TS 盾役従者は勇者に付いて行けるのか? (低次元領域)
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1.悪夢終わらず※挿絵

特撮ものを書いていたはずなのにラブコメになったので初投稿です。



『──ね、ねえテオ! 僕聖剣に……!』

『知ってる知ってる。そんで明日には旅に出んだろ? なんべんもいわなくていいっつーの』

 

 錆びた鞘に入った剣を担ぎ目を輝かせる幼馴染に対して、俺のテンションはとても低かった。

 もうよい子は寝る時間、つまり悪い子が楽しむ時間。

 15歳になったことで大手を振って酒を飲むことが出来る様になったので、これからとばを炙り、一杯やる予定だったというのに。

 

 こいつが来ちまったせいでそんな空気は消し飛んでしまった。というかとば食べるな、お前のために用意してやったおやつじゃねぇぞ。

 

『しっかし、あのヤシドが勇者様になるとわな。旅の仲間とかは王様に派遣されんのか? 美人さんとか要求しとけよー?』

『……あのねテオ』

 

 からかい果実水を呷れば、呆れたように勇者が笑う。

 なに? 仲間は伝説になぞらえ集まってくるものだから王様からは旅の中で見つけろと言われた? その代わり金銭面などのサポートはする?

 

 へぇそりゃなんとも、魔物退治という使命さえなきゃ素晴らしい旅になりそうだ。

 最初は大変かもしれねぇが、そのうちいい仲間も見つかんだろ。なにせ勇者様伝説の再来だ、世界中のかわいこちゃんたちも集まってくるに違いない。

 

 ……そうだ、いいことを思いついた。

 

『なあヤシドく~ん、もしよけりゃ──』

『?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「ごめんな、最後までついていけなくて」

 

 勇者パーティーの盾役である俺、戦力外となり離脱する模様。

 ……いやー長い長い旅ではあったけど、実質ちゃんと戦力になってたのは最初の30日ぐらいだったな。それ以降は敵も味方も全部強くなっていって盾でどうにかなる世界超えてたもん。

 むしろ飯炊きとか道具の管理とかでよく持った方だと思いますはい。最後らへん盾役ってより従者だったよ完全。

 

「……ふぅ」

 

 久々に、重たい荷物も無しに空を見た。

 酷くいい天気だった。雲一つない青空に、さんさんと照り付ける二つの太陽も眩しくて……どうにか煙を足そうと、煙草を一つ取りだし銜え火種を探す。

 けれど口から伝う感触に気がつき眉をひそめ、煙草を放した。

 

「なんだ、湿気てら」

「……はぁ、ほんとタバコが好きだね君」

「そりゃあ? なんならママのおっぱいよりも吸った自信があるね」

 

 濡れた煙草を捨てるわけにもいかず、行き場を無くしただ左手の中で崩れていく。

 思い出せばそうだ、朝は雨が降っていた。しっかり革の袋に入れていたつもりだったはずなんだが……最近あまり吸わなくなったから手入れが十分じゃなかったかもしれない。

 この旅の中じゃ煙草を吸いたいと思った事は山ほどあるが……役立たずが娯楽品をわき目も振らずに使うほど図太い神経はしてなかったからな。

 

「相変わらず、テオはずっと変わんないね」

「困ってる人が居たら見過ごせない、お人よしのヤシドくんに言われる筋合いはないと思いまーす」

 

 んまぁ、嫌な顔しますわね勇者様は。

 まあお前は酒もタバコ嫌いだったから言いたいことは分かるけど……煙の中に含まれるスウィーティーな魔力の香の良さがどうしてわからないんかね。

 溜息一つついて、野原に寝転ぶ俺の横に座る。

 

「……ねぇ、なんで盾を持とうと思ったんだい」

 

 おおぅ、今更それを聞くのかヤシドくん。

 まあ確かに、お世辞にも盾の才能がある人間じゃなかったけどさ。

 

 一振りで魔物を二桁は軽く吹き飛ばしちまう聖剣に選ばれたお前や、鋼鉄の守りなんぞぶち抜いちまう魔槍の使い手。簡単にいくつもの魔法を同時行使する魔人……こんな連中のパーティーにいる盾が平凡だなんて笑っちまうよな。

 

 使える回復魔法は自己用だし、皆が使うものよりか質も落ちる。

 防御力上昇だって元が低いせいで大した実益もない。

 

「別に……ただあん時は盾役がいると思ったからだ」

 

 丁度良く王様もそれっぽい盾くれたし。あっそう言えばその盾がさっきぶっ壊れちまったな。

 直接言えないし、王様に謝っといてくんない? 弁償とかはナシの方向性で。

 

「……ねぇ、なんで庇ったのさ」

 

 なんでって、盾役だからだよ。盾が回避してたら意味ないじゃんね。回避盾なんぞはやらないしロマンもいいとこだよ。

 それにぃ? 今回は幻覚使う厄介な相手だったから……勘でお前守れたのはほんと運が良かった。

 四天王最後の相手が絡め手満載の相手なんて誰も思わなかったからびっくりしたぜホント。

 

「なんでってそりゃあ……いいじゃん別に、守れたんだし……まぁ」

 

 まぁそれ防いだから二度目も通用しなくなって、憐れ四天王はフルボッコにされた訳なんだが。

 これで魔王を守る障害もなくなって、晴れて勇者パーティーは魔王城に突入できる様になった。

 戦力もほぼ満タン、むしろお荷物の俺が抜けてフルパワーで戦えるだろう。

 

 全て上手くいく、世界は平和になるしいいことづくめだ。

 だから──

 

 

「無傷でってのは、無理だったけどさ」

 

 

 

──だから、笑顔で見送ってほしかったよ。

 下半身が吹き飛び、腹に穴が開き野に転ぶ俺の見た目は今どうなってるんだろうか。

 

 魔人の反則気味回復魔法でも間に合わない、血を流しすぎたしなにより体の限界が来ている。即死に近い状態だったのを伸ばしてもらうのが精いっぱいだった。

 痛覚を消してもらったおかげでなんとか今際の際に喋れてるのだって奇跡みたいなもんだ。

 

「ごめんな、最後までついていけなくて」

 

 右腕で今にも泣き出しそうなアイツに伸ばそうとして、千切れ無くなっていたことを思い出す。

 左手に握りしめていた、血濡れた煙草をまた口に銜えようとして、滑らせ落とした。開いた手をゆっくりと胸に置く。

 心臓の鼓動はもう伝わらない。

 

「……僕が、僕が聖剣に選ばれなきゃ」

「連れてってくれって……言ったのは俺だよ」

 

 ここで生きて帰れりゃ勇者守ったってことでお金ガッポガッポ、英雄ってことで女の子にキャーキャー言われてウハウハな日々だったんだがなー。

 まさか四天王の奥の手があそこまでエグイとは。攻撃の前に立った瞬間「あ、これ駄目だわ」って悟ったもん。

 

 ……まあいいや、反応できたのはあの場で俺だけだったってのはなんだか誇らしいし。

 

「そうだ、スオウとエーナちゃんには……よろしく……言って」

「……あぁ」

 

 今ここにはいない二人を思い出す。呪いの武器を物にした傑物と、魔王を裏切った魔人。

 二人は俺の吹き飛んだ下半身を探しに行ってくれているらしい。いやーほんといい仲間でしたよ皆さん。

 

「……今何か、欲しいものはない?」

「あー……うーん……果物……煙草……酒」

「……そればっかだねほんと」

「うる……せ」

 

 どれももう手に入らない。町までかなり離れてるしな。まあ味覚も嗅覚もちゃんとしてるか怪しいから別にいいか。

 ああでも前小説読んだとき、死に際に煙草吸うのが少しハードボイルドな感じして憧れてたからやってみたかったかも。

 

 ……何かじっと見てんな、どうした。端正なお顔立ちな勇者様にそんな見つめられると照れますぜ。

 

「どう、した?」

「……いや、その流れだったら最後に、かわいこチャンって言いそうだけど……言わないなって」

 

「……あぁ、それは──ッ!?」

「っ!」

 

 答えようとして血を吐いた。正確には、喉の奥から溢れて口から零れ落ちた。

──眠くなってきた、というよりかは力が抜けてきた。首を動かす力ももう無い。

 

 ……限界か。

 かなり話した、治すのが無理だからって延命用に魔法掛けてくれたエーナちゃんにはほんと頭が上がらないや。

 

ぇえっ……なん、だっけ?

「──ごめん、喋らなくていい……! だからもうちょっとだけ、もうちょっとだけ頑張って……!」

 

 コポコポと音を立てる喉を震わせる力も無くなっていく。

 瞼が重くなっていく、せっかく軽かった体が沈む、魂だけが更に軽くなって体から離れ浮かんで行く。

 

 何て言った今? 悪い、耳が遠くなったみたいだ……ごめんな。

 ……ああそうだ、かわいこチャンって言わない事についてだ確か。そうだな、いつも寝る時は美人と一緒に寝たいとか言ってたもんな俺。

 でも、今はいいんだ。

 

 だって──

 

「おま、え……の……か、おが……みれ」

 

 結構お前、いい顔してるから──傷一つなくて、ほんと良かった。

 

「テオッ、テオ!!」

 

 だから、泣くなよ。

 笑ってる時のお前が一番なんだから、腐れ縁の勇者様。

 

 旅ももう少し、頑張れ。

 言いたいことを最後、胸にしまい込んで──体から心は切り離された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──テオ! 起きてよ!?」

 

──覚醒、しない寒い。

 取られた毛布を取り返すため目を瞑ったまま()()を振り回す。どこだマイ毛布、あった。少し遠くに確かな手触り。

 掴むと引っ張られ寝床から落ちる。痛い。

 

「……いってぇな、怪我人に何すんだよ~?」

「テオが約束した時間に起きないからでしょ。また隠れてお酒飲んでたんじゃ……ないみたいだね」

 

 瞼を開ける。そこには毛布を握りしめこちらを見下ろすヤシドが。

 ……うん? 少し細くなりました? なんというか旅立ったあのころみたいな華奢な勇者様がいるというかなんというか。

 いえ旅の終盤は華奢でピカピカ光り放っておりましたけど。

 

 周りを見る。寝床にしていた倒木、生い茂る木々。騒がしい鳥の声、森特有の匂いが目覚めを刺激する。

 両手はヤシドが引っ張る毛布をがっちりと掴んでいて……あれ、何で両腕あるんだ?

 

「って怪我人? え、テオ怪我したの!?」

「えっ、いや……腕も足もある、な? お腹空いてないもんな」

 

 手で触り目で見て確かめる、これまた綺麗な腕と足。冒険の中で少しでもと鍛えたそれなりに逞しい腕はどこへ? 女性の様な細さと白さがあり思わず違いに驚く。

 あれれ、四天王の幻覚に紛れた姑息な一撃を受け死に掛けになっていた俺はいずこ?

 

「はぁ……変な夢でも見てたの? 僕は毛布とか片付けて置くからさっさと着替えてご飯お願いね」

「あ、あぁうん……? あれ、今日はスオウの番じゃ」

「すおう? 誰のこと言ってるのさテオ?」

 

 あれれ、スオウが通じてない?

 

 ……周りの景色的に、ここ最初の穴に突入する前にキャンプした場所?

 つまりええと旅立ってから7日ぐらい頃? 仲間も誰もいない最初も最初の頃?

 ……マジで今までの全部夢? えぇ……あんな感動的な別れしておいてこれはないでしょ夢先輩。

 

「はあ……まじかぁ……臭い台詞吐いちまったよ夢の中で。……しょうがねぇか。おいヤシド、朝はパンとスープでいいよなー?」

「あ、うんよろしく」

 

 最悪な朝だ、これはもうリンゴをコトコトにてコンポートもデザートに添えるしかない。

 ため息交じりに髪を解いて近くの川に水を汲みに行く。あれ、俺こんな髪柔らかかったっけ?

 

 しっかしほんと嫌な夢見たなぁ……まあいいか、生きてんだし。

 第一あんな死に方似合わないわ俺。寝タバコして小屋に燃え移って焼死とかの方がそれらしいってホント。

 

「おうおうまだ綺麗な水の色してんなぁ」

 

 旅が進んだ夢の中じゃ魔物どものせいで見るからに毒ですって色合いの時とかもあったからなぁ。

 ここなら沐浴も出来そうだ、魔物倒したら帰りに誘うか。

 

 さぁてさっさと水を汲んで……?

 

「……うん?」

 

 瓶を川に入れようとしてふと思う。はて、()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 

 以前と変わらぬ青髪、けれど髪質は柔らかく、少し伸びて肩甲骨の所まで伸びている。

 視線を降ろす、自分の記憶の中の旅立ちの日よりも細く、勇者を馬鹿にするなんてできないレベルに華奢になっている手足。

 というかなんか、身長縮んでないか俺。

 

 ……瓶を一旦置き、そーっとシャツを捲る。

 男が見てがっかりするレベルのツルペタが一瞬俺を期待させるが、記憶の中より筋肉が無くなっている。胸筋とかがない分胸囲は縮んでいるかもしれない。

 

 ……そーっと、パンツの中を覗く。

 ない。 

 

「……? あれ、マ……マイサーン……?」

 

 脱ぐ、どこにもない。なにもない、竿も玉もない。

 何これ怖い!?

 

「──や、ヤシドっ俺って女の子だったっけ!!?」

 

「はぁ?」

 

 

 

 

 

 ──拝啓、夢の中の勇者へ。

 夢が覚めたと思ったら女の子になっていたんだけどどうしたらいい?




次回投稿は1/21 17:30予定


~オリキャラ説明~
・テオ 男→女 16→15
 勇者のおこぼれが狙えるとパーティー参加を決意した元男。
 しばらくは盾職として活躍していたが、聖なる武器もなにもないので次第に冒険の過酷さに付いて行けなくなる。
 それでも最後までと粘った挙句、敵の攻撃を受け死亡。

 ……という夢を見たのか? と起きてみると女性になっていた。

 好きな物は果物、酒(果実系)、魔煙草(フルーティーなフレーバーな物)。
 あと女。

 skimaにてkuku様(https://skima.jp/profile?id=46137 )に挿絵を描いて頂きました! 目次、1話後書きにて掲載させていただきます。
 中性的な容姿と大人な鎧がとても素晴らしく、本当にありがとうございました!
 →
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2.寝る子は育っていた

需要あるかどうかわかんないけどストックがある限り続きます


 俺が生まれてすらいなかったころ。具体的に言うと五十年くらい前の頃。

 世界の、何のへんてつもない場所に突如として『穴』が開いたらしい。

 

 一番初めは森の中に。正面から見ても、後ろから見ても円形に。その空間自体に開いた穴は黒く塗りつぶしたかの如く、先に何があるのか何も見ることは出来なかった。

 はてなんだろうと思い入っていった男が見たものは……、

 

「グギギ、ギャッギャッギャ!」

 

 見たこともない、異形の怪物たちの姿であったとさ。

 その後逃げ帰った男は国に報告、軍隊が派遣され鎮圧されるも穴は開いたまま。

 困っていると倒したはずの怪物がまた湧いてきて……それを繰り返している内に、今度は別の地域でも穴が開いたと報告が。

 

 やがて軍隊を派遣するにも頭数が足りなくなり、放置される穴が出始め……国の管理に置けなくなった穴には民間人が未知の素材目当てに出入りするようになってしまった。

 危険も承知で、腕っぷしを引き連れて。

 

 これが今話題の職業、冒険者の走りである。

 

「うっ、思ったよりでかいねゴブリンって……」

「安心しなって、群れる頭もない一番弱い魔物だぜ? 勇者様の手に掛かればちょちょいのちょいさ」

「あのね……」

 

 今では魔物を狩り、その皮や穴内部にある素材を使い便利ですごい道具や武具を作る職業の人だっている。

 なんなら俺が今持っている盾だってそう。アイアンゴーレムとやらから取れた体の一部を加工し仕上げた一品で、魔力を通すことで一回り大きくなったり硬くなったりする便利な盾なのだ。

 ……夢の中ではいろんな素材を集めて強化したはいいが最後は無残に割れた品だがな!

 

「ほら、今ならこっちに気が付いてませんぜヤシドくん。不意打ちして頭落としちまいな」

「そ、そうは言ったってさ……」

「……ったく、わかったわかった」

 

 そんでえーと、数百年以上前と思わしき地層から発掘された聖剣。

 ほんの少し前までは台座に突き刺さったままビクともしなかったため石の彫刻だと誤解されていたんだが……ついこの間、ヤシドが15歳の誕生日を迎えた夜中に光輝き、表面の石がはがれ山越え谷越え飛んで来たって訳だ。

 ……まだ大部分は錆び付いたままだけどな。

 

 そして対応に困った国は、古くから受け継がれていたおとぎ話になぞらえヤシドを勇者と認定。

 おとぎ話の通りになるなら最後魔王なんてものが出て来るらしいので旅をして経験つんでね……と投げ出したのである。

 お金くれるだけマシだね。俺? そりゃもちろん俺は──

 

 心なしかというか確実に以前より重くなった盾を担ぎ、前に出る。

 

「ちょっ──」

「おらこっちだゴブリンども!」

 

 

 ──お金と名声欲しさに勇者の仲間ポジ狙って出てきた盾持ちだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女の子だけどな。うん。

 筋力の低下がほんとにやりづらくなる原因になってて困る、夢の中の経験が無けりゃ一撃受けてのけぞってたかもしれない。

 

「や、やっと倒せた……」

「鞘から抜けない剣とかほぼ鈍器だよな。お疲れ様」

 

 ほぼというか完全鈍器か。2匹いたゴブリンを下し、早くもお疲れモードのヤシド君。

 ははは、自分と同じくらいの長さの鈍器振り回してればそうなるか。これが聖剣の解放と共にゴリラか何か? ってぐらいに身体能力も強化されていくと考えるとなかなか……いやいやあれは夢の事なんだってば。

 いやでもなー……俺って女の子だっけ、記憶が確かならまごうことなき男なんだが……何せ一年近い旅の夢を見ていたせいで自信が持てない。

 

「えーと、ゴブリンで使える素材は……」

「骨だな、特に腕とか足の骨。適当に切り出して持っていくか」

 

 ……いや絶対男だったよ俺! だって旅に出る前の記憶は完全に男の子のものだもん!

 でもそれじゃあ俺が今女になっている説明がつかない……ヤシドに「俺って女だったっけ?」って聞いても「確かに、テオが女子って感じ全然ないね」って笑って返されたし。ひっぱたこうかと思った、いや女子らしい俺とか吐き気催すから当たり前なんだが。

 

 ……これで男のままだったらさぁ、時が巻き戻ったのか!? なーんて小説チックな展開も思いついたんだが。

 夢で死んで目が覚めたら女になってたとかわけわかんねぇ……とりあえず旅を進めるしかないけどさ。

 

 まさかなー……童貞のまま死んだと思ったら処女になるとは。

 今回も処女のまま死にたくねーなーいや男に抱かれたい訳じゃなくて女性を抱きたいんだが。

 

 ……四天王とやらが本当に出てきたら、助言だけして退こうそうしよう。この体のままじゃ夢の中よりも足引っ張るわ。

 

「……よっと、ほらナイフ。俺こっちやるからお前そっちの首折れてる方な」

「え? う、うん……」

 

 草むらに隠しておいたリュックから小刀を取り出しヤシドに手渡す。

 そしてそのままゴブリンの皮に切り入れていく。ゴブリンって小骨多くて筋張った肉だから切るのめんどいよねー。

 ……おらどうしたヤシド君、さっさと手を進めたまえ。鳥とかよくさばいていただろうからこんなん何でもないだろお前なら。

 

「どうした? 国から金が貰えると言ってもある程度は稼がないと」

「い、いや……テオって解体とか出来たっけなぁ……って。その、血とか大丈夫?」

 

 ……いけね、そう言えばこのスキルは旅進める途中でヤシドから習ったものだった。

 元々は酒場の息子(今は娘だが)、親の手伝いをする内に成人する前から酒を飲んだりとやりたい放題をしていたが、血は苦手だったんだっけか。

 

 ……もしかして最初に盾選んだのもこれが関係してるのか? いやうーん。

 そして今ヤシド視点、血が苦手だったはずの幼馴染の女子が何も気にせずゴブリンの腹掻っ捌いてるのか……引くわ。下手人俺ですが。

 誤魔化そうかな、でもそれも面倒だな。

 

「ふっ、ヤシドのを真似ただけだけどな。かなり上手いだろう? 血もなに、赤ワインだと思えばどうってことはない」

「うん、すっごい上手だけど……そう? 怖かったら代わっていいからね」

 

 ……なんか記憶の中より若干ヤシドが優しい気がする。夢の中のヤシド君なら「まだ苦手なの? しょうがないなぁ……」とか言いながら代わってくれたけど。

 原因は……いやいやまだ旅の始まりだ。単に何度も頼んでいたあの頃とは話が違う。

 

 うん、きっとそう、多分……まさかあの唐変木、数々の貴族令嬢からの誘いも通じなかったヤシドが俺を僅かながらでも女の子扱いしているわけがない。

 開いたゴブリンから大腿骨を取り出し、そう思い込むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石は最初の穴、あまりこちらと変わらぬ地形でありそこに居るゴブリンたちも確認できている魔物の中では最弱。

 今ではもはや稼ぐための冒険者すら立ち寄らない、超初心者向けの場所だ。

 

 実戦経験皆無のヤシド、女の子になり筋肉が無くなった俺ことテオの二人でも特に大きな傷もなく探索し終えることが出来た。

 ゴブリンが群れている状況があれば確かに危ういかもしれなかったが、基本的に2-3体。たまにハグれている個体すらいる始末。魔法を使わなくともどうにかなるレベルだ。

 

「いや……最後のホブゴブリンはかなり怖かったけどね。よくあの一撃受けて何ともないねテオ……」

「真正面から止めるのは無理だったからな。衝撃をいかにズラすかが大事だって訳だ」

「へぇ。参考になるなぁ」

 

 ホブゴブリン。ゴブリンが子供レベルの背丈だとしたら成人男性レベルのでかさ。緑の体皮もややごつくなった個体だ。

 懐かしいなぁ、夢の中では舐めてかかった俺が吹き飛ばされて泣きかけたんだった。そのままヤシドが挑んでも勝てなくて、二人で逃げかえって次の日にリベンジしたんだった。

 ……それが今回は一発成功、やっぱり夢なんかじゃないよあれ。じゃないとゴブリンの解体がヤシドより早いわけないし。

 

「でもこの骨ほんと大きいね……聖剣よりこっち使った方が強そう」

「骨振り回すとか勇者じゃなくて蛮族だろ、やめとけやめとけ」

 

 無事穴から脱出し森を歩く帰り道。

 ヤシドに血だらけ骨だらけのカゴを背負ってもらい帰り道。これからは付近の村で一休みし、また次の穴へ向かう訳だ。

 

「次は何処だったかな……ああそうだミカヅキ村! あそこはベーコンが美味いんだ……」

「テオ、よだれ垂れてるよ……」

 

 思い出すはその日の晩の事、自分の腕よりも分厚く切り落とされた塩っ辛いベーコンをたらふく腹に収め、果実酒を呷る。

 リベンジした疲れからも口にするものすべてが美味かった。

 あの楽しさは忘れられるものではない……気が付けば涎を垂らしていた。慌ててふき取る。

 

「テオ、汚いよそれ……」

「うるせ、お互い血まみれの今言ってもしょうがねぇだろ。

……ああそうだ、途中に川があったから沐浴してこーぜ。流石にこのまま顔がパリパリのまま帰るのはあれだ」

「あ、いいねそれ」

 

 勇者様は潔癖で困る……獣の解体とかは平気なんだけどどういう境界線引いてんだろうな。

 生命を奪ったんだからそれで汚れるのは致し方無いとか……? まあいいや、お説教ムードはごめんと出した話題にヤシドが食い付いたのでそのまま誘導する。

 

「ほら、ここ。中々綺麗だろ?」

「ほんとだ……」

 

 少し道を逸れての帰り道。今朝方水を汲んだ川が再びその姿を現す。

 早速服を脱いで血と汗を流そう、そう思った時……ふと俺は一つの衝動にかられた。

 

「……あー煙草吸いたくなってきた。ちょっと吸ってくる」

「え、うん……せっかくいい空気なのに煙草吸うんだ」

「分かってねーな、生命巡ってますって言う匂いと一緒に取り込めば煙草もまた美味しいってもんよ」

 

 そう、朝から混乱していたせいで全く吸えていなかったが一日に三本は吸わないと気が済まない程度に煙草を嗜む俺にとって今は欠乏状態。

 記憶の中じゃ役立たずになった後からは酒の席とか相応しい場でしか吸わなくなったが、そんなことお構いなしに体が煙草を求めていた。

 

「うーん……まぁいいか、じゃあ先洗ってるから」

「おう」

 

 煙草の匂いを嫌がるヤシドを気遣い、川から少し離れる。

 

 リュックから煙草入れを取り出し火付魔具で着火する。この一連の流れは例え何が起ころうが変わることはない。

 これだって穴から採れた素材の産物。火付魔具は特殊な金属を使用することで擦るだけで火が付く。煙草に詰められた草は魔力が豊富で吸っているだけで充足感が沸いてくる。

 煙を含み、思いっきり肺に入れる。血液が全身に巡る感覚、心地が良い。

 

 これが作られる前は麻薬に等しい煙草が製造されていたと聞く、恐ろしい時代もあったものだと思いつつ久々の煙草を堪能する。

 仄かに香る……これは青りんごか。これもまたいい……心が落ち着いていく。

 

 ……そうだ。夢がどうとか記憶がどうとかなんてのはどうでもいいじゃないか。

 得た経験はこうして己がスキルとして身についているし、仮にこれから起きる事件が同一のものだとしたら知識でどうにかすればいい。

 

 今はそう、楽しい冒険を続けよう。煙草もうまけりゃきっと酒もうまい。あとは可愛い子ちゃんが居れば文句なしだが……。

 考えている内に煙草一本吸い終わる。残念、とは思わない。満足だ。

 

「……ぃよし、俺も浴びてくるか!」

 

 早くこの重い革鎧を脱ぎたかったんだ。

 そう思い、川の方へと向かっていった。

 

 

 あれ、何か大切なことを忘れている様な……?

 




次回予定は1/22 17:30です。

~世界観説明~
・煙草
 正式名称は魔煙草(まえんそう)
 現代世界における代物ではなく、燃やして吸うと魔力がみなぎる感覚が味わえる代物。
 基本魔力が少ない人間などが好むとされている。フレーバーも様々。
 


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3.恥じらいのない幼馴染

少し短めです


 15歳の誕生日の日、突然天から剣が降ってきた。

 丁度眠っていた時で、目を覚ましたら屋根を貫通し部屋にそれが突き刺さっているのを見た時は恐怖しかなかった。

 慌てて眠りこけたままのお父さんを起こして何の騒ぎだと起きてくる村の人たちに事情を説明して……あれよあれよという間に事態は進んだ。

 

 曰く、僕の部屋を破壊した剣は遥か昔に闇の魔王と称される怪物と戦い消えた伝説の勇者様の物らしい。

 曰く、今の今までは石の中に埋まりその力は眠っていたとかなんとか。

 

 僕が15歳、成人したその日にやって来たことはきっと事故でも何でもなく、僕が新しい勇者として選ばれた証なんだとか。

 勇者の誕生はつまり魔王、もしくはそれに準ずるナニカが目覚めようとしていることではないか。

 今はまだ目覚めたばかりの聖剣と未熟な勇者……けれどいずれ起こるかもしれない災害に備え旅に出て欲しい。

 

 それが誰かの為になるのなら、と了承したはいいもののさてこれからどうしようと思っていた。とりあえず簡単と言われている穴をいくつか回り、鍛えていくのが方針になるけれど……本当に僕に出来るものなんだろうか。

 荷支度をする内に、あれが足りないこれが足りない、もしくは何が足りないか分からないけど足りない。

 不安で仕方がなかった。

 

『……明日からかぁ』

 

 何に使うかもわからない道具をいくつかリュックに詰め合わせて部屋を出た。

 こっそりと家を出て、外の空気が吸いたくて散歩をする。月明りを頼りにふらふらと、特に当てもなくぶらつく。

 流石にもう夜遅いからか、殆どの家の明かりは消え……騒がしい村の景色はまるでどこか違う場所へ、異郷にたどり着いた心地だ。

 

 物心ついたころからずっと暮らしてきたこの村とも今はお別れ。しばらくは知らない町から町へと行く旅が始まる。

 

 ……ちょっと寂しいかもしれなかった。だから……つい、明かりがついていた知り合いの家に、蛾の様に寄せられたのかも。

 

『……いや、今何時だと思ってんだよ。酒場ももう閉めた後なんだが』

『ははは……いやちょっと興奮しちゃって』

『遠足行くわけじゃないんだろ? まったく、よくわからんね』

 

 窓ガラスをトントンと叩けば少し眠そうに、気だるげな眉。

 今の今まで家の手伝いをしていたのか、若干乱れた衣服に……酒瓶を抱えている友達。

 まさか今から飲む気だったのか? 明日村の皆で見送りしてくれるとかいう話だったけど……来ないつもりだったのかい?

 

『いんや? 人間少し酒を入れたぐらいの方が目覚めも早いってもんさ……ま、一人酒って気分だったからもういいけど』

 

 渋々と瓶を寝床の下に隠し、僕用なのか果実水を持ってくる君は……うんやっぱり、いつも変わりない君だ。

 聖剣に選ばれた後はみんな、ありがたいものを見る様に変わってしまったけれど、父さんと君だけはいつも僕をヤシドとして見てくれる。

 

 それが今は……旅立つ寂しさに心地が良かった

 

『──お前の旅、ついて行ってもいいか?』

 

 ……あんまり寂しくならなそうだ。

 いいの!? って思わず聞き返して、笑って、朝を迎えて、寝不足のまま村を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅は思いのほか順調に進んだ。まだ一週間だけど。

 国王様の前でのあいさつとか礼儀とか、ふだんあんなにおちゃらけてるテオが何とか教えてくれて、無事上手くいった。

 そしてテオはうまく言い含めて、国王様から「純潔の盾」という綺麗な装備をいただいていた。

 やっぱり酒場でいろんな人と話す機会があるとそこら辺も磨かれるのかな。父の手伝いをするときは接客はしなかったもんなぁ……。

 

「ふぅ……疲れた」

 

 鎧を脱いで聖剣置いて、一人ゆっくり川につかる。

 火照った体が冷えて流れていく感覚は嫌いじゃない。服の内側に入り込んだ血も洗い流していく。全部返り血だ。自分にはせいぜい転んだりして出来た擦り傷程度。

 魔物を何体も相手したというのにこんなに元気ですんでいるのは、ひとえにテオのおかげだろう。

 

 なんというか、元々頼りになることはあったけど、今日の彼女はとてつもなく冴えている。

 作ってくれたスープはやたら美味しかったし、魔物を前にした覚悟は歴戦って感じがした。……一瞬別人になっちゃったみたいでびっくりしたけど、煙草吸いたがったりバカみたいな話するあたりなんか……なんだろ、魔物と戦う夢を見たとか言ってたし、ちょっと心構えとかが変わったのかな。

 うーん……。

 

「──おーい、水温はどうだ?」

「あぁ、冷たすぎもないし温くもないよ」

「そか、じゃあ俺も入るか」

 

 ああテオも帰って来た。風下にいるからか特徴的な魔力の香がする。

 ちょっと気になるけど、まあ不快じゃない程度。そりゃ健康面に大して問題は出ないらしいけど、依存性があるらしいからやめて欲しいんだけどなぁ。

 

 ……ん? いま彼女は何と言った?

