俺、チャンピオンになります (イニシエヲタクモドキ)
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まずは前置きってやつだ。聞けby主人公

なんか投稿されてたので付け足しました。


 主人公視点

 あなたはポケモンをご存じだろうか。

 まぁ知らない人がいたところで説明する気なんて無いのであしからず。

 取り敢えず、ポケモンという生物がいるとだけ認識していただければ結構。

 そんな生物が平然と生活している世界に、俺はなんやかんやで転生した。

 なんやかんやが気になるそこの君、質問すれば皆が皆教えてくれるというわけではないのだ。諦めなさい。

 んで、俺が転生した地方は……え?地方の概念を知らない?ググってください。

 俺が転生した地方はなんと、ガラル地方だった。

 ……俺の全盛期、第五世代なんだけど(年齢バレ)。

 まぁそれはどうでもよくて。

 生まれた時から……いや、この世界の母親と会った時から、俺はずっと『あなたはチャンピオンになれる』と言われてきた。

 洗脳教育怖すぎワロタ。

 軽く思っていた時代が私にもありました。

 いやー、まさかジムチャレンジできる年齢になる前にカントーに輸送されるとは。

 何なんですかこの母親。

 挙句俺に(ゲームに登場してきた的な意味で)全部の地方でチャンピオンになりやがれと無茶ぶり。

 死ねと申すか!!

 いやね?言葉をしゃべれるようになって一人で立ち歩けるようになったのを見計らってワイルドエリアに放り込むような輩だと知った時から察してたけどね?

 なんだよ!ジムチャレンジやってみてもいいかなぁ的な事を少しボソッと言っただけで、翌日にはキャンプに放置とかそれでも親か!!

 挙句所持品はモンスターボールってか!しばくぞゴラァ!

 ……失礼、取り乱した。

 何故かエンジンシティではなくナックルシティの前に放置されていたことを思い出し、怒りが込みあがってきたのだ。

 どうしても叫びたくなるときって、あるよね。……え、ない?

 所持品の数少ないモンスターボールを手に、取り敢えず雨の中湖を着衣水泳し、モノズを捕獲した(サザンドラだいすきおじさん←当時は子供、今も子供)のだが……

 まぁ、ワイルドエリアを抜ける頃にはサザンドラになってるよね、うん。

『なんでダイマックスポケモンが巣穴から飛び出る仕様になってるんですか!!』、俺は涙ながらに叫んだ。

 手持ちは言う事を中々聞かないモノズ。ダイマックスバンドは無し。水を吸って重たくなっているせいで、逃げることを困難にしてくれやがった服。

 最悪、その一言で言い表せた状況下に置かれていた。

 ……ま、俺強いからぁ?けいけんアメを大量に確保して、モノズをサザンドラに進化させてぇ?ついでにダイマックスポケモンに襲われてた可愛い女の子助けてぇ?電車の上に乗って無賃乗車して帰ってやりましたけどぉ?(イキリ)

 ……あれ?そんなことしたからRE:カントーから始まるチャンピオン(を目指す)生活させられたの?

 何もなかった、いいね?

 まぁおかげで強くなったから、いいのか?

「……そして今に至る」

「何言ってんだ?」

 感慨深く呟いた俺に、不思議そうな目を向けてきたのはホップ。

 剣盾のライバル枠だ。

 その隣で輝いている目をしているのはマサル。

 ゲーム主人公(♂)だ。

 ……ユウリしか主人公の公式名前知らねぇよ、誰もがそう思ったでしょう。俺もそう思いました。

「……いや、少し昔を思い出して……」

「おいおい、ただでさえ死んだ目してるくせにさらに濁らせてんじゃないぞ~?」

「ほ、ホップ……ヴァイスは気にしてるかもしれないじゃんか……」

 ヴァイスは、俺のこの世界での名前だ。

 全く俺と関係ない名前だから、ただただ気恥ずかしい。

 厨二か!!

 因みに、俺の名前を呼んだ気弱そうな奴は、剣盾の男主人公ことマサルくんである。

 うん。ここまでデフォルトな見た目の男主人公は久しぶりに見たよ。

 それはどうでも良くて。

 今俺達はある人を待っている。

 その待っている人というのが……

「あのチャンピオンダンデに会えるって本当なんだよね!」

「おう!引っ越してきたばかりのマサルはまだあったことなかったよな!」

 ホップ、説明役に成り下がっていやがる。

 ……まぁ今ホップが言っていたように、マサルは引っ越してきたばかりのダンデファン。

 そんなマサルを含めた俺達は、ホップの母親の命を受け、方向音痴のダンデに会いに駅に行ったのだが……

 少し、早かったらしい。

 それで待っていたのだが……

 どうやら、ご到着のようだ。

 観客が突如として現れ、入り口を囲み始めた。

 その全員の視線にさらされながらも、ダンデは悠々と歩みを進め、ちょうど中心のあたりでリザードンポーズを決めた。

「ブラッシータウンのみなさん!チャンピオンのダンデです!みなさんのためにもこれからも最強の勝負をします!」

 笑顔でギャラリーたちに神対応しているダンデを、遠巻きに見つめる。

 ……うん、出遅れたって言うか、待っていた位置が最悪だったって言うか……

 日光浴なんてするもんじゃないな、と思いました。

「お、ホップ!世界一のチャンピオンファンが態々迎えに来てくれたか!」

 どうやらホップが目に映ったらしく、ダンデは人をかき分けこちらに迫ってきた。

「随分背が伸びたな……ズバリ、3センチ!」

「さすがアニキ!無敵の観察眼!」

 いや観察眼如何こうじゃねぇだろ。怖ぇよ。

「むむ、その瞳の色……君がマサルくんだね!弟からあれこれ聞いているぜ!俺は無敵のチャンピオン、ダンデだ!」

「ふ、ふぉぉぉぉぉ…………すごいッ!すごいよォッ!僕今チャンピオンに挨拶されたぁ!!見てたかいホップ、ヴァイス!!これって勲章だよぉ!!」

「落ち着けェ!!人前だぞォ!?」

 なんかゲームの時よりも挨拶があっさりしていたダンデだったが、それでもチャンピオンファンのマサルは発狂物だったらしい。

 なんか美味いカレー食った時みたいな目の輝き方だった。

「おぉ!その目の濁り方……そして圧倒的に残念な光のない瞳……ヴァイスだな!」

「失礼すぎんだよ再会するたびに!!こちとら母親の英才教育で精神擦り減らし切ってんだよ!!」

 俺の判断基準って目なの?目しかないの?

 そんな俺の苦悩を知ってか知らずか、ホップは勝負だ何だといって走り出していった。

 かけっこか。面白い。

 徒競走万年第四位だった俺の実力、舐めろよ?

 因みに、ゴールである家につく時には最下位でした。

 万年四位は伊達じゃないってか、畜生。

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 ヴァイス視点

「なぁなぁ!早くプレゼントくれよ!俺とヴァイスとマサルにポケモンくれるんだろ!」

 すっごくウキウキしているホップをなだめるようにしつつ、隣で未だに暴走しているマサルもなだめている俺は、いい加減に胃に穴が開きそうだった。

 そんな俺を無視して、ダンデは決め顔で懐からボールを取り出した。

「最強のチャンピオンからの最強の贈り物!心して受け取れよ!」

 三つのボールがバトルリング的なところの真上で開き、三匹のポケモンが出てきた。

「くさタイプのサルノリ!ほのおタイプのヒバニー!みずタイプのメッソンだ!」

「……なぁ、ダンデ。俺がポケモン持ってるの知ってるよな?」

「あぁ。だからこのうちの一匹は俺と一緒に来てもらう!」

 そう言って笑ったダンデだが、ホップとマサルはもうポケモンに興味津々で、自分と相性がいいだろうポケモンを選んでいる。

 水辺で戯れて見たり、一緒に駆け回ってみたり、きのみを小枝で叩いてみたり。

 ……すっげぇ楽しんでるなぁ、アイツら。

「……ん?アレ?ヴァイスはいいのか?」

「話聞いてた?俺もう手持ち六匹いるから」

「……え?そうなの?」

「あぁ。じゃなきゃカントーとかジョウトとかホウエンとかシンオウとかイッシュとかカロスとかアローラとかでチャンピオンになれないからな。流石に六匹必要だぜ?」

「……待て、チャンピオン?」

 なんかすごい目でこちらを見てきているホップとマサル。

 ……いや、なんだよ。

「どうしたよ?知らなかったか?俺がしばらくの間旅行して理由」

「いやいやいや知らないから!!知らなかったから!!なんか親の都合で一人旅してるって聞いたけどそういう事情があったなんて知らなかったから!!ていうか何!?お前のポケモン何一つ見たことないんだけど!?」

 勢いよくまくし立ててきたホップを手で制して、ゆっくりと説明する。

「……俺のポケモンは今俺の家の庭で放し飼いしているから大丈夫だ。一匹を除いてな。みたけりゃ旅に出る前にでも見てけ。俺がボールに入れる前になら見れるんじゃないのか?」

「見る!絶対見る!」

 すっごく元気いっぱいな返事をしてくれたホップ。

 珍しいポケモンなんてそんなにいないはずなんだけどな。

「……ダンデさん!僕ヒバニーに決めました!」

「お、ほのおタイプのポケモンか!いいんじゃないか?」

「あ、じゃあ俺はサルノリだ!」

「ん?敢えてマサルのヒバニーに不利なポケモンを選んだのか?」

「あぁ!タイプ相性は大事だけど、結局トレーナーの力量さえあれば相性も関係なしに勝てるはずだからな!」

「いい心がけだ!……じゃあ、メッソンは俺と一緒に戦ってもらおう」

 一人残されていたメッソンを抱き上げたダンデを尻目に、ホップとマサルは好戦的な笑みを浮かべて見つめ合っていた。

「なぁマサル!言いたいことはわかるよな!」

「うん!目と目があったら……」

「「ポケモンバトル!!」」

 モンスターボールを突き出し、バトルフィールドの両端に立った二人は、こちらに何の理もいれずにポケモンを繰り出した。

「いけっ!ヒバニー!」

「いけっ!ウールー!」

 うわっ、ホップずるっ!前から持ってるポケモンなんだからヒバニーよりもレベル高いに決まって……

『ウールー レベル2』

 ……やる気あんのか?

 ポケモン図鑑の固有能力、ポケモンの強さをレベルとして数値化して表示するを利用して見てみると、初期にもらえるポケモンのレベル5を下回るレベルだった。

 なるほど、ホップくんは戦いを嫌っていたフレンズなんだね(震え声)

「ウールー!体当たりだ!!」

「ヒバニー!木に登って回避!」

 い、いきなり周囲にある物を利用し始めた!?

 俺だって最初は躱せ!とかしか指示できなかったのに……

「よしっ!そのままウールーを蹴りつけろ!」

 もはや技ですらねぇただの暴力を、ヒバニーは笑顔でやってのけた。

 ……は?これ、なに?

 となりのダンデはすっごくウキウキしてモンスターボールを握っていやがるし、ホップはホップでやるな、みたいな顔をしてるし……

 かえっていいっすか?

「くっ、戻れウールー……こっから逆転すんのが熱いよな!いけっ、サルノリ!」

 ホップがボールを投げると、中からサルノリが出てきた。

 当たり前か。

「サルノリ!うそなきだ!!」

 ……ファッ!?

 なんでうそなき使えるんだよ!?

「ヒバニー!無視しろ!」

「いやそれ有りなの!?」

 ついにとうとうツッコんでしまった。

 いやでもさ?デバフ技を無視しろって……無視しろって……

 え、俺が今まで相手にしてきた奴等から受けてきたデバフ技って……受けなくてよかったの?

「すごいな……うそなきを回避したか……!」

「それでいいのかチャンピオン!?」

「ヒバニー!たいあたりだ!」

「サルノリ!すれ違いざまにシェルブレード!!」

「あの野郎ついにとうとうタイプの垣根を超えやがった!!」

 手に持っていた小枝を構え、抜刀術の勢いでヒバニーに刃を向けたサルノリ。

 だが……

「予想済みだよ!ヒバニー!にどげりで攻撃の威力を相殺!二撃目で攻撃だ!」

 空中で体の向きを変え、小枝を蹴り飛ばしたうえでヒバニーはサルノリを蹴りつけた。

 ノックバックされたサルノリは、ひるんでしまったようだ。

 ……そんな効果、にどげりにありました?

「サルノリ、大丈夫か!?」

 ホップの呼びかけに、サルノリは問題ないと言うようにサムズアップして見せ、ファイティングポーズをとった。

 ……いや足元にさっき吹っ飛ばされた小枝落ちてんだから拾えよ!!せめて自分の特徴くらい守れよ!!

「よぉし……さっきから適当に技の名前言ったら成功してたし、これもできるはずだろ……?一か八かだ!ハードプラント!!」

「ホップゥウウウウウ!?」

 ついにとうとう究極技レベルの物を使わせようとしやがったホップに全力でツッコむ。

 この野郎ゲームバランスって知らねぇのか!?

「ヒバニー……僕達も、できるよね!ブラストバーン!!」

「マサル貴様もかぁああああああ!!」

 二人共決めポーズと共に叫んだ……だが、ヒバニーもサルノリも困惑するだけで何も起こらなかった。

 ……よかったぁ……さすがにまだ使えないか。

 うんうん。ポケモンの最初の戦いで出す技じゃないもんな。

「……ヒバニー、たいあたり」

「……サルノリ、たいあたり」

 後は両者ともに静かにたいあたりを命じて……

「よぉし、勝ったー!」

 この無気力な争いを制したのは、マサルだった。

「ふ、二人共いい戦いだったぞ!俺も最初は混ざりたくなったからな!」

 最初はって言っちゃったよ。ダンデさん言っちゃったよ。

「……これでポケモンバトルの楽しさが分かっただろ!……そしてマサル、是非ホップのライバルになってやってくれ!」

 この地獄のような空気を誤魔化そうと必死なのか、ダンデも支離滅裂になりかけていた。

 そんな中。

 ホップとマサルは俺の方を見てこういってきた。

「「俺と(僕と)!!戦って(くれ)!!」」

「……この状況でか」

 キラキラした目でこちらを見てくる二人に、俺は頭を抱えたくなったのだった。




今回はまだサイトウについて明確に触れませんでしたね。
でもまぁ次回かその次で出ます。
楽しみにしててね!(タメ口)


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たいあたり、相手は死ぬby主人公

ヴァイス視点

なんてことをしてしまったんだろう。

そうやって後悔したこと、ありませんか?

俺は今そうです。

……なんで俺、かっこつけて『二人でかかってきな』なんて言ったんだろう。

「よーし!行くぞマサル!」

「うん!!いけっ!ヒバニー!!」

力いっぱいボールを投げてヒバニーとサルノリを繰り出した二人。

「…ん?ウールーじゃないのか」

「あぁ、サルノリが戦いたそうにしてたからな!」

感情論ありがとうございます。

理解できませんでした。

「……しょうがない、加減が出来るかわからないから不安なんだが…行っておいで、サザンドラ」

俺がボールを投げると、中からサザンドラが現れた。

俺がワイルドエリアに放り込まれたときに手に入れたモノズの真の姿である。

「…さ、サザンドラ…」

「始めてみるけど…すげぇ」

呆然とサザンドラを見ている二人に、この世界では妥当な反応なんだよなぁと少し説明的な事を思う。

…というのも、この世界ではポケモンを戦わせれば経験値が入るというわけでも、レベルが上がるというわけでもないのだ。

レベル五十何ぼですら一般人には到達不可と言われているレベルなのに、サザンドラを使うということはつまりレベルを64まで上げるという事。

どっかのゲーチスはそのルール破ってたけどね!!

…え?このサザンドラはレベルどれくらいって?

100に決まってんだろ、どんだけけいけんアメ使ったと思ってんだよ。

因みに、この世界の人々はけいけんアメが何なのかわかっていない。

故に、俺がわかっていない人々から購入しているのだ。

いやー、ふしぎなアメうますぎワロタ(物理)

感謝もされるし最高ですね。

「いいか?始めさせてもらうぜ」

あんまりここで時間使うのもアレなので、サザンドラに攻撃命令を出す。

この世界では覚えられる技の個数に限界が無いので、たいあたりとかも使えます。

「いけ、たいあたり」

俺の言葉に呼応するようにうなずき、サザンドラは一瞬でヒバニーとサルノリの元まで迫り、その巨躯をぶつけた。

…突然だが、俺のサザンドラは6Vだ。

さて、リアルで6Vのレベル100ポケモンが攻撃をしたら一体どうなるか、想像できるだろうか。

正解は…

「うぉあっ!?」

「相変わらずばかげてやがるッ!」

地震が起きる、でした~。

砂埃が舞い上がる中、悠然と俺の前まで来たサザンドラを労いながらボールに戻す。

しっかりヒバニーとサルノリがやられているのは確認してあるから問題なし。

「…相手が予期せぬ攻撃を仕掛けてくるならば、先手を打つべし…ってな」

俺が俺に向けた教えのその三だ。え?前二つは何だって?

君のような勘のいいガキは嫌いだよ。

「……まけ、た…」

「強いとはわかってたけど…こんなに差があるなんて…」

おや、俺のライバル枠になるだろう二人の様子が…?

もしやここで心を折ってしまったか…?それはマズイ。こいつ等みたいな主人公補正を、俺は持ってない。

あるのは人脈と前世の知識だけだ。

これではムゲンダイナ捕獲イベントおよびザシアン、ザマゼンタ捕獲イベントの擦り付けが出来ないじゃないか。

内心大慌てな俺を前に、二人は…

「流石だ!流石すぎるぜチャンピオン!!」

「これは超え甲斐があるッ!ライバルに不足なし!!」

「「イエーイ!」」

すっごく嬉しそうに、ハイタッチしていた。

……あり?

もしかしてやられればやられるほど強くなるって奴?

闘争本能刺激しちゃった?

