るろうに剣心~密命・羅刹討伐~ (naomi)
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1巻

「藤田長官お疲れ様です」

「また、例の殺しか」

「はい。最近の死体気味悪いですよ、ズタズタに斬られてるし、首もとなんて食いちぎられた跡なんかあるし」

「…容疑者の目的が掴めん。貴様らも用心しろよ」

「はっ」

(まさかな…)


幾多の激戦と試練ともいえる数々の困難な出来事を乗り越え、神谷薫や明神弥彦、相楽左之助らとともに『神谷道場』で和な日々を過ごすかつて『人斬り抜刀斎』と畏れられた男『緋村剣心』。

 

ある男が訪ねてきたことで不穏な空気が流れ始めた。

 

それは年が明け雪積もる睦月のある日

 

「外がやかましいでござるな、薫殿」

 

「本当ね…あの声は左之助かしら、ちょっと見てくる」

 

席を外し、様子を見に行った薫、だがだんだん薫の声しか聞こえなくなる。

 

(薫殿までどうしたのでござろうか…)

 

「ちょっと待ちなさい。まだ話してる途中でしょ」

 

「久しいな抜刀斎」

 

目の前にはあの男が立っていた。

 

「斎藤…一」

 

斎藤一。元・新選組三番隊組長

新撰組でも屈指の剣腕の持ち主で、幕末時代からの剣心の宿敵。世を蝕む悪を即座に絶つ「悪・即・斬(あく・そく・ざん)」の正義を自身の信念とする。幕末の動乱・戊辰戦争・西南戦争を戦い抜き、明治時代における新撰組の数少ない生き残りとなる。維新後は「藤田五郎」と名を改め、明治に生きる新撰組として「悪・即・斬」を貫くために警視庁に奉職。警官として勤務する裏で、政府の密偵として暗躍する。

 

「珍しいでござるな、そなたから此方に顔を見せるとは。今日はどちらの者として来たのでござるか『藤田』かそれとも…」

 

「貴様の言葉遊びに付き合う道理はない。抜刀斎これを覚えているか」

 

斎藤は小さな小瓶を剣心に投げる。

 

「…これはまさか」

 

「なんだ。この赤い液体、旨いのか剣心」

 

「触るな弥彦」

 

剣心の剣幕に思わず三人は静まり返る。

 

「どっどうしたの剣心」

 

「斎藤。これは変若水(おちみず)だな」

 

「変若水…」

 

「かつて新撰組が極秘で研究していたとされる秘薬。超人的な身体能力と治癒能力を得て心臓を貫かれたり、首を切り落とされないと死ねない怪物へと変貌させる薬だ」

 

「うぇ~おっかねー」

 

「新撰組は変若水を全て処分したのでは無かったのか」

 

「新撰組で管理していたモノはな。だが市場に出回ったモノまで俺達は見切れない」

 

「随分身勝手なんじゃないか、かつて京都を守護してた新撰組とあろう方々が」

 

「貴様は支払った金がどこへ行ったか追えるのか」

 

「いや…それは」

 

「ふん。阿呆が」

 

「それがどうかしたんですか」

 

「最近起きている連続殺人を知ってるな」

 

「確か…死体にもの凄く何回も斬った痕が残ってて首が噛みきられた痕がどの死体にもあるんだったよな」

 

「左様…。俺も実際にその死体を見たが、その特徴として間違いなく『羅刹』の仕業だ」

 

「『羅刹』ってなんだ」

 

「変若水を飲んで変貌した人間だ。そいつらは自分達の空腹を人間の血で満たそうとするからな吸血衝動がある」

 

「マジかよ…」

 

「それで、なんで剣心を訪ねてきたんですか」

 

話しの内容から斎藤の思惑を察した薫は眉をひそめた。

 

「貴様の力を借りたい。抜刀斎」

 

「駄目です。絶対行かせません、剣心はもう十分戦いました。折角手にした日々を壊さないでください」

 

「薫殿…」

 

「正直。俺も『羅刹』と確信したのは依頼人が訪ねてきたからなんだ」

 

「依頼人…」

 

「それまでは俺も、その薬はこの世から消し去ったと思っていたからな。だがあの娘が依頼人として訪ねてきた時、俺のそれは確信に変わった」

 

(娘…)

 

すると斎藤は膝を突いた。

 

「今の明治の役人では何百人かかろうが無駄死にになるだけだ。頼む『羅刹』に対抗出来るのは俺とお前だけなんだ」

 

(斎藤…主はそこまで)

 

「わかった。行こう斎藤」

 

「剣心」

 

「すまぬ薫殿。拙者を心配してくれてありがとう。だが放っておけばいつか薫殿や皆にも危害を加えるかも知れん、そんなのは拙者は嫌じゃ」

 

「剣心…」

 

「必ず戻る。薫殿のもとへ」

 

「わかった。気をつけてね剣心」

 

「ありがとう薫殿。行ってまいる。弥彦、左之助。薫殿を頼んだぞ」

 

「俺も行きてーところだが話しを聞いてると確かに今回のは足を引っ張りそうな案件だな

 

「…」

 

「任せとけ剣心。ここは俺と弥彦で必ず守ってみせる」

 

「頼んだでござる」

 

こうして剣心は再び刀を手にしたのであった。



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2巻

それから数日。剣心は単身『京』を訪れた。

 

(不思議な気分でござる。たびたび京には来ているはずなのに。凄く懐かしい)

 

銀世界の広がる京をゆっくりとした足取りで進む。

 

(それにしても斎藤のやつ。依頼しておきながら自分は用事があるから先に行くと言って置いていくのはいかがなものか)

 

ぶつぶつと小言を言っていると女性とぶつかってしまった。

 

「おろおろー」

 

「すみません。大丈夫ですか」

 

「いやー。拙者が余所見をしていたのがいけないのでござる。」

 

「すみません…。昔はお侍だったんですか」

 

「いやー、なかなか刀がないと落ち着かなくてつい持ち歩いてしまうでござる」

 

「そうなんですね…。あっごめんなさい急いでるんでした。失礼します」

 

「雪道は滑りやすいから気をつけたほうがよいでござるよ」

 

「ありがとうございます」

 

(一瞬頬の傷に反応したように見えたのは気のせいだろうか…しかしあの女どこかで…)

 

「何を油を売っている。抜刀斎」

 

「斎藤か、すまん遅れた」

 

「ちょうどこちらも準備を終えたところだ。まずは事件が起きた場所を再度調べるつもりだ。手伝え」

 

二人は殺しのあった現場を辿った。冷えきった夜空の下を

 

「斎藤。現場調査なら明るい時間にやった方がいいのではないか」

 

「忘れたか、羅刹は光に弱く日中は活動出来ん。遭遇するとすれば夜が一番可能性がある。まぁ、【俺達が研究した羅刹】が犯人だった場合はだがな」

 

「…」

 

「そう殺気立つな。別にお前と殺り合うつもりはないし過去は過去だ」

 

「斎藤。お前は羅刹の研究についてどう考えていた」

 

「俺は近藤さんや土方さんが信じた道を共に歩みたかった。それだけだ」

 

「…お前の本心はどうかと聞いている」

 

「…新撰組はこんな野蛮な力に頼らなくとも十分強かった。まぁ使いたがっていたのは上の偉い方々で俺達はその研究所としてこき使われただけだがな」

 

「きゃー」

 

突如響き渡る悲鳴。二人は急ぎかけつける。

 

悲鳴の元に着くと女性が不気味な人の成りをした怪物と遭遇していた。

 

「あれは…間違いなく」

 

(あの阿呆)

 

(斎藤…)

 

「抜刀斎。俺が牙突で先陣を斬る。お前は俺の討ち漏らしを頼む」

 

「了解した」

 

「…我らが新撰組が誇る突きの最終奥義その身で味わうがいい。『牙突・壱式』」

 

斎藤は刀を突き立て目にも止まらぬ速さで怪物の胸を突き刺した。

 

「残りを頼む」

 

剣心は素早い身のこなしから空高く飛び上がる。

 

