ファイアーエムブレム ーエシャルの系譜ー (ユキユキさん)
しおりを挟む

~プロローグ

ー???ー

 

目が覚めると、そこは白い空間だった。何やら浮遊感、ふわふわしているなぁと思ったら浮いていた。わけが分からない、それに身体が動かない。…どうなるのかなぁと考えていると、

 

『…君が犠牲者か。』

 

厳かな声が聞こえた為、そっちに視線を向けると髭のナイスミドルが後光を背負って立っていた。…いや、浮いてる?

 

これは夢なのだろうか?

 

『夢ではない。そして…、現実でもない。』

 

…何を言っているのか分からない。夢でもなくて、…現実でもない? じゃあ、…何さ?

 

『君は死んで、魂だけの存在となっている…。』

 

…俺は死んだのか? 何で…? 普通に寝ていたんだけど。

 

『君の死因は、私の部下の喧嘩に巻き込まれてね。寝ている君に雷が落ちたのだ。正確に言うならば君の部屋、いや…家になるか。その雷によって家が全焼…、所謂…焼死ってヤツだ。』

 

なるほど、巻き込まれて死んだわけね。…にしても凄いな貴方の部下は、人間じゃないわな…人外なんだろうね。

 

『私は君の世界でいう神…という者だ。勿論、部下も神である。』

 

ふむ…テンプレってヤツですか、神様の手による事故死。俺がそれに巻き込まれるとはツイてない、……どうしようか?

 

『…君は怒らないのかね? 理不尽に巻き込まれ、死んだのだよ?』

 

何で怒るのさ? 神様に怒るなんてバカじゃないんだから。ツイてないってことで良いんじゃないですかね?

 

『…君は変わっているね? 大体の者は怒るのだが…。』

 

…いやいやいや、何なんですかソレ。俺みたいに死んだ人がいるんですか? …ダメじゃないですかね? …神様だから仕方がない?

 

『…今回の件も含めて、その部下は厳しい処罰を受けるだろう。…というか、与えることを約束しよう。』

 

なるほど、俺を殺した…と言っても良いのかな? まぁとりあえず、その部下が問題児ってわけですか。…俺みたいに死ぬ人が減って良いかと思います。

 

『…うん、そうだね。…その件で君にせめてもの罪滅しとして、新たな命を与えたいと思っている。…どうかな?』

 

新たな命って…、元いた世界? 場所? に戻れるんですかね?

 

『…申し訳ないが。』

 

…なるほど、テンプレですね? 別世界…と? ……ふむ。

 

『…テンプレって便利だな。…それでどうするかね? 好きな世界へ送ってあげることが出来るが。』

 

…そうですね、…決めました。

 

『……早いね。』

 

このまま消滅でもしてやってください。神様が罪滅しなんてするもんじゃないですよ?

 

『…………。』

 

そんなわけで、消滅でよろしくお願いします。短い人生だったけど、それなりに楽しい人生だったかな? わははははは!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ー神様ー

 

何とも不思議な青年よ、消滅を求める者なんて今までいなかったが…。大体の者は好きな世界、望む能力を求めて嬉々として行くのだが…。欲がない、…近頃珍しい青年よな? …このような青年を消滅させるのは惜しい、…ふむ。

 

私は神だからな、強引にでも命を与えさせて貰おうか。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ー???ー

 

何やら神様が目を瞑り、…考えてるっぽいぞ?

 

『君の消滅は無しでいかせて貰うよ。』

 

…はい? …何故に突然?

 

『消滅を求める者なんて、今までいなかったからね。…君の生きる物語を見たくなったのだよ、…強引にでも命を与えるからね。…私は神なのだから、これくらいはまかり通る。』

 

なるほど、…神様だからですか。…そういうことなら仕方がない、…神様にお任せしますよ。

 

 

 

 

 

 

『十五歳で君の自我を復活させれば良いんだね?』

 

そうです、それぐらいでお願いします。赤ちゃんプレイなんて、…イヤですからね。

 

『…分かった、そうしよう。それ以外は私に任せる…で、良いんだね?』

 

迷いますからね、…だったら神様に任せれば間違いないかと思いまして。

 

『…なら、期待に応えて私に任せて貰うとしようか。』

 

ええ、お願いします。では…そろそろ良いですかね?

 

『…そうだね、そろそろ送ろうか。…君の新たなる命に幸あれ。』

 

まぁぼちぼち生きさせて貰いますよ。それでは神様、縁がありましたらまた…。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ー神様ー

 

…行ったようだな。何とも言えない青年、君の紡ぐ物語はどんな物語なのだろうか? …その物語を見守る為に、相応の能力を与えねばなるまい。力を得た君はどんな人生を歩むか、今から楽しみだ。

 

十五歳で自我が復活するまでの間は、私の方で君らしい行動をさせよう。生まれ変わっても、君は君だからね。…それに自我復活の際、適合に負担があまり掛からないように容量を大きくして………。相応の能力、力…か。さて、どうしようか…。

 

 

 

 

 

 

………ふむ、同タイトルの別作品のデータを使うとしようか。メインの物語はこれで、別作品のデータもこの程度が良いかな?

 

…………これならばそう簡単に死ぬことはないだろう。よし…!

 

 

 

 

 

 

準備は整った。ファイアーエムブレム~聖戦の系譜~の世界にて、君の紡ぐ物語…人生を見せて貰うよ?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 ~俺の名はエシャル。

ーエシャルー

 

………おお? 何だ突然、頭の中に色々な情報が…。………んん? …そうか、そうだったな。俺は転生したんだっけ? 別世界で死んだんだったな。そんで神様の手によって新たな命を…、そう…新たな命を貰ったんだ。

 

…で、俺が転生した世界は何だっけ? え~と…ファイアーエムブレムの世界で、…聖戦の系譜だったかな? …俺の前の名は何だ? …そこは靄が掛かって分からない。分からないからこそのステータスチェックだな、…思い浮かべればチェック出来る筈っと。

 

 

────────────────────

 

 

名前:エシャル

 

クラス:炎の公子(ファイアーロード)

 

LV:15

HP:45

MP:68

力:15

魔力:20

技:16

速:18

運:28

防御:15

魔防:22

移動力:6

 

スキル:追撃・連続・見切り・必殺・怒り・エリート・炎の血

 

武器LV:剣☆・杖A・炎☆・風B・雷B・光B

 

所持アイテム:キルソード・特効薬

 

魔法:ライブ・リライブ・リブロー・ワープ・レスキュー・ファイアー・エルファイアー・メティオ・ギガファイアー・ボルガノン・シムベリン・レクスフレイム・ウインド・サンダー・ライト

 

所持金:15,000G

 

 

────────────────────

 

 

「……おお? 何じゃこりゃあああああっ!?」

 

俺のステータスが凄まじいんですが? 何だこのステータスは!? MPって何さ? 炎の公子(ファイアーロード)って何さ? 魔法って何さ? …魔道書いらないの? ギガファイアー・シムベリン・レクスフレイムって暁の魔法じゃね? 炎の血ってスキルはif? ……剣と炎が☆って何?

 

……………考えた所で意味はないか、そんな仕様ってことにしよう。まぁ実際、魔道書に使用回数があっても困るし? MP消費がリアルってこと?

 

…それで俺の名はエシャル、十五歳だ。ファラとヘズルの血を濃く受け継いでおり、継承者となることが出来る身。…どんなバグキャラだよ俺は、…色んな意味で危ない奴じゃないか! なるべく血のことはバレないようにしないと、…まぁいずれはバレるんだろうけど。

 

それでえ~と…ヴェルトマー家当主のヴィクトルが父で、その愛人との間に生まれた微妙な立場の子供が俺。愛人と言ってもノディオン王家の血筋、そして俺の母であり既に亡くなっている。産後に色々あって亡くなったと記憶しているが、…よく覚えていないのが悔やまれる。

 

んで…俺の兄はアルヴィスで弟にアゼルがいる。フリージ家とも縁があり、ティルテュとエスニャを妹? のように可愛がっていたような違うような? …俺の住む場所は領地の端の方で、所謂…僻地って所だったような気がする。………そこら辺の記憶がヤバイ、何故か思い出してはいけないような?

 

……逃げた? その地から俺は、…二年前に逃げ出して今に至っていると思う。…記憶が曖昧で靄が掛かっている、…理由は分からないが逃亡者。…そう俺は逃亡者、…全然ダメじゃんね? …これから先、…どーすればいいのさ。

 

 

 

 

 

 

……色々考えつつ思い出してみたけれど、…まぁどうでもいいわな。なるようになるだろうし、とりあえず楽しく生きましょうかね。ここは聖戦の世界であるっぽいけど、俺がいるし色々ツッコミ所があるから別世界と見ていいだろう。原作知識はある程度あるけれど、それを当てに出来ないと確信出来る。故に慎重に生きるが吉、…分かったな! 俺よ。…つーか、ここは何処なんでしょうか? …え~と。

 

…ここが何処か判明しました! 今はグラン暦751年、俺のいる場所はヴェルダン王国のマーファ城城下にある宿の一室。んで、先程一人で大騒ぎしたことで宿の主に怒られる…と。わははははは! 元貴族の癖にざまぁ、しかも逃亡者の身でありながらですよ? 笑っちゃうよね。

 

…はぁ~っ、笑ったら疲れちまったよ。くだらないことで笑っちゃったな、…アホですか俺は。…つーか、これから先どうすればいいんだ? 聖戦は好きだけど、別世界故に何時何処で何が起こるか分からんし。……悩んだ所で何も思い付かないよなぁ~、まぁ…なるようになるのかなぁ~?

 

とりあえず、ここは緑溢れるヴェルダン王国だろ? 森へ行って獣相手に実力を確かめる、…ってーのが一番か? 獣を狩れば金になると思うし、現状それしか思い付かんわ。…うん、そうしよう! そうと決まれば今日は眠るのみ。明日に備えることも重要だろう、体力はあるにこしたことはない。じゃあそういうことで、…おやすみ~。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 ~森の中での出来事。

ーエシャルー

 

次の日、マーファ城城下にて情報収集をしてみる。殆んどの情報は知っていることや関係のないものであったが一つだけ、精霊の森付近には化物熊がいるという話を聞いた。何でもその化物熊はたまに人里へと下りてきては人を襲う、家畜がいれば全てを食い散らかす等好き放題するらしいんだわ。この城の城主も何度か討伐隊を組み挑んでいるらしいけど、返り討ちにされているとのこと。

 

────────────────────

 

『赤腕』と呼ばれている化物熊を討伐、実力を試しつつ懸賞金を手に入れようと思い森の中へ。一石二鳥じゃないか! とテンション高めで勇んでみたところ、…森の奥にて冷静となり気付く。

 

「…炎魔法を使ったら、大火災まっしぐら。…俺の進むべき道が閉ざされた!」

 

一番確かめたかった炎魔法が、一番駄目なヤツであることに気付いてしまったのだ。これは痛い、痛すぎるぜ! 自由に生きると決めた俺だが、流石に大火災は駄目だろ! 絶対!

 

…でそうなるとだ、炎魔法とは違う手段が必要となる。ならば仕方なしということで、代わりに剣を使いましょう。我が身に流れる黒騎士ヘズルの血よ、その力を見せて貰うぞ!

 

「解き放て! 我がキルソード」

 

腰に差してある鞘から黒き刃の剣を抜き掲げる俺、黒騎士ヘズルの再来と言えるぐらいカッコいい。…とは言ったものの、ノディオンのエルトシャンがいるからねぇ。獅子王の勇名には敵いませんわ、…そういえば俺って獅子王と面識があるんかね?

 

…うーん、記憶の中を探ってもよく分からんな。まぁモヤモヤしている記憶の何処かに、もしかしたら出会った記憶があったりするかもね。…それよりもだ、俺の剣の方が重要だろう。ヘズルの血がピッカピカだから、なまくらな筈がないと思う。ふははははは! 噂の『赤腕』とやら、何処からでも掛かって来い!!

 

 

 

 

 

 

そんな感じで調子に乗っていたら、馬鹿デカイ熊に襲われたよ! 流石の俺もビックリしましたわ、熊ってあんなにデカくなるものなんですね! 4m以上はあったぞ絶対、ここって聖戦の世界ですよね!?

 

めっちゃビビったけれど、キルソードと必殺のスキル効果で攻撃が全て必殺の一撃に! 追撃と連続で熊は為す術もなく瞬殺、俺ってば強いじゃないの! 攻撃こそが最大の防御、それ故に無傷で倒しました! 流石はヘズルの申し子、俺様カッコいい! 血濡れたキルソードを天へ掲げ、倒した熊の上にて片手で顔を覆い瞑想。

 

……………自己陶酔中。

 

…熊殺しのエシャル、今日からそう名乗っ…ダサいからやめよう。

 

 

 

 

 

 

自己陶酔中のエシャルを木の影から見詰める者がいた、その人物にエシャルは気付かず。…ご機嫌なエシャルを見詰める者、それはとても美しい一人の少女だった。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーディアドラー

 

人の気配を感じて、私はその場所へ向かった。ここは深い深い森の奥、人々から精霊の森と呼ばれている場所。このような奥深い森の中に、普通の人ならば入ってくることはない筈。

 

予想するに、…たぶん迷い人だと思う。もしそうであるとしたら、私の魔法で惑わせなくてはならない。私達の住む場所へ近付けてはならない、お婆様にきつく言われているから…。私はその掟に従い、何人もの人を惑わせてきた。中にはそのせいで亡くなってしまった者もいるだろう、嫌だけど…掟に従わなければ私とてどうなるか。…だから私は向かう、森に迷い込んだ哀れな人の下に…。

 

そして私は見てしまった、夢にまで見た憧れの騎士様のようなお方を…。そのお方は赤みがかった金色の長髪に切れ長の目と高い鼻、そして口元には薄く笑みを浮かべている。真紅のマントに、見事な装飾が施されている漆黒の騎士服を身に纏っている。

 

「……素敵。」

 

無意識に言葉を口に出してしまった私は、慌てて口元を押さえて周囲を窺う。騎士様へ視線を向けてみれば、キョロキョロと周囲を見回して首を傾げている。…危なかった、…ホッと一息吐いた所に、

 

『グルオァァァァァッ!!』

 

大きな雄叫びが森の中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

…………!?

 

あれは『赤腕』と呼ばれている人食い熊! そんな化物がどうして…! 今の時期はもっと森の奥、そこで大人しくしている筈なのに…!

 

ヴェルダン王国第一王子様の討伐隊を何度も破った化物…。ああ…騎士様が殺されてしまう! 掟を破ることになるけれど、騎士様を助けるには私が…。そう決意をして、私は騎士様を逃す為に助太刀を…と。そう思った矢先、

 

「巨大熊が相手か…、不足はない。さぁ…俺の糧となるがいい!」

 

剣を構えて化物に…、『赤腕』に立ち向かってしまった! …目にも止まらぬ速さで騎士様へと向かい、『赤腕』が腕を振り下ろして…、

 

「……ああ!?」

 

私は手で顔を覆い目を背けた、悲惨な光景を見たくはなかったから。

 

…しかし、

 

『ガァァァァァァァァァッ!!』

 

騎士様の悲鳴ではなく、獣…『赤腕』の悲鳴? が響く。何が起きたの!? そう思った瞬間、

 

ズゥゥゥゥゥンッ!!

 

大きな地響きが森に広がる。私は戸惑いながらも、恐る恐る視線を騎士様の方へ向けてみた。そこには『赤腕』と呼ばれている人食い熊が地に伏しており、騎士様は剣を天に掲げて黙祷を捧げていた…。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーエシャルー

 

…ふひぃ~、自分自身に酔うとは俺もまだまだだな。もう少しクールにならなければ…と思いながら、剣を軽く振って血を払い…鞘に納める。そして悩む俺、…この熊をどうするか。このまま捨て置くには勿体ない、…う~む。

 

…あ! ワープがあるじゃないか。ワープだったらこの巨大熊を運べる筈、原作では無理だけどこの世界では可能。何せ杖ではなく全てが魔法に分類されている、杖と魔道書は飾りなのさ! …そうと決まれば直ぐ実行、高まれ俺の魔力よ! ぬぬぬ…ワープ!!

 

 

 

 

 

 

エシャルの姿は巨大熊と共に魔法陣の中へと消えた。しかしエシャルはドジを踏む、母の形見であるペンダント。彼自身もその存在を忘れていたが故に気付かない、そのペンダントを落としたことに。

 

そしてそのペンダントを拾う少女、彼女はそれを胸に抱き締めて…、

 

「………騎士様。」

 

初めて抱いた感情に戸惑いながら、少女は何を想うのか…。

 

この一つの出来事が運命の歯車を動かす。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 ~義兄弟。

ーエシャルー

 

化物熊こと『赤腕』の亡骸と共に、マーファ城に戻ってきた俺。城下の広場に突如として現れた為、大騒ぎになったが、

 

「おい、兄ちゃん…。その巨大熊…どうしたんだ?」

 

巨大熊…『赤腕』の死体を見た男が聞いてきたんで、

 

「森の奥で遭遇したのでね、殺ってしまったわけなのだが不味かっただろうか?」

 

と、素直に答えた。………あれ? 皆さん騒いでいたのに、急に黙ってどうしたん? なんかコソコソこっちを見ながら、お隣同士で話しているし。…俺、やっちまったのかね?

 

周囲の反応に焦る俺だったが…、

 

「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」

 

「…何事!? 何故に大歓声が? …というかうるさっ!!」

 

いきなりの大歓声に混乱しとります、耳キーン鳴っとります。何なのさ!

 

 

 

 

 

 

俺と共にある化物熊の亡骸、『赤腕』の成れの果てを見て喜んでいるっぽい。考えてみればそりゃそうか、化物熊『赤腕』は懸賞首でした。ヴェルダンを恐怖に陥れた原因、第1王子様の討伐隊をも破った強力無比な巨大熊。ソイツに怯えながら生活していたわけで、その脅威から解放されたらまぁ…喜ぶわな。

 

…確か山賊の国だったよね? なんつーか、情けない? …というか、言う程『赤腕』強くなかったぜ? …まぁ倒したわけで、平和になった。それは良いことだ、うん。ちゅーことは、俺ってば英雄じゃん?

 

………諸君、ありがとう! ありがとう! とりあえず、調子に乗ってみた。

 

 

 

 

 

 

調子に乗った結果、なんか知らんけど城に呼ばれました。『赤腕』の亡骸も大勢のマッチョ達に運ばれ、一緒にお城です。そして、目の前には王座に座るマッチョな兄貴。山賊王とでも名付けたい程の悪党顔、俺には無い魅力だぜ。そのマッチョな兄貴は、俺と『赤腕』を交互に見て、

 

「おうあんちゃん、…本当にコイツを殺ったのはお前か?」

 

なんてガンをつけてきやがったわけで、俺っちは嘘ついてないぜ? って気持ちを込めて、

 

「正真正銘、私が仕留めましたが…? お疑いでしたら、力を示しましょうか?」

 

と挑発してしまいました。だが、後悔はしていない。俺は思うがままに生きるのだ! それで死んだら、それはそれで俺の生きた道。神様も許してくれる筈さ! それに強いらしい『赤腕』を圧倒したんだから、負ける要素がない。マッチョな兄貴は王族だろうけど、俺だって元だが貴族。ファラとヘズルの血が、屈するのを許さないのさ。…覚悟しいや、マッチョな兄貴!

