とんでもスキルで真・恋姫無双 (越後屋大輔)
しおりを挟む

第一席向田一行、海を越えるのこと

真・恋姫無双原作第2段です。初回なので少し短め、次回から1000.字前後くらい長くなる予定です。


 それは俺、向田剛がこの世界の創造神たるデミウルゴス様と初めて出会った日の事。と、言っても直接顔を合わせた訳ではなく、神界からの念話で会話した時なんだが。

デミウルゴス

『ふむ。手始めに儂の加護をやるわい。大したモンではないが、これで新たなスキルが使えるぞ』

向田

「ありがとうございます。で、その加護とは何でしょう?」

デミウルゴス

『うむ、転移魔法じゃ。お主に分かりやすくいうなら【ど○でもド○】というヤツじゃな。実はこのスキルを授けるのは、お主に頼みたい事がある為なんじゃが』まあ、あのしつこい神様達を諌めてくれたデミウルゴス様の頼みなら聞かない云われはないだろう。それに【ど○でもド○】のスキルがあれば、色々便利っぽいし。

向田

「分かりました。俺に出来る事なら」

デミウルゴス

『実はそこから海を越えた別の大陸で、幾つかの小国群同士の間で大規模な戦争が起き始めておる。お主にはいずれかの小国の王に取り入ってもらい、戦争を終わらせてほしいのじゃ』え?デミウルゴス様ちょっと待って下さいよ。何、そのムチャぶり。

デミウルゴス

『その大陸はいわゆる【三國志】の世界観になっておっての。本来のモノとはある点で違っとるのじゃが……上手く立ち回ればお主の願う恋愛運も叶うやもしれんでの。まあ後は頑張ってくれい。では通信を切るぞい♪』それを最後にデミウルゴス様の声が途絶えた。つーか、どうして俺が異世界の三國志世界に!?せっかくカレーリナに屋敷を買ったばかりなのにぃー!

 

 俺はいつものように旅の支度を済ませてから、屋敷と一緒に購入した奴隷(と、いっても事実上、屋敷管理とシャンプー詰め替えの為の従業員だけど)にしばらく家を空ける事を伝える。まあデミウルゴス様から新たに貰ったスキル【ど○でも○ア】を使えば(もうどこ○もド○で良いだろ)いつでも帰って来られるみたいだが、行った先で何が起こるか分からないからね。

 フェルとスイとドラちゃんを連れて、人里離れた山に入り【ど○でも○ア】を発動させる。

向田

「デミウルゴス様に指定された大陸へ」この新たなスキル【ど○でも○ア】。開ける時に行きたい場所を告げれば、この世界中なら文字通りどこでも行けるらしい。しかもよくあるネット小説の転移魔法みたいに『一度訪れた場所しか行けない』事もなく、事前に何らかの情報さえ得られていれば、今回のように初めて訪ねる場所に行くのも可能みたいだ。

 手のひらをかざしてスキルを発動させると、先の空間に穴が開く。どうやらこれが【ど○でも○ア】のようだ。

フェル

『ほう、これがなんちゃらど○か。しかし別の大陸とは、中々楽しみだぞ』

ドラちゃん

『そこにもダンジョンがあるのか?』

フェル

『それは分からん。こやつが創造神様から聞いた話では文化圏とやらが全く違うらしいからな』

スイ

『え~?スイ、ダンジョン行きたーい』

フェル

『そう言うなスイ。ダンジョンはないかもしれんが、戦争が起きてるなら、我らには丁度良い体操ぐらいになるだろう』戦争ですらこいつらには体操レベルかよ……ハァー。俺はため息を吐きつつフェル達と【ど○でも○ア】を潜り、別大陸への一歩を踏んだ。

 

~ここから視点なし~

 

 さて、これから向田一行が訪れようとしている大陸のある国。その城の屋外では、2人の美女が会話していた。

??

「ふむ……もう春じゃというのに肌寒いのぅ」年長そうな美女が呟く。

??

「気候が狂っているのかもね……世の中の動きに呼応して」もう1人、向田より幾つか若い美女が答える。

??

「……確かに、最近の世の中の動きは、少々狂ってきておりますからな」

??

「官匪の圧政、盗賊の横行。飢饉の兆候も出始めているようだし……世も末よ、ホント」若い方の美女は苦笑する。

??

「うむ。しかも王朝では宦官が好き勝手やっておる……盗賊にでもなって好きに生きたいと望む奴が出るのも、分からんではないな」そんな2人の前にいきなり空間に開いた奇妙な穴が表れた。

 

~向田視点に戻る~

 

向田

「ここが海を越えた大陸か……」穴を潜り抜けた俺が最初に目にしたのは、一見すると中華風の服装を纏った2人の美女。確かにデミウルゴス様も【三國志】風な大陸だと言っていたし、元居た大陸はヨーロッパを彷彿させる所だから、中国っぽい国があってもおかしくないけどさ。それにしても2人共いい女だよなぁ……なんて俺が見惚れていると、2人は武器を構えてこちらへ向けてきた。

??

「おのれ化け物!貴様、なに奴じゃ!?」俺より少し年上そうな女性が弓を引いて尋ねてきた。つーか俺、化け物?思わず自分の手やら足やらを確認していると

フェル

『何を惚けている?あやつらが化け物と呼んだのはお主ではなく、我らであろう?』フェルから念話が入る。【ど○でも○ア】を潜る前、フェルには出来るだけ喋らないように頼んでおいたんだよね。だっていきなり喋ったりしたら、それこそ大パニックだろうし。人語を話せるのは機会を見つけてから告白した方がいい気がした。そういやこれまでの旅先ではフェルは神格視されていたけど、こっちではそうとも限らないみたいだ。それに何だかんだ言っても、こいつらとはそれなりに長い付き合いだしあんまり化け物とかって意識ないんだよね。と、いう事はデミウルゴス様やニンリル様達の神話とかも伝わってないんだろうな。

??

「おい、そこの化け物連れのお主。何者じゃ!」年長の女性に再び話しかけられたところで、俺はハッとする。

向田

「すいません、この大陸には初めて来たもので……」それから神様ズの事とかは話さない方向で、こちらの状況を説明してなんとか理解してもらった。

??

「なるほどのぅ。つまりお主はその新しい魔法とやらを試そうとして、その従魔とやらと共に海を越えたこちらへ来てしまった。と、いう事じゃな」

??

「……黄蓋、この人連れて帰らない?お付きの魔獣とやらも役に立ちそうだし」

黄蓋

「また気まぐれを起こされたか?策殿」年長の女性は黄蓋さんっていうんだ、え?ちょっと待てよ。って事はこっちは……

孫策

「先に自己紹介するわ。私は孫策。この荊州南陽の地を治めているのよ」まさか初っぱなから【三國志】の重要人物に出会うとは思わなかった!って、何で両方共女なんだよ!?

 

 孫策さんと黄蓋さんに連れられて、俺達がやってきたのは結構大きな屋敷だった。てゆーか、これ城だよなぁ。流石孫策。とか考えていると、城の門前に長身にメガネをかけた目付きの鋭い美女が控えていた。

??

「お帰り、雪蓮」え、しぇれんって誰?ここにいるのは孫策さんと黄蓋さんを除けば俺、フェル、スイ、ドラちゃんしか居ないんだけど。戸惑う俺をスルーして孫策さんはメガネ女性と話始める。

孫策

「あら。お出迎え?」

??

「帰りが遅かったからね……何かあったの……って何これ!?」メガネ女性はフェルに気づいて、その姿に茫然としている。

孫策

「うん。拾い物をしたの」

??

「拾い物っていうの、これ?」

孫策

「管輅の占い、知ってる?」はぁっ?今度は向こうが俺に分からない話をしている。

黄蓋

「お主がここへ来る前、管輅という占い師が吹聴しておってのだよ。詳しくは屋敷の中で話してやろう」黄蓋さんが教えてくれた。

 

 門に入り、俺は孫策さん達に屋敷の一室に押し込まれそうになる。フェル達が置き去りにされそうになり、孫策さんがフェルの首回りをジロジロ見ている。一緒に行きたい旨を伝えると

孫策

「え?だって動物でしょ?普通は外に繋いでおかない?」すいません、ウチではそんな事してません。つーか、首輪やリードを確認してたんだな。

フェル

『……貴様、我をそこらの動物と同じと見ているとはどういう了見だ?』あ~あ、喋らないでって言ったのに……仕方ないか、並の犬や狼扱いされて、フェルも腹に据えかねたんだろう。俺も覚悟を決めた。

孫策

「喋った!?」孫策さんの目には驚きは感じられたが、そこに恐怖はない。

黄蓋

「なんと!?」

??

「ヒッ!?」黄蓋さんとメガネ女性はビックリして尻餅ついちゃってるよ……。俺はフェル達従魔について改めて説明する。

向田

「あの……見てもらった通り、フェルは人語を話せますし、他の2名も喋れこそしないものの、人語を理解できますので……」

孫策

「分かったわ。それじゃとりあえず、一番広い玉座の間に行きましょ。そこでお互いの今後を話し合うって事でどう?」ご理解いただいて助かります、孫策さん。こうして俺は3人に、玉座の間へと案内される事となった。

 

 

 

 




原作との違い
(恋姫サイド)
・一刀は光と共にやって来た。しかも寝ている→向田がデミウルゴスの依頼を受ける形で転移魔法でやってくる。
(とんスキサイド)
・この時点で向田はデミウルゴスに1500年の寿命を与えられる→転移魔法のスキルを与えられる。時系列的には向田がカレーリナに屋敷を購入した頃。なのでまだゴン爺とは出会っていない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二席孫策、向田を受け入れるのこと

いつもより更新が早めですが、恐らく今回までです。次回から、以前通り一週間~10日に一回の更新になると思います。


 俺達が玉座の間に連れてこられるとこの城に仕えてる使用人の人達が、部屋に椅子とテーブルを設置してくれた。テキパキと仕事しながらも、やっぱりフェルが怖いらしく、目が合ったりする度悲鳴を上げたり、顔が青褪めたりしている。そうやって準備が整うと使用人の人達はそそくさと、玉座の間を出ていった。

 

孫策

「それじゃ改めて、私は孫策。この館の主で、この呉を治める領主よ」

黄蓋

「儂は黄蓋。先代様の頃より、この孫家に仕える宿将じゃ」そして門前で出会ったメガネ女性が、

「私は周瑜という。貴様の尋問官の一人と思ってもらえば良い」はぁ、そうですか。しかしこの周瑜さんも美人だよなぁ。俺が知ってる三國志の登場人物って髭モジャなおっさんのイメージしかないんだけど。

向田

「……俺は向田と言います。で、このデカいのがフェンリルという、あちらでは伝説級の魔獣で、名前を……」

フェル

『我はフェルだ。一応言っておくが、我がその気になればこの大陸などすぐに消し炭と化すからな。それだけは覚えておけ』いきなり何言ってんだこいつは!相変わらずの不遜な態度に出るフェルに俺は内心ヒヤヒヤする。

スイ

『スイはねー、スイって言うの』スイもフェルに続いて自己紹介する。でもスイ、君が会話できるの、俺とフェルとドラちゃんだけだからね。

黄蓋

「何じゃ、この毬みたいなのは?」怪訝そうにスイを見下ろす黄蓋さん。スライムってこの大陸には存在しないんだな。

向田

「この子はスライムという生き物で、スイと名付けました。因みにまだ子供なので、失礼は大目に見て下さい」

ドラちゃん

『ヨッ!』ドラちゃんが孫策さん達の近くまで飛んでいって、手を上げてフレンドリーに挨拶する。

孫策

「アラ可愛い。これって龍の子供?」

向田

「ピクシードラゴンという希少な種類の龍です。これでも成体なんですよ。とはいえ、スッゴく強いですけど」

孫策

「そうなの?でも可愛ぃぃ~♪」ドラちゃんを見た途端、妙にテンションが高くなる孫策さんを黄蓋さんと周瑜さんは呆れた様子で見つめ、ため息を吐く。

ドラちゃん

『な、何だよこいつ!オイ離せ!』ドラちゃんをギュッと抱きしめて嬉しそうな孫策さん。対してドラちゃんは逃れようと、必死にもがく。

ドラちゃん

『助けてくれー!お前、こいつ何とかしろよ!』俺に訴えかけてくるドラちゃんだけど……ご愁傷様です。

孫策

「で、あなたをここに連れてきた理由なんだけど……」あーはいはい、戦に勝つ為にフェルを使いたいんでしょ?分かってますって。

孫策

「その前に……我らが軍師様。この人、どう判断する?」

周瑜

「……」孫策さんに尋ねられた周瑜さんは心の奥を見透かすように、目を細めて俺を見つめてくる。

向田

「……」俺はその瞳をグッと見返した……フェル達がいるんだから恐れる必要はないし、やましい事なんて始めっからない。

周瑜

「……本当にこやつが天の御使いかどうかは分からないが、少なくとも我らの知らぬ国からやって来たという事は分かる」イヤだから最初っからそう言ってますよね?それに天の御使いって何?デミウルゴス様の事知ってるの?

周瑜

「それに確かに胡散臭くはあるが、人柄は悪くない。……何よりまっすぐで良い目をしている。こういう人間は、多少抜けているところがあっても、悪人にはなりきれんだろう。だからこそ後ろに控えている従魔とやらもついてくるのだろうしな」

黄蓋

「お眼鏡に適ったか……儂もこやつの度胸ぶりは、中々好ましいと思っておる。まあ従魔ありきなのじゃろうが」

孫策

「なら決まりかな?」

周瑜

「天の御使いとして祭り上げる資格はあるだろう……雪蓮の好きにすれば良いわ」

孫策

「了解♪」

向田

「……どういう事ですか?」みんなさっきから俺を放ったらかしにして、盛り上がっているけど、何をさせたい訳?

黄蓋

「さっきも少し話したが、貴様がここへやって来る前に、管輅という占い師が占いを吹聴しておったのだよ」

周瑜

「管輅曰く、この乱世を鎮める者は、海の向こうからやって来る天の御使いである、とな」

孫策

「始めは信じてなかったんだけどね。何もない所に開いた穴を通ってあなたが現れた。なら、あなたが天の御使いという存在……ううん、そういう存在になれるって事」

向田

「……そういう存在になれる?ああ、なるほど」天の御使いというか、文字通り神様の使いだけどね。もしそうでなくても、偽称する資格はあるって事か。一応状況証拠は揃ってるんだし。

周瑜

「……分かったようだな」

向田

「一応……で、俺はこれからどうなるんでしょうか?」

周瑜

「それは我らの主の意志による……どうする?」

孫策

「元々、考えていた事を実行するわよ。その為に拾ってきたんですもの」

黄蓋

「ふむ……まぁお好きにすればよろしい。儂は特に反対はせん……何より、儂はこいつを気に入った」がははっ、と豪快に笑った黄蓋さんが、俺の肩をドンッと叩く。……めっちゃくちゃ力があるな、この人。

向田

「痛てて……で、俺はどうなるんですか?」

孫策

「その前に質問……あなたはこれからどうするつもりでいるの?」そう言われてもなぁ。デミウルゴス様にはどこかの王に取り入るように言われたけど、孫策さんの世話になれるかどうか保証もないし、どうしようかな。そう思い、答えに詰まっていた時だった。

兵士(モブ)

「大変です!辰巳の方角より牛頭(ごず)が群れで攻めてきました!」兵卒らしき青年が血相を変えて報告に来た。辰巳の方角っていえば南東だよな。けど、ごずってのは何だろう?

フェル

「気配から察するにミノタウルスのようだな。ざっと300.頭は居るぞ」フェルはそう言うと、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。つーかこの大陸にも魔物はいるんだ!孫策さん達は大慌てで、

孫策

「街の住民の避難を急がせて!屋敷に居る全員で反撃に出るわよ。陸遜達を叩き起こして!」鬼気迫る表情で指示を出していく孫策さん。これは緊急事態だ!この様子にフェルは落ち着き払って、声を張って城の全員に告げる

フェル

「待て人間どもよ……」

孫策

「今、忙しいのよ!後にして!」

フェル

「……その魔物、我らが始末してやろう」

孫策

「……えっ?」フェルの言葉が意外だったのか、孫策さんの表情が一転してキョトンとなる。

黄蓋

「では儂らも……」

フェル

「要らぬ。むしろ邪魔だ。ウロチョロされてはかなわん」フェルお前、せっかく言ってくれたのにその言い草はないだろう。そもそもここじゃフェンリル自体知られてないんだぞ。

ドラちゃん

『クゥーッ、ミノタウルスの群れか。久々に暴れてやるぜ♪』

スイ

『スイも牛さん。やっつけるー♪』ホントバトルジャンキーだね、うちの子達は。仕方ない、討伐に行こうか。この状況はフォローも出来ないし、兵士さん達をムダに死なす訳にもいかないしね。

向田

「まぁ300.匹程度なら、この面子でどうにかなると思いますので」

黄蓋

「しかし……」不安が拭いきれない黄蓋さんを孫策さんが制する。

孫策

「それなら私が一隊を率いて後ろに控えておくわよ。要は邪魔にならなきゃ良いんでしょ?」

黄蓋

「……しょうがなかろう。但し、ムチャは為さらぬようにな」

孫策

「もう!いつまでも子供扱いなんだから!(膨)」

黄蓋

「儂から見れば一生子供じゃ!」黄蓋さんは膨れっ面の孫策さんを周瑜さんに任せると、俺にヒッソリと囁く。

黄蓋

「我が主も実は、かなりの戦闘狂での。お主の出来る範囲で構わんから、抑えてくれぬか。頼む」黄蓋さんがさっきまでとうって変わって真面目な顔で俺に頭を下げる。そっか、考えてみれば黄蓋さんは先代領主の頃からこの家に仕えてるんだし、孫策さんもある意味娘みたいなモンなんだろう。俺は頷いて、フェル達とミノタウルス討伐に向かった。

 

 ミノタウルスと対峙して僅か数分。そこには凄惨な光景が広がっていた……ええ、辺り一面ミノタウルスの死体ばかりでしたが何か?ホンットうちの子達相変わらず容赦ないね。とにかくこちら側に死傷者が出なくて良かったよ。兵士さん達がホッとしている中、孫策さんは若干不満そうだけど。とりあえず俺がミノタウルスをアイテムボックスにしまおうとしたら、孫策さんの目に留まった。

孫策

「ねえねえ、その箱何?どっから出てきたの?」好奇心旺盛な孫策さんに捕まり質問攻めに遭う俺。側を飛び回っていたドラちゃんが爆笑している。

ドラちゃん

『ハハハッ、ザマアみろ。これでおあいこだな』ただ孫策さんは質問しながら、俺にすり寄ってくるのでそこはちょっと嬉しい。だってこんな美女と密着状態なんだぜ。そりゃ男としては、多少はね……。

 

 ミノタウルス討伐を終えたフェル達はそのまま玉座の間で寝てしまった。そういやこっちに来た時点で夜だったもんな、俺と孫策さん、黄蓋さん、周瑜さんはさっきのミノタウルス騒動で途中になっていた話を再開した。

孫策

「行く宛がなかったら、私達と行動を共にしない?」ここを出ていくと、伝える前に孫策さんから提案された。

向田

「へっ?」

孫策

「あなたを保護してあげるって言ってるの」保護ですか……でも俺、一応カレーリナにある家に【ド○でも○ア】でいつでも帰れるんだよな。もしこっちで暮らすにしても、フェル達が居れば食うには困らんし。いざとなりゃ商人の真似事でもしながら、生計を立てるのも不可能じゃないし。ん、待てよ?これって考えてみればツイてるんじゃないか。

向田

「本当ですか?」

孫策

「そっ。一人と三匹で生きるよりは良いんじゃない?」

向田

「……ええ。この大陸の事を教えてもらわないとならないし。そうして頂けると有り難いですが」

孫策

「なら決定……但し幾つか条件があるわ」

向田

「条件?」はい、予測はついてます。

孫策

「ええ。まず一つ。あなたの知恵をこの呉の統治に役立てる事」あれ、俺?フェルじゃなくて?

向田

「知恵ですか?俺の知恵って……俺、あんまり頭良くないですよ?」

孫策

「頭の善し悪しを言ってるんじゃないの。あなたが居た大陸とかそこの国々、まぁどっちでも良いんだけど、その辺りで知っている事を、私達に教えなさい」

向田

「ああ、そういうのなら出来る……かな?」何だかんだ言っても、あっちの大陸にも随分長い間居たしな。社会の仕組みとか、文化圏の違いとかは、少しは役に立つだろう。

孫策

「簡単でしょ?で、もう一つは私に仕えている武将達と、あなたから率先して交流を持つ事」

向田

「……どういう事で?」

孫策

「有り体に言えば口説いて子作りに励めって事ね」……えぇぇぇぇーっ!

向田

「はぁ!?こ、こ、子作りって!?」な、何を突拍子もない事を言ってんだこの人!

孫策

「あなたの(たね)を呉に入れるの。そうすれば呉に天の御使いの血が入ったって事を喧伝出来るでしょ?」

向田

「え、あ、はぁ……」説明を受けて、孫策さんが何を考えているのかがぼんやりとではあるが理解出来た。けど……それとこれとは話が別だ。

向田

「それって外戚政治みたいなものですか?俺は子作りに専念し、孫呉に繁栄をもたらせば良いと?」

孫策

「そういう事……あ、勿論嫌がる女の子にするのはダメだからね」うん、まあそうなるよな。いわれるまでもないけど。

孫策

「あなたが口説いて、女の子が良いって言うまでは手を出しちゃダメ。分かった?」

向田

「それが条件?」

孫策

「そ♪」つくづく思う。この人軽いなぁ。

向田

「……そんなので良いの?」

周瑜

「良いとは言えんが、伯符の言う事にも一理はあるからな」

向田

「一理って……天の御使いとかいう“何だか分からないけど凄そうなモノ”に対して、畏敬を呼び起こそうって事だろうけど……」

周瑜

「良く分かったな」

向田

「そりゃまぁ……歴史を振り返れば、そういう感覚があるの、理解出来るし」卑弥呼然り、キリスト然り、仏陀然り。神がかったモノに対して畏敬を抱くっていうのは、昔の人なら当然ある事だ。そしてもう1つの畏敬の対象となるのが、血統に対する過剰なまでの信仰だろう。

向田

「俺を天の御使いという事にするなら、神秘と血統の2つが手に入るって事だろう?」話し方に遠慮がなくなってきたな、俺。

周瑜

「そういう事だ。呉に天の御使いの血が入ったという認識が世に広まれば、庶人の心の中に、呉の人間に対しての畏敬の感情が起こる。その畏怖、畏敬の念は呉にとっては大きな利益になり得るだろう……今後の事を考えれば、伯符の判断もあながち間違っているとは言えん」

黄蓋

「貴様も男なんだから、公認で女とイチャイチャ出来て嬉しいじゃろう?」な、何だか大変な事になってるんだけど?

『お主が願う恋愛運も叶うやもしれんでの』デミウルゴス様の言葉が脳内をフィードバックする。しかしデミウルゴス様、これって極端過ぎやしませんかぁーっ!?

 

 

 

 

 

 




中々メシ話に持っていけない……四席辺りになるか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三席厚切りハムカツサンド、のこと

やっとメシ話。しかし、もっとスローペースのハズが……蜀編は1話にもっと時間かかったのに、盛りが少ないせいか?色々おかしいなぁ……。


 孫策さんからとんでもない条件を突きつけられた俺は内心では戸惑いっぱなしだったが、表面上は平静さを保って話の続きを聞く。

孫策

「さっきも言ったけど、あくまで合意の上でないとダメよ」

向田

「勿論。嫌がる子にそんな事をするの、俺だってイヤだ」

孫策

「なら良いんじゃない?私はいつでも良いよ♪」

黄蓋

「儂も構わんぞ」

向田

「か、構わんと言われましても……」何だかなぁ。

周瑜

「……まぁその辺りの話については追々、話し合っていけば良いだろう」

向田

「そ、そうしてくれると助かるかな」今は、突然の状況の変化に頭がついていかない。一杯一杯ってのが正直なところだ。

孫策

「あら?大乗り気になると思ったけど、案外そうでもないのね?ウチの可愛い女の子達と、公認でイチャイチャ出来るんだから、もっと喜びなさいよぉ」

向田

「……いや、そりゃ正直なところ、嬉しいって気持ちはあるよ?だけど……結局のところ、俺の胤だけ求められてるって事だろ?それを素直に喜ぶのって、男としてどうかと思うんだよなぁ……」

黄蓋

「ほお。案外、骨のある事を言いよるの」

向田

「軟派野郎ならそれでも良いんだけど……軟派には成りきれないというか」

孫策

「そんなのどうでも良いわ……受けるの?受けないの?」けど参ったなぁ、断ればデミウルゴス様との約束も果たせないかもだし。仕方ない……

向田

「……受けるよ」ここまできたらもうしょうがない。後は野となれ、山となれだ。今の俺にはそれしか方法がない……言い訳がましく聞こえるけどさ。

孫策

「じゃ、決まり♪冥琳(めいりん)。通達よろしくね」

周瑜

「はいはい……はぁ。何て言って説明すれば良いんだか」

孫策

「それを考えるのが冥琳の役目でしょ♪」

周瑜

「簡単に言ってくれるものね」

孫策

「信じてるからね♪」

周瑜

「答えになっていないわよ、全く……まぁ何とかやってみましょう」

孫策

「ん♪」周瑜さんの言葉に満足そうに頷いた孫策さんが、くるりと俺の方を向く。

孫策

「じゃもう一度自己紹介」え、何で?

孫策

「姓は孫、名は策、字は( あざな )伯符、真名は雪蓮よ」

黄蓋

「ほお。真名までお許しになりますか」

孫策

「だって身体を重ねる事になるかもしれない男なんだし。それぐらい特別扱いしてあげないとね♪」詳しくは知らないけど字って確か、成人してから付けるミドルネームみたいなモンだっけ?それよりも……。

向田

「あの……まなって何?」

周瑜

「真なる名と書いて真名と読む……私達の誇り、生き様が詰まっている神聖な名前の事だ」

黄蓋

「自分が認めた相手、心を許した相手……そういって者だけに呼ぶ事を許す、大切な名前じゃよ」へぇー、そんな風習があるのか。

孫策

「他者の真名を知っていても、その者が許さなければ呼んではいけない。そういう名前」そうか、雪蓮と冥琳ってのは孫策さんと周瑜さんの呼び名だったのか。実は気になってたから、尋ねようかどうか迷ってたんだよね。教えてもらって良かったよ、下手に聞いたら殺されていたか……?つまり俺は信用されてるって事なんだろうか。

向田

「責任重大だな……」

雪蓮

「そう思える?」

向田

「そりゃ……相手から信用された証なんだし。それを裏切る事なんて出来ないだろ?」

周瑜

「ふむ……中々。よくぞそこまで考えが回るものだ」

向田

「……?どういう事?」

雪蓮

「案外頭が良いわねって事よ……それじゃ私の事は今後、雪蓮って呼んでね」

向田

「ん。よろしく雪蓮」

「我が名は黄蓋。字は公覆。真名は(さい)じゃ」

向田

「祭さん……よろしく」

「応。よろしくしてやろう」

冥琳

「姓は周、名は瑜。字は公謹。真名は冥琳……向田よ。貴様には期待させてもらおう」

向田

「が、頑張るよ。精一杯ね……よろしく、冥琳。それと俺の名前。姓は向田で、名が剛。向田でも剛でも好きに呼んで」頭を下げながら、3人と握手を交わしながら挨拶をしていると、ほんわかとした声と共に、ほんわかオーラを纏ってる巨乳の女性が部屋に入ってきた。

??

「孫策様~。袁術さんが呼んでるみたいですよー」

雪蓮

「袁術が?用件は何?」

??

「さぁ~?また何かワガママでも言うんじゃないですかねぇ~?」

雪蓮

「……全く。私はあいつの部下って訳じゃないのに。こき使ってくれるわね」

冥琳

「時が来るまでの辛抱だ、雪蓮」

雪蓮

「分かってるわよ。けど……むかつくなー」ブツブツと文句を言いながら、雪蓮は振り返りもせずに部屋を出ていった。

向田

「えーっと……現状ってさ、一体何がどうなってるの?」

「ふむ。まずはそれを説明せんとならんか」

冥琳

「ええ。まずは我らの生い立ちから説明しよう」そんな前置きをした後、冥琳は自分達を取り巻く状況を淡々と説明してくれた。

 

 今、俺が居るこの場所は荊州というところで、その荊州の太守に袁術という人間が居る事。孫堅という孫策の母親に率いられ、一時は荊州近くまで領土を広げていた孫策陣営だったが、孫堅が戦死した事によって衰退した事。孫堅戦死と共に内乱や逃走が相次ぎ、後を継いだ孫策は仕方なく、荊州太守袁術の客将という立場に甘んじている事。しかし、いつまでも今の立場に甘んじているつもりはなく、いつかは独立し、天下統一に乗り出したいと思っている事。平穏とは無縁の生活を送る事になるから、充分に覚悟しておけ──そんな脅し文句と共に、冥琳の状況説明が終わった。って何じゃそりゃーっ!?

向田

「……俺、もしかしてもの凄く大変な時期に保護されたの?」

??

「まぁそういう事になりますねぇ~、あはは♪」

向田

「あははって。笑い事じゃないんだけどね……っていうか、ええと、こちらの方は?」

「穏。自己紹介せい」

陸遜

「はぁ~い。姓は陸、名は遜、字は伯言……ええと、皆さん、天の御使いの男性に、どこまで自己紹介したんですか?」

冥琳

「皆、真名を伝えた。雪蓮が認めた人物よ」

「それなら、私の真名は(のん)って言います。穏とお呼び下さいね、御使い様♪」

向田

「あ、よ、よろしく……俺の名前は向田剛。呼び名はどっちでも良いよ」ほんわかというか、のんびりというか……陸遜と名乗る女性が持つ独特の時空に巻き込まれ、脳みそが溶けかけてくるのを、グッとこらえる。

冥琳

「穏は動物が好きそうだし、向田の世話は穏に任せる。頼むぞ」動物好きって……フェンリルにスライムにピクシードラゴンだぞ?ただの動物好きってレベルじゃ、相手し切れないと思うんだけど……

「まぁ二人共仲良くやれ……では儂は部屋に戻るぞ」

冥琳

「了解です……向田。これからの事はまた明日にでも話し合おう。今はゆっくりして居ればいい」

向田

「ん、了解……これからの事も含め、ゆっくり考えておくよ」

冥琳

「そうしろ……穏、行くぞ」

「はぁ~い。じゃあ剛さん、また明日お会いしましょう~♪」そして3人が玉座の間を出ていって、ここには俺達だけになる。

向田

「ふぅ……」大きく息を吐きながら、1人玉座の間に残された俺は、手近にあった椅子に腰を掛ける。

向田

「とんでもない事になったなぁ……」胡散臭いって処断される可能性はなくなったけど、それよりももっと胡散臭い存在にされてしまった……

向田

「天の御使い、か……」何となく呟く。単に神様に頼まれてここに来たってだけで実際、自分がそんな特別なモノだとは思ってないけど……一風変わった三國志の世界で、女性と子供を作るように命令されるって……まぁ明らかに普通じゃないよな、この状況は……考えても仕方ないけど。……ああ、眠くなってきた……これって多分現実逃避だろうな……今日はもう寝よう。物事なんて結局、為るようにしか為らん。諦める訳じゃない。だけど現状もしっかり把握していない俺が、どんな予想をしたところで、結局、それは妄想でしかない。ただ俺は1人じゃない。フェルもスイもドラちゃんも一緒だ。今は側で寝ている、こいつらだけが心の拠り所だよ……その内、デミウルゴス様に相談してみよう。少し乱れた布団の上にダイブして、俺はゆっくりと目を閉じた。

 

フェル

『オイ腹が減ったぞ』

ドラちゃん

『俺も俺も』

スイ

『あるじー、お腹空いた~』毎度お馴染み、食いしん坊トリオからの飯の催促で目が覚めた俺。普段はやれやれと思うけど、あんな事があった翌日の今日に限っては却ってホッとする。

向田

「ちょっと待ってな」まずは魔導コンロを出しても良さそうな部屋はないか、聞いてみるか。

雪蓮

「アラ、朝食の支度?ならウチの料理人に作らせるわよ」いやいや、任せられませんって。信用してないとかじゃなくて、この子達の食う量は半端ないですから。身体保ちませんよ。で結局、玉座の間を借りて朝食を作る事になった。さて、今朝は何を作ろうかね?昨夜のミノタウルスの肉はまだ解体してないから今回は温存して、アイテムボックスに入れといた作りおきをアレンジして出そうか。

 取り出したのはこちらに来る前に、大量に作ったハムカツだ。フェル達用に厚切りにしてあるこれをサンドイッチにしようと思ってる。キャベツは屋敷の畑で奴隷(従業員)のアルバンが育てていたのが用意してあるから、それを使うとしてパンだけど、実はここしばらく手作りパンに凝っていたんだよね。これもアイテムボックスに沢山入れておいたから、基本の材料はO.K.だ。後はとんかつソースにマヨネーズをネットスーパーで買い足して、早速調理しましょうかね。

 

 大量に作ったハムカツサンドを皿へ山盛りにしてフェル達に出してやる。

フェル

『うむ、薫製肉に衣をつけて揚げたのか。中々に旨い。しかし、野菜は要らんな』好き嫌いするなよフェル。とか言いつつ、キャベツごとバクバク食ってるよ。

スイ

『お肉と野菜とパンが美味しい~♪スイ、この白いヤツも好き~』スイはマヨネーズが気に入ったか。

ドラちゃん

『この肉の揚げたのが、野菜と合うよな。2種類のソースも絶品だぜ』意外にグルメなドラちゃんもお気に召したようで何よりだな。俺は朝から揚げ物は重いから、薄切りハムをそのままキャベツと挟んだシンプルなサンドイッチで済ませたよ。で、周りでは雪蓮、祭さん、冥琳、穏が興味津々で俺達の食事風景を見ている。

雪蓮

「ねぇ……何だかそれ、スッゴく美味しそうなんだけど?」

「朝から旨そうなモノを食うとるのう」

冥琳

「野戦においては食事も重要になる。参考にしたいな」

「剛さん、お料理上手なんですね~」はいはい、つまり貴女達も食べたいんですね。ハムカツは昼か晩に出すとして、俺と同じ朝食サンドイッチを4人に振る舞う。

雪蓮

「美味しい!これは薫製にした肉ね。けど食べた事のない味だわ」

「この具材を挟んだモノ……穀物ではあろうが、何をどうしたのじゃ?」

冥琳

「食器が要らないのは良いわね。書類仕事中にも摂れそうだし」

「天の国には、こんな食べ物があるんですねぇ~」あの、穏さん?普通にこの世界にもサンドイッチはありますよ?ただ、貴女達が訪れた事がない大陸に、ですけどね。どうやら俺は元居た大陸の知識以外に、料理の事も色々教えるハメに為りそうだ……

 

 

 




原作との違い
・冥琳は「年齢が近そうだから」と穏に一刀の世話を言いつける→ムコーダは一刀より10才年上。なので「穏は動物好きそうだから」に変更。(原作にそういった描写はない)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四席向田、役に立つのこと

メシ話は次回、戦闘が一区切りしたら再開させるつもりです。しばらくお待ち下さい。


 俺達がこの奇妙な三國志世界の大陸にやってきてから、そんなに日にちが経ってないある日。屋敷に駆け込んできた、たった1人の使者の登場によって、いよいよ戦乱の幕が開く事となる。

 かの有名な黄巾の乱。(俺は三國志に詳しくないけど、ネットスーパーでチェックしたら本や資料が売ってたから購入した)その動乱が大陸全土に荒れ狂い、世は阿鼻叫喚の時代になったと使者が告げる。それと共に、一通の書簡が孫策の手に渡った。それは荊州本城に居を構える袁術からの、孫策の召喚命令だった。使者の話によると、漢王朝より各地方の有力諸侯に対し、黄巾党討伐の命令が下っているらしい……という事は逆に考えれば。漢王朝には、黄巾党を制圧する力がないという事だ。

 

 で、冥琳は祭さんと穏をナゼか屋外に召集して、そこに俺も呼ばれた。従魔トリオは食事を終えて、すっかり私室と化した玉座の間でノンビリお昼寝中だ。

向田

「……軍議って呼ばれて来たんだけど。軍議に俺が出る必要ってあるの?」

冥琳

「お前を客扱いする道理もなければ、そんな余裕もない。それに初めに説明した契約の中に、知恵を貸すという条件が入っていただろう?」

向田

「それで軍議に?……ってか、軍を動かすとかってした事ないんだけど、そんな素人が入っちゃっても良いのかな?」

冥琳

「構わん。お前が気付いた事を言ってくれるだけでも、充分助かるさ」

向田

「……了解。邪魔しないように頑張るよ……」

「まぁあまり期待はしとりゃせんがの。ただ、天の御使いとして頼もしいところを見せりゃ、女も惚れるじゃろ?頑張れよ、若造」

向田

「そういう理由っ!?……まぁ良いけど」祭さんの言葉に肩を竦めて言葉を返しながら、

向田

「でも軍議って結構重要な会議だろ?どうしてこんな所でするんだ?」部屋で密談……というか、会議をするって言うのなら良く分かるけど。

冥琳

「ここが一番、他者の耳を警戒出来るからな」

向田

「どういう事?」

「ここなら盗み聞きをしている人が良く見えるんですよぉ~♪」相変わらず緊張感のない喋り方だ。けど、壁に耳あり障子に目あり。それを防ぐには、壁も障子もない所が良いって事か。

向田

「聞かれてマズい事があるって事?」

「儂らを取り巻く環境は、中々どうして。厳しいモノがあっての」

「私達の周辺には、常に袁術さんの目が光ってるんですよ」

冥琳

「密談をするような事があれば、逐一袁術に報告されるだろう。だが普段からここで軍議を行っていれば、いざ事を起こす時にでも、こそこそとせずに堂々と相談が出来る」

向田

「だから外で軍議をする、か……了解。どういう意図なのか理解出来た」理解出来たのは意図だけじゃなく、俺達を取り巻く環境って奴もだけど。

向田

「で、雪蓮は?」

冥琳

「袁術に呼ばれて荊州の本城に向かっている。用件は十中八九、黄巾党討伐の事だろう」

「今、この時の出頭命令ですからね。それ以外には考えられないかと」

「それを見越して、儂らは準備が出来次第、この館を出発し、策殿と合流を果たす」

向田

「合流して、すぐに黄巾党討伐に向かう?」

冥琳

「そういう事だ」じゃあフェル達を起こさないとな。

向田

「了解」説明ありがとうと付け加え、俺はみんなの考えを聞く為に一歩下がった。

冥琳

「状況の説明を終えたところで、発生した幾つかの問題について意見を聞かせて欲しい。問題は三点。兵糧の問題と軍資金の問題。そして最後に兵数の問題。まず最初に兵数の問題だが……」まぁこれは大丈夫だよね。敵兵が10万、100万居てもうちのトリオなら、瞬殺だ。しかしとりあえずは他の人の話を聞こう。発言はその後だ。

「敵の数は?」

「現在、荊州で暴れている黄巾党は、北と南の二部隊です。北が本隊。南が分隊……袁術さんなら確実に私達を北の本隊に当てるでしょうね」

「……とするならば、兵数は多いに越した事はないな。集められそうな人数はどうじゃ?」

冥琳

「多くて五千といったところでしょうね……多少無理をすれば一万はいけそうですが」

「どちらにしろ少ないのぉ……その数で黄巾党の本隊と当たるのは、勘弁願いたいところじゃが」

「まぁ……無理でしょうねぇ。袁術さんなら絶対に本隊を宛がってきますから」

「じゃろな……うーむ」

冥琳

「兵数差は策で何とかするしかないな。兵法としては邪道だが、ない袖は振れん」ここで俺は思った事を意見してみる。

冥琳

「百万でも敵にはならん……だと?」

向田

「ええ。フェルは膂力もさることながら、雷や風を操れるし、ドラちゃんは火を吹ける。スイも酸弾……」あっ、この大陸に酸ってあるのかな?

向田

「えーっと……人間の皮膚や金属も溶かす液体を矢のように飛ばせる。だからあいつらの力なら、黄巾党もあっという間に潰せるハズ」

冥琳

「……」

「……」

「……」俺の話を聞いてみんな唖然としてるよ。【開いた口が塞がらない】って事ホントにあるんだな。しょうがないから3人をしばらく放っておく。

「では必要最低限の数……という事で仮決定しましょう~。次は軍資金の問題ですが……」

「金の事は分からん。二人に任す」

冥琳

「任されましょう。現在、屋敷にある金子は多くない。武器や兵糧を揃える為にも、軍資金を集めないといけないが……」

「街の有力者に協力を要請する事は出来ますが、それでも多くの資金は集まらないでしょうね」確かに軍の運営に金は入り用になるよね。俺はアイテムボックスの中からあるモノを取り出す。このスキルは既に雪蓮に見られているから、今更誤魔化せないし、この人達になら見せても良いよね。

向田

「これって軍資金の足しにならないか?」

冥琳

「……これは!?」俺はアイテムボックスからあるモノを取り出して見せると、冥琳の目の色が変わる。それは小粒の宝石数個。以前入ったダンジョンでトリオが倒した魔物が落としていったドロップ品だ。あちらの商人ギルドや冒険者ギルドには大粒の宝石を売りに出した時、こういった小粒の分まで買取予算が回せなかったそうでずっとアイテムボックスに入れっぱなしになっていたんだけどね。

冥琳

「私は、宝石の類いには素人だがこれが相当な値打ち物なのは流石に分かるぞ」

「街の有力者もこれを売る事を引き替えにすれば、かなりの額を出してくれそうですねぇ」なるほど。いくら戦乱の世といえども、宝石やら財宝には一定の価値があるという訳か。

「何じゃ?貴様だけで、問題を二つも解決してしまうとはのぉ……」最後に兵糧の問題だけど、俺からすればこれが一番簡単に解決出来ると思う。

向田

「この前フェル達が狩ったミノ……じゃない……牛頭の肉が大量にあるから、それを解体して兵糧に回したらどうかな?」

冥琳

「……牛の肉か。あまり旨いとも思えんが、背に腹は代えられぬか」あれ?ここって牛肉食べないの?

「牛は農作に欠かせんじゃろ?年を取って使えんようになったら、潰して食う事もあるがの」あ~、言われてみれば確かに。

「牛頭は普通の牛じゃありませんし、剛さんが料理してくれたら美味しく頂けるかもしれませんねぇ~」

冥琳

「……貴様、意外にも策士だな。向田の案を採用しましょう」え?えぇ?俺の発言通っちゃったよ!まさかこんな展開になるとは……気が付くと冥琳がジッと俺を見つめている。

向田

「な、何だよ?ジッと見て」

冥琳

「いや……雪蓮の言う通り、案外な拾い物だったと思ってな」

向田

「俺が?」

冥琳

「そうだ。中々良い洞察力を持っている」

向田

「うはっ……そんな風に褒められた事、今までなかったなぁ」

冥琳

「……ふむ。どうしようかと悩んだが……向田。お前も出陣しろ」

向田

「……え!?あっ、ああ」別に言われるまでもなく、フェル達に出陣してもらうなら必然的に俺も戦場行きになるよ。どうせあいつら、闘ったその場でメシとか言いかねないし。つーか、絶対言うよ。

向田

「とはいえ……人間同士が闘う戦場になんて立った事ないんだけど」

冥琳

「ならば立て。人はそうして成長するモノだ。それとも怖いのか?」

向田

「……正直に言うと怖いよ。戦場って人が殺し合うところだろ?魔物と違って良心の呵責もあるし」

冥琳

「そうだ。だがな向田よ……お前が先ほど提示した案。その案が採用された今、お前は自分が示した策の責任を取らなくてはならない。勝つにしろ負けるにしろ……お前の策によって多数の人が死ぬ事になるのだからな」そうだよなぁ……こうしている間にも、今日もどこかの戦場で誰かが死んでいる訳だし。それはあっちの大陸や、元居た世界でも同じだけど、実際間近に感じる事はなかった。そんな当然の事を、俺は今まで忘れていた。いや、考えたくなくて無意識に目を逸らしていたのかもしれない。

冥琳

「自分の吐いた言葉には責任を持て」

向田

「俺が戦場に立てば、責任を取った事になる?」

冥琳

「ああ。お前が行動した事で起こった結果。その結果を真正面から受け止める……それが責任を取るという事だ」

向田

「……分かった。俺も出陣するよ」

冥琳

「……うむ。そう言ってくれると信じていたぞ」

向田

「色々と葛藤はあるけどね……それよりも俺、剣を取って闘うって事は出来ないよ?闘いたくないとかじゃなくて……真剣を人に向けた事がないんだ、俺。ましてや人を殺したり、傷つけたりした事もない……」 スイが作ってくれたミスリルソードで魔物を倒したりはしたけどね。

冥琳

「ああ。それで良い。軍師の仕事は刃で敵の喉を切り裂く事ではない。知略で敵の息の根を止めるのが仕事だ。それにお前は従魔達が守ってくれるのだろう?私もお前を守ってやる。だから安心しろ」

向田

「……頼りにしてるよ」女性に守ってやると言われて、そうとしか言い返せない自分が情けなくはある。だけど、そこで意地を張っても仕方ないってのも自分では良く分かっている。出来る事、出来ない事を見極める事こそ、今の俺に求められている事だと思うから──。

冥琳

「方針は決まった。黄蓋殿。すぐに出撃準備を」

「承った」

冥琳

「穏は輜重隊の準備をしておけ。二刻(約1時間)後には屋敷を出るぞ」

「はぁ~い♪」

冥琳

「向田は従魔達を連れて、私と共に各部隊の作業状況の確認だ……色々と仕込んでやるから覚悟しておけ」

向田

「……お手柔らかに」

冥琳

「ふっ、聞けん話だな……では皆、準備を頼む」冥琳の言葉と共に軍議が終了し、皆が皆、それぞれの役割を果たす為、屋敷のあちこちへと散っていった──。

 

 冥琳に散々しごかれてから、俺と従魔トリオは屋敷の使用人さんを連れて一旦【ど○でも○ア】でカレーリナに戻った。ここの冒険者ギルドで解体職員をしているヨハンさんにミノタウルスの解体をレクチャーしてもらう為だ。何とか解体をマスターした俺達は再び呉に戻り、冥琳達と合流する。合流地点は戦場で、そこには既に雪蓮が控えていた。

 

 




原作との違い
・軍議で一刀は袁術に兵と金と食料を捻出させるように提案→向田がフェル達を兵に、軍資金はドロップした宝石を売り、兵糧はミノタウルスにするのを提案。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五席雪蓮、袁術に利用されるのこと

メシ話までいけなかった……次回こそ。


 合流した雪蓮はいつもより、目がギラついていた。その迫力はフェルにもひけをとらない。イヤ、個人的にはフェルを見慣れている分、雪蓮の方が怖く感じる。

雪蓮

「いよいよ戦乱の幕開けね……ふふっ、ゾクゾクしてくるわ」そんな楽しそうに言わんでも……

向田

「……危ない発言だなぁ」

雪蓮

「あらどうして?待ちに待った大陸の混乱なのよ?……この乱に乗じる事こそ、私達の独立に向けての第一歩なんだし、ゾクゾクしちゃうのも仕方ないでしょ?」

冥琳

「気持ちは分かるが……初陣の相手が黄巾党というのは物足りないにもホドがあるな」

「まぁ勘を取り戻すには丁度良いとも言えるがの」

「兵の練度を維持する為に、調練だけは欠かさずにしてましたけどね~。やっぱり実戦を経験しない事には調練の仕上げも出来ませんし~……」

雪蓮

「そういう事♪この闘いで私達の強さを喧伝出来れば、これからの闘いが楽になるでしょ。ここは最高の勝ち方をしないとね~♪」

冥琳

「ええ……向田。雪蓮の言葉の意味が分かるか?」

向田

「えっ?」

冥琳

「呉、独立を目指す為に、雪蓮が初陣でしなければならない最高の勝ち方とは何だ?」

向田

「……圧倒的な勝利、かな?」ここにフェルが口を挟んできた。

フェル

『なんだ?そんな事で良いのか。ならば我らだけで充分だな』

ドラちゃん

『応よ!相手はたった8000だろ?ハッキリ言って俺達の敵じゃねえよ』

スイ

『スイも、いーっぱい敵をやっつけるよ~♪』あ、うちのトリオも戦闘準備万端だな。こりゃ止めても聞かないぞ。止める気もないけどさ。

雪蓮

「殺る気があるのは結構だけど……そんな事よりさっさと黄巾党を皆殺しにするわよ」

「まぁ待て、策殿よ。向田の言う通り、我らに大切なのは圧倒的勝利じゃ。ならばそれなりの策を用意した方が良いじゃろう」

フェル

『策なぞ要らん。いつも通りに攻め押すまでだ』いやいやフェルさんや、ムチャを言いなさんな。

冥琳

「圧倒的勝利とは、敵に与える損害が大きな事。そして人の記憶に残る程の痛快さが必要なの。たかが盗賊だからこそ、最も大きく損害を与え、最も痛快な勝ち方をしなくてはならないわ」

雪蓮

「ふーん……で?」

冥琳

「そうね……向田。確かその小さい龍は火を吹けるって言ってたな?」

向田

「ドラちゃんに焼き殺させるの!?」俺が冥琳に言葉を返すと、ドラちゃんはイヤッホーッと空中を旋回する。

冥琳

「ええ。勿論」

雪蓮

「……良いわね、それ。真っ赤な炎って好きよ」

「では決定じゃな」

向田

「ちょっ……火なんて使ったら、結構ヤバい事になるんじゃないの?」

雪蓮

「何?何か懸念でもある?」

向田

「懸念っていうか……2次被害は考えてないの?こっちに貰い火が来るとか……」

フェル

『心配は要らんだろう?貰い火はスイに消させれば良い。それに我の風魔法でも火を消す事は出来る』分かってるよ。一応、確認をしたかっただけでね。ただ人を焼き殺すんだよなぁ。だからこそ呉の名を上げるには、うってつけなんだろうけど。それに黄巾党はもっと酷い事を、抵抗も出来ない人達にやってきたんだ。これも天罰と思えば良い。デミウルゴス様も止めろとは言ってこないしね。

冥琳

「闘う力もなく、いいように盗賊に虐げられていた庶人の代わりに天罰を下す……それが人気に繋がるのだ」

向田

「でもさ、1人ぐらいは生かしておいた方が良くない?」

雪蓮

「剛。そんな甘ったるい理想なんて、とっとと捨てちゃいなさい」

向田

「イヤ、理想じゃなくてさ。さっきも喧伝するって言ってたけど、もし黄巾党を皆殺しにした場合、誰が喧伝する訳?」

雪蓮

「えっ?」

「ん?」

「ほぇ~」

冥琳

「……ふむ」俺がそう言うと、冥琳以外の3人がポカーンとしている。

冥琳

「なるほど。こちらが何もせずとも、一人生き延びた奴が勝手に喧伝してくれる……という事か」

向田

「そういう事。ああいった連中は大抵の場合、1人じゃ何も出来ないから2度と悪さはしないだろうし。あ、別にムリならそれで良いよ」俺が元居た世界は情報化社会なんて言われてたけど、どんな時代や世界においても情報は武器になる。この際、生き延びた敵兵は上手く利用してやれば良い。死なずに済めば、だけど。

フェル

『……しかし、何だな……』

向田

「どうかしたか?フェル」

フェル

『お主、随分と残酷な発言をするようになったな……』おかげさんで。誰かさんに鍛えられたモンでね。

「盗賊達は弱い人から全て奪いますから。お金、服は言うに及ばず、尊厳を奪い、命を奪う……飢えた獣と思わないと」

雪蓮

「奴らは人間じゃない……いいえ、人間だったかもしれないけど、人としての誇りをなくし、賊に成り下がった事で獣に落ちたも同然……躾のなってない獣は殺すしかないのよ」淡々と話す雪蓮の唇が微かに歪んでいる。その唇を見れば……何も言えなくなる。元居た世界で、平和に、幸せに暮らしていてあっちの大陸でもさほど命の心配もしていなかった俺がこれ以上、何か言う必要はないな。この大陸にはこの大陸のルールがある……そういう事だ。

兵士(モブ)

「孫策様!前方一里(約4Km)のところに黄巾党とおぼしき部隊の陣地を発見しました!」

雪蓮

「ありがと……さって久々の実戦ね。派手に決めましょ♪」

冥琳

「了解した。黄蓋殿。先鋒は伯符に取らせるので、その補佐をお願いします」

「心得た」

冥琳

「向田は従魔達と中軍を頼む」

向田

「オッケー……じゃないや、了解。フェル、スイ、ドラちゃん。任せるよ」

フェル

『フッ、まぁ良かろう』

ドラちゃん

『ヨッシャ!目一杯暴れてやっぜ!』

スイ

『任せてね。あるじ~』

冥琳

「私と伯言は左右両翼を率い、時機を見て矢を放ちます」

「ふむ。では公謹の合図と共に軍を退けば良いのじゃな?」

冥琳

「ええ」

「了解した……策殿。くれぐれも暴走せんようにしてくれよ?」

雪蓮

「んー……分かんない」

「やれやれ……まぁ策殿のお守りは儂がしよう。公謹と伯言は時機に見失わんようにせい」

「了解してますからご安心を♪」

「頼むぞ……では策殿。出陣の号令を」

雪蓮

「了解♪」雪蓮は剣の先を敵のいる方角へ向けると、兵に号令をかける。

雪蓮

「勇敢なる孫家の兵達( つわもの )よ!いよいよ我らの闘いを始める時が来た!新しい呉の為にっ!先王、孫文台の悲願を叶える為にっ!天に向かって高らかに歌い上げようではないか!誇り高き我らの勇と武を!敵は無法無体に暴れる黄巾党!獣じみた賊共に、孫呉の力をみせつけよ剣を( つるぎ )振るえっ!矢を放てっ!正義は我ら孫呉にあり!」この言葉に兵達の士気が一気に上がる。

兵達

「「「「うおおおぉぉぉーっ!」」」」

「全軍抜刀せい!」

雪蓮

「全軍、突撃せよ!」

 

 黄巾党の兵はこちらが約5000に対し約8000と、数でこそ勝ってはいたが、やはりうちの無敵トリオには敵うハズがなく、全軍尻尾を巻いて逃げていく。

向田

「あ……敵が陣地に戻っていく……っ!」

フェル

『つまらん相手だったな』

スイ

『みんな弱いね~』

ドラちゃん

『準備運動にもなりゃしねえ』

向田

「まあとにかくフェルとスイは退くよ。ドラちゃんは冥琳の指示に従って火魔法をよろしく」

ドラちゃん

『火を吹くのは良いけどさ、あのキツそうな姉ちゃんの言う事聞かされるのはなぁ……』

向田

「そう言うなって。終わったら旨いメシ作るからさ。あっ、合図だ!」

ドラちゃん

『しゃーねぇなぁ。行くぜ悪党共!』

 

~その頃両翼では~

 

冥琳

「ふむ。頃合だ……穏、向田に合図を!」

「はぁ~い♪」ドラちゃんが火魔法を仕掛けると、間を開けずして兵達が穏の指揮で油を染み込ませた鏑矢を構える。

 

~黄巾党陣地内にて~

 

盗賊(モブ)

「ひっ!?火だ!火が飛んできたぞ!」

盗賊(モブ)

「誰か!誰か消火しろ!」

盗賊(モブ)

「ダメだ!全然消えねえ!このままじゃ……!」

 

~呉軍両翼に戻る~

 

「おー。命中命中~。良い感じに火が燃え広がってくれてますね~。賊さん達の慌てふためく様子がよーく見えますよぉ♪」

冥琳

「よし。前線の孫策に伝令を出せ!機は熟した!今こそ総攻撃の──」

兵士(モブ)

「前線部隊、突撃を開始しました!」

冥琳

「……はぁ。相変わらず独断専行するんだから」

「まぁまぁ。孫策様は天性の戦上手ですから。私達の指示よりも早く、勝機に気付いたんでしょう」

冥琳

「……時々、あの娘の軍師をしている自分にくびを傾げてしまうわ」

「ううっ、それはありますねぇ~……」

 

 それから──。

 前線部隊、冥琳、穏と合流した俺達は、袁術の居る荊州の本城に向かい、意気揚々と引き上げた。

 本城では袁術が待ち構えていたんだが、これが……どう見ても幼女だ。多分俺のカレーリナの屋敷で働くセリヤちゃん(9才)と変わらない年齢(とし)だぞ。

雪蓮

「あなたのお望み通り、黄巾党の本隊を殲滅してあげたわよ……これで満足かしら?」

袁術

「うむうむ。ご苦労なのじゃ」

雪蓮

「それだけ?労いの言葉じゃなくて、私が欲しいのは約束の履行なんだけど?」

袁術

「約束?何の事じゃ?」

雪蓮

「……反故にしようと言うの?……時機がくれば呉の再建の為に兵を貸すという約束を」

袁術

「おおー。そういえばそんな約束もしておったのぉ……しかしじゃな、孫策よ。妾は( わらわ )まだ時機が来たようには思えんのじゃが?」

??

「そうですよねぇ~。それに今は黄巾党が暴れ回ってて、そんな余裕もありませんしぃ~」お付きの人だろうか?袁術にくっついている女性が同調する。

袁術

「張勲の( ちょうくん )言う通りじゃ……ま、約束については追々考えて進ぜよう。それで良いじゃろ?」

雪蓮

「……まぁ良いわ。荊州に侵攻していた黄巾党の本隊は殲滅した。分隊の方はあなた達で何とかしなさいな」

袁術

「言われんでもすぐに殲滅してみせるのじゃ」

張勲

「そうだそうだぁ~」やる気あるのかこの人?

雪蓮

「あっそ。じゃお手並み拝見と行くわ」

袁術

「うむ……ご苦労孫策。下がって良いぞ」

雪蓮

「……」悔しげに顔をしかめる雪蓮だったが、何も言い返さずに背中を怒りに震わせてみんなの元へ戻っていく。袁術と張勲のせせら笑いに見送られて俺もその後を追う。

張勲

「おおー。孫策さんの背中が怒りに燃えてますねぇ~……でもお嬢様ぁ。孫策さんは今後、どう扱っていくんです?」

袁術

「どうもこうもないのじゃ。約束などは出来る限り引き延ばして、妾の為に働かせれば良い」

張勲

「うんうん。それが一番ですねぇ~……けど、孫策さん怒りますよ?」

袁術

「ふんっ。反抗すれば妾の軍団で返り討ちにしてやるのじゃ。良いな、七乃」

張勲

「当然ですよー。美羽様の為に、最近、新しい武器を発明して、現在大量生産中ですから♪」

袁術

「ふむ。ならば妾の軍団は無敵じゃな」

張勲

「無敵ですよ無敵!後は孫策さんを悪どい方法で貶めれば完璧ですっ♪よっ、この生まれながらの悪謀家!」

袁術

「うははー、もっと妾を褒めるのじゃー♪」

張勲

「いよっ、この可愛いイジメっ子!大陸一の嫌がらせの天才!鬼め悪魔め美羽様め!」

袁術

「うむうむ。妾は気分が良いのじゃ。蜂蜜水を持ってくるのじゃー♪」大分離れたけど、聞こえてるからね君達。ステータス上がってUPした俺の聴力、舐めてもらっちゃあ困る。帰ったら今回は、雪蓮達にも何か旨いメシを作ってご馳走しよう。俺に出来るのは、精々それくらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作との違い
・一刀は黄巾党を殺すに躊躇いを隠せない→向田は何の罪悪感も見せない。
・冥琳が黄巾党に火矢を射つ→油を染み込ませた鏑矢を射ち、ドラちゃんに火を付けさせる。
・戦の終了後、一刀は嘔吐してそのまま気絶→向田は平気。
次回はこの続きから始まります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六席3種のハンバーグ、のこと

誰だ?恋姫を飯テロ化しようとしたのは……私です。
( ̄∇ ̄;)


雪蓮

「ふぅ……あぁ~~……腹立つ~……」雪蓮、まだ怒ってるよ。当然っちゃあ当然だけどさ。

冥琳

「お疲れ様……その様子だと吉報はなさそうね」

雪蓮

「また約束をはぐらかされたわ……むかつくったらありゃしない」えっ、今回だけじゃないの?そりゃ腹も立つ訳だ……。

「……袁術さんの狙いは、精強で鳴る孫家の軍団を扱き使う事でしょうからねぇ~」

冥琳

「本人達は意図を隠しているつもりらしいがな」あれでかよ……ひょっとしてバカなのか?

雪蓮

「ミエミエ過ぎるから余計にむかつくのよ」

「全くじゃ」

冥琳

「しかし、腹が立つからといって、今、袁術に楯突くのは得策ではなかろう……雪蓮。もう少し機が熟すのを待ちましょう」

雪蓮

「分かってる。分かってますってば。でも……むかつくのは止められないのよ」

向田

「まぁまぁ雪蓮。今日のところは袁術のアホの事は忘れよう。俺、旨い晩メシ作るからさ」理性と感情の板挟みになって、雪蓮も大変だね。アレ?そういや、さっきからフェル達の姿が見えないけど……

「ああ。あの三匹なら、黄巾党相手では物足りないと言うての。山へ狩りに行ってくるそうじゃ」何やってんだ、あいつら。

 

 それから間もなくして帰ってきたトリオはドえらいモンを獲ってきた。

向田

「……何だよ、これ(疲)」

フェル

『うむ、サラマンダーライオンだ。意外にも旨いぞ』フェルが引き摺ってきたのは、蜥蜴の尻尾を持っていて、よく見ると頬とか額等、顔面の一部に爬虫類の鱗に覆われた巨大なライオンだった……。

向田

「こんなの獲ってきても解体なんて、まずムリだからな」頭を押さえてため息を吐く。

フェル

『ん?解体ならこの前あちらの大陸に帰った時に学んできたではないか』こんな奴を解体する方法なんて教わってねーよ!もうどうすんだよ?

冥琳

「こんなの料理出来るのか?」

「見た限りでは到底食べられそうな気がしませんよぉ~」ですよねー。一応鑑定してみるか。

 

【サラマンダーライオン】Sランクの魔物。食肉可。美味。

 

 これ旨いのか。確かに今までもキマイラとかドラゴンとか、見た目からは想像つかない旨い肉はあったけどね。ハムカツもまだ在庫があるし、カレーリナには帰ったばかりだから今回は見送りだな。屋敷に戻ったら昨夜のミノタウルスの肉を使ってもう一品何か作ろう。

 

 さてこれから作るのは肉料理の定番中の定番、ハンバーグだ。ちょうど牛肉(ミノタウルス)と豚肉(オーク)があるし、それぞれ牛OR豚100%のハンバーグと合挽きの3種類にするか。フェル達のは大きめにして、人間用はハムカツも付けるし、一口サイズにしよう。形も肉によって3つにした方が分かりやすいな。

 スイが作ってくれたミスリル製のミンサーでそれぞれの肉を潰し、挽き肉を作る。そしたらハンバーグのタネ作りだ。卵は提供して貰えたし、玉ねぎのみじん切りはアイテムボックスに入れてあったから後はパン粉をネットスーパーで購入、それらを混ぜ合わせたら粘り気が出るまでよく練る。ミノタウルス肉は長方形に、オークは三角に、合挽きは丸に成形してから焼いて、いつもと同じケチャップとウスターソースで作ったタレを絡めたら適度に生野菜を盛った皿に乗せて完成だ。付け合わせはパンより米だね。やはり中国的なだけにこの大陸では米が主食だった。今朝も食パンは珍しがられたしね。

「メシついでに何か酒のつまみも欲しいのぉ」と、祭さんからリクエストがあり同時進行でフライドポテト&オニオンも揚げていく。ビールは勿論、エール等いわゆる発泡酒はないけど、揚げ物って案外どんな酒にも合うんだよな。で、ポテトはサッと塩をまぶしてオニオンにはタルタルソースを添えて、ハンバーグとオニポテセットが完成した。今日は屋敷にあるダイニングでみんな揃って食事にする。

向田

「メシだぞ~」ハンバーグとオニポテをデカい皿へ山盛りにして、フェル達に出す。雪蓮達のハンバーグは使用人さん達が配膳を手伝ってくれた。

雪蓮

「肉をワザワザ細かくして焼く必要ないと思ったけど、これも美味しい。揚げた燻製肉も絶品じゃない♪ねえ、剛は軍師見習いより料理番の方が良いんじゃない?」

冥琳

「戦場で料理番専門って……聞いた事ないわね……」

「牛頭と二足猪の肉を混ぜるとは、中々凝っておるんじゃな。燻製肉の揚げたのも飯が進むのぉ」あっ、オークはこの大陸にも居るんだ。しかも二足猪って呼ばれてるし……そのまんまじゃん。

「剛さん、お嫁に欲しいですね~。婿には要りませんけど~」イヤ、意味がわからん。とにかく概ね好評だね。うちのトリオの反応はどうかな?

フェル

「野菜なぞ要らん」が口癖のフェルだけどオニポテは好みに合ったようで、

フェル

『うむ。これは良い』とか偉そうに言いながら食っている。

ドラちゃん

『ハンバーグって旨えなあ。俺、初めて食ったぜ。それに玉ねぎを揚げたのもホンノリ甘くて、肉との相性バツグンだよな』ん……?ドラちゃんにハンバーグは出した事なかったっけ?まぁ気に入ってくれて良かったよ。

スイ

『ハンバーグも美味しいけど、スイはポテトも好き~』ドラちゃんはオニオン派でスイがポテト派か。3種類のハンバーグの好みはどうだろう?

フェル

『我はミノタウルスだけのが良い』

スイ

『スイは~オークさんの方かなぁ?』

ドラちゃん

『俺は断然合挽きってヤツだな』おお、見事に三者三様に分かれたな。そういや以前にメンチカツを作ったけど、その時もフェルはビーフ派、スイがポーク派だったな。当時はドラちゃんが居なかったけど。それより俺も自分の分を食おう。そうだ、ビールも買っとこう、今日はS社のプレミアムなヤツにしとくか。

 

 俺がビール片手にハンバーグをモリモリ食ってると、4人(特に雪蓮と祭さん)がジィ~ッと俺を見つめている。

雪蓮

「ね~、それってお酒!?」雪蓮が前のめりに俺に詰め寄ってきて、お互いの顔が1センチぐらい手前まで近づく。だ~か~ら~っ、見た目は美女なんだからそんなに引っ付かないでって!

「策殿。少し落ち着き召されい」祭さんが止めに入ってくれて、雪蓮もどうにか引っ込んでくれた。

雪蓮

「だって剛ってば、自分だけ珍しいお酒呑んでるんだもん。気になるじゃない?」

「全く。幼子じゃあるまいし、他人(ひと)のモノを物欲しそうに見るでない!」とか言ってる雪蓮と祭さんのテーブルの上には、酒瓶が10本以上並んでる。この2人、ドワーフに匹敵するほどの酒好きだな。

向田

「言ってくれれば購入しますよ」俺はネットスーパーからとりあえず2本、缶ビールを買って2人に差し出す。後から更に2本、こちらは冥琳と穏に手渡した。

「催促したようでスマンのぉ……ん?これはどうやって呑むのじゃ?」

向田

「ああ。これはですね……」缶ビールのプルトップの開け方をレクチャーしたら、早速雪蓮はビールを煽り出したよ。しかも喉から、メッチャ良い音鳴らしてるし。

雪蓮

「プハーッ、これ良いわね。喉の奥がシュワシュワと痺れる感じが最高!」

「酒精はさほど強くなかろうが、これはクセになりそうじゃ。芋や玉ねぎも良いつまみになるわい」

冥琳

「全く……結局二人共、向田からたかっているんだから……う!これは……♪」

「……うぅ苦いです~」穏はともかく、雪蓮、祭さん、冥琳は好きな味のようだ。反応もそれぞれだな。この後うちのトリオはいつも通り、ケーキやプリンを要求してきて、雪蓮達はビールのお代わりを欲しがったので両方共、沢山買ったよ。特に缶ビールは段ボールに3つも。両極端もイイトコだよ……。

 

~視点なし~

 

 荊州に攻め込んできた黄巾党は、孫策達の活躍によって撃退された。しかし、それは黄巾党の暴乱の中の、一地方での出来事に過ぎなかった。

 大陸の各所に飛び火した黄巾党の暴乱は、まるで火薬庫にロケット花火を打ち込んだように、次々と爆発を起こした。暴乱が暴乱を呼び、暴力が暴力を呼ぶ……阿鼻叫喚の地獄絵図と化した大陸の大地は、明ける事を知らぬまま、多くの人々の命を吸い取っていった。その暴乱を鎮圧しようと、漢王朝が大動員をかけて官軍を形成し、黄巾党と対決したのだが……黄巾党の数の多さ、そして何よりも官軍の腰抜けぶりによって、黄巾党は各地で勝利を謳い、その規模をいよいよ膨らませていった。しかし、そんな官軍不利な情勢の中、各地の諸侯達が目覚ましい活躍を見せる。

 許昌に本拠地を置く曹操。袁術の従姉にして、河北を抑える袁紹や、幽州の公孫賛が活躍すれば、義勇軍を結成し、各所で連戦連勝している劉備が頭角を顕す。実は劉備の義勇軍にはある秘密があるが、その種明かしはまたいつの日か……そんな英雄達の活躍により、黄巾党の勢いも次第に衰えを見せ始めていた。

 そんな中──前の闘いと同様、再び袁術の使者が孫策を尋ねてきた。

 黄巾党本隊と決戦し、撃破せよ──そんな普通なら無茶な命令を携えて。

 

 再び袁術の元を訪れた孫策。今度は向田を同行させずにやってきた。

 

 

袁術

「──という訳での。今こそ黄巾党を殲滅する時機じゃと思わんかの?」

雪蓮

「時機はそうでしょうね……だけど私の兵だけじゃ撃破はムリよ」

袁術

「なんと。最近、民達に英雄とか祭り上げられておるようじゃが、その期待を裏切るつもりかの?」

雪蓮

「そういう事を言ってるんじゃなく……単純に兵数が足りないからムリだって言ってるのよ。黄巾党本隊の兵数は、どう少なく見積もってもザッと二十万。対する私の兵は、どう多く見積もっても一万がせいぜい。これじゃ話にならないわ。ただ……各地方に散っている呉の旧臣達を呼び寄せても構わないのなら、撃破する事も可能でしょうけどね……」

袁術

「ふむ。ならば認めてやるのじゃ。さっさと呼び寄せてすぐに出陣せい」

雪蓮

「……了解。袁術ちゃんはどうするの?」

袁術

「朝廷からの命令じゃ。妾も出るぞよ」

張勲

「私達は万全の準備を整えたあと、西進して黄巾党の別動隊を撃破するんです。孫策さんはお強いですから北方で黄巾党の本隊と闘って下さいね♪」

雪蓮

「無茶を言ってくれるわね……」

袁術

「孫策ほどの将ならば、強い敵の方が良いじゃろ。頑張って名声を得るが良いのじゃ」

雪蓮

「……とりあえず有り難うと言っておくわ」

袁術

「うむ、苦しゅうないぞ」

雪蓮

「じゃあこれで通達はお終い?」

張勲

「そうですね。後はいつ頃出陣するかの報告をお願いしますぅ」

雪蓮

「それは後で伝えるわ」

袁術

「分かったのじゃ。他に質問は?」

雪蓮

「ない」

袁術

「では下がって良いのじゃ……妾を喜ばせる戦果を期待しておるぞ」

雪蓮

「……ふっ」

袁術

「そうじゃ孫策」

雪蓮

「……まだ何か?」

袁術

「この前、一緒に来たあの男はどうしたのじゃ?」

雪蓮

「孫家の本城で待機中よ。それがどうかしたの?」

袁術

「イヤ、それなら良いのじゃ」

雪蓮

「そう。なら帰るわね」

 

 孫策が帰ってから、袁術と張勲は2人だけでひっそりと話をしていた。

袁術

「……七乃ぉ。前回孫策に同行していたあの男、やはり噂の【天の御遣い】なんじゃろうかのぉ?」

張勲

「それはないですね♪例の【天の御遣い】ですが、どうも別の人の下に降り立ったそうですよ」

袁術

「そうか。なら安心じゃな♪」

張勲

「安心安心♪」暢気に笑い合う2人。実はあるどこかの平行世界において、そちらに現れし【天の御遣い】にフルボッコにされるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2020/07/07後記。辻褄が合わなくなったので、最後の一文を修正しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七席オムライスおにぎり、のこと

前回、原作との違いを書き忘れました(泣)とはいってもムコーダ関係以外、ほぼ一緒なんですけどね。今回も同様なので、違いに関しては説明がありません。
仲間を増やす話は次回に持ち越しとなりました。越後屋の次回予告は変更になる場合もありますのでご了承下さい。


~向田視点に戻る~

 

 と、いう訳で帰ってきた雪蓮はメッチャ不機嫌そうにしている。大方、今回も袁術に散々ムチャ振りされたみたいだな。

 

「あっ……孫策様が帰ってきましたよ。お帰りなさ~い♪」この娘は相変わらず気の抜ける口調だな。よく言えば癒し系なんだろうけど、悪く言えばやる気がなさそうにも見えるよね……。

雪蓮

「ただいま……」眉間に皺を寄せている雪蓮。あのバカっ娘が相手じゃ仕方ないか。

冥琳

「お帰り……その様子だと、今回もまた何か無茶を言われたようね」冥琳も溜め息吐いてるよ。

雪蓮

「黄巾党の本隊を叩けだって……無茶言ってくれるわよ、ホント」

「本隊をじゃと?……話にならんぞ。大賢良師が率いる本隊は、噂では二十万とも三十万とも聞く……敵う訳がない」3人が愚痴っているとフェルが口を挟む。

フェル

「何も無茶ではあるまい。たかが盗賊の集まり、我らなら一捻りだぞ」

雪蓮

「それはそうなんだけど……出来れば呉が独立を果たすまで、私達はあなた達の力を借りずに闘うつもりなの」

向田

「えっ?」

冥琳

「考えてもみろ向田。お前の従魔が黄巾党を殲滅したとして、名が残るのは誰だ?」そっか。こいつらの力で勝っても、それが呉の強さとは世論が認めない訳だ。むしろ【虎の威を借りた狐】っぽく云われて、呉が舐められる事もありうる。

「そういう事じゃ。だから策殿も悩んでおるんじゃよ。お主ら抜きで大軍を相手にするでのぉ」

雪蓮

「普通なら無茶だと考えるんだけどね……袁術と張勲のバカ二人はそんな事考えてないみたい」

「あ~……あの二人って正真正銘のお馬鹿さんですもんねぇ」穏まで呆れてるよ。

スイ

『あるじ~。そのおバカさん、スイが攻撃しちゃっても良い~?』

ドラちゃん

『よし!今すぐそいつのトコ、乗り込もうぜ』スイもドラちゃんも何気にスゴい発言するなぁ。それ、個人的には大歓迎なんだけど。

向田

「2人共、今すぐは止めよっか。それを決めるのは雪蓮だからね」

スイ

『分かった~♪』

ドラちゃん

『何だよ、つまんねーな』

「いずれにしても迷惑な話じゃな……それで?策殿はどうするつもりじゃ?」

雪蓮

「とりあえずみんなを呼び寄せてから考えるわ」

冥琳

「みんな?という事は……旧臣を集める事に対して、袁術が許可を出したのか」ん?それって後々袁術に不利じゃね?

雪蓮

「ええ……バカよね、ホント」

冥琳

「その馬鹿さ加減は有り難い……これで軍が増強出来るというモノだ」まぁバカというより浅慮なんだろう。何だかんだいってもまだ子供だしな。

「ふむ……先を見据えて動くか……時機が来るとお考えかな?」

雪蓮

「漢王朝の統治能力は最早ないも同然。そして都合良く起こった黄巾の乱……その先に割拠の時代が来るのは明白でしょ?」

冥琳

「同意だ。ではすぐに使者を出し、各地に散っている旧臣達を呼び寄せよう」

「興覇ちゃんに周泰ちゃん。孫権様に尚香様にも連絡をしないといけませんね~」

雪蓮

「尚香はダメよ。まだ連絡しないで……これから先は賭けになるからね」

「尚香様さえ残っていれば、孫家の血が絶える事もない、か。儂は賛成じゃな」

冥琳

「ふむ……では尚香様には今しばらく待機してもらおう」

雪蓮

「うん、お願い」えっと……孫権は史実だと孫策の弟だったな。という事は、こっちでは妹か?孫尚香は妹だったから、こっちでは弟になるのかもな。何だかややこしいな。

冥琳

「出陣はいつにする?」

雪蓮

「全ての準備が整うまでは出陣しないわ……袁術にも伝えてあるから、しばらくは何も言ってこないでしょう」

「それは有り難いですねぇ~。では私は使者の選定と兵站の準備に取りかかりますね」

「では軍編成に関しては儂がやろう。策殿と公謹には軍略の決定を頼もうかの」

雪蓮

「了解。部隊の合流は行軍の途中で行うから、そのつもりで居なさい」

冥琳

「分かったわ。ならば軍の編成が終わり次第、出陣しましょう」

雪蓮

「ええ……いよいよ独立に向けて動き出せる。皆……私に力を貸してちょうだい」

冥琳

「当然だ」

「うむ」

「はい♪」

 

 ──それから。雪蓮が袁術に呼ばれてから十日が経過した──

 出陣準備に勤しむみんなをよそに、俺は冥琳に呼ばれて特別授業を受けていた。冥琳曰く、軍師としての勉強だそうだ。授業なんて大学を卒業して以来、一度も受けた事ないんだけどさ。でも……以前言われたように自分が口にした事に対して、俺は責任を取らなくちゃいけないんだよな。口に出した結果がどうなったのか。自分が提案した事が、どれほど多くの人の運命を変える事になったのかを。人の死には何度か直面したけど、未だ慣れない。多分一生慣れないだろうと思う。だけど……歯を食い縛り、目を逸らさずに見つめなければならない。デミウルゴス様に頼まれたとはいえ、ここに来るのを選んだのは俺自身なんだから。俺は俺の言葉が招いた全ての結果を受け止めようと心に決めていた──。

スイ

『あるじ~。お勉強するの~?スイもする~』スイにとっては勉強も【面白い事】の内に入るみたいだ。

フェル

『戦に参戦しないのなら、我らは狩りに行くぞ』フェルとドラちゃんにはマジックバッグを持たせて見送った。

ドラちゃん

『旨い肉獲ってくるぜ。帰ったらメシな』それは冥琳次第だと思うぞ。しっかしうちのトリオはホントに空気読まないね。俺が珍しく、真面目モードに入ってたのに……何となく気が削がれたな。

冥琳

「よそ見をするな、向田!」冥琳から激が飛ぶ。おお怖い、ちゃんと授業を受けないと……あ、スイは授業が開始して10分ほどで寝ちゃってたよ。

 淡々と流れる時間の中で、着々と出陣準備は進行し──やがて出陣の時を迎える。目指すは冀州。黄巾党主力部隊との決戦である。俺も同行するように言われたから、馬の代わりにフェルに跨がって雪蓮達と戦場予定地にやってきた。

雪蓮

「穏。蓮華達はいつ合流するって?」

「兵を集めてから合流するらしく、少し時間が掛かるとの事でした~」

雪蓮

「そう……ならば初戦は私達だけね」

「連れてきた兵は多くない……いきなり敵本隊と闘う事は出来んのぉ」

冥琳

「敵本拠地の周辺では、諸侯の軍も動いています。まずは出城に籠っている黄巾党を処理しましょう」

「その後、諸侯の軍と足並み揃えて本拠地に迫れば、この兵数でも何とか出来ると思いますよ」

雪蓮

「ふむ。なら方針はそれでいきましょ」

冥琳

「了解した」

「ではそろそろ軍を止めて昼にしようかの」

「わ~い、お昼お昼~♪」ん?という事は……

雪蓮

「それじゃ宜しくね。剛♪」ってまた俺かよ!?まぁ良いけどさ、どうせ食いしん坊トリオからもせっつかれるだろうし。

 

 さて昼飯は何にするか、どうせなら手軽で、且つ腹持ちの良いモノが望ましいな。そうなると普通はサンドイッチだけど、兵のみんなに食べ慣れてない食パンを出すのはヤッパ気が引ける。よし、おにぎりにしてみよう。それと、ドラちゃんが獲ってきた風斗鸚鵡(ふうとおうむ)ことコカトリスと、フェルも岩禽(がんきん)(ロックバードの事ね)を狩ってきてるし……この大陸にも呼び名が違うだけで、向こうと同じ魔物は結構居るんだな。因みに、呼び名については冥琳から教わった。

 コカトリスの肉と玉ねぎを炒めたら、ケチャップと混ぜる。味付けをちょっと濃いめにするのがポイントだぞ。そこに炊いておいた大量の米を投入、いわゆるチキンライスを作る。ある程度チキンライスが出来たら、こっちは料理アシをしてくれている兵士さんに任せて、俺は薄焼き卵を焼いていく。勿論、サイズはうちの従魔トリオ用と人間用では随分違うけど。ここでネットスーパーを開いて、おにぎりの型枠を50組ほど買った。流石に兵士さんの人数分、一個一個握ってる間はないからね。で、オムライスおにぎりが完成した。うちのトリオには手軽も何も関係ないので、普通のオムライスをいつもの如く深皿にタップリ盛って出したよ。 

兵士(モブ)

「変わった握り飯だけど、これメッチャ旨いな」

兵士(モブ)

「うっ……こんな贅沢に肉入りの飯が食えるなんて(泣)」感動しながら食ってる兵士さんまで居た。そんなコメント聞くと何だか申し訳なくなる。すみません、うちは普段から肉三昧なモンでねぇ……心の中で謝っておく。 うちのトリオもムシャムシャ食ってはお代わりを繰り返す。

「これ、この前のびいるとかいう酒にも合いそうじゃな」イヤイヤ、今から戦って時に何言ってんの?この人。

冥琳

「一見すると炒飯のようだが、別物だな。味付けは酢か?程よい酸味と卵が良く合う」

「色からして、もっと辛いのかと思いましたけど~、そうでもないですねぇ。これも美味しいです~」

 

 全員に食事が行き渡ったのを確認して、俺が魔導コンロと調理器具の後片付けをしていると、雪蓮が背中にベッタリとくっつきながら、声をかけてきた……うう、な、何だこの柔らかいモノは?

雪蓮

「つーよし♪今日のご飯も美味しかった」

向田

「そ、それは良かった。それで何の用?」

雪蓮

「分かる?」

向田

「雪蓮には珍しく、当たり障りのない話題から会話が始まったからさ。何かあるんだろうなって……で、どうかしたの?」

雪蓮

「ん……あのね……剛を連れてきた時に約束したでしょ?呉の武将を口説けって」あ~、確かに言われてたなぁ。

向田

「うん……まぁぼちぼちと俺なりに頑張らせてもらってるけど」しかし、これが中々厳しいんだよな。俺自身、女慣れしてないってのもあるけど、フェル達が常に一緒に居るからねぇ。

雪蓮

「それでね……もう少しすればさ、私の妹が合流するんだけど」

向田

「妹?孫権さんだっけ?」

雪蓮

「そ……あれ?説明したっけ?」

向田

「ホラ、この前袁術のトコから帰ってきた時にみんなで話したじゃないか?その時名前が上がってたからさ」

雪蓮

「んー……ま、いいや。それでね。妹の事なんだけど……ちょっと真面目過ぎだし、カタブツっぽいところもあるけど、とっても良い娘よ。可愛いし、胸も大きいし、お尻の形も最高だし」

向田

「は、はぁ……」

雪蓮

「で、私の後継者は孫権。だから剛はどうにかして孫権との間に子を設ける事……約束よ?」

向田

「ちょ、いきなりそんな事言われても!……何だって、そんな事言うんだよ?」

雪蓮

「これからの呉の為に決まってるでしょ♪じゃ、頑張ってね。期待してるわよ、剛♪」それだけ言うと、雪蓮はどこかへ走り去ってしまった……ったく。どうしたんだ、いきなり……

「なんじゃ?どうした向田。アホ面を晒して」雪蓮と入れ替わるように、今度は祭さんが俺の目の前に現れた。

向田

「アホ面って酷いなぁ……いや、そんな事はどうでもいいか。祭さん、雪蓮になにかあったの?」

「ん?」首を捻る祭さんに雪蓮との会話を伝える。

「なるほど。これからの呉の為、か」

向田

「言いたい事は分かるんだけど。でも……俺、孫権さんに会った事さえないんだよ?いきなりあんな事言われても」

「そこはほれ、お前さんの実力で何とかせい」

向田

「な、何とかっすか……」

「それが策殿と交わした約束じゃろうが?……約束を守らん男に価値はないぞ?」約束と言えば……そもそもここに来たのもデミウルゴス様に戦を終わらせると約束したからだよな。う~ん、雪蓮にはああは言ったけど、あの時はこんな事になるなんて想像もしてなかったなぁ。今更どうしようもないけどさ。

向田

「……分かった。俺は俺なりに頑張ってみます。でも、向こうの大陸では俺、全然モテなかったんだから頑張ってもムリって場合もあるよ?」

「なあに。モテるモテないなど関係ありゃせん。心根のしっかりしたお前さんは、ただ感じた事、思った事を真っ正直に口にすりゃ良いんだ。そうすれば自然と女はついてくる……儂が保証してやろう」

向田

「はは……有り難いこってす」

「うむ。しっかり口説いて女心を掴めよ……役得と考えろ、役得と。うははっ!」豪快に笑いながら、祭さんは俺の肩をビシバシと叩いてくる。

向田

「痛っ、痛いっすよ、祭さん!」

「何を言っとる。気合いを注入してやっとるんだ。有り難く思え」アント○オ○木かっ!

向田

「ううっ……有り難く受け止めます」乱暴だけど暖かみの籠もった祭さんの励ましが、肩にじんわりと染み込んでいく。それは祭さんの信頼の証だろう。その証に答えてみたくはあるんだけど……答える為に必要な事が、女の子を口説いて子供をって事なんだよなぁ。

向田

「孫権と俺の子供……ううっ、怖っ」頭の中に浮かぶのは、この前購入した本に載っていた孫権(男)の肖像画。やらないか、ってレベルじゃねーぞ……男ばかりの三國志はこの際、記憶から全消去しちまおう。精神衛生上、それが一番だ──。そんな事を考えながら、俺は魔導コンロと調理器具の後片付けに戻った。

 

 その後、食事を終えた俺達は、再び行軍を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




作中に登場する魔物の名前は作者オリジナルで、本来の中国語とは違います。

次回、(拙作にて)蜀で大活躍した彼らがゲスト出演?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八席孫権、合流のこと

どうしてだろう?いっつも次回予告通りに話が進行しない……


冥琳

「向田……少し考えていた事なんだが……次の闘いから、お前には常に戦場に出てもらおうと思う」突然、俺は冥琳にそう言われた。

向田

「……どうしたの、急に?」

冥琳

「うむ……雪蓮がお前を気に入っている事もあるんだが、それ以上に……今は袁術にお前の従魔の存在を知られるのを避けたいのだ。今はまだお前の【天の御使い】の名称が世に広まってはいない。しかしお前の名前が世に広まれば、恐らくは袁術が動き出すだろう」

向田

「あ……なるほど。手元において保護しておいた方が何かと安心って事か。その間、従魔達は元居た大陸に帰らせておくなりしておく、と」

冥琳

「相変わらず聡いな。そういう事だ」

向田

「だけど……俺にそんな価値、あるのかなぁ?」

冥琳

「天の世界……実際は海を越えた私達の知らない大陸だろうが、そういったモノに畏敬や尊敬の念を抱く者は多い……そしてそれを利用しようとする輩もな」なるほど、いかにもありがちな話だな。

フェル

『回りくどいな。そんな輩はさっさと潰してしまえば良いモノを……』だーかーらー……どうしてこいつは物騒な提案ばっかりするのかね?下手すりゃこの大陸全土がヤバい事になるぞ。そういう意味でもしばらくは、大人しくさせておいた方が良いかもね。

冥琳

「利用しようと言うのは私達も同じだが……まぁそういう事だ」

向田

「了解……みんなとはお互い利益を提供し合う事で関係が成立してるんだ。利用してくれて良いよ。俺も利用させてもらうから」

冥琳

「……ああ。すまんな」

向田

「お互い様だってば……でも、気にしてくれてありがとう」

冥琳

「……お前という存在は、呉の重要な力となる。心を配るのは当然だ」

向田

「ん。それでも嬉しいからお礼を言うんだ……ありがとう」

冥琳

「……それは計算か?」

向田

「えっ?」

冥琳

「……ふっ。違うな。天然で言ってるとしか思えん。そんなところが……」

向田

「へっ?どういう事?」

冥琳

「独り言だ。気にするな」一瞬だけニヤッと笑った冥琳は、その笑みをすぐに収める。

冥琳

「そろそろ斥候が戻ってくる。戦闘準備に取りかかろうか」そう言って、各部隊に指令を伝える為の伝令を各所に放った。だが──

斥候(モブ)

「前方に黄巾党の分隊を発見しました!向こうもこちらに気づいているようで、城を出て布陣するつもりのようですが、孫策様が……!」

冥琳

「孫策がどうした?」

斥候(モブ)

「前線部隊を率いて先行してしまって……」

冥琳

「何っ!?」

向田

「ちょっ……総大将自ら先行って!」

冥琳

「全く、世話の焼ける……!穏!向田!すぐに追いかけるぞ!」

「はーい!」

向田

「分かった!」馬を駆ける冥琳と穏。俺も雪蓮の元へ急ぐ。途中でフェルが意外な事を口にした。

フェル

『うむ、今までは我も、先走りが過ぎたようだ。今後はお主の気持ちも、少しは慮ら( おもんぱか )ねばな』

向田

「えっ?どういう風の吹き回し?」

フェル

『何の事はない。あやつを見てると先走るのも考えモノだと思ったまでだ』あ~、納得。冥琳って雪蓮にいっつも、振り回されていそうだもんなぁ。

「冥琳様ぁ~、前方に雪蓮様の牙門旗を発見!」

冥琳

「やっと追い付いた……!待ちなさい、雪蓮!」

雪蓮

「ムリだって。一度走り出した兵を止めたら、折角の突進力が無駄になるでしょ。大丈夫だって。黄巾党なんてすぐに蹴散らしてあげるから。じゃ、また後でね♪祭、行くわよ!」

「心得た!」

冥琳

「ああ、もう!(怒)穏、向田!戦闘準備だ!」

「はぁ~い♪」

向田

「お、おうっ!」

フェル

『この状況では我らも出ん訳にはいかんな』

スイ

『闘うの~?やった~!』

ドラちゃん

『ヨッシャ!今度こそ大暴れだ!』うちのトリオにも火が付いちゃったよ……はぁ。

冥琳

「突進する孫策隊、黄蓋隊の部隊を補佐する。左右に展開して敵を包み込む!行くぞ、孫呉の勇者達よ!我らの英雄、孫策を守れ!」

兵士達

「「「「応っ!」」」」しかしこの後の戦で、俺達はあまりに衝撃的な出会いをする事になろうとは……まだ誰も知るよしもなかった。

 

向田

「敵が崩れたっ!」

「前線部隊が速度を上げています……雪蓮様も祭様も流石ですねぇ~」 

冥琳

「……あまり褒めたくはないわね」勝利に一息吐きながらも、冥琳は苦い顔で前線を見つめていた。

冥琳

「帰ってきたら叱ってやらなくちゃ」

向田

「まぁ……総大将自ら先頭を突っ走って突撃しちゃったからなぁ……」

冥琳

「あの娘の考えている事も良く分かる……王として、指導者として。勇敢なところを見せなければならないって考えは間違ってはいないのよ。だけど……勇敢さを示す為に必要なのは、王の勇気と共に敵の質だ……黄巾党の如き雑軍相手では、ただの蛮勇にしかならん」

向田

「ご立腹だなぁ」

冥琳

「勇敢と蛮勇は違う。それに人の価値も違う……こんなところで雪蓮に傷がついたらどうする?……私が怒っているのはそういう事だ」

向田

「ごもっとも……と噂をすれば雪蓮が帰ってきた」

冥琳

「雪蓮っ!」

雪蓮

「うわっ、怖っ!?」冥琳の剣幕に押された雪蓮が、慌てた様子で俺の背中に隠れた……巻き込まないで欲しいんですけど。

冥琳

「総大将自ら軍の先頭に立って突撃するなんて。項王の真似をしているつもり?」えっと……項王って誰だ?何となく中国の昔の人っぽいんだけど。ホントにこの世界、古代中国に良く似ているよな。

雪蓮

「ごめんなさい……でもさ。やっぱり兵士達には私の勇敢な姿を見せないといけないじゃない?」

冥琳

「時と場合によるわ。いくら強大な敵だといっても、黄巾党はしょせん賊……賊相手に勇敢ぶっても、それはただの蛮勇にしかならない。それぐらい、貴女なら分かるでしょう?」

雪蓮

「うん……今後は気をつけます」冥琳に散々叱られて、シュンとする雪蓮。

冥琳

「……よろしい。じゃあ次からは私の指示に従ってもらいます。良いわね?」

雪蓮

「はぁ~い……」冥琳の念押しに、雪蓮は渋々といって様子で返事をする……賭けても良い。この人、絶対約束を守る気はないと思う。俺がコソッとそう呟くと、フェルとドラちゃんがウンウン頷いている。スイだけはキョトンとしていたけど。

冥琳

「穏。一隊を黄巾党の陣地に向かわせ、物資を確保しておけ。その他の部隊は蓮華(れんふぁ)様達との合流地点に向かう」

「は~い♪」

冥琳

「黄蓋殿は部隊を纏め、被害の報告を……その報告の後、雪蓮を止められなかった言い訳をして頂きましょう」

「うぐっ……わ、分かった。はぁ……」

冥琳

「どのような言い訳を聞かせて頂けるのか、楽しみにしておりますよ」ニヤリと笑った冥琳の顔は、まるで獲物を捕らえてほくそ笑むフェルそっくり……祭さん、ご愁傷様です。

 こうして──。初戦を何とか乗り切った俺達は、戦利品等を確保した後、孫権と合流する為に、更に北へと軍を進めた。

 

~視点なし~

 

??

