終止符は流星が如く (A.H)
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第1話 「悪夢のような英雄譚」

初めましての方は初めまして、A.Hと申します。
私が中学生の頃に考えてたストーリーを題材に色々アレンジをして作り上げた内容となっております。あと、好きなモノを詰め込んでるので、「ここのセリフあれっぽいな」とか思ったらそういうことです。
では、本編をどうぞ。


「こんな昔話があったそうだ」

 

 一人の男がそう語り出した。

 興味本位で耳を傾ける民衆、その中には勿論俺も混ざっている。

 

「皆も知ってる通り、この世界には大きく分かれて二つの種族が存在していた」

 

 –––人間と魔物。

 

 小学生でも知っている答えだ、それ以外に答えはない。

 

「時は遡り、大昔、我々のご先祖様と魔物はともに共存していた」

 

 人間と魔物の関係性は紀元前数百万年前からあったと聞くが、その辺の詳細はよく解ってないらしい。

 

「しかし長い長い年月の果てにとうとう共存は無理だと人間と魔物はこの星の所有権を懸けて戦争を行った」

 

 二つの種族の多数はお互いを嫌悪していた。文化性の違いなのか、外見の話なのか、その辺は個人差によるものだろう。それでも二つの種族は長い間戦争をふっかけてこないで平和に過ごしてたのに、とうとう頭のイカれた人間側のお偉いさんが戦争をふっかけたのだ。

 馬鹿な話だ。記録にちゃんと残っていない為、名前や顔は知らないがその戦争をふっかけたバカを1度殴ってやりたい。周りの民衆もそう思っているだろう、なんせ–––

 

 我々【人間】は負けたのだから。

 

 それからというもの、人間は、魔物に生活の自由を奪われた。

 奴隷、家畜、快楽物と酷い扱われ方をしてきたものだ。その関係性は嫌々受け継がれている。現在でもこの関係性が刻まれていると考えると全く反吐が出る。俺達みたいな難民もいつ目をつけられるか分からない。それが明日なのか今日なのか、そんなことを心配しながら我々は生活しているのだ。

 

「しかし! 敗戦族となっても尚、抗い続ける者達がいた!!」

 

 語り手は急に大声を出し始めた。

 

 抗い続ける者… 革命軍ってやつか…?

 

 周りの民衆の目の色が変わった。

 

「魔王と呼ばれる存在を討つべく、その者達は立ち上がったのだ!」

 

 語り手の熱い話し方に心を引き寄せられたのか、周りの民衆が増えていく。

 

「抗い続ける者達は、幾つもの部隊を作り、歯向かい続けた!!」

 

 そんな勇敢な人間達がいたのか…高い金を払って魔物側に寝返って安全に暮らしている人間共に聞かせてやりたいものだ。

 

「その者たちの中でも歴史に大きく刻まれた者達。()()()と呼ばれる人物が率いる部隊の活躍は凄まじかった!!」

 

 サカイ…か

 

「サカイが率いる部隊は他の部隊よりも遥かに少人数ながらも戦力は他の部隊よりも圧倒的だった!! 中には拳で魔物を圧倒した者もいたとか!!」

 

 拳で魔物を? そんな人間がいたのか世の中に………

 

「だが、しかし–––」

 

 語り手の勢いが急に静まり返る。

 熱く語られたこの内容の結末…大凡の予想はついているが…

 

「その部隊でさえ、魔物達には勝てずに、敗北したのだ」

 

 だろうな。その調子で魔王を倒せてりゃあ、俺たちの生活がこんなはずじゃねぇもんな

 

 周りの民衆の熱気は冷たい水でもかけられたみたいに落ち着いてしまった。俺も熱気に乗せられていたのだろう、急激に体温が下がったような感覚に落ち着いた。

 

 サカイ…サカイか…凄い英雄だったのだろうな

 

 ……ん? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––サカイ…だと…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はこの人物を…いや、男だということまで知っている

 

 周りの民衆は物語の結末を理解し散っていく。

 その人混みに押し出されそうになるが俺は

 

「ま、待ってくれ! アンタ! その話って! いつの話なんだよ!」

 

 声が届いたのか、語り手だった男はコチラに顔を向けた。

 

「いつ…か…そいつは私にもわからないな……なんせ作り話だからな」

 

 え…嘘だッ! そんなはずはない…!!

 

 だ、だって! こんなにもハッキリと………

 

 ………っ………て………

 

 –––!

 

 激しいノイズ音が頭の中を掻き回す。

 

 ……も………い

 

 訳も分からぬまま、意識が遠のいていく。

 

 俺は……一体……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 混沌に渦巻かれる己が思想

 

 その行方に見えるのは覚えのない絶望への一直線

 

『さぁ、剣を取れよ、若き流星。』

 

『お前の物語はここからだろ…? 』

 

 どこからともなく聞こえる謎の声に耳を傾けて俺は全てを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てを–––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 失ったんだ。

←to be continued

 




意味のわからないと感じた方は申し訳ございません。
物語は本当にここから始まります。
これからの展開にご期待下さい。


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第2話 「貧民街の一文無しと子供達」

第1話の謎の展開はそのうち分かります。
物語が進む毎に読み直しなどをして、情報を掴み続けることが良いと思います。
それでは2話、どうぞ!


 長い夢を見ていた気がする。

 

()()()()と言ったのには理由がある。

 夢を見ていた記憶が全くないのだ。だが、冷や汗を掻いたような感覚が何故か残っている。

 

「…………」

 

 ……気分が悪い

 

 暗闇の中で何度も振り回されたような奇妙な脱力感を感じる。

 鍛錬の積み過ぎだろうか? そこまで無理をした覚えはないのだが…

 

 陽の光が真上から注がれる。陽の位置からして丁度正午だろうか?

 

「また天井壊れたのか…」

 

 我が家は住めるには住めるが、薄い木の板で出来たボロ屋である。

 気づけば見知らぬ天井…いや、見知らぬ穴が空いているのは日常茶飯事のことである。

 

「金……なんてもんはないしなぁ、また自給自足だな…」

 と、俺はいつものガラクタ山に赴く。

 

 この貧民街では、店に買い物をしに行くより、こういったガラクタの山から何かを見つけた方がお得なのだ。

 そのガラクタ山の上から数人の子供の声が聞こえる。

 

「おっと、先客……あっ、アイツらは」

 

 ガラクタ山で遊んでいた連中は顔馴染みの奴らであった。

 

「あっ、星絆(せな)の兄貴じゃないすか!」

 

 白シャツに短パンの坊主頭。逞しく焼けた肌はこの貧民街を元気に生きてる証だ。

 

「おう、てかその兄貴って呼び方やめろって康太(こうた)

 

 そう、コイツは康太。俺を兄貴呼ばわりにするちびっ子である。

 

「えー! いいじゃないすか! かっこいいっすよ!?」

 

「馬鹿野郎っ! 俺にはそういうのは似合わないって」

 

 そう、俺には似合わない。そんな大した兄貴分でもないしコイツらに何かを教えた訳でもない。

 

「私もかっこいいと思いますよ?」

 

 茶髪で可愛い花飾りを付けているこの子は彩花(あやか)ちゃん。

 

「そうですよ! 星絆の兄貴は兄貴ですって!」

 

 そしてこっちのメガネ坊主が俊彦(としひこ)だ。

 

「やめろって、恥ずかしいんだよ」

 

 この呼ばれ方が嫌いという訳では無いのだが…

こそばゆい何かを感じるので少々拒みたくなる。

 

「あっ、兄貴照れてるんすか〜? 鼻なんて擦って」

 

 ケラケラと康太は笑い始める。

 

「だぁ〜もう! 別のところで遊べ! しっしっ!」

 

 ちびっ子達を追い払う様に手で払う

 

「えーっ でもここくらいしか僕達の遊び場ないですよ!」

 

 俊彦がそう言うとそれに便乗して康太が『そうだっ!そうだっ!』と言ってくる。

 

「むっ…」

 

 それは確かに言えてる。

 この辺は遊具も無いし、その辺に突っ立ってれば大人達に「仕事の邪魔だ」と叱られてしまう。

 つまり、大人も来ないし誰にも邪魔されないこのガラクタ山こそがこの子達にとって楽園(エデン)という訳だ。

 

「…星絆さん」

 

 彩花ちゃんが少し落ち込み気味な声で俺を呼んできた。

 

「ん? どうしたんだ、彩花ちゃん」

 

 彩花ちゃんは目をこちらに合わせず少し右の方を見ている。

 何か言いにくいことでも言いたいのだろうか……? 

 

「あっ、あのね…」

 

 少し間を空けてから口を開いた。

 

「星絆さんは…私達のこと…嫌い? 」

 

 えっ?

 

 唐突に何を言い出すんだ。

 

「…どうしてそんなことを聞くんだい?」

 

 彩花ちゃんはやっとこっちに目を合わせてくれた。

 

「うーん…だって…いっつも邪魔者扱いしてる様な気がして…」

 

「それは…」

 

 康太と俊彦もそう思ってるのか少し困り気な表情を見せる。

 

 ああ…そういえばいつもそんな反応だった気がする。

 

 俺はこの子達に対して少々怖くなってしまっていたのではなかろうか…?

 

「………ごめんな、彩花ちゃん、そんな事はないし嫌いでもないよ?」

 

「えっ、ホント?」

 

 そうだ、嫌いな訳ではない。同い年か歳上なら軽く流せる多少な口の悪さは、こういった幼い子供達に対しては少しキツかったのだろう。

 

 この子達の親は数年前に亡くなっている。

 周りの大人達はこの子達を邪魔者扱いで構ってはいられず忙しい者ばかりでこの子達に愛情表現やお互いバカやって笑ったりすることをちゃんと教えてやれなかったんだ。

 

 全く…俺みたいに商売も何もやってない奴が遊んでやらなくてどうする。

 

「ふふっ、あったりまえだろ! もちろん康太! 俊彦!」

 

 いきなり呼ばれた2人は一瞬ビクッとなった。

 

「お前らも嫌いじゃないぜ。」

 

 この一言でちびっ子達に明るい笑顔が戻っていく。

 

「ほ、ホントッすか!? 信じて良いんすよね!?」

 

 康太は目を輝かせている。

 

「ああ、むしろいつも声かけてくれて嬉しいと思ってるぞ」

 

 うおー! っと喜びだすちびっ子達。

 全く可愛いガキンチョ共だ。

 

「あっ! それじゃあ!」

 

「兄貴はだめだぞ」

 

 康太は『え!? なんでわかったんすか!?』と言わんばかりにショックな顔をしている。

 

「大体なんで、俺を兄貴なんて呼ぶんだ?」

 

 ここが一番の疑問なのである。

 すると康太は顔を上げて

 

「あに……いや、星絆さんの生き方に憧れたんすよ俺達」

 

 俺の……生き方……? 