「ヴァイス!お前は強いけど!」

「いつか僕が超えるからねっ!それまでは負けさせない!!」

ビシッと俺を指さしてきた二人に、なんかこう…毒気を抜かれた。

「いいぜ、受けて立つ」

レッド直伝のかっこいいポーズで言うと、二人はより一層目を輝かせて喜んだ。

「やっぱすごかったなヴァイスは!」

俺達の方へ寄ってきたダンデは、すごくいい笑顔だった。

…久しぶりに闘争心にまみれていやがる。

嫌な予感はするが、俺はもう戦うつもりは無い。

「……なぁヴァイス、俺と」

「何があったの!?」

笑顔のまま俺にモンスターボールを突き出そうとしてきたダンデの言葉を遮るように、家からホップ母が飛び出してきた。

ナイスアシスト。

この後説教されたけど、BBQ食わせてくれるらしいからいいや。

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ヴァイス視点

「びゃぁ”あ”あ”美”味”い”」

「どこから音出してるんだよそれ」

俺の特殊な発声法を利用した飯の楽しみ方を小馬鹿にしてきたホップを軽く叩きつつ、串肉を食べる。

うん、おいしい。

「…なぁヴァイス、ちょっといいか?」

「ん?へふひひひへほ(別にいいけど)?」

「…なんで三本同時に食えるんだ?」

食いながら返事をした俺に、ダンデは非常に驚いた顔をしていた。

別にいいだろ。食べ方にくらい自由をよこしやがれ。

「…その、俺が言いたいのは推薦状の件なんだが…」

「あげてもいいと思うけどな。アイツら十分強いだろ」

シェルブレードを使うサルノリとか、デバフ技を無視するヒバニーとかがいるくらいだしな。

「……だよな!俺はちょっと過保護過ぎたのかもしれないな!」

「そうそう…てなわけで俺にもジムチャレンジの推薦状を…」

「…この肉美味いぞ、食べろ」

「何故に命令口調!?」

俺の言葉を遮るように肉を差し出してきたダンデ。

俺が一体何をしたって言うんだ…

「…聞くが何でお前はジムチャレンジに参加したがってるんだ?チャンピオンになりたいから、とかそんな理由じゃないんだろう?」

「な、何故わかったし」

「観察眼には自信があるんでね……それで、何が理由なんだ?」

隠し事は許さない、というような目をしているダンデから目を逸らし、溜息をつく。

…うーん、言ってもいいんだけど、なんだかなぁ…

「会いたい人がいて、な」

「…それってどっちの?」

「剣の方」

剣の方、と言われてもパッと来ない人がいるだろうから説明させていただく。

まず、この世界のジムチャレンジは二つの種類があり、それぞれソード、シールドと言われている。

ガラルの英雄が関係しているとかなんとか言われているが、それはどうでもいい。

このソード、シールド…通称剣と盾の違いは、ジムリーダーにある。

固定のジムリーダーが六人、剣と盾で違うのが二人…まぁゲーム版と同じだ。

このジムチャレンジを制したやつらがチャンピオンに挑む前に、剣の陣営、盾の陣営で戦う。

陣営内で出場順を決めて勝ち抜き戦を行い、先に選手全員がやられた陣営が敗退する。

その翌日、勝った陣営のメンバーで戦い、残った最後の一人がチャンピオンに挑む権利を得る…

が、しかし。すぐにチャンピオンに挑めるなんてはずもなく。

チャンピオンと戦う前に、剣と盾、全てのジムリーダーと戦う必要がある。

…何人いると思ってるんですかねぇ…

全員に勝利して、ようやくチャンピオンに挑めるようになるのだ。

…非常に面倒くさい。

「剣……なるほど、そういう事か?」

「どういうことだ、と聞き返したいがいいだろう。認めようじゃないか」

ニヤニヤしながらこちらを見てくるダンデにちょっとばかり殺意が沸いたが、自制する。

そういう事、についても解説せねばなるまい。

この剣と盾のチャレンジ、どちらを選ぶかという問題において、男性トレーナーは基本的にある二人のジムリーダーのどちらを選ぶかでしばしば論争を起こす。

盾の方ではメロン。人妻の持つ魅惑に惑わされた男性トレーナーは、朝昼晩問わずメロンのメロンの事で脳内を埋め尽くされ、幼児化、社会的に死を迎えるという…

剣の方ではサイトウ。かわいい(結論)。褐色でスパッツで白髪で(戦闘中は)レイプ目で男勝りかと思わせつつかなり乙女な一面があって……ファッ!?俺の性癖全コンプやんけッ!

俺は叫んだ。前世でも叫んだし、この世界でも叫んだ。

一目惚れだった。2Dと3Dの壁?何それおいしいの?

ガラル地方に転生した理由が分かった。神は言っている。サイトウを得よと。

…思えば、その時にジムチャレンジしたいなぁって言ったせいでマイマザーにカントー送りされたのかな。

少し遠い目をしていると、ダンデはニヤニヤを隠すことなく言ってきた。

「よし、つまり俺はアレだ。ソニアの持ってた本に書いてあった風に言うなら…恋のキューピッドになるわけだ」

「めっちゃ乙女な本読んでますな」

それを勝手に読んだダンデも然り、だ。

「それはどうでもいいことだぜ。…さ、まず今は飯を楽しめ!アイツらと同じタイミングで推薦状をくれてやろうじゃないか」

「言ったな!?言質とったぞ!!」

「大丈夫だ。約束の時間に遅れることはあっても、約束は破らないって評判だからな!」

「めっちゃ普通に馬鹿にされてない?」

多分方向音痴ネタで弄られてるんだろうなぁと思いつつ、豪快に笑っているダンデから目線を逸らして食事を再開する。

…もっと味濃い方がいいなぁ、と思ったのは、男飯ばかり食ってきたせいだろうか。




今回は最後の方の説明くらいにしか力を入れてないので、戦闘シーンが味気ないような気もします。
気にせず読みましたよね?

さて、今回主人公のサイトウへの愛(笑)の一部が出ましたが…
まぁ、はい。作者と同じこと言ってるなぁ程度の認識で構いません。

それと剣の陣営と盾の陣営についてですが、盾の陣営は全員オリキャラにする予定です。
こんな手持ちにして等の要望は、新作祭りの活動報告のところで募集します。
盾陣営が登場するまでが募集期間なので、いつでもどうぞ。


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取り敢えずカットby主人公

ヴァイス視点

「ポケモン図鑑を手に入れろ」

それが俺達に出された最初の任務だった。

…まぁ任務というにはハードルが若干低い気もするが。

ダンデのありがたーい言葉を聞いて、今俺達はポケモン研究所に向かおうとしていた。

が。

「柵が、空いてる…?」

「あそこにいたウールーは!?」

状況を説明してくれた二人に感謝。

要するにアレだ。

主人公には必須な強い奴との遭遇イベントだ。

ま、俺は主人公になれるような人間じゃないからな。スタコラサッサだぜ。

「何立ち去ろうとしてんだよヴァイス!さっさと行くぞ!」

「待ってせめて手持ち連れて行かせてぇぇえええ!!」

泣き喚きながら、六つのモンスターボールをポケットに、俺は渋々まどろみの森へ入っていったのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヴァイス視点

「き、霧が濃いなぁ…」

あくまでウールーの心配をしている二人と対照的に、俺は周囲に気がいっていた。

…どうせお前らだけいい思いすんだろ!!

怒りを全て道中のポケモンにぶつける。

無論前に出ているのはサザンドラだ。

トライアタック、舐めるなよ?

「…しっかしなんなんだ?さっき聞こえた鳴き声って」

「さぁ?とにかく今はウールーだろ?…っと、霧がさらに濃く…」

開けた場所に来た俺達だったが、霧に周囲を囲まれて前後不覚に陥ってしまった。

「お前らー、動くなよー」

「なんでそんな慣れた感じなんだよ…」

しょうがないだろ、お前らと年季が違うんだよ。

目が慣れてきた(!?)ので周囲を確認してみると、先程までいなかったはずのポケモンがいた。

「……うっそだろお前」

「「ウルォード!!」」

なんでザシアンとザマゼンタが同時に出てくるんですかねぇ!!

唐突に戦闘を開始させられて、少し苛立ってしまった。

タイプは覚えて…る。

確か、はがねかくとうとはがねフェアリーだった気がする。

…フェアリー死すべし、慈悲はない。

「行っておいで、ルカリオ」

流石にあの二匹相手にサザンドラを出すわけにもいかないので、素直にルカリオを出す。

「る、ルカリオだ…!」

「サザンドラといい、なんであんなに強者の風格があるんだ…?」

目の前の見たこともないだろうポケモンよりも、知っているルカリオの方が珍しいらしい二人。

負けじと二人もポケモンを出し、俺のルカリオの隣に立たせる。

「よぉしヒバニー!にどげりだ!!」

「サルノリ!こわいかお!!」

ヒバニーはまだわかる。昨日も使ってたよな?

…だがサルノリ、テメーは駄目だ。

なんでお前こわいかお使えるんだよ。うそなきといいなんなの?

「なっ!?攻撃が、効かない?」

「変な壁に拒まれてるみたいだ…」

「よし、なら…ヒバニー!フェイント!」

「そぉい!?なんで使えんだよソレ!!」

さも当然と言わんばかりに指示したマサルに、俺はやれるというような目で頷いた後、ヒバニーはフェイントを仕掛けた。

説明のしようがないくらい霧が濃かったので、何とも言えないのだが。

「ダメだ、また防がれた…」

「守るとかじゃないのか…」

「はぁ…ルカリオ、インファイト」

一応俺も攻撃しておくか、という野次馬精神で指示すると、ルカリオは一瞬で二匹の前に移動し、霧が晴れるレベルの風を起こしながら拳を振るった。

…速すぎて、見えませんでした。

どうせ見えない壁に防がれる…そう思ったが。

バズンッ!!と低い音がなったかと思えば、ザシアンとザマゼンタは吹き飛ばされていた。

見たところ、ダメージも負っているようだ。

……は?

「す、すげぇえ!!流石ヴァイス!」

「サザンドラもだけど、あのルカリオも強い!!」

かなり褒め称えてくれる二人だが、俺の方がもっと驚愕していた。

……負けイベとちゃうの?

「ウルォード…」

なんか弱々しい声をあげ、ゆっくりと立ち去って行った二匹。

…ま、また俺何かやっちゃいました?

「すげぇ!あの二匹を追い払っちまった!」

「やっぱり越え甲斐がある!」

なんかキラキラした目でこちらを見てくる二人に、実は想定外でしたなどと言えるわけもなく…

「け、計算通りだ!!」

「「すげぇ~/すっごい!!」」

俺は、嘘をつくのだった。

…ちなみに、ウールーはちゃんと見つかりました。

そしてしっかり説教されました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヴァイス視点

はい、なんやかんやで研究所までつきましたぁ~!

…一番道路のポケモンたち、俺のサザンドラの風格に気圧されて逃げていったんだぜ?泣けるだろ?

ダンデに連れられて中に入ると、ワンパチが出迎えてくれた。

初対面の俺にも十分懐いてくれてるワンパチを撫でていると、上の方から声が。

「ダンデくん今日はなに?まだみぬ最強のポケモンはどことかやめてほしいんだけど?」

…そんなこと、言ってたんですね…

ちょっと遠い目をしていると、ダンデとやたら派手なヘアメイクをした女性が話に一段落つけたらしく、俺に話を振ってきた。

知っていたことだが、あの女性はソニアと言うらしい。

それでまぁなんかいろいろ話があって、なんやかんやで博士の家まで向かうということになりました。

え?そこに至るまでの説明?

何も無かった、それでいいじゃないか。

「……で、もう旅立って大丈夫なんですかね」

「ダイマックスバンドは要らないのか?」

「おっと忘れていた」

この会話からわかるように、俺達はねがいぼしのイベントも終わらせた。

それで今、ダイマックスバンド作成をしてもらっているのだが…

…前から思ってたけど、石がバンドになるってどうなんだ?

俺は違和感があるが。

ていうかゲームと違ってパワーが溜まったかどうかなんてわかんないわけだし、ダイマックスの使いどころわかんなくない?

そんな事を考えながら就寝。

やっぱり早寝、遅起きだよね。

「……そして朝」

「昨日からなんで時間帯の説明をしてるんだ?」

「どうでもいいことに触れるんじゃありませんホップ」

「なにその口調」

二人からのツッコミを回避、ダイマックスバンドを受け取って駅へ。

……やっぱり自由な旅って大事だよね。

マイマザーのせいで自給自足になれてしまったのが祟ったか。

与えられるのはなれてない(イキリ)

「…じゃあ!行ってくる!」

ホップとマサルは母親に見送られ、笑顔で手を振っていた。

俺?親が基本放任主義だから…(震え声)

電車に乗り込み、すぐにスマホを起動した現代の若者二人をしみじみと見た後、俺もスマホを起動。

どうせワイルドエリアで下ろされるので、そこの情報を見ておこうと思ってね。

書いてあることはゲーム準拠の情報だけだったので、すぐにスマホゲームに切り替えたが。

そんなこんなでゲームすること数分。電車が急に止まり、ワイルドエリア前で下ろされた。

ウールが線路をふさいでいるんですね、わかります。

「……さて、キャンプセットももらったことだし、少し懐かしのワイルドエリアを堪能するとするか」

なんか懐かしい光景が広がっているので、少し感傷に浸ってしまった。

モンスターボールからサザンドラを呼び出し、一緒に懐かしむ。

「……思えば、俺達が最初にダイマックスポケモンと戦ったのってここだよなぁ…」

サザンドラの背に乗り、ポケモンの巣穴に目を向ける。

何故か最初に遭遇したのがフライゴンでなぁ…うん。巣穴の周辺ならダイマックス維持できるんですね。

「………お?なんか揺れてないか?」

涙すら出てきそうになっていると、急に地面が鳴動し始めた。

「…まさか…」

巣穴からゆっくりと浮かび上がってきた巨大なポケモンに、俺もサザンドラも笑みを浮かべた。

「まさか、この場所でお前に会うなんてなぁ…」

サザンドラの背から降り、帽子の鍔に手を当てる。

レッド式のかっこいいポーズその三を披露しつつ、そのポケモンの名を呼ぶ。

「…なぁ、フライゴン!」

「――――――――ッ!!」

俺が名を呼ぶと、フライゴンは呼応するように雄たけびを上げた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヴァイス視点

「さて、ダイマックスポケモン相手には本当は四人で挑まないといけないが…」

協力してもらう気なんて、無い。

コイツは、俺とサザンドラだけで倒す。

「サザンドラ!ドラゴンテール!!」

まずは小手調べ。

サザンドラの尻尾が紫色に輝きだし、巨大な尾を具現させた。

その尾の形状をしているエネルギー体をサザンドラがフライゴンにぶつけると、フライゴンは絶叫した。

鼓膜が破れそうだが、それはまぁいいだろう。

追撃させようとしたが、それよりも早く、フライゴンの前に薄いオレンジ色の盾のような物が発生した。

…まずい、攻撃の勢いが増す―――!!

俺の指示が一瞬途切れたところを狙って、フライゴンは地面を強く叩きつけた。

じしん。浮遊なんて持ち合わせちゃいないサザンドラは、回避することもかなわずに受けてしまった。

「大丈夫か!?」

心配する俺に、問題ないと言うような視線を向けてきたサザンドラを信じて、ダイマックスバンドを付けた右手を掲げる。

「よぉし、あの時との違いを見せてやろうぜサザンドラ!!ダイマックスだ!!」

返事をするかのように頷いたサザンドラをボールに戻し、エネルギーをバンドから送る。

巨大なボールに変化したモンスターボールを投げると、中から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

……え、なにこれ。

耳をつんざくような声を発したサザンドラを、俺は呆然と眺めることしか出来なかったのだった。




サザンドラのキョダイマックス、ないですよね。
作るしか、ないですよね。
いないマックスと言うハッシュタグの画像を見ましたが、やっぱりヤマタノオロチを意識したやつがいいなぁということで捏造しました。


因みに足元の炎、上空の雷、吹き荒れる雪はトライアタックを意識しています。
うまく伝わってなかったらごめんなさい。


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開会式って発狂するものじゃないんですか?by主人公

ヴァイス視点

…なんかもう、驚愕とか畏怖とかじゃなくて感動した。

…か、かっこいいいいいいいいい!!

なんか世界観おかしいし色が白と金になってたりするけどすげぇええええ!!

感動しまくっている俺に、「早く指示しろ」というような目を向けてくるサザンドラ。

おっと、気が動転していたようだ。

「サザンドラ!ダイラグーン!!」

取り敢えずドラゴンタイプの技の使用を宣言。

だが、サザンドラは「そんなしょぼい技使うわけねぇだろ?俺の全力見せてやる」みたいな目を向けた後、口元にエネルギーを集中させた。

なんだなんだ?と思っていると、極限まで凝縮されたエネルギーがレーザー状になってフライゴンに放たれた。

虹色の極光が、八か所から同時にフライゴンに襲い掛かる。

…ここ、巣穴じゃなくて外なんだけど?

俺の心配むなしく、サザンドラから放たれた極光は周囲の地形を大幅に変えた。

天候が一気に砂嵐になったワイルドエリアを、俺は無言で離脱したのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヴァイス視点

「よ!ヴァイス。遅かったな!」

「なにも聞くな」

触れてほしくない話題。ありませんか?

僕はあります。

天然記念物的な扱いすら受けているワイルドエリアの一部を、完全に消し飛ばしてしまった事とかね!

…あの後ニュースになってしまいました。急いで逃げてきたけど、映ってたらやだなぁ…

「マサルの奴遅いなぁ…もしかして、あれに巻き込まれたんじゃないのか?」

「あ、アレ?」

「そ。なんでも正体不明のキョダイマックスポケモンがワイルドエリアの一部を焼け野原にしたらしくてさ。アニキが今状況を確認しに行ってるんだけど…」

や、やべぇええええ!!これシャレにならないやつだってぇ!!

