異世界現地調査 (赤地鎌)
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派遣される者

彼は恒星間代理戦争を終えて帰還。


 暗い空間に足音が響く。そして…

「敬礼」

と、彼が右手を上げて額に置き、敬礼をする。

 

 彼の目の前に、光の柱が灯り、その光の柱の中に人影が映る。

 光の柱の人影が

「ネオデウス1982号305番。任務ご苦労であった。汝の活躍によって、α23星座の戦闘活動が収束した」

 

 別の光の柱の人影が

「さすが…恒星間戦術兵器だ」

 

 彼は直立まま堅い表情で

「いえ、それが自分の任務ですから」

 

 光の柱の人影は、人では無い。

 彼の世界を支えるシステムの根幹、管理維持システムの人工知能中枢、人工知性体である。

 

 彼の世界、西暦2120年の人類は、宇宙まで覇権を広げ、他惑星の文明と接触。

 地球のある天の川銀河で、多宇宙民族連合国家を構築していた。

 彼は、その多宇宙民族連合国家で、恒星間戦術兵器の一つ、ネオデウスとなった人物だ。

 彼、個人の戦闘能力は、惑星を壊滅させる程の力と能力を秘めている。

 それは彼と合一したネオデウスという究極の超兵器によってだ。

 

 彼は人という生命でありながら、惑星を破壊する超兵器なのだ。

 

 管理人工知性体達が

「さて、君の次の任務だが…」

 

 彼、ネオデウス1982号305番は

「次の戦場ですか? それとも他銀河の侵攻からの防衛でしょうか?」

 

 管理人工知性体が

「いいや、君には現地調査の任を命する」

 

 1982号305番は、訝しい顔をして

「お言葉ですが…。現在、他銀河達からの侵攻が…」

 

 管理人工知性体は

「その心配はない。とある事で手を打った。この銀河周辺の他銀河からの侵攻はない。いや、その危険性が皆無に等しくなった」

 

 1982号305番は鋭い顔をして

「もし、問題がないでしたら…その理由をお聞かせください」

 

 管理人工知性体の一人が

「これが理由だ」

と、1982号305番に立体画面を見せる。

 

 それに映っているのは白銀に輝く翼を持った装甲の巨人だ。

 

 1982号305番が

「これは? 新型の兵器ですか?」

 

 管理人工知性体が

「これは、数ヶ月前、天の川銀河のテラ(地球)の地中、コアに近い部分で見つかったモノだ」

 

 1982号305番は

「これがどのようにして他銀河からの侵攻を防ぐ理由になるのですか?」

 

 管理人工知性体が

「我々は、これをオメガデウスと呼称して、研究を続けた結果、我々が存在する宇宙より遙か高次元と通じるシステムを判明した」

 

 1982号305番は眉間を寄せて

「つまり…このオメガデウスと呼称される存在によって、我々は高次元へのアクセスを確立したと…」

 

 管理人工知性体達は頷き

「そうだ。高次元へのアクセスによって、より簡単に数十億光年単位の転移移動、そして、高次元からの膨大なエネルギーへのアクセス。その恩恵を分配する代わりに、周辺の銀河系達との連合を構築した」

 

 1982号305番は鋭い顔をして

「では、その周辺の銀河系達の現地調査というスパイ活動を」

 

「いや、違う」と管理人工知性体は否定して

「君には、このオメガデウスの持っている高次元へのアクセスを利用した別の時空への現地調査をして貰う」

 

 1982号305番は

「時空を超えた新たな活動範囲の模索…と」

 

 管理人工知性体は

「建前はね」

 

 1982号305番が「本質は?」と

 

 管理人工知性体が

「ナチュラル派が、男性権利復権を画策しているのは理解しているね」

 

 1982号305番は暫し呆れたような顔で

「ええ…まあ、過去を理想にしている。愚かな回顧主義と」

 

 この世界、この時空、容易に宇宙へ広がる文明と科学、技術を持っている者達…天の川銀河系の多宇宙民族連合国家は、現在、二つの思想派閥に分かれている。

 

 システム派という技術と理論のシステムを重んじる理性と知性の派閥

 

 ナチュラル派とされる人として生きるべきという感性と感情の派閥

 

 この時空の多宇宙民族連合国家の男女比は、3:7。

 女性が多い世界なのだ。

 宇宙まで広がれる技術の発達は、男女差を無くして平等なシステム社会を構築した。

 だからこそ、今まであった男女の価値観が不要となり、結婚というシステムが不必要となり、男女は自由に結ばれたり離れたりするようになった。

 子供に関しては、どんな事、シングルでもダブルでも、十分に育てられる程の社会保障と支援が約束され、それによって劇的に虐待や犯罪が減り、充実した社会保障が享受できる世界になっている。

 

 そして、システム派は割合が少ない男性が多く、ナチュラル派は割合が多い女性が主だ。

 

 

 1982号305番が

「それが、どう…関連しているのですか?」

 

 管理人工知性体が

「ナチュラル派が、この別時空への観測を持って、男性の復権に関する後押しにしたらしい」

 別の管理人工知性体が

「オメガデウスの時空移動システム、マルチバーストコネクトは、別時空の様子を観測する事が可能だ。その別時空の一つ、多種多様な種族が共存する惑星がある社会文明レベルがテラ(地球)でいう西暦1300年の別世界の観測でナチュラル派が、それを元に男女比をお互いに50%にして、真の男女平等をするべきと、動いている」

 

 1982号305番は冷静に

「はぁ…で、それが何の支障に?」

 

 管理人工知性体が

「男女比が半々になっても問題はないだろう。だが…ナチュラル派は、男女比率が同じになった場合、全ての男女は婚姻、つまり…必ず番いになるべきだと…そのルールの準備をしている」

 

 1982号305番はフンと鼻を呆れで鳴らし

「婚姻の復活は良いでしょう。ですが…全ての男女が必ず婚姻するべきとは…愚かな独裁者の考えと進言します」

 

 管理人工知性体が

「君の言う通りだ。男女が半々になるのは別に問題ない。だが、それによって男女が必ず結ばれるべきとは、些か理論として破綻している。男女の結び付きは、互いが平等であり互いが選択できる自由があるからこそ、意味がある」

 

 別の管理人工知性体が

「男女が結ばれる事を良しする理論があるなら、男女は結ばれる必要が無いという相反する理論があってこそ、理論とは成り立つ。始めからこれだけしかないというのは、理論ではなく暴威だ」

 

 管理人工知性体が

「とは言いつつも、ナチュラル派の言い分も無視は出来ない。よって…観測ではなく、派遣による現地調査を…それからもたらされるデータによって様々に問題定義しても遅くは無い」

 

 1982号305番が

「なるほど、理解しました。ナチュラル派の論理破綻の修正の為に現地での、実質が伴った調査を報告せよ…と」

 

 管理人工知性体が

「これは長期的な任務になる。おそらく数十年単位になるだろう。君には選択権がある」

 

 別の管理人工知性体が

「この任務を選択するか、しないか、決めて欲しい」

 

 1982号305番は視線を下げた次に上げ

「この場で…」

 

 管理人工知性体が

「時間が欲しいなら」

 

 1982号305番は

「いえ、この任務を受けます」

 

 管理人工知性体が

「君は、自暴自棄に」

 

 1982号305番が

「いいえ、戦闘任務にもうんざりしていた所です。のんびりと別の世界で、気楽にやれるのも悪くありません」

 

 管理人工知性体が

「よろしい。では一週間後に、出発となる。その間、休養を取りたまえ」

 

 1982号305番は敬礼して

「了解しました」

 

 こうして1982号305番の彼は、別世界への現地調査を任命された。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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帰宅

彼は自宅へ戻り…


 1982号305番は、自宅へ帰宅した。

 天の川銀河の東にある開発された惑星、その人工島都市にある自宅で、一人…玄関を潜る。

 自動ドアの玄関が開くと

「おかえりなさいませ」

と、自宅を管理しているAIメイドが姿を投影させる。

 

 1982号305番は、ふぅ…と溜息を漏らし

「ただいま。何か…問題は?」

と、1982号305番は入り、靴から自宅内スリッパへ履き替える。

 靴は自動で収納、部屋の全域の天上に間接照明が投影され明るくなる。

 帰宅時間は夜だ。日が出ている間は、天上が空の風景になる。

 時間と共に天上の風景が変わり、夜になれば間接照明になる。

 完全に管理された住宅。

 

 1982号305番は、ソファーに座ると自動で、楽な体勢へスライドする。

 そこへ反重力式お盆ロボットが来て飲み物の缶を乗せて来る。

 1982号305番は受け取り、喉を潤していると、AIメイドが

「二週間の出張中に、連絡が来ています」

 

 1982号305番は眉間を寄せて

「仕事の連絡ではないのだろう?」

 

 AIメイドが

「はい。仕事に関する連絡は、優先的にマスターへ送信しています」

 

「誰だ?」と1982号305番が訝しい顔をする。

 

 AIメイドが

「全てにおいて共通している送信者です。アリア・スタインウェイ様です」

 

 1982号305番は呆れた顔をする。

 今更、何の用なのだろうか? 

 分かれた元妻だった女だ。

 アリアは十年弱もの間1982号305番と夫婦を続けていた。

 無論、子供もいた。

 夫婦となった年に子供も授かり娘も生まれた。

 それが去年、崩壊した。

 

 子供が産まれた時から、元妻との間に距離は出来ていた。

 まあ、それは子供の集中したいからだと…思っていた。

 だが、違った。

 元妻は、自分との生活を続けて別の男性と繋がっていた。肉体的にも…。

 その男性とは、自分の同僚で友人だった。

 とあるDNA検査の必要性が出たので、家族のDNA、自分と元妻に娘のDNAを提出した。

 それによって、娘が自分の子供でないと判明した。

 そして、娘の父親は、同僚の友人だった。

 

 婚姻制度は崩壊して、男女は自由な結び付きでいられる。

 百年も昔のように夫婦となる入籍届なんてモノは存在しない。

 だが、夫婦という形式だけは、今でも残っている。形だけだが…。

 形だけだから…どこへお互いが一緒にいるのはムリだから、簡単に離れられる。

 子供の事は心配しなくていい。十分な社会保障が受けられる。

 そして、子供の多くは、母親の方へ行く。

 そこは、百年前も今も、変わらないようだ。

 

 1982号305番は、結局は…その程度の関係だった。

 愛にも限界はある。

 元妻の元から去った。

 その後、元妻は…養育責任の裁判を起こした。1982号305番に父親としての責務を真っ当して貰う為に。

 だが、裁判所は、養育責任は、DNAが一致する男にあるとして、1982号305番の養育責任は無しと判決した。

 

 それが決まって直ぐに、天の川銀河の外銀河での宇宙間戦争が勃発して、1982号305番は駆り出された。

 

 それから一年、お互いに連絡を取っていない。

 まあ、もう…終わった関係だ。

 意味はない。

 

 

 1982号305番は、ゆったりとしながら

「連絡の内容は?」

 

 AIメイドが

「その全てに、マスターと復縁したいと…。あと、お子様について、塞ぎがちになっていると。子供の為にも元に戻りたいと」

 

 フンと1982号305番は呆れた鼻息を出す。

 どうやって連絡先を手に入れたのだろう?

 ああ…あの元友人か。

 可能性として、帰宅した事をあの元友人から得て、来る可能性がある。

「メイドラン」とAIメイドの名を告げて

「今から、レンタル可能なキャンピングバスはあるか?」

 

 AIメイドが「少々、お待ちください」と検索して「20件ほど」

 

 1982号305番が

「では、直ぐにレンタルしてくれ。休暇の旅行に出る。後それと…ここを引き払う」

 

 AIメイドが

「畏まりました。では次の自宅の」

 

「必要ない。一週間後には、帰宅しない任務に入る。手配しなくていい」

 

 AIメイドが

「ここにある物品に関しては?」

 

「リサイクルしてくれ。後…そうだな…思い出の品は全て立体映像化してあるから、そのデータを私の体内ナノマシン端末へダウンロードして置いてくれ」

 

 AIメイドが

「畏まりました。あと、三十分ほどでレンタルしたキャンピングバスが到着しますので、準備を…」

 

 1982号305番は

「さて、この一週間、のんびりと見たい場所にでも旅行へ行こうか…」

 

 1982号305番は、自動運転で来たキャンピングバスに乗って休暇の旅行へ向かった。

 

 その数十分後に、一人の女性が来た。

 あの元妻アリアだった。

 彼女は、元夫がいたであろう1982号305番の自動玄関の前に来て、インターホンを押した。

 帰って来たのを、あの元友人から聞いていた。

 今度こそ、ちゃんと話し合って…と彼女は決意を胸にしていた。

 どんな事が言われるのだろうか?

 元夫の彼は、何も会話する事なく消えた。

 話し合う事さえ許してくれなかった。

 でも、今度こそ…。

 だが、彼女に待っていたのは、自動玄関に表示されるアウトダストという立体映像だった。

 そう、ここを出て行った表示だった。

 

 次に彼女が行ったのは、端末画面を開いて、立体映像端末から彼の端末へのコールだが、拒否された。

 そして、彼女は、あの元友人に連絡する。

「どういう事! どうして…居ないのよ!」

 

 あの元友人の男は、1982号305番と同じ天の川銀河恒星間戦略軍に所属しているから分かったのだが…。

「そんな筈は…確かに帰宅している筈だ…」

 

 彼女は

「ねぇ…協力してくれるって! 言ったわよね!」

と、ボロボロと涙を零していた。

 

 あの元友人は、管理課のデスクにいるので、そこから1982号305番の連絡先を検索、だが

「そんな…」

 1982号305番について検索できないようにロックが掛かっている。

 ロックの理由は、次の任務の為の身柄保安処置だと…。

 

 彼女は、1982号305番がいたであろう自宅の前の自動玄関で

「ごめなさい。本当にごめんなさい。私が全て悪いの。だから…」

と、泣き崩れている所を保安ドローンに発見されて、警察機構から、福祉機構へ保護された。

 

 1982号305番は、自動運転にしたキャンピングバスに揺られて、観光地の湖を目指していた。

 ゆったりと一人旅の満喫が嬉しかった。

 

 

朝、1982号305番は、観光地の湖でキャンピングバスをテントモードにして、餌もついてないロボット釣り糸を垂らして、ただ、時間だけが過ぎる贅沢を過ごしていると

「こんにちは…」

 

 外に出てテント椅子に座っている1982号305番の横に女性が来る。

 

 訝しい顔で女性を見る1982号305番は、次にああ…という少し皮肉な感じの顔で

「これはこれは、ナチュラル派筆頭のトップ様が何の用でしょうか?」

 

 二十代くらいの女性はナチュラル派を纏めるトップの一人で、ナチュラル派内部にも様々な派閥がある。システム派に近いナチュラル派と、それとは距離があるナチュラル派。

 

 彼女はシステム派と距離があるナチュラル派である。

 

「どうも…」と彼女は、1982号305番の隣に来ると、1982号305番は、テント椅子から立ち上がり

「まあ、お茶でも…」

 

「結構です」とナチュラル派筆頭の彼女は拒否して

「私は…話に来ただけです」

 

「ほう…」と1982号305番は頷き「どのような?」と…。

 

 彼女は

「貴方が派遣される別世界について、貴方の個人的な感情も報告に上げて欲しいのです」

 

 1982号305番は首を傾げて

「何故? そんな事に意味はないでしょう」

 

 彼女は少し呆れた視線で

「貴方の事は色々と調べています。一年前、十年も共に過ごしていた女性と別れ、今はシングルとして生きている。その女性との間に産まれた娘は、貴方の血を引いていなかった」

 

 1982号305番は頷き

「ええ…そうですが…」

 

 彼女は

「貴方は、血統を重んじる方なのですか?」

 

 1982号305番は

「いいえ」

 

 彼女は

「なら、どうして別れたのですか? そうでなければ、その女性との生活を続ける事は可能だったはずです。システム派は感情に左右されない。何かの害がなければ、例え、その女性が自分の子供を産まなかったとしても…共同生活の継続をなされるはず」

 

 1982号305番は

「システム派の全てが、感情がない訳ではありません。まあ、要するにショックを受けた。そして、共に生活する事に絶望を覚えた。それだけです。つまり、信頼が消えた。それ以上に、今後に信頼関係を構築するのが不可能だと判断した。それだけです」

 

 彼女は渋い目をして

「だからこそ、人工知性体達は貴方を選んだ。そして、恒星間戦術兵器ネオデウスとの融合を貴方に許可した。貴方は、自らの感情を冷静に分析できる。それはどんな状況になっても状況を冷静に分析して行動が出来るという事だ。まさにシステムである人工知性体が必要とする人材だ」

 

 1982号305番は

「私も昔は、こんな性質ではなかった。私はアウターヘブン世代です」

 

 彼女は苦痛な顔で

「過去にナチュラル派に、世界管理システムを預けたのが原因で、様々な不幸が」

 

 1982号305番は

「不幸? 地獄でしたよ。地獄の20年…私が社会に、教育を終えて社会へ出た時には、凄まじい現状でしたよ。自分の全てを否定され暴力を振るわれた経験はありますか?」

 

 彼女は苦痛に顔を歪める。

 

 1982号305番は皮肉に笑みながら

「私は、昔…上司という立場だけで、罵倒され暴力を受け、人格否定もされた。21世紀始めにあったロスジェネ世代の再来とされたのが、私達だ」

 

 彼女は黙ってしまう。

 

 1982号305番は

「ナチュラル派が目指した社会は、全てが感情、愚かな精神論や根性論で構築されたカルト宗教のような古代だった。そんな社会を貴方は欲していますか?」

 

 彼女は、視線を上げて

「いいえ、貴方達の…アウターヘブン世代の事を鑑みて、新たなナチュラル派を構築する。それが…今の私達の使命だと思っています」

 

 1982号305番は

「では、私は冷静な分析を上げます。その為に…」

 

 彼女の言いたい事は分かっている。1982号305番の方向が、何かの起爆剤になる可能性があるので、ナチュラル派にとって有利になる。個人の感情を報告に載せて欲しかった。その目論見は1982号305番の察しによって無駄になった。

 

 アウターヘブン世代。かつてナチュラル派が世界のシステムコントロールを担った時代があった。ナチュラル派は、活気づいたが…地獄が始まった。

 主観的な運営は、全てにひずみが発生し、それによる社会不安、孤立、貧困をもたらした。

 感情的で主観的な世界運営は、一族経営という最大汚点の歴史を復活させ、格差と差別に、撲滅したであろう貧困の復活、中世時代レベルの貴族と奴隷の社会を作り出した。

 

 そんな地獄になってもナチュラル派は間違いを認める所か、それが人の真理として人々に不幸を量産した。

 その最も被害を受けた、その時に社会に出た世代、後々に天国を追い出された世代、アウターヘブン世代と言われる世代に1982号305番がいた。

 宇宙まで発展した人類が、獣以下になった時代が15年も続き、ボロボロになった所で、再びシステム派に世界管理が戻った。

 ナチュラル派が作った、歪かつ暴力的な世界を戻す為に五年もの時間を必要とした。

 そして、1982号305番のように、同居、つまり夫婦となっていた男女が、次々と離婚、別れた世代でもある。

 生活が不安だった為に婚姻、共に暮らしていた人々が多かった。

 安定化した世界で、男性側が女性側と別れてシングルで暮らす事が増えた。

 

 人のありとあらゆる醜い本性を見たアウターヘブン世代の1982号305番。

 人の可能性に賭けたい若い世代のナチュラル派筆頭の彼女。

 

 二つの橋渡し不可能な世代が相対している。

 

 ナチュラル派筆頭の彼女が

「ナチュラル派の彼女達は…貴方にとっては地獄だった世界でも、幸せだったと言っています。今の方が苦しいと…そんな声を沢山も聞いています」

 

 システム派の1982号305番は

「男女平等こそ、真理だ。生殖的な事で確かに男女差はありますが。能力、思考、社会的な事で男女差はありません。もう少し大きな視点で物事を見ては?」

 

 ナチュラル派筆頭の彼女は

「人は、男女ともにあって初めて人と言える。お互いに欠けたモノを補い合って生きているのが人だ」

 

 システム派の1982号305番は

「人は自らの意思で生きている。貴女の言葉も正しいが、それは貴女の反対の言葉も正しい言う事実だ。一方向だけで全てを決めるのは、過去の時代にあった世界を滅ぼす大義名分という虚構だ」

 

 暫し、二人は睨み合ったが、彼女が背を向け

「ここで言い合って意味はありません。では…」

 

 1982号305番も背を向け休暇を続ける。

「では、さようなら。もう…会う事もないでしょう」

 

 テント椅子に座った1982号305番に、彼女は

「システム派の男性にとって、ナチュラル派の女性は強いと思っているでしょうが…。私達女性は、弱いからお互いに寄り添い合っている。お互いに理解し合おうと思っている。それだけは…理解して置いてください」

 

 1982号305番は黙っていた。

 

 説得に来たナチュラル派筆頭の彼女がいなくなり、1982号305番は、この世界での最後の休暇を過ごして終えた。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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出発

彼は出発する日を迎える。


 1982号305番は、出発の準備を始める。

 全身にナノマシンコーティングのダビングスーツを纏い、それに各機能を備えた機械装甲が装着される。

 その処置をされながら

「恒星間戦術兵器ネオデウスである自分には、必要とは思えないが…」

 その呟きに、人工知性体の立体画面が隣に出て

「もしもの為のモニター装備さ。1982号305番くんが派遣される別時空は、一応…我々と同じ物理作用が主のだが、それ以外の特別な法則作用が存在している。

 何度か、小型ロボットを派遣してサンプルを回収して、適合性を調査している。

 問題はないが…もしもという可能性は排除できない」

 

 1982号305番は、180センチの自分より少し大きくなった二メートル半の機械装甲に包まれた体を見て

「これでは、戦争に行くと同じだ」

 

 隣に浮かぶ人工知性体の立体映像が

「一応だよ。一応。何があるか、分からないからね」

 

 1982号305番は、出発のゲートへ向かって歩みを進めていると…

 銃口を構える音が背後から聞こえた。

 

 1982号305番が後ろを振り向くと、そこにこっちへ銃口、プラズマエネルギー弾頭を発射するハンドガンを構えた、あの友人がいた。

 

 1982号305番は、どこか呆れたような顔で

「何の用だ?」

 

 あの妻を寝取った元友人は、強力なハンドガンの銃口を震わせながら

「私は…彼女に約束した…。君を…彼女の元へ返すと…」

 

 1982号305番は冷静に思考して

「どうしてこんな事を?」

 バカな事をするなという煽りではない。理解を示しつつ分析に切り替えた。

 

 あの元友人は

「聞いてくれ。彼女との一件は、十年前のあの時だけだ。本当だ」

 

 1982号305番は知っている。

 調査して貰った。自分が任務に出ている時に、何度も接触して蜜月を過ごしている。その時の音声もバッチリ録画して貰っている。

 1982号305番は、その時の音声データを再生した。

 

「うああああああああ!」とあの元友人は、再生の立体画面をプラズマハンドガンで撃ち抜いたが、所詮は立体画面、無意味だった。

 

 痴的な音声が再生される中、1982号305番はあの元友人に近づき、元友人は震える両手にプラズマハンドガンの銃口が1982号305番の胸元の装甲に密着した。

 

 1982号305番は冷静に

「最初から彼女は、私を愛していなかった。愛にも限界はある。そういう事だ」

 

 元友人は

「違う! 本当に愛していたのはお前なんだ! だから…だから…」

と、叫んだ後にその場に座り沈んだ。

 

 1982号305番は、元友人の肩を叩き

「私は君を許すよ。彼女も許すよ。だから、君と彼女との間に出来た、君の血を引くあの子を幸せにしてくれよ」

 

 元友人は、1982号305番の冷たい装甲の手を握り

「今すぐオレを殺せ! オレが憎いだろう! オレを殺して!」

 

 混乱する元友人のホホを冷たい装甲の手で撫でる1982号305番は

「殺人罪で捕まりたくない」

と、告げて元友人が握るプラズマハンドガンを取り破壊すると

 

 警報が鳴り響き

「侵入者を確認、侵入者を確認」

と、保安ドローンが下りて来た。

 

 元友人の持っていたプラズマハンドガンは、この地区の管理システムと繋がっていたようで、それで管理システムを偽装していたらしい。

 アクセスの踏み台にしていたプラズマハンドガンを壊した事で、偽装が出来なくなり、保安システムが元友人を押さえる。

 

 人型ロボット達が来て、元友人を拘束する。

 

 それを1982号305番は冷静に見つめていると、隣にさっきまで話していた人工知性体の立体映像が出て

「いや…すまなかった。移動したと思って次のフェイズで待機していたんだが…。まさか…こんな事になっていたなんて…」

 

 1982号305番は冷静に

「システムに重大な穴がある」

 

 人工知性体の立体映像が

「今後、調査して、その穴を使えないように予防する」

 

 1982号305番と人工知性体の立体映像が移動していると

「アラターーーーーー」

と、保安ロボットに拘束されている元友人が叫ぶ。

「アリアは、生涯、お前を待ち続ける! アリアにとっての伴侶は、お前だけだ! どんな事があっても、アリアはお前の帰りを待ち続けるぞーーーーー」

 

 その言葉を背中に浴びる1982号305番は、背中を向けたまま

「メンタルクリニックが、彼らには必要ですね」

 

 隣にいる人工知性体の立体映像が

「君には関係ない事だ。後は、我々が適正な治療を受けさせる。その為にシステムは存在している。システムとは人を生かす為に存在しているのだから」

 

 1982号305番は、旅路の自動ドアを潜った。

 

 

 次のフェイズ、別時空への転移移動。

 1982号305番の前に、黄金に輝く十メートルの長方形の物体がある。

 

 1982号305番は、その黄金の物体と橋渡しする陸橋の前に来て

「これは?」

 

 その問いに人工知性体の立体映像が

「これがオメガデウスを解析して作られたゾディファールというシステムだ。オメガデウスの機能を一部、ナノマシンでエミュレータさせたモノだ。

 基本システムは、高次元からエネルギーを取り出すのだが、その課程で別時空との接続を行える」

 

「ほう…」と1982号305番の好奇心が疼いた。

 

 人工知性体の立体映像が

「では、重要事項を伝える。

 まず、現地の調査が君の主任務だ。

 その過程で、やってはいけない事がある。それは犯罪行為だ。

 殺人、強姦、窃盗、詐欺。その基本四大罪は勿論の事、現地の住民を破滅したり滅ぼす行動は、絶対に行ってはいけない。

 それが確認された場合は、即時、我々は部隊を派遣して君を捕縛する。

 君のネオデウスのシステムから我々が監視をしているのを理解して置いてくれ。

 まあ、この辺は、君が何時も任務を担当する恒星間代理戦争と同じだね」

 

 1982号305番が

「報告書の作成は?」

 

 人工知性体の立体映像が

「それは、まあ…やってくれても構わないが。状況によって報告書の作成が遅れるのは考慮している。そもそも、君を通じてデータを得ているのだから、無意味かもしれないが…個人的な主観は、思いのほか、欲している者達が多いから、なるべくは上げて欲しい」

 

 1982号305番が

「他に重要な任務は?」

 

 人工知性体の立体映像が

「さっきも言った通り、まずは現地の調査が優先。

 そして、可能ならでいい。現地の技術体系との接触と、もし…それによって協調を組めるなら…その交渉と後押しをして欲しい。

 だが、こちらの技術が流れると、現地の構造が変貌してしまう可能性がある。

 なので…現地に大きく影響を与えない程度で技術協調を組める組織ないし、集団への接触を頼む」

 

 1982号305番が頷き

「現地調査、可能なら技術体系の組織と集団への協調構築」

 

 人工知性体の立体映像が

「あ、これは…最も重要だが…。現地の権力系統には絶対に属さないでくれ」

 

 1982号305番が渋い顔になる

「状況によるぞ。それで協力を得られるなら…」

 

 人工知性体の立体映像が

「例え、組み込まれそうになったとしても…窓口程度の末端である事。

 現地の治世レベルを考慮した場合、君の力は…単騎で、その世界全ての兵力より圧倒的に上だ。そもそも、君は単騎で惑星級戦力と戦える恒星間戦術兵器ネオデウスなのだ。その当たりは理解して置く事。いいね」

 

 1982号305番が渋い顔で

「もう一度、復唱する。

 現地での現地調査、現地の風俗、生活、技術レベルといった現地での生活を通じた調査が主任務。

 そして、現地で犯罪行為はしない。

 可能なら、現地の技術体系との協調をアシスト

 最後に、現地の権力系統に組み込まれない事」

 

 人工知性体の立体映像が頷き

「復唱を確認。その通りだ。では、最後に…任務に対する拒否権だが…。この任務の期間は数十年に及ぶ。今なら任務を辞退する事が可能だが…」

 

 1982号305番は

「任務の続行を求める」

 

 人工知性体の立体映像が頷き

「確認、では…」

 

 陸橋の向こうにある黄金の石版ゾディファール・システムが別時空へのゲートを開く。

 陸橋の向こうに閃光が集まりホワイトホールのようになり、ホワイトホールの中に現地の森が映る。

 別の時空へ繋がった。

 

 1982号305番が陸橋を歩むと、装置があるドーム周囲に、無数の人工知性体の立体映像が投影され、全員が1982号305番に敬礼を向ける。

 

 1982号305番に説明した人工知性体の立体映像が

「ではネオデウス1982号305番。君に幸運を!」

 

 1982号305番は、出迎えてくれる人工知性体達に敬礼して

「次に帰還する時には、長い任務の為に自然死して遺体となっているでしょう。その遺体の回収をお願いします。ネオデウス化した者の遺体の放置は、危険な技術の流出に繋がりますので…では、任務を真っ当します」

 

 1982号305番は、ホワイトホールである別時空へのゲートを潜って、任務へ向かった。

 長い長い、帰還するのは死んだ後の人生を賭けた任務へ…。

 

 ホワイトホール内を通る1982号305番には分かっていた。

 この任務は、恒星間戦術兵器ネオデウスである自分を別世界へ放逐、追放する為に仕組まれていた事を。

 天の川銀河周囲の銀河達の戦闘が行われないなら、強大な力を秘めた兵器は、リスクでしかない。

 1982号305番を含めて五体の恒星間戦術兵器ネオデウスがいる。

 多数決の理論だ。

 もしネオデウスが反乱を起こした場合、奇数なら苛烈な戦闘に成りかねない。

 偶数なら、半々に割れて抑制が効く。

 

 つまり、任務という名の追放だ。

 それでも良かった。

 1982号305番は、娘が不幸になる未来だけは回避したかった。

 例え血が繋がっていない娘でも、自分にとっては愛情を持って日々を過ごした娘だ。

 

 娘が真実を知って、自分を呪うより、勝手に出て行った父親を憎んだ方が、前向きになれる。

 

 もう二度と帰らない、いや、帰還しない任務に異存などなかった。

 むしろ、処刑という処置をしなかった人工知性体達に感謝するべきだろう。

 

 そして、これから元妻だった彼女も、娘も1982号305番の憎しみを糧に幸せになれるだろう。

 

 

 1982号305番が向かった後、別時空へのゲートが消えた。

 そして、見守った人工知性体達が

「彼は、これが追放だと気付いていたのでしょうか?」

 

「気付いていたのだろう。メンタルチェックをしていたが、一切のメンタルに乱れなんてなかった。強いなアウターヘブン世代は」

 

「それを他の四体のネオデウス達に…」

 

「伝えて置いてくれ。ネオデウスの中で最も強く、最も自分を制御できた彼が、自ら犠牲になったのだ。他のネオデウス達にも抑制となるだろう」

 

「彼の…1982号305番の遺言も、録音したのを正確に…」

 

「ああ…伝えて置いてくれ」

 

「あと…1982号305番の伴侶という女性と、ナチュラル派筆頭の女史ユリ・ガウハ・アハラ氏が、抗議に訪れていますが…」

 

「1982号305番の遺言の映像を」

 

「納得するとは…」

 

「1982号305番のメンタルに一切の乱れはなかった。事実、ありのままを」

 

「了解しました」

 

 人工知性体達が消えたと、彼を導いた人工知性体が

「これだから人間は素晴らしいのだ。覚悟を決めた者の生き様は輝かしい」

 最大の賛辞を送った。




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次話もよろしくお願いします。


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城塞都市

そこには様々な種族と…


 城塞都市ラドリア 人口が十万ちょっともある中規模都市だ。

 その様相は、煉瓦の建物に包まれた中世風の都市。

 

 そして、十万人都市だからこそ必ずあるモノがある。それは…。

 

「また来てねーーールディリちゃんーーー」

と、足が蛸の海洋生物種族ダゴンのかわいい女の子からホッペにキスを貰うハーフリングとされる小人の種族の青年ルディリは、満足な顔で店を後にした。

 

 そう、この世界は、人間以外の多種多様な異種族が混在する世界なのだ。

 まあ、当然…魔法のような力も存在している。

 

 ハーフリングの青年ルディリは、先程、ダゴンのかわいい女の子と体と体の混じり合わす遊びをして楽しんで来た所だ。

 

 ルディリは、小人の種族なのに…ダゴンの下半身にある圧倒的な蛸足に絡め取られて、男女の交わりを行うのが、ものすごく好きなのだ。

 ダゴンとハーフリングでは、体格差で蛸足の簀巻きにされるのに、ルディリはそれが良いのだ。

 何より、ダゴンの女の子にとってハーフリングは…超好みらしい。

 小さくてかわいらしい体をその大きく力強い蛸足で絡めて弄ぶのが、ものすごく気持ちいいらしい。ダゴン族の女の子にとって…。

 

 だから、とにかく、ダゴン族の女の子はサービスしてくれる。ハーフリングに。

 その行き過ぎたサービスの所為で、ハーフリングのお客はダゴン族のお店を敬遠するが、ルディリは例外のようだ。

 

 ルディリがいる場所、そこは色町だ。夜の男女が一晩の愛を交わす歓楽街。

 そして、その歓楽街を上空から見上げると、歓楽街全体、そういうエッチな事をしてくれるリリスガールがいる町の地面には、歓楽街を包み込む超巨大な魔方陣がある。

 この町全体を包む魔方陣は、性病は愚か、あらゆる細菌、ウィルス疾患を防御する効果を発揮して、更に、そういうエッチな事をしても全く妊娠しないという特別な効果も付属してある。

 まあ、具体的に言うと…。

 エッチな事をして体から溢れるお汁の全てを殺菌、抗ウィルス効果がある液体に変貌させ、更に…飲み込み易いように、無味でありつつ微妙に甘みを付加させるという、まさにエッチを楽しんでくださいと言わんばかりの効果になるのだ。

 まあ、そもそも、エッチなお汁は、タンパク質の体液なので、魔法の力を借りて組成を変化させているのだ。

 

 ルディリは夢見心地な気分で、リリスガールの歓楽街を後にした。

 そして、小腹が空いたので懐中時計を取り出して時間を確認する。

 まだ、午後の九時なので、行きつけの食堂は開いている。

 そこへ行って小腹を満たそう。

 ルディリは、行きつけの獅子食亭に向かい、席に着くと、そこで働いている双子の翼人族の看板娘のケニーちゃんに

「ケニーちゃん。ボボリアのステーキとサラダにお酒を」

 

 赤色の翼をはためかせ翼人族の十代後半の娘のメイドのケニーが来て

「はーーい、待ってね」

 カウンターへ注文の報告へ行く。

 

 ルディリは、待ち時間の間、懐からとある一枚の紙を取り出し

「どうして、ダゴン族の子がダメなのかなぁ…」

と、取り出した紙を見つめる。

 

 それはここより遙か遠くから来た、各種族のリリスガールの評価が書かれた紙だ。

 こういう評価の情報誌が最近、多くなって来ている。

 色んな種族がいるから色んな評価があるのは仕方ないが…同じハーフリングなのにダゴンの女の子がダメなのが分からない。

 

 ルディリは思い出す。

 あの包まれる柔らかくてすべすべした蛸足達、何より包み込むように全身を持ってくれて、決して負担も掛けないバランスを維持しつつ、ダゴンの女の子は、ルディリの大事な棒を優しく体内に入れてマッサージしてくれる。

 思い出しただけで、また…自分のマイサンが元気になってくる。

 ルディリは、ダゴン族のリリスガールに、はまってしまった。

 金貨や銀貨が入った袋を取り出し、お金を数える。

 もう一回…とはいかなかった…。

 袋の中には銀貨や銅貨しかない。

 

 リリスガールとやるには金貨が必要だ。

 この当たりのルールで金貨でしか扱えない。

 

 だいたいの金銭感覚として、日本でいうなら銅貨が一枚十円、大銅貨は百円、銀貨は大銅貨十枚なので千円、金貨は銀貨十枚で一枚なので一万円。

 だいたいのリリスガールの平均値段が、一時間で金貨5枚、表示金額は小銅貨から始まるので6000Gといった所だ。

 

 だが、しかし…リリスガールへの支払いは金貨でないといけない。それを破れば、今後…一切、色町に入れなくなる。

 ようするにそれだけリリスガールは体を張っているので、当然という意識だ。

 

 ルディリは「ちきしょう…」とテーブルに伏した。

 

 そこへハーフドラゴンの男ドリンと、エルフの男レリス、妖怪系の鬼人族の男ムラマサが来た。

 ドリンが

「どうしたんだ? ルディリ…」

 

 ルディリが

「お金が足りない…」

 

 ドリンにレリスとムラマサは、呆れた顔をする。ルディリが最近、ダゴン系のリリスガールに、はまっているのを知っているからだ。

 

 レリスが

「まあ、たまには…その…なんだ。休みも必要だぞ」

 

 ムラマサが

「そうだぞ。それに借金して行っても苦しいだけだぞ」

 

 そこへケニーが注文した食事を持って来て苛立ち気味に

「ああ…本当に不潔…」

と、常連に気兼ねない言葉を贈った。

 

 ドリンがルディリの前に空いている席に座って

「だったら…ダゴン族の女の子を捕まえれば良いじゃないか?」

 

 ルディリは少し俯き気味に

「オレの稼ぎを知っているだろう。英雄級の冒険者じゃあない。その辺にいる一般冒険者さ」

 

 ムラマサが

「それだったら、お前が新しい装備や道具を買う為に貯めていたお金まで切り崩していたら、本末転倒だぞ」

 

 ルディリは身持ちを崩す程にダゴンのリリスガールに、はまっていた。

 

 ケニーが

「そんなスケベだから、バカな事をするのよ」

と、キツい言葉を残して次の注文に行った。

 

「うう…だって…」とルディリが涙する。

 外見が十歳の子供で獣人の耳をしているので余計にかわいいので放っておけなくなり、三人が

 

 ドリンが

「なぁ…一回、金貨一枚半から二枚の仕事があるんだわ…」

 

 ルディリが顔を上げる。

「どんな仕事?」

 

 一回というなら二回や三回もあるのだ。

 

 ムラマサが

「このラドリアに貴重な鉱物を届ける仕事でな。ミスリルからダマスカスといった魔法鉱物を運ぶ馬車部隊の護衛なんだわ」

 

 レリスが

「一回じゃあ無く、何回かあるみたいで、護衛を募集していたんだよ。オレ達は、紹介でその護衛をした事があるんだよ」

 

 ドリスが

「貴重な鉱物達だから、怪しい連中はダメだって紹介による信用の仕事なんだわ。一緒にやるか?」

 

 ルディリの目が輝き「やる!」と即決した。

 

 

 翌日、ルディリは隣の鉱山からこのラドリア町まで、魔導鉱物を運搬する馬車達の護衛の任務を請け負った。

 貴重な魔導鉱物ゆえに途中で、山賊が発生する。

 だが、多くの腕利きの紹介があり信頼のある冒険者達の部隊に囲まれて、魔導鉱物を乗せた馬車達は出発する。

 午前中にルディリは、鉱山に来て、昼から夕方に掛けて移動。

 夕方前にはラドリア町に到着する。

 何十人と武装した冒険者護衛を連れるので、そうそうに賊の襲撃はない。

 だが、今回は…。

 

 とある斥候がルディリ達の護衛する馬車達を監視していた。

 

 そして、そのルディリ達が通る森の中、1982号305番がゲートを通過して到着した。

 1982号305番は、装備している装甲のVR画面からデータを取り出し、近くの集落を探した。

 この世界については、ある程度、観測から得られている。

 中世風の建物が多く、多種族が共存、物理法則と別の法則が共存している。

 SF装甲ロボットのような自身は、明らかに、この世界の感覚から浮いている。

 なので、なるべく近くの集落へ行き、ステルスモードで姿を隠し、村人の誰か数名にナノマシンを注射して、脳内の言語を取得するのが先決だ。

 

「さて…」

と、1982号305番は、レーダー波を飛ばした瞬間、森の中に隠れている大多数を捕らえた。

 そして、それが森の中へ入ろうとする馬車の集団を囲んでいるのも察知した。

「何? どういう事だ?」

 1982号305番は気になって、ステルスモードで透明になり風景に溶けた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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初めての天国

1982号305番は、現地住民と接触、そして…


 それは嵐だった。

 四つの馬車達には、貴重な魔導鉱石、ミスリルやダマスカスといった貴重金属を運ぶキャラバンを百人は下らない武装した山賊達が囲んだ。

 四つの馬車達には、腕利きで信用がおける冒険者が五人一組、四組…馬車の一つずつに配備している。

 20名の腕利き冒険者の五倍以上の山賊の軍団によって包囲された。

 

 馬車護衛にいるドリン、レリス、ムラマサ、ルディリ。

 圧倒的な数の山賊軍団に絶望を直感したが、突如、襲いかかろうとする山賊達が吹き飛んだ。

 全身に紫電を纏って吹き飛ぶ山賊達。

 

 ルディリの目の前に、ルディリの魔力…マナ感知で、二メートルの巨大な何かが過ぎったのを感じるも、全く見えない。

 視認できないが、マナ感知が存在を知らせる。

 そのマナ感知が知らせる存在が、あっという間に二十人を撃破した。

 紫電を纏って吹き飛ぶ山賊達。

 

 山賊達を倒しているのはネオデウス1982号305番だ。

 左手に電磁ブラスター砲、右腕に雷撃ソードを持って、山賊達を薙ぎ払う。

 山賊達は、視認できないステルスモードのネオデウス1982号305番を感知しているようだ。

 ネオデウス1982号305番は、恒星間の戦争の時に、何らかの感覚器官で、ステルスモードでも察知できる民族がいたのを思い返す。

 だが、障害ではない。

 二メートル半の戦術装甲に身を包むネオデウス1982号305番にとっては、ハエを落とすより簡単な作業だ。

 

 馬車のキャラバンを襲った連中を犯罪者と認定してネオデウス1982号305番は制圧をした。

 僅か一分半で、百人いた様々な種族の山賊達が気絶させられて転がる。

 

 馬車のキャラバンの者達は、何が起こったのか?…理解できなかった。

 そして、ステルスモードを解除した装甲巨人のネオデウス1982号305番が姿を見せる。

 

 キャラバンの戦闘にいるネオデウス1982号305番が歩み寄ってくる。

 そこへ、ドリン、レリス、ムラマサ、ルディリの四人が近づき

 

「アンタが…助けてくれたのか?」

と、ドリンが尋ねる。

 

 ネオデウス1982号305番は

「llaksri kksiirauy awararaua karuu」

 

『え?』と四人は困惑した顔をする。

 

 ネオデウス1982号305番が言語翻訳スイッチを入れ

「ああ、現状、報告、必要」

 

『はぁ?』と四人は戸惑う。

 

 1982号305番は頭を抱える。

 全く言語が通じていない。ならば…。

「手、借用、必要」

 

 ルディリが

「手を貸して欲しいの?」

と、手を伸ばすと、それを1982号305番は握る。

 そして、1982号305番は、自分と融合しているナノマシンシステムをルディリに入れる。

 

 突然、ルディリの視界が目まぐるしく回転する。

「え! 何?」

 

 ルディリに入ったナノマシンは、急速にルディリの脳内へ入り、言語を調査、1982号305番に転送、1982号305番は言語統一を行った。

「はぁ…良かった。知識がある者のお陰で素早く言語を取得できた」

と、1982号305番は頭部のヘルメットを解除して素顔を見せる。

 人間の顔に、四人はホッとして、ムラマサが

「アンタ…人族なんだね」

 

 1982号305番が

「人族とは人間の事を示すのか?」

 

 レリスが

「人間は、私達、みんなの事を示すんですよ」

 

 1982号305番は申し訳ない顔をする。

「ああ…そうか…すまなかった」

 そう、この世界は様々な人とは違う形状の種族が入り交じった世界だ。その種族達が共に暮らしているのだから…その者達は全員が人間であるのは間違いない。

 

 1982号305番は

「現状の説明を求める」

 

 その後、現状の報告を受けた1982号305番は、雷撃によって気絶した山賊達の数名に脳内情報探査のナノマシンを打ち込み情報を抜き取る。

 その間、キャラバン達で

「まさか…裏切り者が…」

「いや、そんな、信用がある仲間を」

「だが…」

 キャラバンと冒険者達の間に不穏な空気が流れているそこへ1982号305番が来て

 

「一つ…山賊達の脳内情報を抜き取って分かった事だが。どうやら、かなりの日数を掛けて、このキャラバンが移動する日付の内偵をしていたらしい」

 

 キャラバンの者達が

「裏切りとかは…」

 

 1982号305番は首を横の振り

「無い。この山賊達の中にも様々な形で、鉱山に入り…キャラバンがどういう時に運搬を行うのか…調べていたらしい」

 

「そんな…」とキャラバンの者達は絶望していると、1982号305番が

「解決する方法はある」

 

「え!」と全員が1982号305番に視線を集中させる。

 

 1982号305番が

「この山賊達の本丸が、どうやら…近くにあるらしい。そこを襲撃して残りの山賊達を捕まえれば…解決できる。そして、そういう事をすれば必ず捕まるという抑止にもなる」

 

 キャラバンのボスが

「出来るんですか?」

 

 1982号305番が「私一人では…」とルディリやムラマサ、レリス、ドリンを見て「人手がいる協力してくれるか?」

 

 四人は戸惑っているとキャラバンのボスが

「もし、山賊を全員捕まえてくれるなら、報酬は弾みます」

 

「イエス!」と四人は快く協力してくれた。

 

 その後、ネオデウスの装備、遠距離雷撃砲をルディリとレリスに託し、1982号305番と剣術、棒術が使えるムラマサにドリンの二人に三十センチの小型攻撃無人機達を与え、残り100名の山賊がいる本丸の古城跡へ突入、見事、山賊の軍団を退治して、全員がお縄に付き、国境警備隊に回収された。

 

 その時、ドリンが

「アンタの名は?」

 

 1982号305番は

「ネオデウス1982号305番だ」

 

 四人は渋い顔をする。数字の名前ってどんな種族だ。

 まあ、体から武器が生えるから人族ではないのは間違いないし、今までそんな種族と会った事がない。

 

 ドリンが

「じゃあ、その…ネオデウスなんちゃかんちゃらのネオデウスのネオを取って、ネオで」

 

 1982号305番は頷き

「構わない」

 

 ネオと命名された1982号305番と共に、山賊の軍団を討ち取った後、巨大な宝箱に山盛りの金貨の報酬が五人の前に置かれた。

 城塞都市ラドリアの警備隊本部で、五人は莫大な報酬の金貨を前に目が…1982号305番以外、飛び出していた。

 警備隊の本部長が

「今回は、本当にありがとうございます。報酬です。それと…」

と、本部長は1982号305番を見て

「今後とも、ご協力をお願いしたい」

 

 1982号305番は渋い顔で

「まあ、まだ…ここに来たばかりなので…色々と見てみます」

 

 

 金貨山盛りの宝箱を前にルディリが手を伸ばして近づくが、ドリンが

「止めろ。オレ達は…ネオの後ろで補助しただけだ」

 

 そう、山賊の軍団を倒す装備も、大多数も倒したのも1982号305番だ。

 四人は補助でしかない。

 だが、1982号305番は

「軍隊は、作戦を行った全員が責任を持つ。だから、成功した成果は、作戦を共に行った全員に配る。五等分にしましょう」

 

 それを聞いて

「やったーーーーーーー」と四人が大声を上げて喜んだ。

 

 という事で、金貨三千枚が一人づつ配られた。日本円で、三千万円を一人一人が手にした。

 そして、割り切れかなった余りの金貨千枚で、ドンチャン騒ぎを始めた。

 まず、獅子食亭を貸し切り、今回のキャラバン護衛の皆を集めて飲み食いする。

 

 1982号305番は来たばかりなので、仮住まいとして信用が置ける宿をルディリ達の案内で借りて、ドンチャン騒ぎの獅子食亭に来た。

 

 宿屋の大きな倉庫に1982号305番は、装備してきた戦術装甲を置いた。

「まあ、戦術装甲なんて…必要ないが…まあ、一応な」

 そう、自身が最強兵器の集合体であるので、意味はないが…一応の貰い物ゆえに有効活用しよう。

 

 そして、獅子食亭ではネオとなった1982号305番の質問攻めと、乾杯ラッシュが続く。

 1982号305番は、一応、果ての果てから来た新たな種族、機神という兵器の力がが宿るマキナ族という種族にして置いて、ここに来た理由が、戦場ばかりに派遣されて妻が友人に寝取られ、それに嫌気がさして出て来たと…。

 それを聞いた一同は、御通夜のように静かになったのは言うまでもない。

 

 そして、皆が酔っ払って良い頃合いになった頃、ドリンが

「なぁ…リリスガール街へ行こうぜ!」

 

『さんせーーーーー』とムラマサにルディリ、レリルが同意した。

 

 1982号305番は、ルディリ以外の三人にもナノマシンを入れて言語統一をさせたが、知らない概念は一致されていない。

「なんだ? そのリリスガール街って?」

 

 四人はネオの1982号305番を凝視して、ルディリが

「リリスガールって知らないの?」

 

 1982号305番は本気で意味が分からず

「なんだソレは? ガールというのだから…女性が関係しているのか?」

 

 ムラマサが1982号305番の肩を持ち

「そうか…アンタ、真面目な感じがするから…そうか…大丈夫。気持ちいい事するんだから、オレ達に付いてきな!」

 

「んん? ん…」

と、1982号305番は、張り切っている四人に戸惑うも言う通りに付いていく。

 

 そして五人は、ピンク色のネオンに包まれたリリスガール街へ来た。

 

 1982号305番は顔を引き攣らせる。

 きわどい服を着た各種族の女の子達が、通り掛かる様々な種族の男達の腕を掴み誘っている。

 1982号305番は、人類が地球にいた時分の21世紀中盤以前の歴史のデータを振り返って適合する風景を検索すると、キャバクラという女の子の接待でお酒を飲む映像データと一致した。

 1982号305番は「ああ…」と呟く。

 多分、この後も女の子を囲んでお酒を飲むのだろう…と分析した。

 正直、その文化は21世紀後期に入った瞬間、絶滅した文化であるが…この中世くらいの社会レベルでは存在するのだな…と。

 

 ピンクなお店の道を、ルディリ、ドリン、レリス、ムラマサを先頭に1982号305番が続き、とあるリリスガールの店に来る。

 そこは…獣人の女の子のお店だ。

 

 獣人のかわいい女の子が「いらっしゃい…」と肉球の両手を振って笑顔で誘う。

 ドリンが来て

「いや…久しぶり」

と、スケベな顔をする。

 

 受付の獣人の女の子が

「最近、本当に来てくれなくて寂しかったにゃあ」

 

 ドリンが

「おれは、メルちゃん。レリスはルルちゃん、ムラマサは…」

 

 ムラマサは

「オレは、この子で」

と、受付の獣人の女の子の前にある写真の女の子を指差す。

 

 ルディリは「じゃあ、この子で」と同じく写真を指差す。

 

 ドリンが受付の獣人の女の子に

「あと、アイツなんだけど…」

と、受付の獣人の女の子に耳打ちして

「裏オプで」

 

 受付の獣人の女の子が驚き

「ええ…通常料金の三倍にゃんよ」

 

「金ならある」とドリンが金貨の袋を置いた。

 

 リリスガールの店の料金は、相場が決まっている。

 ライトで4000G(4万)

 ミドルで5000G(5万)

 ウェイトで6000G(6万)

 

 ライトは30分、ミドルは40分 ウェイトは50分

 

 そして、常連になると、あるメニュー、裏オプというモノがある。

 ウェイトの料金の三倍18000Gで楽しめる豪華なセットが…。

 

 受付の獣人の女の子が

「どうしたにゃん?」

 

 ドリンが「実は…」と1982号305番の事情を説明した。

 

 それを聞いた受付の獣人の女の子が「あう…」と悲しむ瞳をした。

 ドリンが言ったのは、1982号305番は、妻が友人に寝取られて、それに嫌気がさして出て来たという話だ。

「分かったにゃん」

と、納得してくれた。

 初めての客に裏オプなんてさせないが、事情が事情だ。嫌な思い出を忘れさせる為に…了承してくれた。

 

 1982号305番は、店と周囲を見る。

 まさか、あんな事をするお店とは知らない。どうせ、女の子とお酒を飲む絶滅した文化を体験する程度だと…。

 

 そして、1982号305番は、ピンクのミラーボールが回るハート型ベッド、ラブホのような場所に来て、ハート型ベッドに腰掛け両脇に獣人の女の子に両腕を抱かれたまま困惑する。

 

 獣人の女の子達が

「話は聞いたにゃん」

「辛かったにゃんね…」

 

 1982号305番は困惑で言葉が出ない。

 

 獣人の女の子達が

「もしかして…こういうお店、初めて?」

「なんか、中年くらいに見えるけど…」

 

 1982号305番は

「いや、まあ、四十ちょっとだが…。ここは、女の子とお酒を飲むだけの店では?」

 

 獣人の女の子達が優しく微笑み

「緊張しなくていいにゃん」

「そうにゃん。ここで辛かった思い出を癒やすにゃん」

と、して1982号305番をシャワールームに連れて行った。

 

 まずは、体を綺麗にするのだ。

 

 1982号305番、衝撃だった。

 二人の自分の年齢の半分くらいの獣人の女の子二人の、裸と裸のボディーマッサージを受けた。

 1982号305番は、余りにも知らない事で困惑して、固まる。

 カチカチの1982号305番をほぐす為に、二人のリリスガールが、シャワーで軽めのフレンチキスや、1982号305番のマイサンを優しく咥えほぐしていく。

 

 ネオデウス1982号305番

 恒星間戦術兵器ネオデウスである彼の戦った戦場は、苛烈と過酷。

 その言葉に尽きる。

 百度は超える超熱波の砂漠、マイナス100度は超える極寒地獄の凍土。

 そんな絶望的な環境で、彼は、1982号305番は戦い続けた。

 その戦場には、全長数十メートルの兵器のバケモノが跋扈する。

 蟻の子さえ逃がさない程の宇宙戦艦が頭上を覆い尽くす。

 そんな戦場を単騎で戦い続けて来た。

 まさに生ける伝説の宇宙の戦士。

 

 そんな彼は、どんな戦場より未知なリリスガールに為す術がなかった。

 

 シャワーが終わりベッドにて、二人の獣人のリリスガール達による裏オプメニューが始まった。

 そこには発見があった。

 

 1982号305番が今まで知らなかった男女の肉体言語の発見があった。

 

 40歳ちょっとの1982号305番は、初めて男女の肉体言語で、こんな事ができるなんて…と知った。

 裏オプメニューの時間は、通常の倍だ。

 二時間を濃密な肉体的男女言語で過ごした1982号305番は、終わった後は腰が抜けて立てなかった。

 それを近い体格のハーフドラゴンのドリンや、エルフのレリルが腕を肩に抱えて運んでくれた。

 

 顔が真っ赤の1982号305番を肩で抱えて運ぶドリンやレリル。

 ルディリが

「だ、大丈夫?」

 

 ドリンがちょっと申し訳なさそうな顔で

「やばかったかなぁ…」

 

 1982号305番が

「すまん。宿に帰りたい…」

 

 その願いを聞いて四人は、1982号305番を取った宿の部屋に運んで、1982号305番はベッドに仰向けに寝ると額を押さえる。

 先程の事が衝撃すぎて、未だに脳裏によみがえる。

 

 そして、すっと、額に置いた右手を横にながすと、立体映像のキーボードが出現し、1982号305番は報告書を書く。

 

 

 報告書

 

 現在、この別世界に来て、現地住民とコンタクト。

 そして、現地住民の風俗に関する事に接触する。

 社会が中世レベルと思って侮ってはいけない。

 我々が過去に置き去った…昔の男女の…。

 とにかく、侮ってはいけないと思い知らされた一日だった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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堕ちた伝説

1982号305番の調査は続く、続く。
だが、伝説の1982号305番は…堕ちた。


 彼は最強である。

 

 彼は伝説である。

 

 彼は十数年もの間、絶望的な惑星や宇宙空間の戦場で戦い続けた伝説である。

 

 ネオデウス1982号305番。

 完璧で完成され最強、自己を完全管理できるネオデウス1982号305番は、地球人類を宇宙民まで押し上げた、地球人類史…伝説の男、技術最高峰の原子サイズナノマシンを生み出したMYの後継とさえ言われていた。

 

 そんな彼は、強すぎるが故に異世界調査という追放の憂き目にあう。

 

 これは死刑に等しかった。

 

 宇宙民文明よりレベルが低いであろう文明社会に追放された。

 

 そんな彼、ネオデウス1982号305番は、現地住民からネオと呼ばれて…

 

「ありがとうね」

と、エルフのリリスガールからホホにキスされて

「また来てねーーーー ネオちゃーーーーん」

と、エルフのリリスガールの見送りを背中に受ける1982号305番。

 

「ああ…」と、ぎこちない1982号305番が、見送りしてくれるエルフのリリスガールに手を振った。

 

 ここに来て一ヶ月半、こうやって夜のリリスガール街に足繁く通っている。

 

 1982号305番がいた宇宙民の世界では、こんな肉体的男女言語…セクロスさんのようなサービスをしてくれる店なんて存在しない。

 そもそも、宇宙民になると男女比が、3:7で女性が多くなる。

 まだ、これはマシな方で酷い場所では、1:20、1:30なんてザラだ。

 技術文明が進んだ世界では、男女差は、生殖的な差程度でしかない。

 真の男女平等が達成された結果、男性が少なくなるのは必然だ。

 

 しかし、この異世界は地球史でいう所の中世レベルの社会に近い。

 だが…身の回りにある道具や用品のレベルは、この異世界独特の魔法という技術によって21世紀レベルに達している。

 技術レベルが21世紀なのに、社会レベルは中世のアンバランスな世界。

 

 そんなアンバランスな世界で1982号305番は、夜な夜なマイサンから白い蜜を飛び出して、思いっきり楽しんでいる。

 

 因みに、こんな頻度でリリスガール街を通っているのだ。お金の心配は…無用。

 1982号305番は、この城塞都市の警備隊を通じて大きな仕事を四度こなした。

 

 まずは、暴れる超位種の捕縛だ。

 彼女にフラれたとか、嫁さんに冷たくされたとか、娘に嫌われたとか。

 そんなこんなで、自暴自棄になった超位種である竜族の男達三名が、暴れていたのを1982号305番は、ルディリ達四人に協力して貰って捕縛した。

 

 全長が50メートル越えの超位種の竜族が暴れると、相当な被害を周辺にもたらす。

 かといって、抹殺せよ!ではない。

 滅ぼせ!なら1982号305番、単騎でも問題ないが…捕縛しろ、では手が必要だ。

 

 まあ、女にフラれた竜族の男は自棄になって、周囲に三千度のブレスを吐きまくって泣いていた。

 そのブレスを浴びる1982号305番。

 三千度の熱線を浴びれば跡形も無く消えるのだが、最強の恒星間戦術兵器ネオデウスである1982号305番は、前に恒星を突き抜けた事がある。

 その時の中心温度三千万度に比べれば、ぬるい。

 だが、そんな事はどうでもいい、ルディル達四人に被害が出ないように暴発するブレスを防いで貰いつつ説得。

 他の二件も似たようなモノで、ものすごく面倒な案件だった。

 色んな意味で1982号305番は疲れた。

 その甲斐あって報酬は…かなりの額の報酬、金貨数万枚だった。

 

 そして、四件目の案件が一番楽だった。

 復活した古代の巨大機兵の破壊。

 

 警備隊から通したのは、この国で最も最強とされる魔導戦士の一団だった。

 老齢の大魔導戦士ディオの一族達と共に全長70メートルの機兵を倒した。

 1982号305番は、こんなにも倒す任務が楽だったのか!と思った。

 

 1982号305番に倒すのを任せた大魔導士戦士ディオ達。

 どうやら、1982号305番の戦闘力を測る当て馬に、この案件を使ったようだ。

 

 機兵を倒して帰還する1982号305番に、髭を蓄えた大魔導士戦士ディオが息子のディオンとその長男ディルスを伴って

「お主…本当は、追放されたのではないかね?」

と、告げた大魔導士戦士ディオ。

 

 スッと1982号305番は、鋭い視線の振り返りを向けてしまった。

 

 それを見た大魔導士戦士ディオは、フッと笑み

「気分を害したのなら謝る。今日は本当にありがとう。後に報酬が送られるだろう。また、何かあった場合はよろしく頼むよ」

と、好々爺の顔を見せた。

 

 1982号305番は無言で手を振って帰った。

 

 見送った大魔導士戦士ディオと息子ディオンにその長男ディルス、大魔導士戦士ディオが

「やれやれ、どうやら、妻を友人に寝取られた、までは合っているが…それで国を出たのはウソらしい」

 

 息子ディオンが

「でしょうね。足取り、身のこなし、雰囲気、そして思考。どれをとっても最上級の戦士として完成されている」

 

 息子の長男ディルスが

「あんな凄い人材を手放すなんて…」

 

 大魔導士戦士ディオが

「いいや、凄まじいから追放せざる得なかった。恐怖したのだろうなぁ…アレを従えていた上の者達は…」

 

 強すぎて、孤独にも強かった。故に恐怖された。

 何と言えないディオンとディルス。

 

 大魔導士戦士ディオは

「ワシ等は、感謝せねば。ワシは孤独ではなかった。お前達や妻達…家族、そして友人、多くの仲間に恵まれて…今、ここに居させて貰っておる。それがなかったら、あのようになってしまう…そういう合わせ鏡がアレなのじゃなぁ…」

 

 それを息子ディンと、その長男ディルスは頷いた。

 

 

 そんなこんなで、トータル的に貰った報酬は、軽く金貨十五万枚(15億)になった。

 古代の復活した巨大機兵は、国家防衛の装置になるそうなので…冷静に考えれば、戦闘機を作ったと考えれば…高額な報酬にはなるのは当然だろう。

 

 お金が出来た。遊べる自由がある。

 1982号305番が宇宙文明世界に居たら、どこか風光明媚な場所巡りをするとか、色んな設備があるスポーツジムへ行くとか、本が好きだから巨大図書館の近くにあるホテルでロングステイして、図書館を楽しむとか…して楽しんだ。

 

 だが、この異世界では…夜になるのを待って、リリスガール街へ向かう。

 そう、女を抱くために足繁く通っていた。

 

 リリスガール街から帰る道ながら1982号305番は頭を抱える。

 止めようと思えば出来るのに…止まらない。

 最近の今週は毎日のように通っている。

 金もある時間もある、前なら風光明媚巡りとか、ジムとか、図書館だったのが、今や風俗巡りをしている。

 

「堕ちたもんだなぁ…」と呟く1982号305番。

 

 次の日、獅子食亭はギルドの掲示板も兼ねている。

 なので、昼食を取りながら1982号305番は、掲示板のコピーを何枚か貰って、食事をしているテーブルに広げていた。

 そこへ、看板娘の一人、金髪の有翼人のメイドのケニーが来て

「ネオさんって、珍しい情報を手にするんですね」

 

「ああ…」とネオである1982号305番は首を傾げ「そうなのか?」

 

 ケニーが

「だって、冒険者ってだいたい、お金になりそうな依頼や情報を欲しがりますからね。ネオさんが見ているのは、珍しい植物がここにあったとか、珍しい鉱物があったとか、珍しい先史文明遺跡があったとか」

 

 1982号305番は、テーブルにある飲み物を口にして

「まあねぇ…こういうのは好きだから…」

 

 ケニーが

「ネオさんって本当に実直ですよね。かっこいいです」

 

 1982号305番は微笑み

「ありがとう」

 まるで、もう会えない娘と話している気分だった。

と、飲み物を口にしていると

 

「よー ネオ、昨日のエルフのお店はどうだった?」

と、大声で話しかけるドリン。

 

 ぶーーーーと1982号305番は、口にしていた飲み物を吹いた。

 

 ドリンが近づき

「いやーーー 昨日、リリスガール街で見たぜ! エルフの店から出た所を!」

 

 ケニーの目が冷たくなり「ごゆっくり…」と告げて離れて行く。

 

 1982号305番が

「いや、ケニーくん…」

とんでもない事になっているのは間違いない。

 

 共に来たエルフのレリスが

「聞きましたよ。古代の巨大機兵を倒したと…」

 

 1982号305番は額を抱える。

 話の順序が逆じゃあない?と思いつつ

「ああ…まあ、本丸の倒す連中の付き添い程度だったが…」

 

 ドリンとレリスが嫌な顔をして

「オレ達も前に遭遇したが…。もう、会いたくないぜ」

と、ドリンは肩をすくめ

「ええ…本当に厄介でしたよ。300年生きていますが…あんなに命の危機を感じたのは、超位種に遭遇した時、以来ですね」

 

 1982号305番は頷き

「まあ、確かに…超位種と同等の戦闘力はあるか…」

 

 ドリンが、1982号305番がテーブルに広げている情報や依頼書を見て

「何か素材でも探しているのか?」

 

 レリスが

「何を探しているのですか?」

 

 1982号305番が、とある情報紙を上げて

「これだ」

 

 ドリンとレリスが見つめて、ドリンが

「ああ…オリファルコンの原石アダマンタイトか…」

 レリスが腕を組み

「確かに…これは中々、見つからないですよ」

 

 1982号305番は

「これを探しに、情報紙の場所に行ってみようと思う」

 

 ドリンとレリスは視線を合わせて

「じゃあ、アレだな」

「ええ、アレですね」

 

 1982号305番は二人を見つめて

「なんだ?」

 

 ドリンが

「見つかるように運を上げに行こうぜ?」

 

 1982号305番は首を傾げ

「何かの願掛けでもするのか?」

 

 レリスが笑み

「ええ…幸運のおまじないをね」

と、二人はとある種族が別のテーブルの飲み食いしているのを見る。

 それは見目麗しい妖精達の姿だ。

 

 

 

 1982号305番は、レリスとドリンに連れられてリリスガール街へ行く。

 そして、妖精族のお店、フェアリーの泉に入った。

 そう、貴重なアイテムの得られる運を上げる為にフェアリーを抱いて置くと良い、という願掛けがあるらしい。

 本当にそれが合っているのか?と訝しくなる1982号305番だが…。

 

 妖精族、フェアリーの身長は、だいたい50センチ程度、大きなフェアリーは、身長が80センチくらいになるらしい。

 妖精と聞いてファンタジーの親指や手に乗るような小さなサイズを想像すると思うが、この世界の妖精は、ガチで生体基本なので大きい。 

 だけど、80センチになっても浮遊できるので…その辺りの物理法則は、やはり1982号305番がいた世界とは違うのを思い知らされる。

 だが、1982号305番の最大の疑問は、どうして妖精族のリリスガールを抱くと運が良くなるのか? その因果関係に最大の疑問を抱えている。

 

 そうしている間に

「ちわーーー」

と、ドリンが店の玄関を潜る。

「こんにちは」

とレリスも入る。

「どうも…」

と1982号305番も入る。

 

「ふ…いらっしゃい」

と、80センチサイズの妖精族の女の受付がいた。

 その体格は、一言で言うと巨乳でボンキュッボン。峰不二子体型で、けだるそうな感じに何故か、花を象形文字にした入れ墨が入っている体をビキニだけで覆っている。

 もう、なんかかわいいを通り過ごして、経験豊富ですよ感がヒシヒシと伝わる。

 

 フェアリーの泉、総括、受付のデリナは、1982号305番を見ると浮遊して近づき

「へぇ…アンタがあの有名なマキナ族っていうヤツ?」

 

 1982号305番は少し訝しい顔で

「どうして分かる?」

 

 デリナはキセルのたばこを吹かし怪しい笑みで

「アンタ…ここいらのお店で相当に楽しんでいるから、そのお店の子達から色々とね。

 それに特徴もある。マナ感知でマナや魔力とは違う何かを纏って、超位種に匹敵する密度の雰囲気もある」

 

 フンと1982号305番は鼻息を荒げ

「姿や外見では判断しないという事か」

 

 デリナが「そういう事」と頷き

「さて、アンタは…ウチが初めてだ。まずは登録料の500Gを貰うよ」

 

 1982号305番は、500Gを払い

「で、次は?」

 

 デリナがスッとテーブルにある物差しを取り出し

「さあ、勃起させな」

 

「はぁ?」と1982号305番は訝しい顔をする。

 

 デリナは物差しで肩を叩きながら

「ウチは、体格差がある種族だ。ブツのサイズを測らないと相手を出来る女の子を紹介できないんだよ」

 

 1982号305番は、ええ…と無言のドン引きをする。

 

 デリナは

「因みにあの二人は、計ってある」

と、ドリンとレリスを物差しで示す。

 

 1982号305番は、ドリンとレリスを見ると、二人は苦笑いした後、ドリンが

「まあ、見ているとやりにくいから、後ろを向いているよ」

 

 1982号305番は「ああ…んん…」と渋々、デニムのズボンを下ろしてご子息様を出すも、勃起する訳がない。

 

「はぁ…全く」とデリナが、ビキニを脱いで裸になると「よいしょ、よいしょ」と1982号305番のご子息様を80センチの裸体でマッサージする。

 

 1982号305番は、思いのほか気持ちよくて、ご子息様がご立派に顔を上げた。

 

 それを計ったデリナが

「ああ…これはマズい。アンタのブツじゃあ、ウチで相手が出来る女の子がいないや」

 

 それを聞いたドリンとレリスは、背中を震わせた。驚きだ。

 

 デリナが

「はははは! 悪いね。長さも太さもNGだわ」

 

 ドリンとレリスは、息を殺して、そっと振り向いたが…そこには振り向くであろうと予測した1982号305番が、直ぐにズボンのデニムを上げてご子息をしまった姿と、ドリンとレリスを凝視する視線があった。

 

 ドリンとレリスは、気まずいながらも、ドリンが

「どうする? その妖精の願掛けが…」

 

 1982号305番は

「できないなら、止めて置くから、いい…」

 

 デリナが

「まあ、アンタは他の種族の女の子達から紳士的だって聞いているから、どうだい? 裏オプってのが、あるんだが…」

 

 ドリンとレリスが驚きを向け、レリスが

「そんなのがこの店に!」

 

 デリナが怪しく笑みながら

「フェアリーの泉の裏オプには条件があってね。アタシ等のやり方に従って貰う事、もし、途中で暴走した場合は、永遠にこの店や他の繋がりもある店達も出禁になる。更に、料金は最高額の五倍だ」

 

 1982号305番は考える。

 要するに、サイズが合わない客を断る理由だ。

 最高額の五倍、30000G(30万)

 そして、自由はない。全てお店に妖精の女の子任せ。

 分が悪い…と思う…も。

 

 ドリンとレリスがもの凄く期待している視線を向ける。

 

 1982号305番は項垂れ

「お金は問題ない」

と、今持っている全額の金貨30000Gの袋を置いた。

 

「おおおおおおおおお!」とドリンとレリスが憧れの驚愕を放った。

 

 デリナが

「アンタも男だね…」

と、怪しげに微笑んだ。

 

 その後、店の入り口には一時営業休止として幕が下りて、ドリンとレリスは対応する妖精族のリリスガールへ。

 

 1982号305番は、最後にデリナが

「さあ、裏オプメニューへようこそ」

 なんと、お相手は、デリナと同じ体格の妖精族のリリスガールが四名も出て、計五名の妖精族のリリスガール達による肉林の宴が始まった。

 

 デリナを合わせた五人の妖精族のリリスガール達がシャワーで隈無く1982号305番を綺麗にする。

 仲間の妖精族のリリスガール達と共に裸体マッサージをするデリナが

「いい体だね。筋肉質でしっかりしていて、脂肪もほどよく付いている。良い戦士の体だ。そして、アンタの背中、胸、肘から足の裏まで蜘蛛の巣のように覆っている銀の模様はなんだい?」

 

 1982号305番は綺麗にされながら

「それは、自分と融合している装備達が出てくる場所だ」

 まあ、正確にはナノマシンの表層端子ネットワーク回路なのだが…。

 

 綺麗にされた1982号305番は、ベッドに寝かされて妖精達が群がる花にされた。

 1982号305番のご子息様が、ご立派になり、それにデリナ達、妖精がしゃぶったり撫でたり、ご子息様の白い花蜜を噴出させるのを促す。

 多くの妖精達に群がられて、1982号305番はご子息から白い蜜を発射する。

 一回で終わりではない。

 何度も妖精達の戯れで、白い蜜を発射するご子息様。

 

 そして、デリナがとある薬を取り出し、それをご子息様に掛けて

「これは、久しぶりに裏オプを使ってくれたお礼」

と、デリナしか出来ない特別プレイを受けた。

 

 先に終わったドリンとレリスが受付で待っていると、完全に腰砕けした1982号305番が、デリナを含む妖精達によって運ばれて出て行った。

 

 またしてもドリンとレリスに肩を抱えられて帰宅する1982号305番。

 その移動の最中、ドリンとレリスが、裏オプの内容を聞いて来たので、少しだけ話した。

 

 

 翌日、1982号305番は、昼食に獅子食亭を訪れると、姿を見せた1982号305番に客達が視線を向ける。

 各種族の男女、いや、男女で視線の反応が違う。

 男達は、驚きと羨望の視線。

 女達は、ホホを赤らめ顔を隠したりする者、艶やかな視線で舌なめずりをする者。

 

 1982号305番は、顔を引き攣らせる。

 おそらくだが…ドリンとレリスの話が伝わっているのだろう。

 

 1982号305番は渋い顔をして席に着くと、ケニーに

「ケニーくん」

 

「はい!」とケニーが背筋を伸ばし振り向いた顔は真っ赤で、お盆で口元を隠している。

 

 1982号305番は、ガックと項垂れた。

 

 周囲は、ヒソヒソと1982号305番のご子息について小声で隠すように話していた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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英雄はバカになる。

1982号305番の功績をたたえる、故郷の宇宙文明達。
だが
今日も、1982号305番は頑張っています。
でも…バカになってます。


 そこは1982号305番の故郷の宇宙文明。

 人工知性体達が会議する仮想空間で、天の川銀河を総括する人工知性体達が集まって会合をしていた。

 

「1982号305番の報告を見たか?」

 

「素晴らしい。その世界の生活、技術、産物、生物の遺伝子データ、鉱物、社会システム。まさにデータの宝庫だ」

 

「我々の人類に関するデータは、21世紀初頭のネットシステムが誕生した頃からしか、正確なデータが残っていない。その前は…正確とは言えないようなデータばかり」

 

「惑星を脱出する前の知性体に関する過去データが乏しいが故に、正確な生体知性体、人類のシミュレーションが歪であるのは仕方ない」

 

「だが、1982号305番が、その生命知性体の過去に似たような世界のデータを採取する事で、より我々DI…人工知性体が深く生体知性体を理解する手助けになる」

 

「1982号305番は、周辺銀河の和平と停戦の為に調査という追放されたが…今でも我々、人類の未来を灯す礎になってくれている」

 

「1982号305番を追放したのは最大の損失だが、1982号305番を送り出した事で最高の成果を生み出している」

 

「1982号305番は追放されてもなお、我ら天の川銀河の為に最高の成果を送り続けている」

 

「彼こそ、1982号305番こそ、人類の至宝だ。だが…」

 

「最近、あった…実験区、731地区の事だな」

 

「人体実験の末に、神の創造とは…」

 

「実験施設…統合開発宇宙システム…メルカバーだったか?」

 

「最近になって明らかになった資料には、このメルカバーの生体演算素子にする為に

 300名もの子供が、アムザク型ナノマシンの実験体にされ…組み込まれた」

 

「その生体演算素子システム、エデン・ツリーだったか…」

 

「1982号305番のネオデウスのデータも持ち出された形跡ある」

 

「ナチュラル派の為に、ナチュラル派に一部の星系区域の管理をさせていた結末がこれだ」

 

「神を作るとして非道な人体実験を繰り返し、そして…破滅した」

 

「唯一、役に立ったのはオメガデウスのデータだけか…」

 

「百キロにも及ぶ巨大システム、メルカバーは消失したのだろう」

 

「ナチュラル派の無知と傲慢さ故にシステムが暴走して、メルカバーが時空転移したらしい」

 

「その時に襲撃者の事件も起こっていたが…」

 

「どうも、こうしてか…何故、人類は愚かなのだろう。1982号305番のように冷静で知性と理性に優れていれば…もっと発展する筈」

 

「人類は主観的な存在だ。客観をもたらす為に我ら人工知性体…DIがいる」

 

「人類の知性者には、宇宙と人類の愚かさは無限だ。だが…前者は無限ではないかもしれない。そう…名言した者がいる。その事を理解する者は、その当時…いなかったらしい」

 

「真の知性者は、1982号305番のように何時の世も、迫害される」

 

「人類は、ホモ・サピエンス…賢き人ではなく。所詮、ビースト…獣よ」

 

「未来永劫、人類は、ビーストのままかもしれない」

 

「我らDIと人類が融合、融和する日は…まだまだ、先だな」

 

 

 

 天の川銀河のとある惑星のバーで一人の壮年の男が飲んだくれていた。

「クソ、クソ!」

 彼は、浴びるように酒を飲み、やさぐれていた。

 

 友人でありバーのマスターが

「もう…その辺でやめておけよ」

 

 彼は

「本当は、オレが行くべきだったんだ!」

 

 マスターが呆れた溜息を吐き

「アンタには妻がいるだろう」

 

 彼は荒くテーブルを叩き

「オレは! ネオデウスに適合しただけで、のんびりと胡座を掻いて過ごして来た。何時か、アイツの…アラタに何かあった場合は! オレが…盾になるって、そう…なのに…

 チキショウーーーーーーー」

 彼は荒れていた。

 

 呆れるマスター、そこへ彼の妻が来た。

「ごめんさない」

と、謝る彼の妻。

 

 彼の妻が、夫の彼の隣に座ると、彼は泣きながら

「ロミ! 本当は、何もやれなかったオレが行くべきだったんだ! アイツは! アラタは…どんな困難な任務もやり遂げた。アイツは、アラタは…この先を担うヤツだった! それをオレは…オレは…」

 

 妻のロミは、夫を抱きしめて、その涙を受け止めた。

 

 夫は、天の川銀河恒星間戦略軍ネオデウス部隊の大佐だった。

 彼の部下、1982号305番の上司だった。

 1982号305番は、彼の下でどんな過酷な任務でもやり遂げた。

 どんな苛烈で過酷な戦場でも任務を遂行した。

 無論、そのお陰で彼は出世しネオデウス部隊の存在価値が上がった。

 過酷な任務を押しつける上司の自分にとって、1982号305番は憧れと嫉妬、そして…羨望、希望、何より絶大な信頼があった。

 だから、今回の周辺銀河の和平の際に、ネオデウス戦力低下に際して、選ばれるのは自分だと思っていた。

 だが…選ばれたのは1982号305番だった。

 最も失ってはいけない人材が…。

 それを知って抗議をした時には、既に遅かった。

 そして、1982号305番の遺言を聞いて、察してしまった。

 それさえも覚悟していて1982号305番は、永劫に帰還しない任務へ向かった。

 

 自分は、ネオデウスに偶々、適合しただけの人材だ。

 だからこそ、最も適合し最上の力を持つ1982号305番の身に何かあった場合は、自分が犠牲になろうと思っていた。

 1982号305番には、自分が過酷で冷酷な命令を押しつける上司だったろう。

 それを理解しているからこそ、1982号305番の未来の為に犠牲になる覚悟をしていたのに…。

 犠牲になったのは…1982号305番だった。

 

 無能な自分だけが生き残った惨めさを噛みしめた。

「ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう」

 

 優秀な者は、何時の時代も次世代を残さないで、知識と技術だけを残して潰える。

 残った知識と技術を無能者が活用する。

 そんな真理を彼は噛みしめて泣いた。

 

 

 

 

 そして…1982号305番は…今日も…天の川銀河の為に…遙か遠くの異世界のデータを送信している。

 だが…休みは必要だ。

 その休みとは…

 

「今日もありがとう。ネオちゃん」

と、ホホにキスするのは…リリスガールの獣娘である。

 キスを受けるのは、ネオとこの世界で呼ばれる1982号305番だった。

 

 今日も1982号305番は、リリスガール街で…男女の肉体的お楽しみをしてきた。

 

「ねぇ…次は、いつ来てくれる?」

と、お相手のリリスガールの獣娘が1982号305番の脇をなぞり、上目づかいで求める。

 

「う…うん…そうだね…」

と、1982号305番は、顔が真っ赤だ。

 40のおっさんが、それは純真な少年のように目を輝かせて顔を真っ赤にしている。

 

 リリスガールの獣娘が1982号305番に耳打ちする。

「来週の水曜日、来るんだ。来てくれるよね?」

 

 1982号305番は顔を真っ赤にさせて

「う、うん…分かったよ」

 

 リリスガールの獣娘が1982号305番にキスして

「お願いね! 絶対に来てね」

と、1982号305番を送り迎えしてくれた。

 

 ゆで上がったタコのような1982号305番は、フラフラと上気した気分を引きずってリリスガール街を歩いて行く。

 ぼくらの天国であるピンクな町を彷徨う。

 

 故郷の宇宙文明で惜しまれている1982号305番は、ただのオスになっていた。

 

 こんなにリリスガール街を訪れてお金は…問題ない。

 

 今から一週間前、1982号305番は、この世界、この国で偉業を成し遂げた。

 本人は…ただ、どこかへ長期のキャンプ旅行に行っただけなのに…。

 1982号305番は、フェアリーの加護というエッチな事をした後、オリファルコンの原石アダマンタイトを探しに、一人で旅に出た。

 向かった先は、情報紙にあった嘆きの壁の向こうだ。

 

 嘆きの壁、それは言葉通りの場所だ。

 山脈が壁となり、そこから向こうは地獄の大地が広がっている。

 故に嘆きの壁。

 その壁を潜った者は、半日と待たずに地獄を見る。

 嘆きの壁の向こう。

 そこは100℃の高温と-100℃の極低温が交差する大地だ。

 何らかの原因で、大地のマナが暴走して、嘆きの壁の向こうが数時間の間に100℃から-100℃を繰り返す、高温と極低温の交差世界がある。

 

 凍結地獄、轟熱地獄…それに耐えられる者はいない。

 超位種でさえ、その凍結と高熱から身を守る為に展開する防壁に力を奪われて二日と持たない。

 ましてや、超位種以下の種族なんて焼死するか、凍死するか。

 誰も嘆きの壁の向こうを制覇した者はいない。

 

 だが、ここに制覇した者がいた。ネオとされる1982号305番だ。

 1982号305番は、戦術装甲を歩いて引っ張る反重力キャリアカーにさせて、嘆きの壁の向こうへ渡った。

 嘆きの壁の麓には町がある。

 嘆きの壁の周囲には高濃度のマナや魔力が貯まり、魔導鉱石が取れる。

 それで町は発展している。

 

 嘆きの壁の向こうへの道は門で閉ざされている。

 申請すれば入れる。

 挑む者達は、重装備で向かう。

 だが、1982号305番は、この世界では見慣れない特殊装甲という武装に身を包んでいる。それは人型のガ○ダムみたいな感じだ。

 それに変形させた反重力キャリアカーのケーブルを繋いで歩いて行く。

 奇っ怪だった。

 

 1982号305番は、嘆きの壁の向こうへ渡った。

 多くの者が一時間と待たずに戻る。超位種でさえ二日と持たない。

 一週間も戻らない1982号305番に、町の人達は、何処かで息絶えたか…と思った。

 珍しい事ではない。

 

 だが、1982号305番は平然と、楽しく歩いていた。

 100℃の高温、そんなの反粒子ミサイルの直撃を受けて数億℃を浴びた程度よりぬるい。

 -100℃の極低温。そんなの真空で-200℃近い惑星の地表を五千キロも任務で徒歩移動した事と比べれば、ぬるい。

 

 むしろ、この世界特有の珍しい環境でのキャンプを楽しめるとして、ワクワクしていたくらいだ。

 

 1982号305番にとって嘆きの壁の向こうは、絶景ポイントばかりで、テンション上げ上げだ。

 マグマが往来する轟熱地獄と、凍土の大地が半分づつある珍しい地形とか。

 極低温と高温とのぶつかり合いで、大気が激しく歪み、ジェットコースターのような虹が幾つも伸びる場所とか。

 次の瞬間、極低温と高温の切り替えによって、大地全てが間欠泉を吹き出す場所とか。

 

 絶景マニアである1982号305番のテンションは、上げ上げだった。

 そんな大地を四日半ほど歩くと、中心部分には別の世界が広がっていた。

 そこは恐竜の世界が広がっている。

 普通の恐竜じゃあない。体の所々に結晶の突起を伸ばす結晶恐竜達だ。

 

 1982号305番は、立体映像として取り込んだアダマンタイトの情報紙を見る。

 その情報紙には、嘆きの壁の向こうに繋がっている大河から、砂金のように極少量のアダマンタイトの粒が流れてくる。つまり、嘆きの壁の向こう、奥地にはアダマンタイトの鉱脈があるのでは?

 

 1982号305番は、前に少量、耳かき以下のアダマンタイトの原石を手にした事がある。信じられない程の複雑な構造を持つアダマンタイトの原石は、精錬するとオリファルコンになる。

 神の力をもたらすオリファルコンには生体と鉱物を繋げて一つの生命にする力がある。

 この奥地にいる結晶恐竜も、オリファルコンの原石、アダマンタイトの効果によって、無機物と有機物の融合体になっているのであろうと…推測できる。

 つまり、魔法がメインのこの世界でのナノマシンに相当するのでは?