「ふぅ……」顔はあまり似ていないが、孫策に良く似た雰囲気を醸し出している少女が溜め息を吐いている。彼女こそ孫権、その人である。

??

「どうかしましたか?」お付きの武官、甘寧が問う。

孫権

「……限りなく続く大地。忘れていたから、少し嬉しくて……」

甘寧

「軟禁状態になって早2年。まさか袁術公認で出陣出来るようになるとは思いませんでしたね」

孫権

「そうね。袁術がバカで良かったわ」

甘寧

「御意」

孫権

「でも、愚かだったお陰で姉様と合流出来る……いよいよ孫呉独立に向けての闘いが始まるのね」

甘寧

「はい。およそ半日後には雪蓮様に合流出来るでしょう……そこからが正念場です」

孫権

「そうね。心して掛からないと」

甘寧

「御意……しかし蓮華様。肩に力が入りすぎるのも良くはありませんよ?」

孫権

「え?……そんな風に見える?」

甘寧

「蓮華様の癖……とでも言うのでしょうか。立場がありますから気楽にとは言えませんが……時には、肩の力を抜くのも良い事かと」

孫権

「その言葉、肝に命じておくわ……ありがとう、思春」

甘寧

「はっ……」

孫権

「姉様……お元気かしらね」

甘寧

「雪蓮様の事です。必ずやお元気でいらっしゃる事でしょう」

孫権

「冥琳に迷惑を掛けっぱなしでしょうけどね」

甘寧

「その自由*1闊達さこそ、雪蓮様です」

孫権

「ふふっ、そうね。でも……確か、天の御遣いとか言っている男を拾ったという話だったわね。そういうのは良くないと思うんだけど……」

甘寧

「御意。ただ周瑜殿や黄蓋殿もお許しになっているからには、何か事情があるのでしょう」

孫権

「そうね……ただ、私は私自身の目で見て、考えた事のみを信じる。その男がどういった人物なのか……しっかり観察させてもらいましょう」

 

~向田視点に戻る~

 

「後方に砂塵あり、ですー。どうやら蓮華様達がやってきたみたいですよぉ♪」

冥琳

「流石蓮華様だ。蒼天中央に日輪が至る刻に……という合流時間をしっかりと守ってくれているな」

雪蓮

「そういう融通の効かなさが、心配ではあるんだけどねぇ……」誰かみたいな鉄砲玉より、よっぽど良いけどね。

向田

「真面目なんだなぁ」

雪蓮

「カタブツとも言い換えられるわよ?」

向田

「……そうなの?」

「まぁ色々と言い方はあるじゃろうが……孫家の人間として頑張っておられる御方じゃよ」

向田

「ふ~ん……」砂埃と共に近づいてくる孫家の牙門旗を見つめながら、まだ見ぬ孫権に思いを馳せる。──と、迫ってきていた牙門旗がピタッと止まり、人影がこちらに走り寄ってくる。

孫権

「お姉様!今、報告を聞きました!単騎で敵陣に突入するとは、どういう事ですか!」馬から下りた美少女が雪蓮に怒号を飛ばす。

雪蓮

「うわっ……?」

孫権

「貴女は孫家の家長にして呉の指導者!それがこんな闘いで蛮勇を振りかざしてどうします!」

雪蓮

「ご、ごめんなさい……」妹に叱られて、雪蓮はスッカリ意気消沈しちゃったよ。

孫権

「少しはご自分の立場を考えて下さい……貴女は我らにとって大切な大切な玉な( ぎょく )のですから」

雪蓮

「はぁ~~い……」ショボくれた雪蓮の返事に満足しないのか、少女は更に雪蓮へ説教を続ける。

向田

「……あれが孫権?」

冥琳

「ああ。雪蓮の妹にして孫呉の後継者だ」なるほど。髭モジャのオッサンじゃなくて良かったよ、ホント。

向田

「ふ~ん……確かにカタブツっぽいよな」

冥琳

「そういう側面もあるがな……だが……器で言えば、恐らく雪蓮よりも大きいだろう」

向田

「そうなの?」

「英雄に相応しい器と能力を持っておられる。あとは経験だけといったところかの」

「みんなに愛されてる、素晴らしい御方ですよ♪」

向田

「ふ~ん……」どうにもカタブツっぽい印象しか受けないんだけど。鑑定のスキルを使っても、性格とかは見られないし。

冥琳

「ああ言う事を仰るのは、ご自分の身分を弁え、且つそれを誇りに思っておられるからだろう……本当の蓮華様はお優しい方だぞ」

向田

「まぁ冥琳がそう言うなら、そうなんだろう」そもそも冥琳が俺に嘘ついても、あまり意味ないしね。

「どうしたどうした?口説き落とす自信がなくなったとでも言うのか?」自信がないというより……どう見てもU18だよ?元の世界の倫理観だと犯罪だからね。向こうの大陸じゃ結婚の平均年齢は14,5才と結構低かったけどさ。

向田

「元々女の子を口説く事に自信なんて持ってないってば……俺は俺として接するだけさ」

「それで良いさ……お、いらっしゃったぞ」無意識なのか、敢えてなのかは分からないけど、孫権がズカズカと足音を立てて俺ににじり寄ってきた。

孫権

「貴様が天の御遣いとか言われている男か」

向田

「……一応ね。ただ俺自身にその自覚はないかな」

孫権

「……胡散臭いわね」

向田

「そんなの俺自身が一番分かってるよ」

孫権

「ふんっ……どこの人間か知らないけど、お姉様を誑かす気ならば、すぐに立ち去りなさい」

向田

「……」初対面から厳しい態度で俺に問い質す孫権。それにナゼかうちの従魔トリオは不満そうで、フェルはグルルと唸り、スイはピョンピョン上下に跳び跳ねて、ドラちゃんは孫権へ敵意を込めた視線を送る。

孫権

「な、何?この大きな狼と小さい龍は?それにこの真ん丸いのは生きてるの?」

冥琳

「いずれも向田配下の従魔達です。下手をすれば我らの頸が飛びますので……」

フェル

『……オイ』フェルが低い声で孫権へ苦言を呈する。

フェル

『我らの主にその言い種はなんだ……態度次第では貴様をこの大陸ごと消し去るぞ』ちょっと!こんな所で争うなよ。お前相手に勝てやしないんだから!焦りまくった俺が孫権とフェルの間に割って入ると

孫権

「……ブクブク」あ~、泡吹いて気絶しちゃってるよ……何してんだよフェル~!

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
心が広く、小さな事に捕らわれないさま




前書きにも書きましたが、あまりにも予定通りにいかないので、今後は次回予告なしにします。
m(-_-)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九席フェル、孫権を脅すのこと

原作に沿っているとメシ話に入るきっかけが、中々掴めない……


 孫権が気絶すると、お付きの武官らしき女性がいきなり俺を短剣で切りつけようとした。しかし俺には神様ズからの【絶対防御】の加護がある為、傷つく事はない。それでも尚、憎々しげに俺を睨み付ける女性を、今度は祭さんが止めてくれた。

「止めんか興覇(こうは)。こやつに手を出せば従魔共が黙っとらんぞ」

フェル

『大陸ごと消すと言ったハズだぞ。生まれて4ヶ月のスイでもそれぐらい分かりそうなものだがな』フェルに嫌みを言われて更に悔しそうな女性だったけど、雪蓮が宥めてようやく怒りを収めてくれた。

 その後孫権が目を覚まして、改めて自己紹介し合う俺達。あっ、勿論フェルの暴言については最初に謝ったよ。まだ孫権は俺を疑わしい目で見ているけど、そこは冥琳がフォローしてくれた。

冥琳

「孫権様。確かにこやつの素性は知れませんが、今まで行動していて怪しい点などはまるでなく、またその知識は広く、我らでは考えも及ばない事を知っております。貴種*1として孫策様が拾ったのもあながち間違いではないかと。また、こやつは孫策様が片腕とするに充分な実力があるかと。そして何より……こやつの作る料理は絶品で、兵達も皆、虜になっております」

孫権

「料理の事はともかく……公謹がそういうのならばそうなのでしょうね。だけど私は……」孫権は一瞬フェルをチラ見して続ける。

孫権

「……私はまだ認めないわ」言いたい事だけ言うと、孫権は俺に背を向けて立ち去っていった。

向田

「俺……メッチャ嫌われているんじゃない?」

「嫌ってる訳ではないじゃろ。儂にはとてもそうは思えなんだが」

向田

「ええっ!?祭さんの目、ちょっと洗った方が良いような……」

「なんじゃとぉ?」

向田

「だって今の態度だよ?はなっから胡散臭い奴って決めつけてるじゃんか。そりゃ……胡散臭いってのは自分でも分かってるけどさぁ……」

冥琳

「まぁあまり気にする必要はあるまい」

「うむ。権様は高貴な者の心得を、ただ実践なさっとるだけだ」

向田

「高貴な者の心得って?」

「素性の知れない者を近づけない。甘言を弄する人間を近づけない。金玉に( きんぎょく )執着しない。の三点ですね」

冥琳

「国が滅ぶ原因の多くはその三つに絞られる……だからこそ孫権様はその心得を実践しているのだよ」

フェル

『……全く。人の世とは面倒なモノだな』

向田

「しょうがないだろ。それが人間社会ってモノなんだから」しかし、正直言って落ち込むよなぁ……

「心配せんでも、貴様の心根が分かれば、きつい言葉はなくなるじゃろうて」

向田

「逆を言うと、心根が分からない間は、きっつい言葉を掛けられるって事か……」

「あははっ、そういう事ですね~♪」だから穏。何で君は楽しそうに語るの?こっちの身にもなってよ。

向田

「うはぁ……ちょっと憂鬱だ……」

冥琳

「心配するな。あの方は暗愚な方ではない。信用できると判断したならば、普通に接してくれるだろう。今はただ、孫家の血族として、王者たらんとして、無理をされているだけだ」

「そういう事じゃな……ただ、お主自身も自分を知ってもらう為の努力はせんとな。努力せんで理解してもらおうなどと言うのは、手前勝手というモノだ」

向田

「肝に命じておきます……」

フェル

『いっそ創造神様の事を話したらどうだ?』フェルが念話で俺に提案してきたが

向田

『ムリじゃないか?そもそもこの大陸の人達はデミウルゴス様やニンリル様達自体を知らないんだから』俺も念話で返す。

フェル

『フンッ。神々を知らないとは、何とも情けない……』──と、みんなで話していたところへ、立ち去ったハズの孫権とさっきのお付きの武官、それとナゼか忍者みたいな格好をした、孫権よりも年下そうな、女の子が、雪蓮に連れられてやってきた。

向田

「あれ?どうしたんだ、雪蓮?」何気なく言った一言に、

孫権

「貴様、ナゼ姉様の真名を口にするっ!」孫権の非難が浴びせられた。いや、ホント。やっぱり嫌われてるって俺。

雪蓮

「良いの。剛には真名を呼ぶ事、許してるもの……私だけじゃなく、冥琳と祭、それに穏もね」

孫権

「なっ……!」

甘寧

「……それほどの人物なのですか?……私には胡散臭い男にしか見えませんが」

??

「胡散臭いとかじゃないですが……公謹様達が真名をお許しになった事に、少し違和感があります……どういう事でしょう?」忍者風の娘が、他の2人よりは俺に好意的な意見を言ってくれた。

冥琳

「ふむ。まぁそうだろう。だが……こやつはお前達の夫になるかもしれん人物だ」

孫権・甘寧・??

「「「ええっ!?」」」そりゃ驚くよね。俺だって未だに信じられないし。

??

「あ、あの……どういう事でしょう?」

雪蓮

「んー。剛は管輅の占いに出てきた天の遣いなの。そんな貴種の血を孫呉に入れる事が出来たら、大きな力になるでしょ?」

冥琳

「少なくとも、孫呉に天の遣いの血を引く人間が居る……という評判に繋がるだろうな」

雪蓮

「そういう事。だから剛を保護する時に契約したのよ。子作りしろってね♪」

孫権

「な……何たる浅慮!お姉様は私達の意志を無視するおつもりですか!」

雪蓮

「無視するわよ。特に蓮華。孫家の人間である貴女の意志はね」

孫権

「……っ!」

雪蓮

「孫呉が強国にのし上がり、天下を目指す為には、兵が要る。資金が要る……それを得る為に必要なモノは、庶人の口から放たれる風評の矢。母様の夢、孫呉の宿願……呉を独立させ、天下統一に乗り出す為にも、剛の力が必要なの」

孫権

「……ずるい。ずるいですよ、お姉様……母様の事を言われたら、私は何も言えなくなるではありませんか……」

雪蓮

「知ってる。だから母様の名前を出したの……だけど安心しなさい。強制ではあるけれど、本気で嫌がるのならば無理はさせない。それは剛にも言ってる……まずはお互いを知り合いなさい。それが第一よ」

孫権

「……」

冥琳

「興覇、幼平(ようへい)。二人共良いな?」

甘寧

「……は」

??

「は、はいっ!」

「まぁ見た目は胡散臭いかもしれんが、中々どうして骨のある奴じゃから、皆、安心せい」

「うんうん。こう見えて結構頭も良いですし、優しさもありますし……ちょっとお調子者さんですけど、良い人ですよ、剛さんは」と、みんなが寄ってたかってフォローしてくれたが、(フォローになってない気もするけど)肝心の孫権はと云えば、

孫権

「……ふんっ」ギロッと俺を睨んだ後、心中の不満を隠そうともせずにそっぽを向いていた。そんな孫権にスイがピョンピョン跳ねながら近づいていった。

スイ

『あるじにヒドイ事言っちゃダメ~。スイ怒っちゃうよ!』ああ……スイは主想いのエエ子やなぁ。

雪蓮

「……とにかく。三人は剛に真名を預けなさい」

周泰

「は、はい!あの……姓は周、( しゅう )名は(たい)字は幼平、真名は明命(みんめい)!剛様、よろしくお願いします!」

向田

「こちらこそよろしくお願いします。向田剛……ってのが俺の名前です」そう言って、真名を明命と名乗った女の子に手を差し出した。

向田

「握手だよ……ダメかな?」

明命

「いえ!で、では僭越ながら……」 鯱張っ( しゃちほこば )*2言葉を使いながら、明命は恐る恐るといった感じで俺の手を握った。

向田

「まだまだ未熟者だけど、これからよろしく」

明命

「はいっ!」元気いっぱいに笑顔で返事をしてくれる明命に、緊張していた身体からスッと力が抜けていく。うう……この娘、良い娘だなぁ……

甘寧

「……我が名は甘寧。字は興覇……王の命令により真名を教えよう。思春(ししゅん)と言う」

向田

「よろしくお願いします」

思春

「よろしくするかどうかは孫権様次第だな……」そう言うと、握手の為に俺が差し出した手を一瞥した思春は、孫権の後ろに退いた……どうやら思春は、忠義一徹って感じの武将らしい。

向田

「了解……なら孫権さん」

孫権

「なんだ」

向田

「俺が気に入らないのなら別に良いよ。君の立場から見れば、俺が胡散臭いってのは充分頷けるし」

フェル

『我は不満だが……こやつがそう言うなら特別に生かしておいてやる』フェルの脅しに毅然としている孫権だけど、良く見ると足がブルブル震えている。

向田

「フェルはちょっと黙ってて。そんな男に真名って大切な物を預けるのは嫌だって気持ちも良く分かる。だからまずは俺の事を見て欲しい。今は胡散臭い奴っていう先入観があるから、俺の言動、存在全てに嫌悪が先立ってると思うけど。でもしばらく観察してくれていれば、胡散臭さもちょっとはマシになると思うから。その後で、真名を教えても良いのかどうか、君自身が判断してくれれば良い。だから今は──」俺はそこで言葉を句切り、孫権の前に手を差し出す。

向田

「仲間……なんて事はまだまだ言える段階じゃないかもしれないけど。それでも雪蓮達を支えたいって俺の気持ちだけは認めて欲しいかな」

孫権

「……」

向田

「ダメ……かな?」

孫権

「……会ったばかりの人間の気持ちなど、見透かす事は出来ない。だけど冥琳達が私に嘘を付くハズはない。だから……間接的には認めてやろう」

スイ

『ん~?スイ良く分かんな~い』

ドラちゃん

『いちいち言い方がまどろっこしい奴だな』スイとドラちゃんがブーブー文句を言ってるがここは無視しよう……俺が差し出した手をチラチラと見ながら、孫権は言葉を続ける。

孫権

「握手はしない。その……そういう事には慣れてないから……」そう言った孫権は、俺が差し出した手を取らず、スッと後ろに下がっていった。差し出した手のやり場に困ったけど……これはこれで良いのかもしれないな。(デミウルゴス様の依頼の為ではあるけど)とりあえずは雪蓮を支えたいって言う俺の気持ちを認めてくれたんだ。今はそれで良い。

雪蓮

「さて……と。自己紹介はこれでおしまい。部隊の再編成をした後、すぐに出発しましょうか」

冥琳

「そうしよう……興覇、幼平。お前達二人は黄蓋殿の下につけ」

思春

「はっ」

明命

「はいっ!」

「では二人には部隊の再編成を行ってもらおうか……真ん中は儂の部隊じゃ。二人は儂の両翼につけ」

思春

「了解しました。後曲はどのように配置します?」

冥琳

「後曲中央に雪蓮の部隊を。右は私の部隊が取る。左は穏が取れ」

孫権

「待て。では私の部隊はどうするんだ」

冥琳

「蓮華様は後曲の後ろ、輜重隊を護衛すると共に、遊軍として待機しておいて下さい」

孫権

「……分かった」

雪蓮

「剛は私の横に居てね」

向田

「了解」

孫権

「……」

冥琳

「では部署割りが決まったところで、再編成に移る。一刻後には出発するぞ」

「応」

思春

「はっ」

明命

「はいっ!」

「はーい♪」さて、これから黄巾党本隊が籠もる城に向かう訳だけど……これから先はどうなる事やら。

 

 

*1
現在の地位と関係なく、元々は高貴な身分や家柄に所属していた人間を指す

*2
いかめしく構える、緊張して体が固くなるの意




孫権は中盤から良い娘になっていきます。ファンの皆さん、しばらくお待ち下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十席冥琳、向田に教えを説くのこと

黄巾党編もいよいよ大詰めです。


~その頃の曹操軍~

 

荀彧

「華琳様。我らの南方、四里のところに新たな部隊が発見されました」

曹操

「旗標は( はたじるし )?」

荀彧

「孫。恐らく袁術の客将になっているという、孫策の旗かと」

曹操

「そう……猿が英雄を飼う事など、不愉快千万だったけれど。それもそろそろ終わりそうね」

荀彧

「……どういう意味でしょうか」

曹操

「言葉通りの意味よ……今、利に目ざとい諸侯は黄巾党本隊の為にこの場所に集まっている。それは、黄巾党の命脈が尽きかけている事を知っているからでしょう?」

荀彧

「はっ。大陸全体を見るに、既に黄巾党は風前の灯……多少、戦略眼がある人間ならば、この好機を逃さず、この場所に集結するハズです」

曹操

「そう。なのに袁術は西方に向かった……つまり功名の場を放棄したという事。逆に孫策は寡勢ながら賭けに出た……そしてその賭けは成功するでしょうね」

荀彧

「諸侯が集まれば、黄巾党の本隊がいかに多くとも最早敵ではない……そういう事ですか」

曹操

「ええ。我が軍然り、袁紹、公孫賛、それに義勇軍でありながら数々の武功をあげている劉備。そこに孫策がくわわれば、賭けという言葉にならないぐらい、確実な闘いになるでしょう。そして賭けに成功した孫策の評判は、益々上がる事になる……そうなれば、黄巾党の乱の後、大陸を覆うであろう群雄割拠の時代に有利となる」

荀彧

「その好機を逃さず、独立を果たす……そうなるとお考えなのですね」

曹操

「ええ。流石江東の虎で謳われた孫堅の娘……楽しみが増えたわね」

荀彧

「御意……今後、孫策周辺に細作*1を放ち、情報を手に入れておきましょう」

曹操

「よろしく」しかし、こうして曹操が送り出した細作は1人残らずフェル達に倒されてしまうのだが……それについては、今はまだ語るまい。

 

~向田視点に戻る~

 

 孫権達と合流を果たし、部隊の規模が膨れ上がった俺達は、初戦を勝ちきった勢いのまま、黄巾党本隊が籠もる城に向かっていた。尚、袁術が参戦していない為、フェル達もついてきている。

向田

「なぁ冥琳。斥候の兵隊さんって、まだ戻ってきてないよな?」

冥琳

「今のところはな……どうした?」

向田

「いや……兵数が増えたとはいえ、今の俺達じゃ黄巾党の本隊には勝てないと思うし、何か作戦でも考えた方が良いんじゃないかなーって」

冥琳

「ほお……それと斥候が何の関係がある?」

向田

「ええっ!?だって詳しい情報がなければ、有効な作戦なんて考えられないじゃんか」

冥琳

「うむ。分かっているな」

向田

「あ……もしかして試した?」

冥琳

「ふふっ、まぁな……しかし斥候が帰ってくるまでにはまだ時間が掛かる。先に私達を囲む周囲の状況を説明しておこう」

向田

「周囲の状況?」

冥琳

「ああ。知っての通り、黄巾党本隊が籠もるのは、ここより少し先にある城……そこに向かう部隊はいくつあると思う?」

向田

「いくつって……あ、そうか。俺達だけじゃない可能性があるのか」

冥琳

「そうだ。私が把握している限り、この辺りには諸侯の軍勢がひしめいている。ここより北方に曹操の部隊が。その少し西に袁紹の部隊。少し東に公孫賛の部隊と、劉備という将が率いる義勇兵の一団が居る。数にして、およそ十五万ほどだろうな」

向田

「十五万……凄いな」フェル達には及ばないだろうけど。と、心の中で付け足す。

向田

「それだけの数が居れば、黄巾党とも互角に闘える」

冥琳

「互角どころか。圧勝出来るだろう」ん?黄巾党本隊は20万居るんじゃ……

向田

「え、でも5万以上の差はあるだろ?」

冥琳

「あるな。しかし相手は食い詰め農民やどこぞから流れてきた浮浪だ。正規の訓練を受けた兵に抗するだけの力はない」

向田

「なるほど。じゃあ、諸侯と連携すれば──」

冥琳

「勝てる、というほど甘くもないのだよ」

向田

「そうなの?」

冥琳

「初対面の軍が連携を取るというのは、それほど難しい事だ。そしてそれ以前の問題として、諸侯が何を求めているのかを考えれば分かる事だろう」

向田

「諸侯が求めるモノ……?」

冥琳

「そう。諸侯が求めているのは名声という名の利だ……黄巾党の本隊に息の根を止めたという名声が欲しくて、この場に集まってきている」

向田

「あ、そっか……だから連携出来ない?」

冥琳

「そうだ。だが諸侯はこうも考えているだろう……自分の部隊だけでは、辛い闘いになると」

向田

「そうなると……諸侯が選ぶ道は限られてくるのかな?」

冥琳

「何だと思う?」

向田

「うーん……」名声は欲しい。だけどムリはしたくない……その2つの命題を達成する為には……

向田

「……他者を利用した上で抜け駆けして、美味しいところだけをかっさらう?」

冥琳

「ふっ……まぁ当たらずとも遠からず、だな。この場合、諸侯に伝令を送り、連携しましょうと言ってしまうのはよろしくない。はっきりと他者と連携を取れば、それだけ功のうま味がなくなるからだ。だが他者を利用しないと勝てそうにない……そしてそういう考えを皆が持っている事を、諸侯は知っている。ならば周囲の状況を調べ、諸侯の部隊が集まる時機に合わせて参戦すれば良い」

向田

「うわぁ……腹黒いなぁ、そういうの」

冥琳

「それを暗黙の了解というのさ。そして集結した部隊で戦を仕掛ける……隙を見て敵大将を討ち取り、名を上げる。そういった諸侯の思惑が透けている以上、我らが取る策はただ一つ」

向田

「一番最後らへんに参戦して、美味しいところをかっさらう?」

冥琳

「ふっ……そういう事だ」確かに。それが最も確実且つ無難だろうな。今はこの場に居ないとはいえ、フェル達の件がいつ袁術の耳に入るか分からないし。トリオを最前線に出す訳にゃいかんだろう。

フェル

『……何を小賢しい事を』

ドラちゃん

『俺達で一気に攻めりゃ良いじゃん』

スイ

『もっとやっつけた~い』と、本人達はブー垂れてるけどね。

 

 冥琳から、軍師としての物の考え方や、策の考え方なんかを教えて貰っているうちに、部隊はいよいよ黄巾党の本拠地にまでやってきた。連中の城は意外にも、立派だった。恐らく失脚したどっかの諸侯のモノを乗っ取ったんだろうな。

向田

「おお……壮観だな、これは……」目の前に広がるのは、巨大な敵城を囲むように配置された諸侯の軍勢だった。

雪蓮

「曹、袁、公孫、それに劉……良い感じに集まってるわねぇ」

冥琳

「計算通りだな。これだけ集まっていれば、敵とは互角に闘えるだろう」

「じゃが儂らの参戦する場所がなければ、功名もたてられんぞ?」

雪蓮

「祭の言う通りね……諸侯の軍勢が集まっている以上、時間を掛ける訳にもいかないし」

「かといって、力攻めだけでは落ちんじゃろ。向田の従魔達なら別じゃが」

雪蓮

「そうよね~……どうする冥琳?」

冥琳

「ふむ……穏。確か城内の地図があったハズだが」

「ありますよー。元々太守さんの持ち物だったお城ですからね……はい、これですー」……やっぱり。

冥琳

「すまん」みんなが作戦を立てている中、俺は各諸侯の様子を見渡していた。そこに気になる人間がいた。そいつはどう見ても戦闘機のパイロットのようなツナギを着ていた。この世界には飛行機どころか、自動車すら存在しないハズなんだけど。

冥琳

「どうした向田?劉備軍の方を見て」

向田

「イヤ、大した事じゃないよ」俺は適当に言葉を濁すと、穏が冥琳に渡した地図をみんなと一緒に覗き込んだ。

 

 地図を見ると、入口は三角状になっていてこちらから奥に向かって広がっている。壁も各建物をガッチリ囲むように出来ていて、難攻不落という言葉がしっくり来る造りになっている。

冥琳

「ふむ……厄介な城だな……」

「攻めづらく、守りやすい……まさに教科書のようなお城ですねぇ……」

孫権

「全軍を展開出来るのは前面のみ。左右は狭く、大軍で攻めるには無理がある、か」

思春

「……後ろには絶壁がそびえていて、回り込む事は不可能でしょう」

雪蓮

「めんどくさいから、真っ正面から突入しちゃおうよぉ~……」

「うむ。策殿に賛成だ」

孫権

「何をバカな事を言っているのです、二人共。タチの悪い冗談を言っている場合じゃありません」

雪蓮

「結構本気なんだけど……」

孫権

「なおタチが悪いです」一言の下に斬り捨てられ、雪蓮はショボンと肩を落とした……本気で言ってたんだな、この人。

向田

「そんな無謀な事言うの、フェル達以外で初めて見たよ」

フェル

『何が無謀だ。我らなら造作もないぞ』そりゃ君らならそうだろうけどさ、人間にゃ絶対ムリだからね。

冥琳

「……向田」

向田

「へっ?」

冥琳

「お前の意見を聞かせてくれ。従魔達に頼らぬ方向でな」

向田

「うぇ!?お、俺!?」しかもトリオ抜きで!?中々に厳しい条件だな。

冥琳

「そうだ。思い付くままで良い。何か気づいた事があれば言ってくれ」とは言われても……ねぇ。

『俺が行く。何たって俺、空飛べるしな』だからドラちゃん、君達抜きでって言ってるでしょ。

スイ

『スイはねぇ~、どんな隙間からでも入れるよぉ♪』スイちゃんも黙っててね。俺、今、必死に頭ん中フル回転させてるから。

向田

「う、うーん……」改めて、皆が覗き込んでるお城の地図に視線を落とす。

向田

「ええと……この真ん中辺りにあるのが、本丸……っていうのかな、中心的な建物になるんだよな?」

冥琳

「そうだ」

向田

「で、こっちの建物は?」

「それは多分、倉か何かでしょうねぇ~」

向田

「じゃあこれは?」

雪蓮

「それは宿舎ね。使用人が住んでいるところよ」

向田

「なるほど……」地図を良く見てみると、本丸の横に宿舎があり、その更に横に倉が並んでいる。

向田

「……これ、倉の辺りが死角になってない?」

「あ、そう言われれば……そうですねぇ」

向田

「黄巾党がこの城を本拠地にしている以上、兵糧なんかも倉の中に保管していると思うんだ……となるとここを狙うのってありじゃないかな?」

明命

「でも、一体どうやって?」

向田

「夜の闇に紛れて城内に侵入して火を放つ……ってのが常道だと思うけど……それが可能かどうか」

冥琳

「……出来るな。祭殿。諸侯の軍が引き上げた後、部隊を正門に集結させて下さい」

「ふむ。それは良いが……夜襲を掛けるのか?」

冥琳

「掛けるフリだけで結構。奴らの目を正門に惹き付けるのが狙いです」

「なるほど。囮になる訳か」

冥琳

「ええ。その後、興覇と幼平の部隊が城内に侵入。放火活動を行います。向田の小さい龍も一緒に頼む。その状況に合わせて、祭殿は雪蓮と合流し、混乱する城内に突入する……これでどうかしら?」

向田

「あ~はい。ドラちゃん、出番だってさ」

ドラちゃん

『ヨッシャ!』

雪蓮

「良いんじゃない?ワクワクしちゃうわ」

孫権

「し、しかし……絶対に成功するという保証がない以上、お姉様が前に出るのは反対です!」

雪蓮

「蓮華。戦に絶対はない……それぐらい分かってるでしょ?」

孫権

「しかし……母様が死んだ時と、状況が良く似ていて……」

雪蓮

「城攻めの時に私が死ぬかもって?ないない……私が指揮するのは突入部隊だけ。城攻めの指揮は祭に任せるもの。いざとなれば、剛の従魔達も居るしね」

「うむ。承った」

向田

「フェル、スイ、ドラちゃん。みんなもよろしくね」

フェル

『まぁ良かろう』

スイ

『い~よ~』

ドラちゃん

『任せとけって』

雪蓮

「ね?だから安心して私の背中を見ておきなさい……孫呉の王の闘いぶりをね」

孫権

「……(コクッ)」

雪蓮

「聞き分けの良い子は好きよ……じゃあ蓮華は後方に下がっておきなさい」

孫権

「はい……」

雪蓮

「思春、明命。二人はすぐに精鋭部隊を編成し、作戦を検討しておいて」

思春・明命

「「御意」」

雪蓮

「祭と私はしばらく待機……冥琳達はどうするの?」

冥琳

「穏は蓮華様の補佐を」

「了解でありまーす♪」

冥琳

「私と向田は、雪蓮達が突入した後の総仕上げを行う」

雪蓮

「えっ?剛が?……大丈夫なの?」

向田

「大丈夫かは分からないけど……俺は俺なりに、言った事に対して責任を持つつもりだ」現実として、自分の言葉が闘いへと繋がり、人が死んでいく……その事実は、いくら言葉を飾ったところで隠しようのない事実だ。

雪蓮

「責任ねぇ……どうやってとるつもり?」

向田

「勝つ。勝つと信じて、勝つ為の行動を取る。勝つ為の努力をするって事かな。それぐらいしか思い浮かばないけど……」

冥琳

「ふっ……それで良いのだよ、向田」

「うむ。自分の能力を最大限に発揮し、最大限の努力をする。そして結果を出す。それこそが人に指図する者の責任の取り方じゃ」

冥琳

「努力した過程など、結果が出せなければ何の足しにもならないからな……だが勝敗は兵家の常。ならば我らに出来る事はただ一つ。勝つ為の努力を放棄しないという事だ」

向田

「うん……今ならその言葉、良く分かる。そしてその為の覚悟を持つ事が出来る」

雪蓮

「……そう。ならその覚悟、しっかりと見させてもらいましょ」

向田

「ああ。見ててくれ」俺に出来る事はただ一つ。勝つと信じて、自分の出来る事をするだけだ。デミウルゴス様だって、きっとそう言うだろう。

 

 それから──俺達は陣地を構築した後、夜を待つ事になったんだけど……

フェル

『よし、戦の前に腹ごしらえだ。メシにしろ』言うと思ったよ……他のみんなは恐怖と緊張でメシどころじゃないだろうけどね。まぁ確かに兵士さん達も空きっ腹じゃ、力を出し切れないかもしれないな。フェル達とは別メニューで何か作るとしよう。

 

 

 

 

*1
スパイの事




次回以降、急展開を迎えるかも?詳しくは活動報告をご覧下さい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一席アメリカンドッグ、のこと

前半はオリ展開。後半はムコーダさんが妙に格好いいですね、原作じゃ絶対あり得ない(笑)。


 俺は魔導コンロをアイテムボックスから出して、鍋を火に掛ける。実はこんな事もあろうかとフェル達に食わす物は既に下拵えを済ませてある。後はもう一度熱を入れたら完成だ。今回はこの国でもお馴染みの叉焼を作ったぞ。一応説明すると、こっちでいう叉焼は肉にタレを漬け込んで焼き上げるのに対して、現代日本のはいわゆる煮豚だ。今日はこれを丼で出そう。

 

~この日、戦場へ向かう前~

 

 まずは焼豚から。魔導コンロのオーブンを温めておいて、その間に正油に味醂、甜麺醤に紹興酒、ネギの青い部分と生姜で漬け込みダレを作る。甜麺醤や紹興酒は普通そう簡単に減るモンじゃないけど、食いしん坊トリオの飯に使えば、あっという間になくなるだろうな。まぁ、それはさておき料理を続けよう。

 タレに漬け込んだ肉を魔導コンロのオーブンに入れて40分~1時間ほど焼く。途中でオーブンを開けてタレを塗り、更に照りを出す為に水飴をその上から塗る。串を刺して赤い汁が出なければ焼き上がりだ。

 煮豚は肉をタコ糸で縛って表面をサッと焼いたら、水で煮込む。煮えたら正油と味醂、ネギの青い部分と生姜を加えて更に煮込む。それともう1つ、紅茶の叉焼も作ってある。こちらは水を紅茶に変えて、そのまま煮込む。ここで香辛料を入れると味がボヤけるからな。で、煮上がったら正油ダレを掛けて、さっき残ったネギの白いところを千切りにして、丼に乗せた叉焼の上に散らせばO.K.。これでいつでもトリオに食わせられるぞ。

 

~そして現在~

 

 さて、トリオが叉焼丼を食ってる間に兵士さん達の軽食を作るか。俺は再び魔導コンロの前に立ち、料理を開始した。場所は雪蓮や祭さん達が使う、幹部用の天幕。流石に一般の兵士さん達にはネットスーパーを見せられないからな。

 アイテムボックスには以前、ドワーフの鍛冶師のアレシュさんから作り方を教えて貰ったソーセージが沢山ある。今度あの親爺さん自慢のBBQコンロを使って、みんなに料理を振る舞うのも良いかもね。まぁ今回作るのはバーベキューじゃないから使わないけど。ん、何を作るかって?フフン、それは……みんな大好き、アメリカンドッグだ。これならそこそこ腹持ちも良いし、食べ過ぎる心配もないだろう。

 ネットスーパーで某M社のホットケーキミックスを購入、箱の裏に載っているアメリカンドッグのレシピ通りに作るだけだ。

 粉を溶いたら串に指したソーセージに纏わせて、揚げていくだけ。ケチャップとマスタードを適量添えて、兵士さん数人と手分けして全員に配る。

兵士(モブ)

「やっぱ向田様の料理は旨ぇ」

兵士(モブ)

「この甘い皮が意外と肉に合うなぁ」兵士さん達にも好評だな。さて、雪蓮達の天幕に戻るとするか。

「赤いタレと辛子、皮と肉がケンカしないで一つに纏まってるのぅ。これでやる気もみなぎるってモンじゃ」

冥琳

「串のおかげで、箸も匙も使わず食べられるのが良いですな」

「書簡を読みながらでも食べられそうですねぇ……モグモグ」

雪蓮

「これも美味しい♪また作って貰おう」雪蓮に至っては右手に持ったのを食べつつ、もう1本に左手を伸ばしてるよ。

「だから策殿。子供のような真似をするでないというに」ハハッ(苦笑)ま、まぁ雪蓮、祭さん、冥琳、穏には満足頂いたようだけど、孫権達はどうだろう。流石に尋ねにいくのはちょっと怖くて、聞き耳を立ててみる。

孫権

「確かに美味しい……料理の腕は認めても良いわ」

思春

「……雪蓮様がご自慢なさるだけの事はありますな」

明命

「モグ……グスッ…モグモグ」明命?君は何で泣きながら食ってるの?

明命

「戦場で食べるご飯なんて、今まで碌な物じゃなかったのに……こんな美味しい料理が食べられるなんて……ヒク、エッグ……」大袈裟だなぁ……あ、そういやあっちの冒険者も『移動中はマズい携帯食しか食えない』って言ってたな。イヤ、アイテムボックスがあって良かったよホント。

フェル

『おい、あれはなんだ?』叉焼丼を食い終わったフェルが雪蓮達の方へ顔を向ける。

向田

「アメリカンドッグって軽食だよ。材料はまだあるけど……食うか?」

フェル

『無論だ』

ドラちゃん

『あ、ズリィぞフェル。俺も食うからな!』

スイ

『スイも食べる~』ハァー。予想通りの結果にため息出ちゃったよ。このあと俺はフェル達に大量のアメリカンドッグを作らされる事となった。

 

 そして夜も更けて、いよいよ作戦実行の時が近づいてきた。

向田

「ふぅ……」落ち着かない心を少しでも静めようと、天幕から出て空を見上げる。

向田

「ああは言ったものの……やっぱり怖いな」人と人が殺し合う戦場。直視するのも怖いというのは、偽らざる感情ってやつだろう。

向田

「はぁ……」戦場に立った時、俺はどうすれば良いのか?部隊なんて率いた事もない自分が、どうすれば上手く行動出来るのか。考えなければならない事は山ほどあるのに、どうにも思考が止まってしまう。

孫権

「……一人で何をしている」孫権が隣へと歩いてきて、俺に問う。

向田

「んー……考え事かな」

孫権

「何を考えている……?」

向田

「どうすりゃ生き残れるか……かな」体は神様からの絶対防御の加護があるからまず死ぬ事はないけど、精神的にね。こんな日々が毎日続けばきっと俺、心が病むと思う。

孫権

「……怖いの?」

向田

「ああ。正直怖い」

孫権

「そうか……ふっ、男のくせに軟弱な奴ね」

向田

「軟弱かもなぁ……けど、この作戦は俺の発言から始まったんだ。だから……怖いけど逃げ出す訳にはいかないだろ。そう思うから……お月さんを見上げて、生き延びられますようにって、願をかけてたって訳」

孫権

「そうか……」

向田

「孫権はどうしてここに?」

孫権

「わ、私は、その……これが私の初陣なのだ。緊張して何が悪い」

向田

「あ、なるほど……」拗ねたような孫権の口ぶりに、俺は唐突に冥琳の言葉を思いだす。

 王者たらんとして無理をしている──初陣を迎えて緊張しているといった孫権の言葉に繋がった。初めは何だか取っつきにくい娘だなって思ってたけど。案外、俺と良く似ているのかもしれない。

向田

「ははっ……」

孫権

「な、何を笑っているんだ、無礼な!」

向田

「ごめん。でもバカにするつもりで笑ったんじゃないんだ。たださ、初めて会った時があんな感じだったから……緊張してるって聞いて、今は何だか親近感を感じちゃってさ……」

孫権

「ふんっ……」

向田

「……お互い、無事でいられると良いな」

孫権

「……盗賊如き下郎に遅れを取るつもりはない。お前も安心しておけ」

向田

「えっ?」

孫権

「……お前は私が守ってやる」まるで照れ隠しをするように、孫権は明後日の方向を見つめながら言葉を紡ぐ。

向田

「……うーむ」

孫権

「なんだ。私に守られるのが不満なのかっ?」

向田

「あ、違う違う……女の子から守ってやるって言われて、思わず嬉しいなー、なんて思ってしまった自分が、なんか悔しいというか、呆れたというか。こういう場合、俺が守ってやるぜ!ぐらい言う方が格好つくのになぁって」

孫権

「……ふっ。無理はせん事だな」

向田

「やっぱ……ムリなのかなぁ……」いくら冒険者の経験があるからって、所詮はフェル達任せだった俺に、人間同士で斬り合う事なんて出来る訳がない。

向田

「……今はまだムリかもしれないけど。そういう気概は持っておこう。うんうん」

孫権

「一人で何をブツブツ言っている……私は別にお前に守ってもらおうなどと思ってないぞ。それに……私は呉の王族のはしくれとして兵達の上に立つ。そして兵達を守ってみせる。それがひいては民を守り、国を守る事に繋がる……私はそう信じている」グッと拳に力を入れ、月を睨み付けながら独白する孫権の姿。それは恐らく、ムリをしている孫権の内から涌き出る痛々しさから来るのだろう。

向田

「…やっぱりさ。孫権は俺が守る」

孫権

「何?」

向田

「孫権が兵のみんなを守るなら、孫権は俺が守ってあげるよ」

孫権

「……き、貴様に出来るのか?」

向田

「出来る、と信じて、俺は俺の出来る事を精一杯にやる。そうやって……守ってあげる。孫権を」

孫権

「……ふ、ふんっ。期待はせん。でも……好きにすれば良い」

向田

「ん。好きにする」

孫権

「……変な奴だ。私はもう行く……貴様も惚けすぎて作戦決行に遅れんようにしろ」

向田

「了解。また後でな」

孫権

「……ふんっ」つんけんした感じで背を向けた孫権だったが、髪から微かに見える耳が、びっくりするぐらい真っ赤に染まっていた。しかし……我ながらどうしてあんな事、口にしたんだろう。自分でいうのもアレだけど結構なヘタレだぞ、俺。意地っ張りな孫権の態度に当てられたのかな?

向田

「何か……案外分かりやすい性格かも。すぐに顔に出るしなぁ」ほんの数分、言葉を交わしただけ。それで全てが分かったとは思わない。だけど……孫権がどこかムリをしている事は、何となく分かった気がした──。

 

 作戦決行の時がやって来た……。

冥琳

「作戦を開始する。興覇、幼平。行け!」

思春・明命

「「はっ!」」

向田

「ドラちゃん、頼んだよ」

ドラちゃん

『クゥーッ!腕が鳴るぜ♪』

冥琳

「黄蓋殿は雪蓮と共に正面へ。後は作戦通りに頼みます」

「任せておけ。策殿、行くぞ!」

雪蓮

「了解……蓮華、行ってくるわね」

孫権

「はい。お気を付けて……」雪蓮と祭さんは直属の部下を集めると、その中の隊長クラスの兵士さんへ指示を出す。

雪蓮

「孫策隊、出るぞ!」

兵士(モブ)

「応っ!」

「黄蓋隊も続く!皆、儂についてこい!」

兵士(モブ)

「応っ!」

冥琳

「穏は蓮華様と後ろへ下がれ」

「はーい!行きましょ、蓮華様♪」

孫権

「待て……向田。武運を祈っておいてやる」

向田

「ありがとう」

孫権

「うむ……行くぞ、穏」俺にそう言って、孫権は軍の後方へ駆け出していった。

「あ、待って下さい、蓮華様ぁ~」おいてけぼりを食らう穏。やっぱりこの娘、基本はトロいんだな……

向田

「……うーん。ツンデレだなぁ」

冥琳

「なんだソレは?」

スイ

『ね~あるじー。それ美味しいのぉ~?』キョトンとした顔で問うてきた冥琳に俺は説明する。あとスイよ、食べ物の名前じゃないからな。

向田

「天の言葉といったところかな……普段はつんけんしてるのに、たまーに優しいところを見せる子、またはその様子の事」

冥琳

「……ふっ、言い得て妙な言葉だな」苦笑する冥琳の遥か後方、城の正門の辺りから、腹に響き渡るほどの(とき)の声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




因みに実在するM社のホットケーキミックスのパッケージ裏に、アメリカンドッグの作り方が書いてあるかどうかは私も知りません。テキトーに書いただけです。
m(._.)m
蜀軍勢のオリキャラもまだまだ募集していますので、活動報告によろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二席従魔トリオ、ダンジョンに向かうのこと

ちょっと原作から逸れて、ダンジョン行きます。σ( ̄∇ ̄;)
活動報告にアイディアを下さったぷっち0035様、藤村紫炎様、この場を借りてお礼申し上げます。まだ募集は締め切ってないので、そちらもヨロシクお願いします。


向田

「始まった──!」

冥琳

「落ち着け。まだ火の手が上がってはおらん」

向田

「う、うん」早くなった鼓動を抑えようと、深呼吸を繰り返しながら、俺は冥琳に尋ねる。

向田

「……ところでさ、雪蓮と祭さんの2人が突入した後、総仕上げをするって言ってたけど。具体的に俺は何をどうやったら良いんだ?」

冥琳

「別段難しい事ではない。お前は部隊を率いて、城門の上から突入部隊を狙撃しようとする敵兵を、徹底的に排除すれば良い」

向田

「……というと?」

冥琳

「弓兵に号令を掛けるだけで良いという事だ」

向田

「……なるほど」つまり……俺の命令で敵を殺せって事か。

??

『ホホウ。お主も一端の指揮官らしくなってきたのぅ』突然、頭の中に声が響いた。

向田

『デミウルゴス様!』

デミウルゴス

『それで良い。お主はただ、お主の決めた道を進むのじゃ。それがひいてはその大陸の為になるからのぉ。では儂は失礼するぞい』

向田

『えっ?ちょ、ちょっと待って下さいよ、デミウルゴス様ぁーっ!』何がしたかったんだ、あの創造神様は……。

冥琳

「……どうした向田?」

向田

「あ、ああスマン」デミウルゴス様とは念話で会話していた為、声は出してなかったけど、取り乱した様子は冥琳にバッチリ見られていた。

冥琳

「まぁ良い。それよりさっきの話だが……」

向田

「ああ。部隊を率いて指示を出すって事か」

冥琳

「……出来んか?」

向田

「いや……やるよ」責任を取るって誓ったんだ。自分で吐いた言葉を翻したくはない。……例えそれが俺の身勝手な感覚だとしても。何よりデミウルゴス様のお墨付きも貰ったしね。

冥琳

「そう言ってくれると信じていた。ならばお前には左を任せよう。潜入部隊の合図を──」打ち合わせの途中で、兵士さんから通達が入った。

兵士(モブ)

「周瑜様!城で火の手が上がりました!」明命、思春、ドラちゃんか。首尾よくいったみたいだな。

冥琳

「よし!向田は左翼前線に進め!」

向田

「了解!」

冥琳

「周瑜隊は右翼前線へ!黄巾党を殲滅するぞ!」

兵士達

「「「「応ぅーっ!」」」」

 

明命

「敵の大将旗が倒れました!」

雪蓮

「よし!今こそ決戦の時!皆の者、雄叫びと共に猛進せよ!」

兵士達

「おおぉぉーっ!」雪蓮の言葉に応えるように、各所で兵士さん達の雄叫びが上がる。

「殺せ殺せぃ!賊を人と思うなよ!餓えた獣を狩り尽くせぃ!」

思春

「甘寧隊、追撃する!」

兵士達

「「「「応っ!」」」」

明命

「周泰隊は敵側方に回り込み、横撃を掛けます!我が旗に続いて下さい!」

兵士達

「「「「はっ!」」」」各所で闘っていた兵士さん達が、それぞれの指揮官の旗の下に集まっていく。その集団が、逃げる黄巾党の残党に、怒濤のような勢いで追いすがり、追い散らし──無造作に命を奪っていった。やがて、黄巾党は全て殺し尽くされ──長く感じられた闘いは、ようやく終結した。

雪蓮

「皆の者!勝ち鬨をあげよ!」

兵士達

「おおおぉぉぉーっ!」天に木霊する兵士達の雄叫び。その雄叫びを聞きながら、恐怖か、興奮か……自分でも分からない感情の渦に、俺は戸惑いを覚えていた──。

 闘いに勝利した俺達は、本拠地に向かって凱旋の途につく。その途中──

 

向田

「ふぅ……」すっかり軍の料理担当にされてしまった俺は、兵士さん達とウチの食いしん坊トリオの晩飯を作ってから、ようやく人心地吐いていた。何だろう……闘いに勝利した時の興奮が、未だに身体を火照らせている。

向田

「眠れないなぁ……」グースカ眠るトリオを尻目に、俺は恐怖、興奮、安堵……そんな別ベクトルの感情が渦巻いて、頭の中は混乱状態だった。──と、そんな中。

孫権

「……また一人で考え事?」昼と同様、孫権が傍に歩み寄ってきた。

向田

「ん?ああ、孫権か……仰る通り、色々と考え事の最中だよ」

孫権

「何を考えているの?」

向田

「何だろね……自分でも良く分からない」

孫権

「ふ~ん……?」

向田

「ただ、まぁ……戦が終わって、生き残る事が出来て。良かったなぁって気持ちが、頭の中の大部分を占めているのかも?」

孫権

「その割には浮かない顔ね」

向田

「んー……勝利の興奮っていうのもあるんだけど、そこに恐怖とか、安堵感とか、そういった感情があってね……自分でも、今の自分の感情を計りかねてるんだ」

孫権

「そう……案外、色々と考えているのね、あなたって……」

向田

「ははっ、一応ね」デミウルゴス様が俺に何をさせたいのかも気になるし。流石にそれは黙っていたけど。

孫権

「……」

向田

「……それより。孫権はどうしてここに?眠れないのかい?」

孫権

「あなたに言いたい事があったから……」

向田

「俺に?」

孫権

「……(コクッ)」小さく頷いたまま、孫権は黙り込んでしまう。

向田

「あー……と。言いたい事って何でしょう?」

孫権

「あ……あなたの、その、闘いぶりはしっかりと見させてもらったわ」

向田

「闘いぶりって……まぁ、剣を持って闘うって事は出来なかったけどさ。はは……」

孫権

「それでも。安全なところに隠れる事もなく、闘い抜いたでしょう……少し見直したわ」まぁ実際、【絶対防御】のスキルがあるからね。あれで、相手が魔物とかだったらスタコラと逃げていただろうけど、人間相手だと、不思議と平気だったなぁ。

向田

「ありがとう……」ここは素直に褒められておくとしよう。今はまだ、俺の事を全て話す時機じゃない気もするし。

孫権

「それで、その……失礼な事を言った事に対して謝罪しようと思って……」

向田

「謝罪?良いよそんなの。孫権が言っていた事だって、当然の事だと思うし」むしろフェルの不遜な態度を、改めて俺が謝るべきじゃないか?

孫権

「いいや。私が悪かったのだ。お前や従魔は悪くない」

向田

「いやいや。孫権は悪くないってば!」

孫権

「むぅ……そんな風に言われてしまうと、謝る事が出来ないじゃない……」

向田

「謝らなくて良いんだよ……孫権は孫家の一員として、王となるべき人間として、気を張ってるんだって知ってるから。最初に会った時に言われた言葉も、俺は別に気にしてないよ。当然だって思うし……だから謝らなくても問題なし!だろ?」

孫権

「……」

向田

「な?だから孫権も気にしないでくれ」

孫権

「気にしないでくれと言われて、そうかって納得出来るほど、私は薄情じゃない。だから……私の気の済むようにさせて欲しいの……ダメかしら?」

向田

「いや、その……うーん……ホントに気にしなくても良いんだけど?」

孫権

「それでは気が済まないの」

向田

「……分かった。なら孫権の好きにしてくれ」

孫権

「ありがとう」微かに微笑みを浮かべた孫権が、ゆっくりとした動作で手を差し出してくる。

孫権

「私の真名は蓮華という……この名、お前に預けたいと思う」

向田

「え、ええっ!?ちょ……良いのか?」

孫権

「ああ……これが私のケジメの付け方だと、思ってくれ」

向田

「……分かった。じゃ謹んで真名を頂戴するよ……改めて。向田剛……よろしく、蓮華」言いながら、差し出された手をゆっくりと握りしめる。

蓮華

「よろしく。剛……」俺の瞳をジッと見つめ、月明かりを浴びながら柔らかな微笑みを浮かべた蓮華の姿に、俺は言葉を発する事も忘れ、見惚れるしかなかった──。

 

 蓮華。誇り高き王族か……全く、最初にこの世界へ俺を召喚したレイヘセル王国の連中にあの娘の爪の垢を煎じて飲ませたいよ……イヤ、爪の垢でもあいつらには勿体ないな。そういやあの国って王族共があまりにバカ過ぎて、結局滅んだんだっけ?まぁ過去の事はどうでも良いか。

 蓮華と本音で話せたおかげか、さっきまでのモヤモヤが解消されて、俺はスッキリした気分で床についた。

 

 本拠地に戻った翌朝、俺はいきなりトリオに起こされた。

フェル

『帰り道の途中でダンジョンを見つけた。早速行くぞ』

ドラちゃん

『この前の闘いは今一つ暴れ足りなかったからなぁ。ダンジョンで憂さ晴らししようぜ!』

スイ

『ダンジョン♪ダンジョン♪』君達、気楽に言うけどね、今の俺達にはそう簡単な話じゃないんだよ。そもそもここの人達がダンジョンという存在を理解してるのかどうか……まずは冥琳辺りに相談しないとな。朝から重い気分で自室を出る俺。

 

冥琳

「だんじょん?魔窟の事か?」ここではいわゆる[横文字]が通じないからな、ダンジョンはそう訳されるのか。

向田

「ああ。フェル達がその魔窟に行きたいそうなんだけどさ」ダメと言われる覚悟で一応、許可を申し出たんだけど……

 

冥琳

「……ふむ。丁度良いかもしれん」えっ、何が?

雪蓮

「なーに?二人で楽しそうね」

「面白そうじゃの。儂らにも一枚噛ませてもらおうか」雪蓮と祭さんが話に割り込んできた。うわぁ、2人共悪い笑み浮かべてんなぁ……

冥琳

「向田が従魔達を魔窟へ連れて行きたいと言うのでな。ついでに兵達も一緒に鍛え直すのはどうかと思うのだが?」冥琳、そんな事考えてたんだ。うん、それ自体は賛成かな。

向田

「けどさ、そのダン……魔窟がどれだけ危険か分からないだろ?だから先にフェル達と色々確認したいんだ」

冥琳

「それもそうだな、向田。お前達は一足先に行ってこい。我らも準備が整い次第そちらへ行く」

雪蓮

「当然私達も行くわよ」

「勿論じゃ」ちょ、ちょっと!国の首脳陣がみんな留守になっちゃマズいでしょ!?

冥琳

「安心しろ。ここには蓮華様と穏、思春が残る」あ~良かった。うん、蓮華なら問題なし!と、いう訳で俺とトリオは江東から離れた、孫家の管轄地にある魔窟ことダンジョンにやってきた。

向田

「とりあえず最下層まで進んでみよう。俺も解説役としてダンジョンの様子を見なくちゃならんし」

フェル

『あい分かった。しかしこの大陸にきて、初めてのダンジョン。実に興味深い』

ドラちゃん

『どんな仕掛けが待ってんだろうな?ワクワクしてきたぜ』

スイ

『ワ~イ♪ダンジョン楽しみ~』もう好きにしてよ君達……

 

 思っていた通り、この大陸のダンジョンも中は魔物でいっぱいだった。ゴブリンにオーク、巨大な蟲系の魔物と、内容は向こうのダンジョンと変わらずスタンダードなモノだったが。いや、ホント勘弁して欲しいんだよな。

 そんな階層が地下3階まで続く。ここまでボスクラスは現れず、

ドラちゃん

『何だよ、雑魚ばっかじゃねえか』

スイ

『楽チンだね~』と消化不良気味のスイとドラちゃんに、フェルが待ったをかけた。

フェル

『スイ、ドラ、油断するな。そろそろボスのお出ましだ。しかも今回は我も見た事のない魔物のようだぞ』1000年以上生きてるフェルが見た事ないって……どんな魔物なんだよ?もう不安しかないよ。

フェル

『お主は下がっていろ。スイとドラは気を引き締めろ』フェルが注意すると、奥からドスン、ドスンと耳だけじゃなく全身に響く、デカい足音が聞こえてきた。

 出てきたのは、フェルの10倍ぐらいデカい巨人。しかも首がなくて、胸に目が、腹に口がある化け物だ。オイオイ、フェルにスイにドラちゃん。あんなの相手に勝てるのかよ?俺は物影に隠れながら、こっそり鑑定のスキルを使った。

 

【刑天】

 SSランクの魔物。両手に持った斧と盾で攻撃を仕掛ける。魔法は特に使わない。

 

フェル

『良いか2人共。あれは我らが今まで闘ってきた中でも、恐らく最強の魔物だ。だが決して勝てん相手ではない』

ドラちゃん

『ったり前じゃん。俺達ゃ絶対負けねぇってーの!』

スイ

『あの巨人さんをやっつけるんだね~。スイ頑張るよ~』あんなのを目の前にしても、怖いもの知らずのトリオは果敢に闘いを挑みに行ったよ。あ~もうどうとでもなりやがれ!

 

 




果たして勝つのは?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三席鶏天と、久し振りにカレーリナに帰るのこと

ダンジョン編は今回で終わります。次回から恋姫の原作に少しずつ戻る流れになります。


フェル

『フンッ、一捻りにしてくれる!』

ドラちゃん

『あんな木偶の坊、俺達の敵じゃねぇ!』

スイ

『いっくよーっ!』

 

ザシュ!ザシュ!

 

ドゴッ!ドゴッ!

 

ビュー!ビュー!

 

 フェルの爪斬撃、ドラちゃんの氷柱を落とす氷魔法、スイの酸弾が刑天に炸裂しまくった。最初は全く怯まない巨人だったが徐々に攻撃が効いてきたようで、30分ほどで遂に膝をついた。

フェル

『よし、奴はもう動けまい。スイ、ドラ、腹にある口に集中攻撃だ』

ドラちゃん

『窒息させるんだな。やってやるぜ』

スイ

『分かったよ~フェルおじちゃん』スイが触手を伸ばして、ホースのように水を噴射させて、刑天に飲ませる。息が詰まったところへフェルが雷を落として、炎を纏ったドラちゃんが口の中を目掛けて突撃した。

 ズッシーンッ!刑天は轟音と共にその巨体を地面に叩きつけた。一瞬後、その体は消滅し、ドロップ品に姿を変えた。ここまで所要時間37分と、このトリオにしてはかなり長く闘っていた。つーか、普段が異様に早いからね。

向田

「魔石と皮が出たな。後は持っていた斧と盾か」でもここって魔石を使う施設とかないんだよな。皮や武器もあまり役に立たなそうだし、【ど○でも○ア】でカレーリナに戻って、冒険者ギルドで売ろう。そして宝石に換えるか、買取金で物資を買うなりしてこっちへ帰って来れば良いかな?などと、俺が有効利用する方法を考えていたら

フェル

『大暴れして腹が減った。メシだ』

ドラちゃん

『そうだよ!メシメシ!』

スイ

『ご飯~』ヤッパリね。そう言うと思っていたから、ちゃんと用意してあるよ。

 今日は大分県名物、鶏天を用意した。何でかっていうと、久し振りに俺が天ぷら食いたかったから。勿論、トリオが普通に野菜天ぷらで満足する訳ないから鶏天にしたんだけど。野菜天は俺1人で楽しむ事にしよう。

フェル

『ん、これはカラアゲか?』

向田

「天ぷらだよ。みんなにはコカトリスの鶏天、俺は野菜オンリーだけどね」カツやフライはともかく、ヤッパリ天ぷらは野菜が一番旨いよな、魚も好きだけど(個人の感想です)。鶏天に大根おろし入りの天つゆを絡め、トリオに出してから早速玉ねぎのかき揚げにかぶりつく俺。

「くぅーっ!ヤッパかき揚げ旨ぇよなぁ」これはビールが欲しくなる。けど、この大陸のダンジョンにセーフエリアがあるかどうか分からないし、今は我慢するか。そうなれば、白飯の出番だな。続いて茄子天にさっきの天つゆを絡めて白飯をかきこむ。更に秘密兵器。抹茶塩をカボチャ天にサッと振りかけて、これはそのままパクついた。

向田

「最高~。カボチャの甘さと抹茶塩の仄かな苦味がマッチしてるよ」

フェル

『その緑の粉は旨いのか?』

向田

「う~ん、少し好みが分かれるかもな。俺は好きなんだけど」試しにみんなの鶏天に振りかけてやったけど、苦いって拒否されたよ。

向田

「フェル達にはこれが良いかな?」俺はこのあと使うつもりで購入したカレー塩を提供した。こっちは好みに合ったようで、

フェル

『カレーとは以前食ったヤツだな。あれとはまた風味が違うが、これはこれで旨い』

スイ

『あんまり辛くな~い♪スイこれ好き~』

ドラちゃん

『さっきのサッパリしたテンツユも旨いけど、これもピリッとしてて鶏天ってヤツに合うな』辛いのが苦手なスイも喜んでいる。さて、魔導コンロと食器を片付けて、更に下へ進みますか。

 

 その後、地下6階に下りると再びエリアボスに遭遇した。どうやらこのダンジョンには3階毎にボスが存在しているようだけど、その異様な姿に俺は言葉を失った。何だこれ……?ミノタウルスの牛の部分が馬になったバージョンの魔物だ。

 

馬頭(めず)(別名ミノヒッポス)】

SSランク。武器は鉄製の杵。

雑食だが、特に肉を好む。

 

 イヤ馬だろ!?普通草食じゃねえのかよ!?何で肉好きなんだよ!?突っ込みだしたらキリがねえよ!

フェル

『お主……少し落ち着け』フェルに諭されて、我に返った俺は大きく息を吸い込み呼吸を整えた。

向田

「さっきの刑天ほどデカくはないけど、SSランクって事はかなり強いんだろうな」

ドラちゃん

『お前ホンット心配性だなぁ。大丈夫だっつーの!』

フェル

『一気にたたみかけるぞ』

スイ

『お馬さんやっつける~♪』そして数10分で消え去る馬ミノヒッポスこと、馬頭。こいつからもドロップ品として皮と魔石が手に入った。それとこれは……背骨?鑑定してみようか。

【馬頭の背骨】

武器に適した素材。

剣にすればミスリル鉱石も切断可能。

 

 ……とんでもないモノ手に入れちゃったよ……これもカレーリナで売るか。それまでアイテムボックスにしまっておこう。俺達は飯を食ってから、また下の階に進んでいった。

 

 結局、ダンジョンの最下層は地下12階で終わっていた。エリアボスの(ほう)(これがまた、フェルの30倍ぐらいはありそうなデッカい鳥系の魔物だった)を1時間ほどかけて倒したトリオと俺はその奥に扉を見つけた。その先を進むと裏口っぽい場所に出た。ぐるっと回って反対側を見ると、ダンジョンの入口がある。俺達、最下層まで下りていったんだが……ダンジョン、恐るべし。

フェル

『あの扉は転移の魔法が付与されていたようだな』

向田

「そうだな。とにかく無事に帰ってこれて良かったよ……」

ドラちゃん

『それはそうと、あいつら遅えな』確かにな。俺達はあっという間に着いたけど、並の人間の足でも、本城からここまで半日もあれば辿り着く距離だからなぁ。それからしばらくして……

 

冥琳

「待たせたな。向田」冥琳が50人ぐらいの部隊を連れて、俺達が立ち尽くしているダンジョンの入口にやってきた。その後ろには雪蓮と祭さんが、やはり同じぐらいの数の部隊を引き連れている。

雪蓮

「さぁ~って、魔窟に入るわよ♪みんな準備は良い?」雪蓮の号令もいつになく軽い。まぁ今回は戦じゃないからな、あんな気合い入った号令も必要ないんだろう。

「良いか皆の者!魔窟の化け物共を根絶やしにしてやるのじゃ!」祭さんは随分張り切ってるな……。

冥琳

「……黄蓋殿。先ずは中の様子について報告してもらわいませんと。で、向田。どうだった?」冥琳に問われた俺はこのダンジョンについて話す。ついでにフェルと一緒に、ダンジョンつまり魔窟とはどういう存在か、レクチャーさせてもらった。

雪蓮

「……魔窟は生き物?」

冥琳

「ただの魔物の住み処ではなかったのか」

向田

「あの……祭さん。そういう事なので、根絶やしには出来ません」

「そういうモンかのぅ。しかし、そのぐらいの気概を持って挑むべきではあろう?」

向田

「それは言えてますね。最下層のボ……大将はフェル達でも、倒すのに二刻(約1時間)ほど掛かりましたし」俺がそう伝えると、兵士さん達の顔が真っ青になった。

兵士(モブ)

「フェル殿達でも苦戦するなんて……」

兵士(モブ)

「俺達が敵う訳がねえ……」こらこら。逃げ腰になってどうすんの?俺なんて、いーっつも怖い目に遭わされてるんだからね。

フェル

「臆する事もあるまい。ボスは我らが倒したゆえ、一週間は復活せん」フェルがそう言うと部隊から安堵のため息が漏れる。

雪蓮

「でも雑魚はもう復活しているのよね?」

向田

「そのハズだよ。だから人間が挑むには、丁度良いかもね」かくして雪蓮達を含む、呉の部隊総勢153,名はダンジョンへと潜っていった。くれぐれもムリはなさいませんように……

 

兵士(モブ)

「ギャーッ‼」 

兵士(モブ)

「た、助けてくれ~!」

兵士(モブ)

「お母ちゃ~ん(泣)!」次々とダンジョンの入口に逆戻りしてくる兵士さん達にフェルもドラちゃんも呆れている。雪蓮、祭さん、冥琳は先に進んだみたいだけど、結局2階層まで行って戻ってきた。そこまでの所要時間は、俺達が最下層を踏破したのとほぼ同じ長さだった。

 翌日も雪蓮達はダンジョンに挑み続けた。そして一週間後。兵士さん達もエリアボスさえ出てこなければ、3階層まで行けるまでに鍛えられていたよ。

冥琳

「当初の目的は果たせただろう。雪蓮、黄蓋殿。引き上げましょう」

雪蓮

「えぇ~?もっと居た~い」

冥琳

「いつまでも本城を空けてはおけないでしょう?我が儘言わないの」

雪蓮

「城には蓮華が居るから大丈夫よぉ。ねえ祭」冥琳に諌められ、雪蓮は祭さんに同意を求める。

「残念じゃったな。儂も公謹に賛成じゃ」

雪蓮

「ぶーぶー」あ~あ。へそ曲げちゃった。膨れっ面の雪蓮は渋々といった様子で冥琳、祭さんと共に馬に乗って、ダンジョンを後にする。俺達もその後ろをついていって8日振りに本城へ帰還した。

 

冥琳

「さて、魔窟の化け物共が変化したこれらについてだが……」休憩もそこそこに、俺達は冥琳主導でドロップ品をどうするかの話し合いをしていた。

雪蓮

「この石とか、色が綺麗よね。宝石商なら高く買ってくれそうじゃない?」魔石を1つ手にした雪蓮が明かりにかざしながら、じっくり眺めている。

「特に骨やら皮なんぞ相場以前に、売れるかどうかも分からん」

向田

「俺がいた大陸なら何らかの素材として重宝されそうですね」

冥琳

「よし行くぞ」冥琳?行くってどこに?

冥琳

「知れたこと。お前が住んでいたかれえりなとかいう所だ。行けるのだろう?」冥琳がカレーリナについてくるのか?別に良いけど。

 

 俺は【ど○でも○ア】を展開して、冥琳と一緒にカレーリナに来ると、自宅に戻る前に冒険者ギルドへ足を運んだ。

ヴィレム

「おおムコーダ。久し振りだな」ギルドマスターのヴィレムさんが受付で俺達を出迎えてくれた。

向田

「ご無沙汰してます。実は珍しい素材が手に入ったので、買取りをお願いしたいんですけど、良いですか?」

ヴィレム

「勿論だ。お主が持ってくるモノにハズレはないからな、ここじゃなんだから倉庫へ……ウン?」やっと冥琳に気づいたヴィレムさん。

冥琳

「初めまして。私は向田の嫁候補の一人で周瑜といいます」ちょ、嫁候補って!?何を口走ってるのこの(ひと)ぉーっ!

ヴィレム

「アッハッハ!いつの間にか、こんな別嬪さんを嫁にするとは。お主も中々隅におけんなあ」ヴィレムさん信じちゃったよ!

向田

(おい冥琳。変な事言うなよ)

冥琳

(ん?間違ってはおるまい。あの日雪蓮に子作りしろと言われただろ?その中に私も入っているぞ)そんな気はしてたけどね。こうも表だって嫁と言われると、ハズいのを超して恐怖すら覚えるよ……。

 まあ、何だかんだで倉庫へ連れていかれた俺達は例のダンジョンで手に入れたドロップ品を出していった。

ヴィレム

「これはミノヒッポスの背骨か。良い剣の素材になる。後は魔石と……この斧は、随分デカいな。スプリガンの上位種が使っていたのか?」あ、刑天は知られてないのか。

向田

「スプリガンより図体のデカい、刑天とかいうのが持ってました。フェルが鑑定したので、魔物の詳細は分かりません」

冥琳

(鑑定はお前が'すきる'とやらでしたんじゃなかったか?)

向田

(俺が鑑定スキルを持ってるのは秘密にしているから、フェルがしたって事で通しているんだ。実際にフェルも鑑定スキルを持ってるしね)冥琳に改めて色々説明していると、

ヴィレム

「2人共。イチャつくのは後にしてくれんかのぅ」盛大な誤解を受けてしまった。恥ずかしくて、そそくさと屋敷に帰ったよ。買取り代金はこれから査定して、それからだと3日後になるそうだ。

 

 屋敷に帰るとアルバン一家とトニ一家、元冒険者の虎人3姉弟とドワーフのバルテルが、俺が女連れなのにスッゲえ驚いていたよ。ここでも冥琳は俺の嫁候補と自己紹介して、大騒ぎになった。しかもみんなが「嫁さんなら一緒が良かろう」と言って、俺は冥琳と一晩同じ部屋で過ごす事態になった。え?勿論何もなかったよ。そんな勇気、俺にある訳ないっつーの。正に針のむしろとはこの事だね。ハァー、今回は精神的に疲れたよ……【ど○でも○ア】で明日の、朝一番に帰ろう。こっちには金を受け取る日にまた来れば良いよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっぱりムコーダさんは甲斐性なし(笑)。これからに期待?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四席孫呉、反董卓連合に参加するのこと

董卓編が終わるまでメシ話はお待ち下さい。
今回、とんでも側の出番が少ないなぁ。トリオのセリフもかなりムリヤリ入れちゃったし……


~黄巾党のその後~

 

 黄巾党の首領、大賢良師率いる本隊を撃破した雪蓮の勇名は、大陸全土に広がった。江東の麒麟児と噂されるまでになった雪蓮の下には、街の若者達が集まるようになっていた。有力者達へ(今まで売れ残っていた)宝石や貴重な素材を売ると、資金繰りも良くなり、俺達の軍勢はその規模を大きくしていった。そうなれば当然、袁術の目と耳を気にしなくてはいけない。俺達は今まで以上に気を配り、フェル達の事を袁術に悟られないよう気をつけていた。やがて1ヶ月が経過し──。独立に向けて水面下で動き出していた俺達にとっての吉報が、この大陸を駆け巡る。

 それは漢王朝滅亡の足音──。後漢王朝第十二代皇帝、霊帝の死去の報だ。黄巾の乱によって無策ぶりと無能ぶりを存分に発揮してしまった後漢王朝。その要である霊帝の死去が奉じられてから、諸侯の動きが活発になる。

 大将軍何進と十常侍の確執から始まった混乱劇は、やがて霊帝の後継者たる少帝弁の暗殺に続き、最後には地方領主である董卓の手によって劉協という皇太子が献帝として祭り上げられるに至った。

 その内乱の最中、大将軍何進は十常侍に暗殺され、十常侍も何進の副将であった袁紹に殺され……そして十常侍の筆頭だった張讓が董卓に殺され、と血で血を洗う暗殺劇が繰り広げられていた。馬鹿らしく、滑稽でもあるその政争も董卓の手によって一応の鎮静を見たのだが──権力を欲する人間が居る限り、権力争いはどこまでも続き、大陸に嵐を巻き起こす。

 大陸全土に吹き荒れたその嵐──反董卓連合の檄文は、割拠し始めていた諸侯の心中にある、野心という名の炎を盛んに煽り立てる。そして、それこそ俺達が望んでいた混乱。独立する為の絶好のチャンスだった──。

 

 俺は冥琳と一度呉へ帰り、3日後に改めて1人でカレーリナに戻った。穏や蓮華も一緒に行きたがったが丁重に断ったよ。冒険者ギルドで買取金を受け取り、再び呉に帰ってきて、事のあらましを聞かされた。

雪蓮

「ふぅ……ただいま」ちょうど袁術の元へ出掛けていた雪蓮も帰ってきたところで、冥琳が尋ねた。

冥琳

「お帰り……首尾は?」

雪蓮

「上々……上々過ぎて拍子抜けしちゃったわ」

向田

「どういう事?」

 

~雪蓮の回想~

 

 剛が向こうの大陸から帰ってくる日、私は袁術の城にいた。今回は呼び出しじゃなくて、あるモノを見せる為に私から出向いていった訳だけど。

雪蓮

「袁術ちゃん。私のところにこんな檄文が届いたんだけど……そっちには来てる?」

袁術

「檄文?何じゃそれは?」

雪蓮

「貴女の従姉の袁紹からの手紙よ。はい」私は袁紹から送られてきた檄文を渡す。

袁術

「ふむ……では見て進ぜよう。ええと……んと……とうたくは許せないので、みなさん、やぁっておしまいー」

張勲

「あらほらさっさー♪」

袁術

「……なんじゃその掛け声は」

張勲

「いやぁ……何だか言わなくちゃならない気がして……えへへ」

袁術

「バカな事言っとらんで、七乃よ、この手紙を読んでたも。妾は手紙を読むのは嫌いじゃ」

張勲

「はいはーい♪ええとー……ふむふむ……ふんふん……なるほどぉ~」

袁術

「どういう事なのじゃ?」

張勲

「董卓さんが洛陽を制圧しちゃってるから、袁紹さんはそれが許せないみたいですねー。それでみんなで袋だたきにしますわよっ!って言ってます」

袁術

「何じゃそれは……めかけの娘の分際で、妾にこんな手紙を寄越すなんてふざけとるのじゃ」

雪蓮

「……私に来たんだけどね、それ」相変わらず他人の話を聞かない娘ね。

袁術

「もっと失礼な話なのじゃ!孫策の主は妾なんじゃぞ?妾を無視するなんて酷いのじゃ」

雪蓮

「……」誰が主ですって!(怒)腹が立つけどここはグッと堪える。耐えなさい私!

張勲

「でも美羽様ー。これって大陸全土の諸侯に送られてるみたいです……参加しないとあとあと面倒な事になっちゃいそうですよ?」

袁術

「例えそうだとしても、妾はめかけの娘の下になんぞつきたくないのじゃ!」

張勲

「もぉー。ワガママなんだからぁー」

袁術

「いやじゃいやじゃ!妾はいやなのじゃ!」いつも通り駄々を捏ねる袁術を見て、私は閃いた。

雪蓮

「……でもさ、袁術ちゃん。ちょっと考えてみなさいよ」

袁術

「何をじゃ?」

雪蓮

「これってさ、好機だと思わない?……袁紹が呼びかけて集まった諸侯を、貴女が上手く操れるとしたら?」

袁術

「ええと……どういう事じゃ?」

雪蓮

「袁紹と仲が良い振りをして、連盟で反董卓連合の発起人って事にすれば、今後、袁術ちゃんの発言力が強くなると思うの。それに首尾良く董卓を追い払って都に入った暁には……袁術ちゃん。袁術ちゃんが皇帝になる事だって不可能じゃないわ」

袁術

「妾が皇帝っ!?」

雪蓮

「そうそう。皇帝は既に董卓の傀儡でしょ?董卓を追い払えば実権が宙に浮く……それを袁術ちゃんがにぎれば、後はやりたい放題じゃない」

袁術

「妾が皇帝……」

張勲

「皇帝……新皇帝美羽様万歳!やりたい放題万歳!将来偽帝と呼ばれる事間違いなし!」張勲たら(呆)褒めてるようで、バカにしてるわよ……。

袁術

「妾は皇帝になるのじゃ!」

張勲

「なりましょう~♪美羽様、皇帝になったら蜂蜜水が飲み放題ですよ!あとあと、ごま団子とか桃マンとか食べ放題です!」上手くいった♪アッサリと私の口車に乗った袁術のバカさ加減に、ついニヤニヤしてしまう。

袁術

「食べ放題かや!う~ん……決めた!妾は皇帝になるのじゃ!妾が皇帝になった暁には七乃には杏仁豆腐で建てたお城をやるのじゃ!」うわぁー……やっぱりこの娘、バカだわ。

張勲

「杏仁豆腐で建てたお城!?わ~い!」

雪蓮

「……はぁ」張勲もナニ本気で喜んでんのよ?主が主なら、部下も部下ね……。

雪蓮

「じゃあ……袁術ちゃんは参加するのね」

袁術

「うん!するのじゃ!」

雪蓮

「分かったわ。袁術ちゃんが参加するんだったら、私達も参加するわね……袁術ちゃんが皇帝になる為に協力してあげる」

袁術

「うむうむ。良い心がけじゃな。今までの恩を返す為、しっかりと働くのじゃぞ」………何が恩よ、恨みしかないっての。(ムカッ)

雪蓮

「はいはい……」

 

~向田視点に戻る~

 

 戻ってきた雪蓮から話を聞いた俺達は、袁術のアホッ娘振りに脱力した。とりあえず一言言わせて欲しい。

向田

「杏仁豆腐の城ってなんだよ!そんなのすぐに潰れるだろ!脆いにもホドがあるわい!」

冥琳

「……向田。気持ちは分かるが、そんな本気で突っ込まなくても良いだろ?」全員にジト目で見られてハッとする。何か最近、突っ込みキャラになりつつあるな、俺。

雪蓮

「始めは袁紹が発起人って事で渋ってたんだけど、皇帝になれるかもって言っただけで、あっさり参加を決めちゃった……バカ過ぎるわ」

「さもありなん。強勢を張っているとはいえ、袁術はワガママな孺子(こぞう)でしかないからの」

雪蓮

「そうだけど。でも、もう少し張り合いが欲しいんだけどね……復讐する対象なんだから」

冥琳

「相手が愚かであればあるほど、それだけ楽が出来ると言うものよ」

雪蓮

「それはわかるけど、私の魂が満足してくれないのよ」

冥琳

「贅沢な事言わないの」

雪蓮

「はぁ~い……ま、袁術がバカだったおかげで、独立の好機が巡ってきたのは僥倖ってやつかな」

冥琳

「……いよいよね」

雪蓮

「うん。いよいよ……ううん、ようやく孫呉独立に向けて動き出せるわ」

蓮華

「ようやくですね……」

雪蓮

「ええ。だけどまだまだ……反董卓連合に参加し、諸侯の動きを見極める必要があるわ」

冥琳

「この戦の後にくる割拠の状況によって、我らが取るべき道も変わる、か」

雪蓮

「そういう事……皆、ここからが正念場。頼りにしてるわよ」

「応っ!」

思春

「はっ!」

明命

「はいっ!」

蓮華

「はいっ!」

「はいっ♪」

向田

「あ、ああ」

フェル

『やぶさかではない』

スイ

『は~い』

ドラちゃん

『しょうがねーなぁ』

 

 いよいよ独立に向けて動き出せる。その嬉しさを静かに噛みしめながら、皆は出撃準備に明け暮れる。諸侯は董卓を追い詰めようと必死らしいが、俺達にとってはそんな事はどうでも良い。この乱を足がかりにして、独立の準備を行う。それが俺達の基本方針だ。忙しい日々が過ぎていき、やがて──。出陣準備も一通り整った頃、袁術より出陣の命令が下った。

 

 俺が提供した宝石で得た金と、雪蓮の勇名を慕って、各地からやってきた屈強な兵士達で編成された、さしずめ孫呉軍団Ver2.0をを引き連れた俺達は、反董卓連合が駐屯している合流地点へと向かっていた。

雪蓮

「冥琳。反董卓連合に参加してる諸侯って、どれぐらい居るの?」

冥琳

「発起人である袁紹と、その尻馬に乗った袁術を筆頭に、北方の雄、公孫賛。中央より距離を置きながら着々と勢力を延ばした曹操。(さき)の乱で頭角を顕し、平原 *1の相と( しょう )*2なった劉備。そして我らが主な軍勢となるだろう」

「他にも涼州連合や、喬瑁さ( きょうぼう )に張貌さ( ちょうぼう )んといった太守達が参加していますね」

向田

「大なり小なり、野心を持つ人間が集まってきている……といったトコか」

冥琳

「さもありなん……既に後漢王朝が死に瀕してる今こそ、飛躍にはもってこいの時機だ」

雪蓮

「ただし、全員が飛躍出来るとは限らないけどね……さてさて。一年後まで生き残っていられるのはどの諸侯かしら」

「有能な人もいれば、無能な人も居る……なかなか予測はつきませんねぇ~」

雪蓮

「まぁねぇ……冥琳はどう見てる?」

冥琳

「ふむ……まず一人。人材、資金、兵力……全てを潤沢に用意している曹操だろう。次に我ら孫呉だ。向田のおかげもあって、資金も兵力も充実の兆しを見せているし、人材も揃いはじめている」

雪蓮

「ふむ……袁紹や袁術ちゃんはどうなの?」

冥琳

「確かに袁紹の兵は強大だ。だが北方に公孫賛という強敵を抱えてるし、率いる人材を上手く使いこなせていないように感じるな。袁術は我らが倒すだろう?」

雪蓮

「勿論」

冥琳

「なら、一年後、我らの天下取りの道のりを邪魔するのは、今のところ曹操のみという事になるな」

雪蓮

「なるほどね……けど、私はもう一人、気になる子が居るわ」

冥琳

「劉備か?」

雪蓮

「そ。義勇軍の大将だったのに、いつの間にか平原の相に成り上がってる。そして配下には勇将、知将が揃ってるって噂……人の和もある」

冥琳

「後は地の利か……今のところ、地の利だけが劉備にはないな。平原の東には公孫賛や袁紹。南には董卓と曹操……これでは領土の拡大は出来ん」劉備っていやあ、仲間には自衛隊OR軍人風の、現代人っぽいが居たな。まさかとは思うが、戦闘機とか持ち込んでたりして……?でもこの世界はまだ石油が発見されてないし、あったとしても動かせないか。なら一安心だな。俺が1人で納得しているのを横目で見ながら冥琳は話を続ける。

冥琳

「しかし気になる人物であるのは理解出来る……英雄となる人物かもしれんな」

雪蓮

「ふむ……なら一度話してみましょうか」

冥琳

「それが良いかもしれん」

雪蓮

「じゃあ時機を見て接触しましょう……剛」

向田

「へっ!?」

雪蓮

「何が、へっ、よ……最近、影が薄いわよ?」

向田

「あ、ごめん……ちょっと考え事をしてて」

冥琳

「ほお。その考え事とやらを拝聴したいな」そろそろ俺の正体を明かしても良い気もするけど、今はその時じゃないよな。こんなワタワタしてる時に『実は俺、異世界から来ました』なんて言うのは違うよな。それなら他の考え事について話そう。

向田

「……反董卓連合と董卓との闘い。これ、どっちが勝ったとしても、世は動乱の時代になる……ってのは良く分かるんだ。反董卓連合が勝てば、後漢王朝は既に必要なしと判断されてしまう……董卓が勝てば、そもそも後漢王朝が存続するハズがない。つまり国の要がなくなるって状況は、既に確定してる訳だろ?そんな中で、どうやって独立に向けて動くのか。それが気になって……ずっと考えてたんだ」俺の正体は、この闘いが終わってから話せば良いか。劉備達に接触する時が意外とチャンスかもしれないな。

冥琳

「ふむ……で、出した答えは?」

向田

「まず、今の大陸の状況って、かなり特殊な状況だと思うんだ。大陸全土を巻き込んで陣営の二極化が起こってる……董卓と、董卓に味方する人間。反董卓連合を組み、董卓を排除しようとする人間。そしてこの闘いに参加してない諸侯の目も、董卓と反董卓連合との闘いの成り行きに注がれている……今、演劇の舞台は洛陽で、観客達の目も洛陽に注がれているって事だよな。となると……今こそ、独立に向けて仕込みをするには絶好の機会じゃないかなって」

冥琳

「……うむ。良い答えだな」

向田

「お?じゃあ……」

冥琳

「ああ。既に動いているさ……蓮華様と黄蓋殿の二人が居ないのに気付かないか?」

向田

「……あ。そういえば」出陣した時には姿があったけど、今は居なくなってるな……

「お二方には建業に行ってもらってるんですよ♪」

向田

「建業って?」

雪蓮

「私達の本拠地だったトコよ」

向田

「本拠地だったって事は……孫家に関係のある人間が多いって事だよな?……何考えてる?」

雪蓮

「分かるでしょ?」

向田

「……ん。分かる。となると……この演劇では端役を決め込むつもりなのか」

雪蓮

「そうしたいけど出来ないのよねぇ。袁術ちゃんに二心を疑われないようにしなくちゃだし……」

冥琳

「それだけではないぞ、雪蓮。我らはこの闘いで知勇兼備の軍隊であるという風評を得ねばならん」

「しかも兵力の損失を最低限に抑えて、ですね」

向田

「うわ……それって凄く難しいんじゃないの?」余力を充分に残しながら、大陸に響く名声を得なければならないって……今はフェル達を出せないしなぁ。

冥琳

「難しくはあるが、やらねばならん」

雪蓮

「ま、今回は新人や若者達の修練の場って事でいきましょうか」

向田

「新人かぁ……」

冥琳

「そうだ。お前を筆頭にな」

向田

「うぇ!?俺ぇ!?」

雪蓮

「そっ。剛に明命、思春に穏……まぁ人数が人数だから、私と冥琳も出張るけどね」

向田

「うへぇ……」

冥琳

「幾たびかの闘いをくぐり抜けてきているとはいえ、戦場では経験が物を言う……しっかり励め」

雪蓮

「槍働きをしろとは言わないからさ……ま、男としての気概は示して欲しいかな?」

向田

「頑張る……よ」

雪蓮

「頑張ってね、新人さん♪」こうして俺達は反董卓連合が天幕を張る、大本陣へ向かっていった。

 

*1
一般名詞ではなく、地名。現在の平原郡と思われる

*2
現在日本でいう県知事のようなモノ




活動報告で募集した、蜀陣営オリキャラのアイディアが締め切り間近です。一応、3/4の23:59までとさせて頂きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五席雪蓮、劉備に接触を試みるのこと

ぷっち0035様、藤村紫炎様。お2方のアイディアを1つにまとめさせて頂きました。名前については、深くお考えならないで下さると有り難いです。
(^_^;)?


 劉備軍は俺達より一足先に、反董卓連合の大本陣へ合流していた。俺達が天幕に近づいて来ると、黒い髪をポニーテールにした女の子が額に手をかざしなから、こちらを眺めていた。

向田

「誰かに見られている……」

冥琳

「劉備軍の副将、関羽だな」へえ、あの娘が……鑑定してみるか。

【 名 前 】関 羽

【 真 名 】愛 紗

【 種 族 】人 間 

【 レベル 】122

【 体 力 】809

【 魔 力 】 0

【 攻撃力 】761

【 防御力 】754

【 俊敏さ 】643

【 武 器 】青龍偃月刀

 

 マジかよ……凄いステータスだな。魔力こそないけど、それ以外は俺のほぼ2倍じゃん。関羽は俺達の姿を確認すると、踵を返す。恐らく劉備へ報告に行くんだろう。

 

~その頃の劉備軍~

 

関羽

「桃香様。新たな部隊が到着したようです」関羽はおっとりした雰囲気の少女に報告する。この少女が後の蜀王、劉備玄徳である。

劉備

「新たな部隊って……どこの人かな?」

趙雲

「旗標には孫の文字……あれは江東の麒麟児の部隊だろう」ミステリアスな空気を漂わせた美女、趙雲が言う。

??

「へぇ~。やっぱり孫策も居るんだ」腕立て伏せをしながら趙雲に返したのは、この世界には不釣り合いな現代地球人でアマチュアレスラーの女性、巴慶子だ。こうして話ながらも、筋力を上げる為に腕立て伏せを続けている。因みにいつぞやのオリンピックでメダリストになった経験もある。

劉備

「江東の麒麟児?」

諸葛亮

「孫策さんと仰る方ですね。先代は孫堅さん。こちらの方も江東の虎と呼ばれた英雄です」説明するのは10才ほどの少女、諸葛亮孔明だ。いずれも本来の「三国志」ではありえない面々であった。

??

「うん?確か孫堅は反董卓連合に参加していたハズなんだが。俺が知ってる話と違うな」同じく現代地球人の北郷竜馬は首をかしげる。しかし、歴史が幾ら過去の地球に近くとも、ここは異世界。本来の三国志とズレがあっても、別におかしくない。そう思い直した竜馬は自身を納得させた。

劉備

「英雄さんの娘さんかぁ……スッゴく強い人なんだろうね」

関羽

「頼もしいお味方であってくれれば良いのですが」

劉備

「きっと大丈夫だよ♪」

張飛

「相変わらずのお気楽お姉ちゃんなのだ」

劉備

「うっ……酷いよ、鈴々ちゃん」

趙雲

「ふっ……まぁ孫策殿がどのような人物なのか、我らの敵になるのか、味方になるのか……その辺りは会って話をしてみない事には分からないでしょう」

??

「味方に出来んのなら、倒すまで。そうでなければ、精々利用させてもらうさ」3人目の現代地球人、及川隼人がニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。実はこの3人、元自衛官で、こちらに転移する以前は向田と同じ会社に勤めていた。但し、部署が違ったので直接会った事はないが。

劉備

「ん。そうだね……じゃあ今からお話しに行ってみよ♪」

関羽

「い、いけません桃香様。あと半刻ほどで軍議が始まるのですから」

劉備

「あ、そっか。忘れてた……んーと、それじゃ機会を見て、孫策さんのトコにお邪魔しよっ♪」

諸葛亮

「それがよろしいかと。ではあとで使者の方を出しておきますね」

劉備

「うん♪」

 

~向田視点に戻る~

 

 大本陣に着いた俺達の目の前には旗が何本も揺らめいていて、大勢の兵士がそれぞれ自分が所属する旗標の下に控えていた。

 

向田

「おおっ……こりゃ凄い。黄巾党の時に比べると、更に規模が大きくなってる」

冥琳

「当然だ。袁紹や袁術、曹操……野心ある人間ならば勢力拡大に力を入れるさ」

向田

「だけどちょっと早すぎない?……前回の闘いの時よりも2倍の数になってる気がする」

雪蓮

「それだけ風雲が近付いているって事でしょ……それより冥琳~。軍議に行ってきて~」

冥琳

「軍の代表が出るべきだと思うけど?」

雪蓮

「却下。興味ないもの」しれっと言い放つ雪蓮にため息を吐く冥琳。

冥琳

「はぁ~……」

雪蓮

「冥琳はそうやって溜め息吐くけど……どうせみんなが主導権を握る為に、腹の探り合いをするの、目に見えてるんだから。そんなところ行きたくないわ」眉間に皺を寄せて、露骨に嫌そうな顔をする雪蓮。

冥琳

「私だって行きたくないわよ」呆れ顔の冥琳だけど、結局は雪蓮の代わりに出席するんだろうな……ホント、毎度毎度ご苦労様です。

雪蓮

「でも行ってくれるんでしょ♪冥琳優しいし」

冥琳

「……貸し一つよ」

雪蓮

「了解……今度、寝所(しんじょ)で返しましょうか?」

向田

「ええっ!?」何言ってんのこの人は!そんな如何わ……いや、ってその……

冥琳

「変な想像をするなよ、向田」スミマせん、思いっきり想像しちゃいました。

雪蓮

「何で?良いじゃない。私達愛し合っているんだから♪」

冥琳

「……言ってなさい。じゃあ私は軍議に出る。穏!部隊への指示はお前に任せる」

「は~い♪では皆さん、天幕を張っちゃいましょ~♪」相変わらずほんわかとした口調で、穏は兵士に指示を出して陣地設営に向かった。

向田

「雪蓮はどうするんだ?」

雪蓮

「私?私は剛とお話でもしてよっかな♪」

冥琳

「……だそうだ。雪蓮のお守りを頼んだぞ向田」冥琳は俺にそう告げると、軍議の場へと去っていった。

向田

「……お守りだって。俺の手に負えるかな?」

スイ

『赤ちゃんじゃないのにお守りするの~?じゃあスイもお守りしてあげる~♪』

ドラちゃん

『こいつ世話が焼けそうだしなぁ……しょうがねえ、俺も手伝ってやるぜ』

フェル

『……全く。我が知る人の王に、ここまで情けない奴はいなかったぞ』

雪蓮

「むぅ。何気に酷い事言うのね、二人共」正確には4人だけどね……フェル達にまで呆れられて、唇を尖らせてむくれてる雪蓮。でも今回ばかりはトリオの方が正しいよ。

向田

「何せ気分屋なお方ですから」

雪蓮

「気分屋って何が?」

向田

「軍議。……やっぱり軍の代表が出た方が良いんじゃないの?」

雪蓮

「大丈夫だって。他人の腹の探り合いなんて、見ていて楽しいモンじゃないし。それに私が出るより、冥琳が出た方が色々と情報を集められるでしょ?」

向田

「うーん……そりゃそうかもしれないけど」

雪蓮

「適材適所よ。それより剛、みんな。一緒に話そうよ」

向田

「話すったって……何を話すんだよ?」

フェル

『我はさておき、スイもドラも人の言葉は話せぬぞ。理解はしているがな』

雪蓮

「てきとー」

ドラちゃん

『適当って……』ドラちゃんよ、それ以上突っ込まないでやってくれ。この人の性格は今更変わらないから。

向田

「……はいはい」

雪蓮

「どう?生活、慣れた?」

向田

「慣れたよ……まぁ戦場に出るってのは、いつまで経っても慣れないけど」

雪蓮

「怖いの?」

向田

「怖いよ」

雪蓮

「あはっ、素直ねぇ~」

フェル

『どこへ行ってもお主のヘタレっぷりは変わらんな』フェルさんや。余計な事は言わんでいいからね。

向田

「強がったって仕方ないからな。怖いモノは怖い……俺は人を殺すなんて事、出来そうにないから」

雪蓮

「うん。剛はそんな事する必要ないよ。あなたは私達の傍に居てくれるだけで良い」

向田

「……大して役に立たないけどな」

雪蓮

「そんな事ない。軍の料理番をやってくれてるじゃない。それに……」

向田

「……それに?」まぁ料理番はフェル達の飯を作るついでだし、別に構わないんだけど。

雪蓮

「……こうして話をしてくれてるじゃない」

向田

「へっ?そんな事で良いのか?」

雪蓮

「それが重要なのよ……呉の人間はね。本来、自分達が所有していたモノを全て掠め取られたの。その持ち物を取り返す為にずっと闘ってきた……だけど、闘いだけの毎日じゃ、獣と変わらない」

フェル

『うむ。人間が獣と同様の生き方は出来ぬ、か』

雪蓮

「そう。私達が人間だって。やってる事は間違いじゃないんだって。再確認して一息吐く為に、剛はスゴく役に立ってくれてるわよ」

向田

「そうなのかなぁ……」

雪蓮

「そうだよ……蓮華だって、あなたと話している時に女の子らしい事言ってたじゃない」

向田

「へっ?」

雪蓮

「この前の夜よ……黄巾党の本隊と闘う前、二人で話をしていたでしょ?」

向田

「あ……見てたのか?」

雪蓮

「うふふっ♪そういうね……女なんだって意識を思い出させる事、それが重要なの」

向田

「その為に俺が居る……」

雪蓮

「勿論その為だけじゃないよ?政治的に利用はさせてもらうけど」

向田

「それは初めから言っていた事だから、特に問題はないさ……世話になってるんだ。担がれる事に反対はしないよ」

雪蓮

「そう言ってくれるのは嬉しいけど……ホントは後悔しているとか?」

向田

「ないってば……この大陸で生きていく為に、俺だって雪蓮達を利用してる。だから別に問題はないんだって」つーか、世界の創造神様に頼まれちゃってるからね。後悔も何もない。

雪蓮

「ホント?」

向田

「ホント。それに俺は……(デミウルゴス様云々を別にしても)雪蓮達を支えたいって思ってるよ」

雪蓮

「あはっ、私も剛になら寄りかかりたいかな♪」

向田

「肩ならいつでも貸すよ」

雪蓮

「肩だけじゃなくて、身体も貸してね♪」そう言うと、雪蓮は俺の頬に軽くキスをする。人生初の体験にドキマギするが、何とか取り繕う俺。

向田

「こら。冥琳が見たら怒るんじゃないの?」

雪蓮

「冥琳も剛なら良いって認めてくれるから、剛を食べちゃっても怒らないわよ♪」な……雪蓮って、ホントに自由奔放だな。

スイ

『あるじを食べちゃダメ~!』

ドラちゃん

『共食いかよ?』

フェル

『スイ、ドラ。この場合、意味が違うらしいぞ。しかしそれは男が女に使う言葉だと、我は認識していたが?』フェル……スイやドラちゃんにそういう事教えなくて良いからね?

