血界戦線Lovers 改稿 (九折)
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第1話 レオとチェインの話

改稿です。


 

僕がこの街に来てもうかなりの時間が過ぎたと思う。多くの出会いと、多くの別れを繰り返して僕も少しずつ変わっていった。僕が初めてクラウスさんに会った時、彼は言った。

 

「光に向かって一歩でも進もうとしている限り、真に敗北することは断じて無い。」

 

僕がミシェーラの視力を取り戻したいこと、僕自身があの時の後悔を背負っていること、多くの事にそれは僕を叱咤した。

生きている事こそ素晴らしくて、誰にでも危険が転がっていて、数秒後もしくはもう死んでいるかもしれない。そんな危険がゴロゴロ転がっているこのヘルサレムズ・ロット(後述HL)で僕が生き続けるのは、僕のような凡人が生き続けるのはひどく稀だ。

僕より強いフィリップさんでさえ、この街から去った。それでもこの街に居続けるのは妹の眼を取り返すことと、僕の職場である『Lybra(ライブラ)』の仲間たちの事が大きいと思う。

 

だからこれはいつもの複雑怪奇な戦々兢々とした奇々怪界とした街で起こる、日常の1ページなのだと思った。

 

 

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「ヤァッ!?ご機嫌よう!!HLの皆さーん!みんな大好きフェ・ム・トだよーん!!みんな辛気臭い顔してるねぇ?そんな腐った街に素敵なプレゼントを用意した!HAHAHAHAHA!安心して二十四時間で半径2キロが消滅する素敵アイテムだから!!」

おい、それはどういう事だ。

何故かすごい嫌な予感がする。

 

「それでそれで!?その素敵アイテムをどこに隠したって?ハァァァァァン!?この僕がそんなどこもかしこも探させるとかいうクソつまらない方法を取ると思うかい?」

 

はいはい、良いから早く言ってくれ。

 

「ある人間の背中に取り付けた。その人間は度々私の実験を邪魔するので今回は実験対象になってもらおうかと思ってねぇ?ついでに言うと、その人間には解錠方法は伝えてある!!比較的簡単な実験だねぇ?まぁそういう訳だから、人間含めHLにいるゴミ溜めどもぉ!張り切って探そっか!!スイッチオーーーーーーーーーーーン!!」

 

ピピッ!

 

今、察した気がする。僕のこの背中にある機械はどう考えてもタイムリーな話の件な気がする。むしろコレじゃなかったらフェムトの話を疑うレベル。

 

「おーレオ!今日もその陰毛頭で毒電波受信してんのかぁ!?おーい」

 

クソ先輩おつ。絶賛命の危険なんで“近寄らないで”いただけませんかねぇ?

 

「誰が陰毛頭だ!ヤリチン先輩!てか近寄るなぁ!!」

「はぁん?今後輩が先輩の俺をバカにするような言動が聞こえたような気がするなー?んー?……おいレオ。その背中の機械なんだ?」

「待てぇ!!とりあえず帰ろうとすんな!!かと言って“近づくなぁ”!!そこ!そこで立ち止まって!!」

レオはザップを引き留めつつもザップと距離を保った。それはまるで何かの条件下のように真剣に。

「ああん?テメェなーに言ってんだレオぉ?」

「いいっすかザップさん。よく聞いてください。強いて言うなら連絡頼みます。クラウスさんに。良いですか?実は………。」

 

 

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「つまり、少年の背中に堕落王フェムトの言ってた素敵アイテム?があると?」

「そうっす、まぁレオは解錠方法知ってるみたいで今は大人しくしてるみたいなんすけど。」

「ではレオナルドを早急に助けに行かなければ!」

 

 巨体。そう言い表すにふさわしい巨漢が立ち上がり足早に歩き出す。が

 

「まっまってください旦那!」

 

ザップが珍しくかなり真剣に慌てていた。

 

「実はレオのやつから教えてもらった解錠方法なんすけど、半径16.4ヤード(15メートル)圏内で電子機器、魔術回路、能力系統の力全てを使うとドカンッといくらしくて、専用の鍵でしか開かないらしいんす。」

「なんだと?じゃあ血闘術や血法も使えないと言うことか?」

「みたいっすね。」

「じゃあスティーブンの血凍道で一瞬で凍らせるのはどうだね?」

 

 クラウスが代案を立てる。

 

「いや、どうも物理的なものというより、一種の契約、概念に近いみたいなんで多分ドカンッしますね。」

「ではその専用の鍵というのは?」

 

全身包帯男であるギルベルトが次の策を模索するために聞いた。だがコレもザップは苦い顔をする。

 

「実は、その専用の鍵っつーのがレオの体内にあるらしいんす。ただ胃とか腸にあるなら良かったんすが。臓器と臓器の隙間にあるらしくてうんこしてもでねぇっつー。」

 

 

 

全員が黙る。

解決策が極端に狭まるのだ。今回のいちばんの問題はクラウスたちの能力を使えないということにある。下手な話戦闘がそこそこできる一般人になったようなものなのだ。クラウス、スティーブン、ザップ、K・K、ツェッド、という主戦力が軒並み却下ならそれはどうしようもない。

 

「チェインさんならどうでしょう?彼女なら体内にある鍵を取り出せる。能力もかなり特殊ですし。」

 

ツェッドもとりあえず意見は出してみるが殆どダメ元だった。

 

「いや、彼女も恐らく無理だろう。連絡してみないとわからないが今は人狼局に行ってる。来れると良いが何もできない可能性の方が高い。」

「とりあえず、今レオナルドはどこにいるのだね?」

「どこで能力者が能力使うかわからないんで屋上にいます。一応ブリゲイドさんが護衛してますが銃も電子機器なんで15メートル離れてます。」

 

 

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「なぁソニック。もし何にも解決策が出なかったら最後はちゃんと2キロ離れろよ?」

 

言ってることは分からない、それでも音速猿ソニックの表情と声音で拒否と心配が見て取れた。

 

「今はこの義眼ですら使えないから本当に僕は一般人だな。」

 

 

 

背後から数人の足音が聞こえる。

レオは振り返ると、心配してきてくれた仲間たちを笑顔で迎えた。

 

「ああ、皆さんお揃いで。まぁここで爆発するわけにもいかないんで今、パトリックさんに小型の飛行機を用意してもらってます。運転できないっすけど上に行くことくらいは僕でもできますしね。」

 

レオは死ぬつもりはない。ただ自分のせいで誰かが困ることが嫌だった。ここで爆発すればライブラもただでは済まない。

 パトリックは武器商人なので飛行機は扱ってないらしいが、似たようなものを渋々用意してくれるそうだ。

 

「レオナルド、諦めるな。今から私はドン・アルルエル・エルカ・フルグルシュに当たってみる。」

 

「俺はとりあえず警部と知り合いに当たってみる。何か他の要素があることも考えられる。とにかく情報が少ない。ザップも他の構成員に当たってこい。ツェッドもだ。」

「私も知り合いに当たるわ。レオっちを爆発なんてさせない。」

「私もライブラの過去の記録を洗ってみましょう。」

 

全員が動いてくれようとしていることに自分も仲間としてここにいるのだと嬉しくなるレオ。

 

「皆さんありがとうございます。とりあえず僕はここで大人しくしてますね。ライブラの上層の電気製品は申し訳ありませんが全て落としておいてください。」

 

 

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いろいろなことが蘇ってきた。別に死ぬかもしれないから思い出したとかではない気がする。どちらかといえば一般人のレオにとって毎日が摩天楼だった。だからこそ独りになった時自分を見つめ直す癖が知らぬ間に出来上がっていた。

 

まぁ、仕方ないよな。

運が悪かったとしか言えない。今日だって朝起きて、気がついたら真っ暗な部屋にいて、背中が重いと思ったら何かついてるし、取れないし、散々だ。

まぁでもクラウスさんたちを信じよう。

今はそれしか僕には出来ない。

神々の義眼も使ったら爆発か。

 

「よ!」

「ふげっ!」

 

レオの頭の上に止まった黒服の女性。

 

「チェインさん!?」

 

レオはすぐに逃げるよう言おうとしたが手遅れなはずなのに爆発しない。実はレオは人狼のことをよく知らない。だから人狼という存在事態が能力のような彼女が近づいただけでやばいかもしれないと思っていたのだ。

 

「事情は聞いたよ。」

「そっすか。まぁ運が悪かった感じです。」

「そうだね。」

「………。」

「………。」

 

レオはチェインと仲がいいわけではない。というより挨拶したりそれなりに会話はするが飲みに行ったり、食事をしたりする中ではないため何を話していいのかどちらも解らないのだ。

 

「………えっと、チェインさんってスティーブンさんの事好きなんっ」

 

 

気がついたら空を舞っていた。

レオ自身何故自分が仲がいいわけでもない女性にそんなことを聞いたのか分からなかった。もしかすると死ぬかもしれないからかもしれない!

 チェインはそのままレオの胸ぐらを掴む。

 

「なななっなんで!?なんで知ってんの!!?」

 

この慌てよう。

 

「ズビバゼン……。とっどりあえず、放してグダサい。」

 

ハッと、チェインも冷静さを取り戻しレオを放す。レオは服を戻して、

 

「いや、そのなんというか見ててわかるというか。」

 

頰を掻きながら苦笑いした。

 

「まっまさまさか、スティーブンさんに気付かれて!?」

「いや、あの人は多分気づいてないかと。」

「それはそれでちょっと悔しいけど、レオ以外に知ってるのは?」

「まぁK・Kさんくらいじゃないですか?察するのが上手そうなギルベルトさんも知ってそうですけど。」

 

とりあえずそれを聞いてチェインは胸をなでおろした。そしてレオを睨み付けると、

 

「絶対に誰にもいうんじゃないよ?わかってる?」

 

脅しに近い形相だったのはレオの見間違いでありたい。

 

「ウィッス!絶対言いません!墓まで持ってきます!というかもう少しで上空爆発四散します!!特にあのクソ先輩には絶対言いません!!」

「よし。」

「………。」

「………。」

「………。」

「………まぁ、好きだけどさ。」

 

チェインはちょっと顔を染めながら顔を背け呟いた。

 

「でもどうせ叶わない恋だし。」

 

少しだけ悲しそうに言った。

 

「………どうしてですか?」

「ふっだって多分女として見られてないし、あたしがさつだから。可愛くないし。」

 

言うごとに下を向いていくチェインを横目にレオは塀に座りながらHLの景色を見た。そしてチェインを見ると、

 

「チェインさんは可愛いですよ?」

「なっななななな何言って!!?」

「いえ、本当はこんなこと正直言わないんですけど、昔動かなければならない時に動けなくて、だからそれが正しいなら後先考えて何も出来ないよりする方を選ぶことにしたんです。はははは………。」

「そっ………、そう。………まぁありがと。」

 

チェインはちょっと汗を垂らしながら顔をほんのり赤くして礼を言った。

 

 

 

チェインはそう言った直球な言葉に弱かった。職業柄、いや、種族柄、嘘と欺瞞に埋もれた世界を見てきたせいか、正直な感想や想いに初だったのだ。

実を言うとスティーブンを好きになったのも初めて出会った時、女性として扱われたからでもある。前述の通り、ガサツであり、態度も男っぽく荒いので、女扱いされることに慣れてなかった。

 

「レオは?好きな子とかいないの?」

「僕ですか?」

 

レオは少し考え込んだ。自分の身の回りにいる女性を思い出す。

 ビビアンさんは友達って感じだし、ミシェーラは妹、K・Kさんはお母さん的な存在だし、ホワイトは可愛かったなぁ。でもやっぱり友達か。

 アリギュラは論外。エステヴェスさんも知り合い程度。ニーカさんも可愛いけどあんまり話したことないなぁ。

 

「あんまり女性と深く関わることがないみたいです。」

「枯れてるな少年。」

「チェインさんに言われたくないです。乙女ですもんね。」

「なにをっ!」

「ぐほっ!!」

 

チェインがレオの腹を軽く小突く。

 

「でもまぁ、ぶっちゃけ怖いんですよ。」

「怖い?」

 

なんの空気に当てられたのか、レオは語りたくなった。やはり内心まだクラウスたちを信じきれていないのかもしれないと罪悪感が芽生える。

 

「人と深く関わるって怖いじゃないですか。特にこんな街で、僕のような“価値のある宝を持ってるけど自己防衛できない“みたいな人間は非常に危険です。処世術の一環なのかもしれないですけど。」

 

レオは咄嗟に失言だと思った。

これだとライブラの女性、つまりチェインやK・Kを信用していないということと動議になってしまう。

 

 

すぐに撤回しようとチェインの方に向き直るが、その時、不覚にもチェインの横顔に見惚れてしまった。

 

 

チェインの顔はゆっくりと暗くなる空と明かりが灯り始めるHLの街並みに照らされて美しくぼんやりと光っていた。その顔は懐かしさと恥ずかしさが入り混じった少女の顔だった。

 

「あたしはさ、ここにきた時スティーブンさんに平手打ちをしたの。」

 

穏やかな顔だった。

 

「あたし胸でかいでしょ?だから今まで近寄ってくる男がみんな体目当てで来てうんざりしてた。その時にスティーブンさんと会って、最初に『とても危険な街だから何かあったら遠慮なく言ってくれ。女性は特に危険だ。』って言って来たの。普通ならそれは好意で言ってるわけだけど、」

 

少しだけため息を吐いた。

 

「その言葉がね初恋の人にそっくりで衝動的に手を上げてしまった。もちろん謝罪したよ。でもその時は男なんて全員死ねばいいって思ってたしあわよくば私以外みんな死ねって変なうつ状態だったんだ。」

「だからその相手を信用できないって気持ちはきっと正しいよ。あの時の私と君は年齢的に大差ないけど今の君の方がずっと大人。」

 

 

 

レオは少しだけ目尻が熱くなった。

泣きたいわけではない、ただ、何かを許された気になったのだ。それがなんなのかわからなかった。

 

「ありがとうございます。なんだか………気恥ずかしいですね。ハハハ。」

「もしかしたら、ある意味『この人になら裏切られてもいい。』って思えたらそれが“信じる”ってことなのかもね。」

 

 

 

 チェイン自身どうして自分がこんなことを言っているのか分からなかった。言ってみればチェインは派遣のようなものだ。ライブラと人狼局2つに在籍してるがあくまで人狼局がメインでありライブラに協力している関係である。

 故にチェインは必然的にライブラのメンバーと常に一緒にいるわけではない。だから誰かと親密な関係や深い繋がりを持つことがなかった。

ある意味でこの2人は似た者同士だったのだ。

チェインもそれなりに戦えるものの、クラウスやスティーブンに比べるとどうしても戦力が低い。

弱い者どうしシンパシーがあった。

 

「チェインさん、もし僕のこの背中の素敵アイテムが僕を殺さずに済んだら、飲みに行きましょう?」

「え?」

「チェインさんお酒好きですよね?僕あんまりお金ないですけど、少しくらいなら奢ります。なので、」

レオは正直かなり雰囲気に当てられていた。

「僕と友達になってくれませんか?」

 

 

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しばらくして、目の下に隈を作ったクラウスと息切れ中のスティーブ、ザップ、ツェッドが帰って来た。

 

「あ、皆さんお疲れ様です。どうでした?」

「少年、すまないが解決策はなかった。」

 

ザップとツェッドも同様に苦しい顔をした。

 

「ドン・アルルエル・エルカ・フルグルシュに聞いたがなにも得られなかった。すまないレオ!だが諦めてはならない!!まだ何か方法があるはずだ!!」

 

 

クラウスはふらふらになりながらも必死に考え続けていた。

クラウスがゲームした時間は110時間。それほど、それほどレオのことを考えているのは言うまでもない。

 

 

レオは嬉しかった。

義眼のためかもしれない、ライブラに関わっているからかもしれない、そんな不安感など微塵も感じさせないほど彼らはレオナルドのことを思っていた。

レオナルドにとって彼らはもう家族である。

掛け替えのない存在、命を賭してでも助けたい存在、相互の想いが重なっていると確信できた。

だからこそレオは諦めない。

必死に考える。何か解決策がないか頭をフル回転させる。

 

「ねぇ。」

 

一同、声の主に顔を向ける。

 

「電子機器、魔術回路、能力を使っちゃダメなら普通に病院に行けば良いんじゃないの?