 

「て、テオ? いつものじょうだ──」

「ひょー、つめてーな」

 

 声がする方へ自然と視線が動いた。

 

 絶句した。 

 絶壁があった。青髪の屋根をもつ肌色の壁だと認識した後、その正体に気が付いて僕は首を背けた。筋を痛めた。

 

「……ッ!?」

「ふーやっぱり汗流すと気持ちがいい……あー垢すり持ってくんの忘れた。おいヤシド、持ってるなら貸してくれるか?」

「持ってない、持ってないから近寄らないで!」

 

 いや馬鹿なのか僕の幼馴染は!? 水を歩きどける音がする。なにもお構いなしで近寄ってきている。

 

「……? おいどうしたそんな離れて。そっち苔とか多くて危ないぞ」

「いやいやいや、逆になんで何も気にしてないのさ! せめて何か隠す物使いなよ!」

「……あっ、あー……そうか俺は女だったな、うん」

「テオ今何歳!?」

「お前より一日早生まれ」

 

 朝もそうだったけど、自分の性別に区別がついていないときがあるようだ。

 少しした後ようやく自分が何をしているか気が付いたようで、彼女の歩みが止まる。

 今度はその小さな体がチャポンと肩までつかる音がする。「ほら、もういいだろ?」 と声が聞こえ、恐る恐るそちらの方へ首を戻した。

 

 そこに居たのはやはり幼馴染。少しばかり川に浸かったのか髪の先が濡れて束になり、普段よりかは大人しそうな雰囲気を放っていた。

 怪訝そうに視線を下に落としており、その先には……僕には反射で見えないけど彼女の肢体。

 

「まったく、こんなみょうちくりんでちんちくりんな体なんて見たってなんにも思わねぇと思うんだがな……そこらへんほんと、ヤシドは潔癖だわ」

「いやそもそもこんな勢いよく裸見せられたら誰でもびっくりするって……というか、いつもそんな感じなの?」

 

 剣を限界まで伸ばしてようやく届くかどうかという位置。これでもそれなりに近いが、ある程度落ち着きを取り戻すと、なんとか会話を再開する。

 テオって綺麗な女性とかが好きだって話はよくしてたけど……まさかイコール自分の体なんて見ても何とも思わないなんて思考をしているとは思わなかった。

 いやしてほしくなかった。まだここが誰もいない川だったから良かったけど、下手したら大勢に見られていたじゃないか。

 

「いんや? 流石に普段からこんなことしねぇって。異性に裸見せてたら捕まるわ」

「じゃあ今君捕まるけど」

「そりゃお互い様……まぁあれだ、お前が異性だってすっかり忘れてたわすまんすまん!」

 

 笑って肘から先だけ手を出し、謝る仕草をする彼女。

 ……異性だとも思わないって。ちょっとカチンとくる。

 そういう意味じゃないとは分かっていてもなんだが納得できないものがあった。

 

「……まぁ確かに、テオは男……といよりかはおっさんぽいもんね!」

 

 今だってそうだ。肩まで水に浸かり、父の如く「あ゛あ゛ぁぁ……」なんてうめきに近い声を垂れ流すし、鼻唄を歌う。

 まあここまで女性らしさもない彼女だからこそ、小さい頃からよく遊んだのかもしれないけど。正直十歳の誕生日の正装を見るまでは男だと思っていたし。

 仕返しじゃないけど、からかうつもりでそう言った。

 

「そうそう、こんな川の中で熱燗を一杯……やっぱり俺男なんじゃねぇかな。確認してくれヤシド」

「だから見せなくていい! なに、朝のことまだ根に持ってるの!?」

「ほれほれ……恐らくこれから先お前が見ることになる女体の中の最底辺だぞ~」

 

 思いっきり仕返しが来た。 

 こちらがただ視界を閉じるだけなのをいいことに、しばらくテオに遊ばれた。




早くメス堕ちしねぇかな

次回はイナイレの更新などもあるので1/24、1730予定です。


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4.対照実験

 おっさんくさいTS女はさっさと窮地に陥り雌にも堕ちろ


 旅に必要なものは何かと言われ、一般的な冒険者は何を想像するだろう。

 強い仲間、気配りが利くバランサーの存在、そして崇高な目的……いやいや、それよりももっと必要なものがある。

 

 それは、

 

「ふふふ……やっぱ美味いなぁこのベーコン」

「おっ、そう思うか?」

「おぅ。適度な筋切りと主張しすぎない香りづけ。少し塩抜きを緩めてあって酒のまろやかさと合わせて……たまらねぇな! それとこれは……ネルシャ村のワインだな?」

「……ほぅ話が分かるじゃねぇか嬢ちゃん。もっと飲むか」

「おおこれはこれはおっとっと……」

 

 美味い飯と酒だ。間違いない。

 この二つさえあればどんなにつらい戦いだって耐えられるだろうことも間違いない。

 ……いや嘘を吐いた。流石に人智を超えたレベルは無理だ。いくら一般的な冒険者の成長をしたところで限度がある。

 

 まぁとにかくだ、記憶にあった楽しい宴会が二度目でも至極楽しいのはありがたい事だ。少しだけホワホワして来た意識の中で思った。

 

 赤ワインを呷り、分厚いベーコンを口に含み、油と塩っ気をまた酒で流す。添え物と置かれているマスタードや黒コショウ、ディップとより取り見取りな味変物のおかげも相まって飽きることもない。

 少し薄めに切りカリカリに焼いたベーコンも美味い。

 

「(あ゛~さいこう。ネルシャ村のワインは今のうちにさっさと飲んでおかねぇとな)」

 

 旅を止めたらまずあまりお目にかかれない、そこそこにお高いワイン。

 それが今はタダで飲める、極楽か?

 

「すいませ~んお酒お代わりー!」

「はーい!」

 

 このためだけにゴブリン穴付近の村では酒を飲まなかったといっても過言ではない。

 酒は毎日飲んでも美味いが、溜めて溜めて飲むのもよしだ。ついで、毎日飲んでるとヤシドに怒られちまうしな。リュックの中に酒入りのボトルがあったりすると咎められるし。

 

「しかしいいのか嬢ちゃん? こんなおっさん共と一緒に飲んでて……」

「いーの、だって……あっちの席じゃ楽しめないしなぁ」

 

──ほほほ、勇者様この村では精肉が盛んでありまして……ぜひどうぞ

──ああこれはどうも……お、多いですね?

──勇者様、村の娘たちにぜひ旅のお話を

 

「ガハハ、違いねぇ!」

 

 ……ま、今夜もそれもないんだがな。チラリ、遠目で歓待の波に飲み込まれている勇者様を見やる。

 勇者が村に訪れると大抵こうなる。今はまだ武勇も何もないお飾りに近いもんだが、これでも王宮に話を届けられるし、ネームバリューは高い。

 そんな勇者に「あの村の〇●はよかった」って言ってもらえれば箔が付くって訳だ。

 

 俺? 俺はしょせん勇者のパーティーと言えどなんかの武器に選ばれた訳でもないしな。

 そのように取り繕ったから村長なんかも俺の優先順位は低い、こうして酒の席目当てで来たおっさん達と飲んでても何も言われん。

 

「……テオ、ちょっと

 

 どうしたヤシドこっちをじっと見て口パクなんぞして。

 ふふ、ある意味貴重な時間だからゆっくり接待されてもらえ。そう目配せを送っておいた。

 

「……気が付いてるだろこの薄情者~!

 

 睨まれた、何故だ。

 だがそんなことはどうでもいい、酒もツマミも美味いからな。

 せいぜいこちらに来ても酒飲み共の相手になるだけだから助けにも行けない、勘弁しておくれ勇者様。

 

「ははは、後で勇者様から叱られそうだな! それで? お姫様はなんて仰ったんだ?」

「ああそうだったな、えーと「二つの太陽と見間違うほどの紅き輝きを放つ勇者様、旅のご無事をお祈りしています」ってな。あれはちょい惹かれておりましたね」

「へー! あの綺麗なお姫様がねー」

 

 そうそう、会話はもっぱら王宮での話。この村の人々じゃまず入る機会が無いからか皆楽しそうに聞いてくれる。

 やれ王様の髭が長かったとか柱にゴーレム由来の建材が使われていたとかな。あと出てくる料理が薄味だったとか。ここの料理の方が美味いっていえばそんなことあるめぇって笑いながら笑う。

 

 いやほんと口に合わなかったんだけどな。ヤシドの目が死ぬレベルで。

 

 ……そういや、俺が死んだあと……記憶の中のヤシドは、無事魔王を倒して姫様と結ばれたんだろうか?

 四天王相手にするちょいと前から婚約の話が出ていたけど、そうなりゃ万々歳だな。

 

──ちゃんと幸せになってくれよ? 死んでまで守ったんだからな、あっちのヤシド君。

 

「あっ、この芋も美味い」

「そうだろそうだろ、それはオレが丹精込めて育てたんだぜ?」

「おうこっちのユリネもどうだ?」

 

 そんなこんなで、楽しい夜は過ぎ去っていった。

 

──しかし、私も展示されているのは一度だけ見たことがありますが……あの下にこのような剣が隠されていたとは

──刀身を見せていただきたいものですね、是非とも!

──……あっ、いやそのー……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝。

 ベーコンがとてもおいしかった村の近くにあるという穴に向け荒野を歩く二人組。

 

「……」

 

 むすっと逆ハの字眉。僕不機嫌ですよオーラを纏うが我らが勇者。

 紅い髪も今は何処か黒みを増している気がしなくもなくもない。

 

「なんだよまだお冠かい勇者様? ちゃんと最後は救出してやったじゃないか」

「……自分の酔いがいい加減になってからだろう? 聖剣がまだ鞘から取れないって知った時凄い空気になったんだからね……」

 

 いやぁ……ほんとは夜中まで飲み明かそうと思ったんだけど、女の体になってから酒への耐性が落ちたのかペース間違えたんだよね。

 

 やれやれ、少し宴会を楽しみすぎただろうか。ここまで拗ねるのは記憶にないぞ。

 前回の時はまだホブゴブリンリベンジの熱が冷めてなかったからかな……あれ、他にもなんか違いがあったような。

 

「まぁまぁ、今日はオークが相手だし。ポークステーキ作ってやっから機嫌治せってー」

「あのね、そんな食べ物でご機嫌とろうたって──」

「唐揚げ、ニンニク多め」

「……」

 

 お、少し眉が緩んだ。昨日は周りに人が多すぎて料理を堪能できなかったらしいからな。

 お酒飲まないくせに酒のつまみみたいな味付け好きなんだよなこいつ。しっかり濃い目にしてやろう。

 ついでにまたこっそり酒を飲もう。一つ企んだ。

 

「あ、テオなんか企んだでしょ」

「い、いやー……? ナンノコトヤラサッパリ」

 

 

 

 

 かれこれ一時間ほど歩き、帰りに素材を乗せるための荷台を入り口に置いて穴へin。

 

「おー……丘?」

「……起伏が激しい丘ってなんていうんだっけな?」

 

 すれば風景は一変、脛まで隠す黒い草原が広がる。地形は小山が続き、かなり見通しが悪いと言えよう。

 ……昔は毎度、何で穴の中にこんなのが広がってるんだとか一々考えてたなー。事実知るとなんというか微妙な気分になったが。

 魔族にとって、飼育小屋みたいなもんだったなんてなぁ。

 

「テオ、どうしたの?」

「あぁいやちょいと考え事……ほら敵さんもおいでなすったぜ勇者様?」

「えっ──」

 

 ……僅かな揺れが地面から伝わる。スゥと息を吐いて背中に掛けていた盾を手に取る。

 丘の向こうから向かってくる影が一つ。

 

 その背丈はこの間のホブゴブリンよりも一回り大きい。俺よりも頭4個分程。丸太の様に太い巨体は脂肪に覆われているが、それを支える筋肉の塊だ。

 スピードはともかく、力は間違いなくホブゴブリンよりも圧倒的。表面はゴブリンと同じく毛が生えておらず、狩った証なのだろうか? 獣の皮をはいだ腰布を巻いていた。

 

 ……これでもまだ冒険の序盤の敵なんだよな。そのうち上位種だの竜だの出てくることを考えると苦戦しているわけにはいかない。

 幸いにして一頭、記憶の経験がある俺一人でもなんとか受けこたえることが出来る相手だ。

 遅れ聖剣を構えるヤシドの前で、盾に魔力を流し巨大化させた。

 

「作戦は確認したとおり、俺が受け止めるからその隙に攻撃。深追い禁止!」

「わ、わかった! 気を付けてねテオ」

 

 狙いを俺に寄せるため、いったんヤシドには少し離れてもらう。

 次いでもう一つ、少ない魔力を巡らし唱える。

 過去の冒険の最中、足りない力を補うために覚えた魔法を。

 

「──()()()()()()()()()()()

 

 魔法とは穴が開いた頃に人に備わったとされる普段は不可視のエネルギー、魔力を動かし発現させるもの。

 ルールに則り、規定の線で図を描くように体内の魔力を放出。魔法陣とされるものを作る。

 

()()()()()()()──クアエンド!」

 

 青く透き通る光が小さな陣を作ったかと思うと、そのまま体に流れ込んだ。

 少しばかり体の巡りがよくなり力もより強くなる補助魔法……どちらかというと毒とかに強くなるものなんだけど。

 

 魔力は個々人によってその性質が違う。得意とする、扱える魔法もまた変わる。

 ……聖剣に目覚めた勇者は全属性(一つを除く)に使える光の魔力を使っていたが、俺は水。怪我や病気を治すことを得意とする属性だ。

 ヒーラー転職? 魔力量と後にヒーラー兼バッファー兼アタッカーみたいなやつが来るし……。

 

「えっ、テオそれなに?」

「いや魔法……あとで教えっから今は集中!」

 

──ッ!

 

 豚頭が体勢を低くし走る。その様は突撃と言わざるを得ないほどの風格、地に足が付くたびに揺れを感じパワーの差を如実に感じさせた。

 真正面から受ければ、補助魔法がある今でも吹き飛ばされかねない一撃。

 記憶の時はどうしたっけ、確か吹き飛ばされて勝利を誇っているうちにヤシドが不意打ちで()()()()()()んだった。

 

 ではどうするか。女性になったこの体でも補助魔法の力があればあの時よりは動けることに間違いはない。

 横に逃げても、腕の大振りを喰らうかもしれない。真正面はNGだ。

 

 だから、敢えて盾を斜め下に向けた。

 

「どっ、せい!」

 

 突進と同時に盾を額に合わせ、持ち上げる力を利用し跳躍。これが長い戦いの中で思いついた秘策。

 跳ね飛ばされるならわざと飛ばされてしまえばいい……だけではない。

 

 相手と押し合い相撲をしている時、急に相手側が力を抜いたらどうなるだろうか? そのままバランスが崩れ、相手側へと倒れてしまう。

 それと同じ、真っ向からぶつかると思い込んでいたオークは体勢を崩すというわけだ!

 

──!

「いよっし!」

 

 盾と共に宙に舞う途中、確かに足を絡ませ地に倒れるオークが見えた。

 そして驚きつつもそこに聖剣を振りかざすヤシド……勝ったな、ワイン飲もう。

 

 あのまま聖剣が頭を切り裂けば勝負は確実。……うん、切り裂けば?

 あれそういえば過去のオーク討伐の時って……聖剣、もう鞘から抜けてなかったっけ? ホブゴブリンにリベンジするときにいつの間にか抜けていたような。

 

──ボヨンッ

 

 錆び付いた鞘ごと叩きつけられた一撃がオークの肥満で強靭な肉を切ることは無く、そのまま跳ね返された。

 ……あ、やべ。

 

「な!?」

──!!

 

 そのまま勇者が体勢を崩しているうちにオークに足を掴まれ放られる。

 俺よりも浅く、長く飛んで転がった。三回、四回と体を打ち付けようやく止まる。

 ……起きない。死んではいない、恐らく気を失った。

 

──!

 

 起き上がり雄たけびを上げるオーク。豚と人の声が混ざり合ったような爆音が耳をつんざく。

 そして、次はお前だと言わんばかりに俺の方へ向いた。

 ……えっ?

 

「……あ、あのオークさん? ちょっと勇者様が起きるまでお待ちいただいても……というか逃がして──」

──!!!

 

 やばい、死ぬかもしれない。

 冷や汗が一筋、背筋を駆けた。




歯が痛いし熱が出たのでストック分を投げ、寝るぅ
次回1/251730予定だけどどうなるかな


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5.其れ、勇者の一振り

かかりつけの歯医者で予約が取れなかったので初投稿です(半ギレ)


『──』

 

 ……何かを見下ろしていた。

 はて、ここはどこだろうか。確か僕は、オークと相対して……と考える思考がどこかへ消えていく。

 ただ、「目の前の墓」に対しての悲しみが溢れてくる。誰に対してか分からない怒りが沸いてくる。

 

『──』

『──、──』

 

 誰かが後ろで話している。男女、聞き覚えが無いようである。不思議な感覚だ。

 だけれどそれに返答もせず、僕は墓に対して祈っていた。

 

 ……一体、誰の墓なんだろう。ここまで悲しむということは余程親しい間柄の者だったのだろうか。

 墓石代わりに突き刺さっていた「半壊した盾の破片」に刻まれていた文字を読んだ。

 

 

──勇敢なる盾の戦士、※※ ここに眠る。

 

 ……えっ?

 

 何の冗談だ。はたまた同名というだけか。

 いいや違う。何故だかそれは確かに自分がよく知る友人のことを指していると思えてしまった。

 この酒が供えられた墓の下に、友人が眠っていると、自分が埋めたという確信から。

 

『……君は、こうなってはいけない』

 

 不意に口が動き、意味を発する。先ほどまでは古びた蓄音機の様に聞き取れなかった音が消える。

 この声は誰だ。声は目のすぐ近くより発されている、つまりこの体の物だ。

 

 どこか親しみがあるようで、全てを拒絶している冷たい声だった。

 

『ヤシド、早く起きるんだ。聖剣を手にしたのであれば最善を尽くせ。

可能性を集め、魔を祓うだけなら誰でもできる。ただ、君にしかたどり着けない結末を手にするために振るえ』

 

 何を言っているか、何を知っているのか全く分からない。

 けれど声に押され、抵抗も出来ず意識がこの空間自体から退けられていく。

 流される、何が起きたのかも理解できずただ。水底から水面へと昇る時に似た浮力が纏わり付いて戻ることを許さない。

 

『早くしなければ──』

 

 けれど、それでよかった。

 少し後、僕は確かに思った。

 

『──テオが死ぬぞ』

 

 その言葉を聞き、もがく様に僕は空を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれほど眠っていたのだろうか。口から千切れた草と土を吐き。聖剣を杖代わり起き上がる。

 僕は……そうだ。テオの健闘も無駄にし、オークに投げ飛ばされたんだ。あまりの無様に血が上った。

 

──!

 

 オークの声がする。下卑な笑い声の方へ視線が向いた。

 一昨日の首の痛みによる抑制が無ければ、激昂のままに斬りかかっていただろう光景があった。

 

「ぐっ……」

 

 テオは生きていた。けれど鎧の大半は壊れ飛び散って、綺麗だった髪と肌は土と草で汚されていた。擦り傷も多く見えた。

 彼女は頭一つ分小さい盾を構えてこそいるが、もはや限界だろうと一目で分かるほどの疲弊が見えた。

 

──!!

 

 勝ち誇るオークの叫び声──数瞬後、彼女の頭から血が垂れた。

 

──気が付けば僕は、聖剣を握り走り出していた。

 聖剣の鞘は未だ抜けず重しの様に足を引っ張る。

 

 柄の部分のみ持っていても、鞘は剣を手放すまいと吸い付いて離れない。ふざけるなと苛立ちを込め更に強く握る。

 ……何が聖剣だ、何が勇者だ。オーク一頭斬れないくせにとんだ御託が付いている。笑い話にもならない。

 

 無駄に大きくて重くて何も斬れない。これなら初心者用の長剣の方が何倍も優れてる。

 時が経てば力を取り戻す? その力で世界は救われる? 遅すぎるし規模が大きすぎる。僕は今使いたいんだ。

 

 僕は今──

 

「──テオを助けるんだ」

 

 だから早く起きろ聖剣。

 血が滴る程に握り、鞘を地面に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オークのふっといブツ(腕)で滅茶苦茶にされました。嘘はついてないよ。

 

 あとヤシドの親父さんから餞別だともらった防具が早くもおじゃんになりました。

 ぶっ飛ばされて地面に叩きつけられた時、衝撃を吸収してくれたかと思ったらそのままバカンと。

 あれか、転んだ先の杖(一回限り)みたいな仕様だったのか?

 

 まあおかげでなんとかワンミスはスルー出来たけど。あとでそれらしい鎧買わなきゃ……王様におねだりしたらもらえねぇかな。

 ははは、ここから帰ったら試してみようかな。

 

──!

「……帰れっかな、これ」

 

 痛みで痺れた左腕を回復魔法で巡らせ動かす。けれどダメージが大きすぎるようで、完全復活には程遠い。

 鎧が砕け遮蔽物が無くなったおかげで魔法は使いやすくなったけど、そもそも出力が低すぎてお話にならない。

 対するオークさんは少し息を切らしてはいるが、傷らしい傷は無し。苦し紛れに放った水の弾丸も薄皮を剥くだけに終わった。

 

 ええ、オークってこんな強かったっけ……そうか、防具も盾もついでに体も鍛えていた最後の頃と比べて、今は魔力も筋力もどん底だもんな。

 ああくそ、楽観しすぎた。記憶があるからって現実の辛さは何も変わらないってのをちゃんと認識できてなかった。

 

「……っ!」

 

 ふらり、思考が遠のく。血が流れたらしい。

 足首の力が抜け、片膝が地面に刺さる。オークが勝ち誇ったように雄たけびを上げる。うるせぇ。

 

──

 

 ……巨腕が振りかぶられた。

 あれを盾で受けようにも今の足腰じゃよくて半々殺し。追撃食らって虫の息だ。

 

──!

「……ポーズキメても、写真機なんてもってないぞ?」

 

 減らず口叩いて俺は、その一撃をただ避けることも出来ずじっと見ていた。

 

 あぁ……意外に早い旅の終わりだった。

 記憶を役立て楽をした末路だろうか、調子に乗らず地道に鍛えるべきだったか。

 死にたくねぇなと思ってもどこか、一度死んだ記憶がそれを口に出す事を阻む。

 

 オークの腕に血管が浮かび力が溜まったのが見えた。投石器の糸が切られ、落ちてくる。

 空を切る音と共に、顔よりもでかい拳が近づいてくる。

 

 死ぬのは今度は一瞬だろうか。痛いのは嫌だから一思いに──

 

 ──不意に、オークの影が伸び俺の全身を覆い隠したのに気が付いて……俺は、

 

──ッ!?

 

「……おそよう、勇者ヤシド君」

 

 逆光だぜオークさんと、二つの太陽よりも眩しく輝くアイツを見て笑った。

 

「……お待たせ」

 

 一閃。

 丸太の様に太かったオークの腕を、肩から骨も綺麗に切断して勢いのまま遠くに飛ばした。

 血が勢いよく噴き出て大体俺の方にかかる。ひどいシャワーだ。

 

──ッ……......」

 

 何が起きたか理解できてないうちに、オークの首が飛ばされた。

 これまた綺麗に斬り飛ばされ、今度は足元に転がる。おや目が合いましたね、中々のハンサム顔が取れましたよ。

 

「……ふぅっ」

「おぉ……流石──じゃなかった。それが聖剣の中身か。金色に輝いて綺麗だな」

 

 目の前で倒れ伏したオークの体の後ろで、フラフラと体を揺らすヤシドが居た。

 頭を打った後にいきなり剣を振るったのだ、当然と言える。そして右手には一本のロングソード……鞘の大きさよりも一回り小さいそれは、オークの血も弾いて光を放つ。

 脈うつ様な光の明暗、記憶では三日ぶりだが酷く懐かしく感じた。

 

「……うん。なんとか抜けたよ」

「おめでとさん。これで今夜は変な空気にならずにすむな」

「いや、流石に態々見せに行こうとは思わないけど……」

「いやいやいや、気が付いてないのか? 聖剣のおかげかもだが今のお前、全身うっすら光ってるぜ?」

「え、嘘!?」

 

 いやほんと。その光押さえるのにしばらく苦労しそうだなと、記憶で分かり切っていることを呟いてからかった。

 あの時は夜中に出歩けば蝶も蛾も寄ってくるいい誘蛾灯勇者になってて……腹が痛くなるほど笑ったな。

 今回もしっかり笑ってやろう。

 

「……テオ?」

「ああいやなんでもない、んじゃあ二頭目探しに行くか」

「……」

 

 ……聖剣は、所有者の覚悟を以って抜刀される。そんなことを昔ヤシドが言っていた気がしなくもない事を思い出す。

 ホブゴフリンが相手の時は何を覚悟して、今回は何を覚悟したんだろうか。ふとどうでもいい事がよぎった。

 

 そうだそんなことはどうでもいい。今しがたやっとのことでオークを倒したがまだ一頭のみだ。

 折角ならまた宴会を開けるくらいにはオークを……後二、三頭連れて行こう。聖剣が抜刀された今、盾役がいなくても倒せるかもしれない。

 だから提案したが、ヤシドはどうにも乗り気にならないようで顔を顰めた。

 

 もう二度も死ぬことはないのだ。気楽にいこうじゃないか。

 

「……いや、やめておいた方がいいと思うよ」

「おいおいどうした勇者様? さっきぶん投げられてビビっちまったか、安心しろって少し回復したら──」

 

 さっきみたいに転ばしてやる。そう言おうとして、突然視点が落ち──。

 ──っと思ったら右腕をヤシドに捕まれていた。

 少し痛い、聖剣の力で身体能力も少し伸びたんだろうか。

 

「っと……? わ、悪いな直ぐ起きる……あれ」

「……」

 

 ……もう片方の足が崩れたと気が付いたので立て直そうとする。直らない。

 

 おかしいな、おかしいなと繰り返すうちに……ようやく、自分の腰が抜けていると気が付いた。巡りが悪くなって、全身にうまく力が入らない。

 視界も霞んできた。変だなおかしいな。

 鼻の奥がぐじゅるぐじゅると水音を立てている、おかしいな。

 

 盾を掴む力も無くなり、ヤシドに掴まれた腕だけを残し重力に逆らう箇所が無くなる。

 さながら大地に張り付けにされた巨人だ。

 その力に沿って目から水があふれ出してくる。

 

 ……泣いている、俺が?

 オークへの恐怖で腰抜かして。

 

「……お疲れ様テオ。本当にごめんね……今日は帰ったらたくさんお酒を飲んで休んで」 

「い、いやいやいや! だ、大丈夫だって。こんなん、気が緩んだだけで……ちょい、すぐ泣きやむ、から……」

「大丈夫、大丈夫だから……」

 

 アイツは泣いている俺を見て驚いたように目を一瞬丸くした。

 けど腕をゆっくりと離し、子供をあやす時の様な顔になると、普段聞かない優しい声を出す。

 

 身体のコントロールが利かない、ただ今は泣けと背後で囁かれてるようで、深呼吸をしようにもうまくいかない。

 人生、こんなに泣いたことがあっただろうか。いやない。

 

「……」

「……たまたまだからな、普段なら……こうは」

 

 ……あれだ、きっと記憶の中で死ぬ時に泣かなかったから、今になってやって来ただけだ。

 オークにやられそうになったから泣いてるわけではない、断じてだ。

 

「……ねえテオ、聞いてくれるかな」

「……どうぞ」

 

 だから……そんな目で見てくれるなヤシド。

 

「僕──もっと強くなるよ。君に追いついて、誰にも負けないくらい強くなって……誰にも、傷つけさせたりなんてしないから」

「──」

 

 目の前の親友の奮起は、聖剣の輝きよりも眩しくて……思わず視界を閉じた。

 それに甘えられたら、どんだけ楽だったんだろうな。

 少し寒さを覚えた。

 

「そりゃ……頼もしい……もうちょい近くこい、聖剣暖房だ」

「いやこれ熱はない……うん」

 

 近寄ってきたヤシドに雑に手を伸ばして、服の端を掴んだ。

 光がじんわりと伝わってくる気がして、震えが少し治まる。いい夢を見れそうだ。

 

「けど……馬鹿だな。それじゃ……盾役の意味ねーだろ、はは」

 

 意識を手放す時に呟いた小さな声は、誰に聞こえるわけでもなく解け消えていった。




 シリアスな気がしなくもなくもない、人々は早急に明るい展開を求める。
メス堕ち度? 今10%くらいじゃないっすかね、先は長いが少しずつ男から女に代わったことの変わりようを体験していけテオ。

次回はうーん、メガネ壊れたので1/261730予定で。
作者のTwitterではメガネの遺体が貼られていたりするので気になった方は探してどうぞ

~世界観説明~
・魔法
 穴が世界に出現した頃から備わった不可視のエネルギー、魔力で「ある一定のライン」を引くことで発現する不可思議な現象。
 魔力の種類、大きさは個々人で差がある。一応鍛えて総量を増やすことはできる。

 また、魔力を通して堅固になったり作動する鎧などがあるが、これなどを身に着けていると魔力を外に放出、魔法にするために苦労するため魔法使い職の人間は大概露出が多い。
 別段女魔法使いと言えば露出狂だろという作者の思想が設定を裏付けすることで実現された訳ではない。


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6.酒はまた注がれる

三白眼で横にでかいタイプの瞳孔、
目は女子並みの大きさはあれど上辺は平たい

そんな奴が好きです


「そんでよ〜起きたら隣にオークの死体が添い寝しててな〜」

「ガハハ! ヤった相手と寝るとか激しい女だ!」

「ちげぇねぇ!」

 

 前略、記憶の中の勇者へ。あれだけ泣いて疲れ果て、眠りについた俺こと盾役従者はまた酒場で飲んだくれています。

 お酒買い宿で一人酒、といった気分だったが……鞘から漏れ出す剣の光で抜刀出来たことが村の人に知れ渡り、また宴会が始まるとコロっと気分が変わった。

 

 何をせずとも美味いツマミと酒がある。最高だ。 

 流石に2日分の豪華な酒はなかったようで、少しランクが落ちはしたがこれでもまだ上等。遠慮なく飲み干す。

 

「しっかしよくやったもんだな嬢ちゃん、オーク相手にそんだけ耐えるたぁ。おらぁ村付きの狩人だが、小隊組まなきゃまずやりたくねぇぜ」

「おめぇさん、初めてオーク目の前にしたときちびってたもんな!」

「ばっきゃろー……ありゃあれだ、ちょいと股間が寒くなったんだよ」

「オークに掘って貰えば体も熱くなったんじゃねぇか? ははは!」

「ガハハ!」

「ちげぇねぇ!」

 

 シモが入り混じった話めっちゃ楽しいし盛り上がる。勢いで言ったがオークに掘られたら死にそうだな。人の2倍近くは余裕であるはずだ。

 ヤシドにはこんなこと言っても呆れてお説教モード間違いない。

 いやそれも楽しいけどな。

 

──おぉこれが聖剣の輝き……素晴らしいですな

──見ているだけで心が暖かくなるような気がします……直に触れてみても?

──え、えぇどうぞ……なんなら少しこの場に置いておきましょうか

──い、いえそこまでは……!