冥琳

「……ただし、面倒事を押しつけてる時は除いてね」

雪蓮

「あ、あら冥琳~。お早いお帰りなのね……」

冥琳

「……」

雪蓮

「しかもちょっとご立腹?……私、まだ剛を食べてないわよ?」

冥琳

「そこじゃないわ……他人の腹の探り合いにあてられたのよ」

雪蓮

「ああ、そういう事……軍議、どうだった?」

冥琳

「反董卓連合の総大将は袁紹に決まった……が、恐らく裏では、袁術がしっかりと糸を引いている事だろう」

雪蓮

「ふむ……それで?」

冥琳

「連合軍は一致団結して洛陽を目指すそうだ」

雪蓮

「まぁ当然よね、それは……で?」

冥琳

「それだけだ」

雪蓮

「……はぁ?何それ。どうやって洛陽を目指すとか、そういう作戦みたいなのは?」

冥琳

「ない。いや、あるにはあるが、これを作戦と呼ぶのは軍師としての誇りが許さん」

向田

「どういう事?」

冥琳

「連合軍は洛陽に向かう。途中にある汜水関、虎牢関を力尽くで押し切ってな」

雪蓮

「うわぁ……」

向田

「えっ……策も何もなく?ただそれだけ?」

冥琳

「はぁ……呆れ果てて何も言えなかったわ」

向田

「そ、そりゃ呆れもするなぁ……」うちのトリオじゃあるまいし、無謀以外のも何でもない。雪蓮もこいつらを未だに使う気はないようだし。

雪蓮

「で、先陣は誰が取るの?」

冥琳

「劉備の軍が取る事に決まった……まぁ、捨て駒でしょうね」

雪蓮

「状況を見ればそうとしか考えられないでしょうね……劉備は受けたの?」

冥琳

「受けた……というか、受けざるを得なかったというのが本音だろう」

雪蓮

「圧力をかけられたか……まぁ仕方ないか」

冥琳

「まぁね……しかしこの状況を乗り越えれば、あの勢力は大きくなると見た」

向田

「その根拠は?」

冥琳

「天の時と人の和。それをこの目で確認したからよ。関羽、張飛といった豪傑を従え、知将も多く揃っている。また、(さき)の大乱を利用して成り上がる天運もある」

雪蓮

「天下を担う英雄の一人になり得るって事ね」

冥琳

「ああ。しかも曹操よりは与しやすかろう」

雪蓮

「味方に引き込む?」

冥琳

「可能だろうな」

雪蓮

「ふむ……よし。なら劉備を助けましょうか」

向田

「恩を売るって事か?」

雪蓮

「そういう事……ま、私が会って話してみて、気に入らなかったら捨てるけどね」

冥琳

「それも手か……では劉備の陣地に使者を出しておこう」それからしばらくして……使者の兵士さんと入れ替わるように雪蓮、冥琳、俺とトリオは劉備の陣地へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリキャラの名前ですが、竜馬と隼人は、蜀編で出したゲッターロボの本家パイロット(本編では違う人物でしたが)と同じく本家恋姫の現代人北郷一刀と及川佑を( たすく )併せました。3人目は武蔵と弁慶の名前からご意見を元に、女性化させてみました。(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六席蜀呉、出会うのこと

切り方が中途半端になってしまいました……


 劉備の陣地では、さっきの関羽と10才ぐらいの少女が待ち構えていた。

関羽

「待て!お前達は何者だ?ナゼ我らの陣に入ってくる?」厳しい表情で俺達の前に立ち塞がる関羽。

冥琳

「控えろ。こちらにおわすは我らが呉の盟主、孫策様だ……陣を訪れる事は先触れの使者から伝わっているハズだが?」冥琳がムッとした顔で関羽を睨む。その関羽は雪蓮に向き直る。

関羽

「ああ。貴女が江東の麒麟児か……」

雪蓮

「何それ?」

向田

「雪蓮の事を、最近は皆がそう呼んでるんだよ……え、知らなかったの?」そういう俺も、ネットスーパーで買った資料で得た知識だけどね。でも当の本人が知らなかったとは……雪蓮らしいっちゃあ、らしいけどさ。

雪蓮

「全然。へ~、私ってそんな風に呼ばれてるんだ」

関羽

「貴女の勇名は大陸中の響いてますからね」

??

「お姉ちゃん、かっくいいのだー」人懐っこそうな子供が笑顔で雪蓮を讃える。

雪蓮

「あははっ、ありがと……でも、そういう貴女達二人の名は?」

関羽

「和が名は関羽。字は雲長」

張飛

「鈴々は張飛なのだ♪」あれ、張飛って2m近い大男じゃなかったっけ?こっちの張飛は随分可愛らしくなっちゃってるな……

雪蓮

「貴女達が関羽ちゃんに張飛ちゃんなのね……ねぇ、劉備ちゃん居る?ちょっと話したいから、呼んで欲しいんだけど」

関羽

「呼ぶ事は構いませんが……一体どのようなご用件でしょう?」にこやかな笑顔を見せる関羽。しかしその裏に濃度の高い警戒を浮かべて、雪蓮は顔色を窺う。本音を隠して動くって……雪蓮が一番嫌いなパターンなんだけどなぁ……。

雪蓮

「……下がれ下郎」

関羽

「何っ!」ああ……案の定かぁ……。

雪蓮

「我は江東の虎が建国した呉の王!王が貴様の主人に面会を求めているのだ。家臣である貴様はただ取り次げばよい」

関羽

「何だとっ!我らには主を守る義務がある!例え王といえども不信の者を桃香様に会わせられるか!それでもまかり通るというのならば、この関羽が相手となろう!」

雪蓮

「ほお……大言壮語だな、関羽。ならば相手になってやろう」両者武器を構え、一触即発の雰囲気を醸し出す……とは言うものの、多分、雪蓮はからかってるだけだろうけど。そこに、目のパッチリした女の子が駆け寄ってきた。

??

「愛紗ちゃん!どうしたのっ!?」

関羽

「と、桃香様……」

張飛

「愛紗と孫策お姉ちゃんがちょっと喧嘩したのだ。でも二人共本気じゃなかったから、お姉ちゃん、心配しなくても良いのだ」ほお。張飛、よく見抜いたな。

雪蓮

「あら。私が本気じゃないって、どうして分かるのかしら?」

張飛

「武器を構えたのに殺気がないのだ。だから鈴々は安心して見てたのだ」

雪蓮

「ふーん……スゴいわね、張飛ちゃん」

張飛

「お姉ちゃんもなー……」意外に観察眼の鋭い娘だな……張飛が話を続けようとしたところで、別の気配に気づいた俺はそこに視線を移す。

向田

「……そういう事だから、そこのお兄さん達。物騒なモノをしまってくれるかな?」俺は関羽の後ろで拳銃を手に、その銃口を雪蓮に向けていた、先日見かけた現代人風の男2人に話しかける。

隼人

「ふっ。気づいていたか……」

竜馬

「まさか呉にも、俺達と同じような奴が居たとはな」男2人は拳銃を腰に収めてその場を立ち去った。

雪蓮

「え、どういう事?」

向田

「後で教えるよ。それより今は劉備と話す事があるんじゃない?」

雪蓮

「……そうだったわね」

張飛

「愛紗も武器を収めて下がっているのだ」

関羽

「くっ……分かった」張飛と名乗った少女に説得され、関羽は武器を収めて後ろに下がる。

??

「すみません。愛紗ちゃんがご迷惑をお掛けしました……」

雪蓮

「別に構わないわ。どうせ関羽も本気じゃなかったでしょうし」

関羽

「……」どことなく悔しそうな顔の関羽。意外に本気だったのかもな。

雪蓮

「それより……貴女が劉備?」あ~、この娘が……何となくそうだろうなと思ってたけど。

劉備

「え?そ、そうですけど……貴女は?」

雪蓮

「孫策。字は伯符。呉の王よ……ま、呉の王といっても今は領土もなく、家臣も少ないけどね」

劉備

「あ……貴女が孫策さんだったんですかぁ」口を丸くポカンと開けて、劉備と名乗った少女がマジマジと雪蓮を見つめる。

劉備

「あの、それでご用の方は?」

雪蓮

「んー……とりあえず挨拶。後、ちょっとした提案をしにきたのよ」

劉備

「提案、ですか?」

雪蓮

「そ。貴女達、先鋒にさせられたのよね?」

劉備

「はい……」

雪蓮

「どう?勝てる見込み、あるかしら?」

劉備

「……正直に言うと、分かりません。愛紗ちゃんや鈴々ちゃんが居たとしても、絶対的に兵士の数が足りてませんから……董卓さんの軍勢とまともにぶつかれば、きっと負けちゃうと思います」

雪蓮

「そうよねぇ……だったらさ、手を組まない?」

劉備

「へっ!?」

雪蓮

「劉備軍と私達孫呉の軍が先鋒を取れば、兵の数も倍以上になるし。そうするゃ勝てる見込みも高くなるんじゃないかしら?」

劉備

「それはそうですけど……でも……そんな事して、孫策さんには何の得があるんですか?」

雪蓮

「あら。意外としっかりさんなのね」

劉備

「今まで鍛えられてきましたから。えへへ……」そっか……劉備も苦労してるんだな、少なくとも従魔は居ないだろうから、俺とは質が違うと思うけど。

雪蓮

「ふむ……」しばらくの間、何かを考えていた雪蓮が、劉備の顔を見つめながら言葉を続けた。

雪蓮

「良いわ。貴女を信じて、胸襟を( きょうきん )開いてみせましょう。知っているかどうかは分からないけど。呉の土地を奪われた私は今、袁術の客将という身分に甘んじてるわ。だけどこのままで終わらすつもりはない……母様が広げた呉の領土の全てを回復してみせる。その為には、外の味方が必要なの……分かるかしら?」

劉備

「だから私達に協力するんですか?」

雪蓮

「そう……そして劉備。貴女もこれからの割拠の時代を生き抜く為に、どこかで味方が必要でしょう?」

劉備

「……はい」

雪蓮

「お互いの利益が一致していると思うんだけど……私の勘違いかしら?」

劉備

「……いいえ。孫策さんの仰る通りだと思います」

雪蓮

「……なら、協力する?」

劉備

「どうして……私なんですか?」

雪蓮

「貴女が義理堅そうだから……信用できそうっていうのが一番大きな理由。次いで二つ目の理由は、貴女と私達の勢力が、今は五分五分だからよ」

劉備

「……なるほど。分かりました。でも……」

雪蓮

「何かしら?」

劉備

「孫策さんが信用できるかどうか、私にはまだ判断できません」

雪蓮

「ふむ……信義を見せろと?」

劉備

「そうです……」

雪蓮

「良いでしょう。なら見せてあげましょう」大きく頷いた雪蓮は劉備に背を向ける。

雪蓮

「孫呉の闘い振り、その目に焼き付けておきなさい。もし私が信頼するに足らないと判断したのならばそれはそれで良し……いつか戦場で矛を交えるだけよ」

劉備

「……分かりました。では孫策さんの信義、しっかり見させて頂きます」

雪蓮

「ええ。では一刻後に出発って事で良いわね?」

劉備

「はい」

 

 劉備との対面を終えた俺達は、出陣準備に向けて混雑する連合軍の陣地を突っ切り、自分達の天幕に向かっていた。俺はその間、改めて自分の出自を話した。

雪蓮

「じゃあ、剛も元々は異世界からきたって事?」

向田

「ああ。さっきも言った通り、ある国の勇者召喚に巻き込まれてね。それで冒険者をやっている内に、フェルやスイ、ドラちゃんを従魔にした。劉備のトコに居たあの3人がどういう経緯でこの世界に来たのかは分からないけど」

冥琳

「そうか……まぁ、お前が何者でも今更どうこう言うつもりもない」

雪蓮

「うんうん。剛は今まで通りで良いわよ」な、何かアッサリ締められたような気がするんだけど……冥琳とかもっと深く追求してくると思ったのに。雪蓮は……まぁ雪蓮だし、としか言い様がないか。それからは劉備について事を話し合いつつ、俺達は自分達の天幕に向かっていた。

 

雪蓮

「……中々やるわね、彼女」

向田

「彼女って……劉備の事?」

雪蓮

「ええ。うまく乗せられちゃったわ」

冥琳

「まぁ……こちらの言う事は全て疑ってかかってるようだったな。しかしそれぐらい出来ねば、この乱世では生き残っていけまい」

雪蓮

「そうなんだけどね。見た目に反して結構強か( したた )なのがちょっと意外だったのよ」

向田

「それは俺も思ったかなぁ……」見た目はほんわかしてる感じなのに、言動とか思考がスッゴく強かな印象を受けた。

雪蓮

「だけど、ああいう型の人間は、一度信用出来ると認めさせたならば、心強い味方になってくれるわ」

冥琳

「ならばまずは初戦。汜水関で信用を得なければならんな」

雪蓮

「だね……でもどうしよっか?」

冥琳

「汜水関に籠もる敵兵は八万から十万。我らと劉備の軍を併せてもそれには遥かに及ばないわ。また敵は汜水関という難攻不落の関に籠もっている……打つ手なしね」

雪蓮

「打つ手なし?そんなの必要ないでしょ。火の玉になって寄せるだけよ」

向田

「おいおい。最初の主旨と違うんじゃないの?」それじゃウチのトリオと一緒だよ。

冥琳

「向田の言う通り……雪蓮の言葉は戯れ言だから気にせんで良い」

雪蓮

「ぶーぅ。戯れ言なんて酷い!」

冥琳

「酷い発言なのだから仕方ないな……ところで向田。お前の意見を聞かせて欲しい」

向田

「意見って……汜水関をどうやって落とすかって事に対しての意見?」

冥琳

「そうだ。何か案はないか?」

向田

「案ねぇ……」難攻不落と言われる関に籠もっている、8万だか10万だかの敵を倒す方法……んなモンないな。それこそウチのトリオなら楽勝だろうけど。ダメ元で聞いてみるかな?

向田

「一応聞くけど、フェル達を使うつもりはないんだよね」

雪蓮

「ええ。それはなしね」

向田

「だとすると、ない……というか、そもそも前提が間違っていると思う」

冥琳

「どういう事だ?」

向田

「8万だか10万だかの敵軍が籠もる、難攻不落の砦を落とす方法って前提……多分、そんなモノはウチの従魔達にしか出来ないと思う」

冥琳

「……正論だな。ではそこに持って行くまでの棋譜*1を作成するか」

向田

「その方が現実的だろうね……まず第一に。兵力と砦。この2つを切り離す方法を考える。その後で、切り離した兵力と砦、双方に対処する為の方法を考える。最後に、兵力に対処する方法と、砦を落とす方法を考える……って感じかな?」

冥琳

「そうだな……ではまず情報の整理を行おう。汜水関に籠もるのは董卓軍の兵士、八万から十万。それを率いるのは驍将・張遼と猛将・華雄の二人」

雪蓮

「華雄って、母様にコテンパンにやられちゃった武将じゃない……大した事ないんじゃないの?」

冥琳

「さてな。あの時は華雄の同僚が暴走し、部隊が混乱を来した。その隙を文台様によって突かれて敗走したのだが……あの時の闘いを基本にして、華雄の能力を推し量るのは危険だろう」

向田

「人は反省して成長する生き物だからなぁ……過去に手痛い目に遇ってるなら、それを克服したと見て良いと思う」

冥琳

「そういう事だ」

雪蓮

「でもさー。華雄ってそんなに有能な将だっけ?」

冥琳

「こと武に関してはな」

雪蓮

「ふむ……厄介ねぇ……」俺達3人が顔を付き合わせて考えていると、それまで黙っていたフェルが口を挟んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
囲碁等の対局を記録した物。この場合は相手の出方を想定した作戦と思われる




フェルに何やら秘策があるようです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七席汜水関、到着のこと

回を進める度に、向田一行の性格が崩壊していくような気がする……


フェル

『お主らの話を要約すると……その者はさぞ誇り高いのであろう?』ふーん……フェルって意外に周りを見てるよなぁ。そういやスイやドラちゃんに対して、普段から指揮官役もしているし。

向田

「祭さんとか見てると、自分の信念とか誇りをスゴく大切にしてる気がするし」俺もちょっとだけ援護射撃をする。

冥琳

「ああ。武官にとって、武こそが己の存在を最も輝かしめる要素だからな」

フェル

『なら、その心理を逆手にとって誘き出せば良いではないか』

雪蓮

「例えば?」

フェル

『うむ……外から罵って、神経を逆撫でするとかどうだ。で、腹を立てて飛び出したところを叩く。我も獲物を狩る時、よく使う手だぞ』人間とフェンリルを一緒にするなよ……と、俺が突っ込もうとしたら、

冥琳

「ふむ……悪くはないな。だがもう一工夫欲しいところだ」あれ?採用されちゃったよ……驚く俺にドヤ顔を見せるフェル……何か腹立つな(ムカッ)。

向田

「工夫?」

冥琳

「ただ罵っただけで突出するような愚か者ならば、汜水関の守りなど任せられるハズはなかろう?」

向田

「あ……それもそうか」

冥琳

「きっかけを作らねばならんな。例えば……充分に罵り、愚弄した後、闘いを仕掛けて退いてみる……というのはどうか?」

雪蓮

「それまでの罵声で鬱憤が溜まってるから、出てきそうではあるわね。冥琳ってば性格悪いんだから♪」

冥琳

「策と言ってもらおうか……ただこの策にも問題点は幾つかある」

向田

「どんな問題?」

冥琳

「まず第一点。罵倒する側の人間の質だ。残念ながら我が軍には、大陸中に名の知れた者一人しかいない」

向田

「あ、そっか……」

雪蓮

「私がやっていいならやるけど?」

冥琳

「却下よ」

雪蓮

「えぇ~……面白そうなのに」

冥琳

「却下」

雪蓮

「はぁ~い……」

冥琳

「続いて第二点。あからさまにしゃしゃり出るのは不味い……袁術に勘ぐられる可能性もある」

向田

「あ……その可能性もあったか」

冥琳

「今は極力目立つ行動は控えねばならん」

向田

「それは分かるけど。でも……じゃあどうする?」

冥琳

「だからこそ劉備に会ったのだよ」

雪蓮

「あら。じゃあ劉備にその策を伝えるの?」

冥琳

「ええ。劉備軍ならば上手くやるでしょう。関羽、張飛が居るからね」

向田

「でも、それだと劉備軍だけが危ない目に遭うんじゃないの?」

冥琳

「初めはな。だがすぐに我らが駆けつけるさ……理由は先鋒を支える為、だ」

雪蓮

「それなら袁術ちゃんの目も誤魔化せる、か……じゃ、それでいきましょ」

冥琳

「了解した」

 

 おおよその方針を決めた俺達は、天幕に戻って出撃準備を開始する。

 きっかり一刻後。反董卓連合の総大将となった袁紹から、脱力ものの命令が発せられた。

 

袁紹

「さぁ皆さん!雄々しく!勇ましく!華麗に出陣しますわよ!」あのバカっ娘の袁術に良く似た雰囲気の、年齢は蓮華ぐらいと思われる金髪縦ロールのお嬢様然とした、袁紹が高笑いを上げている。

??

「うぉーし!先鋒、劉備隊進めー!」ショートカットの女の子、袁紹お付きの文醜が劉備に指示を下す。

劉備

「はいっ!」

??

「続いて、曹操さん、孫策さんの部隊、前進して下さーい!」もう1人の袁紹のお付き。髪をボブにした袁紹軍唯一の良心、顔良からの指示が曹操へ伝達される。

曹操

「……」あからさまに面白くなさそうな表情を浮かべる曹操。

雪蓮

「あらら。曹操ってば不機嫌そうね~」

冥琳

「気持ちは良ーく分かるがな」

雪蓮

「袁紹って……つくづく袁術ちゃんの従姉って感じがするモノね」うん、どっちもバカだしな。

冥琳

「そういう事だ……行こう、雪蓮」

雪蓮

「はいはい。みんな出陣するわよー」

思春

「はっ」

「はーい」

明命

「はいっ!」

向田

「俺達も行こうか」

フェル

『うむ』

スイ

『は~い』

ドラちゃん

『おうっ』袁紹の号令と共に動き出した反董卓連合軍は、洛陽への第一の関門・汜水関に向けて動き始めた。荒野を埋め尽くす人の波。風にはためく無数の旗。──決戦に向けて緊張が高まってくる。

 

 峡谷を幾つか抜けると、左右を絶壁に囲まれただだっ広い道に到着した。

向田

「ここが汜水関?」

冥琳

「正確には今、我らの目の前にそびえ立つ砦の事を汜水関というのだよ」

向田

「あれが汜水関かぁ……」絶壁の間にある道を塞ぐ目的で巨大な城壁が、敵を威圧するようにそびえ立っていた。

向田

「難攻不落っていうの……良く分かるなぁ、これ」

冥琳

「包囲される事もなく、正面を防ぐだけで良い。しかも敵は部隊を展開出来ない……大陸にある関の内でも完璧な防御施設一つだろうな」

向田

「うへぇ……こりゃ苦戦しそうだな」ウチのトリオ抜きってのは、かなり厳しいぞ。

「まぁ何とかなるでしょ~♪」

向田

「お気楽だなぁ」

「眉間に皺を寄せてうーんとか唸ってても、現実は変わらないですからねぇ~♪」

向田

「……そりゃそうか」

雪蓮

「穏の言う通り……さっさと作戦を実行しましょ♪」

冥琳

「分かったわ。じゃあ私は劉備のところに行って作戦の説明をしてくるわ……雪蓮達は戦闘準備を」

雪蓮

「了解……よろしくね」

冥琳

「ええ」冥琳はこちらの陣営を離れ、再び劉備の元へ向かった。それと入れ替わるように思春と明命が雪蓮の側に付いた。

雪蓮

「さて……準備に取りかかりましょうか」

思春

「御意。前曲は我らが仕り( つかまつり )ましょう」

雪蓮

「頼むわね。後は作戦の結果によって臨機応変に対応しましょ」

思春

「はっ」

明命

「剛様はどうやってお守りしましょうか?」

雪蓮

「従魔達が居るから、剛は大丈夫だと思うけど……どうする?後ろに下がっておく?」

向田

「……いや、俺も前に居るよ。雪蓮の側に居る」

雪蓮

「そう……乱戦になったら守ってあげられなくなるから、すぐに後ろに下がってよ」雪蓮なりの気遣いなんだろうけど、俺には【絶対防御】のスキルもある。それに、

フェル

『我らが居るから心配は要らぬ』

スイ

『あるじはスイたちが守るよぉ~』

ドラちゃん

『そうそう。それより自分の身を心配知ろっての』この3人が側に居れば敵兵も自ら近づこうとはしないだろう。

向田

「足を引っ張らないようにはするから。安心して」

思春

「……そう願おう。では孫策様。我らは前曲の編成を行います」

雪蓮

「ん。よろしくー」

明命

「御意!……ではです」明命と思春はこの場を離れ、(トリオを除けば)再び雪蓮と2人っきりになる俺。

向田

「うーん……思春にも嫌われてるんだな、俺」

雪蓮

「剛の事を?ああ、そんなの心配しなくて良いわ。あの娘は蓮華が大好きなだけよ」

向田

「それって、嫌われる要素満載って意味じゃんか」

雪蓮

「そんな事ないわよ?だって思春の目には蓮華だけが入ってて剛は入ってないもん」

向田

「えーっと……俺は眼中になし?」

雪蓮

「うん」バッサリ言われたーっ!

向田

「うわ……それはそれでへこむなぁ……」

雪蓮

「ま、蓮華と仲良くなれば、剛に好意を寄せるんじゃない?」

向田

「そういうモンかねぇ……」

雪蓮

「そういうモンよ……さ、雑談はこれでお終い。私達も部隊の編成を急ぎましょ」

向田

「了解」いよいよ汜水関攻略作戦が始まる──。体内で水位を上げていく緊張感。殺すか、殺されるか。だがそんな緊張感は恐怖という感情を呼び起こしはしなかった。元々のスキルにプラスして多分、雪蓮が側に居てくれるからかもしれない。やがて連合軍の本陣より、戦闘開始の命令が下った──。ハズなんだが……どういう事か、雪蓮は一向に軍を動かそうとしない。

向田

「……って。戦闘開始だろ?闘わないの?」

冥琳

「すぐにはな……もう少しすれば関羽と張飛が前に進み出るだろう」

向田

「罵声を浴びせるって作戦?……俺はまだ、闘いながらするんだと思ってた」

「闘いながらじゃ声が届きませんよぉ。それに余計な損害も増えますしね♪」

向田

「……そりゃそうか」

冥琳

「ようは華雄をどうやって引き摺りだすか、だ……華雄さえ引き摺りだせば、それに釣られて張遼も出てくるだろう」

雪蓮

「神速の驍将・張遼か……一度手合わせしてみたいわね」

冥琳

「却下……貴女は一度、あの五斗米道(ごどべいどう)の医者、華侘(かだ)にでも血を抜いてもらった方が良いわね」確かに雪蓮は血の気が多いとはいえ、血を抜けば良い訳でもないけどさ。ところで五斗米道って何だろう?

雪蓮

「強い奴と闘いたいって思うの、武人の習性なんだから仕方ないでしょ?」

冥琳

「武人の前に王だって事、忘れないでね」

雪蓮

「はぁ~い……あーあ、つまんないなぁ」

フェル

『いい気味だ。我らにあまり暴れさせぬ報いと思え』……ここにも血の気の多いのが居たよ。

冥琳

「向田」

向田

「何?」

冥琳

「雪蓮の手綱、お前に任せるからな」うぇっ!?む、ムリだってばそんなの!

向田

「え、4人目!?」

雪蓮

「従魔と一緒にしないでよ……」

冥琳

「心配するな。雪蓮ならお前に迷惑をかけるような事はせんよ……ねぇ、雪蓮?」

雪蓮

「……べぇーだ」

冥琳

「……だそうだ」いや、意味が分からん。

向田

「まぁ……頑張ってみるけど……頼むよ、雪蓮」

雪蓮

「知らない。私は私の気の向くままに動くだけよ」

向田

「おおぅ……勘弁してよ……とほほ……」うちひしがれる俺だったが、

フェル

『何ならこやつにはスイをつけよう』

スイ

『フェルおじちゃん。スイ何するのぉ?』

フェル

『うむ、この者が暴走せんように見張っておくのだ。出来るな?』

スイ

『うん、スイに任せて』フェルの言葉から会話の内容を察したのだろう、冥琳と穏が吹き出した。

冥琳・穏

「「……ぷっ!(笑)」」

雪蓮

「もう!みんなして酷い!」雪蓮はブーたれるけど、スイに世話かけるようじゃね……

 

「あっ!雪蓮様、冥琳様!前線の方で動きがありそうですよ!」

冥琳

「ようやく動くか!」

「……あ、嘘でした。ごめんなさい」思わずズッコける俺とフェルとドラちゃん。

雪蓮

「嘘?どういう事?」

「城壁の上の旗がブワーッて動き出したんですけど、どうしてか動きを止めちゃいました……」

冥琳

「ふむ……突出しようとして、張遼が止めた……と見るべきか」

雪蓮

「そんなところでしょうね」なるほど。華雄はともかく……張遼は知能が高いという事か。

 

~視点なし~

 

 その頃、汜水関にて。劉備軍に散々(なじ)られて、怒り任せに飛び出そうとした華雄を張遼が必死に抑えていた。

華雄

「離せ張遼!あれほど虚仮(こけ)にされて、黙っているなど私には出来ん!」ショートカットの銀髪に紫の鎧を纏った華雄が前に出ようと暴れている。

張遼

「待ちってば!あんなん見え透いた手ぇや!それに乗ってもーたら、それこそ敵の思う壷やで!」古代中国風なこの世界で、ナゼか関西訛りの、胸にサラシを巻き付けた張遼が、華雄の腕を引っ張る。

華雄

「くっ……だが、今まさに奴らは私達の武を愚弄しているのだぞ!それを許せると言うのか!」

張遼

「許せん。許せんよ!せやけどウチらは何としても汜水関を守らんとアカンねん!その為やったら罵声ぐらいいくらでも耐えたる!だからお前も堪えてくれ!」

華雄

「くっ……!」どうやら皮肉にも、向田の読みは正しかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 




久し振りに原作との違い
・華雄を引き摺り出す作戦を思い付くのは一刀→フェル
今回はほぼ恋姫の原作通り。もう少し、とんでも要素を入れたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八席張遼、華雄の扱いに困るのこと

話とは直接関係ありませんが、今日3/31日、志村けんさんが亡くなりました。ご冥福をお祈りします。


 あれからしばらく経ったが、全く進展がない董卓、反董卓両軍。

向田

「じれったいなぁ……なんかイライラしてきた」

雪蓮

「……動かないわね」

冥琳

「そのようだな……あまり良くない()だ」

「時間を掛ければ掛けるほど、相手に冷静さが戻ってきてしまいますからね……何か手を打たないと」

雪蓮

「ふむ……冥琳。私、ちょっと袁術ちゃんのところに行ってくるわ」

冥琳

「何をしにだ?」

雪蓮

「後で説明するわ……じゃあね」と言い残してこの場を離れる雪蓮。スイもフェルに言われた通り雪蓮を監視する為、その後ろをついていく。

 

 袁術が自らの陣地で暢気にダラケているところへ雪蓮が訪ねてきた。

袁術

「んくんくんく……プハァー!やっぱり蜂蜜水はさいこーなのじゃ!」

張勲

「美羽様ぁ~。孫策さんがいらっしゃいましたけどぉ~?」

袁術

「孫策が?何のようじゃ?」

張勲

「何でも、膠着している戦線を動かす作戦を伝える為だとか……何でしょうね?」

袁術

「ふむぅ~……よし、通して良いぞ」

雪蓮

「あら、ごめん。勝手に来ちゃってた」気づくと、袁術の目の前に雪蓮が居た。

袁術

「ふおっ!?無礼じゃぞ、孫策」

雪蓮

「ごめんごめん。ちょっと急ぎの用件だからさ」

袁術

「むぅ……まあ良い。それより何か作戦を思いついたという事じゃが?」

雪蓮

「そ。今みたいに、汜水関を囲んでいるだけじゃ、事態は動かないでしょ?事態が動かないと袁術ちゃんも活躍する事が出来ないし……そこでちょっと提案をね、持ってきたのよ」

袁術

「ふむ。苦しゅうない。続きを話すのじゃ」

雪蓮

「じゃあ話の続きね。知ってると思うけど、汜水関に籠もっているのは張遼と華雄……そのうち華雄の方は私と因縁があるの。だから私が前に出て、劉備軍と連携をとって華雄を挑発すれば、事態は動くと思うんけど」

袁術

「劉備軍と連携をのぉ……」

雪蓮

「でも私は袁術ちゃんの部下でしょ。一人で勝手に動くつもりはないけど、袁術ちゃんの命令があれば、すぐに動けるわ……どうする?」

袁術

「ふむ。では妾が命ずるぞ。孫策は劉備と連携して汜水関の敵を引っ張り出すのじゃ!」

雪蓮

「……了解。じゃあ今すぐに軍を動かすわ」雪蓮は自らの陣地に戻っていった。

張勲

「美羽様ぁ~、劉備軍との連携、許しちゃって良かったんですかぁ?」

袁術

「ふお?七乃は反対なのかや?」

張勲

「反対じゃないですけど、ちょっと心配だなって」

袁術

「ふむぅ……でも、きっと大丈夫なのじゃ。孫策は妾の部下だと認めていたしの」

張勲

「あ、そう言えばそんな事言ってましたね……大丈夫かー!」

袁術

「うむ!大丈夫なのじゃ!」

張勲

「ですよねぇ~♪あははー♪」やはりこの2人、今日も相変わらずのバカコンビであった。

 

雪蓮

「冥琳。さっさと軍を動かすわよ」袁術の元から帰ってきた雪蓮が告げる。

冥琳

「ん?いきなりどうした?」

雪蓮

「袁術ちゃんに許可をもらったの。私達は袁術ちゃんの命令で劉備軍と連携するわ」

冥琳

「……それを許すか。つくづくだな、袁術は」

雪蓮

「だけどあの娘、ワガママだから。気が変わる前に前に出ましょ」

冥琳

「そうしよう……興覇!幼平!」思春と明命を呼び出す冥琳。

思春

「はっ」

明命

「はいっ!」

冥琳

「劉備の横まで前進する。その後は華雄の挑発に参加するぞ」

思春

「はっ!」

明命

「了解です!」

雪蓮

「挑発には私も出るわね」

冥琳

「却下」

雪蓮

「却下は却下よ……今の状況を長引かせる訳にはいかないでしょ。なら私が餌にならないと」

冥琳

「……文台様を絡めて挑発するのか?」

雪蓮

「そういう事……良いでしょ?」

冥琳

「……分かった。興覇、幼平。二人共くれぐれも頼むぞ」

思春

「……(コクッ)」

明命

「お任せ下さい!」思春は無言で頷き、明命は気合いの入った返事をする。

雪蓮

「よろしくね。冥琳と穏、それに剛は後曲の部隊を指揮……釣り上げた大物を逃がさないようにしてよね」

冥琳

「心得ているわ……雪蓮。気を付けてね」

向田

「無茶したらダメだからな?スイも見張っといてよ」

スイ

『わかったー』

雪蓮

「ん……じゃあ行ってくる」

 

~その頃の汜水関~

 

兵士(モブ)

「華雄将軍!連合軍先鋒に新たな部隊!旗標は……孫です!」

華雄

「なにぃっ!」

 

~先鋒の陣地にて~

 

雪蓮

「はぁ~い劉備ちゃん。中々手こずっているみたいね」

劉備

「あ、孫策さん……敵さんが思ったより冷静みたいです。このままじゃマズいかも知れません……」

雪蓮

「うん。そう考えて私が前に出てきたのよ」

劉備

「え、でも大丈夫なんですか?」

雪蓮

「大丈夫。袁術ちゃんには許可をもらったし……腹立つけどね」

劉備

「あははっ。ところで、その足下のプルプルした丸いモノは……」

雪蓮

「これ?一応、私の監視役」

スイ

これ(・・)じゃなくてスイだよー!』抗議するように、ピョンピョン飛び跳ねるスイ。

劉備

「監視役……ですか?」

雪蓮

「まぁ、それは一時置いといて……とりあえず、華雄の挑発は私が受け持つわ。劉備は釣り上げた魚の調理をお願い」

劉備

「はい。でも……勝てるんでしょうか」

雪蓮

「大丈夫。勝てるわよ……劉備は張遼を。私達は華雄を。それを基本方針にしましょ。余力があったら助けるけど、こっちも限界ギリギリかもしれないから、その辺りは分かっておいて」

スイ

『スイがやれば簡単なのにぃ』とスイがボヤくが、その言葉は生憎と通じない。

劉備

「了解しました……私達の部隊だけで張遼さんと華雄さんを相手するトコだったんです。どんな状況になっても、それよりはマシですから」

雪蓮

「ありがと……じゃあ行ってくるわ」

劉備

「ご武運を」劉備の言葉を受け、踵を返す雪蓮。飛び跳ねながらその後ろをついていくスイ。

慶子

「何でスライムが……?」

竜馬

「そういや呉にも俺達と同じ、あっちの世界からきたと思えるヤツが居たな」

隼人

「ああ。恐らくそいつが関与しているんだろう」劉備を護衛していた、蜀の現代人トリオは怪訝な顔で雪蓮を見送っていた。

 

雪蓮

「汜水関守将・華雄に告げる!我が母、孫堅に破られた貴様が、再び我らの前に立ちはだかってくるとは有り難し!その頸をもらうに、いかほどの難儀があろう?……ないな。稲を刈るぐらいに容易い事だろう!どうした華雄。反論はないのか?それとも江東の虎、孫堅に破れた事がよほど怖かったのか?そうか怖かったか。ならば致し方なし……孫堅の娘、孫策が、貴様に再戦の機会を与えてやろうと思ったのだがな!」戦線に立った雪蓮は剣を汜水関に向けて、華雄を挑発している。

雪蓮

「それも怖いと見える。いやはや……それほどの臆病者、戦場に居て何になる?さっさと尻尾を巻いて逃げるが良い。ではさらばだ!負け犬華雄殿!」

向田

「よくまぁ、あれだけの長ゼリフを……」

 

~再び汜水関~

 

華雄

「い……言わせておけばぁ……!」

張遼

「待て待て待て待て!落ち着け!落ち着かんとアカンて!あんな見え透いた手に乗ってどうすんねんな!」

華雄

「我が誇りが傷つけられているのだ!例え何らかの策があったとて、罠など食い破って見せる!だから止めるな張遼!」

張遼

「アカンて!賈駆っちに言われたやろ!長期戦に持ち込めばこっちの勝ちやって!ここで華雄が出て行ってどうすんねん!」

華雄

「奴らを蹴散らす!」

張遼

「そんな必要ないねんて!」

華雄

「うるさい!離せ張遼!」

張遼

「アカンっ!ウチかて悔しいの我慢して耐えとるねん!華雄ももうちょっと我慢してくれ!」

華雄

「うぅ……あぁぁぁぁ!」

 

~雪蓮と劉備は~

 

雪蓮

「むー。中々出てこないわね……悔しくないのかしら」

劉備

「本人は悔しいって思ってるんだと思います……だけど周囲の人が止めてるのかも」

雪蓮

「その可能性が高いわね……なら今の内に寄せちゃおっか」

劉備

「え……城門に、ですか?」

雪蓮

「そっ。無造作に寄せてくる敵を見て、果たして華雄は屈辱に耐えられるのか!ってね」

劉備

「でも……大丈夫でしょうか?」

雪蓮

「大丈夫。我が軍の精鋭が貴女を守ってあげる」

劉備

「……分かりました。では孫策さんの案を実行しましょう」

雪蓮

「ありがと……興覇!幼平は居るか!」将

思春

「はっ!」

明命

「お側にっ!」

雪蓮

「華雄を釣るぞ。汜水関に軍を寄せろ」

思春・明命

「「御意!」」2人はそれだけ返事をすると軍の再編成の為、離れていった。

劉備

「ふあー……お二人共、何の疑問も持たずに行っちゃいましたね」

雪蓮

「私の為に死んでくれる娘達だからね」

劉備

「スゴいです……」

雪蓮

「でもあの二人を死なすつもりはないわよ……念の為言っておくけど」

劉備

「あははっ、分かってます……大分孫策さんの事、分かってきましたから」

雪蓮

「あら。私はそんな簡単に見透かされる女じゃないわよ?」

劉備

「あぅ、それはそうですけど。ただ何となく、優しい人なんだろうなって」

雪蓮

「優しくないわよ。だって私、王様だもの……」

劉備

「お優しいですよ」

雪蓮

「……じゃあそう思っておけば良いわ。それよりも……仕上げに掛かるわよ、劉備」

劉備

「はいっ!」

 

~三度汜水関~

 

兵士(モブ)

「華雄将軍!連合軍が押し寄せて参りました!」

華雄

「この状況で寄せてくるだと……!やはり我らを舐めているんだ、奴らは!」

兵士(モブ)

「華雄将軍!我らは……我らは最早限界です!このような謂われのない罵倒など、奴らの息の根と共に止めてしまいましょう!」

兵士(モブ)

「そうです!あんな戯れ言、今すぐに吐けなくしてやりましょう!」

張遼

「わー!アホ、何言うてんねんお前ら!」

華雄

「良くぞ申した!それでこそ華雄隊の兵だ( つわもの )!我らが臆病者ではないという事を、天下に示そうではないか!」

兵士達(モブ)

「「「「応ーっ!」」」」この瞬間、長きに渡り愚か者と天下へ恥を示す、愚将軍・華雄が誕生したが、それはこの物語では語られまい。

華雄

「全軍出撃の準備をしろ!口先だけの敵なんぞ、鎧袖一蝕で( がいしゅういっしょく )*1吹き飛ばすぞ!」

兵士達(モブ)

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーっ!」逆上する華雄とその配下達の中、張遼は未だ冷静さを保っていた。

張遼

「くっ、アカン、これはもう止められん……!誰かおるか!」

兵士(モブ)

「はっ!」僅かに残った、理性ある兵士が張遼に応える。

張遼

「虎牢関の賈駆っちに、汜水関はもう保たん、と伝えてくれ。追々状況は伝令で送るから言うてな」

兵士(モブ)

「御意!」

張遼

「華雄を見捨てる訳にはいかん……張遼隊!ウチらも出んぞ!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

 

~孫陣営~

 

明命

「孫策様!城門が開きましたよ!」

思春

「旗標は漆黒の華一文字!華雄です!」

雪蓮

「ようやく釣れたか……後方に伝令!これから大物を引っ張って行くから、しっかり対応しろと命令しておけ!」

兵士(モブ)

「御意ー!」

雪蓮

「続いて袁術にも伝令を出せ!全線に動きありと伝えておけ!」

兵士(モブ)

「御意!」兵士達に指示を与えた雪蓮は劉備に向き直り、

雪蓮

「劉備!作戦通り、華雄は私が、張遼は貴女が相手をする。それで良いな?」

劉備

「はい!」

雪蓮

「よし。さぁ孫呉の精兵達( せいびょう )よ!猪突してきた敵を殲滅する!その力、天下に示せ!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

雪蓮

「全軍抜刀!」雪蓮の叫びを合図に兵士達が全員、鞘から抜いた剣を振りかざす。

雪蓮

「かかれーっ!」

 

~向田視点に戻る~

 

 俺が連合軍の勝利を確信していると、何日か振りにあの神様から念話が送られてきた。

デミウルゴス

『久しいの。ムコーダ』

向田

『デミウルゴス様?一体どうなさったんですか?』

デミウルゴス

『此度の汜水関の戦い、お主らの勝利で間違いなかろう。ま、これで終わりではないが……良くやったと言うべきじゃな』

向田

『いえいえ、俺1人の力じゃありません。雪蓮や呉のみんなが居たからこそです』

デミウルゴス

『それでのぅ……良くやったついでに一つ、頼み事を引き受けてはくれんか?』どうしたんだ?デミウルゴス様、いつになく歯切れの悪い喋り方だな……

向田

『頼み事とは?』

デミウルゴス

『うむ。人知れず、董卓を助け出してはくれまいか?』え、どういう事?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
鎧の袖で少し触れた程に容易く打ち負かす事




デミウルゴス様の真意は一体?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九席向田、遂にトリオを解き放つのこと

かなり強引ですが、フェル達がやっと参戦します。


~その頃の華雄達(視点なし)~

 

 孫策、劉備の軍にこっぴどくやられた華雄、張遼とその部隊。

兵士(モブ)

「華雄将軍!もう……もう前線が持ちません!」

華雄

「くっ……」

兵士(モブ)

「ここは一旦、兵を退くのが上策かと!」

華雄

「こんな……こんな結果、誰が認めるか!華雄隊は集合しろ!再度突撃を仕掛ける!」張遼は尚意地を張り、喚き散らす華雄を怒鳴り付ける。

張遼

「阿呆!そんなんやっても無駄や!」

華雄

「無駄ではない!無駄では……!」

張遼

「……認めたくないって気持ちはよー分かる。けど認めなくても負けは負け。それは事実や……ええ加減納得せい」

華雄

「うう……嫌だ……嫌だっ!二度も孫家の旗に背を向けるなど、私の誇りが許さん……!」

兵士(モブ)

「将軍!お悔しい気持ちは分かりますが、命あっての誇りではありませんか!ここはすぐに後退しましょう!」

張遼

「……どうするよ?」

華雄

「……分かった。下がる……虎牢関で再戦し、次こそ孫家の血を大地に撒き散らしてやる……!」

張遼

「……よし。ならウチらは虎牢関に移動すんで!各員、追撃を警戒しつつ、ウチの旗についてこい!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」後ろ髪引かれる思いで、華雄は張遼の後ろについて、虎牢関へ逃げていった。

 

~孫陣営~

 

思春

「孫策様!敵の旗が後退していきます!」

雪蓮

「了解。追撃はしなくて良いわ……良いでしょ、冥琳」

冥琳

「ああ。闘いは汜水関だけでは終わらんからな……奴らは虎牢関に退却したのだろう。ならば我らも兵力と体力を温存しておこう」

明命

「了解です。では部隊をまとめた後、汜水関に入城します」

雪蓮

「よろしくね……剛、どうかした?」

向田

「ん……なぁ、2つほどちょっと提案があるんだけど」

冥琳

「どうした」

向田

「この闘いの一部始終をさ……各地に喧伝するのってどうだろう?」

雪蓮

「以前の黄巾党みたいに?」

向田

「ああ。ただ今回は、何人かの兵士さんを旅人に変装させて、各地方の主要都市……特に荊州方面に向けて放つんだ。それで、孫策軍の活躍で勝利っていう、この闘いの状況を伝え歩く……どうだろう?」

冥琳

「良い手だな……黄巾党の時と言い、そんな事を良く思いついたな」

向田

「俺が思いついたっていうより……俺が住んでいた世界の昔の英雄が良く使った手なんだ。この前も、フッと思い出してさ。どうかなぁって」

冥琳

「会心の一手だろう。すぐに準備する……穏。兵士の選抜を頼む」

「了解でありまーす♪」片手を上げて返事をした穏が、パタパタと足音高く立ち去っていったのと入れ替わりに、劉備が息を切らしながらこっちに駆け寄ってきた。護衛に関羽と張飛、例の3人組をつけている。

 

~向田視点に戻る~

 

劉備

「孫策さーん!」劉備は雪蓮の目の前まできて、一旦呼吸を整える。一方3人組は全く息が乱れてない。鍛えてんだろうな、この人達。なんか俺とウチのトリオの鏡像を見ている気分だ。

劉備

「孫策さん、ご協力ありがとうございました」

雪蓮

「いえいえ……どう?これで私の事、信じてくれたかしら?」

劉備

「はいっ♪」

関羽

「ちょ、桃香様!そのように素直に信じてしまってよろしいのですかっ!?」

雪蓮

「あら。酷い言い方するのね、関羽は……私が信用出来ないって言うのかしら?」

関羽

「……信用する、しないの問題ではないでしょう。英雄に真の友人など居ません……居るのは利用しようとする輩のみ」

雪蓮

「当たり前でしょ、そんなの……私だって劉備の友人になろうとは思ってないわよ?だけど共通の敵が居るのならば、手を握る事は簡単でしょ?」

劉備

「共通の敵、ですか?」おいおい、この娘何にも分かってないのかよ?

雪蓮

「そう。私達が勢力を伸ばしていく上で、一番の強敵となる者」

冥琳

「人を揃え、資金を揃え、天の時を待っている北方の巨人の事だ」

スイ

『巨人さんならダンジョンに居るよ~』1人、場違いな発言をするスイ。

向田

『スイ。巨人って言っても体が大きい訳じゃないよ』雪蓮達の会話の腰を折らないように、俺は念話で説明をしようとする。

スイ

『んー。スイ、よく分かんな~い』……ま、スイには難しかったか。話の続きを聞かせてもらおう。

劉備

「えーっと……袁紹さん?」この娘はアホなのか?北方の巨人といえば、曹操しか居ないぞ。現代人トリオもズッコケてるし。

雪蓮

「わお!可愛らしいボケだこと」いや、天然だろ、これ。

劉備

「えっ、違うんですか!?」本気だったのかよ!

関羽

「桃香様!北方の巨人といえば、曹操に決まっているでしょう!」

劉備

「ええっ!?曹操さんなのっ!?」……ホント。蜀の皆さん、心中お察しします。

冥琳

「……関羽。お主のところの大将は、中々面白い発想をする人間だな」

慶子

「イヤァ、それほどでもぉ~」何、その嵐を呼びそうな5才児的なボケは?

竜馬

「褒められてねーよ!それにテメーじゃねぇ!」

隼人

「恥を晒すのは1人で充分だ……!」

関羽

「……周瑜殿には返す言葉もない」そりゃそうだろう……。

劉備

「うー、でもでも。曹操さん、良い人でしたよ?」何を言ってるんだこの娘は。(呆)大体戦乱の世では、個人の善悪とか関係ないぞ。自分に異を唱える者は排除するのが当たり前であり常識。そうしなければ、明日の命をも知れないっての。それぐらい俺だって分かる事だぞ。

雪蓮

「良い人とか悪い人とか、そういうのが関係あるんじゃなくて……曹操が目指すモノは何?」

劉備

「……何だろ?」

関羽

「ちょ、桃香様!?」

雪蓮

「はぁ……ちょっと同盟の話、考え直させてもらおうかなぁ……」

劉備

「あぅ……」

冥琳

「……劉備殿。劉備殿はナゼ、旗揚げをした?そしてどのような世界を目指している?」雪蓮に呆れられる劉備に、冥琳が助け船を出す。こういう時の冥琳は頼りになるよな。

劉備

「私は……弱い人達が苦しんでいるのを見ていられなくて。どうにかして助けたいって思ったんです。だから私は……みんなが安心して、笑って暮らせる世界にしたいです!」ふーん、志は高いんだな。でもそれだけじゃ何も出来ない。何をどうしようとも、それは必ず何らかの犠牲の上に成り立っているんだから。劉備にその覚悟があるのかどうか?俺もそこまで言える人間じゃないけどさ。

冥琳

「なるほど……ならば曹操とは敵対するという事だな」

劉備

「ほえ?どうしてです?」

冥琳

「曹操が目指すのは、恐らく魏一国による天下統一……いつかは劉備殿や我々の領土へ侵攻してくるだろうからな」

劉備

「あ、なるほど……」

冥琳

「その時になって慌てるよりも、お互いの利益の為に手を結んでおくべきではないかな、と。私達は提案しているのだよ。この天下を二つに分割し、劉備殿と孫策の二人が、互いに干渉せずにそれぞれの領土を治める……それこそが平和への道筋だと思っているからな」

劉備

「うーん……愛紗ちゃん、どうかな?」劉備は困り顔を関羽に向けて、相談、というより助言を求める。

関羽

「孫策殿や、呉の軍師殿の仰る( おっしゃ )事は正鵠を射ていると思います」

張飛

「鈴々もさんせーなのだ!」

劉備

「……なら私に(いな)はないよ。孫策さん。これからもよろしくお願いします」

雪蓮

「うん。こちらこそよろしくね」微笑みを浮かべながら、劉備と雪蓮はがっちりと握手を交わした。どうにか2国の同盟が結ばれて、ホッとする俺。

 

竜馬

「なぁ。1つ聞いて良いか?」3人組の1人が俺に話しかけてきた。

向田

「えっ、俺?」

隼人

「そう、あんただ。どうやってこの世界にきた?あっちの世界で奇妙な奴に遭遇しなかったか?」

向田

「あー……実はさ、俺……」俺はこの世界にきた原因や、どういった経緯でフェル達を仲間にしたか、等を彼らに説明した。

隼人

「ほう……異世界召喚に巻き込まれたのか」

竜馬

「あんたも苦労したな」互いに話をしている内に、どうやら彼らも元は俺と同じ現代日本からきたらしい。但し召喚された訳じゃなさそうだ。

慶子

「……それでね、その少年を追いかけてきたら、いつの間にかこの世界にきてたって訳なのよ」そう説明するのは吉田某さんを彷彿させる女性、巴慶子さん。一緒に居る2人の男、太い眉でボサボサ頭が北郷竜馬さん、切れ長の目をした長髪が及川隼人さんというそうだ。

竜馬

「ま、お互いの大将同士が手を組むんだ。俺達も仲良くやろうぜ」見た目はイカついけど、実は気さくな竜馬さんに背中を叩かれる。ハッキリいって、祭さんより痛い。

隼人

「少なくとも、今の内はな」隼人さんは斜に構えているところがあるな……3人の中で、一番警戒心が強そうだ。

慶子

「ゴメンなさい、隼人は誰にでもこんな態度だから。気にしないで」……慶子さんはどことなく、某吉田さんよりカレーリナの屋敷で雇っているタバサに似ているかも。勿論彼女と違って、豹獣人ではないけど。それにしても、彼らがこの世界に来るきっかけとなった少年とやらは一体……気になるな。今度デミウルゴス様から神託があったら聞いてみよう。

 

 やがて、汜水関を完全に制圧した連合軍は、すぐに虎牢関へ向けて出発した──。

 

 虎牢関へ向かう途中で、冥琳から意外な話を聞かされた。

向田

「先鋒が変わったってホント?」

冥琳

「ああ。劉備の部隊と私達の部隊は後曲に配置変えだ……先鋒は袁紹と曹操が取るらしい」

「初戦で劉備さんと私達、大活躍でしたからねぇ。焦ってるのかもしれません」

雪蓮

「ま、ちょうど良いんじゃない?斥候の話じゃ虎牢関には飛将軍呂布が居るって事だし」

明命

「はっ。虎牢関に籠もるのは飛将軍呂布。そして董卓の懐刀、賈駆という話です」

思春

「それに張遼と華雄も汜水関から退却し、虎牢関に入ったとの情報があります……苦戦は必至かと」

冥琳

「ふむ。袁紹と曹操がどうやって虎牢関を落とすか……見物(みもの)だな」

雪蓮

「……つまんないわね」

向田

「ん?何が?」

雪蓮

「袁術ちゃんよ。あいつ、まだ動いてないでしょ」

冥琳

「そうだな。袁紹を上手く操っているんだろう……確かに面白くはない」

「袁術さんの部隊が無傷っていうの、後々の事を考えれば厄介かもしれませんねぇ……」

雪蓮

「……剛。何か良い考えある?」

向田

「俺ぇ!?……うーん」雪蓮達が求めているのは、この闘いで袁術の部隊が消耗する事だろう。

向田

「袁術の部隊にも損害を与えるってなると……まずは袁術を引っ張り出す必要がある。となると……袁術のバカさもとい考えなしもとい……ってまぁバカさを上手く煽る、ってしか方法はないかも?」

冥琳

「口先で踊らせるという事か?……今回は無理だろうな。既に袁術が吹く笛の音で袁紹が踊っている。奏者が踊り子と同じ躍りを踊らなければならない道理はない」

向田

「うーむ……なら無理やり巻き込むしかないか」

冥琳

「そういう事だ」

向田

「……袁術の部隊ってどこに配置されてたっけ?」

「袁術さんは、後曲に居る私達の更に後方に陣してますねー!」

向田

「結構距離があるなぁ。けどまぁ、あまり関係ないか」

雪蓮

「距離が関係ないって……どういう事?」

向田

「なぁ、この闘いが終わったら、本格的に袁術潰しにかかるだろ?ならそろそろフェル達を投入しても良いかなと思ってさ。袁術が居るところまでフェル達に敵を追い立てさせる。これだけ距離があっても、こいつらなら余裕だろうからな。ええと……まず、曹操と袁紹の先陣に割って入って、闘いの途中で大崩れしたフリをして敗走するんだ……袁術の陣まで。で、追いかけてきた敵を逆にウチの従魔達が煽る」

「うわぁ~……危険というよりも、無謀って言った方が良い作戦ですねぇ……」

向田

「まぁ確かにそうかもしれない……だけど後方で高見の見物(けんぶつ)を決め込んでいる人間は、どうやったって舞台に昇ろうとは思わないだろうし。なら無理やり舞台に乗せる必要があるだろ?それにフェル達なら、少なくてもこっちの危険は低くて済むし」

冥琳

「舞台に乗せる為には、芝居を潰してでも力尽くで脚本を変えねばならん、か……それしか方法はないようだな」

雪蓮

「じゃ、そうしましょ」

向田

「うぇ!?……自分で言っておいてなんだけど、こんな素人意見じゃ不味いんじゃないの?」

雪蓮

「あら。自分の策に自信ない?」

向田

「そうじゃないけど……」

ドラちゃん

『遂に出番か。待ちくたびれたぜ』

フェル

『牧羊犬代わりとはな。まぁ何もしないよりはマシだな』

スイ

『わ~い♪やっと暴れられる~』あーもう、ウチの子達やる気満々だよ。

冥琳

「ふむ……向田よ。お前の言った作戦が、今の我々に取り得る唯一の策だ……やってみるしかないだろうな」

雪蓮

「大丈夫。軍の指揮は上手くやってみせるから。剛は従魔達の手綱をお願い」そう言って雪蓮は俺の肩を叩く。

思春

「正直、足手まといになるのだが?」思春に冷たく言い放たれるが

フェル

『何を言っている?我らは貴様らの指揮になぞ従わんぞ。それが出来る者はこやつだけだ』フェルに凄まれて、表面上はポーカーフェイスを保つ思春だったが、額からは冷や汗を垂らし、足がガクガク震えている。

雪蓮

「興覇、怒らせちゃダメよ。明命。念の為、剛を守ってあげて」

明命

「御意。剛様。よろしくお願いします」

スイ

『え~?あるじはスイが守る~!』あれ?スイが明命にヤキモチ?

向田

『まぁまぁスイ。俺と一緒に明命も守ってよ、スイなら出来るよね?』

スイ

『わかった~』

向田

「そういう事で。明命、こちらこそよろしくお願いするよ」

雪蓮

「よし。じゃ作戦も決まったし。時機を見て割り込んでいきましょうか」──と、雪蓮が言うのと同時に、前線に張り付いていた斥候さんが戻ってきた。

斥候(モブ)

「袁紹、曹操の部隊が虎牢関に取り付き、戦闘を開始しました!」

冥琳

「了解した……雪蓮。動くぞ」

雪蓮

「ん……じゃあ行きましょ、剛」

向田

「ああ!」こうして俺達は虎牢関の闘いに紛れ込む事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久し振りに原作との違い
・向田と蜀についた現代人との会話
・袁術の元へ敵軍を引っ張ってくる作戦にでる→更にフェル達に追い立てさせる。
・思春に足手まといと言われる一刀→フェルの神経を逆撫でしてガクブルな思春。
・明命は一刀を守る→向田がスイの機嫌を取る。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十席虎牢関の闘い、クライマックスのこと

……良いサブタイが思い付かなかった……ムコーダの視点も書く余地がなかったので今回は全編、視点なしでお届けします。


~その頃の曹操軍(視点なし)~

 

曹操

「……流石虎牢関と言うべきか、すぐには落とせそうにないわね」

夏侯淵

「汜水関から退却した華雄、張遼……それに飛将軍呂布も居ますからね」

荀彧

「ムリに攻めても被害が大きくなるだけかと……」

曹操

「虎牢関から引っ張り出すのが上策、か……」

荀彧

「しかし、その策を実行する場合、袁紹軍が連携を取ってくれないと意味がないでしょう」

曹操

「あのバカは攻める事しか頭にないようね……迷惑だわ」

夏侯惇

「御意。城門の前に陣取り、めったやたらに攻め立てているようですが……邪魔ですなぁ」

曹操

「砦からの攻撃を一身に受けてくれているから、楽と言えば楽だけど……これではラチが明かないわね」

荀彧

「何か……この状況を変える一石があれば良いのですが……」曹操が配下とそんな事を話し合っていると、伝令が駆けてきた。

伝令兵(モブ)

「申し上げます!遠方より砂塵!旗標は孫一文字!」

夏侯惇

「孫策の部隊だと?奴ら、後方で待機をしていたハズではないのか」

夏侯淵

「何をしにきた……?」

荀彧

「あの勢いから見るに、こちらの戦場に乱入するつもりじゃないかしら」

夏侯惇

「乱入だと?……ただでさえ袁紹の動きが邪魔だというのに面倒な」

曹操

「乱入、か……なるほどね」

夏侯淵

「華琳様は孫策の考えがお分かりで?」

曹操

「ある程度はね……孫策が今、排除したがっている人間は誰?」

荀彧

「それは袁術でしょう……あ」

曹操

「そういう事よ……我らはこの一石に投じましょう。春蘭、秋蘭。孫策の動きに合わせ、敗走するフリをしながら後退する。準備をしておきなさい」

夏侯淵

「……なるほど。孫策の意図はそこにありますか……了解しました」

夏侯惇

「えっ?えっ?どういう事だ?」唯1人、何も分かってない(アホの)夏侯惇がバカ(づら)を晒している。

夏侯淵

「後で説明してやる。今はすぐに軍を動かすぞ」

夏侯惇

「わ、分かった」

 

~その頃、袁紹軍~

 

 何の計画もなく、ただ無駄に虎牢関を攻める袁紹軍。これがどっかのイタリア人だったら『無駄無駄無駄無駄ぁーっ』と返り討ちに遭っているだろう。それはともかくとして、袁紹とその側近である文醜と顔良の3バカトリオもこの異常事態に気づいたようだ。

顔良

「文ちゃん、後方から孫策さんの部隊が来たよ!」

文醜

「分かってる!ありゃ、このままこっちに突っ込んでくるっぽいぞ!」

袁紹

「なぁんですってぇ~!孫策さんは何を考えているんです!?」

??

「お前が言うな」誰かに突っ込まれた気がするが、そこは無視しておく。

顔良

「どうしよう……このままじゃ、戦場が混乱して城攻めどころじゃなくなるよぉ!」

文醜

「姫ぇ!とりあえず姫は親衛隊と一緒に下がって!」

袁紹

「二人はどうするのです?」

文醜

「あたい達はこのまま戦場に留まります……あたい達の活躍、ちゃーんと見てて下さいよ!」

顔良

「親衛隊のみんなは姫の事、よろしくね!」

兵士(モブ)

「はっ!」

袁紹

「……二人共、無事で戻ってこないとお仕置きしてしまいますからね!」

文醜

「当然!城門こじ開けて姫をお迎えしますよ!」袁紹はああ口にしたものの、その目にはうっすらと涙が光る。アホの代名詞と言っても過言ではない袁紹だが、部下思いの優しい一面もあったのだ。

顔良

「さぁ、行って下さい姫!」文醜と顔良も主に忠誠を誓っていた。故に、何があってもその悲願を達成しようとしたが……

 

~孫策陣営~

 

思春

「前方、城攻めの部隊に動きあり!曹の牙門旗が道を開けました!」

雪蓮

「道を開けた?……流石曹操。こっちの思惑、見透かされてるっぽいわね」

冥琳

「そのようね。曹孟徳……恐ろしい奴だ」

雪蓮

「だけど今は助かるわ。こっちの思惑が分かっているなら、上手く連携してくれるでしょ……突っ込むわよ、冥琳!」

冥琳

「分かった……向田。遅れるなよ?」

向田

「応っ!フェル達もよろしく」

フェル

『フンッ、言われるまでもない』

ドラちゃん

『任せろっ!』

スイ

『行っくよ~!』

雪蓮

「従魔達が一緒だから、大丈夫だと思うけど……剛の事、ちゃんと守ってあげてね明命」

明命

「はっ!この命に代えましても、しっかりとお守り致します!」

向田

『スイ。明命にもしもの事があったら、頼むよ』

スイ

『うん?あるじもおねーちゃんも、スイが守ってあげる~』

雪蓮

「よろしく……では行く!皆の者、我が旗に続けぇーっ!」

 

~虎牢関門前にて~

 

兵士(モブ)

「連合軍後方に砂塵あり!どうやら後曲の部隊が進出してきたようです!」肩と背中に入れ墨を入れた美少女に兵士が伝える。見た目からそうは見えないが、この寡黙な少女が飛翔軍呂布である。兵士は更に続ける。

兵士(モブ)

「敵前線は混乱の様相を呈しております!叩くなら今が好機かと!」話を聞いた呂布は10才ぐらいの幼女を呼ぶ。

呂布

「……ちんきゅ」呂布を崇拝する董卓軍の軍師、陳宮が答える。

陳宮

「ここにおりますぞ!」

呂布

「……出る」いつもながら言葉少なく、その一言だけ告げる。

陳宮

「御意なのです!……呂布将軍ご出陣!深紅の旗をあげますぞー!」

兵士達(モブ)

「おおおおおーっ!」

 

 砦の中では董卓の筆頭軍師にして、彼女の無二の親友の賈駆(但し、女同士ながら賈駆自身は董卓に惚れている)と張遼が待機していた。

兵士(モブ)

「申し上げます!呂布将軍が城門を開き、討って出ました!」

賈駆

「ちょ……ボクは命令してないよ!」

兵士(モブ)

「え、そ……そうなんですか?」

賈駆

「当たり前でしょ!……籠城して敵の補給切れと内部破壊を待つって作戦、説明しておいたのに!」

張遼

「アカン……こりゃ汜水関の二の舞になる……何でウチらの陣営には猪しかおらんのや……」

兵士(モブ)

「申し上げます!呂布将軍に引き続き、華雄将軍も討って出られました!」

賈駆

「ああもう!(しあ)!」

張遼

「ほいさ」

賈駆

「あの二人を失えば、ボク達は瓦解する……助けるしかないわ」

張遼

「せやなぁ……あーーーもぅ!これやから猪は嫌いやねん!」

賈駆

「手綱が甘かったのはボクの責任……だけど霞。ボクを助けて」

張遼

「分かっとる。やったるわい!」

賈駆

「ありがとう……総員戦闘準備!城門から討って出て、敵を押し返すわよ!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

 

~再び孫策軍~

 

明命

「城門が開きました!旗印は漆黒の華一文字!その横には深紅の呂旗です!」

雪蓮

「猪は釣りやすいわね……全軍反転!」

思春

「はっ!」虎牢関に迫っていた孫策軍は翻って、袁術の人を目指す。

 

~再び曹操軍~

 

夏侯惇

「孫策軍が反転を開始!」

曹操

「よし。我らも下がりましょう。……殿(しんがり)は袁紹軍になすりつけなさい」

荀彧

「御意!」曹操達も虎牢関の前から去っていった。

 

~再び袁紹軍~

 

顔良

「文ちゃん!孫策さんと曹操さんの部隊が反転してる!」

文醜

「うっそ!?このままじゃあたいらが殿に( しんがり )なっちまうじゃん!」

顔良

「それって最悪だよぉ!(泣)」

兵士(モブ)

「虎牢関より新たな部隊が出陣!旗印は賈と紺碧の張旗です!」

顔良

「紺碧の張旗って、汜水関で大暴れしてた張遼さんの旗じゃない!?」

文醜

「ヤバいヤバいよ斗詩!あたい達もすぐに反転して後退して退却して逃げよう!」

顔良

「それって全部同じ事だよ文ちゃん……」

文醜

「そんなツッコミどうでも良いから……なぁ斗詩、何か孫策軍に変なの混じってないか?」

顔良

「変なのって?どれどれ……キ、キャアーッ‼

文醜

「デ、デカい犬がぁーっ‼」

顔良

「小っちゃいけど龍も居るー‼」

兵士(モブ)

「申し上げます!何やら正体不明の球体が本陣に迫ってきます!」

文醜・顔良

「「ぜ、全軍退却ぅーっ‼」」物凄い勢いで虎牢関に突撃してきたフェル、スイ、ドラちゃんの従魔トリオを目の当たりにした袁紹軍は一目散に逃げ去っていった。

 

呂布

「……逃げる?」

華雄

「そのようだな……どうする?呂布」

呂布

「……決まってる」

華雄

「応。決まっているな……追撃し、粉砕してみせようぞ!」

呂布

「……(コクッ)」迎撃に出たものの、既に逃げ去った連合軍を眺めながら、華雄と呂布はそう話していた。

 

~袁術軍~

 

袁術

「ふんふんふ~ん。七乃、蜂蜜水はまだかやー?」

張勲

「今作ってもらってますから、もうちょっと待ってくださいね~♪」

袁術

「うむ、待ってやるのじゃ!今日の妾はごきげんさんじゃからな!」

張勲

「あははっ♪」相変わらず呑気な2人。

袁術

「ん?何の音じゃ?」

張勲

「ほえ?……あ、ホントだ。何の音でしょね?」

袁術

「音もそうじゃが……あっちの空に、砂塵が上がっとるぞ?どうなっとるんじゃ七乃?」

張勲

「うーん……あ、ホントだ。もうもうと煙が上がってますねぇ。多分、孫策さんが虎牢関を落とした後で、急いで美羽様に報告~!って来たんじゃないです?」

袁術

「おお、そうかっ!流石は孫策じゃな。妾の部下だけの事はある」

張勲

「ホントですねー♪」

袁術

「うむ!袁紹も妾の思う通りに動いておるし。妾はゴキゲンさんなのじゃ!」戦地だというのに、今日も呑気な袁術と張勲。

兵士(モブ)

「袁術様。蜂蜜水をお持ちしました」そんな2人に心中では呆れながら、袁術に蜂蜜水を手渡す1人の兵士。

袁術

「うむ。んくんくん……ぷはぁー。世は全て思い通り。しかも蜂蜜水は美味しくてサイコーで、妾はもう皇帝になったような気分なのじゃ♪」

張勲

「いよっ!流石お嬢様!大陸一の幸せ者!憎いねこのっ!」

袁術

「うはははー、もっと褒めるのじゃー♪」そこへさっきとは別の兵士が伝令にやってきた。

兵士(モブ)

「も、申し上げます!」

袁術

「なんじゃ!人輝かしい将来の妄想を楽しんでおるというのに。無粋じゃぞぉ~!」

兵士(モブ)

「そ、それどころではありません!前方の砂塵の正体が判明しました!あの砂塵は、袁紹、曹操、孫策の軍が敗走しており、それを董卓軍が追撃している為に上がっている砂塵です!敵の追撃部隊の戦闘には深紅の呂旗!その横に漆黒の華一文字!更にその後方、紺碧の張旗!更に敗走する軍の中に、巨大な狼と小さな龍、球状の謎の物体が混ざっています!」

袁術

「な、なんじゃとぉ~!?」

張勲

「うわ、じゃあすぐに後退の準備をしないとぉ!」

兵士(モブ)

「ムリです!間に合いません!」そこにもう1人の兵士が来て、

兵士(モブ)

「敵軍襲来!」袁術の顔がみるみる内に青褪める。

袁術

「う、げ、迎撃するのじゃ~!」

 

~孫策陣営~

 

雪蓮

「ふふっ、慌ててる慌ててる♪」袁術陣営の様子を遠目に眺めながら、ほくそ笑む雪蓮。

冥琳

「作戦は成功か……曹操が上手く乗ってくれたお陰で、危険な賭けにならずに済んだな」

「袁紹さん達の混乱も良い感じに盾になってくれましたからねぇ」

向田

「良かった……」

冥琳

「ふっ……お前の決心に、天が微笑んだのかもしれないな」

向田

「それなら良いんだけど」

雪蓮

「ま、心配するのは後にしましょ。この難場をどれだけ被害を押さえて乗り切るか……正念場はまだ終わってないんだから」

冥琳

「うむ。では我らも反撃に移ろう……雪蓮。頼んだわよ」

雪蓮

「了解……興覇!幼平!」

思春・明命

「「はっ!」」

雪蓮

「部隊を反転させて反撃に移る!袁術軍を盾にしつつ敵を分断。我らは呂布と華雄の部隊に横撃を掛けるぞ!」

思春

「御意!」

明命

「はっ!」

兵士(モブ)

「曹操軍反転!続いて袁紹軍も反転!更には後方よりお味方接近!旗は劉!」

兵士(モブ)

「曹操軍、袁紹軍共に向かうは紺碧の張旗!劉旗はそのまま賈一文字の旗に向かっていくようであります!」

雪蓮

「頃合いは良し!孫呉の兵達よ!今こそ我らの力を見せつける時!」

兵士達

「「「「応っ!」」」」

雪蓮

「全軍抜刀!雄叫びと共に突撃せよ!」

 

 

 

 




次回は無印とオリ展開を織り混ぜるつもりです。(予告は変更する事もあります)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一席新たなる敵、現るのこと

今回は珍しく、前話あとがきの宣言通りになりました。


~孫策軍。前話のまま視点なし~

 

 見事、呂布と華雄を敗った連合軍。

明命

「深紅の呂旗と漆黒の華一文字!旗が後方に下がっていきます!」

思春

「その横にある張旗も下がっていきます……我が軍の勝利かと」

冥琳

「劉旗はどうなっている?」

明命

「賈駆の軍勢を押し込み、更に追撃の姿勢を見せてますね」

雪蓮

「ふむ……私達もそうしましょうか」

向田

「そうするって……どういう事?」

雪蓮

「余勢を駆って、このまま洛陽まで追撃しようかって事」

向田

「そう……じゃ俺達も行くよ」

冥琳

「……よし。劉備と曹操に伝令を出せ!我らはこのまま一気に洛陽に迫るとな!」

兵士(モブ)

「はっ!」冥琳の指示を受けた兵士さんが劉備と曹操の元へ向かった。

 

~曹操軍~

 

荀彧

「華琳様。孫策より伝令です」

曹操

「内容は?」

荀彧

「孫策軍はこのまま洛陽まで追撃すると」

曹操

「ふむ。まぁ当然の選択か……我らも共に行くと返事をしておきなさい」

荀彧

「御意」

夏侯惇

「これで董卓は表舞台から退場となるな」

夏侯淵

「そうだな……しかし華琳様。孫策……少々危険かと思われますが。それにヤツらが従えている魔獣、あれは厄介かと」

曹操

「そうね。だけど今はまだ捨て置きなさい……私達がもっと力をつけてから、晴天の下、魔獣もろとも堂々と決着をつけましょう」

夏侯淵

「御意」

 

~劉備軍~

 

張飛

「お姉ちゃーん。孫策お姉ちゃんから伝令がやってきたのだ」

劉備

「伝令?何て?」

張飛

「孫策お姉ちゃん、このまま洛陽に向かうって」

関羽

「このまま向かうか。ふむ……流石機を見るに敏、ですね」

劉備

「私達はどうしよっか?」

関羽

「ここは行動を共にするのが良策かと」

劉備

「じゃあそうしちゃおう。鈴々ちゃん、孫策さんにお返事しておいてね」

張飛

「了解なのだ!」

 

~再び孫策軍~

 

兵士(モブ)

「曹操、劉備より伝令!我らも行動を共にする、との事です!」

雪蓮

「ま、状況を考えれば当然よね~……じゃ、ちゃっちゃとやっつけちゃおっか」

冥琳

「ああ……全軍前進!このまま敵を追撃し、洛陽に迫る!各員奮闘せよ!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

 

~向田視点に戻る~

 

 こうして──。

 俺達は部隊を纏め、洛陽に向けて敵軍追撃を開始した。退却する敵軍を追撃し、追走し──散り散りになっていく董卓軍を更に追い込み、洛陽に向けて疾走していく。やがて俺達は洛陽にまで迫り、軍を展開したのだが……

 

雪蓮

「……なーんかおかしいわね」

冥琳

「何がだ?」

雪蓮

「潰走した董卓軍を追撃。呂布はどっか逃げたし、張遼は曹操に投降。華雄は関羽に討ち取られた……そこまでは良いの。残っているのは董卓の軍師、賈駆一人……その賈駆も洛陽に逃げ込んだ……となれば、洛陽を守る為に徹底防戦の構えを見せると思ったんだけど……洛陽に迫っても動きなし。どうなってる?」困ったなぁ……俺としても、肝心の董卓が見つからなければ助けようがない。

冥琳

「ふむ……確かに、城の目の前に敵が迫っているというのに動きがないのはおかしいな……追撃を受けて対応が遅れていると判断していたのだが……興覇。城内に一隊を潜入させろ。中の様子を探ってきてくれ」

思春

「御意」あ、あぁちょっと!思春が先に行っちゃうよ!

向田

「待って!」俺は慌てて思春を呼び止めると、1つの提案をする。

向田

「俺が城に潜入しても良いかな?」

雪蓮

「え、剛が?」

向田

「たまにはそれぐらいやらせてよ」

冥琳

「……まぁ中の様子さえ分かれば、誰が行っても構わんしな」

向田

「ありがとう……じゃスイ、ドラちゃんはついてきて。フェルはすまないけど、みんなとここで待機な」

フェル

『うむ、我は目立つからな。潜入には向かん』良し。何とか当初の打ち合わせ通りに上手くいったな。俺は雪蓮達を言いくるめるのに苦労しつつも、数人の兵士さんを伴って、門をくぐって中に入った。

 

 洛陽の街は妙に静かで、さっきまで戦の中心地だったとは思えないくらいだ。なんか却って気味が悪いな。そこに、先行してもらっていた兵士さん達から叫び声が聞こえた。

向田

「……っ!?どうした!?何があった!?」

兵士(モブ)

「貴人らしき少女とそのお付きらしい人物を保護したのですが、それを追うように白装束の一団が乱入してきて……更に謎の巨漢も乱入してきて、門前は大混乱に陥ってます!」白装束!?謎の巨漢!?何が一体、どうなってんのぉー!?

 

 門を出ると、そこでは錐状の白い頭巾と白装束を纏った謎の軍団と兵士さん達が激しい闘いを繰り広げていた。そして、こちらの軍勢にはナゼか蜀の現代人3人が加わっている。

向田

「あなた達は……!何でここに!?」

竜馬

「話は後だ!今はこいつらを倒す!」竜馬さんは柄が自らの背丈ほどある巨大な斧を振るい、白装束を凪ぎ払っている。

隼人

「どうも見覚えのある格好だな」マシンガンを手に、白装束を撃ち殺していく隼人さん。なんか一瞬微笑んでたような……気のせいかな?うん、きっとそうだ。忘れる事にしよう。慶子さんは白装束の襟を掴むと、柔道技で連中を投げ飛ばす。

慶子

「ぬおぉぉーっ!大・雪・山・おろしぃーー!」3人共頑張ってるけど戦況は……どう見てもこちらが不利だ。

向田

「全員退却!一般人の保護に回って!スイ!白装束は任せる!ドラちゃんはフェルを連れてきて!」俺は一応、兵士さんより上の指揮官クラスの立場にいるので、彼らに指示を出して、スイとドラちゃんを白装束にけしかける。

スイ

『あいつら悪いやつだね~。スイがやっつけるよぉ♪』

ドラちゃん

『フェルなら呼ばなくても、もうそこまで来てるぜ。おいスイ!独り占めすんなよ!俺にも闘わせろ!』もうそこから先は説明するまでもなく、スイとドラちゃんの独壇場だった。ドラちゃんは白装束に火の玉や氷柱を落としまくり、スイは触手を連中の足に引っ掻けて転ばせると、前もって地面に作っておいた窪みにハメる。しかもそこは酸の溜め池である。

白装束(モブ)

「な、何だこれはっ!?」

白装束(モブ)

「か、身体が熔けるぅー!」

白装束(モブ)

「そ、んな……っ!」大勢居た白装束の連中の数がドンドン減っていく。更に門を跳び越してフェルも合流した。

フェル

『スイもドラも楽しんでいるな。では我も参加するとしよう』そして前足を一振り。見事白装束達の首と胴が離れる。これで一安心かと思いきや、突如どこからともなく再び白装束達の大軍が現れた。

向田

「何なんだこいつらは!?」

フェル

『こやつら魔物か?……いや違うな』

ドラちゃん

『倒しても倒してもキリがないぜ!』

スイ

『もうーっ!あっち行けぇー!』続々と押し寄せてくる白装束共に、俺もトリオも流石にイライラが募っていた。蜀現代人トリオも体力の限界が近づいているらしく、少しずつ動きが鈍くなっていた。

??

「ふんぬーーー!」白装束の後方から、この世のモノとは思えない雄叫びが聞こえてきた。

向田

「な、何だこの奇妙な音っ!?」

フェル

『分からん!何かの魔法か……?』

??

「ほわぁたたたたたっ!ふんぬっ!」

白装束(モブ)

「ぐえっ!」

??

「ふんぬっ!」

白装束(モブ)

「た、助け……!」え?えぇ!?雄叫びと同時に白装束共がポンポン、空に打ち上げられていく。な、何なんだ一体!?

??

「アタシのお家を壊しておいて、逃げようなんてそうは問屋が卸さないわよーっ!」

スイ

『なんか変な音がする~』

フェル

『イヤ、音ではない。これは人の声だ!』声!?この耳障りな音がっ!?

ドラちゃん

『見ろよ!敵の後ろから砂煙が上がってるぜ!』ドラちゃんの言葉に振り向くと、砂煙の根本に、魔獣並の咆哮と共に白装束達を千切っては投げ、千切っては投げを繰り返す影が見えた。しかし慶子さんのような柔道技じゃなくて、ただ力任せに投げ飛ばしているだけだ。一見すると人影のようだけど、それにしてはデカいな……

向田

「あれは人なのか……っ!」信じられない光景に自失している中、フェルだけが冷静にこう付け加えた。

フェル

『正確には人ではない。かといって魔物でもない。むしろ神々に近しい存在だな』そうなのか?まぁそれはさておき……

向田

「今が絶好の機会だ!兵士さん達は保護した人物と撤退!フェル、スイ、ドラちゃんは、反撃のチャンスだ!」

フェル

『久し振りに大暴れ出来るな』

ドラちゃん

『覚悟しろよ、悪党共!』

スイ

『スイも怒ってるんだからね~』思わぬ闖入者に一瞬怯んだけど、何とか我に返った兵士さん達は俺の指示に従ってくれ、街の隅に避難していった。

隼人

「竜馬!慶子!俺達も撤退だ!」

慶子

「董卓はどうするの!?」

竜馬

「どっちにしろ、今はムリだ!ここは向田さん達に任せるぞ!」ん?あいつら、何か気になる事を言ってるけど……って!それどころじゃない!

 

 その後ウチのトリオは謎の人影の助力もあって、奇襲による不利を大きく覆して白装束の一団を次々と撃滅していった。その勢いは勇猛苛烈で、白装束達が全滅するまで5分もかからなかった──。

 

 フェル達が白装束達を始末すると、俺達は兵士さん達及び、蜀トリオと街の隅で合流した。

向田

「何とか撃退は出来たけど、しかし……あいつらは一体……」

竜馬

「……何者なんだろうな。俺達の知ってる三国志の正史にも演義にもあんな連中、居なかったぞ」

隼人

「イヤ、この世界はそもそも、どっちでもない。全くの別物だ」

慶子

「何れにしても放ってはおけないわね」白装束の事は考えても仕方ない。後でデミウルゴス様に問い質せば良いだけだ。今は董卓を助ける策を考えないとな。しかしこの3人は何でヤツらと闘っていたんだろう?

向田

「そうだな。それより、あなた達はどうしてあんな所に?」

竜馬

「……あんたこそ1人か。孫策達は?」俺が無言で頷くと、蜀トリオは自分達と俺が連れていた兵士さん達を人払いする。

隼人

「同じ現代人のよしみで打ち上げるが……俺達の目的は董卓の保護だ」何だって!?

慶子

「公孫賛って居たでしょ?」ああ、あの地味な目立たない人か。

竜馬

「公孫賛はウチの大将と親しくてな。義勇軍を立ち上げる時には何かと世話になっててさ。その公孫賛に依頼されたんだ」

隼人

「公孫賛は董卓とも知り合いらしくてな。ヤツ曰く『董卓は世間で噂されているような悪人じゃない。人知れず助けてやってくれ』と劉備に頼み込んできたんだ」

向田

「奇遇だな。俺もさるお方に頼まれて、董卓の保護にきたんだ」俺の話を聞いて、3人共驚いてたよ。まさか同じ目的で動いてたなんて思ってもみなかったしな。まぁ、お互い様だけど。そしてもう1つの疑問。

向田

「そういえば……白装束の後方に居たのって結局何だった訳?」

竜馬

「……さあ?」アメリカ人が良くやる、『I don't know』のポーズをとる竜馬。

隼人

「知らんな……」隼人は小さく呟き、火打ち石を使ってポケットから取り出した葉巻を吸う。

慶子

「分かんない」竹の水筒に入った水を飲みながら、慶子は首をかしげる。

??

「それはアタシよん❤」寒気のする声がしてそこに目を向けると、スキンヘッドで後ろ髪をお下げにした気色の悪い筋肉ダルマのオカマが居た……。

 

 

 

 

 

 

 

 




原作との違い
・偵察に行くのは思春→ムコーダ
・城内で白装束と闘うのは一刀、関羽、張飛、呂布→ムコーダと食いしん坊トリオ、蜀仲間になった現代人トリオ。このシーンは無印版をベースにしてます。
・最後に現れたのは何者か?……恋姫シリーズを知ってる方はご存じでしょう。
(^_^;)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二席化け物、参上のこと

ここまでくるのに結構大変でした……


向田

「ぬおっ!?ば、化け物!?」何だこいつは!?今まで見てきた魔物と比べても、迫力と不気味さが桁違いだぞ!?

??

「化け物なんてヒドいわっ!……けど貴方ってばスッゴく可愛い人ね。その可愛さに免じて許してあ・げ・る♪」ゾワワッ……恐しいくらいの寒気に身震いする。何なんだこいつは!

フェル

『……おかしい。気配からは確かに神々しいモノを感じるが……どうしても魔物の姿にしか見えん……』ああ、フェルの精神(こころ)が遠くへと……おーい、帰ってこーい!

慶子

「許す許さないはおいといて、ご協力感謝します。ところであなたは……?」慶子の問いに筋肉ダルマは答える。

貂蝉

「アタシは貂蝉っていうの。しがない踊り子よ」

竜馬

「どこがどう、しがないんだ?」

貂蝉

「アラん?そぉお?見ての通り、アタシってば貧弱でしょー?」

ドラちゃん

『こいつが貧弱だとしたら、世の中に貧弱じゃないモノなんて存在しないぜ……』

貂蝉

「まぁ。口の悪い子ね」え、何でドラちゃんの言葉分かるの?つーか……

向田

「名前、もう1度言って」

貂蝉

「アタシの名前?いやーねぇ、もう。このアタシに興味津々なのかしら?」

向田

「イヤ、ちょっと……あんたの口から出てきた固有名詞に度肝を抜かれて……」

竜馬

「俺もだ。今、自分の耳をスゲぇ否定したいんだが?」

貂蝉

「度肝を抜かれるくらい興味津々なの?うふふ、アタシだって貴方に興味津々よ♪」クネクネと身体をくねらせ、風が起こったように錯覚するほど力強いウィンクをしてきた。

隼人

「……銃弾はまだ、残ってるな」隼人は拳銃をチェックすると、カチャリとセットし直して貂蝉に銃口を向ける。何、その過激な突っ込み!?

向田

「……射つのは少し待って。早くあんたの名前を」

貂蝉

「せっかちさんねぇ……アタシの名前は貂蝉よ( ちょうせん )。踊りと歌を生業とする~、絶世の美女ぉ~!」ガーン!!こ、これが貂蝉!?……うそ~ん……身体中の力が一気に抜ける。だってそうだろ!?貂蝉といえば、世界三大美女にあげられてもおかしくない、悲劇のヒロイン(美少女)なんだぞ!

向田

「そ、それが……こんなおっさん……」

貂蝉

「喝ーっ!」

向田

「ひっ!?」

貂蝉

「おっさんって誰!?おっさんってどこ!?」

スイ

『あるじ~。このおじちゃん変な人だね~』

貂蝉

「喝ーっ!」

向田

「ひぃ!?」

スイ

『?』

貂蝉

「ヒドい、ヒドいわ……花も恥じらう乙女をおじちゃん呼ばわりするなんて……」

スイ

『え~?なんで~?』スイに苦情を言ってる貂蝉だが、そのスイはどこ吹く風だ。だから何で言葉分かるんだよ!?

向田

「まぁまぁこの子まだ子供だからさ」俺はナゼか貂蝉を宥めるハメに……

貂蝉

「じゃあ、アタシ……おじさんじゃない?」

向田

「……あ、ああ。勿論」

貂蝉

「……うふっ♪なら許してあげるわ♪あなたってば超アタシ好みだしぃ❤」

向田・フェル・スイ・ドラちゃん

「「「「………」」」」

竜馬・隼人・慶子

「「「………」」」こいつはヤバい。ヤバすぎる……絶対にゲイの人だ。

竜馬

「は、はは、そりゃ良かった……じゃ、俺達はこれで……」竜馬と隼人はさっさと立ち去ろうとする。ち、ちょっと君達。見捨てないでよ!

慶子

「待ってみんな。この人に洛陽の情報を聞いた方が良いんじゃない?」え~?正直、こいつとはこれ以上かかわり合いたくないんだけど……?

慶子

「……向田さん、今はとにかく情報を集めなきゃ。竜馬も隼人も良いね?」

竜馬

「……マジかよ」

隼人

「不本意だな」竜馬と隼人はスッゲえ嫌そうにしている。そりゃそうだよな。

向田

「はぁ……分かった。確かに君の言う通りだ」

慶子

「じゃあ貂蝉さん……私達は洛陽に来たばかりなんだけど、洛陽の今の様子を教えてくれない?」

貂蝉

「洛陽の様子を教えろって?別に構わないけど……それよりあなた達はどなた?」

竜馬

「俺達は反董卓連合軍だ」

隼人

「董卓の暴政から洛陽の民を解放する為に、幽州から劉備の命でやって来た……表向きはな」

慶子

「それで討伐した事にして、その実、保護しようってなったの」

貂蝉

「暴政?暴政って何の事?」……やっぱりな。董卓の暴政ってはデマだったんだな?だからデミウルゴス様が董卓を助けて欲しいって、俺に頼んできたのか。

向田

「聞いた話だと董卓が帝を操り、洛陽の民に圧政を──」

貂蝉

「董卓って人が?そんなのしてないわよ?」怪訝な眼差しで俺達7人を見る貂蝉。その様子からも、これまでの洛陽の情報がデマだった事が分かる。

隼人

「どういう事だ?……まぁ大方、見当はつくが」

貂蝉

「洛陽の民が圧政に苦しんでいたなんて事、今までなかったもの。みんな平和に暮らしていたわよ……少し前まではね」

向田

「今は違うって事か?」

貂蝉

「違うというか……変な奴らが洛陽に現れて、住人に狼藉を働きだしたのよぉ~。アタシのお家もあの白い奴らに壊されちゃったし」

慶子

「それで怒ってたのね……」

貂蝉

「そうよ!あいつら絶対に許さないんだから!」禿げ頭から湯気が出そうなほど、怒りの声を上げる貂蝉の横で、3人組は何やら頭を捻っている。

竜馬

「董卓の暴政はデマ。これは公孫賛から聞いていたから、最初から分かっていた事だけどよ……」

隼人

「と、なると誰が何の為に、そのデマを流したか、だな……」

慶子

「……何か嫌な予感がする」

向田

「嫌な予感?」

慶子

「連合軍を結成するきっかけになったのは董卓の圧政から民草を解放するって大義名分でしょ?けど貂蝉さんは圧政なんてないって言うし」

隼人

「つまり洛陽の内と外で話が全く違う。しかし、現実問題としてそんな事はあり得ないハズだ」そうか、これが董卓の圧政によるモノなら連合軍の結成もまだ先のハズ。けど実際には白装束が現れた頃に、連合軍が結成されている。

竜馬

「これが多少の違いなら単なる行き違いで済んだかもしれねぇ。けどこれは少しどころじゃねぇぞ……」あるものがなく。ないものがある。それほどの違い……しかも1人や2人ならともかく、何十万もの人間が騙され、巻き込まれている。こんな事が実際にあるのだろうか?