「「「「「「「え」」」」」」」

 

 

 

 

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今回の後日談というか、オチ。

「チェインさーん、もう飲むのやめましょーよー!」

「だーめだって。あー!他人の金で飲む酒は美味いわ。デュフフ。」

「いやいや奢るとは言いましたけど何本飲む気ですか!?」

「いーじゃん!今回私ファインプレーだったじゃん!?」

「確かにそーっすけど僕の今月の食費ががががが。」

「デージョブだって!いざとなったら私のご飯を分けてやろうではないか。あはははははははははは!!」

「えー…………。」

 

まだ夜は長い。

 

 

 

 

 



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第2話 暖かい日差しの中で

二話です。
かなり描写が下手くそですが見逃してください。捏造も度が過ぎてる気がしますけど。



HLには多くの次元の隙間が存在する。次元を操ったり空間を操ったりとそんな能力を持った者が跋扈しているのだからなんら不思議ではなかった。

レオナルド・ウォッチもまた己が見るということにおいて世界最高峰なのではないかと思うほど強力なモノを保有していた。

 

神々の義眼。

 

それは価値のつけようがないくらい希少な神工器官の一つである。その眼を保有する少年の命は常に危険と隣り合わせである。HLというただでさえ危険な場所で、宝を持っているモノだ。

レオは今とある場所に来ていた。

その場所はライブラより空間が入り組んでいて異なる多次元をまたぎ時間すら超越した人類には想像できないような未知の領域であった。

 

様々な装飾が施された、レオナルドの身長の何倍もある扉が目の前にある。

 

本当にいいんでしょうかクラウスさん。僕はあなたに罪悪感を持ってしまう。

 

「とりあえず………入るか。」

レオナルドはその扉をゆっくりと開けた。

 

「ヤァヤァ、遅かったねレオぉ?まぁいつも君は怖くて怖くて心の準備がいるのはわかるけれどね?幾ら何でも扉の前で躊躇するとか乙女かよぉ。HAHAHAHAHA!」

「うっせぇ。僕はお前らと違って弱い人間なの。お前らの気ままで殺されちゃう可哀想な存在なの。わかるか!?言わせんな死にたくなる。」

レオナルドの目の前で大きなディスプレイが幾重にも置かれている中椅子に手を組んで座っているのは堕落王フェムト。

HLにおいて、ひいてはライブラにとってその名を知らぬ者はいない。

「お前、あの爆弾不発にしたろ。」

 レオは向かいにある長い机から“いつもの” “自分の”椅子をとってフェムトの隣に座った。

「ああ……、まぁね。」

「なんでだよ。」

レオは死にたかったわけではない。それは絶望屋の専売特許だしな。とレオは思った。だがそれでもあれが不発なら、レオとフェムトを疑う種になる可能性がある。

「いんやぁ?まぁ強いていうならいくら牙狩りだろぉと、能力を封じられた上で、電子機器も使えない魔法も無理ならお手上げで、そんな愚かな豚どもに僕の親友を殺されちゃあ困るってだけさ。」

フェムトはデスクの紫色の奇妙な液体を口にした。

「飲む?」

「………いらね。」

「そ。」

ディスプレイにはHLだけではない戦争地域の状況や永遠の虚の様子など様々な阿鼻叫喚の絵図が映し出されていた。

レオはなぜ自分がこんなところにいるのか未だわかっていなかった。ただレオにとって悪いことばかりではなかった。

レオがここにいるのはフェムトとアリギュラが誘って来たためである。別段王になれとか、何かをよこせとか、そういった要求はされなかった。

レオにとって堕落王と偏執王は敵中の敵であり、ライブラ構成員としてクラウス案件であった。だがしかし、フェムトとアリギュラはこう言ってきたのだ。

「君ぃ、妹を救いたいんだって?視力を取り戻したいんだってねぇ?あわよくば足も治ればいいと思ってる。違うぅ?」

「ねぇあんたってーどっかで会わなかったっけぇ?“私たち”とぉ?」

レオは正直キャパオーバーすぎて数秒停止する予定だったのだが、ミシェーラのことが出たならそうはいかなかった。もう動かないという選択肢はなかった。

 

そこから早一年。

フェムトもアリギュラもすっかりレオを気に入り、レオも少しずつフェムトとアリギュラを信頼し始めていた。ただし、それは苦悩の種でもある。

レオは基本善人である。

自他共に認めるほど。

故に正義の味方としてのライブラでならなんら問題なく仕事ができる。がそのライブラの敵対組織である、かの13王は主に快楽狂人集団であり、世界を滅ぼすことのできる能力を持っているわけである。そんな彼らと関わるのはレオにとってどちらに対しても嘘をついていることになる。

一応フェムトの目的や、アリギュラのことなど、ほか11名全員のことをそれなりに理解しているので自分の目的と相反することは起きないとわかってはいるが、果たして親友が気ままに人を殺すのを傍目で見ていられる人間がどれほどいるだろうか?

 

「それで?一応礼は言っとくけど今度は何をするんだ?」

「僕がネタバレするわけないだろう?まぁまぁとりあえずは今んとこHLには何もしない。HL“には”ね。」

「ミシェーラが困らないようにしてくれよ。」

「そこは承知してるよぉッ!ね?アリギュラぁ?」

 いつの間にかレオの斜め後ろにアリギュラがいた。レオは別段驚かなかったが少しため息が出る。

「そうよそうよぉ!レオきゅんにとって本当の不利益はむしろ私たちが許さなーい。わかったぁ?」

レオがため息を吐くのは、アリギュラである。

というのもアリギュラは所構わずレオに抱きついてくる。なんでも臭いがいいとかなんとか。ちょっと前にレオの臭いを採取して彼氏にくっつけるとかいうちょっとやばいことを言ってた気もするが気のせいだ。

レオは2人がレオを殺せることを知っている。故に普段からそれなりに警戒はしているが、それでも青春真っ只中の青少年といっても仕方ないレオ少年はアリギュラに抱きつかれてちょっと動揺を隠せない。

「アリギュラ!放せって!」

「ふぅー、照れちゃってぇ!」

「チッゲーっし!」

「君たち騒ぐのいいけどカーペット汚さないでよぉ?」

 アリギュラとレオがモミクシャして机のコップが揺れる。

レオは背中に当たる少しだけ柔らかい感触に動揺していた。

 

アリギュラ体細くて貧乳に見えるけど、やっぱり女の子だけあるからそれなりに柔らかいんだよなぁ。着痩せする方だし。はぁ

 

「ねぇレオぉ、一緒に朝ごはん食べよう!」

「………、僕に食べれる食材ならいいよ。」

「よし!じゃあアリギュラは食器を用意!僕は料理を運んできてあげよう!『おーい!もしもし!?暴食!!料理を人間用3人分!あ!?トマト入れるなよ!?』」

「じゃあ僕は机拭くよ。」

レオは正直言ってこの空間が好きでもあった。お互いに何も隠すことはなく何も隔てるものはないような外聞も体裁もきにする必要のない空間が。

そして何よりレオは思っていた。

 

クラウスさん、ごめんなさい。でもライブラに入って早数年、未だ妹の眼の解決策は見つからなかった。でもフェムトは妹の足を綺麗に直してくれた。

それだけで僕は彼らを信頼してしまいました。

 

レオは机へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HL郊外

多くのマンションが立ち並ぶ比較的安全で高級な住宅街の一つ。

最上階の見た目清潔感のある一室の前でレオは立ちすくんでいた。

 

今日はライブラの休養日。

酒の席とはいえ一応部屋に来いと言われたので来てしまった。というか正直どうしたらいいのかわかんねぇ!

インターホンないし!

 

レオとチェインがバーでお酒を飲んだ後、チェインは珍しくぶっ倒れ、レオが背負って家に帰ることになった。家の場所はなぜかレオのポケットにあった。

レオとチェインはかなり身長差があるが、それでもチェインを背負うのはレオにとってそこまで苦ではなかった。

もしかすると質量希釈をしているのではと思うほどにチェインの体は軽かった。人狼だから元から軽いという可能性も十分にあるがレオは知らない。

レオは珍しく義眼を使ってできるだけ安全な道を通ってチェインを家まで届ける。

レオは戦闘能力がない、チェインはそれなりに戦えるが今は無理だろう。ソニックにも偵察してもらってなんとか何にも起きずに家にたどり着いた。問題は鍵である。チェインは希釈すれば入れるので鍵は一つしか持っていなかった。しかもそれは中にある。が、レオは郵便受けの紙束を取り除いて、ソニックに中に入ってもらった。ギリギリ入れたので良かったものの入れなかったらどうしようかと思った。

そのままレオは室内に入るが、そこはゴミ屋敷。ゴミ屋敷。

酒臭さと湿気のこもったなんとも言えない感覚が鼻孔を刺激してレオは咳込む。

 

えー、いやまぁ別に華やかな乙女の部屋とか想像はしてなかったけどまさかここまでとは。ははは。

 

苦笑い。

レオはとりあえずベッドにあるゴミや服をとってチェインを横向きに寝かせた。吐いた時仰向けだと窒息死する可能性があるからだ。そして一応上着を脱がす。

 

今起きられたら心臓発作で死にそうだな僕。

 

そのままレオはチェインに布団をかぶせる。その布団すら少し汚いがまぁないよりはいいと割り切って部屋を見回す。

レオはとりあえずゴミだけでも片付けようと考えて、ゴミ袋を探し、ゴミを片付けていく。が結局部屋をそれなりに綺麗にし始めた。

そこから数時間が経過して見違えるほど綺麗になった部屋を見てソニックは苦笑した。

レオはその後一旦出かける。

 

帰って来て、今に至るのだが。一度は行ってから出た手前、もう一度入るのがなんだか気恥ずかしかった。というのも単純にあの後五時間ほど時間が経っているのだがチェインが死んでないかの確認できたのだ。チェインがあんなに飲んだのも少しはレオの責任であると思っていたからである。

 

よし、まごまごしていても仕方ない。レオは鍵を開けて入った。部屋は以前湿気に包まれているが第一印象とは雲泥の差がありベッドにはおとなしく寝ているチェインの姿があった。ただ布団を押しのけてワイシャツのボタンが弾け飛んでいるのと腹が出ていることさえ除けばだが。

 

おいおいおいおい!

ボタンが弾けるってどんだけだよ!?ザップさんがセクハラしちゃうのもわかるよ!しないけど!!!

 

レオはとりあえず布団は畳んで毛布だけ被せた。そして窓を開ける。掃除の時に換気をしたかったのだが夜なので寒いというのと物騒というのもあって閉めていた。窓を開けると爽やかな気持ちの良い風が入って来た。レオはそのまま椅子に座る。

ソニックは窓から出てってどこかに行った。

レオはふと冷蔵庫を開ける。

正直自分がやっていることがかなり失礼に値するのではと思いつつも、色々と頭の中で免罪符を立てて覗き込む。案の定食材はあったがもう少しで期限切れが多い。レオは少し悩んだ後冷蔵庫から食材を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気分がいい。

心地よかった。こんなに気持ちいいのは何年振りだろうか?いつもなら酒を飲んだ後はだいたい気持ちが悪いのに。

少し暖かくてでも涼しい。そんな春のような空気が全身を覆っていた。

良い匂いがする。

美味しそうな匂い。

自然とお腹が空いてきた。そういえば今は何時だろう。いや、私のことだもうお昼かもしれない。いつも1日寝るなんてザラだからむしろ早いかもしれない。明るいからお昼ではあると思う。

目を開けるのが億劫だ。汚い部屋を見るのも嫌だし、淀んだ空気を吸い込むのも嫌だ。

でも?あれ?なんだかひどく明るくて綺麗な匂いがする。

それに誰か………いる?

おかしいな?いつもは管理人のノックですら警戒して飛び起きるのに。今日はなんだか安心感が私を支配している。

 

「チェインさーん。そろそろ起きてくださーい。もう昼ですよぉ?」

レオの声がする。

まだ夢の中なのかな?

だって部屋がこんな良い匂いなわけないし心地いいわけもない。

誰かが近づいてくる?

スティーブンさんだったらいいなぁ。夢の中なら何してもいいし。

でもなんだかスティーブンさんより緊張しないなぁ?

「チェインさん、起きてください。」

急激に目が覚めて行く。

誰かが私の体を揺さぶる。

誰?

 

 

目の前にはボケっとした顔があった。

「わあーーーーーーーー!!!」

 チェインはとっさに飛び起きそのまま蹴ろうとするが寸前で止まって距離を取る。しかし、レオはここで己の考えの浅さを呪った。

レオはチェインのベルトも取っていた。結果飛び起きて垂直立ちなどズボンがずり下がるは必死。

というより驚いて義眼を使ったら、ゆっくりとチェインのズボンが下がって行くのが見て取れた。

「うおおおおお!!!」

レオは今世紀最大の全力疾走でチェインに駆け寄る。がチェインがそれを攻撃だと勘違いしレオを止めようとする。レオはそれより早く下半身に手を伸ばす。がチェインの突き出した手によって肩を押されたレオの体は軌道をずらして腰より下に向かう。

 

所詮ラッキースケベ。

 

「ごふっ!!?」

「ふげ!!」

 チェインは後ろに転がりレオはチェインの股間に直撃しそのまま床に落ちた。まだいい方ではある。男女逆だったら悲惨だった。がレオはすぐさま状況を把握して自分が死ぬのだと理解した。

はたから見れば勝手に上がっている男が女性の下半身に頭部を向かわせ、あまつさえ倒したなんて。社会的に終わる。

 

さよなら、ライブラ。さよならフェムト、アリギュラ

 

レオはうずくまる。前方から服を着直す音と、足音が近づいてくる。レオナルドは覚悟した。このまま背中を踏み抜かれて直接心臓が潰されるのも仕方なしと思ったのだ。

だがしかし、一向に心臓に衝撃は来なかった。

レオは恐る恐る顔を上げる。

 

チェインは部屋を見渡していた。

「これ………どこ?」

チェインからの質問にレオは自分が実は住所を間違ったのかもしれないことに思い至った。

「え!?は!!もしかしてチェインさんの部屋じゃなかったんですか!?」

「いや?家具見るからに私の部屋ではあるんだけど、こんなに綺麗じゃない。」

ああ、とレオはひとまず安心して

「あ……ああ、僕が勝手に片付けさせてもらいました。」

「そっそう……。」

チェインはなんともいえない恥ずかしさと有難さ、申し訳なさを感じていた。

「えっと、とりあえずもうお昼なんでご飯食べません?ありあわせですけど。」

「えっ………はい。」

「ぷっ!『はい。』ってなんですか『はい。』って。」

レオは少し笑いながら台所に戻って行った。

 

 

チェインが最初に倒れてから思ったのは、なぜ自分がレオに攻撃されているのかということである。だがしかしチェインは自分のズボンがずり下がっているのを見てすぐに慌てた。

だが目の前のレオはそれを察していたのか顔を伏せている。そのレオの誠実さに逆に驚いた。どこぞのクソ猿なら下着見てはしゃいでいただろう。だがこのレオは初々しいというかそれこそ本当に子供のように目を背けていた。

とりあえずチェインは服を着なおして状況把握をしたかった。

周りを見渡せば多少汚れはあるがかなり綺麗な部屋だ。

だが驚くことに酒瓶や家具を見るにチェインの部屋だとすぐに気がついた。

故にチェインはレオが掃除したことに行き着いたのだが。

それでも信じられずレオに「ここ………どこ?」と質問したのだ。

 

少ししてチェインは別室で服を着替え普段着になった。客の前に出ても大丈夫な服装だ。そのままいい匂いがするリビングに戻ってくるとレオがカレーを持ってきていた。

「美味しそう。」

「え?そうですか!なら作った甲斐があります。」

レオはとっさに漏れたチェインの言葉に喜んでいた。

「じゃあ早速食べましょうよ。」

レオはお茶とコップ2人分を持ってきてチェインをテーブルに誘う。

チェインはレオと対面に座ってされるがままだった。

「じゃあ失礼して、いただきまーす!」

「い、いただきます。」

チェインはまだ状況を読み込めていないのだが、目の前に美味しそうなカレーがあってもう昼なのでお腹も空いている。食欲には逆らえない。

チェインは一口食べた。

「うっま。」

正直な感想である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?今の状況をある程度説明してもらえたりするの?」

「え?ああ、確かにちょっと変ですよね。えっとまぁ……」

レオはチェインが倒れてからのことをそれなりに詳細に語った。レオにとって自分のしたことは自己満足である。その自己満足でチェインが困っていたらどうしようかと不安ではあった。

フェムト曰く、「君はもっと自己満足になっていい。大丈夫さ、君はいわゆる凡百な人間だ。だからほとんどの君の自己満足は誰かを救うだろうね。」と。

 

チェインにとって、衝撃だったのはレオナルドがここまで普通の人間だったということだった。誰だって隠しているものはある。チェインだってスティーブンがまさか紳士的な塊の人間であると思っているわけではない。時折見る暗い笑や、狡猾で残忍な手段からして自分達に何かを隠しているのは明白だった。

当然レオナルドにも何かあると思っていた。

チェインは自分がそれなりに美人であることは知ってる。

それ故にレオがなにか良からぬことをしてくる可能性も考慮していた。それを考えた上で2人で飲みに行ったのもあった。自分ならレオに勝てるし、レオもそこまで度胸はないだろうと。

ただし度胸以前に人として品性と理性のもった一般人としてレオはかなり確立されているのだと思う。

HLでは珍しい。それこそ本当に“13王”や血界の眷属にも引けを取らないほどに。

「そう、じゃあまぁお礼を言っておこうかな。」

「いや!でも僕勝手に部屋に入ったし、勝手に片付けて、勝手に食材使ったりして何だか申し訳なくて。」

レオは頭を下げる。

「なーに言ってんの。レオはあたしを襲うことだって出来たのにしなかったし、送り届けるだけでもこの街じゃ感謝ものなのに部屋を片付けてくれたしご飯も作ってくれた。あれ賞味期限ギリギリだったからでしょ。おかんね。」

「おかんですか。ははは。」

レオは苦笑した。

「まぁ下着をかたしたことは、見なかったことにしてやろう。」

「えーーーーー!!それ言っちゃいますかっ!?」

「いやー!ここで私が叫んでも文句は言えんですなぁ。」

「うわー!この人ひでぇー!!」

 笑い声が部屋に響いた。

ソニックは今ちょうど帰ってきたが。レオが楽しそうにしているのを見ていい天気だなぁと言ったように空を見上げた。

 

 

 

 

 




レオ「(チェインさんのブラ、でかいなぁ。)」
ソニック「うぅーー?(何まじまじと見てんだこいつ?)」


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第3話 幸せな時間とは突然に。

今回の話は原作を読んでいないとわからない点があると思います。
簡単に説明すると
ゴルディオンEX+という名前の絶対に破壊できない手錠がザップとチェインの手にくっついた。

その手錠をつけられて2人は謎の組織に誘拐されていた。

チェインがあの日で希釈できない。

なんとかして2人で鍵を奪取するがチェインが無くしてしまう。

敵を倒して協力してどうにか安全な場所まで来た。

ザップがチェインの隣で小便する。

チェインに「お前はしないのか?」と問う。

なんとか2人でライブラにたどり着いたが、手錠制作会社は蒸発。

鍵がないのと戦闘の消耗で2人ともダウン

なんやかんやあって20時間後、解決。

といった感じです。今回も捏造がひどいですがご勘弁を。



ゴルディオンEX+(後述ゴルディオン)事件から20時間後。

HLのとあるバー。

「マジで信じらんないわァァァぁーーー!!」

酒を片手にデスクに突っ伏す1人の黒髪の美女。

「いや、まぁ話を聞く限り確かにないっすねそれは。」

その横に座る彼女より背の低い平凡な見た目の少年。

ゴルデイオンがクラウスのおかげによって外れてチェインはザップの顔に蹴りを一発入れる。ザップは負けじと殴ろうとするが不可視の人狼に敵うはずもなく突き出した拳が電柱にあたり痛がっているところに股間を一蹴され撃沈した。

