BloodBorne考察手記 (宇佐木時麻)
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第一章:姿なきオドン
上位者「姿なきオドン」。
私達は彼の存在についてどれほど知っているだろうか。彼の説明が出てくるのは作中でも2種類のカレル文字だけです。
・カレル「姿なきオドン」
人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ
上位者オドンは、姿なき故に声のみの存在であり
その象徴となる秘文字は、水銀弾の上限を高める
人であるなしに関わらず、滲む血は上質の触媒であり
それこそが、姿なき上位者オドンの本質である
故にオドンは、その自覚なき信徒は秘してそれを求めるのだ
・カレル「オドンの蠢き」
人ならぬ声の表音となるカレル文字の1つ
「蠢き」とは、血の温もりに密やかな滲みを見出す様であり
狩人の昏い一面、内蔵攻撃により水銀弾を回復する
人であるなしに関わらず、滲む血は上質の触媒であり
それこそが、姿なき上位者オドンの本質である
故にオドンは、その自覚なき信徒は秘してそれを求めるのだ
これらを踏まえた上で、率直にこの考察での結論を述べます。
姿なきオドン、水銀説です。
この結論を肉付けするために順を追って説明していきたいと思います。
まず初めに、医療教会の血の医療で使っている血は何でしょうか。
・ウィレーム・ローレンスの会話
古き血を恐れよ
・教区長エミーリア
古き血を求めなさい。祈りましょう… 望みましょう… 聖体拝領することを。
・アルフレート:ビルゲンワースについて
かつてビルゲンワースに学んだ何名かが、その墓地からある聖体を持ちかえり
そして医療教会と、血の救いが生まれたのです
・右回りの変態
血の発見は、彼らに進化の夢をもたらした
・偽フカ
今度は、古い血を試すつもり
恐らくビルゲンワースが持ち帰った聖体と禁断の血は上位者の赤子メルゴーと女王ヤーナムの血でしょう。
なら血の医療で扱われているのはメルゴーの血か。しかし断言するにはまだ早いです。ビルゲンワースは医療教会設立前にもう一体上位者と遭遇しています。
そう、漁村のゴースです。
・漁村民
ビルゲンワース…ビルゲンワース…
冒涜的殺戮者…貪欲な血狂い共め…
奴らに報いを…母なるゴースの怒りを…
漁村にて上位者の痕跡があると分かるや否やビルゲンワースは漁村を襲撃しました。そこでビルゲンワースは幸運な事に上位者ゴースの遺体を得る事ができたのです。
それを踏まえた上で分類分けするならば。
聖体:メルゴー
古い血:ゴース
と分類されるようになり、結果血の医療として人々に輸血されたのはゴースの血と推測します。
ところで話は変わりますが、何故ゴースは死んでいたのでしょうか。また、ゴースの遺子の右腕の塊は何なんでしょうか。
この二つは一見関係なさそうに見えて、重要な手がかりです。
率直に言います。ゴースの死因は水銀中毒です。
海の食物連鎖の上位にある動物、寿命の長い動物に高い濃度のメチル水銀が含まれるらしいです。
それが頂点を突き抜けた存在である上位者となればどうなるか。いや、もしかしたらオドンとの死闘の上で水銀塗れになった可能性もありますが、この考察ではとりあえずゴースは水銀中毒で死亡したと仮説します。
ゴースのような軟体動物の何処にあの右腕の塊を作れるような個所があるのか。もしゴースが水銀中毒で死亡した場合、それは存在します。
即ち、あの右腕の塊は水銀が石となって出来た物だったのです。
水銀は石になると赤色となるため、ゴースの遺子の右腕は血を石に変え武器とした水銀の塊でした。
話を戻しますが、医療教会は血の医療として古い血を人々に輸血していました。
即ち、大量の水銀が混ざった血を。
