とあるオタク女の受難(僕のヒーローアカデミア編)。 (SUN'S)
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とあるヒーローの受難。
第1話


〇月∀日

 

昨晩、素肌を隠すように包帯を巻き付けた少女をゴミ捨て場の近くで拾った。

 

決して、誘拐してきた訳ではない。子供の好きな食べ物を検索したが、1位から100位までオムライスが陣取っていた。なんでだよ、チャーハンだって美味しいだろ。

 

そんなことを考えているとスプーンの持ち方がヘタクソだったため、後ろから指示するように身体を重ね、動かし方を教えてやる。

 

この少女は放置子ってヤツなのだろうか?警察に保護して貰った方が私は誘拐犯と思われたくないし、そこまで事情を知っている訳でもない。この子の親を名乗る人間を見付けたら引き渡そう。

 

うん、そうしよう。その前に食べ方を直させないと部屋が汚れるな。あと、そんな汚ない服は捨てよう。う~ん、私の使っていた古着だが、使えそうなヤツはあるだろうか?それよりも今時の女の子には婆臭くて嫌なのでは…。

 

あんまり、そんなことを考えるのはやめよう。

 

〇月-日

 

職場には休むことを伝えたし、子供服でも探しに行くとしようか?しかし、私は今時の女の子が着るような衣服には疎いのだ。

 

そういうわけだ、着たいと思った服や靴を私のところまで持ってくるんだ。

 

よしよし、それじゃあ、見てきなさい。

 

私は食器や補助付スプーンとか見てくる。

 

はてさてはて、クマとウサギだと彼女が喜びそうなとはどっちだろうか?

 

うむむ、間をくり貫いてペンギンという打開策もあるわけだが。そうなると女の子の好みじゃなかったとき、なんとも言えない空気になるな。

 

ん?ああ、服を選んできたのか。ふむ、もう少しだけ買う量を増やしても大丈夫だぞ?それと下着は持ってきたのか?やっぱり、忘れてたのか。仕方無いな、私のセンスだが選んでくる。

 

なに、少しばかり衣服を選ぶのは自信がある。

 

〇月%日

 

少女の名前を聞くことができた。漢字は分からないため、私は彼女のことを「エリ」と呼ぶようにしてる。しかし、彼女を拾ってから三日ほど経過しているのにニュースにも捜索願いすら出てきていない。

 

まあ、難しいことを考えていても仕方無いな。それより彼女の、エリの栄養失調だった肉体を治すことを優先しよう。彼女の親はマトモな食事すら与えていないのか。身体を洗っているとき、スポンジ越しに触れたところは骨と皮だけだった。

 

ん?エリ、そろそろ眠らないと起きられなくなるぞ。いや、私は書類整理を終えてから眠るよ。はあ、書類整理は朝でも出来る。

 

今日は、さっさと寝ようか。

 

なに、心配することはない。私は書類整理の達人だからな。書類整理などヴィランをボコるより簡単な作業だよ。

 



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第2話

〕月≦日

 

岩石系統の個性を持つヴィラン―――。

 

ヴィランはパトカーを薙ぎ倒しながら逃げ遅れた交通人を人質にしている。休日だと言うのに、休む暇すら貰えないのは嫌だなぁ…。

 

そんなことを思いつつ、エリに食べさせる夕飯の献立を考える。気付けばヴィランの眼前まで来てしまっていた。岩盤を重ね合わせたような肉体だな。

 

流石、異形系統の中でも追随を許さない最高硬度を誇る岩石個性ではあるが、殴り続ければ壊れるだろ?

 

ほら、207回ほど殴ったら胸部の岩石が壊れてしまったじゃないか。もう一つ、女の子を人質に取るのは許せない。新人諸君、張り切ってヴィランを逮捕して来なさい。

 

こっちは休日なのに仕事したから疲れてるんだよ。

 

ん?おお、鈴木じゃないか。えっ、山田?そんなことよりも人質を宜しく頼むよ。私は子供のために夕飯の準備しないとダメだからな。

 

武田は何か言っているようだが聞こえなかった。

 

まあ、学生時代も今と変わらずアホなことしか言ってなかったし、そこまで考えることではないな。

 

〕月>日

 

依然として、エリの親を名乗る人間は現れない。

 

それどころかエリの戸籍情報すら存在しない。まさか、ここまで腐っているとは思わなかった。

 

そんなことを考えていると訪問者を知らせるアラート音が聴こえてきた。こんな時間に掛けてくるとは礼儀知らずなヤツだな。

 

なぜ、橋田と相澤が此所にいるんだ?

 

さっさと帰れよ。おい、部屋に上がろうとするな。一応、女の部屋だと理解してから入れ。

 

おお、土産を持ってくるとは気が利いているな。それより相澤と武田、これは何のようなんだ?

 

子供を拝みに来た?

 

いや、あの子は眠っている。

 

酒盛りと行きたいところだが、子供が寝ているからな。そういう訳だ。ん?ああ、そう言えば橋田じゃなくて山田だったな。まあ、そんなことは興味ないんだけど。

 

〕月&日

 

夫だの、旦那だの、良く分からないことを言っていたな。そんな生き物、三十路を越えても出来てねぇよ。婚カツとか面倒臭いし、結婚しなくても良いんじゃないか?

 

しかし、このままだとエリは戸籍の無い人生を送ることになる。もう、いっそのこと私の苗字を名乗るように教えようか?

 

そうなると母子家庭というヤツになるのか?仕事が終わるまで一人で待たせることになるが、それだけは避けたいんだよな。

 

こうなれば横田もしくは相澤に父親の役目を肩代わりさせるのは、絶対に無理だな。

 

アイツ等が父親だと教育に悪そうだし、なによりアイツ等と夫婦演技とか気色悪くて吐きそうになった。

 

考えれば考えるほど頭が痛くなってくる。

 

はあ、考えても仕方無いことだ。エリが成人するまで育てるとして、それまで私は仕事を続けられると良いんだが…。

 

おはよう、エリはテレビでも見ていなさい。私は朝御飯を作ってくる。

 



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第3話

□月Π日

 

相澤、呼び出しとは良い身分だな。

 

まあいい、雄英高校に来るのも久し振りだしな。今時の女の子の好きそうなモノをリサーチさせてもらう。

 

ん?ああ、エリならばリカバリーガールに任せている。なに、他の人に預けるより安全だよ。強いて言えば佐田に預けるのだけは避けたい。

 

アイツだと教育に悪そうだしな。

 

しかし、戦闘訓練の特別講師とかエンデヴァーさんに頼めば良かったんじゃないか?えっ、エンデヴァーさんの子供が通ってるのか。

 

そりゃあ、ダメだな。あの人は顔に似合わず親馬鹿だし、子供を贔屓するつもりで喧嘩腰になる。

 

ひよこ諸君、特別講師とか面倒臭いことを引き受けることになった。なに、対人戦闘を忘れられない程度には技術を叩き込んでやる。

 

相澤、威勢の良いヤツは?

 

ふむ、バクオー君だな。えっ、バクゴー?まあ、そんなことは良いじゃないか。超手加減しよう、君は本気で掛かってくるといい。

 

□月Α日

 

昨日、バクホー君の殺傷性の高い個性には驚いた。それでも驚いただけだ。格闘センスは良い方だろうが、ヴィランを自称するチンピラ程度ならば勝てる。

 

しかし、それだけだ。

 

純粋な戦闘技術、そういうモノを持ち合わせていない。個性頼りの戦い方が目立っている。

 

爆発を利用した移動は考えているが、威力調整を行ってから使わないと暗鶚衆"天目玉鋼打ち"の餌食になるんだ。

 

ほら、腰を落とすんだ。そのまま馬歩の体勢を維持しながら筋肉を締め上げるようにイメージする。そう、爆破頼りだと氷水系統の個性には劣ってしまう。それは氷や水は繊細な操作を要求するが、君の個性は派手なだけに汎用性には乏しいんだ。

 

小さくして拡散する。それも良いだろうけど。相澤のような個性を持つヴィランと対峙した時、頼れるのは鍛えてきた肉体だけだ。

 

そろそろ身体を動かしても構わないが、個性なしの格闘訓練を行う。基本的なスキルは揃っている訳だが、私の得意としている技を伝授してやろう。

 

□月ヶ日

 

また、バクオー君が来てる。昨日も灼熱滅掌を教えたのに、他にも知りたいとは貪欲というより暴食だな。

 

まあ、数十年前のゲームから再現することに成功した豪鬼流古武術の技を叩き込んでやる。

 

その前に、エリの朝御飯を作ることを優先させてもらう。エリはバクホー君が怖いのか?女の子を怖がらせるとは許せないヤツだな。昨日より更に技の特訓を増やしてやろう。

 

なに、心配することはない。

 

人間とは諦めなければ頑張ることが出来る。そういう生き物なんだ。庭に通じているスライド式の窓を開けながら「バクオー君、君も朝御飯を食べていくか?」と尋ねる。おい、教えて貰う相手に向かって「トレーニングで吐くのに食えるか!!」とは失礼じゃないか?

 

第一、あの程度の修行は、そこまで凄くない。今日は背骨の稼働領域を拡げるトレーニングを行いつつ、新しい技を伝授してやろう。

 

死ぬことはない、それだけは保証しよう。

 



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第4話(爆豪勝己)

雄英高校付近―――。

 

住宅街とは言えないほど空き家の多い町並みに困惑しながら歩き続けていると活性女白チビが公園の真ん中に突っ立ってるのが見えた。

 

「バクホー君、遅いぞ」

 

「爆豪だっつてんだろがァ!!」

 

「それでは二つ目の技を伝授してやろう」

 

「無視かよ!?」

 

活性女と言葉を交わすだけでイライラしやがる。落ち着け、今はコイツから取れるモンを取り尽くす。取り尽くしてからブッ殺す。

 

イチイチ、コイツのアホみてえな言動に悩んで考えんのは疲れる。

 

はあ、デクみてえなオタク知識とか必要ねえってのに知識は強さを支えるパーツだとか面倒くせえことばっか言いやがる。

 

なんだ、デクとおんなじクソナードか?

 

「次の技は天魔空刃脚。飛び上がり、空を蹴って相手を蹴る。分かりやすくて簡単な技だな」

 

「アホかあァ!?個性使わねえで空なんぞ蹴れる訳ねえだろ!!俺でも分かるわ!!」

 

「いや、オールマイトだって空を蹴って跳ぶだろ?それと同じではないか」

 

「知るかァ!!第一、ナンバーワンヒーローと前まで中学生だったガキで比べんなあ!!」

 

どうやんだよ、空なんぞ蹴ったことねえぞ。ジャンプすりゃあ良いのか?

 

クソ、マジで訳分かんねえ。

 

白チビとボール遊びしてる活性女を睨むと、白チビがボールを拾い上げようとした瞬間だけ睨み返してきやがった。どんだけ視野広いんだよ。

 

「仕方無いな、手本を見せてやろう」

 

活性女は手本を見せると言いながら飛び上がり、空を蹴り潰して落ちてきた。

 

いや、今のは蹴るじゃなかった。

 

明らかに空気を踏み台にしてやがった。空気を踏む、蹴るんじゃなくて踏んでんのか?

 

イメージするのも難しいとか意味分かんねえし、どう考えても空気を踏むとか無理だろ。

 

個性使わねえで高く飛び上がることは出来るが、空気を踏み台にすんのは無理だな。

 

「バクオー君、難しいなら個性使っても良いぞ。君には早かったようだ」

 

「は?出来るに決まってんだろ、このボケえぇ!!俺様に不可能は存在しねええぇ!!」

 

無理?出来ねえ?そんなモンで止まる程度でヒーローになれる訳ねえだろうが!!

 

小難しいことを考えんな、飛び上がって空気を踏み潰す!!これだけ考えろ!!活性女に出来ることが俺様に出来ねえ訳がねえ!!

 

「飛んで空気をブッ潰す!!」

 

今の感触、足の裏に硬い壁みてえなヤツが出来た?それだけじゃねえ、さっきの場所から少しだけ身体が前に動いてやがる。

 

「エリ、努力とは才能を凌駕する。まあ、彼は才能がある上に努力している訳だが…」

 

「…さいのう…どりょく…」

 

「バクホー君、君の個性と相性は良いだろ?空気を蹴れば加速する。攻撃を放つ寸前に自分の後方を爆破すれば蹴りの威力も上がる。素敵な技だろ?」

 

癪に障るなセリフばっか吐きやがる。

 

綺麗事並べれば上に立てると思ってんじゃねえよ。

 

活性女、お前の技術を根こそぎ奪ってからブッ潰してやる。覚悟しとけ、俺はテメーを踏み台にしてオールマイトを越えるヒーローになってやる。

 



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第5話

⊃月♯日

 

エリを膝に乗せながらブランコを漕いでいるとバクホー君と一緒に熱血漢という言葉を切り出したような男の子を連れてきた。

 

おばさん、友達を連れてくるなら教えて欲しかったよ。成る程、タキシマ君だね。えっ、きりしま?名前なんてヒーローになれば覚えるから良いじゃないか。しかし、バクホー君とタキシマ君が揃うと暑苦しくなるな。

 

まあ、そんなことはどうでもいいけど。

 

たしか君の個性は硬化だったね。地味だと思っているようだが、私からすれば難攻不落の鉄壁だな。

 

ヴィランの攻撃を耐え抜き、民間人を守ることに適している。バクホー君と違うのは、機動力の無さと決め技が無いことだ。

 

バクホー君と同じようにタキシマ君も死なない程度に鍛えてあげよう。なに、臨死体験程度ならバクホー君は繰り返しているよ。

 

さあ、トレーニングしようか。

 

⊃月η日

 

昨日、二人に伝授したノッキングは好評だったらしい。なんでも異形型の個性を持っているヴィランを倒すには手加減せずに叩き潰す必要があることを危機していたとのことだ。

 

若いのに考えているな。エリ、こういう人を心配することが出来る大人になるんだぞ?私のようなヒーローを目指すことはオススメしない。最近なんて活性の個性を酷使し過ぎた。

 

なんと言えばいいのか、普通の細胞がグルメ細胞に変質してるような気がするんだ。食べれば食べるほど強さを増している、そんな感じがする。

 

ほら、食べた日は覚えないけど。私の個性"活性"を注ぎ込んだ宝石の肉(ジュエル・ミート)を食べたじゃないか。

 

そう、あのキラキラしたお肉だ。

 

アレのおかげで、グルメ細胞が進化したんだ。このままだと美食の神"アカシア"になっちゃう。まあ、美食を求めるのも良いかもしれないけど。

 

⊃月∃日

 

爆豪君、切島君、名前を覚えた相手なんて五年ほど昔のような気がする。

 

しかし、二人とも努力家だな。爆破と硬化は使用する回数を増やせば個性強化に繋がるし、このままプロまで頑張って貰えると嬉しいな。

 

ん?おお、エリは個性を使うと角が光るんだな。

 

……細胞の退化を感知したんだけど。これはエリの個性なのか?ふむ、私の活性化を強めれば打ち消せるな。

 

問題点は出力調整と発動するために必要な動作や仕草、他にはビビらないことだな。

 

ピンチだろうと怖がるだけじゃあ、助かることは出来ない。絶対、諦めないこと。

 

なにより怖くても勇気を出すこと。

 

あばよ涙、よろしく勇気ーーー。

 

これを覚えておきなさい。ピンチだろうとチャンスは転がっているモノだからね。

 

 



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第6話

κ月┰日

 

エリ、この見た目が悪くてヘタレそうな少年の名前は天喰環と言ってね。食べたモノを再現する個性を持っているんだ。環君、今日こそ昆虫類も食べれるようになろうな。

 

なに、心配することはない。

 

その生き物の戦い方は映像撮影してある。まあ、最初に食べるのは昆虫類ではなく甲殻類だけど。みんな大好きな紋華青龍蝦(モンハナシャコ)だーーー。

 

この生き物は「海中のボクサー」と呼ばれるほど卓越したパンチ力を持っているが、私がシャコを選んだ理由は「目の良さ」だ。

 

細めている目でも相手の攻撃を避けることが出来るように配慮したつもりだったんだけど。シャコを食べるのは嫌だったかな?

 

ほら、このパンチ力はエグいだろ。しっかりとエビフライにしてあるし、お腹を壊す心配はない。

 

さあ、再現できるまで頑張ろうな?

 

κ月$日

 

なぜか相澤に怒られた。いや、まあ、食べさせ過ぎたとは思っている。それでも戦闘方面には使えるモノだったんだ。少しは褒めても良いんじゃないか?

 

エリだってエビフライを美味しそうに食べていたのに、そこまで言うなら私の作ったエビフライを食べさせてやろうか?

 

なんと、大きめのお弁当箱でいいのか?

 

その「必要最低限の筋肉しか必要ありません」みたいな体型なのに大きめのお弁当箱なんて完食できるのか?

