渋谷凛の弟はお世話になる。 (IOTR)
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弟登場。

2月25日加筆。


渋谷凛には弟がいる。

その事実は、2人を驚かせた。

 

「えっ!しぶりんって弟いるの!?」

 

プロダクションの一室のソファーでニュージェネレーションズの3人がなんでもない雑談をしていた時、偶然兄弟の話題になった。

その時、メンバーの1人である渋谷凛が弟が1人いるとこぼしたのだった。

新田美波に弟がいることは聞いたことがあるが、凛に弟がいるなど聞いたことがなかったため、2人は大きく驚いた。

 

「うん、そうだけど…言ってなかった?」

 

凛は対面のソファーで、不思議そうにすました顔で首を傾げた。

 

「初めて聞いたよー!えー、みたいなぁ!」

 

「私もです!凛ちゃんに弟さんがいたなんて!きっと、凛ちゃんに似てかっこいい子なんですかね?」

 

「いやいや、しまむー、きっとしぶりんの熱血な所を受け継いだ熱い子…かもしれないよー!」

 

凛と島村卯月と本田未央は弟を想像し、キャッキャと騒ぎ出す。

 

「多分すぐ来るから、少し待ってて」

 

凛は少し頬を弛めながら、優しく言葉をこぼした。

その言葉の意味を2人が探ろうとする─その前に

 

ガチャ

 

そう音がして、入口のドアが開く。

そこから現れたのは、小学生くらいの男の子であった。

二人から見たその少年は、ストレート気味で、ところどころ跳ねている黒髪に、同僚に似た落ち着いた瞳をした男の子だった。手には手提げカバンを持っている。

 

「…こんにちは。姉の忘れ物を届けに来ました」

 

少年は少し緊張気味に言った。

未央と卯月は目を輝かせて、その少年に近づき、目の前でしゃがんだ。

 

「か、かっわいー!この子がしぶりんの弟!?名前は?」

「確かに似てますねー!この瞳とかそっくりです!何年生なんですか?」

 

未央と卯月は興奮した様子で話しかける。

清は、目を逸らしながら答えた。

 

「…渋谷 (しん)です。3年生です」

 

清は少し詰まりながら話す。目は絶対に合わそうとしない。

 

「あららー?…嫌われちゃったかな?」

「いきなりごめんなさい。怖かったですよね?」

 

2人はしょんぼりとする。そんな二人を見た凛がソファーから立ち上がりドアまで歩いていく。

 

「照れてるだけだよ、いつもテレビ見ながらキラキラした目をしてたから」

 

そう言いながら、清の後ろに周り、微笑みながら頭をやさしく撫でた。

 

「ほら、いつも見ている2人だよ、言いたいこと言ってごらん」

 

凛がそう言われた清は、少し身動(みじろ)ぎしたあと、顔を染めながら2人の顔を見た。そして、

 

「…いつも見てます、本田さんは元気いっぱいで、島村さんは笑顔で、2人ともとても見ていて楽しくなります、いつも元気をありがとうございます。2人とも大好きです」

 

そう言って清は頭を下げた。

彼は彼なりにに精一杯の気持ちを伝えた。言葉はつたないが、思いが乗った言葉だった。

その言葉を聞いて2人の表情は花が咲いたように明るくなる。

そして感極まった結果──

 

「そんなこと言ってくれるなんて嬉しいよ!清くん!」

「ファンからの言葉はうれしいですね!ありがとう、清くん!」

「えっ」

 

清に抱きついた。

 

 

清の顔は突然2人の熱い抱擁を受けたことにより、恥ずかしさに赤く染まった。

憧れのアイドルである2人に抱き着かれるとは、清は夢にも思っていなかった。

姉以外の、女の子の甘い香りや、果実のようなさっぱりとした匂いがして、清の頭は、いっぱいいっぱいになった。

さらに、追い打ちをかけるように、柔らかい体や、鼻先をくすぐる髪が彼を襲った。

今まで感じたことがない感情に彼は、顔を熟れたトマトのようにして固まってしまった。

 

 

「はい、そこまで。これ以上清を困らせないの」

 

凛が2人を清から引き剥がす。清はほっとしたような、残念なような複雑な気分になった。とりあえず、助けてくれた姉に礼を言った。

 

「ありがとう、姉さん」

 

凛は少し口元を弛め、どういたしましてと小さく呟いた。

 

「にしても…清くん可愛いね!ウチの弟と全然違う!」

 

未央が言う。

 

「そうですね、とっても可愛いです!」

 