「飛天御剣流・龍槌閃」

 

刀を振り下ろされた怪物は地面に叩きつけられた。鞘に刀を戻す剣心。

 

「しっかりとどめを刺さんか阿呆」

 

斎藤が胸に刀を突き刺し、怪物は動きを止めた。

 

「貴様の『殺さずの誓い』とやら、今回の件では命取りになるぞ」

 

「すまん」

 

「あの…ありがとうございました」

 

「お嬢さん。今、夜道は危険だ、なるべく出歩かない方がいい」

 

「ありがとうございます。お巡りさん、そちらのお侍さんも」

 

「気をつけて帰るでござるよ」

 

「はい。失礼します」

 

女は何度もお辞儀をして立ち去った。

 

「…羅刹は存在する。それをこの目で確認出来ただけ良しとするか」

 

「斎藤」

 

「貴様も長旅のところ連れ回してすまなかったな、宿を手配してある。暫くはそこを根城にするといい」

 

「かたじけない」

 

明日は日中から行動することを確認しその場で別れた。

 

斎藤に案内された宿舎『太鼓楼』に着いた剣心

 

「いらっしゃいませ…あっお侍さん」

 

そこで三度目の邂逅を果たした。

 

「今宵はよく御会いするでござるな」

 

「私、今ここで働かせてもらってるんです。あのお名前は」

 

「緋村でこちらに宿を取っているはずなのでござるが」

 

「緋村…はい。確かにどうぞこちらへ」

 

「立派な造りでござるな、どの部屋もこのような」

 

「はい。どの部屋も他の宿の最上級の部屋に負けぬ造りになっております」

 

「特にこの部屋は…人々の想い出を感じる」

 

「そう…ですか、この宿は幕末から続く老舗だと女将さんから聞いているのでもしかしたらそれでかもしれませんね」

 

「そうでござったか…ところでそなた名は」

 

「はっ…申し遅れました。私は千鶴。雪村千鶴にございます」

 

こうして二人は出会い。この一連の事件に関わっていくこととなる…。



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3巻

「すまん斎藤遅れた」

 

「時間ギリギリだ。まあいい行くぞ」

 

一夜明け、羅刹に関する情報収集にあたる二人。

 

(しかし、困った…羅刹に関する資料は政府が既に全て廃棄したはず。どうやって手掛かりを掴むか)

 

「あれ、もしかして剣心」

 

屋根から身軽に女が降りて来た。

 

「操か、久しぶりじゃの」

 

「どうかしたの、…もしかして薫さんと喧嘩」

 

「そんなんじゃござらんよ」

 

「ふ~ん。なにか探してるの」

 

「いや、まあー探していると言えば探しておるが」

 

「なによ、なよなよしちゃって教えなさいよ」

 

「いや、お主の力を借りる訳には」

 

「抜刀斎。手掛かりは掴めたか…貴様は確か御庭番衆の娘」

 

「あー、斎藤一。なんで剣心と一緒に」

 

「おい娘。羅刹を知ってるか」

 

「斎藤それは…」

 

「羅刹…どっかで聞いたなそんな言葉」

 

「知らんか。まあいい、行くぞ抜刀斎」

 

「あっあぁ…」

 

「おい娘。今のことは忘れろ、決して調べようなど馬鹿なことはするなよ」

 

「なによ、御庭番衆の名にかけて絶対に突き止めてやるんだから」

 

「おい操、斎藤なぜだ」

 

「御庭番衆なら手掛かりを掴めると思ったが、俺が浅はかだった。聞く相手を間違えた、抜刀斎。御庭番衆の根城を教えろ」

 

「なにをするつもりだ」

 

「娘は知らなくても、棟梁は知っていよう。あの娘にお灸を末がてら聞き出す」

 

「…そして俺を訪ねた訳か」

 

二人は御庭番衆の根城で四乃森蒼紫と面会した。

 

「すまぬ蒼紫」

 

「いや、操が余計なことに巻き込まれるのは俺達としても御免だ。操にはきつく言っておこう」

 

「貴様はどの程度知っている。四乃森蒼紫」

 

「まずは変若水についてだが、南蛮から渡来した薬で、中国では仙丹と呼ばれているらしい。日本に伝わったのは豊臣秀吉による朝鮮出兵の際。雪村綱道が幕府の密命を受け、改良を進めていた。服用すれば、すぐさま羅刹へと変貌してしまう。その際に羅刹となった鬼や人間を修羅と呼ぶ。ちなみにこの修羅達は綱道が目指していたものであると思われ、吸血衝動や日光に弱くなく一人の鬼頭と同等の力を手にすることができるようになる。西洋の鬼の血を薄めたものが変若水となるようだ。」

 

「鬼だと…」

 

 

「次に羅刹については、変若水を飲んだ者たち。紅い瞳と白い髪が特徴。日光に弱く時折吸血衝動に苛まれるが、雪村綱道は日光に強い羅刹を作り出すことに成功している。

超人的な身体能力と治癒能力を持つが、実際には数十年間に少しずつ消費していく常人の一生分の生命力や治癒能力を一気に消費しているに過ぎないため、それが尽きれば身体は灰と化して死亡する。寿命以外では、心臓を貫かれたり、首を切り落とされないと死ねない。

綱道いわく、【我等の故郷の村の水を服用すれば羅刹としての症状が薄くなっていく】とのことだが、実際の真意は定かになってない」

 

「流石、御庭番衆。よく調べている」

 

「ちょっと待て、羅刹になった者は夜しか行動出来ないのではないのか」

 

「改良が進み戊辰戦争終盤には、昼間に活動出来る羅刹が戦場に居たことを確認している」

 

「そんな…早く対策を練らねばならんな」

 

「斎藤一。1つ聞きたい」

 

「なんだ」

 

「羅刹隊は存在したのか」

 

「羅刹隊…」

 

「羅刹隊。山南敬助に指揮される羅刹たちが集う隊。その存在は伏せられており、所属者は表向きには死んだことになっているが、新選組の幹部は存在を黙認していたとされている」

 

「…」

 

「どうなんだ。斎藤」

 

「…まあいい、そういえば綱道の娘と名乗る女が会いに来たことがあったな」

 

「なんだと」

 

斎藤の表情が珍しくこわばんだ。

 

「それはいつだ」

 

「丁度一月くらい前か、『新撰組』の生き残りを知らないかとな。綱道の娘とはいえ、どこで御庭番衆の存在を嗅ぎ付けたか気にはなったがな」

 

「そしてアイツは俺の前に姿を見せたか」

 

(アイツ…)

 

「今更だが、くだらね質問をしてもよいか」

 

「なんだ。抜刀斎」

 

「『鬼』は存在するのか」

 

「それは俺達御庭番衆でもわからない。むしろ新撰組の方が知ってそうだがな」

 

「…」

 

「貴様が羅刹と対峙して何を思うかだ。鬼と思えば鬼は存在するし、薬を使った憐れな人間の末路と思えばそれまで」

 

「つまり己の感じるままか」

 

「そう言うことだ」

 

「その娘も言ってたが、羅刹はまだいるのか」

 

「それは間違いない。拙者らは昨夜。羅刹と遭遇した」

 

「そうか…御庭番衆としても、ようやく落ち着いた京をまた血みどろの町にしてもらっては困るからな。何かあれば協力しよう」

 

「かたじけない」

 

「四乃森蒼紫。2つ聞きたい、1つは黒幕について何かしらないか」

 

「すまんが、今はまだ見当すらつかん」

 

「そうか…。もう1つだが…」

 

四乃森蒼紫と面会を終わり。宿舎に戻った剣心

 

「お帰りなさいませ。緋村さん」

 

「千鶴殿。ただいまでござる」

 

「お風呂湧いてますがいかがされますか」

 

「かたじけない。いただくとしよう」

 

(五右衛門風呂か。珍しいの)

 

「湯加減はいかがですか。緋村さん」

 

「千鶴殿。下の名で呼んでくれて構わんでござるよ」

 

「えっ、でも…」

 

「少し呼びにくそうに聞こえるのでな」

 

