地下アイドル4年目の私のファンは、4ヶ月のトップアイドル夢見りあむ (しゃけ式)
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地下アイドル4年目の私のファンは、4ヶ月のトップアイドル夢見りあむ

 ──今日346プロのプロデューサーが見に来てるらしいよ!

 

 

 それは少しかび臭い控え室での誰かの発言。いつもは本番が近付くにつれて静かに緊張していくのに、私を含めた地下アイドル達はそれだけで一気にざわざわと色めき立った。

 

 

「頑張ろうね、あんちゃん!」

「そうだね」

 

 

 あんちゃんと呼ばれたのは私。“杏奈”の名前で売れない地下アイドルをやっている。歳は22で、高校を卒業してからかれこれ4年。いまだ芽が出る気配はないけど、最近やっと固定ファンもついてきた。

 

 

 そんな時にこんな話。もしかしたら私もアイドルとして大きく羽ばたけるかも? なんて淡い希望を抱いた。

 

 

 まあ、エゴサしたらよく地味とか特徴が無いとか言われてるけど。言いたいやつには言わせたら良い。それよりも私はファンを大事にしたいし。

 

 

 横目でチラッと同業者(アイドル)を見る。パフでぱたぱたと頬を叩いてるのは、みーちゃんの名前で地下アイドルをしてる女の子。年齢は確か私より一つ下。巻いた髪を機嫌良さそうに指でくるくる弄っていた。

 

 

「やっば346プロとかマジー? どうしよスカウトとかされたら困っちゃうなー!」

「物販の列とかいっつもみーちゃんのとこ大盛況だもんね! もしかしたらワンチャンあるよ!」

「えー、私今の事務所にお世話になってるのにどうしよっかなー?」

 

 

 ……アンタはチェキでファンにべたべた触るから人気なだけでしょ。顔も二流で歌は三流、なのに売れてる理由なんてそれしかない。

 

 

 まあ、私は私のやれることをするだけ。アイドルはステージに立って初めてアイドルになるんだ。

 

 

 私は鏡を見てパンと両頬を叩き、静かに自分の番を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待つこと30分、ついに私の出番がやってくる。私は暗い中キラキラ輝くステージに立つと、いつも通り簡単な自己紹介をして、ペコリと一礼してからまずはカバーソングを歌い出した。

 

 

 テレビなんて一度も出たことの無い私に与えられたオリジナル曲はたった一曲。だけど一人につき15分与えられるため、ステージからのお客様との絡みを含めても二曲歌わなければならない。

 

 

 歌う曲は、あのトップアイドルの一員である本田未央のソロ曲、ミツボシ☆☆★。地味な私がその曲を歌う理由は少しでも目立つため。私もあんな風に輝きたいから。

 

 

 ちなみに本田未央は丁度346プロ所属のアイドル。もしかしたら(くだん)のプロデューサーの目にも留まるかも、なんてドキドキするや。

 

 

「ミツボシ☆☆★→パって弾けて飛び乗って流星♪」

「「「流星!」」」

 

 

 ビリビリと伝わってくるお客さんのコール。嬉しくなって思わずふふっと笑いそうになった。

 

 

 うん、今日の歌の感じはいつになく良い。お客さんもいつも以上に乗ってくれてるし、もしかしたら本当に346プロのプロデューサーの目に留まるかもしれない。そう思うと何だかどんどん上手くなっていく気がして、ファンもまた盛り上がってきてるような錯覚を覚えた。

 

 

 ファンと言えば、私には一人とても目立つ固定ファンがいる。大体真ん中から後ろの列で背伸びをしながら見てくれる、髪の毛がピンクで小さくて胸が大きい女の子。

 

 

 名前は夢見りあむっていうらしい。本人は本名って言ってたけど本当のところはわからない。だって凄い名前だし。

 

 

 そんな私の大ファンは、いつもコールには参加しないで。

 

 

「うっ……うぅっ……あんちゃんマジ天使……!」

 

 

 彼女は涙ぐみながらペンライトを振ってくれる。いつもありがとうね。自分だってアイドルかそれ以上に可愛いのにこんな私を推してくれて。良くも悪くも正直だからTwitterで炎上してるのも見かけたりするけど、それでも根本はアイドルに対して真摯に向き合ってるせい。

 

 

 ミツボシ☆☆★を歌い終わり、余韻に浸る中客席を見渡して改めて346プロのプロデューサーっぽい人を探す。

 

 

 後ろでスーツを着て腕組みをしてるあの人かな。私が歌ってる時も乗ってる雰囲気はなくて、何だか品定めをしているような目で見てた。多分、あの人がそう。

 

 

「じゃあ次の曲、行くよー!」

 

 

 私は目立てるように大きな声でお客さんに呼びかける。みんなはわぁって言ってくれる。

 

 

 スーツの男の人は、やっぱり乗っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、私達地下アイドルは誰もスカウトされなかった。