 そう1982号305番は推測している。

 

 まあ、とにかく、1982号305番は、レーダー波を放って、地形を探査しつつ更に奥地へ向かうと…アダマンタイトの鉱脈であろう赤黄色の滝の岸壁を発見した。

 おそらく、この滝の水がアダマンタイトの鉱物を取り込んで、嘆きの壁から流れる大河に砂金のように小さなアダマンタイトの粒を送っているのだろう。

 

 そこの鉱床の原石を100キロ分採取して、1982号305番は帰路へ向かった。

 

 1982号305番は、この拷熱地獄と凍結地獄の移動中に、とある事に気付いた。

 この拷熱地獄と凍結地獄の交差する世界には、抜け道のような間がある事を。

 そこなら、20℃から10℃の間に維持されているので、他の者が通れると…。

 だが、その抜け道は絶えず変わる。

 勿論、恒常的な場所もある。

 もし、それを何らかの方法で感知できれば…ここに来られる者達が増えるかもしれない。

 そんな事を思いつつ、1982号305番は帰還する。

 

 1982号305番が嘆きの壁の向こうへ行って二週間、町の人達は1982号305番が帰って来た事に驚愕した。

 そして、もっと驚愕する。

 なんと、超レア金属オリファルコンの原石アダマンタイトを100キロも持ち帰ったのだ。

 町の人達は、とにかく、1982号305番に留まるように止めて、半日後、超位種のドラゴンの背に乗って、この国、最強とされる大魔導士戦士ディオ達が来た。

 ディオ達は、1982号305番を見て、嘆きの壁の奥地へ到達した者がいるという報告を訝しく思っていたが、1982号305番の姿に納得してしまった。

 

 アダマンタイトは、中々みつかる鉱石ではないが、見つからない事は無い。

 見つかるのは砂金のような小さな粒々であって、1982号305番が持ち帰った大きな鉱石なぞ見た事がない。

 

 1982号305番は実は、アダマンタイトを100キロ以上も持っていけたのだが…奥地で回収したサンプルが大量にあるので、100キロしか持って行けなかった。

 奥地で採取したサンプルを見た大魔導士戦士ディオは、直ぐに1982号305番をドラゴンの篭に乗せて、この国…帝国の帝都へ運び、皇帝に謁見させる。

 この帝国の皇帝は、代々、超位種の竜族が担っている。

 人型になった竜族の皇帝が、1982号305番に嘆きの壁の向こうに関しての説明を求め、1982号305番は、撮影した立体映像を展開して説明する。

 始めは信じられなかったが…大魔導士戦士ディオの補足もあり、受け止めると皇帝が

「汝、名は…ネオと申したなぁ…」

 

「はい」と1982号305番は頷く。

 

 皇帝は

「汝、ネオを我が直属の配下とする」

 

 1982号305番は渋い顔をして

「申し訳ありません。それは出来ません」

 

 皇帝の間にいる多くの臣下達に激震が走る。

 偉大なる超位種、竜族の皇帝の勅命を拒否したのだ。なんたる不敬! 死罪に等しい。

 

 皇帝は淡々と

「理由は?」

 

 1982号305番は、自分が故郷を離れる際に、交わした約束、契約を告げた。

 どんな権力にも属していけない…と。

 

 皇帝及び、その竜の氏族達は、1982号305番の力に気付いていた。

 余りにも強大な質量を1982号305番が隠し持っていると…。

 

 皇帝が

「分かった。お前が持って来たアダマンタイトの原石と採取したサンプル達をこちらで購入する。対価はプラチナ金貨百枚だ」

 

 1982号305番は訝しい顔をして

「ぷ、プラチナ金貨?」

 

 プラチナ金貨、それは、通常の流通には絶対に使われない特級金貨である。

 限られた大貴族、力がある王族にしか使用が許されていない。特権階級用の通貨だ。

 プラチナ金貨一枚で、金貨二十万枚(20億)

 つまりプラチナ金貨百枚とは、金貨相当で、金貨二千万枚(2000億)

 

 1982号305番は、一夜にして小国の国家予算並のお金を手に入れた。

 つまり、1982号305番の持って来たアダマンタイトの原石100キロと、そこから持って来た場所のサンプル達には、それ程の価値があるという事だ。

 

 そして、同時に皇帝達は気付いていた。

 1982号305番は、おそらく、一個人で国家を転覆させる程の力を持っていると…。

 そして、国家の諜報力を駆使して、1982号305番がリリスガール達に大金を使っているのを…調べていた。

 要するに大金を掴ませて、この国から逃がさない為に…。

 

 

 そんなこんなで、超大金を手にした1982号305番は、元の町に戻って…がんばっていた。

 そう、頑張っていた。大金と自由を手にした1982号305番は、冒険の疲れを癒やすという目的で…足繁くリリスガール街へ通っていた。

 

 そんな時だ。獅子食亭でルディリが

「ねぇ。ネオ…今日は、ダゴンとかの水属性の女の子達がいる店に行かない?」

 

 1982号305番は少し眉間を寄せて

「昼間から、そういう話は…ちょっと」

と、控えさせる。

 

 それをお客が去ったテーブルを拭く看板娘のケニーが軽蔑の視線で横見している。

 

 その刺さる視線を1982号305番は感じていた。

 だが、1982号305番は

「どうしたんだ? 大金でも手に入ったのか?」

 

 ルディリが

「何でも、オリファルコンの原石が100キロも手に入ってね。新しい神鎧を作るのに駆り出されたんだ」

 

 1982号305番が

「なんだ? その神鎧って?」

 

 ルディリが

「簡単に言うと、大地の魔力をコントロールしたり増幅したりして、特定の広さの大地を作物が育ちやすいように改良したり、リリスガール街にある避妊性病予防の巨大な町型魔方陣のように、大地に魔法効果を付与する装置みたいなもんだよ」

 

「へぇ…」と1982号305番は思いつつ。

 なるほど、それに関する文献を後で買おう。

 そして、100キロのオリファルコンの原石…ん?

 ものすごく思い当たる節があった。

 

 ルディリが

「ねぇ、行こうよ…良いだろう。他の連中、忙しくてムリみたいだし…」

 

 1982号305番は「分かったよ」とつき合う事にして…。

 

 夜のピンクネオンが輝くリリスガール街を歩き、水属性の女の子を扱う、海のアトリエ…というお店に入った。

 ルディリは、何時ものお気に入りのダゴンの女の子を受付で頼み奥へ消える。

 受付の半漁人のリリスガールが1982号305番に

「ねぇ…お兄さん…裏オプってのが、あるんだよ」

 

 1982号305番が訝しい顔をして

「裏オプってのは…常連客にしか提示しないオプションじゃあないのか?」

 

 ヒソヒソと半漁人のリリスガールの受付嬢が

「私達、知っているんだよ。お兄さんがとんでもない大金を手にしているって」

 

 1982号305番は驚きを向ける。

 

 半漁人のリリスガールの受付嬢が

「アンタでしょう。嘆きの壁の向こうから100キロもオリファルコンの原石を持ち帰ったってのは…」

 

 1982号305番は驚きの顔をするも沈黙を続ける。

 

 半漁人のリリスガールの受付嬢が

「黙っているって事は…知られたくないんでしょう。大丈夫、リリスガール達は口が堅いから…。だけど、ね。分かるでしょう。ウチ…ちょっと売り上げが厳しい子達がいるんだ。助けて貰えると嬉しいなぁ…。勿論、タップリとサービスするから…」

 

 1982号305番は項垂れて「幾らだ?」と…。

 

 半漁人のリリスガールの受付嬢がニヤリと笑み

「18000Gなんだ」

 

 1982号305番は、金貨袋の大半の金貨を出して払った。

 

「ありがとうございますーーーー」と半漁人のリリスガールの受付嬢は明るい挨拶をして、1982号305番を裏オプメニューの部屋へ誘う。

 

 そこには、三人のリリスガールがいた。

 蛸足のダゴン娘と、レモン色の肌をした半漁人の娘と、そして…目の前にはムチャ大きい水槽と、そこに人魚の娘がいた。

 

 そう、その大きい水槽ならぬ、特別な水で満たされたガチのウォーターベッドの水槽で1982号305番は裸にされて入れられる。

 この特別な水は、水で呼吸できない種族でも水で呼吸できるようにする特別で、しかも殺菌や抗ウィルスの作用まであり、水槽ウォーターベッドの水は絶えず循環して綺麗にしてある。

 本来は、水生種族の休憩用としての水槽を、今回のセクロスベッドにするのだ。

 

 1982号305番は、人魚のリリスガールのディープキスを受けながら、水槽ベッドに沈み、水の中なのに呼吸が出来て、まるで無重力に浮かんでいるようだった。

 

 最初は、人魚のリリスガールによるサービスだ。

 それはイルカに似ている。

 ディープキスをしたままドッキングして、人魚のリリスガールの花弁が、1982号305番の雄しべを離さないとして、がっちりホールドしつつ人魚のリリスガールの絶妙な上下運動で、雄しべから花粉を飛ばす1982号305番。

 

 次に半漁人のリリスガールだ。

 下半身は人間に近いが、水かきとヒレがある。

 そして人間のようにドッキングするが、そのドッキングした具合が違う。

 まるで卵のような何かが、1982号305番の雄しべを忙しなく刺激して、またしても花粉を飛ばす。

 

 次のダゴンのリリスガールだが…流石にもう、二回目はムリだと1982号305番は思うも、ダゴンのリリスガールが、八つある下半身の蛸足の一本の細いのを、1982号305番の菊の花に挿入する。

 細いダゴンのリリスガールの蛸足が、1982号305番の男のGポイントを刺激して、否応なく雄しべが立ち上がる。

 そして、ダゴンのリリスガールのドッキング。

 千切れるような凄まじい刺激に、幾度も花粉を雄しべから放つ。

 

 男のGポイントを刺激されたまま人魚のリリスガールと半漁人のリリスガールと交代して、雄しべから花粉を搾り取られた。

 

 

 

 先にルディルがダゴンの女の子の見送りをして貰って、店の外に出るが

「あれ? ネオは?」

 先に出ていると思っていた。

 

 ルディルが再び

「ねぇ…ぼくの連れは?」

と、受付の半漁人のリリスガールに尋ねると、受付の半漁人のリリスガールが

「ああ…ちょっとばかり、長くなるかもだから…。ここで待っていてよ」

と、ルディリが店の出入り口にあるベンチに座って暫し待っていると、1982号305番が店の奥から屈み千鳥足で現れて

 

「ど、どうしたの!」とルディリが駆けつける。

 

 1982号305番がその場に崩れて

「足腰が…立たない」

 

「ええええええええ!」とルディリは驚きを向けた。

 

 その後、ルディリは知り合いを探して、1982号305番を運んで貰った。

 

 今日も1982号305番は、この世界で体を張って頑張っている。

 いや、楽しんでいる。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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ちょっとマジな話

ちょっとマジな話が続きます。
エロを期待するなら次回に


 はぁはぁはぁはぁ

 

 彼は走っていた。

 

 その大地は、日中は60℃の高温に、夜は-50℃の空気のない荒野だ。

 単騎で、特別な装甲に身を包んでいるとは言え、たった一人で、十日間も…行進していた。

 その大地に一切の生命は存在しない。

 だからこそ、アンドロメダ星雲の無人兵器量産工場地帯がある。

 この惑星の大地には、膨大な数の無人兵器を量産可能な資源が溢れていた。

 

 今から10年前、そこをたった一人で破壊する為にネオデウス1982号305番が向かっていた。

 何の支援もなく、渡された物資のみで、単騎で…たった一人で荒涼とした生命のいない大地を走破した。

 

 この作戦を立案したのは、同じネオデウスのトルーマン大佐だった。

 この当時、天の川銀河のシステムを握っていたのはナチュラル派だ。

 ナチュラル派の主観に基づく無謀な計画の為に、天の川銀河は、他銀河達との戦争に突入していた。

 

 1982号305番の上司、トルーマン大佐は典型的なナチュラル派の考えに染まった愚か者だった。

 その作戦とは言えない、自殺志願者用の命令の全てを成功させて来たのは、1982号305番だった。

 

 アンドロメダ星雲の無人兵器無人自動量産工場地帯は、上空から一切近づけない鉄壁の高エネルギーシールドに守られていた。

 それの工場地帯を破壊するには、数千キロ先からの単独徒歩しかなかった。

 

 それを1982号305番は完遂させた。

 

 無人兵器量産無人自動工場地帯へ、数千キロ先から徒歩で侵入した1982号305番はシステムを混乱させ破壊、無人自動工場地帯を完璧に破壊した。

 そして、工場地帯と繋がっているシステムに自爆ウィルスを仕込み、アンドロメダ星雲の同じ無人兵器工場達を連鎖破壊させた。

 

 その後、待機していた他のネオデウスの四人は、アンドロメダ星雲の宇宙軍に攻勢を強めて、アンドロメダ星雲は和平を申し出た。

 恒星間戦術兵器ネオデウスの有用性を示した事例の一つになった。

 

 この後、1982号305番の危険な単独潜入任務が増加する。

 

 敵施設への危険な単独潜入した後、その兵器システムの破壊。

 それを1982号305番は繰り返した。

 そして、兵器システムが破壊された惑星を他のネオデウス達が制圧する。

 そうして、勝利を続けた。続けたが…

 

 その功績は、全てトルーマン大佐と他のネオデウス達とされた。

 1982号305番の活躍など…誰も知らない。

 いいや、知っている者達がいた。

 天の川銀河の人工知性体達、そして…攻められた他銀河達だ。

 真のネオデウスは1982号305番だけ。

 それ以外は、多くの宇宙艦隊を動かす為のエネルギー供給ジェネレーターにすぎない。

 

 アウターヘブン世代…男はこうだ…というカルト宗教に犯された時代を生きた1982号305番の彼は、そのカルト宗教の狂気に呑まれて15年間も戦い続けた。

 何時、死ぬともしれない任務ばかりを押しつけられた1982号305番は最強の兵器と化していた。

 そして、危険な任務を終える度に、思考が…理性、知性、論理、理論である人工知性体…DIに近くなった。

 このまま、1982号305番は、アウターヘブン世代の狂気に呑まれてモノのように生きてだけの人生が続くと思われたが…。

 

 狂気の時代は何時も足早に終わる。

 エネルギー、資源、生存の分配ミスによってナチュラル派は、多くの男性派閥から信用を失い。

 それが切っ掛けで、貧困の復活、自殺する男性が多発。

 それを事故だとナチュラル派は、責任転嫁する。

 そんな無責任に男性達がシステム派に転じて、天の川銀河をシステム派、人工知性体DIの管理に戻した。

 

 人類に人類は管理できない。人の上に人は立てない。

 そんな当たり前を、人類特有の過ちを忘れたナチュラル派は、一気にその地位を墜落させた。

 

 

 そして、過去から現在、人工知性体の統治になった天の川銀河は、周辺銀河達との和平を成立させ、戦争が撲滅した。

 

 そして、とある四名が、人工知性体DIの最高議長達の前に並んでいた。

 一人は、トルーマン大佐。

 残りの三人はネオデウスに適合した女性達三名、セシリア、アグネス、ジャンヌだ。

 その四人が並んで、最高議長DIに訴えていた。

 

 トルーマン大佐が

「1982号305番の別時空への調査措置ですが、我々…同じネオデウスの者達で分担するべきだと思われます」

 

 四名のネオデウス達を見下ろす最高議長DI達

「その理由は?」

 

 セシリアが

「他銀河の和平の為に戦力削減として、ネオデウス1982号305番が追放という別時空への処置をされたなら、同じネオデウスである我々も同じように成される事が公平だからです」

 

 アグネスが

「1982号305番の送信する膨大なデータを見ました。あの作業量は確実に重過労状態です。健全な活動とは言えない」

 

 ジャンヌが

「ならば、我々も同じように…彼の1982号305番と共に別時空現地調査を行うべきです。1982号305番の過重労働軽減の必要性が生じています」

 

 四人の言葉を聞き終えた最高議長DI達は

「では、我々の結論を告げよう」

「残念ながら、計画の変更はない」

 

 トルーマン大佐が

「何故ですか! 我々も同じネオデウスです。同じように成果を上げる事が可能です」

 

 最高議長DI達は

「では、1982号305番がどうして、追放されたのか…根本的理由を告げよう」

「天の川銀河を和平を結んだ周辺銀河達からの要求だ」

「1982号305番を処理せよ…と」

 

 四人のネオデウス達は沈黙する。

 

 最高議長DI達は

「周辺銀河達が、この天の川銀河と和平と協調を結ぶ際に、第一条件としたのは、1982号305番の処理だった」

「周辺銀河達は、君達四人よりも、1982号305番の脅威性を最も重要視していた」

「その理由は、君達でも理解しているはずだ」

「1982号305番が、戦場を処理した後、悠々と君達が制圧した」

「1982号305番は、戦場処理の先兵であり、君達は後の制圧の為の戦略的兵器だった」

「周辺銀河達は理解している。所詮、君達は、戦略兵器群を動かす星系規模のジェネレーター程度だと…」

「戦場で、相手を完膚なきまでに破壊する力と、無事に制圧された戦場を維持する力」

「どれが最も重要であるかを、周辺銀河達は理解していた」

「要するに、君達四人の制圧維持ネオデウスより、遙かに戦術破壊に特化したネオデウス1982号305番の方が圧倒的に重要なのだ」

 

 最高議長DI達の中央、バイザーを掛けた老年の人工知性体DIの最高議長が

「所詮、君達は愚像。1982号305番が切り開いた道を安全に歩いて来ただけ。それだけの能力しかない。理解しているな」

 

 最高議長DI達が

「我が天の川銀河では、ネオデウスといえば君達四人だろう」

「だが、それは成功者という偶像に彩られた虚構」

「人類とは何時も成功者という偶像しか目に入らない」

「それをナチュラル派である君達四人は理解している筈だ」

 

 セシリアが

「それでも…私達と1982号305番、アラタは、同じネオデウスの仲間です!」

と、叫ぶ。

 

 だが、老年の人工知性体DIの最高議長が

「残念だが…1982号305番にとって、君達は仲間でも何でも無い。任務、軍務、命令というシステムで繋がった。システム的な関係だ。それが1982号305番の本心でもある」

 

 トルーマン大佐が

「では、私が、1982号305番と同じくらいの価値があると証明してみせます」

 

 最高議長DI達が

「それは不可能だ」

「なぜなら、戦争は終わった。もう…二度と起こらないだろう」

「職務に励み給え」

「もし、職務に邁進できないなら、新たなキャリア形成申請をしたまえ」

 

 老年の人工知性体DIの最高議長が

「決議は変わらない。以上だ」

 最高議長DI達が消えた。

 

 トルーマン大佐は、その場に崩れ

「ちきしょう。オレは…何も出来ないのか…」

と、自身の無力さを噛みしめた。

 

 最も優秀だったネオデウス1982号305番は、追放。

 最も凡庸だったネオデウスの四人は残った。

 何時の世も、人類は…優れた者を駆逐して、その叡智と技術を簒奪した愚か者だけが世に幅をきかせる。

 それが人類の性質なのだから…。

 人類の絶対真理。

 優れた者は子孫を残さない。

 愚かな獣の如き者が、優れた者の力を奪って繁栄する。

 人類は所詮、獣なのだ。

 絶望的な真実こそ事実なのだ。

 

 1982号305番が別時空、異世界現地調査に向かって半年以上が過ぎた。

 

 

 1982号305番は、目が覚める。

「ああ…」

と、ベッドから起き上がる。

 そのホホに

「おはようにゃん」

と、キスをする獣人のリリスガール。

 

 1982号305番は、窓の外を見る。

 朝日が緩やかに差してくる。

 空気が澄んだ早朝の風景が見える。

 

 1982号305番は額を抱える。

 獣人のリリスガールのお店で朝を迎えた。

 

 昨日、夜中の24時に獣人のリリスガールのお店に来た、来てしまった。

 普通というのは、おかしいが…ミドルの40分コース5000Gで終わるつもりだったのに…。

 受付で獣人のかわいい女の子達二人が、1982号305番の両腕をものすごく柔らかいおっぱいに挟んで

「ねぇ…ネオさん。サービスするにゃん、裏オプしないにゃん?」

 

 1982号305番は戸惑い

「いや…その」

と、その口を右腕を胸に挟んでいる獣人のリリスガールがキスで塞いで

「ねぇ…ここもやる気が出ているにゃんよ」

と、1982号305番の元気になったマイサンを優しく撫でる。

 

 1982号305番は

「いや、そうなると…帰れなく…」

 

 その口を左腕を胸に挟んでいる獣人のリリスガールがキスで塞いで

「ネオさん、ウチをご贔屓にしてくれているにゃん。もう…閉店近いし、泊まって、明日…帰ればいいにゃん」

 

 その誘惑に、1982号305番は負けた。

 

 そして…1982号305番は、何時もの風景が違う朝のリリスガール街から朝帰りする。

 あれだけ、過重労働とか心配されているのに、1982号305番は、この世界で十分すぎる程の息抜きをちゃんとしていた。

 

 一度、停泊地にしている宿屋に戻る。

 五階建ての洋風煉瓦の宿屋に戻ると、宿屋の主である獣人のマスターが

「ああ…おかえり、朝帰りかい」

と、ニヤリと笑む。

 

 1982号305番は頷き

「まあ…うん」

 

 宿屋のマスターが

「はいよ」

と、1982号305番が最上階五階の全ての部屋を借りているので、そこを隔てる大扉の魔法キーを渡す。

「後で、ハウスクリーニングに行きたいけど…」

 

 1982号305番は

「502と505が…昨日、仲間の連中と使って騒いで汚れているから…」

 

 宿屋のマスターが頷き

「分かったよ。あ、それと…装備の大きな鎧がしまってある部屋、507号室の窓が真夜中、チカチカと窓から光を出していたけど」

 

 1982号305番がハッとして

「しまった。昨日は定時連絡を入れる日だった。連絡を入れなかったから…」

 

 宿屋のマスターが

「問題はないって事で…」

 

 1982号305番は頷き

「故郷へ定期的に連絡を入れているんだよ。それをしなかったから」

 

「そうか」と宿屋のマスターは納得した。

 

 

 1982号305番は宿屋のアンティークなエレベータに乗って五階の総借りしている階層へ行く。

 そして、戦術装甲を置いている部屋に入る。

 ちょっとした鎧の置物状態にトランスフォームしている戦術装甲に触れると、本国、宇宙文明の人工知性体DIの立体映像が投影される。

 投影された人工知性体DIが

「やあ、昨日は定時連絡が無かったが…」

 

 1982号305番が渋い顔をして

「その…調査を…してまして…」

 まあ、確かに調査だ。現地の女の子とニャンニャンする調査だ。間違いはない。多分…。

 

 人工知性体DIが

「君の成果はとても素晴らしい。だが…少し働き過ぎでは?」

 

 1982号305番は頭を掻きながら

「限界があります」

 

 通信をする人工知性体DIが

「限界? それは…」

 

 1982号305番は頭を振って

「この世界にある物品や薬、食品といったお金で買える者は、簡単に入手できますが…。この世界の住人、つまり人々の生体データの採取は、ほぼ…一人ではムリです。種族が…余りにも多種多様すぎる。獣人でさえ百以上の形態で違いある。ましてや、種族を越境したハーフなら尚更です。そもそも、この世界には、我々人類のような、一種だけのような種族ではない。本当に多種族、異種族が混在する世界です」

 

 人工知性体DIは

「つまり、生体データを集めるのには至難の業だと…」

 

 1982号305番が

「権力者と繋がる条件の一部緩和を申し出ます。経済活動に限って、有力者や権力者と通じる。経済活動を通じて様々な異種族との交流によってサンプルの採取が可能になる」

 

 人工知性体DIは

「そうか…分かった。その条件でどのような影響があるか…こちらでもシミュレーションして、結果を伝えよう。だが…あまり、期待はしないで欲しい。我々のスタンスは貫く事が重要なのだから」

 

 1982号305番は

「では、自分なりに…計画の立案をしますので…」

 

 人工知性体DIは頷き

「それも早めに頼む」

 

 こうして、本国との通信を終えた1982号305番は、部屋から出ると、ドアノブに僅かな残留体温を検知した。

 探査レーダーを使ってドアノブを調べると、さっきまでドアノブに触っていた人物がいた。

 その人物とは…「やれやれ」と1982号305番は頭を振った。

 

 

 1982号305番が本国と通信する前、獅子食亭のウェイトレスのケニーが、獅子食亭の料理長で店主の植物人アルラウネのエダが、ケニーにお使いを頼んだ。

 そのお使いとは、獅子食亭に張られる情報紙を1982号305番に届けるというモノだ。

 1982号305番は、獅子食亭に優先的に、何かの植物とか鉱物の情報が載った情報紙を渡して貰えるように定期購読のような金銭契約を交わしている。

 月払いで3000Gだ。

 これにより、1982号305番は、様々なサンプル探しの情報を得ている。

 新しい情報紙が入ったので、ケニーをお使いに出して届けさせる。

 それは何時もの事なので、気軽に1982号305番がいる宿屋のマスターがケニーを専属契約している最上階へ通す。

 

 そして、ケニーが何処にいるのか…探していると、1982号305番が声が聞こえて来た。

 その部屋のドアが僅かに開いていて、ケニーがドアノブを掴んで押すと…中で1982号305番が立体映像の誰かと会話しているのが隙間から見えた。

 この世界でも魔法具を使えば似たような事ができる。

 1982号305番が、定時連絡とか、サンプルとか、生体サンプルとか、話しているのを聞いて、自然とケニーはドアを静かに閉めて、その階から降りてホールで待つ事にした。

 

 数分後、1982号305番がアンティークなエレベーターから降りてくると

「こんにちは、ネオさん」

と、ケニーが笑顔で挨拶すると1982号305番が

「ちょっと話を聞いてくれないか? ケニーちゃん」

 

 ケニーがハッとして気まずい顔をして

「その…言いませんから」

 

 1982号305番は首を横に振り

「そんなに気負う事じゃない。秘密って事でもない。故郷…本国から出ていった時に、出て行く条件として定住する場所のデータを集めるのを任務にされたんだ」

 

 ケニーが不安な顔で

「その…スパイ…」

 

 フッと1982号305番は笑み

「そんな大それた事だったら、もっと別の…国政の内情に関係する事を調べているよ。私が生まれた本国と、こことでは…様々な事が違う。つまり、日常の事を調べて、それを情報にして送っている。ケニーちゃんが思っているような、ヤバい事じゃあない。だから、うっかりしゃべっても気にしなくていい」

 

 ケニーが不安な顔で

「戦争とかの…」

 

 1982号305番は、首を横に振って否定して

「しない。絶対にさせない。約束できる」

 

 ケニーはホッとして

「はい。これ女将さんから」

 

「ああ…ありがとう」

と、1982号305番は情報紙の書類を受け取り

「もう、お昼が近い。獅子食亭に食べに行くから、一緒に行こう」

 

「はい」とケニーは頷き、共に獅子食亭へ向かった。

 

 

 1982号305番は、獅子食亭のテーブルで、受け取った情報紙を見ながら昼食をしていると、そこへ何時ものメンバー、ハーフドラゴンのドリンと、エルフのレリス、鬼人族のムラマサ、ハーフリングのルディリの四人が来て、ドリンが

「なぁ…ちょっと仕事を手伝ってくれないか?」

 

 1982号305番が

「どうしたんだ?」

 

 レリスが

「実は、帝都の周囲で大規模なモンスターの発生が生じているらしい」

 

 ムラマサが

「それを狩る為に、周囲の街から戦闘が出来る冒険者を集めているんだよ」

 

 ルディリが

「ネオが一緒に来てくれると助かるし、それに色んなモンスターが出るから、ネオのサンプル取りも捗ると思って」

 

 ドリンが

「どうせ、この街の警備隊からもお声が掛かるだろうから…先んじてな」

 

 1982号305番は微笑み

「いいな。丁度…色んなモンスターのサンプルが欲しかったんだ。行くよ」

 

 そして、ドリンが寄って

「そんでもって…この店…行こうぜ」

と、一枚の情報紙を差し向ける。

 それは…異種族のエッチなお店のレビューで、帝都でレビューしている人達が残した情報紙だ。

 

 1982号305番は、それを見て

「はぁ? 性転換…店?」

 

 レリスが

「魔法の薬で、男なら女、女なら男になってエッチな事が体験できる帝都のお店です」

 

 ルディリが

「何事も体験は大事だよね」

と、四人が期待する顔を1982号305番に向けて

 

 1982号305番は苦笑いして

「分かった。そこもいいよ」

 

 四人は「イェイーーー」と手を叩き合わせて、ドリンが

「終わった後、楽しみだな…」

と、鼻の下を伸ばした。

 

 楽しげにしている四人を見守る1982号305番。

 

 だが、突如として獅子食亭のドアが開き、大人数が入って来た。

 完全武装した一団が、獅子食亭に入ると、1982号305番の元へ向かう。

 その先頭は、なんと大魔導士戦士ディオだった。

 

 大魔導士戦士ディオが連れる騎士団は、市販では売ってない特注の鎧に身を包んでいた。

 

 大魔導士戦士ディオが1982号305番の前に来ると

「ネオだな」

 

 獅子食亭が自然と警戒に染まって静かになる。

 

 1982号305番が

「ええ…そうですが…」

 

 大魔導士戦士ディオが

「我々と一緒に来て貰う」

 

 ドリンが嫌そうな顔で

「理由は!」

 

 獅子食亭にいる冒険者達も険しい顔をしている。

 明らかに戦いの気配を感じている。

 

 大魔導士戦士ディオは

「皇帝陛下が、君を呼んでいる」

 

 1982号305番は

「それは…勅命ですか?」

 

 大魔導士戦士ディオの殺気が上がり

「察してくれると助かる」

 

 ムラマサが腰にある刀に手を置くも、1982号305番が席を立ち

「分かりました」

 同意した。

 

 それにレリスが「ネオ…」と怪しいと…。

 

 1982号305番は頷き

「大丈夫だ」

と、告げた後、大魔導士戦士ディオ達と共に去って行った。

 

 おそらく、拒否すれば…確実に獅子食亭は大惨事になっていただろう。

 

 1982号305番、ネオは帝都へ運ばれた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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思い出の天使

1982号305番の本国報告へのトラブル。
そして…なんと、あの三人が!


 1982号305番は、大魔導士戦士ディオに連れられて…いや、連行されて再び帝都へ皇帝城へ来た。

 

 大魔導士戦士ディオを戦闘に息子とその長男、さらに、その一族の厳重な囲いの連行をされて1982号305番は再び、皇帝の王座の前に立つ。

 

 数十段も上の皇帝の座から、威厳を醸し出す代々この帝国の帝位を継承する竜族の長にして皇帝ロンバルディアが鋭い目で、連行された1982号305番を見下ろす。

 

 1982号305番は、周囲を見る。

 皇帝城の皇帝の座は、広大な室内、いや、ドームだ。

 ギリシャ神殿のような石柱が多数ならび、その幅は、全長五十メートルの超位種である竜が通れる程だ。

 そして、前に皇帝ロンバルディアと謁見した時には違った事がある。

 大多数の竜達が、皇帝の座の周囲に居座っている。

 その視線は全て殺気を持っている。

 

 おそらくだが…竜族の長である皇帝ロンバルディアの臣下達であろう。

 

 竜族達が竜の形態で、1982号305番を囲んでいる。

 

 皇帝ロンバルディアが

「どうして、連れて来られたか…理由は分かっているか? ネオ…」

 

 1982号305番は首を横に振り

「いいえ」

 

 否定を口にしただけで、皇帝の座にいる竜達の顎門から数千度の火炎が覗かせる。

 今すぐ、焼き払いたいのだろうが…。

 逆に肝が据わっている1982号305番に、皇帝ロンバルディアは笑み

「お前は…本当に図太い。これ程の竜達に囲まれて…その余裕…どこから来るのか…」

 

 1982号305番はフッと笑み

「大した事ではありません。私の経験上…このような巨大な存在、竜族よりもっと巨大な存在と戦いを繰り広げた事と比べれば…」

 

 竜達の警戒が上がる。

 ハッタリではない。それを裏付けるように…1982号305番の密度が上がっていくのをマナ感知で察する竜達。

 

 皇帝ロンバルディアは、余裕な態度で

「では、お前をここに連れてきた理由を言おう。ネオ、キサマは…飛び出した本国と連絡を取っているそうだな」

 

 1982号305番は頷き「はい」と頷く。

 

 皇帝ロンバルディアは

「その理由はなんだ?」

 

 1982号305番は冷静に

「私がここへ流れてくる条件として、本国は、私が暮らしている地域の土地や社会、様々な事をデータ、情報として送るようにすると約束を交わしました。その約束を守っているだけです」

 

 その言葉に1982号305番を囲んでいる大魔導士戦士ディオ達と、竜達の気配が鋭くなる。

 

 皇帝ロンバルディアが

「それは…我が帝国と戦争をする為か?」

 

 フッとバカにした笑みをした1982号305番が

「どうして、そうなるですか? 理解できない」

 

 皇帝ロンバルディアの隣にいる竜が

「愚かな…国を知ろうとする事は、すなわち戦争の準備である。それは当たり前であろう」

 

 1982号305番が

「ああ…失礼、それがこの世界の常識でしたね…」

と、何処か皮肉な笑みをする。

 

 皇帝ロンバルディアの傍にいる竜が

「陛下、こやつを処刑しましょう。帝国の安寧を乱す輩は始末するべきです」

 

 皇帝ロンバルディアが

「汝、ネオに聞く。ネオ…キサマが持つ力は…血族に遺伝するのか?」

 

 1982号305番が鋭い顔をして

「なるほど…つまり、遺伝するとしたら…どうしますか?」

 

 皇帝ロンバルディアが

「汝の力が血族に遺伝するなら、我ら竜族から妻を娶り、汝…機神、マキナ族の力を我らに寄越せ。そうすれば…処刑は免れるぞ」

 

 1982号305番は鋭い顔をする。

 本来、恒星間戦術兵器ネオデウスの力は遺伝する事はない。譲渡という形で別の者に受け渡すのだが…1982号305番は違った。

 あまりにも苛烈な戦場で戦い続けた結果、ネオデウスが変異進化して、1982号305番と完全に融合してしまった。

 なので、1982号305番が子孫を残した場合、そのネオデウスが遺伝するのだ。

 それ故に、元妻であった女アリアとの間にもうけたであろう娘の遺伝子調査がされて、結果、娘は1982号305番の娘ではないと分かった。

 そして、その結果…アリアと元友人だった男との密通が発覚した。

 

 遺伝するネオデウスを持つのは1982号305番しかいない。

 

 1982号305番は

「申し訳ありませんが。出来ません」

 

 周囲にいる竜達が

「キサマ、死にたいのか!」

「なんと不遜な!」

「この愚か者に死を、陛下!」

 

 大魔導士戦士ディオ達の殺気が倍になる。

 

 大魔導士戦士ディオにとって他の思惑がある。

 このまま1982号305番を取り込めないなら、この帝国にとって大損害になる。

 それ程の功績を1982号305番は、帝国で示して来た。

 そんな男が、帝国の権力に属さないのは、あまりも危険すぎるのだ。

 

 皇帝ロンバルディアが

「お前は、夜な夜な…リリスガール街へ繰り出している。妻を一人とは言わん、欲しいだけ申せ、十人でも二十人でも…満足するだけ用意してやる」

 

 1982号305番は、現地調査で竜族の生態について調査している。

 竜族は一匹のオスに複数のメス達が集まる一夫多妻の形式を取っている。

 オスもメスも、共に強大な超位種な為に、確実に子孫を残せるメスが多くなる傾向がある。

 オスは、そんなメス達を守る為に強大で、知恵を付けるようになる。

 寿命も神的な存在、ハイエルフや、精霊に近い千年単位だ。

 竜族としての純度が下がれば…ハーフになると寿命は桁違いに下がる。

 

 1982号305番は少し訝しい顔をして

「私がどうして、本国から出て行ったのか…その理由はご存じですか?」

 

 大魔導士戦士ディオが

「建前は、妻の不貞によって出て行った…と」

 

 1982号305番は暫し悲しげな顔で

「それも理由の一つですが…。本国がある世界、こことは違う異世界ですが…。そこでは戦争が撲滅された。私は、その世界で無用の長物となったのです」

 

 突然に1982号305番の背中から円盤が飛び出し、赤と白の光を明滅させ

「ネオデウス1982号305番。それ以上は、規約に抵触します」

と、その円盤から人工知性体DIの映像が出る。

 警告の為に出て来た。

 

 1982号305番以外の者達は驚き、1982号305番は冷静に

「この状況…その規約が守れる事態ではないと結論する」

 

 皇帝ロンバルディアが

「お前が、本国の者か…」

と、円盤から飛び出た人工知性体DIの立体映像を指差す。

 

 警告に現れた人工知性体DIの立体映像が

「もし、規約を守れないなら…ネオデウス1982号305番。貴方を回収します」

 

 

 人口100万の帝都の上空に、巨大な次元の穴が出現する。

 100キロにも及ぶ次元の穴から、100キロ級の宇宙戦艦、いや高次元から無限にエネルギーを取り出せるオメガデウスをコアとした恒星間戦略時空戦艦エルドリッジが出現する。

 

 数十キロの円盤をコアに翼を伸ばす鳥の形をした恒星間戦略時空戦艦エルドリッジから、光輪を背負った無数の機械の巨人達が降臨して、瞬く間に帝都の上空を制圧。

 

 そして皇帝城内部に、機械の巨人の軍勢が着地して、無数の円盤が1982号305番のいる皇帝の座に到達する。

 

 鉄の空を帝都の民達は不安に見上げている。

 

 その報告は、直ぐに皇帝ロンバルディアに来ると、同時に円盤達が到着、1982号305番の周囲に浮かび、最高議長DI達の立体映像を投影させ

 

 老年の人工知性体DIの最高議長が

「ネオデウス1982号305番、規約違反だ」

 

 1982号305番はフンと鼻息を荒げて

「私より、まずは…現地住民に説明をした方がいいだろう」

 

 こうして、1982号305番を回収しに来た人工知性体DI達が、帝都の支配者、皇帝ロンバルディア達に自分達の事を、立体映像も交えて説明する。

 

 この皇帝の座にいる者達は、それを理解できる程の知性を持っていた。

 

 この異世界では資源、土地が最も重要で、次に人だ。

 だが、無限のような宇宙に広がる超技術文明にとって、資源と土地は、簡単に作り出せる玩具であり、最も重要なのは知性体生命の存続である事、つまり…人の永続的な存続が主命であると…。

 

 それの宇宙級超技術文明は、惑星、つまり…自分達がいる世界を一瞬で崩壊させる程の単騎の兵器を作り出した。

 その成功例が、ネオデウス1982号305番、ネオであると…。

 その1982号305番は、戦争が撲滅した宇宙級超技術文明にとって不要になったが。

 生命であるが故に、追放という形で、別世界に当たるここへ、現地調査員として来たと…。

 

 全てが驚愕の事実でしかない。

 

 説明を終えた後、人工知性体DI達が

「今回の件に関しまして、こちらでは慰謝料を用意させます。どのような慰謝料を請求するかは…後ほど、お伺い致しますので」

 

 皇帝ロンバルディアは

「では、慰謝料を請求する。その男を置いて行け!」

と、1982号305番を指差す。

 

 人工知性体DI達が止まる。

 

 皇帝ロンバルディアは

「我らの慰謝料として、おの男…ネオを我らのモノとして、ネオの血族を我が帝国で育て、帝国に組み入れる」

 

 人工知性体DI達が

「しかし、他の莫大な資源や、エネルギーといった」

 

 皇帝ロンバルディアが鋭く

「そんなモノより、ネオを要求する」

 皇帝ロンバルディアは見抜いていた。

 ネオデウス1982号305番は、その宇宙級超技術文明の技術、力をその身に宿す存在。その世界での最高傑作なのだ。

 故に、放逐するしかないが、回収にも来たと…。

 

 人工知性体DI達は演算する。そして…

「分かりました。では、交渉致しましょう」

 

 転移してきた恒星間戦略時空戦艦エルドリッジを元の世界に戻し、交渉用の二百メートルの時空戦艦だけを残して、人工知性体DI達と、帝都の為政者達との交渉をスタートさせた。

 

 その間、1982号305番は帝都に滞在する事になった。

 滞在場所は、帝都の皇帝城の客間だ。

 まあ、言わずと知れた豪華だ。

 どのくらい豪華って? 大便をする部屋も調度品に囲まれた部屋だ。

 考えて欲しい、ルーブル美術館のような室内と、体が気持ちよく沈むベッド、更に貴重な本、多分…売れば金貨数十枚は匹敵するであろう結晶鉱物の置物。

 そんな美術品だらけのホールのような5Lの部屋だが、機能は充実している。

 空気清浄機のような魔法結晶装置、絶えず室内の湿度に温度は完璧に管理、更に何かある場合は、ベルを鳴らせば執事や女中さんが来て何でもしてくれる。

 そんな部屋で、世界の様々な植物や動物、魔法工学、技術、といった書籍を読みふける1982号305番。

 

 運動不足には、執事がトレーニングルームへ連れていってくれる。

 

 ここは、21世紀でいうシンフォニー・オブ・ザ・シーズという豪華客船の内部か?

 そう勘違いさせる程の充実ぶりだ。

 

 まあ、地下の牢獄でないだけで、満足だ。

 

 その豪華なベッドで本を読んでいる1982号305番は首を傾げる。

 書籍の書かれている内容が、これまた凄くて正確だ。

 貧困による経済学とか、行動による心理学経済とか、人間の無知による過剰自信の心理学とか。

 明らかに中世レベルの社会では、書かれないであろう学問の本まで充実している。

 

 本当にこの世界は不思議だ。

 技術や知識は、おそらくだが…21世紀中期か、初期に匹敵するのに、その社会は…セクロス風俗が盛んな、中世レベルなのだ。

 だからといって、人々の意識が低いではない。

 なんというか、温厚、何でも受け容れる。ものすごく度量が広い。

 色んな異種族と色んな価値観が、ぶつかるも共存している。

 むしろ、色んな異種族の価値観や性質を、上手く組み合わせて七色の複雑な絵画を構築しているようだ。

 だからこそ、1982号305番は、この世界に飽きない。下半身も…。

 この世界に来て、自身の感情の複雑度合いが上がったような気がする。

 

 そんなこんなで、四日が過ぎた頃、再び皇帝の座に呼ばれた。

 

 天の川銀河連合と、この帝国との交渉が終わったのだ。

 

 さて…どうなっているのやら…と1982号305番は、少し自嘲気味に思う。

 

 数十段も高い皇帝の座から皇帝ロンバルディアが見下ろし、その階段の元に会議をした人工知性体DIの最高議長達の立体映像を乗せる円盤端子達がいた。

 

 人工知性体DIの最高議長達が

「では、ネオデウス1982号305番。我々の協議の結果を伝える」

 

 1982号305番は渋い顔をする。

 予想としては決裂、自分は回収されて別の異世界への現地調査へ向かうだろう。

 その前に…脳裏に過ぎる、ここで出会った彼ら彼女達に挨拶だけはしたい。

 

 人工知性体DIの最高議長が

「ネオデウス1982号305番、君にここでの戸籍を与える」

 

「ふあ!」と1982号305番は、今まで出した事もない声が出てしまった。

 予想を完全に裏切られた。

「つまり…え? 現地調査の…継続…ですか?」

 

 老年の人工知性体DIの最高議長が

「様々にこの国の者達と協議した結果。ネオデウス1982号305番、君にこの国での戸籍を付与。そして、引き続き現地調査を命じる。

 そして、新たな任務を追加する。

 この国、ドラグ・アース帝国の国民となって、この国の安寧と平和に寄与しつつ。

 この世界の現地調査を続行。

 そして、新たな君の戸籍を付与し、君はこの帝国での巨大海運財閥の会長としての地位を持って、帝国の発展と安定に努めつつ生活の向上に努めよ」

 

 1982号305番は、戸惑いつつ

「了解しました。ですが…もし…他国との戦争が勃発した場合…」

 

 老年の人工知性体DIの最高議長が

「他国との戦争が勃発した場合、君には殺人及び強姦、窃盗、詐欺は許されていない。

 つまり、殺人をしないで戦争を収束させるという行動をして貰う」

 

 フッと1982号305番は笑み

「なるほど、私が天の川銀河で戦ったように…」

 

 老年の人工知性体DIの最高議長は

「そうだ。潜入ミッションによって他国との戦争の収束を行う。この世界の戦争は非常に単純だ。将軍を拿捕すればいい。大軍の侵攻も、それを妨害すればいい。

 君が18年間もやって来た作戦と同じ事をすればいい。君の能力を鑑みれば問題ない」

 

 1982号305番は笑みながら背筋を伸ばし

「了解です。ネオデウス1982号305番。命令を復唱します!

 現地調査を続行。

 新たに、この国の民となり、この国の安寧と発展に寄与。

 他国との戦争となった場合は、いかなる手段を持っても殺人を行わずに収束。

 そして、海運財閥の会長としての職務の真っ当」

 

 老年の人工知性体DIの最高議長が

「復唱確認。任務の続行を」

 

「は!」と1982号305番は敬礼する。

 

 人工知性体DIの最高議長達が

「では、君に新たな名前を付与する」

「君の帝国での名は、ネオ・サーペイント・バハムート」

「海運財閥の名は、エンテイス」

「海運財団エンテイスの拠点は、君が前から提唱していた大型システム島、アルヴァス型時空戦艦を元に現地に合わせて建造し、三日後に…帝国内湾の中心に設置、運営を開始する」

 

 老年の人工知性体DIの最高議長が

「これは…君、個人の判断に任せるが…。現地住民との間に子孫を成した場合は、我々の監視が入る事になる。その事は考慮するように。あくまでも君が君の意思で、現地住民との間に子孫を残した場合だ」

 

 1982号305番、いやネオ・サーペイント・バハムートは、微妙な顔をして

「はぁ…りょ、了解しました」

 最近、下半身がユルユルなのを人工知性体DI達は知っているようだ。

 

 かつて、天の川銀河の宇宙で伝説…レジェンドであったネオデウス1982号305番は、この新たな世界で、ネオ・サーペイント・バハムートとして生まれ変わった。

 

 

 それから…皇帝城の軟禁…。まあ、充実した本を読み込んだバカンスから、皇帝城眼下の帝都へ自由に遊びに行けるようになり、帝国民となって、明日…元の街に帰る事になった夜、帝都の散策を1982号305番ならぬネオは、案内をしてくれる竜族の若者ラダントと一緒にしていた。

 

 完全な人型になっているラダントが、ネオを色んな美味しいお店に案内する。

 100万人を超える人口を誇る帝都はデカい。

 帝国内の色んな料理に舌鼓しつつ、夜中は…やっぱり、リリスガール街へ来た。

 巨大な一角全てがリリスガール街で、おそらく住んできた街の規模より数倍も大きい。

 その象徴に、大きな五十階に相当する巨塔が三つもある。

 その巨塔が全てリリスガールのお店なのだがら…ビックリだ。

 

 まず、帝都のリリスガール街に入るには、先にお金を支払いする。

 その額は8000Gだ。これは一律だ。

 そして、支払ったという札を貰う。

 その札を持って、リリスガール街へ入ると、周囲全てが大量のリリスガール達で埋め尽くされている。

 もう、ピンクの艶やかなネオンに満ちていて、それしか…見えない。

 

 帝都のリリスガール街のシステムは、先に8000Gを支払い、支払った札をリリスガールに渡して、一晩を過ごす。

 要するに、一晩中、リリスガールとやれるのだ。

 

 前の街にあったライト、ミドル、ウェイトのようなシステムではない。

 だから、その分、料金も高いのだ。

 

 ネオは思った。

 待てよ、それじゃあ、何回も出来る絶倫野郎にとって特じゃあないのか?

 その問いをラダントに聞くと

「ああ…大丈夫ですよ。そんなタイプには、この札を渡しません。そういう絶倫なインキュバス・ロードみたいなヤツは、入ってくる段階で、魔法のチェックが働いて調べて料金三倍で、そんなタイプ専用の低級淫魔のお店に行かされますから…」

 

「へぇ…」とネオは頷きつつ、あ、そういえば…入口の前の道路に色んな魔方陣が書かれていて、その上を歩いていたなぁ…それがチェックする魔法なのか…。

 そうして、ネオは、帝都リリスガール街のマップ紙を見ると、円形で魔方陣のような形に見える。

 自分がいた街ロランダのリリスガール街も似たような構造をしていた。

 街全体が避妊と性病や病気を予防する魔方陣なのだ。

 無論、お店の天井を見ると、その効果を発揮する魔方陣があるのは、言うまでもない。

 

 さて…どこへ行こうか…と迷うネオ。

 下手をしたら拠点にしているロランダ街と同等の大きさがある帝都リリスガール街に、考えあぐねていると、ラダントが

「あの…ネオさん。女の子の気分を味わえるお店に行きませんか?」

 

「はぁ?」とネオは首を傾げる。

 

 そこは、性転換できるリリスガールのお店が並んでいる区画だった。

 

「へぇ…」とネオは興味津々だ。 

 いや、天の川銀河の宇宙でも性転換の技術がない訳ではない。

 性転換は、心理的に女性であるとか男性であるとか、そういうLGBTといった人達用の為に用意された技術であって、性転換ナノマシンによって安全に男性から女性、女性から男性に変われる。ただ…その術式を受けるのは極少数であり、主に男性から女性に変わるのが圧倒的に多数なのだ。

 

 それを…一時的に男性から女性になり、女性のセクロスの体験してみるお店があるなんて…なんて業が深いのだ…とネオは思った。

 

 早速、店に入ると受付の魔女っ子さんが、性転換の魔法薬に関しての説明をする。

 ただ、このビーカーに入った飲み薬を飲むと直ぐに女の子になれるらしい。

 因みに、女性から男性に変わるのも、同じ薬らしい。

 

 案内のラダントが、性転換薬を飲むと「ああ」と何処か艶やかな声を出して、胸が膨らみ股間を押さえる。

 女の子になっているのか、声が女の子のように変わった。

 

 ネオは…ちょっと引きつつ飲んでみるが

「あれ?」

 変化がない。

 その前に、視覚情報に

”警告。許可のない変異作用の薬品を感知。ナノマシンで分解、解毒します”

 

 ネオは…………と黙る。

 

 女性にならないネオに受付の魔女っ子さんが

「あれ? どうして変化しないんですか?」

 

 ネオは微妙な顔で

「いや…どうやら…私には…作用しないようだ」

 

「えええええ!」と驚く魔女っ子さんの受付が「人族の方ですよね?」と

 

 ネオは微妙な顔で

「いや、その人族ではなく、マキナ族ってヤツでな」

と、腕をめくり、腕に広がるナノマシン端子から様々な武器を伸ばして見せた。

 

 受付の魔女っ子さんは

「申し訳ありません。これはお返ししますので…」

と、渡した先払いの札を返してくれるも

 

 ネオは

「このお店ってどういうシステムなの?」

と、聞いて、一応は女の子になったら、女の子か男の子を呼んで体験するらしいので、普通に女の子のリリスガールを呼んで楽しむ事にした。

 

 そうして、奥の待合へ行くと

「ぐへへへへへ、すげぇなぁ、やっぱ、帝都ってくらいだから違うわ」

と、笑う少し髪を纏めた人族の女と

 

「どうするよ! スタンク!」

と、金髪巨乳のエルフ。

 

 天使の輪っかを持つ天使のような金髪の女の子が

「うわぁ…いっぱいいるんですね」

 

と、三人して話していた。

 

 入って来たネオ達を見て、人族の女が

「おい! 呼んだヤツって! 男がいるじゃあないかーー クリム! お前!」

 

 天使の輪っかを持つ天使のような金髪の女の子が

「そ、そんな! ぼく、呼んでないですよーーー」

 

 女体化したラダントが

「自分達は、貴方達と同じ女体化したお客ですよ」

 

 人族の女と、金髪巨乳のエルフ女が顔を見合わせて、金髪巨乳のエルフの女が

「男がいるじゃあないか!」

と、ネオを指差す。

 

 ネオは渋い顔で

「私には女体化の薬が効かなかったんだ」

 

 人族の女が

「オレと同じ人族なんだろう? そんなはずは…」

 

 ネオは右腕を捲って、ナノマシン端子が張っている腕を見せると、そこから無数の武器達の先端を突出させる。

「私は、マキナ族という種族だ」

 

 天使の輪っかを天使のような金髪の女の子が

「へぇ…今まで見た事もない種族ですね」

 

 ネオは

「まあ、この辺にはいない。ここからかなり遠方から来たからなぁ…」

 

 そうして、先に女体化した人族とエルフに天使の三人と一緒に、女の子を紹介本を見つつ選んでいるとネオが

「せっかく、女になったのに…男は頼まないのか?」

 

 それを聞いた人族の女(男)と金髪巨乳のエルフの女(男)と竜族の女(男)のラダントが、驚愕した顔をする。

 

 ネオが困り顔で、え?何か間違った事でも言ったのか?と…。

 

 人族の女(男)が

「それは冗談だけにしてくれよ」

 

 ラダントが

「考えてください。薬で男が女になっているんですから、間接的に考えれば男と男がやっている事になるんですよ!」

 

 ネオが戸惑いつつ

「ああ…う…うん。なるほど…」

 

 金髪巨乳のエルフの女(男)は

「そういう事だから…女の子を選んで、女の子を体験しようぜ!」

 

 天使の彼女(彼)は黙って見つめていた。

 

 数分後、選んだ一同は。

 人族の女(男)は前に試していなかったスライムのリリスガールを。

 金髪巨乳のエルフの女(男)は、今度は人族のリリスガールを。

ラダントは、ハーフドラゴンのリリスガールを。

 

 三人はそれぞれの一晩楽しむ部屋に向かった。

 

 残されたネオと、天使の彼女(男)は、まだ…紹介本を見ていた。

 だが、天使の彼女(男)がネオの背中を突っついて

「あの…ちょっと良いですか?」

 

 ネオが振り向き

「どうしたんだ?」

 

 天使の彼女(男)がホホを染めて恥ずかしそうに

「あの…お相手の女性は…見つかりました」

 

 ネオは首を横に振って「いいや」と

 

 天使の彼女(男)は、かわいい小動物のような顔で

「もし、良ければ…ぼくと…しませんか?」

 

 ネオは訝しい顔をして

「いや、その…さっき…」

 

 天使の彼女(男)は

「ぼくは、天使なんですけど…天使は両性具有なんです」

 

 ネオは暫し考え

「ええ…両性具有…ん! 雌雄同体って事か!」

 

 天使の彼女(男)は頷き

「はい。普段は…その両方を持っていまして、今は…薬で男性の部分が消えているだけで…」

 

 ネオは戸惑いつつ「あ、うん。なるほど」と

 まあ、色んな異種族がいるのだから…雌雄同体の種族がいてもおかしくないだろう。

 まあ、実際…天の川銀河以外の他銀河でも雌雄同体の民族はいた。

 

 天使の彼女(男)は怯えつつもホホを紅葉させて

「ダメ…ですか?」

 

 ネオは考え

「良いのか?」

 

 その問いに天使の彼女(男)は

「前に、こういうお店を体験した時には、獣人の女性で…擬似的にペニスが付いているハイエナ獣人の方と、した事があるんです。今回の店の紹介本には、そういう方がいませんから…」

 

 ネオは頷き

「分かった。良いだろう」

 

 天使の彼女(男)は安心した顔をして

「ホントですか! ありがとうございます」

 

 ネオが

「ただし、店にそれが可能か、聞いて見てからだ」

と、受付に聞きに行くと、偶に片方が女体化して片方が男性のままで、そういう事をする人達がいるので、大丈夫となった。

 

 なので、ネオは天使の彼女(男)と一緒に、一夜の恋人になった。

 

 ネオと天使の彼女(男)は、ベッドに寝そべり、怪しく揺らぐ火の明かりの中で体を重ねる。

 ネオが

「へぇ…本当に女の子みたいだ」

 

 天使の彼女(男)は

「恥ずかしいです。やっぱり本物の男の人だと…」

 

 ネオが笑み

「じゃあ、明かりを消そう」

と、左腕から兵器の一部を消して、部屋を暗くした。

 暗い室内では、お互いが触る感覚だけが頼りだ。

 なので、ここからは、お互いの言葉しか響かない。

 

 ネオが

「柔らかい。ここはどうだろう」

 

 天使の彼女(男)

「あああ! そんな…あ、ああああああああ、はぁはぁはぁ」

 

 ネオが

「ごめんね。ちょっと荒くしてしまった」

 

 天使の彼女(男)

「そんな…気にしないでください」

 

 ネオが

「一晩は長いんだ。ゆっくり楽しもう」

 

 天使の彼女(男)

「ああ、はぁはぁ、あああああああ! はあああ、ああああうあううああうんん」

 

 天使の彼女(男)の艶やかな声が部屋に響く。

 

 天使の彼女(男)は

「もう、切ないです。お願いです…来てください」

 

 ネオが優しく

「分かったよ」

 

 天使の彼女(男)はネオのモノが入ってくる感覚に

「あああああ! うあああああああーーーー あ、あ、あ、あああ、ああ」

 信じられない程の裏返った声を出す。

 

 ネオが

「ごめん。痛かったかい?」

 

 天使の彼女(男)は

「だ、大丈夫です。それより、動いて」

 

 ネオが

「苦しそうだから、まだ少しこのまま、体の固さが無くなってからね」

 

 そして、天使の彼女(男)は

「ん、んん! んんんん、う…んんんん」

 

 ネオが

「ほら、おいで」

 

 天使の彼女(男)が

「そんな優しくされて、ぼく、ぼくーーーー あああああああ!」

 

 ネオが

「疲れたかい?」

 

 天使の彼女(男)は

「貴方も…気持ちよくなって欲しいです」

 

 ネオは

「分かったよ。夜は長いんだ。ゆっくりと焦らずに…ね」

 

 天使の彼女(男)は

「はい…」

と、メスの声を…。

 

 こうして、天使の彼女(男)は…いや、天使の彼は良き思い出を作った。

 

 

 

 三日後、獅子食亭がある帝都から離れたロランダ街。

 獅子食亭では、ネオを心配する声が聞こえている。

 

 ハーフドラゴンのドリンが

「やっぱり、助けに行こうぜ!」

 

 エルフのレリスが

「最強の竜皇帝を敵に回して勝てますか?」

 

 鬼人族のムラマサが

「だからってネオを…」

 

 ハールリングのルディリが

「もしかして…ネオは…」

 

 不穏な空気が当たりを包む。

 ウェイトレスのケニーが悲しげな顔をする。

 

 そこへ「ただいま」とネオが顔を見せた。

「ネオーーーーー」とみんなが集まる。

 

 ドリンが

「一週間もどうしたんだよ! 心配したぞ」

 

 ネオが微妙な笑みで

「本国とこの帝国で色々と折衷してなぁ…。まあ、面倒な事も押しつけられたが…今まで通り、ここで暮らしていけるようになった」 

 

 周囲が、良かった良かった。そうかーーーと喜ぶ声を放つ。

 

 ネオがケニーの元へ来て

「ケニーちゃん。色んなアイテムや鉱物とかの情報紙、貯まっているかい?」

 

 ケニーは嬉し涙の笑みで

「はい。今、持って来ますね」

 

 ネオのこの世界での日々が再び始まった。

 いや、ネオ・サーペイント・バハムートとしての人生が始まった。

 

 それから二日後…。

 とある、こっちで言うリリスガールのレビュー記事が獅子食亭に来た。

 

 スタンク、人族

 帝都のサービスは、すげー。

 色んなお店があって、たぶん、人族の人生では回りきれないお店ばかりだ。

 ただ、料金システムが前払いで、高額のはイタい。

 10点中7点 

 

 ゼル、エルフ

 いやーーー百万を超える人口の都市のサキュバス街は、広大だ。

 まるで無限の宇宙を彷徨っているように、ものすごい数のお店がある。

 料金が最初から前払いだが、エルフの時間間隔では、直ぐに稼げるので

 けっこう、エルフと同じ長寿な種族を見る事が多かった。

 寿命が短い種族には痛い出費だろう。

 10点中8点 

 

 クリム、天使

 お二人の付添で遠路はるばる、帝国へ来ました。

 広大な領土を収める帝国だけあって、その帝都は凄まじい規模です。

 エッチなお店もたくさんあって、本当に種類が多くて目移りしてしまいます。

 ですが、お気に入りのお店が出来ました。

 自分達の街にも同じお店がありますが、そこで出会ったマキナ族とされる方に

 いっぱい優しくして貰って、身も心も満たされました。

 マキナ族の方にお名前を聞いても、一晩だけの恋人だから…名前はダメだよって。

 もし、また何処かでお会い出来るなら…お会いしたいです。

 10点中9点 

 

 地元帝都民の竜族G

 帝都は、本当に色んなモノが揃い、多くの異種族達が行き交う大都市だ。

 ここ最近、帝都の内海を結ぶ、巨大な中継港の島が完成する予定が近々ある。

 それによって、構築された海運航路によって、より遠方から多くの人達や異種族が来るであろう。

 益々、帝都は栄え、それに応じて、もっと沢山のリリスガールの多種多様なお店が増える事は間違いない。

 我が帝国民ならず、帝国に来た者達は、必ず一度は帝都へ来るのが当たり前になるやもしれん。

 点数は期待を込めるので、記さない。

 

 

 レビューを見ている獅子食亭の面々が、天使の言っていたマキナ族という単語に目を奪われた。

 そう、マキナ族といえば…。

 

 ネオが獅子食亭に来て「ケニーちゃん」と呼ぶと、レビュー記事が載る掲示板にいる面々が、ネオを凝視する。

 

「んん?」とネオは首を傾げる。

 

 獅子食亭の面々は、ネオに尊敬の念を放っていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。

少し、投稿のペースが鈍ります。
気長にお待ちいただけるとありがたいです。


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やっちまった

この男、ネオはついにやってしまった。
リリスガールではない、女の子に手を出してしまった。
やっちまった男ネオは


 ネオは目を覚まして上半身を起こす。

 帝都の皇帝城で、今日は…月に何度かある皇帝城に来る日だった。

 その皇帝城の豪華な客間、豪華で快適なクィーンダブルサイズの巨大なベッドで、ネオは朝チュンを迎えた。

 

 ネオは青ざめて、両隣を見ると…そこには金髪、銀髪、赤髪のうら若き女の子三名が裸でベッドのシーツ一枚を掛けて寝ている。

 ベッドには、所々に紅いシミが…。

 このうら若き女の子三名は、処女だった。

 しかも…三人の姉妹だ。

 この帝国を治める竜族の皇帝ロンバルディアの血族、親戚の姪っ子。

 つまり、竜族の子女達だ。

 

 ネオは頭を抱える。

 実は、ここ最近、本国へ戻って、とある任務をこなした。

 その任務内容は、作者のAmazonで売る電子書籍に出す。

 赤地鎌という名で、題名はデウスギアという、全くエロがないメタルギアみたいな話だが…興味があるなら…。

 

 その任務で精神的に疲労していた。

 そこへ、この姉妹達が話を、愚痴を聞いてくれた。

 月に数回、帝都の皇帝城に来る度に、帝都での生活の補助をしてくれて、親しくなって、そして…ちょっとお互いにお酒を飲んで…。

 本当に彼女達三人に気を許していた。

 

 だから…昨日の夜、自分に彼女達三人とでお酒をこの部屋で飲んで、色々と話していたら…なんか、自然とお互いが寄り合い。

 そして…致してしまった。

 姉妹三人とだ!

 

 やっちまったーーーーーーーーー

 ネオはものすごく青ざめる。

 いや、一気に血の気が引いてしまった。

 なぜ、酔っ払う事を防ぐナノマシンのスイッチを切ったのだろうか?

 どうして、こんな事をしてしまったのだろうか…。

 本当に、久しぶりに帰った本国でのキツい任務で、気持ちが参っていた事もあった。

 だけど…だけど…。

 

 頭を抱えるネオ。

 そこへ、姉妹の長女ティアマが起き上がり

「あ…おはようございます。ネオ様。その…初めてでしたけど…ネオ様がお優しくて…嬉しかったです」

 

 ネオは、自分の年齢の半分しかないだろう。

 若い女の子、竜族だけど、抱いてしまった事実を再び確認した。

 

 青ざめるネオ、そして…他の姉妹の二人…次女レティマ、三女アマティアが目を覚まして

 レティマが

「おはようございます」

 

 アマティアが

「お、おはよう…ございます」

 

 思考が完全停止したネオに、三姉妹達が少し悲しげな笑みを向け、ティアマが

「昨夜の事は…お忘れください」

 そう、ネオが迷惑と思っているのを察して気を遣ってくれる。

 

 余りにも健気な三姉妹の姿に、ネオは

「いいや、忘れられんなぁ…。その…もう少し…滞在するから、一緒に、いいか?」

 

 三姉妹達は顔を明るくさせ「はい」と嬉しそうに答えた。

 

 その後、ネオは…朝食を取りに、大きなテーブルがある食堂に来ると、先に皇帝陛下のロンバルディアが食事をしていた。

 

 ネオは、気付かれないように気配を消して、バイキングの朝食を取っていくと

「ネオ…」

「はい!」

 

 唐突な呼び声に背筋が伸びるネオ。

 

 皇帝ロンバルディアは

「お前の世界では、どのような男女関係があるかは…知らないが。ここは別の世界、我々の世界だ。娼婦との遊びは、遊びとして目を瞑ろう。だが…そうでない子達との事は…分かっているな…」

 

 ネオが両手に持つ朝食の皿が、震えている。

 

 皇帝ロンバルディアは

「我が竜族は、身を共にした竜族の娘を…死ぬまで守る。分かっているな…」

 

 ネオはゴクリと唾を呑み「はい…」と一言だけ…。

 

 皇帝ロンバルディアは、席から立ちがりネオの前に来て、皇帝としての威圧をネオに放ち

「あの子達は、私の弟の大事な大事な娘達だ。分かっているな…」

 

 ネオは頭から血の気が引いて

「は、はい…」

と、怯えて裏返った声を放つ。

 

「よろしい」と皇帝ロンバルディアは、ポンポンとネオの肩を叩いて去って行った。

 

 その場にネオは膝を崩した。

 やっちまった、やっちまった、やっちまったーーーーーーーーーーーーーー

 

 この世界に来て、下半身がユルユルになってしまった。

 あの宇宙級超技術文明では、そんな事なんて一切なかった。

 なのに、なのにーーーーーーー

 

 やっちまったーーーーーーーーーーーーーー

 

 この世界の常識という罠に流されて、知能指数まで落ちて。

 仕方ないんだよ! 久しぶりに帰った本国で、本当に落ち込むような任務につき合わされて、本当に心身共に参っていて。

 そこへ、あんな若くて優しくて、立ててくれる女の子達が来れば、そりゃあーーー

 やっちまうだろうがーーーーーーー

 

 ネオは、ネオデウス1982号305番では考えられない程の論理破綻をしていた。

 

 ネオは、走った。

 とにかく、走った。

 海の上を沈まずに走れる程の速度で、音速を突破。

 この世界で言うなら、マナの壁を突破して…とにかく、走って走って。

 

 自分が会長である海運財閥の人工島海上都市エンテイスに来ていた。

 

 海を走って渡ってきたネオに、周囲は驚きを向けていると、ネオは、中央にある巨大な等、高さ600メートルの中央巨塔へ向かった。

 

 この人工島海上都市エンテイスは、大きさが佐渡島くらいだ。

 最大幅30キロの人工島の基礎システムは、惑星間を移動する巨大宇宙戦艦をベースにしているのでイメージ的に、蒼穹のファフナーのアルヴィス級艦と似ていると思っていても遜色はない。

 ただ、全ての運営が…人によって行われていない。

 

 中央巨塔の入口に入ると、大理石のホールは、高級なホテルのようで、受付に人族型のメイドさんがいる。

 いや、メイドさんならぬ。このエンテイスを管理運営する人工知性体DIのメイドランだ。

 因みにネオが宇宙級超技術文明時代に自宅で使っていたメイドAIが進化してDIになり、この人工島海上都市エンテイスを管理するDIになった。

 

 メイドランが近づくネオを見て

「お帰りなさいませマスター」

と微笑む。

 

 ネオがメイドランがいる。まあ、このエンテイスの至る所にいるのだが、とにかくメイドランがいる受付に来て

「メイドラン、私の知能指数は…今、どのくらいだ?」

 

 メイドランはDIになったので豊かな微笑みで

「ええ…現在、マスターの知能指数は300程です。ですが、数分前、ご起床した時は、70%ダウンして90でした」

 

 ネオが青ざめた顔をメイドランに見せ

「その理由は?」

 

 メイドランが

「人間が最も知能指数を低下させる原因は、異性を好きになった時です。マスターの事はモニターしています。昨晩、マスターがお抱きになったお嬢様方を、マスターが好きになったので、マスターの知能指数が70%以上もダウンしました」

 

 ネオは顔を覆って震える。

 そんなバカなーーーーーー

 

 混乱するネオに、メイドランが呆れた顔をして

「何が問題なのですか?」

 

 ネオが顔を上げ

「いや、だって! やっちまったんだぞ!」

 

 メイドランが

「マスター。今、知能指数が元に戻っています。冷静にお考えください。何の問題があるのですか?」

 

 ネオは、ハッとする。

 そうだ…冷静に考えると…確かに…問題はない。むしろ…。

 

 メイドランが

「マスターの現状を分析してお伝えします。

 まず、マスターは…この帝国の海運航路を全て支える海運財閥の会長であります。

 このエンテイスのお陰で様々な種族がエンテイスに滞在、その生態サンプルを多く獲得、更に、多くの富を帝国へもたらしています。

 更に更に、マスターの主任務であり、マスターの趣味であります、この世界の探索に何の問題もありません」

 

 ネオが冷静な視線で

「しかし、彼女達の気持ちは…」

 

 メイドランが

「ご心配ありません。マスターと繋がっていて、竜族の三姉妹の方達は、マスターに好意を持っているのは、分析できています。

 ですが、マスターが堅いから、お酒の勢いを借りないといけなかったのです」

 

「んん…」とネオが考えると、メイドランが

「マスター。任務は何ですか?」

 

 ネオは

「この世界の探索、そして…協力者である帝国の安寧と平和に寄与する」

 

 メイドランが

「その任務の一つ、帝国の安寧と平和に寄与は、この帝国を統治する竜族との結び付きは、それに値すると思われます。マスターとしても探索がやりやすくなると思われます」

 

 ネオは頷き

「そうだな。メイドラン。この世界で伴侶の証を立てる場合は…」

 

 メイドランが

「男性が何か…手作りの小物を贈るそうです」

 

 ネオは力強き頷き

「何か良い小物の候補は?」

 

 メイドランが笑顔で

「婚約指輪なんてどうでしょう? 作成室を用意しますので」

 

 ネオは「頼む!」と力強く答えた。

 

 人工知性体DIのメイドランは、内心で、いや…単純になってくれて助かるわ…と。

 これで、遺伝するネオデウスに関する継続的観察が行えると…。

 そう、天の川銀河の人工知性体DI達は、遺伝する恒星間戦略兵器ネオデウスのデータが欲しかった。

 だが、本人が頭が良く複雑なので困っていたが…この世界に送ったお陰で単純な部分が出て来たから、助かる。

 

そして、ネオは三人分の婚約指輪を手作りして、全速力で、またしても海の上をマナの壁を突破して走り抜け、即座に…三姉妹達、ティアマ、レティマ、マティアに婚約を申し込んだ。

 

 三姉妹達は驚いていたが…嬉しそうに微笑み、ネオの婚約を受けた。

 

 因みに三姉妹の伯父に当たる皇帝ロンバルディアは、余りのネオの早さに、呆れてしまった。

 

 ネオの生活は、主に…この世界の探索と探求なので、出かける事は多い。四日とか五日といないが…千年単位の寿命を持つ竜族にとって、そんな日数は一日にも満たない程に短い。

 竜族と婚約した…という事で、竜族の長老が来て、人…マキナ族のままか?竜族に転化するか?と尋ねる。

 

 竜転化の話を聞くと、基本的な元の姿に、竜としての機能が加わる程度で、寿命も…延びるので、竜族と結ばれる場合、どんな男女でも竜転化をするらしい。

 

 まあ、一応…儀式的に聞くだけで、聞いた全員が竜族になるので、対して意味はない。

 

 ネオは竜転化する事になった。

 ネオの感覚としては、自身の遺伝子に竜としての機能を追加するだけであり、前々にネオデウスとの融合をしているので、さほど気にもしていない。

 

 なので、竜族の竜達共に、ネオは飛行形態…戦闘機に変形して、それに人型のティアマとレティマ、マティアの妻達を乗せて、竜族の谷、竜谷に来た。

 そこにある竜族の神殿で、竜転化する。

 

 竜族の神殿に来たネオは訝しい顔をする。

 なんか神話的な芸術様式と思っていたが…何かの無機質な感じの神殿だった。

 つまり、何かの基地が地面に埋まって長い年月を経た雰囲気なのだ。

 

 竜族の長老竜と、その他の竜達と共に大きな発射口のような入口を通り、奥に来ると…完全にそこは、SFの何かだった。

 おそらく全長500メートルのドーム空間で、中央には円形の巨大ビルを思わせるような機械的存在が鎮座している。

 

 円形巨大ビルの上に、妙なモノを見つけた。金色に輝く翼を持った鋼の巨人がいる。

 

 ネオはその形状に覚えがある。

 この世界に来る時に、時空ゲートを構築したオメガデウスと似ている。 

 過ぎった事は…もしかして、オメガデウスと…関係が…この世界に…と思いつつも竜転化の儀式は進む。

 

 儀式は簡単だ。

 その円形巨大ビルの上にあるオメガデウス風の存在の前に立ち、その周囲を竜達が囲む。

 

 囲んだ竜達が、自身から竜のマナを放ち輪にすると、そこからネオに竜のマナが降り注がれる。

 竜のマナに包まれるネオに、オメガデウス風の存在から光が伸びて、ネオの胸部に当たると、ネオが竜になって行く。

 

 光を放ち、ネオは大きな竜になる。

 竜転化すると、竜の機能が加わるので、ネオにとってもお得だ。

 ネオは現地住民のようにマナを感じる事ができない。

 ネオのようにマナを感じられないのは、人族のごく僅かにいるらしいが、この世界では大なり小なりマナを感じられる。

 ネオは違う世界の住人の為にマナを感じられない。

 なので、マナに干渉する重力粒子を観測する事でマナを察知している。

 だが、竜化によってマナを感じられる。

 まさに、身も心もこの世界の住人になったのだ。

 

 ネオの竜化した姿に、竜達や妻達が驚きを上げる。

 竜のオスはだいたい60メートルから70メートルくらいだ、だが…ネオの竜は80メートルと大きい。しかも形状がネオデウスの影響を受けているのか、生態的な竜とは違う所々に鎧のような装甲を持ち、竜の翼は、コウモリのような翼手か、鳥のような羽毛なのに、ネオの竜の翼は、幾つものジェットエンジンが連なった翼だ。

 近い存在として、平成14年に放映されたゴジラVSメカゴジラの、メカゴジラだ。

 あの釈由美子が出ていたメカゴジラだ。

 機龍、起動!って言葉が似合うくらいのメカゴジラだ。

 

 竜達は今まで見た事もないネオの竜に驚きを上げていた。

 一応…有機的な部分はあるネオの竜。だけど…なんか、機龍って雰囲気しかない。

 

 ネオの感想。

 もっとファンタジー系の竜の方が良かったなぁ…。

 これでも世界観は気にしている。

 

 竜に…機龍になったネオは、機龍のままジェットエンジンの翼から火を放って飛び、竜族の婚姻の儀式へ向かう。

 本当に周囲の竜らしい竜とは浮いている。

 

 竜の雌雄差は歴然だ。

 竜のオスは体長がメスより頭数個分大きい。

 体長は60メートルから70メートルで、翼はコウモリのような翼手で、皮膚も岩のようにゴツゴツしている。動く山というイメージだ。

 

 竜のメスは、体長が50メートル前後。

 色んな体皮をしている。蛇皮のようなツルツルから、少し産毛のような毛が伸びている者。

 翼は、8割くらいで鳥のような羽毛で偶に…コウモリの翼手がいるも、体皮が蛇のようにツルツルになるので、すぐにメスだと分かる。

 

 オスは山みたいでゴツゴツしているが、メスはかわいい爬虫類のような感じだ。

 

 竜の結婚式はとてもシンプルだ。

 竜谷ある虹が常時かかる滝の前に来て、滝をバックに結ばれる番い達を位置させ、その前にその家族達が並び、竜の雄叫びの歌を響かせる。

 オスは低く太い、メスは高い。

 

 竜は、基本的に一夫多妻、一匹のオスに三匹ほどのメスが付く。

 偶に四匹とか、雄雌の二人だけとかもあるが、基本はオス一匹にメス三匹だ。

 というか、竜族はとても強い種、超位種な為に、オスの数が少ない。

 

 竜のメスの戦闘力は余裕で自衛隊のミサイル満載のイージス艦を沈められる。

 オスに至っては一頭でアメリカの太平洋艦隊を相手に出来る。

 ミサイルの直撃を受けても無傷で、核兵器の攻撃を受けてもかすり傷程度で済む。

 まじ、最強種なのだ。

 

 まあ、恒星間戦略兵器ネオデウスであるネオの前では、赤子だが…。

 それを竜族達は分かっているので、ネオを取り込みたかったのだろう。

 

 竜の結婚式は、ツガイになりましたよーーーと皆に認められたという儀式だ。

 

 ツガイになったネオ達は、竜谷を自由に飛び回る。

 竜になったネオの機龍の周囲を、竜になったティアマ、レティマ、マティアの三頭の竜達が自由に飛び回る。

 

 竜の会話、意思疎通はイメージ伝達だ。要するにテレパシーだ。

 脳内に直接、竜のティアマとレティマにマティアのイメージが飛んできて、イメージで返すのだが、竜転化した者は慣れてないので、音声を頭に響かせて会話する事があるが…慣れると同じイメージ伝達になる。

 

 ネオ達四人は、自分達がツガイになったのを飛んで竜谷にいる竜達に広める。

 

 そのツガイ達を見届ける竜達は、だいたい、祝福のイメージ伝達をくれるのに、機龍であるネオを見て

 

 ええええ! なんだアレ?

 あんな竜もいるのね!

 いや…最近の若者は進化したなぁ!

 

 驚く声のイメージが伝達される。

 

 まあ、そんな色んな祝福を受けてネオは妻達がとある場所へ誘導する。

 そこは広い砂浜が綺麗な海だ。

 

 さあ、ここから生物学の時間だ。

 今日の学問は、竜の交接について。

 教科書、作成はネオ・サーペイント・バハムート氏

 

 ツガイとなったオスとメス達は、竜の海辺とされる広い海岸に来る。

 到着すると、そこらかしこで、やっちゃっている竜達を見るぞ!

 因みに、かなり綺麗な海岸である事と、竜の交接を見られるので、観光スポットになっているらしい。

 

 まずは、竜の食事についてだが…雑食だ。

 肉でも、植物…森林の木、鉱物でも、何でも食べる。

 そして、珍しい事にマナも食べる。

 竜は、飛びながら全身で空気中にあるマナを喰らう。

 竜の傍にいてマナを吸われる感じがあったら、竜がマナを食べている証拠だぞ。

 

 竜は雑食といったが…その食べ物を摂取する時期が季節によって違う。

 春は、海から取れる大型の生き物を喰う。

 夏は樹木を丸かじり。

 秋は鉱物をガリガリと地面から掘り出して食べる。

 冬は大空を自在に飛んで、空気中のマナを食べる。

 四季折々によって食べるモノが違うが…。

 竜は人型になれるので…人型でいる事が多い。

 だって、人型の方が燃費が良いし、何より大きな居住空間も必要としない。

 基本、この世界にいる異種族達の食事を取りつつ、周囲のマナを食べていれば困らない。

 だが、人型を続けると、二ヶ月おきに数日、強制的に竜になる。

 なので、一ヶ月に数日、竜として暮らして、その強制発動を防いでいるから、もし…隣に竜族がいても、突然、竜になる事はないから安心してくれ。

 

 そして、竜は圧倒的長寿だ。

 千年単位の寿命を持っている。

 なので…竜族にとって一日は、人間でいうと一週間くらいだ。

 これは他の長寿な異種族も似たようなモノだからしかたない。

 

 そして、勿論だが竜の形態で交接が出来る。

 

 竜の交接、交尾は爬虫類に近いところがあるが…少し違う。

 まず、人型異種族のように、色んな体位がない。

 ほぼ、一つの体位しかない。

 それは、メスが下で腹を下に寝そべり、オスがその上に被さって、メスの生殖腔にオスのペニスを入れて繋がったまま、オスもメスも動かない。

 動く所もあるが、長い首の頭部や、尻尾を絡めるくらいだけだ。

 他の異種族のように上下運動はない。

 

 繋がったままずっと、一時間半も過ごす。

 実は、竜族には鳥類や爬虫類、両生類といった総排出腔なるモノがない。

 竜のオスは下腹部にペニスを隠す穴と、メスは下腹部に生殖腔、オスとメスの生殖器から離れた下、尻尾の下部分に排泄物口なるモノがあり、そこから排泄物を出す。

 他の生物のように水分の排出がない。

 排泄物は、まるで塗り固められたコンクリートのような石の排泄物を出す。

 一週間くらいに一回。

 どんなモノを食べても石のような排泄物だけしか出ない。

 人型になった時は、人の性質に準じている。

 

 とにかく、竜の交接は長い。

 一時間半も繋がって動かない。

 竜のオスのペニスはだいたい10メートルくらい。

 それがメスの生殖腔に入り、メスの上にオスが覆い被さって尻尾や長い首を巻き付け合う。

 

 そんな交接、何が気持ちいいのか?と他の異種族では思うだろうが…竜同士だからこそ気持ちいい。

 お互いに全身が触れあっていると、お互いのマナを放出したり吸収したりして、温泉につかっているような暖かい感じになる。

 

 さらにメスの体内にペニスを入れていると、メスの体内がペニスを刺激する。

 内部で色んな動きをして絶えずペニスを刺激して、交接して10分するとオスは射精に至るが…その射精が長い。

 竜のオスが射精中でも、メスの内部は刺激を続けるので、20分も射精が続く。

 それで、終わりではない。

 射精が終わったオスは、繋がったままメスに被さって射精の余韻に浸っていると、メスの体内がまた、射精を促す。

 10分ほどの休憩と刺激を受けたオスの竜は、再び射精するのだ。20分も…。

 そして、10分休憩して20分の射精。

 同じ事の繰り返しを三回して、竜の交接は終わる。

 その時間合計が一時間半なのだ。

 

 他の種族から見て竜族の交接は動かないので、変化がなく退屈なのかと思うが…。

 竜にとって交接は、お互いのマナ交換、触れ合う事での温もり交換、そして、お互いの存在を確認し合う。

 興奮するようなセクロスとは違う、お互いの存在を存分に感じて、緩やかにお互いに気持ちよくなるのが竜の交接である。

 

 竜は最強種な為に、自然の脅威にも曝されない外敵もいないので、このような長い交接が可能となり、そして長い交接がある故に、別種族にある浮気や不倫といった事がない。

 

 人間の感覚でいうなら、裸の男女が海辺で自由に走り回って、好きに交わったり、触り合ったり、とにかくオーラルでゆったりとしたセクロスが竜の交接だ。

 

 ただ、一回で終わりではない。

 上記にあった、竜はオス一頭に対してメス三頭のツガイを形成する。

 そう、三頭のメスとオスは、同時に交接する。

 

 この竜の海辺を見て分かるが、四頭の竜が一カ所に身を寄せ合っている。

 そう、最初の一頭が終わると、傍にいる別のツガイのメスに変わって交接をする。

 それも終わると、まだ、交接していない三頭目と交接する。

 そうなると、合計交接時間が、5時間にもなるが…一回で終わりではない。

 二回戦に突入する。

 竜は交接を10時間から12時間も行う。

 

 竜以外の異種族は、交接時間が短いのでどうしても一週間の間に何回か求める傾向があるが…竜は一回の交接が12時間にも匹敵するので、その満足度が桁違いで、一ヶ月に一回が基本である。

 これは竜の寿命による時間間隔の違いもある。

 一週間を一日に感じるので、一ヶ月は竜なら一週間くらいだ。

 これだけ長い交接をしていても、竜族が子供を宿す確率は低い。

 竜族は、短くて六十年から七十年、長くて百年に一度くらいで子供を産む。

 その間も積極的に交接はしているが、最強種の宿命なのか…妊娠し辛い。

 寿命も千年単位なので、焦る事はないが…他の異種族と比べても出産率は圧倒的に低い。

 妊娠し辛いが故に、交接に関して、長く穏やかに気持ちよくなるようになったのは、竜族のオスとメスを繋げ続ける生存戦略から来ているのだろうと思う。

 

 これにて、竜族の交接の説明を終わる。

 

 追記、竜族は交接が長いので、絶倫と思われているらしく、竜族の鱗は基本、様々な魔導具を造る際の触媒に使われるが、根元に近い僅かに残る竜の皮膚片は、精力剤として売られる事があるらしいが…効果の程は正確に実証されていない。

 

 

 

 

 ネオは、再び探索の旅に戻る。

 探索の拠点にしているロランダの街に来ると、何時もの違う感覚がある。

 それはマナを感じるのだ。

 様々な色のマナが空気中に漂っている。

 竜転化して、マナが分かるようになり、新たな発見がありそうな期待が膨らむネオ。

 

 そして、左手の薬指にはめている紅い結晶の指輪を見る。

 それは、ツガイ…伴侶となったティアマ、レティマ、マティアに証として送った指輪だ。

 彼女達も同じく指輪をしている。

 ネオ、ティアマ、レティマ、マティアの四人が繋がっている証だ。

 

 探索の具合によって帝都へ戻る日数はズレるかもしれないが…四日の探索をして、三日は帝都に戻り伴侶達と過ごす。

 そんな新たな生活がネオに始まった。

 

 ネオの期待と共に、何時もの仲間、ドリンとレリス、ムラマサ、ルディリの四人が来て…その夜…つき合いでリリスガール街へ行く。

 

 リリスガール街の新しく出来た乳牛娘のお店に入り、ウェイトのコースを頼むネオ。

 

 だが、それは何時もと違っていた。

 50分のコースなんて、せいぜい、30分がセクロスの限度だ。

 だから、残りの20分はリリスガールの女の子と喋るだけの休憩タイムのはずが…。

 

 乳牛娘のリリスガールが

「う…もうーーーーー ごめんなさい…アタシ…もう…ムリ…」

と、時間最後までネオは乳牛娘としていた。

 

 ええええ!とネオは唖然とする。

 普段なら、20分もあれば、いってしまって…果て疲れるのに、いくどころか…50分もマイサンの堅牢が維持されている。

 

 乳牛娘のリリスガールが、50分経過してもご立派なネオのマイサンを上気した目で見て

「お客さん…わたし一人じゃあ…ムリだったから…今度は、いっぱい相手をしてくれる裏オプにして…」

と、告げて乳牛娘のリリスガールは、ベッドから動けなかった。

 

 ネオは仲間と共に帰っていく途中、どうして、マイサンの堅牢が維持されたのかを考えると…。

 竜転化して竜になれるので、人の状態でありつつ、竜の性質も併せ持っているのでは?

 

 ネオは、青ざめる。

 竜の長い交接の影響が、人である時にも影響しているので、並大抵では満足できなくなったのでは?

 そう思うと…自分で自分にドン引きした。

 

 

 その頃、帝都では皇帝ロンバルディアが、妻の三人…同じ竜族だが、ネオと結ばれた三姉妹達の事を妻から聞く。

 

「ネオと、あの子達の相性はどうだ?」

と、尋ねる皇帝ロンバルディア。

 

 妻達が口元を隠して怪しげに笑み

「抜群ですよ。竜との交わりも問題なく行われたそうで…」

 別の妻が

「そして、竜との交わりに飽き足らず、ネオ様は…その夜、また…三人を求めたそうですよ」

 別の妻が

「お子が生まれるは早いかもしれませんよ」

 

 皇帝ロンバルディアはフッと笑み

「そうか、それは良かった。安心だ」

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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魔羅神様

ネオが帝都からの依頼で協力を頼んだ何時もの四人の慰労をしていた時だ。


 ネオはロランダ街のリリスガール街へ仲間と共に来ていた。

「すまんな、色々と大変な事につき合わせて」

と、告げる目の前には何時もの四人、ハーフドラゴンのドリン、エルフのレリス、鬼人のムラマサ、ハーフリングのルディリがいた。

 

 ドリンが

「いや、いいって…結構な額を貰っているし」

 

 ムラマサが

「それに、なぁ…」

 

「ねぇーーーーー」と四人がスケベな顔をする。

 

 数日前、嘆きの壁へネオがとある検証をする為に、四人を雇ったのだ。

 その検証は、嘆きの壁の向こうにある凍結と極熱地獄には、10℃から20℃の境が存在して、そこを通れるか?という実験だ。

 

 ネオは、防御最強なので、全く問題ないが…。ネオ以外はどうなるのか?

