ダンジョン攻略していたらいつの間にか魔王に雇われていた件 (とあるスライム好き)
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始まり
今回の話は、時間軸的には最終回後。
設定はオリジナルと小説十五巻、ウェブ版の三つがありますのでご注意ください。
魔王
それはどこの世界でも人間を脅かし、恐れられる存在・・・
ではない!!!
今から約五年前に起きた歴史上最大の天魔大戦。
この戦いで人々を守った魔王達は一躍、人々の英雄となったのだ。
魔王が英雄というのもおかしな話に聞こえるが事実だ。
この世界を治める魔王は
このうち魔王ダグリュールは今はもういないのだが細かいことは気にしなくていい。
これらの魔王は過去は兎も角、今は特に人類と敵対はしていない。
そしてそんな魔王達の中でも最も最近に誕生し最も人類に友好的でありこの世界にて事実上最強の存在。
大魔王 リムル=テンペスト
その大魔王 リムル=テンペストは生まれた直後から様々な偉業を遂げている。
その一つとして有名なのは「
今までこの薬は過去の遺跡から偶然出てくることでしか入手出来なかったのだがそれをこの魔王は生まれて数ヶ月で量産したのだ。
その恩恵は凄まじくその最たる例はその魔王リムルの治めるジュラ・テンペスト連邦国の戦歴だ。
なんとジュラ・テンペスト連邦国は、過去に幾度もの侵略行為を受けながらも死者数は「0」なのだ。
これは
また、これに関係するもう一つの偉業を紹介しよう。
敵対した国には当時最強を誇っていた、東の帝国、「ナスカ・ナムリウム・ウルメリア東方連合統一帝国」もあった。
この国の軍事力はすさまじく、西方諸国の全ての兵を合わせても四十万なのに対して百万を超える。
また数の上でも、圧倒的に不利なのにもかかわらず兵の質においても西方諸国に勝機はない。
東の帝国は異世界からの訪問者、いわゆる「異世界人」と呼ばれる者達の保護に務めており、その結果として異世界の優れた「科学技術」を用いて軍事力を強化しているのだ。具体的な例で言えば戦車、飛空艇、サイボーグ兵、銃火器等々の兵器を有していた。
それに対して西方諸国では、近づかなければ意味のない剣に、発動に時間のかかる魔法が主流。
最早、西方諸国が勝つ可能性など考えるだけ無駄のように思えるが、東の帝国は負けた。
それもほとんど、ジュラ・テンペスト連邦国ただ一つに。
ジュラ・テンペスト連邦国の死者数が先に述べたように「0」であるにもかかわらず、東の帝国の死者数は「1000000」。
つまりは従軍したほぼ全ての将兵が死亡したのだ。
たった一人の犠牲者を生むこともない完全勝利だった。
しかし、この戦いでは他にも驚くべき事がある。
それは後に東の帝国の死者数が「300000」へとかわったのだ。
これはいったいどういうことか?何故、七十万も死者数が減少しているのか?
答えは簡単。
記す必要がなくなったからである。
七十万人が死亡扱いではなくなったのだ。
これが指し示す意味は、七十万人が
いや、正しく訂正するのなら魔王リムルが
これだけ聞いても魔王リムルに、とんでもない実力があるということが分かるだろう。
彼のギィ・クリムゾンでさえそんな事は出来ないだろうから。
そしてもう一つ、この戦いを語るために必要不可欠な事がある。
それはジュラ・テンペスト連邦国に滞在するもう一人の魔王、
この場所のおかげで
何を隠そう、この場所ではたとえ死んだとしても「死に戻り」、つまりは特定の位置で蘇る事が可能なのだ。
更には「
これがもし防衛拠点となったとしたら?
その結果が、無限に蘇る味方と減り続ける敵だ。つまりは文字通りの「難攻不落」という事。
さて。前置きが長くなってしまったが何故こんな事を語ったのかといえば、俺自身が今そのヤバすぎる魔王リムルが治める国にある、帝国軍七十万人をもってしても攻略出来なかったダンジョンの恐ろしさをその身に感じているからだ。
今現在俺のいる場所は
そして今ここで不運にもモンスターハウスにぶち当たってしまったのだ。
気が付くと俺はダンジョンの入口に転移されていた。
「チックショー!なんであそこで・・・」
入り口に転移しているという事は意味することはただ一つ。
「はあ・・・また、死んじまったか・・・」
ため息混じりにうつむいて呟く。
また死んでしまったのだ。もう何回目だろうか?
いや、死んだ回数を数えるというのもかなりヤバい奴のように聞こえるな。
このダンジョンでは受付に売られている「復活の腕輪」を装備していれば、たとえ死んだとしても入口に転移して生き返ることができるのだ。
しかし、分かっていた事だが鬼難易度。
一攫千金を夢見てこの街に来たわけだがやはり現実は厳しいねえ。
でもダンジョンに潜る事を諦めることは出来ない
そんなことをしたら俺の収入源がなくなる。
ひいてはこの国のすんばらしい食事や宿を手にする事が出来なくなると言う事。
そんな事は断じて認められない!
そう思うだろ?・・・ん?なんだって?お前は誰?