「いや、あたしだって別に初めて見たわけじゃないけどそれでもあそこでするか普通!?や、でもトイレって我慢しずらいしなぁ。」

チェインはザップのことを微塵も擁護する気はないが、もしあれがスティーブンでもやはり我慢できなかったのだろうか?と考えてしまった。

「いや、その前まで普通に戦闘していたんですよね?じゃあ、大丈夫なはずです。男はかなり我慢できると思いますし。」

レオはザップを売ることにためらいはない。憎んでいるのではなくザップが単純に悪いと思っているからだ。

チェインはもう一口酒を仰ぐ。

 

チェインはレオと友達になってから仕事の後2人ともオフの時は自然とこのバーに来ていた。バーの名前はスカッシュ。

このバーは比較的安全で、店主もかなり出来る方なのでレオもチェインも安心だった。

 

チェインはこのバーの顔なじみというか常連で、バーでは最近チェインが男とくるということでもっぱら会話のネタにされていた。

「(おい、チェインがまた同じ男と飲んでるぞ。)」

「(最近ずっとあの男と飲んでる。まさかあの男がチェインを落としたなんてことないよなぁ)」

「(それはねぇだろ。)」

「(なんにせよ、今は関わらない方が良さそうだ。)」

「(ああ)」

中にはチェインと飲み比べして見事に惨敗した奴らもいたが。彼らもどうしていいのかわからずチェインに話しかけることが少なくなっていた。そして何よりチェインは存外気に入られていて、そのチェインが楽しそうに話しているのだから邪魔するものはいない。

「しかも『お前はいいのか?』だよ!?死ね!!」

「うわぁ………。逆に尊敬するレベル。」

「んっ……んっ……プハァー!スティーブンさんならもっと気遣いあって男らしい一面見せると思うのにどうしてこう同じで男でこうも違うのか!?」

レオはぐさっときた。

 

さーせん。そもそも僕がザップさんと交代でそこにいたら足手まといにしかならなかったと思います。マジで。

 

レオが卑屈になっているのも知らずにチェインはザップへの恨み辛みとスティーブンの対比をしまくっていた。

レオは正直自分がチェインを助けられないだろうということに罪悪感と劣等感を抱いていた。友達だから余計に助けたくなる。

「ごくっ!ごくっ!………プハー!」

チェインはすでに数リットルお酒を飲み干していた。

暑くなってきたのかスーツを脱いでワイシャツになりボタンを開ける。

「ツァ………暑い。」

「チェインさん、あんまり飲まない方がいいですよ。それに服もそれ以上はやばいですって。」

「いいの!今日は飲むの!!スティーブンさんにも迷惑かけたし最悪だ!」

「あああ………。」

チェインはどんどん飲んでいく。

チェインの胸元はかなりの面積が空いていてすでにレオの角度からはブラジャーが見えていた。もちろんレオは見たものの眼福ということで周りの奴には見えないように徹するだけだった。

 

しばらくしてチェインがダウンし、頭をデスクに打ち付け寝息を立て始めた。

「あ、すみません。これで会計お願いします。」

「わかりました。少々お待ちください。」

店長がいつものことという感じでやってきてチェインのカードを受け取る。レオは最初こそ奢ったもののやはりチェインの飲む量が凄まじく金の有り余っているチェインが「自分が飲んだ分は自分で払うし、なんなら微々たる量しか飲まない君の分まで払おう!」と言った所為である。

店長が会計している最中、

「すみません、いつも机を汚してしまって。………手伝います。」

「いえいえ、チェインはお得意なんでいつものことですし、あなたにはこれからしなければならないこともあるでしょう?」

「………そうですね。ありがとうございます。」

レオは店長といつもの会話を済まし、チェインを背負う。

重くはない。ただドキドキが止まらないだけだ。

 

レオは確かに女性と普通に話したり出来るが、それはやはり一線を引いていたからであって友達という関係になってお互いそれなりに近い関係になって初めてチェインが女性なんだと意識し始めた。

 

僕はなんて突飛なことをしたんだろう。

一ヶ月前にレオは自分からチェインに交友関係を作ろうと持ちかけた。その選択は間違いではなかったが浅知恵ではあったと思う。

レオはそのままチェインを送り届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、レオはベッドで起きライブラの集会の準備をしていた。

レオも男なので朝に起きる男性特有の生理現象で少々時間を取られて急いでいたのだが、実を言うと急いでいる理由はもう一つある。

レオは身支度を終え、自宅のドアを開ける。そしてすぐに隣のドアにノックし返事がないのを確認して鍵で開ける。

「チェインさーん!あと1時間で集会っすよー!!起きないと襲っちゃいますよ!」

そう、何を隠そう家が隣同士になってしまった。

と言うのも毎回壊れるレオの部屋を鑑みてクラウスが気を利かせて新しい部屋を比較的新しいこのマンションにしたのである。危険な格安アパートから安全な高級マンションに変貌を遂げた我が家にレオはクラウスさんに一層感謝と罪悪感を持った。

偶然、本当に偶然隣がチェインだったのだ。

クラウスがチェインがどこに住んでいるかなど知る由もなく神の遊びかはたまたどこぞの“王”の仕業かレオは図らずも友人の家の隣になってしまった。

「う……うう……あと………五年。」

「その間にスティーブンさんが結婚するかもしれませんね。」

「はぅ!」

チェインがベッドから飛び起きて胸をさする。

「しっ……心臓に悪い。」

「僕も心臓発作を使えるようになったのかもしれませんね。」

レオはそのまま台所で以前よりかなり綺麗になった道具を使って、簡単な朝食を作り始める。

チェインはのろのろと起き上がって、ぼーっとしながら別室に移動し着替える。

 

これが毎朝ライブラに顔出すまでのチェインとレオの日常であり、利害関係の一致でこういった毎日を過ごしているのだ。

レオは食費を抑えられ、チェインは健康的な生活を送れる。

第三者が見ればそれはもう配偶者同士の関係に近いような気がするがそれは気のせいだ。多分。

 

チェインが着替え終わって部屋から出るとリビングには簡単な朝食と弁当が置いてあった。

「今日は少し食材が余ったので弁当を作ってみました。今日は人狼局の日ですよね?腰につけて希釈すれば動きを制限しないですし持ってってください。」

「え?あっ……助かるぅ。」

「どうせチェインさん昼ごはんとか食べないんでしょうけどこれからはそれも改善していきましょう!友達が肝硬変で早死にとか嫌なんで。」

「おっおう。」

 

チェインは正直、レオに感謝しても仕切れないくらいどっぷりとレオに浸かっていることを理解していた。前よりも精神的な落ち着きができるし、体の不調もない。あの日も安定している。

だからこそ申し訳なかった。

チェインにとってお金は有り余るものだ。以前猿にちょっとよこせと言われて蹴ったが、実際捨ててもいいくらいにはある。だからレオの分まで食費や光熱費が増えたって何も痛くはなかった。

だからこそレオが大変な思いをしているのではないかと不安ではあった。

まぁだからといってじゃあ今更辞めれるかといえばそうではないとわかってはいるのだが……。

 

「「いただきまーす。」」

レオとチェインがいつも対面して朝ごはんを食べるのは当たり前になってきて、

「そういえばチェインさん、一応クソ先輩にも言っておきますね。僕も昨日のあれば最悪だと思うんで!」

レオがチェインのために何かをすることも当たり前で、

「え?ああ、別にいいよ。今更変わらないし。昨日の愚痴を聞いといてくれてとりあえずフラストレーションは解消されたしさ。」

チェインもまたレオを気遣うことも当たり前になっていた。

そんな温かい日常が至極心地よいとチェインもレオも思っていた。

 

 

 

 

 

ライブラの集会。

ライブラでは基本的に毎日集会を開いている。ただ非番だという者もいるのでいつも同じメンバーというわけではない。

「……では、今日の集会はこれまで。解散!」

スティーブンがテキパキと進め集会は11時には終わった。今日の集会は報告と最近の大きな動きや細かな問題など多岐にわたっていた。

「んあー、疲れたわぁ。おいクソ陰毛頭!ジャックロケッツチーズバーガー買ってこいや。ああん?」

「…………………。」

「あっ!?無視か?」

「……………。」

「とうとうレオくんにも愛想をつかされたわけですか。正直レオくんがここまで持っていたことに感謝するべきだとは思いますが、きっと昨日ので堪忍袋の尾が切れたということではないでしょうか?」

「ああん!?なんだ魚類はこの無視陰毛頭くそチビの味方すんのかぁ?」

「当たり前でしょう?あなたを擁護する点があるのならむしろ教えて欲しいのですが。」

「キエエエエエエエ‼」

ザップが耐え切れず血法で斬りかかるが、ツェッドがそれに応戦しなんとか凌いでいた。

「まぁ、人のことなんて呼ぼうと勝手ですけど、流石に女性の横で小便する人間とお昼ご飯を食べたくはないですね。はい。」

「っと!……あなたはそんなことしたんですかっ!本当に非常識ですね!」

「ルセぇ!!トイレしたいからするのに何が文句あんだよ!!」

ザップの攻撃を止めて避難するツェッドにザップが激しく言い訳する。

「こらお前ら!いい加減にしろ戦うなら外でやれ!」

スティーブンが見かねて注意する。

「けどこの陰毛がっ」

「おい、とりあえず表へ出ろ。」

スティーブンの優しい笑顔が発動した。ザップにその攻撃はクリティカルヒットした。ザップは逃げるを選択した。

 

 

 

ザップとツェッド、レオの3人はそのままダイアンズダイナーに向かう。ザップも多少大人しくなり悪態をつきながらもレオが本当に怒っているのか、いないのかを測る馬鹿面を晒していた。

ツェッドはレオの話を聞き、よりザップの評価を下げていたのだがザップは知る由もない。

「はぁ、まぁとりあえずいいっすけどザップさん。気をつけてくださいね。」

「ンア!?…………っち!ああ。」

ザップも別にレオを怒らせたいわけでもチェインを怒らせたいわけでもない。ただ思い通りにならないのが腹立たしいだけだ。………ん?

「あ。」

レオは思い出したような声を出した。

「ああ?とうとう俺様の偉大さに感づいちまったのかレオくーん?」

ザップがにやにやとレオの周りを俊敏な動きで回る。

ツェッドは「まるで猿だな。いや猿か。」と思い少し距離をとった。

「チェインさんがザップさんの見て『ちっさ。きもっ』って言ってました。」

 

 

「………………。」

 

 

ザップがその場で固まる。色が抜け落ち褐色肌は背景と同化していった。

「ふっふふ。」

ツェッドも流石に堪えられなかったようで、品性を兼ね備えたツェッドでさえ笑い出してしまうほど面白かったらしい。

「『外国人は日本人?より膨張率少ないからデカくなってもあのくらいか。しょぼ!』って笑ってましたね。」

ザップの影はもう無く、存在希釈したのではないかというほどに影が薄く化石化していた。

 

 

「」

 

 

ザップはもういない。

「ツェッドさん。さぁ、汚い話は忘れてカフェ行きましょう?少し早いっすけど僕お腹すいちゃって。」

「えっええ、では行きましょうか。」

ツェッドは「さらば兄弟子よ。」と思いながら、男として哀れみを持ってザップがいたであろう場所に背を向けた。

 

 

カフェについて、レオはいつものを注文する。

「レオくんはやはり怒っているんですか?」

ツェッドは少し考えて質問する。

「いえ、そんなには怒ってないです。でもなんででしょうね友達が嫌な思いをしたらやっぱりムカムカするみたいです。」

「友達?」

「ああ、言ってませんでしたっけ。僕最近チェインさんとよく一緒にいるでしょう?友達になったんです。仕事仲間よりは近しいかもしれませんけど変な意味はないです。」

基本的にレオとチェインの関係はみんなには言っていない。というのもわざわざ大人になって「私たち友達なったんです。」と触れ回るのもどうかと思うからだ。何よりお互いはっきりと友達と言える関係を作ったことがないという気恥ずかしさもあるのだが。

「へぇ、だからあんな作り話をしたんですか?」

「いや、別に作り話じゃないですよ?」

「え?」

「え?」

「……………。」

「つ、ツェッドさんはかっ彼女とかは!?」

「えっ!?いっいやぁそもそも僕は繁殖できるのかもわからないのでなんとも言えませんね。ははは。」

沈黙。

レオは少し後悔した。ナニの話といえば男のうちでは盛り上がる内容でレオも当然そう言った話はそれなりに好きだし、チェインとも最近そんな話をするようになった。だからこそわかる。

女性にナニのことを言われると、たとえチェインとザップのような犬猿の仲であろうと心底傷つくというかなんというか。

今回は流石にザップが悪いので、直接はっきりと言ったが、もう少しオブラートに包んでもよかったかもしれない。

「まぁなんにせよ今回は彼の自業自得です。淫らに複数の女性と関係を持ち、他人の金で生きているような極悪非道な下劣な彼は少しは反省するべきです。」

レオの顔つきでレオの考えを理解したのかフォローするツェッド。

そのフォローもレオにはわかっていた。

「そうですね。じゃあツェッドさん男らしいボーイズトーク的なのしましょうよ!」

「いいですね。ずっと僕は水槽の中にいたので人と話すのが何より楽しいですから。ありがとうございます。」

「はははは、僕はそんなに学があるわけじゃないので有益な話ができるかどうか?」

「いいですよ。話すことに意義があるんです。」

「…………そうですね。じゃあ、ツェッドさんの好みの女性の特徴は?」

レオはかなり興味があった。理知的で品性のある知性的な人間と魚の混血種。レオにとって新鮮なことだらけだった。

ツェッドは少し唸りながら

「そうですねぇ、そもそも僕は人間の女性を性的対象として見れるのでしょうか?と質問に質問で返すのは野暮なので、とりあえず人間の女性を対象としてみるなら………、親切で理知的な方でしょう。」

「へぇ。」

「基本的な話を理解できる。共感できる相手が一番愛おしく思うのではないでしょうか?私を創った方は私に様々な知識を口頭で教えてくださいました。故に私はあの人を深く愛していたのだと思います。それは親愛だとわかりますが、もし異性で会話していて共感できる部分が多い方ならきっと私は愛するでしょう。」

ツェッドは正直に答える。レオが言いふらすとは思えないし、今のところライブラで一番仲が良く個人的に好意(友愛)を抱いているのはレオだけだ。よく話すこともあってためらいはなかった。

「逆にレオくんはどうなんですか?」

「僕ですか?うーん。」

レオは顎に手を当てて、細めをさらに細くする。

「僕はやっぱり優しい人ですかね。存外僕は結構惚れっぽいのでもしかしたら自覚してないだけで結構好意を持っている人がすでにいるかもしれませんけど。」

レオもなんだかんだツェッドが誠実であることはわかりきっているので正直に言った。

「そうですか。では女性の身体的特徴ではどうですか?」

ツェッドは別に下ネタとして聞きたいわけではない。ツェッドの知識欲は凄まじい。その得た知識を最大限活用してなおかつ経験できればなおいいと思っている。だからこそ人と話したいのである。

「えっ!ああ、えーとそうですね。うーん……、まぁ大きいおっぱいの人が好きですかね?僕って結構鈍臭いじゃないですか。だからいやでも女性だと意識してしまう方が逆にいいのではと思って。髪は別に長くても短くてもいいですし、あとはぁ……、静かでおとなしい方がいいかなって。」

レオの後ろで誰もいない机が揺れた。

レオは後ろを見るが誰もいない机が揺れるのが不思議ではなかった。HLではよくあることだとツェッドの方に向き直る。

「ツェッドさんはどうですか?」

「ええ、そうですねぇ、まぁ乳房は繁殖に有利ですし、安産型の方がいいのでしょうか?いや、好みで言うなら僕より身長が低くて庇護欲が出そうな方でしょうか?髪も特にないですし。」

ツェッドは青い色の肌を少しだけ赤くしながら恥ずかしそうに言う。

「ほらレオ!いつものやつだ。」

ビビアンが料理を持ってきたのでボーイズトークはひとまず終了になった。

「「いただきまーす。」」

 

 

 

 

ハンバーガーを食べ終わったあと、しばらくツェッドと他愛のない話をしたあと、路地裏でボロボロになって座っていたザップを拾いライブラに帰る途中、それは起こった。

それはザップのテンションがガタ落ちだったと言うのもあるし、ツェッドがいい話を聞けて高揚していたからかもしれない。レオの戦闘能力の無さも原因の一つだったと思う。

「レオぉ!逃げろ!!」

「レオくん下がって!」

2人の斗流血法の使い手は少しだけ油断していた。その油断で取り返しのつかない事実を突きつけられずとも知らずに。

 

 

 

「え?」

 

 

 

レオは自分の眼ではっきりと見た。それはさながらゆっくりとした時間の中で感じる妙な熱と空気。何が起こっているのかわかることもなく、ただそれは確実に事実だけを告げてくる。

レオは見た。

 

自分の右手が腐り落ちていく姿を。

 

「うっうあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

絶叫が夕暮れのHLに鳴り響いた。

 

 

 

 

 




レオ「(ちょっチェインさん!近いですって!)」
チェイン「おーレオ!君もいっぱい飲もう!」肩を組む
レオ「(いっ良いにほい)
ソニック「(ふっガキどもめ)」


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第4話 職場の異性との関係

どうも
少し話を変えました。



 

 

 

 

レオが幼かった頃あれはいつの話だったか。

ミシェーラの車椅子を押しながら何気ない日常の切れ端を黒い箱に収めつつぼんやりとしていた時だった。

相変わらずミシェーラは楽しそうに両手を合わして話している。生返事というほどではないがあいづちや身振り手振りを踏まえて語るレオは幸福感を感じていた。

先にある「彼女の目を取り返す」という不安にはいい鎮痛剤だ。

ふと歩道から遠くにある魔境へと目を向ける。

深く濃い白煙を包むようにいくつかの巨大な触手がまるで街を守るかのように、中から出さないように在り、そしてそれは現実のものだとは思えないほどに機敏な動きをしていた。

カツッと車椅子が止まる。

しかしかの魔境ヘルサレムズロットに囚われていたレオは段差があったことに気づかず、そのまま等速直線運動を続けようとし、力の均衡が崩れ、車椅子がつんのめる。

 

「ああぁっ」

 