 

 

 全員のステージが終わって物販、それも終わってももしかしたらとみんな控え室に残っていたけど、誰かが尋ねてくる気配は一向に無い。

 

 

「……来ないのなら、帰ろっと」

 

 

 みーちゃんはつまらなさそうに呟く。周りの女の子達も後を追うようにその場を去り、残ったのは諦めの悪い私だけ。

 

 

 今日は行けたと思ったんだけどなぁ……。世の中はそんなに甘くないか。4年も頑張ってるんだ。これくらいはなんてことないよ。

 

 

 埒が明かないしそろそろ私も帰ろう。私はバッグを持って控え室を出ていく。

 

 

「っと、誰かいる……?」

 

 

 古臭い蛍光灯が照らす廊下の先、曲がったところから声がした。片方は男の人の声で、もう片方は……これはりあむちゃんの声? 炎上がついにリアルでの喧嘩にまで発展しちゃったとか? もしそうなら警備員を呼んでこなきゃ。

 

 

 

 

 

 ──そんな私の心配は、耳を疑うような発言で切り裂かれた。

 

 

 

 

 

「夢見りあむ、346プロのアイドルになってみないか?」

 

 

 それは私が今日一番欲しかった言葉。廊下を歩いてこっそり二人を覗くと、片方はやっぱりりあむちゃんで、もう片方はあのスーツの男だった。

 

 

「ぼくがアイドル? え、何意味わかんないどゆこと? アイドルは尊いものなのにぼくみたいなクズがなったら蒸発してしまうって知ってる? もしかしてドルオタ初心者?」

「俺はこういう者だ」

「うげっ、名刺とか初めて貰った……ってうええ!? 346プロってマ!? 何これ偽物!?」

「正真正銘本物のプロデューサーだよ」

 

 

 ……りあむちゃんが、アイドル? 何で?

 

 

 そりゃ可愛いし胸も大きいし、インパクトは凄いよ? でもりあむちゃんはただのファンじゃん。

 

 

 ステージで頑張ってる私よりも、泣きながらペンライトを振ってただけのりあむちゃんの方がアイドルだったって言うの?

 

 

「……意味わかんないよ。何それ」

 

 

 私はボソリと呟く。誰にも聞かれることの無い嫉妬は空気に溶けた。

 

 

 音を立てないように廊下を抜ける。

 

 

 切れかけの蛍光灯が何故だかやけに目についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから4ヶ月、りあむちゃんはライブに現れなくなった。

 

 

 Twitterは相変わらず愚痴垢に成り果ててるけど、その内容は何だか無理やりスポーツをやらされてるような物ばかりになってる。やれ身体を動かすと次の日動けないやらやれ声を出すと周りの声の可愛さも相まって死にそうになるやら、よくわからないことばかり。

 

 

 そう言えば、アイドルにはなったのかな。346プロのホームページは怖くて見てないけど、なってたとしたらレッスンでもしてるのかもね。

 

 

 私は今日もかび臭い控え室にいる。地下アイドルはこうして何度も顔を見せなきゃファンの火は灯し続けられないし、そもそも食べることさえままならない。バイトだってしてるんだけど。

 

 

 私の隣にはみーちゃんがいる。今日は取り巻きのアイドルがいないせいで一人ずっとスマホを弄っていた。

 

 

「……あれ? 何かこの人見たことある気がする」

 

 

 みーちゃんがふと声を漏らす。無視されるのも可哀想だし、私が反応してあげよう。

 

 

「どうしたの?」

「ん、いや何かこの選挙の人がさ……」

「選挙? 芸能人が出馬したーとか?」

「ああごめん、違くて。346プロがやってるやつ」

 

 

 ああ、と言いたいことを理解した。私もその存在は一応アイドルだから知ってる。

 

 

 シンデレラガール総選挙。190人を超える346プロのアイドル達による人気投票だ。これの一位に選ばれた人はシンデレラガールと呼ばれ、名実共にトップアイドルとして認められる。

 

 

 過去に選ばれたのは歌姫の名前を欲しいままにする高垣楓や今最も有名なアイドルユニット“ニュージェネレーションズ”の島村卯月や渋谷凛など、そうそうたる顔ぶれだ。

 

 

「今回は誰がシンデレラガールになったの?」

「えっと、本田未央って子。確かあんちゃんが歌ってるカバーのオリジナルの子だっけ」

「え、本当! やっぱり凄いなぁ」

「……じゃなくて! ほらこの、三位の子!」

「三位?」

 

 

 私はみーちゃんのスマホを横から覗く。二位は北条加蓮。前回の二位と三位がそのまま一つ上に繰り上がった感じだね。

 

 

 そして次の名前を見て、私は思わず絶句した。

 

 

 

 三位 夢見りあむ

 

 

 

 ……は?