ここで最初に述べたオドンの説明文には「滲む血は上質の触媒でありそれこそが、姿なき上位者オドンの本質である」とあります。
この滲む血というのが、水銀が混ざった血なのではないでしょうか。
この考察を補完する根拠はまだあります。アイテム「血の穢れ」は狩人を倒した時に得られるアイテムですが、この血、よく見ると精子に見えます。水銀塗れの血が固まり血石となるまでこのような姿をしているのならば、次に上げるオドンの子を孕む違いが更に補完されます。
オドンの子はカインハ—ストの血を宿す者です。作中でオドンに目を付けられていたのは、恐らく時計塔のマリアと娼婦アリアンナです。(偽フカは自力でカインハ—ストの血を習得したようなので例外です)
ですが、他にもカインハ—ストの血を引く者が作中にはいます。血の女王アンナリーゼです。
彼女は本命のカインハ—ストですが、オドンには目を付けられていません。アンナリーゼと2人の違いは何なのか。そう、血の医療を受けているかいないかです。
オドンは恐らく水銀を触媒とした降霊術に呼び出せる存在なのではないでしょうか。しかも体内に一定量の水銀が混ざった者限定。だからこそ白痴のロマによって儀式が秘匿されている間は儀式が隠されているので干渉することが出来ず、水銀は精子の役割を果たせず水銀のままだった
・オドンの地下墓
ビルゲンワースの蜘蛛が、あらゆる儀式を隠している
見えぬ我らの主も。ひどいことだ。頭の震えがとまらない
水銀がオドンそのものだと言うのならば、水銀塗れのゴースの血を輸血する血の医療がもはやオドンとの性行為です。血の医療を受けた時点で、姿なきオドンは目的の相手と子を作れるという事になります。
だからこそ、血の医療を受けていないアンナリーゼは最後までオドンの子を産まなかった訳です。
以上で、姿なきオドンの正体が水銀という考察となります。
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第二章:月の魔物
ローレンスたちの月の魔物。
青ざめた血。
作中のラスボスとして登場する上位者ですが、その行動と目的は謎に包まれています。
登場した時は唐突で、唖然としている間にエンディングへ突入した人は数多いと思います。
そんな月の魔物について今回は考察していきます。
先に結論を言います。月の魔物の目的は、プレイヤーの狩人を上位者狩りの上位者とする事でした。
1.獣狩りの夜の真実
そもそも、獣狩りの夜は何故発生するのか。
・旧市街
赤い月は近く、この街は獣ばかりだ。きりがない
もう何もかも手遅れ、すべてを焼くしかないのか
・ビルゲンワース
赤い月が近づくとき、人の境は曖昧となり
偉大なる上位者が現れる。そして我ら赤子を抱かん
・隠し街ヤハグル
メンシスの儀式を止めろ。さもなくば、やがて皆獣となる
狂人ども、奴らの儀式が月を呼び、そしてそれは隠されている
秘匿を破るしかない
各地のメモによると、赤い月が近づくと人の境が曖昧となって獣と成る者が大量発生するらしい。それを引き起こしているのがメンシス学派のようだ。
ならメンシス学派が毎回儀式を行い狩人達がそれを止めていたのか。答えは否だろう。
今までの獣狩りの夜は家に閉じ籠っているだけで夜が明けていた。しかし今回の獣狩りの夜は上位者の赤子メルゴーを倒すまで終わる様子を見せなかった。
そもそもの話、エンディング2「遺志を継ぐ者」では儀式のために必要な上位者の赤子を殺し、メンシス学派のリーダー格のミコラーシュさえも倒してメンシス学派を壊滅させたのにも関わらず、獣狩りの夜がまた始まっている。
即ち、今回の異例の獣狩りの夜の原因はメンシス学派だったが、今までの獣狩りの夜の原因は別にあったのだ。
ならば、誰が獣狩りの夜を引き起こしているのか。赤い月を近づけていたのか。答えは単純明快である。赤い月である月の魔物自身が近づいてきていたのだ。