声を大きく上げたのはレオ。

なんてことはない。少し車椅子が彼の手から離れ、加速してしまっただけだ。

ミシェーラも最初こそ驚いたものの、すぐにタイヤのハンドルをつかんでバランスをとりつつブレーキをかける。

そんなたまにあるちょっとしたミス。

それでもレオにとっては当のミシェーラが疑問符を浮かべる程度のことなのに、ひどく絶望感に苛まれた。

兄なのに妹を不安にさせてしまった。

その事実はまるで一瞬の出来事を何倍にも引き伸ばしてレオを染め上げ、レオは大きく手を伸ばす。

そう、手。

反射的に出るのは手であり、家族と繋がる手、助ける手、守る手、手、手、手………。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------

 

 

レオの視界の先には手はない。

あるのは大きな蛇腹を持った異界の存在。

視界を埋め尽くす風化しこそぎ落とされた世界。

レオの人生でいつも連れ添った手はなく、肘から先は砂のように崩れ去っていた。

 

「ああああああっあああああ゛あ゛あ゛っああああ゛っあ゛あああっ!!!!!」

 

絶叫だ。

慟哭だ。

痛烈な現実がレオを侵食していく。

 

「レオっ!!」

「レオくんっ!!」

 

後ろの2人はすぐに己が流派の奥義を繰り出す準備をする。

レオナルドは崩れ落ちた。

どんな時だって勇気を持って暗闇の中に一筋の光を探し追い求めた彼でさえ、突然の身体欠損と今までと比べるべくもない痛みに意識が途切れる。

斗流血法を発動した2人は焦りと心配を怒りのエネルギーへと変え、より疾く目の前のクズを消し炭にすることを誓っていた。

ツェッドが酸素を凝縮し一点へと集め、ザップが点火。最適な酸素濃度調整と炎上調整は過去類を見ないほどに洗練されていて無駄はなく、完璧とも言える動きだ。

蛇腹を持った頭をまるでハンマーヘッドシャークのようにした異界の存在は回避行動を取るもすぐに炎上、ツェッドによる気流操作で体の穴から内側を焼かれ、爆発する。

この存在が何らかの幻影や蘇生方法を持っていなければ絶対に復活できないと思えるほどに燃やし尽くす。

あたりには崩壊したアスファルトと電柱、信号機、野次馬の死体で散々な絵面だった。

ツェッドが急いでレオに駆け寄る。

 

「レオくんっ!」

 

ザップは茶化す時でもそんなことすら考えずに急いで救急へと電話する。

素人から見ても、レオの両手からの出血量は死に至るレベルだ。

赤くはなく、暗い真っ黒な血液が漏れ出し止まる気配はない。

ザップは急いでレオの脇の下から血液の糸を太めに出し、縛り上げる。そしてそのまま切られた部位もできうる限り出血を抑えるために締め上げた。

 

「くぞっ救急は待ってらんねぇっ!」

「僕の血法でレオくんを浮かしますっ!」

「俺が抱えるからテメーは邪魔者をどけろっ!」

 

今ほど2人の息があった姿を見たものはおそらく誰もいないだろう。

2人は颯爽とその場を後にした。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

前に走っているはずなんだ。

絶対にそうだ。

途中何度も怪我をしたり、行き止まりだったり、つまづいたりでうまく進めないけれど、それでもほんのちょっぴりでも前に進んでいる実感はある。

黒いタールの中を思い足を持ち上げて進む。

気を抜いたら、水そこで足を滑らせそうでほとんど爪先立ちで歩いているけど、転ぶ気配はない。

まだだ、まだいける。

クラウスさんはいつだって僕を助けてくれた。

ザップさんだって………ひどい人だけど、いい人だ。

ツェッドさんも優しい。スティーブンさんだって時折怖いけど、優しい。K・Kさんもいつだって気にかけてくれる。

チェインさんだって………僕の手を持って空を飛ばしてくれる。

手を。

手?

手、ないけど。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああっあああああああ!!?」

 

レオが叫びながら、病院で目を開けるとそこには手があった。

いつもの手だ。

黒子も同じ、シワも同じ、肌色も同じ、だ。

涙が頬を伝う。自分の体を失うということはこれほど恐ろしいことなのか、と理解した。

辺りを見渡せば病室だろうか、窓の遠くからは減るサレムズロットの独特な光源がビル群から覗いているが、ここは郊外の病院で静かなものだった。

窓際に人影を発見する。

 

「くっクラウスさん……ですか?」

「……残念。僕だ。」

 

意外な人物。というわけでもなく、暗い病室に怪しく佇むなんていうホラーを仕掛けるのはこの狂人くらいだ。と思った。

 

「フェムト……。」

「………色々大変だったそうじゃあないか。」

「そうなのか……な。」

 

いつもテンションが高い彼が今日はどうもおとなしい。もとよりちゃんとした場では静かだが、それでも彼ならきっと「ははぁっ!手がっ無いあはははははははっ!」と、笑ってもおかしくはないはず。

 

「………まぁ、友が大怪我をしたんだ。普通に僕だって心配はするね。彼女も。」

 

フェムトが指すと、レオに被せられた布団の膨らみからピンク色の髪が覗いていた。どうやらアリギュラも病室にいたらしい。疲れて寝てしまったようではあるが。

 

「「私が治せば一発よっ!」って暴れたもんで首を殴りつけたんだ。」

 

強制的に寝かされたらしい。

 

「君はことの顛末を理解できていないだろうから僕からある程度説明する。」

 

フェムトからさらに入った切り分けられたリンゴのような果物を渡されながら聞き入る。

あのあとザップとツェッドが幻界病棟ライゼズにレオを担ぎ込んだ。

その頃にはレオの顔色は青く、もはや死人の域に達していたらしい。

すぐに執刀が始まる。あいにくルシアナは限界ギリギリで仕事をしていたのですぐに執刀できないはずではあったのだが、ライブラにはお世話になったということもあって優先的に手術してもらうことができた。

といってもレオの両手が消え失せた理由が不明なために治療は困難を極めた。

空間的に切断されたのであれば、切り離された側の手があるはずで、それがないということは別次元に転移させられたのか。

それとも時間を操って強制的に風化作用をはやめたのか。

下手に治療して失敗するのが怖い。

そんな状況で奇跡が起こる。

しかし奇跡というには不気味なものだ。

ヘルサレムズロットにおいて利益がある偶然というのは裏が怖い。

結論としては、レオの手は断面から生えてきた。

人はトカゲのような自切機能のように体を切って生やすなんて機能を持ち合わせていないのは誰でもわかる。

しかしじゃあまた切るか?ということもおかしいわけで、結局経過観察で止血と輸血という処置が施された。

そこから2ヶ月。

レオはずっと昏睡状態だった。

 

「まじか。」

「まじまじ。君だいぶ彼女に感謝したほうがいいよ?」

「誰?」

「あの犬だよっ。雌犬。」

「?………………………………チェインさん?」

「そんな名前だったような?まぁ名前はどうでもいい。その犬はまさに忠犬というように君の病室に2日に1回は顔を出してた。」

「まじ?」

「まじまじ。」

 

申し訳なさ、罪悪感、嬉しさ、むず痒さ、不甲斐なさ、などを織り交ぜた感情が足先から頭にじんわりと流れる。

 

「ここ、人手不足なんだって?雌犬が君の世話をしていたんだ。」

「世話?」

「君、2ヶ月も寝たきりじゃあ、ベッドと背中の肉が一体化してひどい怪我をするよ?筋肉を定期的に揉まないと固まってしまって復活できなくなるし、何より20代の若者が2ヶ月風呂に入ってないとか無理でしょ?」

「はぁあああああっああん!?」

 

何を言われているのか、察してしまい慌てるレオ。

2ヶ月間看病をチェインにされていたのは流石に恥ずかしすぎるし、ちょっと男として辛い。もう顔向けできない。

 

「まぁ何はともあれ僕たちもあらゆる観測方法で君を検査したけど異常は見られなかった。たぶん本当に偶然が重なった不幸だったわけだ。最悪その綺麗な手、何かの拍子になくなったら今度はこっちでどうにかするから。」

「あっ…………あんがと。」

「ああぁきもいきもい。かゆいかゆい。間違って世界滅ぼしちゃうだろう?」

「それはやめろ。」

 

そういうと、フェムトはアリギュラを付きのものに担がせて真っ黒い壁に吸い込まれるように消えていった。音もなく、静寂が訪れた病室は月明かりに照らされて、何とも空虚さを表していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

翌日。

ライブラの面々が順繰り各々の巡回を終えて病室へときていた。

ツェッドとザップは一緒に昼休憩できたらしく、レオにと渡された果物をザップが遠慮なく我が物で食べてる姿に苦笑しているところツェッドが取り返してくれた。

 

「なぁっレオレオっ。お前あの犬とどういう関係なんだ?」

 

顔と顔が数センチしかないような距離まで詰め寄ってニヤニヤしながら近づいている先輩をヘッドバッドで牽制しつつ、普通に「友達」だと告げる。

 

「彼女はレオくんの看病を率先的に引き受けていたので。レオくんはもう頭が上がらないかもですね。」

「なぁっ!おいっレオっ!教えろってっ!なんか弱み握ってんだろ!?なぁ!?」

「うっせぇっ!」

 

先輩を綺麗に治った右手で殴り飛ばし、レオは苦笑した。

 

「そりゃあもう感謝しかないです。」

「ですね。……あ、ほらゴミクズさん時間ですから行きますよ巡回。」

「ああああああっ!?てめーいま何つったぁあああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

叫びながら血法で縛られて病室から出て行く生ゴミに哀れみの視線を送りながら、騒々しさのなくなった穏やかな部屋に戻ったことに少し安堵する。

 

「ふぅ。」

 

午前中にはクラウスが飛んできて、労る気持ちと、ゆっくり休むよう言われた。

スティーブンもBBがでない限りはそこでおとなしくしてろと笑っていた。K・Kは何やらずっと「おほほほほほっ!」とうざい実家の母親みたいな笑い方をしながら背中をバンバン叩いてきたのでザップと大して変わらない気持ちにはなっていた。

 

「まぁでも手が治ってよかった。これで今度発売されるゲームができる。」

「なんてゲーム?」

「Dead:Stranding Z Battle3ってゲームで昔から大好きだったんです。今度新作が」

「まぁ男の子だし右手ないと不便だよね。」

「そうそう、やっぱり手がないとどうもムラムラとしてあ時に…………ふぁっ!?」

 

レオが左横を見るとそこには先ほどザップがおいていった「デスハムスター2」の人形の上にスーツの美人が立ちながら腕を組んで首を「ウンウン」と動かしていた。

 

「チェインさんっ!?」

「よっ!」

 

ビシっ!

 

と人差し指と中指を揃えてカッコよく挨拶する彼女に何だか懐かしさを感じたレオだった。

レオはすぐにベッドの上で土下座姿勢になる。

 

「こっこの度は大変ご迷惑ぉぉぉぉっ!」

「…………………そうだね。心配した。」

 

チェインの発生位置が近くなったのでおそらく床に降りたのだろう。音もなく降りるとはさすが人狼である。

そして彼女が茶化さず少しだけ、少しだけ責めるような言い方をしてくれたことにレオは救われた。

誰だって共に気を使われるより、体を預けてもらったほうが嬉しい。

 

「いろいろ………看病とか。」

「そうだなー。まぁ下の世話はいいとしてー、男特有の生理現象とかー。」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああっ!」

 

レオはベッドの上で土下座しながら横に転がり回る。

恥ずかしさ、申し訳なさ、発狂ものだ。

 

「まぁ。」

「いやほんとすみまっ」

「無事でよかったよ。」

「………………………………はい。」

 

レオは少しだけまるで自分が姉に叱られた弟のような気持ちになり新鮮だった。ぽりぽりとこめかみをかく。

病室内には微妙な雰囲気が立ちこめるが、それでもレオはこれこそが友への感謝だとあらためて下を見ていた視界を上へと向ける。

そこにはチェインがいる。

チェインはいつもとかわらないクールな、無関心さを貫いた表情ではあった。それでも、これはレオだからこそわかるものではあるが、そう、まさに嬉しそうだった。

嬉しそうに目尻をすこしだけあげて目を細めている。

 

「………ありがとう……ございます。」

「ん。どういたましてー。」

「…………手………がっ……無くて。」

「……うん。」

「妹を……掴めなくって………。」

「……うん。」

「チェインさんと飛べなくって……。」

「………だね。」

「怖かった…………です。」

「…………よく頑張った。」

 

チェインはレオの肩に手を乗せて、そのまま体を横へ滑らせ、首へ回して肩を組む。まるで男友達がふざけて円陣を組むかのような動作にレオは目を白黒させた。

 

「ちぇちぇちぇっチェインさん!?」

 

チェインがレオの右手に手を添える。

 

「ちゃんと……あるね。」

「……………はい。」

「えいっ」

「ぇ」

 

 

チェインはレオの右手を自分の左乳房に添えさせた。

 

 

「ふぁああああああああああああああああっ!?」

 

突然のありえない行動に、昼の病院だとしてもありえない声量で声を発してしまい咄嗟にチェインから口を押さえられてしまうレオ。

レオは慌てて手を離そうとするがチェインがそれを拒む。

 

「ちゃんと、感じる?」

 

そう聞かれてしまい暴れることが急にバカらしくなってしまうレオ。

性的なことを考えるよりこの問いの真意と彼女がなぜこんなことをしてまでレオに問いただしたのかを汲み取る。

左手には服の上からでもわかるボリュームと弾力のある女性的な感触が強く感じられた。そしてうっすらと鼓動を感じる。

 

「……………はい。」

「よかった。」

 

チェインはそのままベッドに腰掛けたまま足をジタバタさせて靴を飛ばす。

レオはその飛んでいった靴を見ながら、鼻に入ってくる女性特有の香りとチェインのほんのちょっぴり酸っぱいにおいにめまいがするが、なんとか意識を保とうとする。

 

「そっその家とかは大丈夫ですか?」

「いや、マジでベーわ。いつもの部屋に逆戻り。」

「じゃあすぐに戻らないとダメですね。ご飯はちゃんと食べれてます?」

「最近はハンバーガーばっかかなぁ?」

「……野菜多めの食生活にしますね。洗い物とかは?」

「食器は流石に臭いから全部捨てた。服は1週間触ってないね。」

「うわぁ…………。」

 

レオは想像するにかたくない汚部屋を想像してしまい脳内で絶望感ある世界を視てしまう。

言外に、「だから早く帰ってこいよ。」といっているように感じて2人とも恥ずかしくなったのはいうまでもない。

チェインはそのままレオの頭をポンポンとはたく。

 

「ところでさ?」

「はい。」

「いつまで揉んでんの?」

「………いやぁ超絶美人の最高部位を触れる機会など今世これしかないような気がしましてそれにしてもチェインさんも意外とだいたすみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

レオの入院期間が1日のびた。

 

 

 

 

 




高校の頃に心底仲良くなった女の子がいまして。
腐女子で奇抜な娘だったんですが、高一の時点でFカップだったその子は仲良くなりすぎて頼めば胸くらい揉ませてくれたんですよね。
「あ?別にいいよ減るもんじゃないし。」と。
そういうのをなんていうか「信頼」とか「信用」っていうんだろうなって。そこまで相手に許せてしまう関係は美酒より酔いました。
若干R-18要素かもしれませんがまぁ計画受けたらその時考えましょう。


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第5話 私は君を見ているよ

どうもどうも。


 

 

 

 

「かんぱああああああああああああいっ!!」

 

ホールに男女の歓声が響き渡る。

ふわふわとした陽気な空気。彼らの宿敵である「血界の眷属」を1体封印するに至ったのだから普段の殺伐とした雰囲気と打って変わって、まるで風船を破裂させたかのように喜びの空間へと変貌していた。

何かを誰かと達成した時は誰だって浮れるもので、いつもは誠実で静かで真面目なライブラのリーダーであるクラウスも今は楽しく酒を飲み交わしている。

そんな時でも1人だけ、スティーブンだけはやはりどこか一歩引いていて警戒というほどではないが何かに備えた、そういうたたずまい。

それでもやはり日進月歩、微々たる結果でも進めたのが嬉しいのかいつもより多めに酒を飲んでK・Kに尻を叩かれていた。

パトリックは依然として隣にニーカを携えながらクラウスと飲み比べをしていて、ツェッドとザップが言い合いをしていた。こんなにもライブラの構成員が集まることは珍しいがそれほど関わった構成員も多く、そして得た功績も大きかったからこそだろう。

 

さて、レオはといえば、バーカウンターの片隅で1人ちびちびとロマネ・サン・ヴィヴァンをワイングラスでのんびり飲んでいた。

余談だがレオはこの時飲んでいたお酒の値段を知らない。

今回の作戦でやはり外せなかったのはレオナルドだろう。

彼はある意味クラウスと同じくらいBB戦において要だ。レオナルドがいなければ成立すらしない封印の儀式。わざというには美しく悍ましい行為は些か礼を欠いている。

真名を読み解くレオナルドの眼はライブラにとってよだれどころか躰を差し出しても欲しい産物だ。

ただレオにとって、正直なところ自分には宝の持ち腐れでもあれば、自分という存在が必要とされているわけではないと思ってしまう。

アーサー王が欲しいのではない。

エクスカリバーが欲しいのだ。

それでも、妹のため、自分のため、世界のため、レオはたとえ自分という存在が必要とされずともライブラに協力するだろう。それはそういう契約で、それでいて呪いでもある。

ただ、もし仮にライブラに義眼の力を保有していなくともいて良いと言われたのなら、その時は心から嬉しく思うだろう。より一層無力感を感じてしまうが。

レオナルドは酒に強いわけではないが、それなりに嗜めるので、未だ冷静ではあるがやはり元来のコミュニケーション能力の低さからか大勢が楽しくしているとどうも引いた姿勢になってしまう。

今回のB B戦でもかなり役立ったのは前述の通りで、本来なら真ん中で盛大に持ち上げられるべき立役者であるはずがどうもそこから離れたくなってしまってそこに座る羽目になったわけだ。

 

「よっ冴えない童貞くん。」

「…………どうも。」

 

レオは声とノリで誰が話しかけてきたのかを察して振り返ることもなく、一度グラスを仰いだ。口の中にアルコール特有の苦味が広がるが、それでも落ち込みそうな気分を少しだけあげることはできた。