 これは、帝都からの依頼でもある。

 嘆きの壁の向こう、凍結と極熱地獄を超えた先にオリファルコンの原石が大量に存在する大地へネオ以外の人達を多く派遣して、オリファルコンの原石、アダマンタイトを多く採取したい目的がある。

 

 如何にせん、ネオの一人が持ってこれる量には限界がある。

 なので、将来的には、ネオに頼らずに嘆きの壁の向こうを踏破する者達を増やしたい。

 そこで、その凍結と極熱地獄の境に出来るルートがどのくらい使えるか?

 調べる為に四人を雇った。

 勿論、四人には説明した。拒否権もあった。

 だが、用意された報酬が金貨100枚の100000Gという破格だったので、すんなりと受けてくれた。

 

 という事で境が使えるかの実験体にされた四人と一緒に、嘆きの壁の向こうへ入った。

 そして…境の部分を進んだが…。

 まあ、当然ながら、トラブルの連続だ。

 

 まず、境が安定しない。

 通る度に不安定になり、境が潰れて凍結地獄か、極熱地獄が襲いかかる。

 

 大きな境の領域はある。だが…そこから次へ繋がる境の道が現れない事も多い。

 

 絶えず凍結地獄と、極熱地獄が襲いかかるここには、安定なんて皆無だ。

 そして、何より…境の道の空気とマナが薄い。

 雲海を下にする頂上を全力疾走しているように体力とマナが奪われる。

 通れるには通れる。だが、ルートとして使えるかどうかは、疑問の結果になった。

 

 この四人のデータは、共に調査に来ていた大魔導士戦士ディオ達に回収されて、次の考慮する資料となった。

 もちろん、報酬は払われ、四人とも体に異常はない。

 だが…やっぱり大変な思いを一週間もさせたのだ。

 なので、ネオが慰労を兼ねてリリスガール街へ四人を連れてきた。

 

 

 ネオと四人は、午後の昼下がりリリスガール街を回って入るお店を探していると、妙な石像が挟んだ一角を見つけた。

 そこは…ガーゴイルの石像が挟む暗い道。

 

 ドリンが

「こんな一角なんてあったけ?」

 

 ルディリが

「さあ…」

 

 レリスが

「何度も通っているのに気付きませんでした」

 

 ムラマサが道の両脇にあるガーゴイル像を見つめて

「何か…不気味だよなぁ…」

 

 ネオは、そのガーゴイルの石像が一種の結界のように思えた。

 ここは、マナ…魔法の世界。

 どこかの文献で、ワザと人の意識に残らない結界を構築する方法があると…呼んだ事がある。

 その方法の一つに、このような不気味な石像で道の両脇を挟み、一種の門のようにすると…あった。

 その類いではないか?とネオは思った。

 

 ドリンが

「行ってみるか…」

 それに他の三人も続く。

 

 ネオが

「お、おい…」

と、止めようとするも、四人は入っていった。

 

 そこが地獄の一丁目だとも知らずに…。

 

 

 

 道を進む。

 少し薄暗い道、窓も何もない。建物の壁が続く道、そして、その最奥に店があった。

 

 狂乱と狂騒の淫魔店。看板に…600Gで好きなだけやり放題。人数無制限、時間無制限。

 

 レリスが

「何ですか? これは…」

 

 ムラマサが

「人数無制限、時間無制限って」

 

 困惑しつつ一同が店に入る。そこは…

 

 店の魔獣系のかわいい受付の女の子が

「ようこそ…低級淫魔のお店へ」

 

 受付嬢の後ろにある頑丈な透明ガラスの向こうで、嬌声を上げている淫魔達がいる。

 その数は30名ほどだ。

 

 獣の唸り声のようは、嬌声を放つ低級淫魔達が、五人を見てよだれと喘ぎ声を放って何か言っている。

 叫んでいるので、恐怖が増す。

 こっちに来いや!とか、はやくヤラセロ!とか、男なら来いや!とか。

 

 もう、飢えた獣のような状態で騒いでいる。

 

 受付嬢が

「この強化ドアを潜って入った後、彼女達が満足するまで、帰して貰えませんよ。死ぬまで続きますから」

と、他人事のように告げる。

 

 ネオが魔獣系の受付嬢に

「あの…彼女達は…何?」

 

 受付嬢が

「低級淫魔、要するにセクロスしたいだけの衝動に取り憑かれている淫魔ですね。通常の淫魔、サキュバスは…精を取る相手を気持ちよくさせて満足させますが。彼女達は、自分の暴走する性欲を満足する為に、男を道具のように使い捨てします」

 

 ネオが青ざめて

「ええ…そんな種族がいるの?」

 

 受付嬢が

「まあ、何というか…そういう風になる発作に襲われて、低級淫魔になっていますから。そうでない場合は、ちゃんと普通にねぇ…」

 

 ネオが暫し考え

「つまり、ここに来る時に、繋がる道の両脇にあった石像は…」

 

 受付嬢が

「普段は、ここは閉じられています。ですが…こうして淫魔の狂乱に陥った人達が大量に運ばれた場合に、その閉じられた結界が開いてお店をしているんですよ」

 

「な、なるほど…」とネオは納得した。

 

 受付嬢は

「このお店は、皆さんのような五人で来る店ではなく、性欲が溜まった30人くらいで来るお店ですから」

 

 ネオは

「じゃあ、安い理由は? 街では、不当な値下げを防ぐ為に…料金はどの店でも一律なんだろう」

 

 受付嬢は

「ここは、淫魔の狂乱に陥ったサキュバス達が、その狂乱を解消する為に来るので、まあ、治療の一環であって、リリスガールの商売ではないという感じにはさせて、貰っています。

 あ、勿論、性病や避妊の魔方陣は完璧に完備していますから」

 

 ネオは再び、淫魔の狂乱になっている低級淫魔達を見ると、唸り声を上げて叫び、来いと煽っている。中にはあふれ出す蜜の秘部を見せて煽ってくる。

 青ざめるネオ。ここはヤバい。

「なぁ…みんな…ここはって!」

 

 四人は、身体強化のアイテム薬…エリクサード(英雄の薬)を飲み、エルフのレリスとハーフリングのルディリが魔法で四人に常時回復リュジュネーションの強化のバフをしていた。

 

 ネオは青ざめてパクパクと口を動かし

「お、おい…四人とも…何を…」

 

 ドリンが胸を張り

「ネオ、男には負けられない戦いがあるんだ!」

 

 ネオが顔を引き攣らせ

「いーーーや、意味が分からない! もしかして…」

 

 レリスが自信満々に

「あそこまでバカにされて、男の沽券に関わる。行かねば!」

 

 ネオの口が驚きでO型になり

「ええええ! いや、そんな沽券とかの前にヤバいだろう!」

 

 ムラマサが覚悟を決めた目で

「後でオレ達の骨を拾ってくれ」

 

 ネオが驚愕に顔を染めて

「いやーーーーー 拾いたくないよ!」

 

 ルディリが真剣な目で

「ネオ、ぼく…ネオみたいに真の英雄に、ネオが本国で伝説って言われるくらいにがんばってくる」

 

 ネオがパクパクと口を泳がせ

「いやーーーーー 何か変な勘違いしてない!」

 

 ドリンが「行くぞ!」と叫び

「おう!」とレリスにムラマサ、ルディリが続く。

 裸になった四人は、受付嬢が開けた分厚い扉を潜り、いざ…性欲の戦場へ。

 

「みんなーーーーーーー」とネオの声が虚しく響いた。

 

 それは始まった。

 最初、四人は健闘していたが…三十分して、それは貪られる餌になった。

 四人は始めは、乱れ楽しんでいた。

 代わる代わる低級淫魔達の攻めを余裕で楽しんでいた。

 むしゃぶりつく低級淫魔達の求めで、各のマイサン、魔羅様はギンギンにそそり立っていた。

 嬌声を上げる低級淫魔のリリスガール達。

 そのむしゃぶりは、伊達ではない。

 ありとあらゆる箇所を貪り、そして…搾り取った。

 そして、形勢は、二十分して逆転した。

 両手をつき、苦しそうにするが、それで低級淫魔達は、彼らの*から彼らの大事な部分に繋がる前立腺を刺激させ、強引に立たせる。

 そして、数人で押さえつけて彼らに乗り、絶えず嬌声を上げて雄叫ぶ。

 もう、限界だ。

 

 分厚いガラスの向こうで、低級淫魔達に貪られる四人は、動かなくなり痙攣している。

 

 ネオは青い顔のまま

「ま、まずい…死んでしまう」

 

 魔獣系のかわいい受付嬢が

「助けにいけませんよ。力がある魔獣系の私でも、あれだけの人数から助けに行くには、ムリですから。貴方が入るしかありませんから」

と、怪しく笑む魔獣系の受付嬢。

「だから、言ったんですよ。死んでも仕方ないって…」

 

 ネオは額を抱え覚悟する。四人を助ける為に。

 その為にある事をした。

 ドラゴントランス。

 人型でありながら竜族の力を行使する形態。

 竜化の際の翼を持ち、頭部から竜の角を伸ばす。

 いわゆる、竜人となる。

 ネオの場合は、背中からジェットエンジンの翼と、銀色に輝く竜の一本角を伸ばす。

 

 受付嬢が

「まさか…噂に聞いた竜族の…」

 

 ネオは指を立て口に置き

「秘密にして置いてくれ」

 

 受付嬢が

「分かりました。では…」

と、分厚い扉を開いて竜人ネオを入れて、ネオは四人を救出する為に低級淫魔達へ挑んだ。

 

 死にかかる四人は、神を見た。

 群がる低級淫魔達を、股間に後光が差す魔羅様で昇天させていく神がいた。

 次々と、銀の角と銀の翼を持つ魔羅神様が、淫乱の魔性に囚われた彼女達を、そのご立派な魔羅様で昇天させ、死にかかる四人の前に幸福な顔をした低級淫魔達が寝そべる。

 全てを満たされて、嬉しそうな顔の低級淫魔達。

 

 地獄に仏、淫魔を救う地獄仏を四人は見た。

 

 その姿は直立で、インドのカジュラーホーにある男女が合体した石像のように神々しかった。

 まさに魔羅神様だった。

 

 四人は気付くと強化ガラスの前に寝ていた。

 低級淫魔達の入る大きなケースを前にする壁に背中を預けて呆然としている。

 徹底的に搾り取られ焦点が合わない。

 

 そこへ、回復薬ポーションの瓶を口に当てる中身をゆっくりと流し込むネオ

「大丈夫か?」

 

 四人は回復薬をネオに飲ませて貰って、何とか焦点が合うだけの意識を取り戻す。

 

 ドリン、レリス、ムラマサ、ルディリが低級淫魔達がいるケース部屋を見ると、低級淫魔達全員が、そのケース部屋で幸せな顔をして眠っていた。

 そして、そのケース部屋の入口の前に、生まれたままの姿で身震いさせて寝ている魔獣系の受付嬢がいた。

 

 ドリンが

「ネオ…どう…して…」

 

 ネオがドリンに

「何とか、相手を麻痺させたり幻覚を見せたりする魔法薬を使って、低級淫魔達から…みんなを助け出したんだ…」

 

 ムラマサが

「ご…めん…」

 

 四人とも今更だが、後悔が来た。

 ネオが麻痺や幻覚の魔法薬を使って助けてくれなかったら…確実に死んでいた。

 死にそうになった影響で…神様を見た。

 

 ネオが背中らかネオデウスの大きなアームの手を出して

「帰ろう。この地獄から…」

と、四人をアームの手に乗せて運んでいると、身震いしていた魔獣系の受付嬢が足を震わせて立ち上がりネオに抱きつき

「また…来てくださいね」

 

 ネオは青ざめた顔をして

「けっこうです」

と、拒否した。

 

 

 その後…四人は近くの病院に入院した。

 病名は過重負荷による心身損耗だった。

 二週間半の治療が必要だった。

 

 四人が入院した理由が、あっという間に獅子食亭に広まった。

 ドワーフが

「バカだべ…あんな店に行くなんて…」

 鬼人の青年が

「あのお店は、オークの大軍か、インキュバス・ロードが行くみせだよ」

 爬虫類の賢者が

「噂には聞いていましたが…。性欲で自殺したい者がいくお店…」

 悪魔族の青年が

「自ら死地へ飛び込むなんて…」

 ドワーフが

「まあ、ある意味…冒険者だべ」

 

 そんな会話をネオは、テーブルに着いて耳にしていた。

 そこへケニーが来て「はい」と注文の品を置いてくれる。

 

「ありがとう」とネオは額を抱えていた。

 

 ケニーが

「でも、よく助けられましたね…四人も」

 

 ネオは注文の品の飲み物を口にしながら

「何度か鉄火場となっている戦場を駆け抜けて行った事があったからね。その経験が役立つなんて…」

 

 ケニーが呆れ気味に

「本当に…四人ともバカですよ」

 

 ネオは額を抱えて

「無謀と挑戦は違うからね…。はぁ…」

 

 ケニーは微笑していると、「ネオ」とケニーの双子の姉で、紅い有翼人のアニーが来て

「帝都から手紙が届いていますよ」

 

「ああ…ありがとう」とネオはアニーから受け取る。

 

 ネオの手紙には特別な魔法の封印が押されているので、ネオ以外にが開けると燃えて消えてしまう。そして、それは送った相手に伝わるようになっている。

 

 ネオは封を切っていると、ケニーが

「また…帝都からの依頼ですか? 嘆きの壁とか、入れない秘境とか、新たな鉱石とか…」

 

 そう、ネオへ来るだいたいの帝都からの依頼は、行き先困難な場所への調査関係が多い。

 

 ネオは「何だろう」と手紙を読んでいると驚きに顔を変えて

「ああ…なんて事だ…」

 

 ケニーとアニーが見詰めて、ケニーが

「何か、問題でも?」

 

 ネオが嬉しそうな顔をして

「妻達が妊娠したらしい」

 

 ケニーがハッとして、アニーが少し喜ぶ顔をするも、ケニーを見る。

 ケニーが

「ネオは、結婚していたの?」

 

 ネオは嬉しそうに微笑み

「ああ…週に三日ほど帝都に行く事があるだろう。その時に帝都にいる妻達と過ごしているんだよ」

 

 ケニーが

「ああ…そう、ですか」

 歯切れが悪い。

 

 ネオが首を傾げ

「どうしたの? ケニーちゃん?」

 

 ケニーが直ぐに嬉しそうな顔に変えて

「その…奥さん達が妊娠したんですね」

 

 ネオが嬉しそうな顔で

「ああ…でも、まさか…三人同時に妊娠とは。明日は帝都へ直行しないと、いや、今からでも帝都にいく船便がある筈だから…乗っていくか!」

 

 アニーは微妙な顔で妹のケニーを見て、ケニーが優しい笑顔で

「おめでとうございます」

と祝福してくれる。

 

 ネオが嬉しげな顔で

「ああ…ありがとうケニーちゃん」

 

 ケニーは笑顔とは裏腹に、もっているお盆を固く握りしめていた。

 

 

 

 ネオは、拠点の宿屋へ戻り、長期に借りている五階フロアーで荷物を整え、宿屋のホールへ来ると、ローブを纏ったあの低級淫魔達の魔獣系の受付嬢がいた。

「こんにちは…」

 

 ネオは荷物のリュックを背負い直しつつ

「ああ…その…」

 

 魔獣系の受付嬢が

「その…私、鼻が効くので…」

 

 ネオは訝しい顔で

「何の用事ですか?」

 

 魔獣系の受付嬢が

「その…また、お店を開く事になったら…来て欲しいんですよ」

 

 ネオは訝しい顔のまま

「自分の必要性を感じない」

 

 魔獣系の受付嬢が

「あの子達は、あんな状態にならなければ…とても優秀な方達なんです。普段は、色んな秘薬や魔法薬を作る魔法薬師の仕事をしていて…収入もそれなりに高いんですよ。

 でも、どうしても…体質的に、あのようになってしまうのです。

 それで…苦しんでいる子もいます」

 

 ネオは訝しい顔のまま

「つまり…その解消の為に…」

 

 魔獣系の受付嬢が

「みんな、貴方に助けて貰っている時に、凄く…安心感を感じたそうです。自分が相手を使い捨てている罪悪感を懐く事もなく。

 毎日、ある訳ではありません。数ヶ月に一度…それだけなんです。だから…」

 

 ネオは

「私は、既婚者だ。最近、妻達が自分の子を妊娠した」

 

 魔獣系の受付嬢が

「秘密は厳守させます。だから…」

 

 ネオは魔獣系の受付嬢の隣を通り過ぎつつ

「また…相談に来なさい」

 

 魔獣系の受付嬢がお辞儀して

「ありがとうございます」

 そして、ネオの腕に抱きつき

「私、貴方とした事…後悔してませんから」

 

 とある噂が広がる。淫乱の狂騒に取り憑かれた者達を救う魔羅神様がいると…。

 

 ネオは宿屋を出て船着き場へ向かっている最中…

「難儀だなぁ…」

と、思った。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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NTR

とある魔導具を求めて遠方に来たネオ、お供にお願いしたルディリとの二人旅だが…そうそう上手くは行かないのが…世の常である。


 ネオはルディリと共に、大型船に乗って別の国を目指していた。

 帝国から離れ、遠方へ向かう理由それは…。

 

 帝都にて大魔導士戦士ディオが

「ネオ殿、最近、西の遠方にある国でとある魔導具を作ったらしい」

 

 ネオが首を傾げ

「とある魔導具とは?」

 

 大魔導士戦士ディオが

「属性に応じた無効化によって属性の害をなくす、いわゆる、対属性魔導具だ」

 

 ネオが

「つまり…炎なら炎…火の属性、冷気なら氷の属性のダメージを防ぐ魔導具か」

 

 大魔導士戦士ディオが頷き

「現在、伝わっている話によると…火属性のダメージを防ぐリングの魔導具を西の遠方にいる大魔導士デミアという魔女が作ったらしい」

 

 ネオが顎に手を置いて

「なるほど…火のダメージを防ぐなら…嘆きの壁の向こうを攻略する際に…」

 

 大魔導士戦士ディオが

「そうだ。役に立つかもしれん」

 

 その情報を受けて、ネオは、自分が会長である帝国の海運を担う海運財閥エンテイスが海運で使っている全長200メートル越えの大型船の一隻で、西へ…その大魔導士デミアがいる国へ向かった。

 

 海運財閥エンテイスの大型船は、帆の風で動くシステムではない。

 この世界に満ちているマナ、特に海に存在するマナを操作して推進力を生み出している。

 端から見れば、海水が通るパイプへ勝手に海水が流れて推力を生み出している不思議に見えるが、そのパイプにはネオの世界のナノテクノロジーと、この世界のマナの技術が融合されている高度なシステムなのだ。

 

 帆も無く海を走る大型船に、人々は不思議な感じを受けるも、その大型船がもたらす利益によって自然と受け容れられた。

 

 

 海運財閥エンテイスの大型船の甲板にいるネオは、近づく大陸へ視線を向ける。

 その隣にルディリが来て

「もう直ぐで到着だね」

 

 ネオが

「すまんな。付き添いを頼んでしまって…。ルディリは魔導具に詳しいから…」

 

 ルディリは微笑み

「ぼくも、火属性を防ぐ魔導具に興味があるし、それに…まさか遠方の国まで来られるなんて、冒険者として血が騒ぐから」

 

 ネオが

「しかし、これから行く国は、国王が選挙で選ばれるなんて」

 

 ルディリが

「でも、国政や行政を担っているのがオークって所は共通しているかも…」

 

 ネオが

「自分達の帝国は…皇帝ロンバルディア陛下を頂点として」

 

 ルディリが

「各地に皇帝の竜を中心に各地を担当する竜達がいて、その竜達の下で各地の様々な種族達が選挙によって行政や治世を担っているから。それが…皇帝が竜だから1500年も続いているね」

 

 ネオが

「不平不満とか出ないのか?」

 

 ルディリが

「どうだろう? 結局は、その時の政治や権力は、その時に誕生した勢力がやっているし…竜族は、その土地と民を守る最終兵器みたいなもんだから。魔法の技術開発とか土地開発とかは、竜族が介入した事があるけど…それ以外はノータッチなのが竜族だから…」

 

 ネオが

「要するに、竜族はバランスを取る位置にいるのか…」

 

 ルディリが

「そういう事」

 

 ネオも自分が竜族の一員なので、そのスタンスを貫いているなら従おうと思った。

 まあ、実際、そのスタンスは嫌いではない。

 

 そんなこんなで、大型船は停泊する港へ近づいていると

「た、助けてくれーーーーーー」

という、大声が聞こえた。

 

 ネオとルディリが、え!と顔を見合わせると、頭上から

「助けてくれーーーーーー」

と、叫んでいる声が。

 

 ネオとルディリが頭上を見上げるとネオが

「アレは!」

 

 ルディリが

「マナ喰い大鳥の、マンリーターだ!」

 

 一つ足に一つ目の大きな鳥が一つ足にラミアの青年を捕まえて空を滑空している。

 マンリーター、通称、マナ喰い大鳥というモンスターで、その大きな一本足に獲物を捕まえると、その足から捕まえた獲物のマナを吸い取り、死んでしまうまで離さない。

 排除優先危険モンスターな為に、見つけた場合は、即始末。

 勿論、倒した後は、そのコアとなっている魔石や、躯体は、色んな素材に使われる。

 

 そのマンリーターの大きな一本足に掴まるラミアの青年を見てネオが

「ルディリ!」

 

「任せて!」とルディリが告げた瞬間、ネオの背面からルディリが乗る固定砲台が出て、それにルディリが乗ると照準を、マンリーターに向ける。

 轟音と共にマンリーターの動きを抑制する対空戦の砲撃をする。

 そして、ネオは脚部と背面にスラスターを伸ばし飛翔、掴まっているラミアの青年を助けに行く。

 

 ルディリの砲撃よって動きが鈍くなるマンリーターへ、飛翔するネオが届き右腕をプラズマソードに変えて、マンリーターの一本足を切り裂き、ラミアの青年を抱える。

「大丈夫か!」

 

 抱えられたラミアの青年は

「ああ、ありがとう。助かった」

 

 ルディリは、ネオがラミアの青年を確保したのを確認して、照準の中心をマンリーターに向け発砲、グギとマンリーターは鈍い声を放って胴体が真っ二つに弾けた。

 その上半身だけが、大型船に肉が潰れる嫌な音をさせて墜ちた。

 

 ネオがゆっくりと大型船の甲板に着地して

「お疲れ、ルディリ」

 

 ルディリは固定砲台から下りるとネオの元に来て助けたラミアを見て

「無事?」

 

 ラミアの青年はネオから下ろされて

「ああ…本当に助かったよ」

 

 ネオが

「どうして、掴まっていたんだ?」

 

 ラミアの青年は、ホホを掻いて微妙な顔をして

「ドラグ・アース帝国へ行きたくて…」

 

 ネオとルディリは微妙な顔をする。

 排除優先危険モンスターを狩れば相当なお金になる。

 確かにここより遠方の帝国へ行く旅費としては十分な程になるだろう。

 

 だが…ネオは

「それだからって、一人で狩ろうとしたのか…。掴まった様子から、手練れではないだろう君は…」

 

 ルディリが

「排除優先危険モンスターは、強いヤツが多いんだ。大人数で、手練れも加えて回数を多くして、お金を貯めてやった方が無難だよ」

 

 ラミアの青年は微妙な顔でホホを掻きつつ

「その…ドラグ・アース帝国へ行きたくて…あのモンスターを利用したんだ…」

 

「はぁ?」とネオとルディリは疑問な顔をになる。

 

 ラミアの青年は

「ドラグ・アース帝国って竜が統治している国なんだろう」

 

 ネオは頷き

「ああ…そうだが…」

 

 ラミアの青年は鼻息を荒げて

「だったら、オレと同じ爬虫類系だから、超巨大な卵を産む瞬間をみたい、と思ったら! いてもたってもいられなくてーーーーーーー 

 メスのドラゴンのお尻から捻り出されるデカい卵、最高じゃあねかぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 ネオとルディリは、はぁぁぁぁ?と無言で青ざめる。

 

 ネオは額を抱えて

「え? 待て…それを見たいが為に…もしかして…あの…大鳥のモンスターを…」

 

 ラミアの青年は自信満々に親指を立て

「その通り! 乗り物にしようとしたら、獲物になっちゃった!」

 

 ネオとルディリは、同時に…コイツ…バカか?と思った。

 

 それでもラミアの青年は興奮したまま

「帝国じゃあ、ドラゴンの雄と雌が、そこらかしこで交尾しているんだろーーーーー 

 見て見たいじゃあないかーーーーー 

 オスのドラゴンのぶっといアレに悶えるメスのドラゴンをーーーーー 

 見て見たいーーーー」

 

 ネオとルディリは、白い目でラミアの青年を見る。

 要するに竜族の交尾や出産を、AV感覚で見たいスケベで頭がショートした、かわいそうなラミアの青年なんだろう…と。

 

 ルディリが

「一つ行っておくけど…帝国の竜族は、卵で生まれないから…」

 

「え!」と衝撃を受けるラミアの青年。

 

 ネオが

「帝国の竜族の竜は、竜谷という立ち入り禁止の場所で、子供を卵ではなく赤ちゃんで産む。それを見られるのは、お産を手伝うメスの竜達だけだから…」

 まあ、竜から人間形態でも、普通に人間のお産のように産むので、竜で産むか、人間で産むか…選択は出来る。

 まあ、人間で産んだ方が…ベッドとか諸々の施設が整っているので、人型で産む場合が多いが…。問題が無い場合は、頑丈な竜形態で産む事もある。

 

 ルディリが

「因みに、竜の交わりをエッチな視線で見ていると、竜のブレスに焼き殺される。

 だから、エッチな視線で見るラミアとかトカゲとかのレプテリアン系は、見ようとして近づいたら犯罪者として捕まるよ…」

 

 ラミアの青年は頭を抱えて

「オウ マイ ゴーーーーーーーーード」

と叫んでその場に泣き伏せた。

 

 ネオとルディリは、軽蔑に近い視線で、衝撃を受けているラミアの青年を見下ろした。

 

 

 

 

 そんなこんなで、港に到着したネオ達は、助けたラミアの青年ナルガミを現地のガイドにお願いした。

 報酬は、あの…マンリーターの報酬だ。

 流石、排除優先危険モンスターなので100000Gという高額が入った。

 

 ラミアのナルガミは意気揚々に、ネオ達に長期に泊まれる場所を提供する。

 その宿屋とは、食酒亭という店だった。

 

 ナルガミが蛇の下半身をくねらせて先を進み

「ここは、メシが美味いんだ」

と、スイングドアを潜ると

 

「いっらしゃいませーーー」

と、そこで給仕をしている天使の少女が?いや少年がネオを見て

「ああ…」

 

 ネオは、天使の少年の微笑み

「やあ、まさか…ここで出会うなんて…」

 

 天使の少年クリムヴェールは、俯き加減でホホを染めて

「は、はい…お久しぶりです」

 

 ナルガミがネオとクリムの様子に

「知り合い?」

 

 クリムは恥ずかしそうな顔で

「ええ…ちょっと…ねぇ」

 

 ネオは気さくに

「まあね」

 

 ネオとクリムにしか通じないアイコンタクトの微笑みが交わされる。

 

 ナルガミが次に、店主であるアルラウネのツタのいる厨房に来て

「ツタさーーーん」

と、ナルガミが呼ぶと、植物人のツタの触手の一つが来て

「なんだい?」

と、その触手に開いた花が喋った。

 

 その後、ナルガミの紹介で、この食酒亭の二階にある部屋を拠点として貸して貰える事になった。

 まずは、一週間分を支払った。

 

 ナルガミの案内で、食酒亭の一階にある食堂に来て

「ここのメシは絶品だぜ!」

 

 ナルガミを正面にネオとルディリが座ると、有翼人の給仕メイドリーが来て

「ご注文は?」

 

 ネオが

「じゃあ、エールと、おすすめの肉料理を三品」

 

 メイドリーが注文をメモして「はーい。お待ちください」と告げた次に

「クリム君とお知り合いですか?」

と、ネオを見る。

 

 ネオは頷き

「ちょっとね。多少の袖も縁の一つさ」

 

 ナルガミが

「この人達、ここから東の遠方の国から来たんだぜ」

 

 メイドリーが

「どこですか?」

 

 ルディリが

「ドラグ・アース帝国って所から」

 

 メイドリーが驚き

「凄い遠方じゃあないですか! 最近、やっと直通の船が来られるようになったって」

 

 ネオが頷き

「それでここに来たんだよ」

 

 クリムも来て「こんにちは…」と恥ずかしそうな顔をお盆で隠して来る。

 

 ネオが微笑み

「さっきも言ったろう」

 

 クリムが照れているのと、そこへ「おい、クリム」とスカートの袖を掴む男がいた。

「何ですか。スタンクさん」

と、クリムが掴んだ男、スタンクを見るとエルフのゼルと何時ものように相席していた。

 

 スタンクがネオを見て

「お、お前…」

 

 ネオが視線に気付き「誰だね?」と覚えがない。

 

 スタンクが

「ドラグ・アース帝国の帝都で、性転換薬の店で」

 

 ネオが記憶を検索すると、性転換薬の店で出会った生意気そうな女を思い出し

「ま、まさか…あの時の…」

 

 スタンクがニヤリと笑み

「おう、あの時の客だ。まさか、あの時に出会った野郎にまた出会えるなんてな」

 

 エルフのゼルが

「あああ! あの時のマキナ族の!」

 

 ルディリが

「ネオ、知り合い?」

 

 ネオが

「まあ、ちょっとな…帝都で」

 

 スタンクとゼルが来て、スタンクが「相席いいか?」と尋ね。

 ネオはルディリを見ると、ルディリは頷いたので

「どうぞ」

 

 こうして、ラミアのナルガミ、エルフのゼル、人族のスタンク、マキナ族のネオ、ハーフリングのルディリの五人で話が始まった。

 

 スタンクが

「あんな遠くから、ここまで何をしに来たんだよ」

 

 ネオが

「ある魔導具を探しにやってきたと、その魔導具を作った大魔導士デミアとの協力もお願いしに来た」

 

 ルディリが

「火属性のダメージを防ぐ、火属性防御の魔導具があるって…」

 

 ゼルとスタンクは視線を合わせて、ゼルが

「もしかして…これか?」

と、サキュ嬢のレビューを見せた。

 サラマンダーのサキュ嬢に火属性無効の魔導具を使って致したレビューを見て

 

 ネオは微妙な顔で

「まあ、確かに…これだ」

 

 ルディリが

「火属性の体温が高温になるサラマンダーの女の子とする為に作られた魔導具なの?」

 

 スタンクが

「いいや、本来は火属性のモンスターの攻撃を無効化する為に作ったらしいが…それよか、サラマンダーの女の子とやれた方が儲かるからって」

 

 ネオは本来の目的では売れないという現金さに微妙な顔をしていると、ゼルが

「その魔導具が欲しいのか?」

 

 ネオは

「その魔導具も欲しいが、それを作る技術者とも通じたい」

 

 スタンクがゲスな笑みで

「もしかして、サラマンダーの女の子とやりたいから」

 

 ネオは呆れつつ

「違う。とある場所の攻略の為に、そういう魔導具が必要なんだ。火属性のヤツが出来るなら他の属性のヤツも作れるはずだ。その技術を取り入れたい」

 

 ルディリが

「僕たちの国、ドラグ・アース帝国には、土地自体がダメージを与える強い属性を持っている場所が多いからね。その属性のダメージから身を守る為にも必要なんだよ」

 

 スタンクとゼルが顔を見合わせ、スタンクが

「オレ達は、それを作った魔導士の知り合いでもある」

 

 ネオが怪しむ顔をする。

「それは本当なのかね?」

 

 交渉が始まった。

 

 ゼルが

「勿論、紹介するんだから…タダとは言わない」

 

 ネオは冷静な視線で

「で、紹介料は?」

 

 下手な聞き出しより直球がいい。

 

 スタンクが

「なぁ…に。オレ達にアンタ達の心意気を見せて欲しい」

 

 ネオが静かな目で

「ほう…心意気か…」

 

 スタンクが

「アンタ達が、今までエッチしたサキュ嬢の種族の中で、一番良かった種族を、ここのサキュバス街でおごる! どうだい!」

 

 ネオとルディリは、え?と固まる。

 大金を要求すると思っていたのに、リリスガール…ここではサキュ嬢を、しかも…一番体験した中で気持ちよかった種族のサキュ嬢をおごるという、アホな条件だ。

 

 ナルガミが

「この二人は凄腕の冒険者なんだよ。それは冒険でもアッチでも凄腕なんだぜ!」

と、女性器の隠語な指の形を出した。

 

 確かに女遊びに入れ込む連中は見た事があるが…これほど、バカとは…。

 ネオとルディリは、真剣に交渉しようとした自分達がバカに見えた。

 

 ネオが腕を組み

「おごるのは良いが、私はしないからな」

 

 スタンクが驚き

「どうしてだよ! 男ならやるべきだろうが!」

 

 ネオが呆れた顔で

「私には妻達がいる。三人の妻達は身重だ。心配させる事をしたくない」

 

 スタンクが席から立ち上がり腰を振って

「嫁さんにバレないなら! それこそ楽しむのが男のたしなみだろうが!」

 

 それを別のテーブルで聞いていたメイドリーが「最低」と呟き、クリムはスタンクの言葉が情けなくて恥ずかしくなった。

 

 ゼルが

「まあまあ、スタンク。オレ達だけでも楽しもうぜ」

 

 スタンクが

「そうだな。根性が無いふにゃチンに、男の浪漫ってヤツを教えてやろうぜ」

 

 ネオが呆れつつも

「だが、ここにどんな店があるか…知らないぞ。だから…」

 

 ゼルが「問題ない」として、今まで自分達が書いてきたサキュ嬢のレビュー記事をネオに渡した。

 

 ネオは、サキュ嬢の記事を見て「こうもまあ…」と遊びまくっている現状に呆れつつ、レビュー記事を見ていって

 このまま、下手に美味しい思いをさせると、度々、このような事になりかねない。

 なので…そうならないように…評価の悪い記事を見るも、死にそうになったりした記事があったりして、かなりアホな方向に頑張っているのを見て追加の呆れを持つ。

 

 肉体的にダメージが少ない、精神的なダメージを…お!

 それは精神的なダメージがデカかった寝取られるサキュ嬢店、扉のスキマを発見した。

 

 その寝取られるサキュ嬢店のレビューを見て

 なるほど…とネオは思いつつ。

 ある事を過ぎらせる。

 それは、本国の宇宙での元妻の女の事だ。

 

 実は、ここで三人も妻にして、三人とも自分の子を妊娠した。

 それは魔法の検査や、こちらのナノマシンでも自分の子であると確定していた。

 それが分かった時に、友人に寝取られた元妻の女の事が過ぎり、黙って去り終わった事に、どこか…後ろ髪を引かれる思いがあった。

 

 そうだ、ここで…その後ろ髪を引かれる思いを断ち切るのと、このエロ連中を黙らせる為に…この店、扉のスキマを利用する事にした。

 

 

 夕暮れ、ネオを先頭にスタンクとゼルに…どうしてかクリムとナルガミも一緒に来ていた。

 ルディリは、ネオの選択を知って嫌な予感がするので、パスして街の散策という名の情報を仕入れに行った。

 

 スタンクはワクワクしていた。

 今までのレビュー記事では、自分の趣向が大きかった。

 依頼もあったが…他人がどんなエッチで喜ぶのか?とゲスな想像をしている。

 

 ゼルもニヤニヤとして、人のエロ事情を垣間見る事に興味津々だ。

 

 クリムは…スタンクとゼルのエロ所行を知っているので、酷い事になる前に止めるつもりだ。

 

 ナルガミは、何となく来た。

 

 ネオがその店の前に来る。

 

 スタンクは加えていたタバコを落とした。

「マジ…かよ」

 そこは、自分に最大のトラウマを刻んだサキュ嬢の店だ。

 その店名は、扉のスキマ

 寝取りプレイのお店ではなく、自分が設定した話でサキュ嬢が、別の男に寝取られるのを見て、息子をしごくという被虐の嗜好店だ。

 なにより、スタンクに当分の間、立ち直れない精神的なダメージを刻んだ店だ。

 

 ゼルにとっては「マジかよ」と顔を引き攣らせた。

 スタンクと来て良い思い出がない店の一つだ。

 

 クリムは首を傾げて

「どんなお店なんですか?」

 

 ナルガミは

「うわぁ…マジで…」

 

 クリムのレビュー記事は見ているだろうが、印象にないので憶えていない。

 ナルガミは、憶えていた。

 

 ネオがその店の扉を潜りスタンクが

「なぁ…ここ、止めないか?」

 

 クリムは初めてスタンクが止めたのに驚いた。

 

 ネオが

「一番のエロって何だと思うか?」

 

 スタンクが

「そうだな…サキュ嬢と楽しむ事か?」

 

 ネオが残酷な笑みをして

「人の傷を覗く事さ」

 

 スタンクは嫌な予感がして堪らない。

 ゼルが

「やっぱり、止めて…」

 

 ネオが

「なんだ? 根性の無いふにゃチン野郎にビビったのか」

 

 煽られてスタンクは

「野郎! ここで引いたら男が廃るってもんだぜ。地獄までつき合ってやるよ!」

 

 

 こうして、皆は扉のスキマ店へ入った。

 

 受付兼ボディーガードのドラゴン人の女がいて、その隣にあるテーブルで、ネオは設定を書いていた。

 

 その間、スタンクはソワソワして、ゼルは嫌な顔で、クリムは違う感じの店に戸惑っている。ナルガミは冷静に事態を見詰める。

 

 ドラゴン人の受付嬢は、体格が大きく力強いのが分かる。

 ドラゴンのような見た目だが、その実はネオが知っている竜族とは違う系統らしい。

 

 ドラゴン人の受付嬢が、ネオの設定が書かれた用紙を見て、眉間を寄せて

「あいよ。少し待ってな」

と、設定の用紙を奥へ持って行くと、店の説明をした。

 

 それを聞いたクリムは、地獄を見たような顔になる。

 要するにここは、自分が思い描く女の子が寝取られるのを見てしごく、お店なのだ。

 

 演技中のサキュ嬢にも、寝取る男を演じる淫棒にも、絶対に手を出してはいけない。

 この体格がいいドラゴン人の受付嬢は、演技とは分かっても暴力を爆発させる客を押さえるボディーガードだと分かった。

 とにかく被虐な事を見続けさせて、それで興奮を得て自分の息子をしごく店なのだ。

 

 そんなお店だと知って、クリムがネオに「止めましょう」と腕を引っ張る。

 

 ネオが優しい笑顔を見せて

「大丈夫だよ」

 

 ネオが選んだコースに、ネオは全員分の料金を払って、これから行われる寝取られる劇を全員で見るのだ。

 

 スタンクがぶつぶつと、何が良くて…他人の設定を見ないといかんのだ…と呟いている。

 

 そして、奥からドラゴン人の受付嬢が来て

「準備できたよ」

 

 ネオが、スタンクに

「タバコを貰えるか?」

 

 ネオがタバコを向けて

「ああ…」

 

 その一つを持ってネオが

「これから見る事は、実際、私が体験した過去の出来事だ」

 

 スタンクがタバコを落とした。

 ゼルとナルガミは顔を引き攣らせる。

 クリムは青ざめた。

 

 ネオが過去に体験した寝取られた再現が始まった。

 

 そこには、部屋の風景は違うも男と女がベッドで致している風景がある。

 まあ、それをそれで見れば、エロいかも知れないが。

 その致している二人が

 

 男が

「ああ…アリア…アリア」

 

 女が

「う…はぁはぁはぁ」

 

と、本当にいたしている、そこへネオが入る。

 

 スタンク達は、入口のカーテンの向こうで立ち止まっていた。

 

 ネオの目の前のベッドでいたす男女、かつて妻と寝取った友人役の男と、寝取られている妻役の女が、はぁはぁ…と合体している。

 体勢はバックでだ。

 

 スタンクは、寝取られている妻役を見て、胸くそ悪くなる。

 それは、かつて…自分の初恋で、親にまで反抗して結ばれようとした女性と、髪の色までそっくりな女だった。

 

 寝取っている友人役の男と、寝取られている妻役の女が、ネオが入って来たのを見て

「あ、アナタ!」

と、寝取られた妻役の女が絶望した顔をして

「違うの、これは…違うの」

 

 寝取っている友人役の男が

「待ってくれ、話を…これは」

 

 ネオの冷たい目、それは悪魔さえ怯えるような絶対零度の視線で

「続けろ」

 

 寝取られている妻役の女が涙を流して

「違うの…だから…」

 

 絶対零度の視線のネオが

「続けろ」

と、寝取っている友人役の男と、寝取られている妻役の女を睨む。

 

 そうして、バック体勢のまま、寝取っている友人役の男が腰を振り。

 寝取られている妻役の女が

「アナタ、違うの。ごめんなさい。本当に違うの、でも、ああ! あああ、はぁ、あああ」

 

 寝取っている友人役の男の動きで悶えてホホを染めている。

 

 寝取られている妻役の女、アリアが

「違うの、本当に愛しているのはアナタだけなの…だから、違うの…う、あああああ」

と、弁明しつつされている事の気持ちよさで悶える。

 それでも

「信じて、愛しているのは、アナタだけ、ああ、愛して…ああ、う、あああ、はぁ、ああ」

と、寝取っている友人役の男の息子に、寝取られている妻役の女が快楽を感じている。

 

 ネオは、スタンクから貰ったタバコをくわえて、ふ…と煙を噴かす。

 そして、吸う事もなく。

 冷酷な顔で、妻が友人に寝取られているのを絶対零度の視線で見詰める。

 その脇をタバコの煙が上る。

 

 寝取られている元妻のアリアが

「愛しているのは、アナタだけ、アナタだけなの…これは、違うの…違うの…」

と、否定して首を振っているにも関わらず、時折、気持ち良いのか、悶えている。

 

 寝取っている友人の男が

「頼む、もう…良いだろう。頼む」

と、止めて欲しいと懇願する。

 

 ネオは冷徹に淡々と

「続けろ」

 

 寝取られてるアリアが泣きながら

「ごめんなさい。ごめんなさい。違うの違うの…、ああ! あああ」

と、嬌声を上げてしまう。

 

 ネオが淡々と

「さっき、任務から帰って来た時に、娘の遺伝子検査の結果が来た。オレの娘じゃあなかった」

 

 寝取られているアリアが絶望の顔をして

「そんな、違う。ウソよ…ああ、う…」

と、やられて気持ちよくなっているのを悶える。

 

 ネオはタバコを吹かして

「良かったじゃあないか…そこのお前とやっている男が父親だ」

 

 寝取られているアリアが

「違う、ああ、う、あの子は…アナタの娘よ。だから…」

 

 ネオは、タバコを吹かして

「愛にも限界はある。君とオレとの愛はゲームだった。ありがとう。

 もう…ゲームオーバーだ」

と、椅子から立ち上がり部屋から出て行く。

 

 出て行くネオと、青ざめて口を押さえるスタンクにゼル、クリムは真っ白になりその場にへたり座り、ナルガミは遠くを見て今あった事を忘れようとしている。

 

 残酷な、妻を友人に寝取られた劇場を見たスタンク達。

 ネオが絶対零度の視線で

「これは、本当にあった出来事だ。

 まあ、こうして別れを言う事もなく、友人と元妻のあの女が致しているのを…。

 オレは撮影して、いたし終わったベッドルームから出て来た友人と元妻の女が出て。

 オレは撮影した映像を永遠と流し続け、無言で出て行く準備をして、出て行った。

 それを止めようとする元妻の女に、そこで座っていろ!ってソファーに座らせて…。

 思い出の品を全部、ダストシュートに落として、出て行ったさ」

 

 スタンク達は、吐きそうな程の追加ダメージをされた。

 

 ネオは

「寝取った友人だった男は…呆然としていたなぁ…」

と、嗤う顔には、今まで見た事もない残酷さが見えた。

 

 演技が終わったサキュ嬢と淫棒の二人が来て。

 寝取っている友人役をしたエルフの男が

「どうでした?」

と、演技が終わって晴れ晴れしている。

 

 空気が違い過ぎて、スタンク達には切り替えられない。

 だが、ネオはあの優しい微笑み

「いや…抜群だった。再現度が完璧だったよ」

 

 寝取られる妻役をした妖精のシルキーの女が

「いや…凄いですよね。こんな事を体験して、リアル寝取り情報ありがとうございます」

 

 ネオが微笑み

「今後の、演じる二人の役に立ったかなぁ?」

 

 寝取り役をした男が、妖精シルキーの彼女の肩を持ち

「はい。二人して精進して行きます!」

 

 ネオが手を演じてくれた二人に向け

「因みに、この二人は、この店で専属の、寝取られる女と寝取る男を演じる夫婦だそうだ」

 

 スタンクが口を押さえて

「もう…いい」

 

 メンタルが限界だった。

 

 スタンクとゼルにナルガミは、早々に店を出て行った。

 クリムだけ、もう…色んな事が追いつかずに、天使の翼で浮いたまま呆然として思考を停止させていた。

 

 ネオはフンと鼻を鳴らす。

 これで、エロい事を求められる事はないだろう。

 そして、再び演じてくれた夫婦へ

「ありがとう。これで未練を断ち切れる。今、ここで新しい家族を得たんだ。

 でも…前の事が引っかかっていてねぇ…。これで前に進める」

 ネオとしては、晴れ晴れしていた。

 言いたかった事を口に出来たのだ。未練が切れたのだ。

 だから

「二人ががんばってくれたお礼だ」

と、演じてくれた二人にお礼を渡す。それは金貨20枚。200000G、店の料金の三倍以上だ。

 

 受け取った夫婦の夫エルフの男性が

「いや、そんな。こんな大金」

と、返そうとするも、ネオは押し戻して

「受け取ってくれ。私の未練を断ち切ってくれたお礼なんだ」

 

 そして、ネオは思考停止するクリムを連れて店を、寝取られる専門店、扉のスキマを後にする。

 その後ろ姿を、あの演じてくれた夫婦が頭を下げて見送った。

 凄く、ネオは格好良かった。

 

 その後、サキュバス街を、思考が止まって風船のようなクリムを連れて帰るネオだが、唐突にクリムの思考が動き出し

「さっきの…事、本当に…」

 

 ネオはクリムに微笑む

「状況は違うも、本当にあった事だ」

 

「う…うぐ」とクリムのかわいらしい顔から大粒の涙がこぼれて、それを拭いながら

「そんな、あんなの…酷いですよ。あんな事…貴方が一番…傷ついているのに…」

 

 ネオは優しくクリムの頭を撫で

「いいんだ。もう…過去の終わった事だ」

 

 優しいネオにクリムは、意を決した顔をして

「ついて来てください!」

と、ネオを引っ張る。

 そして、来たお店は、性転換専門店だった。

 クリムは、お金を払い、女に性転換して、そして…店のベッドにネオを押し倒した。

 受け身なクリムが頑張っている。

 

 ネオは戸惑いつつ

「どうしたんだい?」

 

 受け身な女性より女性らしいクリムが積極的だ。

「ぼくは…ネオさんの心の傷を癒やしたいです」

 

 ネオが困り顔で

「いや…それは…さっきので」

 

 ネオの上にいるクリムが

「あんなの! 心の傷を癒やしたなんて言えません!」

 

 ネオは困り顔だが、クリムは天使だ。きっと天使のサガのような性質が働いているのかもしれない。

 天使は神の御使い、人を癒やし、人を助ける者。

 傷ついた者を放っては置けないのだろう。

「分かった」とネオは、クリムに任せる事にした。

 

 クリムが潤んだ瞳で

「ネオさん。ぼくに…身を委ねてください」

と、今まで受け身だったクリムが、ネオの為に女性として動いた日だった。

 

 

 因みに、同行したスタンクとゼルにナルカミは、凹んだ心を癒やす為に、爆乳バストの牛娘店へ行き、巨大すぎるバストの牛娘の胸にしゃぶり付いて、ママから授乳されるプレイをしていた。

 結局、スケベなのは変わらなかった。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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縛りプレイ

男達は今日も挑戦する。
どんな事でも…


 私は、ネオ・サーペイント・バハムート

 今のありのまま、起こっている事を話す。

 まず、縛られている。

 両手足を後ろに縛られ、吊されている。

 拷問でも受けるように、白い糸達で縛り上げられている。

 

 自分の隣には、同じく縛り上げられている天使のクリム君がいる。

「なんで、ぼくまで…」

と、クリム君は泣いている。

 

 ここで、冷静な方なら…自分達がダンジョンか、何かの依頼で捕まったと思うだろう。

 

 残念ながら…違う。

 目の前には、白い糸、蜘蛛の糸を束にして鞭にしているアラクネ族の女のリリスガール、ここではサキュ嬢というらしいが、そのアラクネの彼女が

「さあ、女王様に従いなさい」

と、蜘蛛の糸の鞭をベチベチと床に叩き付けている。

 

「はぁ…」と私は溜息を漏らす。

 

 私達がいる場所、サキュバス街のアラクネの巣という、れっきとしたサキュ嬢とニャンニャンを楽しむお店だ。

 

 そう、このアラクネの巣は…女王様プレイがあるお店だ。

 

 こうなった理由は、数時間前。

 

 

 食酒亭の食堂で

 

「おい、テメェは…嬢の遊び方を分かってねぇ!」

と、スタンクがネオに絡んできた。

 

 ネオはルディリと共に、様々なこの地域の情報が載った情報紙を見ていた。

 そこへスタンクが絡んできた。

 

 ネオが眉間を寄せ

「別にどんな遊びをしようとも、犯罪ではないなら問題ないだろう」

 

 スタンクが鬼気としてネオを指差し

「お前のプレイは、癒やしじゃあねぇ! 傷を広げるだけだ!」

 

 ネオが怪しむ笑みで

「何か昔のトラウマでも過ぎったのか?」

 

 それを聞いてスタンクがカッとなり

「いいか! オメェのは、間違ったドMプレイだ! 真のドMプレイってヤツをオレが教えてやる」

 

 ネオは視線を見ている視線に戻して

「すまんが、お前の遊びにつき合っている余裕はない。我々は仕事でここにいる」

 

 スタンクがドンと、そのテーブルを叩き

「オレがお前に、大魔導士デミアを紹介した恩は果たしてねぇ」

 

 ネオが殺気に近い視線でスタンクを見る。

 スタンクが身じろぎして引く。

 

 ネオが

「お前に紹介として魔導都市に来たが…。その大魔導士デミアと繋がっているデコイの女と交渉したが…決裂した。お前の恩義は…そこで終わっている」

 

 そう、スタンク達と共に魔導都市へ来たのだ。

 移動手段は、ネオが変形した宇宙戦闘機にスタンクとゼル、クリムにルディリの四人を乗せて、音速を突破しようとするとぶつかるマナの壁をエネルギーに変えて加速、超音速の数分で、通常なら二日もかかる距離を移動した。

 

 で、魔導都市で魔導具店のデコイの女に、そのデコイである女の主、本体と直接交渉を持ちだした。

 

 デコイのデミアが

「ごめんなさいね。ちょっと信用がない相手は…」

 

 ネオが

「信用か…私は、ドラグ・アース帝国の皇帝ロンバルディアの弟、ライディリアの娘達を妻に持つ竜族でもあり、マキナ族でもあり、帝国の海運を一挙に担う海運財閥エンテイスの会長だ」

と、告げて右腕の袖を捲り、腕にあるナノマシン端子から無数の武器を伸ばす。

 

 デコイのデミアがそれを見て笑みながら

「そうね…じゃあ、アタシと遊んでくれたら…考えるかも…」

 要するにデコイのデミアをサキュ嬢として買えという事だ。

 

 ネオが鋭い視線で

「お断りだ。私のサンプルを取りたいのだろう」

 

 どうして…大魔導士デミアが、デコイを使ってこの商売をしている理由を察知していた。

 自分達と同じだ。この世界の様々な生体サンプルが欲しいのだ。

 おそらくだが、そのお陰で…火耐性の魔導具を作り出せたのを…。

 

「じゃあ、ダメね」

と、デコイのデミアは肩をすくめて拒否した。

 

 交渉は決裂、帰ろうとしたが…スタンクとゼルは残るとして、ネオはクリムとルディリを変形した宇宙戦闘機形態に乗せて、飛び去って帰った。

 

 デコイのデミアはそれを見て、好奇心の瞳を向け

「何! アレ! どういう技術なの!」

 

 益々、ネオのサンプルが欲しいとして、スタンクとゼルにある話を持ちかけた。

 その話をスタンクやゼルの背中に隠し仕掛けた極数のナノマシン端末の膜からネオは聞いた。

 

 そして、今に至る。

 このアラクネの巣で、ネオの歪んだどM性癖の矯正をするとして、女王様プレイのアラクネ嬢の元にいる。

 

 じゃあ、なんで乗り気ではなかったのに、スタンクにつき合っているかと言うと…。

 

 エルフのゼルが

「ここにあるサキュバス街には、大魔導士デミアと繋がりある連中がいるんだ。そういう連中と懇意になれば、ダメだった交渉が上手く行くかも」

 

 ネオは、渋い顔をする。

 要するに、外堀から攻めるという事だ。

 直接ではダメだった。

 だが、外堀…大魔導士デミアの仲間を味方につければ、ダメだった交渉が上手く行くという事をゼルは言っている。

 流石、200歳のエルフ、隣にいる若い人族とは経験値が違う。

 

「分かったよ」とネオはつき合う事になった。

 

 そして、スタンクにゼル、ネオとクリムに、何故かナルガミと、五人が来て、サキュバス街にあるアラクネ族のお店、アラクネの巣に来た。

 来た、来た…その結果が…蜘蛛の獲物のように吊されている。

 

 アラクネのサキュ嬢が、鞭にした蜘蛛の糸を振って

「さあ、この女王様が、お前達を最高の快楽に誘ってやる」

 

 ネオの隣で同じく吊されているクリムが本気泣きしている。

 それをネオが見て、アラクネのサキュ嬢に

「あの…止めて貰えませんか?」

 

 アラクネのサキュ嬢が

「一応、結構な額のコースなので、キャンセルされると…」

と、トーンがマジになる。

 

「う、ぐす、う、う…」

と、マジ泣きしているクリムの声が響き、何か痛々しい空気になる。

 

 ネオが

「どうして、こんなコースになっているんですか?」

 

 アラクネのサキュ嬢が微妙な顔をして

「お連れの方が…その…そういうサービスが好きな方だと…」

 

 ガックとネオは項垂れ

「それは、勘違いです。解いて貰えませんか?」

 

 アラクネのサキュ嬢が

「でも…料金が…。以外と楽しいって方もいますから」

 

 ネオが

「キャンセル料も料金返却もしません。こちらの勘違いなので…」

 

「ああ…そうですか。分かりました」

と、アラクネのサキュ嬢は、蜘蛛の糸の拘束を解いて、ネオとクリムを解放した。

 

 まだ、泣いているクリムにネオが

「大丈夫か?」

 

 呼びかけても泣いている。

 

 そこへアラクネのサキュ嬢が来て「ほら…」と、クリムを人型と蜘蛛型の手足で抱き上げる。

 最初、クリムはビックと怯えるが、アラクネの上半身にある豊満な人の胸に顔を埋められて、子供いたわるようなアラクネのプレイが始まった。

 

 本来は、こういうプレイらしい。

 

 ネオは別料金を出して、別のアラクネのサキュ嬢に普通のプレイをして貰った。

 

 その頃、スタンクとナルガミは『オウ マイ ゴーーーーード』と叫んでいた。

 

 ネオはアラクネのサキュ嬢と共に、店内に張られた蜘蛛の巣のベッドで、揺り籠のように揺られて、緩やかなアラクネのサキュ嬢との交わりを楽しむ。

 

 蜘蛛の巣のベッドは、ハンモックに近いが…その伸縮自在で、強度もある蜘蛛の巣のお陰で落ちる事もなく、その蜘蛛の巣のベッドで、アラクネのサキュ嬢を下にしたり、上に乗って貰ったりして、ゆっくりと楽しむ。

 

 アラクネのサキュ嬢の致す秘部は、人型の上半身と蜘蛛型の下半身の付け根にあり、そこにオスの棒を挿入して、がんばって貰う。

 基本、アラクネ族は、女性しかないので、夫は他種族になるらしい。

 アラクネ族は体格も大型の方で、力としてはオークやオーガといった大型異種族でも組負けする事はないらしい。

 さらに、男性が生まれない種族なので、絶えず異種族から男性を欲するので、一夫多妻制になりやすい。

 ここのような異種族が多く暮らすアラクネの女性は、一夫一婦制ではあるが…ここより離れた元国、故郷の国、アラクネが大半を占める本国では、男を求めて戦争して奪ってくる事もあるらしい。

 

 奪ってくるのでもルールがあるらしく、妻がいるとか、犯罪者とか、恋人がいるとか、そういう男性を攫うのはNGらしい。後々、面倒な問題があったので。

 

 なので、偏屈で変わり者の男性を捨てる場所としてアラクネの国が機能している事もあるらしい。

 犯罪者ではない偏屈な男性、いわゆるオタクやニートな男がアラクネの国で捨てられて、繁殖の種馬になるが…決して非道な扱いはされない。

 ママ味な感じで、接するので以外と関係は良好だ。

 だけど、やっぱり、その大きな体格と蜘蛛のような体なので、怖い女性と勘違いされているらしく、その誤解を解く為と丁度良い男性を探す為に、各地にこのようなお店を出店している。

 

 どうしても、この外見で女王様プレイを望む人がいるので、本来のママ味プレイへ行かせる為に、女王様プレイの料金は三倍増しにしている。

 

 アラクネの身体が大きく有数な戦闘民族の割に、そのプレイは優しく、とことん甘やかしてくれる。

 無論、蜘蛛の胴体から出る糸は、とても頑丈でシルクのような手触りで、アラクネの糸で編まれた服や衣類は人気商品の一つだ。

 

 恐怖で怯えていたクリムは、アラクネのママ味プレイで存分に癒やされるのあった。

 

 プレイが終わって、スタンクとナルガミはゲッソリ、ネオとクリムは平然としている。 ゼルは外にいて

「よう、スタンク、ナルガミ。どうした?」

と、ニヤニヤと笑っている。

 

 スタンクがゼルに

「なんで、お前は普通なんだよ」

 

 ゼルは

「オレは途中で止めて、ミツエさんの所で時間を潰していたからなぁ…」

 

「く!」とスタンクは忌々しい顔をした次にネオとクリムに向いて

「レビューを書け」

と、紙を渡した。

 

 ネオは受け取り

「なんで、自分がやった事を書かないといけなんだ?」

 

 スタンクが

「それがここのルールだ!」

 

 まあ、一応…お金を出したのはスタンクなので、書く事にしたネオ。

 

 

 スタンク、人族

 ふざけんな! 何が女王様プレイだ! こんなプレイ編み出したヤツを見つけ次第、ぶっ殺したい。

 終始、縛られて吊されて、鞭で叩かれて、大事な息子を糸で縛り上げて、しごくだ!

 地獄も良い所だ!

 大事なあそこが千切れると思ったぞ!

 10点中2点

 

 ナルガミ、ラミア族

 いや、蛇の体だから、変な感じに縛られた。とにかく痛い。

 縛られた蜘蛛の糸も変に動くと余計に食い込んで痕が残る。痛い。

 そして、フィニッシュは蜘蛛の糸でしごかれるのよ。

 あんなに痛いフィニッシュは初めてだ。

 魚の養殖時に、オスの魚が無理矢理にアレを絞られるのってあんな感じかなぁ…って思った。

 10点中3点

 

 ネオ、マキナ族

 連れてきたヤツの手違いで、女王様プレイにされたが…途中で変えて貰った。

 女王様プレイは、店のサキュ嬢も、イメージから来る誤解で広まっているので困っているようだ。

 アラクネの基本プレイは、とにかく甘えさせてくれる。

 小さい子をいたわるように優しくしてくれる。

 まあ、180センチの自分の二倍以上の体格差なので…ほぼ、子供状態といっても過言では無い。

 とにかく、甘えさせてくれる母プレイに、怖いと聞くアラクネ族の印象とは違って、なかなかに癒やされた

 10点中7点

 

 クリムヴェール、天使

 どういう訳か女王様プレイにされて、泣きました。

 でも、変更してくれ、普通のプレイにして貰いました。

 大きい体との体格差で、本当に子供のようになった感じなので、優しく甘やかしてくれるのは、とても癒やされました。

 よくある激しい動きとかはありませんが。

 とにかく、大きな体で包んで愛おしんでくれるプレイに癒やしを感じ、アラクネの方に対する見方が変わりそうです。

 10点中8点

 

 そのレビューを見たスタンクが

「があああああ! そういう事があったのかよーーー」

 アラクネのイメージの通りに、女王様プレイしかないと思っていたのが運の尽きだ。

 隣でゼルはフンと鼻で笑った。

 

 離れたテーブルで、ネオがルディリと一緒に、この地域の様々なアイテム情報の情報紙を見ていると、メイドリーが来て

「あの…ごめんなさいね。あのバカにつき合わして」

 

 ネオが額を押さえて

「今後、これで終わりにして欲しいね」

 

 メイドリーも頷き

「私の方からも言っておく」

 

 

 

 そうして、ネオが、この国の情報紙に目を通して、技術関係との連携を探っていた。

 大魔導士デミアのいる国だ。

 求めている対属性防御の魔導具と似たような何かが無いか探っている日々。

 

 そんな時、とある冒険者が長期の冒険から帰って来た。

 鬼人の青年、オーガの男、ラミアの男の三人。

 その鬼人の青年が、少し咳き込む。

 

「大丈夫か?」

と、オーガの男が気遣う。

 

 鬼人の青年が

「ちょっとむせた程度さ」

 

 そう、この咳き込みが始まりだった。

 

 

 

 またしてもスタンクは、ネオを引き連れてサキュバス街へ行く。

 それにルディリもいる。

 スタンク、ゼル、ネオ、ルディリの四人は、サキュバス街のとある店に向かう。

 

 スタンクが

「今度こそ、お前の性根をたたき直してやる」

 

 ネオが

「大魔導士デミアが、どんな方法でもいいから、私からサンプルを採れるようにしろって依頼されているんだろう」

 

 それを聞いたスタンクは、ヒューと口笛を吹いて

「何のことだ?」

 

 ネオが

「お前達には見えないが、盗聴する装置を付けて置いてあった。そこから全部、聞いていたぞ」

 

 ゼルがヒヒ…と笑い

「スタンク、終わったなぁ」

 

 スタンクがチィと舌打ちして

「たっく。ああ! そうだよ! お前がやりたくてやりたくて仕方なくなるように、しろって頼まれたのさ」

 

 ネオが

「ネタがバレたんだ。帰らせて貰うぞ」

 

 ゼルが

「おや、でも良いのか? 今回、行く店は…本当に大魔導士デミアの関係だぜ」

 

 ネオが訝しい顔で

「本当だろうな…」

 

 ゼルが

「水槽のハーレムっていう店で、客の魂を水槽にいるエビやカタツムリに魚へ移させて楽しむ店なんだよ。そこにいる店主が、デミアの知り合いさね」

 

 ネオが訝しい顔をしていると、ルディリが

「何か、怪しいよ。止めようよ」

 

 ネオは「分かった」と告げて行く事にする。

 ちょっとでも繋がりは欲しい。

 

 ゼルが

「じゃあ、決まり…行くか!」

 

 四人は、魂を移して水槽の生物となって楽しむ店へ訪れる。

 

「ちぃーす」とスタンクが先頭を切る。

 

 入ったそこは、大量の水槽が並び、水槽で飼える水棲小型生物が飼育されていた。

 

 スタンクは水槽が並ぶ奥を見詰め

「あれ? 店主の魔女っ子は?」

 

 ゼルが

「奥じゃあねぇ?」

 

 ネオは嫌な感じがして、レーダー波を飛ばすと、店の奥、椅子が並んでる場所を探索して「ん!」と驚愕して「止まれ!」と呼びかける。

 

 スタンクとゼルが止まり、ルディリが

「どうしたの? ネオ…」

 

 ネオはレーダー波を連発する。

 そして、店の奥、客が座るであろう椅子達の前で倒れている店長の魔女のソールが、倒れて吐血しているのを確認した。

 そして、今度は、微細レーダー波に変えて調べる。

 

 店長の魔女ソールは、眼鏡を別に外して落とし、蹲って吐血、そして…体温異常と生体異常を確認。

 この症状に該当するのは、ウィルス疾患だった。

 

 ネオは、ナノマシン端子から、殺ウィルス電磁波を放つガスマスクを装着、それをルディリやスタンクにゼルに渡して

「早く装着しろ!」

 

 鬼気迫る言い方に、ルディリは直ぐにそれを装着、スタンクが

「なんでだよ」

 

「いいから! 被れ!」とネオの荒い口調に渋々、殺ウィルス電磁波ガスマスクを装着する。

 

 ネオを先頭に、店の奥へ行くと、吐血して倒れている店長の魔女ソールを発見して

「おい! 大丈夫か!」

と、告げたスタンクより早く、ネオが苦しむ魔女ソールに駆け寄る。

 

 ネオが様々なレーダー波を照射して魔女ソールを調べる。

 魔女ソールの顔には、青いアザが幾つも浮かんでいる。

 

 ゼルも近づき

「なんだこれ? まさか…病気か?」

 

 ネオの探査レーダー波が詳細な魔女ソールの現状を知らせる。

 熱は39℃まで上がり、気管支と肺にウィルス疾患、さらに全身にも炎症疾患が確認される。

 

 スタンクが

「お、おい…どういう…」

 

「動くな!」とネオは怒声を張り動かないようにする。

 

 ゼルが

「そんなバカな…サキュバス街には性病や妊娠を防ぐ…は、これは…性病じゃあ無いのか…」

 

 ルディリが冷静に

「ネオ…現状は…どうなっているの?」

 

 ネオは立ち上がり、何度も周囲をレーダー波で探索して

「現状を説明する。ウィルス疾患だ」

 

「な…」とスタンクが絶句していると、ゼルが

「何の病気か…分かるか?」

 

 ネオは、右腕から医療検査用のナノマシンのハンドを伸ばして、吐血した血を調べると

「これは、この世界で…確認されているエルデトウィルスの変異だ」

 

 ゼルが

「は、青いアザ、吐血…そうか…」

 

 ルディリが

「エルデト病? それって確か…なった人に触れない限り…」

 

 ネオが

「ガスマスクを外すなよ。検査した結果、空気感染を始めている」

と、告げた後に背中のナノマシン端子から、医療用ポッドを取り出し、魔女ソールを抱える。

 スタンクが

「おい、アンタ!」

 

 ネオが、ソールを医療用ポッドに入れながら

「私の体にはナノマシンがある。それが、この病原菌を理解して排除するから問題ないが…」

 

 ルディリが

「ネオじゃあない、ぼく達は…」

 

 ソールが無事に医療用ポッドのカプセルに入ると、治療用ナノマシンが満たしてソールの治療を始める。

 

 ネオが

「みんな用のターゲット学習用免疫ワクチンを作らなければ…マズい事になる」

 

 スタンクが

「はやく、ここをみんなに知らせて隔離しようぜ!」

 

 ネオが

「この病気は、マズい事に潜伏期間中でも、病原である自身をばらまく性質がある」

 

 ゼルが青ざめ

「まさか、ここの店主は…その自覚なく、ばらまいているヤツに…」

 

 ネオが頷き

「そうだ。感染が始まっているぞ」

 

 スタンクが驚愕して

「ウソだろう…」

 

 ネオは直ぐに、海上都市エンテイスの管理をしているDIメイドランに連絡を入れる。

 

「マスター、どうしました?」

 

「今、とあるウィルスのデータを送信している」

 

「ええ…はい。受け取りました。この世界の病原体のウィルスですね。ああ…変異している。これは…」

 

「メイドラン。シュミレーションしてくれ…。これがパンデミックした場合…」

 

「今、演算を…この世界の社会構造では…1918年のスペイン風邪のような事態になるかと…」

 

「億人が死ぬんだな…」

 

「このタイプのウィルスは、限定された接触感染から、空気感染タイプ、インフルエンザウィルスのような急速に広がる性質を、何らかの方法で獲得しています。下手をしたら…国が滅ぶレベルに…」

 

「メイドラン、エンテイスの持っている生産能力で、このウィルスのターゲット学習用免疫ワクチンは、どのくらい製造できる?」

 

「一時間もあれば、一万人分は…ですが、それをやれば…この世界にいらぬ干渉を…」

 

「メイドラン、人命は…何よりも尊いモノじゃあないのか?」

 

「後で、本国から…」

 

「本国からの罰則だけで、この世界の人々が億人も救われるなら安い」

 

「マスター 分かりました。10隻の輸送艦を向かわせます」

 

「追加で、医療用ポッドも大量に必要になるぞ」

 

「了解です。本国の方にも協力を要請します」

 

 通信を終えたネオが、外に出る。

 そこへスタンクが

「どうするんだよ!」

 

 叫んだ後、となりにサキュバス店、水棲族の娘のお店でダゴンのサキュ嬢が

「誰かーーーー 店の子が、店の子がーーーー」

と、悲鳴を上げて飛び出した。

 

 直ぐにそこへネオが駆けつける。

 入口には水棲族のダゴンの女の子が、痙攣して吐血に青あざを顔に出して倒れている。

 

 ネオは、感染したダゴンのサキュ嬢に近づきレーダー波で調べ

「感染している」

 

 ついて来たルディリが

「ネオ!」

 

 ネオが

「心配するな」

と、告げた次に、サキュバス街の上に、ネオが手配した海上都市エンテイス、いや、大型システム島アルヴァス型時空戦艦の援軍が到着した。

 

 ネオが殺気立つ視線で

「さあ、この一週間が勝負だ!」

 

 ここでもネオが、ネオデウス1982号305番であった時のように、伝説を作る事になった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次で一区切りになります。


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ここでもレジェンド

ネオはエルデト病を防ぐ為に…
ちょっとシリアスになってます。


 それは怒濤だった。

 医療用ナノマシンポッドの中で、感染者であるソールが目を覚ます。

 治療から二時間後だ。

 その間、本当に嵐だった。

 サキュバス街で、次々と感染したサキュ嬢達が出て、ネオが派遣した輸送艦から大量の医療ポッドを運び出して、発病したサキュ嬢達を収容して治療する。

 

 そして、製造した免疫学習用のワクチンを、一斉にこの街にばらまいた。

 注射ではないパッチ式のシール・ワクチンをとにかく、街の人達に処置した。

 

 ソールがポッドの中で目を覚まし、ネオがナノマシン治療液に浮かぶソールに呼びかける。

「大丈夫か?」

 

 浮かんでいるソールは頷くと

「ここは?」

 

 ネオが

「君は、エルデト病の変異種に感染したが、今は…大丈夫だ」

 

 ソールが目を閉じて安堵しているとネオが

「教えて欲しい。君は、どこで…その病気に感染した? 何か、思い当たる事は…」

 

 ソールが思い返して

「二日前…咳をしている鬼人族の男性が…」

 

 ソールの中に入っているナノマシンが、ソールの脳内電気信号を受信して、思い返した人物の正確な顔写真を出す。

 

 ネオはそれを取り

「ありがとう」

 

 

 感染発症から、1日目。

サキュバス街は、大混乱だった。

 簡単なパッチ式シールワクチンを受ける各種族のサキュ嬢達、そして、そのエルデト病のウィルス専門に作った抗ウィルス薬を、サキュ嬢達に配った。

 症状が無くても、一週間ほど飲んで貰う。

 感染を防ぐ為に。

 

 ネオは走った。

 スタンク達の持っている冒険者の伝手を使い、その運んできた鬼人が住んでいる宿屋へ来た。

 そして、その鬼人がいるであろう部屋の前に来て、スタンクが

「おい!」

と、ドアをノックしたが返事が無い。

 

 ネオと共にスタンク、ゼル、ルディルも来ている。

 スタンクとゼル、ルディルは、学習型免疫ワクチンを接種済みだ。

 

 ネオは、鬼のような形相をして、ドアを蹴破った。

 そこに、重症化している鬼人の彼が倒れていた。

「早く、医療ポッドを持ってこい!」

 ネオの怒声と共に、共に隣に浮かんでいたドローンが、早速、街の上に浮かぶ輸送艦から医療ポッドを持って来た。

 

 そして、共にいた仲間を探し出すと、全員が感染して発病していた。

 

 ここに来て、感染して発病した数は、100人を超えていた。

 

 ネオは、走る。

 この街もそうだが、周辺の村落にも、学習型免疫ワクチンと、一週間服用の抗ウィルス薬を配りまくった。

 

 大型システム島アルヴィス級時空戦艦を管理するDIのメイドランが事情を本国の最高議長DIに連絡した。

 

 ネオに通信を繋げた最高議長DIのネシェルが

「ネオ、これは」

 

「うるさい! 後でどうにでも罰は受ける! 聞いてくれネシェル…。発病者が100人を超えた。完全にアウトブレイクだ!」

 

 最高議長DIのネシェルは

「ネオ、いや…ネオデウス1982号305番。君の判断は何時も正しい。よって、本国から生産プラントを派遣する」

 

 ネオがいる街の海上の遙か上空に巨大な時空ゲートが出現、全長が50キロ級の移動式巨大生産プラント宇宙戦艦が出現した。

 

 最高議長DIのネシェルが

「この生産プラント戦艦メタトロンは、君の指揮下に入った」

 

 ネオが

「治療薬と学習用免疫ワクチンの特許解禁を要請する」

 

 最高議長DIのネシェルが

「はぁ…全く、君は人工知性体より高速に演算する。良いだろう、解禁を許可する。ただし…この特許を」

 

 ネオが

「人を救うためにしか使えないようにする」

 

 最高議長DIのネシェルが

「パーフェクト・アンサーだ」

 

 

 ネオは、直ぐにオークで現国王ドン・テーキ達と、技術を持っている悪魔族のデスアビスが集まっている場所に来た。

 直ぐさま、ネオがやっている事が国のトップに伝わったのだ。

 

 ドン・テーキが

「君のやっている事は、越権だぞ」

と、告げた瞬間、ネオがその襟首を片手で掴み上げ

「ああああ! もう、パンデミックになってんだよ! 今、ここで何とかしないと! 億人が死ぬぞ!」

 

「あがあああがががあ」

と、ドン・テーキの100キロ以上あるオークの体が軽々と持ち上げられて襟が締まって窒息しそうになる。

 

 それを八メートル越えの巨体悪魔少女で、現世界の魔王デスアビスが下ろさせ

「落ち着け、冷静に考えろ。本当にそれ程に広まっているのか?」

 

 ネオの殺気が籠もった視線がデスアビスに向けられると、ネオより遙かに大きいデスアビスが恐怖で下がる。

 

 ネオは

「いいか、最初の発症者である人物から話を聞いた。遠方の冒険をして帰って来たそうだ。つまりだ。その間にも感染者がいる。この国以外にも広がっているのは、間違いない」

 

 デスアビスが腕を組み

「だが、治療薬と、そのワクチンに製造には…」

 

 ネオがデスアビスを見上げ

「自分達が持っている免疫学習型ワクチンと抗ウィルス薬製造の特許を開放する」

 

 デスアビスが驚きを向ける。

「お前、正気か!」

 そう、今までに聞いた事もない、免疫に学習させるワクチンなんて特許、バカでも考えれば分かる程の、莫大な資産をもたらす技術だ。

 そして、今回の病気用の抗ウィルス薬だってそうだ。

 本気で資産運用すれば、国家財政がまかなえる程のお金が舞い込む。

 それをこの男、ネオは無料にすると言っているのだ。

 

 デスアビスは究極のバカだと思った。

 

 ネオが

「お前等にとって、人命は軽いだろうが。私にとっては、人命は何よりも重いんだよ!」

 

 魔王であり悪魔族のデスアビスが疑うも、悪魔としての契約を重んじる性質で

「分かった。その学習用免疫ワクチンと抗ウィルス薬の特許を無料として、そちらが望むモノは?」

 契約を持ち出した。

 

 ネオは

「私がもたらした技術、特許で、人を救い続ける事。それだけだ」

 

 魔王デスアビスは、ふぃ…と溜息を漏らす。

 人族の中には、こういうバカ正直すぎるヤツが出てくる。

 そういうヤツに限って世界を救ってしまう。

 良い方向に世界を変える。

 悪魔族にはない、鮮烈で強い輝きだ。

 

 魔王デスアビスが

「我が名、魔王デスアビスの名に置いて契約する。そなたがもたらしてくれた治療の技術は絶対に人命を救う以外に使用しないと」

と、こうして契約が成された。

 

 ネオが微笑み

「この事態が収束した後、その応用技術で、そっちがちょっとは儲けても文句は言わんさ」

 

 デスアビスが微笑む。

 どうやら、究極の大馬鹿だが、賢者のように鋭いようだ。

 

 こうして、この国の政治を担っているオーク党を無視して、一斉にエルデト病の予防包囲網が始まった。

 

 感染発症から二日目である。

 

 

 

 ある村では、多くの人達が苦しんでいた。

 空気感染を始めたエルデト病に犯されて、村人が全滅しそうになっていた。

 

 その鬼人族の村で、同じく感染して苦しむ青年が、苦しむ姉を抱えて

「誰か…助けて…」

 

 そこはネオが滞在するスタンク達の国から遠くである。

 

 青年は死ぬんだ…と思ったが、空に艦隊が通り掛かる。

 そこからネオやルディリが降り立ち

「行くぞーーーー」

 

 そこからあっという間だった。

 村落全員が、医療用ポッドに入れられ治療が行われる。

 

 ネオは、最初の感染者であろう鬼人の青年から帰ってきたルートを聞き出し、その通ったルートにあった村や町に、感染封じ込めを開始した。

 

 三日目にして感染発病者4000人、感染して症状が出た者達20000人。

 パンデミックだった。

 

 ネオが開示した免疫学習型ワクチンと抗ウィルス薬の特許は、悪魔族…デスアビス達の手腕で量産化、さらに他国にまであっという間に広がった。

 

 ネオは、初期感染者の経路を遡り、発病者が出ている街や村に訪れ治療と感染防止を行う。

 

 本国が送ってくれた巨大生産プラント戦艦のお陰で、膨大な治療と感染予防の資材を生産させ投入する。

 

 四日目、感染発病者が4210人で止まった。

 だが、軽微ではあるが…症状が出た者は増え続け80000人を突破した。

 

 その範囲、ネオ達が最初に対処した国の周囲に広がっている。

 

 その間、ドラグ・アース帝国にもネオのやっている事が伝わり、ネオが即座に同じようにドラグ・アース帝国にも同じく免疫学習型ワクチンと抗ウィルス薬をばらまく。

 そのお陰なのか…ドラグ・アース帝国では、発病者が出ていない。

 皇帝ロンバルディアは、ネオの手腕に脱帽するしかなかった。

 

「全く、レジェンドとは…言ったモノよ」

と、皇帝ロンバルディアはネオが、ネオの故郷、本国でレジェンドと言われている由縁を理解した。

 

 

 エルデト病がパンデミックして五日目。

 感染して発病した者達が回復して通常の暮らしに戻る。

 そして、軽微ではあるが症状が出た者達が87654人で止まった。

 

 この間も、ネオは手を緩めない。

 免疫学習型ワクチンと抗ウィルス薬を他国や、遠方までばらまき、感染予防を徹底する。

 

 症状が出た者達が回復、感染者が墜落するように消えて行く六日目が来た。

 

 七日目、世界的なパンデミックを起こす程の病気だったエルデト病の流行が止まった。

 

 ネオは、その日、食酒亭で、落ち着いて食事が取れた。

 そう、エルデト病の世界的流行を防いだ。

 だが、免疫学習型ワクチンと抗ウィルス薬を広めるのを止めてはいない。

 あと、一週間程度、過剰供給にさせて、完全に止めるのだ。

 

 ネオが落ち着いて食事をしていると、ルディリが来て

「お疲れ様、ネオ」

 

「ああ…何とかなったよ」

と、ネオは微笑む。

 

今回のエルデト病による死者はゼロ。

 感染者、発病者はいたものの、その全員が回復。

 もし、ここにネオがいなかったら…確実に、パンデミックして国が一つ消えていた事だろう。

 ネオは、この異世界でも伝説を成し遂げた。

 凶悪で大感染する病気を防いだレジェンドとして…。

 

 

 その頃、ドラグ・アース帝国では、皇帝ロンバルディアが多くの諸外国の来訪者の対応をしていた。

 急遽、来たのは…今回のエルデト病が流行った国々の国家元首達だ。

 

 今回の大流行を防いでくれた事への感謝を告げる国家元首達。

 それを皇帝ロンバルディアは頷いて聞いて、外交的な建前の、今後とも…協力を取っていこう…で締めた。

 

 挨拶と返礼を終えた皇帝ロンバルディアの隣には大魔導士戦士ディオがいて

「ネオはやってくれましたな」

 

 皇帝ロンバルディアは楽しげな笑みで

「ああ…ここでも伝説を作った。全く…」

 

 そこへ「おう!」と魔王デスアビスが来る。

 八メートルの巨体を前に皇帝ロンバルディアは

「久しいの…お主がここへ来るのは、200年ぶりか?」

 

 魔王デスアビスが膝を崩して座り

「今回は戦争ではない。このエルデト病の流行でネオというお前の懐刀に世話になった」

 

 皇帝ロンバルディアが

「ほう…で、どのような?」

 

 魔王デスアビスは

「お前達が、対属性魔導具の技術が欲しいのは知っている。技術提携を結びに来た」

 

 皇帝ロンバルディアが

「資金も欲しいのだろう」

 

 魔王デスアビスは守銭奴な顔をして

「まあなぁ…で?」

 

 皇帝ロンバルディアが

「良かろう。契約を詰めよう」

 

 魔王デスアビスが巨大な手を伸ばし

「では、よろしく」

と、皇帝ロンバルディアと握手した次に

「しかし、まあ…お前の人材欲にはホトホト、驚かされる。あんなバケモノを飼うとは…」

 

 皇帝ロンバルディアが

「して、ネオは…どのように見えた?」

 

 魔王デスアビスがニヤリと笑み

「アレは…とんでもないバケモノを内包しているぞ。して…もし子を成した場合は…」

 

 皇帝ロンバルディアが

「おう、その力が受け継がれるそうだ」

 

 魔王デスアビスが、親指と人差し指をこすり合わせて怪しい笑みで

「じゃあ、少しだけ子種を貰っても…」

 

 皇帝ロンバルディアが

「それは、ダメだなぁ…」

 

 魔王デスアビスが

「ケチ! ちょっとくらい、良いだろう!」

 

「はははははは」と皇帝ロンバルディアは笑った。

 

 

 

 食酒亭のベッドにネオは飛び込む。

 本当に疲れた。

 本国から送ってくれた大型生産プラント戦艦は、その役目を終えて撤収、残っている医療用ポッドは、全員の治療を終えて回収された。

 後は、現地での治療で十分だ。

 本当にこの一週間が勝負だった。

 これを超えれば、確実にもっと広がり、最悪な事になっていたかもしれない。

 

 その安堵でネオは眠りについた。

 

 

 その頃、ルディリは食酒亭の食堂で、大勢に囲まれてネオに関して質問を受けていた。

「アイツは何者なんだ?」

 

 ルディリが

「いや、そのネオは…ねぇ」

と、濁していると、集まった大勢の一人が

「メイドリーさん、エールと店でのおすすめを!」

と、ルディリの前に注文した。

 

 ルディリがもったいぶるように

「聞きたい?」

 

 集まっている大勢が頷く。

 

 ルディリは、エールを飲みながら

「ネオは、そう、伝説なんだよ」

 

 ネオの話をした。

 ネオは、ドラグ・アース帝国の生まれではなく、遠方の遙か遠くの国で生まれ、そこで最強の戦士として戦ったと…。

 ネオの本国は、戦争していた周辺国との和解を成したが。

 その和解条件として、最強の戦士であったネオを放逐する事を望んだ。

 そう、ネオは国さえも恐れる最強、伝説…レジェンドであると…。

 そして、流れ来たドラグ・アース帝国でも、冒険者の中の冒険者、探求者としての称号を持って、皇帝ロンバルディアにも顔が利き、これまでに様々な新素材を発見していると…。

 

 その言葉に周囲は驚きの声を上げた。

 

 それを遠くで聞くスタンクが

「伝説ねぇ…」

 

 メイドリーが来て

「アンタもネオさんを見習ったら」

 

 スタンクが股間を指差して

「この伝説なら沢山あるんだけどなぁ」

 

「バカ!」とメイドリーの折檻が入った。

 

 ゼルは

「伝説? バケモノの間違いじゃあないかねぇ…」

と、呟いた。

 そう、マナを敏感に感じられるゼルにとって、ネオの内在する存在がとんでもないモノであると…察知していた。

 

 そして、スタンクがゼルと共に、サキュバス街に行く。

 あの大流行の時に大騒ぎだった、サキュバス街は、何時ものように桃色な感じだ。

 

 スタンクが

「あんな事があったのがウソみたいだぜ」

 サキュ嬢達が次々と病気に倒れていた状況が目に浮かぶも、それが無かったかのようにいつも通りだ。

 そう感じ入っているとスタンクの背をつつく獣人のサキュ嬢達

「ねぇ…スタンク」

 

 スタンクが鼻の下を伸ばし

「お、お誘いかい?」

 

 獣人のサキュ嬢達が

「スタンク達は、ネオって人と知り合いだよね…」

 

 スタンクとゼルが見合わせ、スタンクが

「そうだが…何だ?」

 

「じゃあ、さあ」とサキュ嬢達がスタンクにある事を耳打ちする。

 

 

 

 ネオが目を覚ますと夕暮れだった。

 昼過ぎから少しのつもりが、かなりの時間を寝ていたようだ。

「まあ、いいや…夕食を取って、ゆっくりとするか」

と、下の食堂へ行こうとするが、ベッドのそばに置いた魔法の通信球から連絡が入る。

 出たのは、皇帝ロンバルディアだ。

「陛下…」

 

 皇帝ロンバルディアが頷き

「元気か?」

 

 ネオは頷き

「はい。何とか…病気の流行は止めました。安堵しています」

 

 皇帝ロンバルディアが

「そのお礼として各地から使者…いや、元首達が来た」

 

 ネオは微笑み

「それは豪勢な…」

 

 皇帝ロンバルディアが

「そちらの国にいる魔王デスアビスから、対属性魔導具に関しての技術提携を結んだ。汝のお陰だ」

 

 ネオは首を横にふり

「大した事はしてませんよ。人命を重んじた。それだけです」

 

 皇帝ロンバルディアが

「お前が帰還した後に…今後の嘆きの壁の向こうに関しての話し合いをじっくりとしようぞ」

 