そう言って卯月も笑った。

そして2人は抱き着いた時とは違い、ゆっくりと手を伸ばし、清の頭を撫でた。

清は心地よい感覚に、頬が緩むのを感じながらも、男なのに可愛いと言われた事実にもやもやし、複雑な表情になっていた。

一方、頭を撫でられて、複雑な表情をしながらも、緊張が解けた弟の姿を見て、うれしいと思う反面、凛は弟がとられるような気がして寂しくなった。

 

「多分もう来ないから」

 

そう言って凛は弟の頭を、雑に撫でた。

その顔は2人が姉弟であると強く感じさせた。

卯月と未央はそんな様子に笑いながら、

 

 

「たまにでいいからさ!一緒に遊ばせてよ!ね?」

 

「時々でいいですからー!」

 

そう言いながら五分ほど説得をし、次の日程を決めるのであった。



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渋谷清 からまれる。

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「おっ!しぶりーん!と、清くんも!久しぶりー!」

 

「こんにちは凛ちゃん!清くんも、おはようございます!」

 

未央と卯月の声がプロダクションの一室に響いた。

視線の先には、ソファーに座ってお喋りする姉弟の姿があった。

 

「未央、卯月おはよう。」

 

凛は軽く手を振って答えた。

 

「…おはようございます。島村さん、本田さん。」

 

少し間があってから、頭を下げて清は挨拶した。しかし、目線は若干2人の上だ。まだ、緊張が抜けないように見える。

それを見て凛はふっと笑うと、清の頭を撫でた。

そんな姉弟の仲のいい様子を見て、未央が言う。

 

「やっぱ、しぶりんが羨ましいよ!そんなに仲がいいのは羨ましい!」

「そうですね…互いに信頼し合ってる感じがします。」

 

未央に続くように卯月が顔を輝かせながら言った。

 

「そうかな…別に普通だと思うけど…。」

 

凛は努めて冷静になんでもないふうに言ったが、口角が上がっていた。やはり、弟との仲は良さそうである。

未央と卯月は、2人顔を見合わせて笑った。

 

「ところでさ!何話してたの?」

未央が凛と清に問いかける。

 

「ああ、清の宿題についてだよ。休日の間にする課題が出てたんだけど、清が終わってなくて…。

それで、今日が約束の日だったしどうしてもついてくるって、聞かなかったから、これから暇な2人に教えてもらいなって話してた。」

「あー、しぶりんはこれからダンスレッスンだもんね…、よし、そこまで会いたいと思われたからには、この未央ちゃんが一肌脱いじゃうぞー!」

「私も精一杯お手伝いさせていただきます!」

「…ありがとうございます。」

 

清は姉に、2人に会いたいから来てしまったと思いっきり暴露され、顔を赤くしながらも、お礼を言った。

大好きで憧れの的に、なんてこと言うんだと内心姉にブーたれなるが、一緒に勉強し、話すことができることに嬉しさを感じていた。

 

「あ、もう時間だ。私、そろそろ行くね。」

 

凛が壁掛けの時計を見ながら、ドアへ駆ける。

 

「はい、凛ちゃんいってらっしゃーい!」

「また後でね!しぶりん!」

 

凛は出口の前でくるりと回ると、

「…清に変なことしないでね。怒るから。」

 

半眼で主に未央を見ながら、言い放ち、部屋を後にした。

未央はえへへと苦笑いしたあと、

 

「…大事にされてるんだね。」

 

そう言って清に笑いかけた。

清は恥ずかしそうにしながら、それでもしっかりと頷いた。

 

 

「さてさてさて!さっそく清くんの宿題をやりますか!」

「そうですね!早速取り掛かりましょう!宿題はどれですか?」

「これですね。」

 

清は漢算数のプリントを取り出した。4枚ほどしかも、表裏どちらも印刷してある。

 

「意外と多いねー…」

「ですね、でもやっていきましょう!」

 

卯月が両拳をくっと握った。

 

 

 

宿題をやるにあたって席を決めたのだが…3人で教わる立場が1人である以上、必然的に清が未央と卯月に挟まれる形になった。

さらにその距離は近く、少し動けば体が触れ合う距離であった。

そして、追い討ちのように清にとって衝撃の発言を未央が言い放った。

 

「清くんさ、私とのこと未央ちゃんって呼んでみて!」

「え!?」

「いや、今のままじゃ固いからさ!なんなら敬語も崩してみようよ!」

「私のことも卯月ちゃんって呼んでください!」

「…」

「ほら!み・お・ちゃん!」

 

 

「………ぃみ、未央ちゃん。」

 