別に今更童貞だの、陰毛頭だの、冴えないだの言われても気にしない。……たぶん。

ただ、これから話すであろう相手に卑屈な態度で望むのはなんだか悪い気がする。

レオの隣にチェインが座る。

彼女はラベルに「かんじ」と呼ばれる東洋の文字が描かれた一升瓶をまるで恋人のように抱きしめて胸のボタンを2つ開けていつものスーツ姿でだるそうに座った。おおよそ女性の例にはなれそうにないがレオはいつもの事だと隣の美女の顔をみる。

化粧や手入れをしていない状態で、半ば酔っ払っているにもかかわらず美女だ。

K・Kやニーカなどライブラの構成員には女性も少なくないが、それでも群を抜いて東洋の美しさを誇っている。

 

「……な、なに?」

 

レオは意識していないが、いつも細く半ば目をつむったような目を、少しだけ見開いて美しい碧色をした眼球でチェインを見つめていた。

チェインにとってはもう見慣れた義眼ではあるが、それでもまじまじと顔を見られると酔いも覚めそうだ。

レオはピクリと震えるチェインを見てふと我に返って、というよりは思考を終えて再び前を向いて突っ伏した。

 

「どうしたの?」

「なんだか………まぁ………よくわかんないっす。」

「なによそれ。」

 

チェインは苦笑して、バーのマスターに人差し指で合図を出す。

空のグラスを1つ出させてそこに日本酒を注いだ。

ゆっくりと薄ピンクの綺麗な唇で、グラスを傾けるチェインを横目で見るレオは自分の悩みがちっぽけで、それでいてどうしようもなく誰もが通る道なのだと察してしまう。

レオの悩み、いや悩みというほどですらないのだが、どうしようもなく自分の無力、戦闘でのカバーができない点が心のつっかえにはなっていた。

 

「………僕である必要ってあるんですかね。」

「……ふむん?」

 

神々の義眼を持つレオは「持つレオ」であって「扱うレオ」ではないのだ。ライブラの構成員はそれぞれ己が特技を磨き上げている。その点でいえば誰にも負けないという自負と他負があるのだ。

しかしレオにはそれを自分である必要性だと感じない。

レオが義眼を扱えるようになるための努力はついこの間始まったばかりだ。そこをプロと比べるのはいまいち無理があるが気にするものは気にしてしまう。

 

「…よくわからないけど、前にガミモヅってやついたでしょ。」

「……ええ。」

「あいつは自分の私利私欲で動いて、他人なんてどうでもよくて、悪意ある義眼の使い方をしていたと思う。」

 

チェインは黒いスーツの上着を脱ぎながら、椅子を横に動かしてレオとの距離を縮める。

 

「でもあんたは少なくともその眼を誰かのために、妹のために、世界のために使うと決断した。目だけじゃない、レオは私にだっていつも助けてくれて……る。」

「……でもそれって僕じゃ……。」

「……そうかもね。でもレオじゃなきゃきっとライブラにはいないし、……レオじゃなきゃ私は友達になんなかったよ。………………それじゃあダメ?」

 

チェインの言いたいことはわかる。

そして別段特別な言い回しでも気遣いでもない。

それでも淡々と「あんたは他と違う。」と言われることは凡人としてとても、とても嬉しいことではないだろうか?最上位の敬意ではなかろうか?

レオは先ほどのくぐもった心持ちを洗われたような、それでいて深い感謝の念を持った。

 

少なくともはっきりと「あんたはここにいていい。あんたじゃなきゃダメなんだ。」と言われたのだから。

 

「………かゆいっす。」

「私の方がかゆいわ。」

 

チェインは脱いだ上着をレオに投げ飛ばす。

レオの顔にほんのり温かい汗臭い上着がかぶさって、「あした洗濯しなきゃなぁ。」と思った彼だった。

チェインは右手をあげるとレオナルドの肩を組んで体重をかけ、一升瓶をレオに向けた。

 

「ほら、飲もう。」

「えぇ………僕強くないんっすけど。」

「いいからいいから。一口っ!」

 

断りすぎるのも癪だと、観念して、レオはまるで母親が子供にミルクを飲ませるように歯にカチンッと当てながら日本酒を飲んだ。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

しばらくして、ライブラのほとんどが会場で寝てしまい、あのスティーブンですら壁で立ち寝をする頃。レオはとびっきり大きい蹴りで目を覚ます。

 

「んごぉっ!?」

 

カウンターで突っ伏したままレオの左肩とチェインの右肩が少し触れ合う距離で2人とも寝てしまっていたのだが、レオの近くのソファで逆さに座ったまま寝ているゴミクズ先輩が蹴りをかましてきたのだ。

ちらりと見るとどうやら寝相が単に悪かっただけのようで未だよだれを垂らして寝ていた。

レオは体を伸ばしてバキボキと体がコリを解すのを感じながら若干気持ちよく起きる。

あのクラウスですら寝ているのだからなんだか新鮮な気持ちだ。ただ1人起きているのはギルベルトだけで、床で寝てしまっている薄着のメンバーに毛布をかけ終わった頃合いだった。

 

「レオナルドさんはお帰りになられますか?」

「……そぉですね。他のみんなは?」

「まぁこの有り様ですからお気になさらず。」

 

レオはその言葉を聞くと、安心して立ち上がる。のだが腰の裾が引っ張られた。

またクソミソ先輩かと思いきや、チェインが器用に左手でつかんでいたのだ。

チェインはレオと同様一升瓶をカウンターに倒したまま、突っ伏して気持ち良さそうに寝ていた。

カウンターに顔と肘を乗っけて寝ているために、豊満な胸部を重力に任せて垂らしていた。いまにも3つ目のボタンが耐久限界を迎えそうではある。

ギルベルトがいるのでまじまじと見るわけにもいかず、男の本能をなんとか理性で潰して、丁寧に指を解く。

チェインの指は女性とは思えないほどゴツゴツしていて、それでいてすらりと長かった。当然だ直接戦闘するわけではないが、戦うことを生業にしているのだから荒れるのは必至。

 

「僕はこの酒豪を連れ帰ります。家隣なので。」

「それは良かった。」

 

本来、本来であれば。

チェインは酒で酔ってもここまで熟睡することはないだろう。彼女がいくら酒が好きだとしても意識を失うのは帰ってからだ。

つまりここはライブラの、家族のいる場所だからこその安心からくる熟睡なのだ。

そしてその1人であるということに気づき、先ほどまで落ち込んでいた心が嘘であるかのように清々しかった。

レオはチェインの肩を掴んで上着を着せる。

酔っ払って完全に脱力しているので、難なく着せることはできたのだが、一抹の不安はこの後である。

レオはそのままカウンターの下に潜って、チェインの下側に入ると、ゆっくりと肘をつかんで立ち上がる。

自然と背中にチェインが乗っかる形で立ち上がり、ちょうどいいところで両手をチェインの足の左右、膝裏に持っていき抱える。

幸いお互いに手荷物はないのでおんぶしながら帰るだけなのは幸いだ。

 

「じゃあ僕らはこれで。」

「はい。お気をつけて。あ、一応このボタンをお渡しします。」

「これは?」

「ボタンを押せば緊急事態だとこちらに通知がくるので。」

「……ありがとうございます。」

「いえいえ。」

 

レオは流石にここで自分の無力を嘆くことはない。レオだけなら「そーっすよね俺1人とか不安ですよねーははは。」くらい言ってしまうが、今は違う。

守るべき友が背中にいるのだ。自分の弱さなど気にする余地もなく安全な策をとるだけだ。それならば私利私欲に眼を使う覚悟ももう持つことはできた。

レオは部屋を後にする。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「おっ重ぇ。」

 

レオは煙が立ち込めるヘルサレムズロットを義眼を使ってできるだけ治安の良さそうな大通りを歩いていた。ソニックも協力してくれて他の音速猿たちを使って先にある問題を色々片付けてくれているようだった。

 

レオとチェインはだいぶ身長差がある。

チェインは身長が高く、男装すればまるでどこか東洋の王にさえ見えてしまうかもしれないほどモデル体系だ。きている服さえ選べばだいぶ違った交友関係になっていたかもしれない。ただ大きすぎる胸は男装してもバレてしまいそうではあるが。

レオにとっての役得はやはり大きなメロンが背中に潰れながら当てられている点だ。これだけは何度でも慣れることはないだろう。

今まで何度だって酔っ払ったチェインを送り迎えしたし、駄々をこねるチェインを引きずったりしてボディタッチはかなりしている。それでも男としてたとえ親友でも女と見てしまうところはどうしてもある。

それを罪悪感として捉えてしまうところはレオの誠実さ故だが。

 

「まぁ、頼られてるんだな。…………僕は。」

 

それは嬉しい。本当に。

だからきっとこの背中の親友だってちょっとの役得はきっとグーパン一個で許してくれる。

ふとレオの首に何かが巻きつく。それはチェインの腕であることは承知しているが起きたわけではなさそうだった。

ただそれこそ抱き枕のようにレオの後頭部に顔を埋め、「んぁ゛ぇ……ん。」と深呼吸をする。髪と髪の間にヘルサレムズロットの冷たい空気が通ってブルリと震えるが、レオはチェインを落とさないようにしっかりと抱え直した。

パンツスーツに守られた柔らかな太もも、臀部近くまで滑らせてから再度膝裏に手を持ってくる。

 

「ふ…………ぁ………。」

 

どういう感覚がチェインを襲ったのかはチェイン自身にも記憶にないだろう。

とても艶やかで艶かしい彼女らしくない声が繁華街に響く。もちろん響くといってもレオの耳元でしか聞こえない吐息程度の音量だったので別段慌てることはないが、レオは慌てていた。

おそらくレオを支配したのは絶大な背徳感。

普段クールで、冷静で、カッコよくて、仕事もできる女の先輩が漏らす吐息はどこまでも甘くとろけるスイーツのようで、まるで砂漠でオアシスを見つけた時のように劇的な、情動をくすぐる喘ぎ声だ。

 

別段レオの手が彼女の秘められた部分に触れたとかではないにせよ、レオはそそくさと前かがみになってマンションへと向かった。

 

 

 

 

 




というわけで第5話でした。
R-18は描きたいですが地雷の人とかいそうですよねぇ。レオチェ。
個人的には単にレオとチェインが好きなのでカップリングしただけなのですが、いかんせんチェインは想い人がほぼ確定しているので動かしづらいんですよね。

まぁとにかく6話はいつ書くかわからないのでその時になったら考えましょう。


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第6話 人狼の通勤

今回はアンケートがあるのでよろしければお願いします。
この話はなんとなくアンケート用に作った話なのでどうでも良い日常回です。絡みも少ないです。



 

 

 

 

人狼にとって重要なのは自分と他者との境界を明確に見極め、意識すること。

自分は自分。世界は世界。

自分という存在がこの世界にどこまで影響を及ぼし、どれほどの意味をなし、どこまで続いているのかを理解することで「自分の存在を操作する」そういう種族。

だからこそ人狼にとっては個人の価値観が重宝され、良く言えば個性的、悪く言えば孤立する。

それを珍しく?あまり見ない形で集め組織立て世界のために動くことを誓った共同体が「人狼局特殊諜報部」。

 

 

お酒は好きだ。美味しいし、飲めば気持ちいい。嫌なことも忘れはしなくとも気分を変えることはできる。それでも結局飲みすぎて、翌日には「飲みすぎた……。」と後悔する。

幸い今日は晴れなので少しだけマシだが、これが雨だとより気分がどんよりする。

それでも最近は友達のおかげでなんとか自力で起きて朝、仕事に行く前の一息を取れるだけの時間は確保できるようになった。

そう私の友達。ほんの数ヶ月前に仲良くなった友達は今では人生の欠かせないファクターになりつつある。

私はガサツだし、基本冷めているから誰とも馴れ合わず、即席の関係を継続するだけの人生を21年間過ごしてきた。

同僚もあくまで同僚の関係であって友達かと言われれば、良く話す知り合い程度でしかない。そんな私がまさか年下で普通面で鈍臭く、身長も小さい戦闘能力皆無の異性と仲良くなるなんて一年前の私は驚いて世界からスッと消えてしまうのではなかろうか?

反射的に大きなあくびをして、半開きの部屋のカーテンをよけながら勢い良く窓を開ける。ヘルサレムズロット郊外のこのマンションには比較的いい風が部屋に入ってくる。

パツンッと音がして胸のボタンが壁に飛んでいった。

 

「あっ……。」

 

ボタンを拾って、机に置く。

そう、いつも通り酔っ払ってベッドに運び込まれてワイシャツで寝てしまったらしい。

スーツの上着がハンガーにかけられているのでどうやらその友達が私を運んだとみえる。

以前、「別に私の服を脱がしてもらっても構わない。」というむねを伝えたのだが、「いやいやいやいやそれは無理っす。俺のメンタルが持たないっす。死にますマジで色々とっ!」と拒否られたので仕方がない。

まぁ別に金のかかる趣味とかもないのでワイシャツも最悪買い換えればいい話なのだが。

ベッドから起きて、ワイシャツとスーツを脱いで洗い物のカゴに投げ入れる。明日には勝手に空になっているだろう。

熱いシャワーで体を清めるとぼーっとしていた意識が覚醒した。

いくら人狼が体臭ですら消すことができるとはいえ、流石に人としてちゃんと1日1回シャワーを浴びるようにしている。

 

「あれ?」

 

そうだ。記憶がない。確か昨日はライブラの祝勝会をしたはずだが。

いつもの記憶喪失でなんとなく体に異常がないかは確認する。ヘルサレムズロットという人外魔境の地で記憶喪失なんて普通は正常でいられないだろうが、小さなナイトがいるのだから安心だ。

まぁそのナイトに襲われたら意味はないのだが。

そう。

そのナイトが襲ってきたらどうするべきか。

正直拒絶できるかは微妙だ。

彼のおかげでいささか人間の生活とはいえない生活がガラリと変わった。まるで兄が妹の面倒を見るように、実際は逆の年齢ではあるのに、…………支えてもらっている。

彼がもちろん「そういう」見返りを求めていないことは十分承知しているが、まぁ……あいつなら別に。くらいにはそろそろ思い始めてきている気がする。

 

「視線もねぇ………。」

 

気づかれていることに気づいていないのだろうが、まぁあいつも男だ。

目の前に無防備な雌がいれば自然とそういう想像をしてしまうだろうし、誇るわけではないが自分はスタイルは良い方なのでなおさら精神的にきついだろう。

時折胸や臀部をチラチラと見てくるが別に男ならそんなものだろうと割り切ることができる性格なので不利益もないからそのままにしているわけだ。

もちろんクソ猿は不快だが。実に不快だが。

 

「まぁ減るもんじゃあないし。生娘ってわけでもないし、さ。」

 

最近はもう鍵を渡していつでもこの部屋を開け閉めできるようにさせてしまった。

流石に下着が消えるなんてことはないけども、何かはされているかもしれない。

まぁ見て見ぬふりをしてはあげるのも年上の道楽か。

 

 

 

シャワーをやめて、体を拭く。

昔だったら地面に散乱した生乾きのバスタオルか、毎度新品のタオルで体を拭いていたであろうこの手順も、今では清潔に干されたバスタオルで体を拭いている。においもカビ臭くなく柔軟剤のフローラルないい香りがして気分がいい。

清潔な下着に着替えて、白いTシャツにダークブルーのショートパンツを着用してリビングに戻る。いつも通りだとそろそろ彼がくるはずなのだが…………そう、今日彼は早朝出勤の当番なので来ないだっけ。

ただ冷蔵庫には「朝ごはん温めてくださいね。」と書き置きを残されていたので、冷蔵庫を開ける。中には卵とベーコンを合わせたものと野菜が乗っかった皿、ヨーグルトとトマト、パンとバターがありなんとも美味しそうだ。

早速電子レンジで温めて、待っている間にコーヒーを作る。前々は作れなかったけど今では1人で作れるようになった。

以前は汚くて置く場所のなかったリビングの机にランチマットを敷いて、食べ物と飲み物を置いた。レンジから熱々になった料理を取り出して朝食を並べる。

 

「ん?」

 

机の上のはじにピンク色の紙が置かれていた。

その紙には薬が2粒置いてあって、なんでもこの薬を飲めという書き置きだった。普通ならなんの薬かわからなくてゴミ箱いきだが、まぁおおよそ二日酔い用の食前薬だろう、とあたりをつける。

薬を飲んだ後テレビをつけ朝食をとった。

 

 

 

時刻はまだ8時半。

普段ならまだまだぐーすか寝ている時間ではある。

出勤は11時からなのでしばらくは余裕があるのだがその余裕をまた二度寝とかに使ってしまうのがいつもの流れだ。しかし今日は寝ることはなくぼーっとテレビを眺めていた。

 

(最近、スターフェイズさんと少し話すことができたっけ。)

 

以前はなぜか、というよりあまり関わりがなかったというかうまく話すことができない時間が続いていたのだが。どうしてかこの頃良く話す。

いや、理由はわかっていて、結局のところ彼が、………レオがさりげない話題ふりや気遣いをしてくれているからだよね。

(スターフェイズさん、……スティーブン・スターフェイズさん。私の恩人。かっこいい。)

いってしまえば一目惚れのところもあるのだが、とにかくかっこいいに尽きる。

結局理想の男性というところなのだろう。

仕事ができて、気が利いて、カッコよくて体格も良くて、強い、冷静で、思いやりがあって、どこか影があって脆そうな、優しい人。

以前、見てしまった。

スターフェイズさんがなんの躊躇もなく仲良くしていた人たちを殺す瞬間を。

もちろん彼らがスターフェイズさんを騙す形で、奇襲作戦を練っていたのだが、それでもあの反撃は一方的だった。

最初から裏切りを前提として反撃の準備をしていた速さだった。

そして最後のおぞましい無表情はいったいどんな気持ちだったのだろう。腹黒いなんて言葉では到底表せない強い殺気と覚悟を感じた。ライブラの光の面をミスタークラウスだとすれば闇の面はきっとスターフェイズさんに違いない。

そしてきっとあらゆる暗躍を彼が防ぎ、私たちライブラは守られ続けている。おおよそ非合法でミスタークラウスが好まない方法で。

 

(私が口を出すことじゃない………けどあんまり危ないことは……してほしくないなぁ。)

 

もちろんスターフェイズさんを自分が守れると言えるほど自分が有能だと思っていない。それでも少しでも負担が減ってくれたら良いと思うし、やり手でもミスをすれば死ぬ世界だ。不安ではある。