 

「周りの大人達は、金だとか仕事だとかでつまんない生き方してるじゃないすか。でも、兄貴の生き方は、なんというか、何にも縛られないで自由で…」

 

「…その自由な生き方に憧れたって訳か?」

 

「そうです!」

 

 なるほど…だが

 

「康太、言っておくが俺の生き方は正しくないぞ? 」

 

「え?」

 

「俺より周りの大人達の生き方の方がよっぽど正しいんだ。お前達はまだ子供だからよくわかんないかもしれないけど、働いて金を稼いで明日に繋げるっていう生き方の方が正しいんだよ」

 

「で、でも俺はあんな生活嫌だよ!」

 

 ……だよな

 

 ガキの頃なら誰でもそう思うし、大人達だって今でも思ってる。

 

「な、なら兄貴! 周りの大人達の生き方が正しいって言うんだったらなんで仕事しないんですか!?」

 

 –––グサッ

 

「言ったな、正論だが言ってはならんぞ康太」

 

 的確な正論に顔を抑える俺。

 

「えぇ…?」

 

 ちびっ子達は困惑した様子で顔を合わせあう。

 

「とにかく、俺の生き方はアテにならんぞ!! お前達に俺みたいな奴と同じ道は歩ませたくない!!」

 

 俺は返答を誤魔化そうとその場から立ち去ろうとする。

 

「あっ! 待ってくださいよ! 兄貴!!」

 

「だ〜か〜ら〜兄貴じゃないって!!」

 

 ちびっ子達は離れることなく俺の跡を付き纏い続けた。

 

 ←to be continued

 




バトルまだ?と思うそこの貴方。
積み重ねが大事なんですよ(言い訳)
次回にご期待!!


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第3話 「最高の晩餐」

続けて3話です。
ガラクタ山での一件、どうなったんでしょうね?
本編どうぞ!


 今日は気持ちの良い天気である。

 こういう日は深呼吸を

 

「ゲフっ!」

 

 するとむせた。

 いつも通り砂埃が酷い街である。

 

「兄貴、大丈夫すか?」

 

 康太が心配する様に声をかけてくれた。

 

「お、おう…相変わらず空気悪いな…。」

 

 首回りに掛けているスカーフで咳を抑えながら、空気汚染の原因である工場を見る。

 

「魔物の奴ら…空気が汚くなるって理由で人間様の住処の近くに工場設置しやがって…しかも、造られた物の所有権は魔物だけの物なんだろ?汗水流して人間様が集めた資源を勝手に使うなんてな、不平等にも程があるぜ。なぁ、康太」

 

「でも兄貴、汗水流して働いてないじゃないすか」

 

「うっ…」

 

 心痛くなりながら俺は頬を指でポリポリと掻く。

 康太は、俺に正論をかました後に金槌を握り直して作業を再開した。

 

 昨日のガラクタ山での出来事。

 あれから、兄貴、兄貴と呼んでくるちびっ子達から貧民街で必死に撒こうと逃げたのだが、甘かった。

 いつも逃げた先ににアイツらが待ち構えていたのだ。

 俺という人間を毎日観ているという訳か、頭の中を見透されてる気分だ。

 子供の観察力のえげつなさを思い知らされる。

 そんな鬼ごっこを日が暮れるまでやり続け、心が折れた俺はとうとうちびっ子達に兄貴と呼ぶことを許してしまった。

 自宅の天井の修理を条件として。

 

「どうだ康太、終わりそうか?」

 

「ふぅ…いやぁ、難しいっすね大工さんって」

 

「そろそろ、俊彦と彩花ちゃんが支給品のパンを貰って帰ってくるはずだ。それまで頑張ってくれ。」

 

「よっしゃ!頑張りますよ!」

 

 もうすぐ飯とわかった途端に康太の仕事のペースが上がっていった。

 

「あんま急いでやると釘と指間違えて打つぞ〜」

 

 俺は一声心配をかけておくと同時に天井の修理の具合を見る。

 

 はは…釘の刺さりがところどころ甘いな…

 

 あの修理の様子だと貼り付けられた板は明日まで保たないだろう。

 だが、一生懸命やってくれてる様子に余計なことを言ってはコイツの成長の邪魔になるだろうと感じ、とりあえずは、温かい目で見守ることにした。

 仕方ない、ちびっ子達が帰った後に俺が修理しておくとしよう。

 

「あ、そうだ。兄貴はなんで支給品自分で貰いに行かなかったんすか? 暇そうにしてるから行けばよかったのに」

 

「んー? ああ、それはだな…」

 

 理由としては簡単、仕事もしてない青年にやるパンは無いという訳だ。

 ここ最近18歳になったのだが、支給係のおばちゃんにとうとう

 

「アンタ、いつまで仕事しないで暮らすつもりだい!? アンタにやるパンなんてないよ! さっさと仕事しな!!」

 

 と叱られてしまい、パンを貰えなくなってしまったのだ。

 それでも働きたくない俺は、変装などをしてなんとかパンを貰い続けたのだが、最近変装を見破られるようになってきてしまい。

 この様に、ちびっ子達に貰いに行ってくれる様に頼むという哀れな現状になったという訳だ。

 と、説明すれば良いのだが、こんな事を穢れ無き少年に学ばさせる訳にはいかない。

 

 とすると…

 

「…試練だ」

 

「え?」

 

「非常事態による困難極まる状況で人混みを攻略して支給品を無事に受け取り持って帰るという試練だ。俺は敢えて、あの二人だけに行かせたのだ。俺の助言無しにどこまでやれるかを試したという訳だ!!」

 

 どうだぁ! この完璧な内容!

 

「つまり、働いてない兄貴が行ったところでパンは貰えないから彩花と俊彦に頼んだという事ですね。」

 

「んがっ!!!? 」

 

 なんだこいつ!!全部お見通しってか!?

 

「…ああ、そうだよ正解だ正解」

 

「ははははっ! 兄貴わかりやすいっすよね」

 

「えっ そうかぁ? 」

 

 頭を掻きながらそんなこと少しでも信じたくないという疑惑の目で康太を見てやる。

 

「でも、騙し切れてないっていうか…そういう分かりやすい嘘ついちゃう人は良い人なんだと思いやすよ。だから兄貴は良い人っすよ。」

 

「おいおい、仕事もしないろくでなしを良い人判定するのはちょっと優し過ぎるぞっと。」

 

「あいてっ!!」

 

 康太の額に俺のデコピンが炸裂。

 

「なにするんすかぁ!」

 

「はっはっはっは!ほらほら、二人とも帰ってきちまうぞ〜出迎え出迎え〜」

 

 俺は康太の背中をポンポンっと押してやる。

 

「もぉーなんでデコピンなんてするんすか〜?」

 

 一方康太は少し赤くなった額を手で抑えている。

 

「さぁ、なんでだろうな〜。」

 

 ばーか、恥ずかしいんだよ。

 

 でも、ありがとうな康太。

 

 家の扉を開けて直ぐのところで少し待つと人数分のパンを抱えた彩花ちゃんと俊彦が帰ってきた。

 

「お待たせしました〜。」

 

「いやぁ、人混み凄くて大変でしたけど何とか貰えましたよ〜。」

 

 彩花ちゃんと俊彦は達成感に満ち溢れた笑顔を見せた。

 

「よし、良くやったぞお前ら! 偉い偉い!」

 

 二人の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。

 

「えへへ、ありがとう星絆さん」

 

 彩花ちゃんは可愛いらしい笑顔でぴょんぴょんと喜んでいる。

 

「星絆の兄貴も何かしてたんすか?」

 

 彩花ちゃんとは別に冷静な反応をしてくる俊彦。

 

「えっ? あー、えっとだな…」

 

「兄貴ったら、オレに天井修理任せっきりでサボってたんだぜ。」

 

 両手を頭の後ろに回しながら康太は笑いながらそう言った。

 

「あ、ばかっ!」

 

 慌てて康太の口を抑えようとしたが遅かった。

 

「えー! ずるい!!」

 

「兄貴も一緒に来てくれれば良かったのにぃ!」

 

 二人に服の裾をグイグイっと引っ張られる。

 

「あわわ! ごめんごめん! 俺のパンやるから許して!」

 

 そう聞くと二人はやったぁ!!と飛び跳ねた。

 

 トホホ…まぁ仕方ないよな。

 

「兄貴ぃ〜。」

 

 –––ギクッ

 

「オレも、働いたんすけど…?」

 

 康太がそろーりとコチラに顔を出してきた。

 

「も、もちろん!三等分でお前ら仲良く食って良いぞ!!」

 

 許可を受けた3人は仲良くハイタッチをしている。

 

「やれやれ…よしお前ら、ちゃんと井戸水で手を洗ってくるんだぞ。」

 

「はーい!!」

 

 3人は仲良く返事をし、井戸の方に向かって行った。

 

 さて、俺は部屋の片付けでもしてくるかな。

 

 俺は、部屋に戻り康太が作業に使っていた梯子、自分の荷物を邪魔にならないところに置くことにした。

 

「よし、こんなもんかな」

 

 これで四人満足に食事出来るペースは出来ただろう。

 

 しばらく待つと、ちびっ子三人組がお喋りをしながら帰ってきた。

 

「よし帰ってきたな、座れ座れ〜」

 

「あ、梯子片付けてくれたんですね!兄貴、ありがとうございやす!」

 

「まぁ、このくらいはしとかないとな」

 