 

まあ、作る側の人間からすればお腹一杯になるまで食べてもらえるのは嬉しいことだな。

 

それでも栄養バランスを考えたものを提供しようではないか。なに、作ろうと思えば五人だろうと十人だろうと作ってやるさ。

 

むっ、相澤の分だけでいいのか?

 

κ月㎜日

 

すまないな、まさか一般人が倉庫の中に居るとは思わなかったんだ。……怪我とかしてないよな?ああ、それなら良かった。ん?「なんで崩れない」と言われても崩れるような体型ではないと自負しているが、変なところに脂肪でも付いているか?

 

そうか、君の個性の話だったのか。しかし、崩壊とは聞いたことの無い個性だな。成る程、五指接触で発動するのか。

 

よし、私と握手しよう。

 

気にすることはない。ちょっとした個性での実験を兼ねているだけだ。治癒力の活性化を使えば君の個性を打ち消せると思ってね。

 

ほら、思った通りーーー。

 

君の個性でも壊せないモノはあったよ。そんなに心配する必要はない。個性の制御を覚えたいなら私を使えば良いじゃないか。私の家の場所と事務所、二つとも住所は教えるから会いたくなったら来ると良い。

 

ん?ああ、ヒーロー名は「スピキュール」だけど。そこまで有名ではないよ?最近だと「変身し過ぎだろ」とか「この前のライオン丸っていうの最高でした」とかファンレターに書かれることが多いからね。

 

なに、君だって頑張れば認めて貰えるさ。なにより「なにかを諦める」なんてこと「諦めればいい」。善だろうと悪だろうと貫けば真実となるーーー。

 

まあ、受け売りだけどね。

 

じゃあ、トムラ君も気を付けて帰るんだよ。

 



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第7話

◯月о日

 

ん?おお、トムラ君じゃないか。

 

朝早くからどうした?ちょっとした相談なら受け付けるけど。こんな時間だからね、あんまり出歩いてるとヴィランに襲われるかもしれないよ?

 

エプロン姿が気になるの?まあ、さっきまでお弁当を作ってたからね。トムラ君も朝御飯でも食べていくか?嫌なら良いんだけど。まあ、親御さんに聴いてみるといい。

 

ほら、外は寒いからね。

 

さっさと家に入りなさいな。えっ、電話を渡されても困るんだけどな。あ、どうも、トムラ君のお父さんですかね?

 

えと、オルフワさん?トムラ君に朝御飯を食べさせたいんですけど。あ、はい、それでは失礼しますね。

 

トムラ君、アレルギーとか無いよね?

 

そう、それじゃあ、汚れた手は洗おうな。うん、食べる前には手を洗うのは当たり前だからな。エリも起きたら顔と手を洗おうな?

 

ありゃあ、まだ眠いのか?

 

◯月η日

 

え~っと、相澤消太の受け持つクラスはヒーロー科1年1組なのか。毎日、お弁当を受け取りに来てた癖に「持ってきてくれ」とは良い御身分だな。仕事だったらヴィランと一緒にボコり倒してるぞ。

 

ん?リカバリー先生、ずいぶんと肌の艶が戻りましたね。あ、私の出演してるというより作ってる活性化サプリを購入してくれたんですか。

 

それは、それは、御購入ありがとうございます。今後とも使ってくださいね。他のモノより個性は薄めてますので、一歳ほど細胞が活性して若返る感じですね。……個人的には何歳ほど若返った感じですか?

 

えっ、四十歳ほど若返った感じなんですか。うへぇあ、若返りすぎると疲れるかもしれませんよ?

 

エリ、あと少しだからヒーロー科まで頑張って歩こうな?もしも歩くのが辛かったら言うんだぞ?肩車でもおんぶでも抱っこでも何でもしてやろう。

 

◯月├日

 

爆豪君、相変わらずのキレやすさだったな。

 

切島君は切島君で暑苦しさに拍車が掛かっていたし、このままだと暑苦しくてキレやすいヒーローになってしまうのでは?

 

しかし、私は相澤の嫁ではない。

 

ましてや妻でもない。エリは子供ではないけど、実の子供と偽りたいほど溺愛している。

 

何度も言っているが、イレイザーヘッドとは夫婦関係ではない。エリとは一緒に料理したりしている。料理したりしているが、洗濯物を一生懸命に畳もうとしているエリが世界で一番と断言できるほど可愛いんだ。

 

ん?ほお、タコさんウィンナーを残すとは良い度胸じゃないか。折角、エリがお弁当に入れたいと提案してくれたタコさんウィンナーだったのに…。

 

次こそタコさんウィンナーを食わせてやる。

 



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第8話(死柄木弔)

先生以外のヤツと長い時間、触ったり触られたりするのは初めてだった。

 

たしかスピキュールだったか?ヘンテコなライオンの被り物を被ってたし、顔出しNGとか言うヤツなんだろう。

 

「なあ、黒霧……」

 

「なんですか?死柄木」

 

「タコさんウィンナーって美味いんだな」

 

「は?」

 

スピキュール、アイツは東京都西区を拠点としている活性ヒーロー。あれは個人的な趣味なのか、コスプレしてヴィランと戦うことが多い。

 

この前はウサミミ仮面とか言うピンク色のウサギのような衣装を纏っていた、という目撃情報がネット上にあがっている。

 

最近では子供を連れて歩いている光景が目撃されており、一児の母として世間に驚かれている。

 

あの白いチビ、アイツの子供だったのか。

 

「…少し…出掛けてくる…」

 

「えっ、ああ、はい、気を付けて?」

 

アイツは先生以外で俺が触っても壊れなかった。子供まで連れて、クソみたいな慈善事業するヒーローなんて止めれば良いんだ。

 

ああ、楽しいゲーム感覚だったのに…ヒーロー社会を壊す目的が増えた。

 

スピキュール、ヒーローなんて止めればいい。

 

ヒーローなんて弱者を無視するような嘘被り(ヴィラン)だ。偽善を振りかざすだけ、そのあと、壊れた街や死んだ人間なんて忘れていくんだろ?

 

「ん?おお、トムラ君じゃないか」

 

「…ども…」

 

「ふっふっふっ、今回は自信作のだし巻き玉子だ。今日こそ美味いと言わせてやるから覚悟することだな!」

 

「…まあ…期待してる……」

 

気付けばスピキュールの家で過ごすことが増えてきた。白いチビは壊さないように触ってる。まあ、壊すために必要な五指を押し付けてないからな。

 

先生はヒーローと会っていることは知ってるのに、止めようとしないのは何故なんだ?もしかして、スピキュールを利用しようと考えているのか?

 

「さあ、食べてみよ」

 

「…ん…今日も薄味で…不味い…」

 

「やはり、醤油の量を増やすべきだったか…」

 

「なあ、エリは寝てるのか?」

 

自分から白いチビのことを聞くのは初めてだな。そんなことを考えていると「ああ、エリは庭にある花に水をあげてるよ」と答えてくれた。庭の花、この前は花壇なんて無かったような…。

 

この時期にゴーヤなんて育つのか?ボーッと庭の半分を侵食しているゴーヤの壁を見ていると視界の端に白いチビが映り込んできた。

 

「と、とむら、くん、その、これ、あげます!」

 

他のゴーヤより迫力のあるヤツを突き出してきた。まさか、これを食べろってのか?

 

「…はあ……帰ったら食うよ…」

 

「う、うん、ぜったいだよ?」

 

「……おお…約束だ……」

 

おれ、なんで子守りなんてやってんだ?

 

 



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第9話

┳月ζ日

 

数ヵ月前、パワーローダーに頼んでいたアイテムが届いた。むふふっ、ナノマシンを利用した瞬時装甲展開装置だ。

 

原理はアイテムの中で仮死状態になっているナノマシンを活性の個性で復活させ、0.05秒という驚異の速度で変身を可能とする。

 

今までコスプレみたいなモノしか使っていなかったけど。これなら本物と大差無いモノになれるな。

 

よし、ヴィランを見付けたら試してやろう。その前にエリを起こさないとイケないけど。開封しておこうかな。

 

……あいつ、自分の趣味を押し付けやがったな。

 

なんでゲーマドライバーなんだよ。私が頼んだのはコンバットスーツを収納したブレスレットなんだけど。まあ、仮面ライダーも好きだから良いんだけどさ。

 

しかし、ハイパームテキマキシマムマイティXだけなのは可笑しいよね?なに?ムテキゲーマーだけしか変身できないの?

 

┳月⊥日

 

成る程、変質者に襲われていたのか。あ、名前だけ教えてもらえる?トガヒミコちゃんね。最近だとヴィランや変質者が活発化してきてるんだよ。

 

おばさん、ヒーローやってるけど。正直に言えばコスプレしてる姿を見せたいだけなんだよね。ああ、変な性癖は持ってないぞ?可愛いものを見てほしいと思うだろ?そういうことだな。

 

ふむ、彼氏の血液採取……ステキダネ…。好きな人の匂いを覚えておきたいんだね。うん、まあ、暴力沙汰にはならないでくれよ?

 

それじゃあ、またね。

 

あの子、やべえな。血液採取とか病院でしか聞いたこと無いんだけど。えっ、最近のカップルは血液採取とか当たり前なの?すんごい嫌なんだけど。

 

すんごい怖いんだけど。ヒーローなんだけどさ、そういう趣味の方とは話したくないんですよ。

 

いや、怖くねえよ?

 

┳月ρ日

 

パワーローダーのヤツ、私の趣味を無視してやがるな?この前から送られてくるのが悪役の変身アイテムしか無いんだけど。まあ、悪役は悪役でカッコいいから嫌いにはなれないんだけどね。

 

ふつうに考えればエボルドライバーとか使わないからな?第一、私の個性はそこまで化け物みたいな能力じゃないからな。

 

ん?おお、環君じゃないか。下校中みたいだね。そんなに身構える必要はないんだよ?ほらほら、新しい食材を買ったんだ。

 

ちょっと、ほんの少しだけ、食べてくれないか?

 

今回は紋華青龍蝦(モンハナシャコ)じゃなくて錦鉄砲蝦(ニシキテッポウエビ)だからさ。心配することはない。

 

さあ、事務所へ来ると良いよ。

 

むっ、逃げようとするなんてヒーローらしくないぞ?それとも甲殻類が嫌いになったのか?

 

それより大人しく事務所へ付いてくる方が安全だと思うんだが、プロ相手に鬼ごっこしたいのか?

 

聞いてないな。環君、今回の料理は完食できるほどしか作っていない。そこまで怯える必要はない。

 



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第10話

Р月Х日

 

最近、ヘンテコな奴等と出会うことが増えてきた。ヴィランと言えば良いのか。三度目の襲撃を受けた時、集団戦闘の経験を有していることが理解った。

 

一人が裏路地に逃げ込んだ時は退路を断つようにコンクリートの壁が作り出された。セメントさんみたいな能力だと想定しつつ、ボコり倒しておいた。

 

一応、犯罪履歴を調べたけど。それらしい罪を犯していないため、反省するまでボコってから帰宅させた。これだけ続けるように襲ってくるのは理由があるはずだ。

 

身に覚えはないな。いや、まあ、世間的に見ればヴィランをボコり倒してるヒーローだからな。恨みを買っていても仕方無いのか?

 

そうなるとイレイザーヘッドはネチネチした嫌がらせを受けてそうだな。このままだとエリを怪我させてしまうかもしれないな。

 

はあ、めんどくせえ…。

 

Р月₩日

 

道を塞いでいたヤツを捕まえた。なんでもシエハッサイカイとかいうヤクザらしい。いや、私はヤクザと喧嘩するような出来事は起こしてないんだが…。

 

まあ、そんなことは後回しだ。私を付け回す理由をはかないとテメーを女子校の校門前に放置する。

 

なに、心配することはない。個性を発動させることが出来ないほど痛め付け、すべての衣類を剥ぎ取るだけだ。

 

そうすればマゾヒストな露出魔の出来上がりだ。

 

なんと逃げようとするなんてヤクザとは思えないな。お前と同じヤクザである花山薫は立ち向かってくるぞ。

 

心配することはない。今日から変態として汚名を被るだけだ。侠客の端くれなら向かってくれば良いんじゃないか?私のような女相手に逃げる必要はないんだよ?

 

Р月∪日

 

ん?おお、親玉の登場って訳だな。送り込んできた奴等は雑魚って言わないけど。強いて言えば寄越すとすれば個性を無効化する個性持ちの人間を寄越せば良いと思うけど。

 

まあ、そんなことは問題ないじゃないんだ。私を狙う理由を聞かせてもらおうか?

 

成る程、エリを迎えに来たと…。

 

そうか、テメーをボコる理由が増えた。

 

テメーがエリの実の親だろうと子供を虐待するようなヤツは死ぬまでボコる……と言いたいんだけど。エリに「実の親のところに帰りたい」とか聞かないとな。親玉さん以外は付いてくんなよ?

 

親玉さん、子供を探すために部下を使うのは良いけど。闇討ちとか卑怯な真似はやめた方がいいな。次からは本気の拳骨を叩き込んで警察に押し付けるからな?それだけは覚えとけよ?

 

一応、言わせてもらうけど。エリが嫌がればボコり倒して送り返すからな?

 

おい、後ろから首を掴もうとするな。

 



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第11話

♡月㊤日

 

エリの父親である治崎廻さんは死穢八斎會という激減している侠客の威厳を取り戻すため、頑張っているらしい。

 

エリは母親が蒸発する時、金目当てに連れ出してしまったことを聞かされた。

 

母親を見付けた時には「あんなの破棄てた」と自慢するように話してきたこと。そのため、エリは父親である治崎さんも警戒しているとのことだ。……なんと言えば良いのか、エリには親の愛情的なモノは必要だと思う。

 

治崎さんは母親のことを恨んでいるような口調で話しているが、エリを見る目は大切な娘を見守る親の目だということが他人である私でも理解った。

 

エリを治崎さんに元へ帰そうかと考えたけど。治崎さんは「エリの精神的ケアを行えるのはアンタだけだ。今後ともエリを頼む」と言ってくれた。

 

その提案はヒーローとしてじゃない。

 

ひとりの女として引き受ける。

 

まあ、エリの父親として会いに来ることを条件として申し立てるけどね。

 

♡月㊥日

 

治崎さんは人に触るだけで蕁麻疹を起こすらしい。

 

そのため、完全コーティングを行った食品用ゴム手袋を嵌めながら食事を作っている。

 

まだ、エリは治崎さんのことを警戒しているようだけど。少しずつ距離を縮めていけば良いだけのことだ。

 

相澤と前田のお弁当箱を渡すために訪問してきた時は部屋の温度が下がったような気がしたが、気のせいだったらしい。

 

しかし、なんで相澤達は怒っていたんだ?

 

あとは爆豪君や切島君は元気そうだったな。それに、もう少しすれば「USJ」を利用する。手頃な料理でも持っていってやるべきだろうか?

 

ん?ああ、治崎さんはエリと遊んでいて下さい。料理の方殺菌や滅菌しているので問題ないですよ。

 

最近、なにやら主婦のようなことを行っているような気がしてきたんだが…。後輩のミッドナイトは主婦力の高さに引いていたな。

 

せめて、女子力と言ってほしいな。

 

♡月㊦日

 

エリ達と遊園地に行ってきた。

 

最近のジェットコースターは速度が凄まじいな。あと少しでエリの被っていた帽子が吹き飛ばされるところだった。

 

まあ、それよりジェットコースターで治崎さんがダウンするとは思わなかった。他人の座っていたモノや触れていたモノに包まれた所為だな。

 

あまり公然の場では使いたくないんだが、活性の個性を利用した免疫力の活性化を行わせて貰いました。

 

たぶん、数日ほど他人の触ったモノに触れても蕁麻疹を出すことは無いと思いますよ?

 

ん?ああ、免疫力は子供の頃から成長させる方が良いんですけど。私の個性を使うと必要以上に免疫力が付いてしまう時があるんですよ。

 

まあ、人助けは慈善事業ですからね。称賛や喝采なんて欲しくないです。私がヒーローを止めない理由ですか?

