【ラブライブμ's 物語 Vol.3.5】花陽の決意 (スターダイヤモンド)
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【ラブライブμ's 物語 Vol.3.5】花陽の決意
「うら若き乙女が単身でアメリカに乗り込むなど、自らの命を捨てに行くようなものです!!…花陽、あなたは正気なのですか!?」
私が高校卒業後の進路について、みんなに伝えたのは、冬から春へと季節が移り変わるころでした。
海未ちゃんの言葉を聴いて
「…それはちょっと違うかも…」
と、ことりちゃんが苦笑した。
「いえ、そんなことはありません!!」
「まぁまぁ…」
熱くなって反論しようとする彼女に、穂乃果ちゃんが割って入る。
「花陽ちゃんが決めた道だもん。私たちが口を挟んじゃダメだよ!」
「そ、それはわかっていますが…」
「海未ちゃん、心配してくれてありがとう。もちろん、不安はあるけど…『恐がってたら一歩も前に進めない』って教えてくれたのは、他ならぬ海未ちゃんたちです。だから『やれるだけやってみよう』って思ったんだ」
悩みに悩みましたけどね…。
「うん、大丈夫だよ!花陽ちゃんなら向こうに行っても立派にやっていけることは、海未ちゃんもわかってるよ」
ことりちゃんがにっこりと微笑んでくれます。
「そうそう!『海外』って言葉に異常反応しすぎなんだよ」
穂乃果ちゃんが笑いながら海未ちゃんを見ると
「大きなお世話です!」
と少し顔を赤くして、ソッポを向いてしまいました。
相変わらず海未ちゃんの海外恐怖症は、相当なものです。
春先まで私は、幼児教育課程のある短大に進学するつもりでいました。
幼い頃からの夢…保育士になるために。
うん…もうひとつ…アイドルになるっていう夢もあったけど…それを始めるには高卒じゃ遅すぎるかな…って思っちゃって。
μ'sあっての小泉花陽…であって、決して私ひとりで勝負できるほど、世の中は甘くない…ということを悟ったと言っていいかもしれません。
尊敬するにこちゃんがその道を諦め、調理師の専門学校に進んだことも、私の中の選択肢からは消えた理由のひとつでした。
でも人生、どこでどう変わるかわからないですね。
私が撮影した後輩のライブPVを観たというA-RISEの担当プロデューサーから「ウチに来ないか?」とお声掛け頂いたのです。
アイドルとして…ではなく…具体的には映像を製作するお仕事をしてみないか…と。
「すごいじゃない!!いい?花陽、まずは一回話を聴いてみるべきよ。こんなチャンスは滅多にないわ!」
にこちゃんに相談したら、そう言われました。
「アンタはアタシと違って、他人のいいところを認めて、その才能を伸ばすことが出来る人だと思ってるわ。表舞台に立てる…っていう誘いじゃないのは残念だけど…悪くない話じゃない?」
絵里ちゃんも希ちゃんも…そして真姫ちゃんも、みんな花陽の挑戦を後押ししてくれたけど…ひとりだけ最後まで抵抗した人がいます。
それが…何を隠そう凛ちゃんです!
…って意外でもなんでもないですか?