隼人

「ああ。しかし連合軍も洛陽の連中も、未だ気がついていない……と、なれば考えられるのは唯1つ」

慶子

「デマを流したのも、さっきの白装束の仕業って事?」それじゃあ住人に狼藉を働いたのも……噂に真実味を持たせる為?

向田

「けど……そんな事をして誰が得するっていうんだ?」

貂蝉

「そりゃあいつらが何か得をするんでしょうね。もしくはそうする事で何かが元に戻るとか……」

竜馬

「元に戻る……」貂蝉の言葉を聞いて、竜馬は何かが閃いたように呟く。

慶子

「この世界にきた私達を排除しようとしている存在が居るって事ね……」俺もそうだけど、彼らが現代地球からやって来た事を知っているのは、恐らくデミウルゴス様を始めとする神様ズと俺。それ以外だと……

隼人

「……あいつか」3人組がこの世界に来るきっかけとなったという1人の少年。そいつが何かを企んでいるのか?こりゃ思いの外、大事になりそうだぞ。

慶子

「でも……確証がない。まだ、何とも言えないよね」

貂蝉

「なら今は気にする必要ないんじゃないの?」

竜馬

「そうだな。けど……」その言葉に頷きを返しながら、デカい図体をクネクネさせている貂蝉を見る竜馬。

フェル

『……お主、何か知っているのではないか?』それまで黙って俺達の会話を聞いていたフェルが貂蝉に問い質す。

貂蝉

「知ってるって何を?」キョトンとした顔でフェルを見つめ返す貂蝉には、キモさ以外に怪しいところはなかった。

フェル

『ふんっ、まぁ良い。何れは分かるだろうからな』吐き捨てるようにそう言うフェルだったけど、特に気を悪くした訳でもなさそうだ。

向田

「……ま、それは後回しにしよう。今はやらなきゃならない事がある」

竜馬

「おう。そうだったな」

慶子

「そうだ。董卓!」

隼人

「待て。闇雲に探してもムダだ」

向田

「俺達は1度孫策と合流する。君らも劉備の下へ戻った方が良いんじゃない?」

竜馬

「そうするか。公孫賛には顔を合わせづらいが、仕方ねぇ」

慶子

「向田さん。もし董卓を見つけたらご一報願えるかしら?」

隼人

「……分かっているとは思うが、密書なら現代語でな」ん?ああ、万が一曹操とかの手に渡った場合を懸念しているのか。現代語ならあいつらも読めないもんね。

 

 そうして3人組が城下町を去ると、俺は1人の兵士さんに、先ほど保護したらしい少女について問う。

向田

「そういや先ほど保護したって少女が居たんだよね。今はどうしてる?」

兵士(モブ)

「はっ。今は別の場所で休ませています」

向田

「その娘なら色々知ってるかも知れない。訊問したいから、呼んできてくれる?」

兵士(モブ)

「はっ」それからしばらくして兵士さんが連れてきたのは、まるでビスクドールみたいに白い肌をした美少女だった。貴人らしいというだけあって服装は一見金持ち風だが、嫌みったらしいところはない。その隣にはメガネを掛けた気の強そうな少女を伴っている。

??(美少女)

「……」

??(メガネ)

「……」

向田

「えーっと……俺は孫策軍の者だけど、洛陽について君達に幾つか質問したい事があるんだ。協力してもらえると嬉しい……」俺は話を振るも、2人は黙りを決め込んでいる。これじゃ埒があかない。

向田

「あー……」何とか2人に喋らせようと、俺がどう質問を切り出そうかと悩んでいると

フェル

『知らんなら知らんで、とっとと話せ。これではいつまで経ってもメシが食えん』若干苛立ったフェルが2人を睨む。だから脅かすのは止めろよ……しょうがない。ホントは女の子相手には気が引けるが、鑑定スキルを使わせてもらおう。

 

【 名 前 】董 卓

【 職 業 】元領主

【 種 族 】人 間

【 真 名 】  月

【 レベル 】  1

【 体 力 】 30   

【 魔 力 】  5

【 攻撃力 】  2

【 防御力 】  1

【 俊敏さ 】  4 

 

 ……え?えーっ!?この娘が董卓ぅー!?あの悪名高い、三国志演義でも暴君として有名な、あの董卓!?そ、それじゃ、一緒にいるメガネっ娘は……

 

【 名 前 】賈 駆

【 種 族 】人 間

【 真 名 】  詠

【 職 業 】軍 師

【 レベル 】  2

【 体 力 】 35   

【 魔 力 】  3

【 攻撃力 】  4 

【 防御力 】  2

【 俊敏さ 】  5

 

 

 と、言う訳で俺は目的の人物と出会ったのだが……まさかこんな形になるとは思わなかったな。

 

 

 

 

 

 




次回か次々回にメシ話を復活できたらなぁ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三席董卓、向田に保護されるのこと

今回、無印と真にオリエピを混ぜ混みました。


~話は少し前に戻る(視点なし)~

 

董卓

元始天尊(げんしてんそん)様。私の身はどうなっても構いません。どうか両親と洛陽の民をお守り下さい」董卓……真名・(ゆえ)は日々悪名が高まる中、自分より民の幸せを己の信仰する神に祈り続けていた。

 どんな信仰にも言える事だが、神々の伝承は大陸や海を渡ったり、また時の流れと共に変異していく。デミウルゴスの伝承も同様に形を変え、言葉を変えて伝えられていき、この大陸で彼は元始天尊と呼ばれている。

 

 その董卓の願いも空しく、突如現れた白装束の一団は洛陽の町を荒し尽くした。建物は燃やされたり壊されたり、罪もない民達から食料や財産を強奪していった。しかも奪った物は適当な場所に捨てていく。連中の目的は私腹を肥やすのではなく、民草を苦しめる事にあるようだ。これでは黄巾党の方が幾分かマシに思える。更に白装束は、董卓の両親を人質に取り城内の地下へ監禁する。

白装束(モブ)

「両親を助けたくば、自ら戦地へ出向け。そして戦の贄となるのだ」

 

 強引に腕を引かれ、戦場に送られそうになる董卓。ギリギリのところで、賈駆は張遼の力を借りて救い出すのに成功するが、外に出れば反董卓連合軍に捕まる事は既に明白。命乞いしても聞き入れては貰えないのも重々承知している。

董卓

「……詠ちゃん。私を置いて逃げて!」

賈駆

「何言ってるの!?月を残していける訳ないじゃない!」こうして言い争っている間にも、白装束の魔の手は迫ってくる。2人が必死に逃げていると、町の片隅から、誰かが手招きするのが見えた。

董卓

「誰かしら?」

賈駆

「あ、コラッ。行っちゃダメよ!」賈駆が警戒して董卓の肩を掴んで引き戻すと、手招きしていた男が姿を現す。髭を蓄えた強面の男だった。だが敵意は感じない。

??

「お嬢さん方。俺達ぁ、あんたらをどうこうするつもりはねぇ。それよか早く隠れんと、白装束の奴らに見つかるぜ」2人は顔を見合わすと互いに頷き、手招きしていた男に近づいていった。

 

 男は黄巾党の生き残りだった。2人が洞穴の中へ案内されると、そこには仲間らしき小柄な男と太った男が一緒に居た。3人は首に掛けていた黄色い布を地面に敷き、

黄巾党A(以下アニキ)

「生憎、敷物とかはねぇけどよ。多少は休めるだろ?楽にしてくれ」

黄巾党B(以下チビ)

「汚ぇトコだが勘弁して下せぇよ」

黄巾党C(以下デク)

「夜までゆっくりすると良いんだな」そんな3人をポカンとした表情で見つめる董卓と賈駆。洞穴の奥には彼らが手彫りしたと思われる、やや不格好な元始天尊の木像が飾られていた。それを目に留めて、ハッとする董卓達。

アニキ

「ん?あー、この木像か……」

デク

「確かに、盗賊が神様を拝むなんて変だと思われてもしょうがないんだな」

チビ

「でもこういうのって、理屈じゃねぇんだよな。俺達にだって神様ってか心の拠り所は必要なんだよ」染々語る元・黄巾党の3人に頷きを返す董卓。対してそんな彼らに、ジト目を向ける賈駆。やがて董卓は緊張の糸が切れたのか、布を敷いた地面の上で眠ってしまう。賈駆も董卓の頭を膝に乗せると、壁に凭れて寝息を立てる。

 

アニキ

「あんた、洛陽城の城主さんだろ?」目を覚ました董卓に切り出すアニキ。

賈駆

「どうしてそれを!?」アニキをキッと睨み、懐から短剣を取りだそうとする賈駆を今度は董卓が制する。

董卓

「詠ちゃん。助けてくれた人に刃を向けるなんてダメだよ」

賈駆

「でもっ……!」言い返そうとする賈駆に董卓は無言で首を横に振る。

チビ

「盗賊だって、それなりに情報収集はしてまさぁ。それに今は同じ神様を信仰する(もん)同士、互いに生き抜く事を考えましょうぜ」どうやらこの3人は色々調べ抜いていると見た賈駆は、どうせならせいぜいこいつらを利用してやろうと、考えを変えて、とりあえず矛を収めた。

デク

「これも元始天尊様のお導きかもしれないんだな」デクは小さく言うと、背嚢*1をガサゴソしながら何かを探している。中から取り出したのはリンゴが2つと、幾つかの炒り豆だった。

デク

「こんなモノしかないけど、食べるんだな」と2人に差し出す。董卓は優しく微笑んで、賈駆はぶっきらぼうにお礼を言うと、リンゴを噛り炒り豆を食べる。

 

 やがて夜になると白装束は追いかけてこなくなった。

アニキ

「……今の内だぜ。安全なトコへ逃げな」

賈駆

「そうしたいのは山々だけど……安全な場所なんてあるの?」

チビ・デク

「「そ、それは……」」突如、奥の木像が光だす。その後ろには木像に良く似た老翁が後光に照らされて立っていた。

董卓

「も、もしや元始天尊様!?」彼らの目の前に顕現したのは元始天尊ことデミウルゴスであった。元・黄巾党の3人と、董卓は揃って腰を抜かした後、膝を折って額が地面に付くぐらい頭を下げる。

デミウルゴス

『まぁ楽にせい』デミウルゴスは穏やかな口調で、彼らへ頭を上げるように告げる。

デミウルゴス

「董卓、それに盗賊の3人組よ。その方ら常日頃、儂を奉っておるの。その事はありがたく思っておるぞ。そこのメガネは疑っておるみたいじゃがの」ひたすらに頭を( こうべ )垂れる4人の脇で目をパチクリさせる賈駆。

董卓

「詠ちゃん。元始天尊様の御前だよ」

アニキ

「控えろ!()が高ぇ!」

デミウルゴス

「良い良い。信仰は個人の自由じゃ。それよりもお主にはスマン事をしたの、董卓よ」

董卓

「えっ?……どういう事ですか?」

デミウルゴス

「例の白装束じゃが、裏で糸を引いて操っておる奴らは儂も関わりがある者達での。そいつらを抑えきれんかったのは儂の責任じゃ。申し訳ない」神様が人間に頭を下げて詫びる、予想だにしなかったデミウルゴスの行動に恐縮しまくる董卓。

董卓

「そんな!勿体のうございます!」

デミウルゴス

「その代わりと言っては何じゃが、お主の身柄を儂の使わす人間に頼んでおいた。そやつはムコーダといって、巨大な狼と小さい龍、丸い寒天のような生き物を連れておるからスグに分かるハズじゃ。それと盗賊3人組じゃが……そうさな、お主らの身の振り方もあやつに一任するとしようかの。では儂は神界に帰るぞい」デミウルゴスは彼らの前から姿を消した。

 

~前話の続き(向田視点に戻る)~

 

向田

「董卓に賈駆。俺は君達を保護したいんだけど……」俺が敢えて名を呼ぶと、一瞬ギョッとした2人だったがすぐに顔を付き合わせてヒソヒソ話を始めた。

董卓

(……大っきな狼、小さな龍。寒天みたいな生き物。この人が元始天尊様の仰った御使い様?)デミウルゴス様、ここじゃ元始天尊の名で通ってるのか。

賈駆

(簡単に信じちゃダメよ。狼ぐらい用意出来なくもないわ)いやいや、この3匹連れてる時点で、デミウルゴス様の使いって分かるじゃん。だいいち偽者ならどうして君達とデミウルゴス様の会話の内容知ってるの?つーか、このメガネの娘。何でこんなに疑り深い訳?

作者

『それは賈駆だからである。それしか言い様がない』ん、誰だ今の?まぁどうでもいいか、無視しよう。

向田

「おいおい。こんなの簡単に用意出来る訳ないだろ?」

フェル

『オイ、こんなのとはなんだ!こんなのとは!』

向田

「細かい事は気にするなよ」

賈駆

「……聞こえてるの!?」

向田

「視覚も聴覚も人並み以上だよ。一応、神様の御使いだしね。ところで董卓ちゃん」

董卓

「はい。御使い様」

向田

「向田で良い。君が圧政を布いていたのが実は嘘だったとはデミウ……元始天尊様から聞いてる。けど……どうして嘘だって声を上げなかったの?そうすれば闘いも起こらずに済んだんじゃないかな?」

董卓

「全て……私のせいだから……」

向田

「だから何も言わず、ただ攻められるがまま、連合軍の攻撃を受けてたって事?」

賈駆

「違うわっ!月のせいなんかじゃないっ!……ちょっとあんた!事情も知らないくせに偉そうな口利いてるんじゃないわよっ!」そりゃ知らないよ。つーか初対面の相手に、何で俺怒鳴られてる訳?……腹立つけどここは大人の対応を取ろう。

向田

「その事情を知りたいから聞いてるんだ。一体、この闘いはどういう経緯で幕を開け、どういう意味があったのか……」

賈駆

「……この闘いの意味なんて知らないわ。あの白装束の一団が何の前触れもなく仕組んだ事だもの。ボクも、月も……ただ闘いに利用されただけ」

向田

「……なるほどね」

賈駆

「ボク達は白装束の一団に脅されていたのよ。月の両親の命を盾にされてね」

董卓

「……」

向田

「で、そのご両親は?」

賈駆

「……分からない。まだ城の地下に幽閉されてるかもね」

向田

「じゃ、助けに行くか。フェル、スイ、ドラちゃん」

董卓

「……えっ?」

向田

「だから助けに行くんだって。今、城はもぬけの空だしね」貂蝉が白装束をシメてくれたおかげで、奴らは全員城から撤退している。肝心の董卓もこっちに居るから、両親を連れ出したとは考えにくい。なら城のどっかに居るかも。

 

 ……そして、思った通り董卓の両親は城内に閉じ込められていた。2人を助け出してさっきの場所へ戻ってきた俺達。そこにはさっきの話に聞いた盗賊3人組も一緒に居た。一家は互いの無事を喜び、泣きながら抱き合う。その傍らで賈駆も滝のように涙を流す。チキショー、俺までもらい泣きしそうだ。

 

~その頃の孫策軍~

 

 さて、向田一行と蜀の現代人トリオが白装束と闘っている間、城門前で待機していた孫策軍本隊。

雪蓮

「……剛、遅いわね」

冥琳

「興覇。一隊を率いて城内に潜入しろ。向田を探してきてくれ」

思春

「御意」冥琳の指示を受け、部下を連れて城内に入っていく思春。

雪蓮

「どうなってるのかしら……?」

冥琳

「分からん。分からんから探しに行かせた……今は憶測を慎もう」

雪蓮

「ん。じゃあ思春が帰ってくるまで、情報の整理でもしとこっか……穏。後方はどうなってる?」

「私達の後方三里のところに曹操さんが。その更に二里後方に劉備さんの部隊が居ますね。袁紹さんは損害が大きかった為、追撃は不可能と判断し、最後方で態勢を整えています」

雪蓮

「ま、虎牢関の初撃を一人で受け止めた形になっちゃったからね……被害が大きいのも当然か」

「後は袁術さんですが、こちらの方も袁紹さんと似たり寄ったりですね。部隊がズタズタになったらしく、今は張勲ちゃんが必死に部隊を纏めてる……っていうのが現状です」

雪蓮

「公孫賛は?」

「公孫賛さんは劉備さんと行動を共にしていますね……仲良しさんなんですかねぇ?」

冥琳

「分からんが、まぁ大勢に影響はないだろう。放っておこう」

「了解です。とりあえず私達の周囲の状況はそんなかんじですねぇ~」

雪蓮

「ありがと……さて。これからどう動こうか」

冥琳

「興覇が帰ってきてから考えよう」

 

~向田視点に戻る~

 

思春

「……何をしている?」うわっ!ビックリしたぁーっ!感動のシーンは、突然現れた思春にぶち壊された。

向田

「し、思春!?どうしたの!?」

思春

「……どうもこうも、お前の帰りが遅いので雪蓮様が心配なさってたのでな。様子を見てこいと仰せつかったのだが?」そう言ってチラッと董卓達に横目をやる思春。俺は適当に話をでっち上げて誤魔化す。

向田

「董卓に捕まってた一家だよ。怪しげな連中から逃げてたみたいでさ」

思春

「そうか……それで?」

向田

「他に宛もなさそうだからさ。あっちの大陸に連れて行こうと思う」

思春

「分かった。雪蓮様には私から伝えておく。お前は用が済み次第、戻ってこい。ここで合流するぞ」

向田

「……了解」それじゃ《ど○でも○ア》をひろげましょうかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
バックパック。尚、現代中国語辞典から抜粋した為、この時代では呼び名が違うかもしれません




原作との違い
・月と詠は呂布に正体をバラされる→向田の鑑定スキルで正体がバレる。
・白装束の目的は一刀を消す事→目的は未だ不明。
・雪蓮が一部、一刀のセリフを喋っている
以下はオリエピ
・両親との再会
・元・黄巾党と一緒に行動
・向田と思春の会話

本当はフェルが詠を怒鳴りつけるシーンを入れたかったのですが、上手くいかなかった……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十四席酔っ払いのお守りとソーセージポトフ、のこと

資料代わりのソフトが行方不明に……

月の両親の真名は藤村紫炎さんのアイディアを採用させていただきました。ありがとうございます。


~前話の続き、孫策軍(視点なし)~

 

冥琳 

「興覇が帰ってきてから考えよう」

思春

「もう帰ってきております」何の前触れもなく、気づいたら傍に立っていた思春。対して雪蓮は全く動じてない。彼女らにとっては、これも日常茶飯時なんだろう。

雪蓮

「あら、相変わらず気配を隠すのが上手ね、思春」

思春

「はっ。ありがとうございます」

冥琳

「それで向田は?」

思春

「はい。実は……」思春が城内の様子と向田が何をしていたのか、説明しようとすると……

向田

「ゴメンゴメン。ちょっと戸惑っちゃってね」従魔3匹と共に向田が合流した。

 

~ここから向田視点に戻る~

 

 思春と1度別れた俺は董卓ちゃん達と話し合い一家と賈駆、元黄巾党の3人をあっちの大陸に連れていく事になった。とりあえずはカレーリナにある俺の屋敷でアルバン達と同じ仕事をさせるつもりだ。勿論、他の職に就きたければその支援もするつもりだぞ。

 カレーリナに着いてから、董卓とお父さんの董君雅さん、お母さんの地陽さんと賈駆。それと元盗賊トリオは一旦屋敷で寛いでもらう。その間俺はランベルトさんや冒険者ギルドを訪ねて、職の斡旋をお願いするかもしれない旨を伝えておく。

 屋敷に帰ると、今度は服やら日用品を買いに街の中へ連れ出す。フェル達は久し振りの我が家でさっさと昼寝をしだしたので、タバサに護衛と服選びの手伝いを頼んでついてきてもらった。董君雅さんや元黄巾党トリオは良いとして、女物は俺には分からんからね。董卓ちゃんや賈駆みたいな年頃の女の子は尚更だ。

 買い物を終えて屋敷に戻り、ネットスーパーで新しく石鹸にシャンプー、トリートメントを購入してからみんなに指示を出して、俺は再びど○でも○アを開いて呉に戻ろうとする。

董君雅

「お待ち下され。御使い殿」董卓ちゃんのご両親に呼び止められる。

向田

「向田で構いませんよ。それよりどうしましたか?」何か不満でもあるのか?それとも何か説明し忘れた事でもあったかな?

地陽

「いえ、助けていただいただけでもありがたいのに仕事まで……不満なぞあろうハズもありません」

董君雅

「そうではなく、こちらには……その……真名の風習がないと窺ったのですが?」

向田

「はい……それが何か?」

地陽

「……さっき娘や賈駆とも話し合ったのですが、あなたに真名を預ける事に致しました。そしてこれからは真名のみで生きていこうと思います」彼らにとって真名は重要な意味を持つ名前だ。それを今日会ったばかりの俺に許した上で、かつ本来の名前を捨てるっていうのか……きっと相当な覚悟を決めたんだろうな。

向田

「分かりました。俺で良ければ真名をお預かりします」そう返事をすると董卓ちゃんとご両親、賈駆が俺の目の前に来て1人ずつ真名を名乗る。

董君雅

「では私から……董君雅。真名を浮雲と言います。向田殿、今回の事改めてお礼を申し上げます」アルバン達と同じタイプの作業着姿になった董君雅さんが頭を下げる。

地陽

「私は( わたくし )妻の地陽。真名は夜空と申します。今後は向田様の下で働かせていただきます」

董卓

「董卓。真名は月です。ご主人様、これからよろしくお願いします」

賈駆

「うぅ……癪だけど、旦那様に奥様、月が決めたなら仕方ないわ。賈駆、真名は詠よ。ホ、ホントはイヤなんだからね!」この娘も蓮華と同様、元の世界でいうツンデレなんだなぁ。因みにこの3人はタバサ以外の女性陣と同じメイド服を着ている。

フェル

『フンッ、ならば貴様だけ連合軍とやらに処刑されれば良かろう』と、詠に冷たく言い放つフェル。こいつにツンデレは通用しないね。でも脅かすのは止めよっか。

スイ

『あ~るじ~。この子、あの変なおじちゃんより変だね~』

ドラちゃん

『助けてやったのに何で怒ってんだよ?意味分かんねえ(怒)これならチョーセンって奴の方がまだマシだな』……スイにドラちゃんよ、いくらなんでもアレ(・・)よりってのはヒドくないか?

向田

「あ、ああ。こちらこそよろしく。じゃあ俺は洛陽に戻るから。何かあれば他の人達に聞いたり、冒険者ギルドを訪ねて」今度こそ、孫呉と合流しようとする俺。

アニキ

「向田の旦那ぁーっ!」そこに元黄巾党の3人も慌てて駆け寄ってきた。

チビ

「まっ……待って下せぇよ!」

デク

「……ハァハァ。俺達の真名も預かってほしいんだな」別に息を切らしてまで追いかけてこなくても……また来るし。

向田

「……分かった。預かろう」

アニキ

「あっしは(こう)って言いやす」

チビ

「俺は(ふみ)っす」

デク

「お、俺は(だい)っていうんだな」

向田

「晃に史に大か。覚えておく」こうして俺はカレーリナを出発して、再び雪蓮達と合流した。

 

雪蓮

「董卓に捕らわれていた一家ね……」合流した俺は董卓の正体は伏せて、一連の出来事を伝える。話を聞いて、何となく訝しげに呟く雪蓮。

冥琳

「その連中はお前に任せよう。あっちの大陸に連れていったなら私達の知るところではない」そうしてもらえると助かるよ。ホッとする俺をスルーして、思春は報告を続ける。

思春

「それと……城内に董卓軍は存在せず。住民の間には董卓は既に撤退したとの噂が流れているようです」

雪蓮

「撤退?洛陽を捨てて?」

思春

「はっ。そう噂されているというだけではありますが、城内に董卓軍の兵士が居ないところを見ると、恐らくは間違いないかと。また、城内のあちこちでボヤ騒ぎが起こっております。状況は未だ不明ではありますが……」

冥琳

「ところどころ火の手が上がっているのはその為か……ふむ」

向田

「董卓が洛陽を捨てたって……あり得るのかなぁ?そんな事」ワザと惚ける俺。白々しいのは自分でも分かっているが、何も知らない振りをする。今度ばかりは神託だからか、フェルも協力的だ。

フェル

『そんな奴居なくても構わん。しかし中は酷い有り様だったな』まぁ確かにな……

冥琳

「あり得るだろう。董卓にとって洛陽は、既に重荷にしかなってないのだからな」俺よりフェルのスッとぼけの方が効果があったようで、冥琳も雪蓮も誤魔化しに気がついてないようだ。

雪蓮

「諸侯の前に餌を蒔いて逃げる、か……良いけどね。別に」

向田

「その様子だと不満ありってところ?」

雪蓮

「不満はないけど……暴れ足りないかなぁって」

冥琳

「闘いがないという事は、それだけ戦力が温存出来るという事だ……文句を言わないの」

雪蓮

「……はぁ~い」

明命

「敵が居ないと分かった以上、我らが一番乗りという事になりますね」

雪蓮

「思春に一番乗りしてもらって、盛大に名乗りを上げてもらおっか。甘寧一番乗り!って」

思春

「命令であれば、やってご覧にいれましょう」

雪蓮

「やりたいわねぇ……けど、一番乗りの功は劉備と曹操、二人に譲りましょ」

冥琳

「二人にか?ふむ……洛陽一番乗りという栄誉を捨てるのは、あまり賛成できないわね」

雪蓮

「孫呉の軍勢の勇敢な闘い振りは充分に示せたと思うし、剛の献策を受けて、各地に間諜を放ってるんだから、一番乗りの栄誉なんて、譲っちゃっても良いんじゃない?それにあの二人には、ここまで色々と利用させてもらったしね。そのお返しよ。ただし……どっちが一番乗りを取るかは、それぞれで競争してもらうけどね♪」

冥琳

「……分かった。ならば軍勢一番乗りの栄誉は劉備と曹操に譲るとしよう。ただし、私は先に洛陽に入らせてもらう」

雪蓮

「その心は?」

冥琳

「台帳と地図よ」

雪蓮

「了解。それは冥琳に任せるけど……目立つ事をしたらダメだからね」

冥琳

「分かっているわよ……興覇」

思春

「はっ!」

冥琳

「潜入部隊を再度構築し、供をしてくれ」

思春

「御意」

雪蓮

「私達は外で陣地で再構築した後、劉備と曹操の一番乗り争いを肴に一杯いっとくわ♪」

向田

「趣味悪いなぁ」

雪蓮

「人の難儀は蜜の味なんだモン♪」

冥琳

「穏。雪蓮が呑み過ぎないように監視しておけ」

「あははー、あんまり自信ないけど了解でありまーす」

雪蓮

「えぇ~……一仕事終えたんだから、お酒ぐらい好きに呑ませてよぉ~」

冥琳

「却下……状況はまだ予断を許さないんだから、気を抜きすぎないでよね」

雪蓮

「むぅ~……」

向田

「勝利の祝杯は冥琳達が帰ってからにしよう……な」

雪蓮

「……分かった。じゃあ冥琳、さっさと行ってさっさと帰ってきて」オイオイ。冥琳と酒、どっちが大切なんだよ……?

冥琳

「ふっ、ムチャを言う主殿だ……行くぞ興覇」

思春

「はっ!」10人ほどの兵士を護衛にして、冥琳と思春は極秘に洛陽城内へ入っていった。その後ろ姿を見送った後、俺達はブーたれる雪蓮をあやしながら、部隊の構築に掛かった。さて、雪蓮がグズりだしたとなると……うちのトリオのセリフは決まってるよな。

フェル

『とりあえずメシだ』

スイ

『あるじ~、ご飯~』

ドラちゃん

『腹減った。もう我慢出来ねー』……確かにメシ時だしね。そんじゃ、事前に作っておいた料理を鍋ごとアイテムボックスから出すとするか。

 

 取り出した鍋はポトフだ。フェル達の分は具の殆どがソーセージで俺、雪蓮と穏、兵士さん達には野菜もバランス良く入れた2種類作ってあるぞ。今回は付け合わせにおにぎりをチョイスした。

兵士(モブ)

「今日の昼メシは腸詰め入りの汁物だ。皆、向田様に感謝して食うように」隊長らしい兵士さんが号令を掛けると、一斉に俺の方へ頭を下げてから食い始める兵士さん達。ここまでされると、俺の方が恐縮しちゃうね。さっきの隊長さんにああいう号令はしなくて良いからと伝えておく。

 

ドラちゃん

『ソーセージって煮ても旨ぇんだな。焼いたのよりアッサリしてるけど、食い応えもあるぜ』

スイ

『茹でてもパリッとしてて美味し~い♪』

フェル

『うむ。スープにも肉の味が染みていて、幾らでも食えるな』かなりの大鍋で作ったポトフがみるみるなくなっていく。ま、いつもの光景だよね。

フェル・スイ・ドラちゃん

『『お代わり』』あー、ハイハイ。兵士さんを見習えとは言わんけど、君達ホントに遠慮がないね。食いしん坊3人に要求されるまま、お代わりを出して雪蓮の方へ移動するとポトフを肴にチビチビと酒を呑みながら城門に殺到する劉旗と曹旗の動きを眺めていた。

向田

「楽しそうだなぁ。結局呑んじまうし」

雪蓮

「こんな楽しい見世物、他にはないでしょ?」

向田

「気持ちは分からんでもないけど……あ、こら、お代わりしたらダメだっての」俺は慌てて雪蓮から徳利を取り上げる。

雪蓮

「えー……だってこれ、まだ二杯目よぉ?」

向田

「2杯じゃなくて2本目だろ……しかも大徳利」

雪蓮

「私にとっては二杯目なんだってば。それに剛がいつも美味しいモノ作るから、お酒が進むんじゃない?」

向田

「ハイハイ。人のせいにしない。つか俺が冥琳に怒られた後の穏に怒られるだろ?」そう。穏は雪蓮のお守りを俺に押し付け、自分はさっさとどこかへ行ったのだ……いやまぁ仕事しに行ったんだけどさ。

向田

「自分じゃ止められないからよろしくぅ~とか、穏もああ見えて、案外ズルいところがあるよなぁ~」

雪蓮

「一筋縄でいかない人間だからこそ、軍師なんてやってるの……冥琳を見たら分かるでしょ」

向田

「……えー。なら雪蓮も軍師にならないと」

雪蓮

「酷いわねぇ、私ほど素直で純朴で心優しい女の子は居ないのに」

向田

「……」

雪蓮

「突っ込んでよ」あ、ボケてたのね。

向田

「……ムリ?」

雪蓮

「何で疑問系なのよぉ。ぶー……」

向田

「と、可愛く拗ねた振りをしながら3本目に手を伸ばさない!」全く、油断も隙もあったモンじゃねえな……

雪蓮

「あ……バレたか」

向田

「最近、ようやく雪蓮の考え方とか行動の仕方とかが分かってきたからな」

雪蓮

「あら、じゃあちょっと聞いてみようかな?剛は私の事、どう理解しているの?」

向田

「まず行動の根底にあるのは勘……勘で動いているところがかなり多い」

雪蓮

「うっ……」

向田

「次に、結構甘えん坊なところがある……特に冥琳には甘えているだろ」

雪蓮

「……甘えてないもん」

向田

「ハイハイ……後はまぁ……なんやかんやと言いながら、人の言う事はちゃんと聞いてくれる、素直なところがあるってトコかな」

雪蓮

「……むぅ。そんな事言われたら、お酒に手を出せないじゃない……」そう言いながら背後に隠していた、4本目の酒の大徳利を俺に渡してきた。ふふ……作戦通り。

向田

「はい。ありがとう」

雪蓮

「剛、性格悪くなったわよ。昔はもっと純朴だったのにぃ……」

向田

「生憎、酒好きの上役には慣れててね」サラリーマン時代、酒好きの上司や、取引先の偉い人が酔っ払った時には、ちょいちょい介抱したモンだ。元社畜を舐めんなよ。

雪蓮

「むぅ……」などと2人で漫才のようなやり取りをしていたら、用事を済ませた冥琳が俺達の側までやってきた。

 

 

 

 

 

 

 




切り方が半端になってしまいましたが、これ以上書くとバランスが悪くなりそうなので、続きは次話に。

原作との違い
・戻ってきた思春にビックリする一刀→向田は別行動中。
・カレーリナに移住した月一行の話はオリエピ。
・劉備と曹操の勝負を肴に一杯呑む雪蓮→更に向田手製のポトフを肴にする。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十五席雪蓮、洛陽を復興させんとするのこと

あ、スイが一言も喋ってない……


冥琳

「何唸っているのよ?」冥琳が戻るなり、雪蓮に突っ込む。

雪蓮

「剛が私の事、苛めるんだもん」冥琳はニヤニヤしながら俺を見つめて

冥琳

「ほう。向田も強くなったな……これからは安心して、雪蓮のお守りを任せられそうだ」

向田

「俺じゃ役者不足も甚だしいけどなぁ……ま、何にせよ、お帰り冥琳。首尾はどうだったの?」

冥琳

「上々だ。台帳と地図はしっかり確保した……これは呉にとって無形の財産となるだろう」

向田

「情報は大切だからね……で、俺達はこれからどうする?」

冥琳

「劉備と曹操の一番乗り争いの後、洛陽に入城する……少し城内が荒れてるから、その再建に力を尽くそうと思う」あ~、白装束の仕業でね。あれはフェルまで顔をしかめるくらい、酷かったモンな。

雪蓮

「荒れてるってどういう事?」まだ洛陽に入城していない雪蓮が、キョトンとした顔で聞いてきた。それには思春が答えた。

思春

「ボヤ騒ぎの報告はしたと思いますが……どうやら董卓軍が撤退した後、例の白装束の一団が狼藉を働いたようなのです」えっマジで?単に人が居なくなっただけじゃ……

雪蓮

「……チッ。とんだ獣共( けだもの )ね。いつか根絶やしにしてやらないと」

冥琳

「そういう事だから、私達は入城後、すぐに復興作業を開始しようと思うの」

雪蓮

「当然でしょ。穏!」

「はいはーい。資材は充分……とはいきませんが、供出出来る分をまとめておきますね~」

雪蓮

「よろしく。ある程度ムリはして良いから、出せる物は出してあげなさい」

「了解であります♪」そこへ劉備と曹操の洛陽入城が終わったと伝令が入った。

雪蓮

「了解……じゃあ私達も行きましょ」

冥琳

「全軍、洛陽へ入城する!乱暴狼藉をした者は斬首だ!孫呉の正規軍の誇り、忘れるでないぞ!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

 

 俺は雪蓮達と粛々と隊列を組んで、改めて洛陽へ入城した。最初に来た時は気付かなかったけど、あちこちで燻っている黒煙が目に映る。もしかすると俺達がど○でも○アで向こうに行っている間に、白装束の奴らが、フェル達や貂蝉にしてヤられた腹いせに火を付けたのかも知れないな。

向田

「うわ……こりゃ酷いなぁ……」

フェル

『我も人間から見れば獣の部類に入るだろうが……ここまで無秩序な真似はせんぞ』フェルですら顔をしかめる惨状に、雪蓮は心底、ご立腹の様子だ。

雪蓮

「まさに獣の所業ね。ムカつくわ……いつか根絶やしにしてやる」その雪蓮を、自身も怒りに震えながらも宥める冥琳。

冥琳

「我らに力がついてからな……で、この惨状、どう処理する?」

雪蓮

「穏。炊き出しの準備を……それと負傷者の救助は最優先で行いなさい。それと長老格の人間を連れてきて」

「了解であります♪」雪蓮の指示を受けた穏が移動しかけたところへ、俺は待ったをかける。

「どうしましたか~?」

向田

「……これを」俺はネットスーパーで荷車を一台と、菓子パンや惣菜パンを大量に購入して、荷車に積めるだけ積んで穏に差し出した。更にスイ特性ポーション(瓶入り)を両腕で抱えられるだけ手渡した。

向田

「袋を破ればそのまま食べられるよ。後で炊き出しするにしても、食べ物は出来るだけ早く出せる方が良いだろ?この瓶は即効性の薬。副作用の心配もないから重傷を負った人に使って」

「分かりました。じゃあこれ、配ってきま~す。剛さん、後で代金を請求して下さいね~」穏は1人の兵士さんを呼び、荷車を押させて民家へ向かった。

冥琳

「……本当に、お前の箱は色々入っているな」まあね。異世界転移特典の無尽蔵アイテムボックスだし、金さえあれば大抵の物は買えるからね。驚きを通り越して、呆れたように俺に言う冥琳の傍らで、

雪蓮

「思春は治安回復を。明命は仮設天幕の設営準備をしておきなさい」

思春

「はっ!」

明命

「御意!」普段のおちゃらけた姿はどこへやら、部下達に適切な指示を出していた雪蓮。こうして見ると改めて雪蓮のカリスマ性に感心してしまう。

雪蓮

「私達はしばらく洛陽に留まり、復興作業に従事しましょう……良いわね、冥琳」

冥琳

「……計画に多少ズレが生じるが、この際、仕方ないだろうな」

雪蓮

「ズレなんて気にしてる場合じゃないからね……蓮華と祭によろしく伝えておいて」

冥琳

「分かった」

雪蓮

「剛はその箱に何か復興作業に役立ちそうなモノが入ってたら、提供してちょうだい。勿論お金は払うわ」

向田

「……了解」それから間もなくして、穏が1人の老人と一緒に戻ってきた。

「雪蓮様~、長老さんをお連れしましたよぉ~」どうやらこの辺りを仕切っているお爺さんのようだ。

長老

「これはこれは……先ほどは食べ物を皆に配って頂き感謝致します。将軍様」

雪蓮

「提供したのは彼よ」雪蓮が俺を指差すと、お爺さんは俺の足元へ平伏した。

向田

「……そんな事しなくて良いですから!頭を上げて下さい!」お爺さんの手を取って立ち上がらせる。

長老

「……このような状況で何か頂けるだけでありがたいのに、あんな美味いモノを。しかも全員に……あなた様には感謝の言葉もございません」

雪蓮

「彼……天の御遣いだから」ちょっと!いきなり何言ってるんだ雪蓮!?

長老

「……では、あなた様が噂の……いやありがたやありがたや」このお爺さん、今度は俺を拝みだしたよ……。

向田

「そ、そうだ雪蓮。お爺さんに話があるんだろ?」お爺さんの気を逸らす。てか、本来の目的はそっちだろ?もう後は雪蓮に任せよう。

長老

「……そうでしたな。将軍様が私らなんぞに何のご用でございましょう……?」

雪蓮

「お爺ちゃん。炊き出しとか負傷者の治療をするんだけど、他にやってほしい事とかある?」長老に気さくに話しかける雪蓮。そういや時々(冥琳に内緒で)街へ出掛けてるけど、いつもご年配や子供に慕われてるよな。それだけ人望があるからこそ、王として君臨出来るんだろう。

長老

「おお……更にお助け下さるのですか。ありがたやありがたや……」

雪蓮

「お礼は後だよ。お爺ちゃん……今はみんなを助ける方が先……で、やってほしい事とか、何かあるかしら?」

長老

「そうですな……焼け出された人間がかなり多く、雨露を凌ぐ場所を頂ければ……」

雪蓮

「うん。仮設の天幕を張る準備はしているから、とりあえずはそれで凌いでね。その後、資材を搬入して焼けた家の再建をしましょう……ただ、少し手伝ってもらう事になるけど良いかしら?」

長老

「当然でございます!おお……ありがたや……孫策様こそ真の英雄……このご恩、我らは一生忘れませんぞ」

雪蓮

「ふふっ、アテにしとくわね」雪蓮は爺さんに優しく微笑むと、兵士達に檄を飛ばした。

雪蓮

「……では、我らはすぐに動く!皆、疲れてるだろうがよろしく頼む!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」雪蓮の命令を受け、兵士達が一斉に動き始める。ある者は炊き出しに行き、ある者は天幕の設営を始める。やっぱり雪蓮には王としてのカリスマ性があるんだなぁ。

 有機的に連携し、洛陽復興の為に動き始めた部隊の間を縫いながら、万が一の為にドラちゃんをお供にして、俺は雪蓮や冥琳と共に周囲の状況を視察していた。あまりの荒れように渋い顔をする雪蓮。フェルとスイは天幕じゃなく、俺が土魔法で造った穴蔵で寝ている。

雪蓮

「……」

向田

「雪蓮、どうかした?」

雪蓮

「……戦争の爪痕……いつも弱い人間にしわ寄せがいくのよね。やるせないなぁ……母様が死んだ後、江東では内乱や侵略、暴徒の反乱……そういった物が一気に吹き出してね。その時の私は民達を守る力がなかった……それが今、重なって見えるんだよね……」

向田

「でも……これは雪蓮のせいじゃないだろ?洛陽の街に火を放ったのは、例の白装束の連中だし」

雪蓮

「それは分かっているけど……でもあまり心楽しいモノじゃないわよ。こういう光景は」

冥琳

「雪蓮……弱音なぞ聞きたくないぞ」

雪蓮

「冥琳……」

冥琳

「文台様の遺志を継ぎ、天下を目指すと言ったのはどこの誰だ?」

雪蓮

「私……」

冥琳

「ならば弱音を吐くな……雪蓮の優しさは分かっているが、それが覇業の妨げになる場合もある」

雪蓮

「……うん。分かってる」

冥琳

「ならもう言わないで……良いわね?」

雪蓮

「……(コクッ)」

向田

「冥琳、そういう言い方はないんじゃ……」と反論しようとした俺に、

雪蓮

「良いのよ、剛。冥琳の言う通り……弱音なんて吐いてる暇ないんだから。私は私に出来る事を精一杯するだけ。そして後事を蓮華に託さないと……」

向田

「託すって……そういう不吉な事言うのは感心しないぞ」

雪蓮

「あら。心配してくれるの?」

向田

「当たり前だろ……怒るぞ?」

雪蓮

「ふふっ、ごめん……でも……あーあ、蓮華に譲るの、止めよっかなぁ?」

向田

「何言ってんだか……」何だよ、人の気も知らないで……。

冥琳

「ふっ。照れる姿なんぞ、お前には似合わぬぞ」

向田

「ちょ……ヒッドい事言うなぁ」

雪蓮

「あははっ♪」なんて、雑談とも相談ともつかない話をしていると、明命が血相を変えて駆け寄ってきた。

明命

「しぇ、雪蓮様!冥琳様!大変です!」

冥琳

「どうした?何かあったのか?」

明命

「そ、それが!井戸がブワーッてなってて、それで龍がドーンッて舞い上がってて、スゴいのなんのって感じです!」イヤ、意味がわからん……。

雪蓮

「……何それ?」困り顔で問い質す雪蓮。

向田

「もうちょっと落ち着こう、明命。はい、大きく深呼吸して~」

明命

「ふぁぁー!ふぅぅ~~~」

向田

「はいもう1度」

明命

「ふぁぁ~!ふぅぅ~~~……」

向田

「落ち着いた?」

明命

「はい!おちちゅきました!」……赤ちゃんか!

ドラちゃん

『……ったく!世話が焼けるぜ』

冥琳

「舌を噛んでしまうほど落ち着いたところで、もう一度報告してもらおうか」

明命

「はいっ!ええと……説明する事を忘れてしまいました!」

向田

「えええっ!」唖然とする俺。空中でズッコけるドラちゃん。対して雪蓮と冥琳は苦笑している。

明命

「と、とにかく何かスゴいんです!こちらへ来て下さい!」動転しまくりの明命に先導され、俺達は街外れの路地へ向かった。

明命

「ほらあそこ!井戸からスゴい光が放たれているのです!」路地の端には1基の井戸があり、確かにその穴の中から、光が上空を突き抜けるように真上を照らしていた。

冥琳

「なんだこの光は……」

向田

「……これって……」俺はこっちに来た時から、たまに読んでる三國志の文面を思い出していた。確か伝承では孫権の時代になってるけど、ひょっとしたら……

向田

「んー……多分スゴいモノが入ってる。引き上げて見ると良いよ」

雪蓮

「何それ。剛は何か知ってるの?」

向田

「まぁね……明命。お手数だけど中に入って見てくれる?」

明命

「ええっ!?あ、あの……大丈夫なのでしょうか……?」

向田

「大丈夫。身体に害はないよ。ドラちゃんも付けるからさ……頼める?」

ドラちゃん

『え~……』イヤそうにするドラちゃんだけど、俺にはちゃんと秘策がある。

向田

「後でプリン食べさせてあげるからさ」そう言うと手のひらを返して了承する。

ドラちゃん

『おう良いぜ。けどこん中、何が入ってんだ?』

向田

「人間には価値あるモノ……とだけ言っとくよ」

明命

「は、はぁ。では……行きます!」覚悟を決めたように言うと、明命は命綱を巻きながら、ドラちゃんは急降下して井戸の中へと下り──そしてすぐに、明命は巾着袋のような物を持って上がってきた。

明命

「井戸にこんな物がありました!」

雪蓮

「何これ?うっすら光を放ってるみたいだけど」

ドラちゃん

『光り物は嫌いじゃないけど、食えねえしな……それよりお前、プリン忘れんなよ』

向田

「開けてみて」ドラちゃんを宥めた俺は雪蓮に巾着を開けるよう促す。

雪蓮

「ん……よっと」巾着を開いた雪蓮は中の物を見て、ギョッとした顔になる。

雪蓮

「小さな……印鑑?違う、これ……玉璽っ!?」

冥琳

「何っ!?」

雪蓮

「ほら、見てみて。白い大理石を素材とし、龍をあしらった彫刻……秦始皇本紀に書かれている表記と全く同じね」

冥琳

「始皇帝が作らせた、皇帝たる証か……これはとんでもないモノを拾ったな」

明命

「しかし……どうしてこんな井戸の中に?」

冥琳

「分からんが……恐らく、董卓軍撤退の混乱の中、宮廷より持ち出されたモノだろうな。持ち出した人間も、白装束達が乱入してきた事で逃げ切れないと悟り、この井戸に捨てたか隠した……大方そんなトコだろう」

雪蓮

「天祐ね、これは……」う~ん……そうも言えるか。始皇帝といえば、俺でもその名は知ってる、古代中国を初めて統一した人物だもんなぁ……。

冥琳

「ああ。この天祐、存分に利用させてもらおう……明命!」

明命

「はいっ!」

冥琳

「幾人かの兵を洛陽の民に偽装させ、さりげなく情報を流せ……孫策が天より玉璽を授かったとな」

明命

「了解であります!」

冥琳

「この噂が広まれば、雪蓮の下に人や物が集まってくるだろう……雪蓮。ここからは徳ある王として、演技をしてもらうわよ」

雪蓮

「うえぇ……めんどくさいなぁ、もう……」そう言う雪蓮はホントに面倒臭そうな顔になる。さっきまではカリスマ性のある王らしかったのに……。

冥琳

「遊びじゃない。これは正に天祐……この天祐を存分に利用しなければ、私達の未来はないわ」

雪蓮

「分かってるわよ。ただ……ちょっと本音を出してみただけ」

冥琳

「……頼むわよ?」

雪蓮

「了解」

 

 こうして──玉璽を手に入れた雪蓮は、洛陽復興という慈善事業を開始する。董卓を追い払った(気でいる)諸侯達は、意味のない事をする……とばかりに雪蓮をせせら笑っていた。しかし、雪蓮が玉璽を手に入れたという噂が広がるにつれ、俺達の周りには多くの人と物が集まるようになった。また雪蓮の威風を慕い、様々な人間達が援助を申し出てくる。それら1つ1つを天祐と捉え、雪蓮は徳高き王者として、援助を申し出てくれた人達に接していた。その振る舞いに感銘を受け、更に多くの人々が雪蓮を慕って集まってくるという好循環の中、俺達は洛陽の復興に力を注いでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 




ついでに言うと、向田のパンを食べた洛陽の人達はしばらく身体能力が上がったとか。で、復興も思いの外、順調に進んだらしいです……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十六席雪蓮、動き出すのこと

前回、心ない感想を書かれて、気分が悪いので書き直しました。本来、こんな事は言いたくないのですが、今後同じような事があれば、容赦なく運営に通報させてもらいます。


 反董卓連合が洛陽に雪崩れ込んでから、早2ヶ月が経過した。連合に追い詰められ、洛陽を逃げ出した(と、される)董卓達は、その後、西涼に戻ったという説や、暗殺されたという説が飛び交っていて、本当はどうなったのか……まぁ海を隔てた大陸にある、レオンハルト王国はカレーリナ街の俺の屋敷に居るんだけど。

 また、曹操が洛陽に入城した後、少帝を保護したらしいが、その後の動きを見るに、少帝を政治利用する気はなさそうだった。

 袁紹は河北で更に領土を拡大しようと、あちこちに戦を仕掛けているらしい。その煽りを喰らったのか、反董卓連合で地味に活躍していた公孫賛が、領土を失い、劉備の保護下に入ったという情報もある。その劉備は、董卓討伐に功があった……という事で徐州の州牧に任命された。義勇軍の大将だった劉備が、いつのまにやら州牧になったっていう、ある種の下克上じみた感慨もあるけど、どうやら裏で曹操が糸を引いているらしい。曹操が何を考えているのか、良くは分からないけれど……何やらきな臭い匂いがしてくるのは、俺の勘違いって訳ではないと思う。

 

 一方、俺達は復興作業の為しばらく洛陽に留まっていた。兵士さん達は炊き出しやら仮説住居の設営やらに勤しんでいた。雪蓮と冥琳も指示を出しながら、民家を一軒一軒当たっては必要な物資があるか、食料事情はどうだ等と尋ねていた。そんな中、俺はある意味当然ながら、食料と資材の提供がメインの仕事になっていた。

冥琳

「……しかしアレだな」

向田

「どうしたの冥琳?」

冥琳

「……イヤ。お前のお陰で復興にかかった費用が思ったより安く上がったのでな。安堵していたところだ」

「特に食費なんて、本来なら一番費用が嵩むんですよぉ~。それが剛さんの魔法の箱があれば格安で手に入りますからね~」

雪蓮

「それに従魔三匹が狩ってくる魔物肉も食料に回せるし。ホント、良い拾い物をしたわ」

向田

「俺、物扱いかよ……」そうボヤくと、みんなの間に笑いが起こる。雪蓮はこういう人間だし、お互いに冗談だって分かっているからね。

 

 その復興作業も何とかメドが立ってきたので、俺達も明日には建業へ帰る事になった。その前の晩、俺とフェル達が使っている穴蔵に雪蓮が酒の徳利を持って入ってきた。

雪蓮

「ちょっと良いかしら?」

向田

「雪蓮。こんな時に酒は不謹慎だぞ?」

雪蓮

「良いでしょ?明日は帰るんだから。それに剛とサシで話せるのって、今夜ぐらいだもん」

向田

「サシでって……何を話すんだ?」

雪蓮

「色々よ。この世界にきた時の事とか、これからどう生きるか、とか」

向田

「別に今夜じゃなくても……」そういや、史実の孫策はもうすぐ亡くなるんだっけ。まさか雪蓮……自分の死期を悟って……

雪蓮

「だって城中じゃ常に誰かの目があるじゃない?」……ああ、そういう事ね。とりあえずホッとする俺。元の三国志は知ったこっちゃないけど雪蓮や冥琳、穏に祭さん、蓮華、思春は絶対に死なせたくない。幸い俺にはフェル、スイ、ドラちゃんがいる。いざって時は彼女達を守って貰おうと思っている。

 

 それから俺は雪蓮と呑み交わしながら、レイセヘル王国の勇者召喚に巻き込まれたあの日から今日までの事、殆ど愚痴だったけど……雪蓮に話して聞かせた。勿論神様ズや董卓関連は伏せているぞ。

 

雪蓮

「……剛も苦労したのね」

向田

「まぁね。最近は慣れたモンだけど」

雪蓮

「それで?」

向田

「それで?というと?」雪蓮の問いにオウム返しする俺。

雪蓮

「だから……これからどう生きるか、よ。今は二つの大陸を行ったり来たりしてるけど、この国が平和になったらどうする訳?」う~ん、そう言われても……実は全く考えてなかった。とりあえずデミウルゴス様に従っているだけだしなぁ。

向田

「そうだなぁ……今後も今まで通りに行ったり来たりすると思う」

雪蓮

「……そう」あれ、雪蓮にしては随分歯切れが悪いな……どうしたんだろ?と、そこに……

冥琳

「雪蓮……こんな所に居たのね。明日出発なんだからさっさと支度しなさい」冥琳は雪蓮の首根っこを掴み、連行していった。振り向き様に

冥琳

「向田。お前もいつでも出発出来るようにしておけよ」と、言い残して自分の天幕へ去っていった。

 

 その翌日、俺達は建業へ帰った。

 

  さてその後、我らが雪蓮殿はというと……反董卓連合での闘いぶりと、その後での洛陽復興に向けての取り組みが大陸各地の庶人に評価され、その声望が一気に高まっていた。しかし出る杭は打たれるって言葉もある。最近は、雪蓮と袁術の仲が、かなりギクシャクし始めていた──。

 

向田

「ま、それより今はお務めをしないと」俺はカレーリナの自宅に戻り、従業員(みんな)に労いと日頃の感謝の言葉を掛けてから、早速恒例となっている神様ズへの貢ぎ物を備えていた。呉にある建業の城にも俺の私室は用意してもらっているけど、戸に鍵がないんだよ。もし雪蓮や祭さんが部屋に入ってきて、あの光景を見られたら(主にヴァハグン様とヘファイストス様ね)自分達も呑みたいと駄々こねるだろうし、俺に甘味だの酒だの貢がせてるのが知れたらただでさえ信仰が薄い神様ズの威厳は完全に台無しだ。ひいてはデミウルゴス様の別名、元始天尊の御名にも傷がつくだろう。そう思って誰にも邪魔されないカレーリナの屋敷にある、鍵つきの俺の部屋でお務めする事にした。

 

ニンリル

「ど、どら焼き!早速食べるのじゃ!」

ルサールカ

「ケーキにアイス……持って帰って食べる……」

アグニ

「ヨッシャ!ビール来たーッ!」

キシャール

「うふふ……高級洗顔クリームに美肌化粧水。これで美しさに磨きを……」

ヴァハグン

「ようやくウィスキーが呑めるぜ!一杯()ろうぜ鍛冶神よ」

ヘファイストス

「おうよ!戦神の」貢ぎ物に大喜びする神様ズの騒ぎを適当に聞き流しつつ、俺は建業に戻っていった。

 

~袁術の城(視点なし)~

 

 そんなある日、袁術はいかにもご機嫌ななめな様子で膨れっ面をしていた。

袁術

「むぅ~……」

張勲

「どうしたんです、お嬢様。スッゴく珍しく物を考えてるみたいに唸っちゃって」一言多い気もするが、マイペースな張勲に自覚はない。何だかんだで、傍若無人で我儘な袁術とは結構名コンビである。

袁術

「何だか最近孫策がムカつくのじゃ」

張勲

「あー……董卓さんとの闘いのあと、孫策さんってば人気者になっちゃいましたからねぇ」

袁術

「そうなのじゃ。妾を皇帝にしてあげるとか言っていたのに、自分だけ人気者になったから、何だか腹が立つのじゃ」つまりは逆恨みである。

袁術

「それに、孫策をイジメる為に色んな策を考えて手を打ってるのじゃが、ぜーんぶ失敗してるのじゃ。ウガー、気に入らんぞぉー!」

張勲

「策っ!?ちょ、美羽様が策って……策って……あははーっ♪」何がおかしいのか、いきなり大笑いする張勲。尤も、袁術が策を凝らす事自体は充分におかしいが……お側付きが笑ってはダメだろう。

袁術

「なんじゃとぉ!失礼な奴じゃ」

張勲

「だって美羽様が策を考えたって、良い策なんて浮かぶハズがないですもん。そんな事しなくたって、美羽様の地を出せば良いんです!意地悪でひねくれ者な地を出せば、孫策なんてチッチキチンですよ!」褒めているのか、バカにしているのか分からない弁明をする張勲。

張勲

「もっと悪どく!性格悪く!それこそ美羽様じゃないですか!」

袁術

「なるほど!妾の地を出せば良いのじゃな!」

張勲

「はい♪」

袁術

「よーし!なら妾はもっと地を出して、孫策をイジメてやるのじゃ♪」

張勲

「よっ!美羽様最高!この腹黒お嬢様め♪可愛いぞ♪」

袁術

「もっと妾を褒めるのじゃー♪うははー♪」

 

~同じ頃、孫策の城(向田視点に戻る)~

 

 お馴染みとなった城の庭での会議中雪蓮が眉間にシワを寄せている。

雪蓮

「……どこからかバカ笑いが聞こえる気がする」ん、俺には何も聞こえないぞ?いつもの勘が働いたのか。実際、雪蓮の勘はよく当たるけど。

向田

「何それ?空耳?」

雪蓮

「なんとなーくそんな感じがするってだけ……まあ良いわ。冥琳、仕込みの方はどんな感じ?」

冥琳

「仕込みはほぼ完了。決行の日取りは伝えているからそろそろ袁術に一報が届くころね」

雪蓮

「ふーん……で、さっきの報告にあった呂蒙って子。本当に信用出来るの?」

冥琳

「まだ未熟ではあるが、中々見所がある。今後の呉を担う人物となりそうよ」

雪蓮

「そう……ならその子は蓮華の右腕として育てましょうか」

冥琳

「ああ。そうしよう」

雪蓮

「……ところで、こっちの準備はどうなの?」

冥琳

「全て完了しているわ。後は事態の推移を見守るだけってところね」

雪蓮

「了解……準備万端。いよいよね」天を見上げなからの呟きに重なるように、館の外から複数の蹄の音が聞こえてきた。

向田

「あの慌ただしさ……何かあったんじゃない?」

冥琳

「うむ。待ちに待った一報。我らの工作が成功した……という事だろうな」

向田

「おっ。じゃあ……」

雪蓮

「私達の闘いがいよいよ始まるって事……」

冥琳

「いよいよね……雪蓮。ここから先は貴女の演技にかかっているわ……頼むわよ」

雪蓮

「了解」

 

~その後、再び袁術の城(視点なし)~

 

兵士(モブ)

「申し上げます!江東の各地で農民達による一揆が発生致しました!」

袁術

「何じゃと!?」

兵士(モブ)

「現在、農民達は江東の各地を占拠しつつ、この城に向かってきております!その数、およそ十万!しかし農民の数は今後増え続けていくかと思われます!」

袁術

「(怒)ぐぬぬー、たかが農民風情が妾に刃向かおうとは良い度胸なのじゃ!七乃、すぐに鎮圧に向かうのじゃ!」

張勲

「えぇー。ムリ」即効で返事をする張勲。しかも思いっきり嫌そうだ。

袁術

「はやっ!?」

張勲

「いやいや。農民とはいえ十万人相手に闘うなんて、いくら私でもムリですよぉ」今にも泣きそうな顔で答える張勲。

張勲

「それにほら、私ってば基本的に城攻め専門?大量生産した衝車で城門めがけて一気にドーンッ!って闘い方しか出来ませんしぃ~」

袁術

「むぅ。ならどうするのじゃ?」

張勲

「もぉ~、美羽様ってばうっかりさん♪こんな時こそ、美羽様の剣であり盾である孫策さんの出番じゃないですかぁ~」

袁術

「おおーっ!そういえばそうじゃな。孫策の事をスッカリ忘れておったわ」

張勲

「あははー、このうっかりさんめ♪」

袁術

「テヘ、なのじゃ♪それじゃ七乃よ。孫策にさっさと命令するのじゃ!」

張勲

「了解でぇ~す♪」意気揚々と雪蓮の元へ向かう張勲。だが、自分達がこの後なんとも悲惨な末路を迎える事を、このアホ2名は未だ知る由もない。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十七席孫呉、反旗を翻すのこと

しばらく落ち込んでましたが、何とか持ち直して更新します。応援して下さった皆様、本当にありがとうございました!


張勲

「──という事でぇ。袁術様は暴徒の鎮圧をお望みなのです~♪当然、行ってくれますよね、孫策さん♪」張勲のアホが意気揚々と雪蓮の元へ乗り込んできて、好き勝手な事を抜かし始めた。

雪蓮

「はぁ~……」

張勲

「あれ?どうかしました?」

雪蓮

「いや……張り合いのない相手って、ほーんと、疲れるモノだなぁって思ってね」

張勲

「おおー。英雄とか言われていい気になってる、孫策さんらしいお言葉ですねー♪」呆れている雪蓮に、まだその思惑に気づいてない張勲。

張勲

「暴徒なんて張り合いがない。うんうん、その気持ちはよーく分かりますよ♪だけど袁術様のご命令ですから、すみませんがすぐに行ってもらえます?」

雪蓮

「……了解。全ての兵士を連れて行くけど、問題ないわね?」

張勲

「相手は十万人って話ですからね~。当然問題なしですよ♪」

雪蓮

「分かったわ。じゃあ袁術ちゃんに、頚を洗って待ってなさいって伝えておいて」

張勲

「はぁ~い♪」

 

冥琳

「……開いた口が塞がらないとはこの事だな。全く……」言うだけ言って帰っていった張勲に冥琳がため息を吐く。あのアホっ振りには、俺ですら呆れたもんなぁ。

雪蓮

「まぁ楽だから良いんだけどさぁ……最後の皮肉にも反応がなさ過ぎて、なんかつまんないわね」

向田

「贅沢言ってるなぁ。相手が愚かな方がラク出来ていいじゃないか」

雪蓮

「そうなんだけどね……まぁいいや。興覇、幼平」

思春

「はっ!」

明命

「はいっ!」

雪蓮

「移動の準備、よろしくね」

思春・明命

「御意!」

「では私は剛さんと兵站の方を担当しますね♪」

冥琳

「頼む……準備が出来次第、すぐに出陣しよう」

雪蓮

「了解」

 

~袁術の城(視点なし)~

 

「美羽様ぁ~。孫策さんの部隊、たった今、出陣していきましたよぉ」

袁術

「おお、行ったか。ふむふむ……いくら英雄と言われようと、やはり妾の方が偉いという事じゃな」

張勲

「よっ!皇帝に最も近い美羽お嬢様!可愛いったらありゃしないぞ♪」

袁術

「うははー♪もっと言ってたも!もっと妾を褒めてたもぉー♪」あまりのバカっ振りに目も当てられない2人だった……

 

~向田視点に戻る~

 

 拠点を発した俺達は、江東の地に向かって粛々と駒を進めていた。

向田

「これからどうやって江東に入るんだ?」

雪蓮

「えっ?江東には入らないわよ?」

向田

「んおっ?どういう事?」

冥琳

「一揆に偽装した民兵を率いる蓮華様と合流し、そのまま反転。袁術を急襲するのよ」

向田

「偽装って……そうだったんだ……」

「そりゃそうですよ。本当に一揆が発生してるなら、それを鎮圧するのに時間とお金と人員を投入しなくちゃいけませんからね」

向田

「なるほどねぇ……」一揆に偽装して各地で武装蜂起(ぶそうほうき)し、その鎮圧に向かうふりして仲間と合流、逆撃急襲して袁術を叩くってワケか。

向田

「うーん……作戦って奥が深いなぁ」

冥琳

「奥が深いというのには同意だが、この策は袁術だからこそ効果があったという事も忘れるなよ?」

フェル

『あやつがバカだから通用したという事か?』

「そういう事です♪これが曹操さんなら、多分自ら鎮圧に乗り出すでしょうし……そもそも一揆が発生する状況を作らないでしょうしね」

向田

「なるほど……勉強になったよ」

雪蓮

「しっかり勉強して孫呉を支えてね」おいおい、国ごとかよ?しかし、ここは男を見せておこう。

向田

「国も雪蓮も蓮華も。みんなを支える為に全力を尽くすよ」

雪蓮

「あはっ、優しいなぁ剛は♪」

冥琳

「イチャイチャしてないで。そろそろ蓮華様達との合流地点に到着するわよ」

雪蓮

「あら、妬いてるの?……どっちにかしら?」

冥琳

「さぁ?ご想像にお任せするわ」

雪蓮

「むぅ……そんな事言われたら、私が妬いちゃうじゃない……」冥琳の言い方に、頬を膨らまして抗議する雪蓮を微笑ましく見ていると、前曲を率いている明命の声が聞こえてきた。

明命

「前方に軍勢を発見!旗は黄!そして孫家の牙門旗!黄蓋様、孫権様です!」

冥琳

「よし……興覇。どこに袁術の目があるかも分からん。警戒を怠らんでくれ」

思春

「了解です」

雪蓮

「三人姉妹、久し振りの合流かぁ……ふふっ、楽しみね」

向田

「3人姉妹?って事は雪蓮には蓮華以外にも妹が居るんだ?」孫策の妹の孫権。その妹って……えーっと……誰だっけ?

雪蓮

「そ。尚香って言ってね。弓腰姫とか呼ばれるぐらいおてんばだけど、とっても可愛い妹ちゃんよ」あ、孫尚香も女なのか。孫策、孫権が女性化してるから、逆に男だと思ってた。

雪蓮

「合流の準備が整ったみたい。行きましょ♪」ククッと喉で笑った雪蓮が、前方に大きく手を振った。そこに居たのは、袁術と同年代ぐらいの少女だった。

尚香

「おっねぇさまーっ!」

雪蓮

「シャオ!元気だった?」

尚香

「もっちろん♪毎日、水浴びしたり街で遊んだり。楽しかったよー?」

雪蓮

「ふふっ、遊んでばかりねぇ……勉強はちゃんとした?」

尚香

「もっちろん!」

蓮華

「嘘をつけ。子布に言いつけられた宿題を一度たりともやってなかったではないか」

尚香

「本当の智ってのは、机上の本読みで会得出来るものじゃないモンね」ペロッと舌を出しながら、尚香と呼ばれた少女は蓮華に抗議する。

尚香

「それに身体を動かす方が、今の私達にとっては大事な事でしょ?いつ袁術の刺客に襲われるか分からないんだし」

蓮華

「王として民を善く治める為に、学問も必要なのだがな」

尚香

「そういうの、シャオ興味ないもーん♪」屈託のない笑顔で言った後、尚香は俺の方を指差した。

尚香

「あなたが天の御遣い?」

向田

「ん。まぁそうかな?」俺は曖昧に答えてフェル達を紹介する。

尚香

「ふーん。私の名前は尚香。真名は小蓮っ( しゃおれん )ていうの。シャオって呼んでね♪」 

向田

「俺は向田剛……よろしく、シャオ」

小蓮

「ん♪よろしくしてあげるー♪」何と言うか、天真爛漫って言葉がしっくりくる娘だな。フェルやスイ、ドラちゃんを見ても物怖じしないし。将来は大物になりそうな予感がする……

蓮華

「……剛。元気だったか?」

向田

「ボチボチね……少しは成長したところ、蓮華に見せられると思うよ」

蓮華

「ふふっ……楽しみにしているわ」蓮華は俺に微笑みかけると、雪蓮に向き直る。

蓮華

「ところでお姉様。お姉様に引き合わせたい人間が居ます……亞莎(あーしぇ)

??

「は、はひっ!」蓮華がモノクルを掛けた女の子を連れてきた。ちょっとオドオドしているんだけど、大丈夫かなぁ?

蓮華

「この者の名は呂蒙。字は子命……我らの新たな仲間です」蓮華の紹介を受け、雪蓮は呂蒙に近づいていく。

雪蓮

「冥琳から報告は聞いてるわ……今回の一揆騒ぎも貴女が計画を立て、実行してくれたそうね……ありがとう。そして初めまして呂蒙」

呂蒙

「は、初めまして!」

雪蓮

「ふふっ、緊張しなくても良いわよ。これから共に闘っていく仲間なんだから……我が名は孫策。真名は雪蓮。貴女の真名も私にくれる?」

呂蒙

「は、はいっ!真名は亞莎と申します!あ、あの……英雄である孫策様にお会い出来て、光栄至極!です!」

雪蓮

「こちらこそ……亞莎。貴女の命、私が預かる……期待してるわよ」

亞莎

「は、はひっ!」

雪蓮

「蓮華。亞莎に剛の事、伝えているの?」

蓮華

「はい。その事については亞莎も承諾してくれました」俺の事って、やっぱアレだよなぁ……う~ん、こんな若い娘にそういうのを頼むのはどうも……イヤ、若くなきゃ良いって訳じゃないけどね。

雪蓮

「そ。なら……亞莎には剛の事も紹介しなくちゃいけないわね……亞莎、この男性が向田剛……貴女の夫となる人よ」

亞莎

「……っ!?あ、う……は、はい」顔を真っ赤にしながらも、呂蒙は険しい表情で俺を睨み付ける。

向田

「あー……向田剛。よろしく、呂蒙」

呂蒙

「……っ!」

呂蒙

「……」

呂蒙

「……っ!」何か……さっきから俺を見つめては、デカい袖で自分の顔を隠すのを繰り返してるが、一体何がしたいんだ?

向田

「えーっと……」

蓮華

「気にするな。亞莎は恥ずかしがり屋でな……照れているんだろう」

呂蒙

「て、照れてはいませんっ!ただちょっと怖いだけです!」怖い?ちょっとショックだな……それなら照れてる方がまだ良いんだけど。

向田

「怖いって……俺が?」

呂蒙

「いいえ、あの……見慣れぬ人が怖いんです!」

雪蓮

「どういう事?」

蓮華

「本人曰く、人付き合いが下手なんだそうだ」

呂蒙

「わ、私はその……目付きが悪く、人を不快にさせてしまいますので……」そうは見えないけどなぁ。

向田

「?どこが目付き悪いの?」ようするにコミュ障って事か。元居た世界で勤めてた会社にもたまに居たなぁ。能力は高いのに、そのせいで仕事が出来なかった奴。

向田

「むしろカッコイイ目じゃないか」

雪蓮

「うん。私もそんな風に思えないんだけど。亞莎、顔を見せなさい」

呂蒙

「う、うう……」雪蓮に言われては断る訳にもいかず、呂蒙はビクビクしながらも袖を下ろす。

雪蓮

「うんうん。いかにも軍師って感じの、鋭い目をしていると思うけど?」

蓮華

「そうでしょう?……私も何度も言っているのですが、どうやら本人は目付きが悪いと思い込んでいるようで……」

向田

「そんな事ない……こいつを見てみなよ」俺は呂蒙に、フェルを顔で指し示す。

呂蒙

「……ひっ!」

向田

「例え目付きが悪いとしても、こいつほどじゃないだろ?気にする事ないって」

フェル

『……お主、このところ何かと我を引き合いに出すが?』

ドラちゃん

『ヘヘッ、しょうがねえよ。実際フェルって目付き悪りぃしな(笑)』

スイ

『フェルおじちゃんは怖くないよ~』

呂蒙

「……こ、これが呉の隠し玉といわれる魔獣達……」フェル、スイ、ドラちゃんを順に見回し呆気に取られる呂蒙。

向田

「それに、俺は……呂蒙は良い目をしていると思う」

呂蒙

「……あ、あの……!私の真名は亞莎、です。この名前……あなたにお預けします!」

向田

「うぇ?!い、いきなりだねぇ……」

雪蓮

「剛の事が気に入ったんでしょ……そうでしょ、亞莎?」

亞莎

「……(フルフル)」再び大きな袖で顔を隠して首を横に振る、呂蒙改め亞莎。そんな思いっきり否定しなくても良くない?

雪蓮

「ふふっ、いくら否定したって、耳まで真っ赤になってるわよ」

亞莎

「……っ!」雪蓮も揶揄(からか)うなっつーのっ!

雪蓮

「まぁ……しばらくは慣れないかもしれないけど。徐々に仲良くなっていきなさい……剛もね」

向田

「ああ……よろしくね、亞莎」

亞莎

「は、はひっ!」うん、とりあえず悪印象は持たれてないようだな。

冥琳

「ふむ……これで顔合わせは済んだな。ではそろそろ動こうか」

雪蓮

「そうね」小さく頷いた雪蓮が、合流を果たした部隊の先頭に立つ。

 

雪蓮

「孫呉の民よ!呉の同胞(はらから)達よ!待ちに待った時は来た!栄光に満ちた呉の歴史を。懐かしき呉の大地を!再びこの手に取り戻すのだ!」

兵士達(モブ)

「「「「おおおぉぉぉー!」」」」

雪蓮

「敵は揚州にあり!雌伏*1の時を経た今、我らの力を見せつけようではないか!これより孫呉の大号令を発す!呉の兵達( つわもの )よ!その命を燃やし尽くし、呉の為に死ね!全軍、誇りと共に前進せよ!宿敵、袁術を打ち倒し、我らの土地を取り戻すのだ!」

兵士達(モブ)

「「「「おおおぉぉぉー!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
活躍の時を待って、人の下に屈する事。また、実力を養いながら活躍の時を待つ事




アホ2名の行く末が気になる方もいらっしゃるでしょうが、もう少しお待ち下さい。どんな制裁を与えようか今、色々と考えてます。

※今後、感想はログインユーザー様のみ受け付けます。感想を下さる方々はご注意をお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十八席袁術、于吉に嵌められるのこと

テンポとしてはあまり進みませんでした。


~袁術の城(視点なし)~

 

兵士(モブ)

「も、申し上げまーーーす!」1人の兵士が血相を変えて袁術の居る玉座の間に駆け込んできた。

張勲

「あや?どうかしましたかー?」

兵士(モブ)

「そ、そ、そ、孫策殿が……孫策殿がっ!」

袁術

「何じゃ。孫策がどうかしよったのか?」

張勲

「まさか孫策さん、死んじゃってたりして~」

袁術

「目の上のたんこぶが居なくなるのは、素晴らしい事なのじゃ」相も変わらず能天気な2人だが

兵士(モブ)

「そ、そんな事ではありません!孫策殿が、は、反乱を起こしました!」

袁術

「な……なんじゃとーーーっ!?」ようやく真実を知って青褪める袁術と張勲。

兵士(モブ)

「孫策殿は江東に潜んでいた孫家の旧臣を呼び寄せると共に、江東で一揆を起こした農民達を吸収し、勢力を拡大!現在、国境線にある我らが城を次々に落とし、こちらに向かってきております!更に孫策殿は謎の怪物を三体従えております!」

袁術

「ぐぬぬーっ……孫策の奴め、妾を騙しておったのじゃ!しかも怪物を従えとるじゃと!?」

張勲

「そうみたいですねー」

袁術

「ですねー、じゃないのじゃ!その怪物、七乃がなんとかせい!」

張勲

「な、何とかですか?」

袁術

「そうじゃ!七乃の力で怪物を懲らしめるのじゃ!そして二度と逆らえないように、孫策に沢山お仕置きするのじゃ!」

張勲

(……怪物を懲らしめて、孫策さんにお仕置きなんて事、出来るのかなぁ……?)

袁術

「何か言ったか?」

張勲

「い、いいえー、なにもー♪あ、はは……じゃ、すぐに迎撃準備を開始しちゃいまーす!」

袁術

「うむ!頑張れ七乃!負けるな七乃!妾をしっかり守るのじゃ!」

張勲

「はーい♪」と意気揚々と出ていった張勲だったが、本音では闘いたくはなかった。

張勲

「はぁ~……英雄って呼ばれてる孫策さんに、私達が勝てる訳がないのになぁ~。しかも厄介な怪物も一緒みたいだし……」

兵士(モブ)

「ど、どうしましょう、大将軍様?」

張勲

「んー……闘うしかないけど、お嬢様を連れて逃げる準備、しとかなくちゃだね」

兵士(モブ)

「そうですよねぇ~。英雄と怪物が組んだら、私達が勝てるワケありませんもんね。(こりゃさっさと孫策に投降した方が身のためだな……)」

張勲

「だよねぇ?あははぁ~♪」もう乾いた笑いしかでない張勲だった。

 

~向田視点に戻る~

 

 袁術の住む寿春城に辿り着いた俺達。これで長かった雪蓮の悲願が報われると思うと、これまであまり関わってなかった俺まで何か込み上げてくるモノを感じる。

思春

「前方に寿春城が見えました!敵影なし!」

雪蓮

「ええ!?敵影なしって……」

ドラちゃん

『なんだよ。拍子抜けだな』

蓮華

「……呆れて物も言えませんね」

向田

「ま、雪蓮が反乱を起こしたって事で、慌てふためいているんじゃない?」

明命

「敵城に動きあり!城壁に兵が出てきています!あ、旗も揚がったようです!」

小蓮

「おっそ!……袁術ってもしかしてバカ?」

「もしかせんでもバカじゃな」

スイ

『ふ~ん。バカなんだぁ』祭さんの呟きに俺を含む全員が呆れてため息を吐く。スイだけよく分からないって顔してたけど。

蓮華

「あまりにも危機管理がなっていないな……それだけ雪蓮姉様を信用していたという事か?」

向田

「裏切られるかもって事に、考えが至ってなかったんじゃない?」

冥琳

「ふっ……おそらくそうだろうな」

「そんなところまで気が回るほど、お利口さんじゃないでしょうからねぇ~」

亞莎

「敵の動きが鈍い今こそが好機。態勢が整う前に一揉みに揉むのが良いと思います」

冥琳

「それが良いだろうな……む?だが待て。城門が開いたようだぞ」

雪蓮

「旗は?」

思春

「張!大将軍張勲のようです」

雪蓮

「大将軍ねぇ……どの辺りが'大'なのかしら?」

冥琳

「バカの頭につく言葉が'大'なのだろう」

雪蓮

「違いないわね……じゃ、袁術ちゃんの相手をする前に、準備運動と行きましょうか」

「準備運動になるかは甚だ疑問だがな」

冥琳

「全くです」雪蓮も祭さんも冥琳も揃って余裕の表情だ。

明命

「敵軍突出!こちらに向かってきます!」張勲、なんかやけっぱちだな……

雪蓮

「了解……蓮華。この闘い、貴女が指揮を執って見せなさい」

蓮華

「え、私がですか?」

雪蓮

「ええ……大丈夫。張勲なんて軽ーく捻っちゃいなさい♪」雪蓮は笑顔で蓮華にそう言うけど、この娘、案外プレッシャーに弱そうなんだよな。大丈夫かなぁ……

蓮華

「はい!……では孫仲謀、これより全軍の指揮を執る!各部隊迎撃態勢を取れ!突出する敵を半包囲し、一気に粉砕するぞ!」

向田

「な、なぁフェル……」

フェル

『いざという時は守れと言いたいのだろう?お主の考える事ぐらい、大体の見当はつく』よし、これで蓮華は大丈夫だ。

兵士達(モブ)

「「「「応ぉぉぉーーっ!」」」」兵士さん達も気合い入ってんな。

 

 その後は……まぁ圧勝だったかな?何せ空が晴れてる中、目の前に落雷が起こるし、水気もないのに波に呑まれるし、この気温で巨大な氷柱が降ってくる。そりゃ怖くなって敵軍だって逃げ出すよ。所詮アホ将軍の指揮じゃウチのトリオに勝てっこないもんね。更に攻撃、進軍を続ける我ら呉軍に対し、尻尾を巻いて城内に退く袁術軍。これで雪蓮も積年の恨み辛みを晴らせるって訳だ。

 

~寿春城(視点なし)~

 

 戦線を離脱した張勲は袁術を連れて、逃げる直前だった。

張勲

「美羽様ぁ~!逃げる準備出来ましたぁ~?」

袁術

「ナゼ妾が逃げなくちゃならんのじゃ!七乃よ、もう一度闘ってくるのじゃ!」

張勲

「ムリですってばそんなの!あんな化け物を連れている孫策さんに、私が勝てるワケないじゃないですかぁ!」

袁術

「何を情けない事言っておる!今こそ名門袁家の将として、命を賭けて孫策を倒すのじゃ!」

張勲

「命が九つぐらいあったら考えますけど、今の私じゃぜーーったいにムリですってば!」

??

「いやいや。袁術殿の仰る通り」何の前触れもなく、メガネをかけた白い道士服の男が2人の会話に割って入ってきた。

袁術

「何者じゃ!」

??

「お初にお目にかかります、袁公路(こうろ)殿。我が名は于吉。以後、お見知りおきを」

袁術

「何じゃエセ道士!お前に構っているどころではないのじゃ!」

張勲

「暢気に挨拶している場合じゃないんですけどぉ~?(泣)」

于吉

「まぁそう焦らずに。私の話を聞くのも一興ではありませんか?」

袁術

「そんな暇はないのじゃ!今は何としてでも、孫策を討たねばならんのじゃ!」

于吉

「その孫策を倒せる策がある、と言ったらどうです?」

張勲

「えっ!?」

袁術

「何じゃとっ!?」

??

「ふふっ、興味を示されたようですね」

袁術

「良かろう……于吉とやら。聞くだけ聞いてやるのじゃ」

于吉

「御意のままに」

張勲

「それで、どうやって孫策さんを倒すんですか?」

于吉

「手下の者共を送り込みましょう。[(げん)]」于吉が呪文を唱えると白装束に身を包んだ、生気のない顔をした兵士大人数が彼の後ろにズラリと並んだ。

于吉

「とりあえず十万。足りなくなれば、戦闘中でも私の術で幾らでも増援可能ですよ」

袁術

「よーし七乃よ!ついて参れ!二人で兵を率いて闘うのじゃ!」

張勲

「お嬢様と共闘!?やーん、それってスッゴく楽しそうです~♪」

袁術

「そうじゃろそうじゃろ?ならば早速妾と共に孫策を泣かせてやるのじゃ!」

張勲

「はぁ~い♪」

于吉

「袁術殿。貴女には期待していますよ……上手く立ち回れば、皇帝も夢じゃありません」

袁術

「任せておくのじゃ!」袁術と張勲が城を飛び出すと、一人ほくそ笑む于吉。

于吉

「ふふっ……良い手駒になりそうですね。野心のなかった董卓と違い、餌をぶら下げておけば扱いやすい……」

 

~孫策軍~

 

思春

「敵、城内に後退しました!」

蓮華

「よし!ならばすぐに城門に接近──!」

雪蓮

「はい失格。この状況での城門接近はダメよ」

蓮華

「えっ?」

雪蓮

「敵が城に退く時は確かに好機だけど、逆の場合も多々ある……城壁を見てみなさい。多くの兵が弓を構えてるのが見えるでしょ?」

蓮華

「はい……」

雪蓮

「前の闘いで戦場に出ていたのは張勲のみ……という事は、袁術は未だ城内で部隊を指揮していると考えるのが妥当でしょう。指揮系統が健在の場合、敵兵の動きを良く見て、接近しても良いかどうかを判断する……それが総大将の役目。覚えておきなさいね」

蓮華

「はいっ!」雪蓮から蓮華へ、教育が行われている。後を継がせる為の準備といったところかな?何となく最近の雪蓮は生き急いでいる気がするんだけど……何ともいえない不安にかられる俺。いや、だって史実の孫策はそろそろ亡くなる頃だよ。まして勘の鋭い雪蓮の事だ、自分の死期を悟ってるように思えてならないよ。俺の考えに気づいているのかいないのか、雪蓮と冥琳は次の作戦を立て始めた。

冥琳

「敵は城内に退いたが、城壁の兵士に動揺の兆しは見えない。袁術の性格からして……もう一度来るのは確実でしょうね」

雪蓮

「ええ。今のうちに部隊を再編しましょ。後方に待機している予備隊を合流させて」

冥琳

「分かった」

雪蓮

「次も蓮華が総大将として指揮しなさい……剛はその補佐をお願い」

向田

「了解……雪蓮はどうするんだ?」

雪蓮

「袁術を撃破した後、この剣であの子の頭を取るのが私の役目。だから軍の指揮を蓮華に任せるの」

蓮華

「……分かりました。総大将の任、立派に果たして見せます!」蓮華は気合いを入れ直したかのように、力強く宣言する。

雪蓮

「ん。でもあまり気負う必要はないわよ……歯ごたえなさ過ぎなんだもん」真面目なのか不真面目なのか……雪蓮らしいっちゃあらしいけど。

冥琳

「まさにな……こんな勢力に良いように使われていたとは」

雪蓮

「涙が出そうだよ……」

向田

「まぁそう言うなってば」

雪蓮

「うー、剛にはこの悔しさが分からないんだよ……あ、ダメ。あの腹立たしい記憶が蘇ってきちゃう……ホントに涙が出そう」

向田

「悔しいのは分かるけど……でも、敵が弱いってのは良い事じゃないか」

雪蓮

「それはそうだけど……でも、どうせ闘うなら、曹操みたいな英雄と闘いたいわ。軍略と武勇、その二つを極限の状況で競い合ってみたい……」

冥琳

「物騒な事言わないの……さっさと袁術を撃破しないと、それこそ態勢の整わないまま、曹操と闘う事になるわよ」

「むぅ……それはあまり嬉しくないのぉ。策殿。さっさと城攻めの下知をくれい!」

雪蓮

「いやだから。蓮華に説明したでしょ?もう一波、袁術の攻勢が来るってば」

「ならば早く来い袁術!この儂が地平の彼方までぶっ飛ばしてやろう!」

向田

「祭さん、張り切ってるなぁ」

「当たり前じゃ。今までせこせこと工作活動などという慣れぬ事をやってきたんじゃ。鬱憤が溜まって仕方ないんじゃい!」なるほどね。ここで一暴れして、スッキリしたい訳か。

「ほれぃ!袁術よ、はやく出てこんかい!出てこんかったらこちらから出向いてやるぞ!」

明命

「敵城開門!袁と張の旗が見えます!」

「うほっ!本当に来よったぞ!」

向田

「う、嬉しそうだなぁ……」

「嬉しいに決まっとる!権殿!先鋒は儂じゃぞ?儂に任せてくれるじゃろ?」メッチャ期待している祭さんだけど……あれ?何か様子が変だぞ。

向田

「おい!あれは……!」嘘だろ!洛陽に居た白装束共じゃねーか!

向田

「祭さん!先鋒は危険だ!今回は諦めて、俺とフェル達に向かわせて!」

「ほう……あれが斬っても斬っても数の尽きぬ白装束か。面白い!益々先鋒を切りたくなったわい!」いい年齢(とし)して何言ってんのこの人!?

フェル

『放っておけ。お主が言ったところで止まる人間ではなかろう?』

蓮華

「剛。何を言ってもムダよ。先鋒は黄蓋に命じる……沢山暴れてきなさいな」蓮華とフェルの意見が一致した!?

「当然じゃ!」あぁぁーっ、チキショー、こうなりゃヤケだ!

向田

「フェル、スイ、ドラちゃん。あいつら徹底的に叩きのめしちゃって!」

フェル

『元よりそのつもりだ』

スイ

『スイあいつら嫌い~。みんなやっつけちゃうもんね』

ドラちゃん

『今度こそ全員、あの世に送ってやるぜ!』

「では権殿!号令を!」

蓮華

「ええ!」蓮華は大きく深呼吸すると、兵士達へ大声を上げて叫ぶ。

 

蓮華

「聞け!呉の将兵よ!この闘いこそ呉の未来を占う一戦!皆の力を今一度、孫家の私に貸してくれ!そして皆で掴もうではないか!輝ける未来を。誇るべき郷土を。そして我らの子孫が笑って過ごせる平和な刻を!」

兵士達

「おおおぉぉぉーーーっ!」

蓮華

「皆の命を燃やし尽くせ!剣で切り裂け!矢で貫け!孫呉の牙で袁術の喉笛を食いちぎれ!」

兵士達

「おおおぉぉぉーーーっ!」蓮華は剣を抜き、寿春城へかざして続ける。

蓮華

「城門を突破して城を落とす!振り向くな!闘って死ね!」

兵士達

「応ぉぉぉーーーっ!」

蓮華

「駆けよ!我らの栄光ある未来の為に!全軍……突撃ぃーーーっ!」俺達呉勢とVS袁術の最終決戦が始まろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 




早くメシ話を書きたいのですが、中々上手くいかない……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十九席袁術と張勲、死す?のこと

妙に引っ張ってしまいました。ホントはすぐに決着つけたかったんだけどなぁ……


袁術

「待たせたな、孫家よ!この裏切り者がぁ~~!妾と七乃でキツーく灸を据えてやるからの。泣いても許してやらんのじゃ!」

張勲

「お嬢様、流っ石ー!ヒューヒューですっ♪」

袁術

「はっはっはー!そうじゃろ、そうじゃろ。決まったじゃろー♪」

蓮華

「うぅっ、こんな奴らに……(悔)」

「権殿!この屈辱も今、この時で終わりじゃ!行くぞっ。はああぁぁーっ!」

 

 先鋒を切った祭さんの部隊が、袁術軍の一般兵を蹴散らしていく。それだけなら、こっちが有利に聞こえるがやはり問題は白装束だ。祭さん率いる黄蓋隊が弓を引いて、1度に数人単位で討ち果たすが、何せ相手はいくらでも涌いて出てくるのでキリがない。

蓮華

「戦況は不利ね……」

思春

「蓮華様っ!」白装束の兵士、数人が一斉に蓮華に襲いかかってきた。蓮華を守ろうとクナイを振るう思春も、別の白装束に邪魔される。

「あわわ、こっちにまで白装束がぁーっ!」穏も白装束に囲まれる。これは絶望的だ。

 

 ……何て言うと思った?生憎と、こっちにはフェルとスイとドラちゃんが居るんだよ!

フェル

『この程度で我が臆すると思ったか!』咆哮だけでビビる白装束を文字通り蹴散らすフェル。

ドラちゃん

『お前ら、やり方がワンパターンなんだよ!』疑似ドラゴンブレスを浴びせるドラちゃん。

スイ

『悪いヤツらはメッ!なんだからね~』スイの酸弾を喰らい、次々と戦闘不能になる白装束。

思春

「……やはり強いな」

「これなら勝てますよぉ♪」喜ぶ穏だが、それも束の間の事だった。いつの間にか1人の男が俺達の目の前に姿を現した。他の白装束と違って、顔をスッポリ覆う頭巾は被らず、メガネはかけているがその素顔は曝け出している。

向田

(こいつ……貂蝉とは別の意味でヤバい!)そう感じた俺はフェルに乗ったまま、蓮華を引っ張り上げて前線から退かせようとしたが、当の蓮華がこれを拒絶した。

向田

「逃げるぞ蓮華!そいつはマジでヤバい!」

蓮華

「イヤ、私はこの男に聞きたい事がある」何言ってんだよ蓮華!?

蓮華

「貴様が白装束の大将か?」

??

「如何にも」

蓮華

「で、貴様は何者だ!?」

于吉

「私は于吉。我らが悲願を叶える為、貴女達には死んで貰います」

蓮華

「フフッ、簡単に言ってくれるな……」蓮華は剣を抜いて、于吉に翳す。

蓮華

「我が命を欲するなら実力でしてみせろ!」

于吉

「……後悔しますよ。尤も貴女の武力では、後悔する間もなく死にますがね」

思春

「れ、蓮華様!相手は素性の知れぬ者!ここは私に委せて蓮華様は後退をっ!」

蓮華

「後退はせん!私は江東の虎の娘の次女!名乗りを上げた敵に背を向ける事などせん!」立派な考え方だけど、そんなプライドの為に、命を失ったら何にもならないからね?

于吉

「誰が来たとて同じですがね。『防』」于吉と名乗った男が何やら呪文を唱える。するとそいつは球状の光に包まれた。ニヤリと人を小馬鹿にしたような、嫌みったらしい笑みを蓮華に向ける。

蓮華

「はあぁぁぁぁぁーっ!」于吉に剣を振るう蓮華。だけど光球は、鋼鉄かミスリルで出来たバリアーのように、カキーンと音を立てて剣を跳ね返す。

于吉

「ムダですよ。ではそろそろ死んでいただきましょう」悔しさに顔を歪める蓮華に、下卑た笑みを見せたまま、于吉は光球ごと空へ舞い上がる。その時、俺の脳裏に奇妙な発想が浮かんできた。

向田

「なあフェル。あの光球ごと于吉を攻撃出来ないかな?」

フェル

『ん?どういう事だ?』

向田

「あの光球に質量があれば、揺らす事が出来る。それなら中の于吉にダメージを与えられるかもしれないだろ?」

フェル

『ホウ……面白いアイディアだな。やるだけの価値はありそうだ。スイよ』

スイ

『なぁに。フェルおじちゃん?』

フェル

『あの光の球を落としてみよ。そして我とボール遊びをしようではないか』

スイ

『ボール遊び~?うん、やろう♪』スイは光球に触手を伸ばして、叩き落とす。俺の予想通り、光球は于吉ごと地面に転がった。

スイ

『え~い!』落ちた光球を触手で弾いて、フェルへパスするスイ。

フェル

『むぅっ!』スイの投げた光球を前足で受けとめるフェル。そして再びスイにパスする。

ドラちゃん

『オイオイ。2人だけで遊ぶなよ。俺も交ぜろ』

「何じゃ?面白そうな事をしておるのう♪」祭さんとドラちゃんまでこのボール遊びに参加し出した。つーか祭さん、部隊放っぽり出して何してんの!?