 

たぶん、私は錬鉄の英雄(エミヤシロウ)の生き方や在り方に憧れたんだと思います。

 

こういうの、なんて言えば良いんですかね、決して叶うことのない恋に焦がれたからですかね。

 

彼は理想を抱いて、救えると願っていたんです。

 

それでも彼は救える命のために救えない命を切り捨てるしかなかった。多数派を助けるため、少数派を切り捨てる。

 

偽善と蔑まれようと理想を成すためにーーー。

 

 



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第12話(緑谷出久)

ヒーロー名「スピキュール」ーーー。

数多の武術を独学にて習得しており、細胞の活性化を中心とした肉体強化を行いつつ、ヴィランを捕獲することを優先している女性ヒーローである。

 

個性の発現する前、旧世代の漫画やアニメ蒐集を趣味としている。最近だと子供と歩いている姿が目撃されており、世間には知らされていない人妻だと噂されている。

 

「デク君、なにしとんの?」

 

「あ、いや、スピキュールさんのことを調べてるんだけど。本名不明、年齢不明、趣味以外は分からないんだ…」

 

「なんかストーカーみたいやね!」

 

「ストーカー!?ま、まあ、調べてる訳であってですね。スピキュールの動きを真似すれば強くなれるかな?なんて考えていたり……」

 

それに、かっちゃんと切島君の急激な成長にはスピキュールが関係している筈なんだ。

 

十数年間、かっちゃんの動きを観察してきた。爆破の個性を使用しない対人戦闘を自分から仕掛けてくるなんて有り得ない。優位性を捨てるような行為、今までのかっちゃんとは違うんだ。

 

そんなことを考えていると「緑谷君、ぼ…俺も良いだろうか?」と言いながら飯田君が話し掛けてきた。

 

なんだろ?いつもと違うよな。

 

「どうしたの?」

 

「兄さんの使っている技についてなんだが、どうやらスピキュールさんが関わっているようなんだ」

 

また!?スピキュールの友好範囲の広さに驚きしかないんだけど。いや、あの活性の個性は救命活動でも役に立つ汎用性の高さだった。

 

交通機関の鉄壁の法則者"インゲニウム"と接点があるとは思えないけど。……わざ?飯田君は技って言ったのか?

 

「ひょっとして(スピア)タックルのこと?」

 

「僕も兄さんに習おうとしたんだが『俺の使ってる未完成のスピアを覚えるより完全版のトライデントを覚えてこい』と言われた。兄さんがサイドキック時代だった頃の資料を漁ったんだ」

 

「そして、スピキュールに辿り着いた……」

 

う~ん、う~ん、ヴィランの動きを右手一本で封殺するスピアタックルの上位互換と捉えるべきなのかな?それでもトライデントっていうのは、どんな技なんだろう。

 

「切島君、スピキュールさんの使ってる技…どんな感じなのか教えてもらえるかな?」

 

「おお、そのぐらいお安いご用だぜ!!俺は硬化の個性と相性の良いギャラクティカマグナムって技を教わって、爆豪のヤツは「切島あぁぁ!!」……言っちゃダメみてえだな」

 

「あはは、そのギャラクティカって技を詳しく教えてもらえるかな?飯田君の聞いたトライデントに関することが分かるかもしれないんだ」

 

「よく分かんねえけど。マグナムは右の必殺技だな。完成すれば相手をブッ飛ばすほどスゲー技なんだとさ。この技を使ってたヤツは天才の中の天才だったらしいけど。俺はバカだし、使いこなせるまで努力あるのみだ!!」

 

天才の中の天才、そんな人の技を学生相手に教えるほど数多の技を有している。もしかすればワン・フォー・オールを使いこなすために必要な要素が含まれているかもしれない。

 

「(うち、話からはずれてるなあ……)」

 



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第13話

Ψ月А日

 

私から逃げようとした環君を捕まえた。逃げる理由を尋ねると「女性と二人っきりで歩くのは恥ずかしい」とのことだった。いや、おばさん相手に気負う必要は無いと思うんだけど。

 

まあ、環君のシャイなところは大人になるまでに修正してあげよう。

 

しかし、通形君と会うのは久し振りだな。相変わらず表情筋が錆び付いているし、笑顔は大事だと思うよ?それでも一人で笑い続けるのは疲れる。

 

ん?ああ、波動ちゃんも久し振りだね。それより私の教えた魔貫光殺砲は習得したのかね?波動ちゃんの個性と相性は最高だと思うんだけど。おお、使えるようになったんだね。

 

それは良かった。通形君からは腕のみ実体化させた状態で放つ無呼吸連打を覚えたと連絡を貰っているからね。

 

おばさん、将来有望そうな子供には新しい技を教えてあげよう。ははっ、環君と通形君は女の子を置いて逃げようとするなんて男らしくないぞ。波動ちゃん、飛ばずに降りてきなさい。

 

Ψ月≧日

 

いやあ、三人とも頑張ってたね。環君は個性強化のために共食いみたいな行為を強要してしまった。

 

通形君は無敵に近い透過を使っている瞬間に同時攻撃ばかり叩き込んだ。

 

あと、波動ちゃんには念動螺旋を教えた。

 

うん、まあ、疲労困憊としか表現できないけど。三人とも強くなってるから大丈夫だね。次こそ波動ちゃんにかめはめ波を撃てるようになってもらおう。

 

通形君は透過する瞬間に変化を加え、投擲系統の個性を弾き返せるようになってきた。

 

このまま行けば三人ともプロより強くなるな。

 

エンデヴァーさんは、なんとなく後継者を選ぶのは無理そうだな。あの人は好き嫌いが激しそうな感じだったからね。

 

爆豪君や切島君の修行を見ようかと思ったけど。そろそろ救命活動を行うために「USJ」に向かう時期だった。

 

私の学生時代は活性の個性を利用して、怪我人の治癒能力を引き上げる。

 

骨折や打撲が完治したら自力で帰らせる。

 

あんまり変わらないな。

 

Ψ月ゐ日

 

パワーローダー、私の趣味だけど。完全再現する必要はなかったんじゃないか?

 

まずは見ろよ、この活性の個性を発動させたレザーブレードの剣身の威圧感をーーー。

 

私の知ってるレザーブレードは穏やかなライトブルーだったんだぞ?お前は人間を焼き斬るようなアイテムをヒーローに与えるのか?

 

えっ、これにもナノマシン搭載してる?ヴィランを斬っても気絶するだけとか言ってるけど。この前なんて装甲に挟まれる瞬間、公然の場で私は圧死するかと思ったんだぞ?

 

いや、設計ミスとか言ってる訳じゃない。まともなアイテムを渡してくれって言ってるんだ。それより頼んでいたモノは出来てるのか?

 

おお、相変わらず再現度は高いよな。このネオタイフーン、オールマイトに巻き付けようか?あの人の筋肉なら使いこなせるはずだ。ん?おお、ネオサイクロンまで作っていたのか。

 

やはり、原点にして頂点と謡われる男の使っていたモノは最強の男に使ってほしい。パワーローダー、学生の頃から分かっていたが、お前とは妙に気が合うな。

 



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第14話

∽月Э日

 

エリのためにパワーローダーに作らせた護衛用空繰提灯"ダイゴヨウ"はエリと一緒に買い物へ出掛けていくが、帰ってくる度にヘンテコな生き物を連れて帰ってくる。

 

この前なんてゴリラみたいなパンダを連れて帰ってきた。あの時は全細胞を活性化させ、範馬勇次郎並みに進化していたと思うんだけど。まあ、ゴリパンは雄英高校にて飼育して貰えることになった。

 

ゴリパン、これはエリの命名である。

 

これは意外にもハイカラなネーミングセンスだと思っているんだが、相澤や爆豪君達には不評らしい。もう少しだけ可愛らしい名前の方が若者には好ましいのだろうか?

 

そう言えばマスカーブレイドを作っておいた筈なんだが、部屋にも事務所にも見当たらないんだよな。

 

アレはコスプレとしてマッドギャランを真似るために最新型の機材を詰め込んだモノだからな。ヴィランに使われると厄介なことになる。

 

∽月Å日

 

トムラ君、ヴィランだったのか……。

 

ヒーローとして捕まえないとダメなんだけど。家や事務所に居る時に見せてくれた楽しそうな笑顔は嘘だったのか?

 

そっか、それは嘘じゃないんだ。

 

まあ、悪でも善でも構わない。トムラ君の進もうとする道を妨げるつもりはないよ。ただ、進んでいる道を潰そうとする悪役はいる。それだけは忘れないようにね?

 

あと、マスカーブレイドを持ち出したことは許さないからな?ソレを使うときには注意すること、それだけは覚えておくように…。はあ、私ってヒーローライセンス剥奪されんのかな?

 

う~ん、剥奪されるのは避けたいんだよね。

 

いや、まあ、ヴィランと世間話や家族ぐるみで遊んだりしてたけど。犯罪として扱われるのかな?

 

あと、時々で良いからご飯は食べに来なさい。

 

∽月Χ日

 

免停じゃなくて良かったけど。パワーローダーと一緒に作ってたアイテム没収されるとは思わなかった。ウチのリビング、こんなに広かったのか。

 

まあ、エリの荷物やダイゴヨウは通りやすそうだからね。アイテムは事務所の倉庫に押し込んでおけば問題ないかな。それよりマスカーブレイドに搭載された瞬時学習機能を上回るアイテムを模索しないとトムラ君に負ける。

 

う~ん、今の現状ではパワーローダーのヤツを頼るのは難しいんだよな。流石にパワーローダーまで巻き込むのは筋違いだし、治崎さんを頼るのはダメだよな。

 

そう言えばマッドギャラン対策として初代仕様のコンバットスーツを作ってたはず、押し入れの何処かの段ボールに仕舞っちゃったんだよね。

 

え~っと、これかな?

 

これじゃないな、ファイヤーバードフォームサンレッドのヤツだ。そうなると左の段ボールに仕舞ったのか。おお、コレだな。ちょっとカビ臭いけど。修復すれば使えるようになりそうだな。

 

レーザーブレード・オリジン、若い頃に使ってたな。ヴィランを殴ろうとしたオールマイトに間違って折られたけど。

 



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第15話

И月Д日

 

ん?おお、雄英高校の制服だな。

 

少年、黄昏るには時間が余ってるんじゃないか?私と話そう、嫌なら無視してくれて構わない。ん?ヒーローとしての定義を聞きたいのか?

 

そうだな。私を含めた、すべてのヒーローエゴイストだな。私利私欲のために戦う者、他者のために動こうとする者、鬱憤を晴らすために暴れる者、誰だろうと何だろうと己の道を進もうと必死なんだよ。

 

そう言えば時期的に体育祭だな。

 

優勝できるように頑張りなよ?私はパトロールに戻るとしよう。ん?なんだが身体が重くなったような、君の個性なのか?

 

成る程、君の個性は洗脳というのか。人質回収やヴィラン拘束には役立ちそうだな。

 

なんだ、いきなり「ヴィラン向き」とか言わないのかだと?個性なんて使い方次第でヒーローにもヴィランにもなれるだろ?

 

そんなモノで悩む必要は無いだろう。

 

И月→日

 

なぜか心操人使君を鍛えることになった。まあ、暇を潰すには良いかな。

 

心操君、先ずは「洗脳」の定義を改めよう。目を閉じてイメージしてみよう、音の振動で相手の脳みそを揺さぶる。

 

君が声を発せば大気中の水素を支配する、それに地面に叩き落とすイメージを加えるんだ。難しいと思うなら高速の勢いで流れ落ちる滝だと思えばいい。

 

決め台詞は「ひれ伏せ」もしくは「跪け」かな?

 

いきなり、試すんじゃないよ。もう少しで潰されそうになったじゃないか。はあ、そのまま一人称を「偉大なる俺」もしくは「普通なる俺」にでもしようか。

 

ん?それは恥ずかしいのか。それじゃあ、両の手を頭に掴むように押し付ける。

 

そう、そんな感じだね。自分の身体をゲームキャラクターを操作するようにイメージ、脳の安全装置を破壊するんだ。

 

これは、なんとも良い感じに仕上がりそうだ。

 

И月ヱ日

 

え~っと、インゲニウムの弟さんかな?

 

おお、お兄さんより厳しそうだね。えっ、トライデントを教えてほしいの?アレを覚えるのは良いんだけどさ、お兄さんと同じでチェンジ・オブ・ペースは使えるんだよね?

 

ふむ、君にはチェンジ・オブ・ペースから教えないとダメなのか。まあ、うん、走り方に変化をつけることだね。一直線じゃなく回転を加えたり跳躍を加えたりするんだよ。

 

ちょっと失礼するよ。ふむ、インゲニウムの使ってるロデオ・ドライブよりデビルバット・ゴーストの方が君にはあってるね。

 

それじゃあ、分かりやすく教えよう。ロデオ・ドライブは上半身の、腕の振り方で緩急をつける。

 

対して、デビルバット・ゴーストは足の振り方で緩急をつける。更に加えるように回転を加えれば倒壊する建物内部での救命活動や人命救助を行える。

 

それに、トライデントはデビルバット・ゴーストを会得した先にある。難しいと思うならラグビーやアメフトの映像を参考にすれば良い。インゲニウムは映像ビデオを持ってるはずだからな。

 

それじゃあ、ヒーロー目指して頑張るんだよ。

 



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第16話(爆豪勝己)

「お、爆豪もコスチューム変えたのか?」

 

活性女に指摘された装備を作り直し、完璧な状態へ戻しただけだ。まあ、アイツの言ってたモンを加えてあるがヒーローとして高みを目指すためだ。

 

「その薬莢の中身…ひょっとして砂か?」

 

「は?俺の汗と着色火薬と混ぜ合わせてんだよ!火薬でもねえ砂なんぞ使えるかボケッ!!」

 

「お、おう、そうなのか」

 

活性女の寄越したホルスターへ上下二連色散弾銃を差し込みながら左手を覆うように軽量化した手榴弾型の籠手を取り外す。

 

もう少しだけコイツも軽量化させるか、メンドクセェことばっかり押し付けやがって…。あのクソババア、ヒーローとして追い抜いてやるから覚悟しとけよ。テッペン取ったら解雇してやる。ヒーロー業界から立ち退きたくなるほど解雇しまくってやる!!

 

「爆豪、顔こえぇぞ?どした?」

 

「黙れカス」

 

「いきなりカス呼びかよ!?」

 

ムカつくほど多くなってきたモブ共を睨みつつ、切島の背後を取ろうとしたカスを手加減した火力で爆破する。……手加減しねえと直ぐ死ぬらしいが。

 

マジでムカつくな。

 

「テメー等に相応しいソイルは決まったァ!!」

 

右の腕を覆っている手榴弾型の籠手を変形させ、ゴツゴツとした逆三角形の銃身を持つ大砲を突き付ける。

 

"全ての源"マザーブラックッ!!

 

"全てを灼き尽くす"ファイヤーレッドッ!!

 

一つ、二つ、クソババアの言っていた銃弾の名前を叫びながら装填する。切島は放つまで時間が必要なことを知っているため、モブ共の意識を惹こうと態とらしい動き方と小馬鹿にしたようなセリフを吐いている。

 

「そして、コイツで最後だァ……」

 

正直に言えばクソ似合わねえセリフばっかだな。

 

"全てなる臨界点"バーニングゴールドッ!!

 

俺は自分の右の腕を押さえ付けるように左手で銃身を握り締め、銃身の中に内蔵されているトリガーを握り潰す。

 

「燃え尽きろ、フェニックスッ!!」

 

爆音、轟音、例えようと思えば幾らでも例えることが出来るほどデケェ音で耳が潰れそうになったがアイツの言ってたモンは出てきたな。

 

「マジかよ、爆豪の個性とベストマッチしてんな」

 

「ハッ、当然だろうが…」

 

倒壊した建物を焼き焦がしていき、水害区画と中央区画まで焼き野原にしてやった。あァ~ッ、溜まってた鬱憤が晴れんのは気持ちいいな。

 

まあ、クソババアが言ってた「爆豪君と切島君の二人合わせて爆拳(ナックル・ボム)なんて、どうよ?」とかいうコンビを考えてやらんことも吝かではない。

 

「爆豪の個性ってスンゲェ火力だな!!俺が地面砕いてなかったらヴィランも死んでたぞ!?」

 

「知るかボケ、テメーはテメーで勝手に助かれば良いだろうが」

 

チッ、クソババアの奴まで来てんのか?いつもみてぇに真新しい技でも使うのか?ソレも吸収してやるから見せろ。

 

「スピキュール、光ってんな」

 

「おう」

 

「黄金の最強ゲーマーとか聴こえてくんな」

 

「おう」

 

「俺の耳が可笑しいのか、物理攻撃無効化とか無敵時間は無制限とか聴こえてくんな」

 

「そうだな」

 

今は勝てる気がしねえが絶対に追い抜いてやる、そうしねえと俺はオールマイトを越えることすら出来ねえじゃねえか!!

 



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第17話

Д月≒日

 

おお、放送室とは広いんだな。此処ならエリを抱っこしながら観戦するには最高の場所だよ、これは矢田には感謝だな。えっ、山田?次こそ覚えるから安心していいぞ。

 

ふむ、個人的な優勝候補者を言えば良いのか。そうだな、基礎的なトレーニングで爆豪君と切島君を鍛えた。少々、特殊な個性を持っている心操君も鍛えてきた。

 

インゲニウムの弟さんを鍛えたが、あの家系は真面目な子供が多いんだな。私が指摘した箇所を次の日には正してくる。もう、インゲニウムの弟さんは雄英高校内では最速なんじゃないか?