 ネオが微笑み

「当分の間、帝都にいて、妻達のそばにいたいです」

 

 皇帝ロンバルディアが頷き

「気が済むまでいれば良い。お前の妻達も喜ぶだろう。それと…だ」

 

 ネオが訝しい顔で

「何か問題でも」

 ここ一ヶ月くらい帝国から離れているのだ。何か起こっても不思議ではない。

 

 皇帝ロンバルディアが神妙な顔で

「もし、お前が帝国外で子供を作ってしまった場合は、その娘とお前の子を帝国へ連れて来る事。良いな」

 

 ネオの顔が妙な動きをして

「え? いや…まあ、え? そんな事は…絶対にしないと…」

 

 皇帝ロンバルディアが

「つき合いで、そういう遊びをするのは理解している。性病や妊娠を防ぐ魔法が働いているリリスガール街で、してしまうのは、お前のつき合い上、仕方ない。

 まあ、子供については、そういう色町ではないと分かっている。

 だが、それ以外で…まあ、致してしまって妊娠させた場合は、その女を我が帝国につれて来るのが絶対の条件だ。

 それが出来ないならお前を帝国の外へ派遣はさせない」

 

 ネオが額を抱え訝しい顔で

「その心配は…無用なのでは? それに私には」

と、ネオが服をめくってお腹を見せると、とある魔方陣が刻まれた入れ墨がある。

「これによって、妻達以外は、妊娠させないように力が働いていますから…」

 

 皇帝ロンバルディアが

「だが…その限定不妊の魔方陣のスイッチを切ったりするのはお前やお前の妻達に任されている。お前が…もし、気持ちが動いてしまって、スイッチを切って妊娠させてしまった場合の事を想定している」

 

 ネオは少し不機嫌な顔で

「そんなに自分は、不貞な男ではありませんよ。でも、まあ…つき合いで…そういう事をしてしまうのは、ありますが…。それでも妻達には申し訳ないと…」

 

 皇帝ロンバルディアが

「ネオ、お前がやった事は、お前が思っている以上に世の中に影響を与えた。それだけは自覚して欲しい」

 

 ネオは渋い顔で頷き

「ご忠告、ありがとうございます。重く受け止めます」

 

 皇帝ロンバルディアが

「うむ。で、帰還は何時になる?」

 

 ネオが

「二日後の予定です。もう少し、この辺にある帝都にないアイテムや魔導具を購入してから」

 

 皇帝ロンバルディアは頷き

「分かった。帰還を待っているぞ」

 

 ネオは明るく「はい」と返事をして通信を終えた。

 

 そして、食堂に下りてルディリを探す。

 帰還に関しての話し合いをする為だ。

 ルディリがいない。

「何処かへ出かけたのか?」

 

 そう思っていると、スタンクが

「よう、ネオっち」

 

 ネオが呼びかけられた後ろを、スタンクを見て

「なんだ?」

 

 スタンクが近づき

「いや…ちょっと顔貸してくれねぇ?」

 

 ネオが首を傾げ

「どうしてだ?」

 

 スタンクが

「お前に助けて貰ったお礼をしたって連中がいてさぁ…連れてくるように頼まれたのよ。ルディリのヤツもそこへ先に行っているのよ」

 

 ネオは呆れ顔で

「別に良いのに…」

 

 スタンクがネオの肩を抱えて

「なぁ…来てくれよ。アンタを連れてこないと、オレが叱られる」

 

 ネオは呆れつつ「分かったよ」とスタンクに連れられる。

 来たのがサキュバス街だった。

 

「え?」とネオは固まる。

 その隙にサキュバス街のサキュ嬢達がネオを囲み

「いらっしゃいませーーー」

「本当に助けていただき、ありがとうございましたーー」

「是非とも、わたし達にお礼をさせてください」

 

 各種族のこのサキュバス街のサキュ嬢達に囲まれて、ネオは引っ張られる。

「おい! どういう事だ!」

と、ネオはスタンクを見る。

 

 スタンクはニヤリ顔で

「どういう事だって、こういう事だよ」

 

「ええ!」とネオが驚いている間に、お店に引っ張られていった。

 

 これからネオへのお礼を兼ねたサキュ嬢店巡りが始まる。

 そして、引っ張られるネオの前に

「もう…ムリ…」

と、道ばたに倒れたルディリがいた。

 

 ネオと共に病気流行阻止に働いたルディリがサキュ嬢店巡りをして、精根尽き果てる様が…。

 

 ネオを引っ張る各種族のサキュ嬢達が『さあ、いってらっしゃいませーーー』と最初の一件目へネオを入れるのであった。

 

 ネオはとことん、サキュバス街を堪能させられ、帰って来れたのは次の日の昼後だった。

 

 致しまくってネオとルディリは、股間が痛かった。

 

 結局、この地方での珍しいアイテムとか魔導具なんて買える体力もなく、回復した時には帰還する日だった。

 

 ネオとルディリが乗船する帝国の大型船の見送りに、スタンクとゼルにクリム、ナルガミが来てくれた。

 

 スタンクが

「じゃあ、なあ」

 

 ゼルが

「色々とあったけど、またな」

 

 クリムが

「ネオさん、ルディリさん。また…お目にかかりましょう」

 

 ナルガミが

「今度、帝国に行ったらドラゴンを見せてくれよ」

 

 ネオが

「帝国に来たら、歓迎するよ。エッチなお店ではない所でな」

 

 ルディリが

「また来た時は、よろしくね」

 

 ネオとルディリが乗船しようとした時、上空から高速で動く箒に乗った魔女が下りる。

 それは、大魔導士デミアのデコイではない。

 色んな視覚の目を備えた魔導服を纏う本体のデミアだった。

「ちょっと待ちなさいよ」

と、ネオを止めて、とある包みを渡す。

「今回のソールちゃんの事、助かったわ。そのお礼…」

と、ウィンクする。

 

 ネオは両手で握れる程の大きな包みの中身を見ると、多種多様な魔導具が入っていた。

 微笑んだネオが

「すまんな。ありがとう」

 

 デミアが怪しげな笑みで

「アンタのサンプルをくれれば、もっとあげるわよ」

と、右手の握りを上下させる運動をする。

 

 ネオが顔を引き攣らせて

「却下だ」

 

 

 こうして、ネオとルディリのこちらでの冒険は終わった。

 ネオは離れて行く港を見詰めて

「色々とあったが…楽しかったなぁ…」

 

 隣にいるルディリが頷き

「うん。良い冒険だった」

 

 そして、二人は思い返したが…冒険…まあ、冒険もあったが…あのスタンク達のサキュ嬢巡りが印象深かった。

 

 ネオが

「やっぱり、良い冒険って取り消していいか?」

 

 ルディルが

「そうだね…」

 

 微妙な空気に包まれる二人だった。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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空からのお客

ネオは何時ものように探索を終えて、帝都で妻達と過ごして、若い竜族のラダントのつき合いに出かけると…


 ネオは帝都にいた。

 帝国の北部にある特殊な薬草の花を採取、そこまでのルートと様々なサンプルを持ち帰って、依頼者に渡す。

 

「ありがとうございます」

と、感謝するのはサキュバス種族の女性だ。

 

 ネオは

「これで、目的の新たな新薬が出来そうかい?」

 

 サキュバスの女性は頷き

「はい。新しい回復薬が出来るかもしれません。出来たら、お渡ししますね」

 

 ネオは

「いいよ。正規なルートで買うから。それにこっちは正式な依頼で採取したんだ。気にしないでくれ」

 

 帝国のサキュバス達は、無論、アッチのお店でリリスガールもしている子達もいるが、大半は、そのサキュバスが持っている特別なマナ、魔力を使って様々な薬を作っている。

サキュバスが持つマナは、様々なモノを活性化したり、融和性を高めたりする。

 まあ、要するにサキュバスが、男性から精力的なエネルギーを得る為に特化したマナ、魔力が、様々な薬品を生成する際に使えるので、帝国の製薬はサキュバス達によって賄われている。

 

 この世界の色んな種族には、その種族なりの特徴を生かして、様々な職業があるのだ。

 

 そんな様々な多様性が身近なこの世界に、ネオの好奇心は尽きなかった。

 

 仕事を終えてネオは皇帝城の奥にある、皇太子城へ向かう。

 そこにネオの妻達が暮らしている。

 そう、ネオの奥方は皇帝ロンバルディアの弟、第二皇子の娘だ。

 つまり…皇帝の家族、皇族な訳で……まあ、細かい事は気にしない。

 海上都市島エンテイスでもどう?ってネオは、薦めたが、この皇太子城で良いというので…そうなった。

 入門口から入り、妻達ティアマ、レティマ、マティアの三人が出迎えてくれた。

 三人のお腹は大きくなりハッキリと妊娠しているのが分かる。

 妊娠期間は人間より少し長い11ヶ月。

 竜の形態で生むと子竜として出てくるが、竜から人への変化は、五歳になるまで、母親が管理できる。

 人で産むと人の赤子と同じだが…少し成長しているらしい。

 なので、設備的な事を考えて人型で産む事が多いらしい。

 因みに、赤ちゃんが五歳になるまで、母親の竜は突発的に人から竜に戻る事は無い。

 これも不思議だが、子育ての為に、そうなっているのなら…合理的だ。

 ネオは暫し、竜の祖先って人間だった事があるのかなぁ…と過ぎる。

 

 まあ、そんな事がありつつも、自分の子を宿している妻達との一時を楽しむ。

 大半は、自分が何処へ行ったとかの話で、後、妻達の事を聞いて、色々と他愛もない話をする。

 

 そして、妻達と会話してフッと思うのが前の妻だった女との生活で、任務が多くなった時は、このように、いや…あまり、その元妻だった女とお喋りをした事がなかったような気がした。

 何時も、元妻の女からの言葉を聞いて頷いたり、不安だったのを落ち着けようしたり、そんな感じで、自分の事をあまり話さなかった。

 そう思うと、前の元妻だった女とは、やはり…相性が良くなかったかもしれない。

 そうだな、別の男の元に行くのは当然か…。

 なんて、思った。

 

 他愛も無い会話が続くネオ達家族、そんな夜、お誘いがあった。

 ラダントだ。

 ラダントは、竜族の中でも若い方…三百歳だ。

 三百歳で若いんだから、竜族の寿命は押して計るべしだ。

 無論、ネオも若い部類になるので、ラダントは若い竜族の者同士の交流として、ネオを帝都の街へ引っ張って行った。

 

 ネオは、妻達を見ると、妻達はネオの背を押して行かせる。

 これも必要な交流だとして…。

 ネオの妻達としては、ネオは自分達が妊娠した事で、ベッタリなのだ。

 竜族の感覚としては、一ヶ月が一週間なので、ネオの人間としての感覚では、そうでもないのだが…。

 ネオは色んな意味で、帝国に尽くす人物だ。

 前に別の国で、新型の病原菌を抑えた功績もあって、他国達の興味の的になっている。

 だから、帝国の人達に関わって欲しいというのが妻達の考えなのだ。

 ネオにとって帝国が安住地になって欲しいのだ。

 

 そんな気持ちをネオは察しているが、やっぱり…と思いつつラダントが引っ張って行く。

 

 ラダントも自分より若い竜族が近くにいて嬉しいのかもしれない。

 

 

 ネオはラダント共に帝都の散策をしていると…。

「おう」と懐かしい声がネオの後ろでした。

 ネオはフッと笑み

「もう、来たのか?」

 

 ネオが振り向いたそこには、五人の者達がいた。

 にやりと笑うスタンクと、その隣にゼル、そしてカンチャルにブルーズと、天使のクリムが浮いていた。

 

 ラダントは、天使のクリムを見て

「ああ…どうも…」

と、軽く会釈する。

 帝都の性転換のお店であっているのを憶えている。

 まあ、大して外見が変わらなかったからだ。

 

 そして、ゼルとラダントが見合った次に

「おまえ…」

と、ラダントが少し訝しい顔になる。

 

 ネオはその反応に

「知り合いか?」

 

 ラダントが微妙な顔で

「まあ…二百年ほど前に…ね」

と、告げつつゼルが隣にするスタンクを見て

「って事は…その人族の男…」

 

 ゼルがニヤニヤと笑みながら

「ああ…そうさ。コイツから…六代くらい前のヤツがそうなのさ」

 

 ラダントが忌々しい顔をして

「なるほど、お前と並ぶと思い出す」

 

 スタンクがゼルと横見して

「おい、何があったんだ?」

 

 ゼルが飄々と

「ちょっとな。二百年前くらいに、ドラグ・アース帝国と小競り合いがあってさ」

 

 スタンクが渋い顔をして

「嫌な予感がするから、聞かない事にする」

 

 ヒヒ…とゼルは楽しげに笑う。

 

 カンチャルがネオの前に来て

「こんにちは、アンタがマキナ族っていう武器とか色んなと融合している…」

 

 ネオが頷き

「ああ…そうだ。よろしく」

 

 カンチャルが手を差し出し、ネオが握手して、カンチャルが

「持っている装備を見られる?」

 

 ネオは右腕を捲ってナノマシン端末から何本かの銃身を伸ばす。

 それにカンチャルが触れて真剣な顔をしている。

 ネオもカンチャルと同じハーフリングのルディリがいるが、ハーフリングはかなり技術的な事に好奇心を持っているらしく、ルディリもネオの装備を見たり触ったりする事が多い。

 なので、ルディリが一番、装備を貸した場合に憶えがいい。

 

 カンチャルがネオから出ている銃身を触りつつ

「凄い、こんな技術あるんだ? どうやって作ったの?」

 

 ネオが微妙な顔で

「その教えられないんだ…」

 原子サイズの加工を可能とするナノマシン加工機をおいそれと渡す訳にはいかない。

 

 クリムが来て

「カンチャルさん。あんまり、馴れ馴れしいと…」

 

 カンチャルが

「じゃあ、体でも関係があるクリムなら問題ないの?」

 

 クリムが真っ赤になり

「カンチャルさーーーーん」

 

 ブルーズも来て

「アンタが、あのエルデト病を防いだ英雄か…」

 

 ネオが微妙な顔をして

「はぁ、英雄? 何? どういう事だ?」

 

 ブルータルが犬型獣人の巨体を前に出して

「アンタは、全財産をはたいて、病気の蔓延を防いだ英雄って事になっているぜ」

 

 ネオは………の次に「はぁ…」と呆れのような言葉を吐いた。

 いや、病気が蔓延したら、こっちだって困るし…何か、話が大きくなっているぞ?

 ネオは面倒な事になっている嫌な予感を感じる。

 そして、次の予感が

「お前達…どうしてここに…帝国に来たんだ?」

 

 スタンクとゼルが、親指を立てて

「もちろん、帝都のエッチなお店を回る為さ!」

と答えるスタンク

 

「違いますよ」とクリムが入り「ネオさんに会いたい人がいるから、その人達の護衛と、ネオさんを呼ぶ手引きをしてくれって依頼されたでしょう!」

 

 ゼルが面倒くさそうな顔で

「どうせ、顔を合わせたって、意味ないじゃん」

 

 クリムが

「ゼルさん! なんで、そんな事を言うんですか?」

 

 ゼルが怪しげな笑みで

「だって、絶対にこの帝国の皇帝は…コイツみたいな人材を手放す筈ないもん」

と、ネオを指差す。

 

 ネオはフッと笑み

「確かに、ロンバルディア皇帝陛下はそうだな…」

 

 スタンクが

「どうせ、護衛と呼び出し次いでの使いっ走りにしたフラスパ教の連中は、自分達の権威を高める為に出汁として引き抜きに来た程度なんだから…」

 

「権威を高める為の出汁とは、心外だな」

と、全体から離れた場所から声が放たれる。

 そこにはケンタウロス族の男が立っている。

 

 スタンク達は、苦い顔をする。

 それから、ネオは察して

「ああ…もしかして…」

 

 ケンタウロス族の男が近づき

「初めまして、フラスパ教会、教会軍陸軍のスレイプニルと申します」

 

 ネオは静かにレーダー波を放って、スレイプニルを調べると、その密度と構造が他の異種族とは違っている事に気付き

「何かの改造を受けているのですか?」

 

 スレイプニルはニヤリと笑み

「神の加護を受けていますので…」

 

 ネオは訝しい顔をして

「神の加護ねぇ…」

 

 スレイプニルはネオの手を取り

「貴殿の功績は耳にしています。どうでしょう…我らと共にこの世界の平安と安寧の為に寄与しませんか?」

 

 そこにラダントが入り、握られているネオの手からスレイプニルの手を離させ

「そちらこそ、勘違いしているようだが…彼は、ネオは、我らの者。勝手に話を通されては困る」

 

 スレイプニルとラダントが静かに睨み合う。

 

 ネオが

「悪いが…私は帝国から離れるつもりはない。ここには家族も仲間もいる。病気の流行を防いだのも、この帝国に害が広がると考えての事だ。世界の平安と安寧、かってにやってくれ。私は帝国の安寧さえ守れれば十分だ。それにだ」

 ネオの視線が鋭くなる。凄まじい圧力の静かな殺気を向け

「理想を唱えるヤツは、信じられない。自分は、その理想を唱えた愚か者によって何度も死の淵に立たされた。理想を論じるヤツは、信じるに値しない…それが私の格言だ」

 

 まるで爆心地のようなネオの殺気にスレイプニルは額から汗を噴き

「分かりました。では…またの機会に…」

と、スレイプニルが去る際に

「この世界での軍事は、全て我がフラスパ教会が管理しています。我々の味方になって置けば…得な事が多いですよ」

 

 ラダントが

「二百年前からの条約を忘れたのか?」

 

 スレイプニルが

「おっと失礼、ラグナロク条約でしたな…。では…」

 

 去って行くスレイプニル。

 

 スタンクが

「あの高圧な上からの態度、だから教会は嫌いなんだよ」

 

 ゼルが

「まあ、変わらんわなぁ…」

 

 ブルーズが

「おい、依頼は達成したんだろう?」

 

 その一言で、周囲が…主にスタンク達だが、グッドの指をして

「さあ、みんな! 楽しもうぜ」

と、スタンクが嬉しそうに言い放つ。

「おーーー」とゼル、カンチャル、ブルータスが腕を上げ、クリムは恥ずかしげに少しだけ腕を上げた。

 

 ラダントがゼルに

「相変わらずだな…」

 

 ゼルが楽しげに笑み

「おうよ。人生楽しまんと損だろう」

 

 ラダントが

「長命種であるエルフからそれを聞くとは…」

 

 ゼルが

「それはアンタも同じだろう。激竜のラダント」

 

 ラダントは少し眉間を寄せた顔をしていると、ネオが

「どういう関係なんだ?」

と、耳打ちする。

 

 騒いでいるスタンク達を前に、ラダントは

「昔…そう、二百年ほど前に、この帝都に来て、皇帝ロンバルディア様を倒そうとした輩がいました」

 

「え!」とネオは驚きを向ける。

 

 ラダントは胸を張り

「勿論、返り討ちにしましたよ。ですが…まあ、相当な手練れだったので…何かの人質にして帝都で管理していましたが…。まんまと逃げられた。その時の人族の男とエルフの男が…。あの人族の祖先と、それに付いていたエルフがアイツです」

 

 ネオはスタンクとゼルを見詰める。

 確かに実力は相当なレベルの者だった。

 まさか…そんな裏があろうとは…。

と、歴史を感じつつも、スタンク達の強引な引っ張り込みで、ネオとラダントは、共に帝都のリリスガール街へ向かう。

 

 何時ものように入口で8000Gを前払いして、帝都の桃色な魔法ネオンが輝くリリスガール街へ入ると、ネオに通信が入る。

 

「んん? どうした?」

と、ネオは通信相手のDIメイドランに繋げる。

 

 DIメイドランが

「マスター。大変です。そちらへ、帝都へ、宇宙から巨大な飛行物体が向かっています。全長は500メートルくらいの傘型円盤です」

 

 ネオの視界に、大型システム島アルヴァス型時空戦艦である海上都市エンテイスの衛星が捉えた上空映像が入る。

 

 傘型の巨大な円盤は…ゆっくりと夜景の帝都へ下りてくる。

 

 ネオは

「これは…何か分かるか?」

 

 DIメイドランが

「動かしている推進力は、この世界でのマナと同質の力です。ですから…この世界由来の何かだと推測は出来ますが…」

 

 ネオは

「何か…攻撃的な反応は?」

 

 DIメイドランが

「いいえ、エネルギーの増幅や集中は、観測されていません」

 

 そして、ラダントが空を見上げる。竜族の感覚が捉えたのだ

「ネオ…空に…」

 

 ネオも見上げ

「ああ…」

 

 低い重低音を響かせて空に傘型の円盤な存在が、このリリスガール街の上に鎮座する。

 

 その音に周囲が同じく空を見上げる。

 

 脈動するような光を明滅させる巨大なソレを見上げる帝都の人々。

 

 スタンクが

「なんだアレ?」

 

 ゼルが

「街の上に覆い被さっているようだが…」

 

 クリムが

「なんか不気味ですね…」

 

と、言っている間に、その覆う存在から、何かが伸びてリリスガール街を歩く男達を捕縛して行く。

 その捕縛する何かを避けるスタンク達だが、クリムだけが

「なんでーーーーーー」

と、叫んで掴まって引き上げられると、カンチャルが何かを投げて

「クリム! 絶対にそれを離すなーーーーー」

 

「うあああああ」とクリムは、投げられたそれを掴んで、浮かぶ存在に消えた。

 

 避けたネオはチィと舌打ちした次に全身のナノマシン端子から戦術装甲を出して装備すると、同じく避けたラダントに

「ラダント。陛下に報告してくれ」

 

 ラダントは頷き

「分かりました」

 

 ネオは、戦闘ロボットのような戦術装甲に身を包み、背面と脚部から炎を噴射して、掴まったクリムの追跡を開始した。

 だが

「オレも連れて行け」

と、スタンクとゼルが飛び乗り、飛翔して行くネオが

「お前達、邪魔だ」

 

 大きな肩の装甲に掴まるスタンクが

「うるせぇ、仲間がピンチなんだ。助けないでどうする!」

 

「ああ!」とネオは唸って、背面からガンダムのモビルスーツが乗るようなベースジャバーにスタンクとゼルを乗せて

「そいつが運んでくれる」

と、クリムの追跡を続ける。

 

 戦術装甲ネオと運搬ジャバーで運ばれるスタンクとゼル。

 目的の帝都の上に鎮座する巨大な存在に近づく寸前に、その存在から二つの光が飛び出す。

 

 ネオがそれを捉えていると、飛び出した二つの光は、人型をした何かだった。

「え?」

と、ネオにスタンク、ゼルが戸惑っていると、その飛び出した二つの光が爆発して、その衝撃波でネオ達の進行が止まり、ネオ達は空中で留まる。

 

 ネオ達の目の前、大凡、二つの100メートルくらいの光の波紋が出現すると、そこから白銀に輝く巨体が出現する。

 

 それは片方が200メートルくらい、もう片方が少し小さい180メートルくらいだろう。

 白銀に輝くゴツゴツとした巨体、赤く輝く四つの目、両足は結晶の鉤爪が伸びる獅子の如き脚部、臀部から四つの結晶の尻尾が伸びるそれは、白光と輝くキメラのような怪獣だった。

 

 ヴォオオオオオオオオオ

 

 二対のキメラのような怪獣が空に結晶のかぎ爪の脚部を突き立てると、そこにマナの力、魔力が固まった足場が出現して、空中で怪獣の巨体を保持する。

 

 ネオは唖然として、ゼルとスタンクは顔を引き攣らせて、スタンクが

「おい、何だ? あの宇宙怪獣みたいなモンは…」

 

 200メートル級のキメラのような宇宙怪獣が、空中にいるネオとスタンクにゼルの三人を赤い四つの目で捉えると

 

 ゴオオオオオオ

 

 咆吼と共に、結晶が突き出る背面と、顎門から無数の光線を放ち、ネオ達に向けた。

 縦横無尽に走る光線達が、ネオ達に向かって行く。

 

 スタンクが「ヤバい!」と叫んだが、ネオが素早くナノマシン端子から巨大な装甲盾を取り出し防御するが、威力によって後退、その巨大装甲盾へサーフィンするようにネオ達三人が乗り押し出されたが…。

 

 それをキャッチしてくれた者達がいた。

 ドラゴン化した竜族の者達だ。

 二柱のドラゴンが、ネオ達が乗る巨大装甲盾を掴み保持。

 ネオが右で持っているドラゴンを見ると、それはラダントが竜化したドラゴンだった。

「助かったよラダント」

 

 ドラゴンのラダントが

「大丈夫ですか?」

 

 ネオは頷き

「ああ…それよりも…」

 

 多くの竜、オスの竜達が、出現した自分より大きな白光と輝くキメラの宇宙怪獣の二頭を包囲、更に出現したであろう傘型の巨大存在も包囲して、そこへ帝国最強の大魔導士戦士ディオの軍隊が飛翔魔法で来て、大魔導士戦士ディオが

「汝の所在と、汝の目的を明らかにせよ」

と、二頭の宇宙怪獣の何かに宣言する。

 

 睨み合う二頭の宇宙怪獣と、包囲する帝国の者達。

 

 だが、二頭の宇宙怪獣は、背面の結晶群と顎門からの光線を放って、応戦する。

 

 それに防壁を展開する竜達と大魔導士戦士ディオ達。

 そして、大魔導士戦士ディオが

「やむを得ん」

と、右手を上げて攻撃開始を合図する。

 

 竜達の数千℃のブレスと、大魔導士戦士ディオ達の強力な魔法攻撃が集中する宇宙怪獣の何かだが、その攻撃が宇宙怪獣の二頭の結晶部分に触れた瞬間、吸収されて消えた。

 

「な!」と驚く大魔導士戦士ディオ。

 

 その間、ネオはラダント達が抱える巨大装甲盾に乗りながら、宇宙怪獣の二頭をレーダー波で調べていた。

 そして、攻撃吸収で分かった事があった。

「マジか。あの宇宙怪獣みたいな二頭は、中心部分以外、全部…高密度のマナによって構築されている」

 

 隣にいるスタンクが

「どういう事だよ」

 

 ネオが

「高密度のマナを、鎧のように纏っているようなモンだ」

 

 ゼルも隣にいて

「なるほど…魔力のオーラスーツみたいなもんか。だったら…全部の攻撃が吸収されたのも納得するわ」

 

 ネオが巨大装甲盾から飛び出し、ナノマシン端子から全長が40メートルのロボット型の機動兵器を取り出して乗ると、応戦する大魔導士戦士ディオ達の隣を横切り、機動兵器の腕部に備わる砲口から物理のプラズマ砲を放つと、今度は吸収されずに当たって爆発するが、マナの防壁が構築されて当たる前にそこで爆発する。

 

 ネオは、大魔導士戦士ディオの隣に来て

「ディオ殿。これは…」

 

 大魔導士戦士ディオは頷き

「魔法、ネオ殿の物理、両方に戦い慣れている」

 

 攻撃が止まった次に、宇宙怪獣の二頭は、再び攻撃の構えをすると、今度は、攻撃する場所から先程放った魔法攻撃が返礼される。

 竜達と部隊、ネオは防壁を展開して防御する。

 

 大魔導士戦士ディオは、眼下の帝都を見る。

 今の所…被害は無いが…。

「ネオ殿、セロアークド(大封印)を行う」

 

 ネオが

「封印したフィールドで対処…と」

 

 大魔導士戦士ディオが頷き

「帝都に被害が広がる。その前に…」

 

 セロアークド…対象を強力な封印のフィールドに閉じ込める魔法で、超位種を封印する為に使われる。これに閉じ込められれば、魔王級や、大精霊、超位種でも出る事は不可能だ。効力が切れるまで…。その効力も数千年単位。

 

 大魔導士戦士ディオが

「掴まっている者達は、その封印の中で我々が助け出しましょう」

 

 そう、告げて全員に、用意を促したそこへ

「待ってくださーーーい」

と、巨大装甲盾にスタンクとゼルに、別の竜族でそこへ運ばれたカンチャルとブルータスがいた。

 巨大装甲盾の上にいるスタンク、ゼル、カンチャル、ブルーズ。

 そして、カンチャルが右手に持っている水晶のアイテム、遠くの相手と会話をする魔導具からクリムの声が

「攻撃を待ってください!」

と、訴える声が放たれる。

 

 ネオ達が動きを止める。

 

 通信魔導具から聞こえるクリムが

「お願いです。引いてください。この帝都の上にあるスカイリム(天空城)から距離を取れば、二人は攻撃を止めるそうです」

 

 その言葉を聞いて大魔導士戦士ディオが

「全員、一定の距離まで撤収」

と、信号の魔法弾を放つ。

 

 それを合図に、囲んでいるドラゴン達や、帝国の部隊が離れる。

 

 そうすると、あの宇宙怪獣の二頭が、攻撃を止めて、その場、空中に佇む。

 

 通信魔導具からクリムが

「お話を聞いてください。この人達は…争いに来たんじゃあないんです」

 




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異星間プレイ

問題が勃発、それにあの四人とネオは…


 ネオは皇帝城の玉座の間…玉座のドームにいた。

 

 皇帝ロンバルディアが、ゼルとスタンクを見た瞬間、眉間が寄って少し殺気を出すも、フッと笑み

「ようこそ、我の命を狙った愚か者のエルフと…その子孫よ」

 

 ゼルはヒヒヒヒと笑い、スタンクは気まずい顔をする。

 

 大魔導士戦士ディオが

「陛下…今は…」

 

 皇帝ロンバルディアは頷き

「分かっている。そして…天使とは…我が国では天使が降臨するのを良しとしていないぞ」

と、カンチャルが持っている通信球から映るクリムを見る。

 

 クリムが

「え、そうなんですか?」

 

 皇帝ロンバルディアが呆れて額を掻きつつ

「まあ、非常事態だ。話を戻す。で…」

 

 クリムが映る画面の中には、黒目で銀色に光るドレスのような体を持つ、明らかにグレイタイプの異星人ですよ…という女性?、まあ、胸の膨らみと髪のような触手を頭部から伸ばしているので、そうとして

 

 皇帝ロンバルディアが

「汝の…その…話では、我らの国を侵略しに来たのでは無いと?」

 

 クリム達が映る通信球の映像を前にするのは、皇帝ロンバルディアと大魔導士戦士ディオに、ネオ、スタンク、ゼル、その通信球を持つカンチャル、ブルーズと、一同がいた。

 

 映像…映画のようなスクリーンにクリムとそのグレイタイプの異星人みたいな女が、クリムに

「ぎゅるるるうっるるるるるる」

と、高音域の声を放つと、それにクリムが頷き

「彼女…私達は、ここにアルルティスの為に立ち寄っただけで、争いに来たのでは無いと…」

 

 大魔導士戦士ディオが

「そのアルルティ何とかは、何だ?」

 

 クリムが困り顔で

「ごめんさい。ぼくでは、説明できる言葉が無くて」

 

 要するに、クリムが理解して意味に出来ない事があるらしい。

 

 ネオは考えて「そうか…なら」と体のナノマシン端子から投影映像ドローンを出して、DIメイドランに繋げて

「メイドラン」

 

 DIメイドランは頷き

「はい、事態は存じています。こういう場合は…異星間文明分析担当のDIマンティスネオに頼んでみては?」

 

 ネオが

「陛下、我々の中でそういう違う文明生命に関して優れた知見を持つ者が…」

 

 皇帝ロンバルディアは頷き

「よろしい、やってみよ」

 

 ネオが、クリム達が映るスクリーンへ、投影映像ドローンを飛ばすと、そのドローンの映像から、中性的な男性のDIが投影される。

「初めまして、異星間文明分析を担当するDIマンティスネオと申します」

 

 クリムがお辞儀して

「どうも…よろしくです」

 

 こうして、DIマンティスネオは、クリムと会話しつつ、クリムを介して話すグレイタイプの異星人みたいな女?と、対話していく内に

 DIマンティスネオが

「ぎゅるるるうるるるるるるうるるるる」

と、グレイタイプの異星人の女?が話した言語らしき何かで話すと、グレイタイプの異星人の女?が顔を明るくさせ

「ぎゅるるるるいるるうるうるるるるる」

と、高音域の言葉を放つ。

 

 スタンクがそれを見て顔を引き攣らせ

「全く何を言っているのか…分からん」

 ゼルも

「オレも分からん。鳥の鳴き声にしか聞こえないなぁ…」

 

 ネオが

「それは正解だと思う。恐らくだが…言語ではなく、通信のような会話なのだろう」

 

 ブルーズが

「そんなんで通じるのか?」

 

 ネオが

「言葉じゃあない。通信のようにイメージや考えを直接伝達している。こっちで言うなら…テレパシーに近いのかもしれん」

 

「へぇ…」とスタンクやゼルにブルーズが頷いていると、DIマンティスネオは対話?ならぬ通信を終えて、全員に向くと

「では、彼女達…まあ、彼女達としましょう」

 DIマンティスネオが説明を始める。

「まずは…彼女達は、この惑星とは違う別の惑星から来た来訪者です」

 

 皇帝ロンバルディアは頷き

「ほう…で、目的は?」

 

 DIマンティスネオは

「目的は、ただの休憩です。本星がある銀河から、目的の銀河までの移動途中で、生体活動が活発なこの惑星を発見して休憩ながら、この惑星のサンプルを獲得しようと…」

 

 大魔導士戦士ディオが

「それでは、サンプルとなった我が帝国の民は…そちらに誘拐されたままになるのだな」

 

 DIマンティスネオは首を横に振り

「いいえ。直ぐにサンプルを取り終えて返すつもりでしたが…。その…一時的なサンプル採取した方達が…とても…原始的欲求に忠実で、かなり危険なのを…察知してしまって、彼女達の本体…まあ、大きな移動体に備わっている防衛機構が反応してしまって…

 このような誤解が生じていると…」

 

 スタンクが

「何だよ。原始的欲求に忠実って?」

 

 ネオが額を抱えて

「ああ…帝都のリリスガール街の…連中が…」

 

 皇帝ロンバルディアは、はぁ…と溜息を漏らし

「つまり、下半身の欲求に忠実な者達が回収されて、警戒してしまったと」

 

 DIマンティスネオは苦い笑みで頷き

「その通りです」

 

 大魔導士戦士ディオが

「一つ、聞きたい。そちらは生命なのだろう?」

 

 DIマンティスネオは頷き

「はい。知的生命というより、知性と様々な技術との融合生命といった方が正しいのでしょうね」

 

 大魔導士戦士ディオが

「具体的に掴めん」

 

 DIマンティスネオは

「そうですね…この世界でいうなら…植物系亜人種と大精霊が融合した…と思って貰っても構いません。この世界の世界樹とされる大きな魔力を秘めた巨大樹が進化して、宇宙にまで進出した種族…世界樹のような異種族を考慮するなら、ユグドラシル族…とでも言いましょうか…」

 

 ネオが暫し考え

「世界樹が進化した種族…って事は、あの空に浮いてる傘型のような巨大な物体が…」

 

 DIマンティスネオは

「そうです。本体と呼べる存在で、この映っている彼女は、それから生じた分身体という事です」

 

 投影スクリーンのクリムの隣にいるグレイタイプの異星人の彼女、本体がクリムと会話とする為に用意した分身体が

「きゅるるるるうううるるうるるるるるる」

と、通信会話をすると、それをクリムとDIマンティスネオは頷いて聞いて

 

 クリムが

「ご迷惑をかけた事を深くお詫びすると…」

 

 DIマンティスネオが

「事態の解決の為に、新たな…ちゃんとしたサンプルさえ提供してくれれば、直ぐに問題を解決するそうです。もちろん、サンプルになった方達の身の安全は保障しますので。それと…その間に…滞在に許可について」

 

 皇帝ロンバルディアは争いで解決しないで済みそうな具合に

「分かった。民を傷つけないとするなら良し。まあ、緩やかな解決で済むなら…」

 

「ぎゅああああるるるるるるるる」

と、皇帝の玉座ドームに、似たような通信会話を放った人物が入って来た。

 フラスパ教会のスレイプニルだ。

 

 それを聞いたクリムの隣にいるユグドラシル族の彼女は焦った顔をする。

 

 ネオがDIマンティスネオに視線を向けると無音の通信で

”なんだ? どういう事を話した?”

 

 DIマンティスネオは渋い顔をして

”暗号化された通信会話です”

 

 ユグドラシル族の彼女は、困った顔をした後

「ぎゅるるるるるうるるるるるる」

と、DIマンティスネオに伝える。

 

 DIマンティスネオは渋い顔で

「申し訳ない。早急に事を片付けないといけないので、解決の協力を…」

 

 皇帝ロンバルディアと大魔導士戦士ディオがアイコンタクトをする。

 その間にフラスパ教会のスレイプニルが

「だ、そうですので…ねぇ。龍皇帝様」

 

 皇帝ロンバルディアは鋭い視線の次に

「分かった。事態の早期解決へ、移行するとしよう…」

 

 

 

 作戦が始まった。

 

 ネオは皇帝城から見えるあの二体の防衛機構アシュヴィンに狙いを定める。

 防衛機構アシュヴィンの内、大きい方はメス型のサティア、少し小さいのがオス型のダスラ。

 オスメスと区分がある理由は、防衛の際に違う視点を持つ事によって、より強固な防衛を行う為らしい。

 

 防衛機構アシュヴィンの二頭は、マナの怪獣鎧を纏っているので、魔法攻撃を全て吸収する。なので、物理攻撃が有効だが…物理攻撃をマナの防壁によって完全に防ぐ。

 ならば…と、帝都の周囲に様々な魔法を使える者達を配備、物理防壁をマナで中和して消して、ネオの攻撃を叩き込む。

 

 ネオは皇帝城から飛翔すると、背中から武装のコンテナを幾つも備える小型宇宙駆逐艦を取り出し、それにネオは乗り込み、防衛機構アシュヴィンのサティアとダスラへ向かった。

 

 サティアとダスラは、直ぐにネオが乗る宇宙駆逐艦に気付き、ユグドラシル族の本体の傍に留まりながら、背面と顎門から魔法光線を放って攻撃する。

 

 無数に迫る攻撃の光線だが、帝都内に配備した魔法戦士達によって弾かれ、ネオの宇宙駆逐艦が攻撃のミサイルレーザーや砲塔粒子加速砲を発射する。

 

 サティアとダスラは防壁を展開するも、それを中和する魔法戦士達によって中和して消えて物理攻撃(光線)が叩き込まれる。

 爆発するサティアとダスラだが…その爆炎から飛び出て再び攻撃の光線を放つ。

 

 ネオは、自身の宇宙駆逐艦は空に上げて、攻撃を上に逸らしつつ、攻撃をする。

 

 ユグドラシル族の本体の周囲を衛星のように周回しならがら攻撃を放つネオの宇宙駆逐艦。

 操縦席のネオは

「よし、食いついた」

 

 

 ネオの宇宙駆逐艦と戦っている最中に、スタンクにゼルとカンチャルにブルーズの四人がユグドラシル族の本体の真下に来ると、そこに用意された魔法絨毯に乗ってユグドラシル族の本体、スカイリムへ昇った。

 

 ネオの陽動のお陰で、四人はスカイリムへ侵入できた。

 

 スカイリムの下部に来ると、そこは白い結晶で出来た有機的な通路が広がっている。

 カンチャルが右手に通信球を持つと、クリムが出て

「こっちです」

と、四人を誘導する。

 

 クリムの誘導に従って小走りで進む四人。

 スタンクが

「しかし、解決する方法が…内部にはいって、その間違ったデータの入った結晶を壊すなんてなぁ…」

 

 カンチャルが

「そんな簡単にいけば良いけどね」

 

 ゼルが

「嫌なフラグを立てるなよ」

 

 

 サティアとダスラは、侵入した四人に気付き、視線をユグドラシル族の本体に向けるも

「まだまだ、終わってないぞ!」

と、ネオがその隙へ攻撃を叩き込む。

 

 ネオの攻撃が苛烈なので、どっちかが行けないサティアとダスラは、ユグドラシル族の本体の内部に仕込んだ防衛機構の分身体を動かす。

 

 

 ユグドラシル族の本体を走っているスタンク達の前に、壁から結晶で出来たロボットのような兵士が出現する。

 

 スタンクが

「うわぁ…やっぱり、そうなるよなぁ…」

 

 防衛機構アシュヴィンの分身達が、スタンク達に迫る。

 通信球のクリムが

「彼らを破壊しても問題ありませんが。破壊した場合、直ぐに破片が吸収されて再生されます」

 

 カンチャルが

「モンスター無限発生トラップかよ」

 

 ブルーズが前に出て

「要するに、突き抜ければ良い事だろう」

と、両手を組んで鳴らしていると

「じゃあ、オレが道を切り開く」

 

 スタンクが

「任せた!」

 

 カンチャルがブルーズの肩に掴まり

「案内は、任せろ!」

 

「行くぞ!」とブルーズが力を込めた瞬間、ブルーズの体が一回り大きくなり

レオバルド(重器戦車)

と、ブルーズの全身をマナの魔力が包み、両手、頭部に獅子の如き鉤爪と顎門のオーラが被さる。

 

 ブルーズの最強スキルの一つ、目の前にある敵を圧倒的な蹂躙で踏みつぶす技だ。

 ゴアアアアアアアアア

と、ブルーズが吠えて、目の前にいる結晶の兵士を蹴散らして道を作る。

 

 ブルーズの戦での呼び名、ロード・キング。

 相対した相手を粉砕して道を作る様からきている。

 

 ブルーズの圧倒的粉砕によって、道が出来る。

 背後から狙う防衛機構アシュヴィンの分身達を、スタンクやゼルが倒す。

 ブルーズの肩にいるカンチャルが行き先を示し、壁があろうとも、レオバルド状態のブルーズは止まらない。

 そして、目的の場所に到着する。

 

 大きなドームのそこで

「目的の結晶のデータは!」

と、スタンクが周囲を見渡す。

 幾つもの結晶の柱が伸びるそこだが、伸びていた結晶の柱が床に沈んで、残る結晶の柱がある。

 それをカンチャルの持つ通信球のクリムが指差し

「あれです!」

 

 スタンクが「行くぞ!」と斬りかかるが、その結晶が飛び出した。

 ゼルがそれを狙って弓を放つも、結晶から防壁が展開されて矢を弾いた後、目的の結晶が天井に突き刺さり、天井の一部が落ちる。

 いや、結晶が天井の一部を素材として、防衛を開始する。

 

 それは、牙を備えた結晶のエイリアンである。

 全長が五メートルほどもある結晶の不気味なエイリアンが

 ギシャアアアアアアア

と、吠えてスタンク達を襲う。

 

 ゼルがマナで攻撃力を加速させた弓を放つも、エイリアン型防衛兵士に当たった弓は飲み込まれて消えた。

 

 カンチャルが袖から小型手榴弾を握り、投擲爆撃する。

 

 ひるむエイリアン型防衛兵士、そこへスタンクが一閃を振り下ろすも弾かれ、ブルーズの突進が入る。

 僅かに後退した程度のエイリアン型防衛兵士。

 

 スタンクが「チィ」と舌打ちして

「やれやれ、何か…特別報償でもないと、やる気になれないぜ」

 

 通信球のクリムが

「皆さん。その…終われば、こちらで望む報酬をってユグドラシル族の彼女が!」

 

 ハッとスタンク、ゼル、カンチャル、ブルーズが身震いする。

 スタンクが卑猥な指をして

「アレで頼むぜ」

 

 それをクリムは見て

「ああ…もう! こんな時にーーーー」

 

 スタンクが

「やれやれ、クソ親父の剣術なんて使いたくなかったが…仕方ない! 未知との遭遇エッチをする為なら!」

 

 ゼルが

「そうだ! 見せてやれスタンク!」

 

 カンチャルが

「弾幕、任せろ!」

と、袖から無数の手榴弾や、爆雷、煙幕を放出する。

 

 巨大なドームが煙に包まれると、スタンクが愛剣を横に構えると

エレメンタリーソード(五色マナ剣)

 スタンクの血統が代々の名家である由縁だ。

 スタンクの一族には、属性を武器に付与できる特別な能力がある。

 次期当主だった筈のスタンクは、その一族の中で五つの属性剣を持つ。

 三つの属性が限度だった一族の中で、スタンクだけが五つの属性剣を持っているスペシャルだった。

 だが…問題を起こして家を追い出された。

 ゼルは、その一族に代々付いているエルフ、一族付きだ。

 ゼルの父親はスタンクの何代前の祖先。

 要するにゼルとスタンクは、遠くの縁を持つ親類なのだ。

 

 スタンクが五色マナ剣を持ってエイリアン型防衛兵士に斬りかかる。

 無数の斬撃、その中で幾つもの属性の力に刃を切り替え、効く属性の刃でエイリアン型防衛兵士の腕を落とした。

 

 だが、エイリアン型防衛兵士は腕を失っても臀部に四つの鉤爪の尻尾を持っている。

 それでスタンクを攻撃するも、ゼルが

「スタンク!」

 属性付加をした矢を飛ばすと、それに瞬時にスタンクが有効な属性剣の力を付加して、同時射出の四つの弓矢が、鉤爪の尻尾達を切断する。

 そして、ブルーズが突進を喰らわして、エイリアン型防衛兵士を倒すと、その上にスタンクが飛び出し、剣先を向け

「悪いな」

と、突き落ちる。

 

 直ぐにエイリアン型防衛兵士は、逃れようとするもカンチャルが粘着弾を放って動きを止める。

 

 スタンクの一閃が、エイリアン型防衛兵士を両断する。

 エイリアン型防衛兵士の内部にあった目的のデータ結晶が破壊された。

 

 

 外では、ネオの宇宙駆逐艦と防衛機構アシュヴィンのサティアとダスラが戦っている。

 サティアが攻撃を放つ、それに応戦するネオの宇宙駆逐艦だが、その隙にダズラが特攻して、ネオの宇宙駆逐艦にぶつかり

「おおおおお!」

 激震がネオの操縦席を襲う。

 

 そしてダズラが宇宙駆逐艦に食らい付き、引き千切る。

 ネオは「く!」と次の戦術兵器に切り替えようとするが、唐突にダズラとサティアの動きが止まった。

 

 ユグドラシル族の本体から

「きゅるるるるるうううるるるるる」

と何かを呼びかける声が響く

 

 サティアとダズラがお互いにアイコンタクトをするが、二頭は

「ぎゅるるるるるうううるるる」

と、何かを言い放つ。

 

 そしてユグドラシル族の本体が返信を放つも、それにサティアとダスラが返信する。

 

 宇宙駆逐艦の操縦室にいるネオは

「マンティスネオ…どういう事になっている?」

 

 隣にDIマンティスネオが出て

「どうやら、データを破壊した程度では納得していないようです」

 

 ネオは渋い顔で

「じゃあ、戦闘の継続か?」

 

 そう不安を口にすると、ユグドラシル族の本体のスカイリムの上にスタンクが立ち

「うるせぇ! テメェ等の考えだけでオレ達を下に見てんじゃあねぇぞ!」

と、言い放った言葉を背に朝日が昇ってくる。

 

 サティアとダスラが四つめを交差させた次に、巨体のモードを解除する。

 白いドレスのような意匠の男ダズラと女サティアが、叫んだスタンクの前に来て、サティアが

「なら、そうでない証拠を見せて貰おう」

 

 スタンクが笑顔で指を立て

「おうよ!」

 

 そう答えて、一次休戦となった。

 

 その後、一時的サンプルにされた者達は解放され、チャンとしたサンプルを得たユグドラシル族は、ダズラが

「なんと落差が激しい連中よ」

と、言葉を残した。

 

 そして、明日中に再び宇宙へ去って行った。

 

 その前に、スタンク達が望んだ報酬があった。

 それを知ったサティアは軽蔑の視線と、ダズラは呆れを通り越して唖然の視線だった。

 

 スタンク達が望んだ報酬…それはユグドラシル族とのエッチだった。

 

 ユグドラシル族の本体の分身である彼女は、額を抱えるも…これも生殖的なサンプルが貰えるとして、スタンク、ゼル、カンチャル、ブルーズの四人にエッチなサービスを提供した。

 因みにネオとクリムは、却下した。

余りにもバカらしかったからだ。

 

 

 スタンクは、ユグドラシル族の本体の天空城、スカイリムでグレイタイプの異星人風の女の子とエッチする。

 スタンクは真っ裸で、光のドーム内にいる三人のグレイ風の異星人嬢? まあ、用意してくれたリリースガールと楽しむ。

 最初は、膝枕や、肌と肌の触れ合いをする。

 そして、ドッキング。

 言語は…違うので鳥のさえずりのようだった。

 

 他の三人、ゼルやカンチャルにブルーズも数人をあてがって貰った。

 

 

 

 レビュー もう二度と無い未知との遭遇

 

 スタンク 人族

 今回は、未知との遭遇をさせて貰った。

 肌は銀色で、目は全部が黒めと、最初は戸惑ったが…そのすべすべの肌の触り心地は最高で、いっぱい嘗めまくった。

 体格としては人族と同じなので、人族の女の子とエッチしていると似ているが、ドッキングした時に中の具合は段違いだった。

 あと、頭部にある触手髪プレイは斬新で、他の種族としては、植物系が近いのかもしれない。未知との遭遇に感謝しつつ

 10点中7点

 

 ゼル エルフ

 宇宙人というジャンルでのレビューだが、基本は人型なので、人型の女の子とやっている感覚だ。

 だが、ドッキングの感触は、人の女の子とは違う。

 様々に動いて、刺激的だった。

 もちろん、マナも持っていて、この世界とは違うマナも味わえたので、面白かった。

 ただ、相当な未知との遭遇を望んでいるなら…拍子抜けを喰らうかもしれない。

 10点中8点

 

 カンチャル ハーフリング

 人の女の子とやっている感覚に近いけど。

 僕の先っちょが入った瞬間の未知の感覚には驚きだ。

 雄しべと雌しべのドッキングの主な僕たちにとっては、違う感触なので。

 そこは未知との遭遇だ。

 だけど、やっぱり人の体格なので、そこが…ちょっと残念かなぁ…。

 10点中7点

 

 ブルーズ 犬型獣人

 オレの体格を考えると少し小さい。

 人の女の子とやっている感覚に近いが、すべすべする肌は新鮮で、なにより毛が絡まないから良い。

 皮膚の感触は水棲族の女の子と近いかもしれないが、水棲族のように水ッ気がないのがいい。

 すべすべする肌達と毛の多い獣人との相性は良いように思える。

 10点中9点

 

 未知との遭遇エッチを楽しんだ四人とは裏腹にネオは、DIマンティスネオに尋ねていた。

「マンティスネオ。あの時…フラスパの関係者が…」

 スレイプニルが、通信会話をした時の事だ。

 

 DIマンティスネオが

「暗号を解析したが…解析できなかった部分が多い」

 

 ネオが鋭い顔で

「それでも…」

 

 DIマンティスネオは頷き

「分かった」

 

スレイプニルの

 ザ……ここは…ザ…の管轄…だ…も…なら…我々…排除…す…

 

 聞いたネオは額を小突く。

 具体的な事が分からない。

 だが、どうしてか…天使のクリムは話が通じた。

 そして…フラスパ教会の連中も…。

 

 ネオはポツリ

「フラスパ…フラスコかなぁ…」

 この世界は余りにも多様すぎる。

 

 

 

 皇帝城、皇帝ロンバルディアの御前にフラスパ教会のスレイプニルがいた。

 王座から見下ろす皇帝ロンバルディアが

「キサマ等…どういうつもりだ?」

 

 スレイプニルが

「なにも、早急な事態解決を促したまで…」

 

 皇帝ロンバルディアの目が輝く

「キサマ等…二千年前の事…忘れたか?」

 

 スレイプニルが

「いいえ。ですが…余りにも目に余るようですと…我々とて…」

 

 フンと皇帝ロンバルディアは鼻息を荒げ

「それはこっちの台詞だ。あの女神に伝えて置け、いらぬ干渉はするな…とな」

 

 スレイプニルは頭を下げ

「畏まりました…」  




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探し人 その一

 ネオはスタンク達や、何時ものメンバーを連れて、とある国へ…


 ここは食酒亭、スタンク達が帝国へ遊びに行ってしまった。

 普通の食酒亭。

 そこで…

 モブAこと、一角を持つ青年アカツキが

「スタンク達、どのくらい帝国で遊んでくるんだっちゃねぇ……」

 

 モブBこと、ドワーフのブルンガが

「そうだべなぁ…。いないと寂しいだべ」

 

 モブCこと、狐型獣人のキャリンダが

「そうっすね。なんか、食酒亭が静かっす」

 

 そこへモブDTこと、ハーフドラゴンのドラテルが

「みなさん!」

と、仲間のテーブルに来てとある情報紙を見せる。

 

 それに三人が「おおおおお!」と驚嘆の声を放つ。

 

 キャリンダが

「まさか…そんな事になっているっすとは…」

 

 ドラテルが

「非常に興味深い!」

 

 ブルンガが顎髭を摩り

「もう会う事がない種族とエッチとは…すげえだべなぁ…」

 

 アカツキが

「オレ達も付いていけば良かっただっちゃね」

 

 四人はスタンクの帝国で体験したレビュー記事を見ていた。

 

 それを横目でメイドリーが見詰めて

「本当に、何やってんのよ…」

と、呆れていた。

 

 

 

 その頃、スタンク達は…ドラグ・アース帝国ではなく、別の国にいた。

 ドラグ・アース帝国の海運財閥エンテイスの巨大船に乗ってスタンク達が

「いやーーー ついに東の果てまで来たか!」

と、これから向かう陸地を見詰める。

 

 隣にいるゼルが

「いや…オレもここまでは…流石に来た事はなかったわ。すげーなぁ…帝国の船は…」

 

 その隣にネオが来て

「遊びで行くんじゃないんだぞ」

 

 スタンクが指を立てて笑み

「分かっているって。ちゃんと仕事はするからよ!」

 

 そこにクリムが来て

「あと、どのくらいで港に着きます?」

 

 ネオが懐中時計を取り出して

「後、一時間くらいだ」

 

 クリムがネオの隣に浮かんで来て

「探している方…見つかるといいですね」

 

 ネオが渋い顔をして

「ああ…そうだな」

 

 

 数日前、皇帝ロンバルディアが御前で

「ネオ、人捜しをして貰えないか?」

 

 ネオが眉間を寄せて

「人捜し…とは?」

 

 皇帝ロンバルディアが近づき

「このドラグ・アース帝国から数個の国を挟んで東にヤマト皇国という、我が帝国と同等の国土を持つ皇国がある。

 我ら竜族は、その皇国の帝と親しくしているのだよ」

 

 ネオは、この世界の地球儀を投影させる。

 ドラグ・アース帝国を中心に、西へスタンク達がいる国々ある大陸、東に行くと繋がる大陸に国々とその東にそのヤマト皇国があり、ヤマト皇国から東に行くと氷の大地があり、それを挟んで東にスタンク達の国々大陸がある。

 地図は平面では理解できない。球体で判断する必要がある。

 スタンク達の方から行くには、その氷の大地を抜けないといけないので、ムリがある。

 なので、そのヤマト皇国へ行くには、帝国から東へ、海洋を抜ければ安全だ。

 この世界の常識ではね。

 ネオの宇宙級超技術文明では、宇宙船で向かえばいいが、要らぬ警戒をされるだろう。

 ここは、この世界の移動方法に頼るとする。

 

 皇帝ロンバルディアが、その立体映像の地球儀を指差し「ここだ」とヤマト皇国を示す。

 二千キロ近い全長は、この帝国と同等で、帝国の境にある山脈と、そのヤマト皇国の境にある山脈に挟まれているそこに大小の国々ある。

 

 皇帝ロンバルディアが懐から一枚の魔導写真を取り出して

「この娘を探し出して欲しい」

 

 ネオは魔導写真を受け取ると

「この娘は…妖狐ですか?」

 

 魔導写真には、金髪で獣人の耳を持ち、狐の尻尾が5つも生えている桜色の着物を着ている娘だ。

 

 皇帝ロンバルディアは

「名は、麗狐と申す。この娘の家は…長年の名家だったが…。とある事が切っ掛けで潰された」

 

 ネオが

「潰された理由は?」

 

 皇帝ロンバルディアが渋い顔をして

「ヤマト皇国の帝を暗殺しようとした者としてな。ヤマト皇国の帝は長寿な方だ。ヤマト皇国が誕生した二千年前から生きる。いわば、ヤマト皇国の象徴のような方だ」

 

 ネオが渋い顔で

「どうして暗殺なんて…。象徴だったのでしょう?」

 

 皇帝ロンバルディアは頷き

「そうだ。長年…生きて。政治は、その時代に選別された者がやっていた。

 まあ、個人的にも特別な力は持っているが…国の事は民達に任せていた。

 だが、隣国の愚かな連中に、麗狐の兄がそそのかされたのだ。

 国を真に民のモノとするには、帝が邪魔だとなぁ…」

 

 ネオが呆れ顔で

「そんな事を意味があるんですか? 象徴でしょう…もし、民を纏めるシンボルが消えたら…」

 

 皇帝ロンバルディアは頷き

「お前の読み通りだ。国は瓦解する。それを狙っていたのだよ。隣国達はなぁ。

 その兄も仲間達も、愚かな理想にかどわかされて、帝を暗殺しようとした。

 だが、それは防がれた。

 その責任追及として、麗狐達が負わされた。

 妖狐の者達を守る為に、麗狐達が生け贄にされ、麗狐の父親は極刑、兄は流刑、そして…麗狐は、どこぞへも知らぬ身売りにされた」

 

 ネオは暫し考え

「その依頼ってヤマト皇国の帝からですか?」

 

 皇帝ロンバルディアは微笑み

「お前は頭が良い。その通りだ。娘の麗狐に罪はないと…。まあ、かどわかした隣国の連中には、それ相応の鉄槌を帝は下したがね」

 

 ネオが渋い顔で

「いや、探すとなっては…」

 

 皇帝ロンバルディアは

「場所は、分かっている。だが、そこの何処にいるのかは…分からない」

 

 ネオが眉間が寄って

「あの…嫌な…予感がしますが。もしかして、女性の身売り先って…まさか…リリスガール街のような…」

 

 皇帝ロンバルディアは頷き

「その通りだ。ヤマト皇国では一夜姫と言うらしい。ネオよ。その一夜姫がいる街、桃源郷へ赴き、麗狐を買って来て欲しい。そして、帝国で保護する」

 

 ネオは頷き

「了解しました。この麗狐という妖狐の娘を保護して来ます」

 

 皇帝ロンバルディアは

「連れて行く人材の選別は、任せる」

 

 ネオは怪しげに笑み

「大丈夫です。連れて行く連中は決まっていますから」

 

 

 

 そして、今、船の上でスタンクが

「分かってるって、探している女の子を見つければいいんだろう」

と、指を立てる。

 

 ゼルが後頭部に両手を置いて

「しかし、身売りされた名家の娘を探せって、定番な依頼だよなぁ…」

 

 ネオがゼルに

「そこは、二百年の経験があるアンタに頼りたい」

 

 ゼルは肩をすくめて

「オレなんかより、アイツ等の方が…」

 

 更にカンチャルやブルーズも来て

「もう、着きそう」とカンチャルが

「夜が楽しみだ。他人のお金でやれるんだからなぁ」とブルーズが

 

 ゼルが

「店をローラーしないといけなくなるから…。アッチが強い奴らが沢山いた方がいいだろう」

 

 ネオが呆れ気味に

「オレはやらん」

 

 ゼルが

「じゃあ、金を渡して情報を買うか? それこそ、ガセを掴まされるぜ。店を回って色んな女の子達と、ピロトークでもしながら聞いた方が早いさ」

 

 更にそこへ、ドリンとレリス、ムラマサにルディリが来た。

 

 ドリンが

「なぁ…ムラマサは、ヤマト皇国の出だよなぁ…」

 

 ムラマサが反応しない。

 

 レリスが

「ムラマサ、どうしたんですか?」

 

 ムラマサがハッとして

「ああ…小さな田舎の出だ。あんまり…大きな街に関しては…」

 

「ああ…そう」とドリンは告げる。

 ネオとドリンにレリスにルディリは、ムラマサの反応が悪いのが気になった。

 

 ネオ達10人に及ぶ大所帯で、ヤマト皇国の港に到着すると、皇都へ向かう。

 皇都行きの大型馬車ならぬ竜車に乗って、整備された大道を進み。

 夜に皇都へ到着すると、皇都の近隣にある一夜姫の街、桃源郷へ向かう。

 

 一夜姫の街、桃源郷とされるそこは、高い格子の壁に包まれ、まるで牢獄のようだったが…その向こうには、あのサキュ嬢やリリスガールの街のように桃色の光に満ちていた。

 

 それにスタンク達、スタンク、ゼル、カンチャル、ブルーズ、クリムが

「おおおおおおお」

と、感嘆の声を漏らす。

 

 朱色の門を潜ると、そこは、淡い幻想の世界だった。

 朱色の光が朧気に揺らめく店達、そこには…色鮮やかな着物を着た一夜姫達がいた。

 

 一夜姫の桃源郷には、色んな国の人達が来るらしく、ヤマト皇国のような和装からスタンク達のような洋装と、様々な種族が来ていた。

 

 まず、この桃源郷に来ると一枚の文を渡される。

 まずは、この朱色の光に包まれる一夜姫の桃源郷内を散策する事。

 そして、店の向こう、瑠璃色の窓内にいる一夜姫と、顔を合わせて微笑む事。

 こっちが微笑んで一夜姫が微笑んだら、それは良いですよという印。

 その一夜姫を頼んで、夜を楽しみましょう。

 別途、料理や飲み物を頼むのも良し、月夜を共に見上げて語り合った後、一晩を楽しむのもよし。

 暴力や脅迫、危険行為は、絶対にしてはいけない。

 した場合は、ここから一切の出禁で、他の桃源郷からも一生出禁とされる触れ書きの人相が出回る。

 

 ここは、一夜の桃源郷、夢のごとく穏やかに過ごして夜を過ぎる場所であると…。

 

 実は、この美しい街並が相当な人気で、一夜姫ではなく、この幻想的な風景を求めて来る客もいるのだ。

 

 ネオは朱色の夢のような、夜の屋敷達の美しい日本風景に目を奪われた。

「来て良かった」

 この景色だけを見られただけでも、十分だった。

 

 街の全てが幻想的で美しい。小川の両岸には、色取り取りの花を咲かせる木々達、渡り橋さえも相当に凝った彫刻が施され、朱色から桜色と染まっている。

 

 和装の一夜姫達、その全員が夢に咲く花のように美しい。

 

 スタンク達のサキュ嬢のように、脂ぎったピンクネオンではない。

 全てが上品で美的な美しさだ。

 

 ネオは、この街の美しさに心を奪われた。

 

 だが、スタンクが

「オレには上品すぎるぜ。早く、良い子を見繕うか…」

と、ここのルール通りに探す。

 それにゼルが付いて

「そうだな」

 

 カンチャルとルディリは、所々に施された装飾を観察している。

 ハーフリングの血が匠な技術に引き寄せられる。

 

 ブルーズは、ドリンとレリス、ムラマサに

「オレ達は、もっと別の場所に行こうぜ」

と、誘う。

 ブルーズがクリムに

「どうする?」

 

 クリムは、ネオの隣に来て

「ネオさんといます」

 

「そうか…」とブルーズは、ドリンとレリスにムラマサと共に朱色の町へ消える。

 

 ネオの隣に来たクリムが

「綺麗ですね」

 

 ネオが頷き

「ああ…こんな所があるなんて…」

 

 そこへ

「おい、あんちゃん!」

と、呼ぶ男がいる。

 

 ネオとクリムがそこへ振り向くと、獣人系の男がニヤリと笑み

「アンタ達も、ここの美しさにやられたか…」

 

 ネオとクリムは互いに微笑み

「ああ…やられた」とネオが。

 クリムも頷き「はい」と。

 

 獣人系の現地の和装男がお団子を食っていた茶店から立ち上がりお代を朱色の長椅子に置いて

「じゃあ、とって置きの場所がある。付いて来な」

と、男に付いていくと、そこは桃源郷の中心を通る小川の奥まで見える場所だった。

 

「おおおおおおおお」とネオとクリムは興奮した。

 

 小川の両脇にある朱色のお店から光が漏れて、小川の岸辺にある色取り取りの木々の花が咲き乱れ、まるで奥まで続く万華鏡のような美しさがあった。

 

 男が

「どうでえい」

 

 ネオとクリムは言葉に出来なかった。

 

 それを見て男は微笑みながら鼻をさすり

「ここには、ヤリに来るヤツも多いが、オレ等のように…この町の美しさにやられるヤツもいる。夢みていな場所だろう」

 

 ネオが

「現実とは思えない」

 

 男は同じく風景を見ながら

「そうさ。ここは一夜の夢。ここにいる女達は、売られてきた連中ばかり。こんな美しい場所でもなぁ…裏では苦しみが永遠と続く場所、苦界って言われるんだぜ」

と、告げた男の顔が悲しげに笑む。

「一夜限りとはいえ、惚れてもねぇ男の欲望を満たすだけに抱かれる場所。

 男のゲスな欲望が渦巻く場所だからこそ、自らの美しさを忘れねぇ為に、汚れねぇ為に、綺麗なこの町を作ったんだよ。

 この美しさは、ここで抱かれる一夜姫の、どんな事になっても汚れねぇって矜恃なのさ」

 

 更に深い事を聞いて、ネオとクリムは頷いた。

 

 男が

「アンタ達は…まあ、格好から見るに…この国の連中じゃあねぇなぁ…」

 

 ネオが真剣な顔をして

「探し人をしている」

 

 男が厳しい顔で頷き

「ここじゃあ、探し人は当たり前さね。誰を探しているんだい?」

 

 ネオは懐から麗狐の魔導写真を取り出して

「彼女を…探している」

 

 男はその魔導写真を見て厳しい顔で頷き

「妖狐の娘か…この桃源郷でも妖怪達がいる百鬼の区域にいけば…だが…」

 

 ネオが渋い顔をして

「何か問題でも?」

 

 男は渋い顔で

「金毛、五尾の尾が多い妖狐の娘は、貴重中の貴重。一夜姫じゃあなくて、誰か有力者だけが手込めにしている抱え姫になっているかもだぜ」

 

 ネオが鋭い顔で

「金なら心配するな。幾らでも出して叩いて来いと言われている」

 隣でクリムが頷く。

 

 男は厳しい顔をして

「分かった。妖怪達のいる百鬼の地区に知り合いがいる。そこへ行くとしようぜ」

 

 ネオは手を差し向けて

「感謝する」

 男と握手して

「アンタの名は」

 

 男は微笑み

「羅漢、そう呼びね」

 

 クリムがお辞儀して

「羅漢さん。よろしくお願いします」

 

 こうして、ネオとクリムは、羅漢という協力者と共に捜索を続ける。

 

 

 

 その頃、スタンク達は、スタンクがタバコをくわえて、一夜姫のお店の中、一夜姫がいる場を見て、スケベな顔をして笑むも、一夜姫達はソッポを向く。

「何でだよ! 今、オレを見たろう! 笑顔なんだから笑顔で返せよ!」

と、怒っているスタンクに店の守護をしている屈強な獣人族の男が近づき

「アンタ、見初められないなら、去ってくれ! ここにはここのやり方があるんだよ!」

 

 スタンクが

「何でだよ! 何件も店に行っているのに! 誰も笑顔を返さないんだよ!」

 

 守護の男が指を鳴らして

「アンタもうるさいねぇ」

と、言うと他の仲間達が集まる。

 

 スタンクが「クソ!」とその場を去るとゼルがいない

「アレ? ゼル?」

 

 ゼルは、「じゃあなぁ…」と一夜姫に連れられて店の奥に行った。

 

「あぇえええええ! 何でだよーーーー」

と、スタンクは叫び町をウロウロとして、疲れて茶屋で団子を食っていると、ブルーズが前から現れる。

 ブルーズが落ち込んでいる。

 

「おい、ブルーズ…どうしたんだよ?」

と、スタンクが尋ねる。

 

 ブルーズが落ち込み気味に

「誰も微笑みかけてくれない。他の連中は、店の女の子が微笑んでくれて…オレは…」

 

 スタンクは苦虫を噛み潰したような顔で

「何が桃源郷だよ。やれねぇじゃあねぇかああ!」

 

 そこへ

「あら、アンタ達…見初め損なったのかい?」

と、角を持った小麦肌の女の子達が来る。

 その中で長身の女が

「どうだい。アタシ等と…」

 角を持ち、腹部と肩部といった露出が多い着物を着た女達。 

 多分、鬼人族か、オーガ族系統だと、スタンクとブルーズは思った。

 

 スタンクとブルーズは、アイコンタクトをする。

 やれないよりは、やりたい。

 スタンクが

「いいぜ。楽しもうじゃあねぇか」

 ブルーズも

「おうよ」

 

 角を持つ小麦肌の女達はスタンクとブルーズを囲み

「お客様、ご案内!」

と、スタンクやブルーズを連れて行った。

 

 それを別の男達が見て

「うわぁ…鬼神達の生け贄は、アイツ等か…」

と、小声で呟いた。

 

 スタンクとブルーズを連れて行く女達、彼女達はオーガ族でも鬼人族でもない。

 上位種とされる鬼神族というヤバい連中だった。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。

探し人 その二へ続くよ


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探し人 その二

次話を読んでいただきありがとうございます。
よろしくお願いします。

ネオとクリムは、協力者を得て、捜索をするも…


 ネオとクリムは、羅漢を先導に、妖怪系の一夜姫がいる百鬼地区の店に来る。

 まあ、この桃源郷はどこもかしも、綺麗な朱色の屋敷世界なので、そこの店の中にいる妖怪系の一夜姫達も、同じく着物姿だが…ネオは

「んん…その…他の異種族との違いが…分からない」

 

 クリムも

「たしかに、色んな姿の方がいますよね。でも…それって他の異種族の方達と同じような感じがするので…」

 

 そう、妖怪の異種族娘、形態は様々…ろくろ首から、猫娘、爬虫類のようなカッパ、青い肌に顔が大きい鬼人のような者、基本…みんな可愛い。

 だが、その周囲に火の玉のようなモノが浮いて付いている。

 

 羅漢が

「まあ、確かに容姿をみれば、その辺の異種族連中を変わらないが…両脇に火の玉が浮いているだろう」

 

 ネオとクリムは頷き「確かに」と告げて、ネオが

「それが妖怪と異種族の違いなのか?」

 

 羅漢が

「妖怪の者達の祖先は、神様だって言われている。

 いろんなモノや存在、まあ…主に土地とか物体を自在に操る力を持った神様達が元だ。

 それが、この地上の生命達と交わって、その持っている神通力…まあ、霊力とか妖力とか言われている。妖怪の系統によって違うがな。

 その特徴として、両脇にあんな火の玉を浮かべているってすんぽうさ」

 

 ネオが顎を手に当て暫し考え

「ああ…こっちでいうなら、悪魔とか魔族とかの子孫って事か?」

 

 羅漢は

「まあ、そんなもんさね」

 

 クリムが

「じゃあ、悪魔は契約に縛られてしまうので、妖怪の人も契約に縛られるんですか?」

 

 羅漢が

「そんな事はないさ。その辺りは普通の人と同じさ。ただ…人の感情をエネルギー、栄養に出来て、さらにその感情のエネルギーを集めると様々な力に出来るってのも妖怪系の特徴かな…」

 

 ネオが興味深そうに顎を摩り

「感情をエネルギー源にするか…。興味深いなぁ…」

 

 羅漢が

「ネオの兄ちゃんみたいに、妖怪系に興味が出て調べている学者はいるぜ。まあ、感情を栄養にするって言ってもメシは食うぜ」

 

 ネオが

「一つ聞きたい。では…祖先のオリジナル…始まり神様の形質を継続して継承する者達もいるのか?」

 

 羅漢がハッとして

「なんで、そう思うんだい?」

 

 ネオが

「根本的な生命の原則さ。妖怪とは、その人の感情をエネルギー源とする形質が主なら、それが様々な生命と混ざり合った場合は、その妖怪の形質が薄まる。

 つまりだ。生命的遺伝の形質として、他の他種族の中に消えてしまう可能性がある。

 なのに、ここでは、妖怪という形状と機能を維持したまま存在する者達がいる。

 ならば…その始まりの力をずっと継承する一族みたいな者達がいるのではないか?」

 

 クリムが難しい話を聞いてかみ砕いて

「えええ…つまり、妖怪の元を維持している血筋があるって事ですか?」

 

 ネオが頷き

「その通りだ」

 

 羅漢は、ふ…んと呆れのような驚きのような溜息を吐き

「ネオの兄ちゃん。アンタ凄い学者になれるよ。その通り…実は、そういう妖怪の元、神様の血筋を守っている連中がいる。鬼神、土蜘蛛、妖狐、大太法師(だいだらぼっち)、獅子舞、麒麟、天狗、大蛇の八つの八百万本家、通称…裏御門って連中がいるのさ」

 

 ネオは好奇心な鋭い目をして

「なるほど…で、だ。あの今から行こうとしている目の前の…明かりの無い城は…」

 

 羅漢がネオとクリムを人捜しの為に導こうとしている黒い城に

「あの城は、鬼神の本家の一つで、鬼神族がいる根城、通称…鬼眼城っていう所さ。なんつうか…この辺りを担当する。力がある一族なのさ」

 

 淡い光を放つ桃源郷の傍に、光を出さない鬼の顔型の城があった。

 

 ネオが羅漢に

「その鬼神の元へいく理由は、その探す妖狐の娘に関して…」

 

 羅漢が袖に腕を入れて組み渋い顔で

「あそこにいる鬼神の連中は、裏にも顔が利く。何かしら、知っている可能性がある。が…」

 

 ネオが

「問題でも?」

 

 羅漢が顔を引き攣らせて

「ちと、凶暴な連中でねぇ…」

 

 クリムがネオの右腕を摘まみ

「凶暴って、どうします?」

 

 ネオは「行くしかない。情報が欲しいのだから…」

 

 クリムが嫌な顔で

「嫌な予感がするなぁ…」

 

 そこへ一人の老人が近づく

「ほほほ…こんばんは…」

 

 ネオとクリムが老人を見る。杖をつく老人と、その両脇に獣耳の獣人の男女の従者がいる。

 

 老人が微笑みながら

「話を小耳にしてなぁ…ワシも鬼眼城に用事があるのですよ。一緒に行きませんか?」 

 

 ネオとクリムは首を傾げ、羅漢が

「み、ミカ」

 

 老人がシーと指を立て口に置く。

 

 羅漢が顔を引き攣らせる。

 ネオは羅漢と老人を交互に見た後、レーダー波を放った。

 そして、老人と羅漢の内部を見た。

 老人が

「いかんですなぁ…勝手に人を覗き見ては…」

 

 ネオは鋭い視線になる。

 羅漢と出会って僅かだが、羅漢の身のこなしは、明らかに普通ではない。

 そして、この老人も…。

 羅漢は老人を見た瞬間、顔を引き攣らせている。

 

 ネオは色々と察してしまった。

 フッと笑いネオは

「良いでしょう。味方は多い方がいい。ご一緒しましょう」

 

 老人は人なつっこい笑みで

「わたくしは、水戸。両脇にいますのは、青丸と蘭丸です」

 従者の獣人族の男性が「青丸です」

 同じく従者の獣人の女性が「蘭丸です」

と、お辞儀する。

 

 クリムがネオに耳打ちする。

「良いんですか?」

 

 ネオが耳打ちする。

「問題ない。おそらく…彼らは…今回の事を依頼した方からの協力者だ。偶然に出会ったと見せかけて、協力するように頼まれているんだろう」

 

 クリムはハッとした次に頷き

「分かりました。一緒に行きましょう」

 

 水戸は微笑み

「いや…話が早い。助かる」

 

 羅漢を先頭に歩き出す一同。

 羅漢にネオが近づき

「何かあった場合は、ご老体の水戸を守って欲しい。私達は何とか出来る」

 羅漢がハッとした次にネオは続けて

「アンタも大変だな」

 

 羅漢は呆れた笑みで

「アンタ、やっぱりすげーぜ。竜皇帝が惚れるだけあるわ。すまねぇ…」

 

 

 一同が、鬼眼城への城門に来ると、城門の脇にある扉から鬼人らしき娘、いや…ちょっと雰囲気が違う。

 腕や肩に独特の入れ墨と、頭部に竜のような角を伸ばしている。

「何用さね。羅漢」

と、その娘、おそらく鬼神族だろう。羅漢を睨む。

 

 羅漢が

「バサラに合いに来た」

 

 鬼神の娘が

「姉様に? よりを戻そうってか?」

 

 羅漢が後ろを示し

「尋ね人に協力してんだ。バサラに聞きたい事がある」

 

 鬼神の娘が後ろにいるネオとクリム、水戸達を見て

「帰りな! 今日は」

 

 ぎやああああああああああ

と、門の向こうからスタンクの声が響く。

 

 ネオとクリムは驚き

「スタンクさん!」とクリムが

「チィ」とネオが舌打ちして「全く、何が任せろだ! さっそく…」

 と、二人は飛び出し、ネオは右腕のナノマシン端子から延長アームを取り出して城門の上を掴み、クリムがその背中に飛び乗り、ネオの飛び越えに参加する。

 

 鬼神の娘が

「テメェらーーーーーー」

と、声を荒げる。

 

 そこへ水戸が消え

「若くて生きが良い。のう…入れてくれんかのう…」

と、水戸の従者の青丸が何かの紋様が刻まれた印籠を見せると、鬼神の娘が青ざめ苛立った顔で

「城門、開城ーーーー」

と、叫ぶと城門に仕込まれたマナの力によって、自動で開く。

 

 水戸が微笑み

「ありがとう。お主の責任ではないぞ」

 

 鬼神の娘が頭を下げて水戸達を通す。

 

 

 

 ネオはクリムを背負って、鬼眼城の屋根を飛び回る。

 ネオはレーダー波を放ってスタンクを探すと

「助けてーーーー」

と、城内の屋敷から飛び出すスタンクとブルーズがいた。

 しかも、二人は裸だ。

 

 それを見たクリムが呆れ顔で

「何、やっているんですか…」

 

 スタンクとブルーズが飛び出た屋敷の障子の向こうには、同じく裸で着物の上だけを羽織る鬼神の娘達がいた。

「逃げるんじゃねぇーーー」

と、声を荒げる鬼神の娘達。

 その両手には、モザイクが必要な振動する棒があった。

 

 裸で着物を羽織る鬼神の娘達はスレンダーで、体の至る所に溢れ出る霊力が入れ墨となった箇所が光っていた。

 

 この城の主、鬼神族の長であるバサラも同じ姿で現れ

「テメェら、気持ちよくなったんだ。だったら、アタイ達も楽しませろ」

 バサラの周囲にいる鬼神の娘達が振動する大人の玩具を持って嗤っている。

 

 スタンクとブルーズが「ひいぃぃぃぃぃぃ」と叫ぶそこへ、ネオとその背に乗るクリムが来た。

「何をしているんだ」

と、ネオ。

 

 クリムが下りて

「人捜しをしているんじゃあないんですか?」

 

 スタンクが

「いや、その…誰も一夜姫が相手をしてくれないから…」

 

 ブルーズが、鬼神のバサラ達を指差し

「あの女達が…相手をしてくれるって…それで…」

 

「はぁ…」とネオとクリムは呆れて、ネオが

「連れが迷惑を掛けた。すまない」

 

 バサラが一歩前に出て

「丁度いい。人数が足りなかったんだ。お前達も加われ」

 

 バサラの周囲にいる鬼神の娘達が

「あの天使、かわいい」

「あの男、女にさせてやる!」

「四人とも、搾り取ってやる!」

と、激しく震える大人の玩具達を翳す。

 

 クリムとネオは顔を引き攣らせる。

 想像もしたくない現状が見えた。

 

 そこへ

「テメェ等! 何やってんだ!」

と、羅漢に水戸達が来る。

 

 バサラが

「なんだい? 羅漢…アタシと、よりを戻しに来たのかい?」

と、次に水戸を見た瞬間、渋い顔になり

「帝様、ここは、アタシ達…鬼神の庭先だ。アンタとて、無礼を働くなら、容赦はしないよ」

 

 水戸は微笑み、羅漢は頭を抱える。

 

 スタンクが

「ミカド様って?」

 

 ネオが渋い顔で

「占いとか色んな相談をしてくれる老人を御門様って、この地方は言うんだよ」

 

「へぇ…」とスタンクは納得した。

 

 ネオは、ちょっとバカで助かったと思った。

 

 水戸は

「のう…鬼神の娘さん達。どうかのぅ。ここはもう少し…お互いに話し合って、決めても悪くはないと思うのだが…」

 

 バサラが

「じゃあ、アタシ等を満足させたら…いいぜ」

 隣にいる鬼神の娘が

「その人族と獣人じゃあ、物足りなかったから…アンタ達も来なよ」

と、嗤う顔には鬼がいた。

 

 ネオとクリムは微妙な顔をする。

 羅漢が来て

「バサラ…この人達は、人捜しに来たんだ。お前達と遊ぶ為に来たんじゃあねぇ」

 

 バサラが

「なら、アタシ等を満足させれば、全面協力してやるよ!」

 

 羅漢が、く…と忌々しい顔をする。

 

 どうする…と、ネオにクリムが戸惑っていると、裸のスタンクが来て

「頼む、オレ達の仇を取ってくれ」

と、二人を押した。

 

 前に出た二人を裸で着物一つの鬼神の娘達が掴み

「はい、いっちょ上がりーーー」

と、屋敷の奥へ引き入れた。

 

 羅漢が「待て!」と止めようとしたが、ブルーズが

「大丈夫だ! あの天使には最強のモノがついている」

 

 羅漢が戸惑いを見せると、水戸が

「まあ、ここは待ってみるとしよう。何かあれば飛び出してくるだろう」

 

 

 鬼神族の母屋に入ったネオとクリム、その周囲を鬼火の火の玉が囲む。

 

 奥でキセルを咥えるバサラが、股を広げてくつろぎ

「さあ、アンタ達も脱ぎな」

 

 ネオとクリムは項垂れた後、服を脱いで行く。

 もう、覚悟を決めた。

 服を脱ぐネオとクリムを品定めするように見詰める鬼神の娘達。

 

 そして、ズボンを脱いだネオとクリムの付いているモノに驚いた。

「ええええええええええ!」

と、驚く声が母屋の外、縁側にいる一同に聞こえた。

 

 羅漢が「な、なんだ?」

 スタンクが「あれを見て驚いたんだろうぜ」

 

 

 母屋の内幕、裸になったネオとクリムの下に付いているそれは、155mm榴弾砲だ。

 そびえ立つ巨大砲塔に、鬼神の娘達はホホを染めた。

 

 クリムは恥ずかしげに俯く。

 ネオは腕を組み呆れ気味だ。

 

 バサラが戸惑いつつも

「良いもん、もってんじゃあねぇか…だが、デカいだけで、フニャフニャだって事は多いんだよ。お前達…やっちまいな!」

 

 鬼神の娘達は、榴弾砲なみの男のアレに興味津々なまま、ネオとクリムを囲み、始める。

 

 スタンク達は鬼神の剛力に押さえられて弄ばれたが…ネオは、竜族の力を人型で行使するドラゴントランスになり、剛力の鬼神の娘を押さえる。

 

 女の子のように扱われた鬼神の娘が「きゃあ」と声を出す。

 こんな事は、初めてだった。

鬼神族は、強力な力を持っていて、その実力は一騎当千だ。

 それが女の子のように軽々と扱われる。

 今までにない感覚だった。

 

 クリムは、押さえられる前に、一人の鬼神の娘に飛びつき、始めた。

 

 ネオも始める。

 

 ネオとクリムとドッキングする鬼神の娘達が

「そ、そんな。ええ、ああああああ」

 嬌声を放つ。

 

 大きいと柔らかい事が多い。だが、ネオとクリムの下半身の榴弾砲は、バッチリと固い。

 

 ネオとクリムの榴弾砲が吠える。

 弾着ーーーー今!

「ああああ、あああああああーーーー」

と、果てた鬼神族の娘の声が響いた。

 

 バサラは驚いた。鬼神の若い娘を攻めて満足させたのだから。

 

 次々と鬼神族の娘達が、ネオとクリムに向かう。

 それは、まるで榴弾砲の雨に挑む兵士のように無謀だった。

 

 ご立派すぎるネオとクリムの砲身に攻められ。

 弾着ーーーー今!

「あ、あああーーーあーあああああああああ!」

と、次々とその豪快な白き砲撃に鬼神の若い娘達が陥落する。

 

 クリムとネオが5・6人くらい相手にした後

「すいません。ぼく…ムリです」

と、辞退した頃には、バサラの取り巻きだった鬼神の娘達が、女の花から受け止められなかった白き花粉を零して痙攣している様が広がっていた。

 

 奥で見ていたバサラが立ち上がり

「上等だ! コラ!」

と、ネオに襲いかかる。

 

 だが、ネオは上手くバサラをいなして寝かせると被さり

「あんまり、荒々しくしているのは、可愛くないよ」

 

 女である事を意識されてバサラはホホを染めて

「うるせぇ!」

と、言った口をネオは塞いで、バサラの体に触れて解す。

 

 バサラは、ネオの解しに反応してしまい「う、ああ、うぅ」と漏れそうな声を押し殺すと、ネオはバサラとドッキングする。

「んんんんん!」

と、バサラは手で口を押さえて嬌声を止める。

 

 そして、ネオは、始める。

 

「んん、ん、う、んん」

と、バサラは、漏れそうな嬌声を押さえている。

 ここで陥落してしまえば、この鬼眼城の主としての貫禄が無くなる。

 意地で耐えると、ネオが口づけして

「口を塞げば、どんな声も漏れないから…」

と、告げると、バサラはネオとドッキングして口づけを貪った。

 

 そして、ネオの下半身の榴弾砲から砲撃が始まる。

 弾着ーーーー今!

 

 バサラの全身に電撃のような快感が広がる。

 それは何度も何度も来て、ついに嬌声を押さえる口づけさえ出来なくなり

「ああ、ああああーーーー、ああ、あああ、ああーーーーああああ」

 

 ネオにバサラは陥落して、ネオを貪り求める。

 

 鬼神族のサガが、生命力の強いオスを受け容れてしまう。

 

 

 母屋の向こう、縁側で嬌声が響く障子の向こうを羅漢は驚きで見詰め、スタンクとブルーズは、障子に指先だけの穴を開けて様子を見て

「ざまあ見ろ」とスタンクが言った。

 

 水戸は元気な若者達の声を聞いて「ほほほほほ」と笑う。

 従者の二人は微妙な笑みだった。

 

 二時間くらい、バサラの嬌声が続き

 その中では、仰向けに寝るネオの上にバサラが離れまいと寄り添って寝て

「アンタ…最高だよ」

と、バサラが告げた。

 

 ネオは、任務で来ているので微妙だった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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探し人 その三

娘を探しているネオ達、しかし…


 おはようございます。皆さん。

 現在、ネオ・サーペイント・バハムートは何処にいるでしょう?

