宇宙戦艦ヤマト2199 孤独な戦争 (とも2199)
しおりを挟む

孤独な戦争1 新造戦艦アンドロメダ

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「孤独な戦争」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」の続編になります。


 ある晴れた日――。

 

 南部重工業の艦船ドックでは、その日、新造戦艦のお披露目が行われていた。

 

「お集まりの皆さん。地球連邦の頼もしい新戦力の完成を、心から祝福したいと思います」

 地球連邦政府大統領が、挨拶すると、集まった人々から大きな拍手が起きた。

 艦船ドックの艦の足元には、地球連邦政府や、軍の高官、そしてマスコミが大勢集まり、その姿を目撃していた。

 

 アンドロメダの名が付けられたその船は、一年以上の時間をかけて建造された。その名が、これまでの艦船と異なり、日本海軍の伝統的なものでは無いのには、理由があった。遠い宇宙の彼方まで旅することが可能な船として、伝統的な名よりも、新時代の幕開けに相応しい名前がよいとして考案されたものである。

 ヤマトが建造された時には、後から波動エンジンが取り付けられたが、今回、最初から波動エンジンを搭載して建造された人類史上、初の艦船である。アンドロメダは、地球のこれからを担う、特別な艦だったのだ。

 アンドロメダと並行で建造された派生型戦艦が二隻あるが、こちらには後付けで波動エンジンが取り付けられた。開発中は、単に主力戦艦というコードネームで呼ばれていたこれらの艦は、ナガト級として一番艦にナガト、二番艦にムツの伝統的な名が与えられた。

 その他にも、アンドロメダのドックが空き次第、土方司令が要望した空母型艦船の建造が本格化する予定である。こちらは、シナノ級空母一番艦シナノとして建造される予定である。主力戦艦と同様に、アンドロメダ級をベースに設計され、艦体上部の兵装や艦橋構造物を全て廃し、飛行甲板と新たな艦橋を設ける。更に、ガミラス戦闘空母を参考にし、飛行甲板に砲台を出すことが可能な仕組みになる予定だ。艦載機格納区画を設ける為、当然波動砲も装備しない。

 南部重工業では、これらの艦船以外にも、新型の駆逐艦や、主力戦艦の増産中であった。

 

 そこに集まっていたのは、藤堂長官や芹沢らはもちろん、ガミラス駐在大使として、ランハルト・デスラーの姿もあった。

「我が国の技術供与のお陰で、ようやくお披露目できたんだな。おめでとうと言わせて貰おう」

 ランハルトが隣にいる芹沢に言った。

「言い方が気になるが、一応、礼を言っておこう。皆、波動コアの製造方法の技術供与には感謝している。そっちはどうなんだね?」

 芹沢は、波動砲搭載艦をガミラスが開発しているのかを気にしていた。

「差し詰め、数が多い方が有利とでも考えているのか?」

 ランハルトは、冷たい表情で、横目で芹沢を見ていた。

「気にするのは当然のことだ。波動砲搭載艦をそちらが量産して戦力バランスが崩れれば、我々の同盟にひびが入る可能性だってある」

 ランハルトは、不快な表情で、芹沢を睨み付けた。

「軍の責任者のあなたが、そこまで言っていいのか?」

 藤堂長官が口を挟んできた。

「芹沢くん。気持ちはわかるが、政治家の領分だ。やめておきたまえ」

 芹沢は、二人を前にして、少々出過ぎた真似をしたと考えた。

「……失礼しました。忘れて下さい」

 ランハルトは、目を伏せてうっすらと笑っていた。

「いいだろう。あなたに教えても。我がガミラスのバレル大統領は、まだ開発の指示を出していない」

 芹沢も藤堂長官も、その発言には驚きを隠せなかった。

「大統領は、そんなものは必要ない、とのお考えだ。あの大彗星の一件があった後なのに、とタラン国防相は反対しているがね」

「ならば、何のために同盟を?」

「簡単なことだ。地球と本当に友好関係を築きたいからさ。そういう人だ、というのは、あなたはガミラスで確認したと思うが?」

 芹沢は、呆気に取られていた。

「そ、それが事実だとすれば、大変なことだ」

 ランハルトは目線を、アンドロメダの方に向けた。

「そうだな。むしろ、戦力バランスを積極的に崩そうとしているのは、あんたがたの国家の方だ」

「わ、我が国は、貴国との戦争で、まともな戦力が残っていないのは、知っているだろう? それに、この銀河系には、強大な二大星間国家の存在もあり、我々は、戦力を増強するのが急務だ。これは、それらの国家からの侵略を受けないようにするために必要な開発だ」

 ランハルトは、アンドロメダの波動砲口をじっと見つめた。

「バレル大統領は、あんたがたと事を構える気はない。安心しろ。好戦的な大統領に代わったら、話は別だろうがな」

 芹沢は、バレルが大統領のうちに、戦力を出来る限り増強しなければ、と心に誓った。

 

 そして――。

 

 艦船ドックの近くにいたものたちは、近くに建設されていた、指揮所に移動して、建物の上階からアンドロメダと主力戦艦の姿を見ていた。

 テスト飛行に出発するため、待避していたのだ。

「では、アンドロメダとナガト、ムツの三隻は発進します。皆さん、大きな拍手を」

 アンドロメダの波動エンジンが始動し、艦底部のロケットが噴射した。続いて、同様に主力戦艦の波動エンジンも始動して、艦底部のロケットが噴射した。

 三つの艦は、指揮所よりも高いところまで垂直に上昇し、そこで波動エンジンを咆哮させた。そして、急激に加速して、一気に上昇していった。

 そこにいたものが見守る中、空の小さな点になり、やがて見えなくなった。

 

 アンドロメダと主力戦艦のナガトとムツは、一気に大気圏外に飛び出していた。

「山南司令、星系内航行速度に移行します」

「あぁ、もうちょい飛ばしてくれ。そうだな、星系内航行速度の三十パーセント増しってとこで頼む」

 アンドロメダの艦長の山南は、三隻の司令官も兼任していた。彼は、のんびりした表情で航海長に指示をした。

「いいんですか?」

「かまわんよ。この艦は、地球連邦の希望の船だ。皆、避けてくれるさ」

「わかりました。増速します」

 アンドロメダは、エンジンを更に咆哮させて、スピードを上げた。

 それに慌てた、ナガトとムツも速度を上げた。そのナガトから通信が入ってきていた。

「艦長、ナガトの艦長から連絡です」

「スクリーンに出せ」

「山南司令! 星系内航行速度で行くとブリーフィングで確認したでしょう!」

「悪いねぇ、大村くん。こいつの性能がどの程度か、見たくなっちゃったのよ。お堅いことは言いっこ無しで行こうや」

「しかし……他の艦船の航行ルートへの影響だって出てしまいます」

「真面目だねぇ。若さってなぁいいねぇ。嫌いじゃないよ。でもまぁ、遅れずに着いて来てくれ。通信終わり」

 スクリーンから、大村の姿が消えた。

「さあ、行こう!」

 三隻は、速度を上げて火星軌道を目指した。

 

 地球の軌道上に待機していたランハルトの護衛で常駐するガミラス艦隊でも、この三隻の姿を捉えていた。

「ガゼル司令、テロンの新型艦三隻が飛び立って行きました。いずれも、艦種識別は戦艦、イスカンダル製の波動エンジンを搭載し、波動砲を装備しています」

 ゲルバデス級戦闘空母ダレイラでは、レーダー手から報告を受けた艦長のバルデスがガゼル司令に報告していた。

「データは取ったかね?」

「もちろんです」

「やれやれ、ヤマトのような船が、一気に三隻もか」

 ガゼル司令は、地球の強力な艦に呆れていた。

「我がガミラス軍にも、あれは欲しいですな」

 バルデス艦長は、地球の船を羨望の眼差しで見ていた。

「これを聞いたら、さぞやディッツもぼやくことだろう。すぐに連絡してデータを送っておいてくれ」

 

 このテスト航海の事前の計画では、火星軌道から木星軌道まで、ワープのテストをする予定だった。そして、木星を周回して、すぐに地球に帰還するのだ。

「山南司令、火星軌道に到達しました。予定より三十分早く到着しています」

 山南は、嬉しそうな顔をしていた。

「いよいよ、ワープ初体験って訳だ。楽しみだなぁ。お前らも楽しみだろ?」

 艦橋内の若い士官らが、嬉しそうにしている。

「ワープで飛ぶのが、防衛大にいるときからの夢でした!」

「私も! すっごい楽しみ!」

 山南は、満足そうな顔で頷いた。

「俺もだ! あ、でも女性の乗組員は、服が透けたりするらしいから、くれぐれも気をつけて、な」

 士官の若い女性の乗員が返事をした。

「大丈夫です! でも、積極的に見ようとする人がいたら告発するので、覚悟しておいて下さい!」

 彼女は、笑顔で皆に声をかけている。それを口を開けて見つめていた山南は、小声でぼそっと言った。

「告発って……今の若い子はおっかないこと言うねぇ」

 アンドロメダと主力戦艦ニ艦は、ワープに向けて速度を上げ始めた。

「ワープ五秒前、四、三、ニ、一、ワープ!」

 三艦は、火星軌道からワープして消えた。

 

 その頃、ヤマトと他の小型駆逐艦五隻からなる太陽系外縁パトロール艦隊は、別の艦隊と交代して地球に向けて帰還の途についていた。波動エンジンを搭載していない小型駆逐艦の速度に合わせて、ヤマトはゆっくりと航行していた。

 一年近く前にガミラスから帰還した後、古代は三等宙佐に昇進し、異例の若さでヤマト艦長に就任していた。そのヤマトには、土方も極東管区艦隊総司令として一緒に乗艦していた。

 その土方は、艦長席の隣に立っていた。

「古代。地球に着いたら、俺は空母型艦船が完成するまでは、地球防衛軍司令部にいる。後は頼んだぞ。山南には、極東管区艦隊の指揮官として、しばらく動いてもらうつもりだ。一緒に上手くやっていけよ」

 古代は、土方を見て微笑んだ。

「はい。もちろんです。土方総司令が、また宇宙に戻って来られるのを首を長くしてお待ちしていますよ」

 ヤマト率いる艦隊は、その時ちょうど木星軌道に差し掛かっていた。

 

 アンドロメダとナガトとムツは、ワープアウトして、通常空間に現れた。

「ワープ終了」

「山南司令! 見て下さい! 木星です!」

 山南は、艦橋の窓の外に、大きく木星が見えているのを確認した。

「これが、ワープか! 凄いじゃないか、ほんの一分ぐらいしか経ってないぞ!」

 レーダー席の士官が突然叫んだ!

「山南司令! すぐ近くに他の艦隊がいます! 衝突コースです!」

「おー、どの船だ?」

「土方総司令の、太陽系外縁パトロール艦隊です!」

 山南は、苦笑いして小声で言った。

「どんぴしゃ、だな」

 

 ヤマトに乗艦していた雪も、アンドロメダ艦隊を発見して、慌てて報告していた。

「艦長! 目前にワープアウトした艦隊がいます! 新造戦艦のアンドロメダと主力戦艦二隻、衝突コースです!」

「何!?」

 驚く古代を尻目に、土方は、苦笑いしていた。それには気付かず、古代は即座に指示をした。

「回避行動! 左舷に転舵しろ!」

 その指示を遮ったのは、土方だった。

「いや。待て。ヤマトだけコースこのまま。他の艦はすぐに転舵させろ」

 古代は、土方の指示に困惑していた。

「土方総司令、しかし……」

 土方は、にやりと笑って古代を見た。

「俺を信じろ。アンドロメダ艦長の山南の性格はわかっている」

 

 その山南は、全艦に指示を出していた。

「ナガトとムツにもすぐに伝えろ! コースそのまま! 波動防壁展開急げ!」

 技術科の士官が慌てて復唱した。

「波動防壁、至急展開準備します!」

 

「艦長、波動防壁展開しました」

 ヤマトでは、落ち着いた声で、新米が報告してきた。

「よし、コースそのまま」

 古代は、土方の指示に従って対処していた。既に、アンドロメダとナガト、ムツが肉眼で見えていた。

「ほんの少しだけアンドロメダの左に行け。出来るか?」

 土方は、操舵席の太田に指示を直接出していた。

「はい、いけます!」

 太田は、右舷のスラスターを少しだけ噴射して、アンドロメダのすぐ左を通過出来るように僅かに移動した。

 ヤマトの乗組員は、冷静に対処していた。

 

「山南司令! だめです! 衝突します!」

 山南は、のんびりした口調で技術科の士官に言った。

「波動防壁、もう展開しないと不味いんじゃない?」

 その士官は、波動防壁の制御室の乗員に必死に指示をしていた。

「た、たった今、展開しました!」

「お疲れ! よーし、皆、衝撃に備えろ!」

 

 ヤマトとアンドロメダは急速に接近していた。そして、ぎりぎりの場所を双方が高速ですれ違った。すれ違う一瞬、波動防壁同士がぶつかり合う、青いイナズマのような光が飛び散った。

 そして、ナガトとムツも、ヤマトの隣の少し距離をおいた位置を高速で通過していった。

 山南は、スクリーンに映る、既に通りすぎて後方にいるヤマトを確認した。

「さすが、親父。わかってるじゃないか」

 山南は、次の指示を出した。

「波動防壁展開を終了しろ。艦を回頭して、ヤマトに追い付け」

 ヤマトが速度を落としていたので、アンドロメダと、ナガトとムツは、すぐに追い付いた。

 艦橋の窓から、すぐ近くにいるヤマトを確認した山南は、ゆっくりと通信用のマイクを掴んだ。

「ヤマトに繋げ」

 スクリーンに、古代が映った。

「こちら、アンドロメダ艦長の山南だ。予定していた全てのテストを完了した。これより、貴艦らと一緒に地球に帰還の途に着く。同行を許可されたし」

 古代は、少し困惑していたが、返答した。

「こちら、ヤマト艦長の古代。貴艦の申し出を受ける。しかし……」

 抗議しようとしていた古代の隣に、土方が現れた。

「馬鹿者! 何をやっとるか!」

 突然、土方が、山南に向かって大声で怒鳴った。山南は、久しぶりの土方の雷を、懐かしいと思っていた。

「土方総司令、ご無沙汰しております。少々、やり過ぎたようでした。申し訳ありません」

 山南は、少しも悪びれた様子もなく、謝罪をしていた。土方は、怒りの表情から、次第に不適な笑いに変わっていった。

「貴様、波動防壁のテストなど予定してなかっただろう。ヤマトを利用してテストしたな?」

「さっすが親父。その通り。ヤマト相手ならいいテストになると思っていました」

「ついでに、部下の練度も確認したな?」

「何でもお見通しですね。お陰様で、少々訓練が必要だということがわかりました」

「まったく、お前と言う奴は……」

 山南は、土方ににやりと笑った。

「そんなこと言っても、ちゃんとテストに付き合ってくれたじゃありませんか。じゃぁ、ちょっとそこまで、一緒に帰りましょうか? 帰ったら、一杯やりましょう」

 山南は、ちょっとそこまで飲みにくような言い方で、土方に目配せした。

 

 ヤマト率いるパトロール艦隊と、アンドロメダ艦隊は、合流してゆっくりと地球に向けて出発した。

 山南に呆れた土方は、古代に指揮を任せて艦長室に上がっていった。

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

孤独な戦争2 同僚

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「孤独な戦争」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」の続編になります。


 翌日、地球に戻った古代や山南らは、アンドロメダと主力戦艦の主要な兵装の射撃テストを行う計画について確認していた。波動砲も発射するため、誰もいない第十一番惑星軌道まで向かう予定だった。また、アンドロメダには、ヤマトと同様の艦載機格納庫が存在している為、搭載する艦載機の発艦や着艦訓練も合わせて実施される。ヤマトは、不測の事態があった場合の対処をするために同行するのだ。

 

「大体、段取りは理解してもらえたと思う。何か質問は?」

 土方は、ブリーフィングルームの壇上で、テスト全般の順序や実施方法、注意点について説明をしていた。

 艦隊の各艦の艦長は、土方の前に並んだデスクの椅子にそれぞれ腰掛けていた。それぞれ、古代と山南、そして、ナガトの大村とムツの井上が参加していた。

 最初に山南が手を上げた。

「土方さん」

「総司令、もしくは宙将と呼べ」

 土方は、山南を睨み付けた。山南は、苦笑いしていた。昨夜、結局本当に土方と飲みに行っており、その流れでつい砕けた口調になっていた。

「これは失礼しました。……えーと、総司令。テストの件じゃ無いんですが、少々ご相談が」

「関係がある話ならな」

「関係ありますって……。昨日のテスト航海ですが、うちの乗員の練度がもうひとつ、という状況でした。ガミラス戦争で多くの人員が失われ、昨今、不足した乗員は防衛大学校から補充しています。しかし、やはり経験不足が否めません。そこは、訓練すれば良い、という話になると思いますが、ある程度経験を積んだ者もそれなりに配置しないと、教育もままなりません」

 その場の全員が山南を見ており、井上は頷いていた。

「そこは、うちの艦も同じです。贅沢は言ってられないのはわかっていますが、ガミラス戦争以前からの数少ない士官は、既に皆、艦隊の要職についていて、その下の世代の士官が不足しています」

 大村もうちも同じ、と言って頷いている。そして、いつしか、皆の視線が古代に集まっていた。

「はっ、はい? 私が、何か?」

 古代は、自分の顔に指を向けて、困った笑顔で見回した。

「お前さぁ。俺たちと同じ悩み、無いだろう? 要するに、そういうことだよ」

 山南は、古代に指を向けて笑っていた。

「土方さん、ヤマトの乗員を各艦に分配するよう人員配置の見直しをお願いします」

「総、司、令」

「あ、はい、総司令」

 土方は、腕を組んでため息をついた。

「言いたいことはわかる。確かに、波動エンジン搭載艦が四隻に増えた訳だからな。波動エンジン搭載型艦船に熟知した乗員を増やすのは急務だ。すぐには決められんが、検討する。古代、テストが終わってから、まずはお前の意見を聞かせろ。いいな?」

「は、はい。わかりました」

 古代は、気心が知れた仲間を思うと、複雑な気持ちだった。

「他には?」

 土方が見回していると、また山南が手を上げた。

「まだ何かあるのか?」

「いや、土方さ……。こほん。総司令とは、昨夜も飲みながら話しましたが、この艦隊が一年近く前のガミラス・ガトランティス戦争の時にあったらなぁ、って感慨深いですよ」

 土方は、咳払いをした。

「飲みながらは余計だ」

 古代は、それを聞いて、あの戦いを思い出していた。確かに、波動砲を搭載したこれらの艦隊があれば、ガトランティスの撃退は、もう少し楽に対処出来ただろう。しかし、最終的に、あのような平和的な解決策も思いつかないまま、戦いが更に激化していた可能性もある。

「山南司令。自分は、そうは思いません。ガトランティスの戦力は無尽蔵、とでも言えばいいのでしょうか。そういう印象でした。倒しても、倒しても、何度でも復活を遂げて来て、皆が絶望的な思いを何度も噛みしめました。この艦隊が居たとしても、やはり倒すのは不可能だったと思います」

 大村も興味を示した。

「そういえば、古代さんの奥さんが奇跡をおこしたそうですね。詳しく聞かせてもらいたいと思っていたんですよ」

 古代は、照れて苦笑いしていた。

「お、奥さん? いやぁ、まだなんですけど……っていうか、大村さん、あなたの方が先輩じゃないですか。さん付けとか勘弁して下さい」

「地球を救ったヤマトの戦士じゃないですか。皆の英雄ですよ。謙遜する必要ありません」

 土方が再び大きな咳払いをした。

「そういう話は、休憩時間にでもしろ。では解散!」

 