 三人は自分達が決めた位置に腰を下ろし、彩花ちゃんが人数分のパンを、俊彦は人数分の水を汲んだコップをみんなに渡した。

 

「あれ、俺にもくれるのか?」

 

 先程、俺のパンは三等分にしてみんなに渡すと言ったのだが、何故か彩花ちゃんは俺にパンを渡してくれた。

 

「だって星絆さんお腹空いてるでしょ?大丈夫だよ私達は一つずつのパンで。」

 

 彩花ちゃんはそう言うとニコッと笑顔を見せる。

 康太と俊彦も納得する様に「うん、うん」と頷いている。

 

「お前ら…」

 

 ぐぅ…優し過ぎかよコイツら…

 

「ありがとうな、でも俺腹空いてないから食べて良いぞ!ほらほら」

 

 先程約束した通り三等分してちびっ子達に渡していく。

 

「えぇ? 本当に大丈夫なんすか?兄貴」

 

「無理してませんか…?」

 

「兄貴…本当に頂いて良いんですか?」

 

 三人はそれぞれ心配した表情で俺を見てくる。

 

「大丈夫だぜ! ほら、康太! 俺が嘘ついているように見えるか?」

 

「う、うーん、嘘は付いてなさそうっす…」

 

 気持ちの満足感が、俺の腹を満たしてくれているようだ。

 

「さぁ育ち盛りのお前らは沢山食べて大きくなれ!」

 

「じゃ、じゃあ…」

 

「う、うん、私も!」

 

「ありがとうございます! 兄貴!」

 

 いつぶりだろうか…他の奴とこうやって…まぁ俺は水だけになるが、食事をするのは久々だ。

 

 本当に今日は良い日だ。

 

 ←to be continued

 

 




進展が遅過ぎる…?
本当に申し訳ございません(殴

そろそろ…動くはずです。


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第4話 「崩壊」

引き続きありがとうございます!
今回は少し長めですかね。
本編どうぞ。


 明るく賑やかな食事。

 

 もっとも、俺はこの一杯の水だけだが。

 こうして一緒に飯を食える奴がいるのはいつぶりだろうか。

 

「うめぇ! うめぇ!」

 

 康太ががっつくように食っている。

 まぁ、一番夕飯楽しみにしてたのは康太だったろうしな、それ相応の食いっぷりだ。

 

「もぉ〜康太〜パンの粕落っこちてるよ〜」

 

 彩花ちゃんが隣で康太を叱っている。

 

「すみませんね、兄貴。康太のやつ食い意地汚くて…」

 

 俊彦が申し訳なさそうに頭を下げてきた。

 

「いや、良いんだ、今日は気分良いからな」

 

 そう、とても気分が良い。

 こうして人を呼んで夕飯を共に過ごすのは初めてなのだ。

 ついついニヤニヤが止まらなくなる。

 

「兄貴、どうしたんすか? そんなにニヤついて」

 

 康太が頬張ったパンを飲み込むと俺の顔を見ながらそう言ってきた。

 

「え? ああ、いやなんでもねぇよ」

 

「えー、なんすか? 気になるじゃないすか〜」

 

「だから、なんでもねぇって〜」

 

「あ、わかった!兄貴こうやってみんなで飯食うの久々だからでしょ!」

 

「げっ!!」

 

 なんでこう、ホイホイ当ててくるかねこの坊主!

 

「あ! こりゃ図星だぜ! はっはっはっはっ!!」

 

 康太に釣られて周りの二人もクスクスと笑っている。

 

「くぅ…そんなに俺分かりやすいかよぉ…」

 

 本当に慕ってんのかぁ? こいつぅ…

 

「兄貴〜、本当にパン食わないんすかぁ? 今日の格別に旨いっすよ!なんか木の実入ってて味が引き立つっつうか」

 

 康太が食レポ染みた事を抜かしている。

 

「確かに、この木の実パン美味しいね!」

 

「おばちゃんがスペシャルだよって言ってた理由はこれかぁ〜」

 

 康太も彩花ちゃんもその木の実パンとやらに夢中のようだ。

 

 なんだなんだ、今日のパン特別なのかぁ…?

 

 じゅるりと口から唾液が漏れそうになり、急いで口元を拭った。

 

「お、俺も一口…じゃねぇ、そうかぁ!良かったなぁ〜お前ら〜!」

 

 うぅ…我慢だ…耐えろ俺…

 

「兄貴一口食べたいんすよね? いいっすよ、ほらほら」

 

 むぅ…一口ならまだ甘く見られないかな…?

 

 康太がパンを一口サイズに千切ってこちらに向けてくる。

 

「あ! だめ! 私があげるの!」

 

 康太には渡せまいと、彩花ちゃんがとびだしてきた。

 

「おい、彩花お前〜!いくら星絆兄貴のこと大好きだからって、その権利の横取りとは聞き捨てならねぇな!!」

 

「ちょ、バカ!!言わないでよ!!」

 

 彩花ちゃんの顔が急に赤くなった。

 

「この前なんて、彩花、星絆兄貴と結婚式挙げる夢なんて見てたんですよ」

 

 つけ入るように俊彦が口を挟む。

 

「あわわわっ!!やめて!!」

 

 彩花ちゃんはあたふたと両手を振っている。

 

 よく、俺についての質問とか、積極的にくっ付いて来ることが多かったから薄々気付いていたが…そうか…

 

 俺はそっと、彼女の頭を撫でてやった。

 

「ひゃ! 星絆…さんっ? 」

 

 彩花ちゃんは自分の黒歴史をバラされて赤面ついでに涙目になっている。

 

「ありがとうね、彩花ちゃん、嬉しいよ」

 

「ヒューヒュー! お熱いねぇ!! チューしてもらえよ! 彩花!」

 

 康太と俊彦はゲラゲラと笑いながらおちょくってくる。

 

「だめだめだめ!! 死んじゃうよ! 私!」

 

「はっはっはっ!! これで今日寝る時もっと恥ずかしい夢見て死んじまってるかもな!!」

 

「康太ぁ〜!!」

 

 ドタバタと二人は追いかけっこを始めた。

 

 やれやれ、こんな狭い家で鬼ごっこをするとは…

 

 俊彦は「放っておきましょ」という顔で水を飲んでいる。

 

「あ、そうだ。お前ら、今日俺の家泊まってくか? 」

 

 そう言った瞬間彩花ちゃんと康太は鬼ごっこをやめてコチラに目を丸くして顔を向けた。

 

「ホント!? 泊まって良いの!? 」

 

「う、嘘とか、言わねぇよなぁ!? 」

 

「おいおい、なんだなんだ、大袈裟な…俺が良いって言ったんじゃないか」

 

「やったぁぁ!!」

 

「うわっ!」

 

 康太と彩花ちゃんは一斉にコチラに飛びついてきた。

 

「ありがとう! 星絆さん〜!」

 

「泊まってみたかったんだよなぁ〜嬉しいぜ、兄貴〜!」

 

 二人は良い笑顔で喜んでいる。

 

 …ふふ、まったく…

 

 俺は、二人の頭を撫でてやった。

 

 

 

「僕まで良いんですか? 星絆の兄貴」

 

「ああ、勿論だ」

 

 ちびっ子達は三人で一つみたいなものだしな、仲間外れにはさせない。

 

「あー、でもあんまし暴れるなよ? 床抜けるかもしれないからな。」

 

「は〜い」

 

 四人…寝れるかな…

 

 ギュッと荷物を押し詰めて食事の時よりもペースを広くしたが、これでも結構ギリギリかもしれない。

 元々、人を招くような家でもないし一人暮らしの為、部屋は一つしかないのだ。

 

 念の為にちびっ子達にこの狭さでも良いか聞いておくか

 

「おい、お前ら〜結構狭くなっちまったけど良い…ん?」

 

 ちびっ子達は、何故かジャンケンをしている。

 

「うわぁ!彩花が勝った!!」

 

「畜生!!」

 

「えへへ〜悪いね〜2人とも〜」

 

 どうやら、彩花ちゃんが勝ったみたいだ。

 

「何ジャンケンしてるんだ? お前ら」

 

「兄貴の隣で寝れる権利を懸けてジャンケンしてたんすよ〜、あ〜もぉ!負けちゃったぁ!!」

 

「あ、あぁ…そうか…ってことは…彩花ちゃんが俺の隣で寝るって事…?」

 

「はいっ!お願いしますね!」

 

「………」

 

 子供とは言え、女の子だ…少し恥ずかしい…。

 

「兄貴、彩花の寝込み襲ってあげてください、喜びまっ…!!?」

 

「あっ…」

 

 康太の余計な一言に対して彩花ちゃんの蹴りが康太の股間に炸裂した。

 

「て、てめぇ………がふ…」

 

 康太はその激痛に耐えきれずその場に倒れてしまった。

 

「………え、えへへ〜」

 

 その出来事を何でもないですよっと可愛らしい笑顔で誤魔化す彩花ちゃんであった。

 

 

 

 夜が更け、完全に寝る準備が整った。

 三人には、この狭さでも何も問題はないと言っていたので安心した。

 だが…

 

「…ごめんな、彩花ちゃん…毛布別々じゃなくて…」

 

「いえ…仕方ないですよ…」

 

 そう、自宅にある毛布は二つ。

 人数分用意が出来なかったのだ。

 

「………」

 

 なんかドキドキするな…って、何考えてるんだ俺は…

 

「あの…星絆さん…? 」

 

「ん?」

 

 小さな声で囁くように彩花ちゃんは声を掛けてきた。

 

「星絆さんって…何歳でしたっけ…? 」

 

 歳…? 

 

「18…だけど? 」

 

「じゃあ私達と5歳差ですね、ふふ。」

 

 13歳か…出逢ったのは3年前…時の流れは早いもんだ。

 

「ねぇねぇ…星絆さん…」

 

「なんだい?」

 

「男の人と女の人で結婚できる歳って…いくつだっけ? 」

 

「えっ!?」

 

 な、なんだ? 急にそんな事…いや、少女の素朴な疑問…だよな?

