それに、ママさんバレーの皆や女子もいるから、そんな強いのは打てないし。個人的な練習も結構気を遣ってたからなぁ」

「それであの威力か。どうなってんだ? お前」

「それ言ったら、影山のトスも大概だろ。正確過ぎて逆にひくぞ」

 

影山と火神で結構話は盛り上がっていた。

少し仲間外れな感じがする日向から、当然ブーイングが沸く。

 

「じょーたつしてない、ってどーいうことだ!! 俺だって出来るんだ!! じょうたつ、してるんだ!!」

「一本もまともに取れてねぇ癖に、偉そうに言うんじゃねえ」

「んだとぉ! 影山だって、せいやのサーブ取れてない時あるじゃねーか!」

「てめーの万倍はマシだろうが!」

 

火に油とはこの事だろうか。いやいや、喧嘩するほど仲が良い、とも取れる。本気でぶつかってるからこその物だ、と火神は思い笑っていた。

 

中学生の時の影山のチームメイト達は、日向の様に食いついてはいなかっただろうから。

 

「昔っから翔陽は反応は良いんだからさ、後はボールを怖がらない事だって」

「うぇっ、こ、こわがったりしてねーし……、ぜんぜん、だし……もう高校生だし……」

「わかり易い反応をどーも。でも、ちゃんとボールを見て、威力を殺してやらないと、毎回、とは言わないが、かなりの確率でボールは彼方に飛んでくぞ? 3対3でそれをしてちゃ、格好の的だ」

 

びゅん、びゅん、と素振りをする火神を見て、日向は背筋を凍らせた。

楽しみにしているのは嘘偽りないが、あの秘密兵器が自分自身に向けられるのだからそうなっても仕方ない。影山も凄いサーブだったんだけど、それ以上な気もするから。

 

「今更だが俺たちと練習してて良いのかよ。お前は対戦相手なんだぞ?」

「んん? 別に良いじゃん、それ。他のチームと練習だってしたりするし、ましてや今回は分かれてするけど、烏野って意味じゃ同じチームだ。それと俺は特に勝っても負けても罰みたいなの、ないし~」

「むぐっ!!」

「うぎっっ!!!」

 

罰の事を思い出したのか、苦々しく歯を食いしばる影山。そして、烏野のバレー部に正式に入ってる火神に対する嫉妬もあって、日向も変な声を上げていた。

 

「……俺は罰を受けるつもりはさらさらねぇ。当日、勝つのは俺だ」

「ふ……ん。俺()、ね」

「なんだよ」

「いいや。まあ言うまでもない事だけど、こっちも同じだ。全力で行く」

 

 

火神は、ボールを高く上げて……、そして助走をつけてジャンプ。空中姿勢を決して崩さずに、正確にボールの芯をとらえる。何かが破裂したのか?と思うような轟音を響かせながら、打たれたボールは、コートの右奥隅に着弾。

それを見た日向は目を輝かせ、影山は しっかりと目に焼き付けた。

 

 

 

「早速中学の頃のリベンジ戦が出来るのは、ある意味では嬉しい事この上ない」

 

 

 

火神のサーブを間近で見るのも参考になる。実際に受けてみるのと同じくらい、参考になる。

影山は、にやりと笑って答えた。

 

「こっちもそのつもりだ。中学ん時。試合には勝った。……だが、俺個人は納得してねぇ部分があるんだ」

「おう。受けて立つ! って 俺は別に挑まれるような立場でもないな。ほーら、翔陽も覚悟しとけよ? 秘密兵器全開で行くからな」

「うぉぉぉ!! 負けねぇよ!!」

 

日向も、火神に倣ってボールを高く上げて、そしてジャンプ。

影山は

 

 

 

 

 

 

【まさか、コイツも……】

 

 

 

 

 

と一瞬、驚愕と僅かの期待に満ちた表情をしていたんだけれど、それは 直ぐに消失。無の顔になる。

 

 

何故なら、盛大に失敗したから。

 

 

日向は、ボールを投げて高くジャンプするまでは良かった。

踏み込みの良さもあり、跳躍に関してはやはり一級品だった。綺麗に高くジャンプ出来てた。

……だが、ジャンプサーブはそれだけで打てるものではない。

数あるサーブの中でも一番強くて、そして成功率が低く一番難しいとも言われているサーブなのだから、まだまだ素人な日向には無理難題に等しい。

 

日向はナイスジャンプを見せたのだが、ボールがおかしな方に上がっていて、ジャンプ力にものを言わせてなんとか打とうとしたんだが、無理だった。それどころか、掠ったボールはなんと日向の頭に返ってきて、そのまま頭突きする形でボールは下に落ちてきて転がり……火神のもとへ。

 

「身体能力は凄くても、流石に模倣力ってのは無いからなぁ……。見ただけでコピー出来たら相当だけど無理だろ?」

「うぐっ……、で、できると思ったのに……」

「いつも言ってる事じゃん。地道な練習が一番だ。近道はなし。只管練習!」

「ボゲェ!! 日向ボゲェ!! それ、試合でやったら承知しねぇからな!」

 

 

ずいぶんと賑やかな早朝練習が始まって早1時間。

現在、文句を言われつつ 影山のスパルタレシーブ練習を日向に行い、火神は田中とスパイクを何度か打っていた後、田中が何かを思い出したようで、ボールを一時止めて、皆を集めた。

 

「おい、お前ら。言い忘れてたが ひとつだけ言っておくぞ」

「「?」」

 

真剣な顔つきの田中。一体何を言われるのか……、それの大体察しが付くのは火神のみ。

 

 

「……主将の大地さんは、普段は優しいけど、怒ると怖い。物凄くだ」

「「? 知ってます」」

「なら話は早い。……禁止って言われてるお前らがここにいるこの早朝練がバレたらヤバい。非常に俺がやばい。……別にビビってるとかじゃねぇぞ、全然。全く全然だ」

 

田中もイケイケな性格をしているんだが、澤村には頭が上がらない様だ。

普段は温厚だが、怒ると怖い。そんな持ちやすいイメージを体現しているのが澤村なようで、規則にも厳しい模範生徒。……怒らすと怖いのは、影山・日向組は経験済みなのだが、田中をビビらせる(本人は否定してるが)程の物なのだと、再度認識を改めた。

 

「田中さんは、命からがら影山と日向の為に用意してくれたんだから、感謝を忘れないようにってことだよ」

「あざっす」

「本当に感謝してますっ! 田中先輩!!」

 

田中が考えていた事とは違うが、改めて感謝されるのは悪い気はせず、また胸を張っていた。(命からがら~の部分は納得しかねるが)

……だが、最も重要な所を伝えれてないので、直ぐに表情を元に戻す。

 

「俺に感謝は当然としてだ! この早朝練知ってんのは俺ら4人だけだからな! くれぐれも秘密にするんだ――「おーー! やっぱ早朝練かぁ!」 ホァァッ!?」

 

 

秘密にしろ、皆に知られたら不味いと田中は伝えてたのに、早速それが叶わなくなってしまった。まだ、朝の7時には程遠いというのに、新たな来訪者が体育館に現れちゃったから。

 

「おーーッス!」

「!? す、スガさん!? なんで……!? まだ6時っスよ!?」

 

ただ、命拾いはできた。

やってきたのは澤村ではなく、副主将の菅原だったから。

 

 

「だってお前昨日は明らかに変だったじゃん? 火神とのやり取りも俺、聞いてたし。ていうか、新人の火神にもバレるってどんだけだよ」

「はぐぅっ!」

「それに、いつも遅刻ギリギリだってのに、鍵の管理まで申し出ちゃったりさぁ」

「おふっ……、くっ……」

「すみません……」

 

何だかいたたまれなくなって、思わず謝ってしまったのは火神。菅原はそんな固い事を言う人ではないのは解ってるんだけれど、やっぱり黙ってた事はいかんだろう。……影山や日向は別としても、火神も新人なんだから。

 

「いやいや、いいっていいって。大地に言うつもりはないし、やる気に満ち溢れてる1年見んのは気分も良い。その上、早朝の練習って なんか秘密特訓みたいでワクワクすんしさー」

 

間違ってなかった。菅原は優しい。澤村と菅原のコンビは本当にバランスが取れてると思った。基本的にどちらも優しいが、いざという時は 飴と鞭を使い分けてくれるのだろう。

 

 

 

「来たからには、俺も混ぜんべ。さっさと動いて温まるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間もそろそろ7時が迫ってきた。

流石にギリギリまでいるのは見つかってしまうかもしれないので、10分前には上がる予定にしている。

 

「うぅ~……誠也、ずるい」

「そんな目で見るなって。……でもあれだ。今回ばっかりは庇ってやんないからな? 澤村さんの注意無視して、その上教頭のヅラすっ飛ばすってのは、やりすぎ」

「う゛う゛…… わざとじゃないんだぁ!」

「わざと狙って出来たら、最早達人の域だよ」

 

なんやかんやあって、朝の練習は終了。

一筋縄ではいかなかったが、兎も角 一歩は確実に前進出来ただろう。

 

「くっそぉ、火神ぃ! 次はリベンジだぞ! それと今度は俺が止めてやる!!」

「あはは……。田中さんのスパイク痛かったっス」

「田中コース読まれ過ぎな。頭脳戦と言うか、駆け引きで火神に完敗してるぞ~~」

「って、菅原さん、煽らないで下さい……。たまたまストレートを読めただけですって」

 

 

ここで、教室に戻る組と続いて朝練に残る組に分かれる。

日向だけでなく、影山も恨めしや~と言わんばかりの顔をしていた。

 

名残惜しそうにあがっていく日向を見送り、影山も続こうとしてた時、火神は声をかけた。

 

「翔陽は磨けば輝くセンスの塊だ。活かすも殺すも影山、お前に懸かってるからな? うまく扱ってやってくれ」

「……俺は、今のアイツが勝ちに必要だとは思わない。そう言っただろ」

「おう。聞いてたよ」

 

日向は間違いなく、火神が知っていた(・・・・・)日向よりは 上達している。バレーボールの技術も拙いなりに頑張っている。

だが、それでもまだ影山の目には必要と映らなかった様だ。

 

今回の早朝練。

 

日向は一度もスパイクを打ってない。影山があげなかった。

何よりもレシーブを磨け、としか言わなかった。

恐らく、相手側に火神がいるからこそだろう。火神のサーブを知っているからこそ、少なくとも土曜日まではレシーブを徹底してやらせたいというのが恐らく影山の考えだ。

そして、レシーブは簡単に上達するものではない。

 

皮肉なことに、火神がいたから、日向も練習環境が変わって上達出来た。火神がいたから、最も強いサーブを受けなければならないので、火神が最初から知っていた様に、レシーブ中心の練習になってしまったんだ。

 

 

「俺ん時。……俺らとやった時、翔陽に何点取られた?」

「……なんだと?」

「翔陽に点を取る力はないって本当に思ってる? 影山。澤村さんが言ってた事、今一度考えなおした方が良い」

「…………」

 

 

火神はそう言うと、窓の部分にかけていたタオルを手に取って、汗を拭った。

影山は納得できない、といった様子だ。ただ、言っている意味が全く分からない、という訳ではなさそうだ。

 

 

「影山のトスはすげえ。あのトスを自在に打てる。セットアップを当然の様に入って打てたなら、きっとどんなブロックだって勝負できるって思う。初見じゃほぼ、余裕で行けるって」

「俺がブロックを欺いて、スパイカーに道を切り開く。それが理想のセッターだ。俺が目指してんのはそこ。俺がどんなブロックだろうと躱して、上げて……、俺のトスを打てれば……」

「ははは。わかるわかる。……でもな影山。確かに凄い。でも、影山が掲げる理想のトスとスパイカーにとっての最高のトスっていうのは 同じ様で、全く同じじゃない、って少なくとも俺は思ってる」

「なんだと!?」

 

 

食い入る影山。バレーを深く知っている男の言葉だからこそ……、自分がかつて師事し、教えてもらおうとした先輩に似たスタイルを感じたからこそ、一言一句逃さず聞きたかった。

それが、否定的な言葉であってもだ。全てを糧にして、成長する。強くなる為に。

 

 

最後まで聞きたかったんだが、ここで終わった。

 

 

「ほらほら、大地たちが来ちゃうって、影山」

 

 

菅原が戻るように促したからだ。

聞くくらいなら直ぐ、という事で、菅原の言葉に頷きつつ、火神に催促するが。

 

「続きはまた今度な。自分で考えてみろって。他人に言われるだけより、自分なりの形にした方が良い。って、なーに偉そうなこと言ってんだろうな、俺」

 

はは、と笑って歯を見せる火神。そして。

 

 

「中学の時は時間もそうだけど、何より人が足りなかった。ここじゃどっちも足りてるんだ。アイツと一緒に、さっさとバレー部に入って来いよ」

「立ちはだかってるヤツのセリフじゃねえよ」

 

 

 

影山はそう言うと、戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その外で、待っていたのは日向。

先に行ったかと思ったんだが、どうやら話を聞いていた様だ。

真っ直ぐ影山を見据えていた。

 

 

「俺、中学の時は誠也に頼り切ってた。スパイクを気持ちよく打つのもそうだし、練習するのも、試合で点取るのも」

「………」

 

影山が何かを言うより早く、日向から話しかける。

 

「もう、俺は誠也に頼りまくる訳にはいかないんだ! 誠也と戦う為にも! だから、お前はそのスタイル変えんなよ! 俺、お前が納得するレシーブ、絶対上げてやる! この期間に、この土曜までにやってやる! そんでお前が納得したら、お前が勝ちに必要って思えたら、俺がレシーブが出来たら、そん時に、俺にあげろ! 絶対手ぇ抜くなよ!」

「………ああ? そこまで言い切んなら、やってみろよ。クソレシーブが! それとバレーで俺が手を抜くとか思ってんのか、ボゲ」

 

 

新たな闘志を胸に、日向は前を向いた。まだまだ未熟。雛鳥も良い所だが 着実に一歩ずつ進んでいく。烏野のバレー部の1人として、空高く、飛ぶ為に。

 

 

 

「…………」

 

日向と影山のやり取りを見てた火神は笑っていた。

 

 

「あのさぁ、いっこだけ良い? 火神」

「はい? なんですか菅原さん」

「火神って、ほんと1年? アイツらと同級? 留年してきた、とかじゃない?? てか、保護者? 大地が祖父?」

「……って、それどーいう意味ですか!」

「達観しすぎてるっつーか、年相応じゃねーっつーか。なんせ、大地が言ってた意味がよくわかる気分だ。二回くらい高校生してたんじゃないか、って」

 

菅原は、訝しむが……直ぐに笑顔になる。

 

「なんてな、冗談冗談。ほんと、頼りにしてるよ。んでも、俺らの事も頼ってくれて良いからな? んじゃ、本番の朝練の準備、はじめんべ」

 

からかわれたのは解っていた。でも、菅原はかなり鋭かったと言える。

 

「はいっ。宜しくお願いします!」

 

 

 

最後、なかなか鋭い事を言われて 一瞬冷っと、背中に冷たいものが走った気がするが、火神はすぐに落ち着く。そもそも生年月日、生徒手帳を見せれば証明できるし、自分自身の過去? を証明する術の方がないので、何を焦る必要があるんだ? と。

 

 

その後は、バレー部の正式な朝練がはじまった。

澤村にばれない様に冷静に、何事も無かった様に振る舞う3人。

ただ、静かな田中は正直違和感の塊なので、どうしたものか、と菅原が悩んでた所で 清水がやってきて、また賑やかになったので、取り越し苦労だった。

 

 

 

「……どんな試合になるのか、楽しみだ」

 

 

まだ、先ではあるが、火神は楽しみで仕方ない様子だった。

 

それを見た菅原は笑っていた。

 

【やっぱり年相応の顔だったな】

 

と言いながら。

その横で清水も菅原が言ってる意味をすぐ理解し 同じく笑って、田中が更にやかましくなるのだった。

 



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第15話

遅くなりました。
漸く月島、山口参戦です。


 

早朝の練習も何日か重ね、それでも 足りないと思ってた日向は昼休みも利用して練習に励んでいた。

練習相手は火神だったり、時には駆けつけてくれた菅原だったり。

 

今のところ日向の練習相手はこの2名である。

 

そして今も練習中。

火神が授業関連で遅れてくる為 菅原と日向で練習をしていた。

 

そんな中で話題に上がったのが まだ一度もしてない日向のスパイク練習だった。

 

「日向は影山に認めさせるまで、ずっとレシーブばっかりしてっけど、そろそろスパイクの練習もしてみないか? あれだったら、俺があげてやるし」

「!!! ほんとですか! あ、ありがとうございますっっ! ――――……ッッ」

「(おおー、色んな感情が顔に出てる? ここまでわかり易く顔変わってるヤツ初めてみたかも)」

 

日向は、菅原の提案を聞いて はち切れんばかりの笑顔だったんだが、途端に真顔になり、苦虫をかみつぶしたような顔になり、と変化し続けていた。

 

「い、いや…… でも…… ここで菅原さんに上げてもらったら…… なんか、負けを認めた気がするっていうか…… そ、それに せいやにも 上げてもらってないのに…………」

「はっはっは。あん時啖呵きってたしなー。そりゃそーだ。言ってみただけだって。火神に言えば普通にスパイク練習は出来ると思う所を日向は堪えてるしなー」

 

日向なら、断るだろうとある程度予想は菅原には出来ていた。あの数日前の朝練の時 影山に宣言していたのを菅原も聞いていたから。

 

「聞いてみたいのはこっから。なんで影山に張り合うのかー、ってトコだ。俺なら出来るだけ強い奴とは争いたくはないんだけどなぁ。一緒に練習とか 一緒に強くなるとかだったら話は別だけど」

 

日向が影山と張り合ってるのは傍から見れば一目瞭然であり、その理由を菅原は知りたかった。あそこまでバレーのスキルが高い男だったら、張り合うよりは一緒に練習すると言うのが良い気がするから。何より、日向は火神とは出来ているから、そちら側にシフトチェンジしても良い筈だと思っていた。

 

「……中学の試合の時です。俺、せいやがいたからちっとやそっと高い相手くらいなら、絶対負けねーって思ってたんです。でも、影山には全然通じなくて…… メチャクチャ上手くて、俺よりずっとデカくて、とにかく強くて……目の前に立たれるのスッゲー嫌でした。せいやいなかったら、どーなってるか考えたくもない……。若干トラウマです……」

「あー……わかる気がするなぁ。影山の殺気とか 結構ヤバそうだし」

 

菅原の脳裏に浮かぶのは、ネット越しにいる影山の姿。相手を射殺さん勢いの眼力、勝利への飢え、兎に角怖いのは違いないだろう。冗談抜きで子供が見たら泣きそうだと思う。

 

「それに俺、あの時…… せいやにばっか頑張らせちゃったって自覚があるんです。皆がミスをした時 一番フォローしてくれて、サーブでバリバリ点とってくれて、スパイクでも。仲間だから力を合わせて~って よく言ってくれてるけど、俺今のままじゃ絶対ダメなんだって思ってました。だから、そんな時に影山の顔が頭に浮かんで…… 浮かばせたくなかったけど、浮かんで…… その影山を倒してやろうって思って烏野に来たんです。影山をやっつけれるくらい上手くなったら、もっともっと皆で強くなれるって。せいやも合わさって、無敵だーーって。……影山じゃないですけど、足は引っ張りたくないって思ってて……」

 

日向の気持ち。

それは火神も恐らくは気が付いているだろう、と菅原は思っていた。

火神がいくら構わない、仲間だから、と口にしても プライドと言うものは大小必ず存在する。ここまでバレーが好きな日向が プライドがないなんて絶対あり得ないから。

 

「ふーん。じゃあ日向はさ、火神に追いつきたい。それで追いつくには影山って言う最強だった敵を倒せれたらきっと追いつける。んで、その為にバレーやるの?」

「え?? えーーっと……、影山倒せるくらいになれば それくらい強くなってれば、俺はもうせいやのお荷物にならないって思えて……。せいやがそんなこと思ってないくらい分かるんですけど、名ばかりのキャプテンだったってこともありますし。それに何より 強くなったら、試合で簡単に負けたりしない。俺、もう負けたくないんです」

「ほほう。えー、つまり 日向の中での不動のトップは火神で、そこに行く為には影山をやっつけないといけない。影山をやっつければ、火神に追いつけるってことはつまり、同年代の2強があの2人ってことになるのかな?」

「う……あ、あうふぶ……ッッ」

「(あうふぶ?)」

「せ、せいやは ともかく……影山、は…… いっ、い~~……は、んいぃぃ~~……」

「(なるほどね。影山には ハイって言いたくないんだな)」

 

日向は火神に追いつきたい。でも、その前に影山が立ちはだかってるイメージなのだろう。影山は影山で 接した感じでは火神を目指している様にも菅原は見えているので、結局この日向と影山はある意味で似ているのかもしれない。

互いが目標と掲げる男が火神である一点においては。

 

「影山もこの間 火神に試合には勝っても勝負に負けた、って言わせてるし。2人して目標がおんなじって訳か」

「あー……えー そんな感じ、ですかね」

「んで、日向の中では味方の最強が火神で、影山の事を倒すべき敵としては最強ってことか」

「はい」

「はははっ、すげーって思わない?」

「???」

 

菅原が笑っている意味がいまいちわからない日向は 首を傾げる。

菅原は笑みを向けたままその真意を答えた。

 

「2人の最強がこの烏野に、日向の傍に揃ってるってこの状況がさ。日向、中学生の時とは比べ物にならないくらい恵まれてると思うよ。影山はまだ正式には入れてないけど、同じチームでいるんだから味方だし。最強の味方が2人になる。すげぇな。俺までなんかワクワクしてきた」

「………………」

 

 

火神の事は言われるまでも言うまでもない。ただただ、影山の事だけはどうしてもなかなか認めたくはない。日向は、影山に認めさせるつもりで練習を続けているんだから。

 

葛藤葛藤―――と続けていた所で、頭がパンクしそうになってた。

 

「よしっ、休憩終わり。じゃあ レシーブやるべやるべ。もうちょいしたら火神も来ると思うし」

「! しゃス!」

 

 

 

 

日向は 難しい事を考えるのは今は止めた。

日向は 頭が痛くなりそうな事を考えるのは今は止めた。

 

ただ愚直に前を進む。只管練習あるのみなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな2人を陰から見ている者がいた。

 

「最強の2人だって。何かそーんな言われ方されたら むずがゆくなるよなぁ? 影山」

「…………」

 

影山と火神だった。

 

火神は、2人に合流しようと向かっていて、そこで影山を見つけたという形。

入りにくい話題だったので、2人して盗み聞きになってしまったようだった。

 

「翔陽は まだまだ技術は拙い。でも、それを補って余りある運動のセンスがある。活かしてやってくれよ。俺は翔陽と影山がかみ合ったトコを見てみたいんだ」

「現時点でどう合わせるっつんだよ。運動センスは俺も認める。だが、お前も判ってんだろ。バレーはそんな甘くねぇ。どう頑張ってもこんな短期間で上手くなんかなれねぇよ。俺の意見は変わらねぇ。勝ちに必要だとまだ思えねぇからな」

「まだ、ね。そりゃそうだ。……だが、翔陽が頑張らないとキツイのも事実だ。セッターに未練がないっていうなら、話は別だが」

「無い訳ないだろうが! 俺はセッターだ!」

「おう。チームの司令塔なら チーム全員余すことなく使いこなせってことだ。じゃないと……」

 

火神は 日向達の所へ行くため、影山の隣を横切るように歩きながら、一言。

 

 

 

「3対2で挑むんじゃ俺たちには勝てないって思っておけよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も練習練習練習。

火曜も、水曜も……そして木曜も。只管 日向はレシーブレシーブ。前に後ろに飛んではねて 全てをとれるように。火神や菅原が居なくてもボールには触り続けた。授業中居眠りして教師に怒られもした。

それでも考えるのはバレーの事。

 

そして――実を結ぶ。

 

 

 

「おいコラ! 手加減すんなよッ!!」

「んだとォ!? 上等だァ!!」

 

 

それはまるで殴り合いだった。

木曜の早朝練習。

影山が打ちまくり、日向が拾いまくる。時には近くに 時には遠くに フェイントを交え、色んな球種を打つが、それでも日向は拾い続ける。

 

 

影山に認めさせるために。

 

 

そして、25分――経過。

 

 

 

 

 

 

「おはようございます。田中さん」

「おう……って、あれどのくらいやってんだ?」

「30分未満って所じゃないですかね」

「連続で?」

「はい」

「うげっ……」

「日向は本当……まさに一級品だな」

 

火神、田中、菅原が見守る中、日向は ただただガムシャラにボールを追い続ける。

それ程までに続ける理由はただ一つだった。

 

 

 

「おら! そろそろ限界だろ! もうこのくらいで「まだだ!!」ッ」

 

影山さえ、やめようとしていたのに それでも日向は止まらなかった。

 

「ボールッ……! まだ、落としてない!! 負けてない!!!」

 

勝ち負けなんかあるのかよ! と一瞬言いたかったが、影山は飲み込む。

 

落としてないから、日向は止めない。そして、ここで止めたら、日向に負けた気分になるからだ。影山にじゃなく日向自身にも。それも火神の前で。

それは、影山自身も同じことだ。この練習に勝ち負けは無いと思っているが、それでも ここまでやられたら、止まるに止まれない。それも火神の前で。

 

 

「このっ…… やろっっ!」

 

 

大きく振りかぶってボールを打ったボールは、エンドラインを越えて壁近辺まで飛んだ。

 

「うわっ、影山性格悪っっ」

「っ……!(しまった、つい無茶なボールを……)」

 

日向程ではないにしろ、影山も十分疲れている。ムキになったことも有って、無茶な所へとボールを飛ばしてしまったのだ。

 

「あんなの無理だろ」

「いや、俺はそう思わないです」

「え?」

 

この時、明らかに無茶なボールだった事と、もう30分も動き続けた事、それらもあって取ることは無理だと火神以外のメンバーは思っていた。打った影山もだ。だが、火神だけは日向を見据えていて、そしてそれに応えるかの様に、日向は一歩大きく前へと足を動かした。

 

 

「大体は限界を自分で決めて、止まってしまうと思います。でも、翔陽はそんなの決めてない。あんな顔をして前を向き続ける時の翔陽は、止まることを知らないんです」

 

 

火神が言う様に 全員が日向の方を見た。

決して止まらない。足が縺れそうになっても、それでも右左と前に出し続ける。

 

そして、飛びついて右手を伸ばし――ボールを上げた。それも見えていないであろう見事なレシーブ。

 

最初で最後の試合で負けた日向は、誰よりも勝ちたいという思いがあった。

もう負けたくないという気持ち。そして言うなら、勝利にしがみつく力だけは誰よりも強いかもしれない。

 

 

「うおっ、上がったぁっ! ひぇー……、スゲーぞ、日向ァ!!」

「ナイスレシーブ。返球位置も完璧」

「アレは偶然ッポイけど、ほんと凄いな。日向は」

 

 

しゅるるる、と緩い回転。高さ。火神が言う通り 完璧な返球だった。

 

そのボールを目で追って、その先には影山がいる。

何かを考えていたのだろう。でも、その時間はほんの僅かしかないが、長く長く感じた。

日向の執念が、今――影山の考えを改めさせた。

 

影山に返されたボールは、そのまま打つことはせず、身体を45度ズラし、ネットからやや離れた位置で高く上がる。それは ふわっ、と優しいタッチ。

 

 

「(翔陽の勝ちって言ったら影山がまたへそ曲げるかもしれないか) しょーよーー! トス上がったぞぉー!

打てぇーー! 」

「いや、お前も鬼かよ!! 何十分も動き回った後で、スパイク打つ気力なんて……――」

 

 

普通なら、田中の意見が正しいかもしれない。ただの朝練でそこまでする必要があるのか? とも思えてしまうかもしれない。

 

だが、日向にとってトスが上がるというのは他人よりも重みが違うのだ。

 

 

 

「――――――っ!!」

 

 

 

どんなに疲れてても、日向が見せるのは飛び切りの笑顔だった。

笑顔のまま、高く飛び上がり ボールを叩きつける。疲れていても 跳ぶのは別腹です。と言わんばかりだった。

 

それを見た火神は笑う。思い出しながら……。

 

「ほんとに打っちまったよ、ははは」

「でしょ? あんな感じで打ってましたよ、いつも。……コート借りて練習するのも難しかったですから」

「そっか。……そうだよな。セッターからトスが上がるっていうのは、俺たちにとっては当たり前で、ごく普通だった。でも、日向は。いや、火神もそうか。2人にとっては特別なことなんだ」

「あー、成程。……んん?? んでもよぉ、火神。お前さんも日向と条件は同じ筈なのに、なんで中坊離れしたことできんの??」

 

練習環境が悪い中、培われたものが今の日向なのであれば、火神はどうだろうか、と田中は純粋に疑問に思った。力量は認めている。認めるもなにも、示しているのだから。影山と火神は並んでいる、同系列に見ている。だからこその疑問だ。

 

火神は、ん~ と少し照れ笑いを浮かべながら続けた。

 

「俺は親がバレーやってての影響ですよ。と言っても高校までで、春高とか全国はいったことないって言ってましたが、俺がバレーを好きになっちゃいましてね。小さなころからボールは ずっと触ってたんです」

 

これは本当の事。力の根幹部分は話してはいないが 火神のバレー人生は 生まれる前から始まっていたことではあるが、そこは説明しようがないのでカットだ。

 

そして、その説明を聞いて 特に疑うようなことはせず、田中と菅原も納得していたのだった。

 

 

 

 

勿論―――その後、日向が盛大に体育館を汚したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の部活。

 

 

「「ふ、あ~~~あ~~~」」

 

 

菅原、田中の2名。

ほぼ同時に大きな欠伸をしていた。実に眠たそうだ。

 

「お前ら、眠そうだな。2人して」

「「ッッ!!」」

 

それを見逃さなかったのは主将の澤村。常に周囲には気を配り 最善を尽くすのがキャプテンなのである。……と やや大きく言ってみただけで、実のところは かなり 2人の欠伸が目立っていたからだったりする。

 

その後、菅原と田中は勉強を言い訳にし、田中に限って勉強は無いだろ! と菅原がツッコミをしたりしていた。話を逸らせるには、もちろん話題変更が一番で、直ぐ隣にいた火神が自然を装って、澤村に声を掛けた。

 

「澤村さん。そういえば、今日同じ1年が入部する、って言ってましたけど」

「ん? ああ、もちろんだ。今日で間違ってないよ。おーい、入って来ーい」

 

話題逸らしは成功。

 

そして、漸く対面する2人の新入部員。

 

 

「宜しくお願いしまぁーす!」

「宜しくお願いしますー!」

 

 

今回、火神と同じチームで戦うメンバー。

 

「紹介するよ。月島と山口だ」

 

 

微笑みを絶やさず、笑っている大きな男 月島。

そして、その後ろでまるで付き従っている? かの様にしてる山口。

 

「そんでもって、この土曜日の件は、2人にも伝えてるから。火神。言われるまでも無いって思うかもしれんが、頼むぞ」

「い、いや いきなりな上に大分アバウトですね!? 幾ら何でも。【頼むぞ】だけで終わらすのはちょっときついですよ」

「ははは。悪い悪い。ついな」

 

火神は、顔見知りとは言わないが、2人は知っていてはいても初対面だ。

なのに いきなりまとめ役のようなのをやれ、と言われた気がした。それも一癖も二癖もある月島の。

 

 

「ん?」

 

 

月島と目があった。

笑ってるのは笑ってるんだけど、目の奥では何か冷めたようなそんな気配がひしひしと感じる。笑顔が張り付いているだけ、と思えたのは初めてかもしれない。

 

「あー、君ってさぁ、中学ん時、王様のチームと戦ったことあるんじゃない? なんか見覚えがある」

「え?」

 

そして、意外な事に月島から先に声を掛けてきたんだ。

初対面でも 毒を吐くことを厭わない性格だから、別に驚きはしなかったけど。少し意外だった。

 

「あ、ほんとだ、確か 一回戦だった筈。火神っていうんだな。俺、ツッキーと一緒に見に行ってたんだぜ!」

「山口、一緒とかそこ言う必要ある?」

「ごめん、ツッキー!!」

 

2人のやり取りを見てて、思わず笑いそうになった火神だったが、どうにか堪える事が出来た。ほんの後少し。たった数ヶ月で この2人も目を見張る程の成長を遂げる。最初こそは 山口も月島の斜め後ろからついて回るだけだったが、次第に月島を動かすような存在になる。常に先を行く男だと月島からも称される程に。でも、今みたら悪いけどそうは思えない。……腰巾着? って思ってしまったとしても、無理ないと思う。

 

「ああ、そうだよ。北一には見事に負けちゃったけどね。火神誠也だ。宜しく2人とも」

「ふ~ん。でも、君凄かったよ。天才ってほんとにいるんだねぇ、って。ああ、後ほんのちょぉ~~~ぴり、お仲間たちがしっかりしてくれたら、王様にも勝てたんじゃない? かなりの高確率でさ」

「いやいや。あの時はベストだったよ。あのメンバーで出せる最高のプレイをした。でも、及ばなかった。それだけだ。たらればを言ったって仕方ないだろ? 敗けは敗けだって」

「……それで、今度の土曜が雪辱戦って訳かな?」

「そりゃ、リベンジ出来たらって思ってるよ。手は抜かないし、そもそも抜いたら怒る連中だ」

「…………」

 

 

月島は、少しだけ視線を細くした後に、また乾いた笑みを浮かべ。

 

「自己紹介、遅れたね。1年4組 月島 蛍」

「同じく、1年の山口 忠」

 

互いに挨拶を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の部活も終了。

 

 

「………けっ! な~~んか気に入らねぇな。あの新1年!」

「お前、初対面のヤツ大体気に入らないじゃん。ああ、火神くらいだったっけ? 気に入ったの。なるほど。褒めてもらえないと気に入らないってわけか」

「んなっ、そ、そんなことねーですよ!」

「はっはっは。そうだったな。そういう習性だった、ってことか」

「習性って……」

 

 

毎度おなじみの田中の威圧もどこ吹く風な月島。

凄んだ田中だったが、完全に通じてなかったので より苛立ちと言うものがあったのだろう。もしくは対戦相手だったからなのだろうか。

 

「でも、予想以上のが来たな。2人とも経験者で高身長。3人の内1人は超高校級。火神、大丈夫かな? 明日」

「俺、まだ高校でバレーを出来てないので、その ちょうこうこう~っていうのは止めてほしいかなぁ、と。……あと田中さんじゃなくって俺に聞くんですね。菅原さん」

 

菅原はなぜか、菅原曰く 【すごいの】の連中の中に入る火神に聞いていた。田中と言う 日向影山チームに入る男が横にいるというのに。

 

「そっスよ! 俺だって入るんスから!!」

「うぅ~~ん、火神の能力で アイツらの力が底上げされたら、……きつくね?」

「ぬぐっ」

「菅原さん。俺の事どー思ってるか 知らないっすけど、そんな無茶な力とか無いですからね!? どんなチームでやるにしても、時間は絶対必要ですよ! あと、田中さんも威嚇しないでくださいよ……」

「ははは。冗談冗談。わかってるよ」

 

菅原は 手を振って笑っていたが、何処までが冗談なのか分かったものじゃない。

月島は、頭がキレる実力者。山口は大器晩成型。……が、それ以上に癖のある男なので、物凄く骨が折れそうだ、と言うのが、実際あってみての火神の感想だった。

 

「でも、火神ならなーんか、やりそうな気がするんだよな。上手く月島たちとも練習で合わせてたし。形になるのに時間かからなかったし。……でも なんか、月島って 最初お前にも少なからず突っかかって無かったか?」

「あー……、思いましたか」

「そりゃね。笑みと柔らかい口調の中に、ちょーーーっと、イラつきそうなポイントが含まれてたじゃん」

 

 

月島が煽ってきてるのは火神にも勿論わかっていた。

中学時代のメンバーを多少なりとも貶されてたのも判っていた。

確かにあの時のメンバーは頑張ったとはいっても、実力不足だったのは否めない。でも、それでも限られた中で精いっぱい頑張ったし、それを他者に貶められる筋合いは無いとも思う。

だが、月島と言う人間性を理解しているので、反論するよりは 認めたうえでの正論を言うのが一番良い。月島が抱いているものも判ってる上での事。

 

 

「ギスギスしてても始まりませんし、そもそも烏野高校のバレー部って言うスタートラインに立ったばかりです。さらに言えば今回は目的も同じですからね。後々チーム内での人間関係も構築していければ良いかな、って思ってますよ」

「……田中。こういうトコだよ。火神を見習えって」

「うぐぐっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度、噂されていた月島達は ひと悶着を起こしていた。

相手は 日向と影山。

月島は例によって乾いた笑顔で応対していたんだが、如何せん物言いがかなり引っかかる。

影山や日向がそれを笑っていなせる様な器用さを持ってる訳もないので、ちょっとした口論になってしまったのだ。

 

それも一応は収まったようだが。

 

「あぁ、明日は敵だったね。王様のトス、見れるの楽しみにしてるよ」

「……………」

 

終わりでも、いついかなる時も挑発を忘れないのが月島である。

 

「なんだよ! すっげーー感じ悪い奴!! 明日、絶対ぶっ倒すぞ! アイツだけでもぶったおーーす!」

「……言われるまでもねぇよ」

「ムカっ! やっぱ、お前も感じわりーー!!」

「うるせえよ」

 

 

イライラが募る日向。

そして、思い返していた。火神に言われていたことだ。

 

高校に行けば色んなヤツがいる、と。

そんな多彩な者たちの中で、色んな強さに揉まれて、それで上手く強くなっていける、と。

 

 

「んでも、アイツのムカつき具合は 想像以上ですーーー!!」

 

 

 

因みに 煽りに煽って 清々したのだろう、とも思えた月島だったが、そうでもないらしい。

 

「ツッキー! 待ってよ、どーしたの!?」

「……イライラすんだよ。無駄にアツい奴って、さっきの王様も、チビも……。それに…… チッ」

 

月島の変な苛立ちには、おそらく火神もいたのだろう。

菅原が思った通り、そして 火神も判っていた様に 月島は火神を煽っていた。

 

あの試合。ど素人チームと王様チームの試合を観戦した時から、妙な苛立ちを覚えていた。

 

 

頼られる存在。

笑顔でスパイクを、サーブを、何度も点を決めて、最後まであきらめずに戦って、皆に囲まれて……。

 

 

――まるで 昔、見たことがあるような光景だった。

 

 

忘れたいと思いつつも、忘れられないあの記憶。

月島は暫く何故か湧いてくる苛立ちを抑え続けるのだった。

 

 

 



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第16話

そして 運命? の土曜日がやってきた。

3対3の試合の日である。

 

「えーと、サインとか大体確認し終えたけど、俺がセッターのポジションで良いのか?」

「そうだね。火神はどこでも出来るって言ってたデショ。僕と山口もミドルブロッカー出身だし?トスは控えめに言っても上手く無いから」

「了解。山口もそれで良い?」

「うん。よろしく」

「んじゃあ、ジャンジャン上げるから、ビシバシよろしく」

 

 

火神、月島、山口チームは しっかりと打ち合わせをしているのに対し、影山、日向、田中チームはと言うと。

 

 

「潔子さん! 今日も美しいっス!!」

「わっ、び、美女だ! 美女がいるっ!! なぁなぁ、あのひとマネージャーかな?? なぁなぁ影山!」

「………………」

 

 

控えめに言っても、コミュニケーション不足ではないか? と思えちゃう光景が広がっていた。変に緊張するよりは良いのかもしれないが……。

 

それでも特に不安を覚えるのは司令塔だって自覚している筈の影山だ。

日向を完全に無視していたのだ。確かに会話の内容は影山にとっては正直どうでも良い内容な上に試合にも関係ない清水のことだから。

でも、一蹴すらせずに終始無言だったのはあまりよろしくない。

 

 

 

「よーし、じゃあ 始めるぞ! 集まれ、お前らー」

 

 

澤村の号令。

その後 互いのチームがネットを挟んで向き合う。

 

「んじゃあ、互いに全力を尽くす事。まぁ色々とあったが、今日は一先ずプレイに集中してくれ」

 

澤村の言う色々とは本当に濃いものではあり、それに日向や影山にとっては重要かもしれないが、他の者たちには関係はない。ただ全力でプレイするだけなのだ。

 

 

「あーえー、オホンッ」

 

 

そして、全力で戦う~と言うのは何も肉体的なものだけではない様。

 

 

「小さいのと田中さん、どっちを先に潰―――抑えようかなぁ? あっ、そうそう 王様が負けるところも見たいよなぁ。一応、火神くんのリベンジマッチでもあるしー」

 

 

精神を揺さぶるのも立派な戦術のひとつだ。

練習で、同じチームメイトにしちゃうのはどうかと思うが、煽ってくる対戦相手もいないとは決して言えないので、良い経験の1つ……となれば良いんだけれど、揺さぶる相手はしっかりと選んだ方が良いかもしれない。

 

 

「ちょっ、ツッキー。聞こえてるんじゃない……?? ヤバイって!」

「何言ってんの。聞こえるように言ったんだろうが。冷静さを欠いてくれると有難いなぁ」

「うわぁ…… 性格わっるぅ……。と言うか ここでも俺の名前勝手に使われてるし……。とばっちりはほんと勘弁だよ」

「だな。良い具合の悪さしてると思うよ。……まぁ あれだ。頑張れよ? 火神」

 

 

主審位置に戻る前に、澤村に肩をぽんっ、と叩かれた火神。まとめ役は最早決定事項になってしまったと言っていい様だ。この優等生でもあり問題児でもある男(月島)の。

 

 

「……頑張りますけど 変に期待しすぎないでくださいね?」

 

 

火神がそう返すと、澤村は笑顔で手を振って戻っていった。

 

「ま、即興のチームだし 気張らずに行こうよ。それに、見てみたいって思うだろ? 火神も。……家来たちに見放されて一人ぼっちになっちゃった王様ってヤツを直に」

「ほんっと、良い具合に古傷を抉っていくねぇ。なんか煽りも堂に入ってるし。……んでも、それが吉と出るか凶と出るのかも把握しといた方が良いよ?」

「は?」

 

 

火神の含みのある言い方に月島は、少し不快を覚えたのか 一体凶の部分はどこなのか、と聞いてみたかったんだが、それは聞くまでも無く直ぐに来た。

 

 

「ウフフ~ 聞いたあ?? お2人さん。あ~~んな事言っちゃってぇ~~。育ちが悪かったのかしらぁ? あ~~んな良い子も一緒にいるのに、どーしてなのかなぁ~~?」

 

 

もの凄く違和感を覚える田中の言動。

笑っているんだけど笑ってない。その辺りは 月島も似たような表情なんだけれど、田中のそれはまた違った。明らかに怒の感情がその笑みの奥に見えていたから。隠そうとさえしてないんだろう。溜めて、溜めて――放出するために。

 

 

「月島クンってば、もうホ~ント~……―――――擂り潰す!!!」

 

 

迫力のある眼を飛ばしてくる田中。心此処に在らずだった影山も思わず二度見してしまう程で、日向は田中の陰に隠れて煽り返していた。

 

「ふふん」

「うぁ……」

「想像以上にしんどいかも……。でもそこがいい」

 

山口は完璧に気圧されていたが、月島はしてやったりな感じ、火神は火神でげんなりしてはいたが、それでも田中、そして影山、日向のチームとやれるのが楽しみだった。

 

 

そして、煽るという事は相手がイラつくという事。

そのイラつき、怒りと言うのは 力を与えたりはするかもが、あまりに気にしすぎて、過剰に入ってしまう場合もある。諸刃の剣ともいえるかもしれない。

結果 変に力が入ってミスを誘発もしやすくもなってしまう。

 

これらは、月島が色々と計算された思考だったりする。もちろん、本人の性格がアレなのも言うまでもない事だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、試合は始まった。

 

まずは山口のサーブからで 手堅くフローターサーブでボールを入れ、田中がそれを処理、怒気をそのまま剥き出しにして跳躍。

 

 

「そォォ らァァァアア!!!」

 

 

怒気を込め放たれたスパイクは 月島の右手に当たる。利き腕だし 叩き落とせるかと思った月島だったが、田中のパワーが圧倒的に勝っていた為、落とす事はおろか ボールを彼方に吹き飛ばしてしまった。

 

 

「どぉだ、オラァァァァ!!」

 

 

ぶんぶん、と腕を振って 得点を確信するのだったが。

 

「ッんっっ!!」

「なぬっ!?」

 

火神が飛ばされた先にいた。

もう少し、月島が押されてしまっていたら 飛ばされたボールは体育館の壁にまで届いて、そのまま有無言わさずに点を取られてしまったと思うが、幸か不幸か そこまで吹き飛ばされてはいなかった様だ。

 

 

「火神ナイスレシーブ! 田中~~、だっさいぞ~~~」

「決まってからドヤ顔しろよ~~~」

「ってか、服脱ごうとすんなよ~~~」

 

「外!! うっせぇぞっっ!!」

 

 

ブーイングが外から飛んできた。

何やら今の田中はどうにも人気がない様だ。

 

 

「ゴメン山口! カバー!!」

「うんっ、ツッキーー!」

 

 

山口の二段トス。アンダーで上げたボールの為、精度は落ちるものの 比較的上手く上げる事が出来た様だ。

後は月島の長身がものを言う。少しの助走でも十分。

ブロックに来た田中を手を躱す様にライトサイドに打ち放ち、コートにボールは落ちた。

 

 

「っしゃっあ! ナイス月島!」

「ナイス ツッキー!」

「まだたったの1点デショ。大袈裟じゃない?」

「まぁまぁ、そう言わずに」

 

 

月島の言い分を物ともせず笑顔で駆け寄ってくる2人に、何だか苦々しい顔を見せていた様だが、それでも手を伸ばす火神。

月島とは真っ向コミュニケーションが一番である事を火神はよく理解していた。あれだけ口が悪く 更に身長も高ければ なかなか正面突破で接してくる者は少ないと思えたから。

 

それは、事前情報ではあるものの 月島と直接接した火神はより確信が出来て手を伸ばせていた。渋々と言った感じではあるものの、月島もその手を叩いて答える。

 

 

「忘れてた。火神ってレシーブとかもかなりレベル高いんだったな……」

「そうです!! 何度も何度も俺たちを助けてくれたレシーブですので!! めちゃくちゃ心強かったですっ!!」

「そうだったなー、って思うし 日向がそんな気分になんのもわからんでもないが、とりあえず笑顔で言うのは止めろ日向。ありゃ今の俺らにとっては、心強いじゃなく脅威そのものだぞ。ただでさえ高い壁がいんのに フォローに回る火神もメチャやべぇじゃねぇか。(……攻守に隙なし。まさにオールラウンダーってヤツか。――すげぇな。今のレシーブ、ノヤとかぶって見えた)」

 

怒りに身を任せていた田中が一気に冷静になってしまう程のファインプレイだった。

田中の攻撃は 田中自身も 見ていた周りも決まった、と思っただろう。それ程までにボールは弾き出されてしまったのだから。……だが、見事に上げて見せた火神。

反応速度が凄まじいのか 或いは読んでいたのか。

 

 

「と言う訳で、わかってると思うけど 田中さんは煽っちゃダメ。その辺ぜーんぶ力に変えて打ってくるから。何とか拾えたけど、あんなのそうは無いと思ってくれよ」

「チッ」

 

点が決まったことより、月島は自身のブロックが弾き出されてしまったことに不快感を覚えた様だ。これが後々のネチネチリードブロックに変わるんだ、と思えば火神も何処となくワクワクしてくるというものだ。

 

「田中さんへのマークはこのままで。あと翔陽は動きが早いから、影山から上がったら冷静に追いかけてくれ。ひっかけたボールは取れる範囲で俺が頑張るから」

「OK!」

「わかってる」

 

たった一度ではあるが、火神のプレイには魅せられた。

あの中学の試合の時。北川第一を目的に見に行った筈だったが、違う方に目が奪われた。

山口は勿論の事、月島でさえ……心に何かが沸き立つ思いだった。

たったワンプレイでここまで惹きつけられたのは初めてで、かなり複雑な思いを抱える月島も、何も言わずただ火神に従った。  

 

澤村も菅原も、そして対戦している田中、マネージャーの清水でさえも、間違いなく3人のまとめ役は火神であると再認識した瞬間でもあった。

 

 

そして、当の本人はそんな事は考えてはいない。

ただただ考えているのはこれからの事。

これからやってくるかもしれない速攻の事。

 

 

「(……さぁ 影山、翔陽。見せてくれよ。お前たちが噛み合った所。……あの変人速攻を生で体感させてくれ)」

 

 

火神は、ただただ楽しそうに楽しそうに構えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も攻防が続く。

広いコートをたった3人で守り、攻める為 得手不得手はあれど 苦手を補ってくれる人は6人に比べたら圧倒的に少ない。故に個々の実力が試される場面でもあるのだ。

そして、広いコートだからこそ、一度抜かれたらそう取れるものでもない。

 

「っしゃあ!!」

「くっ……!」

 

 

それは火神も勿論例外ではない。当たり前だが彼は超能力者の類ではないのだから。

培ってきた経験からくる予測、そして洞察力から読み 最善に動く、ただそれを愚直に熟しているだけなのだから。それだけでもかなり高い水準にいる事は事実だが、すべてをフォローできる筈もなく、取れないボールは取れないから。

 

 

 

 

 

 

そして この6人の中で 最も苦戦を強いられているのは日向だった。

影山にトスを上げさせる。納得させる事は出来たが、それでも悉く月島に阻まれてしまっている。

 

 

「んー、田中は何本か決まってるけど、日向はけっこう止められてるな」

「月島……、身長があるだけって訳じゃないな。かなりブロックが上手いよ。サーブとブロックでシャットされてるな。せっかく火神のサーブ上げてもこりゃ厳しい……」

 

 

 

 

 

当然、攻撃が決まらなければ得点を得られない。ブロックに阻まれ続けたら ブレイクポイントを許してしまう。

 

「ほらほらどうしたの? ブロックにかかりっぱなしだよ? ここでこそ、王様のトスじゃん。ブロックも振り切れるヤツ。まぁ、ついでにスパイカーも振り切っちゃうけどね」

「っ……、うるせぇんだよ」

 

 

そして、影山への煽りも健在だ。田中には効果は出ないどころか勢いがそのままついてやってくるという事を学んだので、今の標的は日向と影山の2人に絞っている。

 

 

「(火神がいる以上、サーブで稼ぐって手はそうは使えない。日向は、今のところ ほぼシャットアウト。……田中さんは上手く捌いてるが、それでも何度か捕まってる。……どうする、どうする)」

 

まるで、将棋の様に 徐々に手を詰められていくような感覚がした。

全てを防がれた時、何も通じないのではないか? と。

 

 

「ほらほら、次は火神君のサーブだよ? 大丈夫かい? おチビちゃん」

「むっかーーーー!! 取ってやる!! 取ってやる!!! 見てろよ、このやろーー!」

 

 

日向の煽りも効果は抜群にあったんだが、今回だけは旗色が違った。

 

火神の放つジャンプサーブは正確に勢いよく、そして守れていないスペースを突いてくる。

それも エンドラインぎりぎりを狙ってのサーブだ。見ている側も火神本人もサービスエースの手応えだったが。

 

 

その軌道上に阻む影があった。日向だ。

 

 

持ち前の反応の良さ、そして 月島から受けた仕打ち(煽り)もあり、ビビらず真っ直ぐ見据えて……。

 