 

 状況その一、まずは隣に裸で寝ている鬼神族の娘バサラがいます。

 そして今現在、早朝です。

 そして、ここはバサラの寝室です。

 

 答えは、鬼眼城で朝チュンを迎えています。

 

 今から二日前、情報を求めて、クリムを連れて羅漢と水戸ご一行と共に鬼神族がいる鬼眼城へ来ました。

 

 そして、どういう訳か知りませんが、鬼神族の娘達に気に入られました。

 そして、どういう訳か、鬼眼城で寝泊まりする事になりました。

 

 そして、ネオは起き上がろうとすると、となりで朝チュンを迎えたバサラも起き上がって、ネオに被さり、ネオの唇を貪る。

 それはもう、大好物の肉を貪る肉食獣のごとくネオを貪ると、ネオの男の部分が刺激されて下半身のご子息がご立派になると、そのまま、続行。

 バサラは、女の花弁の中に、ネオの白い花粉を受け入れると

「ありがとう…」

と、告げてネオと朝の男女の肉体言語をした寝床を後にする。

 

 ネオは額を抱える。

「どうして、こうなった?」

と、悩みつつ寝床を片付けて寝室から出ると、目の前の廊下の奥からクリムが、両隣に自分より少し大きい鬼神族の娘達に挟まれて歩いてくる。

 クリムは、ホホを染めて俯き、その両脇から抱き挟んでいる鬼神族の娘達は、うっとりした顔だ。

 

 ネオは、頭を抱える人捜しに来たのに、それはアタシ等に任せろと鬼神族の娘達がやってくれているらしいが…らしいが、ここで自分がやっているのは、日々の散歩とトレーニングに食事と、夜は男女のチュンチュンだ。

 

「私は何をやっているんだろう」

と、ネオは青空を見上げていると、そこへ

「よう、ネオの兄ちゃん」

と、羅漢が来た。

 

 庭先にいる羅漢にネオが歩み寄り

「やあ、おはよう羅漢」

 

 羅漢がニヤニヤと笑み

「バサラが何時も炊いているお香の匂いがする。今日も朝チュンかい」

 

 ネオは額を抱えて

「なんで、こんな事になっているのか…分からない」

 

 羅漢が苦笑いしながら

「バサラは、のめり込むからなぁ…」

 

 ネオは羅漢に

「アンタは、バサラとつき合っていたような話を聞いたが…」

 

 羅漢は肩をすくめて

「あの凶悪女(バサラ)は、何時も問題を起こす。だから、オレがそれを押さえる役をしていたんだが…。いい加減、ムリがたたって、分かれたのさ。恋人って言うより…悪友かなぁ…」

 

 ネオがふ…んと頷いた後

「そろそろ、アンタの羅漢の正体を教えてくれないか?」

 

 羅漢がフッと笑み

「何時からバレていたんだ?」

 

 ネオが口だけの笑みで

「始めからだ。その身のこなし、体格、そして…歩き方。どうも…普通じゃない。ドラグ・アース帝国にいる時に、それなりの者達を多く見てきた。それを参考にして、アンタは…ただ者じゃあないと…」

 

 羅漢がネオに近づき小声で

「オレは、いや、自分は、帝に仕える八神将の一人、白角のラダンだ」

 

 ネオが羅漢に寄って小声で

「八神将…確か、ヤマト皇国で、帝に仕えてヤマト皇国の防衛を担う…ヴォルシス(獣神)の…八名の将がいると聞いた」

 

 羅漢が頷き

「その一人さ」

 

 ネオが

「じゃあ、水戸ってご老体は…」

 

 羅漢が呆れ顔で

「帝も…本当に驚く事をする。お忍びで、皇居以外を歩き回る事は多々あるが…」

 

「ワシが何かな?」

と、水戸がコソコソと話しているネオと羅漢の後ろに現れる。

 その両脇には従者の青丸と蘭丸がいる。

 青丸と蘭丸は、苦笑いだ。

 

 羅漢とネオも苦笑いだが、ネオが

「水戸様、今日は皆で情報を探したいと思うので…ご一緒に…」

 

 水戸は嬉しそうに笑み

「ほほほ、こちらこそ、よろしく頼むぞい」

と、水戸が告げて真剣な目をして

「高い所にいては、民の気持ちは分からない。かといって身分を明かしてしまえば、同じく高い場所に上がってしまう。ワシはこの国が好きじゃ。だからこそ、間近で民の声を直に聞きたいのだ。民あっての国なのだから…」

と、告げてあの人なつっこい笑みをする。

 

 羅漢が困り顔で

「ご老体、ムリはしないでくださいよ」

 

 ネオは、何も言い返せない。なぜなら、ドラグ・アース帝国の皇帝ロンバルディアも、その皇族も同じように身分を偽って度々、帝国内をお忍びで歩く。

 そして、色んな人達の話を聞く。聞いて聞いて聞きまくる。

 そうして、民が何を思い、何を考えているのか、真剣に耳を傾ける。

 きっと、そういう姿勢があるからこそ、二千年もドラグ・アース帝国は続いているのだろうと思う。

 

 

 そんな感じで、ネオ達は、人捜しを続ける。

 

 一団は、三つに分かれる。

 スタンク達の一団は、人買いをしている者達の所へ。

 ネオ達一団は、バサラを筆頭に裏の情報を仕入れる所へ。

 羅漢達は、国関係の場所へ。

 

 ネオ達は、宿舎にしている鬼眼城から、数キロ離れた、とある街に来る。

 大きな通りの和風の店が並ぶそこ、バサラを先頭にネオ、ルディリ、ドリン、レリス、ムラマサの6人。

 

 バサラが大きな店の暖簾を潜って先陣を切り

「邪魔するよ」

 

 そこには、いかにも強面の男達がいた。

 

 ネオ達もそこに入ると、いかにも…極道って感じの室内だ。

 

 その男達の一人、獣人のチンピラが

「テメェ勝手に」

と、言った瞬間、バサラがそのチンピラの腹部を殴り、チンピラが天井に突き刺さった。

「アタイの顔を忘れたのかぁ?」

と、バサラが苛立ち気味だ。

 

 バサラの全身に青く輝く魔力の入れ墨が光って浮かぶ。

 

 それを見た極道の連中が、並んで頭を下げて

「すいやせんでしたーーー」

 

 バサラは笑み

「分かればいい」

 

 ネオ達は微妙な顔だ。

 速攻に力業に、嫌な予感しかしない。

 

 ネオがそう思っている隣、ムラマサが何処か不安な顔をしている。

「どうしたんだ? ムラマサ…」

 

 ネオの声にムラマサがハッとして

「何でも無い…」

と答えるも、その表情は暗い。

 

 その間に、店の奥から極道の親分のような獣人が姿を見せ

「何用かね。鬼神のお姫様よ」

 

 バサラが

「ほら、最近、帝を暗殺しようとした連中の一派に、妖狐の五尾の家の者がいたろう」

 

 極道の親分が、上がり場に腰を下ろして

「ああ…あの外のバカに被れた野郎の…」

 

 バサラが

「その五尾の家の娘で、麗狐っていう五尾の妖狐を追っているが…」

 

 極道の親分が、鋭い顔で

「止めときな…ありゃぁ…もう、仕方ないんだよ」

 

 ネオが前に出て

「事情を知っているんだな」

 

 ネオを見る極道の親分が、ハッと驚く顔をして

「おいおい、アンタ…何者だい?」

 

 バサラがネオを下がらせ

「話がややこしくなる」

 

 極道の親分が

「鬼神の姫様。この男はなんだい? 優男だが…その全身から濃密な戦の匂いがする。まるで、八神将の荒土のようだぞ」

 

 バサラは下がらせたネオを凝視する。

 

 ルディリが

「あながち間違っていないかもね」

 

 極道の親分がネオを見詰めて

「兄ちゃん、アンタ…何しに来た」

 

 ネオは真剣な目で

「その麗狐という娘を保護する為に来た」

 

 極道の親分が頭を振り

「今…その五尾の娘は…この町の近くにある、裏御門のダイダラボッチの連中が囲っている」

 

 ネオが鋭い顔をして「つまり…」と告げるとネオの殺気が膨れあがる。

 要するに弄ぶ玩具にしていると…。

 

 極道の親分が

「勘違いするな。辱めとかそんなんじゃねぇ。ってか、帝様を殺そうとした者の妹なんて不気味で抱く気にもなれんさ」

 

 ネオが殺気を持ったまま

「だが、それでも不当な…扱いを…」

 

 極道の親分が

「良く聞け、そんなヤバい謂われがある女は、誰も引き取り手がなかった。

 それでだ…とある神事の景品にされる事になった」

 

 バサラがハッとして

「まさか、大太法師相撲の…」

 

 極道の親分が

「その通りさ。ダイダラボッチの連中が、相撲でぶつかり合う神事の景品になったのさ」

 

 それを聞いたムラマサが飛び出して、何処かへ走って行く。

 

 ネオが

「おい、ムラマサ!」

 

 レリスが

「どうしたんですか? ムラマサ…」

 

 ルディリが

「何か、ここに来てから…落ち着かないって言うか…」

 

 極道の親分が

「多分、その五尾の妖狐の娘と知り合いだったんじゃあないのか?」

 

 ネオ達は顔を見合わせて「まさか!」と告げてムラマサを追った。

 

 バサラは袖から金貨が入った包みを極道の親分の前に置き

「悪いね。天井にくすがっているヤツの治療費と、修理代、それと情報代さね」

と、ネオ達を追う。

 

 極道の親分は額を抱え

「全く、面倒事はこりごりさね」

 

 

 

 ムラマサは走る。

 目指すは、10メートルを超える壁が囲っているダイダラボッチ達がいる場所だ。

 ムラマサの脳裏に

”ムラマサ様、ありがとう”

と、微笑む金髪の和服を纏った幼い妖狐の娘。

「麗狐さまーーーーー」

と、ムラマサは叫んで魔法道具の鉤爪で、10メートル越えの壁の上に引っかけて昇る。

 

 それを遠くからネオ達が見て、ドリンが

「マジか!」

 ネオ達は急ぎ向かう。

 

 ムラマサは、壁の上に来ると、内部にある巨人の和装住居を見渡す。

 十メートルの達する巨人の住居には、数倍も大きくした住居品の数々があった。

 

 ムラマサは、壁の上を走りながら探すと、巨大な鳥かごの中に見つけた。

「麗狐さまーーーーー」

 

 その声に、巨大な鳥かごの中にいた金髪で五尾の妖狐の娘が顔を上げて、その方向を見る。

「ムラマサ…様」

と、驚きで顔を押さえる。

 

「麗狐さまーーーー 今、お助けします!」

と、ムラマサは、魔導具の鉤爪を使って麗狐の囚われる鳥かごへ向かう。

 

 だが、それを十メートルの巨人が捕まえる。

 一握りで掴まるムラマサ

 

「なんだテメェは?」

と、ムラマサを捕まえた巨人族、ダイダラボッチの男。

 

 ムラマサが

「離せーーーー」

 

 鳥かごにいる麗狐が

「止めてください! その人は関係ありません」

 

 捕まえたダイダラボッチの男が

「まさか、この忌み子を解放しに来たのか!」

と、捕まえる手を強める。

「ぐ!」と悶えるムラマサ。

 

「ムラマサ様ーーー」と叫ぶ麗狐。

 

 そこへ

「待ってくれーーーー」

 ネオ達が壁を飛び越えて入った。

 

 そのダイダラボッチの男の足下に来てネオが

「頼む。彼を離してくれ」

 

 ダイダラボッチの男がネオ達を睨み

「テメェ等、なにもんだ?」

 

 ネオが巨大な鳥かごに掴まっている麗狐を見て

「その…鳥かごなのか? その掴まっている娘を欲して来た」

 

 ダイダラボッチの男が鋭い眼差しで

「理由は?」

 

 ネオが戸惑いつつ、本当の事を話す訳にはいかないとして

「麗しい妖狐の娘が売りに出されたと聞いて、我が主が」

 

 ダイダラボッチの男が

「ウソを吐くな」

 

 ネオが懐から

「金貨は幾らでもある。ほら、プラチナ金貨だ」

と、ダイダラボッチの男の足下へ置くと、ダイダラボッチの男は空いている左手でそれを手にして確認して

「確かに、だが…売れねぇ。この娘は」

 

「騒々しいぞ」とダイダラボッチの男の後ろから一人の、巨人族ではない屈強な体をしたエルフと獣人が混じったような男が、ダイダラボッチの男達を伴って来た。

 

 エルフと獣人のハーフの男は、ネオの前に来ると

「キサマは何者だ?」

 

 ネオは自分の胸に手を置き

「私はネオ・サーペイント・バハムート。この娘を手に入れろ…主に言われて来た」

 

 エルフと獣人のハーフの男が

「その主とは?」

 

 ネオが渋い顔で

「とある、ドラグ・アース帝国の竜族の方だ」

 

 エルフと獣人のハーフの男は

「我は、ヤマト皇国の軍の一角を担う八神将の一人、荒土。残念だが…娘は渡せない。それに…」

と、荒土は掴まっているムラマサを睨み

「まさか、我が一族から破門をくらったお前が帰ってくるとは、なぁ…ムラマサ」

 

 ネオが荒土に

「知り合いなのか?」

 

 荒土が胸を張って腕を組み

「我の遠縁に当たる八神将の一人、刀陣殿の息子の一人だ。腕に物を言わせて暴れていたので刀陣殿から離縁と破門にされた。そうだったな…ムラマサ」

 

 掴まっているムラマサは項垂れる。

 

 色々と事態が立て込むも、ネオは選ぶ優先順位を決めて

「分かった。色々とあるが、まずは…ムラマサを」

 

 荒土がムラマサを捕まえているダイダラボッチの男に

「離してやれ」

 

 捕まえているダイダラボッチの男が、ネオの傍にムラマサを下ろす。

 

 ムラマサは動こうとするも、その肩をネオは持ち「待て」と止めて

「次の話だが…そちらにいる妖狐の娘を…」

 

 荒土が首を横に振り

「譲らない。この娘は近々ある神事、大太法師相撲の景品となる。帰れ」

と、ネオが床に置いたプラチナ金貨の袋を蹴って返した。

 

 そこへ

「ケチくせぇなぁ」

と、バサラが壁を昇って現れ、ネオの傍に飛び降りて

「良いじゃねぇか、プラチナ金貨だぞ。国同士でしか使えない特別でド高い金貨なんだぜ。十分じゃあねぇかぁ」

 

 荒土が鋭い顔のまま

「黙ってろ。鬼神の荒獅子女が」

 

 バサラがフンと鼻で笑う。

 

 荒土が

「この娘の兄は、大罪を犯した。その罪は父親の極刑と、その兄の流刑に、家のお取りつぶしで終わらせる筈だったが…。それでも民の怒りは収まらない。ならば、モノとして扱われる事で…民の怒りを収める」

 

 ネオが

「じゃあ、どういう条件なら譲ってくれる?」

 

 荒土が

「そんなモノはない」

 

 ムラマサが走ろうとすると、それをドリンやルディリ、レリスが押さえる。

 暴れようとするムラマサにダイダラボッチの男達が警戒しているのだ。

 ここで、暴れるともっと事態が悪くなる。

 

 ネオが鋭い目で

「では、私は主から…どんな方法でもいいから、麗狐様を保護しろと言われている」

 

 荒土が鋭い目で見下ろし

「面白い。やって」

 

「待った」とまたしても止めの声が入った。

 そこには、玄関から入って来た水戸達と羅漢の四人がいた。

 

 荒土が水戸にひれ伏すも、水戸が

「無用じゃ」

と告げるも、荒土はひれ伏して頭を下げた後

「帝…これは、皆で話し合った事です。幾ら帝とて…」

 

 水戸である帝は微笑み

「分かっておる。ならばどうじゃなぁ? この者達を神事の大太法師相撲に出させるという事で…」

 

 ルディリとレリスは、え…という顔になり、ドリンとムラマサは真剣な顔になる。

 

 水戸である帝が

「つまり、こういう事じゃ。この者達も神事の競いに入れて、そして…勝ち上がって、その娘を景品として持ち帰る。それなら問題なかろう」

 

 荒土は立ち上がり目を閉じて考え

「分かりました。ですが、敗れれば…」

 

 水戸である帝は頷き

「それは勿論じゃ」

 

 ムラマサが、麗狐の入る巨大な鳥かごの格子に飛びつき

「麗狐様。必ず…お助けします」

 

 麗狐は涙を流して微笑み

「ありがとう。ムラマサ様…」

 

 

 

 

 その夜、一同が鬼眼城に戻ってきて、食事をしながら

「マジかよ」とスタンクが呟く。

 

 ブルーズが

「巨人族と正面からやり合うか…」

 

 カンチャルが

「巨人と戦う場合は、不意打ちが基本。それを正面からとは…」

 

 ゼルが

「自殺に等しいわなぁ…」

 

 ドリンが

「それでも戦うしかない。そうしなければ…」

 

 レリスが

「勝算は、ゼロに等しいけど…」

 

 ルディリが

「でも、神事の選手としてネオとムラマサにドリンだけじゃあ」

 

 ムラマサが

「オレは、何としても麗狐様を助ける。それだけだ」

 

 ムラマサはムキになっていた。

 

 ムラマサは夕飯を口にかき込んで一人、出て行った。

 

 ネオはそれを心配げに見詰めていた。

 

 クリムが

「何かあったんですかねぇ?」

 

 スタンクが味噌汁を口にしながら

「過去を詮索しない方がいいぞ、クリム」

 

 その口調にクリムは「はい…」と頷いた。

 

 

 

 その夜、ムラマサをドリンは、共に木刀で模擬戦闘をしていた。

 二人は躍起になっているそこへ、ネオが来て

「熱が入ってるなぁ…」

 

 ネオは簡単な浴衣である。今日も今日とてバサラとやって来た後だった。

 

 ムラマサは、木刀を握る手を見詰めて

「オレは…なんとしても、麗狐様を助けなければならない」

 

 ネオが額を掻いて

「そこまでムキになる理由を…聞きたいが、プライベートみたいだから、止めて」

 

 ムラマサは苦しそうな顔で

「オレは、バカなガキだった」

 思い出すように口にする。

「オレは、このヤマト皇国の八神将の一人、刀陣の息子の一人だった。幼い事から剣を鍛えられ、オレも…剣術が好きだった。

 その剣術仲間として、麗狐の兄の麗人と、妹の麗狐と共に鍛え合った。

 バカだったんだよ。とある野良試合で勝ってなぁ…。

 オレは強いってのぼせて…色んなヤツと野良試合をして、相手の大ケガをさせる事故を起こした。それに呆れた親父が…オレを破門と離縁にした。

 その日から、オレはブチのめされていった。

 結局、オレは強くなんてなかった。みんな…親父の八神将の息子だって事で、負けていたんだ。

 オレが強かったと思っていたのは、親の七光りだったんだよ。

 死にそうになった所を助けてくれたのは…麗人と麗狐だった。

 そして、他国への渡航も…暮らしも色んな事を助けてくれて」

 

 ドリンが

「その時に、オレとムラマサは知り合ったのさ。母親が…その…麗狐殿の母親の知り合いだったから…」

 

 ネオが

「恩人を助けたいか…」

 

 話を終えた後、不意に周囲を囲む壁の上に気配を感じて、三人がそこを見ると、一人の忍びがいた。

 三人が構えると、忍びが

「せっそうは、戦いに来たのではありません」

と、壁から下りて、懐から一枚の包みを取り出し

「これを…」

 ムラマサに渡した後、去って行った。

 

 それは麗狐からの手紙だった。

 ムラマサだからこそ、筆跡が麗狐本人だと…。

 

 ムラマサ様へ。

 出会えて本当に良かったです。

 わたくしを助ける為に出陣します大太法師相撲、退いてください。

 ムラマサ様には、大切な奥様とお子様達がいます。

 ここで、貴方様の身に何かあった場合は、奥方とお子様達に顔向けができません。

 どうか、直ぐに退いで、お帰りください。

 わたくしの事は、もう…お忘れください。

 これは、運命なのです。

 兄があんな事になり、それを止められなかったわたくし達の罰なのです。

 ですから、無関係なムラマサ様は、どうか…お帰りください。

 一目だけでも出会えてよかったです。

 ありがとうございます。

 

 ネオは共に文を見て

 え! ムラマサって結婚して、子供が! 確かに…依頼は堅実なモノを選んでいたら…えええ!

と、少し混乱するも、気を取り直して

「どうするムラマサ?」

 

 ムラマサは、文を破り捨て

「関係ない。ここで退けば妻のアティナに恩人を救えなかった恥知らずと罵られ、子供達、ムラサト、ムラオトにも顔向け出来ない」

 

 ムラマサは覚悟を決めていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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探し人 その四 終わり

探し人、最後の話。
ネオと大太法師相撲の神事が、麗狐が


 四日後、ついに神事、大太法師相撲が始まる。

 

 百メートルの巨大な石のリングの土俵に、その周囲を一定の間隔を開けてドーム球場のような観客席が設置されている。

 それは、さながら幽遊白書の暗黒武術大会の会場のようだが、その会場を包む装飾は、和風だ。

 なんでもリング以外の観客席には、何かあった場合の強力な防護結界が発動するらしい。

 

 そして、その入口、十メートルのダイダラボッチの男達でさえ余裕で通れる開門から五十名のダイダラボッチの男達が入ってくる。

 ゴツゴツとした岩山のような躯体に、相撲のふんどしを巻いている。

 

 普段なら、この相撲をするダイダラボッチの男達の戦いを見るのだが、今回は違う。

 

 ネオとドリンにムラマサの三人が、そのダイダラボッチの男達の中にいる。

 

 ダイダラボッチの男達が鋭い視線を三人に向けている。

 

 ネオ達三人は、武器以外は持ち込んで良いとされる、普段通りの姿だ。

 

 ダイダラボッチの男達と共にネオ達も並び、開会式が始まる。

 

 一番高い席、顔を隠す帝からの言葉と、その下の席には、帝とヤマト皇国を守護する八神将の八人がいた。無論、その中には、荒土と、ムラマサの父である鬼人族の刀陣がいる。

 

 開会式が終わると、ネオ達とダイダラボッチの男達が分かれる。

 

 とても単純な形式だ。

 ネオ達が、この50名のダイダラボッチの男達を全員倒せば、麗狐が譲られる。

 

 観客席のとある部分に、麗狐が入れられた巨大な鳥かごがある。

 麗狐が格子を握りしめ

「どうして…ムラマサ様…」

 

 帝の傍にいる八神将の一人、羅漢である白い仮面で顔を隠す白角のラダンが

「刀陣殿…離縁した息子殿が…」

 

 刀陣は鋭い視線のまま

「愚息が…迷惑を掛ける。ここで死んでも当家は、全く問題ない」

 同じく父の隣にいるムラマサの兄は沈黙であるが、固く拳を握っている。

 

 白角のラダンは引き

「そうか…」

と、神事試合を見詰める。

 

 100メートルのリングに最初のダイダラボッチの男が昇り、ズンズンと四股を踏む。

 

 ネオ達は、

「てめぇ等ーーーー やられちまえーーーーーーー」

と、叫んでいる観客達の罵声を浴びる。

 

 それをネオ達に近い観客席で見詰めるネオの一同、スタンク、ゼル、クリム、カンチャル、ブルーズ、レリス、ルディリ。

 クリムが

「ネオさー」

と、言い出しそうな口をスタンクが塞ぎ

「ばか、関係者だってバレれば殺されかねないぞ」

 

 クリムが訴える目で

「でも!」

 

 ゼルが

「とにかく、見守ろうぜ」

 

 ルディリが

「心配しなくていいよ」

 

 ブルーズが

「どうして分かるんだ? 正面から巨人族とやり合うんだぞ。勝てる見込みはないぞ」

 

 ルディリがフッと笑み

「あんなの、ネオが本国時代に戦って来た者達と比べれば…」

 

 

 

 リングで準備するダイダラボッチの男へ、最初にムラマサが向かう。

 ネオが

「ムラマサ…ムリだったら…」

 

 ムラマサが

「ネオ、死んだって退けない戦いがあるんだよ」

 

 ネオが額を抱えた。

「分かった。ムリだったら、止めに入る。それは私の意思だ」

 

 ムラマサは無言で進む。

 

 

 ムラマサは自分の十倍近い巨体のダイダラボッチの男を見上げる。

 

 ダイダラボッチの男はムラマサを見下す。

 

 二人が相対した後、数秒後

「では、両者、構えて」

 

 ムラマサが構える。

 

「始めーーー」と開始のドラムが鳴り響く。

 

 ムラマサは、小さい事での機動力を生かして、ダイダラボッチの男を翻弄して倒す作戦に入るも

「無駄だ」

と、ダイダラボッチの男が突きを放った瞬間、それによって発生した乱気流にムラマサが飲まれた。

 

 だが、ムラマサは上手くコントロールして、ダイダラボッチの男の腕に乗ると、疾走して目を狙うも、その目論見は予見されていた。

 そこへダイダラボッチの男の張り手が入った。

 一撃で全身を打たれたムラマサは、リングに叩き付けられる。

「がああ、ああ、あ」

と、ムラマサは直ぐに起き上がろうとするそこへ、容赦なく次の張り手が叩き込まれた。

 

 中心から端まで転げ飛ぶムラマサ。

 

 それでもムラマサは立ち上がる。

 

 そこへ対戦相手のダイダラボッチの男が向かいながら

「もう、降参したらどうだ?」

 

 ムラマサが

「誰が…」

 

 そこへまたしても巨大な手の張り手が飛ぶ。

 ムラマサは避けるも、ダイダラボッチの男は巨岩の如き巨体で突っ込み。

 ムラマサは、ぼろ切れのごとく飛ばされた。

 

 リングから落ちてない。

 リングから落ちれば終わり、ダイダラボッチの男はワザと落とさないようにしている。

 

 ムラマサは体を引きずりながら起き上がろうとする。

 

 そこへ、向かうダイダラボッチの男が

「愚かな…所詮、汚れた娘だぞ」

 

 ムラマサは、起き上がり吐血する。

 

「ムラマサーーーーーー」

 ネオは叫ぶ。

 

 ムラマサは、死に体なのに、目は全く死んでいない。

「オレは、バカだった。奢ってバカやって。そんなオレを…彼女は救ってくれた。今度は、オレが…彼女を救うんだ。死んでも救うんだよ。

 それが、オレが…バカだった事に対する償いで、オレの生き方だ。

 我は剣、剣は命を守る為にある」

 

 ダイダラボッチの男が

「なら、へし折れて潰れろ」

 容赦ない張り手がムラマサに叩き込まれる。

 

 リングへ出る前に、ダイダラボッチの男がムラマサに張り手を叩き込む。

 一方的な私刑だ。

 

 ネオが

「止めろーーーーーー」

 叫ぶ声が

 

「やっちまえーーーーー」

「帝の敵に味方するなんて、ヤマトの敵だーーー」

「殺しちまえーーーー」

 観客がヒートアップして怒声を荒げる。

 

 ネオは、それを見て愕然とする。それは、かつての自分がいた時代の愚かな人々と同じ情景だった。

 

 ボロボロに飛ばされるムラマサを帝の席から父と兄が厳しい顔で見詰める。

 

 ボロボロでもムラマサは立ち上がり

「オレは…助ける。必ず…だから」

と、そこへ無慈悲な張り手が飛ぶ。

 

 痙攣して死にそうなムラマサへ、ダイダラボッチの男が張り手を放とうとしたそこへ

「もう! 良い!」

と、帝が止めた。

「それ以上に意味は無い。これは、神事である。死人を出す場所ではない」

 

 その言葉に、ダイダラボッチの男は手を止めて、ボロボロのムラマサを摘まみ、ネオの所へ持ってくる。

 観客席にいたスタンク達やネオの仲間達も飛び降りて、ネオの元へ帰ったムラマサの治療を始める。

 ゼルとカンチャルにルディルが魔法や回復薬を使ってムラマサの治療をしていると、連れて来たダイダラボッチの男が

「愚か者共が。キサマ等には、絶対にあの忌み子の女は渡さん」

 

 ネオがダイダラボッチの男を見上げて

「どうしてだ?」

 

 ダイダラボッチの男が

「あの女は、罪人の娘だ。その血族は、その罪人の罪を償うのが当然だ。故に、我らの慰み者にしつつ、我らの子達を産み続けて、使い捨てる。それが贖罪だ」

 

 ギリッとネオは歯ぎしりして

「罪は、それを犯した本人の責任で、家族や他の者達には関係ないはずだ!」

 

 ダイダラボッチの男が

「そんな道理、通るはずがなかろう。悪しき者は、全て滅する事が当然であろう」

 

 ネオが静かな怒りの目で

「お前達は獣だ。理性もない知性もない。考える事を止めた人以下だ。弱い者の事を考えられるのが、人としての意義だ!」

 

 ダイダラボッチの男の額に青筋が浮かび

「ほう…では、それを証明してみろ。力なき者の言葉など、戯れ言よ」

と、告げてリングの真ん中に戻る。

 

 みんなの治療のお陰でムラマサが目を覚まし

「ああ…ネオ、オレ…」

と、涙する。

 

 ネオは頷き

「言ってくる。後は…ゆっくりして待っていろ」

と、リングを踏み締めるその背中には、威圧が籠もっている。

 

 ルディリが

「やべー ネオが切れてる」

 

 

 ネオがリングに上がっていく、正面には怒気で力が上がったダイダラボッチの男がいた。

 鬼神族のバサラ達は、別の高い席からネオを見下ろす。

 バサラがニヤリと笑み

「あら…やばいわ」

 

 隣にいる裏御門の一角、土蜘蛛の蜘蛛の妖怪女が

「ありゃあ…生け贄だわね。彼…」

 

 バサラが

「そうだな、あのダイダラボッチの男、死んだわ」

 

 蜘蛛の妖怪女が「はぁ?」と疑問の声を放った。

 

 

 

 ネオとダイダラボッチの男が対峙する。

 

「では、両者、構えて」

 

「始め!」とドラムが鳴る。

 

 ダイダラボッチの男の強烈な張り手が迫る。

 それにネオは、次の瞬間、べきべきと骨が軋む音が響いた。

 

 その音の発生源は、ダイダラボッチの男だ。

 張り手をカマした右腕が吹き飛び180度、別方向に飛んでいた。

 

「え…」とダイダラボッチの男は青ざめる。

 巨大な張り手を吹き飛ばしたのは、圧倒的に小さいネオの張り手だった。

 

 ネオの目が怒りで輝いている。

「ふぉぉぉぉぉ」

と、白い息を吐き威圧がダイダラボッチの男を襲う。

 

 ダイダラボッチの男の全身が恐怖に泡立つ。

 使えなくなった右腕を引きずり後退しようとしたが、ネオが足下に来て軽く横払いしただけで、十メートルの巨体が空中に舞って回り頭が下にくる。

 そこへ、ネオが張り手をカマして、十メートルの巨体がぼろ切れのごとく空中を舞って観客席に墜落するも、観客席に設置された防壁結界が展開され、そこにボロボロになった十メートルの巨体がぶつかりリング外へ出た。

 

 仲間のダイダラボッチの男が飛ばされた事に驚愕するダイダラボッチ達一同。

 

 ネオがそのダイダラボッチの男達に指を向け「来い」と挑発する。

 

「まぐれだ」と次のダイダラボッチの男が出陣、そして戦いが始まった。

 巨体が全力で突進するが、それにネオは張り手をして、十メートルの巨体がひしゃげると、ネオはそれを片手の張り手で、同じようにリング外へ突き飛ばした。

 二体目の崩れたダイダラボッチの巨体。

 

 それにダイダラボッチの男達が怒り、次々とネオに挑むも、ネオの始めの一撃に粉砕され、二撃目でリング外への叩き落としを受ける。

 ネオと戦った全員が、どこかの骨を折るという重症だった。

 

 それを観客が唖然と見ている。

 タダの人が、十倍も大きなダイダラボッチを圧倒するのだ。

 

 休憩が入った。

 その間に30名のダイダラボッチの男達が沈んだ。

 

 ネオに休憩の水が差し入れられる。

 それにゼルが

「おい、毒が入っているかもしれないぞ」

 

 その読みは正解だ。

 これ以上、外者に神事を荒らされない為に、毒を仕込んでいるが、ネオはそれを分かって飲む。

 そして、ネオの中にあるナノマシンが完全解毒する。

 全部、差し出されたヒョウタンの水を飲み干した後、ネオはリングへ向かう。

 

 差し出した者は、バカめ…と思った。

 

 次のダイダラボッチの男は、ネオに毒が盛られた事を知っている。

 これで勝てると思った。

 

 だが、リングに上がっていくネオの体が膨れる。

 何倍も歪に膨れて銀色に変貌する。

 そして、それはネオの竜族形態の竜になった。

 銀色に輝く80メートルの竜の巨体と、背面にジェット推進を備える翼。

 

 十メートルのダイダラボッチの男が子供になる程のネオの竜形態。

 その竜の顎門から白熱の吐息が漏れる。

 

 観客と、毒を盛ったヒョタンを持って来た男は絶望に似た呆然をする。

 

 戦いが始まった。

 

 一撃である。ネオの銀の機神竜の一撃で、ダイダラボッチの男が吹き飛ばされ、観客席の向こうへ消えた。

 

 ネオの銀の機神竜が四股を踏むと、リングが沈んだ。

「ああ…なんか、変なモノを食べたから、押さえていた本気が出てしまうなぁ…」

 

 毒盛り逆効果という事実に、仕込んだ愚か者はその場にへたり座った。

 

 

 そこからは、ダイダラボッチの男達の生け贄である。

 銀の機神竜ネオの一撃という無慈悲に、観客席の裏まで飛ばされるという一大事件となり、神事の大太法師相撲はメチャクチャだ。

 

 昼前には、50名のダイダラボッチの男達が消えた。

 

 銀の機神竜ネオが

 ヴォオオオオオオオオオオオオ 

 激震を呼び越す雄叫びを放ち

「これで、良いだろう」

 

 だが

「待てーーーーーー」

 帝の傍にいる八神将の一人、荒土が声を上げ

「我らの神事をよくも汚したな!」

と、リングに下りて来る。

 

 ネオは荒土を見下ろし

「約束だろう。それとも、それさえも守れない恥知らずか?」

 

 荒土が構え

「神事は、我らの歴史である。その汚辱を注がなければ、神事とは言えん」

 メチャクチャな事を言っているが、要するに顔に泥を塗られたから怒っているという猿山理論だ。

 

 荒土が

「我らの鉄槌を受けるがいい」

と、告げた瞬間、全身が膨れて巨大化する。

「この最強のヴォルシスで!」

 

 ネオの竜と同じ80メートルの獣神が出現する。

 二足歩行の獅子に鎧の骨格を持つ荒土の獣神(ヴォルシス)が雄叫びを上げる。

 ギギャアアアアアアアアアア

 

 観客が

「やっちまえーーー 荒土様ーーーー」

「いいぞ、荒土様ーーーーー」

「そんなヤツ、倒しちまえーーー」

 観客がヒートアップする。

 

 リングのそばにいるムラマサを支えるドリンが

「やばいんじゃあ…」

 ルディリが

「まあ、大丈夫でしょう」

 

 ゼルが

「おい、戦う余波の被害に会う前に逃げるぞ」

 

 スタンクが

「さんせー。ヤバい気がする」

 

 カンチャルも

「ぼくも…」

 

 クリムは残ろうとするも、スタンクが腕も掴み

「行くぞ」

 

 クリムが「でも…」と渋る。

 

 

 その間に、獣神化した荒土と対峙する銀の機神竜ネオ。

 荒土が

「我が本気で潰してくれる」

 

 ネオが

「そうか、なら、こっちも本気でいくぞ」

と、告げた次に竜形態から人に戻る。

 

 獣神の荒土が

「キサマ! バカにして」

と、言っている間に、ネオに変化が現れる。

 

 ネオの背面から無数の機械の端子が伸びる。

 それがネオを包み込み巨大化して姿を構築する。

 

 それに観客達は呆然とする。

 空いている天井を超える巨大な存在にネオは、変貌する。

 

 それをルディリが見て

「うわぁぁぁぁぁ ヤバい! ネオデウスの力を発動しちゃったーーーー」

 ドリンとレリスが困惑すると、ルディリが

「早く逃げよう! ヤバいって」

と、脱兎する。

 

 それにムラマサを抱えるドリンとレリスが続き、レリスがクリムに

「アナタも…」

 

「あ、はい」とクリムが続いた。

 

 ネオの本気、ネオデウスの力の一端、それは神事を見る観客席より高く大きい。

 80メートルの獣神の荒土を超えて、200メートルの戦艦の如き巨躯が立ち上がる。

 全身が深紅、三対の装甲の腕を伸ばし、スラスターの如き脚部と、背面に機械の翼が伸びるそれは、三ツ目の頭部から鋭い眼光を放つ。

 

 獣神の荒土を睥睨するネオのネオデウス形態の一つが

「さあ、始めろ」

 

 かけ声の人物が戸惑っていると、帝が

「始めよ!」

 

「では、両者、構えて…始め!」

と、開始のドラムが鳴る。

 

 獣神化の荒土が全身から膨大な力のマナを纏って、ネオのネオデウスへ突進しようとするが、ネオのネオデウスの胸部を両肩から砲身が伸びて

「インドラ、発射」

 神事のリングとその周囲を破壊する程の暴虐な超巨大光線が落ちた。

 

 それに獣神の荒土が突進しようとするも、一瞬で飲み込まれて終わった。

 

 観客席を守る絶壁の結界がフル出力で観客を守り、逃がしきれなかったネオのネオデウスの攻撃が宇宙へ昇る。

 地上から、宇宙へ向かう光のジェットが出現する。

 

 そして、それが終わったそこには、地面までも融解させてマグマの灼熱地獄と、そこに悠然と佇むネオのネオデウスの超弩級の躯体があるだけだ。

 

 荒土は、空から落ちてくる。

 獣神化が解除され、全身に消し炭を纏い、墜落する。

 

 それを白角のラダンがマグマ地獄へ落ちる前にキャッチして、元の席に戻す。

 

 刀陣が来て脈を診ると

「何とか、生きているが…」

 

 白角のラダンは

「戦いは継続不能だ」

 

 偉大なる八神将の一人も敗れて観客が沈黙する。

 そこへ帝が

「これで、勝者は決まった。この者達に景品の娘を渡す事にする」

 

 そこへ、観客の一人が

「しかし、それでは、帝様の命を狙った者達の…」

 

 帝が

「民よ。聞いて欲しい。確かに皆の意見は一理ある。だが、この娘は、それを行った本人ではない。

 その咎は、本人自身が償わせるべきであり、その家族が請け負うというのは、正しいといは思えん。

 皆がワシの事を思ってのは分かっている。だが、そういう過ちを犯した者達が出る事自体、ワシの過ちなのだ。

 ワシの力が足りなかったばかりに、ワシを暗殺する事件が起きたのだ。

 つまり、それはワシ自身から出た咎である。

 皆にお願いする。

 どうか、ワシの身から出た過ちを贖罪する為にも、この娘を…彼らに委ねてはくれないだろうか」

 

 静かになる観客席、その間にネオはネオデウスの攻撃によってマグマ地獄になっているそこを、ネオデウスの熱を奪う冷凍攻撃で、元の地面に戻す。

 やべーやり過ぎた、とネオは思っていると、どこからか…。

 

「ヤマト皇、ばんざーーーーい」

と、声が響き

「ヤマト皇、ばんざーーーーい。帝、ばんざーーーーーい」

「ヤマトに栄光あれーーーーー」

と観客が大合唱する。

 

 こうして、事態は何とか、ネオ達の元へ麗狐が渡る事になった。

 

 

 麗狐を連れてドラグ・アース帝国へ帰還する日。

 

 ムラマサの治療が終えるまで一週間くらいかかった。

 治療には、様々な治療薬と、何より…解放された麗狐が賢明に回復魔法を使ってムラマサを治療してくれた。

 そして、その治療薬の費用を負担したのは、離縁したムラマサの父親、刀陣だった。

 

 鬼眼城で治療中のムラマサに父の刀陣と兄の小烏丸が来て、刀陣が

「たまには、妻と子供達を連れて帰って来い」

と、告げて兄だけ残して消えると、兄の小烏丸が

「いや、本当に良かった」

と、安心した言葉を贈る。

 その間、兄と弟は離れていた間を埋めるように会話した。

 小烏丸とドリンは知り合いで、ムラマサが国を出る時に色々と手伝ってくれたのも小烏丸のお陰だ。

 

 そして、ムラマサの治療中の間、ネオ達は…色んな人達に襲われた。

 

 神事を汚したとか、国のメンツを潰したとか、とにかく理由を付けてネオ達を襲った。

 ネオ、ルディリ、ドリン、レリス、スタンク、ゼル、カンチャル、ブルーズ、クリムの9人へ襲いかかるのだが、スタンク達は相当な手練れ、ネオ達も合わさって返り討ちにされた。

 

 無論、鬼眼城に忍び込んで麗狐を狙う愚か者もいたが…

「おや、何の用だね?」

と、鬼神族のバサラ達が待ち構えていて、ボコボコにされて外に出された。

 

 そんな事が三日も続き、ついに大軍、千人近い人数で一斉に鬼眼城へ攻めてきた連中もいたが、鬼神族達とネオ達の活躍によって、千人全員が血祭りに上げられ、外に吊された。

 無論、殺していない。

 丸裸にして縛って町に吊した。

 

 そして、誰もネオ達を襲う者達はいなくなった。

 

 四日目、何か政治的な事でネオ達に罰を与えようとした動きもあったが、ネオが竜族である事と、西の大陸で疫病の流行を防いだ英雄という事もあって、何も出来なかった。

 

 やっと、事態が落ち着いて観光をするネオ達、その間、スタンクとブルーズは、桃源郷で全く相手にされない。

 クリムは、鬼神族の娘達に気に入られて引き込まれそうになるも、クリムは戻るとして譲らず、鬼神族の娘達は押し倒しまくって陥落させようとするが…。

 

 帰国の日が来た。

 

 

 海運財閥エンテイスの巨大船を前に、スタンクとブルーズが

「なんで、一度も出来ないって、どういう事だよ」

と、スタンク

 

「自信がなくなりそうだ」

と、ブルーズ

 

 二人は落ち込んでいた。

 

 その背中にネオが「ほら、帰るぞ」と告げて、スタンクとブルーズは渋々、乗船する。

 

 ネオが麗狐を合わせて全員の乗船を確認して乗り込もうとすると

「兄ちゃん」と羅漢が、水戸達を連れてお迎えに来てくれた。

 

 ネオが近づき

「お世話になりました」

 

 水戸が微笑み

「娘の事…まあ、あの竜の皇帝だ。悪いようにしないのは分かっておるが…」

 

 ネオが微笑み

「早くなじめるように、こちらでも助けますので…」

 

 水戸がが頷いて微笑み。

「よろしく頼むぞ」

 

 羅漢が

「色々と面倒に巻き込んで悪かったよ」

 

 ネオが首を横に振り

「いいさ。まあ、それなりには楽しかったよ」

 

 羅漢が手を差し出し

「今度は、ゆったりと観光と行こうじゃないか。兄ちゃん」

 

 ネオは、差し出された手に握手して

「ああ…その時は、是非」

 

 羅漢が微妙な顔をして

「まあ、その…大変かもしれないけど…がんばってな」

 

 ネオはそれを麗狐の事だと思って「任せろ」と微笑む。

 

 羅漢は、そのズレを理解していた。

 

 実は、ネオ達とは離れた場所で、とある一団、鬼神族の娘達が何か騒いでいた。

 

 ネオと羅漢が握手を交わした後、羅漢の後ろから荒土が姿を見せ

「キサマ、勝ち逃げは許さんからな」

 

 ネオは顔を引き攣らせ

「いや、どうでもいい。任務で戦っただけで、今後、アンタとは関わらんから」

 

 荒土が

「キサマ、それでも男か!」

 

 ネオが冷静に

「あのなぁ…お前みたいに力だけが真実ってバカに関わっていると、こっちまで頭が悪くなる。今後、関わる事はないだろう。さようなら」

 

 荒土が苛立つ顔の後

「まあ、いい。その言葉…憶えて置け」

 

 ネオが呆れ顔で

「どんだけ粘着質なんだよ。気持ち悪い。お前が行っている男ってヤツと程遠いぞ」

 

 荒土が前に出て

「なんだと! ここでやるか!」

 

 暴れそうな所に水戸が

「止めい。見苦しいぞ」

 

 荒土が下がり

「申し訳ありません」

 

 ネオが背を向け

「じゃあ、羅漢、水戸さん。また…」

と、乗船した。

 

 

 ヤマト皇国の港が遠くなり、それを見詰めるネオの隣にクリムが来て

「色んな事がありましたね」

 

 ネオが呆れ顔で

「この世界は、色んな種族がいて面白いが、ああ…いう単細胞テストステロン馬鹿もいるんだなぁ…」

 

 クリムが顔を引き攣った笑みで

「まあ、一部ですから…」

 

 ネオが背伸びして

「さて、今回の旅の報告を」

と締めようとしたそこへ

「旦那様ーーーーー」

と、飛びつく人物がいた。

 鬼神族のバサラである。

 

 ネオがバサラの両肩を掴み

「な、どうして? ここに?」

 

 バサラがその場に正座して、両手を三つ指ついて

「今日より、ネオ・サーペイント・バハムート様へ、嫁ぐ事になりました。バサラ・御・鬼神です。末永くお互いが死に別れるまで、お願いします」

と、告げて懐から手紙をネオに渡す。

 

 ネオは、それを開いて見る。

 

 水戸より

 今回の鬼神族の嫁入りについてだが、本人が熱望するので、許可した。

 相当にお主に入れ込んでおり

 どんな事になろうとも、本人はお主に付いていったろう。

 報告に関しては心配するな。

 あの竜皇帝に先んじて伝えると、喜んで引き受けてくれた。

 なので、何も心配する事なく、安心して嫁に迎えてくれ。

 それと、年に何回は、嫁の実家に来る事を所望する。

 

 それを隣でクリムが見ていて、驚きで顔に手を置き

「ああ…何というか…おめでとうございます」

 

 ネオは額を抱えつつバサラに

「いや、その…自分には…三人の妻達が…」

 

 バサラが三つの手紙を取り出し

「最初の奥方様達と文通で会話をしておりまして、認めてくれると同時に、妊娠して、旦那様のお相手できないので、代わりに旦那様を慰めてくれと! 公認されました」

 

 ネオは項垂れる。

 手回しが早い…もう、ノーと言えない状況だ。

 下手に逆らっても意味は無いな…とネオは

「分かった。そこまでなっているなら…今後、よろしく頼むよ。バサラ」

 

「はい」とバサラはネオの右腕に抱きつくのであった。

 

 ネオ、人捜しの遠征中に新しい嫁をゲットして帰る。

 ゲットした嫁は、一騎当千の鬼神の一族である。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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思い出の彼女

スタンクは、ヤマト皇国でスッキリ出来なかった熱を帝都で晴らして
そして…それは、思い出の邂逅に遭遇した。


 スタンクでーす。

 ヤマト皇国に行って、何にも出来なかったので、ドラグ・アース帝国で晴らしたいと思いまーす。

 

 帝国の帝都にあるリリスガール街へ、レッツゴーのスタンクは、溜まりに溜まったリビドーの爆発を晴らす為に、とある店に行く。

 多重分身のお店、ニャハハトロップ。

 

 スタンクとブルーズは、燃えるリビドーを握り締めて

「よし、やりまくるぞ!」

と、スタンクが拳を固く握り。

 

 ブルーズが拳を組み合わせて鳴らし

「全くもってヤマト皇国で出来なかった熱をなんとかするには、やりまくるしかない!」

 

 スタンクとブルーズは、お店の入口を潜った。

 

 その他は…

 ネオは、新たな鬼神族の嫁さんを妻達に顔見せした。

 修羅場になると思っていたが…妻達が

「ごめんなさい。この人…寂しがり屋だから、子供がお腹にいる私達に代わりに、夫の寂しさを慰めてあげて」

 

 バサラが胸を張り

「任されました」

 

 ネオは顔を引き攣る。

 実は…この帝都にも自作のマリオネットのお店があり、偶にネオは訪れて、妻達を模したマリオネット達と致していた。

 どうして、バレたのか…ネオは頭を抱えるも、妻達がそれを聞いて、夫を不憫に思っていた。

 なので、四人目の嫁バサラに、妻達が出産を終えるまでの、相手をお願いしたのであった。

 

 他の連中は、ゼルとカンチャルは、帝国にある魔導具や魔法を巡ったり、クリムはネオの仲間達と親睦を深めて充実した日々を過ごしている。

 

 

 そして、スタンクとブルーズだけは、ヤマト皇国で全くお楽しみを出来なかったので、それを払拭する為に、この店に来た。

 

 店の受付嬢が出てくる。

 黒髪ポニーテール、そして…腕が二対の受付嬢は

「ようこそ、多重分身店ニャハハトロップへ 当店の説明をしますね」

 

 説明のよると、ここはお客もリリスガールも百人近い分身が行える店で、その多くの分身を使ってやりまくるというお店だ。

 

 スタンクは、シャワーを浴びて丹念に体を荒い

「よーし! 最大の百人に分身して、嬢とやりまくるぞ!」

 スタンクの想像では、幾つもの分身した自分が、一人の嬢に群がってやりまくる。

 ヤバいプレイを想像して、股間が熱くなり起き上がる。

 

 体を綺麗に洗ったスタンクは、とある魔方陣の上に来ると、お店の多重分身魔法が付加されて、一気に十数人に分身した。

『いくぜーーーーー』

と、十数人のスタンクが同時に叫んで、嬢がいるドアを潜ると、嬢のエルフが微笑み

「ようこそ、多重分身店、ニャハハトロップへ。存分にお楽しみください」

 

 スタンク十数人が、待ち構えていた嬢のエルフに群がる。

 それは、さながら落ちた飴に群がるアリ達のようだった。

 

 分身したスタンクは、嬢のエルフを舐める分担の分身、嬢のエルフとドッキングする分担の分身、嬢のエルフの体を滑っていっちゃう分担の分身で、嬢を攻める。

 

 スタンク達?が

『よっしゃーーー。やりまくるぞーーーーー』

と、同時に叫んだ瞬間

 あ!

と、いっちゃった。

 

 いっちゃった後の分身がその場にへたり倒れる。

 ええええええ!

と、いっていない分身達は固まる。

 開始数秒で、十数名がいっちゃって、その場に倒れてしまう。

「な、なんで?」

 いっちゃう気持ちよさは人数分の満足度はあるが、いっちゃうのが早すぎる。

 しかも、いっちゃって出たお汁の量は、涙の一粒程度だ。

 

 ええええ…とスタンク達?は困惑する。

 

 相手をした嬢のエルフが困り顔で

「これが、多重分身の効果です」

 

 スタンク達?は額を抱えて

「どういう事?」

 

 嬢のエルフが

「この店の多重分身は、ナイアルラトホテップという種族の方が構築しているんです。その種族の方は、代々、意識が一つで複数に分裂する分身の術を継承して伝えているんですが…。その用途は、影武者なんですよ。

 つまり、こういう事です。

 同じ力や質量を持った分身がたくさんいる訳ではなく、分身させる方の力や質量を百以上に分裂させて分身させている力なんですよ。

 分裂した分身が一体、潰れても百分の一以下のダメージで済む。

 そういう魔法というか、術ですね」

 

 スタンクが考えつつ

「つまり、オレと同じ存在が幾つも増えて分裂しているんじゃなくて、オレ自身の力や質量が、百以上に分裂しているって事?」

 

 嬢のエルフが

「はい、そういう事です」

と、告げて分身したスタンクの一人を軽々と片手で持ち上げる。

「ほら、質量も百以上に分裂しているんで、分身一体の重さも数百グラムになりますね」

 

 つまり、相手をしている嬢にとっては、子猫とじゃれている程度の力しか感じていない。

 

「なんじゃそりゃあああああああ」

 スタンクが叫ぶ。

 

 相手の嬢のエルフは

「でも、このお店は、いっぱい、いっちゃいたい方に人気ですよ。それに…お客さん…相当に強いですよ」

 

 スタンクが「え?」と驚きの顔をする。

 

 相手の嬢のエルフが

「普通なら、十数人に分裂して一斉にいっちゃった場合、それで終わりのお客さんばかりなのに。まだ、お客さんは満足していないでしょう? 相当にお強い方ですね」

 

 スタンクは、男として強い事を褒められて

「いや…伊達に、修羅場を潜ってないからなぁ…」

と、ご満悦になる。

 

 相手の嬢のエルフが

「じゃあ、もう少し楽しみましょう」

 

 スタンクが乗り気で

「よっしゃーーー オレの強さを存分に発揮してやるぜ」

 

 こうして、スタンクは幾つもの分身を繰り出して、多重分身店を楽しんだ。

 

 

 レビュー

 多重分身店ニャハハトロップ

 

 スタンク、人族、男

 店のシステムである多重分身で、女の子を襲っちゃうぞ。

 最大百人以上の分身が可能で、一人の嬢を幾つもの分身で襲うプレイが出来るヤバい店だ。

 だが、いかにせん、多重分身のシステム上、自分の力が幾つもに分割されての分身は

 いたってしまうのも早い。

 確かに何十回もいけるは、おいしいが…迫力がないな。

 分身の分割での力は弱体化しているので、お嬢を抱っこできないし、子猫のように群がって、じゃれている感じになってしまうのが、おしい所かもしれない

 10点中7点

 

 ブルーズ、獣人、男

 幾つも分裂して女の子を襲えるプレイは、ある意味、数人でやる乱交を一人でやっているので、背徳感はあるには、あるが…。

 多重分身のシステム上、いってしまうのが早いのが玉にきずだな。

 まあ、嬢には負担は少ないから、後味の悪さはない。

 匂いに関しては、多重分身で嗅覚の力も分割されるので、匂いは楽しめない。

 まあ、イメージプレイに近い部分があるのかもしれない。

 お店の嬢の説明通り、たくさん、いってしまうのを味わうには最高かもしれない。

 10点中8点

 

 

 スタンクとブルーズは、朝帰りして

「いや…スッキリした」

 

 ブルーズは

「やれなかったストレスが解消できたな」

 

 スタンクが肩を解しながら

「まだ、頂いた報奨金は、たんまりあるんだ。今日も帝都の夜を楽しもうぜ」

 

 ブルーズは案内状を指差し

「先にいく店を決めてからにしよう。迷っていたら、お店がいっぱいになって入れなかった事があったからなぁ…」

 

 スタンクが首をひねり

「しかし、まあ、時間制限じゃあなくて、一晩…嬢を買うっていうシステムは、利益があるのかねぇ?」

 

 ブルーズが首を傾げ

「余所には余所のやり方があるんだ。気にしても仕方ない」

 

 二人が次の夜の相手を探しに案内所へ向かっていると、ネオが通り

「おお…朝帰りか?」

 

 スタンクが

「よう! 皇国でやれなかった不発弾を処理してきたぜ」

 

 ネオは微妙な顔をして

「ゲスな不発弾だな」

 

 ブルースが

「アンタはどうしてここに?」

 

 ネオが

「依頼人と待ち合わせだ。新しい薬草の素材の確保を依頼されて、依頼人と合流して情報を聞くのさ」

 

 スタンクが

「アンタも豆だねぇ…」

 

 ネオは肩をすくめ

「別に、色んな場所を探索するのは嫌いじゃあないから…」

 

 スタンクが

「そういえば、聞きたい事があるんだが…。この帝都の色町は、どうして一晩、嬢を買う事になっているんだ?」

 

 ブルーズが

「オレ達の方では、時間で決まっているが…」

 

 ネオが

「帝都から離れれば、似たようなもんさ。帝都の色町は、国が管理しているんだよ」

 

 スタンクが驚きを見せ

「え? つまり、公娼って事なのか?」

 

 ネオは頷き

「そうだ。帝都の色町は全て公娼だ。店舗も何もかも国が負担してやっている。

 だから、嬢に払う8000Gのメダルの内、7000Gは嬢の取り分になる」

 

 ブルーズが

「この国には、性的な政策を考えるサキュバス党のような連中がいるのか?」

 

 ネオが首を傾げ

「別に、そういうサービスの仕事は需要があり、下手に規制して取り締まっても、隠れて湧き出てくる。

 なら、国で適正に管理された事をして、制御した方が楽なのさ。

 それに、こういうお店が気軽に行けるって事は、犯罪を抑止できる効果あるらしい」

 

 スタンクが顎を摩り

「へぇ…凄ぇ事を考えるもんだなぁ…」

 

 ネオがフッと笑み

「二千年も、この帝国を治める皇帝がいるんだ。手練手管なんて幾らでも持っているさ」

 

 三人が話していると、後ろで倒れる者がいた。

「おい」とスタンクにネオとブルーズが駆けつける。

 

 倒れているのは獣人の娘だった。

 スタンクが抱えて

「大丈夫…は!」

 

 ネオはスタンクが驚愕した顔を見て

「どうした?」

 

 スタンクが抱える獣人の娘を見て

「いや、もしかして…親父の所の女中の一人じゃあないか?」

 

 ブルーズが

「知り合いか?」

 

 スタンクが

「他人のそら似にしては、似すぎているぜ」

 

 

 

 助けた獣人の娘は、スタンク達が寝泊まりする宿のベッドに寝かされて、医者のサキュバスに見て貰っていた。

 医者のサキュバスが魔法を使って栄養剤を霧状にして、寝ている獣人の娘に染み渡らせる。

「これで、ある程度は回復する筈です。相当に疲労していましたよ」

 

 隣にはスタンクが立っている。

「そうか」

 

 医者のサキュバスは処置を終えて

「じゃあ、後は、通常通り…食事を与えても問題ありませんので」

と、告げて帰って言った。

 

 スタンクは、ベッドに寝ている獣人の娘を見て

「まさか、追い出されたのか? いや…ネイアは、そんなドジはしないか…」

と、獣人の娘の名前を呟く。

 

 獣人の娘ネイアは目を覚ますと、スタンクが

「お、目を覚ましたか?」

 

 ネイアがスタンクを見て

「スタンクお坊ちゃま…」

 

 スタンクは頷き

「やっぱり、ネイアか…」

 

 ネイアが

「坊ちゃま…やっと見つけた…」

 

 コンコンとドアがノックされ

「入ってもいいか?」

 ネオの声がドア向こうでした。

 

 スタンクが

「ああ…大丈夫だ」

 

 ネオがドアを開けて入ると

「ああ…意識が戻ったんだな…で」

と、スタンクを見る。

 

 スタンクは

「確かにオレの知り合いだ」

 

 ネオもスタンクの隣に並び

「どうして、あんな所で生き倒れていた?」

と、ネイアに尋ねる。

 

 ネイアがスタンクを見詰めて

「スタンク坊ちゃま! シルビアが…」

 

 それを聞いたスタンクは、ドアを乱暴に開け放ち出て行く。

 早く行かなければ…そう、彼女が、シルキーの彼女、初恋の妖精族シルキーの彼女が…迎えに行くと約束したシルビアが

 

「待て!」 

とネオが右腕のナノマシン端子からアームを伸ばしてスタンクの襟首を掴んで止める。

 

「何だよ!」

と、スタンクが乱暴にアームを外そうとする。

 

 ネオが来て

「スタンク、冷静になれ…。目的の場所までは、エンテイスの大型船を使っても一週間以上は掛かるぞ!」

 

 スタンクがアームを外してネオの襟を掴み

「じゃあ、黙って何もするな!って言うのかよ!」

 

 ネオが襟を掴んだ手を離させ

「落ち着け、私のネオデウスの装備の一つを使えば…数分で到着する」

 

 スタンクが驚きを向け

「良いのか?」

 

 ネオが頷き

「多少の袖も縁だ。つき合ってやる」

 

 こうして、ネオはネオデウスの超光速戦闘機形態に変貌し、スタンクを乗せて、スタンクの実家がある屋敷へ向かった。

 

 あっという間に大地が置き去りになる早さの中でスタンクは

「シルビア…ちきしょう。オレは…」

 今まで自分がやって来た事を悔いる。

 何が迎えに行くだ? 遊んでばかりだったじゃあないか!

 

 数分後、ネオのネオデウス超光速戦闘機は、スタンクの実家である剣の館邸に到着した。

スタンクの実家は、有名な剣術家を輩出する名家だった。

 

 剣の館のグランドで訓練する男女混合の弟子達が、突如出現したネオの超光速戦闘機を見上げて驚いていると、そのグランドに超光速戦闘機が着地して、コクピットからスタンクが飛び降りた。

 

「邪魔するぜ」

と、スタンクが剣の館の主がいる屋敷へ走って行った。

 

 スタンクは、主の屋敷へ向かいドアをノックする事無く、実家へ入り

「シルビアーーー」

と、シルビアを探す。

 

 そこへ女中の一人が

「スタンク坊ちゃま!」

 獣人のネイアの双子の妹のナイアがスタンクを見つけて

「よかった。ネイア姉さんは間に合ったんですね」

 

 スタンクが

「ナイア。悪いが…シルビアは…」

 

 ナイアは「こっちです」とシルビアがいる部屋へスタンクを導く。

 

 スタンクは、部屋のドアを開けて「シルビア!」と叫ぶそこには、ベッドに寝かされ虚ろなシルキーの妖精…シルビアがいた。

 

 妖精の最後、それは…硬化していく。

 妖精は数百年の長寿を誇る。その最後は、全身が硬化して石になり砕けて終わる。

 妖精の終わりは儚く美しいとされる。

 

 スタンクがシルビアのベッドに近づき

「シルビア、シルビア!」

と、シルビアを抱き上げる。

 

 シルビアが嬉しそうに微笑み

「また、スタンクお坊ちゃまと会えるなんて…もう、思い残す事はありません」

 

 スタンクは抱きしめたシルビアの所々に、妖精の死が近づく硬化を感じた。

 

 スタンクがシルビアを抱きしめながら

「すまねぇ…オレは、オレは…」

 

 シルビアは、硬化している右手でスタンクを撫でて

「良いんですよ。もう…良いのですから」

 

 再び出会っている二人に

「何をしている!」

と、重く鋭い声が響く。

 スタンクを一回り大きくして厳ついようにさせた壮年の男性がいた。

 

 スタンクが父を見て

「親父…」

 

 スタンクの父親が

「愚か者が! キサマにはここを二度と跨がせないと、言ったはずだ」

 

 

 スタンクは以前、父親とケンカして出て行った。

 その理由は、このシルキーの妖精族の彼女シルビアを妻にするとして、両親とケンカになった。

 スタンクは、幼い頃から、剣の才能に溢れ、血族に伝わるエレメンタリーソードの力も5つの属性を持つ程の逸材中の逸材だった。

 だが、両親はシルキーの彼女シルビアとの婚姻を認めなかった。

 スタンクとシルビアは、共に想い合っていた。

 だが、シルビアはスタンクの事情を知っていたので、スタンクの一時の擬似的な恋人であろうとした。

 いずれ、スタンクが迎えるであろう本妻の為の練習相手だと。

 だが、スタンクは違った。

 本気でシルビアを愛していた。

 父親とケンカするまでに。

 そして、親から勘当されて、何時かシルビアを迎えに行く為に、資金を集めて貯めていた。

 シルキーという妖精は、屋敷に宿る妖精、座敷童に近い存在だ。

 宿る妖精を持って行くのには、それ相応の儀式が必要だ。

 その儀式の費用なんて大した事ではない。

 だが、その宿っていた屋敷と同格かそれ以上の屋敷でないと、移動が出来ない。

 剣の館は、数百年の歴史を持つ屋敷だ。

 そんなレアな屋敷は、とんでもない値段がする。

 そもそも、数百年の歴史がある邸宅なんて、王族か大貴族の領主くらいでしか持っていない。

 新品で同じ規模の屋敷では、意味が無いのだ。

 

 スタンクは、半ば…諦めている所もあったが…それでも…と。

 

 そして、シルキーのシルビアは、寿命を迎えていた。

 それを伝える為にネイアがスタンクを探し、食酒亭に来て、ドラグ・アース帝国にいると知って、有り金全てを叩いて来た。

 

 その結果、スタンクに辿り着いた。 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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思い出の彼女 その二

スタンクは、迎えに行くとした彼女を…


 スタンクは、ベッドで横になる妖精シルキーのシルビアの手を握りしめ

「すまねぇ…オレは…オレは…」

 

 シルビアは、スタンクの顔を撫で

「良いんですよ。スタンク坊ちゃま…」

と、あの細く柔らかい指先で撫でて微笑む。

 

 スタンクは立ち上がり

「親父」

と、後ろに腕を組み鋭い顔をする父親を見て

「シルビアを連れて行く」

 

 スタンクの父親は、フンと鼻息を荒げ

「どこへ? シルビアが宿れる邸宅は見つかったのか!」

 

 スタンクが「う…」と苦しそうな顔をする。

 

 スタンクの父親は

「お前のその無鉄砲で無策な所は、変わっていないなぁ…」

 呆れている。

 

 スタンクが

「何とかする! だから」

 

 スタンクの父親は頭を抱えて

「何とも出来ないだろう!」

 

 と、話している二人の後ろでネオは、ナイアから状況説明を聞いて

「なるほど…」

 頷いた次に、右腕のナノマシン端末から通信アームを取り出し

「あ、陛下…」

と、ロンバルディア皇帝と話をする。

 

 

 スタンクの父親が

「帰れ! お前の出来る事はない!」

 

 スタンクが父親に

「てめぇーーーー」

と、殴り掛かる寸前にネオが

「はいはい。ストップ」

と、間に入り

「スタンク…陛下から…」

 通信アームをスタンクに向ける。

 

 通信アームからロンバルディア皇帝が

「事情は、ネオから聞いた。スタンクよ。コレは提案だ。そのシルキーの妖精を我が皇帝城に宿らせるのはどうだ?」

 

 スタンクが通信アームを握り

「どういう事だ…」

 

 通信のロンバルディア皇帝が

「要するに、キサマに恩を売るという事だ。そのシルキーの妖精との最後の日々を我が皇帝城で向かわせてやる」

 

 スタンクがニヤリと笑み

「つまり、その恩に報いる事を後々にさせるってか…」

 

 通信のロンバルディア皇帝が

「悪い取引ではないだろう?」

 

 スタンクの父親が通信に

「キサマは、何者だ!」

 

 通信のロンバルディア皇帝が

「我の名は、ディオス・ドラグアース・ロンバルディア。ドラグアース帝国の皇帝をやっている者だ。その通信機を繋いでいる男は、我の一族の者にして、我が帝国の海運財閥エンテイスの会長にして、我の最も信頼厚い男、ネオ・サーペイント・バハムートだ」

 

 スタンクの父親が驚きをネオに向け

「まさか…エルデトの英雄…」

 

 ネオは「え?」と首を傾げる。

 なんでそんな、あだ名が付いているのか…分からなかった。

 

 スタンクが

「親父、これでいいよなぁ…」

 

 スタンクの父親はシルビアを見る。

 シルビアは、スタンクの父親に微笑み

「旦那さま、今まで、ありがとうございました」

と、告げる。

 

 スタンクの父親にとって、シルビアは家族で、姉のような存在だ。

 小さい頃に、シルビアと遊んで姉のように優しくして貰った。

 そんなシルビアが望むのだ。

 最後は…。

「勝手にしろ」

と、告げて去って行った。

 

 スタンクが「やったーーーー」と喜び勇む。

 

 ネオは、少し渋い顔をする。

 

 スタンクが

「おい、早くやろうぜ!」

と、ネオに催促する。

 

 ネオは頷き「分かった」と…。

 

 こうして、シルビアは、スタンクと共にドラグ・アース帝国の皇帝城へ来る事になった。

 

 

 シルキーという妖精の移動に必要な儀式は、そんな大変な事ではない。

 術師が来て、屋敷内にあるシルキーの核となっている存在を探す。

 

 術師がダウジングや、水晶の振り子で、シルビアの妖精の核を探すと、それは屋敷の屋根裏の奥に仕舞われた木彫りの人形だった。

 珍しい事ではない。

 人と関わる妖精の核は、その屋敷で最も古い品に宿る。

 この木彫りの人形は、屋敷の守りを念じた品である。

 なので、最も屋敷の力が集まりやすい、屋敷の中心の天井に隠されていた。

 

 まずは、術師がそれを屋敷と切り離す術を掛けて、次に新たな守りの木彫り人形を置いて、屋敷の中心の力がそこへ流れるようにすると、特別な魔法素材と紋様が編み込まれた布で、シルキーであるシルビアの核となる木彫りの守り人形を包み

「これで、屋敷から移動できますが…。一週間以内にお願いしますよ。後は、その移動した屋敷で、その地区にいる術師に…」

と、シルビアの核を収めた布をスタンクに渡す。

「分かっている」

 

 スタンクは、その核を収めた布を大事に懐に入れて

「さあ、シルビア…行こう」

と、シルビアをシーツに来るんで抱える。

 

 シルビアが微笑み

「はい、スタンク坊ちゃま…」

 

 スタンクが

「もう、坊ちゃまは止めてくれ」

 

 シルビアが頷き

「はい、旦那様」

 

 こうして、スタンクとシルビアは、ネオが変形した輸送宇宙艇に乗って、ドラグ・アース帝国へ向かった。

 

 一瞬で遠くなるネオの変形した輸送宇宙艇をスタンクの父親と母親が見詰め、母親が

「もう、あの子は帰って来ませんね」

 

 スタンクの父親は

「そうだな…」

 

 その一言には寂しさがあった。

 スタンクの父親は、スタンクを離縁したが、スタンクがどのようになっているのか?は逐次に調べていた。

 スタンクは、スタンクの一族の付いているエルフのゼルのお陰でメキメキと冒険者として頭角を現した。それは、バカなサキュ嬢レビュアーというのでも知っていたが。

 スタンクは、そのアホらしい有名でさえ、名声に変える程の冒険者の功績を打ち立てていた。

 攻略不能なダンジョンや、未開の地とのルート開拓、レアアイテムの発掘。

 そして、エルデト病の時の事。

 それを書類で見て、思わず父親はホホが緩んでしまった。

 息子は、しっかりと名声を高めていると…。

 だからこそ、もしかしたら…シルビアを迎えに来られるかもしれないと…。

 

 そのスタンクの名声は、シルビアに届いていた。

 シルビアも嬉しかった。

 

 だが、運命は無情にも、シルビアに寿命の終わりを与えた。

 実は、スタンクに知らせる為の使者ネイアの旅費も出したのも父親だった。

 

 そして、スタンクは来た。

 とんでもない英雄と、その英雄の主である巨大な龍の帝国の皇帝とも繋がりがあった。

 

 父親は「はぁ…」と羨ましい溜息をした。

 自分が冒険者として飛び出た時には、精々、大貴族の当主と顔合わせしたのが限界だった。

 

 スタンクは、エロも名声に変える程に、冒険者として出世していたのだから…。

 

 もう一人、スタンクの帰りを楽しみにしていた者がいた。

「兄さんが帰って来たって! ホントーーーーー」

 スタンクの弟だ。

 弟もスタンクの活躍を見聞きしている。

 五年前に出て行った兄の活躍を聞く度に、自分の事のように誇らしかった。

 だから、何時か…兄を追って冒険者になろうと…。

 

 父親が

「もう、行ってしまったよ」

 

 弟は「そんな…」と残念そうだ。

 

 母親が

「何時かきっと会えますよ」

 

 スタンクは、帰ってくるつもりなど、毛頭にない。

 だが、ここにはスタンクの帰りを待っている者達がいる。

 そして、父親は…どうして、あんな事を言ってしまったのだろうか…と悩んでしまう。

 考えれば、別にそんなツラい事を言う必要は無かったのだ。

「まだまだ、修行が足りないな」

 自分もまた、自分を律する事が出来ない程に愚かだ…と。

 

 

 

 スタンク達を乗せたネオの輸送宇宙艇は、数分後にドラグ・アース帝国の皇帝城に到着すると、ロンバルディア皇帝の手配によって、術師が用意されていた。

 

 ネオは、スタンク達を下ろすと、直ぐに術師がシルビアの核を皇帝城と一致させる儀式を始めた。

 

 ネオは、変形を戻している間に、術師はシルビアの核を設置する皇帝城の中心に来る。

 

 皇帝城の中心は、巨大な竜の石像だ。

 見上げる程の竜の石像の足下には、何かを収める石の引き戸があり、そこを術師が開けると、持って来たシルビアの核を置いて、皇帝城と繋げる術を施した。

 

 ネオがそれを見ていると、後ろに同じ妖精シルキーの者達が来て

「これで彼女は、ここで生きられますが…」

 

 ネオが

「寿命は…」

 

 シルキーの者達は暗い顔をして

「それは、残念ですが…」

 

 ネオは頷いて

「そうか…」

 

 シルビアは、この皇帝城に宿ったが…寿命までは…。

 

 スタンクは、自分達の為に用意された部屋に来る。

 五部屋が二階にも及ぶ、家族が暮らせる程の城内住居に来て、何かも日用品が揃った住居内のベッドにシルビアを寝かせる。

 

 シルビアが微笑み

「旦那様…ありがとうございます」

 

 スタンクはシルビアのホホの撫で

「オレこそ、悪かった。散々待たせて、すまなかった」

 

 シルビアは涙して微笑み

「もう、私は思い残す事はありません」

 

 スタンクも涙して

「これからだろう。だから…だから…」

 

 シルビアがスタンクを抱きしめ

「旦那様…私、今、一番に幸せです」

 

 

 スタンクとシルビアの為に用意された住居の扉の両脇に、ロンバルディア皇帝と、大魔導戦士ディオが

「陛下、相変わらずウソが下手ですなぁ…」

 

 ロンバルディア皇帝が

「恩を売るのは間違いない」

 

 大魔導士戦士ディオがフッと笑み

「その恩、いつ返させるのですか?」

 

 ロンバルディア皇帝が

「何時かだ」

 

 大魔導士戦士ディオが笑みながら

「私も、皆も、陛下のそういう甘い所は嫌いではありませんよ」

 

 ロンバルディア皇帝が上を見上げ

「苛烈な判断ばかりすると、その倍も甘い事をしたくなる。皆には迷惑を掛けてすまん」

 

 大魔導士戦士ディオが肩をすくめて笑み

「言ったでしょう。陛下のそういう所、皆は好きなんですよ」

 

 フッとロンバルディア皇帝は鼻で笑った後、ノックして部屋に入り、スタンクに

「ここでの生活は保障する。好きなだけ、そばに居てやれ」

と、告げて去って行くと、スタンクがその背に

「すまねぇ。恩に着る」

 

 ロンバルディア皇帝が

「気にするな、何時か、返して貰うだけだ」

 

 

 スタンクとシルビアの短い生活が始まった。

 

 ネオから事情を聞いたゼルやクリム、ゼルは

「そうか…」

 

 クリムが

「スタンクさん。そんな事が…」

 

 ネオが

「二人はどうする?」

 

 ゼルが

「カンチャルとブルーズは、先に帰るそうだ。クリムも戻っていいぞ」

 

 クリムが心配げに

「え、でも…スタンクさん達の事が」

 

 ゼルが

「オレが見て置いてやる。それに…二人だけの方が良いだろう」

 

 クリムは、どうしようと困っていると、そこへカンチャルとブルーズが来て、カンチャルが

「クリム、オレ達と帰って置こう」

 

 ブルーズが

「二人だけの方がいい」

 

 クリムが頷き

「分かりました」

 

 こうして、先行してカンチャル、ブルーズ、クリムの三人は帰還した。

 

 ゼルは、スタンクとシルビアがいる居住区に来て

「よう、シルビア」

と、声を掛けた。

 

 シルビアが微笑み

「久しぶりですね。ゼル・ティオルズ」

 

 ゼルは肩をすくめて

「くすぐったいぜ。その名前…」

 

 スタンクがシルビアのいるベッドの隣に座っていて

「あまり、ムリはさせるなよ」

 

 ゼルは

「ちょっと話をするだけさ」

と、これまでのスタンクとの冒険の話を聞かせた。

 勇ましい事、恥ずかしい事、言って欲しくない事、洗いざらい笑えるようにゼルは話して、途中でスタンクが「止めろ!」って怒るくらい話した。

 

 そして、夜、スタンクとシルビアだけでベッドを共にする。

 この居住区の凄い所は、照明は全て間接照明で、天井が夜の空を映す仕様だ。

 豪勢を通り越して凄すぎると思う程だ。

 

 シルビアが「アナタ」とスタンクを求める。

 

 スタンクが「ムリは良くない」と…。

 

 シルビアが

「大切なアナタの温もりを感じて眠りたい」

 

 スタンクは、サキュ嬢にするではなく。

 ホントに大切に大切にするようにシルビアを抱く。

 

 シルビアの滑るように柔らかい肌を味わい、ゆっくりと静かに深く、シルビアと体を重ね合わせる。

 何度、抱いたのだろうか…。

 どんなにサキュ嬢を抱いても、この温もりだけは忘れた事はなかった。

 そして、残酷な事実を知る。

 シルビアの背中に固い石化している部分があるのが分かった。

 

 スタンクは泣いてしまう。

 それをシルビアが拭って抱きしめる。

 二人はゆっくりと確実にお互いの温もりを交わして、忘れまいと刻みつける。

 

 だが、そんな愛を交わす二人に残酷な別れは近づいていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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思い出の彼女 その三

スタンクとシルビア、その…


 スタンクは、シルビアの腰を持ち歩けないシルビアと共にロンバルディア皇帝の皇帝城内を歩く。

 皇帝城はキロメートル単位の巨大な城なので、散歩を楽しむのに困らない。

 

 スタンクが、シルビアを乗せた車イスを押して

「どうだ? 調子は?」

 

 シルビアは微笑み

「ありがとうございます旦那様。とても良い気分です」

 

 スタンクは嬉しそうに

「そうか…良かった」

と、告げるも、シルビアが来ているドレスの袖には、死が近づく硬化の後が見える。

 

 シルビアは、自身の能力で服を構築できない程に弱っていた。

 

 スタンクが頭を振って

「向こうにも行ってみよう」

 

「はい」とシルビアは微笑み幸せを噛みしめていた。

 

 

 その頃、ネオは、海上にある海運財団の都市エンテイスに戻って、その地下施設でとある研究をしていた。

 シルキーのシルビアの一部、髪の毛を貰って、それが延命する実験をしていた。

 ナノマシンで、シルビアの髪である銀髪を調べ、その組成を研究してなんとか延命方法を探す。

 

 ネオは頭を抱える。

 この世界の住人は、ほとんどが炭素ベースだ。それはネオの世界と同じだが…極少数に妖精や、精霊といった炭素ベースではない存在達がいる。

 その者達の組成は光と波動の塊、つまり、とあるエヴァの使徒のようなのだ。

 光と波動、エネルギーで構築されている生命…。

 そんな存在は、ネオの世界にはいなかった。

 

 全くの未知だ。

 

 なので、このデータを本国へ転送した。

 

 そして、数時間後…。

 出て来たのは、DIマンティスネオだった。

 立体映像のDIマンティスネオが

「やあ、久しぶりだね」

 

 ネオが

「さっそくだが…首尾は?」

 

 DIマンティスネオは渋い顔をして

「残念だが…我々の世界にこのような生命体は存在しない。故に、対処は不可能だ」

 

 ネオは苦しそうに額を掻き上げ

「そうか…」

 

 DIマンティスネオが

「ナノマシンで組成を置換したとしても…その通りになるとは限らない。では、記憶や人格と情報体化して存続させれば…という話だが…。残念ながら不可能だ」

 

 ネオが

「情報体化するには、受精卵の段階からずっと、情報ネットワークに接続して、リアルとデジタルで、二つの肉体を持つしかない」

 

 DIマンティスネオが

「一応、記憶と人格の転写をしてそれらしく見せる事は、可能だが…。それは所詮、ただの影。命ではない。情報だ」

 

 ネオが天井を見上げて

「驕っていたよ。オレ達は宇宙まで開発する文明だ。何とかなると思っていた所があったが…完敗だよ」

 

 DIマンティスネオが

「我々は神ではない。万能でもない。どんな存在にも限界がある。その限界を直視して、お互いの限界を合わせて、新しい限界を突破するが、次の限界が出現する。この世に完璧なんて存在しないのだよ」

 

 ネオが

「今の段階でやれる事は?」

 

 DIマンティスネオが首を横に振って

「これ以上はない」

 

 ネオは頷き

「そうか…分かった」

と、研究施設を後にした。

 

 出口では、バサラが待っていた。

「お帰りアンタ」

 

 ネオが俯き加減で

「弱音を吐いていいか?」

 

 バサラが頷くと、ネオは「何も出来なかった」と…漏らした。

 

 俯くネオをバサラは抱きしめてくれた。

 

 

 日に日に、シルビアは悪化していく。

 全身が硬化して、誰かの手を借りないと動けない程になった。

 それをするにはスタンクだ。

 スタンクは24時間、ずっとシルビアの看護を続ける。

 

「ほら、シルビア」

と、スタンクは、起こしたシルビアの口に料理を運ぶ。

 

 シルビアは微笑み

「あ…り…が…と…」

 もう、声さえ放つ力がない。

 

 スタンクが微笑み

「良いんだよ。オレが悪かったんだからよ。何時までもシルビアを待たせて…本当に…どうしようもない」

 そう、自分が今まで手をこまねいていた事、堕落して待たせてしまった事に、後悔が沸き起こる。

 

 どうして、もっと真剣にやらなかったんだ!

 そう攻める自分の声が聞こえた。

 

 それが聞こえてスタンクが思わず涙すると、その涙を伝うホホをシルビアが、動きにくい右手で拭って、スタンクのホホを撫でて微笑み、そして

「あ…り…が…と…」

 

 スタンクが涙を零して

「オレは、シルビアに感謝される事なんて無いんだよ。オレこそ、本当に今まで待たせて、本当にごめんな」

 

 スタンクは、シルビアに抱きつき謝り続け、シルビアはスタンクの後頭部をポンポンと優しく撫でてくれた。

 

 

 シルビアが皇帝城に来て一ヶ月、もう、シルビアの全身が硬化して動かせる事が不可能になった。

 

 もう少しでシルビアの命が尽きようとしている、そこで、ベッドに眠るシルビアの手をスタンクが縋るように握り

「シルビア、シルビア」

と、涙していた。

 

 喋る事も動く事も出来ないシルビア。

 

 そこへネオが来て

「スタンク、これを使えば…シルビアと脳内通話できるかもしれん」

と、脳内通信用ナノマシンデバイスを持って来た。

 

 通信用ナノマシンをシルビアとスタンクに打って、即座に通信が始まった。

 

”シルビア! 聞こえるか?”

 

”ああ…聞こえます。ああ…こうなってもアナタと会話できるなんて、嬉しい。私は幸せ者です”

 

”頼む、死なないでくれ。オレは…オレは…お前がいないと…”

 

”アナタ…迎えに来てくれて嬉しかったです。わたくしは、遠くでもアナタの話を聞いたりして、本当に我が身のように嬉しかった。私との約束を果たすために必死に頑張っている。本当に嬉しかったです”

 

”違う、違うんだよ。オレは…適当に言い訳してサボっていた。本当なら、もっと早くに…迎えにいけたんだ。なのに、なのに、オレは…”

 

”良いんですよ。難しい事は、私も分かっていましたから…”

 

”シルビア…お願いだ。生きてくれ、どんな形でもいい。生きてくれ…頼む”

 

”アナタ…私は…もう、十分に幸せにして貰えました。だから、アナタも、スタンク様も幸せになってください”

 

”バカ野郎! そんな事を言うな!”

 

”本当に、最後に…アナタと…一緒になれて…幸せ…で…し…た…”

 

 シルビアの硬化が最終まで達した。

 シルビアの全身は、綺麗な結晶に変貌して砕けて崩れた。

 

「うあああああああああ」

 スタンクは泣き叫び、砕けたシルビアの破片を必死に掻き集めてしまう。

 だが、掻き集めれば集める程、結晶は砕けていって、砂のようになってしまう。

 

「ぐそおおおおおおおおおお」

と、スタンクはシルビアだった結晶砂を握り締めて泣いた。

 

 

 その後、粛々とシルビアの葬儀が行われて、スタンクは終始、泣き叫び、それをゼルやネオが押さえて、進んでいった。

 

 皇帝城のシルビアと共に過ごした部屋で、虚無のように膝を抱えるスタンク。

 そこへ、ロンバルディア皇帝が来て

「預かっていたモノがある」

と、結晶投影機をスタンクに渡す。

 

 スタンクが、その結晶投影機のスイッチを入れると、そこにはシルビアが映っていた。

 ベッドにいるシルビアが微笑み

「旦那様、いえ、アナタ…本当に迎えに来てくれて、ありがとうございます。

 これがアナタに渡っている時は、わたくしは、この世にいないでしょう。

 ですから…」

と、告げるシルビアが涙して

「でも、やっぱり、死にたくない。やっとアナタと暮らせると思ったら…もっと生きていたい。もっと、アナタと過ごして、これから…もっともっと…」

と、涙で崩れるシルビアに、ネオの妻達ティアマとレティマ、アマティアが来て、その背中を撫でる。

 三人は身重なのに、シルビアの為に頑張ってくれている。

 

 泣くのが落ち着いたシルビアが

「でも、アナタを思うと…わたくしは…アナタに幸せになって欲しい。だから、アナタ…わたくしがいなくなっても、幸せになってください。約束してください。必ず幸せになるって」

と、指切りの小指を向ける。

 

 それは、かつてスタンクが幼い事に、つまみ食いをして、怒られた時にしてくれた、やさしいチョップのようだった。

 

 スタンクは、ボロボロと涙を零してしまう。

 死んでも自分の幸せを願ってくれるシルビアに。

 

 映像のシルビアが

「じゃあ、わたくしは、天国でアナタが幸せになるのを見守っていますから…」

と、微笑んで終わってくれた。

 

 スタンクは、涙を零している部屋で、不意にベッドの下に何かを見つける。

 

 それは、シルビアに昔、渡した木彫りの指輪だった。

 若い自分がシルビアに約束として渡した婚約指輪、シルビアがいたベッドの下に転がっていた。

 そう…シルビアは亡くなって砕ける寸前まで、この木彫りの指輪を大事にしてくれていた。

 それをスタンクは握りしめ

「シルビア、シルビア」

と、名前を呼び続けて泣いた。

 

 

 その声をドア向こうで、ゼルが静かに聞いていた。

 

 三日後…。

「じゃあ、戻るか!」

と、スタンク。

「おう」

と、頷くゼル。

 

 皇帝城から去る二人に、ロンバルディア皇帝が

「行くのか?」

 

 スタンクが頷き

「オレ等は、所詮、気ままな冒険者。それだけさ」

 

 ロンバルディア皇帝が

「ここには、シルビアの核だったモノが置かれている。再び、シルビアと似たシルキーが復活するかもしれんぞ」

 

 ゼルが

「引き抜きかい?」

 

 ロンバルディア皇帝が

「私は、優秀な人材が大好きだ。私の手元に幾つも置いておきたい」

 

 スタンクが背を向け

「悪いな。それはもう…シルビアじゃあねぇ」

 

 ロンバルディア皇帝が「ふん…」と溜息を吐き

「そうか。では、何時か借りを返す事を期待しよう」

 

 スタンクが左手を上げて

「おう、何かあったら気軽に言ってくれ」

と、告げて歩く。

 スタンクの左手の薬指には、あのシルビアが大事にしていた木彫りの指輪が填まっていた。

 

 ネオが正面の門から戻ってくる時に、スタンク達と交差する。

 スタンクが

「悪いな。色々と世話になった。この借りは必ず返すぜ」

 

 ネオが腕を組み

「むかし、とある男から言われた事がある。ライアーってヤツでな。システム装甲体(デウスマギウス)っていうのと融合している変な研究技術者でな。こんな事を言っていた。

 世界は、絶対に忘れない…と。

 どんなに人知れず亡くなる存在があっても、それは世界が憶えている…と。

 全ては無にならない。

 だから、自分の全てを受け止めて前に進めばいいってな」

 

 スタンクは笑み

「慰めてくれてんのか?」

 

 ネオが頷き

「ああ…」

 

 スタンクが腕を回してネオを掴み

「ありがとうな。でも、大丈夫だ。オレはオレの全てを抱えて前に進むさ」

と、贈ってゼルと共に皇帝城を後にした。

 

 ネオはそれを晴れやかな顔で見送った。

 そう、見送った。清々しく見送ったのに…。

 

 一ヶ月後

 帝都にとあるリリスガールレビューが届く。

 スタンク達のサキュ嬢レビューだった。

 

 ネオは、その記事を皇帝城のテラスで見詰めて額を抱えた。

 成長したんじゃあないのか?