ああそう言えばまだ俺の名前を言ってなかったな。
俺の名前は「ソーヤ・サトー」。
ブルムンド王国で七年ぐらい活動していたBランク冒険者だ。
えっ?何?変な名前だって?うん。まあそれは俺も思ってる。
こんな名前になった理由は俺の爺さんに関係している。
噓か本当かは知らないがどうやら、俺の爺さんは先程あげた「異世界人」とやらだったらしい。
その爺さんが俺に名前を付けたからこんなちょっと浮いた名前になってしまったのだとか。
おかげで髪の毛の色も黒いしどこか異国風の顔だちをしている。
この名前と顔のせいで最初に自由組合に冒険者登録した時は『もしかして異世界人の方ですか?』とか聞かれてしまった事もあったっけ。
でもその反面いいこともある。
俺のランク、さっきBランクって言っただろ。俺がここまでくることができたのもこの力によるものが大きい。
その力とは
ユニークスキル 「
俺がまだ十三ぐらいの時に突然現れたみたいだ。
この力は至ってシンプル。体で触れた物は生命のあるなし関係なく、その名の通り「縮める」ことができる。
攻撃手段としては、大きな岩などに触れて小さくして持ち運び、戦闘時にそれを投げて能力を解除する。それで元の大きさになった岩で相手を押しつぶして倒すというもの。
ただし面倒な事も多い。
一度にそんなに多くの物を縮めた状態にしておくのは無理。俺が縮めていられる容量には限りがあるのだ。
また、複数の物を同時に縮小させることはできない。
例えば、物体Aを縮ませている最中に物体Bは縮められない。物体Bを縮めるためには物体Aを縮ませる事を中断しなくてはならない。
更に触れた物が瞬時に小さくなるのではなくて段々と小さくなっていくのだ。
また、縮めていられる時間にも限りがある。
体積のデカイ物程、縮ませるのにかかる時間は多い、その反対に縮ませていられる時間も短くなる。
とまあこんな感じだ。
正直言ってこのランクまでこれたのもこのスキルのおかげだけど、ここで止まっているのもこのスキルのせいもあると思ってる。
Aランクの冒険者でさえ持つものが少ないユニークスキルをくれたのはありがたい。
ありがたいけどさ・・・正直言ってもっと戦闘向きなのが欲しかったです・・・
だが今ではなんだかんだ言って生活において必要不可欠なスキルとなっている。
戦闘以外の生活面に関しては意外と有能スキルなんだなあ、これが。
それに実は長年このスキルを使い分かったメリットがある。
それは同じものを何回も縮ませれば縮ませるほど縮小にかかる時間が短くなり、その持続時間が延びていたのだ。
おかげで冒険者になりたての頃から使用している短剣は最早発動とほぼ同時に縮ませることができる。
でも大きくするなら兎も角小さくして便利なことと言ったら運びやすい、ぐらいなんだけどね。
そんな感じでユニークスキルであっても戦闘行為に不向きなことには変わりなくこうして、死に戻りを繰り返している訳だ。
死ぬ前に手に入れた魔晶石や魔物の部位などを受付にて換金し宿に戻る。
その途中で金銭的にすこしでも余裕があるのなら飲食店「れすとらん」というところでうまい飯を食い、美酒を飲む。
そんな風に過ごしていくのだと思っていた。
あの出来事が起きるまでは・・・
試しに書いてみたら意外と楽しくなってきてしまった・・・
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再挑戦
突然だが、俺の部屋についてご説明しよう。
俺の住んでいる宿はここ
それでも他国の高級宿に匹敵しそうなほど手入れも行き届いている。
初めてここに来た時は『えっ?ここホントに銀貨三枚?』とわが目を疑ったものだ。
内装もかなり広く縦五メートル、横三メートルの部屋だ。
人によっては『何それ小っちゃくね?』と思う人もいるかもしれないが、男の一人暮らしでしかも仮住まい。
こんだけあれば十分だ。
さて、それで俺の部屋にはなにがあるのか?気になる方もいるかと思う。
俺の部屋にあるのは、先ず、元から置いてあるベットとクローゼット。
あと、その他諸々の備品。
そして最も目立つのは部屋の隅に置かれたツボだと思う。
この中にはいっているのは俺の「
ただ、能力が切れてしまえば元の大きさに戻る、つまりはこの宿が壊れるため捨てにいくのと同時に、毎日コツコツとスタックしていってるのだ。
岩を拾ってくる場所は多々あるが、その多くは過去この街に通ずる街道を建設する際に廃棄された岩が一か所にかためられている箇所があるためそこで拾ってきている。
それは今日も同じ。
ただ、昨日は違った。その理由は・・・
「うん。よく縮まってるな」
そう言いつつ地面に転がる小石をひろう。
まさか、誰もこれが元は体積が二十メートルをこす大岩だっただなんて思いもしないだろう。
おれが普段使っているのがおよそ三立方メートルの岩だということを考えればとんでもないことが分かる。
この岩を見つけたのは今から三日前。
今まで使っていた岩が、段々と砕けて使えなくなってしまったので新しく使える岩を探していたのだ。
そんな中見つけたのがこの大岩。初めは崖の一部だと思っていたがために驚いた。
ただ、問題はその岩がでかすぎたこと。
おかげでこいつを縮める三日間の間、岩、つまりは武器の補給が出来なかった。
それに加えて俺が縮めていられる容量にはかぎりがあるためこいつを縮める為に多くの岩のサイズを元に戻す羽目になったのも痛かった。
だがそれに見合うほどのメリットはあったな。
「よし。これがありゃアイツにも勝てるな」
アイツというのは地下第二十層のボス「エビルムカデ」だ。
前に一度だけ挑んだ事があったのだが、広範囲攻撃であり強力な麻痺作用を加える「麻痺吐息」を受けて敗北していた。
だが、今の状態の俺なら難なく倒せる相手だろう。
前は投げた岩が小さかったためあの蛇の様に細い体に当てれないで負けたのだ。
むしろ今の俺なら三十階層のボスのオーガ五体でも勝てると思う。
そう考えると昨日の敗北の悔しさも薄れるというものだ。
こうして俺は意気揚々とダンジョンへと足を運ぶのだった。
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驚愕の存在
地下に広がる岩造りの通路。
そこに響く金属音。
しかしその音は無限に続くわけではない。
今までで一番大きな金属音が響いたあと、その音は止んだ。
そして暗闇から返り血と思われるシミのついた服を着た男が出てきた。
ふう疲れた。俺はその能力の性質上狭い通路が苦手なのだ。
こんな狭いところで岩を元のサイズに戻してみろ。俺が死ぬ。
これが実は、俺がダンジョンが中々攻略出来ない理由だったりする。
だけどそれももうじき終了する。
俺が今いるのは第十九階層。
ボス部屋のある二十階層はそこのボスであるエビルムカデのもともとの生息地である「封印の洞窟」に似た環境になっている。「封印の洞窟」というのは竜種である「暴風竜 ヴェルドラ」が入っても問題ない広さを有する巨大な洞窟だ。
そのため、そこをモデルとしている二十階層は広いのだ。
そして広いと言う事は俺も満遍なく本気で挑める。
そうこう考えている間に次の階層へ行く階段を発見した。
「ようやく見つけた」
かつて一度だけおりた階段だ。
なんだか変な気分だな・・・
いやまあそんなことはどうでもいい。
さっさとリベンジしに行こうじゃないか。前は負けたが今度は勝つ。
その思いを胸にひめ俺は階段を降りていった。
こうして二十階層へ来た俺だったが、ついて直ぐ違和感を覚えた。
壁に何やら溶けたような跡があったのだ。
ただ、そこではまだあくまで違和感のレベルであった。
ここ二十階層はⅭランクの冒険者でもチームで来れば比較的簡単に来ることができる。
チームでなら簡単というのなら何故そうしないのか?と思う人もいるだろう。
答えは簡単。性に合わないのだ。パーティーを組んでも長続きしない。
まあそんな俺のボッチなことは置いといて、となればその冒険者たちの仕業であるということも考えれるからだ。
だがそれも、俺の無意識のうちの現実逃避だったのかもしれない。
実は、俺の頭にはその溶けた壁を見た時からある魔物が浮かんでいた。
しかしそれを理性が拒んだんだ。そんなことはあり得ないと。
だが ボス部屋に近づけば近づく程、俺の違和感は現実のものとなっていく。
それが完全に確信に変わったのはまるで毒物によって溶かされたかのようなボス部屋の扉を見た時であった。
ウソだといってくれ。あってほしくない。心からそう思った。
ただ現実というのは残酷だな。
中の状況を確認しようと溶けたボス部屋の扉から中を覗いた俺の目に映ったのは、俺の盗伐目標だったエビルムカデをまるでオヤツの様に食い殺す、ここにいるはずのない第四十階層のボス。「封印の洞窟」の守護者として恐れられていた
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脅威の討伐
今日も今日とてダンジョンは問題なく運営中。
『リムル様!ダンジョンにて問題が発生しました!』
じゃなかったな・・・
俺に「思念伝達」を送ってきたのはベレッタだ。
しっかし問題ってなんだよ?