すぐ近くで未央の声が清の耳朶を震わせる。

清は真近で、顔を見る恥ずかしさのため、上目遣いで、震える声で、赤い顔でその名前を恐る恐る呼んだ。

 

未央は何故か込み上げてくる愛しいものを感じた。

 

「…なんだろう、私今、とっても満たされた気分だよ…。」

 

未央は恍惚とした表情を浮かべていた。

 

「わっ、私も、卯月ちゃんですよ!ほら、う・づ・き・ちゃ・ん、ですよ!」

 

卯月は自分の顔を指さしながら、催促する。

 

 

「……ぅ、卯月…ちゃん?」

 

 

先程とは違い、清の目は潤んでいた、さらに先程と同じように恥ずかしさと、上目遣いと、さらに体は若干恥ずかしさが度を越したため震えていた。

凛々しい姿とのギャップが著しかった。

 

卯月は何か新しい感覚が自分の中で生まれたのを感じた。

 

「なんでしょう、なにか悪いことをしている気になりますが、癖になるかもしれませんね〜…。」

 

卯月は困ったように笑いながら、緩まる頬を止めることが出来なかった。

清からかなり渋られながらも名前呼びは続行された。

慣れない名前呼びと勉強会は続く。

解ける問題を解いている時でも、2人は熱心に清を見つめており、清は顔が熱くなった。更に、ハミングや、いい匂いが耐えず、流れ続けており、集中が出来ないでいた。

また、質問する時にも、

「ぅ、卯月ちゃん…?」

「はい!なんでしょう!」

「ここの問3の文章題が、…、ここが分からなくて、教えてください。」

「はい!えーとここはー、…」

 

しばらくして、卯月の腕が清に触れる。その腕は柔らかく、つきたてのおもちのようだった。

本人は気づいていないようで、卯月が考える時間が長くなっていくほど、机の上に乗り出して、さらに清との距離が近づいていく。

 

「21個の飴を…ふむふむ、清くん?えっと、これをね、……」

 

説明は続いているが、卯月の綺麗で無防備な横顔を見て、かーっと顔が熱くなったが、清は大好きなアイドルを押しのける訳にもいかず、恥ずかしさで熟れたトマトみたいになりながら、回らない頭で考えた。卯月は桃の香りがした。

 

さらに、

 

「み、…未央ちゃん!」

「はいはい!」

「ここの割り算なんだけど…、合ってるか確認して欲しいんです。」

 

「これは、うんうん、合ってるね!偉いよくできた!」

 

未央は清に、ハイタッチを促したあと、思いっきりハグした。

 

「ン!? ッ~~~!」

「よぉし!もうちょっとだね。頑張ろう!」

 

未央はぐっと握りこぶしを突き上げた。

 

清はもはや何を考えているか分からない頭で問題をときながら、申し訳なさと恥ずかしさと、少しの嬉しさで顔がなかなか赤から戻らなかった。

 

なお、レッスンを少しだけ早く終わった凛はこの状況を見て、凛が見ていない所での清への過度な接触は禁止というルールが作られた。あと、清にもいくら大好きと言っても、少しは拒むようにと伝えたのだった。



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凛と清

「未央、おはよう。早いね。」

「おはよう、しぶりん!たまたま早く来ちゃった!卯月はまだかな。」

 

未央が言った瞬間、未央の後ろのドアが開く。

 

「…あれ?凛ちゃん未央ちゃん早いですね!」

 

未央の影から卯月が覗く。

 

「次のお仕事まで結構時間あるのに、みんな揃っちゃったね。

「珍しくみんな早いね…。いつもは未央がギリギリなのに。」

「失礼しちゃうなー!今日はたまたま早く目覚めちゃっただけ!そういえば、しぶりんも早いほうじゃ無いでしょ?どうしたの?」

「まぁ、そうだけど。」

 

凛は頬をかき、言った。

 

「今日は清に起こされちゃって…いつも、もう少し遅く起きるんだけど、今日は余裕が出来ちゃったんだ。」

「おー、清くんは早起きなんですね!」

「いや、昨日、朝にお仕事があるって話したからだと思うよ。それに、いつもは清も遅いし。」

「それって、しぶりんを心配して起こしてくれたってことだよね!いいね!愛されてるね!」

「そんなことないよ…。」

 

凛はそっぽを向きながら、顔を赤らめた。

なんだかんだで嬉しいようである。

その微笑ましい様子を見て、未央は不意に気になった。

 

「そういえば、清くんとしぶりんは家でどんな感じなの?ベッタリ?」

「え!?…いや、そんなことはないと思う…よ?」

「いやいやー!今の間は怪しいぞー!」

「是非、家での様子を聞かせて欲しいです!」

 