もし賠償金がどうのとか言ってくる輩が居たら黙らせよう。

「―――ってなわけで、学者の中にはブラックナイトの再来だって言ってる奴がいるらしいぜ?ブラックナイトが何かはよくわかんねぇけど……どうした?頭抱えて?」

「いや、少し心配になってな」

「ん?あぁ、マサルの事か?大丈夫だろ、アイツ運強いし」

「それは大丈夫の根拠として不成立だ」

俺のツッコミを笑って流しやがったホップに若干殺意が沸くも、自制する。

「…俺先に申し込んじゃおっかなぁ」

「待ってぇえええええ!!」

しばらくたっても来なかったので、先に受け付けてしまおうかと思ったら、エンジンシティの入り口を走ってこちらに近づいてきているマサルが声を荒げていた。

…え、先に受け付けるって言ってたの聞こえてたのか?

ちょっと聴力がばかげてる。

「はぁ、はぁ…」

息切れしながら俺達の前で止まるマサル。

なんか傷だらけなんですがそれは。

「お、おい大丈夫か?」

「だ、大丈夫……ちょっとダイマックスポケモン五十番勝負やってた」

「暇か!?ってかどんだけ早いんだよ!?」

「え、ポケモン図鑑で見てみたら、星一とか二とかだったから…余裕だったよ」

「おうふ…俺と年季が違うんだった」

思いもよらぬところでダメージを受けつつ、適当に話をしてからジムスタジアムに向かう。

「…お、おぉ……なんかみんな殺気立ってるなぁ…」

「まぁみんなチャンピオンへの挑戦権が欲しいよね」

「だからって…」

そう言いながら、少し周囲を見渡す。

挑戦者たちの大多数は、緊張しているせいか、すごく変な行動ばかりしていた。

ピカチュウの十万ボルトを自分に浴びせたりとか。

…え?サトシさん?

「ま、まぁ少し暴走してる奴等はいるけど、真剣な奴等もいるだろ?な?」

ホップが少し呆れた笑いを浮かべながら言う。

…まぁ確かに本気と書いてマジの人もいるけどさぁ…

やっぱりあの闇鍋みたいな人たちにしか目がいかない。

「よぉし早速受付…あ、まだ人がいるな」

なんか全身ピンク色な人がまだ受付にいた。

一体何ビートなんだ…

「…?何ですか貴方たち」

「いやならんでるだk」

「なるほど、貴方たちもジムチャレンジを……ま、せいぜいがんばってくださいね。リーグ委員長の推薦状を持つ僕の引き立て役くらいにはなってくださいね」

そう言って、前髪をかきわけて立ち去って行ったピンクマン(直球)。

む、ムカつくわぁ…

「へ、変な人だったねぇ…」

「ま、今はとにかく申し込みだ!すいませーん!ジムチャレンジ登録を三人分お願いしまーす!」

「ホップ、このゼロ距離で大声を出す必要はないと思うぞ?」

事実受付のサングラスおじさんも耳を塞いでしまっている。

「………で、では推薦状を出してください」

「はいっ!」

ホップが俺達の分もまとめて提出する。

サングラスおじさんは全部を軽ーく流し見すると、力強くうなずいてこちらに向き直ってきた。

「確認、終わりました。名前をお願いしても?」

「ホップです!」

「マサルです」

「ヴァイスだ」

……俺一人だけ名前浮いてるの、おかしくない?

そんな思いは誰にも通じず、淡々と手続きが進められた。

「…最後にそれぞれ三桁まで、背番号を決めてください」

「193で」

「あれ?ヴァイス決めてたのか?」

「早いなぁ…僕なんてまだ迷ってるのに」

「……なるほど、ヴァイス選手…そういうことですね?」

「そういうことです」

「すごいですね…初めてですよ、本当に実行する人」

「なら俺が初めてです」

何やら察した様子の受付の人と硬い握手を交わす。

…なんで193なのか?

それはこの番号で戦っている人が関係している。

サイトウ。

俺はサイトウと同じ番号を選んだのだ。

え?気持ち悪い?何言ってるんですかね。愛です。

「…お二人は決まりましたか?」

「じゃあ俺は189で!」

「な、なら僕は666で」

マサルが不吉すぎる。

一体どういう意味を込めてくれやがったんですかねぇ…

「189と666ですね……はい、登録完了いたしました。開会式までまだ時間もありますし、ユニフォームの試着でもなさってみてはいかがでしょうか」

「そうするか!」

「えーっと、試着室は何処へ?」

「こっちから見て左側なので…あなた方からみて右側ですね」

「よぉし!早速着るぞー!!」

男の試着シーンなんていらない。カットしましょう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヴァイス視点

…そんなこんなで開会式。

リーグ委員長の話とかどうでもいいんで、早く生サイトウ見せて、ね?

『ではジムリーダーのご紹介!くさタイプの使い手、ヤロー!』

コートの入場口から、(筋肉が)すごく……大きいです、な優男が笑顔で登場してきた。

…うむ、とても一番最初のジムリーダーとは思えない風格だな。

「すごいな、見ただけでわかる…」

「あの人、すごいよ…」

俺の両隣に座っているホップとマサルも、一人目のジムリーダーの威圧感にタジタジだ。

『みずタイプの使い手、ルリナ!』

第二の褐色系、みずタイプジムリーダーの中でも随一(は言い過ぎかもしれない)な露出度を誇る、足がグンバツの女。

俺のチームにみずタイプ相手にマウントをとれるポケモンは数少ない、要注意だ。

「ど、どうしたんだマサル?」

「えっ!?あっ、いやぁ…なんていうか」

「まさかお前一目惚れか?」

「おふぅっ!?べべべ別にそんな事ォ!!」

クロだ。

白黒はっきりつける能力が無くてもわかる。こいつぁ真っ黒だぁ。

ニヤニヤしながらホップがマサルをからかっている。

色恋に興味ないからって調子乗りやがって。

ていうかマサルも態度を如実にし過ぎなんだよ。

もっと静かに反応すべきだ。心の中でガッツポーズ、とかな。

『ほのおタイプの使い手、カブ!!』

タオルを首にかけた、圧倒的熱血キャラ感を滲み出させるダンディーなオジサマが小走りで入場。

女性の声援が大きく聞こえる。

『かくとうタイプの使い手、サイトウ!!』

「ん”ァ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!可愛い!格好いいし可愛いよサイトウ!!堂々と入場する姿もまた、す↓て→き↑!!!」

「……ヴァ、ヴァイス…?」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「…ちょ、僕席外すね」

まわりの人からやべぇ奴を見るような目を向けられるが、俺はやめる気はない。

少し俺の周囲の席が静まり返ってしまった気がするが、それは他の人の熱意不足だ。

『ゴーストタイプの使い手、オニオン!』

再び女性陣が大盛り上がり。

盛り上がりが一番激しいところを見てみると、カロス地方によくいたオカルトマニアの大群がいた。

……態々カロスから来たのか、どの地方でもあの見た目が固定なのか。

『フェアリータイプの使い手、ポプラ!』

ゆっくりと傘を杖にして歩いて登場してきた老婆。

ジムチャレンジ中のクイズがどうしても解けなかった。

『いわタイプの使い手、マクワ!』

再三、女性陣大盛り上がり。

しっかり人気なんですね…

『こおりタイプの使い手、メロン!!』

男性陣、発狂。

なんかただの叫びとかじゃなくて「おぎゃあああ!!」とかなのは一体どういう事なんでしょうか。

母性の塊は精神を幼児化させるほどのエネルギーを持っているのだろうか。

『ドラゴンタイプの使い手、キバナ!』

女性陣、狂乱。

男性陣よりも熱が入ってるのって女性陣なんだ。

まぁ男性陣って俺みたいにクールな応援の仕方するからな。

「えー、もう一人ジムリーダーはいますが、用事があるとのことで本日欠席です」

ネズか。アンコールしないことで有名な。

この後、再びリーグ委員長からのどうでもいいお話を受け、後日俺達ジムチャレンジャーが出場しなくてはならないイベントがあることを知らされたのだった。

…さっさとジムチャレンジさせろよ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヴァイス視点

「はぁ~、疲れたぁ~」

ホテルに向かいながら、先程までの面倒を思い出す。

あの後、なんか知らんけどダンデとローズ委員長とやらに遭遇、お話することになり。

キョダイマックスサザンドラなんていうヤマタノオロチで地形変えちゃった覚えがある俺は、胃に穴が開きそうだった。

ば、バレてなかったからよかったんだけどね。

俺が二人と話している間に、ホップとマサルはどっか行ってたし。

アイツらどこ行ったんだろ?先にホテル行ったんだとしたら、俺の代わりに何個かイベントやってくれたってことになるんだけど…

「ここか」

ゲームではほんの数秒で到着するような距離だったのにも関わらず、現実となると意外と時間がかかるもので、少し迷子になりかけたレベルだった。

扉を開け、中に入ると、剣と盾を持った銅像の前でソニアが立っていた。

…クソっ、イベントはまだ始まっていなかったか!!

いや待てよ?このままスルーして階段を上って行けば誤魔化せるんじゃねぇのか?

よ、よし。慎重に、慎重に…

「あら、ヴァイス」

「うっひぃ!?」

バレたー!!

嫌なんだけど。どうせこのイベント関わったらホップとマサルと一緒に伝説のポケモンのイベントに挑まないといけなくなる。

だが、俺に伝説のポケモンをゲットできる可能性なんてない。

…ようは、面倒くさいことに巻き込まれるだけ巻き込まれて噛ませ犬やって終わりというわけだ。

「どうしたのよ変な声だして」

「な、なんでもないです、ハイ」

後半に行くにつれて声が小さくなっていくのは、俺がリアルで陰キャだったからだ。

陽キャグループとよく絡んでいたが、なんだかんだ言ってイキリ陰キャレベルでしかありませんでした。

「この像、大昔ガラルを救った英雄の像なんだけどね?」

「…剣と、盾」

「そう。知っていると思うけど、ジムチャレンジのソードとシールドはここからきているんだよね」

…その話は、俺が少し前にモノローグで語ったような気がするのですがそれは?

「…でね、この英雄はブラックナイトって言う謎の災害の時に人々を救ったと言われてるんだけど…今日、そのブラックナイトに似た現象が起こっていたらしいの。それもここのすぐ近くで」

「へ、へー…ソウナンダー」

思い当たる節しかないので愛想笑い。

口先の魔術師の異名は伊達ではない。まぁ今回は口先とか関係なしのただの愛想笑いなのだが。

「謎のキョダイマックスポケモンの姿を見たって言ってる人もいたらしいし…このガラルに、一体何が起こっているのかしら…」

ぶつぶつと一人で考え込む様に呟くソニアの背後で、全力で思考を働かせる。

……その俺のキョダイマックスサザンドラを目撃してくれやがった輩を、どうやって東京湾に沈めるかについて。

いやいや、まだ俺の事を見たとは言ってないじゃないか。沈めるのは確認してからでいい。

「―――って事なんだけど…ヴァイスはどう思う?」

「やっぱコンクリは駄目だと思うんですよ、金額的に。やっぱ人一人沈めるんだったらドラム缶に詰めるとかが一番なんじゃないかなって」

「話聞いてないよね、絶対」

はい。聞いてませんでした。

まだ東京湾の件を引きずってました。

……でも待てよ?東京湾なんてこの世界には無いような…?

「もういいわ。取り敢えずまた何かわかったらその時説明するわね」

「あ、はい」

別にしなくていいです。

寧ろ俺を面倒なイベントに巻き込もうとしないで、ね?

「それじゃ、私はちょっと寄るところあるから~」

そう言って、俺を押しのけてホテルを出ていったソニア。

……嵐のような女だった。

「…さて、チェックインするか」

限りない面倒事の予感を感じつつ、受付に向かう。

するとそこには、ゲームでよく戦ったエール団の面々が。

「……やっぱ野宿でいいかな」

「いや待ってくださいよッ!助けてッ!!」

自分の胃を気遣った判断は、受付の人の悲痛な叫びでかき消された。

……えー、でも俺のポケモンって室内で使って大丈夫なやつなんてあんまり…

「はぁ、わかりましたよ。おら、迷惑そうにしてるだろ。さっさとどけ」

「は?そう言われて退くやつが何処にいるってんですかねぇ?」

「避けてほしけりゃ私たちとポケモンバトルでもするんだね」

「…しょうがない、相手してやるか」

ヤレヤレ、と言いながら懐からモンスターボールを取り出す。

「で?そっちは何人でくるんだ?」

「四人全員で行くに決まってんだろ!」

「それ普通に反則じゃ…」

「知らねぇ!いけっ!ジグザグマ!」

一人がジグザグマ(ガラル)を出すのに続いて、他の奴らもジグザグマやクスネを呼びだした。

「……いっておいで、ルカリオ」

ルカリオ、再び。

あくタイプを使ってくる人相手にかくとうタイプを使わないのは舐めプだと思うんだよね。

「ジグザグマ!ふいうちだ!」

「躱してローキック」

俺の指示の通りに回避して蹴りを入れたルカリオ。

見事にジグザグマの腹部にクリーンヒットし、一撃で戦闘不能へ。

「クスネ!でんこうせっか!」

「ルカリオ、しんそく」

でんこうせっかは、しんそくに勝てない。

自然の摂理である。

ルカリオの光すら置き去りにした一撃を受け、クスネは倒れた。

「ジグザグマ、バークアウトだ!!」

「ルカリオ、はどうだん」

喚き散らそうとするジグザグマに、ルカリオは蒼いエネルギー弾をぶつけた。

くぐもった打撃音のような音が響き、ジグザグマは戦闘不能になった。

「くっ…タチフサグマ!」

「いやそれって序盤の人が使っていいポケモンじゃ無くね?」

なんでジグザグマとかクスネとかと戦ってたらいきなり最終進化系が出てくるわけ?

「うるせぇ!いちゃもんだ!」

「…インファイト」

なぜブロッキングじゃないのか。俺はそう言いたい。

あれだけ力の差を見せつけられておいて、何で防御技を使わなかったのか。

負けイベだと悟ったのだろうか。

俺のルカリオの億を超える拳による一撃を受けたタチフサグマは、吹き飛ばされることなくその場で崩れ落ちた。

おぉ、ノックバックは防いだのか。

少し感心しつつ、ルカリオをボールに戻す。

しっかり労っておくのも忘れない。

エール団の方々が何か言っているが、そこはまぁ無視。

と、そこに中々パンクな髪型の美少女が。

マリィたそ、降臨。

リアルで見るのは違うね。

「…すまんかったね。みんな悪気はないんよ」

申し訳なさそうに言うマリィ。

上目遣いといい、多少の訛りといい…男心をくすぐる奴だな……将来が楽しみだ(意味深)

俺みたいなサイトウ信者じゃなきゃ死んでたぜ。

「……にしても、アンタ強かったね」

「…見てたなら止めればよかっただろうに」

「いや、つい見入っちゃって」

ついじゃねぇよ。

こっちはタチフサグマなんて序盤で出てきちゃダメなやつ相手にしてたんだよ。

人を何だと思ってんの?

「……まぁいい、それで?」

「でね?同じジムチャレンジャー同士……戦わん?」

「今からか?」

「まさか……。明日の対戦相手、決めてないでしょ?」

「……ヘイ、もうワンタイムプリーズ」

マリィの言葉に少し不穏なワードが入っていたため、復唱するように指示する。

マリィは少し訝しむような顔をしつつ、同じことをもう一回言ってくれた。

「明日の対戦相手、決めて――――」

「嘘じゃなかったぁあああああ…」

脱力するように声を絞り出す。

まじかー、早く帰ってやったら大事な話俺だけ聞かされなかったオチになっちゃったかー…

…しくじったな。

己の失敗について後悔している俺に、マリィは変な人を見るような目をしつつも聞いてきた。

「…それで、どうするとね?」

「え、あぁ…じゃあ明日、よろしく?」

「こちらこそ」

ついつい疑問文で手を差し出しながら答えてしまった俺に、マリィは握手で応じたのだった。

……因みにだが。

ホップとマサルは床屋に行っていたらしい。

どうやらマサルがヘアスタイルを変えてみたくなったとかなんとか…

これは恋ですね間違いない。

彼の恋路を、全力で応援しようと思った瞬間であった。




遅れました。
作者インフルだしね。しょうがないね。
サザンドラさんの戦闘はあっさりにしました。
後々性能が明かされていくような感じでやりたいので、ここでがっつりやるわけにはいかなかったんです。

方言女子難しスギィ!僕道産子なんで方言とか知らないんでねぇ…
そこは甘く見て、ね?