 

「た、確か…男の人が18歳…女の人が…16歳だったかな…?」

 

 何動揺してるんだ俺…

 

「ふーん…あと…3年…」

 

「………」

 

「…ってて…くれるかなぁ…」

 

 俺の耳にも聞こえない声で何かボソッと言った。

 

「何か言った…? 」

 

 その一言に彼女はハッとなって

 

「えへへ…何でもないですよ」

 

 俺はこの会話が康太と俊彦に聞かれてないか心配になり、彼らの方に目をやる。

 

「…ぐっすり寝てるな…」

 

 俊彦はともかく、康太は騒ぎ散らしてそうなイメージあったのだが、すぐ寝てしまったようだ。

 

「星絆さん…」

 

「えっ?うわ…」

 

 声を掛けられたかと思うと、俺の首後ろに彩花ちゃんは手を回している。

 

「康太と俊彦の方見ちゃだーめ…今日は私のモノだもん…」

 

「そ…それは…」

 

「うふふ、冗談だよ〜。」

 

「だ、だよね…はははは…はっ?」

 

 –––油断した。

 

 ガッツリ口付けを喰らってしまった。

 

「星絆さんの唇…頂いちゃいました…えへへ。」

 

「う…うむぅ…彩花ちゃん…ダメだぞ…。」

 

「星絆さん可愛い…」

 

 まったくもう…

 

 彩花ちゃんの頭をポンポンと撫でてやった。

 

「あのね、星絆さん…」

 

「ん? 」

 

 彩花ちゃんの顔が赤く染まっている。

 先程大胆な行動をしたと言うのに、それより恥ずかしい事を言おうとしているのだろうか?

 

「もし…もしね…良かったらなんだけど…」

 

「うん…」

 

 これはまさか…

 

「星絆さん…私と–––」

 

 

うぎゃぁぁああああ!!!!

 

 

 

 –––!?

 

 

 

 なんだ…?

 

 唐突に発せられた悲鳴。

 声の正体は外からだった。

 

「…せ………星絆さん…」

 

 彩花ちゃんはビクビクと震えている。

 それもそうだろう…今の悲鳴は悪ふざけどころの発せられ方ではない…

 

 –––断末魔

 

 それにふさわしい一声であった。

 

「な、なんだ…? 」

 

「星絆の兄貴…何事ですか…? 」

 

 康太と俊彦はその悲鳴によって目を覚ましたらしい。

 俺は一呼吸着き…

 

「…見てくる…」

 

 覚悟を決めて立ち上がろうとした瞬間

 

いぎゃぁぁぁあああああ!!!!

 

 …っ!!?

 

「嘘だろ…? 」

 

 二人目の悲鳴!?

 

 俺は急いで家の扉を開けて外に飛び出した。

 

 そして…

 

「…なんだよ…これ…」

 

 それはまさに異様な光景であった。

 

 無数の断末魔の中次々と奇妙な()()が蠢いていた。

()()は民家から生え、屋根や壁を突き破っている。

 奇妙な()()は木の枝と呼ぶに相応しいのだろうか。

 とすると奇妙な点がある。

 

「赤い…」

 

 真っ赤なのだ。

 貧民街中に次々生えてくる()()はどれも生え方がバラバラ。

 しかし、どれも赤い。

 ペンキで塗ったような赤さよりもより生々しい色をしている。

 

 その異様な光景に俺は脳裏に最悪の思想が描かれた。

 この赤色の正体。

 その真相に辿り着くのはそう難しい事じゃなかった。

 それを確信付けるのはその鉄の錆びついたような臭い。

 

 気持ちが悪い…

 

 俺は考える事を放棄したくなった。

 最悪の状況がまだ終わらない。

 終わりのない断末魔のような悲鳴。

 貧民街に次々と根づく真っ赤な樹木。

 

「なんなんだよ…おい…」

 

 頭が痛くなってきた。

 酸欠だろうか、呼吸が荒く…苦しい。

 

「せ…星絆さん…」

 

 背後から彩花ちゃんが声を掛けてきた。

 

「だ、だめだ!彩花ちゃん!家から出ちゃ!」

 

「ご、ごめんなさい…で…でも…苦しいの…」

 

「え…」

 

 彩花ちゃんは苦しそうに腹部に手を当てている。

 顔色も悪い。

 

「お腹が…苦しいの…ねぇ…星絆さん…星絆さん……星絆さん…!」

 

 嫌な予感がする。

 

 どう…したんだ…

 

「あっあぁ…あぁ…ああぅ……うぅ…」

 

 お、おい…?

 

「…せ…な……さ…ん…」

 

 彩花ちゃんの声はもう掠れて聞こえなくなってきた。

 

「たす……け――

 

 

ぱんっ

 

 

 

「––––––––」

 

 彩花ちゃんの苦しそうな声は謎の破裂音によって途切れてしまった。

 

「………」

 

 彩花ちゃんがいた筈のところに貧民街中に生えていた()()と同じモノが生えていた。

 辺りには()()()()()()()()()が散らかっている。

 

 –––今何が起きた。

 

「あ…兄貴…はら…腹がいでぇ…」

 

「うぅ…うっ…僕も…」

 

 康太と俊彦も彩花ちゃんと同じように家から出てきた。

 

「康太…俊彦…お前ら家から…」

 

ぱんっ ぱんっ

 

「………」

 

 また同じように破裂音が響いた。

 そして二人がいた筈のところに()()は絡まるように生えていた。

 そしてまた色々()()()が散らかっている。

 

「あ………」

 

 俺はその現状から目を背けている。

 

「あっ…あ…あぁ…」

 

 早く覚めてほしい。

 

「あ……あぁぁ……あ"っ…」

 

 お願いだから。

 

「あ"あ"あ"ぁあ"あ"……」

 

 頼むから覚めてくれ。

 

「彩花ちゃん…康太…俊彦…」

 

 いい加減にしてくれ。

 こんな悪夢もう見たくない。

 

「うっううう………あ"…あ"ぁ"…」

 

 早く覚めてくれないと認めてしまう、やめてくれ。

 

「…………………っ…っ!!!!!」

 

 –––今、彩花ちゃんと

 

 嘘だ………嘘だ……嘘だ…嘘だ…嘘だ!嘘だ!!

 

 俊彦と……

 

 嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!

 

「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"–––」

 

 康太が

 

「嘘だと言ってくれえ"え"え"え"ぇ"ぇ"–––ッ!!!!」

 

 –––死んだ。

 

 ←to be continued




次回も引き続きよろしくお願いします。


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第5話 「絶望の行く末」

お待たせしました!!
前回からの急展開…一体どうなるのか…
是非ご覧ください!


 悲鳴はもう聞こえない。

 だが、漂う悪臭に頭がおかしくなりそうだ。

 正直、何も考えたくない。

 俺は今この場所で起きた状況を理解したくなかった。

 目の前に生えている太く育った大きなソレ。

 いや…もうソレというのはやめ、木と認識した。

 何が起きたかは分かっていないが、()()()()()()()()()は脳裏に焼きついてしまっている。

 苦しみながら家を出てきた彩花ちゃん。

 その後、その苦しみによってなのか声が通らなくなり、次の瞬間…

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………」

 

 一瞬だった。

 様々な騒音を立てながら行われたに違いないと思うが俺には『ぱんっ!』という破裂音しか聞こえなかった。

 その音が最も大きく、その他全ての音を掻き消してしまったのだろう。

 続くようにして康太と俊彦も家を出て来て同じような出来事が起きた。

 その結果として俺の目の前には三本の奇妙な木が生えている。

 

「………どうして…」

 

 状況が分かったからってこの絶望は変わらない。

 

「………」

 

 奇妙な木からはギシギシと軋む音が聞こえる。

 内側で()()()をすり潰している音だろうか。

 

「………」

 

()()()が何なのかは理解している。

 木が巻きつき粉砕した彩花ちゃん達のか…

 

「–––う"っ!!」

 

 想像しただけで腹の内側から込み上げていく。

 俺はそれを必死に堪えた。

 

「っ…はぁ…はぁ…」

 

 深呼吸だ…

 

「…スゥー…はぁ…スゥー…はぁ…」

 

 落ち着くんだ…

 

「…ふぅ…」

 

 …よし…

 

 胸に手を当て、呼吸を整える

 そして、静かに目を瞑り、自分の心情を自分に言い聞かせる。

 

 苦しい…

 

「–––アイツらの方が………苦しかったはずだ…」

 

 アイツらは…

 

「………もう…いない…」

 

 街のみんなも…

 

「…いない…」

 

 じゃあ…

 

 そうだ…残った俺が…

 

「俺が原因を…突き止める…!」

 

 なんとか、乱れた精神を正常に抑える事が出来たようだ。

 

 ゆっくりと目を開け、俺は状況を冷静に観ようとした。

 彩花ちゃん…康太…俊彦…そして、貧民街の住民達

 みんなあの木に殺され、飲みこまれてしまった。

 

「どうしてこんなことが…」

 

 感染病か何かか?

 人から木が突然生える病気なんて聞いたこともないが…

 

 俺には…何も起きてない…のか?

 

 自分の手のひらや首元を触って確かめた。

 

 身体には何も異常が起きていない。

 他のみんなに起きて、俺だけに起きてない理由…

 

「…パン…? 」

 

 第一に浮かんだのはそれだった。

 

 支給されたパンを俺だけが食べていなかった。

 ………それが原因だとしたら…

 

 康太が今日のパンは木の実入りで旨かったと言っていたのを思い出した。

 もしその木の実が突如生えてきた木の種だとしたら…

 

「そういう…ことなのか…? 」

 

 だとすれば、あのパンに細工をした人物がいるという訳じゃないのか?

 

 支給係のおばさん…な訳ないよな、あの人は俺がガキの頃からの付き合いだ…あっ!…クソ…おばさんも死んじまってるんだよな…

 

 再び気を取り乱しそうになり、冷静さを取り戻そうと再び深呼吸する。

 

「…魔物。それしかないか…」

 

 これが魔物の計画的殺戮行為だとすれば多少は納得できる。

 戦争が終わっても尚、娯楽目的で街の人間一掃なんて珍しい話ではない。

 

 とすれば、人間の全滅を確認する為に魔物が様子を見にくるはずだ…

 

 パンを食べることなく睡眠についた者達の後始末をする為に魔物達はやってくる。

 

 戻ってくるとしたら…

 

「…仇…討ってやんねぇと…気が済まねぇ…」

 

 冷静さは保っているが、気持ちの底では殺意が沸き立っていた。

 

 まずは、物陰に隠れて様子を

 

「–––へぇー、仇ねぇ」

 

 –––!?