『おお。ベレッタどうした?何があった?』
『それが、
は?マジか?
何だって、
うーん・・・考えられるのは二十階層に偶々そいつが生まれるに足りる魔素だまりがあったってことぐらいか。
あり得ない話じゃないけど、可能性としてはかなり低いぞ。
だが先ずはダンジョンの運営側としてしなくてはならない事がある。
『よし。ベレッタ、悪いんだが今のうちにそいつを四十階層まで移しといてくれるか?そのまま放置って訳にもいかないからな』
ゲームでもそうだがバグは直ぐに修正しないとそのゲームの人気が下がり、修正がはやければそのゲームはかなり人気が出る。全てのゲームがこれに当てはまるのかと言えば違うけどな。
今回の案件をバグと仮定すればこれを放置することはダンジョンの人気が下がる事につながるのだ。
ならば速攻でバグを消し去るべきだ。
しかしベレッタの反応は俺の予想外だった。
『あっいえ、リムル様。只今一人の冒険者が戦っており見た様子、
また、は?マジか?だよ。
だって二十階層に出たんだろだったらそこにいる冒険者も当然二十階層クラスの強さ、つまりはBランク前後ということ。それに対して
ハッキリ言うがそこまでの実力差がある上にチームでなら兎も角、ソロじゃあ勝ち目はないはずなのだ。何せ開国祭の時点ではの話ではあるがシオン配下の
だが、ベレッタの話では冒険者側が勝ちそうなのだという。
アイツの目は節穴ではない。むしろ覚醒魔王級の相手すら、寄せ付けぬこの世界でも指折りの強者だ。
そんなベレッタが力を図り違えるとは考えにくい。
そう考えた俺はダンジョンの管理室へと転移した。
理由は簡単。その戦いを観戦するためである。
「こちらです。リムル様」
ベレッタに連れられて二十階層のモニターの前まで移動する。
そのモニターには確かに
そこで俺が気になったのはボス部屋に散乱する岩々だ。
見てみると冒険者が投げる小石が岩に変形していっている事が分かる。
「アイツ、ユニーク持ちか?」
この場合のユニーク、というのは勿論ユニークスキルのことだ。
エクストラスキルであんなことができるとは思えないからな。
「はい。恐らくは ユニークスキル「
どこから持ってきたのかベレッタが資料を持ってそう言う。
仕事ができるね。というかラミリスの部下になったからこのくらい出来る様になったのかな。仕事とか押し付けられて・・・
というか名前が「ソーヤ・サトー」?
なんだこいつ異世界人か?なんか妙に日本人っぽい名前だな。「サトー」とかも「佐藤」だろうし。
それにブルムンドで活動していたのか。
じゃあ後でこいつがどんな奴かエレン達に聞いてみるか。
「そうか。ありがとなベレッタ。にしても面白いな、コイツ」
ベレッタに感謝しつつモニターに映る「ソーヤ・サトー」に目を向ける。
なるほどね。これならベレッタがこいつが勝つと言っていた事が少しだが分かったかもしれない。
*
「聞いてね---!!!!」
第一なんで四十階層のボスがここにいんだよ⁉おかしいだろ!
だが、泣き言ばかりも言ってられない。例えどんな理由でここにいるのか知ったところで、ここにいることには変わらないのだから。
戦わなければならないのだ。このダンジョンに来たからには・・・
それにこれは逆にチャンスだ。
ここでコイツの魔石をゲットすればしばらくは金には困らない。冒険者としては、賭けに出るべきだ。何せ、冒険者というものは元来、お宝求めて危険に飛び込む者達を指す言葉なのだから。
それに今の俺は過去最高!また、どっちにしろここで大岩を使わねばならない。
このダンジョンに潜ってからはや五日。途中でいくつか岩を捨てながら何とかここまで持ってきたがそろそろ限界だ。後数時間後には大岩は文字通り、大岩に戻るだろう。
コイツと直接戦った事はないが、攻撃手段とその対処法なら知っている。超強力な「毒霧吐息」と強靭な肉体だ。
酒場で上位陣が話あってたからな。地味なことと思うかもしれないが、弱い奴ほどこういうことにこだわらないと冒険者なんてやってられない。
時として情報というものは、どんな高価な武具にも勝る強力な武器となるのだ。
そしてそんな攻撃に対する対抗手段とは、遠距離攻撃。
こいつの「毒霧吐息」は射程が約七メートル。
つまりは八メートル以降からはそのブレスはとどかないのだ。
だが、逆に言えば七メートル内なら俺の負けは確実というわけ。
それを知らずにここにきていたら絶対に瞬間的に溶かされて死んでた。日頃の地道な努力が実を結んだ瞬間だな。
ということで先ずは障害物を立てて身を隠せるようにしとこう。
腰に下げた袋から縮めた岩を取り出して辺りにばら撒く。
あわよくばこれで
普通に投げてもかわされるよな、そりゃ。伊達にA-ランクの魔物じゃあないってことか。
だが、予定通りだ。幸いにもテンペスト・サーペントとエビルムカデは行動パターンや攻撃に類似点がある。エビルムカデ用の作戦が使える。
あの巨体だ。岩で空間を狭くするというのは移動能力を低下させるという面で非常に効果的なはず。
そこで動きが鈍ったところにこの大岩をぶつける。さしものテンペスト・サーペントもこれを受けて死なないことはないだろう。
しばらく投げて段々と通路が狭くなっていくと、テンペスト・サーペントの顔も心なしか険しくなっている気がする。
蛇の顔なんてわからんけど少し怒っている様に見えるのだ。
このまま慎重にいけば勝てる!俺でも勝てるんだ!