「ほぎゃっっ!!」

 

火神のサーブを胸部で受けて、上げた。

 

周囲から歓声、と言うよりどよめきが沸いた。

 

「……日向って、ほんと時々だけど すげぇ動きするよな」

「ああ。今のは俺も決まったと思ったよ」

「アレ、絶対痛そう……」

 

等と反応は様々。位置取りも見事で反応もかなり良い。後はレシーブの技術さえしっかりと修めれば……。かなり先の話になりそうだが。

 

 

その後は 田中の二段トスからの影山のストレートで得点。火神のサーブを一本で切った。

それが意味する所は非常に大きい。そして次は影山のサーブ。

 

「(火神は駄目だ。……狙うは、アイツら)」

 

影山はボールを高く上げる。イメージを強く持ち、想いも強く込める。練習し続け来たサーブトスからの跳躍、空中姿勢。思い描くのは2人の男の姿。決して負けてない、劣っていないと自分に言い聞かせつつ、打ち放ったサーブは 山口の方へと矢のように放たれた。

 

 

「山口ッ!」

「うぐっっ!?」

 

 

山口は影山の強力なサーブをとらえきる事が出来ず、ボールは彼方へと飛んで行き、そのままホームラン。

 

「ゥシッ!」

 

確かな手応え、そして 得点した結果を見て、ぐっ と影山は拳を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も立て続けに山口が狙われ、連続得点を許してしまった火神チーム。

 

「ご、ゴメン。ツッキー、火神……」

「オーケーオーケー。反省はしつつ一回落ち着いて。そんで次切っていこう。月島、なるべく山口の方に寄ってフォローを頼めないか? 反対側のスペースが広がってしまうけど、そっちは俺が何とか対応するよ」

「チっ……」

 

影山に連続得点を決められる事に苛立ってるのか、山口の連続ミスに苛立ってるのか、或いはその両方か。月島の舌打ちの回数も多くなっている。

 

「それにしても、影山、サーブの精度がどんどん上がっていってるような気がする。……流石だな」

 

 

ぐいっ、と流れる汗を拭いつつ、影山を見据えた。

最初こそは、火神を狙って 勝負するつもりでサーブを打っていたんだが……、もう殆ど火神の方へ狙って打ってくる事は無いのだろう。リベロにサーブを打つようなものだと考えているのかもしれない。

確かに そこで、点を取れれば盛り上がる事間違いないのだが、初見で取られている以上 そちらへ打つリスクを鑑みると、もう選択はしてこないと判断できる。

何より、負けた時の罰を考えたら、勝ちに徹するしか無いのだろう。

 

 

 

「まとめて点を稼いでやる!」

 

影山の3球目。弾丸のように放たれたサーブは今度は月島側に飛んだ。イラつきもそこそこに増している月島は ここで意地のプレイを見せる。お世辞にもナイスレシーブとは言えないが、それでもボールを上げる事には成功。ややエンドラインより後ろ高くに上がったボールを火神がフォローに走る。

 

 

「よっしゃ、影山ナイッサーー! チャンスボール来るぞ、日向!」

「うっす!」

 

影山のサーブで乱れたボールを見て、チャンスボールが来ると田中は判断し ネットから離れて構えた。日向も同じく。そして 戻ってきた影山もセッター位置へ戻り 攻撃態勢が整った。

 

それを横目で確認した火神は、大きく息を吸い込み。

 

「山口ッ! レフト!!」

 

吐き出すと同時に山口がいるレフト側を指さした。

 

 

ジャンプしボールをとらえた。

 

そして、可能な限りの丁寧さで、短くも長くも近くも遠くもないトス。

美しささえ感じるアンテナまで伸びるトスを上げた。

 

 

 

「(影山のような超精密無茶苦茶速攻トスなんて、無理だった。……でも、このトスはお前を何度も見て、何度も繰り返したヤツだ)」

 

 

 

視野を広げ、スパイカーに選択肢を増やし、可能な限り考えられる時間をも生み出すトス。

 

 

位置が悪かったのを考慮すると会心の手応えだと言える。

指に掛かり具合から、高さ、ボールの勢い、そしてイメージした到達ターゲット位置まで。そう何本も出来るものじゃない会心の当たり。

 

 

ただ、やや残念なのは 山口はそこまで考えていなかったようだ。

普通に助走、そしてスパイクを淡々と決め、またしっかりと集まってハイタッチした。

 

 

 

 

 

 

「……綺麗なトスだったな」

 

一瞬、目を奪われたと言っていい。目が離せなかった。

菅原は思う。自身はセッターとして、今のが理想的なセットアップなのではないか? と。無論、速攻等を加えれば必要なトスも変わってくるから一概には言えないのだが、それでもそう思えてしまった。

 

「んっん~~。天才ってホントいるんだべな~。それも2人とか」

 

悔しくはある。だが、それ以上に糧にするべきだと菅原は思った。

アレは言うなら、凄く―――物凄く丁寧なトス。

割と簡単なイメージも沸きがちではあるが、それでも一瞬一瞬で判断するプレイの最中で可能な限りの丁寧。簡単なようで物凄く難しい。

 

 

それでも、自分もやる。出来ないとも言えない。やらなければ セッターとは言えない。

 

 

菅原はそう心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、そのプレイに目を見張ったのは 菅原だけではなく、同じくセッターである影山もそうだ。完璧なトスだと思った。自分なら あの上げにくい位置のボールをどう処理するかを考えてみたら、数ある選択肢の中の1つのイメージが重なって見えた。

 

「(……完璧。なんなんだよ、お前は本当に)」

 

一瞬怖いと感じた。初めてかもしれない。

でも、それ以上に心沸き立つものがあったのだった。

 

……が、今はどうすれば勝つことができるかが重要。

 

なので、直ぐにきを引き締め直すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、互いのポイントゲッターである影山と火神のサーブを制するも、やはり地力の差が徐々に表れていったのか、火神側の点が追加されていった。

攻撃面では、影山チームは負けてない、寧ろ勝っていると言っていいが、点を取りきる、ブレイクする事が出来ない。個々で勝ってる部分があっても、3人が強い方が強いのだ。

 

 

 

そんな中で、焦りが見え始める影山。そして、そんな表情を決して見逃さないのが月島だ。

 

「ホラホラ、点差広がって行っちゃうよ? 王様。ほんと、そろそろ本気だした方が良いんじゃない??」

 

ここぞとばかりに煽る煽る。

その言い方は、何も知らない日向にも非常に不愉快になるもので。

 

 

「なんなんだ!! お前!! ってか、昨日からだよな!? 試合中にまでつっかかってきやがって!! 王様のトスってなんなんだよ!!」

「あれ~? 君知らないの?? 火神君は知ってるって言ってたんだけど?」

 

 

月島の一言を受けて、日向の視線が…… いや、顔がぐるんっ! と勢いよく火神の方へと向いた。ここでも勝手に名前使われる火神。ほんといいとばっちりである。

 

 

だが、今回に限っては 火神は何も言わなかった。

払拭できる切っ掛けのひとつでもあるから。考えたくはないが もし―――何も起こらなかったら影山はこのまま変わらないかもしれない。あの夢中になれたセットアップ、そして 今後戦うであろうチームとのバレーも変わってくるかもしれない。

今に不満がある訳ではないのだが、それは少々さみしいから。

 

 

 

火神が見守る間に、先へと進んでいく。

影山の根幹部分へと、月島の言葉が突き刺さった。

 

 

「噂じゃさ。コート上の王様って異名は、北川第一の連中がつけたらしいじゃん。王様のチームメイトがさ。その意味は――自己チューの王様、横暴な独裁者。元々噂だけは聞いたことあったけど、あの試合を見て納得いったよ。――横暴が行き過ぎて、あの決勝 ベンチに下げられてたもんね」

 

 

 

刺さった言葉は、影山の脳裏に深く深く侵入し、記憶を司る海馬まで到達した。

 

あまり、思い出したくないあの光景。

 

影山は 速さを拘った。もっともっと早く、と。ブロックを振り切らないと勝てない。

 

決勝戦の相手は白鳥沢中。

 

全中の常連校。はっきり言えば地力の差は明白だった。一回戦の時とは訳が違う。

この強敵に勝つなら 周りが自分に合わせなければ勝てない。影山は強くそう思ったのだ。

 

 

 

――もっと速く動け!! もっと高く跳べ!! 俺のトスに合わせろ!!! 勝ちたいなら!!

 

 

 

それが引き金だった。

 

第1セットの相手のセットポイント、トスを上げた先には――誰も居なかった。

 

コンビミスは何度かあった。トスの速度についてこれなくとも、触るくらいは出来ていた。

でも、もう誰も居なかった。

 

完全な拒絶。もう付き合いきれない。

 

言葉ではなく行動でそれを示された。

 

 

そして――影山はベンチに下げられたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

影山本人の口から聞いたわけではない。

だけど月島の言葉とあの場にいた雰囲気から全て理解できた者たちは解る。そして言葉にならなかった。

確かに影山の自業自得な面はあるだろう。横暴な自己中なプレイをされ続けたチームメイトの苦悩や苛立ちも判る。

 

でも、そこまでしても、言ってはいけない部分に触れたとしても、そうまでしてでも勝ちたかった影山の気持ちもわかる。

それは誰しもが大なり小なり持ち合わせている勝利への飢え。影山はそれが突出していた。誰よりも貪欲に飢えていた。

 

そして 他の者たちが勝利より、拒絶を取った後 影山は漸く取返しがつかない事をしたんだと理解出来たんだろう。

 

 

 

「――それで、クイックを使わないのもあの決勝のせいでビビってるとか?」

 

 

月島の言葉は、影山のトラウマを正確に抉り続けた。あまりに陰湿だと思った田中が一歩前に出る。

 

「……てめぇ、そろそろその辺にしとけよ。試合中だろうが」

「田中」

 

そして、田中なら 代わりに食って掛かるであろう事を読んでいた澤村が 田中を見て首を横に振った。月島は確かに陰湿、性格悪すぎる。でも、ただ事実を言っているに過ぎない。自己中がどういった結果を生むのか。それを影山にはっきりと判らせる為に、澤村は田中を止めたのだろう。

田中は納得がいかないような顔をしていたが。

 

 

「………ああ、そうだ」

 

 

暫く沈黙が流れた後、影山の口が開いた。

 

それは、あの瞬間から今日までずっと思っていた事だった。

 

 

「トスを上げた先に誰も居ないっつうのは、心底怖えよ」

 

 

プライドの高い影山の告白。

それを聞いて、ますます体育館は静寂に包まれるかと思いきや。

 

 

「えっ、でも ソレ中学のハナシでしょ?? 俺にはちゃんとトス上がるから別に関係ない。影山に認めさせるだけのレシーブできたし! それに誠也のサーブだって、とってやったしな!!」

 

 

日向の何処か陽気な発言が一気に空気を弛緩した。

緊迫感が緩んだ。わかってはいても、火神は頬が緩むのを止められなかった。

 

 

「……ははっ! ナニそれ。ぶつかった、の間違いじゃないのか翔陽」

「と、とったんだよっっ!! それは兎も角、今の問題はもうただひとーーつ! お前をどうブチ抜くか、それだけが問題だ!」

 

 

ビシッ、と指さしてくる日向。

一球取った(ぶつかった)だけで、火神のは目標達成、みたいな感じの日向に やや複雑な表情を浮かべていた火神だったが、とりあえずヨシとした。

 

 

場が笑いに包まれたからだ。 

 

 

 

「俺たちが勝って、ちゃんと部活入って、お前は正々堂々セッターをやる! そんでもって俺にトスを上げる! それ以外になんかあんのかっ!?」

「~~~ッ……」

「あっはっはっはっはっは! やっぱ 翔陽はそういうよな、そうだよそうだよ。それに影山が選んだんだろ、これって。なら、弱音なんて一度で十分。ってかそんな暇なんてもう無いんじゃないか。相棒が横で待ってんだから、早く続き始めよう」

 

火神の笑い声、それに更に呼応するようにまた、周囲も笑みに包まれる。

そんな中で苛立ちを見せていたのは月島だった。

 

 

「―――そういう、いかにも【純粋で真っ直ぐ】みたいな感じ、イラっとする。気合で身長差は埋まらない。努力で全部何とかなると思ったら大間違いだろ」

「まぁ、片一方は確かだ」

 

 

月島の肩を軽く叩いて頷く火神。自分に対しても言われているのは解ってるが、あえてそこには触れなかった。

 

そして、日向は 複雑そうに、それでいて恨めしそうな眼差しを向けていた。

 

 

「身長は確かに頑張って伸びるもんじゃないからな。……でも、他に出来る事はあると思うぞ?」

「は?」

「俺たちの試合、見てたんなら 判るだろ? 翔陽がどうやって点とってたか」

 

 

からから、と笑いながら、火神は手に持っていたボールを山口へとパスした。

 

「それと、影山は今自分の中の弱さを認めた。頭ん中がぐちゃぐちゃしてる時って、その理由を一回でも認めたら、晴れるもんなんだよ。だから、次から手強くなるって思うぜ? 厄介な怪物を起こしたって感じにな」

「ナニそれ。漫画とかの見過ぎじゃない? そんなどっかの主人公みたいなパワーアップなんて現実にある訳ないデショ」

「ははははっ、そうかもな」

 

 

火神は、んっっ、と両太腿を叩いた。

 

「なんでだろうな、今すっげぇ 楽しくなってきたんだ」

「……わけわかんない事言わないでよ。暑苦しい」

 

 

月島は、淡々としつつも 少し、ほんの少しだけ警戒するのだった。

 



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第17話

 

 

 

 

――お前の1番のスピード 1番のジャンプで 跳べ。ボールは俺が持っていく(・・・・・)

 

 

 

 

 

 

影山が、日向に対して言った言葉。

それを聞いた時、火神の中では電流が身体を貫いていた。

まるで頭から落雷でも受けたかの様。決して大袈裟なんかではなく、それ以上の表現の仕方が火神にはわからなかったんだ。

 

そして月島も山口も、そこまで警戒してはいなかったが、常に試合中 声掛けをし続けていた火神が黙り、集中しだした事で 何かが来るのではないか? と直感していた。

 

 

 

日向と影山の歯車が噛み合いだした。

 

切っ掛けは、日向のあの発言。中学の時とは関係ないと言ったあのときから始まり、続いて影山に速攻のトスを上げさせた(・・・・・)

 

 

その後は 何度かミスを重ねたが、影山は菅原に諭された。

そして この場で日向との付き合いが最も長い火神にも同じく。

 

 

日向の【すばしっこさ】と言う武器を、影山は活かさず殺していると。

 

中学の頃は、まだギリギリ繋いでいた選手達と日向は違う。まだ一緒に練習も殆どしてない事、そして日向にはまだ技術が伴ってない事、何より影山の超高速セットアップに対応するような練習をこれまでに一度だってしていない事。

だから それらの欠点を影山の天才的な技術で補えないか、と 諭したのだ。

 

 

そして今。

 

影山の集中力は極限にまで研ぎ澄まされていた。世界にはただ自分1人であるかのように静けさに包まれ、そして続いて自分と日向の2人がいて、視野は徐々に広がり味方の田中、相手側の3人にまで達した。

 

 

日向が何処にいるのか、ブロックの位置、ボールの位置、次の瞬間どちらにどう動く? どこに跳ぶ? 何より日向のジャンプのMAX位置はどこだ?

 

 

全てが噛み合う。――頃合い。

 

 

 

―――今!! この角度で!! このタイミング! この位置!!

 

 

 

放たれた影山の超高速トスは 限りなく正確に、そして日向の運動量を損なわない限界ギリギリの勢いで日向のフルスイングする手の中に達した。

 

 

―――ドンピシャ!!!

 

 

気付いたころには、日向は打ちおろしていた。気付けばボールは火神の顔面スレスレ、丁度ボール半個分程右に逸れて、コートに叩きつけられていた。

 

誰もが反応できなかった。

 

「――――よしっ!」

「ッ!? ッッ!!?」

 

 

影山の渾身のガッツポーズ、そして日向は感動に包まれていた様だった。

 

「手に、手に当たったああああ!!!」

「はぁ? 手に当たった? 大袈裟だな……」

 

スパイクを打つんだから、手に当たるのなんて普通だ、と言わんばかりに月島は呆れた表情を見せていた、が。

 

 

「全然大袈裟じゃないぞ月島。……翔陽は今、目を閉じて打ってた。目をつむった上であのスパイク。……うん。ちょっと真似できないな」

「「「「はぁっ!??」」」」

 

 

火神の言葉に、月島は……いや 月島だけじゃない。影山も田中も 山口も驚き声を上げていたのだ。全員の視線が火神に集まる。そして、火神はそれ以上説明をせず ただただ目を輝かせていた。

 

「どういう事だよ、それ!?」

「おい、火神! 黙ってないで説明しろ!!」

「そうだそうだ!!」

 

月島が追及してくるのはわかる。今はチームメイトだから。

 

でも 影山や田中まで火神に聞いてくるのは如何なものかと思われます。

貴方たちは 日向本人に聞けば早い話だから。

だが、火神は普通に説明を開始した。

 

 

「多分、アレはジャンプする瞬間からかな、翔陽が目をつむってたのは。そこからスイングするまでの間ずっと目を閉じてた。アレだけぎゅっと目を瞑ってたらわかり易い」

 

 

眉間に皺が寄ってる程、力いっぱい目を瞑ってる日向を見て火神は不意に笑ってしまっていた。絶対に目を開けないという意思表示がその顔に現れていたから。

 

「それで、影山がボールを見てない翔陽の掌にボールを持って行ったんだ。それもあんな高速で。加えて翔陽の飛ぶ位置、高さのMAXの位置、スイングの速さ。どれか一つでも外れてたら、あんなの成立しない。……全部、寸分の狂いもなく合わせた。ほんと機械かよって感じだよな」

「はぁっっ!?」

 

 

本日二度目の絶叫月島。基本的にクールに相手を煽っていく月島にとってすれば珍しいともいえるのかもしれない。

 

 

日向は日向でお祭り騒ぎ。スパイクが決まった時の快感に酔いしれている。何度も何度も阻まれた壁を超える事が出来た喜びが半端ではない様だった。

 

影山も成功したのは良かった。完璧な位置とタイミングで、完璧な所へボールを持っていく事が出来た。それは喜ばしい事間違いないのだが、まさか目を閉じていたのには驚いた様だ。

 

今の日向が出来る事は影山のトスを100%信じるという事だけ。それだけを信じて実行したんだ。確かに順位をつけるとするなら トスが一番難しく神業だと言っていい。でも、日向の100%信じて跳ぶ事も容易くは決してない。

 

 

――日向の、あのバネも機動力も、俺のトスなら……活かせる!!

 

 

影山も心に決めた。

 

 

「よし! 日向のスパイクが決まればマークが分散して田中さんも打ちやすくなる!」

「おお!」

「よっしゃ!」

 

目に光が戻ってきた。

勝負を諦めた者は決してこの中にはいない……が、あの脅威のオールラウンダーの火神を前にしたら、どう攻略すれば良いか頭が痛くなりそうだったのだが、それも薄まっていくのを感じた。

 

 

「……俺達には、信頼関係なんて微塵もないが……、次もボールは俺が持っていく。信じて跳べ!」

「おう!!」

「……それで、火神(アイツ)を倒すぞ」

「ッ……」

 

日向は ぐるっ、と振り返って火神の方を見た。

確かに負けたくない。絶対に負けたくない。でも、火神は今まで自分を救ってくれた男だ。どんな時もいつも一緒にバレーをしてくれて、この高校ででも最初は渋っていたけれど最後には戻ってきてくれた。倒すべき相手……とは 日向の中では なかなか連想出来なかった。この影山の速攻なら 火神も反応できなかった様だから、行ける! と思う反面 頭の何処かで少しの迷いがあったのだが。

 

 

【もっと、もっとだ……来い翔陽、影山!】

 

 

「……ッッおう!!!」

 

……日向は火神の顔を、目を見た瞬間に、そう言われたように感じ、そしてそれらの迷いは吹き飛んだのだった。

 

 

 

 

 

 

その後もう一度あの神業速攻……もとい変人速攻を繰り出そうとしたが、見事に日向の顔面を打ち抜いて失敗。

 

 

「……ほら見ろよ。あんなのマグレだろ。理解不能だって」

「はっはっは、翔陽はそういうヤツだってさっきも言ったじゃん? 月島が理解できないっていう理由もわかるけどさ。今、アイツはああするしかないんだ。例え、顔面レシーブ10回くらい受けてたとしてもな」

「おいぃ!! 2回目でも嫌なのに、10回も受けてたまるかよー!」

「10回もミスるか!! なめんな!!」

 

 

月島と火神の会話に割って入ってくる日向と影山。敵味方に分かれている状態だけれど、本当楽しそうだった。

 

 

 

 

 

「うぅ~ん……、さっきのはやっぱりマグレだったか? 月島の言う通り」

「でも、確実にトスの精度は上がってきてるよ。……凄い集中力がこっちにまで伝わってくる」

 

外から見ていても、アレが狙って出来たものなのか疑わしかった。火神の説明があった所で、一度目はマグレ、二度目はないというのが普通かもしれない。

でも、菅原はそうは思わなかった。同じセッターというポジションだからか 影山の凄さがひしひしと伝わってくるのだ。火神も勿論凄かった。でも、影山のあの精度はまた別格。たった1度の3対3試合形式の練習でこんなにも驚かせてくれる事に興奮していた。

 

「……凄いよなぁ。火神の事ばっか注視してたんだけど、あの日向も」

「大地?」

「ああ、日向が凄いっていうのは、大体わかってたつもりだったよ。あの中学ん時の試合見てからな。でも、運動神経は凄かったんだけど、それ以上だった火神の陰に埋もれてたって印象は捨てきれなかった。でも、あの日向を見てたら認識改めなきゃなぁって思う。他人を100%信じるなんて、そうできるもんじゃない。それも因縁の相手にするなんて」

 

澤村は、思わず笑った。

 

「月島の言っていた理解不能っていうのも判るよ。……ほんと凄い奴らが入ってきたもんだ」

 

何処か遠い目をしてる澤村を見た菅原は、澤村の背中をぽんっ、と叩いていった。

 

「なんか、後は任せて旅に出るみたいな哀愁漂わせてる背中してるけど、しっかりしてくれよ? キャプテン」

「どんな背中だよ、それ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合続行。

 

日向と影山は、変わらずあの速攻を続けるつもりだろう。まだ未完成だとしても、失敗するかもしれないけれど、それでも前に只管進むのだろう。

 

「ふん。どうせまたチビに上げて、失敗。そのまま得点なら田中さんだけをマークしとけば事足りる――――……ッ!!」

 

 

月島のその冷静な分析は、日向の突進の前に吹き飛ばされてしまった。殺気だっているとでも言えば良いのだろうか、日向の気迫は 月島の背中に冷たい物を走らせた。

日向の事を無視する事が出来なくなってしまったのだ。

 

 

「山口!! お前もこい!! 2枚で止める!! 火神、後ろ頼む!!!」

「!!」

 

 

日向の持つナニカを、月島その身で感じたのだろう。

山口と月島の2人がブロックにつき、レシーブは火神が対応。

 

そして、日向にとっての大きな壁、2枚の大きな壁が立ち塞がる。

嫌な嫌な大きな壁。でも、今の自分に出来るのは壁と真っ向勝負する事ではない。打ち抜けないのなら 躱す。

持ち前の日向の素早さとバネ。それはスパイクの直前、ジャンプの直前でも跳ぶのを止め、走る方向を変える事が出来る。あそこまでの勢いで入れば それを止める時に相応の負荷が足の筋肉に掛かると思われるが、物ともせずに日向は月島と山口を躱した。

 

 

――せーの、で跳んで長身の選手より、高さで劣るのなら、1㎝を1mmを 1秒早く 頂へ!!

 

 

 

そうすれば、その瞬間だけは 一番高い場所が自分の位置。

目の前に立ちはだかる高い高い壁、その向こう側を何度思い描いたか。

 

 

【大丈夫大丈夫、ここから切っていこう】

【落ち着けって、翔陽。大丈夫だ。次はいける。後ろは俺が守ってやるからそのまま思い切りいけ】

【……一本、返すぞ】

 

 

何度も何度も、自分は止められた。

その度に、頼りになる男が背中を押してくれた。守ってくれた。

 

でも、もう守られるのは嫌だった。一緒に本当の意味で戦いたかった。

例え自分ひとりじゃできないのかもしれない。他人任せって思われるだけかもしれない。

 

でも! それで点が取れるのなら。決して荷物にならないのなら。

 

 

 

――これが自分の一番の武器に、秘密兵器になるのなら!

 

 

 

 

 

 

日向の渾身のフェイントからの跳躍。それは日向よりも遥かに上背のある月島、そして山口を置き去りにし、そのままコートに。

 

火神もコースをどうにか読むが、後一歩足りずに 拳を掠らせた後、コートに叩きつけられた。

 

 

「「おしっっ!!」」

 

 

 

影山と日向の渾身のガッツポーズ。

 

 

その後もその勢いは衰えなかった。

影山は感覚を更に研ぎ澄まし、ボール・ブロッカー・スパイカー、あらゆる動きを全てリアルタイムで頭の中へ情報として叩き込み続ける。

 

完璧なタイミングで日向の最高打点をとらえ続けた。

 

 

影山の言う通り、ミスはもう無い。2度目の顔面トス以降、精度は増し続けていってるから。

 

 

「うわっ、点差が6もあったのに、もう同点だ! 追い上げてきた!!」

「両方とも20点台乗ったか……、どっちが取る!?」

 

周囲のボルテージも増していく。

それ程までに凄いプレイを見せられたから。

 

火神のレシーブも凄かったし、周囲を沸かせた。だが、影山と日向の速攻は 或いはそれ以上だ。凄いレシーブなら、皆何度か見たことがある。それはテレビの中でもそうだし、何より自分達のチームにも天才と呼んで差し支えない程のリベロが存在するから、驚きはしても、それはそこまで続かなかった。火神単体の能力が高いから出来る、と言う事で何処か納得出来たんだ。

 

でも、影山と日向は違う。

 

どちらかが少しでも欠けたら成立しない。そして、影山の超精密なトスもそうだ。ありとあらゆるコート上の情報とその条件。全てが一致し実行しないと成立しない。

 

アレは、神業と言っていいプレイなのだから。

 

「トスの精度が……まだまだ増していく。アレは一体どこまで行くんだ……??」

 

影山の能力にただただ驚くばかりだ。セッターとして本領を発揮した影山の姿は。

そして、それを引っ張り出した日向にもただただ脱帽するだけだ。

 

「はぁぁ……よく我慢して待ってたよなぁぁぁ。顔面にトス食らってるヤツなんて、初めてみたもんなぁ……」

「だよなぁ。それに食らっても信頼して飛び込んでいくのも驚きだよ。……じゃあ、俺らの日向、影山コンビに対する驚きタイムはそろそろこの辺にしようか」

 

澤村は、ほろり……と何やら感涙している菅原の肩に手を置いてそう告げる。

 

「はぃ? どういう事だ??」

「確かに、アイツらは凄いしめちゃくちゃ驚いた。それにあんなの止めれっこないって思う。田中の攻撃まで合わさったら尚更な。……でも、それでも ここで、アイツが終わるって俺はどうしても思えないんだ。何かしそうな気がしてな」

 

視線を向ける先にいるのは火神。

影山のプレイに一瞬晦まされた。澤村が見たのは、火神のあの表情だ。

 

「……わらってる?」

 

火神は笑顔だった。それも輝いてるって言ってもいいくらいの笑顔。

月島や、山口は必死に追いかけ続け、歯を食いしばり、それでいて悔しそうにしている中で、火神は笑顔。

勿論、手を抜いてるとかそんな類は一切ない。

 

「……ずっと、あんな感じだった」

「はは。だろ??」

「……それに、菅原の言葉を借りるなら、火神もレシーブの精度が……どんどん凄みが増してるように見える」

 

 

菅原の横で黙って見ていた清水もそう答えた。

何故なら、あの速攻を受けて、1度目は見送り、2度目はコートに叩きつけられたが、それ以降はボールに触り続けている。

何度も飛び込み、飛び込み、追いかけ……汗を拭う。チームを纏めるだけでも相応の疲れと言うのがある筈なのに、人一倍動き続けている。

影山のチームで一番動くのが日向なのなら、この月島達がいるチームで一番動いているのは火神だ。

 

苦しくても、苦しくても、そこから先に一歩前に足を出す。そして笑顔。

 

 

「はは…… そうだった。日向と火神は同じ中学だし。あれだ。日向の師匠みたいなもんだったりするのかな?」

「………」

 

 

確かに影山と日向のプレイは度胆を抜き、全視線を釘付けにしたと言っていい。

でも、そんな中で澤村と清水だけは 火神にも注視し続けていた。見続けていたからこそ、気付けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その後。

 

影山チームにとうとう逆転されて カウント21-20。

 

 

「クソ……ッ!」

 

月島はどうにか策を練ろうと頭を働かせ続けるが、それでも答えは出なかった。

日向を無視する事が出来ない。少しでも意識すれば、つられる。日向だけに注目し続けたら、田中に打ち抜かれる。八方塞も良い所だった。

 

「山口、月島」

 

そんな中で、火神は告げた。

 

 

「悪い。このセット……俺にくれないか」

 

 

それを聞いて、月島は振り返った。

 

「それってどういう……ッッ!」

 

火神の顔を見た瞬間、あの日向が突っ込んできた時の感覚と似たのを味わった。

このチームで誰よりも疲れている筈なのに、笑顔。それでいて 何とも形容しがたい威圧感が同時に現れていたから。

 

 

「このセットだけど 翔陽を月島に任せたい。どうにか追い続けてくれ。田中さんにフリーで打ち抜かれたら、それはしょうがない。でも、やるだけやってみる」

 

 

やるだけやってみる。

たったこれだけの言葉にどれ程の説得力が備わっているのだろうか。フリーで打たれたらレシーブどころか触る事さえ難しいのに。

山口も月島も頷いた。

 

 

「ツッキー頑張ろう!」

「チっ……、チビにちょろちょろ動かれて 丁度ムカついてたトコだったし」

 

 

火神はそれを見届けた後 再び視線を影山・日向に向けるのだった。

 



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第18話

第1セット 25-22で影山達の先取。

 

その事に喜びを見せる者は、影山や田中、日向でさえしていなかった。

このセットを逃げ切る事は出来たが、直ぐに迫る猛獣のような気配が自身たちから絡みついて離れないからだ。

 

その主は、ネットを挟んだ先にいる。佇んでいる。

様々な音が鳴り響く体育館の筈なのに 静けささえ感じる。

嵐の前の静けさとはこの事なのだろうか。

 

 

この第1セット。

 

 

できる限りの事を月島も山口も尽くした。あのあり得ない速攻に加えて、田中のスパイクもあり、完全に後手に回されてしまっていても、それでも諦めの類を見せなかった。月島でさえ最後の最後まで追い縋った。

それを続ける事ができたのは 背後の気配がより濃く感じられるようになったからだ。

 

 

視線を細く、そして程よい脱力で 相手を見据えるのは火神。プレイプレイの1つ1つを浚い続け 研ぎ澄ませる。

 

 

 

――感覚を研ぎ澄ませる。

 

 

 

簡単に言えば、【物凄く集中する】と言う事だ。

【ゾーンに入る】とも言われていたりする。

 

集中力と言うのは時にゲーム結果を左右し、遥か高いレベルへと選手を高めてくれたりする。

そして、戦いにおいて高レベルであれば尚更顕著に表れる。

集中力が途切れた方がプレイが雑になり、軈て敗北に繋がるから。

 

 

「(……見る、観る、視る)」

 

 

火神は、今までの攻防を そして あの神業速攻、変人速攻が機能しだしてからも同じく見続ける。

 

これは、嘗ての自分も行っていた事だ。

 

嘗ての自分は 小中高と漫画やアニメに影響されやすかったと言っていい。

現実の名のあるプロの選手達より、凡そ現実ではあり得ない事をやってのける平面の絵に魅せられ、その技を自分の物へと昇華しようと無茶な努力をしていた時もあった。

無論 生身で出来る事と出来ない事はあるのだが、それでも出来る事は吸収し続けていったと自分でも思う。

 

 

そして、ここに来てからもそれは受け継がれている。(記憶中での漫画やアニメだが)

 

 

よく見て観察する事。洞察する事。そして 頭でイメージ出来た事をやってのけれる様に 肉体が応えてくれる様に身体作りをする事。即ち努力を重ねる事。

 

今は影山のあの神掛かった集中力を目の当たりにし、それを手本に模倣も出来る。

平面の絵で、動く動画で何度も何度も見続けてきた。紙が破れる程見続けてきた。再生機が壊れるくらい見続けてきた。

 

 

そして今――目の前で、その実物を見る事が出来た。

 

 

追いつきたくて、憧れていて、そんな者たちが今 その世界のバレーの象徴と言っていいプレイを眼前で見る事が出来た。どれ程幸運な事だろうか。

 

 

幸運をかみしめた後、次に脳裏に浮かべるのは どうそれを攻略するか、だ。

 

 

 

【相手のレシーバー、セッター、スパイカー……。味方のブロッカー、自分の位置。……全ての情報を見続けろ、更新し続けろ】

 

 

まるで、上からコートを見下ろしているかのような錯覚が身につく。

やがて、その頭上から見渡すコートの情報は、常に更新を繰り返しており、味方の位置、相手の位置、助走からスパイク着弾地点位置。全てが光の粒子の様に瞬きながら、頭の中で示し続けてくれている。

 

 

 

 

「(翔陽は………、今はまだ あのスパイクを見て打つ事は出来ない。使い分ける事もできない。ただ信じてブロックがいない所に跳んでのフルスイング。そして コースは常に一定)」

 

 

日向は、現時点では勿論あのスパイクを自在に使いこなせてはいない。

体感してわかるが、アレが出来るだけでも常人離れし過ぎている。それ以上、使い分けして打ってくるとでもなれば もう笑うしかない。

実物はそれほどまでの物だった。……だからこそ、より火神は感覚を研ぎ澄ます事が出来たのかもしれない。

 

 

「(……田中さんのレシーブ。影山の位置。……翔陽の動き)」

 

 

筋肉繊維の1つ1つまで見えるかの様な感覚。

全ての情報が1つへと纏まり……答えが次の瞬間に現れる。

影山は 集中力をそのままに 田中か日向、どちらに上げるかは傍から見れば上げる瞬間までわからない程の読ませないフォームでトスを上げた。

 

 

――今! この位置! 次のボールは……翔陽!

 

 

影山のイメージでは、日向に上げられた高速トスは、そのまま日向のフルスイングに合わせて掌に収まり、コートに突き刺さる筈だったが。

 

 

 

 

――ドンピシャ!!

 

 

 

 

会心の当たり。それは、火神のレシーブによって遮られた。

 

完璧に捕えた日向のスパイクを正確に山口、月島の位置にまで上げる。2人でブロックに入っている為、セッター役がいなかった状態ではあるが、高さにものを言わせた月島が、ツーアタックで相手コートに落とし、点を決めた。

 

カウント 5-11

 

 

「ふぅ……。お待たせ。1セットって言いつつ、2セット目の中盤までごめん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火神が日向のスパイクを上げた。

言葉にすればただそれだけの事だ。練習中のありふれたプレイの1つかもしれない。

だが、一瞬の静けさから 場が一気に盛り上がるのは普通じゃないかもしれない。

 

 

「はっはははははーー!! すげーすげーーー!! 早速あんなの取っちまったよ。はー、アイツは出木杉くんかよっっ 真面目なトコも出木杉くんだよっっ!!」

「試合中、一番盛り上がるのは すげえレシーブが出た時だったよな。確かにその通りになった。日向と影山の時より声出てるって、今」

「……何かが解き放たれたって感じがした。火神がずっと溜めてて、あの一瞬で」

 

 

影山の神掛かったあのトスと日向の見ないスパイク。それに耐えて耐えて そして答えた結果だった。まるで、この試合の中でもどんどん進化しているかの様だった。

 

 

 

「あの日向のスパイクがあってから、影山チームの追い上げモードだったのに、ほんと あっという間に覆してきたな……」

「でも、一度上げただけじゃん? 流石にアレを何本もって言うのは無理じゃない??」

「うん、まぁ そりゃそうだろう。3人しかいないコートで守れる範囲なんて限られてるし。でも、上げたっていう事実と次も上げてやる、って言わんばかりのあの火神の顔を見せられた影山と日向の胸中はあんまり穏やかじゃないと思うな。……凄い楽しそうなのは変わりそうにないけど」

 

 

 

澤村と菅原は、改めてコートに視線を戻した。

 

 

「くっそぉーーー!! また取られた!!」

「へっへ~~ん。翔陽は基本猪突猛進だから、すげー読み易いんだ、ってな。それに今まで俺を騙せた事あったか??」

「うぐぅっ! 次だッ!! 次こそきめてやる!!」

「(あれをいきなり攻略しやがったってのかよ。すげぇ)………それに面白れぇな。攻撃はトスを上げる俺に掛かってる。次は読ませねぇよ!」

「望むところだ!!」

 

 

何処か大人びているとずっと思っていた火神だが、今のあの3人を見てると、まるで友達の家に遊びに来て、それで勝負しているかの様だった。

 

 

 

一進一退の攻防が続く。

日向の攻撃も最初程綺麗に取られる事は無いものの、着実に上げてフォローが出来ていた。決定率がどんどん下がっていっているのがよくわかる。

 

「はぁ、はぁっ…… ったく、とんでもねぇ奴らが入ってきたもんだ」

 

田中は汗を拭いながらぼやいていた。

 

あれだけの運動量で疲れるどころか精度が増してく影山や火神のプレイ。そして一番動き回ってる筈なのに、まだまだ動けている日向。

月島も派手さは無いものの要所要所はきっちりと壁を作って抑えている。まだ、山口は指示受け側にいる感が否めないが、それでも付いていっている。

 

「(あぁー……ああいうのが天才ってヤツなんだろうな。俺とはまるで違う。力はまだ勝ってる気がするけど、その他モロモロが。それにまだまだヘタクソだが日向もすげぇ……)」

 

田中の目の前に大きな大きな壁が一瞬見えた気がした。

頼もしい後輩が現れたという期待とそしてあっという間に置いて行かれてしまうのではないか、と言う危機感に不安感。天才を目の当たりにした時の自分への評価。平凡であるとの認識。

 

 

「ふんぬっっ!!!」

 

 

田中は、考えを遮断。両頬を思いっきり叩いた。

 

「影山ぁ! こっちにも寄越せ!! 日向を。後輩を支えてこその先輩だ!!」

「っ! ウスっ!」

 

見事で有名な田中 五七五を生で聞けた火神は思わず笑ってしまった。

まさか、ここで今聞けるとは思ってもなかったから。

 

だが、田中の雰囲気を視て 直ぐに集中し直した。

決して気のせいではない。云わば、【一段階進化した】みたいな田中を見たから。

 

 

 

 

 

田中は渾身の力をその手に込めるイメージを強く持った。

 

 

「(さて、平凡な俺よ。今まさに前を全力で走ってる後輩がいんのに、止まってる暇はあるのか?)」

 

 

田中の勢いに火が付き始めた。触発されたのだろう。

相乗効果でアゲアゲになっていくメンバーを見ていたら、周囲も触発されていく。心に沸くものがある。

 

 

「なぁ、スガ」

「ん?」

 

 

澤村は、ソワソワ沸き立ってくる感情を上手く言葉にする事が出来ず、ただただコートの方を見て。

 

「俺も入りてぇな……」

 

そう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く第2セット、火神チームが奪取。

セットカウント 1-1のイーブンに戻した。

 

第3セット。

濃密な3対3はまさに試合宛らのものであり、光を放ち続ける3人が全力で前を走っていて、それに他のメンバー誰1人として置いて行かれる事は無く、食らい続けている。

 

神経をすり減らしそうな精密なトスを上げ続ける影山。

普通の何倍も動き回り続ける日向。

チームを纏めて、常にコート内の情報を更新し続けて、位置取りと読みを絶やさない火神。

 

その3人にただガムシャラについていく月島、山口、そして田中。

 

影山がサービスエースを取り ブレイクしたかと思えば、火神も取り返す。寧ろ影山以上に取り返そうと強気で攻め、点を稼ぐ。田中がどうにかスパイクを決めて難を逃れ、日向の変人速攻、影山の二段トスからのスパイク。月島のブロックに山口のスパイク。火神が守勢に回り気味な為、決定力が乏しくなっていたが、それをサーブやレシーブ、月島のブロックで補い、シーソーゲームが続いて 結果デュースに持ち込んだ。

 

 

そして、ながいながいラリーの果てに決着がついた。

 

31-29

セットカウント 2ー1

 

軍配が上がったのは火神のチーム。

 

死屍累々とはこの事で、全員が膝を付き、或いはコートに突っ伏してる状態だった。

だが、目だけは全然死んでない。

 

 

「もう、もういっかいっっ!!」

「つぎ、つぎは勝ってやる……。まだ、まけてねぇ……!!」

「……よ、よっしゃぁ……。5セットマッチって事だな……!? まだ決着ツイてないってことだよな……!!」

 

 

日向がそういえば、火神も受けて立つ構え。

 

山口も、流石の月島も【マジで止めて】って2人して顔をしていたが何かを言う元気はなかった。

月島に至っては最早煽る事もなく ただただグロッキーだった。

 

「おいおいお前ら。悪いけど今日使える体育館の時間は決まってて、そんな長くできないんだ。今日は午前まで。……まさか3対3の試合でここまで長くなるなんて想定外だった。と言うわけで今日はここまでだ」

「っっ…… で、でも まだ……」

 

影山にとって澤村から言われたその言葉は死刑宣告に等しいものだった。

つまり、影山の負け。セッターは出来ない、と言う事だったから。

 

それを見た火神は、手を抜かず全力でやった事は後悔していない。寧ろ、これ程高揚する試合を、バレーを出来た事に感謝すらしている。

 

 

それに何より、自分のせいでセッターの影山が見られないのは悲しすぎる。

 

 

「さ、澤村さん。俺、こいつらの面倒しっかり見ますんで、っ……、すみません。どうかまた チャンス……あげてもらえないでしょうか……??」

 

なので、疲れ切った身体に鞭を打って 影山や日向のいるコートへと行くと 両手で2人の頭をつかんで下げさせた。

因みに、【面倒みるってなんだ!】的な事を思ったのだが、相手が勝った側の火神である事と疲れ切ってるのは日向や影山も同じなので、最早されるがままになってしまっている。

 

 

「……………」

 

 

澤村は、真顔で3人を見る。

田中が言う様に普段は優しい。そんな先輩を本気で怒らせたら物凄く怖いのは火神も良く知っている。万国共通、いや世界が違っても関係なかったりするだったりするのだろうか。

 

澤村は、軽く頭を掻くと 告げる。

 

「俺がいらんって思ってたのは、【個人技で勝負挑んで負ける自己中なヤツが司令塔】だ。そんなヤツがセッターじゃチームが勝てないって思ってるのは今も同じだからな」

 

深く、大きくため息を吐いた後に にやっ、と笑って続けた。

 

「聞きたいが、お前ら。今の試合で、自己中なセッターっていたと思うか? なぁ、月島もどうだ?」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

視線が向かう先にいるのは月島だったが、息も絶え絶えだったので、悪態付く事も軽口言う事も出来ず、ただただ 膝に手をついて呼吸を荒くさせてるだけだった。

 

 

「ははは。今はやめといた方が良いか。んじゃあ、同じチームで戦った田中。お前はどうだ?」

「ぐぅ、ぐぅ……はぁ、はぁ…… お、俺っスか……、え、ええっとぉ…… はぁ、っっ!!」

 

田中も同じくバテバテで、息も絶え絶えだったが、そこは2年のプライドもあり ノーコメントだけは避けなければ、と何か言おうとした所で、影山や火神、日向の視線も集まる。

 

 

 

 

田中は、何かを頼られる後輩からの眼差しを受けた。

 

 

 

 

「い、いいんじゃないっスか?? 俺、何本か気持ちよく打てましたし……。まぁ、コイツに取られちまいましたが」

「あ、あはは……」

「あざすっっ!! 田中先輩っ!!!」

「う、うはははは……そ、そらー、せんぱい、だからなぁ……」

 

 

田中は、大きく大きく深呼吸を繰り返して、息を整え そして言った。

 

「こいつらにこんな攻撃が使えるなんて、最初思ってもいなかったっス。大地さんが見抜いてたのも驚きっスが、チームプレイはしっかり出来ていた、って思ってるっスよ? 間違いないっス」

「ええ!?」

 

思ってもなかった事を聞かれて、澤村は言葉に詰まる。そして、なおも続ける田中の視線は菅原へ。

 

「あ、スガさんもっスよね??」

「はぁ?? そんな訳あるかよ。俺はもっと打ちやすいの上げろっていう意味で言っただけだって。日向がまだへたくそで、打てなかったからこその影山の真骨頂が発揮できたんだーーって思ってたんだけど、その真骨頂をサラッ、と取っちゃう火神まで出てきて、俺もーー、何が何やら。俺もバレーしたくなってウズウズしちゃってんの!」

「は、はぁ……」

 

どうやら、菅原も興奮している様だ。澤村の様に。

 

 

「まぁ、最初からわかってたっていうのは俺も言えないよ。影山の無茶なトスにも日向の素早さなら合わせられるかも、って感じで。……でもいい意味で裏切られた」

「じゃ、じゃあ……!」

「ああ、3セットマッチなら 火神達の勝ちだが、そう言ってなかったし。……今日は時間につき、勝負はつかず。また後日って言ってたら、今後の公式戦にも影響があるかもしれんから、今回のみたいなのはこれっきりだ。……前言を撤回するのは恰好つかんが、バレー部強くしようとしてる主将が、こんな有望な選手を埋もらす訳にはいかんからな」

「あ、あ、あざすっ!!」

「それに、火神の口から面倒みる~って言質取ってるし。俺としてはそっちの方がうれしかったりもする。頼むぞ? 1年リーダー」

「うぇっ……?? り、りーだーですか??」

「面倒みるのってそういうもんだろ?」

 

 

吐いた唾は飲み込めない。自分自身が言った事だから、と火神は腹を括る。

 

それで、影山や日向の方を見て、ニッコリと笑っていった。

 

 

「澤村さんの指名だし、俺も自分で言った手前もあるから頑張るけど。出来る事と出来ん事はある。……だから、もうあんな事はすんなよ??」

「「う、うっす……」」

 

 

火神の妙に迫力のある笑顔。それが疲れ切っている筈の日向と影山を動かしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「月島、大丈夫か?」

「はぁ……ナントカ。マジでどんだけバケモンなんですか、アイツら」

「はは、同感だよ。んで、どうだった? 3対3。見事に勝ったじゃないか。あの影山相手に」

「………別に、どうもしませんよ。僕ら庶民が王様相手に勝てたのは、その王様を打倒出来る勇者様みたいなのが僕ら側にいたからだと思ってますし」

「はっはっは。影山が王様なら火神は勇者様かよ。面白いな、それ。……んでも、それなら影山は魔王様の方が良くないか?」

「………もう、どっちでも良いです」

 

そう告げると月島は、清水に渡されたスポーツドリンクを飲み干す。

 

「でもま、お前がちゃんと本気だったのは俺も判ってるよ。お疲れさん」

「……………」

 

中々納得できない所もあるのだろう。月島は何とも言えない表情をしているだけだった。

 

そしてその後、日向と影山からは改めて入部届を受け取り、そして今日届いたばかりの烏野排球部のジャージを受け取った。正式に入部出来た証。感慨極まるとはまさにこの事だろう。

 

 

「じゃあ、烏野バレー部として、よろしく!」

【おす!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを終えた澤村は思わずため息を吐く。

 

「ふぅ………。一応、ひと段落ついたな。スガも田中も、いろいろとなんかやってくれたんだろ?」

「うえっ!? い、いや別になにもっっ!?」

「とりあえず、丸く収まったんだ。ほんと良かった。あいつら全員が無事に、いろんな意味で部に入れてほんとほっとしてる。……ありがとな」

 

 

いつも以上に疲れが出てる様子の澤村を見て、菅原と清水は【お疲れさん】の一言と、ほぼ同時に澤村の肩を叩いて ねぎらうのだった。

 



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第19話

 

 

 

3対3の試合が終わった後。

日向は月島に握手を求めていた。

仲間であることの自覚を、と言われた一件から過敏になってしまっているためだ。

 

勿論、それとなくスルーしようとしてる月島だが、事 強引さにおいては日向には敵わないようなので、半ば強制的に握手させられたのだった。

 

 

それだけ見ると微笑ましい光景でもあり、面白味さえも出てくるんだけれど、ここから先は少しばかり頂けない。

 

 

「おい日向! 休んだか!? 休んだな!? もっかいさっきのクイックの練習すんぞ!! 感覚残ってる内にだ!! ゆくゆくは、コースの使い分けとかも考えねぇと、ブロックも来るし、火神みたいなレシーブ上手い奴に取られる! まずは100%出来るトコから始めんぞ!」

「おおっっ!! やる、やるやるっっ!!」

 

 

あの試合で体得した速攻……変人速攻の感触を忘れない内に反復練習する事は確かに良い事だ。オーバーワークではないか? とも思えるが、2人の体力は群を抜いているので、その辺りは問題ない。……問題あるのは、ここからだ。

 

「ちょいとお2人さん。キャプテンの言葉、もー忘れたのかい?」

 

ちょんちょん、と2人の肩を叩きながら聞く火神。

その質問は聞こえてない様で。

 

「火神! ボール出し頼む! それにお前ともちゃんと合わせてやっとかないといけないから、入ってくれ!」

「うぉぉぉ!! 誠也とスパイク練習なんて、すげーーー久しぶりだーーー!!」

 

お構いなく、練習に引き込んでくれる。

勿論、非常に疲れたのは間違いないけれど、練習するのは何ら問題ない。昔から日向と練習に付き合ってる火神からすれば、スタミナ面は全盛期の前の自分には及ばなくとも、少なくとも高校1年の時よりは増している筈だと感覚で分かっている。

 

影山とのセットアップは、勿論やってみたいし、楽しみでもあるのは事実だが 澤村に託された以上、妥協する訳にはいかない。

 

連れていかれそうになる前に、2人の肩を叩いた手、今度は肩を握ってニッコリ微笑みながら伝える。

 

 

「澤村さん、今日の体育館使用時間に制限あるって言ってなかったかな?? かな?? 今日は午前まで、って言ったよね?? 早速なんだけど、主将の言葉はちゃんと聞いて、覚えておくもんだよ??」

「「うっ……うっす……」」

 

 

興奮冷めやまぬ状態なのは判る。でも、決まりは決まりだ。午後に何処が使用するのか、何に使用するのかは判らないが、いきなり予定を変えるなんてそんな迷惑掛かる事出来る訳ないだろう。

 

「まぁ、感覚残ってる内に もっと覚えこませたいって気持ちも判るけど、聞くべき所はしっかりしてくれよ? ……頼むから」

「わ、わかりました……」

「うす……」

 

しょぼん、としてる2人を見て 横で笑ってるのは月島。

 

「良いじゃん良いじゃん。もいっかい主将を無視(シカト)して、また教頭のズラでも吹っ飛ばせば。次は退部かもしれないけどネ」

「今煽るの禁止な月島。別に勧めてもいいけど、その結果 連帯責任取られても俺、流石に知らんから。教頭ってねちっこいらしいし、1度目つけられて、2回目ともなると大変になるのは多分月島も同じかもだぞ? 同じ1年だし」