 

 背後に気配…その方面に振り向くと

 

「じゃあその仇とやらを討ってもらおうかねぇ…」

 

 

「!!…こ、こいつは…」

 

 そこにいたのは

 

「おっと…魔物を見るのは初めてかい…?人間(ヒューマン)

 

 人間とはかけ離れた異質な姿。

 テカついた緑色の肌、鋭く尖った鷲鼻、ヤギのような細い瞳

 童話に登場する小鬼(ゴブリン)とイメージが一致した。

 

 –––これが…魔物

 

 初めてこの目で見た人間の天敵である存在。

 この星の争奪戦の勝利種。人間の敵。異形の怪物。

 次々と自分が知識として持っている魔物のイメージが浮かんでいく。だが、その小鬼は童話通りの姿からは想像もつかない武器を持っていた。

 その手には…

 

 –––銃…!

 

 小鬼は知識が低く、扱っている武器は石を加工したものや、獣の骨を削ったものなどととある童話で読んだことがあった。

 しかし、現実は違ったようだ。

 金属を加工し、火薬を使うれっきとした現代兵器。

 それを扱うことができ、言語をしっかりと理解し、話していた。

 俺は今まで、知識だけなら人間の方が優っていると思っていた。

 だが、その差はほぼ無いという事実を思い知らされた。

 

「ゲフフ…いいねぇ…悪くない反応だぜ…あとは…」

 

 小鬼は、不敵な笑みを浮かべながら銃口を俺に向けた。

 

「–––ッ!! やろう!!」

 

「すぐ死なずに逃げ回ってくれりゃぁ…おもしれぇかもなぁ…」

 

 危険を感じ俺は咄嗟に木の陰に隠れた。

 その直後、ドンッ!と銃声が響き渡り、隠れた木に被弾し、砕け散った木屑が宙に散う。

 

「ゲヘヘヘヘッ!!いいね!!いいね!!その調子だぜ。」

 

 煽るように小鬼の汚らしい笑い声が聞こえる。

 

 野郎…ふざけやがって…

 

 目の前にこの木が無かったら、危うかったかも知れない

 

 …彩花ちゃん…

 

 自分を守ってくれた木の弾痕からは血が滲み出ている。

 

 …すまない…

 

「いやぁ、よかったぜ、魔工樹にやられてねぇ人間がいるなんてラッキーだ。来た甲斐があるってもんよ…ゲヒヒヒヒヒ!」

 

 マコウジュ…?この木のことか…

 

 深く考える間もなく再び銃声が響き渡り木屑が散る。

 

「–––くっ…!」

 

 普段聞き慣れない銃声に耳を痛める。

 

 確実に追い詰めてきてるな…

 

 銃に関しては全くの素人だが、あの小鬼はコッチが顔を出せば直ぐにでも弾丸を命中させる腕であると踏んだ。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 気持ちが焦る。

 このマコウジュとやらの脅威から逃れたとしても、あの小鬼に殺される可能性は十二分にある。

 

「おいおい、出てこいよぉ〜お前さんが動かなきゃつまんねぇだろう?」

 

 冗談じゃねぇ…自分からホイホイと的になってやるかよ…

 

 あの小鬼の誘導に乗れば瞬殺だ。

 だが…

 

「––––––俺がやんなきゃ」

 

 この街の人間はみんな殺された。

 

「俺がやんなきゃ…誰が…」

 

 俺しか…いねぇじゃねぇか…!!

 

「くそっ!!」

 

 こいつは–––

 

 こいつは俺が殺す。

 

 力一杯握り拳を作り気持ちを奮い立たせる。

 覚悟を決め、俺は自宅へと駆け出す。

 

 –––まずは…武器を!!

 

「おほっ!! やっと出てきてくれたなぁ!!」

 

 目当ての獲物が目の前に飛び出してきて狩らない狩人などいない。

 こちらからは見えてはいないが、銃の照準は既に俺を捉えているだろう。

 

 –––康太…俊彦…!ごめん!!

 

 俺は、そのまま前方に生えた木を盾にする様に逃げ隠れた。

 それとほぼ同時に銃声が鳴り響く。

 弾は木の皮を削り取る様に抜けていき、俺には当たらなかった。

 

「クソが!! 邪魔だ!!」

 

 苛立ちからの再び大きな銃声。

 

「ちっ…外したか…」

 

 すぐに、第2射撃が放たれたようだが俺には当たらず、自宅の壁に命中して弾けた。俺はそのまま転がるように自宅に飛び込んだ。

 

「はぁ…はぁ…なんとか…抜けたな…」

 

 小鬼の視界から外れる位置まで、家内の端に身を潜めた。

 荒くなった呼吸を整え、気持ちを落ち着かせる。

 

「そんなところ隠れてないでよ〜俺と遊んでくれないかぁ〜?」

 

 文字に置き換えるだけなら気の良さそうな男のようなセリフだが、あっちの言う遊びは『遊び(殺戮)』である。

 ただ、楽しみの為に命を奪う気満々なのだ。

 

「野郎…ふざけやがって…」

 

 –––本当にどうにかしてる

 

 こちらは生への執着と復讐心だけが今この状況に立ち向かう為の原動力だと言うのに、あいつにとっては軽い気持ちでしかないのだ。

 

「………」

 

 俺は、壁に立て掛けていたソレをじっと見つめた。

 

「俺にとって今一番頼れる武器はこれしかない…」

 

 ソレを手に取り深く目を閉じる。

 

 –––よし

 

 俺は決意を抱き、家を飛び出した。

 そのまま、小鬼と俺の視線は重なった。

 

「………は?」

 

 小鬼は構えていた銃を下ろし、呆れた顔でこちらを見ている。

 

「おまえ…正気か…?」

 

「………」

 

 小鬼の表情は硬直したまま動かなかったが、次第に口角が上がっていき

 

「ゲハッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

 馬鹿にするような大笑いが響き渡った。

 

「お、おまえ…ふひひ!!木じゃねぇか…ぷぷ!…しかも….手作り…ひひひひ…」

 

 小鬼は含み笑いしながら俺の武器に指を指しながらそう言った。

 

 そう、俺の武器はこの物干し竿にでも使えそうな木の棒の先端を削って尖らせたお手製の槍

 

「ひひ…あ〜あ〜とうとう頭も壊れちまったんだなぁ、カワイソーに…わかるか〜? こっちは、銃。火薬使ってんだ。てめーの握ってるゴミじゃ話になんねーの!! げっひゃひゃひゃひゃ!!」

 

 ふっ…だよな、確かにゴミみたいなもんだよな…

 初めからわかってたさ、こんなので太刀打ちするなんて馬鹿らしいって。

 

「けどな…」

 

「ひゃひゃひゃ…あ?」

 

「こっちは一歩も引く気はねぇーぜ、化け物。それに、こんなゴミでも本気で突けば痛いだけじゃ済まないと思うぜ?」

 

 どうせ殺されるんなら…派手に大口でも叩いておこう。

 

「あー、言い方が悪かったか? 近づく隙も与えねぇって言ってんだよ、脳味噌腐ってんか?」

 

「わりぃわりぃ、アンタのクソ汚ぇ声耳障りなんでな、一言も聞いてなかったわ〜あっはっはっはっは!!」

 

「………」

 

 小鬼のニヤつきは消え、殺意に満ちた表情になっている。

 

 …はぁ…短い人生だったな…

 

 キッチリと銃口は俺に向けられている。

 

 やれるところまでやってやる………とりあえずは、距離を詰めながら…って––––––あれ…?

 

「あ? 動けよ、何突っ立ってんだよ!動かなきゃつまんねぇって言ってるだろうが!!」

 

 ………身体が………動かない

 

 あ、だめだ…俺、ビビってんだ…身体が動かねぇ…

 

 恐怖によるものだろうか、動きたくても動けない。

 身体の震えが小刻みに伝わってくる。

 蛇に睨まれた蛙っていうのはこういう気分なのだろうか…

 

「…そうか…まぁ、仕事だからな…つまんなくても殺すがな」

 

 完全にやる気を無くした様子の小鬼。

 だが、しっかり任務はこなすつもりのようだ。

 

「ちく………しょお…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––何もかもを諦め、目を瞑ると、色々な映像が映り込んできた。

 走馬灯というものだろうか。次々と見た事がある光景が目に浮かぶ。

 過去の光景のようだ。懐かしい…

 俺は両親という存在を知らなかった。

 自分が誰に産んでもらったのか、名前を付けてもらったのか…

 俺には全然分からなかった。

 支給係のおばちゃんからは

 

「アンタの家があるところ…あそこにアンタは捨てられたんだよ。アンタの名前の書いてある置き紙と一緒にね」

 

 と聞かされていた。

 おばちゃんは俺を自分の子供のように一生懸命育ててくれていた。

 感謝の気持ちをロクに返せずにこんな歳になっちまって…

 

 ああ…おばちゃん…いつも忙しそうにしてて…最期まで一緒に飯食えなかったな…

 

 15歳になった頃、俺はちびっ子三人組に出会った。

 俺はいつものようにガラクタ山で遊んでいた。

 おばちゃんの手伝いが無い暇な時は必ずここに来る。

 自分が気に入ったガラクタを拾い集めようとしゃがみ込んでいると、唐突に服の裾をグイグイと引っ張られる感覚がしたので振り返ると。

 

「ねーねー、何してんの? 」

 

 坊主頭の少年がそこにいた。

 少年は興味津々の目で俺の顔を見つめている。

 

「…えっと…君は?」

 

 少年は鼻を擦りながらニコニコと笑っている。

 その少年の後ろからもう一人の少年がやって来ていた。

 

