影の時を統べる、救世の王 (K氏)
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リバイブ/愚者の刻
なんやかんやで仕事が忙しい……というより家に帰ってきたらガッツリ創作をやるだけの時間の余裕がなく、プライベートではただただ怠惰に休むだけばっかりだったので、気合を入れ直して初投稿です。
そら(向いてない仕事やってミスばっかりして怒られてばっかりだったら)そう(ストレスの反動で滅茶苦茶だらけたり大腸炎になったりする)よ。
――はたして、何度この光景を見て来ただろうか。
眼前には惨状。トラックは横転、炎上。一般的な乗用車は言わずもがな。乗っている人々に関しても、何も言うまい。口にする事すら憚られる。
橋を構成するアスファルトは無残にも砕け散り、何かしらの金属の破片が飛び散り、
――否、それが単なる事故ではない事は、彼自身がよく知っている。
>……ああ。
少年は、虚ろな目を彷徨わせ、そこにいるはずの『少女』の姿を求める。
既に彼の感覚は、麻痺しきっていた。
……世界を救った? 本当に?
いつだって、そんな疑念が頭をよぎるが。
そんな疑念を頭から無理矢理おいやり、視線を巡らせ――
「おや、ここにおられましたか」
――何故か、見覚えのない男が目に入った。
「――ゅ――」
「おっと。喋るのはよした方が賢明でしょうな。
その様子では、喉をいたずらに痛めるだけでしょう」
全身群青色という異彩さで際立つその格好は――幾分か改造されているようだが――所謂司書と呼ぶに相応しい、洗練されたものと言っていいだろう。そして何より目を引くのは、男が手にした、男の格好と同様の色合いの、やけにぶ厚い本。
このナリで普通の図書館にいたならば――その整った容姿も相まって――瞬く間に有名人になる事だろう。
「さて。ようやくこうしてお会いできたのです。まずは簡潔ながら自己紹介をば。
私の名はウォズ。ご覧の通りの……語り部でございます」
>……語り部?
少年は頭にクエスチョンマークを浮かべるが、その疑問が喉から出る事はない。
「では、早速本題に。……
そう問われ、一瞬、心臓がドクリと脈打った。
「ああ。口を開く必要はありません。
>それは聞いてない。
「そうですか……得意技の一つなのですが……まぁ、いいでしょう」
何故だか妙に悲しそうな仕草をするのが、なんというか、鼻につく。
兎にも角にも、少年が
「……はぁ」
>何故か溜息を吐かれてしまった……。
「……いえ。どうも、言い方が悪かったようで。ならば、こう言い換えましょう」
――
『望み』。そう言われた少年は――思わず目を見開く。
>……何を知っている。
「この本に書かれている事であれば、全て、余すところなく、といったところでしょうか」
そうして、群青の司書は得意げにその本……『Universe Akashic Records』と題された本を掲げる。
「この本によれば、貴方は実に47回にも及ぶループを経験している……間違いありませんね?」
>……今更数えきれるか。
「おっと。それもそうですね。これは失礼をば」
そう言いながら、ウォズはわざとらしく、仰々しく頭を下げる。
「オホン。さて、貴方はそのループの中で、幾度となく世界を救われた。それも間違いありませんね?」
>……ああ。
自分で言うのもなんではあるが、しかし事実だ。少年は、
究極の自己犠牲。人身供物。それを、少年は、他ならぬ自分の身でそれを繰り返し続けた。
「それだけ確認できれば。……なるほど」
「
>……何を、言っている。
少年は眉をひそめた。
「いえ。ただ……この本には、
そこまで言われて、少年はようやく、先程のウォズの言葉の意味に気づいた。
>……待て。二股は不可抗力だ。
「二股どころではなかったとありますが」
思わず耳を塞ぎたくなったが、重傷を負った今の体を、そんな事の為に動かすのが億劫で仕方がない。
「まぁ、そんな事は些末事に過ぎません。重要なのは、
心臓がまた、ドクリと脈打つ。
「そして、その望みを叶える