 アンドロメダらのテストに同行する為、発進準備を進めるヤマトの艦橋で、古代は周囲を見回して見た。

 真田や新見は地球に戻って科学技術省に移籍した為、既に不在だった。

 島は、太陽系の各惑星や衛星から資源を採掘して地球に輸送する輸送艦隊の指揮官として宇宙を飛び回っている。

 山崎は、増産予定の主力戦艦の艦長に内定しており、ヤマト機関長としてここで働くのは、艦が完成するまでのあと数ヶ月の間だけだった。

 まだ子供が小さな加藤は、地上勤務を希望し、本土防衛隊の空軍への転属を申請していた。

 現在のヤマトの運航は、一年前まで若手だった者や、交代要員だった士官が中心となって担っていた。元のリーダー格の士官は、それぞれ、ヤマトを降りて別の仕事についている状態だった。古代自身も、一度はヤマトを降りて、輸送艦隊の護衛任務についていた時期もある。

彼らを可能な限り防衛軍の宇宙艦隊に再召集し、艦隊の各艦の乗組員として人員を割り振るのは、妥当な判断だと言える。

 しかし、現在のヤマトに残る士官も、二度のマゼラン銀河の旅と実戦を経験しており、新米や徳川の息子のように、防衛大を出たばかりだった乗員も、経験を積んで既にそれなりの練度になっていた。彼らまで、ヤマトから奪われてしまうと、艦の運用効率は、著しく低下するであろうことは容易に想像がついた。

 古代は、気付かぬうちに、深いため息をついていた。各部署の状況を確認していた雪が、古代の様子に気がついて艦長席にやって来た。

「どうされましたか、艦長?」

 雪は、大きめの携帯端末を抱えて古代の横に立っていた。

「雪か……」

 雪は、苦笑いして小声で言った。

「もり、せんむちょう、でしょ」

 古代は、我に返って目を見開いた。

「す、すまん。な、何でもない」

 古代は、必要以上に大きな声を出していた為、第一艦橋の乗組員が、二人の方をちらちらと見ていた。

「あー、すまん。実は……」

 古代は、ヤマトの人員の再配置の件を小さな声で伝えた。

「それって……もしかして、私も?」

 雪は、ヤマトを降りることになる可能性を考えて不安な顔をしていた。

「この件は、今回の任務から戻ったら、土方司令と話すよ。今は、聞かなかったことにしてくれないか?」

「うーん。うん」

 そう言いながら、雪は、第一艦橋を出ていった。古代は、その後ろ姿を眺めて、言わない方が良かっただろうか、と後悔していた。

「艦長、機関室、準備完了しました」

 副長を兼任している山崎が報告してきた。古代は、普段通りにしよう、と気持ちを切り替えた。

「ありがとうございます、山崎機関長」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

孤独な戦争3 カイパーベルト

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「孤独な戦争」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」の続編になります。


 地球を飛び立ったヤマトとアンドロメダ艦隊は、一路、太陽系外縁を目指していた。

 ガミラス戦争後の地球連邦の太陽系開発は、土星軌道より内側で行われており、天王星や海王星、冥王星といった地球からかなり遠い星は、手付かずの状態となっていた。

 第十一番惑星は、百年ほど前に発見された太陽系最遠の惑星だった。冥王星が、惑星から準惑星に降格されてから暫く後、太陽から最も遠い軌道を描く惑星の新発見があり、太陽系の惑星として登録された。これは、正式名称ではなく、実際には太陽系の第九番惑星であった。火星と木星の間にあるアステロイドベルトがかつて惑星だったと唱える著名な天文学者が、冥王星も含めて十一番目の惑星の発見だと述べたことによって、呼称されるようになったものである。

 

 太陽系外縁のカイパーベルトまでやって来た艦隊は、早速テストの準備に入っていた。

 山南は、通信マイクを掴んだ。

「全艦に告ぐ。五分後に、ショックカノンなどの兵装の射撃テストを行う。各艦、事前の打ち合わせ通り、速やかに準備しろ」

 山南は、マイクを切ると、艦橋の乗員に声をかけた。

「各員にすべて任せる。予定の時刻に主砲発射。すぐにかかれ!」

 山南の号令で、戦術長を中心に慌ただしく準備が行われた。

「砲撃予定座標に移動する。後、三十秒で到達」

「砲撃目標のカイパーベルト天体の小惑星をレーダーで捉えました」

「目標の捕捉開始。照準に捉えた後、自動追尾を設定をする」

 山南は艦長席で、にこにこしながら各員の動きを眺めていた。手には、大きめの携帯端末を持っており、時折それを眺めていた。

「おい戦術長、何か忘れてないか?」

 戦術長の若い男は、山南を振り返ったが、怪訝な顔をしている。

「うん、わからんならいい。続けろ」

 戦術長の男は、何かを思い出したようだった。まずい、という表情で艦内通信のマイクを掴んだ。

「全艦戦闘配置! これは、実弾を使った訓練である!」

 彼は、マイクを切ると、山南の方へ再び振り返って謝罪した。

「す、すいません! 緊張しておりまして!」

「オーケー、まぁいい、続けろ」

「は、はい!」

 山南は、彼が自分の仕事に集中するのを確認して、端末を弄り始めた。

「えーと、ヤマトの戦術科にいた奴は、と」

 端末の画面には、古代や南部、北野などの情報が顔写真付きで表示されていた。

「南部……。南部重工業の御曹司だったのか……。何々、砲術長としての評価A、性格は好戦的? 功績は、と……。ふーん。なるほどなぁ」

 山南は、北野の情報も眺めた。

「おー、こいつはいいね。文句無しだ」

 いや、まてよ、と山南は考えた。

「さすがに、古代の奴、北野を連れて行くと言ったら怒るだろうなぁ」

 山南は、画面を切り替えて、艦の組織図を表示して、南部を戦術長の位置に設定した。そして、現在の戦術長を交代要員に配置した。山南は、にこやかに頷いた。

 これなら、経験不足を補えるし、南部が奴を教育してくれるだろう。ついでに、砲術担当も教育できる。好戦的とか書いてあるが、俺の前でそんな真似を続けるのは無理だろう。

 山南は、満足げに組織図を保存した。そして、艦内の様子を引き続きチェックし始めた。

 

 アンドロメダは、目標に対して平行に砲撃位置につき、砲塔を小惑星帯に向けた。同じように主力戦艦のナガトとムツが少し離れた位置についていた。

 アンドロメダでは、先程の戦術長の男が砲術長に指示を出した。

「砲撃予定時刻になった! うちーかた始め!」

「了解、砲撃開始! うちーかた始め!」

 アンドロメダの全砲門から、主砲が斉射された。同時に、ナガトとムツも砲撃を開始した。主砲は連続発射され、次々に目標の小惑星に命中していった。

 山南は、その様子を見て感慨深けだった。

「今までの艦じゃ、こうはいかなかったなぁ……」

 山南は、キリシマの主砲を思い出していた。波動砲のように、長い時間のチャージをして、やっと一発撃てるだけだったショックカノンが、全砲門で連続斉射するなど、夢のようだった。

 アンドロメダと主力戦艦は、各種のミサイルや、パルスレーザー砲の発射テストを行った。そして、続いて波動砲のテストを行おうとしていた。

「いよいよ、アンドロメダの真の力が見れるって訳か」

 山南を始め、各艦の乗員は、今日のこの時を楽しみにしていた。

 そこに、古代から通信が入っていた。

「おっと……。先輩から、ご意見ってとこかな。スクリーンに出せ」

 アンドロメダの艦橋のスクリーンには、古代が映っていた。遅れて、画面が分割して、大村と井上の姿も映った。四者の同時通信で古代は、呼び掛けて来ていた。

「各艦、波動砲の扱いについて、言わせて下さい。ご存知の通り、イスカンダルと交わした約束によって、ヤマトの波動砲は一時封印されていました。私たちは、その約束の解釈を以て、波動砲の封印を解きました。先日、スターシャ女王と再会した際に、正直、お叱りを受けるのではないかと思っていました。彼女は、我々が波動砲の使用を慎重に考えていることを評価してくれており、皆が幸せになるために使うことを祈る、と言っていました。強大な大量破壊兵器であることを常に意識し、彼女の信頼に応えるよう、心に刻んでおいて下さい。私からは以上になります」

 山南は、古代に返事をした。

「心配するな。皆、わかってるよ。イスカンダルと交わした約束の解釈で、人類の存亡に関わるような重大な問題の対処にのみ使用を許可されている。この試射が、実際に発射する、最初で最後であることを俺も願っている。各艦の全乗組員、今の、聞いていたな? 皆、忘れんなよ。では、これより発射テストを行う。各艦、準備を始めろ」

 山南は、通信を切ると、アンドロメダの乗員にも指示を出した。

 その目標として、一際大きな天体が選ばれ、各艦が一斉に波動砲を発射しようとしていた。

「エネルギー充填百二十パーセント」

「発射十秒前、対ショック、対閃光防御」

 秒読みが開始され、徐々にカウントダウンされていく。

「三、二、一、発射!」

 三隻の波動砲口に、球状の塊が集約され、それが閃光と共に一気に解き放たれた。三隻の波動砲は、それぞれの艦内に轟音を響かせ、一斉に発射された。それぞれの強大なエネルギーの束が空間を切り裂くように進んでいく。そして、突然それは破裂し、大きく傘のように拡がった。波動砲のエネルギーは、細く細かい光のシャワーに変化し、辺り一面の小惑星をすべて破壊していった。そして、目標の大きな小惑星にも命中すると、それは粉々に崩壊していった。

「凄い!!」

 山南は、立ち上がって目標が崩壊していく様子を見守った。

「……なるほど。こいつは確かにヤバい兵器だ」

 艦橋にいた全員が、固唾を飲んで見守った。

 山南は、通信用のマイクを掴んだ。

「全艦、データ収集を怠るな。少し休憩の後、収束モードの試射を行う」

 

 ヤマトでも、波動砲の試射の様子を確認していた。新米が、データを収集しながら、解説をしていた。

「アンドロメダや主力戦艦の波動砲は、拡散波動砲という新型の兵器です。大規模な敵に対して使用することを前提として、ヤマトの波動砲を改良したものです。逆に、エネルギーを集約したヤマトと同じ収束波動砲も発射可能で、状況に応じて、これを切り替えて使うのを想定しています」

 これに、北野と南部が反応した。

「あれ、いいですね! ヤマトも改造してもらいませんか?」

「しかも、アンドロメダなんて二門もあるじゃないか。おい、シンマイ。もしかして、片方づつ連続発射できるのか?」

 新米は、頷いた。

「出来るそうです。しかし、波動エンジンが複数ある訳では無いので、威力は半減してしまうようです」

 南部は、少しがっかりしていた。

「それは、いまいちだが……でも、やっぱりいいよな。古代! 同じ機能に改造してもらうよう頼んでおけよ!」

 古代は、南部を見て困った顔をしていた。

「南部、話はわかったが、他の乗員に示しがつかないから、ちゃんと艦長として接してくれないか?」

「別にいいだろ、まったく、すっかり偉くなりやがって」

 ヤマトは、待機しているのが、今回の役割であり、皆が退屈していた。

 そんな中、一人相原は通常通り、広範囲の通信チャンネルをチェックする装置の表示を確認していた。装置が弱い電波をキャッチしているのに気が付き、音声をヘッドセットのスピーカーで確認した。酷いノイズしか拾っていなかった為、最初は無視しようとした。しかし、指向性の強い特定の方向に向けた電波だった為、相原は時折それを確認するようにした。

 

 アンドロメダは、最後に艦載機の発着訓練を行った。ここでは、ヤマトも協力して、艦載機を発艦させ、小惑星帯での飛行訓練を行った。

 ヤマトからは加藤や山本らが先行して飛び、アンドロメダの航空隊との競争となっていた。

 加藤は、小さな小惑星を避けながら、最高速度で飛ばしていた。

「俺についてこれる奴はいねえのか!」

 アンドロメダの航空隊は、五秒から十秒ほど遅れたところを飛んでいた。加藤の後をコンマ数秒でついてきているのは、結局山本しかいなかった。

「ねぇ、隊長!」

「何だ!?」

 山本は、通信で加藤に呼び掛けた。

「辞めるって本当なの!?」

「そんなの誰から聞いた!」

「皆、知ってるよ! 聞きにくいって、皆が言うから、今私が聞いてる!」

 加藤は、操縦に集中しながら、仕方なくそれに答えた。

「あー、本当だ! 地球で本土防衛軍の空軍に入る!」

「何で!?」

 加藤は、あまり言いたくなかった。だが、言わなければ、仲間にしつこく聞かれ続けるだろう。それは面倒だった。

「うちは、子供が小さいんだよ! 女房も子供も寂しいってさ、この間の休暇の時に言われたんだ!」

「尻に敷かれてんの!?」

「いいだろ、別に! 俺だって、そばにいてやりたいんだよ。宇宙艦隊は、何ヵ月も地球に帰れない。空軍なら、毎日家に帰れる!」

「勝手に決めるなんて、私たちは、どうすればいいの!?」

「俺の代わりなら、お前がいるだろ!」

「私!? 冗談じゃない!」

 加藤は、笑いながら言った。

「お前も、結婚すればわかるさ!」

「そんな相手なんていないよ!」

「知るか、そんなの!」

 二人の機体は、後を追うヤマトとアンドロメダの航空隊を引き連れて、小惑星帯をそのまま飛行し続けた。

 

 予定していたテストと訓練が終わり、艦隊は、カイパーベルトを後にして、内惑星軌道へと帰還の途についていた。

 山南は帰還した後、人員配置について、土方を言いくるめるのを楽しみにしていた。

「そして、暫くすれば、太陽系外への宇宙探査の計画だな。いやぁ、楽しみだ!」

 

 ヤマトでは、相原が通信機の表示を注意深く見るのを続けていた。相変わらず、先程の電波を捉えており、次第に反応は強くなっていた。

 相原は、何かに気づいてヘッドセットの耳を押さえて音声を確認した。

「うん?」

 相原は、次第にノイズが薄れて来て、音声のような音を聞いた。相原は、通信機を微調整して、音を増幅することにした。彼は、小さいが何かの音声が流れているのを確認した。

「艦長……」

「どうした? 相原」

 相原は、古代を呼び寄せた。彼は、もう一つのヘッドセットを取り上げて、古代に渡した。怪訝な表情をしていた古代も、ヘッドセットを頭につけて、その音声を聞いてみた。単調な音声が小さな声で続いていた。

「これは?」

「音声は何かを読み上げているようです」

「外国語だな」

 相原は、少し考えてから言った。

「未知の言語です」

「どういうことだ?」

「指向性の強い電波です。冥王星から太陽系外に送信されています」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

孤独な戦争4 冥王星

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「孤独な戦争」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」の続編になります。


 古代は、山南らに相原が傍受した通信の件を報告していた。アンドロメダのスクリーンには、四者通信で画面に各艦長が映っていた。

「こっちでも通信を確認した。皆の意見を聞かせてくれ」

 ムツ艦長の井上が回答した。

「パトロール艦隊に見に行かせるか、我々で調査に行くか、ですね。今回はテスト航海なので、我々の準備が十分とは言えません。判断は山南司令にお願いしたいです」

「ふむ。大村は?」

「もしも、未知の敵が潜んでいるとしたら、一大事です。一旦、冥王星方面に、無人探査機を飛ばしては?」

「なるほど。古代は?」

「すぐに行くべきでしょう。航空隊による偵察を進言します」

 山南は、各艦長の顔色を窺った。さすがに、古代は、肝が据わっている。しかし、皆、ガミラス戦争で、痛い目に合っており、腰が引ける気持ちもわからなくはなかった。

「俺は、さすがに見過ごす訳にいかない発見だと思う。ついでに、今回のテストの仕上げに悪くない事案だと思う。まずは、冥王星方面に進み、発信源を探ろう。念のため、土方総司令に連絡を入れておく。俺達は、地球の歴史上でも、最強の艦隊を率いている。恐れるものなど無いはずだ」

 山南は、各人の反論が無いのを確認して言った。

「よし! 全艦、予定を変更して、冥王星付近の調査を行う。警戒体制で目標に向かう!」

 全員がスクリーン越しに敬礼で応えた。

「あ、そうだ、古代」

「何でしょう?」

「お前んとこの船務科の通信長、何て名前だっけ」

「相原ですが……?」

「相原くんね。うん、わかった」

 ヤマトでは、唐突に通信が切れてスクリーンの映像が消えていた。古代は、山南が単に相原を評価しているだけではないと気が付いていた。古代は、複雑な表情で、仕事に没頭する相原を見つめた。

 その相原の席に、新米の交代要員として技術科に控えていた桐生美影が呼び出されていた。

「相原さん、どうされました?」

「新米から聞いたよ。桐生さん、ガミラス語を覚えたんだって?」

「あ、はい。皆、翻訳機を使ってるから、あんまり役に立ってないですけどね」

 相原は、謎の通信の件を桐生に説明した。

「未知の言語ですか? うーん。それだとどうかなぁ?」

「現場に着く前に、何でもいいので何か手掛かりが掴めないかと思って、君を呼んだんだ。既に、艦の電算機で解析させたが、新しい情報は無くて困ってるんだ」

「うーん。……とにかく聞いてみますね」

 相原は、彼女にヘッドセットを渡した。桐生もそれに耳をあてて、その音声を確認した。相原は、黙って桐生の様子を窺った。

「どうだい?」

「確かに、聞いたこと無い言語ですね」

 桐生は、腕組みして暫し考えていた。

「気になりますね。一応、今まで録音した部分も含めて、一通り聞いてみましょうか」

 相原は、頷いた。

「それは助かる。頼んだよ」

 相原は、艦長席に振り返って古代に話しかけた。

「あぁ、艦長、通信の到達先の方向も調べました。銀河系の中心部に向かっています。この方角は我々にとっては、未知の領域です」

「中心部だって!? まさか、例のボラーとガルマンがある方向なのか?」

 古代は、少し驚いていたが、それを見た相原は首を振った。

「ガミラスから提供された、天の川銀河の星図と照らし合わせてみました。近い方向ですが、ちょっとずれているように思います」

「そうか……。もし、二大星間国家が関係しているなら、一大事になる」

「その為のアンドロメダ艦隊じゃないんですか?」

 古代は、苦笑いした。

「ヤマトを含めても、たったの四隻の艦隊で、あんな巨大な国家の相手になるとは思えないよ」

 古代は、そうは言ったものの、あのイスカンダルの大航海を成功させた沖田艦長を思いだし、こんな考えじゃ叱られるな、と考えていた。

 

 それからしばらくして、ヤマトとアンドロメダ艦隊は、冥王星付近に接近していた。

 山南は、航空隊による偵察を命じようとしていたが、ここへ来て練度の問題について頭を悩ませていた。山南は、悩んだ結論を、艦の戦術長と通信長に伝えた。

「航空隊による偵察を行う。精鋭を三名選抜して発艦させろ。後、ヤマトにも連絡して、そっちからも二機選抜して発艦させてくれ」

 