ぼーっと壁を見ると時計が9時半になったことを示してくれている。

そのまま起き上がると、時間にはなっていないものの仕事着に着替えることにした。

 

(ちょっと早いけど準備して久々に歩いて行こうかな。)

 

綺麗に洗濯とアイロンをかけてあるスーツを着る。

化粧はいつも通りめんどくさいのでせず歯を磨いて、レオが作り置きしておいてくれた小型化弁当と財布、拳銃だけ身につけて窓から出……ようとして止まる。

 

「癖だねぇ。」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

チェインは玄関をドアを開けずに出る。

階段は結構古びていておおよそ高級さはないが、壊れてはいない。

幅の狭い階段をせっかくのスーツを汚さないように降りて建物を出る。日光が煙によって多少拡散しているが眩しさに目が眩む。

幸運にも二日酔いの影響はもうほとんどなくいつもより気持ちの良い外出だ。

 

「あらこんにちは。」

 

横から穏やかな声をかけられて振り返ると、口から大量の触手を生やしたお婆さんが乳母車に同じような触手を生やした子どもを連れて声をかけてきた。確かこのマンションの3階に住んでいる大家さんだ。

 

「こっ………こんにちは。」

 

あまり近所づきあいがいいとは言えない自覚があるのでおどけたどもった返事になってしまい恥じる。

 

「旦那さんにお礼は言った?」

「旦那………未婚ですが。」

「あらじゃあ彼氏さんかしら?昨日あなたを担いで32階まで階段で上がって行ったみたいだけど?」

 

このマンションは50階まであるマンションでヘルサレムズロットならではの空間が織り込まれた形式になっている。見た目は普通のマンションであるのに中からの景色はそれ相応の階の景色になるという特異な建物だ。

エレベーターもついてはいるのだが、現在は故障中なはず。

レオも最近は「いい運動になるんでっはははははははは………はぁ。」とため息をついていたので最近はチェインが跳んで一緒にマンションに入っていた。

 

(32階まで女ひとり背負って上がったのか………申し訳ないことを。)

 

「あ……あぁ友達ですね。同僚です。」

「そうなの?鍵渡してるのね……ふふふ。」

「ええまぁ、いつも一緒に飲んで私が寝ちゃったりするので……ははは。」

「ああいう面倒見のいい男はしっかり捕まえておくといいわよ。」

 

どこまで把握されているのか不安なチェインではあったがそこそこ同意はする。

チェインは冷や汗を垂らした。

 

「ええアドバイス………ありがとうございます。」

 

チェインはお礼の言葉とともに片手をあげてその場所を後にした。

いまいち微妙な関係であることはチェインにだってわかっている。おおよその普通の男女の関係ではないし、かといって進んだ、例えばセックスフレンドのような関係でもない。レオに想い人がいるのかは………よく知らないが、チェインの想い人はレオも知っているわけで。

チェインは近くでタブレットを買うと、しばらく大通りまでゆっくり歩いた。

普段は上から見下ろす道路もしたから除く景色は悪くないものだ。

同じ歩道にはバザーのように露店が開かれており、歩行者は純正の人間の方が少ないほど。空は東洋の龍のようなものが飛び交い、ギガフトマシフが遠くにうっすらと見えていた。背後の遠い交差点では今しがた追突事故があったのか爆炎があがっていた。

ふと通り過ぎる路地に目を向ければ、麻薬漬けになった廃人がヨダレを垂らして何人も倒れており、小さい男が大きな男にカツアゲをされている最中だ。

もちろん、別に助けるということはしない。

この街にいるということはそれを覚悟したということに他ならないからだ。

警察だってそんな小さな取り締まりしないし、チェインも今から厄介ごとに首をつっこむと昼までに出勤できない。

 

 

チェインは質量を希釈して、地面を蹴る。

ふわりと風船が浮くように若干風の影響を受けながら近くの建物の屋上に飛び乗る。

屋上ではいくつかの建物の屋上を足場にして連結し、1つの商店街のようにしている場所だった。

 

「おっチェインじゃないか。」

「おっす。」

 

チェインがしばらく屋上商店街を散策していると、比較的人間な見た目の男が声をかけてくる。いつもあらゆるものを取り寄せては売っている常連だ。

チェインは稀にこの男のところで購入していたりもするので気軽に挨拶する。

 

「なぁ今日はこんな時間に珍しいなぁっ!」

「まぁ気持ちよく起きれたんで。」

「そうか……それより今日はいいものが手に入った。」

 

男は顎のひげを右手でいじいじすると、ニヤリと笑った。

 

「なに?」

「『自走追尾スマホケース』っつーやつが入荷したんだ。」

「スマホケース?」

 

名前だけ聞くとなんとも安っぽい中国製な感じだが。

 

「そうだ、こいつは一定距離持ち主がスマホから離れれば自動的に追尾して持ち主の近くまで来る。絶対になくすことはなく、一定レベルの衝撃など攻撃を迎撃するシステムまで組み込まれていて戦闘中に壊れることはまずない。」

 

それを聞いて思い出すのはBB戦。

レオの役目はBBの真名を視るのが主な役割でその時はスマホアプリの自動変換ツールでミスタークラウスにメールを送っている。

このケースがあればレオが戦闘でスマホの心配をする機会も減るだろうし、何かプレゼントしたい気分でもあったのでチェインは購入することにする。

 

「いいね。いくら?」

「おっ毎度。500ドルとちと高めだけどよ。」

「いいよ安い安い。」

「相変わらずだな。あっそれなんだが正規品の上に俺がちょっと手ェ加えてある。」

 

彼はよく入荷した商品をユーザーに使いやすく改造していたりもする。それでお金を取るのもどうかと思うが、その点で言えば良い腕をしているので信用していた。

 

「どんな?」

「2つ。まず、そのケース4つまで分離できる。同じサイズでな。そこでこれが肝なんだがスマホケースのある場所がお互いで位置確認できる。」

 

それを聞いてレオが以前行方不明になったガミモヅの件を思い出した。

確認しようと思えば確認できる程度の機能らしく緊急事態用には役立つかもしれない。

 

「そんで、もう1つが背面に好きな画像を配置できるってところだ。」

「なにそれ。」

 

なんでそんな無駄な機能をつけたのか。

 

「お前ら女どもは可愛い動物の画像でもはっつけたいんじゃねーのか?」

「別にそんなのないけど。…………まぁ無いよりはマシ程度の機能かな。」

「ちげぇねぇ。」

 

チェインは財布から金を出して支払うと、軽い梱包だけさせて商品を受け取る。

どんなスマホの形でもフィットする特殊な仕様らしく、レオのスマホの機種は知らないが大丈夫そうではある。

時間もちょうどそろそろライブラに出向かなければならない時間だ。とその場を後にする。

 

 

チェインは質量希釈して空へと跳び、空中を滑空している鳥型のドローンを足場にしてライブラへと向かった。

途中某レオの友達のキノコ頭くんを見かけたが案の定ハンバーガーを道ゆく人にねだっていた。いつもならたまにハンバーガーを恵んであげたりしているのだが、今日は弁当なので「さいなら。」と声を漏らして上空を通過した。

視界にはすでにライブラのビルが見えており、安心感を覚える。

本来なら「DDDアムギーネ」で一般構成員は入らないといけないここも人狼なら軽やかに入れるのは、人狼でよかったなぁと思う点の1つだ。

存在希釈して窓を通過するといつもの着地場所、全身白のだっさいクソ猿の上に質量希釈せず着地する。

 

「あがががががががががががっっ!!いでぇっ!」

「暴れんな土台。」

「こんのクソ犬ぅっ!」

 

ザップが血法で刃物を振り回すもののスカスカと体をすり抜けて一向に当たる気配はない。

 

「避けんな牝犬っ!テメェっこのレイプでもされてからしょんべんでもかけられて路地裏で寝てろぉぉぉぉぉぉっ!」

「下品っ!」

 

一旦距離をとって態勢を整えると、足の質量を希釈して重力の影響を最小限にしつつ筋力で足を大きく持ち上げるチェイン。ザップの股間にヒット直前質量希釈を解除。

通常よりも重い一撃がザップの股間に命中。

 

「ふぎっ………………う゛。」

 

その場の男性陣が皆青ざめた顔をする。

チェインは乱れたスーツを整えて存在希釈していたプレゼントを取り出す。

 

「はぁ……貴方はいつになったら反省するのですか?そんな態度だから彼女の反撃もエスカレートしていくわけです。もっと思いやりをもって……。」

 

失神状態のザップにツェッドが説教をするいつもの流れに、辺りは少しだけ空気を弛緩させた。レオはちょうどクラウスと話していた最中だったのでことの全容を知らずにこちらに戻ってきたのだが、倒れているザップと衣服の乱れを直しているチェインを見て察しはついたらしい。

 

「チェインさん。こんにちは。」

「ん。」

 

チェインはなんだか気恥ずかしくてそっぽを向いてしまった。

昨日の夜一緒にいたわけで、そこから別れて職場で合流。出会い方も今日初みたいな言い回しに、なんというか……昼のドラマの展開みたいでどんな顔をして良いのかわからなかった。

 

「給湯の電気消してきました?」

「あっ……。」

 

すっかり忘れたまま外出してしまったことに今更言われて気づく。

こういう余裕のある行動をしたときに限っていつも忘れないことを忘れてしまう。(まぁ結構な頻度で給湯の電気は消し忘れているのだが。)

レオも「ははは。」と苦笑して、目をそらす。

 

「あ、これ。」

 

チェインは忘れていること、という繋がりからプレゼントを思い出して梱包された小さな箱を手渡す。

あまり派手ではなく、周りからはプレゼントのようには見えないだろうそれをレオは受け取る。本来はもっと雰囲気のある場所でお礼も兼ねて渡したいのだが、いかんせんこの仕事はいつ戦闘になるかわかったものじゃ無いので今のうちに渡しておくことにした。

レオも箱を開けてスマホケースだと気づくと、「どうしてこれを?」とは聞かない。

今聞けば説明を周りに聞かれてしまうわけでもあるし、チェインもそれは恥ずかしいのか望んでいないから言わないのだろう。

レオは家に帰ってから聞くこととして、スマホに取り付ける。

 

「使えそう?」

「………はい、使い方スマホに出たんでおいおい把握しときます。」

 

レオは少し高級品感漂うスマホに進化した自分の端末を見て、嬉しくなったようだった。

 

「チェインさん………ありがとうございます。」

「………別に。………どういたまし……て。」

 

チェインは若干頰を赤らめてできるだけ無表情のままレオの頭にワシワシと手を当て、撫でた。

 

「ほら4人共っ会議始めるぞっ!」

 

スティーブンが声をかけると3人は踵を返してクラウスの元へ集まる。

ザップはツェッドに引きずられたままだが。

チェインはなんだかおかしくて口角を上げると、「今日も頑張りますかぁ。」と背伸びをした。

 

 

 

 

 




というわけでチェインのとある一日の通勤でした。

危惧しているのは私の書く、または書きやすいR18はだいぶエロ同人よりといいますか、下品というほどではないですが異種系が多いですし、受けが喘ぎまくる感じなのでもちろんチェインの性格や世界観には近づける努力はしますが雰囲気と違うと思われることです。
NTR(主人公が寝取る側なのでこれならレオが寝取るタイプ)なども好きなので今の所思いつきませんが言ってしまえばレオチェってスティーブンからチェインを寝とってるみたいなものですよね。
まぁ純愛をこれを期に書いてみるのもやぶさかではありませんが。


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第7話 僕は弱いんだ

こっちのアカウントに移行してから少し経ちました。
誤字報告してくれた方ありがとうございます。

さて、R18はともかく今回は少ししんどい話です。
ただ別にBadEnd好きとかではないのでご安心を。


 

 

 

 

チェインさんと僕が友達になってから早半年。

毎日毎日トラブル発生というほどではないにせよ、ザップさんとツェッドさんと一緒にたくさん死線をくぐり抜けて、突き進んでいく。そんな毎日が楽しくもありしんどくもあって、それでもこの生活がいつまでも続けば良いと思った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

いや、別に誰か死んだとかそういう話ではないけれど。

 

「ねぇ。」

「………なんすか?」

 

レオとチェインはいわゆる「宅飲み」と呼ばれるものをチェインの家で開催していた。もちろんチェインの部屋に入れるのは基本的にレオだけなので現在2人っきりの状態ではある。

チェインは隣に座っているレオを睨みつける。

2人の手には白い機械が握られていて大型のディスプレイと対面していた。

以前レオが語っていたゲームをプレイしている最中である。

 

「さっきから一向に勝てないんだけど。」

 

チェインは画面に映ったピンク色の風船のような見た目をしたキャラクターをフヨフヨと浮かせながらレオをジロリと睨みつけた。

 

「まぁ、僕………世界ランカーですし………。」

 

レオはできるだけチェインの方へ顔を向けることなく冷や汗を垂らす。普通に考えれば美女と一緒にいれるならば仲良く雰囲気を持ち上げることに専念してしかるべきだろう。だがそれは一般的な男女においてであり、レオには無理な相談だった。

だがもちろんチェインと2人っきりでいることに対して嫌がっているわけではない。なんなら友達と、仲の良い人と一緒にゲームで遊んでいるのだから楽しいまである。

端的に言えばチェインの服装だった。

チェインは裾がヘソの上ほどで止まっている薄い白のランニングシャツに下はベージュの薄い短パンで髪を後ろに留めたラフな姿でコントローラーを操っていた。

つまりレオの方からチェインを見ると、こぼれんばかりの乳房が横からチラチラ見えてしまうのだ。

 

「まぁさぁ別に良いけどねー。」

 

画面にはチェインのキャラの上に「YOU LOSE」と書いてある。

チェインはコントローラーを壊さないようにしつつもベッドに放り投げて、ソファに寝転がった。ソファは人1人が横になれる程度しかないので、当然白い肉質の良い足がレオの太ももの上にどかっと乗っかった。

 

「うぇあっ!」

 

チェインはタバコをクイっと手首で動かしてケースから出す。慣れた動作で中指と人差し指でタバコを挟み口へと含む。

テーブルの上の動かない生きたトカゲをむんずっと掴むと強く握りつぶした。トカゲの口から緑色の炎が吐き出されタバコに焚きつける。大きな脂肪をさらに肺が膨らむ事で揺らしながら煙を吸い込む。

 

「…………吸うのは良いっすけどベランダにしてくださいよぉ。」

「………別にいーじゃんこのままで。」

 

まぁ、とレオは机に置いてあるリモコンを操作して窓を開ける。同時に換気扇が無音で回転し始めた。これはレオがタバコを吸うチェインのために取り付けた機能である。

また個人的に副流煙を心配してのことでもあるがそこはチェインと交遊することにおいて諦めている。

レオは1人でゲームするのも何か気が引けてしまい、テーブルのレモンティーらしきものを一飲みした後、太もものあげられたチェインの足を見始める。

女性らしい弾力ある細長い足は妙に艶かしく眼に映る。

普段ローファーを履いているからか若干ゆがんではいるが、綺麗な爪先と色白の肌はなんだか妙に目を惹きつけられるが、レオは別に脚フェチというわけではないのでなんとか目を逸らすことに成功したが実際、危ないところだった。

沈黙が続く。

しかしその沈黙が例えばよく知らない人と2人っきりの状態なら胃がキリキリと痛むであろうところ、この2人はなんとく心地よく感じていた。

窓からヘルサレムズロットとは思えない陽気なそよ風が入り、選択して綺麗になったカーテンがたなびく。

反射的にレオは窓の外、煙が蔓延している中かすかに見える青空に心震わせる。

遠い地には妹が同じ空を見ているのだと思うと、なんとも変な気持ちになった。

 

「チェインさん、寒くないですか?」

「………別に。」

 

チェインは寝っ転がる過程で、ラフな格好故か張りのある腹部を露出させていた。美しいヘソに目を流しながら何か話題をとレオは頭を回転させる。

 

「そういえば………スキャッタリング・スコープってあの後どうなったんです?」

「あー………確かクソモンキーが持ってって、それがスターフェイズさんにバレてカチコチに凍らされてなかった?」

 

スキャッタリング・スコープとはいわば異界の道具で、通常の人類が物体越しに対象物を見るにはX線やサーモグラフィーを使わなければ見ることができない。しかしSSはいわば透視するアイテムで、それを使って異界存在でも入ることのできない厳重警備の金庫や重要な会合の内容などを収集し、金融の暴落を計ったり、個人情報を売りさばいたりされていた。

何より恐ろしいのはスコープという名前だが実体はなく、サプリメントのように錠剤を摂取すると眼球に本人だけ見えるメガネのようなものが生成されるという点で、錠剤は闇市場で大量に売りさばかれていた、ということだ。

なんだかんだあってライブラが総動員してSSの元締めを破壊、及び抹殺したのだが、クソモンキーことザップ・レンフロが数粒パクったのである。

もちろん「これで町中の女のが見放題っ!ぎゃはははははははははっ!!」と言っていたので悪用する気満々だったようだが。

 

「………同僚にも公平な罰を下せるって、すごいことですよね。」

「まぁ、そんじょそこらの男とは訳が違うから、スターフェイズさんは。」

 

その言葉にずきんっと痛む。

レオは胸に手を当てることはないもののどうしようもなく心が痛んだ。理由はわかっている。レオは嫉妬したのだ。

レオにとってチェインがどういう存在かなどはどうでも良い。

自分を構成する大部分が男で、軽口だというのに大切な人から「お前は男のレベルが低い。」と言われれば傷ついてしまう。そしてそれが過度に敏感になってるだけで、卑しい心だとわかってもいた。だから無かったことにする。我慢する。

レオは別に理想を追い求めている訳じゃない。

完璧な幸せや幸福を願っているわけでもない。

ただ前に進みたいのだ。

でもそれを親しい人に見下されるような言い方をされてしまえば悲しくなってしまう。

悲しむ自分の心の弱さに嫌になる。

眼を右斜め下に少しそらして自重気味に笑う。

 

「そういえばレオって視ることに置いては長けてるわけだしSSみたいなこともできてんの?」

 

幸か不幸か少しだけ鈍重な気持ちと思考になっていたレオのことなど一切気にせず聞くチェインはなんとも彼女らしい。

 

「……え、ああまぁやろうと思えば。」

「じゃあ服を透かして裸見たりしてるのかー………ふーん、ほーん。」

 

ニヤニヤと彼の気持ちも知らないで揶揄うチェイン。

レオはとっさに恥ずかしくなって、チェインを見つめる。

 

「なっそっそんなことしませんよぉっ!」

 

そう、そんなことしない。

彼は自分の私利私欲のために義眼は意地でも使わない。

なのにそれを理解し知っている彼女から出るいつもの冗談が今日は、たまらず悔しかった。

レオは、「まだ大丈夫だ。」と心を落ち着ける。チェインが悪気はないのはわかってる。ふざけた冗談で言ってるだけだってわかってる。でも感情が追いついてこない。

 

「ふぅーーーー………。」

 

息を吐く。

意識して大きく息を吐く。

何もカッとなってるわけじゃない。

今までいくつもあったのだ、チェインとの会話で年齢差か、性別からか、性格からか時たま無力感を感じて苦しかったり、冗談が胸に突き刺さったり、気にしていたことを言われてしまったり。

でもそれが彼女の魅力だとも思っている。思ったことをはっきりいう彼女はとても素敵だった。彼女が褒めればそれは嘘偽りなく褒めているのだと信じれる。

彼女に対して心を許せば許すほど苦しくなっていくのだ。

自分の不甲斐なさを見てしまうから。

 

「どしたの?」

「…………いえ。」

 

レオは小さく返事をすると、太ももに上げられたチェインの足をソファにそっと置いて立ち上がる。チェインは足に合ったぬくもり薄れるのを感じてなぜだか気落ちした。

レオはそのまま携帯端末をポケットに入れて、玄関の方へ行く。

この場から出たかった。

何もチェインのことを嫌いになったわけではないが、このままではチェインに対して誠実でいられなくなるような気がしたからだ。

 

「そういえばザップさんに頼まれてることあったの思い出したんで、行ってきますね。」

「えっでも今日暇って………。」

「………すみません忘れてたんです。」

「あ………りょ、りょーかい。」

 

チェインはソファーから飛び起きて玄関に駆け寄りながらレオの背中をみる。

いつもと違う感じだった。

いや、いつもと異なるわけではないが違和感を感じたチェインは無意識に手を差し出す。その手はレオのパーカーに届くことはなく鋼鉄製の扉がバタンと音を立てて2人の間を隔ててしまう。

チェインは「なっなん……だろう。」と呟きながら伸ばした手を顔の前まで持っていきまじまじと見つめる。その行為に意味はないが、それでも何か自分の違和感に不思議な感覚を覚えた。

人狼の野生の勘だろうか?