 

 そしてヤシドくんは昨日と変わらず村のお偉いさんに囲まれています。笑う。

 あの位置はご飯も食べられないし。……昨日よりも少しお年寄りが多いか? ありがたやありがたやと拝まれててもはや偶像崇拝に近いな。ヤシド教とか開いたら意外とウケるかも。

 

「どれお嬢ちゃん、こっちも飲んでみるか?」

「おぉ? この梅酒……──あ゛っー! うまい。深いなぁ……」

 

 信者はぁ……姫様がきっと来てくれるから問題ないな。あの姫様のラブラブ具合からして熱心に布教してくれること間違いない。

 そんでヤシドは困っておろおろどうしよテオどうしてくれるテオ、と。ウケる笑う。

 ……ん、なんで笑ってんだおっさん。

 

「へへっ、ずいぶんいい顔で飲んでくれるじゃねーか」

「それこいつが漬けた奴だぜ嬢ちゃん」

 

 それ本当? 高級品に近い味わい深さと飲みやすさで何杯でも行けるからおかわり頂戴。

 おっとっとっと……もうちょい、もうちょい。……うん美味い。

 それにしても今そんないい顔してたか? 鏡見ながら酒飲んだりなんてしねーからな。

 

「もいっぱい」

「おう……おらのは特製で、飲みやすいが度数あっから気をつけな」

「へーきへーき、今日はいくら飲んでもいいって許可でてっからな!」

 

 と言うか、せっかく女になったならもっとバインバインでご機嫌麗しゅう? って言いそうなお嬢様ちっくになりたかったぜ! 姫様みたいなな!

 さて夢にまで見た女性のブツを触ってみよう! とか思ったのにこんなちんちくりんじゃ興奮もクソもねぇっての。もっと食って太りゃマシになるか?

 

「あ、そうだあとで鎧余ってる奴あったら売ってくれねぇか。壊れちまってよ」

「おう任せとけ……と勢いで言っちまったが、女もんの鎧なんてねぇぞ」

「いやいい……ほら、少年用ので問題ねぇからな? 俺」

「ガハハ! ちげぇねぇ!」

「お前一人で言うなよ」

 

 なにコントしてんだ。……胸がないってのはがっかりポイントだが、盾役するには邪魔だよな。そう考えると……うーん。

 あとアレだ、用を足すとき結構飛び散るんだよな。慣れが必要だな。ちゃんと拭かないと臭いし。立ちながらはもうやめたほうがいいかもなー。

 

 ──お、かわい子(田舎平均で言う)ちゃん集団ご来店。今日は少し衣装が……肌面積が少なくなってて薄いし最高だな。ちょい香水が強い気もするが個人的にはこっちのが好きだ。

 

 やぁこんばんは、こっち来てお話ししない? しない、そう。いい匂いだな。 お酒持っていく? 持っていく、そう。

 ……そのまま流れるように勇者様の方へと向かっていったな。

 

──こんばんわ勇者様……今日はオークを一刀で斬り伏せたとお聞きしました

──ぜひともそのことを聞きたくてぇ……

 

 あ、メスの顔しておりますね。これはあれだ、勇者に酒酔わせて一夜の過ちしようと狙ってんなぁ。無理無理。ヤシドは王様が開いた、旅立つ勇者への席でも飲まなかった男だ。

 

 あと香水の匂いが強いのもアウト。アイツ鼻がいいみたいで軽く一回……ほんのりぐらいで、なおかつ揃えたものにしておかないと不快になるだけ。

 料理の時はそんなに気にしてないのは単に食べ物だからかね。

 

──ど、どうも……

 

 ほら、すっげぇ嫌な目してる。ははは、普段隠れて煙草吸ってもすぐバレる相手には悪手だったな。

 気づかないもんかね、かなりわかりやすいと思うんだが。

 

──あ、もしよかったらこれ……先ほどからなにも手につけていないようでしたから

──あ、これはどうも──!?

 

 ……一気に仕留めようと思ったらしい。

 持っていった料理が乗った皿に意識を割かせ、かわい子ちゃんの一人が腕を胸に抱き寄せた。

 羨ましい。嫉妬の炎が点火する。……あ、もちろん胸を合法的に触ってるヤシドに対してだ。

 

──ちょ、ちょっと……!

──あら、でしたらこちらのお飲み物も……知り合いが漬けたもので飲みやすいと評判ですの

──い、いや僕はお酒は

 

 ……ちょっと顔赤らめたな。そうか、柔らかいか。

 

「おー積極的だなアイツら……と、嬢ちゃんどうした。酒進んでねぇぞ」

「……そうか? いや楽しそうなことやってんなぁと……ついな」

 

 ……もう片方もか。両手に花だな。羨ましい。

 酒を一気に煽る。食道を流れ落ちていった後、腹から込み上げる酒気が炎を更に大きくした。

 げふぅ。軽く息を吐き席を立つ。テーブルにあったつまみをいくつかもらい包む。

 酒瓶片手につかんで、楽しいピクニックを思わせる用意をした。

 

 少しフラフラする、机や近くの人の肩を借りながら歩く。

 そして宴の中心、勇者様の下へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女性の胸が腕に触れることなんてそうそうないだろう。

 だからうん、それを望んでも手に入らない人にとってはひどくむかつく光景だったんだろうね。

 

「おうおう楽しそうだね勇者様ぁ……」

「て、テオ……?」

 

 眉を釣り上げ怒りを見せているのは幼なじみ。

 見ればわかる。昨日よりも更に顔が赤く目も焦点があっていない。ほろ酔いなんてものじゃない、酩酊だ。

 

 今日泣いていた人物とは思えない。でもテオって切り替え早いからなぁ……。

 村長を押し退け近くにいた女性を引き離し、腕を引っ張られる。

 

「悪いなぁ……勇者さまぁ、明日もオーク穴に潜るんだ……本日はお暇させてもらう……よ」

「えっ、いやテオそんなこと……」

 

 嘘だ。テオの鎧が見つかるまでは穴に入らないと決めたし、明日は聖剣が抜けたことを王都へ報告しに行こうと決めていた。

 大方僕にこれ以上良い思いをさせてたまるかという嫉妬心……だろうか? 少し可愛い。

 

 ……なんにせよ、好都合か。

 

「え、えーとそうだったねテオ。ごめんごめん……すみません村長、祝いの途中ではありますが」

「なんとそうでありましたか……お引き留めして申し訳なく」

 

 理由があれでもここを抜け出せるなら。少しの罪悪感と共に村長に別れを告げる。

 明日になれば予定が変わったと言って旅立てば良いだけか。

 

「そ、それではこれで……」

「──あら、少しお待ちを」

 

 そうして去ろうとする僕の空いている手を誰かが掴む。

 先ほどお酒を飲ませようとしてきた女性だ。テオが僕にだけ聞こえるほど小さな声で唸る。犬みたいだからやめて。

 

「えーと……なにか御用で」

「みたところお連れ様はかなり酔われているご様子。宿まで少しありますし、危険を考えこちらでお休みされては……」

 

 う、反論しにくいな。確かに今のテオはまともに歩けるようには見えない。

 酒場で休んでという選択肢は無いどころかあり得るものだ。

 そう言葉に詰まっている内にテオが動く。

 

 ……あの、なんで酒瓶と包みを渡してくるの?

 

「よぅし、じっとしとけぇ」

 

 あの、なんで背中を登ろうとしてくるの。おぶれってこと? 

 で、そのまま首に手を回して……テオの顔が横にくる。

 頬も赤く染まった顔で「おらいけいけ」と回らない舌で捲し立ててくる。

 

「……ふふ、じゃあこのままテオと帰りますので……ご心配ありがとうございます」

「あっ……」

 

 彼女は意外と頑固な面もある。こうなったらなにを言っても聞かないだろう。

 手を離してもらい、そのまま酒場を出た。

 

 月明かりの下、宿へ向かう。まだ夜は長い。しっかり休息も取れそうだと一安心する。

 背中に乗った小さな体の重さを落とさないよう足を脇でしっかりと挟んだ。

 

「……テオ、ありがとね」

「へっへっへ、かわい子ちゃんから、ひんそーに変わった気分どーよ」

「いや、テオのが……まだいいかな?」

「お世辞言っても……あ、そうだ。包みの中くっていいぞ」

 

 包みの中? 聞き返し、言われた通り開けてみる。

 中にあったのは……サンドイッチ。だいぶ肉肉しいというか、ベーコンやらソーセージやらチーズやらがふんだんに詰め込まれている。野菜が一割程度しか見えない。

 おつまみを適当に挟んだらしい。

 

 ……腹が鳴る

 彼女を離さないよう気をつけつつかぶりついた。塩っけとチーズ、トマトソースやら味の暴力が襲いくる。美味しい。

 

「そーだくえくえ……ねむ、ねる」

「あ、うんおやすみ」

 

 それだけ言い残して、すぐに彼女は寝息を立て始めた。

 見越していたのかそれとも自分のつまみ用だったのか。よくわからないけど、親友にまた感謝をした。

 ……これでお酒臭くなかったら文句なしなんだけど、まあ今日は飲んでもいいって言ったの自分だし仕方がないし……。

 

「……うん」

 

 昼の時に見せた、どこか寂しそうな色も抜けた寝顔を見れば、酒臭さもあまり気にならなくなった。

 

 

 月は、相変わらず綺麗だった。




次回より、
盾役従者は勇者に付いて行けるのか? 危険な2人!勇者は眠れない

が始まったりしなかったりしろ

次回も2日後。良い子のみんな、絶対メス堕ちしてくれよな!


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7.朝チュンはお楽しみなのか?

 よいこの皆お待たせ、寒い日には電気毛布で体を温めつつASMRを聞くと風邪をひかないぞ。
 特に不安で眠れない日は規則的な深呼吸と可愛い声が安眠の手助けをしてくれる。

 



『──テオ様テオ様。ここだけの秘密のお話をしてもいいですか? 実は私、あなた方にお会いするまでずっと、女の人の方が好きだったんですよ』

 

 ……いきなり爆弾発言おとされて俺はどうすりゃいいんだい?

 一国の姫様がレズ発言はやばいよ。

 いや、女の人の方がってことは男も行けるってことか。つまりバイセクシャルか。

 

 そんな……姫様のパイに触りたいと下衆な妄想をしていたからこそ、俺に姫様がバイだという衝撃の事実が告げられたのか?

 

『しかしここ最近は男性を見て心が温かくなり溶かされてしまうような……一体、私はどうすればいいのでしょうか』

 

 ……それって初恋の悩み?

 えっ、そんなの告って──じゃなかった。姫様の立場なら告白は厳しいか。

 ……相手は貴い生まれの方、というわけではなさそうっすね。それなら普通に結婚すればいい話だし。

 

『え、えぇ……その……』

 

 暖かい、溶かされる……あ、もしかしてヤシドのこと?

 ははは慌てないでください。アイツがいる時、顔赤らめた時ありましたよね。そうですかーいやー見る目ありますね流石姫様。

 ……正直それだったら大丈夫でしょ。この間の事件を鎮めたことで勇者としての栄光も更に強まったから。……そう、もう少し勇者さんが活躍すれば姫様が結婚したいって言いだしても王様はオッケー出すと思いまっせ。

 

『あ、あの……そうではなく……』

 

 スオウがいる時も顔赤くしてましたんで、単に格好いい人が好きなんかなって思ってたけど。

 あ、もしかして好きな人を絞れないとか……あやっぱり。そうっすよね格好いいもんなーヤシドとスオウ。

 聖魔剣槍と名高いコンビ。国民とかから人気高いらしいし。

 

『え、えーとその組み合わせもいいものですが……て、テオ様も人気はあると思いますよ?』

 

 勇者パーティー三人の内三番目だがね、ありがとう。

 はははははは……ははは、結婚出来る気がしないぞ俺。酒場でのんびりナンパしてたら大概勇者様に渡して欲しいって手紙貰うし。

 いっそ姫様の近くにいられれば眼福だし、姫様の従者でいい人おりません?

 

『う、うーん私のお付きの人は主に私のせいで少々年齢が上の人が多いので……。あ、いいこと思いつきましたよ』

 

 え、なんですか?

 勇者様と婚約できるかどうか話を進めておいて、俺は旅が終わったら執事見習い兼護衛として雇ってもらうよう頼んでおく?

 そうすればお付きの人とかがいい人を紹介してくれる、かもしれないですか……いいっすねぇ。就職先も紹介してくれるとかできる上司を持ってると幸せだなぁ。

 ははは、ヤシドが王族の仲間入りしたら会えなくなるかもなーなんて思ってたが……案外寂しくならなそうだしいいかもな。

 

 ぜひともそんな感じでよろしくお願いします姫様。

 

『ええ……二人を引き離すなんてとんでもない事ですからね……剣と盾は一緒にあってこそですよ……へへへ』

 

 ……なんか息荒いっすね姫様?

 若干腐臭がするのは気のせいに違いないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……懐かしい夢を見ていた。

 

 結局その後は婚姻話もうまくいって、ヤシドも満更ではない感じだったな。まあ女の子に好意寄せられて断る男子が少ないけどな。

 俺だってそうだぞ。例え好みの子じゃなくても「貴方が好きなの」って言われればホイホイついていく自信がある。

 

 ふふふ、どこかに居ないもんかな。グラマラスでお酒とたばこ嗜んでも文句ほどほどで優しい女の人。

 いたらなぁ、そりゃ男として尽くしますよ……って俺女だったわ。

 

「……ふぁあ」

 

 大き目の欠伸をして上半身だけ起こす。眠い頭のまま辺りを見回せば……宿屋か。

 えーとそう、オークの穴の後に宴会をして……えーとそうだ。ヤシドが羨ましかったから邪魔してやった……んだっけ? 記憶が薄い。

 まあいいや、朝の煙草と洒落こもう。 

 

「……ん?」

 

 普段の朝とは違う、けれど落ち着く匂いがしてふと視点が落ちる。

 

 ……なんかあの、今どけた毛布がやたら盛り上がっている気がする。

 具体的には人一人分盛り上がっている気がする。き、気のせいかな……はみ出ている髪の毛が赤く見える様な。

 

 い、いやーまさかね? 流石にこんなことが起こるわけが……。

 ペロッと、毛布をはがす。

 

「……ぐぅ」

 

 奴がいた。気持ちよさそうに寝息を立てていた。薄いシャツ

 朝起きたら、記憶の中の勇者ファンたちに殺されかねない、勇者と朝チュンした女になっていた。

 昨日はオークと添い寝していたし、ビッチか何かか?

 

「んん……」

 

 ……えっ? ヤッたの? 記憶何もないけど俺の衣服少し乱れてるしヤッたのか!?

 待て起きてくれるなヤシドくん、静かにするからもう少し寝ていろ!

 念じてるのに動くな、寝てろ寝てお願い!

 

 色々と考えがまとまらないから──!

 

「……あ、テオおはよ──!?」

「とりあえず寝てろっ!?」

 

 混乱のまま、起き上がろうとしてきたヤシドに対し……近くにあった固い枕で叩きつけた。

 会心の一撃だった。思い返しても感心する出来だったことに間違いない。

 

 死角からの鋭い一振りは顎を捉える、

 勇者は不意の一撃を受け、天を仰ぎ倒れた。

 

 

 ……ユウシャを たおした!

  

 とりあえず、勝利のポーズを取った。

 勇者キラー、ここにあり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広がる青空。ふたつの太陽はすでに中天を通り過ぎ、さわやかな風が通り抜ける今日この頃。

 眼下に広がる城下町では忙しそうにする人々でにぎわいを見せ、騒がしいながらも楽しげな風景に思わず胸が躍る。

 

「……」

「……いや悪かったって、起きたらいきなりお前が居てビビったんだよ」

「……テオが全然首を離さなったから、ああするしかなかったんだけどね」

 

 追伸、記憶の中の勇者へ。また拗ねました。

 すーぐ拗ねますねコイツ。いや寝ざめの顎に強烈な一撃食らえば拗ねるのも仕方がないかもしれないが何も馬車の中で半日近く拗ねなくともいいじゃないか。

 ほらオークのバラ肉串あげるから機嫌治せって。

 

「はぁ……テオが女の子っぽい反応をしたのは逆に安心したんだけどさ……もう少し優しくというか」

「女の子っぽい……?」

 

 何を言ってるんだこいつは。正直俺が男のままでも男と寝てたら混乱して殴ってたからな。

 むしろ男の時の方のが怖かっただろうよ。

 

「え? ……ともかく、あんな風に酔って無防備にしてたらそれこそテオが想像したことが起きるかもしれないんだから。これからはもっと注意をね……」

「はっはっは、この体に欲情する奴なんてこの世にそうそういないって!」

「……」

 

 くっ、また拗ねた。

 こんなブツが生えてるかどうかぐらいしか男と変わらない体に興奮する奴なんてていない。というかいたら婚活チャンスだわ……いや男とやる趣味はねーよ。何一瞬考えてんだ俺、気持ち悪いな。

 

 で、せっかく聖剣のお披露目の為に王都に来たんだからもっと輝いてくれ勇者。

 拗ねるな拗ねるな串焼き食え食え。

 

「だからさぁ……折角頂いたお酒の没収は無しの方向で……」

「だめ、酔う度に叩かれたくないし」

「そんなぁ……」

 

 くっ、極悪非道な勇者め! 俺もまた被害者なのだ。

 大体察していた宿屋のおっさんに「昨日はお楽しみでしたね」と笑われた俺の気分も考えて欲しいものだ。

 

 

 

──そこから十数分、馬車に揺られた。

 

 ……馬車が城下町の入り口にたどり着く。そこには数人の兵士たち。

 一人だけ装備が豪華なあたり、誰がリーダー格か分かりやすくていい。というか顔見知りだな。これはこれは、治安の維持に普段は尽力している騎士団長様ではないか。

 軽く頭を下げればあちらも直ぐに一礼。ふっ、勝ったな。

 

「お待ちしておりました勇者様方。お話は伝書より……旅も始まったばかりですが聖剣が輝きを取り戻したそうで」

 

 ……よく考えたら王都出て一週間足らずで戻って来るってかなり迷惑かけてる気がするな。

 記憶の時は確かホブゴブリンリベンジの後オーク村に向かって、村で宴会した後オーク狩って……いや戻ってくる日変わってないか。

 

 ならいいか。

 記憶の中じゃ聖剣の輝きのおかげで王都の住民たちは最高潮に盛り上がっていたからな。

 

「はい。素晴らしい輝きで……伝説を再度調べるため、そして是非ともみなさまにも見てもらおうと思い……ほらヤシド様」

「……」

 

 ぺら回し、従者ムーブでヤシドを前に出す。少し不満げにこちらを睨んでくるが流石にここは空気を読んで、奴もまた聖剣を抜刀。

 ……その少し後、剣を中心に光が広がる。暖かくも熱さを感じない、太陽の下だというのに明るさを感じるほどの光量。

 それでいて直接見ても目つぶしにならない辺り、本当に不思議な光だと改めて思う。

 

「おお……これが」

 

 その光の特殊性に直ぐに気が付いたのだろう。騎士団長はしばし言葉を失い、光り輝く聖剣を見ていた。

 部下の兵士たちは何が起こっているか分からないといった表情であったが、光を受けて心が温まったのか少し腑抜けた顔になって行っていた。

 

 これぞまさに救世主の光。

 聖剣の解放段階としてはまだまだ序の口だが、人々に威光を伝えるには既に十分だろう。

 

「……と、こんな感じです。……大丈夫ですか?」

「──あっ。え、ええ問題ありません。陛下もお喜びになられるかと……明日の午前には王宮での謁見がありますので、それまでは旅のお疲れを取ってくだされば」

 

 もういいかと光を収めたヤシド。もう光の放出についてのコツをつかんだらしい。いいことだ。

 ……謁見の日も変わらず、じゃあ陛下もこの光を見て「この素晴らしい光が世に戻らなければいけない何かが起こる」と懸念。

 軍が集めた「最近この穴の様子がおかしい」情報が貰えるようになって……という形だ。うむ実に理にかなっている。

 

「城の中に部屋を用意しておりますので、お休みになりたいときは門番にお申し付けください」

「あぁそれはありがたいことです。では素晴らしい王都の街並みを見に行きましょうか」

 

 記憶の通りに行けば、夜まで散策し晩餐はお城のコックさんによる薄味料理だ。騎士団さんに支給されている塩っ辛い方がいいけどお客様扱いだからなぁ……。

 確か前回はヤシドと話し合い、城下町のグルメで腹を埋めてしまおうということで食べ巡りしたんだっけか。

 

 ……とは言え今回はちと事情も変わるしな。あとヤシド拗ねてるし。

 調べておきたい事もあるから王都の図書館……それとオーク村で貰った鎧は心もとないし、防具屋にも向かいたいな。

 別行動するか?

 

 耳打ちする距離まで近づきこそこそと話す。

 

「ヤシドくん、ヤシドくん。別行動しないかい?」

「ちょ、なに……まさか昼間からお酒飲みたいとかいうんじゃないよね?」

「まさか! ほら、術式付きの防具があれば欲しいからよ……」

 

 はははまさかそんなことする訳ないだろせいぜいコップ一杯こっそりひっかけるだけだよ。

 ……この純潔の盾レベルなんて贅沢は言わないが、ほんの簡単な術式一つでも刻んである鎧があれば万々歳だ。

 身体能力向上系があればなおよし。どうせお金は王様からもらえるしな。

 

 というわけでそちらはジャンクフード漁り。こちらは冒険用の備えの備え。

 備えあれば嬉しいな作戦で行こう、そう決まりかけていた。

 

「ああなるほど……ごめん、疑ってたよ。そうだね今のままじゃ……あ、そうだ!」

 

 罪悪感から態度が軟化しかけた時、ヤシドの顔が明るく……いい事を思いついたと笑顔になった。

 勇者はこそこそ話を止める様に俺から離れ、騎士団長の方へと寄っていく。

 

 何をする気なのだろうか分からないが、いやな予感がした。

 

「? おいヤシドさ──」

「騎士団長さん、テオの防具を作ってもらえるような職人さんとかに心当たりはありませんか?」

 

 うん?

 

「むっ……そうですな。これからも戦いが続くならばその革鎧では難しいでしょう。騎士団抱えの者を尋ねましょうか」

「ええ、ぜひお願いします。こんなことを言うのもあれですが、もう少し煌びやかなものがいいでしょうね」

「そうでありますな。勇者様のパーティーであれば一般的な物よりも……純潔の盾に相応しい鎧がよろしいでしょう」

 

 あの? 煌びやかな物は趣味じゃないから無骨な、一般に流通しているタイプの奴がいいんだけど。

 騎士団さんの奴とかの量産系の奴。

 

「それでは彼女をよろしくお願いしますね団長さん」

「ええ、もちろん──パレードでもひときわ目立つ、可憐な鎧をご用意させていただきます。

ではテオ殿こちらへ」

 

 ……可憐? 誰の装備が? 

 俺の? 可憐ってまさか、美人冒険者が着こなすようなドレスアーマーとかじゃないよね。やだよ俺ああいった女性の性を出す奴。

 あの、騎士団さん達……なんで俺を取り囲む?

 

「テオは恥ずかしがり屋なので、逃がさないように……」

 

 ……勇者さーん?

 もしかしてまだ拗ねて……ねぇ! 笑ってやがる!? 朝の恨みかこいつ!

 よせやめろ騎士たち、両腕を掴むんじゃない! 連行しようとするな持ち上げるな!

 

 やめろ、女物の防具なんて着たら悲惨な見た目になるだろうが!!

 

「じゃじゃあテオまた後で……プフッ」

 

「(覚えてやがれてめーっ!!)」 

 

 絶対に着てなるものか、遠くなる俺を見て笑い空気をもらすヤシドに向い、心の中で叫んだ。

 

 




TSしたからには、女らしい服を強制的に着るイベントが無ければおかしい。
私はそう思った。

~オリキャラ紹介~

・姫様
 王族レズ腐り系
 初期案では単なる母性のやべー奴だったのになんで……


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8.オークより怖い

更新間隔もっと短くしたいゾ
それはそうと、体に気を付けて毎秒更新しろとか書くと規約違反で削除されるらしいっすね。泣きました、許してください


「初めまして。私リバユラ王女の侍女長をしております、スティアナと申します。本日はテオ様の採寸を務めさせていただきます」

「あ、どーもよろしく……お願いします」

 

 キンキラ装飾が施され、窓には曇りが無し。埃一つ感じさせない程整った部屋の中。

 スティアナさんはペコリ俺に一礼をした。

 

 ……てっきり職人の下へ連れてかれると思ったんだがなんで姫様のお付き人が居る部屋に通されたんだ?

 というかここお城の中じゃねぇか。部屋が広いし落ち着かねぇ……マジでヤシドは後でボコる。

 

「……肌着までで?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 スルリ、と……何度脱いでも見下ろしても性的興奮を覚えることは無い体を差し出す。

 あぁ、胸がデカかったらきっと揉むだけで一日を潰すことが出来るほど楽しめたろうに。神よ、どうしてこんな楽しみのない体にしたのか。

 

 ……ふとももとかはどうだろうか、自分の体だと思うから微妙だが意識を薄れさせれば……。

 

「な、なぁ……ここまできっちり測らないとだめなんですか?」

「はい、申し訳ありませんが今しばしお待ちを。さぁ胸を張ってくださいませ」

 

 スティアナの指示で他の侍女が動く。肌着の上から巻き尺を押し当てる。

 次は胸の下、腹へと。様々な部位を測り、紙に記入していった。

 

 少しの息苦しさと恥ずかしさ。いくら女性になったとは言え同じ女性(推定50歳前後)に見られるのはちょっと……。

 

「う~恥ずかしいな……せめてもうちっと立派な体してりゃ胸張れるんだが」

「またまたご謙遜を。旅立たれて少しとは思えぬほどですよ」

 

 そう独り言を零せば、侍女さんは口元をニコリとさせてフォローする。

 ……はぁ、こんなんなら男に見てもらった方が気が楽なんだが。

 

 露出プレイの気はないんだよ俺は。

 

「はは、ありがとうございますー……もう少し大きくしたいんだけど」

「ふむ……? お肉(筋肉)の話でごさいますよね?」

「お肉(胸)だけど?」

 

 ……うんだめだ。表面は柔いってのに掴めば思いの外筋肉があってげんなりする。

 こう、女体ってのは触ったことないがマシュマロのごとき柔らかさと聞く。

 はぁ、一度触ってみたいもんだ。……勧誘はだいぶ先の話だけど、エーナちゃんが来たら同性だし触らせてもらおうか……杖でぶん殴られそう。

 

「……つかぬことをお伺いしますが、普段はどのように鍛えられていらっしゃるのでしょうか?」

 

 骨盤、太ももの太さなどを測っている内に、侍女さんが話題の為か尋ねてきた。

 トレーニングの内容……純潔の盾、あれに魔力通して巨大化、硬質化させてダンベル代わりにしてるとか言ったら怒られそう。

 でも手軽に用意できる重りとして優秀なんだよな……。ついでに魔力使うから魔力総量を増やすためにも使えるし。

 

 ……でも、こんな地道な特訓より、穴の中で魔力浴びながら戦闘重ねた方が伸びるんだよなぁ……。

 

 冒険小説とかで読んだ、レベルアップって奴に似てる現象だ。

 あっちは一定のラインまで溜めなきゃ成長しないらしいが、こっちは常に更新されるぜ。

 まあゴブリンの穴とかじゃ碌に強くなれんが。

 

 聖剣や魔槍持ちは何が原因なのか知らんがこの伸び率も高い。いやほんと羨ましい。

 

「といってもまだまだ始めたばかりで……重りを用い、一回の負担を大きくしております」

 

 まだそれやり始めて数日しか経ってないから変化出るわけないけど。

 今の筋肉はアレだ。酒場で鍛えられた方の筋肉だ。酒樽持ったり大量のジョッキ持ったりしてるうちに自然に鍛えられた。

 

 あと女性にモテるには鍛えるといいと聞いて、しばらく鍛えてた時期もあったからな。

 結局、あの村で出会いなんて無さ過ぎて半年で辞めたけど。

 

 ……こっちの世界の俺もそんな理由だったんかね? わからんが。

 ここはちと不便だな。村に戻った時、差異が出ちまうかもしれんから迂闊に戻れねーな。

 

「左様で……はい、お待たせいたしました」

 

 そんな考えをしているとようやっと採寸が終わった。

 スティアナさんは紙を何枚か複写、うち一枚を俺に渡してくる。

 これでここ以外で防具を作る時も採寸の必要性が無くなるだろうという気づかいだろうか。ありがたい。

 

「ありがとうございます……ではこれをどこへ」

「いえ、鎧師への手続きは我々にお任せを。テオ様はごゆるりと……」

 

 あらそうじゃあ自分の数値でも眺めて……うーむBのでかさもないか。まじめにお子様体型過ぎるぞ。

 前の俺が用意したであろう旅の荷物にタンクトップしかねーなとは思ってたが、こら必要ねーわ。

 

「そうですね……出歩くものも持ち合わせておりませんし、暇を──」

 

 で、なに? ごゆるりと?

 いやー……採寸で精神力削られたし、もう出かける気力湧かねーわ。それにヤシドと離されたせいで荷物もアイツ持ちだし。

 流石に食べ歩きするなら普段着になりたい。万が一のため盾はともかくとして。

 

「──今、お暇と申されましたか!?」

 

 ……そう言い切ろうとして、言葉に詰まった。

 突然部屋の扉が強く開かれ壁に当たり、大きな音を立てたのに驚き肩を震わす。

 

 耳に届くのは酷く懐かしい声。柔らかい風を感じさせる綺麗さと、確かな強さを思わせる、芯の通ったハリのある声。

 

 振り向けば……俺の心が素晴らしいと手を叩くほどの発育の暴力。

 それを包み隠さず魅力として昇華させるために整えられた、煌びやかなドレス。

 勇者の聖剣の光を想起させる、綺麗な金色の髪。

 

「……これはこれは、リバユラ王女。お久しぶりでございます」

「ええ、久しぶりですね。また会えて大変喜ばしいことです」

 

 この国の王女様にしてやがて勇者と婚約するお方。リバユラ・メイクーン様がそこに居た。

 ……いや、なんでいるのさ。しかも後ろに他の侍女まで連れて。

 

 待ってくれまだ肌着の上からシャツ一枚しか着てないんだ距離詰めないでせめてズボン履かせて!

 恥じらいが大事だと思うんですよ乙女には、これ仮に俺が男だったら絶対そんなことしませんよね、当たり前だけど! 

 

「リバユラ様!? 一体どうされましたか、今は勉学の時間のはずでは……」

「……ご苦労様です、スティアナ。折角勇者様方が王都にいらしているのです、その歓待もまた姫の仕事。……それに比べたら些細なことでございます」

「……つまり、勉学をおさぼりになられた訳ですね?」

 

 おおう、眉をひくひくとさせて少しお怒りになられているぞスティアナさん。

 姫を止められなかった方の侍女はスティアナに向かって頭下げまくっている。力関係がすぐ分かる光景だな……。

 

 その間にもリバユラ様は距離を詰め、手を伸ばせば届くほどにまで近づいてくる。

 な、なーんか俺が知ってるリバユラ姫さんと様子が違う。眼も口も笑っているはずなのにどうしてか、獲物として見られている気がする。

 

「ふふ、お説教はまた後で……そしてテオ様……いえ、テオちゃん?」

 

 テオ……ちゃん!?

 

 そんなの生まれてこのかた呼ばれたことないんだけど!?

 困惑している間に、リバユラ姫の手が俺の髪を撫でる。梳く様に緩やかに、姫のか細い指が引っ掛かるたびにむず痒い感覚がする。

 

 近い、顔近い! ご褒美だと思えるのになぜか怖い!