未央がはやし立て、卯月が追い打ちをかける。

凛は少し躊躇ったあと、家での様子を話し始めた。

 

 

 

《休日の朝》

「おはよう。」

「おはよう姉さん。」

 

凛は先に起きていた弟に挨拶する。

互いに微笑みあい、仲睦まじい様子に、見ていた両親の顔が綻ぶ。

「おはよう、お父さん、お母さん、ハナコ。」

両親と、駆け寄ってきたハナコに挨拶しながら、凛はテーブルへと向かう。

少しの眠気を残しながら朝食を食べ、少しだらける時間ができる。

清が少し先に食べ終わり、ソファーにもたれながらゲームで遊んでいると、食べ終わった凛が隣に座り、清を持ち上げて、自分の足の間に座らせる。

清は何も言わないが、少し安心した顔をして、ゲームを続ける。

そんな清の頭をゆっくりと撫でながら、ソファーに上がってきたハナコを撫でた。

ハナコが行ってしまうと、凛は清の邪魔にならないよう、清の腕の下から軽く抱きしめ、頭を首筋にコツンと当てる。

「姉さん、少しくすぐったい。」

 

清の首筋に吐息が当たる。

こうして抱えてもらうとキヨにとっては安心感があるのだが、どうしても、こそばゆい。

清は少し身じろぎした。

 

「ふふっ、ごめんごめん。」

 

そう言って、凛は清を1度ぎゅっと抱きしめたあと、立ち上がり、ハナコの散歩の準備をはじめた。

清はゲームを切り上げると、上着を羽織り、散歩に行く準備をする。

 

「「いってきます。」」

 

そう言って2人はドアを開け、ハナコと一緒に散歩をするのだった。

 

 

昼下がり。

 

 

昼食を食べたあと、2人は店のお手伝いをしていた。

 

「ありがとうございました。」

 

凛は自身がおすすめした花束を買って、嬉しそうなお婆さんを笑顔で見送った。

一息ついたあと、ふと清が目に入った。

そこには、お客さんにお父さんのサポートを受けながら、花のアドバイスをする清が居た。弟が頑張っている姿を見た凜は自然と笑みが浮かんだ。

お客さんは無事、要望に合う花を見つけられたようだった。

 

 

一日の長い仕事が終わったあと、閉店準備を行い、凛は一息ついた。その時、同じように一息を着く清と目が合い、笑いあった。

ひとしきり笑ったあと、凛が微笑みながら言った。

 

「今日、お客さんにちゃんと説明できてたね。よく出来てたよ。」

 

そう言って凛は清の頭をゆっくりと撫でた。

清は少し目をみはったあと、恥ずかしさと嬉しさが混じった顔で笑った。

 

「…見てたの気づかなかったよ。…まだまだ、父さんや姉さんに頼ることがあると思うけど、よろしくね。」

 

そう言って清はちょっと頭を下げた。

凛の清の頭を撫でる手はなかなか止まらなかった。

 

 

夕食を食べ、お風呂あがり。

リビングで凛を含めた346のアイドルが多数出ているバラエティを見終わった清は、当たり前のように清を足の間に置いている凛に言った。

 

「姉さん、マッサージするよ。」

「いいの?じゃあ少しやってもらおうかな。」

「じゃあ姉さん、うつ伏せになって。」

 

そう言われて凛は寝転がった。

寝転がった凛を、声をかけてから清は小さい手でほぐし始めた。

凛がアイドルを始めてから少し経った頃、体が凝ったと零した時があった。その時に清がマッサージをしたことから、時々行われているのであった。

凛の背中に小さい手が、拙いながらも凛の体を解していく。

少し指で押されるだけで、気持ちよさが訪れるのである。

凛の吐息と、清の吐息の微かな音だけが響く。

凛はその心地よい空間に微睡んでいくのであった。

 

 

 

目を覚ますと、ブランケットが体にかけられており、テーブルには書置きがあった。

 

「姉さん、毎日大変だと思うけど、アイドル、学校生活。全部応援してるよ。姉さんの頑張ってる姿が1番好きだから、しっかり休んで明日からも頑張って。 清

 

P.S風邪とか引かないように、体に気をつけて。」

 

 

その書置きを見て、凛は心の奥がじんとするのを感じた。

こんなに応援してくれる弟がいるのだ。明日からも頑張ろう。

凛はそう決意したのだった。

 

リビングを出た時、清と会ってしまい、清の顔が茹で上がってしまったことはご愛嬌である。

 

 

 

 

 