ただ人間、安心した時が一番危ないという事を忘れていた。
爆音と共に俺の左足に激痛が走る。
「ぐァアアァアア!!!」
足を抱えて転げまわる。
一瞬、何が起きたのか理解出来なかった。
勿論七メートルの間合いに入ってもいないし、尻尾で攻撃もされてない。
いや尻尾では間接的に攻撃されたのか?
改めてテンペスト・サーペントを見ると尻尾で周りの岩を砕いていた。
その破片が俺の足に当たったのだ。
この時、テンペスト・サーペントがニヤリと口元をあげたように見えたのは、きっと俺の幻覚ではないのだろう。
油断しているつもりはなかった。いや、無意識のうちに油断していたんだろう。
だから負傷した。途中で倒した魔物からドロップした、
いやそれ以前にこのままじゃせっかくの障害物が無くなり、大岩もよけられてしまう。
もう、残りの岩も少ないのだ。
つまりは今、この状態で奴を倒さなくてはならないということだ。
無茶な事だがやるしかない!
テンペスト・サーペントが近づいてきて「毒霧吐息」をはくがそれを咄嗟に岩を元の大きさに戻してガードする。それだけでこの岩が半面溶けてしまったのだから恐ろしい。
だが、引くことなく、ついでに大岩以外の全ての岩をなげつけ元の大きさに戻す。案の定全てよけられてしまうが動きにくくはなった。
この時ひとつだけ岩を床に落としてしまったがそんな事を気にしている場合ではない。
テンペスト・サーペントがその岩を壊して近づいてきているのだから。
これで決める!
その気持ちと共に今は小石となった大岩をなげつけ、「
ドゴオォォオオオン!!!
凄まじい轟音と爆風。
一瞬、手で耳をふさいでいても本気で鼓膜が破れるかと思ったほどだ。
「やったのか・・・?」
呟くと共に大岩に近づく。
が、それが俺の失敗だった。
シュウゥゥゥウウウ
その音と共に訪れる、右足の激痛。
見てみると足の膝から先が溶けていた。
「ッツーーーー!!!!!????」
あまりの痛さに声も出ない。
さっきとは比べ物にならない痛みが俺を襲う。
それらの事からもう分かるようにテンペスト・サーペントは生きていた。砕けた岩と床の間から顔を出してこちらに「毒霧吐息」を吐いたのだ。
如何やら岩がぶつかる瞬時に「毒霧吐息」をはき自らが入れる窪みをつくっていたのだろう。
ただ、あちらも辛うじて助かった、という感じで全身から出血し骨がむき出しになっているところもあった。いくら生命力の高い蛇の魔物であるとはいえ致命傷だ。
その状況が俺に勇気をくれた。
ここまで来て負けることなんて出来ない!報酬のあるなしじゃあない!
俺はコイツに勝つのだ!
その気持ちだけで動いた。
幸いにも足からは毒によって溶かされただけのため出血はしていない。不幸中の幸いとでもいうべきか、毒で傷口が溶けているためそれが結果的に止血の効果を生んでいるのだ。だが、このままいけばものの数分で死ぬだろう。
しかしここはダンジョン。死んでも蘇ることができる!
それがなけりゃここでまだ戦おうなんて思えなかっただろう。いや、それ以前に戦おうという気すら起きなかったに違いない。
ただ、俺はこの時勝利の希望に向かって片足を無くしながらも進んでいた。先程の攻撃で左足にもダメージがあるため非常に体が痛い。
俺は今ただの一つも、岩のスタックはない。
しかし、思い出したのだ。
俺がテンペスト・サーペントに向かって残りの岩をほとんど投げた時、一個だけ落としてそのままにしていた事を。
テンペスト・サーペントも俺の後を追ってついてくる。がその動きは俺の方が若干だったが上回った。
落ちていた岩をその手に掴む。
後ろを振り向けばテンペスト・サーペントがすぐそこまで迫っていた。
きっと「毒霧吐息」も、もうさっきので、はけないんだろうな・・・と、そう思った。
そして俺はこの岩を投げようと腕を構えた時、本当に当たるのか?当たったとしてこいつがこの大きさの岩で死ぬのか?