 

 

 

 

 

 

しかし現実は無情で…、

 

「待て待て待て兄貴な王子様! 素手はないでしょう!?」

 

「馬鹿かお前は、怪我したら駄目だろうが! それに、それが俺達の流儀だ!」

 

「ぎゃーーーーす!!」

 

武器を使っての決闘かと思ったら、素手での力くらべ。俺が勝てるわけないでしょうが!

 

…開始早々捕まって、さば折りをされました。結果は当然、…敗北です。マッチョな兄貴に、か弱い俺が力で勝てる筈が無い。これはヴェルダン王国の陰謀に違いない! …無念!!

 

俺は腰を押さえながら、悪態を吐く。

 

「剛力戦士に勝てるわけないでしょうが! 俺はどちらかというと魔法使いなんですよ!? そんな俺に、素手での力比べって…。アンタ達は鬼か悪魔か蛮賊か! せめて剣を使わせてくれ、今一度の立ち会いを! 武器での模擬戦を提案する! …宜しいか!!」

 

そう言うと、マッチョな兄貴は俯いてプルプルしている。…ハッ! 不敬罪で打ち首!? コイツはヤバイぜピンチだぜ! ワープの準備を…、

 

「がははははは! お前、負けず嫌いな奴だな! 気に入ったぜ! …おう、お前ら! 宴の用意だ!」

 

「「「「「へい! 王子!!」」」」」

 

…お? 首が繋がったんですかい?

 

 

 

 

 

 

そして決闘…ではなく力比べを終えて、マッチョな兄貴の号令で宴が始まった。

 

「…んで、俺と『赤腕』が取っ組み合いになってな。そん時の傷がコイツよ!」

 

「取っ組み合い!? よくそれだけで済んだな? ガンさんは頑丈だね! 俺だったら即死よ即死!」

 

和気藹々と飲んでます。マッチョな兄貴の名前はガンさん、…じゃなかったガンドルフ。ヴェルダン王国の第1王子なんだって! ゲームじゃ悪党だけど、現実は良い人。やっぱリアルは違うみたい、頼れる兄貴って感じ。一時はどうなるかと思ったけど、こうやって仲良くなれてよかったよかった。

 

ほろ酔い気分になったところで、ガンさんがこちらに向き直り、

 

「遅くなっちまったが、『赤腕』討伐感謝するぜ。エシャルのお陰で、民達が安心して暮らせるようになった。父バトゥ王に代わって、第1王子ガンドルフが礼を言う。本当にありがとう!」

 

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

 

ガンさんが頭を下げるのと同時に、後ろのマッチョ達も頭を下げる。一瞬、何が起きたのか分からんかったけど、

 

「いやいや、当然のことをしたまでですよ。俺は元とはいえ貴族、民を守るのが務め。国は違えど民を想う気持ちは同じ、故にこれは務めであって礼はいらないさ。…だが、その礼は頂くよガンドルフ王子。」

 

と返し、顔を上げたガンドルフと目が合う。そして…、

 

「「わははははは!!」」

 

と笑い合った。

 

 

 

 

 

 

宴が終わり、俺はマーファ城に泊まることとなった。わりと酔った為にすぐ眠ることが出来ると思ったのだが、いざ寝る時になると冴えるもんで…。

 

「…良い月夜じゃないか、流石は森の王国。美しいもんだ…。」

 

廊下の窓から、月を見上げていた。…色々と考えてしまうな、自我が目覚めてまだ一日だけどさ。俺の過ごした日々は、平凡ではなく過激。微妙にモヤが掛かっている記憶、なんだか気持ち悪い。兄、アルヴィスの記憶も曖昧だ。…記憶がはっきりしないってーのは、嫌なもんなんですね。ボーッとしていると、後ろから足音がしたので振り返る。

 

「よぉ…エシャル、眠れねぇのかい?」

 

マッチョな兄貴、ガンドルフがいた。

 

…月を見上げながら、俺達は色んな話をした。俺はヴェルトマー家の生まれで、追放されたこと等を話した。まずったかな? とは思ったものの、ガンドルフには話しやすく話してしまったわけで。

 

ガンドルフも兄が死んだこと、新たに弟が出来たこと、どう付き合えば分からないこと等。ガンドルフも色々と悩んでいるみたいだ、…なんだか湿っぽいね? …やっぱ心細いのかなぁ。一人旅で逃亡者で、自我に目覚めて…さ。

 

俺達は黙って、月を見上げていた。会話が途切れて、とりあえず見上げていた。そして俺はボソッと、

 

「なんだかガンドルフは、デカイな…色々と。俺は兄との記憶が曖昧で、…なんだかガンドルフが兄みたいに思えてくる。今日会ってばかりなのに、可笑しいよな…。」

 

そんなことを呟いた。ガンドルフは俺の呟きに驚きつつ、ニヤリと笑みを浮かべ、

 

「俺もなんだかよ、エシャルみたいな男が弟だったら…って思っちまったよ。俺はグランベルが嫌いだ、嫌いだけどお前は…。言葉にすんのは難しいんだけどよ…。」

 

そしてまた、空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

この日俺とガンドルフは、義兄弟の契りを結んだ。超展開の分類に入るような気がするけど、なんだか心が軽くなった。

 

そのすぐ後、

 

「兄貴ぃぃぃぃぃ!!」

 

「義弟ぉぉぉぉぉ!!」

 

そんな叫び声が、城の中に響いたとか響かなかったとか…。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 ~さらば、マーファ城。

ーエシャルー

 

ガンドルフと義兄弟になって3ヶ月ぐらい、色んなことをしたなぁ。

 

力比べで負けたが故、対人戦での実力が分からんのです。『赤腕』を倒したことから、弱いってことはないだろう。…ってなことで、ガンさんの部下と模擬戦をしたのさ。キルソードじゃヤバイから、城下の武器屋で細身の剣を購入。スキルの必殺もヤバイから、発動すんなーと念じながら戦ったのだ。結果は圧勝、100人抜きを達成してしまった。流石のガンさんも、ひっくり返りましたとさ。

 

他国から流れてきたならず者、奴等が村にて悪さをしている。その報を聞いた時、イラっときたのでガンさんの部下を数人借りてワープ。俺のエルファイアーが、ならず者を焼き払って村を救った。そん時共に来たガンさんの部下、…デマジオ君。悪党顔なのに瞳を輝かせて、

 

「エシャルの兄貴、一生付いて行きやす!」

 

とかなんとか。いやいや貴方の方が年上ですからね?しかもガンちゃんの部下でしょうが! と思ってみたり。

 

森の奥に勇者の泉? 湖? なんだか分からんけど、凄い場所があるとのことで。ワープを使わず、あえて歩いて行ってみた。途中、視線を感じたような気がしたが。到着してみれば、めっちゃ綺麗な湖で。…それだけだったが、一緒に来たみんなと釣りをして楽しんだ。魚を大量に持ち帰って、また宴。…飲んでばっかじゃないからね?

 

城下で買い物してたら、見知らぬ美少女とぶつかった。めっちゃ綺麗でドキドキしたのを覚えてる。その少女も俺を見て驚いて、猛スピードで逃げてった。美少女に逃げられた俺、猛烈ショックを受けました。

 

「兄貴は畏怖されて当然、逃げるのは罪じゃねぇ。…ですよね? 兄貴!」

 

と、後ろに控えたデマジオ君の言葉。他の奴等も頷いてはいるが、

 

「お前等の存在が悪いんだよ! 全員悪党面じゃねぇか! そりゃあ女の子はビビるよ、そんな奴等を引き連れていたらさ!」

 

とキレて、デマジオ君達を追いかけ回した。

 

そんなこんなで、ヴェルダン王国マーファ城。ここの部隊は俺のせいか、王国最強の戦士団になったっぽい。ガンさんが喜んでたっけ。…済まぬシアルフィ軍の方々、貴方達の相手を強化してしまいました! 未来がどうなるか分からんけど、すんません!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

…本当に、今となっては良い思い出。そんな地を俺は今日、旅立つのだ。俺は旅人で逃亡者、1ヶ所に留まること等してはいけない。3ヶ月、わりと長くいたけど。………やべー、思い返せば返す程泣けてくる。旅立つ準備を終えて、物思いにフケていると、

 

「エシャル…、準備は終わったのか?」

 

そんな俺に、ガンドルフが声を掛けてきた。

 

俺は立ち上がり、ガンドルフに頭を下げる。

 

「ガンドルフ…いや、兄貴。今まで世話になった、…ありがとう。旅立って兄貴達と離れるのは寂しいけど、これもまた俺の道。新天地でも楽しく生きる予定だからさ、笑って見送ってくれよ?」

 

「当たり前じゃねぇかエシャル、…俺の義弟よ。なんかあったら帰ってくりゃいい、ここによ…。グランベルだろうが、親父達が何と言おうが、俺は味方だ。それにお前程の男が、どうにかなるってーのは想像出来ねぇからな。安心して見送るってもんよ。」

 

そんな言葉、泣いちまうぜ兄貴! 俺は真っ直ぐ、ガンドルフを見る。ガンドルフはぎこちない笑みを浮かべている。ホロリと俺の目から、涙が零れ落ちる。

 

「兄貴ぃぃぃぃぃ!!」

 

「義弟ぉぉぉぉぉ!!」

 

俺とガンドルフは抱き合って泣いた。……麗しき義兄弟愛、素晴らしいぜ!

 

 

 

 

 

 

お互い泣いてスッキリ爽快、大勢引き連れて城下から門へ。城下の民達もついてくる、…くぅ~泣ける! そして門に辿り着いた俺は振り返り、

 

「ここまででいいぜ兄貴達、俺にはワープがあるからさ。ワープがあるからいつでも戻ってこれるが、…当分は戻ってこないからな。これから先、何があるか分からない。俺は強くならなきゃならんからな。…甘えは禁物ってわけさ。」

 

ニヤリと笑ってそう言った。

 

「そんなこたぁ分かっている。くだらねぇことで帰ってきたら、ぶん殴るからな。覚えとけよ!」

 

ガンドルフもニヤリと笑って言う。

 

「分かっているさ兄貴、そんなことはさ。まぁ新天地でヴェルダンに何かあったって情報を聞いたら、すぐ帰ってくるから。デマジオ君達も、兄貴をしっかり支えてくれよ!」

 

「「「「「へい!エシャルの兄貴!」」」」」

 

俺はその返事を聞いて満足、踵を返してみんなに背を向ける。

 

「じゃあな第二の故郷。…みんな、また会おう!」

 

と歩き出す。そんな俺に…、

 

「エシャルの兄貴ぃぃぃぃぃ!!」

 

「エシャル様、ありがとう!」

 

「いつか帰ってきて、また飲みましょうや!」

 

「平和をありがとう!」

 

「「「「「エシャル! エシャル! エシャル!」」」」」

 

様々な声を背に受けて、俺は…俺は…!

 

「うぐぅ……!」

 

涙を堪えるのがやっとだった。これは辛い、辛すぎるぜ! みんなが見送ってくれてる中で、これをやるのはよくないかもしれない。だけど…分かってくれるよな! どこに行くか分からんけど、とりあえず…ワープ!

 

 

 

 

 

 

マーファ城から見送るガンドルフ達の目の前から、エシャルは魔法陣の中に消えた。彼がこの地を再び踏む日は、一体いつになるのだろうか? 願わくは、平和な世でありますように…。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 ~竜が飛ぶ国。

ーエシャルー

 

ヴェルダンからランダムワープ、来た場所といえば山!ここは何処だアグストリアかな? なんていったってヴェルダンからのワープだからね! ランダムとはいえ近場でしょう! わはははは!

 

 

 

 

 

 

………山以外何にもねぇ、…アグストリアじゃねーの? しかも山っつってもさ、緑の少ない山ばっか。岩山っつーのかな? 人里あるんすかね?

 

とりあえず、山歩きを実行する俺。ワープは最終手段、そもそもここが何処か分からない。分からないから、ワープが出来ません。ヴェルダンの時にやったランダムワープ、知らぬ土地でそんなんやったら危険ですよ!

 

…やんなきゃよかったランダムワープ、見知らぬ土地に辿り着くとは思わなかった。このままだと遭難するぜ、ヤバイよヤバイよ! …やっぱワープしちゃおうかな? 鮮明に思い浮かべることの出来る場所、ヴェルトマーの僻地、マーファ城、ヴェルダンの村、綺麗な湖。………少ねぇ! ワープ候補地が少ない件、…まぁ逃亡者っぽいもんな俺。

 

 

 

 

 

 

ヴェルダンで鍛えたこの足腰、この程度でへたれません。それに山歩きも楽しいもんだ、景色もいいし。欲を言うなら人里カモン! 人っ子一人いやしねぇ、マジで何処だよ。ヴェルダンから旅立って2日、もう既にホームシックな俺。一人は寂しい、食料がヤバイ、俺様カッコいい。

 

………改めてヤバイよヤバイよ!

 

「誰かぁぁぁぁぁっ!!」

 

山の中で助けを叫ぶ俺、せめてここが何処かだけでも教えてください!

 

 

 

 

 

 

人里求めて4日、流石にもうヤバイです。食料尽きて、一人が寂しすぎて死にそうです。風呂、もしくは水浴びがしたいです。マジでヴェルダンに帰ろうかなぁ…、でもカッコ悪いよなぁ…。今日中に人里を見付けよう、見付けることが出来なかった場合はヴェルダンに帰ろう。死ぬよりマシだよね! …ラストスパートといきましょうかね!

 

全てを懸けてハイになっている俺を、誰も止めることは出来ない。…何処だぁ、人里! 俺の面前に姿を見せやがれ! 高山病もなんのその、山々を駆け巡る俺はもはや山神。人知を超えた存在となっている、…気持ち的にね。そんな俺のゴキブリパワーが尽きかけている、流石に限界か!? と思いかけた時に見えたモノ。あれは…、

 

「やったぜ村だ集落だ! これで勝つる!!」

 

テンションアゲアゲで駆け出したのだった。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーパピヨンー

 

「おらぁ! 剣を捨てな、隊長さんよぉ! ガキがどうなってもいいのか!」

 

賊が子供に斧を突き付け、こちらに剣を捨てろと要求してくる。

 

「パピヨン隊長、どうすれば…。」

 

部下の一人が私に問いかける。これが他国の子供であれば、気にも留めずに賊ごと斬るのだが…。人質は紛れもなく我らが国の民、見殺しにすることなど出来る筈もない。

 

「…分かった、こちらの武器は捨てよう。その代わり、子供に危害を加えるのはやめろ!」

 

そう言って、私は剣を捨てる。部下も私に習い、各々の武器を手放した。賊はニヤニヤ笑い、

 

「それでいいんだ隊長さんよぉ、俺も子供を殺すなんてこたぁしたくねぇからな。」

 

クソが! どの口がそんなことを言う! 既に6人もの民を殺した癖に…! 私は悔しくなり、賊を睨む。そんな私の目が気に入らないのだろう、苛立った様子で、

 

「…んだぁ! その目はよぉ! 立場が分かってんのか、あぁ!!」

 

賊の斧が、子供に強く押し付けられる。少し刃が肌を裂いたのだろう、子供の服に赤い染みが浮かび上がる。子供は声を上げず痛みに堪えている、…強い子だ。その我慢強さに敬意を評し、絶対に助け出したい。しかし現状は、救出するのは難しいと言わざるを得ない。…くっ、どうすれば。

 

そんな逼迫した状況に、乱入してくる男がいた。少々汚れてはいるが、身なりが良い。穏やかな顔をしてはいるが危ない雰囲気を纏っている、只者ではないと私の勘が囁く。そんなことより、突然の乱入。賊を刺激してしまったのでは…!

 

「なんだテメェ! 軍の関係者かなんかかぁ!? …ガキがどうなってもいいみたいだなぁ!」

 

やはり刺激してしまったか!? クソ…! 一か八か、賭けに出るしかないか!

 

「……どんな状況? …子供が人質で皆さんがピンチ?…んん?」

 

状況が飲み込めていないのか、コイツは! …コイツのせいで、事態は一刻を争うことになったというのに!

 

「…なるほど、その小汚ねぇ賊が悪党か。理解した、…ならば!」

 

今更理解など…! と思った矢先、男の体が光った瞬間。子供が賊の下から消え、男の下に。

 

「「「「はぁ!?」」」」

 

私達と賊の声が重なった。一体何が起きたのだ!?

 

「隊長さん? でいいのかね? 人質は救出したわけで、…後は分かるだろ?」

 

男の言葉で我に返る。私は努めて冷静に、

 

「賊を捕らえるのだ!」

 

と声を上げた。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーエシャルー

 

なんかよく分からんけど、子供を救出。賊は、兵士の皆さんに捕まったみたい。まぁとりあえず、良かったのかな?

 

「…うぅ~……!」

 

何やら子供が呻き声を。よく見ると、怪我してんじゃん! 人質にされた時に傷付いたんか! んなことより治療だな! …ライブ!

 

………よし! 子供の傷は治ったな、一件落着ってわけだ! 良かった良かった! と自己満足している中で、ポンッと肩に手を置かれ、

 

「協力に感謝する、…で少し話を聞かせてもらえないだろうか?」

 

…ですよねぇ~。隊長さん? は、話を聞きたいようだ。まぁ話すことはいい、だがその前に…。

 

「…その前に、飯を食いたいんだけど。…良いですかね?」

 

ぐぅ~…と腹が鳴り、隊長さん? が苦笑いをしていた。…恥ずかしいわ!

 

 

 

 

 

 

………まぐまぐ。貰ったパンは一つだが、ものっそ旨い! 空腹はスパイスだ! このパンは、助けた子供の親から頂いた。お礼がこれしかないって、終始申し訳ないオーラを出していた。逆に俺の方が、申し訳ない気持ちで一杯だよ! たまたま遭遇した為に助けただけで、お礼を貰う為に助けたわけじゃない。

 

なんとなく雰囲気で感じたけど、この村? 貧しいんじゃないですかね? そんなんで、お礼としてパンを一つ。本当に申し訳ない、だがしかし…! せっかくくれるってんなら貰うだろ! お礼を拒否するのは人にあらず、好意は受け取らないと駄目だよな。

 

満腹とはいかないけど、満足したぜ。ちゅーわけで、パンを食い終わるのを待っていた隊長さん。

 

「お待たせしてすみませんね。…んで、話って俺についてでいいんですかね?」

 

「ああ、立場上…聞かぬわけにはいかないからな。」

 

まぁそりゃそうだわな、…軽く話しますかね。

 

 

 

 

 

 

自己紹介を互いにしてから、ヴェルトマー家から逃げているのは伏せつつ、これまでのことを話した。つっても、ヴェルダンからのことですが。ワケありの放浪魔法剣士? とでも思ってくださいな。俺の事情を話したところ、隊長さん…パピヨンさんはやや呆れている。

 

「ワケありなのは多少引っ掛かるが、ヴェルダン王国に関わりがあるのか。しかも王族…、身なりを見れば分からんでもない。…いやそれ以上に、ワープとレスキューか。エシャル殿は、なかなかの…いや、かなりの腕を持っているようですな。」

 

「いやぁ~…、それほどでも。」

 

照れてみた。照れる俺を気にせず、パピヨンさんは、

 

「賊のこともあるし、ワケありとはいえ助力してもらったこともある。…一応、トラバント様に報告せねばなるまい。エシャル殿には悪いが、一緒に来てはくれないだろうか?」

 

「…上司に報告? ならば仕方がないよね、…付き合いましょう。」

 

ここで断れば、最悪犯罪者になってしまうだろう。ヴェルトマーの他に、俺を追う奴等が増えるのは勘弁。ついていくしかないっしょ。俺の言葉を聞いて、安心したパピヨンさん。彼は、

 

「申し訳ない、では…足を呼ぶので。…おい! 私の飛竜を連れてきてくれ!」

 

…おぉ、飛竜ですってよ奥さん。……んん? 飛竜?