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なんかライバルの成長がチートby主人公

ヴァイス視点

そんなこんなで会場前。

この世界での父親が俺を見に来てくれているらしいけど、何処にいるのかまではわからなかった。

……ていうかあの人自由人過ぎて母さんを抱くために真夜中に帰ってくる以外で顔出したりしないんだよな…

夢はポケモンマスターになる事、だそうだ。

ふざけてるんですかね。

「お、ヴァイスー!」

「マサルか。ホップはどうした?」

「カフェの店員とバトル中。ポケモンセンター寄ってから来るらしいから先に来た」

「アイツ今日人前でバトルする日だってわかってねぇのか?」

「…ま、まぁホップってそういうところあるから…」

震えた声でホップを擁護するマサルだったが、目は完全に俺に同意していた。

「…じゃ、行くか」

「そうだね…」

昨日のように先に行くか発言をしたら急いでこちらに寄ってくるかなぁと思ったが、そんなことは無かった。

スタジアム内に入り、待合室に案内された。

中には結構人が入っており、俺達が遅かった事を遠回しに非難されているように感じた。

「……そういやマサルは誰と戦うんだ?」

「え?ホップとだけど?」

「肝心なホップはいないがな…」

「ま、まぁ時間には間に合わせるでしょ、多分…それより、ヴァイスは誰とやるの?」

「マリィって奴と戦うことになった」

「へー…知り合い?」

「昨日知り合った」

「会って2秒って事?」

「ぶん殴るぞマセガキ」

ごめんごめん、と笑いながら謝るマサルから視線を外す。

マリィがいるかどうか探したかったのもあるし、ホップが来たかどうかも知りたかったからな。

「……マサル、あの子がマリィだ」

「ん?…すっごいなんか…パンクな子だね」

「聞こえとーよ?」

俺とマサルの会話に割り込む様にして、ジト目で睨みながらこっちに来たマリィ。

「…よ。コイツはマサル、俺の友達だ」

「よ、よろしく~?」

「…はぁ、私はマリィ。よろしく」

溜息混じりながらも、変な挨拶をしたマサルにしっかりと握手をするマリィ。

ええこや。

マリィ、かわええよな。ヴァイス、(エール団に)入団します。

嘘です。俺にはもうサイトウがいるから(妄想厨)

「まもなく試合開始となりますので、ホップ選手とマサル選手は準備してくださーい!」

「お、マサル一番目か。…ホップいねぇけど、大丈夫か?」

「大丈夫だって。もういると思うよ……きっと」

「…そんなんで大丈夫と?」

マサルの激励をしたかったのだが、どうしてもこの場にいないホップの心配ばかりしてしまう。

……アイツ、まじで大丈夫なのか…?

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

マサル視点

今日は、記念日だ。

歓声や熱気から隔離された通路で一人思う。

ずっと、これを待っていた。

チャンピオンになりたい。それは誰だって夢見る当たり前の事。

なら何を待っていた?

…簡単だ。単純明快で、ありふれている。

ほんの数メートル先から聞こえてくる歓声が、僕の中の何かを強く、熱く滾らせる。

……僕の願いは、ただ一つ。

収まることの無い自己顕示欲、溢れんばかりの承認欲求……その全てを満たす事。

…つまり、僕は注目されたいのだ。

名も知らぬ人間が、僕を見る。

そして、僕に好感情を寄せる。

今は期待が多いのだろう。

そしてそれは「必ずこの人は面白い試合を見せて勝ってくれる」という確信へと変わり、僕は世界に愛される。

嫌う人間?知らないね。

僕は大人数に愛されたいんだッ!それさえ叶えば他の有象無象に興味関心等無いッ!

「勝つ、絶対に勝つ……ごめんよホップ。僕の人生(ステージ)ライバル(盛り上げ役)として、負けてもらうよ?」

暗い通路の中、一人笑う。

今日は、マサル記念日だ…ってね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヴァイス視点

『さぁ!ホップ選手もマサル選手も入場が完了したぞー!両者ともに構え、始まりの合図を待っています!』

ホップはしっかり来ていたらしく、マサルとにこやかに握手をしていた。

「しっかし……マサル、なんか変な気がするな」

「え?そうなの?」

「あぁ………ってなんでソニア?」

「いやー、ヴァイスがここに座ってるのが見えたからつい、ね?」

「はぁ…」

軽く笑いながら言ったソニアを、少し殴ってやりたくなったがそこはまぁ堪えよう。

「…お、スタートみたいだが…」

「やっぱりホップはウールーね」

…まだウールーなのか。いやまぁまだ旅に出て少ししかたってないから仕方ないと言えば仕方ないんだろうが。

対するマサルはアオガラス。

あ、こっちは進化なんだ。

「本気で行くよ、ホップ」

「おう!逆に手を抜いたりなんかしたら許さねぇからな!」

なんか青春してる二人を見て少しダメージを受ける。

…お、俺は前世が酷かっただけだから。ここで頑張るから。

そんなどうでもいいことを考えている俺の視界では、アオガラスとウールーの攻防が始まっていた。

お互いにダメージは入っていないが、見たところ優位に立っているのはアオガラスの方だった。

まぁ空飛んでる方が有利だよな。

「アオガラス!つつけ!」

「よけろ!ウールー!」

様子見から一転、攻撃したアオガラスだったが、ウールーに難なく回避され、勢い余って地面にくちばしが刺さってしまった。

そこに追い打ちをかけるように、ウールーがとっしんした。

鈍い音が響き、アオガラスが地面から抜けてふっ飛ばされた。

それだけでは終わらせんと、ウールーはアオガラスの着地点に素早く迫り、再びとっしんした。

だが、アオガラスもやられっぱなしではなかった。

攻撃を回避し、再び空中へ移動。

「よし、アオガラス……ついばむ!」

「とっしんで迎え撃てッ!」

空中で助走をつけてその鋭利なくちばしで攻撃をしようとしているアオガラスに対し、ウールーは再び前屈姿勢を取り、素早く駆け出した。

アオガラスも怖気づくことなく、ウールーに向かって急降下。

「え、え?どっち…?」

俺の隣ですごくハラハラドキドキしているソニアに冷めた目を向ける。

そりゃあ衝突後に両者ともに停止している状態になったらそう言いたくなる気持ちもわからんではないが…

あれはどう見てもアオガラスの勝ちだ。

事実、アオガラスはそのまま空中に居座ったが、ウールーは倒れた。

観客たちの絶叫にかき消されないような大きな声で、ソニアが質問してくる。

「ね、どうしてアオガラスはやられなかったの?ていうかウールーは攻撃されてなかったよね?それなのになんで?」

「……まずウールーがやられた理由だが、それは反動のダメージが大きな理由だろうな」

「反動?」

「そう。とっしんは結構な反動が来る。それを三発も使ったんだ、体が限界を迎えても不思議な話ではない。…それと、多分急所に当たったんだろうな」

「急所?あの一瞬で?」

「普通技を使うときは一瞬なんだが……まぁ運も絡んでるんだろうな」

「ふーん……じゃあアオガラスがやられなかったのは?」

「そりゃアイツの技が関係してるんだろ。ついばむの効果でウールーが持ってたんだろうきのみを食べたんだろうな。それでギリギリ持ちこたえたと考えられる」

「へー……そんな運がよかったんだ」

「あぁ。マサルは運が強いからな。ホップも言ってた通りだ」

…ちなみに勝手に俺が予想していることだが、急所に当たったのにはもう一つ理由があるんだと思う。

きのみを持たせていたことによって、ウールーはきのみを守ろうと考え無意識にきのみを普段から自分が守ろうとしている位置、すなわち急所に寄せてしまったのではないかという予想だが……そんなゲームではなかった現象についてなんて予想の枠を超えないし、あってる可能性の方が圧倒的に低いからソニアに言うわけにもいかないんだが。

「いけ、ラビフット!」

「よぉし…いけっバチンキー!」

最後のポケモン(今回は人数的な理由で手持ちは最大二匹までとされている)は御三家のポケモンだった。

…進化前ですら常識を超えた戦いだったんだ。きっともっとやばいことになってるはず。

「ラビフット、しんそく!」

「躱してアクアブレイクだ!」

「いきなりおかしぃんだよぉ!!」

ラビフット、テメェはまぁいい。

ただしバチンキー、テメェは駄目だ。駄目なんだ。

シェルブレードは大目に見てやったけどさ?なんでアクアブレイクできんの?

ほのおタイプに対する殺意強すぎない?

目にもとまらぬスピードでバチンキーに攻撃を仕掛けたラビフット。

その攻撃を交わそうとしたバチンキーだったが、回避することはできなかった。

しかし、しっかりアクアブレイクは成功させ、ラビフットに大ダメージを与えていた。

「ラビフット、つつく!」

「バチンキー!ストーンエッジ!」

観客たちも混乱し始めた。

そりゃそうだろうね。覚えるはずのない技ばかり使ってるもんね。

…いや、覚えてないだけで覚えるんだっけ?もうわかんねぇな。

チート使い二人がライバルということに嫌気を感じていると、バチンキーが突然倒れた。

え?なんで?

「…ようやく効いたみたいだね、ラビフットの毒が」

「毒…?」

「こっちはつつくじゃなくてどくづきを使ってたんだ」

「なっ…!?」

「つつくを指示したらどくづきをするように指示しておいたからね……わからなかったのかい?ラビフットがつつくを使うわけないって」

「いやどくづきもおかしいからな!?」

すっごく決め台詞っぽく言ってるマサルに、どうせ聞こえないと分かっていつつ俺はツッコミをした。

つーかどうやって毒を発生させたんだよ…

「これで終わりだ!ニトロチャージ!!」

「あ、アクアブレイクだ!!」

最後の最後は真面目な技なんですね。

なんかもうタイプが同じってだけでまともに戦ってるなぁと思うようにすらなって来ました。

ラビフットの蹴りを受けてバチンキーが倒れた。

その瞬間、会場は一気に沸き立ち、マサルコールが始まった。

……これって俺の時もなるのかなぁ…

先の事を考え、少し憂鬱になった俺であった。




今回まともな(大嘘)バトル描写をしたので、次回の主人公の無双シーンは目を瞑って。どうぞ。


数話前でサザンドラに浮遊がないといったな。アレはマジだ。
主人公さんはホップとかにチートチート言っておきながら、さり気なくサザンドラがチートです。
キョダイマックスするなんて聞いてない。


マサルくんの闇、公開。
少しくらいやべーやつ感出してかないと、主人公のせいで空気になってしまうから仕方ない。
過度の目立ちたがり屋程度の認識でオッケーです。


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なんかごめんby主人公

ヴァイス視点

マサルとホップのはっちゃけた試合から数時間。

俺とマリィの戦いは最後だったらしく、ようやく呼び出された。

……やだなぁ…勝った方ってコールを受ける風習が出来上がっちゃってんだけど。負けるのはまずないとして(イキリ)勝つのもあれなんだよなぁ…

ま、相手に申し訳が無いのでしっかりやりますが。

入場すると、すでにマリィは所定の位置に立っていた。

……あれ?俺、遅刻?

「さ、早く」

「あ、あぁ…」

ワクワクしているような雰囲気を醸し出しているマリィにせかされ、軽く挨拶をしてからボールを構える。

「いっといで!モルペコ!」

「いっておいで、サザンドラ」

切り札登場(初手)

キョダイマックスして以来、なんか威圧感が増してきたサザンドラを召喚。

相手のモルペコの方が先に出ていたのだが、勝気そうな顔をしていたのがサザンドラを見た瞬間に一気に弱々し気な顔になった。

どんだけ怖いの?

「さ、サザンドラ……りゅうのはどう」

「モルペコ!でんこうせっか!」

俺の指示の方が早かったものの、でんこうせっかのほうが技としての速さが上だったため、サザンドラに先に攻撃された。

…のだが。

「ぜ、ぜんぜん効いとらん…?」

マリィの言葉の通り、サザンドラさん(もはや呼び捨てはNG)は何の痛痒も感じていない様子で、挙句今までのりゅうのはどうとは全く見た目が違うエネルギー砲を発射しやがった。

ふっ飛ばされたモルペコは、しばらくの間宙に浮いた後地面に叩きつけられた。

…しっかり、戦闘不能の状態になって。

観客たちも静まり返った。

それくらい―――――瞬殺。

今までの戦いは、どれだけ短くても技は両者ともに二回以上使っていたのに対し、こちらはたった一撃であった。

マサルとかホップとかがどうのこうの言っていたが、こちらもこちらで異常だったのだ……特性の時点で察してたけど。

……いや、これはサザンドラさんが悪い。

一撃で充分だなんて聞いてない。

「……え、えーっと…このまま続けます?」

なんか敬語になってしまった俺だが、マリィは呆然としたままだった。

……や、やっべぇ…これアカンやつや…

「い、いっといで!ズルッグ!」

すっごく焦っている俺を無視しいつの間にか復帰したマリィは、震えた声でズルッグを呼び出した。

か、かくとうタイプがあるからサザンドラさんも不利だろ。うん。

「ズルッグ!にどげり!」

至極真っ当な技を指示したマリィ。

うん。そうでなくちゃ。

敢えてサザンドラさんには何も指示を出さず、受けさせる。

…だってこのまま何も無しはまずいでしょ。

しかし、サザンドラさんは勝ちに貪欲であった。

完全な勝利、という奴が良かったのだろうか。

確かによくよく考えてみればさっきのでんこうせっかも当たってなかったような気がする。

要するに何が言いたいのかと言えば。

……見事に躱したのである。ズルッグのにどげりを。

「(さ、サザンドラさあああああん!?)」

声にならなかった。

喉が潰れるレベルの絶叫過ぎて逆に言葉にならなかったのかもしれない。

凄く焦っている俺に向かって、サザンドラさんはいい笑顔を向けてきていた。

避けたぞ、偉いだろ。そう言っているように。

「す、すごいぞサザンドラさん…」

褒め方も変な感じになってしまったが、それくらい俺が困っているというのを察して欲しかった。

しかしそれを無視して状況を悪化させてしまうのがサザンドラさんクオリティ。

俺の指示なしで、ドラゴンテールを使ったのだ。

あの時…キョダイマックスする前、最後につかったドラゴンテールとは段違いのスピード、パワーで繰り出された一撃は、ズルッグに回避も防御も許さずに吹き飛ばされた。

マリィの頬に裂傷を作るほどの速度で壁に叩きつけられたズルッグは、もちろん戦闘不能になっていた。

サザンドラさあああああああああああん!!?

この後、申し訳なさ過ぎて金をもらう事を辞退し、素早くフィールドから抜け出したが…

その時、ヴァイスコールは無かったとだけ言っておこう。

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マサル視点

…馬鹿げてる。

その一言以外で、ヴァイスの戦いは表せなかった。

…ポケモンとの、圧倒的な信頼関係。

サザンドラは、ヴァイスならこう指示するはずだ、と予期して行動していた…ように見えた。

何故かヴァイスはサザンドラにさん付けだったけど。

…あの時、最初に戦った時は越え甲斐のある壁だと喜べたけど…

「アレ、越えれるの…?サザンドラ一匹で全員やられそうなんだけど…」

まぁ今は発展途上。いつかは手が届く範囲に行けるのかもしれないが…

そんな楽観した考えが霧散するレベルで、強い。

ポケモン図鑑には相手のポケモンと自分のポケモンの強さを見る機能がある。

戦闘中にそれを使う隙が無いため使う人は少ないが、これから戦う予定の人の戦闘中につかえば、対策を練れたりする。

それで見てみたのだが、あのサザンドラ…

レベル100で、全能力値が最大。

性格はがんばりや、らしい。

そしてあのサザンドラ、特性がおかしいのだ。

『ムラっけ』

本来ならサザンドラが持つはずのない特性。

……ヴァイスめ、僕達にあれほどチートチート騒いでおきながら、そっちだってチートじゃないか。

一定周期でどれかのステータスが二段階上昇する特性…そんなものをサザンドラに持たせてまともな戦いが出来る訳ないだろう。

「……ま、僕がジムチャレンジを終える頃にはヴァイスなんて余裕で倒せるレベルになってるだろうね……そして、ルリナさんを…ふふふ、楽しみだ」

わざと声に出す。

そうすることで、心の奥底で感じている恐怖や不安をかき消したいのだ。

そんな事をしている時点で勝てる未来なんて無いような物。

……でも、僕は()()()だ。主人公なんだ。

だって、()()()()()()()()()()()()

あんなポッと出のモブに、負けるはずがない。

言葉とは裏腹に苦悶の表情を浮かべつつ、僕はスタジアムを後にするのだった。

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ヴァイス視点

やっちまったやっちまった♪わーいわい!!(やけくそ)

懐かしいなぁ~、懐かしいよなぁ~!

蘇るかつての過ち。

例えばそれは、カントー地方。

エリカが訳あって涙ながらに助けを求めてきたのでお兄さん張り切っちゃうぞ状態になったらカントー半分消滅しました。

え?サイトウが一番じゃないのかって?

……な、何人でも相手にできるのが甲斐性ってやつだから(震え声)

大丈夫、もうサイトウ一筋だから。

結局やらかしすぎてエリカとは音信不通になったから。

…ってそうじゃねぇ!!

今はマリィだよマリィ!どうするとね!?

取り敢えず会場からは抜け出して、今はエンジンシティから出られるように街の出口のところに居るんだけども。

このまま無言でジムチャレンジを始めようにも、恐らくまだジムリーダーは会場に集っている。

本来ならサイトウ可愛いハァハァしたいけれども、そんな事をできるような状況ではない。

…くそっ、サザンドラさんの力をお借りしなければよかった!

でも俺の手持ちって全員あんな感じなんだよなぁ…

なるほど、あの状況は逃れようがなかったのか(名推理)

「……いやそうじゃねぇだろ!?」

頭を抱えて叫ぶ。

周囲に人がいないことはちゃんと確認してあるので大丈夫だ。

しっかしどうしたものか。

勝ち方が勝ち方だったせいで、マリィを傷つけてしまったかもしれない。

いや絶対傷つけた。

即堕ち二コマどころの速さじゃなかったもん。あれは即堕ち一コマだよ。

……す、素直に謝罪する…か?

いやでもよく考えたら謝ることが無いんだよなぁって。俺が勝っただけじゃん。

ただ、サザンドラさんが大暴走しちゃったって言うか……

ん?そう思ったら気が楽だな。

寧ろ金をもらわずに走って行った俺は相手の財布を気遣う事の出来るいい人として見られてるのでは!?

そう考えると中々いい気分になってくるな。うん。

「なんだ、気負い過ぎてただけか………よしっ、気を取り直してジムチャレンジスタート!!」

「待ちな!!」

元気一杯声を出して三番道路に足を運ぼうとした俺を呼び留める声が。

……何の用だよ、全く。

ていうか誰?

苛立ちながら振り返るとそこにはエール団の皆様が…

「すみませんでしたぁああああああああああ!!!」

土下座。

なんとこの世界には存在しない、和の心。

この謝罪様式を使う人間は、恐らく俺一人だろう。

さっきまで気にしない方向で行くことに決まってたじゃないかって?