 

 

「ごめん、これドッキリとかじゃないよね」

「そんなんされるほど私ら有名じゃないでしょー?」

「あはは、うん。そうだね」

「どうしたの? やっぱこの人のこと知ってる? 私絶対見たことあるんだよねー」

「……ほら、前によくライブに来てくれてた子。背が低くて胸が大きいピンク髪」

「……ああ! いたねそんな子! ってかええ!? この子アイドルだったの!?」

 

 

 

 みーちゃんは目を丸くてスマホを覗き込む。それはやっぱり見れば見るほどりあむちゃんだ。

 

 

 正直なところ、衝撃が大きすぎて逆に冷静になってきた。結局りあむちゃんはあれから346プロのスカウトを受けて、四ヶ月レッスンをして、それで──

 

 

 

 

 

 ──それで総選挙で、いきなり三位になったの?

 

 

 

 

 

 じゃあ私がやってきた努力は? 四年間もフリーターをしながらアイドルをしてる意味は?

 

 

 “才能”の一言で片付けられちゃうの?

 

 

 

「……ごめん、それもう見せないで」

「え? でもこの子確かあんちゃんの固定ファンで……」

「良いから!!!」

 

 

 私の怒声が控え室全体に響きわたる。別のところで話していた人達もビックリして口をつぐみ、一気に声がしなくなった。シンとした無言が耳に痛い。

 

 

「……そんなに怒ることないじゃん。意味わかんない」

 

 

 そんな恨み言のフォローすら私はせず、耐えきれなくなって控え室を飛び出す。

 

 

 りあむちゃんがアイドルになったのはいい。それが346プロっていうのもまだいい。本当はめちゃくちゃ羨ましいし、嫉妬がないなんて言えば完璧に嘘になるけど。

 

 

 でも総選挙三位っていうのは何? あの子新人じゃないの? 以前の総選挙でもそんな規格外の人はいなかったでしょ?

 

 

 それとも、りあむちゃんはそういう前代未聞の天才ってわけ? 凡人の私には理解出来ないような、そういう存在なわけ?

 

 

 ……なんか、バカらしくなっちゃったなぁ。才能のある人がやればたった4ヶ月でトップアイドルの一員になれてしまうんだね。

 

 

 それは間違っても、4年でまだ地下アイドルをしてる私なんかではなくて。

 

 

 その日、私は初めてステージを休んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バイトをしては家で寝る生活が、それから1ヶ月続いた。アイドルのレッスンは一度もしてなくて、何ならステージにすら立っていない。事務所には体調が悪いで押し通してるけど、それもそろそろ限界そう。

 

 

 このままだとやめるんだろうな、アイドル。

 

 

 あれだけありがたかったファンも、あれだけ輝いて見えたステージも、あれだけ憧れたアイドルも、今の私には全てくすんで見える。

 

 

 今もこうしてあてもなく表参道を歩いてるけど、何かをする予定はない。ただ身体を動かさなきゃと謎の強迫観念に襲われただけだ。

 

 

「……はぁ」

 

 

 溜め息。その音を聞くとさらに気が落ちる。幸せが逃げるっていうのはこういう負のスパイラルのせいなのかもね。

 

 

 もう家に帰ろう。そう思って来た道を折り返すと、帽子を深く被った一人の女の子がスマホを見てはうんうんと唸っていた。

 

 

 帽子にマスクとまるで芸能人みたいな格好。女の子とわかったのは服装と起伏のついた良いスタイルが理由。

 

 

 それと、何でか変に引き寄せられる。ほっとけない空気というか、ずっと見ていたくなる雰囲気というか。

 

 

 気付けば私は声をかけていた。

 

 

「あの、何か困りごとですか? 道なら私が案内しますよ」

「えっ?」

 

 

 話しかけられるとは思っていなかったのだろう。パッと顔を上げると、私の両目と目がバッチリあった。

 

 

 大きくて丸い目だなぁ。スタイルも良くて目も可愛いなんて最強じゃん。羨ましい。

 

 

「……おや? お姉さんの顔、何かどこかで……」

「もしかして見てくれたことあるのかな。私実はアイドルやって……、やってたんだ」

「……あー!!! あんちゃん! あんちゃんですよね!? 友達からめっちゃ推されたんですよー!」

 

 

 わ、本当に知ってくれてるんだ。何かこういうの嬉しいかも。暗かった気分が何か晴れた気分。

 

 

「ふふ、ありがとね。知ってもらえてて本当に嬉しいよ」

「いえいえ! 私もその気持ち分かりますんで! こういうの良いですよねー!」

 

 

 気持ちが分かる? てことはやっぱりこの人芸能人なのかな。帽子にマスクなんて結構わかりやすい見た目してたし。

 

 

「あれですよね、いつもミツボシ☆☆★を歌ってくれるっていう!」

「あ、うん。カバーはいつもそう……、え? 歌って()()()?」

「はい!」

 