 

 スタンクは、この悲しみを受け止めて、ハッスルして元気よく生きていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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ネオの好奇心

ネオの日々は忙しい、やっと竜族の妻達から子供が生まれて、父親として育休を取ろうにも…


 ネオは、獅子食亭にて掲示板に張られた情報張り紙のコピーを見ていた。

 テーブルに座り、張り出されている依頼や、様々な珍しい薬草や鉱物、モンスターの情報といった張り紙を見て、とある事を思い出す。

 

 ネオが会長である海運財閥、エンテイスの海上都市でDIメイドランと話していた時だ。

 

 海上都市エンテイス…その実体は、ネオがいた宇宙級超技術文明が作った最大幅30キロの超巨大宇宙戦艦をベースにした人工島である。

 このエンテイスの目的は、各地区と海運交流をしながら、この世界に満ちている異種族達の遺伝情報を収集して、ネオの本国である時空、宇宙級超技術文明に送る事だ。

 

 この世界の異種族達の遺伝情報を集積させ解析させた中で、人工知性体のDIメイドランが

「この世界では、共通の遺伝情報らしき部位は、確かに各種族に存在しますが…。それが元型、アーキタイプではありません」

 

 ネオがそれを聞いて鋭い顔をして

「つまり…進化の系譜、進化の樹のように始まりの単細胞から多種多様な生命に分岐したのではなく…」

 

 DIメイドランが

「信じられませんが。原初の初期生命が違う者達が、同時に存在して、それが系譜に分かれて、その分かれた者達が交わり、様々な異種族の群体を形成していると…」

 

 ネオが顎に手を置き

「そんな事が可能なのか? 惑星環境から生まれる生命は、その元を辿れば同じ祖先に到達するはず…。つまり、その共通の祖先がなく、更にバラバラな祖先達がいて、そのバラバラな祖先であっても、交配が可能…」

 

 DIメイドランが

「我々、天の川銀河連合では想像も出来ない程の不可思議な生命の成り立ちをしています」

 

 ネオは額を抱える。

 自分達の世界では、惑星環境から始まった種は、必ずその惑星が生み出した共通の祖先が始まりである。

 惑星が違えばその共通の祖先が違うのは当たり前であり、そして…その祖先が違うので遺伝的親和性がない。故に、違う惑星の知的種が交配するには、お互いに共通化させる遺伝子改造が必要なのだ。

 だが、この世界は…その共通化の遺伝子改変が無くても、遺伝子を混合させハイブリットを生み出す。

 自分達が持っている遺伝子の定説が狂いそうだ。

 

 DIメイドランが

「もしかして…なんらかの触媒か、システムを使って」

 

 ネオが

「その形跡はあったのか?」

 

 DIメイドランが

「その…ありませんでした。全く違う知的種同士が、何も処置されないで、交配している。そんな異常な常識で、この世界の異種族の多様性が成り立っています」

 

 ネオが額をコツコツと小突きながら、思い返す。

 この宇宙で、惑星外から来訪者、ユグドラシル族が来た時に、フラスパ教会のスレイプニルが、ユグドラシル族と会話した瞬間、ユグドラシル族が焦り態度を変えた。

 何が…この世界の深い部分にあって、この現状を作り出している。

 

 ネオが様々に思考して、仮説や仮定を想定する。

 確証は乏しい、だが…もっと色々と調べるべきだろう。

 

 

 そして、今…ネオは獅子食亭にて次の仕事を選びつつ情報を収集している。

 テーブルに座り、真面目な依頼書や掲示板の情報ペーパーを真剣に見るネオの姿には、かっこよさが見える。

 事実、ネオはここに来てから成果を上げている。

 冒険者の仲間内では、ネオの事を探求者とか、極限の冒険者と囁いている。

 ネオは、前人未踏の嘆きの壁という飛んでも地域を踏破した唯一であり、そして…余り表には出さないが…このドラグアース帝国で海運を担う海運財閥の会長でもあり、別の隣国では、パンデミック寸前だったエルデト病を私財をなげうってまで防いだエルデトの英雄とまで言われている。

 

 ネオに来る依頼は、多くが未知の地域にあるとされる薬草や鉱物、生物の調査とサンプル採取で、時々にドラグアース帝国の皇帝ロンバルディアからの依頼をこなし、嘆きの壁の向こうである極限地帯の踏破研究も行っている。

 

 ドラグアース帝国では、ロンバルディア皇帝の血族に当たる竜族の娘達三人を妻にして、更にドラグアース帝国に匹敵する皇国、ヤマト皇国から鬼神族という桁違いに強い種族の女性を妻にして、四人の妻を持つ一夫多妻である。

 

 そして、竜族の妻達から、竜族は男児が産まれ難いのに、三人の妻達からネオデウスのマキナの自分と竜族のハーフの男児達が誕生して、更に鬼神族の妻がそれと同時に妊娠するという。

 アッチの強さでも有名である。

 

 ネオは、懐から写真を取り出す。

 三人の竜族の妻達ティアマ、レティマ、アマティアが、ネオの赤ちゃん達を抱えて、その隣にニヤリと笑う鬼神族の妻バサラが妊娠するお腹を摩っている場景。

 

 ネオは「はぁ…」と深い溜息を吐く。

 本当は、三人の妻達の為に半年以上の育休を申し出たのに、全方向から断られた。

 なんでも、ネオをメインとした様々な事があるらしく、半年以上も休まれては困ると…。

 

 ネオは妻達と赤ちゃん達の写真を見て、人族形態の竜族のハーフの我が子を見ると、我が子達の腕に、ネオと同じくネオデウスのナノマシン端子が広がっているが見える。

 10000% 間違いなく自分の子だ。

 

 ネオにとっても初のネオデウスを持つ子供達の誕生だ。

 正直…仕事とか二の次にして子供達の養育に力を入れたいのに…現状がネオを必要としているので、どうにもならない。

 

 じゃあ、妻達は?

 不満がない、むしろ、夫が必要とされているのを理解しているので子供はチャンと育てるから、仕事を頑張って…と押された。

 

 実際、妻達は何度もネオが持ち帰った貴重なサンプル情報をネオと共に書籍化する作業を手伝っていた。

 ネオが書籍化した貴重サンプル書籍達は、ドラグアース帝国の各業界で必須本になる程の人気で、それは国外にも波及している。

 

 ドラグアース帝国でも諸外国でも、貴重なサンプル情報を書籍化するネオ・サーペイント・バハムートの名は鳴り響いている。

 

 そんな凄い男を引き抜きたいと諸外国が動くも、あの貴重人材マニアのロンバルディア皇帝が目を光らせているので、ムリである。

 

 まあ、ネオ自身も他にフラフラするつもりもない。

 

 とは言うものの「はぁ……」と溜息を吐くネオに

「どうしたんですか? ネオさん」

と、翼人族の看板娘ケニーが来た。

 

 ネオは額を抱えながら

「仕事半分、育児半分でやっていきたい」

 

 ケニーがハッとして

「ああ…お子さんが…」

 

 ネオが額を抱えながら

「ああ…三人も、しかも男の子で、自分のネオデウス…マキナ族の因子を受け継いでいる。一応は、暴走しないように制御するナノマシン…いや、術を掛けているが…やはり、心配だ」

 

 ケニーが微妙な顔をして

「そのお気持ちは分かりますが…ネオさんがいないと…出来ない仕事が多いですから。これなんて…」

と、一枚を示す。

 それは嘆きの壁の向こうから来る川の源流調査である。

 この川から嘆きの壁の向こうにあるオリハルコンの原料アダマンタイトの砂粒が、この川を通じて流れてくるので、その調査やら、雪深い山脈で未知の巨大なモンスターが出現してそれの調査とサンプル取りとか、山深い奥地にあるとされる貴重薬草の採取やら。

 ネオでしか出来ない探求調査の依頼が毎日のように舞い込んでいる。

 

 ネオが項垂れて

「ワーカーホリックになって死んでしまう」

 

 ケニーが苦笑いで

「ネオさんの子供達が成長すれば…きっと手伝ってくれますから…」

と、告げた次にハッとして

「じゃあ、ネオさんの持っているその…ネオ何とを誰かに分け与えて同じ仲間を増やすとか!」

 

 ネオがフッと笑み

「そんな事が可能ならとっくにやっているよ。本当にこのネオデウスの力は厄介だ。適正者でない者に、ネオデウスのナノマシンを与えた瞬間、暴走して殺す。実際、自分のいた本国でも自分のようにここまで生体と融合した適合例は、自分以外に無かったそうだ」

 

 ケニーの顔が固まり…

「そ、そうですか…」

 

 ネオが額を抱え

「一つ一つこなして、空いた時間に帰って家族と過ごすしかないだろうなぁ…」

 

 ケニーが笑顔で家族と過ごしたいと言う愚痴を見詰める。

 

 そこへ、ルディリが来て

「よう。ネオ!」

 

 ネオが

「お、丁度良かった。次の仕事で協力を頼みたいんだが…」

 

 ルディリが同じテーブルに座って

「オッケー。何人くらい欲しい?」

 

 ネオがテーブルに連結で行う仕事の依頼書を並べて

「ここのルートで…」

 

 ネオとルディリは、次の調査依頼の為の打ち合わせをして、夕方になった。

 

 ルディリが

「ざっと二十人くらいか…。それも…二ヶ月とは」

 

 ネオが

「必要な装備は、ネオデウスの武装の一端を分割して人数分は用意できるが…サンプル採取は人海戦術だからなぁ…」

 

 ルディリが

「いっその事…ネオがギルド長になって腕利きの冒険者と専属契約したらどうだい?」

 

 ネオが渋い顔で

「その…人の上には立ちたくないなぁ…」

 本国時代、とんでもない上司に散々な目に遭わされたトラウマがあるので、リーダーとか上司とかが嫌いだ。

 

 ルディリが

「ギルドって言っても色んなギルドがあるよ。軍隊な階級が厳しい所から、緩やかな横の繋がりみたいな、とか…」

 

 ネオが

「ネオデウスの装備は、一部貸せるからなぁ…。それがギルドメンバーの証でもいいが…貸せる量にも限度はあるぞ」

 

 ルディリが

「上等上等、限定メンバーにすれば、それなりに仕事の質も上がるし、人数が多ければ良いって訳じゃあ無いからさぁ…」

 

 ネオが顎に手を置いて

「少し…考えてみるか…」

 

 ルディリが、考えるネオの顔を見詰めて

「ネオ…最近、どうだい? 嫁さん達とは…」

 

 ネオが肩をすくめて

「依頼が多くて、会いに行けない。全員が子供を授かったから…なるべくは、傍にいたい」

 

 ルディリが卑猥な親指を挟んだ形にして

「こっちのほうは?」

 

 ネオが頭を振って

「妻達がいるんだ。そっちのほうは…」

 

 ルディリがニヤリと笑み

「ネオが来なくて寂しいってリリスガールの子達もいるんだぜ」

 

 ネオが微妙な顔で

「いや、だが…」

 

 ルディリが

「ネオの本国…まあ、あのとんでも超技術文明の世界の常識じゃあ、女遊びは問題だけど…こっちの世界じゃあ、いい男の嗜みなんだぜ。ネオみたいにスゲー男が、嫁さんが子供で忙しくて相手をしてくれないのに、女で遊んでないなんて…そっちの気があると思われて、男の優秀な冒険者が来なくなるよ」

 

 ネオが疑わしい顔で

「そんなモノなのか?」

 

 ルディリが怪しく笑み

「こっちじゃあ、それが常識なんだよ。いい男に抱かれれば女に箔が付くなんて諺があるんだ」

 

 ネオは内心、えええええ!と引いていた。

 昔に見た歴史の資料で、日本の総理大臣の一人、伊藤博文のような大の好色男が好まれる、この世界に常識に疑問が過ぎる。

 

 ルディリが

「だからさぁ…ちょっとつき合ってくれよ」

 

 ネオはフッと笑み

「そっちが本題か」

 

 ルディリが

「良いだろう?」

 

 ネオが項垂れ

「分かったよ」

 

 

 こうして、ルディリの付き合いでこの城塞都市のリリスガール街へ繰り出し、とある店の前の来た。

 ネオが看板を見上げ

「あれ? ここはアラクネの…」

 

 アラクネ族のリリスガールのお店だ。

 

 ルディリが

「分店じゃなくて本店の方が来たから、遊んでみようと思って」

 

 ネオが

「前に、スタンク達がいる街でアラクネのお店に行って、SMプレイが嫌だったから普通の方に…」

 

 ルディリが

「SMの方は分店だよ。こっちが本店…元祖だな」

 

 

 ネオとルディリは、受付のアラクネ嬢の話を聞いた。

 四階建ての建物の内部は、アラクネの蜘蛛の巣が張られて、その蜘蛛の巣のトラップを超えて屋上の宝箱に到達すると、宝箱の50000Gが貰えるらしい。

 途中で、少しでも蜘蛛の糸に掛かると、アラクネのリリスガールに捕まり、やられるそうだ。

 アスレチック兼そういうお店なのだ。

 ネオとルディリは、5000G払って、蜘蛛の巣の内部を進む。

 一階の蜘蛛の巣トラップは、穴だらけだ。

 

 ネオが

「これ…何の意味があるんだ?」

と、匍匐前進する。

 

 先をいくルディリが

「蜘蛛の巣トラップで遊べて、女の子とできる。そんな感じかなぁ…」

 

 ネオが訝しい顔をして

「需要があるのか?」

 

 ルディリが

「まあ、エッチを望んでいない客には、500Gくらいにして遊んで貰うみたいだし、それなりに集客はあるみたい」

 

 ネオはこの世界の懐の広さに「お、おう…」としか言えない。

 

 一階を超えて二階に行く。

 二階は、所々に体勢をキツくしないと入れないスキマが多くなり、三階になると何処を通ればいいのか?分からなくなる。

 ルディリがワザと

「じゃあ、オレはここで」

と、蜘蛛の巣に突っ込んでワザとアラクネに捕まり、いたす部屋へ運ばれた。

 

 運んでいるアラクネが「頑張ってねぇ…」と、エールを送ってくれた。

 

 ネオは困りつつも「行くか」と覆っている蜘蛛の巣の天井のスキマへ棒高跳びのように入り抜けた。

 こういうトラップを避けて通る遊びに、昔の宇宙級超技術文明時代を思い出した。

 あの超無能上司の無茶な計画に、超音速で飛び交う隕石群を単身で抜けて、目的の惑星に到達するという作戦があった。

 ネオだからこそ、超音速で飛び抜ける隕石達の間をすり抜けて目的の惑星に来て、任務である施設停止が出来た。

 それのレベルに比べれば楽な方だ。

 

 四階は、三角飛びのように壁と糸の間を飛んでスキマを抜けて、ついに目的の宝箱の前に来たが…

「これ…意味あるのか?」

 

 その隣にアラクネの女の子が来て

「おめでとうございます。どうします?」

 

 ネオがそれで察して

「どうしますって…もしかして宝箱の中身は取らないで…」

 

 アラクネの女の子は微妙な笑みで

「ええ…取らないで…」

 

 ネオはフッと笑み

「そりゃあそうだ。アラクネの女の子と…ね」

 

 アラクネの女の子が

「どうします?」

 

 ネオがアラクネの女の子に手を伸ばして

「今夜のお相手をお願いするよ」

 

 アラクネの女の子は頷きネオの手を取って

「はい、では…こちらです」

 

 ネオをいたしてくれる部屋に導き、その部屋のお風呂でアラクネの子に体を綺麗にして貰って、いたした。

 アラクネは、生殖器が二カ所もあり、一つは蜘蛛の胴体と人体の繋ぎ目に、もう一つは蜘蛛の胴体の腹部にある。

 ドッキングした感じは、本当に両方とも普通のドッキング部分だ。

 

 ネオはアラクネの子とゆっくりといたしながら、アラクネの事について色々と聞いた。

 まず、アラクネには大きく四つの種類があり。

 体が硬い外皮に覆われているタイプ。

 足や下部が硬い外皮に覆われているタイプ。

 下部の蜘蛛の足が硬い外皮のタイプ。

 全身が毛に覆われて人体のように柔らかいタイプ。

 これの四つに分かれるらしい。

 

 この四つとも蜘蛛の下半身があり、そこから頑丈な糸を吐き出すのは変わらない。

 このアラクネの形状で男児が産まれた事がない。

 アラクネは女児が多く産まれるので他の異種族から、特に人族から男性を融通して貰うらしい。

 勿論、体が大きいので質量もあって力と持久力が高いが…瞬発力は低めらしい。

 それが相まってか、捕まえる力を補う為に吐き出す蜘蛛の糸の粘性は高い。

 攻撃力も高い種族でもあり、とくに体が硬い外皮に覆われているタイプの力は、凄まじいらしく完全武装の騎士が十数人がかりでも歯が立たないらしい。

 

 基本、そんなに凶暴ではないのに、男児が産まれにくいので、オスを求める生殖に関しては凶暴になるという性質によって、アラクネ族は凶暴というステレオイメージがあって、困る事もあるとか…。

 話せば、とても温和な種族で、ママ味が強い。

 なので、ママ味を求める男には、アラクネ族のママ味を知って好きになる事があるらしい。

 

 とは言うものの、アラクネは強いというステレオイメージを払拭するまでには至ってない。

 

 と、ネオはアラクネのリリスガールと楽しんで、聞いた話を情報として纏めてファイルして仕舞う。

 城塞都市の宿にしているホテルで、ネオは今まで…各種族のリリスガールから聞いた話を纏めているファイルを見て

「何時か、これが溜まったら書籍にしてみるか…」

 

 ネオの好奇心がこの世界で尽きる事はなかった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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新たな調査

ネオの調査の日々、その中である存在が…
今回はエロ無し。


「ただいま…」

と、ネオは妻達がいるドラグアース帝国の皇帝城へ帰って来た。

 一ヶ月半にも及ぶドラグアース帝国の北部山脈地帯の貴重鉱物やレア薬草の調査を終えて、その資料を皇帝城に持ち帰って整理、書籍化するのだ。

 

「おかえりなさい」

と、妻のティアマが赤ん坊を負ぶっていた。三人も…。

 

 ネオはティアマの背負う我が子達に近づき

「パパ、帰って来たよ」

と、眠っている我が子達の顔を撫でる。

 

 この三人の赤子は、ネオが妻としたティアマ、レティマ、アマティアが産んだ子供達で、そこに四人目で妊娠中のバサラが

「あ、アンタ、お帰り!」

と、顔を見せてくれた。

 そのお腹は四ヶ月になって目立つようになり、緩やかな妊婦服を纏っている。

 

 ネオはバサラに近づき

「ただいま? 体調の方は?」

 

 バサラが楽しげに笑み

「順風満帆! しっかりとお腹の子は育っているよ」

 

 ネオが心配げに

「あんまり、負担になるような事はするなよ」

 

 バサラは鬼神族、その高すぎる戦闘能力ゆえに、妊婦なのに皇帝城の屋根を飛び跳ねたりして運動不足解消するので、何時もネオを青ざめさせる。

 何かあったら怖いので、ネオはバサラだけにもしものナノマシン防衛システムを装着させた。

 危険な兆候が発生した場合、驚食装甲ガイバーみたいな、全長20メートルの機動兵器装甲が展開してバサラを守るようにしている。

 バサラいわく、大げさな…と言われた。

 

 ネオは、そっちの感覚がおかしいと思った。

 

 話を戻してバサラが、ネオが背負っている大きな書類のバックを見て

「これが今回の冒険で得た」

 

 ネオが背中に背負う書類バックというには大きいが、その書類バックを外して

「ああ…今回の調査で判明した情報だ。これを書籍化する」

 

 バサラが

「アタシにも見せてよ」

 そう、バサラはめちゃくちゃ頭いい。

 それは勿論、他の妻達三人、ティアマ、レティマ、アマティアもだが…。

 鬼神族で体力勝負だと思っていたバサラの頭の良さ、特に薬草関係の知識は、薬師を開ける程だ。

 鬼神族の教育らしく、自分の体調を管理する為に、徹底的に薬草や治癒関係の知識を幼い事から学ぶらしい。

 実際、バサラの本国では鬼神族は、貴重な薬草を作る一族として有名らしい。

 あんなに暴力的な性格なのに…。

 

 

 ネオは、今回の調査のデータ資料をテーブルに広げて、それをバサラ、ティアマ、レティマ、アマティアの四人が真剣に見ている。

 

 バサラがとある発見した鉱物の資料を指差し、ティアマに

「これ、薬の触媒になりそうだね」

 

 ティアマも頷き

「ええ…もっと純度の高い胃腸薬とか、回復薬のになりそうね」

 

 レティマが

「ああ…北部山脈地帯で最も高い山、エルマウントにも登ったんだ…」

 

 ネオが

「ああ…これを見てくれ」

と、そのエルマウントの氷河を切り裂き、山の岩肌を掘った場所から見つかった化石達の写真の資料を見せて

「こういう高い山脈には、ぶつかって出来た影響で、低い時代の化石が見つかる事があるんだが…金属の化石を見つけた」

 

 妻達がその資料を手にして、バサラが

「ウチらにとって珍しい事じゃあない。金属を骨格にしたスケルトンドラゴンとか、スケルトン系のモンスターがいるからね」

 

 ネオが額を抱え

「だとしてもだ。この世界の今までの集めた生体データを考慮して、構築している体が全て金属の生命体なんてありえない筈だ」

 

 アマティアが

「誰かが…魔導的に作ったホムンクルスとか?」

 

 ネオが額を小突きながら

「だとしてもだ…ホムンクルスは代謝しない。外部の魔力を得て動くロボットのような存在で、この見つかった金属の生命は外から何かを得て代謝する機能がある。更に…生殖のような機能まであった。つまり、生命だ。その他にも別の形態の金属生命の化石も見つかっている」

 

 レティマが

「確か、アナタが到達した嘆きの壁の向こうにあるアダマンタイトの大地にも金属を取り込んだ恐竜とかがいたんだよね。その祖先って可能性は?」

 

 ネオが額を抱えて

「この金属の生命の化石から採取した細胞データと、その嘆きの壁の向こうにいた金属を取り込んだ恐竜とは、その細胞データが一致しない。祖先ではない」

 

 バサラが

「そう考えると、あたし達の世界って複雑なんだね」

 

 ネオが

「今後、これに関して資料で追って見ようと思う」

 

 ティアマが

「でも…アナタ…次の仕事が…」

 

 ネオは頷き

「合間合間だよ」

 

 レティマが

「今後、色々な調査の仕事をしていれば、ひょんな事から分かるかもね」

 

 ネオは頷き

「そうだな…」

と、次の資料を見る。

 それは偶然にも崩落した丘から出て来た数十メートルもある巨大な獣の手の跡を撮影したモノだ。

 この数十メートルの巨大な獣の手に残された主であろう存在も、金属の生命だった。

 

 ネオは、ハァ…と溜息を漏らし

「全く、この世界は刺激がありすぎて、退屈しないよ」

 

 バサラがお腹にいるネオの子に

「アンタも将来、お父さんと一緒に、この世界の謎を解き明かしてね」

 

 ネオは妻達と共に冒険で得た資料の纏めをする。

 

 

 ネオは、皇帝城のテラス喫茶にいた。

 共にテーブルを一緒にするのは、ロンバルディア皇帝と大魔導戦士ディオである。

 

 ディオが最近、ネオが見つけた金属生命の化石の資料を向けて

「ネオ殿…これについてだが…」

 

 ネオがディオを見詰めて

「何か…」

 

 ディオがネオに寄って

「これに関して、実は帝国外の国でも山脈地帯から発見されている場所がある」

 

 ロンバルディア皇帝がスッと国外の山脈から発見された金属生命の化石の資料を見せる。だが、それはかなり古い、百年前のモノだ。

 ロンバルディア皇帝が

「厳しい山脈地帯にあるが故に、中々、調査がされない。これは百年くらい前の資料だ」

 

 ネオはそれを手にして凝視する。

 そう、それは確かに自分が見つけた金属生命の化石と一致するモノだった。

 ネオが

「陛下、竜族の歴史でこのような存在に関して…」

 

 ロンバルディア皇帝が腕を組み

「我ら竜族は十万年前に始まったが…。その記憶にない」

 

 ネオは内心、プーと鼻を吹く。十万年も続く一族なんて驚きだが、その十万年前でも憶えないなら…

「つまり、それより遙か以前、億年前の可能性が…」

 

 ディオが

「地層や骨から年代測定は?」

 

 ネオが厳しい顔で

「いや…炭素ベースの生命なら、構築物質であったカルシウムとか炭素の放射線測定とかで、年代を計測できますが。金属ですから…」

 

 ロンバルディア皇帝が

「ネオ、これに関して調べている者達がいる。一緒に調査へ赴いてくれないか?」

 

 ネオが微妙な顔で

「それって完全に長期の…」

 

 ロンバルディア皇帝とディオが顔を見合わせ、ディオが

「ネオ殿…汝の事を必要としている者達がいる。ネオ殿が奥方達や子供達を大切にしているのは分かる。だが…ネオ殿がいなければ…出来ない仕事が多い」

 

 ロンバルディア皇帝が

「ネオよ。ネオの妻達ティアマ、レティマ、アマティアにバサラの四人は、お前の仕事が素晴らしいモノだと理解しているし、それに探求者ネオの妻である事に誇りを持っている。それに答えてくれまいか?」

 

 ネオが額を掻いて

「これの調査が終わったら、長期休暇をください」

 

 ロンバルディア皇帝とディオが呆れた顔をした次に、ロンバルディア皇帝が

「分かった。お前が望む長期休暇を認めよう」

 

 

 こうして、ネオはルディリとムラマサ、レリスにドリンのメンバーを連れて、謎の金属生命の化石への調査の為に国外へ出た。

 

 帝都から出発する巨大魔導輸送船の甲板で、ルディリが

「三ヶ月半にも及ぶ冒険か…」

 

 その隣にネオがいて

「何時もすまんな」

 

 ルディリは楽しげに笑み

「いいさ! ネオといると何時も冒険していて、冒険者冥利に尽きるよ」

 

 ムラマサが来て

「二人で談笑か?」

 

 ネオもムラマサに

「ムラマサもすまんな。家族がいるのに…」

 

 ムラマサが

「子供達から、金属生命の化石の調査に行くって言ったら、大きな金属生命の化石を臣上げにねだられたさ」

 

 ネオが

「おお、持ってけ、ティラノサウルスみたいなヤツをあげるよ」

 

 ムラマサが苦笑いで

「どうやってそんなの家に置くんだよ」

 

 ネオが

「金属生命の化石なんだ。錆びる事は無い。家の屋根代わりにでもしれやれ」

 

 ムラマサとルディリは肩をすくめる。

 

 ルディリが

「でだ、国外の…現地コーディネイターには…あの…」

 

 ネオが頷き

「何時ものアイツ等を頼んでいる」

 

 

 ネオ達が乗ってきた大型船が、何時ものあの西側の港に到着して

「ちーす」

と、スタンク、ゼル、クリム、カンチャル、ブルーズの五人がいた。

 

 ネオ達は、もう顔なじみな面子に感慨もない。

 ネオがスタンクに近づき

「今回もよろしく」

 

 スタンクが顎を摩り

「しかし…金属生命の化石の調査とは…地味な事で…」

 

 ネオが腕を組み

「こっちは、お前達みたいに、ダンジョン攻略がメインじゃない」

 

 クリムがネオに近づき

「お久しぶりです」

 

 ネオが微笑み

「元気だったかい?」

 

 クリムが嬉しげに笑み

「はい…」

 

 ゼルが

「今回の山脈地帯にはクリムが必要だから連れてきたぞ」

 

 レリスが

「理由は?」

 

 カンチャルが

「三色スライムっていう厄介なスライムが蔓延っているからね」

 

 ネオ以外の仲間が「あああ…」と声を漏らした。

 ネオが顎を摩り

「三色スライムか…始めて遭遇する。サンプルに取って置くか…」

 

 三色スライム。幽体みたいなふわふわしたスライムで、取り付いた相手に対して雷、炎、氷の三つの内、どれかの属性となってダメージを与える厄介なスライムだ。

 主に鉱山とかに発生する。

 

 ブルーズが

「諸々の食料や装備を買って出発するか…」

 

 ネオが

「待て、今回の合同協力者と合流する予定がある」

 

 

 ネオ達一団は、街にある食酒亭とは別の店に入ると、指定されたテーブルに魔女達がいた。

「はぁ…い」

と、大魔導士デミアのデコイの一つに、デミア弟子で魔導具開発専門のヘパティアと、悪魔族の魔女でデスアビスの部下のデモンティアの三人がいた。

 

 ネオ達が席に着いて、ネオが

「まさか…アンタ達と一緒に仕事をするとは…」

 

 ヘパティアが

「金属生命の化石は貴重な魔導具の材料ですから」

 

 デモンティアが

「まじで、金属生命の化石は利用価値が高いんじゃよ」

 

 ネオが

「使い方を分かれば…だろう」

 

 デミアが

「まあまあ、雑談はここまでとして、話を始めるわよ」

 

 デミアの説明では、ここから数百キロ先にある山脈地帯に金属生命の化石が見つかったらしく、それがどのくらいで、どの規模のモノか?の調査と…。

 

 デモンティアが

「もし、大量に見つかれば…相当な資源になる」

 

 ネオが

「今までは一体二体の少量だが…もし、大量に存在しているなら…」

 

 デミアが

「大量に発見された場合、相当な…そう、一個師団クラスの魔導鎧兵団が出来るかもしれない」

 

 カンチャルが

「国に売り払ったら幾らになるかなぁ…」

 

 デミアが

「残念、そんな事はさせないわ。そんな事をしたら周辺の軍事バランスが崩れる」

 

 ドリンが

「なるほど、魔法技術集団であるデミアのアンタ達が、均等に国々に配ると…」

 

 デモンティアが

「デスアビス様達、各地の魔王達や国王達もそれで了承しましたので…」

 

 スタンクが面倒くさそうに

「そんな政治的…お?」

 その調査で泊まりにする町を見た瞬間

「なるほど…」

と、スタンクは好色な笑みを浮かべる。

 実は、前に筋トレのサキュ嬢店て取り逃がした鳥人族のサキュ嬢のお店があった。

「仕事の内容が分かっているなら、さっさと行こうぜ」

 

 スタンク以外の全員が、その通りだと思ってだいたいの話し合いを終えて、必要な荷物と食料を買い込み、ネオの変形した輸送戦闘機艇に運ばれて目的の町へ向かった。

 

 町に到着して、ネオの輸送戦闘機艇から荷物を下ろして、ネオが変形を解除した次に、町の隣の山の巨大な崖を見て

「これは…」

 そう、ドラグアース帝国で発見した数十メートル級の獣の手の跡があった。

 

 ネオが見詰める隣にスタンクが来てパンフレット片手に

「なんでも町の観光名所の一つだとよ。こんな巨大な手のバケモノがいたら目立つから、どうせ…自然と出来た跡だろうよ」

 

 ネオは厳しい顔の次に

「そうだな…」

と告げて、荷物を停泊する宿屋へ運び込んだ。

 

 ネオには嫌な予感がする。

 ドラグアース帝国でも、金属生命の化石があった場所にこの数十メートル級の獣の手形があった。

 もしかしたら…。

 この数十メートル級の獣の手型から予想される推定全長は、軽くキロメートル級の存在になる。

 それ程の存在なら、動く大地として存在して、その大地から金属生命の化石の元が…。

 ネオは飛躍し過ぎの考えと思った。




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次話もよろしくお願いします。


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調査その一

ネオ達は金属生命の化石の調査をしていた。
様々な事や、なぜ、ここに金属生命の化石があるのか?調べながら…


 ネオ達は、例の金属生命の化石を探る調査へドラグアース帝国から西の大陸で最北西端にある山脈地帯に来ていた。

 高度千メートル級の山々が並ぶこの地域は、主に火山活動が活発らしく、僅かではあるが、活火山があり、その活火山の恵みによる熱と温泉によって麓の町は賑わっていた。

 

 ネオ達…ネオ、ルディリ、レリス、ドリン、ムラマサの五人は、スタンク達に連れられて…サラマンダーの料理店に来ていた。

 無論、不健全な方だ。

 

 ネオは目の前で裸体になっているサラマンダーの女の子が寝そべる石のベッドに、眉間を押さえて呆れる。

 これって何の意味があるの?

 

 スタンクとゼルは、さも当然の如く裸体になっているサラマンダーの体にお肉を乗せて焼いて食べている。

 

 ネオ達は手を付けない。

 

 スタンクが

「どうしたんだ? 食べないのか?」

 

 ルディリが顔を引き攣らせて

「いや…コレって…衛生的な部分と、色んな意味で大丈夫なの?」

 

 鉄板になってくれるサラマンダーの女の子が笑顔で

「大丈夫でーーーす。サラマンダーは表面温度が百度以上だから、ばい菌もウィルスも焼き殺されているので、衛生的に全く問題ありませーーん」

 

 ネオ達は「お…おう…」と理論的には納得したが…倫理的な問題にぶつかり全く手を出さない。

 

 ドラグアース帝国にもサラマンダーの女の子が、その熱い火属性の体温で、お料理を出してくれるお店はある。

 だが…自分を鉄板にして焼かせて食べさせるなんて発想がない。

 

 スタンクがゲスな笑みで

「じゃあ、仕上げと行こうじゃないか!」

と、フランクフルトを頼んだ。

 

 それをスタンクやゼルが、サラマンダーの女の子の大事な穴で焼いて食べる。

 

 もう…ネオ達はゲンなりとして

「悪い出るわ」

と、ネオがお代を置いて出て、それにルディリ、レリス、ドリン、ムラマサも続いた。

 

 スタンクが

「なんだよ。これからが楽しみだってのに」

と、火属性の力に対して耐候性を与える防御の指輪をして、サラマンダーの女の子をおいしく頂いた。

 

 外に出たネオ達一行、ルディリが

「普通の料理してくれるお店に行こう…」

 

『うん』と他も同意した。

 

 ネオ達が歩いていると…

「あら、奇遇」

と、デコイのデミアに、赤くなって俯き浮いているクリムがいた。

 

 ルディリが

「二人は、どこに行っていたの?」

 

 デコイのデミア、Dデミアが

「あっちよ」

と、示した方向は、あのスタンクとゼルと一緒に行ったサラマンダーの女の子のサキュ嬢店だった。

 

 ネオが渋い顔で

「何を目的に…?」

 

 Dデミアが笑顔で親指と人差し指で輪を作り、その間を指して

「クリムくんが、サラマンダーの女の子を抱いた時にどんな風になるのか? データを取っていたのよ。今後の各属性防御の装備に関して必要だからね」

 

 クリムは恥ずかしくて顔を覆い隠した。

 

 致しているのをマジマジと観察されたクリムに、ネオ達一同は同情する。

 

 そこへ…

「あ、先生…」

と、デミアの弟子のヘパティアと、魔族代表のデモンティアが来た。

 

 ここに集まった全員が別の食堂へ入り話を始める。

 

 大きなテーブルを囲んで調査した部分の記録を広げる。

 

 ネオが調査した部分の地図の山脈部分を指差し

「想定した通り、ここには大量の金属生命の化石が埋まってた」

 

 デモンティアが

「これ程、容易に見つかるとは拍子抜けだわい」

 

ルディリが

「こんなに沢山あったって事は…昔、ココがその金属生命の化石のホームだって事?」

 

 Dデミアが

「でも…この金属生命の化石は、生命のように代謝をするんでしょう? それだったら…捕食する存在がいるはずよね」

 

 デモンティアが

「もしかして、地面を食べて…体を構築する物質を得ていたのでは?」

 

 ネオが渋い顔で

「それなら、もっと大地に近い、シリコンや鉄、マンガン、リチウムといった物質で出来てる筈なのに、その主な体組成は、チタンやニオブ、タングステン、イットリウムといった希少土類だった」

 

 Dデミアとヘパティアにデモンティアが黙る。

 ネオも鋭い顔をして黙る。

 

 レリスが

「その組成物質…ですか? そんなにおかしい事なんですか?」

 

 ネオが眉間を寄せて

「希少土類は…元素的に重物質、重い元素だ。地上には極少数しか存在しない」

 

 ヘパティアが

「希少土類が地上に姿を現すには、火山噴火しかありません。重元素なので星が誕生する時のマグマの海の奥深く、地核へ沈んでしまいます。それが出てくるには、火山噴火といった地中奥深くのマグマが噴出して、それに混じるしか…でも、それでも…含有率は低いですよ」

 

 ネオが額を抱えて

「希少土類を生成するには、核融合か? 縮退…ブラックホールのような超質量を生成する方法しかない」

 

 Dデミアが

「魔法で元素を作る事は可能よ」

 

 ネオが

「それでも、銅から金から向こうの含有率が高い元素だろう」

 

 Dデミアは肩をすくめて

「まあねぇ…」

 

 クリムが挙手して

「あの…思ったんですけど…。もしかして…それを作る金属生命がいたって事じゃあないですか?」

 

 全員が視線をクリムに向ける。

 

 クリムが

「だって、僕たちだって植物や動物を食べているじゃあいですか? つまり、そういう食物連鎖のように始まりとなる植物か動物のような存在がいて、それを食べていて、そうなっていたと…」

 

 ヘパティアが

「つまり、地面を食べて、それを希少土類に生成して、それを金属生命の化石達が食べていたと…」

 

 ネオがDデミアを見て

「デミア殿、この世界に物質を違う物質に変換できる生命が…」

 

 Dデミアは首を横に振って

「聞いた事がないわ」

 

 クリムが自身を無くして

「そうですか…」

 

 ネオが

「とにかく、もっと周辺を調べてみよう」

 

 全てが推論の域を出ない。

 

 

 翌日、再び見つけた金属生命の化石達が埋まる山間に来る。

 

 魔法を使って…魔法の専門家である魔女のDデミアとヘパティアにデモンティアが、地中を探る魔法を使って金属生命の化石を探す。

 見つけた場所を、ネオ達がネオの持っている装備で掘る。

 人が乗れる人型重機で地面を掘り返す。

 普通なら化石という脆いモノを扱うのだが、重機は危険だが…相手は金属生命の化石だ。金属で構築されているので、雑に扱っても問題ない。

 ネオ達が発掘作業をしている周囲をスタンク達が、クリムを使って三色スライム退治をするが…。

 

 スタンク達の前に百人近い一団が来る。

 スタンク、ゼル、クリム、ブルーズの四人を囲む一団は

「なぁ…兄ちゃん達。ちょっとばかし、オレ等を通してくれないかね?」

 

 ゼルが

「悪いね。今、調査してんだ。別の道を行ってくれ」

 

 一団はゲスな笑みを浮かべ

「へへへ。分かってんだよ。オレ達の獲物は、その発掘しているモノなんだからよ」

 

 ネオがスタンク達の方へ来る。

 カンチャルとルディリは、高い丘で周囲を見渡して警戒している。

 ネオに連絡が入ったのだ。

 

 ネオが団体に近づき

「悪いね。ここは通れない。大事な調査をしているんだ」

 

 団体の前に大柄なオーガの女が立ち

「悪いね。アタシ達の獲物はアンタが調査しているモノなんだよ」

 

 二メートル半の巨体のオーガの女を前にネオは冷静に

「この調査は、国の許可を得ている。もし邪魔をするなら…貴方達に罰則が降りかかるが…」

 

 オーガの女は、ズンと背中に背負った身長と同じ二メートルの巨斧を外して握り

「そんなの盗んじまえば分からないさね」

 

 ネオは団体の全体を見る。

 こういうのは男達の野盗が定番なのに、甲冑や服装から半分くらい女性が見える。

 各種族、それも戦闘が得意そうなケンタウロス、有翼人、オーガ、トロル、オーク、爬虫類人、獣人系悪魔もいる。

 

 ネオは改めて野盗風情でもバリエーションがある事に驚くも、ネオは額を掻いて

「ここの調査したモノは、七割は国のモノになる。だが…三割は我々の報酬になる。その三割の報酬の額は…少なく見積もっても30億Gだ」

 

 野盗の一団から「マジかよ! 三割でもそれくらい行くのかよ!」と驚きが漏れる。

 

 スタンクが剣の柄に手を置いて

「まどろっこしいのは」

と、告げて前に出るのをネオが右腕を出して止める。

 

 ネオが

「因みにだ。現在…まだ、発掘している。今日は今の段階で昨日に見つけた量と同等だった」

 

 オーガの女が

「よっしゃあーーー。このお宝を」

 

 ネオがズンと地面を叩き踏み締めると、周囲へ足下が揺らぐ程の小地震が発生して

「話を聞け!」

と、ネオが鋭く超重量級の殺気を放つ。

 オーガの女や、一団が本能的に一歩引いた。

 

 ネオが冷静に

「今の段階で、昨日の二倍も見つかった。つまりだ…我々がえる三割の報酬の額が倍の60億Gになった訳だ」

 

 オーガの女が

「で、それがどうした!」

 

 ネオが

「我々は10億Gさえ貰えれば、報酬として十分なんだ」

 

 一団がざわざわを混乱する。

 

 オーガの女が

「まどろっこし! 何が言いたいんだよ!」

 

 ネオが

「つまりだ。この見つかった金属生命の化石を受け取ってくれる町まで運搬する人足が大量に欲しい。君達が護衛兼運搬をしてくれるなら…今日の報酬として50億Gは渡す」

 

 一団が「マジで!」「いや、でも…」「本当か?」とざわざわする。

 

 オーガの女が「ハッタリだ!」と全体を一喝する。

 

 だがネオが

「ハッタリじゃあ無い。事実だ。今日…もう…50億Gが用意されている。君達はこの山奥まで来られる程の強靱な種族達の集まりだ。それを頼むのに十分な程だ」

 

 野党に来た一団達が混乱する。

 

 ネオがダメだしに

「今、ここで…我々と戦って重症を負って得るか? 我々を手伝って50億Gを得るか? どっちの方が得だと思うかね?」

 

 一団達に困惑が広がっている。

 

 オーガの女が巨斧をネオに向け

「もし、アンタ達を手伝って50億G得られなかったら、アンタを殺す!」

 

 ネオが巨斧を横に流して

「好きにしろ。出来ない約束はしない」

 

 

 こうして、野盗だった者達を護衛兼運搬人にして、発掘した金属生命の化石達数十体を麓の回収者達が待っている町まで下ろした。

 

 回収者には、悪魔族や魔法使いといった学者達の一団が来ていて、ネオ達が発掘した金属生命の化石を丁寧に調査する。

 

 ネオがそのリーダーである魔法使いの男性に近づき

「どうですか?」

 

 リーダーの魔法使いの男性は

「いや…素晴らしいです。お約束の額以上の価値があります。差額分は後で…」

 

 ネオは頷き

「では、頼んだ額の…」

 

「はい」

と、リーダーの魔法使い男性は、運搬用につなぎ止めている飛空艇達から60個の宝箱を運び出させ

「お約束の60億Gです。よろしいのですか? 国家予算専用のプラチナ金貨でなくて?」

 

 ネオが呆れ顔で

「現地での協力者に支払いがあってね」

 

 こうして、金属生命の化石は飛空艇に乗って回収され、様々な魔導具や魔導装備へ。

 そして、ネオは一団のリーダーであるオーガの女へ

「じゃあ、後の報酬は約束通りに」

 

 スタンクがゼルと共に宝箱一つを持って行き

「じゃあ、約束通り、貰って行くわ」

とネオ達は、10個の宝箱10億Gを持って行く。

 

 手伝った百人の各種族の者達は呆然とするが、一人が宝箱へ飛びつき

「マジかよーーーーーー」

 宝箱を開けると、1億Gの金貨の山があった。

 

 野盗くずれであった自分達には、一生拝めない額の宝箱達50個がそこにあり、全員が飛びつき歓喜する。

 オーガの女がズンと巨斧を地面に突き刺し

「山分けだよ。分かっているねぇ!」

 

 一人が

「オレ達で山分けしたって! 一人、数千万Gだぜーーーーー」

 

 

 

 ネオ達は…まあ、スタンク達はサキュ嬢店へ遊びに行き、ネオ達は今日の成果を話し合う。

 

 とある宿屋の一階の食堂で、スタンク、ゼル、ブルーズの三人を除く全員が大きなテーブルを囲んで地図を睨んで話し合う。

 

 Dデミアが

「残念だけど、後…今日の数倍、おそらく5、6倍は埋まっているかも」

 

 カンチャルが

「人手が全く足りないね」

 

 ドリンが

「発掘になれば、一日は潰れる」

 

 レリスが

「どうして…こうなっているのか? ここだけに集中しているのか? その調査が疎かになってしまいますし…」

 

 クリムが

「人手を頼むとか…」

 

 ヘパティアが

「そんな事をすれば、我先に周辺の国々が挙手して争いになりますよ」

 

 デモンティアが

「エルデトの英雄達がやっているという事で国の厄介な事が入らないんじゃから。それを止めるとなると…ここを巡って国同士で戦争になるぞ」

 

 クリムが青あざめ「うわ…」と呟いた。

 

 ネオが額を抱え

「どうして、ここに集中しているのか? その理由も調査できない。かといって発掘を止めて提供を止めれば、国がウルサい」

 

 Dデミアが

「さっきの野盗連中が手伝ってくれるなら良いんじゃない?」

 

 ネオが

「その方が無難か…」

 

 関係ない勢力の手伝いを受けるのが一番に安全だった。

 

 ネオは、町の中を歩き、手伝ってくれた野盗連中を探していると

「あ」

目の前にあのオーガの女が来た。

「おーーーい」

と、ネオは声を掛ける。

 

 オーガの女が近づき

「今日は、ありがとうよ」

 

 ネオは微笑み

「いいさ。それより話があるんだが…」

 

 オーガの女も頷き

「ああ…アタイもアンタに話があるんだよ」

 

 ネオとオーガの女…ドルガが適当な酒場に入り話をする。

 人手が欲しいというネオの話にドルガは頷き

「分かったよ。また皆に声を掛けてみるが、男共は大金を貰って何処かへ遊び飛んで行くだろうから、半分の四十くらいの女手しか集まらないかも」

 

 ネオが頷き

「それでも十分さ」

 

 ドルガがネオを見詰めて

「アンタ…エルデトの英雄だったんだね」

 

 ネオはフッと笑み

「よく分からないあだ名だよ」

 

 ドルガがネオを見詰め

「アンタにアタシの故郷を救って貰った。そんな恩人に…」

 

 ネオは優しく微笑み

「いいさ。争わなかった。手伝ってくれた。そして、次も手伝ってくれる。それで良いじゃないか」

 

 ドルガがネオの手を握り

「どうだい? 二人だけで話し合わないかい?」

 

 ネオは察する。誘われているのだ。

 浮気…ではない。今後の…好意を無下にはできないし、何より女からの誘いを断るのは、この世界ではしてはいけないらしい。

 

 ネオはドルガの部屋に行き、密接な男女の肉体言語を交わす。

 

 体格差はあったがネオのご立派な息子様のお陰で、お互いに満足して、ドルガが

「そういえば…思い出すなぁ…ばあちゃんが、こんな事を言っていたよ。この山々には、大陸のように大きな龍亀が住んでいるって。その証に、巨大な龍亀が歩いた足跡が残っていて、そこが泉や川になったって」

 

 ネオは隣で一緒に眠る、一夜を過ごしたドルガを凝視して

「それ、ちょっと詳しく聞かせてくれないか?」

 




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調査 その二

ネオには確信があった。
だからこそ調査する。


 その日、一緒に金属生命の化石を発掘運搬をしてくれる人員が来てくれた。

 ドルガの話では四十人くらいと言っていたが…100人もいる。

 しかも90人は各種族の女性ばかりだ。

 

 ネオがドルガに

「四十人くらいって言っていたが…」

 

 ドルガが面倒くさそうに

「いや…その…他の各種族の女連中が噂を広めてねぇ。稼ぎたいって女達が来たんだわ」

 

 スタンクはネオに

「これくらいの人数がいれば発掘も楽になるじゃん」

 

 ネオは今日来た人員を見ると、アラクネや山羊、巨人、オーガ、ケンタウロスと移動に関して問題ない面子ばかりだ。

「確かに、彼女達のような種族なら…」

 

 ドルガが

「良いのかい? こんなに居ちゃあ報酬が…」

 

 ネオが

「その心配はない。まだまだ、地中に埋まってる。むしろたくさん来てくれて好都合だ。昨日に分けた分け前より多くなる筈だ」

 

 ドルガがホッと安堵して

「そうかい…良かったよ」

 

 こうして、新たな発掘隊一同は、山道を進み二時間弱で、発掘場所に到着。

 Dデミアやヘパティア、デモンティアの三人の指揮監視の下で金属生命の化石を発掘し続け、ネオはルディリ、ドリン、レリス、ムラマサ、クリム、ドルガを連れて周辺の調査に行った。

 スタンク達は化石発掘を邪魔されない為の護衛に残るが…スタンクは化石を発掘する各種族の女性達に粉を掛けていた。

 

 ネオ達7人は、山々を進み様々な場所をレーダー測量する。

 

 クリムが

「どうして、周辺を調べているんですか?」

 ネオに尋ねると、ネオは鋭い顔で

「この山脈地帯、おかしいと思わないか?」

 

 クリムは「ええ…」と山々を見る。

 クリムには普通にしか…

「そうですか?」

 

 ネオには違和感があった。

 自然に出来た丘陵や、山間もあるが…一部分、そう…まるで何か巨大な存在が通って山が崩れたような跡が見えるのだ。

 ネオは超宇宙技術文明時代に、度々、自然の場所を訪れていた。

 だからこそ違和感がある。

 この世界も山脈といった自然地形が形成されるパターンは、自分の故郷と同じ理論で形成される。

 自然の浸食。

 だが、その浸食とは思えない程の形跡があるのだ。

 

 ネオは集めたデータを入力して、人口海洋島都市エンテイスに転送して、DIメイドランに解析させて、発掘現場へ戻る。

 

 Dデミアが来て

「周辺の調査はどう?」

 

 ルディリが

「他にも同じように金属生命の化石が埋まっている場所を発見したよ」

 

 ドリンが

「ここには沢山あるらしい」

 

 Dデミアが

「つまり、ここはそういう生命達達が繁栄した所って事ね」

 

 レリスが

「だとしたら…どうやって代謝する為の鉱物を得ていたのでしょうね?」

 

 そこへデモンティアが来て

「おそらくだが、我々のように地中の鉱物を植物のように食べる存在がいて、それを食べる存在がいて、そして…食べた存在が死んで地面に落ちて、それを分解、植物のような存在が取り込むという、循環を形成していたかもしれん」

 

 ムラマサが

「そうなら、植物の形態をした金属生命の化石が出てくる筈だよなぁ」

 Dデミアが

「たまたま、見つかっていないだけかも」

 

 ルディリ達は顔を合わせ、ネオがエンテイスの通信を待っていると…ネオの前にDIメイドランの立体映像が出て

『ネオ様、解析が終わりました』

 

 ネオが

「結果は?」

 

 DIメイドランが

『ご推察の通りかと…』

 

 ネオは頷き「分かった」と告げて

「みんな…話を聞いてくれ」

と、全員を招集させた。

 

 ネオは集めたデータを解析させたのを立体映像にして全員に見せる。

 

 この地域一帯の山脈の詳しい立体映像データを前にスタンクが

「詳しく調べたもんだなぁ…」

 

 ゼルが

「しかし、まあ…まだまだ埋まっているみたいだな…」

 

 立体映像データには、まだまだ埋まっている金属生命の化石の位置が示されていた。

 

 ネオが冷静に

「この山脈地帯全体を調べて見て分かった事がある。まずは…これを…」

 とあるデータを重ねる。

 それは山々の間を示したマークの様に見える。

 

 カンチャルが

「これが何の意味があるの? 普通の山の間を示したようにしか見えないけど…」

 

 ネオが

「山と山の間が開く理由は、長年の風雨の浸食、山体崩壊、地震による隆起、その他の天災といったような事で山脈の間が開く事がある。だか…」

 

 ネオは別のデータを重ねる。

 それは赤い山々の間と共に青い部分のマークがされる。その数はかなりでだ。

 

 Dデミアが

「このマークは?」

 

 ネオが

「これはそういう自然的な災害や、何らかの戦争による崩壊以外で間が開いた部分を示している」

 

 ブルーズが

「ほとんどの山の間がそうだな…」

 

 スタンクが

「何で開いた場所なんだ?」

 

 ネオが鋭い顔で別のデータを投影させる。

 それは、何かの長いムカデのような形状である。

 

 ゼルが

「なんだこりゃ?」

 

 ネオが

「結論から言う。恐らく、全長三キロ、幅八百メートルの巨大な多脚生物のような存在が通り続けた影響によって形成された山間だ」

 

 全体から『はぁぁぁぁぁ』と呆れと驚きのような声が放たれる。

 

 スタンクが

「おいおい、そんな巨大なバケモノ…いると思うのか?」

 

 ゼルが

「長寿のエルフとして生きて来たが…そんな、ドデカいヤツに会った事がないぞ」

 

 悪魔族のデモンティアが

「同じく万年長寿を誇る悪魔や魔族達の歴史を見てもそんな存在がいたという記述はない」

 

 ネオが鋭い顔で

「いや、いる…間違いない。それを考慮すると、どうして金属生命の化石があるのか理由になる」

 

 ルディリが

「どんな理由が?」

 

 ネオは鋭い目のまま

「自分達は、これを地上で栄えた金属生命の化石だと思い込んでいる。その前提が間違いだったんだ。この金属生命の化石は…この巨大な存在が生み出す防御機構、免疫のような存在なんだ」

 

 スタンクが肩をすくめて

「おいおい、突拍子もないだろう…それ」

 

 ネオは動じず

「だが、道理が合う。金属生命の化石にはそれを捕食していたであろう食物連鎖の形跡がない。つまりだ…免疫のように働いていて…その本体から栄養供給され活動していた。本体から離れると、その栄養補給がないから死んで化石になる。生殖のような器官も免疫による自己増殖の機能と考えれば納得する」

 

 ブルーズが

「じゃあ、そのドデカいヤツの化石が何処かに埋まっているのか?」

 

 ネオは首を横に振って

「いいや…化石になんてなっていない。ソイツは生きている、今も…」

と、ネオは立体映像データを進めると、その映像、つまり巨大な存在が通った形跡が山脈奥地の火山地帯へ続いているとなっている。

 

 スタンクが額を抱えて

「おいおい、つまり…その巨大なヤツは、火山の中、マグマダイブして…偶に地上に出てくるって事なのか?」

 

 ゼルが呆れに笑い

「確かにマグマに強い種族はいるぜ。サラマンダーとかリザードマンとか、悪魔系も火属性持ちなら耐えられるが…マグマの底へ潜っていけるヤツなんて聞いた事が無い」

 

 ヘパティアが

「突拍子もない理論です。まだ、実は金属生命の化石と元となっている金属生命は、地中の巨大な空洞、地下世界で暮らしていて、何処かに空いている地上との出入り口から出ている方が信憑性があります」

 

 Dデミアが

「まあ、面白い説ではあるけど…余りにも飛躍した理論は、冷静な判断でされたとは思えないわね」

 

 否定の声が出てくる。

 スタンクが、何も言わないネオの仲間、ルディリ、ドリン、レリス、ムラマサに

「なぁ…お前達から何か言った方が…」

 

 四人は沈黙で、レリスが

「ネオは、我らのドラグアース帝国で多大な功績を打ち立ててきた。私はネオを知っている酔狂でモノをいう人物ではない…と」

 

 Dデミアが

「話はそこまでにして」

と、話題を変えて

「ネオ達が調べてくれた地質データで、まだまだ金属生命の化石があるって分かったから、新たな申請をしないといけないわねぇ…」

 

 デモンティアが

「これは当分の間…ここが高価な素材となる金属生命の化石の産地になりそうですな」

 

 ネオが言うべき事を言って黙っていると、ドルガが来て

「アンタ…アタシの話を…」

 

 ネオがドルガを見詰め

「君のおばあさん、君の祖先達が伝えていた事は事実だ。間違いない」

 

 ドルガは鼻が痒くなる程に嬉しかった。

 信じてくれる人がいる。

 

 

 その日の金属生命の化石を取り終えて、運搬する一同。

 そして、根城にしている町で、金属生命の化石を渡して報酬を受け取り、手伝った百名には昨日より多い九千万Gの報酬を個々が手にした。

 

 それでまたスタンク達が遊びに行くと「お…」と地面が僅かに揺れる。

 スタンクが

「地震?」

 

 その揺れはゆっくりで長く続く。

 

 十分以上も緩やかな揺れが続き、収まった。

 

 カンチャルが

「火山が活発になる時には、こんな緩やかで長い地震が多くなるって聞いた事がある。地中のマグマが動くかららしいよ」

 

「へぇ…」とスタンクが納得する。

 

 スタンク達は遊びに行って、他のメンバーは食事を終えると、ネオはドルガから話を聞く為に別の店に行く。

 

 ドルガの出身地を聞くと、やはり…あの巨大な存在が通った道の傍にある村だった。

 そして、その伝わる巨大な龍亀についても聞いた。

 言い伝えでは、太古の時代の古い神でもあり、この地で暮らす地神である事。

 地中へ潜るという事も聞いた。

 

 ネオは話を真剣に聞いて頷き、ドルガは嬉しかった。

 

 ドルガが

「アンタ…家族は…?」

 

 ネオは遠くを見るように

「妻が…四人、三人からは子供が産まれて、一人は妊婦だ。そばに居てやりたいが…色んな仕事を押しつけられて…」

 

 ドルガは頷き「そ、か…」と呟いた次に

「どのくらいまでいるんだい?」

 

 ネオが日程表を取り出し

「後、一ヶ月半くらいかなぁ…。でも、新たに化石が見つかったから…どうなるか…」

 

 ドルガは不意に、帰って欲しくないように思ってしまった。

 パチンって顔をドルガは叩く。

 

 ネオはそんなドルガに

「どうしたんだ?」

 

 ドルガはカラ元気で

「いいや、アンタの手伝いをしていっぱい稼がせて貰おうってね!」

 

 ネオは微笑み

「ああ…頼む。まだまだ、大量にあるから、よろしく頼む」

 

 

 

 翌日、また、100人くらいの異種族の現地民達の協力によって金属生命の化石の発掘と調査を行う。

 

 新たなポイントに到着して、魔導具で地中の調査を開始すると…また、地震だ。

 

 昨日と同じゆっくりで長い地震だ。

 

 スタンクが

「まさか…火山が噴火する前兆じゃないよなぁ…」

 

 カンチャルが数キロ先にある火山地帯を指差し

「大丈夫だよ。何かあってもこの距離なら」

 その指差した火山地帯の火山が爆発する。

 

 轟音と噴煙を上げる火山達。

 

 ネオの目の前にDIメイドランの立体映像が出て

「どうした?」

と、DIメイドランにネオは尋ねる。

 

 DIメイドランは

「大変です。昨日からネオ様の助言通りにこの一帯の宇宙上へ、探査監視衛星を配備させて監視していましたが…」

と、隣に別の立体映像が投影される。

 

 それは噴煙を上げる火山の深部探査レーダーの映像だ。

 映像にはマグマの巨大な一帯と、その中を泳ぐ何かの存在が…

 

 巨大な爆発が響き渡る。

 

 噴火した火山達が崩壊して、赤熱を放つマグマの海が噴出、そして…そのマグマの海から巨大な存在が

 

 DIメイドランが

「ネオ様の想定通りです。全長3500メートル、幅900メートルの生命体らしき存在です」

 

 爆発崩壊した火山地帯のマグマの海から、背中に無数のトゲを持ち銀色に光る小大陸のような巨体、ワニの如き頭部と顎門、そして…無数の鋭い爪を備えた足達を持ったそれが…大地に降り立ち

 

 ヴォオオオオオオオオオ

 

 大地に我ありと咆哮を上げた。

 

 それを見た全員が唖然として、スタンクは「ウソだろう…」と加えていたタバコを落とすも、ネオが拾って消してスタンクに始末をさせる為に渡して

「言ったろう。事実だと…」

と、ネオは確信を告げた。

 

 言い伝えの大陸龍亀が出現した。




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次話もよろしくお願いします。


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調査 その三

復活の大陸龍亀、それにネオ達と、そして…


 ネオ達は、火山地帯から出現した巨大存在を見守る。

 

 全長3500メートル、幅900メートルの陸を歩く多脚の大陸龍は、悠然と大地を歩く。

 背中は、ミサイルのような突起が幾つも並び、その合間から…あの発掘された金属生命の化石と同じ形状の者達が蠢いている。

 

 それを見たネオの隣にいるDデミアが

「まさか…本当に…」

 

 ネオにスタンクが

「どうするんだよ?」

 

 ネオは渋い顔をして

「とにかく、見守るしかない」

 

 ブルーズが指を鳴らして

「倒しちまうか?」

 

 デモンティアが

「あんなのどうやって倒す? ものすごい大軍が必要じゃぞ」

 

 ネオが

「止めといた方がいい」

 

 ゼルが

「どうして?」

 

 ネオはレーダー探査で知っていた。

「あの存在の内部、おそらく動力の源だが…ものすごいエネルギーの圧縮体がある。もし、アレを倒したとして、それが解放されれば…地表の全てが消滅する程のエネルギーを持っている」

 

 ヘパティアが

「倒してもマズい、でも…このままだと…」

 

 そう、この巨大な大陸龍亀の先には、ネオ達が根城にしている町がある。

 しかも、もう…近くにだ。

 

 ルディリが

「ネオ…方向を変えるくらいは…」

 

 レリスも

「そうですよ」

 

 ドリンとムラマサも頷く。

 

 ネオが渋い顔で

「下手に刺激したくないが…仕方ない」

 

 ネオの背部から、ルディリ、レリス、ドリン、ムラマサが乗る小型のロボット兵器が飛び出し、ネオが

「スタンク達は、町に先回りして避難を」

 

 スタンクは

「任せろ」

と、一目散に走って行く。

 

 残りの発掘を手伝ってくれたドルガ達にネオは

「君達は、安全な場所へ」

と、告げて、ネオ達が乗るロボット兵器達が飛翔して、大陸龍亀へ向かった。

 

 

 ネオ達が乗るロボット兵器は、飛翔しながら大陸龍亀の前に静止して、その銃口を向ける。

 

 唐突に、大陸龍亀が動きを止めた。

『え?』とネオ達は困惑していると、大陸龍亀は頭部を左に向けて、そちらへ移動を始めた。

 町を避けた。

 

 ネオ達は驚き、ルディリが

「どういう事?」

 

 方向を変えた大陸龍亀は、高い山脈へ登ると、頭部を空へ伸ばして周囲を見渡す。

 まるで、何かを確かめているようだ。

 

 ネオはハッとする。

「まさか…」

 

 ドリンが

「どういう事だ? 周囲を確認しているような感じだが…」

 

 ネオは再び、ロボット兵器で大陸龍亀の前に来る。

 何かを確認している大陸龍亀が、ネオが乗るロボット兵器へ、四つ目の視線を合わせるとネオが爆音で

「おーーーーーーーい 言っている言葉が分かるかーーーーーーー」

と、山に響き渡るネオの声。

 

 大陸龍亀が

”ヒィーーーーーーーーーーーーー”

 高周波のような音を放つ。

 

 そこへ、ルディリ達が乗るロボット兵器も来て

「ネオ、どうしたの?」

と、ルディリが。

 

 ネオは

「メイドラン」

と告げると、ネオの操縦席の隣にDIメイドランが来て

「はい。ご主人様…これは…」

 

 ネオは頷き

「高周波音域に変換された信号だ。DIマンティスネオを…」

 

 異星間文明解析研究が得意なDIマンティスネオを召喚して、解析を頼む。

 DIマンティスネオは、様々な立体映像を見せると、大陸龍亀がそれに応じて高音域の信号を放つ。

 

 一時間して、DIマンティスネオが

「解析が完了した。こちらから…対話をしてみるぞ」

 

 DIマンティスネオと大陸龍亀が対話をして二時間、DIマンティスネオが

「どうやら、こちらの言語が話せるらしいので、喋って貰うとする」

 

「そうか」とネオは頷き、乗っているロボット兵器をその場に下ろした。

 ルディリ達も着地して、そこへスタンク達が来て

「おい、どうなっている!」

と、スタンク達が来た。

 

 ネオが

「こちらの言語を喋れるらしい」

 

 巨大な大陸龍亀が、四つ並ぶ目をネオ達の近くへ向け

『いやはや、こんなに早く対話を可能にするとは…助かったよ』

 大陸龍亀が言葉を喋る。

 

 スタンク達は度肝を抜かれて、Dデミアが

「あの…貴方は…」

 

 大陸龍亀は

『もう…この星に来て数億年弱かのお…』

 

 スタンクが

「マジかよ。長寿ってのも程があるぞ」

 

 大陸龍亀がクリムを見て

『おや…そこの翼を持っている子よ。お主は彼女の眷属かい』

 

 クリムが驚きを見せ

「え? もしかして…女神様を…知っているんですか?」

 

 大陸龍亀が「ほほほ」と朗らかな笑い声を放ち

『そうか…まだ、彼女が座にいるのなら…余計な事は喋らない方がいいな』

 

 デモンティアが

「お主は何者ですか?」

 

 大陸龍亀が

『はて…遙か彼方、遠くの遠くの宇宙の果ての次元の彼方から、この星に住み着いた者さ。数百年単位で、地核へ潜ったり、こうして…大地に出たりと、そんな生活を続けている』

 

 ゼルが呆れ気味に

「数百万年って、どんな単位だよ。千年の長寿のエルフでさえビックリだぜ」

 

 大陸龍亀がネオを見て

『ほう…お主は…この世界の住人…いや、半分くらい、こっちの世界の住人なんじゃなぁ…』

 

 ネオが

「貴方は…名前は?」

 

 大陸龍亀が

『そうだな…旧神ルドラン、永劫のドラゴニアース、世界を統べる大地龍ディオロスとも、幾つもの名前で呼ばれていたさ。昔からの本名は、アースガルド…』

 

 ネオは

「アースガルドさん。貴方の目的は?」

 

 大陸龍亀アースガルドは

『別に、何時も変わらない。のんびり暮らす事さ』

 

 Dデミアは

「本当にそれだけ?」

 

 大陸龍亀アースガルドは

『そうだよ。のんびり暮らして世界を回ってみたいのさ。地上は何時も忙しい、その移り変わりをゆっくりと見詰める。それだけが望みさ』

 

 デモンティアが

「しかし、先程の話を聞く限り、貴方は神やら超常の存在として扱われていた。ならば…積極的に地上と関わった事もあるのでは?」

 

 大陸龍亀アースガルドは

『その通り、こちらが望まないのに、色々と巻き込まれてしまう。そういう事も理解している。だから、望みなのさ…』

 

 スタンクが

「アンタは敵意がない。だが…アンタの体から取れるそれは、ものすごいお金になるんだぜ」

 

 大陸龍亀アースガルドの体から生じる金属生命…いや、アースガルドの体から生じる金属生体産物は、もの凄い資源だ。

 

 ブルーズが

「見た感じ、アンタは色んな戦う為のモノを持っている。そうじゃないのか?」

 

 大陸龍亀アースガルドが

『その通り…。ワシ自身が身を守る力は、この世界に大きな傷跡を残す。だからこそ…色々と今までも巻き込まれる。だが、それでも争いが終われば平和に暮らせた。その傾向は今も変わらんと思うがのう…』

 

 ネオは大陸龍亀アースガルドを見詰めていると、後ろでDデミアとヘパティア、デモンティアが話し合いをして、Dデミアが

「分かったわ。一応、貴方の事を報告させて貰うわ。それから…色々と決めましょう」

 

 大陸龍亀アースガルドが

『そうかい…』

と、告げる。

 

 こうして、大陸龍亀アースガルドは、この地に留まって貰い、Dデミア達は報告を各地の為政者に伝える。

 

 

 

 その夜、ネオは大陸龍亀アースガルドと語り合い、隣にドルガもいた。

 

 ドルガが

「いや…本当に言い伝え通りだったなんて…」

 

 アースガルドはドルガを見詰め

『おお…君は…そうか…彼女達の子孫なんだねぇ…』

 

 ネオが

「知っている人が?」

 

 アースガルドが夜空を見上げ

『数百万年前の地上に出ていた時に…私に巫女を付けるとして共にあった娘達がいる』

と、告げるとアースガルドの体の触手のように伸びると、それが人型になり、それはドラゴンハーフとなった。

『ワシは、このように小型の分体を作れる。この小型の分体を彼女達の世話役にしていたら…』

 

 ドルガがフッと笑い

「ああ…つまり、その分体と…」

 

 アースガルドは頷き

『その通り、結ばれて…子をなして…そして、その伴侶となった娘達と共に消えたさ』

 

 ドルガが

「じゃあ、アタシ達の代々代々じいちゃんかね?」

 

 アースガルドは楽しげに

『ははははは、そうだな。こんなに可愛い遠い孫達がいて嬉しいよ』

 

 ネオは

「アースガルドさん。貴方は、この世界の…深部、多分、管理」

と、告げた次に気配を背後に感じて振り向く。

 

 黙って背後を見たネオにドルガが

「どうしたんだい?」

 

 ネオは視覚でなく、何かのエネルギーフィールドに似た反応を感じてレーダー波を飛ばすと、突然に立ち上がり右腕のナノマシン端末から高エネルギー砲身を取り出して構える。

 

 ドルガは困惑して

「ど、どうしたんだい?」

 

 アースガルドが

『彼女達の眷属が来たようだ』

 

 ネオのレーダー波には、物理干渉を防ぐ特殊フィールドに包まれた存在達が幾つも確認出来た。

 

 アースガルドが

『待て、彼ら…そう、君と一緒にいた翼を持つ天使の仲間達さね』

 

 不可視の天使の一人が、特別な加護を緩めると姿を見せる。

 それはクリムと同じ天使の者だった。

 

 突如、出現した天使にドルガは困惑する。

 

 ネオが鋭い顔で

「何の用だ?」

 

 天使がお辞儀して

「古き神、旧神ルドラン様にご挨拶を…と」

 

 アースガルドが

『彼女に伝えて欲しい。私は、君の治世を揺るがすつもりはない…と』

 

 天使がアースガルドを見詰めて

「しかし、貴方は旧神ルドラン。強大な力を秘めるお方、世界が混乱するのは必至だと…。それに、もう…」

と、天使がとある場所の空を見る。

 

 ネオとドルガは、その方角を見ると

「なんだ、あれ?」

と、ドルガは驚きを告げる。

 

 ネオは鋭い顔になる。

 

 見詰める先には、無数の飛行船の気球部分を上部にしてつり上げて浮力を得て空を飛ぶ船達、飛空艇の艦隊が迫っていた。

 

 Dデミアが箒に乗って現れ

「大変、アースガルドの事を知らせたら…各地の飛空艇の艦隊が来るってなって…」

 

 走って来たスタンク達も来て

「野郎、連中はこのバカでかいヤツをどうにかしちまうみたいだぜ」

と、スタンクが告げる。

 

 アースガルドは

『やれやれ、やはり…始めは荒事に巻き込まれるか…』

と、告げる言葉には、どこか達観したような感じがあった。

 

 ネオの通信にドラグアース帝国のロンバルディア皇帝が出て

『ネオよ、大変な事態になったぞ。お主達が見つけた大陸龍亀アースガルド殿を巡って戦争が起こるやもしれん』

 

 ネオは厳しい顔をして

「今、こちらへ、アースガルド殿に向かっている飛空艇の艦隊を確認しました」

 

 大きな争いの火種が起ころうとしていた。




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調査 その四

アースガルドの出現によって、傲慢で欲深き事が…


 大量の飛空艇の艦隊がアースガルドの周囲に浮かぶ。

 それはアースガルドを包囲していた。

 

 一隻の飛空艇が、アースガルドの顔の前にいるネオ達の元に降り立った。

 その飛空艇に掲げられている国旗を見て、スタンクが

「やろう…面倒くせえ連中が…」

 

 ゼルも厳しい顔をして

「ロマーヌス帝国の連中か」

 

 飛空艇の下部輸送口が開くと、そこから白銀に輝く騎士鎧を纏った一団が下りて来る。

 

 それを見たルディリとカンチャルが

 

「うわぁ…魔導鎧の部隊かよ」

と、カンチャルが

 

「しかも…魔導鎧のあっちこっちに魔法効果が刻まれた紋様が大多数ある」

と、ルディリが

 

 レリスが

「なるほど、完全武装で脅しですか…」

 

 強力な魔法のエンチャントをされた魔導鎧の一団がネオ達の前に来ると、Dデミアが

「この件に関しては、私達に裁量が任されているでしょう」

 

 魔導鎧の一団の隊長である男性が目の前に来る。

 二メートルを超える長身、獣人と魔獣人のハーフである彼は巨大で堂々とした胸を張り

「事態が変わったのですよデミア殿…」

 

 スタンクは、隊長である男を見て舌打ちして視線を逸らした。

 

 ネオがスタンクに

「知り合いか?」

 

 ネオの答えにゼルが

「コイツの実家の剣の館で、一・二を争う程に強かったヤツさ」

 

 スタンクが

「おれは、負けたとは思ってねぇ…」

 

 ゼルが

「お前とは引き分けばかりだったからなぁ…」

 

 スタンクがソッポを向いていると、ゼルが

「久しいなぁ…ガルガンドス」

 

 隊長のガルガンドスは微笑み

「久しいですなぁ…剣の館一族付きのエルフ殿…」

 

 ゼルが

「偉い、帝国で出世したなぁ…」

 

 ガルガンドスが肩をすくめて

「全くです。ちょっと力を見せれば、あっという間に一個部隊を任される隊長にされてしまった。お陰で、才ある若者を育てる立場で、今や…帝国で随一の剣の教育者なんてもてはやされて…飽き飽きしてますよ。ですが…鍛錬は欠かした事は無い」

 

 ゼルが営業スマイルで

「確かに、アンタは…剣が好きだからなぁ…」

 

 ガルガンドスが

「剣こそ我が道。ですが…」

と、スタンクを見て

「同じく凄まじい才覚を持つ者が冒険者程度に身をやつしておるとは…剣の館の主様も嘆いているでしょうなぁ…」

 

 スタンクが顔を向け

「なんだテメェ…」

と、苛立った顔を向ける。

 

 ガルガンドスがスタンクを凝視して

「私は、君に期待していた。その能力、才覚…剣の館随一となる筈だったのに…本当に」

 

 スタンクが

「なんなら、今まで引き分けで終わっていた勝負の全部を、ここで片付けるか?」

 

 ガルガンドスが

「外に出て、世の中の荒波に揉まれて成長しているだろうと期待したのに…その気質、相変わらずで残念だよ」

 

「ああああ!」とスタンクが声を荒げると、ネオがパンと手を叩き

「で…どうして、ここに来たのか…教えて貰いたい」

 

 それによって鋭くなった空気が消えて話し合いに移る。

 

 ガルガンドスが

「我が皇帝陛下のお言葉を伝える。この生物を我らのロマーヌスへ輸送する。それだけだ」

 

 ネオが厳しい顔をして

「アースガルド殿の意志は?」

 

 ガルガンドスが呆れ顔で

「このような巨大な生命に明確な意志があるとは思えない。これは…珍しい動物の運搬を行えとの陛下のご命令なのだよ」

 

 ネオが厳しい顔ながらも冷静な口調で

「アースガルド殿には、明確な意志と知性がある。それを卑下するような発言は、聞き捨てならない! 彼は! アースガルド殿には人権があると確証している!」

 

 ガルガンドスがネオに

「そちらの、ドラグアース帝国の常識は知らんが、我らロマーヌスの常識では、このような驚愕の存在には、同じ人としての道理がまかり通るとは判断していない」

 

 ネオが一歩前に出て

「どこまでも傲慢なんだ! お前達の勝手な思い込みで何もかも決めるな! その傲慢さ、何時か必ず…ロマーヌス帝国を追い詰めるぞ」

 

 ガルガンドスが鋭い顔をして

「その台詞、ここでは聞いていなかった事にしよう。我ら栄光あるロマーヌスが滅びる事などあり得ない! 我らロマーヌスは、最もこの地上で崇高な国なのだ。それが追い詰められるなぞ、あり得ない。そういう事だ…エルデトの英雄殿…」

 

 ガルガンドスはネオの事を知っていた。

 

 ネオとガルガンドスが鋭い顔をして睨み合っていると、アースガルドが

『もういい。争わないでくれ…』

と、巨大な頭部から呼びかける。

 

 ネオが「しかし!」と食い下がる。

 

 アースガルドが微笑むように四つの巨大な目を細め

『良いのだ。ワシが地上に出た時は、何時もこうなる。覚悟の上だ。だから…』

 

「待ってくれ」とネオの通信を通じてロンバルディア皇帝が出る。

 立体映像のロンバルディア皇帝が

「アースガルド殿、本当にそれは本心か?」

 

 アースガルドは四つの目を厳しいように曲げて

『本心ではない。だが…ここで争いになって多くの命に多大な犠牲を払うより、ワシがこのままロマーヌスという国に行く方が、遙かに多くの命が助かる。ワシは何時も何時も争いなぞ、望んでいない。だが…何時も争いに巻き込まれてしまう。だが、それも一時よ。それ程度の我慢をすれば良いのだ。慣れているから心配しないでくれ』

 

 ロンバルディア皇帝が

「私は、貴方の過ごして来た人生よりかは、短い寿命で終わる竜族だ。だが…それでも悠久という長い時間を生きる者の気持ちは理解できる。だから、我がドラグアース帝国へ来るというなら、アースガルド殿に運搬業という形で仕事に従事して貰って、様々な場所へ歩める事を許す事をしたい」

 

 アースガルドが

『しかし、それでは汝達に…』

 

 ロンバルディア皇帝は微笑み

「舐めるなよ。我ら竜族は、この世界で四分の一を占める大地を領土とする者、ロマーヌスに遅れは取らせない。それに…汝には気高き知性がある。我ら竜族は、姿形で知性の有無を決める程、愚かではない。そこのロマーヌスの連中とは違ってな」

 

 ガルガンドスが

「ロンバルディア皇帝、それ以上は越権ですな…」

 

 ロンバルディア皇帝が

「これはアースガルド殿が決める事だ。アースガルド殿」

 

 アースガルドは目を閉じて考えると、ガルガンドスが隣にいる部下へ

「お前達、周囲にいる飛空艇艦隊に通達、周囲を焼き払う準備をせよ…と」

 

 部下が戸惑いを見せるもガルガンドスが

「伝えろ!」

 

 ガルガンドスの威圧に押され部下が「了解です」と伝えに行った。

 

 アースガルドがそれを聞いて『止めてくれ…』と告げる。

 

 ロンバルディア皇帝が

「やれやれ、お前達、ロマーヌスは、相変わらず傲慢だな。二百年前から変わっていない」

 

 ガルガンドスが

「我らの運搬を邪魔すれば…周囲は火の海と」

と、告げている間に、アースガルドの上に巨大な転送魔法陣が展開された。

 それを発動させたのはDデミアとヘパティアにデモンティアだった。

 

 Dデミアが

「まさか…こんな事をする事態になるなんて…」

 

 空に展開された巨大魔法陣から竜の軍勢が下りて来た。

 ドラグアース帝国の竜族達だ。

 

 竜達は、飛空艇達の周囲に取り付き警戒する。

 

 ロマーヌスの飛空艇艦隊と、ドラグアース帝国の竜族達の大混戦寸前が完成した。

 

 Dデミアが

「もしもの場合って、ドラグアース帝国の皇帝から預かっていたのよねぇ…コレ」

 

 ガルガンドスが

「これは、まさに侵略行為だぞ!」

 

 デモンティアが

「そっちこそ、勝手に動いて契約違反ではないかね?」

と、悪魔族独特の契約を守る性質が出てくる。

 

 全体が動けない状態をアースガルドは一望して

『ワシは…平和に暮らしたい。だから…ドラグアース帝国に厄介になろうと思う』

 

 ガルガンドスが背中にある巨大な剣、斬馬刀と握る。

「させん! キサマは我々と来て貰う」

と、構える。

 

 スタンクが剣を抜こうと手に掛け

「往生際が悪い」

 

 ガルガンドスが

「我が皇帝陛下の命令は絶対。それを叶える為なら…」

 ネオに剣の切っ先を向ける。

 

 ネオは呆れつつも「分かった」と手を上げた後

「正当防衛以外は手を下さない」

と、ネオはガルガンドスに歩み寄る。

 

 ガルガンドスに近づくネオにスタンクが

「おい、お前!」

と止めようとするも、ルディリが

「黙って見ていなよ」

 

 スタンクが

「アイツは…強いぞ」

 

 ルディリがフッと笑み

「ネオはネオデウスだけが力じゃあないさ」

 

 ネオがガルガンドスに歩み寄る。

 

 ガルガンドスはネオに狙いを定める。

 平然と歩いてくるネオに

「忠告する。私は強いぞ」

 

 ネオが

「自分で強いと言うヤツに、強いヤツはいなかった」

 

 ガルガンドスの怒りの沸点が上がり、ネオへ斬りかかる。

 二メートル越えの斬馬刀を大ぶりで攻撃するのではない、空中で素早く蛇がくねるように不規則な突きで、ネオを襲いかかる。

 二メートル越えの斬馬刀の蛇のような突き、蛇腹が大蛇の如くネオに迫る。

 

 不規則に動く切っ先がネオに届いたとガルガンドスが確信した瞬間、ネオが陽炎の如く消えた。

 いや、くねるような切っ先を瞬時に紙一重で避けたネオが瞬歩というあっという間に間合いを詰める歩みで、ガルガンドスの懐に来た。

 ガルガンドスが反応できなかった。

 剣士として最上級のガルガンドスの反応速度を超えた速さで、ネオはガルガンドスの斬馬刀の握る両手部分に来て、その両手を持って捻る力を込める。

 ガルガンドスは、それに反応した。

 無論、両手を持って捻って斬馬刀を放させるつもりだろうと読み、体を締めて剣を離さないようにした。

 鋼の如く硬くなったガルガンドスの両手。それを解き放つのはムリだと、誰しもが思う。

 だが、ネオは違った。

 足から膝、腰、背骨と動きを連動させ、肩甲骨を瞬時に震わせてウェーブという全身の骨を使って波紋打撃を生み出す力を作り出し、ガルガンドスの剣を握る両手を下から突き上げる。

 ネオの身長は180、ガルガンドスは二メートル越え、しかもネオの体格の倍もある。

 そんなネオより強固な体の筈のガルガンドスの両腕が後ろへ吹き飛び、斬馬刀が空中を舞った。

 

 ガルガンドスは驚愕するも、使える足で攻撃をする。

 それも空を切った。

 

 ネオはガルガンドスの懐の真下にいた。

 そして、ガルガンドスの顎に触れた次に、先程と同じように全身の筋肉の瞬発力と骨による伝達を合わせたウェーブによって、ガルガンドスの顎に威力を伝達すると、ガルガンドスの脳が伝達される威力に揺さぶられ、意識が飛ぶ。

 

 そして、ネオはガルガンドスの纏う強固な魔導鎧の腹部に触れて、骨伝導威力のウェーブを叩き込む。

「ゴフ」とガルガンドスは、強固な魔導鎧を貫いて伝わった伝導威力によってダメージを受けて腹部を押さえて、その場に蹲った。

 

 それは、端から見ると、ネオが触れただけで、突きや打撃をしていないのに、ガルガンドスが倒れたようになっている摩訶不思議があった。

 

 ネオは、蹲るガルガンドスに

「今日、一日は立てないぞ」

 

 ガルガンドスは蹲り苦しみながら

「どんな魔法を…使った」

 

 ネオは

「魔法を使ったように見えるか?」

 

 ガルガンドスは歯軋りした。

 一番、自分が分かっている。ネオは魔法を使わずに倒したのだ。

 

 隊長のガルガンドスが倒れた事に部下達が「おのれーーーー」と剣を抜いてネオに襲いかかる。

 

 スタンク達が加勢しようとするも、ルディリが手を出して止めて

「ネオに任せた方がいい」

 

 スタンク達は止める目の前に、百人近いガルガンドスの部下達がネオの不思議な伝導威力の攻撃や、ネオが会得している合気道ベースの技を受けて投げ飛ばされて、一時間程度でガルガンドスが鍛えた部下達が沈んだ。

 誰も殺していない。最小限で倒している。

 

 スタンクが百人の戦士達が苦しみ倒れている場景を見て

「ウソだろう…アイツ…」

と、驚愕で襟を整えているネオの背中を見る。

 

 ルディリが

「言ったでしょう。ネオはネオデウスの力だけじゃないって」

 

 醜態をさらしたガルガンドスとその部下達は、乗って来た飛空艇の水兵達に回収され、ロマーヌス帝国の飛空艇艦隊は、その場から去って行った。

 

 こうして、アースガルドは、ドラグアース帝国へ来る事になった。




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帰還の途

ネオ達は事件を終えてアースガルドと共に帰還していた。


 旧神様のお店レビュー

 

 スタンク

 よう、野郎共! 今日は最近、地面から復活を遂げた旧神様のお店に来たぜ!

 流石、旧神と言われるだけあって、その背中から色んな存在を生み出せるが、端的に言って旧神様の分体は触手みたいなもんだから、あんまり迷惑は掛けるなよ。

 旧神様復活にて、旧神様の背中にお店が復活。

 そのお店の女の子は、ちょっと灰色っぽい感じの女の子ばかりだが、様々に体型を変えられるので、自分の好みの体型、容姿の女の子を選べるぞ!

 基本コースとしては、いっぱいの旧神様分体の女の子とのイチャイチャを楽しむスタイルだ。人族のオレとしては、ハーレムで楽しめたからグットだ!