「そうですか…。ではいかがですか剣心さん」

 

「いい湯加減でござるよ」

 

「それは良かったです。あの…1つお尋ねしても」

 

「構わんでござるよ」

 

「あのお巡りさんとはどういった関係なのですか、職業柄で見るとお二人が揃い歩くのはなんだか不思議に思いまして」

 

「うむ…。彼とは古くからの付き合いでな、手助けをしておるのじゃ」

 

「そうなんですね。明日もどこかへ御出掛けですか」

 

「うむ。彼の古い友人に会いに行くことになっておる」

 

「それは誰ですか」

 

千鶴の張りつめた声に思わず剣心も驚く。

 

「千鶴殿…どうしたのでござるか」

 

「いえ、私も人を探しておりまして」

 

「そうでござったか。確か…」

 

翌日。四乃森蒼紫の手引きで斎藤の旧友に会いにとある団子屋へ向かった。

 

「斎藤…拙者がついてきて大丈夫でござろうか」

 

「…どのみち一緒に行動することになる以上この問題は遅かれ早かれ向き合わねばならん。着いたぞ」

 

「いらっしゃい。お二人かい」

 

「永倉と名乗る男がこの団子屋にいると聞いてな」

 

「斎藤さん。こっちだこっち」

 

陽気な男が奥の襖から顔を覗かせる。

 

「久しいな。永倉」

 

「斎藤さん。元気そうじゃないか。そちらの連れは…頬に十字傷って…てめーまさか『人斬り抜刀斎』」

 

「新撰組2番隊組長永倉新八…」

 

団子屋に不穏な雰囲気がとどよい始めた。



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4巻

「そうか。今は北の地で暮らしているのか」

 

「斎藤さんは警官か。あんたらしい」

 

二人の攘夷志士の間に座る維新志士1人…

 

「なあ斎藤さんよ、連れがついてくるとは聞いていたが、なんでまた『人斬り抜刀斎』なんだ」

 

「なんだ永倉くん。不満か」

 

「…」

 

「そりゃ確かにあんたがこの男を選んだ理由には察しがついている。けどよ…」

 

「これからは共に動く同志だ。蟠りは今のうちに解いてくれると助かる」

 

「あんたはどうなんだ、抜刀斎」

 

「永倉殿がそれを望むなら…」

 

「そうか…じゃあ表出ようぜ」

 

町から見えた山に移動し、対峙する二人…

 

「こうしてあんたと刀を交えるのも久しぶりだな。抜刀斎」

 

「…」

 

「うし。来い」

 

(流石は新撰組元組長…とても基本に忠実で綺麗な構えだ…。しかしこうしている間にも羅刹による被害が出るかもしれない。直ぐに蹴りをつける)

 

(この構え。前にやり合った時には見せなかった構えだ。何が来る…)

 

(抜刀斎。そんなに2番隊組長は甘くないぞ)

 

先に動いたのは…剣心だった。

 

(速い。更に俊敏さに磨きが懸かってやがる…いつの間に)

 

「飛天御剣流・九頭龍閃」

 

(これは…超高速の連続同時九段突き。やばい)

 

キンカンカンカンギャキーン…

 

(九頭龍閃を全て受けきった…なんの奥義も無しで)

 

「危なかったぜ抜刀斎…この命懸けなこの感じ久しぶりだ」

 

(…来る)

 

「両者其処まで」

 

間に斎藤が割って入る。

 

「なんだよ斎藤さん。これからって時に」

 

「永倉くん。これは決闘であって殺し合いじゃない。君程の剣客なら奴のことは推し量れたんじゃないか」

 

「…流石斎藤さん。お見通しって訳か」

 

鞘に刀を納めた永倉

 

「永倉殿…」

 

「あんたのその刀は」

 

「これは逆刃刀でござる」

 

「逆刃刀…それがあんたのケジメって訳か」

 

「…」

 

「本当の名はなんていうんだ」

 

「緋村…剣心」

 

「そうか…宜しくな剣心」

 

「永倉殿…こちらこそよろしくでござる」

 

「さて、気を取り直してっと。斎藤さん。どこまで掴めてるんだ」

 

「手掛かりはまだ掴めてない。永倉くんは」

 

「俺も最近、京に来たばかりでよなんにもだ」

 

「そうか…ところで永倉くんはどうしてこの件を知ってるんだ」

 

「懐かしいヤツから書が届いてよ。そこに羅刹のことが書いてあった」

 

「まさか…」

 

「あぁ…千鶴ちゃんだ」

 

「あの阿呆が…」

 

「千鶴…そういえば同じ名を持つ娘が拙者の泊まる宿にいたでござる」

 

「なに。それは本当か剣心」

 

(ここにも阿呆がおったわ…)

 

「確か苗字は雪村と言ったか」

 

「それは間違い無く千鶴ちゃんだ。おい剣心どこだその宿。早く教えろ」

 

「永倉殿…拙者らは調査を」

 

「そんなの久しぶりの再開の後だ行くぞ、斎藤さん」

 

「あっ。あぁ…」

 

「剣心さんおかえりなさいお早かった…」

 

「千鶴ちゃん。本当に千鶴ちゃんなのか」

 

「もしかして永倉さんですか」

 

「あぁ、そうだよ生きてたんだな千鶴ちゃん」

 

「永倉さんこそ…よくご無事で」

 

「…宿の土間で感動の再開をされても。他の客に迷惑だ。抜刀斎お前の部屋を案内しろ」

 

「あっ、あぁ…」

 

「抜刀斎。剣心さんが…」

 

かつての旧き記憶が呼び覚まそうとしていた…。



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5巻

剣心の部屋に集まった4人。

 

「まずは、俺はこの雪村千鶴の依頼を受けて動いていた」

 

「そうなのか。どうやって再会したんだ」

 

「丁度、羅刹による連続殺人が始まった頃だ…」

 

その日、斎藤は警視庁の一室で事件の考察をしていた。

 

(あの死体から出ている犯人の狂暴性に首を食いちぎられた後。まさかとは思うが…あの薬は全て処分されたはず…)

 

「失礼します、藤田長官。長官に御会いしたいという女が訪ねてきているのですが…」

 

「俺は今忙しい。日を改めさせろ」

 

「それが名を名乗ればわかってくれると言っておりまして」

 

「名前だと…名は」

 

「千鶴。と言っておりました」

 

「…。すぐに通せ」

 

「はっ、はい」

 

少しして、綺麗な女が顔を見せた。

 

「斎藤さん…よくご無事で」

 

「千鶴…場所を代えよう」

 

庁舎を離れ河川敷に腰を据える二人。

 

「斎藤の名を気安くだすな。今は藤田で通している」

 

「すみません。本当によくご無事で会津でお別れして以来ですね」

 

「君こそ、土方さん達についていき、よく生き延びたな。他の隊士は」

 

「わかりません。あれから誰1人会えてません」

 

「そうか…土方さんは函館でと聞いているが君は知っているか」

 

「はい。土方さんの側付きとして御一緒してましたから…新撰組副長・『鬼の副長』土方歳三の名に恥じぬ、立派な最期でした…」

 

「そうか…ご苦労だったな」

 

「斎藤さんは無事会津を生き延びたんですね」

 

「なんとかな、暫く潜伏していたが、政府軍に見つかってな。今の職に着くことを条件に不問となった」

 

「そうでしたか…」

 

「俺の信ずる正義を貫くには丁度いい職だ。でっどうした俺を訪ねて」

 

「実は…一緒に羅刹をこの世から葬る手伝いをお願いしたいんです」

 

「羅刹…やはりこの一連の殺人は」

 

「はい羅刹の仕業です」

 

「そうか。会ったのか羅刹に」

 

「狙いは私のようですから」

 

「お前の血という訳か」

 

「恐らく…」

 

「どうやって俺の居場所を突き止めた。一般人である君が」

 

「その…羅刹に襲われそうになった時に…山南さんが」

 

「…冗談が過ぎるぞ千鶴」

 

「本当です。山南さんが私を助けてくれたんです。間違いありません」

 

「馬鹿な…山南さんは既に…」

 