 

 その子はにっこり笑って答えてくれる。

 

 

 そして周りを一瞬見て人が見てないことを確認すると、すっとマスクを外した。

 

 

 その顔は私もよく知る、というかテレビを見ていたら大体の人は知ってる──

 

 

「ほっ本田未央!? う、うそ!?」

「しーっ! あんちゃんさん声大きいですって! バレたら囲まれちゃいますよ!」

「え? え? な、何で?」

「そうだ、とりあえずお茶しましょ! 私まだ待ち合わせまで時間あるので! あんちゃんさんは大丈夫ですか?」

「あ、えと、大丈夫、だけど」

「じゃあじゃあ、レッツゴー!」

 

 

 本田未央……、本田未央ちゃんはまたマスクを着けると私の手をとって歩き出す。いまだに状況を飲み込めない私は連れられるがまま、本田未央ちゃんの後ろを歩いていった。

 

 

 

 

 

 着いた先は木造のシックなカフェ。原材料そのままの木の茶色が雰囲気を醸しており、隠れ家みたいな印象を覚える。

 

 本田未央ちゃんにはもっとタピオカーみたいなイメージがあったから、結構意外かも。

 

 

「ここって実は結構アイドル来てるんですよ! あーちゃんとかちえりんとか!」

「そうなんだ……」

 

 

 息をするように人気アイドルの名前が出てくる。あーちゃんは高森藍子ちゃんでちえりんは緒方智絵里ちゃんだったよね。

 

 

 本田未央ちゃんはどうやらマスターに顔が利くようで、下の階も席が空いてるにも関わらず上に通してくれた。

 

 

 備え付けの椅子に腰を下ろし、机を挟んで向かい合う。適当にオリジナルコーヒーを頼むと、本田未央ちゃんは帽子とマスクを鬱陶しそうに外した。

 

 

「いやー、やっぱり素顔は出していきたいものですなぁ! すっきりすっきり!」

「あはは……、そうかもね……」

「あ、そうそう私言おうと思ってたんです! いつもミツボシ☆☆★を歌ってくれてありがとうございます、あんちゃんさん!」

「へ、う、うん。こちらこそ歌わせてくれてありがとう。人気に便乗してごめんね」

「いーえー! 私なんてまだまだなんで!」

「そんなことないって。総選挙一位おめでとう」

「えへへ、ありがとうございます! あれは嬉しかったなぁ」

 

 

 本田未央ちゃんは思い出すように天井を見上げる。ゴールデンの時間に放送された総選挙の様子はりあむちゃんの件を知ってから動画サイトで見たけど、一位に選ばれた時本田未央ちゃんは確か泣いてたっけ。最後に同じニュージェネの島村卯月ちゃんと渋谷凛ちゃんに抱きついてみんなで笑いあっていたのを覚えている。

 

 

 コーヒーがそっと机に置かれると、店員さんはそそくさと一階へ戻って行った。多分気を使ってくれたのだろう。

 

 

「そう言えばさ、本田未央ちゃん」

「未央で良いですよー!」

「じゃあ、未央ちゃん。何で私のことを知ってたの? 友達から聞いたって言ってたけど……」

「ああ、それ実はりあむんから聞いたんですよね! ほら、今回三位だった夢見りあむさん。何度もライブに行ったーとか尊いとかめっちゃ聞きました!」

 

 

 思いがけないところで名前を聞いて、胸がチクリと痛む。

 

 

 りあむちゃん、未央ちゃんと知り合いなんだね。そりゃ同じ事務所で同じアイドルだったら関わりもありそうなものだけど、今ので何だか完全に別世界の人間だって思えてしまった。

 

 

「二人は仲良いの?」

「仲良いというか、私達今一緒にレッスンしてるんですよね! 今度のドームツアーで歌う新曲なんですけど、総選挙の一位から五位までのアイドルでユニットを組んでるんです!」

「ドームツアーかぁ」

 

 

 アイドルとしての私には縁のない話だ。りあむちゃんはもうドームデビュー。また嫌な私が顔を覗かせる。

 

 

「……やっぱり、私みたいな凡人とは違うんだね」

「あんちゃんさん?」

「今回シンデレラガールに選ばれた未央ちゃんは当然で、りあむちゃんもアイドルになってからもうドームで歌えるトップアイドルになってる。4年もやって地下アイドルのままの私はゴミみたいなものだよ」

 

 

 相手と比較する自虐は一番醜い。わかってはいるんだけど、この口が止まらない。

 

 

 だってしょうがないでしょ。凡人では辿り着けない領域を目の前で見せつけられてさ。それがどれだけ羨ましいことか。

 

 

「本当、嫌になるよ」

「あんちゃんさんの気持ち、私わかりますよ」

「……何言ってんの? わかるわけないでしょ?」

「わかりますよ」

 