知らねぇよ!同じことを本人または関係者の前で言える訳ねぇだろ!!

「な、なんだコイツ…」

「いきなり頭下げだして…」

「お、俺等はただ、ジムチャレンジに行こうとしているやつの邪魔…もとい妨害…?いや、あれ?」

「わかってないじゃん!…あたしらはあんたみたいな強いジムチャレンジャーの道を断つために来たのさ。あとは…わかるだろう?」

「………なんだ、そっちか」

総勢十数人くらいいるんじゃないかなぁって感じなエール団全員がモンスターボールを構えてこちらを見てきていた。

それを理解した瞬間、先程まで混乱状態にあった脳がクリアになり、苛立ちをよみがえらせた。

……人が気にしてたってのに、当事者(の関係者)が気にしてないで、それをどうでもいいことのように扱っている、かぁ………

「行くぞサザンドラ、カントーの悪夢を蘇らせてやれ」

さん付け終了。これからも呼び捨てで行くからよろしくな!

そしてエール団はさようなら。俺を怒らせたことを後悔し続けてください。

しっかり戦闘は街の外で行ったが、結果は………

会場にいたダンデ達が血相変えて駆け寄ってくるレベルの悲惨さだった、かな?

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????視点

「それで、テメェが推薦したもう一人はどこだよ?」

「ヴァイスは最後に戦うらしいな。相手は…ネズの妹か。どっちも楽しみだが……」

そういうチャンピオンの顔は、何かに同情しているように見えた。

ここは特別席。ジムリーダーやチャンピオン…そしてリーグ委員長とその秘書のみ着席を許される席だ。

いつも通りの一人を除けば、珍しく全員揃っていた。

普段なら前日に行われる顔見せの後はほとんどの人が自分のジムに帰るのだが……

恐らく、今回はある四人に皆注目しているんだろう。

リーグ委員長推薦のビート。

チャンピオン推薦のマサル、ホップ……そして、ヴァイス。

三人も十分すごいトレーナーだと戦いを見てわかっていたが、私は彼にしか……ヴァイスにしか意識が向かなかった。

彼の姿を見た時、ふと思い出したのだ。

それは、ワイルドエリアで修行していた時の事。

まだ小さく、弱かった私は、ダイマックスポケモンの群れに襲われていた。

手持ちも全滅し、逃げ出すことすら不可能だと思ったその時…

彼が現れた。

今でも夢に出るくらい印象強い光景だった。

雨雲を吹き飛ばすほどのりゅうのはどうで大マックスポケモンを一掃したサザンドラと、そんな強力なポケモンを当然のように操る年の頃も近い少年。

『大丈夫か?』

あれ程の凄いことをしておきながら、それを誇るような素振りを微塵も見せず、彼は私の心配をした。

放心状態で何も言えなくなっていた私に対し、彼は喋りかけ続けてくれた。

頷くことくらいはできた私だったが、それでも相当体がボロボロだったらしく、満足に歩くことどころか、立つことすら困難になっていた。

それを彼は即席のハンモック(彼の上着を破って結んで加工したもの)に私を寝かせ、ポケモン達と一緒に回復させてた。

その彼は私が目を覚ますころにはいなくなっていたけど…それでも、彼の名前だけはわかっていた。

ハンモック代わりになっていた上着の裏のタグのところに、名前が書いてあったから。

…ヴァイス。その名前を、私が忘れることは無いだろう。

私の恩人の、名前だから。

『続きまして!本日三人目のチャンピオン推薦のジムチャレンジャー、ヴァイス選手と!!国民的スター、ネズの妹、マリィ選手の対戦ですっ!!』

白熱した戦いが続いていることからか、少し興奮気味のアナウンサーが名前を呼ぶと、コートに少し変わった髪型の少女が出てきた。

あの子がマリィだろうか。

エール団、と名乗る軍団が祭り上げるレベルにはまぁ、可愛らしいというか…人気が出そうな子だった。

女らしくない私なんかとは、大違いだ。

少し落ち込んでいると、遅れて黒髪の少年が入ってきた。

背番号は……193!?

なんで私と同じものを!?

普通背番号とは他のトレーナーと被らないようにするのが暗黙の了解というか……いや、相手が嫌がるかどうかというより、自分のプライドとかいろんなものが許さないとかで同じにしないはずなのだが…

彼は、私を知らないのだろうか?

『さぁ、本日最後の試合が…今、始まった!!』

アナウンサーの言葉に合わせるように、二人のモンスターボールからポケモンが出てきた。

片やモルペコ、もう片方は……サザンドラ。

「すごい威圧感だな…」

となりのカブさんも冷や汗を流すレベルの圧力。

それを醸し出すサザンドラは、私の目には懐かしいものに映った。

やっぱり、彼だ。

何度目かの再確認をしつつ、彼の姿に注目する。

当時よりも、少し伸びたように感じる髪。

どれほどの修羅場をくぐってきたのか分からない、濁りきって光を失っている瞳。

だが、瞳さえ気にしなければかなりの美男子だと思うし、なんならその瞳のおかげでさらに引き立てられているような感じすらする。

…いや、何を考えているんだ私。

自分の思考に困惑していると、彼のサザンドラにモルペコが攻撃した。

でんこうせっか。素早い動きで相手を翻弄し、先手を取ることのできる技だ。

一瞬のうちにモルペコの蹴りがサザンドラに叩き込まれた。

中々の熟練度だ。かなりの修行を積んだと見える。

…だが、彼のサザンドラは全くダメージを受けていないように見えた。

次の瞬間、サザンドラから少し距離を取ろうとしたモルペコは、サザンドラのりゅうのはどうのような何かに吹き飛ばされた。

何か、といった理由は単純で、とてもその技がりゅうのはどうには見えなかったからである。

あんな極太の光線がりゅうのはどうだった覚えはない。

成すすべなくエネルギーに飲み込まれていたモルペコは、地面に叩きつけられると同時に開放された。

『も、モルペコ戦闘不能!』

数秒遅れてアナウンスが叫んだが、私たちを含めた全員は全く反応を示さなかった。

いや、反応できなかったのだ。

目の前の圧倒的な暴力に、全員が言葉を失わさせられたのだ。

マリィが震えながらも二匹目のポケモンを繰り出した。

ズルッグ。

私が専門的に使うタイプであるかくとうを持ったポケモンで、状態異常から回復する特性を持ったズルッグもいる。

そのままマリィはにどげりを指示した。

あくタイプを持つサザンドラには効果抜群だが…

やはり、難なく躱された。

挙句ズルッグは着地すら許されずに、ドラゴンテールによって壁に叩きつけられて戦闘不能になった。

…またしても、瞬殺。

「おいおい、同じチャンピオン推薦でも実力差開きすぎだろ!?なんなんだアイツ!?」

「彼はヴァイス。カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ、イッシュ、カロス、アローラのチャンピオンだ」

「はぁッ!?別地方のチャンピオンかよ!?」

……彼は、そんなすごい人だったのか。

確かにあれだけの実力があれば他の地方を制覇していてもおかしくはない、か…

「すごい…」

無意識に、私の口から賞賛の声が漏れた。

その目線の先の彼は、報酬金を受け取ることなく立ち去っていた。




この後ヴァイスのせいであの人たち呼び出し食らうんだよね……(予知)


今回無駄な部分が多くなってしまったので短くまとめると、
・サザンドラがサザンドラさんに昇格。
・謎の罪悪感から金ももらわずにヴァイス逃亡。
・マサルくんって、もしかして……
・最後のジムリーダー、なんかヴァイスと昔に何かあった…?
という感じです。
結局ヴァイスは罪悪感を感じる必要なんて無かったんやなってことをエール団の方々に教えられ、エンジンシティと三番道路の一部を消滅させます。
そしてサザンドラさんはサザンドラへ降格。




え?あのジムリーダーとヴァイスが過去に何かあった的な設定はどこかで見たって?
…これくらいしかいい案が無かったんだ、察しろ(命令)


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到着、ターフタウンby主人公

ヴァイス視点

エンジンシティと三番道路が尊い犠牲として失われた後の事。

ソニアとかダンデとかから軽く説教を受け、俺はターフタウンと言う場所を目指して進んでいた。

ここで解説。

ジムチャレンジというのは、他の地方とは違い巡る順番が決められていて、それを守らずに進めようものならチャレンジの権利を剥奪される可能性すらある。

そして今俺が向かっているターフタウンは、ジムチャレンジを受けるにあたって最初に行くことを義務付けられているジムがある場所なのである。

これは剣の方も盾の方も統一されており、ターフタウンのジムリーダーが最初の関門としてかなりの信頼を受けている事を察せられる。

さて、そんなターフタウンに向かう道中には、少し面倒なところがある。

それが…

「今俺の目の前にそびえて居る洞窟、なんだよなぁ…」

非常に面倒くさそうに感じているという雰囲気を醸し出しながら言う。

別に周りに誰もいないから関係ないのだが。

問題は、この洞窟が意外と広いというところである。

何と、ゲームでは表示されていなかったところが結構あるのだ。

まぁゲームの中の物なんて覚えてないけどね!

「さぁ!いざ洞窟!」

鎌倉に向かう侍の如く声を張り上げ、洞窟に侵入。

入り口にいた女の人に少し引かれていた気もするけど…大丈夫だよね!

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ヴァイス視点

洞窟探検開始から早一時間。

いわタイプのポケモン達をルカリオに一掃してもらいながら移動していたため、大分サクサク進んでいるとは思うが…

それでも外に出れてはいない。

…何を隠そう、洞窟探検とかは苦手なのだ。

カントーにあるハナダの洞窟でミュウツーを探しに行った時も、迷子になって出れなくなったしな。

もう迷子になる心配は無いんだけどね(意味深)

「…あ、ヴァイス」

「ん?マサルか?」

「奇遇だね…ていうか、僕より早く出発してたはずなのに、まだここにいたの?」

「しょうがねぇだろ?方向音痴なんだから」

暗闇の中からいきなり声をかけてきたマサルに少しびっくりしつつ、それを表情に出さないようにしながら返答。

ま、まさかもう追いつかれるとは…

「…そんなに方向音痴だったら、ついて来る?」

「いいのか!?」

「う、うん……ライバルが洞窟で迷子になってリタイアなんて、こっちが辛いからね…」

俺から目線を逸らして言ってくれやがったマサルに文句の一つや二つを言いたくなったが、そんな事を言える身分ではないのでわきまえた。

「…じゃ、じゃあ早速行こうぜ!」

「そっち逆方向だよ?」

できるだけ陽気な声を出したのだが、それもマサルの冷静な返しのせいで沈んでしまったのだった。

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ヴァイス視点

「脱出成功ー!!」

「そ、そんな大げさな…」

となりで俺から距離を取っているマサルから精神的ダメージを与えられつつ、結構な時間浴びていなかった日の光を味わう。

いい気分だ。

「そう言えばヴァイス、エンジンシティで戦ってた子だけど…」

「何も言わないで?そしてそのままさようなら」

「いや最後まで聞こう?」

都合の悪い話を聞かされそうになったので手を振ってその場を立ち去ろうとすると、マサルに呼び止められてしまった。ちくせう。

「いやー、あんな完膚なきまでに叩き潰して大丈夫だったかなぁ…」

「そのことなんだけどね?あの子、なんか逆に燃え上がってたよ?」

「……まじで!?」

小動物もここまでビクビクしねぇってレベルで体を震わせて話を聞くと、どうやらマリィはそんなに気にしていないばかりか、逆にやる気に満ちてしまったらしい。

よ、よかったぁ~……これでやる気なくされてたりしたらやばかったですねぇ。社会的な意味で。

「それと、今度また会いたいだってさ。金結局受け取ってないでしょ?」

「あー…金は別に要らないんだけど」

正直、金の玉沢山あるし…

もっと金持ちそうな人相手にこばんとおこうを使えば十分だし…

おだんごしんじゅ、確か三桁くらいあったような…

「受け取らないのは冒涜って言われてるじゃん。しっかり受け取ってあげなよ」

「…それもそう、か…」

少し俯きながら考える。

俺の精神衛生上的な理由で受け取りたくない、と言えば、相手も引き下がってくれるだろう。

それでも相手を侮辱するような行為であることに変わりはなく、一生日陰者ルートは確定である。

……いや、一時期マグマ団に入ってみたり二代目ゲーチス(襲名制)にさせられたりした時点で俺はもう日陰者か…?

「その、そんなに気に病むことでもないと思うけど」

「あ、いや…そうじゃないんだ」

勘違いしているらしいマサルにしっかりと間違っている旨を伝える。

俺はただ、自分の過ちを後悔していただけだ。

カガリにホイホイ誘われてマツブサ失脚させて俺が頂点に立ったのも悪かったし、二代目になったことに関しては俺のサザンドラがチートだったのが悪い。

ムラっけだもんね、しょうがないね。

……でもゲーチスってサザンドラをチートにしたら誰でもなれるもんなのか。

「じゃあ何でそんな顔してるのさ」

「あー……何も聞くな」

言ったら幻滅されるどころではない。

あれが渋々やらさせられていた物だったとしたら気楽に話せるのだが、如何せん俺はおだてられると調子に乗るタイプだったのだ。

要するに、ノリノリで悪の組織やってたということだ。

活動の内容に関しては新聞に乗ったりするレベルだった。

というか俺が組織を革新したせいで、単なる一般人も活動に参加してきたりしたなぁ……

いいトップになれただろうか。

「何でそんなしみじみとしてるのさ…」

「いや、過去に思いを馳せてみるのも中々悪くねぇなと」

マサルが隣にいるということを忘れていた。

取り敢えず今はジムチャレンジ。

マリィの件とかいろいろあるけど…ま、是非もないよネ。

「それはどうでもいいだろ?さっさとジムチャレンジに行こうぜ!」

「なんか、元気になってよかった…かな?」

「疑問文は酷いなぁ」

「ははは、ライバルの復活を素直に喜べないのはしょうがないだろう?」

「それもそうだな」

……そう言えば。

ライバルという言葉で思い出したのだが、ホップは一体どこに…?

三番道路とエンジンシティをふっ飛ばした時に、ダンデがホップに会おうとしている的な発言をしていたのは辛うじて覚えているが…

話長くね?

「…ていうか、やっぱりヴァイスはすごいね」

「どうしてだよ?」

「いや、サザンドラがすごいのかな?…さっきから全然ポケモンが寄ってこない」

俺のサザンドラを見ながら、マサルがそんな事を言った。

…ちなみにサザンドラは洞窟探検の後半からモンスターボールを抜け出していたので、ずっと俺達の後ろを歩いていた。

歩いていたのである。飛んでなんていない。

「ま、強者の風格ってやつかな…ついたぜ」

「早くない?ヴァイスと僕ってあまり会話してないような気がするんだけど」

「まぁトレーナーが最初に通る道だからな。短くて当然だろ」

もし最初っからチャンピオンロード並みの長さだったら、傷ついたポケモンを癒すことが出来ずにトレーナー生命を終えることになるかもしれないからな。

街に入ると…いや、街の外からも見えていたが、沢山の石碑のような物があった。

…なんかのポケモンに似ているような…?

「なんかさ、自然と共存してるって感じがある街だね」

「そうだな……まずはポケモンセンターに行くとするか」

なんかのイベントがあった気がするが、それはもうどうでもいい。

ルカリオには洞窟でお世話になったのだ。しっかり労ってやる意味を込めてポケセンに連れて行ってやらねば。

…が、しかし。現実は思うとおりに行かないらしく。

「…あ、あれってソニアのワンパチじゃない?」

「…まさか」

ソニアが近くにいないのにも関わらず、ワンパチだけ地上絵があるらしいところに向かって行っている。

何故ワンパチがソニアのワンパチとわかったのかというと、首輪がつけてあったからである。

ゲームじゃ無かったような気がするんだけど…どういう事なんだ?

それはどうでもいいか。

「…追いかけるか」

「そうだね」

ポケモンセンターは後回し。

とにかく迷子だろうワンパチの保護が最優先だ。

追い込む様にして地上へのある…逃げ場のないところに連れていく。

動きを封じ切ったところで、ワンパチを抱きかかえる。

電撃を発して逃れようとしてくるが、俺に電撃なんて聞かない。

ナツメのサイコキネシスに脳みそ潰されても蘇生した男だぞ?今更電撃の一発や二発で死ぬわけがない。

そこのところ理解してからもう一度挑んできて、どうぞ。

「さて…問題はソニアが何処にいるかわからないところだ」

「あ、ヴァイス!マサル!私のワンパチ知らない!?」

「…回収早いなぁ…」

凄く呆れた顔をしながら、マサルはソニアの方を見ながら言った。

「……はい、ここにいるぞ」

「ワンパチ~!」

言語能力がかなり低下している博士志望を冷ややかな目で見る。

ポケモンを大事に思っていると言えば聞こえはいいが、まず大事にしているなら逃げられるようなことになったりなんかしてないだろうし、そもそもいい年した大人が子供(精神で言えばもはや大樹と同レベル)を頼ったのも情け無いと言える。

「ありがとね二人共。おかげで助かったわ」

「いきなり取り繕ったよこの人」

「信じらんねぇ切り替えの早さだ」

急に大人びた雰囲気を醸し出し始めたソニアから距離を取る。

ここまで高速キャラチェンジできる人の近くには居たくない。

「な、なんで距離を取るのよ…それより、見て欲しいものがあるんだけど来てくれる?」

「俺これからルカリオを回復させに行かなきゃいけないんで」

「僕はそれの付き添い兼買い物に」

「…じゃあその後でいいから来て?」

「「えぇ…」」

面倒くさそう。

俺達はその一心だったに違いない。

少なくとも俺はそうだ。

ていうかここでもまたブラックナイトについての話があったような気がする。

一々サザンドラの悪行を蘇らされるの辛いんだけど?