 

ん?おお、心操君は立派な威圧感を放てるようになっているな。遠目でも分かるほどガリガリだった身体は筋肉質へ変わっているが、彼と対峙した時は覚悟した方がいいな。

 

まあ、中途半端なプロでは彼の測量不能な威圧感に堪えられるとは思えないけどな。

 

ふむ、優勝者には素敵な景品を贈呈しよう。

 

Д月〇日

 

私達の繰り広げた体育祭より地味だった。

 

しかし、あらゆる技術を注ぎ込んだ殺戮と化した体育祭が懐かしい。あの頃のサポート科なんて爆弾やミサイルを平気な顔して投下してきたし、今の世代は優しさで溢れているな。

 

まあ、私の選び抜いた景品を贈呈する瞬間を邪魔したことは許さないけどな。

 

パワーローダーの作り上げた完璧な仕上がり状態だったジクウドライバーザモナスライドウォッチを返却するとはバカなんじゃないか?

 

これは、こっそりと興味を示していた常闇君とやらにプレゼントした。ふっふっふっ、素敵な変身ポーズを考案してくれることを願っているよ。

 

しかし、爆豪君ってば嫌そうな表情を浮かべてたのに「カッケェー奴寄越せよ!?」とか言ってたからね。エリや治崎さんと一緒に選んだよ、爆豪君の個性を阻害しないヤツをね。

 

そう、私の使っている旧型コンバットスーツより高性能な新型コンバットスーツを内蔵したリストバンドを贈呈しようじゃないか。

 

Д月<日

 

なあ、ちょっとだけで良いんだ。

 

このスカイタイフーンホークに使ってほしいんだよ。

 

ほら、ホークは飛行能力を持ってるだろう。

 

それでも肉弾戦をこなすには優れた防具が必要だと思うんだ。決して、滑空してくる姿を見たいとか邪な考えは抱いていない。

 

それはオールマイトに誓おうじゃないか。

 

いや、ちょっと、逃げようとするな。

 

エリや治崎さんを巻き込んでまで選んだのに、使ってくれても良いじゃないか。変身ポーズを考えるのだって時間を使うんだからな?しかし、この程度でホークを逃がすつもりは無い。事務所の場所は知っているし、宅配便やファンレターに混ぜれば使わせることだって出来るはずだ。

 

まあ、捨てられると思うけど。

 



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第18話

√月≡日

 

エリ、今日の夕飯はレバニラにしよう。えっ、レバニラは嫌なのか?ビールとベストマッチなんだけどな。それじゃあ、ハンバーグにしよう。今日はパン粉で作ろうか?

 

爆豪君と山谷君じゃないか。二人で買い物とは仲良くていいね。えっ、山谷じゃない?分かった、覚えておこう。きみは緑谷君だね。この子は、人見知りするタイミングがズレてない?

 

うん、またね。エリは頑張って人見知りを治そうな。まあ、ヒーローって職業の人間は強面が多いからね。ビビるのは正しい反応だと思うよ。あ、挽き肉半額になってる。予算的に余るな、お菓子を見に行こうか?

 

お、おお、新しいお菓子で棚が埋め尽くされてるな。私の学生時代には無かったお菓子ばかりだ。この「グランド・チップス」は相変わらずの売れ行きのようだな。

 

ん?これはハイパームテキに変身しようとしている私のカードじゃないか。ふむ、もう少しだけ腕は上だったような気がするな。エリ、そのカードを見るのは止めないか?

 

えっ、それが欲しいのか?

 

おばさんのカードなんているのか?まあ、そんなもので喜んで貰えるなら嬉しいけど。

 

√月Д日

 

早朝、花山君が家まで来ていた。彼の話では、つい最近になって個性が目覚めたらしい。遅咲きとはいえど限度というモノがあるだろう。まあ、嬉しそうな子供を見るのは楽しいからな。

 

私を訪ねてきた理由を聞けば「かっちゃんみたいにアドバイスを頂ければと」なんて申し訳なさそうに言ってくれた。

 

ふむ、アドバイスと言われてもな。

 

私は自滅を伴う爆発的な破壊力を持つ個性なんて見たことない。そう言えば個性を発動する時、どのように考えているんだ?

 

成る程、卵を割らないイメージなのか。

 

それでは、身体を構築するモノを補強するイメージに切り換えよう。あの体育祭の戦い方から察するに指先だけに個性を集中させていたな?そうではなく全身を守るように覆ってみるのはどうだ?

 

そう、そのまま続けていけば自滅せずに使うことは出来るはずだ。覚えやすいようにセリフや仕草を付け加えるのも良いだろう。

 

目指せ、正義の味方だな。

 

√月⊃日

 

ん?おお、ヒーロー殺しを単身で捕まえる成長したんだな。インゲニウムの弟さんは鼻が高いだろうな。それにしてもインゲニウムを狙うとはヒーロー殺しもバカな奴だな。

 

インゲニウムは狭い路地だと無類の強さを誇ることはヒーロー界隈では有名なはずだ。

 

まあ、インゲニウムのスピアは鍛えていようと内臓を叩き潰すからな。私としては戦っている時のインゲニウムより、安全運転を心掛けるように注意してくるインゲニウムの方が怖いけど。

 

しかし、満身創痍な姿で搬送されるヒーロー殺しは哀れとしか思えん。

 

まあ、自業自得というやつだな。

 

さて、そろそろエリを寝かさないとな。エリ、インゲニウムは怖いヤツじゃない。この前だってインゲニウムの弟さんに会っただろ?

 

彼は怖くなかっただろう、あの家系は真面目なヤツしか生まれないんだ。

 

ほら、布団に行こうな。

 



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第19話

ヴ月ゎ日

 

新人諸君……といっても二人だけど。

 

チャージズマファントムシーフ、いきなり実地体験させるのは危ないからね。しっかりとした対応を教えていこうと思ってるんだけど。

 

とりあえず、私と一緒にトレーニングルームで個性を引き伸ばす方法を考えようか。二人の個性は体育祭で見たからね、いろいろと考えておいたよ。

 

まずはファントムシーフ、君の個性である「コピー」は触らないと発動しないと聞いている。武器化個性、炎熱個性、氷水個性、雷電個性、樹木個性、拘束個性、粘着個性、他にもあるけど。

 

これはすべて人の薄皮を紙として加工したモノだよ、窮地を脱するためには奥の手というヤツが必要になるからね。これこそファントムシーフ専用装備盗賊の極意(スキルハンター)だ。

 

チャージズマにも用意しているから羨ましそうな表情を浮かべる必要ないぞ。なに、君に渡すモノは君の個性「帯電」とはベストマッチしている。

 

ヴ月ヱ日

 

チャージズマ専用装備雷狼竜の鎧装(アーマー・オブ・ジンオウガ)だ。この仮面に雷を流し込むと全身を覆うように甲冑を造り出す。

 

まあ、これもナノマシン技術の応用なんだけどね?ちなみに個人的な趣味である「ジンオウガXシリーズ」なんだけど。

 

ん?ああ、ファントムシーフと比べると大きな荷物になっちゃうよね。二人の個性を引き伸ばすには必要なモノなんだけどさ。嫌だったらハッキリと言ってね?おばさんは引き際というモノを弁えているからさ。

 

そう二人に伝えるとチャージズマは「派手な変身ヒーローみたいでカッコイイ」と言ってくれたが、ファントムシーフは「チャージズマみたいなヤツが良かったです」と不貞腐れたように言ってきた。

 

なんと言えば良いのか、ファントムシーフって子供っぽくて可愛いね。

 

あ、怒り出した。まあ、その「盗賊の極意」には私の個性だって入れてるからね。

 

好きなときに使って良いよ。

 

ヴ月>日

 

チャージズマは「雷狼竜の鎧装」の利点と言える雷撃を纏った武装を出せるようになってきた。ファントムシーフは「盗賊の極意」から抜粋した個性「活性」を使いつつ、ヴィランを拘束するために必要な個性「檻」で木人を閉じ込めている。

 

まあ、ファントムシーフが粘着個性を使って薄皮を奪い取るとは思わなかったけど。普通は移動阻害や捕縛に使うはずなのに、ファントムシーフはズル賢いね。

 

いや、誉め言葉だからね。

 

しかし、ファントムシーフの個性を応用する方法は勉強になるな。私でも思い付かない方法で個性を使用するとは、それでも体力やバランス感覚は酷いね。フォローすら出来ないほど酷いね。

 

ん?おお、今のは危なかった。チャージズマは遠距離武器を使うとき、人がいないことを確認してから使おうな。

 

私じゃなかったら大怪我してるぞ。

 



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第20話(治崎廻)

スピキュールのイラストを後書きと目次に記載してます。


計画の要である壊理を預けたプロヒーローは健康食品や栄養薬品の製造を手掛けている。壊理の精神面を癒しつつ、ヒーロー界隈の情報を聞き出すために利用している。

 

利用しているはずなんだが、彼女の作ってくれた料理を食べても蕁麻疹や不快感を引き起こすことはなかった。むしろ睡眠不足だった身体の疲労感や怠さが無くなっているのが理解った。

 

彼女曰く「活性の個性を使って食材の免疫力を高め、潔癖症の人でも食べられるように調理した」らしい。成る程、彼女は俺を気遣ってくれたようだ。

 

俺が食べ終えた食器を持っていこうとすれば「お客さんは座ってなさいな」と言いながら台所で食器を洗い始めた。少しばかり距離を開けるように座っている壊理の隣へ移動する。

 

「壊理、彼女と過ごすのは楽しいか?」

 

「…ぅん…」

 

「そうか」

 

壊理を連れ出すことは簡単なことだが、安定している精神状態ならば個性を暴走させる心配はない。しかし、オヤジの言っていた「しっかりと繋ぎ止めておけ」って言っていたが、俺は壊理を逃がすつもりはない。

 

「治崎さん、アイス食べます?」

 

「いや、おれは……」

 

断ろうとした俺を止めるように壊理がキュッと服の裾を掴んでいた。実験を繰り返していた頃より人間らしさが増えてきたな。

 

結局、アイスまで食べてしまった。

 

……そろそろ迎えの車が来るな。壊理を連れて帰りたいが、彼女から引き出せるヴィラン連中の情報を得るためには壊理を連れて帰る訳にはいかない。

 

「壊理、彼女に迷惑をかけるなよ?」

 

こくり、一度だけ頷くと家の中に戻ってしまった。俺の後ろに控えている奴等を怖がっているのか?

 

まあ、御世辞にもカッコイイとは言えない相貌だな。ビビるのは正しい反応だと思う。

 

「もう少しだけ壊理を頼んだ」

 

「心配する必要はないさ。エリは立派なレディに育ててみせる」

 

「そうか、それは楽しみだな」

 

彼女の言っていることを理解するのは難しい。なんで、壊理をレディに育てるんだ?話の路線を切り換えるタイミングを失ったのは最悪だが、壊理の教養を引き上げるためには必要なモノなんだろう。

 

「じゃあな」

 

「はい、気をつけて」

 

はあ、ぬるま湯に浸かっている気分だ。オヤジのような侠客には程遠い。このクッキーも手作りとか言ってたが、アレルゲンのことを聞いてきたのは、これを作るためだったのか?

 

ん?良い感じに苦いな。擂り潰した珈琲豆を混ぜ込んでいるのか。こういう工夫を考え付くのは女性だと当たり前なのか?

 

「嬉しそうでやすね」

 

「まあな、お前も食べるか?」

 

「あとで頂きやす」

 

断ると思っていたが、お前も食べるのか。いや、まあ、聞いたのは俺だからな。もう少しだけ食べてから渡すとしよう。

 





【挿絵表示】

「私がスピキュールさんだぞ」

【挿絵表示】

「仕事着のスピキュールさんだ」


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第21話

Δ月Ω日

 

職場体験最終日、打撃を無効化するヴィランを新人達と追い掛けた。

 

ファントムシーフは個性「豹」を使用した高速移動で人通りの少ない道へ追い込んでいき、チャージズマは家屋の屋根に座り込みながら「顕現」で作り出された王弩「ライカン」を放ち、ヴィランの逃亡ルートを袋小路となっている路地に絞り込んでいる。

 

必死に逃げるヴィランを煽るファントムシーフは頭を抱えるけど。攻撃対象を自分自身に定めさせるには十分な材料となる。

 

それにチャージズマは防犯カメラの視界を奪い取りながら最適な場所を狙い撃っている。

 

やっぱり、男の子はカッコイイ武器が好きなんだね。ファントムシーフも「雷狼竜の鎧装」を借りようとしていたし、ファントムシーフも鎧の方が良かったのかな?

 

あ、ヴィラン確保された。

 

デビュー前なのに猛々しい活躍だった。まあ、打撃を無効化する相手を捕まえるために個性「小人化」を発動させ、個性「複製」で作り出したタッパーの中にヴィランを仕舞い込んだ。

 

しまっちゃおうおじさんかな?

 

Δ月↓日

 

チャージズマとファントムシーフの活躍は新聞やテレビでも報道されていた。

 

呼び方は良いものと酷いものだったけど。

 

チャージズマは「雷光の狙撃手」と呼ばれ、ファントムシーフなんて「煽り紳士」とか呼ばれていた。

 

いや、まあ、ヴィランを煽ってたけどさ。

 

紳士要素はコスチュームしかなかったよね?

 

ん?ああ、エリは会ったことなかったね。二人は見習いヒーローでね、私が鍛え上げたんだ。もし、もし良かったらさ、エリもダイゴヨウと一緒にヒーローを目指してみない?

 

ゆっくり、今じゃなくても自分の思っていることを教えてね。おばさん、エリがカッコイイって言えるようなヒーローになるからさ。

 

まあ、これからも頑張るってことだ。

 

Δ月↑日

 

ん?おお、トムラ君じゃないか。久しぶりだね、後ろの人は友達で良いのかな?どこかで見たような女の子が居るんだけど。

 

いや、まあ、気のせいだろう。

 

あ、やっぱり、トガちゃんだったのね。トムラ君とは友達関係でいいよね?彼氏とか言われたらビックリしてたよ。そっちの男の子は…初めましてでいいのかな?

 

そっか、きみはダビデ君だね。

 

今後ともトムラ君のことを宜しく頼むよ。

 

そう言えばトムラ君はマスカーブレイドを使ってるんだね、新聞に「漆黒のヴィラン、現る!?」って書かれてたよ。みんな、私は洗濯物を仕舞ってるから家に入っていいよ。

 

あ、嗽や手洗いは忘れずにね?

 

風邪や病気には気を付けよう。ヴィラン云々以前に子供を心配するのは大人の役目なんだよ、それとトガちゃんは刃物を人前で出すのは控えようね。

 

トガちゃん、そんなに剣身がボロボロだと斬りにくくない?私のお古なんだけど、あげようか?

 

「七ツ夜」っていう開閉式のスイッチナイフで、握る強さで剣身が出てくるから気を付けてね。

 

 



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第22話

ゑ月Π日

 

雄英高校より緊急召集を受け、会議室へ入ると古参から新人まで優秀な人材が集っていた。

 

正直に言えば呼ばれる理由が分からない。相澤の近くに座りつつ、召集された理由を尋ねると「ヴィラン対策」としか教えてくれなかった。

 

簡単に言ってしまえばヒーロー科の生徒を鍛えるために秘密特訓を行おうということらしい。最近のヴィランは荒々しく活動しているし、自身や民間人を守るためには必要なことだ。

 

成る程、ヒーロー志望の生徒達の個性を引き伸ばすためにはプロが付きっきりで見るしかない。

 

しかし、その優秀な人材の中に私が含まれているのが分からない。えっ、爆豪君や心操君から私を連れてくるように頼まれたの?

 

まあ、エリを連れていっても良いなら手伝うけど。子連れはダメって言わないよね?

 

そっか、子連れでも参加して良いんだ。

 

ゑ月㍗日

 

翌朝、不機嫌そうな爆豪君を含めた少年少女が家の前に集まっていた。えっ、君達に襲撃される覚えはないんだけど。

 

相澤は遠回しな言い方でもしたのかな?そんなことを考えていると「スピキュール、俺達を強くしてくれ!!」と切島君に頭を下げられた。うん、まあ、鍛えるのは良いんだけどさ。

 

うちの子、まだ寝てるんだよね。もう少しだけ静かにしてもらえるかな?

 

しかし、合宿には時間があると思うんだけど。なんで、こんな早朝に訪ねてきたの?