 

 たった一言で頭に血が上った私は七個も下の女の子に喧嘩腰になる。でもたとえ相手が子どもでも、簡単にこの気持ちがわかるなんて言ってほしくない。

 

 

 

 

 

 本田未央(トップアイドル)なんかに、わかるはずがない。

 

 

 

 

 

「ほら私、ニュージェネじゃないですか」

「そうだね。日本で知らない人の方が少数派なくらい大人気な、ナンバーワンアイドルユニット」

「自覚はあります。今日もこれ一ヶ月半ぶりに貰えたお休みですし」

「……凄いね」

「嫌味に聞こえてたらごめんなさい。でもあんちゃんさん、もしあんちゃんさんが私だったらって考えてみてもらって良いですか?」

「トップアイドルの景色はさぞ綺麗なんだろうね」

「ずっと隣に本物のトップアイドルがいて、それを毎回仕事の場で見せつけられるんです」

「っ」

 

 

 思わず言葉を詰まらせる。未央ちゃんの隣には、もちろん島村卯月ちゃんと渋谷凛ちゃんがいるのだ。

 

 

 二人ともシンデレラガール総選挙でシンデレラガールに選ばれた、トップアイドル。

 

 

「今回で初めて私はシンデレラガールになれました。だけどそれまではシンデレラガールじゃなかったんです」

「……」

「しぶりんは歌が本当に上手なんです。オーラもあるしスタイルも良い。あれで実際コメント力もある。同い歳とは思えませんよ」

「……うん」

「しまむーは何が凄いってアイドルなんですよ。歌もダンスも勿論上手いんですけど飛び抜けてはなくて、バラエティでもよくわかんないことも言ったりする。それでもファンが応援するんです。あんなにアイドルに向いてる人は、しまむーしか知らないです」

 

 

 未央ちゃんは訥々と語る。その顔は穏やかだけど、痛みをこらえているような気がした。

 

 

 ……違うかな。痛みを思い出しているように見えた。

 

 

「そんな中私はお荷物だって言われることも少なくなかったですし、実際私が抜けた方が上手く回るんじゃないかって考えたこともあります」

「そんなこと」

「いえ、逃げです。……だから私は、二人に並ぶナンバーワンじゃなくて二人も照らせるオンリーワンに、太陽になろうと思ったんです!」

「……ん? 太陽?」

「はい! それの結果は見ての通り、シンデレラガールです!」

 

 

 さっきまでの真面目な顔はどこへやら、笑顔で自慢する未央ちゃん。その様子はどこからどう見てもアイドルのそれだった。

 

 

「ズバリ! あんちゃんさんは今未央ちゃんと同じ状況になってると見た!」

「いや、同じではないよ。私はトップどころか地下アイドルだし」

「りあむんに対して、嫉妬してるでしょ? 私もあんな風になれたらなぁなんて思ってるでしょ!?」

「ちょ、近い近い」

 

 

 バンとテーブルを叩いて未央ちゃんは身を乗り出す。私は肩をぐいっと押して席へ戻す。

 

 

「……まあ、嫉妬がないとは言えないけど」

「ですよね! じゃあ次出会った時はそれをぶちまけちゃいましょう!」

「でももうりあむちゃんはステージに来ないし」

「あー……、確かにりあむん最近はレッスン漬けだからなぁ。初心者だから他の何倍も努力しなきゃって言って自分からお願いしてるっぽいけど」

 

 

 あのりあむちゃんがそんなことを。聞いて直後は驚いたけど、すぐに私は思い直す。

 

 

 あの子のアイドルへの情熱は誰よりも本物だったじゃないか。もしそんな人がアイドルになったらどうなるかなんて、想像に難くない。

 

 

 コツコツと靴の鳴る音がする。誰かが階段を上がってくる音。

 

 

 今未央ちゃんは帽子とマスクを外してるから変装してないし、もしかしたら騒ぎになってしまうかも。

 

 

 そう思ったけど、その心配は杞憂で。

 

 

 ()()が入ってきた途端、シックな喫茶店がまるでステージのように輝いた。

 

 

「未央。やっぱりここにいた」

「ダメですよ未央ちゃん! いつものとこなんて言われてもどこかわからないじゃないですか!」

 

 

 髪の一本までさらさらなロングのストレートでモデルのようなスタイルの女の子と、どこにでもいるように見えてその可愛いところだけを抽出したような女の子。

 

 

 渋谷凛と島村卯月。目の前の未央ちゃんのユニットメンバーだ。

 

 

「しまむーにしぶりん! 来てくれると思ったよー!」

「もう、今度はちゃんと場所を言ってよ。……えっと、そこの人は?」

「さっき偶然出会ったんだー! りあむんがめちゃ推ししてるアイドルの人!」

「アイドルなんですか!」

 

 

 その言葉に目をキラキラと輝かせて私を見るのは島村卯月ちゃん。自分もアイドルだってこと忘れてるのかな……?