 既に、冥王星の近くまで接近したヤマトとアンドロメダから、コスモタイガーⅡが五機飛び立った。彼らは速度を上げて、一気に冥王星に降下していった。

 冥王星の上空を飛行する五機は、途中で別れて飛び去った。

 ヤマトからは、山本と篠原が出ており、アンドロメダの航空隊と、手分けして発信源を探ろうとしていた。

「何か通信、途絶えちゃったみたいだね」

「いつ、再開するかわからない。引き続き傍受出来るように注意して行こう」

 山本は、メ二号作戦で古代と二人で飛んだ時のことを思い出していた。あの頃は、地球滅亡の危機の最中で、未来がまったく見えなく不安な日々を過ごしていた。そんな時に古代と交流を深め、徐々に仲良くなり始めており、辛い現実の中でも希望を胸に抱いていた。

「それなのに……」

 彼女にしてみれば、雪に横から奪われたも同然だった。あの時、もっと積極的に行けば良かったのだろうかと、今でも時々後悔をするのだった。

「玲ちゃんさぁ」

 突然、篠原が思考に割り込んで、山本は我に返った。

「あ、あき……。まぁいいです。何ですか?」

「いい加減、俺たち付き合っちゃわない?」

「は?」

「そのつれない反応……傷つくなぁ」

 山本は、タイミングが悪すぎる、と思っていた。

「付き合いません」

「なんで?」

 山本は、風防越しに横を飛ぶ篠原の機体を、思わず見てしまった。

「何でって、もともと、そういう関係じゃないでしょう?」

「そういう雰囲気になった時期もあったじゃん?」

 山本は、それを否定することは出来なかったので、答えるのをやめた。

「あれ? おーい」

 篠原は、しつこく山本に呼び掛け続けた。納得する答えが得られるまで、黙りそうもなかった。

「何か面倒くさい感じですよ、篠原さん」

「そう? うーん、じゃあ、やめる」

 急に篠原は黙り込んだ。

 山本は、彼が適当そうな言動を繰り返しつつも、実は繊細な感覚を隠しているのを知っていた。今の話も冗談っぽく言いながらも、傷付いているような気がしていた。山本は、小さくため息をついて、篠原に話しかけた。

「私は、今は気持ちの整理がついてないので、そういうことを考える気になりません。そのうちに整理がつくかもしれないけど」

 篠原は、少し嬉しそうに言った。

「そう? じゃあ、それまでは、ナビ子ちゃんと遊んでるよ」

 篠原は、機体のAIをアクティブにして話しかけた。

「ナビ子ちゃんさぁ、俺と付き合わない?」

「その命令は、受付けられません」

「皆、つれないなぁ」

 

 ヤマトでは、相原の席に桐生が座って、音声の確認を続けていた。横に立っている相原が話しかけた。

「どう? 桐生さん」

 桐生は難しい顔で、ヘッドセットから流れる音声を注意深く聞いていた。

「うーん。手掛かりぐらいは」

 相原は、すぐに古代を呼び寄せた。

「艦長!」

「何かわかったか!?」

 桐生は、相原の席に座ったまま、照れたように笑っていた。

「い、いやぁ。どうかなぁ?」

 古代は、相原の席にやって来て、桐生の横に立った。

「音声のところどころに、ガミラス語らしき音を見つけました。日本語でいうと万歳みたいな意味の『ガーレ』です。普通は、大きな声ではっきりと言う言葉なのですが、この音は、ぼそぼそとした声なので、たまたま似た発音だっただけかも知れません。だから、あんまり自信が無いかな……」

 古代は、それを聞いて考え込んだ。

「ありがとう、桐生くん。実は、場所柄もあって、もしかしたらガミラス人かもしれないと考えている。例えば、未知の言語に聞こえるのは、暗号だからでは? とかね」

 桐生も、それを聞いて唸った。

「うーん。艦長、ごめんなさい。そこまでは、すぐには判断出来ません」

 相原は首を捻っており、古代に言った。

「でも、ガミラス人だとしたら、今、地球の方で待機しているデスラー大使の護衛たちの中の誰かってことですか? 何の為にこんなことを?」

「わからないから、調べるんだよ。相原、この件を、可能性の一つとして、山南司令に伝えておいてくれ」

「わかりました」

 

 その頃、篠原の操縦する機体が、何かを捉えていた。

「見ろ!」

 冥王星の氷の海から、突然何かの強力なエネルギーが上昇していた。

「あれは!」

 山本もそれをはっきりと見ていた。氷の海を突き破って空へと伸びるそれは、かつてメ二号作戦の時に目撃した反射衛星砲の光だった。

「本機の真下に、人工物を発見」

 機体のAIが篠原の宇宙帽のスピーカーから伝えた。

「何!?」

 篠原と山本の注意が、反射衛星砲の光に向いている最中、地上の対空砲台からの攻撃を受けていた。一瞬のことで、篠原はぎりぎりで回避したが、山本の機体は被弾してしまった。

「玲!!」

 コスモタイガーの主翼がもぎ取られ、山本の機体は空中で炎を吐き、回転しながら墜落していった。途中、山本がコックピットの脱出装置で機体から離れるのが見えたが、対空砲の砲火が激しく迫って来ており、篠原は、その場を逃げ出すしかなかった。

「くそ!」

 篠原は、すぐにヤマトに連絡をした。

「こちら篠原! 反射衛星砲と思われる攻撃が上空に向かうのを発見! 山本機は、地対空砲台からの攻撃で被弾して墜落! しかし、脱出した模様!」

 

 山南は、ヤマトから謎の通信がガミラス人の可能性あり、の連絡を受けたばかりのところに、追い討ちをかけられていた。

「全艦、全速でその場を離れろ! 狙い撃ちにされるぞ!」

 反射衛星砲の強力なエネルギーが、冥王星の反対側から主力戦艦ナガトに向かっていった。ナガトはそれを間一髪で避け、エンジンノズルをかすめた。

 アンドロメダでは、通信長が報告していた。

「ナガトは、無傷です! 損傷はありません!」

 続けて、矢継ぎ早に次の連絡が届いていた。

「ヤマト艦載機から入電! 反射衛星砲の発射地点の座標が送られて来ました! あわせて攻撃要請があります!」

 山南は、瞬時に判断した。

「全艦、一旦反射衛星砲の射程範囲外の宙域に向かう! 百八十度反転、退避!」

 ヤマトでも、相原が篠原に連絡を入れた。

「篠原機に通達! 至急ヤマトに戻れ! 繰り返す、至急ヤマトに帰艦せよ!」

 連絡を受けた篠原は、地上に墜落後、爆発して炎を上げる山本機の周辺を飛び回っていた。

「馬鹿野郎! 玲を見捨てろっていうのか!」

 激昂する篠原に対して、古代が直接通信で呼び掛けた。

「篠原! 山本は必ず救出する! 頼むから、まずは一時撤退してくれ!」

 篠原は、古代の必死の形相が頭に浮かんだ。

「くそっ! 何てことだ!」

 篠原は、機体を一気に上昇させ、冥王星の空に消えた。

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

孤独な戦争5 冥王の残党

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「孤独な戦争」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」の続編になります。


 ヤマトとアンドロメダ艦隊は、急ぎ冥王星からの一時撤退を行い、距離をおいていた。

「冥王星側に呼び掛ける! 通信回線を開け!」

「通信回線、オープンにしました!」

 山南は、通信用のマイクを掴んだ。

「こちらは、地球連邦防衛軍アンドロメダ艦長の山南だ。こちらに攻撃の意図は無い。そちらの所属などを応答せよ」

 山南は、通信長に向かって言った。

「どうだ? 反応あるか?」

 通信長は、通信チャンネルを確認していた。

「応答ありません!」

「今のメッセージを念のため、ガミラス語に翻訳して複数のチャンネルで呼び掛けろ!」

 通信長が、指示を実行に移すのを確認して、レーダー手にも確認した。

「後方から、追撃や、不審な動きはないか!?」

「ありません!」

 そこへ、戦術長が報告してきた。

「冥王星から戻した航空隊は、無事着艦しました」

 山南は彼に頷いて、技術科の士官に声をかけた。

「先程の攻撃は、反射衛星砲で間違い無いのか!?」

「ガミラス戦争時のメ二号作戦のヤマトの戦闘データと一致しています。間違いありません!」

 山南は、急ぎ考えを巡らせた。冥王星からの攻撃は、ガミラス軍のもので間違いが無い。一体何故、こんなことになったのか、防衛軍司令部への確認が必要だと考えた。

「冥王星への呼び掛けの反応は?」

「まだありません!」

「よし、すぐに土方総司令に繋げ!」

 

 暫くすると、亜空間リレーによって、リアルタイムで司令部の土方に通信が繋がった。アンドロメダの艦橋のスクリーンに、土方と各艦の艦長が映っていた。

「冥王星で、ガミラスの兵器による攻撃だと?」

 山南は、頷いて土方に状況を説明した。

「以前、ヤマトが冥王星のガミラス軍との戦闘で遭遇した反射衛星砲で間違いありません。また、偵察機一機が撃墜されました。パイロットは脱出した模様ですが、安否は不明です。同盟関係にあるガミラスとの戦闘を避ける為、我々は一時撤退を選択しました」

 土方は、暫しガミラス戦争後のことを思い出していた。

「……ガミラス戦争が終わった後、防衛軍の艦隊がある程度増産されるまではと、我々は地球圏に留まっていた。一年程後、艦隊が組めるようになってから、ヤマトと共に、ガミラスに占領されていた各惑星を巡って、残存兵力がないか調査した。これは、例外はなく、惑星やその衛星、アステロイドベルトに至るまでくまなく行われた。当然、冥王星や、その衛星もだ。しかし、聞いての通り、膨大な調査範囲であり、見逃しがあった可能性は否定できない」

 古代は、それを聞いて思いついた疑問について尋ねた。

「私は、当時ヤマトを降りていたので、直接関わっておりません。反射衛星砲は、エネルギービームを反射する為の人工衛星を使います。冥王星周辺のこの衛星はそのまま放置されたんでしょうか?」

 土方は、首を振った。

「いや。当然一掃した。すべての衛星を破壊したはずだ」

「すると、新たに散布された、ということになりますね……」

 古代はどういうことなのか考え込んだ。その古代に、続けてムツの井上も質問した。

「では、冥王星のガミラス軍基地は生きている、ということになりますよね。メ二号作戦で、基地は撃破したのでしょう?」

「そうです。私自身が、先程撃墜された山本と一緒に基地の捜索を行いました。その時に、ヤマトの砲撃で完全に破壊しました」

 土方は、それを補足した。

「そうだ。その基地の残骸はくまなく調査した。確かに、完全に破壊されていた。つまり、その時や、戦後の調査でも見つけられなかった他の基地があった、ということになる。つまり、我々の調査を逃れて海底や地下に築かれていた可能性が高い」

 それまで黙っていた大村が手をあげて言った。

「仮説ではありますが……。地球とガミラスの戦争が終わったことを知らず、そこに留まった部隊ではないでしょうか? 状況的に、そう考える方が自然だと思います」

 古代は、思いもよらぬ意見に、少し驚いていた。

「まさか……」

 土方は、鋭い眼光で睨んでいた。

「なるほど。それはありうるな。冥王星のガミラス軍の存在については、既にガミラス大使館へ問い合わせている。じきに返答を貰えるだろう」

 そこに、雪から報告があった。

「古代艦長、冥王星から、再び反射衛星砲が発射された時の高エネルギー反応があります!」

「どこに撃ったかわかるか?」

「冥王星周辺の小惑星に命中した模様です」

 

 冥王星から発射されたエネルギービームは、冥王星周辺の小惑星に命中し、それは炎を纏った。そして、その小惑星は弾かれたように速度を上げて、太陽系の内惑星方面に飛び始めた。

 

 アンドロメダでも、その様子を捉えていた。

「山南司令! こ、これは……! 遊星爆弾です! 遊星爆弾が飛来して来ます!」

 山南を含めて、全員がそれに驚愕していた。

 その間にも、速度を上げた遊星爆弾は、艦隊とは別の方角に飛び去っていった。

「何処へ飛んでいった!?」

 アンドロメダのレーダー手が、方角からコースを割り出していた。

「司令……。地球への衝突コースです……」

 山南は、それにショックを受けていた。再び、地球に遊星爆弾が落ちるなど、悪夢でしかなかった。そして、それを止めることが可能な兵装を備えた艦隊は、今ここに集結している四隻のみだった。

 山南は、すぐに気を取り直して、土方に進言した。

「土方総司令! あれは、ショックカノンでなければ容易には撃破出来ません! すぐに部隊を分けてあれを追わせます!」

 事態の推移に呆気にとられていた土方も、すぐに頷いた。

「山南、ガミラス冥王星基地の扱い以外は、お前の判断に任せる。いちいち俺に問い合わせていては、間に合わんからな! すぐに対処しろ!」

「了解! 井上、あれをすぐに追って撃破してくれ。撃破したら、次に備えてその座標でそのまま待機しろ」

「わかりました!」

「大村、お前の艦も、今すぐ次の飛来予想地点に艦を動かして待機しろ! 飛んできたらすぐに撃ち落とせ!」

「承知しました!」

「古代、俺と作戦会議だ。冥王星攻略作戦を、今後想定されるケース毎に立案しておこう」

「はっ!」

 古代は、敬礼で応えた。

 

 その頃――。

 

「それで? どういうことか、俺に説明しろ」

 地球のガミラス大使館にいたランハルト・デスラー大使は、地球連邦防衛軍からの報告を受けて、地球の衛星軌道上のガミラス護衛艦隊にその事実を確認していた。

 ランハルトの執務室のデスクの端末に、護衛艦隊旗艦の空母ダレイラのガゼル司令が映っていた。

「デスラー大使。申し訳ないが、我々にも新たな情報は無い。太陽系方面軍の司令官シュルツは既に亡くなっており、冥王星の我軍の基地も、ヤマトとの戦闘で全滅したという情報が記録に残っているだけだ」

「ならば、何故、こんなことになっている」

 ランハルトは、険しい表情でガゼルを睨んでいた。

 ガゼルは、以前デスラー総統と話した時、酷く緊張を強いられた時のことを思い出していた。忌々しい若造だ、とガゼルは内心思っていたが、おくびにも出さずにそれに返答した。

「それは、わからん。大使がよければ、これから我々も現地に向かおうと思う」

「いいだろう。……いや、ちょっと待て」

 ランハルトは、少し考えた。この事態は、地球とガミラスの関係を傷つける重大な事態だ。そもそも、只でさえ、ガミラス人を良く思わない勢力がいることも明確に知った今、立場上も、このまま人任せには出来ないと考えた。

「……俺も同行する。今すぐ迎えを寄越してくれ」

 ガゼルは、その話に驚いていた。

「大使が自ら行くと?」

「急いでくれ」

 ランハルトは、そこで通信を一方的に切った。

 デスクの傍には、そのやり取りを見守っていた秘書のケールが立っており、嬉しそうな表情をしていた。それに気が付いたランハルトは、少し苛つきながら彼を睨み付けた。

「何だ?」

 ケールは、少しデスクに身を乗り出して言った。

「もちろん、僕もついていっていいですよね?」

 ランハルトは、ケールの笑顔に腹を立てつつも、彼の力が役に立つかも知れない、と考えた。

「すぐに準備しろ」

「はい!」

 ケールは、執務室を急いで出ていった。彼が出ていったドアを見つめたランハルトは、ため息をついた。

「やれやれ……」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

孤独な戦争6 義勇兵

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「孤独な戦争」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」の続編になります。


 山本は、夢を見ていた。

 

 彼女は、兄の明生がドアから出ていくところを見ていた。

 駄目。

 そっちへ行けば、もう二度と会えない。

 行かないで、兄さん!

 手を伸ばして、兄を捕まえようとするが、体が思うように動かない。

 

「兄さん!」

 山本が目を開けると、そこは何処かの部屋だった。彼女は目を閉じて胸のペンダントに触れた。そうして気持ちを落ち着けてから、周りを見渡した。

「ここは……?」

 部屋は、薄暗い倉庫のような場所だった。辺りに、雑多に箱が積み上げられている。箱の表面には野菜や果物のような図柄と、ガミラス語の文字が書かれていた。

 部屋の隅に、出入口らしき扉があった為、傍に近寄って、開けようと試みた。しかし、ドアはロックされているようで、開きそうもなかった。

 山本は、記憶が混乱していた。

 ……私は、確か冥王星を篠原と一緒に偵察飛行をしていたはず。

 そうだ、突然の攻撃で機体から脱出した。

 その後は?

 記憶は、パラシュートで降下したところで途絶えていた。

 恐らく、着地に失敗して頭を打ったのだろう。

 と、いうことは――?

 自分が敵に捕まった、と考えるのが妥当と結論づけた。攻撃を受ける直前に、反射衛星砲の光を目撃したことから、ここは、冥王星のガミラス軍基地内だと推測される。

 しかし、その割には拘束もされていないし、ここは牢でも無さそうだった。幾つも積み上げられている箱のデザインから察するに、ここは食料庫なのだろう。箱の中身を確認してみると、どれも空き箱だった。

 仕方なく、彼女は箱を並べてそこに座って待つことにした。捕まえた何者かが、恐らくここにやって来るに違いない、と考えていた。

 

 小一時間ぐらい経過しただろうか。

 正確な時間も何も分からず、だんだんと不安な気持ちになっていた。本当に、ガミラス軍の基地かも確信がある訳ではない。自分の手で基地を発見し、ヤマトが壊滅させたのだから。

 山本は、立ち上がって、狭い部屋の中を行ったり来たりして、考えを巡らせた。

 すると、突然ドアが開いて、銃を持った何者かが入ってきた。

 入ってきたのは、長い髪を頭の後ろに束ねた、ガミラス軍の制服を着た若い女の兵士だった。しかし、化粧っけの無いその顔は、ガミラス人の青い肌ではなく、地球人と同じ肌の色をしていた。

「一緒に来い」

 山本の耳の後ろに装着した翻訳機のスイッチが自動的に入り、彼女が喋るガミラス語を翻訳してくれていた。

 山本は、銃を突き付けられたので、大人しく従うことにした。

 女の前を歩いて、部屋の外に出ると、そこも薄暗い廊下だった。壁面のあちらこちらが、破損していたが、長い年月そのままになっているようだった。女に追いたてられながら、暫く歩いて行くと、少しだけ明るい作戦室のような部屋に連れてこられた。

 中央に大きなテーブルがあり、紙の資料が散乱していた。周囲には、多数の端末があり、大きめのスクリーンが一つ壁にあった。端末は、一台だけが明かりがついており、他の端末は、電源が落とされているようだった。

 そして、そこには三人の男たちがテーブルの周囲に立っていた。山本と後ろから銃を突き付けている女が一緒にその部屋に入ると、一斉に二人の方を振り向いた。

「おお、気が付いたか」

 彼らのリーダーとおぼしき初老の男が、最初に口を開いた。別の若い男が、近くにあった椅子を動かして、山本に座るように促した。

 仕方なく、その椅子に山本が座ると、男たちも同じようにテーブルを囲んで座った。先程の女だけが、立ったまま山本の背後で油断なく銃を向けている。

「お前は、何者だ?」

 先程の若い男が聞いてきた。

 山本は困惑した。こんなところに陣取って、捕虜にした相手が誰かなどと、何故分かりきったことを聞くのか? 質問の意図が良くわからなかった。

「私は、地球連邦防衛軍の宇宙戦艦、ヤマト航空隊に所属する山本二等宙尉だ」

男たちが、それを聞いて色めきたった。

「ヤマト? 我々の司令本部に、甚大な被害を与えたあのテロンの艦か?」

 山本は、答えるべきか迷ったが、仕方なく頷いた。

 テーブルに座る男たちは、それを聞いて何か話し合っていた。翻訳機が機能せず、山本は、ガミラス語以外の未知の言語で話しているのに気が付いた。肌の色といい、ガミラス人では無い彼らは、一体ここで何をやっているのだろうか?