自らの目的のために。
2.使者
作中において、使者と呼ばれる悪夢から滲み出した小さな亡者たちがいる。
彼らが狩人であるプレイヤーを見つけた事で、物語は始まるのだ。
彼らの行動は一貫して狩人の援助だ。アイテムを交換してくれたり、書き置きを託すこともできる。
だが、そもそもの話。彼らは「誰の」使者なのだろうか。
狩人の夢に囚われたのは使者が狩人を見つけたから。つまり使者は誰かの指示で狩人を探していたことになる。
狩人の夢に出てくる登場人物で、そのような指示を出す者。助言者であるゲールマンではなく、狩人を世話する人形でもない。
即ち、使者は「月の魔物」の使者――狩人を援助するのは月の魔物の意志となる。
月の魔物は、狩人に強くなって欲しいのだ。
3.教室棟のメモ
月の魔物に関する情報は作中ではほとんど出てこない。その中でも数少ない情報として上げられるのが、教室棟のメモである。
・教室棟
上位者狩り。上位者狩り
ローレンスたちの月の魔物。「青ざめた血」
3本の3本目
このメモを読んで、何処か違和感を覚えた人がいるのではないだろうか。
今まで各地にあったメモはメッセージのように書かれていたのにも関わらず、この月の魔物に関するメモだけ単語しか書かれていない。
まるで、無理矢理言葉にしたように。
そもそもの話、このメモを書いたのは誰なのか。教室棟は在りし日のビルゲンワースなので、ビルゲンワース関係者が残した物だろうか。
だが、このメモを残せる人物に検討が付かない。このメモを残せるのはゲールマンと月の魔物の邂逅を知り、へその緒を知り、ビルゲンワース関係者という事になる。
ローレンス本人のメモならば、自分の名前ではなく一人称で書くだろう。
ゲールマンは狩人の夢の主となったため、あの悪夢の外には出られない。
人形関係でもしミコラーシュが月の魔物との邂逅場面にいたとしても、へその緒を知っていれば脳に瞳を得るために迷わず使っていただろう。狩人の夢の元となった捨てられた古工房にへその緒が置いたままである事から、恐らくへその緒については知らないのだろう。
ならば、このメモを書き残したのは誰か。月の魔物の事を知り、且つへその緒という上位者に関する事も詳しく、ローレンスたちの事も知っている存在。
そんなものは、もはや一人しかいない。
即ち――月の魔物本人である。
このメモは、月の魔物が狩人に向けたメッセージ。
月の魔物の目的は、狩人を上位者にすることだった。
4.Moon Presence翻訳
月の魔物戦で流れるbgm「Moon Presence」ですが、ラテン語翻訳すると以下のような歌詞になるようです。
月の魔物よ お前が現れる時 悪夢が生じる
支配者よ お前が私に見える時 お前は再誕する
支配者が来る日 支配者の悪夢は生まれる
ここで大切なのは、「再誕」と「生まれる」という言葉です。
1行目の歌詞はゲールマンと月の魔物との邂逅、即ち狩人の夢が出来たことでしょう。
2行目の歌詞は月の魔物の事を言い換えているので、支配者とは上位者のことでしょう。
3行目の歌詞は生まれると書かれているので、1行目のように悪夢ではなく、悪夢のような存在が生まれると示しています。
つまり、分かりやすく直すと、
月の魔物よ 月の魔物が現れる時 悪夢が生じる
上位者(月の魔物)よ 月の魔物が狩人に見える時 月の魔物は再誕する
上位者が来る日 上位者を狩る者は生まれる
月の魔物は再誕する――上位者狩りとして。狩人として。
それが月の魔物の目的。彼がエンディング2「遺志を継ぐ者」で狩人を上位者の赤子として自らの赤子を手に入れたにも関わらず、獣狩りの夜を止めなかった理由。
全ての上位者は赤子を欲する。赤子とは継ぐモノ。月の魔物が欲したのは、自分と同一の存在。自身の生まれ変わり。
月の魔物は、上位者狩りの上位者に自分の存在を継がせるのが目的だった。