 

 

「未央が迷惑を掛けてすみません。……えっと、あんちゃんさん?」

「ほら、未央ちゃんも謝って!」

「えへへ、ごめんなさい!」

「えっと、その。むしろこっちが相談に乗ってもらったっていうか……」

 

 

 ニュージェネレーションズ全員を前にして私はみっともなく萎縮してしまう。何個も歳下なのに、纏うオーラがまるで別世界のそれだ。

 

 

 未央ちゃんは嬉しそうに二人と腕を組んで、私に笑いかけてくれる。

 

 

「じゃああんちゃんさん、私はこの辺で失礼します! 話を聞いてくれてありがとうございました!」

「あ、うん。こっちこそありがとうね」

「いえいえ! ……そうだ! じゃあまた今度私のわがままを聞いてもらうために、ここのお代は私が出しておきますね!」

「あはは、何それ」

「ではではー! さ、行くよっしまむーしぶりん!」

 

 

 未央ちゃんは手を二人の腕をぐいぐいと引っ張って階下へ降りていった。

 

 

 仲が良さそうで何よりだ。ていうか本当に仲良いんだね。ビジネスライクとかそういうのじゃなく。

 

 

 少しして下からわっと大きな声が聞こえてくる。何だろうと思ったけど、なんてことはない。すぐに答えは浮かんできた。

 

 

「三人とも、下に降りる時変装してなかったしなぁ……」

 

 

 これはこのお店を出るのはもう少し後になりそうだ。私はすっかり冷めたコーヒーをゴクリと喉へ流し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い中沢山のライトが私を照らす。あまりの数に少し暑ささえ感じた。

 

 

「では聴いてください、ミツボシ☆☆★!」

 

 

 私の声にファンのみんなは大きな声で応えてくれる。つられて私のパフォーマンスも芯が通る気がした。

 

 

 未央ちゃんとの一件の後、私は1ヶ月もサボって申し訳ありませんでしたと事務所に謝った。幸い特にお咎めはなさそうで、今日はこうして復帰ライブとして出させてもらっている。

 

 

 久しぶりにあの控え室に顔を出すと、開口一番にりあむちゃんの結果を教えてきたみーちゃんが謝ってきた。彼女も彼女で罪悪感を覚えていたようで、私はむしろそのことに対して胸を痛ませながらこっちもごめんと応えた。

 

 

 ちょっと調子に乗るところとかファンを下に見たりすることがあるとはいえ、実際は良い子なんだよね。私が抱きしめてあげるとみーちゃんは安心したのか泣き出してしまった。

 

 

「ミツボシ☆☆★→パって弾けて飛び乗って流星♪」

「「「流星!」」」

 

 

 いつものコール。あの日と違うのは、後ろから仏頂面で見ていた346プロのプロデューサーがいないこと。

 

 

 私は私のペースで頑張っていく。そう決めた。たとえ大手プロダクションに選ばれなかったとしても、私はここからもっと人に応援されるようなアイドルになってやるんだから。

 

 

 久々だからか会場のボルテージがどんどん上がっていく。

 

 

 その後のオリジナル曲は、4年間やってきた中で一番上手く出来た気がした。

 

 

 

 

 

 私のステージが終わり、そのまま何事も無く今日のライブが終わる。かび臭い控え室は疲れた顔の地下アイドル達が思い思いに話しており、まだ誰も帰っていない。

 

 

「お疲れ、あんちゃん」

「みーちゃん。お疲れ様」

 

 

 声をかけてきたのはみーちゃん。裏からモニターで見ていた限りでは、みーちゃんもいつもより調子が良かったように感じた。

 

 

 私の影響でステージも頑張りだしたって考えるのは、ちょっと傲慢かな。なんて。

 

 

 コンコンと控え室にノックが響く。みんなは会話を続けながら、それでも視線だけはドアへと向いた。

 

 

 顔を覗かせたのはいつもの警備員さんで、だけどいつもより少し緊張した様子。何かあったのかな。

 

 

「あの、あんちゃんって方はまだ残ってますか?」

「? あんちゃんは私ですけど……」

「良かった。まだ残っているらしいですよ」

 

 

 振り返って控え室の外にいる人にそう伝える。誰かが訪ねてきたんだろうけど、事前には何も聞いていない。

 

 

 もしかしたら今日は本当に引き抜き? ありもしない想像を膨らませる。

 

 

 外からは二人の女の子の声が聞こえてきた。どっちもどこかで聞いたことがあるような、でもすぐには浮かばないような。

 

 

「ほらほら、早く行くよ!」

「えっちょ待っ、ぼくマジ無理だって死んじゃう死んじゃう。物販でもないのに推しと会うとか輪廻外れて無になるって。輪廻って何か知らないけど」

「良いから!」

「うわぁっ!?」

 