 

ふむ、チャージズマの提案ということだね。チャージズマ、君には特別な特訓をつけてあげよう。なに、心配する必要なんてない。

 

ちょっとだけお仕置きするだけだ。

 

さあ、こっちへ来なさい。

 

ゑ月¥日

 

合宿出発日、私はエリと一緒に現地にて生徒達がやってくるのを待っている。なにやら不穏な気配を感じつつ、エリを抱っこしていると視線を感じた。ピクシーボブ、そんな尊敬の眼差しを向けるな。は?三十路でも結婚できる女性の星とは……。

 

ん?おお、来たみたいだな。、みんなを手当てする前に水分補給を行うように言ってくれ。おお、ずいぶんとボロボロだね。岩石を破壊するのは疲れただろう、インゲニウムの弟さんはエンストを起こしているな。

 

ちょっと滲みるぞ、こういうモノは温い水で冷ます方がいいんだ。個性とはいえエンジンは繊細な機械だからね。

 

よし、そのまま冷やしてなさい。

 

ピクシーボブ、唾を吐き付けるな。

はしたない女とは思われたくないだろう。さっさと夕飯を並べてやりなさい。

 

なんと言えば良いのか、明日から本格的な訓練を始めるのに疲労感で倒れそうになってるな。まあ、今日より明日のことを考えるのは難しいな。

 

それより爆豪君は不機嫌そうな表情がデフォルトになりかけているぞ。

 

あ、ふつうに戻せるんだ。

 

 



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第23話

Х月Р日

 

翌日、個性を引き伸ばすために考案されたトレーニングを行う1年A組一同と合流したばかりなのに地獄絵図と表現する1年B組とブラドキングに手を振って呼び寄せ、校長先生やプッシーキャッツが考案したトレーニングを始めさせる。

 

相澤や校長先生には基礎的訓練を終えている者のみ鍛えるように言われてるけど。

 

1年生、そこまで鍛え上げている子なんて少数しかいない。爆豪君、切島君、上鳴君、物間君、この四名だけだ。

 

そして、私はあることに気付いた。

 

みんな、私が鍛えたりトレーニングを課したりしてた子供しかいない。まさか、こんなことになるとは思わなかった。

 

ん?おお、心操君はヒーロー科に引っこ抜かれたんだね。よかった、そう言えば「偉大なる俺」のことは考えてくれた?

 

やっぱり、ダメなのか。

 

物間君に至ってはコピーの高速切替を習得しており、突き詰める点と言えば身体能力しかないんだよな。

 

Х月-日

 

爆豪君は個性「爆破」は拡散するエネルギーを一転集中させ、貫通力を向上させる技を作り出そうとしている。上鳴君は個性「帯電」を近距離だが打ち出せるようになっている。

 

切島君は個性「硬化」の防御力を活かすため、ごり押しのカウンターを練習している。物間君は個性「コピー」を引き伸ばすというより同時発動を行えるように鍛えている。

 

私が教えることなんてないんじゃないか?なんて考えていると心操君から「スピキュール、俺に必要なモノってなんだ」と聞かれた。

 

ふむ、そうだな。心操君に必要なのは「ハッキリと言葉を伝える」ことや「言葉の真意を伝える」ことだね。

 

例えば心操君の「跪け」だと押し潰すイメージを思い浮かべるだろ、それを上手く使うためには「ハッキリとした重み」が足りない。

 

オールマイトの「私が来た」っていうのは自分をアピールしつつ、相手の注意を引くためには適しているだろ?君にはそれがない。だからこそ本当の言葉を作ることが出来るんだ。

 

君の思いを相手に押し付ける。簡単に言ってしまえば告白みたいなモノだね。

 

Х月>日

 

生徒を襲おうとしていた見知らぬオッサンをボコっていたら爆豪君と一緒に誘拐された。

 

この状況から考えられるのは爆豪君の個性を狙っているためか、爆豪君をヴィラン側へ引き入れようとしている。

 

集中しろ、爆豪君を狙う理由はなんだ?

 

ヴィラン連合は爆豪君を狙うのは個性を含め、本当の目的を隠すために考案されたフェイクの可能性だってあるが、オールマイトを殺すために必要なのは「餌」だけだ。ヴィラン連合に対して考えられるのはそれしかない。

 

トムラ君、私達を誘拐した理由を聞かせてもらえると助かるんだけど。

 

えっ、ヴィラン連合への勧誘が目的なの?てっきり、この前みたいな「オールマイトを殺す」とか言うのかと思ってた。

 

いや、まあ、そっか、勧誘なんだ。

 

爆豪君、ヒーロー志望なのにヴィランに勧誘されてるけど。あ、うん、ヒーローを諦めるつもりは無いんだね。そういう訳なんだ、爆豪君の勧誘は諦めてね?そう言えばヒーロー達が発信器を辿ってきたみたいなんだけどさ。

 

とりあえず、君達は危ないから離れようか。

 

爆豪君、トガちゃん、トムラ君、ダビデ君を庇うように破壊される壁の前に立ってしまった。まあ、オッサン達は勝手に助かりなさいな。

 

 



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第24話(八木俊典)

「どうした、オールマイト。笑顔を忘れているぞ」

 

今の私はオール・フォー・ワンの言葉を聞き流せる精神ではない。心を蝕むように師匠との記憶が溢れるように出てくる。私は、私が、貴女から受け継いだ希望(モノ)で貴女の孫を傷付けて……。

 

カチリ、時計の針が進むような音が聴こえてきた。ゆっくりとうつ向くように腰部を見る。数ヵ月ほど前、パワーローダー経由でスピキュールより渡されたネオタイフーンだ。ふと、彼女の言伝てを思い出した。ピンチな時ほどヒーローは強くなり、大切なモノを守るために心火を燃やす。

 

「オール・フォー・ワン、私は絶望したりしない。何故ならばヒーローは何時だって笑顔で居なきゃならないんでね!!」

 

「やはり、君とは合わない。今持ちうる最高の個性を寄り合わせ、君を殺そう」

 

私は右腕を左斜め上へ突き上げ、左腕を折り曲げながら腰元に握り拳を留める。

 

「変身!!」

 

ゆっくりと腕を右側へ動かしていき、左腕を突き上げながら構えを反転させる。竜巻のような突風が起こり、傷だらけの身体を覆うように、マッスルフォーム並みにガッチリとした装甲を纏う。

 

私と言えば筋肉ということか?そんなことを思いながらワン・フォー・オールを発動している時とは違って肉体への負担を軽減することが出来るが、出し惜しんでいてオール・フォー・ワンに勝つことが出来るか?

 

「仮面ライダーとは懐かしい。差詰、僕はショッカー大総統というところか」

 

オール・フォー・ワンの言葉は分からないが私のことを「仮面ライダー」と呼び、更には装甲のことを懐かしいと言っている。

 

スピキュール、君は何者なんだ。

 

「まあいいさ、君の燃えカスのような残り火だけじゃあ僕には勝てない」

 

「いいや、私が勝つ」

 

オール・フォー・ワンの右腕は惨たらしく醜く肥大化していき、もはや人間のモノとは思えないほどグロテスクなモノへと変貌していた。勝つ、ここで死のうとも緑谷少年の行く末を見れずとも、私は貴様を倒す。

 

「ゼエェアァアァァッ!!!」

 

私の振るう右拳とオール・フォー・ワンの複合個性の怪腕が衝突する度に倒壊しているビルの残骸が吹き飛んでいる。頼む、ワン・フォー・オール。私の役目を全うするまで、もう少しだけ灯っていてくれ。

 

「オールマイトォッ!!!」

 

「ぐっ、オォオオオオォッ!!!」

 

オール・フォー・ワンの怪腕を打ち払うように左右の拳を叩きつけ、ヤツを追い詰めるように前進していく。

 

「なぜだ、君を殺すために奪い取り寄り合わせた個性だというのに、なぜ勝てないんだ!!」

 

そんなモノ、決まっているだろう。

 

「覚えておけ、オール・フォー・ワン。ヒーローってヤツは守るモノが多いほど強くなる!!」

 

「君はバカなのか?そんな不必要なモノを守って強くなるなど有り得ない!!」

 

「だからこそだよ。人間って生き物は不必要なモノほど大切に思う。私が来るのは、お前が、ヴィラン共が不必要だというモノを守るためだ!!」

 

ワン・フォー・オール、今こそ使うぞ。オール・フォー・ワンに全身から残り火と言われたワン・フォー・オールを掻き集めるように右拳に蓄えていき、激昂ゆえに判断力を低下させたオール・フォー・ワンに向けて放つ。

 

UNITED(ユナイテッド) STATES(ステイツ) OF(オブ) SMASH(スマァッシュ)!!!」

 

さらばだ、ワン・フォー・オール。

 

 



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第25話

スピキュールのイラストを後書きに記載しています。


¶月⊥日

 

校長先生やオールマイトから長期的な休息を行うように指示され、午後までエリと一緒にお昼寝している。汗だくになった治崎さんが壁を分解しながら飛び込んでくるのが見えた。

 

人の家を壊さないでもらえます?

 

合宿へエリのことを連れていくことは伝えているため、余計な心配を掛けさせてしまったかもしれない。治崎さん、すいません。ヒーローなのに、あなたとの約束を破りかけました。

 

あ、今の顔だけ写メっとこ。

 

この写真を消せって言うんですか?それは無理ですね、治崎さんって基本的に無表情じゃないですか、それだとエリも楽しいのか楽しくないのか分からないんです。

 

それだけですよ?

 

ほんとうですよ?

 

¶月℃日

 

ご飯を食べているエリに治崎さんの焦り顔を見せると「だれ?」と聞かれた。ビックリだね、治崎さんの無表情だけを見続けると表情を変えただけで識別出来なくなるとは…。いや、まあ、今後の課題として治崎さんとの距離を戻さないとね。

 

そう言えば治崎さんに貸した「龍が如く」「クロヒョウ」って何時になったら返ってくるのかな?ひょっとして借りパクされてるのかな?

 

いや、治崎さんは真面目な人だって知ってる。

 

うん、治崎さんは真面目な人なんだ。愛想悪くてひねくれてるけど、いい人なのは間違いない。

 

エリ、ピーマンを私のお皿に移すのは止めなさい。しっかりと食べないと大きくなれないよ?私としては大きくても小さくても子供は好きだから良いんだけどさ。

 

最近は偉そうな態度で話し掛けてくる子供が多くなってきてるけど。天才的な頭脳、簡単に言ってしまえば校長先生みたいな個性を有している子供と話した時は面白かった。

 

タキオン粒子の定着化、もしくはタキオン粒子と同等の速度で移動することが出来るのか。分かりやすく言えば「仮面ライダーカブト」「クロック・アップ」は現段階にて可能なのかだね。

 

¶月♂日

 

爆豪君、不機嫌そうな表情じゃなくなったね。なんて言えば良いのか、自分を責めようとしてないか?

 

まあ、おばさんだって誘拐されたからね。自分の不甲斐なさを噛み締めているところだよ。ただ、君は自分の責任だと思ってるみたいだけど。

 

まだ、子供である君には未来(さき)があり、手助けするのは大人の役目なんだ。

 

絶対に「自分の所為だ」なんて思わないでほしい。

 

たしかにヒーローって生き物はエゴを押し通してこそだ。それでも「自分が捕まった所為で、オールマイトを引退させた」と思っているなら本人に聞いてみなさい。

 

うん、それじゃあ、またね。

 

ああ、そう言えば爆豪君に渡そうと思っていたモノがあったんだ。

 

はいこれ、私のコンバットスーツの性能を引き上げた最新型コンバットスーツだよ。ん?ああ、スピキュールの名前を継がせようなんて思ってないよ。

 

 





【挿絵表示】

「治崎さんの焦り顔ゲットだぜ」


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第26話

╋月㊤日

 

治崎さん、渡したいモノってなんですか?

 

ん?おお、本物みたいな拳銃ですね。

 

コレを見せたかったんですか?他にも持ってきてるんですか、それは見てみたいけど。そろそろ夕御飯を作りに帰らないとダメなんですよ。

 

はい、それじゃあ、またですね。

 

えっ、ちょっと玩具の拳銃だと分かってますけど。いきなり、銃口は向けないでくださいよ。

 

╋月㊥日

 

腹部二発、胸部三発、右足や左手の撃たれた数を合わせると十一発ほど銃弾を撃ち込まれたらしい。

 

しかし、あの距離なら額を撃ち抜くことは出来たはずなのに、撃とうとしなかったのはなんでだろうか?

 

病室にはパワーローダーやリカバリーガールが来ており、何度も見渡したけど。エリを抱えている人や手を繋いでいる人がいない。

 

そのことをリカバリーガールに尋ねると「あの子は治崎に連れて行かれた」と相澤がリカバリーガールの代わりに答えてくれた。成る程、ちょっとだけ話し合えるか。治崎さんに聞いて来ますね。

 

身体の傷なんて個性を使えば治せますよ。

 

ほら、この通りだよ。

 

あれ、治ってない?どうなってるんだ?五分ぐらいあれば完治する傷なのに、なにやら不思議な感覚だな。とりあえず、ベタベタする身体を拭きたいから出ていってくれると助かるんですけど。

 

うん、自然治癒に任せよう。

 

╋月㊦日

 

治崎さん、電話に出てくれない。

 

無理矢理、病院から退院したけど。エリを探す方法なんてあるのか?そんなことを考えていると治崎さんの送り迎えを行っていた覆面を見付けた。

 

とりあえず、ボコるとしよう。おら、治崎さんの居場所を言わないと女子高の前に全裸で縛り付けんぞ。おら、逃げようとすんな。

 

ん?イカの頭みたいな髪の毛してるわね。おお、髪の毛を武器として使う個性なんだ。まあ、そんなことより治崎さんの居場所を教えてほしい。

 

ちょっと治崎さんには聞きたいことがあるんだよね、私が個性を使えなくたった理由とエリを連れていった理由とかさ。あと、その髪型はダサくない?もっとワイルドさを際立たせたり、クールな雰囲気を醸し出す感じに変えればモテると思うよ?

 

そっか、エリは死穢八斎會本拠地に居るんだね。あ、治崎さん達には伝えてもいいからね?いきなり訪問するのは無作法だからね。

 

私は治崎さん相手でも手加減なんてしない。味方だろうと敵だろうと道を踏み外そうとする人を止めるのは友達の役目だからね。

 

ほら、さっさと立ちなさい。それと道案内してくれない?死穢八斎會の事務所なんて知らないし、いつも治崎さんが来てくれるからね。

 

ほら、しっかりと歩きなさい。ひょっとして殴りすぎたかな?こうなれば抱っこしながら行くしかないわね。

 

安心しろ、お姫様抱っこ

 

 



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第27話

Χ月Κ日

 

死穢八斎會本拠地にて思い悩んでいるキモダサ前髪を放り投げるように避難させ、地面や正面から飛んできた拳撃を受け流す。

 

うわっ、筋肉の塊しかいないんだけど。しかし、困ったな。個性を使えないから治してやれない。うん、手加減してあげよう。

 

さあ、掛かって来なさいな。

 

ん?おお、おおおっ、君は北斗百裂拳みたいな技を使うんだね。そっちの人は「触らせろ」ってうるさいけど。流石に怪我してる状態だし、北斗神拳の使い手を相手するのは骨が折れそうだ。

 

まあ、拳を振るう前に捕まえれば問題ないけど。動けないのは五輪砕きっていう、簡単に言ってしまえば逆式羽交い締めを仕掛けてるからだよ。

 

そんなに心配する必要なんてない。

 

今から放つジョー・ヒガシ膝地獄を受けて立ち上がってきたヤツはいない。ん?おお、ずいぶんと打たれ強いんだね。ひょっとして、膝地獄より破壊力のある攻撃を受けたことがあるのかな?

 

Χ月Ь日

 

折角、倒したのに逃がしてしまった。

 

しかし、世の中には地面や壁を動かすという摩訶不思議な個性を使うヤツがいるんだな。

 

あのキモダサ前髪は居なくなってるし、迷路みたいな場所を動き回るのはダメだな。体力を消耗したところを襲われると負ける可能性だってある。治崎さん、暴れないからエリに会わせて貰えるかな?

 

ん?おお、治崎さんを避けるように壁が動き始めた。なんて言えば良いのか、悪役の登場みたいだね。

 

あらあら、手錠なんて悪趣味だね。

 

それじゃあ、エリのところまで行こうか。あ、ちょっ、抱っこされるのは恥ずかしい。逃げないし、攻撃しないから降ろしてくれない?

 

あはは、やっぱりダメなのね。いや、拘束する意味合いだと適切な行動なんだろうけど。

 

イケメンフェイスが近すぎるんだよ。

 

おばさん、ショック死しちゃううぅ……。

 

Χ月ヱ日

 

エリのご飯を作っていると地鳴りや爆発音が聴こえてきた。通路を組み換える度に地盤変動させ過ぎたせいかな?