という疑問が俺の心に降ってわいた。これを外したらもう俺にはなすすべはない。
そんな時、俺の目には俺を食い殺そうと迫ってくるテンペスト・サーペントの姿が映った。
それで、たった一つこいつに確実に勝つ方法がおもいついた。
恐ろしい方法だがやるしかない。
本能が警鐘を鳴らすがそれを理性で抑える。そして岩を握る拳に力を入れる。
そしてとうとう俺の目の前までテンペスト・サーペントが来た時、俺は言ってやった。
「俺の腕!くれてやるよ!!!」
そこ言葉と共に俺の腕はテンペスト・サーペントに食われた。そして能力を解除する。
そうなれば当然、その手に握られていた岩の大きさが元に戻る。
結果どうなったか?その答えがテンペスト・サーペントは俺の前で爆散した事実だ。俺の予想した通り内部から。今までこんな事はやった事なかったからできるかわからなかったが、俺は賭けに勝ったようだ。
そしてもう一つに、俺は勝ったのだ。
「封印の洞窟の守護者」に
「四十階層のボス」に
「A-ランクの魔物」に
俺は勝ったのだ。
ただし俺の目にも暗幕が降りることとなったのだが・・・
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事態の原因
俺が目覚めたのは翌朝。場所はダンジョンの受付のソファー。
如何やら俺が復活しても目を覚まさなかったためここに運んだのだそう。
そして収入の件だがほぼゼロだ。
道中狩った魔物の魔晶石などはテンペスト・サーペント戦で落としてしまっていたようだった。
そして、テンペスト・サーペント戦で手に入れた戦利品は何もない。分かっていた事だが辛いなあ・・・
ただ、失った足も腕も元通りに治っていた。これだけはいい点かな。
しかし失った物が多すぎた。岩は手持ちは全て失って、得たものはなし。
そんな感じで俺がトボトボ、宿に戻って来た時、
「おーい。サトー。丁度良かったさっきなんかアンタに渡してくれって言ってゴブゾウの奴が渡してきたんだよ。なんかヤバい事でもあったのかい?まあゴブゾウが届けに来るぐらいだから大したことないと思うけどね」
そう言いながら、宿の管理人さんに手紙を渡された。
どうでもいい話だがここの管理人さんはゴブリナだ。勿論
あと、
見かけは気強いイメージだが、案外と親切でこの街に来て間もない頃は色々と教えてもらった。
さて、話を戻すが、警備の人が俺に手紙を送る。
うん確かにゴブナさんの言う通りヤバいかもしれない。
「そうなんですか?うーん・・・思い当たる事は無いですね」
腕を組み、堂々と噓をつく。
思い当たる事はある。うん、昨日あったことかな。たぶんだけど・・・。でも言ってどうこうなることじゃないし、黙っておこうと思う。
面倒なことになる気しかしない。
こうして俺は部屋に戻って、ダンジョンの出入り禁止命令とかだったらどうしよう・・・とか考えながら手紙を開けた。
そこで俺は仰天することとなった。
なんせその手紙の送り主はこの国の国王
大魔王 リムル=テンペスト
だったのだから。
*
「やっぱり勝ったか」
アイツの目は、戦いを楽しんでた。それなのに慎重に挑んでいる。そして「勝つ」という確固たる意思を持っている。そういうやつは強いのだ。
特に最後の気丈は凄いな。
いくら死んでも蘇るとは言えちゃんと痛覚はある。それなのにも関わらず自らの腕を引き換えに、相打ちにまでもっていくとは。
「ええ。リムル様のお考え通りです」
ベレッタが応える。
いや、俺も最初は疑ってたよ。最初に勝つと思ったのはお前だよ?
まあいいや。
しっかしさっきも思ったがなんでまたテンペスト・サーペントが二十階層に生まれたんだ?
さっき言った魔素だまりの可能性もなくはないが、可能性で言えば限りなく低い。
何せこのダンジョンの魔素は全てヴェルドラの専用部屋からパイプで各階層のモンスターハウスに繋げている。
そのためそこでほとんどの魔素が魔物へとなる為、魔素だまりなんて起こりにくいのだ。起きたとしても弱い魔物が生まれるのがほとんどのケース。
ただ、それはあくまでヴェルドラの出した魔素が通常通りだったらの場合。
ここまでの言い方で分かってる人もいるかもしれないが、俺にはこの事態の原因が何となくではあるが、分かる。
「なあ、ベレッタ。ところでなんだがお前の予想で構わないからこの事態の原因は何だと思うか、答えてくれないか?」
「それは・・・」
俺が聞くとベレッタは、顔をゆがめた。
この反応からして、ベレッタもきっと俺と同じ意見なのだろう。
はあ・・・頭の痛い限りだ。
「おい!出て来い!いるのはわかってるぞ。ヴェルドラ!ラミリス!」
扉の影に隠れる二人組に声をかける。そう、さっきからこちらをチラ見していたのだ。
そしてこいつらが俺の予想した、この事態の原因共だ。
オドオドとした様子でヴェルドラ達が出てくる。そもそもそんなとこに隠れてたって俺が気が付かないわけないんだけどな。
「なっ何だというのだ?リムルよ」
「そうよ!そうよ‼アタシ達になんか言いたいことでもあんの?」
文句を言いながら出てきたことに俺は自らの予想が確信に変わった事を知る。
更にはラミリスの目が泳いでいる事も理由の一つだ。
「あるわ、あるわ、大有りだわ!お前ら最近なんかやっただろ!」
その言葉に二人は更に挙動不審を発揮させる。
「なっ何を言っておるのだ?」
「そーよ!アタシ達には何を言っているのかわからないわよー!」
相変わらず演技力も崩壊してますな。
こいつら、あきれるぐらい噓が下手くそ。まあそれもこいつらが素直だという証なんだろうけどな。
でも、そんな直ぐにバレる噓を言うぐらいならまだ黙ってた方がいいと思うよ、俺は。
「はあ・・・そうかそうかじゃあ仕方ない。シュナのオヤツをあげよう思ってたんだがそれはなs「「ごめんなさいいいいい!!!」」
こうして俺は二人から自白を貰うことに成功したのだ。
この時ベレッタがやっぱり・・・という顔をしていたことを俺は忘れないだろう。
ところであのテンペスト・サーペントが異常発生した理由だが、如何やら二、三日前にヴェルドラがふと通常より多くの魔素を放出してしまったらしいのだ。
ちなみに「なんでそんなことしたんだ?」と俺が聞いたら帰ってきた言葉は「むっ?理由なんぞないぞ」だった。
流石はミリムと同じく「理不尽の申し子」だな。正に
まあ原因が分かったのはいいのだが問題はヴェルドラが漏らした魔素の量だ。それの濃度が通常の約十倍もの濃度だったのだ。
これが表すことがどういうことなのか?
それは、今回のような事態があと何回も起こりうる可能性があるということ。
これはまずい・・・バグが増え続けてしまう、と俺が悩んだとき救いの手が差し伸べられた。
《マスター。今回の事態を利用した案件を提案したいのですがよろしいでしょうか? イエス or ノー》
おお!流石はシエル先生。
勿論答えはイエスだ。
《了解しました。今現在、ダンジョンでは初心者向けに簡単なミッションを実施しております。ここに上級者向けに、この事態で発生した魔物をビンゴブックの様に加えてはいかがでしょうか?これならばダンジョンの挑戦者の士気も上がり、かつ問題の魔物も討伐する事が可能です。更に付け加えるとサクラとしての者を用意してそのミッションをクリアさせれば挑戦者達の士気を更に上げる事が可能でしょう》
うん。素晴らしいな。
もうね、シエル先生に任せておけば全て間違いないのだ。
しかし、サクラか・・・
妥当な線でいけばエレン達三人組だろうな。あと、勇者「マッサユキー!」ことマサユキにも依頼しようかな。いや彼はもともとサクラみたいなもんか。しかし、「なんてこと押し付けるんですかーーー⁉」って言ってくるマサユキ君が目にうかぶね。まっ頑張ってくれたまえよ、ぐらいしか言ってやれないけどな。それに彼にはディアブロの直属の部下であるヴェノムを護衛につけている。十分すぎる程援助はしているのである。
あ、だけどヴェルグリンドにはお引取り願おう。彼女が来ちゃうと今の俺なら対処可能とは言え街に被害がいく可能性がある。それに
しかしこの時、挑戦者から逃げるダンジョンの王。うん、これも中々面白い図になりそうだね、と思ったのは秘密だ。
だが、しかしもう少し数が欲しい。
そんな時、俺の頭に浮かんできたのは先程の挑戦者「ソーヤ・サトー」だった。
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招待されました・・・魔王に・・・
タイトル長くてすいません。
俺は今、体中ガクガクです。
なぜって?魔王に呼び出されたからだよ!MA・O・Uデスヨ!!!