 

 控え室に飛び込んで来たのは、目立つパステルピンクの髪にパステルブルーのインナーカラーを入れた小くて胸だけ大きい女の子と、テレビで見ない日は無いほど有名すぎる女の子。

 

 

 彼女達を見て声を上げたのは、私よりも先に地下アイドルの誰かだった。

 

 

「え、本田未央!? 嘘!?」

「え!? 何でこんなところに!?」

「えへへ、お疲れのところすみません! りあむんがどぉぉぉしてもあんちゃんさんに会いたいって言うので連れてきました!」

「ぼくそんなこと言ってないよ!? これもう完全に厄介オタクの押しかけストーカーファンだよね!? ぼくお縄!?」

「同じアイドルなんだしノーカンノーカン! あんちゃんさん、お久しぶりですっ!」

 

 

 花が咲くような明るい笑顔で未央ちゃんは挨拶をする。隣のりあむちゃんはおろおろと狼狽えていた。

 

 

「先月ぶりだね、久しぶり」

「ステージは最後の方しか見れなかったんですけど、私めっちゃテンション上がりました! 流石アイドルって感じです!」

「あはは、トップアイドルに言われてもなぁ……」

「りあむんなんて見た瞬間号泣してたんですから!」

「は、恥ずかしいからやめろし! 半年くらい来れてなかったからそうなるのも当たり前だから!」

「りあむちゃんもありがとね」

「はうぅっ!? ……うぅ……もう死んでも良い……アイドルやってて良かった……Pサマやるじゃん……」

 

 

 りあむちゃんはいつもの様子でによによする。こんなファンが居てくれて、私は幸せだなぁ。

 

 

「あ、そうそうあんちゃんさん! 前の約束、覚えてますか?」

「え? 約束?」

「コーヒーを奢る代わりに私のわがままを聞いてくださいってやつです!」

「あー、そんなこと言ってたっけ……」

「ということでズバリ! りあむんに思ってることをぶっちゃけちゃいましょう! りあむん、心の準備は良い?」

「うへぇ!? な……何言われるのかな……。物販の時気持ち悪いとか早口気持ち悪いとか、髪の毛ガンギマリ過ぎてクスリ疑ってるとかかな……やむ……そんなん言われたらぼく絶対やむ……ちなみにクスリはやってないです……うぅ……」

 

 

 思いつく限りの罵詈雑言をペラペラと口にするりあむちゃんだけど、私が今言おうとしてることは多分そのどれよりも重い。

 

 

 ごめんね、りあむちゃん。ちょっとだけ私の自己満足に付き合って。

 

 

「……りあむちゃんさ、アイドルになったんだよね」

「え、あ、うん。何か気付いたら知らない間に……、で、でもね! ぼくなんかまだまだだしさ、あんな選挙とかもオタクの見る目が無いだけでさ! 特にぼく! ぼくを三位とかオタク共マジ頭おかしい! よ!」

「りあむん……その発言は私に刺さる……今回でシンデレラガールになった私はどんな顔して聞いたら良いの……?」

「あ、ああそうじゃなくて! 違う違う、ぼく限定! ぼくに投票した玩具で遊ぶみたいな子どもオタク共! 未央ちゃんはなって当たり前だし!」

「あははっ! だいじょぶだいじょぶ、悪気が無いのはわかってるから! でもかれんの前では言っちゃダメだよ?」

「はいぃ……肝にタトゥー入れときます……」

 

 

 何だか漫才をしてるみたいだなぁ。物販では話す時間が限られてるから知らなかったけど、りあむちゃんってこんなに面白い子だったんだ。

 

 

「続けても良い?」

「あ、ごめんなさいあんちゃんさん! お願いします!」

「それでさ、りあむちゃんって346プロ所属なんだよね」

「う、うん……。何かペンライト振ってたらスカウト来て……一発逆転みたいな……?」

「それここでのライブの日でしょ? 同じ日に私もステージに出てて、多分りあむちゃんよりも数倍アピールしてた」

 

 

 私だけじゃない、ここにいる地下アイドル全員が目に留めてもらうために頑張った。

 

 

 なのに。

 

 

「346プロのプロデューサーは、りあむちゃんを選んだ」

「ち、ちょっと乳がデカいからかな……? ほら、ぼくあんちゃんよりは大きめ……あっごめん煽りとかそんなんじゃなくて!」

「良いよ。それでも私頑張ったんだ。頑張れば大成出来る。頑張ればりあむちゃんに追いつける。……だけどりあむちゃん、総選挙で三位になるんだもん」

「あれはオタク共の悪ノリで……」

「そんなの、もう追いつけないよ。それを知った日、私は初めてステージをサボったしね」

「っ!?」

 

 

 りあむちゃんは大きな目をさらに丸くする。私がステージに力を入れているのを誰よりも理解してるのがりあむちゃんだからかな、今のは信じられなかったんだろうね。

 