「……わかった。今の戦況を知りたい。テロンと我が軍の戦況だ。テロンはまだ健在なのか?」

 若い男が聞いてきた。またも、質問の意図が良くわからなかった。

「どういう意味か良く分からない」

 最初に口を開いた初老の男が、周囲の者たちを見回して、何やら頷いていた。そして、山本に向かって話始めた。

「我々は、ヤマトの攻撃で基地司令本部が無くなった時に、宇宙艦隊も全て失った。それから仕方なく、君らに見つからないように、ここに隠れ住んでいる。もう何年も外界との接触を断たれ、現在の状況がわからんのだ。すまないが、君の知っていることを教えてくれんか?」

 山本は、それを聞いて呆気にとられた。彼らの期待に満ちた表情や、疲れきって痩せ細った姿を見るにつけ、嘘をついているようには見えなかった。

「それじゃあ、本当に、何も知らないのか?」

 初老の男は、重々しく頷いた。

「……そうだ」

 そのようなことがあり得るのだろうか?

 周囲を見回すと、皆んな真剣な表情で、山本が話す言葉を期待して待っている様子が見て取れた。

「分かった」

 山本は、髪をかき上げて、どこからどう話したものか、と思案した。

「……我々地球とガミラスの戦争は、数年前に終わった。双方が和解した結果、現在は同盟国になった」

 男たちが、困惑した表情で山本を見ていた。

 すると、後ろに立っていた女が、銃を山本の頭に押し付けてきた。

「そんな出鱈目を信じると思うか!?」

 山本は、襲い掛かって銃を奪うべきか迷った。しかし、彼らの疲れきった様子を見ると、それは何時でも出来ると判断した。

「本当だ」

「まだ言うか!」

 その様子を見た初老の男が大きな声で、女を制した。

「止めんか!」

 山本は、少しだけ後ろを振り返った。後ろにいる女は、渋々少し後ろに下がっていた。

「すまんが、確かににわかには信じられん話だ。何があったのか、順を追って説明してくれんか?」

 山本は、仕方なく、簡単に最初から話をした。イスカンダルの技術供与を受け、ヤマトでイスカンダルにコスモリバースシステムを取りに行ったこと。その際に起こったデスラー総統のガミラス臣民の虐殺をヤマトが阻止したことによって和解したこと。ガトランティスとの戦争に協力したことがきっかけで同盟国になったこと。

 山本は、驚きを隠せない彼らに、次第に話の内容が浸透していくのを見守った。

「筋は通っておる。急に思い付くような話とも思えん。わしは、信じて良いと思うが?」

 初老の男は、周りの者に確認をした。彼らは、皆頷いて納得したようだった。

 若い男は、山本を真っ直ぐな瞳で見つめた。

「戦争は、終わったんだな?」

 山本は頷いた。

「そうだ」

 若い男は、目を潤ませていた。

「それでは……。我々は、帰れるんだな?」

「そういうことになるな」

 そこまで黙っていた、中年の男が言った。

「いや、まて。帰国しても、テロンの侵攻を阻止出来なかった責任を問われるかもしれないぞ」

 それを聞いた山本は、説明が不足していることに気が付いた。

「それはない。ガミラスの軍事独裁政権は、既に崩壊して、現在は民主主義国家に生まれ変わっている。そのような心配はいらないと思う」

 彼らに、再び驚きと困惑が広がっていた。

「そ、そんなことが」

「まさか……!」

「信じられん」

 山本は、さすがに、この事実は自分の口から言っても信じるのは難しいだろうと思っていた。

「まずは、私たちの艦隊と連絡を取らせてくれないか? 皆さんは、艦隊の船で一旦地球に行き、少し休んだ方がいいと思う。ここは、ずいぶん環境も悪い状態だと見受けられる」

 後ろに立っていた女は、銃を降ろしてテーブルの前に走り寄った。

「モーガン大尉、そうしましょう! 帰れるんです。私たちの故郷に!」

 モーガン大尉と呼ばれた初老の男が、目を閉じて考え込んでいた。

「それは、出来ん……」

「大丈夫です! 今なら、必ず脱出出来ます!」

 中年の男は、その女に言った。

「イリア、大尉の言う通りだ。宇宙艦の一つもここには無いんだぞ。それに、例えそれが出来たとしても、逃げ出そうと宇宙に向かう途中で撃墜される。テロン人の彼女がそうされたように」

「テロンの艦隊が味方になってくれるなら、何とかなるんじゃありませんか!?」

 山本は、話の流れがよく理解出来なかった。

「お前たち以外に、誰か反対する者がいるというのか? 私の機体を撃ち落としたのは、君たちではなく、その者がやったと?」

 モーガン大尉は、暗い表情で頷いた。

「そうだ。ここには、我々の指揮官のガミラス人が一人いる」

 山本は、やはり、と思って質問した。

「そうか。皆さんは、ガミラス人では無いんだな?」

「我々は、かつてガミラスに侵略され、植民地となったザルツ人だ。二等ガミラス人の地位を与えられ、義勇兵としてこの戦争に参加した」

 若い男は、それに口を挟んだ。

「何が義勇兵ですか! 強要でしょう。俺も、皆んなも、家族を人質に取られて、仕方なく、こんな遠い星まで来たんじゃないか!」

 山本は、かつてのガミラスの闇を見たような気がした。地球を遊星爆弾で滅亡の危機に追いやった彼らの正体が、強制的に従軍させられた民族だったとは。彼女は、その事実に複雑な感情を抱いていた。

「テロンの艦隊に攻撃してもらい、ガミラス人を殺せばいい。そうすれば、俺たちは自由の身だ!」

 モーガン大尉は、大声で怒鳴った。

「いい加減にしろ! そのようなことを軽々しく言うものではない! 我々が、ここに隠れるようになってから、彼には世話になったのだ。我々のガミラスに対しての本当の思いと、彼個人への扱いとを混同してはならない!」

 モーガン大尉は、そこで声を落として言った。

「彼にこの事実を伝えて、彼を……ガリア少佐を説得しよう」

 山本は、そこに口を挟んだ。

「私たちも、ガミラスとは同盟関係にある以上、簡単に攻撃などという方法をとることは出来ない。話し合いで解決するのが、最善の策だと思う」

 若い男は、まだ納得がいっていないようだったが、一旦、ガミラス人を殺す、という話はそこで終わった。

「太陽系外に通信を送っていたのも、そのガミラス人か?」

 山本は、気になっていたことを質問した。

 モーガン大尉は、少し驚いていた。

「そうか。あの通信は傍受されていたのか。だから、君たちは、ここに気が付いたのだな?」

 皆が、先程の若い男に注目していた。

「このヤーソン少尉が、我々に隠れて勝手にやったことだ」

 ヤーソンと呼ばれた若い男は、暗い表情で話始めた。

「お、俺は……。時々シュルツ大佐に連絡を取ろうとしていたんだ。いつか、俺たちを迎えに来て貰えると信じて、銀河方面軍の基地に連絡をしていた」

「シュルツ大佐?」

「かつて、ここの指揮官だったザルツ人の仲間だ。今どうしているか、わしも気にしている。基地司令部と共に亡くなってしまったのかも知れぬがな。君は何か知っているかね?」

 山本は、本当に知らなかったので、首を振った。

「そうか。無事だといいのだが……」

 その時、基地に大きな揺れがあった。

「な、何だ? 何が起こっている?」

 揺れは収まらず、暫くの間続いていた。

「この揺れは……」

「うむ。惑星間弾道弾が発射されたようだ」

 山本は、目を見開いた。

「え……?」

「ガミラス人のガリア少佐は、ここが発見された以上、たった一人でもテロンと戦うつもりなのだろう」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

孤独な戦争7 孤独な戦い

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「孤独な戦争」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」の続編になります。


 その頃――。

 

 主力戦艦ムツは、遊星爆弾が自艦に向かって飛来してくるのを捉えていた。

「照準よし!」

「自動追尾設定完了!」

 ムツは右舷に主砲を向け、遊星爆弾を自動追尾していた。砲身が、遊星爆弾の動きに合わせてゆっくりと向きを変えていた。

 井上は、十分に引き付けた、と判断して砲撃を指示した。

「撃て!」

 第一主砲、第二主砲が一斉に火を吹いた。ショックカノンから発射された光跡が螺旋状となって軌跡を描き、真っ直ぐに遊星爆弾に向かっていった。

 遊星爆弾は、一瞬で粉々になり、宇宙に細かな破片が散らばった。

「数分後に、次がくるぞ。続けて主砲発射用意!」

 

 ヤマトでは、新米が古代に報告していた。

「センサーが、冥王星の地表から、高エネルギーの物体の飛翔を確認」

 雪も、すぐにレーダーで捉えていた。

「冥王星から物体が多数飛来して来ます! 大型ミサイルと思われます!」

 スクリーンに映った山南と作戦会議をしていた古代は、それを中断して反応した。

「まさか、惑星間弾道弾か? そんなものが、まだあったのか!?」

 山南もそれを捉えていた。

「おい、不味いぞ。ずいぶん数が多い」

 雪が、続報を伝えた。

「惑星間弾道弾、地球への衝突コースです! 計十基確認しました!」

 古代は、その数に驚いていた。

「十基だと!?」

 山南が、スクリーン越しに指示を出した。

「古代、俺たちで撃ち落とすぞ。全艦戦闘配置、主砲発射用意!」

「了解! 主砲、副砲発射用意!」

 ヤマトでは、北野と南部が慌ただしく準備を始めた。

「全砲門開け! 目標、惑星間弾道弾」

「太田! ヤマトの右舷を惑星間弾道弾の方へ向けろ。全砲門の一斉射で撃破する」

「了解!」

 太田は、ヤマトの両舷のスラスターを噴射して、艦体をゆっくりと回頭させた。同時に、アンドロメダも同様に右舷を向けた。

「主砲、副砲、中央の一基に照準」

「自動追尾設定しました!」

 山南から一斉砲撃開始、の通信が入り古代は、即座に指示をした。

「砲撃開始!」

「砲撃を開始します!」

 ヤマトとアンドロメダは、同時に全砲門を一斉に発射した。

 ショックカノンが命中した惑星間弾道弾は、その巨大な弾頭に穴が開き、それが大きく広がった。そして、大爆発を起こし、宇宙空間に巨大な二つの火の玉が生まれ、辺り一面を明るく照らした。

 雪は、残りの惑星間弾道弾の動きを捉えて報告した。

「残り八基の惑星間弾道弾は、速度を上げて本艦とアンドロメダの近くを通過します」

「現在自動追尾中! 通りすぎたところを更に砲撃します」

 惑星間弾道弾は、その巨体を揺らしてアンドロメダとヤマトの周囲を通過していった。それに合わせて、艦の左舷に砲塔が回転して照準を合わせていた。

「撃て!」

 再び二隻の全砲門が火を吹き、更に二基の惑星間弾道弾を撃破した。

 山南は、マイクを掴んでナガトに連絡した。

「大村! 惑星間弾道弾が多数地球へ向かった。これより、本艦とヤマトはこれを追う! 遊星爆弾の対処はお前たちに任せたぞ」

「了解しました!」

 アンドロメダとヤマトは、惑星間弾道弾の後を追った。

「速度が早い。何としても追い付け!」

 アンドロメダの戦術長が進言した。

「山南司令! ここは、拡散波動砲を使用しませんか?」

 彼の提案に、山南は渋い顔をして呆れていた。

「お前、さっきの試射の時の古代の話を聞いてなかったのか? 軽々しく波動砲を使う、などと言うもんじゃない!」

「は、はぁ。申し訳ありません」

 彼はあまり納得していないようだった。無事に帰ったら説教が必要だな、と山南は考えていた。

 そこへ、古代から連絡が来た。

「私からの提案です。小ワープで惑星間弾道弾の側面に出て並行に航行し、一つ一つ撃破して行ってはどうでしょうか?」

山南は頷いた。

「よし、それで行こう!」

 

 冥王星のガミラス軍基地では、モーガン大尉らと、山本が連れだって、地下通路を歩いていた。

 モーガン大尉らがいた場所は、氷海の海岸の地下に建設された居住区だった。その居住区は、地下を通じて氷海の海底基地司令部の設備へと繋がっており、完全に地下に埋没していたことが、地球連邦防衛軍の調査で発見されずに済んだ理由だった。基地司令部がある海底には、反射衛星砲の砲台があった。そして、海岸の周囲の地下には、惑星間弾道弾のミサイルサイロが設けられていた。

 山本を撃墜した高射砲台も、普段は地下に格納されていた。それは、今、彼らが歩いている通路の分かれ道の先にあった。外部の出入口も、その砲台と一緒に設置されているようである。

 一行が進む地下通路は、かつては動く歩道になっていたようだが、動かなくなってかなり時間が経っていた。通路の床は所々割れており、壁面の装飾板も剥がれ落ちている箇所が見られた。明かりも乏しく通路は暗かった。誰も修理しなくなってから久しいのだろう。

 彼らは、ようやく海底基地に繋がる大きな扉がついたゲートに到着した。モーガンは、壁に取り付けられたインターホンのような装置に呼び掛けた。

「ガリア少佐、モーガンだ。開けてくれんか」

 暫くの間があり、辺りは沈黙に包まれた。

「恐らく、テロン軍の艦隊を攻撃するのに忙しいんだろう」

 山本が不思議そうに質問した。

「あなたたちは、ここへ自由に出入りが出来ないのか?」

「我々は、君らテロン人に見つからないように、隠れている必要があった。基地の設備を誤って使うと、発見される恐れがあるため、ガミラス人のガリア少佐が管理している。我々は、彼の許可があった時しかここには入れんのだ」

 そうすると、あの居住区の狭い区画に何年もの間とじこもっていたことになる。さぞや不自由だっただろうな、と山本は考えていた。

 ヤーソン少尉が、ポケットから何か取り出していた。

「通信設備もこの中だ。俺は目を盗んで、通信機を使っていた。このカードキーがあれば、中に入れる」

 イリア少尉は、それを見て呆れていた。

「いつの間にそんなもの……」

「ガリア少佐に、基地の設備の修理を依頼された時に盗んだんだ」

 

 基地司令部では、ガリア少佐が、たった一人で、反射衛星砲や、惑星間弾道の発射操作を行っていた。

 彼は、司令部にある一台の火器管制用端末の前に座り、懸命に操作をおこなっていた。惑星間弾道弾を発射し終わり、テロンの艦隊が遠ざかるのを確認して、一息入れていた。

「こ、これで、暫くは大丈夫だろう……」

 そう呟いたガリア少佐は、背後から人の気配がしたため、突然、驚いて立ち上がった。

 そこには、司令部に入ってきた、モーガン大尉や山本らが立っていた。

 ガリア少佐は、目を丸くしてその場にいた者を見回した。

「お、お前ら、どうやってゲートを開けた? い、いや、その前に、その女は誰だ!?」

 彼は、山本を指差して回答を求めた。

 それを聞いたモーガン大尉が、静かに口を開いた。

「彼女は、テロンの兵士で、あなたが、暫く前に撃ち落とした航宙機のパイロットだ。地表で倒れている所を我々が救いだして連れてきた」

 ガリア少佐は、目を輝かせた。

「お前たち、よくやってくれた! 人質にすれば、我々は助かるかもしれないぞ」

 そう言いつつも、彼は山本の様子を見て、疑問を感じていた。

「何故、この女を拘束していない?」

 モーガン大尉は、ゆっくりとガリア少佐の前に進み出た。

「彼女を拘束する必要はない」

「何を言っている?」

「彼女から、この数年間に、外で何が起こったのか聞いた。もう隠れたり、戦ったりする必要はなくなったのだ」

「どういうことだ?」

「ガリア少佐、戦争は終わったんだ。テロンとガミラスは友人になった」

 彼は、あまりにも荒唐無稽な話で、呆気に取られていた。

「その話、この女から聞いたのか?」

「そうだ」

「お前は信じるのか? これが、罠だとは思わないのか?」

 モーガン大尉は、頷いた。

「信じて良いと思う。わしらは、帰れるんだ」

 ガリア少佐は、目を閉じて何か考えているようだった。

「悪いが俺は、そんなにお人好しじゃない。まずは、銀河方面軍司令部のゲール少将に確認する!」

 ヤーソン少尉は、それに反論した。

「銀河方面軍司令部は、いつまでたっても応答しない。確認なんか出来るものか!」

 ガリア少佐は、訝しげな表情でヤーソン少尉を見つめた。

「何故、それを知っている」

 ヤーソン少尉は、叫んだ。

「勝手に通信機を使わせてもらった。何度やっても誰も応答しない!」

「勝手に中に入ったな? 貴様のせいで、テロン軍に発見されたに違いない!」

 ガリア少佐は、銃を取り出して、ヤーソン少尉に向けた。

 それを見た山本は、慌てて口を挟んだ。

「銀河方面軍は、ガミラス軍の再編に伴って、既に撤退したと聞いている。それから、そのゲール少将だが、私の情報では、デスラー総統と旅に出て、この天の川銀河の中心部へ向かったそうだ」

 ガリア少佐は、驚いて山本を見た。

「銀河方面軍が撤退した? デスラー総統が、この銀河系に来てるだと? いい加減なことを言うな!」

 そして、彼は今度は山本に銃を向けて言った。

「いいだろう。友人となったという証拠に、我がガミラスの責任ある立場の者を連れて来い。それまでは、お前は人質として扱う!」

 山本は、それを聞いても無表情だった。

 ガリア少佐は、再び彼らに促した。

「拘束しろ! 同胞と話をしてから、帰国するかどうかは決める!」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

孤独な戦争8 接触

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「孤独な戦争」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」の続編になります。


「こちら山本二等宙尉。現在、ガミラス冥王星基地の生存者、ガリア少佐らに囚われ、拘束されている。彼らは、既に戦争が終わり、地球とガミラスが同盟を結んだという説明に納得しなかった。我々地球人との徹底抗戦の構えをしている。我々を信用し、これを撤回するには、ガミラス人の責任ある立場の者との会談が必要だと要求している。それが果たされるまで、私は解放されないそうだ。速やかに、彼らの要求を叶えることを望む。以上」

 ガリア少佐は、通信機のマイクをオフにした。山本は、彼の顔を不快そうにして窺った。

「こんな内容でよかったのか?」

 ガリア少佐は、頷いた。

「十分だ。返答あるまで、下がってお前は静かにしていろ」

「ふん」

 山本は、不満そうにしていた。彼女の手首には、手錠がはめられていた。通信機から離された山本の周りには、モーガン大尉らが集まっていた。

「不自由な思いをさせてすまん。この星系に、ガミラス人は本当にいるのかね?」

 山本は頷いた。

「彼の要求に相応しい人物がいる」

「そうか……。早く来てくれればよいが」

 果たして本当に来てくれるだろうか、と山本は少し心配もしていた。もし、来るとすれば、半年前のガミラス艦の乗っ取り事件の時に出会ったガゼル提督が恐らく来るだろう、と予想していた。あの事件の救出作戦後に少しだけ話したが、豪胆な態度で信用できる人物だと彼女は好印象を持っていた。メルダも、父親の友人だった為か、彼には頭が上がらないようだった。