 

「な、なんでございましょうかリバユラ様」

「あら、つれないお言葉……前も申したでありませんか……様付けも、その話し方もよしてくださいと。私とあなたの仲ではないですか」

「そっ、さっ左様でございましたか……ましたね……だな」

 

 そうなんですか!? 少なくとも男子テオ君の記憶にそんなことはございませんねぇ!

 こっちの世界の俺どんな話した。どう考えても二日以上は会ってるはずがないのにぐいぐい来てるんだけど!

 

 あ、あれだ多分俺の事だから女性としての立ち位置を利用して姫様とお話をよくしたのか。それでこの時期だと姫様がレズだと知らねぇからな!

 ……あれ、それで姫様から見たら俺って同好の士?

 もしかして……目を付けられてます? こんな見た目なのに。

 

「ふふふ……本当に可愛らしい」

「そ、そそっそそんなことないです……ないって」

「いえ、お世辞ではありませんよ?」

 

 ひいっ、あのその……ほんと近づかないで……綺麗な女性にここまで顔近づけられたことなんてほとんどないから変な汗が。

 勘弁……マジ勘弁。顎クイとかしないで……心が乙女になる。

 

 ……なるな。お前は男だ。そうだそうだグヘヘ姫様相変わらずお胸大きいしですねグヘヘ。

 そして綺麗なお肌で……柑橘類の石鹸でも使ってらっしゃるんですかいい匂いしますねグヘヘ。

 グヘヘ……そのやっぱ刺激が強すぎるのであと1メートルぐらい離れて……。

 

「コホンッ!」

 

 蛇に睨まれた蛙の如く固まっていた俺を現実に引き戻したのは、スティアナさんの咳払い。

 はっと気が付きさっさとズボンを履くため距離を取る。履いた。ありがとうスティアナさん。

 

「……それで、リバユラ様? 歓待とは一体何のお話でしょうか。勇者様とテオ様には本日王宮がおもてなしをさせていただく予定でございますが」

「ええもちろん、そちらでも勇者様たちをおもてなしさせていただきますが……何分、テオちゃんと約束がありますから」

「──約束?」

 

 ……約束?

 はてそんな覚えがないのだけれど。

 

「はい、今度お時間があれば……私自らが王都を案内する……と。そうですよね、テオちゃん?」

「……はい?」

 

 ……えっ?

 なんですかそれ。お姫様直々の王都案内……なんで?

 

「ほら、この通りテオちゃんもはいと言っております。あぁ護衛は最低人数で問題ありません、なにせ……勇者様の盾がいらっしゃるのですから」

 

 俺が聞き返した言葉をいいように扱い、手を取る姫様。

 また顔が近い。宝石の様に煌めく深みに吸い込まれそうになる。

 

「この前はお忙しさで断られてしまいましたが、今日は色々な場所に行きましょう……ね?」

 

 

 

「……ひゃい」

 

 ……記憶の中の勇者へ、お前のお嫁さん(予定)に食われそうです。

 助けてください、お前の嫁だろ早く何とかしろ。

 




 TSしたからには、綺麗な女性キャラに狙われるイベントがあってもいい。心の中の男が叫ぶんだ。
 

~世界観説明~
・レベルアップ?
 この世では穴に潜り活動を続けていると体が強くなっていく。見た目はあまり変わらない辺り、質が良くなっているのだろうか。
 瞬発力や腕力だったり。個人差は多少あれどそうすることで冒険者として成長するのである。
 当然過去のテオもこの方法で強くなろうと努力したが、聖剣や魔槍もちの二人の方が成長率が高く置いてかれた。

~オリキャラ紹介~

・リバユラ・メイクーン
 メイクーン家の王女様。
 BL好きの素質があるが、この世界では「男勝りな口調、女体好き」なテオと出会っているため覚醒の兆しは程遠い。
 少し昔に侍女に手を出そうとした結果、周りの人を年増で埋め尽くされた哀しい過去を持つ。
 執事はむしろイケメンを揃えられている。親はノンケに目覚めさせたいと願っている。

 なんだこいつ……(作者)


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9.流行りの服は嫌いです

 女装少年、男の娘、TS、女装子、メスショタ、ふたなり。結局のところ全てホモだと断じるのは勝手だ。
 けどそうなった場合、誰が代わりにメス堕ちすると思う?

──作者だ。

 作者はオリジナル累計に載った一件で、更新が滞ることに負い目を感じている。
 だから他のTS作品が更新されなければ、自分からメス堕ちするだろう。
けど、今の作者じゃ尊い恋愛小説には勝てない。
 そうなれば、東都の連中はよってたかって低次元領域を責める。

 ……お前がメス堕ちするしかないんだよ。



 

 

 ただ飯というのは好きだ。

 あとで恩に着せられるタイプのは別として、大概奢ってくる相手は気を良くしてるから楽しい。こちらは財布を気にすることなく飲み食いが出来る。

 青果店などでこれはオマケだと果物を追加してくれればもう一日幸せな自信がある。

 

「お、お待たせしました。こちらベリーベリーアイスタルトと、チョコバナナアイスタルトでございます」

「ありがとうございます、テオ様はどちらがよろしいですか?」

「えーえっと、バナナの方で……」

 

 だがなー……姫様に奢られるのはわけわかんなさ過ぎて、幸せ数値がどこか旅立っちゃってるよ。

 可愛くて抜群のプロポーションの子と、今王都でも大人気のスイーツを食べるとかもはや風俗だよ。

 ……うん、こんな無礼なこと考えられるだけ余裕は復活したか。

 

──な、なあなんでこんなところにリバユラ様が……?

──俺が知るかよ、それより今日はやけに護衛が少ないぞ。隣の人は誰だ……?

──な、なんか見覚えある気がすんだが……

 

 テオです。勇者さんの仲間です。

 

 無名の俺ではなく、姫様の御威光に恐れをなして事前にいた行列が退散。

 民衆が噂をするのを耳でとらえながらテラス席に座る。

 よく考えなくてもクッソ迷惑だな? まぁスイーツ食べる時に戦いたくないから、こうして距離取ってくれるのはありがたいんだが。

 

 

「ふわぁ……美味しそうですねぇ。食べるのがもったいないくらい」

「だな……ここまで綺麗な盛り付け、路面店の質じゃないぞ」

 

 対面に座った姫様。皿を眺めてご満悦。

 最初どちらがいいかと尋ねた時もそうだが、姫様の視線的に恐らくベリーが食べたかったのだろう。

 目を輝かせてスイーツを眺める姫様は、絵にしても十分なほど様になっていた。

 

──皿に乗った、手のひらサイズのタルト生地のくぼみには丸いアイス。

 ふちを埋める様にベリーソース、ベリーの果肉が並べられている。

 

 こちらは同じく窪んだタルト生地にチョコアイス。輪切りになったバナナが並び、端から端まで三往復したチョコソース。

 アイスの山の頂上に添えられたミントが全体の彩を締まらせ、昇華している。

 

 ……見た目の手の込みようからして値段も相応に高い。

 少なくとも一個で瓶の安酒が買えるレベル。

 

 では実食。スプーンでアイスを掬い口に、すかさずチョコソースが乗ったバナナを一口に。

 

「おー……うま!?」

 

 あっ、冷たい……ひんやりとした喉にバナナの濃厚さとチョコの甘味が雪の様に積もって解けていく。

 滅茶苦茶甘いけど、どうしてかクドく感じない。これがプロの技と言うものか。

 

「うー冷た……おいしい」

「ふふ、とってもいい笑顔ですね? テオちゃん」

「……あっ。そ、そう? いやぁなかなかどうして……甘いものは普段食べなくてつい……」

 

 その美味しさゆえか、姫の前という事も忘れ既に三口。見れば姫様はまだ一口だけ。な

 指摘されてこっぱずかしく、頬が熱くなるのを感じた。

 

「あら、そうなんですか? テオちゃんはフルーツが好きだとお聞きしましたが」

 

 え、そんなこと話したっけ? やっぱ記憶のすれ違いって厄介だ。

 こちらの発言に首を傾げる姫様。可愛いかよ。これでレズじゃなければ……。

 

 ……いやそれにしても痛いところ突かれた。

 確かに、しょっぱい酒のつまみの方が好きだけど……スイーツは嫌いじゃないし、むしろ好きだ。

 じゃあ何で食べないの? って聞かれるかそりゃ。

 

「……村じゃあ甘いものが果物ぐらいだったし、それに……」

「それに?」

 

 しまった。つい続けてしまった。果物ぐらいだったで切ればそれで終わりだったのに。

 どうしよう、今更「いやそれだけだったわ」って言いきるの無理がある。多分姫様は「隠し事など……」って粘るし。

 ……いいか、別に言っても。

 

「その、あんまり可愛いものは似合わないなーと。ハハハ……」

「──」

 

 酒もタバコも好きで外聞気にせず楽しむ俺だが、どうにもスイーツ=女子。そんなイメージがある所為であまり進んで食べようとはしなかったな。

 大体誰かから勧められた時は喜んで食べるけど……。

 

 ……そうだ。今なら女子になってるわけだし、多少はスイーツ食べても違和感がないな。これは女子になってよかった数少ない利点。

 ヤシドの奴も甘いのは嫌いじゃないし、今度町でよさげなの見つけたら買ってもいいかもな。

 モグモグ。

 

「……あ」

 

 しまった、無意識的に食べていた。もう最後の一口分しか残っていない。

 対する姫様は……すんごい勢いで食べてる!? 丼ものじゃねぇんだぞ!

 

「ひめ──じゃなかった。リ、リバユラちゃん?」

「……あぁ、失礼しました。つい意識を逸らすために……」

「意識を!?」

 

 なんでそんなことする必要があったの!? というかそんな一気にかっ込んで頭痛くなったりしない?

 ……大丈夫そうだな。恥ずかしいのか頬も赤くなってるし。体温むしろ高くなってる? なんで?

 しかしこれで姫様は残り二口分。あれか、気を遣ってくれたのかな。悪いね。

 

 じゃあ適当に話をして完食しよう……うん?

 

「……そうだ、この手が……!」

「あの、リバユラちゃん?」

 

 なんでこっちをじーっと見てんです? そう見られると食べづらいんだが。

 

「……あ、あのー」

「──テオちゃん。私、チョコバナナの方はどんな味か気になってしまったのですが……ベリーの方、食べてみたくはありませんか?」

「え?」

「ありませんか?」

 

 いやな予感がした。

 口元だけにんまりと笑顔を浮かべる姫様を前に、迂闊な返答は危険だと警鐘が鳴る。

 

 仮に「食べたい」と答えた場合、レズ姫はどうするだろうか。

 追加注文……いやありえんか、無し無し。そんな食いしん坊な感じではないだろう。

 じゃ、じゃあ……あれだ。そっちの味が気になるよねーでシンプルに皿を交換して食べる。これが一般的、姫はきっと超えてくる。

 

 けどこれ、食べたくないって答えらんないよな。

 とんだ無礼だし、後が怖い。

 

 ……ええいままよ!

 

「……た、食べたい……です」

 

 どうか、姫様がお皿を交換したい。

 もしくは普段甘い物を食べないと言った俺を気遣って追加注文してくれるとかいう平和路線でありますように!

 そう神に、鬼も蛇も出ませんように祈り言い切った。

 

「そうですよね!」

 

 あっ、あかん。

 すっごい邪悪な笑顔したぞ一瞬。四天王でもそこまでな顔はなかなかしてなかったって……。

 

 俺の言葉で導火線に火が付いたのか姫は動く。

 椅子をずらし、対面から少し手を伸ばせば届く位置へ。

 何をする気だと身構えたが、リバユラ姫はこちらに向かって……ただ、口を開いた。

 

「それじゃあ……あーん」

 

 なんで?

 いやなんて?

 

「ほらほら、早くしないと顎が疲れてしまいますので」

 

 いや、疲れてしまうってあの。

 一国の姫様が無防備にも口をこちらに向かって開いている。綺麗で白い歯と健康的な口内が見えた。 

 ……その、エロいです。グヘヘとかふざけるスケベ心が吹き飛んで、熱かった頬が更に熱くなる。

 

 こ、このまま眺めてるのもいい──いや駄目だ!!

 これ以上みていると俺まで変な趣味に目覚めてしまいそうだ!

 

「……あ、あーん?」

 

 慌てバナナタルトを掬い、視界を塞ぐように姫の口にタルトを入れる。

 姫の口が閉じ、スプーンからタルトが絡めとられる感覚。

 若干収まりきらず、口元に付いたチョコソースが一瞬、出てきた舌で舐め取られる。お下品だと咎める執事や侍女はいない。

 

 姫様はこちらをじっと見て、笑顔でゆっくり咀嚼。

 こちらも目を離せず……ただ、さっきまで見えていた口の中で砕かれただろうアイスタルトが、喉を通り腹に収められていく姿を眺めていた。

 

 ……餌やり餌やりこれは餌やり、決して邪な気持ちを抱いてはいけない!

 心の中で何かが目覚めようとしている鼓動を必死で押さえつける。

 

「ふぅ、こちらも美味しかったです、ありがとうございます」

「ど、どういたしまして……!」

 

 だからこそ俺は、姫が第二の矢を番えていることに気が付かなかった。

 

「それでは……テオちゃん?」

「あ、え……?」

 

 気が付けば、目の前で姫は構えていた。

 何を、スプーンを。二口分のベリータルトを。どう考えても口に収まりきらないそれを。

 

 そして……姫は悪魔の言葉を囁いた。

 

「はい……あーん?」

 

 逃げ場はない。

 だから、だから……。

 

 

 

「あ……あーん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ひどい目に遭った。

 具体的には、当然の如くアイスが収まりきらず口が汚れて、「あらあら大変ですね、今拭きましょう」と姫様が懐から取り出した、滅茶苦茶高そうでいい香りがするハンカチで拭かれた。

 更に、至近距離でそんなことをされたもんだから余裕も待たなくなって「や、やめ……やめてぇ……」とくそ情けない声を出したことも恥ずかしい。

 

「楽しかっ──美味しかったですねあのお店!」

「ソウデゴザイマスネ」

 

 つやつやした姫様とは対照的にこちらはかなりのグロッキー。甘味の回復分を相殺するどころかもう限界です。

 もはや手をつながれてどこかへ連れていかれるのも阻止できない。というか力強い、どこから湧いてくるんだこんな力。

 これ護衛いる? 勝手に放っても山賊とか蹴散らしてきそうな精神パワーを感じるよ。

 

──姫様だ

──隣の人は一体……?

 

 テオで……いやテオじゃなくて……まだテオです。

 ああ勇者ヤシド様、通りかかってくれ。そして話しかけてくれたらもう、それはそれはおべっか使ってなんとか姫と勇者二人一緒にどっか行かせっから。

 ああくそ、なんで人の婚約者に狙われなきゃ……いやこの時点ではまだ婚約してなかったなうん。

 

 姫はグングンと進む。王都の中でも富裕層が多い地域へと入り、街並みも少し豪華になっていく。

 ……さっきのスイーツ店もそうだったけど革鎧がクッソ浮きますわ!

 

「そ、それでリバユラちゃん……次は何処へ」

「ふふふ、それは……こちらです!」

 

 歩みが止まる。さてなんじゃらほいと顔を上げればそこには三階建ての建物が。

 非常に珍しい、ガラスのショーケースで飾られているのは……ドレス、それも姫様が着ているようないかにも高そうな代物。

 つまるところ、服屋さんだな。

 

「服……なんか欲しいもんが?」

 

 ……まぁ姫様も女の子だし、おしゃれは大事だわな。

 俺はこんなの全然わかんないからアドバイスとか求められたら大変だけど……さっきのあーんよりはマシか。

 

「? 何を仰っているのかわかりませんが……」

 

 そう一安心して、

 

「──テオちゃんに着てもらうのですよ?」

 

 

 

「……はい?」

 

 地獄だと気が付いた時には、後の祭りだった。




メス堕ち度 15%
レズ堕ち度 10%
 前書きはオリジナル累計には入れた感謝をこめて書きました。
みなさまのおかげであり、本当に感謝してもしきれません。

それはそうと、TS娘は着飾るイベントがあってしかるべきだよな。それ書くのにかなりかかったのはなんでだろ。

~世界観説明~
・アイスクリーム
 最新式、熱を奪い冷やす魔道具を使う事で作り出された。
 これが発明される前は寒い地域から氷を切り出して作る必要があったため、とても高価だった。

~オリキャラ紹介~
・リバユラ・メイクーン
 目の前の女の子が「甘い物なんて似合わないだろ俺」とか言い出した。
 だから似合う様にしてやろうと思った。なんて善人。

──メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐のオス精神を除かなければならぬと決意した。メロスにはメスがわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれどもメス堕ちに対しては、人一倍に敏感であった。


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10.人雄失格

 恥の多い生涯を送って来ました。
 自分には、女性の生活というものが、見当つかないのです。自分は東北の田舎に生れましたので、TS娘をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした。
 自分はTS娘小説のプロットを、書いて、消して、そうしてそれが自分の中のメス堕ちに対する欲望を強くするため造られたものだという事には全然気づかず、ただそれは流行りに乗り遅れまいとする作家として複雑に、楽しく、ハイカラにするためにのみ、書き起こされたものだとばかり思っていました。
 しかも、かなり永い間そう思っていたのです。


 

 昔から僕は少し内向的なところがあったと思う。

 

 道具屋の息子として生まれた僕は、ガラクタを仕入れてしまっては困る父を見て、何かできないかと思ったことはあったけど結局あまり力にもなれず。

 原っぱに生えている薬草を摘んで団子を作ったり、木の端材を貰って変な彫刻を作ったり。変なことばかりをして暮らしていたからか、村の同年代の子とも仲良く出来ず。

 自然と浮いた僕は、今日も一人。川で綺麗な石を探していた。

 

『……なあ、人が釣りしてる近くでうろちょろすんな。魚が逃げちゃうだろが』

 

 それが、君との出会いだった。

 岩に腰を掛け、タンクトップに半ズボン。釣り糸を垂らしこちらを睨むその姿は……僕と正反対な子だと感想を抱くには十分だった。

 その後……確か、びっくりして転んで、川に頭突っ込んじゃったんだっけ。全身ずぶ濡れになって……慌てたテオに慰めてもらったんだった。

 

『お、おい泣くなよ……俺がイジメたみたいじゃねぇか……! だぁくそ、おらさっさと脱げ! 着替え持って来てるから貸してやらぁ』

 

 ……うん、この思い出はかなり恥ずかしいものだったから封印してたんだった。忘れてた。

 そこからテオとの付き合いが始まった。気が合うのか何なのか、僕が出かけたりするときは大体君が居た。

 

 一緒に遊んで、君が馬鹿をやって、一緒に怒られる。

 一緒に遊んで、僕が転んで、君が転ばぬ先の杖だと言わんばかりに前で立って支えてくれる。

 

 不思議だった。不思議で、楽しかった。

 やがて始まった旅には素敵な仲間もいて、楽しかった。

 

『……ごめんな』

 

 いつしか、君は馬鹿をやらなくなった。

 いつしか、君は歩みが遅くなってしまったと零していた。支えられないと愚痴っていた。

 

 ──それでもよくて、それじゃあ足りなかった。

 道が重なっていて、僕が進んで、テオが後ろから見守っていてくれれば……楽しかったんだ。

 また旅が終われば、二人で、いや他の仲間の二人ともと……夢を見ていたんだ。

 

『ついていけなくて』

 

 だから無我夢中に進んだ。

 これ以上被害を出さないためにも、皆を笑顔にして、君が気兼ねなく馬鹿をやれるようにと。

 

 それなのに……なんで、僕は、何処で間違えていたんだろうか。

 もうこの旅に君はいない。この先にあるかもしれない幸せをかなぐり捨ててでも──君にはいて欲しかった。

 

 だから、少しでも君が笑っていられるように、僕はそれを造ろうと決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじさん、この串焼き三本……二本は包んで下さい」

「あいよ、毎度!」

 

 聖剣を背に進む食べ歩きin王都。

 流石はこの国最盛の都市。国中の美味しい物が集まるこの場では屋台の料理も最高だ。お金さえあれば満足満腹なること違いなし。

 これで今夜の食事の淋しさに悩まされることもない。手には既に選び抜かれた食料がいくつか。一人で食べるにはやや多いが、二人で小腹を埋めるには十分な量だろう。

 

「兄ちゃん、そんな買ってお土産かい?」

「いえ、夜食に……」

 

 どうにも、王宮での食事は健康に気を遣っているのか薄味が過ぎる。普段からあれなら満足できるのかもしれないけど、どうにもジャンクな味付けが好きな僕たちには物足りない。

 特に、お酒を飲む気でいるだろうテオは余計に物足りなくなるだろう。

 流石に女性モノ鎧を着ることになり憂鬱となっている彼女の為にも、こうして用意しておこうと思った次第である。

 

「ん、そんな遅くまで……背中の剣を見るに冒険者か。しっかり食ってスタミナ付けろよ!」

「は、はいありがとうございます……」

 

 肩を叩かれ、小走りになる食べ歩き。

 気のいい主人だということは分かるんだけど、買い物するときに色々話しかけられると困る。

 

 ……テオなら多分、ここから話をつなげてもう一本ぐらい串焼きもらってそうだな。

 僕には無理だけど。

 

 さて買い物は終わった。王宮に向かって……部屋で休憩しようかな。

 よしそうしよう。

 食べ終わった串焼きのゴミを仕舞い、いざお城へ向かおうと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

──ね、ねぇあれって 

──勇者様だ……

 

 歩いて歩いて十数分。

 町並みは絢爛にそれでいて上品に。明らかに先ほどまであった混ざりはなくなってきている。

 ここは王都の中でも富裕層が多い箇所。こんな中では剣を背にしている自分が浮いてしまう。それでも後ろ指刺されないのは……こちらの人達は比較的僕の事を知っている人が多い事だろうか。

 

 先ほどの通りでも何人かから話しかけられたが、それでも気が付かない人の方が多かった。でもなんでだろう、テオに聞けばわかるかな?

 包みからおおよそ周囲と似つかわしくない匂いを零しながら進んでいった。

 

「……ん? なんだろあの人だかり」

 

 そうしてもう少しでお城に着くだろうという頃、道の一部に人が集まっているのが見えた。みんな服装も豊かに見える格好だが、外聞も気にせず一つの店を覗いている。

 はて、そんな皆が気にするようなものがあるのだろうか。気になり近づく。

 

 見たところ、ただの服屋さんにしか見えない。周囲にあった、とても高級そうな服屋さんだ。

 入口は……何故か、執事服を着た二人組が封鎖している。

 ますます気になり、集団の一番外側、つまりは僕に近い女性に対して話しかけた。

 

「すいません、この集まりは一体……どうしたんでしょうか?」

 

 すれば、女性は僕の方を一瞥することもなく答えた。

 

「今、リバユラ姫様がいらっしゃってるんです。一体どんなものを選ぶのか気になるではありませんか」

「は、はぁ……それだけですか?」

「それだけ? 男の人には分からないのかもしれませんが……リバユラ様がお選びになったということは、王家が気に入ったデザインという事。

流行の始まりということよ!」

 

 よくわからなかった。

 流行の服を着るという事が彼女たちにとっては至極大切なことらしい。

 

 ……ならば、眺めている中には男性の姿が見えるというのはどういうことなのだろうか。

 少しずれ、端の方に立っていた男に話しかけた。

 彼もまた、少しも視線をずらすことなく答えた。

 

「すいません、貴方も流行を気にして……?」

「ん、いんや……単に着飾った姫様を一目見ようと待ってるだけだが? なにせあの美貌……ちらっとこっちを見てくれるだけで、日々の疲れが吹っ飛ぶってもんだぜ!」

 

 テオみたいな人だった。

 いやまだこちらの方が分かりやすかったけど。

 

「……随分冷めた目をしてくれるじゃねぇか。今日はなんだってか警備が少なくて、こうして間近で見れる数少ないチャンスなんだぜ?」

「そ、そうですか……」

 

 あまりいらない情報を貰えた。使うことは無いだろう。

 ……とにかく、この店の中に姫様が居て、みんな彼女が買い物を終えるのを待っているらしい。

 

 人気者は大変だなぁ。お店が気になっている人たちが僕が勇者だと気が付かないうちに離れよう。

 そう思った瞬間だった──空気が震えた。

 

「──姫様だ!」

 

 誰かが言った。

 集団が動く、抜けようとしていた僕すらもからめとられ、動けなくなる。方々からかかる圧迫感。おしくらまんじゅうをしている気分だ。

 執事服の人が負けじと「さがってください!」と叫んでいる。

 助けてくださいと僕も叫ぼうかと思った。オークを前にした時よりも明確な死の恐怖というものを感じた。

 

──……あら、いつのまにかこんなに人が。困りましたねテオちゃん

──ハハハソウッスネ、コンナスガタミンナニミラレテ、テオチャントッテモウレシイナー

 

 姫様の声と知り合いに似た声が騒ぎに混じって聞こえた。いやまさかなと聞き流す。

 集団の中から「お綺麗でございます!」「なんとお美しい……」「お隣方はどなたですか?」と質問の塊が投げつけられていく。

 もう何がどうなっているか分からない。このまま一塊の生命体になるのかもしれないとすら思った。

 

──しかしどういたしましょう……このままではお城へ帰れません

──……んんっ。盾でゴリ押すのは無理っぽいなぁ。……ん? 姫さ──リバユラちゃん、いいやつ見つけましたぜ

 

 やっぱりよく知った声が聞こえる気がする。

 でも多分他人の空似だ。少なくともテオがちゃん付けで呼ばれてるなんてそんなことはあり得ないだろう。

 

──じゃあこの盾の裏にいてくれリバユラちゃん、あいつ叩き起こしてきますんで

──て、テオちゃん?

 

──トンと、誰かが僕の背中に乗った気がした。

 もみくちゃにされている中で、その人は僕の聖剣を手でつかんで……。

 

「えっちょ、ちょっと!?」

「はよ輝かせろや、ヤシド!」

 

 剣から背中に伝わる脈動。

 止めようとする前に、視界は白く染まり消えていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、勇者様がたまたまいて助かりましたね」

「だな、勇者様様様ですな」

 

「あのね……」

 

 民衆は聖剣の光を受けすっかりおとなしくなり、姫様たちに謝ると何処かへ立ち去って行った。

 流石聖剣、人の心を穏やかにする力は例え咄嗟に発動しても有効と言う訳だ。よかったよかった。俺が姫様抱えて跳んで脱出とか無理だから。

 姫様はちょっと期待してたみたいだけど。身体強化使っても無理無理。

 

「しっかしヤシド君はなんだってこんなところにいんだ? お前が好きそうな店なんてないと思うが」

「いや、これからお城に行こうと思ってて……むしろなんでテオはリバユラ姫様と一緒に……」

「テオちゃんと一緒に王都を楽しんでおりました、はい」

 

 ええ、姫様は私()王都を楽しんでおりました、はい。

 ……ヤシドは馬車の荷物とかを兵に預け、一人町をぶらぶらしここまで来たというわけか。

 気楽だなぁクソァ!

 

「……ん、おいそのシミ」

「えっ、うわ! 最悪だ……」

 

 ふと疲れ切ったヤシドを見れば、服のあちこちにタレやらなんやらの跡が。

 あーあー、道中の屋台で買ったんだろう料理が潰れて、シミついたんだな。

 バカな奴め、野次馬しなければ。油は個人的にだが血よりも落としづらいぞ。ぐはは後で苦労するといい。

 

「あら、でしたら城で預かって洗わせますよ」

 

 なんて心の中で高笑いしていれば姫様からのお助け。ちっ、救われたなヤシド君。

 まぁいい、今夜はお前は慣れないスーツに身を通し会食だ。せいぜい慣れない社交的な集まりに苦戦するがよい。

 

「あぁすみません、ありがとうございます……あ、ところでなんだけどさ」

 

 なんだヤシド。そんなに頭からつま先まで何べん見返してもテオはテオだぞ。

 お前その視線女性にやったらすごく嫌われたから気を付けろよ。あの時は泣いた。存分に見ていいですよって言って来たくせに……。

 

「──なんで、ドレス着てるの?」

 

 

 

 ……俺が知りたい。

 膝下まであるのにスカートスースーする。肩から胸にかけて肌が出ているの自覚したくない。

 こんな貧相な体でこんな自信ありげなドレス着ているとか全てが恥ずかしくて心が壊れそう。

 

「ふふふ……とても可愛らしく仕上がりました♪」

「た、確かに似合っているけど……すっごいびっくりした。テオがズボン以外履いてるところなんて初めて見たよ」

 

 うるせぇ! こっちだって好きでフリフリの服着てるわけじゃねぇやい!

 下着ももっと色気のあるものにとか言われてさぁ!

 やたらスケスケな奴とか煌びやかな奴強制的に付けられたんだぞ! あ、そこはメイドの方が小さく「すいません」って謝りながらやってくれだけど! ほっといたら姫様が脱がして姫様に着せられてたよ。

 

 あとヒールが高くて歩きづらい。さっきよく跳べたよ俺。

 ……ハハハ、あん時もしかしたらパンツ見られたかもしんない。少し前まで履いていた物ではなく、あんな、あんな……酒場の踊り子でも履かない様なものを!!

 赤面し、しゃがみ込む。

 

「……ヤシド、パンツって……見られると恥ずかしいんだな」

「え、今更?」

 

 

 

 絞り出した悲鳴に呆れた勇者に、盾役従者のアッパーが襲い掛かったのは言うまでもない。

 

 

 

 





 そうして自分は、やがてTS小説を投稿して、それに依って得た歓楽は、必ずしも大きくはありませんでしたが、その後に来たメス堕ち出来ないという事実は、凄惨と言っても足りないくらい、実に想像を絶して、大きくやって来ました。
 自分にとって、「メス堕ち」は、やはり底知れず、おそろしいところでした。決して、そんな一本勝負などで、何から何まできまってしまうような、なまやさしいところでも無かったのでした。


メス堕ち度 15%
レズ堕ち度 20%

次回、盾役従者の下着は(正式名称が)パンツじゃないから恥ずかしくないもん11話は「会食の後、姫のデザートタイム」
おらワクワクすっぞぉ!