フェル

『パスだっ!』

「'ぱす'とは球を味方へ送る事じゃな。では、儂も……ぱすじゃ!」

ドラちゃん

『ヘイパース!』

スイ

『ヘイパス~』ゴロンゴロン転がる光球の中で、バランスを崩し、無様にコケ続ける于吉。その内に頭を抱えてフラフラになる。あ、こりゃ脳震盪起こしたな。

于吉

「何なんですか!こいつらは!」コケながらも、俺を目に捉えると今度は自身が顔を歪ませる。

于吉

「貴様はデミウルゴスのっ……!?まさか呉についていたとは!では董卓を逃がしたのも……」やっぱり。月を処刑寸前まで追い詰めたのもこいつらだったのか。それを知ると俺も腸が( はらわた )、煮えくり返ってきた。結局俺にゃ何も出来ないけどさ。

于吉

「覚えていなさいっ!」ボロボロの状態で、命からがらトリオから離れると、空気に溶けるようにその場を去っていった于吉。それと同時に白装束の兵達も、只の土くれに変わり、一陣の風に吹かれて散っていった。

 

亞莎

「蓮華様!敵軍が総崩れとなっております!今こそ突入の好機かと!」

蓮華

「お姉様っ!」

雪蓮

「分かってる……行ってくるわ、冥琳。明命もついてきて」

明命

「はっ!」

冥琳

「仕上げを頼む……向田!従魔を一体、雪蓮達の護衛に」

向田

「分かった。スイ、お願い」

スイ

『うん良いよ~』

 

~視点なし~

 

 闘いに敗れ、寿春城内を逃げ続ける袁術と張勲。途中で呉の兵士に見つかり、何とかこれを撃退するが……

張勲

「はぁ、はぁ、はぁ……こんな所にまで孫策さんの兵が入ってきてる……」

袁術

「ううー……七乃~、怖いのじゃ~……」

張勲

「大丈夫ですよ美羽様。七乃がついてますからね」

袁術

「ひっく……早く逃げるのじゃ~……」

張勲

「はい。お城を突っ切って、裏門から逃げちゃいますから、もうちょっと頑張って下さいね」

袁術

「……(コクッ)」

 

 こちらは袁術を探して、城を見回る雪蓮。

雪蓮

「……さて。袁術ちゃんはどこに居るかな?」

明命

「皆、周辺を探して下さい!」

兵士(モブ)

「応っ!」

スイ

『おバカさんどこ~?』

雪蓮

「………」ふと、何かの勘が働いた雪蓮がみんなとは別の方向へ進んでいく。

明命

「あ……雪蓮様、どちらへ?」

雪蓮

「こっちからね……匂いがするのよ」

スイ

『………』スイはこの時、いつだったか向田が呟いていた言葉を思い出していた。

 

~スイの回想~

 

向田

「……ふぅ。これだけの料理を作るのは、やっぱり大変だな」

ドラちゃん

『なんだよ?お前、こっちにきてからやけにボヤくじゃねえか』

向田

「そりゃ君らの分だけじゃないからね……別に嫌な訳じゃないけどさ」

フェル

『そんな事はどうでも良い。早くメシにしろ』

向田

「ハイハイ。分かってるって」

スイ

『あるじ~、困ってるのぉ?』

向田

「困ってるってほどでもないけどね。今は兵士さん達が交代で料理の手伝いをしてくれているけど、出来れば専属のアシスタントさんが欲しいかな、と思ってさ」

スイ

『ふぅ~ん……』

 

~スイの回想終わり~

 

 一方の袁術と張勲は何とか城を抜け出したものの、雪蓮達に気づいてか、ヒーコラと息を切らせてひたすらに逃げ回っていた。

張勲

「はぁ、はぁ、はぁ……美羽様大丈夫ですかぁ?」

袁術

「ひぃ、ひぃ、ふぅ……わ、妾はもう疲れたのじゃ~……七乃、おぶってたも」

張勲

「さ、さっすがにそれはムリですよぉ。私も体力の限界がジリジリ迫ってきてますし」

袁術

「うう~……みじめなのじゃぁ……」

張勲

「戦に負けちゃいましたからねぇ……」

袁術

「うー、七乃七乃!蜂蜜水が飲みたい!妾は蜂蜜水が飲みたいのじゃ!」

張勲

「もぉー。わがまま言ってる間に足を動かして下さいよぉ」

袁術

「ヤじゃヤじゃ!妾はもう動けないのじゃ!」

張勲

「そんな事言ってると孫策さんがやってきますよ。悪い子はいねがーって」

袁術

「(怯)それは嫌なのじゃ……でも蜂蜜水はもっと飲みたいのじゃー!」

??

「なら好きなだけ飲ませてあげようか?」聞き覚えのある、そして出来る事なら聞きたくなかった声がする……恐る恐る、声のする方へ振り向く2人。

張勲

「……っ!?」

雪蓮

「ただし……あの世でだけどね」まさに鬼の形相で、雪蓮の姿があった。

張勲

「きゃーっ!でたーっ!」

袁術

「きゃーっ!でたのじゃーっ!」まるでお化けでも見たかのように驚く2人。

雪蓮

「失礼ね。人をバケモノみたいに言って」とはいえ、今の袁術と張勲にすれば、バケモノの方がまだマシであっただろう。

袁術

「な、ななな何の用じゃ孫策!妾はお前になど用はないのじゃ!」

張勲

「そうそう!そうですよ!用はないんで、私達は先に行かせてもらいますね。孫策さんはどうぞごゆっくり~♪」何とかその場を誤魔化して立ち去ろうとしたが、雪蓮に阻まれる。

雪蓮

「つれない事言うわねぇ……でも残念。私にはとっても大切な用があるの」

袁術

「ほ、ほう何じゃ?用があるならさっさと言って、さっさとどっかに行けば良いのじゃ(怯)」

張勲

「そうですよ、こう見えても私も美羽様も、とーっても忙しい身なんですから(怯)」震えながらも惚けようとする2人だったが……

雪蓮

「ふーん……ならさっさと用事を済ませてしまいましょうか」シャキンッ!。雪蓮は腰の鞘から剣を抜いた。

袁術

「な、な、なぜ剣を抜くのじゃ!」

雪蓮

「え?だって剣がないと貴女を殺す事、出来ないでしょ?」雪蓮は、さも当たり前のように言ってのける。

袁術

「ひぃーっ!妾を殺すと言うのか!?」

雪蓮

「当然……今まで貴女にコキ使われてきたんだから。意趣返しするぐらい良いじゃない」物騒なセリフを悪びれる事もなく、淡々と述べる雪蓮。

袁術

「な、七乃!七乃七乃!妾を助けるのじゃ!」泣きながら青い顔で張勲にすがる袁術だが、当の張勲も頼りにならなかった。

張勲

「ムリ!」

袁術

「な、なんじゃとぉ!七乃は妾の傅役(もりやく)ではないのかぁ~!」

張勲

「だって絶っ~~~~っ対孫策さんには敵いませんもん!」

袁術

「それでも妾を守るのが七乃の仕事じゃろ!」

張勲

「守ってますよ!後ろから見守ってます!」

袁術

「何なのじゃそれはぁぁ~っ!」

雪蓮

「……はいはい。漫才はそこら辺でお終いよ……ついでに袁術ちゃんの命もそろそろお終いにしましょうね」痺れを切らした雪蓮は手にした剣を、2人に翳す。恐怖でヘタれ込む袁術と張勲。

袁術

「あぅあぅあぅあぅ~~~~……」

張勲

「うううー、美羽様ぁ~~~~……」

雪蓮

「あらら、泣いちゃった」

袁術

「やだやだやだ。死にたくないのじゃ~!」

張勲

「私もですぅぅ~~~~!」

雪蓮

「残念……そろそろ死ぬ時間よ。二人共覚悟は良いかしら?」袁術、張勲。まさに2人の命は風前の灯だった。が、意外な救世主が現れる。

 

 

 

 

 

 

 




原作との違い
・于吉との戦闘
・雪蓮は結局、袁術達を見逃す→この後、あり得ない展開が起きる。

・次回に限り、展開を予測する感想やメッセージはご遠慮頂ければ幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十席カフェ風お洒落ディナープレートとガッツリカツスパ、のこと

あとがきにも書きましたが、第六席の最後の文を一部修正しました。気が向いたら確認して下さい。


袁術

「(泣)う、ぐしゅ……イヤじゃ……イヤじゃイヤじゃイヤじゃ!妾は死にたくないのじゃ~~!うわぁぁぁ~~~んっ!うわぁぁぁん、助けてたもぉぉ~~~~!」

張勲

「(泣)ううっ、美羽様ぁぁぁ~~~!えぐ、ぐすっ、そ、孫策さん!お嬢様の命は助けてあげて下さいぃ!私の命ならいくらでも差し上げますからぁ!」

袁術

「うわぁぁん!七乃ぉぉぉぉ!」

張勲

「お嬢様ぁぁぁ~~~~!」

雪蓮

「麗しき主従愛って?……でも泣きわめいても許してあげない。うふふっ、二人仲良く殺してあげる」雪蓮が剣を振り降ろした、まさにその時だった。

 

 ムニュ。袁術達と剣の間に何かが挟まって、間の抜けた音がした。

スイ

『ダメーッ!』ナゼかスイが袁術と張勲を庇っていた。

雪蓮

「スイ?あなた何してるの?……って聞いてもムダね。あなたの言葉が分かるのは剛達だけだもの」

スイ

『泣いてるよぉ。可哀想だよぉ~』雪蓮が、イヤ孫家が今まで受けてきた屈辱を思えば、この乱世において雪蓮が袁術を斬るのは至極当然と言える。しかしスイにそんな事が分かるハズもなく、ただ、あまりにも惨めに見えた2人につい情けをかけてしまったのだ。

雪蓮

「……ま、良いわ。この子に免じて少しだけ、命を長らえさせてあげる。明命、拘束して」自分を追いかけてきた明命に気づいた雪蓮は、袁術と張勲を縄で縛らせた。

明命

「雪蓮様。この二名をどうなさるおつもりですか?」

雪蓮

「とりあえず蓮華に説明して……それから剛にこの子の通訳をさせるわ。何でこの二人を庇ったのか、気になるし(元々本気で殺すつもりもなかったしね)」

 

~向田視点~

 

蓮華

「……甘いのではないですか?」かつて袁術がふんぞり返っていたと思われる玉座の間に居た蓮華と冥琳と俺の目の前に、生きたままの袁術と張勲を連れてきた雪蓮に詰め寄る蓮華。明命は雪蓮の指示で、一旦この場を離れている。

雪蓮

「それはこの子に言ってよ。それとも蓮華は私に袁術を殺せって言うの?」雪蓮はスイに目を向けつつ、蓮華に問い質す。どういう事かと聞けば、雪蓮が手にかけようとした袁術達をスイが庇ったそうだ……何で?

蓮華

「あ、いえ……そういう訳ではありませんが……」

雪蓮

「なら良いじゃない。殺すにしても、スイの言い分を聞いてからでも遅くないでしょ?そういう事だから、剛。通訳をお願い」へいへい、分かりました。

向田

「なぁスイ。どうして袁術達を庇ったりしたんだ?」

スイ

『あのね~、前にあるじが料理のお手伝いしてくれる人が欲しいって言ってたでしょ~。だからスイ、連れてきたんだよぉ~』あー……そういや、そんな事言ってたかもしれないなぁ。スッカリ忘れてたよ。

向田

「えぇーと……スイが言うには、この2人に俺の手伝いをさせる為に、生かしておこうとしたらしい」俺が説明すると、雪蓮も蓮華もポカーンとした表情になる。

雪蓮

「ま、良いんじゃない?剛の好きにすれば?」

蓮華

「お姉様っ!?」

冥琳

「ホントに良いのか?向田の下につけるとなれば、雪蓮の側にも置く事になるけど?」

雪蓮

「んー、けど二人だけならきっと報復も出来ないだろうし、良いわよ」それは言えてるな、この2人アホだし。まぁ、こいつらがどれだけ使えるか分からないけど、雪蓮の許可も出てるし、スイの顔を立てて採用してみるか。

向田

「……それじゃ、2人には今までの地位も何もかも捨てて俺の調理助手になってもらおっか。断るなら……」

袁術

「何じゃ!今度こそ孫策に斬られるのかや!?」真っ青な顔で訊ねてきた袁術。

向田

「……そんな生易しいモンじゃない。こいつに噛み殺させる」俺はフェルを親指で指して答える。

フェル

『うむ。逆らえば食い殺すぞ』フェルも悪ノリして、袁術と張勲に歯を剥き出して脅かす。

張勲

「きゃあーーっ!」

袁術

「ひぃーーーっ!」

雪蓮

「……剛も結構恐い事言うわねぇ」

蓮華

「全く……お人好しにもホドがあるぞ」半ば呆れたような表情で俺を見る蓮華。その横で苦笑いしている雪蓮。良いさ、もう何とでも言ってくれ。

 

 アホ2人の処遇がとりあえず決まったトコへバタバタと足音が近づいてきた。

亞莎

「城内の制圧、完了致しました!」亞莎からの報告。これを以て、寿春城は完全に落ちた。

袁術

妾は、本当に全て失ったのじゃな……」元は自分の物だった城を、雪蓮に奪われたとハッキリ自覚したみたいだ。ま、こんな世の中だし、ある意味自業自得だから諦めるしかないよね。

張勲

……命があるだけ良いじゃありませんか。美羽様」張勲も、もう袁術を慰める以外は何も出来ないか……それでも2人一緒に居られるだけ、マシなんじゃないかと思う。さて、落ち着いたらみんなのメシでも……とか考えてたら、明命が戻ってきた。

明命

「現在、思春殿が宝物殿や食料庫の確保に向かっております!」

雪蓮

「ご苦労様……ふぅ」これでようやく一段落だな、と思ったけど、冥琳が未だ厳しい表情で、雪蓮に進言する。

冥琳

「まだ一息吐くのは早いぞ、雪蓮。ここを本拠として、次の闘いの準備がある」

雪蓮

「分かってる……」雪蓮はそれだけ呟くと、また王の顔になり、兵士さん達の指揮を執る。

雪蓮

「各部隊はこれより、城下の治安の維持に務めよ!すぐに統治活動に入るわよ。蓮華、貴女も手伝って」

蓮華

「はいっ!」

 

 さて。みんながそれぞれの仕事に向かったところで、俺も自分の仕事をしようかね?今日は何を作ろうかな?と献立を考えていると、小蓮が俺を訪ねてきた。

小蓮

「剛~、今日のご飯はナ~ニィ?」ニコニコしながら聞いてきた。俺が料理番だって知ってたんだな。てか、この娘は俺に何を期待してるんだか。

向田

「今、思案中だけど……何か食べたいモノがあるの?」

小蓮

「えっと……シャオね、お洒落なモノが食べたい!」えっ?……それはまた、ザックリとしたリクエストだな。お洒落なメシ?というと、元の世界でいえばOLとかが食ってたようなヤツか。その辺りの知識は皆無……ん?でもないぞ。学生時代にバイトしていた喫茶店に確かそんなメニューがあったかもしれない。細かいレシピはうろ覚えだけど、再現してみるか。

 

 まずはネットスーパーでトマト、ブロッコリー、ベビーリーフ等こっちじゃ手に入らない野菜を取り寄せる。付け合わせというか、主菜はパスタにしよう。あの店で出してたのと同じ、スパゲッティにするか。勿論、マカロニとかペンネなんかもオススメだぞ。

 ここで1つ問題が。今日のオシャレご飯では、ウチの食いしん坊達は恐らく納得しない。そこで、3人の分はみんなのとは少し変えて、アレンジを加える事にした。これならあいつらも満足してくれるだろう。

 

 コカトリスの鶏肉に、軽く塩コショウして、皮目からオリーブ油で焼いていく。焼き色がついたらひっくり返して、とろけるチーズを乗せる。最後にトマトソースを上からかけて、しばし蒸し焼き。焼き上がれば今日のメイン、なんちゃってイタリアンチキンの完成だ。スパゲッティも同時に茹でる。チキンにしっかりした味をつけたから、こっちはホンの少しの塩胡椒と、レモン汁を軽く絞って終わりだな。茹で上がる前に袁術と張勲を呼び出して、手伝いをさせる。この時に2人からも、真名を預かる事になった。

袁術

「妾は袁術、字は公路。真名は美羽と言うのじゃ。(ぬし)様、宜しくなのじゃ」ぬしって……俺、ナマズとかじゃないんだから。まぁ良いけどさ。

張勲

「張勲、真名は七乃です。ご主人様宜しくお願いします」因みに2人共、さっきまで着ていた服から中華風メイドの格好に着替えている。

 

向田

「こちらこそ改めて宜しく。それじゃ今日は俺が調理するから、2人には配膳をしてもらうよ」

美羽・七乃

「「はい(なのじゃ)!」」

 

 こっちから見て奥の方にメインのなんちゃってイタリアンチキンを乗せて、手前にスパゲッティとベビーリーフ中心のサラダを並べて三角形状に添えれば、OLとかに好まれそうな「カフェランチ風なんちゃってイタリアンプレート」の完成だ。まぁ、晩メシだけど。

 美羽と七乃に、盛り付けの済んだ皿からドンドン運ばせていく。俺はチャチャッと、食いしん坊トリオのメシを用意する。特大のチーズ入りオークカツを揚げてスパゲッティにドドーンッと乗っけたら、さっきのトマトソースを基にしたデミグラスソースを、タップリとかけてやる。以前に出張で赴いた先の名物を俺流に(そんな大したモンじゃないけど)アレンジした食いしん坊トリオ向け、カツ丼ならぬカツスパだ。

 

ドラちゃん

「この長いヤツ肉とスッゲェ合うな。ソースが絡まってると更に旨え♪」

フェル

「パスタなる穀物だそうだ。これを食うのも久し振りだな。うむ、悪くない」あ~、そういや長い事パスタは作らなかったなぁ。確かフェルを従魔にしたばかりの頃に一回作ったけど、それ以来かもな。

スイ

「チュルチュルしてるのが楽しい~。あとチーズも美味しい♪」パスタ初体験のスイとドラちゃんも、バクバク食ってるし概ね好評だ。そうなると、雪蓮達の反応が気になるんだけど……特に小蓮。

小蓮

「可愛ぃー❤️それに色どりとか綺麗。しかもスッゴく美味しい!シャオ、こういうのが食べたかったの♪」な、なんか目が尋常じゃないぐらい輝いてるよ(焦)……不評よりは良いけど。

雪蓮

「前に食べたおむらいすとかにも、この赤いのが入ってたわね。この地でも作ってる農家があるかしら?」やっぱり雪蓮は国の事を考えてるね。小国とはいえ、王ってのは大変だ。よく勤まっているよ。

雪蓮

「剛ぃ~。葡萄酒出してぇ」台無しだよ!俺の感心返せコノヤロー!

「策殿!」そうだ。祭さん、ここはガツンと言ってやってくれ!

「分かっておられる!この料理には葡萄酒じゃ!」ズルッ!ズッコケてしまった。そういやこの人も大の酒好きなんだよなぁ。

冥琳

「すまんな向田。明日からは私がよーく言って聞かすから、今日だけは呑ませてやってくれ」苦笑いの冥琳から頼まれ、俺はネットスーパーでワインを購入すると雪蓮と祭さんの盃に注いだ。

「剛さ~ん。私にも下さ~い」あれ、穏って酒呑めたんだっけ?ビールはあまり好きそうじゃなかったから、呑めないイメージあったんだけど。

冥琳

「全く……」呆れる冥琳。まあそうなるよね。

向田

「冥琳は呑まないの?」俺が尋ねると

冥琳

「私まで酔っぱらう訳にはいかんだろう」ため息混じりにそう返した。とそこへ、俺が持っていたワインの瓶を誰かの手が取り上げた。蓮華だった。

蓮華

「今日だけっていうなら貴女もどう?一杯ぐらい平気でしょ?」

冥琳

「蓮華様……」

蓮華

「……それに貴女に何かあった時の、亞莎の予行練習だと思って。ね」なるほど。そういう考え方もあるのか。

冥琳

「……そういう事でしたら」蓮華に言われて冥琳も、その言葉に甘えるようだ。ただ蓮華が持つ瓶を受け取り、俺の居る方へ向き直る。

冥琳

「蓮華様に酌なぞさせる訳にいかん。向田、お前が注げ」そりゃそうか。当然俺は頷き、冥琳の盃にワインを注いだ。まぁ何だかんだで最後は宴会になってしまったが、総合すれば良い結果に終わったな。

 

 こうして――。袁術こと美羽は、城も土地も没収。張勲、もとい七乃と一緒に俺の部下となった、そして俺達はようやく国と言える物を手に入れる事が出来た。ここから天下統一の第一歩が始まるんだ……と。勝利の余韻に浸っていた俺は、そう信じていた――。

 

 

 

 

 

 

 




穏がワインを頼むくだりはEKUZUGESU様の感想を元にしました。ありがとうございます。

ラストが意味深な終わり方ですが、越後屋は難しい話とか書かないので、次回は割とご想像通りの展開になると思います。(感想やメッセージ等での展開予想はご遠慮下さい)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十一席向田、孫堅に会う?のこと

原作(真・恋姫呉編)では悲しい場面に向かう直前ですが……


 袁術の領地を手に入れた俺達は、その余勢をかって揚州全土を制圧した。まぁ制圧といっても、揚州の住民達は皆、諸手をあげて雪蓮を歓迎してくれたから、闘いらしい闘いは殆どなかったんだけど。俺達は着々と足場固めに力を注ぎ、先代孫堅こと孫文台が掲げた天下統一の夢を実現させる為、討って出るチャンスを、虎視眈々と狙っていた。

 だが、俺達にはフェル達がついているとはいえ、他の勢力も力をつけているだろう。于吉や白装束共も、あれで諦めたとは思えないし、恐らくこの先は奴らとの激戦も待っているだろう。だけど俺達には雪蓮が居る。英雄王と呼ばれ、大陸全土にその名を讃えられている雪蓮を、俺はこれからも支えていこうと思う。そうでもしなきゃ、デミウルゴス様に申し開きが出来ないからな。ま、理由はそれだけじゃないんだけど。

 とにかく。俺達は日々、軍備を整え、内政を行い……来るべき闘いに向けて着々と準備を進めていた。

 

 さて。今はみんなが一室に集まって、毎月の定例会議を行っている。一応ウチのトリオもここに居る、昼寝してはいるが。

「――という訳で、揚州全土の石高(こくだか)、及び生産量や人口に関してのご報告でしたぁ~」

雪蓮

「ご苦労様……洛陽からくすねてきた台帳が役に立ってるわね」えっ?いつの間にそんな事してたの?ああ、俺が月達をあっちの大陸に連れて行った、その間か。ちゃっかりしてんな。

冥琳

「台帳こそ政の( まつりごと )根底を支える物。これが手に入っただけでも、反董卓連合なんていう茶番劇に参加した甲斐があったというモノよ」

「それに他国の人口なんかも載ってますから、内政だけでなく、戦略を決定する上でも大いに役立ってくれますからね」

雪蓮

「良い物を手に入れたわね~」

冥琳

「これあるを予想していたからな」

雪蓮

「よっ。流石名軍師!呉の柱石!」

冥琳

「ふざけた事言ってないの……ここから先は諸侯との勝ち抜き戦よ……貴女の采配如何(いかん)で呉の将来が決まるって事、忘れないでね」

雪蓮

「重々承知してるわよ……じゃ、今月の内政担当の割り振りをしましょうか」

向田

「今の目標は富国強兵……って事は、税収増加と軍備拡張が基本方針になるのかな?」

冥琳

「概ね正解だ。しかしその二つは二律背反……天秤がどちらに傾いたとしても、民衆の心に不満の声が蒔かれるだろう」

「均衡を保ちながら、その二つの命題を達成しなくちゃいけませんからねぇ」

向田

「うわ……難しそう」

冥琳

「難しいさ。だがその命題を一刻でも早く成立はさせんと、諸侯に遅れを取る事になる」

向田

「厳しい現実って奴だなぁ」

「その厳しい現実を実現させる事こそ、我ら文官の仕事なのですよ♪」

雪蓮

「そういう事。戦場が武官の活躍の場なら、内政は文官の功名の場。厳しい現実だからこそ、やりがいがあるって訳」

向田

「なるほどねぇ~……」

冥琳

「他人事のように感心しているが、お前も呉の文官の一人なのだから、気合いを入れる事だな」

向田

「……うっそ。俺が文官って……マジ?」イヤイヤ、料理番兼指揮官(主にトリオの)で充分ですよ?これ以上肩書き増えても、扱い切れないってば!

「昔ならばいざ知らず、今の儂らは圧倒的に人手が足りんのだから、当然の事じゃな」

明命

「大丈夫ですよ、剛様。頑張って努力すれば、人は何でも出来ますから!」

向田

「そ、そういうモンかなぁ……」だったら君がやってくれない?ムリだとは分かってるけどさ。

冥琳

「文官に必要な基礎知識は穏に習えば良い。亞莎。お前もな」

亞莎

「はうっ!?わ、私もですかっ!?」

冥琳

「当然だ……お前にはまだまだ教える事が山ほどある……しっかり励めよ」

亞莎

「うう……私、勉強は苦手なんです……」

向田

「ええっ?そうなの?……頭の良さそうな格好してるのに」それで軍師が勤まるの?

亞莎

「こ、これはその……お母さんにこれを着ていきなさいって言われて……」と言って袖で顔を隠す亞莎。あ~、親心あるあるってヤツね。

向田

「あ、そうなんだ……」

亞莎

「で、でも……何とか頑張ります!頑張ってみせます!」

雪蓮

「うふふっ、素直ねぇ。可愛いわ……」雪蓮?何か恐いんだけど?

亞莎

「や、あの……そんな事、ないです……」

雪蓮

「そこで照れるのがまた可愛いの♪はぁ~、蓮華と小蓮にも見倣って欲しいわね」

小蓮

「ぶー。シャオはかわゆい女の子だもんね!」

蓮華

「私は……確かに可愛げはないかもしれません。悪かったですね」イヤイヤ蓮華も小蓮も充分可愛いって。それをいうなら、むしろ俺はフェルやドラちゃんに見倣って欲しいよ。

フェル

『オイ。お主、何か変な事を考えてないか?』

ドラちゃん

『全く……可愛くても得なんて何にもないぜ』

スイ

『ねぇあるじ~。スイは可愛いぃ?』いつの間にか目を覚ましていた3人が聞いてくる。ウンウン、スイは良い子で可愛いよ。蓮華はまだ膨れっ面だな……

雪蓮

「あら。拗ねちゃった」

蓮華

「す、拗ねていませんっ!」

雪蓮

「あはっ、今度は怒っちゃった♪剛助けてー」

向田

「ちょ、俺を巻き込むなっての!」

蓮華

「なんだ剛……お姉様の肩を持つのか?」

向田

「れ、蓮華さん声怖いッス!」

雪蓮

「ふふっ、あらら。蓮華ったら、もしかして妬いてるのかしら?」

蓮華

「だ、誰がこんな奴の為に!」……蓮華。こんな奴呼ばわりはなくない?ちょっとヘコむぞ。

雪蓮

「でも顔が真ぁーっ赤♪」

蓮華

「くっ……!し、知りません、そんなの!亞莎、行くぞ!ついてこい!」

亞莎

「は、はひっ!?」更に誂う( からか )雪蓮。蓮華は恥ずかしくてたまらないのか、やや強引に亞莎を伴って部屋を出ていく。

冥琳

「ふっ……蓮華様も可愛くなられたモノだ」

「うむうむ。良い傾向じゃな」そんな蓮華を温かい眼差しで見送る冥琳と祭さん。

「剛さん、蓮華様の嫉妬の炎で丸焦げになったりして」穏まで突っ込んできたよ……

向田

「それはそれで、光栄の至りではあるけどなぁ。ただ……」

雪蓮

「ただ……なぁに?」

向田

「そうなったらアイツらのメシ、誰が作るんだ?」全員が納得したような、呆れたような複雑な顔になる。

冥琳

「それはそれ、これはこれだ。しかし、お前も言うようになったモノだ」

向田

「色々と鍛えられてるからね……」

冥琳

「その調子で文官としての能力も鍛えてやろう。明日から授業開始だ」

向田

「……了解」ハァーッ、仕方ない。やるだけやってみよう……

 

 定例会議が終了し、各自解散になる。会議室には俺と雪蓮だけが残っていた。

向田

「雪蓮。蓮華をあんまり怒らせるなよ?あの子、真面目な子なんだから」

雪蓮

「真面目だからついつい誂うっちゃうなよね~」

向田

「尚、質が悪いわ!しかも姉なら、俺以上に蓮華の真面目さ知ってるハズじゃん?」

雪蓮

「剛って結構細かい突っ込みするわよね……ま、これも愛情ってヤツよ」軽く首を傾げるように言いながら、雪蓮は軽くウィンクする……相変わらずというか何というか。Sっ気の強い英雄さんだこと。

雪蓮

「それよりも……蓮華とは上手くいってるの?」

向田

「どうだろうなぁ。微妙なトコではあるけど」

雪蓮

「何よ、自信なさげね~……あなた達が上手くいってくれないと困るんだから、頑張ってよぉ」

向田

「困る?困るってどうしてだよ?」

雪蓮

「私が居なくなった時、孫呉を継げる人間は蓮華だけ……シャオがまだ幼い以上、蓮華が呉の王とならなければならないの。そんな時、あなたと二人くっついてれば、呉の力は更に増すでしょ?」

向田

「……そりゃそうかもしれないけど……でもあまり不吉な事言うなよ、雪蓮」

雪蓮

「不吉じゃないわよ全然……今は戦乱の世。そうなったとしても不思議な事じゃないわ」

向田

「そんな事……俺がさせないさ」

雪蓮

「……ふふ。ありがと」柔らかな笑みを浮かべた雪蓮が、

雪蓮

「あーあ……やっぱり蓮華に譲るの、止めよっかなぁ……」俺の肩に頭を乗せながら小さく呟く。

向田

「何言ってんだよ。雪蓮には冥琳が居るだろ?」

雪蓮

「男の中じゃ、剛が一番好きだもん」

向田

「またそういう事を言う。本気にしちまうぞ?」もう、いい加減俺も覚悟を決めないとな。

雪蓮

「私はいつだって本気だよ……けど、まぁ……剛には蓮華の傍に居て貰わないと。それが孫呉の為だもんね」

向田

「雪蓮……」

雪蓮

「ねぇ剛。今日、暇?」

向田

「えっ?……まぁ勉強は明日かららしいし、フェル達のメシを作る以外は暇といえば暇だけど」

雪蓮

「ならさ。ちょっと付き合ってくれる?」

向田

「どっか行くのか?」

雪蓮

「ん。そんなトコ」言葉を濁した雪蓮に手を引かれ、俺は会議室を出て城外へと向かった。

 

~視点なし~

 

 人目を憚った場所で、白装束を着た2人の男が何やら話し込んでいる。1人は于吉。もう1人の男は端正な顔立ちだが、その目付きから悪党であるのが分かる。

??

「作戦は失敗したようだな。于吉」

于吉

「すみません左慈。思わぬ邪魔が入りまして」左慈と呼ばれた男は、唾を吐き捨てる。

左慈

「デミウルゴスの加護を受けた奴か……ケッ、あのくたばり損ないの老いぼれが!」かつて世界の管理者だった左慈と于吉だが、謀反を企てたのがバレて、今は神界を追われた身となっていた。

于吉

「しかし、あの老いぼれには敵わないのもまた事実ですからね……苛ついたとしても所詮、何も変わりはしませんよ」

左慈

「ふんっ……決められた道筋を歩く事が、俺達の存在理由か……」

于吉

「そういう事です」

左慈

「くそっ……」

于吉

「ふふっ……子供のように拗ねますね、貴方は」

左慈

「うるさい……それより奴を処理する方法を考えろよ、于吉」

于吉

「それについては既に手を打っていますよ」

左慈

「何?どういう手を打ったんだ?」

于吉

「秘密の手です。あとは仕上げをご(ろう)じろ……ふふふっ……作られたとはいえ、私とてプロットの1つ。少しは動いてみせますよ……」意地の悪い薄笑いを浮かべる2人。しかしそれを見逃すまいと、誰かに見られていたのには気づかなかったようだ。

 

~向田視点~

 

 雪蓮に連れられ、俺は城からホンの少し離れた森の中にある小川へとやってきた。

向田

「……お。この城の近くにも小川があるんだ?……けど、何かあるのか?」

雪蓮

「ん。ここにね……母様が眠ってるの」

向田

「え……?」

雪蓮

「袁術……美羽の城は元々母様が落とした城……母様が死んでからはあの娘に奪われちゃったんだけどね」

向田

「そうだったんだ……でも、それじゃどうしてちゃんとしたお墓を建てないんだ?」

雪蓮

「母様が嫌がったのよ……死んでまで王という形式に縛られたくないってね」呆れたように苦笑する雪蓮……普通王なら大々的に葬儀を行い、立派な墓を建てるもんじゃないかと思うが、雪蓮のお母さんならそれぐらい言いそうな気もする……

向田

「それでこんなところに……」

雪蓮

「戦ばかりの毎日だったからね……死んだあとぐらいはのんびりしたかったんじゃないかしら」小さく笑いながらそう言った雪蓮が、持ってきていた布で墓石を磨き始める。

向田

「あ、手伝うよ」

雪蓮

「ありがと……」実は俺、今の思いを雪蓮に伝える前に、一度お母さんにご挨拶しておきたかったんだよね。雪蓮に倣い、川から水を汲み上げては、墓石に水を掛けて石を磨く。石を磨いたあとは周辺の掃除だ。雑草を抜き、重なった落ち葉を払って周辺を掃き清めた。

 

 

 

 

 

 




于吉の次の企みとは?あ、どうでもいいですけど蜀バージョンの26話を一部修正しました。主人公の闘い?方がより原作(恋姫でない方)に近くなってると思いますが、どうでしょうね……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十二席曹操、侵攻してくるのこと

ここから、原作とは大きく変わってきます。




~時間は少し戻る(視点なし)~

 

 左慈と于吉は劉備の本拠地である荊州に居た。この2人が命を狙う(彼ら曰く世界の因子)( ファクター )竜馬、隼人、慶子が劉備に与しているのだ。この時点では左慈も于吉も、真に自分達の邪魔になるのが誰なのか、全く分かっていなかった。

于吉

「傀儡共を通じ、3国の動きを調べてきました……これで何らかの動きが出てくる事でしょう」呉での闘いのあと、于吉は秘かに間諜を魏、呉、蜀に放っていた。報告を受けた左慈は労いの言葉も、命令もせず黙っている。

左慈

「………」

于吉

「左慈。何を考えているのですか?」

左慈

「……この世界。やはり潰さねばならん」

于吉

「奴らが居るから?」

左慈

「それもある。だが……いい加減、決められた道を進む事に疲れた」

于吉

「ふむ……確かに早く終わらせたくはありますね。しかし問題はそこではなく、この世界を基準とし、更に新しい世界をデミウルゴスが想像し得る可能性がある事……」

左慈

「だからこそ、この世界は潰す……奴らの存在ごとな。あの老いぼれに目にもの見せてやる!」

于吉

「ふふっ……冷酷な目だ」

左慈

「………」

于吉

「その目の為なら死んでも良いのですよ、私は」

左慈

「勝手に死ね」

于吉

「ふふ……照れなくても良いではありませんか」

左慈

「……殺す」短絡的な左慈は于吉を蹴り飛ばそうとするが、それを予期していたかのように、見事に躱す于吉。

于吉

「ふふっ、怖いですね。だが怒っている表情も素敵ですよ」

左慈

「……マジで殺す」

于吉

「貴方に殺されるのも悪くはない……ですが今は遠慮しておきましょう」

左慈

「………」

于吉

「私はこれから魏に向かい、貴方が来るまでに全ての準備を整えておきます……あとは貴方次第」

左慈

「分かっている……さっさと行けゲイ野郎」

于吉

「……ああっ、その目、その声……ゾクゾクしますね……私は貴方の為になら死んでも良い」

左慈

「チッ……さっさと失せろ」

于吉

「ふふ……では去りましょう……左慈。貴方を待っていますよ」そう告げて于吉は、空間に溶けるように姿を消した。

左慈

「……ふん。気持ちの悪い奴だ」自らもクズ野郎でありながら、左慈は吐き捨てるように呟くと、鋭い視線を劉備の城に向けた。

左慈

「待っていろよ。必ず俺が殺してやる……」

 

 その頃、魏にて。曹操は数人ほど抱えている軍師の1人、郭嘉を呼び寄せた。いよいよ、これから呉に攻めこむつもりのようだ。

郭嘉

「華琳様。出撃準備、整いました」

曹操

「ご苦労様。では一刻(約30分)後に出陣しましょう」

郭嘉

「御意……」郭嘉は納得いかないという顔で返事をするが、それに気づかない曹操ではなかった。

曹操

「……まだ不満があるようね、(りん)

郭嘉

「今、この時に孫策に闘いを仕掛ける意味が私には分からないのです。北方に袁紹の勢力がある以上、今は軍備の増強に専念すべきでは?」

曹操

「確かに袁紹は北方で勢力を伸ばし、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長している……だけど、どれだけ勢力を誇ったところで所詮は袁紹。後に回しておいても大過はない。だけど孫策はどうかしら?袁術を征服したあと、瞬く間に揚州を制圧し、軍備を整えている……今、孫策を叩かなくては、魏の将来に禍根を残す事になるでしょう」

郭嘉

「あ……」

曹操

「分かったかしら?」

郭嘉

「はっ……そういうお考えがあるのでしたら、確かにこの侵攻は意味があります。しかし……」

曹操

「なに?まだ懸念があるの?」

郭嘉

「は……群雄割拠が始まるを予測し、軍備の増強に努めてきましたが、黄巾党よりこちら、どうも質の悪い兵が混ざってきているようなんです。夏候惇、夏侯淵両将軍の調練によって、正規兵としての能力、そして何より華琳様に仕える兵としての誇りを教え込んできましたが、今は……それに例の魔獣共の事も……」

曹操

「手が回ってないと?」

郭嘉

「は……残念ながら」

曹操

「ふむ……ならばこそ実戦で調練しましょう。相手が英雄孫策であれば、生き残った兵は良き兵になってくれるでしょう」

郭嘉

「しかし、被害が大きくなる事も考えられますが……」

曹操

「致し方のない事でしょう。生き残る事も出来ない兵が居ては、全軍の力が衰える……覇業を為すためには強い兵が必要なのよ」

郭嘉

「御意。華琳様にお覚悟があるのならば、それで良いのです……では部隊の中核は正規の兵で編成。先鋒は徴兵した者達を配備します」

曹操

「……よろしく」

郭嘉

「では一刻後に」去り際にメガネを直し、兵達の指揮を執りに戻る郭嘉。

曹操

「人はただの駒。生き残った駒こそ、覇業を為すための力となる、か……ふふっ、欺瞞ね、華琳」そうひとりごちて、自虐する曹操だった。

 

 寿春城の門前では、見張りをしていた警備兵2名が駄弁っていた。

兵士a(モブ)

「……はぁ~。人手がないからって、休みの日まで出張らされるのも溜まらんよなぁ」

兵士b (モブ)

「そう言うなって。今、孫策様は大切な時機にある。……俺達だって頑張って協力しないと」

兵士a(モブ)

「それは分かってるけど……最近、連戦で疲れが溜まってるんだよ。疲れた状態で戦場に立ったら死ぬじゃねーか」

兵士b(モブ)

「そりゃそうだろうなぁ……でもまぁ、しばらくは大丈夫だろ」

兵士a(モブ)

「そう願いたいんだけどなぁ……」

兵士b(モブ)

「孫策様の敵になりそうなのって、隣国じゃ曹操ぐらいだろ?」

兵士a(モブ)

「その曹操が攻めてきたらどうするんだよ?」

兵士b(モブ)

「孫策様が何とかしてくれるとは思うけど……止そうぜ。こんな話。噂をすれば鬼が来る」などと離していると、他の警備兵が血相を変えて叫んだ。

兵士c(モブ)

「お、おい!北の方を見ろ!どこかの軍勢が押し寄せて来てるぞ!」

兵士a(モブ)

「ちょ……マジかっ!?」

兵士b(モブ)

「北って言えば曹操しか居ないじゃないか!おい、お前が噂するから……!」

兵士a(モブ)

「俺のせいかよ!」

兵士c(モブ)

「そんな事はどうだって良い!すぐに本城に伝令を出そう!」

兵士b(モブ)

「お、応!俺達は籠城の準備だ!」

兵士c(モブ)

「こりゃ偉い事になるぞ……っ!」その騒ぎを聞きつけた従魔トリオ。

フェル

『ほう、曹操とやらが喧嘩を吹っ掛けてきたようだな。これは面白い』

スイ

『ねぇフェルおじちゃーん。あるじが居ないけど、闘うのぉ~?』

ドラちゃん

『あいつも、いざって時はみんなを守れって言ってたじゃねえか。今がその、いざって時だぜ!』

スイ

『分かったぁ。スイも闘う~♪』

 

~再び曹操軍~

 

 呉へ侵攻中の曹操の元に、筆頭軍師の荀彧が自軍の現状を報告する。

荀彧

「華琳様。全軍、揚州に入りました……すぐにでも作戦行動を展開出来ますが」

曹操

「相手は英雄孫策……すぐにでも動きましょう。春蘭」

夏候惇

「はっ!」

曹操

「楽進、李典、于禁、郭嘉を連れて敵本城へ向かいなさい」

夏候惇

「御意!」

曹操

「秋蘭は廬江(ろこう)より東進し、敵本城の背後を脅かしなさい」

夏侯淵

「御意」

曹操

「張遼は騎兵を率い、各所から放たれる伝令の全てを補殺しなさい」

張遼

「この闘い、情報が鍵を握る、か……分かった。何とかやってみるわ」

曹操

「よろしく……私は周辺の拠点を制圧したあと春蘭に合流する。荀彧、許緒、典韋、程昱は補佐を」

荀彧

「御意」

許緒

「御意ー♪」

典韋

「御意です」

程昱

「御意」

曹操

「大軍を幅広く展開し、揚州という画板に描きましょう。英雄との闘いの全てを……」配下に命を下した曹操は、その後ポツリと呟いた。

曹操

(さぁ……孫伯符。世に謳われる者として、正々堂々と闘おうではないか――)

 

 雪蓮が向田と母の墓参りをしている間、留守を預かっていた冥琳は警備兵の言葉に衝撃を受けていた。

兵士(モブ)

「申し上げます!我が国に曹操軍が大挙侵攻してきました!現在、敵先鋒の部隊がこの城に向かってきております!」

冥琳

「どういう事だそれは!国境線の守備隊は何をしていた!」

兵士(モブ)

「そ、それが!守備隊より放たれた伝令が、全員補殺され、ようやく辿り着いた一人も、つい先ほど死亡し……!」

冥琳

「……そうか。その者の親族には充分報いてやってくれ」

兵士(モブ)

「御意……」

冥琳

「それで敵はどこまで?」

兵士(モブ)

「はっ!既に本城より五里(一里4㎞として約20㎞)のところに来ております!向田様の従魔殿が迎撃に出られはしましたが……」

冥琳

「……分かった。では少し下がっていてくれ」

兵士(モブ)

「はっ!」兵士が引っ込むと、冥琳と穏は顔を付き合わせて対策を練り始める。

冥琳

「曹操がこの時機に南下という事は、袁紹との勢力争いにケリがついたという事か?……いやそんなハズはあるまい」

「現時点では情報が来てませんからね……となるとどうしてこの時機に南下をしたんでしょう?」

冥琳

「分からない。詠めないわね、曹操の手の内が」

「ですね……袁術さんを蹴落とし、この城を手に入れたあと、まずは内政を充実させようと、呉に本城を移さなかったのが仇となりましたね。とにかく今はこの状況に対応しないと……私は軍部にいって祭様達と群議に入ります。冥琳様は雪蓮様を」

冥琳

「分かった」

 

~向田視点~

 

 俺達は口も聞かず、ただ黙々と掃除を繰り返し――すっかり綺麗になった墓石は、立派とは言えないまでも、充分に威厳を備えるモノとなった。

向田

「こんなトコかな?」

雪蓮

「ん。そうね……やっと綺麗に出来たわ」

向田

「だな……お母さんも喜んでるんじゃないか?」

雪蓮

「怒ってるかも……時間掛かりすぎだ、この阿呆ってね」

向田

「ははっ、色々聞いてるけど……孫堅ってスゴい人だったんだなぁ」

雪蓮

「スゴい人よ。江東で旗揚げした途端、江東、江南を制覇して孫家の礎を作ったんだから」

向田

「英雄だったんだな……」

雪蓮

「うん。確かに母様は英雄だった。けど……娘として見れば、母親失格だったかなぁ」

向田

「そうなの?」

雪蓮

「まだよちよち歩きしか出来ない私を、戦場に連れてったりしてたからね~……よくぞ今まで生き残ってこれたって思うわ」何しでかしてんだ孫堅さん?まぁ雪蓮の母親なら、それぐらいするだろうけどさ……娘さん、貴女そっくりに育ちましたよ……。

向田

「そりゃ言えてるな……でもお母さんの事、好きだったんだろ?」生前の孫堅に呆れつつも、俺は言葉を繋ぐ。

雪蓮

「そりゃね。私の師匠でもあるし……大好きだったわよ」そう言うと、雪蓮はそっと墓石の前に跪く。

雪蓮

「母様……ようやくここまで来れたわ。貴女が広げ、その志半ばで去らなければいけなくなった……私達の古郷(ふるさと)。その古郷は今、孫家と、呉の民達の下に戻ってきた……見てる?母様……今から我ら孫家の悲願が始まるわよ」

向田

「孫家の悲願……天下統一だっけ」

雪蓮

「天下統一が本当の悲願じゃないわ。本心を言うと天下なんてどうでも良い。私はね……呉の民達が。そして私の仲間達が笑顔で過ごせる時代が来れば良いの。天下だの権力だのそういうのに興味はないわ」

向田

「笑顔で過ごせる時代、か……ここじゃ、そういうのって難しいよな」かと言って今更、俺が拠点とするレオンハルト王国にみんな揃って移住する訳にもいかないよな。まして雪蓮が民達を捨て、呉を出ていくハズがない……

雪蓮

「その為の天下統一なのよ……天下を統一し、一つの勢力がこの大陸を治めれば、庶人に対して画一的に平和を与える事が出来るでしょ?」

向田

「その為の天下統一、か……」

雪蓮

「そう。それが我ら孫家の願い……だから私はこれからも闘うの。闘えば、兵だけじゃない。庶人だって傷つく……笑顔がなくなる……それは分かってる。矛盾してるけど……でも、闘わなければ何も手に入れる事が出来ないと思うから――」そうか。元居た世界にも声高に平和を謳っていた人も多かったけど、結局彼らは他人の良心を当てにしているに過ぎなかったんだ。本当に平和を願う気持ちを謳って良いのは、雪蓮みたいに自ら道を切り開いた人達だけなのかもしれない。俺はそんな思いを抱えつつ、雪蓮に意見を述べてみた。

向田

「……人の生き方に論理なんて求めたってムダだって思う。矛盾してようが何だろうが、自分の考えを実現出きればそれで良いんじゃないかな……?」

雪蓮

「そう思ってくれる?」囁くように返す雪蓮。

向田

「思うよ。そして支えようって思う。フェル達はともかく、俺自身がどれほどの力があるのか。どうすれば雪蓮を助けてあげられるのか……それは分からないけど。でも俺は全力を尽くして雪蓮を助けたいって、そう思ってる」

雪蓮

「……ふふ」

向田

「な、何だよ?俺、おかしな事言ったか?」

雪蓮

「ううん……やっぱり蓮華に譲るの、失敗かもなぁ~って」

向田

「またそういう事を言う……」俺の気持ち、どうしてくれんだよ……ったく。

雪蓮

「だって剛、いい男なんだもん……独占しとけば良かったかなぁ~?」

向田

「ははっ……雪蓮も少しは嫉妬してくれるんだ?」

雪蓮

「するわよ~。私、独占欲強いもの」

向田

「嘘だぁ?」

雪蓮

「ホントだってば。けど……良いの。剛はみんなのモノだから。時々独占出来るって事で満足しとく……じゃないと蓮華に怒られそうだもの」そんな風に言いながら、雪蓮は喉を鳴らして笑ってみせる。

雪蓮

「さ、そろそろ帰ろ。本当に蓮華が怒鳴り込んできそうだし」

向田

「もう良いのか?」

雪蓮

「ん。充分よ」大きく頷いた雪蓮が、再び墓石の前に跪く。

雪蓮

「そろそろ行くわね、母様。これから忙しくなると思うから、中々来られないと思うけど……でも貴女の娘は命の限り闘うから……母様が思い描いた夢。呉の民達が思い描く未来に向かってね……母様……天国から見ていて。貴女の娘達の闘いぶりを。そして呉の輝かしい未来を――」優しくお母さんに語りかける雪蓮の横顔。それに俺は目が釘付けになり、心臓が高まる。何だかここだけ時間の流れが止まっているようだ。

 

 そんなゆっくりとした時間は突然ぶち壊された。

 

~暗転~

 

 いきなり放たれた矢が、雪蓮の肩を貫いた。

雪蓮

「なに……これ……?」

向田

「矢……だ!ちくしょう!誰だっ!どこにいやがる!」護身用にと持っていたミスリルの槍を構え、俺は矢が放たれた方向へと走り出す。

兵士(モブ)

「ひ、ひっ!」茂みから現れた数人の白装束が、俺に背を向けて脱兎の如く逃げていく。

雪蓮

「剛!追いかけちゃダメよ!」

向田

「雪蓮……どうしてだよ!?」

雪蓮

「あなたにもしもの事があったら……蓮華が怒るでしょ……?」そう言いながら、雪蓮はゆっくりと立ち上がろうとして――膝から崩れ落ちそうになる。

向田

「危ないっ!」ミスリルの槍を地面に投げ捨て、俺は咄嗟に雪蓮の身体を支えた。

雪蓮

「ぐっ……ううっ……はぁ……はぁ……はぁ……不覚だったわ。こんなんじゃ……あの世で母様に怒られそう……」

向田

「し、喋らなくて良い!傷はどうだ?」

雪蓮

「分からない……けど……」瞼は閉じかけていて、顔からは血の気が引いていく。どうやら矢には毒が塗ってあったようだ……クソッ、あいつらは後回しだ!今は雪蓮を何とかしないと。確かアイテムボックスにスイ特製エリクサーを何本かしまってあるハズだ。

向田

「雪蓮、飲め!」だが既に虫の息の雪蓮。エリクサーを飲む力も残ってなさそうだ。このままじゃ、間違いなく死んじまうぞ。

向田

「えーいっ、やむを得ん!」俺は口移しで、雪蓮にエリクサーを飲み込ませた。お叱りなら後でいくらでも受けてやるさ。雪蓮は眠ってはいるが、顔色を取り戻して、呼吸も穏やかになっていった。ホッと一安心する俺。しかし息を吐く間もなく、蓮華が駆け込んできた。

蓮華

「姉様!城で緊急事態が……!」

向田

「蓮華!ここだっ!」

蓮華

「姉様っ!?どうしたのですか!?」

向田

「眠っているだけだ。心配ない」

蓮華

「……剛、何があった!?」

向田

「刺客が弓で雪蓮を狙撃して……幸い良い薬があったから、飲ませて大事には至らなかったけど」

蓮華

「何だとぉ……っ!?すぐに犯人を捜し出し、八つ裂きにしてくれる!」

向田

「落ち着けよ、蓮華」

蓮華

「しかしっ!」

向田

「孫呉の次期国王が取り乱すモンじゃない……それに雪蓮は大丈夫だ。今は薬が効いて眠っているだけだから」

蓮華

「本当か……?」

向田

「うん……それより緊急事態って?」

蓮華

「あ、ああ。曹操が国境を越えて我が国に侵入。既に本城の近くにまで迫っているようだ」

向田

「何だって……!?伝令とか見張りとか、そういうのはどうしたんだよ?」

蓮華

「悉く( ことごと )補殺されてしまったらしい……一人の勇敢な伝令が、命を賭して情報をもたらしてくれたんだ。それで姉様に……」

向田

「フェル達は?」

蓮華

「迎撃に討って出てくれている」

向田

「(なら大丈夫か……)」

雪蓮

「うぅ……」

蓮華

「姉様っ!」

向田

「雪蓮!」

雪蓮

「……蓮華、さっきから声が大きいわよ。おちおち寝てもいられないじゃない……」

蓮華

「……良かった。本当に良かった……」安堵して泣き崩れる蓮華。俺は雪蓮の背中を起こした。

雪蓮

「それより、状況は理解したわ……私もすぐ城に戻る。蓮華は先に戻って出陣準備をしておきなさい」

向田

「……立てるか?ムリなら俺が担いで行くけど?」

雪蓮

「……ムリ。剛、おんぶして」全く、しょうがないなぁ……

 

 




当初は途中で切って、~暗転~から次話を始めるつもりでしたが、客観的に見ると雪蓮の無事までは確認したいかなぁと思い、結果、いつもより長めの話になってしまいました。今更ですがどっちが良かったでしょうね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十三席孫策軍、勝利するのこと

う~ん、ペースが早すぎるかなぁ?


~曹操軍(視点なし)~

荀彧

「華琳様。右翼より秋蘭の一隊が合流します……これで状況は全て整いました」

曹操

「ありがとう……いよいよ英雄孫策との決戦……胸が高鳴るわね」

程昱

「敵は英雄孫策に率いられ、勇猛を謳う呉の兵士……新兵の多い先鋒部隊がどれほど持つのか。多少気になるところではありますね」

荀彧

「意気地のない新兵を奮い立たせるには、褒美をちらつかせるのが一番。戦場で名のある将を討ち取った者には、千金の褒美を取らすという触れを出しております。これで少しは意気地も出ましょう」

曹操

「兵は主義では闘えんか……それもまた当然でしょうね」

程昱

「しかし一部の部隊が抜け駆けの気配を見せていますからねぇ~。気をつけなければ」

曹操

「ふむ……春蘭にさえ手に負えない部隊か……どの部隊かしら?」

程昱

「呉郡より許昌に流れ着いた一団ですね。何でも許貢という人間に仕えていたらしいですが……」

曹操

「その部隊に数人つけ、挙動を監視しておきなさい。英雄との闘いを無粋な愚人に穢されたくはない」

程昱

「御意。しかし……孫策さんの動きが読めませんね……どうしてこんなに動きが遅いのでしょう?」

曹操

「そうね。それは私も気になっていたの……がっかりさせて欲しくはないな……巨大な敵を正々堂々と倒してこそ、この曹孟徳の覇道が華やかに彩られる……孫策。良い戦をしたいものね」

程昱

「御意」そこへ夏侯惇、夏侯淵姉妹が曹操へ報告に現れた。

夏侯惇

「華琳様!前線にて動きあり!呉の部隊が前方に展開し始めました!」

曹操

「ようやくお出ましか……」

夏侯淵

「展開が遅すぎますね…」

夏侯惇

「孫策がこの程度とは思えんな、確かに」

郭嘉

「何かあったと視るべきか……」

荀彧

「何か?何かとは何よ?」

郭嘉

「いや、そこまでは分かりませんが……何か気になります」

曹操

「……英雄同士の闘いに、天も無粋な真似をしてくれるものね。けれど、それが自然(じねん)の結果であるならば、それもまた天命というもの……」

程昱

「あらゆる事象、その全てに天意あり……そう考えれば、相手に合わせて私達が手加減をする必要は全くありませんね~」

曹操

「風の言う通りよ……春蘭、秋蘭。部隊を展開させなさい。誇り高く、堂々と。孫策と雌雄を決する為に……」

夏侯惇・夏侯淵

「「御意!」」

 

~孫策軍~

 

向田

「……曹操が来たな」

フェル

『うむ。して、どう出る?』

向田

「まず、雪蓮が曹操に舌鋒を浴びせる。そしたら俺達が突撃。以上だ」

ドラちゃん

『何だよ?いつものお前らしくねえな』

向田

「今度ばかりは俺も腹に据えかねてるからね。曹操を徹底的にボコらないと、気が済まないよ」

スイ

『あるじ怒ってるんだね~』

向田

「勿論」

フェル

『ならば遠慮は要らんな♪』

ドラちゃん

『殺るか♪』

スイ

『スイも殺るよぉ~♪』

作者

『字が怖い!あと向田はコイツら止めろ!』

 

 スイ特製エリクサーのおかげでスッカリ元気になった雪蓮は部隊前方に躍り出て、舌戦を始めようとしていた。

向田

「……大丈夫か?」

雪蓮

「大丈夫……むしろ元気が有り余ってるわ……それに私は孫呉の王。いつまでも寝ている場合じゃないもの」

蓮華

「お姉様っ!」

冥琳

「雪蓮……!」

雪蓮

「……二人共。出陣するわよ」

蓮華

「念の為に治療を受けられた方が良いとお伝えしましたのに……受けてはくれないのですか?」

雪蓮

「必要ないわよ……さぁ、部隊にお戻りなさい」

蓮華

「はい。姉様」

冥琳

「……で?」

雪蓮

「で……って?」

冥琳

「文台様の墓前で何があった?」

雪蓮

「後で話すわ……」

冥琳

「……分かった」

フェル

『おい。今回は我にも挑発させろ』フェルが雪蓮の側まで寄ってきて、自分も舌戦に参加したいと伝える。

雪蓮

「えっ?うーん……面白そうね。それじゃ私に続いて何か言ってやれば?」

向田

「何考えてんだフェル?」

フェル

『気付かなかったか?奴らの中に、あの白装束がチラホラ混じっているぞ』

雪蓮

「……!」

冥琳

「……!」

向田

「なるほど……意趣返しって訳か」

フェル

『まぁ……そんなところだ』

 

 曹操軍は城の手前で孫呉の軍を待ち構えている。自軍の前線にて、ジッと様子を窺っていた楽進が曹操の本陣まで下がり経過を告げる。

楽進

「敵軍より僅か二騎で前に出てくる影あり……あれは誰でしょう?」

曹操

「一人は孫策。侵略してきた我らの非を鳴らし、兵を鼓舞する為に舌戦を仕掛ける、か……定石通りね。その舌鋒はどこまで私の心に響いてくるのか……大人しく聞いてあげましょう」身内に裏切り者が出たのも知らずに、余裕ぶっこく曹操だった。

 

~向田視点~

 

 雪蓮は馬に、俺はフェルに乗って自軍の先頭に並ぶ。これから雪蓮が曹操に舌戦を仕掛ける。フェルはその後に続いて敵を挑発するらしい。前に進みながら悪い笑みを浮かべてるけど、一体何を言うつもりなんだろう?

 

雪蓮

「呉の将兵よ!我が朋友達よ!我らは父祖の代よりうけついできたこの土地を、袁術の手より取り返した!」

雪蓮

「だが!」

雪蓮

「今、愚かにもこの地を欲し、無法にも大軍をもって押し寄せてきた敵が居る!敵は卑劣にも、我が身を消し去らんと刺客を放ち、この身を毒に侵させたのだ!」

フェル

『だが、我らが王は毒を制し、冥府の死神をはね除け、見事生還を果たした!』……なーんか最近のフェル、妙に芝居がかってるな。ひょっとしてその方面に目覚めちゃった?洛陽の件といい、袁術の件といい、俺が散々芝居させたのが原因かもしれないけどさ。

雪蓮

「この孫伯符、毒如きでは死なん!」

フェル

『我らが王の生死は天に委ねられた!すなわち呉こそ、この天下を治めるべしと、天が定めたのだ!』

雪蓮

「勇敢なる呉の将兵よ!その猛き心を!その誇り高き振る舞いを!その勇敢なる姿を我に示せ!」

フェル

『我らには天がついている!曹操なぞ恐れるに足らん!』まっ、まぁ……ある意味嘘ではないよな。あれ?額から変な汗が……。

雪蓮

「呉の将兵よ!我が友よ!愛すべき仲間よ!愛しき民よ!孫伯符、天命を受け、ここに大号令を発す!」

雪蓮

「天に向かって叫べ!心の奥底より叫べ!己の誇りを胸に叫べ!その雄叫びと共に、曹操を蹴散らせぇーっ!」

フェル

『アオォォォォ――――ッン!』フェルの咆哮が合図となって、一斉に曹操軍に突撃していく俺達。

 

~視点なし~

 

曹操

「どういう事だっ!誰が孫策を暗殺せよと命じたのだ!」雪蓮とフェルの舌鋒を聞いて、憤怒する曹操。

夏侯惇

「わ、我らがそのような事を、するハズがありません!」

曹操

「ならばナゼだ!ナゼ孫策が毒を受ける!ナゼこのような事が起こる!」

荀彧

「か、華琳様――――っ!」

郭嘉

「事情が判明しました!許貢の残党を名乗る者達で形成された一団が孫策の暗殺を目論み、失敗したようです!」

曹操

「その者共の首を()ねよ!」

荀彧

「えっ!?だって暗殺は失敗したんじゃ……」

曹操

「例え孫策が無事だったにせよ……知勇の全てを賭ける英雄同士の聖戦を、下衆に穢された怒りが分からないのかっ!その者共、全ての首を刎ねよ!」

郭嘉

「しかし……」

曹操

「何だっ!」

郭嘉

「は、はいっ!我らが向かったところ、奴らは自ら舌を噛みきって、既に全員自決していました」

曹操

「……っ!どうなっている!?」

夏侯惇

「わ、分かりません!」

曹操

「……我らは一度退く!この戦で得る物は何もない!」

夏侯淵

「し、しかし華琳様!この状況で退却すれば、尋常ならざる被害を受ける事は必至!」

曹操

「ならば闘えというのか!?下衆に穢されたこの闘いを続ける事に、何の意味がある!どのような意義がある!最早この闘いに意味はなく、大義もなくなったのだ!軍を退かなければ私は――」

郭嘉

「ダメです!敵軍突撃を開始しました!」

曹操

「くっ……なんだこれは!このような闘い、誰が望んでいるというのだ……」悔し涙で目を潤ませる曹操。

夏侯惇

「華琳様!本陣を後退させて下さい!我らが殿を( しんがり )務めます!」

夏侯淵

季衣(きい)流々(るる)は華琳様の護衛を……命に代えてもお守り申し上げろ!」

許緒・典韋

「「はいっ!」」

曹操

「追撃やムダな闘いはするな!穢されたこの闘い……せめて無事に収拾せよ!」

夏侯惇・夏侯淵

「「はっ!」」

 

~向田視点~

 

 一方、勢いづいた俺達孫策軍は、蓮華を筆頭に、後退する曹操軍の兵士を追いたてていた。俺?部隊の指揮をフェルに任せて、本陣に避難したけど何か?

フェル

『敵を殲滅せよ!我らに手向かう者は、天に背くも同然と心得よ!』戦場を駆け巡るだけで曹操軍の兵士を吹っ飛ばしていくフェル。

ドラちゃん

『みんなエラいブチ切れようだな。俺は暴れられるから良いんだけどよ』

スイ

『雪蓮おねーちゃんの仇だよぉ~!』火魔法を全身に纏って、辺りを火の海に変えるドラちゃんに、巨大化して敵兵達に覆い被さり、丸呑み状態にして窒息させるスイ。これだけで、曹操軍は半分ぐらい減ったんじゃないかな?あとスイ。雪蓮生きてるからね?ま、君のおかげなんだけど。その一方で、蓮華達の勢いも止まらない。

蓮華

「進め!進め!進め!進め!曹操の兵共を血祭りにあげよ!殺し尽くせ!腐った魂を持つ下衆共を!その血を呉の大地に吸い込ませるのだ!」馬で駆けながら、剣を振るい、兵士さん達を鼓舞する蓮華。

兵士達(モブ)

「「「「ウオォォォォーッ」」」」

「黄蓋隊に告げる!一兵たりとも敵を逃がすな!みなみな殺し尽くせ!良いか!敵兵の耳を削げ!鼻をもげ!目玉をくりぬき、喉を貫け!敵の骸を( なきがら )踏みにじり、呉の怒りを天に示せ!」兵達に檄を飛ばしながら、弓をでもって敵兵を亡き者にしていく祭さん。

兵士達(モブ)

「「「「ウオォォォォーッ」」」」

思春

「殺せ!殺せ!殺し尽くせ!我らの怒りを獣共( けだもの )に叩きつけろ!投降する者は殺せ!逃げる者も殺せ!その血を大地に吸い込ませ、孫呉に二度と刃向かえないように……!」思春の切れ方、半端ないな……

兵士達(モブ)

「「「「ウオォォォォーッ」」」」

明命

「邪魔者は殺して下さい!一人として逃がしてはダメです!敵に……この世の地獄を味合わせてやるのです!」明命も!?やっぱみんな、冷静でいられないんだな。俺だってムカッ腹にキテるぐらいだしね。

兵士達(モブ)

「「「「ウオォォォォーッ」」」」

 

冥琳

「……雪蓮。向田」

雪蓮

「……なに?」

冥琳

「この状況、いつまでも続かん……全軍を投入して奴らの殿を痛撃するぞ」

向田

「……」

冥琳

「……冷静さを失うな……狂気に溺れるな……感情に流されるな。それが軍師というものだ」

向田

「冥琳……!」妙に落ち落ち着きはらった冥琳に、俺はイラッとして何か文句を言ってやろうとしたが、雪蓮に制された。

雪蓮

「ふふっ……良いのよ剛。冥琳……ちゃんと分かってるんだから」

冥琳

「闘いはここで終わりではない……上手く幕を引かなければ、我らはこの戦国乱世から退場するしかなくなるだろう。そんな事……私は望んではいない。雪蓮、貴女も望んではいないでしょう?」

向田

「雪蓮の望み。それは――」

雪蓮

「……皆が笑って暮らせる世界を作る」

冥琳

「その為にも……止まっては居られんのだよ」

向田

「……分かった。スマン冥琳」冥琳の言葉に頷きを返したあと、俺は大きく深呼吸をする。戦場の空気――。血の匂いの混じった空気は、鼻腔の奥に不快さを残す。だけど……沸き立っていた頭の中が、ほんの少しだけ落ち着いた。

 今の俺達がやらなければならない事。それはこの闘いを無事に治める事。

向田

「そういう事か……」

雪蓮

「そうよ。冥琳、剛。協力してね♪」

 

~曹操軍の殿にて~

 

兵士(モブ)

「し、将軍!もう前線は保ちません!」

夏侯惇

「分かっている!くっ……なんだこの兵共は!死も考えず、がむしゃらに突っ込んでくる!」

夏侯淵

「皆、自分達の王が天祐を受けたと思っているのだ。毒にすら打ち勝ったという王に、絶対の信頼と忠誠を寄せているのだ」

夏侯惇

「忠誠を誓い、か……気持ちは分かるがな」

夏侯淵

「華琳様の心中、さぞ悔しさに満ちていらっしゃいるだろうな……」

夏侯惇

「こんな奴らとまともに闘うような気にもならん……さっさと退却しよう」

夏侯淵

「賛成だ……全軍、撤退するぞ」夏侯淵は伝令兵に、その旨を伝える。

兵士(モブ)

「はっ!」こうして俺達は何とか曹操軍を追い払うのに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作との違い
・雪蓮が生きているので、彼女の死に関する蓮華達のセリフはカットしたり、冥琳達のセリフが一部の入れ替わったりしている。そのせいで何となくセリフが穴だらけのような気がします……

・次回は向田が針のむしろに?あと作者は荀彧アンチなので、ファンの方は次回以降はお読みになるのはお薦め致しかねます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十四席更なる管理者?登場とライオン料理、のこと

後半はオリ話です。EKUZUGESU様、いつもアイディアを頂き、ありがとうございます。


明命

「夏侯の旗が後退していきます!」

思春

「何を今更……奴ら、無事に退却出来るとでも思っているのか!」

蓮華

「逃がさないわ!思春、祭!後退する敵を徹底的に叩くわよ!」未だ興奮冷めやらぬ蓮華達を止めに入る、雪蓮と俺。

向田

「ま、待ってくれ蓮華!追撃しちゃダメだ!」

蓮華

「ナゼっ!?奴らが何をしたか分かっているでしょ!?奴らを全て殺し尽くして、自分達がなにをしたのか、徹底的にその身に刻んでやるわ!」

向田

「ダメだ!冷静さを失うな!」

雪蓮

「……剛の言う通りよ」

蓮華

「お姉様っ!?」

雪蓮

「こんな状態がいつまでも続くハズないでしょ?今は勢いに乗って身体が動いているにしても、そんな気力はすぐに尽きるわ。今は追い返したって成果を上々と考え、全軍を退かせなくちゃいけないの」

蓮華

「……っ!」言葉に詰まる蓮華を尻目に、雪蓮は愛剣[南海覇王]を頭上に掲げて兵士達に告げる。

雪蓮

「今、敵は破れ去り、この地を去った!その事実を天に向かって高らかに謳い上げようではないか!皆の誇りを。皆の願いを。皆の想いと共に!勝ち鬨をあげよー!」

兵士達(モブ)

「「「「ウオォォォォーッ」」」」

 

 さて、寿春城に帰ってきた俺達。とりあえずは一服しようという事になったのだが……

雪蓮

「ハァーッ……近い内に貴女に王位を譲って、剛と新婚生活を過ごすつもりだったのに。これじゃまだまだ隠居は出来ないわね……」

蓮華

「すみませんお姉様……?って剛、どういう事?」はい?何ですか?

雪蓮

「アラ……?私に求婚してくれるんじゃないの?母様の墓前で私の唇を奪っておいて♪」え?何の話……あ――――――っ!あの時かぁ―――っ!スイ特製エリクサーを口移しで飲ませた時だ。イヤ、あれは不慮の出来事というか、必要に迫られ仕方なくというか……と、とにかくそんなんじゃないから!途端に全身から脂汗がドッと吹き出る。周りを見ると蓮華、穏、思春、明命、亞莎の目が俺を睨み付けている。冥琳と小蓮、祭さんはナゼかニヤニヤしていた。

蓮華

「(怒)説明してもらおうか……剛」れ、蓮華が怖い!

「剛さんがそんな事するなんて……」穏?そんな悲しい目で見ないでくれ……

思春

「……遺言はあるか?」だから思春、クナイはしまおうよ!?

明命

「やっぱり胸ですか!?大きい方が良いんですか!?」なに?この明命の被害妄想は?

亞莎

「あ、あの雪蓮様が……それは……良ければ……でも」俺がいうのもなんだけど、ちょっと落ち着こうか亞莎。

冥琳

「ほう。やるな向田」不敵な笑みを浮かべる冥琳。

小蓮

「あーあ。シャオ、この若さでオバさんになるのね」気が早いよシャオ!そう言いながら、嬉しそうなのは俺の気のせいじゃないよね?

「うむ。これは堅殿に代わり、儂が孫の成長を見届けなくてはの。イヤ、めでたいのぉ♪」祭さんも気が早い!てか、誰か助けて……こんなの針のむしろじゃないかぁーっ!

フェル

『メシはまだか?』ドドドッ!俺とトリオ以外、全員がズッコケた。

ドラちゃん

『散々働いたから腹ペコだ。メシにしようぜ!』

スイ

『ご飯っ♪ご飯っ♪』案の定、ウチのトリオは色気より食い気だね。でも助かった!

思春

「おい!今は……」

フェル

『……グルルル』

思春

「ヒィッ!」口を挟もうとした思春だが、フェルの唸り声に、小さく叫び声をあげる。

蓮華

「そうね(怯)。食事にしましょう」真っ青な顔になって矛を納める蓮華。久し振りにフェルの怖さを実感したみたいだな。

明命

「(……コクコク)」

亞莎

「(……コクコク)」明命と亞莎は涙目になって、赤べこみたいに無言で頷きを繰り返す。

「下手な事言ったら、こっちがご飯にされちゃいそうですよぉ~」フゥーッ。半泣きの穏には気の毒だけど、今回ばかりは食いしん坊トリオの食欲に感謝だよ。さて、気持ちを切り替えてメシを作るか。

 

 今回は勝利の祝賀会って事もあるから、単純に豚カツか、カツ丼とも思ったけど、何か忘れているような気がするんだよな。頭を捻って何だっけ?と考える事しばし。思い出した……結構前にフェルが獲ってきたサラマンダーライオンが、アイテムボックスに入ったままにしてあったんだ。希少な肉らしいけど見た目に反して鑑定では旨いとあったし、せっかくのお祝いだからこれを料理しよう。

 まず台所の厨房で、小麦粉と卵を分けて貰う。ネットスーパーでパン粉を購入したら、バットを3つ用意。ここから先は料理アシの美羽と七乃を呼び出して手伝わせる。

向田

「良いか。肉に小麦粉、溶いた卵を順に纏わせたら、もう1つの粉をまぶしてしばらく置いておくんだ」

七乃

「はい。ご主人様」

美羽

「主様、今日は何を作るのじゃ?」

向田

「獅子カツとステーキ、モツ煮さ。2人はカツの仕込みが済んだら、もつ煮の下準備もしてもらうからね」俺がカツを揚げている間、臭みを取るためモツに小麦粉をまぶし茹でこぼしを繰り返す作業で汗だくになり、グッタリする美羽と七乃。バテられても困るから、水分補給に缶ジュースを出してやる。

向田

「はい飲み物。この輪っかを引っ張れば穴が空くから」毎度お馴染みの某S社から発売されている[はち○つ○モン]を2人に手渡す。

美羽

「これは蜂蜜水かの?」

向田

「ちょっと違うかな。蜂蜜水に甘くない柑橘を足したヤツだけど……美味いと思うよ」

美羽

「んくんくんく……お、美味しいのじゃー!」

七乃

「蜂蜜水の甘さに柑橘の酸味が合わさって……サッパリした味わいですね」

美羽

「主様に仕えて正解だったのじゃ!もう一生ついていくのじゃ!」そんな……はち○つ○モンぐらいで一生を誓われても……何か複雑だな。

 

 そうこうしている内に料理を完成させて、俺は食いしん坊トリオに、美羽と七乃は雪蓮達に料理を運ぶ。

フェル

『やはりサラマンダーライオンの肉は旨いな』

ドラちゃん

『カツもステーキもどっちも旨え。あとモツ煮もこの味付けが良いよな』

スイ

『ライオンさんのお肉、美味しいねぇ~』

「変わった衣の揚げ物じゃが、サクッとした歯応えが良いのぉ」

雪蓮

「内臓料理は食べた事あるけど、あの時はこんなに美味しくなかったわ。流石剛ね♪」あっ、この大陸にはモツ料理あったんだ……それは意外だったな。

冥琳

「雪蓮……それはいつ、どこの話かな?」額に血管を浮かべて、怖い笑みで雪蓮を見つめる冥琳……大方、城を抜け出した時だろう。雪蓮、生還したのに自分で墓穴を掘ったな……

蓮華

「このすてえき?とかも一見ただ焼いただけに見えるけど、ビックリするほど肉が柔らかい……何らかの工夫がしてあるのかしら?」

「ところで酒はないのか?」

雪蓮

「そうね、せっかくの美味しい料理だもん。お酒は欠かせないわよね。冥琳も呑みましょ♪」

冥琳

「……全く、しょうがないわね。今回だけよ」とか言ってるけど、その『今回だけ』何度かあるよね(笑)。冥琳も結構雪蓮に甘いんじゃない……?

「つ~よ~し~さ~ん。こっちにもお酒下さい~!」ヤッパリね……このパターンも毎度お馴染みになってきてるな。ここは雪蓮も冥琳も祭さんも気に入ってるビールだろう。苦味がダメっぽい穏には、同じ炭酸系繋がりでハイボールにするか。それと、シャオは当然として、明命や亞莎はどうなんだろう?少なくとも俺が元居た世界だと、明らかに未成年だよな……呑ませて良いのかどうか。とりあえず冥琳に尋ねてみよう、と近づくと、

ドラちゃん

『なあ、プリンくれよ』

フェル

『食後のデザートだ。我はいつもの白いヤツに赤い果実が乗ってるのが良いぞ』

スイ

『スイはね~、チョコレートの四角いヤツが食べたいなぁ~』ハイハイ、分かってるって。ネットスーパーで[不三家]のテナントを開いて、3人がそれぞれ希望するプリンと苺のホールケーキ、ガトーショコラを取り寄せる。そこへテコテコと、(この擬音もどうかと思うが)足早にやってきたシャオ。

小蓮

「ちょっと!食後に甘味!?あんた達ばっかりズルい!シャオも食べたい!」頬を膨らませて抗議するシャオだったけど、フェル達に一蹴された。

ドラちゃん

『へへっ。食いたかったら戦場の前線に立ってみろよ』

フェル

『兵士達とて、お主の姉らから給金を貰うであろう?それと同じでこれらは我らの報酬だ』

スイ

『スイ達お仕事したから食べられるんよぉ~』と威張るスイとドラちゃん。シャオにはフェルの言葉しか通じてないんだけどね。

小蓮

「剛~、お願い。シャオも食べたい❤️」子供のクセに、妙に艶か( なまめ )しい目でこっちを見るシャオに呆れてると明命と亞莎までシャオの後ろに続いて物欲しそうに見つめている。

向田

「まぁ今回は特別って事で。で、みんな何が食べたい?」カタログを取り寄せてシャオ達に見せると、写真を精巧な絵だと驚いていたが、これも天の技術だと説明すると納得したようだ。そして3人共、カタログの同じ一点を見つめている。

小蓮

「ねぇ、この器に入っているの美味しそうじゃない?」

亞莎

「お菓子というより芸術品のような……」

明命

「色とりどりでスゴく綺麗です!」3人が眺めているのはパフェみたいだな。

小蓮

「じゃ、シャオはこの赤いヤツね♪」うん、予想はしてた(笑)。何となくシャオっぽいし。

明命

「では私はこちらの蜜柑の入ったモノを」明命と柑橘類ってのも、結構イメージ通りだな。

亞莎

「そ、それじゃ私は……この黒ごまを」この娘は中々に渋いのを選んだな……

向田

「亞莎、ごま好きなの?」

亞莎

「は、はひっ。す、すみません……」イヤ、謝る事じゃないけどさ。

向田

「えぇーと……シャオがイチゴパフェ、明命がシトラスパフェで亞莎が黒ごま和風パフェだね」3人のリクエスト通りのパフェを取り寄せて、それぞれに手渡す。専用のスプーンがセットになっていて、それも一緒に渡したんだけど初めてにも関わらず3人とも、実に器用に使いこなしていたよ。そんでパフェを頬張りながらのその顔がまた幸せそうだなぁ……思わいの外、ほっこりとしちゃったよ。取り寄せといえば、神様ズへのお供えする日がもうすぐだったな。ここ数ヵ月は忙しくて、予定日より遅れてばかりいたから今回はちと早めに行って来ようかね。その夜、俺は1人でカレーリナに帰ってほぼ事務的にお供えを済ませて、すぐ寿春城に帰った。

 

~視点なし~

 

 向田が雪蓮を間一髪のところで救い、曹操軍が寿春城近くに進軍している頃。雪蓮の命を狙ってまんまと失敗し、逃げる白装束達の退路を防ぐ者がいた。

??

「おい、オメェら左慈の手の者だろ!?あのバカ何考えてんだ!答えろ!」橙色の武術着を身につけたその姿は10才程度の少年にしか見えない。少年は白装束達に棍棒を突き付けて問う。

白装束(モブ)

「……(ガリッ)」

??

「あっ!?こいつ、毒を……っ!」

貂蝉

「自決したのね……」

??

「貂蝉。オメェ、何でここに居るんだ?」少年は貂蝉と見知った仲らしい。

貂蝉

「詳しい話はあと……それより○○ちゃん、アイツらの真のターゲットは孫策じゃないみたいよ」

??

「そっか。じゃあ劉備か曹操か?」

貂蝉

「まだ何とも言えないわね。アタシは劉備の本拠地に出向くから、あなたは魏を張ってて」

??

「分かった……そんじゃな」

貂蝉

「ええ……ご武運を」

??

「……オメェもな」

 

~向田視点~

 

 雪蓮が曹操を退けた事実は噂として広まり、そのカリスマ性は益々、人々を畏怖させていった。その一方で、揚州各所で不穏な動きが見え始めた。主に袁術こと美羽に与して、好き勝手やってた連中が、雪蓮による政治改革で悪政を敷く事が難しくなり、その怒りの矛先を孫家に向けてきたのだった。各諸侯による割拠が続く中、俺達の取れる行動はただ1つ―――速急に内乱を制圧し、呉をより強固にする事だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作との違い
・前話と同じく雪蓮の死に関するセリフはカット。一刀のセリフも、1ヶ所雪蓮が話している。
・曹操の退却後に勝ち鬨を上げるのは蓮華→生きているので、雪蓮。この後、オリ話。
・原作では一刀の影響でゴマ団子好きになる亞莎→元々ゴマ好きという設定に変更。

・ラストに現れたのは一体誰か?越後屋の他作を読んでないと、予測出来ないハズ?(CMすなっ!)

・次回は、以前消したオリキャラを、設定も新たに再登場させる予定。そしてその次はアンチ荀彧の話になるかもなので、ファンの方はブラウザバックして下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十五席向田、回想するのこと

以前消したオリキャラを改めて再登場させました。この際なので設定も幾つか変えてます。


向田

「いよいよ明日かぁ……」夜、俺は寿春城に与えられた部屋でひとりごちる。明日は叛乱軍を鎮圧しに向かうのだが、今から不安と苛立ちが入り交じる中、この世界にやってきたあの日の事が頭に浮かんだ。

 

 そもそも俺が元居た世界からレイセヘル王国に来たのは、『勇者召喚』に巻き込まれたのが原因だった。

神官(モブ)

「勇者召喚の儀に(こた)えし、4人の選ばれし者達よ。どうかこのレイセヘル王国を救って下さい……って、あれ?5人?」この手の話はネット小説とかでよく読んでいたけど、まさか自分がそうなるなんて思いもよらなかった。それにこういうのってもっと若い奴が呼ばれるモンじゃないのか?実際、俺以外の4人……制服着ているから高校生だろう。男子と女子が2人ずつ。これはテンプレだけど、当の俺は27才のいい年齢(とし)したサラリーマンだぜ……勘弁してくれよ。

 それに召喚した勇者は4人だったのに5人だったらから、国のお偉いさん達はみんなビックリして、とりあえず全員鑑定の魔道具とやらでステータスの鑑定を調べられた。

 その結果、俺以外の4人が、『選ばれし勇者』だったけど俺だけ『巻き込まれた異世界人』。流石に落ち込んだよ……体力の数値とかも、みんな700から800あるのに俺は100前後。それでもこの世界では強い方らしい。今思えば、あっちの大陸基準なんだろうな。こっちじゃ俺、恐らくシャオより弱いし。つーか雪蓮を始めとして、この大陸の人達強すぎないか?

 

 話が逸れたがスキルに関しても、共通の鑑定やアイテムボックス以外、他の4人が聖魔法とか聖剣術、聖槍術に聖弓術とかお偉いさんを驚愕させるモノだったのに対して、俺のスキルは『ネットスーパー』。それを知った高校生4人の内、3人に笑われたよ。お偉いさん達は頭に?が浮かびそうな状態だったし。

 しかもこの国の王様がまた、胡散臭かったんだよな。そもそも国が大変な危機に晒されているっていう話だったけど、身につけている王様のマントは、ゴテゴテと宝石を散りばめた、派手なモノだったし王妃様も明らかに贅を成してますって感じのドレスを着ていた。これはあかんタイプの異世界召喚だと思った俺は、舌先三寸で王様達を言いくるめ、当面の生活費だけ貰って城を後にした。

 

??

「向田さん、待って下さーい!」城を出た俺を呼び止める声がした。振り向くと高校生4人組の1人で、俺のスキルを唯一笑わなかった爽やかイケメンの男子だった。

向田

「君は確かあの高校生4人組の……なんで俺を追ってきたの?」

??

「僕は泉有希(いずみゆき)って言います。実はあの3人とケンカになって……」有希君から詳しい話を聞くと、彼もやはり王様達を訝しく思っていたのだが、他の3人は完全に信じきって勇者となるのを引き受けたんだが、有希君だけがこれを断ったらしい。それで3人と言い合いになり、結局有希君がもう1人の男子を殴って城を飛び出してきたそうだ。

向田

「そうか……で、君はこれからどうする?」

有希

「そうですね……行く宛もないし、しばらくご一緒しませんか?」これは渡りに船だ。勇者の実力のある彼なら護衛には最適だし、何より同じ境遇の人間が一緒なら精神的にも心強い。こうして俺と有希君は臨時のパーティーを組む事にした。

 

 まずは服を何とかしようとなったので、街中で子供達に聞いた、まともそうな服屋に入る。スーツ姿の俺と、学生服の有希君の格好は何かと目立つからな。適当に服を見繕うと、俺が貰った金で支払う。有希君も幾らか所持金はあったみたいだけど、現代日本の金じゃあな……その夜は安宿に泊まり、今後の事を話し合った。

 その後、俺独自のスキル『ネットスーパー』を試してみる。

向田

「ステータス・オープン」と唱えると、空中にネットスーパーまんまの画面が浮かんだ。その端にはコインの投入口がついている。銅貨を2、3枚入れてみると選択画面に変わり、あんパンと水を選択すると、そこから本当に出てきた。もう1回、今度は銀貨を1枚入れて、大きめの弁当を買う。現役高校生の有希君にはあんパンだけじゃ足りないだろうしね。

有希

「ありがとうございます。いつか代金は返します」そう言って有希君は弁当を食べる。因みにこの『ネットスーパー』、あっちの世界の金も使える事が、後になって分かったので弁当代は日本の通貨で返してもらった。

 

 食後、俺は本人の了承を得て、有希君を鑑定させてもらって俺自身のステータスと比べてみる。以下が、俺と彼のステータス(初期)だ。

 

【名 前】ムコーダ

【年 齢】27

【種 族】人間

【職 業】巻き込まれた異世界人

【レベル】1

【体 力】100

【魔 力】100

【攻撃力】78

【防御力】80

【俊敏性】75

【スキル】鑑定、アイテムボックス、火魔法、土魔法

 

……で【固有スキル】がネットスーパーか……。そこへいくと有希君のステータスはスゲぇな……

 

【名 前】ユキ(ユキ・イズミ)

【年 齢】16

【種 族】人間

【職 業】召喚された勇者

【武 器】聖弓

【レベル】 1

【体 力】910

【魔 力】845

【攻撃力】877

【防御力】903

【俊敏性】799

【スキル】鑑定、アイテムボックス、氷魔法、光魔法

【固有スキル】創造 ( クリエイト )修復(リペア)

 

 へぇ……闘う時は弓を使うのか。まぁ、流石勇者に選ばれただけの事はある。俺はもう1度自分のステータスをみる。何か今更ながら、空しくなってくるよ。ん?ちょっと待て。【固有スキル】の創造と修復って何?

有希

「……何でしょうね?1度も使ってないから分かりませんが。ステータス・オープン」有希君が開いたステータスには

【固有スキル】

・創造。1度でも見たり触れたりした事があれば、有形無形に限らずどんな物でも創造出来る。但し、元の世界に実在しない空想上の物、概念しかない物は作れない。

・修復。この世界における壊れた物質、怪我をした生物等、有機物、無機物を問わず直せる。但し、、粉末状になる等原型を止めていない物は直せず、死んだ生物を生き返らせる事は出来ない。

 

 ……スゲぇスキルだな。ほぼ無双出来んじゃん。俺が呆気にとられてると、本人も自分のステータスにあぜんとしてたよ……

有希

「何だこれ?」

向田

「とりあえず使ってみなよ。やってみなくちゃどんなスキルか分からないだろ?」

有希

「そうですね……とはいっても、何でどんな物を……」この安宿の一室には固いベッドと、椅子と机しかない。有希君は少し考えながら、うーんと唸っていたけど何か閃いたらしく、無造作にベッドの上へ投げ捨てた学生服を手にする。

有希

「クリエイトッ……て唱えれば良いのかな?」すると学生服がバラバラに(ほつ)れて、クマのぬいぐるみに変わった。けど何とも言えないほどブサイクだ。

向田

「ま、まぁ実験だしね……」俺は引きつった笑顔でどうにかフォローしようとする。

有希

「綿がないからでしょうね……一応、ガワになった生地の余りが中に詰まってはいますが」ぬいぐるみの目と鼻は袖のボタン、ジッパー部分は背中にくっついている。

『リペア』彼はもう1つのスキルを試した。ブサイクなぬいぐるみが元の制服に逆戻りしていく。因みに有希君の高校の男子制服は、前をボタンじゃなくてジッパーで閉めるタイプだった

 

 翌日。この国を出て、隣のフェーネン王国へ行こうと決めた俺達は冒険者ギルドへ立ち寄り、隣国行きの馬車がないか問い合わせる。ちょうどタイミングよくこれから出発する乗り合い馬車があり、2人なら充分乗り合わせられると聞かされたのでそれに乗る事にした。

 馬車内にいた冒険者パーティー『鉄の意志』(アイアン・ウィル)と親しくなった俺達。折角だから旅の途中、食事にネットスーパーで買った食パンを差し入れする。有希君はメンバーのヴィンセントさんの剣が、最近切れ味が悪いと聞いて、リペアで直していたよ。このスキルに関してはバレても問題はなさそうだった。

 

 そういえばフェルと出会ったのも、この旅での出来事なんだよな。それから有希君と3人で、冒険者稼業に精を出すようになって(俺はメシ係だったけど)なし崩し的にスイとドラちゃんを従魔にしていって、気がつけば驚くほどの大金が手に入るようになっていった。しかも俺がニンリル様にどら焼や、色んなお菓子をお供えしたのをきっかけとして、自分達もお供え欲しさに神様ズがスイとドラちゃんに半ばムリヤリ加護を与えて、酒やらお菓子やら高級化粧品をねだるまでに。この世界の神様ってホント威厳ないよね……。 

 それまで稼いだ金を互いに出しあって、レオンハルト王国のカレーリナに豪邸を買ったんだけど、2人と従魔トリオだけじゃ広すぎるってんで、ランベルトさんを通じて奴隷を雇い家の管理やらその他業務をやってもらおうとなった。最初奴隷と聞いて、有希君はあまり良い顔をしなかったけどこの国は奴隷にも人権が認められているし、ある程度の自由も約束されてると分かるとようやく納得してくれた。

 

 奴隷商でアルバン一家とトニ一家、3姉弟を含む元冒険者5人を購入して雇い、しばらくのんびり生活していた俺がいつものようお供えをしていたら、神界が何やら騒がしい。神様ズを怒鳴り散らす声が、俺の耳にも響いた。これがデミウルゴス様と最初の出会いだった。それでデミウルゴス様から転移魔法のスキルを貰って、その能力で三國志時代の中国にそっくりな、この大陸へやってきたんだよね。有希君もしばらくソロで冒険者を続けていくって事でこの世界に来て、彼とは初めて袂を分かつ事になった。そういえばこの前帰った時も家に居なかったからどうしたのかとアルバンに尋ねると、以前このレオンハルト王国を訪れる途中で知り合った冒険者パーティー『不死鳥(フェニックス)』の臨時メンバーとして、彼らと行動を共にしているそうだ。俺は当分呉を離れられないから、2人のパーティーは実質解散だな。

 

??

『オイ起きろ』誰かの声で目が覚める。どうやら戻ってきて、色々考えている内に寝入ってしまい、今までの出来事を夢に見ていたようだ。

フェル

『早くしろ。今日は謀叛人共を始末しに行くのだろう?』始末って……まぁ今日はこれから、叛乱の鎮圧に向かうんだけど。そういえば雪蓮が、今後は蓮華に指揮を一任出来るように鍛えると言ってたな。ともなれば俺もいよいよ、当初の約束を果たさなきゃならないな。フゥーッ、ため息を1つ吐いて俺はトリオと一緒に城門を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は叛乱軍の元へ。そして、上手くいけばアンチ荀彧話になります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十六席蓮華、叛乱軍を鎮圧するのこと

雪蓮を生かすと、こんなにも書きづらいのか……


「権殿……」

蓮華

「――――」

「権殿……」

蓮華

「――――」

「権殿っ!」

蓮華

「えっ!?」

「えっ、ではありませんぞ。先ほどからお呼びしておるのに、ぼんやりとして……」

蓮華

「あ、す……すまない」

雪蓮

「構わないけど……蓮華。少し緊張しすぎよ」

「これから行うは、たかが内乱の鎮圧……もう少し鷹揚に構えなされ」

蓮華

「う、うむ……」

冥琳

「敵の本拠地まであと四里ほど……そろそろ全軍に戦闘態勢を取らせた方がよろしいかと」

蓮華

「そ、そうだな……頼む」

冥琳

「御意」雪蓮、冥琳、祭さんはその場を去った。

 今回の叛乱では総大将となって軍の指揮を執るようにと、雪蓮から命じられた蓮華。反董卓連合の時も、蓮華は呉の大将として闘ったが、あれは多くの諸侯の一軍に過ぎなかったからな。本格的に軍を背負うのは今回が初、といっても過言じゃない。いつになく鯱張っている蓮華の緊張を、どうにか解そうとする俺。とはいえ蓮華の性格じゃ、変に気を遣った言葉を掛けても素直に受け止めないだろう。それなら俺から弱音を吐くのもアリかな?