自業自得って言ったやつ出てこい、俺のサブミッションの餌食にしてやる。

ある魔法少女の事を考えていると、いつの間にかポケモンセンターを後にしていた。

む、無意識で行動していた…!?

「見て二人共、あの地上絵…何を表していると思う?」

「あ、ストーリー始まってた」

「どうしたのさヴァイス……さっきから肉体言語がどうとか言ってたけど…変だよ?」

独り言を言ってしまっていたらしい俺を不気味そうに見てくるマサルを無言で叩き、地上絵の方を見る。

……うん。アレだ。ナスカの方がよっぽど感動できたな。

そうじゃなくて。

「そうだな…あれか?前に言ってたブラックナイトって奴を表してるのか?」

「うん。私はそう思ってる…でもあの巨大な生命体…アレはダイマックスを意味しているともとれるよね……もしかして、」

「ダイマックスとブラックナイトは同一、もしくはかなり近しいものである、と?」

「そうだよマサル。多分そうなんだよ…でも、やっぱりまだ証拠が足りないというか…」

…まぁ俺はオチ知ってるからあんまり何とも思わないんだけど…

強いて言うなら、ムゲンダイナとダイマックスには少なからず関係があるよ、とだけ…

「…ねぇ、ヴァイス…なんか揺れてない?」

「お前セクハラだぞソレ。ソニアに謝れよ」

「そっちじゃないから!!なんで急にソニアの胸の話になってるの!?」

「それを本人の前で話す!?」

マサルの視線的な理由から言葉の真意を察して咎めたが、どうやら俺の予想した意図は無かったらしい。

顔を真っ赤にして胸元を隠しているソニアをスルーして、マサルの感じている揺れ、とやらに集中してみる。

…なるほど、確かに振動が大きくなってきている。

これは一体?

こんなイベント無かったはずなんだけど?と思っている俺の視界に、大量のウールーの群れを転がしている巨漢が映った。

麦わら帽子に、この距離でもわかる筋肉質な体。

…なるほど。この振動は――――

「ヤローとか言う人がウールーと戯れてる音だったのか」

敵襲か、と思いサザンドラを出そうとしていた俺は、強張っていた肩の力を抜きながら言うのだった。




主人公はフラグ建築能力だけは高いので、女性の知り合いが異常に多いです。
でも、建てるフラグは恋愛フラグだけじゃないんだよなぁ…

この小説の中では、ゲーチスは襲名制です。
主人公の戦闘中のBGMをゲーチス音頭にしたかった、それだけの理由で。


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ジム、崩壊!by主人公

サイトウの声優を知ったので急いで投稿しました。
ラテラルまではこの素早さで進めるつもりなのであしからず。


ヴァイス視点

ウールーとヤローの衝撃映像をリアルで目にしたショックが何気に抜けきらず、俺はベンチに座って一休みしていた。

…ゲームじゃなかったものも、しっかりリアルではあるんだね。

こういうのを原作乖離と言うのだろうか…と少ししみじみとしていると、マサルが話かけてきた。

「ねぇヴァイス、ジムリーダーがジムにいるみたいだし、挑まない?」

…なるほど、どこに行ったんだろうなぁと思ったらそういう事か。

マサルは早くジムに挑戦したくてウズウズしていたのか。

…そう言う俺もそうなんだが…

「じゃあ早速行くか…ってホップ忘れてんじゃねぇか」

「…ほら、慣れ合いは良くないよ?」

「じゃあ解散するか」

「そうだね…じゃあ、僕は先にバッジをもらってくるとするよ」

もう勝った気でいるマサルは、俺の返事を待たずにジムに走って行った。

…俺も挑戦するか。

ベンチから立ち上がって伸びをしながら、なんとなく俺はジムに向かうのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヴァイス視点

…結論から言うと、マサルは勝利した。

まぁラビフットだし。タイプ相性があるし。

予想以上に早く俺の出番になってしまったので、中々困っている。

ひ、人前に出るの怖いなぁ…

悪の組織に入ってた時は自棄になっていたので人前でも格好つけれたが…

今は素面なのだ。そう言うのはお望みではない。

「ではヴァイス選手!入場してください!」

控室にいた俺を呼んだ男性に連れられ、ジムチャレンジのフィールドにつく。

そこにいたもう一人の男性にルールを説明され、激励と共に送り出された。

…どうやら、目の前にいる大量のウールーを全てあの通路のところまで運べとの事らしい。

人が近づくと転がって逃げ出す習性があるらしく、追い込みは比較的容易とのことだが…

「ま、やってみなきゃわかんねぇよな」

取り敢えずウールー達がゆったりとしているところに全速力で向かう。

するとウールー達は血相変えて俺から一直線に逃げ始めた。

真っすぐ進んだところにウールー達を連れていく所定の位置があるので、このまま連れて行けば大丈夫そうだ。

『成功です!!』

アナウンサーの声と、観客の声が地面を振動させる。

何気にこのジムチャレンジに失敗して諦めて帰ってしまう奴も多いらしく、成功するたびに観客は大盛り上がりなのだとか。

「さて、と…今度はトレーナーとワンパチのセットか…」

ワンパチと俺に挟み撃ちにされるウールーが可哀そうに感じるが、まぁそれを考えたら終わりだろう。

ウールー達も何気に達観してるかもしれない。

もしかしたらこの逃げ惑うのはヤローの教えた芸の一つなのかもしれないし…

まぁ考えたところで意味は無いのでウールーを再び追い込む。

できるだけ散らばらないように細心の注意を払いながら、ワンパチのいない方…すなわちトレーナーのいる方に向かって走って行く。

因みにウールー達はトレーナーと目が合っても気にせず俺から逃げることに徹していた。

…傷つくんだけど。

「おっと、この先には行かせないぞ!」

トレーナーも俺と目が合った時はしっかり反応をしてくる。

くそ、面倒くさいな…

今の俺のチームに加減が出来る奴はルカリオしかいない。

そのルカリオもいろんな事情(ポケセンの大混雑による回復待ち)でここにはいない。

残ったのは俺の言う事は聞くが手加減が出来ない奴ばかり。

サザンドラで行っても構わないが、奴は本当に切り札なのであまり多用したくない。

あの時は他の奴等も同じくらい強いんだろうなぁと危惧しての手持ちだったからしょうがない。

「いけっ、クサイハナ!」

…あれ?この人ってクサイハナ使いだっけ?

少しゲーム版の記憶と違うんだけど…

困惑する俺を放置して、相手は早くポケモンを出せと挑発してきている。

…しょうがない。一番優しそうな奴にしよう。

「いっておいでトゲキッス」

見た目が温厚そうという理由で選出された悪魔。トゲキッス。

俺にはかなり懐いているが、相手にはとても冷たい。

ま、まぁビジュアル的な理由で許してくれるよね?

「タイプ相性を知らないのか?どくタイプはフェアリータイプに効果抜群なんだぞ!」

「知ってるさ。逆に聞くが自分のポケモンの弱点に対策しないなんて事があるのか?」

まぁとんでもない数持っているじゃくてんほけんをなんの意味もなく持たせてるだけなんだけど。

半減実でもいいけど、そっちは余計に消耗速度が速いし、何より戦闘中にきのみを食すのはかなり難易度が高いのだ。

要するにじゃくてんほけん最強って事。

「まずはあまごい」

「天気を変えても狙いを達成する前に倒せば勝ちだ!どくづき!!」

天井すれすれのところを飛ぶようにこっそり指示したうえであまごいさせる。

すると室内であるにも関わらず、大雨が降り始めた。

どくづきを指示した少年は、技が当たらなかったため歯噛みしていたが、急にマウントを取ったように声を荒げた。

「雨にしたところで、そのトゲキッスに利点なんて無いだろう!!」

「そうじゃないんだよなぁ……ぼうふう」

哀れむような目で少年の方を見つつ、上空のトゲキッスが辛うじて聞こえるだろうという程度の声で技を指示。

その瞬間、慈愛に満ち溢れているように見えた顔が悪魔のような不吉な笑みに変わり、トゲキッスのその両翼が強く動かされた。

羽の動きに連動するように風が舞い、会場全体を台風が襲った。

内装が剥がれ、ウールー達も遥か遠くへ転がされていき、目の前の少年も俺も宙を舞った。

観客の一部も空中浮遊してしまっているのが見えたが、それは無視。

「もういいぞ」

俺の指示を受け、渋々と言った感じに両翼の動きを停止したトゲキッス。

自由落下する俺のみをその背に乗せ、ゆっくりと降ろしてくれた。

「ありがとうな、トゲキッス」

笑顔で頭を撫でてやると、嬉しそうに鳴き声を上げ、そのままボールに戻っていった。

さて、肝心な相手のクサイハナだが…

しっかり、戦闘不能になっていた。

相手の方もどっかに消えてしまったようだし、待つのも面倒くさいから先に進むとしよう。

「…さてウールー…は…」

ウールー達が何処まで行ったのかを確認するために周囲を見渡してみると、もうすでにゴールまでの道が開けていた。

……あれって、通っていいのかね?

「まぁこうなったのも俺のせいだし、そう考えればありか」

死屍累々、その言葉が一番似合うような状況を淡々と歩いて進む。

ゴール地点についたところで明るい音楽が鳴ったが、アナウンサーは無言だった。

…トゲキッスもブラックリストだな。

ポケットの中のボールを握りしめ、俺はひそかにそう思うのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヴァイス視点

なんか控室に戻されてから、俺はジムリーダーと戦うことになった。

他にもトレーナーが居た気がするんだが、みたいなことを言うと、「全員しばらく動けないから、ジムリーダーに本気を出してもらう」と言われた。

…待て待て。俺はまだジムバッチ一個も持ってないんだぞ?

文句はあったが元は俺が悪いので渋々受け入れた。

「…てなわけでよろしくお願いします」

「よろしくねぇ」

優し気な笑みでありながら、何処か恐怖心を感じさせてくる返事をしたヤローに身震いしつつ、モンスターボールを構える。

「…悪いけど、本気でいかせてもらうからね」

そう言ってヤローはエルフーンを出した。

……素早さが高い奴か…

俺のトゲキッスはそんなに素早くない。

上空から攻撃を受けずに倒すのだから、速さを求める必要はないという考え方に至ってしまっているからな。

俺の中で一番速いのは(サザンドラを除いて)ルカリオだ。

だがその速度担当も今は休業中…

トゲキッスは俺の手持ちで一番の遅さを誇っている…

さて、これはどうすべきか。

「どうしたんだい?早くポケモンを出しなよ」

挑発してくるヤロー相手に適当な返事をしてボールを選ぶ。

よし、ジムはこれからコイツしか使わない縛りを設けよう。

「いっておいでサザンドラ」

「…そっちも本気で来たか」

覇王のオーラを幻視させながらその場に佇むサザンドラに、ヤローは少なからず後ずさりしていた。

今がチャンスかな?

「サザンドラ、だいもんじ」

レッドの真似をして手を前に突き出して技を指示。

するとサザンドラの3つの口から一つずつ、巨大な大の字の炎が吹き出された。

え?だいもんじは一つしか出ない?

サザンドラにそんな常識が効くと思いますか?

「躱してムーンフォースだ!」

ヤローのエルフーンは全てのだいもんじを避けきり、逆に神秘的なエネルギー体をぶつけようとしてきた。

「…りゅうのはどう」

「見誤ったかい?フェアリー技相手にドラゴンタイプの技なんて………ッ!?」

サザンドラの口から放たれた紫色の極光に、エルフーンの攻撃は一瞬の拮抗も無く消し飛ばされ、後方に居たエルフーンもダメージを受けた。

土煙が晴れた時には、エルフーンは戦闘不能になっていた。

「……まさかエルフーンがやられるなんてね…おつかれさま」

労いながらボールに戻したヤローは、サザンドラを警戒心MAXの瞳で睥睨した。

その後、腰元のボールホルダーの中から一つボールを選び、放り投げた。

「フシギバナ、任せた!」

フシギバナ。

ポケモンの御三家といえば?と知り合いに聞いたときに真っ先に答えられたポケモンだ(前世)

どんな戦い方をして来るのかよめない(育成論とか無いせい)ので、取り敢えずだいもんじを撃たせる。

「フシギバナ、まもる!」

だが、着弾前に透明な壁がフシギバナの前に現れ、攻撃を防いだ。

…フシギバナが花と関係あるからって、まもるの透明な盾を花の形にするのはあれじゃないかな。

そのフシギバナのニックネームってエミヤなのかな?

「すごいなジムリーダー…まもるなんて普通のトレーナーじゃ使うタイミングをミスしてやられてるぜ?」

「伊達に場数は踏んでないんだ。粘り強い戦いが僕のうりだからね」

粘り強いって多分そう言う意味じゃない。

俺はすごくそう言いたかったが、口にするのがはばかられたので黙ることにした。

「…ならその守り、崩してやろうかサザンドラ」

俺の発言に合わせて、サザンドラは叫んだ。

その咆哮は、会場を大きく震わせ、相手のフシギバナを後ずらせた。

「…すごいな、やっぱり。あの時マリィを倒したサザンドラ、本気なんてまだまだ出してなかったようだねぇ」

「ジムリーダーに認められるなんてコイツもさぞ嬉しいだろうな……サザンドラ、りゅうせいぐんだ」

俺の言葉に頷き、再び咆哮。

すると急に地震が起き、外からの光が消えていった。

…まさか。

「なっ…」

「おいおい…やっぱサザンドラさんじゃねぇか」

天井をぶち破って隕石が落下してくるのを見て、俺は一言そう言うしかできなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヴァイス視点

「サザンドラさん、流石っす」

なんか下っ端みたいな口調でサザンドラを労いつつ、瓦礫を全て消滅してもらう。

あの時、りゅうせいぐんのせいで本物の隕石が大量に落ちてきたのだが…

観客たちやヤローの方を見て、取り敢えず生きているというのは確認した。

「さて、これじゃバッチもらえないかもなぁ…どうしたものか」

この後ヤローが目を覚ました時、しっかりバッチはもらえた。

ただ、街を歩く時に後ろ指をさされるようになってしまったが。

余談だが、フシギバナはヤローの最後のポケモンだったらしい。

チャンピオンのリザードンと互角の勝負を繰り広げたほどのポケモンだと聞いたが…

タイプ相性って知ってる?

俺はただそう思う事しかできなかった。




わーお誰も原作通りのポケモンを使ってない……
ていうかサザンドラさん強すぎてポケモンバトルを書く必要性を見つけられない


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俺のチームのやべー奴by主人公

ヴァイス視点

 

「また一人旅だよ…くそ、話し相手の一人や二人や三人四人……いや、そんなにいらないからサイトウ欲しい」

 

独り言を言いながら草むらを歩く。

いつも通りサザンドラさんを出しているため無駄な戦闘はない。

え?洞窟でルカリオを戦わせた理由?技の練度上げだけど?

必要ないって言ってるのに態々テレパシーなんてものを使って俺に「まだだ…まだ俺は強くなれる…ッ!!」なんて言ってきたんですよ。

何なんですかねアイツ。

しばらく反省してろという事でボックスに一人だけ監禁の刑に処したが…

多分、精神統一が出来て丁度いいとか言うんだろうなぁ…

 

「……あーあ。やる事ねぇかなぁ…」

 

この辺ってイベント無かった気がするし、こっそりそらをとぶでバウスタジアム前まで行ってやろうか…

サザンドラさんは言ったことない場所でもそらをとぶできるからなー……

ま、これ以上違法行為を繰り返そうものなら、本格的に街中歩けなくなっちまうからやらないが。

 

「おーいヴァイス!!」

「……麦とホップか」

「?俺麦なんて名前じゃないぞ?」

「くそ、ボケが通じねぇやつはこれだから…」

 

後ろから聞こえてきた友人(笑)の声に、不快感をあらわにして返事をする。

…こいつが話しかけて来るってことはつまり、戦闘イベントがあるって事だ。

ゲームでもそんなキャラだった。

ポケモン世界においてライバル枠と言うのは、出会って戦闘吹っ掛けてきて次のイベントのフラグ立ててそのまま主人公の先を走って行くの動作しかしないのだ。

多分一番不遇である。

そして、リアルで戦闘を吹っ掛けられるこっちも中々不遇である。

…くそ、卵持ってワイルドエリア走り回ってればよかった(孵化厳選)

 

「何言ってんだ?…まぁいいや。お前の戦い見たぜ!すごかったな、ジムリーダー相手に一方的だったじゃねぇか!」

「あ、あぁ……まぁな」

 

あれを果たしてポケモンバトルと言えるのかどうか…

…ていうか、ホップがジム戦する前にジム崩壊させたけど大丈夫だったの?

 

「すごかったけどお前……ジムが壊れたせいで、俺のジムチャレンジがウールーに首輪をつけることになっちまったじゃんか」

「すげぇ地味な作業だなそれ…最難関のジムに変貌したんじゃないか?」

「おかげで機械みたいに作業できるようになっちまったよ……」

「それはすまんかった」

 

心を込めずに謝罪。

別に俺が悪いわけじゃないし。悪いのはサザンドラさんだから。

リアル隕石を降らせるだなんて聞いてなかったから。

 

「…で?態々話かけてきたって事は…ほかになんか用事があるんだろ?」

「あ、そうそう。ビートってやついただろ?アイツには気を付けた方がいいぜ」

「……どうしてだ?」

 

大体理由はわかるが、一応質問しておく。

まぁ話を長くして、バトルから逃げようという考えがあったからだが。

 

「なんかさ、アイツねがいぼしを集めてるらしくてさ。それで出会ったトレーナーに片っ端から勝負挑んでるらしくて……なんでも、負けたらすっげぇ馬鹿にされて、中にはトレーナーをやめちゃうような奴だっているらしいぜ?」

「そんな奴だったのか」

 

うん、大体わかってたよ。

でもね?そこまでやばい奴だったっけ?