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11.光もたらす剣

 どうか mesuoti と発音して下さい。


 遠い昔、異形な生命体が突如として現れた。

 それらを率いる者は自己を「魔王」と称し大地を、海を、空を……世界を闇に落とそうとした。

 

 人間たちは対抗しようとしたが、不可思議な術を使い屈強な肉体を持つ彼らに勝つ術はない。

 奮戦も虚しく、次第に追い込まれていく。

 ……だがしかし、神は人を見捨てたわけではなかったのだ。

 

 闇を切り裂き現れたたのは、一筋の光。

 いずれ、勇者と呼ばれる者は……太陽にも等しい輝きを手に、天より舞い降りた。

 何者、敵なのかと尋ねられると、ただ一言「戦いを止めに来た」と言い切って剣を構え……異形の者へと飛び込んでいった。

 

 それからは一騎当千、聖剣の勇者による英雄譜。

 勇者の活躍を聞きつけ駆けつけた勇士たちと共に、異形の生命体を蹴散らしていく様は各地におとぎ話へ形を変えて受け継がれているそうだ。

 

 だが、魔王との戦いだけは違う。分かっていることはただ、四人が魔王の元へ……彼らが築いた、骸の山の城へと向かって行ったこと。

 一日近く続いた空鳴りや強い光の明滅。収まった後に人が向かえばただ、更地しかなかったこと。

 

 戦っていた勇者たちは、魔王は何処へ……夢のように消えて終わり、人々は困惑した。

 我々はこれからどうすればいいのだと、本当に世界は平和になったのか。闇が晴れても不安の雲は消えず。

 

『恐れるな皆のもの! 空を見よ──寒く冷え切った大地を照らす、太陽があるではないか!』

 

 それをまとめるものが居た。

 勇者様がいなくなった今、我々に再び災厄が襲い掛かってこないとも限らない。

 団結し、国を興そうと叫んだ男が居た。

 

 いつの間にか増えた太陽の下、人々は手をつなぎ、戦火で荒れ果てた地を耕し国を興す。

 二度と理不尽に負けぬよう、根を下ろし創り上げていった。

 

「──これこそがメイクーン家、建国の起源であり、今もおとぎ話に語り継がれる勇者伝説である……ってよ、勇者様ぁ?」

「へー……」

 

 布団に入り読み聞かせられたヤシドの反応はいまいち。

 途中から全く自分に関係ない話が始まり、どうしたものだと困惑していた。

 俺もそう思う。

 

 つい最近書かれた本を閉じ、雑にテーブルに置いた。

 過去を記録する歴史書というのは、どうしても盛られたり、生者に都合のいい事がかかれることが多い。

 が、これはそもそも詳しい事がかかれなさ過ぎて何も言えない。せいぜい、その異形の者たちとは「魔物」ではなく「魔人」の事だったんだろうなと推測するぐらいだ。

 

 そもそも聖剣は一体どこから……そこまで考えて、小難しい事はあまり考えてたくないと酒瓶に手をかけた。

 酒を切らした夜などは、先の不安や身の切り方、考えばかりして眠らぬ日だって未来にはある。

 

 だから煽る、どうせ未来では飲めなくなるのなら今の内に飲んでおこう。そう思えた。

 第一今日は、晩の時に酒の量が足りなかった。色々と邪魔が入ったせいで碌に飲めなかった。高い酒がグラスでただ揺れる姿ばかり見ていた。

 じらされた分飲む。今ここにコップはない。直飲みだ。ワイルドだろう?

 

「……」

「ねぇテオ……聞いてもいい?」

 

 考える。

 人は、間違いを犯す生き物である。

 人は、分かり合えることなどない生き物である。

 魔族もそうであるように、この世には完璧な生命体などいない。

 

「ことわ~る。どーせ酒はやめろとかゆーんだろ? 止めさせたきゃぁ……うまい果実水でも持ってきなぁ」

「……それも考えた。けど、今日はお酒の席だったし仕方ないと思う事にしてる。だから、そうじゃなくてさ……」

 

 ああ気分がいい。不完全を許容すれば世界はこれほど美しく味わえる。喉を通り抜け焼ける感覚を空に逃がす。

 

 ……例えば、姫様は素晴らしい体型をされてらっしゃるが、彼女よりも良い箇所を、バランスを持つものだっている。

 少なくとも胸はすごい人はよく知っている。

 今この時代ではどこにいるかもわからないが、確かにやってくるだろう未来に彼女はいるはずだ。

 うんうん、勇者パーティにいてよかったと思えた出来事の一つだ。

 

「──なんで、下着姿で、僕の部屋で飲んでるの?」

 

「……そわれた」

「えっ?」

 

 歓待の食事会を終えた後、一先ずお互いの部屋に戻った俺達。

 だが俺は今、自分に用意部屋から離れわざわざヤシド君の部屋で飲んでいた。部屋の距離もある。ヤシドの部屋にツマミがあるわけでもない。

 じゃあなんでか? 決まっている。

 

「姫様に襲われかけたんだよっ!! 緊急避難してのヤケ酒じゃ、悪いかぼけぇ!!」

「え、えー……」

 

 姫様は魔王だった。間違いない。

 四天王相手も補助魔法ありとは言え、一撃は何とか凌ぐ(その後戦えるとは言っていない)俺が何もできなかった。

 

 拝啓、過去の勇者へ。

 お前のお嫁さんに食われかけました(意味深)。  

 

「え、えーと……なんでまた僕の部屋なのさ。せめて、普段着になれば──」

「はぁ~~!? お前、城に戻ったらお前の服のついでに、俺の服が全部洗われてて着れなかったんだよ!」

 

 いいですね、勇者様は普通の下着も寝間着も残されてて!

 何で俺だけ全部洗われてんだよ! 姫の仕業でしょうなぁ!!

 

「じゃ、じゃあしかたが……いや寝巻ぐらいは渡されたでしょ?」

「あのフリッフリのクッソ恥ずかしい奴か! 着てたが姫の手を撒くため脱いだ!」

 

 ……ああ駄目だ、頭の中の勇者が困惑している。何をしたのテオ? って説明を求められている。

 違うんですよ過去ヤシド君、決してお酒によって過ちをしでかしたわけではないんです。むしろ落ち度はないんだ。

 

「えっ、もしかしてテオ……部屋からここに来るまでずっと下着姿で逃げてきたの……?」

「悪いか? 二度とあんな行為はごめんだね……あー恥ずかしかった」

 

 一瓶空けてテーブルに置く。盾を部屋に置いてきてしまったせいで碌に体を隠せなかったのが今思い出しても恥ずかしすぎる。

 誰にも見られずヤシドの部屋まで逃げ込めたのは奇跡というほかない。

 眠りの世界にいざなわれていたヤシドを叩き起こし、絡み酒。

 

「……その恥ずかしいって気持ち、僕の前でも保ってよ」

「あー? そりゃ少しは恥ずかしいかも知んねぇが……酒があって、なおかつお前だぞ? 他の奴に比べたら全然だね。ハハハ!」

「せっかく恥じらいを持ったと思ったのにこれか……見えそうだから、ほんと隠して!」

「ガハハ! ほぼ男みてぇな体隠す意味なんざねぇだろ!」

 

 こう、会食に出るじゃないですか。うんそう、過去のお前が「味はどこ……?」ってぼやいていた会食。

 あの時との相違点と言えば、俺がドレス着てたことぐらいだようん。あとメイドさんの手によって軽い化粧とかも施されて……。水とか粉を付けて、一体何の意味があるのかよく分かりません。

 そんで、会食に参加してた偉い人たちはほとんど勇者の所行ってわいわいしててな。

 ヤシドはおろおろしていた。助けられなかった、ざまぁ。

 

「というか襲われたって、リバユラ姫様がそんなことするようには見えないんだけどなぁ」

「聖剣近くで見過ぎて目ぇ悪くしたのかお前?」

「酷くない!?」

 

 姫様は勇者と話に行ったかと思えばすぐ戻って来て……ほぼ俺に付きっ切り。

 まあお偉いさんと話すのは面倒だからありがたいかーと思ってたが……姫様への挨拶をしに、みんなこっち来るから余計疲れた。

 姫様も慣れていることとはいえ面倒なのか俺を盾にしていた。盾役だった。

 

 おや、そちらの方はどこかの御令嬢でございますかー的な冗談も笑い飛ばし、美味い酒も量飲めず。

 時間も程よくなったのでようやくお開き。あぁ疲れたなと用意された部屋にお互いなだれ込む。

 

「いいかヤシドくーん、ありゃ間違いなく魔王だ。欲望に忠実で、その為には策を弄することを苦とも何とも思わない。敵に回しちゃいけない奴だ」

「不敬もいいとこだね……」

 

 ドレスをメイドさんに脱がせていただき、ようやくスースーしない格好になれるかと思った。

 だがなんと、今度は普段着と色気も減ったくれもないあの心強い下着たちがない。

 慌てて聞けばメイドさん曰く「姫より頼まれた」とのこと。謝罪をされたが致し方がない、姫様の思惑通りあの恥ずかしい下着を着たまま、フリフリが付いた寝間着で眠るしかなかった。 

 

「『テオちゃん……一緒に寝ませんか? 折角なので』って扉を叩いてきてな……王宮の警備をかいくぐって来たんだ」

「王族の方々のお部屋ってテオの部屋より更に離れていたよね……?」

 

 夜も更けた頃、奴はやって来た。

 かわいい熊さんのぬいぐるみで胸元を隠し、俺の寝間着と色違いの寝間着に身を包んだ彼女が。

 リバユラ姫様の強さはこの一日で味わった。冗談ではない、このままでは姫の女にされる。理性は断るべきだと訴えかけて来ていた。

 だから俺もきっぱりと断った。

 

『(申し訳ありませんがお許し下さい)よろしくお願いしま』

 

 逆だったかもしんねぇ……。

 少し酒の入った本能が大歓迎していた。部屋にどーぞどーぞと招き入れた。

 三匹の子豚だってもっと警戒すると思う。

「そして二人でそのまま添い寝することになってよー……姫様めっちゃいいにおいがするんだよ。多分石鹸とか最高級の物使ってんだろうな」

「……」

「ンで明かりを消したんだが……うん、眼が冴えすぎて少しも眠くならなくてよ。一呼吸するたびに姫様のいい匂いが全身駆け巡るんだぞ!」

「これ愚痴なのか惚気なのか分かんないんだけど?」

 

 その後!? されるがままだよ!

 固まり過ぎて適当に相槌打ってたのも悪いけどさぁ、あんな柔らかい体押し付けられて断れる童貞なんざいねぇ! 処女だがな!

 寂しそうな声でさ、少しずつ手を伸ばしてくるんだよ! 全身くすぐられてるみたいに震えてたよ!

 

『……テオちゃん、もう寝ちゃいましたか?』

『なんだか少し寒いかも……そっち寄りますね』

『もうちょっと暖かくなりたいなりたいなぁ……どう思います?』

『あたたかい……ふふふ』

 

「う、あ……うあぁぁぁぁ!!」

 

 怖い、次魔王に会ったら完全に姫の女にされる。そう思えるだけの力の差があった。

 僅か一時間近くの出来事に初体験がつまりすぎていてパンクする。

 穴という穴から火が噴き出し、どうしようもなくなる。

 

「うるさっ!? お、落ち着いてよテオ……流石にここまではこないだろうし姫様も──」

 

 宥め様とするヤシドを声を遮るように……ノックが部屋に響いた。

 体が固まる。

 

「……え?」

──夜分遅くすみません勇者様。こちらからテオちゃんの声が聞こえたものですから……入ってもよろしいでしょうか?

 

 知っていたさ、大魔王からは逃げられない。

 夢の名を騙る絶望が今、扉の前にやって来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……返事がありませんが、開いてますね? 失礼します」

 

 世の中の女性は夜の男の部屋にホイホイ来すぎだろう。暗くなった部屋の中で一人そう思った。

 どうやら狸寝入りなど出来る相手ではないらしい。部屋に入って来たリバユラ姫は僕が起きていると確信を持っていたのか、すぐに明かりを点ける。

 そして、部屋の中を一瞥する。まるで今気が付いたかのように、上半身だけ僕は起こした。

 

「ど、どうしたんですか姫様こんな夜遅くに(ど、どうするテオ?)」

「申し訳ございませんヤシド様。テオちゃんが部屋から出て行ってしまって……先ほどこの部屋の辺りから声が聞こえたような気がしたのですが」

「(いないっ、来てないって言え!!)」

「そ、そうですか……? 今夜はテオは来ていませんが(わ、わかった……)」

 

 テオは彼女の視線の中にはない。

 誤魔化せ誤魔化せと、布団の中……僕の腹に頭を乗せたテオ。急いで隠れたせいでこんな場所しかなかったけど……いろいろと危ない気がする。

 いやそもそも人一人が布団の中にいればその分盛り上がるから隠すもなにもない……現に、姫様はそれに気が付いたようだ。

 

「おや……失礼ですが勇者様、その膨らみは……?」

「(誤魔化せ、なんでもいい……猫でも犬でもなんでもいいから誤魔化せ!)」

「あ、え……えーとですねこれは……ね、猫です」

 

 苦し紛れの言い訳をした。

 

「ネコ、そうですか……私も拝見したいものです。捲らせていただいても?」

「(バレてる、バレてるよテオ!) は、はははどうですかね結構気性が荒いものですから、危ないかもー……」

「(誰が気性の荒いネコだ、じゃあ違うものだ!)」

「あ、やっぱり猫じゃありません。犬です、野良犬が来たのでつい……」

 

 苦し紛れの言い訳をもう一度した。

 ……姫はスッとどこからか、首輪を取り出した。人間用のサイズだ。

 

「偶然ですね……私、ワンちゃんを飼ってみたかったんです。大事に育てますのでお譲りいただけますか?」

「(て、テオー!? この人少しやばい気がする!) や、やっぱり気性が荒いから大変ですよ……?」

「大丈夫です、優しく接すれば……それこそ、ネコちゃんになっちゃいますから」

「(なんか悪寒がするんだが姫今何を取り出した!? ええい誤魔化せ、こうなんか……女の子が気に入らなそうなやつ!)」

 

 無理だ。こういうのはテオの得意分野で、肝心のテオが震えており使いものにならない。

 第一女子が嫌いなものが分からない。……テオの趣味ってあまり女の子っぽくないよね。

 お酒とか……? 煙草……いやこんなデカい煙草ってなんだよ。それもう魔物だよ。

 

「さぁ……広いお家で、大事に、大事にしますから……ハァ、ハァ!」

「(もう駄目だ、さよならテオ……)あ、あのその、えーと違くて」

「(諦めんな! じゃないと今夜中に俺が俺ではなくなるから、頑張れ聖剣の勇者!)」

「(……それだ!)」

 

 もはや姫様は姫様ではない。僕の布団に手を伸ばしひっべがえそうとする彼女はテオの言う通り魔王に見えた。

 だからこそ、こう思った──魔王には聖剣だと。

 

「──せ、聖剣! 聖剣があるんです!」

 

 言えば、姫様はピクリと動きを止めた。

 予期せぬ答えだったらしい。数瞬、動力を失ったゴーレムのように微動だにせず。

 ……しばしして、一歩。彼女は僕から……正しくは()()()()()()()()()()()()()()から離れる。

 

「……せ、聖剣(意味深)があるんですか……?」

「……? え、えぇ! 聖剣があります!」

「(??? よ、よくわからんが効いてるぞ、いいぞヤシド!)」

「そ、そのぉ……見たところ、1メートル近くありますけど……」

「せ、聖剣ですから……!」

「そんな大きくなるんですか……!?」

 

 何の話だ? よくわからない。

 だが、先ほどまで欲望に塗れていた姫の顔に焦りが見える。このまま押せば勝てる!

 

「い、いつからそれほど……?」

「え、えーとちょっと前(オークの穴の時)までは(鞘から抜けなかったから)もう少し長かったです」

「ちょっと(数分)前までは更に大きく……!?」

「(……ん?)」

 

 テオが何か思い当たることがあったようだ。悪い顔をする。我ここに策ありといった顔だ。

 だが頼もしい。

 

「だ、男性の剣(意味深)についてはあまり存じませんが、そこまでとは……いえ、これは勇者様だからこそ……?」

「(……ヤシドくーん? ちょっと他に聖剣の特徴言ってみて―)」

「(え、う、うん)他の剣との違いはやはり……光り輝くことですかね」

「光るんですか!?」

 姫様の足が二歩下がる。瞳孔が小さくなり、驚きを全く隠せていない。何故ここまで驚いているのだろうか。

 テオが下半身で笑いをこらえている。何がそこまで面白いのだろうか。

 

「(そうか、そうか……天は俺に味方をしている! ヤシド君、あとはそうだな……あれだよあれ)」

「(あれ……あぁ君の与太話の奴)あとは……まだまだですが、ビームも出せます」

「ビームを出す(意味深)!? え、ええと……お、お邪魔したようなので帰りますね!!」

 

 姫様が全力で部屋から出て行った。

 テオはとうとう抑えきれず、笑い転げた。

 

 何だったんだ……この疑問が解消されるのは、しばらく後の話であった。




これは或精神病院の患者、――低次元領域が誰にでもしやべる話である。彼はもう三十を越してゐるであらう。
 が、一見した所は如何にも若々しい狂人である。彼の半生の経験は、――いや、そんなことはどうでも善い。彼は唯じつと両膝をかかへ、時々ハーメルンのランキングへ目をやりながら、(オリジナルノランキングには枯れ葉さへ見えない樫の木が一本、雪曇りの空に枝を張つてゐた。)院長のTS博士や僕を相手に長々とこの話をしやべりつづけた。尤も身ぶりはしなかつた訣ではない。彼はたとへば「メス堕ちさせたい」と言ふ時には急に顔をのけ反らせたりした。


 いやぁ、魔王は強敵でしたね。(伏線)
・メス堕ち度20%
・レズ堕ち度30%
・レズ???堕ち度5%
書き忘れてたので更新後追加


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12.旅路は彼方、メスカンダル

 まだ分かってないようだな…。
 いいか?男とTS娘でしかイケなくなり破滅したメス堕ちクラスタもお前も、TSを注入した時点でもう人間じゃないんだよ。
 だからお前は『性癖を壊した』に過ぎない。

 それに(性癖)戦争になった今、遅かれ早かれ味わうことだ。

 それとも、本気で誰も傷つけないとでも思ってたのか? だとしたら、能天気にも程がある。

(R-18を書かないとは)何をためらってる!
 お前には守る物があるんじゃないのか?
 自分が信じる性癖のために戦うんじゃないのか?

 それとも全部嘘だったのか?!



「ねむい……それで、結局なんでリバユラ姫様は引き下がったんたの?」

「そりゃ、勇者様の聖剣に恐れをなしたのさ……ふふふ、ははは!」

「姫様を魔物扱いしてないテオ?」

「魔性の女ってもはや魔物だろ」

 

 爽やかな二つの太陽が眩しい。貞操は守られた。捕食者は去り、ぐっすりと眠れた良き日。

 ヤシドの奴は「いや、もう自分の部屋で寝てよ!」って騒いでたが、何故安息の地から離れなければならない。

 

 まぁ、俺とて男子の恥ぐらいは心得ている。流石にな、気になるよな。

 

 ふふふ……朝に輝きそそり立ち、布を持ち上げる聖剣、朝立ち。これは同性に見られてもなんか恥ずかしいもんなぁ? んなもん旅の途中なら夜の番、いくらでも見れたが。

 こちらを気にして眠らんアホを放っておき、早朝まで寝て、その後誰にもバレないように部屋に戻った。

 

 そんで、謁見のため、メイドさんたちにまた姫様セレクションのドレスを着せられた。悔しい。コルセットがキツかった。酒に溺れた腹が締め付けられた。

 昨日の時も思ったが、少し首元の露出が多い気がする。姫様の趣味か? たたでさえ色気がない体だから鎖骨出してアピール的な奴だろうか。わからん。

 

『おぉ……これが聖剣の輝き、暖かい……体ではなく、心が暖まる気がするぞ』

『聖剣……聖剣?? 1メートル以上……光る……んん?』

 

 謁見は見事ヤシドの聖剣(物理)の力により王様に驚いた。メイクーン家は美形の家系だから、感嘆したら凄い絵になる。

 隣では、昨夜の一件に疑問を抱いた姫様が百面相をしていた。多分絵になる。

 

「これで更に援助の手が厚くなったわけだ……馬車もグレードが上がったし、いいことづくめ! 全部ヤシドの聖剣のおかげだなぁ」

「……すっごい楽しそうな顔してるねほんと。 よくわかんないけど揶揄われてるのはわかった、からチョップ」

「ってぇ! 何すんだコラ!」

 

 もう少ししたら王様から命を受けた者が伝令を持ってくる。

 今はそれの待機中。酷く暇だ。

 

『聖剣の伝説が本当だとするならば、今目を覚ましたのは不吉の前触れかもしれない、か。つい最近も、穴の中で冒険者が正体不明、まるで魔物の様な人間に襲われたと聞く。

……勇者殿よ、改めて命じさせてもらう。

──力をつけよ、そのためならば財も人手も惜しまない』

『は、はい! ヤシド、確かにこの命、受け賜わりました!』

『(……ああそういやこの時点でスオウが暴れ出してたんだっけか)』

 

 魔物のような人とは、魔槍に憑りつかれたかつての仲間のこと。強い者を探し片っ端から喧嘩を吹っ掛けに行くバトルジャンキーとなっていたはずだ。

 やばいくらい強いからな。今であったら勝てる自信がない。勇者様の聖剣の力が更に強くなってようやく、ってところだからな。

 出来るだけまだ出会いたくないな。

 

『王様。僭越ながらこのテオ、申し上げたいことが──』

 

 というわけで、そっち探してほしいからこっちに人手割かなくてもーと、邪魔なのでやんわり断ったが、財はいくらあってもいい。

 流石に国の金で贅沢三昧を尽くす気はないが、いつ稼ぎが悪くなっても安心できる土台というのはいい。貧乏極めて酒一杯も飲めないなんてことにならない。それがより強固になった。喜ばない理由がない。

 

 また、二人で旅は大丈夫か、従者はいらないかと言われたので適当に誤魔化す。自分めっちゃ家庭的で冒険的なんでぇー大丈夫なんですぅ―。

 

『あ、あのお父さ──ではなく、王よ。そのことについてですが少しお話があ──』

 

 そん時一番怖かったことと言えば、姫様がこちらを一瞥したあとすぐ企む顔になったこと。

 明らかに「逃がしませんよ」とでも言いたげな、獲物を前にした肉食獣のそれだった。

 

『あらん』

『えっ、いえその』

『ついていきたい、とでも言う気であろう。城の者から話が上がっている、勇者殿の仲間を大分気に入っているそうではないか』

 

 だが王は王の中の王だった。企みをすぐに見抜き、彼女が言い出す前に切り捨てた。

 視線をずらし、俺に向けると……申し訳なさそうに瞼を閉じた。流石は父親、娘の扱い方は熟知しているらしい。

 

『彼女はあの純潔の盾に弾かれなかった勇士だ。城でゆっくりしている間はともかく、旅に着いて行き邪魔をするなど決して許さんぞ』

『(……弾かれなかった? 何の話だ?)は、ははは……り、リバユラ姫。お気持ちは嬉しいのですが……』

『うぅ……はい、申し訳ございません……テオちゃん……

 

 王の言葉に少し引っ掛かることがあったが、これにて姫の企みも終わり。寂しそうにシュンとする姿がいじらしい。

 過去の記憶のなかでは、ここから城に戻るには3個穴を巡り、スオウと一度対峙。ボロボロになったことを報告しに行く時だ。

 いくら順調に進もうとも、半月近くは会えない。

 

 それまではさようなら……安全になった今、もったいないなと思う自分がいるのが怖い。絶対生きていくこの先、あんな女性とお手合わせする機会なんてない。

 まぁ……だから、次の村に着いたら手紙でも書いておこう。ついでに、勇者の魅力に気が付いてもらうためそれとなくアピールを盛り込んでおこう。

 文面でも考えておこう、勇者の聖剣(意味深)の長さとか……いやセクハラだなこれ。でも……ふふふ、意外とかわいいサイズしてますよとか書きたい悪戯心があるな。

 

「……また変なこと考えてるね」

「いやぁ? んなことないっての……っと、足音が聞こえたぞ。そろそろか」

「あ、ほんとだ。騎士さん達がこっちにきてるね」

 

 ちらり、バレないように勇者の股間を見る。服の上からでは存在感がまるでない、可愛いお子様サイズだ。ふはは。

 通常時で目測8cm、でかくなったときのは服の上からだけだったからよくわからんが、まぁせいぜい1.5倍ぐらいか。

 男だった時の方が少しでかいな!! 勇者様に勝っている数少ない点だ! 

 

「……ん? テオ、騎士さんたちの前にいる人ってあれ……」

「ま、まぁそうなるよな……うん」

 

 なんてふざけたことを考えていれば、遠くから響いてくる靴の音。

 振り向けば、道の奥からは伝令と思わしき紙を丸め持った兵士。

 

「お待たせいたしました、勇者様方!」

「こ、これはこれは……姫様自らとは、お手数おかけして申し訳なく」

「いえいえ、そんなにかしこまらないでくださいませ……」

 

 と、桃色のドレスに身を包み、同じように紙を持つものが一人。

 リバユラ姫様、再度降臨である。騎士達は少し微妙な顔をしたが、直ぐに眉宇を引き締め、ヤシドに対し向く。

 

「陛下より賜った、異変が見受けられる穴についてまとめた地図、書面である。

強制ではないが、向かう場所に迷いがあるならばここへと向かって欲しいとのことだ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 不思議な武器が見つかった、貴重な素材があるかもしれない。奇妙な魔物が確認された。

 あるいはあるいは……etc。以前の記憶でも見た記憶がある、ここもやはり違いはないようだ。

 あの時は貴重な素材目当てで……えーと、そうだ。妖精、ノームの穴は向かったんだっけか?

 

「(いい金属が見つかるかも、なんて思ったが……結局土いじりして終わったんだっけか)」

「……テオちゃん、いかがされましたか?」

「っ、い、いやなんでもござ、ございませんよ姫様……あ、ええと……リバユラちゃん」

 

 過去を辿り思い出していれば、いつのまにか目の前に姫様が立っている。胸元を隠すように添えられた、一輪の花から芳しい香りが、視線を自然と胸へとひっぱる。

 ぐへへ今日もいい大きさ……いかんいかん。そういや女性は胸を見られると気がつくというが、本当ならこうして見ているのもバレているのだろうか。……どうでもいいか。

 

「……ふふっ。少しお話がありまして、テオちゃんの鎧についてなのですが」

「……あ、あーそういえば寸法測ってそのままか(出来れば完成しないで欲しい。女性的な鎧なんて着たら、ビラビラがついたドレスよりも恥ずかしくなる自信があるわ)」

 

 小声で騎士たちに気づかれないようにしているようだが、騎士たちの横顔を見るにちゃん付けしてるのはバレている。ピクピクしてるし。だがこの場において最高権力者は姫だ。逆らえない。

 

「流石に、昨日の今日でできないのはわかってっけど、進みはどんなんなんだ?」

「ええと……本来の予定なら今週中には完成する手筈でございました。ですが、その……大変申し訳ないのですが……鎧師が、良い素材がなく作れないと言い出しておりまして……」

 

 よっしゃ。

 

「よっしゃ」

「えっ?」

「ナンデモナイデス」

 

 ナイス鎧師。仕事に頑固な男。このまま永遠に完成しない鎧となれ。

 アーシカタガナイナー、その辺で既製品でも買うしかないなー。

 

「……あぁ! 可愛いものを着るのは苦手、なんですもんね? ふふふ……とりあえず、デザインの方は完成してますのでそのお知らせを……こちらです」

 

 なにか察した様な姫様。俺の頭から足までを瞬時に往復して見て、またニンマリと笑う。知らない人から見たら慈愛に満ちた表情でも、俺から見たら企んでいる顔だ。思わず身がすくむ。

 手渡された紙を広げれば……そこには、綿密に描かれパーツごとに詳細にされている図面があった。

 

「へえ……どれど、れ……?」

 

 名前は……盾から取ったのか、純潔の鎧。

 まず1番に目に入ってくるのは、首輪。皮系の物だ。首切り防止用の様だが、本当にそれだけか?

 腕を使いやすい様にしたいらしい。左肩にしかない肩当て。膝当てはなく、小手も手の甲まで覆うもので、指先は出ている。

 

 胸、腰それぞれは局所的に守られているが、繋がっておらずベルトで固定されている。というかあれだ、腰なんて側面だけで股間部分見える。見えている。

 足は金属靴だが、脛当ては皮か? 紐で結ぶ、縦長ブーツの様に見えた。

 うん何というか、騎士さん達が着ているフルアーマープレートではない。魔法を行使するためか、やたら金属以外の割合が多い。

 覆われてない皮膚を隠すため、下にはコルセット付きのドレス。ガーターベルト、タイツ。

 

「……えぁっ?」

 

 どこからどう見ても女性が着なければいけない、着ているものは女性だという絶対の意志を感じる。

 コンセプトには……大人びたエロス、短くそれでいて大胆に書かれていた。

 

 鎧師は殺す。紙を破り捨てようと衝動に駆られる。踏みとどまる。

 

「……で、デザイン案。リバユラ・メイクーン……?」

「はいっ、こっそりと鎧師さんとお話しさせていただき何とかまとまりました。ですからこそ、早く形にしてテオちゃんに着て欲しかったのですが……」

 

 よく見れば、首輪や太腿のタイツの辺りの薄さなどを記した文字は他のとは違う。やや女性らしさを感じる字体。この設計書に姫様が関わった証だろう。

 つまり、この鎧案を切り捨てるということは姫様を無下にするということだ。

 

「その……お気に召しませんでしたか?」

「え、あ、いや? その……思いの外、あの……俺には似合わない……じゃなくて?! ず、ずいぶんセクシーな……俺にはもったいないデザインだなって……??」

 

 想像できない。戦場でこんなものを着て、魔物と戦う自分の姿が、

 だが、魔王は目の前にいる。震える俺の手を掴み訴えかける。

 

「いえいえ!! テオちゃんは可愛いんです! だからこそ、見た目と内面の差を……まるで国を率いる、美しい女騎士の様なデザインが似合うと思うんです!

その内は、恋に憧れる乙女を……!」

 

 デザイナーは語る。やれ首輪はティンと来たとか、太腿はタイツとガーターベルトを合わせると素晴らしいだとか。

 戦闘に関しないものばかり。おそらくはそこを補ったのが鎧師。

 書面には鎧の内側などに魔法陣などを刻み擬似的な魔導具にすることで全体的な身体能力の向上などが盛り込まれている。えぐいくらいに刻まれている。

 

「腰当ての大きさはかなり白熱しまして……斜めから見ると隠れる。正面から見てようやく……この塩梅に決まった時は鎧師さんと手を握りました……!」

「ソウデスカ」

 

 きっと、俺が最期の日に着ていたものと同等……いや、これを改良すれば上回るポテンシャルを秘めている。

 そりゃ素材がないって言い出すわってぐらい、オーパーツ。なんだこれ。なんだこれ。

 

「なので、こちらでも全力で鎧にあった素材がないか探します……! もしテオちゃんの方でもあれば是非とも教えてください!」

「アッハイ」

 

 考えがまとまらない。どうせぇと。これ完成したら着ないって選択肢が戦力的にも立場的にもない。

 だがこんなの着て戦ってたら痴女やん。穴の中でたまに見かけて、はぁ眼福だなぁとか思ってたが、俺みたいなチンチクリンでこれやったら悲惨なだけだろ。

 他人がやってたら罰ゲームか何かと哀れむわ。

 

 思考停止。体は、酒とタバコを求める。

 今この体は、極上の酒を求めている。世の中の辛さの何もかもを包み込み靄をかけてくれるものを。

 

「──あ、テオ。話が纏まったんだけど、テオはどの穴がいいと思──」

「ネルシャ村、あんだろ」

 

 不意に口に出していたのは、過去の記憶では飲めなくなっていた。幻のワインとなった原産地の名前。

 

「えっ、あ、あるけど……ここからかなり遠いよ?」

「むしろ最高だ、王都から遠いってことは、騎士さん達が向かいにくい場所だ」

 

 ペラを回す。潤滑油を得るために油を差して無理やり回す。

 

 

「人が助けを求める場所に向かうのが、勇者ってもんだろうヤシドくん。いざ遥か彼方へ、だ」

 

 ただ、酒を飲むために。

 

──この選択が旅の運命を変えるかもしれないなんて、思ってもいなかった。

 

 

 




──最悪だ……。

 こんなに痛くても……、
 苦しくても……

 書くしかねぇのか……。

──Are you ready!?
ready、ready、ready……、

「……メス堕ち」


 メス堕ち、レズ堕ち、レズ●●●堕ち度、変化なし。
・おね●●ルート解放(条件1.消滅前のネルシャ村に立ち寄る。)

~オリキャラ紹介~
・リバユラ・メイクーン
 ただでは死なず。これから先も王都に戻って来たり、お手紙であなたのハートをわしづかみする予定。
 鎧師と結託し、大人なドレスアーマーを考える。
 聖剣の勘違いに気が付いたようだがさてどうなる。

・ヤシド
 聖剣の勇者。過去の記憶の世界では通常時は8cmらしい。
 嘘かほんとは知らない。だが、重要なのはヤシドは唐変木。本気でその情欲にかられたことが碌にない旅での知識だということ。
 
・テオ
 純潔の盾、鎧がイベント装備の如く外せない未来だと気が付いてしまったもの。
 純潔の盾が弾いた、なんて話聞いたことないなーと思いつつスルー。
 心は傷つき、酒を飲みに村へ。(過去でこっそり出していた村、ワインが美味しいそうだ)

・スオウ
 魔槍に汚染され暴れている。
 つよい。

・???
 ネルシャ村で登場予定。
 天才生意気プライド高い、こっそり寂しがりやで年下。
 そんなのが嫌いなホモはいないに違いない。

・大事なお知らせ
 「メス堕ちいいよね」「こんなエロシチュいいわね」と語り合ったりした、メス堕ち小説の先輩「バリ茶」様がなんと、この作品のR-18二次創作「TS 盾役従者は勇者(その他諸々)に勝てるのか?(https://syosetu.org/novel/214695/ )」を投稿してくださりました。
 ありがてぇ……私自身、エロ小説は書いたことがないので勉強中の身。
 参考にしつつがんばります。いつか番外編としてR-18なげたいのぉ!!