 

 私が夢を諦めるには、充分すぎるほどのこと。

 

 

「嫉妬しちゃった」

 

 

 認めたくなかった事実を、改めて口にする。

 

 

 何で私じゃなくてりあむちゃんなの。何で他の人気アイドルじゃなくて新人のりあむちゃんなの。

 

 

 その場所には、どうやったら辿り着けるの。

 

 

「だけどね、りあむちゃん。私はまた頑張るよ。りあむちゃんには負けたくない。……まあ、現時点では圧倒的に負けてるんだけどね?」

「そ、そんなことない!」

「あるよ」

「ない! だってあんちゃんはアイドルはステージに立って初めてアイドルになるってことをちゃんと理解してるし、利益に直結する物販でもファンにベタベタ触らないし、それが昔からあるアイドル像の極地だし!」

「……そう言ってもらえるのは、本当にアイドル冥利に尽きるけど」

「……ぼくもね、初めは軽い気持ちでアイドルになったんだ。上手いこといったらぼくをバカにするクソオタク共とかお姉ちゃんばっかり褒める親に認めさせることが出来るかもって思ってて」

 

 

 声を震わせながら、りあむちゃんは訥々と語り出す。

 

 

 その姿はアイドルのそれではなく、ただの一人の女の子のもの。

 

 

「だけど未央ちゃん達とレッスンをしてわかったんだ。アイドルはキラキラ輝く裏でこんなにもしんどいことをしてるんだって。そう考えたら、4年間もアイドルを続けてるあんちゃんは凄いんだよ」

「……ふふ」

「それにほら、ウサミンとか! ウサミンも地下アイドル出身でしょ!? 何年も前から応援してたけど前にシンデレラガールになったし! だからあんちゃんもなれる!」

「ふふっ、ありがとね。……あー、すっきりしたなぁ。未央ちゃんもありがとう、こんな機会を作ってくれて」

「いえいえ! そろそろりあむんにも飴を与えておかなきゃレッスンから逃げるかもって思ってただけですので!」

「何それ!? ぼくクズだけどそこまで落ちぶれてはない……はず……うん……」

 

 

 尻すぼみにりあむちゃんは声を小さくする。徐々に俯いていくのはちょっとあざといけど、それも素でやってる、素でやれるんだもん。

 

 

 私なんかより何倍もアイドルに向いてるよ。りあむちゃん。

 

 

「……うん! 私の言いたいことは全部言ったよ! りあむちゃん帰る?」

「よ、用済みになったら捨てられるなう……」

「りあむんや、まだ何かあるんじゃろう? 来る前私に散々言ってたじゃないか!」

「い、いや……何か素に戻ったら図々し過ぎて言えない……的な?」

「私は言ってほしいな」

「あんちゃんが言うなら仕方ないよね! 引かないでよ!? 絶対引かないでよ!?」

「ふふ、何を言うつもりなの?」

 

 

 りあむちゃんはくどいくらいに念押ししてずいっと私の近くに寄ってくる。

 

 

「ぼ、ぼくと連絡先を交換してください! あっやっぱり嘘! ごめんなさい調子乗りました!」

「もうりあむん? あんまり卑屈だとまたかれんに怒られるよ?」

「だ……だってぼくごときが女神と連絡先交換とか恐れ多すぎて……」

「あはは、何だそんなこと?」

「そ、そんなことじゃないよ!? ドルオタにとって推しとの連絡先交換とか殺害対象になるからね!?」

 

 

 ホント、りあむちゃんは大袈裟だなぁ。何を言うのかと思ったらそんなことかぁ。

 

 

「LINEで良い?」

「う、うん! ……あ、でもぼく鬼のように面倒臭いメッセージとか送るかもだし、ウザくなったらいつでもブロックしてね。その時はやむだけだし」

「じゃあそれよりも面倒臭いメッセージを送ってあげるね。そしたらお互い様でしょ?」

 

 

 そう言って私はLINEのQRコードをスマホの画面に表示させる。

 

 

 りあむちゃんはそれを見て、何故だか泣きそうになっていた。

 

 

「ほら、ほらね未央ちゃん! あんちゃんってマジ天使なんだよ! これがアイドルだよ!」

「うんうん、流石ですなぁ! これは私も見習わないと!」

「ふふっ、一位と三位に見習われるのはプレッシャーだなぁ」

 

 

 わたわたとしながらりあむちゃんはスマホを取り出してQRコードを読み取る。

 

 

 かび臭い控え室は気付けば思い出の詰まった居心地の良い場所になっていた。

 

 

 これから地下を抜け出せるかはわからない。

 

 

 だけどそれでも、私は将来後悔しないために今を頑張るんだ。

 

 

 じゃないと、りあむちゃんに負けっぱなしだしね?

 

 

 



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