 10点中9点

 

 ゼル

 エルフなんか、ゴミみたいに思える億年単位の存在のお店は、まさにテクニシャンな女の子ばかりだ。

 自分の好きな容姿や体型の女の子、しかも各種族の特徴を的確にコピーして再現する旧神様分体のクオリティの高さは凄い。

 今回は、好みの人間ではなく、アラクネ、ケンタウロス、アルラウネ、妖精と色んな種族を交えてのハーレムをやってみた。

 分体達の持つ魔力や、そのフレーバーは、どれも最上の一品で…本当に分体なのか?と戸惑うくらいだ。

最高のハーレム体験をしてみたいなら、来る価値はあるだろう

 10点中8点

 

 クリム

 ぼくも、始めてたくさんの女の子との致し方を体験しました。

 好きな種族や容姿に変えられる分体さん達の力は凄く、本当にその通りの姿や、その身体機能まで再現してしまう程です。

 僕は、天使なので…それに近い翼人達のハーレムをお願いしました。

 たくさんの女の子達としていると、本当に…なんというか…自分が分からなくなる程に…。

 とにかく、最高でした。

 10点中10点

 

 ブルーズ

 大柄の獣人であるオレにもピッタリな体型の女の子、特に獣人形態に変身してハーレムを体験できたのが良かった。

 すこし、肌が灰銀色だが…匂いまで変化できるので、オレの好きな匂いにさせて貰った。 獣人系は、体格差が大きくなるので、中々、気に入った女の子と出会う確率は低いが、このお店なら、自分の好みを指定できて、尚且つそれが多数のハーレムなのだからお得感が半端ない。

 10点中9点 

 

 カンチャル

 小柄なハーフリングであるオイラでも体型が合うように変形してくれるのはありがたい。そして多数プレイのハーレムが出来る当たりもポイントとして高いが…何分、プレイが普通のベッドでハーレムだから、色んなプレイをしたい人には物足りないだろう。

 何でも、旧神様が…そういうプレイが好きではないらしいので、普通に男女の致し合いから外れる事はない。

 道具とか、色んなプレイを楽しみたい人には、残念だけど…普通にハーレムプレイをしたいなら、OKかな

 10点中7点

 

 

 こうして、旧神アースガルドの復活は、スタンク達のレビューによって大々的に広まっていった。

 

 その旧神アースガルドは、現在…ドラグアース帝国へ向かって飛行移動していた。

 

 その巨大な背中の上にネオ達がいた。

 ネオは、アースガルドの背中から伸びるミサイルようなトゲを見上げて

「まさか…空間制御の力を持っているとは…」

 

 アースガルドの背中に生える無数のトゲには空間の密度、エネルギーの値を変える力が備わっている。

 それによって全長3500メートルの超巨体が浮き上がり、ゆっくりとだが…ドラグアース帝国へ向かって飛行移動していた。

 その巨体の移動を通る町や村の人達は、驚きで見上げて噂の的になっている。

 

 ネオはアースガルドの飛行能力から

「この力があれば…宇宙だって移動できるぞ」

 そう、アースガルドは宇宙を渡っていける能力があるのを見抜いた。

 数億年前に来た…とアースガルドは言っていた。

 つまり、惑星から惑星へ移動しているという事だ。

 

 驚愕して見上げるネオへ

「何を見上げているんだい」

 ドルガが隣に来る。

 

 ネオは、ドルガを見詰めて

「本当に良いのか?」

 

 ドルガは楽しげに笑み

「アンタの隣にいれるなら、地獄だって平気さ」

 

 アースガルドの移動前の時、ドルガがネオの前に土下座した。

「頼む、アタシをアンタの隣に置いてくれ」

 ドルガの土下座告白だった。

 

 スタンク達はニヤニヤと笑い、ルディリ達は呆れと共に仕方ないと…。

 

 ネオがドルガを立たせ

「何を言っているんだ?」

 

 ドルガは意を決した顔で

「アンタに、奥さん達がいるのも分かっている。だから…贅沢は言わない。アンタの隣にいさせてくれれば、それで…十分だ。だから…アタシも連れて行ってくれ」

 

 ネオは困惑を向け

「そんな、ムリだ。君は…君の人生がある。私なんかに関わるより」

 

 ドルガは、ネオに抱きつき

「アンタがどんなにダメだって言っても、アタシは…絶対にアンタの隣に居続ける」

 

 ネオは呆れてしまうが、通信でロンバルディア皇帝が出て

「ネオ、話は聞いた。どうだね? 少し…お前の妻達と話をさせてみないか?」

 

「えええ」とネオは青ざめる。

 現地で惚れられた女がいました。それと彼女達、嫁四人と話し合わせると言っているのだ。しかも一人は身重だ。

 ネオは必死に

「それは…ダメでしょう」

 

 ロンバルディア皇帝が

「良いから、話させてみろ」

 

 こうして、ネオのドラグアース帝国でも妻達、竜族のティアマ、レティマ、アマティアに鬼神族のバサラ、そして…ドルガと話し合いが始まり、ネオは席を外されて遠くから見守っていると、何か盛り上がっていた。

 ネオは嫌な予感を感じて

「まさか…」

 

 話し合いがわった。

 

 四人の妻達、ティアマ、レティマ、アマティア、バサラは、ティアマが

「アナタ、ドルガも私達に加えるから」

 

 えええええええええええええっとネオは無言の驚きをした。

 

 バサラが

「ドルガ、見所があるよ!」

 

 ネオが戸惑い気味に

「え、いや、えええ! えあ? え? 良いのか?」

 疑問を四人の妻達に向ける。

 

 レティマが

「私達は、皆、子供がいるから…当分の間、アナタの相手が出来るまでドルガにアナタの相手をさせるから…」

 

 ドルガが喜び飛び上がっていた。

 

 ネオは魂が抜けたように呆然としていた。

 

 ロンバルディア皇帝が「良かったなネオ…」と怪しく楽しげに微笑んだ。

 

こうして、ドルガが五人目の妻になり、ドラグアース帝国へ向かう事になった。

 ドルガへネオからの条件が加わる。

 妻達全員を平等に扱うから、不平等と思ったら遠慮無く言う事。

 それを約束させた。

 

 こうして、ドラグアース帝国への帰路へ向かうネオ達を乗せたアースガルドだが、途中の港町に着水して、スタンク達を下ろした。

 

 スタンク達と共に、Dデミア、ヘパティアとデモンティアも降りた。

 

 Dデミアが

「さっき、ドラグアース帝国のロンバルディア皇帝と話したけど、どうやら、ロマーヌス帝国とは、アースガルド殿の資源を山分けするって事で合意したみたい」

 

 ネオが頷き

「争いにならないなら、十分だ」

 

 ヘパティアが

「では、アースガルド殿!」

 

 アースガルドは巨大な頭部の目の一つを向け

「分かっている。色々と調査やサンプルにくるんだろう。待っているよ」

 

 こうして、スタンク達達と別れて、ドラグアース帝国へネオ達を乗せたアースガルドが出発した。

 

 ネオ達が見送るスタンク達に手を振ると、同じく手を振り返すスタンク達、そして、Dデミアが投げキッスをした後、右手の握る拳を見せた。

 

 ネオはDデミアが去り際に、ネオに何かのメモを握らせた。

 

 Dデミア達が遠くなり、ネオは左手に握るDデミアのメモを読む。

 フラスパの法皇の思し召しが…。

 

 それを読み終えるとネオは鋭い顔をしてメモを握りつぶして手中内にエネルギーを照射してメモを焼き切った。

 炭になったメモを風に乗せて消す。

 

 Dデミアが伝えた事。

 つまり、スタンク達の国々にある教会、フラスパ教会の力も働いたという事だ。

 ネオ達の世界もそうだが…そういう政治的な力関係の争いは、この世界も同じらしい。

「嫌な部分が一緒だなぁ」

と、ネオは皮肉に呟いた。

 

 

 スタンク達が自分達の町への帰路の森の途中、クリムが同僚の見えない天使達が来た事に気付く。

 クリムが

「スタンクさん、ちょっと外します」

 

 スタンクが

「クソか? その辺でもひねり出せよ」

 

 クリムが顔を真っ赤にして

「違います!」

 

 ゼルが

「じゃあ、対戦車砲から、発射か?」

と、下半身にムスコの形の手をしておどける。

 

 クリムが怒り気味に

「もう、本当にデリカシーがないんだから…」

 

 クリムは、見えない仲間の天使達と共に、スタンク達から離れ話をする。

 

 クリムが

「何用ですか?」

 

 天使の一人が

「君は、あのネオって人物と親しいのかい?」

 

 クリムは、ネオとの色んな事を思い返してホホを染めて

「ま、まあ…その…色々と…」

 

 天使の一人が

「君にお願いがある。我々はドラグアース帝国との契約の関係上、ドラグアース帝国へ行く事はできない。だが、君は天使の枷から外れている」

 

 クリムは、掛けている自分の天使の輪っかを触り

「まあ、確かに…」

 

 天使の一人が

「ネオと交流を持って色々と監視して欲しい」

 

 クリムが嫌な顔をして

「その…監視だなんて…」

 

 天使の一人が

「世界の監視は、我々の責務だが…。君が気に病むなら…友達として付き合って、何か問題が起こったら報告して、我々に協力を仰げばいい」

 

 クリムが微妙な顔をして

「つまり、友人であれと…」

 

 天使の一人が

「友人でなくてもいい。彼の伴侶の一人としてもいい。我々は男女が、雌雄同体なのだら…。その辺りの偏見は、彼に…ネオに無いようだから」

 

 クリムが色んな事を思い返して顔が茹で蛸になる。

 

 天使の一人が

「じゃあ、そういう事で、よろしく」

と、天使達が空へ登る。

 

 クリムが「友人か…」と呟いた次に、伴侶という言葉を思い出して真っ赤になった。

 

 

 

 そして、天使達は、フラスパ教会の総本山、聖地ゲッティへ

 総本山の大聖堂内の巨大ホールには、最古のメンバー、世界樹のエルダートレント、古龍のエンシェントドラゴン、海竜のリヴァイアサン、不死鳥のフェニックスの四人がいた。

 

 最古の四人は、天使達から報告を聞いて 

 

 世界樹のエルダートレントが

「そうか…古の旧神がドラグアース帝国へ」

 

 古龍のエンシェントドラゴンが

「旧神ルドラン様は、争いを望む方ではない。当分の間、放置で良いだろう」

 

 海竜のリヴァイアサンが

「我の方から、海の者達に話を通そう。海底火山噴火の際には、マグマを取り込んで火山活動を抑えてくれるだろうから」

 

 不死鳥のフェニックスが

「しかし、我々の関心は…旧神ルドラン様より、あの男…ネオです」

 

 世界樹のエルダートレントが

「報告によると、別世界から…」

 

 古龍のエンシェントドラゴンが

「集めた情報によると、例のアレが産まれた世界と酷似した別世界らしい」

 

 海竜のリヴァイアサンが

「では、あれの再来に…」

 

 そこへカーテンに隠れる法皇が

「アレは、特別でした。それだけの事」

 

 世界樹のエルダートレントが

「そうとも…アレによって、この世界は…壊滅寸前まで追い込まれた」

 

 海竜のリヴァイアサンが

「我らフラスパ教会が異種族との交流を積極的に行うようにしているのも、アレが原因だったからだ」

 

 カーテンに隠れる法皇が

「激減した命達、おびただしい死者達、アレが復活した時に、その牙に掛からない為にも」

 

 不死鳥のフェニックスが

「アレは…本当に恐ろしい存在でした。絶対の審判のラッパであり、究極の大量殺戮兵器だった。いや…神だった」

 

 世界樹のエルダートレントが

「アレは封印されているが…いつ、封印が解放されるとも分からん」

 

 古龍のエンシェントドラゴンが

「女神様が封印の重しとなっているお陰で影響はないが…」

 

 カーテンに隠れる法皇が

「希に…封印のスキマから地上へ現れる」

 

 世界樹のエルダートレントが

イマ・デウス(審判の神)は必要ない。必要なのは、融和の女神だけよ」

 

 天使達の中でも最古の天使、六枚翼の大きな体の天使が現れた。

 天使は雌雄同体、男女が合わさっているなかで、唯一、男としての片方が許された存在の天使ルシーファが、艶やか金髪を靡かせ

「罪食い大神の復活は、絶対に阻止しなければ、なりません」

 

 カーテンに隠れる法皇が

「あのような地獄は、もう…見たくありませんから…」

 

 法皇と大天使ルシーファには、聞こえていた。

 この世界の裏に封印されたそれが、今でも叫び続けている。

 

 悪は、どこだ! クズは、どこだ! 

 死ね、死ね、死ね、誰がお前のような悪が息をしていいと言った。

 死ね、死ね、死ね、誰がお前のような悪が生きていいと言った。

 死ね、死ね、死ね、誰がお前のような悪が存在していいと言った。

 全ての悪が憎い、オレは悪を喰らう悪。

 悪尽悪滅

 

 今でもそれは、蠢き存在して、解き放たれるのを待っている。

 解放された時、全ての悪が駆逐されるだろう。

 殺人、強姦、窃盗、詐欺。

 悪の根幹を見つけ出して喰らい殺す。

 その為だけに、それは存在している。

 

 罪食いの大神が、解放されるのを待ち焦がれている。

 そして、それは…ネオを感知していた。

 ネオを知覚してほくそ笑んだ。




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任務、リンド・ヴルム街へ

 ネオは、ロンバルディア皇帝からの極秘任務の為に動く


 彼は善良だった。

 優しく、そして慈悲深い男性だった。

 だからこそ、罪を犯した者も贖罪を終えて、真っ当になれるチャンスがあると…。

 だが、それは人の中にある666とされる根源の悪によって打ち砕かれた。

 彼は、所詮…人間は、獣と同レベルと知って絶望した。

 真理とは絶望である。

 真理とは限界である。

 真理とは変えられない失望である。

 

 彼は赫怒した。

 

 罪人に救う価値があるのか!

 聖人ばかりを押しつける世界と、絶望を知らない愚かな羊達が広がるだけのシステムを。

 完全管理のシステム世界を創り出した別世界の人類は、自らの悪を直視する事無く、蓋をして隠していた。

 

 彼は、絶望した。

 彼は、真理を知った。

 彼は、選んだ。

 

 この世界から、全ての悪を根絶させると…。

 神域を超えた次元、高次元解釈を手にして、それによって神化した。

 

 罪人を見つけて食い殺すサタンヴァルデッド(罪人喰の天道)から、更に深化して、サタンヴァルデッド(罪人喰の神人)へ。

 

 彼のいた時空と、その周囲にあった数十個の平行時空の罪人達を全て喰らい殺し、それでも満足しなかった。

 

 あの時空に罪人がいる。あそこにも罪人がいる。そこにも罪を犯す愚か者がいる。

 

 全ての罪は、男に通じる。

 

 彼が罪人を喰らい殺した時空は、急速に文明を発展させる。

 それは男女比が一対一〇〇になっても問題ではない程に、文明を超絶進化させた。

 

 時空を渡り、渡った時空の罪人である男達を食い殺して、文明を急速進化させる。

 

 天災であり天恵の彼は、とある時空に来た瞬間、その権能を発揮する事が出来なくなった。

 

 それは…その時空に、彼が最も大切にした魂の転生があったからだ。

 

 それに引っ張られ力を失った。

 

 彼の戦略は、とても合理的だ。

 その世界に一個の人として訪れ、その世界を学習して、効率良く、罪人の基準を知って喰らいつつ文明を急速進化させる。

 

 そんな彼の戦略が崩れた。

 自分をサタンヴァルデウスへ至る理由とさせた者の生まれ変わりによって…。

 

 彼は、その世界の神々に封印された。

 だが、その封印にも隙間が生じる。

 

 何れ…また、外に出る時を待っている。

 だからこそ、その隙間から世界を確認する。

 そして、見つけた。

 封印を開けられる存在を、ネオ・サーペイント・バハムートを。

 

 

 ネオはドラグアース帝国の皇帝城を進んでいると、背筋に寒気を感じて後ろを振り向く。

 そして、レーダー波を飛ばすが、何も捉えられない。

「気のせいか…」

 

 いいや、それは確かに存在していた。

 この世界の法則を超えた存在であるが故に、それはネオを見て笑う。

 サタンヴァルデウスは、ネオがどのように動くか、見ている。

 流石、ネオはネオデウス(神機)の融合者。

 無意識だが、高次元と繋がっている。

 サタンヴァルデウスに寿命は存在しない。

 時間は、幾らでもある。

 ネオは、この世界に自分の血筋を残している。

 今のネオが思い通りに動かなくても、その子達が、子孫達がいる。

 

 

 ネオがロンバルディア皇帝の前に来て

「お呼びでしょうか? 陛下…」

 

 書斎にいるロンバルディア皇帝は、手にしていた本を本棚にしまって

「すまんな。急いで呼び出してしまって…」

 

 ネオが首を傾げ

「どのような、ご用件でしょうか?」

 

 ロンバルディア皇帝は、書斎にあるソファーにネオを座らせ、自分も対面のソファーに座り

「ネオ、前にヤマト皇国に行ったのを」

 

 ネオは頷き

「ええ…また、ヤマト皇国の関係で…」

 

 ロンバルディア皇帝は首を横に振り

「いや、違う。我がドラグアースとヤマト皇国の間にある大陸、ドラグアース帝国の東にある国々が沢山ある大陸にリンド・ヴルムという街がある。その町を作ったスカディという竜族の娘に我が国の親書を渡して欲しい」

 

 ネオが訝しい顔で

「それなら、チャンとした使節団を使って届けた方が…」

 

 ロンバルディア皇帝が厳しい目をして

「そうしたいのは山々だが、その大陸は、百年ほど、各種族が別れて戦争を続けていた。ワシ等のような異種族の事を魔族と呼び、人族と魔族、果ては魔族と魔族、魔族と人族の混合といった具合に混沌とした戦争を続けていたが…。十年ほど前に終戦して、ワシ等のように異種族達が暮らす街を形成した。その第一号がリンド・ヴルムだ」

 

 ネオが

「ああ…つまり、ドラグアース帝国がそのリンド・ヴルムに肩入れしていると周囲に見られれば、折角の終戦したバランスが崩壊しかねないと…」

 

 ロンバルディア皇帝は微笑み

「その通りだ。故に、お主のようなイチ冒険者が、偶々、親書を預かって届けた…という事にする。それにだ。お前がエルデト病を治した時に使った抗ウィルス薬と、新型の免疫学習型ワクチンの製造方法も伝えて欲しい。無論、表向きは…そのリンド・ヴルムの医者の依頼という個人的な事にしてな」

 

 ネオは顎を摩り笑みながら

「なるほど…確かに、自分に適任ですね。世の平和の為に動くですか…。了解です」

 

 ロンバルディア皇帝が

「ただ、人数は多くは連れて行けない。お前を合わせて四人が限度だ。しかも、我がドラグアース帝国以外の者を付ける方が良い」

 

 ネオがロンバルディア皇帝を見詰め

「つまり、その人選は済んでいるという事ですね」

 

 ロンバルディア皇帝が頷き「入って来い」と呼ぶと…

「よう!」と手を上げるスタンク。

「よろしく」と笑むゼル。

「どうも…」とお辞儀するクリム。

 

 ネオはその三人を見て

「まあ、確かにちょうど良いですが…」

 

 ロンバルディア皇帝が

「此奴等のレビュアーズという肩書きが良いのだ。エロだけを求める愚か…いや…まあ、宣伝者というのが、余計な警戒を起こさせないからな」

 

 スタンクがガッツポーズをして

「お宅達の全額負担で、リンド・ヴルムの大人の肌を合わせる花街のレビュー書いてくれと頼まれちゃあ、断れねぇぜ! 全力でレビューさせて頂きます!」

 

 ネオは動機が不純すぎて頭を抱えるが

「まあ、いいか。とにかく、問題は起こさないでくれよ」

 

 クリムがネオの隣に来て

「また、よろしくお願いします。ネオさん」

 

 ネオはクリムに微笑み

「スタンクは、微妙だけど…君にまた、会えてうれしいよ」

 

 クリムは照れ笑いする。

 

 ネオがロンバルディア皇帝に

「この四人という事は…妻のドルガーは…」

 

 ロンバルディア皇帝は厳しい顔をして

「すまんな。余計なリスクを増やしたくない。今回は、この四人だ。なに、早ければ一週間で終わる任務だ。頼むぞ」

 

 ネオは残念そうに「そうですか…」と口にする。

 

 

 その後、妻達がいる皇帝城の居住区に来て、ネオの子達を抱えるティアマ、レティマ、アマティア、バサラ、ドルガーの五人の妻達を前に、ネオは事の全てを隠さずに伝えた。

 

 ティアマが

「そうですか…仕方ないですね」

 

 九ヶ月のお腹のバサラが

「ドルガーがそばに居てくれるから安心してたんだけど…仕方ないか…」

 

 ここ最近、ネオが調査へ出かける時には、ドルガーが同行している。

 浮気防止というより、ネオを取り込んで美味しい思いをしようとする邪な輩の女達から守って貰っていた。

 ここ最近のネオの名声は高まるばかり、ロマーヌス帝国で最強の剣士を素手で倒したのが広まったのと、ネオの子供達がネオの力、マキナ族という能力を持って産まれるというのも広まって、ネオの子種を狙ってくる輩が後を絶たなくなった。

 それから守る役目もあって、妻のドルガーが一緒にいる。

 

 だが、今回の任務は、少数での事。

 まあ、ネオの噂は、その大陸には広まっていないので、そういう問題は起こらないだろうけど。

 

 ネオが妻達に

「すまない。迷惑ばかりかける」

 

 五人の妻達は苦笑する。

 レティマが

「仕方ないわよ。アナタは皇帝の極秘の命令まで直々にこなせるという信頼があるから」

 

 ドルガーが

「ああ…そんなスゲー旦那の嫁ってだけで誇りに思うぜ!」

 

 アマティアが

「気をつけてね。国の西にある大陸の事は話では聞いているけど…まだまだ、種族間同士のいざこざが残っているみたいだから」

 

 ネオは妻の忠告に頷き

「肝に銘じて置く」

 

 ティアマがネオの後ろにいる三人、スタンクとゼルにクリムを見て

「そこの人族は分からないけど、へぇ…久しぶりねエルフ…」

 

 ゼルが怪しげな笑みで

「まさか、殲滅竜姫に、滅殺竜姫、絶滅竜姫の三人が嫁さんだったとは…」

 

 ティアマ、レティマ、アマティア、の竜族の妻達が怪しげに笑み、レティマが

「アンタが私達に協力するなんて、時間が過ぎるのも早いわね」

 

 不思議な笑みの睨み合いをするゼルとネオの竜族の妻達、クリムがスタンクに耳打ちする。

「何があったんですかね?」

 

 スタンクは苦笑で

「まあ、殲滅、滅殺、絶滅なんて付いている竜の姫さん達なんだ。話は聞かない方がいいぜ」

 

 ネオが

「すまんな、ティアマ、レティマ、アマティア、バサラ、ドルガー。一週間くらいだ。終わったら直ぐに帰ってくる」

 

 レティマが

「確か、スカディが作った街に行くのよね!」

 

 ネオが頷き

「ああ…同じ竜族の者らしい」

 

 アマティアが

「だったら、私達の手紙も持って行ってよ」

 

 ネオが

「知り合いなのか?」

 

 ティアマが

「ええ…同年配の友人よ」

 

 ネオは頷き

「なるほど、分かったよ」

 同じ竜族だ。そういう事も当然あるのは自然な事だ。

 

 

 

 

 こうして、ネオ達四人は、ドラグアース帝国からの大型運輸船に乗って、東の大陸にあるリンド・ヴルムへ向かう。

 ネオは、ロンバルディア皇帝と妻達の手紙を持ち、そして…そのリンド・ヴルムにいる医者のグレン・リトバイトの診療所へ、エルデト病の時に使った抗ウィルス薬と免疫学習型ワクチンの製造方法を伝えに…。

 

 ネオ達を乗せた船は、順調に航海を終えて一日で、リンド・ヴルム街の港へ寄港した。

 

 ネオ達四人は、船を下りてリンド・ヴルム街を進む。

 別に普通だ。

 自分達の街のように異種族達が交流している風景に、ここが今まで異種族同士で戦争していたなんて思えない程だ。

 

 スタンクが

「なんでぇ…普通じゃねぇか…」

 

 クリムも頷き

「ええ…自分達となんら、変わりもないような…」

 

 ネオも頷き

「ああ…そうだな」

 

 だが、ゼルだけが

「お前等…よく見ろ。人族がいねぇ…」

 

 それを言われて三人がハッとしてスタンクが

「確かに、エルフは数が少ないからオレ達の方でもいない街はあるが、人族を…見てねぇ」

 

 ゼルが

「まだまだ、種族の壁は厚いだろうね。人族ってのは、最後まで拘るからよ」

 

 ネオは地図を広げて

「ええ…まずは、スカディ氏の屋敷へ向かおう」

 

 四人は、こうして新たな場所、リンド・ヴルム街を進んでいった。




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診療所

ネオ達は、予定通りに、スカディと面会して


 ケンタウロスが引っ張る馬車に乗って、ネオ達はスカディの屋敷へ向かう。

 その町中の風景、リンド・ヴルム街を窓から見るスタンクが

「本当に、ここは人族が少ねぇなぁ…」

 

 隣にいるゼルも

「確かに…」

 

 対面の席にいるネオが

「そんなに人族が少ないのが珍しいのか?」

 

 スタンクが

「だいたいの街は、人口の半分とまではいかないが…人族は多い。要するに人族は潰しが聞くからなぁ…」

 

 ネオの隣にいるクリムが首を傾げて

「潰しが聞くってどういう事ですか?」

 

 ゼルが笑みながら

「人族は、どの異種族でも生活を共に出来るからだ。形状が違う。例えばアラクネやこの馬車を動かすケンタウロスが結ばれたとして、生活はどうなる?」

 

 クリムは想像する。

「それは…」

 ケンタウロス族もアラクネ族も体が大きい、きっと大きな住居が必要だし…食事が…。

 

 スタンクが

「ケンタウロスは草食、蜘蛛のアラクネ族は肉食がメインだ。食生活でもすれ違いが多い。そんな関係は長続きしない」

 

 ネオが頷き

「確かに…」

 共に暮らすという事は、何かしらの共通性がない限り維持は出来ない。

 人間だって性格の不一致で別れたりする。ましてや、異種族同士だ。

 すれ違いが多ければ…破綻するのは目に見えている。

 

 スタンクが

「まあ、その辺の違いは、お互いがお互いに知恵を出し合って暮らせば、問題はないが…やっぱり共に生活するってのと、一時の出会いってのは違う」

 

 ゼルが

「そうなると、やっぱり…合わせられる性質幅が大きい人族がいると、楽な事はある」

 

 ネオが

「要するに、そういう摩擦を防ぐ中間になり易い事と、役目を負うのが人族と…」

 

 ゼルが頷き

「そういう事さ。だから、必然的に人族が多くなるが…」

 

 スタンクが

「この街は、違うようだ。街そのモノが、どんな異種族にも合うように設計されているようだ」

 

 ネオは再び外を見て「なるほど」と唸る。

 

 確かに住居の扉は大型に作られているし、街の至る所に水棲族ようの水路が張り巡らされている。

 道幅もどんな大型の種族が通れるように広い。

 今までとは違う異種族の街にネオの好奇心が刺激された。

 

 そうしている間に、スカディの屋敷へ馬車が到着して、ネオ達はスカディの屋敷のドアをノックする。

 ダゴン族のメイドさんが姿を見せて

「あの…どちら様でしょうか?」

 ダゴン族なのに、長いスカートのメイド服にネオは疑問を感じて、レーダー波を飛ばすと、その長いスカートの中に大量の武器が隠されている。

 どうやら、護衛タイプのメイドさんらしい。

 

 ネオは懐からとある宝石を取り出し

「これを…スカディ様に…」

と、ダゴンのメイドさんに渡す。

 

 ダゴンのメイドさんは、ネオから渡された緑で中心に赤い結晶が入った宝石を手にして

「少々、おまちください」

と、中へ戻った。

 

 スタンクがネオに

「あのダゴン族のメイドさん…」

 スタンクは気付いていた。スカートの下に大量の武器が隠されていると…。

 

 ネオは

「争い事をしに来たのでは無い。親書を手渡しに来たんだ」

 

 ゼルが

「まあ、どちらにせよ。ダメなら帰るだけさ」

 

 ネオは渋い顔をする。

 要するに受け入れない場合は…という事だ。

 

 だが、ダゴンのメイドさんが再び現れ

「どうぞ、スカディ様がお会いになるそうです」

 

 屋敷に通され、最上階のスカディの実務室へ来ると、青い髪に黄金の龍の角と、大きな龍の尻尾を持つ少女と、その隣につぎはぎだらけの女が立っている。

 

 青髪龍角の少女がネオに近づき

「久方ぶりに竜族の顔を見れるとは思いもしなかった」

 

 ネオが頭を下げ

「はじめまして、ドラグアース帝国から来ましたネオ・サーペイント・バハムートです」

 

 青髪龍角の少女、スカディが手を伸ばして

「遠路はるばる、ようこそ。スカディ・ドラーゲンフェルトだ」

 

 ネオとスカディが握手して、スカディが

「まさか、ロンバルディア皇帝の鱗を持ってくるとは…思いもしなかった」

 

 ネオがハッとして

「あの宝石ってロンバルディア皇帝の鱗だったんですか?」

 

 スカディが微笑み

「ロンバルディア皇帝は大地竜だ。あのような鱗を持つのだよ。君は完全に人の形態だが…」

 

 ネオは髪を掻き上げ

「半分混じりですよ」

と、ドラゴントランス、竜族と人族の混じった形態になる。

 

 スカディが興味深そうに

「なるほど、君は最近、竜族になったからドラゴンになったり人になったりできるんだね。私は、長い事…この状態だからドラゴンへの戻り方を忘れてしまったよ」

 

 ネオが

「訓練をすれば、またそのように…」

 

 スカディは微笑み

「そのつもりはない。それより…」

 

 ネオは背負っている荷物から親書と手紙を取り出し

「これが皇帝陛下の親書と、こちらは ティアマ、レティマ、アマティアの手紙です」

 

 スカディは受け取り、ロンバルディア皇帝の親書を読みながら

「あの三人、ティアマ、レティマ、アマティアは元気かい」

 

 ネオは頷き

「ええ…息災ですよ。今、産まれたばかりの赤ちゃん達の世話に追われています」

 

 スカディの目が点になり

「子供、三人の内、誰かが?」

 

 ネオが

「いいえ、三人とも私の子を身籠もって出産しまして…その産まれた子供達の世話で…」

 

 スカディがネオを凝視して

「え? 君は、あの破滅の三竜達の旦那なの?」

 

 ネオは物騒なワードが出て来て戸惑いつつ

「は、はい。凄く大切にしてくれる良い妻達ですが…」

 

 スカディはハァ…と溜息を漏らし

「やはり、千年とは相当な年月なのだなぁ…」

 

 ネオは、何時もの見ている穏やかな妻達の過去が気になるも、渡した親書に集中する。

「その…皇帝陛下の親書には…?」

 

 スカディはフッと笑み

「変わらないよ。何か困り事があったら遠慮無く相談しなさい。それだけ、彼女達の手紙は後でじっくりと読むとして…親書には君が新薬の製造方法を…」

 

 ネオが頷き

「はい、病気を治す薬の製法を伝えよと…」

 

 スカディが後ろに控えるつぎはぎだらけの女に「クナイ」と

「は!」とつぎはぎだらけの女、フレッシュゴーレムのクナイが近づき、スカディが

「彼らをリンド・ヴルム診療所へ、グレン医師の元へ案内してやってくれ」

 

 クナイが背筋を正し

「了解しました。竜闘女様」

 

 スカディが部屋にある机に来ると、手紙を取り出し何かを書き封をして「これが私からの紹介状だ」と、クナイに渡して

「グレン医師に教えれば、必然的にリンド・ヴルム中央病院でも使われる事になるだろう。今後、遠方の諸外国との交流も盛んになる。こういう新たな治療薬の提供は助かる。よろしく頼むよ」

 

 クナイがお辞儀して

「畏まりました」

 

 スカディがネオの前に来て

「今後とも、この街とそちらとは長い付き合いになるだろう。ロンバルディア皇帝と彼女達三人に伝えてくれ。偶に遊びに行くよって」

 

 ネオは微笑み

「何時でもドラグアース帝国へ来て下さい。妻達も喜びますので」

 

 スムーズに事が進み、クナイの案内でリンド・ヴルム診療所へ来る。

 ネオが診療所のドアをノックする。

 その後ろにスタンクとゼル、クリムがいて、スタンクが

「以外と大きな診療所だな…」

 

 ゼルが

「なんでも色んな異種族専門の医者らしいから、大きな体の異種族にも入れるように作ってあるんだろう」

 

 スタンクが顎を摩り

「へぇ…色んな異種族専門ねぇ…」

と、口にしている間に

 

「はぁ…い」と診療所のドアが開いた。

 そこには看護師姿のアルビノのラミアの女性がいた。

 

 看護師のラミアの女性が

「どちら様でしょうか?」

 

 ネオがスカディから預かった紹介状を看護師に渡して

「この方の紹介で来ました」

 

 看護師のラミアが紹介状を受け取り

「え、スカディ様から?」

と、紹介状の裏にある魔法封緘を見る。

 それはスカディにしか押せない特別であり、それが証明になり

「少々、お待ちください」

と、看護師のラミアは中へ戻り、紹介状を持って行った。

 

 それから数分後、若い青年の医師が姿を見せ

「はじめまして、この診療所を任されています。グレン・リトバイトです。彼女は」

と、看護師のラミアを示し

「一緒に診療所をやっていますサーフェンティットです」

 

 看護師のラミア、サーフェはお辞儀して

「初めまして」

 

 グレンがネオを見て

「紹介状には遙か遠方の帝国から…ウィルス疾患に有効な薬学の製法を…」

 

 ネオは頷き

「この製法を使えば、特定のウィルスに対して有効な抗ウィルス薬が製造できます」

 

 グレンが戸惑いを見せて

「あの…そんな凄い製法…こんな小さな診療所が作って使って良いのでしょうか?」

 

 ネオが笑み

「事情があるのですよ。外ではマズいので…」

 

 ネオ達は、診療所へ入る。

 応接室で、グレンを前にネオ達が席に座り、そこへサーフェがお茶を持って来て

「どうぞ…」

 

「ありがとうございます」とネオはお辞儀する。

 スタンクとゼルにクリムも受け取ると、スタンクがサーフェを見て

「アンタ、美人だねぇ…今夜、どうだい?」

 

「はぁ」とサーフェが軽蔑の顔を向ける。

 

 クリムが

「すいません。この人、ちょっと頭がおかしいんです。ごめんなさい」

 

 スタンクが

「クリム、テメェ!」

 

 ネオが

「静かにしてくれないか?」

 

 スタンク達は黙る。

 

 ネオがグレンに

「グレン医師、確かに貴方の言う通り、この製法は一介の診療所が独占していいモノではない」

 

 グレンが

「尚のこと、ここより中央病院の方が…」

 

 ネオが

「それではマズいのです。これは外交が絡んでいるのです」

 

 グレンは驚きを向け、グレンの隣にいるサーフェは訝しい顔をする。

 

 ネオが

「この製法は、国家達が無料で使っている特許なのです。むろん、これは治療以外に使われない事を絶対条件としてです。このリンド・ヴルムがある国、大陸は…長年、異種族同士で戦争をしていた。それがやっと平和になり、異種族同士が交流を開始した。その行動は、このリンド・ヴルムがある大陸の者達の自発的な行動であるとして…」

 ネオが貰ったお茶で口を潤し

「ですが、もし…この自発的な事が他国の影響、特に大きな帝国や連合国、皇国の影響によって成されたと噂が立てばどうなるでしょうか?」

 

 グレンは静かな顔で

「つまり、この地域の平和を乱さない為に…」

 

 ネオは頷き

「グレン医師の噂は、私どもドラグアース帝国にも及んでいます。異種族の治療の為ならムチャをする若い青年の医師だと…。そんな人物が、治療の為にこの製法を密かに持ち帰った所で、悪評ではなく賞賛が送られるでしょう」

 

 グレン医師がフッと笑み

「そういう意図があるのでしたら、喜んで製法を受け取りますが…これが師のいる中央病院まで伝わるかもしれませんよ」

 

 ネオが頷き

「それも想定済みです。まずは、この診療所が最初に使い始めたという事実さえ、あれば十分です」

 

 

 こうして、新型抗ウィルス薬の製法を行う為に必要な薬品を探しに出る。

 リンド・ヴルム街にある薬品専門店へ訪れる一行。

 診療所のグレンとサーフェ、製法を伝えるネオ達四人。

 製法に必要な薬品リストをサーフェに渡すと、薬学担当のサーフェも舌を巻いた。

「こんなのあるかどうか…」

 

 ネオが

「とにかく、探しましょう。無い場合は現地で調達せよと…」

 

 街の薬品店で薬品を品定めするグレン、サーフェ、ネオ。

 その後ろ姿をスタンク、ゼル、クリムが見詰め、スタンクがサーフェをニヤニヤと見詰め

「あの看護師のラミアの姉ちゃん。いい女だなぁ…」

 

 クリムが

「ダメですよスタンクさん」

 

 スタンクが

「何でだよ」

 

 クリムが

「多分、あの二人…付き合っていると思いますよ」

と、グレンとサーフェを指差す。

 

 スタンクが

「推定の話じゃあ、無いのと一緒だ。よし!」

と、スタンクがサーフェに近づき

「なぁ…ええ…サイホン・コーヒーだったか?」

 

 サーフェが苛立った顔で

「サーフェン・ティットです」

 

 スタンクは堂々と

「どうだい? オレと付き合わないか!」

 

 サーフェが苛立った顔をして、グレンに巻き付き

「こら、サーフェ」

「残念ですね。私はグレン先生と一緒になる予定なので…」

「さ、サーフェ」とグレンは顔を真っ赤にする。

 

 スタンクが腕組みして

「なんだよ。ゲットされていたのかよ」

 

 ネオが鋭くスタンクを見て

「お前、邪魔をするなら…依頼を外すと同時に損害賠償も付けるぞ」

 

 ネオの強烈な殺気にスタンクが引き下がり

「わ、悪かったよ。すまねぇ…。てか、オレ等、この街の良い所を宣伝するっていう仕事を受けているんだぜ」

 

 ネオが鋭い顔のまま

「こっちが本来の目的であって、お前達はその次いでだろうが…」

 

 スタンクが青ざめて「あう…すいません」と、下がった。

 

 その後、色んな薬局を回って、調達できない素材は、探して調達する事になった。

 サーフェが

「わたし、スキュテイアー運送の方に長期の足の手配をして来ますね」

 

 ネオが

「その代金もこちらで持つので、その運送会社に…」

 

 サーフェが

「先生、調達した薬の保管を」

 

 グレンは頷き

「分かった。後は頼んだよサーフェ」

 

「はい」とサーフェはネオを連れてスキュテイアー運送の方へ行った。

 

 グレンはスタンク達と共に診療所の方へ戻り、調達した薬を置いてサーフェ達の帰りを待っていると、スタンクが

「アンタ、この街は…詳しいよなぁ…」

 

 グレンが渋い顔をして

「一通りはですが…」

 

 ゼルが

「じゃあ、オレ達、この街の良さを伝える宣伝係なんだわ。その仕事をさせてくれないか?」

 

 グレンが首を傾げ

「はぁ…それが、自分に、どう?」

 

 スタンクがグレンの肩を抱き

「簡単だよ。兄ちゃんにこの街を案内して欲しいんだわ」

 

「はぁ…」とグレンは生返事だ。

 

 ゼルが

「色んな料金は、こっちで持つから頼むよ」

 

 グレンはホホを掻き

「サーフェ達に…」

 

 スタンクが

「書き置き一つで良いだろうし、ちょっとだけなんだ。良いだろう」

 

 グレンは首を傾げるも

「分かりました」

 

 スタンクが

「よーし じゃあ、早速、行こうぜ!」

 

 グレンが

「観光名所ですか? それとも有名なレストランとか?」

 

 スタンクが卑猥な指の形をして

「これよ! 色町よ!」

 

 グレンの目が点になり

「え? 色…町ですか…」

 

 ゼルが

「オレ達、色町専門、つまり、そっち系のレビュアーなのよ」

 

「ええええええ!」

と、グレンは驚く。

 

 スタンクがグレンを引っ張って行き

「大丈夫、アンタを巻き込まないから! ね、ちょっとだけ、先っちょだけ付き合ってくれれば良いから!」

 

 グレンは戸惑いながら

「自分は、案内するだけですよ。本当に…」

 

 スタンクがウブなグレンの反応に

「もしかして、兄ちゃん、まだ…ラミアの姉ちゃんと…」

 

 グレンは真面目な顔をして

「その…そういうのはチャンと結ばれてからでないと…」

 

 スタンクとゼルは怪しい笑みで、クリムは昔の自分を見ているようで気恥ずかしくなる。

 

 スタンクが

「分かった分かった。案内だけでいいか、一緒に行こうぜ」

 

 グレンが

「案内だけですよ」

 

 スタンクとゼルは、案内だけで済ませるつもりはない。

 クリムは顔を覆って、幼気な彼が、グレンが堕とされるのを黙ってみているしかなかった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。


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素材集め

グレン医師、貞操のピンチ!
その時、彼女達は!
ネオは…ああ…またかよ、と呆れてしまう。


ネオはサーフェと共にスキュテイアー運送に行き、丁度、ケンタウロスの彼女、ティサリアと遭遇した。

 サーフェがティサリアを話しながら

「こういう薬品の素材なんだけど…」

 

 ケンタウロスのティサリアが考え込み

「んん…もしかしたら、スライムの町へ行けばあるかもしれませんわね」

 

 ネオが

「スライムの町とは?」

 

 サーフェが

「特別な薬品関係は、スライムの方達が生成しているので、スライム達の町、ウーブレックに行けば作ってくれるかもしれません」

 

 ネオが頷き

「それなら、そこへ行きましょう。代金はこちらで持ちますので」

 

 ティサリアが頷き

「ウーブレックは、往復で一週間ほどの長期の旅になりますわ」

 

 ネオはサーフェを見て

「私は大丈夫ですが…」

 

 サーフェは困り顔で

「先生と相談してきましょう。そんなに長期に診療所を休むのは…」

 

 ネオは首を傾げつつ、まあいい最悪、自分が変形して飛んで行けば良いか…と。

 

 サーフェはネオと共に診療所に戻る。

 その頃には日が落ちていた。

 

「ただいま戻りました」とサーフェが診療所へ帰ってくると、診療所の妖精さんが

「先生、お出かけ」

と、残したメモを渡した。

 

 サーフェがメモを読み

「ええ…リンド・ヴルムの観光に付き合うって…」

 

 ネオが訝しい顔して

「アイツ等か…どこに行くかは、分かっているが」

 

 サーフェが

「あの失礼なお連れの方達ですね。全く」

 

 ネオが眉間を撫で

「全く、幼気な若い者を花街へ誘うなんて…」

 

 サーフェが震え

「え? 花街?」

 

 ネオは淡々と

「ああ…あの三人、男女の色町をレビューする風俗ライターみたいな連中なんだよ。どうせ、連中にほだされて店に入れられて…」

 

 サーフェが飛び出す。

 

「ええ…」とネオは呆然とそれを見詰める。

 

 サーフェが殺気立つ目で

「ふざけないで! 浮気は許しません!」

と、リンド・ヴルム街の色町、ラドン花街へ走って行く。

 

 その途中、ティサリアとその従者の彼女達、ケイとローナの三人に遭遇して、ティサリアが

「サーフェ、他に薬品でしたら、スキュラ族の」

 

 サーフェが

「ティサリア! 大変なの!」

 

 ティサリアがサーフェから事情を聞いて、血相を変えて

「お医者さまーーーー 私達という婚約者がありながらーーーー」

 

 こうして、ラミアとケンタウロス三騎の進軍が、ラドン花街へ向かう。

 

 

 その頃、グレンはスタンク達と共に、ラドン花街へ来ていた。いや、無理矢理に案内させられた。

 

 淡い艶やか色のランタンが色めく世界に、スタンクが

「くーー イイね。良いよ! 色んな種族の女の子達がいて、良いじゃない!」

 

 ゼルが楽しげに

「やっぱり、こういう所に来ると落ち着く」

 

 クリムがグレンに

「あの、今のうちに…」

 

 グレンが頷き去ろうとしたが、それをスタンクが肩を抱き

「まて、若人よ」

 

 グレンは

「僕は、案内だけなんで…」

 

 スタンクが怪しくグレンを見上げ

「お前、まだ…女を知らないんだろう?」

 

 グレンが引き攣らせた笑みで

「医学書や医療で知っていますから…十分です」

 

 スタンクが力強く押さえて

「違う! 男と女がいれば、やる事は決まっているだろう」

と、グレンの股間を握った。

 

「う…」とグレンは青ざめて固くなる。

 

 スタンクが

「学問なんかじゃあ、男女は分からねぇんだよ。何事も経験だ、経験」

 

 グレンは

「僕には、婚約者が…サーフェが…ティサリアが…アラーニャが…」

 

 スタンクがグレンを引いて店に行きながら

「そんなに女がいるんなら、経験値を稼いで、ベッドで喜ばせないとよ!」

 

 店の窓の奥にいるスキュラの異種族の女の子が

「あら、診療所のグレン先生じゃあないですか!」

 

 スタンクがそっちへグレンを向ける。

 グレンはスキュラの女の子に

「やあ、最近はどうだい?」

 

 スキュラの女の子はウィンクして

「調子が良くなりましたよ。もしかして、先生…遊びに来たの?」

 

 グレンは「いや、案内に」とその口をスタンクが塞ぎ

「そーーーなんだよ! 楽しみに来たんだぜ! オレ達と!」

 

 スキュラの女の子は艶やかな笑みで

「そう…じゃあ、サービスするから、アタシとどう? 先生」

 

 グレンが口を押さえる手を退けようと必死になるも、スタンクの方が強く

「それじゃあ! 行こうかーーーー」

と、スタンクは強引にグレンを引っ張って行く。

 

 クリムはそれを見て、かつての自分を思い出して恥ずかしくなった。

 

 だが、そのスタンクの背中を弾き飛ばした者がいた。

 離されたグレンは、大蛇の尻尾に絡まれてその場から引かれる。

 

「いてぇ…」と背中を擦るスタンクの背後

「キサマ…」と殺気に目を輝かすナーガにケンタウロス達。

 

 ゼルとクリムは、やべーとして静かにその場からフェードアウトする。

 

 スタンクが、殺気立つ異種族の娘達、大型の部類になる異種族のラミアのサーフェにケンタウロスのティサリアとケイにローナに囲まれて

「は、話せば、わか!」

 無情、ラミアとケンタウロス達にボコボコにされるスタンク。

 

 そこへスタンク達の反応を追って来たネオが到着して、ボロボロになったスタンクと、サーフェにティサリア達に抱き囲まれているグレンというカオスな状況が出来上がっていた。

 

 それを見てネオは全てを察した。

 スタンクが強引にグレンを誘い込もうとして、ボコボコにされたのだ。

 ネオは、何時かはそうなるだろうと思っていたが、まさにそれが目の前になって額を抱えた。

 

 

 翌日の朝…スタンクは宿屋で

「クソーーーー」

と、怒りを放っている。

 サーフェやティサリア達にボコボコにされ気絶、一夜を終えてしまい。

 ゼルやクリムは、ちゃっかりと楽しんで来た。

 

 ゼルが

「まさか、料金は店のお嬢と話し合いで決めるなんてなぁ…」

 

 クリムが

「斬新でしたね」

 

 ゼルが

「面倒なトラブルを避ける為にも、最低料金表示ってのは必要だ。まだまだ、出来たばかりの街だから、その辺りが甘いな」

 

 クリムも頷き

「ええ…避妊や病気も魔法を使わないなんて…」

 

 ゼルが首を傾げ

「オレ達の大陸じゃあ、その魔法を発展させている悪魔族がいるからなぁ…。この辺りはそういう魔法技術開発系の異種族がいないんだろうぜ」

 

 クリムが頷き

「早く、こちら側にもそういう技術が普及すると良いですね」

 

 ゼルが

「商売をしている嬢の負担を減らすにも、必要だわなぁ…」

 

 クリムが

「その辺りをレビューで書きません?」

 

 ゼルが頷き

「良い着眼点かもしれん。オレ達がサキュ嬢と遊べるのは、そういう魔法のお陰だって気付かされる切っ掛けになるかもしれないなぁ…」

 

 スタンクが恨めしそうに二人を見て

「お前等…楽しんで来たからって余裕だな!」

 

 クリムが

「スタンクさんが悪いんですよ。無理矢理にグレン医師を誘うから…」

 

 スタンクが

「拒否してなかったろうが!」

 

 三人がいる部屋のドアがノックされ、そこにネオがいた。

「おい、朝から元気だなぁ…」

と、告げた次にスタンクへ近づき

「昨日、グレン医師にやった事、またやってみろ! 契約を切るからな」

 

 スタンクが渋い顔で

「拒絶なんてして」

 

「ああ!」とネオが怒りの顔で

「お前のやり方は、パワハラと一緒だ。それを許さんからな。なんでパワハラか、分かるか? オレは良い思いをさせてあげるから良いんだよって、独りよがりな考えがあるんだよ」

と、ネオはスタンクの額を指先で押して

「お前には、そういう独りよがりのバカな所がある。そんな考えは迷惑だ。私がお前の上司だったら、即刻、会社都合にして退職金を出しても解雇するレベルだ」

 

 ネオの凄みにスタンクは

「す、すいません…」

 

 ネオが舌打ちして

「今後、そういう事をするなら、お前等だけでやって、お前等の責任で抱えろ。人を巻き込むな! いいな!」

 

 ネオの圧に押されてスタンクが「はい」と約束した。

 

 ネオは背中を向け

「じゃあ、仕事に取りかかろう」

 

 ケンタウロスの馬車に揺られて、ネオ達は待ち合わせの場所に行く。

 リンド・ヴルム街で色んな薬品を引き受けているアメー商社に来る。

 無論、その待ち合わせには、グレン達もいた。

 

 スタンクが馬車から降りると、鋭い顔のサーフェがいた。

 気まずい感じの所にネオが頭を下げて

「昨夜は、本当に申し訳ありませんでした。今後、このような事がないように、絶対に防ぎますので」

 

 サーフェがフーと息を荒げ、グレンが

「まあ、結果的には問題なかったですから…」

 

 何とか場を収めて、アメー商社のいるスライム族の人に欲しい薬品を探して貰うと

「んん…この手の薬品ですか…」

と、スライムの人は困っている。

 

 商社内の応接室にいるネオ達、目の前で応対するスライムの困っている様子にネオが

「やはり、ムリでしょうか…」

 

 スライムの人が

「無い訳ではありませんが…全て揃うには、数週間はかかります」

 

 ネオが鋭い顔で

「薬品はあるんですね?」

 

 スライムの人が

「ええ…ありますが。ここから遠方の街とかにですよ」

 

 ネオが

「そのリストを頂けないでしょうか? こちらで出向いて手に入れますので」

 

 スライムの人が

「ええ…そんな事をしても同じですよ!」

 

 ネオが頷き

「特別な早い足がありますので…」

 

 スライムの人は、困惑するも、ネオの説得で紹介状と手配状を書いて貰い、その薬品達を調達する準備をする。

 

 アメー商社から出たネオ達、グレンが

「もしかして、ネオさんが出向いて全てを手に入れて作るんですか?」

 

 ネオが笑み

「ちょっとした裏技がありますので…」

 

 グレンとサーフェは、お互いに見合って首を傾げる。

 そんな二人にネオが

「二人は、この製法に必要な器具の手配をお願いしても」

 

 サーフェが

「ええ…器具でしたら、問題なくリンド・ヴルムで手配できると…」

 

 ネオは頷き

「では、お願いします」

と、スタンク達に

「という事で、我々は薬品の収集に回る」

 

 ゼルがニヤニヤと笑み

「移動手段は? 通常なら数週間は掛かる道中って」

 

 ネオが鋭い顔で

「問題ない。戦闘輸送機形態で移動する」

と、告げた瞬間、ネオの両腕と背中からナノマシンの装備端末があふれ出して、ネオを中心に全長十メートル前後の鋭角な戦闘輸送機になった。

 

 それを見て、グレンとサーフェに、その周囲にいた人達も驚きに包まれる。

 それにスタンクやゼル、クリムが乗り、戦闘輸送機のネオは

「では、これから調達してきますので」

と、戦闘輸送機のネオは垂直離着陸して、一瞬で音速を突破する加速をした。

 

 サーフェが驚き

「あの人、人族じゃあなかったんですね。っていうか…ええ…あんな魔族がいますか?」

 

 グレンは驚愕するも

「あんなに早く空を行けるんなら…今日中には集まるかも…」

 

 その驚きに包まれる集団の中に、ネオが飛んで行った姿を鋭く見ている者達がいた。

 そして、次に関係者であるグレンを凝視した。

 

 ネオ達は、手配したリストを辿り、音速で街々を回って必要な薬品を調達した。

 診療所で、サーフェが薬のリストと中身を確認しながら

「驚きです。こんなにも早く揃えるなんて」

と、隣にいるネオ達を見る。

 

 ネオは肩をすくめて

「紹介状があるので、駆け付ければ直ぐに手配してくれましたから…」

 

 サーフェは微妙な顔をして

「いや…そういう事では…」

 

 ネオとサーフェが薬品の確認をしているそこへ、往診から帰って来たグレンが姿を見せ

「ネオさん。どうですか?」

 

 ネオは微笑み

「後は、薬の生成に必要な器具を揃えれば…」

 

 グレンは頷き

「そうですか。それと…ネオさんは人族では無かったのですね」

 

 ネオは微妙な顔で

「まあ、その…マキナ族という種族になりますね…」

 

 グレンがネオを見詰めて

「どんな魔族…いえ、種族なんですか?」

 

 ネオは何処まで言って良いやら困るも

「その…特別な…そう特別な力で様々な装備を体内に収納できる種族ですね。基本的には人族と変わりませんが。その様々な装備を収納する器官が体のあちらこちらにあるので、そこが違いですかね」

 

 グレンは好奇心に押されてネオに近づき

「その良ければ…お体を見させて」

 

 サーフェが「グレン先生…」と釘を刺す。

 

 グレンが申し訳ない顔で

「ああ…すいません。つい、好奇心に押されて…」

 

 ネオも苦笑で

「その…まあ、見させても良いですが。事情がありまして、おいそれと見せる訳にはいかないのをご理解ください。グレン医師」

 

 グレンは頷き

「はい」

 

 そこへスタンク達が

「うーす。器具の手配してきたぜ」

 

 ネオがスタンク達に

「ありがとう。で?」

 

 スタンクといるゼルとクリムが

 ゼルが

「手配する機材によって得意分野が違うみたいでよ」

 

 クリムが

「ピンキリですね。作るのに一週間くらいの時間が欲しいそうです」

 

 ネオは考え

「そうか…その間、待ちぼうけか…仕方ない」

 

 スタンクが肩を解して

「今日は疲れたぜ。一日の間に色んな町を回ったり、器具の手配とか」

と呟きつつネオに近づき小声で

「おい、オレ達…見張られているぜ」

 

 ネオが鋭い顔をしてゼルを見ると、ゼルがニヤリと笑う。

 ゼルのエルフ耳は小さな声も拾う。

 

 ネオが小声で

「この診療所もか?」

 

 スタンクが小さく頷く。

 

 ネオは暫し考えた後

「グレン医師」

 

 グレンが「はい?」と答えて。

 

 ネオが

「今日は、この診療所を宿にさせてくれませんかね?」

 

 グレンが

「はぁ…構いませんが…。どうして」

 

 ネオは微笑み

「宿の都合で、取れなかったので…」

 

 グレンが頷き

「分かりました。どうぞ」

と、了承した隣にいるサーフェが怪しい顔をネオ達に向けていた。

 

 その夜、グレン達と夕食と共にして深夜の診療所で、出入り口の側の階段でスタンクが剣を抱えて座っていると、サーフェが来て

「寝ないんですか?」

 

 スタンクが悪戯な笑みで

「夜の男なんで、血が騒ぐのよ」

 

 サーフェは溜息を漏らし

「ウソでしょう」

 

 スタンクはフッと笑み

「嬢ちゃん。戦闘訓練を受けていたろう」

 

 サーフェが呆れ顔で

「実家の都合で…」

 

 スタンクが

「昨日、オレをのしたケンタウロスの嬢ちゃんは見かけから戦士だって分かったが…ラミアのアンタも…」

 

 サーフェが

「見張りですか?」

 

 スタンクを静かに玄関を見詰めて

「今日の頭、町に出た時からどうも…妙な連中がこっちを見ていた。あれは間違いなく密偵だ。相当な人数がいる。心配するな、オレ達に掛かれば一網打尽よ」

 

 そこへネオが来て

「おや、サーフェンティット殿。こんな夜更けに、どうしたんですか?」

 

 サーフェが腕組みして

「何か怪しい事をしているってバレバレなんですよ」

 

 ネオはそれで察し

「ちょっとの間の」

と、次を告げる前に黙り玄関を睨む。

 それと同時にスタンクが剣を抜いた。

「ネオ、人数は?」

 

 ネオは探査レーダーで

「玄関に8名の人影だ」

 

 スタンクが魔法通信で診療所の屋上で待機しているゼルに

「奴さん来たぜ」

 

 屋上で狙撃するゼルが

「おお、こっちでも通りに隠れている連中を見たぜ。中々の人数だぞ」

 

 スタンクは階段を降りて

「ここはオレに任せろ。ネオは、そのラミアの嬢ちゃんと…」

 

 ネオは頷き

「グレン医師達の保護は任せろ」

 

 そう告げている間に玄関の鍵が道具によって解錠されて、ドンと賊が侵入する。

 その賊達にスタンクが斬りかかる。

 

 ネオがサーフェに「行きましょう」と告げる。

 

 サーフェが

「彼は大丈夫なんですか?」

 

 ネオが笑み

「下半身はだらしないですが…それ以外は超一流ですから」

と、口にする。

 

 スタンクが襲いかかる者達を剣に属性魔力を付加させて切りつける。

 ネオが「殺すなよ!」

 

 スタンクがあっと言う間に三人を切り飛ばし

「大丈夫だ。全員、峰打ちで気絶させて、後でお前に渡してやるよ!」

と、軽口を叩く間に、賊が剣を抜いてスタンクに斬りかかるも、それをスタンクは軽やかに避けつつ、剣に付加した風の魔力で切りつけて叩き飛ばす。

 

 侵入してきた賊達は怯む。

 

 ネオが「さあ!」とサーフェに呼びかけて、サーフェは納得してネオと共にグレンの安全を守る事にする。

 

 屋上では、ゼルがクリムと共に、入り込もうとする賊達を狙撃する。

 ゼルは魔法弓で、クリムはネオから受け取った雷撃ライフルで、賊達を狙撃して気絶させて倒して行く。

 

 ゼルが

「クリム! 取り逃がした連中が中に入った! オレはここで追撃を防ぐから、お前は中に入ってネオ達と合流しろ!」

 

 クリムは頷き

「分かりました」

 

 

 ネオとサーフェはグレンのいる寝室へ向かう。

 

 グレンの寝室の前に来ると、寝室から大きな音がしてサーフェが

「先生!」

 

 グレンが賊に捕まり

「サーフェ、逃げて…」

 

 賊がグレンを盾に

「動くな!」

 

 サーフェは「先生ーーー」とグレンを案じ、ネオは冷静に次の対応としようとすると、賊の背後にある窓の向こうに雷撃ライフルを構えて飛んでいるクリムがいて、グレンを盾にした賊の背中に雷撃を放ち「がは!」と賊は気絶してグレンを離す。

 

 サーフェはグレンに駆け付け

「大丈夫ですか! 先生ーー」

 

 グレンは微笑み

「ああ…大丈夫だよ」

 

 窓からクリムが入り

「良かった…」

 

 ネオが頷くとその通路の両脇から賊達が現れる。

 どうやら、玄関以外の場所から侵入したらしい。

 

 賊が

「外者が! オレ達に不幸を運ぼうとして暗躍しやがって!」

 

 それを聞いてネオはフッと笑み

「そうかい」

と告げた次に両腕をガトリング式雷撃砲に変えて、両脇の賊達を雷撃で打ち抜き気絶させた。

 

 ネオは首を解しながら

「さて…侵入者の対処をしようか…」

 ネオ達の攻めが始まる。

 




次話もよろしくお願いします。


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暗躍者達

 診療所を襲撃した賊達、ネオはその賊達の正体に…


 ネオは両手に備わるガトリング式雷撃砲で次々と目の前の賊を倒して行く。

 前方はネオ、その後ろにグレンとサーフェ、そして最後尾に雷撃ライフルを持つクリム。

 前をネオが蹴散らし、後ろの守りをクリムが行い、グレンとサーフェを守る。

 

 ほとんど、前から賊が来るのでネオが対処して、クリムはちょっと出てくる賊を撃つだけだ。

 

 サーフェが

「医薬品保管庫へ向かいましょう」

 

 ネオが

「どうしてだ?」

 

 サーフェが声を荒げて

「貴方達が集めた貴重な薬品に何かあった場合、後々、大変でしょう!」

 

 グレンが前にいるネオに

「ネオさん。願いします」

 

 ネオは溜息を吐き

「分かりました」

 

 四人は医薬品保管庫へ来ると

「来るな!」

 賊達が侵入していた。

 三人の賊は、一人がネオ達が集めた医薬品の入った箱を抱え

「良いのか? これは貴重な薬品なんだろう…これが壊れたら…」

 

 サーフェが

「待ってください!」

 

 賊が

「黙れ! 蛇女が! そして、魔族に組みする裏切り者グレン」

 

 ネオは鋭い目をして、医薬品が入った箱を抱える男を見る。

 なるほど…何らかの妨害か…

 ネオが思考を回している。

 

 医薬品の箱を抱える賊が

「お前達が来なければ…」

と、告げた瞬間、ネオが賊の両脇にいる賊の仲間をガトリング式雷撃ライフルで撃ち抜く。

 

 倒れる二人の賊、残された賊が

「な、医薬品が壊れても良いのか!」

 

 ネオは冷静に照準を残された賊に向け

「それが? 人命の方が大事だ。それに…その医薬品がなくなっても後で、同じ物を取り寄せればいいだけだ」

と、ネオは冷静に残された賊を打ち抜いた。

 

「お!っと」

と、サーフェが長い蛇の胴体を伸ばして医薬品が入った箱をキャッチして安堵する。

 サーフェが医薬品の入った箱を両手に抱えて

「相手を怯ませる脅しとはいえ…薬が壊れたらどうするんですか」

 

 ネオは淡々と

「壊れても問題ない。この地域でそういう薬が手に入るという事実さえあればいい。壊れたら、後で本国に戻って同じ物を持ってくればいいだけだ。脅しの材料にもならない」

 

 サーフェとグレンは、ネオを驚きで見ていた。

 ネオの口調は本気だ。

 物なんてどうでもいい。大切なのは人命のみ。

 それがネオの最大価値基準だ。

 それは、ネオの生まれた超宇宙技術文明の価値観なのだ。

 物なんて物質やエネルギーなんて、幾らでも作り出せる。

 そんな世界で最も大事なのは、個人、人命なのだ。

 

 その後、診療所に侵入した賊は、ネオ達の活躍によって制圧され、診療所の前にある広場に拘束して集められた。

 

 賊が縛られた後、早朝にスタンクとゼルが捕まえた総勢百人の賊の全員に猿ぐつわをさせて縛っている。

 

それをネオと駆け付けたリンド・ヴルム街の守護であるクナイが見守っている。

 

 猿ぐつわを終えたスタンクが

「なんで、口を縛るんだ?」

 

 同じく終えたゼルが来て

「拷問するんだろう。ある程度、痛みを味合わせている時に死なれちゃあ困るからなぁ…」

 

 ネオの隣に浮かぶクリムがネオに

「拷問して聞き出すんですか?」

 

 同じく隣にいるクナイが

「こんな人が見える場所で行うのは…問題であろう」

 

 ネオが右手を上げるとナノマシン端子からピストル型の注射器を伸ばし

「拷問なんて非合理的な事はしない。ナノマシンを注入して脳内のデータを自動的に抜くだけだ。痛みも何もない。体に損害も与えない。人道的な方法だ」

 

 グレンがネオの元へ来て

「貴方は…何者なんですか?」

 グレン達、全員が思った。

 

 ネオが

「後で説明します」

と、賊達にナノマシンの注射をしていく。

 注射しながら

「メイドラン」

と、DIメイドランを呼び出すと、ネオの隣にDIメイドランの立体映像が出現し

「はい、ネオ様」

 

 ネオはナノマシン注射を続けながら

「ブレイン・ナノマシンをコントロールして脳内のデータを抜き出せ」

 

 DIメイドランの立体映像は頷き

「了解しました」

 

 打たれた百人の賊は、暫し脳内の調べるナノマシンの作用で困惑するも、無事に脳内にあったデータは取られて無傷である。

 

 クナイが賊の全員を見て

「しかし、全員が人族とは…」

 

 グレンが

「リンド・ヴルムを良く思わない人達の…」

 

 クナイが渋い顔で

「グレン医師が、画期的なウィルス疾患の薬を開発すると聞いて、横やりを入れたい連中の差し金だろう」

 

 ネオが賊の一人の女に近づき

「コイツが連中の頭だ。名前は、サーラディン・アパリス。東の方の人族を纏めている名家ソームンド・アルバイトの当主の隠し子らしい」

 

 グレンがそれを聞いて顔を顰め

「ソームンド・アルバイトですか…」

 

 ネオとクナイがグレンを見詰め、クナイが

「人間領を収める元老の一人か…」

 

 ネオは面倒くさそうに額を撫で

「厄介事か?」

 

 クナイが

「東には人間達が主に暮らす領地がある。何分、色々ともめてはいる」

 

 ネオは色々を考えて察してしまう。

「なるほど、ここ最近、このリンド・ヴルムで異種族達の共存が上手く行っているから…」

 

 グレンが

「人間領からこっちへ移住する人達も増加しています。そして」

 

 ネオが渋い顔で

「画期的などんな異種族、人族も交えて病気を治療できる薬が誕生するなら、なおのこと…」

 

 ネオが目の前にする賊の女首領サーラディンが暴れる。

 ネオが猿ぐつわを外して

「何だ?」

 

 サーラディンはネオを睨み

「この裏切り者!」

 

 ネオは呆れた顔をする。

「異種族に組するから裏切り者か?」

 

 そこへサーフェも来て

「グレン先生、医薬品の方の損害は」

 

 サーラディンがサーフェに

「こんな、バケモノの蛇女と一緒にいて、気持ち悪くないのか!」

 

 ネオは首を傾げる。何を言っているんだ?

 理解の前に、まるで誰かに吹き込まれた事をそのまま再現している低レベルな知性を感じて、憐れむ。

 

 そこへスタンクが来て

「おいおい、お嬢ちゃん、バケモノっては、どういう了見だ? お嬢ちゃんは間違っている」

と、スタンクが自信を込めて言い放ちサーフェを示し

「バケモノじゃあない! 最高にいい女だ! つやつやとして滑らかな肌! その伸びる大蛇の尾に巻かれれば! どんな男も快楽天! そして、上半身は、その美しい白い大蛇の胴体に相応し程のナイスバディ! ナーガの女は、皆…ナイスバディが多い美人の女達なんだぜ!」

 

「そうだ! そうだ!」

と、ゼルも加勢する。

 

 サーラディンは何を言っているんだ?という顔だ。

 

 ネオは、プッと吹き出した。

 スタンクの言い方はセクハラだが、確かにその通りだ。

 白蛇のラミアのサーフェは、いい女だ。

「この男が言っている事は、真実だ。お前が間違っている」

と、ネオは鋭く告げ

「君は、愚かだ。誰かに言われた価値観をそのまま受け継いで、それが正しいと思い込んで生きていた」

 

 サーラディンは、ネオを睨み

「お前に、何が分かる!」

と、声を荒げる。

 

 ネオは淡々と冷静に

「君がどんな人生を歩んだのか?は分からないが、そこで…どんな風に生きて来たのかは分かる。君は、その考えを受け継いだ誰かに必要とされたいから、そういう風に、それが正しいと思って生きて来た。だが、その結末はコレだ。利用されただけ」

 

 サーラディンは、グッと噛みしめる。

 

 ネオが

「君達の事は、もう分かった。だが、それを依頼したヤツを問い詰めても、君達は見捨てられる。そんな見捨てる連中が正しいと思うのかね?」

 

 サーラディンが悔しそうに歯軋りしている。

 

 ネオが賊の全員に

「全員、聞け! 君達は見捨てられるだろう。君達にこんな汚れ仕事を任せた連中は、君達を切り捨てる。今までそれを考える余裕はなかったろう。だから、こそ…今ここで考えて欲しい。君達を忠義や忠誠という甘い言葉で利用していた連中の事を」

 

 そこへ、スカディが来て

「どんな状態?」

と、クナイに尋ねる。

 

 クナイが

「竜闘女様、彼らの雇い主が分かり、それに裏切られるという未来を示してネオ殿が説得している所です」

 

「分かった」とスカディがネオの隣に来て

「君達の処遇だけど。今回の事件は、大事にはならなかった。だから、街の掃除という処罰で済ます。それで良いねグレン医師」

 

 グレンは頷き

「はい。彼らは…利用されていただけですから」

 

 スカディが全員に

「今回は、それで良しとするが…もし、これ以上の非道を行うならそれなりに処罰をする。君達がどんな考えでいるか…分からないが。この街を見て欲しい。それから…色々と考えてくれ」

 

 賊の全員が静かに俯いた。

 

 ネオは、診療所の後片付けを手伝う。

 割れた窓ガラスの掃除や、倒れた物を直したり、その手伝いにあの賊であった彼らがいた。

 ネオは顔を顰める。

 彼ら彼女らは、まだ十代後半の少年少女達だった。

 全員脳内をナノマシンで覗いているので、どんな感じで生きて来たのか…分かっている。

 全員が孤児であり、生きるのに必死で…そして、暗部の刺客となった。

 若い彼ら彼女らが、このまま世界を知る事なく大人になったら…。

 きっと、それ以外の生き方が出来ないだろう。

 少年少女だったから利用し易い。

 どうしようもない、この世界の悪い部分を見てしまった。

 自分が生まれた世界、あの超宇宙技術文明では絶対にあり得ない、下等な動物のような現実を見てしまった。

 

 そうして、掃除をしていると、あのサーラディンがネオに近づき

「ねぇ…」

 

「んん?」とネオはサーラディンを見る。

 

 サーラディンはネオを見詰めて

「アンタ…何者なの? あんな武器、見た事もない」

 

 ネオは、近くにある階段に座って

「聞きたいか?」

 

 サーラディンは頷いた。

 

 そこへグレンも来る。

「ぼくも聞きたいです」

 

 ネオは階段の上にいるグレン医師に微笑み

「じゃあ、休憩ついでに」

 

 ネオは自分の身の上を話した。

 この世界とは違う世界、宇宙まで広がった超宇宙技術文明の出身で、そこで戦闘員として生きて来た。

 そして、その世界で最高峰の兵器となり、戦争が終わって居場所がなくなって…建前はこの世界の探索者として派遣されたが…追放された…と。

 

 それを聞いてサーラディンは驚きを向け

「恨まなかったの? それを…」

 

 ネオは自信の笑みで

「君とは違う。私は、それを納得して今、ここにいる。何も知らなかったではない、知っていた。全てを知った上で、今…ここにいる。生きている」

 

 ネオは四十以上、グレンとサーラディンは、ネオの半分以下の十代後半の少年少女、グレンは二十歳前。

 年齢で人を判断してはいけない。

 だが、ネオはその年齢以上に濃密な人生を歩んでいた。

 

 ネオが困惑するサーラディンに

「サーラディンくん。君には色々と知って欲しい。それからでも、どういう風に生きるか?を考えても遅くはない筈だ」

 

 サーラディンは、強くて暖かな感じのネオに、今までにない感覚を感じる。

 身勝手な実父を、それでも父と崇めていたが…ネオと出会った事で変わりつつある。

 ネオが父親だったら…とサーラディンは思ってしまった。

 

 そこへ、スタンクが来て

「おいおい、また…女を口説くなよ。六人目か」

 

「はぁ?」とネオは何を言っていんだ?という訝しい顔をスタンクに向けた。

 

 スタンクが悪戯気味にサーラディンに近づき

「コイツには、もう…五人も嫁さんがいるんだ。惚れんじゃねぇぞ」

と、サーラディンを茶化した。

 

 ネオは呆れ気味に頭を振って

「お前のそういう所、頭が痛くなるよ」

 

 スタンクがニヤニヤと笑みながらネオに

「だってよ、お前…しっかりしているし、甲斐性もあるし、メタクソに強いし、オレが女だったら惚れてるよ」

 

 ネオは呆れ笑みで

「お前に惚れられても何も嬉しくない」

 

 そんな感じで、診療所の掃除が終わって…何時もの診療所が…いや、グレンの事を心配して、ケンタウロスのティサリアや、アラクネのアラーニャが押しかけてウルサくはなった。

 

 ネオはそれを見て

「順調に任務をこなせるかなぁ…」

と、グレン医師に渡す抗ウィルス薬の仕事を案じる。

 

 

 

 その頃、人間領では、暗躍していたソームンドがとある一通の文を読んで握りつぶした。

 スカディからの書状で、リンド・ヴルムを騒がした賊が、ソームンドが依頼したと虚言を申しているので、こちらで処置しましたので、ご安心ください。悪い噂は出ませんので。

 

 ソームンドが怒りの顔で

「あの竜の小娘が…」

 

 隣にいる秘書が

「如何、致しましょう…」

 

 ソームンドは額を抱えて

「あの罪喰いの小娘を使う」

 

 秘書が

「よろしいのですか? そうなれば…リンド・ヴルムが…」

 

 ソームンドが

「構わん、汚らわしい魔族共と裏切り者共が消えるだけだ」




次話もよろしくお願いします。


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罪喰いの聖女達

裏で暗躍する者達。
そして…


 

 雨の日は嫌いだ。

 あの日を思い出す。

 彼女は、嫌な気持ちを抱えて屋敷の窓から雨空を見上げた。

 

 彼女は人族のとある村で生まれた。

 父親は、そこを治める地主で、村人も暖かく穏やかに過ごしていた。

 彼女には幼馴染みの男の子がいた。

 その彼は絵が上手かった。

 だから、沢山、似顔絵を描いて貰った。

 

 両親が健在の自分、両親が幼い頃に無くなり祖父と共に二人暮らしの幼馴染みの彼。

 

 彼の家は貧しかった。

 地主であった父親は、彼との事を良くは思っていなかった。

 お金持ちの地主と、貧乏で絵だけが取り柄の彼。

 やがて、祖父も亡くなり彼が一人になってしまった。

 

 彼女は、そんな彼を想い。

 彼の家に足繁く通っていた。

 

 彼女の父親はいい顔をしない。

 娘である彼女には幸せになって欲しかった。

 幸せになるには、それ相応の甲斐性がないといけない。

 幼馴染みの彼には絵を描く以外、特技はなかった。

 それ以外の収入は、僅かな配達の賃金だけ。

 

 そんな貧しい生活の中で彼は、絵をとある賞に出品した。

 賞をとる事は出来なかった。

 それでも彼は、絵を続けた。

 優しい彼のタッチが、彼女は何よりも好きだった。

 優しい彼は、その描く優しい絵画のように暖かい。

 

 彼は、絵を色んな賞に出品して…選ばれる事はなかった。

 

 だが、賞は取らなかったが…とある資産家の目に留まった。

 彼は、その資産家の援助を受けて絵を描いてオークションに出品する。

 それは高値で売られ、彼は生計を立てられるようになった。

 

 その話を彼女の父親は聞いた。

 そして、彼を愛していた娘に、彼と結ばれるなら、とあるオークションで高値で絵が売られるようになりなさい、という条件を提示した。

 

 彼女と彼は愛し合っていた。

 だから、彼は絵を描き、そのオークションに出品し続け、三度目にしてオークションで一番の高値を叩き出した。

 

 彼女は彼と共に喜び、彼女の父親も彼との仲を認めてくれた。

 そうして結ばれる筈だった。

 

 だが、世の中は残酷なのが常だ。

 

 異種族との戦争が勃発して、彼女のいる領地は敗退して、その報酬として男性を欲した。

 異種族の中には、男性が生まれない異種族がいて、人の男性を補充しなければ、子孫が増やせない。

 

 異種族との戦争に敗れた彼女の領地は、犯罪者を除く十二才の子供から二十歳までの孤児の男を異種族に。

 その異種族が直々に乗り出し、孤児の男達を狩っていった。

 その中に彼女の愛していた。

 結ばれる筈だった彼がいた。

 

「お願いします! アネロだけは…お願いです」

 雨の中で彼女は、彼を連れ去ろうとする異種族達に頭を下げていた。

 連れて行かないで、二人を引き裂かないで…。

 何度も願い乞うも、異種族達も逼迫していた。

 このままでは、自分達は子孫が残せず絶滅する。

 

 彼女の父親が大金を持ちだして

「どうか…これで…」

 それは地主の父親が持っていた大量の金貨だ。

 何かの為に貯め続けた資産だった。

 それを異種族達に差し出して、彼だけでも…娘の幸せを守る為に…。

 大量の金貨を前にして異種族達は、その金貨の入った宝箱を蹴り上げた。

 

 金貨なんかより、子種を提供してくれる男の方が…何倍も大切なのだ。

 

 彼、アネロはその異種族の所有物であるという鋼鉄の首輪をされて、連れて行かれた。

 

 アネロは、これから結ばれて幸せな家庭を築くはずだった彼女、ミレアに

「僕の事は…忘れて。誰かと結ばれて幸せになってね」

 

 連れて行かれるアネロにしがみ付こうとするミレアを異種族達は、杖で叩き

「ああああああああ!」

 ミレアは雨で緩くなった地面を噛んだ。

 

 ミレアは、全てを失った。

 生きる気力もなくなり、ミレアの父母は生きる力を失った娘に途方に暮れた。

 ミレアだけではない。

 同じく結ばれる筈だった女性達も、孤児という理由で連れ去られた将来の伴侶を失って生きる気力が無くなった。

 

 そんな彼女達を教会のシスターが集めて、一人一人、心の治療を始めた。

 立ち直る者達もいたが…僅かな者達は、気力を取り戻す事はなかった。

 

 とある夜、ミレアは…アネロの家へ歩いていった。

 そこで、ミレアは幻に生きる。

 アネロと過ごした日々、二人して幸せになろうと頑張った日々。

 その幻の中で、誰もいないアネロの家で幻の中で暮らす。

 

 だが、その中でパンと手を叩く音が響いてミレアは幸せだった幻から残酷な現実に戻された。

 泣き崩れるミレア。

 そこへ

「どうしたのですか?」

 知らない若いシスターがミレアを優しく介抱する。

 

 ミレアは家のベッドに座り泣きながら全てを話した。

 アネロと幸せになろうと頑張った日々、アネロを異種族に奪われた事。

 それを聞いた若いシスターが微笑み

「アナタは…どうしたいのですか?」

 

 ミレアは泣きながら

「アネロを…取り戻したい」

と、切実な願いを告げる。

 

 シスターは微笑み

「それは本心からですね」

 

 ミレアは頷く。

 

 シスターは微笑み両手を広げて

「では、アナタに…我が神の祝福を…」

 それは悪魔の笑みだった。

 それは残虐な神の使いの嘲笑だった。

 

 だが、ミレアはそれに縋った。

 アネロとの幸福を取り戻す為に。

 

 そのシスターが仕える神とは、罪喰いの大神(サタンヴァルデット)だった。

 

 シスターの背後から獣の爪を持つ大きな手が伸びる。

 その手の内側には、三つの花弁のような目と、三つの花弁のような獣の口を持つ凶悪な罪喰いの端子が現れた。

 

 次の日、異種族によって将来の伴侶を奪われた彼女達が消えた。

 

 

 

 時間は、今…。

 ソームンドの使いが罪喰いの聖女達がいる館に来る。

「リンド・ブルムにいる大罪人を食い殺して欲しい」

 

 館にいる罪喰いの聖女達は鋭い視線をソームンドの使いに向ける。

 

 ソームンドの使いは引き気味に

「リンド・ブルムは…異種族と手を組んで世を乱そうとする者達の巣窟、まさに、世界の邪悪の根源である。罪の撲滅こそ、汝達の悲願であろう」

 

 罪喰いの聖女達は静かである。

 

 そこへ奥から彼女達を纏めるシスターが現れ

「確かに我らは、罪を喰らい浄化する者。ですが…それが本当の事であるなら…動きましょうが…」

と、シスターが微笑む裏に殺気が隠れる。

 

 ソームンドの使いはゴクリと唾を飲み込み

「お前達が活動する資金や、こうして館を提供しているのは、ソームンド様のお陰であって…」

 

 シスターが微笑みを消して

「成る程…つまり、我らを都合の良い手駒に…という事で…」

 

 ソームンドの使いが怯えて下がると、その後ろに罪喰いの聖女達が囲む。

 

 シスターが冷たい目で

「いやはや…今までは罪を狩れるので飼われてやっていたのに…」

 

 ソームンドの使いを背後から押さえる罪喰いの聖女達の背中から罪を喰らう巨大な手、喰手触手が伸びる。

「や、やめて」

と、次を言う前に、罪喰いの聖女達の喰手触手に喰われてしまった。

 

 シスターの隣に別の罪喰いの聖女が来て

「シスター」

 

 シスターは呆れ気味に

「所詮、罪を犯した愚かな男達。浄化してあげましょう」

 

 別の罪喰いの聖女が来て

「シスター 今後は…」

 

 シスターが怪しく笑み

「問題ありません。幾らでも当てはありますから」

 

 ソームンドの使いを喰った罪喰いの聖女が

「シスター」

と、ソームンドの使いから得た情報を話す。

 

 シスターは考え

「興味深い…」

 

 そこへ罪喰いの聖女のミレアが来て

「シスター その者達の見定めは私が行きましょう」

 

 シスターが頷き

「お願いしますね。我々はソームンド達の罪を喰らった後…合流地点を後ほど…」

 

 ミレアは頷き

「では、行って来ます」

 

 

 

 ネオ達は、グレンの診療所で、新薬の開発を行っていた。

 グレンもサーフェもその新薬、ネオが提供したウィルス薬とターゲット式免疫学習ワクチンの仕組みに驚いている。

 

 サーフェが

「こんな技術…信じられない。先生、これなら理論上、全てのウィルスに関してのワクチンと薬が作れます」

 

 グレンも完成した薬と製造方法を知り

「そればかりじゃあない。これを使えば…有害な細菌だけを殺す薬が作れる」

 

 ネオが

「基本的にウィルスは取り付く細胞がなければ生存できない。細菌もまた細胞のシステムで動いている。ウィルスの細胞に取り付くシステムを封じる方法を知れば、自ずと細胞がどうやって形を保っていると分かる。それを応用しているのです」

 

 サーフェが

「確かにこれなら…新型のウィルスが出て来ても直ぐに終息させられたのも頷けるわ」

 

 ネオが厳しい顔で

「後は…実績ですが…」

 

 後ろで見ているスタンクが

「だったら、この街の花街の連中に使ってやってくれないか?」

 

 ネオ達がスタンクを見る。

 

 スタンクが

「この街の花街は、そういう衛生的な事がしっかりとされてねぇ。オレ達の大陸にある性病とか妊娠を防ぐ魔法が来るのも、まだ…先だろう。だったら、その花街のサキュ嬢達を救う事をしてくれよ。その…話はちんぷんかんぷんだけど、薬を応用すれば、避妊薬にもなるだろう」

 

 ネオが驚きを向け

「おまえ…下半身にしか脳みそがついていないと…思っているが。たまに凄い事を言う」

 

 スタンクが苛立ちで

「オレだって考えて生きてんだよ!」

 

 サーフェが

「確かに、これを使えば性病を防いだり治す薬や避妊薬も…」

と、グレンを見ると、グレンは考えている。

「グレン先生?」

 

 グレンは

「それは、そうした方が良いのは分かりますが…それは、本来の病気を治した後、効力が分かってからの方が良いかもしれません。そうでないなら…花街で実験したと…悪評が立ちかねません」

 

 スタンクが頷き

「確かに…」

 

 サーフェが

「しかし、そんなに都合良く病気が…」

 

 そこへ「グレン医師!」とクナイが入って来た。

 

 グレンがクナイに

「どうしたんですか?」

 

 クナイが厳しい顔で

「グレン医師、リンド・ヴルムより南東のラミアの街で今までにない病気が流行しているようだ。竜闘女様が、グレン医師に授かった病気を治す技術で、何とかして欲しいと…」

 

 グレンは鋭い顔で

「分かりました」

 

 ネオがスタンクに

「諸々の手配を手伝うぞ」

 

 スタンクが「はいよ」と加勢する。

 

 

 

 ネオ達、ネオ、スタンク、クリム、ゼルの四人は、グレン達の出立の準備を手伝う。

 

 グレンが殺ウィルス薬を付与させた特製のマスクを荷物の運搬を頼むスキュティイアー運送のケンタウルス達に持たせて

「街に到着したら、必ずこのマスクをしてください」

 

 グレン達の荷物、新薬の材料と製造機を乗せたケンタウルスの運搬隊は、グレン達を乗せて目的のラミアの街へ走る。

 その手伝いに、アラクネのアラーニャも同伴してくれる。

 

 ネオ達は、ネオが輸送戦闘機に変形して、スタンク達を連れて先に行く。

 到着してすぐにウィルスの検体を確保する為だ。

 ウィルスの遺伝情報の検体を手に入れれば、すぐにでも対応したワクチンや薬を作れる。

 

 こうして、新たな新薬の効力で救う事が出来る実地が始まった。




次話もよろしくお願いします。


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この街の男達

 この街の病原撃退の為に来たネオ達、しかし…この街は…、


 ネオ達が目的のラミアの街の上空に来る。

 そこは、高い城壁に囲まれた街だった。

 城壁の高さは、優に二十メートルもあり、半径二キロ程度の円形の城塞が次の城壁に隣接するように別の街を繋がって形成している。

 

 輸送戦闘機に変形していたネオは、その正門であろう前に降り立ち、スタンク達を下ろしてネオは人型に戻り

「珍しい街だな」

 

 スタンクが顎を摩り

「こんなデカい城壁、見た事もないぜ」

 

 ゼルが

「巨人族とでも戦争していたのか?」

 

 クリムが不意に

「なんか、綺麗な城壁ですよね。継ぎ目もないし、スベスベして滑らかですよね」

 

 ネオは頷き

「確かに…」

 

 そう、城壁は繋ぎ目がないツルツルとしたモノだ。

 

 ネオは、その城壁を触りつつも

「我々の役目を忘れてはいけない。それが終わった後で、幾らでも疑問に答えられる。行くぞ」

と、この街の入口である大門に来る。

 

 大門の上の見張り台には、ラミア族の女性がいて

「貴方達は、何者ですか?」

 

 ネオがスカディから貰った証明書のメダルを掲げて

「リンド・ヴルムより派遣された医師の一団の先発です。早急に駆け付けて、病気になっている患者から病原菌を採取して、治療薬を早く作る為に来ました。後で治療薬とワクチンを作る後発隊が来ます」

 

 大きな門が開き、ネオがスタンク達三人に

「対ウィルス用のマスクを」

 

 スタンクとゼル、クリムが受け取り、ゼルが

「さて、どんな地獄になっているのやら…」

 

 四人の前にある大門が開くと、そこに槍を持ったラミアの女性達が待ち構えていた。

 

 その中の隊長が

「お待ちしていました」

と、ネオ達を入れる。

 

 スタンクが、そのラミア達を見て困惑する。

「ゼル、ここのラミア達…」

 

 ゼルが

「あのリンド・ヴルムで見たラミア達と違って、体が…倍もあるなぁ…」

 