「…………ちっ」

 

自分に被害が被るのであれば、そこは回避したいので これ以上何も言わず下がっていった。

 

月島は 本当に時計みたいに舌打ちが出てくるんだな、と違う意味で火神には感心があったりもしていたのは別の話。

 

 

「ははははっ! 早速いい仕事するなぁ、火神」

「……思った以上に大変で、早速後悔してる所でもあります……」

 

日向や影山の様に、しょぼんと頭を下げる火神。

 

「まぁまぁ、あんま気を張りすぎずにな。……ただ、教頭に目を付けられる様な展開だけは二度とゴメンなんで、その辺は力入れてほしい」

「―――……了解であります」

 

自分に怒られてる訳じゃないのに、リーダーと言う仮役職をつけられてしまったからか。或いは澤村の表情・言葉には威圧感が含まれているからなのか、判らないが ますます火神は両肩を落とした後、頭もごとっ、と音を立てて下がるのだった。

 

 

「ははっ、入って1週間でこれは大変すぎんべ、流石に。なぁ清水、大地にやったみたいに労わってやったらどう? 真面目で頑張る可愛い可愛い後輩の為に」

「はぁ……、菅原さんも変な事言わないでくださいよ……」

 

菅原の提案を聞いて、火神の中では疲れた事以外の感覚が廻った。

それは 清水の行動で起こりえるイベント類だ。記憶の引き出しから正確に映像化され、頭の中を盛大に駆け回る。

 

清水の激励で 1年を除いた部員全員が涙し、収拾がつかなくなった事。

日向が固まってしまった事。

男女問わず魅了してしまった事。

 

これらは極々一部に過ぎない。

 

そして言えるのは、清水は言われたから了解、と言ってやる様な事は滅多にないと思うし、日向の時は 【マネージャーからの一言頼む】から派生したものだ。【労い】と指定があったら、何をするのか興味が尽きないが、今は疲れの方が勝ってる部分があるので、後々に想像して楽しもうと、火神が考えていた矢先だった。

頭に感触があるのを感じたのは。

 

 

「ほんと頑張った。お疲れさま。これからもよろしく」

 

 

二度、三度と頭をぽんぽん、と触られた感触の後、さわさわ……とこれは撫でられてる感触だった。

 

完全に想定外の出来事である。

 

 

 

「ッ、え、えっと…… さすがに恥ずかしいですよ……? いい歳して頭撫でられるのは。あ、それに汗いっぱい搔いてるから汚いです!?」

「まだ高校に入りたてでしょ? いい歳って言うのは早いと思う。それに汗でそんな事言ってちゃ運動部のマネなんて務まらない」

「それもそーでしたね……」

 

 

清水に頭を撫でられる、と言うのは非常に恥ずかしい。

それと同時に物凄く光栄だったりもする。云わば不可侵領域(サンクチュアリ)っぽさを感じていた清水から、サプライズを受けたのだから。

 

ただ、この清水の労い行為が何を齎すのか それを考えるのが一歩遅れた。失念してしまっていた。

 

 

 

 

「かぁぁぁがぁぁぁぁみぃぃいぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 

 

疲れてる筈の田中さん。

体力完全回復でもしたのか? と思える勢いで迫ってきたから。

首根っこフン掴まれて、空いた方の手で頭をわしゃわしゃとかき回された。

 

 

「おれがいたわってやる!! 撫でてやるぞぉぉ!! どんどんしてやるぞぉぉぉおぉ!!! かゆいとこ、ありませんかぁぁあぁ!!」

「い、いたたたたた、た、たなかさんっ! かみ、髪抜けますって!! イタイイタイ! はげちゃいますってっ!!!」

「うるさい、お前だけズルい!! ああ、俺にも潔子さんの香りをっっ!!」

「い、いや 汗ほんとひどいんで、そんなのツイてないです! それに絵面が酷いことになってますよ!?」

「潔子さんの香りをそんなの(・・・・)だとぉぉぉ!!」

「わぁぁぁー!」

 

 

火神は少しの間玩具にされてしまった。言い出しっぺの筈の菅原や、主将の澤村でさえ 抑えようとせずに混ざろうとしてたので、そこは清水が止めて、最終的に田中も清水が止めた。

 

清水に田中もして欲しい、と懇願したが これも勿論華麗にスルーされてしまう。

 

 

 

 

そして 今回のこの事件(笑)は、【火神は潔子さんに聖なる施しを受けた激運者(スーパーラッキーボーイ)】と囁かれ、後のとある清水信者にも羨望の眼差しを向けられる事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで色々と収拾がつかない状況を改善? してくれたのは、新たな来訪者のおかげである。

 

 

「組めた!! 組めたよーーっ!!」

 

 

勢いよく体育館の扉を開けて入ってきたのは眼鏡をかけた男。

ジャージの下のワイシャツがグチャグチャ、ネクタイひん曲がり、汗だく。もの凄く急いで、更に興奮しているのが一瞬で分かった。

 

 

その興奮している理由も勿論ある。

 

 

「練習試合っ!!! 相手は、県のベスト4!! 青葉城西高校です!!」

 

 

粘りに粘った結果、名のある強豪校と練習試合を組めたからだ。

 

「ええっ、青城!?」

「ゲッ……、そんな強いトコと どーやって組んだんだろ……」

 

 

混沌としていた現場が一気に終息していく。非常にありがたい事に。

 

「おおっ、4強と練習試合!!」

「燃える……!!」

 

闘志を燃やす面々を一通り眺めた後に、ばっちりと目があった。

 

「おっ! 君らが問題の(・・・)日向君と影山君かぁ、話は色々と聞いてるよ。今年からバレー部顧問になった武田一鉄です!」

「「……………おす」」

 

何を色々と聞いているのか、は聞かなかった。

2人は、いろいろとやられてグロッキーになってる筈の火神が、それを聞いて突如回復、ぐるりと首を45度回して見られたので、思わず姿勢を正して、返事をしていた。何やら釘さされた様だ。これ以上 問題を起こさないように、と。

 

 

「バレーの経験は無いから、技術的にな指導はできないけど、それ以外の所は全力で頑張るから宜しく! いやはや、それにしてもほんと良かった。練習試合のお願いにあちこち行った甲斐があったよ。でも、体育館(こっち)に顔出せなくてごめんね」

「い、いえいえ。そんな強いトコと組んでくださっただけでも! と言うか、どうやって……? まさか、また土下座を……!?」

「ははは。してないしてない! 土下座得意だけど、してないよ、今回は!」

「………せんせい。今回は、って」

 

 

ここまでしてくれる先生はこの学校では、この武田先生だけだろう。感慨極まって泣ける澤村。

 

「はぁ……、烏飼さんが来られなくなったっていうのは聞いてましたが、今は武田先生ありきで烏野バレー部が支えられてるんですね。ここでバレー出来るのも先生のおかげ。感謝です……」

「ななっ、そんな大層なものじゃないよ!! 僕は、バレーの事ほんっと全然わからないから。出来る事を全力でやるだけだって。君たちが全力でバレーしてるみたいにね? 大人だし、応えないと」

 

【せんせぇ~~……】

 

 

感動で包まれている最中、武田は懐から一枚の紙を取り出していった。

 

「あーっと 聞いて。青葉城西との練習試合の件だけど、条件があったんだよ」

「条件?」

「うん。【影山、火神両名を必ずフルで出す事。影山はセッター。火神は任す】との事だよ」

「「!」」

 

 

感動で包まれていたのに、今度は静寂に包まれてしまった。

それを打ち破ったのは、田中だ。

 

 

「な! なんスかぁ、それ。烏野自体は大した興味はないけど、影山と火神はとりあえず警戒しときたいってことですかねぇ……?? なんなんスかぁ? 烏野(ウチ)のことナメてんスかぁ。ペロペロですかぁ……?」

「い、いやいや、そういう嫌な感じじゃなかったよ、確か。えっとねぇ」

 

 

イラついているのは判るが、武田先生に当たらなくても良いだろ、と思うのはきっと少なくない筈だ。

困ってる所を助け船……ではないが、身に覚えがある火神は手をそっと上げた。

 

 

「多分……ですけど、俺が指名された方は 青城からの勧誘を断ったせい……な気がします」

 

 

申し訳なさそうに手を上げてる火神。その声に一気に注目が集まった。

 

「火神やっぱ青城から来てたのか? 確か、あの中学の時 青城関係者っぽい人いたもんな。それに他にもいた気がするし」

「はい……。来たのは白鳥沢や青城の2校だけでしたけど」

「うええっ!? 白鳥沢も来てたのかよ、火神!」

 

 

澤村らは驚きつつも納得し、怒りの表情も驚きで覆いつくされるのは田中。

県内ベスト4の2校が火神に注目していたのだから、驚くのが普通だ。それも名もないも同然な中学で。

 

 

「う~~、スカウトかぁぁ、羨ましいなぁ、誠也ぁ……」

「なんだよ、翔陽。そのまま 他んトコ行った方が良かったって?? あんなに烏野烏野いってたのに」

「いやいや、そんなこと言ってないんです~!! でも、な~~んか妬けちゃうんです~~っっ!」

「正直な感想をどうもありがとね」

 

 

 

そして、火神の言い分には大体理解出来た。

来てほしい、と直訴されて それを蹴って烏野ともなれば 注視し警戒するのも仕方がない。火神と影山。あの2人が間違いなくあの1回戦の時の注目選手だったから、その2人が同じ高校ともなったら……尚更だ。バレーは2人でするものじゃないんだが、それでも警戒心を剥き出しにしたって不思議ではない。強い所程 慢心からは程遠く隙が無いものだから。

 

 

「ぷぷぷ、それにしても 影山と誠也の明らかな差はここだよなぁ、お前、強豪校いって落っこちたって言ってたもんなぁ」

「うるせぇ!! ボゲ日向!!」

 

 

そんな中で日向の暴言が影山のプライドと言う急所を抉ったので、盛大に投げ飛ばされていた。そして、澤村には疑問が残る。

 

「え? 影山にはスカウト来なかったの?」

 

 

火神に来たのであれば、影山に来たって全然不思議じゃないし、寧ろ能力の高さだけを鑑みたら、間違いないと思うのだが。チームワーク面は 追々仕込めば良いとも思えるし。素材を見たら超一級だから。

 

「……ウス。白鳥沢は落ちました。試験が意味不明だったので」

「ぷっ、王様は勉強は大したことないんだネ~~」

「チッ!!」

 

 

今度は月島とひと悶着ありそうだった。

流石にそろそろ時間も迫ってるので、武田先生が手を叩いて注目させる。

 

 

「はいはい。条件は今話した通りだよ。……それで、どうする?」

 

 

武田の視線が少しだけ、狭くなっていた。

火神と影山を入れるという事は、即ち試合に出られるメンバーが限られてくる。

1年には、日向や月島と言った有望選手がそろってるので、更に厳しくなる事間違いないだろう。強い方が残る、と言うのは決まりきってる事だ。それが全国を、更に上を目指すチ―ムであるのなら尚更。

 

その武田の意図に気付いたのか、菅原はすぐに返事をした。

 

「……良いんじゃないでしょうか。こんな4強の一角とやれるチャンスなんてそうそう無いと思いますし」

「ッ、いいんスか、スガさん! 火神は兎も角、影山はセッター指名。烏野の正セッターはスガさんじゃないっスか!」

「…………」

 

菅原は、少しだけ黙る。目を閉じて数秒間考えた後に目を開いて答えた。

 

 

「俺は、日向と影山のあの攻撃が、そこに火神が加わったこの烏野のチームがどこまで通じるか、見てみたいんだ」

 

菅原は、確かに1年にレギュラーを取られるのは悔しい。でも、期待感も同じくらい持っているんだ。【堕ちた強豪、飛べない烏】と呼ばれている烏野。その不名誉極まりない名を払拭する機会に立ち会えるかもしれない、と。

 

田中は、まだ納得しかねる様子だったが、菅原の意思が固いのを悟った澤村は頷いた。

 

 

「……先生。詳細の説明をよろしくお願いします」

「! ……うん。ええっと、日程は急なんだけど来週の火曜。土日はもう他の練習試合で埋まってるんだって。それに短い時間だから1試合だけ。学校のバスを借りていきます。時間等のスケジュールは後でまた纏めたプリントを清水さん経由で皆に渡してもらいますので、確認してください」

 

 

 

 

 

こうして、今日の練習は終了となった。

 

 

 

 

 

 

終了後、影山は菅原に宣言した。

【次はちゃんと実力でレギュラーを取る。負けない】と。菅原も笑って受け答えをして、同じく【負けない】と言っていた。

 

その他にも色々とあって 最後には澤村が皆に肉まんを奢ってくれるという嬉しいご相伴に与れる。

 

 

 

 

 

 

話題は青葉城西と影山の話。

 

「でもさ、影山。青葉城西って北川第一の選手の大部分が進む高校だよな?」

「ああ、まぁ そうっスね」

「いや、その~~ 元チームメイトだし、やりづらい面があるのかなと思ってさ」

「? ……同じチームだったら考えるかもしれないけど……。戦うなら、ただ全力でやるだけです」

 

影山の顔を見たら、少しだけ心配していた菅原が取り越し苦労だって解って笑えた。

 

「俺にとっても好都合だったりしますね、菅原さん」

「え? なんで火神が好都合??」

「あ、俺だけじゃなくて、翔陽もですけど」

 

肉まんの袋を受け取ってる日向の方を見て、火神は笑いながら言った。

 

雪ヶ丘(うち)は北一に負けましたから。烏野(こんど)は負けないって所見せてやれる絶好の機会って思ってます」

「……ははははっ、4強相手にそう言えるのはやっぱ大物の証拠だよ、火神。いっくら謙遜してもさ」

「あはは……。性分でして。でもバレーでは正直な気持ちでいたいとも思ってるっぽいんで。ああ、それと影山にはぎゃふんって言わさせましたけど、他のメンバーには言わされてませんので、その辺りも頑張ろうかなとも思ってますよ」

「だから、ぎゃふん なんて言ってねぇだろ!」

 

 

楽しそうに絡む火神と影山。

ちょっと前まではネットを挟んだ敵同士だったのに、何だか不思議な気分だった。

そんな中で、上下関係の礼節を特に重んじる、舐められない様にする事を大事とする田中はやっぱりまだ引き摺っていた。

 

「でも、俺やっぱり納得いってないっスよスガさん! ……良いんすか?」

「そりゃな。俺だって悔しいさ。あんなすげぇ試合みせられたとしても 悔しい。でも、それ以上にワクワクしてる。火神を何としても取っておくべきだったなー、って相手に思ってやんのと、あの中学ん時のメンバーに、あの時の3人が揃ってるって事、影山がそん時と同じじゃないって事。見せてやりたいじゃん!」

 

悔しそうな寂しそうな、そんな顔を見せる菅原だったが、最後は笑顔だった。田中は その笑顔を見たら それ以上は何も言えず黙るしかなかった。

そして澤村も同じだった。

 

「そうだな。それに、怖いのはご指名の2人だけじゃない。こっちにはまだワイルドカードってヤツがいることを見してやろう! なぁ、日向!」

「……MOGMOGMOGMOG。あっ、オふっ!!」

 

 

 

話を何にも聞いてなかったのだろうか。或いは、動きに動き回って極限まで腹が減った飢餓感ゆえに、袋から駄々洩れしてくる香ばしい美味しそうな肉まんの香りに抗えなかったのだろうか。……と言うか全然気にせずただ食べたかっただけなのだろうか。

 

兎も角、日向は結構大事な話をしているのにも関わらず、奢ってくれてるのにも関わらず、いの一番に袋の中身の肉まんを頬張っていた。

 

 

勿論、そんなの許す訳ない。

 

「お前ナニ先に食ってんだよ日向!!」

「フザけんな!! 先輩に奢ってもらって待てねぇってどーいうことだ!」

 

 

「……澤村さん。翔陽は部活のちゃんとした上下関係みたいなの中学で学んできてないので、粗相してしまいまして……」

「あ、あははは……、わかってるわかってる。と言うかわかんないのは、なんで同じ境遇の火神はそんな成熟してんのか、ってトコなんだけど。まぁ その辺もいいや。一先ず皆で食うぞ」

「おっす! ありがとうございます!!」

 

 

 

その後―――店先、つまり 澤村が肉まんを買った商店の店番?店主に騒いでいた自分達は注意され、どうにか日向は解放されるのだった。

 

 

 

「あぁ、影山、それに火神も。それ食ったらちょっと良いか? 試合のポジとかメンツとか相談したい。坂之下商店でスペース貸してもらえるからそこで頼む」

「オス」

「了解です」

 

通常それらを考えるのはコーチや監督の仕事……なんだけど、烏野には顧問の武田しかいない状態。なので、澤村や菅原がその辺りを考えてきたのだが、今年から経験豊富で有望な選手がきたという事で、意見を聞きたいのだ。

 

 

と言うわけで、商店内に入っていこうとしたその時だ。

 

 

「澤村。肉まんありがと。後、ちょっとまって」

「? どうした清水。何かあるのか?」

「ん。火神をちょっと貸してほしい。聞けてなかった事があるから」

「???」

 

 

何やら、清水から話があるらしい。

何の話だろうか、と疑問を浮かべてる所で 田中が乱入。

 

色々とまたもみくちゃにされてしまう事になるのだが、話が先に進まないので清水がそれを一蹴してくれるのだった。

 



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第20話

「じぃぃぃぃぃ……」

「えーっと……田中さん。睨まないでくれると嬉しいんですが」

「ナニを言ってるんだい? ボク、睨んでないよ? 火神クン。気のせいじゃないのかな?」

「いや、怖いっす……色々と」

 

 

 

清水とマンツーマン、になる様な展開は 田中がいる時点でまずあり得ず、他の澤村やら菅原も田中程ではないにしろ興味津々な様子だった。

清水自身は、別に聞かれて困る事を話す訳ではないので 場所を変えようとかは考えてなかったんだが、流石に話の妨害になるような事は頂けない。

 

「田中」

「ッッ」

 

名だけ呼んで 後はただ見るだけに留める清水。ガン無視興奮する、と常々と宣言してる田中だが 流石に【邪魔をしないで】と言わんばかりの視線には堪えた様子だ。他人の感情はやたら察する、と称されていたのは間違いない模様。

 

しゅん、と肩を落として去ろうとする田中を見て、火神は。

 

「あ、ちょっ…… 田中せんぱいっ!? 何処行くんですか!?」

「……旅に出る」

「いやいや、何で旅!? 迫力あって田中さんに睨まれたらちょっと委縮しちゃうので、普通にしてくれるだけで良いだけですって! いかないでくださいって!」

 

 

別に悪いことはしていないのに、悪いことをした気分になってしまう火神。だから必死に説得を試みるがあまり応じず しょぼん、とする田中。

 

だけど、その後【清水が火神に何話すか気にならない?】 と菅原に言われたので、どうにか旅立つのは防ぐ事が出来た。今田中に ネタとはいえ本当にいなくなられたら、青葉城西との練習試合でかなりキツイものになっちゃうのは目に見えているから菅原ファインプレイである。

 

 

清水は軽くため息を吐いた後に、そっと目に掛ってる前髪を梳きつつ火神に視線を合わせた。

 

「中学で会った時、それに入部する前もそう。気になってた。火神は何で私の事を知ってるのかって」

「……え??」

「特にあの中学の大会の時、通路で会った時。知ってる風だったけど。何だか気になって」

「あー……えーー、っと」

 

 

火神は清水に聞かれた事が最初は理解が追いついていなかったのだが、落ち着いて冷静に考えてみたら直に分かった。田中の事が頭にあったから 少し遅れてしまっただけなのかもしれない。

 

「潔子さんの美しさに見惚れたんスよ。だろぉー、かぁがみぃ!! 色気づきやがってぇ!!」

「いたたたた、いたいですってッ」

「……………」

 

 

清水の無言の圧力を受けた田中は、即座にパっと手を離した。コクコクと首を縦に振って【もうしません】の意思表示。随分飼いならしたというか躾られた関係が見えて、火神は痛いよりも笑えてしまったりしていた。寧ろ清水が一番最強だとも思ってまた笑いそうになった。

 

 

 

 

そのあと、頭の髪の毛が無事なのを確認した所で 火神はそのまま頭を少し掻きながら答える。

 

「えっと、あそこで会った時驚いてしまったから、ですかね……」

「どうして?」

「清水先輩は 春日中央中学の出身……ですよね?」

「……ええ。そうよ」

「俺が1年の時……だから清水先輩が中3の時ですか。その時に見かけたんです。陸上総体の会場になってた宮城総合運動公園で清水先輩の姿」

 

 

 

雪ヶ丘中での陸上部は、バレー部程ではないものの部員不足で困っていた。そこに体育の授業で一際目立っていた火神が打診された。

一応日向とバレー愛好会に入っているので、断ったら 助っ人でも良いから、と懇願されて出場する事になったのだ。

後に バスケ部、サッカー部の助っ人を得て試合に臨む事になるので 他人には頼むけど自分はゴメン被るのは性格が悪いと考えていたりもしていた。

 

因みに日向には声が掛かってなかった様子。

 

 

「へぇ、清水って陸上やってたんだな。知らなかった。と言うか火神も陸上やってたってのも意外だ。だって日向とずっとバレーって思ってたから」

「はい。それに出る代わりに融通とか色々して貰いましたからね。コート貸してもらえる様に図らってもらったりとか、練習一緒に参加させてもらうようにとかも」

「ははは、流石。しっかりしてるな」

 

 

菅原と火神はそういうと少しだけ笑い、そして火神は続けた。

 

 

「清水先輩が丁度ハードルの競技をしてる所で、何だか凄く格好良かったなぁ、って印象に残ってたんです。だからあの時……あ、あははは。言われてみれば確かに不審な行動でしたよね? お騒がせしましてすみません」

「……いや、謝らなくても大丈夫」

「後清水先輩の名は、あの大会の時、それに入部の時 名札を見て知りました。覚えててよかったと思ってますよ」

「そうだったの。……私の方こそ今更な事聞いちゃったね。呼び止めてまでしてごめん」

「い、いやいやいやいや、清水先輩が謝る事なんてないですよ!」

 

自分自身が謝るのならまだしも、清水に謝られるのは想定外だったので、思わず両手を前に出して激しく横に振る火神。それを見た清水は くすっ、と笑う。

 

清水が謝った事より笑った事に大注目が集まったのは言うまでも無い。

 

 

「お互い様。私も同じ気分」

「あっ……そうですか。そうですよね」

 

 

火神にしろ清水にしろ、謝るような案件? ではない。ただ気になったから聞いてみただけの話だったから。解消してくれてありがとうとも言いたい気分だったのは清水。

 

 

そして、清水は あの中学の頃を少しだけ思い返していた。時間にしてほんの数秒間。

特に思い入れが強かった訳でもない。でも、練習は沢山してきたつもりではあった。

清水の中学の陸上部は大所帯で雪ヶ丘に比べたらより判る。大所帯の中のたった1人である自分を見かけて、今も尚覚えてもらえているというのは、何だか恥ずかしい気もするが、それ以上に何処か心地よい物があった。

 

 

「かっこいい、か」

「あ……、す、すみませんっっ。女の人に言う事じゃないっすよねっ!? 格好いいって」

「また謝ってる。謝らなくていい」

 

 

清水はそっと、人差し指を火神の口付近に持っていき、そして仄かな笑みを浮かべたまま。

 

「何だか良いね、それ」

 

火神に向かって笑いかける清水。

 

 

 

誰かに向かって笑う、なんて…こんなの初めて!! 

 

 

 

とざわつく周囲、雷が落ちる周囲。もの凄い大惨事だ。発生源は主に田中。凡そ9割分である。勿論 そんな災害何処吹く風。清水があっさりと収めてしまったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、清水は 澤村に 肉まんの奢りと火神の件の礼を言って帰宅していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~成程。清水先輩って 美しいとか華憐とか美人とか アホ程聞いてるから 【格好いい】っていうのが新鮮だったんだなぁ」

「あ、俺も縁下と同じ意見。新鮮だったんだな。田中が使いすぎてて、最早ネタッぽいし」

「そして更に言えば火神は良い子だ。これ以上なく。………だから、悔しくなんかない」

「大地…… 言い方がなんか……」

 

 

ワイワイと騒いでる間に、解き放たれた田中は、火神と対峙していた。

 

「潔子さんの視線をよこせ~~」

「視線よこせってどーすればいいんですか!」

「向けられた眼差し寄越せ~~! 見られた顔寄越せ~~!!」

「ファっ!? 顔寄越せって、田中さんは妖怪ですか!?」

「せいやって中学の頃も結構女の子たちに人気でさー」

「ふーん」

「興味なしか」

 

「しょうよーー!! 余計な事言わんでくれ!! 田中さんの力が増し増しになるから!!」

 

 

こんな感じで騒いでいたら、坂之下商店の店主が来襲。

 

 

「ゴラぁァ! お前らなんど言わせんだよ! 店の前で騒ぐなっつたろうが!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後 どうにか澤村が店主に頭を下げて 店のスペースを使わせてもらえる事になった。勿論、速攻で騒ぎを終息させることと、3,4人までと言う制約は頂いたが、残ったのが丁度4人だったので良かった。

 

清水がまだ現場に残っていたら まだ騒いでいただろうからその辺りもある意味では僥倖。……と言うか 清水が残って、注意していた方がまだ静かだったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で、練習試合のポジションだけど、これで行こうと思う」

 

 

タクティクスボードとマグネットが用意されていて、マグネットには名前が付けられているので一目瞭然。

左上から順に 田中・日向・澤村。左下から順に 影山・月島・火神の構成。

田中と澤村と火神がWS(ウィングスパイカー)、日向と月島がMB(ミドルブロッカー)、そして影山が言わずと知れたS(セッター)だ。

 

「火神と影山は指名された上で考えた。日向は影山とのセットで使いたいし、月島は烏野(ウチ)では数少ない長身選手だ。青城相手にどこまで戦えるか見たい」

 

唯一の1年レギュラーハズレの山口は、やや落ち込んでいたが、このメンツの中で押しのけて入るのは正直無理がある、と何処か自分でも納得している部分があったりしていた。

あの3対3の時の事を思い返せば返すほど、悔しいがそう思ってしまうのだ。

 

 

「ていうか、デカさが重要なポジションに日向スか!?」

「ミドルブロッカーって、ノッポヤロー月島と同じポジション!?」

「あっ、ちょっと待って。僕も確認、と言うかおさらいしておきたい。ポジションについてだけど……」

 

 

各々の意見はあるだろう。でもまず武田先生への説明が先である、と澤村は判断し、セッター、ウイングスパイカー、ミドルブロッカーについての説明をした。

 

各々の役割と重要性等をルールブックと澤村の説明を照らし合わせて再確認。

 

 

「ポジション関係は大体こんな感じでOKかな?」

「他に守備専門のリベロとかあるんですが、今回はいないのでそれでOKです」

 

 

とても勉強熱心なのは 使い古されている武田のルールブックを見てみればよく分かる。単純にお古を貰っただけなのかもしれないが、ちらちらと見える付箋紙の数を見れば尚更判る。

 

「なぁなぁ、せいや。俺、ミドルブロッカーできんのかなぁ……?」

「ん? ああ、翔陽にぴったりなポジションだと思うぞ」

「なんでだ? だって、月島みたいなデカノッポがやるポジションなんだろ……?」

 

日向は先ほどの武田先生がおさらいするために受けた澤村の説明を聞いてなかったのだろうか……、いや そもそも日向の真骨頂を自分では分かってなかったからかもしれない。

 

「おい、良いか日向」

 

そんな中、影山が一肌脱いでくれた。

 

「お前は最強の囮だ!!!」

「ナニっ!! さいきょー!! 俺、最強!! 最強の、おとり? おと……り??」

 

 

最強の二文字でテンションが上がったかと思えば、囮の一文字でテンションが下がる。随分と忙しそうである。

 

「なんかパッとしねぇよ……」

「パッとしないか? 影山の言う通りだぞ。昨日の試合で何度かオレも翔陽につられたし。メチャクチャしんどかったんだぞ??」

「えっ!? せいやがオレにっ!?」

「おう。それに6人でアレやられたら、更に頭がキツくなりそうだ……」

「うぉぉぉぉぉぉ!! さいきょーのせいやをぎゃふんっ! と言わせたのか、俺は!!」

「あっはっはっは!! そうかもな! アレは相当しんどい」

「つまり、影山より上って事か!?」

「んな訳あるかボゲェ!!」

 

 

日向のあの気迫溢れる動きは、かなりしんどいと思えるが、全てが本気で本物であるからこそ、一級の囮となってつられてしまうのだ。囮とわかっていてもこれが難しい。意識しまいとするのもある意味では間違いだから、疲れた終盤でそれをやられると、自棄を起こしてしまいそうな気分になるのだ。

 

 

「兎も角だ! クイックでお前がガンガン点を稼いだら、当然敵のブロッカーはお前の方を向く。お前みたいなチビでドヘタクソが、メチャクチャ動いて跳んで、更に点稼いだとなれば、【なんだ、アイツやべーぞ!】っていう風になるもんなんだ。そうなったら更に他のスパイカーが活きる」

「一言二言余計だが、何となく頭に浮かんできたぞ!」

「火神には 上げられちまった印象が頭ん中に残ってるかもしれねぇが、それはまだお前が下手だったからだ。あの攻撃を軸に、色んなバリエーションを混ぜれば、更に進化する。……それに月島みたいなデカいヤツが何人もお前の動きにアホみたいに引っかかったら、気分良いだろ?」

 

日向の頭の中で昨日の試合の光景がよみがえっていた。

確かに火神には何本も取られてしまったが、それ以上に月島は何本も翻弄してやったのを覚えている。余裕で煽りを忘れなかったあの月島が、嫌みで嫌な月島が ムキになって止めようとしてくる姿、覚えている。

 

「おおおおお!! 確かに!! 気持ちいいぞ!」

「オイ!! アホってツッキーの事じゃないだろうな!!」

「なんで山口が怒んの。黙れよ」

「ゴメンツッキー!」

 

月島も相当悔しかったのだろうか、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 

「だが、100%上手くいく攻撃なんて存在しねぇ。まして、お前の技量は下の下」

「上げて落とすの様になってるよな……、影山」

「だから一言以上余計だよ!!」

「余計でもなんでも頭に入れとけボゲ。お前が機能しなきゃ他の攻撃も総崩れになるとも思え。波に乗りきれず、崩れるってのもよくある事だ」

「そう……ぇえ!!?」

 

 

さっきまで余計な一言に怒っていた日向だが、あり得そうな現実を突きつけられて、青ざめた。まだまだ自分が下手なのは勿論わかっている。わかってるからこそ、練習を頑張ってするんだ、と決めているんだ。

 

だが、練習試合まではもう日がない。この短期間で……。

 

「総崩れ……そう、くずれ…… SO KUZURE……YO。YO、Yo……」

 

単語が頭の中を何度も何度もよぎる。

そして、試合の光景が目に浮かび……、自分のスパイクは決まらない。自分が走って仲間の妨害。更に顔面でまた受けてしまってノックアウトでその光景は日向脳 映画館上映終了。

 

「うわぁぁ、せいやっ、俺をつよくしてくれーーー!! パワー、おれにくれぇぇぇ!!」

「ぉふぁぅっ!?」

 

 

突然、日向はジェットスタート。見事に火神の鳩尾当たりに頭突きを炸裂させて、そのまま倒れこんだ。

 

「影山、あんまプレッシャーかけんなよ! ほら見なさい。日向が火神もろとも道ずれに沈没しようと自棄になってしまったぞ!」

「???」

 

 

火神は日向に腹の上に乗られ挙句に息が詰まりそうな一撃を貰って悶絶。手を伸ばして必死に浮上しようとしてる風にも見える。日向は日向で、火神にマウントとって、その頭をぐらぐら揺らしていた。【みすてないでーー】と火神馴染みの絶叫とともに。

 

 

「遊んでるトコ悪いけどよ、肝心のブロックはどうすんだ? いくら日向が高く跳べるからって、もともとデカいヤツと比べたら、ジャンプのMAXに到達するまでの時間がかかるだろ? その分ブロックの完成が遅くなるぞ」

 

 

ブロックの要でもあるミドルブロッカーのポジションは当然ながら背が高い方が断然有利。田中の言う通り、日向は大きく跳ぶ事が出来るが、それでも指標が低いのでどうしても到達するまでに時間がかかり、そのまま上から打たれてしまう可能性が高くなるのだ。

勿論、そこは影山・火神・澤村・菅原のミーティングで確認済みである。

 

「……はい。だから日向が前衛、ブロックする時、重点を置くのは何よりも相手の攻撃に触る事。バカみたいな反射速度を生かして、敵の攻撃に兎に角 触って勢いを弱める事。そうすれば、レシーブ出来る難易度が軽くなります。そこからカウンターを狙える」

「うぅ~ん、理屈は判るが、そんないきなり上手いこといくか?」

「いやいや、いかないだろう。寧ろいったらラッキーくらいに思ってた方が良い。……少なくとも最初はな。上手くいくかの確証なんてある訳ないし、相手は4強。こっちはまだまだ格下。バカにされたりするかもしれない。……でも、やってみれば、何かしら判る事があるよ」

 

「いててて……。翔陽いい加減のいてくれって……」

「あうぅ……、せいや……たすけてぇ……」

「いやなんで俺の上で溺れてんの?? ほら、まだミーティングの途中だからのいてって」

 

いつまでも上に乗ってる日向をのけて身体を火神は起こした。

火神が復帰したのを見て軽く笑うと澤村は同意を求める様に聞く。

 

「な? 火神もそう思うだろ? 最初から上手くい事なんて基本ないんだしさ」

「あ、はい。そうですね。……ただ、北一とオレ達 雪ヶ丘がやった時と似たような展開にしてやりたい、とは思います。……いや、相手を驚かせてやりますよ。な、翔陽」

「うぇい!! や、やってやるさ! そーくずれがどーだ! こーだ!! さいきょーだ!!」

 

 

火神が思うのは、中学時代の事。圧倒的不利な状況で試合を沸かせ、あっと言わせた。それをまた実現したいというのだから、相応の気合が入っている事だろう。澤村をはじめ、先輩たちは負けじと力を入れ、そして日向のテンパり具合はなかなか解消されない様だが、とりあえず 火神に任せよう、と言う事にしたのだった。

影山は 火神ら雪ヶ丘と戦った北一だからか、少なからず思うところはあるんだけれど、火神のやる気に満ちた顔を見て払拭。そして触発されるのだった。

 

 

「翔陽の素早さ、反射に加えて あの跳躍なら 初見じゃ絶対喰らってしまいます。勿論 衝撃を与えますし、同時に点にもつながります。後 影山のゲーム組み立てにも期待ですね。翔陽の動きにつられる、だけでなく 慣れられたら厄介だと思うんで」

「使いどころと使う頻度って事……。ま、ふつーあんな無茶苦茶な速攻は止めれる筈ねーべ? って思う所なんだけど、火神が言ったら聞こえ方違うよなぁ。2セット目にはしっかり拾ってたし」

「ま、まぁ まだまだ不完全でしたけどね。翔陽と影山も慣れてないぶっつけ本番プレイですから、多少動揺に付け込めた成果だと思ってます」

 

 

そう、日向と影山の神業的な速攻は、その日の内にある程度取られてしまっているのだ。3対3の時でさえ、拾われたのだから 6人に増えたならより拾われる可能性が高くなる。更に言えば相手は4強の一角。総合レベルが並みの選手じゃない筈だから。

 

 

「相手や味方のスパイカーの調子を見るのもセッターの仕事。頼んだぞ、影山」

「おう」

 

 

にこやかに締まった所で、澤村が声を掛ける。

 

 

「色々試し、やる事を全部やってやろうじゃないか。練習(・・)試合なんだ。全員、明日は自信をもっていこう。んでもって―――」

 

 

澤村は、一呼吸置いた後。

 

 

「勝つぞ」

 

 

練習の試合とは言いつつも、勝利を見据えて皆へ伝えた。

 

その熱意が伝わったのだろう。

 

【オス!】と言う皆合わせての一声は、今までで一番の声量だった。

 

 



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第21話

月曜の放課後。

 

これまで、着替えは体育館の空きスペースで行って部活をしていたんだけれど、菅原が部室へ案内してくれた。

 

 

「ええっ! 1年も部室使って良いんスか?」

「北一は大所帯だったし、下級生は部室使えてなかったっぽいよな。こっちは悲しいかな、人数がそこまでいないんだけど、強かったころの名残で今も広い部室使わせてもらってるんだ。だから、1年が入ったくらいじゃ問題ないよ。てな訳で、ここが部室な」

 

 

がらっ、と開けた先に広がる光景は やはり何処ででも変わらない。

この汗臭さ、ボールの臭い、用具入れはあるんだけどいろいろ乱雑してる。必要なのはしっかりマネージャーが管理していると思われるが、部室っていうのはどこでも、どんな世界でも大体は同じなんだ、と認識。

 

「おース」

「「「ちース」」」

「「「失礼シマース!」」」

 

 

挨拶もそこそこに、火神は日向の方を向いた。

 

「念願の部室だぞ? 感動してないか、翔陽」

「お、おお。そうだな、そうだよなっ! 俺たちにそんなの無かったもんな!!」

「新1年が、今は2年か。アイツらが頑張ってくれたら何とかなるかもしれないから、その辺は期待しとこう。OBとして。んで、そろそろ緊張も少なくなってくる頃だろ? ほんの少しでも」

 

火神は日向の顔をじっと見た。

昨日の件(影山の発言)もあり、日向はまた持病? を発病してたりする。幾らか火神のフォローもあって、持ち直す事は多々あったのだけれど、どうしても 初っ端ともなったら その不安感は あの初めての公式戦の時程まで及んだようで、日向は 勢いでごまかしつつも、時折能面みたいな顔立ちになったりしていたのだ。

 

「うははは。そーか、日向まだ緊張してたか。デビュー戦だもんな。高校デビュー! ま、練習試合だけど、青葉城西の体育館は、滅茶デカいし、選手もデカいからビビんなよ!」

「ひゅぃ!?」

「あ、田中さん それ逆効果です……。ちょっとずつが重要で」

 

日向は肺にでも穴が開いたのか? と思えるようなヒューヒューと息をしてて、何も知らない人が見たら心配になりそうだった。

 

でも、しっかりと否定。

 

 

「び、ビビるワケないじゃないですか! オレ、中学ん時もせいやと様々な荒波を超えてきた男なんですっっ! バレー部無いとか、練習できないとか、女子に混ざってとか、公式戦は3年目にして漸くとか! そ、それに比べたらこんなの全然ですよっ!!」

 

 

威勢よく言い切ってるのは良い事だ。自信に繋がっているのであれば更に。

苦境を経験してきた事は決して無駄にはならない。いつか必ず何かの実を結ぶんだと思ってるから。ただ、今の恰好は様にならない。

 

「日向。今お前が穿こうとしてるソレ、ジャージの上着だぞ? ギャハハハハ!! どーした!? 新手のオシャレか!?」

「~~~~~~ッッ!!!」

 

 

上着の腕の部分にすっぽり足が収まっているが、履き心地は悪そうだ。気付かないという事はやっぱりまだまだ緊張しているのだろう。

 

 

「……火神。日向は明日の練習試合、大丈夫かな?」

「うぅ~ん……、基本ビビリなんですけど、切っ掛けさえあれば吹っ切れるんですけどね、翔陽って」

「切っ掛け? 例えばどんな?」

 

日向の様子は傍から見ればよく分かる。可哀想だと思うくらいガチガチになっているのが。経緯を考えたら判らなくも無いんだが、その相棒でもある火神とのギャップがここまであったら、違和感があり過ぎる。

 

だが、片方が大丈夫なのであれば、今までの解決策の様なのも備えているかもしれないので、澤村は火神に聞いたのだ。そして 切っ掛けがあれば吹っ切れると言質も取れた。……問題はその内容だ。

 

 

「えっと、中学の時は影山と会った時に吹っ切れたッぽいんですよ。ずっとトイレの住人だったんですけど、翔陽にもプライドはしっかりあるんで、影山のキツイ一言で吹っ切れたのかなって。俺が意図的にそれを刺激してやるっていうのは今のところ成功した試しがなくて……、千里の道も一歩って感じで徐々に慣れてもらったりはしてました」

「ほー。影山は日向になんて言ったんだ?」

 

澤村は影山こそがキーなのか? と期待を僅かに込めつつ影山の方を見たが、当の影山は首を傾げるだけ。

 

「キツイ事なんか言ったつもりないんスけど」

「無自覚かよ……。思った事がそのまま息を吐くように出てるから判らないんだな……」

 

火神は ため息。それを見た影山はとりあえず頑張って思い出そうとしているんだけれど、どうしてもわからない様だ。

なので、代わりに火神が代弁。

 

「えーっと、俺は途中からの合流だったんで、全部は聞けてないんですけど、【一体何しに来た? 思い出作りしに来ただけか?】みたいな感じから始まってたと思います。後は持ち前の強面威圧ですかね?」

 

火神は当時の事を思い出しつつセリフを繋いだ。やや違いはあるものの、大体はあってるだろう。

 

「うわー、初対面の日向に直球だったんだな。でも日向そこで委縮しなかったんだな」

「あ、はい。大きな試合には慣れてないんですけど、跳ぶ事に自信は凄く持ってまして。絶対打ち抜いてやる! って奮起した感じでした。それがいい具合にハマって最初から全開で行けたんだと思います」

「んで、火神は日向と影山を見守ってたって訳か? やっぱポジション保護者?」

「……違いますって。翔陽側に加わろうにも、もう殆ど終わってたんです。だから、影山と試合前はあんまり言葉は殆ど交わして無かったです。なのに、最初から妙に警戒されてて ほんとやりづらかったですよ……」

 

なつかしき中学時代を思い返す火神。

清水に聞かれた事もあった為 思い出す機会が増えた気もする。色々と大変だったけどやりがいがあった中学時代を。

 

因みに影山との試合前の絡みは日向に比べたら殆ど無かったって言っていい。

 

「ははは。ま、影山の警戒はバッチリ当たったって事だ。悪いけど、やっぱ初戦だからって無名校相手に警戒はあまりしなさそうだからな」

「(……日向とは違った異質さを覚えたから。言えばただの直感だ)……そっちは覚えている。でも、日向にキツイ事言った覚えはやっぱない」

「も、それで良いって。問題は翔陽の緊張の事だったし。確かに硬いままじゃ 色々と問題ありそうですね。最悪怪我にも繋がりかねませんし……」

「う~ん……オレが何言ってもプレッシャーになるみたいでさ。火神が言う通り、ちょこちょこ試合まで上げていくしかないか」

「最初のうちは仕方ないんじゃないスか。ヘタにイジんない方が良いとも思ってます。付き合い長い火神辺りのフォローで通常運転にまで出来るようになるのが一番じゃないスか」

「影山。それはつまり訳したら【翔陽の事、全部オレに任せとけば良い】って事でOKか?」

 

火神の指摘に遠い目をする影山。澤村や菅原も うんうん、と頷いて影山サイドにいる。

 

「まぁ、なんだかんだで日向が一番信頼してるのは火神だしな。それが今一番と言えばそうなんだ。でも依存っぽくなるのは頂けないから、後々には日向に克服してもらわないといけない、って考えてるよ」

「うぅ~~ん………」

「影山も、それに火神だってあんま判んないだろ? 小心者の緊張ってヤツ。ナメちゃいけねぇべ?」

 

影山は兎も角、火神は解ってるつもりだが、100%か? と言えばそれは嘘。

無理だけど 日向自身になって初めて本当の意味で解る事になんだから。公式戦でベストパフォーマンスを見せたり、自分より皆に気を配れたりする火神や、色々とチームに不和を齎したとは言っても もうベテランの領域にいる影山。

菅原に判らないだろ、と言われても無理はなかった。

 

「とまぁ、日向の緊張解す役は火神。そんでもって 影山はいつもの余計でキツイ一言を発動すんな、って事。無駄な圧力になるから。(ヘタクソとかチビとか総崩れとか)」

「……ウス(何度考えても判らん。余計な上、キツイ一言なんてオレ言ってるか?)」

 

 

 

日向会議をしている最中。

 

 

「何やってんのよ、田中!! ヘンタイ!!」

「うぇぇっ!?」

 

 

と、部室の外が賑やかになってた。

日向の話題だった筈なのに いつの間にか田中が罵倒されているようだ。それも女の人の声だから、女子に。

 

何事か? と外を見てみると 田中……ジャージ穿いてなくパンツ丸出しだった。その場面を女子テニス部の皆さんに見られちゃったようだ。

 

「田中さん……、セクハラですよ? ソレ」

「ちが、ちがうんだ!! 日向がオレのジャージ穿いてったから!!」

「へ? あ……」

 

 

本当にいつの間にやら、日向は部室の外、更に校庭までいってるみたいだ。別にまだ解散と言うわけでもないし、それに向こうは玄関と真反対。更に言えば日向の荷物はまだ部室に残ってるので、一体どこへ向かおうとしてたのやら。

 

「どーなってんの? 日向(あのチビ)。ちゃんと引率しないとヤバイかもよ?」

「それにすっごい顔してフラフラしてたよ?」

 

月島と山口も合流して、日向の惨状を報告。

 

火神は頭を更に悩ませた。

バレーに関しては 何度も一緒に練習を重ねていたから、まだまだなのは違いないが、所謂 【火神がいない時の日向】よりは絶対に上達していると確信出来ている。

だが、それとこれとは話が全然違う様だ。小心者レベルを上げてその分野を向上させるには、やっぱり場数が不可欠だったみたいだから……。

 

「……あれ、だいじょーぶ?」

「試合まで、様子……見ましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――火曜日の放課後。

 

 

 

とうとうやってきた青葉城西との練習試合の日。

学校のマイクロバスを借りて、いざ出陣。勿論、しっかりと顧問の武田先生には挨拶をしてバスに乗り込んだ。

 

「翔陽。……絶対寝てないだろ? その顔」

「………ね、寝たし。グッスリだし……」

「なんで直ぐ判る嘘つく? 目の下凄い事になってるぞ」

 

顔に【ボク寝不足です】って書いてる様に見えたのは初めてだ。わかり易い目の下のクマに加えて、何だかゲッソリしてるようにも見える。それに目のハイライトが何だかおかしい。

 

「はぁ……、そんな状態でバス乗ったら大惨事だな」

 

火神は待ってました、ではなく持ってましたとエチケット袋を日向に渡す。

 

「は、吐いたりはしないって………。しっかり飯食ってきたんだから…………」

「食ってきたからこそだろ。それにカツ丼だろ? ……寝不足な上にそれじゃ、幾らゲン担ぎで気合入れたからって言っても逆効果だから。場慣れするまで止めといた方が良いぞ……」

 

幾ら火神が このまま放置したらどうなるか知っているから、と言っても そのままリバースされて、やられたら心が痛む。笑いながら見れたのは画面越し、紙の上での話だから実際に目の前で起こると思えばどうにか止めたいものだ。酔い止めも必要かな、と思ったが 日向は基本的に乗り物酔いはしない。原因は極度の緊張だから意味ないと判断して、とりあえず吐くこと前提で事前の備えを持ってきたのだ。

 

 

日向は、よろよろと年寄りみたいな動きでその袋を受け取るとトボトボとバスの中へと入っていった。

 

 

「とりあえず、備えあれば憂いなし」

「やっぱ保護者ジャン。凄いねぇ、とても面倒見が良いねぇ」

「あぁ~ 羨ましいなら変わろうか? スキルアップのチャンスだよ? 月島クン」

「いやいや、ボクが取得するには荷が重すぎるスキルだから遠慮しておくよ、火神クン」

 

 

月島と一戦交わした後に火神もバスの中へ。

 

 

 

色々と備えたつもりだったんだけど……、結局歴史は繰り返す。

 

 

 

「おえ―――――っぷ!!」

「おいおいおい、ほんと大丈夫かよ日向」

「うぇ……、貰いそう……」

 

 

日向はちゃんと火神から渡されたエチケット袋の中へ イン。

 

「大丈夫か? 日向。ほれティッシュ」

「ぁ……、たなか、さん。ありがとうございました……」

「おう。いいってことよ。何せオレは先輩だからな! ……って、おいぃぃぃ!! 日向日向ひなた!!! 中身、中身こぼれるぅぅぅ! こぼれてるぅぅぅぅ!!!」

「……え?」

「ばっっ、ちがっっ! 上に……」

 

 

日向はくるり、と隣に振り返って田中に頭を下げる。

両手にエチケット袋を持ったまま、頭を下げる。

 

昨夜は、頑張るぞ!! と意気込みそのままに、日向母にカツ丼を作ってもらって、思いっきり掻きこんだ。朝食も同じく勝つ為に、カツ丼一色。

 

日向の小さな身体の中には、まだまだ消化しきれてないカツ丼やその他モロモロが滞在しており……、エチケット袋いっぱい、とまでは言わないが それなりの量が入っちゃってる(何が入ってるかは割愛)。

 

 

状態最悪の中で、ぼーっとしたままで 身体全体を傾けたらどうなるのか……。

 

 

 

 

「ぎゃあああああああぁぁァッ!!!!」

 

 

 

 

どうなったかの結果。

田中の悲鳴がバス内に響き渡ったのだった。

 

「あれ……これって……」

「予想以上にヤバイ?」

「……備えあれば憂いなしを見事に覆してくれたね……」

「と、兎も角、武田先生!! 一旦何処かに止まってくれませんか!!」

 

 

 

ただ、変わる事なく歴史は繰り返しただけだ。

ただ、世界の意思には抗えなかっただけだ。

 

 

 

火神は妙な無力感を感じつつも、せめてバレーだけは、色々と頑張ろうと力なく手を握りしめた。3対3で影山達のチームに勝てたのだし、と。

 

澤村は慌ててバスを止める様に伝え、影山はただただ慌てつつも呆れて……、菅原は対応策が思い浮かばず、更に田中の惨状をガン見してしまって白目を向くのだった。

 



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第22話

私立青葉城西高校へ到着。

 

途中で色々と寄り道をしたのだが、どうにか無事遅れる事なく到着した。勿論、武田先生は安全運転。

 

そしてそして、盛大にやらかしてしまった日向はと言うと全員に謝罪謝罪の大嵐。

中でも一番の被害を被った田中に対しては、何度も何度も頭を下げては上げを繰り返しながら謝罪をしていた。

 

「すみません田中さんすみません!!」

「はぁ、いいっつってんだろうが。そんなことよりおめーは大丈夫なのかよ。降りた後もヤってたんだろ?」

 

日向のモノを貰った田中。その中身は田中の股間部分に思いっきりブチまかれていた。

見ようによっては、田中が漏らした~~とも取られない程のモノであり、かなりの異臭もありのその他モロモロ大変だったのにも関わらず、田中は後輩を心配するという器の大きさを改めてみた気がした。

 

「ハイ……途中で休んだし、バス降りたら平気です……」

「平気って顔じゃないケドなそれ。ほら翔陽、水」

 

火神は日向にペットボトルを差し出した。

日向はそれを受け取ると軽く口に含み、ゴクッと飲み込む。

飲む事はどうやら出来る様子だ。

 

「いや、なんかほんと田中さんすみません、ウチのバカが……」

「わははは。だいじょーぶだって、おめーにも言ってるだろ? それよりさっきのもう一回だ、火神」

「器がほんとに大きいですねー、田中先輩って! 凄いです」

「うはははは! 当然当然。先輩だからな!」

 

