冷たいたぬきの方程式 (仮名)
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冷たいたぬきの方程式
とある宇宙、とある星。
幾つもの調査チームが入り調査が進められている「惑星ウォードン」において、調査グループの一つから、メンバーのうち数人が最悪の場合は死に至るような疫病に疾患したという緊急の報告が入り、パイロットを一名選出し、小型宇宙船でもって可及的速やかに惑星ウォードンへ血清を送り届ける運びとなった。
小型宇宙船も無事に離陸し惑星ウォードンへの行路に入ったことで、パイロットは一息ついて、時間つぶしに船内を散策する。ところがパイロットは、エアロックの中で、いつの間にか忍び込み密航していた少女を発見してしまう。聞けば惑星ウォードンに彼女の兄がおり(名前を聞いた限り、どうやら疫病の罹患者ではないようだ、一安心。)、どうしても会いに行きたかったという。
本来なら、宇宙船の密航者に対する規則に基づき、少女を船外に遺棄しなければならない。(少女は、万が一密航がバレても罰金刑程度で済むと思っていたようだ。その楽観さが今ばかりは恨めしい。)とはいえ、平時であれば二度と同じことをしないようにときつく言いつけて目こぼしをしてもいい場面ではある。だが、現在この小型宇宙船には、あらかじめ規定された重量を送り届けるだけの燃料しか積まれていない。つまり、このままであれば、燃料不足で血清を惑星ウォードンに送り届けることができなくなってしまう。そのためには、やはり想定外の重量……密航者の少女を、船外へ遺棄するしかない。さもなくば、今も血清を待つ病人たちの命が失われてしまうかも知れない。
しかし、大きな過ちこそあったものの、やはり前途ある若者の命を無為に散らすのは本意ではない。そこでなんとか問題の解決に繋がるような手立てはないかと船内を方方捜索していると、なんと倉庫内に冷たくなっているたぬきが何匹か発見された。どうやら小型宇宙船が格納庫で眠っていた間に紛れ込んだが、餌を得られずたぬきの方がそのまま永眠してしまったようだ。
たぬきが生きていなかったことに若干の安堵を抱きつつ(たぬきは雑食性で、腹を空かせていたならば人間も食料と見なし、ややもすればこちらに襲いかかってきていたかもしれない。)、もしやと思い改めて船内の重量を確認すると、数値はちょうど少女一人の体重分だけ規定値をオーバーしていた。燃料を積みこむ段階で既にたぬきが紛れ込んでいたのに気づかずに、その重量分を計算に入れてしまっていたのだ。
普通ならば、あるいは問題になっていたところであるが、今回ばかりはまさしく怪我の功名。ちょうど少女と同じくらいの重量であったたぬきたちの遺骸に、そのめぐり合わせに感謝を捧げながら船外へと遺棄し、どうにか小型宇宙船内の積載重量が規定値を下回ると、パイロットと少女は無事に惑星ウォードンへとたどり着くことができた。
その後、送り届けられた血清によって病人たちは快復し、少女も兄との再開を果たすこととなる。
めでたしめでたし。
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