向田

「……なんか緊張してきたなぁ」

蓮華

「つ、剛もか?実は私もなんだ……」

向田

「総大将として初めての出陣だもんな……緊張して当たり前だと思う」

蓮華

「当たり前……なのか?」

向田

「少なくとも俺はそう思うよ?」

蓮華

「そ、そうか……剛もそう思うか」

向田

「だけどまぁ……その緊張にも慣れていかないといけないのかも」

蓮華

「そうだな……はぁ……」

向田

「どうした?」

蓮華

「こんな事で……私は姉様のように上手くやれるのだろうか……」

向田

「うーん……それはちょっと違うと思う」

蓮華

「違う?」

向田

「そう……雪蓮は雪蓮。蓮華は蓮華。雪蓮のやり方を真似たって、蓮華は雪蓮じゃないんだから、上手く出来るハズないって思うんだ」

蓮華

「……それは私が姉様より無能だと。そう言いたいのか?」

向田

「そうじゃない。その人にはその人に合ったやり方があるハズって事だよ。そもそも自分の真似をしろなんて、雪蓮は言ってないだろ?それなら雪蓮自身が総大将をやれば良いわけだし」

蓮華

「そう……なのか?」

向田

「そう改まって聞かれると、自信満々にウンとは言えないけど」

蓮華

「……ふふっ」

向田

「な、なんでそこで笑うんだよ?」なんか釈然としないが、蓮華の緊張も解れたみたいだし良しとしよう。

蓮華

「それより……剛の率いる後詰めの部隊、準備は整ってるの?」

向田

「ああ。幸い、副官さんが優秀だからな。俺が指示を出すのはフェル達だけ。楽なのは良い事だ」

蓮華

「何を言ってるんだか……剛の部隊も戦力の一つに数えているんだから、しっかりと頼むわよ」

向田

「了解」すっかり元気を取り戻した蓮華に満足した俺は、自分の部隊を率いるべく、後方へと下がった。

 

~視点なし~

 

蓮華

「ありがと……剛……」向田が後方へ下がり、姿が見えなくなってから聞こえないように呟く蓮華。

雪蓮

「蓮華。どうしたの……?」

蓮華

「姉様……いえ、何でもありません」

雪蓮

「ふふっ……剛の事を考えてるんでしょ?」

蓮華

「だ、誰があんな奴の事を考えてるものですか」

雪蓮

「じゃ、考えてないの?」

蓮華

「……当然です」

雪蓮

「……ならそういう事にしておくわ。でもね……人はみんな、本音と建前の狭間で生きてるモノ。真面目なのも良いけど、少しぐらいは自分に甘くないと、息が詰まっちゃうでしょ?」

蓮華

「何を仰りたいのですか?」

雪蓮

「公と私。その二つを上手く使い分けろ、って事よ。さっきのは現国王として次期国王へ言った公の言葉。私については……私がとやかく言う事もないんじゃない?」

蓮華

「……??ですから何を?何が言いたいのですか?」

雪蓮

「……あらあら。ここまで言って分からないなんて。真面目の上に下品な言葉がつくわね」

蓮華

「何を回りくどく言っているのですか?……意味が分からないのですが?」

雪蓮

「うーん……なら自分で考えてご覧なさい……もっとも剛なら、すぐに意味を理解するでしょうけど」

蓮華

「剛が?ふむ……ならばあとで聞いておきましょう」

雪蓮

「ふふっ……好きになさい♪」

蓮華

「はい。それより姉様。そろそろ敵軍との接触もあるでしょう。全軍を編成します」

雪蓮

「ええ」雪蓮は別動隊の元へ下がり、入れ替わりに思春が報告にくる。

思春

「蓮華様!叛乱軍は籠城を選択したようです!城門を固く閉ざし、城壁に弓兵を並べております!」

蓮華

「……城に籠もっただけで、我らの怒りを防ぐ事が出来ると考えるか。愚かな奴らだ……祭!亞莎と共に、先鋒を率いて正門を突破せよ!」

祭・亞莎

「「御意!」」

蓮華

「思春、明命はそれぞれ東門と西門に向かい、城内の兵を混乱せしめよ!」

思春・明命

「「御意!」」

蓮華

「小蓮と穏、剛は祭の後方より援護……城壁上の敵を一掃してしまえ」

小蓮・穏

「「はーい♪」」

向田

「了解。みんなも頼むよ」

ドラちゃん

『オウッ!……うん?フェル、何か変じゃねえか?』

フェル

『どうした?……うむ、奴ら魔物を使役しとるぞ』

蓮華

「何だとっ!?」

向田

「……マジっすか?」

スイ

『い~っぱい居るねぇ』

蓮華

「クッ……作戦を変えるか!?」

向田

「大丈夫じゃない?」

蓮華

「……しかしっ!」

ドラちゃん

『魔物っつっても大したのは居ねーよ。(おお)ロ鳥に( ちょう )ジャイアントホッグ、鉄鼠(てっそ)ぐらいだぜ』空を見上げると翼の幅1メートル程の鳥が約20羽、地面には体高5メートルはありそうな猪が数頭、大きさこそ普通だが、鉄をも噛み砕く前歯を持った鼠が……ザッとみて千匹、城の門前に控えている。

フェル

『臆するな。我らに任せておけ』

スイ

『ぜ~んぶスイ達がやっつけるよぉ♪』

向田

「じゃドラちゃんが上空で大ホロ鳥を、フェルはジャイアントホッグの始末をお願い。スイは数が多い鉄鼠を倒して」

フェル

『うむ、よかろう。あの猪は旨いからな』

ドラちゃん

『大ホロ鳥も結構イケるぜ♪スイだけ食えねえ奴らに当たったな(笑)』

スイ

『むぅ~』

向田

『スイ。あとでお菓子を買ってあげるから、今は我慢して鉄鼠を倒してくれよ』

スイ

『♪分かった~』

蓮華

「魔物共は剛達に任せて大丈夫そうだな……冥琳は後詰めとして後方待機……姉様を守ってやってくれ」

冥琳

「御意」

雪蓮

「え~?私の出番は~?」

蓮華

「姉様は王として、後方でドッシリ構えて居て下さい……ではこれより全軍を展開する!相手は身の程知らずの謀叛人共だ……一気呵成に制圧するぞ!」

全員(フェル、スイ、ドラちゃん除く)

「「「「御意!」」」」

蓮華

「聞け!呉の勇者達よ!今、我らは全ての心を一つにし、呉を!呉の民を守らなければならない時にある!しかし、今、城に籠もって我らに叛旗を翻した者共は、自らの富貴(ふうき)のみを大事とし、状況も見ずに呉の国を危機に貶めている!この大陸の混沌とした情勢の中、国と民を慮らず、自らの欲望の為だけに叛旗を翻した人間を、私は許しはしない!呉の勇者達よ!猛き心を持つ者達よ!今こそ、私に力を!そしてその命を、呉の未来の為に捧げてくれ!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

蓮華

「これより叛乱軍を鎮圧する!皆の者!我が旗に続けぇぇぇぇ――――っ!」

兵士達(モブ)

「「「「「うぉぉぉぉぉぉーっ!」」」」」

 

~向田視点~

 

 ……叛乱軍と魔物の連合はそれほどの脅威ではなく、思っていたよりずっと楽に制圧出来た。勿論、フェル達ありきだけど。つーか叛乱軍の奴ら、これだけの魔物をどうやって集めたんだろう?勿論、ウチのトリオが負けるハズないけどさ……

向田

「これで魔物は全滅かな……?」

フェル

『我らは退くぞ。手柄なんぞ興味はない』そうだな……あとは祭さん達に任せよう。

ドラちゃん

「それよか大ホロ鳥とジャイアントホッグを回収しようぜ。あとで食うんだからさ」言うと思ったよ……

スイ

「猪さんっ♪鳥さんっ♪ご馳走いっぱいだね~」スイ。その前に鉄鼠の死体を片付けよう……一応こいつらの遺体も回収したよ。後になってカレーリナの冒険者ギルドで前歯が良い武器になると、結構な高値で売れたのでホクホクだ。

 

「策殿ー!城門を突破したぞ!」

雪蓮

「よし!全軍突入せよ!」

亞莎

「はっ!祭様、よろしくお願いします!」

「任せろ!黄蓋隊、城内にカチ込むぞー!」

兵士(モブ)

「応っ!」

亞莎

「思春さんと明命に伝令!城門を突破後は、城内中央を目指すように!いち早く首謀者の首を取って下さいと伝えて!」

兵士(モブ)

「はっ!」

亞莎

「祭様に引き続き、呂蒙隊も突入する!みなさん、いきますよ!」

兵士(モブ)

「応っ!」亞莎も日々成長しているようだな。嬉しいような、寂しいような……

「おおー。亞莎ちゃん、中々堂に入った指揮ぶりですねー」

冥琳

「まだまだだな……亞莎には、これからの呉を担う人材になってもらわなければならん……穏もそのつもりでいてくれ」感心する穏に対し、冥琳は手厳しい。

「了解してますよ♪」ほんわか笑顔を浮かべ、穏は大きく頷いた。相変わらずポヤンとしているようで、実はちゃんと考えてるんだよな。最近になって気づいてきた。

向田

「これで内乱は終結……になるのかな?」

蓮華

「……分からないわ。内乱の初期状態で迅速に対応は出来たつもりだけど」

冥琳

「心配せずとも大丈夫です。内乱はこれで終結に向かうでしょう」

蓮華

「そうね……ご苦労様、冥琳」

冥琳

「私は何もしておりません」

雪蓮

「今回の闘いの功は全て蓮華に帰すんじゃない?……良い号令だったわ」

蓮華

「おだてないで下さい……あんな号令では、姉様が率いていた時の兵の強さが万分の一も出ていません」

「そんな事ないですよ♪立派で格好いい号令でした♪」

冥琳

「穏の言う通り……威厳とは自然に出てくるもの。焦らず、蓮華様なりにやれば良いのですよ」

蓮華

「私なりに、か……それは剛にも言われたけど、王とはそういうモノなのですか?」

雪蓮

「そうね……ただ一つ。言える事は、王一人が優秀では臣下の立つ瀬がない、という事かしら?」

蓮華

「立つ瀬がない?」

冥琳

「ええ。王は勇敢でありながらも鷹揚に構え、臣下の活躍出来る余地を残しておいて下さい……そうすれば忠勤のし甲斐もある」

蓮華

「活躍の余地……そう。そうか……そういうところまで考えて、姉様はいつもずぼらだったのですね」イヤ蓮華、それは違う気が……

冥琳

「いえ、雪蓮にそこまで深い考えはないでしょうね」バッサリいくなぁ、冥琳。

向田

「まぁ……それが雪蓮のやり方っていえばそうとしか言えないし。乗り気じゃないとか、気が向かないとか」

冥琳

「面倒とか面白くないとかもあるな」

「お腹減ったからとか、眠いとかもありますね」

蓮華

「……そうなのですか?」蓮華に顔を向けられると、わざとらしく口笛を吹いて、目を合わさずに惚ける雪蓮。

蓮華

「(ピキピキッ!)ね・え・さ・まぁー!」

雪蓮

「キャー怖いぃ。剛助けてぇん♪」怒りのメーターが振り切った蓮華に、攻め立てられそうになった雪蓮が俺の背中に隠れようとした。

蓮華

「……全く。こんな姉様がどうやって皆をまとめる事が出来るたんだろ?」誰にともなく吐き捨てる蓮華だったけど、俺達の答えは決まっている。

向田

「勘、だろうなぁ」

冥琳

「勘だな」

「勘ですね」

蓮華

「勘……そんなもので?何だか私の中にあった姉様の像が音を立てて崩れていくわ……」眉間に皺を寄せ、思わず唸る蓮華の姿に、俺達は苦笑を漏らす。とにかく……内乱は終結し、呉の国内には平和が戻った。

 

 一方魏では荀彧が人目を避けて、ある人物と待ち合わせていた。

荀彧

「于吉。居るのでしょ?出てきなさいよ!」荀彧が呼び掛けると、于吉がいつの間にか姿を現していた。

于吉

「ふふっ……こんにちは、荀彧殿」

荀彧

「何が『こんにちは』よ!あんたの立てた孫策暗殺計画は大失敗だったじゃないの!おかげで華琳様の矜持はズタズタだし、どうしてくれるのよ!」

于吉

「……何を今更。魏の天下統一の為なら、手段を問わないと言ったのは貴女でしょう?それに……まさかの想定外の出来事に、私も戸惑っているんですよ」

荀彧

「とにかく!あんたの計画にまんまと乗った私もバカだったわ。こんな事がバレれば、私だって無事じゃすまないの。だから二度と私の目の前に現れないで!」

于吉

「……良いですね。その傲慢さ、身勝手な物言い。貴女こそ私の傀儡に相応しい……」

荀彧

「何よ!?私が従うのは華琳様だけよ!」

于吉

「その曹操も、貴女は裏切ってますよ」憤慨する荀彧に、于吉は薄気味悪い笑みを見せる。と、その一瞬後。

于吉

「縛」

荀彧

「うっ……」

于吉

「操」

荀彧

「――――」荀彧の目は虚ろになり、まるでただの人形のようになってしまった。

于吉

「さて、ちょうど良い傀儡も手に入れましたし。せいぜい利用させてもらいましょう……」そう呟いて于吉は荀彧共々、そこから消え失せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作との違い
・雪蓮のセリフの幾つかは本来、冥琳や一刀が喋っている。
・叛乱軍が魔物を使役している
・荀彧と于吉の会話。ここから無印をベースにした展開になるかも?

次回、タグに書き足した通り、全く違う作品とクロスオーバーさせる予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十七席呉、南征に向かうのこと

前回、別作品とクロスさせるとしましたが、いざ書いてみたらまとまりがなくなったのでオリ展開にシフトチェンジしました。他作品要素は今後出てくる可能性(つーか既に出てるといえば出てますが)もあるのでタグはそのままです。


 呉の各地で起こった混乱を見事に鎮圧した蓮華。国内ではその手腕に対して、大いに声望が高まっていった。蓮華こそが時期国王に相応しい、イヤむしろ今からでも王位を継ぐべきじゃないかという声まで上がるほどだ。

 そんな状況を受け、雪蓮は本拠地を建業に移し、新たな呉としての出発を内外に示す。この決定を良しとした呉の人々は、王族である孫家を改めて讃える。こうして―――。呉国内はようやく安定する兆しを見せた。しかし、呉国内の安定と前後するように、大陸に割拠している英雄達の間で、熾烈な勢力争いが起き始める。前の内戦時、呉に干渉しないと確約していた曹操が、北方の雄、袁紹と激突したのだ。官渡という場所で行われた合戦は、強大な軍事力を擁する袁紹が有利かと思われた。しかし、袁紹がその大軍を有効に展開するよりも早く、曹操の精鋭部隊が袁紹軍を急襲。先鋒である顔良の部隊が撃破され、続いて文醜の部隊も鎧袖一触で( がいしゅういっしょく )蹴散らされてしまったらしい。更には曹操率いる本隊と袁紹の本隊が激突。精鋭で鳴る曹操軍は、兵数の差を物ともせずに袁紹本隊を撃破した。こうして、北方の趨勢は曹操の勝利によって一応の決着を見た。

 

 そんな北方の状況を待っていたかのように、呉の隣国に居る劉備と呂布が不穏な動きを見せ始める。両陣営共兵糧軍馬を求め、しきりと兵を徴募しているとの一報が、明命によってもたらされたのだ。一方で劉備についていた例の3人組が本拠地である下丕城を出奔したという噂も流れていた。俺はカレーリナにて、毎月恒例のお供えの日に神様ズへ捧げ物を渡してから、デミウルゴス様のお好きな日本酒と摘みを献上して事の真相を問い合わせてみた。

向田

「デミウルゴス様。ご存知でしょうが、俺と同時期に地球からこの大陸にやってきた3人組について聞きたいのですが……」

デミウルゴス

「ふむ。左慈……元管理者の1人を追って、この世界に流れ着いた連中じゃな。あやつらなら、お主が拠点としている2つとは、別の大陸にあるヨーク王国という所へ行っておる。何でも劉備軍の戦力UPを考えとるらしいのう」

向田

「ヨーク王国?そこに何があるんですか?」

デミウルゴス

「それはまだ儂からは何も言えん。恐らくじゃが、もしも呉と蜀が手を組む事があればハッキリするじゃろう」俺の知る三國志でも有名な、蜀呉同盟か……こちらでも起こり得るのかな?

向田

「つまり、俺にしてみれば雪……孫策次第だと?」う~ん……納得出来ない部分は多々あるけど、きっとデミウルゴス様も全て俺に話す訳にもいかないんだろう。

デミウルゴス

「まぁそんなところじゃ。今後も頑張りなさい」そしてデミウルゴス様との通信が途絶える。それにしても第3の大陸か。けど、どうやってそこまで行ったんだろう?俺みたいに転移魔法が使えるとは思えないし……そんな事をのんびり考える間もなく、再び闘いの足音が聞こえてくる―――。

 

 建業の城では、蓮華が中心となり今後の方針について会議が行われた。因みに雪蓮は、既に隠居した気でいるのか、王の職務を殆ど蓮華に丸投げ状態。今日はトリオと一緒に、山へ狩りに出掛けている。だから仕事しなさいって……

蓮華

「―――加速度的に混乱の様相を見せ始めたこの大陸で、私達呉はどう生き残っていけば良いのか、今日は皆の率直な意見を聞きたい」雪蓮と蓮華。こうして見ると、姉妹なのに性格は正反対だな。会った事ないしどんな人だったかは知らんけど、ひょっとしたら蓮華の性格は父親に似たのかもしれないな。

冥琳

「軍備も充実し、内政も進み、あとは各所へと討って出て呉の領土を広げていく……それが大方針ですが、さてどこに向けて進撃するのか……」

向田

「北、西、南。方向としてはこの3つか……」

「そうですね~。状況を考えると、西に向かいたいところではありますけど……ダメでしょうね~」

亞莎

「ええっ!?西はダメなんですか?」

「ダメですよ~?ふむ……じゃあここで亞莎ちゃんに問題でーす。どうして西に向かうのはダメなんでしょ~?」

亞莎

「え、ええと……西の方に強い敵が居るから?」

「ぶぅ~!確かに荊州を治めている劉表さんは強い方ですが、それ以前の問題ですね~」

冥琳

「西方に動こうとしても、北方に邪魔な者が居るのだよ……劉備と呂布、この二人をどうにかしなければならんのだ」

向田

「あ、そうか。西を攻めてる最中に北から呉に攻め入られたら……」

亞莎

「あ……建業への退路を断たれる事になる。そういう事ですね」

「正解で~す♪という訳で西方への進出は劉備さんと呂布さんをどうにかしてからにしましょうね」

亞莎

「はいっ!」

「ふむ……となれば、残るは南方しかないのぉ」

蓮華

「南方か……」

冥琳

「御意。南方は人口も多く、北方ほどではありませんが耕作に適した土地もあります」

「それに海辺に近い事もあり、交易品も充実していますからねぇ……洛陽周辺や、魔窟には敵いませんが、それでも海から生まれるお金は、呉の国庫を潤してくれると思いますよ」

蓮華

「……よし。ならば我らは南方を制圧し、来るべき強敵に備えよう」

「……曹操、ですな」

蓮華

「ああ。袁紹との闘いを勝利で終えた曹操は、傷が癒えた後は必ず南方へと目を向けるだろう……再び我らと激突するのも、そう遠くない未来だと私は考えている」

冥琳

「ふむ……中々に慧眼でいらっしゃる」

「その時の為に、南方を攻略して兵とお金と兵糧を充実させなければなりませんね~」

向田

「曹操と闘う為の布石、か……」

冥琳

「そういう事だな。では蓮華様。すぐにでも南征軍を編成致しましょう」

蓮華

「そうしよう……出陣する武将は、呂蒙、甘寧、周泰、陸遜」

亞莎

「御意!」

思春

「御意」

明命

「御意!」

「はーい!」

蓮華

「本隊は私と孫尚香が率いる……剛も従魔達と一緒に、私の側に居てくれ」

向田

「了解」そこまで話が進んだところへ雪蓮とうちのトリオが帰ってきた。

雪蓮

「たっだいま~♪」

蓮華

「ただいま、じゃありません。姉様!軍議を放ったらかして、何をなさっているんですか!?」うわぁ……蓮華ってば激おこだよ。

スイ

『何って……スイ達、狩りしてたんだよ~?』

ドラちゃん

『イヤあ、大猟大猟。これだけありゃ兵糧にも困らないと思うぜ』と、ドラちゃんが言うので、俺はマジックバッグの中身を取り出す。するとまぁ……獣やら魚やら、食材が出るわ出るわ、どんだけ獲ってきたんだよ……

フェル

『近い内にまた戦があろう?それも踏まえて多めに獲ってきたぞ』フェルさんや……多めにもほどがあるよ。

雪蓮

「剛の例の箱なら傷む事なく保管出来るでしょ?」なんつーか最近、雪蓮が俺よりトリオに溶け込んでいる気がするんだけど……

蓮華

「ひ、兵糧の確保を……そうとは知らず、とんだご無礼を!」イヤイヤ蓮華。雪蓮達はただ、暴れたかっただけだと思うぞ。

向田

「こっちは俺がやっておくよ。蓮華達は軍議を続けてくれ」で、雪蓮も加わり話し合いが続けられる。俺は美羽と七乃を呼び出して、食材の整理を手伝わせる。

「……権殿。出陣武将に儂の名がないのだが……儂は最早用済みか?」

雪蓮

「私も出陣の数に入ってないじゃない?」

蓮華

「何を仰います。姉様と祭だからこそ、私は建業の留守を任せられるのですよ?私達の帰る家をしっかりと守って欲しいの」

「むぅ~……前線で働く事が出来ないとは。齢と( よわい )は残酷なモノよ……」

雪蓮

「ちょっと、私はまだ若いわよ!」

「策殿。それはどういう意味ですかな……?」何気に酷な事言うなよ雪蓮……あと、祭さんはそれほど年寄りとも思えないけどなぁ……

冥琳

「拗ねるな、二人共。私も居残り組だ……共に蓮華様達の帰ってくる家を守ろうではないか」

雪蓮

「そりゃ守りはするけど……」

「つまらんのぉ」

蓮華

「そう言わずに……お願い」

「むぅ……了解した」

雪蓮

「ハァ、仕方ないわね」

蓮華

「思春と穏は部隊の編成を急ぎなさい。明命と亞莎は剛と兵站の準備を頼む」

思春

「はっ!」

「了解でありまーす」

明命

「はい!」

亞莎

「御意です!」指示を受けた4人がそれぞれの持ち場に向かう。

冥琳

「……蓮華様」

蓮華

「ん?何?」

冥琳

「南方攻略の際、穏の側に亞莎をお付け下さい……あの娘はものになります」

蓮華

「亞莎を?」

冥琳

「はい。まだまだ経験が少なく、また本人自身が緊張しやすい性格なので、本来の力を発揮出来てはいませんが……いずれ私の後継者となる人物かと」

蓮華

「後継者?それならば穏が居るだろう?」

冥琳

「あやつは優秀ですが、気が優しすぎますからな……ですから私と穏、二人で亞莎を鍛え上げ、呉の柱石たらしめたいのですよ」

蓮華

「ふむ……分かった。気に掛けておくわ」

冥琳

「よろしく頼みます」

蓮華

「ええ……冥琳も、建業の守りを頼む。私達が帰ってくる家はここなのだからな」

冥琳

「御意……ではご武運を」

蓮華

「ああ。行ってくる」蓮華も戦の支度に行き、冥琳の近くに居るのは俺だけになる。

冥琳

「……どうした向田。お前も出陣の準備をせんと、皆に遅れるぞ」俺は前から気になっていた事を冥琳に尋ねてみた。

向田

「……なぁ冥琳」

冥琳

「ん?」

向田

「最近……ちゃんと睡眠取ってるか?」

冥琳

「……どうしてそんな事を聞く」

向田

「顔が白いよ……それに疲れた顔してる」

冥琳

「ふむ……お前の目までは誤魔化せんか」

向田

「じゃあやっぱり……寝てない?」

冥琳

「ああ。色々と忙しくてな。眠る間がないんだ」

向田

「忙しいのは分かるけど……今、冥琳に倒れられる訳にはいかないんだから、体調管理はしっかりしてくれよ?」

冥琳

「分かっているさ……だが、寝る時間さえも惜しいのだよ、今はな。軍を強化せねばならん。収入を増やさなくてはならん。人材を育成せねばならん。雪蓮の願いの為にも、この国を強国にのし上げる………眠っている暇はないのさ」

向田

「何をそんなに……」言いかけて俺はハッとなる。ひょっとしたら何か病気かもしれない。この頃レベルアップしたせいか、人の体調とかが大まかにだけど分かるスキルが身に付いたんだよな。だったら雪蓮の時みたいにエリクサーを飲ませた方が良いか。でも本人が内緒にしたがっている以上、しばらく様子を見るか。幸か不幸か、スイ特製エリクサーは症状が酷くなっても充分効果があるしな。

向田

「……1人で全部抱え込むなよ?」

冥琳

「そんなつもりはないわ……ほら。向田も早く出陣準備に向かいなさい」

向田

「……分かった」何も気づいてない振りをして、出陣準備の作業に戻る俺。けど冥琳が小さく呟いた言葉は聞き逃さなかった。

冥琳

「眠るなら、全てが終わってから眠るわよ……」

 

~視点なし~

 

 それよりしばらく前のある日。竜馬、隼人、慶子の3人は鉄や銅等の材料を何とか掻き集め、元自衛官の知識を駆使して作り上げた潜水艦に乗って、やっとの思いでヨーク王国に辿り着いていた。時を同じくして、向田と別行動をするようになってからの冒険者仕事で得た空飛ぶ従魔を駆けた泉有希もその国に居た……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、有希と元自衛官3名が出会う事があるのか?(予想とかはナシでお願いします)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十八席蜀トリオ、天下統一に向けて動くのこと

両原作を一旦離れたオリ展開になります。しばらく続きますが、お付き合い頂ければ幸いです。


 有希が『不死鳥』と行動を共にしていた頃の話。いつものように冒険者ギルドから受けた彼らは、カレーリナから馬車で数日かかる街へとやってきた。今回の依頼はクーガルフという魔物の討伐だ。豹の斑模様の体毛の生えた狼型の魔物で、大きさは普通の狼とフェルの中間ぐらい。強さもCランクと、不死鳥のメンバーだけでも倒せるぐらいだったが、今回街に現れたのは100頭と、

如何せん数が多すぎた。しかし、彼らの中には辞退したとはいえ(実際は辞退というより拒否だったのだが)選ばれし勇者である有希が居た。

 

 結果、クーガルフの大半は有希の弓矢で退治された。

ラーシュ

「イヤ。ムコーダさんの従魔も()えーが、君もかなりの腕だな」

有希

「ええまぁ。弓は昔っからやってたんで……」幼少期から流鏑馬を習い、高校では弓道部に所属していた有希。だから召喚された時、弓士だったのかもしれない。勇者就任を蹴った今はもう、詳細を知る由もないが。

 何はともあれ、死体は回収し、依頼人から討伐証明のサインを受け取り依頼は完了した。そこまで終えると、日もとっぷりと暮れていた。有希は不死鳥に提案する。

有希

「今日中にカレーリナには戻れませんね。この辺りは宿もないし、野営をしましょう」不死鳥の面々も同じ事を考えていたようで、これを受け入れた。

 

 不死鳥と有希は別々にテントを張る。 有希は1人用の自分のテントを早々に張り終えると、不死鳥の面々の分も一緒に夕食を作り始めた。元々家が飲食店を経営していたせいか、料理は結構得意なのだ。

 来る途中でこのメンバーで捕獲したロックバードの肉と玉ねぎを鍋で炒めて水を入れて煮込んだら人参、じゃがいもを加えて火が通ったら、向田から譲られたカレールーを刻んで2つの鍋に溶かせば、チキンならぬロックバードカレーの完成だ。この国は米食があまり浸透していないので丸パンを添える。

有希

「皆さ~ん。夕食が出来ましたから食べて下さ~い」

ラーシュ

「おっ。もうそんな時間か」集まった不死鳥は鍋の中を覗き込む。最初こそ怪訝な様子だったが……

シードル

「これが晩メシか?」

ヘンク

「見た目は土っぽいけど……」

アロイス

「何とも良い香りだな……」

セサル

「……この香りには抗えない」香辛料の香りに鼻をくすぐられ、腹の音が鳴るラーシュ達不死鳥の面々。

ラーシュ

「もう我慢出来ん。俺は食うぞ!」

アロイス

「あっ、ずりぃぞリーダー!俺も食う!」

ヘンク・シードル・セサル

「「「俺も俺も!」」」全員がカレーの鍋に群がり、パンを漬けたり、塗ったりしながらバクバク食べていく。

有希

「やっぱりカレーは正義だよなぁ……」その様子を見ながらボンヤリ思っていた有希。その時、後ろの草むらからガサゴソと良何かが動く音がした。咄嗟に弓矢を構える有希の目の前に、牛ぐらいの大きさの奇妙な生き物が姿を表した。

??

『た、助けて欲しいっス。お、お腹が空いて死にそうっス……』驚く事に、生き物は人間の言葉を話した。これには有希も不死鳥のメンバーも茫然として、その場にで固まってしまった。

有希

「え?ムー○ン?」生き物は有希が小さい頃、絵本やテレビで見たフィンランドの某妖精にそっくりだった。勿論、ムー○ンを知るハズもない不死鳥は、生き物へ一斉に武器を向けるが有希はこれを宥めた。どう見てもこの生き物が、害ある魔物とは思えなかったのだ。

有希

「と、とりあえずカレーの残りで良ければ……」有希がまだ暖かい鍋と残りのパンを差し出すと、鍋に頭を突っ込んでガツガツ食べ始める。生き物はまだ7、8人分は残っていたカレーとパンをあっという間に平らげると、ようやく満足したらしい。四つん這いのまま、有希達に深々と頭を下げて礼を述べる。よく見ると四つん這いではなく、人の手に近い前足を地につけて、土下座の姿勢をとっていた。

生き物

『ありがとうっス。おかげで九死に一生を得たっス』下手な人間よりも、よっぽど律儀な生き物にスッカリ毒気を抜かれた有希と不死鳥。

有希

「良いよ気にしないで。元気出た?」

生き物

『おかげさまで。それで……お礼ついでにお願いがあるっスが……』

ラーシュ

「お願い?……俺達にか?」

生き物

『ボクを従魔にしてほしいっす。そんでご飯食べさせて下さいっす』生き物は再び頭を下げる。しかし、不死鳥のリーダーであるラーシュはこれを断った。

ラーシュ

「俺達は従魔を必要としてないし、メシを食わせてやれる余裕もないが……」言いかけてラーシュ以下、不死鳥の面々は有希を見つめる。

有希

「え、僕にこの子と従魔契約を結べと?」

ラーシュ

「そりゃそうだ。こいつはお前の料理が気に入って、従魔になりたいと言ってるんだし……」有希はしばらく頭を捻って考えていたが

有希

「分かりました。じゃあ僕が契約します」

生き物

『ありがとうっス。それじゃ早速名前を……』

有希

「その前にさ、君って何?」

生き物

『何?と仰いますと?』

有希

「種族だよ。僕らは人間であるように君だって、何らかの種族ではあるだろう?」

生き物

『種族っスか?……それがよく分からないっス』

有希

「そうなの?」有希が聞き返すと、生き物の声が耳ではなく脳に直接響いてきた。

生き物

『訳あってここでは詳細を語れないっス。他に誰も居ない場所でちゃんと事情はお話するっス』

有希

「(ああ。これが念話ってヤツか……)そっか。じゃあ今は仮契約って事にして明日の朝、家に帰ってから改めて契約しよう」

生き物

『了解っス!』

 

 不死鳥と別れると生き物を連れて、カレーリナの自宅に帰ってきた有希。始めは屋敷の全員に驚かれたものの、生き物が思った以上に人懐っこい性格だった事もあって日が沈む時間になると、生き物はスッカリみんなと打ち解けていた。

 そして夜も更けた頃。生き物と2人?だけになった有希が本契約を交わそうとすると、再び念話が頭に響いてきた。どうやら生き物からではなさそうだ。

??

『イズミ・ユキよ。儂が分かるかの?』聞きなれない老人の声に首を傾げた有希は向田達の話を思い出して、その声へ問いかけた。

有希

『ひょっとして……デミウルゴス様ですか?それとも元始天尊様とお呼びした方が?』

デミウルゴス

『どちらでも好きに呼べば良い。それよりお主に従魔を1頭、進呈したハズじゃが?』有希は生き物と身を見合わせる。

有希

『それって……この子ですか?』

デミウルゴス

『そうじゃ。四不象と( スープーシャン )いっての、元は儂のペット兼乗騎じゃ。それは利口じゃが世間知らずなトコがあるので、下界での修行も兼ねてお主に預けようと思ってのう。名前もお主が付けると良い』

有希

『では……謹んでお預かりします』

デミウルゴス

『うむ。よろしく頼むぞい』そう言い残してデミウルゴスとからの交信は途絶えた。

有希

「……つまり最初から僕と接触する目的だった訳だね。まぁ最高神様の使いじゃ滅多な事は口に出来ないか」

生き物

『お腹減ってて彷徨ってたのは本当っスけどね』

有希

「事情は分かったし、名前を付けようか」有希は結構切り替えの早い性格だった。もしかするとこの異世界に召喚されてから、割り切ったのかもしれない。

有希

「乗用……生き物……移動……うん、これかな。君の名前が決まったよ」

生き物

『ありがとうっス。それでボクの名前は?』

有希

「僕の世界にある乗り物から取って……プリウスってのはどう?」

生き物

『気に入ったっス。それじゃ今日からプリウスって名のるっス』

有希

「じゃあこれからよろしく。プリウス」

プリウス

『よろしくっス、ご主人!』

 

 こうして四不象のプリウスを従魔にした有希はその後はソロの冒険者として活躍した。その内ある街の冒険者ギルドで、奇妙な噂を聞いた。

冒険者(モブ)

「おい知ってるか、あの話?」

冒険者(モブ)

「あれだろ?海向こうにあるヨーク王国の……」

冒険者(モブ)

「ああ。何でもこっちの大陸に戦争を仕掛けるって、もっぱらの噂だぜ」

冒険者(モブ)

「やっぱりそうなると、俺達も兵として駆り出されるのかな……」

冒険者(モブ)

「かもな。あーあ、ヤだなぁ」これを聞いた有希とプリウスは真意を確かめようと、デミウルゴスに問い質す事にした。

デミウルゴス

『ヨーク王国が戦争を企んどると?』

有希

『はい。あくまで噂ですが』

デミウルゴス

『それはなかろう。しかし、ヨーク王国か……有希よ。お主、行ってみると良いぞ』

有希

『えっ……どういう事ですか?』

デミウルゴス

『うむ、何か面白い発見があるかもしれぬぞ。そやつに乗っていけば2日とかからず着くハズじゃ。それじゃあの』

有希

『え?ちょっと、待って下さいよ!』デミウルゴスは言いたい事だけ言うと、また交信を途絶えさせた。

有希

「ハァー……プリウス、デミウルゴス様っていつもあんな感じなのか?」

プリウス

『う~ん?昔からイタズラ好きなトコはあったっスね』

有希

「ここでボヤいてもしょうがないか。乗せていってくれるか、プリウス?」

プリウス

『合点承知っス!』有希はプリウスと共に、ヨーク王国へ行く決意をした。

 

 ヨーク王国のエドウィンという街に辿り着いた有希とプリウス。そこはこの世界の、どの国とも様子が違っていた。一言でいうと、現代地球の先進国さながらの文化文明を誇っていたのだ。

有希

「ビルに電車に自動販売機……一体どうなってるんだこの国は……?」プリウスから降りた有希は、ある意味では見慣れたハズの光景に唖然とする。

プリウス

『人もどこかせわしないっスね。まるでこの国だけ時間の流れ方が違うみたいっス』などと会話しながら街中を行く2人だったがプリウスが人酔いしたらしいので、人気のない場所を求めて町外れの湖まで移動した。

 

 その頃、蜀の現代人トリオはこの国の情報を得ようとエドウィンの街のあちこちを徹底的に探索していた。そしてこの街、もといこの国が地球の先進国に似た文明を持つ事を知ると、一軒の工房を訪れた。

 工房に居たのは1人のドワーフ。彼は金属を打ちながら、何かの部品を造っていた。一番人当たりが良く、女性である慶子がドワーフとの交渉に挑む。

慶子

「こんにちは。せいが出ますね」声をかけられたドワーフはぶっきらぼうに

ドワーフ

「何の用だ?言っとくが俺ぁ、武器は作らねえぞ。俺だけじゃなくこの国じゃ他のドワーフも同様だ」

慶子

「いいえ。武器じゃなくて移動用の乗り物を造ってほしいんです」

ドワーフ

「それなら受けても良いが……何を造りゃ良いんだ?」

こうは言ったが、実は蜀トリオは戦場へ大人数の兵士を連れていく為の大がかりな乗り物として、バスを生産するのが目的だった。

竜馬

「……これで当初の目的は果たしたな」

隼人

「ああ。これで蜀の天下統一に、一歩近づいたな」

竜馬

「桃香自身は天下には興味なさそうだけどな」

隼人

「しかし、奴の理想の為には天下統一は必須だろう」交渉を慶子に任せて、竜馬と隼人は件のドワーフの工房を見張りつつ、そんな話をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




オリ話はあと1話~2話半ぐらい続くと思います。なるべく原作ベースに近づけたいとは思いますが……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十九席有希と向田、再びパーティーを組むのこと

有希の2匹目の従魔は、世界一有名なあのおさる(・・・)の設定を弄り( いじく )たおしました。原作ファンの方は平にご容赦を。
m(_ _)m
投稿した翌日。書き漏れにきづいたので改稿しました。


 有希とプリウスは湖のほとりで休憩する。その内プリウスは疲れたのか、うつらうつらと船を漕ぎ出した。その間有希は昼食の準備を始める。彼も向田と同じ、時間経過のないアイテムボックスを持っているので食材をそこに溜め込んでいる。

有希

「何作ろっかなぁ~?」アイテムボックスをチェックしながら献立を考える。

有希

「幸いかどうかは知らんけど……プリウスは向田さんトコの連中みたいに、肉だ肉だって煩くないしなぁ。野菜だけの料理でも文句ひとつ言わないし」そのせいか、向田に比べて、有希のアイテムボックスにはあまり肉が保存されていない。あくまで向田のモノに比べて、だが。

有希

「ここいらじゃ食用の魔物が獲れないし、肉類は温存して、けんちん汁でも作るか」鍋で野菜、こんにゃくを炒めて、豆腐と油揚げを煮込んでけんちん汁を作る有希。あとは保存していただし巻き玉子とご飯でシンプルな昼食が完成した。プリウスを起こして、昼食を摂る。まだ寝ぼけ眼の( まなこ )プリウスだったが食欲はあるみたいだ。

 

有希

「いただきます」

プリウス

『いただきますっス』食事の前に手を合わせ、食べる物へ感謝の意を示す。有希に教わった礼節をプリウスも見倣い、実行する。

 せっかく来たんだから、ついでに何か依頼を受けようと食後、この街の冒険者ギルドに足を運ぶ2人。流石機械文明が進んでいるだけあって、退治系の依頼を受ける冒険者は皆、マシンガンや火炎放射器等、リーサルウェポンを所有している。そんな中、変わり種の依頼に目を留めた有希。

 

『当方一身上の都合により、テイマー職を辞する為、従魔を譲ります。詳細はここの冒険者ギルドまで』

 

有希

「そっか……確かに冒険者って終身雇用が利く仕事じゃないもんな」むしろ安全安定を望むなら、フリーターに近く何の保証もない冒険者より、どこかのギルド職員か商人辺りになった方が賢い選択といえる。

プリウス

『この依頼を受ける気っスかご主人?』

有希

「う~ん……興味はあるけどお前が居れば、少なくとも従魔不足に困るなんて事はないし。ま、聞くだけ聞いてみるか。受付も暇そうだし」

プリウス

『ご主人って結構物好きっスね……』

 

??

「すいません……私の従魔を引き取ってくれそうな冒険者は現れましたか?」

ギルド職員

「残念ですが今のところ、依頼の受理はありませんね。しかし、あれだけ仲良しなのに残念でしょうな」ギルドの受付で1人の男性が職員に相談していた。その男性は車椅子に乗っている。おそらくは怪我か病気でテイマーを続けられなくなったと見えるが、それ以上に目を引くのが男性のファッションだった。つば付きの帽子から靴紐にかけて、全身真っ黄色でコーディネートしている。

有希

「……なんの験担ぎだ……?」

プリウス

「あんな派手な身なり、冒険者向きじゃないっスよ……」2人共、唖然として声も出ない。

??

「……分かりました。また明日伺います」肩を落として帰っていく男性。有希は先ほどのギルド職員に問い合わせてみる事にした。

有希

「すみません。さっきの方は……」

ギルド職員

「ああ。従魔の引き取り手を探してた……何でも依頼遂行中に事故で歩けなくなったそうで。けどねぇ……」ギルド職員は深くため息を吐いて、話を続ける。

ギルド職員

「さっきの人ですけどね。従魔とは親子ぐらい仲が良くて、私を含め親しい連中もそれをよく誂っ( からか )てたものですよ。だからこそ今回の件は余計に気の毒でしてね」

有希

「ちょっと待って下さい……冒険者を辞めるからって、ナゼ従魔を手放す必要が?」

ギルド職員

「この国じゃ、冒険者以外が従魔を飼うのは禁止されてるんですよ。事情が事情なので、あと一週間ほど猶予があるんですがね。その後は手放して自然に返すか、下手したら殺処分の可能性も……けど個人の意見を言わせてもらえば、あの子ならあのまま一緒に居ても問題ないと思うんですがねぇ」どことなく悲しそうな表情の職員に礼を述べて宿に帰る有希とプリウス。

 

 翌日。昨日の男性を再び見かけた有希。今日は子ザルを一匹連れている。

子ザル

『ウキッ。ホッホォー』子ザルは自分の運命をまだ理解していないのか、楽しそうに男性にじゃれついている。体長は80センチぐらいで、どことなく利口そうな顔立ちをしている。

??

「なあ。私とお前はもうすぐお別れしなくちゃならないんだ。せめて良い引き取り手が見つかれば……って言っても分からないか」元の世界のペットと飼い主……というより、まるで家族のように寄り添っているのを見て有希は胸の痛みを覚えた。

有希

「いくら法とはいえ、あんな仲良さそうな2人を引き離すのはなぁ……」

プリウス

『やっぱり引き取るっス?』

有希

「うん。僕が引き取るよ。事情を知った以上、放っておけないよ」

プリウス

『分かったっス。ボクはご主人の意のままに従うっス』

有希

「ありがとうプリウス」そして冒険者ギルドの受付に並ぶ有希。

 

ギルド職員

「えっ……じゃあ従魔をお引き取りなさるのですか?」

有希

「……はい。そちらの方が良ければ」

??

「ありがとう!これで殺処分の心配をしなくて済むし、この子の行く末に憂いもなくなる」男性は有希の手を録り、泣きながら感謝の意を伝える。

ギルド職員

「では早速手続きをしてしまいましょう。こちらの書類にサインを。あと、書類に押してあるギルドの印に魔力を流して下さい」

??

「それじゃあジョージ。あ、この子の名前です。今日からはこの人がお前のご主人だ。しっかり仕えるんだぞ」

有希

「それでは引き取らせてもらいます。名前は……変えなくても良いかな。よろしくジョージ」

ジョージ

『ハワ~、ハヒャヒャ』

??

「そうだ、自己紹介がまだだった。私はテッド。元冒険者で、今は……休職中……」

有希

「冒険者の有希です」

プリウス

『従魔のプリウスっス』

テッド

「人語を話す従魔か。稀に居るとは聞いた事があるが……」こうして何だかんだあったものの、有希は2匹目の従魔を手に入れた。

 

 テッドは車椅子を操作して、冒険者ギルドを去った。名残惜しそうなジョージだったが、自分の両頬をパシンと叩き心機一転し、新たな主である有希の後ろを着いてくる。

ジョージ

『ねぇ新しいご主人様。これからどこへ行くの?』

有希

『今夜はこの街で過ごして、明日の朝帰るよ。レオンハルト王国のカレーリナって街だけど……アレ!?会話出来てる!?』いつの間にかジョージと念話が通じているのに気づいた有希。

プリウス

『気づくの遅いっスよご主人……』意外に天然なところがある主に、呆れ半分で笑ってしまうプリウスだった。

 

 有希達がそんな愉快な時を過ごしている頃。蜀トリオの慶子は、先ほどのドワーフと細かい打ち合わせを始めた。話を進める内に、バスより列車型にした方が良いのではないかとも思えたが、生憎あの大陸にはレールがない。それに動力源の問題もある。この世界には電気もガソリンも存在しない。(正確には、ガソリンの原料である石油はあるかもしれないが発見されていない)このヨーク王国の近代的設備も全て魔素(マナ)という、大気中に混じる一種の気体エネルギーで作動しているのだった。また魔素を精製出来るのは魔法使いの中でも高い魔力を持つ者だけで、魔力を持たない者は魔素を扱えないし魔法も使えない。そしてあの大陸に住まう殆どの人間は魔力がない。しかし異世界からやってきた蜀トリオは例外として魔力を持っており、魔法を使う事が出来る。ナゼなのかは当人達も知らないが。

ドワーフ

「しかしこんな大人数を収容させる乗り物なんぞ作ってお前さん、何をおっ始めようてんだい?」

慶子

「そ、それはその……色々あるのよ」言葉を濁す慶子を訝しく思ったドワーフだったが、ふと後ろに誰かの気配を感じて振り向くと、隼人がドワーフの頭に銃を突きつけていた。

隼人

「余計な詮索はしない方が身のためだ」人相の悪い顔でドワーフに告げる。追いかけてきた竜馬が隼人の腕にチョップを決めて、銃を地面に叩きつける。

竜馬

「隼人……俺達の目的は、あくまで平和な大陸を築く事だろ。直接関係ない相手を殺ったら意味がねえ」静かに、だが怒気を強めた口調で竜馬が窘め( たしな )る。

隼人

「フンッ!」不機嫌そうに銃を拾い上げると、ホルダーに収める隼人。

ドワーフ

「ま、一度は受けた仕事だからやるけどよ。あんたら、金はあるのか?」尤もな話だ。どんな仕事を依頼するにしても、タダ働きなどする者はそうそう居ない。

竜馬

「そうだな……この国にもダンジョンはあるだろうし、そこでちょっくら稼ごうぜ」実は呉、魏、蜀の各国に存在するダンジョン。何せ魔物を倒せばすぐ換金出来る物に変わる為、どの国にとっても貴重な財源である。勿論蜀トリオもダンジョンに潜っては、価値ある金銀宝石を獲得して国の財源にしている。

慶子

「そうと決まれば冒険者ギルドに行こう。この国のダンジョンについて聞き込みしないとだし」

竜馬・隼人

「「ああ」」

 

 さて、無事カレーリナに帰ってきた有希一行。ここで自分の従魔達の鑑定をしていない事に気がついた有希。

「……どんだけ天然なのよ?」と吐き捨てる詠の毒舌を華麗にスルーして、プリウスとジョージを鑑定する有希。

 

【名 前】プリウス

【種 族】四不象

【年 齢】2才

【レベル】100

【体 力】5236

【魔 力】1118

【攻撃力】1000

【防御力】2500

【スキル】空中、水中移動。火魔法 雷魔法 物理攻撃耐性 魔法攻撃耐性(共に騎乗する者含む)

【加 護】創造神デミウルゴスの加護

 

有希

「なるほどね……となると、やっぱりプリウスが向田さん一行のフェルに当たるのかな……?」有希は物事を他の何かに例えるクセがあった。それはさておき、ジョージの鑑定もしてみる。

 

【名 前】ジョージ

【種 族】マジックエイプ

【年 齢】1才(人間の年齢に換算)

【レベル】75

【体 力】1037

【魔 力】9993

【攻撃力】784

【防御力】825

【スキル】媒介を通しての空中移動 火魔法 土魔法 風魔法 分身魔法 支援魔法 

【加 護】なし

 

有希

「このデータは……加護がないのは当然として、支援魔法ってなんだ?あと、媒介を通しての空中移動も気になるな……」と首を捻っていると、今日は月イチのお供えの日でもないのに向田がど○でも○アで帰ってきた。有希自身はデミウルゴス以外の神様ズにはお供えどころか会話すらした事がないものの、デミウルゴスや向田やプリウスからお供えの話は聞いていた。

有希

「あれ向田さん。今日はお供えの日じゃありませんよね?どうしたんですか?」

向田

「ああ有希君。今回は君に協力してほしくてね」

有希

「まぁ僕に出来る事なら……で、何をすれば?」

向田

「俺と例の三国志の大陸に来てくれないか?」

 

 

 




次話からは真恋姫呉編原作ベースに戻ります。そして
オリ展開から無印ベースの流れを予定していますが……う~ん、一度ちゃんとしたプロットを脳内以外でも作るべきか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十席亞莎、軍師の教えを学ぶのこと

今回は結構スパンが開いちゃいました。やっぱりオリエピは難しい……

原作でも度々見せていたシャオの流し目回(どんな回だ?)です(笑)。


~その頃の呂布と陳宮(視点なし)~

 

陳宮

「呂布殿ぉぉぉぉ~~」

呂布

「……??」

陳宮

「南方へ放っていた間諜が戻ってきましたぞ。孫権が南方へと出陣したようで。今こそ好機ですぞ!」その情報を自ら、呂布に知らせにきた陳宮。

呂布

「……攻める?」

陳宮

「はいです!」

呂布

「……分かった」

陳宮

「ならばすぐに出陣準備を致しますぞ!」

呂布

「……(コクッ)」

 

~向田視点~

 

 さて。有希君にザッと事情を話して、こっちの大陸に来てもらって……みんなに紹介した訳だけど……

雪蓮

「この子が剛の言っていた勇者?」

冥琳

「……あまり強そうに見えんが」雪蓮と冥琳を始め、みんな怪訝そうに有希君を見ている。確かに、元は普通の高校生だしなぁ。

「まぁここは一つ腕をみてやるかのぉ。有希とやら、得物は何とする?」祭さんは有希君を鍛えてやろうというのか。とはいえステータスを見る限りじゃ鍛えるどころか、祭さんですら全く敵わないと思うけど。

有希

「一応弓使いですが……」有希君がそう言うと祭さんは着いて参れと親指を立てて外へ向ける。どうやら弓兵達の練習場に連れていくらしい。

 俺も一応、練習場まで一緒に行く。そこの壁際には的がほぼ均等に一定距離を保ちながら立っている。

「あの的のどれか一つを狙ってみよ。いかに的の中央を射抜けるかでお主の技量を見極めてやろう」

有希

「……分かりました……プリウス!」

プリウス

『呼ばれて飛び出てジャジャジャーンっス!』有希君?君、プリウスに何教えてるの……?

 当然だけど俺の心の突っ込みには気づかず、有希君はプリウスの背に乗る。的の列に平行して、後ろ足で走り出したプリウスだけど、これがとにかく速い!明らかにフェル以上のスピードが出ている。そのプリウスに乗ったままで有希君は弓を引き、次々に的のど真ん中を打ち落としていく。

「騎乗した状態……それも馬を走らせながら弓を打つじゃと!?バカなっ……!儂は夢でも見とるのか……?」あ、そっか。流鏑馬って日本独自の文化だっけ。それと祭さん、プリウスは馬じゃありません……

蓮華

「何よ……祭以上の達人じゃない!」

思春

「……では、雇い入れますか?」雇うって……君らの言葉を借りりゃ、彼も天の御使いなんだけど。むしろこの世界に招かれた訳だから、俺よりそれに近い。ま、他の3人の事は天の御使いなんてこれっぽっちも思わないけどさ。とにかく俺の出番はないと、南征の支度を続ける為にその場を離れようとしたらシャオが何やら騒いでいた。またいつもの我が儘かな?と耳を傾けると誰かと喧嘩している。相手は……最近有希君の従魔になったというマジックエイプのジョージだな。

蓮華

「シャオ!……(さる)相手に本気で喧嘩する者があるか!みっともない!」

小蓮

「ぶぅー。だってこの猴、シャオの事バカにするのよ!」膨れっ面で怒るシャオ。

向田

「おいおい。何があったんだよ……?」俺がわって入るとプリウスが詳細を説明してくれた。

 

 祭さんは的を全て打ち落とした有希君に自ら敗けを認めて、その上で協力要請を頼んでいた。勿論、最終判断は雪蓮と冥琳に任せると付け加えて。そしてシャオは……どうやら有希君に一目惚れしてしまったらしい。そりゃ有希君はイケメンだし、元の世界でいえばJSぐらいのシャオが高校生男子を好きになるのは不思議でもないが。で、有希君に抱きつこうと突進するシャオの足下にバナナの皮を仕込んで転がしたり、体を刷り寄せてこようとしたら、間に毛虫を挟んだりとシャオの邪魔を続けた。その度にシャオが喚くのを、お腹を抱えて爆笑していたらとうとうブチキレられたって……事らしい。

プリウス

『あの子の猛アピールっ振りにご主人も困り果てていたっス。それで、ジョージが追っ払おうとして喧嘩になったっスよ』なるほど。有希君を困らせるシャオは、ジョージからしたら邪魔者でしかない、という事か。

小蓮

「剛からも何か言ってよ。シャオと結婚すべきだって」有希君を厭らしい流し目でチラチラ見ては、俺を味方に取り込もうとするシャオ。子供がそんな目をしちゃいけません!

 

 まぁ、それから数日間すったもんだあったものの、何とか南方へとやってきた俺達。

蓮華

「亞莎。今回の南征、貴女が指揮をとりなさい」

亞莎

「ひやっ!?わ、私がですかっ!?」

蓮華

「ええ。穏を補佐につける……敵は大望なく、欲望に任せて割拠している弱小領主どもだ。緊張せず、好きにやれば良いわ」

亞莎

「は、はぁ……」

「大丈夫ですよ、亞莎ちゃん。私が色々と手取り足取り教えてあげますから♪」

亞莎

「それは嬉しいのですが……でも、私に大軍の指揮なんて可能なんでしょうか……?」

蓮華

「亞莎。貴女の勇敢さは、呉の人間としてとても誇らしいと思う……でも、将ならば人を動かす術を心得ないといけない。いつまでも一騎駆けの武者、という訳にはいかないでしょう?だからこそ、この闘いで経験を積み、統率力を身につけなさい」統率力ねぇ……俺にゃ耳の痛い話だな。だってフェルもドラちゃんも我が強いもん。俺がどうこう言ってまとまる訳ないからね。

亞莎

「は、はい……」

蓮華

「思春、明命。そういう事だから、穏と共にしっかりと補佐してやってくれ」

思春

「御意」

明命

「はいっ!」思春は静かだが力強く、明命は元気に返事をして自分の持ち場に向かっていった。

蓮華

「……穏。これで良いのか?」

「はい♪あの子はかなり優秀な生徒ちゃんになりそうですよ♪」

蓮華

「ふむ……」

「蓮華様は納得いってないんですか?」

蓮華

「いや。冥琳と穏、二人が考えた事に否はないの。でも……あの子は本当に、知将周公謹の後継者となり得るのかしら……?」

「なりますよ、きっと。私達がちゃーんと育ててみせますから、ご安心下さい♪」

蓮華

「えらく自信があるのね」

「ありますよ♪あの子を初めて見た時、素晴らしい本と出会った時のように、ビビーッて痺れちゃいましたから♪」穏のその言葉を聞いて、サーッと血の気が引く俺、フェル、ドラちゃん。実は以前、俺は穏と屋敷の書庫の整理を手伝う事になり、フェルとドラちゃんはたまたまそこに居合わせてたんだけど……その件は機会があれば語るとしよう(脱力)。

蓮華

「痺れた、ね……まぁ良いわ。亞莎の教育は貴女に任せる……よろしくね」

「お任せですぅ♪」その後、俺達が亞莎の冥福を祈ったのは言うまでもないだろう……

 

向田

「敵と遭遇したと思ったら、すぐに籠城か……まぁ、戦術的には正しいのかもなぁ」

蓮華

「そうね。南方の各領主を糾合した上での籠城だから……一筋縄ではいかないでしょう」

向田

「どう攻める?」

蓮華

「それは亞莎と穏次第……一度任せると言ったんだもの。口を出さず、あの二人のやり方に従うわ」

向田

「ふむ……で、肝心の2人は?」

蓮華

「前曲を率いて、城の状況を確認しているわ」と、いう訳で俺達も移動する事にした。

 

~視点なし~

 

 敵城前に立つ穏と亞莎。穏はこの状況をいかに打破するべきか、亞莎への指導を始めていた。

「はーい♪ではでは、亞莎ちゃん。現状の整理をしましょうか」

亞莎

はいっ!ええと……敵は南方各地を治める領主達です。領主達は、呉の侵攻に対抗する為に団結し、現在は前方の城に籠ってます」

「はい、ご苦労様でした♪現状、敵さんはにわか同盟を組んで籠城。その兵数へ我が軍よりも多く、士気も割と高めです……さぁどうせ攻めましょう?」

亞莎

「ええとー……何か策を使って敵を分断する、とかはどうでしょうか?」

「うーん……五十点ですねー」

亞莎

「ご、五十点ですか……」

「うん。示した案に具体性がありませんから」

亞莎

「具体的、ですか」

「そう。策という言葉だけで済ませちゃダメですよ。こういう場合は、策の根本となるものを考えないといけません」

亞莎

「策の根本……」

「策をもって敵を分類する……じゃあ分断する為の策はどこに仕掛けます?」

亞莎

「ええと……どこでしょう?」

「その答えを出す為に、もう一度現状を把握してみましょう~♪」

亞莎

「現状……ええと、敵は呉の侵攻を防ぐ為に同盟を結んだ領主達……」

「そう。そこが重要なんです。つまり……呉の侵攻がなければ同盟を組むつもりはなかったんですよ。南方の領主さん達は。そこから導き出されるのは……この同盟の絆の脆弱さでしょうね」

亞莎

「脆弱なんでしょうか……?」

「脆弱だよぉ。だって現状に対応する為だけに組まれた同盟だもの。じゃあ次。にわか同盟を組んでいる各領主さん達の心の内を推測してみましょ~♪」

亞莎

「推測……」

「よーく考えてみましょうね……領主さん達は本心から信頼しあって同盟を組んでいるのかな?」

亞莎

「それは違うと思います。孫呉という巨大な敵に抵抗するには、自分一人の力ではムリだからでしょう」

「そう。仕方なく同盟しているんだよね……じゃあその必要をなくしてあげるのはどうかな?」

亞莎

「必要をなくす、ですか?でもどうやって……」

「利害が強く絡んでいる同盟の場合の定番は、敵の欲望をつついてあげる事……ツンツンって」

亞莎

「ええと……??」

「つまり、孫呉の味方をすれば命は助けてあげるよーって。但し先着二名様までですよ~って伝えてあげれば良いの。そうすれば領主達の間に、疑心暗鬼が起こって敵軍自滅する事になるの……そうやって敵の心理の穴を見つけるのが、良い将の心得其の一だよ♪」

亞莎

「なるほどぉ~……そのような事、今まで考えた事もありませんでした」

「敵に大損害を与え、味方の被害は最小限に。これが良い将になる為の心がけなの。しっかりと覚えておきましょうね♪」

亞莎

「はいっ♪」

「とりあえず離間の策の基本は分かったでしょ?なら亞莎ちゃんならどんな風に策を進める?」

亞莎

「私、ですか?私なら……ええと」

「何か思い付いた?」

亞莎

「はい。敵に降伏勧告の使者を送り、その時に告げる……というのはどうでしょうか?」

「あ、良い線いってるねー……でも降伏勧告の使者だと、敵に無用の警戒心を持たせる事になるでしょう?だからこの場合は和平の使者と偽って近づくのが良いかも。それで、領主さん達を油断させておいて~。でも手紙には偉そうに降伏しろーっ、先着二名様なら罪には問わないよーって書いてあるの。そうすればもっと効果的になるでしょう?」

亞莎

「あ……なるほど……」

「じゃあそれで行く?」

亞莎

「はい。しかし……うまく行くのでしょうか?」

「うまく行きますよ~♪相手は孫呉の力を良く知っている田舎領主さん達だし。先着二名の内に入れば罪にならないって分かれば、我先に……って考えてもおかしくないですからね。もし上手くいかなかったとしても、それはそれで良いんです……兵を率いる者が疑心暗鬼に陥れば、それは兵隊さん達にも伝染しますからね」

亞莎

「なるほど……」

「まぁ状況を確認した後、もう一つ二つ策を施せれば完璧なんだけど……亞莎ちゃんは何か思いつくかなぁ~?」

亞莎

「えっ?また問題ですか?」

「そっ。今回の南征は、亞莎ちゃんを鍛える為の闘いだもの……私に頼ってばかりだと、何も成長できないでしょ?」

亞莎

「はぁ……うーん……むむむー……策……策……策……うう……どうしたら良いんでしょうか……?」

「じゃあね、手がかりを一つあげる……初手の策が成功すれば、敵の領主さん達は誰が裏切るのか、裏切っているのか。それが分からずに動揺する事になるでしょう?」

亞莎

「はい」

「ならその動揺を助長するような策を施してあげれば良いの」

亞莎

「……あ」

「おっ。何か思いついたかな?」

亞莎

「はい。あの、敵の一人に的を絞って、いかにも内通を受けたと思わせるような行動をすれば……」

「うんうん。それ、良いねー♪じゃあそれでいきましょうー♪」

亞莎

「え、でも……成功するんでしょうか?」

「そうねー。今回の敵は地方の田舎領主さん達が殆どだし。上手く騙されてくれると思うよ。それに呉の仲間達はみーんなスッゴく有能な人達ばかりだから。少し動揺させるだけでも充分、有利になりますよ♪まぁでも、曹操さんや劉備ちゃんが相手だと、これぐらいの策は見破られちゃうと思うけどね……」

亞莎

「なるほど……敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず、という事ですね」

「そっ。雪蓮様、蓮華様のご先祖様の言葉だよ♪」

亞莎

「これが将としての闘い、という事ですか……」

「一騎駆けの武者も、それはそれで凄い事だけど……でもこれからの闘いは、それだけでは務まらないでしょうね」

亞莎

「あ、でも……思春さんや明命は?」

「あの子達はあれで良いの……でもそれは亞莎ちゃんより劣ってるからって事じゃないよ?人には人の役割がある。それだけの事なの」諭すように説明する穏。亞莎は

その言葉に小さく、だがしっかりと頷く。

亞莎

「はい」

「亞莎ちゃんはこれから、蓮華様のお側で全軍を統括する立場になっていく……勿論冥琳様がいらっしゃる間は、その補佐という形になるけどね」

亞莎

「わ、私が公謹様の補佐……そんなの務まるんでしょうか……」

「大丈夫。きっと務まるよ」

亞莎

「はいっ!私、頑張ります!」今度は笑顔で答える亞莎だが、これがマズかった。

「あんっ、もう♪やっぱり可愛い♪」穏はたまらず、亞莎を抱き締める。

亞莎

「あ、あわわ、穏様、む、胸で、胸で顔がむぐぐー」亞莎は窒息寸前だった……そこに蓮華と向田が来た。

 

 

 

 




またしても半端な切り方で終わってしまった……毎度の事ながらすいません。

今回は前半がオリエピ、後半はほぼ原作通りになります。

次回は冥琳、祭、有希が後半メインかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十一席呂布、建業へ攻め入るのこと

UAが10万近くまで伸びてます。これも応援して下さる皆さまのおかげです。この場を借りて御礼申し上げます。


~向田視点~

 

 俺と蓮華が敵城前にやってくると案の定、亞莎は穏の胸に顔を沈められていた。あまりに想像通りの展開に俺は乾いた笑いしか出なかったよ……

 

蓮華

「穏、策は決まっ……何をしてるんだ、一体?」

「えっ?あ、あははー、ついつい亞莎ちゃんの可愛さに感動してしまいました」胸で窒息死なんて、流石に笑えないぞ?べ、別に羨ましくなんてないからな!

蓮華

「……大丈夫か、亞莎」

亞莎

「ケホケホ……はぁ~、だ、大丈夫です」

蓮華

「良かった……では亞莎。貴女の策を全軍に示しなさい」

向田

「頑張れ、亞莎」

亞莎

「は、はいっ!頑張ります!」大きく頷いた拍子に、落ちそうになった片眼鏡(モノクル)を抑えながら、亞莎は敵が立て籠もる城に顔を向けた。

亞莎

「スー……ハー……スー……ハー……」緊張しているのか、一(しき)り深呼吸を繰り返した亞莎はいつになく大きな声を上げ、策を伝達する。

亞莎

「で、ではまず、敵軍に向けて軍使を出す!和平の使者を送ると申し伝えよ!」

兵士(モブ)

「はっ!」

亞莎

「軍使として文官一人を送る!……蓮華様。その者に持たせる手紙を二通、書いて頂けますか?」

蓮華

「書こう。文面は?」

亞莎

「一通には二名まで降伏を受け入れる、という強圧的な文面を。もう一通は相手を尊重するような、親しげな文面をお願いします」

蓮華

「ふむ?降伏勧告の手紙は分かるが、もう一通は何に使うつもりだ?」

亞莎

「疑心暗鬼を誘う為の布石とします」

向田

「あ…·なるほど。上手い事考えたなぁ」

蓮華

「剛は分かるの?」

向田

「うん……一方にきつく当たっておいて、もう一方には優しくすると……それを見た人はどう思う?優しくされてる人間を見て、何か裏取引でもあるんじゃないか……って勘ぐるだろ?」

蓮華

「……なるほど。布石とはそういう事か」

亞莎

「はっ……その後、敵の動きを見極めながら、軍を動かします。その時、手紙を渡した敵将の陣に向かって、旗を三度振ってから動きます」

蓮華

「手紙と、何かしら合図を送っているように見える旗、か……田舎者共はきっと内通者が出た、と思い込むだろうな。良い策だ、亞莎」

亞莎

「あ、ありがとうございます!」

蓮華

「では早速、その策を実行しよう……実務も全てお前に任せる。しっかりと頼むぞ」

亞莎

「御意です!」そう答える亞莎の表情はいつものオドオドしたモノではなく、自信に満ちていた。そして───

 

 亞莎の示した策が早速実行に移された。その反応はドンピシャって奴か?敵軍に動揺が走っているのが、外部に居る俺達にも手に取るように分かった。

「お見事~♪亞莎ちゃんの策が大当たりしたね。敵軍、動揺しまくりだよ」

亞莎

「ほあー……ホントですねぇ」

ドラちゃん

『……アハハッ!自分で考えた策の結果に、自分で感心してどうすんだよ』ドラちゃんよ、それは俺もちょっと思ったけど。わざわざ言わなくて良いからね?……通訳求められるのも俺なんだし。案の定、ドラちゃんの言葉を訳すハメになった俺。

亞莎

「あ、や……今まで、策の効果なんて意識した事ありませんでしたから……」まぁ…─やってみて初めて分かるってパターンだよな、これ。つーかこれまで策なんて考えもせず、ただ攻めまくるだけの君らに言われたくないと思うけど?

フェル

『……たかが縄張り争いにこれほど手間をかけるとは。人間とは厄介な生き物だ』イヤ、それほど手間でもないと思うけど……縄張りというか、土地の所有権なんて俺が元居た世界じゃ、やれ法律的にどうとか、居住権がどうだとか……手間が掛かるどころじゃ済まないけどね。まぁ、そんな事はこの際どうでもいいんだ。

蓮華

「とにかく効果を目の当たりにして、どう思った?」

亞莎

「凄いです。これが策の力なんですね……でも……今回は穏様の助言があったからこそだと思いますし……」

「ううん。私は大した事してないよ?この結果は亞莎ちゃんの力があったからこそ……だからもっと自信を持って良いんだよ♪」

亞莎

「は、はぁ……自信、持って良いんでしょうか」

「慢心はダメだけどね……そうして少しずつ、策の良い点、悪い点を覚えていこうね♪」

亞莎

「はいっ!これからもよろしくお願いします!」

「ああんっ、もう♪素直で可愛い♪」そして亞莎は再び窒息死寸前に陥る。

亞莎

「む、むぐぐー、穏様、胸がむぐぐ」その様子を見ていたスイが穏と亞莎の間に入り込み2人を引き剥がし、亞莎はなんとか事なきを得た。

スイ

『大丈夫ぅ~?』

向田

「……穏、そういうのは後にしような」

「あはは~っ、素晴らしい本を読んだ時みたいに、抑えが効かなくなっちゃいましてぇ~」

フェル

『お主……しばらく本は読むな』フェル……あの日の事を思い出したか。まぁそう言ってやるなよ。穏に本を読むなってのは、お前に肉食うなって言うようなモンなんだからさ。

「さぁ亞莎ちゃん、最後の仕上げといきましょ♪」穏はフェルの苦言などどこ吹く風で、亞莎の肩を励ますように叩いた。

亞莎

「はいっ!では周泰の部隊に旗を振れと伝えろ!一刻の間に七度旗を振れ!その後、軍を動かします!」

兵士(モブ)

「応っ!」

 

~その頃。南方同盟の城門前~

 

南群兵A(モブ)

「お、おいっ!あれを見ろ!」

南群兵B(モブ)

「何だあれ?旗を振ってる……?」

南群兵A(モブ)

「そういえば、この籠城している軍勢の中で、内応している部隊があるって噂があったな……」

南群兵B(モブ)

「ならあの旗はその合図かよっ!?」

南群兵A(モブ)

「そんなの知るか!」

 

~呉勢に戻る(向田視点)~

 

蓮華

「……良い具合に混乱してきたな」

亞莎

「はい。後は軍を動かすだけです」

向田

「でも、どうやって軍を動かすの?」

亞莎

「ええと……前曲先鋒を明命に任せ、右翼に思春さん、左翼に蓮華様を配置。中曲に穏様と剛様、後曲は私と小蓮様で率います。右翼には策に利用した将が居ます。その将は徹底的に無視し、残りの将へと攻撃を仕掛けるのですが、策の性質上、右翼の攻撃はかなり激しくなると予想されます。その攻撃を右翼の思春さんと中曲の穏様の部隊でうまくいなして欲しいのです」

思春

「分かった。やってみせよう」

「了解♪」

亞莎

「周泰隊の攻撃を、孫権様の本隊と私と尚香様の部隊で城門突破を助けます!向田殿一行は先鋒と本隊の間に入り、櫓に( やぐら )構える敵主力を撃破して下さい!」

蓮華

「分かった!」

小蓮

「了解♪」

向田

「……だ、そうだ」

ドラちゃん

『今回は魔物も居なそうだし、簡単な仕事だな」

フェル

『まぁ、次回に期待しておこう』

スイ

『楽勝だね~』……なんか俺達だけ気が抜けてないか?そりゃ、こいつらとまともにやりあえる兵士なんてまず居ないだろうけどさ。

亞莎

「この闘いをもって呉の天下統一の狼煙とする!各員奮励努力せよ!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

亞莎

「全軍、攻撃開始ーっ!」

 

 さて。意気揚々と敵城へ突入した俺達。連中も一応フェル達の噂は耳に入っていたようで、櫓から弓で一斉攻撃を仕掛けたり地面に罠を張ったり戦車っ( チャリオット )ぽい馬車で攻めてきたけど当然相手にもならず、あっさりやられて逃げ出していったよ。それにしても、今回は例の白装束が現れなかったけど……それが却って不気味に思えるな。

フェル

『今はその程度の事、どうでもよかろう』フェルにそう言われて俺も気持ちを切り替え、明命の結果報告を聞く事にした。

明命

「先行した部隊により敵玉座敵玉座の間の占拠を確認!生き残った敵軍は全て投降しました!」

蓮華

「よし!思春は兵糧庫と宝物庫の確保に行け!」

思春

「御意!甘寧隊、我に続け!」

亞莎

「投降した兵は百人単位で一纏めにしておいて下さい。後ほど検分して扱いを決定します」

「了解~♪」

亞莎

「よろしくお願いします……ふぅ」

向田

「お疲れ様……良く頑張ったね」

亞莎

「あ、はは……私、頑張れたのでしょうか?」

蓮華

「充分だろう……敵に多大な損害を与えながら、味方の被害は最小だった。素晴らしい出来よ」

亞莎

「は、はい!ありがとうございます!」

蓮華

「これからも、私を支えてね、亞莎」

亞莎

「御意!」

向田

「これで南方はほぼ制圧……ってトコかな?」

「そうですねー。結束して抵抗していた勢力も霧散しましたから、後は時と共に恭順を示す勢力が増えていくでしょう」

向田

「なら一段落ってトコか……」

「南方はそうなるでしょうけど、まだまだ西と北が残っていますからねぇ~」

蓮華

「そうだな。まだまだ気が抜けんが……今は、住民達の慰撫が先決だろう。穏、手配を頼む」

「了解です♪支援物資は剛さん、よろしくです~」

向田

「分かった。必要な物があったら言って」

蓮華

「代官の選抜、組織図の確定……やらなければならない事は山ほどある。手伝ってね、剛」

向田

「当然」

 

~一方、建業の城(有希視点)~

 

 向田さんが孫権さんを中心とした南方制圧部隊についていく事になり、僕は孫策さん、周瑜さん、黄蓋さんとこの本拠地である建業の城に待機する事になった。今は城門前で、黄蓋さんと周瑜さんと一緒に外の様子を窺っている。

「むぅ……つまらん……つまらん……つまらん。どこかから誰か攻めてこんかのぉ」何言ってんだこのオバハンは!?

有希

「こ、黄蓋さん。何を物騒な事を言ってるんです!もう、ワガママばかり言ってちゃダメですよぉ」

「いやしかしだな。若い連中が戦場で暴れておるのに儂だけ留守番なんだぞ?……つまらんじゃろうが」

有希

「留守番だって重要な役目なんですから、つまらんとか言うのはやめて下さいってば」

「無理じゃ」

有希

「無理じゃって……(呆)周瑜さんも笑ってないで何か言って下さいよぉ」

冥琳

「ふっ、すまん……相変わらずお元気な事だと思ってな。有希、黄蓋殿はこういうお方だ。諦めろ……」

「むぅ~……暇なんじゃもん」いい年齢(とし)したオバハンが可愛い子ぶっても……言わないけどさ。

冥琳

「何がもんですか、いい年齢をして」周瑜さん言っちゃったよ!ま、長い付き合いだからこそなんだろう。

「年齢の事を言うのは卑怯だぞ、公謹」

冥琳

「ワガママな先達にはそれぐらいは言わせてもらわないと。お前もそう思わんか」僕に振られても困ります。ところでさっきから誰か足りない気が……

「むぅ……」膨れっ面の黄蓋さんをスルーして、僕は周瑜さんに尋ねる。

有希

「孫策さんはどうしたんですか?」

冥琳

「雪蓮なら『そろそろ敵が出そう』と一隊を率いて城を出たが?」

「なんじゃと。策殿め、抜けがけしおって!」この人達は揃いも揃ってなに考えてんの?こんな事なら向田さんの頼みを断れば良かったかな……?その時、僕らとは別の場所で見張りをしていた兵士さんが、血相を変えて現れた。

兵士(モブ)

「も、申し上げますーっ!」

「なんじゃ!」

兵士(モブ)

「つい先ほど、深紅の呂旗が国境線を突破!この城に向かう途中、孫策様の部隊と激突したとの報告が!」

「やった!」何がやっただ!?いい加減にしろ、このオバハン!

冥琳

「すぐに蓮華様に伝令を出せ!我らは籠城の準備をするぞ!」

有希

「籠城ですか!?」

冥琳

「当たり前だ。この城の兵力は少ない。蓮華様達が戻って来なければ、飛将軍と讃えられる呂布に太刀打ち出来ないだろう」

「儂がおるぞ!ここにおるぞ!」

冥琳

「居て貰いますよ。城内にね」

「……公謹。ちょっとだけ出るのはダメか?」

冥琳

「却下です」

「ううー……折角……折角、活躍出来る好機が来たと思ったのにぃ~……」

冥琳

「……それにしても。こんな時に限って、雪蓮はなにをしているんだか……有希よ。スマンが従魔と共に雪蓮を探して、連れ戻してくれんか」

有希

「……分かりました。プリウス!」

プリウス

『合点っス!』僕はプリウスに乗って、上空から孫策さんを捜索する事に……しかし呉の国って、ほぼ周瑜さんと孫権さんで保っているようなモノだな。

 

 

 

 

 

 




すみません。突然ですが、別作品を更新したいのでこちらをしばらく休載させて頂きます。楽しみにて下さる皆さま(居るのかな?)には申し訳ないのですが、次回更新はしばらくお待ち下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十二席激突!呂布VS蓮華、のこと

このところ感想を頂けないせいなのか、ペースが落ち気味です。皆さんの愛ある感想をお待ちしています。勿論無理強いはしません。


~向田視点~

 

兵士(モブ)

「で、伝令ぃーっ!」南征が落ち着いた俺達に知らせが入る。

蓮華

「何だっ!」

兵士(モブ)

「り、り、りょ、呂布がっ!呂布が軍勢と共に国境を突破!破竹の勢いで建業へ迫っていると、周瑜様より伝令がっ!しかもそれを察した孫策様が飛び出して行かれたと!」

蓮華

「な、なにぃ!?」

兵士(モブ)

「籠城し、時を稼ぐとの事でしたが、建業を守る兵数は少なく、苦戦は必至!至急帰還されたし、との事です!」

蓮華

「分かった!亞莎!」

亞莎

「はっ!」

蓮華

「すぐに全軍撤退する!手配を急げ!」

亞莎

「御意!」

蓮華

「穏はこの地に留まり、人心を安定させておけ!」

「はーい!」

蓮華

「思春、明命はそれぞれの部隊を率いて先行!すぐに建業に向かえ!」

思春・明命

「「了解!」」

蓮華

「シャオ!」

小蓮

「はーい!」

蓮華

「シャオは私と共に本隊を率い、思春達の後を追う……頼りにしてるわよ」全員に適格な指示を出す蓮華。みんなはまるで蓮華の手足になったかのように、キビキビと指示通り動き出した。

小蓮

「まっかせてー♪」あれ、俺はどうすれば……?

蓮華

「剛は従魔達を先行させて、穏の代わりに私の傍で軍師として待機」

向田

「応っ!って、ええっ!?マジか!?」

蓮華

「当たり前でしょ。私達に人的余裕はないの……時間が惜しいんだからすぐに動いて!」

向田

「お、おうっ!」

蓮華

「では半刻後には陣を引き払う!全軍、そのつもりで動け!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

 

 蓮華の出した命令に従い、迅速に行動する各部隊の長達。そんな中、俺1人だけが途方に暮れていた。

向田

「軍師として動けったって……どうすりゃ良いって言うんだよ……」そんな愚痴も漏れるけど、ぶつくさ言っている場合じゃない。今は一刻を争う事態なんだ。

向田

「ええと……俺達は今から建業に急行して、籠城している仲間達を助ける、と。急行するって事は、動ける奴らだけをズバーッと連れてくって事だろ?となると、問題になってくるのは……補給かっ!」急行出来たとしても、腹を空かせたまま闘う訳にはいかないな。

向田

「……という事は、兵糧の確保を最優先に考えた方が良いな……よし!」俺はネットスーパーを開き、食品を購入した。今回は食材じゃなくて出来合いのおにぎりや菓子パンを買った。これで後は建業に向かえば当面の目的は果たせる。俺はこの事を蓮華に伝える。

蓮華

「あ……兵糧にまでは気が回らなかったわ……」

向田

「うん。俺も危うく忘れかけてた」兵士さん達はうちのトリオと違って、メシメシって煩くないからね。

蓮華

「どこか手頃な場所で食事を摂りましょう。それから建業に向かっても時間に余裕はあるわ」

フェル

『我が帰り道に開けた場所があるのを確認している。そこでメシにすれば良かろう』

 

~有希視点~

 

 あれから僕はプリウスと一緒にこの近辺の上空を飛び回り、ようやく孫策さんを発見した。しかも敵の先方部隊と一触即発ギリギリのところまで兵を進めていたんだからホント質が悪い。プリウスを急降下させて、孫策さんの襟を掴む。兵士さんにはこの場を撤退するよう、周瑜さんから命令があったと伝えると踵を返して上空へ飛び、城に戻る。

雪蓮

「下~ろ~し~て~よぉ~。これから面白くなるところなのにぃ」とかゴネている孫策さんに僕は冷たく言い放つ。

有希

「ここから下りたら確実に死にますが?それでも良ければ手を離しましょう」僕の言葉に孫策さんは下を見て、黙り込む。何せプリウスは上空100メートルぐらいを飛んでいるんだから。流石にここから飛び下りてまで、ドンパチ闘ろうとは思わないだろう。

有希

「城に帰ったら周瑜さんにたっぷり叱ってもらいますから、覚悟しておいて下さいね」

雪蓮

「むぅ……有希ってヒドーい。剛ならむしろ冥琳を宥めてくれるのにぃ……」

有希

「あの高さから下りて死ぬよりマシでしょう!バカ言ってないで帰りますからね!」孫策さんの言い草に腹が立った僕は若干キレ気味に怒鳴って、建業の城へプリウスを飛ばした。

 

~呂布陣営~

 

陳宮

「むむむー。敵は籠城を選択したようですなー」

呂布

「……どうする?」

陳宮

「闘うのみなのです!」

呂布

「……分かった」

陳宮

「では皆の者ー!孫策、孫権が居ない間に呉のお城を征服するのですー!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

陳宮

「呂布殿の為に頑張るのですー!」

兵士達(モブ)

「「「「おおぉぉぉぉーっ!」」」」

 

~建業の城(視点なし)~

 

冥琳

「うん。雪蓮が帰ってきたか」

「有希に首根っこを吊るされ……まるで借りてきた猫のようじゃな」有希は城の櫓へ( やぐら )下りて雪蓮を冥琳に引き渡す。

冥琳

「お説教はあと。今は籠城して持ちこたえるぞ」

雪蓮

「はぁ~い」この戦の後、待っているお説教の時間を少しでも短くしようと、雪蓮は冥琳の言う事に素直に従う。そんな2人に構う事なく、祭は敵軍の様子を見つめて不敵に笑う。

「おうおう、良い気合いを見せとるのぉ!闘い甲斐がありそうじゃ」

冥琳

「……祭殿」

「なんじゃ?」

冥琳

「あまりウキウキせんで欲しいのですが」

「ムリじゃ!」

冥琳

「はぁ……そういうと思った……」

有希

「この人……もうヤだ……」頭を押さえる有希に、呆れて言葉もない冥琳。

「だってじゃぞ?あれだけイキの良い敵軍が目の前に居て、どうして興奮を抑えられる!」

有希

「イキって……鮮魚じゃないんですから……」

冥琳

「いや、そこは将として抑えて頂きたいのですが」

「ムリじゃ」

冥琳

「ですよねー……」

「そんな事より公謹。儂は早く闘いたいのじゃが……まだ討って出るのはいかんのか?」

冥琳

「つい先ほど開戦したばかりじゃないですか……もう少し落ち着いて下さい」

「むー……つまらん、つまらんぞー!」

冥琳

「はぁ……蓮華様達が帰還されたならば、すぐに討って出ますから。それまでは我慢しておいて下さいね」

「分かった!我慢する!じゃがその時は儂が先鋒じゃぞ?約束じゃぞ!」

冥琳

「はいはい……はぁ……」祭と冥琳がそんな問答をしている合間で、ソワソワと落ち着きがない雪蓮。それに気づいた冥琳はプリウスにチラッと目をやったあと、有希にこう尋ねる。

冥琳

「ところで、あの従魔の重さは?」

有希

「40貫ぐらいですね(1貫は約3,75Kg)」

冥琳

「では……そいつに命じて雪蓮を押さえつけておけ。下敷きにしても構わん」

有希

「え?はぁ……だ、そうだよプリウス」

プリウス

『了解っス。よいしょっと』雪蓮の背に乗るプリウス。その重さで前のめりに倒れ込み、うつ伏せになる雪蓮。

雪蓮

「何よ。この子、めちゃくちゃ重い!ちっとも身動き出来ないじゃない!冥琳のバカァ!」

冥琳

「……蓮華様帰還までそのままで居させろ」

有希

「……良いんですか?」

冥琳

「自由にしたら、また突っ走りかねん。あのぐらいでちょうど良い」これから籠城戦だというのに、緊張感のない会話を交わす有希と呉の面々。そこへ兵士が現状報告にやってきた。

兵士(モブ)

「敵軍、寄せてきました!」

「よし!各員持ち場につけぃ!この城、必ずや守ってみせるぞ!」その言葉を合図に兵達に指示を出す祭。さっきまでのグダグダ感が嘘のようである。

兵士(モブ)

「応っ!」

 

~向田視点~

 

 建業に帰還する俺達だが、思いの外余裕があるので途中で食事休憩を取る事にした。今は休憩予定の場所へ向かっている最中だ。

向田

「フェル!予定地点まであとどれぐらいだ!?」

フェル

『あと少しだ!』

向田

「よし!みんな、辛いだろうけど頑張ろう!あと少しで飯が食えるぞ!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

 

~再び呂布陣営(視点なし)~

 

陳宮

「うー……流石周公謹なのです。兵の数に大きな差があるのに、城を落とす事が出来ないです……」

呂布

「……どうする?」

陳宮

「あぅ、だ、大丈夫です!ちんきゅーが呂布殿の為に、ぜーったいお城を落としてみせますぞ!」

呂布

「……………(コクッ)」

 

~再び建業の城~

 

 城の櫓では、呉の弓兵が必死の抵抗を試みていた。しかし徐々に呂布軍に追い詰められていく。

「うーむ……敵も中々やりよるのぉ。更に攻撃が激しくなっておる」

冥琳

「流石飛将軍呂布……といったところでしょう。このままでは不味いですね……」

「儂の出番か!?」

冥琳

「いいえ、それはまだです。だが……呂布の強さに兵達が怖じ気づいている。このままでは押し切られてしまいますね」期待を込めた祭の発言をいなす冥琳。

「だから儂の出番だろう!?」

冥琳

「……あと少しで蓮華様が帰ってくるでしょう。それまでは辛抱ですな」

「むぅ……無視か……」

冥琳

「はぁ……将の貴女が逸れば、それが兵に伝染します。少しは落ち着いて下さい」

「それは分かっとるのだがな。早く闘いたいんじゃよ……」

冥琳

「黄蓋殿(ギロッ)」

「うっ……分かっておるよ。そんなに怒るな」

冥琳

「はぁ……」

有希

「周瑜さん……心中、お察しします」一方、普段ならこんな状況だと我先にと前線へ出たがる雪蓮だが、プリウスに押さえつけられて動けないのと、この後の冥琳のお説教怖さでいつになくおとなしかった。

 

~向田視点~

 

 フェルの案内で、開けた土地に急拵えのキャンプを張った俺達。手分けして全員に食べ物を配り、これまた大急ぎで食事を済ませる。

蓮華

「皆、食事は終えたか!」

思春

「はっ!食事は既に終え、出撃準備も完了しております!」

蓮華

「よし!では今から建業へ急行する!皆、私達の家を守るのだ!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

蓮華

「行くぞ!我が旗に続け!」

 

~冥琳サイド~

 

兵士(モブ)

「周瑜様!東方に砂塵を発見しました!」

冥琳

「旗はっ!」

兵士(モブ)

「旗は……孫家の牙門旗!孫権様がお戻りになられましたぁーっ!」

冥琳

「よし!間に合ってくれた!……雪蓮!黄蓋殿!お待たせしましたな!」

「やっとじゃー!やっと儂の出番がきたー!クククっ、腕が鳴るぞー!」

雪蓮

「さっきまでの鬱憤、ここで晴らせて貰うわよぉー!」

冥琳

「蓮華様と連携して呂布を叩きます!皆、出陣準備せよ!お前もだ!」冥琳は有希に檄を飛ばす。

有希

「僕もですか?分かりました……プリウス、ジョージ行くぞ!」

プリウス

『はいっス!』

ジョージ

『待ってましたぁ♪』

 

~蓮華サイド~

 

兵士(モブ)

「前方に建業の城が見えました!周旗と黄旗が並んでおります!建業は健在です!」

蓮華

「間に合ったか!」

明命

「蓮華様!城の上空に有希殿の従魔が!こちらの参着に気づいたのかと!」

蓮華様

「姉様と冥琳ならこちらの意図を理解して、討って出るだろう……我らはこのまま突っ込むぞ!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

思春

「総員走りながら抜刀せよ!かかれーーっ!」

向田

「……おいおい、マジかよ……」

フェル

『スイ、ドラ。我らも城まで駆け抜けるぞ』

ドラちゃん

『へへっ、ちょうど良いぜ!南方じゃ暴れ足りなかったんだ!派手に殺るぜ♪』

スイ

『スイも、もぉーと暴れるんだもんねぇ♪』

向田

「はぁ……もう好きにしてよ君達」――今、呉軍と呂布軍の闘いが始まる――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作との違い
・一刀は穏に相談して、敵城にある兵糧を船に積んで持っていき、船着き場での食事を提案→食べ物は向田がネットスーパーで購入したので穏への相談もなし。フェルの発案で開けた土地で小休止。

・生きている雪蓮の行動、周りの反応はオリ展開

※次回か次々回辺りでメシ話を復活させたい……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十三席有希、照れるのこと

世間は自粛モードだってのに、こっちはリアル仕事がずっと忙しかった……おまけにスランプも重なって、やっと書けました。それでも短めですが


~呂布陣営~

 

兵士(モブ)

「陳宮様!背後に孫権の部隊が現れました!」

陳宮

「なんですとーっ!?」

兵士(モブ)

「孫家の牙門旗を中心に、こちらに向かって来ております!」

陳宮

「ぐぬぬー……南征にもう少し時間が掛かると思ってたのに……うー……読みちがえてしまったですー」

呂布

「……大丈夫」

陳宮

「呂布殿!?」

呂布

「……闘う」

陳宮

「はいっ!ちんきゅーもお供致しますぞー!」

呂布

「……(コクッ)……行く」

 

~向田視点~

 

 大急ぎでの建業に戻ってきた俺達だったけど、城が見えたのと同時に呂布軍もこっちへ向かってきていた。

思春

「前方、深紅の牙門旗を発見!」

明命

「敵軍反転!我が方に向けて突出します!」

蓮華

「何っ!?ならばこのまま迎え撃つぞ!」

亞莎

「ダメです!ここは軍を縦に二分し、呂布軍の突進をやり過ごしましょう!」

向田

「縦に二分って……どういう事?」

亞莎

「突出してくる敵の両脇を駆け抜け、敵後方で周瑜様達と合流して反転!敵の背後を突きます!」

蓮華

「なるほど。しかしうまく行くのか?」

亞莎

「いかせます!思春さんは右翼!明命は左翼!兵を手足のように動かして下さい!」

思春

「またムチャな命令だな。しかし……やってみせようではないか!」

明命

「そうです!やってみせましょう!」2人共、亞莎を信頼しているんだな。けどこの案に納得いってないのが1人イヤ、3人居た。

フェル

「面倒だ……我は真正面からいくぞ」

スイ

「あ~る~じ~、早く闘いたい~」

ドラちゃん

「ンなまどろっこしい事やってられっかよ!」やっぱりね……そう言うと思ったよ。ハァ……

向田

「じゃこうしよう。フェル達はここで待機。反転する思春、明命両部隊と息を合わせて敵を挟み撃ち。それでどうだ亞莎?」

亞莎

「良いと思います……では残り全軍を縦に二つに割る!右翼は甘寧殿の旗に!左翼は周泰の旗に続け!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

 

~再び呂布陣営~

 

兵士(モブ)

「敵軍、更に速度を上げました!」

陳宮

「こっちも速度を上げるのです!初撃で敵の先鋒を粉砕しますぞーっ!」

兵士(モブ)

「はっ!」

陳宮

「呂布殿ー!敵をやっつけちゃって下さい!」

呂布

「……了解」

 

~蓮華陣営~

 

兵士(モブ)

「敵軍、更に速度を上げるようです!」

亞莎

「よし!思春さん、明命!機会は一度きりです!時機を見計らい、一斉に隊を割って下さい!フェル殿達はそのまま迎撃をお願いします!」

思春

「了解!行くぞ、明命!」

明命

「はいっ!」

思春

「三、二、一……今だっ!」

明命

「全軍分かれーっ!」

兵士達(モブ)

「うぉぉぉーッ!」俺達は三手に分かれた。思春と明命が率いる部隊は二手に分かれて、俺と従魔トリオは向かってくる敵を待ち構える。

 

~呂布陣営~

 

兵士(モブ)

「て、敵軍が前方で二手に別れ、我らの横を通過していきます!更に後方には噂の怪物共が!」

陳宮

「なんですとぉーっ!?」

呂布

「……」ヒスを起こす陳宮に、一見落ち着き払っている呂布。対照的な2人だ。

陳宮

「ちょ、このままでは後ろに回り込まれて挟み撃ちに遭いますの!全軍すぐに反転するのです!」

兵士(モブ)

「す、すぐにはムリですっ!それに反転したら、怪物共に背を向ける事になります!」

陳宮

「むーっ、なら更に速度を上げて前進し、場所を選んで城に突撃しますぞ!怪物共と当たるよりマシです!」

兵士(モブ)

「はっ!」

 

~建業の城(有希視点)~

 

 向田さん達以外の自軍を縦割りにする、意外な作戦で呂布軍をやり過ごした孫権さん達は城に戻り、僕達との合流に成功した。

蓮華

「姉様、ただ今戻りました!冥琳、祭!待たせた!」

冥琳・祭

「「はっ!」」

雪蓮

「お帰り蓮華。早速だけど反撃に移るわよ!」プリウスを退かした途端、元気になったよこの人……

蓮華・冥琳・祭

「「「御意!」」」

蓮華

「亞莎!現場の指揮はお前が取れ!すぐに部隊を編成しなさい!」

亞莎

「御意!」

「亞莎!儂が先鋒だぞ!先鋒だからな!」

亞莎

「りょ、了解です!では黄蓋殿の部隊を先鋒に配置し、その両脇に甘寧殿、周泰の部隊を配置!このまま敵軍を追尾し、敵背後を強襲します!各員、奮闘して下さい!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

蓮華

「空き巣同然の所業、許すまじ!呂布を呉から叩き出すぞ!」

兵士達(モブ)

「「「「おおおおーっ!」」」」呂蒙さん、帰ってきたばかりなのに大変だな……オバサンに関してはもう放っとこう。僕はプリウスに跨がって、ジョージを肩に乗せると戦場へ飛び込んでいった。

 

~視点なし~

 

 さて、建業の城に突撃した呂布軍だったが、連中の目の前にプリウスに乗った有希が立ちはだかるという、予想外の出来事に混乱している。

兵士(モブ)

「ま、まさかこっち側にも怪物が!?」

兵士(モブ)

「前も後ろも怪物だらけかよ!?」

陳宮

「結局、挟み撃ちなのですーっ!」後方からはフェル達トリオ、前方にはプリウスとジョージ。人間の軍隊が何千万居ようと、敵う訳がない。呂布軍の敗北は火を見るより明らかだった。

呂布

「……倒す」呂布はフェルに画戟の先を向け、駆け出していく。

フェル

『ほう……我に挑むとはな。その気概だけは誉めてやっても良いぞ』フェルが前足を一振りすると、呂布の画戟はアッサリと砕かれた。

呂布

「……クッ、化け物……!」

フェル

『ふっ。人間にしてはやるようだな』悔しさに顔を歪ませる呂布に、不敵な笑みを浮かべるフェル。

 

プリウス

『はいはい、皆さん。お帰りはあちらっスよぉー』呂布軍の兵達を一纏めにして押し出していくプリウス。

兵士(モブ)

「ちっ、このカバめ!」

プリウス

『誰がカバっスか!もう怒ったっス!』実はプリウス、カバに間違えられたり、カバ呼ばわりされるのが大嫌いだった。呂布軍兵士の言いぐさに、まるでタヌキ呼ばわりされた某青い猫のように腹を立てる。

プリウス

『出ていけっス!』そして敵兵を全て追い返す。

 

兵士(モブ)

「前線を突破されましたー!ダメです!もう持ちそうにありません!」

陳宮

「……ま、負けたです……」

兵士(モブ)

「はっ。我が軍の敗北は決定的かと……」

陳宮

「うー……うー……ま、まだ負けたワケではありませんぞ!反撃するのです!」諦めの悪い陳宮を諌めたのは呂布だった。

呂布

「……ダメ」

陳宮

「うぅ、呂布殿ぉぉぉ~……」

呂布

「……逃げる」

陳宮

「で、でもみんなまだまだ闘えますぞ!」

呂布

「……みんな大事」

陳宮

「え……」

呂布

「……ちんきゅ、大事……だから逃げる」

陳宮

「う、ううっ……うえぇぇぇぇぇんん……」

呂布

「……行こう」

陳宮

「は、はい。ぐしゅっ……えぐ……」堰を切ったように泣き出す陳宮を連れて、呂布軍は建業から逃げ出した。

 

~向田視点~

 

明命

「敵軍、退却を始めました!」

蓮華

「よし……!」蓮華はナゼか俺と有希君に顔を向ける。

向田

「え?なんで俺達の方を見るの?」

蓮華

「え、あの……追撃しても怒らない?」

向田

「怒らないよ。ここは追撃しておいた方が良いだろうって思う。だけど……一点だけ。追い詰めるまで追撃するのは反対、かな?窮鼠猫を噛む……って言葉もがあるぐらいだし。死に物狂いで反抗されると、こっちも被害が大きくなる」

冥琳

「向田の言う通りです。追撃部隊を編成し、適度に追撃して敵の戦力を削りましょう」

有希

『あの……向田さん?』有希君が念話で俺に話しかけてきた。てか、いつの間にそんな事出来るようになったんだろう?