 

そんなことを考えていた瞬間、キモダサ前髪が「ここから出やすよ」と言ってきた。

 

ふむ、拠点を移動するということだね。

 

通路を進んでいると通形君が壁を透過しながら飛び出してきた。しかし、通形君の戦闘する動きを見るのは初めてだな。

 

ほとんど透過するタイミングや範囲収縮を叩き込んできたけど。

 

あれほど動けるようになってるとはビックリした。うん、あのまま強くなればオールマイトを越えるかもしれないね。まあ、表情を変える練習しないとダメそうだけど。

 

おお、私を透過しながら殴り飛ばすとはスゴいことを出来るようになったね。ちょっとエリを引っ張ろうとするのは止めなさい。

 

おっ、おおっ、危ないじゃないか。

 

あらあら、まあまあ、すごい勢いで地面が崩れていくね。このままだと怪我しちゃうわね。

 

そういうことなので、死にたくない人は抱き着きなさいな。こよキッチンから持ってきた箆で壁を叩きながら落下速度を低下させるからさ。

 

名付けてお母さんのヘラッシュです。

 

うん、まあ、なんとか着地することは出来たね。あと、キモダサ前髪には「ダサい名前でやすね」なんて言われたくないんだけど。

 

 



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第28話(治崎廻)

スピキュールのイラストを後書きに記載しています。


砕けた地面の底へ落ちていく最中、彼女のおかげで軽傷程度で死なずにすんだ。

 

ゆっくりと立ち上がりながら彼女と壊理を庇うように構える金髪の男を睨み付ける。先日、彼女の元へ行こうとした壊理を連れ戻す時に遭遇したヒーロー志望のガキの片割れだ。

 

ガキの後ろにいる彼女を見ると壊れた眼鏡を見詰めながらアワアワとしていた。

 

「かわいいな」

 

「は?」

 

思わず呟いた言葉を聞いた金髪のガキは意味の分からない言葉と認識しているみたいだが、お前の後ろにいる彼女を見れば分かることだ。表向きには「壊理を連れ戻すため、彼女の個性を奪った」というシナリオが出来上がっている。

 

本当の理由は無個性ならば生死を伴う職業を止めると考えた。そうすれば安心して、壊理を託すことが出来ると思っていた。そう思っていたのに止めるどころか、一人だけで攻め込んでくるとは思わないだろう。

 

「金髪のガキ、少しだけ彼女と話したいことがある。それまで待ってろ、スピキュール」

 

「えっ、あ、はい。なんですか?」

 

「壊理を頼めるか?」

 

この言葉の意味を理解することが出来るのは壊理や彼女だけだ。金髪のガキは困惑しつつ、自分の後ろに座っている二人の返答に聞き耳を立てている。

 

「その答えは『イエス』ですけど。その中には治崎さん達は居ないんですか?」

 

「まったく、返答するのに困る言葉を返してくるな。俺達を加えるとなればヒーローなんて出来なくなることは分かり切ってるはずだ」

 

「わたしは、それでも私は治崎さんが居ないと嫌ですよ?エリだってお父さんがいないと悲しみます。通形君、エリのためにも治崎さんを助けてあげて…」

 

「りょうかいいぃぃぃ!!!」

 

彼女の言葉を聞いた金髪のガキは困ったような表情を浮かべながら笑顔を作り、俺を「助ける」ために全力で駆け出してきた。俺はオヤジへの恩義を返すため、極道の地位復興を願っていた。

 

それなのに気付けば壊理の笑顔を見たり、彼女の作った飯を食べたり、部下達とゲームで馬鹿騒ぎしたり、騒々しくも楽しいことに巻き込まれていた。

 

それでも俺は助かりたいなんて思っていない。俺は白にも黒にも染まり切れない灰色だが―――。

 

「ガキに助け求めるほど落ちぶれちゃいねえ…」

 

あの男と同じようにマスクと服を脱ぎ捨てる。まだ、色を刻んでいない「未完成の鯉」だ。金髪のガキが突き出してきた拳を打ち落とし、腹を踏み潰すように蹴り飛ばす。しかし、なにかが可笑しい。アイツは透過する個性を持っていたはずだ。

 

「なぜ、個性を使おうとしない」

 

「人助けに個性を使う必要はないだろ?」

 

土埃を払い落としながら握り拳を作って構え直し、馬鹿正直そうなガキを睨み付ける。コイツは優位となる個性を持ちながら殴り合うことを選んだ。

 

本物のバカなのか?

 

「行くぞ、治崎イィィ!!!」

 

「はあ、さっさと来い」

 

ボリボリと後頭部を掻きながら手招きしようとした瞬間、彼女が目の前まで飛んで来ていた。ガキは投げ終えた体勢を直しつつ、ウザいくらいに爽やかな笑顔を浮かべていた。

 

「スピキュール、好きな人を止めたい時は自分で止めよう!!これは僕からのプレゼントさ!!」

 

「通形君、人を投げるのは危ないから止めようか!?おばさんじゃなかったら怪我してるよ!!」

 

あのガキの行動や言動には呆れるな。

 

しかし、ガキの言っていた「好きな人」というのは興味あるな。腕の中に収まっている彼女を見下ろしていると俺の視線に気付いたのか、恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

 

「その、助けに来ました。えと、治崎さんは助かりましたか?」

 

「ああ、助かった。これで満足か?それより少しだけ離れてもらえると助か…」

 

なんか硬いモノが後頭部に降ってきた衝撃で身体が曲がり、偶然とはいえ彼女の唇を奪っていた。

 

「き、あ、うぇあ!?」

 

このまま押し切ればイケるんじゃないか?

 

「俺はアンタが好きだ」

 

「ちょ、まっ、えぇ!?キャパが、キャパがオーバーしてるから待って!!」

 

バチーンと乾いた炸裂音と共に吹き飛ばされ、壊理や彼女を救出するために駆け付けてきたヒーローは困惑したような表情を浮かべていた。

 

 





【挿絵表示】

「いきなりチューはダメですよ!?」


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第29話

↓月∋日

 

私なりに健康状態の維持していると思ったけど。永久的に活性を喪失したことにより、身体機能は弱体化していくとリカバリーガールに診断された。

 

もう一つ、刑務所へ護送中だった治崎さん達を襲撃したという話を聞かされた。襲撃の目的は個性を喪失させる薬品と喪失した個性を復活させる薬品、治崎さんの個性を奪うことだった。

 

私の個性を復活させることが出来れば、治崎さんの傷を治すことが出来るかもしれない。そのためにはオールマイト並みにエネルギーを持つ人を探さないとダメなのよね。エンデヴァーさんは確定として、あと二人ぐらい欲しいんだよね。

 

ん?おお、緑谷君じゃないか。調度良いところに来たね、おばさんの頼みを聞いてくれないか?

 

緑谷君の知り合いにさ、オールマイトやエンデヴァーさん並みに破壊力を持つ友達っていない?

 

そっか、協力してくれてありがとね。

 

↓月+日

 

エンデヴァーさん、個性復活を手伝ってくれるなんて感激だね。オールマイトが訪ねてくるのは珍しいですね。えっ、個性を復活させようとしている話を緑谷君から聞いたんですか?

 

オールマイト、あなたを頼っても良いですか?

 

はい、ありがとうございます。

 

ああ、それと今までお疲れ様でした。今後のことは任せてくださいって言いたかったんですけど。今の私は個性を失ってますし、偉そうなことは言えないんですけどね。

 

それじゃあ、知り合いを当たってみますね。

 

ホークは、あの子は個性復活を手伝ってくれるかな?嫌なことも良いことも教えてきたけど。こういう時だけ、頼るなんて身勝手なんだろうけど。

 

ん?おお、ホークが管轄外まで飛んでくるなんて珍しいこともあるんだね。えっ、私の個性が消えたのは本当だけど。そんなショックを受ける要素なんてあったかな?

 

そう言えば活性化したゼリー食品を溜めるように購入してた時期があったような……。えっ、ゼリーを食べるために個性復活を手伝ってくれるの?

 

↓月£日

 

オールマイト、エンデヴァーさん、ホーク、今から三人同時に私に向かって最大威力の必殺技を撃ってほしい。

 

いや、自殺しようとしてる訳じゃないよ。

 

このエボルトリガーに蓄えてきた活性化ナノマシンを刺激すれば、個性を復活させることが出来るかもしれない。

 

失敗なし、ぶっつけ本番です。

 

みなさん、私を殺すつもりで必殺技をブッ放してください。あと、ホークとエンデヴァーさんにはオールマイトみたいに「変身」してもらいます。

 

ほんのちょっとでいいんです。

 

そんなに恥ずかしがる必要なんてありません。もう、なんなんですか、私は個性を復活させようとしているだけですよ?

 

それじゃあ、お願いします。

 

オールマイトの放つライダーキックへ絡まるようにエンデヴァーさんの赫灼熱拳ジェットバーンを一転集中させるようにホークの剛翼が散らばる炎の軌道を修正していき、完璧なタイミングでエボルトリガーを構えていた私に叩き込まれる。

 

ふう、復活させるには最高のエネルギーだった。三人ともありがとうございました。

 

本日、わたしは完全復活です。

 

 



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第30話

スピキュールのイラストを後書きに記載しています。


⇔月Μ日

 

治崎さん、ほんの少しだけ我慢してくださいね。これより事件現場にて残っていた手首と二の腕の結合手術を開始します。

 

二の腕の筋肉繊維を活性化させ、手首の血管や筋肉繊維と繋ぎ合わせれば筋肉繊維結合完了、次は二の腕から伸ばすように骨の成長する速度を活性化させる。

 

左手首及び左前腕部結合完了、このまま右腕の手術を続けたいけど。右腕は塵みたいに崩れている。

 

ゆっくりと成長速度を活性化させれば表面的な傷を消せるけど、塵一つ残さずに消失している右腕を復元することは活性の個性では不可能である。

 

治崎さんの個性「オーバーホール」を使えば消失している腕を復元することは可能だと判明している。この情報を提供してくれたのは、あのキモダサ前髪だと治崎さんに言えばビックリしそうだな。

 

まあ、黙っていてほしいとは言われたけど。

 

そんな約束を守るつもりはない。自分から治崎さんを助けて欲しいと言ってきた癖に、自分じゃないと言い張るのは良くないことだ。

 

⇔月≪日

 

よかった、起きたんですね。

 

えっ、この格好ですか?キモダサ前髪に「スピキュール、廻はコレを着れば喜びやす」と言われたんですけど。似合ってないですか?

 

似合ってるけど、目のやり場に困る…。そう言われても着てきたのはコレだけなんですけど。いや、羞恥心なんてコスプレやってるヒーローには無いと思いますよ?

 

まあ、そんなことより左腕の手術は成功したんです。パパッと右腕を復元してください。おお、分解するとは聞いていましたけど。

 

こんな感じなんですね。

 

えと、なにか付いてますか?

 

よく分からないですけど。治崎さん達が退院するのは一週間ほど様子を見てからですよ。

 

しっかりと休んでくださいね。あと、チューの責任は取ってくれないと許しませんからね。なんですか、なんで笑うんですか。

 

こっちは、その、大真面目なんですよ?

 

⇔月%日

 

二日連続、治崎さんの大好きな服を着てきました。ちょっとだけ寒かったですけど。

 

病院内部は暖房が効いているので、そこまで厚着する必要はないですね。治崎さんは林檎と蜜柑、どっちを食べたいですか?

 

しっかりと滅菌したモノです。治崎さんは安心して食べることが出来ます、蕁麻疹が出てきても活性化で免疫力を引き上げてみせます。

 

あ、ちょ、ウサギに切りたかったのに…。

 

まあ、食欲があるのは良いことですね。

 

外出届ですか?欲しいものがあるなら私で良ければ買ってきますけど。

 

どうしても会いたい人がいるんですか?

 

ふむ、分かりました。

 

その代わり、私も治崎さんと一緒に会いに行かせてもらいます。治崎さんが会いたい人というのはエリにも関係ありそうですからね。

 

 





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「治崎さん、ほんとにコレが好きなんですか?」

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「喜んでくれますか?」


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第31話

ф月㌧日

 

そこは完全密封状態のような部屋だった。数多くの生命維持装置を接続され、なんとか生き長らえているのっぺらぼうのような男の人が拘束されていた。

 

この声、トムラ君のお父さんの声だ。オールマイトを見れば不本意としか思えないほど嫌そうな表情を浮かべていた。そんなに酷い人だとは思えないんだけだな。お久しぶりです、私のことはわかりますか?

 

オールマイト、あの人の傷を治せば良いんですね。それじゃあ、向こう側へ行ってきますね。あ、ちょ、危険物なんて持ち込んでないですって……。

 

オルフワさん、聞いてくださいよ。腕時計や眼鏡まで取るなんて酷いと思いませんか?

 

ゆっくり、骨や皮膚を活性化させながら元の造形に治していくと渋いイケメンが現れた。

 

オールマイト、ヤバいです。

 

ダンディなオジサマが現れました。

 

ф月㌍日

 

オルフワさんに「ありがとう」と言われたけど。オルフワさんはオールマイトの嫌そうな表情を見たら「悔しそうだね、オールマイト」等と言い始めた。

 

やはり、爛れた関係なのだろうか?

 

私は「エンデヴァー×オールマイト」なんだけど。いや、ダンディなオジサマに押し倒される痩せたオールマイトも良さそうな感じで…。

 

えと、治崎さんは何時から見てたんですか?

 

これは情報収集の一環なんです、そんな不思議な生き物を見るような目を向けないでください。

 

その、腐ってても愛してくれますよね?

 

ど、どうしたんですか?

 

頭が痛いんですか?病院に行きますか?休めば良くなると言われても蹲ってるじゃないですか。

 

ф月㌫日

 

通形君、エリなら庭にいるよ。

 

それよりエリに桃ばかり渡すのはやめようか?エリは林檎が好きなんだよね、持ってくるなら林檎や果汁100%リンゴジュースを持ってきなさい。

 

ん?おお、エンデヴァーさんが訪ねてくるのは珍しいですね。えっ、文化祭の招待状を貰ったけど。奥さんを誘う方法が分からない?

 

エンデヴァーさんって見た目のわりにヘタレなんですね。そんなの「俺と一緒に文化祭を見に行こう」って言えば良いじゃないですか。

 

そうですね、真っ正面から言うのが恥ずかしいのであればドア越しでも良いです。

 

あと、奥さんには余裕のある大人の魅力を浴びせるべきです。エンデヴァーさんは焦りすぎなんだと思いますよ?ゆっくりでも良いので距離を縮めていく努力をするべきです。

 

そんな「俺以外は敵だ」みたいな威圧感を出さずに好きなモノのことを考えたりすれば雰囲気は柔らかくなります。

 

ほら、笑顔こそ最強の武器なんです。

 

エンデヴァーさん、奥さんのことは好きなんですよね?そういうモノは分かり合えると考えるのは男の人の悪いところです、好きなら好きとハッキリと言ってしまえば良いんです。

 

 



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第32話(八木俊典)

スピキュールのイラストを後書きに記載しています。


文化祭当日、不審者を注意するために学校敷地内を見回っているとエンデヴァーと轟少年に雰囲気の似た女性を見掛けた。

 

その二人を眺めるようにゴミ箱の影に隠れ、スマホを構えながらビデオ撮影を行っているスピキュールとホークスを見たような気がしたが、気のせいだと言い聞かせることにした。

 

しかし、柔らかい雰囲気のエンデヴァーを見るのは初めてだな。なんて考えているとスピキュールに荷担したくなっちゃうよね。

 

わたし、実は恋話って憧れてたんだよね!!

 

「スピキュール、どんな感じなんだい?」

 

そっとスピキュールに尋ねると「焦れったい、ガツンと行かないとダメですね」と返答してくれた。

 

ホークスはカメラマンが使いそうなカメラを取り出しており、完璧なタイミングを撮り逃すつもりは無さそうだ。なんだろうか、ちょっとだけワクワクしてきちゃった。

 

私達はエンデヴァー夫妻の文化祭デートを見守りつつ、雄英生にちょっかいを出そうとしている不審者を注意したりしている。

 

エンデヴァー、はぐれそうなのに手を繋がないなんて男らしくないぞ。まさか、あれは、小指だけ繋いでいるだと!?

 

くっ、キュンと来るじゃないか。

 

「オールマイト、このまま撮影しますか?」

 

「ああ、撮影するとも!」

 

「スピさん、オールマイトの声で位置がバレました。そういう訳なんで、超低空飛行で逃げます」

 

「ん?おお、コスプレしてきてよかった」

 

えっ、ちょ、私だけバレちゃったの!?

 

そんなことを考えていると「貴様、何時から見ていた!!」と怒られながら「ちょっとだけ前から見ていた」と言えば恥ずかしさで怒り狂っているエンデヴァーとは対照的に、エンデヴァーの奥さんはクスクスと笑っていた。

 

「おっと急用を思い出してしまった!!」

 

このタイミングを逃すことは出来ない。小走りではあるが迅速に人混みへと紛れ込んでいき、こっそりと雄英生の作った出店の影に隠れながらエンデヴァー夫妻を見守ることにした。

 

なにやら動いている影の塊を見付けたので大空を見上げるとエンデヴァー夫妻を上空から撮影するスピキュールとホークスが見えた。

 

君達、デリカシーとか考えなよ。いや、しかし、気にならないと言えば嘘になってしまう。

 

「スピキュウウゥゥゥゥル!!!!」

 

あ、見付かった。エンデヴァーは大空を飛んで逃げているスピキュールとホークスを追うために駆け出し、エンデヴァーの奥さんの傍には轟少年が立っていた。

 

あれほど注目を集めれば来ちゃうのは当たり前なんだけど。エンデヴァーには悪いことしちゃったな。今度、エンデヴァーの家へ行ってプレゼントを渡そう!!