腰に手を当てて胸を張る田中。別に乗せる為に言う事などではなく……、本当に凄いなぁ、と心からの賞賛である。

日向のを直撃されてそれでも尚 笑って許すとは。いや、本当に。

 

「今日は1年が半分出る試合だからな。火神も日向も頑張れ! 勿論オレもだ! 4強をへこませてやろうぜ」

「はいっ! 頑張りますよ!」

「うははは。元気で良し良し! んで、日向! 3対3の時みたく、俺にフリーで打たせてくれよ!?」

「は、はい! がんばります……!」

 

まだ、目が死んでるような感じは否めないが、それでも色々と出すもの出したので、スッキリ出来たのか、最初に比べると大分マシに見える。

 

「んん……、と、トイレ行ってきます……」

 

でも、以前の様に試合前の腹痛はどうにもならない様だった。

 

「はぁ、翔陽、トイレの場所とか判るか?」

「うぅ……、ここのがっこうのひとに、きく……」

 

よたよたとこの場を後にする日向。

 

「わはは。上の次は下か! 忙しいヤツだな!」

「うぅ~ん……まさかここまでとは。いや、アレが本来の翔陽なのかも。前の時はキャプテンだったし」

「うん? どういう事だ??」

「いえ。前の時は翔陽がキャプテンでしたし、後は助っ人で入ってくれた同級生の2人と1年生の3人。それに加えて初めてで念願の公式戦。……なのに、当の本人があんな風になったら大変ですから。試合どころじゃなくなるって感じで」

「はぁ、成程な。所謂 責任感っつーのもあったってことか」

「はい。今は頼りになる先輩方も多いですから、気がゆるんじゃったのかもしれませんね……」

「うはははは!」

 

今回の高校初の練習試合とはいえ、あの中学3年の時は初めてな上に学校の体育館ではなく市立体育館。中学総体、大きな大きな大会だ。どちらが緊張するか? と問われれば きっと後者だと客観的に見ても判る。

それなのに、日向は 便所の主になりかけてはいたものの、戻ってくる時は戻ってこれたし、しっかりと責任は果たせれたと思う。……今の日向とは比べるべくもない。

 

 

「んだと……? 甘えだ?」

 

 

そんな時、そういった妥協の類を一切許さない、もう一人の問題児が拳を握り締めながらやってきた。

 

「甘えなんざ許されると思ってんのかボゲが。一発気合入れてやる―――!!」

 

グーパンでもするのだろうか。今の日向に腹パンでもすれば、本当に色々と出したり出たりしそうなので、ここは是が非でも止めなければならない、と火神は前に、そして 直ぐ隣にいた菅原も影山を止めた。

 

「何言ってんの!?お前!! バカじゃないの!? そういうのが効くタイプとそうじゃないのが居るでしょ!?」

「やってみないとわかりませんよ!」

「バカバカバカ。今の翔陽殴ったらまた見たくないモンでるかもしれんだろ! それに青城に迷惑かかる! ヤメロ!!」

「さっき買ってたビニール袋が余ってんだろ! 大丈夫だ!」

「いや、全然大丈夫じゃないからな! おい田中! この単細胞押さえろ!」

「オスッ!」

 

 

何とか、影山による日向闘魂注入は未遂に終わって難を逃れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、場所は青葉城西高校 第3体育館裏。

 

青葉城西のバレー部員だろう2人が話をしていた。内容は今日の練習試合についてだ。

 

「なぁ、今日の練習烏野が来るってさ。1試合だけみたいだけど。んで、アレ(・・)が居るんだろ? 烏野って」

「ハイ??」

「ほら、コート上の王様。お前出身中学同じだろ? 金田一」

「ああ……影山の事っスか?」

 

烏野のバレー部の話。

中でも話題に上がるのは 有名な【コート上の王様】こと、影山飛雄の事だ。

 

注目している選手だから当然と言えば当然なのだが、長らく一緒にいた金田一は然程気にしてないようだった。

 

「別に大したことないっスよ? 確かに個人技では頭一つ抜けてましたけど、チームプレーっていうモンが根本的に向いてないんスよ。……影山(アイツ)自己チューだから」

 

金田一の表情。それは単に影山の事を客観的に評価しただけではなく、何処か苦々しく、もう過ぎた事だというのに、イラついているのがよく見て取れた。

それ程までに苦痛だったんだという事が

 

「へぇ~まぁ、行った先が烏野だしな。昔は強かったのか知らんけど……。烏野ったら、マネが美人てことくらいしか覚えてないし」

「マジっすか!?」

「そーなのそーなのよ。ちょっとエロイ感じでさ~~ 目の保養になんのよ~。あ、あとそういや、ガラの悪いヤツが居たな~~、ボーズで目つきが悪くてさ~~」

「マジすか……」

「マジマジ。ありゃ、絶対あったま悪いぞ~~」

 

 

影山憎し、はまだ判らなくもないが、流石に烏野については言いたい放題が過ぎる、と言ってやりたいものだ。容姿だけで頭が悪いだのエロイだの、失礼極まりない。……前者は限りなく正解に近いかもしれないが、それだとしてもだ。

 

 

そんな失礼な青葉城西の部員に天罰が下りる。

 

 

「……………」

 

「「!?」」

 

 

体育館の陰から、ひょこっと顔を出すのは 先ほどまで話題に上がっていたボーズ頭。ガラが悪そうで頭も悪そうな、そんな印象を受けてたその人そのものである。

 

 

勿論、その正体は田中先輩。

 

 

田中に従うかの様に、続いてぞろぞろとやってくるのは、黒のジャージに包まれた烏野のバレー部たち。

 

 

「あんまよぉ……、烏野(ウチ)をナメてっと…… 喰い散らかすぞ」

 

 

まるで、田中の迫力に反応した、とでも言うのだろうか。

いつの間にか木の上に集まっていたカラスたちが【ア゛―――ッ!!】と一斉に鳴きながら、夕日の空へと還っていった。

 

 

 

「「ッ――――!!!」」

 

 

 

これはあまりの迫力にびっくりしてしまっても不思議ではない。烏野と言うのはあくまで高校の名前。……カラスを操るような学校では無い筈だから。

 

そして、そんな田中に便乗するのは月島。

 

「そんな威嚇したら駄目ですよ~~ 田中さ~~ん」

「?」

 

傍から見れば田中を抑えようとしている様に見えなくもないが、その表情は明らかに蔑んでいるそのものだ。

影山の時もそうだが、月島は基本的に王様……ではなく、エリートと呼ぶ相手が気に入らない性質なのだ。

 

 

「ほぉら、【エリートの方々】がびっくりしちゃって、可哀想じゃないですかぁ」

「おう、そうだな。いじめんのは試合中だけにしてやんねーとなぁ」

「そうですよ~、僕たち、スポーツマンなんですから、平和的に行きましょうよ~。憐みを忘れないようにねぇ」

 

 

 

……言いたい放題なのは烏野も同じだったかもしれない。

 

 

「べ、別にビビってねぇよ!」

「(あのメガネだれだ? ……1年か? あんな身長のヤツいなかった筈)」

 

 

挑発に次ぐ挑発。まるでここで一戦やりかねない状況だったが、流石にそれは無かった。

 

「あっ、こら!! お前らちょっと目ぇ離した隙に何やってる!!」

「ッッ!!」

 

澤村が到着したから。

因みに菅原は日向の付き添い、火神はちょっとした荷物運び……をしてたら、清水に【自分の仕事だから、あっち宜しく】と取られていたりする。

こちらは 田中の様に狙ってではなく荷物持ちは 基本的に下級生の仕事だったから~ と言う習性だから、だったりする。

 

「月島――今逃げたふりしてもダメだからな。見てるからな??」

「ッ! チっ……」

「お前も毎度毎度舌打ちで誤魔化すな! 大人気ない!」

 

少しばかり遅れてやってきた火神も澤村と一緒に参戦。

 

「(アイツ……!? まさか、烏野に居たのか!?)」

 

後からやってきた澤村に――ではなく、火神に驚きを隠せられないのは金田一。

 

それは当然だ。中学の1回戦の時の事を金田一は覚えているから。初戦の無名校。肩慣らし程度にしか考えてなかった相手からのよもやの大反撃。

チームプレイが重要のバレー、繋がなければ敗北のバレーで、個の強さを全面に出した男だったから。

 

それは 個人と言う点においては 天才と呼ばれても不思議じゃない影山と似ているようで、根本的に違ったプレイスタイル。天才でも横暴で独善なのが影山。火神はまさに正反対で周囲を活かす事を主とし、更には自分自身の個人技でも魅せる男。

 

どの高校に行ったのか少なからず気にしていた相手でもあった。

 

 

「どうも失礼しました! こいつら纏めとかないと直ぐどっか行くから、2人で引っ張ってくぞ、火神!」

「あ、はい。わかりました。ほら、影山も行くぞ」

「……おう」

「よし! 今の内だ! ほら、ウロウロすんなっ、整列していけ! 田中、その顔ヤメロ!」

 

 

問題児集団の引率がどれ程大変なのかが よーくわかる展開だった。イキナリの練習試合が組めたからこそであり、早々に体験しててある意味では良かったと思う火神だった。

―――これが、大きな遠征やら公式戦でだったらと思うと頭が痛くなりそうだから。

 

 

そして、一行は体育館の中へと向かおうとした時だ。

 

 

「……久しぶりじゃねーのお前ら(・・・)。あぁ後、王様よぉ。烏野(そっち)でどんな独裁政権を敷いてんのか、楽しみにしてるわ」

 

 

それは、あからさまな挑発だった。

もしも、3対3以前の影山だったら絶対に反応してたことだろう。

 

だが。

 

「…………ああ、そうだな。見せてやるよ」

 

 

影山は金田一の挑発には一切乗らず、ただそう言うと戻っていった。

火神は首をぐるっ、と回して金田一の方を見た。

 

「そっちこそ久しぶり。覚えてるよ。俺も楽しみにしてる。青城とイキナリやれるなんてほんとツイてる」

 

簡単に答えつつ、影山の背を押していった。

 

戻った先で、影山を待っていた皆は、背中を無言でバシっ、と叩いた。【よく言った!】と口には出していないが、そういっている様に後ろからついていった火神には見えた。

 

 

そして置いてきぼりを食らったのは金田一。

 

 

「………なんだアイツ。大人しいフリしやがって。だけど、あの男がいたらひょっとして………、いや ありえねぇか」

 

 

人間性と言うものはそう簡単に治りはしない。

何度も何度もやろうとした。最低限やろうとした。監督にも伝えた。監督も何度も治すようにと指示した。それでも治らなかったんだから。

 

高校生になったとはいえものの数ヶ月で治るワケ無い。ただ、大人しいフリをしているだけだ、と金田一は一蹴。

 

 

「影山の隣のヤツは知り合い? 北一にはいなかったろ?」

「……ええ。矢巾先輩。アイツの顔覚えといてください。ある意味、烏野の中で一番厄介なヤツだと思います」

「ふーん……厄介、ね」

 

 

影山の時とは違って、緊張感のある顔をした金田一を見て、矢巾も記憶に火神の事を入れた。身長は影山と同じ程度、それでいて 雰囲気は何となくチームの纏め役ッポイ。

 

「試合やってみればわかるか。……一年生エースってヤツを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「整列! 挨拶!!!」

【お願いしあーーす!!!】

 

 

色々あって、漸く第3体育館へと入る事が出来た。

日向も何とか戻ってくる事が出来ていて、トイレの住人になり続けるのは防げたようだ。……今のところは、だが。

 

ただ、大きな体育館に、大きな人間に圧倒されているのは事実。

 

 

「で、でかい……、体育館もっ、人も……っ」

「翔陽? こっちにもデカいヤツ居るんだから、気にしない気にしない。ほらほら、月島だぞーデカいぞー」

「……ちょっと。日向(チビ)をあやすのに使わないでくれる?」

「ツッキーはもっともっとデカくなる男だからな」

「なんで山口が得意気なの? 黙れよ」

「ゴメンツッキー!」

 

 

月島の毒舌(チビ)発言にも日向は反応は見せない様だった。

それと山口の月島ヨイショも相変わらずブレない。

 

 

「……守備も攻撃も全員の能力が平均して高いのが青葉城西だ。他校行ったら何処ででもエースはれるようなヤツが揃ってるらしい」

「ひえーー……あ~あとブロック強力ででも有名だしなぁ……」

「まさに強豪校! って感じですね。流石青城!」

「ワクワクしてます、って顔に書いてるぞ火神。大物だねー こんなの目の当たりにしてそんな顔できんだから」

 

 

興奮してる火神を見ると、少なからず緊張している自分達が緩和されていくような気がしてならない澤村と菅原だった。ただ、問題なのは日向。

 

「翔陽? 落ち着けって。失敗(ミス)しても良いじゃん。……中学(あの時)と違って、これが最後って訳じゃないんだ。と言うか、ここから始まるんだぞ」

「お、おう! そうだよな!!」

「(お、持ち直しそうか??)」

「わははは! そりゃそうだ! 始まってばっかなのに終わってたまるかってんだよ。それにお前がへたっくそなのは よくわかってんだから、ちゃんとカバーしてやるよ!」

「た、田中先輩っ!!」

「(おお、良いぞ田中も! もう一息!!)」

 

日向緊張ゲージが徐々に下降を見せていたんだが……。

 

「でも、カバーできるトコと出来ないトコがあるデショ。サーブとか」

「(おいコラ月島!!)」

「(よけーな事言うな!!)」

 

月島の余計な一言が、日向の身体に突き刺さる。

どうにか澤村と菅原が 押しやる形で退場させたのだが、今度は田中だ。

 

「あー、サーブは確かに1人だし、孤独だよなぁ。即失点だし。ミスるなよ??」

「「(バカ!! お前もかっ!!)」」

「……………」

 

日向の身体が小刻みに震えるのがわかった。それと月島の辺りから息してないのも判った。

だから、火神は 後ろに立って両肩をバンッ! と叩いた。

 

「うひぃっっ!!」

「翔陽。まず、息しよう。空気あるトコで酸欠になるとか笑えないからほんと」

「うっ…… また、腹が………」

「はぁ……」

 

 

 

と言うわけで、日向はまたまたトイレタイムになってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……ほんとどうしたもんかな。緊張って適度な緊張なら良いけど、ここまではちょっと。……克服できるかできないかは自分自身次第だし……、なんか良い方法あるかなぁ」

 

日向がトイレに駆け込んだので今回は付き添いで火神も一緒に来た。要らぬ所でまた一悶着あっても問題だから、と言う理由もある。

 

 

「よぉ」

「ん? あっ」

 

 

不意に声を掛けられたので、振り返ってみると そこには金田一が立っていた。

 

「大人し気にしてたけど、影山はどうなんだ? ウチの王様は。相変わらず偉そうだったのは解ったけどよ」

「んー……」

 

火神はこの時単純な疑問が頭に浮かんでた。

確かに中学時代影山の横暴は我慢しかねる程だったんだろう。

そこからチームに不和が生まれ、そして亀裂が入り 全中の出場を逃してしまったという結果があるから尚更だ。だが、今は違うチームで戦う相手同士。終わった事を言ってても何も始まらないと思うのが火神の率直な意見だ。

因みに 心情は判らなくもないんだけれど、もうここは自分のよく知っている世界じゃない。物凄く似てる世界だと解釈しているから、と言う理由もある。

 

 

「影山が何かすげぇ気になるみたいだけど、もう終わった事だし、そこまで気にする事なくないかなぁ、って思うけど。それに今は違うチームじゃん。ああ、影山の事 気にしてくれてる? ひょっとして」

「っ、そんなんじゃねぇよ! ただ、アイツは……オレん中で最高にムカつく奴で、ぶっ倒したい奴ってだけだ!」

 

金田一は純粋な火神の意見を聞いて、思わず大きな声を出していた。

嫌よ嫌よも好きのうち、みたいに聞こえたのかもしれない。

 

「影山を倒したいから、って事か。はははっ、なんかウチの翔陽みたいだな」

「何だよ しょうよう って?」

「……オレの事、だ……。かげやまは、俺が倒す……」

 

いいタイミングで ぎぃぃ、と日向は息も絶え絶えトイレから出てきた。

 

「それに、たしかに影山は偉そうだ! いや、偉そうなんてもんじゃねぇ! あの影山大王の独裁の元、オレと言う臣民は虐げられ、日々苦渋を味わってる! ちょっとうまいから調子にのってるだけだ!!」

「うわーー、すげーー元気になった。これ影山効果か?」

 

さっきまで満身創痍っぽかった日向が、影山悪口になると息を吹き返した。

確かに3対3に向けての練習の時もかなりしごかれていたし、【ボゲ、ヘタクソ、クズ……etc】は最早スタンダードだから 仕方ないと言えばそうかもしれないが。

 

「何だよ、アイツ 偉そうな上に メチャクチャ嫌われてんじゃねーか」

「あー…… 影山はコミュ不足っていうか、オブラートに包む事を知らないっていうか……。良くも悪くもストレートなんだ。その辺は追々……って感じ?」

「……苦労してんだな、お前は。あの時もそんな感じだったし」

「同情どうもありがとねー」

 

余計でキツイ一言を言わないでくれ、と言う周囲の頼み。最後までどこが余計なのか、キツイ一言なのか判らなかった影山。火神は追々……と言っているが、どうやって改善したものかと頭を抱える件でもある。一応リーダーを任された責任ゆえにだろう。

 

「それは兎も角、影山は物事をストレート、とかじゃなく、嫌われる要因は間違いなくトスだろ。あの最悪なトス」 

「はぁ? トスが特にすげぇ、の間違いじゃないか?」

「ああ? お前実際にトス打った事ないんだろ? ヒドイの一言だよありゃ。自己チューってのもそっから来てて セッターのくせに、当然の事が出来てねぇんだ。スパイカーに打たせるっていう当然の事がな。影山にとって必要なのは自分の思い通りに動く駒なんだよ。自分が勝つために要らないモノは、ポイッ! って感じでな!」

 

散々な言われようだが、この金田一の言葉には心に来るものがあった。それだけ影山の事が嫌いで、そして思い詰めていたんだろう。

日向は日向でただ首を傾げていた。トスを打たせてもらってる(・・・・・・・・・)日向だからこそ、金田一の言っている事が判らなかった様だ。

 

 

「……まぁ、中学の頃の事は 一緒にいなかったオレには判らない。当然だよな。ただ、判る事はあるよ」

 

日向の肩を叩いて、そして 金田一の顔を見た。

 

「影山がどんな感じになってるのか、聞くより見た方が早い。多分、君の頭ん中にいる影山とは違う筈だから」

「(要らないもんはポイ? 確かに、影山はせいやと一緒でポジション相談主将からされてたし……、発言権もあるっぽい? いやいや、でもそんな横暴な事されたら、せいやだって黙ってない筈っ!! ……たぶん?? みすてないよね……??)」

「……何チワワみたいな表情作ってんだよ。ほら いくぞ翔陽」

 

 

そのまま、火神に背を押されながら、日向は場を後にするのだった。

 

「………王様がどう変わったのか、見てやるよ」

 

火神の言う事など信じられない。付き合ってきた時間の長さが圧倒的に自分が上だし、どういう人間か知っている。だからこそ変わるはずがない。と金田一は頭の中では言い聞かせつつ その場から離れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、漸く練習試合開始。

 

 

【烏野高校 対 青葉城西高校 の練習試合を始めます!】

【お願いしあーーす!!!】

 

 

 

 

 

先行サーブ権は烏野。

 

「澤村さん。イキナリ無理いってすみません」

「いや、俺も火神の意見聞いて試してみたかった。払拭できる機会かもしれないし、やってみる価値はあると思うよ」

 

火神はボールを手に取って、日向に渡した。

初っ端のサーブは日向。

 

 

それは試合開始より少し前の事。

 

どうにか腹痛は収まったものの、まだまだ緊張している様なので、一番最初のサーブを日向にしてもらうように配置変更をしてもらったのだ。ボールを一番長く持ってられるのはサーブの時だけ。与えられた時間をタップリ使って、それでいて思いっきりフルスイングをしてみろ、と提案した。

 

勿論、最初が即失点につながる可能性が一番高いが、景気よくボールを叩いた事で少しでも緊張緩和につながるかもしれない、と言うのが火神の意見だ。他のレシーブやスパイクでも良いが、やっぱり一番長く自分のペースで出来るのがサーブ。

孤独と田中は言っていたが、前には仲間たちが居る。1人じゃない。

 

【思い切っていけよ。ミスしたって皆で取り返すから】

 

火神の言葉に、大多数が笑顔で頷いた(月島と影山は論外)。

日向も頷いた。

 

 

そして―――日向のサーブ。

 

 

 

 

「(最初、本当の最初…… ミスはしたくない。でも、ミスする気でいけって……)」

 

 

緊張でなかなか動けれてない日向。でもずっとそれが続くワケもない。

主審の笛の音が響いて 本当の試合開始。

 

 

「思いっきりいけー、日向!」

「景気よく頼むぞー!」

 

 

「ッ……よしっ!!(時間タップリ使って……、思いっきり、思いっきり、スパイクする時みたいに。影山のトスを打つみたいに思いっきり―――!!)」

 

 

火神や田中の声に押される形で……、日向は 何故か ぎゅっ と目を閉じた。

 

それはまるで、あのトスを見ないスパイク、変人速攻のように。思いっきり行く為に、ボールを見ないでただただフルスイング。影山を思い浮かべたからだろうか。

 

 

――……いやいや、サーブトスは自分で上げるんだから、トスはちゃんと見ないといけないだろ? 見ないで打つのはあのあり得ない正確なトスがあってこそのものだろ?

 

 

 

と普通に考えたら、これは日向でもわかりそうな事実なんだけれど、今の日向は考えつかなかった様だ。勿論、全員前向いてるので注意もできない。

 

 

本当に思いっきり、思いっきり振りかぶってフルスイング! 見事にボールの芯をとらえる事が出来た様だが、高さが全く足らず、そのまま真横に勢いよくボールが飛んでいき。

 

 

 

 

ばちこーーーーんっ!!

 

 

 

 

 

と、ボールは影山の後頭部を強打した。

 

 

まさかの展開。

 

日向のデビュー戦の一番最初の最初、初っ端のスタートが影山の後頭部への強打に始まった。

 

如何にまだまだ力の足りない日向とは言え、目をつむった上での全力フルスイングだったからか、それなりに威力があったらしく、倒れたりはしないが、影山はネットに頭から突っ込んでいたのだった。

 

 

 

 

 



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第23話

これは想定外。

本当に想定外。

 

知らなかった出来事、と火神には言えるかもしれない。

 

 

 

見事、影山の後頭部を打ち抜いたボールは、日向のサーブの勢いそのままに―――日向の方へと還っていき、今度は日向が顔面を打ってしまう結果になった。

 

「ぐへぇっ!? はぁ!?? なんでボール戻ってくんだっっ!?」

 

そして日向の言葉を聞いて、皆初めて理解した。

普通なら耳を疑う所だが、日向は影山との速攻で何度もやってるから直に連想出来たのだ。

 

 

【コイツ、目瞑って打ったんだな?】と。

 

 

 

 

「……か、影山。だいじょーぶか??」

「………………………」

 

 

ネットに顔面埋めてる影山。何だか、効果音が聞こえているのは気のせいだろうか。

【ゴゴゴゴゴゴ……】と腹の底から、……地の底から唸り上げる様な そんな低くも殺気MAXの怒号が。

 

とりあえず、皆固まってて火神が一番最初に動けたので、影山を引っ張り上げる様に戻した。

 

「か、影山? 気持ちは判る。イキナリ頭やられたら誰だってそうだ! きっとそうだ!! でもな、そこを何とか落ち着いて! 本当に始まったばっかなんだけど、とりあえず一度クールダウンをだな……」

「……………オレ、何か言いましたっけ?」

 

澤村も慌てて抑える様に影山に寄ってくるが、影山の何処までも低い声にあろう事かキャプテンまで怖気づかせてしまっていた。澤村が【ひぃっ!】と小さく悲鳴を上げるなんてレアそのものだ。

 

 

「(一発目は全然想定してなかった!)た、タイム、タイムお願いしますっっ!!」

 

菅原に、武田にジェスチャーを必死に送って促す火神。

放心しかけてた外の皆も状況コンマ数秒後には理解して、頷きながら主審にタイム要求。まさかの幕開けだ。

 

「(力抜かせる為、緊張を少しでも緩和する為の最善策だって思ってたケド、まさかの落とし穴だよ! コレ!! 火神は責任感じそうだし、影山は爆発しそうだし!? ほ、他のヤツまで責めたりすんなよ……!)」

 

タイム要求をした後に、爆発寸前の危険物処理担当に臨時で、臨機応変になった菅原がスタンバイしている所で、沈黙を破っていた田中・月島組が動き出した。

 

 

「……プッォハーーーー!! ぅオイ、後頭部大丈夫か!? ぶあっはっはっは!! てか、ネットに絡まって漁業か!? ついに影山も捕まっちまったか?? トビウオか!? 飛雄(・・)だけに!!?」

「ぷっすーーーナイス後頭部! ナイスお魚さん!」

 

「煽るのダメだっつーーの!!」

「こらこらこら、ヤメロお前らっ!!」

「とりあえずとりあえず、いったんベンチに行こうか!? 落ち着け落ち着け、えーと素数を数えてだな……」

「考えさせちゃダメでしょーー? 火神くん。今きっと頭ぐわんぐわんよー」

「いい加減にしとけっ! 月島!!」

 

 

 

 

ここまでチームがお祭り騒ぎになって漸く、日向は事態を把握した。

 

 

 

「―――――やってしまった」

 

 

 

自分のサーブが、あろう事か影山に命中したという事実を。それも渾身の一発だったのは覚えている。日向の脳内ではサービスエース。火神のジャンプサーブの様に相手コートに突き刺さる予定だったんだけれど、突き刺さったのは、影山の後頭部だった。

 

確かに影山をぎゃふんと言わせたい気持ちは日向にもあったし、更に言うと金田一に言ったように、日々虐げられていると言っていいから、積もり積もる部分はあった。だけれど、その借りはプレイで返してこそ。攻撃的に、物理的に返すの等もってのほか。ミスをしていいとは言われていても……、それでも 1点相手にタダで上げた挙句に影山の逆鱗に触れたともなれば、日向にとっては死活問題。

 

それに、金田一が言っていた【勝つために要らないモノはポイッ!】発言も頭に残って新しい。頭に直撃させた挙句に1点失ってしまった。そう判断されてもおかしくない。

 

 

「……………」

「あっ、オイ影山! ベンチあっち! まずこっち来いって! ほら、怪我してるかもだし」

 

 

色々と頭の中でごちゃごちゃと考えを巡らせ、打開策を探している内に影山は動いた。

その日向よりも遥かに大きな体を、左右に揺らせながら、まるでオカルト映画に出てくる幽霊? か何かの様に ヒタ、ヒタ、と近寄ってくるのは、本当にホラーだ。

 

「ま、まてまてまて 話せばわかるっっ、お、オレ力いっぱい いっちゃって、ボールぜんぜん見てなくてっっ!」

 

言い訳をしようと必死に必死に言葉を重ねつつ 考えるが、なかなか良い感じの弁明が浮かばない。

そうこうしている内に、影山が真正面にきた。

 

 

「………………お前さぁ」

 

 

物凄く低い声。

聞くだけで汗が噴き出そうな、全身から血の気が引くような感覚を日向は味わっていた。慌てていて、バタバタと動いていたのに直立不動になって動かなくなった程だ。

 

 

 

「前ん時もそうだったよなぁ。……ビビってビビってビビりまくって、挙げ句 腹痛起こしてトイレん中籠ってたっけなぁ?」

「ッ………ハイ」

「前ん時といい今といい、……一体何にそんなビビって緊張してんの?? 相手がデカいこと……? 初めての練習試合だから……?」

 

 

目が座ってる。常に真顔で見方によれば怖い影山だが、これは更に怖い。

知っている筈なんだけれど、予備知識のある火神でも、正面から見るのを躊躇っちゃってた程のものだ。

 

 

「それにさぁ、いつも直ぐ傍にでけぇすげぇ奴が居たってのに、なんで学習しねぇの……? 気がゆるむって甘えだろ………? 俺の後頭部にサーブブチ込んどいて、まだ――――甘えたいとかいう気?」

「――――イイません。デキません」

 

 

影山に甘えるなんて、それこそ別の意味でホラーだろ! とツッコミが来そうだったが、そこは誰も何も言わなかった。まだまだ見守る事にした。澤村も菅原も、火神も。……田中と月島組はさっさとベンチへ連れ込んでるので言わせない方向である。

 

 

「あぁぁ、あとさぁ。ビビるって事は 恐いって事なんだろ……? 今もブルってんもんなぁ? 恐がってんだよなぁ? ……つまり、オレの後頭部にブチ込んだ事はお前ん中じゃ恐ぇって事だなぁ? 恐ぇからビビってるって事だよなぁ? ――――それ以上に恐い事って、ある?」

「――――すみません。とくに、おもいあたりません」

「そうぉかぁ……、じゃあ、もうビビる必要も緊張する理由ないよなぁ。今後一切する必要ないよなぁ……、もうやっちまったもんなあ!! 一番恐いこと!」

 

 

自分の後頭部をスパンっ、スパンっ! と叩きながら迫る影山の眼力はすさまじいの一言。

日向は脂汗、冷や汗だらだら出てる。蛇口ひねったみたいに。

 

 

「それじゃあ――――、こっからは通常運転のみだ!! バカヤロ――ッ!! これ以上くだらねぇ事でチームに迷惑かけんじゃねぇぞボゲェぇ!!!」

「――――――っっっ!!?」

 

 

耳がキーーーンッ! となる怒号を浴びたが、それだけだった。

止めに行こうとスタンバイしてた菅原も火神も澤村も、きょとんとしていたが、とりあえず安心出来た。

 

「あ、アレ? そんだけ?? 今のヘマは無しにしてくれんの?」

「―――あ゛あ゛? 無しにしてやると思ってんの? なら、次から自分の後頭部気を付けとけよ」

「――――ゴメンなさい。カンベンしてください」

 

 

日向も十分反省した模様だ。影山がこのくらいで許してくれたのは本当に良かった。……全力フルスイングなのでそれなりに頭痛い筈なのに。

 

火神が怪我の有無を確認するが、影山は【あんなヒョロヒョロ球で怪我するか! 鍛え方が違うんだよ!】と言っていた。

頭は鍛える(物理的に)事出来ないと思うが、それは言わなかった。

 

 

 

影山もある程度はスッキリ出来たようなので、火神が間に入った。……と言うより日向に向き合った。精神論とかではなく一応 事実確認とその注意をする為に。

 

「とりあえず翔陽……、確かにオレは思いっきりいって固さをとれ、って言ったつもりだけど、目を瞑れ! とは言ってないぞお前……」

「うぅ………、お、思いっきりと言えば ソノやりかただったんで……」

「アレは影山がボールを持って行ってくれてるから成立するもんだし、スパイクは叩きつける為にするんだろ? サーブで味方コートに叩きつけてどーすんの。せめてホームランにしとけよ……」

「ハイ……、ゴメンなさい。(うぅ……オレのせいで……。一緒にやってきた せいやがこんなにしっかりしてんのに……、オレ、ちゃんとしなきゃいけないのに…………最後まで出たいっ……)」

 

一応リーダー職を任されてるので、出来る所はする。言うべき所は言う、と言うスタンスを貫いてる火神。

反省の色は十分見えたので、もう終わりにしようとした所で 一頻り笑って満足した様子の田中もやってきた。

 

「おうコラ日向!!」

「はいぃぃっ!! ………ハイ」

 

田中に凄まれたら日向も正座する以外道がない。あの時の影山も恐怖だが、威圧においては田中も十分に恐いので。

 

「……オマエさ。火神の説教ん時、【オレも上手にやんなきゃいけないのに】とか思ってただろ。思いっきり顔に出てたぞコラ」

「う、うぅ………、だって オレが一番足引っ張って…… ちゃんとやらないと交代させられるから……」

 

しょぼん、とする日向をじろりと見下ろしつつ、大きく息を吸い込む田中。

そして、思い切り吐き出す様に日向に向かって言葉を放った。

 

 

「なめんなよ!! お前がヘタクソなことなんざ最初から判り切ってる事だろうが! (オレみたいな)天才たちを前に目が眩んじまうのは判らんでもないが、いきなり出来るワケねーだろうが! それ、全部わかっててお前の事入れてんだろ!? 大地さんは!!」

「え゛……??」

 

 

田中はそう言うと火神の首に腕を回して、抱き寄せる形をとった。

男に抱き寄せられて喜ぶ趣味は無いんだけれど、とりあえずされるがままな火神。

 

 

「確かに! お前が思ってる通り、コイツはおかしい!!」

「……いや、おかしいって……」

「日向と同中な癖して、メチャクチャやりやがる!! いや、ほんっっっと判らんでもない!! 特に潔子さんの事とかな!!!」

 

田中の発言を聞いて遠い目をするのは菅原と澤村。

 

「……絶対アレ、私怨入ってるな?」

「違いない……」

 

「……………」

 

当の清水は、ただただ無視を貫いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「今、コイツと同じことやれって言われても無理。無理なもんは無理だ! ぜぅぇぇったいに無理! んで、それで交代させられたとしたら――――そん時に考えろ!!」

「ええっ………」

「いいから余計な心配すんじゃねぇ! 頭の容量少ないくせに! 良いかァ、バレーボールっつーのはなぁ! ネットの【こっちっ側】に居る全員、もれなく【味方】なんだよ!!」

 

 

腕を回されてる首にそろそろ痺れや痛みを感じ始めた火神だった。特に清水の件では一際力が増した様に感じて、小さく悲鳴を上げていた。

でも、田中先輩の名言をこんな間近で聞けて感動もしていて、痛みも何処かへと吹き飛んだ。

 

 

「ヘタクソ上等だ! どんどん足引っ張って迷惑もかけろ!! それを補ってやる為に、オレ達チームがいるんだろうが!! 特に、【先輩】のオレ様がな!!」

「ぉ、おおおおお!!」

「流石です! 田中さん! いやいや、田中先輩っ!!」

「わははは! そーだろそーだろ!」

「感動しました! ……なので、そろそろ離してください!」

「わははは! 日向も言ってからだ! 【田中先輩】とな!」

 

 

痛みは吹き飛んだけれど、現在継続中なので新たな痛みとなって更新されるので、早期解放を願ったんだけど、田中の要求は日向にも、との事だった。日向は言われるまでも無いようだ。

 

 

「田中先輩!」

「わははは! ほれほれ、もう一回!!」

「田中先輩!!!」

「わーーっはっはっはっは!!」

「痛いです、田中先輩!!」

「がーーーっはっはっはっはっは!!!」

 

 

 

楽しそうに(約一名やや苦しそうに)話が盛り上がってるのを見て安心する。武田も止めようか止めまいか、とおろおろしていたが、上手く纏まったようなので一安心していた。

 

「あれ、先輩って呼ばれたいだけだな。んでもって、自分で清水の名前出して思い出して、ちょっぴり嫉妬向けてる、ってトコか」

「うん。まぁ、後半は置いといたとしても、田中が居てくれて助かったよ。ああいうのって、絶対裏表とかなさそうな奴が言うから、効果があるんだろうから。日向の顔色も大丈夫そうだ」

 

 

と言うワケで、何か有意義なタイムだったか? と聞かれれば、客観的に見たら有意義とは言い難い。でも、日向の顔色が戻ってるのを考えたら最高の終わり方だと思う。

何せ、まだ第1セットの序盤の1点リードされてるだけ。本当にただ始まったばかり。下手なミスで更に追い込んで………となったら、もっともっと大きくリードを許しているかもしれないから。下手すれば、1セット取られるくらいに。

だから、今のあの影山へのスパイクショットも終わってみたら良い結果だ。……影山には申し訳ないが。

 

 

 

「おいおーい、後で後頭部狙うサーブ教えて! すげースッキリしそうだ」

「く―――――っっ!」

「あ、ボクにも教えてね~。王様狙うの面白そっっ」

「はぐぅ――――っっ!!」

 

 

無論、暫く日向がイジられたのも言うまでも無い事である。

 

 

 

気を取り直して第1セット仕切り直し。

影山からの日向への指示もばっちりだ。

 

 

 

――勿論、内容は3対3の時と同じ。ブロックの居ない所へMAXスピードとジャンプでフルスイング。他の人にぶつかるのはNG。

 

 

 

日向も上手く緊張も解け、今はただただ集中している。――時折見せるすさまじい集中力を発揮している。……だが、今は後衛なので本当の意味での出番はまだ少し先だが。

 

 

相手のサーブから試合が再開し、ボールが飛んだ先には火神が入った。

普通のフローターサーブ。

 

「火神ッ!」

「っ……!」

 

強烈なのを意識していたのは間違いないが、決して油断せず影山へとAパスで返す事が出来た。

 

「ナイスレシーブ。……田中さん!」

「おっしゃぁっ!! ごっつあんでーーす!!」

 

 

レフト・ライトも動いていたが、田中にブロック2枚つかれた。

だが、物ともせず力いっぱい打ち込んだスパイクは、相手の手に当たりつつ 自陣コートに叩きつけられて1点返し、カウント1-1の本当の意味での仕切り直し。

 

 

【おーし!!】

 

 

全員集まって円陣。

月島は嫌そうな顔してたが、火神が連れてきて輪に加え、日向はただただ笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後――シーソーゲームが続き、カウント4-5で烏野のサーブ。

サーブは……火神。

 

 

「いっけーー、せいやーー!」

「頼むぞ火神!」

 

 

日向を始め、澤村達のエールも貰う火神。無論口には出さずとも、影山も そして楽して勝つ事に越したことはない、とか考えてる月島も期待はしていた。

 

そんな期待を背負って――物凄く光栄なのだが、申し訳なくも火神は思ってる。

 

今、物凄く集中しているから。日向の時折見せる五感で感じられる程、ピリつくような空気を出してるアレと何ら遜色ない。

 

背を見せている火神をつい見てしまうのは影山だった。

 

ネットを挟んでやっていたあの中学の時に感じられたオーラの様なものを、あの時以来。

火神に感じてしまったから。

 

 

火神は集中し続ける。本当に練習試合か? 公式戦ではないか? と思ってしまう程に。

周りの様々な音がシャットアウトされる。

 

 

 

 

 

――青葉城西。勿論知ってます。……知ってるどころじゃありません。オレは あなた達全員が憧れです。前も……今も。

 

 

 

 

 

目を閉じ――思い浮かべる嘗ての自分の記憶。

青葉城西の核となる人物はまだ来てないが、それでも興奮が抑えられない。

 

 

 

 

 

 

――俺は今、烏野の一員としてバレーをしています。力いっぱい、精いっぱいしています。敬意と憧れを胸に、力の限り。

 

 

 

 

 

 

火神は、エンドラインから6歩の位置で止まる。

ジャンプサーブのルーティンだ。

 

 

 

金田一が注意を促した事もあるが、その雰囲気は相手側もある程度は解ったのだろう。

 

より一層注意し身構える……が。火神から放たれたジャンプサーブは相手――岩泉の腕に当たり弾かれ体育館2階のフェンスに直撃した。

 

 

 

 

 

――青葉城西の皆さん。……烏野高校の火神誠也です。以後宜しく。

 

 

 

 

 

 

火神は 小さくガッツポーズを見せると同時に、軽く相手に向かって頭を下げるのだった。

 

 



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第24話

もうバレバレだと思いますが、更に解ると思います。
私がハイキュー!!でどの試合が特に好きだったのかを・・・苦笑


サービスエースを決められたその時、皆に謝罪しつつ――岩泉は冷静に考えていた。

 

 

強烈なサーブ。

 

 

それは別に珍しい事ではない。自分のチームにも打てる男がいる。

それに中学から高校に上がった時にも、それは何度も体感した。一味違う高校の世界でのサーブ。本当にスパイクをそのまま打たれてるのか? とも思えて驚いたものだ。

 

――そして今も驚いた。

 

強かった頃があったとはいえ、もう過去のものと言われている烏野と言うチーム。

影山と言う天才が入ったという事は知っていた。そして、勿論 もう1人(・・・・)の存在も知っていた。その男はウチで取ろうとしていた事も知っていた。

その男は想像を超える選手なのだろう、と言う事も判った。監督が狙った理由も、そして――勧誘する為に複数(・・)で行った事も。

 

「……すげぇな。あの1年。及川と変わんねぇんじゃねぇか?」

「そんな事ないっス! 及川さん程じゃ絶対にないッスよ!」

「いや、アイツを別に庇わなくても良いって金田一。こんな時に余計な怪我したバカって頭に入れとけば。……後、これは素直な賞賛ってヤツだ。実際 徐々に上げてくるならまだしも、初っ端のサーブであそこまで出来るのって大したもんだ」

「中学の時より、当然の様に増してる、か。厄介極まりない……」

「国見も何度か貰ったんだってな、アレ。……ふぅ、気ぃ入れ直すわ」

 

ぐっ、と力を入れ直す岩泉。

サービスエースを取られた事。自分のミスで取られた事。いつもならメチャクチャムカつく所だ。相手にも、相手以上に自分自身にも。

ただ、今はどうだろうか。

岩泉は、言葉にしにくい感覚があった。確かに自分自身のミスは腹が立つし、修正しなければならない事だ。同じ様にはならない、と心に決めつつ 皆への謝罪。

 

でも、腹が立つではない。言うなら褒めてやりたいような感覚。

 

これは岩泉にも初めての感覚だった。礼儀正しいから? と一瞬思ったが 今日出会ったばかりの対戦相手なんだから 当然と言えば当然なのだが。

 

「……これが及川からのサーブだったら、安心してムカつけるんだけどな」

「は? なんで? ってか、安心してムカつくってなんだ?」

「あー、全力でムカつけるって事だ。ほらムカつくじゃん。サーブ受けた後にもれなくついてくるドヤ顔とか」

「……わからなくもない、か」

 

ふふっ、と軽く笑った後に 彼らは引き締めなおした。

 

 

「良いの一発貰っちまったからな。直ぐに取り返す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火神はサーブを決め皆と円陣組んだ後、再びボールを手に持った。

先ほどの一球は会心の一撃とまではまだ言わない。

意識して70~80%で放ったサーブだ。

それでも狙いは間違いなく狙った所に飛んだしコントロールも問題なし。まだ絶好調! と称せれる程自信はないが 出足は好調だ。

 

「(岩泉さんを狙った。……一番、及川さんとの付き合いが長い人だし、あの人のサーブを見て、それに受けてる筈。……つまり、及川さんにも負けてないって少しくらいうぬぼれても良いって事かな)」

 

磨きに磨いたサーブ。別次元の選手達を見て、追いつきたくて、頑張ってきたサーブだ。それが通用しているとなれば、物凄くうれしい事だし、感動もの。

 

基本火神も調子は徐々に上げていき、終盤に体力が続く限りトップギアを継続するスタイルなのだが、ここに来てそうでもないらしい。

 

「(オレは所謂、喜んではしゃいでる子供って感じだな。……なんか良いな、それも)」

 

自分で自分の事を子供と称しているのに、何だか嬉しくも思えてしまってる自分にこれまた笑える。きっと全てを受け止め包み込んでくれる所に来れたからだ。

 

 

火神は、エンドラインから6歩離れて向き合った。

 

 

次は拾ってやる! と言う岩泉の熱烈な視線を受けたのが、申し訳ない。次に狙うのは別と決めていた。

 

主審の笛が鳴り、数秒後に打ち放つジャンプサーブは、正確に勢いよく―――背番号6.金田一の方へと向かっていった。

 

「さぁ、憧れタイムも もう終わり。まずは中学ん時の借りを今返すぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狙われた事に対しては問題ない。強烈なサーブは この青葉城西に来てから何度も体感した。これが初っ端のサーブなら金田一は面食らってしまうかもしれないが、上手く覚悟は決めれた様だ。

 

「ぐっ、おおッ……!?」

 

何とか追いつく事が出来たが、レシーブは完全に乱れ、後方へと飛んだ。

 

それでも火神のサーブは強烈無比。中学の時とはやはり違った。

岩泉の言葉を否定した金田一だったが、そう評していても何ら不思議じゃない、と感じたのだ。ただ、彼のプライドが……尊敬する先輩を思う気持ちが優勢だったからの言葉だった。

 

だが、今は彼を尊敬―――まではしてないが、強敵と完全に認めている。無名中学の異端児から、影山とはまた違った倒すべき強敵へと。

 

「くっ、国見! カバーだ!!」

「はいっ!!」

 

火神のサーブに身構えていた青城のメンバーは若干下がり気味の配置だった為、そのままボールを落とす事はせず、追いつきアンダーで上げる事に成功。

ただ、完全に乱されてしまったので、攻撃には移れず、相手にチャンスボールを与える事になってしまう。

 

だが、点をこのまま取られるよりは断然良い。二回連続のサービスエースは許さない、と思っているから。

 

 

国見から岩泉へ繋ぎ、……そして 烏野のコートへと還ってきた。ボールを高く上げて返してきたその位置はアタックラインのやや外側。

 

 

「チャンスボールだ!」

 

 

澤村が声を上げた。

そして……打ち合わせたプレイの絶好の状況、そしてタイミングでもある。

 

 

「影山ッ!!」

 

 

火神が影山に声をあげた。

 

影山はセッターだ。ファーストタッチがセッターが取れば、トスを上げる者がセッター以外になってしまうから、基本的にセッター以外の者が取れる事に越したことはない。……が、影山の名を出して、それに何ら迷う事なく落下地点へと影山は入った。

 

「オーライ!」

 

影山のそれはレシーブではなく、ファーストタッチからのセットである事に気付くのに時間はかからなかった。……影山から火神のバックアタックだと。

 

「ツーで来るぞ! 金田一!!」

「はいっ!!」

 

見極めるのが早いのは流石の一言。

チャンスボールだから、基本的に丁寧にレシーブ・トス・スパイクの流れでも良い筈なのに、いきなりのセットで驚いたりはしない様子。

青城は流れるような動きで、ブロッカーが揃い、影山から火神に上げられたトスに間に合った。

 

そして――助走からジャンプ、スパイクを構える空中姿勢を……火神は空中でキャンセル。

 

 

「「「はぁっ!?」」」

 

 

火神は自分にセットされたボールを再びセット。完全に青城のブロックをフルことに成功。

コートの端でそれを待っているのは田中。狙い放題である。

 

 

「ブロック―――ゼロッ!!」

 

 

勢いよくコートに全力スパイクを叩き込んだ。

ブロックだけでなく、レシーブも完全に火神からのバックアタックだと備えていた為、田中はノーマークだった。

ボールに触る事さえできず、コートに叩きつけられ後方へと弾き飛ぶ。

 

逆転の1点だ。

 

【よっしゃああ!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、いきなりではなく事前に打ち合わせをしていたプレイでもある。

それは試合前、火神が提案した物。

 

 

【このチームで一番ビックリするプレイって、影山~翔陽のあの速攻だと思うんです】

 

 

その火神の言葉に全員が頷く。

日向は 《ビックリする》つまり《スゲープレイ》《天才》と頭の中で都合よく変換した様で目を輝かせつつ頭を掻いて照れたりもしていた。月島は 頷きはしたが、ビックリより変態的なプレイだな、と言う意味でもあったというのはまた別。

 

 

【なので、翔陽が後ろに居る時、あの速攻は出来ませんから 後ろにいる間もビックリしそうな攻撃をしたいと思ってます】

【考えは大体わかった。畳みかけたら倍増するもんだからな。驚きタイムの継続は良い。相手のミスにもつながる。……それで、方法としては奇襲をかけるって事か?】

【はい。その通りです澤村さん】

 

火神はその後、サーブで崩し チャンスボールが返ってきた時の展開。

それも出来ればネットに近い所に返ってきた時の事を想定して案を出した。

 

それが今回のプレイである。

 

【勿論、それでも奇襲になりますし、影山からのセットでフリーなら 俺がそのまま打ちます。ただ、青城のブロックも優秀なのは間違いありませんから、ブロックが反応してマークされたら、セットし直しますので、狙ってください。使いどころは 序盤辺りが望ましい所です。中盤、から終盤は翔陽との速攻が活きると思います。トリッキーなプレイは驚きますし、何より―――】

 

火神は、影山の背中を押して前にやる。

 

【相手は影山を見る(・・・・・)って言ってるんですから、存分に息があってるトコも見せたいと思ってますから】

 

にっ、と笑う火神を見て 皆自然と笑顔になった。

 

【問題は王様がちゃんと従ってくれるかだケド?】

【あ゛あ゛!!?】

【はいはい、月島ステーーイ】

 

ここぞという時の毒舌入れも忘れない月島だが、しっかりと菅原がフォロー。

 

【はっは、やってみんべ。決まったら相手もビックリするかもだけど、寧ろ俺らがビックリだな。見た事あっても やったことないヤツだ】

【かーー、オールラウンダーかよ。ムカつくわー】

【ムカつかないで田中さんもしっかり狙ってくださいよ? ……勿論月島も。なるべく空いてそうな所に飛ばすから】

【はーい】

【勿論だな! わははは!! 決まりゃ最高に気持ちいいぞ!】

 

 

 

 

 

そして―――決める事が出来た。序盤の日向ビックリタイムの前に。

警戒相手として、まずサーブで火神が前に一歩出た。続いて今回の起点になった事でその警戒心が更に増し、その体が更に大きく見える様になった。

 

日向の動きで攪乱する前に、小さな小さな烏が空を飛ぶ前に、大きな烏が威嚇をしてくれた。

 

 

まだ序盤戦だが、たまらずタイムアウトを取るのは青葉城西サイド。

影山後頭部アタック事件で、なし崩し的に取った烏野の時とは違う。警戒心を更に強めたのは監督側も同じだったから。

 

 

 

「うはーーー、きんもち良いな!! 格別だなこりゃ!!」

「ナイスです。田中さん!」

「おおよ!!」

 

 

一番チームの中でお祭り騒ぎをしてるのは、点を決めた田中。

 

そして冷静に、いつも冷静に、毒舌こそは忘れないが それでも極めて頭を使ってる月島は今のプレイを頭に焼き付けていた。

 

「(……出し抜くのは良いとして、抜かれるっていうのは嫌だな。ドシャットできなくても、あんな風に振られたら……… スゲーー腹立つ)」

「ツッキー、なんで火神睨んでるの?」

「うるさい山口」

「ゴメン、ツッキー」

 

月島の精密なブロックは、ひょっとしたら此処から上がっていくのかもしれないな、と火神は人知れず思いつつ、次は日向の元へ。

 

「次は翔陽だぞ。影山も」

「おうっっ!!」

「いや、まずは火神のサーブだろ。終わってないんだから」

「ぶー――、せいやはそんなつもりで言ったんじゃねーだろー!」

 

影山と日向がまた小競り合いを始めてしまうので、火神はさっさと澤村の方へと戻る様に促すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青葉城西側では、烏野側が目論んだ通りビックリタイムに見舞われている。

 

「おいおい金田一~。あんな事してくるんなら、もっともっと大袈裟にでも言っててくれても良かったじゃねーか。一番厄介だけとか足りんっすよ~」

「いえ、厄介以上の言葉が見つからなかったんですよ……。あのセットは俺も初めて見ただけで……。それに影山のヤツとあんな上手く合わせるなんて思わないですもん」

 

金田一に非があるワケではないのは重々承知の上だが、それでもやってきた強烈サーブからのカウンターでのスーパープレイ。やられた側はたまったもんじゃないのだろう。ボールを目で追うだけでも疲れてしまいそうなレベルだったから。