……ただ一つ、契約を結びさえすれば」
また、ドクリと脈打つ。
「さすれば、貴方は己の幸せを勝ち取る事が出来る……いえ、こう言いましょうか。」
――永劫に先に進む事のない
契約。その言葉の重みは、良く知っている。ある意味で、彼は契約によって運命を縛られているのだから。
だから――その内容が、とても甘美なものに思えて。
>……分かった。結ぼう、その契約。
一瞬の間を置いて、彼は迷いなく、その提案に乗った。
本来ならば、未来で結ばれるはずだった契約を蹴り、新たな契約を選んだ。
「貴方なら、乗って下さると思っていましたよ」
群青の司書の口元が弧を描いた。
これはきっと、悪魔との契約のようなものなのだろう。そういう契約は、タチが悪いと相場が決まっている。
だが、元より少年は、死神と契約していたようなもの。なら、今更悪魔と契約したところで、大して違いはないだろう。
成熟した――あるいは摩耗しきった――少年の精神は、いとも簡単に、あっさりと、その忌避感を乗り越えてしまった。
「では――これを」
そうして、ウォズがどこからともなく取り出したのは、黒い何か。
近くで見ると、それは丁度、今の少年の握り拳ぐらいはある、懐中時計のようなものだった。
「使い方は……まぁ、貴方ならすぐ分かるでしょう」
>……初対面の筈なんだが。
何故か妙に信頼されているというか、ある程度の信用を得ているらしい。
が、この男に何故を問うたところで、どうせはぐらかされるだろうと、少年はこれまでの経験からそれを察していた。
事実、この胡散臭い司書は、ただニコニコと
だから――とりあえず、少年は心の赴くままに、その懐中時計めいた何かを手に取った。
そして、それをよく見ようと自分の方に向けると同時に、光の針が時計の表面をグルリと回った。まるで、少年が手に取った事で歯車が動き出し、時を刻みだしたたかのように。
光が一周すると、懐中時計が眩い光を放ち――黒いボディはそのままに、表面に何かが描かれだす。
察するに、何かの顔だろうか。
横向きになったその眉間には『カメン』という文字が。
その下には、『2009』という数字が刻印されている。
それは、少年にとってあまりにも縁の深い数字。
>……こいつは。
「貴方の知る仮面の力と、似て非なるもの。
貴方のそれが集合的無意識……心の海から出ずるものなら、
これなるは長き歴史から出でしものにして、仮面の戦士に纏わる歴史そのもの」
そして! と、ウォズは語気を強くする。
「――そのウォッチこそは、時を統べる王者、『ジオウ』の歴史を内包するもの!
唐突に落ち着いた様子に戻り、テンションの違いに少年は少しばかり調子を狂わされてしまう。
だが、その後に告げられた『問題』の内容を聞き――少年は納得する。
>……大体わかった。
「おや。察しがよろしい。流石は――」
>御託はいい。それで? 契約書はいらないのか?
「いえ。そのようなものは必要ありません。
貴方はただ、そのウォッチを起動するだけでいい」
そう促されるままに、少年は懐中時計……『ライドウォッチ』の上部にあるスイッチ、ライドオンスターターを押す。
『ZI-O!』
渋い男の声がウォッチから発せられ――瞬間、ウォッチから溢れ出した『影』が、少年を包み込んだ。
――普通の高校生、『常盤ソウゴ』。彼には魔王にして時の王者、『オーマジオウ』となる未来が待っていた。
――……が、これより語られるは、彼の御方の王道が語られる物語ではございません。
――言うなれば、これはそう、外伝。『影』の物語。
――とは言え、全てにおいて関係のない話ではありません。これは紛れもなく、『オーマジオウ』が抱える歴史の一部。
――さぁ、さぁ、ご覧あれ! これより始まるのは、一人の救世主が、唯の人へと成り下がる、悲劇にして喜劇の物語!
――影の王となりし救世主の未来に待つもの、それは……おっと。これから先は、未来の出来事でした。
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