そこまでアイツ煽るのうまくなかったような気がするんだが…

 

「そんな奴とは失礼ですね。戦う資格を持たない有象無象を追い払ったんですから…むしろ、賞賛されてしかるべきだと思いますが?」

 

陰口は言うもんじゃない。

俺はそう学んだ。

 

「なんだっけ、お前?」

「ビートですよ。さっきまで僕の話をしていたのに失礼ですね」

 

凄く不機嫌そうにしているピンクを見つつ、どうするべきかと考える。

サザンドラさんを使ってわからせてやっても構わないが、それだとここら一帯をふっ飛ばしてしまう。

ガラルはもう何度かふっ飛ばしてしまっているが、それを知ったエリカにライブキャスターで説教されたから、もう二度と地形を変えないと誓ったのだ。

いや、脅された?

 

「…まぁいいでしょう。さっきの話で、貴方たちが私の目的を知っていることはわかりましたから…」

「…へ、平和的な解決法は?」

「あるわけないでしょう?なんなら二人できても構いませんが?」

 

挑発するように髪をかき分けたビートに、沸点が常温の俺が無反応で済ますはずがなく。

 

「いいぜ、相手してやるよ」

「貴方一人でですか?相手になるとは思えませんが」

「それはこっちのセリフだな……トレーナー引退を真剣に考えることになるかもしれないぜ?」

「…いい度胸ですね、一度わからせてあげましょうか」

 

相手側もキレたようで、俺から少し離れてスーパーボールを構えた。

俺もしっかりモンスターボールをレッド風に構え、投げる。

 

「いきなさいユニラン!」

「いっておいでミミッキュ」

 

今回も可愛い枠。やはりこいつも悪魔である。

コイツは俺の手持ちの中で一番殺意が高い。急所を狙い、ただただ淡々と相手を瀕死に追い込む戦い方をする。

いや、瀕死で済むならまだいい。野生のポケモンや悪の組織の連中、そして何よりピカチュウは本気で殺そうとする。

何でもこいつは『アローラの悪夢』『ミミッキュショック』『ミミッキュパニック』等と呼ばれていたらしく、コイツを捕まえようとしたトレーナーが何人も殺されたり、コイツの呪いのせいで頭痛や吐き気などの症状が発生したりしていたらしい。

それを俺がある事情から捕まえることになったんだが……まぁそれはどうでもいいか。

 

「秒で終わらせるぞミミッキュ。シャドークロー」

「躱しなさい!」

 

全く動く気配を見せなかったミミッキュから突然黒い手が伸び、回避させることなくユニランの体を切り裂いた。

一撃で瀕死に追い込まれたユニランは、モンスターボールについているセーフティ機能によって強制的に回収された。

俺が態々シルフカンパニーの偉い奴等脅してつけた機能だ。結構感謝されてる……シルフカンパニーの連中は随分俺を嫌いになったようだが。

 

「くっ…いきなさいゴチム」

「シャドークロー」

 

着地狩り。リスキル。

ミミッキュの特技であり、必殺技。

相手の隙を探るうちに、コイツは気づいたのだ。

『相手がモンスターボールから出てきたところが一番無防備だ』と。

出て早々黒い手による攻撃に襲われ、一瞬で退場していったゴチム。

無論ビートはすごく嫌そうな顔をしていた。

 

「卑怯ですよ!」

「なら俺に勝負を挑んだお前自身を恨むんだな。さっさと次のポケモンか金払え」

「……いってください、ミブリム」

「シャドークロー」

「やはりそうきますよね…テレポート!」

 

三匹目のポケモンを出そうとしたところでシャドークローを指示。

しかし、やはり同じ手は何度もくらわないらしく、ピッタリのタイミングで回避した。

 

「へぇ、すげぇな」

「ふん、卑怯な手にやられるレベルじゃトレーナーとは言えませんよ。ミブリム、さいみんじゅつです」

「なるほどな……ミミッキュ、少し本気出してやれ」

 

俺の指示に頷いたミミッキュは、次の瞬間には変貌していた。

まず、化けの皮が剥がれた。無論特性の。

その後、本来足があるだろう場所から大量の手が生えてきた。

今までのような三本指ではなく、人間の手のような五本指。

その手は物凄い速度で様々な色に変わっていて、見ているだけで気分が悪くなってしまいそうなほどだった。

 

「な、なん…そんな、ミミッキュが…」

 

ビートはとても目の前の光景が信じられないのか、目を大きく見開いて慄いていた。

ホップは口元を抑え、呻いていた。

実は俺も最初はそうだったんだが……どっちかって言うと、ミミッキュの正体がわかったような気がして驚愕していたのが大きかったかな?

ミミッキュの二つ名、そしてこの姿……こいつは、コイツは――――

 

「もういいぞミミッキュ。これ以上やる必要はない」

 

様々な色に発光している手を体に戻し、化けの皮を張り直したミミッキュは、俺のモンスターボールに勝手に入って行った。

ビートのミブリムは目立った外傷はなく、ただ倒れているだけのようだ。

…どうやら、今日のミミッキュの機嫌はよかったらしい。

不機嫌な時は、全身がバッキバキになって息絶えた状態で発見されるからな。

 

「お前の負けだぞ、ビート」

「………馬鹿げてる……だって、あんなポケモン……っ!まさか貴方あのミミッキュに何かしたんじゃ」

「あまりふざけた事言ってんじゃねぇよ。アイツは自分であの姿を望んだんだ。それ以上馬鹿にするんだったら…殴るぞ?」

 

あまり脅しにはならないかもしれない。普通ならそう思うだろうが、この世界においては違う意味合いがある。

トレーナーは原則として、『トレーナー同士で戦ってはいけない』というルールに縛られている。

もしも相手トレーナーに暴力を振るおうものなら、そのトレーナーはトレーナーの称号とポケモンを剥奪され、一生暴力を行った悪人として差別されることになる。

そのことから、トレーナーが他トレーナーに暴力を振るうことを予告するというのは、『自分がまともな人生を送れなくなるとしても許せない』という強い意志を示すようになったのだ。

この場合では、『これ以上ミミッキュを侮辱するようなら俺は俺の人生を捨ててでもアイツの名誉を守る』という意味になる。

それがわからないビートではないのか、その場から立ち上がり、素直に頭を下げた。

 

「…すみません。まさかそこまでとは思わず…」

「いいんだ。俺も少し大人げなかった」

「いえ、元をただせばこちらの責任ですから……そうですね、よろしければ僕のリーグカードをどうぞ」

「なら、俺のも」

 

最初の方の態度からは考えられないくらい落ち着いた様子のビートは、俺に自分のリーグカードを差し出してきた。

それに何も返さないほど礼儀知らずではないので、しっかり俺の分も渡す。

 

「……では、僕は次のジムに向かうとします……もしねがいぼしを見つけたら教えてもらってもいいですか?」

「…それを何に使うんだ?」

「さぁ?ただ、僕の恩人が…ローズ委員長が必要としているらしいので」

「そうか。もし見つけたら教えるよ」

「ありがとうございます、では」

 

そう言うと、ビートはゆっくりと俺達から離れてバウタウンに向かって行った。

ホップはようやく本調子に戻ったのか、俺の方に近寄り、いつもの大声で質問してきた。

 

「な、なんだったんだよ今の!!」

「おうおう、その話を何度も何度も掘り返す必要はないと思うぞ」

「だ、だってあんなミミッキュみたことねぇぞ!?」

「多分、みんなあんな感じだと思うぜ」

「そう、なのか?いや、でもなぁ……」

「はぁ……ここで話をしてても何も始まんねぇだろ?さっさとバウタウンに行こうぜ」

 

返事は待たずに歩き出す。

一応PPは減るのだ。ミミッキュを労ってやる必要がある。

それに……なんか、ライブキャスターに着信があったんだよなぁ…(街に入らないと電波が繋がらずに酷い目に遭う)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

オマケ:通話履歴

『あ、もしもしお兄ちゃん?』

『アイリスさん。俺達血縁関係ないよ』

『だって同じドラゴン使いでしょ!』

『いや、ならドラゴンタイプ使ってる人全員兄弟って事になるんだけど』

『?だってお兄ちゃんはヴァイスだけでしょ?』

『あー、駄目だこれ』

『あ、そうそう。なんか最近そっちで変な事件起こってるらしいじゃん』

『いや知らないんだけど?』

『なんか、でっかいポケモンが街とかワイルドエリア?ってとことかを消し飛ばしてるらしくって』

『それ俺だわ』

『なーんだ。なら安心だね!』

『うん、そうなのか。じゃあ俺もう寝るから』

『えー?だってまだ二時だよ?』

『明日ジム戦なんです』

『じゃあもう少しだけ、ね?』

『………しょうがねぇなぁ…』

 

~通話終了時間、6:30~




僕はポリゴンが好きです(唐突)

主人公君の手持ちがこれで四体明かされました。
後は誰が来るんだ……

ライブキャスターのくだりですが、主人公の相棒がイッシュの方だというのもあって、ホロキャスターではなくこちらを採用しました。

作者がサイトウと同じくらいエリカが好きだからこんなことに……


最後のアイリスも趣味です。しっかり見た目はBW2ですよ。


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アンタ絶対ラスボスだろby主人公

ヴァイス視点

 

「眠い。すっげぇ眠い」

 

別に誰も話す相手がいないのに、すごく不機嫌そうにしながら呟く。

昨日アイリスなる人(俺が面倒くさいという理由でチャンピオンを譲った子)から着信が来ていたので出てみれば、結局寝かせてもらえなかった。

ポケモントレーナーという名の自由業、何気に活動可能時間帯は朝なのである。

別に夜に外に出るトレーナーがいないわけではないが、基本的にポケモンバトルは朝か昼、もしくは夕方に済ませてしまう人が殆どなので、トレーナーで稼いでいくというのなら夜には働けない。

まぁ俺チャンピオンですから、しっかり金は入って……あぁ、全部他人に譲ったんだった。自動で金が入ってくるのもう終わったんだった。

いや、アローラのチャンピオンの権利はまだ残っていたような気が……

 

「おっと」

「…あ、すいません」

 

睡眠不足と考え事が重なり、通行人にぶつかってしまった。

圧倒的に俺の不注意のせいなので、しっかり頭を下げて謝る。

まぁ睡眠不足で声がかなり小さかった気がしなくもないが。

 

「…君は、ひょっとしてヴァイス君かい?」

「何故俺の名前を」

「ははは、君は有名人だからね。それに……何を隠そうわたくしはリーグ委員長!あの試合だってもちろん特等席で見ていたよ」

「あの試合……あぁ、マリィと戦った時の」

 

今ではもう気にしていない黒歴史。

本人が気にしていないと言っていたらしいし、俺が気にするのもどうかと思ったからだ。

…ていうか、リーグ委員長?

よく覚えていないが、確かこの物語のキーパーソンだったような気がする。

 

「そうそう。君のサザンドラ、すごかったね…ぜひ見せてもらいたいんだけど」

「えーっと…生憎今は朝食の木の実を買いに出かけてすぐに帰る予定だったんで、手持ちのポケモンが一匹もいないんですよ」

 

俺のその言葉を聞いて、驚愕するリーグ委員長。

そりゃそうだろうね。普通はポケモンはいつでも持ち歩くもんだし。

俺はまぁ、ずっとボールに入れとくのもアレだと思って、ホテルのドッグラン的な場所に手持ちを預けて自由にさせているんだが。

 

「…まぁ、そういうトレーナーもいるだろうね……あぁ、そうそう。今日の夕方、あそこのレストランでシーフードを食べていく予定なんだが…もしよければ、来てくれないかね」

「……よろこんで」

 

拒否しようと思ったが、ローズ委員長の隣にいる金髪の人がすっげぇ威圧感を滲ませてきたので、泣く泣く行くことにした。

今日はジム戦終えたらそのまま寝ようと思っていたんだけどなぁ…トホホ。

 

「そりゃあ嬉しい。そうだ、お近づきのしるしに…」

 

ヴァイスは ローズ委員長の リーグカードを 手に入れた !

嬉しくない。

全く嬉しくない。

何が悲しくてこんなおっさんのカードをもらわないといけないんだ。

それよりもサイトウの写真集(盗撮)をよこせよ。今なら闇オークションで数十万で売ってるから。お値打ちだから。

いやいや盗撮作品なんて許せない!摘発して、その報酬として俺が一部、いや全部を預かってやらねば…

 

「あの、ヴァイス君?」

「え、あ、はい?」

「…その、疲れているなら一度休んだ方がいいよ?ジムチャレンジというのはそんな生半可なものではないからね」

 

確かにな。

ちょっとした黒歴史のようにすら感じる前回のジム戦を思い出しつつ、俺はしみじみとうなずいた。

 

「では少し休憩してからジムチャレンジに挑むことにします」

「それがいい。最高の結果を残せずに終わるなんて、トレーナーとして一番嫌な終わり方だろうからね」

「お時間です」

「あぁ、わかっているとも……それじゃあ、次はレストランで」

「えぇ、二つ目のジムバッジを見せてあげますとも」

「それは心強いな。それでは」

 

オリーブさん(年上に対する敬意などは忘れない)の一言に頷き、軽く挨拶をして立ち去っていったリーグ委員長

を見ながら、俺は小さく呟いた。

 

「…アンタ絶対ラスボスだろ」

 

前世の記憶なんてあてにならないから独断と偏見と勘で言っているが、多分正解だと思う。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヴァイス視点

 

しばらく砂浜にブルーシートを敷いて日光浴をした後、眠気も取れてきたのでジムに挑みに行くことを決定した。

の、だが。

 

「えっと、ジムリーダーが不在…ですか」

「はい。それで申し訳ないのですが……ルリナ様を探してきていただいてもよろしいでしょうか」

「お、俺がですか」

「はい………こ、これもジムチャレンジという事で!……なんちゃって」

「…………いや、笑わなかった俺も悪いかも知れませんけど、涙目にならないでくださいよ」

 

真顔で立ち尽くす男と、その目の前で涙を流す女性が居れば、男の方が批判されるのは目に見えているのでしっかり泣き止ませ、適当に話を切ってジムリーダー探しに。

そういうのってジムの関係者がするべきじゃないのかなって。

 

「まぁいる場所は大体わかってるんだけどね」

 

目的地はジムから徒歩数分の、灯台のある場所。

そこには海を見ながら黄昏ている美人の姿が。

 

「あのー」

「?誰?」

「あ、ヴァイスって言います………ルリナさん、であってますか?」

「えぇ……なるほど、君が……話はわかってるわ、ジムに挑戦するんでしょ」

「なぜそれを」

「だってあの戦いを見てたんだもの。すごかったわね、あなた」

「……あまりそれには触れないでいただきたいのですが」

 

あの戦いは俺が『俺がゲーチスだ!讃えろ七賢人共!!二代目、爆☆誕!』と叫んでいた時と同じくらい恥ずかしい。

しかもあの発言の後、初代ゲーチスが俺に襲い掛かってきたのも大変だった。

なんでサザンドラのレベル上がってたんですかねあの人。

ゲノセクトとか使ってきたし。

今まで戦ってきた中で四番目くらいに強敵だったんですけど。

 

「さ、そうと決まれば早速行きましょう……と言っても、私のせいで始めるのが遅れているんだけどね」

「いえ、別に気にしていないので」

「優しいのね」

「よく言われます」

 

まぁ嘘なんですけど。

優しい?俺がァ?

無い無い。俺が訪れた場所の人達からは、悪魔扱いされてんだぞ?

そりゃ特に深い理由もなく町を破壊されたらそうなるよね。

流石に地元の人から言われたら傷つくしやめるけど。

 

「それじゃあ、私は先に奥で待ってるから。言っておくけど、私のジムチャレンジは難しいわよ?」

「はは、望むところです」

 

マサルが好きな人(直球)と別れ、更衣室へ向かう。

更衣室の中は何故か塩素の匂いがした。

…まさか泳げと?

基本的に何でもできるでお馴染みな俺だが、どうしても泳ぐのは苦手なのだ。

いや、やる気と根性があればメレメレ島からエーテルパラダイスまで泳げるレベルの馬鹿力は発揮できるけども。

まぁそんなシチュエーション滅多にないと思うからいいんだけどさ。

 

『選手入場!今季大会のダークホース、ヴァイス選手だー!!』

「ジムでのことは忘れろッ!!」

『どうやら彼はターフタウンでのジムチャレンジに少なからずもうところがあるようです!前回のような惨劇が起きなければいいのですが』

『ワシの予想が正しければ、このジムも崩壊するような気がしてならないのじゃが…』

『ぎゃああ!?なんだこのじいさん!?関係者でもないのに解説の席に座らないでくださいー!!』

 

…うん、なんだこのカオス。

このステージでは実況形式のようだ。

解説席には無関係の老人がいるらしいが。

 

「……うーん、まずはどこから行こうか…」

「その前に一つ、説明させていただきたいのですが…」

「ん?…あぁ、ステージのギミックについてですね?」

「はい。それでは説明させてもらいます」

 

関係者の人は、身振り手振りを合わせて解説を開始した。

一つ。このジム内にあるスイッチを押して、水を流したり止めたりして道を開く。

二つ。ポケモンの技で強引に水を防いではいけない。

三つ。ジム内に潜むトレーナーと目があった場合、スイッチを押そうとしていたとしてもバトルを優先しなければならない。

とのことらしい。

まぁ全部当然といえば当然な事だし、特に意識する必要もないだろう。

……いや、サザンドラさんを出して、トレーナーと一緒に水も消し飛ばしてしまう可能性があるな…

ここはルカリオに任せよう。

 

「では、どうぞ!」

 

説明の人に見送られ、早速攻略を開始。

ふむふむ、ここを押せばいいのか?