今まで誰にも心は乱されなかったし、自分と他人を分けて捉えられることが長所だからこそ優秀な人狼なのだ。わかっているのに、答えは明白なのに、それでもなぜだか足が重い。

くるりと翻ってソファに行く。

しかし視界に入った部屋はどこか空虚で物足りない。

ソファに座っても何かが足らない。

 

 

 

つきっぱなしのゲーム画面には「TIME UP」と「YOU LOSE」の文字が跳ねていた。

 

 

 

 

 

 




というわけで少し鬱回みたいな、ね。

私は予てから「他人が申し訳なさそうにしている。」という点に快感を覚えるのですが(だからといって何かわざとそういう風にしているわけではないですが)そういうのをヒロインが主人公にしていると生き生きします。
ヒロインが罪悪感に苛まれてしまうみたいな、ね。

ともかくR18にはまだなりませんがゆっくりと気長に書いていきますのでお付き合いいただければ幸いです。


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第8話 舐めんな

さてお久しぶりです。
6日の昼までにCGの作品を企業に提出しなければならなかったもので小説にも絵にも触れられませんでした(嘘こけNieR書いたやん)

そして今日、のパソコンの充電器が燃え上がりまして無理かなーと思っていたのですが今回は試しにデスクトップのWindowsの方で書いてみました。
なのでいつもと多少違うかもしれません。
不快でしたら申し訳ないです。
普段はMacBookProのWordで書いているので普段のありがたさがわかるいい機会でした。
(しかも忙しくなる前に書いた第8話冒頭のデータが使えなかったので新しく掻く羽目になるっていう、ね。

まぁともかくどうぞ!


レオはチェインの部屋の前何度も立ち止まる日々が続いていた。

 

 

2週間彼女と連絡も話すこともなく淡々と仕事を続けていた。いつもなら仕事終わりに飲みに誘ったり、誘われたりで任務でも無駄口叩いて注意されたりと仲良くしているのだが、今回は全くと言っていいほど何も接触はなかった。

最初こそいつものように振る舞っていたチェインもそっけないレオに対して怒るでもなく身を引いてしまう感じで対応してしまっていた。

レオはああいう性格ではあるので、表に出さないよう無視するわけでもなく第三者から見れば普通に接する形ではいたのだがそれはあくまで第三者目線であって、チェインの目線からすればレオが怒っているような疲れているようなそういう風に見えていた。

そして2週間と1日経ってからのチェインはひどかった。

 

「おい犬っころ?どうしたんだ最近おとなしいじゃねぇか。もしかしてとうとう彼氏でもできたか?ん?そのおっきな果実でたぶらかしたか?異界人?触手プレイでもしちゃう感じか?だははは!!」

「............うっさい。」

「はははっまぁお前を相手してくれるやつがいるのは驚きだよぉっ!」

「............そうかもね。」

 

その言葉にライブラの面々はどよめく。

彼らの日常、それはザップがクラウスに攻撃を仕掛けて、負けて、その後チェインが踏み台にする。というのが毎日の工程であり、言ってしまえば始業の合図でもある。

それがチェインが全く反応しない。

いつも毅然とした態度で言いたい放題なザップをぶっ飛ばしている彼女が今日はふざけた言い文句を受け入れて動こうとしない。

 

「ぁ...........え?どぉ.......したんだメス犬.........?」

 

ザップも目を大きく見開いて佇立ち尽くしてしまう始末だ。

チェインはそんな白猿に構うことなく、始業だとクラウスの前に向かう。レオは相変わらず我関せずと言った態度で少し距離をおいた場所に立って彼もまた早く始業を始めろと言いたげな目線を向けていた。

ギスギスした空気が全体を包んでツェッドはオロオロとあたりを見回したが、誰も助け船を出すことなく号令とともに今日の任務を言い渡された。

 

 

 

重要な連絡事項を伝え終えたスティーブンが最後にレオに残るように言った。

全員が多少不可思議な顔をした後その場を後にして、スティーブンとレオだけが執務室に残った。

 

「なぁ少年。最近チェインと仲良くやれてるか?」

「.........どういう意味ですか?」

「ほら、最近はよく飲みに行ってるんだろう?」

 

ライブラの面々は各々口にしないもののレオとチェインがだいぶ親密であることをそれなりに理解している。もちろんどっかの性欲猿以外は大人なので別に邪推はしたりしていない。男女間の友情は果たして存在するのか?継続できるのか?という問いは太古からあるがまぁ別にそこまで深入りする気がないのは確かなので誰も何も言わない。

しかしそこからこのチェインの異常事態はとうとう仕事に影響が出始めていた。始めるも何も2週間前からだいぶ怪しいことはわかっていたのだが。

 

「最近は行ってないですね。」

 

いつものフレンドリーな明るい印象はなく彼もまた普段どおりではないことは如実にわかる言い方だ。

 

「何かあったのか?喧嘩か?」

 

スティーブンとしては仕事が滞るのは困るし、BBを倒すことにおいていつ出動がかかるかもわからないので隊員2名(その中でも名を視る重要な役目がひとり)の調子が悪いままを頬っておくのはまずいのである。

しかし今回においてそれは地雷だ。

大切な人の想い人から大切な人とのことを取り持たれる。

それがどれほど侮辱的なことなのかわかるだろうか?もちろんスティーブンは悪くない。これはもっと細かい人のどうしようもない部分の話なのだ。

 

「なんでもないですって。」

「.......そりゃあ俺は関係ないかもしれないが、このまま戦闘でなにか失敗したときは危険だ。」

 

スティーブンは引き下がらない。

なぜならただの喧嘩だと思っているからだ。

しかしこれは喧嘩ではない、喧嘩ですらないすれ違いでだからこそそれ故にデリケートな部分なのだ。これがたとえクラウスだろうとツェッドだろうと安々と触れれるものではない。

それをあいにくレオの意識先のスティーブンがあたってしまったのは完全に運が悪かったのだ。

 

「なんでもないって言ってるじゃないですか!!」

 

その叫び声はレオ自身も驚いていた。

レオが怒る時、怒鳴るときはいつも人のためだ。仲間が傷つけられたときだ。自分が無力で自分に怒りを持ったときだ。しかし今の叫びは違う。

自分の小さくて柔らかくて脆い「心」を守るために出た反射的な拒絶だ。

だがその慟哭にスティーブンもまた驚いていた。

これほどレオが怒ったことなどあっただろうかと考えるが記憶を探す必要もないくらいに「NO」だ。彼はいつも高潔で、真面目で、優しい。

誰もが彼を悪く言う人などいないだろう。

だがそんな彼があろうことか上司に怒鳴り散らす。

スティーブンは怒鳴られたことへの一般的な怒りなど考えるわけもなくむしろレオを心配する。

 

「すっすまない。何か........気に触ったか?」

「........すみません、僕が悪いんです。」

 

何が悪いのかを聞きたいスティーブンだったが何を言って良いのかわからない。無言の時間が解決してくれることもあるが、それでもいうべきことがすぐ出ない自分にスティーブンは自嘲気味な笑いが出てしまう。

運が悪い。

 

「........笑い事じゃあないんですよ。」

「いや今のはっ.........。」

「僕はスティーブンさんほど容量は良くないし、見た目も、かっこよさも無い.......。」

 

その言葉にスティーブンの思考は一瞬で冷める。血凍道など必要ないくらいになんとなく状況が読めてしまった。レオ、チェイン、スティーブンで出来上がる相関関係などわかりやすいものだ。

スティーブンは知っている。

自身がチェインに想いを寄せられていることに。

レオは知っている。

スティーブンがそれを気づかないふりしていることに。

別に迷惑だとかは思っていないし、男として嬉しいというのも否定はしない。しかしスティーブンは世界にこの身を捧げ、世界の秩序が保たれ、一段落つくまでは身を固める気などない。そしてなにより自分が真っ黒の黒に染まってしまっている自分が彼女の想いに応えるのは、幸せになるのは世界に対して冒涜だと諦めていた。

だからこそ最近彼女がレオと仲良くしているということに気づいてからは肩の荷が少し降りた気がしていた。

 

「自分で戦うこともできないのに.........貴方はっあろうことか僕がチェインさんと結ばれればいいって思ってますよねっ!?」

「っ!」

 

その言葉にスティーブンは警戒心が高まってきていた。

なぜそれを知っている?なぜその答えに至った?

彼の眼はそこまで見通すとでもいうのか?.........ありえない。

スティーブンは目を細める。

頭の中では苦渋の決断ではあるが数%レオを処分した時の戦力低下すら視野に入れている。

 

「ええ僕は知っています。もちろんそれについて何もいう気はありません。.....危ないことをひとりで背負ってほしくないという気持ちはありますが。」

 

その言葉でスティーブンは自分の思い違いに恥を感じた。同僚をなんの躊躇もなく疑う自分に嫌気が差す

 

「でもっ僕が貴方を許せないのはっ」

 

レオはスティーブンに詰め寄る。

スティーブンは反射的に間合いに入ってきたレオに足裏のクイッと上げていつでも発動できるように準備するがそれは杞憂だった。

レオは身長差からか胸ぐらをつかむことはできずとも胸元部分のワイシャツを掴んで上に引っ張る。

 

「チェインさんの話も聞かずにっ!.........チェインさんの真摯な気持ちを受け取らないで「自分はダメだ。」と、「自分には資格がない。」と、勝手に諦めてるところだっ!」

「............。」

 

スティーブンは虫唾が少しだけ走った。

彼もまた人だ。わかったようなことを言われるのはムカつくし苛立つ。

 

「...........僕には何を言われているのかわからないけど。」

 

それはちょっとしたジャブで威嚇だ。だがレオには十分でもある。舌戦だって彼は得意でレオに勝ち目など無い。それでも震える手をゆっくりと話してレオは少し引く。

 

「すみません。わがままだと思います。」

「..........そうだな。」

「でももし...........もしその時が来たら僕が言ったこと......思い出してくれますか?」

「..........ああ。」

「..........生意気なこと言ってすみません。暴力もすみませんでした。」

「気にしてないなかったコトにする。........仕事にもどれ。」

「はい。」

 

レオは申し訳無さそうにそして不服そうに体を翻して執務室を出る。

彼が出て言った後スティーブンは近くの椅子に脱力するように座る。

 

(レオが......あんなふうに怒るところを始めてみた。)

(一瞬だけたじろいでしまったのは俺がまだまだ未熟なのか.......それとも彼が強かったのか。)

(......両方.........か。)

 

スティーブンは崩れたワイシャツを戻してパソコンに目を向ける。

一通り問題が解決したとは言えないが、理由はわかったので良しとしよう。という気分だった。ただこの先より悪化するようなら、とスティーブンは気を引き締める。

仲良くしている同僚からの真摯な怒りはやはり彼でも堪えるのだ。

コーヒーを仰いだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

考えてみてほしい。

例えば喧嘩している相手がいて、相手がどうして怒っているのかわからない時。やはり相手の動向が気になるものだ。誰だってなにか理由が聞けそうなときは近くにいてこっそりと聞きたい。

透明になれるのなら良いし、体重がなくなって音が立たなかったらなお良い。

そんな存在はふつういないが。

ここは普通じゃない街、ヘルサレムズ・ロット。

 

「.............................。」

 

執務室の窓には見えない何かがいて、今まるでその場を後にするかのように地面を蹴る音が窓からした。その音にスティーブンもまた気づかなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その日の夜、レオは飲み屋で酒を珍しく飲んでいた。

本来そんななりでヘルサレムズ・ロットの酒場にいればまず犯罪に巻き込まれるが、この店はチェインとよく来ている店で、レオの顔を見るやいなやみんなへいこらして去っていく。

理由は明白でレオに絡んで金をすった連中は軒並み心臓発作か内臓破裂で死んでいるからだ。暗黙の了解でレオには手を出してはいけない仕様になっている。

 

「マスター......会計お願いします。」

「......今日はご一緒でないので?」

「......はい。」

 

レオはそんな話をしながら店を出て帰路につく。

お酒のせいかいつも見ているヘルサレムズ・ロットは七色に光っていて自分の気分とは天と地ほども差があり苛ついてしまう。

最近ソニックもどこかへ行っていて見かけないが、自分がこんなに荒れているとなんとも周りは冷たくなったように感じてしまう。

寂しい。とレオは思った。

レオが部屋につくと隣の部屋は電気がついていて、チェインが帰ってきていることがわかりなんとも複雑だった。

昼に上司に感情的になって怒鳴ったのはまずかったといつもの2倍お酒を飲んでいたが帰り道をゆっくりと歩いてきてしまったがためにもうほとんど酒が抜けてしまっている。

 

「最悪だ。」

 

レオはベッドに横たわる。

どうして自分はこうなのか。短絡的で直情的で、スティーブンに迷惑をかけて......と自分を責める考えがぐるぐる頭で生成される。

 

「仕方ないじゃないか。好きなんだもの。」

 

がたっと部屋の隅の観葉植物が揺れる。

レオはなんとなく意識を向けるが、義眼で視ることもなくいつものギガフトマシフの地震か何かかと思って無視した。

 

「僕はスティーブンさんほど強くもないし、かっこよくもないし。チェインさんと釣り合うわけ無いじゃん。」

 

がたっとまた部屋の隅の棚が揺れて、ギガフトマシフへのいらいらが貯まる。

 

「チェインさんはナイスバディーだし、面白いし、時々理不尽だけど優しいし。いろいろエロエロだしははは。」

 

がたがたっと机が数センチ動いて、「横揺れかー。」と納得する。レオは普段言わない自由で失礼極まりない発言に笑えてきてしまって声を漏らす。

 

「僕だって男ですよ。所詮仲のいい友達程度かもしれないけど.........エロい目で見ちゃうし。」

「それにチェインさんもわかっててやってるでしょ。」

「でも.........楽しかったなぁ。」

 

レオは最後にすごく思い出深い気持ちでつぶやく。

チェインと大爆笑したり、ときにザップと殴り合ったり、戦闘で助け合ったり、酒飲んでゲームして、遊んで。

そういう日々が楽しかったのにつまらない自分の意地でその日常を壊してしまった。

そう思うと自然と涙がこぼれ落ちる。

レオにとってそれほどまでにチェインの存在が大きくなっていたのだ。

妹の眼を取り戻すために来たのに、何をやっているんだと辛くなる。

苦しい。

 

「ごめんなさい..........チェインさん。」

 

そのつぶやきはとても小さい声でかなりかすれた言い方だった。

もう眠くなって独り言を言う気力もなかった。

ただただ「無」。

何もしたくない。何をしても自分が悪いんだと思ってしまう。

いっそ誰かを責められたら楽だろうに、と。

 

「私こそごめんね........レオ。」

 

レオは青い義眼を限界まで見開く。

暴れたり取り乱したりしない。

声が聞こえたのは耳元で、それこそ驚く気力もなくただただ優しい声に落ち着いてしまったためだ。

なぜ彼女がそこにいるのかなんてわからない。

でも今は目が冷めてそれでいて落ち着きを持てていた。

 

「.....いたんですね。」

 

レオは責めるわけでもなく、怒るわけでもなくどうすれば良いのかわからなかった。

ただ背中から手を胸辺りに持っていかれて後ろから抱きつかれたまま寝ている状態なのでなんとも冷静で入られなさそうだが。

 

「レオ..........今ね。言ってきたよ。」

「どういうこと..........ですか?」

「スターフェイズさんに言いたいこと、思ってたこと............。」

 

その言葉にレオは驚く。

そして察してしまう。

レオとスティーブンの話し合いが聞かれていたのではないか?と。彼女であれば可能だと誰もが認めるだろう。

 

「フられちゃった。」

 

息を呑むなんて表現はありふれているが息ができない。大切な人の一大事には呼吸なんて忘れてしまう。

なんて言えば良いのかわからない。

ただ何も言わないという選択肢はない。

 