「その真相を突き止めるためにも。お願いします斎藤さん。力を貸してください」

 

 

「…という経緯だ」

 

静まりかえる一室

 

「おいおい、斎藤さんまでそんなデタラメ信じるのかよ、千鶴ちゃんも千鶴ちゃんだ。ちょっとおいたが過ぎるぜ」

 

「そんな嘘皆さんにつくはずないじゃないですか」

 

「じゃあ、どうやって山南さんは蘇ったんだよ」

 

「それは…わかりません」

 

「永倉殿。お気持ちは察しますが、今は千鶴殿の言うことを信じましょう。羅刹の力が人智を超えているのは、ここに居る者皆が共有する事実。それも含め調べようではありませぬか」

 

「あぁ。そうだな。すまない取り乱して」

 

「して、山南さんとは」

 

「山南敬助。新選組総長で総長として知の面から新選組を支える裏で、変若水の研究・改良を担当していたが、自らが左手に負った怪我が元で剣を振れなくなった事がきっかけで自らを実験台とし、死ぬ覚悟で変若水を飲み、幹部の中で最初に羅刹化した。羅刹化後は公には死亡した事として、羅刹隊の指揮を務めるなど水面下から新選組を支える事に徹する。新選組が甲州・会津と転戦していった後も同じく羅刹になった藤堂平助と共に羅刹隊を先導して活躍するが、撤退先の仙台において藤堂と共に力を使い果たして灰になった」

 

「俺達の大切な仲間だった人だ」

 

「そうでござったか…千鶴殿」

 

「千鶴殿。どうしたでござるか」

 

「えっ…あっごめんなさい。なんだか『抜刀斎』って斎藤さんが口にしてから凄く私剣心さんを警戒してたんですけど、以前見た『抜刀斎』と随分雰囲気が違うなと思って」

 

「拙者のあの頃を見たことがあるのですか。千鶴殿」

 

「その頃から新撰組で側付きをしてましたから一度でしたが」

 

「そうでござったか…」

 

「まぁ、あれから剣心も色々あったってことだよな」

 

「永倉さんはもう平気なんですか」

 

「おう。一度手合わせしたしな。千鶴ちゃんも今見た剣心を信じていいと思うぜ」

 

「そうですか。永倉さんがそう仰るなら」

 

「永倉殿。千鶴殿。かたじけない」

 

「で、永倉くんは千鶴から書を貰ったと言ってたなそれはいつだ」

 

「あれは、去年の大晦日だな」

 

「ったく。俺に任せろとあれだけ念を圧したのに」

 

「すみません斎藤さん。でも心配で、それに斎藤さんの居場所を教えてくれたのは御庭番衆の方々ですけど、御庭番衆の場所や斎藤さんと永倉さんが生きていることを教えてくれたのは…山南さんなんです」

 

「その話…詳しく聞かせてくれるな。千鶴」

 

「はい。こうしてお二人と御会い出来ましたしお話します。私が羅刹と遭遇した日のことを…」

 

すると突然襖が開いた、そこには顔面蒼白の女将さんがいた。

 

「女将さんどうしたんですか」

 

「お巡りさん助けておくれ、外に怪物が」

 

「なんだと」

 

4人は急ぎ居間に向かうと怪物が入りこんでいた。

 

「羅刹…」

 

「千鶴殿は女将さんを安全なところへ、行くぞ斎藤。永倉殿」

 

「阿呆。貴様に命令される筋合いは無い」

 

「おっしゃー」

 

瞬く間に羅刹を斬り落とす3人。

 

「流石は元新撰組組長と人斬り抜刀斎」

 

宿舎の向かいの屋根の上で拳銃を振り回しその場を眺める男が1人

 

「てめーは」

 

「不知火匡(しらぬい きょう)」

 

「久しぶりだな、抜刀斎に新撰組」

 

新たな遺恨が邂逅した。



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6巻

「久しぶりだな、抜刀斎に新撰組」

 

「不知火匡…」

 

そこには、拳銃を振り回し屋根の上に座り込む野蛮そうな男がいた。

 

「なんの用だ…これは貴様の仕業か」

 

「まぁこの状況だけはそうと言えるな」

 

「なんのつもりだ…それにお前が背負ってるその槍は…」

 

「あぁそうだ。お前達のよく知ってるあいつの槍だ」

 

「てめぇー」

 

「さぁ、俺と遊ぼうぜ」

 

銃声が鳴り響く。刀で防ぎきる3人

 

「流石にこんな単純な攻撃でくたばる玉じゃねーか」

 

「おうおう、そんな飛び道具使ってないで、差しでやろうやあんちゃん」

 

「俺は刀とかはまるっきりダメでね。その辺の奴らなら挑発に乗ってもいいんだけど、あんたらとはそうはいかないからな、遠慮しとくぜ」

 

「ちっ、屋根の上に上がらないと防戦一方だぜ」

 

「抜刀斎」

 

「わかっておる」

 

剣心が素早く屋根まで飛び上がる。

 

「マジかよ、抜刀斎」

 

「てゃあー」

 

剣心の振り下ろした刀を拳銃で受け止める不知火、しかし地面に叩きつけられる。

 

「さぁ。どうするあんちゃん」

 

「降参、降参悪かったよ。俺はあんた達を試したかったんだ」

 

「試す…。随分と舐められたもんだな」

 

「人間っていうのは平和ボケするとすぐ堕落するって聞いたからよ、お前らは大丈夫かと思ってな」

 

「話が見えんな。ハッキリと言え」

 

不知火は頭をかきむしりながら少し考えた。

 

「その…俺達に手を貸してくれ」

 

再び部屋に戻った5人。

 

「驚いたな…まさかとは思ったけどその娘もいるのかよ」

 

「まぁこいつも関係者だからな」

 

「…違いねーな」

 

(千鶴殿は某が思っている以上に重要人物なのか…はっまさか…)

 

(永倉殿)

 

(なんだ剣心。急に小声で)

 

(千鶴殿の苗字は雪村だったな。ということは千鶴殿は雪村綱道の娘なのか)

 

「そうだぜ。千鶴ちゃんは雪村綱道の娘だ」

 

「なんだ、抜刀斎知らなかったのか」

 

「まさかとは思ったが。そうでござったか」

 

「えぇ、まぁ…」

 

「話を戻すぞ」

 

「その前にこいつのケリをつけさせろ」

 

不知火は背負っていた槍を永倉に投げた。

 

「それはお前らに返すぜ」

 

「まずはこの件からってわけか」

 

「その槍は…」

 

「原田左之助(はらだ さのすけ)新選組十番組組長。槍の使い手でな、大雑把で少々喧嘩っ早いところもあるが、人情に厚く義理堅いうえ、察しの良い一面も見せるいい奴だったよ。左之助は」

 

「上野で暴走した綱道を止めるために動いてた俺と共闘して綱道の部下と戦ったが、腹部に致命傷を追って逝ったよ」

 

「そうか…」

 

「【永倉に会うために新選組の元へ戻る】って呟やいて息絶えたからよ。お前に渡すのがいいと思ってな」

 

「左之助…」

 

「原田さん…」

 

「これでこの件は終いだ。で俺がお前らの手を借りたい理由だが…。多分その娘の話を聞けば粗方見えてくる」

 

「千鶴殿の話しを」

 

「それは、千鶴が羅刹と遭遇した日のことか」

 

「そういうこった」

 

「千鶴。改めて聞かせてくれるかその日のことを」

 

「はい。あれは羅刹による殺人事件が起きて間もない時でした…」

 

 

千鶴はその頃、生き残った新撰組隊士を探し旅をしていた。

 



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7巻

(相変わらず手掛かりがないな…皆本当に…ないない。新撰組の皆さんは政府が恐れていた人達ばかりだもん全滅なんて)

 

函館・五稜郭の戦いから10年の月日が経ち。生き残った雪村千鶴は生き残った新撰組隊士がいることを信じ、探して旅を続けていた。

 

しかし10年経ってもそれらしい手掛かりは掴めず、誰1人とも再会出来ずにいた。

 