 

 

「えー、いいなー!互いに信頼し合ってる感じがするよー!あと、やっぱりベッタリだったね!」

「家でも仲がいいんですね!羨ましいです!私も弟が欲しくなりました!」

「こんなの普通だと思うけど…。」

 

凛はやはり恥ずかしいのか、2人と目を合わせない。

未央と卯月は顔を輝かせ、若干興奮していた。清がとても可愛く思えたのである。

 

「それにしても、マッサージねぇ…」

 

未央はニヤリと笑い、わざとらしく肩を回しながら言う。

 

「あー、私も随分と肩がこってきたなー!そうだ、今度清くんに揉んでもらおう!」

「なっ!?」

 

凛は驚きの声を上げる。

 

「いいですね!私もやってもらいたいです!とても、気持ちいいそうですから!」

「卯月まで!?」

 

凛は未央と卯月を混乱したように交互に見たあと、一際大きな声で言った。

 

「清は私の弟だから!渡さないからね!」

 

真っ赤になりながらそう言い放ったのであった。

 

 

 

この出来事のあと、この言葉は2人にもしっかりと覚えられ、仕事に向かう車の中ずっといじられつづけてしまった。

そのため家に帰ったあと、清を抱きしめる力が少し強くなった凜であった。

 



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清、他プロのアイドルと遭遇する

僕は346近くのコンビニでココアを飲みながら、姉さんを待っていた。

帰る時間がたまたま合ったので、ここで待ち合わせをしている。

だけど、先程「忘れ物したから、もう少しだけ待ってて」と連絡が来たため、飲み物を買って外で飲んで、時間を潰している。

それにしても…

 

「…遅いなぁ。」

 

つい口に出る。しかしまだ5分も経っていない。

僕ながら心配症だと思うけど、姉さんは事件とか事故とかに巻き込まれてないだろうか…。

そんなことを考えて、ソワソワしていると…

 

「ねえねえ、そこの君、ちょっといいかな?」

 

女の人に話しかけられた。その声に振り返ると、

見たことがある顔だった。最近は姉さんの影響で、アイドル番組を多く見るようになったため、知っているアイドルも増えた。

しかし、こんな所にいるはずないと思い、少し自信がなく、声が震える。

 

「……星井美希さん…!?」

「えー!ミキのこと分かるのー!?変装してるのにー!」

 

星井美希さんは、口に手を当てて驚いた。

星井さんはキャスケット帽に、丸眼鏡をかけて、ネックウォーマーで口元を隠していた。しかし、金髪は見えているし、真近でみたためわかってしまった。

 

「結構この変装自信あったのに、誰にもバレてなかったからなんか、残念なの。」

「いえ、たまたまです。なにか、用ですか?」

 

残念そうに帽子の端をつまんで、いじける星井さんに僕は尋ねた。

すると、星井さんは少し驚いた顔をして、僕の前にしゃがんだ。

 

「346プロダクションまで行きたいんだけど、迷っちゃって、案内してくれるの?」

「はい、案内しますよ。」

 

姉さんはまだだし、連絡をして、プロダクションで待っててもらおう。ケータイでメッセージを送る。

「姉さん、346プロに行きたい人がいたから案内してくるよ。

だから、346プロでちょっとまってて。」

「わかった。気をつけてね。待ってるから。」

よし。

 

「じゃあ行きましょう。」

「それじゃ、しゅっぱーつ!」

 

 

そう言って星井さんは僕の手を取った。

突然のことに体が固まって、顔が赤くなる

つい恥ずかしくなって俯いてしまった。

 

「ミキのこと興味無いみたいだったから、すこし悔しくなっちゃったの!びっくりしたかな!あはっ☆…あれ、どうしたの?」

 

そう言って心配そうに星井さんは顔を覗き込んでくる。

目が合う。星井さんは僕の顔をみて、ニヤッと笑った。

そのまま僕の手を握りながら、どこか上機嫌で歩き出すのだった。

 

「ミキのこと知ってたけど、あまり、取り乱さなかったからファンじゃないの?」

「いえ、いつもテレビで見てます。生っすか!サンデーとか、歌番組のライブとか。」

 

顔の赤いのを誤魔化しながら話す。

 

「んー、ミキのことあまり好きじゃない?」

「いや、ライブの時のダンス、ビジュアルは共に素晴らしいですし、3人で活動される時も、他の人のさり気ないフォローや、注目の集め方、司会の進行などを完璧にこなしていて、凄いです。」

 