追記 消し忘れた本文が最後にあって邪魔してました、奴は消した。
あと、王様の「あらん」の台詞は誤字ではないです(5件ぐらいきた)


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13.森のキノコにご用心

  ある日の暮方の事である。
 一人の底辺作者が、羅生門の下でメス堕ちを待っていた。


『この旅に、彼が居てよかったって本当に思ってるんだ』

『あ~? そりゃあよかったね……』

 

 聖剣の勇者が話しかけていた。揺れる馬車に乗り、手綱を持つ。背中に聖剣をかけて、馬の進む道を見ていた。

 荷馬車の屋根に寝転ぶ、うねり瘴気を放つ槍の手入れをしている男に。

 

 まーたいつものが始まったと、色黒の男は碌に聞いていないようだ。

 欠伸が一つ、澄んだ空に溶けていく。

 

『聞いてるの()()()? ……暴走した君との戦いだって、僕一人じゃ無理だった。どんどんテオは上達していってる』

 

 本人が聞いたら嫌がるだろう、曇り一つない褒め言葉。スオウと呼ばれた男はそれを聞いて「なんで俺に言うかねぇ……」と愚痴を洩らした。

 肝心の本人は何処だろうかとぐるり、探して見ても見当たらない。荷馬車の中だろうか。

 微かに、寝息が聞こえる。

 

『テオに甘えてばっかりじゃだめだよね……もっと強くならなきゃ』

『……こいつら、同じことばっか言ってんなほんと

『え、なに?』

『なーんでも、お二人はお似合いだなーって話ィ』

 

 ……()は、こんな会話を知らない。

 二人の見た目で、ある程度の時期は分かる。けど知らない。聞いた覚えがない。

 でもきっと、実際にあったんだろう話だ。ヤシドはどんどん強くなって、スオウも強くなって、元から強いエーナちゃんが入って、俺が用無しになるよりだいぶ前の話だろう。

 

『テオばっかりが傷つく。だから、今の目標。テオが盾を構えずに倒せるぐらいに……!』

『いや無理すぎんだろ……遠距離で仕留めんのか? ビームでも出す気かよ』

『あ、いいねそれ』

『マジか……』

 

 まさかの聖剣ビーム誕生秘話……いや、流石に違う、よな?

 ははは、そうかこっちの勇者様もそうだったのか。オーク倒して言い切ったあっちのヤシドみたいに、俺には傷ついてほしくない、か。

 そりゃ、最後らへんほぼ従者だったのにヤシドはなんも文句言わんはずだよな。

 

『テオはいつも僕らを守ってくれるけど、テオを守る人はいないからね』

 

 明るく笑う勇者に、魔槍の使い手は何も返さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──何様だこのくそ勇者様がっ!」

「何事なの!?」

 

 好きかって言ってんじゃねえぞ、一度ぶん殴らせろ! 起き上がり周りを見渡す。木箱や布袋があるだけで、ヤシドの大馬鹿はいない。声は外から聞こえてきた。

 知らない屋根だ。嘘だ知ってる。確かええと、王様から支給された超高級荷馬車の荷台の中だ。

 寝心地が良すぎて木を床に眠っているという感覚がなかった。

 

「……あぁ? なんだよ今の変な夢……ふぁぁ、あっと」

 

 欠伸を一つ。眼をこすり、枕にしていた盾を拾って外に出る。

 幕をめくり出れば、既に日が沈みかけている。空にはもううっすらと月が浮かんでいた。

 

「おはようテオ。もう少しでできるから」

「あー……そうか、寝てたのか俺。まぁーだ頭回んねぇわ、煙草吸いてぇ……」

「食事前だから駄目。あと吸うならなるべく風向きに注意してね……」

「世知辛いなぁ……」

 

 薄暗い森の中、木を切り倒しまな板代わりにしているヤシドが居た。近くでは火が起こされており、その上に置かれた鍋で何かを煮込んでいる。

 その殆どは日中に採ったキノコだろう。今は切って入れようとしている肉もその辺で捕まえたウサギの肉。森の恵みをふんだんに使った鍋が完成しようとしていた。

 包丁は……聖剣? お前罰当たりもいいとこだぞホント。解体用ナイフがあるんだからそっち使えよ。

 

「いや、盾に涎つけてるテオに言われたくないんだけど……」

「これは……あれだ、魔物の体液を受け止めてる時と何ら変わりない」

「じゃあ僕も魔物を切ってるってことで……」

 

「……」

「……」

「──あはははっ!」

 

 笑って、バチなど知らないと適当に水で流した。

 

 今はネルシャ村に向かう旅路の途中。うまいワインを飲み嫌なことを全て忘れ去ろうという企みの最中でもある。

 ……絶対にあんな恥ずかしい鎧なんて着たくない。せめてヤシドの奴の前なら別にいいが、王都であんな鎧着て勇者のお供としてパレードにでも出て見ろ。晒しものだ。

 

「肉が煮えれば完成、か。 あとなんかあるなら手伝うけどよ、ハーブでも取ってくるか?」

「いや、臭み消しも必要ないし……少しゆっくりしててよ。なんかうなされてるような声出してたし」

「あー……そうだな。息抜き……タバコは吸えねぇけど」

 

 息抜きをしようと胸元から煙草を取り出し、ああ駄目だと言われたとまたしまう。

 かと言ってすることが無ければ手持無沙汰だし、口元も寂しい。

 

 冷えてきた森の気候に体を揺らし、なんも考えずに火に当たりにいった。

 つまり鍋にも近づくこととなり、中身がより鮮明に見えるようになる。鍋に収まりきらない多種多様なキノコが俺を出迎える。

 調味料のおかげか、鼻孔を膨らませ期待させる匂いがする。

 

「おぉ中々に美味そう……あれ? こんなに採ったっけか、キノコ」

「うん。テオが籠一杯に取ってたんだよ。覚えてないの? 正直、僕キノコの知識が無いから少し怖いんだけど……大丈夫なんだよねこれ?」

 

 あれ、そうだったっけか……そうだったような、そうじゃなかったような。ひと眠りしたせいか記憶が薄れている。

 ……えーと確か、キノコは七輪で焼いたりと色々便利だから、それで酒飲むことを想像してやる気になったような、ならなかったような。

 

「へぇ……どれどれ少し味見──熱っ」

「ちょ、大丈夫なの!?」

 

 まあいいや。見た感じやばいキノコないし。

 一つまみ、熱々のキノコを取り出し口に入れる。コリコリとした弾力と口の中に弾ける汁は雑な味付けだけど美味い。

 

「へーきへーき。なんなら軽い解毒魔法は出来るしな……」

 

 盾を使うとどうしても敵の魔物から毒を受けることがある。そんで一々薬取り出して飲んでたら埒が明かない。

 だからと覚えたが……そのうちそんなのが効くレベルじゃなくなってったんだよな。

 まぁ、穴の中の物ならともかくその辺の森のキノコなら訳はない。

 

「──俺用だが」

「僕は!?」

「ははは、触れりゃ使えなくもないって。まぁまぁ、なんかなったら治してやるよ、魔法はからっきしの勇者様」

 

 ヤシドは聖剣を扱い、万能な光の魔力を使っていたが、魔法を使うよりもそれを聖剣に注ぎ込んだ方がよっぽど強い。

 それを覚えるより剣の鍛錬に励んだ方がよっぽど有意義だった。途中からは魔法使いのエーナちゃんも加わったから更に覚える必要がなくなった。

 

 勇者にちょっとだけ、威張れる部分だ。

 

「うー……信じてるからね、テオ」

「へいへーい、そんでちゃっちゃと食っちまおう。なるたけ特急で村に着きてぇ」

 

 ウサギ肉が鍋に投入され、キノコの森に沈んでいく。

 肉の赤色に火が通り、少しずつ白く変わっていっている。

 さぁ楽しい夕飯は間近だ。そのあと馬鹿な話をして、また一日が終わっていく。

 

 今日もまた、楽しい旅だ。

 俺がこいつとまだ肩を並べられる、最高に楽しい旅だ。

 

「なかなかピリ辛でうまいな……お、このキノコとか……ヤシドのに似てんな?」

「ちょっ、ご飯時に下品だなー……というか、見たの!? いつ、どうやってさ! 水浴びの時!? ねぇ!」

 

 そう、思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 晩は豪勢だった。

 取り過ぎたせいか二人で食べきれないほどに。余った分は、明日の朝にでも平らげる予定だった。

 

「……な~んか、眠れねぇな?」

 

 夜中。

 寝ずの番の途中。妙に火照り暑苦しい、女性の体は体温が高いというが、こういう事なんだろうか?

 直ぐに寝て直ぐ起きるため含んだ酒も、思考をボーっとさせるだけで一向に眠気を持ってこない。

 

 寝袋から這い出て、上着を脱ぎ捨て薄着になる。姫様から頂いた可愛いものではない。飾りっ気もない、機能性だけを重視したものに。この下も勿論スポプラだ。スースーしないって素晴らしいが、今この場では少し恨めしい。

 

 荷馬車を降りる。空の月は雲で隠れて、焚き火だけが俺を照らしていた。

 

 その前にはヤシドが居て、切り株に腰掛けている。

 

 集中しているのだろうか? 俺が起きてきて少しだけ反応しても、こちらを見ようとはしない。

 焚火をじっと見つめ、思い悩む勇者の後ろ姿。いつになく真剣に見えた。

 

「──テオ。まだ時間じゃないよ……お酒飲んだの?」

「一杯だけなのに、よくわかんなほんと……。なんか眠れなくってな、タバコでも吸ってリラックスしようかなーって。なんなら、少し早めに変わってやろうか?」

「……う、うん。ありがとう」

 

 おや、本当に珍しい。課された仕事はこなすヤシドがこんなことを言うなんて。

 思わず、変な物でも食ったのかと気になる。

 まあいい、案外焚火に当たり過ぎとかそんなんだろ。夜風に当たって来ればいつもの調子に戻る。

 

「……?」

「……」

 

 変だ。ヤシドが立ち上がらない。

 それどころか、更にかがみこみ絶対に立たないという鋼の意思を感じさせる。

 

「お、おい……? 大丈夫か?」

「……だ、大丈夫。ちょっと今は……その、座りたい気分なんだ」

 

 明らかに何かを隠していた。後ろから見たヤシドの肌が、妙に赤い気がした。苦しそうな息遣いが聞こえた。

 こちらを見てくれないせいで顔色は分からないが、その行動自体がこいつの不調を知らせている。

 

 まさか、まさかこいつ……本当にキノコの毒に? だけど、晩は俺も食べたはず。

 慌て、火からどけられていた鍋を見る。……少し、少なくなっている気がする。

 

「……おい、つまみ食い犯」

「つ、つい小腹が空いて……」

 

 天を仰ぐ。笑った。

 一定量を越えて摂取したせいでこの馬鹿はキノコの毒に掛かったのだ。笑うしかない。

 不思議と上機嫌になる。

 

「はあ……仕方ねぇなぁ? 治してやっか、どんな症状だ?」

「……頭が、ボーっとする。あと、体の内側に熱がこもっている感じがある、よ。

……あとは、えっと、うん」

 

 ……ちょっと俺にも症状が出ている気がするが、言わない事にしよう。

 まあとにかく……身体強化系のクアエンド、回復系のクアエールを使えば何とかなんだろ。そう思い、魔力を体外に抽出し始める。

 魔力の方は少し調子がいいらしい。詠唱をすればすぐにでも使えそうだった。

 

「……ち、ちなみにさテオ? 今の距離のままそれって使えたり……する?」

「無理。体に直に触んなきゃ俺の腕前と魔法じゃだめだ。ほーいっ、首に触りまー──した! 熱っ!!?」

 

 フェイントをかけ、奴の首を触る。とても熱かった。つまりヤシドはその逆。

 

「──冷たっ!?」

「あ、ちょっ!」

 

 急に冷たいものが首に触れ、奴は体勢を崩しのけぞった。 それにつられ、首を掴んでいた俺の体勢も崩れる。

 視界が暗転。何か固いものにぶつかって、動きが止まる。

 頭がより固い物にぶつかり、嫌な音を出した。鈍痛がゆっくりと、ぶつかったところから響く。

 

「いってぇ……ん?」

「お……重いから早くどいて」

 

 瞬きを二,三回する。

 気が付けば、俺は勇者を押し倒していた。首根っこを掴み、腹辺りに乗っている。先ほどの鈍痛の原因は、お互いの頭がぶつかったことのようだ。

 肺を押しつぶされたヤシドは、より息が荒くなった。手から伝わる血液の脈動。

 

「……」

「て、テオ……?」

 

 いやそんなことはどうでもいい。どうでもよくないが、些細なことだ。

 

「お、おい? そ、その……あれだ」

 

 ケツに、やたら硬い物が当たっている気がする。いや当たっている。

 布越しだが、今掴んでいる首よりも熱く、脈動している。

 想像できない訳ではない。位置的に、下半身。腰にある、男の、熱く、硬いものだ。

 

「なんで、起ってんだよ」

「……ぅ」

 

 そう、聖剣だ。

 まごう事なき、世の中の勇者ファンたちが狙っていたもの。

 聖剣が今、尻に当たっている。そう理解できたのは元男だからだろうか。

 

 俺に興奮している? いやないない。自慰の途中だった? いや、変な薬でも盛られてないヤシドがそんな行為をしたことなんて有り得ない。

 ……淫魔の穴に入った時、地獄絵図になったのは思い出したくもない。いやこれ村に戻れねーぞと焦り、哀しく二人で草むらで昇天した。

 あ、もちろん別々の草むらでな?

 

 話が逸れた。つまり、

 

「──キノコで、ヤシド君のキノコおかしくなってんのか!? ぷっ、あはははは!」

「わ、笑い事じゃないんだけど……というか女の子がそんなこと言わない」

 

 笑った。腹がよじれる程に。

 腹を抱え震える。ケツに当たったまま。

 

「ちょ、あ、あんまり動かないで……」

「はは、減るもんじゃねーしいいじゃねーか……ひひひ、あー駄目だ。おーかしい」

 

 抗議するヤシドを他所に、俺は更に調子に乗った。

 もしかしたらヤシド君の聖剣はキノコのおかげで少しでかくなっているかもしれない。それを見てからかってやろう。

 そう思ってしまった。

 

「……よーし、見せてみろ!」

「嫌に決まってるだろ!?」

 

「ハハハッ、嫌でも無理やりに見てやる。治してやるって言ったしなぁ……なんなら、このテオ様が直に触ってやろう──か?」

 

 見てしまった。上半身を捻り、そのキノコを。

 布越しに。

 

「あ、あぇ……?」

 

 見えた。ズボンが限界を超え、はち切れんばかりに天を差していた、聖剣が。

 

 屈強だった。どう見ても、俺の最大時より遥かに。

 8cmなんて生易しいものではない。2()0()c()m()()()()()()()

 

 俺の尻を越し、背に届くのではないかと思うほど。

 そそり立っている。

 

「……」

「……」

 

 沈黙と、キノコが、場を支配していた。

 

 

 




 どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる暇はない。選んでいれば、土堀の下か、道ばたの土の上で、饑死をするばかりである。
 そうして、この門の上へ持って来こられ、犬のように棄てられてしまうばかりである。

 選ばないとすれば――作者の考えは、何度も同じ道を低徊した揚句に、やっとこの局所へ逢着した。
 しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。

 作者は、手段を選ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、当然、その後に来るべき「メス堕ちR-18小説を書くよりほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。


メス堕ち度:20→???%(予測)

 官能小説を書くのは男の夢だった。
 番外編、卑猥小説「TS 盾役従者は貞操を守りきれるのか?」
 に続くための一歩。

 当然、番外編であるため読まずとも、展開は分かります。
 単に、肉体的にメス堕ちていく様が見られるだけです。

 それでも、みたいですか?


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14.Rな15を超える夜

 この国でも一夜に数千人のメス堕ち小説が書かれるという、あるメスナリマス・イヴの出来事だ。


 前略、姫様へ。

 今頃は何をされていらっしゃるのでしょうか。風に聞いた話だと、魔導具や魔法薬への研究支援を俺達が出発した後決めたらしいですね。

 どんなものが出来上がるのか、冒険者として楽しみでございます。

 

 ……あの時、布団の中にある俺を聖剣(意味深)だと思いこみ慌てる様を見て、なんだ姫様も女の子なんだ、と安心してしまい申し訳ございませんでした。

 

「お、おぉ……?! ど、どうなってんだよお前の膨張率……! 二倍、いや三倍……!?」

「は、測らなくていいから……!」

 

 えぇはい、勇者の聖剣は聖剣でした。服、パンツという鞘越しに見ても全くかがやきをうしなわない。世の女性が見たら慌てふためき我先にと求婚するに違いない。

 

 あ? 俺はまあ中身男だし……せいぜい負けたなぁと落ち込むぐらいだけど。

 すげぇな……俺のフルでも20なんて夢のまた夢だぞ。

 

 煙草を一本、焚火で火をつけて吸う。ヤシドには文句言われそうだが、色々と起きる記憶との食い違いを鎮めるための煙草が美味い。

 森の中で吸う事で更に美味い。友人の珍事なのでもっと美味い。三段のフレーバーでめちゃくちゃいいというわけだ。

 

 落ち込む気持ちが消えて来て、元々あった愉快な気持ちが更に沸いてくる。

 

「お前、いつもこんなんなのか……?」

「い、いや流石にここまでは」

 

 かがみなおし改めて自分のサイズを確認しているヤシドの後ろで俺は、どれだけ愉快で複雑な顔をしているか分からない。聖剣

 20……5には行っていないはず。それが奴の数字。馬鹿なと言いたくなる自分の記憶が叩きつけられている気分だ。

 奴は確か8だったはず……何をどうすればここまででかくなるんだ!?

 

「って、いいから早く調べてよ……!」

「あ? あー悪い悪い……」

 

 はち切れんばかりのパンツの痛みに苦しむヤシド様の指示を受けて、自分が何をしていたか思い出し……再び本のページをめくる。

 本の題名は「キノコ大全」まあこういう時に役立てるべきはずだったものだ。

 

 焚火の明かりを頼りに、鍋に残っていたキノコを一つ一つ照らし合わせていく。

 大体が食用キノコだったが……やがて、鍋の底に沈んでいた一欠片と合致するものが出てきた。

 

 どれどれと覗き、思わずうわぁと声が漏れる。

 

「……セイキンダケ。別名勇者茸(ユウシャタケ)

「絶対うそでしょ!?」

「いや、本当だ……最悪な情報はこっから」

 

 ──精禁茸、こいつに勇者の名前が付いたのは……ひとえにその毒の強さから。

 ()()()()()()()()()()()()()()()であることも注目するべき点だ。

 摂取すれば男女関わらず起こる造血作用により、意識の混濁、血の巡りによる性欲の増加、体温の向上。

 

 ……そんで、ほんと最悪なことに……、勇ある男を試す茸であると書かれている。

 

「食えば僅かながらだが、お前のキノコ(直喩)がでかくなる効果があるんだそうだ……ぷぷぷっ」

「笑ってる!? 笑ってるよねテオ……!」

「い、いやまて本当に勇者なのはこっからだ……! ぷふっ」

「……別にキノコが勇者じゃないかなんてどうでもいいから……」

 

「──最悪の場合、お前のキノコ(意味深)は二度と動かなくなる」

「早く言ってよ!?」

 

 男性が摂取した時、性欲増進作用はより強く働き、作られた血が聖剣に集まる特徴をコイツは持っている。

 そうして作られすぎた血が聖剣に集まり……耐えきれず、一晩経てばもはや男性器としての役目を果たせなくなるそうだ。

 

 だが、男たちは自分の聖剣を大きくしようと挑んだ。だからこそ付けられた名前なのだこれは。

 失敗すれば不能となるから精禁茸……バカかな?

 

「……え、え? それで、魔法は……」

「いや、造血作用止める毒なんぞ止める魔法は覚えてねーなかと言って血を出すにもナイフとか入れるわけにはいかねーし。……オンナノコダケノパーティーニナルナー」

「嘘。僕、明日から女の子になるの!?」

 

 いやならねぇけど。例え動かなくなったとしても、お前に胸とか出来るわけじゃねぇからな?

 ……ヤシドが女になったら、まぁ一定の需要はありそうだな。赤毛の、剣のでかさが胸になったらそれなりのものになるだろうし。

 そんで下ネタは無理というくせしてしっかり知識はある。あるな需要。俺はごめん被るが

 

 まあなに、俺の魔法が効かなくても……本にはしっかり、対処法が書かれている。

 じゃなきゃ男どもは自殺志願者と等しくなっちまう。成功例があるからこそ挑むのだ。

 

「そ、それで対処法って……? 冷やす……とか?」

「いや冷やすと逆効果だとさ。血が溜まっている所をマッサージして……あとはひたすら出せばいいんだって。小さくなるまでな」

「……え、それって」

 

 ああ簡単だ。聖剣を磨き、ビームを出し尽くせば治ると書かれている。

 何て単純な治し方だ。原始的だ。挑んだ男たちは皆そうしたに違いあるまい。

 

「──剣の手入れしろってこったよ、ご自分で、ハッハッハッ!」

「ほんっと人ごとだと、思って……」

 

 別に興奮するようなもんもないこの森で、自分の剣を磨き続ける地獄。

 昔の旅で、男の時の俺が食っていれば……二度と茸など食うまいかと思っていたに違いあるまい。

 

 早く物陰にでも行ってマスをかいて来いよと笑い飛ばす。

 

「マスって……姫様が見たら、なんて言うか」

 

 姫様の話はやめてくれ。

 こう、自分で言っておいてあれだが、汚い言葉の数々を姫様言葉に直されて自分に向けられてしまう気がする。

 

「後で、自分に帰って来るよ…………ぅ」

 

 ぶつくさと文句を言い終えると勇者さま。ゆっくりと立ち上がると……ふら付いた。

 ……? なんだか、さっきより顔色が悪い。顔が青白くなっている様な。

 

「お、おいデカすぎてバランス崩したか……? ははは」

「……」

 

 ふらふらと森の奥へ進もうとするヤシドから返答はなかった。

 いや、進めていない。右に左に、大きく傾いて全く進んでいない。もはや酩酊状態の酒場のおっさんの足取りだ。

 

 ……どう見ても、意識がはっきりしているようには見えない。

 

「だ、大丈夫か? 歩くのが無理なら俺が隠れるが……おーい」

「……ご、ごめん……も、無理」

 

 やがて、勇者は……そのまま地面に倒れる。

 

「ちょ、ヤシド!?」

 

 慌てて駆け寄り抱き起した

 頭は打っていないようだが、意識の混濁が激しい。焦点が合っておらず、こちらを見ていない。

 相変わらず下の部分だけ元気だが……他にまるで血が巡っていないようで、肌が青白くなっている。

 

 不味い、どう考えても不味い。鬱血が酷すぎたのか? それとも茸の食いすぎか。

 

「……てお。たばこ……くさい」

「そりゃ吸ってっからな! でもはい今消しましたー!」

 

 指摘を受け口に噛んでいた煙草をそのまま焚火に投げ入れた。

 

「……」

 

 ……どうする。

 このままでは勇者の勇者が無くなるどころか、勇者自身が危ないかもしれない……。

 解決法は、さっき本に書いてあった通り……。こんな状態じゃどう考えてもヤシド自身でしごける状態ではない。

 

 不意に、先ほどまでの自分の軽口を思い出した。

 

『ハハハッ、嫌でも無理やりに見てやる。治してやるって言ったしなぁ……なんなら、このテオ様が直に触ってやろうか?』

 

「……俺が、直に?」

 

 口に出して、ふと自分の焦り汗で滲みだした手を……右手(女の手)を、見た。

 い、いやいやいや……そりゃ確かに過去、自分が男だった時は恋人だった手だ。慣れているには間違いない。だ、だがしかし相手は……男、ヤシドだぞ?

 やったらダメだろう。幼馴染として、男だった俺として、仲間として。

 

 伸びかけた手を仕舞──。

 

「……ぅぅ」

 

 抱えた胸の中で、ヤシドはうめき声を上げた。

 

 血液がまた下腹部に集まったらしい。ドクンと、鳴動が体を通して伝わる。ヤシドが、仲間が、苦しんでいる。

 このまま放っておけば……命にも関わるかもしれない。

 

『テオッ、テオッ!!』

 

 響く、悲しみ強張り俺が死ぬことなんて認めたくないと泣いていたお前と被る。

 お前は、こんなしょうもない事で死ぬのか? そんなわけないよな、勇者様なんだし。

 

『テオはいつも僕らを守ってくれるけど、テオを守る人はいないからね』

 

 偉そうに言って、覚えのない記憶で笑っていたお前が、死ぬのだろうか。

 それは嫌だ。こんなふざけたところでお前を失ってなるものか。

 

『まぁまぁ、なんかなったら治してやるよ、魔法はからっきしの勇者様』

 

 魔法は通じない。だからこそ、俺に出来る事は……それしかない。

 だが──

 

『うー……信じてるからね──テオ

 

「っ!」

 

 迷う理由は、無い筈だった。アイツが信じて任せたのだから。

 ヤシドを一度寝かせ、立ち上がり俺は馬車へと走る。

 ……荷台から一つ、瓶を取り出して笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒタリヒタリ、誰かが近づいてきている。思考がまとまらない。

 空瓶を引きずる音が聞こえた。

 

 誰だろう。ぼやけた視界を向ける。

 

「よ、よ~ぉ……いきてぇるかぁい……ヒック!」

「……て、お?」

 

 テオが居た。ふら付き、酷い酒の匂いを漂わせた彼女が居た。

 先ほどよりも衣服がはだけている気がした。

 

「お~いきてるいきてる。よかったよかったぁ」

 

 首が座っていないテオは、僕のすぐ頭の傍に座る。微かな煙草の匂いと、全てを押しつぶそうとする酒の匂いと、隠しきれない彼女の甘い匂い。

 三つ、合わさって訳が分からなくなる。

 また、力が下に集まっていくのを感じた。

 

「……どうしたのほんと」

「俺様ぁは……いい事おもいつついた……酔ってりゃ、はずかしくない」

 

 彼女が四つん這いになって……下腹部に手をのばそうとしている。

 ……下腹部?

 

「……ま、まって……テオ……!」

「らいじょうぶ、らいじょうぶ……しってっから……」

 

 何をする気だと動こうにも体が動かない。けれど、何をされるか予想できているのか、下腹部がまた震える。

 彼女の手が、僕の服に手をかける。

 

「だ……だめ……!」

「らいじょうぶ……大丈夫──

 

 

医療行為、これは……!」

 

 数瞬、彼女の吐息が……服の下にかかった。

 




メス堕ち度 20%→50%()

 続きは、次話が投げられるまでに
後私のインフルが完治してから
あと通報食らってこの小説自体がR18になったらその時会おう。

ちなみにこちらは本当にR-18で投げた続きだ。お子様は見ないようにしてくれたまえ。
https://syosetu.org/novel/216229/1.html


~オリキャラ紹介~
・ヤシド
 茸の力によりフルが24→24.5になった。
 そもそもこの時までフルになる時が無かったので致し方ない。
 混濁する意識の中、酒とたばこのにおいをさせる幼馴染が……ああっ

・テオ
 無事メス堕ちイベントを始めた。
 貞操は守っている。
 コイツ自分も茸食ったって忘れてるんじゃねぇか?

・リバユラ姫
 魔法薬(都合のいい)や魔導具(都合のいい)の開発を助ける、研究者の味方。
 流石は姫様だぁ


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15.歪めど全てを飲み込む恋心

Lilly・Rose・メイクーンに捧げる





 14.5話として、R-18版「TS 盾役従者は貞操を守り切れるのか?」があります。
18歳未満は見ない様お願いいたします。別に読まなくともストーリーは分かる様にかいているつもりですぅ……。
https://syosetu.org/novel/216229/1.html


 陽は中天を過ぎ、昼食の口直しに淹れられた紅茶が覚めてしまう頃。

 侍女長は懐中時計を見て一つ息を吐き、直ぐに持っていた教本を閉じた。

 

「リバユラ様、本日の勉学の時間はおしまいでございます。お茶と菓子をお持ちいたし──」

「──そう。ならスティアナ、早く手紙を」

 

「……かしこまりました」

 

 何か言いたげにするスティアナ。でも直ぐに一礼して部屋を出ていく。

 流石、年齢と見た目さえ除けば私にとって完璧なメイド。後40歳ぐらいいきなり若返ってくれないかしら。

 

「はぁぁ~疲れた……」

 

 ようやく今日の仕事が終わったと、肩甲骨をのばし同じく一息。冷め切った紅茶を流し込んで体の熱を取る。

 国の政や経済、姫としての役目はしっかりと果たさなければならないけれど……どうにも情熱が湧いて来ない。

 私だって、もっと年ごろの娘の様に色々とおしゃれやスイーツに現を抜かしたいのになぁ……。

 

 首をゆっくりと廻し、凝り固まった血液を流していく。

 数分もしていれば、バスケット一杯に手紙を入れたスティアナが音もたてずドアを開け帰ってきた。

 

「お待たせいたしました。本日は……」

「待って、季節の挨拶やらポエミーな手紙は取り除いて頂戴……!」

 

 その山を見て、思わず眉を顰める。

 ここ最近の中でも一番だと思う量だ。そんなに読んでいては日が変わる。

 

「かしこまりました……残りは三通です」

「……流石ね」

 

 手で制しお願いすれば、山積みされたバスケットがそのまま後ろへ仕舞われ……その後、スティアナの服ポケットから手紙が取り出される。

 私の思考を読み、既に仕分けていたらしい、出来る侍女をもって幸せだ。十代くらいまで若返ってくれたらなぁ。

 

 受け取り目を通す。

 一通は名門、王都魔法薬研究所から。

 紙もインクも一級品。事務の者に書かせたのだろうか、整った文章は長々書かれていも不思議と苦にならない。

 

 ……人体の欠損修復薬の研究は順調。けど、最初からなかったものを作り出す薬は難航していると。

 そのためにはより多くの実験、素材を集める必要があり──

 

「……あら、予算の打診? そんなにお金がなかったのかしらここ?」

「……勇者の誕生、ということで様々な部門に手を伸ばしはじめ、人手も足りていないとは聞きますが」

 

 今からは完全に趣味の時間。権力は使うけど。

 姫という立場を使えば普段なら一見お断りな職人、将来性豊かな学生の情報が集まるし相談が出来る。強権というのはこのように使うのよ、と誰に自慢する訳でもなく呟く。

 

「うーん……仕方がないことでしょう。今度お父様にお願いしておきます」

 

 二通目はとある魔導具職人から。

 試作品の試しで書かれたらしい、一定の間隔と癖がない文字。タイプライターとやらだったか。

 間違いなくあと少しで実用化するだろう完成度に思わず目を輝かせる。やや紙に滲みが多いのが残念だが。

 

 ……ええと、うん。

 

「……??? これ何語かしら……?」

「姫様、お気を確かに」

 

 ……でも、書かれている内容が専門的過ぎて理解できないわ。

 後で分かる人を呼んで一緒に読みましょう。とにかく経過は順調だという事しか分からなかった。

 お祝いとして美味しい干物でも見繕ってもらって送ってあげましょう。うん。

 

 頭が痛くなってきた。三通目は誰からだろうと手に取った。

 やや皺が付いた封筒に、雑な蝋引き。差出人は──、

 

「あら、テオちゃんからですね!」

 

 一日の疲れが吹き飛ぶほどの幸運。

 やや急いで封を切り中身を取り出す。平らではない場所で書いたのだろうか。がたがたに揺れた文字が何故かおかしく、それでいて愛しく思えた。

 

 内容は王都から出て起きた事を簡潔にまとめたもの。日記に近いかもしれない。

 勇者様の料理がやたら濃い目になっているとか、すれ違った行商人から暴利を吹っ掛けられたので逆に安売りさせてやったとか。 

 風景と一緒に書かれたものは別段文章力に優れているわけではなかったが、一緒に旅をしているような気分になれた。

 

 ……ちょっと、自分のことより勇者様に対しての記述が多い気がするのは気のせいなんでしょうか?