いやああああ!!!俺何やったよ⁉強いて言えばテンペスト・サーペントの件があるけど!あるけれども!それで何でこんな所に呼ばれるの⁉
俺がいるのは高級そうな細工やテーブルの置かれた応接室だ。俺みたいなやつとしては、もっと質素な感じの部屋にして欲しかった。もし汚したら?と思うと体が震える。
目の前には、俺の稼ぎじゃあ買うのさえ難しいのでは?と思うような見るからに高級そうな菓子が出されているのだが、余りの緊張故それらも喉を通らない。
こんな俺を情けないと思うかもしれないが、これにビビらないやつはよほどの大物か、ただのバカだ。しかしながら俺はそのどちらでもないんだよ。こうなっても仕方ないだろ。
まだここに来て数分しかたってないのだが、もう一時間たった気がする。
そんな空気の中緊張に悶え、顔をうつむけた俺に、かけられた声があった。
「何だお前食わねえの?おいしいのに」
驚いて顔を上げるとそこには一人の美しい少女がいた。
流れる清流のごとき色を放つ蒼く輝く髪、まるで月の様に金色に輝く瞳。
そしてみるものが見れば目玉を飛び出させる様な高級感漂うまるで夜空の漆黒の様に美しい服装。
一目で分かった。この少女こそが、俺をここに招いた 魔王リムルその人だと。
どうやってここに?とはあえて聞かない。魔王リムルはこの世界でも最強の存在。
何が起こせても不思議ではない。むしろBランク冒険者の俺にそれらを理解せよ、という方が厳しい。
そして俺は一番気になっていたことを聞く。
「すっすみませんが、俺ってなんか悪い事でもしましたかね・・・?」
声もガタガタだ。自分で言うのもなんだが、質問というよりも懇願に近い気がする。
すると魔王リムルもそんな俺の状態に気づいたのか俺に声をかけてくれた。
「ああ、そう言えば書いてなかったな。悪い悪い。お前が何か悪いことをしたわけじゃないからそんな緊張しなくてもいいぞ」
その言葉にこの部屋に来てから初めて肩から気が抜ける思いだった。今までセーブしていた汗が安心のせいかドッと流れる。
「そっそうなんですね!良かった-!いやーダンジョンに出入り禁止になるのかと思ってたんですよ」
「はは!何だそんな事を気にしてたのか安心しろよ。そんなことはしないからさ」
そう言いながら頭をかく。
極度の緊張から抜け出した反動から俺の顔には自然と笑みが浮かんでいた。魔王リムルが俺のイメージより遥かにフレンドリーだったのも気が抜けた原因の一つかな。
魔王としてどうなんだ?と思うそれは、一昔前のイメージだし、俺自身こういう人は好きだ。何というか「かりすま」?ってのがつよいのかな。
だがここでふと疑問がうかぶ。だったら何で俺をここへ呼んだのか?
「そう言えば俺って何で呼ばれたんですか?」
その言葉に魔王リムルが口角を吊り上げる。
その時、直感的に思った。あっ。なんかヤバい事言われる予感。
「フッフッフッ!それはな君にこれからダンジョンに導入しようと思っている新企画に一役買ってもらいたいのだよ!」
そこで一息間を開けて・・・
「サクラとして‼」
と、一際大きな声で俺に告げた。
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新企画!
最近、「転生したらスライムだった件」を読んでいると思う事。
マンガ版はたぶんだけど、完結までいかないな・・・(ペース的な意味で)
でも、とても良い作品だし、作画も好きなので頑張って欲しいです。
「サクラとして‼」
この言葉に俺は反応できない。理由は簡単。意味を知らないからな。エッヘン!
少しの間、俺が返事をしなかったことで微妙な空気が作られてしまったよ・・・。
そんな中俺がその言葉の意味を理解できていない事を悟ったのか、魔王リムルが口を開く。
「お前、サクラの意味知らないのか?」
若干、あきれたような声で俺に尋ねる。
しょうがないじゃないですか。俺は平民だよ。まずまずの話、文字だって全くではないにせよ、あんまし書けないんだから。
「そうか、じゃあザックリとだが説明しよう。サクラってのは、例えばの話、イベントを開催したとする。で、そこで客に紛れて運営側の指示に従うやつらのことを指すんだ。それをすると何がいいのかって、そいつらに客達を先導してもらう事が可能になるんだ」
魔王リムルが俺にサクラについて説明する。
ふむふむ、なるほど。つまりは運営側の指示に従って動く雇われた利用者側の人間ってことかな?
って!