 

立派な飛竜が現れて、パピヨンさんがそれに乗る。

 

「エシャル殿、貴殿も我が飛竜に乗ってくれ。…安全な空の旅を約束しよう。」

 

俺はパピヨンさんの手を掴み、飛竜の背に乗る。…彼ってドラゴンナイトっすかね? 聞いとこ。

 

「パピヨンさんパピヨンさん、貴方はドラゴンナイト? 因みにここって、トラキア王国ですかね?」

 

「…? いかにも私は竜騎士で、ここはトラキア王国だが。互いに紹介をする時に言ったのだが…。」

 

何言ってるのコイツって顔してるね、サーセン! …それにしてもトラキアねぇ~、遠くに来たもんだわ。とりあえず、トラバント様とやらに会わないとね。考えるのはその後だ、…ってトラバント? トラキア王国の国王様じゃねぇか! なんてことを考えながら、俺はパピヨンさんの飛竜で空へと舞った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 ~トラキアの王。

ーエシャルー

 

パピヨンさんとの空の旅、これが女の子とだったら言うことなしなんだけど。空から眺めるトラキア王国は、本当に山ばっか。申し訳ない程度に緑があるだけ、…なんとも難儀な国なのだろうか。ヴェルダンは逆に緑しかねぇけど、トラキアの山ばっかよりはマシだよなぁ。民が可哀想だよね、色々と。

 

民達は、自分達の足で行動するんだよね。普通だったら、足腰が鍛えられて良い鍛練ってことだけど。貧困の為にこれが致命的、無駄に体力を削る。貧困で食料調達も厳しく、入手する為の行動で命を削る。あまりにも厳しいトラキアの現状、先程の村のことと、空から眺めるトラキアの山々を見て、勝手にそう思っているだけなんだけど。…それほど間違った見方はしていない筈。

 

トラキア王国、…山々に囲まれた天然の城塞で難攻不落。されど、民は苦しみ兵は傭兵稼業をしなければ、滅びを待つだけの国。

 

「……形振り構う暇があれば、国の為に心を殺す日々…か。」

 

「………。」

 

そして俺を乗せた飛竜は、トラバント王がいるトラキア城へと舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

飛竜から降りた俺、パピヨンさんに付いていけばいいんかね?

 

「私は先程のこととは別に、もう一つ報告せねばならない。エシャル殿は兵に客間へと案内させる故、そちらでお待ちを。」

 

部外者に聞かれては、まずい案件があるのかな? …巻き込まれたくないから、大人しく待ってますよ。思う存分、報告してくるといいさ。…でもなぁ、なんか巻き込まれそうな気がするな。まぁ俺に出来ることなら、協力するのもいいんだけどね。そんなことより、国の現状ってヤツを知りたいなぁ。内容次第じゃ、俺にやれることもあるかも知れんし。とりあえず、客間に案内してくれる兵士に聞いてみよう。…聞くぐらいはいいよね? 捕まんないよね?

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ートラバントー

 

「トラバント様、第12竜騎隊隊長パピヨンが報告の為、到着致しました。」

 

「…そうか、パピヨンがな。奴等の件か、賊の件か…。まぁ、いい…。こちらに呼べ。」

 

「はっ!」

 

一礼してから、部下が退室する。それを見届けてから、現状を思い浮かべる。

 

ミーズとマンスターの国境、人目を避け山中に砦を建てた。コノートの弓兵、マンスターの斧騎士を中心とした騎士団、少数ではあるが魔導士の姿も確認されている。巧妙に隠していたようだが、存在が明らかになった以上はな。…大方、コノートのレイドリックあたりの策だろう。そして、その口車に乗ったマンスター。ミーズ奪取の足掛かりにするのだろうが、そう易々とミーズを取られるわけにはいかない。

 

早急に落とさねばならないが、空から近付けば弓が、地上から攻めれば騎士団が、思いの外攻めにくい。迂闊に攻めれば被害が大きく、後々響くのは明白。パピヨンには、抜け道か何かを調査させているが、望みは薄いと考える。

 

 

 

 

 

 

そして、賊の類いも増えた。件の砦が発見される前から、少しずつ増えてはいたが。発見後、あからさまに数が増えている。…最初は砦の存在を隠す為、存在発覚後は攻めの兵力を減らす為。…小賢しいことをしてくれる、さすがはレイドリック。我らトラキアの内情を知っての策、…なかなかに有効な手だよ。

 

中途半端に打撃を与えても、あの野心家のことだ。すぐに後詰めの部隊を送ってくるに違いない。打撃を与えるなら盛大に、大きな痛手を与えればマンスターは退くだろう。そうなれば、流石のレイドリックも退かざるを得ない。コノートの兵だけで、我らを倒せる等の思い上がりはしない男だ。

 

…もし我らに、奴等のように豊かな土地があれば、動かせる兵が多くいれば、我らに…!

 

「…虚しいだけか。」

 

もしもの話等、私らしくない。今はいかに現状を打破するか、…それを考えるのが先だ。…最悪、ミーズを捨てることも考えなければ。無理をして、国を傾かせる等愚策。いかにトラキアを守るか、民を守るかが先なのだ。城の一つに固執して、国が滅んだら笑えんからな。今はこれを乗り越える、…それだけだ。

 

…思考の海に沈みかけた時、執務室の扉がノックされ、

 

「第12竜騎隊パピヨンです。ご報告に参上致しました!」

 

との声が。フッ…考え込む等、私らしくない。

 

「…入れ。」

 

パピヨンからの報告、良い情報があればいいのだがな。

 

 

 

 

 

 

パピヨンからの報告を受け、砦を落とすことは難しい、それが分かった。期待はしていなかったが故、特に思うこともなかったが、賊の話に及ぶとそうはならなかった。

 

「腕の立つ協力者…だと? その協力者が人質を救出し、賊捕縛に繋がったと…。」

 

「ハッ! その協力者はエシャルと言いまして、レスキューの魔法を…。」

 

パピヨンからの報告を聞きながら考える。ヴェルダン王国から、ワープで流れてきた魔法剣士。ヴェルダンからトラキアまで、ワープで来ることが出来る男。レスキューで人質を救出した男。ワケありのようだが、人間性は悪くない。立ち振舞いから、どこぞの国の貴族階級に属していたのでは? と思わせる風格。優しげな瞳の奥にある闘争の色、それが強者であると語っている。

 

…面白い、単純にそう思う。パピヨンは人を見る目、これがなかなかに良い。そのパピヨンにそう言わせる男、興味が出てくるのは必然だろう。それに、そのエシャルという男。ミーズの攻防で、助力を取り付けることも出来るかもしれん。

 

「パピヨン、そのエシャル…と言ったか? 王座の間へと連れてこい、会ってみたい。」

 

「ハッ!了解致しました!…では、失礼します!」

 

退室するパピヨンを見届け、私も王座の間へと向かう。エシャル…、どれ程のものか…。そして、聞いたことのある名であった。私の知る名の者か、それも気になる。自然と口元に、笑みが浮かんだ。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーエシャルー

 

案内役の兵士に通された客間にて、茶をシバく俺。そのまま案内役の兵士に話を聞こうかと思ったんだけど、部屋を出ていったんで一人ぼっち。…ここ最近というか数日間、ぼっちだった為に話をしたい俺には酷な仕打ちだぜ? 人里下りても一人ぼっちって、泣くぞ俺! なんてブツブツ言っていたら、ノックの後にパピヨンさん登場。良いところに来てくれたパピヨンの旦那、さぁさぁ語り合おうぜ? 盛大にな!

 

「エシャル殿、トラバント様が王座の間にて話がしたいと。度々申し訳ないが、足を運んで頂けないだろうか。」

 

たぶん会うことになるだろうと思っていたけど、語り合いのお相手が王様ですか。トラキア初のマトモな会話がトラバント王、ハードル高いけど気にはしねぇ。竜騎士ダインの血筋に会ってみたいと、俺の心が訴えてきてるぜ。

 

「了解、会いますよっ…と。どんな人かドキドキワクワクだね。」

 

内心めっちゃ緊張してますが、…何か?

 

 

 

 

 

 

王座の間に入った瞬間、何やら違和感が。ついでにパピヨンさんが隣にいない、…王様と二人きりなんですか!? だだっ広い間で二人きり、イジメっすか? とりあえずモヤモヤしとるけど、トラバント王の前まで歩き、片膝をつく。

 

「私をお呼びとのことで参上致しました、トラバント王。」

 

とりあえず挨拶をば。少しの沈黙の後、

 

「お前が協力者か、…楽にして良い。」

 

とのお言葉を頂いたので、立ち上がってご尊顔を拝見します。

 

「「………!!」」

 

なんだかビビっときました、王様も同じみたいです。…なんかワケありって、隠した意味が無い気がします。

 

沈黙の後、トラバント王が一言。

 

「エシャルと言ったか。…お前、聖戦士の血を引いてるな?」

 

その言葉で、ワケあり設定での隠し事が無くなりました。さっきのビビって血の共鳴だったんかーい! 聖戦士の血、恐るべし…。

 

「…はぁ、まぁ…引いていますね。…その、かなり?」

 

なんだかよく分からんけど、そこから普通の会話が。たぶんあちらさんも同じ気持ちだろう、…よく分からんけど。なんで…?

 

そんなこんなで、この俺エシャルはトラバント王を気に入った。若くして王になり、貧しい国の為に頑張ってる彼に感動した! 民を想う気持ち、国を憂える気持ち、他国に対する気持ち、トラキアを治めるに相応しい男だと思ったのだ!

 

因みに俺が、ファラとヘズルの血を色濃く継いでいるってバレました。バレたと言うか、知っていた? カマかけられて、ポロっとね。…まぁ、別にいいんだけど。名前だけ知っていたみたいだね、トラバント王は。うろ覚えながらワケあり話をしましたよ、隠したっていずれはバレるわけだし。

 

「…血を継ぐってことは、呪いも継ぐってことになる。…特にお前は二つの血を継いでいる。…苦労するな、この先。」

 

不敵な顔で、同情されました。そんな感じで仲良く? なれましたよ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 ~ミーズ北東砦攻略戦

ーエシャルー

 

トラキアを愛する男こと、トラバント王と仲良く? なったこの俺エシャル。とりあえず会話を…と思って、聞きたかったトラキアのことを話題に。するとどうでしょう、普段は冷静であろうトラバント王が熱く語り出した。

 

「山々に囲まれ、痩せた土地に住み、貧困に喘ぐ民達を守る、…救う為に我らは傭兵として大陸を巡る! そうでもしなければ、国はただ滅びを待つのみ! 私は王として、国が滅び往く姿を見たくはない。故に、戦場を徘徊するハイエナと言われようと、金に群がる亡者と言われようと、我らは民を、国を想い、行動している。我らには我らの誇りの上で、今を生きているのだ!」

 

最終的に、俺一人に対しての演説となりました。

 

…演説終了、トラバント王は肩で息をしている。それほど熱く語ったってなわけで。

 

「フーッ…、フーッ…。すまぬ、熱くなり過ぎた…。」

 

 

 

ちょいと恥ずかしそうに、苦虫を噛み砕いたような顔。トラバント王は可愛いですね! それ以上に、トラキア兵達に感動した! 悪評もなんのその、民と国の為に頑張る傭兵稼業。

 

そして他国、特にレンスター・コノート・マンスター・アルスターの北トラキア4小王国がムカつく! レンスターはトラキアを見下し、コノート・マンスターは領土を狙い、アルスターは日和見。恵まれた環境にいる奴等は、本当に腹立だしい。トラキアの誇りを汚す傲慢共めが!

 

機会があるのならば、我が血に懸けて食い散らかしてやるというに! と、ブツクサ言う始末。………ん? トラバント王の目が光ったような。…もしかしてだけど、その機会ってーのがあるんすか?

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ートラバントー

 

魔法戦士ファラと黒騎士ヘズルの血を色濃く継いでいる男、エシャル。会って分かったのだが、やはりこの男は…あの事件の生き残り。いや、被害者なのだと分かった。

 

逃亡者と男は言うが、事実は違う。ヴェルトマー家のエシャルは、公式で死亡が発表されている。逃亡者ではなく、存在しない者となっているのだ。…私は考える、事実を伝えた方が良いのかと。追う者がいないのに追われる身、…哀れな男と言えるだろう。

 

…付き合いによると思うが、そのことは後で考えるとしよう。それよりも、私は私自身に驚きを隠せない。エシャルに対し、聞かれたとは言え熱くトラキアのことを語ってしまった。

 

語り終えた後、多少の気恥ずかしさがあった。…がそれ以上に、この男…エシャルに驚いた。トラキアの現状に嘆き、誇りを誉め称え、北トラキア4小王国に怒りを表す。決して、おべっかを言ったわけではなく、本心でそう言っている。目がそれを語っている。

 

そして、我がトラキアに機会があれば助力をと。この男の実力がどれ程のものかは分からないが、彼の力を借りることが出来れば彼の砦を…。

 

ミーズの攻防戦に、この男の力を借りることにしよう。…不思議と断られる、と言う光景が思い浮かばない。なんとも不思議な男だ。

 

「エシャル、…その機会があると言えば、…お前はどうする?」

 

私はそう、問いかけた。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーエシャルー

 

「エシャル、…その機会があると言えば、…お前はどうする?」

 

なんて聞かれました。そりゃあ、そんなこと言われたらさぁ…、

 

「我が炎と剣に懸けて、トラバント王の力になりましょう。」

 

と言うに決まってんだろうが! やるぜ殺るぜ! トラキアを狙う傲慢野郎共、斬り刻んで燃やし尽くしてやるわ! …実際、そこまでしないと思いますけどね?

 

 

 

 

 

 

場面は切り替わって、ここはミーズ城でございます。ここより北東の山中に、件の砦があるそうで。ミーズ城の会議室にて、将軍達と攻略戦について話し合っています。ついでにトラバント王もこの場にいるんで、緊張感がハンパない。そんな中での作戦会議、俺は茶を飲み菓子を食う。腹が減っては戦は出来ぬってね。…まぐまぐ。

 

一通り、作戦を提案されたみたいですが、正攻法しか出ませんね。正攻法だと被害が大きくなるから、トラバント王含めて渋い顔。そんな空気の中、トラバント王…、

 

「…エシャル、お前ならどう攻める?」

 

なんて聞かれまして、危うく茶を吹き出すところだったよ。…皆さん、こちらに視線を集中させてますね。

 

「絶対とは言えないんだけど、…砦の大半を破壊してしまうが被害の少ない作戦はある。…まぁ俺が中心と言うか、俺がいないと出来ない作戦になってしまうけど。」

 

「……聞こうか。」

 

そんなわけで、俺の力を発揮する作戦を披露する。勿論、トラキア軍の皆さんも活躍してもらいます。いや、活躍してもらわないと困るわけで。いかがっすかね?

 

 

 

 

 

 

そして、俺提案の作戦が実行されるわけでして。

 

「全軍の配置は完了した。…エシャル、頼むぞ。」

 

と、トラバント王から頼まれましたんで、

 

「…ならば初撃を叩き込み、作戦開始の合図としよう。」

 

魔力を高めて集中して…、この一撃をコノート・マンスター連合軍に捧げよう。

 

「我が炎の鉄槌を受けるといい、…メティオ!」

 

俺の魔力が炎の塊となって、砦に降り注ぐ。俺が持つスキルの一つ、その名は炎の血。こいつの効果でメティオの威力も数もハンパないぜ! 自画自賛をする俺を余所に、トラバント王は部隊へ指示を出す。

 

「トラキア重騎兵団はゆるりと進軍、マンスター騎士団を誘い出せ! 第4、第5竜騎隊は重騎兵団の援護を! ハンニバル率いる精鋭はエシャルの下に集まれ!」

 

…っと、自画自賛をしている暇はないか。さぁ、第2波いくよぉ~!

 

俺は、ハンニバル将軍らを砦にワープで随時送る。砦は目視で確認出来るんで、問題なしっす。MPは大丈夫ですか?全然問題なし。俺、エリートですから。エリートってMP消費を抑える効果もあるみたい、流石はエリート。

 

戦況はトラキア軍が圧倒的有利、押せ押せモードで士気もアゲアゲですね。…最後のワープに、俺っちも一緒に行くでやんす。俺も砦で暴れたいんで、…役割もありますからね? ってなわけでワープ!

 

砦に到着したわけでして、外はほぼ制圧しとる。後は砦内ってわけですか。砦内に侵入する為、門をどうにかしようとしているトラキア軍。お…? ハンニバル将軍が指示を飛ばしてますね、俺は将軍に近付き、

 

「将軍、砦内に踏み込む者数名を残し、後は背後からマンスター騎士団を攻撃しましょうや。重騎兵団と挟撃し、早々に潰しましょう。後詰めのパピヨンさんらも呼ぶんで、この砦は俺達の物になるでしょう。」

 

「了解した、パピヨン殿が来るならば、私は部下を率いて挟撃に出ましょう。砦内のことは、エシャル殿にお任せしますぞ。」

 

そう言って一礼すると、砦の外門から外に打って出るハンニバル将軍。それを見届けてから、空に向かって合図のファイアーを。これでパピヨンさんが襲来、外はこれで大丈夫っと。後は、

 

「トラキア兵諸君、内門から離れろ!」

 

門に群がるトラキア兵の皆さんを退かしてからの、

 

「エルファイアー!」

 

一気に燃やし尽くして、内門を突破する。兵士の諸君、俺についてこい!