 

「……そろそろ勇者様たちはネルシャ村につく頃でしょうか。一度だけ訪れたことがありますが……長閑でいいところでした」

 

 あの村に現れた穴の詳細については知らないが、きっといい旅になることだろう。そうすればまたその過程をこうして手紙で送ってくれるだろうか?

 これはまだ見ぬ二通目の為、お返事を書かねばなるまい。

 

「スティアナ、手紙の用意を」

「……はっ」

 

 やはり備えていた侍女長。どこからともなく一式を揃え机に広げた。

 薄いカーテンを通して柔らかく部屋の中を照らす光を受けて、宝石のように輝いて見える。

 優秀過ぎる、せめて二十代ならいけたかな……。うーん。

 

 

 筆をとり、サラサラサラり。

 お手紙ありがとうございます。お変わりありませんか? こちらでは謎の槍の使い手の事で噂は持ちきりになっており──

 

「旅の無事を祈っております。リバユラ・メイクーン……っと」

 

 気が付けば便箋の裏まで書き連ねてしまい、かと言って二枚目三枚目となるとテオちゃんに負担を与えてしまう。

 残念だけれどもと話を区切り、誤字脱字がないか確かめて封に入れる。

 

「よろしければ……お預かりいたします」

「ええ、頼んだわ。……ふふっ、こうして仕事も何も関係ない手紙を書いたのは久しぶりね」

 

 手紙を一通書いた後だというのに疲労感はない。

 むしろまだまだ書きたいと訴える心がある。その力は次の文面にまで取っておきましょう。

 微笑が漏れるのを自覚しつつ考えてふと……いつの日だったか、同じような気分に浮かれていた時があったなと思い出す。

 

 久しぶり……本当に、いつぶりかしら。

 あれは……まだ、私が──

 

「──リバユラ姫様」

 

 思考が過去を巡ろうとする寸での所で急ブレーキが掛けられた。

 何だと首を曲げれば、先ほどまでより顔を暗く、険しくした彼女がいた。思わず体を引く。

 

「な、なにごとですかスティアナ……」

「……いえ、ただ……ただ、テオ様への執心は少し危ういかと、そう……思っただけです」

 

 嘘だ。

 いや、考えの何割かに混じっているのかもしれないが、根元ではない。

 分かりやすく、けれど本心が分からない彼女。

 そんな態度でいられると困ってしまう。一体何を気にして……もしかして、あの事件が関係しているのだろうか?

 

「……()()()ちゃんのことかしら」

「っ」

 

 アタリだったようだ。そういえばあの時も侍女長はスティアナだった。それなら危惧は当然かしら。

 思い出す、まだ十歳にもならない頃に出会った侍女の事を。

 そうだ、毎日会える立場だったというのに手紙を書いたり、就寝の時間が来てもこっそり話したり。

 執心とも言える関係性が、あの時あった。

 

「そうね、あの時は私も短慮だったわ……今頃、彼女はどこにいるのかしら? 誰も教えてくれないのだけど……スティアナは知っているのでしょう?」

「……はい、ですが──」

「ならいいわ。生きているのならきっといつか会えるもの」

 

 誘っているとしか思えなかった彼女。小麦色の肌へ私が手を出そうとした時、悲劇は起きた。

 一体どこから聞きつけたのか他のメイドや執事、兵が集まり二人の仲は切り裂かれる。

 その後は私の周りには年上の者しか配属されなくなってしまったし、ライパちゃんは何処か知らないところへ連れていかれてしまった。

 

「……」 

 

 口を一文字にして押し黙るスティアナ。やはり何か言いたいようだけど……その真意は計りかねる。

 全てはお父様のお考えらしいけれど……仕方がない。しばらくは枕を涙で濡らしたけれど、仕方ない。

 身分が、性別が、過程が、なにもかもよくなかった。もしあの日に戻れたら、私は私に忠告をするだろう。「もっとうまくやれ」と。

 

 だが過去に戻る必要はない。何故なら現在(いま)、とても魅力的な女性がいるのだから。

 恋とは一期一会、一度逃したのならば追ってもろくなことにならないのだ。

 

「それにねスティアナ。テオちゃんは近い将来、地位と名誉を得る。私には今すぐ手を出そうなんて浅慮さはもうないわ」

 

 身分は時間と彼女の活躍が解決する。

 過程は姫としての身分を使い、存分に彩って見せる考えがある。

 

「ねぇスティアナ。もし私が……」

 

 性別は……、

 

「男性と結婚するなら、誰にも文句は言われないでしょう?」

「……え、ええ。女性の方と、というよりは」

「なら簡単なことです。勇者ヤシド様が地位を得た暁には、私と結婚して頂こうと思います」

 

「……はい?」

 

 性別は、なに。

 大衆から見て私が男性と結婚したとなればいいだけ。

 幸いにしてヤシド様は色恋沙汰に疎く、特に懇ろな仲の女性もいないとのことと聞いています。

 勇者として権威を得た後は今の私の様に、迷惑な縁談話が舞い込んでくる。仮に勇者様が本当に愛する女性を見つけたとしても、貴族以外との結婚は難しくなってしまうだろう。

 

「そうして、ヤシド様の側室としてテオちゃんを……フフフ」

「姫様!?」 

 

 悪い話ではあるまい。私と結婚すれば側室の数など気にしない。勇者様には愛する人を見つけ側室にしてもらい、私はテオちゃんと愛し合うだけだ。

 王位を継承する子種はまぁうん、勇者様からもらうか魔法薬に頼ろう。

 

 仮に、仮に間違ってテオ様を意識するようなことがあっても、その関係ごと私のものにしてしまえばいいだけ。

 最後は私のものになるのなら、テオちゃんもヤシド様もどんな恋路を辿ってもらってよい。

 

 これこそ、気短さを克服したリバユラ式恋愛術である。

 これにはスティアナも感服するしかあるまいて。ふふふどうです……どうしたのです、そんなに顔を顰めて。さっきより険しくなっておりますよ。

 

「……せめて、相手の同意を取ってからにしてくださいませ……」

 

 あらそんなこと。

 大丈夫よスティアナ。無理強いなんて私が嫌いとするところよ。

 テオちゃんの視線、心臓の高鳴り、この間は恥ずかしさからか断られてしまったけれど……あれは、欲望と理性で揺れていた人の目だった。

 あと数日一緒に過ごす事さえできればきっとテオちゃんだって素直になってくれるわ。

 

 ああ、楽しみです。早く王都へ戻って来てくれないかしら。

 

 空になったティーカップを覗いて、笑みを深めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拝啓姫様、貴方の未来の婚約者とヤっちまいました。

 いや本当すみません。次会ったら言うことある程度は聞きますのでどうか許してくださいませ。

 その、手だけなので、セーフですよね? あれは医療行為だったので……最後、ちょっと口に入ってしまいましたが、事故です。

 ほんとなんです信じてください。

 

「……」

「……」

 

 言葉もなく走る馬車。馬も心なしか空気を読んでいるのか物静かだ。

 荷台にいるヤシドはさっきから聖剣(本物)の刀身を布で磨いては呼気で湿らせている。もはや繰り返しすぎて鏡のようにピカピカだ。やめろ眩しい。

 

「……」

 

 勇者様の勇者様大膨張事件は無事……無事、終わった。ただ、お互いに強烈な記憶を残して。

 瓶一本飲み干したというのに、全くもって俺の記憶からはあの一夜の記憶が消えない。飲んですらいない勇者はもっとだろう。だってアイツ一切目を合わせるどころか体自体見ないもん。

 時が時で無ければムッツリスケベ勇者の称号で大笑いしたかったところだが、そうにもいかない。

 

 だって、だって……朝の鳥の鳴き声で目を覚ましたら……うん。あ、アレでべたつく体が……喉奥から変なにおいするし。

 しかもムカつくことに、そんな状態でもなぜかこちらの健康状態は絶好調なところだ。

 試しに体を流そうと魔法で水を出そうとしてみたら、普段より魔力の流れと量が多く思わず暴発しかける始末。

 

 心当たりなど一つか二つしかなく、その苛立ちから勇者には量と威力を調節したクアバレットによる行水を浴びせた。

 ……いや断じて、アレが魔力に影響したなんてことあるはずがない。そんなことがあるなら世の中は性で乱れまくっている。 

 

 アレだうん、魔力増大の為にしていた訓練が実を結んだに違いない。そうだそうだ。

 

 ……いやしっかし、アイツのすごか──

 

「フンヌッ!!」

 

 思い出そうとした馬鹿な俺を諫めるため、

 盾に勢いよく頭を打ち付けた。

 

「ど、どうしたの!?」

「……心の迷いを断ち切っただけだ──クアエール

「回復魔法使った!? ほんと何があったのさ……!?」

 

 頭に手を当て、流れる血を止める。角にぶつけるのはやり過ぎたが……ようやく冷静になれた。

 荷台からようやく、いつものアイツらしい声が聞こえた。

 

 ……このまま押し通してしまおう。

 

「よーし、勇者様。なんでそんな無言だったのか知らんが──」

「えっいやそれはテオが──」

「サクヤハナニモナカッタ、イイナ?」

「あっはい」

 

 それだけ言えば、勇者は押し黙る。ハハハ、まぁ……悪かったよホント、今度村でいい子見つけたらそれとなく紹介するから。

 姫様が恋心そっちに抱いてくれれば全力でくっつけるから……うん。

 

 と、うん。そんなこと考えてないで……ただ今は荷台から出るよう促して、

 

「──ネルシャ村についたぞ」

 

 まだ百メートル先ほどだというのに香るブドウの香り。

 目的地がようやく見えた、勇者の出番だぞ。そう教えた。

 




 まだその身から最後の力が抜けきらないうちは、老父はひっきりなしに十字を切り続けて、「主よ、わが罪(TS娘の妄想をしまくったことやR18小説を書いたこと)を許させたまえ」とささやき続けるのであった。
 ――そして、これを名残りの意識のひらめきが、すっと消えると共に、彼の眼の中でも、末期の恐れやおびえの色が、やっと消えたのである。

 忘れもしない、そのとき、その貧しい老父の今際の床に付き添いながら、わたしは思わず友人の身になって、そら恐ろしくなってきた。
 そしてわたしは、友人のためにも、TS娘のためにも、そしてまた、自分のためにも、しみじみ祈りたくなったのである。

 ──TS娘が幼馴染を意識するシーンは格別であってほしい、と

 
~オリキャラ紹介~
・スティアナ 苦労系侍女長
 若返り薬を飲んではいけない存在。
 どうやら姫様の過去の事件について何か思うところがあるようだが……?

・ライパス 元侍女?
 ライパちゃんと姫に呼ばれていた子。本名はライパス。
 案の定、この子も名前に仕込んでいたりする。

・テオ
 アホ

・ヤシド
 ムッツリスケベ。童貞が色知ったらこうなるいい見本。

・???
 出番が来ない


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16.穴世界競争探検

 作者捕縛隊の出発

 令和二年三月十四日の雌堕新聞は、いずれを見てもまず読者の目を惹いたのは、一号活字で「恋の競争性共の穴世界探検」と表題をだし、本文にも二号沢山の次のごとき、空前の記事であった。


 これほどの大量でなおかつ滑らかに整備された石造りの建物を見るのは人生でそうそうない事だろう。

 ネルシャ村の近くに出来た穴をくぐり最初に抱いた感想だった。

 

 コツリコツリ、靴が石の地面を蹴っては音が建物中に響く。

 どれだけ隠そうとしてもどうせ鳴る。ならば無理に気にして精神を疲弊するよりかは気ままに歩くのがいい。

 そう語った彼女の後ろから離れず、進んでいた。

 

 幸いなことに屋内だというのに明かりもある。高い天井には備えられたものだろうか、紫色の怪しい光が僕らを一色に染めていた。

 やがて、歩くうちに……足が止まる。

 

「……分かれ道だ」

「んぁー……こういうのってどっち進んでもなんか損した気分になるから嫌なんだよなぁ。

……にしても、穴の中が()殿()ってのは……中々に珍しいな、うん」

 

 伸縮性のある盾を軽く掲げ、ゆっくりと彼女は立ち止まる。

 だからこそ、僕も彼女にぶつからずにすんだ。正直、心なしか距離が近い気がしていたからありがたい。

 二手の道に分かれた分岐点の前で首を回し、さてどちらに進もうかと悩んでいる。その度に彼女の肩まである髪が揺れる。

 

 風がないからこそ自然と広がる甘いかお──ッ。

 

「フンッ!」

 

 聖剣の持ち手で頭を勢い良く突き、邪念を殺した。

 少しばかり痛い。いや本当はかなり痛い。

 

「うぉっ!? な、なんだっ、敵か?! ……ってヤシド、なにしてんだお前」

「だ、大丈夫……ちょっと、蚊を潰そうと思って……」

「いや穴の中に蚊はいねぇだろ……というか手でやれよせめて」

 

 突如の僕の蛮行に呆れ首をかしげるテオ。まったくもって申し訳ない。仲間にこんな意識を持ってはいけないというのに。

 そのあどけない表情があの夜の君の顔を脳裏に呼び起こ──ッ。

 

「ハゥッ!!」

 

 今度は聖剣を汚さず、己の手を使った。誰にも振るった事のない握り拳が己の頬を捉える。

 こんなに痛いとは知らなかった。絶対に人を殴るものかと決意する。

 

「グーっでやれって意味じゃねぇよ! おいどうした?! 幻覚でも見えてんのかお前!」

「……み、見えてたりはする……かも」

「おいおい勘弁してくれ……」

 

 ……本当に、なんというか調子が良くならない。テオに話しかけられるたびに、あの夜の声を思い出す。

 前を行くテオの姿を見ていると、自然と視線が下がって行ってしまう。紫色の光で怪しく照らされているから余計に艶めかしい。

 「じゃあこれが何本に見えるよ」と言われ差し出された手が、その……僕のアレを触った手だと意識してしまう。

 

 ──少しばかり、下半身に力が流れたのを感じ取った。このままではまずい。

 流石のテオも今は素面、酒などは穴の中に持って来てないし……じゃなくて!! 毒キノコなどの他の要因ではなく、自分でそうなるのは絶対にあってはならない。

 鎮まれ鎮まれと頭の中に全く興奮しないようなものを浮かべようとして──。

 

「……しゃあねぇなー、少し休むか」

『──じゃあ、しゃあねぇよなぁ……♡』

「ッ! ぅ、うん!」

 

 ──不意に、テオがつぶやいた言葉。

 あの日の……あの、扇情的なテオが言い放ったもの。一度果てた後に見せた、月に照らされた……女性としてテオの言葉が今、まるで傍で囁かれているかのように頭で反響する。

 これ以上はまずいっ、前かがみになって地面に腰を下ろす。

 膝を閉じて何があってもバレないように隠した。あまりに勢いをつけすぎてお尻が少し痛い。不自然だっただろうか?

 

「……そんなにか? 風邪でもひいたかぁ……」

 

 幸いにしてテオは全く気が付いていなかった。

 万が一にでも気がつかれたら……どうなるだろうか。

 三つの彼女が思い浮かぶ。

 

『ブフッ、マジかお前! 勇者のヤシド様がぁ、俺みたいな貧相なので興奮してんのか!? ギャハハハッ!』

 

 一番ありがたいのは、下品に笑い飛ばしてくれることだ。正直女の子がする笑い方ではないが、こうしてくれたらかなり気分が楽になる。

 確実に一週間以上はこのネタでいじってくるだろうが、人前では言わないだろう安心感がある。

 

『ちょっ、まっ……なにに反応してんだてめぇ!? 最低だぞこん畜生!』

 

 正直これくらい罵倒されても仕方がない。むしろちゃんと叱ってくれたら反省できる気もする。

 二度とそういうことを考えないようにしようと心に刻むことだろう。

 ……一番まずいのは、

 

『……うん』

 

 朝の、あの気まずい雰囲気になることだ。折角テオが昨夜は何もなかったと提案してくれたのに掘り返すことになる。

 下手をすればパーティー解散だってありうる。絶対にこうしてはいけない。

 だから、僕はテオに興奮してはいけないというわけだ。

 

「一応魔法掛けといてやる。ほれ、顔見せろ」

「い、いいよ……と、というか顔近い……」

 

 革鎧を着ていながらも緩い首元。

 本人は魔法を効率よく発動するためと言っていたが……しゃがんでいる僕に対しかがめば綺麗な首元と、鎖骨が見える。

 胸は見えることはないけれど、どうしてか脳が視線に更にその奥へ進めと指令を出して──。

 

「いやこれ無理だね」

「? なにがだ?」

 

 僕の額に回復魔法を施しながらまた首をかしげる彼女。

 あんなことがあったというのに、「サクヤハナニモナカッタ」と言えば彼女的にはもう何も気にすることは無いのだろうか。

 僕には無理だ。端的に言ってもう彼女のなにもかもがそういうものに見えてきてしまっている。

 

「話に聞いてた魔物もまだ一体も出てこないし……しばらく休むか」

 

 ……いや本当に絶対無理だぞこれ!? 忘れられるわけないだろあんな体験!!

 このままテオと一緒にいたら治まるものも治まらない。

 なにか、なにか心が落ち着けるような物を……剣を鎮めるために……! 頭を抱え、ピンクで支配された脳内を走り抜ける。

 

 ……あっ、そうだ。

 

「……」

「……うん? なんで急に聖剣を」

 

 僕は、剣(言葉通り)を取り出して見せつける様に置いた。

 鞘から抜いて、念じる。

 光れ光れ光れ……!

 

「お、おい……?」

 

 聖剣から光がほとばしる。邪な、邪悪を消す光は人を穏やかにする。

 脳内を埋め尽くしていた、水浴びの時に裸でやってきたテオを、あの夜に淫らに乱れていた彼女を光で消していく。

 卑猥なものが全て光で隠され、ひどく健全な姿になっていく。

 ……いや駄目だ、これでは余計卑猥に見える。もっとだ、全てを光で埋め尽くさなければいけない。

 

「ま、眩しっ──」

 

 神殿の紫の光すら跳ね返す、最上の光を──ただ、幼馴染に興奮しないために、僕は使った。

 

「眩しいっつってんだろ!?」

 

 直後、罵倒と共に痛打が癒されたばかりの頭部に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者がいきなり目つぶししてきたのでぶん殴りました。

 何度目か分からない、ユウシャ を倒した! って奴だ。そんで何でこんなことしたのか聞いて、ひとしきり笑った。

 これで一週間はからかえるいいネタが出来た。

 

「ったく、いきなり変なことしやがって……」

「ごめん、ごめん……僕はもう旅についていけないかもしれない」

「それお前の台詞じゃないからな……そんなに溜まってんならさっさと抜いてきやがれ」

「テオ、女の子がそんなこと──」

 

「とっととイってこい!」

 

 勇者の尻を蹴飛ばし、視界内に入らないところへ……分かれ道のもう片方へ追いやった。

 

 ……拝啓過去の勇者へ。お前ってこんなアホだったか?

 いや正直馬鹿正直でお人よしだったなぁというのは印象的だが……エッチなことは駄目だよ! って言うぐらいの真面目くんなイメージだったんだが?

 

 どんだけだよ……色を知るとしばらく男は夢中になるって聞くし、仕方ない事なのかねまったく。

 俺みたいなうっすいうっすい色でああなるんだから、アイツ風俗店とか行ったら死ぬんじゃねぇかな。まあ俺も行ったことないけど。

 

「ま、いいや。村長さんからもらった地図でも見るかっと……」

 

 どうせネルシャ村には酒はあっても色町はない。考えても無駄なことだ。

 壁に背中を預け。荷物をあさった。大したものはない。軽食に応急手当セット。ロープのような便利品。

 来る前に顔を見せ、ひどく疲れてそうな村長からいただいた小袋。

 

「……こっからずっと一本道だったから」

 

 開けて、中を確認すれば……途中まで、というよりかはほとんど何も書かれていない地図。それにペンを走らせ、記していく。いわゆるマッピング。

 こうすれば後身のものは困らないし、なにより小銭も稼げる。いいことづくめだ。

 

『おお、勇者様がこのような辺境へ……! よくぞおいで下さいました。ああこれ君、お茶を』

『かしこまりました』

 

 近くに控えていた使用人に命じていたのを思い出す。 杖が無ければ歩くこともままならない様な爺さんだった。

 あとあの使用人……名前はイーパだったか、香水がやたら強くて変な奴だった。ヤシドが一瞬顔顰めてたもん。

 そのあと俺の反応見て何か首傾げてたが。臭くない? てメッセージだったんだろうか。

 

 まあいいか。

 

『困ったことに、出荷用の酒を保管しておく倉庫の中に穴が開いてしまいまして──』

 

 茶を出すよりかはそのお酒を今出してくれたら俺めっちゃ笑顔になるのになーと思いつつ小一時間。

 聞いてもいないことをべらべらと喋っていたが……要は、穴は最近開いたものだし、中は碌に調べられていないとのことらしい。

 

 偶々村にいた冒険者が入ってみたが、一時間たつ暇もなく逃げかえってきた。

 冒険者曰くとんでもなく固い「ゴーレム」がいたらしく、()()()()()が落ちていたので拾ったら現れて追いかけてきたそう。

 

 ……が、今のところその強いゴーレムとやらの姿は見ていない。そんで進みに進んで今は知らない分かれ道。はてこれは一体どういうことか?

 ちなみに奇妙な武器は今、村長さんの預かりになっているそうだ。かなり大金払って譲ってもらったらしい。

 見せて欲しいと頼もうかとも思ったが、これ以上話が続くのも嫌だと話を終えた。

 

「ゴーレム対策に一応策は考えてきたが、無駄になっちまったか……」

 

 ゴーレムは奇妙な武器を守っていただけであり、それが無くなった今はもう何をしても襲われないのだろうか。

 仮にそうならばとんだ徒労だ。せいぜい、神殿を思わせる不思議な作りの穴を探索し、かつて起きた村喪失の「原因」が無ければ帰ろうか。

 

「──!」

 

 そう思って、ふと気を抜いた瞬間だった。

 足が、体が一瞬中に浮く。床が消えたような落下ではない。石の床が波打ち、俺を天井へ弾き飛ばしたのだ。

 

 歯噛みする。盾の重さに引っ張られ宙で体勢を崩して床を転がった。

 その間も石は動き続け、滑らかだった表面は歪み。ヒビが入り始めている。

 なんだ、一体何が? 困惑する俺を他所に、床は隆起する。

 

「……ああなるほど」

 

 紫色の光で包まれた屋内に、巨大な影が現れた。

 その光景は僅か十秒ほどの出来事。間抜けを晒してようやく理解する。

 

 ようやく、お出ましなのだと。

 

──!!

 

 目の前の石……だと思っていたものが叫んだ。動物的な咆哮ではない。石の外殻に隠れていた金属がこすれ、火花を散らしている。

 動くたびに石が崩れ落ち、隠されていた物が露になっていく。

 かつて苦労して倒したアイアンゴーレムよりも黒く、体中を走るラインは赤く光る。人の頭など軽く握り潰せるような大きな手は、オークよりも武骨で逞しい。

 

「ブラックゴーレム? 違うか。こいつは……なんだ?」

 

 過去の戦いでも見たことのない魔物、完全な未知のゴーレムが……帰り道を塞ぎ立っていた。

 それはつまり、ヤシドがいた道への通路を完全に潰し、分断されたことを意味していて……。

 

「……やばくね?」

 

 つぶやきは、金属音にかき消された。




 低次元男爵は完成した依頼絵を見て、
「エッッッッ!!」
と一言叫んだと思うと、急所の傷手にはかなく絶命して終った。



 それはそうと、聖剣さんは最近プレステさんのゲームとかに出張してなぞの光として活躍しているらしいっすよ?
 モザイクいらずだから安心だね!

 
~オリキャラ紹介~
・ヤシド
 ムッツリスケベ。テオのせいで性癖ぶっ壊れた感ある。
 聖剣をかつてないほど使いこなしていた。
 物陰にけ飛ばされたが流石にスル訳にもいかないので、テオに当たらぬよう聖剣の光を浴びまくっていた。

・テオ
 何もなかったと言って本当になかったことにしようとしている奴。
 テオだってねぇ、24cm状態じゃなければ平静なんだからね!

 死ぬかもしれない。
 あと依頼絵が完成しましたので目次、一話後書きに掲載しております。
 姫様がデザインした「純潔の鎧」を着ている未来図となります、
 相談した時になかったはずの首輪を絵師様が書いていて素晴らしいとなった。
描かれた方:kuku様(https://skima.jp/profile?id=46137 )
 →
【挿絵表示】


・イーパ 男
 勘のいい読者ならきっとおわかりだ。


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17.生意気天才白髪少年病

 メス堕ち線の朝の八十一時八十一分の上り汽車が、TSの電車停留場の崖下を地響きさせて通るころ、事後の田畝をてくてくと歩いていく男がある。
 この男の通らぬことはいかな日にもないので、触手堕ちの日には泥濘の深い田畝道に退治用の塩を引きずっていくし、リョナ・可哀想快楽堕ちの朝には帽子を阿弥陀にかぶって間男を逃がしてなるものかと武装して通るし、

 沿道の家々の人は、遠くからその姿を見知って、もうあの人が通ったから、
 あなた更新が遅くなりますなどと春眠にぐっすりと眠る主人を揺り起こすTS執筆者の見えない恋人もいるくらいだ。


 それはとある日のこと、書物の山に埋もれ泳いでいた時のこと。

 

『まずは第一の言葉。魔力に定義づけるため、イメージに結び付ける様に……?』

 

 頭が爆発しそうなほどに字を詰め込み、試行錯誤してはあーでもないこーでもないと呟いている。

 傍らには本立てと化した盾が置かれ、もう片方には切り分けられたリンゴがあった。時折口に運んでは、頭の痛みに耐え読み進める。

 

『うーん……──()()()()()()()()()()()……なんか弱いな』

 

 スゥと息を吐いて、ただ「どんな力を使いたいか」を口にすれば……俺の周りにふよふよと浮かぶ、淡い青い光。

 しかしすぐ霧散し、とてもじゃないが使えそうにはない。

 

『もう盾だけじゃ駄目だからな……ああくそっ』

 

 だが、使えるようにしなくてはいけない。才能がないというのは分かっている。魔力量だって凡人レベルらしい。自分で計ることすらできない程度の実力だ。

 ……ここさえ突破できれば後は容易、そう流れの魔法使いに聞いたのだ。必ず手にしてみせる。

 そうすれば、そうすれば……勇者のアイツにまだでかい顔が出来る。いちいち怪我を気にされなくて済む。

 

『それに、頭痛がなおせりゃ二日酔いとかだってな……後は女の子に自慢できるし。ははは、はははは!』

 

 魔法は便利だ。

 一刀の下に全てを切り捨てるヤシドの足りない部分を持つ。旅の後だって腐らないスキルだ。

 

 皮算用しては、また借り受けた書物に目を通した。

 

()()()()()()……いやガラじゃねぇよ。()()()()()……おぉ中々だな。……()()()()()()。少しよくなった、か?』

 

 ああ酒が飲みたい、煙草が吸いたい。

 けど借り物に万が一かかったり臭いが映ったりしたら不味いし。

 

 ──俺が覚えるより、魔法使い普通に雇い入れた方がずっと効率いい気がすんな?

 ……い、いや、そんなことなったら俺より強い盾役入れるとかいう話になりかねんし無し無し!

 

 まだ女の子の一人にも声かけられてねぇんだぞ、ぜってぇしがみついてやるからな……!

 全てはそう、女と、酒と、たばこのためだ。

 

『ええい、もう思いつきそうなの全部試すか。力は──』

 

 

 

 

 

 

 

 

「──()()()()()()()()()

 

 なんでか一番反応が良かったその言葉を紡ぐ。

 今に巨腕を振り下ろしてきそうな人型ゴーレムを前に、数えきれないほど唱えてきた言葉を並べる。

 

()()()()()()()──クアエンド!

 

 先ほどよりかはマシになった体を動かして、盾に力を込める。

 自分の体の三倍近くはある金属の塊が相手、受け止めようとしてはいけない。形を滑らかに整え、地面の支えを取れるように引っ掛かりを二本、左右斜め下に生やした。

 

 瞬間、黒の金属塊が迫る。

 体に走る赤のラインがほんのりと光った気がした。

 

「ぐっ、ぅぅっ!!」

 

 火花が散る。激しい金属音が鳴った。受け流しては見たがあまりに一撃が重すぎて腕がお釈迦になりそうだ。

 痺れが残る左手を揉んで、距離を取った。

 

 ヤシドの奴はまだか? まさか聖剣(意味深)が出しっぱなしで動けないのか。無礼な考えが頭に浮かぶ。

 

テオ、こいつ倒してそっち行くから待ってて……くそっ!