 山本は、彼らザルツ人の面々を眺めた。皆、疲れきっており、痩せ細っている。恐らく、備蓄していた食糧が底をついているのだろう。太陽系内の侵略や、遊星爆弾による地球攻撃の実行部隊だったとは言え、強制的に従軍したという彼らの告白を聞き、山本は複雑な思いだった。ここで起こったガミラスとの戦争で、両親や、兄明生を失ったことは忘れることは出来ない。にもかかわらず、彼らも、あの戦争の犠牲者だったのだ。そう自分に言い聞かせ、無理にでも納得しようと努めるしかなかった。それでも、もしかしたら兄の死の原因を作った者が、この中にいるかもしれない。そう思うとやるせない気持ちになっていた。

 山本は、小さくため息をついて、気持ちを切り替えようとした。

「みんな、国に帰れたらどうするんだ?」

 山本は、ザルツ人たちに尋ねた。モーガン大尉は、少しだけ優しい目をして言った。

「わしは、もう退役する歳になってしまった。引退して、孫の面倒を見るのを生き甲斐とするかな」

 その話に、他の三人も乗ってきた。イリア少尉は、少し遠くを見る目で話し出した。

「私も、家族に早く会いたい。あと、ノランがどうしてるか心配。今どうしてるかな。ゾラン中尉も心配ですよね?」

 ゾラン中尉と呼ばれた中年の男は、嬉しそうに笑っていた。

「まぁな。ノランは俺の息子なんだ。イリアより年下だが、息子は小さい時から家族ぐるみで仲良くさせてもらっている。あいつが成人して軍に入ったという報せを、国を出るときに聞いた。その後、立派に任務をこなしているか、戻ったら沢山話をしたい」

 ヤーソン少尉は、皆に言った。

「俺は、戻ったらガミラス人の連中に言ってやりたい。こんな辺境の地で見捨てられて、どんな思いをしていたか、世間に訴えるんだ」

 イリア少尉は、また彼のことを呆れた顔で見ていた。

「あんたは、会いたい家族とか、恋人とかいないの?」

 彼は、イリア少尉に見つめられて、少し照れたように目を反らした。

「こ、恋人なんていない。家族とかもどうでもいい。俺は、出来れば、もう一度シュルツ大佐に会いたい」

 その一言で、皆んな、押し黙った。彼らにとって、かつてこの基地の司令官だった男は、ずいぶんと慕われていたらしい。

 

 ちょうどその頃、遊星爆弾の飛来が終わり、迎撃をしていた主力戦艦ナガトとムツは、山本からの通信を傍受していた。大村は、艦の通信長に依頼して、冥王星から遠く離れてしまったアンドロメダに、亜空間通信で呼び掛けた。

「山南司令、冥王星基地が、コンタクトをとって来ました。撃墜されて安否が不明だった山本二尉が通信で呼び掛けて来ております。彼女は人質になっているようです」

 少し遅れて、スクリーンに山南と古代が映った。

「人質だと? 困ったことになったな……」

「ええ。しかし、山本が無事だったのは、本当によかった」

 古代は、安堵の表情を浮かべていた。

「彼らは、やはり終戦を知らなかったのか?」

「はい。山本二尉の連絡では、間違いないようです」

「なるほど。それで? ガミラス人の偉いさんを呼べと?」

「はい」

「こっちは、惑星間弾道弾の始末が、たった今終わった所だ。今からそっちに戻る。土方総司令に先程確認したら、地球にいたデスラー大使の護衛艦隊は、既に地球を出て冥王星に向かっているそうだ。あの大使が、直々に来てくれるそうだ。大使が話せば、この件はすぐに解決しそうだな」

「そうですね」

「だと、いいんですが……。私は、山本が少々心配です」

「まぁ、俺たちも刺激しないように、少し大人しく待とう。穏便に済むのに越した事はない」

 

 ヤマトでは、安否が不明だった山本が無事だったことと、人質になっているという情報が艦内を駆け巡った。

「隊長、俺、第一艦橋に顔出してもいいかな?」

 航空隊の待機所では、報せを聞いた篠原が心配そうにしていた。加藤は、その申し出を考えていた。

「そうだな。俺たちの出番は一旦無さそうだ。俺も心配だから、一緒に上に行くか」

 

 その頃――。

 

 ランハルトを乗せたガミラス護衛艦隊は、一路冥王星を目指していた。

「目的地は、エッジワース・カイパーベルトと呼ばれる小惑星や天体群のある宙域です。ワープで進めるのは、ここらが限界でしょう。通常空間を行きます」

 戦闘空母ダレイラのバルデス艦長が、ランハルトに説明していた。

 ランハルトは、黙って頷いた。

「艦長! 地球艦隊から入電。ガミラス冥王星基地に、我軍の未帰還兵が残留していることが判明しました。また、地球人の航空隊のパイロットが人質になっています。彼らは、我々の高官との対話を要求しているとのことです」

 バルデス艦長は、彼から詳しい説明を聞いて、ランハルトとガゼル司令に報告した。

「聞いての通りです。大使に来てもらったのは正解だったかと」

 ガゼル司令は、ランハルトに見えないように苦笑いしていた。

「そうだな。お手並みを拝見させて貰おう」

 ランハルトは、ガゼル司令の嫌味が聞こえていたが、彼をひと睨みしただけで、それについては何も言わなかった。

 ガミラスと地球との間の友好関係に関わることだと言うのに、軍人という奴は、何も分かっていない。

 彼は、心の中で悪態をついた。

「地球人との間に、これ以上の軋轢が起きないようにするのは、俺の最優先の仕事だ。俺に任せてくれ」

 ランハルトは、艦橋の窓の外を眺めながら、冥王星で、どのように話しかけるべきかを考えていた。

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

孤独な戦争9 帝国の残滓

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「孤独な戦争」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」の続編になります。


 数時間後――。

 

 ヤマトとアンドロメダ艦隊は、冥王星近傍の宙域へ戻り、ナガトとムツと合流していた。それから程なくして、ランハルトを乗せたガミラス護衛艦隊も、戦闘空母ダレイラとガミラス駆逐艦二隻を伴って合流した。

 空母ダレイラとアンドロメダの間では、通信回線を開いて状況確認をおこなった。

「山南司令、今回の一件は、我がガミラス軍の管理上の問題だ。ここに、正式に謝罪をさせて頂きたい。貴国の兵が人質とは言え無事だったのは不幸中の幸い。貴殿の許可を頂ければ、ここからは、我々が問題解決に善処したい。これから、デスラー大使が冥王星基地に呼び掛けを行う」

「承知した。よろしくお願いする。くれぐれも、人質の生命の安全を優先して欲しい」

「もちろんだ」

 山南とガゼル司令は、それぞれの艦隊の責任者として、今後の動きを確認していた。

 そして、そのやり取りで双方の軍が合意したことを受け、空母ダレイラの艦橋では、ランハルトが通信機のマイクを掴んで、今まさに呼び掛けを行おうとしていた。

 

 冥王星基地でも、ガミラス艦隊の到着を監視衛星の映像で確認していた。ガリア少佐は、それに酷く驚いていた。

「本当にガミラス艦隊が来た……! では、戦争が終わったというのは、本当だったんだな?」

 彼は、山本を振り返って確認した。

「だから、さっきから言っているだろう。私は嘘はついていない」

 そこに、音声による通信が入ってきた。ランハルトからの呼び掛けが始まったのだ。

「ガミラス冥王星前線基地の諸君。私は、ガミラスの地球駐在大使のランハルト・デスラーである。地球……いや、テロンと我がガミラスとの戦争は、既に数年前に終結した。ガミラス政府は、彼らと和解し同盟を結んだ二国の友好の証として、テロン本星に大使館を設けることになったのだ。その大使の任を受けたのが、この私だ。諸君は、先の戦争で全滅したとの誤認があったのは事実だ。この宙域での責任者である私から、諸君に謝罪させて欲しい。何も心配することはない。今すぐに人質を解放し、そこから出て来て欲しい」

 ガリア少佐は、呼び掛けてきた男の名がデスラーと聞いて恐慌を起こしていた。

「で、デスラー……だと!?」

 山本も、デスラー大使が直々にやって来たのに少し驚いていたが、ガリア少佐のために補足をすることにした。

「ガリア少佐。彼はデスラー総統本人ではない。血縁ではあるようだが」

「血縁だと!?」

 地上で、そのようなやり取りがあったことを知るよしもないランハルトは、更に話を続けた。

「ガミラス政府として、これまでの君たちの忠誠に心から感謝する。先程私も、君たちが未帰還兵だというのを確認した。もう戦争は終わった。君たちは国に帰れるんだ。我々の艦隊が、君たちを故郷に送り届けると約束しよう」

 それを聞いたモーガン大尉たちは安堵した。

「ほ、本当に帰れるんだ」

「本当によかった……もう二度と、祖国の地は踏めないと考えていたよ」

 そんなやりとりを横目に、ガリア少佐の表情は冴えなかった。彼は、不安げな様子のまま、通信機のマイクをオンにした。

「……こちらは、冥王星前線基地司令官のガリア少佐だ。生存しているガミラス人は私だけだ。他に、ザルツ人の義勇兵が四名いる」

 ランハルトは、それに応えた。

「なるほど、了解した。人質も入れて六名ということだな? 今から迎えのシャトルを出す。少し待っていたまえ」

 ガリア少佐は、大きな声で言った。

「待ってくれ!」

 通信機の向こう側のランハルトは、暫し沈黙した。

「……どうした?」

 ガリア少佐は、堰を切ったように話し出した。

「戦争が終わったというのも、テロンと同盟を結んだというのも、あなたの話で信用した。しかし……我々は、ここでのテロン侵攻作戦の任務に失敗した。本星に戻ったら、その責任を問われて投獄され、結局は処刑される運命が待っているだろう。俺は、そんなのは御免だ! 俺たちの身の安全を保証してくれない限り、ここから出ていく気はない!」

 再び、ランハルトが少し沈黙した。

「……なるほど。それでは、少し補足してやろう。我がガミラスは、デスラー政権が既に崩壊して、政権も体制も様変わりした。もはや、軍事独裁政権ではない。今は、民主主義国家に生まれ変わり、君が心配しているようなことは、人道的な観点からも、現政府は絶対に行われないと約束しよう。君たちは、戻ったら歓迎され、何らかの優遇処置を受けられると思う。私がそのように、大統領に掛け合ってやろう」

「……民主主義国家? 大統領? 何だか言っていることが、全く信用出来ない。騙して、連れ帰って投獄する気だな?」

 今度は、ランハルトの沈黙が長引いた。

「ならばわかった。今から私がそちらに行く。直接話せば、君にも分かってもらえるだろう。少し待っていろ」

 その時、唐突に通信が切れた。

「お、おい! ……くそっ」

 ガリア少佐は、恐怖で体が震えていた。

 その様子を見たヤーソン少尉は、はっと気がついた。

「そうか、わかったぞ。お前は、懲罰が怖くて、俺たちに外に連絡させないように、ここに入るのを制限していたんだな!?」

 ガリア少佐は、それを聞いて、恐怖心を抑えて静かに説明した。

「……そうだ。お前たちは、デスラー総統の恐ろしさを知らないからだ。作戦失敗で帰還して処刑された奴を、俺は、何人も見てきた。お前たち二等ガミラス人だって、罰を受ける立場は変わらんのだぞ」

 ガリア少佐は、まだ震えが止まらないようだった。ヤーソン少尉は、それ以上追及するのを止め、言われた言葉の意味を考えていた。

「奴が間違っているとしたら、俺たちは、無駄にここに閉じ込められていたことになる……!」

 

 その頃、空母ダレイラでは、ガゼル司令がランハルトに抗議していた。

「大使本人が行くなどあり得ない。あなたに何かあったら、責任を問われるのは私なんだぞ! 勝手な行動をしないで頂きたい」

 ランハルトは、怪訝な表情でガゼルを眺めた。

「あの様子では、俺が直接行って話すしかあるまい。あなたに代わりに行ってもらっても構わないが、あの様子では、軍人のあなたが行くのはあまり得策とは言えない気がするのだがな」

 ガゼル司令は、そう言われて言葉に詰まった。彼は、確かに一理あると考えていた。

「ならば、護衛をつけさせてくれ」

「必要ない。彼らを更に警戒させるだけだ。すぐに彼らを乗せられるだけの大きさのシャトルの発艦準備をしろ!」

 ガゼル司令は、ランハルトを忌々しげに睨み付けた。

 ランハルトは、そんなガゼルを無視して、艦橋を出て階下の艦載機格納庫に向かって行った。

 艦載機格納庫まで降りたランハルトは、発艦準備を進めるシャトルに向かった。そこには、彼の秘書のケールがにこやかな笑顔で待っていた。

「連れては行けないからな」

 ケールは、残念そうな表情に変わった。

「どうしても駄目ですか?」

「駄目だ。危険だ」

 ケールは、暫し考え込んでいた。

「では、大使。せめて話を聞いて下さい」

「なんだ」

「はっきり申し上げて、悪いことが起こる予感がします。くれぐれも、お気を付けて」

 ランハルトは、ケールを真剣な表情で見つめた。ケールも笑顔が消えて真面目な表情をしている。互いの心の内を慮り、二人は見つめ合っていた。

「わかった、すまない」

 ランハルトは、ケールに軽く会釈し、踵を返してシャトルに乗り込んだ。

 ケールは、不安げな様子で彼を見送った。

「お気をつけて」

 その後、空母ダレイラから、ランハルトを乗せた一機のシャトルが発艦した。そして、まっすぐに冥王星に向かって飛び、そのまま地表に向けて降下していった。

 

 ヤマトでは、加藤と篠原が第一艦橋に現れた。それを見た山崎は、すぐにそれを咎めた。

「おい、お前たち、待機所で待ってなきゃいかんだろう。緊急で発艦指示を出す可能性だってあるんだぞ」

 古代は、慌てて口を挟んだ。

「山崎さん、すいません。私が許可しました」

 山崎は、渋い顔で古代の方を見た。

「艦長……。皆、山本二尉が心配なのは同じだ。しかし、それでも艦の運用を優先すべきじゃないか?」

 加藤は、篠原と顔を見合わせた。

「ま、機関長の言うとおりだ。艦長、機関長! 俺は戻るから、せめて篠原をここにいさせてやってくれないか?」

 山崎も、それには古代の顔色を窺った。

「ありがとう、加藤。山崎さん、篠原だけは許してやって下さい。一緒に飛んだ僚機が落とされたんです」

 山崎は、渋い表情で、頭をかいた。

「まったく……。艦長、軍の規律を守るには、非情さも必要なんです。私がヤマトを降りることになったら、あなたがその役割を負うんですよ。忘れないで下さい」

 古代は、艦を離れる予定の副長山崎が、自分の甘さを心配しているのが、痛いほど伝わっていた。

「肝に、命じておきます」

 しかし、そんなやり取りも上の空の篠原は、酷く憔悴しきった表情だった。古代は、相原に命じて必要に応じて篠原が通信を受けられるように指示をした。

 

 冥王星に降下したランハルトを乗せたシャトルは、反射衛星砲の発射地点付近に着陸しようとしていた。半ば強引にやって来たランハルトに対して、ガリア少佐は、頭を抱えていた。さすがに、このシャトルを撃墜するような真似をすれば、ただではすまないだろう、ということは、火を見るより明らかだった。

 彼はやむを得ず、シャトルに基地の入口付近となる着陸地点を伝え、モーガン大尉らに命じて迎えに向かわせた。

 

 ランハルトは、迎えのゾラン中尉とイリア少尉に案内され、冥王星基地司令部に着いた。そこでは、ガリア少佐が人質の山本の後頭部に銃を押し付けて身構えていた。モーガン大尉と、ヤーソン少尉は、その山本の脇で立ち尽くしている。

 山本は、本当に大使本人がやって来たのに驚いていた。しかも、護衛も連れず、たった一人で来ていることがあまりにも意外だった。

「そ、そこで止まれ」

 ランハルトは、距離を置いて立ち止まった。

「落ち着け。俺が地球駐在大使のランハルト・デスラーだ」

 ガリア少佐は、ランハルトの顔をまじまじと見た。

 その金髪や表情など、確かにデスラー総統の風情に似たところがある。

 ガリア少佐は、手の震えが止まらず、銃を持った手が小刻みに震えていた。

「あ、あなたは、デスラー総統とはどういう関係なんだ?」

 ランハルトは、少しだけ不快な表情をした。

 また、この名を恐れられている、とランハルトは嫌な気持ちになっていた。これまでも、名を出すだけで、恐れを抱く者達を何人も見てきた。慣れているとはいえ、不快な気持ちになるのは、これまでも、きっとこれからもそうだろう、と考えていた。

 ランハルトは、ガリア少佐を氷のような瞳で見つめた。ガリア少佐は、その目に見覚えがあった。デスラー総統が不快だと思っている時の目にそっくりだったのだ。

「アベルト・デスラー元総統は、俺の叔父だ。だが、叔父はもうガミラスとは縁を切り、何の関係も無い」

 ガリア少佐は、ランハルトがデスラー総統と血が繋がっていることが本当だと知ると、ますます不安な気持ちに拍車がかかっていた。そして、突然、饒舌に話し出した。

「……き、聞いて欲しい。我々の地球侵攻作戦の失敗は、無能な二等ガミラス人のザルツ人、シュルツ大佐とその部下の責任だ。お、俺は、こいつらを監視しに来ただけで、何も責任が無い」

 ランハルトの眉がぴくりとつり上がった。

 ガリア少佐の表情は、恐怖をありありと語っている。

 周囲のザルツ人の士官らは、あまりの発言に呆気にとられていた。中でも、ヤーソン少尉は、ガリア少佐に対して嫌悪感を露にし、彼を睨み付けた。

 ランハルトは、いよいよ機嫌が悪くなっていた。

「……ほう、なるほど。純血ガミラス人だから、軍事裁判で手心を加えて欲しいと言いたいのだな? 二等ガミラス人が全ての責任を取れと」

 ガリア少佐は、明らかにランハルトが怒りを溜め始めたのを感じた。

 言ってはならないことを言ってしまったのだろうか?