5.エンディング3「幼年期のはじまり」
月の魔物戦にて、何処か不自然さを覚えた事はないだろうか。
ラスボスというには少し弱く、所々で様子見をしたり、狩人に自身の血を吸わせているようにすら見える場面が幾つもある。
そして、エンディングで見える上位者となった狩人の姿。その色と姿を見て、つい先ほどまで戦っていた上位者を連想した者は多いはずだ。
即ち、月の魔物の事を。
何故、こうも姿が似ているのか。恐らくその原因は、月の魔物の血を吸った事だろう。
狩人はへその緒を3本使い、上位者となった。だがこの時の狩人はまだ人の形のままで、何の変化も訪れていなかった。言うなれば「無色」の上位者。
そして、それこそが月の魔物が求めていたモノだった。
上位者となれば、各々異なる力を持つ。空間を司るモノ、認識を操るモノ、夢と現実の境を曖昧にするモノ。
そうなれば、上位者といえど別の存在だ。だがもし、上位者という器だけを持ちながら何にも染まっていないモノがいるとしたら。もしその存在を己と同じに染め上げられたとしたら。
それはもはや、「再誕」と言うのではないだろうか。
6.人形
狩人が月の魔物になったという考察を補完するのに、人形が挙げられる。
そもそもの話、人形を作ったのは誰だろうか。ゲールマンか、人形師関連でミコラーシュか。
だがその結論を出す前に、悪夢の特性について聞いてほしい。
作中において、悪夢は3種類出てくる。
1つ、メンシスの悪夢。メルゴーが作り出した悪夢。
2つ、狩人の悪夢。ゴスムが作り出した悪夢。
3つ、狩人の夢。月の魔物が作り出した悪夢。
この3種類は、それぞれ曖昧にしている境界線が異なっている。
メルゴーはまだ産まれ(目覚め)ていないため、精神しか悪夢に呼べない。
ゴスムは死して尚存在しているため、生と死が曖昧となり、死者でも悪夢に呼ぶことができる。
月の魔物は夢と現実の境を曖昧にするため、精神と肉体の境が曖昧となっている。
だからこそ、メルゴーの悪夢の主となったミコラーシュの肉体はミイラと化し。
ゴスムの悪夢の主となった時計塔のマリアは死んだ後で悪夢に囚われ。
月の魔物の悪夢の主となったゲールマンはもはや現実に肉体を持たない。
さて、ここまで踏まえた上でもう一度考えて欲しい。狩人の夢に入る場合、肉体ごと悪夢の中に入る事となる。
ならば、捨てられた古工房に置いてある人形は何なのか。
もしこの仮説が正しい場合、狩人の夢に人形も入る事が出来たのならば、捨てられた古工房に人形が在ってはいけない。
即ち、古工房の人形と狩人の夢の人形は別の存在となる。
ならば、あの人形は何なのか。そもそも精神のない無機物の人形が何故精神があるのか。彼女の行動は一貫して狩人を強くすること。そのような存在が狩人の夢に他にもいたはずだ。
つまり、人形は使者と同じ月の魔物のメッセンジャー。捨てられた古工房にあった人形を元に作られた月の魔物の被造物である。
だからこそ、ゲールマンはあの人形に対し何の感情も抱いておらず、人形もまた、造物主に対して第三者のように語るのだろう。
人形の台詞抜粋
「幾人かの狩人様から、教会の話を聞きました。
神と、神の愛のお話。
でも…造物主は、被造物を愛するものでしょうか?
私は、あなた方、人に作られた人形です。
でも、あなた方は、私を愛しはしないでしょう?
逆であれば分かります。
私は、あなたを愛しています。
造物主は、被造物をそう作るものでしょう…」
この時、造物主は被造物をそう作るものでしょうと述べていますが、これは誰の思想だろうか。
ゲールマンが人形を作ったのは自らの狂熱によって後悔で自殺したマリアの子ゴスムに対する償いのため、冥婚のために用意した説が自分の中では一番濃厚だ。
子のために用意した人形に、果たして造物主であるゲールマンを愛するように作るだろうか?