 

 

 

 

 

 

それから程なくして、この砦は陥落した。砦の責任者は、一緒に突撃した兵士の一人、カナッツ君が討ち取りました。彼はその内、大成するだろう。当初の予定通り、数人の敵兵はメッセンジャーとして逃がしたみたい。その他の敵兵は、残念ながら皆殺し。まぁ、仕方がないよね。

 

 

 

 

 

 

俺の考えた作戦は、俺が先制でメティオを放つ。ここで重要なのは、トラキア軍が展開していなければならないってこと。この攻略戦は、トラキア軍の大攻勢と思わせなければならない。メティオの後は、少しずつ進軍する。砦から、敵兵を誘い出さなきゃダメだからね。メティオで混乱するだろうから、あっさり突撃してくるだろう。

 

ある程度の衝突が確認されたら、精鋭を砦にワープで送る。ワープからの奇襲等、想像出来ないだろう。これで内側から食い破る、そして最後に俺もワープで砦に。そこから精鋭を外門から出撃させて挟撃に、空へ合図を上げて後詰めの部隊を呼び込む。俺中心に砦内へと侵入し、敵将を討ち取り制圧。メッセンジャーを数人残して、敵兵は皆殺し。

 

これが俺の考えた作戦で、結果としては大成功。被害も殆んどなく、北東砦を制圧した。俺一人でも制圧出来たような気もするが、トラキア軍がやったという事実が重要。これ程の大勝利をトラキア軍が成し遂げた。

 

このことが相手の攻勢を挫き、侵略という行動を留まらせることになる。トラキア軍に被害はほぼ無し、コノート・マンスター連合軍は、数人を残して全滅。多大な被害を被ったが故に、侵略を躊躇するのは必死。当分は侵略という脅威から、トラキアは守られるだろう。

 

何はともあれ、お味方大勝利! 勝鬨を上げろ、エイエイオー!

 

 

 

 

 

 

この戦いの後、北トラキア4小王国。特にコノート王国・マンスター王国は数年間、トラキア王国を侵略することはなかった。特に被害の大きかったマンスター王国は、『トラキアの下に弱卒無し!』と大いに恐れたという。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 ~トラバントとエシャル。

ーエシャルー

 

あの北東砦攻略から、数ヶ月の時が経ちました。あの戦いの後、俺は『炎の英雄』と呼ばれて人気者なわけです。大いに調子に乗りましたよ、えぇ。波に乗らなきゃいかんでしょ、将軍達とも仲良しっす。ハンニバル将軍、パピヨンさん、マゴーネ隊長、カナッツ君。特にこの4人とはマブダチっすよ!

 

ハンニバル将軍は、愛国心が強く、兵のことも良く考える好人物。故に北東砦の戦いを終えて、被害がほぼ無く国を守れたことが嬉しいみたい。何かあれば力になると、言ってくれました。まぁヤバそうになったら、お言葉に甘えようかと思います。因みにハンニバル将軍、此度の戦いで『トラキアの盾』とか呼ばれているみたいです。挟撃の時に、マンスター騎士団の背水の突撃を体一つで防いだみたいっす。凄いですね!

 

パピヨンさんは、最初に世話んなった人だからね。今も色々と世話になっとります。生活する為のことを、手配してくれたのは彼ですので。トラキアで一番、頭が上がらない人ですわ。

 

マゴーネ隊長は、第5竜騎隊を率いてる人ですな。賊の討伐やらの小さな任務しか最近なくて、今回のような戦いを待っていたみたい。久々の戦で、手柄を立てることが出来た。エシャル殿のお陰だと、お礼を言われました。そこから仲良く、飲みに行ったりしとりますね。

 

カナッツ君は敵将を討ち取った功績により、若くして小隊長になったようで。強くなることに貪欲で、俺も暇なんで鍛えてあげてます。そのお陰で、メキメキと剣の腕を上げてます。将来楽しみな、指揮官候補ってなわけです。

 

 

 

 

 

 

そんな感じで色んな人と付き合ってます。後、トラバント王とは色々と話をしましたよ。主にトラキアのこととかで。最近は戦争はおろか、小競り合いも無く傭兵稼業も成り立たないようで。国全体の元気があまりよろしくない。外貨をどう稼ぐか、頭を悩ましています。とりあえず、色々と提案はしますけど。

 

そんな付き合いで関係深くなってきた時、トラバント王が言いました。

 

「エシャルは逃亡者、…自分でそう言っていたな? そのことについてなのだが、お前は指名手配などされていない。…逃亡者ではないのだ。」

 

トラバント王が、何を言っているのか分からなかった。俺が指名手配されてない? 逃亡者ではない? どういうこと? 俺のモヤの掛かる記憶では、俺は何かから逃げ出した筈なんだが…。

 

俺は僻地に追われて、そこで何年か過ごして、突如現れた軍隊に攻められて、命からがら逃げた…、その筈なのに。

 

「グランベル王国の公式発表では、ヴェルトマー公爵家に籍を置いていたエシャルと言う者は、賊の手により城と共に炎の中へ消えた。後の調査によって、エシャルの死亡が確認された…とな。故にお前は逃亡者、追われる身ではない。それどころか、存在しない者なのだ。」

 

……そんな、俺が死んでいる? バカな! …では、今の俺はなんなんだ? 俺は生きている、現に生きているではないか。

 

あの日、何があった? 俺は何故攻められた? 何故追われる身だと思った? 俺の逃亡者としての生活はなんだったんだ? 俺は一体なんなんだ? ぐぅ…、モヤが消えるどころか濃くなりやがる。分からない、俺の過去が…。自我が目覚める前のことが…! 分からない、分からないが…。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ートラバントー

 

ミーズ北東砦攻略戦にて、エシャルに助力を頼んだ。作戦自体もエシャルが発案し、実行された戦いは私の思う以上の戦果を上げた。我がトラキア軍は、大小を含めて30名にも満たない被害だけ。対するコノート・マンスター連合軍は、3名を残して全滅。その3名も、武器等の装備を外した状態で放逐した。

 

エシャルが言うには、逃すことで相手にこちらの情報を流す。逃すのは、エシャルの存在を知らぬ者。即ち、メティオによる攻撃がなされたことを知らぬ者が望ましい。理由は簡単で、トラキア軍の精兵による大攻勢を強調する為。私もこの考えに賛同したわけだが…、ものの見事に相手は勘違いしてくれた。我がトラキア軍は決して弱くはないが、これ程の戦果を上げるかと問われれば、否と正直に答えるだろう。全てはエシャルのお陰、ミーズは、トラキアは、エシャルのお陰でこの難局を乗りきった。

 

諜報の為に放っていた部下によると、この攻略戦の大敗によって侵略する力が無くなったとのこと。特にマンスター王国は、虎の子の騎士団の全滅に騒然となったみたいだ。ククク…、そして言った言葉がエシャルの策の成功を語っている。『トラキアの下に弱卒無し!』、これで我がトラキアは当分安泰と言えるだろう。

 

あの戦いの後、パピヨンに命じてエシャルの住居を用意させた。英雄殿を歓待しなければ、民も兵も納得しないだろうしな。僅かな時間でここまで、ここまで好かれる者などそういないだろう。それを考えると、エシャルは相当稀有な人物だと言える。

 

それにこれからのトラキアについて、真剣に考えてくれる。人物像としては、かなりの好感を持てる。世界的に戦争が少なく、傭兵稼業もままならないと相談してみた。外貨を稼ぐ手段は、傭兵稼業に頼りきりだったからな。この状況が続くと、貧困で国が立ち往かなくなる。戦いで勝利しても、貧困の問題がある。悩ましいとはこのことだ。

 

するとエシャルは、

 

「俺がヴェルダン王国、というかマーファ城城主のガンドルフ王子と仲が良いのは知っているな? そこで提案があるのだが…。」

 

エシャルの話では、ヴェルダン王国は自然の資源に事欠かない国のようだ。そんなヴェルダン王国で、唯一自国で賄いきれない資源があると言う。…それは石材、木材は数えるのが馬鹿らしいぐらいにある。しかし石材だけは常に品薄で、同盟を結んでいる国から割高で購入しているとのこと。

 

そこで、その石材をトラキアからヴェルダン王国に売るのはどうだろうと提案してきた。外貨の代わりに、トラキアで不足している食糧・木材等と物々交換もありなのでは…と。ヴェルダン王国との交渉が上手くいかなくとも、個人的にマーファ城城主のガンドルフ王子となら、高確率でこの提案を快諾してくれるだろうと。

 

…正直、この提案はトラキアにとってかなり魅力的だ。上手くいけば、定期的に食糧・木材が入手出来、国内待機の部隊も暇を弄ぶことが無くなる。それに民達も希望を持って、生活や仕事が出来る。土地柄、暗くなりがちな我が国に、光明が差し込むだろう。故に私は、この提案に対し首を縦に振る以外にないと思った。

 

そのことをエシャルに伝えると、

 

「因みに、成功する可能性が高いだけで、絶対ということは無いからな。そこ重要だぞ? ダメでも怒んなよ?」

 

と念を押してきた。私はその姿が必死で可笑しく、笑って『分かっている。』と言った。その後エシャルは、

 

「ちょいとヴェルダンに行って、話をしてくる。…まぁ成功を祈っててくれ。」

 

と言って、ワープでこの場から消えた。なんとも身軽な男だと、私はまた可笑しくなった。

 

 

 

 

 

 

暫くして、何やら荷物を抱えてエシャルが戻ってきた。

 

「とりあえず、話は通してきた。バトゥ王と話すって言っていたし、結果はもう暫く待てだって。兄貴的には、個人的にでも取引がしたいとも言っていた。因みにコレお土産ね、取引物の見本ともいうけど。」

 

そう言って、机の上に見本を広げる。…どれもトラキアでは、入手することが困難な贅沢品。ヴェルダン王国では、これが普通なのかという嫉妬。そしてこれが、日常的に入手出来るかもしれないという希望。

 

…エシャルが現れてから、次々と何かが起こり変わっていく。悪い方ではなく、良い方に…だ。伝えるか否か、悩んでいたことを伝えよう。突然だが、そう思った。…これはたぶん、エシャルに対して心を許したということだろう。だが、これを言ったらエシャルはどうなる? 興味が勝ってしまうのは、私の性格が悪いからであろう。

 

そしてその夜、エシャルを私室へと呼び出し伝えた。

 

「エシャルは逃亡者、…自分でそう言っていたな? そのことについてなのだが、お前は指名手配などされていない。…逃亡者ではないのだ。」

 

エシャル、お前はどんな顔を私に見せる?

 

「グランベル王国の公式発表では、ヴェルトマー公爵家に籍を置いていたエシャルと言う者は、賊の手により城と共に炎の中へ消えた。後の調査によって、エシャルの死亡が確認された…とな。故にお前は逃亡者、追われる身ではない。それどころか、存在しない者なのだ。」

 

どんな反応を、私に見せる? 私は目を細めて、エシャルを見据えた。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーエシャルー

 

驚愕の事実、俺は一体なんなのか?考えても分からない、分からないのなら…!

 

「気にしても仕方がないよね? 今ここにいて、トラバントの前にいる。それが全てなわけだし、…まぁその内分かる日が来るだろ。そん時考えればいいや、うん。それよりも…逃亡者じゃないんなら、気が楽ではあるよね? でも死んだことになっているんだけど、そこんとこどうしようか? …兄貴は知っていたんだろうか? …いや、グランベル嫌いだから知りもしないんだろうなぁ。」

 

とりあえず、あまり気にしないようにしました。考えても意味無いし、その内分かるっしょ。わははははは!

 

「ククク…、お前はそんな人間か。そうかそうか…ククク…。」

 

トラバント王が笑っとるがな!? 俺、変なこと言ったかね? …解せぬ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 ~いざ、シレジア。

ーエシャルー

 

自分のことが少し分かった今日この頃、俺ことエシャルは変わらずに生活しとります。むしろ、気分が良いわけなのですよ。逃げる必要がないってーのが、こんなにも素晴らしいなんて! 現実問題としては、俺ゾンビ説ってなわけで。まぁ深刻に考えなくてもいいよね、同姓同名の人間ってことで通しましょう。つーか、それ以外ないよ。

 

気を付けるのは、グランベル王国の奴等ってこと。俺っち死んでることになっているけど、生きていることが知れたらどうなるか。ぶっちゃけ名前は既に、知られまくっていますけど? 各方面に。主に、ヴェルダンとトラキアですが。さっきも言ったけど、他人の空似? …じゃなかった同姓同名ってことにすりゃ問題ない。よく分からんけど、事件の当事者に鉢合わせなきゃいいってことでしょ。そんなわけで、グランベル王国には要注意ってなヤツです。

 

それ以外の国ならなんとかなるな、たぶん。シレジア・イザークは大丈夫、アグストリアは微妙ってところか? ぶっちゃけ、俺は黒騎士ヘズルの血が濃いですから。ノディオン王家の血筋ですからね、獅子王には注意! でも、ミストルティンを使ってみたいと思うのは罪でしょうか?

 

 

 

 

 

 

なんてことを考えながら、ただ今トラキア城下の酒場で飲んでいるわけです。大きな仕事を終えた後の酒はウマイ!

 

「マゴーネ隊長も良い飲みっぷりで! …というか団長様になったんだっけ? トラキア輸送師団団長就任おめでとう! ヴェルダン・トラキア両王国に乾杯!」

 

「俺も出世したもんだぜ、これもみんなエシャルのお陰だ! 俺の未来も明るけりゃ、トラキアの未来も明るいぜ! 最初の輸送も無事終わったわけだから! とりあえず、無事に終わったことに対してのぉ~…乾杯!」

 

「「「「「かんぱーい! わはははは!!」」」」」

 

仲介人エシャルは新設された輸送師団の皆さんと飲んだくれています。

 

大きな仕事ってーのは、ヴェルダン王国とトラキア王国の取引。物資輸送についてとか、…色々だね。それが上手く纏まり無事、取引が成立。簡単に言うと、ヴェルダン王国とトラキア王国との間に、同盟が成立したってこと。俺は両王国と関係深い立場になっていることから、その仲介役として動き回ったわけ。

 

ヴェルダン王国はガンドルフ王子を責任者とし、マーファ城が全ての窓口となった。マーファ城近くの森を切り開いて、物資集積場、ヴェルダン・トラキア両軍駐屯地等が建てられた。マーファ城城下でも、トラキアの方々を目的とした施設やら商売やらで盛り上がりを見せる。

 

トラキア王国は竜騎隊を再編し、新たに輸送師団を設立。その団長に、第5竜騎隊隊長であったマゴーネが就任。物資輸送の他に護衛とか、取引物の選別・交渉・売買・交換等、様々なことをする師団である為、落ち着くまで忙しいだろう。ヴェルダン王国と同様で、物資集積場等も建てられており、急ピッチで体制が整えられていく。

 

そして両王国の受け入れ体制が整い、俺はトラキア輸送師団の第一陣と共に空の旅へ。道中色々と大変だったけど、物資輸送は無事終了。1日休んで、次はトラキアへ物資と共に戻る。これもまた無事に終わり、飲んだくれているわけなのだ。やり遂げた感で胸一杯、そんな気持ちなのです。

 

 

 

 

 

 

そして再び数ヶ月の時が経った。物資輸送も定期的に行われており、両王国の関係も良好。両王国軍同士で演習等もしたりしてる。このまま安全に…なんてことがある筈無いからね。物資を狙った賊の襲撃、そんなこともあると思うので訓練は大事なのだよ。万が一に備えてヴェルダン王国国内に、秘密の集積場兼避難場所も用意しています。備えあれば憂いなし、だからね! 因みにその場所は、一部の者しか知りません。秘密だからね!

 

後は、国民同士の交流もやり始めました。ドラゴンタクシーってことです。輸送師団に便乗して行われてます。安全第一ですが、何かあったら自己責任。それでも良ければ…ってことなんだけど、人気なんだよね。現に、事故が起きていないからなんだろうけど。まぁ交流と食糧等の問題が無くなったお陰で、最近のトラキアは明るい。トラバントの態度はいつも通りの不敵なスタイルなんだけど、雰囲気が喜び一杯。思わずニヤニヤして見ていたら、怒られました。

 

 

 

 

 

 

そんな中、俺は変わらずあっちにフラフラ、こっちにフラフラしているわけで。先日、マーファ城で素敵な出会いをしたよ。凄く綺麗な美少女と知り合ったのさ! 彼女は再会、と言っていたんだけどね。何処かで会ったっけ?と考えていると、彼女は…、

 

「森の中で、『赤腕』と戦っていましたよね? 私もその場にいまして…。後、城下でぶつかって…、何も言わずに逃げ出したりしました。」

 

…ああ、『赤腕』の時に感じた視線は彼女だったわけね。それに逃げた娘もかぁ…、言われてみればそうかも。

 

「まぁそんな縁もあるな、うん。俺はエシャルって言うんだけど、君は…?」

 

「私は、ディアドラって言います。…それとあの時、何も言わずに逃げてしまって…。ごめんなさい…!」

 

へぇ~、ディアドラって言うんだ。彼女に似合った素敵な名前だね! それはいいとして、

 

「いや、謝らなくてもいいよ。君みたいな素敵な娘が、頭を下げちゃダメだよ? ぶっちゃけ、俺が悪い奴に見られちゃうからさ。」

 

美少女に頭を下げられたわけなんだが、周囲の視線が痛いっす!

 

ディアドラがそれに気付き、また謝ろうとしたけど止めました。再び謝られたら、更に悪化するからね。とりあえず、ディアドラを連れて隅っこに移動。周囲の視線が辛いからさ、まだなんかありそうだし。なんて思っていたら、

 

「あの…このペンダント、騎士様…エシャル様の物ですよね? 『赤腕』とエシャル様が戦っていた場所に、落ちていましたので…。」

 

と差し出されたペンダント。…確かに俺のペンダントだな、コレ。数ヶ月…いや、もう1年近く過ぎたが存在自体を忘れていたよ。母の形見なのに笑っちまうぜ。…母の形見ではあるけど、俺が持っていてもなぁ。でも形見だし…、持っていなきゃ母に祟られるかな? 存在忘れていて、今まで無くしてたけど。…うーん、とりあえず返してもらいますかね。せっかく拾ってもらったんだし、…そうなるとお礼しなきゃダメだよな!

 

俺はディアドラからペンダントを受け取り、

 

「ありがとうディアドラ、それは母の形見のペンダントでね。何処に落としたのかと、途方に暮れていたんだよ。」

 

よくもまぁ嘘を言えるよね、俺。まぁそれはいいとして、懐に手を入れお礼を取り出す。

 

「拾ってくれたお礼にコレを受け取ってくれるかな? 最近手に入れたんだけど、渡す相手がいなくてね。男の俺が持っていても仕方がないし…。ディアドラは綺麗だから、きっと似合うと思うよ?」

 

女性物のサークレットを見せる。それを見つつもディアドラは…、

 

「綺麗だなんて…そんな…!」

 

両頬に手を添えて、イヤイヤ…って感じ? 恥ずかしがっているのかな?

 

まぁとりあえず、イヤではないみたい。

 

「ほら…、こっちを向いて?」

 

「……あ。」

 

顎に手をあて、ディアドラの顔をこちらに向ける。そして、サークレットを額に着けてあげる。…うん、似合っている。

 

「思った通り、よく似合っているよディアドラ。」

 

「………ぽっ。」

 

めっちゃ顔を赤くしていますね、ディアドラさん。何故にそこまで…と考えたところ、俺も顔が熱くなった。……凄まじくキザったらしいことしましたね! 恥ずかしいことこの上もない!ぎゃーーーす!!