(京か…あの頃と比べて随分と和な町になったな…)

 

数十年ぶりに歩みを入れる京の町を、千鶴は思い出と共に噛み締めた。

 

(千姫ちゃんは元気かな…文もあまり返せてないしそっぽ向かれてたりして。それにもう暗いし寝てるか)

 

「いや、やめてー」

 

突如慌てた表情で千鶴の前で転ける女、千鶴が突然のことで動揺している間に女は絶命した。

 

(なに、なんなの…)

 

女が出てきた方向から姿を現す怪物。

 

(そんな…羅刹なんで)

 

思わず尻込みする千鶴。脱力したためか音に羅刹が反応する。

 

(逃げなきゃ…足がすくんで動かない)

 

羅刹が千鶴に飛びかかるその瞬間、羅刹の胴体が真っ二つに分かれた。

 

(誰…えっ。嘘)

 

そこには、かつて自身の目の前で灰となったはずの男がそこにいた。

 

「お久しぶりですね。雪村くん」

 

「山南さん…本当に」

 

「再会を喜んでいる場合ではありません。立てますか」

 

血の臭いに反応してか、羅刹が数体集まってきた。

 

「大丈夫です」

 

「殿は私が勤めます。雪村くんはここに逃げなさい」

 

千鶴は地図を渡された。

 

「でも、山南さん」

 

「これでも私は新撰組総長だった男です。…信用出来ませんか」

 

「必ず追いついて来てくださいね」

 

千鶴は前だけを見て走った。…指定された場所に着いた千鶴

 

(山南さん大丈夫だよね)

 

「無事言い付けを守ってくれて良かったです」

 

「山南さん。良かった」

 

「君は自分の信じた答えに進むとき周りの言うことに聞く耳を持たないことがありましたから、ちょっと心配でした」

 

「その…山南さん」

 

「私は正真正銘元新撰組総長山南敬助ですよ。困惑するのは当然です」

 

「…」

 

「強者を集めなさい。その時に私がここにいる訳を話しましょう」

 

「強者…」

 

「1人はかつての敵の組織に、1人は北方に」

 

「まさか、知ってるんですか。他の隊士の行方」

 

「知ってるのは、その2人だけです」

 

「でもどうやって…」

 

「1人には書を出しなさい。私があとで残す紙に所在が書いてあります。君はもう1人に会いに行くといい」

 

「その人はどこに」

 

「江戸…いまは東京ですか、狼はそこにいます」

 

「東京に…わかりました。山南さん、必ず戻ります。だからその時に教えてくださいね」

 

「勿論です。さぁお行きなさい」

 

こうして千鶴は東京で斎藤と再会するのであった…



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8巻

「山南さんが俺達を集めた…なんでだ」

 

「ちなみに俺が動くのは、その山南ってやつに忠告を受けたからだ」

 

「忠告…」

 

「【俺達の尊厳を踏みにじる存在が復活する】ってな」

 

「【俺達の尊厳】とは」

 

「こいつら『鬼』の尊厳だ」

 

「『鬼』じゃと、本当なのかそれは」

 

「否定はしねーが、肯定もしねー。『鬼』はもう存在しないってことになってるからな、ちなみによ抜刀斎。その娘の出自も『鬼の一族』の家系だ」

 

「真か千鶴殿」

 

「その…ようです」

 

「なんと…」

 

「純血な『鬼』はな、常に己を律し、己と向き合い、己を磨く。他者から『修羅』と思われようと己の信じた道と信念を必ず貫き通す。迷惑なんだわ俺達にとって、たかが数滴鬼の血が混ざった劇薬で己を見失い。欲望のままに荒らし、そいつらが『鬼』と同類扱いされるのがよ」

 

「不知火…」

 

「だから今回俺は手を貸すことにした」

 

「…まあ。得体の知れない敵だ数が多いに越したことはないか」

 

「いいのか、斎藤さんよ」

 

「俺達を裏切るようなら斬り捨てるのみ」

 

「安心しな、お前らが俺の誇りを汚す選択をしない限りは、んなことにはならねーよ」

 

「いいだろう。手を貸せ」

 

こうして5人は行動を共にすることとなった。

 

「しかし。どうするでござるか、人は集えど敵の居場所が分からなければ本末転倒ぞ」

 

「その案内は俺がしてやるよ」

 

いつの間にか小柄な男が窓から忍び混んでいた。

 

咄嗟に刀を振る剣心。男は間一髪刀で受け止めた。

 

「うひょー流石は抜刀斎。伊達に幕末伝説の人斬りと言われただけはあるな」

 

「嘘…平助くん」

 

「なんでテメーがいる平助」

 

「新八つぁんおっかねえな、俺がいちゃ悪いかよ」

 

「斎藤。彼は」

 

「藤堂平助。元新選組八番隊組長。一度は新選組を離脱するが、伊東暗殺後に油小路で天霧率いる薩摩藩によって窮地に追いやられていた永倉や原田たちへの応援に駆けつけて復帰。生きるために自ら変若水を飲んで羅刹になったため表向きには油小路で戦死したことになっていた。その後は羅刹隊として戦い続けたが、最期は仙台城での戦いで羅刹の力を使い果たし、千鶴と土方さんに看取られながら山南さんと共に灰になったと聞いていた」

 

「こやつも羅刹化した隊士」

 

「皆おっかねー武器はしまってくれよ。俺は招待しに来たんだから」

 

「招待…何処に」

 

「この事件の親玉の所だよ、斎藤さん」

 

「随分気前がいいなその親玉は」

 

「待ってるみたいだから早くしてやってよ」

 

(どうするつもりだ)

 

(罠の可能性は高いがわざわざ向こうから招待してくれているんだ。乗らん手はなかろう)

 

(わかった)

 

「案内しろ平助。その親玉の肝っ玉に免じ出向いてやろう」

 

「斎藤さん。今どっちが困った状況かわかってます…。まいいか、じゃあついてきてよ」

 

平助の案内のもと、剣心達は敵の親玉のもとへ向かった。



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9巻

「千鶴殿。大丈夫でござるか」

 

平助に案内され深い山奥を進む5人。

 

「大丈夫ですよ、私そんなに具合が悪そうですか」

 

「まだ、受け入れきれないでござるか」

 

「…そうですね。2人が生きていることが嬉しいはずなのに、ここが締め付けられるように苦しいです」

 

胸元に手を置く千鶴。

 

「無理に受け入れることはないでござる。千鶴殿のペースでゆっくり消化出来れば」

 

「剣心さん。ありがとうございます」

 

「…ついたぜ」

 

山奥にある大きな空洞

 

「ここに親玉が…」

 

「俺が案内出来るのはここまでだな。じゃああとは頑張ってね」

 

平助が空洞の中に入ると、突如羅刹が溢れて出てきた。

 

「どうやらここに親玉がいるのは間違いなさそうだな」

 

応戦する4人

 

(千鶴殿は大丈夫なのか…)

 

「おい不知火。てめーこいつら潰すの付き合ってくれるか」

 

「なんだいきなり」

 

「斎藤さん。千鶴ちゃん。剣心。お前達先に行け。ここは俺達で抑える」

 

「永倉殿しかし」

 

「全員で対処してたらいつ親玉のもとへたどり着けるかわからねー。3人だけでも」

 

「わかった。御免」

 

「おい、斎藤」

 

「永倉君は新撰組でもトップクラスの武闘派だ。こんな奴らにやられはせん行くぞ」

 

「永倉さん。必ず追いついて来てくださいね」

 

「おう。任せとけ」

 

「格好つけすぎだろ、この数相手に」

 

「左之助が背中預けるくらいだからよ、期待してるぜ」

 

「ふん。ほざいてろ」

 

「おらおらおらおら」

 

新八が一振り一振りで綺麗に羅刹の胴体を斬り裂けば、不知火の正確な射撃が羅列の心臓を貫く。

 

「そんなに飛ばして大丈夫なのか」

 

「へっ、弾薬気にしてられる状況かよ」

 

「それもそうだな」

 

勢い止まらず湧く羅刹。

 