 彼の不安は、頂点に達していた。

 ランハルトは、彼の言い分もわからないではないと思い、怒りの感情を抑えた。確かに、かつてのデスラー総統が統治していた時代、そのような恐怖による支配が横行していたのは事実だった。秩序を守るには仕方が無かったとはいえ、デスラー総統が多くのガミラス人に植え付けた根深い恐怖感は、時代の変化を知らずに取り残された彼にとって、今も続く恐怖なのは確かだろう。

 しかし、それでも、二等ガミラス人に罪を擦り付けようとする彼の行為は、とても誉められたものではなかった。平等を謳うバレル大統領の元で、彼もこれまでの行いを考え直す時間が必要だろう。

 小さいため息をついて、ランハルトは再び話し始めた。

「……先程も言った通り、もうガミラスは軍事独裁政権ではなくなった。デスラー総統ももういない。お前が心配するような裁判自体が行われることはない」

 ガリア少佐は、恐る恐る続けた。

「本当なのか? あなたは、俺を騙そうとしているのではないのか? ガミラス人の俺に何も罪は無い。投獄したり、処刑しないと保証して欲しい」

 ランハルトが口を開いて説明を続けようとした瞬間、突然ヤーソン少尉がガリア少佐につかみかかった。

「この卑怯者め!」

 ヤーソン少尉は、ガリア少佐の銃を持った腕を掴んで、そのままもみ合いとなった。

「き、貴様、やめろ!」

「何が純血ガミラス人だ! お前のせいで、俺たちはこんなところで何年も閉じ込められていたんだぞ! 自分だけ助かろうなんて、虫がいいのにも程がある! それに、さっきのシュルツ大佐への暴言を撤回しろ!」

「やめろ!」

 ランハルトは、ヤーソン少尉を止めようと叫んだ。

 周囲のザルツ人たちも、慌ててヤーソン少尉を止めようと動こうとした。

 その時、突然銃声が響いた。

 大声で喚いていたヤーソン少尉が沈黙した。彼の脇腹を、ガリア少佐が放った銃弾が貫通しており、ヤーソン少尉は、ゆっくりとその場に膝をついた。彼は、両手で傷口を押さえるが、その手の指の間から、血が溢れてこぼれ落ちていた。彼は、小さく呻いてその場にうつ伏せに倒れ込んだ。

 それを見たイリア少尉は、悲鳴を上げた。

「ヤーソン!」

 イリア少尉は、彼に駆け寄って、その傷口を押さえた。しかし、その傷口から流れる血は、とてもすぐには止まりそうもなかった。そして、彼が倒れ込んだ床には、おびただしい血液が溢れていった。

「いけない! 早く治療しないと!」

 ガリア少佐は、その場で呆然としている山本に、再び銃を向けた。

「おっ、おい! お前、こっちに来い!」

 ガリア少佐は、山本の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。山本は、向けられた銃口と、今にも発砲しそうな彼の様子を見て、今抵抗するのは危険だと判断した。そして、再び銃が山本の頭に押し付けられた。

 ガリア少佐を囲む人々が、騒然として、皆彼を見ていた。

「ち、近付くな! 俺から離れろ!」

 ガリア少佐は、山本の腕を引っ張って、後退りした。

「貴様……! 馬鹿なことをしたな!」

 ランハルトの氷のような瞳が、ガリア少佐を見つめた。

「う、うるさい! おい、お前、こっちだ!」

 ガリア少佐は、無理やり山本を引きずって、背後のドアを開けた。

「向こう側へ行け!」

 ガリア少佐は山本を連れて、そのドアの向こうへ消えた。

 残された人々は呆然としている。

「あのドアの向こう側に何がある?」

 ランハルトは、モーガン大尉に聞いた。

「反射衛星砲の砲台が設置されている設備へ繋がっている」

「わかった。お前たちは、撃たれた彼を連れてシャトルへ行け。パイロットが待機しているので、彼に言ってすぐにガミラス艦に向かえ!」

 モーガン大尉は、ランハルトに質問した。

「あ、あなたは、どうするんだ?」

 ランハルトは、先程のドアを開けて言った。

「俺は、奴を追う。心配ない。早く行け!」

 ランハルトがドアの向こうに消えるのを見守った彼らは、急ぎ行動を起こした。そして、ゾラン中尉が皆に指示をした。

「あの人の言うとおりにしよう。急いでヤーソン少尉を連れて行こう!」

「はい!」

 イリア少尉とゾラン中尉が、倒れたヤーソン少尉を抱えあげて基地を去ろうとした。しかし、モーガン大尉は、イリア少尉が持っていた銃を拾い上げると、その場を動かなかった。

「わしは、ここに残る。早く、ヤーソン少尉を連れていってくれ」

「モーガン大尉! しかし……」

「いいから行け。さっきのデスラー大使だけでは、危険だ。それに、人質の彼女も助けてやらねばな。心配するな、この年じゃあまり無茶はせんよ」

 

 ランハルトは、ドアを出て、通路を走りながら携帯している通信機を取り出した。

「こちら、デスラー。一人ザルツ人が撃たれた。シャトルでザルツ兵たちを向かわせるので、至急、医療班を待機させてくれ。それから、銃を持ったガミラス人は、人質を連れて逃げた。至急、別のシャトルで何人か兵士を降ろしてくれ」

 

 その通信を受けた空母ダレイラでは、ガゼル司令が渋い顔をしていた。

「言わんこっちゃない。至急、精鋭をシャトルで降ろせ! 爆装した攻撃機隊も至急発艦させ、上空で待機させろ!」

 バルデス艦長が、その命令を復唱した。

「了解。至急、救出部隊を編成して基地に降ろします。攻撃機隊も緊急発艦させます!」

 空母ダレイラからは、攻撃機が次々に発艦し、冥王星基地上空へ向かって降りていった。

 そして、冥王星から上がってきたヤーソン少尉らを乗せたシャトルと入れ替わりに、ガミラス兵を乗せた別のシャトルが発艦し、冥王星基地に向かって降りていった。

 

 その様子を見たアンドロメダに乗る山南は、慌ててガゼル司令に連絡した。

「こちら、地球艦隊司令の山南だ。いったい、何が起こっているのか、我々にも説明して欲しい」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

孤独な戦争10 一触即発

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「孤独な戦争」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」の続編になります。


 ガゼル司令と山南は、スクリーンの映像を通じて会話をしていた。

「デスラー大使が説得に失敗し、冥王星基地のガリア少佐が人質を連れて逃げたようだ。基地にいたザルツ兵が、一人撃たれて重傷を負っている。我々は、これより強襲部隊を送り込み、人質の救出作戦を展開する」

 山南は、怪訝な表情で確認をした。

「なら、あの攻撃機隊は、何の為に発艦させたんですか?」

「残念ながら最悪の事態も考えられ得る。もしも、大使の身が無事でないことが確認された場合、冥王星基地を空爆して、これを完全に破壊する」

 山南は、そのガゼル司令の言葉に衝撃を受けた。そして、最大の懸念を口にした。

「ちょっと待って頂きたい。人質の安全を最優先にして欲しい」

「ガリア少佐の動きによってはどうなるかわからん。我々にとって、最も重要なのは、大使の生命の安全だ。もちろん人質の地球人も助け出すよう努力する。我軍の強襲部隊が、速やかに基地を制圧して解決するだろう」

 山南は、話にならないと呆れていた。

「ガゼル司令。そのやり方では、ガリア少佐を刺激して犠牲者が増えてしまう可能性がある。彼は、戦争が終わったことを知らないだけの戦争の犠牲者だ。これ以上、誰も傷付かずに穏便に解決したい。申し訳ないが、我々も独自の救出作戦を展開させて頂きたい」

「やめて欲しい。我々の作戦の邪魔にならないようにしてくれ。以上だ」

 唐突に通信は切れた。

 山南は、事態の急変に混乱していたが、咄嗟に土方の許可をもらわねばと思い出し、通信長に指示をした。

「地球連邦防衛軍司令部に緊急通信! 急げ!」

 長距離通信は、接続に時間がかかる。山南は、苛立ちながら、通信が繋がるのを待った。

 そして、スクリーンに、ようやく土方の姿が映った。

「どうした、山南」

「土方総司令。冥王星基地の司令官ガリア少佐は、デスラー大使の説得に応じず、基地のガミラス側の兵士に重症者が出る事態となりました。ガリア少佐は、山本二尉を連れて逃げ、デスラー大使自身がこれを追っているそうです」

 土方は、渋い顔になった。

「状況は良くないようだな」

 山南は頷いた。

「ガミラス護衛艦隊のガゼル司令と、この件でつい先程話し合いました。彼らは、この事態に対処する為、基地を制圧する強襲部隊を送り込むそうです。また、その作戦も失敗した場合、空爆して基地を破壊すると通達されました」

「何?」

「ガミラス側は、デスラー大使の生命の安全を最優先で考えており、人質の救助は努力目標のようです。我々は、山本二尉の救助を最優先とし、独自の救出作戦を展開したいと思います。ガミラス側が、人質の安全を無視しようとする場合、我々は彼らを阻止すべく行動を起こします」

 土方は、暫し考えていた。

「いいだろう。救出作戦の展開を許可する。しかし、我々の行動は、ガミラスとの間で、予期せぬ軋轢を生むかもしれん。例え我が方の人質の命を失ったとしても、絶対にガミラスとの交戦は避けなければならない。俺たちは、二度と戦争をしてはならんのだ」

「しかし……」

「俺だって、人質となった山本二尉の身を案じている。だが、お前も、艦隊司令を任された立場なら、大局的な観点からものを考えなければならん。再び戦端を切るような真似を絶対にしてはならん。考えても見ろ。もしも再び戦争になった場合、お前たちの艦隊四隻だけで、ガミラスとの戦いに勝つことは不可能だ」

 山南は唇を噛んだ。

「わかりました。それでも、我々がやれることはすべてやらせて下さい」

 土方は頷いた。

「俺は、お前を信頼している。地球の命運を危険に晒すような真似は絶対にしないと、俺は信じている」

「わかりました」

「俺は、上に報告して防衛会議を緊急で開くよう要請しておく。少なくとも、その判断があるまでは、俺たちから攻撃をするような真似はするな。以上だ」

 山南は、通信が切れると、通信用のマイクを叩き付けた。

「味方が死ぬかも知れないってのに、手を出すなってことですか? 艦隊司令の立場なんて、俺はごめんだ。やれることは、俺の判断ですべてやらせてもらいますよ、土方さん」

 山南は全艦隊に通信を送った。

「諸君、現在の状況は把握しているな?」

 スクリーンに、古代と大村、井上が映っていた。

「はっ!」

「救出作戦の展開が許可された。今なら、冥王星基地は混乱しており、対空砲台は機能しないはずだ。ヤマトとアンドロメダの航空隊を緊急発艦させ、基地上空で待機させろ。至急、ヤマトの乗員から選抜した救出部隊を編成し、冥王星に降ろせ。各艦は、戦闘配置に移行して待機。場合によっては、ガミラス艦隊と一戦交える可能性もある」

 各艦長は驚きを隠せなかった。

「ガミラス艦隊と一戦交えるですって?」

 古代は、山南に確認した。

「最悪の場合に備えるだけだ。我々の目的は、山本二尉を無事に救出し、冥王星基地のガミラス兵を基地から連れてきて穏便に脅威を取り除くことだけだ。それらの目的を、ガミラス艦隊が妨害する場合、そういう可能性もあるということだ。わかったら、至急、指示を実行に移せ!」

「はっ!」

 各艦隊の艦長は、敬礼で応えた。

 

 通信を切った後、古代は艦内通信で指示を通達した。

「全艦戦闘配置! これは訓練ではない! 航空隊は、緊急発艦して冥王星基地上空で待機!」

 通信を切った古代は、第一艦橋にいた篠原に指示をした。

「篠原! 君が中心となって、戦術科と航空隊から救出部隊を選抜して、冥王星基地に降下しろ! 急げ!」

 憔悴仕切っていた篠原は、その命令で目が覚めたような表情をしていた。

「了解!」

 篠原は、第一艦橋から飛び出していった。

 山崎は、艦長席を振り向いて古代の方を見た。

「艦長、いいんですか、彼に任せて」

「篠原は優秀な軍人です。私は彼を信じています」

「本当は、自分で行きたいんじゃないですか?」

 古代は、目を丸くして山崎を見た。山崎はにやりと笑っている。

「行きたいのはやまやまですが……。それは立場上出来ません」

 山崎は、真面目な顔に戻って頷いた。

「賢明な判断です。艦長自ら艦を飛び出して行ってはいけません。部下を信頼して任せるのも、責任者たる艦長の仕事ですからな」

 山崎は、にこやかに笑っていた。古代は、そんな彼に感謝して頷いた。

 

 反射衛星砲の砲台が設置してある場所を目指して回廊を走っていたランハルトに、背後から声をかける者があった。

「待ってくれんか!」

 ランハルトは、立ち止まって後ろを振り向いた。モーガン大尉が、銃を抱えて走って追って来ていた。ランハルトの元へ辿り着いた彼は、息を切らしていた。

「……このまま進んではいけない。侵入者防止の為の設備がこの回廊に設置されている」

 ランハルトは、それを聞いて周囲を見回した。

「助かる。それは危ないところだったようだ」

 ランハルトとモーガン大尉は、連れだってゆっくりと歩いて進んだ。そして、おもむろにモーガン大尉は、壁に隠されていた蓋を開けると、内部のパネルを操作した。

「これで大丈夫だ。壁に張り巡らせた電磁バリアがあり、侵入者を感電させる仕組みだ」

 彼らが少し進むと、回廊の終端にドアがあった。モーガン大尉は再び壁のパネルを操作した。

「このドアの向こう側が、反射衛星砲の砲台が設置されている海底の設備だ。冥王星の海は、表面を厚い氷が覆っているが、海底は凍っていない。ドーム上の設備が、海水から砲台を守っている」

 ランハルトは、腰に下げていた銃を抜いた。そして、ランハルトとモーガン大尉は、ドアの左右の壁際に隠れてから互いに頷き、パネルのスイッチを操作してドアを開いた。

 すると、ドアが開いた途端に、中から激しく銃撃された。

 ランハルトは、壁際に隠れながら中に向かって叫んだ。

「お前のやっていることは無意味だ! 今すぐに投降しろ!」

 ドアの向こう側を少し覗くと、そこには、巨大な反射衛星砲の砲台があった。砲台へのエネルギー供給の目的か、太いチューブが幾つも床を這っており、砲台に繋がっている。天井を覆う巨大なドームがあり、その向こう側の海水が照らされてきらきらと輝いている。

 モーガン大尉は、壁際から叫んだ。

「ガリア少佐! 既にヤーソン少尉は、ガミラス艦に運んで治療してもらっている。必ず助かるだろう! デスラー大使を信じて、ここを一緒に出よう。わしらと一緒に故郷に帰ろう!」

 すると、反射衛星砲の影から返事が返ってきた。

「お、俺は、罰を受けてバラノドンの餌になった奴の話を聞いたことがある! そんな死に方はごめんだ! 絶対に帰っても大丈夫ということを証明してもらえないなら、俺は、ここでこの女を道ずれに死ぬ!」

 再び、内部から銃撃が始まった。

「少佐!」

 ランハルトは、モーガン大尉に向かって言った。

「話にならん。どうにかして、力ずくで連れて帰るしかない」

 そこで、ランハルトは何かをふと思い出した。

「む……証明か。なるほど。同胞が信じられないというのなら、奥の手を使うか」

 ランハルトは携帯している通信機を取り出した。

「こちらデスラー。この通信を至急、秘書のケールに繋げ!」

 通信機の向こう側で、何やらやり取りが聞こえた。

 通信士とガゼル司令との間でひと悶着あったのだろう。

 そして、唐突に通信機の向こうから呼び掛けられた。

「大使。ガゼルだ。いったい何をしておる?」

 ランハルトは、はやる気持ちを抑えて回答した。

「ガリア少佐が逃げたので追っている」

「あなたの要望通り、強襲部隊を編成して冥王星に降ろした。彼らに任せて直ぐ後退してくれ」

「俺は、兵士を数名降ろせと命じただけだ。誰が強襲部隊を編成しろと言った?」

「違ったのかね?」

「ガリア少佐を刺激して、これ以上犠牲者を出してはならない。俺に任せてくれ」

「任せたら、重傷者が出た。だから、私の判断で精鋭部隊を送り込む。部隊はわずかな時間で、基地を制圧出来るだろう。ガリア少佐の生命の保証は出来無いがね」

 ランハルトは、腹を立てて言った。

「そんなことをすれば、人質が巻き添えで死ぬ可能性がある。俺が対処するのを待つんだ」

「駄目だ。そんなことが、あなたに出来るのかね? 我々は、あなたが無事に帰ることが最優先だ」

 ランハルトは、苛つきを抑えながら言った。

「もういい。いいから早くケールを呼べ!」

 じりじりと待ち続けている間にも、銃撃は断続的に続いた。

「お呼びですか!?」

 ケールの笑顔がランハルトの脳裏に浮かんだ。

「お前に頼みがある」

「わかりました! すぐにそちらに向かいますね」

 ランハルトは、苛々としながらケールを諭した。

「来てはいかんと言っただろう。兵としての訓練を受けていないお前は来ても役に立たん」

「……じゃぁ、何でしょう?」

 彼のがっかりした顔が浮かんだランハルトは、益々苛々を募らせた。

「いいから良く聞け。お前に頼みというのは……」

 

 冥王星基地の上空では、ガミラス空母から発艦した攻撃機十機が、五機づつ編隊を組んで円を描いて待機していた。その機体の主翼下部のパイロンには、八基の宙対地ミサイルと二発の宙対宙ミサイルが搭載されていた。

そこに、上空からヤマトとアンドロメダから発艦した航空隊のコスモタイガー十機が降下していった。加藤機を隊長として、ガミラス攻撃機隊の数百メートル上空を、同じように五機づつの編隊で円を描き始めた。コスモタイガーには、宙対宙ミサイルが四基、宙対地ミサイルが二基搭載されており、双方の主たる目的がはっきりとみてとれる。

「こちら加藤、予定の位置に降下し、上空で待機中だ。念のため確認だが、本気でガミ公とやり合うつもりか!?」

 通信を受けたアンドロメダでは、山南が直接回答をした。

「最悪の事態になった場合だ。人質の無事が確認出来ない状況で、ガミラス機が空爆を開始するようなら、攻撃してでも止める必要が生じるかも知れない。だが、絶対に命令するまで発砲は厳禁だ。各機に厳命しておけ!」

「了解!」

 加藤は、編隊を引き連れて飛びながら、全機に命令あるまで発砲厳禁と改めて伝えた。

「冗談じゃないぜ。味方同士で撃ち合うなんて。またガミ公と戦争なんて絶対に勘弁だ。篠原の奴が、早く山本を助け出せるといいんだが……」

 

「バルデス艦長! 冥王星基地上空に、地球艦隊の戦闘機隊が降下しました。我が軍の攻撃機隊の頭をおさえて飛び回っています。彼らの機体は宙対宙ミサイルを多数搭載しております」

 バルデス艦長は、報告を受けて驚いていた。

「ガゼル司令! 地球艦隊は、我々への攻撃も辞さない構えのようです」

「何だと?」

 ガゼル司令は、冥王星基地上空の映像を確認した。

「邪魔をするなと言ったはずだがな」

 ガゼル司令は、苦み走った顔で暫し沈黙した。

「バルデス艦長、今すぐに地球艦隊との砲撃戦が可能な距離を取れ」

「了解! 距離を取ります」

 ガミラス空母と駆逐艦二隻は、一斉に向きを変えて、地球艦隊から離れ始めた。

 

「山南司令! ガミラス艦隊が移動し始めました。我々から離れて行きます」

 レーダー手の報告を受けた山南は、まさかと考えていた。

「ガミラス艦隊、駆逐艦二隻が射程圏ぎりぎりで停船しました。舷側をこちらに向け、駆逐艦の全砲門がこちらに向いています! 空母は、射程圏外で停船しました!」

 山南は、一瞬だけ躊躇したが、全艦隊に通達するため、マイクを掴んだ。

「全艦、砲雷撃戦用意! 命令あるまで発砲してはならん! 繰り返す! 砲雷撃戦用意! 但し、命令するまで発砲してはならん!」

 

 冥王星基地に降り立ったガミラスのシャトルと、ヤマトから降り立ったコスモシーガルから、双方の兵士が宇宙服で向かい合っていた。

 双方、基地の入り口を囲んで睨み合いとなっており、一触即発の状況となっていた。

「テロン軍の兵士に告ぐ! 速やかにこの場を立ち去れ。我々の救出作戦の邪魔だ!」

 篠原は、ガミラス兵のリーダーに向かって呼び掛けた。

「なぁ、味方同士で争ってどうすんの? 人質の安全を第一に考えてくれるんだろうねぇ?」

「我々は、デスラー大使の生命の安全が第一だ。デスラー大使を脱出させた後、人質も当然救助する。しかし、ガリア少佐が大使に危害を加える可能性があると判断した場合、射殺してでも無力化する!」