「え!大丈夫何ですか⁉」
「大丈夫って何が?」
魔王リムルが問いかける。
「いや、なんかそういうのって法律的にアレなんじゃ・・・」
右手の指でほほを、かきながら苦笑いを浮かべてそう言う。
俺には良く分からないが何となく悪いことなのでは?と思えてくる。
しかしそれに対して魔王リムルは全く動じない。
「それに関しては問題ない。そもそも問題があったとしてもだ!俺は魔王なんだぞ?このぐらいの事はするさ。それでなんだがお前に頼みたいことの具体的な内容は、さっきも言ったように今度、新しくつくるダンジョンの新要素、その名も「
対価という言葉に耳が、いや心が反応する。
今の俺は爺さんのいたっていう世界の言葉で言えば、文字通り「金欠状態」で「無一文」。それに聞いたところ、俺がすることといえば魔物を倒すことだけ。いつもと何ら変わりないことだけだ。それで金がもらえるのなら願ったりかなったりってやつだろう。
そんな訳で俺の返事は勿論
「喜んで‼」
だった。
*
「喜んで‼」
よし。雇用成功だな。
でもサクラの意味を知らなかったとは。だけど、よく考えるとこの世界の平民なら知らないのも当然かもしれない。商家や貴族とかの生まれじゃなきゃ普段使うこともないしな。
ああいや、こんな話はどうでもいいんだ。
「モンスタービンゴブック」について説明しなくては。
「よし。じゃあ契約成立だ。この書類にサインしてくれ」
そう言って、空間からペンと契約書、そしてもう一枚紙を取り出す。
どうやらこいつも自分の名前ぐらいは書けたようだ。この世界では、まだまだ識字率が低いのだ。平民出身となればなおのこと。
我が国が主導で各国に学園を置いたりしてはいるのだが、まだ金銭的な面で入れない者達がたくさんいる。これは今後の改善点だな。
「かけたか?じゃあ「モンスタービンゴブック」について説明するぞ」
そう言いつつ先程のもう一枚の紙を渡す。
そう、これは説明書なのだよ。因みに内容はこんな感じ。
・「モンスタービンゴブック」=ダンジョンの受付付近に置かれた、
《「
その階層の強さに当てはまらない、特殊個体達の総称。
例 ダンジョンドミネーター。
・各階層にランダムに出現する、「
・倒した「
・ただし、「
説明書に書いた通り「
より深い階層から這い上がってきたという意味でこの名前を付けた。正直結構気に入ってる。
で、コイツにはこの
新企画であるために最初はそんなに人はやろうとしないだろう。だけど、もしそれを率先してやるヤツがあらわれたらどうだろうか?
人は不思議なもので、一人始めると、後に続くようにして何人も始める。つまりは流行を人為的につくるのだ。
「何かわからなかったり、質問したい事はあるか?」
なんだか今の俺って先生みたいだな。いや、実際先生やってたんだけどさ。
今から何年前だっけ?色々あったからな~。
「あ、あの一ついいですか?」
引き気味にサトー君が手を挙げる。
「なんだね、サトー君?」
ちょっとだけ先生っぽさを意識して応える。
ケンヤ達の事が思い出されるね。
「お、俺この前ダンジョンでこの「ブレークアウトモンスター」ってのみたいなのにあったんですけど・・・」
「うん知ってるぞ。だからお前を呼んだんだ」
「あっ!そうだったんだ」
妙に納得した様子でサトー君が頷いた。というか今までの話の流れで分からなかったのだろうか?
ふーん・・・案外鈍いのかな?
だが、そこで俺も自分の失態に気付く。
そう。こいつが昨日、倒したテンペスト・サーペントも「ブレークアウトモンスター」。
つまりは説明にあったとおり素材を渡す必要があったのだ。昨日、こいつが来たら渡そうと思って回収しておいてそのまま忘れていた。
「そうそう、その話なんだがこの説明書にあるように昨日、お前が倒したテンペスト・サーペントもこの「ブレークアウトモンスター」に当てはまるからその素材を渡す事が可能だが今ここで持ってくか?それとも後から送ることもできるけど?」
「えっ⁉あの素材もらえるんですか⁉」
素材がもらえると知るとサトー君は目を光らせて驚いた。
如何やらまだこの企画が始まる前だったため貰えないと勘違いしていたようだ。やっぱりちょっと鈍感なのかな?
俺たち、運営側としては「ブレークアウトモンスター」の素材は挑戦者に譲渡した方がいいのだ。
何せ「ブレークアウトモンスター」はモンスターハウスで生まれない可能性も高い。そうなってくると「復活の腕輪」がつけられない。倒されてしまえばそれまでなのである。
それなら倒した魔物の素材を譲渡して、それでいい武具を作ってもらった方が、この「モンスタービンゴブック」の宣伝にもなる。
そして挑戦者側は収入源となる、収入が増えれば挑戦者達がこの国に落とす金も多くなる。
いいことずくしなのである。
その後いくつかの質問が終わってソーヤ・サトーは帰っていった。
結局、テンペスト・サーペントの素材は自分で持って帰った。この時アイツの持ってたスキル 「
結構、汎用性が高い能力だな、と思ったものだ。
まあ、何はともあれ今後に期待だな。少しだけ融通してやるか。
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鍛冶屋へ
「転スラ」世界の金貨の価値が十万、銀貨が千なんですけど、
銅貨の価値っていくらでした?
多分、百円だと思うのですが自信がないので出来れば教えてください。
今はもう真夜中。出歩くものはほとんどいなくなり。輝くものといえば、街灯と酒屋の光ばかり。
そんな夜道を一人の男が歩いている。
*
いや~頑張った者には福があるってほんとだね~。
ポケットの中に入っている金貨二十三枚(230万)の鳴らす、ジャリジャという子気味の良い音に満足する。この音聞くとなんか気分上がらない?俺は上がるね。
この金貨は俺の倒したテンペスト・サーペントとサクラの代金だ。ちなみにだがこのうち二十枚は討伐報酬、三枚がサクラの代金だね。
もうさ、魔王リムル様には感謝しかないよね。魔王リムルなんて呼び方はやめないとな。様をつけなくては。敬称をつけないと!
ほとんど資金の尽きた俺をどん底から助けてくれたんだからさ。
今までの財産が大体、金貨四枚だったってこと考えるともう、一晩で全財産の約四倍を稼いだってことなんだから。冒険者のなかでも上位に位置する、Aランクの人たちならこんぐらい直ぐに稼げちゃうんだろうけどさ。
さて、それはともかくとして俺にはもう一つ収穫があるのだ。
それは~~~前に倒したテンペスト・サーペントの素材で~す。
ハッハッハ!ヤバい、めっちゃ嬉しいいいいい‼
どんぐらいうれしいかっていえば、一時的に性格変わっちゃうぐらいには嬉しいですよおおお!
何せこの二つの物があれば俺の欲しかったアレが作れるんだから。
正直言って今すぐにその店に駆け込みたいところだが、生憎今は真夜中だ。今行ったところであいてもないだろう。
ああ、朝日よ!早くさしておくれ!
*
ザアァァアアアアァア
翌日・天候・大雨
地面に打ち付ける雨粒の音が部屋中に響く。
なんだろうね?なんなんだろうね?嫌がらせかな?昨日の運が良すぎたから、もう一度不幸になれと?そうおっしゃるのですかね?