「やべ、弾切れた。おい永倉それ貸せ」

 

「馬鹿。そんな余裕ねーよ」

 

「じゃあ勝手に借りるは」

 

「おいテメー」

 

不知火は新八の背中の槍をくすねた。

 

「お前らなんて、この槍で十分なんだよ」

 

「危ねーな。槍は振り回すもんじゃない。突くもんだ」

 

「こいつら殺れれば使い方なんてどうでもいいわ」

 

長く続いた死闘。両者尻餅をつく

 

「ようやく全部かこれで」

 

「羅刹…多過ぎだろ。なんでこんなにいるんだよ」

 

「それはな新八…ここで羅刹の研究が行われてるからさ」

 

空洞から突如新八へ短刀が飛んでくる。咄嗟に庇う不知火。

 

「不知火てめー」

 

「ったくこれだから人間は、最後まで気を抜くなよな」

 

倒れる不知火。

 

「テメーなにもんだ」

 

激昂する新八。

 

「おいおい、俺を忘れたのかよ新八」

 

「お前…まさか左之助なのか」

 

空洞から出てきたのは死んだと聞いた。かつての友であった。



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10巻

「あの二人、本当に大丈夫でござるか」

 

「くどいな抜刀斎。あの鬼はともかく永倉君は強い。貴様も刀を交えてわかっているだろう」

 

「それはそうでござるが」

 

「ならもう聞いてくれるな」

 

「新八っあん。今回はヤバいかもよ」

 

目の前に平助が現れた。

 

「平助くん…」

 

「平助。道はあってるか」

 

「このまま行けば親玉に会えるよ。このまま行けばね」

 

「なに」

 

刀で斬り掛かる平助。斎藤は余裕な表情で受け止める。

 

「そんながら空きで大丈夫か、斎藤さん」

 

平助の後ろから鋭い一振りが斎藤に襲いかかる。

 

「斎藤さんー」

 

剣心がその刃を振り払った。

 

「すまん抜刀斎。助かった」

 

「こいつ何奴…お前は」

 

「沖田さん…」

 

平助の後ろには余裕な笑みを浮かべる元一番隊組長沖田総司がいた。

 

「久しぶりだね、皆。千鶴ちゃん大きくなったね」

 

「沖田さんまで…」

 

「沖田君。そこを通してはもらえないだろうか」

 

「いいよ。1人だけなら」

 

「おい総司。なに勝手に」

 

「勝手なのは君だろ平助。皆には謎を解いてここまで来てもらう手筈だったと思うけど」

 

「山南さんがそう言ったんだからしゃーねーだろ」

 

「山南さんが…」

 

「約1名は薄々勘づいてたみたいだけどね」

 

「では、親玉というのは」

 

「抜刀斎、俺が行く。いいな」

 

「…あぁ。千鶴殿は拙者が必ず守る」

 

「行くのは斎藤さんね。どうぞこちらに」

 

斎藤は清々しいまでに普通に奥へ進んだ。

 

「さて…。僕達4人はなにしてよっか…さっきからなにイラついてるの平助」

 

「もう、我慢ならねー」

 

剣心に斬りかかる平助。

 

「平助くん」

 

冷静に受け止める剣心。

 

「藤堂殿…」

 

「さっきから千鶴と馴れ馴れしくしやがって。ムカつくんだよ抜刀斎」

 

「あーあ。男の嫉妬は見苦しぞ平助」

 

「うるせー。総司黙ってろ」

 

「藤堂殿。誤解を招いたのならば申し訳ない。拙者と千鶴殿は依頼人と雇われ主の関係。藤堂殿の思っておられるような関係では御座らん」

 

「その馴れ馴れしさ、どう見てもそれ以上の関係だろうが」

 

「落ち着いてくだされ、思い出されよ。貴方の知る千鶴殿は、誰にでも隔てなく優しく接し笑顔を向けてくれる。そんな女性ではなかったか」

 

「剣心さん…」

 

「それに拙者には、拙者の帰りを待っていてくれる大事な人がいる」

 

「あの『人斬り抜刀斎』がね…」

 

「それにだ、ここ7日千鶴殿と接していたことで拙者ですらわかった。千鶴殿の想い人は今も昔も『あの方』なのだと」

 

「…」

 

「…ったく相変わらず『あの人』は、それは妬いちゃうな」

 

「俺は…俺は…」

 

突然、平助の身体から黄金色の焔が出火する。

 

「平助くん」

 

「藤堂殿」

 

「なんだろう…身体が燃えてるはずなのに全然熱くねー」

 

「平助くん」

 

「千鶴。またオメーの顔が見れて良かったよ。あの頃は俺と同じ位の背丈だったのに、綺麗な女になったな」

 

「10年は経ってるからね」

 

「オメーの元気な顔が見れて安心したよ」

 

「私も、また平助くんに会えて嬉しかったよ」

 

「また会えるかな」

 

「うん。会いにいくね。何度でも」

 

「千鶴、ありがとう。俺お前のこと…」

 

焔は火の粉とともに空へ羽ばたいた。

 

「平助くん…」

 

泣き崩れる千鶴。

 

(そういうことね、山南さん)

 

「藤堂殿…」

 

総司は勢いよく、剣心に斬りかかる。

 

「沖田さん」

 

「沖田殿…何を」

 

「刀を取れ抜刀斎。あの頃の決着ここでつけようじゃないか」

 

幕末を代表した剣客同士が10年の時を経て再び刀を交えようとしていた。



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11巻

「左之助なのか…」

 

かつての友と対峙する新八。

 

「どう見てもそうだろ」

 

新八からみても間違いなく。新撰組十番組組長 原田左之助その人であった。

 

赤い目と銀の髪を除いては…。

 

「そこで寝てるのは…なんだ不知火じゃねーか。生き延びたんだな」

 

「左之助。やっぱりお前はもう…」

 

「あぁ。死んでるよ。お前も死んだか新八」

 

「生きてるよ。斎藤さんと千鶴もな」

 

「斎藤さんに千鶴ちゃんも…そうかそれは良かった」

 

「左之助」

 

「その槍もしかして」

 

「ああ、お前のだ。ちゃんと届けにきたぜコイツは」

 

「あまり期待してなかったけど、そうか…なら良かったっておい新八危ねーじゃないか」

 

「その槍はお前が持ってたほうがしっくりくるからよ」

 

手慣れた槍裁きを披露する左之助。

 

「そうみたいだな。なあ新八」

 

「どうした」

 

「一本立ち合ってくれないか」

 

「なんだよ改まって。こいよ」

 

身構える二人

 

(立ち合っていう割りに左之助のやつ俺を殺す気マンマンじゃないか)

 

空洞から流れる風が周囲に冷たい音を起てる。

 

(リーチの長い槍からしたら、わざわざ接近する必要は無いってか左之助)

 

新八が気迫を全面に圧し出し左之助に迫る。しかしかわされ素早い突きの応酬が新八を襲う

 

(相変わらず。的確で速い突きだ油断したら一気にやられちまうしかも速さ以上に一撃が重すぎる。)

 

「なんか随分強くなったな左之助」

 

「お前が弱くなったんじゃないか新八」

 

「その目にその髪まさか…堕ちたのか俺と分かれたあと」

 

「…」

 

「この重い突きはまさかあの薬の効果とか言わねーよな左之助」

 

「どうだかな」

 

「見損なったぜ。左之助」

 

鞘に刀を納める新八。

 

(刀は納めたが、この構え…まさか抜刀術。新八が)

 

(確かあの時あいつは)

 

瞳を閉じる新八。左之助は新八の予想外の行動に困惑していた。

 

 

 

風が吹いている…

 

 

 

正面切って駆ける新八

 

「おいおい槍を相手に正面突破は自殺行為だぜ。新八」

 

(飛天御剣流…)(なっ、新八が消えた)

 

「奥義・九頭龍閃」

 

「なんだこの連撃…防ぎきれない」

 

辛うじて防いだ左之助。尻餅を着いたところを新八が詰める。

 

「…俺の負けだ。まさか新八が抜刀術とはな」

 