 

「我ながらナイスアイデア!!」

 

 





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「まったく、そこは攻めないと」

【挿絵表示】

「うわっ、バレちゃったよ」


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第33話

㌶月щ日

 

ちょっとした用事ゆえにエリと一緒に文化祭を見ることは出来なかったけど。通形君や緑谷君のおかげで素晴らしいモノを見ることができた。

 

しかし、ホークが速さを損なうような動きをするとは驚きだったな。まあ、私を落とすことで囮にしようとしていたんだろうけど。

 

あのエンデヴァーさんが頬を染めている写真なんて世間には出回らない品物だからね、こんなチャンスを逃すつもりはない。

 

こっそりとエリを撮影するために用意していたパワーローダー作製「複眼カメラ」を使いつつ、さまざまな角度から撮影したエリの文化祭デビューを五十本ほどディスク化している。

 

治崎さんにも送ろうかと思ったけど。となりの部屋を貸しているため、明日の夜にでもエリも一緒に三人で見ることにした。エリの嬉しそうに笑っている姿を見れば疲れだって吹っ飛ぶはずだ。

 

㌶月С日

 

トムラ君の友達であるダビデ君とトガちゃんが訪問してきた。二人ともボロボロの服装を纏っており、明らかに不摂生だった。なにより育ち盛りの子供が栄養不足なんてダメなことである。

 

今現在、トムラ君と一緒に行動している人達を呼んできなさいと言うと「へぇーい」と気だるそうな声色でダビデ君だけが行ってしまった。

 

トガちゃん、そんなに制服が汚れるのは不味いんじゃない?おばさんの服でいいなら貸そうか?

 

あ、その前にお風呂へ行ってきなさい。折角、かわいいのに泥だらけだと髪の毛や肌が傷んじゃうからね。

 

えっ、通報なんてしないよ?そんなことよりトムラ君の友達が来る前に御飯を作るつもりだけど?

 

ん?まあ、おばさんはヒーローだけど。子供を殴ったり蹴ったりするのは好きじゃないし、ヒーローだからってヴィランと仲良くしたらダメって法律なんてないでしょう?

 

そんなことをトガちゃんに告げると「やっぱり可笑しい人です」と耳を赤くしながら言われた。

 

㌶月!日

 

トガちゃん、治崎さんとトムラ君って仲悪いの?

 

さっきから睨んだまま動かないんだけど。

 

えっ、治崎さんの腕を壊したのってトムラ君なの?それは険悪な雰囲気にもなる訳だね。

 

まあ、そんなことよりトゥース君は唐揚げばっかり食べるんじゃありません。

 

スピナー君だって食べたいんだからさ、コンプレックスさんは静観しすぎですよ。しっかりと食べておかないと大事な時なんかに倒れちゃいますからね。

 

えと、なんで手を握ってくるんですか?

 

はあ、付き合っている人ですか?私には付き合っている云々より子供が居るんですけど。

 

トガちゃん、なんで笑ってるんですか?

 

あ、この速度だとヤバいかな。トムラ君と治崎さんの分を足しておかないとダメそうだね。ん?ああ、エリは初めて会う人ばっかりだよね。

 

まあ、私もなんだけどね?

 

この人達はトムラ君の友達だよ。トゥース君とコンプレックスさんは上司でいいのかな?

 

まあ、トムラ君の大切な仲間ってことだね。

 

 



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第34話

㌻月Ζ日

 

そろそろ事務所もリフォーム時期かな?この前から建物の半分ほど倒壊してるし、いっそのことマンションでも経営しようかな。

 

うん、そうしよう。

 

とりあえず、死穢八斎會の面々が暴れても問題ない敷地を持つ四階建てマンションを購入しておくとしよう。まあ、それより先に済ませないといけない仕事を思い出した。最近、多発している変態野郎の捜索と駆除である。

 

うら若き乙女を狙っており、裏路地や公然にて裸体を見せ付ける変態とのことだ。

 

ゆっくりと周囲を警戒しながら歩いているとブランコを漕いでいる英国紳士風の男性を撮影する小柄な体躯と赤い髪の毛が特徴的な女の子を見掛けた。

 

撮影スタッフと役者さんかな?

 

おお、すんごい回転だな。あんな不安定な立ち漕ぎなのにブランコを高速回転させるのは難しいと思うんだけど。しかし、どこかで見たような気がするのは何故だろうか?

 

㌻月§日

 

変態野郎をボコることは出来たけど。

 

変態野郎は「なんちゃら軍団に栄光在れとか」叫んでいたけど。こういう時こそホークの情報網を頼りたいのに四日ほど既読スルーなんだよね。

 

この前はエンデヴァーさんを撮影するために協力してくれたけど。そこまで接触を避けるのは酷いと思うんだよね。変態野郎のことは警察に任せるとして、民間人の中にも不自然な動きをするヤツが増える。

 

なにより私達(ヒーロー)を見る目が観察というより監視みたいな感じに変わっている。こういうギスギスした雰囲気は嫌いなんだよね。

 

なんて考えていると地面を突き破り、脳みそ剥き出しのマッチョが出てきた。たしか「USJ」にも似たようなヤツがいたな。名前は、えと、ノウナシだっけ?

 

あの時はハイパームテキを使ったけど。今は物理攻撃無効化するアイテムとか持ってないんだよ。

 

うん、まあ、生き物なら殴れば倒れるな。

 

㌻月;日

 

昨日、脳みそ剥き出しマッチョの怪人ことノウナシをボコり倒したけど。なにやら言語を話すノウナシが居たような気がする。

 

まあ、襲撃してきたノウナシは地面にめり込ませたから喋る暇とか無かったと思うんだけど。

 

おおよそ考えられるのは都市崩壊を目論んでいるアホみたいなヤツの命令を受けたか、それとも自我を持つノウナシの独断による襲撃だったのか。

 

まあ、前者なのは間違いないんだろうけど。

 

エンデヴァーさん達のところにもノウナシが襲撃してきたと聞かされた時は複数箇所を狙う理由を考えた。その結果と言えるのは「実験」だった。

 

製造者の考えていることは「今現在、ノウナシを対処することが出来るのはエンデヴァーさんやホークのようなトップヒーローだけなのか?」という一種の不安要素の摘出だと推定することが出来る。

 

今回の複数箇所を狙った襲撃は組織として活動しているヴィランだけにしか出来ない芸当でもある。

 

いっそのことトムラ君に聞いてみようかな?

 

 



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第35話

⌒月⊂日

 

勤務中ゆえに特売日を逃すことが多かったけど。治崎さん達、死穢八斎會の面々の面倒を見ることが増えたことによって御一人様限定食品を大量購入することが出来るようになった。

 

まあ、そろそろリフォームしないと部屋数が足りなくなりそうなんだけどね。私はエリと一緒に寝てるけど、ラッパー君やカメックス君みたいに並外れた体躯の持ち主には我が家は狭すぎる。

 

簡単に言ってしまえばセメントスジーニストの協力を得て、四階建てマンションを建築することが出来た。

 

デザインや設備関係はジーニストとパワーローダーが担当してくれたおかげで素晴らしい出来映えであり、正直に言えばマンションじゃなくて豪邸みたいな雰囲気だった。

 

隣接していた空き家を同時購入したため、貯蓄していたお金は二割ほど無くなった。

 

ガックリと肩を落としながら大きく広くなった我が家を見上げる死穢八斎會の面々とエリの呆然とした表情を見れたのは面白かった。

 

⌒月ヰ日

 

なにやら白昼堂々と銀行強盗を行おうとしていたヴィランを見付けた。

 

ヴィランの指先から放たれた水弾を払い落としながら撮影しようとしている一般人を庇おうとした瞬間、金属バットやマンホールを構えた一般人が襲い掛かってきた。

 

いきなり、集団リンチとかビビる。

 

まあ、そんなことよりアレは銀行強盗の仲間で良いんだよな?個性を無許可で使ってくるヤツもいる訳だし、手加減しなくていいよな?

 

筋肉繊維を活性化させ、外側だけは最強の戦士に見える「バンプアップ」こと「ゴンさんモード」を発動する。

 

こういう数の暴力は強そうな相手を前にすると「誰を先陣として向かわせるか」という仲間で生け贄を選ぶ行為へと早変わりする。

 

この「ゴンさんモード」は他者だろうと強制的に使わせることは出来る反面、三日ほど筋肉痛で動けなくなるデメリットが存在する。

 

⌒月≒日

 

とりあえず、個性を使ってきた人達はボコり倒してから警察に任せたけど。あのヘンテコなポーズを構えていたキモいヤツは逃したが、次こそ反省するまでボコる。

 

トマトを除菌しようとする治崎さんの手を掴んで止め、トマトのお尻を十字に切ってから沸騰している鍋の中へ熱湯が跳ねないように投入する。

 

直ぐ様、私の後ろでキノコにも除菌剤を吹き掛けようとする治崎さんをキッチンから追い出す。炊き込みご飯なのに、除菌剤の味しかしないのはダメです。

 

なにより子供の身体を労いましょう。

 

私だって考えた上で治崎さんに完全除菌した食材を取り寄せていますからね?

 

まあ、料理の腕前は安心してください。

 

そう伝えると「分かった、あとは任せる」とダイニングへ行ってしまった。ゆっくりと呼吸を整えようとした瞬間、ダイニングから怒鳴り声とお酒の臭いが漂ってきた。

 

はあ、エリが真似したらどうするんですか。

 

 



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第36話(死柄木??)

弔の精神的成長を補助するため、メディア出演の多い「スピキュール」との接触を許可した。弔から「オールマイトを殺すために用意した"脳無"をスピキュールが打ち負かした」と聞かされた時は驚いたが、さまざまな個性を奪い取ってきたこの僕だからこそ理解った。

 

彼女の持つ筋肉繊維は常人の数百倍、全盛期のオールマイトと対等に渡り合えるほど優れていた。

 

彼女の持つ個性「活性」は成長する速度を増強させ、治癒力を引き伸ばすことが出来る反面、必ずある上限を越えると自己破壊を始めるモノだった。

 

彼女は無限とも言えるほど成長し続ける身体と平凡な精神や感覚を肉体と結合させるため、十数年と費やしたのだろう。

 

僕もあの個性を欲しいと思ったが、オールマイトに刻み込まれた傷を癒してもらった。

 

こういうのを「やはり」というべきか。強化ガラス越しに見えた宿敵の痩せ細った姿には驚いたが、僕を殺そうとしたことに比べればマシなモノだ。

 

「オール・フォー・ワン、死柄木弔の居場所を教えるつもりはないんだな?」

 

「くどいね、オールマイト。弔は自分の道を歩こうとしているんだ。今更、口出しするなんて大人気ない」

 

この言葉に対して怒るか?

 

そんなことを考えていると「今更なんてことはない」と言葉を返され、オールマイトの腰元には風車のようなモノが内蔵されたベルトが巻かれていた。

 

ああ、そうだったね。オールマイト、君には託せる「後継者」が残っている。僕には紡げる「次の僕」が現れてくれた。

 

きっと僕達の戦いは終わろうとも新しい僕達の戦いは続いていくんだろうね。英雄譚として、喜劇として、悲劇として、そんな下らないモノへと落とされていく―――。

 

君のことを宿敵と思えたことは有意義な時間だったと思えるが、僕の望んできた理想郷を潰したことは赦すことは出来ない。

 

ゆっくり、ゆっくりと閉じていく視界の端に映り込んできた彼の背中を瞼の裏側に刻みつける。死柄木弔、僕の義息子は「ワン・フォー・オールの後継者」に勝てるだろうか?

 

そんなことを思いつつ、部屋を出ていこうとするオールマイトへ向かって言葉を投げ付ける。

 

「オールマイト、弔は強いよ」

 

「オール・フォー・ワン、緑谷少年は強いぞ」

 

どうやら考えていたことは同じだったらしい。拘束具を壊そうと思えば壊せるが、弔達ならば僕やオールマイトの戦ってきた歴史など埋もれるほど想像を絶する世界を作ってくれる。

 

それまで君を見守るのも悪くない。

 

弔、しっかりと学んでいきなさい。

 

 



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第37話

∋月√日

 

今朝、いきなりオールマイトから緑谷君の強化訓練を行って欲しいと頼まれた。食卓を囲んでいる死穢八斎會の面々に顔を向けると「行っていい」というジェスチャーを返してくれたため、オールマイトの頼みを承諾することができた。

 

一応、エリは連れていくけど。

 

緑谷君の個性「超怪力」を引き伸ばすトレーニングを考えないとダメだよね。なにかヒントを得られるモノはないかな?そんなことを考えつつ、私的趣味の本棚を漁っていると「範馬刃牙」を見付けた。

 

私の知っている漫画やアニメの中では超常的な人物の登場する他の追随を赦さない作品だと思っているが、緑谷君へのトレーニング内容を決めるには打ってつけかもしれないな。

 

考え付いたトレーニング内容に思わずクスリと笑みが溢れてしまう。ああ、早く試したいな。どんな表情を浮かべながら食らい付いてくるのかな?

 

おっと、私はヒーローだった。

 

趣味の範囲を越えるのはダメだぞ。

 

∋月%日

 

緑谷君、いい調子だ。

 

そのままどろどろに溶けるイメージを続けるんだ。なに、心配する必要なんてない。しっかりとイメージすれば見ることは出来るはずだ。

 

君の個性「超怪力」は白味噌として、肉体を沸騰している鍋の中とする。それを適量で溶かし混ぜる感覚を覚えればいい。もしかして、主婦みたいな説明だと分かりにくいかな?

 

ん?おお、なんとなく分かってくれたんだね。それは良かったんだけど。その感覚を忘れないうちに百人抜きを行おうと思います。

 

心配しなくても大丈夫だよ、相手はナノマシンでコーティングされた人形だからね。もちろん、強さはオールマイトの要望通りになった「戦闘特化型」だから安心しなさい。

 

ははっ、何処へ行こうというのかね?

 

しっかりと鍛えるよ、君のことは立派な地下格闘技場の王者として育て上げるつもりだ。

 

∋月Ζ日

 

自分を限界まで追い込めんでいけ、感覚と肉体の0.5秒という時差を抹消するんだ。そう、そのまま身体を捻るように蹴りを放てば全体重を乗せた一撃必蹴となる。

 

ん?おお、常人のモノとは比べ物にならないほど凄まじい風圧だな。どことなくオールマイトの拳圧に似ているような気がするが、緑谷君の蹴圧はオールマイトとは違っている。

 

強烈な一撃なのは変わらないが、緑谷君の場合はタイミングやパワーバランスが悪すぎる。相手の急所を狙うことだって大切なことであり、使えるモノは小石でも空き缶でも折れた歯だろうと使うんだ。

 

それこそ一般人の持っているカバンやネックレスだって使おうと思えば武器となり防具となる。君には相手の動きを予測する動体視力と膨大な知識だってあるじゃないか。

 

なにより自分の個性を使いこなせないことは大人でも聞く話だ。そこまで怯える必要はない。それに緑谷君はオールマイトのお墨付きなんだろ?

 

そこまで怖がることはない。

 

胸を張って前を向けばいい。

 

 



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第38話

ヮ月‡日

 

緑谷君、これそこ我が家の地下施設「究極肉体改造室」だ。この箱詰め部屋(スクウェア・ボックス)には物資等は持ち込み厳禁であり、肉体と精神の解離する瞬間を味わうには打ってつけだよ。

 

まあ、議論するより実物を見せた方がいいよね?私と君の目の前にはなにが立っているのか、ソレを視覚化することが第一段階と言える。

 

形状(すがた)造形(つく)り―――。

 

強度(つよさ)測定(はか)り―――。

 

本能(おのれ)強制(しい)る―――。

 

架空の人物と闘争(たたか)おうとする人間なんて数えようとするだけ無駄な行為であるが、その殆んどが限界まで架空の人物と闘争いを再現することをない。

 

ほら、見えてきたでしょう?

 

君の尊敬する偉大な英雄の御登場だ。

 

しっかりと見ておきなさい。

 

ヮ月,日

 

緑谷君、ずいぶんと張り切ってるみたいだけど。あの調子だと夜まで持たないかな?

 

具現化した架空の人物の攻撃を受けた衝撃すら再現してこそリアルシャドーは完全なモノへと至り、そのイメージから蓄積させた行動パターンを現実の人物と重ね合わせる。

 

あのまま自分の技を叩き込める相手に無我夢中って感じだと「虚」と「実」は重ならない。しっかりと現実を思い浮かべなさい。幼馴染みの技を受け、友達の技を受け、戦ってきた強敵の技を受けることができる。

 

まさしく至れり尽くせりだ。

 

過去の英雄を造形り、自身を追い込まないと君の望んでいる「最高のヒーロー」に辿り着くことは出来ない。ほら、君の渇望んだ英雄の攻撃を受けてみなさい。その攻撃は現実より弱ければ自分を限界まで追い込めていない証拠だからさ。

 

ヒーローだって人間なんだ。

 

それこそ恐怖を克服しようと頑張っている人もいる。その人へ自分の思い描いた理想を押し付け、偶像として信仰することは傲慢な行為だと思うよね。

 

ヮ月^日

 

あらあら、まあまあ、箱詰め部屋を浸水させるほど汗をかくとは思わなかったわ。脱水症状って訳じゃあなさそうだけど。今日の訓練はエンドルフィンを自覚して使用することを目標としましょうか。

 

私の場合は学生時代から「瞬き」で発動するように訓練してきたけど。相澤の個性と相性良かったせいか、そのまま使われてるんだよね。

 

ん?まあ、緑谷君なら「笑顔」を発動条件として鍛えれば良いんじゃないかな?なにより緑谷君はオールマイトを尊敬してるんでしょう?