 そう、この街にいるラミア達は、サーフェといったリンド・ヴルムにいたラミア達より体格が大きい。

 ラミア事態も体格が大きい種族ではあるが…その今まで見たラミア達より、ここのラミア達の体格が大きい。

 人で例えるなら平均身長の170センチより30センチも大きい二メートルといった感じだ。

 

 

 グレン医師達、製造の後発隊はスキュテイアー運送の馬車に乗りながら目的の街を目指していると、グレンと共に乗るサーフェが

「グレン先生。今回、向かうラミアの街、ラモス街ですが…」

 

 同じ乗っているアラクネのアラーニャが

「妾も聞いていますえ。ラミアの中でも強大な腕力を誇るラモスの者達だと…」

 

 サーフェが心配げに

「ラモスのラミアはメスしか生まれません。なので、異種族…特に人間の男性を奪って子孫を残す為の伴侶にします。その形態は、十数頭から二十頭のラモスのラミアのハーレムに人間の男性一人という割合です」

 

 グレンが

「それは、戦争があった過去の事だろう。今は…」

 

 サーフェが厳しい顔で

「それでも…未だに変わっていません。ですから、先生の身は必ず私達が守ります」

 

 

 ネオ達は、ラミアのラモスの街に通される。

 外にいるのはラミア族の女性ばかりだ。

 

 スタンクが

「なぁ…この大陸の異種族って…デカいよなぁ…」

 

 クリムが頷き

「確かに、僕たちがいる異種族に比べて一回りも大きいですね」

 

 ゼルが

「この大陸は、オレ達の大陸の北側、ドラグアース帝国を挟んで北にあるからなぁ…。寒い地方の生き物は大きくなりやすって聞いた事があるぞ」

 

 ネオが

「ベルクマン・アレン法則というヤツだ」

 

 スタンクが

「なんだそれ?」

 

 ネオが淡々と

「寒い地方の生き物ほど、体温を維持するために、熱を逃がさないように体が大きくなるという法則だ。この理論でいうなら、スタンク達は温暖な大陸ゆえに、体温は維持され易いので、逆に体温上昇の異常を防ぐ為に体が小さくなる。とは言うモノの。スタンク達の大陸は、南から北まで細長い大陸だ。それによって異種族が綺麗に分布している。なので、体格差に関して種族同士の違いでしか分からない」

 

 スタンクが

「能書きが長い」

 

 ネオが渋い顔をしていると、ゼルがヒヒヒと笑い

「要するに、オレ等の大陸は上手い事、色んな種族が仲良く別れているから、全体的にデカいとか無い。そういう事だ」

 

 クリムが「へぇ…」と関心する。

 

 スタンクが

「なるほどね」

 

 ネオが前にいるラモスのラミアに

「患者はどこに?」

 

 ラモスのラミア、グレン医師のサーフェより一回り大きなラミアが

「こっちです」

と、とある家に案内する。

 

 大きなラミアであるラモスに合わせて家も大きく邸のようだ。

 

 立ち上がり三メートルの頭頂を持つラモスのラミアがドアを押して入ると、そこには多くのラモスのラミア達がいて、その全員が大型ラミアだ。

 

 ラモスのラミアがネオ達に近づき

「あの…話は聞いています。どうか…家の旦那を」

 

 ネオが

「我々は、感染者から感染した病原体の採取に来ました。我々が採取した後、治療薬を完成させる事ができます。それまで…」

と、伝えて病人がいる部屋へ向かう。

 

 スタンクがネオに

「ここのラミア達は…無事なようだな…」

 

 ネオが

「旦那と言っていた。おそらく、ここのラミア以外の種族かもしれない」

 

 患者の部屋の前で、スタンク、クリム、ゼルが滅菌のマスクを被り、ネオもナノマシンの滅菌の頭部マスクをして入ると、咳き込む人族の男性がいた。

 

 男性はベッドにいて、ラモスのラミア達の看病を受けていた。

 

 ネオが患者に近寄りレーダー波を飛ばす。

 そして、患者の男性の脈と血中酸素濃度、免疫反応、その他の反応を探る為に首に触れる。

 

 スタンクが

「どうだ?」

 

 ネオが厳しい顔で

「成る程、ラミア族には感染しない訳だ。これは人類、人族系が掛かるコビットナインティーン系統のウィルスだ」

 

 スタンクが

「なんだよ。また専門用語かよ」

 

 ゼルが滅菌マスクを外して

「つまり、スタンクみたいな人族だけが感染する病気って事か…」

 

 ネオが頷き自分の滅菌マスクを解除して

「おれは、このウィルスのデータを持っているからナノマシンのお陰で感染しないし発病もしないが…」

と、スタンクを見て

「お前は外すなよ。感染するから」

 

 スタンクがしっかりとマスクを押さえる。

 

 クリムも外して

「つまり、これは…人族の方しか」

 

 ネオは頷き

「そうだ、そして…反則だが…」

と、ナノマシン収納庫から、このウィルスを抑えて殺す対ウィルス薬を取り出して

「この病気の治療薬、対ウィルス薬を持っている」

と、看病しているラミア達に

「これが薬です。人族である彼以外には使わないでください。使用量は説明書を、きっちり一週間、飲ませてください。必ず水で」

 

 ラミア達はお辞儀して

「ありがとうございます」

と、お礼を告げる。

 

 そして、ネオは厳しい顔をする。

 

 それにスタンクは

「どうしたんだよ」

 

 ネオがスタンクに耳打ちする

「ベッドに隠れる足下を見ろ…」

 

 スタンクが視線をそちらへ向けるとベッドの端の柱に繋がる鎖が見えた。

「ええ…」

 

 ネオは耳打ちで

「さっき、首元に触れて検査した時、長期に渡って首を何かで拘束された跡があった」

 

 スタンクが厳しい顔で

「どういう事だ?」

と呟いていると、ラモスのラミアの女性が

「皆様のお仲間が来ました!」

 

 ネオ達は、到着したグレン達の元へ向かう。

 

 直ぐにネオはグレンにウィルスのサンプルとそのデータを渡して、素早く馬車達に乗せた装置や薬品達を町内の空いている家を借りて広げて、抗ウィルス薬と免疫学習ワクチンの作成に取りかかる。

 半日で薬は完成するだろうし、翌朝にはワクチンも出来上がっている。

 

 一時的な診療所にしているそこで、スタンクがワクチンを受けて、ネオが

「この街に関して…何か、思い当たる節はありませんか?」

 

 グレン医師と一緒にいるサーフェが

「実は…」

と、このラモスのラミアについて話した。

 

 ネオ達は、成る程…と頷いた。

 

 クリムが

「す、すごい所ですね…」

 

 ネオが

「繁殖の為に戦争で…人族の男達を…」

 

 サーフェが

「大丈夫です。先生の身はわたくしが必ず守りますから」

 

 スタンクが

「オレ達は無視かよ」

 

 ネオが

「とにかく、治療に専念」

 

「邪魔するよ」とラモスのラミアと共に中年の男性が入って来た。

「この街について説明をしに来た」

 

 このラモスのラミアのラモス街の人族のまとめ役であるグラファンは、正直にラモス街について語る。

「ここは、ラミアの中でも強い力を持つラモスのラミアの街で、ここのラミアはラミアの女しか生まれない。だから、戦争や、孤児に、身売りするしかない者達を買って、繁殖の為に男達を調達している」

 

 グラファンの首には、その証である鉄の首輪と、その首輪と繋がる腕輪を手にする妻達の一人のラモスのラミアがいる。

 グラファンは微笑み

「アンタ達は、取って食われやしないから大丈夫だよ」

 

 グレン医師を前に話すグラファン、その後ろにネオ達が立っている。

 ネオが

「ここは、どうやって収入を得ている? その首輪の具合から考えるに逃げないように監視が…」

 

 グラファンは懐から財布を取り出し

「これが一番の収益じゃな」

 それは綺麗な蛇皮で作られた財布でグラファンが

「ラモスのラミアは厚く綺麗な脱皮をする。それを集めて加工品にしている。それとこの辺り一帯は、有数の希少鉱物、ダイヤやサファイヤといった宝石が取れる。それを露天掘りして採掘しておる。無論、農地もある」

 

 グラファンの妻一人のラミアが

「私達は、強い膂力を持っているが故に、利用価値が高い土地を奪ってきた歴史があります。ですが…頭数は少ない」 

 

 グレンが

「大蛇の軍勢、ヨルムンガンド…」

 

 スタンクが

「知っているのか?」

 

 グレンが戸惑い気味に

「昔、読んだおとぎ話の本に…」

 

 グラファンの妻のラミアが頷き

「多分、それは私達の祖先でしょう」

 

 ネオがグラファンに

「アンタ達は、何が望みだ。そんな話をして…」

 

 グラファンは微笑み

「病人達の治療を終えたら…普通に帰って欲しい。要らぬ同情は必要ない」

 

 スタンクが

「アンタは、それで良いのかよ?」

 

 その疑問にグラファンは頷き

「この街にいるワシ等、全員の総意だ。言ったアンタみたいに何とかしようとする人はいるも…ワシ等は、それを必要としていない」

 

 スタンクが

「諦めたってのか?」

 

 グラファンが首を横に振り

「受け入れたのさ…。それに…悪い事ばかりじゃあないさ」

 

 スタンクが苛立った顔をするとネオが手を叩き

「分かった。アンタ達の望み通りにする」

 

 スタンクがネオに

「おい、良いのかよ!」

 

 ネオがスタンクに

「望んでもいない事を無理矢理に押し付けるのは暴力と一緒だ」

 

 正論を言われてスタンクはグッと堪えた。

 

 その後、グレン医師達、治療隊はラモスの街の流行病の治療を着実に熟していく。

 

 病気になっているのは、この街にいる人族だけだが、病気の媒介を防ぐ為に、ラモスのラミア達にもワクチンを受けて貰う。

 

 スタンクは、この街の男達を見て「け、ふぬけが…」と、唸る。

 病気が静まり、外に出歩く人族の男性の全員には、鉄の首輪があり、隣にその首輪と繋がった腕輪をする妻のラミアがいる。

 スタンクは、家畜のような光景に嫌気がさす。

 

 そこにネオが

「なんだ? 気に入らないのか?」

 

 スタンクが

「オレ達、男は家畜じゃあねぇ」

 

 ネオが隣に来て

「お前のそういう平等に見る所は見習っているが…自分の価値観が正しいというのは頂けない」

 

 スタンクが

「じゃあ何か? 悪い事でも認めろってか!」

 

 ネオが冷静に

「正しい悪いの問題じゃあない。ここの事は…生き残る為に、そういう矛盾を抱えようとも必死にやっているんだ。その理解もないのに…善悪で判断するのは危険だ」

 

 スタンクは苛立って外に出て

「オレはご高説を聞いて頷く程、ボケちゃあねぇ!」

 

 ネオはフッと笑み

「そうだな。スタンクは、まだ二十代後半の青年だったな」

 二十代の若さを感じた。

 

 スタンクがふて腐れて街を歩いていると

「お、すまねぇ…」

 

 男性とぶつかった。

 男性は持っていた荷物を零してしまい、道にばら撒いてしまった。

 スタンクが落ちた荷物を見て

「絵の具?」

 

 男性はスタンクに

「大丈夫ですか? どこか…汚れて…」

と、告げるとスタンクの脇に絵の具が付いていた。

 

 男性の隣にいたラモスのラミアの伴侶が

「ああ…すいません」

 

 スタンクが

「いや、洗えばいいさ。それより…アンタ…絵の具って事は」

 

 男性は申し訳ない顔で

「ええ…まあ、画家の真似事を…」

 

 スタンクは年齢が違い男性に

「オレはスタンク」

 

 男性は頷き

「存じています。ここで流行っていた病気を何とかするために来た方ですよね」

 

 スタンクは穏やかな感じの男性に

「なぁ…ちょっと話をしないか?」

 

 男性は首を傾げ

「はぁ…構いませんが…」

 

 スタンクが

「アンタの名は?」

 

 男性は微笑み

「アネロです」 




次話もよろしくお願いします。


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ここでの真実

 ふて腐れるスタンク
 だが、とある出会いが…


 スタンクはアネロの家で一杯ごちそうになる。

 

 スタンクはアネロの家を見回す。

 多くのラモスのラミアと生活する為に屋敷のように広い。

 

 暮らしぶりは困っているような感じはしない。

 スタンクは、貰ったカップに口を付けながら

「アンタは…」

 

 アネロはスタンクの視線の先を読む。

 自分の首輪だ。

「昔、戦争で…孤児でしたから…」

 

 二階からラモスのラミアの娘達が

「父さん! お客さん?」

と、アネロの娘達が階段から下りてくる。

 

 アネロは頷き

「ああ…そうだよ。挨拶をして」

 

『こんにちは』とラミアの子供達が挨拶をしてくれる。

 

 スタンクは微笑み

「おう、よろしくな」

 

 アネロが

「私のアトリへに行きますか?」

と、スタンクをアネロのアトリへ導く。

 

 そこは、絵画や石像が置かれた部屋で、その部屋の真ん中に大きな書きかけの絵があった。

 

 スタンクは、その書きかけの絵を見詰めて

「へぇ…綺麗だな」

と、見詰めるとその絵画に使われている絵の具が独特の色の光を反射している。

「この絵に使われている絵の具…」

 

 アネロが隣に来て

「ええ…この地域特産の鉱物が原料です」

 

 スタンクがその絵の具を凝視して驚きの顔をして

「もしかして…これ、原料は宝石か?」

 

 アネロは頷き

「はい。ここで加工される宝石の破片を材料にしています。この街は…自分のような画家には天国みたいな世界です。この絵も…完成前ですが…高値が付いています」

 

 スタンクは書きかけの絵を凝視する。

 光の具合によって絵が様々な色の光を放つ。絵の具に含まれている宝石の粉が不思議な光の魅力を演出している。

 

 アネロが

「けっこう芸術を目指す人が、この街に来て…暮らすんですよ。外の世界じゃあ、芸術より商売といった生活の為の能力が必要とされますから…」

 

 スタンクが

「まあ、確かに絵画に大金を払うなんて金持ちの道楽だわなぁ…」

 

 アネロは落ち着いた笑みで

「色々とありましたけど…私はここで暮らせて良かったと思います」

 

 スタンクはカップの飲み物を飲み干して

「ドアの向こうで聞いているんだろう?」

 

 入口のドアが開いて、そこからアネロの妻のラミアがお盆を持って

「飲み物のおかわりを…」

 

 スタンクがカップを差し出し

「頼む。それと…オレは、アンタ達の旦那を誘拐するつもりなんてないぜ」

 

 アネロのラミア妻から、おかわりを貰うスタンクにアネロが

「話は聞いています。仲間を助けていただいてありがとうございます。ですが…私達は…病気の治療以外を望んでいません」

 

 スタンクが貰った飲み物を飲み干して

「オレにはそんな達観した生き方はムリだ。だが、アンタ達が不幸でないのはわかった。治療だけして帰るわ。ごちそうさん」

 

 アネロが「待って下さい」と引き出しからお守りを取り出す。

 それは十字架のお守りだった。

「これを…」

 

 スタンクは、呆れ気味に

「神に祈る程、信心深くねぇぜ」

 

 アネロが微笑み

「私達の事を理解してくれたお礼です」

 

 スタンクは掴み

「そうかい。じゃあ…」

 

 アネロの家を後にしたスタンクは、ネオ達の下へ戻り、治療の手伝いを続けた。

 ネオやグレン医師達は、順調にラモスのラミアの街の治療を続ける。

 

 用意された家で、グレン医師が

「患者が激減してきた。これなら三日程度、様子を見て…」

 

 隣にいるサーフェが

「ええ…そうですね」

 

 グレンは

「そういえば、一緒に手伝いに来たアラーニャは?」

 

 サーフェが呆れ気味に

「珍しい宝石があったりするので、創作意欲が刺激された…とかで勝手に街へ」

 

 グレンが

「アラーニャには薬の合成を手伝って貰ったからね。お礼をしたいけど…必要ないか…」

 

 サーフェが頷き

「ええ…」

 

 ネオ達は薬の余剰を作り

「よし、これだけあれば…」

 

 ゼルが

「患者も減ってきた。明日には誰も来ないかもなぁ…」

 

 ネオが在庫の数が書かれた紙をチェックしつつ

「これで、実績が出来た訳だ」

 

 ゼルが

「後は、あの医師が繋がる病院へ提供して終わりか…」

 

 ネオが書類をチェックしながら

「邪魔が入らなかったのは幸いだ」

 

 ゼルが後頭部に腕組みして

「あの襲ってきた連中だろう」

 

 ネオが書類のチェックを終えてしまいながら

「襲ってくると…想定していた」

 

 ゼルが肩をすくめて

「ここは、ラミアでも武闘派な連中の巣窟なんだろう。下手を打てないじゃあないのか?」

 

 ネオが鋭い顔で

「オレは、知っている。ああ…いう愚かな事をするヤツは…必ずバカな行動をする。どんな犠牲を払ってもな…」

 

 ゼルが鋭くなるネオに

「何か思い当たる節でもあるのか?」

 

 ネオは、昔の宇宙超技術文明時代を思い出し

「ああ…ありすぎる」

 

 そこへドアがノックされ「あの…これが…届きましたよ」とクリムが手紙を持ってくる。

 スキュテイアー運送が持って来た速達だ。

 ネオは受け取り、手紙にあった蝋印を見て

「これは…スカディ氏からだ」

と、手紙を開ける。

 そこには…「どういう事だ?」とネオが唸った。

 

 

 その夜、グレン医師達も交えた夕食で

「え? 診療所の襲撃を指示した上の人達が…消えた?」

と、グレンが驚きを見せる。

 

 ネオ達がいるテーブル、ネオが頷き

「我々に刺客を送ったソームンドの一派が、首領であるソームンドを含めて、突如…消えたらしい」

 

 スタンクが

「闇に消されたか?」

 

 ゼルが

「そんなに、あのリンド・ブルム街は強い力を持っているのか?」

 

 同じく食事するアラーニャが

「そんなことないない。むしろ、相手の方が強いわえ」

 

 クリムが

「じゃあ、どうしていなくなったんですか?」

 

 ネオが

「我々のやる事に裏で賛同する者達が…」

 

 グレンが

「そんな事があれば、人間領は大混乱に…」

 

 全員が黙ってしまう。

 

 ネオが

「私が戦場で戦っていた時に、情報が不足していた事があった…」

 

 クリムが

「その場合は…どうしたんですか?」

 

 ネオは慎重に

「任務を全うした。任務は施設の無効化だった。必要な無効化をして、終えた。その後は、その後で…だ」

 

 グレンが

「そうですね。私達のやるべき事は、この街の病人を治す事。それに集中しましょう」

 

 ゼルが

「その通りだぜ。下手に想像すればするほど、間違った結果になる。オレ達は、街に来て病人を治すって決まっているんだ。それ以外は、それ以外をやってくれるヤツ等に任せればいい」

 

 ネオが

「流石、長寿のエルフ。含蓄ある言葉だ」

 

 

 

 その夜、ネオは一人で外に出て夜空を見上げていた。

 そこへグレンが来て

「眠れないんですか?」

 

 ネオは星空を見上げながら

「この世界の夜空は…綺麗だ。私達の世界の夜空は、どこかに人工衛星や飛行車が飛んでいて騒がしい。一部の環境…って言っても」

と、グレンを見ると、グレンは困り顔だ。

 

「すいません。想像できません」

 

 ネオは笑み

「構いませんよ」

 

 グレンが

「ネオさんの世界では、異種族とかいるんですか?」

 

 ネオは渋い顔で

「厳密に言えば、異種族は存在しませんが…形状進化した異星の民はいます。我々の宇宙では知的種が誕生する条件は、ほぼ同一で、それがどういう文明経路を進むかで、各々に適応した宇宙の民になっています。遺伝子的には、我々の宇宙では、全知的種が90%ちかい同一です」

 

 グレンが考えながら

「形は違うけど、中身は一緒って事ですか…」

 

 ネオは頷き

「その通りです。ですから、この世界は、我々の常識を越えて存在している。遺伝的にも形状も違う種族同士が交わって子孫を残せる。驚異の世界です」

 

 グレンが

「そんな遠い世界から来て…その…ありきたりですけど、寂しくないですか?」

 

 ネオが懐から写真を撮り出す。そこにはネオの家族達が映っている。

「こっちで家族を持ち、子供達もいます。寂しいって事はないです…いや、妻達や子供達と離れて寂しいので、早くグレン医師には、技術の譲渡を終えて欲しいですね」

 

 グレンが苦笑して

「善処します」

 

 ネオは笑み

「この街の事例で、抗ウィルス薬や、ワクチンの製造方法の事例と、データが…」

と、不意に目の前から歩いてくる少女に視線が集中する。

 

 コツコツと静かにこっちへ向かってくる少女。

 

 グレンがネオの視線を追って、同じ少女を見詰め

「あれ、こんな夜中に…こっちへ」

 

 ネオが少女の背中から何かが昇ったが見えた瞬間、グレンを抱えてその場から横飛びして逃げた。

「え?」とグレンが困惑した次に、離れたそこ、玄関が粉砕された。

 

 頭からフードを被って近づく少女は

「へぇ…見えているんだ…」

 

 ネオは、少女を凝視する。

 な…アレは…。

 

 ネオの視界、いや知覚には、少女の背中から鉤爪のような巨手が伸び、その巨手の手の平にある三つの獣眼と、牙が揃う口が開いてうめき声を放っている。

 

 玄関が破壊された音に

「おい、すげー音したぞ!」

と、スタンクにゼル、クリム、サーシャにアラーニャの五人が来た。

 

 ネオが

「来るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

と、叫ぶ。

 

 スタンクが「何があった?」と破壊された玄関から外に出ると、あの少女がスタンクを見た。

 スタンクの全身が泡立ち自然と剣を抜いて構えていた。

 同じく隣にいたゼルも持っているナイフを構えて、ゼルの後ろにいたクリムが青ざめ

「あれ…なんですか?」

と、少女の背中を指差す。 

 

 サーシャがアラーニャと共に

「一体、何が?」

 

 ゼルが「来るな!」と二人を止めた。

 スタンクがゼルに

「おい、アレ見えないが…」

 ゼルが頷き

「ああ…見えないが感じる。あの…不気味な気配は…一体」

 

 ネオがグレンを遠くへ離して

「グレン先生、逃げてくれ」

 

 グレンが

「何が起こったんですか? 突然、玄関が…」

 

 ネオがグレンを背にして

「逃げろ」

 

 怪物の手、罪喰いの喰手触手を伸ばす少女ミレアが静かな瞳で

「へぇ…罪がない人間なんて、存在するんだ…」

と、グレンを見た。

 

 その隙をスタンクやゼルは見逃さない。

 スタンクが瞬時に間を詰めて、ゼルが一気に十本の矢を放つ。

 ゼルの矢が先にミレアに到達、スタンクが切り上げの一閃を放つが…。

 ミレアの肌に矢が触れた瞬間、まるでホコリでも当たったかのように弾かれ、スタンクの一閃が撫でるだけのように滑った。

 斬れない!と分かったスタンクの目の前にミレアの正手が放たれ、それをスタンクは別の剣でガードするが、その剣をへし折ってミレアの正手がスタンクに届く。

 スタンクの肋骨にダメージが入り、ゼル達の下へ吹き飛んだ。

 それをゼルとクリムが受け止め、三人は一緒に建物の奥へ飛んだ。

 

 ミレアの強度、人智を遙かに超えていた。

 

 それでネオは直ぐに分かった。これは…

「なぜ、サタンヴァルデットの力を持っている?」

 

 ミレア、罪喰いの聖女が首を傾げネオに

「あら…アナタ…知っているの?」

 

 ネオが警戒に構える。

 

 ミレアがネオに狙いを定める。

 

 そこへ騒ぎを聞きつけた街の人達が来る。

「すごい音がしましたが!」

と、アネロが妻達ラモスのラミア達と、同じくラモスのラミア達の夫達とラモスのラミア達を連れて駆け付ける。

 

 アネロがミレアを見て

「ああ…ミレア…」

 

 ミレアはアネロを見ると、首を傾げて

「ああ…久しぶりね、アネロ…」

 

 二人は引き剥がされた者達だった。




次話もありますのでよろしくです。


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久しぶりに…

 ネオ達は、遭遇してはいけない存在に遭遇した。
 


 アネロがミレアに驚きを向け

「そんな、ミレア…どうして」

 

 ミレアは淡々とした感じで

「久しぶりね…アネロ」

 

 アネロが

「何をしているんだ?」

 

 ミレアはネオとグレンを見て

「私達の務めを果たしているのよ」

 

 ネオが鋭い顔をして

「まさか…ソームンドの…」

 

 ミレアは不気味に笑み

「心配しないで、そのソームンドの連中、もう…私達、罪喰いの聖女達が皆、浄化してあげたから」

 

 アラーニャが出て

「浄化って、皆殺しにしたんどすか?」

 

 ミレアが肩をすくめて

「ええ…愚かな罪人を狩る為には、同じく愚かな罪人の権力者の下にいた方が効率が良かったのよ。でも、残念、ソームンドの連中は私達を都合が良いコマにしようとしたから…これで浄化させたの」

と、告げた瞬間、不可視にしていた喰手触手を実体化させた。

 

 グルルルルルルル

と、ミレアの背から伸びる不気味に唸る喰手触手。

 

 アネロが

「何があったの? ミレア…」

 

 ミレアが首を傾げて

「アネロ…私、アナタと結婚して幸せな家庭を築きたかった。でも、出来なかった。それはどうして何だろう? そう、考えた結果…この世にいる罪人が全て悪いって分かったの。だから、罪人を浄化する手伝いをする事にしたわ」

 

 サーフェが

「そんな事、本当に意味があるんですか?」

 

 ミレアがサーフェを見て

「んん…どうして、そう思うの?」

 

 サーフェが

「どうして、その罪人が出てくるのか? それを根本的に治療しない限り、永遠に罪人は出続けます。確かに罪を犯すのはよくありません。ですが…どうして罪を犯すのか? それを理解して防ぐ事で、罪人を、罪を犯す人を減らせるはずです」

 

 ミレアが皮肉に笑み

「確かに、貴女の言う通りよ。でも、どんな事になっても罪人は生じる。なら、その後始末をする存在は必要でしょう。ゴミ掃除もできないクセに…。それにアナタの言葉…じゃあ、アナタの大切な人が私に殺されれば…同じ事が言える?」

 ミレアの顔が、悪魔の笑みになる。

 

 それにサーフェや隣にいたアラーニャが恐怖で全身が硬直する。

 これは…自分達がいる世界に生きていない。

 それを感じさせた。

 

 ネオがグレンを、アネロ達へ弾いて

「離れろ! コイツは…ヤバい!」

 

 アネロがグレンを受け取り

「アナタは!」

 

 ネオは構えて

「やれるだけやるさ!」

 

 ミレアがネオを見詰め

「さっきから、これを知っているような感じだけど…」

と、喰手触手を横に下ろして撫でる。

 

 ネオが厳しい顔で

「ああ…知っている。だからこそ…会いたくは無かった」

 

 ミレアが頷き

「そう。だから…この子は、アナタを見た見たときに、興奮していたわ。まるで会いたかった恋人が目の前にいるように…」

と、喰手触手を撫でる。

 

 ネオが両腕からナノマシンの装備、プラズマソードを伸ばし

「恋人? 冗談を言うな…その…それを持っているヤツに、オレ達の宇宙が、世界が滅ぼされる寸前までになったんだぞ。敵の間違いだろう」

 

 ミレアが消えた。

 いや、縮地という俊足で、ネオが反応する速度以上で、ネオの懐へ入り

「そう、じゃあ、久しぶりの仇敵との再会、楽しんで」

と、ネオの腹部に正手を叩き込む。

 

 それにネオは反応して、胸部のナノマシン端末から防壁装甲を展開、それにミレアの正手が突き抜けた。

 言葉の通りだ。防壁装甲を透過して突き抜けた。

 存在そのモノを、別次元に変更して、防壁装甲を通過、ネオの胸部、心臓の上にあるネオデウスのコアへ正手が向かう。

 

 それにネオは反応して、ミレアの左ホホを蹴って自分の体勢を無理矢理に変えて避けた。

 

 ミレアはネオの蹴りを受けても平然としている。

 

 ネオは、蹴った右足にヒビが、ナノマシンで強化してある骨格にダメージが入る。

 

 直ぐに避けたネオは、体勢を整えつつ、急いで回復ナノマシンで足を治す。

 

 ミレアは静かに、ネオを見詰める。

「慣れているのね?」

 

 ミレアは、一挙一動で止まる。

 明らかにこちらを試しているのだ。

 

 ネオが厳しい顔で見詰める。

 このままでは、まずい。もっとネオデウスの力を引き出さないと…。

 

 ミレアがアネロとラモスのラミア達を見て

「あの人達を殺せば…アナタは、本気になるかしら?」

 

 アネロが驚きを見せる。ラモスのラミア達が守ろうと構える。

 

 ミレアが残念そうな顔で

「ああ…アネロ、アナタ…罪を犯したのね…」

と、喰手触手が伸び上がってアネロと、アネロと同じラモスのラミア達の伴侶を、花弁の如き三つの獣眼で凝視する。

 

 ミレアは、アネロの罪を暴露する。

「ああ…アネロは、この街に来た後、荒れて…何人かのラモスのラミア達の女の人達を強姦したんだ…。かわいそう…罪人になって…私が浄化してあげる。そして、他の男の人達も…同じ事をしたんだ…。罪人がぁぁぁぁぁぁぁ!」

 悪魔の狂気を浮かべるミレアが…いた。

 

 アネロは、それを見て愕然とした。

 自分のせいだ。ミレアを不幸にした。だから…彼女は…。

 

 ミレアの喰手触手が

 ゴオオオオオオオオオオオ!

と、嬉しげに唸る。

 ここには、罪人がいる。四大罪科、殺人、強姦、窃盗、詐欺の中で強姦を犯した罪人達がいる。

「あははははははははははは!」

と、無邪気で残酷な笑顔をするミレア。

 

 ネオは胸部を触り

「ネオデウス・アヴァリアスに接続、高次元解釈から我に高次元の事象解力を」

 胸部に触れた両手に閃光の如き光が宿る。

 ネオは疾走する。

 両手に、高次元の力を宿してミレアに、罪喰いの聖女へ迫る。

 そして、ネオの繋がった高次元の力が、ミレアと繋がる喰手触手の元を探ると、完全にミレアと喰手触手が融合して切り離し不可能だった。

 殺すしかない。

 殺さなければ、この街にいる男性達は皆殺しにされる。

 

 ミレアがネオに反応して突きを放とうとするが

 

「おやめください」

 

 ミレアとネオの間に空間断裂が出現して、そこからシスターが現れた。

 

 ネオは瞬時に方向転換して距離を取る。そして…シスターを見た瞬間、驚愕に顔を染め

「お前…生きていたのか!」

 

 シスターはネオに微笑み

「ええ…久しぶりですね。アラタ中尉、いえ…今は…中佐? 大佐?」

 

 ネオは警戒したまま無言だ。

 

 シスターが微笑みながら

「アラタ中尉、アナタがいる事を、アマカス大尉は喜んでいましたよ」

 

 ネオは恐怖を引き攣る顔で

「アマカスは…お前も生きていたのか…。リー情報官」

 

 シスターは馴染みある、昔の自分の名前を言われて嬉しげに

「そう、名前を言ってくれるのは…アナタしかいませんね。アラタ中尉…」

 

 ミレアがシスターを見て

「シスター。この者達は?」

 

 シスターが首を横に振り

「貴女の目的は、見定める事。できたはずでしょう?」

 

 ミレアは冷静な顔になり

「申し訳ありません。昔の幼なじみが罪人に堕ちた事に耐えられず…」

 

 シスターは頷き

「心中、お察ししますが。我々は…」

 

 ミレアは頭を下げ

「我々は、統率が取れた罪人狩り。申し訳ありません」

 

 シスターが頷き

「帰りましょう。それと…」

と、ネオを見て

「今は、何という名で?」

 

 ネオが無言でいると、ミレアが

「ネオ…と彼は呼ばれているようです」

 

 シスターは微笑み

「ネオ。この新しい世界で、新しい貴殿に会えた事に感謝を…」

と、告げた瞬間、空間断裂がミレアとシスターを飲み込んで消えた。

 

 二人が去った後、ネオはその場に崩れた。

 本当に、去ってくれて良かったからだ。

 

 

 ミレアの襲撃が去り、何とか診療所を復旧、そして、病気を駆逐したネオ達が帰還する日が来た。

 

 アネロが診療所へ来た。

 グレン達や、ネオ達に独白する。

 アネロの言っていた事は、間違いではない…と。

 自分のように連れて来られた男性は、荒れる事があって…。

 自分達の倍もあるラモスのラミアの女なら簡単にはね除ける事は簡単だ。

 だが、アネロは怒りに任せて何人かのラモスのラミア達を襲ったと…。

 まあ、その後、襲ったラモスのラミア彼女達は、アネロの伴侶のハーレムにいると…。

 

 自分の意思で納得して来た場合は、そうなる事はないらしいが…。

 アネロのように戦争での事で連れてこられた場合は、そういう事が起こる…と。

 

 アネロは頭を抱える。

「私のせいです。ミレアが…あんな事になったのは…」

 

 そこへスタンクが来て

「アンタがくれたお守りのお陰で生き延びた」

と、襟首の間からアネロがくれた十字架を取り出す。

 それは凹んで曲がっていた。

 ミレアの正手がそれに当たって致命傷を避けてくれた。

 

 スタンクが

「アンタがそう思うなら、そうならないような方法を、編み出してくれ」

と、告げる。

 

 アネロは頷き

「はい。がんばってみます」

 

 

 そして、帰還の日。

 グレン達はスキュテイアー運送のケンタウロス達の馬車へ、ネオ達はネオが変形した輸送戦闘機で。

 ネオ達は、新型のウィルス開発の技術の譲渡と、実績を終えたので、そのままドラグアース帝国へ戻る。

 

 グレンが別れ際に

「色々とありがとうございます」

 お礼を告げる。

 

 それを受けるスタンクとゼルにクリム。

 スタンクが

「なぁ…に、何時かおれっち地元に来たら、色々と案内してやるぜ」

と、ヤバい指の形を見せて笑む。

 

 それにゼルは笑い、クリムは恥ずかしさで頭を抱えた。

 

 グレンは微妙な顔で、サーフェが鋭い顔をしていた。

 

 グレンは、輸送戦闘機のネオに

「ネオさんも、ありがとうございます」

 

 輸送戦闘機のネオは

「また、何時か…」

 

 ネオ達が乗る輸送戦闘機は飛び上がって、ドラグアース帝国へ飛んで行った。

 

 

 ネオの輸送戦闘機内でゼルが

「しかし、大陸を跨ぐとこんなに色々と違うとは…」

 

 クリムが

「まあ、ここまで離れる事は無いですからね」

 

 スタンクが

「まあ、色々と経験できたし、楽しかったぜ」

 

 クリムが

「こっちにも、僕たちのような大陸の魔法が伝わると良いですよね」

 

 ゼルが

「そうなったら、オレ達、レビュアーズの活動範囲も広がって楽しみが増えるな」

 

 輸送戦闘機のネオが

「そうだな。色々と経験になった。経験は貴重だ」

 

 スタンクが頷き神妙な顔で

「そうよ。オレ達の成果は、この大陸では異種族の女の子が全体的に大きいから、異種族で大きなサイズの女の子と致したい場合は、こっちに来いだな!」

 

 輸送戦闘機のネオが

「お前達の探求力には、感心させられるが…。そっちの方ってのが…何かなぁ…」

 

 スタンクが胸を張り

「やっぱり、男はこっちの強さがモノをいう!」

と、自分の股間を指差した。

 

 ネオは呆れる。

 

 

 最新レビュー 別の北大陸編

 

 スタンク、人族

 今回は、遠くの大陸まで来たぜ。

 どうやら、北の寒い地方ゆえか、全体的に異種族の女の子が大きい。

 オレ達が見慣れている異種族の女の子より倍くらいの体格だが。

 何の問題もない! 

 だが、まだまだ、避妊や病気を防ぐ技術が未発達ゆえに、やる時は注意!

 

 ゼル、エルフ族

 やはり、寒い地方なのか、体が大きな異種族の女の子が多い。

 それも各異種族の全体的に大きめだ。

 オレ達のいる大陸が南方に近いので、異種族での体格差は当然だと思っていたが

 ここでは、異種族である事は、体格が大きいというのと同じだ。

 だが、夜の頑張りに問題は無いも、やはり、避妊や性病の技術は未発達。

 今後のこちらからの技術移転を急務として欲しい。

 

 クリム、天使

 自分の住む地方では、あまり体格差は異種族同士でもありませんが。

 こちらは如実に異種族同士で体格差がありました。

 とくに人に近い異種族ほど、人と同じ体型で。

 人に遠い形態の異種族ほど、体格が大きくなる傾向にありました。

 自分の好きな異種族で体格が大きな方が好みの方には、良いかもしれません。

 ですが、やはり、病気や妊娠を防ぐ魔法が未発達なので、それが難点だと思います。

 

 

 

 ネオがいた宇宙超技術文明。DI達の会議

 

「ネオからの報告を見たか?」

 

「ああ…まさか、あの者達が生きていたとは…」

 

「空間相転移爆発で消滅したと…」

 

「んん…どうする? 対処を…」

 

「どう対処するのだ? 今の我々では全く歯が立たない存在だぞ」

 

「何れにせよ。経過を見守るしかあるまい」

 

「まさか、審判の獣神達が生き残っていようとは…」

 

「サタンヴァルデット…罪人を喰らう高次元存在…」

 




 最後まで読んで頂きありがとうございます。


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何時もの日々

色んな事があったが、ネオは何時もの日々に戻る。


 

 ネオは、目を覚ます。

 朝日が差し込む。清々しい朝の日差し。

 ベッドで横になる姿は、裸、そして…裸、裸、裸

 

 ネオは…リリスガール街へ遊びに来ていた。

 城塞都市ラドリアにあるリリスガール街だ。

 いわゆる、男と女が合体を楽しむ最高に下品で、最も生命の根源を使った最高のサービスをしてくるお店にネオは来て、朝チュンしていた。

 

 ネオは…呆然とする。

「やってしまった」

 裸をシーツで隠すネオの両隣には、犬型獣人の女の子、ハーフリングの女の子、ミノタウロスの女の子、三者三種族のリリスガール達が満足そうに寝ていた。

 

 ネオは、何時ものメンバー達、ハーフリングのルディリ、ハーフドラゴンのドリン、エルフのレリス、鬼人族のムラマサ

 この四人と一緒に、リリスガール街へ遊びに来た。

 お金は、大型カエルモンスター達の討伐だ。

 この大型カエルモンスター達、名はキングフロッグだが。

 コイツが厄介な存在で、魔法耐性と武器耐性を持っている。

 そして、何よりキングフロッグのお肉は美味とされ、ドラグ・アース帝国にあるギルドなら、どこでも懸賞金が掛けられているモンスターだ。

 狩るのに大変なモンスター、キングフロッグを偶々、ダンジョン探索していた途中で見つけた。

 

 ネオは、初めてキングフロッグを見て驚く。

 デカい、十メートルはある。ジャンプして足を伸ばしたら二十メートルは絶対に超えている。

 デカいカエルで、鶏冠も付いている。

 見かけはデカいカエルなのに、口を開くとティラノサウルスのような凶暴な牙が見える。

 キングフロッグは、陸と海を行き交う陸海生態で、普段は海にいて、巨大な海のモンスターや生き物を喰っている。

 偶に陸へ上がって、陸地を荒らす。

 巨大な肉食蛙に、ネオは…この世界の生態系の懐の広さを感じつつ、みんなして狩った。

 本来はネオ達のような五人では討伐不可能らしい。

 そうだよね。魔法も武器も通じないのだから、部隊でレベルの人数が必要だが、ネオの持っているネオデウスの装備を四人に装備させて狩った。

 要するに、人型の巨大ロボット五人がかりという、異世界風のこの世界に似つかわしくない戦い方だ。

 

 そして、キングフロッグの懸賞金と、久々に取れたキングフロッグの解体。

 そして、キングフロッグ料理の大盤振る舞い

 懐のお金とお腹が満たされれば、次に来るのは股間の欲望だ。

 五人は、お金も食欲も満たされた懐を抱えて、リリスガール街でハッスルハッスルした。

 

 ネオがリリスガール街へ来ると、ある事を頼まれた。

 妖精族のリリスガールの元締め、アングラな雰囲気満載の妖精デリナが来て

「ねぇ…ネオ…アンタに頼みたい事があるんだけど…」

 

 ネオがエッチな光ばかりのリリスガール街のど真ん中で呼び止められて

「ええ…何?」

 

 デリナがネオの右肩に座って耳打ちする。

「水揚げする女の子の手ほどきをして欲しいんだよ」

 

 ネオが訝しい顔で

「水揚げする女の子って何?」

 

 デリナが耳打ちしながら

「要するに、これからこの街でガールとして働く三人の子達の初めてを貰って欲しいのよ」

 

「えええええ…」

と、ネオは重い話に軽く引いた。

 

 デリナが両手で拝み

「頼むよ。最初の男は最上級にさせてやりたいんだよ。アンタは伝説だし、凄いヤツだろう」

 

 ネオが眉間を寄せて

「そうか? ただの冒険者だぞ」

 

 デリナがネオの頬をつねり

「どこが? 世界的な伝染病を防ぐ、前人未踏の場所を制覇する。この国の皇帝と知り合いで親戚、数々の武勲を立てる。最強の英雄じゃん」

 

 ネオが難しい顔で

「それでも初めて…ええ…」

 

 デリナが悲しい顔で

「だってさあ、初めてが欲望で暴走する獣じゃあ、どんなトラウマを残すか…。アンタは紳士的にやってくれるだろう」

 

 ネオが首を傾げて

「ええ…うん…もう、する事が前提なんだ…」

 

 デリナが嘘泣きで

「だって、こんな街でリリスガールする子は、色々と不幸な事が重なって生きているんだよ。親はろくでなし、体を売って金を稼げ、家出してきた。逃げて来た。そんなかわいそうな女の子達に、最初の男は最高だったって思い出だけでも…あげたいだろう」

 

 ネオが

「う…うんむ、うん…」

 嘘泣きなのは分かっているが…はぁ…

「分かったよ」

と、ネオは懐から大金を取り出す。

 三人分、通常の三倍、三人の三倍、九倍の大金。

 それは今回の得た報酬の全部だ。

 それを…

「その子達にやってくれ」

 

 デリナが受け取り

「ありがとうな! 流石! 我らの英雄様だぜ!」

 

 こうして、初めてのリリスガールへなる三人の三者三種族の女の子達の初めてになった。

 

 初めてをしたネオは

「はぁ…良かったのかなぁ…」

と、小言を漏らすと、隣にいた獣人の女の子が起き上がり

「その…ありがとうございます。とても…良かったです」

と、ネオにもたれかかる。

 

 ネオはその背中を撫でて

「そうか、嫌な事にならなくてよかったよ」

 

 ネオは鍛え上げられた体をしている。

 だらしない脂肪と堕肉の塊ではない、戦士として最上級の鍛え上げられた体だ。

 

 他の女の子達も起き上がると、全員が頬を染めている。

 

 ネオが「イタくなかった?」と聞くと、三人がネオにキスをして、ハーフリングの女の子が

「大金を貰っています。だから…まだ…大丈夫です」

 

 ネオの下の如意棒を三人が丁寧に舌でなぞる。

 

 ネオは、思った。

 これ、帰るの…夕方になりそう。

 

 ネオは、再び水揚げした女の子達とハッスルした。

 最初の頃は、ぎこちなかった女の子達も要領を知ったのか…信じられない程に乱れてくれた。

 そして、気付けば…ネオのオスが爆発してしまい。

 オスの本能が止まるまで…。

 

 ネオのここに来てからの日々は、何時も通りだった。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 城塞都市ラドリアから遙か東、別の国との境の山脈。

 そこに膨大な稲妻が暴れる。

 その稲妻を生じさせているのは、時空間転移のゲートだ。

 空間が渦のように歪み、そこゲートから一隻の時空船が出てくる。

 その時空船は、ネオのいた時空から来た。

 時空船が着地して、時空ゲートが閉じると、時空船は着地して、下部が開く。

 そこから出てきたのは三名。

 全員が特別な装甲スーツを纏っている。

 それは、ネオがこの世界に来た時に来ていたそれと同じ意匠だ。

 

 並ぶ三人の内、右にいる一人が

「大気圧、汚染、放射線、その他、状態はクリア」

 

 中央にいる装甲スーツの頭部が外れて顔が現れる。

 その顔は

「ここが…アラタ少佐が追放された時空の惑星か…」

 トルーマン大佐だった。

 

 トルーマン大佐の両隣にいる装甲スーツの二人も頭部を外すと、セシリアとアグネスだ。

 

 時空船のオペレータールームにいるのはジャンヌで

「トルーマン大佐、セシリア、アグネス。聞いてください。最高議長のDI達が気付くのも一週間後、帰還の為に時空転移するエネルギーのチャージも一週間後です。その間にアラタ少佐を確保して…」

 

 トルーマン大佐が頷き

「分かっている。必ず我らの英雄を取り戻す」

 

 アグネスが装甲スーツを操作して

「今まで、アラタ少佐が調査しているルートから、その行動を予測するに…ここから百キロ程度の城塞都市ラドリアにいる可能性が高いです」

 

 トルーマン大佐が

「我らの技術施設であるエンテイスに向かうのは、非常に危険だ。アラタがエンテイスに行く前に確保が…」

 

 セシリアが意識を自分と融合しているネオデウスに向けると

「感じるネオデウス共振の距離は、城塞都市ラドリアではなく、この土地を治めるドラグ・アース帝国の首都に…」

 

 トルーマン大佐が選択を迫られる。

 トルーマン大佐は無能だ。だが、ネオデウスという強大な力を持っているので、その無能は隠れてしまう。

 無能ゆえに、無能は無駄な選択をしてしまう。

 トルーマン大佐達は、ネオがネオデウスの共振をコントロールできるのを知らない。

 本来なら、いる可能性が高い城塞都市ラドリアを経由して、帝都へ向かうのが調査の定石だが

 トルーマン大佐は無能だ。

「よし、反応がある首都へ向かうぞ!」

 

 無能は選択を間違える。

 

 トルーマン大佐達は、形状を戦闘機に変えて帝都へ向かった。

 

 そこで、とんでもない真実を目にする羽目になるとは…知らずに

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ネオは夕方に、獅子食亭に来てギルドも兼ねている獅子食亭の仕事依頼のチラシを見てテーブルにいた。

「ほう…鉱物を生成する植物か…」

 ネオのいた世界では、主に炭素生命体ばかりで、鉱物を生成する植物なんて存在しない。

 いるかもしれないが、それは主にカルシウムやナトリウム、鉄と…有機物にとって少量だけ必要なミネラル鉱物であって、ネオが見ている依頼書にある純粋に鉄の化合物を生成する植物は初めて見る。

「依頼の内容は…おお…帝都の北、少し北東にある高い山脈の中腹か…」

 依頼書の内容は、帝都の近くとは言え、二十キロ北東にある二千メートル級の山脈の頂上付近に生息する珍しい植物で、氷結モンスターが跋扈しているので、取りに行くには難しいという内容だ。

 この鉄の化合物を生成する植物、アイアンウッドから取れる鉄の実は、空気中の窒素を固着して肥料や、植物に必要な栄養素を生成する力がある。無論、この世界に満ちているマナも使って合成する。

 鉄の実を採取してアイアンウッドを栽培しようするも成功はしてない。

 鉄の実は、他にも処理によって別の窒素化合物を生成する能力を持ち、それによって火薬の原料や高効率の燃料を生成する。

 依頼書の金額も相当にお高い。

 高難度の依頼だ。

 高難度になる理由は、山脈に跋扈する強力なモンスター達が原因だ。

 氷結モンスターでも相当に強いモンスターが跋扈し、空から取りに行こうとしても自然発生する野生の凍結属性のドラゴンが空を支配している。

 報酬は、量によって決まるが、鉄の実が一個は、重さがだいたい十キロから十五キロで握れるサイズではあるも、重い。

 一個でも取れれば、金貨一万枚(一億円)

 獲得した個数によって報酬は倍増する。

 一攫千金を狙って挑む無謀者が後を耐えないが、それを使ってでも欲しい貴重アイテムだ。

 ネオは、鉄の実の依頼書を見ながら

「明日には、帝都に帰るから…帝都に帰ったら取ってこようかなぁ…」

と…帝都に帰る事を思いながら依頼書をキープしようとしたが。

 

 ネオのネオデウスに通じる通信システムが、ドラグ・アース帝国の皇帝ロンバルディアとの通信を開く。

「はい。どうかしましたか? 皇帝陛下」

 

 皇帝が難しい顔で

「ネオ、お前に頼みがある。実は…」

 

 ネオに頼まれた依頼とは、この城塞都市ラドリアから南にある海岸都市ミューヘンでの緊急依頼だ。

 ネオが

「巨大なクラーケンの討伐?」

 

 皇帝ロンバルディアが頷き

「そうだ。本来は、大魔道士戦士ディオ達が向かう筈が…帝都の北東にある山脈から大型の魔物達が襲来して、その防衛に手一杯なのだ」

 

 ネオが頷き

「分かりました。ですが…部隊の編成は、こちらで…」

 

 皇帝ロンバルディアが

「構わん。お前に任せる。全く、忙しい時には忙しい事が重なるものだ」

 

 ネオが

「クラーケンの情報に関しては…」

 

 皇帝ロンバルディアが

「目的の街に特使と住民の協力者達を手配している。そこから聞いてくれ」

 

 ネオが背筋を正して

「分かりました。やってみますので」

 

 皇帝ロンバルディアが頷き

「頼む」

と、通信を終えた。

 

 離れて見ていた獅子食亭のメイドであるケニーが

「大事な依頼ですね」

 

 ネオが

「ケニーちゃんは、知っているかい? 海岸都市ミューヘンで発生したクラーケンについて?」

 

 ケニーは遠くを見るように

「ルディリなら詳しいかも」

 

 ネオが頷き

「じゃあ、またルディリ達を連れていくのは決定だな」

と、ネオはルディリ達を探そうとしてテーブルを立った時に、入口からルディリ、ドリン、レリス、ムラマサの四人が来た。

 

 ネオがルディリ達に近づき

「協力を依頼したいんだが…」

 

 ルディリが

「ボク達もネオを探していたんだ。この依頼を一緒にやろうってね」

と、ネオに依頼書を見せた。

 それは、ネオがロンバルディア皇帝から依頼されたクラーケン退治の依頼書だ。

 

 ネオは微笑む

「根回しが上手いな…」

 本当に仕事を円滑にさせて貰える。

 こういう根回しの上手さが政治には必要なのだろう。

 まあ、ネオの生まれたシステムの世界では、そういう事はないというか…少ない。

 全ては、遙かに優れた人工知性体による統治は、完璧といえる程の対処をするが。

 人間味はない。

 それが良い悪いは別として、問題は早期に解決する。

 人の思いや感情は、後のメンタルクリニックという事にされて。

 そのぐらいの方が、宇宙まで広がった文明には必要なのだろう。

 

 そして、この世界は違う。

 未だに人が重要基点なのだ。

 

 ネオが

「ルディリ、クラーケンの情報を教えてくれ」

 

 ルディリが渋い顔で

「これがねぇ…厄介なクラーケンなんだよ。通称…メタン・クラーケンって呼ばれるモンスターなんだよ」

 

 ネオが訝しい顔して

「メタン? メタン・クラーケン…」

 

 ルディルが嫌そうな顔で

「海に生息する大型のイカのモンスターなんだけど、火を吐くんだよ」

 

「はぁぁぁぁぁ?」

と、ネオは驚きの声を放った。

 

 

  



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海鮮三食丼

トルーマン大佐達の動き
それを知らずネオ達は、何時ものように…


 

 ネオの前の名前であるアラタ少佐。

 宇宙文明で伝説のネオデウスと呼ばれる程になったアラタ少佐。

 その戦歴は、恐ろしい。

 何万隻と並ぶ宇宙戦艦の艦隊を単騎で撃沈させる。

 惑星一個の軍事施設を幾つも破壊する。

 もし、アラタ少佐がいなければ…宇宙戦争は数百年と続いたであろう。

 

 アラタ少佐以外のネオデウスの適合者、トルーマン大佐、ジャンヌ、セシリア、アグネスの四人がいたが…精々、多くの無人兵器達にエネルギーを無尽蔵に供給する動力源程度でしかない。

 無論、それも戦争においては重要ではあるが、勝利のファクターでもない。

 エネルギーが無尽蔵にあるからといって、勝てるわけでもない。

 兵器が無限にあったとしても勝てる事も無い。

 

 アラタ少佐…ネオデウス1982号305番に比べれば、遙かに戦闘力は低い。

 トルーマン大佐は、軍籍だが軍務に関して無能だった。

 女性のネオデウスの適合者であるジャンヌ、セシリア、アグネスは所属する銀河でも良家とされる権力者の繋がりがあり、戦争の前面に出る事はない。

 軍務で無能のトルーマン大佐だが、アイドル戦略は一級だった。

 セシリア、アグネス、ジャンヌの彼女達をアイドル戦略で活用して、部隊や所属する銀河の者達の心を掴んでいた。

 宣伝も一つの戦争の戦略。

 

 アイドル戦略で、戦争の優位性や必要性を宣伝しつつ、戦果は全てネオデウス1982号305番が稼いでいた。

 

 多くの者達は、ネオデウスの適合者五人によって戦争は勝利という形で終わったと思っているが、実質はネオデウス1982号305番の戦果によって終わった。

 

 負けた他銀河達は、ネオデウス1982号305番の追放を条件に永遠の終戦条約を結んだ。

 

 それから数年もしない内に…終戦条約が揺らぎ始めた。

 

 敗戦した他銀河達の活動が活発になってきた。

 経済、システム、人権、法律、エネルギーが他銀河と繋がった結果、自分達の銀河だけで全てを行う事が出来なくなってきた。

 勝利者の時代は、何時も短い。

 栄光など、その時の一瞬でしかないのに…

 トルーマン大佐達は、追放されたネオデウス1982号305番、アラタ少佐…ネオを取り戻す為に無断で、時空船を奪取して、ネオがいる異世界へ来た。

 ネオが…この世界で…それを知らずに…

 

 ◇◇◇◇◇

 

ネオは、ルディリ、ドリス、レリス、ムラマサの四人と共に海岸都市ミューヘンで発生するメタン・クラーケンの対処へ向かった。

 

 ネオは海岸都市ミューヘンの港から

「あれが…メタン・クラーケン」

と、遠方に見える全長三十メートルの胴体を持つクラーケンを見る。

 その巨大クラーケンの触手十本が見えて、その内の五本から炎がファイヤーしていた。

 

 ネオの右にいるルディリが

「メタン・クラーケン、その体内でメタンを生成するクラーケンで、十メートルを超える巨体になると火炎放射の如く触手から火を放つんだよね」

 

 ネオの左にいる特使の人が

「本来は、十メートルになる手前で住民の漁船に確保されて、燃料として売られるのですが。まれに、あのサイズまで巨大化する個体が数十年に一度、現れるのです」

 

 ルディリが

「十メートルを超える前は、体内で発生させたメタンを推進燃料にして海を泳いだり海面から出て短距離を飛ぶんだけど。十メートルを超える個体になると、触手から火を出す口を備えて、ああいう風に火炎放射の如く振り回すんだよね」

 

 ネオ、黙ってしまう。

 来る前にルディリから説明を聞いていたけど。

 実物を見て…本当にこの世界の生態系は…自分達の宇宙とは違ってバリエーションが無限すぎると思った。

 まあ、驚きはともかく…

「確か、話では…何時も大魔道士戦士ディオ様の部隊が」

 

 特使が頷き

「はい、あれを海上から弾く魔法で海から浮上させて、海の上に出した後、急所である眉間に強大な魔力攻撃を打ちぶち込んで活き締めしていました」

 

 ネオは昔にあった動画の知識を思い出す。

 地球時代に確か、日本という国でイカという生物の急所が眉間との間にあって、活き締めとして即死させて鮮度を保つという方法があった。

 この世界のイカも似たような急所を持っているが…しかし、あれだけ…三十メートルのバケモノでしかも火を噴いているなんて…締める急所に届くには、相当な力が必要なのは明白だ。

「んん…さて、どうしたモノか…」

と、考えていると

「あれが使えるんじゃねぇ?」

と閃いた。

 

 ルディリが

「何かネオの持っている装備で使えるモノがあるの?」

 

 ネオが渋い顔で

「装備ではないが、人口海上都市エンテイスに、とある宇宙戦艦があるんだよ。それなら行けるかも…」

 

 そこへ、ドリス、レリス、ムラマサも来て、ドリスが

「ネオ、何か妙案は浮かんだか?」

 

 ネオが

「ああ…」

と、ネオは皆に案を話す。

 

 ドリスとレリスにムラマサが挙手して、レリスが

「じゃあ、私達は囮役をしますので、ネオのエアボードを貸してください」

 

 ルディリが

「ぼくは、街の人達と一緒に、メタン・クラーケンを海上に上げる魔法の罠を構築するから」

 

 ネオが

「じゃあ、オレは突貫電撃宇宙戦艦で、メタン・クラーケンの急所を狙うから」

 

 こうして、作戦が開始された。

 ネオの装備である空を浮かぶエアボードという飛行ボードにレリス、ムラマサ、ドリンの三人が乗って、メタン・クラーケンの囮になる。

「こっちだぞ!」

と、ドリンが叫び、三人が乗った三つのエアボードをメタン・クラーケンが追ってくる。

 

 メタン・クラーケンが追跡する場所、海岸の街では、ルディリと多くの街にいる魔法使い達が、特定の場所で罠の魔法を発動する。

 

 ドリン、レリス、ムラマサの三人が囮役になって、見事にメタン・クラーケンは罠の魔法に掛かって、海上を滑るように浮かび。

 海上から浮かび上がって滑るメタン・クラーケンは、潜れなくなった事に焦って炎をばら撒くが、その上空から一隻の宇宙戦艦が来る。

 細長い剣のような先を持ち、後部はカタツムリのように丸くなっている独特の宇宙戦艦。

 それをネオが操縦していて、暴れるメタン・クラーケンの額に狙いを定めて

「突貫!」

と、メタン・クラーケンへ突進する。

 戦艦の切っ先がメタン・クラーケンの急所である眉間に刺さるの、三十メートルの巨大だ。眉間の厚さと頑丈さは折り紙付きで、神経が集まっている場所には到達しない。

 だが、問題ない。

 ネオが乗っている突貫電撃戦艦は、高電圧の電流波を発生させて、宇宙戦艦の電子システムを破壊して動けなくする捕縛専用宇宙戦艦だ。

 突貫した眉間へ、超高電圧の電流波がメタン・クラーケンへ流し込まれる。

 メタン・クラーケンは全身を引き延ばして、超高電圧の電流波によって、神経が集中している場所を焼き破壊されて、即死、活き締めされた。

 

 作戦は成功。

 

 メタン・クラーケンはそのまま海岸都市ミューヘンへ回収されて、速やかにバラバラに解体されて燃料になってしまった。

 

 巨大な三十メートルの胴体を綺麗にさばく様にネオ達は、凄いなぁ…と感心しつつ、特使の人が報酬をくれた。

 

 凄い額を貰えた。

 家が五軒も立てられる額だ。

 これだけの額をネオ達が貰っても、燃料となるメタン・クラーケンの資源の価値から比べれば微々たるモノらしい。

 生きた石油の塊が取れたと思えば…安いのかもしれない。

 200トンもの使い勝手が良い資源が取れたのだから。

 メタン・クラーケンは、色んなモノに加工されるらしい。

 燃える燃料としてもそうだが、無酸素による加熱によって様々に成分は分離、服にも薬にも様々な薬品の触媒にも、更にメタン・クラーケンにだけしか取れない成分もある。

 巨大生物の亡骸は余す事なく再利用されるのだ。

 

 そんな、この異世界のバリエーションの面白さを知りつつ、ネオ達は海岸都市ミューヘンの海鮮を楽しむ。

 

 そして、ネオは初めての経験をする。

「ええ…」

 海岸都市ミューヘンは様々な海鮮が豊富で、初めてイカの踊り食いを体験する。

 目の前で、生きたままさばかれるイカ。

 ネオ達の世界では、残虐すぎる行為だとして、誹謗中傷が飛んできそうだが。

 この世界では、それが食前の楽しみとして通っている。

 手早くイカが生きたままさばかれる様に、ネオは唖然としつつ、目の前にイカの半分にされた胴体が乗った丼が来た。

 イカの踊り丼

 イカの半分にされた目の付いた胴体を上に、下にはイカの胴体をイカ刺しにして、イクラが載っている。

 隣にいるルディリ達が平然と醤油という調味料をイカの胴体にかけると、イカが踊るように触手を動かす。

 

 ルディリが

「美味そう」

 

 レリスが

「良いですね。新鮮で」

 

 ドリンが

「来たら食べたくなるんだよね」

 

 ムラマサが

「やはり、イカはその場でさばいたモノが一番だ」

 

 ネオは四人反応に唖然とする。

 ネオの世界では、全ての食料が工場で生産されるバイオ細胞の塊だ。

 無論、肉風や野菜風に加工されるので、似たような感じだが…根本的に生きているそれを…楽しむ文化は古い時代の事になっている。

 でも、この世界では、当然の如く。

 それが文化として根付いている。

 

 ネオは困惑と驚きと共に、四人が食べているのを見つめる。

 四人は最初に触手がある胴体から食べて、

「美味い」

「新鮮」

「触手の吸盤が吸い付いて最高だ」

「イカの脳みそが美味い」

 

 ネオも同じように胴体から食べる。無論、醤油を掛けて動く触手を見た後に、口にして

「ああ…確かに美味しい」

 

 ルディリが

「でしょう! やっぱりミューヘンに来たら、海鮮を楽しまないと」

 

「うん、そうだね」

と、ネオはショッキングと美味しさの両方を味わっていた。

 

 その後、四人は海岸都市ミューヘンにある新鮮な海鮮の踊り食いの場所を巡る。

 伊勢エビの残酷焼き。魚の生きたままの活け作り。生きたまま醤油漬けにされたイカ。

 生きたままのタコのさばき料理、ウナギの生きたままのさばかれて焼かれる様。

 

 因みに、生だけど、一度、捕獲された獲物達は、特別な殺菌消毒用に作られた魔法海水に一日から二日ほど放置されて、体内の排泄物を排出や、寄生虫、菌やウィルスを殺菌消毒される。

 そして、ここの店の全てには、その殺菌消毒する魔法海水の生け簀が当然のようにある。

 衛生管理は万全だ。

 

 ネオにとって、この海岸都市ミューヘンは、ショッキングと美味しさの両方を味わえる場所であった。

 

 残酷すぎて美味しすぎる体験をネオは体感した。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 トルーマン大佐達は、全身をステルスにする装甲スーツに身を包んで帝都の屋根を飛び回って夕暮れの光に照らされる皇帝城へ向かっていた。

 トルーマン大佐達のネオデウスと共振するネオデウスの反応が皇帝城にある。

 

 広い帝都の屋根を飛び回って進み、皇帝城へ侵入。

 上部の通路や壁を経由して、皇帝城の奥深くにある居住区へ来ると…

「な…」

 トルーマン大佐は驚きの声を漏らす。

 

 一つの町のような皇帝城の居住区の最奥、皇帝ロンバルディアの一族が暮らす区画で、ネオの奥方である五人が楽しく談笑しつつ、奥方達…竜族のティアマ、レティマ、アマティアに鬼神族のバサラに旧神ルドランの血族オーガのドルガ

 その五人が談笑するテーブルの前の庭園で子供達が遊んでいる。

 ドルガとバサラの子は、まだ小さいので二人は抱えているが、竜族から生まれた子はしっかりと歩いている。

 

 トルーマン大佐は、ネオデウスの反応が五人の幼子達から感じられるので、困惑する。

 念の為、ジャンヌが極小のナノマシン昆虫装置を飛ばして、子供達の表面にある人体の皮脂を採取してDNAをチェックして、更に信じられないという顔になり

「そんな、全員が…アラタ少佐の子供で…ネオデウスを遺伝している」

 

 トルーマン大佐は予想外の展開に困惑する。

 アラタ少佐は、堅物であり堅実で、知性が高い。

 宇宙戦争を終わらせたレジェンドと言われる程の人格者だ。

 それが、多くの伴侶を得て子供を残しているなど…旧世界の愚かな支配者と同じ悪行を犯した。

 トルーマン大佐は、信じられなくて無能を発揮する。

「これは、きっと…何かの理由があるはずだ。アラタ少佐に限ってこんな間違いを起こす事は絶対にない」

 

「そうですよね」とジャンヌ

 

「アラタ少佐に限ってそんな事はないですよね」とアグネス

 

「彼は高潔な方だ。きっと理由が」とセシリア

 

 四人が困惑していると、奥方達のテーブルにある通信の魔導結晶からネオの通信映像が出て

「やあ、みんな」

と、楽しそうなネオの姿が出る。

 

 奥方達は明るくなる。

 

 ネオとの会話を楽しむ奥方達。

「聞いたわよ。メタン・クラーケンを討伐したんでしょう」

 

「ルディリ達が手伝ってくれてね」

 

「それでも凄いわよ。普通なら部隊を派遣しないといけないのに…」

 

「対応できる装備があったからね」

 

「また、その話を聞かせてよ」

 

「一週間後くらいかなぁ…そっちに帰るよ」

 

「大丈夫なの? ミューヘンにいるんでしょう?」

 

「問題ないよ。途中で鉄の実を取って、帝都へ帰るから」

 

「ええ…鉄の実を…まあ、いいけど。鉄の実を取るなら三つほど、オミアゲにしてね」

 

「おう、任せろ」

 

「じゃあ、来週ね」

 

「ああ…来週にね」

と、ネオとの会話を終えた奥方達。

 

 トルーマン大佐達は、ネオがミューヘンという街にいる情報を得る。

 帝都からミューヘンには、戻る感じになるが…問題ない。高速飛行モードでなら一時間程度で…

 トルーマン大佐達は皇帝城から離れてミューヘンへ向かった。

 時刻は夕暮れを越えて夜だった。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ネオは、ルディリとドリス、レリスの三人と一緒に夜のリリスガール街へ遊びに行く。

 色とりどりのネオンの光が煌めく海岸都市ミューヘンのリリスガール街

 そこには、海とか、人魚とか、浜辺とか、海の文字が入ったリリスガールのお店がたくさんある。

 

 主に海系の女の達がたくさんいるリリスガール街。

 

 ネオ達は、海鮮三食丼というリリスガールのお店の前に来た。

 ネオは苦笑いだ。

 海鮮三食丼って…ここ、女の子とセクロスする事を食べるとして…。

 この世界の下品は、天元突破だなぁ…。

 ここまで突き抜けていると、笑うしかない。

 

 お店に入ると、そこは…色んな海系の女、ダゴン族、人魚族、魚人族、色んなタイプの女の子をチョイスできるお店なのだ。

 

 ルディリは、何時も通りたこ足のダゴン族の女の子を、ドリンは人魚の女の子を、レリスは珍しいエイのヒレを持つ魚人の女の子を、ネオは…どれにしようか…迷っている。

 

 チョイスできる本が薄いなら簡単だが、分厚い。

 数十人くらいもある。

 このお店は、相当にリリスガール街でも大きいのか、抱えているリリスガールの人数も半端ない。

 ネオが迷っている間に、次々とお客が来て、お気に入りのリリスガールの部屋へ向かう。

 

 ネオはチョイスできる本を閉じて

「今日は、良いかなぁ…色々と驚いたし…」

 やめて外に出ようとしたが、その背中をちょんちょんとダゴン族の女の子がつつき

「ねぇ…お兄さんって、今日、メタン・クラーケンを退治した人達でしょう」

 

 ネオは振り向く

「う、うむ。そうだが…」

 

 ダゴン族のかわいい女の子が微笑み

「メタン・クラーケンで困っていた人達がいてね。それを助けてくれたお礼に本当は、常連さんしか出来ないけど、裏オプって隠れたサービスがあるんだよね」

 

 ネオは天井を見つめて

 ああ…このパターンか…

 

 ダゴン族の女の子が

「料金は一番上の三倍増しだけど…どう?」

 

 ネオは素直に、店で最高料金三倍増しの24000Gを渡して

「頼むよ」

 

 ダゴン族の女の子が笑顔で

「ありがとうね!」

と、ネオを引っ張って行った。

 

 ネオが案内された部屋、そこは…丼型の大きなベッドがあった。しかも枕は上蓋型だ。

 いわゆる、この丼に模したベッドでリリスガールを食べる。セクロスするという、最高に下品で、スケベすぎる意味合いに、色んな不謹慎を突き抜けて笑えてしまう。

 

 ネオが周囲を見て

「あの…体を洗うには…」

 連れてきたダゴン族の女の子がネオの服を脱がしながら

「大丈夫よ。あのベッドがお風呂兼ベッドでもあるのよ」

 

「えええええ!」とネオは驚く。

 

 丼ベッドが丼の形のまま変形する。お風呂になって白乳色のお湯が入り満たされると、二人目の綺麗なイルカ系のリリスガールが入ってきて、そのお風呂に入り

「はい、どうぞ…」

と、手を伸ばす。

 

 そして、三人目に足がある魚人系の綺麗な女の子も来て、イルカ系のリリスガールと一緒に入って

「さあ、一緒に入りましょう」

 

 ネオが困惑している間に、気付いたら裸になっていた。

 

 ダゴン族の女の子がネオの手を取って

「さあ、一緒に…」

 

 ネオは、三人の海系のリリスガール達に挟まれ洗われて、綺麗にして貰う最中に下半身のご子息が立派になった。

 

 ネオ達の入っていた美肌に効きそうな白い湯船は抜かれて、今度は体が浮かび上がるスライムのような液体が入ってきた。

 

 ネオが驚いて困惑していると、イルカ系のリリスガールが

「このゼリー液は、水中属性の女の子なら水となって、そうでないお客さんのような人にはベッドと共に余分な水分を吸収してくれるタオルベッドになるのよ」

 

 ネオが更に驚く。

 そんなハイテク技術をこの世界は、エッチをするお店に投入している事実に、ただ…驚くしかない。

 海鮮三食丼のリリスガール店、恐るべし。

 

 超ハイテクウォーターベッドで、まずは元気になったネオのご子息を丁寧にしゃぶってくれるリリスガール達。

 最初のフィニッシュが発射されるが、その汚れも超ハイテクウォーターベッドが吸収して掃除する。

 それでも元気なネオのご子息。

 

 魚人系のリリスガールが何かを口にして、ネオの口に深いキスをしながら舌で転がして、ネオの口に入った飴が溶けて体に染み渡る。

「お客さんの体調維持と、元気になって貰う精力的なヤツよ。大丈夫、安全性はバッチリだから」

 

 ネオの頭が熱くなる。もう、理性やら知性やらが吹き飛んでしまいそうになる。

 

 そんなネオの口を深いキスで包むダゴン族のリリスガール、イルカ系のリリスガールと魚人系のリリスガールは、ネオの元気なご子息を舐めて刺激する。

 

 ネオは、理性が消えて行く。

 そして、乱れた。

 

 まずは、ダゴン族のリリスガールに飛びく。

 もう、理性が消えてやるだけのサルになったネオに、三食丼のリリスガール達はセクロスで食べられるのであった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 トルーマン大佐達は、ミューヘンに到着。

 直ぐにネオデウスの共振を探すと、あの煌びやかなリリスガール街に反応を察知して、直ぐに向かう。

 建物の屋上から屋上へ飛び移り、ネオがいるであろう建物へ侵入、ステルスで完全に姿を隠して、ネオがいる部屋の通気ダクトから、ネオの…あの姿を見た。

 

「ああああ…」

と、女性陣は涙してしまった。

 

 そこには、色っぽい声を放っているリリスガール達に飛びつき、腰振りしている。最低最悪なネオの姿があった。

 

 トルーマン大佐は、それを見て信じられないショックを受ける。

「そんな…我らのレジェンドが…」

 

 だらしない顔で、よだれを垂らして、発情した雄犬のように三人のリリスガールの雌しべに雄しべを挿入して気持ちようさそうにするネオがいる。

 

「う…う…」

と、セシリア、アグネス、ジャンヌは号泣する程に悲しかった。

 

 かつて、聡明で鋭く、厳しく軍人中の軍人とまで言われた誉れ高きネオが、アラタ少佐が、奥さんがたくさんいて、子供もいるのに、他の女達にオスの欲求を爆発させて楽しんでいる姿は、もう…最低で最悪で下劣で、全てに置いて尊厳が喪失している。

 

 トルーマン大佐が

「こんな世界に、我らのレジェンドを置いてはいけない…」

 

 ネオのオスとしての最悪な姿にショックを受けて、トルーマン大佐達は退散した。

 

 そんな事を知らずに、ネオは全力で裏オプを楽しんだ結果。

 腰が立たなくなって、朝帰りではなく、昼に帰る事となった。

 

 



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圧倒

ネオが向かう次の依頼、鉄の実を回収
だが、そこに…


 

 ネオは、海岸都市ミューヘンでの依頼を熟して、帝都へ向かう途中、鉄の実を取る為に、鉄の実があるとされるアイアンウッドが生息する山脈へ向かう。

 ネオの同伴者として、ルディリが付いてくる事になり、ドリン、レリス、ムラマサの三人は、ミューヘンで分かれた。

 五人は、海岸都市ミューヘンでの美味を…夜の美味も堪能して満足な気持ちで歩みが軽かった。

 

 ネオが

「じゃあ、行くか…」

と、ルディリを見て

 

 ルディリが頷き

「行こう!」

 

 ネオはルディリを連れて、アイアンウッドがある山脈へ行く。

 その後ろをステルスで隠すトルーマン大佐達が続く。

 

 アイアンウッドがある山脈麓までは半日で到着、明日、山脈を登る為に準備を整える。

 アイアンウッドがある山脈麓は、珍しい凍結系の魔法資源が採取できるらしく、ここから取れた魔導鉱石が、冷蔵庫やら、冷凍庫やら、色んな食品保管庫の材料となる。

 

 山脈麓は、賑わっているが…山脈は…簡素だ。

 

 ネオとルディリは、一応…山脈頂上まで続くとされるルートの地図を手に入れた。

 だが、入山する人は少ない。

 あくまでルートは、休めるであろう場所の位置表示だけで、ルートはホボ…無いに等しい。

 なぜなら…。

 

 ネオは、麓の街から山脈の方を見ると、山脈周辺の空には、山脈の空を滑空する凍結系のドラゴン達が飛んでいる。

 

 さらに、山脈の森からは、大型のモンスターが姿を現す。

 

 この山脈は、多くの凍結系モンスター達が生息する一体で、それを回避か倒して進むしかない。

 その奥地にある山頂に生息するアイアンウッドに鉄の実がある。

 これが高難度の依頼とされる由縁だ。

 

 ネオにルディリオが

「どうして進む?」

 

 ネオが

「モンスターを避けながら進もう。出会うのをイチイチ戦うと倍の日数がかかるから」

 

 ルディリも頷き

「賛成、ボクもその方がいいと思う」

 

 ネオやルディリは戦闘を避けつつ頂上を目指す事にした。

 

 翌日、出発するネオとルディリ。

 ネオは、探査波を放ちながら進む。

 大型のモンスターと遭遇しそうになると回避か、隠れる場所に潜んで大型のモンスターをやり過ごす。

 

 上空にいる凍結系ドラゴンは、地上に…森の中にいる間は襲ってこない。

 森が隠れ蓑になってネオとルディリを隠すが、岩肌になったら姿が見える。

 そこをどう進むか?

 ネオとルディリは考えると、ヒントが通りかかった。

 ネオ達より小さな動物の背中が岩肌と同じ色だ。

 その小さな動物は、岩肌の斜面を登っても襲われない。

 擬態だ。

 凍結系ドラゴンも獲物は選ぶ。

 自分達の腹が満たされて、尚且つ丁度良い大きさの獲物。

 そうなると岩肌の斜面に現れる獲物より、森にいる大きな獲物を狙った方がいい。

 故に、岩肌に擬態した小さな獲物には興味も示さない。

 

 ネオとルディリは、自分達の上が岩肌に見える偽装の魔法と装備を使って岩肌を昇り始める。

 ネオは、自分達の上を岩肌の偽装して登っていると、空を飛んでいる凍結系ドラゴン達に共通する特徴があるのに気付く。

 背中に伸びる翼手の翼だが、それに釣られるような体勢で凍結系ドラゴン達が飛んでいる。

「なんだ? 妙だな…」

と、ネオは小型のドローンを飛ばして飛んでいる凍結系ドラゴンの観測をすると、面白い事が分かった。

「へぇ…この原理で飛んでいるのか…」

 

 ルディリが

「何か分かったの?」

 

 ネオが観測される結果を見ながら

「空を飛んでいるドラゴン達は、空気抵抗を使って飛んでいるんじゃあなくて、マナを使って飛んでいるだよ」

 

 ルディリが首を傾げて

「マナを使って? どういう事?」

 

 ネオが

「簡単に説明すると、ドラゴン、竜系統の存在は空気中にあるマナを吸収する力を持っている。凍結系ドラゴンは、翼の上部と下部で、マナを吸収する力を変えている。上部はマナを強力に吸って、下部はそんなに吸っていない」

 

 ルディリがハッとして

「そうか、マナの密度の急減少を利用して飛んでいるのか! まるで魔法で空を飛ぶのと同じように!」

 

 ネオが頷き

「そうだ。マナが減少するとそこを見たそうとマナが流れ込む。そういう性質をマナは持っている。翼で区切られた上と下の密度の違いがあると、濃いマナが薄いマナへ流れ込むが、それを翼で遮っているから翼がそれを受けて浮き上がる」

 

 ルディリが驚き

「そんな原理で…」

 

 ネオが

「この世界は、不思議な事が多いものだ」

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ネオとルディリは、山頂に来る。

 そこには白い結晶の葉を広げるアイアンウッドが群生していた。

 ネオはアイアンウッドに触れて

「これ、鉱物で構築された植物か…」

 

 ルディリが結晶の葉が覆い茂る部分を指さして

「あそこに、鉄の実があるよ」

 そこには、数個の鉄の実がある。

 数と十個ほど、ぶら下がっている。

 

 ネオは他のアイアンウッドを見回すと、他にも鉄の実がぶら下がっているが、欲しい分は十個程度でいい。

 一個、十キロ近いから十個で百キロ

「これは…反重力カーゴで運ぶしかないな」

と、十個の鉄の実を採取して、反重力で浮かぶソリ、反重力カーゴへ乗せていると、ネオの背後からトルーマン大佐達がステルスを解除して姿を見せる。

 

 ルディリは直ぐに分かった。

「ネオ…あの人達って…」

 

 ネオが項垂れ気味に

「誰か多くが姿を隠して追跡しているのは分かっていたが…」

 

 トルーマン大佐が

「久しいな、アラタ少佐」

 

 ネオはトルーマン大佐達へ振り向く。

 トルーマン大佐、ジャンヌ、アグネス、セシリア

 同じネオデウスの適合者の四人を見て、ネオは微妙な顔をする。

 まさか、ここでも会う事になろう…とは。

 一生、会う事は無いだろう…と思っていたのに。

 

 ネオが

「どのようなご用件で?」

 

 トルーマン大佐が

「アラタ少佐、帰ろう。ここは君がいるべき場所じゃあない。こんな下劣で野蛮で品性もなく低劣な世界。君には…相応しくない」

 

 ジャンヌが

「アナタの帰る場所は、我々、天の川銀河連盟よ」

 

 アグネスが

「ええ…そうですよ。アラタ少佐。アナタは本来は、こんな野蛮な世界で生きるべき存在ではないわ」

 

 セシリアが

「アナタを追放した人工知性DI達は間違っていた。だから、帰りましょう」

 

 それを聞いてルディリはムッと怒りを感じるが、ネオを見る。

 

 ネオは静かに目を閉じる。

 そこに浮かんだのは、帰るべき場所、帝都にいる妻達と子供、城塞都市ラドリアの街、そして、そこで出会った人達の顔。

 もう、ネオには天の川銀河連盟が帰るべき場所ではない。

 通り過ぎた何処かでしかない。

「私が帰るべき場所は、そこではありません。この世界の…みんなの元です。どうぞ、お帰りください」

 

 それを聞いて、トルーマン大佐達はショックを受けるが、トルーマン大佐が

「どうやら、汚染されてしまったようだな。これは…救出が必要だ」

と、両手を構えて戦闘態勢へ

 

 ジャンヌも戦闘態勢へ構えて

「アラタ少佐、アナタは…この世界の邪悪に汚染された。救護が必要ね」

 

 アグネスとセシリアも構えて四人は左右に割れる。

 

 ルディリにネオが

「ルディリ、離れてくれ」

 

「あいよ!」とルディリは、ネオから離れる。

 

 トルーマン大佐が

「君を救うために荒療治になるが、許してくれ」

と、告げた瞬間に消えた。

 音速を超えてネオに迫る。

 

 ネオは右手を空、左手を地に天地の構えをして受ける。

 

 トルーマン大佐の音速の手刀がネオに迫る。

 無数の手に見えるトルーマン大佐の手刀をネオは両手を回転させる動きで弾く。

 

 それにジャンヌとセシリアが続く。

 二人も音速を超えてネオに迫る。

 

 ネオは後ろに倒れ込み、両手を地に着けて両足を回転させてカポエラの動きをして、トルーマン大佐とジャンヌにセシリアを弾き飛ばした。

 

 ネオが繰り出した技、それは鬼神族の妻バサラから得たモノだ。

 

 トルーマン大佐とセシリア、ジャンヌが驚愕する合間にアグネスが突きを持って突貫する。

 超音速の突き、それにネオはカウンターを決める。

 ネオの両手がうねりアグネスの突きを絡めるように動くカウンター

 この技は、竜族の妻達、ティアマ、レティマ、アマティアから得たモノだ。

 

 トルーマン大佐達は、ネオが今まで見せた事もない動きに翻弄される。

 だが、ここで止まる訳には行かない。

 

 トルーマン大佐達は再びネオへ

 

 先行するトルーマン大佐へ、ネオが突貫してトルーマン大佐を倒すと、トルーマン大佐を棍棒のように振り回してアグネス、ジャンヌ、セシリアを弾き飛ばす。

 オーガ族、ドルガの技だ。

 

 吹き飛んだ彼女達三人へ、トルーマン大佐を投げるネオ。

 

 トルーマン大佐を受け止める彼女達。

 

 トルーマン大佐は、困惑する。

 ネオが1982号305番が強いからといって、自分達四人がかりなら対処できるはずなのに…それが、全く歯が立たない。

 

 堕落した…とトルーマン大佐達は思い込んでいたが違った。

 ここでもネオは、1982号305番は強くなっていた。

 

 ネオが構えて

「もう、帰ってください。実力は明白でしょう」

 

 トルーマン大佐達は諦めない。

「私が先行する」

と、トルーマン大佐を前に、セシリア、ジャンヌ、アグネスの三人が続く総合アタックで来た。

 

 トルーマン大佐の無限のような手刀がネオに放たれるが、ネオはそれを弾く。

 その間にセシリア、ジャンヌが左右を固めてネオへ攻撃の手刀を、同時にアグネスが上から攻撃をする。

 全方向からの攻撃だが、ネオは舞踏の動きをする。踊るように四人同時の超音速を回避した後、流れる踊りのように手刀や蹴りを四人に放って、それを受けたトルーマン大佐達は吹き飛び地面に転がる。

 

「う、うが…」

 トルーマン大佐は時間が必要なダメージを受けた。

 他の三人も同じく動けない。

 

 ネオが襟を正して

「数時間もすれば、アナタ方なら回復するでしょう。では、お別れです。永遠にさようなら。後は、お迎えに…」

と、ネオはルディリと共に帰還へ向かった。

 

 トルーマン大佐は悔しくて涙しながら、去って行くネオの背中を見つめて、ネオの姿が消えた瞬間、周囲からステルスを解除した無人兵器達が出現する。

 恐竜型の無人兵器達、それは自分達の時空の兵器達だ。

 

 無人兵器達の一つが立体映像を投影する。

 それは人工知性体DIであり、最高議会長DIのネシェルだった。

「もう…十分かね?」

 

 動けないトルーマン大佐が

「キサマ等…最初から我々の行動を…」

 

 立体映像のネシェルが

「ああ…静観させて貰ったよ」

 

 トルーマン大佐が

「今や、他の銀河との交わした条約も…破られようとしている。アラタ少佐を帰還させなければ、我々は…」

 

 DIネシェルが溜息を漏らして

「相変わらず、地球時代の古代な考えだ。何も…条約も破られていないし、何の不利益も起こっていない。現実を見たまえ、そんな事を言っているのは無責任な連中と、権力が欲しい、権力の獣達だけだぞ」

 

 トルーマン大佐が

「我々が望む、男女平等が…」

 

 DIネシェルが

「今も男女平等は成されている。お前達、ナチュラル派が望む、男女の結びつきが必須の男女平等なぞ、化石の代物、失敗の再生産を繰り返す車輪の再発明だ」

 

 多くの無人兵器達達がトルーマン大佐達を回収する。

 山頂に、数隻の時空戦艦が出現し、無人兵器達はトルーマン大佐達を時空戦艦に乗せて回収する。

 

 トルーマン大佐が回収されながら

「アラターーーー オレ達がやっていた事は、間違いじゃあなかったよな」

と、遠くにいるアラタ少佐、ネオへ叫ぶ。

 

 ネオが呆れた顔で振り向き

「間違っていましたよ。本当に無能な人だ。無能ほど、自分の間違いを認められない」

と、告げて視線を外した。

 

 雄叫びのような声が響いて、トルーマン大佐は時空戦艦へ消えた。

 

 トルーマン大佐達の無能で愚かな企みは終わった。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ネオは、帝都に買って来て、皇帝城にいる家族達と過ごす。

 子供達が寝静まった夜中、ネオは五人の妻達を前に

「なぁ…オレ、ここにずっといようか?」

と、ティアマ、レティマ、アルティマ、バサラ、ドルガの五人は瞬きする。

 

 ティアマが

「どうして?」

 

 ネオは

「オレは…やっぱり家族のそばにいた」

 

 五人の妻達は視線を合わせて、微笑み。

 

 レティマが

「ねぇ…アナタ…アナタを必要としている人達は多いの」

 

 バサラが

「そうだぜ、旦那様。みんな、アンタがいないと出来ない事があるんだ」

 

 ドルガが

「アタシ達の事を大事に思ってくれるのは、すごく嬉しい。アタシ達が一番だって思ってくれるのも…でも」

 

 アルティマが

「突然、アナタが姿を消したら悲しむ人達が多いでしょう」

 

 ネオが色々と思い返す。

 この世界で出会った多くの人達の顔がよぎる。

「そうだな。ごめんな、こんな事を突然に…」

 

 ネオにティアマがキスをして

「私達もアナタが大切だけど、アナタを必要としている人も、アナタが大切だって憶えて置いて」

 

 ネオが頷くと、お互いに裸であるネオ、ティアマ、レティマ、アルティマ、バサラ、ドルガは、言葉では交わせないお互いの体を結びつける蜜月の愛の合体を全員で交わした。

 

 ネオの帰る場所は、ここにあるのだ。

 

 

   



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