「見よう見まねの初披露さ」

 

「マジかよ」

 

「しかもあれは失敗だ」

 

「あれでか」

 

「俺は6連撃だが完成形は同時9連撃。壱(いち):唐竹(からたけ)弐(に):袈裟斬り(けさぎり)参(さん):右薙(みぎなぎ)肆(し):右斬上(みぎきりあげ)伍(ご):逆風(さかかぜ)陸(ろく):左斬上(ひだりきりあげ)漆(しち):左薙(ひだりなぎ)捌(はち):逆袈裟(さかげさ)玖(く):刺突(つき)を一撃で同時に放つ技だからな」

 

「そんなの会得した奴がいるのかよ」

 

「あぁ…。最近出来た友がな」

 

「すげーな。会ってみたいぜそいつ」

 

「きっとお前も気にいる」

 

「そうか…」

 

「左之助。お前身体が」

 

佐之助の身体から黄金色の焔が出火していた。

 

「今度はしっかりと逝けそうだ」

 

「左之助」

 

「今度はちゃんとお前と会えた。それだけで俺は十分だ。コイツを頼む」

 

持っていた槍を新八に託す左之助。

 

「あっちで待ってはいるけどよ、あんまり早く来ると追い返すからな」

 

「おう…」

 

新撰組屈指の槍使いは友の腕で再び息を引き取り、焔となって黄泉へ旅立った。



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12巻

激しい剣撃の音が辺り一帯を包み込む。女には最早二人の動きを目では追えていなかった。

 

「流石は抜刀斎。良かったよ、あの頃の威圧感を全く感じなかったから相手になるか心配だったけど技は錆び付いてなさそうだから思う存分やれそうだ」

 

「沖田殿こそ流石でござるな、拙者の技を全てかわし絶妙なタイミングで一太刀を放ってくる。気を抜けば一気にペースを持っていかれ、殺られそうだ」

 

「あの頃は何度か刃を交えたけど結局邪魔が入ったりして決着つかなかったからね。ここらでつけようよ抜刀斎」

 

「臨むところ」

 

さらに素早くなる二人の動き、彼女はただ二人の無事を祈ることしか出来なかった。

 

(僕は羅刹の力も相まってなのに、君はまだその先がありそうだね抜刀斎)

 

距離をとる剣心。

 

「どうしたの抜刀斎。急に距離なんてとって」

 

深呼吸する剣心。

 

(なにか来る…)

 

「でやぁーーーーー」

 

一気に間合いを詰める剣心

 

「飛天御剣流・九頭龍閃」

 

(この技は…マズイ)

 

「初見で九頭龍閃を全て凌ぐか…流石は元新撰組一番組組長沖田総司」

 

「なかなかえげつない技持ってるね抜刀斎。流石に僕も肝を冷やしたよ」

 

(流石に沖田総司を相手に二度目は通じないよな…どうするあの技を使うか)

 

「さぁあまり受け身でもつまらないしそろそろ僕の天然理心流を御披露目…」

 

突然、咳込む総司。

 

(沖田さん。まさか…)

 

「沖田殿。…大丈夫で御座るか」

 

「抜刀斎。殺し合いの最中に相手に情けをかけるとは、随分舐めた態度をとるじゃないか」

 

「しかし沖田殿、尋常じゃ御座らんぞ症状が。吐血しておるではないか」

 

「これは、僕の問題だ君が気にやむことではない。さぁこい抜刀斎」

 

起き上がり刀を握る総司。しかし剣心の方が折れてしまう。

 

「ダメだ。そんな状態のそなたを拙者は、斬れない」

 

「敵に情けをかけるなど、どこまで僕を馬鹿にするんだい抜刀斎。さあ刀を構えろ」

 

「拙者には無理じゃ」

 

「見損なったよ、抜刀斎。じゃあ君が死ぬといい」

 

「ダメです。沖田さん」

 

千鶴が二人の間に割って入る。

 

「千鶴ちゃん。退いてくれないか、ようやく抜刀斎との戦いに決着がつくんだ…望んだ形ではないけどね」

 

「剣心さん、ありがとうございます。沖田さんに情けをかけてくださって」

 

「千鶴殿」

 

「沖田さん。新撰組が京都で活躍していた頃から結核を患っているんです」

 

「なんと」

 

「余計なことは言わないでくれ。千鶴ちゃん」

 

「噂を聞く割りにあまり遭遇することが無いと思っていたが、だからあの頃沖田殿に会う機会があまりなかったのか」

 

「千鶴ちゃん。いくら君でもあまりおいたが過ぎると。殺すよ」

 

「沖田殿」

 

「あの時、私が見た貴方なら容赦なく斬ってたんでしょうけど、『人斬り抜刀斎』は本当に過去の伝説になったんですね。私…決めました」

 

「千鶴殿。何を」

 

千鶴は持っていた小太刀を出し、自分の人指し指を軽く斬った。

 

「千鶴殿」

 

「大丈夫です、剣心さん。傷口は直ぐに塞がります」

 

「千鶴ちゃん…」

 

「沖田さん。今から垂らす血を呑んでください」

 

動揺する二人。

 

「羅刹は血を呑むことで回復します。そして私の血には『純血の鬼の血』が流れています。恐らくその効果は人の血よりも何十倍もあるでしょう、そうすれば沖田さんも一時的とはいえ先程のように戦えるはずです。そして決着をつけて下さい。お二人の戦いに」

 

「ありがとう…千鶴ちゃん」

 

指から落ちた千鶴の血が総司の舌に触れる。

 

(凄いみるみるうちに沖田殿の生気が戻って…なんという威圧感。先程よりも更に強くなっている。なにより目が金色に輝きまるで境地に入ったような落ち着きよう…これは…一撃で決める)

 

「剣心さん。沖田さんの願いを叶えて挙げてください。その『殺さずの刀』で」

 

「…お二人の想いしかと受け取った」

 

「…どうだい抜刀斎。殺る気は出てきたかい」

 

「あぁ…、だが長期戦となると拙者の身が持たないのでな、この一撃でケリをつけさせてもらう」

 

「さぁ、来い抜刀斎」

 

「飛天御剣流・奥義」

 

(これまでの技から飛天御剣流は抜刀術を主体とした神速剣術ということはわかった、どうくる…正面突破。ここまではどこにでもある抜刀術か…通常右利きの場合、右足を前にして抜刀するという抜刀術の常識を覆して、その手の振りや腰の捻りの勢いを一切殺さないように抜刀の後に、左足を踏み出し、その踏み込みによって生まれる加速と加重が斬撃をさらに加速させ、神速の抜刀術を「超神速」の域の一撃に昇華する技。初撃なんとかかわせたが当たらなかった場合、斬撃が空を切ることで発生する突風が敵の行動を阻害し、その初撃で斬撃が通過した部分の空気が弾かれたことで真空の空間が生まれ、その空間の空気が元に戻ろうとする作用で相手を巻き込むように引き寄せる。その自由を奪われた相手を、二回転目の遠心力と更なる一歩の踏み込みを加え、より威力を増した二撃目で追撃する。これは、技の理屈こそ簡単だけど、生死をわける極限状態で抜刀する瞬間に、その勢いを一切殺すことなく左足を踏み込むには、迷いなく踏み込める確固たる信念が必要不可欠であり、「捨て身」「死中に活を見出す」などの後ろ向きな気持ちを一片でも含んでいては、左足に引っかかるか、それを恐れて意識しすぎると、勢いを殺して単に左足を前に出しただけの超神速には程遠い抜刀術となってしまうため、確固たる信念がなければ絶対に成功しない技だ。

また、心に一辺の迷いでもあればその分威力は減衰され、巻き込む真空も十分な威力を発揮せず、威力の足り得ない技となってしまう。凄いね抜刀斎。これが君の全てか…こんな素晴らしい奥義に敗れるなら、悪くないかな…)

 

「天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)」

 

決まる奥義。崩れゆく総司の身体を千鶴は受け止めた。

 

「あれ…千鶴ちゃん。なんで泣いてるの」

 