「冗談じゃない! 穏便に済ませようって考えはないの? おたくら。下手に刺激して山本二尉を危険にさらすようなら、俺たちも黙っちゃいないぜ!」

 

 反射衛星砲の砲座の影では、ガリア少佐と山本が隠れていた。山本は、ガリア少佐のそばにいたが、両腕の手錠が邪魔で、格闘戦を仕掛けるのが、難しい状況だった。しかし、断続的に入り口に銃撃を加えている彼は、注意がそちらに向いており、隙だらけになっていた。逃げるなら、今しかないだろうと彼女は考えた。

 山本は、彼の背後で腕を振り上げると、再び銃撃を始めた彼の後頭部に向かって、思い切り手首の手錠の金属の部分を叩き付けた。

 彼が低く呻いて、銃を取り落としたのを見て、山本は飛び込んで銃を奪おうとした。しかし、ガリア少佐の方が一瞬早く、銃を掴んだため、山本は、体を回転させて横へ転がった。そして、目の前にあった反射衛星砲から伸びる太いチューブの向こう側へと飛び込んだ。

その直後、ガリア少佐は発砲し、銃弾は彼女の足をかすめていった。

「くっ!」

 足に鋭い痛みを感じた彼女だったが、かすり傷だったのを確認してほっとしていた。

 それも束の間、銃弾は、チューブに大きな穴を開けており、その穴からガスが山本に向かって吹き出した。ガスを思い切り吸い込んだ山本は激しく咳き込んだ。

 基地内の問題発生を知らせる警告音声が自動的に流れ出した。

「警告、有毒ガス発生。反射衛星砲室の入口を、一分後に閉鎖します。警告……」

 ガリア少佐は、立ち上がってチューブの影に倒れて咳き込んでいる山本に発砲しようとしていた。

 しかし、入り口の方から銃声があり、銃弾はガリア少佐の腕をかすめていた。

「うわっ!」

 再び銃を取り落としそうになったガリア少佐は、入り口の方を向いた。入口の影から飛び出したモーガン大尉が、走ってこちらに向かって来るのが見えた。

「モーガン! 貴様!」

 ガリア少佐は、慌てて彼に向かって銃を向けて発砲した。銃弾は彼の足に命中し、モーガン大尉はその場に倒れて転がった。

 ガリア少佐がモーガン大尉に注目している間に、同じく入口から飛び出したランハルトは、反射衛星砲の反対側の影に走り込んでいた。ガリア少佐は、慌ててランハルトへ銃撃を加えるが、彼が前方に飛び込んで避けた為、弾は当たらず床を跳ねた。

 ランハルトは、倒れたままガリア少佐に銃を向けて、足を狙って撃った。しかし、弾は当たらず、ガリア少佐はランハルトの方へ更に銃撃を加えた。

「くそっ」

 ランハルトは、床を転がって、反射衛星砲の砲座の影にたどり着き、そこに隠れた。

「警告、反射衛星砲室の入口を十秒後に閉鎖します。警告……」

音声を聞いたガリア少佐は、顔が青ざめた。

「まずい!」

 そして、彼は一目散に入口に向かって走り出した。

「待て!」

 ランハルトは、彼の足を狙って銃撃を加え、それが命中した。しかし、彼は既に入口にたどり着いており、そのまま転がって出ていった。

「……警告、入口を閉鎖します」

 その音声と共に、入口の扉は閉じてしまった。ランハルトは、慌ててその扉に向かって走って行くが、中からは開けられないようになっているようだった。

「開かない、くそっ!」

 ランハルトは、仕方なく辺りを見回した。チューブから漏れだしたガスが、室内に充満しようとしているのがみてとれた。ランハルトは、袖で口と鼻を押さえて、倒れている山本に駆け寄った。チューブから吐き出されるガスが、直接彼女に当たっており、このままでは危険な状態だった。

 ランハルトは、息を止めて、彼女を抱き抱えた。そのまま、出来るだけチューブから離れた隅の方へ連れて行った。

「す、すまない。迷惑をかけた」

 山本は、苦しそうな表情でランハルトに話しかけた。

「気にするな。わびるのは俺の方だ。我がガミラスの者が迷惑をかけた」

「助かったら、礼をさせて欲しい」

「礼など不要だ」

 山本は、吐き気と頭痛が酷く、意識が朦朧とし始めた。

「うう……」

「おい、大丈夫か」

 山本は、抱き抱える彼の姿が霞んで見えなくなっていた。

 

 玲……。大丈夫か?

 

 山本の目には、兄明生の姿が見えていた。

 兄さん……。会いたかった。ずっと……。

 彼女は、兄の胸に顔を埋めて泣いた。

 兄さん、もう少しで会いに行けるよ……。

 明生は、悲しそうな顔をしていた。

 駄目だ。諦めるな。絶対に生きてくれ。

 待って……兄さん……。

 

 明生の姿は、少しづつ遠ざかって行った。

 

「おい、しっかりしろ!」

 ランハルトは、急にしがみついてきた彼女から、徐々に力が抜けていくのを感じた。

「まずい。早く治療しなければ、本当に死んでしまうかもしれない」

 ランハルトは、山本を床に寝かせると、急いで足を撃たれて倒れているモーガン大尉の元に走って行った。

「大丈夫か? あんたのお陰で人質が撃たれずに済んだ。礼を言わせてくれ」

「なあに。わしは、世話になったガリア少佐を助けてやりたかっただけだ。これ以上、罪を重ねないようにな」

 ランハルトは、モーガン大尉の肩を担いで、山本を寝かせている隅の方へと連れていった。

「それにしても、あのドアは、外からしか開かん。わしらも、このまま有毒ガスが充満すれば助かるかどうかわからなくなってしまった」

 ランハルトは、彼に向かって少し微笑んだ。

「先程、奥の手を使った。うまく行けば間もなく事態は解決するはずだ」

 モーガン大尉も微笑んだ。

「だといいが。誰もこれ以上傷つかずに、祖国に帰りたいものだ……」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

孤独な戦争11 謀略の結末

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「孤独な戦争」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」の続編になります。


 ガリア少佐は、撃たれた足を引きずって、冥王星基地指令部の部屋に戻っていた。

 既に、ザルツ人たちは去った後のようで、誰も指令部には居ない。床に、ヤーソン少尉を撃った時に出来た血溜まりがあり、自分がやったことの証拠が残っていた。

 ガリア少佐は、痛みを堪えながら、端末を操作して、周囲の状況を確認した。レーダーの表示によれば、基地上空に二十機もの航宙機の反応があり、地球艦隊とガミラス艦隊の機体が入り乱れて飛んでいた。基地の入り口の監視カメラの映像では、地球人とガミラス人の兵士が、何やら揉めている様子が映っていた。

 ガリア少佐は青ざめて、まずは基地の入り口が開かないようにロックすることにした。そうしてから、通信機をオンにして呼び掛けた。

「こちら冥王星基地のガリア少佐だ。基地の入り口の兵、及び上空を飛行する航宙機を退かせろ。こちらは、既にテロン人の人質だけでなく、ガミラス人の大使も捕らえている。速やかに、基地の周囲から離れなければ、彼らの命の保証は無い」

 

 ガリア少佐の通信を受信した空母ダレイラでは、バルデス艦長が、ランハルトの通信機に呼び掛けて状況を確認していた。

「その通信は本当だ。俺と地球人の山本二尉、そして基地の兵士のモーガン大尉と共に、反射衛星砲の砲台設備の室内に閉じ込められている。銃撃戦によって、有毒ガスが発生し、入口が閉鎖されて閉じ込められている」

 バルデス艦長は、慌ててガゼル司令を呼び寄せた。ガゼル司令は、青ざめて通信に返答した。

「……大使。怪我はないのか? 有毒ガスというのは、大丈夫なのか?」

「俺は無傷だ。有毒ガスが室内に充満するまで、もう少し時間がかかるだろう。俺とモーガン大尉は今のところ大丈夫だが、山本二尉はガスを大量に吸い込んだ為、体調が悪化して意識を失っている。非常に危険な状態だ」

「わかった。テロン艦隊が我々の作戦の邪魔をした為、部隊の突入が遅れている。奴らを排除するのでもう少しだけ待っていろ」

「排除? 何を言っている。地球人と揉め事を起こしてはならん。この事件を出来るだけ穏便に解決するんだ」

「我々は、あなたの生命の安全を確保するのが任務だ。それを妨害する要素は当然排除する。それが同盟国であったとしてもだ」

 ランハルトは、何をばかなと思ったが、横で倒れている山本の体調が取り返しがつかなくなる前に、急いで脱出する必要があるのは間違いがなかった。

「仕方がない。それは了解した。だが、あと十分待て。それでも解決しなければ、部隊を突入させてくれ」

 ガゼル司令は、首をひねった。

「その十分とは、いったい何の時間だね?」

 

 先程ランハルトの指示を受けたケールは、シャトルを飛ばして既にヤマトに到着していた。デスラー大使の緊急の指示だと彼は伝えて、急ぎ第一艦橋に上がっていた。

「雪さん! お久しぶりです! お元気でしたか?」

「ケールくん!? どうしたの一体」

 ヤマトのスクリーンには、ガミラス艦隊が映っており、双方が砲門を向ける事態となっていた。

「何だか、ちょっと危ない状況みたいですね」

 古代は、ケールと雪に話しかけた。

「その通りだ。今、我々とガミラス艦隊は救出作戦の方針を巡って対立している。君は確か、大使の秘書のケールさんと言ったね? 一体何の用があるのか、手短に説明してくれ」

 ケールは、にっこりと笑うと、これからいたずらする子供のような顔で、古代と雪に説明した。

「はい。この事態を穏便に、かつ一瞬で解決する大使の秘策があります」

 ケールは、手に持っていた布を広げて見せた。それは、イスカンダル人の衣装だった。

 それを見た古代と雪は、目を丸くしていた。そして、雪は苦笑いしながら、恐る恐る聞いた。

「それって……まさか……またやるの?」

「はい。今すぐにこれを着て、冥王星基地だけでなく、ここにいる全員に呼び掛けて下さい。時間がありません。すぐにお願いします!」

 古代は、嫌がる雪を懸命に説得して、大急ぎで準備を進めた。

「準備が出来ました!」

 相原が、ここにいる全員に映像通信が受領出来るよう、全チャンネルをオープンにした。

「わかった。森船務長、準備は整ったな。通信を開始しても大丈夫か?」

 彼女はいたたまれない様子で、ケールに渡された衣装を着て、艦橋の中央に立っていた。雪は、古代を振り返って、恨みがましい表情で彼を睨んだ。古代は苦笑して、両手を動かして、早く始めるように促した。その横にいるケールもにこにこと笑って同じジェスチャーをしていた。

 半ばやけぎみになった雪は、役になりきって言った。

「始めなさい!」

 

 ガリア少佐は、映像通信が入って来ているのに気がついた。怪訝な表情をした彼は、通信機を操作して、指令部のスクリーンにそれを映し出した。

 そこに映っていたのは、一人の女性だった。

「ま……まさか、この人は……」

 スクリーンに映る女性は瞳を閉じて黙って立っていた。そして、ゆっくりと目を開けると、おもむろに口を開いた。

「私は、イスカンダルのユリーシャ。今すぐに、争いをお止めなさい」

 

 その通信は、全チャンネルで呼び掛けられた為、ガリア少佐だけでなく、冥王星基地の救出部隊の者たち、上空を飛ぶ戦闘機のパイロット、そして、地球艦隊やガミラス艦隊にも届いていた。

 空母ダレイラのガゼル司令とバルデス艦長も、それを見て驚愕していた。

「ユリーシャ様だと!? 彼女は、前に我々の艦隊がイスカンダルに送り届けたはずだ。それがどうしてここに……?」

「……司令、あの映像は、ヤマトから発信されています」

「ヤマトから? 一体、どういうことなんだ?」

 アンドロメダの山南にだけは、古代からの緊急連絡で事前に通告があり、これから起こることを知らされていたが、それでもこの威厳ある女性の姿に息を飲んでいた。

 映像に映る女性が、そこにいた全艦隊に呼び掛けた。

「皆さん、今すぐに、矛をお納めるのです。地球とガミラス、そして私たちイスカンダルも、皆、友人です。今こそ、信じ合い、愛し合う気持ちを思い出して下さい」

 ガゼル司令は、疑問を抱きながらも、イスカンダル人の意向に逆らうべきでないと判断した。

「全艦、地球艦隊への戦闘体制を解除しろ。砲門の照準も外すのだ」

 ガミラス艦隊の駆逐艦の砲門が、一斉に前を向いて地球艦隊を照準から外した。

 それを受けて、山南も全艦隊に同様の指示を出した。

 映像の女性は、その様子を確認して頷いた。

「皆さん、ありがとう。冥王星基地のガリアさん。わたくしの話を聞いてください」

 ガリア少佐は、自分の名前が呼ばれたことに驚き、自分の耳を疑った。

「あなたや、あなたと共にいた人々が、戦争が終わったことを知らずにここに留まっていたことを聞きました。とても辛かったでことでしょう。しかし、もう大丈夫です。あなたが恐れるデスラー総統はもうガミラスを去りました。新たなガミラスのリーダーが国を治め、民主化されて生まれ変わったのです。わたくしたちと一緒に故郷へ帰りましょう。あなたの苦難に満ちたここでの体験を皆に話し、語り継ぐのです。二度と、あなたのような苦しみを繰り返さぬよう」

 それを聞いたガリア少佐は、その目から涙が溢れていた。苦難に満ちたここでの体験、と言われ、この数年の間の出来事を思い出していた。ここに留まっている間中、地球人を恐れ、デスラー総統からの処罰を恐れ、必死に存在を隠してきた。ヤーソン少尉のような部下に反感を買っていたことも、彼にとっては長い間の重圧だったのだ。

 ガリア少佐は、恐る恐る通信機のマイクをオンにした。

「ユリーシャ様……。温かいお言葉、感謝致します。私は、ガミラスへ帰ってもいいのでしょうか?」

 映像の女性は、優しげな微笑をして頷いた。

「何も心配はいりません。私を信じて頂けますか?」

ガリア少佐は、高貴なイスカンダル人を疑っていると思われたと思い、慌てて返事をした。

「とんでもない、もちろんです! 私は、皆さんにご迷惑をお掛けしました。すぐに武器を捨てて投降します!」

 

 

 それから少し後――。

 

 ガリア少佐は、ガミラス兵に連れられて、シャトルに乗せられていった。

 基地の内部に入った篠原たちは、反射衛星砲室の入口の扉を開放し、山本とランハルト、そしてモーガン大尉を助け出していた。

 山本を抱き抱えていたランハルトの姿を見て、篠原は叫んだ。

「玲!」

 山本は、意識を失ってぐったりとしており、篠原は、慌ててランハルトから山本を受け取った。

「不味いな、早く佐渡先生に見せないと!」

 篠原は、簡単にランハルトに礼を言うと、いそいそとコスモシーガルへと連れ帰って行った。

 ランハルトは、モーガン大尉に話しかけた。

「足は大丈夫か?」

「なあに、大したことはない。一人で歩けるよ。それにしても、イスカンダルのお方が来ているなら、早く呼んで頂ければ、もっと早く解決したと思うんだが」

 ランハルトは、微笑んだ。

「言うほど簡単なことじゃないさ」

 ランハルトは、このまま彼女は本物のユリーシャだと思わせておいた方がいいと、黙っていることにした。

 

 ヤマトでは、通信を終えた雪が、緊張から解放されて大きく息を吐き出していた。

 周りを見回すと、北野や南部を始めとした第一艦橋の士官が、皆にこにことしながら雪を見つめていた。急に恥ずかしくなった彼女は顔を赤くして言った。

「も、もう、着替えていいですよね?」

 その時、相原が報告してきた。

「艦長、山南司令から連絡です。スクリーンに出します」

 スクリーンに、山南の姿が映っていた。

「古代、それから特に森くん。お疲れ様」

 古代は、アンドロメダのスクリーンに映るように、雪を近くに呼び寄せた。しぶしぶ古代の横にやって来た雪は、ヤマトのスクリーンに映る山南の方を見た。

「うん。とっても似合ってるぞ。噂では聞いていたが、本当にユリーシャ様にそっくりだったんだな。その衣装を着たら、見分けがつかないくらいだ」

 雪は、不機嫌な表情でそれに答えた。

「それはどうも……」

 古代もそれに同調して言った。

「うん、僕もそう思う」

 雪は、目を細めて古代を少し睨んだ。古代は、これは、後でいろいろ怒られたりする奴だ、とその発言を少し後悔した。

「一つ、森くんに頼みがあるんだが……」

 山南の言葉に反応した雪は、間髪入れずに言った。

「嫌です」

 山南の笑顔が固まった。苦笑しながら彼は続けた。

「まだ、何も言ってないんだが……」

 ケールが雪の横にやって来て、笑顔で言った。

「そのまま、皆さんのお見舞いに行きましょうか。皆、喜ぶと思いますよ?」

 雪は、目を細めてケールを恨めしげに睨んだ。

「うん、俺もそれを言おうとしていた。ガミラスとの関係を修復する為にも、ガリア少佐以外の者たちの慰問をしたらどうかと思っているんだが」

「山南司令。こんな格好で行く必要性を感じません。ガミラスとの関係を修復する目的でのお見舞いや慰問でしたら、尚更地球連邦防衛軍の士官として訪問すべきではありませんか?」

 雪が山南の話をばっさりと切り捨てたので、その場の空気が凍りついた。

「ま、まぁ。そ、そうだな。君の言うことももっともだ」

「や、山南司令。それでは後程、着替えて訪問の準備をさせます」

「あー、古代。お前も地球艦隊の代表として一緒に行ってくれ」

「承知しました」

 古代は、敬礼で応えた。

 

 ヤマトでは、山本が艦内に収容されたとの情報が駆け巡った。佐渡の治療で、有毒ガスによる中毒症状を中和する薬品を注射することで症状が落ち着き、命の危険はないとのことだった。第一艦橋にもその知らせが届き、古代も安堵していた。