ボタンを押すと、俺の真横に降り注いでいた水が一瞬でせき止められ、通れるようになった。

しかしその先には、一人のトレーナーが。

 

「勝負!」

「…いっといで、ルカリオ」

 

意気揚々とポケモンを繰り出してきたトレーナー相手に、こちらもルカリオを呼び出す。

本人曰く修行が一旦いいところまでいったので、実力を見せてやりたいとのこと。

さてさて、何所まで強くなったのやら。

 

「バスラオ!みずでっぽう!」

「躱せ」

 

相手のポケモンはバスラオ。一番長く滞在していた(といっても一日二日の差だが)イッシュ地方のポケモンだ。少し懐かしさを感じる。

 

「バスラオの横までこうそくいどう。そのままフェイント」

「アクアジェットの勢いで回避して!」

 

本来ならただのバフ技でしかないこうそくいどうだが、こうやって敵のすぐそばまで近づく時に使えると知って以来重宝している。

しんそくとかも無駄遣いしたくないしね(PPという制度はあるらしい。目に見えないから気を付けようね)

バスラオは、何とか回避しようとしたが、アクアジェットを発動するよりも早くフェイントに殴り飛ばされ、観客席のすぐ真上に叩きつけられて戦闘不能に。

因みにこの試合、一分もたっていない。

流石ルカリオ。ジム戦が終わったらトレーニングルームでも借りておいてやろう。

 

「ありがとうございました」

「…あ、ありがとうございました」

 

戦闘後の礼を忘れない。

まぁ今までずっとやってなかったけど、普段は礼をして終わってるから礼をした。

うん、するのとしないのとじゃ違うな全然。

賞金を受け取り、先へ進む。

次は最初の物よりも少し複雑になっているようだ。

 

「次は私が相手よ!」

「…そこからでも挑んでくるのか」

 

ゲームの時よりも目が合う判定が広い。

まぁ現実であの距離じゃないと見えないのはおかしいか。

 

「いきなさいニョロモ!」

「ルカリオ、頼むぞ」

 

俺が再びルカリオを出したのに対し、対戦相手はニョロモを繰り出した。

あまりここでグダグダやっていても仕方ない。一撃で終わらせるとしよう。

 

「メガトンパンチ」

 

相手がこちらの出方を窺っていたので、ルカリオにメガトンパンチを指示。

本来ならメガトンパンチは繰り出すのに時間がかかる技なのだが、俺のルカリオにそんな欠点は無い。

俺が言い終える前に、敵のニョロモはジムの奥深くに叩きつけられていた。

…まぁ下は水だからよく見えないが。

 

「…ありがとうございました」

「…え、…へ?」

 

どうやら相手はあまりの速さに思考が追い付いていないらしい。

賞金の請求書だけおいて立ち去ろう。

常日頃から持ち歩いている手帳のページを破り、相手の前に置いておく。

そのままスイッチをおして次の道へ。

移動してすぐ隣に、あからさまに『ここがゴール』と言っているかのような場所があるが、三本の水柱に阻まれているので、違うルートを探索。

奥の方にスイッチがあるようだ。押しに行こう。

 

「…こ、ここから先は行かせません!!」

「…行っておいでルカリオ」

 

どうやら三人目のトレーナーは、すでに俺を待ち構えていたらしい。

普通はあたりを見渡しながら待つだけだと思うんだがなぁ。

まぁ相手がその気なら、とルカリオを出す。

相手はなんと、オーダイルを繰り出してきた。

…いきなりレベル違う奴出てきやがったよ…

 

「まぁ気圧されていても仕方ない。ルカリオ、インファイト」

「オーダイル…………まもる!今!」

 

対戦相手は、ルカリオのインファイトにピッタリなタイミングでまもるを発動。

全ての攻撃をガードされ、ルカリオは隙を見せてしまう(といってもほんの一瞬だが)

その上俺もまさか防がれるとは思わず、一瞬呆然としてしまった。

その隙を狙って、オーダイルにトレーナーは畳みかけるように指示。

 

「みずのはどう!」

「…しまっ、ルカリオ!はどうだん!」

 

反応が遅れたが、ルカリオは無理矢理はどうだんを相手のみずのはどうにぶつけ、素早く距離を取った。

 

「あっぶね……油断したわ」

「…まったく、気弱そうなふりをしただけでそうやってみんな勝手に気を抜く……そこを狩るのが一番楽なんですけど、ねぇ…」

「…なんだあの変わりよう」

 

あっちが本性なのだろうか。

女ってこえー。

 

「…ま、次から油断をなくせばいいだけだ……だろ?ルカリオ」

「ふん、油断していようがいまいが、防いでみずのはどうで終わりですよ」

「そいつはどうかな?………ルカリオ、軽く本気でいってやれ」

 

挑発するように笑う相手トレーナーから視線をそらさず、俺の隣のルカリオに指示。

すると、俺の隣から途轍もない氣が放たれた。

これには相手も予想外だったのか、少し後ずさり。

 

「……こりゃ先に仕留める他ないですね……オーダイル!ハイドロポンプ!」

「ルカリオ……インファイトだ」

 

数秒のためと同時に放たれたハイドロポンプを、あろうことか一発殴って霧散させ、その次の瞬間にはオーダイルの懐に移動したルカリオ。

今度は隙を見せることなく、その拳を思い切り腹部に叩き込んだ。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!』

「…態々念話を使わなくてもいいっての」

 

久しぶりに(ほんの一部程度)とはいえ本気で拳を振るえた喜びからか、ルカリオは態々念話を使ってまでラッシュに声を付けた。

…渋い声してるなぁ…

 

『オラァ!!』

 

最後に一際大きい一撃を叩き込み、オーダイルを天井まで吹き飛ばす。

オーダイルはもはや声を出すことすらできずに、そのまま戦闘不能にさせられた。

相手もこの変わりようにはかなり驚愕したらしく、『嘘…』とか言っている。

 

「…ありがとうございました。そして……すみませんでした」

「…え?」

「いくら相手が気弱そうにしているとはいえ、本気の戦いであるべきジムチャレンジ中に手を抜いてしまうなどという事をしてしまったのは俺の責任です。すみませんでした」

「あ、いや……それはその、別に怒ってるとかじゃないから、全然気にしなくていい…です。はい」

「…では、気づかせてくれてありがとうございました。これからは加減と手抜きをはき違えないようにします」

「…あ、加減はまだしてたんだ…」

 

現実を受け入れられない、というような顔をしつつ、俺に賞金を支払ったトレーナーは、しっかり道を開けてくれた。

よし。あとはスイッチを押して………ヨシ!

ジムリーダーへの道は開かれた。

後は勝利するだけである。

黙り込んでしまっている観客を背に、俺はゆっくりと歩くのだった。




遅れました。

オリジナル設定で申し訳ないのですが、本来なら観客席の無かった場所にも観客席があるという風に考えていただきたいです。

なんというか、あれだけ熱中されているのにかかわらず、人が入れる場所が少ないなと思ったので勝手に追加しちゃいました。


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こういうのでいいんだよこういうのでby主人公

ヴァイス視点

 

控室から出たところの通路で、少し深呼吸。

前回のジム戦は結構適当だったから緊張しなかったが、こうしてまともにジム戦を受けるとなれば、多少は緊張する。

頼む、過去の俺よ。具体的にはマグマ団の二代目ボスを名乗ってブイブイ言わせてた時くらいの俺よ。力を貸してくれ。

人前に出て腹痛に襲われない、そんな力を。

 

「……行くか」

 

基本的にフィールドに出るタイミングは自由なので、アナウンスなどを気にすることなく外に出る。

通路と違い、フィールドはかなり眩しいため少し目を細めてしまう。

しかし、耳では観客たちの声を聞きとってしまっているため、緊張が緩和されることは無い。

唯一の救いは、余りに大きな声がバラバラに発せられているせいで、何を言っているのか分からないところだろうか。

これで罵詈雑言だったら俺は立ち直れなかったかもしれない。

 

「遅かったのね」

「…そっちが早いだけでしょうに」

 

もうすでにルリナさんは所定の位置に立っており、いつでも開始できるようになっていた。

うーん、そんなに腹痛と戦っていたのか俺。

しかし、そんなふざけた事を考えるのもやめにして、意識を戦闘に集中させる。

ヤローなる人物の時は、サザンドラさんとか言うバケモンを使ったので集中も何も無かったのだが、今回サザンドラさんはお留守番。

ルカリオだけで戦おうとしているのだ。

…まぁルカリオも強いけども。一つ欠点があるのだ。

その欠点については、戦闘中に分かるだろうから後で。

 

「…よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 

礼をして、距離を取る。

公式対戦では、トレーナー同士は一定の距離を取らなければならないのだ。

取らなかった場合、数回の注意を受けることになり、注意の数が一定以上になれば、数日間のポケモンバトルの禁止を言い渡される。

ま、いくら人と共存するパートナー的存在だからって、その力は恐ろしいものだからな。

ルールを守れないヤツが、そんな力を振るいだしたら堪ったもんじゃない。

まぁそんな爪弾き者どもが悪の組織を作るんだけども。

そして俺はそんな爪弾き者どものボスを二回もしてしまったんだけども。

 

「いきなさい、トサキント!」

「いっておいでルカリオ」

 

相手はトサキント、俺は今まで同様ルカリオを繰り出す。

うーん、トサキントってアニポケでネタ枠だった思い出がある気がしなくもなくもないのだが。

まぁ関係ないか。

 

「ルカリオ、はどうだん」

「躱してみずでっぽう!」

 

ノーモーションで撃ちだされたはどうだんを回避したトサキントは、ルカリオにかなりの水圧のみずでっぽうを発射。

しかしそれを喰らうような真似をするルカリオではなく、半歩体を逸らしてみずでっぽうを回避した。

 

「こうそくいどう、インファイトだ」

「っ!トサキント!」

 

ルリナさんは敢えて指示を出さず、自由に回避させることを選択。

しかし、こうそくいどうと共に距離を詰めてきたルカリオが放つインファイトを回避する術はない。

まぁまもるのタイミングを合わせれば一応防げるだろうけど。

とても生物からなってはいけない音が響き、トサキントはその場で崩れ落ちる。

衝撃が全身に伝わった所為か、吹き飛ぶことも無かった。

 

「お疲れ様、トサキント……いってきて!サシカマス!」

「よし、はどうだん」

 

様子見程度にはどうだんを撃たせる。

サシカマスは、そのシャープなフォルムの通りの速度で攻撃を回避し、その勢いのままルカリオに突っ込んでいく。

…いや、ルカリオの間合いに入るだなんてバカなのか?

 

「アームハンマー」

 

細身のルカリオにはかなり無理がある技だが、一応使えるので指示。

俺の目では追えない速度でルカリオに突っ込んでいたサシカマスに、ルカリオはタイミングよく拳を振り下ろした。

これまた生物から聞こえてはいけないような音をたて、サシカマスは戦闘不能になる。

…確か、次で最後だっけか。

 

「お疲れ様、サシカマス………燃えてきたわ、ここまでルカリオ一匹で突破されるなんてね」

「まぁ、主力ですし」

 

サザンドラさんが一番強いから霞んでるだけで。

言わぬが花と思い口にはしないが、ルカリオは波動か何かで俺の考えたことがわかってしまったのか少し不機嫌になった。

申し訳ない。あとで何か買ってやろう。

 

「ふふ、まだ勝った気になるのは早いと思うわよ?いきなさい!カジリガメ!」

 

不敵な笑みを浮かべ、ルリナさんはカジリガメを繰り出した。

…さて、そろそろルカリオの欠点を話そう。

これはつい最近気づいたというか、知ったことなのだが…

 

「ダイマックスよ!」

 

繰り出したカジリガメを戻し、ボールを巨大化させたルリナさんは、綺麗なフォームでボールを背後に放り投げた。

そのボールから出てきたカジリガメは、先程までの姿の何倍ものデカさで、とても普通のポケモンではかなわないように思えた。

……ここで俺のルカリオの欠点について教えるとしよう。

 

「貴方はダイマックスさせないの?」

「……俺のルカリオは、何があったのかわかりませんが、ダイマックスできないんです」

「なんですって?」

 

そう。俺のルカリオは、俺の手持ちの中で唯一ダイマックスが不可能なのだ。

どうしてだろうか。全くわからない。

ダンデに聞いてみたが、よくわからんと笑われてしまった。

こっちは真面目だったんだが……

 

「ま、代わりと言ってはなんですが、しっかりコイツにも強化がありますから」

「ダイマックス以外に?楽しみね」

 

皮肉るように笑うルリナさんに見せつけるように、ダイマックスバンドを外し、メガリングを装着。

虹色の石…メガストーンが埋め込まれている部分に指を当て、声高に叫ぶ。

 

「ルカリオ!メガシンカだ!」

 

次の瞬間、俺のメガリングとルカリオの体が紫色の光を放ち始め、ルカリオは薄紫色の球体に包まれた。

 

「な、何それ…」

 

球体はかなりの速度で膨張していき、亀裂がはしったと同時に砕け散った。

その中から、姿が変貌したルカリオが現れる。

体が一回り大きくなり、手は赤く、鋼の部分がより巨大により鋭利になり、目は鋭く、尻尾のような部分の毛も増えた。

カロス地方では、この姿のルカリオを、メガルカリオと呼んでいる。

 

「メガルカリオ…強さは今までの比じゃないですよ?…インファイト」

「カジリガメ!!」

 

音を置き去りにし、光すらも超えてルカリオはカジリガメに肉薄する。

ルリナさんは指示する余裕もなく名前を叫ぶが、時すでに遅し。

億を超えているかのように見える拳に、カジリガメの甲羅は砕かれた。

倒した……と、思ったが。

 

「まだよ!ダイストリーム!」

 

拳の反動でカジリガメから離れていたルカリオに、巨大な水流が襲い掛かる。

回避も防御も出来ずに、ルカリオは攻撃を喰らう。

…ま、まさか耐えられるだなんてなぁ……

油断はしないと、ほんの数分前に約束したのに。

 

「ルカリオ、無事……そうだな。よし………久しぶりに、アレでもやるか」

 

俺の隣に着地してきたルカリオを見て、まだまだ余裕だと察する。

しかし、ルカリオは多少不機嫌になっており、それは先程無意識下で油断してしまったという事を理解させてきた。

コイツは他人に怒りを覚えない。代わりに自分自身にとても厳しいのだ。

 

「つるぎのまいだ、ルカリオ……限界まで舞え」

「させると思う?ダイロックよ!」

 

俺の指示が聞こえたのか、ルリナさんは妨害するようにダイロックを指示。

巨大な岩盤が、俺たちめがけて倒れてくる。

しかし。

 

「無駄なんだよなぁ…」

 

ルカリオにとって、『武』とは『舞』なのである。

つまり、ルカリオのつるぎのまいは、攻撃力をあげながら、流れるように技を繰り出し続けることなのである。

ぶっ飛んでるよな、コイツ。

俺もコイツが理解できない。

波動で態々意思疎通までしてくれてるのにね。

 

「嘘!?ダイマックスわざを砕いた!?」

「よぉしルカリオ!インファイトで止めだ!」

 

自然と熱が入り、いつもよりも力強く指示。

ルカリオも同じくらい燃え上がっているのか、口元を愉快そうに歪めてカジリガメの眼前へ。

今度は甲羅を砕くだなんて遠回しな攻撃はせず、直接顔を殴らせる。

 

「カジリガメ!ダイストリームで返り討ちにしなさい!」

「そのままつっこめ!!」

 

再びルカリオに巨大な水流が襲い掛かる。

しかし、ルカリオはその水流に向かって拳を連続で振るうだけで回避はしない。

俺が指示したというのもあるが、回避が必要ないと本人もわかっているからだ。

拳圧によってダイストリームが打ち消され、そのままルカリオはカジリガメに再度肉薄した。

そのまま先程よりも素早く、力強く拳を振るった。

 

『オラオラオラオラオラァ!』

「…だから念話はいらねぇって」

 

何故コイツは熱が入ると態々念話を使ってオラオラ言うのだろうか。

確かリオル時代からそうだったよなコイツ。

かなり距離は離れているはずなのに、ルカリオの拳がカジリガメを殴る度、衝撃波がここまでくる。

観客たちも悲鳴を上げているし、そろそろ止めさせた方がいいのではと思い始めたその時、ルカリオが俺のすぐ隣に戻ってきた。

 

「…終わったのか」

 

ルカリオがメガシンカを解除すると同時、カジリガメの体が縮み始め、勝手にルリナさんのボールに入って行った。

 

「……すごいわね。あの体格差で勝っちゃうなんて」

「まぁ、体格差をものともしない実力が無けりゃチャンピオンなんてなれませんし」

「…あぁ、そう言えば別の地方でチャンピオンになってたんだっけ」

「ま、全部譲りましたがね」

 

権利を譲ったせいでこちらは収入ゼロですよ。

せめて一割でもくれればいいのに。

ルカリオをボールに戻し、最初の位置に向かって歩く。

ルリナさんはすでに最初の位置に居て、俺を待っていた。

 

「対戦、ありがとうございました」

「こちらこそ。いい戦いだったわ」

 

全くだ。

ガラルに帰還してから、なんかズレた特殊な戦闘ばっかりだったが、俺が求めていたのはこういう戦闘なのだ。

こういうのでいいんだよ。こういうので。

ルリナさんと握手を交わし、ジムバッチを受け取る。

 

「次のジムも頑張ってね」

「えぇ。勝ち上がって見せますとも」

 

そう。取り敢えずサイトウがいるジムまでは負けるわけにはいかないのだ。

せめて、せめて一度でいいから生サイトウが見たい。

すごく不純な理由だが、それが今の俺の全てなのだ。

……ちなみに、この後ホップと会ったりマサルと軽く喧嘩したり(解釈違い的なサムシング)したが、特に何事もなく次の街に向かうのだった。




ポケモンセンターからエキスパンションパス付のサイトウぬいぐるみが来ました。
嬉しかったですね。
他にもオニオン君等人気のキャラクターが入っていて、とても豪華でした。

サザンドラをポケジョブに預けていたことを忘れていて、消えたぁ!?と騒いでしまったのが最近のいい思い出ですね。


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