 

 

 

 

 

 

とまぁこんな感じで、ディアドラと邂逅したのだ。確かディアドラって重要人物だったよね? なんでかはよく分からない、というか思い出せないんだけど。思い出せないんじゃ仕方ない、普通に仲良くしましょうか。

 

俺はマーファ城とトラキア城を行き来している身、なんだかんだで忙しい。時間を見付けてはディアドラがマーファ城に来た時に、なるべく相手をしてあげている。しないと兄貴に怒られるからね、俺もイヤではないからいいけど。男に囲まれた生活をしているから、ディアドラと会う日は癒しの時間ってヤツ? 美少女が嫌いな奴っていないじゃん。

 

充実した生活を送っている俺なんだけど、再び悪い虫? というか、旅に出たくなりました。別に追われる身じゃないから、旅立つ必要はない。ないんだけど、マゴーネ団長から聞いた話でさぁ、興味を揺さぶられるモノがあったんよ。それは何かって? …ならば教えてあげようじゃないか!

 

「シレジア美人に会う為に、この俺エシャルは旅立ちます! …シレジアが俺を呼んでるぜ!」

 

「良い女がいたら、俺にも紹介しろよ義弟!」

 

「勿論だよ兄貴! この俺に任せ…ぎゃあぁぁぁぁっ!!」

 

「エシャル様の馬鹿!」

 

なんて一幕もあったりするんだけど、俺のやるべきことはもうないからな。美人を求め…見聞を広げる為に、旅立つことにしたわけです。

 

そして再びマーファ城、ここからまた旅立ちます。

 

「トラバントにも伝えて了承はもらったし、俺は行くぜ。後のことはよろしく頼むよ兄貴、安全第一だからな。マゴーネ団長にも言ったけど、兄貴もそこら辺はちゃんと考えてくれよ。」

 

「分かっている、俺は責任者だぜ? エシャル! ディアドラのことにも、目を配っておくから安心しろ!」

 

まぁ兄貴のことだから大丈夫だろうけど、問題はディアドラだよね。…まぁ決めた以上、シレジアに行きますが。

 

「そんなわけだから、俺は行くぞディアドラ。…ちゃんとお土産買ってくるから、機嫌直せって…な?」

 

「…つーん。」

 

……ダメだこりゃ。ディアドラがこんなんだけど、俺は行く。有言実行のエシャルなのだから! マゴーネ団長から聞いたことを思い浮かべろ! 雪国…雪国…雪国…、ワープ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 ~泣き虫、拾いました。

ーエシャルー

 

やって来ましたシレジアへ! 見回す限り…、

 

ビュォォォォォォォォォッ!!

 

さみぃぃぃぃぃっ! 吹雪いとるがな! ワープで来た瞬間、吹雪の中に現れてしまった俺。見回せば、恐らく雪の森、そして吹雪! 着込んできたから、とりあえずは大丈夫だけど。練習して習得した魔力で体を覆う術で、ある程度の寒さは大丈夫だけど。吹雪の中はねぇべよ、これはあれか? 俺に対する罰っすか? シレジア美人を求めるだけに来た俺への!?

 

「やべぇ…、寒さだけじゃない寒気を感じた。…人里だ、人里を探せ!」

 

トラキアに続いて、シレジアでも出だしぼっちな予感。今帰ったら、ディアドラが蔑んだ目で俺を見てくる筈。なんとしても、人里を探すんだ! 今は大丈夫だけど、流石の俺も魔力が無限ってわけじゃないからな!

 

 

 

 

 

 

……道中、雪に埋もれたマリモ…じゃなかった、少女を拾いました。何故に少女が吹雪の森の中に? なんて思いましたが、生きてるっぽいので連れていきます。おぶってやっているから、寒さは凌げる筈だな。さっきも言ったが、魔力で体を覆っていますから。何もしないより、暖かい筈なのだ。

 

少女をおぶって、人里求めて歩いているけど、未だ発見出来ず。だんだん暗くなってきたから、これ以上さ迷うのは危険かな? 何処かに洞穴っぽいとこないかな? とりあえず、少女を暖めてあげなければ! …ワープしろって? …残念ながらそれは出来ない。成果を上げずに帰るなど、俺のプライドが許さない。決して、トラバントに馬鹿にされるからとか、ディアドラに冷たくされるからとかではない! …ただ、長距離ワープをする程の魔力が無いだけさ! ……ぎゃふん。

 

 

 

 

 

 

俺のステータスって、運が非常に高い筈なんだけど。山で遭難しかけてみたり、戦いに巻き込まれたり、今は雪の中の森にいる。しかも、少女を拾ったし。ツイてない気がするんだけど、どう思います? なんて、誰に話してるんだろうね? …と自分のことを考えながら、焚き火の前にて暖まっています。

 

ヤバイよヤバイよ! と動き回った結果、見付けた穴の中にいるのだ。…熊がいた巣穴だったんかね? まぁ、吹雪から逃れることが出来るんだから良しとしよう。少女をマントにくるんで…、俺は外で木を倒して薪にする。多少濡れていても、魔法で簡単に火を点けることが出来る。魔法、優秀ですね? 煙いけど。時おり、弱ウインドで煙を外に出してますよ? 籠っちゃうからね。こんな感じで火に当たりながら、物思いに耽ているのさ。

 

暖まってきたなぁ~…なんて思っていると、

 

「うぅ~ん…。」

 

埋もれていた少女が動いた、気が付いたのかな?

 

「…あれ? …私、飛び出して…。吹雪になって…意識が朦朧として…。あれ…?」

 

気が付いたようだが、…混乱しているみたいね? …にしてもタフだなおい、流石はシレジア人ってとこか? 気が付いたんであれば、聞いてみるしかないな。

 

「…気が付いたみたいだね? 気分はどう?」

 

優しく笑顔で声を掛ける。まだ、頭がきちんと働いてないだろうからな。警戒されないようにしないと、俺ってば優しいじゃないの。

 

「……!?」

 

ビクッ! てなって、こっちに視線を向ける少女。…あれ? 凄く警戒されてない? しかも後ずさってない? あっるぇ~、おかしいな。優しく声を掛けたのに、なんで?

 

「あ…ひぃ…っ! 人拐いの盗賊…!?」

 

えぇ~…! そりゃあないんじゃないの!?

 

埋もれていたところを助けたのに、いきなり人拐いの賊って…。凄まじく勘違いされてないっすか?

 

「いや…盗賊って…。違うからね? どちらかと言うと、俺は君の恩人であって…。」

 

「うぁぁぁぁぁん! いゃぁぁぁぁぁっ! お姉様助けて! パメラさん、ディートバァァァァァッ!!」

 

ぎゃーーーす! 泣き喚きやがったぞ! う、うるせぇ~…! 落ち着かせなければ…!

 

「ちょっ…君! 落ち着いて…ね? 人の話を…ちょっと、マジで落ち着いて…! …あづっ! コラ、燃える木を投げ…!」

 

燃える薪を投げてきましたよこの娘! 危ないし熱いよ!

 

「来ないでぇぇぇぇぇっ! うぁぁぁぁぁん! やだぁぁぁぁぁっ! びぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

 

悪化しとるがな! こりゃあマズイというか、めんどくせぇ! 流石の俺もトサカにくるぜ? 多少力ずくでも落ち着かせなきゃ、話も出来ないとみた!

 

「えぇ~い、落ち着けと言うとるが…っ!!」

 

「ひぃぃぃぃぃっ!」

 

ボゴンッ!!

 

………何ということを!? …俺のミストルティンが…! この娘、悲鳴と一緒に…俺の、ミストルティンを蹴りやがった…。蹲って痛みに堪える俺、…どうしてこんな目に合うのだろう? ディアドラをほったらかして、シレジアに来た罰ですか? これは俺に対する裁きですか…? おぉ…ブラギ神よ…、ガクッ!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーフュリーー

 

私は襲い掛かってきた男の人を、ディートバから教えてもらった『キンテキ』で攻撃をしました。男の人は蹲って、ビクンビクンと痙攣した後、動かなくなりました。…ぐすっ、無事に倒すことが出来て一安心。私は自分の貞操を守り、売られる未来を回避したの。ディートバに感謝しなくちゃ、貴女のお陰で私は無事だよ? いつも意地悪をしてくるディートバに、初めて感謝したかも…。

 

そんなことより…、今の状況をどうするか? 何故このようなことになったのか? 思い出さなきゃいけないよね? そこの身なりの良い盗賊は、気を失っているようだから大丈夫。とりあえず、火に当たりながら思い出そう。…ぐすん、本当に…何かされる前で良かったよ。本当に…うぅ~…。ぐすっ…、泣くのは後よフュリー。今は思い出すのが先。

 

 

 

 

 

 

確か私は、見習い天馬騎士になる為に森へと入った。天馬騎士になるには、まず最初にペガサスを見付けなくてはならないの。自分の力で…、と言っても助っ人もアリなんだけれど。助っ人を頼める人を探していたのだけど、そこでディートバが…、

 

「泣き虫フュリーは、助っ人を頼んでもペガサスは無理でしょうね! それどころか、助っ人を困らせるんじゃない? すぐ泣いちゃうからさ。弱っちょろいし、…天馬騎士になるのを諦めたら?」

 

私は何も言えなかった…。とても悔しいけど、ディートバの言っていることは本当だから。…私は弱いし、泣き虫だし、みんなの足を引っ張るし…。うぅ~…ぐすんっ、また涙が溢れてくる。だけど、本当に悔しくて、お姉様みたいな天馬騎士になりたいから、私は夜中に宿舎を抜け出して、森の中へと入った。

 

ペガサスが生息する場所は頭に入っている、だから大丈夫って思っていたの。でも、距離を考えてなくて、道に迷って、天候が荒れて吹雪になって、…少しずつ体力が無くなって、意識が朦朧として…。私はなんて馬鹿なんだろう。…悔しいからって、考えなしに飛び出すなんて…。今頃みんな、騒いでいるかなぁ…。本当に私はみんなに迷惑を掛けてばかり。でも…私は天馬騎士になりたいから、私は…。

 

「みんな…、お姉様…、ごめんなさい。」

 

私は謝りながら、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

……所々略しているけど、こんな感じだったよね? 行き倒れたという恥はあったけど、私は無事。布にくるまって、火に当たって、今はとても暖かい。本当だったら、雪に埋もれて死んでいた。なのに助かったのは…、誰かに見付けてもらって助けられたということだよね? …今の状態を考えて、導かれることは…。動かない男の人を見る。

 

「まさか、………というかこの人が私を助けてくれた人?」

 

雪の中から助けてもらって、ここまで運んでもらって、冷えた体をこれ以上冷やさないようにしてくれて、意識の戻った私に笑顔を向けたこの人に、私は………何をした?

 

…………………!!?

 

「盗賊と決めつけて、『キンテキ』で攻撃しましたぁ! うぁぁぁぁぁん、ごめんなさぁぁぁぁぁい!!」

 

とりあえず私は、自分の犯した早とちりに堪えられず泣き出した。だって…、泣く以外思い付かないんだもん。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーエシャルー

 

………さむっ! 背中がめちゃくちゃ寒い! でも胸の辺りは暖かい、…何が起きた! 俺は目が覚めて、思い出してみる。

 

………あ! 凶悪少女に俺は…俺自身のミストルティンを! 確認しようと目線を下に向け、やっと気付く。

 

「すぅ…すぅ…。」

 

凶悪少女が俺に引っ付いて、穏やかな寝顔を…。

 

だが何故だろう? 可愛い寝顔だと思う前に、イラッとするのは。まぁ、俺のミストルティンに一撃を加えたからなんだけどね。…ってそんなことはどうでもいい! 俺の大切なミストルティンの状態を確認しなくては! えぇ~い、この少女が邪魔! どけぇ~い!

 

…と思いつつも、優しく退かす俺。フッ…、俺が紳士で良かったな少女よ。…あどけない少女の寝顔が憎らしいけど、暴力を振るう程落ちぶれてはいないさ。そして俺は、冷静に我がミストルティンを確認する。

 

「よかった…、本当によかった…! 我がミストルティンは正常なり!」

 

無事を確認し、ホロリと涙が零れる。…無事だった故に、昨日のことは水に流そう。終わり? 良ければ全て良し! 根に持つのはよくないからな!

 

とりあえず、少し煙いから空気を入れ換えて…と。後は焚き火で暖まりますかね。この少女が目覚めないと、話も出来んからな。…その前に少し離れておこう。食事の準備もしなくては! ここに取り出すは、ハイジのヤツ! あのとろりと溶けたチーズをパンの上に乗せたアレ! この状況でコレ、絶対に美味い筈!

 

………つーか、…ハイジって何だっけ?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 ~村での出会い。

ーエシャルー

 

焚き火でチーズがとろりと溶けた、…今が食い時! すかさずパンに乗せ、頬張るのみ! いただきま…、

 

「………。」

 

凶悪少女が物欲しそうに俺を見ている。目覚めたのか少女よ、この芳しい匂いに食欲をそそられ、目覚めたというのか少女よ!

 

…………。

 

「…食べるかい?」

 

こくん! と力強く頷く少女、泣く泣く食べ頃ハイジのヤツを少女に差し出す。とりあえず、遠慮がちにハイジのヤツを受け取った少女。俺とハイジのヤツを交互に見て、最終的にハイジのヤツへと食らいついた。

 

まぐまぐと必死に食らいつく少女、そんなにがっつかなくともソレは逃げんよ? …まぁそうなるほど美味いってことなんだろうね? ハイジのヤツ、溶けたて食べ頃っすからね。…俺の分も用意しよう。

 

 

 

 

 

 

食後のトラキアティーで落ち着いた俺と少女、さてどうするか? と思った矢先、

 

「あの…昨日はごめんなさい! 助けてもらったのに酷いことをして…、酷いことをしたのに食事まで頂いて…、貴方様のような優しい方を盗賊なんて私は…、本当に駄目な…駄目な…うぅ~…。」

 

自分の言葉で打ちのめされんなよ、そして泣かないでくれ! 昨日の少女の泣きっぷりは凄まじかった。今日もそれを食らうのは、マジで勘弁して欲しい。

 

「別にいいから気にするな、昨日のことはマジでもういいから。」

 

泣かれてたまるかってんだよぉ! こういう時は頭を撫でるんだ! 俺の達人撫で技を刮目せよ!

 

「昨日のことはいいから、…なんで雪の中に埋もれかかっていたのか、教えてくれるかい?」

 

頭を撫でながら、優しい声で話しかける俺。笑顔も忘れずに! 我が必殺の一撃、少女よ…堪えることは出来るか?

 

「……ふぁ。」

 

目を細めて、なすがままに撫でられることを望んだか。それ即ち、俺の勝利ということだ!

 

少女は泣くことなく、これまでの経緯を俺に話してくれた。

 

「なるほど、ペガサスを探しにねぇ…。」

 

天馬騎士になる為に、ペガサス探しってことね。ディートバって娘に馬鹿にされて、見返す為に一人で夜の森の中へ。…そんで吹雪になって、体力が尽きて、俺に保護されたっつーことか。

 

…馬鹿なんじゃないの? 泣き虫言う前に、アホな行動を見直すのが先じゃね? ディートバって娘は、こんな馬鹿な少女が心配で意地悪するんじゃないの? 危なっかしい彼女は、このままじゃ死ぬ未来しかないっぽいし。

 

うーん…でも、少女の気持ちも分からんでもない。だが、迷惑を掛けまいとして迷惑を掛けているわけだし。ペガサスが見付かるか否か分からんけども、今回のことが少女の道に良い影響があればいいね。死に掛けたわけだし、今度から少しは考えて行動するようになるだろう。

 

「…それでお兄さんは、かなり強そうな感じがします。お姉様やパメラさんよりも…。それでですね? …その、もし良ければ…。ご迷惑でなければ…、既にご迷惑を掛けてますけど。…一緒に、…いっ…しょ…。ぐすっ…!」

 

ヘイヘイヘイ! 全てを言う前に泣こうとするんじゃないよ! また、落ち着かせなアカンのかい!

 

 

 

 

 

 

分かっていたことだけど、この少女の助っ人をすることになった。お人好しっすよね? まぁあのまま泣かれても困るし、近場の村というかペガサスの生息地近くの村を知ってるみたいだしな。さ迷い歩くよりも、安全に人里へ行きたい俺にはありがたい。ここよりかなり遠い場所にあるが、俺にはワープがあるからな。一晩寝て、ある程度魔力も回復したし。シレジア国内だから、さほど魔力を使わんでも大丈夫。ワープをする際、少女の想像力が重要になる。ガッツリきっちり想像して貰わないとな!

 

火の後始末良し! マント良し! 背中に引っ付いている少女良し! …忘れ物はないな。

 

「では少女よ、行く村を思い浮かべるんだ。きちんと思い浮かべることが出来れば、確実にその村へ行くことが出来る。」

 

「分かりましたお兄さん、私…想像力だけは凄いんです。」

 

そう言って目を瞑り、ムムム…と唸ること約1分。肩をポンポン叩いてきたから、もう大丈夫だな! …ワープ!

 

 

 

 

 

 

そして辿り着いた、ペガサスの生息地に一番近い村。吹雪の中に出てどうなるかと思っていたけど、無事に人里へ来ることが出来て良かったよ。

 

「わぁ…お兄さんって、凄いんですね!」

 

ぱぁ…と顔を輝かせる少女、ワープ初体験ってとこかな? 吹雪も止んだし、村で休息させてもらいますか。宿泊施設ってあるかな? ペガサスの生息地が近いんだから、泊まるとこぐらいはあるよな? 天馬騎士も頻繁に来るだろうし。…その前に、

 

「短い間だが、一緒に行動するわけだからな。名乗っておこう、俺はエシャル。…よろしくな少女。」

 

「あっ…あっ…! そうですね、名前を言ってませんでしたね! 私はフュリーと言います、よろしくお願いしますね? …エシャルお兄さん!」

 

にぱぁ~…と花が咲くように笑う少女、フュリーは将来美人になるだろう。…そんなくだらないことを考えながら、俺とフュリーは村の中へ。

 

 

 

 

 

 

村の中へ入ると、村人ではない奴等が多くいた。何故村人じゃないと言えるのか? 簡単なことだよ。軽装とはいえ、ガッツリ装備で身を固めているんだもの。身に纏う雰囲気から、傭兵だろうと思われる。つーか、何故にこんな村に傭兵っぽい集団がいるのだろうか? フュリーなんか目尻に涙を浮かべて、明らかにビビりまくっている。俺のマントん中に入ってきて、くっついてきとるし。この状況は一体………。

 

とりあえず、フュリーの案内で宿へと向かう。傭兵っぽい奴等は、各々談笑していたり、村人と話していたり、武器の手入れをしていたり、問題を起こしている様子は一切無い。規律がしっかりとしている集団なんだろう。リーダー格は相当な実力を持つ者なんだろうな。…にしてもめっちゃ歩きにくい、くっつきすぎだろフュリーちゃんや? 仮に天馬騎士を目指す身なら、ビビっちゃいかんでしょ。

 

そして、歩きにくいながらもこの村唯一の宿に着きました。…部屋って空いているんかね? 不安にもなります。傭兵っぽいのが多かったし、絶対ここに泊まっとるよね? とりあえず中へ入ると、

 

「いい加減帰ろうぜ? いないってそんなの、ガセだよガセ! 無駄な旅費を使っちまったよ、お前のせいでよ!」

 

傭兵っぽい奴が、声を荒げて一人の男に詰め寄っていた。…なんつーことをしてくれたんだ! フュリーちゃんの涙腺が崩壊したではないか! 俺の服が涙と鼻水で汚れちまうよ、ちくしょーめ!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

ーベオウルフー

 

俺の文句もどこ吹く風で聞き流す、この男は俺達の頭である凄腕の傭兵ヴォルツ。そしてこの俺ベオウルフは、ヴォルツの片腕として他の仲間をまとめている。そう…俺達は、世界的に有名なヴォルツ傭兵旅団なんだ。有名な傭兵旅団である俺達が、何故にこの辺鄙な村にいるのかって? そんなのは決まっている、我らが団長ヴォルツが原因なんだよ。…コイツ、アホなところがあるからなぁ。

 

…ヴォルツは手元の酒をぐっと飲み、その後で俺を見てこう言った。

 

「…お前の言うように、やっぱりガセなのかもしれん。…ベオ、だけどな? ロマンを忘れちまったら、男として終いだぜ?」

 

フッ…と笑って、再び酒を飲むヴォルツ。ロマンがどーので、金が増えりゃあいいがな! そのロマンの為に金が減る一方なんだろうが!