だからこそ、この思想はゲールマンのモノではなく。
月の魔物の思想だったのだろう。
では、人形が月の魔物の被造物という前提でエンディング3「幼年期のはじまり」を見ると、見方が変わって来る。
上位者となった狩人を人形が抱き上げ、今まで見せたことのない微笑みを浮かべる。
もし、この時狩人が月の魔物として再誕したならば、その笑みに説明が付く。
人と上位者が作り出した存在では、造物主と被造物の関係ではない。だからこそ人形は人に対して第三者のような反応しか出来なかった。
だが狩人が月の魔物として再誕した瞬間、狩人と人形は真の意味で造物主と被造物の関係となったのだ。
だからこそ、人形は愛していると実感して笑みを浮かべたのだろう。
結論
月の魔物が獣狩りの夜を引き起こしていたのは、上位者を狩れる程の優秀な狩人を見つけるため。
そしてその狩人を上位者とし、上位者狩りの上位者に月の魔物を引き継がせること。
以上で、月の魔物の考察となります。
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改稿版:第一章:姿なきオドン
BloodBorneの世界観はゴシックとクトゥルフという二つの側面を持つ事が宮崎氏のインタビューでも明言されています。*1。
つまり本編に登場する用語だけでなくクトゥルフ視点でBloodBorneの世界を見ると、本編ではほとんど情報が無かった存在の証拠を見つける事が出来ます。
まず上げられるのが、上位者「姿なきオドン」です。
姿なきオドンは敵エネミーはキャラクターとして登場する事はなく、アイテムの説明欄にしか出てきません。
姿なきオドンとは何者なのか。作中では謎に包まれている存在ですが、クトゥルフ神話と比較するととある神に行き付きます。
その神の名前は、旧神「ノーデンス」。ラブクラフト作品に登場する架空の神であり、外なる神、旧支配者と敵対する旧神である。
ノーデンスは白髪と灰色の髭をもつ老人の姿で現れ、貝殻の形をしたチャリオットを操る、海の神のような性格を持つ神である。深い魔術の知識や威風堂々たる老人の姿からはオーディンを、白銀の義手からはヌァザを、雷を振るうという逸話からはゼウスを思わせる神であり、彼らの伝承を纏めた存在と言えるでしょう。
その証拠に、ヤーナムには彼を思わせる出来事や石像が数多くあります。
ゼウスを象徴するグリフォン、オーディンを象徴する犬の石像がヤーナム各地に建ち並び、「パンの大神」という作品ではノーデンスは普通の人々が気付かないものが見える様になった女性を強姦したことがほのめかされていて、この事が”姿なき”と呼ばれる所以であり娼婦アリアンナとの神秘的な交わりに繋がる訳です。
そして一番の鍵となるのが、ノーデンスの奉仕種族である
この仮定から「姿なきオドン」をノーデンスと仮定すると、ヤーナムとは深い関係にある「トゥメル」についても考察できます。
ノーデンスは眠りの中に居る旧支配者の封印を監視する役目を持っています。そしてこの旧支配者の眠りこそが、骨炭シリーズの説明欄で語られる上位者たちの眠りの事なのではないでしょうか。
つまり、聖杯ダンジョンに出てくる「旧主の番人」の旧主とは、ノーデンス(姿なきオドン)の事を示しているのです。
クトゥルフには神々の血を引く人間が登場するように、トゥメル人もノーデンスから血を貰い神秘を起こしていたのでしょう。
しかし、現代ではトゥメル文明は滅んでいます。旧主と呼ばれているように、トゥメルではノーデンスの次に主となった存在がいました。それは誰なのか。トゥメル遺跡最深部にいる存在、血の女王——「ヤーナムの女王」、彼女こそが現主だったのです。
彼女の正体は何なのか。彼女もまたクトゥルフ神話を調べると興味深い存在に行き付きます。
クトゥルフ神話TRPGで登場する「ニャルラトホテプ」の化身の一つ。当世の権力者に近づいて惑わし道を誤らせ、或いは自ら権力を握って国を破滅に導くとされる人物。
――赤の女王。それが血の女王のモチーフなのではないでしょうか。
血の女王が何故血を啜り、また相手に血を啜らせるのか。上位者の血を体内に含み上位者の赤子を身ごもるためであり、ノーデンスの血をニャルラトホテプの血として相手に飲ませるためだとしたら?