これは本心である。星井さんはとにかく上手い。何事もそつなくこなしているのにそれを感じさせない才能があり、僕はそこをすごいと思う。もちろん、歌もダンスも素敵だし、パフォーマンスは人を惹きつけて離さない。完璧なアイドルだと思う。姉さんも負けてないけど。

 

「へー、そこまで見てくれるのは、ミキ嬉しい!」

 

さらにぎゅっと手を握ってくる。僕は、嬉しさとよく分からないもので、顔が真っ赤になりながら歩く。

アイドルと手を繋いでいるという状態に、気が気でないまま、どこか上の空で会話していると、346プロダクションに着いた。

僕が思わず、フーっと一息着くと、

 

「んー?そんなにミキと離れたかったのー?」

 

ぎゅっと、わざとらしく星井さんは体を寄せてきた。おっきいおっぱいが腕に、押しつぶされた凄いものが当たる。

顔が否応なしに熱くなり、やめてくださいとも言えず、あわててしまう。

 

「あはっ☆」

 

星井さんは、少し笑ったあと腕を解放した。

 

「君はいいファンなの!とても楽しかった!最後に君の名前を聞いてもいい?」

「っ!はい。僕の名前は渋谷清といいます。ずっと応援してます。」

「いい名前なの!…んー、最後にいいかな?」

 

星井さんは一瞬僕の後ろを見て言った。

 

「はい?」

「ミキのこと可愛い?」

「…」

 

…言葉につまる。可愛いのは確かなんだけど、面と向かって言うのは恥ずかしい。

しかしこの間も、じっと僕を見つめてくる…。

 

「……か、可愛いです。」

 

恥ずかしさで消えてしまいたい…。僕は両手で顔をおおった。

星井さんは満足そうに笑って、

 

「清!またね!」

 

そう言って星井さんは去っていった。

…嵐のような人だったな。

 

「清!」

 

星井さんが去っていった逆の方向から、聞き馴染みのある声が聞こえる。姉さんがこちらに走ってきていた。

 

「姉さん!」

 

僕が駆け寄ると、姉さんは笑顔で言った。

 

「美希とあってたみたいだけど楽しかった?」

「え!?」

「ふーん、清は私より、美希の方がいいんだ。あんなに嬉しそうだったもんね。いつもすごいなって呟きながら見てたもんね。」

「えっと、見てたの?」

「美希、可愛いもんね。」

「うっ、ね、姉さん、ごめんなさい。」

「別に謝って欲しいわけじゃないよ、ただ、言うべき言葉があるんじゃない?私はどうなのかな?」

「姉さん…、姉さんは最高の姉で、最高のアイドルで、僕の中で一番です。今日は全身のマッサージもします。だから…」

姉さんが怒ってるのに動揺して、目が潤んできた、声もちょっとうわずる。

「あー…私も悪かったよ、言いすぎた。キヨが私を大事に思ってくれてるのは知ってるから。ごめんね。」

 

そう言って僕を抱きしめる。安心する香りが鼻をくすぐる。

その匂いに心から安心する僕がいるのだった。

 

 

 

「今度ミキとは、きっちり話し合いをするから。」

そう言って姉さんは拳を握りしめるのだった。

またねってそういう意味だったのか…




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清の悩み 前編

塾からの帰り道、清は何度目になるか分からない溜息をつきながら歩いていた。

これは、塾の成績が悪かった訳ではない。清は、姉の凛について頭を悩ませていた。

最近、清から見て凛が落ち込んでいるように見えるのである。

それも、清が話題に出るたびに顕著に出るように思うのだ。

まさか嫌われたのではないか、清は落ち込んだ。

しかし、日々の会話やスキンシップには違いは見られない。

それどころか少し多く取ろうとしてくるほどである。その事がさらに清を混乱させるのであった。清は凛と会うことが気まずく若干、ほんの若干ではあるが、避けていた。

清は姉をこれ以上落ち込ませたくはなかった。

 

「はぁ…。」

 

清はもう一度、下に向かって大きくため息をついた。

すると、前から明るい声が聞こえてきた。

 

「あれ…!清くーん!久しぶりだねー!」

「本田さん…!?」

 

清は思いがけない声に顔を上げて驚愕する。

未央は満面の笑みを見せるが、清の呼び方を聞いて、からかうように言った。

 

「あれ〜?私のことはなんて呼ぶんだったっけ〜?」

「…み、未央ちゃん、お久しぶりです。」

 

清は顔を赤らめながら、言った。

清の顔を見て、未央は腰に手を当て、笑顔で満足そうに頷いた。

それから未央は清に尋ねた。

 