 

「ふぅむ……、それは少し違うぞ金田一。影山に上手く合わせてるとは言い難い。アレはそんな付け焼刃なセットじゃない。………言えば信頼だな。信じてるからこそ出来るプレイだ。信じてるから火神の声に反応し、直ぐにセット出来た。火神なら決める、若しくは上げる。だからこそ迷わず躊躇わず綺麗に上げた。影山は自己中心的でプライドが高く、勝利に人一倍貪欲。……それ故に1人で走ろうとする。……そこにあの火神と言う男がブレーキであり、つなぎ役になってる様に見える。チームプレイをする為にな。……無論、まだ始まったばかりだ。決めつけるのには少々早いが、独善的なプレイスタイルは今のところ見せていないぞ」

 

青葉城西の監督 入畑。

彼は火神を獲得しようとしていた監督たちの1人。火神の事を あのたった一戦だけの試合で注目していた。そして、どんな能力を持つ者なのかも察した。自身のチームキャプテンと似たようなスキルを持っているのだろう、と。

 

「…………影山が信頼? 信じてる?」

 

一瞬だけ耳を疑った言葉ではあるが、それでも何だか納得してしまっている自分も何処かにいた。

影山単体では不快感しか記憶に残っていないが、火神と言う男は そういうものを持っているんだと思えたのだ。影山でさえ吸収し、昇華させてしまう何かを。

 

「あの連携攻撃は確かに厄介だ。影山ほどとは言えないかもしれないが、火神のトスも見事だったからな。セッターが2人いる、と思っても良い。ブロックはふられたとしても、しっかりレシーブをしてあげろ。……後、あのサーブだが、火神はジャンプサーブの他にもジャンフロもある。その事は頭に入れておけ。……それと、アイツはまだ入ったばかりの1年。歳を出すのは大人気ないかもしれんが、ルーキーに負けないようにプライドを見せてあげてやれよ」

【はい!】

 

 

 

ここでタイムアウト終了の笛が鳴った。

 

どさっ、と疲れた様に腰を掛ける入畑の傍にいるのはコーチの溝口。

 

「いや、火神はやはり凄いですね。たった数プレイで目を見張らせられるなんて思っても無かったです。……ウチで獲れなかったのは痛かったですよ、ほんと」

「うん。まぁな。行く先は個人の自由とはいえ、確かに痛い。……ウチに来てくれたら、と思う事は今もたまにはある、が今日限りにするつもりだ」

「ははは……。影山と火神が合わさったらどうなるか。正直想像したくないです」

「ふむ………。成績は近年2回戦から3回戦止まりの烏野。……今年は全く分からなくなりそうだ」

 

 

 

烏野と青葉城西。

 

試合はまだまだ始まったばかりだ。

 



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第25話

青葉城西高校バレーボール部。

 

 

最新の戦績は県内準優勝。

優勝高校である白鳥沢に後一歩及ばなかったが、それでも十分に渡り合っていると言っていい。県で2番目に強い高校。それが青葉城西だ。

 

如何に強力なサーブを打てようが、如何にトリッキーな攻撃で翻弄しようが、……如何に逆転されようが、総崩れになるような事はない。

 

バレーのスキルだけではない。ここ一番での精神面(メンタル)の強さがあるが故に好成績を残せているのだ。

 

 

火神のジャンプサーブを完璧にとはまだまだ言えずとも、上にあげる。そして セッターに返らなくとも構わない。何故なら全体的にスキルが高いからだ。

 

申し分のないトスのスキルにより、他の選手が補填する。

今回はリベロの渡が正確に岩泉に上げて、そのまま返された。

 

 

「―――よし、こっから取り返していくぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

淡々と取り返し、同点にされた。

岩泉のその姿勢を見て、簡単に慌ててくれるような相手ではない事を改めて認識した。

そして、他のメンバーたちもそうだ。1年である金田一や国見も例外ではなさそうだ。

 

「流石……、チームキャプテンが居なくても、青城には 支える人がいっぱいいるって感じだ。欲を言えばもうちょっと稼ぎたかったんだけど」

 

火神は定位置に戻って愚痴る様に呟く……が、簡単にはいかないという事は知っていた筈。自分が憧れたチームだぞ、と気を改めて引き締めなおした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからもシーソーゲームが続いた。

青城に強烈なサーブを打つ選手が今は(・・)いない事と、澤村・火神・田中が どうにかまだまだレシーブの苦手な日向や月島(日向ほどではないが)をフォローする事で、決して離される事なく十分に渡り合えていた。

 

 

「あからさまにマークしてんなぁ、火神の事。烏野(ウチ)はコイツらだけじゃないんスけどぉ!! どらぁぁぁぁ!!!」

 

 

田中の剛腕スパイクで点をもぎ取る。

火神は試合早々に色々と光り過ぎた故、田中が言う様にマークがきつくなっていた。その正確に狙ってくるスキルもやはり高い。返球時に上手く火神をけん制。サーブ以外にもその他のスキル全体的に火神も高いから対応は出来ているが、なるべく攻撃をさせない様にし、他の者を仕留める。と言った方法で攻めてくる。

 

 

……それをされた田中のフラストレーションも凄く高まって 良い具合に点を稼いでくれているのだ。

 

 

 

 

 

そして―――漸くやって来たのは日向 前衛のターン。

 

 

 

「この前の3対3と同じだ。お前は相手のブロックの居ない所へMAXのスピードとジャンプで跳んでスイング。他のスパイカーとぶつかんない様に気をつけろよ。……今、囮になってんのは火神だ。そこにお前が飛び付けば、言ってた様に二重にビビる筈だ」

「おうっ!!」

 

 

気合十分。日向も先ほどの様な硬さは全くない。レシーブも下手なりに上げられている。そして前衛。……頃合いだ。

 

 

月島のサーブ、そして流れる様に無駄のない攻撃で攻めてくる青城。

繋いだ最後に待っているのは国見、そのスパイクは強力ではあるが、火神の正面だった。

 

 

「火神!!」

「ッ、っくそ」

 

位置取りは完璧だったけれど、上手く影山にまで返球する事が出来ず、乱れた。

 

 

「(よし、アイツのレシーブ乱れた。……アイツの攻撃参加はない。多分、ライト側かレフト側のオープン。あの影山の位置からの速攻は無いだろ)」

 

 

金田一は目の前で繰り広げられている情報の1つ1つを正確に把握。ブロックする為にクレバーに徹する。影山関係で熱くなりかけ、火神のプレイでも熱くなったが、岩泉のプレイで冷静さを取り戻していた。

 

 

だが――再び冷静になれない出来事が発生。

 

 

【ライトに来い】【レフトに上げろ!】と言う想定していた攻撃の声が上がる中で、日向が突如飛び出してきたから。鬼気迫るその迫力に思わず身構える金田一。

 

 

「(なんだ!? あのチビが飛び出してきた!? 速攻?? いや、あんなボールから速攻なんて出来る筈がない。ただの囮か?)」

 

 

如何に冷静になろうとも人間は機械ではない。突如現れた想定外の攻撃法を見て一瞬思考が鈍った。そして、ある筈がない、と思っている攻撃が突如来たとしたなら……、それに身体は反応する事が出来ない。脳が無い、と判断しているのだから。反射で動けるのには限度があるから。

 

 

ネットからかなり離れた位置からの影山の超高速セットアップ。

ボールは日向の掌目掛けて一直線上にとんできた。

 

 

【なんだアレ!? トス!?】

【そっから速攻!?】

 

 

青葉城西は大きな体育館。そしてバレー部の強さは校内では勿論有名。故に練習試合ともなればそれなりにギャラリーが集まってきたりもする。……因みに、ギャラリーの一部の人達の目的はただバレーを見るだけではないのだが、今は割愛。

 

そのギャラリーたちが一瞬どよめいた。それ程までに影山のセットアップには驚きを隠せられないから。

 

そして、動く事が出来なかった金田一も同様。

 

「(速攻(クイック)……!? あんのか?)」

 

ブロックに跳ぶのも忘れ呆気に取られていると…… その日向の攻撃がこちら側へと入ってくる事は無かった。

あとほんの少しだった。影山の超高速セットアップは 日向の掌一つ分ボールが高く外れて、手に当たる事無く空振りをすると、ボールはコートに落ちて青城の得点となった。

 

 

「あれ……? あれれ??」

 

 

日向もボールが当たらない事が不思議だったようで、何度も何度も掌を確認しては首を傾げていた。普通、ボールが来る事が異常なのだけれど 日向にとって来るのが普通になっているのだ。

 

「(今の、速攻(クイック)……? あんのか? それともただのハッタリか……? でもまぁ、どっちみち 俺らの点だが―――……)」

 

 

金田一は、改めて影山を見た。

影山のセットアップをミスすると、当然の如く、烈火の如く怒りだす。それが北一での通常光景になってしまっている程に。影山は火神と何かを話してるようで背中しか見えず、表情が見えなかったから判らないが、ほぼ間違いなく日向が怒られるであろう事は予想がついた。なので、親切心で―――ではなく、ただ貶す様に日向にひっそりとつげた。

 

「ほれ、チビちゃん。今みたいなのちゃんと打てなきゃ影山怒りだすんだよ?? 最悪デショ? あのトス」

「ッッ!?」

 

金田一の忠告通り、影山はくるっ、と日向の方を向いた。

 

だが、行動は予想通りなのだが、その内容が全く違う正反対なものだった。

 

 

「日向! 悪い。今のトス、少し高かったわ」

「……?????? く、ふふふ。よし、許してやらなくもないぞ!!」

「……………」

「いだ、いだだだだ!!! 痛い!! 頭掴むなーー!」

 

 

日向の余計な一言で、頭を鷲掴みにされて宙ぶらりんにされたが、驚くべき所はそこではない。金田一だけでは無い。となりにいた国見も驚き二度見していた。

 

 

「「……影山が……謝った………?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

影山の超精密トスワーク。

助走からジャンプし スパイカーの打点に到達するまでの時間、高さ、更にスイングの速さ。それらを計算に入れて行うトス。

当然ながら難易度があり得ない程高いのは言うまでもない。5段階評価をするとなると、10点だって20点だって付けられる。

つまり 出来ないというのが普通だ。

 

バレーボールは 試合中ボールは殆ど空間に有る競技。空間認識能力は勿論、必要不可欠だ。高校初めての練習試合である事も多少なりとも影響があり、更に初めての体育館でのプレイもそれを乱されているのは間違いない。

ほんの些細な差が、僅かな差がズレとなり、日向のあの変人速攻が成立しなくなってしまうのだ。

 

どんな鈍感な男でも、図太い男でも、それは例外ではない。

精密を極める影山のトスワーク、一本目は失敗に終わった原因がそこだ。

 

影山が日向に謝る数秒前。

 

【影山。大丈夫そうか?】と火神が聞いていた。

 

その問いに対して、影山は何の躊躇いもなく、間もおかずに頷いて答えた。

【修正する】と。

 

 

 

 

 

そして 影山だけではない。火神は、先ほどのミスを見送った事に対して、自身を戒める為に頭を二度程掌で叩いた。

 

「(今のはフォローできるボールだったろ……。何呆気に取られてんだよ、俺)」

 

ミスをしない者なんて絶対に居ない。影山だって例外ではないから、日向が空振ったのを見た時、反応できていればよかった。フォロー出来ていればよかった。ブロックのフォローより、遅いボールの筈だったのに。

 

 

そんな火神の事も、そして失敗した事に対しても、一度落ち着かせる為に澤村が声を掛けた。

 

 

「よしよし、次だ次。折角強い相手との練習試合なんだ。色々と手探りで試していこう」

 

 

火神の肩を叩き、そして 日向と影山にも軽く背を叩いた。

そして それは澤村の色んな意味での大きさをこの時感じられた瞬間でもあった。

だから応える様に声を揃えて返事を返すだけだ。

 

【おすっ!】

 

 

次は絶対に成功する為に。……そして どんなボールでも全力でフォローする為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いて再び青城のサーブ。

火神のサーブに対抗して青城も強烈なサーブを……とか考えていたのだが、今の所全員が普通のフローターサーブで、ジャンプサーブやジャンプフローターなど、取りにくく難易度の高い難しいサーブを打つ者は誰も居なかった。

 

「(サーブも強烈だって聞いてたんだけど、まだ抑えてんのかな……?)」

 

外で見ていた菅原も不思議に思っていた様だ。

まだ序盤で後半使ってくる可能性も無くはないかもしれないが、それを考慮しても 少々安易なサーブな気がするのだ。

 

続いて打ってきたサーブもコースは良いのだが、問題なく火神がカットしていた。

菅原は、それを見て更に不思議に思うしかなかったのだった。

 

 

 

 

 

そして、火神が上手くレシーブを上げ、影山にAパスが返る理想的な攻撃。

 

 

「ナイスレシーブ!」

 

影山はボール落下地点に素早く入り、意識を集中。

金田一も同じく必要最低限の情報を把握していた。

 

 

 

飛び出してきたのは、先ほど空振りをしたセンターの日向、そしてライトサイド。更にレフトにもオープンで待っている。

 

「(影山は誰を使う……? いや、誰でも良い。止めるだけだ!)」

 

金田一は手に力をぎゅっ、と込める。どんなスパイクでも叩き落してやる、と言わんばかりに。

 

だが、それが叶う事は無かった。

 

 

―――今!!! ココ(・・)だろ!!!

 

 

 

極限まで集中した影山の超精密セットアップは、今回は正確無比に日向の掌をとらえたからだ。センターから飛び出してきて、ジャンプ。更に全力スイングはボールを正確に叩きつけて、そのままコートに直撃した。

 

バンッ!! 

 

 

と何度も聞いている筈のバレーボールの音とボールそのものを置き去りに、金田一はただ呆気に取られるしかなかった。

 

「………あ、え?」

 

 

そして何が起きたのか理解する事にも時間がかかった。

 

「「っしゃ!!」」

「おーし!!」

「よっしゃあ!!」

「………でたよ。変人トス&スパイク」

 

理解するよりも先に、烏野側の喜ぶ(一部例外)声だけが耳に届いていた。

 

【なんだ今の!! はえぇぇ―――ッ!!!?】

 

試合を見ていたギャラリー達もコート全体を把握できているからこそ、金田一よりも早くに理解した。とてつもなく早い速攻であるという事を。

 

 

「よっしゃ、火神が言った通り、これで青城は次のビックリタイムだ。慣れられる前に突っ走るぞ」

「おーーすッ!!」

「後ろで火神(でかいヤツ)の陰に隠れて日向(ちっさいヤツ)が動き出したって感じ。そりゃ見失うデショ」

「こらァ! 月島ぁぁッ!! ちっさい言うな!」

 

 

 

盛り上がってる間にも影山は相手チームを確認。

 

チラリと視線を向け、耳を傾けてみると……。

 

 

「オイオイあのチビ、速攻あんのか? ってか無茶苦茶早いじゃねぇか」

「まだまだ初心者、殆ど素人って感じだったのに……」

「……偶然、とはまだ言えない。だが今のを見た以上、マークは少し分散するぞ。無防備で打たれるよりはマシだ」

 

 

それらを聞いて影山は悪どい顔をして笑った。

それを見た火神もつられて笑った。こちらは悪どくはない。

 

「【よしよし、翔陽にビビったか? 存分に警戒しろよ??】 って所か? 影山」

「……おう。日向が機能すれば、他が更に活きる。勿論、お前もだ。いつでも良い。狙ってくれ。どんなタイミングでも合わせる」

「ははは。ほんっと頼りになるな。ここぞという時にサイン出す。よろしくな」

 

ははは、と笑いながら元の位置まで戻っていく。

 

火神が存分に光ったからこそ、小さな烏を見逃したんだ。その二段構えの攻撃が機能した。

だからこそ、影山にとって【頼りになる】の言葉は火神にこそ相応しかった。

それにトスに関して、影山に【大丈夫か?】と聞く者は今までいなかったから。

 

影山は 軽く息を吸い、吐き出すと全員を見た。

 

 

「じゃあ、こちらも総攻撃で行きましょう。一気に点を稼ぎます」

【おう!】

 

 

影山からの声かけでの円陣。

 

それを見て、更に昔の影山を知る者たちは驚くのだった。

 



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第26話

この話からいきなりゼッケン番号が出てきます。

澤村 1番
田中 2番
火神 3番
影山 4番
日向 5番
月島 6番

となってます。本文の中で描写出来てればベストでしたが、完全に忘れてました・・・。


日向の変人速攻が決まった以降の烏野高校の勢いは止まらなかった。

 

 

常に本気で100%信じて跳び続けるからこそ、日向のジャンプに相手のブロックもつられて飛ぶ。その結果、日向が囮となり味方がどんどん攻撃しやすくなるのだ。

 

当の日向は、そこまで深く考えてなかった様で、2度目の囮辺りから顔を真っ赤にし始めた。

何故なら 金田一の煽り……ブロックで止めてやると言う煽りに日向も思いっきり乗ったのに、ボールが来なかったから。

 

「うわぁぁぁ、メチャクチャはずかしーーーっ! 俺、相手に対抗して打つ気満々で【なんだとコラぁぁ!】とか叫んじゃったよ!」

「それ100点のデキだぞ、翔陽」

「ふぇ……!?」

「だって、翔陽が思いっきりいったからこそ、あっちのミドルがつられて跳んだ。結果 点を決めたのは田中さんだけど、それに勝るとも劣らない仕事を翔陽はしたんだ。つまり満点」

 

背を二度三度と叩いて日向を鼓舞する火神。最強の囮の本質を完全に理解したとはまだ言えないんだろう。

 

「そういうモンなんか?」

「そういうモンだ。んで、影山が視野広げてつられた相手も見極めて、スパイカー選んでるから、尚決まりやすい。理想的だ」

 

そして、今度は影山の背を叩いて、日向の方へと向けた。にっ、と笑顔を見せて。

 

「頃合いが来たら、影山が またドンピシャを上げてくれるから、それまでのお楽しみに、だ。だろ? 影山」

「おう。……休ませるつもりはねぇからな。こっからもガンガン打たせるからそのつもりで入って来い」

「お、おうっ!!」

 

 

1年同士が盛り上がった所で、田中が混ざり……そして 金田一の方を見て誇らしくいった。

 

 

「どうだ!?? 影山は前とは一味も二味も違うだろ? らっきょう君!」

「…………くそっ」

 

 

認めたくはないものの、影山とのセットアップが合っている以上、現実は変わらない。

あの影山の無茶苦茶なトスを打てるスパイカーが居るなんて想像もしてなかった。良くて掠ってフェイントの様な攻撃だと思っていたのだが。

 

 

「おい、金田一焦んな。焦れば焦る程相手の思うつぼだ。……点差は少々あるが、それでもこっちの攻撃だって要所では決まってる。呑まれるなよ」

「お、オス!」

 

 

岩泉はチラリと点差を確認。18-14のスコアで烏野有利。

確かに楽観視は出来ない点差になりつつあるのだが、それでも焦れば良いってものでも熱くなれば良いってものでもない。心は熱く、頭は冷静にならなければならない。

岩泉はそれがよくわかっている。……劣勢の場、修羅場を幾度も無く経験してきたのだから。

 

 

 

その後は取られては取り返しを繰り返して 先に20点台に乗ったのは烏野高校。

 

20点取られた所で青葉城西が2回目のタイムアウトを取った。

 

 

 

「ふぅむ……、まさかの伏兵ってヤツだな。無警戒、とは言わないが火神と影山を特に注視していたのは否めない。……正直侮っていた」

 

青城のメンバーが集う前に、入畑監督は チラリと烏野側を見た。あの小さな5番の能力を見て驚いた。とんでもない男がまだあの烏野にはいたのか、と。

 

 

「俺らが何度もやられたトスだよな? アレ」

「……あぁ。影山のあんなムチャブリトスに合わせれるスパイカーがいるなんて思いもしなかった」

 

 

影山が王様と呼ばれる所以のトス受けた事のある金田一と国見は驚きを隠せれなかった。

烏野が狙っていたビックリタイムとはまた違った驚き。……動揺。それが青城側にマイナスに働いてしまっているのは見て取れる。

主に守備の面では、動揺したままで あのトンデモナイ速攻を受け続けるのはリスクが高すぎる。

だからこそのタイムアウトだ。

 

 

「それは違うぞ。影山がスパイカーに合わせているんだ。中でもあの5番には完璧に、寸分の狂いも無くな。【打たせている】と言った方が合ってるかもしれんな」

「………?」

 

 

頭の中では金田一も理解出来ていた。

スパイカーが打てている以上……全く影山が妥協していない訳はない。一回や二回なら横暴なままの王様状態でも決まる事はあるだろうが、今の所ミスは最初の一球目だけだ。

 

……ただ、金田一は信じたくなかっただけかもしれない。

 

 

 

「外から見るとよくわかる。あの5番は1本目のレシーブが上がって以降、殆どボールを見ていない。見てるのは自陣のスパイカーの位置、相手側のブロックの位置、それだけだ。ブロックが居ない所へ全力で跳んで打っている。そこに影山が――振り下ろされる掌ピンポイントにボールを合わせているんだと思う。……あの5番がどこに跳ぼうとも」

 

 

 

衝撃的な事実。

ただ、スパイカーに合わせる……だけでなく、殆ど不可能だと思える攻撃。それを成立させるには どれだけの精度が必要となるか想像もつかない。人の掌の大きさなんてバレーボール一個分以下。そんな小さな的に狙って高速で上げる……。

 

「そんなこと、可能なのか……?」

「……やっぱ あの、影山が他人と合わせてる………」

 

 

それは色んな意味で、今日一番の動揺かもしれない。

 

 

 

 

 

「―――噂に聞いていた自己中心的でプライドが高く、何より勝利に対して頑なな影山。その影山が、彼の技術全部であの5番を活かす事に徹している。そうさせる程の能力があの5番にあるっていうことなんだろうな。……それと」

 

 

チラリと視線を向けるのは烏野側の火神。

チームをキャプテンである澤村とともに纏めようとしてるのがよく判る。見たところ今は1年生に限った話ではあるみたいだが。

 

 

「今度はあの5番の陰に入ってしまっているが、あの火神の影響も少なからずあるんだと思う。まぁこれも噂程度のものだが、聞いた話によると 影山はバレーで【全部1人で出来れば良い】とも考えてたようだが、背を安心して任せられる様な、相手が出来たんだろう。影山が認めた相手……とは言えないな。これも信頼の形だ。【自分があの5番に集中していても大丈夫。火神が居るから】って感じでだろう。本来ならそういうのはチーム全員で、補い合うのが望ましい事だ。でもそれは信頼関係があってこそ。……影山に限った話ではない。一朝一夕で出来るようなものではない」

 

 

入畑は 心底恐れ入っていた。

 

チーム力を向上させる。

そういったプレイヤーは見た事がない訳ではない。

 

 

仲間を鼓舞し、奮い立たせ、折れない様に務めるキャプテン。

何も言わずとも背で魅せ、信頼をさせる大エース。

幾度も攻撃を阻まれても、その度にボールを拾い続け 背を守る事で鼓舞するリベロ。

 

 

その他にも色んなプレイヤーを見てきた。

 

だが、そんな数多くのプレイヤー達と比べてみたら、火神は何かが違うと思えた。

 

単純に上手い、センスがある、高いバレースキルがある、コミュニケーション能力が高い。

それらだけでは片づける事が出来ない何かが。

 

それは長く苦楽を共にしてきた仲間であれば、積み重ねてきた信頼の厚い仲間であれば、可能であろう事を、高校の部活に入って間もない状態で それを成しているのだ。

 

 

 

昨今出来たチームである筈なのに まるで――ずっと共に在ったかの様に。

 

 

 

「―――本当に色々と驚かされる試合だが、心地良い刺激と受け取ろう。もうお前たちも相手が格下である、とは思っていないだろう?」

 

 

監督の言葉に無言で頷くメンバーを見て、入畑も同じく頷いた。

 

「勝ちたい、と言う気持ちだけは誰にも負けず、繋いでいけ。こちらも今出せる俺が選んだベストメンバーだ。プライドと自信を持っていけよ」

【はい!】

 

 

 

そして、タイムアウト終了の音が響く。

 

「ふぅ……」

「影山に火神……、2人の大型ルーキー。想像したくないような事が早速来ましたね」

「そうだな。うぅむ……これが青葉城西の監督としてではなく 一個人からの主観だったら、その2人の邂逅を歓迎する想いだ。広い視野で見れば日本バレー界を背負って立つ男たちと言っても過言ではないからな。……が、対戦相手とするなら話は別」

 

やや呆れ顔さえ見せる入畑は、烏野側を見た。

まだ、本当にまだ新チームで始まったばかりの時期。そして1年が半分以上を占める烏野。烏が一体ナニに化けたら ああなるんだ? と思わずにはいられない。

 

「高校生はまだまだ子供だ。………まだまだ成熟には程遠い血気盛んな奴ら。チームとしても個人としても、そこから様々な経験、そして挫折だって味わいながら、長く時間をかけて形を成していく。それが成長。なのに、あの男はその過程をザックリすっ飛ばした感じがしてならんよ」

 

一癖も二癖もある影山との信頼感は見てみて手に取るようにわかり、更に あの超速の速攻を成功させた日向も同じく、と言うより言わずもがな。

1年の纏め役なのであろう事は 傍から見ても明らか。

ベンチにまで気を回している様にも見える。

当然同じチームなんだから必ずいる2,3年とのやり取りも申し分なし。新入生特有の生意気さ等は皆無で、気を回し、気を使い……それでいて率先すべき所は率先し、常に上を見ている。その上であのパフォーマンス。

 

ここまで来たら化け物だと思っても仕方ない。

北川第一中学の監督陣が火神を【化け物】である、と称していたが その気持ちがよく判った。

 

 

「今年、そして来年以降も……一番厄介なのは烏野高校なのかもしれんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイムアウト後も烏野ペースは変わらない。

日向の攻撃も機能し続ける。その素早く動く姿は、突然視界の中に入ってくる姿は、どうしてもつられてしまうものだ。

そして、相手に穴が出来た所で影山はその穴に……針の穴に糸を通すが如き精度でトスを上げる。

 

センターからの月島の攻撃に対してもそう。

 

 

「月島!!」

「っ!」

 

 

センターからの(普通の)速攻が見事に決まり追加点。

 

「ツッキーナイス!!」

 

山口の声も更に増す。月島が点を取ったら普段の倍増しと言った所か。

 

「ナイスだ月島!」

「…………」

 

そして点を決めた月島はと言うと、自分の掌をじっと見ていた。何とも言えない苦虫を噛み潰したような顔をして。

その顔のまま、影山に辛辣な感想を告げる。

 

 

「お前のトス、精密過ぎて逆に気持ち悪っ」

「ア゛ァ!!?」

 

 

普通に褒める事が出来ないのが月島である。

認める所は認めているんだけれど……どうしても影山相手には、普通な会話が出来てない様だ。反応を面白がってる節もあるんだけど、時と場合を選んでもらいたい、と思うのは火神。

何せ、影山もただ言われただけで終わるような男ではないから。

 

「テメーだけメガネ狙ってやろーか!? 何なら全力サーブ後頭部に打ち込んでも良いぞ!? ああ!?」

「ふーん。やってみなよ。また体育館出禁になるから」

「ばれない様にやってやんよ、ボゲ」

「へぇー、どうやってバレない様にするのか逆に教えてもらいたいもんだね。バカなの?」

 

 

延々とバチバチやってるので、間に火神が入る。

 

「はいお2人さん。その辺りにしとこう。相手は向こう向こう。力も怒りもぜぇぇぇんぶ、あっちの人たちが受け止めてくれるから。存分に胸貸してくれるから 向こうに力いれて」

 

ぐいっ、と間を割った後に青城の皆さんの方を指さした。

【ふざけんな】って睨まれた気がしたが気にしない気にしない。気にしたら余計に疲れるのをわかってるから。

間に入ったのは良いんだけど、ローテーション的には、火神・月島・影山の順になるので結果的にはまた隣同士になってしまうのでまた心配だ。

 

「はは……、ナイスフォローだ火神。……大地さんの笑顔が怖くなってたし」

「あー寧ろ……澤村さんに怒ってもらった方が効果ありですかね??」

 

田中の言葉にそう返す火神。火神は基本的に宥めて仲裁する事が基本。叱ったりもする事はあるが、何と言っても主将からの叱責の方が迫力が違うので効果はあると思う。

 

そう思って 火神は澤村の方をチラリと見たら、笑顔で頷いていた。

【わかってるよ】と優しく言っている様に見えるのだけれど……、軽く悪寒がしたのは気のせいではないだろう。

 

 

 

と言うワケで、こちら側のサーブ。後2点でセットポイント獲得。

 

 

 

 

烏野vs青葉城西

 

 

 

の筈なのに、危惧した通り、あれだけで収まる影山と月島な訳ない様で、火花が飛び散っていた。

 

 

青城側の高身長ブロックに負けずと劣らない迫力を兼ね備えてて、外で勉強しつつ見ていた武田もそう評していたんだけれど、如何せんケンカが絶えないのはどうかと思う。

 

「君はブロックも得意なんだっけ? でも、あんまり出しゃばらないでね。180しか無いクセに」

「てめーこそ吹っ飛ばされんじゃねーぞ。ヒョロヒョロしやがって。腕折れんじゃねぇのか?」

「あーーーったくもう! 始まったら間に入れないんだから、超メンドイ! お前ら前見ろ前!! 打ってくるぞ!!」

 

 

岩泉のスパイクがやってくる。青城側のエースだ。決して油断していい相手な筈がないのに、ブロック同士でケンカが絶えない。………でも、今回は それが功を奏した。

何故なら、互いに負けん気がぶつかり合ってる為、【俺が止める!】と主張し続けたからだ。その並々ならぬ気迫は、相手スパイカーを一瞬怖気づかせる程で、最終的に 火神・月島・影山の3枚ブロックでシャットアウトする事に成功した。

 

【ナイスブロック!!】

 

これで、セットポイント。盛り上がる所なんだけど……。また揉める。

 

「ちょっと。今止めたのボクなんですけど?」

「あ゛!? 俺の手にもあたった!」

「3人の中で一番到達点低かったくせになに偉そうにしてんの」

「殆ど変わらねぇだろうがボゲェ!!」

「もーいーかげんにしてーー……」

「っつーか、俺の方が跳んでたんじゃねぇのか!? 鯖読んでんじゃねぇぞ!」

「はぁ? ボクちゃんと目はついてるんで」

 

 

こんな感じだったんだが、更に矛先があろうことか火神に向いた。

 

 

「おいコラ火神! 俺の方が跳んでたよな!」

「そんなワケないデショ。公平な立場で宜しく火神」

「――――……」

 

幾ら大人な対応を心掛けていた火神とはいえ、もうそろそろキャパオーバーだった。リーダー……保護者? はとても大変です。

 

 

なので、そこにキャプテンがやってきてくれて。

 

 

 

 

「お前らいい加減にしろ!!!」

 

 

 

一喝してくれた。

火神とは迫力の違った怒声に流石の2人も委縮してしまい、それを横で見ていた日向は笑っていて……影山にシメられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ……、金田一に言っといて情けねぇが、俺も焦ってきたぞ」

 

ドシャット食らった事でより危機感が増した岩泉。あの3枚のブロックを抜くのは相当難しいんだと認識した。烏野はあの攻撃だけではないのだという事を。

 

 

そしてそれは外で見ていた入畑と溝口も同じく。

 

「ふ~~~~~むん………」

「これは、どうしたもんですかね。あの5番を止めないといけないのは重々承知なんですが、5番に動かれてる間に3番の火神がまたやってくる……。他のメンバーの攻撃力も決して低くない」

「まさに脅威の一言だ。上手く全員の歯車が噛み合うと此処までになるとは……。特筆した3人を除いても、冷静さは足りないがパワーと気概溢れるスパイカーの田中君。若干覇気に欠けるが、負けん気は影山と張る上にクレバーなブロッカーの月島君。高い守備力を持ち全員を広くカバーする澤村君。……正直、守備面はまだまだ素人まがいなのが居るし、穴も多数あることはある。……が、その素人紛いが思わぬ所で牙をむく。変幻自在の攻撃もあり、正統派(オーソドックス)な攻撃もする。切り替えの速さも申し分ない。それでいてまだまだ完成されていない。伸びしろがかなり高い。―――実に多彩な強さを持つ。これが烏野か。厄介極まりなく……それでいて面白いチームだ」

 

 

 

 

 

 

そう評したその瞬間、火神の1人時間差が金田一の上から決まり、カウント25-21。烏野のポイント。

 

「クソ……、またつられた……ッ」

 

中学の時の事を、火神に一人時間差で打ち抜かれた時の事も思い出したのだろう。悔しそうに歯を食いしばらせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおっしゃあああ!! このまま2-0で勝ちを掻っ攫うぞ! うぇぇぇい!!」

「あぐっ」

「たっっ」

 

田中は勢いにまかせて、日向と火神の背を叩いた。非常に痛い。

 

澤村は菅原と相手サーブの事と自分達のレシーブの事、それぞれの課題を話していた。

 

「向こうに影山や火神みたいなサーブを打つ奴が居なくて良かったな」

「あぁ。サーブで流れを変えられてたら、どうなってたか判らないしな。……個々の力量は高くてもトータルで見ればウチはまだレシーブは良いとは言えないから」

 

 

要所要所でカバーをするにしても限度がある。

日向は特にレシーブはまだまだ下手で、月島も苦手を公言している事もあってまだまだ課題は沢山ある、と言う事だ。

 

 

そして、もう一つ澤村には気になる事があった。

 

「なぁ、火神……。ちょっと気になる事があるんだが」

「いたた……。あ、はい。なんですか? 澤村さん」

「確か【チームキャプテンが居なくても】って言ってただろ? それは、どういう事なんだ? キャプテンは別のヤツがやってるって事なのか?」

 

 

キャプテンが必ずゲームに出なければならない、と言う決まりはない。スターティングメンバ―には入らず、要所で投入し流れを変える、流れを切る、落ち着かせる等の役割を持った場合も少なくない。

だが、火神の口ぶりだとそうは聞こえなかった。

 

 

全員でキャプテンが居ない穴埋め(・・・・・・・・・・・・)をしている、と聞こえたのだ。

 

 

 

「あ~……、え、えっと 青城のキャプテンは今日ちょっと故障してるらしくて……」

 

火神にしては歯切れの悪い返答だった。

そもそも何で故障云々を知っているのだろう? と新たな疑問を浮かべた澤村がそれを聞こうとしたその時だ。

 

 

 

「アララッ。1セット先取されちゃったんですか!」

 

 

【キャー――― 及川さ~~~んっっ!! やっと来たぁぁ~~っ!!】

 

 

 

さっきまで殆ど無かった黄色い声援と共に……やって来た。主役は遅れてやって来る、と言わんばかりの登場だった。

 

「おい女子の声だぞ日向! 何事だ!?」

「女子の声ですね! 田中さん!」

 

女性の声に反応し、最も早く振り向く日向と田中。

そして、遅れて他のメンバーが振り向く。

 

視線の先には―――青城バレー部のキャプテン 及川 徹が居た。

 

 

「おお、戻ったのか! 足はどうだった!」

「バッチリですよ。もう通常の練習もイケます! 軽い捻挫でしたしね」

「まったく気を付けろよ及川。向こうには【影山と火神出せ】なんて偉そうに言っといて、こっちには出てないヤツが居ます、じゃ頭上がらんだろうが! それもお前は正セッターだぞ!」

「スミマセ~ン。あははは………」

 

 

 

謝ってるのは謝ってるんだけど、何処となく軽い感じがする。何ならチャラく見える。

 

黄色い声援が及川に集中するから、田中の怒りゲージが増し増しで上がっていく。

そして、影山にとってはある意味で因縁の相手だから、影山の警戒心が増し増しになる。

 

更に、火神もそれは例外ではない。

 

「……火神、及川さんと面識あんのか? 故障してる事も知ってたし」

 

深くため息を吐いてる火神を見て、影山がそう聞いた。

火神は、それを聞いた後に軽く頭を掻きながら答える。知っている、と言えば火神は誰よりも知っているだろう。……そんなズルい事を抜きにしても、火神は及川と面識があるのだ。

 

 

「えっと……、スカウトに来たって話はしたと思うけど、そこに及川さんもいてね……。ああ、後 故障云々を知ってるのは、えー、その……うん。練習試合前に会ったからなんだ」

 

 

火神はまた言葉を濁す。

 

その濁すのにも理由は勿論あるのだ。

ただでさえ、女子の声援があってテンションが上がったかと思えば、及川に全て取られてテンションゲージが怒りに変わってしまってる田中がいる。

 

ある事実を田中に話してしまったら、更に悪い意味で盛り上がりそうなので、試合中は黙っておこうと言うのが真相。

 

 

 

 

そして、田中が悪い意味で盛り上がると言えば 当然 清水関係である。

 

 

 



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第27話

 

【えー君が火神誠也君かな? どうも~! 宮城の高校No.1セッター 及川で~す! 君に会うために遥々やって来たよ~!】

 

 

 

彼との最初の出会いは、本当に予想はしてなかった。

していなかった、と言うよりそう簡単に予想出来るものでもないと言える。

 

 

青葉城西の及川 徹。

 

 

火神が知らない筈がない。

全国大会には白鳥沢に阻まれているので、全国的に見れば知名度は皆無だが、その実力の高さはこの宮城でバレーに携わっていて及川を知る者なら誰もが知っている。

それに県大会のテレビ中継ででも何度か紹介されている。

 

 

―――勿論、火神が知らない筈はない。よく知っているつもりだ。

 

 

だけど まさか高校ではなく中学で出会う事になるとは流石に思っても無かった。

 

 

 

及川は青葉城西の監督陣と共に来た。

因みに通算すると青葉城西は火神の所に2回 スカウトに来ている。

 

 

2回目に及川が一緒にやってきて物凄く驚いていた。

 

 

そして、火神の前でダブルピースしてる及川。

 

突然だったので火神は驚いてしまって反応が遅れてしまった。

なので及川は【あれ? スベっちゃったかな??】と思ってしまった様で変な間が生まれたのは、今では良い思い出だ。

 

 

 

火神は勿論その後、無名校の自分にスカウト、とは非常に光栄で有難い話ではあったのだが慎んで辞退させてもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――時は流れる。

 

高校の青葉城西との練習試合前。

 

火神は試合の少し前に掌に違和感があった。

手を見てみると……血が流れていたのだ。どうやら、いつの間にか血豆かなにかが出来ていて潰れてしまった様だった。幼い頃からボールに触ったり、色々と運動をしてきた為 それは日常茶飯事な出来事の1つ。

だから、気にしない――……訳にもいかない。バレーボールが血で汚れてしまうし、そもそも試合で出血が起きてしまえば、止まるまで交代させられてしまう。今回の練習試合の条件の1つに火神の出場があるので、血の付いたまま、と言うのは頂けない。

 

【澤村さん。すみません。ちょっと血が出ちゃったみたいなので―――】

 

だから、火神は澤村にそう伝えて血の部分を洗い流す為にトイレへ向かった。

 

【清水。火神を頼む。救急セット持ってるよな? 後、外れない様にテーピングも】

【ん。了解】

 

もう直ぐに試合が始まるから、多少なりとも火神は慌てていたのだろう。いつもなら、応急措置をする為に洗い流すだけでなく、しっかり絆創膏なりテーピングなりを備えていくだろう、と想像できるんだが。

清水は常備している救急箱を肩に担いで、火神の後を追った。

 

【火神も人の子だって事だよ、大地。まーーーったく緊張してないって訳じゃなさそうだ】

【ああ。それにさ、スガ。世話をやかせてくれるのが新鮮でどっか嬉しいって思ったの初めてだわ】

【ははっ、何だよそれ!】

 

何だか微笑ましいものを見る様に、慈愛に満ちた視線を送る3年生たち。

親戚か? とツッコミたい気分とはまさにこの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、色んな扱いを受けてた当の本人の火神は、男子トイレで用を足しつつ、血もしっかり洗い流していた。

 

その後外に出てみると……、彼――及川と再会したのだ。

 

 

【やっほー、君烏野のマネちゃんデショ? すっごく美人だし、よく覚えてるよ~】

【………………】

【どこ行くの? ガッコ―案内しようか?? あ、体育館の場所わかんないとか??】

【………………………………】

 

 

厳密に言えば、清水をナンパしようとしてる及川にばったり。向こうはナンパに夢中で気が付いてない様だ。

 

華麗にスルーされてる様だが、なかなか諦めが悪い。

田中とどっこいどっこいだった。清水はそういうのに慣れている様なので、まるで最初から存在などしてないかの様に。

華麗で優雅、まさに才色兼備。

 

【……はぁ、何してるんですか? 及川さん】

 

見てしまったのは仕方ないので、火神は声を掛ける事にした。清水も内心では困ってる筈だと思う。田中や今はいない烏野の某リベロの人(・・・・・)なら兎も角、他校の生徒に強気拒否はなかなか難しいのかも、と思うから。

 

【おっ!?】

 

そして、及川はその声に反応。

清水の事ばっかり見てて、周囲を疎かにしているのでは? とも思えたがどうやらそうでもないらしい。

 

【せいちゃんじゃ~ん。元気にやってる?? トビオの扱い頑張ってる?? 【及川さんとおんなじ高校にしといた方がヨカッタ~】って後悔してない??】

 

両手を広げてハグでもするの? と思う体勢だったが 生憎男に抱き着かれて喜ぶ様な趣味はない火神。勿論、こっちで出会う人はもれなく全員好きなのは好きなんだけれど、及川とは初めてではないので、感動はそこまではしていない。

 

【あはは……。影山の事は兎も角、後悔云々を聞くのまだ早計だと思うんですけど……、でも結論は変わらない自信はあります。俺が自分で選んだんですから。それが間違いだとは思いませんし、思った事も今のところはないです】

【ふ~~ん。そっかー】

【はい。……及川さんだってそうでしょう? 物凄い選手で有名ですし……】

 

火神がそういうと及川は【いや~そうでもあるけど?】と言いながら照れたように頭を掻くんだけれど、途中でその手が止まる。

 

【優勝を狙うんだったら、十中八九 白鳥沢を選ぶと思うんです。ここ数年連覇し続けているのは白鳥沢ですから。それで及川さんは白鳥沢ではなく青葉城西を選びました。白鳥沢でバレー、ではなく白鳥沢を倒す為に。……後悔なんて微塵もしてないんでしょう?】

 

火神が自分の何を知っている? と及川は思えた。

 

そもそも出身校も違う。

出会いは中学の時に一度だけ。

出会うまで名前とか顔も全く知らない赤の他人。

 

なのに、火神の表情には云わば自信の様なモノが見えたんだ。

 

或いは、知っているのではなく信じている。【及川は自分で選んだ事に後悔をする様な人では無いだろう】と信じている様なそんな感覚だ。

 

【及川さんとバレーをするのはとても魅力的で面白そうです。……が、俺は烏野を選びました。その事で後悔したりはしませんよ】

【ふ……ん。前と違って結構生意気なこと言ってくれるね。高校生になって一皮むけたって感じかな】

【はいっ。生意気になっちゃってすみませんっ!】

 

にっ、と白い歯を見せながら笑う火神を見て、流石の及川も毒気抜かれた様だ。

生意気な後輩は今までいなかった訳じゃない。その影響で色んな感情が入り乱れて精神崩しそうになった時だってある。

でも、目の前の男の生意気さには、何処か心地よい物もあった。不思議な感覚だ。

 

 

【……そんな爽やかな顔で言われたら、毒気抜かれるってもんだよ】

【あはは。いつもこんな顔なんで許してください】

【……火神、ちょっといい?】

 

笑ってる所で、清水が入ってきた。

差し出されたのはタオルと絆創膏、テーピング。

 

【しっかり血を止めて。後固定もしておきなさい】

【あ、忘れてたんです。わざわざありがとうございます。清水先輩】

【うん。だと思ってた。火神もたまにそういうところあるし】

 

軽く笑う清水を見て、及川の身体に電流が……否、雷が落ちてきた。

ガーーン!!と言う擬音を発声しつつ状態を逸らせ、後ろへ後退り。

 

 

【せ、せいちゃん、高校に入って直ぐにそんな歳上美人マネちゃんと付き合ってるなんて……うらやまけしからん……!!】

【違いますよ】

【違います】

 

 

ほぼ同時に否定する清水と火神。お互い思わず見てしまって、更に笑った。

 

否定されても、そんな息が合ってる様にも見えて且つ自分は完全に無視されたのに微笑み合ってる様にも見えるので、更に及川にダメージを与える結果になった。

 

 

その後、及川の現状をそれとなく聞いた。

脚を捻挫しているとの事だ。そして、それは軽いものだと思っているが、しっかりとした判断は医者が下してくれるので、その結果待ちだと。

 

 

お互いにこんな所で油売ってる暇ないでしょ? と言う事でそれぞれ戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在。

色々と問題ありな所もあるが、実力は相当高い青葉城西のキャプテンが満を持して登場。

 

女子の声援も絶えず体育館に響いて響いて、その度に田中の表情が怖くなる。

 

「……火神君。あの優男と面識あるんですか? ひょっとして火神くんは裏切りもんなんですか??」

「いやいや、裏切り者ってなんですか……。スカウトに来てくれた人の1人ってだけですって」

「そうなんですか。ボク、物凄く不愉快です。ええ、ほんとに」

 

田中が丁寧な口調で話す時は、ある意味怒ってる時より恐ろしく思う。……不気味っていう意味で。真顔で迫ってくる様はまさにホラーだ。

 

「そういえば、及川さんは影山の先輩だったっけ?」

「ああ。……中学時代のな」

「(王様の先輩ってことは……つまり【大王様】!?)」

 

影山の先輩であり、王様の先輩なので大先輩だ、と日向も盛り上がる。

 

「火神くん、影山くん、あの優男、バレーの実力はどれ程なんですか?? ボク、全身全霊で捻り潰してやりたいのですが」

「捻り潰すって そんなオーバーな……」

 

物騒なことを言ってくれる田中は置いといて、取り敢えず説明をする。田中以外の皆も聞きたい、と言う顔をしてるから。

 

「及川さんですが県内でNo.1って呼び声も高い超攻撃型のセッターなので実力はかなり高いと思いますよ。県内バレー記事の特集で、白鳥沢と一緒に紹介されてましたし」

「………俺も同じ様な感じで説明します。火神に付け加えるとしたら、サーブとブロックはあの人を見て覚えました。更にその上性格がものすごく悪い」

「えええ!! 殺人サーブの!? ってか、性格って、お前が言う程に!?」

「……あぁ。月島以上かも」

「なんだと!? それはひどいな!!」

 

 

火神はちゃんと及川の事を説明しているし、しっかりとその実力の高さを伝えているんだが、他の影山は一言余計。性格が悪い、と事実ではあっても直接声に出して伝えるのは如何なものだろうか。……日向は日向で影山に失礼な事言ってる気がするが、そこはいつも通りなのでスルーだ。影山もしれっと月島をディスってるので、皆お互い様。

 

火神だけ生意気でも許せる、みたいに感じた及川の感覚はある意味正しかったと言えるかもしれない。

 

 

 

「やっほ~~、トビオちゃん! 元気に王様やってる~? あ、それにせいちゃんも! さっきブリだね~~」

 

 

手をヒラヒラと振ってくる及川。火神は頭を下げて答えるけれど、影山はあからさまに視線を逸らせていた。

 

 

「けど、今は試合に集中だ。このセットも取って勝つ」

「お、おうよっ」

「はは……影山は及川さんの事苦手なんだなぁ」

「に、苦手って訳じゃねぇし!」

「説得力ないって。普段の影山なら、誰が来ても勝つ!! って言いそうだけど それじゃ及川さん来る前に勝つ! みたいになってる。どうせなら強い青葉城西と、じゃないか?」

「っ………」

 

図星を刺された様で、影山は言葉に詰まらせていた。

影山の勝利に貪欲、負けん気の強さも相当に高い、プライドも同じく高い。……だが、やはり影山とて苦手な相手と言う者はいるのが改めて理解出来た。

 

今回ばかりは火神に同調出来なかった。だが、いずれは……。

 

「ともかーく! 誰が来ても擂り潰――す! 優男擦り潰ーーーす!」

「って、田中さんは威嚇しないで下さい……」

「そうです止めて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

及川が登場した事で緊張が走る。でも、当然イキナリ出場する訳ではなかった。

 

「とにかく、お前はアップとってこい! いつもより念入りにだぞ!! また怪我なんかしたら承知せんからな!!」

「はぁ~~~い」

 

 

脚の捻挫の事を考えて 念入りにウォームアップ後に出る、と言う言質を頂いた。間違いなく及川は出てくる。

より―――影山に緊張が走る瞬間だった。

 

 

 

その後、一進一退の攻防が続く。

及川が戻ってくる、と知ってからの青城の選手達は何処か気合の入り方が違って見えた。ビックリタイムが続いている様だが、それでも 及川の前で負ける訳にはいかない、と強く思えたからだろう。

 

特に3年達は 虫の居所が悪くなる、と言う個人的な感情があったりもするが。

 

 

「ね~~、及川さんまだ出ないのかなぁ?」

「バカ! ちゃんとウォーミングアップしないとまた怪我しちゃうんだから!」

「ええーーっ、それはダメーーっ!!」

 

 

「………………チィっ!!」

 

その後も及川エールの黄色い声は続く。

どんなに小さな声でも聞き逃さないのが田中だ。女子からの声援が耳に入る度に、イライラゲージが増し増しで上がり、力も入りまくる。

 

スパイク一発の重さが強く、ブロックを抜けたらそう拾えるものではない。

 

……余計な力が入って雑な~と言った感じには田中はならないのだろう。こういった劣等感&嫉妬パワーを全てボールに込めるので単純に攻撃力が増していく様だ。

 

 

日向の速攻も決まり、火神のブロード攻撃も決まり、更には月島のブロック。守備面も澤村がカバーに回り、良いリズムのまま先に烏野は20点台に突入した。

 

 

「及川さん効果、田中さんに効果覿面だ。……威嚇させたままの方が良かった?」

「いや、下手に挑発するのは賛成出来ない。及川さんの実力は俺も解ってるからな。……主将も後ろで睨んでたし、結局の所は出来ないとは思うが」

「それもそうか……」

 

 

 

その後、田中の怒りのスパイクが23点目を叩き出して、カウント23-18の優勢。

 

「こ、の……! 調子に乗るな!!」

 

金田一が意地のスパイクで取り返すが、烏野のペースはまだまだ継続されているだろう。

このままだと敗色濃厚。入畑監督の表情が険しくなったところで及川が戻ってきた。

 

 

「アララ~。ピンチじゃないですか」

「……アップは大丈夫だろうな?」

「はい。バッチリだいじょーぶです」

 

 

まさにヒーローは遅れてやってくる状態。本当に分かりやすく場に表れている。

青葉城西の体育館だし、完全ホームだからか より多く、大きく歓声があがっていたから。

 

主に女子からなので、より多く、大きく田中の頭に努筋が……。

 

 

 

 

「お、及川出るんだ。国見とチェンジだし、ツーセッターでいくのかな?」

「いや、と言うよりはピンチサーバーじゃない?」

「あ、そっか。まさに状況はピンチそのものだし。アイツのサーブなら流れ簡単に変えそう」

「そうだよね。それにここ最近の及川、サーブに力めちゃ入れてたみたいだし。点差はまだまだあるけど…追い付けない差じゃない」

 

 