 

それならオールマイトを見倣えばいい。

 

いつだってヒーローって奴等は笑顔じゃないとね。相澤なんてメディア出演を嫌いつつ、マイナーファンを大切にしてるからね。この前のテレビ出演を切っ掛けに女性ファンが急上昇中らしいからね。

 

ん?おお、そろそろエリや治崎さん達のご飯を作らないとダメなんだ。

 

あ、緑谷君も食べていく?

 

 



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第39話

∀月⌒日

 

最近、ホークから「結婚おめでとうございます」という手紙と安産祈願の御守りを貰った。この前なんてエンデヴァーさんに「強い子を産め」と言われたけど。セクハラ発言だと奥さんに叩かれていた。

 

もしや、私は知らない間に誰かと結婚していたのだろうか?そんなことを考えないと「今日は遅かったな」と治崎さんが玄関先で待っていた。成る程、治崎さん達を養っている光景を見られたのか。

 

そうなると旦那は誰になるんだ?治崎さん以外と夫婦になるのはイヤだしな。

 

んんっ、変な妄想を広げるのは後回しにしよう。それより噂を断つ方法を考えないとダメよね。えへっ、私は治崎さんと新婚さんです。

 

あっ、危なかった。治崎さんとの楽しい新婚生活を想像したら妄想が止まらなくなりそうだった。よし、とりあえず治崎さんを旦那様として生活しよう。

 

ふふん、噂なんて覆すほどラブラブな光景を拝ませてやりましょう。

 

∀月%日

 

今日はエリの入園式を控えているのに、治崎さんが居なくなった。さっきは玄関から「しがっ」という驚いたような声が聴こえてきたけど。誰もいなかったし、治崎さん以外の人と行きたくないな。

 

まあ、仕方ないよね。エリ、今日の入園式は私と二人っきりみたいだけど。頑張ろうね、治崎さんが帰ってきたら一緒に怒ってやろう。大事な一人娘の入園式をほっぽりだすなんて赦せない。

 

ん?おお、ずいぶんとカッチリした格好してるけど。えっ、治崎さんの代わりに入園式をサポートしてくれるの?いや、それだと玄野君に悪いじゃない。

 

まあ、手伝ってくれるのは嬉しいけど。こういうのは「お父さん」じゃないとダメなんだよ?

 

ちょっと爆笑するところなんて一つも無かったと思うんだけど。はあ、考えても仕方ないわね。治崎さんが帰ってきたら撤退してよ?

 

そりゃあ、治崎さんのことは好きだけど。エリのためとかじゃないわよ?私を含めて皆が幸せになればいい。

 

∀月|日

 

治崎さん、夕飯は出来てますけど。

 

なんで昨日は帰ってこなかったか、その理由を教えてもらえると怒る内容を変えます。成る程、治崎さん玄関で「トムラ君の知り合いの個性を受けた」と言うんですね。

 

まったく、それならそうと連絡してくれないと心配するじゃないですか。昨日だってキモダサ前髪が治崎さんの代わりに入園式をサポートしてくれたから良かったですけど。

 

今後、そういう事態に巻き込まれちゃダメですからね?私と約束してくれないと夕飯は無しです。あ、ちょっ、まだ話を続けたいんですけど。

 

治崎さん?治崎さーん?無視するのはダメだと思いますよ?それより内ポケットの膨らみはなんですか?

 

むう、たしかに個性を使用すると逮捕されちゃいますね。そうですね、死穢八斎會の人達にも個性を使わずに防衛することが出来るようにアイテムを貸しましょう。

 

ふふっ、治崎さんがSCLASH-JELLY(スクラッシュゼリー)を持ってたんですね。そうなるとSCLASH-DRIVER(スクラッシュドライバー)も持ってるんですよね?一応、スクラッシュゼリーは試作段階のモノなんです。

 

あんまり無茶しないでくださいね?

 

 



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第40話(治崎廻)

スピキュールのイラストを後書きに記載しています。今回は「うつぶせメーカー」というモノを使用しました。


壊理の入園式へ向かうため、玄関の扉を開けると敵連合黒霧死柄木が待ち構えていた。応戦しようとしたが、黒霧は不完全状態の個性の力をの増強させる薬を投薬しているのか。

 

同盟関係の時に見せられた「ワープゲート」とは比べ物にならないほど、巨大な空洞を作り出してきた。そして、気付けば彼女と恋人関係となった場所でもある死穢八斎會の陥没した地下に吹き飛ばされるように出され、壊理を抱き締めるルミリオンと緑谷出久が「俺自身」を追い詰めていた。

 

「治崎が二人にっ!?」

 

ルミリオンは「俺」ともう一人の「俺」を見て唖然とした声で叫んでいるが、片方は偽物という考えは捨てた方が良さそうだな。おおよそ考え付くのは強化された「ワープゲート」の変異により、限り無く近くて遠い並行世界へ飛ばされたと仮定することが出来る。

 

「お前、トゥワイスの個性かっ!!」

 

もう一人の「俺」は、そんなことを叫んでいるが、今度の俺は壊理を守るために戦おう。それが彼女との約束であり、これから死穢八斎會を再建するまで背負うべき使命だからだ。だが、それよりも壊理の服装が気になって仕方ない。

 

おれは毎日のように肌の露出は控えるように言い聞かせているんだがな。俺の服だと大きいかもしれないが、無いよりマシだろう。

 

「壊理、"お父さん"が守ってやる。ミリオ君といっしょに下がっていなさい」

 

壊理を安心させるために、そう言い聞かせながらダウンジャケットを羽織らせる。やはり、もう一人の「俺」とヒーロー達は困惑したような表情を浮かべているな。

 

似合わない行為だと分かっているが、俺は壊理に対して人並みには愛情を注いでいるつもりだ。

 

そんなことを思いながら彼女の作っていたアイテムを取り出し、ヘソの辺りに押し当てる。ナノマシン技術の発展に伴って強さを増していく彼女のアイテムには驚くことしか出来ないな。

 

腰で固定されたドライバーの感触を確かめつつ、ズボンの右ポケットからパウチ容器を取り出してノズルを親指だけで捻り、ドライバーの溝へ挿入する。

 

ROBOT-JELLY(ロボットジェリイィ)!!!』

 

ドライバーの右側に搭載されたレンチを手のひらで限界まで押し込んでいき、ゆっくりと手のひらを退けるとビーカーのようなモノとナノマシンを液状化したモノで全身を覆われる。

 

「変身」

 

やはり、こういうアイテムを使うときは彼女の言っていた言葉を当て嵌めるのがしっくりとするな。

 

CRUSHED(潰れる)!!OOZING(流れる)!!OVERFLOWING(溢れ出る)!!』

 

ROBOT-IN-GREASE(ロボット・イン・グリスゥ)!!』

 

BURRRAAAAAAAAH(ブウゥゥゥルアァァァァァァァ)!!』

 

成る程、彼女の言っていた試作段階の欠陥とはコレのことだな。内側からモノを壊そうとする衝動が溢れるように出てくる。この感覚には慣れるのは無理そうだが、俺自身を相手するには打ってつけだ。

 

「さっさと終わらせるぞ」

 

もう一人の「俺」へ向かって駆けていくと地面の断続的な復元を行いつつ、鋭利な槍となった地面が襲い掛かってくる。ああ、たしかにルミリオンが嫌そうな表情を浮かべる訳だ。

 

「なんだ、なんなんだ、なんなんだよぉ!!お前はあぁぁぁぁ!!」

 

もう一人の「俺」は癇癪を起こしたように叫んでおり、よく見れば「俺」の違うところは他者と合体しているところだが、強力な一撃を叩き込めば個性を解除されることは彼女のおかげで判明している。

 

俺へ向かって伸びてくる石柱の槍を殴り壊しながらドライバーのレンチを押し込み。飛び上がり様に蹴りの体勢へ身体の向きを固定する。

 

「壊理を泣かすヤツは俺が許さん!!!」

 

SCRAP-FINISH(スクラップフィニッシュ)!!』

 

両の肩に搭載されたパウチ容器から飛び散るコーヒーゼリーの推進力を利用しつつ、強烈な右の飛び蹴りを「俺」へ向かって叩き込んだ瞬間、ダメ押しの一撃として左足で顎を蹴りあげる。

 

「やはり、試作段階のモノを使うのは無理があるな。帰ったら改良したモノを頼むか…」

 

壊れたパウチ容器を眺めつつ、構えたまま止まっているルミリオン達の間を通り抜けながら死にかけているサー・ナイトアイを復元する。少しばかり潰れた臓器や飛び出ている肋骨はナノマシンが治療してくれるはずだ。

 

しかし、この世界の壊理は彼女と出会っていないのか?それともヒーローとして活動してないのか?

 

「あ、あの…」

 

「なんだ、緑谷出久」

 

「オーバーホール、ですよね?」

 

「悪いな、今は治崎廻としか名乗っていない。なにより並行世界(仮)のヤツと同一人物と思われたくない」

 

もう一人の「俺」を指差しつつ、苦笑いを浮かべている緑谷出久の後ろに隠れている壊理の目線を合わせるために座り、頭をワシャワシャと撫でる。

 

「壊理、よく頑張った。えらいぞ」

 

どうやら俺の住まう世界とは別の壊理を安心させるほど、俺は壊理と仲良くないらしい。ヒーロー達の増援を眺めつつ、壊理を膝の上に抱えるように座らせる。

 

「壊理、困った時はこの人を訪ねなさい」

 

先日、彼女や死穢八斎會の直属の部下と過ごした花見会の写真を見せる。おっと、彼女の寝顔は極秘なモノなんだ。

 

おい、そんな目を向けるな。

 

 





【挿絵表示】

「起きてくれ、コレを渡せないだろ…」


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第41話

‡月;日

 

ヒーロー科の生徒達には、ゆっくりと流動する水のように身体を動かし、危機察知能力を強化しながら個性を無意識でも発動することを前提とした流水演舞を行わせている。

 

この「流水演舞」本来の名称は流水制空圏なのだが、爆豪君を筆頭とした衝動の性質を持つ人でも扱えるように改良してある。

 

欠点といえるのは「精神統一」を行うため、雑念を抱けば抑えていた疲労感が津波のように押し寄せてくるところだけ、私は最初から使えてたから問題ないけど。

 

素人が見ても切島君と鉄哲君は苦しそうだと分かるし、あのまま続けると倒れる可能性だってある。

 

そのため、二人には二重の極み龍門の解放を伝授することにした。

 

上鳴君や物間君は「ずるい」だの「贔屓」だの言っていたが、セメントスの作り出したセメント山を「二重の極み」で壊せば黙ってくれた。

 

うん、分かり合えてよかった。

 

‡月⌒日

 

治崎さん、結婚式場のカタログを見るのは良いですけど。そろそろ仕事を探さないとダメですよ?

 

えっ、アイテム作成を行う会社ですか?たしかに治崎さんほどの人であれば会社経営なんて楽々ですね。成る程、社員は死穢八斎會の人を雇うんだ。

 

それじゃあ、私は資金を提供するスポンサーとして応援していきます。ん?おお、会社を建てる前に子供用移動補助機を作ったんですね。

 

コレって「エア・ギア」なのでは?

 

まあ、子供達の間では流行りますね。キャッチコピーは「インゲニウムより速さを目指せ」とかですかね?

 

それじゃあ、試してみましょうか。んっ、ちょっとだけ大きめですけど。なんとか履けますよ、それでは行ってきます。

 

なんと言えば良いのか、自転車より速いのに安定して進んでいける感じだった。とりあえず、これは使えるということが判明しました。

 

‡月Ζ日

 

今日は死穢八斎會改め「S.H.C.C.」の門出のため、豪勢な料理を用意してみた。品種改良を重ねてきた宝石の肉をメインとした焼き肉である。やはりベジタブルスカイを作るのは難しかった。

 

ちなみに「S.H.C.C.」の意味は「死穢八斎會ヒーローアイテムコーポレーション」の略称らしい。もっとマトモな名前は無かったのだろうか?

 

まあ、あの「エア・ギア」じゃなくて「エア・ウォーカー」の売れ行きは初日なのに凄まじいと聞き、インゲニウムは人気なんだと再確認することができた。

 

治崎さんからエリ専用「エア・ウォーカー」を貰ったのだが、蜥蜴の壁や天井に張り付く能力をナノマシンで再現しているため、転けたりすることはないらしい。

 

うん、過保護なのは良いことだ。

 

なによりエリには怪我してほしくないし、怪我するような行動は控えてほしい。そういうことなんだ、天井から降りてきてくれないか?

 

頭に血が上っちゃうぞ。

 

ああ、そのまま壁を滑って降りてくるのよ。

 

はは、何処へ行こうというのかね。

 

 



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第42話

スピキュールのイラストを後書きに記載しています。


⊂月⊥日

 

治崎さん、そろそろ「スピキュール」呼びを止めてもらえると嬉しいんですけど。えっ、いや、私は「治崎さん」以外だと恥ずかしいので……。

 

分かりました、分かりましたよ。名前で呼べば良いんですよね。い、良いですか?本当に呼んじゃいますからね。

 

か、廻さん……。あ、だめです。すんごい恥ずかしいです。顔見ないで。んんっ、そんな嬉しそうな顔しないでください。ま、まあ、とりあえず名前呼びにするのは頑張っていきましょうね。

 

えっ、そりゃあ、人並みには結婚願望はありますけど。まだ、付き合ってから一ヶ月も経ってませんよ?べつに嫌な訳じゃないですけど。

 

そういう、大事なことを簡単に決めても良いのかな?私なりに考えたりしてるんですよ?

 

えと、指輪の話ですよね。この前、貰ったモノは着けてますけど。他には必要ないですよ?治崎さんじゃなくて、はじめて廻さんに貰ったモノですからね。

 

⊂月^日

 

オールマイトじゃないですか。えっ、いきなり、結婚式場は予約したから行こうかと言われても「はい」とは頷けませんよ?

 

おい、ホーク、この野郎……。

 

インターン時代の仕返しとかだったら赦さないからな?まあ、それなりに気を使ってくれるのは嬉しいけど。私は、こういう物事は歩幅を揃えて行くものだと思ってたんです。

 

予約したモノを断るのはダメですよね。

 

廻さん、そういう訳なんですけど。

 

廻さん、後ろにいるイカ野郎の前髪を千切る許可をもらえると嬉しいです。いや、だって、ソイツの持ってるカンペに「ヘタレ女、早く結婚しろよ」って書いてあるんですけど。

 

えっ、このまま行くんですか?

 

私は数日後とかだと思ってたんですけど。ホークが用意周到なのは分かった、それより何処の式場なんですか?

 

成る程、廻さんのお父さんも加担しているんですね。会ったときにはお話ししないとダメそうですね。まあ、ウエディングより白無垢なのは貴重な体験ですね。

 

⊂月#日

 

どうしよう、緊張してきた。

 

こういう時の対処法なんてアニメ知識じゃあ得られないんだよね。どうしようか、素数を考えれば良いのかな?それだとプッチ神父になっちゃう。

 

とりあえず、エリを抱っこしてよう。

 

廻さん、和装とか似合うんだろうな。うん、まあ、今後は自発的にコスプレしてもらうとしよう。あ、時間までコスプレの考えれば良いのか。

 

そうだな、姫様を題材としたコスプレをエリでするのは素敵なことなんだろうな。よし、結婚式を終えたらエリを素敵なお姫様に改造しよう。

 

えっ、もう、準備を始めるんですか。

 

あ、ちょ、もう少しだけ冷静さを保てるようにさせてください。ああ、ヘンテコな髪型のヤツが廻さんの親族席に座ろうとしている。

 

えへっ、和装でも格好いいですね。

 

そうですね、頑張ろうと思います。あ、トムラ君達も来てくれたんだね。ヒーロー、ヴィラン、総出で祝われるのは照れ臭いけど。

 

えへへっ、仲良しなのは良いことですね。

 

廻さん、幸せになりましょうね。

 

「わたし、活海日暈(かつみひざさ)は結婚します!!」

 

そう言えば本名を大声で言うのは初めてだったということを思い出した。そりゃあ、メディア出演は多かったけど。本名で呼ばれるのは恥ずかしくて隠してたけど。

 

今後は治崎日暈だからね、恥ずかしくてないね。

 

 





【挿絵表示】

「えへへっ、これは嬉し泣きです」


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