俺は昔からなんかこんな感じになる事が多い。そういう星のもとに生まれたのかな?
まあいいや。俺は大雨がふろうが雷が落ちようが目的の場所に行くのだ。
*
はい。びっしょびっしょになりながら俺がついたのは・・・
ここ
俺が何でここにいるのか言わなくても分かるだろう?
そう、俺はここに新たな装備を求めてきたんだ。
冒険者だったらより強い武器に憧れを抱くのは当然のことだろ?何たって冒険者にとって装備というのは正しく、命綱なのだ。それに装備が良ければ力の底上げにもなるし、カッコイイじゃないか。
だったらいい装備買えって思うかもしれないが、それが簡単なことじゃあないからこそ尊敬されるのだ。
ここで少し武器のランクについて説明するがこの世界には知っての通り、全部で六種類のランクがある。
・
特に目立った性能のない武具。量産が可能であり、一般兵に適用されることが多い。
・
腕のたつ職人が製作する武具。量産は少しではあるがされており、西方諸国で高値で取引されている。
・
非常に腕のたつ職人が製作する剣の芯が「魔鋼」で形作られた逸品。剣そのものに魔力があり、思い描く剣に進化することもある。量産はされていなく、それ故に西方諸国では非常に高値で取引されていた。
・
基本的に
・
基本的に
・
神話の時代から存在するといわれる最強の神器。
と、まあこんな感じだな。
ちなみにだが俺が今、使ってる短剣は
あと、これはあくまでも噂の話なんだが実はこの
そのランクがコレだ。
・
この
製作費や素材の値段もあって昔の俺にはとても手の届くような代物じゃあない。だから今までは買っていなかったのだ。が!今の俺には金があるのだよ。そ、れ、に!素材もな!
この二つがあればかなり良いランクの武器が作成できるだろう。
素材だってA-ランクのテンペスト・サーペントの物だ。これでクズ武器ができるわけがないのだ。
俺はこの前の戦いで学んだのだ。普段、岩がなくなったら俺は勿論、剣で戦う。
だけど、それは二十階層だから通用したやり方だ。昨日の話だとこれから低階層に上位の魔物が出現する可能性が出てきた。するとこの短剣をくれた爺さんには悪いが、
これでは武器を持ってる意味がない。というわけで新たな武器を作ってもらうためにここに来たというわけだ。
ふとその店の前にある「ショウウィンドウ」という種類のガラスの向こう側に光輝く、武器を見る。
空はあいにくの大雨で光がさしてるはずもないのにその武器はまるでそれ自身が光を発しているかの様に光り輝いている。
ゴクリと唾をのむ。まるで美術品の様に美しい。
次に自身の持つ金貨とテンペスト・サーペントの素材に目を向ける。
正直言って金貨がほとんどここで消えることは間違いない。だがそれでも良い武器を作ることのメリットが勝つ。
そして俺はその鍛冶屋に足を踏み入れるのだった。
文字に色付けるの地味に苦労しました・・・。
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俺の武器
話には関係ないんですが、はなしたいので話します。
好きな「転スラキャラ」ランキング
一位 カレラ
二位 ラプラス
三位 近藤達也
四位 ディアブロ
五位 ゼギオン
です。ちなみにラプラスはネタじゃあなくかなりマジに好きです。
仲間思いなのは、転スラキャラの中でもかなり上位だと思います。(個人の意見です)
皆さんはどうですかね?
「すみませ~ん」
チリンというドアリンの音とともに店に入る。
だがそれでも誰一人気づかないほど、その人達は熱中していた。
カンカンカンと、鉄をたたき上げる音が響く。
邪魔するのも悪いと思っていたがために声をかけなかった(声をかけても無駄だったかもしれないが)ため気づいてもらえたのは店に入って三十分ほどたってからだった。
「ん!おめえだか?リムル様の言ってたのは?」
低くよく通る声と共に店の奥から、一際ガタイの良い大男が出てきた。
そして俺は人、いやこの
何せその
「く、クロベエさん⁉」
この国、いやこの世界最高の鍛冶職人だからな。この人(
だがそれよりも、えっ?何?リムル様が俺のことを言ってた?どゆこと?
「リムル様が言ってたってどういうことなんですか?」
「なんだ聞いてねえだか?さっきリムル様が『思念伝達』言ってただよ。『そろそろそっちに冒険者が行くと思うから武器を作ってやってくれないか?』って」
クロベエさんがリムル様の真似をしながら俺に教えてくれた。
ふうん、なるほどねーリムル様が俺に武器を作ってくれないか?とクロベエさんに頼んでくれたわけか。
うん。うん。うん・・・ええええええ!!!!
つ!ま!り!クロベエさんが俺に武器を作ってくれるってことか---!!!!????
俺の今の金なら
「さ!さっさとオラの工房に来るだよ」
「は、はいいいいい!!!!」
*
「こりゃあテンペスト・サーペントの素材だか。かなり傷んでるだが、元がええだ。コイツならオラが打てば
ん?今なんて言ったんだ?
聞き間違いじゃあないんだよな・・・?
サラッととんでもない事を言ってるよ。この人(
ただいつもなら、ここで大はしゃぎするところなんだけど、俺にはひとつだけ気がかりがある。
先程説明したように
俺が今回持っている金貨で、
この事実が俺の気持ちを消沈させる。
「す、すみません。そんなに凄い武器を作ってもらえるのはとても有難いんですが・・・」
そう言いつつ、自身の金貨が入った袋をチラりとクロベエさんに見せる。
金がなあああいんですヨォォオオ!。
自身の顔は鏡かなんかがないと見れないがこれだけは確実に言える!俺は今、すうっっっっっっごい顔しかめてる!
そんな時、クロベエさんが唐突に笑い出す。
「フッ!ハハハハハッ!おめえなんだべ、その顔は?」
「え、あっいや、お、俺の所持金じゃ
改めて、俺が
というか、俺の顔そんなに酷かったのか・・・。自分でひどい顔してるっていう自覚があってもやっぱり人の笑われると、恥ずかしいもんだ・・・。
恥ずかしさで、ちょっと目に来るものがあるよね・・・。
しかし俺がそんな風に恥辱に悶えている時、俺の耳に信じられない音が響く。
「ん?なに言ってるだ?今回の製作費はタダだよ?」
「は?」
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