トゥメル時代末期、破滅の引き金は血の女王が赤子を身ごもった事でした。当時トゥメルに居た神は二柱のみ。即ちメルゴーの親は必然的にニャルラトホテプとノーデンスという事になります。
ニャルラトホテプの目的は何なのか。ニャルラトホテプはノーデンスと対立しており、ノーデンスの使命は眠りの封印を守ること。ならばニャルラトホテプの目的はその逆。
上位者の赤子の泣き声によって眠り(封印)を解く。それがニャルラトホテプの目的であり、トゥメル文明が滅んだ原因だったのです。
結論から言えば封印を完全に解く事は出来ず、一部の上位者が暴れるだけで終わります。しかし血の女王(ニャルラトホテプ)派とノーデンス派に完全に別れてしまい、当時のヤーナムの女王はトゥメル遺跡最深部に封じられ、ノーデンス派のトゥメル人達が遺跡を守護し、地上へ逃げた平民達は森で暮らすようになり、王族と一部の貴族は少し離れた小島に城を建てて住むようになりました。
この森が禁断の森であり、逃げ延びた貴族達がカインハ—ストと名乗るようになったのです。
一度ここでニャルラトホテプとノーデンスの戦争は終わりますが、ここから時代は移り古都ヤーナムを舞台とした代理戦争の幕開けとなるのです。
話が少し血族に逸れましたが、BloodBorneの根底にあるのがこの二柱の戦争だと仮定した場合、主人公の謎に説明ができます。
主人公は公式ホームページのStoryにて、「数多くの、救われぬ病み人たちが、この怪しげな医療行為を求め、長旅の末ヤーナムを訪れる 主人公もまた、そうした病み人の1人であった……」と説明されている。
公式が嘘を吐くとも思えず、しかしそれだと何故青ざめた血の事を知っているのか疑問であったが、この二柱が関わっているとすると話は別だ。
主人公はニャルラトホテプの無意識な駒としてヤーナムに導かれ、その後ノーデンスに導かれ彼の駒となり自由意志を取り戻したのだ。
主人公がヤーナムに訪れたのは治療のためであって、狩りを全うするためではない。同じよそ者のギルバートは青ざめた血について知りません。この時点でギルバートが聞いた話と主人公が聞いた話が違う事が伺えます。
主人公は恐らく、自分の病を治すにはヤーナムの血の医療、特別な血である「青ざめた血」が必要という話を聞いてヤーナムを訪れたのでしょう。血の医療に使われるのはヤーナムに普及している血で、青ざめた血の事ではありません。なら何故主人公が青ざめた血の事を知っていたのか。
それこそが彼が上位者と繋がりがある証拠であり、ノーデンスが血の医療者として介入した理由です。血の医療者は片目が包帯で覆われて隻眼の老人です。この姿からオーディンを連想しないでしょうか。
血の医療者もまた青ざめた血の事を知っていますが、上位者について医療教会で知っている人は上層部の者だけでただの血の医療者が偶然知っていたとは考え難いです。
青ざめた血には複数意味が存在します。一つ目は悪夢の儀式によって引き起こされた青ざめた血の空。悪夢の儀式とは上位者の赤子の泣き声によって上位者を呼び寄せる事。ここで大切なのはただの上位者でも上位者の赤子でもなく、泣いている上位者の赤子が必要だということだ。
即ち青ざめた血の空とは、泣いている上位者の赤子が原因で齎されるということ。
二つ目は名前です。教室棟2階のとある部屋にメモが書き残されており、そこにはこう記されています。
ここでローレンスやゲールマンに関わった月の魔物の名前が青ざめた血だという事が分かります。*2
これをニャルラトホテプの立場とノーデンスの立場から見ると、それぞれ別の意味となるのです。
ニャルラトホテプは封印を解くために上位者を
だからこそ、ノーデンスである血の医療者に出会うまではニャルラトホテプの策略で血の医療のために
ニャルラトホテプとノーデンスは対立していますが、しかし二柱には似ている部分が数多く存在します。
「未知なるカダスを夢に求めて」にてノーデンスもニャルラトホテプも共に夢と現実に介入する事ができ、本編でも滲む血がオドンの本質と言われる事から、血族と同じく血を象徴としている事が伺えます。
更に狩人の夢には使者も月の魔物も現れる事から、狩人の夢という悪夢には二柱の神が関わっていることから、目的が対立しているだけでその本質はほとんど同じなのではないでしょうか。彼らはまさしくコインの表と裏の存在なのです。
以上で、姿なきオドン=ノーデンス説の考察を終わります。
次回は「カインハ—スト」にまつわる考察をする予定です。
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