 

「この森の中に雪男は絶対にいる…! 俺はそう思っている、ベオ…。」

 

「世界広しといえ、こんなことすんのは俺達だけだよ!チクショーが!!」

 

「…分かってるじゃねぇか、ベオ。俺達ぐらいは探してやろうぜ? 寂しがり屋な雪男をよ…。」

 

どや顔すんじゃねぇよ、腹立つ!

 

馬鹿じゃねぇの、雪男がいる筈ねぇじゃん! この森にゃペガサスしかいねぇよ、まだ見てねぇけど。他の奴等もヴォルツに似てアホだからな、嬉々として雪男を探しやがるから手に負えねぇ。村人も言ってたじゃねぇか、見たことも聞いたことも無いってよ。…マジでまだ探すのかね? 雪男…。あまり長くなると、旅団を維持する金が無くなっちまう。どーすんのよこの状況、…頭も痛けりゃ胃も痛くなっちまう。

 

先のことを考えていると、鋭い視線を感じた。視線の主へ顔を向けると…、

 

「………!!」

 

なんでエルトシャンがここにいるんだ!? なんかチビも一緒にいやがるし! どういうことなんだ? まさかエルトシャンも雪男を探しに来たのか!? いやいや、そんな馬鹿なことある筈が無い。馬鹿はウチのヴォルツ達だけで十分だ、…今気付いたけどマトモなのは俺だけじゃねぇか!? いやいやいや、んなことよりエルトシャンだよ。なんでここにいるよ、ノディオンの王位を継承した筈じゃあ…。

 

なんてことを考えながら見詰めていると、

 

「ベオ、お前…ソッチの気があるのか? ヤバイな、俺を含めた仲間達が危険じゃねぇか…! 見損なったぞベオ…!!」

 

「お前ふざけんなよ! ソッチの気なんざ一切ねぇよ! 見損なったのは俺の方だよ!」

 

知り合い? を見てたら、男色とかって…! やべぇ…泣きたくなってきた!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 ~密猟団捕縛。

ーエシャルー

 

…文句を言っていたのであろう傭兵っぽい奴が、俺をめっちゃ見てきてる。まぁ俺の方も、抗議を含めた目で見ていたわけだが。あの二人のせいで、俺の服が大変なことになったよ。フュリーの涙と鼻水でね…、現在進行中ですわ。

 

…何か揉め始めたよ、あの二人。勘弁してくれないっすかね? これ以上、涙と鼻水を量産させないでくれますか? わりとマジで。はぁ…、自分でなんとかするしかないのかね。とりあえず、フュリーを引き摺って揉めてる二人の下へ。

 

「なぁアンタ達、揉めるのを止めてくれないか? …連れの泣き虫ちゃんが怯えてね、主に俺の服が一大事なんだよ。」

 

と、揉め事を止めるよう二人に言う。フュリーは何やら、グリグリと頭を押し付けてくる。抗議のつもりか? …俺は事実を言っただけなんだけど。

 

 

 

 

 

 

それがきっかけとなって、二人と仲良くなった。図体のデカイ奴がヴォルツで、傭兵旅団の団長をしているとのこと。軽薄そうな奴がベオウルフ、傭兵旅団のNO.2らしい。この二人、口は悪いが悪人ではないみたいだ。フュリーもそれが分かったのか、ビビりはするものの泣きはしない。俺達三人は酒を、フュリーは温かい果実茶を飲んで話をしているわけだ。

 

んで、二人が揉めていた理由がなんともくだらない。ここら辺で雪男を探しているみたいなのだが、いるいないで揉めていたみたいなのだ。ロマンを求めるヴォルツに共感するけど、金の問題でベオウルフの言っていることも分かる。そもそも、そんな噂がこの村に一切無いのに探すヴォルツがアホなのか? …まぁアホなんだろうな、うん。ペガサスしかいないって、フュリーも言っているし。

 

逆に、俺達二人は何しに来た? と聞かれたから、

 

「この泣き虫フュリーちゃんの助っ人でね、ペガサスを捕獲しに来たってわけ。昨日出会ってばかりだけど、見捨てるのもあれだからな。…真の目的は、シレジア美人を求めてこの国に来ました!」

 

と言いました。フュリーちゃんは、ポカポカ叩いてきますが効きはしません。フュリーちゃんを軽くあしらいながら、正直に下心があると宣言した俺。ペガサスを捕獲してフュリーに恩を売り、お姉様とパメラさんとかいう天馬騎士のお姉さんを紹介してもらうのだ。これが俺のメインであり、ペガサス捕獲はサブ。サブではあるけれど、やるからにはベストを尽くすから安心しろよ? フュリーちゃん。

 

とりあえず、この宿は満室であった。…がしかし、二人と仲良くなったから部屋を空けてくれた。部下の傭兵さん、すまぬ! ありがたく使わせてもらうよ。フュリーと一緒の相部屋だけど、問題なし。…え? 問題あるんじゃないのって? フュリーを女として見ることなんぞ出来んわ! 昨日会ったばかりだし、鼻水だぜ? 美少女ではあるけれど、…あえて言うなら妹キャラだな!

 

まぁ明日はペガサス探し、今日はもう寝ますかね。談話で時間が経ったし、洞穴で1日寝たから体が痛いし、明日は何が起きるか分からんし、体調完璧で挑みたいじゃん? フュリーもおネムだしね。

 

因みにベオウルフが、頻りにエルトシャンを知らないか? だとか、あまりにも似すぎているだとか、会ったことはあるか? だとか、色々と聞いてきたが…、

 

「名前しか知らんけど。獅子王で有名な人だよね? 若くして王位継承、武勲高し次代の王ってね。俺の名はエシャルでエルトシャンに似ているけど、会ったことがないのは確実だな。記憶に…ないし、うん…ないな。…つーかそんなに似ているのかね?」

 

「よく見てみればエシャルは女顔だな、…エルトシャンよりも姉さんに似ているか? …いや、もうちょい成長したらエルトシャンだな! 言えることは一つ、双子の弟っつってもいいんじゃね? って感じだな。」

 

そんぐらい俺は似ているわけね? …自分で見て似てると思ったけど、双子でも通用するほどか。知らないってのは嘘じゃないけど、血縁関係ではあるんだよな。姉さんと言っていたが、俺の死別した母親のことで間違いないかと。そう考えると…だ、忘れているだけで会ったことあるんかな? 悶々としながら、俺はフュリーと部屋へ向かった。

 

 

 

 

 

 

次の日、目覚めた俺は引っ付いていたフュリーを引き剥がし、身だしなみを整えてから部屋を出た。ちゃんとフュリーもついてくる、…眠そうだけど。お前さんの為に今日、ペガサスを探しに行くんですけどね! …この娘、ペガサスを捕獲してなれるんか? 天馬騎士に。そんなことを考えながら受付を済まし、宿の外へ。最近、考えることが多いな。

 

本日は晴天なり! …天気は良いけど、雰囲気は悪い。何事かと思ったら、

 

「よぉエシャル、目覚め一発から悪い情報だ。この先のペガサス生息地だっけ? …密猟者? 賊の集団をウチの仲間が見付けたってよ。賞金首だから顔を覚えていたみたいでな、密猟者ではなかった筈なんだが…。まぁそれはいいとして、…マズイんじゃねぇの?」

 

とベオウルフが教えてくれた。…なるほど、だから村の雰囲気が悪いのか。俺とフュリーは、そこに用事があるんだけどな。

 

「そんな…、もしかして最近報告にあった怪しげな連中…? 大変だよ…、ペガサスが捕まっちゃう!」

 

その情報で眠気が吹っ飛んだのか、フュリーは顔を青くしている。…さてさて、どうするかね?

 

…まぁ、こうなるわな。俺は賊捕縛の為に、森へと入ることに。フュリーは村に置いていくつもりだったが、なんかついてきたし。ついでにヴォルツとベオウルフ、数人の傭兵も一緒だ。ベオウルフ曰く、

 

「賞金首がいるみたいだからな、稼がねぇと。…このお馬鹿様のお陰で、維持費がな! 探したきゃ働けってことだ。」

 

「運が良けりゃあ、…ペガサスを見れるってわけか。金も手に入る、一石二鳥ってな…。ペガサスを守る為に悪を挫く、…ロマンだな。」

 

とのことですよ? まぁ俺一人でも大丈夫なんだけど、ペガサスが捕まっていた場合の保険だな。囮になってもらうって寸法よ、…俺にはワープがあるし。ペガサス相手にレスキューって使えんのかね? ペガサスナイト、人と一緒なら可能だが単体になるとどうだか…。後々の為に要検証だな! それに今回は楽な仕事だろ、なんていったって凄腕の傭兵達が一緒なんだからな!

 

 

 

 

 

 

俺達は、10人にも満たない人数で賊を探す。雪の中だし、足音が残っているだろうから簡単だと思うが。何が起きるか分からんからな、そこそこの警戒は必要だろう。

 

「見ろよこの木々が光る様を…、雪が日差しで輝く。この中で雪男、もしくはペガサスに出会ったら素敵じゃないか。絵画の一つみたいだな…。」

 

「まだ雪男言っているのかよ、…いねぇっつってんのにコイツは。」

 

と、余裕で行動しとります。面白くないのはフュリー、彼らの不真面目さが気に入らないみたいだ。俺としては、その余裕が頼もしいのだがね。フュリーちゃんは、まだまだだねぇ…当たり前だけど。

 

フュリーを宥めながら進んでいくと、無数の足跡を発見。近くにいると分かった瞬間、ヴォルツ達は素早く移動を開始する。無論、私語を止め静かに…だ。俺とフュリーも、遅れることなく移動する。そして・・・、

 

「ペガサスの1匹もいねぇじゃねぇか! 本当にここらに出るのか!」

 

「間違いありやせんて親分、確かにここらですって! 天馬騎士を尾行したんすから!」

 

「じゃあなんでいねぇのよ、ゴラァ! 探してからだいぶ経つんだぞ! 早くしねぇと、天馬騎士が来るかもしれねぇ!」

 

声デカっ! …馬鹿なんじゃねぇのアイツら。そんなに騒いだら、ペガサスが警戒すんに決まってんじゃん。フュリーもその通りと頷いている。野生の生物は警戒心が強いからね、…アイツら素人なんじゃね? そんなんで賞金首とかって、笑っちまう。それとも、本業は別か…? 殺しとか…? まぁペガサスが捕まってないのなら、一気に取っ捕まえますかね。

 

一応、ペガサスの住む森だからな。炎は使わず、剣でいきますかね。キルソードじゃ殺しちゃうから細身の剣、手加減するには良い物だ。

 

「風のように突撃し、一気にカタをつけろ! 出来る限り捕縛せよ!」

 

ヴォルツの掛け声に、傭兵達は素早く賊へと襲いかかる。

 

「ななななななんだぁ~…!!」

 

「ひぃぃぃぃぃっ! わけが分からないっす!」

 

突然の襲撃に、賊が混乱する。俺も遅れることは出来んな!

 

「フュリーは自分の身を守ることに集中な、無理は禁物! 命は大事に、…分かったな!」

 

「分かりました! いの、いの…命は大事にです! いいいいいいきます!!」

 

だぁ~もぅ! 突撃すんなっつーの! ダメだこりゃ…!!

 

フュリーを守りながら戦ったのだが、コイツら弱すぎだろ。…と言うが、俺達が強すぎたんか。フュリーは鼻を垂らしているが…、世話の焼ける娘だよホント…。

 

「はい、チーン!」

 

と、ハンカチをフュリーの鼻に押し付ける。…俺はフュリーの母親か! 自分の行動に、やや戦慄する。

 

「慣れない密猟なんか、するんじゃなかったぜ…。」

 

「こうなっちまったら、潔く死刑を待ちやしょう…親分。」

 

やけに潔い賊だし、

 

「これで多少の金は手に入るな、…まぁ、すぐに無くなるんだけどよ。」

 

「…ペガサスを見れなかったのが、…心残りだな。」

 

ヴォルツ達も目的を果たして、一人を除いて満足気ではある。

 

 

 

 

 

 

密猟団捕縛が、何故かほのぼのしている。…まぁ、安全に終わって良かったっつーことで。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 ~ペガサス捕獲?

ーエシャルー

 

賊を取っ捕まえて、村に凱旋しました。捕まえた賊は村の倉庫に突っ込んで、数人の傭兵が見張っとります。賊捕縛の知らせを出したいところだが、知らせるべきシレジア軍の駐屯地がある町は遠い。そういうことなので、閉じ込めておく。フュリー曰く、

 

「天馬騎士の先輩方は、定期的に村々を回る筈です。村人の方々に話を聞いたんですけど、明後日ぐらいに来るみたいですよ?」

 

その天馬騎士が来たら、賊のことを報告すればいいってことね?

 

…明後日に訪れると考えて、その他諸々を含めて賊の護送は1週間後ぐらいになるか? なげぇな、うん。見張るのも大変だぞ。…俺のワープがあれば一発だけど、シレジア軍の駐屯地がある場所なんぞ知らんし。フュリーは知ってそうだけど、まだペガサスを捕まえていないから戻れない。無断でここまで来たわけで、…帰れば処罰を受けるのは確実。その処罰を軽くするにはペガサスを捕まえるしかない、…と足りない頭でそう考えていることだろう。

 

賊がどうのワープ云々(うんぬん)は、明後日に訪れるらしい天馬騎士の先輩が来てから考えよう。そういうわけで馬鹿な娘フュリーからの頼み事、ペガサス探しをせにゃならん。ちょいと面倒ではあるけれど、約束をしたわけだしね。

 

「明日…明日お願いします! エシャルさん、…良いですか?」

 

…何て上目遣いで言ってきたからねぇ、フュリーちゃん。ちゃんと付き合うから心配はいらないさ、約束通り明日付き合うよ。俺は了承の意を込めて、フュリーの頭を撫でた。

 

密猟団の捕縛には緊張感があったか? と聞かれたら、まぁそれなりにあったんじゃないかな? と俺は答えるだろう。俺にはそうであってもフュリーには、緊張感があったのだろうね。彼女は既に、部屋で寝とりますわ。フュリーは寝ているが、俺はヴォルツ達と飲んでいる。今日のことを肴に盛り上がってますよ、いやぁ~…酒が美味い! 程々に、飲み倒しましょうかね。わははははは!

 

 

 

 

 

 

おはよう諸君! 今日も俺様は元気さ、みんなはどうかな? ってなわけで、今日も良い天気。絶好のペガサス捕獲日和、サクッと捕まえて任務を終わらせますか。そしてペガサスを必要とする娘、フュリーちゃんは半分寝ています。やる気あんのか? こやつは…。

 

会ったことはないが、ディートバって娘の気持ちが分かる。すげーイラッとくる、だけど可愛いっちゃあ可愛い。意地悪というか、弄りたくなるっつーか。そんなわけで、きちんと目が覚めるまで頬を弄らせてもらいます。おぉ~…モチモチしとるがな!

 

ムニムニ弄り倒したら、フュリーちゃんが完全に目覚めました。頬を押さえて、鼻水垂らして泣いています。俺ぁ~悪くないぜぃ、目覚めないフュリーが悪い。もち肌頬の感触が悪い、故に俺は悪くないのだ!

 

「うぁぁぁぁぁん! エシャルさんが意地悪したぁぁぁぁぁっ! 痛いよぉぉぉぉぉっ!!」

 

…俺は悪くない、悪くないのだが…この娘がウルサイ。そもそも、きちんと目覚めないのが悪いのであって…、

 

「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

 

だぁぁぁぁぁっ、もうっ! 俺が悪ぅございました!だから泣き止むんだフュリー!

 

撫でまくって、甘やかしまくったら、なんとか泣き止みました。今度から程々に弄ろう、そう決意しましたよ。弄るのは止めないんですか? …無理っすね、だって面白いんだもの。素直な反応が高ポイントですね、これ重要。

 

…うーん、今更なんだけど。フュリーってここまで泣き虫だったんか? 俺の最早うろ覚えの知識では、動乱時のフュリーは真面目ちゃんだった筈。…まだ先のことだし、そこにいくまで何かあんだろ。気にしたってしゃーなしか、現に泣き虫なんだし。とりあえず、ペガサス見付けて…だな。うん、そうだ。それでいいんだよ、気にし過ぎでハゲたらイヤだしね。

 

因みに、廊下でヴォルツとベオウルフが死んでいた。フュリーの泣き声が頭に響いたんだと、…二日酔いだったみたい。ベオウルフには、泣かせないようにしてくれとマジでお願いされた。…約束はしかねるな! だって、俺だもの! って言ったら、絶望した顔で動かなくなった。なるべく、注意することにしよう。そんなわけで、ペガサス探しに行きましょう!

 

 

 

 

 

 

朝から色々あったが、俺達は昨日の賊捕縛場所へ。ペガサスって、ここら辺に出るんだっけ? なんかそんなことを言っていたような…。まぁここらを彷徨けばペガサスの一頭や二頭出るんじゃない? 出現率がどれくらいか分からんけれど。

 

「フュリーちゃん、ペガサスってここらに出るの? 出現率はどれくらいかね? 俺は何も知らんから、君が頼りだよ。」

 

「お任せください! 努力と根性で探してみせますから!」

 

…努力と根性ってさぁ、地道に探す以外ないってこと? お任せ出来ないと思うのは、俺だけでしょうか?

 

はぁ~…何だかなぁ、シレジアに来て4日だっけ? フュリーを拾ってから、退屈しないね。俺に妹がいたら、こんな感じなんかな? 毎日が楽しいんだろうな、…大変だけど。…お~い、ペガサス出てこ~い!

 

ペガサスを探しに森を訪れてから数時間、フュリーがむくれている。それは何故か?