「私はこれから346プロに行くんだけど、清くんはどうしたの?」

「今、塾からの帰りです。これからお仕事ですか?」

「うん!そうだよー!…うーん、そうだ!一緒に行かない?しぶりんもそろそろお仕事終わる頃だと思うしさ!」

 

未央はそう言って、清の手を引いた。

 

「えっ!?」

 

清は手を繋がれたことに気が動転すると共に、柔らかく暖かい手の感触に赤面しながら、未央の手に引かれていくのだった。

 

 

 

少し落ち着いた清は、前にもこんなことがあったようなと思い出しながら、未央と喋っていた。

未央が話す話には主にニュージェネレーションズという、未央、卯月、凛の3人での話が多く、清は話で聞く姉の姿が元気そうで自然と頬が緩んだ。それを見て、未央は嬉しそうに笑った。

なお、頭を撫でたり、抱きついたりということがあったが、割愛させていただく。

 

そうしているうちに、346プロダクションに着いた。

すると、清と未央に気づいた緑の事務服に身を包んだ女性がこちらに小走りで近づいてきた。少し焦ったようにその女性は未央に話しかけた。

 

「未央ちゃん!プロデューサーさんが待ってますよ!

…あれ、そこの男の子は?」

「!?ごめんなさい!すぐ行きます!」

 

未央はハッとした顔で、スマホの時間を確認する。

急いで、清の方に向き、清を女性の前に移動させた。

 

「清くん、あとはこのちひろさんに説明して!最後まで案内できなくて、本当にごめん!

ちひろさん、この子清くんって言ってしぶりんの弟だからー!」

 

そう早口で言いながら、急いで未央は走っていった。

残された2人、清と千川ちひろはその去って行く背中を見つめながら、暫し呆然とするのであった。少したって、ちひろが清の目の前で膝をおって、自己紹介を始めた。

 

 

「…改めまして、千川ちひろです。346プロダクションにてアシスタントをしてます。」

「…えっと、僕は渋谷清と言います。小学3年生です。今日は姉さんがそろそろお仕事が終わると聞いて、み…本田さんに連れてきてもらったんですが…」

「ああ!凛ちゃんの弟さんでしたか!ちょっと待ってください。…今、少しお仕事が長引いているそうなので、もう暫くかかるそうです。」

「そうですか…では、家で待つことにします。ご迷惑をおかけしました。」

 

そう言って清は礼をした。

清は凛に会うのが少し気まずかったのだ。

先程はなし崩し的に連れてこられてしまったが、会えないならば帰っていた方がいいだろう。 と清は考えた。

しかし、

 

「いえ、それでは悪いですから。...そうだ!少しの時間ですから事務所で待ちましょう!」

 

ちひろは、笑顔でいい、清の手を取った。

清は逃げられないことを悟り、凛と話すことを考えると胸が痛むのであった。



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清の悩み 後編

ちひろに案内され、事務所に入るとそこには誰もいなかった。

 

「すこしのあいだですが、ちょっとここで待っていてくださいね。」

 

ちひろはそう言うと、清をソファーに座らせ、自身も隣に座った。

 

「はい、ここまで色々してくださってありがとうございます。」

 

そう言いながら、清は顔を赤くし、目を少し逸らした。それにちひろは静かに微笑んだ後、ゆっくりと頭を撫でて、

 

「ふふっ、清くんは本当に可愛いですね…。恥ずかしくなると目をそらすところとか凛ちゃんそっくりです。」

 

そう言って、ちひろは笑った。清はますます頬に朱がさす。

清は目に飛び込んでくる、首筋や、優しげに細められた目や、どうしても聞こえる息づかいなどを必死に見ないよう、聞かないようにしながら、必死に混みあがってくる何かを耐えていた。

 

「目元とか、髪とかも似てますね…。」

 

そう言いながら、目を覗き込み、髪を撫でながら、ひと房つまみ、サラサラと指先で擦ったりする。少しずつ顔が、ちひろの体が、清に近づく。

清はこそばゆく、心地よく、また恥ずかしい様々な感情が入り交じり、顔は茹で上がったように熱く赤くなった。

 

 

その時、ドアが開いた。

 

「おつかれー!あれ?ちひろさんと…」

「おかえりなさい、早苗さん!お仕事お疲れ様です!」

 

現れたのは、片桐早苗だった。入ってきた時笑顔だったが、顔が困惑に変わる。

 

「うん、ただいま!…えーと、その子は?」

「凛ちゃんの弟の清くんです。とても可愛いんですよ!」

 

ちひろはまだ清の頭を撫でていた。

 