「そっちは、こうたって言います。僕はとしひこです。」

 

 俺の問いかけに答えてくれたらしい。

 俺は少々困惑していたが、問いかけに答えてくれた以上こちらも何か答え返さないといけないと思った。

 

「康太くんと俊彦くんか、ここに遊びに来たのか?」

 

「そんなところですね」

 

 二人は10歳ぐらいの年頃だった。

 周りに保護者が来てないか気になり、周りを見渡す。

 

「親は来てないのか? この辺少し足場悪いから保護者と一緒の方が安全なんだが…」

 

「とーちゃんもかーちゃんもいないよ」 

 

「………」

 

 この子が言う『いない』というのは亡くなっていることを示しているのだろうと俺は察した。

 この地域は空気汚染が酷く、病にかかる者も多い。

 一年前、とある流行病で多くの人達が亡くなった。

 病院が無いこの地域では、決して治らない病気でもロクな治療は行えず死に至るケースばかりである。

 その感染者の中に両親が含まれていたのだろう。

 

「ちょっと!こうた〜!としひこ〜!待ってよ〜!」

 

 ガラクタ山の下から女の子が走りながら登ってくる。

 髪には可愛らしい花飾りを付けていた。

 

「あれ、お友達?」

 

「はぁ…はぁ…ごめんなさい、2人がどうしても声かけたいって…はぁ…」

 

 女の子は全力疾走に体力を使い果たしてしまった様だ。

 

「無理しないで、ゆっくりでいいぜ」

 

「あやか〜、おまえもこのにーちゃんとお話ししたいって言ってたじゃんかよ〜」

 

「そ、そうだけど…」

 

 この子は彩花ちゃんと言うらしい。

 見る限りこの子にも、親は同伴してないということは…

 

「君達のお父さんとお母さんはもしかして数年前の流行病で…」

 

 自分の考えが間違えてなかったか、とうとう口に出してしまった。

 

 その問いに3人はコクリと頷いた。

 

「………そっか…。」

 

 幼くして両親を…

 

「あわわ、落ち込まないで下さい! 親がいなくても私達は生きていけますから…」

 

 彩花ちゃんは俺の表情を見て察したのか、気を遣ってくれたらしい。

 

「実は…俺にも両親がいないんだ…」

 

「え?」

 

「亡くなった。とかじゃなくて、親の顔を知らないんだ。今でも生きているのか亡くなっているのか…それすらもわからない」

 

 顔を上げて見ると三人の表情は固まっていた。

 

「あ…ごめん。お互い暗い話になっちゃったな…」

 

「………あっ、そうだ! にーちゃん!名前なんていうの? 」

 

 空気の重さを変えるように康太くんは明るい声で訊いてきた。

 

「名前…俺は…星絆って言うんだ」

 

「星絆にーちゃん、俺、毎日会いに来て良い? 」

 

「え? 」

 

 康太くんのいきなり過ぎる発言に俺は戸惑った。

 

「ちょ、ちょっと!? こうた、勝手に! 星絆さんに迷惑だよ!」

 

「僕も来て良いですか?」

 

「と、としひこ!? 」

 

 流れに俊彦くんも乗っていた。

 

「…そ、それじゃあ…私も…良いですか? 」

 

 反対意見を出していたはずの彩花ちゃんまで来るらしい。

 

 うーん、いきなり過ぎてよくわからんが…

 

「ま、まぁ、いいぜ? 」

 

 俺の承諾に3人は大喜びだった。

 それから、毎日、このちびっ子3人組は俺の元に来た。

 

 康太はいつもはしゃぎ散らしてて、喧しい奴だった。何でも興味を持って突っ込むその真っ直ぐさは子供の理想像とも言えた。俺のことをよくからかってきたので、よく叱ったもんだ。

 

 俊彦は口調は大人しいもの、たまに毒舌。いつも本を読んでいてとても勉強熱心な少年。アイツ独自の様々な理論はよく聞かされたっけな。

 

 彩花ちゃんは、この3人で華のような存在。康太や俊彦の身勝手な行動を止めに入ったりと面倒見の良いお姉ちゃんみたいな女の子、可愛いモノが好きで、ガラクタ山の中に埋もれてたぬいぐるみを持って帰ったりしていた。

 

 俺の生活は以前に比べて騒がしくなり、大変な時が多かった気がする。

 康太の世話を焼き、俊彦の雑談をよく聞いてやり、彩花ちゃんからは俺個人の質問をよくされたり…

 

 毎日、毎日…俺に会いに来てくれた…

 

 あの頃はなんで会いに来てたのか、よくわからなかったが…

 

 …俺を寂しくさせないように…来てくれていたんだ…

 

 アイツらも…親…いねぇのに…俺が寂しくないように

 

 気を遣っていつも…いつも…来てくれた…

 

 もっと…アイツらと…遊んでやれば…

 

 俺はこの死に際に沢山の後悔をした。

 

 あの子達と…今日みたいに食事とか…家に泊めてやったりとか…

 

 もっと色々出来た筈なのに…遅かったな…

 

 みんな…ごめん…な…

 

 今から…行くから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ––––––あ…れ?

 

 あまりにも長過ぎる死に際に俺は違和感を感じた。

 

 ………

 

 人間は死の間際、目に映っている光景がスローモーションに見えると聞くが。

 

 ………

 

 これは…あまりにも…

 

 あまりにも………長過ぎる…

 

 これ、既に死んでたり…

 

 俺は、恐る恐る目を開いた。

 

 …ん…

 

 –––えっ

 

 –––視線の先で起きている現象に俺は目を疑った。

 

 俺に向けて放たれたはずの弾丸

 それが未だに俺の元に届く事なく宙に浮いている。

 

 止まって…いや、少しずつ…向かってはきている…?

 

 弾の進行状況が明らかに遅刻している。

 これは、死に際のスローモーションとは違う。

 

 まさか…

 

 俺は自分の指がちゃんと動くか、確認した。

 

 …!

 

 指はちゃんと正常に動く。

 

「………」

 

 弾丸はなんらかの影響で元の速度を失っている。

 だがしかし、俺の身体はその空間に縛られていない。

 その異常現象に対し

 

『何が起きている。』–––そう考えるよりも早く俺は直感的にこの場面で可能な事を思い付いた。

 

 眠気を呼ぶような鈍い弾丸…

 

 殺傷能力は失われ、武器としての機能を完全に失っているこの弾丸。

 

 –––やれる!

 

 そう考え出す頃にはもう行動に移していた。

 

 現実的に考えれば不可能に近いのかもしれない…だが…

 

 今ならば、この場面なら

 

 –––俺の…この手で……!!

 

 激しい金属音と共に

 

 –––弾き…落とせる–––ッ!!

 

 凹んだ鉄屑が地で跳ねた。

 

 

 ←to be continued

 




だんだん文章長くなってきました…
話によって文章量が異なると思いますが、これからもよろしくお願いします!!


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第6話 「月夜の激闘」

大変長らくお待たせしました。
私生活が落ち着いてきたので投稿します。
皆様はお身体に大事至らなかったでしょうか?
この様な事態によって苦しい戦い続きですが、頑張りましょう!

では、本編どうぞ!


 俺は昔から臆病だった。

 痛いのは嫌だし、面倒くさい事には突っ込みたくない。

 いつもそうだ。

 だが……

 逃げたくはなかった。

 目の前に何かが立ちはだかった時、臆病なりに足掻いてやろうと……

 びっくりさせてやろうと、色々考えたもんだ。

 そこで臆病な俺は……自分の身を守れる武器を作ろうと考えた。

 

 何を作ろうか

 

 剣みたいな近付いて斬りかかるのは危険だからあまり好まない。

 

 違うな

 

 かと言って弓みたいな離れてやるやつも詰めて来られるとやられるから嫌だ。

 

 これでもない

 

 ふと悩みながら目に入ったのは物干し竿だった。

 

 –––! 

 

 長ぇ……武器……

 

 そこで思いついたのが「槍」だ。

 手ごろの良い長くてしっかりした木の枝を丁寧に丁寧に削って。

 この木の槍を手に入れた。

 俺は日々、鍛錬は怠らなかった。

 面倒くさいのは嫌だけどちゃんと鍛錬しとけば身を守れると思ったからだ。

 ちびっ子達には見つからないように、ガラクタ山ではなく離れた森林地帯で毎日、毎日、手に豆が出来るくらいに励んだ。

 

 なんか、人に見られるの恥ずかしいからな……

 

 師匠なんていない為、全部自己流だったが、俺の心理と一致したその武器を振るう事に関しては結構気分が良かった。

 

 そして

 

 そんな槍を実戦的に使う時が来るとはなぁ、と先程まで考えていたのだが

 

「…………」

 

 そんなこと吹っ飛ぶくらいの怪奇が起きた。

 その所業が自分によるモノだと理解するのに然程時間は要らなかった。

 

「ど、どうなってやがる!? おいっ! 何しやがったんだてめぇ!」

 

 小鬼は、一瞬のこの出来事に一驚している。

 

 何をした……か。

 

 説明するとなると「飛んできた弾が急にゆっくりになったから弾いた」とでも言えばいいのだろうか。かと言って、自分でさえもこの出鱈目な出来事を丁寧に説明する事は出来ない。

 

「さぁな、俺が聞きたいくらいだ」

 

「なっ……」

 

 今まで余裕の表情を見せていた小鬼に焦りの顔が浮かぶ。

 当然だろう、追い込んでいたはずの相手から思いもよらぬ反撃が行われたのだから。

 

「まぁ……わからねぇけど……」

 

 理解は出来ていないがこの好機(チャンス)……

 

「俺にも勝ち筋はありそうってのはわかるぜ」

 

 俺はニヤリと笑って見せた。だが、正直自信がない。

 何らかの不思議な力が働いてるのは分かるのだが、次の攻撃に対してこの力を使って上手く対処出来るのかが不安で仕方がない。

 

「舐めるなっ! 敗北種族風情が!!」

 

 小鬼は怯む事なく銃口をコチラに向けて構えた。

 またあの力が働いてくれれば対処出来る筈だ。

 俺は、その思いを希望に木の槍を強く握り小鬼へと駆け出した。

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

 失敗への恐怖を打ち消そうと渾身の雄叫びを上げる。

 

「死ねぇッ!」

 

 二発の銃声が鳴り響く。

 

「–––ッ!!」

 

 やはり恐怖心は打ち消せなかったようだ。

 小さな悲鳴が漏れてしまう。

 –––だが

 

「ッ!!」

 

 俺に迫ってくる弾丸は二つ。

 しかし火薬と気圧よる自慢の速度は失われ、その殺傷能力は皆無に等しかった。

 

 マジで成功しやがった! 