「...........明日、どこかケーキバイキングでも行きますか。」

 

それくらいしか思いつかなかった。それが正しい答えだとは微塵も思えなかったレオだが、それで苦しさや悲しみが少しでも薄まってレオに怒りをぶつけてもらえるなら良いと思っていった。

 

「ふふ.......なにそれ。」

「いや.......まぁ、その。」

「いいよ。...................わかってる。」

 

レオは自分の至らなさに先程の自責の念が再燃しそうだった。

 

「レオは優しいよ。」

 

吐息がかかる声で囁かれる。

涙が出そうになる。

たった一言。

その言葉がどれほどの言葉かチェインはわかっているのだろうか?と思ってしまうほどレオは顎がムズムズした。涙が出そうになる。

大切な人からの真摯な称賛の声は純粋な嬉しさと受け入れやすさを内包している。自責の念に押しつぶされそうな人を救えるすごい言葉だと思う。

 

「僕はチェインさんに身勝手な態度を.......…」

「それは私が傷つけたからでしょ?」

 

チェインは最初レオが何を気にしてああなったのかに気づけていなかったそれでも今日の朝その答えを聞いて自分が何を言ったのか気づいた。

別段一般的にちょっとした言葉が相手を傷つけるなんてことはよくあることだ。それでも相手を傷つけてしまったのなら謝るべきだ。

 

「別にレオがダメって言ったわけじゃなかったんだ。むしろレオは優しいし気遣いができて、........とっても強い男だよ。」

「僕が............ですか?」

「そう。確かに........物理的な強さはないけど、強さってそれだけじゃあないよ。」

「そう..........すかね。」

「そうだよ。」

 

レオにとっては単に男として物理的な強さに憧れ持っているだけなのかもしれない。それだけ思うとどうにもおかしなことで怒っていたと思えてしまう。

チェインはレオの背中に密着する。

チェインの大きな胸が背中に押し付けられてこんな場でもムラっときてしまう自分が恥ずかしいレオ。

 

「レオ、スターフェイズさん。ちゃんと「俺は今世界の均衡を保つために戦ってる。だからすまない。

とても嬉しいけど俺は無効、人生で結婚する気がない。」って言ってくれた。」

「「俺には付き合う資格なんて無い。」とか「君は俺を知らないから。」とか言われなかった。言われたら...........悔しかった。だから、」

 

チェインはサイド口をレオの耳元にギリギリまで近づけて優しくはっきりと伝える。

 

「ありがとう。レオ。」

 

それはどうしようもなく涙が出る一言だった。

ガラスの弾が割れるように、ヒビが入るように、中から液体が溢れ出る。

透明な液体がどんどん出るたびに枕が濡れていく。

スティーブンに負けた悔しさ、大切なチェインが言った心からのお礼、自責の念の解消、そして帰ってきた2人だけの信頼。

レオは胸に回された手をにぎる。

すべすべで細長い、身長の割に小さい手。

指と指の間に指を合わせて絡め取る。

 

「何泣いてんのよ...ふふ。」

「笑わないでくださいよぉ。」

 

レオはぼんやりと光る群青の眼球から止まらない涙を流しながら「ははっ。」と笑みをこぼす。

面白おかしいのだ。

大切なことだし、悲しかったし、辛かったし、怒った。

けどいま笑えたならそれはきっと良かったことで、間違ってはなかった。

行き詰まったり、進めなかったり、光を見つけられなくっても間違えなかったのだから御の字だ。

チェインはレオの髪と頭に顔を近づけてぐりぐりする。

 

「風呂入ってないんで.......。」

「大丈夫.............................いいにおいだよ。レオだね。」

 

それはまるで自分はこの場所にいるべきだと宣言しているかのように穏やかでいい声だった。彼らの距離はもう無く、ずっとくっついていられる。

レオは照れくさくって、なんだかもじもじうずうずしたが、やっぱり心地よかったので足でふくらはぎを掻くだけでおわす。

レオとチェインは最上にいい気分だった。

 

 

 

 

 




というわけで仲直り回&イチャラブの最大の障害を片付ける回でした。
多少強引な展開でしたが納得していただけると幸いです。

次からガチエロ書いなのでR-18になります。
純愛でエロ無しを望んでいた方は申し訳ないです。


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第9話 どこまで相手を受け入れることができるか?

というわけで今回からR-18要素が入ります。毎回ではないです。
純愛非R-18を望んでいた方は申し訳ありません。
ではどうぞ!


 

 

 

 

 

レオは不意に鼻腔をチェインの華やかな匂いと少しの汗の匂いで充満させられて興奮してしまう。

「失礼だ。」と思う。

でも男として後ろから抱きしめられるのはなんとも滾るものがある。むしろ何も思わないのであれば枯れているか、よほど達観しているか興味ないかだ。特にチェインは胸部が大きく、抱きしめられてしまえばブラジャー越しとはいえ意識してしまうものだ。

 

 

友を性的な目線で見てしまう。

これは本当に低俗で失礼な事だろうか?

まぁ十中八九無粋ではある。しかしそういう風に見てしまう相手のことをよく理解して受け入れることができる間柄こそ真の友と言えないだろうか?

相手の完璧でないところ、醜いところ、弱いところを共有できる。許容できる。そういう見識の広さと器の大きさが「信頼」を生み出すのだと思う。

もちろんああだこうだと言ってはいるが結局性的興奮を覚えているだけなのだが。

 

 

レオの不幸としてはここ最近ふて寝ばかりで全然自分で抜いていなかったことだ。レオは正直毎日、または2日に1回は抜いておかないと日常生活で支障をきたすくらいには性欲旺盛だったりする。

ここ最近排尿以外で性器をさわることなどなかった。それが2週間。

しかも今はまさに大切な友が背中で密着して吐息をかけてくるというのは、我慢強い彼でも難しい。

しかしレオは襲うことなど絶対しない。少なくとも今日は。

なぜなら、常識的に考えて失恋した女性をその日に抱くというのはなんとも最低な行為だとわかっているからだ。付き合ってもいないのにそんな事を考える自分にまた嫌気が差してしまう。

けれども体は正直で、レオはチェインと向かい合ってなくてよかったとつくづく思った。

向かい合って密着などしたらすぐわかる。

 

「ねぇ………。」

「はいっ?」

 

突然真っ暗な部屋で声をかけられる正直吐息だけでしばらく喋らなかったので寝てしまったのかと思っていた。

レオはとっさに体をくの字にして勃起をばれないようにする。

 

「人狼ってさ………まぁ名前の通り狼なわけでけっこう鼻が効くんだよ。」

「………はぁ。」

「まぁ……だからさ。」

 

レオはチェインが何を言っているのかよくわからなかった。ただ意味ありげな言い方でチェインがもぞもぞとし始めたので受身の姿勢で受け入れる。しかしそれは意外な動きだった。

 

「レオってこういうときでも興奮するんだね、やらしー。」

「はぇっ!!?」

 

レオにそう言いながらチェインはレオの股間に手を添え始める。

胸板に持ってきて手をつないでいた手はいつの間にかレオの大事な部分に添えられていて、レオは驚きと敏感な部分を触られた反射で体をよじる。

 

「なっにしてる……んすかっ!?」

「なにって……ナニだよ。友達が苦しそうにしてたら助け合わないと。」

「いやいやいやいやっ!」

「てかレオ硬った。随分溜め込んだ感じ?」

 

チェインはナニも動じることなくレオのズボンのベルトを外していく。この手慣れた感じはいわゆる場馴れしているかしていないかの差であった。童貞と非処女だ。ノリが違うのは当然である。

チェインはレオのパンツ越しのひどく硬い棒を触り続ける。

ズボンを下ろした瞬間に人間にはわからない程度の臭気が立ち込めてチェインは目を白黒させつつもパンツもおろしてしまう。

レオは半ば諦めと期待で動くことはなかった。

 

「レオって……結構あるね………まじもん?」

「天然モノです………。」

 

レオの性器はある程度離れしているチェインでもちょっと引くレベルだった。

竿の長さは目算でも20cmを越していて、太さも4cm。そして極めつけは反り返りだ。

まるで90度に完全に曲がっていると言えそうなくらい上に反り返った性器はなかなかお目にかかれない。

実際は110度ほどに曲がっていて竿には幾重にも太い血管が浮き出ていた。アダルトビデオで視る黒人の性器のようだったがレオの体格から考えて性器だけ移植したのでは?と思えてしまうほど凶悪だった。

チェインは若干引きつつもここまで来たのだからと優しく手で包む。

 

「ふぅっ………。」

「だいぶ硬いけど……痛くない?」

「いえっ………気持ちっよく…て。」

「そ……良かった。」

 

しかしながら、レオは背面からチェインにされるのがなんとも屈辱的に思い、レオ自身もチェインを見たいと振り返る。よって体を反転させて向き合う形の体勢になった。

目を見開いてしまう。

チェインは驚くことに一糸纏わぬ姿だった。

おそらく存在希釈して服だけ透かしたのだろう。ベッドとチェインの間には潰れたスーツがあった。

レオは目を奪われてしまう。

想い人が、大切な友達が、生まれたままの姿で自分の横で寝ている。しかも性器を愛撫してくれている。これほど興奮しながらのリラックスはあり得るのだろうか?

チェインはゆっくりとペニスを擦るのを続けながら恥ずかしそうに目をそらす。

 

「なに?」

「いえ…………きれいだなって。」

「正直でよろしい。………レオも綺麗だね。」

 

チェインが言葉で指したのはレオの義眼。

青く輝き、何者でも見透かしてしまう神々の義眼。

たとえどんなに自分が存在希釈しても見つけてくる怖さと期待がある。

 

「そっそぉすか?」

「うん。綺麗。」

 

綺麗なものに特別な関心を持つことなどなかった。

役に立つものとお酒さえあれば、おめかしもいらないし、可愛い服なんてあっても着ない。それでも彼の目は惹きつけてくる。

少し猟奇的ではあるけれど、繰り出して両手で大切に包みたくなる。そうチェインは思った。

チェインは普段見せない慌てた顔をしながら、顔をほんのり赤くさせてすねたように唇を突き出していた。

転じてレオは目の前に展開された2つの大きな果実に眼をどうしても吸われてしまう。健全な男子であれば当たり前だ。

 

「見すぎでしょ。童貞。」

「いやぁ……その。」

「好きにしていいよ。好きなんでしょ?男は。」

「でもっうっ!………こんな日にっ。」

「良いんだよ私がしてあげたいの。減るもんじゃないし。」

 

レオが何に気を使っているのかなんてすぐにわかってしまう。

悲しいし、悔しいとチェインは思った。でもそれ以上に「あー……私は大切にされているんんだね。」と思えて嬉しくなる。

久しく感じていなかった温かみだ。

チェインは右手でレオの極太性器をさすりながら左手でレオの腕を掴んで自分の胸へ持ってこさせる。

ここまで強引にしなければならないチキンな友に多少馬鹿馬鹿しさと情けなさを感じてしまうが、童貞にはきついかもしれないと割り切る。

 

 

チェインはそのまま抵抗することなく、レオの性器を撫で回し、時に手のひらで鈴口を優しく擦り、時に親指と人差し指の腹でカリ首を刺激して、左手で陰嚢を優しくなで揉み上げる。

 

「ふぅおっ!」

「気持ちいい?」

「はっい゛っ!」

 

レオは余裕がないと言った表情で息を荒くしてなんとか耐えているようだった。

くる前に整えた爪先でレオの尿道口を痛くない程度に優しく刺激して、人差し指と中指で裏筋の尿道を強く押しながら根元から先端へ手を滑らせる。

外的要因から尿道を潰され、先端から透明な液体がとめどなく溢れる。

 

「うぉ゛。」

「おっ出てきた。」

 

何度も尿道を押されてそのまま乳搾りのように動かされてカウパーを大量に分泌したレオのペニスはそのままそれを潤滑剤として入念にペニスとチェインの右手の間に練りこまれる。

 

ニュッジ♡ニュッジ♡

 

布団の中で多少音は抑えられるものの、いやらしい音が部屋の隅から発せられる。もし仮にこの部屋に誰か他の人がいれば気づくくらいではあった。

チェインはそのまま滑りの良くなった動作に回転を加えて速度を速める。

時折根元を強く握りながら、反り返りと逆方向に傾けることで血液を海綿体にたくさん入れさせて硬度を高めたりもした。

チェインもものすごくムラムラとはしてくるものの、今は目の前で顔を真っ赤にして耐えている友人に性的上位に立つ興奮を覚えてノリ気が増す。

 

「ちぇっチェイン……さっ……。」

「痛い?」

「………いやっ……。」

 

レオは性器を手で愛撫されつつも、男として胸への探究心は捨てられずチェインの大きな果実に指を沈みこませる。

程よい弾力と重量感のあるチェインの乳房は「ずっと触っていられる」と思ったレオ。そのまま若干埋もれている乳首を両人差し指の腹で優しく撫でる。

 

「んっ……………やるじゃん。」

 

チェインの経験上、男は胸を見れば己が欲で強く揉みしだいてこちらのことなど考えもしない態度に出ることが多かった。実際童貞もがっついてきて仕方ないかな?とは思っていたがどうやらレオは元来の気質からかひどく優しく………ねちっこかった。

レオはそのまま直接乳首に触れることはなく乳輪周りを優しく触ったりつねったりしてなかなか乳首には触ろうとはしなかった。

彼は単に「いやぁっ!待て待て!がっつくなっ!チェインさんが痛かったら嫌だっ!」と脳内で多重会議をしていただけなのだが。

 

しかしやはり年季の差はあって、チェインは負けじと痛くないギリギリの強い刺激を親指と人差し指の間の水かきでレオの竿と亀頭の間の高いカリ首を、ぐりゅんっと通過する。

レオはたまらず体をくの字にして悶える。

咄嗟にレオとチェインの顔が数センチもない程度に近くなってお互い顔を真っ赤にしてしまう。(どちらもすでに十分真っ赤だったが。)

レオは恥ずかしくて目を反らすが、その反面勇気を出して頭をより前に出す。

コツンっとチェインのおでこにレオのおでこが当たって鼻先がわずかに触れた。

しかし唇が触れることはない。

 

 

チェインは驚きと恥ずかしさと、少しの寂しさと、安心の気持ちが混ざり合って右手を早くする。

レオの睾丸はすでにせり上がっていて彼がだいぶ我慢しているのは左手でだいぶ分かった。

中指と薬指の間に竿を挟み込み、尿道口をグリグリと親指の腹で刺激する。

 

「うっああぁっ………ぼくっも……おっ!」

 

レオは精管膨大部に大量にためた精液をついには止めることができなくなってしまい、射精管を大きく押し広げながら精液が突き進んでいくのを一泊遅れて感じ取る。

チェインはそんな彼のことなど知るよしもなく最後の一息だと、カウパーを手のひら全体に塗りたくって手淫の速度を大幅にあげた。

真っ赤に充血した亀頭、射精直前に一回り大きなった竿でチェインはすぐに左手を射精の軌道上に持っていく。

 

「でっでるっ…………射精ますっでるでるっでぇ゛っ!!」

 

ごびゅるっぶびゅっ!…………ぐびゅるっ!………ぶびゅっ……びゅっ!

 

勢いよく出された精液がチェインの左手の掌にぶち当たって彼女の手を犯す。

あまりの射精量に指の隙間や掌から溢れ、チェインの太もも付近にまで飛び散る。布団の中で充満するおびただしい雄の匂いでチェインは鼻をつままれたような陶酔した気分に陥るが、びくびくと大きく震えるレオのペニスを放す事はなかった。

そのままいくばくか遅れた射精を待った後、チェインはぼーっとする視界と意識を再度覚醒させてレオの竿に添えた右手を動かす。

射精直後は敏感になっているので特にカリあたりには触れないようにしながら、尿道の根元を親指で強く押しながら先端へと滑らせる。

 

「う!?…………ふぅ゛っ!」

 

カリほどではないにしろ敏感な尿道を潰されて声を漏らしてしまうレオ。

そんな彼に構う事なく、尿道に未だ残っている精液を強制的に排出させる。

 

ぴゅっ………ぴゅる………。

 

チェインはそこ最後の精液も左手でキャッチするとカウパーでダラダラになった右手の甲でなんとか布団を持ち上げて布団に精液がつかないよう己の体だけ外に出す。

布団の中で熟成されたレオの雄の匂いに少々気持ちが引っ張られるが、そのまま両手にベトベトについた精液を薄暗い部屋でまじまじとみる。

特に左手の精液はおおよそ人種が出したものとは思えない量と質ではある。

いやもちろん流石にチェインも人型以外の異界存在としたことはないが、それでも異常な量だった。

 

「レオって人?」

「はふぅっ…………人っすけど。」

 

射精を終えて、息も絶え絶えなレオはなんとか返事を返す。

チェインはまじまじと顔に近づけてレオの精液を確認するが、単に量と質がいいだけで別段普通の精液だった。もしかするとだいぶためていたのかもしれない。

そのままチェインは部屋のティッシュで手を拭って、ゴミはポイっと投げ捨てる。

 

「うわぁ……濃くって精液取りづらいなぁ。」

「すみま………せ……。」

 

レオは急激に眠気に襲われて意識を失ってしまう。

当然といえば当然で、彼は最近眠れておらず、かつ射精したことで脳内に睡眠作用のある物質が分泌されて眠気が急激に訪れる。

そのことはなんとなくチェインも理解しているので、小さなため息をついて、チェインは手を綺麗にすると再度レオの布団に一緒に入った。

チェインも最近眠れていなかったため、布団に入ってしばらく寝ているレオを見ているといつの間にか意識は薄れていった。

 

余談だが彼らはこれ以上ないくらいいい笑顔でぐっすりと寝てしまい、翌日2人とも遅刻するという末路を辿る。

 

 

 

 

 

 




本当は今回で本番まで行きたかったんですが、ゆっくりと歩いていく感じの方がいいかなって思って手淫だけにしました。若干Mっぽい感じですがこれからはまたいろいろ変わるので。
どうしても私がR-18書くと下品な表現になってしまう感じですが、ご容赦ください。
それとだいぶ人外設定になってしまうかもしれませんが、それはご愛嬌ということでどうか。

次の投稿はどうなるかわかりませんがまだ続きますので、よければ感想などいただけると幸いです。


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