「…泣いてますか。私」

 

「今にも溢れ落ちそうだ」

 

「どうでしたか」

 

「やっと。強者と本気の戦いが出来て僕は満足だよ」

 

「それは良かったです」

 

「ありがとう。二人とも」

 

総司の身体から黄金色の焔が出火し始める。

 

「近藤さんや土方さんと一緒の所に逝けるかな」

 

「きっと沖田さんを待ってますよ」

 

「可愛い顔が台無しだよ。千鶴ちゃん」

 

「前は、間に合わなかったけど、今回は間に合いました」

 

「…なにが」

 

「お見送りです」

 

「…こんないい子を遺して云っちゃう土方さんに逢ったら、僕が説教しておくよ」

 

「お願いしますね。沖田さん」

 

「千鶴ちゃん伝えておかなきゃならないことがあったんだ。耳かして」

 

「なんですか」

 

そっと顔を近付ける千鶴。

 

「~~~…」

 

総司は千鶴の頬に口づけし、笑顔で焔となって偉大な2人のあとを追った。

 

「…千鶴殿」

 

「大丈夫です。こうなることは、わかっていましたから。行きましょう剣心さん」

 

剣心は総司の居た所に彼の持っていた刀を突き立て、千鶴と共に親玉の待つ奥へ進んだ。

 



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13巻

「お久しぶりですね。斎藤君」

 

「山南さん。本当に生きていたんだな」

 

「そんなに雪村君の話しが信じられませんでしたか。…無理もありませんね。死んだはずの人間がこの世をさ迷っているのですから」

 

「話して貰えるのか、山南さん」

 

「まだ、皆さんが揃って…揃いましたね」

 

4人が遅れてやってきた。

 

「不知火…大丈夫か」

 

「こんくらいじゃあ、俺は死なねーよ」

 

「千鶴。なんかあったのか」

 

「そうですね。色々とありました」

 

「…そうか」

 

「この男が、山南敬助」

 

「はじめましてですね抜刀斎。私が元新撰組総長の山南敬助です。役者は、揃いましたしさぁ聞きたいことがあるようでしたらどうぞ」

 

「聞きたいことは山程あるが、黒幕は誰だ山南さん。あんたの協力者は誰なんだ」

 

「そうですね…『新政府に恨みを持つ者』とだけ言っておきますか。その方は新政府に復讐する手立てを探す過程で、羅刹の資料を手にし独自に研究したと言っておりました」

 

「新政府は羅刹に関する資料は全て処分したのでは無かったのか」

 

「いくら新政府とはいえ、全ての抹消は無理だったのでしょう」

 

「まぁ、そいつを探すのは俺の仕事か。だがどうやってあんたや沖田くん。原田くんに藤堂まで現れた。それぞれ最期を看取られているはずだが」

 

「羅刹の資料を手にしたその方は、独自に研究したそうです。そしてある仮説にたどり着きました」

 

「仮説…」

 

「『寿命で消滅した羅刹が鬼の血で蘇る可能性です』」

 

「なんだと」

 

「その方はもともと薩長の方だったのでしょう。居所は羅刹の資料を手にするより簡単だったと仰っていました」

 

「…まさか」

 

「えぇ、西国の鬼の集落を襲い。鬼を…皆殺しにしたそうです」

 

「なんてことを」

 

「しかし、実験をしているうちに生きた鬼でないと不可能だとわかりました。いくら鬼でも死んだ鬼の血は、ただの血のようです」

 

「そいつ。ぶち殺してやる」

 

「落ち着け不知火」

 

「それで千鶴殿は狙われた」

 

「…おそらくそうでしょう。その方は生け捕りにした鬼から血を抜き。全国各地で集めた羅刹の灰に垂らしたり、血を混ぜ混んだりしたそうです。そして初めて成功した実験体が…私でした」

 

「原因はその方も未だ明確な答えを導き出してはいないようですが、私はある一つの仮説にたどり着きました。それは、『後悔の念が強い者が蘇る』という仮説です」

 

「『後悔の念』…」

 

「私の成功以降は暫く成功体は生まれませんでした。何故か、それは恐らく『己が意志』の強さです。吸血衝動にかられる羅刹は大半が落若水の力に負けた者達。しかし我々のように自我を保ちながら羅刹化した者もなかにはいます。その仮説を立証するため、私は各地を周りました。そして次に藤堂くんが復活したことで、私はこの仮説を確信し、以降的を絞りました。『新撰組で羅刹化した者達』に」

 

「なぜ『新撰組』に拘った」

 

「私の人脈で思い当たる人々が『新撰組』しかいなかったからです。羅刹化した隊士は何かしらの『後悔』をしているという確信もありました。例えば藤堂くん。彼は、ある人に自分の気持ちを伝えれずに生涯を終えました。それは復活した本人に聞いているので間違いないでしょう」

 

「…」

 

「原田のヤツは【永倉に会うために新選組の元へ戻る】って言ってやがった。それはただ戦友に会いってだけじゃなくて新撰組から離れたことを後悔してたってことか」

 

「私の推論にその発言を当てはめると原田くんはもしかしたら、新撰組を離れたことが気がかりだったのかもしれません」

 

「沖田殿は、彼の『後悔』とは」

 

「沖田さん。病のせいで自分が新撰組の役に立てないことをすごく悔しがってました。もしかして」

 

「それもあるだろうが、沖田君の場合は、『武士』として強者と真剣勝負が出来なかった悔しさもあるだろう」

 

(拙者は沖田殿の期待に応えられたであろうか…)

 

「…仲間を冒涜したという自覚はあるか山南さん」

 

「どうですかね…自分でもよくわかりません」

 

「そうか」

 

刀を抜く斎藤。

 

「どうする山南さんやるか…それとも」

 

「いえ、皆さんがここに揃ったことで私の計画は達成されました」

 

その場で正座をする山南。

 

「仲間である隊士を冒涜した罪。如何なる処分も謹んで受けるつもりです」

 

「…永倉くん。小太刀はあるか」

 

「斎藤さん…。おうあるぜ」

 

「四人は見届け人になってもらう」

 

小太刀を山南の目の前に置き、後ろに回る斎藤。

 

「タイミングはあんたの好きにすればいい」

 

「皆さん…ありがとうございます」

 

上着をはだけ小太刀を持つ山南。

 

「…いきます、ウグッ…」

 

その刹那。山南の首は綺麗に地面に転がり落ちた。

 

「山南さん…」

 

「武士の本望じゃな」

 

「そうだな…」

 

 

洞窟から出ると、夜が明けていた。

 

「じゃあ、俺は行く。ありがとうな」

 

不知火は身軽に木々を駆け去っていった。

 

「山南さんの「後悔」はなんだったのでしょう」

 

「多分叶えてやれたと思うぜ、なあ」

 

「…そうじゃな」

 

「…」

 

一筋の煙が天に昇った。

 

 

「斎藤。東京には戻らんのか」

 

「あぁ、俺にはまだやるべきことがこの町にあるからな。今回は助かった。礼を言う抜刀斎」

 

「お二人は」

 

「俺は蝦夷にこっから船で帰るつもりだ」

 

「私は、また旅を続けます。他にも新撰組の皆さんがどこかで生きていると信じて」

 

「そうであるか…では暫しの別れじゃな」

 

「おう、また会おうぜ」

 

「剣心さん。今回は本当にありがとうございました。お元気で」

 

「千鶴殿も達者でな」

 

こうして各々が別の帰路で古都を離れた。

 

(今回の件で今までは討つべき敵としてしか見てこなかった新撰組を別の視点で見れたそんな気がするで御座る…)

 

この一連の事件を振り返りながら歩く剣心。

 

「あー剣心、薫。剣心帰ってきたぞ」

 

「お帰り。剣心」

 

「ただいま。薫殿」

 

「さぁ、ご飯出来ているわ早く食べましょ」

 

(永倉殿、千鶴殿…また会う日までお元気で)

 

長旅を終えかけがえのない人達と暖をとる剣心。こうして剣心に穏やかな日々が戻った。

 

 

~完~



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