 

 求めていた現象が起こった事に俺は歓喜した。

 すかさずこの好機を利用し、両手持ちで構えている木の槍を右手に持ち替えて、流れるように真下からなぎ払い一発目を。勢いそのままに続けて逆手に短く持ち変え左斜めに振り抜き、二発目を叩き落とす。

 

「なんなんだテメェは!! さっきから軽々と!! くそっ!!」

 

 小鬼はすぐに撃ってはこず二歩下がり、手を後ろに回し何かをゴソゴソと探っている。

 

 –––弾を込める気か! 

 

「させるかぁぁぁぁッ!!!」

 

 槍を両手持ちに、足腰には力を入れ、推進力を向上させる。

 力が溢れ出さんばかりに、突進する。

 

 –––小鬼への距離まで3歩半圏内! いける!! 

 

「油断したな小僧!」

 

 –––!? 

 

 追い詰めていた筈だった。

 その台詞を聞き、奴の取り出した()()を見るまでは

 

 –––アレは

 

 銃を地面に捨てた後に右手で持ったソレがチラリと光る。

 

「もう避けられると思うなよ!! お前は負けたんだぜ!!」

 

 –––ナイフ!!? 

 

 槍が小鬼の胴に届くより早く身体を捻らせ、槍による攻撃を避し。そのまま、小鬼が逆手で構えたナイフが俺の喉笛を掻っ切らんばかりに迫り来る。

 

「この距離、この速度なら避せまい!!!」

 

「ッ!!!」

 

 どうする!? どうする!? どうする!? どうする!? 

 どうする!? どうする!? どうする!? どうする!? 

 やられちまう!! やられちまうぞ!!? 

 やられ–––ッ!? 

 

 高速で思考回路が脳を焼き尽くす最中で即死へのカウントダウンが切れる瞬間俺はそれを目撃した。

 

 –––ナイフの振りが遅く! 

 

 俺は悟った。

 これは『あの力』なのだと。

 ナイフが未だに俺の首に届いてないのは『あの力』のお陰なのだと。

 

「うおおおおおおおおおお–––!!!」

 

 背後に倒れる様に大きく身体を反らせてナイフを回避。

 そのまま左側に身体を捻らせて右脚でナイフを蹴り飛ばした。

 

「はぁ!?」

 

 ナイフは回転しながら宙を舞う。

 俺は咄嗟に繰り出したアンバランスな姿勢に耐え切れずに背中から倒れる。一方、小鬼はナイフを蹴り飛ばされた衝撃で尻餅をつく。

 

「何なんだお前!! さっきから馬鹿みたいに速ぇ反射速度しやがって!!」

 

 小鬼は、すぐ側に落としていた銃を拾おうと手を伸ばす。

 このままでは、体勢の崩しが大きい俺が先にやられる。

 

 –––イチかバチか!! 

 

 身体を起き上がらせた勢いのまま右手に持っている槍を

 

「当たれぇぇぇぇ!!!」

 

 小鬼目掛けて投擲した。

 

ドスッ!! 

 

「–––ッ!!!?」

 

 や、やった!! 

 

 投擲した槍は見事小鬼の首の後ろ刺さっていた。

 血泡を吐きながら小鬼は口を動かす。

 

「デ……デメェ……ブッ……ゴロ……ヂデ……ヤルゥ……ゴフッ!!」

 

 小鬼の膝はガクガクと震え、緑色のテカついた肌は脂汗により一層テカりが増している。しかし、小鬼はコチラをしっかりと睨みつけている。

 

 –––ヤバイ! 刺さりが甘い!! 

 

 このままでは反撃を食らってしまう。

 身体を完全に起こし、息の根を止めに掛かる。

 

「チッ!!」

 

 小鬼は既に銃を手にしている。

 

「ヂ……ネッ!!」

 

 大丈夫だ。きっと『あの力』が発動して俺を–––

 

 俺を……守ってくれると思ってた。

 

 –––え

 

 不思議な事は起きずに、物事は変化する事なく実行された。

 

 銃口から煙が立っている。俺目掛けてもう発砲されている。

 

「…………なんで……」

 

 何も変わらなかった。

()()()何も

 

「ま……マジか……」

 

 なす術もなく俺の身体は撃ち抜かれたのだ。

 腹部を確認すると服に血が広く滲んでいるのがわかった。

 

「ッ!!!!!」

 

 あまりの激痛に声が出ない。

 腹を抑えたまま、地面に転がるように倒れる。

 

「グッ……くそぉ……やられちまった……」

 

 身体に力が入らない。

 

 –––殺される

 

 次の発砲で完全に殺される。

 気力を振り絞り、小鬼の方を見ようと顔を起こす。

 

「…………」

 

 小鬼は……

 

 –––絶命していた

 

 グッタリと前のめりに倒れているのだ。

 恐らく、さっきの発砲が致命への引き金となったのだろう。

 首の後ろに刺さっていた槍が先程よりも深々と刺さっているのがわかる。

 発砲の反動により、より深く刺さってしまったのだと考えた。

 

「……すぅ……ふぅ……すぅ……ふぅ……」

 

 呼吸が苦しい。

 

 う……ごけ……

 

 気力を振り絞りながら腕の力を使い、倒れながらも前に進もうとした。

 ゆっくりと、ゆっくりと、前に……前に……

 

 敵がこいつだけとは限らない……早く身を……

 

「あれ、あいつやられてんじゃん」

 

 –––!! 

 

 え、嘘……

 

「生き残った人間の方も重症だな。やれやれ、片付けておくかぁ」

 

 ドタドタと足音が聞こえる。

 顔を起こし周囲を見渡すと。

 

 ああ……最悪だ。

 

 周りには既に小鬼の仲間達が集まって来ていた。

 

 もう笑うしかないな……

 

 先程絶命した小鬼と似たような武装をした小鬼達の内の数体が俺の側に近寄って来た。

 手の届かない範囲で立ち止まり、囲むように分散した。

 

「あんな木の棒で、あいつ殺ったんだぁ〜やるねぇ、人間さん」

 

「惜しかったねぇ。やはり所詮敗戦種族だな〜ゲフフフフフ」

 

 ああ、もう……笑え、笑え……

 

 必死に戦ったが、待つのは絶望。

 どうやら人間様には幸福が訪れないらしい。

 

「頑張った代償に20秒間時間あげちゃいまーす」

 

「お〜いいねぇ〜ほらほら、逃げなよ人間さん。時間やるからさ」

 

 くそぉ……舐めやがってぇ……

 

 起き上がって何か反撃をしようと試みたが、身体はぷるぷると震えるだけで立ち上がる事ができない。

 

「18……17……」

 

 カウントダウンに合わせて小鬼達は足踏みをしている。

 ゲラゲラと笑っているやつもいる。

 

 ほぼ丸腰の人間様が武装した魔物一体殺したんだ……上出来だよな……

 

 今度こそ覚悟を決め静かに瞳を閉じる。

 

「14……13……12……」

 

 彩花ちゃん……康太……俊彦……おばちゃん……みんな……

 

「10……9……」

 

 ごめんなぁ……全員は無理だわ俺……

 

 涙が頬を伝い、地面を濡らしていく。

 悔しい。非力な自分が惨めすぎて悔しい。

 

「6……5……」

 

『あの力』はなんだったんだろうなぁ……神様がくれた最後のチャンスなのかな……

 

 

「3……」

 

 

 今考えてもしゃあねぇかぁ……

 

 

「2……」

 

 

 本当に短い人生だったな……

 

 

「1……」

 

 

 …………じゃあな

 

 

「ぜー……あ……? 」

 

 –––まだ……か? 

 

「なんだアレ!? 」

 

 小鬼の一体が何かに声を上げる。

 –––何か起きてるのか……? 

 

 再び顔を起こして周囲の確認すると、小鬼達は一点の場所を見ていた。

 

 –––なんなんだよ……殺すならとっとと……

 

 …………

 

 小鬼達が見ていたソレは、自宅の上に立っていた。

 月明かりが逆光し、影になってしまっているが

 それが人形であることは確認できた。

 

 次の瞬間

 

 その人影は一瞬にして屋根の上から姿を消した。

 

「……!? どこだ!! 何処へ消えた!!」

 

 –––きえ……た? 

 

「う、上だ!!」

 

 小鬼の一体が人影の行方を捉えたようだ。

 

 …………なんで、あんなところに……

 

 自宅よりもより高く、そこにその存在はいた。

 高い跳躍により、あの位置にいたとするならば……人間では無いのかもしれない……優に15mくらいは移動している。この世にあんな跳躍力ある人間が……いるのか……? 

 

 そして一瞬にして

 

 –––ッ!!? 

 

 ソレは大きな砂煙を立てて俺の目の前に着地したのだ。

 

「ゲホッゲホッ! な、なんだお前!!」

 

「……こ、こいつ……」

 

 小鬼達はその人影の正体に目を丸くした。

 

「な……な……え?」

 

「君、大丈夫? 」

 

 俺に声をかけるその人物は

 

 女の人……? 