「へー!凛ちゃんに弟がいたとはねー!噂は聞いてたけど本当だったんだ…。あっ!ちひろさん!そういえば、営業部の人がちひろさんをさがしてたよ!打ち合わせだって!」

「えっ!」

 

ちひろは慌てて腕時計を見たあと、ばっと立ち上がり、机に向かい、資料をざっとまとめて、

 

「急にごめんなさい!早苗さん、清くんをお願いします!」

 

そのまま、パタパタと出ていってしまった。

 

「あー、あたしは片桐早苗、キミは…清くんでいいのかな?」

 

早苗は頭をかきながら言った。苦笑いである。

清はまだ、ちひろのせいで赤い顔を必死に冷ましながら言った。

 

「はい、渋谷清と言います。姉さんのお仕事が終わるまで、ここで待つように千川さんに言われました。」

「おー、しっかりしてるねー!凛ちゃんの弟なんだって?」

「...はい、そうですね。自慢の姉です。」

 

そう清は答えたが、その顔は少し陰りが見えた。

 

「結構噂になってるよー!未央ちゃんが可愛い弟くんなんだって、言いまくってたからねー。

…どうかしたの?あ!なにか私、まずいこと言ったかしら…?」

 

早苗は清の顔が暗くなったことに気づいた。

清の心配をしながら、苦笑いをうかべ、頬をかく。

そのコミカルな姿に、清は少し肩の力が抜けた。

そして、この人に少し話してみようと思った。

 

「えっと、実は...」

 

 

清は凛が落ち込み、それが自分関連で起こっているのではと、不安であることを明かした。ベタベタしてくることも、そして今ほんの少しだけ、避けていることも。

 

「ふーむ、凛ちゃんがねぇ…」

 

ソファーで清の隣に座った早苗は顎に手を当てて首を捻る。

 

「例えばどんなことが話題に上がっている時に、落ち込んでるの?」

「えっと、僕が姉さん以外から……可愛いとか、言われたりとか、一度は喜ぶんですが、その後落ち込んでしまって…、あと他にも、もう一度、本田さんや、島村さんと話してみたいと言った時とか…」

「...もしかして、ヤキモチじゃないの?可愛い弟が認められるのは嬉しいけど、自分以外に言われて喜ぶ弟を見て複雑…とか!」

 

早苗は、ふと思いついたように言った。早苗にはその答えが真実に思えた。

しかし、清は困った顔をする。清は凛がそんなことを思うようには、微塵も考えていなかった。

 

「そんなこと思ってもいませんでした…。そういうものですか?」

「うーん、凛ちゃんが、清くんと同じくらいの年の男の子から褒められてて、それに対して凛ちゃんが満更でもなかったら?その男の子を可愛がっていたら、清くんはどう思う?」

 

清は想像する。

眉間にシワがよった。しかし、その感情は続かず、落ち込んだ。

 

「…とても、モヤモヤします。でも、それで姉さんが幸せなら…と思ってしまいます。」

「清くんは大人っぽいね…。多分、凛ちゃんもそう考えたんだと思う。だからこそ、少し寂しくなって、くっつきたくなったんじゃない?」

 

清は早苗の考え通りだとすると、自分は凛にとても迷惑をかけたのでは無いかと申し訳なくなった。

 

「僕、姉さんにとった態度を謝って、話し合おうと思います!」

 

清はぐっと拳を握ると、そう力強く言った。

そして、

 

「片桐さんがいなかったら、姉さんと話して、仲直りすることは難しかったと思います。ありがとうございます。」

 

清はそう言って早苗の方を向いてしっかりと礼をした。

早苗はポカンとした後、にひっと笑った。

そして、清を抱き寄せた。

 

清は突然のことに頭の中が白くなった。

 

「いやー!いい子だね〜清くんは!ついつい撫で回したくなるじゃん!」

 

そう言って、ぎゅむぎゅむとその豊満な肉体を押し付けながら、頭をガシガシと撫でた。

それは清には、すこし痛かったが、何故か心地よく感じた。

しかし、早苗は露出度が高い服を着ている。時々当たる生肌の感触に清は心地良さより、顔の熱さが上回った。

それに、早苗は気づかず言った。

 

「うん!清くんのこと気に入ったよ!」

 

ガシガシ撫でながら、早苗は言う。

その時ガチャと、ドアが開くが、2人は気づいていなかった。

 

 

「清くん!困った時はこの早苗お姉ちゃんにまかせなさい!」

 

 

 

この一言に、ちひろから連絡を受け、最速で戻ってきた凛が膝から崩れ落ち、宥め、説明し、謝るのに、多くの時間を要したのであった。

 



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