凛ちゃんなら花陽が決めたことを無条件に賛成してくれると思ったんだけど「どうしてアメリカなの?」って。
「卒業したら今までのように一緒にはいられないことは凛もわかってるんだけど…アメリカは遠すぎるよ!」
そうだね…遠いよね。
その言葉に何度も決心が揺らぎました。
「花陽に依存してたのは、私も同じよ。だから…花陽がそばにいてくれないと私も不安になる。でもね、凛…今は昔と違って声を聴こうと思えばいつでも聴けるし、顔を見ようと思えばいつでも見れるわ」
「真姫ちゃん…」
「日本の真裏に行くから、時差は考えてあげなきゃ…だけど」
「うん…そうだね…」
最終的には凛ちゃんもわかってくれて…。
そこから、お話はあれよあれよという間に進み…体験入社などもさせて頂き、色々考えた上で…気が付けば私の進路は『映像製作会社に就職』となっていたのです。
内定を頂いてから何回か会社にお邪魔したのですが…その席で『入社後はアメリカの現地法人で研修』と通達がありました。
えっ…英語はまったく喋れませんよ!と言ったのですが
「大丈夫!日本人も沢山働いてるから。それに英語なんて『習うより慣れろ』だよ」
と一笑されました。
いや、本音を言うと…「ちゃんと白いご飯が食べられるかな?」…っていう方が心配だったりするんだけど…μ'sの海外遠征の時は「なんで『米国』なのに、お米が食べられないの!」なんて言って、みんなに迷惑掛けちゃいましたからねぇ…。
そして…
月日は経ち…高校を無事卒業した私は今、成田空港にいます。
見送りには穂乃果ちゃんとことりちゃん、海未ちゃん…そして絵里ちゃんが来てくれました。
そしてA-RISEの英玲奈さんも駆けつけてくれました。
「ツバサとあんじゅはスケジュールの都合で来れないのだが……」
実は私の作った映像を、A-RISEの担当プロデューサーさんに紹介してくれたのが英玲奈さんなんです。
「この度は色々ありがとうございました」
私が改めて感謝の意を述べると
「いや、小泉さんの実力とセンスの賜物だよ」
だなんて言ってくれました。
まさか数年後、海未ちゃんから『統堂さんは、花陽のこと好きだったみたいですよ』などと言われようとは、この時夢にも思いませんでしたが…。
仕事で来られなかった希ちゃんから預かった…というお守りを絵里ちゃんに貰いました。
希ちゃんは旅行会社に勤めていて、国内外を忙しく飛び回っています。
今回の花陽の渡米に当たっては、本当に色々とアドバイスをくれました。
今日はスペインにいるハズです。
そして…同じく仕事で来られなかったにこちゃんと…その妹さんたちが書いてくれたお手紙も絵里ちゃんから渡されました。
一人っ子の花陽にとっては、三人とも大切な妹弟たちです。
「ありがとう、あとで読むね」
今見たら、絶対涙が零れるから…。
次に日本に戻ってくるのがいつかはわかないけど…その間に忘れられたりしないかな?
ちょっと心配です。
真姫ちゃんと凛ちゃんとは、昨日の夜にお別れ会をしました。
三人で…いっぱいいっぱい泣いちゃいました。
でも花陽は、いつまでも真姫ちゃんと凛ちゃんに頼りっぱなしではダメなんです。
だから、最後には『頑張ってくるね!』って笑顔で別れました。
今日は真姫ちゃんは医大の…凛ちゃんは専門学校の…入学式です。
みんな新たな夢に向かって旅立ちます。
きっと二人も…ありきたりな言葉だけど…期待と不安の中で式に臨んでることでしょう。
「ファイトだよ!!」
高校に入学してから何度も聴いた魔法の呪文。
目の前に本人がいるので、私は口には出さず…心の中でふたりにエールを送りました。
もちろん、それは自分への掛け声であることは言うまではありません。
「じゃあ…そろそろ…」
搭乗時間まではまだ少し時間はありますが…花陽はどんくさいので、何事も早め早めに行動するようにしています。
「いってらっしゃ~い!」
「くれぐれも気を付けて下さいね」
「落ち着いたら遊びに行くよ」
「私は…仕事で会うかも知れないな…その時は宜しく!」
「みんな応援してるから」
この3年間で得た経験が花陽を強くさせてくれました。
ちょっとやそっとのことでは負けません!
でも…
でも…
挫けそうなときは、ちょっとだけみんなのパワーをくださいね!
ほんの少しだけでも声を聴かせてくれれば…花陽はきっと頑張れます!!
「行ってきます」
私は大きなキャリーケースを引きずって歩き出しました。
どこからか溢れてくる、泣き出しそうな気持を抑えて。
にこちゃんに教わった…みんなを幸せにする『にっこりの魔法』…を自分に掛けながら…。
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