 

 突如として目の前に現れたのは一人の女性なのであった。

 月明かりに照らされて、より綺麗に見える肩くらいまで下ろした青髪。それに被さるように乗せてあるハロウィンにでも使いそうなカボチャのような帽子。そしてその服装は、太ももを大きく露出したデニムショートパンツ。ヘソ周りも大きく露出した黒のスポーツウェア。その上を羽織るように青いライダージャケット。右手には赤い指出しグローブを付けている。

 

「後は私に任せて。無理しちゃダメだよ」

 

 そして、とても綺麗な顔立ちをしていた。

 緋色の目もとても綺麗だった。

 

「え、あっ……はい……」

 

「うん、大事にしてね」

 

 彼女は可愛らしい笑顔で頷いた。

 

「ゲフフフフフ女だ! 女だ!」

 

「若い女だぁ! ゲジュルフフフフ」

 

「ぶち犯してから血肉残らず食ってやろうか……それともそのまま性奴隷に……ゲヒヒヒヒヒヒ!!」

 

 小鬼達の汚らしい笑い声と下劣な発言が騒つかせる。

 

「お前達に好き勝手させる訳にはいかない……私が相手だ」

 

 女性は帽子を深く被り、拳を突き出し、構えに移った。

 

 –––え、まって、素手!? 

 

「あ、えっと! お姉さん!!」

 

「ん? なにかな?」

 

「素手なんですか……!?」

 

「あー、ふふ、まぁ見ててよ」

 

 彼女は大丈夫という手でサインを見せて再び構えに移る。

 

「女は丸腰だ! てめぇら! 傷付けずに捕らえろ!!!!」

 

「げっひゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 小鬼達が鼻息荒く襲いかかってくる。

 

「数は18体ってところか……」

 

 彼女は冷静に小鬼の数を数えていたようだ。

 

 素手……まさか、魔法か!? 話には聞くけど本当に魔法ってあるのか!? 

 

「シュー…………」

 

 なんの音だ……

 

 風船の空気が漏れているような……とにかく、放出されているような音。

 その音が聴こえた辺りから小鬼達の悍ましい声が鳴り止んだ。

 しかし、小鬼達は叫ぶように口を大きく開いている。

 

 これは……

 

 そう、鳴り止んだ訳ではない。

 確かに叫んで入るのだろうが……静寂しか感じ取れない。

 そして、俺は再びスローモーションの世界感覚に溶け込んだ。

 

 今度は……なんだ……

 

 これこそ本当の死の間際というやつなのだろうか。

 だとすれば、目の前に立っているこの女性は一瞬にして小鬼達がほざいていた通りの結末に。そして次は俺を……

 

 それとも、またあの力がこの場面に助力をしてくれているのだとしたらすぐに俺が何かをしなければ–––

 

 と、俺が様々な考えを脳裏に浮かんでいる中、それを見抜かれたが如く女性の背中は俺に強く語り掛けた。

 

 

–––心配はないよ

 

 女性とは思えぬ勇ましき自信に満ち溢れた背中は……

 俺を安心させるには充分過ぎた。

 

 ゥー……

 

 –––音が止んだ

 

「ウギャギャギャギャアァァァー!!!」

 

 –––! 

 

 それを合図に小鬼達の夥しい叫び声が再び耳に届くようになった。

 

「…………」

 

 大勢の敵が押し寄せてくるのに女性は微動だにしない。

 

「お、お姉さん!?」

 

 あまりの変化のなさに焦り声を出してしまった。そして次の瞬間

 

 激しい破裂音と共に何かが砕け散る音が聞こえた。

 

「ゴギャアァァアア!!?」

 

 –––!? 

 

 一瞬何が起きたか分からなかった。

 

 女性の肉体を求め覆い被さろうとする小鬼達。

 しかし、その大群に恐怖せずに女性は足を動かさず。

 先頭を切った小鬼が女性の肩に手を触れた瞬間それは起きた。

 

「……あ……あぁ……」

 

 威勢の良かった小鬼達も進むことを躊躇え、起こった事態を直視している。

 

「し……死んだ……死んだ……?」

 

 先頭を切って飛び出した小鬼は女性の目の前2m先で仰向けに地面に倒れているのだ。

 その周辺にはその小鬼から飛び散ったであろう牙と血飛沫。顔は深く……深く抉られていた。

 そして、女性の手には飛び散った血液と同じものがべったりと付着している。

 

「な……なにしやがった!! なにしやがったんだよぉ!!?」

 

 小鬼達は汗だくになりながらガクガクと震えている。

 

「何って……セクハラされたら誰でも怒るでしょ! 私だって女の子なんだから」

 

 女性は手に付いた血を落とそうと手首を振りながらそう言った。

 

「は……? そ、そんなこと聞いたんじゃねぇよ! 爆弾か!? 爆弾使ったのかこいつ!?」

 

「い、いや、魔法かもしれねぇ! 魔法専門の魔物以外にも人間側で魔法の研究してる奴がいるって聞いたことがあるぜ……!」

 

「ま、魔法……魔法か……なんて野郎だ……」

 

 小鬼達は「魔法」やら「爆弾」を使っていると女性を疑い始めた。

 しかし、女性の発言にそれらの考えが一気に吹っ飛ぶ。

 

「え、違う違う! 私魔法なんて使えないよ。パンチだよ! パーンーチ!」

 

 女性はそう言いながら「シュッシュッ」と右手で二回その場で空を突く。

 

「パンチ……? パンチだぁ……!? 嘘つくんじゃねぇ! パンチで顔面抉れるか!!」

 

「もぉ……じゃあ、実際に受けてみれば良いじゃん……私説明下手だし……」

 

 女性は「教えてあげるから来なさい」という感じに手招きをする。

 

「おいてめぇら!! 何かしらの武器を持ってんのは確かだ! 警戒ちゃんとしとけよ!!」

 

「嘘じゃないって言ってるのにぃ〜……」

 

 彼女は小鬼の言動に不満そうにしながらも最初に構えた姿勢に構え直す。

 

 不思議な構え方だった。

 右手平を外向きに顔のすぐ横に、左手は肘を折りながら前方に、指先は鋭く構え、獣の爪の如く。脚は大きく開き、低い姿勢を取る。

 格闘術の知識はまるっかしだが、人間というよりは、獣の様な荒々しい構えであった。

 

「ゲッヒャアア!! その身体ひん剥いてやんよ姉ちゃん!!」

 

 迫り来る小鬼の一体。

 彼女は一歩引き、構えをより鋭く。

 

「…………」

 

 彼女は大きく右に身体を反らせて背中を相手に見せるように。

 そして、

 

「破ッ!!」

 

 左足で大きく踏み込み小鬼との距離を一気に詰め、右腕はしならせ後方へ

 

「–––!?」

 

 そのまま右から左にかけて一気に横振り。彼女の右手の甲が小鬼の頬に直撃する。

 

「ゴチャブァ!?」

 

 小鬼の首はダルマ落としのように振り繰り出された腕によって弾き飛ばされた。

 

「ふぎゃあぁ!!? やっぱ、あいつ人間じゃねぇ!!? 」

 

 小鬼達は改めて彼女の驚異的な一撃に足を竦ませる。

 

「つべこべ言わずに掛かってきな!! 仕掛けたのはそっちだよ!!」

 

 彼女はさらに前に足を運び威圧を掛ける。

 その勇ましい姿は縄張りに踏み入った不届き者を殲滅しようとする獣の様だった。

 

「総員! 武器の使用を許可する!! 慰み者にする余裕はない!! 早急に始末するぞ!!」

 

 小鬼の部隊は彼女を早急に排除すべき対象と認識し、全員が武器を構える。

 

「我々の考えが甘かった様だ……こいつは逃すな。接近戦を持ち込むのは三体以上だ! 三体以上で掛かれ!! 背後からは射撃支援を行う。野郎ども確実に仕留めるぞ!!」

 

 小鬼の部隊の真ん中で指揮を立てる者がいた。

 眼帯をした毛皮コートの小鬼。恐らく奴がリーダーであろう。

 

「頭はアイツか……」

 

 彼女も敵の司令塔をしっかりと捉えたそうだ。

 

「いいな! 余計な事は考えずに第一に仕留める事を–––」

 

「隊長! き、来ましたァァ!? 」

 

 小鬼のリーダーが部下に指示を出している間に彼女は部隊へと瞬時に距離を詰めていた。

 

「チッ!」

 

「遠い場所からチクチクされるのは嫌だからね! 全員まとめて肉弾戦で叩き潰す!!」

 

 援護射撃を嫌った彼女は一気に己の拳の届く範囲に距離を詰める。

 

「さ、三体以上だ! 三体以上でいくぞぉ!! ウギャアァア!!」

 

 彼女に襲い掛かる小鬼は3……5体。それぞれがナイフを手に持っている。

 

 –––大丈夫か!? 

 

 彼女はその場で極限にまで背を低くし、襲い掛かる小鬼達のナイフを避けながら奥に突き進む。

 

「クッギヤァァア!!? いっ!! 足がぁ!!? 」

 

 あ、あれは! 

 

 攻撃を空かし抜かされた小鬼達の脚は歪な形に曲がっていた。

 

 通り様に脚を砕いたんだ……! 

 

 流れる様なスピードだった為、はっきりとは見えなかったが、そうに違いない。 

 

「貰ったぁぁぁ!!」

 

 –––!! 

 

 彼女の右斜め後ろからナイフを振りかざす小鬼。

 

「お姉さん!! 来てます!!」

 

「–––うん、分かっていたよ。でもありがとう!」

 

「–––ッ!!?」

 

 小鬼の突き立てたナイフの刃先は粉々に……

 

 それを砕いたのは繰り出された彼女の手の甲だった。

 

「セイヤァァ!!」

 

「プギュゥ!!」

 

 手の甲はそのまま小鬼の顔面を砕いて吹っ飛ばした。

 

「クソォ! 撃つ隙がねぇ!!」

 

 彼女は全ての小鬼が接近戦をするしかない状況に追い込んだ。

 

「てめぇら!! どいてろ!!」

 

 リーダーの呼びかけに陣形を崩して広がる小鬼達。

 その奥には小鬼達に指示をしているリーダー。その腕には

 

「弾き飛べ!! 小娘が!!」

 

 黒金に光る砲口が彼女に向けれる。

 

 –––義手大砲だった。

 

「え、やばっ!!」

 

 壮大な発射音と共に漆黒の球体が彼女に迫る。

 

 ←to be continued

 




謎の女キャラが登場!
彼女は一体何者なんでしょう!
そして、星絆の『謎の力』は一体…?
次回もよろしくお願いします!!


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