「ああそっちにも出てんのね、クソッたれなゴーレムだ!」

 

 訂正。どうやら彼方にもゴーレムがいるらしい。

 なら耐える行為は間違いだ。ゴーレムとの戦闘経験がないヤシドでは、まだ第一段階、碌に穴に潜っていないヤシドでは難しい。

 

 俺が、目の前のゴーレムを倒してどうにかするしかない。舌打ち一つして見上げる。

 

「──」

「黒いし、今まであってきた中で一番金属してやがんな……」

 

 冷や汗一つ、背中に流れる魔力で熱する。

 落ち着け、この程度のピンチなんて旅の後半は腐るほどあったはずだ。周りが強すぎて、俺一人だけハードな戦い。

 大量の魔物に囲まれた時なんて俺にどうしようもないが……タイマンならどうとでもなる。きっと大丈夫だ。

 

「へっブラックメタルゴーレム、とでも呼んでやるぜ。名付け親は俺だ。感謝しろよ?」

 

 体長4メートル超え、横幅3メートル。全身に刻まれた赤い線は恐らく魔力を通すための導線だ。

 以前アイアンゴーレムを解体した時、似たようなのが内部にあったことを思い出す。

 あれが赤く光るたび、ゴーレムは大きく動く。それが外部にある所為で攻撃タイミングが丸わかりだ。

 

「コアは……あんなところに!」

 

 それが集結する場所を探して行けば……見つけられる。顔と思わしき部分、頭上に埋め込まれている、赤く光る球体を。

 俺の頭より一回りばかり大きいだろうあれこそがゴーレムの心臓部、コアだ。

 中にはゴーレムに力を与えるための魔力がこれでもかと詰められているはずだ。

 

「おい、ヤシドォ! こいつの弱点は……頭の上にある、コア……宝石みてぇなやつだ! あれぶっ壊せば動きが止まる!!」

わ、わかった!

「頼んだぜ勇者さん!! ……ふぅ」

 

 ゆっくりと物事を一つ一つ片づけていけば、なんだ案外なんとかなるじゃないかと安堵が心に広がる。

 

 そもそもゴーレムというのは魔力を各部品に通し動く、魔導非生物体だ。スライムみたいな意思がない、予め設定された行動パターンしかとれない。

 つまり、戦えば戦うほどゴーレムの動き方というのは分かりやすくなるのだ。

 俺とヤシドならば、断然俺の方がゴーレムに慣れている。当たり前だ。

 

 後はうん、勇者様がゴーレムを倒して合流するまで持ちこたえりゃいいな。いくら初見の相手でもここまで遅けりゃ大丈夫だろ。

 ははは、おらおら最初の威勢はどうしたゴーレムさんよ?

 そんな風に挑発めいた視線を送った。

 

「……!」

 

 ……どうやらこのゴーレム、人の感情を推し量る機能でもついてるらしい。

 赤く導線が光る。ゴーレムは掌を広げ、地面に対し垂直に置いた。 

 

「ちょっ!? ま、まてそれはやば──!」

「────!」

 

 地響きと共に舞い散る塵。

 立つ者を一網打尽にするような片手の薙ぎ払いを間一髪、跳んで避けられた。足を守る様に覆った盾がすれて体が宙で回る。吐きそう。

 

 前言撤回! 平地では何ともなかったような動作が閉所では一撃必殺のソレだ!?

 こんなの持久戦に持ち込んでたらそのうち下手こいてオワリだよ!?

 

 俺でこれだぞ、早くしないとヤシドが……!

 可能性の低い賭けをしてまで攻撃しなくちゃなんて最低だ! 俺盾役なんですけど?!

 

「だぁっ、こなくそ! 盾役魔法使い従者テオ様の一撃でも食らいな!」

 

 右手でゴーレムの頭上を指さし、言葉を吐きだす。

 かつてはオークの薄皮を剥くことしかできなかった水の弾丸を並べる。

 

()()()()()()()()()()()()! ()()()穿()()()()()()()()──クアバレット!

 

 計五発、魔力の調子のいい今ならオークの皮膚を浅く削り、血をにじませることぐらいはできるかもしれない。

 貫通力と消費魔力の少なさがウリの魔法がゴーレムの頭部めがけて射出された。

 

 当たれば少しは効くだろう。そんなポジティブな妄想。

 

「──!」

「……まぁ、防ぐわな……お硬い頭部で」

 

 カンカンペシャリと響き、頬の部分を濡らして消える弾丸。

 角度の問題か、手で防ぐこともなく、ゴーレムは僅かに頭部を持ち上げるだけで防ぐ。

 いやまあそりゃそうだ。

 

「──……」

「ま、まぁ動きは鈍いし、いろいろと試してこう」

 

 仮に勇者がいれば、俺が気を引いてアイツに狙ってもらうんだが。

 それか俺が身軽なら、ゴーレムに飛び乗って……ない物ねだりしてもしょうがねーか。

 

 さて次はいつ仕掛けてくる。そう睨みながら盾構えていると……。

 

 

──ブゥゥン、と何か震える音がした。

 

 次に出るのは煙。ゴーレムの関節部分から噴き出て、浮かぶわけではなく地を這う。

 つまり空気より重いという事だが……水蒸気?

 

「……あ?」

 

 体内に水を蓄えていて、それが熱せられて出てきたのだろうか。

 なるほど確かにあれほど巨大なものを動かすのだから熱量もものすごいのだろう。

 見れば金属分が赤熱し、生暖かいどころか湿気と共に熱気をこちらに……うん?

 

「……き、気のせいかな……なんか、めっちゃ熱そうだ、な?」

 

 導線から熱が伝わっているらしい。全身が見る見るうちに熱を持ち……決して「ブラック」などとは呼べない見た目へと変貌していく。

 じ、自爆とかじゃない、よな?

 ゴーレムはこちらを無視し、態勢を整える。その一挙一動には、どう見ても先ほどまでの愚鈍さがない。

 

「えーと……その」

 

 ……仮にこれが、この魔物の戦闘モードで、今までのが試運転に等しいものだったとしたら?

 今から、先ほどまでの質量の一撃が速く、熱を持って襲ってくる?

 

「こ、これからが本領発揮……とかだったり?」

 

 引き攣った頬で、物言わぬ金属塊に尋ねた。

 

 

「────!!

 

 正解だったらしい。

 返答は、予想を超えた拳だった。

 

「が、ぁっ……!?」

 

 盾に力を込めて精一杯の硬質化、勢いを逸らそうと傾けた。

 だが体が浮く。決して耐えきることのできない重量の暴力が俺を襲った。

 

 先ほどの宙回転など生易しいものだった。吹き飛ばされ壁に背中を打ち付ける。

 肺から空気が消える。頭を打った気がする。

 分からない、視界がグルんぐるん? 酒を飲み過ぎた日よりも回って、立てない。

 

「──……」

「あ゛、あ゛ぁ……?」

 

 上はどっちだ。盾を杖代わりにして、膝が崩れた。

 まずい、このままだとまずい。死ぬ、明確で何もわからずに死ぬ。

 

 魔力を回さなければ、回復魔法を唱えて立たなければここで倒れたらヤシドが不味い。

 震える全身に力を入れようとして、栓が抜けた浮き輪の様に抜けていく。

 盾だけ誰かに握られているように離れないが、盾だけあっても仕方がない。

 

「──!」 

 

 回る視界の中、ゴーレムが近くにまで来たらしい。腕をわざとゆっくりと振り上げているのが見えた。

 

 ……ここまでなのか?

 不意に、そんな考えがよぎった。 

 

「──」

 

 ……誰かの声がした。

 幼い、男の声だ。ヤシド? いや、アイツにしては幼すぎる。

 となれば冒険者か。救援、偶々の邂逅。どちらでもありがたい限りだが、相手が悪すぎる。

 

 早く逃げろ、そう言おうとして……ようやく前を向けた。

 不思議なもので、その声で、誰かが居たからこそ俺は立ち上がれた。

 

「……こども?」

 

 巨塊の遠くに、小さな子がいた。白い髪が酷く印象的な。

 薄汚れたローブを着た彼は、その手に……似合わぬ長銃を持って、構える。

 狙いは、ゴーレムか?

 

 破裂音が響いた、

 硝子が割れる音がした。

 

 しばらくして、目の前のゴーレムが……音を立てて崩れ落ちる。

 巻き込まれそうで慌て、後ろに下がり尻もちをついた。

 

「……なっ」

 

 目の前にはいまだ発熱している金属、ゴーレムだったもののパーツたち。

 頭部にはめ込まれたコアは色を失い、ただヒビが入ったガラス玉のように透明になっている。

 

 この光景が、少年によってゴーレムが倒されたという事を示していると気が付くのに十数秒を要した。

 

「……」

 

 少年が近づいてくる。

 見れば見るほど子供だという確信が出来上がる。歳は十を過ぎたばかりだろうか?

 その紅い目でただこちらをじっと見ている。

 

 何故こんな危険な場所に子供が。いやまてそもそも何で()()()()()()()()()()()()?!

 突然死地から救われ混乱が最果てに至る。

 

 疑問の渦から抜け出るため、俺は一つの簡単な答えを導き出した。

 

 なにか、こちらから声を掛けるべきだ。とにかく、助けてくれたのだからお礼を言わねばなるまい。

 そうだ、色々の疑問はその後尋ねよう。そうしよう!

 

 ふら付く体を盾で支え、血の味がする口を開いた。

 

「……ぁ、えっと……ありがとうな。俺はテオ──」

「ボクはガショーネ・タオン。あなた達を助けてやれと言われたので来ました」

 

 こちらの言葉を遮り、少年は言い切った。

 ひどくつまらなそうに、眉をしかめている。

 

 ……うーん。

 

「そ、そうかたすか──」

「勇者一行と聞いていましたが、あの程度の魔物にしてやられるようでは先が思いやられますね」

 

 ……はぁ。

 

「ははは、痛いとこ──」

「まぁ、ボクがついて行ってあげますので……せいぜい、足を引っ張らないようにしてくださいね?」

 

 

 

 ──うん、クソガキ!

 

「黙れクソガキ!!?」

「はぁ!? そのクソガキとやらに助けられたのはどこのどいつですか! ボクがいなければ死んでいたくせに!」

 

 叫んだ拍子に鎧が壊れたがどうでもいい。今はこのガキをぶん殴らねばならない。テオは激怒したのだから。

 

ね、ねぇっ僕のこと忘れてない!? はやく助け、し、死ぬ! 死んじゃう!!

 

 うるせえぞ勇者様! ゴーレムぐらいなんとかしてはやくこっちこいや! お前もこのガキ相手すんの加われ!

 

 テオちゃん、憎たらしいガキは嫌いだよ!!




 危ないと車掌が絶叫したのも遅し早し、上りの電車が運悪く地を揺り動かしてやってきたので、たちまちその黒い大きい一塊物は、あなやという間に、三、四間ずるずると引き摺られて、紅い血が一線長くレールを染めた。
 非常警笛が空気を劈いてけたたましく鳴った。


 目を覚ますと、男はTS美少女となっており、今まで敷いてきたメスオチ線路を引きずられていくこととなったのだ。
 それはそうとショタに母性本能くすぐられるメス堕ちものってハーメルンで見かけないんだけど私の発掘力が低いのか


・追記 シチュ募集終了いたしました
 約32件のエロシチュ、確かに響いたぜ……4件ぐらいに合成絞ったりして書くね


~オリキャラ紹介~
・テオ
 魔法は独学で覚えた後、魔人から色々手直しを受けた。鍛錬の時間と魔力量があればもう少し上級の魔法が使えたかもしれない。
 今回はクソつよゴーレムに殺されかけた。

・ヤシド
 死ぬかと思いました。
 助けられた後は流石に興奮どころではなかったらしい。ギャグ落ちに使われたが何気に重傷。
 まあ回復してやるから許せ

・ガショーネ・タオン
 ガン(銃)、ショーネン(少年)、オネショタ(おねショタ)を三つの名前を持つ。
 白髪、真紅の目。少しやせ型。作者の性癖が詰められている。ヤシドのキャラカラーが赤だがまあいいだろう、息子に従う。

 生意気系ショタをヒンヒン鳴かせたいのぉ!!(終わりの挨拶)


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18.勇者オォン! ブラックメタルゴーレム※挿絵

 これは、TS娘×男のカップリングで子孫繁栄。
 人類滅亡をかけて戦う、熱き勇者オォン! の物語である。




 

 沈む夕日、散らばり崩れた石。本来なら堅牢な建物があったのだろう場所で二人、腰かけていた。片や盾を磨き、片や杖を掲げ輝かせている。

 光が盾を持つ者を包み、癒していた。深い傷すらも瞬時に消えていき、破れた服すらも直っていくのは最早どういった原理かさっぱりわからない。

 

 ……こりゃいつの日の出来事だ? 正直いつものことすぎて判別がつかない。

 魔王軍を蹴散らし残党を探す正義感と気力に溢れる勇者様と戦闘狂の槍バカがいない事だっていつものことだ。

 

 目の前で不満げに眉をひそめている美女──エーナちゃんだってそうだ。今日はもう歩きたくないとばかりに仕事として俺を治してくれる。

 生命の限界さえ来ていなければ腕だって繋ぐし無くした指も生えてくる。情けない事に彼女がいなけりゃとっくの昔に俺はリタイアしていた事だろうな。

 

『アンタ、いい加減前線から引いたらどう? 正直言って、足手まといになってるって自覚してるでしょ?』

『……あ、相変わらずキツイなエーナちゃん……ぐぅ』

 

 ぐうの音も出ない。いや出ているけれど。

 治った足を曲げたり伸ばしたり揉んだりして調子を確かめている俺の体を、心の俺が眺めた。

 

 ……そうか、この日か。

 四天王の二人目と戦う事になる、数日前の話だ。一週間前の四天王は氷魔法の使い手で……俺が何か水魔法を使おうとすれば凍らされる。盾を構えようにもかじかむ手に力が上手く入らない。

 凍傷で指が落ちたのは忘れることが出来ない記憶だ。エーナちゃんがでっかい炎出して氷を一時的に無効化、勇者と槍バカがぶっさして闇と光ビームブッパして倒してくれなきゃ凍え死んでいた。

 

『ヤシドの方にはアタシからも話してあげるわ……今はどこも戦える人手が欲しいんだから、元勇者パーティーのアンタなら引く手あまたでしょ?』

『あー……ははは』

『なに笑ってんのよ。いつも魔法で庇うアタシの身にもなってよね?』

 

 何と言っていいか分かっている、けれど答えるわけにはいかない。だから、曖昧にわらって誤魔化した。だから彼女はより語気を強めた。

 でもそこに、悪意なんてものは一欠片もない。

 口調こそきついが……全部彼女の発言は善意から来ている。だからこそ、その言葉の一つ一つが重くのしかかる。

 むしろ俺が彼女の身分だったら拒む俺の意思など無視してパーティーから外すだろう。それだけに、言葉の節々に「頼むから聞いてくれ」と彼女の心の声が乗っている。

 

『……言っておくけど、アンタの心配なんてしてないわよ? 本当にアタシが邪魔だと思っているからどっか行って欲しいだけ。

そうね、()()()()()()に出来ているキャンプなら魔物も少ないって話だし、田舎者のアンタに丁度いいかしら』

 

 ほらこれだ。なんでか魔物の手が薄く、戦況が激しい都市部から離れろと言っている。彼女の言葉には棘があるがそれは百年近くボッチを拗らせていたが故の尖りだ。

 万能にして小悪魔……のフリをした聖母。それが彼女だ。

 

『い、いやぁ……俺だって成長してるし。ほら、四天王の前座の魔物相手ならそれなりに戦えてただろ?』

『スオウが一突き、ヤシドが一振りで蹴散らしてた魔物相手にじり貧になってただけじゃない。アタシの補助魔法込みでアレってこと、魔法を覚えているアンタが分からない訳ないでしょ?』 

 

 またまた記憶の中の俺が痛いところを突かれた。

 角が生えた、やたら毛皮が分厚い熊二頭に攻められ腕が痺れていたのを助けてもらったのは忘れるわけがない。

 

『……い、いやー……も、もう少しで強い魔法が使えそうなんだよ。だから、な……頼むよエーナちゃん?』

 

 いつの日か死にかけた……いや死んだ日に、俺は彼女に頭があがらない。と思った気がする。本当にそうだ。

 ……彼女に出来ない事なんてない。俺が必死になって発動した水の弾丸よりも凶悪な水流だって片手間で発動する。

 俺がいくら鍛えたところで魔法の面においてはエーナちゃんに届く筈がないのだ。

 

『な、なんならもっと別の方法で強く……えーと、なんか、なんかあると思うんだ……』

 

 でも俺は言うしかない。頭をかいて、煙草が吸いたくなった気持ちを抑え、盾を持つ。

 頑張っから、死なねーから、もう少しだけ旅を続けさせてくれよ。ここで脱退なんて格好悪いし……幼馴染(ヤシド)に向ける顔がないんだ。そう言外に含んだ。

 卑怯だよなホント。

 

『……』

 

 歯ぎしりが聞こえた。装飾豊かな杖が折れるのではないかと思うほどに力を込め、握りしめている彼女の細く白い手が見える。

 死んだ今にして思えば、本当に自分勝手な奴だと思う。腰から下が吹き飛んで腹に穴が開き、腕が無くなった時、彼女は俺に対して何も言わなかった。

 ただヤシドに「その馬鹿と話してなさい」と言って、飛んで行ったパーツを探しに行ってくれた。

 

 あの時、彼女が俺の顔を一瞬見て出した表情は、どんな感情だったんだろう。

 歯噛みしていたけれど、眼は冷静に見えた。

 慌てるヤシドを後目に、すぐに「手遅れ」だと理解していた。

 

『──条件があるわ、アホ男』

 

 ……この時俺が素直に聞いていたら、あんな顔、判断をさせずに、エーナちゃんは世界を救った一員になっていたんだろう。

 本当にアホ男だ俺は。

 しかも俺の駄目なところは──

 

『今から言う応用技を、三日以内に使えるようにしなさい。じゃないと見込みゼロって事で埋めてでも置いていくから』

『……あ、ありがとうなエーナちゃん! 絶対覚えっから!』 

 

 落とす気満々で出された課題を、なんとかこなして……結局旅に着いて行ってしまえたことだろう。

 

 

 ごめんなエーナちゃん。

 今度は、引き際は見誤らないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──だから今は、教えてくれた技術を使わせてもらう。

 

 クアバレットの様に弾丸の量を増やす……そんな単純なことではない。

 魔法の効用を理解し、発展させる行為だ。

 

「力は人の為に、力は人の為に。漂い癒す水となり……()()()()──クアエール・スチーム

 

 唱えた魔力を抽出し形にする。左手の掌にたまった水が鈍く光り……水蒸気となってゆっくりと流れ出す。

 こそばゆい、懐かしい感覚。覚えて直ぐの夜はほんの少し残った魔力を使って何度も練習したっけなぁ……。

 

「お、おぉ……モワモワしてる?」

「癒しの煙って訳だぜ勇者様? ……まぁ、効果は安い回復薬全身にぶっかけたのと同レベルだけど」

 

 回復に秀でた水属性の基本魔法──クアエール。作り出される癒しの力を持つ水をそのまま患部につけるわけではなく、気体にして拡散させることで少ない魔力で済む裏技じみた技だ。

 安いとはいえ元が高い魔法薬を数本買うよりか全然経済的だし、なによりクアエール一回分の魔力と殆ど変わらないからいいことづくめだ。

 やがて全体を覆い、擦り傷や打撲を薄くしていく。……まぁ完全に消えるわけではない。流石にクアエールを直に当てるよりかは回復量も落ちる。

 

 骨がやられていなくて本当に良かったぜと思いながら肩を回す。

 

 ……ぃよし、まぁまぁ回復した。タオルで体についた水分をぬぐう。

 まだ戦闘に支障はなさそうだ。……エンド、バレット、エール・スチーム。魔法を短時間で三回も使用したってのに全然魔力が枯渇する気配がないし、そのどれもが効果自体よくなっている。

 これなら……魔力量が多くて使えなかった魔法とかに手を伸ばしてみるのもいいか?

 

 なあどう思うよ、ゴーレム相手にズタボロになってたヤシド君。

 

「いやテオ……僕にも回復……」

「おおそうだったな……おら、じっとしてろ」

 

 疲れからか剣に身を預けふら付いていた。もはや聖剣が杖と見分けがつかない。

 ……随分と筋肉が付きましたねエーナちゃん。 ふふ、ははは。こんなこと考えてたらエーナちゃんに燃やされ──っ!?

 

 不意に、背中に魔力が込められた杖を突きつけられている気がして振り向く。

 しかし一人、睨みつけてきているクソガキしかいない。無視だ無視。

 

「……?」

「ど、どうしたの?」

「い、いやなんか背筋がゾクって……まさかな? 」

 

 このダンジョンに彼女がいるはずがない。きっと記憶の中にエーナちゃんの再現率が高すぎてなんか体が反応したに違いない。きっとそうだじゃないと怖い。

 ……そ、そそそそれよりヤシドの手当てだそうしよう。

 

「ほ、ほらお前も拭くために持っとけ……」

「ちょ、そ、それテオが今使った奴でしょ! せめて別の──わぷっ」

 

 うるさい。裏を使えば問題ねえだろ。無駄にでかくて分厚いからなこのタオル。姫様からもらったから多分お高い奴だ。

 なぁに少し濡れてるがその()()は癒しの水だ。むしろ体にいいぞきっと。知らんけど。

 

「……!」

 

 滅茶苦茶嫌がられた。

 ……そこまで汚れてねぇのに、ヤシドの奴は固まったまま動かない。少し濡れたタオルを見て何か考えている。ぶつぶつ呟いている怖い。

 い、いや顔面に投げたのは悪かったけど! 何もそんな怒りに打ち震えなくたって……すまん。ほんとごめん。

 

そ、そういう問題じゃなくて……匂いが

「? なんか言ったか? ほらこっちの使え」

「あっ……ありがとう」

 

 だいぶ使用済みタオルを握る力が強かったようで引っこ抜くのに一瞬戸惑ったが、そのまま奪い取り直ぐに違うタオルを渡した。

 ……そんなに使用済みの方のタオル見つめなくてもいいじゃねぇか勇者様。

 謝っただろ? ははは、そんなに見つめてるとこっちのが良かった、なーんて風に誤解されちまうぞ?

 

 ……いやごめん、今度なんかうまい飯奢るから。

 

「……い、いやいいって──ってこれ普段テオが使ってる奴……!! 罠か何かなの!?

 

 さて改めて、タオルを手渡しつつヤシドの状態を観察する。

 俺と同じく直撃は避けたらしいが……ゴーレムの一撃で壁に叩きつけられたようだ。額に傷が出来ている。

 服の下も同じような物だろう。だいぶ痛そうだな。の割には元気そうな気もするが。聖剣のおかげだろうか。

 

 こんな感じで癒すのも後何回あるのだろうか、そのうち聖剣の光で回復しだすんだよなコイツ。

 ……ふと思った。

 手をヤシドの肩に乗せ、唱える。

 

クアエール・スチーム──最初は少しいてーぞ……」

い、いやちゃんと洗ってるからこれ使ってもセーフ……い、いやでも……? えっ、ぁあうん?」

 

 先ほどと同じような現象が起きる。今度は煙がヤシドの方に偏るように操った。

 モワモワした煙が俺から流れヤシドに向う。

 

 この技、というか応用前のクアエールの欠点は……生成する癒しの水の量が極端に少ない事。片手で掬えるほど。傷口につければそれなりの効果を発揮してくれるんだが、少なすぎて治せる箇所が一回の魔法では限られる。

 しかも空気に長時間触れていると魔力が抜けて無意味になるし、密閉して空気も入らない容器にでも入れないと保存も出来ねぇ。そんな生産拠点なんて旅の間に確保できるわけがねぇ。

 

 事前に作っておいて、という事が出来ない理由がそれだ。

 

 ……まあ仲間のエーナちゃんの魔法はほとんど何でもありだったし、回復ポーションだってホイホイ作ってたが。

 いや魔法というか──魔術の領域だったぜほんと。魔人たちは優劣あるけどみんな魔法お化けだからな―……。

 何をどうすりゃ魔法を四重に行使して平気な顔できるんだかほんと。怖い怖い。

 

 そうだ魔人と言えば──

 

「──で、いつになったら動くんですかあなたたちは? 先ほどゴーレム相手にひぃひぃ言っていたというのに、こんなところで道草を食っていていいのですか?」

「別にクソガキくんと一緒に行くなんて言ってないしぃ?」

 

 とうとう俺の思考を遮ってガキが話しかけてきた。寂しがり屋なのかな??

 ガショーネ・タオンとか言ったっけか。なんで村長がお前みたいなの差し向けたのか、しかも無断で。まったく意図は分からないけど……まぁ言うこと聞いてやる義理もない。

 本来ならこの時期にあるはずのない「完成品の銃器」を持っている少年なんて不気味で仕方がねぇ。

 

「テ、テオ。道草かどうかはともかく……確かにここにじっとしていたら危ないんじゃ?」

「あ~? ……じゃあ怪我したまま歩くかよ勇者様」

 

 そう思っていれば、同じく疑問に思ったらしいヤシドも訪ねてきた。なに手を止めてんだおらさっさと滴る水をぬぐえ。

 ついでにタオルに染み込ませてそのまま体全身を拭け、特に顔の傷が多いんだから。

 もう片方の俺の手でタオルを奪い取り、強引に拭く。なんか犬洗ってるみてぇだな。

 

ちょっやっ、やめ……!

「それによぉ、俺が考えねぇ訳ねぇだろんなこと……さっきのゴーレムの特徴を考えりゃ、むしろ体調を万全にしといたほうがよっぽどいいんだよ」

「そ、そうなの……?」

 

 抗議の声を聞き流し、話を進めた。

 さっきの……ブラックメタルゴーレムを思い出す。神殿のサイズでも過剰な大きさだったが、一定時間たつと発光。えげつない速度と質量で潰しに来る強敵だ。

 はっきり言ってそんな相手に怪我を残したままぶつかりたくない。それに先ほどは分断されたからこそてこずったが、二人一緒にいれば俺がヘイトを引き受け、ヤシドが登り切りつけることも出来る。

 

「──ってなわけだ」

「なるほどぉ」

 

 と説明した。ヤシド君はすっかり納得してされるがままだ。

 おらお客様、頭でお痒いところはございませんか?

 

「随分と楽観的ですね。その発光したままの状態でゴーレムが現れたら? まぁ、ボクなら問題ありませんが。この銃で一発ですから」

「……聞いてもねぇ自己アピールあんがとさん」

 

 クソガキは依然として反論してくる。いや言いたいことも分かるし一理あるが……ンなこと言ったら撤退するときにそれが来てもヤベーだろ。

 そもそもお前は俺が狙いを引き付けていたから無防備な後ろから狙えたという点を忘れるな? お前単体ならあの速いゴーレム相手にしたらお陀仏だろうからな?

 え、なんだ? 早撃ちの自信もあるし、銃にとある()()があって確実に倒せるから怖くない?

 

「ははは、なら複数体で来られたら終わりじゃねーか。連射できるようにはみえねーぞ、その銃」

「っぐ!」

 

 ぐうの音も出ないという奴だな。出てるけど。ははは論破論破。俺の勝ちだ。

 まぁ俺達は複数体で来られたら……全力で逃げるけど。

 

「……うん?」

 

 どうしたヤシド君。そろそろ治ったかな?

 

「……つまり、発光した状態でなおかつ、複数体で来たら……僕たち、かなり不味いんじゃないかな?」

 

 うん。

 そうだね、としか言えなかった。ガキも「そう、ですね」と呟いている。

 ……ま、まぁあれだよ、そんな不運の連鎖みたいなシチュエーション早々起きねーって! 多分、恐らく、お願い。

 

「……」

 

 祈り、ヤシドの肩から手を降ろす。そのまま無言で靴の調子を確かめた。

 

「……テオ?」

「……よし、一度──」

 

 帰ろう。そう言いかけた俺の言葉が遮られた。

 何にだ?

 

 地鳴り、鳴動、熱気。

 背筋に流れていた冷や汗が大粒になるのを感じる。

 

──ブゥゥゥン、と何か震える音がいっぱいした。めちゃくちゃにハチャメチャに。

 

「……」

 

 帰り道を見る。

 壁がそこにあった。迫りくる壁があった。

 

 正確に言えば、我先にと俺達を押しつぶそうと迫りくる、発光したブラックメタルゴーレムの群れがあった。

 全身から蒸気が噴き出て、濃密な煙の中から這い出る黒い手は……俺達を捻り潰すには多すぎた。

 

「……」

 

 ヤシドの目が死んだ。

 

「???」

 

 少年の頭の上にハテナマーク見えた気がした。

 

「……」

 

 俺は……二人の手を掴んだ。

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

「──に、逃げるぞぉぉぉぉぉ!!!?」

 

 全力を越えた、死に物狂いで逃げだした。

 

 




 8年前のメス堕ちの夜。突如現れた宇宙メカTSアンドロイド娘から夫婦に託された赤ん坊は、二人の子供「マモル」として育てられ、成長し元気な男子小学生となっていた。

 ある日、メス堕ち社会科見学で夢の島『メス堕ちんランド』の見学に来ていたある日、ゴミが集結し巨大なロボットになる。
 子供たちを巻き込み島壊滅を企むロボット──Er-o2に対し秘密防衛組織BMG(べ つに メ ス堕ちしても構わん が ?)が活動を開始した。滅ぶべきな気がする。
 
 BMGの行動隊長、オス獅子からのTSメス堕ちいいよね派 ゲイは2年前に地球に侵攻するEr-o1と遭遇し、瀕死の重傷を負ったが、美少女サイボーグとして復活したのだ。
 ゲイはマモルを連れてきた宇宙メカTSアンドロイド娘・オォン とフュージョンしてメカノイド・ゲイガーとなる。そしてさらに3機のンホォーマシンとファイナルメス堕ちフュージョンして、スーパーメカノイド・ンホゲイガーとなるのだ。

 なお両者とも通りすがりのブラックメタルゴーレムに倒され、地球には平和が戻った。


~進行度~
・メス堕ち度
 50→45%
・レズ堕ち度
 30%
・ショタ堕ち度
 1%


~オリキャラ紹介~

・テオ
 自分の汗やらなんやらを拭いたタオルを渡し、拒否られたと思う健全な人。
 エーナちゃんの善意に甘えていたので今世では死ぬしか無かろう。

・ヤシド
 もう「テオの」と付けばなんでもよさそうな気がしてきた。
 座っていたから下腹部が見られなくてよかったね。

・ガショーネ・タオン
 まだクソガキ

・エーナ
 ツンデレ魔人。弱い人間は引っ込んでなさいと言うタイプ。


~報告、挿絵~

・あのTS配信系小説、怪人系配信者BANちゃん(https://syosetu.org/novel/201686/ )でおなじみ、TEAM POCO/CHIN様にとてもかっこいい挿絵を描いていただきました!!! こんな風に幸せを感じていいのかと思えました。

【挿絵表示】


 また宣伝となりますがこちら偉大なるお方のpixiv、Twitterでございます……!
Twitter→ https://twitter.com/yukkuri88632185
pixiv→https://www.pixiv.net/member.php?id=15775568


・バリ茶さんの方で書いていただけているその他諸々版にてリバユラまご立派ルートが始まりました。
 女性のご立派はサイズは平均的男性の者より大きく、射出量が多いというのは共通見解の様です(いらぬ報告)
→https://syosetu.org/novel/214695/ (注意 R18小説です)




・貞操版にて、エッチな絵が追加されております!!!
非常にエッチなので未成年は見ちゃ駄目だぞ??
→ https://syosetu.org/novel/216229/1.html

 そして更新が遅れて申し訳ありません。
 スランプに陥ったりソシャゲにはまったり金欠になったりしていました。
 これからは頑張るぞい。そして50件超えのリクエスト感謝いたします。
 激選、融合させ4つのシチュで貞操版に投げることが決定いたしましたことをお伝えします。

1.「泥酔し睡眠中テオ×介抱ヤシド」
2.「テオ「ヤシドって女だったっけ?」 ヤシコ「はぁ?」 というTSしたのがそっちだったらというネタ」
3.「淫夢」
4.「テオに見せつけつつショタを調教する性豪リバユラ姫」
5.「乳腺が発達するものを食べて絞られるテオの話」

 ……5つありますね???


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