有希

『呂布って前は、月ちゃんのトコに居たんじゃ……』

向田

『あ~、そういえばそうだったな。ところで有希君……アイヤとテレーザの主婦陣から聞いたけど、最近月と良い感じらしいねぇ?』俺も念話を返し、ついでにちょっとだけ誂っ( からか )てやった。

有希

『い、今はそんな事、どうでもいいでしょう!?』案の定、真っ赤になって怒り出した、思春期だねぇ。

有希

『でも見殺しにはするのは心苦しいし、せめて生きている事だけでも伝えてやった方が良くありませんか?』話を強引にすり替える有希君。これ以上誂うのも気の毒だし、俺も話に乗っかる事にしたよ。

向田

『まあ三國無双と云われる呂布だから、このまま殺られるとは思えないし。雪蓮に頼んで機会(おり)を見て話す場を設けてもらおう』俺達は誰にも聞かれてないのをいいことに、呑気に念話していた。その間にも蓮華は追撃の具体案を立てている。

「はい!はい!追撃に関しても、勿論儂が先鋒じゃぞ!」

雪蓮

「もう……仕方ないなぁ。私は……後で冥琳が怖いし、遠慮しとくわ(苦笑)。祭の部隊を中心に追撃部隊を編成しましょう」

蓮華

「ふふっ、了解です……思春と明命の二人もそれに続いてくれ」

思春・明命

「「御意!」」

蓮華

「残りの部隊はどうする?」

亞莎

「黄蓋様達が帰ってくるまで、臨戦態勢のまま待機でよろしいかと」

蓮華

「よし。では黄蓋!溜まっていた鬱憤を、呂布の追撃によって晴らせ!」

「御意!行くぞひよっこども!」

思春

「はっ!」

明命

「はいっ!」

フェル

『おい。我も暴れ足りんぞ』

ドラちゃん

『俺も俺も』

スイ

『スイももっと闘いたぁ~い』ウチのトリオは相変わらずだね。しかし、こいつら放ったら、それこそ呂布軍が全滅しかねないな。それにしても祭さんって、確か俺より(多少ではあるけど)年上なのに……元気だねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は劉備と決別?そして、アイツらが再び現れる……のかな?(どっちやねん!?)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十四席呉軍、再びダンジョンへ潜るのこと

段々話を作るのにスランプが増していくような気が……


~向田視点~

 

冥琳

「……やれやれ。黄蓋殿は幾つになっても血の気の多い方ですね」祭さんが出かけていってから、冥琳が苦笑しながら漏らす。

蓮華

「母様の代からの前線指揮官だからな……後進に道を譲ったとしても、若い頃の(たぎ)りはそうそう収まらないのだろう」

冥琳

「本当に。まぁ……手綱を委ねてくれるだけ、雪蓮よりはマシ……というものかもしれませんね」2人してタメ息吐いてるよ……当の雪蓮といえば

雪蓮

「ぶぅ。二人共ヒドーい……」って膨れっ面だけどね。

冥琳

「それにしても。よくぞ間に合ってくれました。あのまま呂布に攻められ続けていれば、一週間も経たずに建業は落とされていたでしょう」

蓮華

「兵糧の手配などを剛が効率良くやってくれたからな。軍を素早く動かす事が出来た」

冥琳

「ほお。向田が……」感心するように俺を見つめる冥琳だけど、別にそこまで大した事はしてないよ。冥琳や穏がいつもやってる事を見様見真似でやってみただけだからね。

雪蓮

「やっぱり、私の目に狂いはなかったわね。良い将になったじゃない?」

冥琳

「……自分で言わないの」

蓮華

「そんなの当然だ」

向田

「へっ?」

蓮華

「……剛は常に、私の傍に居たのだからな」

雪蓮

「あらあら」

冥琳

「おやおや……ふふっ」まるで自分が育てたとでも言うような口ぶりに、雪蓮と冥琳が本気とも冗談とも取れる笑いを漏らす。

蓮華

「なんだ?」

雪蓮

「いやあ……蓮華の成長ぶりが頼もしく思えただけよ。ねぇ剛」

向田

「ははっ、そうだな」

蓮華

「……当たり前だ。いつまでも私は昔の私じゃない……私は孫呉の次期王なのだからな」少し胸を張って答えた蓮華の姿が何だかとても可愛く思える。

 

冥琳

「さて。南方を制覇し、呂布を退けた今、次の相手はいよいよ曹操という事になりそうですな」遂に最大の敵とぶつかるか……俺達の誰もがそう考えてると、有希君が首を捻っている。

有希

「う~ん……」

蓮華

「どうした有希?」

有希

「劉備はどうなんです?僕が聞いた噂だと、何やら不穏な動きがあるとか……」

雪蓮

「劉備か……一応友好関係を結んではいるけどね」

向田

「でもそれって、連中が小規模だった頃の話だろ?今の劉備軍は、俺達や曹操に並ぶほど膨れ上がっているぞ」

蓮華

「……なるほど。いつ友好を捨て、裏切ってくるかも分からんか」

冥琳

「少なくとも視野には入れておく必要がありますね」

 

 こうして──。様々な出来事と共に、ひとまず南方制圧は成功のうちに終わった。次はいよいよ曹操か……はたまた劉備か。天下統一への道は果てしなく遠く、困難に満ちていると。俺はそう思わずには居られなかった。

 

 南征の隙を突いて攻めてきた呂布軍を、何とか撃退した俺達は、追撃を敢行して更に呂布の勢力を削った。追い散らされた呂布軍は、本拠地であるはずの小沛城( しょうはい )には戻らず、劉備が治める下丕(かひ)城へと退却。城内へと入ったらしい。祭さん達の再三(ダジャレじゃないぞ)の引き渡し要求にも応じず、劉備は呂布を保護していた──。つまり、呉との友好関係も破棄した事になる。俺と有希君の月と呂布を再会させる計画も白紙に戻った。

 

~軍議にて~

 

蓮華

「劉備が呂布の引き渡しを拒んだか……あの甘ちゃん君主なら、そうも動くだろう」

冥琳

「ええ。良い大義名分が手に入りました……これで大手を振って徐州に攻め込める」

「だけど、劉備さんもその辺りには気がついているんじゃないでしょうか?」

向田

「気付いてるだろうな……あの娘、雪蓮が言ってた通り、かなり強かだと思うし」

雪蓮

「ええ。今回の呂布の件で、同盟を破棄したところからも確かに強かな印象を受けるわね」

冥琳

「強かでなければ戦乱の時代に、勢力を伸ばす事は出来ないでしょう」

「可愛い顔して腹黒そうじゃからなぁ」人間、見た目に騙されちゃダメだね。まぁ中には月や有希君みたいに外見も中身も良い人間もいるけどさ。

「あれ?祭様、劉備さんに会った事ありましたっけ?」

「呂布の引き渡しを要求した時に少しな……ああいう腹黒い女、儂は好かん」

向田

「まぁ、祭さんとは合わないかもねぇ……」

「うむ!やはり武人は潔さを心情とせんとな!」

冥琳

「色んな意味で含蓄ある言葉ですが、腹黒さとは言い換えれば機知に富み、即決しない慎重さの顕れ……敵となれば手強いでしょう」

雪蓮

「そうね……劉備のその後の動きは?」

明命

「下丕城に兵糧を運び入れています。また徴募も頻繁に行っていますね」

思春

「闘いへの備えは充分、か……」

亞莎

「我らの行動を読んでいるのでしょう……ここは敢えてその推測に乗ってみる、というのも手では?」

蓮華

「それもありか……剛と有希はどう思う?」

有希

「んー……劉備が僕達の動きを読んでるんなら、それなりに備えをしている、と見て間違いはないでしょうね。劉備の推測に乗るのなら、それなりの準備をしてからの方が良いと思います」

雪蓮

「準備、か。穏。軍の再編成はどうなっている?」

「南征で投降してきた兵士達の内、半数はすぐに使い物になりますが、残り半数は、放逐しちゃった方が良いでしょうね~。兵糧、資金、それに武具や防具、軍馬の数はそれなりに潤沢にあるかと」

蓮華

「分かった。ならば降伏した兵を組み込み、調練を施した後で出陣しよう」

雪蓮

「確か、ここの近くにも魔窟があったハズよ。調練場にはうってつけじゃない?」あ……またダンジョン行くんだ。ハァ、嫌な予感しかしないよ……

向田

「仕方ない。フェル達の運動も兼ねて、いっちょ繰り出すか」俺はため息を吐いた。

フェル

『久し振りのダンジョンか。楽しみだな』

ドラちゃん

『へへっ。やっぱそうこなくっちゃな!』

スイ

『わ~い、ダンジョンだぁ~♪』

ジョージ

『今のご主人になって初めてのダンジョンだよ。腕が鳴るなぁ~』プリウス以外はやる気満々だよ、全く……

有希

「ご心配なく向田さん。トリオはプリウスに仕切らせますから」有希君が俺に囁く。そうだった……デミウルゴス様のペットであるプリウスって、正確には魔獣じゃなくて神獣なんだよな。だから実力はともかく、立場的には上位のプリウスにフェルもあまり強く出れないんだ。それなら俺も少しは楽出来るのかな?

「それだと少し時間を掛けすぎではないか?勢を整える時間を与えるのは感心せんが……」

冥琳

「然り……しかし今回は、軍の態勢を整えてからの方が良いでしょうね」

向田

「劉備に戦を仕掛けてそれに勝って、それでお終い……って訳じゃないもんな」

冥琳

「ああ。劉備の後は曹操が控えている……それを考えれば、今のうちに準備を整えておいた方が得策」

蓮華

「そうね。曹操に負ける訳にはいかないもの」

冥琳

「御意」

有希

「……それじゃあ充分に準備してから、劉備に対して呂布の引き渡しを要求。拒んだところで一戦……って感じで行きましょう」

雪蓮

「ええ。そうしましょう」

「よし!思春!明命!こうとなったら早速部隊の調練の為、魔窟へ繰り出すぞ!これから十日間、休みなしでぶっ通しじゃ!」

明命

「はうぁ!?と、十日間ぶっ通しですかっ!?」

思春

「お付き合い致しましょう」目を丸くしてショックを状態の明命だけど、思春はごく普通に受け入れたな。

明命

「うぇ……わ、私も頑張りますけど……」明命。俺は君の気持ち、よーく分かっているから。

「決まりじゃな!ついでにひよっこ共全員まとめて調練してやろう!覚悟しておけよ明命!」

明命

「名指しですか!?ふぇぉ~……」

思春

「御愁傷様だな」

「何を他人事のように言っとる。貴様もたっぷり調練してやるから、そのつもりでおれよ?」

思春

「……っ!?了解……です……」……?思春の驚いた顔って初めて見た気がする。てかちょっといじけてる?

有希

「……年寄りの冷や水にならなきゃ良いけど」有希君、さりげなく毒を吐いたな。

「では私達は兵站の準備を整えましょう……亞莎ちゃん、手伝ってね」

亞莎

「はいっ!」

雪蓮

「よし。では出陣は二十日後とする。各自、準備を頼むぞ」

蓮華・冥琳・祭・穏・思春・明命・亞莎・小蓮

「「「「御意!」」」」

 

~視点なし~

 

 翌日。建業のダンジョンにやってきた呉の軍勢と向田、有希の一行。まずは兵士が50ぐらいずつ、第1階層に入っていき。その後ろから向田達がついていく事になっている。それから少しずつ入っていく人数を増やしていき、この日は1000人ほどがダンジョンに潜っていく計画になっていたが……

兵士(モブ)

「ム、ムリですぅ!」

兵士(モブ)

「これ以上は身が持ちません!」下位の兵士達が次々にリタイアしてきた。ダンジョンの中に残っているのは、それなりの官位を持つ連中のみとなる。結果、短期間で予定より多くの兵士をダンジョンに送る事になった。

「……情けないのぉ」

雪蓮

「魔窟の化け物相手じゃ仕方ないわよ。それより私達も入りましょ♪」

「うむ。久し振りに骨のある奴らと闘えそうじゃ」

 

~向田視点~

 

向田

「はぁ……行こうか」

有希

「そうですね。ダンジョンボスさえ倒せば、兵士の皆さんも入りやすくなるでしょう」

向田

「……正直、あまり気は進まないけどね」俺は有希君とダンジョンを調整する為、互いの従魔を連れてダンジョン入りしたんだけど、第1階層には兵士達が酷く負傷して踞っていたり痛みに耐えきれず転がっていたりと酷い絵面だった。

有希

修復(リペア)!」固有スキルで兵士達の怪我を直す有希君。それ人体にも効果あるんだね……

兵士(モブ)

「た、助かったっ!」

兵士(モブ)

「有希様!ありがとうございます!」

有希

「いえいえ。それより早く退散して下さい」一目散にダンジョンを去る兵士達。この先は俺達というか、フェル達従魔5人(匹?)組(以下従魔クィンテットとする)の独壇場となった。

 

 まず始めに出てきたのは九頭(くず)虫という、文字通り頭が9つある巨大ミミズだ。どうやらこの第1階層は蟲系の魔物が主流のようだ。

フェル

『……雑魚だな。まぁ第1階層ならこんなモノだろう』九頭虫に雷魔法を喰らわせたフェルはつまらなそうに欠伸をする。

ドラちゃん

『何だよフェル~。1人で倒すなよぉ~』

スイ

『スイもビュビュッってしたかったのに~』

向田

「まぁまぁ、スイもドラちゃんも抑えて抑えて。また次があるからさ」その後もこの第1階層は蟲系の魔物のオンパレードだったよ……巨大なさそりの百眼魔に身体の半分が人の姿をした蜘蛛……その名もズバリ女郎蜘蛛。この2種はフェルでも見た事ないらしいから、この大陸独自の魔物だろう。ここでジョージが意外な活躍を披露した。

ジョージ

『……ヒュッ!』自分の体毛を数本、ブチッと抜いて手のひらに乗せて息で吹き飛ばす。すると忽ち毛は数羽の啄木鳥に化けて女郎蜘蛛を食い殺した。

ジョージ

『どんなモンだいっ!』胸を張るジョージ。まぁ俺とは念話が通じないけど、あまりにも分かりやすい態度に出るから、何を言いたいか大体は分かる。有希君も通訳してくれるしね。

ドラちゃん

『チキショー!また出番()られた!』

プリウス

『落ち着くっス。まだ百眼魔が残ってるっスよ』

スイ

『え~?さそりはスイが倒すぅ~』そう言うとスイは1人で先に進んで酸弾を乱射して、さそりを倒してしまった。これは……さぞドラちゃんの機嫌が悪くなると思ってたら、先方に残っていた雪蓮と祭さんと合流した。

雪蓮

「剛!来たのね!」

「これはちょうど良い。イヤ、些か厄介な魔物に道を塞がれての」祭さんが顎で示した先には、ドランのダンジョンにも居たジャイアントセンチピードがデン!と道進行を阻んでいる。因みにこちらでは一万足(いちまんそく)百足と呼ばれているそうだが、

ドラちゃん

百足(・・)なのに一万足って何だよ?100だか10000だかはっきりしろよ!』まるで八つ当たりするかの如く、火魔法を纏ってジャイアントセンチピードの土手っ腹に穴を空けるドラちゃん。それから現れた蛾の魔物もプリウスがドッグファイトを繰り広げた挙げ句、身体で押し潰しただけで倒しちゃったし。言うまでもなく従魔クインテットが蟲系魔物を次々に蹂躙していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




兵士達を鍛えるのか目的で潜ったダンジョンですが、結果として従魔クインテットのストレス発散の場に?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十五席海の幸、獲り放題 のこと

ダンジョン話が終わらない……


 第1階層のボス、ゴールデンヴェノムタランチュラを倒した俺達(俺自身は何もしてないが)は雪蓮と祭さんを連れて第2階層へ降りた。それからしばらくは蟲系魔物だらけの階層が続いた。勿論フェル、スイ、ドラちゃん、プリウス、ジョージのクィンテットに敵う訳がなかったが……そして第4階層を突破し、第5階層に向かっていった。

フェル

『蟲共の階層はさっきので終わりだな』

プリウス

『あいつら臭いし、やたら群れをなすから面倒なんっスよね』

フェル

『他に闘う術を知らんのだろう……彼奴らはバカだからな』フェルとプリウスがそんな会話をしていた。俺としては虫だらけだった第1階層を出られたので一安心……なんて思ってた時機もありました。

向田

「なんで海なんだよ!?」そう。第5階層には遥か遠くに水平線が見える、どこまでも果てしなく続いているような大海原が広がっていた。

「何じゃこれは!?」

雪蓮

「ここって外の海に通じてるの!?だとしても遠すぎない!?」イヤイヤ雪蓮、魔窟(ダンジョン)ってそういうもんだから。とりあえず雪蓮と祭さんを巨大化したスイに乗せて海上を進んでいると遠くから、ザッパーンッ、と水しぶきの音が聞こえた。その姿はまるで鯨か鯱の息継ぎのようだ。

フェル

『メガロトゥーンか。我も実物は初めて見たぞ』

「?見た事ないのに知っておるのか?」

向田

「俺とフェル……後、有希君は鑑定スキルがあるから、初見でも種族とか分かるんだよ」

雪蓮

「へぇ~……そのすきるってやつ、随分便利なのね」目を見開いて感心している雪蓮。

有希

「で……どうします?」

プリウス

『獲るっスか?』

ドラちゃん

『う~ん、魚より肉の方が良いや』

フェル

『我とて肉が食いたいぞ』

スイ

『スイも~お魚よりお肉食べたいなぁ』相変わらずの肉信者だね。ウチのトリオは。メガロトゥーンは鑑定によると要は鮪のデカい奴らしい。という事は時折海面から顔を出すのは息継ぎじゃないのかな?う~ん、久し振りに食いたくなってきた。よし、ここは説得しよう。

向田

「フェル。もう1度鑑定スキルで見てみなよ」

フェル

『うーむ。確かに『食用可』とは出ているが……身をドロップするとは限らんだろ?』あ、そういえば……このダンジョン、そういや蟲階層では何一つとしてドロップ品が出なかったな。じゃ倒しても調整を行う以外にメリットもないのか。せめてカレーリナで売れる素材が出てくれるとありがたいんだけど、贅沢は言えないか。俺が諦めモードになって肩を落とすと有希君がプリウスに乗って、ジョージを肩にメガロアトゥーンの居る沖まで、飛んでいった。

 

 浮上するタイミングを狙って、有希君がプリウスの背に乗ったまま弓を引き、メガロトゥーンのエラを射ち抜く。矢が見事に刺さり、もがき苦しみ暴れるメガロトゥーンを抑えつけようとするプリウスだが、流石に身体の大きさが違いすぎて苦戦しているようだった。

有希

「ジョージ!分身魔法を!」

ジョージ

『任せて!』有希君がジョージに何かを叫んでいる。ジョージが身体を揺さぶり出すと、湧き水のように自身のコピーが増えてくる。

 コピージョージ達はメガロトゥーンにしがみついてある者は喉を塞ぎ、ある者は背鰭を引っ張るといった地味ながらジワジワと攻撃をしかける。最後は耐久力勝負となり、征したのはジョージだった。

 

 見事にメガロトゥーンを打ち倒した有希君達。意外にもその姿は消えずに、そのまま留まっていた。ホント、ダンジョンってなにがあるか分からんね。しかしこれだけ大きいと解体も一苦労なハズだけど、実家が洋食屋だったという有希君はどこで手に入れたのか、ミスリルの包丁をアイテムボックスから出して迅速かつ丁寧に捌き始めた。俺と雪蓮と祭さんも手伝って、何とか解体を終えてから、解体した部位は半分に分けてとりあえず俺と有希君のアイテムボックスに放り込む。俺は久し振りにマグロが食えると思ってついニヤついていた。

スイ

『あるじ嬉しそ~』

ドラちゃん

『……なんだよ?それホントに旨いのか?』怪訝そうに聞いてくるドラちゃん。ニヤついていたのがバレたみたいだな。

向田

「こいつは下手な肉以上に旨いぞ。俺は昔食った事あるから、味は保証する」まぁ実際に食った事あるのはこれより遥かに小さい地球の鮪だけど(そう思えるぐらいメガロトゥーンはデカい)。

 

 その後もこの階層では海の幸獲り放題だった。ベルリアンの街でも狩った事があるクラーケンやタイランドフィッシュに、あっちでは見た事がない一角鮫……その名の通り、イッカクのような角、ン?あれって実際は歯なんだっけ?……まぁ、その角だか歯を持った鮫に出会ったが、これも従魔クィンテットがサクッと退治。鑑定でも『白身魚のよう。美味』とあったので、これも身を解体して残りはギルドへの売り物に分ける。

 ここのダンジョンボスはスー○を凶悪にしたようなマリモのような魔物で鑑定スキルによると、ジャイアントウォークマリモというらしい(そのまんまだな)。こいつがまた、ムダに防御力が高かった。何せフェルと雪蓮が爪と剣を刺しまくってもビクともしなかったし、ドラちゃんお得意の氷柱攻撃もはね除けるし。有希君と祭さんの弓矢の攻撃も、逆に矢が折れる始末だった。結局ジョージが口から体内に入って腹の中を火魔法で燃やして、更にフェルとドラちゃんの雷魔法とスイの酸弾を浴びせまくって、やっとトドメを刺す事が出来た。しかもこいつは食用不可らしい。しかも姿が消えないから邪魔以外の何物でもない。

雪蓮

「最後の最後はとんだムダ骨だったわね……」

『食えんにしてもどこかしら売り物にならんかの?』

有希

『……カレーリナ(向こう)に帰ったら一応買い取りに出してはみますが……』多分ギルドマスターのヴィレムさんも解体担当のヨハンさんもこいつの存在自体、知らないんじゃないかな?……こりゃアイテムボックスに塩漬けになるの、間違いないだろう。

 

 さて、外ではそろそろ昼飯時だな。とはいえ、ここはダンジョンの中。普通ならメシどころじゃないんだけど……

フェル

『メシの時間だ』勿論そうなるよね。分かってたよ……俺はアイテムボックスから作り置きしていたミノタウロス牛丼をトリオに出してから、有希君とメガロトゥーンの下拵えを始める。

フェル

『ん?メガロトゥーンは食わんのか?』

向田

「これは下拵えをしてから。夕食に出すよ」

フェル

『うむ。期待しとるぞ』

プリウス

『……さっきまで食べるの渋ってたのに何言ってるっスか?ボク達に任せっきりだったくせに……』プリウスに呆れられているよ。

フェル

『むぅ……しかしだな……』フェルが珍しく言葉に詰まってるよ。やっぱプリウスには大きく出れないんだな。かくゆうプリウスとジョージは、有希君お手製フルーツサンドイッチと紅茶(但しウチのトリオ並みに大量だ)のランチを楽しんでいた。そんじゃ俺達人間組もメシにすっかな。有希君はプリウス達とフルーツサンド食べているし、雪蓮と祭さんも牛丼で良いだろう。この2人は甘い物より酒に合いそうな味が好きそうだし。

 

 昼飯を終えて第3階層へコマを進める俺達。とにかく未開のダンジョンの為、いつになく慎重に行きたい。と思っていたんだけど……

??

「キャー!」誰かの悲鳴が上から聞こえる。そういや明命や亞莎も兵士を引き連れて俺達の後から来るって言ってたな。となるとどっちかの隊が、第1階層で蟲系の魔物に襲われたのか!?

有希

「僕が見てきます!」有希君は来た道を逆戻りして、またすぐに戻ってきた。その後ろを亞莎と明命がついてきていた。

有希

「九頭虫が早々に復活してました」有希君は上の状況を淡々と語るけど、明命と亞莎はガタブル状態だぞ。

明命

「き、巨大なミミズに、食べだでるがど~(泣)」

亞莎

「じ、()ヌかど思いまじだぁ~(泣)」あ~あ、大泣きだよ。よっぽど怖かったんだろうな。何だかんだいっても女の子だね。ま、雪蓮や祭さんはあんなのに怯える性質(たち)じゃないだろうけど。

雪蓮

「……剛、何か変な事考えてない?」ムッとした雪蓮の顔がアップで俺に近づいてきた。ヤバッ……雪蓮の勘の良さ忘れてたよ。

「まあまあ策殿、今は二人の無事を喜ぼうではないか。のう向田?」祭さんのフォローもあって、どうにか難を切り抜ける事が出来た……ホッ。

「有希もよう二人を救いだしてくれた」

雪蓮

「そうね。ここは礼を言っておくべきね」

明命

「❤️はい!有希様、ありがとうございました!」

亞莎

「❤️お、おかげで命拾いしました!」あ、こりゃ2人共有希君に惚れたな……

有希

「イエ、大した事では……」謙遜する有希君は得物の弓をアイテムボックスにしまう。……それはいわゆる和弓じゃなくて、まるでス○○ボのラ○ディー○の持つゴッ○ゴー○ンみたいだった。つーかそんな重そうなモン、よく構えられるね。流石勇者に選ばれただけあるな。

 

 そうして海の階層を彷徨い続けては魔物を倒すのを幾度となく繰り返し、第8階層でようやくセーフエリアであろう小島を発見して人心地ついた。時間はもう晩飯時になっているだろうな。

有希

「それじゃメガロトゥーンの調理を仕上げましょう」有希君と俺は昼に下拵えを済ませたメガロトゥーンの身と魔導コンロをアイテムボックスから取り出す。

向田

「まずは血合のステーキな」何度も言うが、メガロトゥーンはホントにデカい。だから本来は希少部位である血合やトロもたっぷり用意出来た。

フェル

『ほう。これがメガロトゥーンの料理か、どれ……う、旨い!これはまさに肉ではないか!』

ドラちゃん

『こんな旨ぇ魚、初めて食ったぜ!』

スイ

『スッゴく美味しぃお魚だぁ~♪』ふふん♪そうだろそうだろ、マグロは旨いんだぜ。この血合ステーキをおかずに白飯をかっこみながら、俺が内心でほくそ笑んでいると有希君も料理を完成させたようだ。

有希

「はいっ、揚がったよ」有希君は贅沢にもトロをカツにしたその名もズバリ、トロカツをだしてきた。

有希

「ホントは刺身で食べたいトコなんですけどねぇ」この世界の魚介にはヴォルバラスフィッシュワームという、人間に寄生するとヤバい寄生虫がいる為に生食は難しいんだよね。そんな事を考えながらも俺はメガロトゥーンの竜田揚げを作り、みんなに食わせる。有希君は更にあら汁と、ケチャップとウスターソースで味付けしたミートボールならぬマグロボールを作っていたよ。

明命

「ずっと海上を進んでいたので体が冷えてたんです。これは暖まります」あら汁を啜りながらホッとした顔を見せる明命。

亞莎

「この肉団子、いえ魚団子……甘辛くて、ちょっとだけ酸っぱくて……幾らでも食べられそうです」白飯と一緒にマグロボールを頬張る亞莎。

 

雪蓮

「ねぇ剛。この島の中って安全なんでしょ?」え?まあ、そうだけど……

「ならば問題なかろう」この2人の言いたい事は予測がつく、確かにマグロと抜群に合うよ。しかしねぇ……

向田

「酒なら出しませんよ。魔窟内は油断できないからね」セーフエリアとはいえ酔って海に落ちないとも限らないし、いざ出るって時に酒が抜けてなけりゃ大変な事になりかねないぞ。有希君も呆れて、2人にジト目を向けながらため息を吐いていた。その後もブー垂れる雪蓮と祭さんを放っておいて、俺達はクィンテットに要求されるままお代わりを作り続けたのだった。

 

 

 

 

 

 




次回はどうにかダンジョンから脱出したい……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十六席ダンジョンから帰還、のこと

長らくお待たせしました。(てか待っていた人居るのかな?)


 海ダンジョンは第8階層で終わり、第9階層はドラゴン、というより恐竜エリアだった……

 まずはプテラノドンそっくりな、この世界のワイバーンの群れ。かつてフェルとスイにも倒されたが、今回は有希君に弓矢で喉を貫かれアッサリ絶命した。このエリアでも仕留めた魔物は消えず、死体が残るようだ。他にもティラノサウルスを彷彿させる地竜に( アースドラゴン )、ブラキオザウルスに良く似た(フェル曰く、ロングネックドラゴンというらしい)奴らなどが闊歩していた。

明命

「……私達、生きて帰れるのでしょうか!?」

亞莎

「地獄だってここよりはマシだと思います(汗)」またしても泣きそうになる2人。

「これは儂らの手には負えんのぉ」祭さんすら闘いの牙を抜かれたか……雪蓮まで諦めているし。

雪蓮

「そうね……剛達はやる気でしょうけど」俺というよりクィンテットがね。

フェル

『うむ。あやつらの肉は旨い。獲らん訳がなかろう』

スイ

『美味しいお肉~』

ドラちゃん

『ヘヘッ、食い放題だな』……って!ちょっと待てお前ら!

向田

「獲るのは良いけど、あれ解体どうすんだ?またドランに行って、エルランドさんに頼むしかないぞ?」俺があのおっさんエルフの名を出すと苦虫を噛み潰したような顔になる、ジョージ以外のクィンテットの面々。

ドラちゃん

『オイオイ、勘弁してくれよー!』真っ先に拒否するドラちゃん。そりゃそうか。

プリウス

『ボク、当分野菜中心のご飯で良いっス……』

フェル

『……やむを得んか』

スイ

『あの変なおじさん~?』エルランドさん、どうもスイ以外には嫌われちゃったよ……しかもフェルが肉を諦めるって……よっぽど関わり合いたくないんだな。

ジョージ

『何の話?』俺達全員が嘆息する中、唯1人ポカンとしているジョージ。そういやこいつだけ、ドランやエイヴリングのダンジョン踏破してから有希君の従魔になったからエルランドさんと会った事ないんだっけ。あの人の事は説明するのも面倒だから、有希君に任せよう。

有希

「……別にドランへ行く必要はないでしょう?」え?

向田

「有希君……まさかドラゴン解体出来るの?」

有希

「いいえ。でも僕の固有スキル「創造」( クリエイト )を使えば、不可能じゃないと思います」そっか。材料があれば大抵の物は創れる「創造」なら、ドラゴンから取れる薬とかの材料をドラゴン本体から創れるって訳だ。そうと決まれば……コイツらの考える事は一目瞭然。

フェル

『よし、殺るぞ』

プリウス

『……そうっスか』

ドラちゃん

『肉だぁーっ!』

ジョージ

『獲りまくるぞぉー!』

スイ

『い~っぱい獲るもんね~』あ~もうこりゃ、収拾付かないな。もう好きにしてくれ……

 

 ……それからはドラゴンエリアが最下層の第11階層まで続いた。案の定クインテットはドラゴンを狩りまくっていたよ……それにしてもこの大陸のダンジョンってそんなに深くないんだな。とはいっても、これまで見てきたのは呉の領内で、それも2ヶ所だけだから言い切れはしないけど。

創造!(クリエイト)」絶命したドラゴンに有希君が固有スキルを発動させると、死体は忽ちバラバラになり見事に、皮、骨、牙、爪、内臓、目玉、食肉等加工前の素材へと変化した。それをアイテムボックスにしまい、遂に階層主さんの部屋までなやってきた。

 

??

「ん〜ふふっ♪よくここまで来れたわね♥」そこに居たのは貂蝉だった……って何で居るんだよ!?思いっきりズッコケる俺とフェルとドラちゃん。有希君を始め、貂蝉と初対面のみんなは目を丸くしている。

スイ

『あ~っ、あの時のおじちゃんだぁ♪』スイだけが嬉しそうに貂蝉に近づいていった。

雪蓮

「ひょっとしてこいつが魔窟の大将!?」な、何か雪蓮が勘違いしているぞ……

「おのれ妖怪!」祭さんも!?雪蓮は南海覇王を振り下ろし、祭さんは貂蝉へ弓を射った。しかし貂蝉は左手で刃を掴み、放たれた矢にチョップを喰らわせ難なく攻撃を躱す。

貂蝉

「アタシは妖怪じゃないわよ!それとそこのスライム、おじちゃんは止めなさいって言ったでしょ!?」

スイ

『うぅ~(半泣き)だって……おじちゃんはおじちゃんだもん~』涙ながらに訴えるスイに流石の貂蝉もお困りモードだよ。てか貂蝉、うちのスイたんを泣かすなよ……

貂蝉

「ハァー……仕方ないわ。この子限定でおじちゃん呼びは許してあげる。それよりあなた達、いつまでここに留まるおつもり?」

向田

「いつまでって……今すぐにでも地上へ戻るつもりだけど?」

貂蝉

「そう……なら1つだけ助言させて」貂蝉は言っちゃ悪いが似合わない神妙な面持ちで俺達にこう告げた。

貂蝉

「魏の荀彧に気をつけなさい。アタシが言えるのはこれだけ。あとはあなた達が頑張りなさい」言うが早いか、いつの間にかこの場から消えた貂蝉。

雪蓮

「ねぇ剛……あいつ一体何者?」

向田

「ああ。あいつは貂蝉っつって……」この質問の続きに答えたのは俺じゃなくてフェルだ。

フェル

「洛陽で世話になった正体不明の存在だ。見た目は化け物だが、我が見る限り神に近し者のようだな」

「神じゃと!?あのような醜いヤツがか?」

向田

「まあ……神様にも色々居るんでしょう」そんな事を話しつつ、俺達はダンジョンの入口に帰ってきた。

 

 入口には思春が待っていた。そういえば思春とはダンジョンで会わなかったな。

思春

「蓮華様、穏様、私の部隊は早々に全滅してな」えっ?全滅って……まさか!?

「誰一人死んでませんよ~。魔窟内で有希さんに治療してもらって帰ってきたら、戦意喪失してました~」それなら良かった。フゥー、とりあえず一安心だな。

思春

「その後私は単身魔窟に進もうとしたのだが、蓮華様に止められた」

蓮華

「当然でしょ!?幾らなんでも一人じゃ危険すぎる!」

「それはあとで考えるとして……城に戻ろうかの。十日は経っとらんが兵の調練も充分出来たじゃろ」

雪蓮

「そうね、帰りましょ。戦の支度を整えないと」

 

 城に帰った俺達は軍の再編を終了させ、出撃準備を整えると、まず劉備に使者を出した。勿論1人で送り出すのは不安だから、ドラちゃんにお供させたよ。

 

-前の闘いで呉の人間が傷ついた。その元凶である呂布を呉に引き渡せ-

 

 そんな口上を使者に授け、下丕城へと向かわせたんだけど……

 

使者

「只今、帰還致しました!」数日後、帰ってきた使者は劉備側の返事を伝えた。それによると劉備達は呂布の引き渡しには断固として応じないとし、使者の身ぐるみを剥がして、更に頭を丸刈りにしようとしたらしい。そこをドラちゃんが助け、何とか逃げ帰ってきたそうだ。

蓮華

「そうか。ご苦労だった。私室でゆっくり休め」

使者

「はっ!ありがたき幸せ!」蓮華に労いの言葉をかけられて、使者は感激しながら玉座の間を去る。

向田

「ドラちゃんもありがとう。これ約束のプリンね」俺は予め作っておいたバケツプリンを渡す。どこでこれを知ったんだか、ドラちゃんに食いたい食いたいってずっと催促されてたんだよ。けど流石に不○家にも売ってないし、プリン自体は作るの簡単だから、今回は使者の護衛をするのを条件に一から俺が作ったよ。

ドラちゃん

「良いってことよ。あれぐらいでプリンがたらふく食えるなら安いモンだぜ♪」早速バケツプリンに頭を突っ込んで食べ始めるドラちゃん。そんなにガッツかなくてもプリンは逃げないって……とにかく、これにて劉備との交渉は決裂だ。と、劉備の非礼ぶりを対外的に激怒してみせた雪蓮と蓮華は、すぐに出陣すべく、将達を玉座の間に集めた。

 

蓮華

「劉備を闘いに引きずり込む事は出来た。あとは奴らを攻め滅ぼすだけか……」

冥琳

「御意。劉備と呂布、二人の軍勢を合わせてもそれほど多くはない……大陸の情勢を考えれば、一挙に殲滅しなければならないでしょう」しかし、ここで新たな問題が出てきている。使者やドラちゃんの証言を分析すると、蜀には大人数を一気に運ぶバスのような乗り物や、戦車の類いが何台か存在するらしい。

雪蓮

「天の国の兵器の再現か……中々にマズいわね」

向田

「あの3人は自衛隊……元々軍に居たようだしなぁ」

「お主らは何か知らんのか?」祭さんに尋ねられるが、向こうじゃただのサラリーマンだった俺に、平均的な高校生の有希君にそんな知識ある訳がない。まぁ厄介なのは確かだよな……

「北方の曹操さんの動きも、最近特に活発になってきてますからねぇ」

明命

「曹操は、河北より袁紹勢力を完全に駆逐したようですし……予断を許しませんね」

思春

「戦の傷が癒えたら、南征を起こす可能性がある…·…という事か」

亞莎

「地理的に考えて、曹操が大陸中央に進出するには、まずは揚州を抑えて憂いを断たないといけませんから……必ず南征を開始すると思います」

蓮華

「……良く勉強しているな、亞莎。偉いぞ」

亞莎

「あ、ありがとうございます!」

「うふふっ、もう呉下の阿蒙ちゃんじゃありませんからね~♪」

亞莎

「はいっ!」本来の呂蒙が元になった【呉下の阿蒙】って、直訳すれば「おバカな蒙ちゃん」だっけ?確かその一言がきっかけで呂蒙は勉学に励むんだけど、亞莎も誰かに言われたのかな?

冥琳

「ふっ、頼もしい限りだ、こほっ、こほっ……」冥琳?

蓮華

「ん?どうした冥琳。風邪か?」

冥琳

「どうやらそのようで」

雪蓮

「……今、貴女に倒れられる訳にはいかないわ……養生してよね?」

冥琳

「……私もまだ倒れるつもりはない。ご心配なく」

蓮華

「ならば良い……では各員、出撃準備を急げ」

一同(フェル、スイ、ドラちゃん以外)

「御意」蓮華の命に力強く返事をした仲間達が、三々五々、持ち場へと向かっていった。冥琳の具合もいよいよ危うくなってきたな。折角スイ特製エリクサーがあるんだから、何とか説得して飲ませないと……

 

雪蓮

「剛……少し、付き合って欲しいんだけど……」

向田

「俺?どこか行くのか?」

雪蓮

「ええ……母様のお墓参りよ。この前は結構バタバタしちゃったからね」

向田

「……ダメだ」

雪蓮

「心配?」

向田

「当たり前だろ!この前あれほどの目に遭ったのに……っ!もう忘れたのか!」

雪蓮

「……大丈夫」

向田

「え……」

雪蓮

「もうあんな事は起きない。私は死んだりしないわ」

向田

「そんなの……分からないじゃないかっ」

雪蓮

「ううん、分かるの……私は死んだりしない。だってもしそうなったとしても……剛が居れば大丈夫」

向田

「……ああ。命に賭けて守るさ」

雪蓮

「なら、何も問題はないでしょう?」

向田

「それは……そうだけど……」

雪蓮

「なら、またあとで……城門のところで待ち合わせをしましょう」

向田

「分かった……」

 

 城門に向かう前に、俺はある対策を練る事にした。

向田

「フェルッ!」

フェル

「ん、何だ。出かけるのではなかったか」

向田

「頼みたい事がある。今から孫堅……雪蓮達のお母さんの墓参りに行くから俺達に結界を張って、その周辺に隠れて様子を窺っていてくれ」

フェル

「例のヤツらを懸念しているのか?」

向田

「そうだ……何かあってからじゃ遅い。先手を打っておかないと」

フェル

「まあ良かろう。それで……我にも褒美はあるのだろうな?」

向田

「そうだな……メガロトゥーンのカルパッチョなんかどうだ?」

フェル

「む、初めて聞くな。どんな料理だ?」

向田

「生のままニンニク醤油に漬け込むんだ。お前なら寄生虫も平気だろうし、あれは本来生が一番旨いんだ」

フェル

「……ほう。それは一度食ってみたい。言っておくが、スイとドラには秘密だぞ」

向田

「分かってるって」自分が雪蓮を守る……その決意も覚悟もあるけど、所詮俺が出来る事なんて限られている。それにもし、俺1人で対処出来なければどうする……?それを考慮した上で、先んじて手を打っておかなけりゃならない……少しイヤ、かなり格好悪くはあるけれど。でも、体面を気にして雪蓮をこれ以上危険にさらす訳にはいかないんだ。そして俺は雪蓮と落ち合うために城門へ向かった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作との違い
・前半のダンジョン話はオリエピ
・劉備への使者は身ぐるみ剥がされ、丸坊主にされて帰ってくる→ドラちゃんのおかげで難を逃れる。
・蓮華が孫堅、雪蓮の墓参りに行く→雪蓮が生存していて、再び孫堅の墓参りに行く。
・墓参りの際、一刀が頼るのは思春→向田が頼るのはフェル。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十七席劉備、罠を張るのこと

前回と打って変わって、今度は早めの更新です。


向田

「お待たせ。待った?」

雪蓮

「ううん。今来たところよ」

向田

「そっか……じゃあ行こうか」

雪蓮

「ええ……」俺と雪蓮は再び孫堅さんの眠る墓へとやってきた。雪蓮はその大きな墓石の前に立つ。

雪蓮

「母様……この前はお騒がせしました。改めてこれからも見守っていてね。そして……もう少しで、呉は天下統一の夢を実現出来そうよ……いえ、実現してみせるわ。そのあと、私は……」愛おしそうに墓石を撫で付けながら呟くと、雪蓮はちらりと俺を見る。

向田

「……??」

雪蓮

「いえ、何でもないわ……剛も母様に話しかけてあげて」

向田

「えっ?そう言われても……俺、孫堅さんには会った事もないし、何を話して良いのやら」

雪蓮

「何だって良いわよ。ささ、早く」雪蓮に急かされ、俺は1つ咳払いをして、孫堅さんが目の前にいるつもりで話し出した。

向田

「えっと、孫堅さん。向田と言います。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」俺は墓石に向かい頭を下げてから言葉を続ける。

向田

「えっと……雪蓮は俺が守ります。絶対に……この命に代えても守ってみせます……だから孫堅さん、貴女も娘さんを天国から……見守ってあげて下さい……」

雪蓮

「剛……」

向田

「ははっ……俺1人で守ってやるって、格好付けたいけどさ……難しいの、分かってるから」

雪蓮

「うん。貴方の考えてる事、私はしっかり分かってる……ありがとう、剛」

向田

「……礼を言われるような事じゃない。好きな女を守りたいって、男としては当然だろ?」

雪蓮

「……っ!?」

向田

「格好付けたいから守るんじゃない。だから俺は雪蓮を守るためにはどんな手も使う……守るという俺の姿勢が大事なんじゃなくて、守ったという事実が大切だと思うから……」

雪蓮

「……だから、フェルが居るって事?」

向田

「……気付いていたのか」やっぱり雪蓮の勘に外れはないか……いやはや流石だな。

雪蓮

「ふふっ……これでも王として生きてきた人間なんだからね」

向田

「そういう訳だフェル。もう隠れてる必要はないぞ」ガサゴソッという音と共に隠れていたフェルが姿を見せ、俺と雪蓮を見下ろす。

フェル

『うむ。どうやら白装束は近くに居ないようだな。気配が全くない』

向田

「……ありがとう、フェル」

フェル

『フンッ、メシの為だ……護衛が必要ないなら我は帰るぞ』そう吐き捨てて去っていくフェル。そういやこいつも、たまーにツンデレる事あるよね。

雪蓮

「剛」

向田

「うん?」

雪蓮

「……私と居てくれる?」

向田

「勿論」

雪蓮

「うん。その言葉を聞けば、私はこれからも闘っていける。だから、一緒に居てね……剛」

向田

「居るよ……どこまでもずっと一緒だ」言いながら、俺は雪蓮の身体を抱き寄せる。

向田

「愛してる……」

雪蓮

「私もよ……剛……最愛の人……」俺は遂に雪蓮に告白した。そして、雪蓮も頬を赤く染めながらそれに答えてくれた。この大陸を訪れる前だったらこんな大それた行動はしなかっただろうな……やっぱり以前の俺とは随分変わったと思う。

 

~その頃、徐州下丕城(視点なし)~

 

関羽

「全く……厄介な荷物を背負い込んだものですね」

劉備

「そうは言うけど……でも恋ちゃんもねねちゃんも、私を頼ってきてくれたんだもん……見捨てる事なんて出来ないよ……」

趙雲

「まぁ桃香様の性分では、こうなる事は目に見えていたがな」

慶子

「うん。桃香ちゃんだしね(笑)」

張飛

「仕方のない事なのだ!」

竜馬

「今更グダグダ言っても始まんねえよ」

関羽

「だが呉も既に大国となっている……兵の数も我らより多く動員出来るし、あの魔獣共も居るのだから……苦しい闘いになるぞ?」

隼人

「フッ……だからこそ、俺達がわざわざ大陸を渡ってまで、最新鋭の兵器を手に入れたんだろうが」

馬超

「やるだけやってやるさ」

黄忠

「そうね……仁義なき戦という訳ではないのだから。正々堂々と闘いましょう」

張飛

「さんせーなのだ!」

関羽

「……ふっ。どいつもこいつもバカモノ共だな」

諸葛亮

「それが私達の良いところですよ♪」

劉備

「そうそう♪朱里ちゃんの言う通り♪」

趙雲

「ふっ……我らが主殿のお気楽さが、皆に伝染したのだろうな」

関羽

「違いない。では皆、すぐに迎撃態勢を整えよう」

劉備

「勝とうね、みんな♪」

張飛

「応なのだっ!」

 

~向田視点~

 

 孫堅さんの墓参りを済ませた俺と雪蓮は、蓮華達と戦準備を整えた兵を率いて徐州へと進軍を開始した。

蓮華

「関羽、張飛、呂布、趙雲……その他にも優秀な武将が居る劉備達が相手、か」

向田

「……緊張するな」

蓮華

「ええ。でも私は……今まで、感じた事のない興奮も覚えているの。初めて、巨大な敵と相対する……黄巾党の時も、董卓の時も、南征の時も感じられなかった、不思議な高揚……」

冥琳

「……それが英雄というもの。雪蓮もまた然り……恐らく、曹操も劉備も。英雄と呼ばれる人間同士が闘う時、英雄が持つ本能が沸騰するのでしょう」

蓮華

「……怖いな、自分自身が。本能に酔ってしまいそうになる」

雪蓮

「そうなったら私が止めるわよ」

蓮華

「……姉様?」

冥琳

「雪蓮が……?いつもなら、我先に突進していくのに。どういう風の吹き回し?」

雪蓮

「言ったでしょ……いつか蓮華に王位を継がせるって。そろそろ時が来たんじゃない?」

冥琳

「……雪蓮は雪蓮で新たな生き様を見つけた、か」

雪蓮

「そういう事」

冥琳

「……向田。雪蓮との間に何があった?」ニヤリとほくそ笑んだ冥琳が俺に尋ねてくる。

向田

「い、今はそれどころじゃないだろ!?変な勘繰りするなよ冥琳っ!」孫堅さんの墓参りで、雪蓮に告白したなんて……言えるかっ……!言える訳がない。(焦)

冥琳

「ふふっ、良いではないか。二人が共に思い合っているならそれで」あれっ、バレてる!?

 

 なんて具合に、戦場にそぐわない会話をしていると、

明命

「斥候より報告です!劉旗を掲げた軍団が、川向こうの丘に集結しているようです!」明命が前方の状況を報告にやってきた。

蓮華

「来たか……各部隊、臨戦態勢を取れ!このまま前進して渡河し、劉備を一揉みに揉み潰すぞ!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

 

~劉備陣営(視点なし)~

 

諸葛亮

「はわわ、桃香様敵が来ちゃぃました!」

鳳統

「あわわあわわあわわあわわ……」

張飛

「雛里、落ち着くのだ。ちゃんと鈴々達が守ってあげるから安心するのだ」

鳳統

「は、はひっ!」

劉備

「うわー……すごい大軍だねぇ……」

隼人

「何を呑気な……」

趙雲

「感心している場合ではありますまい……朱里。愛紗の準備はどうなっている?」

諸葛亮

「そろそろ準備が整った頃だと思いますが……」

馬超

「ならこっちも準備に掛かろうぜ」

趙雲

「そうだな……では桃香様」

劉備

「うん。みんな……よろしくね」

 

~向田視点~

 

思春

「前方!劉備軍に動きあり!各部隊を動かし、陣営を整えているようです!」

雪蓮

「よし。ならば今が好機だ!全軍渡河開始!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

雪蓮

「進めーーーーっ!」雪蓮の号令の下、兵士達が一斉に渡河を開始する。水深は腰より少し下。流れは思ったより速い。水が苦手なフェルは今回、巨大化したスイに乗って移動する。

亞莎

「渡河の速度を落とさないで下さい!渡りきったあとはすぐに部隊を再編!方形陣を組みます!」

「騎馬隊は川上を進め!川下の歩兵の動きを助けてやれぃ!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

蓮華

「思春、劉備の動きは!」

思春

「まだ陣替え中であります!」

蓮華

「よし!皆、急げ!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」ジャブジャブと兵士達が進む風景を見ていると、俺の心の中に何かが引っかかる。

向田

「何だ……?嫌な予感がする……」目の前で敵軍が渡河しているのに、劉備は陣替えをするだけで軍を動かさない……絶好のチャンスであるハズなのに。

向田

「なぁフェル……何か変じゃないか?」

フェル

『そうか?別段怪しい気配はないようだが“

向田

「そっか……」フェルが気づかないなら問題ないか……けど……何かある。何かあるとして……何がある?俺が劉備だったら何を考える……

向田

「自分達よりも多くの兵を揃える軍。その軍が無防備に渡河している……となれば、渡河中に何かしらの策を実行するのが当然だよな」だけど兵を伏せる場所はない……奇襲も掛けられないとならば、急襲するしかないけど、でも劉備の軍は動いていない……となると。何かしらの策を実行し、俺達に大打撃を与えるのが、この時点で考え得る最高の成果って事になる。

向田

「俺達に近づかず、大損害を与える方法……」……っ!水だっ!

向田

「思春!」

思春

「なんだっ!」

向田

「劉備軍にはどんな旗が掲げられてる!?」

思春

「旗だと?ちょっと待て」言いながら、思春はめを細めて劉備の軍が居る小高い丘を注視する。

思春

「劉旗の他には、張、馬、趙に諸葛と鳳だな」

向田

「関羽の旗はっ!?」

思春

「ないな……ないだとっ!?」

向田

「不味い……っ!スイっ!」

スイ

『な~に~?』

向田

「川の幅いっぱいに巨大化して、水の流れをせき止めるんだっ!」

スイ

『分かったぁ~』

向田

「雪蓮っ!蓮華っ!」

蓮華

「どうしたっ!」

向田

「早く!早く渡河を終わらせるんだ!スイが川をせき止めてる間にっ!」

雪蓮

「え?ど、どういう事?」

向田

「良いから早く!」

蓮華

「わ、分かった!全軍駆け足!向こう岸まで駆け抜けろ!」

兵士達(モブ)

「「「「お、応っ!」」」」蓮華の号令を受け、兵士達が必死になって川を渡っていく。

向田

「動くとしたらそろそろだ……みんな早くっ!」

 

~その頃、川上では(視点なし)~

 

兵士a(モブ)

「関羽将軍!呉の部隊が渡河を始めました!」川上でこの機会を狙っていた関羽と部下の兵士が待機していた。

関羽

「よし!……孫策、孫権よ。桃香様に闘いを挑んだ事を後悔するが良い……準備は良いな!」

兵士a(モブ)

「はっ!」

関羽

「私の合図と共に堰を切れ!」

兵士a(モブ)

「了解です!」そこへもう1人の部下が報告にくる。そしてこの劉備軍の作戦は、まんまと失敗する事となる。

兵士b(モブ)

「例の怪物の一体が、川をせき止めています!更に呉の軍勢も渡河速度を上げています!現在、半数が既に渡河を完了!」

関羽

「くっ、呉の御遣いに気付かれたか……行くぞ!三、二、一……堰を切れーーーーっ!」

兵士a(モブ)

「応っ!」

 

~向田視点~

 

蓮華

「渡河の具合はどうかっ!」

「現在、部隊の三分の二は渡河完了してます!」

亞莎

「主力部隊は渡河を完了し、方形陣を敷いて待機してます。あとは輜重隊と予備兵が───あ……今、全軍渡河完了しました!」

向田

「よぉーしスイ。もう良いぞ」

スイ

『はぁ~い』渡河完了して、最後にスイが元の大きさに戻って川からピョンと飛び出した時、物凄い轟音が聞こえてきた。川上から流れてきた濁流の音だった。

ドラちゃん

『ゲッ……!何だよあれ!?』

向田

「あ、危なかった……」

亞莎

「まさか……!大水計とはっ!」

雪蓮

「損害はっ!?」

明命

「剛様の機転でスイが川をせき止めてくれたため、損害は殆どありません!」

フェル

『クッ、まさか罠だったとはな……我としたことが気づかなかったとは!』川上から仕掛けてくるとは誰も思わないぞ、劉備って結構えげつないな。しかし、フェルの気配察知が反応しないなんて意外だったな……

冥琳

「案ずるな。部隊が無事ならどうという事はない……雪蓮。すぐに下知を」

雪蓮

「ああ!全軍、すぐに態勢を立て直す!部隊の掌握を急げ!」

「はっ!」

 

~劉備陣営~

 

劉備

「お帰り、愛紗ちゃん。お疲れ様でした」

関羽

「はっ。ただ残念ながら、あまり効果は上がらなかったようです……」

隼人

「……惜しかったな」

趙雲

「兵を減らせなかったのは痛い……奴らの方が圧倒的に多いのだからな」

張飛

「なら鈴々達が頑張って敵を倒せば良いのだ!」

馬超

「そういうこった。よし、じゃあそれぞれ三千人をぶっ飛ばすのが目標な!そうすりゃ楽勝だって!」

趙雲

「やれやれ……当家の猛将達は揃いも揃って計算が苦手と見える」

馬超

「ぐぬっ……バカで悪かったな!」

趙雲

「誰もバカとは言っていないさ……その計算に私も乗るのだからな!」

張飛

「バカがまた一人誕生したのだ……でも鈴々はこういうノリは大好きなのだ♪」

竜馬

「星だけじゃねえ。俺達も居るぜ」

隼人

「……あのバケモン共は俺達が殺る。手ぇ出すなよ」

慶子

「待ってなさい……ギッタギタにしてやるんだから」

呂布

「……恋もやる」

関羽

「ああ、楽しみにしてるぞ、恋」

呂布

「……(コクッ)」

劉備

「じゃあみんな。一人三千人ずつ倒しちゃって、孫策さん、孫権さんを追い払っちゃおう♪」

劉備軍一同

「「「「応っ!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は少々話を練るので、また更新は遅くなると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十八席従魔トリオ、戦車と闘うのこと

明けまして……には遅いですね。2021年初投稿になります。
どうも無印と真のバランスが悪い……

ムコーダの語りを一部変更しました。


~向田視点~

 

蓮華

「部隊の掌握はどうなった!」

思春

「数こそ減ってないものの、兵の動揺は思ったより激しく、態勢を整えるにはまだ時間が掛かりそうです!」

明命

「敵軍、突撃開始!兵が駆け下りてきます!あと、何やら鉄の塊のような物が!」あれは……!戦車じゃないか!あいつら何考えて……てか、どこであんなの手に入れたんだ!?

亞莎

「敵軍先鋒、旗は陣と深紅の呂旗!」しかも呂布が戦車を先導してきたっ!何かメチャクチャだな……!

優希

「呂布は僕が引き受けます!」優希君は2体の従魔と一緒に呂布の前に躍り出る。まさか……この場で呂布を説得する気な訳?

フェル

『……あれがお主の世界にあった武器か?』俺を背に伸せたフェルが尋ねる。正確には武器というより、乗り物だけどね……まあ人が乗れる武器でも合っているか。

スイ

『おっきいねぇ~』

ドラちゃん

『上等だぜ!返り討ちにしてやんよ!』フェル、スイ、ドラちゃんVS3台の戦車が始まる……って、あれ!?俺フェルの背中に乗ったまま!おーい!頼むから、俺を巻き込まないでくれーっ!

 

~ここから視点なし~

 

「あのデカいのはフェル達に、呂布は有希に何とかしてもらうとして……権殿、他は儂に任せておけ!」

蓮華

「祭、いけるのかっ!?」

「当然じゃ!公謹、付き合え!」

冥琳

「お供しましょう……蓮華様、我らが時間を稼いでいる間に態勢を整えておいて下さい」

蓮華

「分かった!……頼むぞ、二人共!」

冥琳・祭

「「御意!」」祭は直属の配下の兵を集め、檄を飛ばす。

「黄蓋隊!我らの部隊で敵の第一波を防ぐ!我が最愛の兵ど( つわども )もよ!その命、儂にくれぃ!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

「黄蓋隊、突撃じゃ!呂布のような青二才に負けるでないぞ!」

兵士達(モブ)

「「「「おおおおぉぉぉぉーー!」」」」

 

陳宮

「三度目の正直です!今度こそ呂布殿がお前達をこてんぱんにするのです!」こういう舌戦は大将が務めるのが普通だが、口下手な呂布は何も言わない。代わりに陳宮が祭と冥琳を煽る。

冥琳

「ふっ……二度あることは三度ある、の間違いではないのか?」流石に冥琳は動じない。

陳宮

「ぐぬぬぬ……っ。く、悔しいのですー!」

呂布

「……大丈夫」

陳宮

「呂布殿ぉーっ!」

呂布

「……負けない」そして戦闘が始まる……。

↓↓↓

 呂布が先鋒を張った劉備軍第一波を何とか撃退した孫呉。

「やったぞい!儂らの勝ちじゃ!」

冥琳

「祭殿、呂布の後ろには劉備が控えております。気を抜かず行きますよ!」

「分かっとる。まだまだ暴れ足りんぞぉ!」

 

~向田視点~

 

 祭さんの黄蓋隊が呂布隊と闘う中、俺とトリオが率いる部隊に突進してきた戦車隊。数こそたった3台だが、それでも俺達にとっては相当な脅威となる。フェル達が居なければ、孫呉も闘わずして敗北の道を選んでいただかもな。

隼人

「結局、闘うハメになったな」

竜馬

「あぁ……残念だぜ向田さん」砲弾が俺達の方へ発射された。一発目はスイが身体を使って弾き返し、二発目はドラちゃんの氷魔法で冷やされ、勢いを落として俺達に届く前に地に沈んだ。所詮近代兵器もこいつらの敵じゃなかったって事か。

慶子

「だったら車体でタックルよ!」3台目の戦車がスピードを上げてフェルに突っ込んでくる!しかし華麗に躱したフェルから逆に雷魔法を浴びせられて、走行不能となった。しかしあと2台は砲弾を撃っただけだし無傷。その間に呂布は敗れ、逃げ出したようだ。

 

~劉備サイド~

 

趙雲

「愛紗!前方で呂旗が倒れた!いよいよ敵の本命がこちらに来るぞ!」

関羽

「恋はどうしたっ!?」

馬超

「大丈夫、無事みたいだ。こっちに下がってくるみたいだぜ」

劉備

「良かったぁ~……雛里ちゃん、恋ちゃんを連れて城に下がっておいて」

鳳統

「了解です♪」

張飛

「じゃあ竜馬お兄ちゃん達が怪物を食い止めてる間に、鈴々達で敵の本隊をやっつけるのだ!」

関羽

「ああ……私達はこんなところで負ける訳にはいかん。鈴々、星、翠……頼むぞ」

張飛

「分かってるのだ♪」

趙雲

「ふっ、任せておけ」

馬超

「敵が強けりゃ強いほど、腕が鳴るってもんさ!」

劉備

「よろしくね、みんな……無事に戻ってきて」

関羽

「御意……では行くぞ!」

張飛・趙雲・馬超

「「「応っ!」」」

 

~向田視点~

 

 俺達が戦車隊と交戦している間に、劉備軍の本隊が動き出したらしい。これは不味いぞ……兵の数はこちらが上だけど、有能な将となると敵側に分がある。何とか戦車隊を片付けて、俺達も本隊に合流しないと……けどこっちもギリギリなんだよなぁ。

 

~孫呉サイド~

 

兵士(モブ)

「敵本隊、動き出しました!」

「来たか!策殿ー!」

雪蓮

「分かってる!全軍迎撃準備だ!」

明命

「はっ!周泰隊、前に出ます!」

思春

「甘寧隊も続くぞ!我らで前曲を取り、敵本隊の初撃を受け止める!」

雪蓮

「来たっ!蓮華、兵達に下知を!」

蓮華

「はっ!各員、これより反撃を開始する!劉備を打ちのめし、勝利の栄光を掴もうではないか!」

兵士達(モブ)

「「「「応っ!」」」」

蓮華

「全軍、攻撃開始ーーーーーっ!」

 

関羽

「呂布をやるとは想像以上の力……だがそれもここまでだ!我が義の刃にかけて、この先は一歩たりとも通さん!!」

蓮華

「ふっ……我ら孫呉の尚武(しょうぶ)の魂。その目に刻み込むがいい!」

↓↓↓

明命

「敵が崩れましたー!」

思春

「雪蓮様っ、蓮華様っ!我らの勝利です!」

蓮華

「頑張ってくれた皆のおかげだ!ありがとう!」

雪蓮

「まだよ!剛達を援護しないとっ!」流石に劉備軍本隊は強かったが、孫呉は辛くも勝利した。一方で蜀の頼りの戦車あと2台、竜馬と隼人はトリオと激戦を繰り広げている。慶子は有希君に取り押さえられていた。

隼人

「本隊がやられて、慶子が囚われたか!」

竜馬

「なろぉっ……!ぶっ殺してやる!砲弾が効かねえなら……」戦車の脇から触手らしき物が出現した。ウネウネと揺めきながら、フェル達の身体へ向かって伸びていく。何これ?メッチャ不気味なんだけど!?けどやるだけムダじゃないかなぁ……

フェル

「フンッ、その程度かっ」思った通り、触手もフェルの結界魔法の前では全くの無力だ。ドラちゃんはそもそも的が小さすぎるし、スイは文字通りの意味で掴みどころがないしね。

向田

「よしっ、止めはスイに任せよう!」

ドラちゃん

『え~?何でだよ!?』

向田

「考えてみなよ、相手は金属。燃やしたり壊したりしても、修復してまた襲撃に来る事も考えられるぞ?その点、酸で溶かしちゃえばそれも不可能だろ?」

フェル

『……なるほど。溶かしてしまえば修復も出来んという訳か。それが最善であろう』

ドラちゃん

『……確かに面倒臭ぇ相手だしなぁ』

向田

「そういう事。スイ、よろしくね」

スイ

『うん!スイ、頑張っちゃうよぉ~』スイが連中の頭上に大きな液体のボールを浮かばせる。一見水に見えるけど、実はこれ強力な酸なんだよね。

スイ

『溶けちゃえー!』巨大な酸球が戦車の真上で弾ける。砲身は落ちて、キャタピラは変な固まり方をして完全に動きを封じられた。車体上部の出入口も塞いだ!けど……

竜馬

「クソッ、脱出するぞ隼人!」

隼人

「この借りは……必ず返す」あいつら、車体下部にも脱出口を作っていたのか!仲間を見放して劉備軍の本隊へ逃げ出した2人。まあ、この状況じゃそうせざるを得ないか。1人捕虜に出来ただけでも上出来かな。

 

~劉備サイド~

 

兵士(モブ)

「関羽将軍!前線が総崩れとなっております!このままでは───っ!」

関羽

「落ち着け!いまだに決着は付かず!落ち着いて前線を立て直し、反撃に移るぞ!」

竜馬

「俺達もすぐ前線に復帰する!」

関羽

「竜馬!隼人!無事だったか!」

隼人

「切り札は戦車だけじゃない!」

趙雲

「朱里は桃香様と共に後方へ下がれ!」

諸葛亮

「は、はいっ!」

劉備

「やだ!みんなが戦場で頑張ってて、慶子ちゃんも捕まったのに私だけ逃げるなんて出来ないよ!」

馬超

「我が儘言わない。桃香様はあたし達にとって大切な存在なんだから。守るのは当たり前だろ?」

張飛

「そうそう。それに鈴々達はちゃーんとお姉ちゃんのところに帰るから、安心してれば良いのだ」

劉備

「でも……」

関羽

「貴女さえ居れば、まだ我々は闘える。だから……お願いします。後方に下がっていて下さい」

劉備

「……分かったよ。けど!みんな……絶対絶対、ちゃんと帰ってきてよ?」

馬超

「当然!」

趙雲

「必ずや慶子も救いだし、貴女の下に帰りましょう……朱里。桃香様を頼む」

諸葛亮

「はいっ!さ、桃香様……」

劉備

「うん……」劉備が本陣へ下がろうとしたその時、斥候兵が血相を変えて報告にきた。

兵士(モブ)

「も、申し上げま-----す!」

 

~向田視点~

 

 残念ながら有希君の呂布説得は失敗した。代わりといってはアレだけど、元自衛官の巴慶子を捕虜としてこちらの手中に納める事が出来た。

雪蓮

「で、こいつはどうする?」

冥琳

「人質にするつもりか?」う~ん、やるだけムダじゃないかな?劉備は分からんが、竜馬も隼人もあっけなく見捨てたようだし。とはいえ、平気でそうした訳でもなさそうだけど。

慶子

「想定内よ。私ら互いの足を引っ張らないために、誰か捕まっても見捨てようって決めてたのよ」いやはや流石に元自衛官。決死の覚悟でフェル達に挑んだのか。

有希

「この人をどうするかこの戦が終わってから考えた方が良いでしょう」そうだな。それより戦線はどうなっているかな?

 

思春

「敵前線、総崩れになっております!」

蓮華

「よし!全軍、総攻撃に移るぞ!」

「よっしゃー!先鋒は儂に任せぃ!」

明命

「祭様、お供致します!」

「応、来い来い!儂らで劉備の軍をコテンパンに潰してやろうぞ!」

明命

「はっ!」どうやら順調のようだ。さてこのあとは……

兵士(モブ)

「も、申し上げまーーーーーす!」ん?見張りの兵士が慌てて報告にきたぞ。何かあったのか?

蓮華

「なんだっ!」

兵士(モブ)

「い、今しがた、陣の辺りをウロウロしていた不審者を捕らえたのですが、それが……」

思春

「どうせ敵の間者だろう」

兵士(モブ)

「いえ、それが取り調べたところ、自分達は魏の武官だと……」

蓮華

「……どういう事だ?」

「投降しに来たんでしょうか?」

冥琳

「でも投降したいって思うほど、魏は追い詰められているとは思えんが……?」そうだよな。寧ろ今の魏は、三國で最も有力な大国だ。

「そんな事今考えても仕方なかろう」

小蓮

「そうそう!会って話した方が早いわよ!」確かにシャオの言う通りだな。

蓮華

「……では会って話を聞いてみよう。その者達をここへ連れてこい」

思春

「しかし蓮華様!それはあまりにも危険すぎますっ!」

向田

「それは大丈夫。蓮華にはフェルをつけるし……頼めるかな?」

フェル

『良かろう』そして連行されてきたのは、夏侯惇と夏侯淵の姉妹と、シャオとあまり大差ない年格好の少女の2人連れだった。

 

夏侯淵

「お目通りを許していただき、感謝する」

夏侯惇

「……」

雪蓮

「で、どういう事?何で貴女達が我が陣地を訪ねに?」

思春

「もしかして雪蓮様の命を狙いに来たのではないだろうなっ!?」思春は警戒を緩めない。

夏侯惇

「誰がそんな卑怯な真似をするかっ!」

亞莎

「あ、あの……どっちも落ち着いて下さい~(困)」

「そうですよぉ~。まずはお話を聞いてみましょう~」そうだよな。曹操に次ぐ魏の幹部連中が、一体俺達に何の用だ?

夏侯淵

「話せば長い事になるのだが……」そして俺達は夏侯淵の口から衝撃的な話を聞いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




夏侯淵が語る衝撃の話とは?しかし次回は閑話の予定なので、かなり遅い投稿になります……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

~閑話~先代孫堅の弟、妹のこと

内乱及び、ダンジョン帰り。それぞれの後日談です。完全なオリ話になっていますが、セリフは一部、アニメ版からパクってますww。

史実では孫羌は孫堅の兄、孫静は弟ですが、本作では孫羌を弟(オリ設定)に、孫静は妹(アニメ版に準拠)としています。


~閑話其の一~

 

 叛乱軍の鎮圧へ出向いた俺達。連中は魔物を使って俺達を襲ってきたけど、トリオに敵う訳もなくあっさりと敗退した。

 その後叛乱軍の居城に乗り込んで一番の首謀者を捕らえたが、これが意外な人物だった。

蓮華

「叔母上!?」

冥琳

「孫静様!?」なんと首謀者は先代の呉王(つまり雪蓮達のお母さんね)孫文台こと孫堅の妹、孫静だった。

雪蓮

「叔母上。ナゼ貴女が叛乱なぞ起こしたのです?」

孫静

「雪蓮よ。そなたは間違っている!たとえどれだけの物を得ようとも、これまでに流れた夥し( おびただ )い血が孫家に仇なすであろう!だから私は……」ここで俺は口を挟む。

向田

「だから叛乱を起こしたと?でも貴女のやっている事も雪蓮達と何も違いませんよね?」結局この人も目的のために、多くの人を死なせたんだ。雪蓮の事をどうこう言う筋合いはない。なんて考えてると孫静は薄気味悪い笑みを浮かべ、取り押さえていた兵士を振りほどくと、俺を小刀で突こうとしてきた。

孫静

「……貴様が例の御遣いか。貴様さえ、貴様さえ居なければ……!」けど当然のように俺に刺さる事はない。

フェル

『愚か者っ!』怒声を上げたフェルが孫静を前足で踏みつけて、再び取り押さえられた。

孫静

「……ひっ!」フェルの脚の下敷きになった孫静に冥琳は冷淡かつ事務的な口調で告げる。

冥琳

「孫静様。恐れながら反逆の罪で、身柄を拘束させていただきます……連れていけ」

兵士(モブ)

「はっ!」兵士2人が孫静の腕をガッチリ掴んで、どこかへと姿を消した。

孫静

「クッ……!せっかくあいつらから魔物まで手に入れたというのに、こんな事で……こんな事で……」最後、気になる言葉を吐いてたけど……何だったんだろう?

雪蓮

「これで内乱も終結ね」

「しかし……首謀者が静殿だったとはのぉ」

向田

「……何で叛乱なんて起こしたんだろうな?」ひょっとして、雪蓮に代わって自分が呉王になるつもりだったとか?しかしこの大陸のこの時代において、王位や官位なんかは親から長子に継承されるのが一般的だ。むしろ妹に後を継がせようとしている雪蓮の方が特殊なんだよなぁ。まあ雪蓮に子供は居ないし、シャオじゃ呉を背負うのは早すぎるからね。

雪蓮

「三人姉弟の( きょうだい )長子だった母様と叔母上は昔から仲が悪かったの。当然、政に( まつりごと )対しても考え方が違ってて……母様の弟、叔母上からすれば兄の孫羌叔父様は母様亡き後、率先して私を跡継ぎに推してくれたわ。姉と妹の間に挟まっていつも苦労してたけどね」

向田

「そ、そうなんだ……」どうもこの国は女性の権力が強いというか、男の方が何かと苦労するみたいだな……

 

~閑話其の二~

 

 ダンジョンでの調練を終えて、建業へ戻った俺達はある人物に出迎えられた。年は40代ぐらいか、口の回りから顎にかけて長い髭を蓄えた男性だった。何というか、これこそ三國志の人!ってな感じの風貌に今じゃ却って妙な安心感を覚えるよ。けど男性はどことなく切なそうな目を俺達、というより雪蓮達に向けた。

??

「ご苦労だったな雪蓮。それにしてもいつぞやの孫静にはガッカリさせられた……」

雪蓮

「ええ。けどこれも乱世が故ですわ。叔父様」叔父さんって事はこの男性が先代孫堅の弟、孫羌さんか。そして雪蓮は俺達を孫羌さんに紹介する。

向田

「初めまして。向田と言います」

有希

「有希です。以後お見知りおきを」俺達はそれぞれの名乗って頭を下げる。すると、孫羌さんは自ら手を差しのべて握手してくれた。

孫羌

「姪から聞かされていると思うが、儂は孫羌。真名を蓮地(れんじ)と言う。向田殿、有希殿と従魔ご一行。改めて宜しくお願い申す」さっきまでの切ない表情から、笑顔を繕って挨拶を返す孫羌さん。てか今、真名を名乗らなかったか?

向田

「え?今日会ったばかりの僕達に真名を?」つい、聞き返す有希君。

蓮地

「雪蓮を始め他の者は皆、既に真名を預けておろう?ならば儂だけ固持する訳にもいくまい。なに、貴殿らが信用に値する人物である事は、雪蓮達から聞いておる。従魔諸兄の噂も耳に入って来るしの」そう言って握手した手の力を強める孫羌さん改め蓮地さん。痛っ……!手が、手が痛い!この人も相当力あるな……。

 

 ともかく、この日の晩は劉備戦を控えた激励会兼、蓮地さんの歓迎会という事で宴を開かれる運びとなった。勿論料理を作るのは俺達。

向田

「何作ろっかなぁ?」と、しばらく考える。そういえばこっちでまだ作ってない料理ってあるかな?アイテムボックスを開くと、この間の南征で敵が使役していた大ホロ鳥が何羽か丸々残っていた。ならここはローストチキンかな?前にトリオに食わせた時もまた作ってくれって頼まれたし、これならパーティーというか宴席にもピッタリだよね。

向田

「じゃ俺はローストチキンを作るよ」

有希

「向田さん。バゲット手に入ります?」有希君にローストチキンを作ると伝えたら、彼にしては珍しく俺のネットスーパーを頼りにしてきた。

向田

「多分ネットスーパーで買えるけど……何するの?」

有希

「パーティーのメイン料理は向田さんのローストチキンとして、僕は前菜にカナッペを出そうと思いまして」なるほど。良い案だ。俺は有希君にバゲットを大量に手渡してからローストチキンの準備に取りかかった。

 

~有希視点~

 

 ……さて、バゲットもゲットしたし。早速カナッペの具材を作るとしよう。

 まずはカリッカリになるまで焼いたバゲットにポテサラを面いっぱいに塗る。じゃがいもはこっちでも手に入るし、マヨネーズは以前狩った鶏系の魔物の卵を材料に僕が自分で作って、アイテムボックスに保存していたのを使う。そこへ斜め切りにしたキュウリを乗せれば、一品目は完成だ。あとは……何かお酒に合いそうなモノと、スイーツ系も作っておくか。まずはつまみ用にチーズといぶりがっこのカナッペを作る。チーズに漬け物?しかもパンに?と思う人も居るだろうけど、これが意外に合うんだ。あとはシンプルに塩レモンダレを絡めたアボカドを乗せてこれで良しと。スイーツはここの人達にも受け入れられそうな餡子(これもこっちで手に入れた小豆で作った)と、亞莎がゴマ好きだっていうから胡麻味噌ダレにしよう。あと、逆に目新しそうなジャムやマーマレードを生クリームなんかと混ぜて出してみるか。

 

「これはまた酒に合うのう♪」杯を( さかずき )右手に、チーズといぶりがっこのカナッペを左手に持った祭さんは前菜にご満悦のようだ。

雪蓮

「この緑色の野菜、良い脂の乗り具合ね。それをこのタレがサッパリさせていて……これはお酒が進んじゃうわねぇ♪」あ~あ。もう随分と空の徳利が並んでるよ。流石に呑みすぎじゃないのか?

蓮地

「これ、二人共。あまり呑みすぎるでないぞ」酒飲み2人が盛り上がってる中へ蓮地さんも入っていったが、一緒に呑むというより2人に呑みすぎないよう、諌めるためだったみたいだ。しかし蓮地さんの諫言もこの2人には届かず、遂に蓮華さんの雷が落ちた。

蓮華

いい加減にしなさい!全く姉様といい祭といい……叔父様も、もっとキツく叱って下さい」蓮華さんも気苦労が絶えなそうだな……もうあの2人は放っとこう。蓮華さんと蓮地さん以外、誰1人として仲裁する気がないらしいし。

「甘味も美味しいですよぉ~。餡子とこのお煎餅っぽいのが良い感じに一体化してますね~」餡子は和洋問わず色んなスィーツに合うしね。

亞莎

「胡麻味噌最高です♥」

明命

「ん~っ♪幸せ~っ♥」明命と亞莎はあまり語らず、結構黙々と食べ続けている。

冥琳

「二人共。前菜で腹を膨らませてどうする?向田も立場がなかろう」冥琳さんが苦笑しながら、呆れたように突っ込みを入れている。

小蓮

……武力もあって、料理も得意。その上外見も良いなんて……シャオ、絶対諦めないんだから……!」シャオがボソッと怖い事言ってるけど、聞こえない振り、聞こえない振り……(すっとぼけ)そろそろ向田さんも料理を仕上げる頃だな。

 

~向田視点~

 

 さて、今回のローストチキンは冷凍ピラフじゃなくてもち米を使うぞ。この方が雪蓮達呉のみんなも受け入れやすいだろうからね。という訳で、建業の市場でもち米を大量に買い込んだんだけど、美羽と七乃には思いっきり怪訝な顔された。

美羽 

「何じゃ主様、そんなに沢山のもち米を買って。ち巻きでも作るのかや?」

七乃

「せっかくの宴席なのにち巻きを出されても……ショボいですねぇ?」フフン、こいつら分かってないな。このあとで度肝抜かれても知らないぜ。

 城に戻って、早速ローストチキンの詰め物から調理を始める。ホントはもち米を水に一晩ぐらい漬けた方が良いみたいだけどそんな時間は正直ないので、フライパンに研いだもち米を入れて水を加えたら、強火でサッと茹でる。昔、元居た世界でクッ○パッ○を見ていたらこういうやり方があるって載ってたんだ。他の具材は適当に玉ねぎと冷凍のミックスベジタブルでいっか。

 バターで玉ねぎを炒めてミックスベジタブルを混ぜながら解凍していく。玉ねぎが透き通ってきたら茹でたもち米を足してコンソメスープと水を加えて炊いていく。塩胡椒で味を整え、12,3分ほど経ったら火を止めて蒸らしておく。

七乃

「ご主人様~。ち巻きに使う笹の葉はどうするんですかぁ?」七乃ェ……まだ俺がち巻き作ると思ってるのか。まあ良い。バターライスを蒸らしている間に大ホロ鳥の準備をしよう。解体は予め済ませてあるからそのまま調理出来るぞ。けど大ホロ鳥ってマジでデカいな。コカトリスの倍ぐらいあるんじゃないか。流石ドラちゃん、よく仕留めた。今回は濃いめのバターライスを詰めるから大ホロ鳥は特に下味はつけないでおこう。

向田

「美羽、七乃。手伝ってくれ」俺に呼び出された2人は羽と頭を取り除いた大ホロ鳥を見て腰を抜かす。

美羽

「ギョエ~!!」美羽、驚き過ぎ。

美羽

「ぬ、主様!このデカいのは何じゃ!?」

向田

「何って……大ホロ鳥だよ。今からこいつに米を詰めるんだが?」

美羽

「これ七乃!ち巻きではないではないか!」

七乃

「そ、そんな~。ち巻きだって言い出したのは美羽様じゃ……」ち巻きを作るなんて俺一言も言ってねえよ。全く、勝手な憶測をして勝手に騒ぐなっつーの。性格的な面で少しは成長したかと思ったが……こいつらアホっぷりは相変わらずだな。

向田

「はいはい2人共。ごちゃごちゃ言ってないで作業しなさい」俺はもち米バターライスを大ホロ鳥の腹に詰めるようにと2人へ指示する。

 魔導コンロで付け合わせのローリエ、パプリカと一緒に焼きながら時折蓋を開けて落ちた油をかけて、中まで火が通ったのを確認したらコンロから出してレタスを敷いた大皿に乗せつつ、付け合わせを添える。天板に残った油にコンソメスープを加え、そのまま天板でグレイビーソースも作り、チキンへ豪快にかけて完成だ。これを今回は4羽分作った。その内、1羽を呉の王族&重臣たちへ給するように美羽と七乃に命じて、俺は2羽を我らが従魔クィンテットに持っていった。

 

フェル

『ほう、これは以前コカトリスを使ったのと同じ料理を大ホロ鳥で作ったのか。食い応えがありそうだ』いうが早いか早速かぶり付くフェル。

プリウス

『鳥の肉汁がジューシーっス。ご飯にも味が染みてて美味しいっス!』フェル達と違ってあまり贅沢を言わないプリウスも今日はバクバク食ってるな。てかさっきもカナッペをがっついてなかったか?

ドラちゃん

『中の米はあん時よりネットリしてるけど、これはこれでまた旨ぇな』前に使ったのは冷凍ピラフだからね。今回の方がより凝ってるんだよドラちゃん。

スイ

『ソースが甘くてしょっぱくて、色んな味がする~♪大ホロ鳥さん美味しいねぇ~』みんなダンジョンから帰ってきて間もないせいか、食欲旺盛だな……いつもの事だけど。

ジョージ

『前のご主人様はパン1択だったから、今は色々食べられて幸せだなぁ』ジョージ。君が何を言っているのか、俺には分からんぞ。

プリウス

『ヨーク王国も……(モグモグ)パン文化の国らしいっス。ウチのご主人に譲渡されて、(モグモグ)初めてお米やパスタを食べるようになったみたいっスね』うん。プリウス、わざわざ通訳ありがとう。でも食べながらは行儀悪いぞ。こうして宴席は夜中まで続いて、従魔クィンテットが途中で寝てしまってからは俺達も孫呉のみんなと大いに酒を楽しんだよ。

 

~城の門前にて~

 

兵士a(モブ)

「今頃孫策様達は宴席の最中だろうなぁ……」

兵士b(モブ)

「愚痴るなよ……余計に虚しくなっちまう」

兵士a(モブ)

「だって激励会とか何とかいってもさ……結局俺達はお零れすら貰えないんだぜ。愚痴りたくもなるさ」

兵士b(モブ)

「まぁ分かるけどよ。向田様のメシ、旨いしなぁ……」

兵士a(モブ)

「有希様のメシもかなり旨いぜ。あの味を知っちまったら……」

兵士b(モブ)

「ああ……他国へ降ろうなんて気にゃならねえな」

兵士a(モブ)

「全くだ。我が孫呉ほど戦のメシが旨いトコなんて、まずないだろうしな」2人の門番の会話をもう1人の兵士が中断させた。

兵士c(モブ)

「オイお前ら、差し入れだ」彼が押してきた台車には、2枚の大皿にが乗せられている。

兵士a(モブ)

「差し入れ?」

兵士c(モブ)

「向田様と有希様からだ。俺達で食ってくれと、鳥料理と菓子を下さった。宴席の料理と同じ物だそうだ」向田と有希の気遣いに最後は涙声になる。それにつられて、その他兵士一同も感極まって泣き出したまま、料理にかぶり付いていった。

 

蓮地

「儂はしばらく南陽の古巣に()る。何かあったら訪ねてくるなり、使いを寄越すなりすれば良い」宴席の後、3日ほど建業に滞在した蓮地さんはそう言ってこの地を去っていった。 

 

──劉備との闘いが刻一刻と近づいている── 

 

 

 

 

 




次回は本編に戻る予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十九席曹操、操られているのこと

話の展開上、郭嘉と程昱の扱いを変更してます。読んでいて「アレッ?」と思った人は前話を再チェックして充て下さい。恐らく修正してあります。(何せ前話から、かなり期間が空いたので……)繋がらないようでしたらご一報を。


 夏侯淵の話では近々、(つまり今日ね)孫呉と決着をつけるため、再び戦をふっかけようと準備をしていたらしい。そして先遣隊として夏侯姉妹と先ほどの少女達、軍師2名が俺達の陣の近くまで来たそうだが……

 

~時は少し戻り、魏軍の陣(視点なし)~

 

夏侯惇

「皆、もう少しで華琳様の部隊と合流出来る!孫呉との闘いの前に気を引き締めておけ!」兵士に檄を飛ばす夏侯惇に妹の夏侯淵が話しかける。

夏侯淵

「……姉者」

夏侯惇

「ん?何だ?」

夏侯淵

「おかしいと思わないか?」

夏侯惇

「何?」

程昱

「どうかしましたか~?」

夏侯淵

「いや……季衣(きい)。城から退く間際、間違いなく本城に伝令を出したな?」季衣と呼ばれた少女、許緒は夏侯淵の問いに答える。

許緒

「勿論出しましたよ?流琉(るる)と一緒に。ね?」許緒は隣にいる仲良しの典韋に同意を求める。

典韋

「はい。でもそれがどうかしたんですか?」

夏侯淵

「……なのにナゼ、華琳様はまだこの近くに来ていない?」

許緒

「ほえ?どういう事です?」

夏侯淵

「華琳様のことだ。伝令が来た段階で疾風迅雷、すぐに軍を発するハズ。そうすれば既に孫策の軍とぶつかっていてもおかしくないハズだ」

典韋

「……確かに。けど噂ではここよりまだ先、二十里ほど前にしか軍を進めていないようです」

夏侯淵

「……華琳様に限って、このように遅々とした進軍をなされるだろうか?」

夏侯惇

「しかし出陣に際し、何かしらの遅れはよくあることだ……気にしすぎではないのか?」

夏侯淵

「それならば良いのだが……」

郭嘉

「華琳様の身に何かあったのでしょうか?……」

夏侯惇

「何っ!?それは捨て置けんぞ!急ごう!早く華琳様と合流しないと!」

許緒

「……コロッと態度を変えるんだから」

夏侯惇

「何か言ったか、季衣!」

許緒

「いーえ、何も!」

典韋

「二人共、痴話喧嘩はそれぐらいで!」

夏侯淵

「……姉者、急ぐぞ」

夏侯惇

「ああ!」そして夏侯惇達は曹操と合流するため、軍を後退させた。1人先走る夏侯惇は息を切らしていた。

夏侯惇

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

夏侯淵

「幾ら急ぐといっても、急ぎすぎだぞ姉者。後続がついてこない」

夏侯惇

「しかし華琳様の部下として、その無事な姿を一刻も早く確かめないと……」

夏侯淵

「ふっ……一途な事だ」

夏侯惇

「ふんっ、何とでも言え」半ば呆れたような妹の言葉に膨れっ面の夏侯惇。その後ろから許緒と典韋、郭嘉と程昱がヒーコラ言いつつ、追いかけてきた。

許緒

「はぁ、ひぃ、ふぅ、へぇ……もぉ~、春蘭様、さきさき行き過ぎですよぉー!」

典韋

「こ、これは流石にキツい……」

郭嘉

「ヤバい、鼻血出そう……」

程昱

「それはいつもの事じゃないですかぁ~?」

夏侯惇

「ええい、これぐらいの強行軍でへばるな、軟弱者共め!」

夏侯淵

「相変わらず、華琳様の事となると周囲が見えなくなるな、姉者は」

夏侯惇

「放っておけっ!」

夏侯淵

「放っておこう……それよりも季衣。華琳様の部隊はどこかに見えるか?」

許緒

「うーん……特にそれらしいのは……あっ!」

夏侯惇

「見つかったか!?」

許緒

「はい……けど何か変ですよっ!?」

夏侯淵

「どうした?」静かに語りかける夏侯淵に、許緒は興奮気味に自分が見ている方向を指す。

 

 そこには輿(こし)に乗せられた曹操がいた。その目は虚ろで、焦点が全く合ってない。そしてその輿を担ぐのは、例の白装束の一味だった。

夏侯惇

「な、何だあれはっ!?」

夏侯淵

「華琳様が輿に乗っている……?」

典韋

「だけど輿を担いでいる奴ら、魏の兵士じゃないみたいですよ……」

郭嘉

「あの装束……道士や仙人と言われる者が好んで着るような装束ですね。だけど……これはどういう……」

程昱

「そういえば、この間から桂花ちゃんが行方をくらましてますが……何か関係があるんでしょうかねぇ~?」

夏侯惇

「分からん。分かっている事は一つ。あれは華琳様ではないという事だ!」

夏侯淵

「どういう事だ?」

夏侯惇

「華琳様ならば輿なんぞには乗らん!馬を駆り、戦場を疾駆してこそ総孟徳だろう!しかも見ろ!あの精気のない顔を!あのような姿を晒す方では断じてない!」

許緒

「そんな無茶苦茶な……」

夏侯淵

「いや……姉者の言葉にも一理ある」

郭嘉

「そうですね……もしかすると道士や仙人といった怪性(けしょう)の者共に操られておいでになるのかもしれません」

夏侯惇

「ならば助けるまでだ!」

夏侯淵

「待て姉者。落ち着け」

夏侯惇

「これが落ち着いていられるかっ!」

夏侯淵

「それでも落ち着け!……どんな怪性の者かは知らんが、曹魏の軍勢全てがその怪性の者に掌握されてしまっているのだ!そんな中へ無策のまま突撃しても、華琳様を助ける事など出来やしない」

夏侯惇

「なら華琳様を見捨てろとでも言うのか!」

夏侯淵

「私がそんな事を言うと思っているのか、姉者はっ!」

いつも冷静沈着な妹が珍しく声を荒げたのに流石に驚いて、一歩引く夏侯惇。

夏侯惇

「そ、それは……そうは思わないが、だが!」

夏侯淵

「だから落ち着けというに…… 華琳様は救い出す。絶対に…… それはこの場に居る皆の一致した意見だろう?」

典韋

「当たり前じゃないですか!」

許緒

「勿論です!」

夏侯淵

「ならば答えは一つだ」

夏侯惇

「どういう事だ?」

夏侯淵

「私たちには華琳様を救いたいという望みがある。だが操られているであろう曹魏の軍隊とぶつかる力は持っていない……持っていないのならば借りるまでだ」

夏侯惇

「借りるだと?一体誰に……」

程昱

「唯一、白装束を相手にまともに闘えるあの怪物達。それを従える孫呉の御使い……向田剛と泉有希。彼らしかいないでしょう」

夏侯惇

「な……っ!?そんな事が出来る訳ないだろうっ!孫呉は我らの宿敵だぞっ!?」

夏侯淵

「出来なくともやるしかない……軍隊を持たぬ我々にはそれしかないのだ」

許緒

「他の城に居る魏の兵士達を集めて、それから闘うっていうのはダメなんですか?」

夏侯淵

「それでは時間が掛かりすぎる」

郭嘉

「時間が掛かれば掛かるほど、華琳様の置かれている状況がどう変わるかが分からなくなりますからね」

夏侯淵

「うむ。そういう事だ」

夏侯惇

「だがその二人が我らの言葉に耳を貸すか?華琳様を助けたとしても、奴らには何の得もないのだぞ!」

程昱

「仮に彼らが協力してくれる意思があるとしても……孫策さん始め、呉の皆さんは納得しないでしょうねぇ~」

夏侯淵

「孫策には見返りに、魏領を丸ごとくれてやれば良いではないか……どうせ華琳様が居なければ成り立たない国なのだから」

程昱

「そうですね。華琳様さえご無事ならば、いくらでも取り返しはつきますから。一先ずは国を明け渡す方針でいきましょう」

夏侯惇

「それはそうだが……」

郭嘉

「しかしそれだけでは……」

夏侯淵

「納得しろ、姉者、稟。今はこれしか方法がない」

夏侯惇

「だが奴らは男だ……我らにどんな要求をしてくるか分からんぞ」

夏侯淵

「ふんっ。我々の身体などいくらでもくれてやれば良い。華琳様を取り戻せるなら安いモノだ」

夏侯惇

「……そうだな。華琳様の事こそ、今、一番大切な事だったな」

典韋

「じゃあ……」

夏侯惇

「……ああ。秋蘭の案に賛成する」

夏侯淵

「ありがとう……では再び道を戻るとしようか」

許緒

「ええ。孫呉の陣地まで……」

郭嘉

「私と(ふう)は劉備のところへ……一先ず華琳様へ攻撃しないように頼んできます」

夏侯惇

「ああ……(待っていて下さい、華琳様……!必ず……必ず私達が助けてみせますからっ!)」

 

~向田視点~

 

夏侯淵

「いや、単刀直入に言おう……私達はあなた方に力を貸してもらいたくてここに来た」夏侯淵は雪蓮でも蓮華にでもなく、俺と優希君に目を向けて言い出す。

向田

「つまりフェル達に協力を要請したいって事?」なんだろうけど、ナンでまた?しかし詳しい話を聞かないと何とも言えないな。

有希

「どういう事だ?」有希君は用心しながら問い質す。

許緒

「どういう事かこちらが知りたいけど……実は華琳様、いえ我らが主、曹孟徳様が何者かによって拉致されたんです」何だって!?