ピンチサーバーとは、サーブをきっちりと決めたい場面やピンチの時に流れを変える目的などで投入されるサーブが得意な選手だ。

 

観戦している女子バレー部たちが言っている通り。狙いはサーブで崩す事。

そしてまさに及川にはそれが適任。

 

 

「攻撃力が凄いのは解ったよ。……でも、その攻撃にまで繋げなきゃ意味ないよね?」

 

 

影山をが彼から学んだと言っていた。同じバレー部所属の人たちも言っていた。

及川のサーブが如何に強力なのか、そこから容易に想像ができる。

 

 

「さぁて、悪いね。点差もあるし、狙わせてもらうよ」

 

 

及川はそう呟きながら指をさした。

 

その先にいるのは月島。

今から始まるのは、強力極まりない王様の先輩、大王様のサーブ。

 



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第28話

 

及川が月島のことを指さしてるのは、コート内からでは やや判りにくい。

でも、外から見てみたらよく解った。

 

試合に出られない分、今後の為にも全てのプレイを見逃すまいとしている菅原には特に。

 

「(なんだ……? 月島を指さしてる……?)」

 

ただ、その理由はまだわからない。

そして月島本人にも指をさされた事は解ったのだが、その行為が何を意味するかは理解できていなかった。

 

 

 

そして数秒後――その理由を理解する事になる。

 

 

 

高く上げられたサーブトスは、ジャンプサーブの初動。

助走よく跳躍し、完璧に芯を捉えたジャンプサーブは一直線に月島を狙って放たれた。

 

 

その威力はまさに弾丸。影山の師であると言うことがよくわかる。

 

 

相手側にあったボールは小さく見えていたのに、ほんのコンマ数秒後には大きな弾となって迫ってきた。

 

「!!? うっ!」

 

咄嗟に構え、レシーブする腕に当てる事は出来た月島だったが、捉えきる事が出来ず、ボールは外へと弾き出された。月島の腕に当たっても尚、そのボールの勢いは収まらず 2階の手摺部分に当たり、そのまま2階の壁に激突。場を黙らすには申し分のない威力のあるサーブだった。

 

 

「な、なんつー威力……、影山や火神と同じ…… それ以上!?」

 

 

体感してみないと判らない事ではあるが、菅原の第一印象、評価はそれだった。

 

月島も表情を歪ませる。レシーブは不得手ではあるが、強力なサーブを受けた事はある。忌々しくも思うが 火神や影山のサーブは十分強力そのもの。故に今回の試合でも それ以上のサーブはなかったからある程度の心構えの様なモノは出来ていたのだが、それを嘲笑うかの様な、そんな一撃だった。

 

 

「……うん。やっぱりそうだ。OKOK」

 

 

及川は、サーブを打ち点差が縮まったのを確認し、一呼吸をした後 確信していた。

そしてにこやかな表情を浮かべつつ、相手側の方を見ながら言った。

 

「途中、外から見てたけど 6番の君と5番の君、レシーブ苦手でしょ? 1年生かな? もうちょっと頑張らないと取れないよ~」

「!!」

「ううっ!!」

 

 

図星を突かれた事、そして 軽く煽られた事もあって 日向も月島も解りやすく反応していた。(特に日向)

月島も冷めた態度を取る事もあるにはあるが、負けず嫌いな所もある。ここまで直接的に攻撃され、狙われたら涼しい顔をしていられない様だ。

 

 

「(やっぱり、アイツら以上の威力。それに加えて宣言通りのコースに打つコントロール……、これが青城の主将か……!)」

 

 

たった1人で戦況を覆す、それを可能にするのが強烈なサーブ。

バレーボールにおいてサーブとは、ブロックと言う守備の壁に阻まれない究極の攻撃。

 

及川クラスのサーブともなれば、それは究極に加えて凶悪だ。

 

 

「じゃあ、もう一本いくから 頑張ってね?」

「――――……ッ!」

 

 

嫌味たらしいとはこの事だ。

冷静な月島も歯を食いしばり、攻撃に備えるがレシーブが苦手である事実は変わらない。

以前、月島が日向に言った事がそのまま自分に跳ね返ってくる。

 

【気合では明確な差は埋まらない】

 

現時点でのレシーブ技術とあの及川が放つ攻撃には圧倒的に差がある。練習すれば上達するだろうが、今あのサーブを完璧に捉える様になるのは無理だ。

 

 

「ッ!!」

 

 

放たれた2本目。

威力・精度共に変わらず月島へと迫った。

2度目もそのボールを捉える事が出来ずに、外へと弾き出された。追いかけても無意味。2階へこそ飛んでいく事はなかったが、体育館壁に激突して跳ね返ってきたから。

 

「ツッキィィィィ!!!」

 

山口の悲痛な叫びが耳に届くが一切月島の頭には入らない。

 

月島は解っている。レシーブの技術が周りより劣っている事、そして相手は県内でも恐らくはトップクラスのサーバーであるという事。つまり、自分では敵わないという事。

 

それらが頭ではわかっているが、それでも感情を完全に殺しきるなんて出来なかった。

 

「くそっ………」

 

悔しいものは悔しい。狙われる事に、そしてボールを取る事が出来ない自分に。

 

 

「(月島ザマァ!! ………なんて思えないし、言えない。いつも意地悪だし、性格悪いし、ノッポだし、ムカつくし! ………でも、なんか、なんか腹立ってきた!!) おいコラ!! 大王様!! 俺も狙え! 俺も狙え!! 取ってやるから狙えよ!!」

「(大王様ってなに……?)」

 

 

ジタバタしだして狙えアピールする日向。

大王様という単語に困惑する及川。

 

そして、色々と葛藤している月島だったが、日向に同情されるのはそれ以上に嫌だ。

 

「子供じゃないんだ。 みっともなく喚くなよ!」

「なんだとっ!?」

 

仲間意識を持って庇う仕草を見せたのに! と日向はご立腹。

だが、この時日向の中ではある名言が頭の中によみがえっていた。

レシーブが上手くできなくて、ヘタクソでも構わないんだ。

 

何故なら――。

 

「(ピンチの癖に! でも、そんな事よりも!) お前なぁ! バレーボールはネットの【こっちっ側】に居る全員!! もれなく【味方】なんだぞ!!」

「~~~~~ッ」

 

 

仲間であり、1人の失敗は皆で補う。

もう少し格好良く名台詞を決めてもらいたかったが、ジタバタしてるので 何だか様にはなってないが兎に角セリフは決まった。

 

田中から受け継がれたモノを早速使っていて、田中も何だか嬉しいのか喜んでいた。

そこへ火神が間に入って両手を数度叩いた。

 

「よしよし! 田中さんの名言がいい感じで 堅さを解してくれたって事で、対策タイムだ。時間あんまりないけど」

 

 

そして、火神は及川の方をじっと見る。その視線に及川も気付いたんだろう、不敵に笑っていた。その笑みを受けて火神も同じく笑う。

 

「……及川さんのサーブは凄い。こんなサーブ滅多に受けれるもんじゃないし、この機会を逃したくない。つまり何が言いたいかというと、俺も体感してみたい!」

 

あっけらかんと言う火神を見て、思わず笑ってしまうのは田中。

 

「やっぱおめーは大モノだべなーー。あんなの見て受けてみてぇって思っちまってるし。俺はなぁ……」

「何言ってるんですか。田中さんは及川さんを擂り潰すんでしょ? なら、受けないといけないじゃないですか。やっちゃいましょう!」

「お、おおよ!! 勿論だぜ!!」

「俺も俺も!! と言うかオレがとーーる!!」

「ヘタクソのオマエに取れるかボゲ。ホームラン連発するだけだろ」

「むっっ!!」

 

 

うおお、と無理矢理感はあるが、火神に発破をかけられた田中は気合の雄たけびを上げる。

日向も便乗して自分があげる宣言をして……影山に一蹴される。

 

 

及川の強烈なサーブ連発で落ちていた士気が戻っていくのを感じた。固くなった身体が柔らかくなるのを。

 

 

それみていた見た澤村も ふっ、と笑みを浮かべつつ肩の力を抜いた。

精神的な支柱はキャプテンの役割の1つ。後れを取った事は反省しつつ、対策を練る。

 

「よし。……火神の言う通りこんな機会はあまりない。平等に全員で取ってやるって事にするか。全体的に守備位置を下げるぞ。月島は少しサイドラインに寄り気味だ。火神はその前。田中はレフト側を頼む。―――次は取るぞ」

 

 

澤村の指示で全員が配置に動く。

陣形的には 澤村を中心に添え、そのサイドを田中と火神が守り、まだ不得手の日向がアタックラインのやや内側、月島をコートの角に配置。

 

 

「ふーん……成程。全体的に下がって守ってるみたいだけど、狙いは主将君とせいちゃんが守備範囲を広げるって事か。確かにあの2人は守備力高そうみたいだしね。……まぁ、次はチビちゃんを狙っても良いんだけど、せいちゃんの好戦的な目が気になるなぁ」

 

 

及川は、【こっちに来い】と言わんばかりに構えている火神を視界にとらえていた。

先ほどの会話も勿論聞こえている。サーブを体感したい。

 

……つまり、自分と勝負がしたい。

 

そう目で言っているのが判る。好戦的なのが目を通してよくわかる。

及川もサーブに関しては磨きに磨き上げたという自負がある。研ぎ澄ませ、力を蓄えて完成させたサーブだ。だからこそ、自分自身の最高の武器の1つであると自信を持っている。

 

 

歳下に挑戦状を叩きつけられた。ならばどうするか。

 

 

「ふっふっふー。よし乗ってやろう!! ―――っていう訳にはいかないんだよ。悪いねせいちゃん。これがこんな場面じゃなかったら 勢いよくやってあげる! 打ってやる! って言っても良かったんだけど、ウチは今ピンチなんだよね~~。確実に点を稼がないと負けになっちゃうんだ。監督が言うには1試合のみの練習試合だし」

 

 

今回のその挑戦は受けない、と不敵な笑みを浮かべる及川。

 

見る人によっては逃げと捉える者もいるかもしれない。だけれど、個人の事情を優先させて チームが敗北でもすればそれは本末転倒だ。如何に練習試合とはいえ。

 

 

「狙うのはメガネ君。ごめんね~ せいちゃん」

 

 

ウインクしてるのが遠目からでも判る火神。

練習試合とはいっても勝負なんだから、相手にかける情けなんか必要ない。だから、謝罪もいらないし。

 

などなどが頭の中を巡りつつも、火神は及川という人がどんな人だかわかっているから、それをも楽しんでいた。

……そして、影山はそれを見て、……自分が苦手な相手に笑って受けている火神を見て身震いをするのだった。

 

 

「さっ、まだまだ稼がないと……ねっ!!」

 

 

及川が放ったジャンプサーブは今回は威力がやや落ちていた。

 

それは正確に月島を狙う為、パワーを落として精度を高める為の様だ。

これも言うは易く行うは難し。コート隅に居る小さな目標に向かって放つのは非常に難しい。少しでも加減を間違えるとアウトになってしまうだろう。その上終盤の劣勢、後2点で敗北が決まるこの場面で。如何にピンチサーバーで、出てきたばかりとは言え、かなり強い心臓を持っているのは見てわかる。

 

「チっ……!(完全に月島の真正面!)」

「月島!」

 

澤村も火神もカバーに回ろうと備えているが、ここまでピンポイントに狙われたら無理だ。月島をエンドラインギリギリに立たせ、サーブレシーブから外す陣形も考えていたんだが、そこまであからさまにしていたら、まずレシーブの薄い日向・田中の周囲を狙われる。 

レシーブが苦手な月島と日向であれば、月島の方が成功率が高い為 ここまで狙われたら月島が自力で獲るしかない。

 

「あんな端っこに居るのにピンポイントで……!」

「でも、コントロール重視の分、威力はさっきより弱いです。……これ、取れなきゃどうしようもないぞ、月島!!」

「ツッキッィィッ!!!」

 

 

「ッ!!!」

 

外野からも声援? の様なものがとぶ。

それに圧される様に……と言うワケではないが、菅原の言う通り、威力は先ほどよりも明らかに弱くなっている。そして、これまでの屈辱。それらを全て総動員して月島はレシーブ。

バァンッ! と月島の腕に当たり、ボールはけたたましい音を響かせながら、相手コートへと飛んでいった。

 

 

「っ! 兎も角上がった!! ナイスだ月島!」

「ヅッギーぃぃぃ、ないすぅぅぅ!!」

 

 

「おっ、取ったね。えら~~い。ちょっと取り易すぎたかな? でも―――こっちのチャンスボールなんだよね」

「くそっ……!!」

 

バレーはボールをコートに落とさなければ点にならない。落とさなければ負けない。だから、例え相手コートに戻ってしまったとしても、例えチャンスボールを与えてしまったとしても、点を取られる訳ではない。……攻撃をされるのなら、守れば良いだけだ。

 

 

「ホラ、おいしいおいしいチャンスボールだ。きっちり決めろよ? お前ら」

 

戻ったボールは、丁度後衛の及川の元へ。幸か不幸かセッターである及川にボールを取らせた為、及川のセットアップではない。

 

「翔陽。ちょっと良いか」

「おう!? どーした!?」

 

前衛に上がってる火神は、隣の日向に耳打ちをしていた。

一体何を話してる? と及川は一瞬疑問に思ったが、考えている暇も、指示を出すような暇もない。

Aパスで戻ったボールを矢巾が金田一に上げていたから。Cクイックでの攻撃。高さと速さで攻撃を仕掛ける金田一。

 

「くっそっ……!?(ついてきやがった……!!)」

 

振り切るつもりだった金田一。だが、マッチアップの相手は火神だ。

火神はセッターに注視。ツーアタックの可能性は位置的に、視線・構え的にほぼ無いと判断。後は金田一か岩泉か、それとも及川を含めた後方からのバックアタックか。攻撃手段は多いが、それでも火神の頭の中ではある程度予測は出来ていた。

 

取らなければならない場面、青葉城西の中でも最も高身長の金田一、岩泉に続いて2番目に得点を重ねている男。そして――ちょっぴり卑怯ではあるが、火神の知識。

 

勿論 全てが同じな訳ないので、確実・100%とは言わないが……、一番確率が高いのも事実だ。加えてコミットブロックではなく、リードブロックを意識して身構えていた為。直ぐ動く事が出来た。

 

火神は、金田一に的を絞ってブロックに跳ぶ。

 

「(クロス……無理。ストレート、打ち抜く!!)」

 

火神の両手とアンテナの間目掛けて、金田一は腕を振るった。ボール2個分程は出来ていた空間の為、問題なく打てる……筈、だったのだが。

 

「うおおおおっっ!!」

「っっ、くッ!」

「はぁっ!?」

 

 

金田一の脳裏では、打ち抜ける筈だった。レシーブで上げられるかもしれないが、それでもブロックは躱せた筈だった。なのに、火神の腕が突如横にズレた。ボール2個分あったスペースは潰され、火神の手に当たって、ボールは高く烏野側のコートに。

金田一は一体何が起きたのか直ぐには理解できなかったが、少し遅れて理解出来た。

 

「こ、の…… チビっ!!」

 

そう――日向が火神の身体に横っ飛び体当たりをぶちかましていたのだ。

いわば、半開きになっていた火神の扉が 日向の一押しで閉じてしまった状態。空中でぶつかられて堪える火神にも驚きだが、少なくとも火神以外は振り切って1対1の状態にした筈なのに、日向が突如現れた事に驚きを隠せなかった様だ。

 

 

「よしっ!」

「ナイスだ! 日向! 火神!! チャンスボール!!」

 

 

日向は、火神に思いっきりぶつかった為、それとなく謝罪意識を持っていた様だが、火神は日向の顔を見てなくても 大体理解していた。

なので、着地した所で指をさした。

 

「走れ翔陽!!」

 

そしてそう伝えた。

 

それに身体が反応した日向は、すぐさま走りだす。コートの端から端への移動攻撃。

普通ならそんな奔放な上に空気を切り裂くような動きで回られたら合わせられるモノじゃないんだが、こちら側には影山が居る。余りあるセンス・技術を総動員した影山のトスは、今やどんなスパイカーにも合わせられる。

 

そして、一瞬・一歩。ほんの少しでも遅れてしまえば、日向に追いつくことは出来ない。追いつく事が出来るのは 影山の正確無比なトス、ボールだけだ。

 

 

日向のブロード攻撃は、上がった影山のトスを空振る事なく正確に打ち抜き、及川の真横に打ち込んだ。

 

「!!」

 

外で日向の移動攻撃は見ていたつもりだった。あのあり得ない速攻を見ていたつもりだった。

だが、見るのと実際に体感するのとではワケが違う。それに、日向の気迫あふれる攻撃に一瞬だけ気圧されてしまい、手を出す事さえできずに、ボールを地につけてしまった。

 

 

カウント24-21。

 

 

 

一瞬唖然とする体育館内。何度かあった変人速攻だが、今回のそれはまた一段と別格だったからだ。

 

 

「……なに今の?」

「コートの端っこから端っこまで、一瞬で……」

「スパイカーの手に吸い込まれるみたいなトスも……」

「ていうか、最初のブロックも……」

「思いっきりぶつかられたよな? どんな体幹してるんだよ、アイツ……」

 

 

徐々にざわついていく体育館内。

 

だが、忘れてほしくないのはまだ決着がついていないという所。

 

 

「……っとと、はいはーーい。今のは正直俺もビックリしたけど、まだ試合は終わってないよ? 次は凄いヤツのサーブだけど……プライド見せてこうぜ。こっから追いつくぞ、お前ら」

 

 

日向に魅入っていた及川だったが、直ぐに気持ちを切り替える。

 

そうしなければならない明確な理由がある。次のサーブ相手が火神だから。

 

 

「(翔陽が決めて終わったー、って感じに一瞬なっちゃったけど……まだ終わってない)」

 

ふぅ、と息を吐く火神。

まるで あの攻撃は敵味方問わず、惹きつけてしまう様だった。

 

だが、攻撃をきめた当の本人たちはそんなこと考えてない。

 

「せいやナイッサー!!」

「決めろよ」

 

次の攻撃を、そしてボールに備えている。どんな攻撃が来ても対応できるように。

影山は、日向に先ほどのブロックの継続を指示。急に視界に入られたらどんな鈍感な男でも気にならない訳がない。当たらなくとも日向のブロックは相手にプレッシャーを与える事が出来ているから。

 

 

そして、気を取り直して火神のサーブ。

 

 

大事な場面、後1点で勝利する場面。だが、それだけに難しくもある。

それに及川が入った事で青城が変わるのは言うまでも無い事だ。

 

確かに点差はあるが……火神はこれを無いものとする。

 

次の攻撃で決める、と意識を高く、強く持つ。

 

 

「(何か及川さんに見られてるな……)」

 

 

火神は視線を感じていた。勿論、相手プレイヤー達はサーブを打つ選手から目を離す訳ないので、サーブを打つ場面では必然的に視線が集中するのは当たり前なんだけれど、及川のそれは何処か違った。挑発してる様にも見える。手をくいっ、くいっ、と手招きしながら。

 

 

「(打ってこい! って事かな? よーし、って)いやいやいや、確かに最初は打とうかなとは思ってたけど、及川さん打ってくれなかったし」

「……ちっ。そりゃそーだ」

 

 

及川は動かす手を止めた。

自分は避けたのに相手には求めるのは、ちょっと情けない気もするから。勝負だからそういうのはあまり気にしなくても良いと思うが……。

 

 

火神は気を取り直してボールを手に持った。

 

そして、エンドラインから4歩の位置。

 

 

「(……さて、気付いてるか、気付かれてないか……。今日の試合、俺はジャンフロ1回も打ってない事に)」

 

 

ジャンプサーブとジャンプフローターの二種を武器とする火神の事は相手も知っているだろう。

だが、今日は火神が言う様にジャンプフローターサーブは一度も打ってない。

勿論、ジャンプサーブだけでも十分強力。十分すぎるくらい強力な武器だし、失敗する可能性も高いが、一番強力で得点し易いサーブでもある。さらに言えば、今日どちらが調子が良いか、調子が良い方のサーブを選ぶ、と言うのも本人次第なのでその辺りの読み合いもゲームプレイの1つではある。

 

どちらを選択するか、それは 火神がルーティンとして行ってる4歩6歩をわかっていない相手にとっては迷惑で凶悪極まりない事だろう。

 

 

「(さて、少し いやらしい事させて貰う。月島を何度も狙ってくれた礼も兼ねて)」

 

 

月島がサーブで狙われた事。日向の様に少なからず ザマァ! と思わなかったか? と問われれば、ちょっぴり迷ってしまうけれど、それでもチームはチーム。

 

自分たちはネットのこっち側(・・・・)なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火神。

 

 

それは最早、青葉城西の全員が最大限に警戒するプレイヤーの1人になっている。

 

1年? 無名中学出身?? 戦績は0? 全てが関係ない。

 

火神のバレーは十分高校でも通用しているどころか、警戒に値する。

ルーツが気になる所ではあるが、それは今は関係無い。この男をどう止めるのか、このマッチポイントをどう防ぐのか。ただそれだけを頭に入れていた。

 

火神のジャンプサーブは強烈。及川よりも上ではないか? と岩泉がそう言っていた、認めたくはないがそれをも想定しつつ頭に入れる。及川のサーブはこのチームなら誰もが受けた事があるからだ。つまり最高の練習相手が居るからこそ、対応できる。心構えが出来る。

 

そして、勿論 監督が言っていたもう1つのサーブ、ジャンプフローターも忘れてはいなかった。

 

どちらが来ても対応できる様に、全員が意識を集中したその時だ。

 

 

 

 

「うっッ おォォっっ!?」

 

 

 

 

金田一が目を見開き、唸るような声を上げた。

突如、眼前にボールが迫ってきたのだ。

勿論、反則をしたとかそういった類ではない。でも、思わず動転し何とかオーバーでボールに触る事が出来たが、後方へと弾き出されてしまった。

 

 

「(なんてえげつない。笛と殆ど同時に打つとか!? それもこの威力で)」

 

 

火神は、主審が開始の笛を吹いたと同時にサーブを放ったのだ。

 

ジャンプフローターは回転を如何に殺し、無回転で放つかどうかに掛かっていると言っていい。ボールが全く回転しないからこそ、最大限にボールがブレる。そして魔球と呼ばれるボールを生み出すのだ。笛とほぼ同時に打つともなれば、慌てて打った球も同然になったとしてもおかしくないし、ボールの回転が乱れ、逆にとり易くなる事だってある。

 

だが、火神は殆ど同時である事と威力・精度共に殆ど落とさない離れ業をやってのけた。

 

構える余裕を与えないジャンプフローター。体感してみるとボールがいきなり目の前に現れた、と錯覚してしまうだろう。

 

攻めの姿勢を決して忘れない。如何にリードしていようが関係なく、そして常に新しく攻めてくる火神に及川は寒気がしていた。日向に感じたモノと同質のモノだ。得体のしれない何かを感じた。

 

 

「こ、のッッッ!!!」

 

 

弾き出されたボールに何とか追いついたのは及川だ。ボールに飛び付いて何とか繋げる……が、そのボールはネットを超えてしまう。

 

「全然爽やかなサーブじゃないなぁッ!! くっそっっ!」

 

 

()きながらも、何とか体勢を立て直し、相手の攻撃に備える。

ボールは緩やかな山なりで、ネットを超えたがダイレクトで打たれてしまう位置。

 

 

「日向!! ダイレクトだ!! 打て!!」

「へぁっっ!?」

 

 

影山の声に反応して、日向も身体を震わせた。

 

「(あ、翔陽はダイレクト打った事無かったっけ……)」

 

火神はテンパってるのが見てわかる日向を見て ダイレクトアタックの練習をしたことがないのを思い出していた。

 

あのテンパる感じでは、相手がブロックに来たら捕まる可能性が高い。

何より、日向は高く跳ぶ事が出来るが、それは相手ブロックより速く、高い位置へと到達するだけなので、ヨーイ・ドン! でジャンプをしたら、当然背の高い相手側の絶対的な有利になってしまう。

 

 

そんな事を冷静に分析した火神は、ブロックフォローへと回った。

 

 

 

そして―――幸運にも つい先ほどの日向の強烈なブロードからのスパイクを目の当たりにしたばかりの青城側は、日向のスパイクを過剰過ぎる程の警戒してしまった。

 

身構えすぎてしまった。

 

故に――練習してないからか、タイミングが合わず空振りしかけた日向のダイレクトスパイクは、スパイク……と言うよりはフェイント気味になってしまいブロックを超えてコートに落下。

 

 

「ん、だ、そりゃあ!!?」

「くっそぉぉっっ!!」

 

 

後衛の2人が飛び込むが、身構えすぎた故に届く事無く、ボールはコートに落ちてしまった。

 

カウント 25-21。

セットカウント 2-0。

 

 

烏野高校vs青葉城西高校

 

 

 

 

この練習試合は、影山の【このドヘタクソが!!!】と言う怒号と共に、烏野の勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 



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第29話

 

「このドヘタクソが!!」

「しょ、しょーがねーーだろーー!! 練習したことねーもんっ!!」

 

 

 

セットカウント2-0で青葉城西に勝ったというのに、喜ぶ前にまだケンカしてる2人。

でもまだ整列・挨拶が残ってる。

仕様がないので、火神が2人の頭をがっちりキャッチして、前を向かせた。

 

 

「とりあえず整列しよう。……な?」

「「う、ウス」」

 

 

あんまり問題起こすなよ? と良い笑顔で火神に言われてる感じだ。

 

この種類の火神笑顔(スマイル)には何だか逆らえないモノ、と2人は思っている様子。……因みに 笑顔は笑顔でも、月島の笑顔はただ単純にムカつくだけだというのは周知の事実である。

 

澤村も怒りそうだったんだけれど、火神が対処してくれたので 軽くため息を吐いて【整列――っ!!】と号令。

 

その後、互いに挨拶を交わし これで本当に終了。

礼に始まり礼に終わるのがスポーツ。なので、喧嘩は全部終わってからしろ、と影山と日向、そしてついでに月島にもくぎを刺すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁ~~……」

 

 

烏野のベンチでは、勝利の瞬間。思わず立ち上がった武田が力なく すとんっ と椅子に崩れ落ちた。それを横目で見てたのは菅原。

 

「どうしたんですか先生?」

「……………」

 

その問いに暫く答えが返ってこなかったが、溜めに溜めた後に、言葉を絞り出す様に武田は呟いた。

 

「……………すんごい」

 

幼稚かもしれない。だけど、ただただその言葉だけが頭の中を駆け回っていた。それ以上の言葉を見つける事が出来なかった。国語教師だというのに情けない気もするが、それでも尚だ。

 

「あ、そうか。先生は3対3の時を見てなかったんでしたね。影山と日向、火神。ほんともー、この3人は凄いっつーか、恐いっつーか、ほんと色んな意味でどーなってんだ?? って思いますよねー。他にも個人技でも群を抜いてて、連携に至っても見ての通り。影山は超精密だし、火神は良い意味で1年っぽくなくて全員と合わせるし、まさになんでも屋! 日向も将来性が凄くあって楽しみですよほんと」

 

菅原も興奮気味に伝える。あの青葉城西に勝てた事に興奮を隠せないようだった。

そして、そうこうしている内にチーム同士の挨拶が終わったので、全員武田の元へとダッシュで戻ってきた。

 

【お願いしアーース!!】

「ふぇっ!?」

「せんせい、せんせい、なんか講評とか……」

「あっ、そっ、そうか! そうだよね!!」

 

まだまだ形だけの顧問である事を自覚しているが、それでも感じた事はしっかりと伝えなければならない。この子たちを育てるのは大人の役目。技術指導は出来ないけれども、それ以外を全力でやると武田は予々(かねがね)心に誓っていたんだ。だから、必死に言葉を紡ぐ。

 

「え、えーと、ボクはまだバレーボールに関しては素人なんだけど。……素人でも判った。なにか、なにか凄い事が起こってるんだって事は判った」

 

武田はこれまでの経緯を振り返る。

烏野はバレー部が確かに強かった時代はあったが、年々それは廃れてしまっていて、今では部員数も少なく、練習試合も中々組めない状態だ。

 

「……新年度になって、凄い1年生たちが入ってきて、それでも一筋縄ではいかなくて……だけど、澤村君がそんな風に言ってて、その時はボクはよく判らなかったけれど、今日――わかった気がする」

 

澤村に言われた事。

それは日向と影山の事、そして 問題児が多い中でそれを纏めるに足る大役を担えるスキルも精神も持っている火神が来たこと。

 

思い出せば直ぐに頭に浮かぶ。笑顔でそう告げてくれる澤村の事が。

 

 

「皆がバラバラだったら、なんてことない。何にも起きない。だけど、1人、1人、また1人……出会い、噛み合う事で そこで化学変化を起こす」

 

 

単体では難しくとも共に有る事で2倍にも3倍にもなる。こんな場面を見せられたらそう思わずにはいられなかった。

……武田は教師である事もあって【化学変化】と言う表現を取ったのだ。

全く別物に生まれ変わる。烏野と言うチームが、また生まれ変わり、より高く羽ばたく。そんな光景を頭に浮かべながら、言葉を更に紡いだ。

 

 

「今も、この瞬間も 何処か別の場所で後の世界を変えるような出会いが生まれていて……、でも、それは遠い遠い国かもしれない。地球の裏側かもしれない。もしかしたら、東の小さな島国。……更に北の片田舎。ごく普通の高校の、ごく普通のバレーボール部かもしれない。……そんな希少で、貴重で、歴史的で、……そんな出会いが烏野であったんだと、僕は思った」

 

 

自分で言ってても中々理解が追いつくのが難しい。それ程までに突拍子もない事を言っている自覚はある。バレーの試合の講評をするのが普通な場面なのに。でも、止めなかった。

 

 

「他人には 大袈裟とか、オメデタイとか言われるかもしれない。でも、信じないよりはずっといい。ボクの言葉に何の根拠もないけれど、それでも信じて断言する。―――君らは、強く、強くなる。きっと、大きく大きく そして空高くに羽ばたくんだろうって」

【…………………】

 

 

武田の講評の言葉の後は……ちょっぴり長い沈黙。

前で聞いていた日向と影山に至っては、首を傾げていて 【何言ってるか判らないです】と表情で言っている様だった。

それを見て、顔を真っ赤にさせた武田は慌てた。

 

「ご、ごめんっ!! ちょっとポエミーだった!? 引いた!?」

「いやいやいや、そんなことないです!! あざす!!」

【アザ―――――――ス!!】

 

正直、武田の言葉を完全に理解できた者など殆どいないだろう。引くまではいかずとも。

でも、そんな中で少数でも確実に心に響いた者たちはいた。

 

 

【大きく空高く羽ばたくんだろう】

 

 

この言葉に強く共鳴したのは 3年の澤村と菅原。

烏野の異名を初めて耳にした時から、そして今までも何度も耳にした時から、ずっと 思っていた事を、武田に言ってもらえたのだから。

 

でも、やっぱり理解できなかった者もいる。最前線で首を傾げていた日向や影山は言わずもがな。

 

まだ首を傾げて頭に【?】を沢山浮かべているようなので、火神が簡単に説明に入る。

 

「つまり、皆で揃って頑張れば、俺たちはもっともっと強くなる、って事じゃん。……出る試合には全部勝つ! って言えるくらいまでにな」

「お、おおお!! そうか! そうだよなーー!! 全部勝つ! だよな!?」

「……ったりめーだ」

 

 

単純明快な日向は飛び上がって喜び、影山も内なる闘志に更に火をつけた。

そして、1年生の中でも特に冷めた様子の月島は。

 

「幾ら何でも全部は無茶デショ。一体何処まで想定してんの」

 

とボソリと一言。

それに反応した日向は、またびょーんっ! と持ち前のジャンプ力で飛び上がって月島に突っかかる。

 

「はいそこ―――!! 盛り下がるような事禁止! 心意気の問題なんです――――ッ!」

「うわっっ!?」

「ツッキー!」

 

 

暴れだした1年達を見て、今度こそ澤村が一喝した。

 

 

「お前ら集合!」

【お、オス……】

 

 

 

 

「―――この子らがもっともっと強くなるためにも、早く技術を教えられる指導者を見つけないとな……」

 

 

そんな騒がしくも、頼もしい皆を見て武田はある事を心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――練習試合の全てが終了した後。

 

 

「………金田一」

「!」

 

 

中学時代の確執がある2人が手洗い場にて会っていた。

これは決してたまたまではない。意図して会ったのだ。……影山が。

 

自分がどれだけ横暴だったのか、そして王様と呼ばれても仕方のなかった事。それだけの事をしてしまった事。本当は影山にもそれは解っていたんだ。

同世代とは頭一つ抜きんでていた男が、空回りし続けていた男が、力の使い方を学び、そして才能を発揮できる行き場を見つける事が出来た。

そして切磋琢磨出来るであろう相手が、同年代で目標と定めるに値する男がいた事が、影山を変える切っ掛けになったのだ。

 

本当に生まれ変わる為に、過去に決着をつける為に、影山はこの場所へと来ていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンフンフ~~ン♪ べんべんじょーーべんじょーべんべんべん♪ お~れはぁ~ だぁれぇ~♪ お~れはぁ~ エースになる男だぁ~~♪ って、ッ!?」

 

 

そしてほぼ同時刻。

日向もその場へたまたま向かっていた。自作の歌をうたいながら……トイレに行く為に。

 

 

そして、金田一と影山に鉢合ってしまった。

 

 

 

「(や、やべー、アレ絶対因縁的なアレだ! 入っちゃダメな場所だ!)」

 

トイレの陰に隠れる日向。バレてるんだけれど、バレてないと思ってほっとする。

そんな日向の背後にいるのは火神だ。日向の肩を軽く叩いてみると……。

 

 

「翔陽?」

「☆×〇△♨㍑㈱~~~ッッ!!」

 

 

言葉にならない悲鳴を上げそうになるが、どうにか声としてに発する事なく飲み込めた。……見事に身体は宙に浮いたが。

 

「何してんの? 翔陽」

「せ、せいやっ!? シー! シーッ! 今絶対ダメなヤツなんだって!!」

 

大きな声を出してる時点で最早隠れてるとは到底言えないのだが、それは置いとく。

火神は、そんな日向を見て軽く笑うと その先の廊下を見た。自分が思った通りそこには影山と金田一の2人が居た。

 

 

「……ま、あの2人なら中学の時もやったし、因縁っていったら俺たちもだろ? 最初で最後の試合で負けたんだし。ほら、今も当事者だ。そんな隠れることはないだろ(と言うか隠れられてないけど)」

「へ? わぁぁー!」

 

ぽいっ、と日向を無理矢理出した。

そして、火神も一緒に来た。

 

丁度、金田一から見たら影山を挟むような位置取りになる。

 

それを見た影山は少し。ほんの少しだけ頬を緩ませた。

 

「!!」

 

金田一はそれを見て、思わずたじろぐ。そして影山は続けざまに言った。

 

 

 

 

「金田一。……次戦う時も、勝つのは俺()だ」

 

 

 

そう告げると、影山は金田一に背を向けた。

そして火神はそんな影山の肩を笑いながら軽く叩く。その後、金田一の方を見て火神も告げる。

 

 

「俺達にとってはこれで1勝1敗だ。……次はインターハイ予選でまた()ろう。どっちが先に勝ち越せるかだな」

「ッ……。同じ相手に2回連続で負けてたまるか! 次は今回の借りを返す!! 次は勝ってやる!!」

「こっちも、負けないぜ。な? 翔陽」

 

火神は日向の方を見てみると……、なぜか日向は影山に絡んでた。

 

【影山くん、ひょっとして泣いた? 泣いた??】

【誰が泣くかボゲ!! 早く便所でもどこでも行けよ!!】

 

と。

火神は、一応中学時代の件もあって 日向に見せ場をとも思ってたんだけれど、乗ってきてくれなかったので、ばつが悪いがここまでにして、金田一に手を上げて【じゃあまた】と一言添えて、影山と日向を連れてこの場を離れたのだった。

 

 

 

 

金田一は、暫く離れてく3人を見ていた。

そこに国見がやって来た。彼もあの中学の時の事を知ってる当事者の1人だ。

 

「………何話してたの?」

「………ああ、色々とな」

「あっそ。何を色々と話してたら、そんな哀愁漂うような背になんの?? 全然似合ってねぇよ」

「うっせーな」

 

金田一は頭をガリガリと掻きむしる。

 

 

 

「俺もあん時、結構頑張ったつもりだった。……でも、なんか悔しい」

「あ?」

影山(あいつ)が俺()って言った事も、……独裁で横暴で王様で自己中で、……そんな心底うぜぇ影山(あいつ)をこんな短時間で変えちまった火神(あの男)も、…………くそっ。すげぇ悔しいな」

 

 

悔しい、と言いつつも金田一の顔には何処か晴れやかささえあった。まるで憑き物でも落ちたかのように。

 

 

中学のあの時。

 

 

自分の中では最善の事をしたつもりだった。チームの為に、影山を除く皆の為に。

それは間違いない。

 

だが、結果だけを見ればあと一歩で優勝を逃してしまったのも事実。そして影山との確執も然り、それらが平然としていた金田一の中にしこりとして残っていたのかもしれない。

 

そして 横で聞いていた国見は、金田一の事、大体の事を察すると同時に肩を力強く引っぱたくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、最後の挨拶。体育館前に集合・整列しての挨拶も終了し、後は帰宅するだけとなった時の事。

 

「………スガ。武田先生はああいってくれたけど、幾ら優秀な1年が入ったからと言っても周りを固めるのが俺達じゃまだ弱い。……バレーはコートに6人いるんだ。全員が強くならないといけない。それに対策を立てられでもすれば、柔軟に対応する為にはやっぱり周りが重要だ。相応のスキルも求められる。……悔しいが、弱い今の俺達じゃキツい」

「……………」

 

澤村は今日の試合の事を振り返っていた。

火神の個人技(サーブ)、そして影山と日向のコンビプレイは言うまでもなく相手にとっての脅威となった。試合前に火神が言っていた様に【ビックリタイム】が長く続いたおかげもあり、有利に試合運びが出来た。

だが、勿論一度見せた以上 相手も対策をしてくるだろう。そして対策された時 何がモノを言うのかは。……勿論 チームとしての強さ。土台の強さだ。

小兵がどれだけ土俵際で粘ろうとも、横綱にはそれ以上の力で圧されてしまうのと同じ。

 

そこまで力の差は無い、と思いたいが……青葉城西の基礎能力の高さはしっかりと目に焼き付いているから、よりそう思ってしまうのだ。練習試合と公式戦でそれが明らかになりそうで、澤村は警戒心と危機感を募らせていた。

 

 

「おお~~、さすが主将(キャプテン)!! ちゃんとわかってるね~~」

 

 

そんな時、まるで図ったかのように正門前に現れたのは 及川だった。

 

「出たな、大王様!」

 

身構える日向。……勿論、前に出たりせず人影で、後ろの方で。

 

そして 一番負けん気の強い田中が先頭に立って威嚇開始した。

試合中では威嚇禁止!となっていたから、その鬱憤も晴らす勢いだ。

 

「なんだコラ」「なんの用だっ!」

「やんのかコラ」「やんのかぁコラぁっ!」

 

 

田中の後ろに隠れている日向。

少々見苦しくないかな? とも思ったが、及川はさして気にする事なくただただ笑っていた。

 

「そんな邪険にしないでよ~~アイサツに来ただけじゃ~~ん。ほらほら、そこのちっちゃい君。最後のブロード攻撃、それにあのブロックも凄かったよ? 思いっきり当たりに行ってたけどアレはせいちゃんの指示かな?? 半分開いてた せいちゃんの(ブロック)が打った瞬間にガーンっ! って閉まってく感じ? アレは止められちゃうよね~凄いよね~~」

「えっ、あ、いや、えへへへ……それほどでも……」

 

急に照れだす日向。誰が見てもチョロいヤツ、と思ってしまう事間違いなし! である。

 

「今日は最後の数点しか戦えなかったけどさ。次は最初から全開で()ろうね。勿論、サーブもバリバリ磨いておくし、俺からのセットも楽しみにしててね~」

 

及川の宣告にはなかなかきつい物があった様だ。

特に月島と日向の表情が変わった。

あの強烈なサーブを更に仕上げてくるとなるとどうなるか分かったものじゃない。

 

何より及川のポジションはセッター。

 

影山が言う様にセッターとはチームの司令塔。そこが変わるだけでチームがどうなるのか、及川がセッターとして機能する青葉城西は まったく未知数。今日の青葉城西は、烏野で言えば影山抜きで戦っていた様なもの。

 

それに加えて烏野側は 今日、今、できる全てをぶつけた。

切り札は隠しておく、公式戦まで取っておく、みたいな事はせず(やろうにも出来ないが正しい)全力で全てをぶつけた。

 

結果勝つ事が出来たが、手の内がわかった今 頭も切れる及川が束ねるチームと戦えばどうなるのか……。日向・影山の超速連携、変人速攻を想定した練習は少々難しいかもしれないが、今日その次に活躍してたと言っていい火神のサーブは 及川が仮想火神となり鍛え上げたサーブで練習する様に回せば……更に守備力も増す事だろう。烏野側にもそれは言える事なのだが、基本的なスキルが高い青葉城西相手ではやはり分が悪い。

 

 

 

「君たちの攻撃力は凄かったよ。それに個々の能力も高いや。これはほんと。……けどさ。全ての始まりのレシーブで崩されちゃ始まんないよ? 皆で繋ぐのがバレーなんだし、ただ個人が凄いだけじゃダメ。……だから直ぐに限界が来るんじゃないかな。強烈なサーブ打ってくるヤツは俺だけじゃないし、それにインハイ予選までもう時間がない。……ちゃんと生き残ってよ? 俺はこの―――クソかわいい後輩を公式戦で同じセッターとして正々堂々叩き潰したいんだからさ!」

 

 

思いっきり指さされるのは影山。及川の中ではぶっ倒したい男のベスト3には影山が入るのだろう。

でも、少しばかり残念なのは火神。影山の直ぐ隣にいたのに 注目してくれなかった事が。

 

「でも とりあえず、烏野の1勝って事で良いですよね? 及川さん。それに及川さんこそ こんな大事な時期に怪我なんかしちゃ駄目ですよ? 入畑監督に自業自得だって聞きましたけど。……俺、次に全開でやるのすげぇ楽しみにしてますんで」

 

影山から聞いていた通り、及川はなかなか良い性格をしているんだと皆が自覚、そして警戒していた時に、大らかで無邪気な顔を見せてる火神を見た烏野の皆からすれば、物凄く頼りになるの一言だった。

 

そして、及川からすれば、思いっきり影山にさした指をへし曲げられた気分なのでしてやられた感満載である。笑うしかない。

 

「あっはっはっは! ほんっと生意気に育っちゃったね~? ほんと及川さんは悲しいよ。たった数ヶ月の間にさ。せいちゃん」

「あはは。もともとこんなですって。でもやっぱし生意気ですみません!」

 

ニッコリと笑う火神。

及川も苦虫を噛み潰したような顔をしていた様だが、笑顔に戻っていた。

 

「なんだコラ。ウチの1年に文句かコラ。俺を通していけコラ」

 

そして、田中が庇う様に前にやってくる。

 

「あははは。そーんな邪険にしないでってば。それにせいちゃんとは一応知らない間柄でもないんだし? まぁ 俺の後輩って訳じゃないけど」

 

その笑みには本当に得体が知れず身震いする。敵側としては厄介極まりない相手、嫌な相手だから そんな相手が笑ってたら、腹が立つ事間違いないと思うんだけれど、何処か憧れや尊敬の類の眼差しも籠ってる様にも感じるのだ。

コレが自分の後輩だったら……と何度かたら、れば、を考えてしまう程だ。

 

 

「末恐ろしい子が居て怖~い~って思うけど、次はバッチリ対策してきっちり止めてやるよ。せいちゃん、っていうプレイヤーが居る事、それはウチの皆も目に焼き付けたと思うしさ? 飛雄同様に覚悟しときなよ? 他の子たちもちゃぁんと頑張んないと、負担が増える一方かもよ~~?」

「あ、あんまり煽らないで貰いたいんですケド……。俺をダシにして」

「良いじゃん良いじゃん♪ 事実なんだしぃ~ 生意気になっちゃったけどまだまぁ可愛いせいちゃんへの細やかな反撃ってヤツだよ♪」

 

 

ちらっ、と及川は火神から視線を外して他のメンバーを。特に日向や月島を中心に見ていた。

その視線に勿論気付いた日向は、月島のジャージを引っ張りながら前に。

 

「お、おい! こっちっ側はみ――んなもれなく味方で仲間なんだっ! それにせいやに負担なんかかけないぞっ! レシーブがヘタクソなら特訓するっ!」

「!!? おい、引っ張るな離せ!」

 

 

日向の言葉を聞き、及川は今度は涼しい顔をしていた。

 

「さっきも言ったケド、攻撃力はほんと大したもんだけど、キミタチじゃ守備面が正直ガタガタだよ。高威力でコントロールの良いサーブ打つのも他に居るし、狙われたら続けたらたまったもんじゃないよ? 何処かをカバーしようとしたら、何処かを犠牲にしなきゃいけないんだから。コートは6人いるワケだしね~。あぁ、レシーブを特訓するって言ってたケド」

 

及川は、一呼吸置いた後、鼻で笑いつつ続けた。

 

 

「一朝一夕で上達するモンじゃないよ? 長く時間をかけて身体に覚えこませるのがレシーブ。インハイ予選までじゃ、時間は少なすぎるかなぁ~。でもまっ、天才ってヤツは別かもだけどね。その辺は主将君がよく判ってるみたいだと思うけどね~。だから、どうするのか楽しみにしてるよ。烏野の諸君」

 

 

 

言いたいこと全部言えたのか、それとも途中でもう満足してしまったのかわからないが、後ろ手に此処から離れていった。

 

残された皆には何とも言えない空気が流れる。

 

 

 

「あ、いや、気にしないでください。ああやって人を掻きまわすのが好きなんです。あの人」

「確かに好きだね、きっと。だって俺が中学で初めて会った時もこんな感じだったし……」

 

 

影山が慌ててフォローに入ってくれる。

何だか珍しい一面を見た気分だった。及川の事が心底苦手なんだという事も一連のやり取りでよく判った。

……影山は殆ど口を挟まず間に割って入らなかったトコを見ても。

 

 

「………ふふっ」

「!?」

 

 

そんな中でも、澤村は不敵に笑みを浮かべる。

自分達は弱い、と断言したのにも関わらず、及川に一方的に言われ続けたのにも関わらず。

思わず心配して他の皆が声を掛けるが、澤村は首を横に振った。

 

「確かにインターハイ予選までは時間がない。日向が言う様に練習するって言っても時間的に限界ってもんがある。……けどな、相手に及川が居なかった様に、こっちにも今日居なかったヤツがいるんだ。………そいつも、そろそろ戻ってくる」

「あっ!」

「??? 何が戻ってくるんですか?」

 

 

 

 

「……レシーブの要。烏野の守護神」

 

 

 

それは、日向にとってはかなりそそられる称号の様なモノであり、影山が聞いてみればリベロであろう事も想像が出来、火神に至っては非常に楽しみにしている1人でもあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は青葉城西側。

練習も終わって皆で片付けの最中に岩泉と及川は今日の試合について話をしていた。

 

「火神の事は最初に聞いてただけだがスゲェヤツって元々分かってたし、そこまでは驚かなかったんだが……。問題は影山だな。中学(むかし)に比べたら凄く変わったってヤツか?」

「うん。そうだね。トビオに関して言えば 中学じゃ合わせれる相手が居なくて 色々と見失ってた天才が見つけちゃったみたいだからさ、行き場に加えて 同じくらい凄い相手を。……だから、もう凡人は敵わないんじゃない?」

「へぇ、お前でも敵わないのかよ」

「トスは……だけどね。トス回しで飛雄に敵うヤツ県内にはいないんじゃない? でもま、サーブもブロックもスパイクも負けないけどね~」

「オイ! トスも負けないって言えよクソ及川! テメェがウチのセッターだろうが!」

 

今日の反省会、と言うよりは注目していた新人についての話し合いの様なモノだった。

そんな中で、岩泉は弱腰な及川に活を入れる様にボールをぶち当てる。

なかなかに攻撃的である。

 

「イタタタ……、でもだってほんとの事だもん! それに、トビオだけだったら、レシーブをめっちゃくちゃに崩して、乱して、マトモにトス回しさせない状態にして、【1人だけ上手くたって勝てないんだよ? ドンマイ!】って言う気まんまんだったんだけどさぁ…… っていうか、今でも言いたいんだけどさぁ。……問題は せいちゃんの方なんだよねぇ」

 

大きく肩を落とす及川。

 

「中学ん時に聞いてた、たった1人で戦況を変える選手、ってヤツ? そんなの、オオゲサでしょ? サーブがちょっと他より群を抜いてるだけじゃない? って思ってたんだけど、実際に見てみたらどれもこれも満遍なく上手い上に 1年の癖に皆としっかりコミュニケーションとっててチームを活かす力(・・・・・・・・)ってのが凄いんだよね~。カントク達が言ってたのが本当の意味で分かったっていうかなんというか……。ほんっと生意気なんだ。留年してんじゃない? って言いたいよ」

 

首をぶんぶん、と振った後に岩泉に向き直って力強く言った。

 

「だから せいちゃん対策を思いっきりした上で、トビオに言いたいこと言いまくってやりたいから、頑張ろうね!」

「…………頑張るのは良いんだが、その姿勢には引くわ」

「? だってさ 天才とかムカつかない?」

「火神とは楽しそうに話してるの見たが?」

「せいちゃんは 何かさ~、変なんだよ。素直にムカつけないって言うか何と言うか」

「俺はお前の方が変だと思うわ。ムカつき加減も群を抜いてるのはお前だけ」

「えええ!! 何でさ! 中学の頃から頑張ってきた間柄じゃない!」

「女にキャーキャー言われてるヤツにムカつく権利なんぞ端から無い」

「って、それ僻みじゃん! みっともないぞ岩ちゃん!!」

 

 

最後は及川と岩泉の(一方的な)ケンカで締めとするのだった。

 

 



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第30話

 

 

「先生、今日は本当にありがとうございました! 先生のおかげです」

「いやいや、皆お疲れ様だよ。僕、今日はビックリの連続だったね。なんて言ったってあの青葉城西高校に勝っちゃうんだからさ。強い強いって言うのは聞いてたんだけど、それでも凄い衝撃だった。向こうの選手達も監督さんたちも皆を見てビックリしてて、僕は勝手に鼻が高かったよ」

 

 

名ばかりではあるが、顧問の位置に居る武田。生徒たちの頑張りが嬉しいと思うのは教師の性ではあるが、その生徒たちが認められる。更に言えば凄いといい意味で驚かれる事が何よりも誇らしく、自分の事の様に嬉しい。武田はそう感じていた。

 

澤村は、武田と言う新しい顧問先生に多大なる感謝の意を向けつつも、現実問題を口にしていた。

 

 

「………確かに、勝ちました。ですが、まだ正直足りないんです。今日の試合は火神が最初に言った様に、所謂【ビックリタイム】がいい具合に継続した成果だと俺は思ってます。火神からの奇襲に加えて、チームを支えつつも見せる個人の強さを見せました。火神と影山は最初から注目されていたのですが、そこに日向って言う存在が加わって、更に青城は混乱して更に乱れたと思ってます。……なのでこれから先、対策が進んで火神を徹底マークされたり、日向がブロックに捕まったり、今日みたいな強いサーブでレシーブ崩されたりしたら、術が無くなってしまいます」