 

「…なんでエシャルさんの下に集まるの? …天馬騎士は女の子にしかなれないのに。…うぅ~、私にも構ってペガサスさん!」

 

ペガサスが現れて目的達成と喜んだんだけれど、その3頭がフュリーを無視して俺に体を擦り付けてきたのだ。ペガサスが現れた時にはフュリーも喜んでいたよ? ペガサス見付けたぁ~! ってさ。俺も任務終了かと思っていたのだが、ペガサスがフュリーを素通りして俺の下に来たのだ。なんで俺んとこに来んのさ! と思ったものの、なつかれて悪い気はしないよね? …ムツゴロウモードになりますよね、それが当然の流れだよね。固まるフュリーに、

 

「たまたまだよ、たまたま…。よしよーし、…次はフュリーのとこにもペガサス来るって。…こらこら、そんなに舐めちゃイカンよペガサスちゃんや。」

 

ぺガサスと戯れながら、フュリーを励ます。ムキーッて顔をしているフュリーちゃん、そんな感情を剥き出して…。ペガサスが出てきても、なつかれんよ…それじゃあ。

 

案の定、2頭目のペガサスは、

 

「止めろ、止ぁめぇろぉよぉ~! わははははは!」

 

俺の下に来て、じゃれついてきた。2頭のペガサスに挟まれて、舐めまくり攻撃を食らっとります。くすぐったいったらありゃしない、…チラリとフュリーを見てみる。

 

「……うぅ~。」

 

目尻に涙を溜めて、唸っていますね。…次だ次、次いってみよー!

 

3頭目、やっぱり俺んとこに来る。

 

「ちょ…止めろって! マント引っ張んな、服引っ張んな! あっちにも構ってやって、ピーピー泣いちゃうから! あ…コラ!そんなに引っ張ったら破けるっつーの!」

 

結果…俺の下に3頭のペガサスが集まったってわけなのだが、それはそれで恐怖にもなる。ゆーても野生の馬っすからね? 力が強いんですよ? んで、デカイんですよ? それが3頭、思い思いにすり寄ってくるんよ。おっかねーすわ、可愛いんだけどね…。フュリーもメソメソと泣いとるし、なんつーかツイてるようでツイてないよね…俺。

 

なんとか1頭だけ、フュリーに擦り付け…なつかせることに成功した。メソメソ泣いていたフュリーだが、今はご満悦だ。これでペガサス捕獲任務は終了、フュリーはスタートラインに立つことが出来た。

 

「えへへぇ~…、ペガサスさぁ~ん♪」

 

めっちゃ猫なで声で、ニマニマしている。見習い天馬騎士となってこれから先、厳しい訓練が待っているというに…幸せな娘やで。大丈夫なんか? ちょっと心配。目的は果たしたわけだし、村へ戻ろうかと思うのだが、

 

「この2頭をどうすれば…、帰る気配が一切ないのだが…。」

 

帰りなさいって促しても、すり寄ってくるばかり。…どうしましょ?

 

 

 

 

 

 

結局、この2頭も一緒に村へ。手を尽くしても、帰ってくれませんでした。仕方がないから連れて帰り、先輩天馬騎士が来た時、どうすればいいか聞いてみることにしました。考えても解決策が思い浮かばんからな、先達に聞くのが一番だろう。

 

一応頼みの綱であるフュリーはペガサスにデレデレしている、故に役立たず。ペガサスをどうにかする知識を持ち合わせていない、所詮は見習い前の女の子ってなわけかい。早く先輩天馬騎士の人、来ないかな? 2頭になつかれ相手にするのは、マジで疲れんだぜ? ホントに…。

 

 

 

 

 

 

ペガサスと戯れて疲れ果てた俺は、朝までぐっすり眠りましたよ。心地よい疲れではないけれど、ぐっすり…とね。んで、ドアをノックする音で目覚めるわけで。ドアを開けるとベオウルフがいて、

 

「よぉ、おはようエシャル。昨日はご苦労さん…てーのはいいとして、お前さんとチビにお客だぜ? 天馬騎士のべっぴんさんが会いたいとよ。確実に、外のペガサス3頭とチビのことだろうよ。」

 

おー来たか、天馬騎士。ペガサス付きでフュリーを引き渡し、2頭のペガサスのことを相談せねば。すぐに行くとベオウルフに伝え、惰眠を貪るフュリーを起こすとしますか。

 

フュリーをベッドから引き摺り降ろし、準備を終えてからペガサスの下へ。そこで、天馬騎士のべっぴんさんが待っているらしい。フュリーはまだグズっている。眠いし、無断で出てきたことを怒られるっていうのもあるからな。まぁ、俺の知ったことではないけど。フュリーの襟首掴んで持ち上げる、ジタバタするが知らん。相手を待たせているんだから、ダラダラしている暇はない。

 

ピーピー泣くフュリーと共に、ペガサスの下へ行くと、

 

「なんとも見事な毛並み、…見惚れるペガサスだ。我らの中に、これ程のペガサスを手懐けることが出来る者はいないな。」

 

俺の方のペガサスを、微笑みながら撫でているべっぴんさんがいた。……俺は無言でフュリーを落とす、悲鳴を上げるがどうでもいい。悲鳴に気付いたべっぴんさんは、こちらを見る。目と目が交わり、よく顔が見える。

 

白みがかった緑の髪、鋭さの中に優しさを宿す瞳、雪のような白い肌、笑みは消えたが魅惑的な口元。俺の生涯で現在NO.1の美人さんだ! 心の中で叫んでしまう。そんな俺に対し、その美人さんは、

 

「朝早くから申し訳ない、私はシレジア天馬騎士隊のパメラと言う者。そこの泣き虫を含めて話を聞きたいのだが、よろしいだろうか?」

 

その言葉にフュリーは小さな悲鳴を、俺は大きく頷いて了承の意を伝えるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 ~天馬騎士のお姉さん。

ーエシャルー

 

話を聞きたいとのことで、俺はパメラさんにシレジアに来てからのことを素直に全部話す。特にフュリーを庇う、…なんてことはしない。ぶっちゃけ、フュリーは悪い事をしたんだからな。罰は受けねばならない、これは当然のことだろう。

 

それに、パメラさんが俺に好印象を持ってくれたら嬉しい。彼女は真面目そうだからな、嘘とかも嫌いそうだ。だから正直に話す、少しでも好印象を持たれるように。…安心しろフュリー、過度な罰は無いと思うぞ。相応の罰で済まされる筈、たぶんだがな。

 

俺はとりあえず、全てを話したつもりだ。フュリーは固まったまま、パメラさんは目を閉じて腕を組んでいる。考え事でもしているのかな? そこから数秒後、パメラさんは目を開け一言。

 

「フュリー、貴女には相応の罰を与える。」

 

それを聞いたフュリーは、ガタブルと小刻みに震え始めた。絶望の顔で、もう終わりだと…。

 

「しかし、無事にペガサスを発見し手懐けたことは評価出来る。シレジア城に戻り次第、見習い天馬騎士の叙勲が行われるであろう。よって、今回のことは不問にする。」

 

そして、パァ~…と顔を明るくするフュリーだが、

 

「見習い天馬騎士になったら、この私が直々に鍛えてやる。その泣き虫で甘ったれな所業を粉砕し、立派な天馬騎士にしてやる。…ありがたく思え、なぁ…フュリー…。」

 

挑発的な笑みを浮かべ、フュリーにそう言ったパメラさん。明るい顔が真っ青になり、引っくり返って動かなくなった。…白目で気絶しとるし、そんなにヤバイんか? 天馬騎士の訓練。

 

 

 

 

 

 

こんなんでもフュリーは女の子、故に放置はあれだからと介抱しようとしたが、

 

「そこの泣き虫はほっといて構わない。雪に埋もれても大丈夫だったんだ、風邪はひかんだろ。」

 

とパメラさんに止められた。…確かに風邪はひかないと思う、現に雪の中に埋もれていてもピンピンしていたし。ポンコツ気味ではあるが、タフさはなかなかのもののようだ。泣き虫で鼻垂れっ娘なフュリー、身体能力…タフさは騎士に向いているかも。なんて考えていると、ゴホンと咳払いしてからパメラさんが、

 

「この度は、フュリーを助けて頂きありがとうございます。面倒を見て頂き、ペガサスまで…。そこの泣き虫は、私の同僚の妹でして…。無事に連れ帰ることが出来るのは、貴方のお陰です。」

 

居住まいを正して、礼を言ってきた。真剣な眼差しで、丁寧な言葉使いで…。その姿もまた、美しい…。俺、見惚れています! ディアドラは神秘的な美少女、対するパメラさんは凛々しさの中に美しさがある美人。…ぶっちゃけ、今までの女性の中で一番のタイプ。…パメラさん、…貴女は美しい。

 

ずっと見続けていたいが、そうも言ってられませんな。ペガサスのことを聞かなければ、つーことで聞いてみたんだけど。

 

「そこまで気に入られた男性は初めての事例です。それも2頭、…貴方は相当稀有な方のようですね。そこまで気に入られた場合、引き離すのは難しいかと思います。…このまま引き取るのは如何ですか? 私が上に口利き致しますが?」

 

…え? 俺があの2頭を引き取るの? そんなことが出来ちゃうの? …引き取ってどうすればいいんだ? 誰が乗るんだ? …俺、乗れるんかな? 疑問が浮かんでは消えていく、そして出た結論は、

 

「その方向でお願いします、パメラさん。せっかくなついてくれたんだから、引き取れるなら引き取りたいかと思います。…男性初の天馬騎士って、なれますかね?」

 

引き取れるものなら、引き取るってことにしました。ディアドラにお土産をあげなきゃいけないからな、…ペガサスでもいいだろ。まだ、引き取れるかは分からんけど。それに2頭だからな、俺も乗れるかもしれん。現になついてくれたわけだし、俺がなれるかパメラさんに聞いてみた。

 

「さて…なれるか否か、私では判断しかねます。前例がありませんからね…、ですが。」

 

そう言って、ニコリと笑い、

 

「訓練の必要があると思いますが、貴方ならなれるかもしれませんね。ペガサスに愛される天馬騎士に。」

 

と言ってくれました。パメラさん、貴女にそう言われたら…。俺、目指しちゃいますよ! 単純なんで!!

 

 

 

 

 

 

ペガサスの件は、上に口利きをしてからってことになった。後は捕らえた賊のこと、ベオウルフを呼んで話を進めました。ヴォルツはどちらかというと戦闘タイプみたいで、こっちの方はベオウルフが担当なんだと。

 

そんなわけで、密猟集団の件をパメラさんに伝える。そして知った事実、奴等は密猟で指名手配をされていたのではなかった。ベオウルフはやっぱりな、って顔しとる。知らんかったのは、俺とフュリーぐらいか? …というか、知っとけよフュリー。最近報告にあったとか言っていたけど、ほぼ知らなかったみたいだし。知っていたら、突撃しなかったっしょ。たとえ、アホの娘だとしても。

 

…であの賊の奴等なんだけど、なんでも貴族襲撃・強盗・殺人・強姦等を繰り返していた凶悪な奴等だったらしい。…うん、凶悪だよね? なのにあの弱さ、なのにあの潔さ、謎だよね? アイツ等。

 

とにかく捕縛という形で引き渡すことになり、死体で引き渡すより賞金は高いみたい。情報やら何やらを調べてから、処刑されるみたいね。俺達にとっては雑魚だったけど、彼女達天馬騎士隊とシレジア軍にとっては強敵だったようだね。パメラさんに感謝されたよ、顔がニヤけるのは仕方がないよね!

 

賊の護送は、3日後ぐらいになるそうだ。今日中にフュリーを連れ帰って手続きを済ませ、直ぐ様隊を引き連れここへ戻る…という流れになるようだ。やっぱり日数があるね、こりゃあ大変だ。

 

…ん? 考えてみれば俺の出番になるのでは? 俺には得意のワープがあるじゃない。ヴェルダンからトラキアへ、そしてミーズ北東砦にヴェルダンからシレジアという実績がある。集団ワープなんざ、赤子の手を捻るが如くよ!

 

「パメラさん、ご提案があるのですが…。」

 

俺はパメラさんに声を掛け、俺がワープを使えること、集団ワープに連続ワープも出来るってことを話した。少しでもいいから、俺を覚えてください!

 

「それは本当ですか? 素晴らしい力をお持ちのようで…。ご協力してくださる…、ということでよろしいのですか?」

 

「馬車馬が如く、使ってやってください!」

 

俺は胸をドンッ! と叩き、任せてくれと言わんばかりにアピールする。

 

「そうですか! ありがとうございます、…えっと。申し訳ないのですが…、お名前は…?」

 

………!? なんということでしょう、名乗ってねぇじゃん俺! 痛恨の極みだよ、痛恨の極み! このエシャル、ここぞという時にポカしとるがな!

 

「これは失礼、パメラさん。名乗り遅れました、私はエシャルと申します。私の名を貴女の心に刻んで頂けたら、この上もない程の喜びです!」

 

「エシャル殿…ですか。」

 

戸惑い顔のパメラさんも素敵です!

 

 

 

 

 

 

まず最初にパメラさんと数人の天馬騎士、そしてフュリーとペガサス。…パメラさんの他に、天馬騎士の方がいたんですね。どの方も美人さんですね、俺…張り切っちゃいますよ!

 

「では、パメラさん達を先に送ります。私の周囲に集まってください、シレジア城のことを考えるのを忘れずに。」

 

先に送ると言ったんだけど、俺も一緒にワープしますよ。シレジア城を覚えないと、賊達を送ることが出来ないしね。それと知らない場所に送るんだから、不安なんだよね。きちんと送れるかってね、ミスったらシャレにならないつーのもある。安全第一がこの俺、エシャルってわけよ!

 

「シレジア城の想像は出来ています。…エシャル殿、よろしくお願いしますね。」

 

パメラさんのお言葉、頂きました。では…、

 

「パメラさんが優しい…。このままじゃ婚期を逃すだけだから、エシャルさ…んぎゃっ!!」

 

フュリーがボソッと何かを呟いたような、…なんか泣いてるし…。

 

「お願いしますエシャル殿、…泣き虫のことはお気になさらずに。」

 

パメラさんがそう言うなら、気にしませんから! では、改めまして…、

 

「ワープ!」

 

俺はパメラさん達と共に、ワープでこの場から消えた。

 

それを間近で見ていたベオウルフは、

 

「すげぇなエシャル、ワープも使えんのか。…つーかエシャルの奴、ここに戻ってくんだよな? 賊のこととか賞金のこととかあるし。…置いていかれた感があるのは気のせいか?」

 

そう言って首を捻る。そして…、

 

「ん~…エシャル、ねぇ…。どっかで聞いたことあんだよなぁ~、何処だっけ? 俺の友人がそのことばかり気にして、嘆きまくっていたような気がするんだけど。…誰だっけか?」

 

ブツブツ考えながら、ヴォルツの下に戻っていったのであった。

 

 

 

 

 

 

とりあえず到着したんだけど、シレジア城…ですよね? パメラさん達も周囲を見回している。

 

「…シレジア城ですね。素晴らしいですよエシャル殿、本当に一瞬で…。」

 

ワープは初めてだったようで、パメラさん達は目を丸くしています。今の俺は、ドヤ顔をかましていることだろう。因みにここは、シレジア城内の調練場らしいです。まぁそれはいいとして、これでシレジア城は俺のワープ先メモリーに記録された。いつでもどこでも、MPがある限りワープで来ることが出来ますな!

 

「エシャル殿、私達は報告の為にこの場から失礼させて頂きます。申し訳ないのですが、暫くこちらでお待ち頂けませんか? 客間にご案内したいのですが、もてなす準備がされていませんので…。」

 

「気にしなくていいですよ! 俺はここで待ちますとも! お気になさらずに、パメラさん!」

 

俺の言葉を聞いて、パメラさんは微笑んでから一礼、他の方々と共に調練場から出ていった。フュリーは逃げようとしていたが、パメラさんに襟首掴まれてドナドナされてったな。フュリーのことはどうでもいいんだけど、パメラさん綺麗だよなぁ~…。めっちゃお近づきになりたい。なんてことを考える俺であった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 ~レヴィン登場。

ーエシャルー

 

調練場でジッとしているのは、ツマらないからな。剣の練習でもしておこうか、…そう思って腰から細身の剣を抜き取る。調練場の隅の方にある人形? 木人? よく分からんが、これが(まと)ってことで良いんだよな? ヘズルの血が濃いからといって、過信は禁物。練習第一で腕を磨かなければならない、きぇぇぇぇぇいっ!!

 

 

 

 

 

 

…ふぅ~っ、良い稽古だった。額の汗を拭う俺、そんな俺に…、

 

「あんた何者だ? ここはシレジア王国本城だぜ、どうやって侵入したんだ?」

 

声を掛けてきた者が。振り返ると緑髪のイケメン、俺と同世代…いや、ちょい下ってところか? 何者だって言われてもねぇ、用事があるから来たわけで。ペガサスと賞金首の件だろ? パメラさんに待つよう言われているし。…よって、俺は不審者じゃないな。理由を話せば、このイケメンも怪訝な顔を止めるだろう。

 

「俺? 俺はだな…。」

 

イケメンに理由を話そうと近付いた時に…、

 

「「………!?」」

 

なんとまぁ…これは共鳴だな? トラバントん時と同じではないか。ってことは、コイツ…聖戦士の血筋か? ………ということはシレジアの王族、…じゃあコイツはレヴィン?

 

 

 

────────────────────

 

ーレヴィンー

 

「それではレヴィン様、きちんと課題を終わらせるように。分かりましたね?」

 

そう言って、俺の家庭教師であるクブリ老師は部屋を出ていく。全く、口うるさい爺様だな! ことある事に、やれ王族が、次期王として、立ち振舞いがどうだとかうるせぇし。亡き父上は勿論…その後の王座を守る母上も口うるさい、お付きのマーニャはなおのこと喧しい。叔父上達も俺を邪魔者扱い。…くそっ! なんて堅苦しいんだ、少しは自由にさせてくれよ。

 

何が王族の務めだよ、互いに足の引っ張り合いをしている癖に…! こんなんじゃ、この国も先は長くないな。国を想うなら、団結して国の基盤を強固にするべきなのに。いずれこの国は、グランベルに飲み込まれるのがオチだぜ。

 

…チッ! 気分が悪い。こんな時はフュリーを弄るのが一番なんだが、アイツ…行方不明なんだよな。ペガサス探しに行ったってのが有力だが…、ペガサスの生息地は遠い。まさか…途中で野垂れ死んでないよな? ………あり得るからヤベェ、アイツ…馬鹿だし。

 

 

 

 

 

 

…フュリーの馬鹿のせいで、勉強する気が失せた。こんな時は、軽く運動でもして汗を流せばスッキリするよな? そう思って、あまり行かない調練場へ。今の時間は喧しいマーニャ達はいない、一人で居られる貴重な時間帯だ。

 

…そう思っていたんだが、先客がいた。見たこともない奴だ、侵入者か? 率直にそう思った。しかし、剣を振るう姿は雄々しく、そして美しさの中に鋭さがあり、俺は視線を外すことが出来なかった。

 

見事な剣舞を終えた謎の人物、侵入者であればこのままにしておけない。そう思って声を掛けてみた、何故かは分からない。賊であれば、俺は確実に殺されるだろう。あの剣舞を見て、勝てるなどという夢を見る愚か者ではないからな。なのに何故、声を掛けた? 息を殺してこの場を去り、兵を呼んでくるべきではないか?