向田

「それって白装束の!?」思わず大声を上げて聞き返す俺に、魏の全員が頷く。

亞莎

「えっ!?ら、拉致ですかっ!?」

明命

「魏の王たる曹操殿が拉致!?どうしてです!?」

典韋

「ナゼかは分かりません。だけど今、我らが主、曹操様の身は何者かによって自由を奪われているのです」

雪蓮

「それは大変ねぇ……」雪蓮……随分呑気だな(呆)

夏侯惇

「だからこそ助けたいのだっ!だが相手は何者とも知れぬ。それに曹魏の兵達を全て掌握されては、兵を持たぬ我々では近づく事が出来ない……っ!」呑気な雪蓮に対し、夏侯惇は必死だな。ま、分かるけど。

夏侯淵

「今の我々は無力だ。だが噂に名高い魔獣五体を連れたあなた方なら対抗が出来る……」

冥琳

「それで向田達に助けを求めようと、わざわざ敵陣に訪ねてきた、という訳か……」

許緒

「ええ。今のボク達にはそれしか曹操様を救う方法がないから……」

夏侯淵

「だから……向田殿、有希殿。我らが主、曹孟徳を助けてもらえはしないだろうか?」う~ん、これは厄介な事になったぞ……そうはいっても、雪蓮の命を狙った于吉の配下らしい連中を傘下に入れてた曹操を助けるってのも何だかなぁ……

蓮華

「何を都合の良い事を……姉様の命を卑怯な真似で奪おうとしておきながら!」

「確かに。我が軍に曹操を助ける義理はないのう」

冥琳

「と、いう訳だ。申し訳ないがお引き取りを……」孫呉の仲間達が口々に助力を否定する。そんな中……

フェル

『……待て』え?えっ?フェル、どうしたの?さっきまで欠伸までして退屈そうに話を聞いていたフェルが、口を挟んできた。

フェル

『面白そうではないか。我は助けてやっても良いぞ』意外な事を言い出したフェル。

蓮華

「しかし、こいつらは……!」

フェル

『あの一件は例の白装束共の仕業。こやつらの意思に沿ったモノではないのだろう?』蓮華は奴らを配下に置いた曹操の責任、と言い返したいんだろうな。しかし、流石にフェル相手では分が悪いのか言葉を切る。

向田

「確かにそうかもだけど……」

フェル

『正直、我は曹操なんぞどうなっても良い。だがあの白装束共だけは皆殺しにせねば腹の虫が収まらんでな』ありゃ、こいつまたツンデレた発言を……(ニタァ)。

有希

「僕はその戦には参加してませんが……イヤ、だからこそ、かな?助けるのもやぶさかじゃありません。それに本当の悪は左慈と于吉でしょう?あいつらを倒さなければ、きっとこの大陸に平和なんて訪れませんよ」

フェル

『ほう……お主、中々に考えておるな』チラッと俺に視線を移してから有希君に感心するフェル。へいへい、考えなしの阿呆で悪うござんしたね。

プリウス

『ご主人が行くならボクもついて行くっス!』

ジョージ

『オイラだって!』

ドラちゃん

『丁度良いぜ。奴らなら遠慮なく殺せるしな!』えっとドラちゃん?今まで遠慮してたの?そうは見えなかったんだけど……

スイ

『あるじが行くならスイも行くよ~♪』有希君もクィンテットもヤル気満々だな。それなら……と、俺はまず雪蓮に頭を下げる。それだけで雪蓮は俺の意図を察してくれたようなので、今度は魏の連中に向き直った。

向田

「……曹操の状況を知ってる限り教えてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回……ひょっとしたら劉備のトコへ行った郭嘉と程昱についても書くかも?

原作との違い
・北郷軍に訪れる夏侯姉妹、荀彧、許緒→真・恋姫をメインにしているので典韋が加わり、行方不明の荀彧が抜けている。郭嘉と程昱は劉備の元へ。
・曹操奪還の助力を一度は拒否した北郷達を馬超が説得→白装束にムカついているフェルが参加表明して、最終的に向田が引き受ける。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十席向田、曹操を救わんとするのこと①

ホントに久し振りの投稿です。

早くもオチが見え始めた方々、予想とかはお控え下さい


夏侯惇

「手を貸してくれるのかっ!?」

向田

「ああ。フェル……うちの従魔達も乗り気だし。曹操を助けるために力を貸すよ。みんな良いかな?」俺は蓮華を始め、孫呉の仲間達に賛同を求める。

蓮華

「フェル達には逆らえんからな……」

思春

「……蓮華様が仰るなら」

「まあ、仕方なかろう」

明命

「私も賛成です!」

亞莎

「どの道、曹操さんを放ってはおけません」

「この際ですから曹魏に借りを作っちゃう、ってのもアリですねぇ~♪」

雪蓮

「私は元より剛に賛成よ」

有希

「やりましょう、向田さん」うん、あとは冥琳だけか。何か考えてるみたいだな……多数決で答えは出たと思うけど。

冥琳

「……私にも否はない。それより雪蓮!すぐに劉備に停戦の使者を!そのまま再度同盟の締結に向けて交渉しましょう!」

雪蓮

「……そうね」

向田

「どういう事?」

雪蓮

「このままだと、曹操を操っているとかいう輩に各個撃破されるでしょ?……だけど怖いのはそれだけじゃない。一番怖いのは劉備と曹操が手を組む可能性があるって事」

有希

「このまま劉備と停戦せずに闘っていれば、自軍を守るのと、人質を取り返すために劉備は曹操と手を組もうとするかもです……そうなったら、僕達はこの戦場で孤立するでしょう。更に、この戦場から撤退しても、呉の領土が曹操達に包囲される……そうなったらかなりマズい事になりますよ」そうか。俺達は白装束達を倒すのに一度は、劉備のところに居る現代人トリオと共闘したけど、その内の1人を今捕虜にしているしな。それに魏の軍師2名が停戦を願いに劉備達の陣へ出向いたらしいけど、それが受け入れられるとは限らない。有希君はそこまで考えてたのか。ホントこの少年は大したモンだ。

向田

「みんな……ありがとう。よし!頼んだぞフェル、スイ、ドラちゃん」微笑みを浮かべながら賛成してくれた仲間達に、俺はゆっくりと頭を下げてからうちのトリオに向き直った。

夏侯惇

「すまぬ……恩に着る」

向田

「礼を言われるのはまだ早いよ。まずは曹操を助けてからだ……冥琳、使者さんはもう劉備のトコへ向かわせたの?」

冥琳

「私が赴くつもりだ。曹魏の軍師だけでは信頼に足らんだろうが、我らがすでに同意しているとあらば……」

向田

「断れない、か。自分達が孤立するからな……俺も行った方が良いだろうね」

蓮華

「そんなっ!剛が行く必要などない!」

向田

「いや、あるよ……こんな時こそ、天の御遣いって虚名が役に立つ。フェル達の指揮は君に任せるよ」俺は一時的に有希君へトリオを託す事にした。

有希

「分かりました。それなら向田さんの護衛は……」

スイ

『スイはあるじといっしょ~!』スイは俺に着いてきてくるのか。優しいなぁ。

プリウス

「じゃ僕とプリウス。フェル、ドラちゃん、ジョージで曹操のトコへ乗り込みます」

プリウス

『了解っス♪』

フェル

『うむ。お主なら良い指揮をするだろう』

ドラちゃん

『うちの主はヘタレだからなぁ……』えーえー、どうせ俺はヘタレですよーだ。ドラちゃんェ……余計な事言わなくて良いからね?あとで通訳するの俺なんだから。何で自分への愚痴を自分で訳さにゃならんのさ?

冥琳

「よし、行くか」

向田

「うん」

蓮華

「待て!私は反対だ!」

雪蓮

「蓮華!」

蓮華

「……っ!?」

雪蓮

「今は大局を見なさい」

向田

「……俺なんかより、もっと大勢の命が掛かっているんだから。大丈夫だよ……スイも居るし、きっと役目を果たして戻ってくる……な?安心しててくれ」神様ズからもらった[完全防御]のスキルもあるし。と、言いかけて俺は口をつぐむ。神様ズの事はまだ秘密にしておきたいからな。

蓮華

「でも……」

雪蓮

「こういう時は信じて待つのが良い女ってモンよ、蓮華」

蓮華

「姉様……分かりました」

向田

「ありがと……じゃあ急ごう、冥琳!まだ距離があるとはいえ、時間が惜しい!」

冥琳

「ああ、蜀の御使いも連れていく。向こうに着いたら解放しよう」

 

~有希視点~

 

 向田さんと冥琳さんが劉備陣営に向かった。ここからは僕が従魔達の指揮を執る。

「それじゃ今からは共同戦線ですね~……とにかく詳しい情報が欲しいです知っている限りの事をうちの亞莎ちゃんに話して下さ~い」

典韋

「分かりました」

亞莎

「よろしくお願いします!」

雪蓮

「他のみんなはそれぞれの場所で待機よ……明命、斥候を出すの、忘れないでちょうだい」

明命

「既に出してます!」

雪蓮

「ふふっ、「孔子に論語*1だったわね……じゃ、亞莎が情報を整理するまで待機。それから軍議に移りましょう……何としても曹操を助けるわよ」

「応っ!」

思春

「御意」

ドラちゃん

『ヘヘッ、久し振りに暴れるぜ!』

ジョージ

『覚悟しろよ、白装束共!』

フェル

『我らに刃向かったらどうなるか、思い知らせてやる』

プリウス

『奴ら、ズタズタにしてやるっス!』……言えてる。こっから先はとにかく、突っ走るのみ。どこの誰だか知らないけど、見ていろ……後悔する間もないほどの地獄を味合わせてやる!

 

~視点なし~

 

 戦場に1人立つ于吉の姿がある。顎に手を当て、今後の作戦を練っているようだ。

于吉

「さて……魏王を手に入れ、軍を掌握したのは良いとして、集まった英傑達を相手にどれほど時間が稼げるでしょうね……十日、一月……今はどれほどの時間でも稼げるだけありがたいのですが……さあ……この難局、どう切り抜けてみせるのです?北郷竜馬、及川隼人、巴慶子殿、イヤ……今一番厄介な相手は向田剛と泉有希でしたか……」前回、フェル達に手酷くやられている于吉は本当の敵に気付いていた。

 

 その頃、元は一介の義勇兵から、曹操に将として召し抱えられた楽進、李典、于禁の通称[三羽烏]は曹操を救いだす別動隊を率いていた。

于禁

「むぅ……!あの腐れ道士、許せないのぉ!」

李典

「華琳様にあないな事しくさってぇ……!」

楽進

「恨み事はあとだ。今は華琳様を奪還する事だけを考えるぞ」城の一室でひっそりと話し合う3人の元を荀彧が訪れた。密談の事はお互いの他、誰にも話していないハズ。身構える3人に荀彧はゴミでも見るような目を向けると、気味の悪い笑みを浮かべた。

荀彧

「華琳様は私の物。あんた達には渡さない。私は何者の手も入らない、私と、華琳様だけの理想郷を造るの。ウフフフ……アーッハッハッ!」三羽烏を咎める訳でもなく、そう一言吐き捨てて高笑いしてその場を去る荀彧。

李典

「桂花はんもあの道士に操られてるんやな」

楽進

「ああ……出来れば二人共救いだしたいが」

于禁

「私達じゃ華琳様一人、助けられるかどうかも分からないの」そこに聞き慣れない声がした。

??

「荀彧は放っておけ。それより于吉をブッ飛ばすぞ」

楽進

「ああ、分かっている……って誰だッ!?」声の主がいる方へ楽進が顔を向けると……そこには橙色の武闘着を纏い、何らかの金属製の棍棒を担いだ(齢15なら成人とされるこの大陸においても)まだ子供というべき年頃の少年が居た。

李典

「えっと……坊主、ここで何してるん?」

于禁

「子供は早くお家に帰れ、なの」

楽進

「……待て。真桜、沙和」戦場では常に、得物を持つ相手には拳を振るう武闘家であり、3人の中では最も人を見る目に長けた楽進だけがこの少年を只者ではないと見破ったようだ。

楽進

「貴公……中々の腕前と見た。一つ手合わせ願いたい」

??

「別に良っけど……急ぎじゃねえのか?」

楽進

「だからこそだ。貴公に曹操様奪還を手伝ってほしいと私は思っているのだが……ただ、そこの二人が納得すまい」

李典

「……って凪ぃ?こんな小っさいのが役に立つんかいな?」

于禁

「凪ちゃんの目を信用してない訳じゃないけど……やっぱり子供の出る幕じゃないの」

??

「そうだな……闘っても良いぞ」

李典

「おっ。随分と大言壮語やなぁ」

于禁

「大人を舐めてるとどうなるか……思い知らせてあげるの」始めは少年の力に気付かなかった李典と于禁だが、楽進が真剣な眼差しを少年へ向けるのを見て、彼女が真実を言っているのは理解しているようだ。

楽進

「沙和、真桜。油断するな……この子をそこいらの少年と思ったら大間違いだ」

李典

「そういう事なら……覚悟せいよ、坊主」切っ先がドリル(ナゼこの時代にあるのかはさておき)になった螺旋槍を付き出す李典。

于禁

「あとで泣いたって知らないの……」于禁も双剣『二天』を構える。

 

 結果、楽進は少年の棍棒を躱しきれず、僧帽筋*2を棒の先で打たれ失神。李典の螺旋槍も盾代わりに突き出された手のひらに押し潰される。二天もキックだけで弾き飛ばされ、[三羽烏]は敗北を喫した。

李典

「何やこいつ……メッチャ強いやん……」

于禁

「まるで歯が立たないの~」楽進は目を回しているが、それほど強く叩かれなかったのか、数分で意識を回復した。その後改めて互いに名乗り合った。

 

??

「オラ悟空ってんだ」少年は悟空と名乗った。

李典

「ウチは李典や。よろしゅうな」

于禁

「沙和は于禁なの。よろしくなの」

楽進

「私は楽進。知っているとは思うが我ら三名、共に曹操様配下の者だ」悟空はすべて知っていると言いたげに頷いた。そして悟空と三羽烏は顔を突き合わせて、曹操奪還作戦を練り始めた。

 

~有希視点~

 

 夏侯惇達と協力して曹操を助けるために動く事になった僕達は、すぐさまに陣地を発して進軍を続けた。

亞莎

「それにしても……曹操さんほどの人が、怪性の者に操られてしまったなんて……」

「よほどの力を持った術者なのだろう。ならば……やはりあやつかのう?」僕とプリウス、ジョージ以外は大体の見当がついているようだ。

明命

「はい。その可能性は高いと思われます」

有希

「何か心当たりが?」

雪蓮

「これまで幾度となく、孫呉を襲ってきた奴よ……確か名前は于吉とか言ったわね……」

フェル

『うむ。彼奴らで間違いなかろう』

蓮華

「あいつら、ナゼか私達孫呉の事を目の敵にしているからな」

有希

「つまりそいつらが曹操を操り、孫呉の覇道を邪魔しているのではないかと。そういう事ですか?」

「確証はありませんが~……他に考えられませんからねぇ~」

雪蓮

「考えてみると……于吉以外、今まで闘ってきた連中は皆、正々堂々とした闘い方だったでしょ?」

「静殿とて魔物を使役こそしていたが、基本は正面を切った闘いを挑んできたからのう……」

雪蓮

「けど今回に限って、道士とか術とか……まさに于吉と同様の手を使ってきている」

蓮華

「そう言われるとそうですね」

亞莎

「そして、何かおかしいな?と思った事には、全部あの白装束の人達が絡んでいます」

明命

「董卓の時とか今回とか……言われてみれば確かにそうですね」

雪蓮

「でしょ?だからもしかしたら曹操も……」

フェル

『……うむ。お主の推測は当たりのようだ。見ろ』言いながら、フェルは遥か前方を指すように首を向ける。輿を担いだ一団がそこには居た。全員が白い道衣を着て、三角の頭巾を被っている。その輿には綺麗な顔立ちをした、小柄な女性が座っている。おそらく彼女が曹操なんだろう。目に生気が感じられないが、それもきっと于吉って奴に操られているからだろうな……

 

~視点なし~

 

 孫呉と曹魏が対峙している頃。郭嘉と程昱は劉備軍に停戦を申し入れたが、当の曹操が近づいている以上、劉備軍はそれを受け入れる事は出来ない。魏の軍師2名は事実上、人質となって劉備達の監視下に置かれた。

関羽

「前門の孫策、後門の曹操……まさに絶体絶命というやつだな」

趙雲

「うむ……さてどうする?」

諸葛亮

「現実的に考えて、現存する兵力では二正面作戦は無理でしょう」

鳳統

「こうなってしまっては、曹操さんか孫策さん、どちらかの陣営と、停戦、和平、降伏……しなければなりませんが、もし郭嘉さんと程昱さんの言う事が本当だとしすたら……」

関羽

「曹操に降伏してもムダか……なら軍を率いてこの場を脱し、荊州から益州に抜けるというのはどうだ?」

諸葛亮

「今のこの状況では不可能に近いでしょう……孫策さんが見逃してくれるとは思えませんし」

劉備

「うう、どうしよう……」

諸葛亮

「一つだけ……手はあります。ありますけど……」その時、1人の兵士が劉備達の元へ伝令にきた。

兵士(モブ)

「申し上げます!たった今、孫策よりの使者がやって参りました!」

劉備

「孫策さんの使者?降参しろーって事かな?」

諸葛亮

「どうでしょう?……今は推測を控え、使者に会ってから考えるのがよろしいかと」

劉備

「……ん。分かった。じゃあ使者さんを通してくれるかな?」

兵士(モブ)

「はっ!」そして劉備達の前に姿を現したのは、呉の筆頭軍師周瑜と我らが向田剛である。

 

冥琳

「反董卓連合以来、か。久し振りだな」

向田

「……あ、ども」

関羽

「貴様……周瑜っ!?」

冥琳

「そうだ。私が来たという事は……どういう事か分かっているだろう?諸葛孔明」

諸葛亮

「……曹操さんとは相容れず、という事ですか?」

冥琳

「そういう事だ……お前達はどうだ?」

諸葛亮

「……半ば同意、半ば疑問、というところですね」

冥琳

「ふっ……慎重だな」

劉備

「え、ええと~……二人して何の話?」

向田

「和平交渉の話だよ。あと曹操の件についてもね」

劉備

「……あれ?あなた、どこかで……」

竜馬・隼人

「「向田さん!?」」

向田

「ははっ、一応俺も反董卓連合の時に君に会ってるんだけどね」

劉備

「え……そうでしたっけ?」

竜馬

「……おいおい桃香(呆)」

向田

「(ガクッ……)これでも一応、天の御使いなんて呼ばれてる人間なんだけど、俺、影薄いからなぁ」

劉備

「天の御使いって……ええっ!?管輅ちゃんの占いに出てきた人っ!?ってか他にも居たんだ!」

向田

「……一応ね」

隼人

「その件については俺も竜馬も説明したハズなんだが……」

慶子

「まぁ……桃香ちゃんだしね」タメ息と共に囚われていた慶子が、劉備達の前に姿を見せる。

劉備

「慶子ちゃん!?」

関羽

「無事だったのか!?」

慶子

「交渉材料として、解放されたよ」仲間達との再会を果たした劉備軍。それから和平と同盟の交渉が、引き続き行われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
原作無印では「釈迦に説法」となっている」

*2
詳細はwiki等で




そういえば魏バージョンも書きたいけど、何とクロスさせよう?若しくは設定から変えるか?もうしばらくしたらアンケートとるかもなので、その時はヨロシクです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十一席向田、曹操を救わんとするのこと②

無印と真のクロス具合がおかしい気もしますが········


~ここから向田視点~

 

劉備

「この戦乱を収める一人って言われてるあなたが、どうして孫策さんのところへ?」

向田

「分からないけど……天命ってヤツだからじゃないかな?」

劉備

「天命……ならこの戦乱を孫策さんが収めてくれるんですか?」

向田

「それはまだ分からないよ。だけど俺達はずっと、この戦乱を収めて、平和な世界を作りたいって思っているよ」

劉備

「そうなんだ……」

冥琳

「当然だ……それは劉備殿もそうではないか?」

劉備

「……はい。私も、力のない人達が笑って暮らせるようにって。武器を持って立ち上がったんです」

冥琳

「そうね……だからこそ、今は和睦するべきだと思うのだけれど」

関羽

「貴様達から戦を仕掛けておいて、今更和睦などと……どの口が言うのだ!」うわっ!なんだよ、いきなり怒鳴り付けることないだろ。この問答無用な態度、洛陽の詠以来だな。

隼人

「……落ち着け愛紗」

冥琳

「確かにな。だが他領を侵略し、自国を拡大していく事は天下統一を志す英雄にとっては当然のこと。そして状況によって和平を申し出る事もまた然り……特に巨大な敵が動き出した今となってはな」

趙雲

「……曹操か」

冥琳

「そうだ。この大陸に残っている英雄は、我らが王、孫策。北方の巨人、曹操。そして徳高き劉玄徳……だが今は勝手が違う」

馬超

「勝手が違う?」

向田

「既に曹操の軍師から聞いてるとは思うけど……」

竜馬

「……曹操が怪性の者とやらに操られているって話か?」

向田

「ああ。だから俺達は……」

鳳統

「同盟のご提案……という事ですか?」

冥琳

「そういう事だ」

関羽

「何を今更!つい先ほどまで殺し合いをしていた人間と同盟などとっ!」

向田

「フゥーッ。ちょっと君、黙っててくれる?」この娘はどうしてこう、短絡的なんだろうね?まだフェルやドラちゃんの方がまともに聞く耳持つよ……これも若さなのかねぇ。しかしここはまた、大人の対応だな。

関羽

「何だとっ?」

向田

「劉備には自ら望む世界があって、その世界に共感したからこそ、君達は劉備に付いていくんだろう?」

関羽

「当然だ」

向田

「その劉備が目指す世界が、今、まさに叶わぬ夢になろうとしているんだよ」

趙雲

「……我らが呉との同盟を拒否し、曹操と同盟したとして、桃香様の夢が消える確証はなかろう。怪性の者とやらの話も今一つ信用出来ん」

冥琳

「ほお……詭弁と思うか。では聞こう。貴様は曹操に付いた方が良いと考えるのか?」

趙雲

「……(困)」

冥琳

「自分で考えてもいない事を根拠に、我らの言葉を否定しないでもらいたいな」

関羽

「しかし!星の言葉も尤もな事ではないか!」

向田

「あのね。何度も言うようだけど、曹操は普通の状態じゃないんだ。そうじゃなければ俺達はここへ来なかったんだけど?」流石の俺も若干苛立ってきたぞ。

冥琳

「ふむ……お仲間はこう言っているが、諸葛孔明。お前はどうなのだ?」冥琳はクールな態度を崩す事なく、淡々と続ける。この辺りはやっぱり経験の違いを思い知らされるな。

諸葛亮

「怪性の者云々(うんぬん)は一旦置いておくとして……曹操さんの覇道の行き方を考えれば、残念ながら、周瑜さんの仰る通りになるでしょうね」

関羽

「何っ?どういう事だ朱里?」

諸葛亮

「曹操さんは己一( おのれ )人の考え、そして理想のみを正義とし、天下統一を押し進めていく英雄だからです。だから曹操さんが天下を取ってしまえば、桃香様の理想や夢は、霧散してしまうでしょう……」

劉備

「つまり、曹操さんは私のこと、認めてくれないってこと……?」

諸葛亮

「はい……」

向田

「曹操はそうだろうね。だけど俺達は違う……形がどうあれ、天下を統一し、民達か平和に暮らせる世の中が来れば良いんだ。だから……天下を2つに分ければ良い。大陸を二分して、孫策と劉備で治めれば、平和を実現する事だって可能だろう?」

諸葛亮

「天下を二つに分ける……そうか、そんな考え方もあったんですね……!」まあ、元の三国志の受け売りだけどね。

向田

「互いが仲良くやっていけるなら可能だろ?……呂布の件がなければ、俺達は仲良くやっていけてたんだから」

冥琳

「……だから考えて欲しいのだ。曹操に付くか。我ら呉形に付くかを。どちらについた方が、劉備の夢の障害にならないのかを……」

劉備

「……朱里ちゃん」

諸葛亮

「……はい。呉と同盟を組みましょう」

関羽

「朱里はこの二人の(げん)を信じるというのか?」

諸葛亮

「はい……想像してみたんです。私達が曹操さんに付いた時の事を。きっと……曹操さんは私達を受け入れてくれるでしょう。でも、それは曹操さんの夢や理想を実現させるための駒としてなんです。桃香様の理想や夢を認めたからじゃない……だけど周瑜さんの提案を聞いた場合、五分五分の条件が出せます。それだけでも不利じゃない」

趙雲

「五分五分の条件?」

諸葛亮

「私達だけで曹操さんと謎の敵には対抗出来ない。でもそれは呉の人達もそうなんです。呉の人達だけで曹操さんを倒すことは出来ない。だけど私達と呉の人達が手を組めば、戦力比は大きく縮まることになります」

関羽

「だから呉と同盟を結ぶと?」

諸葛亮

「はい。その方が桃香様の夢、私達の理想……そういった私達全員の想いを、実現出来る確率が高いですから……」

関羽

「ふむ……」

趙雲

「身を捨てて浮かぶ瀬もあれ、か」

冥琳

「天下二分の計。我らが互いに手を取り、大陸を二分すれば、闘いはなくなるだろう」

向田

「孫策だって好きで闘ってる訳じゃない……呉の民と平和と繁栄……それこそが孫呉の王、孫策の望みであり、俺達の望みなんだ」

劉備

「そしてそれは私達も同じ……力のない人々が笑顔で暮らせる世の中を作る。それが呉と協力する事で生まれるなら……私は呉の皆さんを信じたいって思う」俺と冥琳の話を聞いた劉備は、言葉をゆっくりと返す。一言毎にタメがあるけど、それだけ考えて話しているんだろう。

冥琳

「ならば決まり……と捉えて良いのですかな?」

劉備

「はい……呉と同盟を組みます。そして協力して曹操さんと、ついでに怪性の人達とかも倒しちゃいましょう!」う~ん。どっちかって言うと、曹操の方がついでになりそうなんだけど……でも当初の目的は果たしたから良しとするか。

関羽

「……分かりました。納得いかない部分も多々ありますが……」

趙雲

「今はそうも言っておれん、か」蜀の連中は渋々ながらOKって感じだな。

馬超

「おっ?どうするか決まったのか?」

張飛

「小難しい話を聞くと眠くなるのだ」

趙雲

「ふっ、決まったよ……呉と手を組んで曹操を叩くことにな」

馬超

「よっしゃ!」

張飛

「了解なのだ!」

慶子

「それじゃあ私達は……」

隼人

「ああ。ゼロ戦小隊を編成する」

向田

「……君ら、そんな物まで手配してたの?」

竜馬

「生憎、最新鋭の戦闘機って訳にゃいかんかったがな」イヤイヤ。この世界でゼロ戦って……充分常軌を逸してるよ。俺が言えたもんじゃないけど、こいつら何考えてんだ?

スイ

『あるじ~、お話終わった~?』おっ、スイやっと起きたか。

向田

「ああ。協力して白装束を倒すことになったよ」

スイ

『わ~い!スイもいっぱいビュビュッてやっつけるね~♪』それじゃあ、雪蓮達と合流しないとな。

 

 

 

~視点なし~

 

 同じ頃。前回語った通り、曹操軍を発見する有希と雪蓮達。

夏候惇

「華琳様っ!」

夏侯淵

「くっ……軍の先頭に立たせるなど、人質とでも言いたいのかっ、奴らはっ!」』

「そのようじゃの。輿を担ぐ役割の者以外にも、槍を持つ者が()る……逆らえば串刺しか」

蓮華

「あの者共を何とかしないと、闘う事も出来んぞ」

思春

「どうなさいますか?敵軍と対峙した時にあのままでは、勝ち目はありませんが?」

夏侯淵

「一応、親衛隊が控えてはいる。しかしどう出たモノか……」

夏侯惇

「……私が行く!」

有希

「行くって……どうする気だ?」

夏侯惇

「私達が突入して華琳様を助けてみせる!」

蓮華

「待て、夏侯惇。それが出来ないから我らの力を借りに来たんだろう。ムチャはするな」

夏侯淵

「いや……孫呉の力を借りられた今だからこそ、それが可能なのかもしれない」

雪蓮

「どういう事?」

夏侯淵

「敵の軍勢を牽制してほしいのだ。そうしてもらえれば、その隙をついて華琳様を助け出せる」

「敵軍を牽制して注意をこちらに向けさせれば、確かに可能かもしれませんが……」

思春

「……危険な賭けになるぞ?」

夏侯惇

「良い。華琳様は人質などという屈辱に甘んじる方ではない。もし賭けに失敗したら……」

夏侯淵

「その時は我らの手で華琳様を刺し殺し、私達もしぬだけだ」

思春

「……主君に殉じるか」

有希

「……その必要はないでしょう。みんな頼める?」

ドラちゃん

『応っ!やってやんぜ!』

ジョージ

『任っせといて!』

フェル

『うむ。我らなら一捻りだ』

プリウス

『サクッと片付けるっス♪』

有希

「話は決まりましたね。では打ち合わせに入りましょう」

亞莎

「分かりました。では……」亞莎が中心となって作戦会議が始まった。そして全ての打ち合わせが終わり、曹操救出作戦が開始された。

 

↓↓↓

 

 大軍を容れてもまだまだ余裕のある大平原。そこに布陣した呉魏連合軍。目の前には、白装束達が偉容*1を見せつけるように陣を構えていた。その数は呉と魏の軍勢を遥かに超えている。

 

「何て人数だ……?」

「兵士全てが白装束などと、悪趣味にもほどがあるのう……」

蓮華

「趣味の悪さはともかく……相手はこれほどの多くの魏の兵士を操る術者。油断は禁物だ」

雪蓮

「かなりの力の持ち主ってことね。だけど、それほどの力を持つ人間が、どうして私達の邪魔をするのかしら?」

フェル

『そんな事はどうでも良い……今は白装束を滅するために闘うまでだ』

有希

「イヤイヤ、曹操も救出するからね!?」

フェル

『フンッ。分かっておるわ』

プリウス

『ホントに分かってるんっスかねぇ?』

「……有希よ。しっかり手綱は握っといてくれ」

有希

「ハ、ハハッ(苦笑)それじゃ行くぞ、みんな……絶対に勝とう」

フェル

『フッ。無論だ』

ドラちゃん

『そういうこった。コテンパンにしてやるぜ!』

ジョージ

『ぜ~んぶ、やっつけるぞぉ♪』

有希

「ああ。そして闘ったあとは……」

プリウス

『みんなで勝鬨をあげるっス!』

蓮華

「うむ。では皆、配置につけ!天に掲げた孫の一字。その旗の下、雄々しく覇道を進むのだ!」こうして呉魏連合は白装束軍に立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
いかめしく厳かな様子。重々しく、立派な姿




次回で曹操奪還を完結させたい……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十ニ席向田、曹操を救わんとするのこと③

ね、眠い……昨夜殆ど寝付けなくて、この機会に書き進んでいつの間にか朝……


 互いの力は伯仲しているが、自らの意思と忠誠心で動く呉に対し、人形の如く操られた于吉の軍では気の持ちようの違いなのか、少しずつだが呉側が優勢になりつつあった。

夏侯惇

「闘いが始まったな」

典韋

「ええ。敵の目が孫呉に向いている今が好機です」

夏侯淵

「機会は一瞬だ……もう一度手順を確認するぞ」

夏侯惇

「私と季衣で敵軍を攪乱(かくらん)。混乱する敵の隙をついて流琉と秋蘭が華琳様を助ける……皆、ぬかるな」

許緒

「任せておいて下さい。華琳様を助けるためならボクは命だって賭けちゃいますから」

夏侯淵

「命の賭けどころを間違うなよ……犬死には許さんからな」

許緒

「分かってますって♪」真剣な顔で諌める夏侯淵に許緒は敢えて笑顔で答える。

夏侯惇

「……ならば行こう。我らの主を取り戻すために!」

夏侯淵

「ああ……っ!」

 

夏侯惇

「うぉぉぉぉぉぉーーーっ!」

許緒

「てやぁぁぁぁぁーーーっ!」敵陣地へ飛び込んでいった夏侯惇は愛剣「七星餓狼」を。許緒は巨大鉄球「岩打武(いわだむ)反魔」を振りかざし、敵を滅していく。

許緒

「秋蘭様ぁ!今ですよぉ!」

夏侯淵

「分かっている!流琉!」

典韋

「はいっ!……華琳様!」曹操へ手を伸ばす典韋。だがあと一歩というところで于吉に気付かれ、引き剥がされる。しかも于吉は典韋に目もくれず、戦況を眺めながらのんびりした様子で次の手を考えていた。

于吉

「ふむ……さすが召還された勇者、泉有希。中々やりますね。それに孫呉の連中も……厄介なことだ。しかし、このまま押されてしまうのも興がない……そろそろ例の駒を使いましょうか」余裕の笑みすら浮かべる于吉に歯軋りして悔しがる典韋。だが……

??

「んなことさせねぇーっ!」誰かが于吉に向かい、突撃してきた。

??

「伸びろっ、如意棒ウォーーー!」手にしている棍棒が金属にはあり得ない伸長を遂げ、于吉の横腹に刺さる。

于吉

「グハッ……!」思わず顔を歪めた于吉は自分を殴り付けたのが、見知った相手なのに気付く。

于吉

「……っ!悟空っ!?」于吉は何か問おうとしたが、悟空は無視して、如意棒でひたすら于吉を打ちのめす。

??

「……流琉っ、華琳様をこちらへっ!」于吉と白装束軍に隙が出来たのを見計らった楽進達三羽烏が曹操を抱き上げ、輿から下ろす。

夏侯淵

「凪、真桜、沙和!お前達無事だったのか!」

楽進

「はいっ!」

典韋

「秋蘭様、ここは一先ず撤退を!」

夏侯淵

「そうだな。当初の計画とは違ったが……話はあとだ。姉者ぁーっ!」

夏侯惇

「おうっ!」

夏侯淵

「華琳様と流琉が下がったぞっ!」

夏侯惇

「分かった!季衣、私達も下がるぞ!」

許緒

「あはは……春蘭様……それはムリかもぉ」

夏侯淵

「どうしたっ!?」

許緒

「周り……囲まれちゃいましたぁ…」いつの間にか白装束が夏侯惇、夏侯淵、許緒の周りで円陣を組んでいた。

夏侯惇

「くっ……」

白装束

「……」

夏侯淵

「……次から次へと、良くもまあ涌き出てくるものだな」

夏侯惇

「ああ。だが邪魔立てするなら容赦はせん……例え元が魏の兵士であったにしてもだ」

夏侯淵

「無論だ。可哀想だが逆らう者はここで皆殺しにする……華琳様を助けることが出来た以上、我らはあの方の下へ戻らなければならないからな」

許緒

「へへっ……久し振りに三人で大暴れしましょ♪」

夏侯惇

「そうだな。後顧の憂いがなくなったのだ。我が大剣存分に振るわせてもらおうっ!準備は良いな、秋蘭、季衣」

許緒

「はーい!ボクの方は準備万端ですよ♪」

夏侯淵

「ふ、無論だ……背中はこの私が守ってやる」

夏侯惇

「ならば我らに敵はなし……ふふっ」

夏侯淵

「何を笑っている?」目をつり上げながらも、口許に不適な笑みを浮かべる姉に問う夏侯淵。

夏侯惇

「なに……華琳様と秋蘭、そして季衣。三人と共に戦乱を治めるために()った日のことを、ふと思い出したのだ」

夏侯淵

「なるほど。ふふ……あの日の血の(たぎ)り、久しく忘れていたな」

夏侯惇

「ああ……撃ち殺した敵の血をすすり、苦悶の悲鳴を浴びながら邁進した日々……それを思い出す」

夏侯淵

「ふっ……残忍な顔をしているぞ、姉者」

夏侯惇

「私は魏武の大剣……残忍こそが我が誇りよ」

許緒

「やーん♪カッコイイです、春蘭様ぁ~!ボク、惚れ直しちゃいました♪」

夏侯淵

「私もだ……さすが我が姉者。頼りになる」

夏侯惇

「その言葉、この包囲を突破してから聞こう……行くぞ!秋蘭、季衣!」

夏侯淵

「ああ!」

許緒

「はいっ!」夏侯惇は剣を抜くと、白装束へ高らかに言い放つ。

夏侯惇

「聞け!妖に( あやかし )魅入られし兵ど( つわもの )もよ!我が名は夏侯元譲!魏武の大剣なり!魏武の誇りを忘れ、走狗と成り果てたうぬらの命、羅刹となりて喰らい尽くす!覚悟せい!」そして抜いた剣を構え、敵の中へ突っ込んでいく。

夏侯惇

「いざ……参るっ!」その頃、曹操を取り返された于吉は何とか悟空を振り切って、前線を離脱した。

于吉

「駒を逃がしてしまいましたか。所詮傀儡は傀儡……役に立たないモノですね、まぁ良いでしょう。ならば魔物の増援を出して奴らを蹴散らしてしまいましょうか……」

 

亞莎

「前方に狼煙が上がりました!夏侯惇さん達が曹操さんの救出に成功したようです!」

思春

「よしっ!」

明命

「はいっ!あとは目前の敵を粉砕するのみです!」

雪蓮

「そうも言ってられないかもよ……」眉を歪ませて苦笑いする雪蓮が見つめる先には、どこから現れたのかゴブリンとリザードマン、オークの大軍が白装束と入れ替わるように夏侯惇達3人に迫ってきた。

思春

「ザッと見て七、八万匹とでしょうか……」

亞莎

「人間ならともかく……私達ではどうしようもない、ですね……」

蓮華

「……ここは有希達に任せて、我々は退きましょう」

「その方が良さそうじゃの……」

雪蓮

「アラ?祭のことだからてっきり、張り切って前線へ出ると思ったけど?」

「……策殿、儂を何だと思ってなさる?」

「まぁまぁ……雪蓮様、祭様。蓮華様の仰る通り、私達はさっさと逃げちゃいましょう~♪それじゃあ~有希さ~ん。あとはよろしくお願いしま~す」

有希

「はいはい(タメ息)ったく、気楽に言ってくれるな……」

フェル

『構わんだろう。我らとお主ならあの程度、物の数でもあるまい』

プリウス

『……相変わらず自信家っスね。フェルは』

有希

「ま、グダグダ言ってもしょうがないし……闘るか!」

フェル・ドラちゃん・プリウス・ジョージ

『オウッ!(はいっス!)』

 

 魔物の大軍に苦戦していた夏侯惇達。典韋と三羽烏も加勢するが、曹操を守りながらの闘いは困難を極めた。

夏侯惇

「クソッ、化け物共っ……!」

夏侯淵

「こいつら……いつまで涌いて出る!?」

典韋

「屠っても屠っても、キリがありません!」

許楮

「ア、アハハ……これはマズいかも~(汗)」

楽進

「春蘭様達がっ……!」

李典

「けどウチらは華琳様、連れて帰らなあかんし」

于禁

「どうしよう、なの~……」助成に入れず、立ち往生する彼女達の前に有希達が駆けてきた。

ゴブリン(モブ)

『ギギッ!』知能が低いゴブリン達は、品のない雄叫びを上げるだけ。

有希

「ここは僕らが引き受けます!早く下がって!」

オーク(モブ)

『ブヒッ♪』本能で女を襲うオーク達は獲物が多いと思っているらしく、下卑た笑いを浮かべる。

リザードマン(モブ)

『シャーッ!』リザードマンは敵の強さが分からず、威嚇の声を有希達に向けるが、

フェル

『フハハッ、やっと出番か』そんな魔物達に対して不敵な笑みを讃えるフェル。

ドラちゃん

『ふぁ~あ……待ちくたびれたぜ』ドラちゃんは欠伸をしながらも、敵へ鋭い眼差しを向ける。

プリウス

『覚悟するっスよぉ!』気合いが入って鼻息の荒いプリウス。

ジョージ

『こいつらまとめて地獄行きだぁ♪』思いっきり派手に暴れられると、ハイテンションのジョージ。

??

『あっ、みんなズルーいっ!』 

 

~向田視点~

 

 劉備との話し合いを終えた俺と冥琳は、慶子を蜀に引き渡してから魏の軍師2人を連れて呉の陣営に戻ってきた。そこには夏侯姉妹と許緒に典韋、他に見知らぬ顔が3人。呆けている曹操を支えているから、恐らく彼女達も魏の武将なんだろう。

 戦地に目を向けるとこちらの兵と夏侯惇達は後退し、入れ違いに有希君、フェル、ドラちゃん、プリウス、ジョージが前線に進んでいる。

スイ

『あっ、みんなズルーいっ!』スイがみんなの後を追いかけて行っちゃった。あっ、これ魔物達死んだな……

 

それからは、まあ……有希君の一人舞台もとい、クィンテットとの6人舞台だったよ。

 

 ヒュンッ!ヒュンッ!

 ザシュッ!ザシュッ!

 ドスッ!ドスッ!

 ビュッ!ビュッ!

 ドシンッ!ドシンッ!

 バラララッ!バラララッ!

 

 有希君のゴッ○ゴー○ン。フェルの爪斬撃。ドラちゃんの氷柱落とし。スイの酸弾。プリウスのボディプレス。ジョージの分身攻撃。これに勝てる奴が居る訳がない。むしろ居るなら俺の方が知りたいぐらいだ。相変わらずのTUEEEEぶりを発揮する6人。瞬く間にゴブリンもリザードマンも全滅させていた。

 

典韋

「た、頼もしすぎる……」

夏侯惇

「私達はこんな連中と闘おうとしていたのか……」

許緒

「た、闘わなくて良かった……」

夏侯淵

「ああ。間違いなく死んでいたな……」魏の連中、揃ってポカーンとしてるよ。まあ、俺に言わせりゃこいつら、これが通常運転だけどね。ところで……

 

向田

「于吉と闘っているのは?」あれって、どう見ても子供だよなぁ……

夏侯惇

「私も気になっていたが……凪、あいつは一体?」

楽進

「あの加勢してくれている少年。名を悟空というそうです。我らも今日初めて会ったのですが」

李典

「ホンマ、小っこいのにメッチャ強いんでっせ」

于禁

「沙和達、ちょっとだけ手合わせしたけど……三人がかりでも勝てなかったの~」マジで?この娘達も曹操の下に居るってことは、一端(いっぱし)の将なんだろう?それがあんな子供1人に勝てないって、どうなってるんだ?とりあえず鑑定してみっか。

 

【 名 前 】悟 空   

【 種 族 】 ?

【 レベル 】 ?

【 体 力 】 ?

【 魔 力 】 ?

【 攻撃力 】 ?

【 防御力 】 ?

【 俊敏さ 】 ?

【 武 器 】如意棒

 

 ハァ!?なんじゃこりゃ?名前と武器以外、全部計測出来ないって……どうなってんの?

フェル

『……うむ』何がうむだよ、フェルの奴。俺に分かるように説明してくれ。

フェル

『どうやらあの小童(こわっぱ)、我らの前に何度か現れた彼奴の仲間のようだな』彼奴って……ひょっとして貂蝉か?そんなことを考える俺に

白装束(モブ)

「御使い死すべし!」成りを潜めていた1人の敵兵が、剣を閃か( ひらめ )せて襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




更新が不定期でスミマセン。
m(TT)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十三席向田、曹操を救わんとするのこと④

蜀バージョンのその後の話やオリ作を書きながらだったのもあってかなり遅い更新となりました。楽しみにしてくれていた方々(居るのかな~?)にはお詫び申しあげます


雪蓮

「剛っ!?」

向田

「くっ……!」悲鳴にも似た雪蓮の叫び声を聞きながら、弧を描いて頸を狙う得物を、俺は咄嗟に手にしていたミスリルの槍ではじき返す。白装束兵の剣は普通に鉄製だったのか、弾かれた衝撃で、粉々になる。

蓮華

「無事か、剛っ!?」

向田

「あ、ああ、何とか……っ!」

蓮華

「良かった……っ!」安堵の吐息を漏らした蓮華を嘲笑うかのように、大勢の足音を響かせて現れた白装束兵達が、蟻の這い出る隙もなく俺達を取り囲む。こいつら、有希君とクィンテット相手じゃ敵わないと見て、俺達を標的に変えたんだな。きっと……

思春

「クソッ……あちこちからワラワラ涌いて出おって……っ!」

「キリがないのう。魔物よりは幾らかマシじゃが」周囲を見据え、得物を構えるみんなの横で

雪蓮

「……さないっ」震える声で雪蓮が呟く。

雪蓮

「許さないわよっ、あんた達はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!」

明命

「わっ!?しぇ、雪蓮様っ!?」

雪蓮

「私の剛に刃を向けるなんて言語道断よっ!あんた達全員、生かして帰さないからっ!」これまで見たことないほどの怒りを露にした顔になる雪蓮。これが鬼の形相ってヤツか?呆気に取られている俺にデミウルゴス様からの神託が聞こえた。

 

デミウルゴス

『ふむ。この娘ごならちょうど良かろう。今、そっちに聖剣を送るぞい』……え、えぇっと……デミウルゴス様?今何と?

蓮華

「剛、何を呆けている!?」大声を揚げた蓮華にハッとした俺が、何となくヤな予感がして空を見上げると雲を切り裂くように1本の剣がものスゴいスピードで下へスッ飛んできて、そのまま俺と雪蓮の間の空を切るように地面に突き刺さった。

冥琳

「……これはっ!?莫邪の宝剣!?」

蓮華

「春秋時代の呉に存在したという、あの剣かっ!」

雪蓮

「何だって良いわ、この際……」雪蓮は地面から剣を抜いて、白装束達を横一文字に凪払った。

雪蓮

「でぇぇぇーっいっ!」

白装束(モブ)

「ぐふっ……」白装束共は腹を切り裂かれその場に倒れると、ただの土くれに返っていく。

雪蓮

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ザマーみなさい下郎共」

向田

「おお、スッゲーっ。一気に50人ぐらい消し飛んだな」

冥琳

「ふっ、愛の為せるワザといったところか……だが見ろ。敵はまだまだやってくる」冥琳の言う通り、白装束共は尽きることなく俺達を襲ってきた。

白装束(モブ)

「御遣いは悪なり!」

白装束(モブ)

「御遣い死すべし!」

「喧し( やかま )いわ!バカの一つ覚えのような、同じセリフばかりぬかしおって!」

明命

「くっ……!奴ら、まだまだ増えていきます!」

思春

「何人来ようとも雪蓮様、蓮華様には触れさせん!」

「無論じゃ……行くぞ二人共!」祭さんの気合いの乗った声に明命、思春と共に、3人が腰を屈めて飛び出そうとした時───。

 

 ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン!風を切る音と共に何か弾丸らしきものが殺到してきた。ズキュン!ズキュン!ズキュン!音は拳銃のような爆音に変化して白装束にぶつかっていった。

白装束(モブ)

「ぐっ……!」

白装束(モブ)

「ぐはっ!?」

白装束(モブ)

「ひぐっ!?」爆音の先には矢が突き刺さった白装束の姿がある。有希君の弓矢が放たれていた。

 

有希

「向田さんっ、無事ですかっ!?」

スイ

『あるじを苛めたら、スイが許さないんだからね~』

ドラちゃん

『魔物はあらかた始末したぜ♪』

ジョージ

『あとはこいつらだけだなっ』

フェル

『我らに楯突いたこと……後悔するがいい』

プリウス

『覚悟するっス!』有希君&クィンテットもこちらへ合流してきた。更に強力な助っ人も現れた。

関羽

「蜀の勇者達よ!今こそ我らの力を天に轟か( とどろ )せる時ぞ!」

馬超

「勇を奮え!惰弱を捨てろ!我らの意地を貫き通せ!」

趙雲

「友が倒れればその屍を( しかばね )を越えよ

!屍を越えた数だけ敵の屍を踏みつけよ!」

張飛

「敵を喰らえ!味方を喰らえ!蜀の旗に逆らう者は、その全てを滅殺するのだ!」

関羽

「構えぃ!」関羽の号令に合わせて蜀の兵士達が一斉に抜刀する。

関羽

「突撃ぃぃぃぃーーーっ!!」

兵士達(モブ)

「応ぉぉぉぉぉぉーっ!」蜀のみんなが駆けつけてきてくれた。ところであの手の号令って普通、大将が率先して掛けるよな。劉備は何してんだろ……?ま、あのホンワカ娘にゃあんな力強い号令は似合わないか。

 

向田

「劉備の旗だっ!あいつらもきてくれたのかっ!」

雪蓮

「今こそ反撃の好機ね……思春、明命!蜀の兵と呼応して逆撃するわよ!」

思春

「はっ!」

明命

「はいっ!」

「うむ、腕が鳴るわい!」

雪蓮

「蓮華、号令を!」

蓮華

「はい、姉様……!孫呉の勇士達よ!援軍の来た今こそ逆撃の好機ぞ!今こそ起つのだ!剣を構えよ!矢をつがえよ!我が軍はこれより逆撃に移る!」

雪蓮

「全軍突撃ぃぃぃぃーーっ!」こうして蜀呉連合(呉蜀(ごしょく)と言わないと冥琳は怒るが)は白装束を蹴散らしにかかった。

竜馬

「俺達も忘れんなよ!」

隼人

「ふっ……まさかこいつも駆り出すことになるとはな」一瞬、雲が出たかと思い空を見上げると

向田

「何だありゃ!?」影を作っていたのは雲ではなくて、なんと3機の零戦隊だった。

慶子

「爆雷投下!」地面に落とされた爆雷は白装束を次々に屠っていく。于吉は残った僅かの手勢と共に逃げようとしたがさっきの少年がそれを阻み、棍棒で思いっきり横腹を叩きつける。

于吉

「ギャーーーー!」忽ち于吉は何処かへと吹っ飛ばされて俺達の視界から消えていき、白装束も地面に吸い込まれていく。

 

~視点なし~

 

夏侯淵

「見ろ、姉者。敵が消えていくぞ」

夏侯惇

「ああ。孫呉の勝利だな……あの劣勢をあっという間に覆すとはな」

夏侯淵

「本当に敵に回さなくて良かった、な……」

夏侯惇

「認めないワケにはいかないだろうな。少し悔しくはあるが……」とはいえこちらは伝説の魔獣であるフェルに元々は選ばれし勇者として、この世界に転移してきた有希をはじめとした無敵集団である。元より並の人間が敵う相手ではない。

夏侯淵

「そうだな。だが華琳様を無事助けられたのだ。良いではないか」

夏侯惇

「うむ……ところで華琳様は?」

典韋

「まだお目覚めになりません……もしかすると一生このままなんじゃ……」

夏侯惇

「馬鹿なことを言うなっ!華琳様ともあろうお方がそんなことがあるハズなかろう!」

典韋

「そ……そうですよね。すぐに目を覚まして下さいますよね?」

夏侯淵

「ああ。きっとな」

許緒

「でも……華琳様、スッゴく可愛い顔で寝てますねー。なんだか赤ちゃんみたい」

李典

「ホンマ可愛らしい寝顔やわぁ……」

于禁

「……こういう顔されちゃうと、思わずプニプニしたくなるのぉ……プニプニ」

許緒

「……プニプニ」にこやかに曹操の頬を指で軽く突く于禁と許緒を夏侯惇が嗜める

夏侯惇

「や、やめんか沙和、季衣」

曹操

「ん……んん~~……」曹操は軽いうめき声上げる。どうやら目を覚ましそうな様子である。

夏侯惇

「え……っ!?か、華琳様っ!お目覚めくださいっ!」

曹操

「んん~~……何よ、春蘭……少しうるさいわよ」

典韋

「華琳様っ!」

夏侯淵

「華琳様っ!目を覚まして……っ!」

曹操

「もう!うるさいわよっ!」今度こそはっきり目が覚めたようだ。

夏侯惇

「あ、ああ……華琳様ぁ……(ウルウル)」

曹操

「え?……あら。どうして泣いてるの、春蘭」

夏侯惇

「ご無事で……良かった……」

曹操

「無事で良かったって……春蘭は一体何を言ってるの?」

夏侯淵

「華琳様は妖の者に操られていたのですよ」

曹操

「私が操られていたですって?」

楽進

「そうです。覚えていらっしゃらないのですか?」

曹操

「覚えてないわね……いいえ……朧気(おぼろげ)ながら思い出してきたわ。確か春蘭達の敗退の報を聞いて、出陣の号令を出そうとした時に桂花が来て……そこから記憶がないわね」

楽進

「やはり……」

曹操

「何?」

夏侯淵

「……凪達の話ではこの件に桂花が絡んでいると」

李典

「あいつも妖に操られとるみたいや。んで、華琳様に妖術を仕掛けて……」

曹操

「……でしょうね……私の身近な者を利用するなんて。汚い手を……その于吉とかいう奴、見つけたらただでは済まさない」

許緒

「ホントですよ!ギッタンギッタンにしてやらないと!」

夏侯惇

「ああ……っ!その時はこの私が華琳様に成り代わり、ギタギタのメタメタにのしてやる!」

曹操

「ふふっ、頼もしいわ春蘭。その時はしっかり頼むわよ?」曹操は信頼のおける配下にのみ見せる笑みを浮かべ夏侯惇を鼓舞する。

夏侯惇

「はいっ!」

夏侯淵

「……と、華琳様が大好きな子犬が尻尾を振ってじゃれついてますが、至急、現状の報告をさせていただきます」

夏侯惇

「だ、誰が子犬だっ!?私には尻尾なぞついておらんぞ!」

曹操

「春蘭、黙って」

夏侯惇

「あぅ……すみません……」

曹操

「それで報告というのは?」再び真面目な面持ちで尋ねる。

夏侯淵

「はっ……華琳様を操った于吉と桂花は魏の兵士達をも操り、呉との決戦に望みました」

典韋

「結果は呉と、戦いの最中に同盟を結んだ蜀との連合軍の勝利です。ただ……」

曹操

「ただ、何?」

夏侯淵

「華琳様を救うために、我々は呉の御使いの手を借りることになってしまいました」

典韋

「彼らが敵の軍勢と正面からぶつかって兵の注意を引いている間に、我々が突入して華琳様を助ける……そういう作戦で……」

曹操

「この私が、結果的に刃を向けた相手に助けられた……ということなの?」

夏侯淵

「……御意」

許緒

「で、でもでも!華琳様が戻っていらっしゃったんですし、約束なんて反故にして、反撃しちゃってもいーんじゃないですか!?」

曹操

「……それは出来ないわ」

許緒

「ほえ?で、でも……」

曹操

「この曹孟徳。恩を受けた相手に対して礼を失するようなことは出来ない」

夏侯惇

「華琳様……」

曹操

「命の恩人に向ける刃も持たない……もう闘えないわね」

夏侯淵

「……どういたしましょうか」

曹操

「これは最早、天命が私から去ったと見るべきでしょう」

程昱

「……天は覇王ではなく、均衡を求めた。そういうことでしょうか」

曹操

「天意など最早知らず……天が私を求めないのならば、私も最早天を求めず、よ……」

夏侯淵

「……我らはこの大陸を脱し、新しき天が広がる大地を目指す」

程昱

「新しい天の土地……新天地ですか」

曹操

「ええ……天は大陸だけにあらず。大陸の天を孫呉と劉備で二分するというのなら、私は違う天を独占して見せましょう。西方、東方……天は果てを知らず、よ」この大陸を去る決断をした曹操。そこに白髪を角髪(みずら)に結び、ナゼかマイクロビキニを身につけた何とも奇妙な老翁が、音もなく突然現れた。

??

「では儂が先導仕ろ( つかまつ )う。貴君を新たな外史の礎とするために───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここから先、エンディング手前までは無印がベースになると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十四席曹操、邪馬台国へ発つのこと

長いこと更新なくてスミマセン


~視点なし~

 

 さて、悟空にこっぴどくやられた于吉は命からがら。やっとの思いで戦場を放れて、左慈と待ち合わせていた場所へ二逃げ延びた。

于吉

「……ハァハァ……ただいま帰りましたよ、左慈」

左慈

「随分ヒドい有り様だな……首尾は……と聞きたいところだが、その様子じゃ良くはないらしいな」

于吉

「ええ。悟空が奴らに手を貸してるようです。大方、デミウルゴスの命を受けたのでしょう」

左慈

「ケッ……どこまでも忌々しいクソジジいが!」

于吉

「しかし荀彧はこちらの手の内にあります。曹操が戦意を削がれた以上、あいつにとってもこの国は最早無用の長物……せいぜい蜀呉と事を構えてもらいましょう」

左慈

「それでこの世界も終盤……という訳だ」

于吉

「しかし、真に厄介なのは向田とその一味。先に奴らを片付けておけば……」

左慈

「今更言っても仕方がない。あとは奴らが互いに潰し合ってくれれば良い。それこそが本懐なんだからな」

于吉

「では私は最後の策を仕上げましょう」そう告げると、再び視界から消える于吉。1人残された左慈は君の悪い笑みを浮かべ呟いた。

左慈

「とにかくこの国、そしてあの世界から来た奴らは……皆殺しだ!」

 

~向田視点~

 

 あれから曹操は夏侯姉妹を始めとした幾人かの側近だけを連れて海を渡ったらしい。どうしてそんなことを、と皆は訝しがっていたようだけど、俺には何となく曹操の取った行動の意味が分かるような気がした。きっと……自らの抵抗によって、無駄な闘いが長引くのを避けたかったんだろう。闘いが長引くほど、真っ先に被害が及ぶのは一般市民だ。彼らを無駄死にさせるくらいなら、いっそ国を蜀呉に任せて、自身は退場した方が良い……そう考えたのかもな。それより曹操の向かった先が邪馬台国ではないか、という噂に驚いたよ。確かに三国時代の中国的な大陸があるんだから、古代日本たる邪馬台国があってもおかしくはないけどさ。これには俺だけじゃなくていつもクールな有希君も唖然としてたよ。しかしそれは一先ず置いといて……

 

 劉備と再び同盟を結んだ俺達。しかし問題はこれからである。

冥琳

「次に件の白装束共との闘いだが……こちらから提案がある」俺と冥琳は劉備の本拠地にて最終的な打ち合わせに来ていた。

諸葛亮

「聞きましょう」

冥琳

「現在の状況を考えるに、あの場所で決戦するのはこちら側には不利となる」

諸葛亮

「広い荒野では大軍の方が有利ですからね……あの人達は魔物も操れますし」

冥琳

「そうだ。そこで劉備陣営はすぐさま兵をまとめ、赤壁近くの我が城に結集してほしいのだ」

諸葛亮

「赤壁……長江に面した土地ですね。なるほど……長江を使って白装束達の行動を抑制するんですね」

冥琳

「そういうことだ。我らも一度建業に戻り、兵を引き連れて赤壁へと赴く……劉備と孫策という英雄二人が餌になれば、白装束を束ねる奴、あるいは奴らは必ずや赤壁に来るだろう。そこで決戦だ」ここまで冥琳が説明したところで関羽が尋ねてきた。

関羽

「決戦は良いが……どう闘うつもりだ?」そういや空を飛ぶ魔物への対策不足は否めないな。

竜馬

「空は俺達に任せな!」

冥琳

「さっきの鉄の鳥みたいな物か……まあ、他に当てもあるまいな」親指をサムズアップしてドヤ顔を決める竜馬。ところでガソリンもないこの世界でどうやって動かしているんだろうか?

ドラちゃん

「オイオイ、俺も忘れんなよ!」うんうん。ドラちゃんも加われば、空対策は万全かな?

冥琳

「大軍相手に効果のある策は一つしかあるまい?」

諸葛亮

「……ですね」

冥琳

「ならばその策を最も効果的に使えるように、周辺の環境を整える……そのためにも、決戦は赤壁で行わなければならんのだよ」

諸葛亮

「なるほど……了解しました」

冥琳

「……さすが諸葛孔明。我が策を悟ったか」

諸葛亮

「はい」

冥琳

「ならば後は孔明に任せよう……両軍の知、両軍の武。この二つを奴らに思い知らせてやろう」

諸葛亮

「はい!ふふっ、楽しみですね」えっと……孔明ちゃん?笑顔で何物騒なこと言ってんの?

冥琳

「ああ。では一週間後、赤壁の地で再会しよう……さらばだ。行くぞ向田」

向田

「あ、ああ……じゃそういうことでよろしく」

竜馬

「オウ!」

隼人

「……フッ」

慶子

「ええ」冥琳は諸葛孔明に、俺は現代人トリオに別れを告げて自分達の陣地に帰った。

 

~劉備陣営(視点なし)~

 

関羽

「本当にこれで良いのですか……?」

劉備

「うん……周瑜さんの言葉を全部信用したワケじゃないけど。でも朱里ちゃんの言葉を聞けば、こうするしかないって私は判断する……ダメだったかな?」

関羽

「いいえ……我らは桃香様のご判断に従います。それが臣下であり、友であり、盟友である我ら全ての想い……」

張飛

「白装束達に目にもの見せてやるのだ!」

馬超

「おお!派手にやってやろうぜ!」

趙雲

「ふっ……我らが猪武者共は、お気楽極楽なものだな」

馬超

「って言いながら、自分だって早く闘いたくてウズウズしているくせに」

趙雲

「当然!このような大戦、滅多にあるものではないからな……存分に暴れさせてもらうさ」

張飛

「どっちが猪なんだか良く分かんないのだ」

劉備

「あははっ♪とにかく全力尽くして、白装束の人達をやっつけよう!みんな、力を貸してね」

関羽・張飛・趙雲・馬超

「「「応っ!」」」

 

~向田視点~

 

 陣地に帰ると雪蓮と蓮華が俺達を待っていた。冥琳が劉備とのやり取りを報告する。

蓮華

「……そうか。劉備は承諾したか」

冥琳

「相手が相手なだけに、一人で立ち向かうほど愚かではない……といったところでしょう」

向田

「だけどこれで勝ち目が出てきたな」

雪蓮

「そうね……蓮華。私達はすぐに建業に戻り、体勢を整えたあと、赤壁に向かうわよ」

蓮華

「しかし……奴らが建業を攻めてきたらどうします?」

雪蓮・冥琳・向田・有希

「「「うーん……」」」俺達が首を捻っていると、プリウスが妙なことを言い出した。

プリウス

「それはないっスね……あいつらプライドだけは無駄に高いっス。だから一個撃破より両軍が集まったところを一気に始末しようと考えるハズっス」語りだしたプリウスに冥琳が怪訝な目を向ける。そういやあいつらはデミウルゴス様の元部下だったな。ならプリウスと面識があってもおかしくない。しかし……この状況でそれを言ったらマズくないか?

冥琳

「お前……やけに奴らについて詳しいな」

プリウス

「貂蝉さん情報っス」……誤魔化した!貂蝉に全部押し付けた!意外に強かだな!

蓮華

「……分かった。で、奴らとの闘い、猶予はどれだけありそう?」

冥琳

「これまでの傾向から考えるに、およそ一週間……それまでに体勢を整えなくてはなりません」

雪蓮

「よし。ならばすぐに建業に早馬を出し、兵を揃えさせよう。出征している兵達は建業に到着後、一日休息を取る……その後に出陣だ」

冥琳

「御意」指示を出す蓮華とそれに応える冥琳。そんな2人を見て、ナゼかニコニコしている雪蓮。

向田

「こんな時に笑うなんて不謹慎だぞ、雪蓮」

雪蓮

「そうね。分かってるんだけど……蓮華の成長振りが嬉しくて、つい顔が綻んじゃうのよ。これならいつ隠居しても大丈夫そうね」あーそうですか……

雪蓮

「その後は剛と一緒に、冒険者とかいうのをやってみようかしら?」え?

向田

本気(マジ)!?」

雪蓮

「アラ、私はいつだって、マジメよ」

向田

「どこがだよ!?まあ、それもあいつらに勝ってからだけどな」

雪蓮

「勿論よ」そう呟くと雪蓮は急に黙った。何か考え込んでいるみたいだけど……

雪蓮

(いよいよ最後の決戦……母様。見ていてね)

 

 いよいよ残る最後の敵、左慈と于吉、荀彧との決着に備えて建業へと戻って来ていた。

 敵は神界に謀反を起こした、本来は世界の管理者を務めるハズの左慈と于吉。それに曹操を裏切った荀彧。奴らの軍勢は、噂では50万とも60万と言われている。その大軍勢に対抗するため、雪蓮と蓮華は呉全土に総動員令を掛けた。

 

 こうして、かき集められるだけの兵をかき集めるのに3日を費やし、更に1日休息を取って万全の態勢を整える。

 これが最後の闘いになるのか……それはまだ分からない。ただ1つ分かっていることは、俺達はこの闘いに勝ち残らなければならないってこと。

 

 先代呉王孫堅さん、そして雪蓮と蓮華の夢を実現させるため──

 

 城内の玉座の間には隠居予定の雪蓮に代わりに、蓮華が腰を下ろしている。その蓮華にはもう立派な一国の王としての風格が漂っていた。

亞莎

「蓮華様。全ての準備が整いました……もはや出陣の時かと」

蓮華

「……ああ」恭しく進み出た亞莎の言葉に頷きを返し、蓮華は玉座からゆっくりと立ち上がる。

蓮華

「皆、揃っているな」

「はっ。将は全て御前に控えております」

「兵の皆さんは城門にて、蓮華様のお言葉が掛かるのを待っておりますよ」

思春

「蓮華様。出陣の号令を」

蓮華

「……分かった」

向田

「1人で大丈夫か……?」

蓮華

「大丈夫……しっかりやってみせるわ。母様に褒められるぐらい、しっかりとした号令をね」

雪蓮

「あの母様が誰かを褒めるなんて、なさそうだけど……蓮華、しっかりね」

蓮華

「……はい」小さく──しかし力強く頷いた蓮華は、ゆっくりとした足取りで城壁へと向かっていった。

 

 城門の下──孫呉の精鋭達が整列し、静かに出陣の合図を待っていた。城壁の目に進み出た蓮華の姿に、整列していた兵士達が一斉に歓声を上げる。その歓声を、ただじっと受け止めていた蓮華は、やがてゆっくりとした所作で片手を上げると、兵士達の歓声を抑制した。

蓮華

「孫呉の勇者諸君!」良く通る、澄み切った声が天に木霊する。

蓮華

「これより我が軍は赤壁へと進発する。目的は……憎むべき敵、左慈と于吉の打倒である!先代孫伯符を卑怯なる手で暗殺しようとした奴らを……国を乱し!平和を乱し!罪のない者達の命を奪い!今、天下を滅せんとする輩共を!私は断じて許しはしない!であろう、孫呉の勇者諸君よ!」

兵士達(モブ)

「「「応っ!」」」

蓮華

「今、我らは立ち上がり……我らのこの手で奴らを討ち果たすのだ!孫呉の勇者達よ!勇ましき我が兄弟達よ!この孫仲謀に( そんちゅうぼう )力を貸してくれ!国のために!平和のために!天下のために!……孫呉三代の夢の実現のために!」

兵士達(モブ)

「「「応ぉーっ!」」」蓮華の言葉を受けて、兵士達1人1人が天に向かって腕を突き上げ、咆哮にも似た雄叫びをあげる。まるで俺達も同じだと言わんばかりの声。その声は、城壁に立っている俺達の腹中を貫き、蒼天を衝いた。ところで……この声、デミウルゴス様を始め、神様ズにも届いているのかな?それはさておき、蓮華の号令によっておおいに士気を高めた俺達は、建業を出発し、劉備達と合流するため、赤壁へと向かった──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回無印ベースになると言ったのに、結局真・呉編ベースになってしまった……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十五席祭と冥琳、大喧嘩するのこと

蜀バージョンの第四十七席とほぼ同じサブタイ……失礼しました。
(^_^ゞそれにしても間が空いたなぁ(遠い目)


~劉備陣営(視点なし)~

 

 その頃、蜀では軍法会議が行われていた。

 

諸葛亮

「桃香様。たった今、孫呉の軍勢が出陣したとの報告が届きました。まずは予定通りですね」

劉備

「……予定通りなのかな?」

諸葛亮

「はい。道中何もなければ、予定通り合流出来ることになるかと」

劉備

「了解……私達の準備は整ってるのかな?」

関羽

「はっ。集められるだけの兵を集め、すでに部隊の編成を終えております」

呂布

「……恋も協力する」

劉備

「うん。恋ちゃん……一緒に頑張ろうね」

呂布

「……(コクッ)」

劉備

「いよいよ、白装束さん達と決戦だね……でも朱里ちゃん。周瑜さんと話してた、大軍相手の闘い方ってどういうことなの?」

諸葛亮

「それは……内緒です。すみません」

趙雲

「内緒?ふむ……我らにも作戦内容は教えられんというのか?」

諸葛亮

「はい。彼らが勢力を拡大出来た一つの要因。それは諜報能力の高さだと思うんです。そして……間違いなく、我が陣営にも彼らの間諜が紛れ込んでいるでしょう。だから、今、ここで作戦を言うワケにはいかないんです……」

劉備

「そっかー……じゃあ作戦はぜーんぶ朱里ちゃんにお任せしちゃうね」

諸葛亮

「え……?良いんですか……?」

劉備

「うん。朱里ちゃんのこと、信じてるから♪」

諸葛亮

「……ありがとうございます!ご期待に応えられるように、たくさん頑張りますね♪」

劉備

「こちらこそ、よろしくね♪」

諸葛亮

「はい!では皆さん、二刻後に赤壁に向けて出発しましょう♪孫策さん達と合流したあとは、各部隊を編成し直し、敵が来るのを待ちます!」

関羽

「分かった。ではすぐに準備に取りかかろう……行くぞ、星」

趙雲

「応っ」

 

 その頃、左慈と于吉は曹操の拠点だった許昌を乗っ取り自分達の拠点としていた。左慈は白装束を使い、かの地で暮らす人間を皆殺しにしようとしたが、それを見越したデミウルゴスが一足先に『呉に降りた天の御遣いに従い、即刻許昌を捨てて逃げるように』と街の人々に天啓を授けていた。当然向田もこの報せを受けて、フェル達を伴って人々を建業まで先導した。蓮華を始め、呉の首脳陣は左慈の企みをナゼ向田が知ったのか不思議がっていたが。

荀彧

「左慈。たった今、呉の国内に放っていた細作から報告が送られてきたわ……どうやら孫権と劉備が再び同盟を組んだみたいね」

左慈

「ケッ、素早いこった……流石周公謹に諸葛孔明……といったところか」

于吉

「御意……戦闘をしていた両軍がここまで早く和睦、同盟の流れを作るとは」

荀彧

「そもそもアンタが華琳様を利用しようと目論んだのが失敗の元じゃない……」

于吉

「オヤ?曹操を裏切った貴女が今更何を?」

荀彧

「何ですって!」操られて左慈達についているとはいえ、曹操への(歪んではいるが)愛を断ち切れない荀彧と于吉は目から火花でも出しそうな勢いで睨み合うも、左慈に怒鳴り付けられる。

左慈

「黙れ貴様ら……!劉備も孫策も流石にバカではない、ってことか。来るなら来い!にわか同盟なぞ、この俺が打ち砕いてやる!」

于吉

「そうは言いますが左慈。劉備と孫権が結盟したということは、敵の数が膨らんだということです……一筋縄ではいきませんよ」

左慈

「荀彧。両軍の動きはどうなっている?」

荀彧

「劉備、孫権ともに本拠地を出て、長江流域、赤壁へと向かっているそうよ」

左慈

「そうか……なら俺達もそこへ向かう。移動の準備を急がせろ!」

荀彧

「待ちなさい!赤壁などに向かわず、下丕と建業を制圧すれば、この闘いに勝てるわよ」

于吉

「そうしたいのは山々ですがね……あのクソジジイのことです。それならそれで何かの策を呉の御遣いに授けているに決まってます。この許昌が良い例です」

左慈

「ああ。だったら正面切って奴らを殺してやればクソジジイをより悔しがらせてやれる」口角を上げる左慈。その恵美には悪意がある、もとい悪意しかない。

 

~向田視点~

 

 元許昌の人々を連れて、赤壁の城に到着した俺達。ここが主戦場になるのかと、冥琳に聞いてみると

冥琳

「まさか。ここは劉備と合流するための城だよ。主戦場はここより北方になるだろうな」と返ってきた。

「やっぱり船戦になりますかぁ」穏がいつになく、神妙な面持ちで呟く。

冥琳

「白装束の大軍と平地で闘う気にはなれんからな」

フェル

『なら平地に誘き出せ。そうしたら我が単身で向かって一捻りにしてくれる!』相変わらず水嫌いのフェルが吠えるが、プリウスに諭された。

プリウス

『そんな自ら弱点を晒すなんて戦法、愚の骨頂でしかないっスよ。奴らだってお見通しのハズっス』プリウスにハッキリ言われて、フェルも流石に渋々といった様子ながらも引き下がった。

有希

「しかし……敵の動きが読めませんね。左慈達はどんな進路で赤壁に向かっているのか……」

「私達が建業で態勢を整えたのと同様に、左慈も自らの拠点に戻って態勢を立て直したと見るべきでしょうね」

亞莎

「となると、許昌を進発した左慈は、新野から襄陽を通り、江陵を落として赤壁に来る、という流れでしょうか……」

冥琳

「その通りになるだろうな」

向田

「いよいよ決戦間近ってことか……ところで肝心要の蓮華はどこへ行ったの?」

雪蓮

「蓮華は劉備を迎えに行っているわ……劉備と合流したあとは、すぐに赤壁付近に陣を張るから、そのつもりで居てね」

向田

「げっ。また移動?……この城でしばらくゆっくり出来るんだと思ってた」

「暢気ですねぇ、剛さん」

フェル

『お主……一番言われたくないヤツに言われてるぞ……』

穏「ひどっ!」

亞莎

「とにかく。今は劉備さんの合流を待ちましょう」

冥琳

「ああ」

 

 やがて、劉備の参着が報告され、俺達は再び兵を率いて城の外に出た。長江のほとりに布陣した俺達は、軽く自己紹介を交わしたあと、すぐに劉備達との合同軍議に入った。

 

劉備

「状況はどうなっているんです?」

蓮華

「現在、左慈は襄陽より荊州方面に周り、我らの城である江陵を攻めている……ここに来るまで、あと一日程度というところだろうな」

劉備

「あと一日……いよいよ決戦なんですね」

蓮華

「そうだな……穏。左慈の率いる兵の正確な数は出たか?」

「はい。江陵より放たれた伝令の報告によれば、敵はおよそ四十万ほどかと」

関羽

「四十万っ!?……我らと差がありすぎるな」

趙雲

「我らは両軍合わせて十五万ほど……この闘い、厳しくなりそうだな」

向田

「で、でもこっちにはフェル達が居るし、そっちにも戦車や戦闘機があるだろ?」

有希

「とはいえ、向こうもこちらに近代兵器があることも既に折り込み済みでしょう。プリウスやフェル達への対策も考えているのでは?」

思春

「と、なると何か策を講じる必要があるな……」

明命

「一概に策と言っても、何をどうすれば良いのやら、ですねぇ~……」

冥琳

「明命の言う通りだろう……いくつか策はあるが、どれも決め手に欠ける」

諸葛亮

「敵は我らの数倍ですからね。よっぽどの策でない限りは、数の暴力で粉砕されてしまうでしょう」う~ん、確かに……俺達はまだしも、孫呉や劉備達はやられちゃうよなぁ。それじゃそもそも参加する意味がない。何か手はないものか。さしもの冥琳も眉間に皺を寄せ、あれこれ考えているようだ。

フェル

『そんなもの決まっておろう、策なぞ要らん。ただ飛び込んで敵を一掃すれば良い』そこへフェルが口を挟んできた。

向田

「相変わらずムチャなこと言うなあ……」俺が呆れていると

ドラちゃん

『そうだぜ。闘いなんてのは身体動かしてナンボだろ?いちいち策とか練る必要ねえよ』ドラちゃんもフェルに賛同している。ったく、お前らはそれで良いかもしれないけどさ……兵士達のことも少しは考えてやれよ。

「うむ。お主分かっておるではないか」祭さんまでフェルに賛同し始めた。

「そもそも戦は我ら武官の仕事じゃ。頭でっかちの文官どもが、ゴチャゴチャと御託を並べて進むもんでもないわい」

冥琳

「……それはどういう意味だ?」

蓮華

「冥琳、怒るな……祭とて本気で言っているワケではない」

「いいや、本気さね……曹操との大戦を前に、策が何だ、作戦がどうだ、ピーチクパーチク言葉遊びをしておるひよっこ共に、いい加減腹が立っとる。貴様ら、戦を盤上の遊戯か何かと間違えとりゃせんか?戦とはなぁ!己の力を最大限に発揮して、敵を殺戮することじゃ!」

フェル

『大賛成だ!』

ドラちゃん

『オウ!』

スイ

『オ~♪』あ~あ……スイまでノッちゃったよ。

有希

「アレ?これってひょっとして……」有希君が何かを思い出したように呟いた。

向田

「どうかした?」

有希

『この光景……僕らが知ってる三国志演義にも同じ場面があったハズですよ』俺の問いに念話で答える有希君。そして詳細を説明されて、俺も納得する。ならこれ以上口を出す必要はないな。

 

 その後……祭さんは軍議より連れ出され、フェル達は意見が通らないとみると、ふてくされてこの場から姿を消した。しかし有希君から実情をきいたとはいえ、この状況は居心地悪いな……

関羽

「……周瑜。はっきりと言わせてもらおう。今の貴様らと同盟を組むことに、我らは危惧を抱いている」関羽が蜀を代表して、苦言を呈しにきた。ま、想定内だな。

張飛

「闘いの前なのに、ああいうのはないのだ」

趙雲

「ああ……兵の士気を削ぐこと甚だしいぞ」この前冥琳に論破されたせいか、蜀の連中言いたい放題だな。

冥琳

「……孔明。貴様も同じ意見か?」冥琳は関羽や趙雲に見向きもしないで孔明ちゃんを問い質す。

諸葛亮

「言葉を返さなくても、周瑜さんは分かってくれていると思います……」孔明ちゃんは何か気づいてるみたいだな。まあ相手こそ違えど、元々は諸葛孔明の策だし。当たり前っちゃあ当たり前か。

冥琳

「そうか……関羽よ。これは呉内部のこと。同盟を組んだとはいえ、内部の人事については口を出さないで欲しいな」

関羽

「何っ!?」

向田

「ま、まぁまぁ……黄蓋のことで不安になるのも分かるけど」俺が関羽を宥めようとすると、珍しく有希君が口を挟んできた。

有希

「左慈との闘いには何ら影響はない。それは保証するから、ピリピリしないで貰えると助かる」

劉備

「影響ないって……どうしてそんなことが言えるんですか?」

向田

「んー。俺達の絆は、こんなことでどうにかなるほど弱くはないからね」

劉備

「絆……ですか」

向田

「そう。絆……劉備達にだって、絆があるだろ?その絆、すぐに切れる?」

劉備

「絶対に切れませんよ!」いつになく強い口調で答える劉備。俺は諭すように話を続ける。

向田

「なら、そういうことだよ」

竜馬

「なあ向田さん……ひょっとして」蜀の元自衛隊チームも何か気づいてるようだが、

有希

「さっきも言ったけど、どこに人の目があるか分かりません。その時まで口を噤んで下さい」有希君が口止めすると竜馬は諦めたような表情になり、隼人はずる賢そうな笑みを浮かべる。1人だけよく分かってないみたいだけど。

隼人

「……フッ、そういうことか」

慶子

「?」

劉備

「……分かりました。じゃあ今のところは、まだ静観しておきます」

向田

「そうしておいてくれると助かる……まぁ、詳しいことは孔明ちゃんに聞いてくれ」

劉備

「朱里ちゃんに?」

向田

「そ……それで良いだろ?孔明ちゃん」

諸葛亮

「はいっ!ちゃんと説明しておきますから、安心しておいて下さいね」

向田

「よろしく……蓮華」

蓮華

「え……?」

雪蓮

「いつまでも放心してないで。とりあえず、今はこの軍議を終わらせるわよ……まだもう少しだけ、時間はあるんだから」俺と蓮華に割って入って、蓮華を促した雪蓮は俺の方に首を回しウィンクしてみせる。勘の鋭い雪蓮のことだから、祭さんと冥琳が何を目論んでるか大体の察しがついたんだろうな。

蓮華

「あ……そ、そうですね。劉備。それで良いか?」

劉備

「私達は構いません……じゃあ私達は天幕に戻りますね」そんな言葉と共に、ペコッと頭を下げた劉備は仲間達と共に立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 




次も大分先になると思います。気長にお待ちいただければ幸いです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十六席祭、苦肉の策を実行するのこと

良く考えると、左慈がこの手の策にかかるハズもないんですけど……その辺は気にしないで下さい
(^_^ゞ


 蜀のみんなが天幕へ戻っていくと、蓮華は冥琳を怒鳴り付けた。

蓮華

「冥琳っ!この大切な時に、先ほどの振る舞いはどういうことだ!お前らしくもない!」その様子を俺は雪蓮や有希君と傍観している。

冥琳

「……今はまだ、ご説明すべきではないかと」

蓮華

「何っ!」

冥琳

「……わたしはこれから、為すべきことを成さねばなりません。お先に天幕に下がらせて頂きます」

蓮華

「な……」

冥琳

「では……」そしてホントに天幕へ戻っていった冥琳。タメ息を吐く蓮華に対して、雪蓮はあまり気にしていない様子だ。

蓮華

「……はぁ」

雪蓮

「気落ちしているわね」

蓮華

「と、当然です!この大切な時に、呉の宿老と柱石が喧嘩なんて……!」

雪蓮

「……あのね、蓮華」

蓮華

「何ですか?」

雪蓮

「もう少し、冥琳と祭を信じましょ」

蓮華

「……??どういうことですか?」

雪蓮

「あの二人が貴女にとって不利になるようなこと、すると思う?」

蓮華

「それは……」

雪蓮

「しないわよ。絶対に……だから、今はことの成り行きを静観してあげて」

蓮華

「……姉様、何か知っているのですか?」

雪蓮

「私は何も。でも剛達は何か知ってそうね」ここでもいつもの勘が冴えるか……雪蓮も相変わらずだな。つーか冥琳や祭さんをよほど信頼しているんだろうな。

向田

「……まぁね。相手こそ違えど、俺らの世界では有名な話だから……けど口に出しては言えない」

有希

「いくら自分の陣地とはいえ、どこに間諜の耳があるか分かりませんしね」

蓮華

「信じて良いんだな?」

向田

「ああ。俺達を信じろ」

蓮華

「……分かった。なら信じる……」

向田

「うん……ありがとう」大きく頷いてお礼を言いながら、蓮華の頭をクシャクシャと撫で付ける俺。

蓮華

「あん。もう……子供扱いしないで」

向田

「いやいや、今日は何だか素直に俺の言うこと、聞いてくれるからさ……嬉しいなぁって」

雪蓮

「子供扱いされるのも今の内だけよ。私なんて、しょっちゅう有希にドヤされているし」……えっと、雪蓮……子供扱い以前に君、有希君より年上だよね?まあ冥琳のことは彼に任せて俺は夜まで待機していよう。

 

~有希視点~

 

 祭さんと冥琳さんが言い争いを始めたのをきっかけに僕はこれが本来の三国志演義で云われる「苦肉の策」を案じたとみた。左慈や于吉が間諜を送ってることはとっくに気づいているから、向田さんとは念話で話す。どんな間諜も念話を聞き取ることは出来ないし、あいつらが念話を盗み聞き出きるならそもそも間諜を送らず、直接闘いを挑んでくるハズだしね。

 

 向田さんに、冥琳さんに何かあったら飲ませるように頼まれて僕は渡された小瓶を、水筒に移しておいた。やがて日が沈んでから、僕はその水筒を持って冥琳さんの天幕を訪れた。

有希

「冥琳さん」

冥琳

「有希か……何用だ?」

有希

「まぁ2、3ありまして……で。このあとは?」

冥琳

「このあととは?」

有希

「祭さんが陣地を抜け出したあとですよ」

冥琳

「……ほお。見抜いていたか」

有希

「一応。これでも1度は勇者と呼ばれた身ですから。それぐらい見抜かないと」

冥琳

「そうか……さすがだな」

有希

「そんな大したことでもありませんけど……で、どうするんです?」

冥琳

「陣地を抜け出した黄蓋殿は、左慈の陣に向かい、降伏を申し出る」

有希

「で、降伏した祭さんが、奴らの陣地の中で暴れるって寸法ですか……」

冥琳

「そういうことだ……よくぞ、我が策に気付いてくれたと思う」

有希

「……やっぱり。2人とも、事前の打ち合わせとかしてなかったんですね?」

冥琳

「そんな暇があったと思うか?」

有希

「……まさか」敢えておどけた感じで答える僕。実際に冥琳さんしかり、祭さんしかり、出陣の準備やら何やらで、大忙しだったしなぁ……

有希

「あの一瞬で全てを察したと……スゴいな、2人とも……」

冥琳

「ふっ……伊達に呉の宿将や、呉の柱石などと、偉そうな名で呼ばれてはおらんのだよ」

有希

「……ですね。何て言うか……恐れ入りました」

冥琳

「恐れ入るのはまだ早いさ……この策を成功させなければ全てが水泡に帰す……」

有希

「ええ……必ず成功させましょう」

冥琳

「させるさ。必ず……」

有希

「僕も協力を惜しみません……当面は何をすれば良いですか?」

冥琳

「今のところは何もない……いや、雪蓮と蓮華様に上手く説明をしてもらいたい」

有希

「それなら向田さんがやってますよ……雪蓮さんは勘づいてるみたいですよ。蓮華さんも信じるそうです」

冥琳

「そうか……」

有希

「あの……ムリしてません?」

冥琳

「蓮華様には……これぐらいの策を見抜く目を、次期王として当然、持っておいて頂かなければならんからな」

有希

「強がらなくて良いのに……」

冥琳

「強がってなどおらん……ところで有希」

有希

「はい?」

冥琳

「左慈との闘い、お前はどう見る?」

有希

「んー……正攻法で当たれば僕達の負けは目に見えてるでしょうね。だけど……それなら正攻法で当たらなければ良いんです。大軍相手に、正攻法でない闘いをする……そのために戦場に赤壁にしたんでしょう?」

冥琳

「ほお……そこまで分かっているなら、切り札が何であるかは見当がついているようだな」

有希

「ええ……けど、その切り札を使うにしても、川の上じゃ状況が限られてくる……そこが気になってるんですよね。今の状態じゃ……連環の計、出来ないでしょう?」

冥琳

「ふむ……そこまで見抜いていたか」

有希

「選ばれし勇者の称号は伊達じゃありませんよ」拒否しましたけど、と苦笑して続ける僕に冥琳さんは髪を書き上げて言葉を繋ぐ。

冥琳

「そのようだな……だが安心しろ。策はしっかりと講じているよ」

有希

「へっ?」

冥琳

「劉備との闘いのあと、赤壁周辺の村々に、細作を放った……新しい船の停留方法が発明されたとな。船と船を鎖で繋げば、荒波に船が流されることもなくなり、また、停留中の揺れを最小限度に抑えることで、船員の体力の消耗を抑える……そんな偽情報を流しておいた」

有希

「まさに連環の計ですね……けど、左慈がそれを信じるかなぁ?」

冥琳

「例え信じないにしても……いつだったか居ただろ?あの貂蝉とやらにも根回しを依頼しておいた。そうすれば、左慈とてムリにでも繋がれた船で出撃せねばならなくなる」

有希

「利用出来るモノは全て利用する、か……で、動けなくなったところを狙う。さすが周公謹だなぁ」

冥琳

「ふっ……褒めても何も出んぞ」

有希

「……純粋に感心しただけですよ」

冥琳

「ふむ。ではその賞賛、素直に受け止めよう」くくっ、と鼻で笑う冥琳さんが、穏やかな顔になって僕を見つめる

冥琳

「……有希。雪蓮と向田をどう思う?」

有希

「どうって……結構お似合いかと」ことなかれ主義な向田さんと無鉄砲極まりない雪蓮さんだけど、何だかんだ意外と名コンビだもんね、あの2人。

冥琳

「あとは蓮華様だな……どこぞに相応しいのが居れば良いのだが……私は少し休む。左慈との決戦が終われば……世は平和になるだろう」

有希

「そうですね……そうなれば良いです」

冥琳

「なるさ。強かではあるが、劉備は義理堅い。それに大義のために立っている人物だからな。呉の統治が(かな)っていれば、わざわざ戦をしようとは思うまい。曹操が居ない今、左慈さえ排除すれば、天下二分の計は為る……そうすれば我らが望む、平和な世界がやってくる……あと少し……あと少しだ。ゴホッゴホッ……ぐっ……」グボッと嫌な水音と共に、冥琳さんの口元から血が溢れて地面に滑り落ちた。え!?何なに!?って……吐血してんじゃん!向田さんはこれを懸念していた訳!?

有希

「冥琳さんっ!?」

冥琳

「騒ぐな有希!」

有希

「……っ!?」

冥琳

「この身に巣くった病魔が蠢き( うごめ )きだしただけだ。別に大したことではない」

有希

「大したことない訳ないでしょう!さ、これを」僕は水筒を取り出し、飲み口を冥琳さんの口へ押し付け、首を90度にして強引に流し込む。

冥琳

「お前……何を飲ませたっ!」

有希

「何って……」と、僕が言いかけると、1人の兵がこちらに駆け寄ってきた。かなり慌ててる様子だ。

兵士(モブ)

「た、大変です!」

冥琳

「どうした!」

兵士(モブ)

「こ、黄蓋様が幾人かの兵と共に、陣地を脱走致しました!」

冥琳

「なんだとっ!すぐに追手を出せ!」

兵士(モブ)

「はっ!」

有希

「始まったな……」誰にともなく小さく呟く僕だったけど、

冥琳

「ああ……一世一代の大芝居。この周公謹、見事演じきってみせよう……」冥琳さんも本気で動く気のようなので、僕も向田さんに念話で伝える。

 

~視点なし~

 

 本陣では雪蓮と蓮華、思春が脱出した祭を追撃する部隊を編成していた。

思春

「慌てるな!すぐに部隊を出して追撃するぞ!」

明命

「♪しかし!黄蓋様が……黄蓋様が私達を裏切るなんて!何かの間違いですっ!」

思春

「明命。現実を見ろ。今、この事態が起こっているのはどうしてだ?」

明命

「それは……」

思春

「希望的観測を判断の基準にするな。現実を冷静に分析し、部下に指示を出せ」

明命

「は、はい……」

亞莎

「呂蒙隊!完全武装で追います!みなさんすぐに準備して下さい!」

蓮華

「祭……どうして私をうらぎった……っ!」

雪蓮

「落ち着きなさい、蓮華。今はとにかく、部隊を指揮する者を選び、組織立って追撃しなくちゃいけないわよ」

蓮華

「そ、そうですね……では穏。お前が全軍の指揮を執ってくれ」

「了解であります♪」

蓮華

「必ず……必ず、生きて祭を私の下へ連れ戻してくれ……頼む!」

「はーい♪では皆さん、完全武装したあと、一生懸命追うふりをしましょ~♪」

亞莎

「は?ふ、ふりですか?」

「……てへっ。間違えてしまいました~。一生懸命、祭様をおいましょえね~♪」

思春

「はっ!」

明命

「はっ!」

雪蓮

(穏は冥琳の思惑にいち早く気づいたみたいね。口を滑らせたのは減点だけど……全く、ヒヤヒヤさせないでよね)

 

 

~有希視点~

 

 さて、冥琳さんにエリクサーを飲ませて、一安心したのも束の間。川に目をやると……まずいな、もう追撃準備に入ってる!

冥琳

「ふむ。さすがは蓮華様だな」

有希

「感心している場合じゃありません。僕達が先頭に立たないと、ホントに同士討ちに発展しますよ!」

冥琳

「分かっているさ……周家の部隊を集めろ。すぐに追黄蓋殿を追うぞ!何としても軍の先頭に立て!」

兵士(モブ)

「はっ!」

 

~視点なし~

 

 一方祭は、部隊を引き連れ左慈達が率いる艦へと向かいつつ、蓮華を待ち受けていた。

「ふむ……奇襲にはもってこいの闇夜だな」

兵士(モブ)

「黄蓋様。我が舟の後方より、各部隊が追撃してきております」

「ふむ。先頭の旗は誰のものじゃ?」

兵士(モブ)

「周と陸。あと旗はありませんが、フェル殿とプリウス殿の姿が」

「ほっ。向田も有希も気付いておるか。さすがじゃな」

兵士(モブ)

「はっ。最近、兵達の間でもいたく人気があるようでして」

「ほお。それは気付かなんだ。あやつらにそれほどの人徳があったとはな」

兵士(モブ)

「お二人はよく兵達にも旨い飯を振る舞っているようですからな。加えて天の御使いという評判も、影響を与えているのでしょうが……しかし、このまま追撃部隊を引き連れたまま、左慈のところまで向かうのですか?」

「うむ。そうせんと、左慈は我らのことを信用せんじゃろう?」

兵士(モブ)

「はぁ……しかし、その勢いのまま、両者激突……という危険性もあるかと思いますが」

「あのひよっこどもがそこまでバカモノならば、呉にとって必要なし……その場で死ねば良い。しかしな。皆、有能な若者達よ。激突する前にとっては返すじゃろうな」

兵士(モブ)

「そうなってくれれば良いのですが」

「きっとなる。そう信じて、我らは精々、左慈に見破られないように必死に抵抗すれば良い」

兵士(モブ)

「はっ……しかし抵抗すれば、追撃してくる部隊にも被害が出ますが、それはよろしいので?」

「多少の被害は目を瞑るしかなかろう。それに、いざとなればフェルが結界とやらを張ってくれるじゃろうて」

兵士(モブ)

「了解しました。では本気で抵抗してもよろしいのですね?」

「当然だ。追撃部隊を全滅させる勢いで、しっかりと反撃せい」

兵士(モブ)

「はっ!」

「頼むぞ」

兵士(モブ)

「了解であります。では!」

「さて……我が肉を( からだ )苦しめてまで準備したこの策。あの左慈がこの茶番にどこまで付き合ってくれるものか。見物(みもの)じゃな……」部下が目の前から去ると、そう呟いてひとりごちる祭だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遂に決着なるか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。