 

 

点差を考えてみたら危ないのがよく判る。

スコアで言えば2-0の完封。

だが、どのセットも接戦の末の勝利だ。それに直ぐ後ろに居る威圧感も感じていた。及川と言う正セッターの存在もあっての事だ。それに加えて後何処かで綻びがあれば、亀裂が入れば脆く崩れてしまう。

 

烏野ではまだ土台がしっかり出来ていない、と澤村は感じていた。

火神や影山といった超高校級の選手達におんぶにだっこ状態では絶対にある程度上にいけば勝てなくなる。こちらも支えていくだけの力が必要なのだと感じた。

 

 

「俺も偉そうには言えないんですよ……今日の出来を考えたら。結構色々と頼っちゃった部分も多いですし、今後そういう事にならない為にも監督やコーチと言った指導者が居れば、とも思ってしまうんです……」

「むむむ、成程。その通りだね……」

「あっ、スミマセン! 先生が力不足、とかじゃなくてですね……」

 

まだ就任したばかりの武田には十分すぎる程の事をしてもらっている。

バレー部の練習場所の確保に始まり、更に今日のイキナリの4強との練習試合をセッティングしてくれた事もそうだ。

でも、得手不得手と言うものがあり、バレーの指導ともなれば 経験と言うものはどうしても必要になってしまうから、それ以上武田に求めるのは酷だろう。

 

でも、武田はそんな澤村の思いをわかったのか、笑顔で首を横に振っていた。

 

「あははは。大丈夫わかってるわかってる。指導者の方は僕にアテがあるんだ。何度かお願いしてて、まだ了解はして貰えてないんだけど……、きっと何とかして見せる。今日のキミ達の頑張りに応えないといけないからね」

「!」

「じゃ、後 体育館は任せていいかな? 僕これから用事があるから」

「あ、ハイ。大丈夫です」

「うん。じゃ、みんなお疲れ!」

 

笑顔で飛び出していく武田の背を見たのは直ぐ傍にいた田中。

 

「……な、なんか武ちゃんがすげぇ頼もしい」

「うん……」

 

先生にちゃん付けはどうかと思うが……、それはこの際おいておこう。

 

 

 

「おーい、しょーよーー! そんな器用に寝ながら掃除するくらいなら後はやっとくから先帰れって」

 

そんな時、背後から火神の声が体育館に響いていた。

よくよく見てみると、火神が言う様に日向はモップを手に持ってうつらうつらと頭を揺らせている。モップが杖替わりだろうか。なかなかの器用な寝方だ。

 

「日向っ!? 火神の言う通りだって! 帰んな帰んな。ってか、そんなんで道中大丈夫か?? 帰る時に事故んなよ!?」

「アレ見てツッキー。日向立ったまま寝てる!」

「わー、すげーー(笑)」

 

 

 

日向を心配している者、笑う者、驚く者、と多種多様で色々と世話を焼かせそうな1年生たちではあるが、心底誇らしいし、心強くも思う澤村たちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その後は恒例の坂之下商店で買い食い。

今のバレーボール部のブームは、何と言っても【中華まん】だ。

 

部活でヘロヘロになった身体には有難い食料。

今直ぐにでも頬張りたい一行は、颯爽と帰りに坂之下商店に乗り込んで注文を付けるが……、その希望は叶わなかった。

 

 

「あ? 中華まん? あぁ、さっきサッカー部の奴らが買ったのが最後だ! そんで今日はもう終了!! ってなわけで早く帰れ」

 

 

あっさりとその帰宅時の楽しみが無くなってしまった。

今日は青葉城西までの遠征があった為、いつもよりも終わるのが遅かったから仕方ないと言えばそうなのだが……、それで簡単に納得できないのが育ちざかりな高校生たち。

 

 

「えぇぇ、ハラへったぁぁ~~」

「ショクムタイマンだーーっっ」

「なんか食わせてーーっ」

「あ、このアミノサプリドリンクのお会計良いですか?」

 

【ブー―っ! ブー―っ!】

 

 

ブーイングが店内に響き渡る。(約1名はただ普通にお買い物をしているだけだが)

 

売り手である以上、お客さんの要望にはそれなりには応えたい気は少しくらいはあるんだが、生憎このメンツにはそれはなかった様だ。ちゃんと残ってる商品については会計しつつ、普段より倍増しでガラが悪そうな表情で一喝。

 

 

「ウルセェ!!! いっつもいっつも買い占めやがって、たまには我慢しろってんだ! さっさと帰ってちゃんとした飯を食え! そうじゃねぇと筋肉付かねぇぞ!!」

 

【うぅ~~………】

 

 

かなりの図星を突かれた事により、帰宅するほか無かった。

この店番の兄ちゃんの言う通り、ここ最近は 新入生歓迎! と言うのもあり、結構な割合でバレー部が独占しているのに自覚があったから。

 

腹が鳴るのは止めれないが、今日の所は貴重な中華まんは諦めて帰ろうとしてた時だ。

 

「おらっ、お前ら!」

 

ぽいぽいぽいっ、とたくさんのお菓子をプレゼントされた。見てみると、

高たんぱく&低脂肪のぐんぐんバー。健康食品の1つだ。

 

「それ食って寄り道しないで帰れ! そんでもってちゃんと飯を食え! そんだけだ」

【アザ――ス!!】

 

 

ガラは悪いが何だかんだと面倒見の良い兄ちゃんだった。

 

 

その兄ちゃんの正体? を1人だけ知ってる火神は、ただただニコニコと笑みを浮かべながら、一番長くお辞儀をするのだった。後々にお世話になるであろう事を頭に思い浮かべて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その帰りの道中。

話題に上がるのは当然今日の青葉城西戦。

 

「それにしてもよ~~。あの優男のサーブマジでヤバかったなぁ~。勝つには勝ったんだけど、アレ最初からやられてたらたまったもんじゃねぇぜ……。どっかの誰かさんは、受けたくてたまんねーらしーけどぉ~? この俺様も煽ってきたしなぁ~?」

「誰の事ですか? ソレ」

「って、ワザとらしくとぼけんなよな! このスーパールーキーが!!」

「いたたたた、痛いですって!」

 

田中のヘッドロックを食らってるのは火神。

そして、眠たそうにしてた筈の日向は、田中のスーパールーキーと言う単語を聞いて、【……スーパールーキー、かっけぇぇ!!】と目を輝かせていた。確かに日向が気に入りそうなワードだな、と思いつつ苦笑いする火神、そして目を輝かせていた日向も、火神とは同じ1年なんだから、自分も負けられない! と新たに闘志を燃やした。

 

「うぅん……、次はあの大王様のサーブぜってー取ってやるし!」

「てめーはレシーブ下の下なんだから、明日もビシバシやんねぇと及川さんのサーブ取るの夢のまた夢だぞ」

「ぶーーー!! だから一言余計なんですーーー!! そ、それにヘタクソだから練習すんじゃん!!」

 

いつも通り、影山は日向に対しては当たりが強い。日向も負けじと返す。

やっぱり火神辺りと比べられてる感があるから、ちょっぴり切なくも思ってしまう。同じ期間一緒に頑張ってきた筈なのに、差があるなぁ……と。

でも、日向にも反省点は沢山あったのでただ嫉妬の様なのを向けてる訳ではない。

いつ、どんな時でも、練習できる時は真剣にやる。それが女子相手だったとしてもママさんバレーであったとしても。そして、常にイメージトレーニング。小さな巨人の事は何度も目に焼き付けてきた。

だから、跳べるようになったんだと思ってる。……つまり、それだけだ。他にもバレーはやる事がたくさんあるのに、ジャンプとスパイクの事ばかりだったから……。

 

 

「やれやれ、ほんっとお前らはケンカのネタが尽きねぇよなー」

「ケンカする程仲が良いって感じになってくれれば良いんですけど……、色々と忙しさが倍増するんで、ほどほどにしてもらいたいトコですよ。俺からすれば」

「だははは! 火神はそーだろーな。大地さんに任命された1年リーダーだし??」

「……大丈夫です。心強い田中先輩が一緒に頑張ってくれるそうですから。何にも心配してませんよ! 何せ 田中・先輩! ですからね!」

 

 

火神の渾身の先輩コールに田中は耳を大きくして、更にテンションが上がったのは言うまでも無い事だった。火神の肩を思いっきり抱き寄せているから。

 

何にせよ、一癖も二癖もある1年生を纏めるのは相当なスタミナが要ることはたった数日で理解しているので、田中が加わってくれたら本当にありがたいの一言。……無論、その田中自身も色々とあるのは 火神は十分すぎる程知っているが、今天秤に乗せればどちらに傾くのかは言うまでもない事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえば聞くの忘れてたんだが」

「うぁぃ? あ、なにかきくなら、おれのこと かいほーしてくれてからにしてほしいです……」

「かっかっか!」

 

田中は一頻り笑うと腕を回してた火神を解放。

火神は首辺りをクキクキ、と鳴らしながら田中の方を見た。

 

 

「日向は まぁ 小さな巨人一直線だってのは判るし、火神も似た様なモンだって思ってっけど、影山は何で烏野にいるんだっけ? こっちに来た動機とかあんの? 強ぇトコって別に白鳥沢や青葉城西以外にも結構あるじゃん?」

「ああ、俺は引退した 烏養監督が戻ってくるって聞いたからですね」

 

影山が烏野を選んだ動機を聞いてなかった。白鳥沢には落ちたという話を聞いたが、だから100%烏野に来る、と言った事にはならないだろう。強豪と呼ばれる高校は他にもあるのだから。

 

「ほぉー 成程ね~。納得だわ」

「うかい監督って誰ですか??」

「あん? 日向は知らねぇのかよ。鳥養監督はスゲー人なんだぜ!」

 

日向の動機は小さな巨人ただ1人。 目を奪われたのもその選手のみ。それが証拠にあの代の他選手の事は全然覚えてなかったから間違いない。

 

「無名校だった烏野を春高の全国大会まで導いた名将! ……だった筈だ」

「へぇ~~」

「ってお前、なんで小さな巨人は知ってんのに烏養監督知らないんだよ。そのころは監督目当てで有望選手が集まってきてたし、地元でも結構有名なんだぞ?」

「あーー、そんな事言ってもダメダメ。だって翔陽はあの春高の小さな巨人以外正直眼中になかったから。傍で見てた俺が保証する。その他別の細かいトコ覚えるのは俺だったし」

「なんでだよ。しっかり教えねぇとダメだろうが」

「いや、別に教える必要性は……。それに俺翔陽の保護者とかじゃないんで」

 

ぶんぶん、と手を横に振って拒否の姿勢を取る火神。何だか子ども扱いされた様で憤慨気味なのが日向だが、知らない事実には変わりないので、口にチャック出来た。

 

 

「知らねぇってんならこの機会だ。教えてやろう、日向」

「おお! 宜しくお願いします! 田中先輩!!」

「うはははは!」

 

 

機嫌が最高となった田中が烏養監督について説明をしてくれた。

 

 

人呼んで【烏野の烏養】。

凶暴な烏を飼ってる監督である。

 

 

―――物凄く判りにくい説明ではあるが、何となく凄そうなのは理解出来た。

そこに菅原も入ってきて補足をしてくれた。

 

 

「あぁ……今の2・3年は去年少しだけ指導受けたんだけど、すげぇスパルタだったぞ……、今思い出しても震えるくらい」

 

「おおぉ!!」

「っ、っ!!」

「……………」

 

 

菅原に向けられる3人の眼差し。それを見た菅原は 心底おかしいだろ? と思いながら言った。

 

「……なんで羨ましそうにしてんだ? ほんとやばかったんだって。……でも、本格的な復帰が決まってたんだけど、復帰後少しして倒れちゃったんだよ。歳が歳だし、若いころ無茶したらしいし。今の所 復帰の予定は無いんだよな……。羨ましそうにしてて申し訳ないけど」

 

名将といっても良い指導者の元でバレーが出来たら……と期待したり羨ましがったりしても不思議じゃないのが、この1年のメンツだ。日向に関しては技術はさておき、スタミナが半端ではないから、どんな厳しい練習にもついていける事だろう。……技術が身につくかどうかはさておき。

 

でもやっぱり全国へ連れて行った監督の元で、と言うのは強い憧れがあった。

 

 

 

「影山に関しては、何処に入ったとしても 今のスタンスで行ってると思うけどな。俺は」

「?? どういう事だ?」

 

菅原の話を聞いてて、火神はただ笑いながら言っていた。

影山は烏養の名を聞いて烏野へ入ってきたようだが、例えその名前を聞いてなかったとしても変わらないだろう、と。

 

「だって 勝ちに対してどこまでも貪欲なんだからさ。負けなんか考えず突き進む、みたいな? 良くも悪くも」

「やる以上は当たり前だろ。勝てない理由なんかねぇんだし、お前だってそうだろうが。……つーか、良くも悪くもってなんだよ」

「――……それは 自分の胸に手を当てて考えれば自ずと答えは出ると思うよ。改めて聞くまでも無く」

「あーー、成程! わかった! 【レシーブもトスもスパイクも全部オレ1人で】ってヤツ辺りじゃない?? 悪い方は絶対それだろ!? って言うか、俺の中ではアレ名言の1つになってるからな!」

「ッ!?」

 

日向が大笑いしながら指摘すると、火神も親指を立てて正解! と一声。

影山は影山で、過去の事とは言っても言った事は事実だからいたたまれなくなったようだが、日向にだけは言われたくない様で。

 

「ウルセェぇぇぇ!! ボゲ日向ァぁぁ!!」

「ぁぁぁーー!」

 

そぉぉらぁぁぁ! と、掛け声と共に影山は思いっきり日向をぶん投げていた。

疲れてる筈なのに大した男である。

 

「ぷっ、はははは!! ってか、影山がそれ言ったら負け惜しみに聞こえるな。そんなん止せ止せ、カッコつけていっても無駄だって。いいトコぜーーんぶ、横の火神(優等生)君に取られちゃってるって」

「んなっ、ちがいますよ! カッコもつけてません! それに実際今日4強に勝ったじゃないですか!」

「まぁな! あの青城に2-0のストレート勝ち! いやー、俺も何点かフリーで決められたし、何と言っても最初の火神からのセットだよなぁ、アレはさいっこうに気持ち良かったぜー! また頼むわ、火神!」

「いや、狙ってアレをするのは結構難しいと思いますよ?? 条件が合わないといけませんし」

 

 

S(セッター)影山⇒WS(ウイングスパイカー)火神⇒WS(ウイングスパイカー)田中のトリッキープレイ。

 

確かにインパクトがあると言えるだろう。

だが、日向と影山の変人速攻と比べたら そこまでのものではないと思う。それに加えて如何せん条件が影山がファーストコンタクトからのセットアップの姿勢になってないと難しく、更に言えばツーアタックでも十分奇襲になるので無理にアレをする必要性も無いのだから。

 

「と言うより、俺はやっぱり翔陽と影山のコンビプレイが一番の要因だと思います。 まず間違いなくアレ見せられたらビックリしない訳がありませんし。あんなの見せられた後じゃ釣られない筈無いと思います」

「はっはっは! 確かにな! 日向の囮もすげーよかったぞ! 何度かフリーで打たせてもらえたしな!」

「あ、アザ――ス!! めっちゃせいやの陰に霞んじゃった感があったんで嬉しいっすー!」

「……そんな訳ないだろうに。絶対あの速攻の方が映えるって、それこそめっちゃ」

 

 

やれやれ、と首を横に振った火神。

そして、田中は更に続けざまに日向の肩をバシバシ叩きながら聞いた。

 

「本人的にはどうだったよ? デビュー戦での大勝利は!?」

「!?」

 

 

それを聞かれて、日向の中では鮮明にあの青葉城西の試合の事が頭の中で蘇る。

何度も何度もボールを叩きつけ、その感触はまだ忘れてないと言わんばかりに掌に残っている。そして―――勝利も出来た。

 

日向は、小さくそれでいて何処となく大きさもあるガッツポーズをした。

 

その隣では、気持ち的にも境遇的にも同じ(筈である)火神もいて、空いている方の日向の肩を叩いて、労った。

田中は一瞬だけきょとん、としていたが、直ぐに思い出した様に大笑い。

 

 

「はっはっはっはっは! そーいやー、火神も日向と同じデビュー戦な上に勝利だったよな!? 色々とおかしいから忘れてた」

「おかしいってなんですか、って もうツッコまないですから」

「しょうがねぇって。だって なぁ??」

 

 

田中は他のメンバーに同意を求める様に周りを見た。

この場にいる誰もかれもが、同じ意見だったようで、タイミングを計ったかの様に【うんうん】と頷いていた。

火神は、わかってはいるものの、ただただ苦笑いするしかできなかったのだった。

 

 

そして、事日向に関しては全然満足していないのは影山だった。

 

 

「得点と同じくらい日向んトコで失点してんだから満足なんざすんなよ。クソションベンレシーブなんだからよ。火神(コイツ)を見習え」

「……うぐっ」

「わーーっはっはっは。大なのかしら? 小なのかしら?? だーーっはっはっは!」

 

 

皆して日向をイジリだした。

確かに 及川が言う様に日向の攻撃力は凄まじいモノがある。初見であれば必ず急所に当たるクリティカルヒットみたいなモノだ。対策され、慣れられたらなかなか厳しいモノがあるかもしれないが、少なくとも試合中に立て直すのは至難の業である。……何処かの誰かさんは あっさり上げたが、それはまだ日向がコースの使い分け等が出来てない所謂Lv.1の状態だからだ。練習すればするほど、何処まで化けるのか……。

 

などなど、色々と火神が考えていた時、日向は固まってしまっててフォローに回る人が居なかったので、とりあえず菅原が来た。

 

「なんでお前らはそういう事言うんだよ。勝利の余韻ってヤツがあるだろ?? 日向()初勝利なんだから!」

 

菅原も何だかんだフォローしている様で、遠回しに火神をイジってきてる様だ。何故なら、何だか日向【は】と強調している様だから。火神も同じなのに。

 

「あのぉ、一応俺も初勝利、なんですけど菅原さん」

 

と、一応抗議をするんだが、菅原は笑顔でスルーしてくれた。

 

確かに判る。

日向と火神は同じ中学校出。そこではバレー部は無かったと言っても差し支えの無い。そんな環境で育った2人。両方とも素材は超一級。だけど、何をどうすれば技術面に差が開くというのだろうか。……そこには出生に関わってくる非常に非現実的で超常現象的で、説明がつかないし、信じられないだろう。

でも、正直自分は色々とズルをしているという自覚は今でも少なからずある、やっぱり解せない、と火神は思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、次の話題は澤村が言っていた【守護神】について。

 

 

烏野(ウチ)は強豪じゃないけど、特別弱くも無い。今までだって優秀な人材はいたはずなのに、繋ぎが命でもあるバレーで、その力をちゃんと繋ぐ事が出来てなかったんだ。でも、また(・・)皆がそろってそこに新1年制の新戦力も加わって――、その戦力を全部繋ぐことが出来たなら」

「……ああ。夏のインターハイ。【全国】がただの【遠くの目標】ではなく、【現実につかめるもの】にきっとなる」

「うおおお! 夏のインターハイ! 聞いたことあるっ!!」

 

全国の名、そして それが決してただの夢である事、ただの目標である事ではなく、現実につかめるものだと澤村が断言した事で、テンションが割り増しになっていく。4強の一角である青葉城西に勝てた事も拍車をかけている事だろう。

 

そこで次の疑問だ。

 

守護神と呼ばれるような男が居るのであれば、なぜ今まで居なかったのか、と言う矛盾、と疑問。

 

「そのこれから戻ってくる人は今までどうしてたんですか? どっか怪我してたとか?」

「あ――…… いや、まぁ その怪我って訳じゃないんだ。ただ、一週間の自宅謹慎と約1か月の部活禁止ってだけで」

 

その内容はそれなりに重いものだった。つまり停学だと言う事だから。普通に通ってる学生には程遠いものだと思えるから。

 

「えええっ、ふ、不良ですか!?」

「ちげぇって。アイツはただちょっとアツすぎるだけなんだよな。イイヤツってのは保証する。マジで」

「おぉ……、田中さんがアツい、ですか……。田中さんとどっちがアツいですかね?」

 

疑問その2。

 

田中は 人一倍アツい男だと大体皆が認識している。火神は当然ながら、他の入ったばかりの1年生たちももれなく皆同じ気持ちだろう。

だからか、直接聞いてみたかった。

 

「わっはっはっは! 俺の次に!! とは言えねぇよなぁ……。ま、俺よか上だ上」

「「「すげ……っ」」」

 

 

田中がはっきりと上だと言うのは初めてだった。

それ程までの男なんだと言うことを改めて認識。頭に入れた。

 

 

「それにアツいだけじゃないぞ。アイツはな、この烏野で唯一天才と呼べる選手だ! あ、でも今はバランスの取れた2人が入ってるから唯一じゃなくなったけどな」

「てんさい! ふぉぉぉぉ!! ……ん??? バランスの取れた2人って、どういう意味ですか? ソレ」

 

 

今度は天才と言う単語を聞いて、目をまたまた輝かせた日向。それと同時にまた疑問が浮かぶ。【バランスの取れた】と言う部分にだ。

 

それを聞いた田中は、にやっと笑って答えてくれた。大した事ではない。

 

 

「クソ生意気で問題児な影山とクソ可愛気のある優等生な火神。2人足して2で割ったら丁度良いだろ?」

「…………………」

「あー………ははは……」

 

 

影山は色々と思う所があるのか、何も言い返せずただただ黙ったままだったが、火神は違った。

何処か困った様な、もしくは苦手意識? があるような顔をしていたから。それは、照れ隠しとかそういった類ではない、と言う事が横で見ていた澤村や菅原には特に分かった。

 

 

「どうした?」

「そこ喜ぶとこだべ。天才なんか言ってくれるヤツそうは居ないからなぁー」

 

からから、と笑う澤村と菅原に対し、火神は苦笑いをしていた。

 

「いや、その…… 苦手と言うかあまり好ましくないと言うか、だから顔に出ちゃったみたいですね」

「あん? 苦手?? 何がだ??」

「その―――、てんさいってヤツです」

 

 

火神の表情。

そこには謙遜している様子も無く……、ただ、苦笑いをした先の表情は真剣そのものだった。

 

「へぇ……どうしてなんだ?」

 

その真意を聞いてみたい、と思った先頭を歩いてた澤村と菅原は足を止めて完全に向き直っていた。

長くなりそうなので、火神は少し渋ったんだけれど、聴きたい、聴いてみたい、と目で訴えられてる様な雰囲気になってしまったので、観念した。同じく天才と呼ばれた影山に至ってもそうだ。

同じ立場でそう呼ばれたのに、完全に聞き手に回られてる。

 

 

 

「えっとですね。俺の中での 天才 って呼ばれる人達は――……」

 

 

 

火神は続ける。

 

彼の中での天才の定義。

 

 

それは【特に何もしていないのに出来る人。努力しないで才能の全てを本番で発揮できる人】であった。

 

 

世界には稀にそういう人達が居る事を知っている。

だから、そういう人達は文句などあるワケも無く天才と呼んでいいだろう。更に付け加えるとすればまだ小さな子供が大人同等、打ち負かす程までにやれるような事。 子供は大人と違って少ない時間しかないのに、一足飛び足で飛び越して上がっていくのでそれも天才と呼べる。

 

でも、と火神は続けて言う。

 

【自分は努力をし続けてきたから】だと。

 

努力を重ね、嘗ての仲間たちと……そう、血と汗と涙を流してきた結果、今の自分が居る。故に【天才】の二文字で火神は終わらせてほしくなかった。何でもそれだけで片付けられそうな気がするから。

 

彼の前の人生については説明のしようがないから、中々伝えるのに四苦八苦したが、それでも自分の思いは最後まで言えたと思えた。

 

 

そして全部話し終えた所で、火神は皆の顔色を窺った。ついつい話し込んでしまったから。また、新人らしくなく。なかなか自分の素と言うモノを隠すのは難しいものだから これも仕方ない。

 

 

そんな火神の事は他所に、澤村と菅原は、田中の両肩をぽんっ、と叩いた。

 

 

「「ここ、見習えよ?」」

 

 

丁度2人してハモった。

その時の田中は如何とも形容しがたい表情をしていた。

 

 

「んんっ……。かっけーなぁ……」

「はぁ、変な眼差しで見てくるなっての」

「いてっ!」

 

 

火神は、まるで少年の様に目を輝かせつつも、羨ましい、悔しい、等の様々な感情を入り混じらせた表情? をしてた日向にチョップをかました。

 

 

「……俺は翔陽を待つつもりはない。待つ必要もないと思うし」

「うぐっ……。お、オレだってすぐに誠也くらい上手くなってやる!」

「はいはいわかったから、さっさと行くぞボゲ」

「おいコラ! てきとーな流し方すんなよなっ!!!」

 

 

その後、痺れを切らせた坂之下商店の兄ちゃんに再び怒られながら、皆本当に解散するのだった。

 



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第31話

最高のリベロ登場します。


 

「っ……、次はぐんぐんヨーグル1週間分でどうだ!?」

「OKOK。なんならぐんぐんバーもつけない?」

「上等だ」

 

 

青葉城西との練習試合の翌日。

今は 学校の厳しく、険しく、そして苦しい授業(ごく一部に限り)を乗り越えた先の至福の部活動の時間帯。

 

その第2体育館では 部活開始前。

 

一足先にバレーボールの音が体育館内で響いていた。

その主は影山と火神である。

 

「んじゃ、俺からな。球種はジャンサーで。……ジャンフロは変化するからやっぱ無しにするよ。変化すんのは試合中だけで良いんだけど、そうもいかんからなぁ……」

「あのブレが最大の武器になんのに、今ブレ無いようにして変な癖付けんじゃねぇぞ」

「そんなのしないって」

 

 

 

2人は部活が始まる前に、サーブでの的あてゲームをしていた。

最初は、それぞれが自主練でサーブをしていただけだったんだが、数点ペットボトルを的にしてコートに配置。そこから緊張感を出す為? に影山が考案したのが賭け的あてである。

因みに、火神が隣で何回か当てたのを見て、競争心が芽生えたから! と言うのはまた別の話。……傍目から見れば歴然ではあるが。

 

賭けの対象が金銭ではないとはいえ……良い子の皆さんには 推奨しないのであしからず。

 

そして現在、3回目のサーブ。

 

1回目で火神がジャンプフローター、影山がジャンプサーブ。

 

勿論威力はある程度は持たせた上でのサーブだ。

そして、先ほどでもある様に火神は良いコースだったんだが、魔球とも呼ばれるサーブ故に ギリギリボールが的を躱してしまってアウトになった。

 

その2回目、ジャンプサーブに変えて仕切り直しで見事にHIT。

 

因みに影山は、2回とも寸前の所で外している。

 

 

つまり 火神の1勝中である。

 

 

 

火神は、6歩エンドラインから離れ いつも通りの集中力とルーティン。ボールトスの指の掛かり具合は問題ない。

助走からジャンプまで 流れる様に遂行。そして 空中でボールを捕え、打ち放つ。

 

ライト側隅に置いてあるペットボトルへ向かって一直線に伸びるサーブだ。

 

「ぐっ……!?」

 

影山も手に汗握ってみていた。

そして、火神はまだ宙に居る状態だったが、ボールの到達地点が予測出来た様で、表情を歪ませていた。

 

 

ぎゅんっ! と伸びたボールは、エンドライン上に着弾。ライン上に当たった見事なサーブ! と言っていい好サーブなんだけれど 今回のコレは的あて。当たらなかったら全て失敗。

 

 

「っ、ジャンプの踏込みは良い。全体も見えてた。……でも、ボールが少し流れたか?」

 

 

ばちんっ、と手を叩く火神。

確かに、的は外したが 見事と言う他の無いサーブを見て 影山は にやりと笑った。

見て吸収できる所は全て行う。ただただ貪欲に、そして向上心を持つ。それが影山だ。

 

「次は俺だな」

「おう。ナイッサー」

 

影山自身の前の2回のサーブ軌道を頭の中で再生、そして軌道修正を実施。

目を瞑り、ボールに念じる様に構える。その集中力は決して火神に負けずとも劣らない。一球一球 実際の試合でのサーブである様に。

 

目を開けて 打ち放った影山のジャンプサーブは見事にボールの芯を捉えた。

まさにイメージ通りで会心の当たり。

 

「(良い……! 当たるっ……!!)」

 

目を見開いてボールの行方を見守る火神。

 

「これはいったかな」

 

横で見ていた火神も判る程の会心の当たりだった。そして【ナイスっ!】と小さな声で称賛もしていた。賭け事等今はすっかり頭の中に無いかの様に。

 

 

ほんの後少しでボールが的に! と思ってたその矢先だった。

 

何処からともなく、ボールとペットボトルの間に割って入る影があった。明るい明るいオレンジの色の髪を靡かせる男―――日向だ。

 

 

「はぁっ!!?」

「貰った……、うぎっっ!!?」

 

 

ボールの軌道上に入れたのは凄い。

影山のジャンプサーブの威力なら、間に合わなくても不思議じゃないのに、そのスピードは称賛に値する。

……が、これは勝負だし 影山も火神も当たった!? と思う程のボールだし、そして 日向が割って入った為、ボールは 彼方へ跳んでいったし、……影山にとっては色々と最悪だった。

 

「おいボゲェ!!! 邪魔すんじゃねぇよ!! ボゲ日向ボゲェっ!! 今の当たってただろうが!! こんのボゲがぁ!!」

「どーどー、影山落ち着けって……。てかボゲ以外ないの? レパートリー」

 

今にも日向にとびかかりそうだった影山を取り合えず諫める火神。

でも頭の中ではちゃっかり、日向にグッジョブを送ってたりもする。……色々と賭け内容を追加したのを思い出したから。

 

「でも取ったぞ!? 影山のサーブ見切ったぁぁ! 次はせいやだっっ!!」

 

影山のサーブを受けてひっくり返ってた日向は跳び起きて、びしっ、と格好良く火神を指さしたんだけれど、火神は苦笑いをしながら 日向の様に指をさした。……さした場所は日向にではなく体育館の2階部分だが。

 

 

「何処がだボケぇ! ちゃんと目ん玉ついてんのか!? また(・・)ホームランだろうが、アホォ!!」

「なにっっ!?」

「翔陽……。サーブレシーブするのは良いけd「よくねぇよ!!」わかったわかった。今のノーカン。だからもっかいやろう」

 

間違いなく当たった! と確信してる影山は まだ納得がいってない様子。

でもとりあえず頭の中を切り替える様に、と火神に窘められていた。

 

「バレーは繋ぐ(・・)んだからさ。最後までボールの行方は目で追えよ?」

「ぐぅ……、判った……。取ってくる」

「そこまで肩落とさんでも良いと思うんだけど……反応は良かったし」

 

しゅん、と肩を落としながら2階へと向かう日向を見送る火神。

ひょっとしたら、取れなかった事より、ボールから目を離さない、と言ういわば基本的な事が出来てなかったので、ちょっぴり反省度合いが大きいのだろう。

 

「ってな訳で仕切り直しな。あ、勿論オレのはミスだから影山どーぞ」

「ったりめーだよ。……クッソ、今のイメージ、今のイメージだ」

 

 

同じ事を連続で出来てこその1流。たった1回のマグレではない事の証明にもなるし、集中力を鍛えられる事にもなり、結果が伴えば自信にもつながる。今は練習前の自主練だけれど、これが練習後で心拍数を上げた状態であるなら、尚有意義な練習となるだろう。……何かを賭けるのはあまり大っぴらにしない方が良いかもしれないが。武田先生は非常に真面目な先生だから。

 

 

 

そして―――今度こそ、と放たれた4球目のサーブ。

 

 

それもペットボトルを捕える事は叶わなかった。

そして、見事なサーブ! 試合ならサービスエースの手応え! ともならなかった。

 

何故なら、先ほど日向がしたように、もう1人乱入者が現れたからだ。

一瞬で現れたその男は、正確にボールの着弾点を読むと強烈な影山のサーブの威力を完全に殺しきった。日向が取った? 時の様な乾いた衝撃音ではなく、小さく低く、それでいて鈍いバレーボールの音。

先ほどの影山のサーブの威力が嘘の様に、完全に威力が無くなったボールはふわりと完璧にセッターの位置へと返球された。

 

 

「おおーーっ、すっげぇサーブじゃねぇか。すげぇヤツが入って来たな。そっちのヤツのも取ってみてぇから打ってくれねぇか?」

 

 

突如現れた男は、放り投げていた学ランを肩にかけると にっ、と笑ってこちら側を見ていた。

風のように現れたかと思えば、渾身の影山サーブを難なく取られ、堂々とした佇まい。

そして1年にとっては見覚えのない姿。

 

でも、あのレシーブだけで 影山と日向には はっきりと判った。

澤村が 守護神と呼び、田中が天才と称した男なんだと言う事が。

 

火神は、あの影山のサーブを完璧に受けて取って見せた相手を見て、笑みが沸いて沸いて、止まらないのがよく判る。自分は知っている。知っていても、実際に体感するのとはわけが違う。憧れであり尊敬であり、色んな感情が渦巻いていて収まらない。

 

気が付けば、ぎゅっ、とボールを握る力が強くなってるのが判る。

そして、そんな火神を見て 悟ったのか、一度は肩にかけた学ランを再び放り投げて構えた。

 

一騎打ち! みたいな雰囲気が流れて、その雰囲気にのまれたのか 或いは単純に見てみたいのか、日向と影山も誰が来たのかを改めて聞く前に釘付けになる。

 

いざ―――サーブを、と思いトスを上げようとしたその時だ。

 

 

「うぉぉ~~ぃ、ノヤっさぁ~~んっっ!!」

 

 

大声と共に両手を振って田中が体育館へと入ってきた。

田中の姿をチラリと見た火神は、持ち上げかけたボールを左手で抑え、腰へと持っていく。それを見届けた後に、彼も同じく臨戦態勢を解除した。

 

「おーー龍――っ!」

 

田中に続き、菅原と澤村も入ってくる。

田中の声は十分に外にまで響いてるので、誰が体育館に居るのか2人もはっきりと判っていた。判っていたからこそ、笑みが自然と零れる。

 

「「西谷!!」」

「チワーーッス!!」

 

にっ、と歯を見せて笑う彼―――リベロの西谷。

西谷は、火神の方を見ると。

 

「後でお前のサーブ受けさせてくれよな! 今は一先ずお預けだ」

「……はいっ、よろしくおねがいしますっ!!」

 

同じく火神も にっ、と笑顔で答える。

その後、ばちんっ、と軽くボールを叩いて籠に入れると足早に皆がいる方へ。

影山や日向もそれに続いた。

 

 

簡単にではあるが、澤村が紹介をしてくれた。

2年生の 西谷(にしのや) (ゆう)

 

勿論 ポジションは守備専門のリベロ。

 

天才である事、守護神である事、色んな事が日向の頭の中で駆け巡るが、日向にとって一番重要なのは 天才でも守護神でもなかった。

 

なんだか身体を震わせてる? 様な感じがする日向。菅原や澤村が気がついて声を掛けようとしたその時だ。

 

 

「お、おれより……小さい……!?」

 

 

控えめに言っても非常に失礼極まりない事を日向は言っていた。………が、確かに失礼。でも日向が言いたいのにも少しは理解できる。日向の身長は162㎝。中学校の時も先頭。高校に入っても……学年でも前から数えた方が圧倒的に早い位置。

確かに小さな巨人に憧れを抱いてはいるが、それでも高さへの渇望、羨望は止める事はなかった。 そんな自分よりも小柄な人を前に動揺を隠せられなかった様だ。

 

勿論、西谷が黙って聞いてる訳もない。

 

「あ゛あ゛!? ナンだ テメェ!! 今なんつったァコラァ!!!」

「あっ、ごめんなさい……」

 

田中に負けずと劣らない迫力で怒鳴ってくる。……が、如何せん身長が自分よりも小さいと言う事もあって、多少圧されてはいても 田中の時程では無かった。

そこに火神がやってきて日向の頭に一発チョップ。

 

「……初対面の相手に流石にそれは失礼だろ翔陽。それも先輩に」

「あ、いや、でも、そのっ……、え、えと わかってはいるんだけど止まんなくて……」

 

あうあう言ってて ガクガク震えてて 人生の分岐点にでもたったのか? と思ってしまう瞬間だ。

 

どうしても、聴きたい事が日向にはまだあった。確かに火神の言う通り失礼だ。でも、それでも聞きたい、と言う事で考えるより口が動いた。

 

「あ、あの…… 身長…… 何センチ、ですか……??」

「ア゛!? 159cmだ!! 文句あっかコラぁ!」

 

 

ばちこーーーんっっ!!!

 

影山の後頭部に全力サーブをぶち込んだ時と同じ様な衝撃音が日向の身体に響いてきた。

間違いなく、数字上でも自分より小さい事が確認できた。

 

「う、うぉぉぉぉ………」

「な、なんだよ……」

 

今度はふらふら、と身体を横に揺らしながら、ゆっくりと西谷へと近付く。

怒ってた西谷も流石に気味が悪いのだろうか、後退りした。

 

日向の目には次第に涙がたまりにたまって、軈て滴り落ちる。

 

「うっ うっ お、オレ、高校の部活に入って初めて人を見降ろしました……っっ。感激ですっ……」

「んだとコラぁぁ!! てめっ、たいして見下ろしてもねぇだろうが!! 泣いて喜ぶな!!」

「……ほんっっっっっと、スミマセン。ウチのアホが……」

 

 

いまだ泣き止まぬ日向の首根っこ捕まえて後ろへ。西谷に見られない様に火神の陰に隠した。

 

 

「ちっ!! まぁ良い!」

 

 

怒ってた西谷だったんだが、日向の気持ちも判るのだろう。同じような身長の相手だ。四捨五入したら自分と同じ160だ、と これ以上は言わず大目に見てくれた。器が大きいとはこの事だろう。

 

「お前ら1年だな?」

【オス!!】

「さっきのサーブのヤツ、ホラ そっちのデカくて目つき悪い方だ! お前ドコ中だ!?」

「……北川第一です」

「おおお! マジか!! どうりであのサーブ! 中学ん時俺当たって負けたぞ! そん時もスゲェサーブ打つヤツが居てよぉ」

 

影山の話題で盛り上がってる所で、後ろに下げた日向を前に上げる火神。もう泣いてない様だ。大丈夫そうだ。

 

「おお、西谷さんも北一とやって負けたんだ。俺達と一緒だな? 翔陽」

「おう! ……って、あんまそれ嬉しくねー」

 

北川第一に負けた同士、一つ話の話題が見つかった事でも良いだろう。……と言っても西谷に対して 何か話題がないと話が出来ないと言う訳は無いだろうが。見ての通り聞いての通り、(身長は置いといて)色々と大きいから。

 

「んで、そっちのデケェヤツ! お前、1回サーブ打ってみろ! そっちのヤツと同じくらい出来んだろ?? 何となくわかるぞ」

 

西谷の第六感が発動。……と言うのは冗談であり、最初に打とうとしたときの構え、そして雰囲気。何よりも 影山のサーブを難なく上げられたその直ぐ後に、少しも躊躇わず笑顔で打とうとした事。それらの少ない情報で西谷は 強いサーブを打つ相手である、と判った様だった。

 

「え、えっと…… 澤村さん。部活開始の時間ですが、良いですか?」

「ん―――。良い、と言いたいが 規律はしっかりと守ってほしいからな。と言うよりまずは夫々の自己紹介からだろ。西谷も落ち着けって。火神のサーブを取りたいんなら後で幾らでも打ってくれる」

「あ、いや 幾らでもって限度はありますからね?」

 

苦笑いをする火神。

そして、西谷もとりあえず頷いた。頷いたのを見た澤村は、また にやっ、と笑う。

 

「コイツのサーブも凄い。それだけは教えとく」

「あー、大地。取ってみてのお楽しみ! って感じだったのに言っちゃってどーすんべ」

「それくらいは良いだろ? 俺だって結構楽しみだったんだし」

 

今年入った有望な1年達を紹介するのが楽しみだったようで澤村も笑っていた。そんな顔を見た菅原はやっぱり 保護者じゃん。自慢の子供紹介する保護者じゃん、とまた笑うのだった。

 

「ほー、お前んトコも北一に負けたのか。んでも雪ヶ丘ってトコは知らねーな」

「あー、それはそうですよ。俺と翔陽が3年の時に6~7年ぶりに正式な部活として復活したらしいんで」

「へー それで1回戦であそこと当たったのか。勝負の世界は非情とはいえ くじ運が悪かったなそりゃ」

 

話題は中学時代の話。雪ヶ丘については当然ながら西谷も知らない。なのである意味興味は尽きない様だ。色々と無礼な日向の事も、そして色々と未知数な火神の事も。

 

「それがさ。優勝候補vs出来たて中学 って感じじゃなかったんだぞ、西谷」

「そうなんですか? 大地さん」

「そうそう。その辺は当事者の影山に聞いてみるとわかんべ」

 

菅原にも言われ、影山の方を見てみると……、何だか苦々しい顔をしていた。あまり思い出したくないのだろう。中学の時の事は。

 

「影山くんは、ウチのせいやに ぼこぼこにやられましたー!」

「やられてねぇだろうが! 何でテメェが得意気だボゲ! 火神ありきだっただろうが! このドヘタクソ!!」

「うぐぐっっ!! ヒドイ事言うなよ! 俺だって頑張ったんだ!!」

「コイツみてーに 馬鹿みたいなノータッチ連発できんのか!? ひょろひょろサーブの癖に!」

 

 

何だかしれっと馬鹿呼ばわりされた気がしたのが、一先ず置いといて 火神は目の前で取っ組み合い? まではしないけれど言い合いを始めた日向と影山を見て呆れた。

 

とりあえず、うるさいので 澤村や田中達に怒られる前に、火神が間に入って制した。

 

「ほぉーー、すげーじゃん! 北一相手にそんなに粘れるなんてよぉ。俺も見てみたかった」

「あー、いや あの時は皆が皆持てる力ってヤツを十全に発揮出来たおかげです。それに、影山以外のメンバーは俺達の事をナメてたみたいなんで、そこに付け入る事が出来たって感じですか。……まぁ、結果はストレート負けですけどね」

 

苦笑いする火神を見て、西谷は早くサーブを見てみたい、と言う願望に苛まれていた。北川第一の個々の能力は勿論の事、全体のチームバランスも優れている事は解っている。

そんなチームに何点もサーブで点を稼いだのだから、本当に大したものだ。

それも、初めての公式戦で。メンタル面も非常に高いのだろうと理解出来た。

 

「西谷さんは、何処の中学なんですか?」

「ああ? 俺は千鳥山だ!」

 

千鳥山中学の名に一番反応したのは、影山だった。

 

「! 強豪じゃないですか!」

「中学バレーでもよく聞く名ですね。対戦経験は……無いですが」

「………北一だけだもん。しょーがねーだろ……」

 

言ってて悲しくなってきそうなので、もう言うのは終わりにした。これから楽しい事がたくさん増えるんだから、と。

 

「強豪校の西谷さんが ここに来たのはやっぱり鳥飼監督の復帰を聞いてですか!?」

「………いや、違う。俺が烏野に来たのは―――……」

 

 

 

西谷の表情が一気に険しくなった。

真面目に聞いてたらバカを見る回答を分かってた火神は、少し笑いを堪える体勢を取る。

 

そして、期待通りの答えが返ってきた。

 

「女子の制服が好みだったからだ!! 勿論女子自体も期待を裏切らなかった! なんつっても、男子が学ラン! それも黒!! かっけえだろ? 学ラン! 俺中学ん時はブレザーだったからすげぇ憧れてたんだよ~~~。真っ黒の学ランにな! まさに烏! 名前の通り!! そして、かっけぇ!!」

「わかるぞ! のやっさん!」

「な!? そんでもって、女子も可愛い! 何よりもバレー部に入って良かったのは、潔子さんの存在だぁ!」

 

 

ぐっ、と握り拳。その後 天へと突き上げんばかりに振り上げる。

 

「そしてーーーー! 俺は不埒で許せん噂を聞いて、この体育館へとやってきた、と言う訳があーーる! 本来なら明日から部活OKだったんだが、居ても立っても居られない理由がな!!」

 

 

このあたりから雲行きが怪しくなるのを感じ始めたのは火神だった。

その予感は、嬉しくない事に的中する。

 

 

「潔子さんに聖なる施しを受けた激運者(ラッキーボーイ)が居ると聞いてな!! おめーらなら知ってんだろって思って駆けつけた次第だ! って、龍なら知ってんだろ?? 潔子さんに、は、は、は、ハグ!! されたやろーがいるってよぉぉ!! 俺ならそんな事されたら死ねる自信がある!!! どこのどいつだこのやろーー!!!」

「…………………」

 

 

何だか誇張されてる。凄く。

そんな噂が上がってる事も知らなかった火神。そして 日向や影山も一体何のこと? と首を傾げてる。清水の下の名前を知らなかった事は火神に対して言えば僥倖かもしれない。日向がしれっと【あ、それせいやです】と言いださずに済んだからだ。

 

だけど、まだ最大の関門が残っているのも事実だった。

 

そう―――西谷の直ぐ隣にいる田中の存在だ。十中八九、噂の出どころは田中を中心に行われていたんだと思えるから。

 

火神はちらっ、と田中の顔を見た。そして目が合った。何とか話題逸らしをしてほしい。と念を送ったつもりの火神。でも、還ってきたのは笑顔のみ。

 

 

 

 

凄い笑顔。ニッコリ微笑み。菩薩の様な慈愛の表情。

 

 

 

 

―――……でも凄いホラーだと感じたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

「それ、ウチの火神君なんですよぉ、西谷さぁん」

「…………あ?」

 

 

 

 

 

その後 体育館が更にうるさくなったのは言うまでもない事、更にその中心人物の1人でもある清水が到着し、またうるさくなったのだった。

 



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第32話

「潔子さんの抱擁寄越せ~~」

「潔子さんの香り寄越せ~~」

 

「「潔子さんを返せ~~~!!!」」

 

 

 

 

突如出現した2人の先輩(ようかい)に絡まれる火神。

 

本当に物凄く頼りになる先輩方なんだけれども、色んな意味で問題児な上に物凄く騒がしい人達が揃ったら、こうも大変になってしまうのか、と火神はげんなりとしていた。

 

「ですから……、その噂はガセですってば。ほら、清水先輩も言ってたでしょ?」

「いーや! 潔子さんはガン無視だった!! 何にも言ってなかった! それはそれで良いがな!!」

「………はぁ。確かに……」

 

そういえばそうだった。

チラッと火神の方を見てた清水は、横に数回首を振ってこたえるだけで、全然声を出して無かったのだ。そして アレは否定する仕草ではない。

 

 

【手に負えません。と言うより 負いたくありません】

 

 

と言う意思表示だろう。

如何に敏腕マネージャーとはいっても、バレー以上の面倒は見切れない、との事だろう。

 

……そんなの当たり前だが。

 

それにしても、こんな感じのちょっとしたやり取りでさえ、意志疎通してる!!と過剰に過敏に反応してくる御二人なので、見られてなくてよかったのかも、とも言えた。

 

「あ、あの潔子さんの撫でりこからの抱擁……即ち女神の抱擁。これ以上の至福はこの世には存在せぬ!! その様な天恵を授かれる人間がこの世に存在する事なぞ、到底納得できぬ!!」

「おうよ! ノヤ! その通り!!!」

 

 

芝居がかった言動、そして2人の顔。それは何処か無表情気味で揃って迫ってくる。

本当にホラー。没入感抜群の体感型ホラーゲームが子供の児戯に等しいもので、火神は思わず……どころではなく、思いっきり後退りをしてしまった。

 

「ツッキーもモテるけど、火神も大概なんだなぁ」

「……ヤメロ山口。あの人達の耳に入ったら面倒だろ」

「ゴメン、ツッキー!」

 

いつの間にか来てた山口と月島も遠目で見ていた。今日初めて会う西谷先輩だから挨拶をしないといけないだろ? と思うんだけれど、絡まれたくないオーラをバンバン出してる月島は、完全に他人の振り状態だ。……他人には間違いないんだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしている内に、西谷と田中は更に妄想を加速させていく。

 

 

 

 

 

 

【ふふっ、火神くんっ、今日もお疲れ様~。ハイ、ご褒美よ。ナデナデ】

【清水先輩……、今日もありがとうございます。これでボク、もっともっと頑張れます!】

【……やっ】

【え……?】

【……2人の時は、名前で呼んでって言ったのに】

【っ……、ご、ゴメンなさい。その、きよ……潔子、さん】

【ふふっ。ありがと。誠也くん。……もうちょっと頑張ったら――――】

【は、はうっ………】

 

 

 

 

 

 

 

まさに見事の一言。

本人たちを前にして此処までの妄想を爆発させるとは大したものである。

 

 

西谷が清水を、田中が火神を演じて最終的にはハグまでいってた。男同士でキモチワルイ。

どうやったらこの2人を止められるの……? 止められないの?? と頭を抱える火神。

 

 

そして、山口や月島ほどではないが、やや離れた所で 様子を見てる日向や影山も全然頼りにならない。

他の先輩方もどうしたもんか、と呆れ果てていて 解決策を見出してくれてない。清水は他の先輩方にとっても至高の存在、高嶺の花、才色兼備、不可侵領域、的な感じなので 下手すれば火神を襲う?側に回られるかもしれない、と危惧していたが それは無かった。そもそもあの発端は、澤村や菅原にもあるのだし当然だ。

 

でも、面白おかしく見られてるのはどうにも火神は納得できないものがある。

 

 

そうこうしているウチに、決して他人事ではない清水本人がとうとう仲裁に入ってきてくれた。と言うより、マネノートを両手に持って、妄想爆発させてる2人の頭を叩いたのだ。

 

「練習しなさい」

 

と一言添えて。

その声と頭に当たる仄かで心地良さもある衝撃が2人を漸く現実世界へと戻す。

 

 

「あ、ぁぁ。潔子さんに叩かれた……」

「此処こそが地上の楽園……」

「つまり 風の中のすばる……」

「それ、楽園(・・)じゃなく()………」

 

 

頭にハートを幾つも作って ぽわぽわしてる2人。漸く止まってくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

止まってくれたので ここぞとばかりに、火神は西谷に伝える。

 

「さ、さぁ! 西谷さん!! 俺のサーブ受けてくださいよ! 俺、すっげぇ楽しみにしてるんですから!!」

「っ……おうっ!! 俺も受けてみてぇって思ってた所だ!!」

 

バレー関係、それもリベロ関係。と言うよりレシーブ関係なら 興味を引ける様だ。

西谷は羽織った学ランを脱ぐと、肩に担いだ。

そして、良い笑顔で火神の方へと近付く。それを見て、終わった筈……なのに、何だかさっきのホラー感がまだぬぐえない火神。

 

「でも、練習終わったら く・わ・し・く 聞くからな?」

 

と西谷に釘さされてしまった。

本当に頼もしくて、それと同じくらい困った(2人目の)先輩ここに極まれり。

 

「……あれ以上どう説明すれば良いと思います? 清水先輩……。助けてくれませんか……??」

「…………」

 

火神の問い……と言うより、救済願いに無言で親指おっ立てる清水。

でも、【任せておけ!】みたいな感じではなく どちらかと言えば【グッドラック】だった。つまり、全部そっちで宜しく。と言った所だろうか。

 

それにしても、清水のソレはなかなかにイケメンな仕草。

何処かで見た事ある格好いいベストシーン。

火神の中でもランクインされるもの。………でも 火神にとっては ここじゃ大体格好いいシーンだと思ってるので ランキングつけるのは厳密には出来ない、と言うのはまた別の話。

そして、救済願いも叶わないと悟った火神は更に頭を悩ませる。

問題児な1年生が居る中で、また新たな無用で無根な不和なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな色んな事情が渦巻く中で引き起こした張本人の1人でもある西谷は、澤村達の前にいた。その西谷の雰囲気は 先ほどまでのコメディちっくなものではなかった。

期待に満ちた表情をしていた。

 

 

「旭さんは?? 戻ってますか??」

 

 

その西谷の言葉で、今の今まで明るい雰囲気だった3年の2人の表情が一気に沈んだ。

ただ、それだけで十分だった。それだけで西谷は返答を聞く前に理解できた。

 

 

―――まだ(・・)、戻ってきてないのだと。

 

 

「―――あの、根性無し………!!」

 

毛が逆立つのが実際に感じられたのは初めての経験だった。それ程までに 西谷は怒っているのが判る。先ほどまでの清水と火神の件のそれとはまた別の種類の怒の感情だ。

 

「こらノヤ!! エースをそんな風に言うんじゃねぇ!!」

 

そんな西谷に叱責するのは田中。先輩後輩の礼節を重んじる田中(単純にナメられるのが大嫌い)だからこそだった。でも、それでも止まらない。

 

「うるせぇ!! 根性無しは根性無しだ! 前にも俺は言った通りだ! 旭さんが戻んないなら俺も戻んねぇ!!」

「待てってばノヤっさん!」

「ぜってぇに撤回するつもりはねぇからな!!」

 

 

足早に出入り口まで向かい、ガラッ、と体育館の扉を乱暴に開ける西谷。

その勢いのまま、扉を閉めて去っていく。嵐の様にやってきて、また違った意味での嵐の様に去っていく男だ。……何とも言えない空気が場に流れていた。

 

 

 

事態を把握できないのは 事情を知らない者たち。

何故怒るのか、何故旭と呼ばれる男が此処にいないのか、何故、何故、何故…… 判らない事だらけだった。

 

 

「一体何ですか???」

「あー……悪いな…… 西谷とウチのエースの間にはちょっとした問題があってだな……、色々と拗らせてんだわ」

 

 

田中の説明を聞いている間に、他の人達の表情を見てみたら、やっぱり何処か寂しそうだった。

 

「俺も行くぞ!」

「ん。OK」

 

そんな深刻な空気の中でも、颯爽と動いて見せるのが 日向と火神。火神は兎も角、事情を知らない日向がすぐに行動を起こすと言うのも才能の1つだと思えた。それは決しておせっかいや慈善の類ではなく、自分自身の為に直結しているモノだから、何処までも貪欲なのだろう。

 

 

皆がフリーズしている間に、体育館を抜け出す2人。……因みに、本当に気が付かれなかったのには驚いた。

 

 

「まってくださいっっ! お、オレにレシーブ教えてください!!」

「……あ?」

 

 

足早に駆け寄る日向。やや遅れて火神も。

 

「えっと、ニシヤさんはリベロですよねっ!? 守備専門の……」

「翔陽。西谷(にしのや)さん、だ」

「はうわっ!? すいませんっっ」

 

 

2人が突然現れて、突然漫才でも始めたのか? と言いたい駆け引きを披露して、……幸いにもそれらは西谷の脚を止める効果があった。

 

「フン。名前間違えたくれぇで怒んねぇよ」

「―――ガセ情報で怒るのにですか??」

「っっっっったりめーーーだろうがーーー!! 潔子さん関係でも俺は譲る気はねぇからな!!」

「譲らなくても良いんで、兎も角弁明は聞いてくださいよ……」

 

先ほどのやり取りの話は、日向にとってはどうでも良いので、火神を横から押しのけた。

【今はそれじゃない!】って感じでだ。日向は上達する為にも影山にも負けない程貪欲だから。その切っ掛けになってもらえる相手が目の前に居るんだから。

 

「そ、それで教えてもらえませんか!? レシーブ! 俺下手ッぴで……」

 

目を輝かせながら聞く日向に、チラリと視線を向ける西谷。

 

「なんで俺がリベロだって思う? 小っちぇえからか?」

「えっ? いや、レシーブが上手いから……それにリベロは小さいからやるポジションじゃなくて、レシーブが上手いからやれるポジションでしょ??」

「……翔陽。先輩にタメ口は止めといた方が良いぞ?? 西谷さん優しいから大丈夫でも、他に恐い歳上の人に当たってたら嫌だろ?」

「あっっ、すみませんすみません! そうでした!! レシーブが上手いからやれるポジション、ですよねっ!?」

「…………」

 

西谷はゆっくりと視線を交互に2人に向けた。

日向の教育係みたいなものか? と思ったり、清水との関係性についての追及はどうするか? と思ったりしていたが、それらは一先ず置いとけた。リベロについてしっかりと判ってる事。それが聞けて満足出来たから。

 

 

「お前、しょうよう、だったか。よくわかってんじゃねーか。背の高さなんか関係ねぇからな。このリベロっていうポジションは。……リベロは俺の誇りだ」

 

 

何の含みも無く飾りも無く、ただ心に思っている事をそのまま出すのが西谷と言う男。

そんな彼だからこそ、一言一言が格好イイと感じるのだろう。特にそういうの大好きな日向は、目を輝かせた。

 

 

「ほ、ほこり―――か、かっけぇぇぇ!!」

「!!! そ、そうか?? そうか??」

 

 

これまた何処かで見たような光景が目の前に広がる。

 

「それに、澤村さんは西谷さんの事 【烏野の守護神】って言ってましたしね」

「うぉぉぉ!! そうだったそうだった!! 守護神!! かっけぇぇぇ!!」

 

此処まで言った所で、西谷の耳は通常の何倍にも大きくなっていた。耳の奥、脳にまで響いたのだろう。きっと、清水関係にも勝るとも劣らない勢いで。

 

「守っ!? な、そんな……なんだソレ! そんな大げさな。俺の事そんなっ!! 別にっ、でも……。ほんとにそれ言ってた?? 嘘や冗談じゃなくて??」

「「ほんとに言ってました」」

「――――――………」

 

 

そわそわする西谷。体育館をあんな形で後にしたから少なからず負い目もあるのだろう。でもそれ以上に言ってくれた事が嬉しくて仕方ない様だ。

 

 

「そんなカッコイイ名前で呼んだってなーー、俺はなーー そう簡単にはなぁーー 前言撤回なんてカッコワルイしなーー。……チクショーー、大地さんめぇぇぇ!!!」

 

 

1人でずっと悶えてる。やっぱり相当嬉しかったのだろう。……いろんな事情があってせめぎ合ってる中、畳みかける様に日向が言った。

 

 

「……俺、多分1年の中で一番レシーブは下手です。バレー部の中で一番下手です。……バレーボールで一番大事なトコなのに、一番下手なんです。……だから、レシーブを教えてください!! 西――――」

 

 

最後まで言い切る前に、日向の中で記憶が蘇った。

西谷にはどう接すれば良いのか。……その答えは記憶の中にある。澤村が言っていたんだ。

 

【先輩と呼んでやれよ】

 

そういっていた。その効力は田中を見ていたらよく判る。だからこそ、意を決して日向は大きな声で呼ぶ。

 

 

「西谷先輩!!!」

 

 

 

ずぎゃ―――――んッッ!!