 

今更…、もう声を掛けちまったっての! フュリーの馬鹿っぷりが移ったか?

 

そして、侵入者はこちらに振り向いた。そして思った、コイツは俺の敵だと…! なんなんだこの美形は! 美形で剣の腕が良いとかって、何処の物語の主人公だよ! クソッ…! 俺の唯一、自慢出来る風魔法もかろうじてトルネードってとこなのに! 目の前の奴と比べたら、全然じゃねぇか! フォルセティがまだ使えないってのが痛いぜ!

 

それに奇妙な感じもするし、…なんなんだよ! グギギ…と歯を食いしばり、嫉妬している俺。侵入者は俺を見て、怪訝な顔をしている。…失礼な奴だな! 仮にも俺は王族だぜ? 文句の一つも言ってやろうと思ったが、

 

「「………!?」」

 

侵入者が俺に近付いてこようとした時に、妙な感覚が全身を駆け巡った。

 

この感覚は知っている、聖戦士の血を強く受け継いでいる者同士の…。この侵入者は聖戦士一族に連なる者! しかも継承者としての力を持つ者…! 父上と俺と同じ立場…。もしそうだとしたら、何故ここにいる? 分からねぇ…、分からねぇよ…。グランベルからの刺客か? 暗殺者か? 悪い方へと思考が流れそうになった時、

 

「お待たせ致しましたエシャル殿…って、レヴィン王子! 何故こちらに!?」

 

調練場にパメラが入ってきた。エシャル…? コイツの名か? …ってことは、パメラの客か? そう思ったら、なんだか安心してしまった。敵ではない、そのことにな。つっても美形で強者は俺の敵だ。…嫉妬とも言う。

 

 

 

────────────────────

 

ーエシャルー

 

互いに聖戦士で、めっちゃ敵視されとるし、どうすればいいんかね? 見詰め合って固まっていると、

 

「お待たせ致しましたエシャル殿…って、レヴィン王子! 何故こちらに!?」

 

……え? 女神? …っと違った。パメラさんか、焦ったぜ! とはいえ、ナイスタイミングじゃないですか! どうしようかと考え始めたところっすよ! イケメンが敵視しとりましたからね、………レヴィンで合っているようだし。

 

「パメラの客か? …見知らぬ者がいたからな、侵入者かと思った。…何者なんだ?」

 

何者って…、やっぱりそこが気になるよな。聖戦士なんざ、そこら辺にゴロゴロいるわけじゃないからな。俺が逆の立場なら、同じように気になると思うし。…ふむ、仕方がないか。

 

先程の共鳴で聖戦士と知られてしまった。これは正体を明かすしかないか? 見た感じこのレヴィンはしつこそうだ。正体を隠そうとすれば、それを何とか知ろうと仕掛けてきそうだし。…聖戦士の血筋同士ってーのは面倒だ、トラバントにも速攻でバレたし。…とにかく、どう明かそうか考えているとパメラさんが、

 

「レヴィン王子、こちらはエシャル殿です。フュリーを保護し、ペガサス探しにも協力してくれた方です。最近国内にて、問題となっていた賊を傭兵団と協力し捕縛してくれました。」

 

「あ~…あの馬鹿は生きていたか。まぁ…、良かったってところか。それよりも賊か、…あの凶悪集団を討伐ではなく捕縛。流石は継承者…と言いたいところだが、予想以上じゃないかよ。エシャルと言ったか、お前…人間か?」

 

コイツ…失礼な奴だな。人間か? …って、そりゃあないだろ。人間だよ人間、聖戦士の血を引くお前と同じ人間だよ! …しかもコイツ、普通に継承者って言いやがったし。

 

「レヴィン王子! 流石に失礼ですよ! 恩人であるエシャル殿に…。」

 

パメラさん…、貴女良い人。

 

継承者であることはもうバレている、隠す必要はない …か。この場で明かさなければ、コイツ…レヴィンはしつこそうだし。それに今は俺とパメラさん、レヴィンしかいない。後で問われるより今の方が良い、さて………、

 

「レヴィン王子と言われましたか? 貴方は私が継承者であることを感じましたね? …感じたのであれば明かさねばなりません、…しかし私は自由人。行動の自由を認められています、故に今から明かすことは他言無用でお願いします。パメラさんもよろしいですね?」

 

俺の名は世界に知られている、詳しくは知られていないとは思うが。しかしいずれは継承者として知られていくだろう、それに俺の過去も。知りたいような知りたくないような、…でも知らずに前へは進めない。まぁ今はとにかく名乗るとしよう、トラキア王国所属の継承者であると!

 

「私の名はエシャル、トラキア王国にて将軍を拝命している者です。私は貴方と同じ聖戦士の血を引く者、魔法戦士ファラと黒騎士ヘズルの二つの血を。…その二つの血を色濃く継いだ継承者、…以後見知りおきを。」

 

優雅に一礼し、その血筋をぶっちゃける。…それに対してパメラさんは固まり、レヴィンは顔を引きつらせた。

 

やはり二つの血を色濃く引くっていうのは相当に稀有、原作のことを考えてもそんな人物はいないからな。そんなレアキャラな俺を前に、パメラさんとレヴィンはどう反応する?

 

「コノート・マンスター連合軍を壊滅させ、トラキア王国に勝利をもたらしたトラキアの英雄! 同姓同名なだけかと思いましたが、まさかトラキアの黒刃と称されるエシャル将軍ご本人だったとは…! わ…私はどうすれば良いのでしょうか…!?」

 

動いたかと思ったら、頬を上気させて狼狽え始めたパメラさん。トラキアの黒刃って、初めて聞いたんですけど! 炎の英雄じゃなかったのか! …まぁ俺の炎、メティオは隠せと言ったけど。あの戦いで俺の名が世界に広まった、…が遠くシレジアの地まで届いていようとは。これはマジで俺の名が世界中に轟いていそうだな?

 

それよりもトラバントの奴、カッコいい通り名を付けたんなら教えてくれてもいいだろ! 黒刃とかって心揺さぶるではないか!! 黙っていたトラバントに対して憤っていると、

 

「いや、トラキアの黒刃ってーのは凄いんだが…。それよりも、ファラとヘズルの方がヤバイだろ! だからあの剣舞、…そして魔法の才も持っている。美形でもあって…、やっぱりお前は人じゃねぇ! クソゥ…!!」

 

レヴィンは俺の規格外な血筋に驚きつつ、嫉妬を含んだ目で睨んできた。…何なんだよ、ホントに。

 

 

 

 

 

 

とりあえず落ち着いた二人、レヴィンは思い出すように(くう)を見詰め、

 

「…血筋で思い出したんだが、エシャルって名は他でも聞いたことがあるな。たしか…、ヴェルトマー公爵領…。」

 

それを聞いた俺は、

 

「レヴィン王子、私は過去の記憶が曖昧なのです。貴方の知ることが、私に繋がるモノかもしれない。ですが、それを知ってしまったらどうなるか? 私は保証しかねますよ? 知ったことによる弊害があったとしても、私自身も曖昧で分からないのですから。」

 

そう、レヴィン王子に返した。レヴィン王子は黙り込み、何かを考えてから、

 

「…そうだな。真実がどうなのか分からない以上、この先を知ろうとするのは危険か。…なんだか手遅れな気もするが、俺の蒔いた種だ。そこは諦めるとしよう。」

 

…それが長生きの秘訣だぜ? 好奇心が過ぎると、自身の首を絞めかねないからね。いずれ、いずれは知ることになるんだ。あの日のことを、モヤの中の曖昧な記憶がさ。つっても、知らないままかもしれないけど…。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 ~肉食女子。

ーエシャルー

 

レヴィンとのエンカウントが終了したわけなのだが、そんなことはどうでもいい! 俺の立場がどーのとかも捨て置け! 今、最も重要なのは…、

 

「パメラさん、私の肩書きは気にしないでください。旅人エシャルとして、貴女の普段通りに接して頂けたのなら嬉しい。…私もこの堅苦しい口調を元に戻します故、………ふぅ。そういうわけで、ここから普段通りの言葉遣いでいかせて貰うよ。」

 

やはり普段通りの方がやり易い、レヴィンと接してみて思ったよ。王族相手には丁寧に…と考えたが、目の前のレヴィンには必要なさそうだし。フュリーを相手にしていた時と同じ脱力系、ユルい雰囲気になった俺に対しパメラさんは、

 

「なるほど、フュリーが言っていたのはこのエシャル殿ですか。…フュリーの言うように、こちらの方が良いですね。」

 

ニコリと笑ってそう言ってくれました、あぁ…その笑顔でご飯3杯は食えますよ!

 

「その顔で実力があり、血筋も立場も良く人当たりも…だとぅっ! …黒刃のエシャル! 今日よりお前は俺の好敵手だ! いつかギャフンと言わせてやるから、首を洗って待っていろ!」

 

勝手に激昂して一方的に好敵手、ぶつぶつ言いながら出ていくレヴィンの後ろ姿を見て肩をすくめる。…本当に何なの?

 

レヴィンが出ていった後にパメラさんから色々と聞きましたよ、先ずはペガサスの件について。天馬騎士の総括はラーナ王妃とのことで、俺とペガサスのことを彼女に報告したらしい。フュリー救出からペガサス捕縛までの話、それらを聞いたラーナ王妃は、

 

「…黒刃のエシャル様ですね? …となれば、その2頭のペガサスはそのエシャル様に引き取って頂きましょう。今後のお付き合いも含めての贈り物、そういうことです。…フフフ、良き関係が築けたら言うことなしですね。」

 

と言っていたようだ。この国で俺の正体を知っているのは二人だけ、…が言わずとも俺のことを聞いただけで看破するとは。その上で俺に贈り物? …ラーナ王妃という人物は危険ですな。まぁ流石に所属だけだよな? 看破と言っても血筋までは知らないだろう。…パメラさんは大丈夫だと思うがレヴィンの奴、…母親だからってバラすんじゃないぞ? …どうにも信用ならん。

 

次にフュリーの件。彼女は無断でペガサスを探しに行ったらしく、そのことで姉に物凄く怒られたとか。その後は姉に号泣され、その姿を見て自分のしたことの重大さに気付いたとのこと。俺が拾わなかったら、まぁ確実にフュリーは死んでいたな。タフとはいえ雪の中に数時間、死因は凍死で間違いない。俺の強運に感謝しろよフュリー、そしてこれからは姉に心配させないよう行動しろ。

 

意地悪なディートバちゃんも安心したらしいね、自分が挑発した結果がこの事件? だから。まぁそれでも心配をさせたとのことで、出会い頭にフュリーの頬を伸ばしたみたい。やらかしたフュリーだがペガサスを見付けたわけだから、見習い天馬騎士の叙勲は受けられるようだ。とりあえず彼女の今後の活躍を期待しよう、頑張れポンコツ娘!

 

最後は奴等、賊達のことだね。あの潔い賊達の処遇をどうするか、…と言っても準備とかがあるから明日になるそうで。アレでも高額賞金首のようで、ヴォルツは分からんがベオウルフは喜びそうだ。全ては明日決まるってことだな、うん。これは村へ戻ってベオウルフ達に伝えねばならない、…で明日アイツ等を賊達と共にワープで連れてくる…と。なかなかに忙しいんじゃないのか? 俺。

 

 

 

 

 

 

…とりあえず、重要なことは聞いたな。…ふむ、俺がここにいる理由はもう無いな。早々に村へ戻り、明日に備えようか。

 

「それではパメラさん、俺は村へ戻りますよ。ヴォルツ達に賊の件を伝え、明日に備えようかと。集団ワープを数回しなければならない、…失敗は許されないからな。」

 

万が一の事態を起こさぬよう万全にしておかなければ、…それに誰かしらの絡みを回避したい。何処ぞに消えたレヴィンは勿論、ラーナ王妃に呼ばれるのは遠慮したい。正直どちらも面倒だ、早々に去るのが吉とみた! 故にパメラさんまた明日、笑みと共に手を振りワープを………。

 

「エシャル殿…! ちょっと…。」

 

パメラさんが何か言いたそうだが、既にワープの準備が…、

 

「お待ちください! エシャル様…!!」

 

バーン!! と誰かが調練場に勢いよく乱入、俺に向かって声をあげる。突然のことに怯む俺、そのせいで魔力が乱れてワープ失敗。…誰だ、乱入してきた奴は!

 

くっ…! まだまだだな、…この俺も。突然の大声如きで乱れるとは! 相手は声からして女性、美人だと思うが…どのような人だろうか? 怯まされたからか、自然と視線が鋭くなるのは許してくれ。…とそんな視線の先にいたのは、

 

「お待ちくださいエシャル様、私に少しだけお話をさせて下さい…!」

 

パメラさん級のシレジア美人がおりました。緑髪のロングで片目をやや隠し気味の美女、優しげな目元がパメラさんとは違う。…どことなく誰かに似ている気がするけれど気にしない! それよりも鋭くさせた視線を緩めねば、目前の美人に失礼となる。

 

流れるように自然体となり、現れた美人へ向き直り笑みを浮かべ、

 

「私に何用でしょうか? 美しき人よ。」

 

シンプルかつ素直な言葉を言う。俺的に優しい笑みを浮かべたが、…どうだ?

 

「あ…あの…! 私…貴方にお礼を言いたくて………!」

 

顔を赤くしてしどろもどろになるお姉さん、…お姉さん? 美人よりしっくりくるな。お姉さん的オーラが半端ないぞ、誰かの姉かな? それにお礼を言われるようなことをしていないが、………はて? 初対面の筈だが…、

 

「私に礼…ですか? 初対面の貴女に礼を言われるようなことをしていないと思うが…。」

 

思い出そうとしても分からない、一体何に対しての礼だろうか?

 

「あ…失礼致しました! 私は天馬騎士隊所属のマーニャと申します、その…フュリーの姉です…。」

 

最後の方は聞き取り難かったけれど、名前がマーニャさんでフュリーのお姉さんね。………お姉さん!?

 

 

 

 

 

 

フュリーの姉、そのことに衝撃を受けた。そのお陰か、消えかけている些細な原作知識が顔を出す。フュリーの姉であるマーニャ、シレジアの天馬騎士たる彼女は動乱時に戦死する…以上。…ちょこっとだけ顔を出したって感じだな、無いに等しい知識じゃないか。…ふむ、それにしてもこのままだったらマーニャさんは死んでしまうのか。まぁ俺という存在がいるから原作通りにはいかないと思うがね、…一応忘れぬように覚えておこう。そしてこれを機に、…消えかけている原作知識を思い出し記憶しよう。…暇があったら紙にもメモしとこう、うん…それがいい。

 

姉となれば…だ、お礼とはフュリーの件で間違いないだろう。たまたま助けただけだからなぁ~…、お礼を素直に受け取ってもいいのかね? …とは思いつつ、たまたまでも助けたのは事実。バカな娘でも妹は妹、身内が助かれば嬉しいのは当たり前か。

 

「天馬騎士隊のマーニャさん、…フュリーのお姉さんか。…となれば、お礼はフュリーの件になるのかな?」

 

そう聞けばマーニャさんは頷き、

 

「はい、その通りです。遅れましたが、私の妹であるフュリーを救って頂きありがとうございました。ペガサス探しにも協力して頂いたお陰で、妹も見習い天馬騎士になることが決まりました。エシャル様にはシレジア滞在中、妹共々出来る限りのことをさせて頂きます。」

 

…出来る限りのことをする? それがお礼ってこと? …何をする気か分からないけれど、

 

「…軽々しく出来る限りのことをすると言わない方がいい、お礼は言葉だけで十分だぜ?」

 

マーニャさんだけなら願ってもないことだが、…フュリーの存在が恐いので断らせて貰う。バカな娘の世話はもうしたくない、絶対やらかすと思うし。

 

そう思って断ったんだけれど、何故か凄く食い下がってくるマーニャさん。必死すぎて恐い、鬼気迫る雰囲気があるんだよね。美人だから尚のこと…、ちょいと引き気味な俺。

 

「見るに堪えないぞマーニャ! 黙って見ていれば…エシャル殿に迫りすぎだ! お前は今日、会ってばかりだろう? 何故にそこまで世話をしたがる!」

 

そんな時に割って入ってくれるパメラさん、ナイスタイミングだよ! それに俺も気になっていたことを聞いてくれたし、何故にそこまで…?

 

「…今のうちから婚活をしようかと考えまして。正直…シレジアには良い方がいません、いたとしても高齢でしょう? ならば他国の方しかありません、更に言うなら旅人でも良いのです。いえ…旅人の方が良いでしょう、既成事実を作りシレジアに永住して貰うのです。そうすれば私は安泰、何の憂いもなくシレジアで生活出来るというもの。」

 

とマーニャさんがドヤ顔で語る。それに対してパメラさんが頷きながらも、

 

「…そうか、婚活ならば仕方がない。先のことを真剣に考えているとは、マーニャは相変わらず真面目だな。しかしがっつき過ぎるのは良くないと思うぞ? 相手のことも考えなければ…。」

 

と苦言を言うが、

 

「何と悠長な、…そんなことを言っている余裕はありませんよ! ただでさえ私とパメラは、男性以上に優秀、女性であるのが惜しいと言われているのです。現にシレジア男性の方々は私達を畏怖する、故に国内で恋人や伴侶を探すのは至難の技。ならば、機会がある時に押さないでいつ押すのです?

 

フュリーの話によると、エシャル様はかなりの実力を持っているようですね? そのような実力者の方と出会うことなど、早々あるものではありません。積極的に自分を売り込んでいかなければ、高齢の方の愛人か、生涯独り身は確実。私は愛人になるのは嫌ですし、勿論独り淋しく死ぬのはもっと嫌です。私が独り身でフュリーが夫持ち…、そんな未来を想像するだけで私は………!!」

 

未来を想像して絶望するマーニャさん、飛躍し過ぎなのでは?

 

「…マーニャ、お前の言うことは尤もだ。…確かにエシャル殿は、二人といない程のお方だ。…ふむ。」

 

そんなマーニャさんに共感してしまったパメラさん、彼女の視線が俺を捉える。何だか雲行きが怪しくなってきた、身の危険を感じるのは気のせいか? いや…気のせいではない、俺は少しずつ二人から離れていく。

 

…………!?

 

パメラさんに続きマーニャさんも俺を捉えた、所謂ロックオン! …ってヤツ。

 

「「申し訳ありませんエシャル様(殿)、少々よろしいでしょうか…?」」

 

俺は美女に弱い、…がここで留まり話をしてしまったら? そう考えた瞬間、俺は反射的にワープをしてしまう。

 

すまぬ、マーニャさんにパメラさん。俺はまだ…身を固めることは考えてない、それに…ディアドラの笑顔がチラついてしまったわけなのだよ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。