 そして、冥王星基地から救出されたデスラー大使は、ヤマトへの乗艦を希望しているとの連絡が入っていた。

古代は、イスカンダル人の衣装から着替え終わった雪とケールと共に、舷側の艦載機格納庫に出迎えに行った。

シャトルを降りてきたランハルトは、古代と雪に対面して言った。

「古代艦長、ご協力に感謝する」

 古代とランハルトは、地球式に握手を交わした。

「お役に立てて何よりです」

 ランハルトは、雪の方にも手を差し伸べた。

「雪、久しぶりだな。先程は頼みを聞いてくれて本当に助かった」

 雪は、ランハルトと握手をした。

「山本さんのことがあったから、仕方なく、です。もう二度とやりたくないから」

 雪は、不機嫌な表情でランハルトに言った。

「そうか? 先程の演説は俺も聞いていたが、なかなかどうして、本物のユリーシャ様かと思うほどだったぞ」

 ランハルトは微笑していた。

「ランハルト。そんなこと言っておだてているつもりかもしれないけど、もう絶対に嫌ですからね」

 古代は、雪とランハルトの妙に親しい様子に戸惑っていた。それを察知したケールは、古代に言った。

「古代さん、以前の誘拐事件の時に私たちは雪さんに大変お世話になりました」

 古代は、雪からそのような話を聞かされていたことを思い出した。それにしても、やけに親しげだな、と古代は思っていた。

 ケールは、ランハルトにも補足した。

「大使、この古代さんが、雪さんの婚約者です」

 ランハルトは、驚いて古代の方を見た。

「……そうか。貴様がそうだったのか」

 貴様と急に言われて古代の疑問は更に深まった。

「今は仕事中ですので、そういった話題はどうかと思いますが……。その通りです」

 古代は、必要以上に真面目な顔をして言った。

 雪は、古代が明らかにランハルトを警戒し始めるのを感じて、彼を前にしてランハルトと親しげにし過ぎた、と少し反省した。

「雪は、いい女だ。大切にすることだな」

「もちろんです。大切にしています」

 ランハルトと古代は、互いに睨み合った。雪は、その空気に耐えられずに話しに割り込んだ。

「あー、大使はヤマトにケールくんを迎えに来たんでしょうか?」

 ランハルトは、当初の目的を思い出した。

「出来れば、救出された山本二尉が無事か確かめたいのだが」

 

 医務室では、山本はベッドに寝かされていた。彼女の腕には点滴の注射が繋がっていた。ベッドの傍には、篠原が心配そうに彼女を見守っている。

 その山本は、ちょうど意識を取り戻したところだった。彼女に付き添っていた篠原は、彼女の手を握って安堵して声をかけた。

「お帰り。玲ちゃん」

 山本は、ぼやけた視界が徐々に焦点を結び、篠原の顔が見えてきていた。先程まで、兄の夢を見ていた彼女は、少し寂しい気持ちもあったが、心配する篠原の顔を見ると少し口元を緩めた。

「ただいま」

 篠原は、少し涙ぐんでいた。

「……泣かないでよ」

 彼は、その涙も拭わずに言った。

「だってさ、二度と会えなかったら寂しいじゃない。嬉し涙ってとこさ」

 山本は、彼の気持ちが嬉しかった。

「篠原ってそんな奴だった?」

「俺は、そんな奴だった」

 山本は、自分はどうなんだろうと考えた。確かにあのまま仲間から離れて一人ぼっちで死んでいたら、寂し過ぎたかも知れない。そして、あれから何年も古代への想いを引きずった自分を、変わらず想い続けてくれた彼との関わりは、とても大切なものだったのではないか、と感じていた。

「ありがと」

 山本は、少し赤面して小さな声で言った。

「どういたしまして」

 そんなやり取りをしている最中に、古代と雪が、ランハルトとケールを連れてやって来た。

「山本! 気がついたのか! 良かった。心配してたんだぞ」

 その横で、雪も微笑して見守っていた。山本は、いつもなら、古代と雪が仲睦まじくしているのを見ると、心にさざ波が立つのを感じていたのに、今は何も感じなかった。篠原に握られた手もそのままに、彼女は微笑んで返事をした。

「ご心配をお掛けしました」

 そこに、ランハルトが古代を押し退けて前に出てきた。

「思ったより元気なようだ。安心したぞ」

 山本は、そういえば、自分を助けに来たのは彼だったことを思い出していた。

「デスラー大使。お陰様で助かりました」

 ランハルトは頷いた。

「こうして無事だったからよかったものの、出来れば、もう少し大人しくしていてくれれば、銃撃戦などせずに穏便に解決出来たんだがな」

「は?」

 山本は、その言いぐさに呆気に取られていた。

「膠着状態で、解決の見込みなどあの時はなかった。私は、脱出する為に僅かな可能性にかけたんです。そんな言い方をされる筋合いはないと思いますが?」

 彼女は、ランハルトを睨み付けた。

 雪は、彼の様子を見て、そういえば、自分も初めて話した時はこんな態度だったと思い出した。もしかしたら、人見知りをするタイプなのかも知れない。

 ランハルトは、山本に言われたことを少し考えていた。

「そうだな。俺が保険をかけたことなど、あんたは知るよしもない。すまない。少々失礼だったようだ」

 山本は、急に殊勝な態度をとった彼に、拍子抜けしていた。

「そうだ、あの撃たれたヤーソン少尉は助かったのだろうか?」

 ランハルトは頷いた。

「大丈夫だ。何とか助かると聞いている。何にせよ、本当に無事でよかった。誰も死なずに済んだのが俺としては嬉しい」

 ランハルトは、篠原が握る手に気が付いて言った。

「……お邪魔なようだから、これで失礼するとしよう」

 篠原と山本は、互いに握られた手を見つめた。

「そうだ、デスラー大使、落ち着いたら、お礼に伺います」

 ランハルトは、山本に手を振った。

「必要ない」

 去ろうとしたランハルトは、振り向いて言った。

「それにしても、雪といい、あんたといい、地球人の女は皆、気が強いのか?」

 雪と山本は、その言葉に再び呆気に取られていた。

「まぁ、それが逆に俺にとっては新鮮だったんだがな」

 そう言いながら、彼は病室を出ていった。

 雪は、古代がランハルトを凝視するのを見て、余計なことを言うと思っていた。

 山本はというと、朦朧としていた時、兄だと思って抱きついたのが彼だったことに今頃になって気が付いていた。別に、兄に似ている訳ではないのに、と彼女は不思議に思っていた。

 

 その後、古代と雪は、ランハルトとケールと共に、シャトルで空母ダレイラを訪れた。

 艦内の医務室に向かうと、ベッドに寝かされたヤーソン少尉を囲むように、ゾラン中尉とイリア少尉が座っていた。

「地球連邦防衛軍の古代と森です。皆さん、ご無事で何よりです」

 彼らは、古代と雪の姿を見て、複雑な心境だった。

「地球連邦の皆さん……」

「我々は、以前はあなた方の星を攻撃した。この事実は消すことは出来ない。謝罪を受け入れてくれるとは思わないが……」

 古代は、毅然とした態度で言った。

「皆さん、地球では、あなた方が懸念するような様々な思いがあることは確かです。しかし、我々は、互いに傷つけ合い、双方が多大な犠牲を払ったのもまた事実です。それを超えて、私たちはガミラスの皆さんと共に生きる道を見つけました。二度と同じ過ちを繰り返さないと誓ったのです」

 雪は、古代の後を引き取った。

「あなた方は、ガミラスに強制的に従軍させられたザルツ人と聞きました。さぞや辛い思いをしたと思います。二等ガミラス人の制度は既に廃止され、マゼラン銀河の各星系では、ガミラスとの対等な立場での再建に挑んでいる国々が多いと聞いています。ザルツ星と私たちの地球も、いつか友人になれる時が来るでしょう。その日まで、今日の出会いを大切にしたいと思います」

「そう言っていただければ、少しは気が楽になります」

ゾラン中尉は感謝の言葉を口にした。すると、寝ていたヤーソン少尉が呻き出した。

「ヤーソン、大丈夫?」

 イリア少尉は、彼の様子を心配していた。

「うう……撃たれたところが痛い。でも、これでやっと帰れるんだな」

「そうよ」

「お前も、ノランに会いたいよな」

「急に何でそんなこと言うの? それは幼馴染だから当然でしょ」

「俺には、会いたい人なんていない」

 イリア少尉は、彼の頭を撫でた。

「私がいるじゃない」

「か、勘違いさせるようなことを言うなよ」

「勘違い? うーん」

 古代と雪は、そのやり取りを温かく見守った。しかし、ノランの名を聞いた雪は、胸の内にそっとしまっておいたものを思い出した。

 そういえば、彼もザルツ人だと言っていた気がする……。

 同名の人物なのか、同一人物なのか、雪は気になった。しかし、彼のことを聞くということは、彼の最期を知らせなければならない。彼女は、どうしても、彼の死の知らせを伝える勇気が湧かなかった。今はせめて、故郷に帰れる幸せに浸らせてあげるべきだと雪は思い、何も言えなくなっていた。

 

 古代と雪は、艦橋にも訪れ、ガゼル司令やバルデス艦長に挨拶をした。

「先程は、大変失礼をしました」

 雪は、ガゼル司令に謝罪した。

「貴方とは初対面だと思うが、何を謝るのかね……むむ?」

 ガゼル司令は、まじまじと雪の顔を眺めて、先程のユリーシャの正体に気がついた。

「俺が頼んで変装してもらった」

 ランハルトは、あっさりと補足をした。

「見れば見るほど、ユリーシャ様の生き写しではないか」

「どうも、ガミラス人は信用が無いということが分かったんでな。彼女にあれを頼んだんだ。かなりいい思い付きだったと思う」

「なるほど、これは私も騙された。これはやられたな」

 ガゼル司令は、大きな声で笑いだした。

「なるほど。これが、あなたがテロン……いや、地球で作り始めた縁ということか。その縁に、ガミラスも地球も救われたということか」

 ガゼル司令は、ランハルトに笑って見せた。

「大使。ひよっこだと思って侮ってすまなかった。これからは、少しは、あなたの言うことにも耳を傾けるとしよう」

 ランハルトは不満そうな顔をしていた。

「なるほど。そんな風に思っていたのだな。俺たちも、信頼し合うように努力が必要らしい」

 ガゼル司令は、ランハルトの肩を叩いて笑っていた。

「これから我々は、地球に向けて帰還します。あなた方はどうされますか?」

 古代は、ガゼル司令に確認をした。

「うむ。あの基地を放って置くわけには行かないだろうな。少し調査してから、破壊するつもりだ。先に帰ってもらってかまわんよ」

 ランハルトは、古代に言った。

「俺が監視しておく。心配はいらない」

「監視とは人聞きの悪い」

 古代は、打ち解けたランハルトとガゼルの関係を見て、安心してもよさそうだと思っていた。

「そうそう、救助した彼らだが、地球で暫く静養させたい。受け入れ先を準備してくれないかね?」

 ガゼル司令は、古代に話しかけた。ランハルトは、それに対して言った。

「それは、俺の仕事だ。お前たちは気にしなくていい」

「わかりました。それでは、我々はこれで」

 古代と雪は、揃って敬礼をした。

 ケールは、彼らの案内をして、艦載機格納庫へ向かおうと歩き始めた。そこで、ランハルトは呼び止めた。

「二人とも、幸せにな。また地球で会おう」

 古代と雪は、振り返って、もう一度敬礼をした。

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

孤独な戦争12 エピローグ(最終回)

宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「孤独な戦争」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」の続編になります。


 その後――。

 

 アンドロメダ艦隊とヤマトは、冥王星基地の事件が解決した後、地球に帰還した。

 出発時に集まったブリーフィングルームに、四隻の艦長が集まり、土方がやって来るのを待っていた。

 その土方が部屋に入ってくると、全員立ち上がって敬礼をした。土方も敬礼で応えて、皆を着席させた。

「皆、ご苦労だった。集まってもらったのは、今回の件の振り返りをするためだ」

 土方は、山南の方を向いて言った。

「山南、艦隊司令の役目、見事に果たしてくれたことに礼を言う」

 山南は、腕を組んで目を閉じていた。

「何だ。今日はやけに静かじゃないか」

 山南は目を開けた。

「喋ってもいいんですか?」

 土方は、少し山南の様子がいつもと違うのに気が付いて、暫し思案した。

「うむ。まずは、今回の件について、各人が自由に率直な意見を述べてくれ」

 山南は口を開いた。

「なら、言わせて頂きますがね。土方総司令、人質の命よりもガミラスとの交戦を控える方を優先しろという命令ですが、正直納得できませんでした」

土方は頷いた。

「他には?」

「そ、それだけ?」

「後で話すから、少し待っていろ。他のものの意見を先に聞かせてくれ」

ナガト艦長の大村が口を開いた。

「遊星爆弾が飛来したのに対応するため、ムツと二隻で迎撃しました。ショックカノンで撃ち落とすのに成功したので、特に問題はなかったのですが、以前の艦なら不可能な対応でした」

 ムツ艦長の井上もそれに同調して頷いた。

「早く波動エンジン搭載艦を増やさなければ、有事の際に、対処出来ないと痛感しました」

 古代も口を開いた。

「私もアンドロメダと共に惑星間弾道弾の対応をしましたが、あれがミサイルでなく、艦船だったとしたら、対応が困難だったと思います」

 土方は頷いた。

「古代、以前のイスカンダルへの旅の時にも多数の艦船とやり合ったと思うが、それとの決定的な違いは何だ?」

 急な質問で、古代は少しの時間考えた。

「多数の艦船と交戦する場合の沖田艦長の戦術は、波動防壁を活用して耐え、正面突破して逃げるのが基本でした。あの時の目的は、イスカンダルに行くことで、戦闘は二の次でしたので、このような戦術をとったのだと思います。今回の件では、地球防衛の為に、一基も撃ちもらすことが出来ないという点が、あの時と目的も戦術も全く異なります」

 土方は頷いた。

「その通りだ。地球防衛の難しいところは、逃げることが出来ない、ということが大きい。大村や井上が感じたことも、根本はそこにある。要するに、たったの四隻の艦隊では、有事に対応出来ないということを、今回証明してしまった」

 ブリーフィングルームが、しんと静かになってしまった。

「そう悲観したものではない。その為にも、極東管区だけでなく、各国で艦船の建造を進めている。二、三年後には十分な数が揃うだろう。それまでの間、我々は、この四隻の運用や有事の際の戦術を真剣に検討する。必要なら、艦船以外の防衛設備の提案も歓迎するぞ」

 土方は、山南の方を改めて向いた。

「山南、辛い思いをさせたようだが、それが全軍を指揮するということだ。大局的にものを考え、苦渋の選択をしなければならん時もある」

「なら、俺は、艦隊司令なんて向いていませんね。首にしてもらって結構です」

「それでも、お前がぎりぎりまで耐えて行動したことが記録に残っている。向いてないとは思わんがな」

「いいえ。あの大使の作戦がなければ、ガミラスと交戦していた可能性があります。そんなに褒められたもんじゃないと思いますよ」

「それでいいんだよ」

「は?」

「お前が最後まで慎重に行動したことが重要なのだ。それで俺の命令を破って交戦に至ったとしても、状況をすべて把握しているのはやはり現場の指揮官だ。いちいち上にお伺いを立てなければ動けない奴など、それこそ指揮官には向いていない。お前は、交戦に至った場合、ガミラス艦隊を撃沈する気があったのか?」

「いくらなんでも、そこまでする気はありませんでしたよ。それに、我々から攻撃するのは、防衛艦隊の理念から言ってもあり得ません」

 土方は頷いた。

「防衛艦隊の理念に従えば、例え交戦に至っても、専守防衛に徹する限定的な戦いを想定して行動すべきだ。防衛艦隊が望むのはそこだ。そうやって、ぎりぎりまで最後の一線を越えない努力をすること。そして、一線を超えたとしても、可能な限り戦いを限定的に抑えること。それこそが、俺が望む艦隊司令の役目だ」

 山南は、土方を訝しげに見つめた。

「上の許可なく、先制攻撃の許可を出すことは、政府の意向を無視して、軍が独断で暴走することに他ならない。現場の判断で時間を稼ぎ、ぎりぎりの努力をしてくれたこと自体が、お前が指揮官に向いていることを証明している。お前には感謝している」

山南は、しぶしぶ土方の話を受け入れた。

「何だか、うまく丸め込まれているような気がしますよ」

「愚痴なら、別の場で聞く」

「じゃ、この後飲みに行きましょ」

 土方は、山南に何か言おうとしたが、愚痴を聞かされるのはこの場に相応しくないと考えて開きかけた口を閉じた。そして、土方は話題を変えた。

「古代、四隻の艦隊運用を真剣に検討する意味でも、出発前の課題だったヤマト乗員の分配について意見を聞いておきたいのだが?」

 古代は、遂にその話題がきたか、と思っていた。

「率直に申し上げて、今の人員の働きぶりは、艦の運用効率を非常に高めてくれています。既に、山崎副長が別の艦の艦長となることを始めとして、何名か抜けることも決まっており、これ以上の欠員が出る場合、ヤマトにも他の艦と同様の運用上の問題が出てくるでしょう」

 土方は頷いた。

「お前の言いたいことは理解している。概ねそれには同意する。しかしな、教育して育てていくしかないのも現状だ。それはわかっているな?」

「はい」

 山南は、他の皆んなが発言しないのを確認して、口を開いた。

「今回、ヤマトの乗員の働きぶりをいろいろ見させてもらいました。私の方で何名か候補を検討しましたよ」

 土方は、それに興味を持った。

「俺も、ヤマトの乗員については、大体把握している。誰を候補にしているか言ってみろ」

 古代は、困った表情でそのやり取りを見守った。

「まずは、戦術科の北野と南部、航空隊の山本、それから以前航海科に所属していた島と太田、技術科に以前所属していた真田と新見、船務科から、森、西条、相原……」

 古代は、慌てて言った。

「ちょ、ちょっと待って下さい。それでは、誰もいなくなってしまいます」

 山南は、古代に向かって言った。

「ま、そうだよな。俺も言われたら同じように思うだろうな」

 古代は、困り果てた表情になっていた。土方は、その様子を見て思案した。

「大体わかった。後はこちらで検討して、結果を伝える」

 古代は、不安そうな顔で土方を見つめた。

「そんな顔をするな。俺が今考えている案では、一時的なレンタルのような形態がよいかと思っている。完全に異動させてしまった場合のヤマトの運用効率の低下を防ぐ為にもな」

 各艦長は、その話しに反応した。

「なるほど、それはいいですね」

「こちらも、気兼ねなく、一線級の乗員を希望できる」

「何なら、古代、お前自身もだな」

 山南が、にやにやと笑いながら古代に言った。

「わ、私ですか?」

「そうだよ。お前なら、戦術科の役目なら何でも出来るじゃないか」

 土方も少し笑っていた。

「古代、お前は山崎に変わる副長候補を考えておけ。そうしたら、その案も考えてもいい」

「はあ……それでしたら、もし、真田さんや島が戻ってくれるなら、そのどちらかが希望です」

「なるほど。だが、その二人は艦長候補だな……まぁ、考えておく。それでは、他になければ、解散とする!」

ブリーフィングルームにいた各艦長は立ち上がって部屋から出ていこうとしていた。

 山南は、最後に古代に声をかけた。

「あー、古代。お前の奥さんだが……」

「あの……まだ結婚はしてないんですが……」

 古代は、苦笑いしつつ答えた。

「まだだっけ? もし、異動するような話しになった場合は、森くんは古代の元に置いておくのがいいかな」

 古代は、不思議に思って聞いた。

「何故です?」

「俺、彼女にこの間言い負かされたから、うまくやれるかあんまり自信ない」

 土方は、振り返って山南を睨んだ。

「彼女は俺の娘も同然なのだが……少々聞き捨てならんな。気が強くて扱いに困ったという意味か?」

 山南は慌てて言った。

「とんでもない! 違いますよ。夫婦一緒の方がいいと思ってですね……」

 山南は、土方の機嫌が直りそうもないので、思い付きで言った。

「土方さん、古代も。あと、大村も井上も。皆で飲みに行きましょう!」

 土方は、少し表情を緩めて言った。

「わかった。今の話をよく聞かせてもらおう。あと、古代!」

「は、はい?」

「いつになったら雪と結婚するのか、説明してもらうからな」

 

 五人は、ブリーフィングルームを後にして、どこに飲みに行くか話ながら廊下を歩いて行った。

 

 

宇宙戦艦ヤマト2199 孤独な戦争

 

完――。

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。