 

 

先輩、センパイ、せんぱい、んぱい、ぱい、い、ぃ……。

 

西谷の中で只管エコーする【先輩】と言う単語。

言葉が身体を貫いたのは初めての体験だった様だ。

 

【こうかは ばつぐんだ!】

 

と、火神も改めて思って 日向に続いて畳みかける。

 

 

「西谷先輩、俺のサーブ受けてみてくれるんでしたよね!? サーブ強化は常に考えてますので、よろしくお願いします! 西谷先輩!!」

「はうっっっっ!!!!」

 

 

 

二度目の言葉の槍が西谷の身体を貫いた。

身体の芯にまで突き刺さった様だ。

 

色々とある事情は一先ず置いといて、西谷は決めた。

 

 

「……お前ら、練習の後でガリガリ君奢ってやる……!」

「はいっ!」

「えっ? ガリガリ君??」

 

間髪入れずに返事をする火神。理解が追いつかなかった日向。

この辺りはズルい知識の差なので仕方ない。

 

それは兎も角、西谷は大きく胸を叩いて宣言した。

 

 

「なんつっても俺は、【先輩!!!】だからな!!! レシーブもサーブも見てやるぜ!!」

「「おおおっっ!!!」」

「はっはっはっは!! でも、部活に戻る訳じゃないからな! その辺は頭に入れとけよ?? お前らにだけは付き合ってやる! それだけだ!」

「「アザ――ス!!」」

 

日向のノリはここ一番で効果があるなぁ、と火神は改めて思いつつ、西谷とのある意味対決に心踊らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【とりあえず、何とか収まったな……】

 

 

因みに、物陰から見守っていた澤村たちは ホっとしていた。

西谷は一度決めた事は生半可な事では曲げない。強い芯を持っている男だから。来ないと言えば来ない。……なので、澤村を始め、菅原や田中も心の底から日向や火神に感謝するのだった。

 

 

 

 

 



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第33話

コロナのせいで、非常に忙しくて遅れました。
すみません。

でも私は幸運な方ですね。忙しいくらいがいいんだとこの時ほど思ったことはありません。


「よーし もう一本だ。火神! さっきのは無しな!」

「はい! と言うか いきなりミスってすみません! んー、いい感じだと思ったんだけど 、トスがちょっと流れたかな?」

 

 

西谷は大手を振ってもう1本、と叫ぶ。そして 火神は手をぐっ、と握った後に開く筋弛緩法を何度か再び繰り返していた。

 

 

 

最初の1本目。

 

サーブトスからの助走、そして踏み込みと空中姿勢。全ての面で良い! と火神は感じその感覚のまま思い切り打ち込んだ。

 

だが、結果はアウト。

そのサーブは僅かにエンドラインを超えていた。

 

寸前で西谷は火神のサーブを躱すと、エンドラインのボール1つ分後方に着弾してしまった。

 

因みに火神は初っ端から100%の力でサーブを放った。

 

その日の自分自身の身体に調子を聞きつつ、徐々に精度と威力を上げていくのが火神のやり方で 終盤に合わせて 威力・精度共に上げていき疲労が見え始めた時に自分の100%を持っていく。

今回は あの西谷が相手をしてくれるともあって、火神は全力全開で打って見たかったのである。

 

 

そして、一本目のサーブ。外したとはいえそれを見た西谷にピリッ、と戦慄が走ったのは言うまでもない。

 

強力なサーブは何本も見た事があるし、経験した事があるが過去一番のサーブと天秤で量ったとしても何ら遜色はない。寧ろ 中学時代は西谷自身も今に比べたら未熟だった事を踏まえても過去No.1かもしれなかったからだ。

だが、西谷は決して驚きはしなかった。……わかっていたから。

 

ただの直感だった。火神(コイツ)には何か(・・)がある、と、西谷は直感していた。

 

 

西谷は再び構えた。

その先に携えているのは火神。

 

あの影山のサーブは、この体育館に入る前に実は見ている。

日向が思いっきりホームランをした時に一度だけ見ている。――……ただ、火神のサーブだけは見てなかった。

 

一緒にサーブの練習をしているだけかもしれない。ただ、影山の個人練習に付き添ってるだけかもしれない。一緒にいる理由なんて 同じバレー部であればどうとでも予想がつくだろう。

ただ、西谷の中に、野性的直観とでも言うべきだろうか……、火神にある何か得体のしれないものを肌で感じた。

(勿論、その何かの中には清水関係のも燻っているが、それは今は置いておく)

 

頭に過るのは レシーブ。ただ只管繋ぐ事。守備の要であるリベロの誇り。

 

 

ただ、サーブを見る事、受ける事、つまり個人練習に付き合う事だけだった筈なのに、ピリッとした緊張感が沸いて出る。

 

 

「さぁ、もっかい来い!」

「うっす!」

 

 

グッ、と西谷も力を入れ、そして脱力をして態勢を整えなおした。

視界をクリアに、どんな球も逃さない様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

――バレーは繋ぎが命。ボールが床にさえ落ちなければ負けはない。

 

このセリフを何度口に出したか判らない。

 

 

火神は 目の前の男から学んだ事だった。

 

バレーは高さ勝負だと言う事も否定しない。だが、目の前の男の言葉には力があった。自分を成長させてくれるようなそんな力があった。攻守共に出来るのなら、それが一番良い。点を取り、そして守る事が出来るのなら、それは最強だ。負けはない。……勝ちしかないんだ。

 

 

「……行きます」

 

 

火神は念をボールに込める様に額を付けた。

 

 

西谷と出会えた。本当に喜びの連続だ。

例え、わかってた事であっても止まることはない。止めるつもりもない。

 

田中と西谷ではないが 正直火神も抱きしめたい相手が沢山い過ぎていた。……本当にそんなことをするワケではないが、その分ボールに想いを込める。

憧れの人たちにみてもらえる喜びも、込める。

 

 

サーブトスからスパイクまで、淀みなく行われる一連動作。

もう一度外してしまったら正直勿体ない。かと言って、入れるだけサーブはもっともっと勿体ない。

なので、最初の一本目を、そして影山と一緒にやってた時のサーブも思い出して、身体の筋肉の各部位、必要な場所の情報を頭の中に入れて修正し続けた。

限界の威力と精度ギリギリを見極めてサーブを放つ為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放たれたサーブは弾丸の様にうねりを上げて西谷に迫る。

 

 

 

「(スゲェ早い、それにドライブもやべぇ。……俺に打ってみたいって気持ちがこんな伝わってくるって初めてだな。真正面じゃねぇか。……いや)」

 

 

如何に鋭く、そして速いサーブでも正面からくるものであれば、ある程度のスキルを持った者なら、それもリベロなら取るのは決して難しくはない。それに加えて、一本目の火神のサーブの軌道を見ているのだから尚更だ。

 

だが、極限まで集中させた西谷の目には、先ほどのサーブと僅かに違う事に気付けた。ボールの回転の仕方、迫る圧迫感の様なものが僅か右頬辺りを通過した様に感じた。

 

つまり―――。

 

 

「(正面じゃねぇ! 曲がる!!)」

 

身体全体が反応した。

正面からくるかと思いきや、ボールは曲がった。もうほんの一瞬、刹那……その些細な違いを見分ける事が出来なければ、ボールは後方彼方へとんで行ってしまった事だろう。

 

西谷の腕に当たったボールはコート真上に飛び上がり……、アタックラインよりも外側に落下した。

 

とん、とん、とん……、とバウンドするボールを見送った後、放っていた学ランを再び肩に担ぐ西谷。にっ、と最大限の笑みを浮かべ。

 

 

「すげぇな! 火神!! めっちゃビックリしたぜ」

「あ、ははは……。ありがとうございます!」

 

 

火神は完全に上げられた事に対して 全く悔しくないと言う訳ではないが、それ以上に西谷に褒めてもらえた事に感激を覚えて こちらも最大限の笑みを浮かべて頭を下げていた。

 

「いやー、すげーすげー。今年の1年やべぇっスね、大地さん」

 

外で見ていた澤村の方へと上機嫌で戻る西谷。先ほどの【戻らねぇ】発言から、多少なりともまだ不安は残っていたが、今で払拭出来た。

 

「そのやべぇ1年のサーブをあっさり取っちまう所を見ると、西谷もやっぱ頼りになる。まさに守護神だな」

「っっっ、あざーーす!!」

 

澤村の口から改めて、【守護神】の言葉を貰った西谷。

照れくさそうに笑みを浮かべながら礼をしていた。

 

「……うはー、ほんと全然鈍ってないよなぁ。イキナリで影山や火神のサーブ取るとか。俺からしたら  西谷こそがスゲーだよ」

「スガさんも、アザ――ス! ……でも、手放しで喜べないっス。影山のサーブは 文句なしのできだったんスけど、火神のはちゃんとセッター位置に返球出来てませんし。アイツ1球目ミスってたんで、次のは力抑えてたっぽいんですよね。でも全然コントロールは悪く無かった。全力のサーブだと捉えきれなかったかもしれません。……何より1球目は 俺は半分逃げたって思ってます」

 

ちらっ、と西谷は 火神達を見ながら言った。

火神は日向や影山に囲まれてる。サーブやレシーブの話題が中心だろう。特に影山は、西谷が言う様に自分のサーブは完璧に取られたが、火神は違う! と判った様で 更に気合が入った表情をしていた。

 

「は? 逃げた?」

「はい。一投目なんですけど、アレは 正直アウトかセーフか判ってなかったんスよ。結果を言えばアウトだったっスけど、最後の最後まで確信は持てなかった。ノータッチエースやられたって一瞬思ってしまって、負けた気分になって 次のはかなり気合入りましたけどね。いやぁ、やばいっスよ」

「ほぇ~…… ぜーんぜんそんな風に見えなかったけど、西谷がそういうなら、やっぱそうなんだろうな。レシーブに関して言えば特に。つまり影山はすげーが、火神の方は やべー、か」

「っスね。今年は良い年になるっスよ」

 

西谷がスゲー的な空気だったが、やっぱり火神もスゲーと改めて思い直し、空気も変わっていった。

 

そんな時だ。

 

「西谷さーーーんっ!! 次っ、次っっ! 俺に教えてくださいっっ!! レシーブ教えてくださーーいっ!」

 

日向が大手を振って西谷を呼んでいた。

 

「おー、待ってろよー」

 

西谷もそれに応え、駆け足で日向の方へ。

 

 

 

 

その後―――西谷の教え方は、擬音説明が非常に多くて(サッ、スッ、ポンッ。と口に出した) 大多数が理解する事が出来なかったのだった。

本能で動く系の人間の説明は、普通の人にはよく判らない。と言う事がわかったのだった。

 

 

 

 

そして、レシーブ練に精を出していた時だ。不意に日向が西谷に聞いたのは。

 

「旭さんって誰ですか?」

 

一瞬、場が騒然となったのは言うまでもない。西谷の先ほどの激怒を見ていれば、大体察する所があるんだけれど、日向はその辺りは空気を読んでなかった様だ。……と言うよりは、空気を読むより好奇心が勝った。烏野の【守護神】が前に居る。……即ちもう一人は何なのか。

 

それは十中八九【エース】だと日向の中では思っていたからだ。

 

 

そしてその予感は的中する。西谷は 表情を顰めつつも教えてくれたから。

 

「……烏野のエースだ。……一応(・・)だがな」

「エース……っ!」

「目変わったな、翔陽」

 

目を見開いて興奮している日向を見て、火神は苦笑いをしつつ、肩に手を添えた。どうしようもなく飢えているのを知っているから。小さな巨人に憧れた。あの選手は間違いなくあの時代の烏野のエースだったから。

 

そんな2人のやり取りがよく判ってなかった西谷はただただ首を傾げる。

 

「それがどうしたんだよ。エースがどうした?」

「あ、いや…… オレ、エースになりたいって思ってます!」

「あ?」

「あいつ、まだそんなこと言ってやがんのかよ」

 

日向の役割を十分に理解し、十全に発揮できるよう努めてる影山にとって、日向のエース宣言は好ましいとは思っていなかった。と言うより、身の丈を考えろ、ボゲ。とも思っている。エースと呼ばれる選手は数多く見てきたが、攻守揃ってこそのエースだ。一時期スーパーエースと呼ばれる事はあったが、日向は攻撃面は出来てもその他がまだまだダメダメなので、影山は看過できなかった様子。

力づく? で訂正させようと腕をまくった所で火神に止められた。

 

「はい、ストップ。影山の言いたい事もスゲェ判るけど翔陽の話、改めて聞いてみよう。西谷さんも気になってるみたいだし」

「……チっ。あめーんだよ、お前は」

「これでも結構頭引っぱたいてきたつもりなんだけどな。それでも、翔陽の中の熱ってヤツは冷めないんだ。……それに、後ろ向きになるのに比べたら断然こっちが良い」

「…………」

 

影山は火神に諭されてどうにか止まって傍観してくれた。

その間に日向が言う。

 

 

「俺、何年か前の春高で 烏野のエース……【小さな巨人】を見てから絶対ああいう風になる! って思って烏野に来ました!!」

「ほぉー。……その身長で、エース?」

 

 

西谷は、ぐっと声を飲み込んでため込んで、そして大きく吐き出した。

 

 

「いいな! お前!! だよな! カッコイイからやりてぇんだよな!! いいぞいいぞ、なれなれ! 烏野のエースになれ!! 少なくとも、今のエースより断然頼もしーしな!」

「っ、っっ!?」

 

如何とも形容しがたい顔になってる日向。

気持ちはわからなくも無かった。今まで影山に何度も【ボゲボゲ】言われ、月島にも【後ほんの30㎝あれば~】的な事も言われ、色々と尾を引いていてここまで歓迎してくれたのは高校に入って初めてだったから。

 

西谷は純粋に日向の気概に、そして 自分と似た様な身長の男が頑張ろうとする姿を見るのが好きだった様だ。でも、少し残念な所もある。

 

「んでも、やっぱ憧れはエースかぁ、そもそも響きがカッコイイもんなぁ、エースって。ちくしょう!」

「ハイ!! すっごくカッコイイです!!」

「う~ん、エーススパイカーっていう花形に比べたら、リベロやセッターはぱっと見地味だもんなぁ」

 

西谷の一言は影山の闘志にも火をつける。セッターが地味と言われれば黙ってる訳にはいかないのだろう。……勿論、周りに落ち着かされた様だが。

 

「俺はそうは思わないですよ? 勿論、エースっていう肩書と言うか響きが目立つっていうのは頷きますけど」

「あん??」

 

そんな中で火神は異論を口にした。

周りも 少々興味がそそられた様で火神に注目が集まる。

 

「オレの個人的な意見になっちゃいますけど、世界バレーの試合とかでも、リベロが凄いレシーブしたら、敵味方問わず会場が凄く盛り上がりますし、裏を、意表をつくセッターのセットも同じく盛り上がる要因です。う~ん…… なんで 地味って思うトコはオレん中じゃあんまり無いですよね」

 

苦笑いする火神。

西谷は目を見開いていて、次には顔を俯かせながら火神にゆっくりと迫ってくる。何だか恐怖を感じたその次の瞬間だった。顔を勢いよく上げて、背中をバンバンと叩かれた。

 

 

「お前っっ!! か、火神か!!? 火神はいいヤツだな!? 潔子さんの素晴らしさとリベロの良さを分かってるヤツに悪いヤツはいねぇ!!」

 

 

うおおおおっ! と盛り上がってくれた。西谷の中ではリベロ関係が 盛り上がる要因の様だ。勿論清水の事も同様に。

 

 

「だよなだよな!! スゲースパイクは 周りを黙らす! って感じだけど、盛り上がんのはそのスゲースパイクを拾った時だよな!! つまりスーパーレシーブが出た時だよな!」

「う、うぉっす!!?」

「リベロは確かにちっちぇえ選手が生き残る唯一のポジションかもしんねぇけどよ、オレは例え身長が2mあったとしてもリベロって決めてんだよ! 負けないプレイ(・・・・・・・)が一番出来るのがリベロなんだからな!!」

「……ですね! ボールが床に落ちなきゃ得点にならない。まぁ、例外で吹き飛ばされて壁に激突っていうのもありますが、ゲームでは殆ど床に落ちて点が、試合の流れが動きます。………ボールを落とさなかったら、流れも渡さず、そして負けにもなりません」

 

 

火神ははっきりと西谷の目を見ていった。

感激と感動でいっぱいだった。心の師の1人でもあった彼にこの言葉を言える日が来るとは………、と。この世界に来て日が浅かったら確実にハグをしている事だろう、と苦笑いしかけたのはまた別な話。

 

「うぉぉぉぉ!! はっきり言ってくれやがってコンチクショーー!!」

「……りべろ、すーぱーれしーぶ……… 負けにならない………」

 

日向の頭の中では今 エースの事ばかり渦巻いていた様だが、ここへきて脳内の状況が変わる。バレーの試合はテレビでも何度も見た事がある。やっぱりエースが格好いいと言うのは変わらないし、変えられない自分の中の事実の1つ。渇望する1つではあるが、西谷や火神が言う通りだった。

 

そんな日向の姿が火神の視界の中に映ったので、火神も思い出す様に日向に言った。

 

 

「翔陽。中学ん時のコージのキックレシーブを思い出してみ。ほれ あれなんか狙って出来るもんじゃないスーパーレシーブだっただろ??」

「うん……、うん、うん!」

 

 

確かに会場がこれでもか!! と盛り上がったと記憶してる。

火神がサービスエースを決めた時も盛り上がったけれど、決してそれに劣ってたとかは思わない。結果としては 負けてしまったけれど、あの時の会場の盛り上がり方は 確かに凄かったんだ。日向は 火神に色々とフォローをされてなければ負けたショックで何も覚えていなかったかもしれないが。

 

それは兎も角、リベロが盛り上がる事も自分自身は最初から知っていたんだ、と確信した日向は改めて言った。

 

 

「リベロ、かっこいい……ッ!!」

 

 

やや小さめの声だったのだが、それが逆に功を成した様子。

ぴくっ、と耳を大きくさせた西谷。

 

【つい】【うっかり】【気付けば】

 

これらが原因で口に出す言葉は、心底本心である事を西谷は知っているからだ。だからこそ、毎日顔を合わせていても清水にかける言葉は変わらないのだ!(本人談)

 

「ほんとお前らはお前らは!! ガリガリ君2本ずつ喰え!! 勿論ソーダとナシ味だ!!」

「「オス!」」

 

 

 

―――今日この日、アイス2本奢ってもらう約束が出来た瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、話題は日向。

西谷は日向の事が大なり小なり気にかかる。自分と同じくらいの身長でエースを目指そうとしている後輩を見て思う所が沢山あるから。

 

【エースを目指すと言うのなら、何か特技があるだろう? レシーブは下手だったけど】

 

と西谷に聞かれ、日向は細々と自信なさげに答えた。

自分は【囮】である、と。

 

 

「見た感じ、火神。お前が教育係なんだろ? 何で自信なさげにさせてるんだ?? せっかくのエース志望の有望な1年を」

「いやいやいや、一応1年のまとめ係を澤村さんにご指名されましたが、間違っても教育係じゃありません!」

「………おれ、有望な1年……っ」

「身体に反比例して、おっきい事言うからじゃない??」

「う、うるせーー、月島うるせーーっっ! 言わなくてもわかってますーーーー!!」

 

 

日向が自信なさそうに俯いていた事以外、これが平常運転な烏野バレー部である。

ただ日向の自信なさそうな言い方には活を入れないと、と西谷は胸を張っていった。

 

「確かにお前の言う囮ってのは、パッとしないが、呼び方なんて関係無ぇだろ? お前の囮のお陰で誰かのスパイクが決まるんなら、お前のポジションだって重要さは変わらなねぇ。【エース】とも【守護神】とも【司令塔】ともな」

「………はい」

「はぁ、もっと背筋伸ばせって。言い方によってはオレなんか器用貧乏って取られるかもしれないし、翔陽のあの囮は真似なんか出来ない最強の武器になるんだぞ??」

 

 

と、色々と日向を励ます会になっていった。(内2名は 別の様だが)

 

 

そんなやり取りを見てた菅原達は、思わずツッコんだ。

 

「いや、今でもスゲーヤベーなのに、どんだけ贅沢なんだよ火神 ソレ。今以上に求めるとか器用過ぎる貧乏人だな ソレ。飽くなき向上心爆発中かよ。もっともっと上目指すってか??」

「ふふ、周りも触発されて、より良くなっていく事を期待するよ。勿論オレ達も負けない様にな。……それに武田先生の言ってた化学変化。俺達はもっと変われる気がするよ」

「間違いねーべ。……後は 旭が帰ってきたら。日向と影山、そいつらを支える火神。今の1年が合わさればきっとどんな強敵にも立ち向かえる。……勝てる!」

「おう! きっとな。あいつもきっと………。てか、求めすぎてないよな? オレ達」

「おいおい、大地。弱気ヤメロよ! なんか心配しちゃうだろ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、今日 烏野に守護神が戻った(仮)

 

だが、まだエースが残っている。……そして、彼らを導ける指導者も。

今後、どう風が吹くか、どう烏が飛び立つかは判らない。

 

だが、どんな風が吹いても、きっと烏は貪欲に進むだろう。どんな環境でも生き残るだろう。

 

 

それこそが烏野排球部なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、同刻某場所。

 

 

 

「監督やってたのはオレのじいさんであって、オレは人に教えるなんてガラじゃねぇんだ。それによ。……あんたが欲しいのは技術指導者もだが、何よりも、【名将・鳥養】の名前だろ?」

 

 

 

2人の男が、とある場所で議論を交わしていた。

いや、交渉だろう。

 

「正直に言えば……そうです。全て僕の力量不足です。鳥養監督が退かれてから、だんだんと他校とは疎遠となりました。穴埋めで今年入った僕程度では、練習試合さえなかなか取り付けてもらえないんです。……悔しい、ですが」

「名将って名前があればそれなりに変わるかも、……ってか? 気持ちはわからんでもないが、オレはクソめんどくさい高校生のお守りなんかごめんだ。毎日毎日店先で騒いでる奴らを纏める? ………いやいやいや、想像できねーって。頭痛くて」

「…………。また、改めて来ます」

「いや、だからやんねぇってんのに」

「……しつこくてすみません。……でも、あの子たちの試合を見てもらえたら、こんな素人な僕が此処まで通い詰める理由も判ってもらえると思うんです。………失礼します」

 

 

場を後にする男―――武田先生。

その背中を眺めていた男―――坂之下商店の店番。鳥養(うかい) 繋心(けいしん)

 

武田の求める技術を教えられる指導者は、文字通り、見た通り、目と鼻の先に居たのだった。

 



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第34話

「先生?」

「~~~よしっ! よしよしよし!!!」

「あの~、武田先生??」

「やった!! とうとう僕はやったんだ!!!」

 

 

場所は職員室。

そこにいるのは大勢の先生方に加えて火神。

 

何で火神が此処にいるのかと言うと……、武田先生に呼ばれたからだ。職員室に呼ばれるのは何だか悪い事をしたのか? と言うイメージが付きやすいが、生憎 火神は学力面でも問題ない。学力が疎かになって部活出来なかった、何て事にならない様に務めているからだ。……つまり、某部員たちの様な ベタな展開にはならないとだけ言っておこう。

 

そして話を戻す。

 

武田は火神を呼んだまでは良かった。

武田と一緒に職員室に入ってきて、その時に電話が鳴った。なので、終わるまで待っていて、終わったと思ったのに――――何だか夢中になってて存在を忘れられてしまったみたいだ。

 

「うるさいですよ、武田先生。後、生徒も待たせてますよ」

「っ、あっ スミマセン。火神君もゴメン…… あまりの成果に思いっきり舞い上がってしまって……」

 

頭を掻きながら謝る武田。燥ぐ姿から謝る姿まで、一連の光景を見ていたら、何だか自分より歳下なんじゃないかな? と思う所はあったりするので、火神は苦笑いをしながら 問題ない、と伝える。

全力で烏野バレー部の為に行動をしてくれる先生なんだから、勿論 尊敬しているし、物凄く頼りにもしていた。

 

「えっとですね。火神君に頼みたいのは、清水君の所にこの書類を届けてもらいたいんだ。後発注していた用具も届いたから、合わせて頼みたいんだけどいいかな?」

「ええっ!? 3年生のトコに俺が!? 澤村さんとかじゃなくて?? ……あ、いえ 別に嫌だと言ってる訳ではないんですが……、その……」

「あははは。ゴメンゴメン。でも清水君とは仲が良さそうで、僕が見ていてもとても微笑ましいからね。だから君が適任だと思ったんだ」

「えぇぇ……、先生も何だか誤解してません? 田中さんや西谷さんたちが騒いでたの聞いてたんでしょ?」

「ふふっ、それはどうかな~。ま、健全な関係までだったら僕は歓迎するからね。何だか青春って感じで良いじゃない」

「はあ……」

 

教師なのに何言ってるの、この人……、とどんよりと肩を落とす火神。

別に、本気で届けるのが嫌だとは思ってないし、清水もマネージャーとしてかもしれないが、バレー部員としてお世話になってるのは間違いないから、このくらいのお使いは寧ろ歓迎するんだけれど、如何せん 田中&西谷 辺りから 事件が勃発しそうなので、げんなりとしてしまうのだ。……清水の事は、昔から知っているし、そのクールさは画面越しでも十二分に伝わってきていたから、色々と思う所はあるんだけれど、どちらかと言えば凄く憧れてる、以前にも伝えたが最高に格好良いと思っている、と言う感情が今は強いと言うのが本音だ。

 

そう正直に伝えたらそれはそれでうるさくなりそうなので、深く言わず口を閉じてるが。

 

 

「こほんっ、えっと 先生。それで電話の内容は 何だったんですか? 猫又先生って名前が聞けましたが、……ひょっとして東京の音駒との練習試合が組めたり? なーんて」

 

ワザとらしく火神は話題逸らし。

こういう時に使えるのは彼の知る知識だ。全てが同じ、と言う訳ではないし 画面上の光景を見るのと実際に体感してみるのとでは情報量の桁が文字通り違うので知識全て100%必中する訳ではないが、要所要所は間違いないので助かる。

 

そして、武田もまんまと火神の策に乗ってくれた。

がばっ、と起き上がって火神の両手を握る。……握られても嬉しく無いけれど、されるがままになって、ぶんぶんと上下に振られた。

 

「そう! その通り! そうなんだよ!! よく聞いてくれたね!! と言うか、名だけで判るとは火神君、君は音駒の事知ってたんだね?」

「はい。噂……程度ですが聞いてますよ。烏と猫のゴミ捨て場の決戦、と言う話を幾つか。音駒の監督と烏野の監督、えっと、鳥養さんが顔なじみで……でしたっけ?」

「そうなんだ! どうにか口説く事が出来てね!! 流石に電話越しで土下座は出来ないから、精一杯の誠意を伝えるだけだったんだけど、何とかなって良かったよ!」

 

土下座を得意と自負する武田。

澤村が土下座は止めてほしい、と思う気持ちがよく判った。ここまでやってくれるのは本当に嬉しいんだけれど、自分達バレー部の為に土下座とは、流石に恐縮しきってしまうから。

 

「これは大きなチャンスなんだ! きっと、きっと、ここから何かが変わる! こんな最高の相手。こっちも最高の状態で臨まないと失礼だ」

「武田先生。静かに話をしてくださいよ?」

「あ、スミマセン……」

 

本日二度目の注意を教頭から受けた武田は、とりあえず興奮を収めた。

 

そして、火神に言う。

 

「細かな詳細と日程は後日、皆の前で伝えるからもう少し待っててくれないかな? 火神君」

「あ、はい。判りました。よろしくお願いします」

「うん! っ………」

 

武田は、火神の顔を見て、一瞬ゾクっ、とした。普段の表情。日向や影山がギラギラした闘争心剥き出しな夏の表情だとするなら、火神はどちらかと言えば穏やかで爽やかな春の表情、って感じだった。

でも、今は何かが違った。緩やかに流れる川、潺が聞こえてきそうな穏やかな風景がまるで津波でも迫ってきて大河に変わったかの様な感覚。それは色々とポエミーな武田だからこその情景。

 

 

「……音駒…………、楽しみにしてます。先生。本当にありがとうございます」

 

 

静かで、それでいて誰よりも熱い心を感じた。

 

その後、武田は火神を見送る。

その大きな背を見ていて、こんな少年が、こんな逸材が居るんだから、大人として最大限に、100%を超えて仕事をしないと、応えてあげないと、と武田は改めて胸に刻むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、火神は休み時間を利用して 清水に荷物を届けに行こう、と1年の教室前廊下歩いてた所、ばったりと出くわした。

 

「あっ、せいや! 探してたんだぞ」

「んん? 翔陽に影山。どうしたんだ? こんなとこで」

 

日向は良い笑顔。影山は何処か呆れ気味だった。

 

「この馬鹿はビビリの癖にエース見たいって言いだしてよ」

「あぁ……なるほど」

「んな! べ、べつにビビってねーし! それに影山だってあってみたいって言ってましたーー!」

 

日向はぷんぷん怒っているんだけれど、ビビってないと言われても どうしても説得力に欠けた。影山は 近い将来自分がトスを上げる相手だから、ある程度は本気で思っていたんだろうとも推察できる。

 

「それでどうだ?? せいやも行かないか?? 皆で行けばへっちゃらだ! 大丈夫だ!」

「あれ? ビビってないんじゃなかったっけ??」

「うっ……」

 

図星さされた所で、火神は自分が手に持ってる荷物を前に出して説明開始した。

 

「オレも3年の階には用があるから、その後で良いんなら付き合うよ」

「用ってなんだ?」

「ああ、清水先輩にコレ渡してくれって武田先生に頼まれた」

「いよっしゃ! せいやゲット! んじゃ 行くベ行くべ!」

「こらこらこら、背中押さない。ちゃんとついてくから」

「ガキかお前は。このボゲが!」

 

 

と、色々と騒ぎながら 3人揃って3年生のフロアへと向かっていったのだった。

最初こそは好調気味だったんだけれど、階段を上がって、曲がり角曲がって……その先にある3年生の教室を横切っていくと……段々と委縮していった。火神と影山の背に隠れる様になった。

 

「言い出しっぺが一番腰ひけてんじゃねぇか」

「だ、だってなんか怖いじゃんか!!」

「おぉ、早くも もう認めたか……」

 

 

ビビってないビビってない、と何回か発言していたんだけれど、いざ教室を前にしたら もう認めざるを得なかったんだろう。

 

ちらほらと見える3年生たちは、ここに何しに来たのかな? と少数は興味ある様で ちらちらと視線を感じる。そして日向の恐怖心? も増していく。別に無法地帯に来たわけじゃないんだから、と言っても前に出ようとしなかったから。

 

「……あれ? 3人とも 此処で何してるの」

 

 

そんな時、丁度良い具合に目的の人物に会えた。

そう、清水先輩である。火神は手に持った荷物を前に差し出した。

 

「清水先輩。武田先生から預かりものがありまして 持ってきました。……あ、この2人は例の【旭さん】に会いたくて此処に来たみたいです」

「そう。ありがとう。……今ならたぶん教室にいたと思う。さっき菅原と話してるの見たから。3組」

 

それを聞いた日向は【アザ―ス!!】と良い返事をしつつ、顔を赤くさせながらぴゅーっと離れていった。……影山の制服はしっかりと握って。火神じゃなかったのは、まだ火神は荷物を持っていたし、清水との用事も終わってないから、だったりする。慌てていても それなりには考えている様だ。ある程度 迷惑かけない方向に。

 

「おいコラ離せボゲ!!」

「お前が先に行くんだからついて来いよ!」

「先に行くのについて来いってどういう事だよボゲ! 最初っから言ってるだろうが! お前がエースみたいみたい言い出したから始まったんだろうがって!」

 

 

2人はあっという間に、清水と火神から離れていった。本当に落ち着きのない子供みたいだった。

そんな2人を見て軽く……ではなく、深くため息を吐いたのは火神。

 

 

「何だかすみません……」

「ふふ。良い。恒例になってきてる」

「ええ恒例!? もうですか!?」

「息ぴったりとはまだまだ言えないかもしれないけど。バレー以外でも相性が良いんじゃない? 3人とも」

「とてもスゴク疲れそうな評価をありがとうございます………」

「ふふ」

 

傍から見たら、清水が1年生と楽しそうに話してる様に見えなくもなかった。

普段からクールに話をしている清水はあまり笑ったり、楽しそうな表情になったりはしてないから。なので、自然と……視線が集まってきた気がした。3人でいた時よりもずっと。

 

そして―――田中や西谷には遠く及ばないまでも、3年の男子たちのとても熱くて、寒くて、鋭くて、鈍くて…… そんな色んな意味で矛盾してそうな視線を 火神は一斉に集めてしまっていた。非常に頭が痛くなる案件発生である。

 

 

「はぁ……、どこからともなく田中さんや西谷さんがいらっしゃったら更に大変になるので、今日はこれでお暇しますね、清水先輩……」

「……ふふっ ご苦労様」

 

今日一番の笑顔だったかもしれない、と火神は錯覚した。そして、周りの視線も一気に鋭くなったので、それが間違いじゃない事も実感した。

 

清水が今後からかうような仕草をしないように祈る他無かったのだった。

 

 

 

 

 

「清水―、今の誰だよ」

「バレー部の1年?? ……田中と西谷は一体何やってんだよ」

「オレも気になる~~!!」

 

 

離れていった後に、誰だ誰だ と清水に寄ってくる男たち。バレー部なら 田中や西谷が教育(・・)をしっかりしてる筈なのに、とも勝手に思っていた。

 

それはそれは悲しき男の性である。田中や西谷程アグレッシブじゃないのがせめてもの救いと言えなくはないが、清水にとってすれば どっちもどっち、的な所もあった。―――バレーを頑張ってる事は間違いないので、やや身内びいきが合ったりするが。

 

 

「………期待の(・・・)大型新人(ルーキー)、かな」

「「っ!?」」

 

 

いつもの清水なら、素っ気なく返して終わりなモノだった筈だ。……そう、騒がしさにかけては学校で1,2を争う田中と西谷の事を聞いた時と全然違う返しだった。

 

一体あの1年と他の男子たちと、何が違うんだ!? と一斉に脳内で考えを張り巡らせつつ、悶え上がっていた時だ。

状況を見てた一部の女子が呆れ気味に答えてくれた。

 

 

「そうやって がっついたりしないトコでしょうが」

「うんうん。何だか誠実って感じな所もポイント高め」

「それに高身長だしね。イケメン~ っていうよりは爽やか系? 癒し系?? 可愛い系??」

 

 

【!!!】

 

 

と、女子たちの意見を聞いて、ずがーーんっ、と雷が脳天直撃する感覚に男子一同は見舞われていた。

よくよく考えたらそうだ。清水に迫るような男たちは基本的に体育会系部活に入ってる野郎どもばかりだ。だから 普段とは一味違う男の子、みたいな感覚が清水にとっては新鮮で心地良いんだ、と男たちは結論付いて勝手に意気消沈してしまった様だ。

今までの自分達を鑑みると、田中や西谷までとは言わなくとも、どう贔屓目に見ても女子たちが言う様に がっついてるのだから。

 

勝手に落ち込んでる男子たちを放置して、清水は颯爽と、何処か晴れやかさも兼ねて この場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして日向達はと言うと。

 

「お前ら こんなトコで何してんの? あー、旭。この前に入った1年なんだよ。日向と影山」

「「ちわっス!!」」

「なるほどね。おース! 今年何人?」

「ああ、5人だよ。多いとは言えないけど、もれなく全員有望株」

「そうかぁ。良かったな。部員不足気味だったし、入ってくれたのがスガ言う有望株なら間違いないだろうし」

 

日向は ビビりながらも何とか3年生でエーススパイカー 東峰(あずまね) (あさひ) に接触する事に成功していた。

最初こそビクビクしていたんだけれど、東峰の顔は兎も角、人成りは優しそうで安心しきっていたのだが、……同じバレー部な筈なのに 何処か他人事の様に言っていて違和感があった。

 

その違和感を決定付けたのは、東峰の激励。【頑張れよ】と背を押してくれた事だ。

相手が烏野OBとかなら とても嬉しい事なんだけれど。

 

「あ、東峰さんも一緒にがんばらないんですかっ? オレ、エースになりたいから、憧れてるから、本物のエースをナマで見たいんです!」

「! …………」

 

日向の真っ直ぐな視線。それは 東峰を決して逸らす事無かった。

思わず東峰は気圧されそうになってしまったが、どうにか踏みとどまる。そして、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえてきた。進路指導の話だ。……学生には大事な話だから行かなければならない、と言い訳を自分に貸す。その上で見に来てくれたと言う1年の日向に対し、ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。

 

「………悪い。オレはエースじゃないよ。ナマのエース……見せられなくてごめんな」

 

そうとだけ告げると、東峰は去っていった。

その背中が小さくなった所で、火神が合流。

 

「あ、菅原さん。ちわース」

「………そっか、お前ら3人で此処(3年)に来てたんだな。ビビっちゃってる日向じゃ影山1人だったら、尻込みしそうだし」

「スガさん!? おれ、び、ビビってないっスよ!」

「何処からどうみてもビビってるだろうが、ボゲ」

 

何とか気丈に明るく話そうとしている菅原の姿勢。それは最初から居なかった火神にもよく判る。ある程度の結果を知る火神でも、よく判った。

何となく、あまり話したくない雰囲気だったんだけれど、そこは影山。空気は読むのを得意としてない為、直球で切り込んだ。

 

「菅原さん。オレ、よくわかんないスけど、あのあず……あずねさん?「東峰だろ?」……おう、東峰さんって怪我とかですか? それで長期休養中とかですか?」

 

聞かれたからには、もう答えないといけないだろう。特に日向には伝えなければならないと菅原は思っていた。此処まで来てくれた事に感謝もある。ちょっとしたきっかけで、何かが変わるかもしれないから。

 

「いや、身体は大丈夫。元気。……外部的な要因があるとかじゃないからな。…………その、アイツがバレーを嫌いになっちゃったかもしれないのが、問題なんだ。精神面ってのが一番厄介な相手って事なんだろう」

「ええええ!? あんなにおっきくてエースって呼ばれてて、なのに?? 何で??」

 

菅原はグッと飲み込んだ。

日向の言う事も判る。でも、原因を作った1人としてはそう軽はずみに口に出来ないんだ。

 

「ふぅ。それにしても 火神はよく旭の名前知ってたな? さっき居なかっただろ?」

 

一息つこうとする菅原。別に話題をそらせようとしてる訳ではない。ただ……一呼吸欲しかっただけだ。

そんな何気ない疑問が火神にとって ほんの少しだけある意味プレッシャーの様に感じたのはまた別な話。影山が名前間違えた時 深く考えず思わず反射的にツッコんでしまったから。

勿論、ほんの少しだけなので特に問題はなし。

 

「廊下で聞こえてましたからね。東峰さんの名前。進路がどう、って。まぁ オレが間違えてたら赤っ恥モノでしたけど」

「せいやは、影山の様に間違えたりしないだろ? 何言ってんだ??」

「うるせぇボゲ日向!!」

 

そぉらぁぁ、と日向をぶん投げる影山。そして上手く着地する日向。体育館じゃないし、狭い廊下なんだから、アクロバティックな事しないで貰いたい、と火神は深くため息。

 

「ふふ、火神が居るとなんか安心できるよなぁ。ほんっと3年の立つ瀬ナシって感じ?」

「いやいや、そんな事無いですって。……それにコイツら限定だって思ってくださいね? ただでさえキャパオーバー気味なんで」

「ははは。そうだな」

 

廊下で暴れてて、教師にでも見られたら(特に教頭)厄介極まりないので早々に日向と影山(問題児たち)をひっ捕まえた火神。そんな姿を見て菅原は思わず笑ってしまう。

もし――と言う仮定は無意味だとはわかっている。でも、この男がもしも2年生で 指揮をしてくれたなら……と思わずにはいられなかった。それは自分の力量の無さを認めてしまっている様で情けなくも感じてしまうんだ。

 

 

「……旭はな。烏野(ウチ)では一番デカかったし、一番のパワーで 苦しい場面でも難しいボールでも決めてくれてた。だから、俺も皆もあいつをエースって思ってて…… それで、アイツに頼り過ぎたんだ(・・・・・・・)

 

 

いつも優しい菅原の悲痛な表情。それを見たら如何に鈍感朴念仁な影山でも察する。

 

「……相手に潰されたんですか? 試合で」

 

影山の問いに対して菅原は無言で頷いて返答。

 

「敵ブロッカーにマークされるのは、エースの宿命だよ。選手達は勿論 監督だってそう指示したんだろう。勝つための常套手段の1つ。―――それで、東峰さんは」

「ああ。お前らの言う通りだ。ある試合で旭のスパイクは徹底的にブロックに止められてさ。完膚なきまで、っていうのはああいう事なんだと思う」

「……えっと、それで東峰さんは。ええ、それだ……っっ」

 

思わず日向は本音を言ってしまいそうだった。でもどうにか口を噤んだ。

元々日向や火神は試合する以前に出来るかどうか判らず、それでもしがみ付いてどうにか実現させる事が出来た中学時代の経験がある。バレーが好きだから出来た事だ。人数が居なかったら、試合に出られなかったら、ブロックに止められるとか、スパイクを決められないとかの以前の問題だから。あの時の苦労やバレーが出来ない絶望に比べたら、申し訳ないが非常に軽く感じてしまった。

 

その事情を勿論菅原も知っている為、笑って答えてくれた。

 

「それだけ、って思うだろうな。俺らからしたら、勝ち負けは一先ず度外視したとしても、試合が出来る。その当たり前の事を、ずっと出来てたんだし。日向や火神は違うもんなぁ」

「あっ、いや ブロックされるのはスゴクスゴクスゴク嫌なのは判ります!」

「自分が挙げたボールを止められるのもキツイと思いますよ。な? 影山」

「――――――……それ 自分が止められるより100倍はムカつく」

「はは。影山もこの通りです」

 

 

笑って聞いててくれた菅原だったが、徐々に表情がこわばっていった。

 

 

「でもエースである旭が、サーブでもブロックでも狙われて、マークされてっていうのは、火神が言う通り普通な事なんだ。普通で当たり前、いつもの事なんだ。……でも、あの試合(・・・・)では それがとにかく徹底的で、烏野(こっち)は何も出来なかった。……旭は人一倍責任を感じちゃう性格だから………………」

 

 

性格云々はどうしようもない。

日向や影山に突然繊細になれ、と言った所で出来る訳がないのと同じだ。……どうにか乗り越えてもらいたい気持ちが強く出る。でも、手段がわからない―――、と悩んでいた時。はっ、と菅原は時計を見た。

 

「! ていうかお前ら急がないと部活始まるぞ! 大地にどやされる! オレもすぐ行くから!」

「「「! ウス!!」」」

 

 

半分は話を終わらせたかったと言う理由もあるのだろう。

菅原は部活の時間、と言う理由で3人の背を押し、話を一時終わらせたのだった。

 

 

 

廊下を走って―――行くと怒られるので速足で体育館へ直行する3人。

そんな中で話題に上がるのはやっぱり東峰の事だ。

 

「う~ん……、バレーってそれで嫌いになっちゃうもんなのかなぁ。せいやはどう思う?」

「人それぞれ。自分の物差しじゃ図れない事だってあるだろ? それに、俺だって最初バレー部入らないって匂わせた事あるじゃん。でも、俺はバレー部に入った。東峰さんだってまだまだ分からないって」

「おお! そうだな!!」

 

日向は励まされて? 元気いっぱいに。

その横で黙って聞いていた影山は、とある単語を聞いて一気に覚醒。

 

「……はぁっ!? ちょっと待て! 前に言ってたのは冗談とかじゃなかったのか!? お前がバレーしねぇとかどういう事だ! バレー部入らないとか、んな事あったのかよ!? 何でだボゲぇ!! 何でだボゲ火神!!」

「お、おおぅ…… 影山に初めてボゲ言われた」

 

 

 

 

その後―――火神がバレーしないなんてあり得ない!! と散々影山に熱弁+原因追及を受け続けた火神だったが、終わったことだし、今は入ってるから、と何とか宥める事が出来た。

 

日向に関しては、何だか珍しい光景だったので 暫く傍観をしてるのだった。

 

 



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